702VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/14(金) 17:01:09.58DVqAwOfJ0 (57/57)

男子16番・水城蓮(みずき・れん)

吹奏楽部。病弱で運動は不得意。
水城凛(女子13番)の双子の弟。
可愛らしい容姿から、女子に見間違えられることが多い。


ペア:赤木明子(女子2番)
支給武器:シグ・ザウエル P230
kill:赤木明子(女子2番)
高原椎音(女子8番)
藤村優(女子10番)
killed:日向翼(男子14番)
凶器:シグ・ザウエル P220
 

出発直後に明子を銃殺。
姉・凛と生き残るためにやる気になるが、病気になり診療所で睡眠をとる。
診療所を椎音が訪れ、油断させて銃殺。ワルサーP99入手。
C=06エリアで優を殺害。その後凛と再会。喜んでいたが、その時翼が発砲。凛をかばい死亡。

 

弟思いの姉思いな子。個人的には好きでした。
姉と生きるために殺し回ったことに罪悪感を少しも感じてなかった蓮君。
それはいきすぎですけど家族への愛のなせる業。悪くはないんじゃないですか?


703VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/15(土) 13:16:32.12WXsxBvLXo (1/1)

またか


704不審人物2013/06/15(土) 21:37:39.55ZFTQDWT40 (1/1)

俺は自分のことを暇人と自覚しているが俺以上の暇人がいるとは


705 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 16:23:09.13ChaPhPXi0 (1/14)

いまから新しいゲームを始めたいと思います。

取りあえず今回もキラークイーンで行きます。

リベリオンズや同人版などは需要がありそうであれば次回からという事で。


706VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:29:09.20rVfMpotS0 (1/14)

うい


707VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:30:35.83hx6gtrcxo (1/6)

せっかくだから外道プレイもしてみたいができそうなキャラがきても結局できないんだよなー


708VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:33:42.76+wfm3sy+o (1/5)

リベリオンズはなぁ・・・


709 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 16:37:43.78ChaPhPXi0 (2/14)

まずは恒例の主人公設定から


性別

>>710
>>711
>>712

※>>712のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>710
34~66 >>711
67~99 >>712

年齢

>>713
>>714
>>715

※>>715のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>713
34~66 >>714
67~99 >>715


710VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:38:54.15rVfMpotS0 (2/14)




711VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:41:39.54hx6gtrcxo (2/6)




712VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:42:39.90Yy4FTE9po (1/11)




713VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:43:53.99kG6xycMA0 (1/3)

  。゜::       。.゚: : : : : : : : : : : : : :`: .        
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714VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:44:37.64+wfm3sy+o (2/5)

39


715VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:45:06.04Yy4FTE9po (2/11)

28


716VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:46:07.26hx6gtrcxo (3/6)

27


717VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:47:00.38kG6xycMA0 (2/3)

  。゜::       。.゚: : : : : : : : : : : : : :`: .        
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718VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:50:51.42fXiu4/CX0 (1/2)

しかし何でこんなに荒らしに張り付かれてるんだろな…


719VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:52:46.75GGTpl8YuO (1/5)

中年か


720VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:55:12.19hx6gtrcxo (4/6)

>>718
シークレットゲームに親でも殺されたんじゃない?


洒落にならないな



721VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:56:06.72+wfm3sy+o (3/5)

中年オヤジか


722VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 16:57:25.87kG6xycMA0 (3/3)

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723 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 17:00:53.18ChaPhPXi0 (3/14)

性別 男 

年齢 39



性格
>>724
>>725
>>726

※>>726のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>724
34~66 >>725
67~99 >>726


特徴
>>727
>>728
>>729

※>>729のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>727
34~66 >>728
67~99 >>729


724VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:02:20.51fXiu4/CX0 (2/2)

どこか抜けているようで意外としっかりしている


725VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:02:55.54rVfMpotS0 (3/14)

真面目で実直だが天然


726VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:06:16.66GGTpl8YuO (2/5)

年齢より若々しい容姿


727VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:07:10.35rVfMpotS0 (4/14)

童顔で見た目は20代半ば


728VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:07:49.81+wfm3sy+o (4/5)

老け顔で白髪が多い


729VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:09:22.57hx6gtrcxo (5/6)

え?特徴まだじゃね?


730VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:09:58.92TKVysCDyo (1/2)

なんとなくオカマっぽい(本人にそのつもりはない)


731VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:12:07.83GGTpl8YuO (3/5)

おうミステイク
まあコンマは外れたから…


732 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 17:14:45.42ChaPhPXi0 (4/14)

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ


職業
>>733
>>734
>>735

※>>735のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>733
34~66 >>734
67~99 >>735

名前
>>736
>>737
>>738

※>>738のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>736
34~66 >>737
67~99 >>738


733VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:15:28.05rVfMpotS0 (5/14)

警察官


734VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:16:12.66Yy4FTE9po (3/11)

パン屋さん


735VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:19:09.65TKVysCDyo (2/2)

医者


736VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:20:00.61J83VvK4ho (1/6)

朝田良男


737VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:20:33.32Yy4FTE9po (4/11)

木ノ下薫(きのしたかおる)


738VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:20:38.81j9iMayNyo (1/1)

美川憲一


739VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:22:05.36GGTpl8YuO (4/5)

美川憲一 (39) パン屋店主



740 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 17:27:45.70ChaPhPXi0 (5/14)

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ

職業 パン屋

名前 美川憲一



家族

>>741
>>742
>>743

※>>743のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>741
34~66 >>742
67~99 >>743

趣味

>>744
>>745
>>746

※>>746のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>744
34~66 >>745
67~99 >>746


741VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:28:57.4644WvYkfw0 (1/9)

自分1人他は他界している


742VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:31:34.64rVfMpotS0 (6/14)

養子の高校生の息子が一人で妻は死別


743VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:38:07.61Yy4FTE9po (5/11)

>>742


744VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:38:17.48F3WTFXupo (1/4)

独り身


745VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:39:06.3344WvYkfw0 (2/9)

美味しいパンを作る為に日夜研究している、


746VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:39:47.96Yy4FTE9po (6/11)

レース編み


747 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 17:46:00.52ChaPhPXi0 (6/14)

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ

職業 パン屋

名前 美川憲一

家族 養子の高校生の息子(既婚)

趣味 レース編み




好きなこと(もの)
>>
>>
>>

※>>のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>
34~66 >>
67~99 >>



嫌いなこと(もの)
>>
>>
>>

※>>のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>
34~66 >>
67~99 >>


748VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:47:19.33+wfm3sy+o (5/5)




749VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:47:34.6144WvYkfw0 (3/9)

自分のパンを美味しいて言ってくれる人


750VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:49:36.18rVfMpotS0 (7/14)

>>749


751VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:50:02.55Afr/2X7Co (1/1)

安価ないけどいいの?


752VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:50:14.6844WvYkfw0 (4/9)

自分のパンをまずいてゆう人


753VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:54:18.82lVFovaKso (1/2)

リアリスト


754VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 17:59:55.93Yy4FTE9po (7/11)

自己中心的な人


755付け忘れですが、同じ流れなので良しとします。 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 18:05:37.69ChaPhPXi0 (7/14)

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ

職業 パン屋

名前 美川憲一

家族 養子の高校生の息子(既婚)

趣味 レース編み

好きなこと(もの) 酒

嫌いなこと(もの) 自己中心的な人


長所
>>756
>>757
>>758

※>>758のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>756
34~66 >>757
67~99 >>758

短所
>>759
>>760
>>761

※>>761のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>759
34~66 >>760
67~99 >>761


756VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:07:37.91Yy4FTE9po (8/11)

温和で人の信頼を得やすい


757VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:07:46.1344WvYkfw0 (5/9)

相手を信用すると決めたら、けして裏切らない事


758VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:08:31.59rVfMpotS0 (8/14)

人望があり初対面で好印象を持たれやすい


759VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:09:30.92J83VvK4ho (2/6)

細かいことに興味がもてない


760VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:10:23.0144WvYkfw0 (6/9)

ちょとエッチな事


761VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:11:03.09rVfMpotS0 (9/14)

派手好き


762 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 18:17:01.94ChaPhPXi0 (8/14)

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ

職業 パン屋

名前 美川憲一

家族 養子の高校生の息子(既婚)

趣味 レース編み

好きなこと(もの) 酒

嫌いなこと(もの) 自己中心的な人

長所 信用した相手は裏切らない

短所 大雑把



原作キャラとの接点(無しも可)
>>763
>>764
>>765

※>>765のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>763
34~66 >>764
67~99 >>765

ゲームとの関連性(無しも可)
>>766
>>767
>>768

※>>768のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>766
34~66 >>767
67~99 >>768


763VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:18:13.68rVfMpotS0 (10/14)

姫萩の高校の近くのパン屋


764VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:18:15.3844WvYkfw0 (7/9)

綺堂 渚とは今結婚を前提に付き合っている


765VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:20:12.14J83VvK4ho (3/6)

麻生真奈美の親戚


766VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:20:41.53Yy4FTE9po (9/11)

無し


767VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:21:26.5144WvYkfw0 (8/9)

息子がゲーム参加した事があり、生きて帰って来た


768VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:22:00.71rVfMpotS0 (11/14)

なし


769VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:22:27.64lVFovaKso (2/2)

カジノ船内喫茶店のコック


770VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:22:31.93F3WTFXupo (2/4)

なし


771 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 18:25:50.64ChaPhPXi0 (9/14)

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ

職業 パン屋

名前 美川憲一

家族 養子の高校生の息子(既婚)

趣味 レース編み

好きなこと(もの) 酒

嫌いなこと(もの) 自己中心的な人

長所 信用した相手は裏切らない

短所 大雑把

原作キャラとの接点 経営している高校の近くのパン屋に姫萩が良く来る

ゲームとの関連性 無し



JOKERの解除条件

※解除条件は、JOKERの機能を用いる必要があるもの、殺人が含まれているもの、またはそれらに近しい難易度のものでなければ無効となります。

解除条件については、今回のゲームに合いそうなものを私が安価の中から採用します。

>>772
>>773
>>774
>>775







772VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:28:04.40rVfMpotS0 (12/14)

3人以上殺害した人物を1人殺害


773VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:30:23.1244WvYkfw0 (9/9)

女性を皆殺しせよ


774VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:31:50.23Yy4FTE9po (10/11)

過去に一度以上偽装したことのある番号のPDAを一台入手
(入手してから偽装するのはなし)



775VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:32:32.48Ny9yUAwvo (1/1)

開始から72時間経過までジョーカーPDAを誰にも渡さない


776VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:37:41.66QMcfQLUdo (1/3)

PDAを2台以上集め、PDAの番号の合計を21にする
ただしジョーカーで偽装した番号も加えなければならない


777 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 18:49:46.89ChaPhPXi0 (10/14)

【主人公設定】

性格 男

年齢 39

性格 真面目で実直だが天然

特徴 若干オカマ

職業 パン屋

名前 美川憲一

家族 養子の高校生の息子(既婚)

趣味 レース編み

好きなこと(もの) 酒

嫌いなこと(もの) 自己中心的な人

長所 信用した相手は裏切らない

短所 大雑把

原作キャラとの接点 経営している高校の近くのパン屋に姫萩が良く来る

ゲームとの関連性 無し

【JOKERの解除条件】
全ての女性プレイヤーの死亡。
※手段は問わない


以上の設定でゲームを開始します。


778VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:53:02.94WecSi7JAO (1/1)

凄い解除条件。
これは難易度高いなあ。


779VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:53:03.49F3WTFXupo (3/4)

信用した相手を裏切れないただの一般人がこのゲームの女性陣の抹殺とか無理ゲーすぎる


780VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:53:59.31jojdFBXo0 (1/4)

[ピーーー]前に犯せないかな


781VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 18:56:33.16F3WTFXupo (4/4)

そもそも、露骨なエロなんてやってる時間がない


782 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 19:02:49.89ChaPhPXi0 (11/14)

>>779
前回同様に配布されるPDAはランダムです
また、ゲームの流れを分かりやすくするためにも以前の最近のゲームを見て頂くことをお勧めします。

【02:20】

私は、嫌な汗をかきながら今一度自分のPDAを見直していた――

何故ここへ自分が連れて来られたのか、何か恨みを買うようなことをしたか、と考える余裕は無かった。


PDAに載っていたルールは?(コンマ判定)
※被った場合は1個下のルールが採用

>>783
>>784

3 00~15
4 16~30
5 31~45
6 46~60
7 61~75
8 76~90
9 91~99




783VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 19:03:29.99rVfMpotS0 (13/14)




784VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 19:03:32.82J83VvK4ho (4/6)

でや


785VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 19:03:54.74jojdFBXo0 (2/4)

ほい


786 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 19:19:16.31ChaPhPXi0 (12/14)

私のPDAに載っていたのは基本ルールの1と2に加えて、ルール8と9だった。

ルール8はゲーム開始から6時間までは全面戦闘禁止エリアであるということが載っている。

また、ルール9にはそれぞれのプレイヤーに課された解除条件が載っていた。

解除条件の中には残酷なものが複数あり、それらの条件だけは与えられたくなかった。

――無かった、のに。

(こんなのって……こんなの、って――)

私のPDAの画面には“3”の数字――解除条件は3人以上の殺害だった。

私はただパン屋で平和に息子と一緒に生活していただけだというのに、どうしてこおような理不尽な事に巻き込まれなければならないのか――

「修一、美幸……お父さん、どうすれば良いのかな……」

私にとっての生甲斐となっている息子と、今は亡き妻に助けを求めるが、その声は冷たい部屋に寂しく響くだけであった……。

私はこのあと、どうする……?

1.しばらく部屋に居る

2.他の参加者を探しに行く

3.その他

>>787
>>788
>>789

※>>789のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>787
34~66 >>788
67~99 >>789




787VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 19:23:18.62rVfMpotS0 (14/14)

2


788VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 19:23:57.46QMcfQLUdo (2/3)




789VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 19:24:44.75hx6gtrcxo (6/6)

2


790VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 19:25:31.75Vu0M64gr0 (1/1)

あえて1


791 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 19:34:04.67ChaPhPXi0 (13/14)

【03:30】

私は、取りあえずルールを集めるために他の参加者を探す事にした。

孤独という空間に不安になりながらも、私はひたすらに歩き続けた。

(ん……あれって……!)

ふと横目に入ったのは私以外に動く何かだった。

きっと私以外のプレイヤーに違いない、と私は咄嗟に走り始めた――


その先に居たのは……?

コンマ判定1個下

00~30 御剣たち

30~60 色条たち

60~90 漆山たち

91~99 気のせいだった


792VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 19:34:21.46jojdFBXo0 (3/4)

ほい


793VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 19:34:26.12J83VvK4ho (5/6)

ぬぼ


794VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 19:35:53.78GGTpl8YuO (5/5)

相変わらずみっちゃん出てこんなあ


795 ◆WNrWKtkPz.2013/06/16(日) 20:00:34.24ChaPhPXi0 (14/14)

すみません、今日はここまでにします。


796VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 20:01:20.24QTTLKniVo (1/1)

お疲れ様ー


797VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 20:02:43.19jojdFBXo0 (4/4)

乙でした


798VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 20:04:45.52QMcfQLUdo (3/3)




799VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 20:21:33.02J83VvK4ho (6/6)

乙ー


800VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 20:42:22.70KAN28DBbo (1/1)

しかし今回の主人公弱そうだなww


801VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 21:30:16.96Yy4FTE9po (11/11)




802VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/16(日) 22:21:29.12+RANsNoAO (1/1)

おつおつ

そういえばjokerが女性だった場合は自分以外の女性プレイヤーの死亡になるのか?


803VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/17(月) 00:55:16.22yspjAm/io (1/1)

運営側的にも最初からプレイヤーに諦められたら面白くないから自分以外の殺害になると思う


804 ◆WNrWKtkPz.2013/06/21(金) 21:25:11.82VP5en6w+0 (1/1)

私が出会ったのは色条優希という少女と、高山浩太という男性だった。

「――じゃあ、優希ちゃんは学校の帰りの途中から記憶が無いんだね?」

「うん、そうなの……。でも、これってきっとドッキリだよね?」

「ま、まあ、そうだと思うけど……」

優希のまだゲームを受け入れていない明るい瞳を、私は直視し続けることが出来なかった。

私の息子よりも幼い子供を巻き込んでいる犯人に対して、私は怒りが沸いてきていた。

「ゲームの真偽は取りあえず置いて、ルールを交換しよう。俺たちがいま置かれている現状を把握しなければ、ドッキリかどうかも確かめようがないしな」

高山は表情を常に一定のまま話を進めることを求めてきた。

「そうだね。それじゃあ私から――」

私たちは各々PDAを取り出してルールを交換する事にした……。


色条と高山が持っていたルールは?

PDAに載っていたルールは?(コンマ判定)
※被った場合は1個下のルールが採用

>>804
>>805
>>806
>>807

3 00~15
4 16~30
5 31~45
6 46~60
7 61~75
8 76~90
9 91~99


805VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/21(金) 21:32:43.33G2JQGXN80 (1/1)




806VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/21(金) 21:36:08.39UumhN7quo (1/1)




807VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/21(金) 21:37:43.48ZhXx/dAko (1/1)




808VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/21(金) 21:46:05.78F+ocygrAo (1/1)




809VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/21(金) 21:54:25.63Dqd2AMGAo (1/1)

もう一回か


810VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/21(金) 23:04:31.61rsbkZlEk0 (1/1)

ほい


811 ◇WNrWKtkPz2013/06/27(木) 20:05:13.34lK/8SKho0 (1/2)

    (⌒Y⌒)
     (⌒*☆*⌒)
      ~(__人__)~
         | ,、
    _    |/ノ
     \`ヽ、|
      \, V
        L,,_ 
        |ヽ、)               (⌒Y⌒)
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       /                r''ヽ、  | .,、
       |            `ヽ`丶.  `ー-ヽ|/ノ
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       |     ,. <´ ̄¨` '′/      |
         ヽ, 〆         ´ ̄ミ丶、  |
         ∨                 , ノ
        〃                      ヘ
       /                    ハ
     /     ,   ,イ                  :
     /      〃  /」  ,1i   ト,          i
.     ;       i l  / il.  / ll.  「l   il       l
    i     丨|ハ/  l| / |l|  ! ll j l       l
     l     N z云ェ、`^′ !ヘ._リ Lソ .l       !
     l      |Y´ヒU升     =テ示'x.亅    !    
      !     l   ゞ‐'       ヒUリ`Yj      .!
     V    .l       ,.     `¨´  ;    リ
     ゝ,   !             /    /
      ヘト、 >.  ‘、 ̄ ぅ    /   / /
        `ヽト.>,、   ̄´  ,.. < _彡少'′
         __,ニコ.`≧=≦´ レ/l/'′         ┼ヽ  -|r‐、. レ |
.      ,.ィ=八 } ̄`ヽ.   ,z=┴1、__           d⌒) ./| _ノ  __ノ
    ,.イ  {-| `ミ'ー=ニ⊥f__... =ヘ、`,テ=r 、



812 ◇WNrWKtkPz2013/06/27(木) 20:05:40.64lK/8SKho0 (2/2)

このスレは終了させていただきます


813VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/27(木) 20:53:44.49Y4vVKtDfo (1/1)

毎回言われてる気がするがこのスレはなぜこう荒らしに狙われてるんだろう


814VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/28(金) 05:35:43.30XJ7uqajuo (1/1)

面白いからじゃね?
続きが楽しみだわ


815 ◆WNrWKtkPz.2013/06/28(金) 17:45:18.14Nkr6Sbtq0 (1/1)

高山と色条が持っていたルールは5、6、7、8の4つだった。

4つのうちルール8は私が持っているので、実質3つ新たにルールを手に入れたという事になる。

ルール5は侵入禁止エリアについて、ルール6は賞金について、そしてルール7は戦闘禁止エリアについての内容だった。

賞金20億を勝者で山分けというのは、どうも現実味が無い。

しかし、もし貰えるならば修一に苦労をかけさせる事も無くなるか――

「あと判明していないルールは3と4か」

「他の参加者にも会いたいところだけど、なかなか難しいところだね」

できるならば、ゲーム開始から6時間以内にルールを全て把握しておきたい。

戦闘が解禁されてしまうと、お互いに警戒し合うことになり、ルールを交換するどころか近付く事さえも躊躇ってしまう可能性があるのだ。

「おじさん、これからどうするの……?」

「ん、そうだね……」

色条が不安そうな顔をして服の裾を引っ張ってくる。


私たちはこれから……

1.他の参加者を探そうと言う

2.お互いにPDAの番号を教え合おうという

3.高山に聞いてみる

4.2人と別れて行動する

5.その他

>>816
>>817
>>818

※>>818のコンマ下二桁によって安価を決定
 
00~33 >>816
34~66 >>817
67~99 >>818


816VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/28(金) 17:52:10.42ePs8D9rAO (1/1)

5、今いる3人で他の面子探し
番号や解除条件などは明かさない


817VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/28(金) 18:19:41.63x+rg65vD0 (1/1)

安価↑


818VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/28(金) 19:23:57.06JTxakB5T0 (1/1)

>>816


819◇x/rxoIq2T6 2013/06/29(土) 04:49:03.871MJ3XzTo0 (1/2)

  (⌒Y⌒)
     (⌒*☆*⌒)
      ~(__人__)~
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     l      |Y´ヒU升     =テ示'x.亅    !    
      !     l   ゞ‐'       ヒUリ`Yj      .!
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     ゝ,   !             /    /
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    ,.イ  {-| `ミ'ー=ニ⊥f__... =ヘ、`,テ=r 、


820VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/29(土) 11:42:37.09lcLIvxzb0 (1/1)

男子1番 和泉直正(いずみ・なおまさ) 女子1番 麻生咲(あそう・さき)
男子2番 井上稔(いのうえ・みのる) 女子2番 斎藍(いつき・らん)
男子3番 尾花哲也(おばな・てつや) 女子3番 川上理映子(かわかみ・りえこ)
男子4番 門脇吉孝(かどわき・よしたか) 女子4番 国本弘美(くにもと・ひろみ)
男子5番 坂出慎(さかいで・しん) 女子5番 黒沢星子(くろさわ・せいこ)
男子6番 閑谷邦康(しずたに・くにやす) 女子6番 佐久間佳江(さくま・かえ)
男子7番 鈴木明也(すずき・あきや) 女子7番 仙道桜子(せんどう・さくらこ)
男子8番 勢多翼(せた・つばさ) 女子8番 高田なつみ(たかだ・なつみ)
男子9番 高橋良太(たかはし・りょうた) 女子9番 津川麻保(つがわ・まほ)
男子10番 堤良樹(つつみ・よしき) 女子10番 土井雫(どい・しずく)
男子11番 富田宗(とみだ・そう) 女子11番 徳永礼子(とくなが・れいこ)
男子12番 仲山行人(なかやま・ゆきと) 女子12番 内藤真依子(ないとう・まいこ)
男子13番 野口素明(のぐち・もとあき) 女子13番 中野尋代(なかの・ひろよ)
男子14番 廣岡誠(ひろおか・まこと) 女子14番 西智美(にし・ともみ)
男子15番 藤岡照昌(ふじおか・てるまさ) 女子15番 能勢杏奈(のせ・あんな)
男子16番 皆川玉樹(みながわ・たまき) 女子16番 原田千秋(はらだ・ちあき)
男子17番 美祢達哉(みね・たつや) 女子17番 日生吹雪(ひなせ・ふぶき)
男子18番 村山晋一郎(むらやま・しんいちろう) 女子18番 緑沢風美(みどりさわ・かざみ)
男子19番 吉井英(よしい・すぐる) 女子19番 武藤萌(むとう・もえ)
男子20番 和田純直(わだ・すみなお) 女子20番 矢矧彩乃(やはぎ・あやの)

以上40名


821◇x/rxoIq2T6 2013/06/29(土) 17:42:41.691MJ3XzTo0 (2/2)

 (⌒Y⌒)
     (⌒*☆*⌒)
      ~(__人__)~
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     /      〃  /」  ,1i   ト,          i
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822VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/01(月) 01:08:04.52iYR5mzlH0 (1/1)

優希が主人公のことをおじさんって呼んでていつぞやのヤクザのおじさん
思い出した



823VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/01(月) 01:31:47.56sWS2rUa8o (1/1)

おじさん、おじさん
って無邪気に笑ってる姿が見える


824VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/01(月) 01:47:42.70mCnm9c3Go (1/1)

白馬のおじさんだっけ、懐かしいな


825◇x/rxoIq2T6 2013/07/01(月) 16:44:04.28K2vVoBFJ0 (1/1)

 (⌒Y⌒)
     (⌒*☆*⌒)
      ~(__人__)~
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       /                    ハ
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     /      〃  /」  ,1i   ト,          i
.     ;       i l  / il.  / ll.  「l   il       l
    i     丨|ハ/  l| / |l|  ! ll j l       l
     l     N z云ェ、`^′ !ヘ._リ Lソ .l       !
     l      |Y´ヒU升     =テ示'x.亅    !    
      !     l   ゞ‐'       ヒUリ`Yj      .!
     V    .l       ,.     `¨´  ;    リ
     ゝ,   !             /    /
      ヘト、 >.  ‘、 ̄ ぅ    /   / /
        `ヽト.>,、   ̄´  ,.. < _彡少'′
         __,ニコ.`≧=≦´ レ/l/'′         ┼ヽ  -|r‐、. レ |
.      ,.ィ=八 } ̄`ヽ.   ,z=┴1、__           d⌒) ./| _ノ  __ノ
    ,.イ  {-| `ミ'ー=ニ⊥f__... =ヘ、`,テ=r 、


826VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/06(土) 11:15:23.08y41CD1oz0 (1/3)

誰もが我が耳を疑った。
それは、高谷貴瑛(女子14番)も例外ではない。
静寂が室内を包んでいたが、やがてそれは1人の声によって破られた。

「う、嘘…ですよね…?」

貴瑛の前、委員長の吉住徳馬(男子18番)が、震える声で尋ねた。
その隣り、副委員長の伊賀紗和子(女子3番)もそれに同調するように何度も頷いていた。
それを皮切りに、次々とあちこちから声が聞こえた。

「そうだよ…何の冗談?」

「あるわけないじゃん、そんなの」

「お前ら何だ、歴史の人物気取りかよ、バッカじゃねぇの?」

 

「ひ…っ」

 

様々な苦情は、一瞬にして打ち切られた。
遠藤勇(担当教官)と名乗る男の右側、無愛想ながらも端整な顔立ちの男、天方歳三(担当補佐)が腰に携えていた刀を抜き、その切先を徳馬の喉下に突きつけていた。

「うるせぇよ、ガキ共!
 ぐだぐだ言うな、全部現実なんだよっ!!」

徳馬の首元、僅かに血液が小さな球となり、それが首筋を伝っている。
貴瑛はその様子をただ震えて見ている事しかできなかった。

天方は室内が静かになった事を確認し、刀を納めた。


827VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/06(土) 11:16:12.25y41CD1oz0 (2/3)

天方の非道な言葉。
朱里が怒りに任せて机をバンッと叩いた。
その瞳からは、ぽろぽろと涙を零していた。
ばっと通路に飛び出し、制止しようと後ろから腕を掴んできた滝井良悟の手を振り解き、教卓に向かって走り出していた。

「ひどい…っ!!
 なんて事するのっ!?
 許さない…許すもんか…っ!!
 殺してやる、殺して――」

 

ずぶっ

 

肉を刺す、不気味な音が聞こえた。
僅かな音であるはずなのに、それは妙に耳に響いた。

岸田の刀が、朱里の体を貫いていた。

「朱里ちゃん…っ!!」

特等席でその様子を見てしまった梶原匡充(男子4番)と逢坂珠尚(女子1番)が声をそろえて――長年同じ施設で育っただけの事はある――悲鳴混じりに朱里の名を呼んだ。

「ど……して……っ」

朱里は薄めの唇の端から真っ赤な血を流していた。
刀は体から抜かれたが、朱里が避ける間も無く、刃は再び朱里を襲った。
ほぼ皮1枚で辛うじて繋がっているような朱里の細い首から、噴水のごとく鮮血が噴き出した。

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!」

あちこちから一斉に悲鳴が上がった。


828VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/06(土) 11:17:57.75y41CD1oz0 (3/3)

水上朱里(女子18番)の死により、室内は一瞬でパニック状態に陥った。

至近距離にいた梶原匡充(男子4番)と逢坂珠尚(女子1番)は真っ赤なシャワーを浴び、それぞれが悲鳴を上げた。

朱里の体はそのまま後ろに倒れ込み、高井愛美(女子13番)は椅子と机を動かしながら立ち上がる事によってそれを避けたが、足がふらつき、左側の席の河本李花子(女子10番)の方に倒れた。
目の前の惨劇に悲鳴を上げた李花子は、愛美にぶつかられながらも後ろの天敵・湧井慶樹(男子20番)に救いを求めるように手を伸ばし、慶樹も李花子の手を取り、カタカタと震えていた。

朱里の体はその後ろのこのみの机に頭をぶつけ、横の通路に倒れた。
このみは泣き叫び、逃げるように立ち上がり、斜め後ろの出雲淑仁(男子1番)の席に突っ込んだ。

淑仁の横、畠山和華(女子17番)は「あぁ…っ」と僅かに声を洩らし、朱里の無残な姿を見下ろしていた。

和華の後ろ、志摩早智子(女子11番)と有馬怜江(女子2番)は悲鳴を上げながら、少しでも現場から離れようと、左側の潤井正純(男子2番)と加古美里(女子7番)に突っ込み、美里が辛うじて2人を抱きとめた。

「血…嫌だ…嫌だぁぁっ!!」

「落ち着け、正純っ!!」

正純が泣き叫び、暴れ出した。
隣りの津村翔平(男子12番)と斜め後ろの多田尚明(男子11番)がそれを必死で押さえる。

「朱里、朱里ぃっ!!」

北王子馨(男子5番)は立ち上がり叫んだ。
しかし、その場から逃げ出そうとした滝井良悟(男子11番)に体当たりを食らわせられ、後ろの西谷克樹(男子13番)の方に倒れ込んだ。

良悟の行動を見、次々とクラスメイトたちは立ち上がり、逃げ出した。
目指すは後ろの扉。
しかし、扉は開かない。
瞬く間に扉の前に人が殺到し、更なるパニック状態となる。

窓側では、須藤大和(男子7番)が勢いよく窓を開けた。
ドアが駄目なら窓から逃げ出そうとしたのだろう。
しかし、窓の外には分厚い鉄板が張られていた。

「ちくしょう、ちくしょう…っ!!」

大和は悔しげに鉄板を殴りつけた。
その拳を玖珂喬子(女子9番)が止める。
自分の身を痛める事にしかならない行為をやめさせたかったのだろう。
大和もそれを理解し、震える喬子をきつく抱き締めていた。

幼馴染を目の前で殺害された卜部かりん(女子4番)は、しばらく変わり果てた幼馴染の倒れる方――机と椅子がガタガタに動かされていたので、脚の隙間からその姿は確認する事ができた――を見下ろしていたが、やがて岸田総司(担当補佐)を睨んだ。

「あいつが…許さないっ!!」

「やめろっ!!」

佐倉信祐(男子6番)がかりんの腕を掴んで止めた。
大谷純佳(女子5番)も抱きついて必死に止めた。

「かりん、やめな、朱里の二の舞になる気かっ!!」

「うるさい、離せぇっ!!」

いつまで経っても静まらない騒ぎに業を煮やした遠藤勇(担当教官)は、懐から一風変わった拳銃、ベレッタM93Rを取り出した。
混乱の中、それを目撃したのは常陸音哉(男子14番)。

「伏せろぉっ!!」

たった1人の叫び声など、幾人もの悲鳴が響く室内にいる者には届かない。
次の瞬間、3連発の銃声が鳴り響いた。
それは3,4度繰り返される。
あちこちで呻き声が聞こえ、その周りから悲鳴が聞こえた。

銃弾が放たれた瞬間、音哉は頭を抱えて床に伏せていた。
鳴り止んだと同時に顔を上げ、辺りを見回した。
ぱっと見てわかった怪我人は、窓際にいた大和、暴れていたかりんと傍にいた信祐と純佳、後ろの扉に殺到していた甲斐駿一(男子3番)・持留奏太(男子16番)。
幸いにも死者が増えなかった事に、音哉はほっと溜息を吐いた。

「着席っ!!
 次騒いでみろ、ブッ[ピーーー]ぞ!!」

天方歳三(担当補佐)が怒号を上げた


829VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/08(月) 07:23:37.73xpoXGkz10 (1/6)

>>706
> 『エスケープ』という行為自体が『卑怯な行為』っぽくなっていて

番組側は鈴木を連投することで、そこら辺の意識を変えたがってるのでは?
最初に鈴木が逃走中のエスケープで炎上した時は番組としてもそんなつもりは
なかったと思うけど、鈴木が思いの外ケロリとしてるし、あの憎まれ口と
エスケープ狙いは変わってなかったからヒールとして活躍してもらおう、とか。

ってのは穿ちすぎかも知れないけど、なんにせよ最近では鈴木が
「エスケープ狙いの卑怯者キャラ」を誇張気味?にやってくれるから
ネタっぽくて面白いからこういう人もいて良し、という空気になり
エスケープをガチで非難する人は前より減ったんじゃないかなー。

711 :名無しでいいとも!@放送中は実況板で:2013/07/08(月) 01:13:19.21 ID:OMJXE8X 0
大盾忍の弱さをなんとかしないとゲームバランスおかしいでしょ
攻撃翌力がない今のままじゃ
ノーマル忍+人間と戦っても負けるわけだし
存在価値がないよね

712 :名無しでいいとも!@放送中は実況板で:2013/07/08(月) 01:19:03.64 ID:OMJXE8X 0
双龍の忍びだって
すでに忍と契約している奴は手にいれられないっておかしいよね
鍵さえ手に入れれば現在のノーマル忍との契約解除すればいいだけの話なわけだから
あのルールだと双龍の忍びイベントが出るまで忍と契約しないほうがいいってことになる

713 :名無しでいいとも!@放送中は実況板で:2013/07/08(月) 01:25:56.01 ID:OMJXE8X 0
忍1人としか契約できない現行ルールはいいとして
ノーマル忍持ちがBBB忍持ち倒したら
契約の腕輪を相手から奪い取ってBBB手に入れられるルールにすれば
もっとゲームは面白くなるんだけどな


830VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/08(月) 07:25:11.96xpoXGkz10 (2/6)

『華やかな季節に君は囲まれて歩いて行った♪
 みんな、起きてるかー?
 6月1日最初のライド先生の定時放送の時間やでー!』

頭の上から降ってきた声に、水田早稀(女子十七番)は耳だけを傾けながら、物置の中で見つけた工具箱から金槌を取り出し、相棒の日比野迅(男子十五番)が待つ家の窓の前へと向かった。
窓の一部分にはガムテープが貼られており、エアコンの室外機に腰を下ろしている迅の左手首にはブレスレットのようにガムテープの芯が通されていた。

2人がいるのは御神島の南東にある集落のとある一軒家で、地図上ではG=08エリアにあたる。
同じ班のメンバーで18時間前にはぐれて以来再会を果たせずにいる芥川雅哉(男子二番)と奈良橋智子(女子十二番)を探して続けていたのだが、夜も更けたので少し休むことにした。
目についた家にお邪魔することにしたのだが鍵が掛かっていたため、無理やり侵入しようとした矢先、定時放送の時間となったのだ。

「なんか、曲は爽やかっぽいのに、悲しい感じがするな。
 歩いて行った…って、どこに、なんだろうな」

「こんな状況だと、嫌な方に想像しちゃうね。
 …よっしゃ、行くよっ!!」

早稀は金槌をガムテープを貼った窓へと勢いよく振り下ろした。
一番やんちゃに過ごしていた頃は人に対して鉄パイプのような物を振り下ろしたこともあったのだから、その頃に比べれば今の行為の方がよっぽど平和的だ。
金槌の当たった部分のガムテープがへしゃげたのを確認すると、迅が拳にタオルをぐるぐるに巻き付けて窓を叩き割っていき、自分の手首が通る大きさまで割ると、中に手を突っ込んで鍵を開けた。
このような作業を辺りを警戒せずに行うことができるのは、早稀に支給されている探知機のおかげだ、四六時中辺りを気にせずに済むのはありがたい。

迅は窓を開けると床に散らばったガムテープが貼られたガラス片を革靴で端に寄せ、早稀の足元を懐中電灯で照らして、「気を付けろよ」と声を掛けながら早稀に手を差し伸べた。
早稀は迅のエスコート(と言うには、状況は似つかわしくないのだが)に頬をぽっと赤く染めながら、迅の手を取って部屋を上がった。

ライド(担当教官)が何やら雑談のようなことを語っている間に隣の部屋へ移り、腰を下ろして地図とペンを取り出した。
ペンを出して、名簿にチェックを入れる用意をする――身体に既にこの流れが染み付いてしまっていることがとてもやるせない。

『ほんなら、まずは儚く散っていったお友達の発表な。
 男子一番・相葉優人君。
 女子五番・小石川葉瑠さん。
 女子十五番・広瀬邑子さん。
 男子十四番・春川英隆君、以上4人や。
 小石川さんは、リーダーの相葉君の死亡によって首輪が爆発してもたからなー。
 最初の放送でも気ぃ付けなあかんって言ったのになぁ』

早稀は小さく呻き、口許を手で覆った。
優人と葉瑠、邑子と英隆――名前を呼ばれた全員が、プログラム開始後に一度顔を合わせたクラスメイトたちだ。
英隆に撃たれた左肩がずきりと痛んだが、この傷を付けた英隆はもういない――英隆は生きようと思ってプログラムに乗ったはずなのに、生きることはできなかった。
邑子はやる気になっているようには見えなかったが、死にたくなどなかっただろう。
早稀の脳裏には、英隆と邑子とは旧知の仲である、早稀といつも一緒にいた友人の一人、財前永佳(女子六番)の姿が浮かんだ。
2人を失った今、永佳は何を思っているのだろうか。

一方、優人と葉瑠はプログラムに乗り気ではなかった。
やる気ではない早稀と迅が現れた時ですら逃げようとしていたのだ、自分から誰かを襲うなどということはとても考えられない。


831VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/08(月) 07:25:46.87xpoXGkz10 (3/6)

誰かに襲われ、逃げ切れなかったのではないだろうか。
そして、班のメンバーの首輪が連動しているルールの下、リーダーである優人の死亡により命を落とした葉瑠。
どのような状況だったのかはわからないが、葉瑠は下剋上ルールに則り優人を殺めて生きるより、優人と共に生を終えることを選んだのではないだろうか。
優人は葉瑠を慕い、早稀の見立てでは葉瑠も満更ではなかっただろうから。
プログラム対象クラスなんかに選ばれなければ、大切な人と共に命を散らすだなんて悲しい最期を迎えることなんてなかったはずなのに――優人と葉瑠に限った話ではないけれど、そう思うと、ツンと鼻の奥が痛んだ。

『続いて禁止エリアいくでー!
 1時からJ=04、島の南の端の方やなー。
 3時からG=02、南西の集落がちょっと入ってるからみんな気ぃつけやー。
 5時からF=10、おっとこれは海やな、ラッキーラッキー!』

早稀は手の震えを抑えながら、地図に時間を書き込んだ。
この震えは恐怖からなのか、悲しみからなのか、怒りからなのか、わからない。

『じゃ、今回のアドバイスは、アッキー!』

『やっぱ僕なの?
 …まあ、頑張ってんじゃないの?
 でもまだ甘いこと考えてる人もいるみたいだけど。
 …甘いこと考えてたら、死ぬよ。
 じゃ、次の放送も聞けるように、ガンバレ』

アキヒロ(軍人)の淡々とした言葉の後、放送はぷつっと切れた。

甘いことを考えていたら死ぬ――アキヒロの言葉は、誰のことを指しているのか。
命を落とした優人や葉瑠のことなのか、それとも早稀たちのようにプログラムに乗っていない者たち全てのことなのか。
まあ、関係ないけれど。
誰が何と言おうが、プログラムになんて乗らない。
やりたくないことは、やらないと決めているのだから。

不意に大きな音が聞こえ、早稀はびくっと肩を震わせ、隣を見た。
迅が拳で壁を殴っていたのだ。

「迅、駄目、手痛めちゃうからっ!!」

早稀は迅の腕を掴んだ。
迅の大きな拳の間に指を滑り込ませて無理やり開かせると、掌には爪跡がくっきりと残り、小指の爪が食い込んだ部分は、少し皮が捲れていた。

「迅…うわっ」

掴んでいた腕がぐいっと引かれたためバランスを崩した早稀の身体を、迅がきつく抱き締めた。
普段このような行為には積極的ではない迅が突然に抱き締めてきたので驚いたが、身体を伝ってくる震えに、泣きたくなった。

「…ごめん、早稀……ちょっとだけ……」

「いいよー、好きなだけ、好きにして」

思えば、このクラスも随分と減ってしまった。
既に17人ものクラスメイトがこの世を去った。
特に迅がいつも行動を共にしていた男子主流派グループは、クラス内では城ヶ崎麗(男子十番)率いる城ヶ崎グループと並び最も大所帯の8人グループだったが、最早生き残っているのは迅と望月卓也(男子十七番)の2人のみとなってしまった。
唯一「また会おう」と約束を交わした優人はもうおらず、卓也とは一度会ったが敵対してしまったので、もう一度会えたとしてももう以前のように仲良くはできないだろう。
元々兄貴肌で人を頼ることが少ない迅にとって、今、早稀だけが縋ることのできる存在なのかもしれない――これは早稀の想像だけれど、もしもそうだとしたら、少し悲しいけれど、とても嬉しい。


832VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/08(月) 07:26:14.36xpoXGkz10 (4/6)

いつも我儘言って振り回してきたけれど、その恩返しができるのなら、とても嬉しい。
迅には、ずっとずっと助けてもらいっぱなしだったから。



あれは、中等部に進学して最初の、残暑厳しい9月。
お洒落に目覚めて化粧をして髪を染めてスカートを短くして、興味本位で行ってみたら楽しくて入り浸るようになったゲーセンに通って、良いカモに見えるのかゲーセンではたまに金銭を要求されたが全て返り討ちにし、気がついた時にはゲーセン遊びと喧嘩が日課のようになっていて、いつの間にか問題児扱いされていた、そんな頃。

問題児扱いはされていたけれども、バスケットボールは初等部の頃から大好きだったので、部活には真面目に行っていた。
しかし、夏休み終盤の他校との練習試合中に汗で濡れていた床で足を滑らせて転倒し、右足首を捻挫したため、しばらく部活を休んでいた(最初は見学していたのだが、チームメイトのプレーに一喜一憂して地団太踏んでいたら、顧問に「それだと治るものも治らない、治るまでバスケは見るのも禁止」と言われてしまった)。

放課後に教室に残って勉強をする程勉学に熱心ではないし、家に帰っても弟と妹の相手をしなければならず結局暴れることになるので、学校の最寄り駅の近くにあるゲーセンに毎日通った。
ゲームをする時もあれば、人のプレイを見て楽しむ時もあるのだが、その日は駄菓子を取ることができるゲームをしていた。
ソフトキャンディーのタワーを運良く崩せたため、200円でそれ以上の価値の駄菓子を得ることができ、今日はついていると胸躍らせていた。

「ねーねー、そこのお嬢さん、景気良いねー!おにーさんたちに、お金、わけてくれると嬉しいなぁ」


833VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/08(月) 07:27:09.28xpoXGkz10 (5/6)

せっかくついていたのに、気分を一気に害された。
早稀が振り返ると、睨み上げた先には高校生と思しき2人組がにやにやと笑みを浮かべて立っていた。

「…は? 意味不明。
 一銭どころか、お菓子だってやる義理ないっての…あっ!!」

肩に掛けていた鞄を引っ張られ、早稀は転倒した。
その間に高校生は鞄を漁ってピンク色の財布を取り出し、「もーらいっ!」と嬉しそうな声を上げると、そのまま出口へと向かっていった。
直接目の前で奪うあたりは正々堂々としているので褒めてやらなくもないが、それでも犯罪行為には変わらないし、財布を取られて落ち着いていられるはずがない。

「ブッ潰す…ッ!!」

痛めた足で踏み出したので一歩目でよろけたが、早稀は構わず高校生を追いかけた。
ゲーセンを出て左右を見て右側に2人の姿を確認すると、小柄ながらも、運動能力の高い者が多いバスケ部の中でトップクラスの俊足を披露し、一気に距離を詰めた。
一人の背中に飛び掛かって押し倒し、両手で頭を掴んで地面へ叩きつけた。
両手の中から呻き声が聞こえた。
まさかこのような反撃を食らうとは思っていなかったのか(まあそうだろう、着崩してはいるが名門帝東学院中等部の制服を身に纏っていていたし、中学1年生の中でも小柄に分類される女子が相手だったのだから)早稀の財布を持っていたもう一人が唖然としていたが、我に返ると踵を返し、逃げ出した。

「はぁっ!?
 ざっけんな、財布返せ、クソ野郎ッ!!!」

早稀は追いかけようと立ち上がったが、右足首に激痛が走り、その場に倒れた。

「くっそ…ッ!! 返せ、ドロボーッ!!!」

ドラマの中でひったくりに遭ったおばちゃんが叫ぶような定番の台詞を叫んだ。
財布は盗られるし、足はきっと更に痛めたし、散々だ。
今日はしし座の運勢も血液型B型の運勢も最低に違いない。

そう悔しさに唇を噛みしめながら逃げていく高校生の背中を見ていたのだが、突然高校生は顔面からスライディングするように転倒した。
転んだ拍子に手から離れた早稀の財布を何者かが拾い、こちらに近付いてきた。
その何者かは、どう見ても帝東学院の制服を見に纏っていて、近付いてくるとそれなりに見知った顔をしていた。
早稀は目を丸くし、財布を拾ってくれた恩人を見上げた。

「…迅?」

「よ。 てか水田さ、ガラ悪すぎ、どこのヤンキーだよ。
 お陰で声が聞こえたから気付けたけど」

呆れ顔で手を差し伸べてくれたのは、男女の違いはあるがお互いバスケ部に所属している縁で少しは交流があったのだが、キツい顔立ちであまり愛想が良くないので少し怖いイメージがあった日比野迅だった。
財布を持って逃げた高校生とすれ違いざま、少し足を延ばして高校生を転倒させていたのを、早稀は見ていた――つまり、迅は、困っていた早稀を助けてくれたのだ。
手を借りて立ち上がると、怒りが冷めたからか右足首にこれまで以上の激痛が走り、そのまま倒れそうになったが、迅が抱き止めてくれたので倒れずに済んだ。
当時は成長期を迎える前だったので周りの男子と変わらない身長だったけれどそれでも小柄な早稀にとっては大きくて硬い身体、シャツを通して伝わってくる高めの体温、汗とマリン系の制汗スプレーの匂い――喋ることはあっても触れることはなかった友達が、異性であることを身をもって実感し、急に恥ずかしくなって一気に顔の温度が上がっていくのがわかった。


834VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/08(月) 07:28:18.59xpoXGkz10 (6/6)

「足怪我してんだろ、無茶するなって。
 鞄どこ、持って来るから、水田はここで待ってて」

迅は早稀を店の壁にもたれさせると、ゲーセンの中に放り出したままだった鞄を取りに行った。

思っていた以上に優しいヤツだなぁ、それに何かあんまり身体が柔らかくなくて、見た目より腕ががっちりしてて、それから――うわっ、え、あたし何考えてんだ!
あっつ、顔あっつ!!!

両手を頬に当てて、顔の体温を少しでも下げようとしたのだが、下がりきる前に迅は戻ってきてしまった。
手渡された鞄に財布を入れて肩に掛けようとしたのだが、迅はひょいっと鞄を早稀から取り上げ、自分の肩に掛けた。
何事かと訝しむ早稀に、迅は再び手を差し伸べた。

「ほら、掴まれ。 家まで送る」

早稀は目を見開いた。

「え、いや、え、何で!?
 てか良いって、あたし家あるの月が丘だから遠いし!!」

「何でって…足怪我してんのに、その遠い家までどうやって一人で帰るんだよ。
 俺の腕、杖代わりに使ってくれていいから…ほら掴まれ、早く帰るぞ」

有無を言わせない迅の言葉に甘え、早稀は迅の腕に掴まった。
迅の腕に自分の腕をしっかりと絡ませなければならず、傍から見ればどう見てもカップルにしか見えないような格好になっているのが恥ずかしくて(しかも、かなりラブラブなカップル、だ)、心臓が破裂してしまいそうなほどドキドキした。
帰宅ラッシュで混雑する駅のホームでも電車の中でも、迅は早稀を護るように位置取り、駅から家までも早稀のゆっくりしたペースに合わせて歩いてくれた。
学校最寄駅から家までの1時間、ずっと早稀は迅に掴まっていたので、家の前に着き迅から腕を離す時には名残惜しくなっていた。

「あ、あの、迅…あり、ありが、とう…」

「おー、お大事にな、無茶すんなよ?」

迅はふっと笑みを浮かべると、踵を返し、駅の方角へと戻っていった。
迅の背中が見えなくなるまで、早稀は家の前に立ったまま見送った。
背中が見えなくなると、ひょこひょこと歩きながら家のドアを開けようと手を掛け――ふと、思い出した。

そういえば、迅の家って…うちとは反対側で、しかも毎日1時間半かけて通学してるって言ってたのを聞いたことがあったような…
…ってことは、今から2時間半もかけて家まで帰るの…?
…それなのに、あたしを送ってくれたの…?
部活帰りで、疲れてたはずなのに…

たまらなくなり、早稀は家に入ると、弟と妹の「お姉ちゃんおかえりー」という声に反応もせず、一目散に自室へと向かい、ベッドへと倒れこんだ。
迅が1時間半の間ずっと持ってくれていた鞄を、ぎゅっと抱き締めた。
ほんの少し、迅の匂いが残っているような気がした。

訂正、今日はしし座の運勢も血液型B型の運勢も、恋愛運は最高だったに違いない、『運命の人と出会えるよ!』とか書いてあったに違いない。
困っていたところを助けてくれて、家が逆方向なのに嫌な顔一つせず送ってくれて、その間中ずっと早稀が歩きやすいように気遣ってくれて――好きになるななんて言う方が無茶な話。
この日、早稀は完全に恋に落ちた。


835VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:28:03.01wSnSqwBi0 (1/34)

1・名前は?

 天条野恵(てんじょう・のえ)!

2・あだ名は?

 フッツーに野恵かな。

3・生年月日、血液型は?

 3月3日、うお座のA型!

4・家族構成は?

 お父さん、お母さん、あとは弟。

5・趣味は?

 ・・・テニスかな?

6・身長は?

 164cm、意外だとか思った??

7・あなたの入っている部活は?

 テニ部!

8・委員会は?

 何も入ってないよ。

9・得意な科目は?

 音楽かな?

10・苦手な科目は?

 数学!あれは嫌!

11・特技は?

 カラオケかな?

12・あなたはあなた自身の性格についてどう思いますか?
単刀直入!

13・支給武器は?
携帯電話!色々教えてもらえて便利だよ。

14・あなたはやる気ですか?
・・・今は違うよ。

15・誰を殺しましたか?
岡(岡哲平・男子3番)。アイツ嫌い!あとは幽子(小路幽子・女子7番)と苑(山南苑・女子21番)と小枝子(盛岡小枝子・女子20番)。

16・誰に殺されましたか?
まだ生きてるよぅ!

17・現在あなたは何をしている?
転校して、受験勉強。

18・あなたと一番仲の良い人は誰?
誰だろ・・・タッキー(佐々川多希・女子6番)かな?

19・仲の悪い人は誰ですか?
これってネタバレかな?幽子とはあまり仲良くないの。

20・仲良くしたいなぁ…と思っている人は誰ですか?
 ・・・あたしは今のままでいいよ。

21・この人は好きになれないなぁ…(もしくは嫌い)な人は?
岡!絶対無理!!

22・親友と言えるような人はいますか?
タッキーと、茉有(野尻茉有・女子15番)かな。


836VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:28:46.68wSnSqwBi0 (2/34)

学校の屋上での昼食――いつもの光景だ。

「あ、大和くん、ほっぺにご飯粒付いてるよ」

「お、サンキュ!」

喬ちゃん(玖珂喬子)と大和(須藤大和)がイチャついてるのも、いつもの光景。
それを見て勝則(藤野勝則)が不機嫌そうに睨むのも、環(村主環)が無関心そうなのも、全ていつもの光景。

それにしても、喬ちゃんと大和は、人前でこんなにイチャついてて恥ずかしくないのか?
アタシ、野原惇子は大和との付き合いが長いけど、あんなに楽しそうにするのも、優しい表情をするのも、喬ちゃんと知り合う前には見たことがない。
そこまで好きなんだ、そりゃごちそうさん。

「あ、あっちゃーんv ほっぺにパンクズが、取ってあげようか?」

「…と、取っていらんわっ!!」

アタシは、弘也(山神弘也)の手を振り払った。
弘也はアタシの彼氏、らしい、一応。
弘也は大和たちの真似がしたかったらしい。
立場が逆だっての。

どうもダメなんだ。
どうしてアタシは弘也の彼女なんだ?
いや、そりゃあ、アタシは…その…なんだ、好きだよ、弘也のコト。
ああもう何言わせてんだ!

だけど、弘也はアタシの何が好きなんだ?
とても理解できない。
喬ちゃんみたいに可愛くないし、環みたいに美人なわけでもない。
図体だってでかいし、態度も悪いし、口も悪い。
もしもアタシが男なら、絶対こんなヤツを彼女になんてしない。

対して弘也は、ね、かっこいいだろ?
細身で背が高いし、キレイな顔してるし。
結構人気あるらしい、女に優しいしね。

だから、とても不安になる。
絶対に釣り合わないから。
アタシは、いつ嫌われてしまう?
別れ話をされる?


837VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:29:36.66wSnSqwBi0 (3/34)

喬ちゃんに肩を叩かれ、我に返った。
もう昼休みが終わるらしい。
アタシはまだパンを食べている途中だ。

「何ぼーっとしてんだ、バーカ。
 次美術だから行くぞ」

大和が喬ちゃんを連れて屋上の扉の中に消えた。
勝則と環も後について行く。
まあね、大和は手先がありえないくらいに器用だから、美術は好きなんだ。
弘也もそういうのは好き。
環もやる気はないけど成績はいい。
だから、皆出る授業だ。

「よいしょ」

おっさんくさい言葉を発して、弘也がアタシの横に腰掛けた。

「…行けよ、授業始まるよ?」

「いいよ、あっちゃんが食べ終わるの待ってる」

弘也はにこにこしてアタシがパンを食べきるのを見てる。
食べてるところをマジマジと見るな、恥ずいから!!

…恥ずいついでだ、ちくしょう。

「弘也」

「ん? なあに?」

「……やっぱいいや」

「うっわ、気になること言わないでさぁ、教えてよ、なぁに?」

「………言わね」

「あっちゃんってば、イジワル言わないでさぁ!」

アタシはミルクティーでパンを流し込む。
そして、弘也を睨む。
いや、睨む気はないけど、目つきが悪いんだ、文句あるか?



838VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:30:02.89wSnSqwBi0 (4/34)

オレと豊は生まれた時から一緒だ。

家は隣。

親同士も仲良し。

どちらかがいないことなんか、考えらんない。

幼稚園も、小学校も、中学校も一緒。

性格も趣味も全く違うけど、

誰よりも気が合う親友だ。

仮にオレらが異性なら、絶対にラブラブだ。

だけど、同性だから、いつかはそれぞれ恋人が出来る。

女の趣味も違うんだろうか?

一緒なら、正々堂々勝負しようぜ。

違うなら、もちろん応援してやるよ。

お前、ちょっと大人しいから不安だけどさ、

彼女が出来たら守ってやれよ?

でも、できるまでは――

オレが絶対守ってやるからな。

どんなことがあってもさ。


839VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:31:04.34wSnSqwBi0 (5/34)

オレと豊は生まれた時から一緒だ。

家は隣。

親同士も仲良し。

どちらかがいないことなんか、考えらんない。

幼稚園も、小学校も、中学校も一緒。

性格も趣味も全く違うけど、

誰よりも気が合う親友だ。

仮にオレらが異性なら、絶対にラブラブだ。

だけど、同性だから、いつかはそれぞれ恋人が出来る。

女の趣味も違うんだろうか?

一緒なら、正々堂々勝負しようぜ。

違うなら、もちろん応援してやるよ。

お前、ちょっと大人しいから不安だけどさ、

彼女が出来たら守ってやれよ?

でも、できるまでは――

オレが絶対守ってやるからな。

どんなことがあってもさ。


840VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:31:35.44wSnSqwBi0 (6/34)

オレ――良元礼の周りには色んなタイプのヤツがいる。
爽やかな中国人とのハーフとか、ぼーっとしてるけどいいヤツとか、
やる気なさげなロック好きとか、笑い声の煩さでは負けないヤツとか、
騒がしいけど正義感の強いヤツとか、笑い方が変なヤツとか…
あと、バカが2人。
名前を出すと、拓也(稲毛拓也)と東(西川東)。
特にあれだ、拓也のバカはどうにかならないもんかな?

 

ゲーッホゲホゲホゴホゴホッ

ズズッ

カサカサ  チーン ズズズッ

和久「…うるさい」

稲毛「悪かったなチクショー……ぶぇっくしょい!!」

李「どうしたんだよ稲毛、珍しく学校に来たと思ったら…」

堀田「オレ知らなかったぜ、バカでも風邪ひくんだな!!」

岡「同感!! ナイス勝海!! ギャハハハハハハッ!!」

稲毛「うるせぇ、好きでひいたんじゃねぇやい!!」

杉江「そういえば、東も風邪ひいて今日休んでるらしいよ?」

白川「ゲハハハッ!! Wバカが風邪かよ!!」

稲毛「ケッ!! もういい、テメェらと一緒にいたらムカつく!!」

李「あっ……あーあ、行っちゃった」

和久「いいよ、静かになって」

 

ゲホゲホッエホッゴホゲハゲハッ

ズズズズッ

良元「…うるせぇな」

稲毛「テメェまでそう言うか…ズズッ」

良元「そりゃあ人が予習してる時に横でゲホゲホ言われちゃあな」

稲毛「ケッ…ふ…ぶえっくしょい!!だーこんちきしょう!!」

良元「オヤジかテメェは」

稲毛「礼?…風邪ひいた…」

良元「見ての通りだな」

稲毛「…理由聞いてくれよ」

良元「別に興味ねぇよ」

稲毛「良いから聞けってんだ!!…ぶわっくしょい!!」

良元「きたねぇ!!唾飛ばすな!!つーかそれが人に物を頼む態度か?」

稲毛「良いから聞けよチクショー…ズズズッ」

良元「……言いたきゃ言えよ」

稲毛「それがよ、昨日東のバカがオレに喧嘩吹っ掛けてきやがってよ、
   橋の上で喧嘩してたらよ、アイツが川に落ちやがったんだ!
   バッカだろ??」

良元「…で、何でテメェも風邪ひいてんだ?」


841VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:32:56.04wSnSqwBi0 (7/34)

あれは、中間テストを控えたある日の事。

僕、皆川玉樹は、慎――(坂出慎)の勉強を見る事になった。

 

玉樹「じゃあ、公民やろうか」

慎 「げぇ、オレ嫌い、公民嫌い!!」

玉樹「…あのね、慎。 好き嫌いの問題じゃないの」

慎 「…わーったよ、やりますよ、やりゃあいいんだろ」

玉樹「そうだよ、やればいいんだよ」

 

玉樹「じゃあ、第1問ね」

慎 「クイズ形式か? 押しボタンはねぇの?」

玉樹「頭でも叩きなよ」

慎 「玉樹ってさ、オレに冷たくない?」
玉樹「そんなことないよぉ」
慎 「…稔は?」
玉樹「稔は咲と一緒にやってるよ」
慎 「…咲っていい女だもんなぁ」
玉樹「咲をそんな変な目で見ないでよ、怒るよ?」
慎 「………………すいませんでした」

 

玉樹「じゃあ、第一問」

慎 「あいよ」

玉樹「“プログラム”の正式名称は?」

慎 「あれって、オレらが選ばれるかもしんねぇよなぁ…」

玉樹「大丈夫だよ、すっごい可能性低いもん」

慎 「だよな、1年で…えっと…100クラス?」

玉樹「50クラスだよ」
慎 「そうそう! 宝くじより難しいよな!」
玉樹「いいから答えは?」
慎 「今日授業でやったばかりだ、慎様の頭をナメるなよ!」
玉樹「あ、自信満々じゃないっ!」
慎 「セントウジッケンダイロクジュウハチバンプログラム!」
玉樹「正解!! じゃあ、漢字で書いて?」
慎 「え…ああ…お…おう、任せろ!!」

千 頭 実 剣

玉樹「………………何の奥義?」
慎 「………………違うか、やっぱ」
 

公民がどうとかこうとかいう問題じゃないよね、こんなの。

でもね、そんな慎が、僕は結構好きだよ。


842VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:36:02.93wSnSqwBi0 (8/34)

2年の冬休み、あたし、曽根崎凪紗は、風邪をひいた。原因は元はといえば勝(真田勝)たちのグループのせいだ。偶然勝たちのグループとこっちのグループが橋の上で鉢合わせて、些細な事から口論になった。というか向こうが言いがかりをつけてきた。それで、それが口論から一気に殴りあいになって。あたしは別に負けたわけじゃないんだけど、体格的に不利で。勝の攻撃を避ける為に橋の桟に登った時、海斗(設楽海斗)に殴られてよたついたツネ(新島恒彰)がこっちに来て。それにどつかれて、あたしは、川に落ちた。勝と海斗、それに千尋(不破千尋)が後から飛び込んで助けてくれた(佑(栗原佑)はツネをボコボコに殴ってた)。

次の日、あたしは風邪をひいた。12月の川に落ちたんだから、当然かもしれないけど。千尋が無理矢理勝グループを連れてきた。元はといえばそっちが悪いんだから償え、とか何とか。後から海斗と佑も来て、家は人でごった返した。お父さんは仕事でいなかった、平日だしね。つまり、皆学校をさぼって来てくれた。

「んー…あ、おかゆさん作ったらどうっスかね?」

ケースケ(池田圭祐)が提案。

「え、風邪っていったら林檎でしょう!」

レン(脇連太郎)が持参の林檎を取り出した。レッツクッキング。皆が台所にたかる中で、勝はあたしの横でタオルを絞っていた。起き上がろうとするあたしを無理矢理寝かせて、タオルを額に置いた。

「病人なら大人しくしてろ」
「…誰のせいでこうなったんだか」

あたしが悪態付くと、勝は苦笑いを浮かべた。何かを言おうとした時。台所の方が騒がしくなった。

「新島、火が強い!!」
「うるせぇ!!」

佑とツネの口論の声。

「栗原さん、それ塩じゃなくて砂糖っスよ!!」

慌てるケースケの声。佑、おかゆに砂糖は入れないで、甘ったるくなりそう。

ガシャン

「どあっちゃー!!」
「うわっ、冷やせ冷やせ!!」

何かを落とす音と、同時に聞こえたツネの悲鳴。慌てる佑の声。

「皿はこれか?」
「ゲッ…卵のカラが…」
「ねぇ、林檎って摩り下ろし?」

その騒ぎをよそにマイペースな海斗、レン、千尋。

「うわ、おかゆさん沸騰してるっスよ!!」

慌てるケースケの声。火を止めろ、皿こっち、と色々な声が上がる。

「つーか作りすぎっしょ、これ。どうする、オレらで食う?」

レンの提案。

「じゃあ、隠し味は何が良いかな?っと♪」
「うわ、千尋テメェ今何持ってるんだ!!」
「栗原、止めろ、不破をおかゆに近づけるな!!」

千尋のうきうきした声と、佑とツネの悲鳴混じりの声。千尋、何持ってるの、ホント。

「あいつら、人の家で何やってんだ…」

勝が横で溜息を吐いた。あたしも苦笑する。

「おい、チビ」
「チビって何よ」
「…悪かったな、風邪ひかせた上に大騒ぎして」

あたしは驚いて勝を見上げた。

「…何だよ」
「いや…真田でも謝る事あるんだぁ…」
「そりゃああるっての」
「凪紗、おかゆできたぜ、食え!!」
「辛くても何か食べなきゃダメだよ、凪紗チャン♪」
「…真田、こっち、食うか?」
「うわあ、設楽さん、それは不破君がアレを入れて…!!」
「言うなケースケ、実験をだなぁ…」
「ツネのバカ、何正直に…」

続々と部屋に入ってくる6人。

「…テメェらオレに何を食わせようとしたぁ!!」

勝がツネとレンに技をかける。オロオロとするケースケ。放っておけ、と無責任な海斗。それを見て笑う千尋と佑。

…もしかしたら、皆で仲良くなれるかも。


843VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:37:06.62wSnSqwBi0 (9/34)

青山豪(男子1番)が結城緋鶴(女子19番)に殺害された後になる。

真中那緒美(女子16番)はE=06エリアにある小学校の、3年2組と書かれた教室の中の、机の1つに腰掛けていた。
ぼんやりと後ろの掲示板に貼られた絵を見ていた。
恐らくテーマは『友達を描こう』か何かだろう。
その中に、2つの三つ編みにそばかすの女の子の絵があった。
自分に似ていたが、微妙に子供らしい下手な絵なので、思わず吹き出した。

那緒美はクラスに必ず1人はいる、ムードメーカー的存在だった。
クラス1のおてんば娘、濱中薫(女子14番)と共にクラスを盛り上げた。
全く意識していないが、2人の会話は漫才のようらしく、2人の会話を聞く周りの友達によく笑われていた。

全くもう、薫のヤツ、あたしの事忘れてたんじゃない?
酷いなぁ、置いてけぼりかぁ…
まあ、薫らしいかもしれないけどね…

那緒美は溜息を吐いた。
教室内での薫の様子から、何となく行動は予想できた。
怯えて外に出て、次の次に出てくる幼馴染の姫川奈都希(女子15番)にどうにかして会い、あまりの嬉しさに那緒美の事を忘れていた、というような事だろう。

薫、大丈夫かなぁ…
栗原君があんなことになって、結構こたえてたからなぁ…
凪紗ちゃんとか不破君とかも、心配だなぁ…

栗原佑(男子7番)の首が飛ぶ瞬間が脳裏によぎった。
関本美香(担任)の穴だらけになった死体も、死ぬまで頭から離れないだろう。

「…まったく、冗談じゃないよねぇ…」

那緒美は溜息を吐いた。

あの筋肉男ともやし軍団…
人に平気で銃向けたり、楽しそうに人の首を飛ばしたり…
神経イカれてるんじゃないの!?

大体、あたしたちが殺し合い?
バッカじゃないの、するわけないじゃない。
あんなに仲の良いクラスなんだよ、できるはずない!
2回聞こえた銃声だって、きっと誰かのデイパックの中に入ってて、興味本位で木とかを撃ったとか、怖がって動けなかった子に政府の人が威嚇で撃ったとか、そんなのだよね!

那緒美の頭には、クラスメイトが殺し合いをする姿は想像もつかなかった。
誰も、怖くない。

例えば片方の不良グループのリーダー、真田勝(男子9番)も怖くない。
見た目は少し怖いが、話してみれば意外と柔らかい印象を受けた。
無気力な感じだが、仲間の事になると少し熱くなるような、そんな人だ。

同じグループの新島恒彰(男子15番)も怖くない。
話をした事はあまりないが、友達を[ピーーー]ほど落ちてはいないはずだ。

那緒美からすると女子の中で最も近寄りがたい三河睦(女子17番)も怖くない。
怖がって震えているとは思えないけれど、殺しまわっているはずがない。
根拠は何もないけれど。

睦と同じグループの桐島伊吹(女子4番)も怖くない。
人に興味は持たなさそうな彼女も、今ならきっと友達を心配しているだろう。

大丈夫、誰も死んでいない。
自ら命を絶っていない限り。

大丈夫、皆が集まれば何とかなる。
このクラスには頭の良い人が沢山いる。

ここまでの前向きな考えは、常にプラス思考である那緒美だからこそ成せる業だろう。

ただ、注意が必要なのは、転校生の周防悠哉(男子11番)だ。
いくら那緒美でも、得体の知れない人間は怖い。

ま、あの人だけ注意しとけばどうにかなるでしょっ!


844VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:37:54.44wSnSqwBi0 (10/34)

曽根崎凪紗(女子10番)は小学校のある方角を呆然と見ていた。
設楽海斗(男子10番)も同じく。

誰かが必死に停戦を訴えていた。
それが、真中那緒美(女子16番)だと気付いたのは、彼女が自分の名前を口に出した時だった。

那緒美なら大丈夫、嘘をついているとは思えない。

そう思い、2人で小学校へ向かおうとした、その矢先だった。

那緒美の様子が変わった。
恐らく誰かを見つけたのだろう。
武器を向けられたのだろうか、必死に訴えていた。

そして――銃声が響いた。

がしゃんという音が僅かに聞こえた。
那緒美の声は、もう、しなかった。

「那緒美…死ん…じゃった…?」

凪紗は錆びたブリキ人形のように、海斗の方を向いた。
海斗はゆっくりと、ビデオをスロー再生させているかのように、首を縦に1度振った。

「だろうな…」

「あの言い方…相手は転校生じゃ…ないよねぇ…?」

那緒美は『怖くないよ、大丈夫』と言っていた。
つまり、相手は怖がっていそうな――恐らく女子だろう。
或いは、怖がりそうな(例えば羽山柾人(男子16番)のようなひ弱そうな)男子か。
とにかく、転校生ではない事は確かだ。

「ヤバい…な」

海斗が呟いた。
ギリッと歯を食いしばった。

「何で…?」

「真中の事で、やる気がなくても殺される可能性がある事がわかった」

「…怖がる人が増えて、プログラムに乗る人が増えるかもって事?」

海斗は頷いた。

凪紗は拳で地面を殴りつけた。
許せない。
誰がやったのかはわからないが、絶対に許せない。

「ねぇ、海斗…
 たとえこの後怖がって乗る人が増えたとしても…
 那緒美のやった事は、間違いじゃないよね…?
 正しい事、やってたんだよね…?」

海斗は頷いた。

「真中は凄い。
 あんな事、よっぽど皆を信じていないとできないだろ」

「そうだよね!?」

凪紗は立ち上がった。

那緒美、アンタ偉いよ…!
後は任せて、絶対に皆を止めてあげるんだから!

「行こう!
 怖がってる子を安心させてあげなきゃ、それが役目だよね!」

「そうだな」

海斗もどっこらせ、と立ち上がり、荷物を肩に掛けた。

とりあえず、探知機によるとこのエリアには今は誰もいない。
他のエリアへ行こう。

絶対に、犠牲者を減らしてみせる――


845VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:38:34.20wSnSqwBi0 (11/34)

C=07エリアにあるデパートの中では男子たちの忍んだ声が聞こえた。
他に何の音もしない為、それが懐中電灯の明かりしかない暗闇の中で響くように聞こえ、それを気にしてか、その声は更に小さくなる。

「でも…言えるか?」

稲田藤馬(男子4番)が幾分沈んだ声で訊いた。

「…オレは……ちょっと……」

藤馬の相棒である斎藤穂高(男子8番)の声も、藤馬のそれに劣らず沈んでいた。
藤馬はそうだよな、と呟き、俯いた。

「なぁ…どうする、不破…」

穂高が見た先、不破千尋(男子17番)は無言でぼんやりと外を眺めていた。
脱出する為の準備作業は、今は中断されている。
それどころではなかったのだ。
つい先程あった、放送のせいで。

つい先程、進藤幹也(担当教官)の相変わらずうるさい声で放送があった。
今奥で仮眠を取っている濱中薫(女子14番)が起きなかったのが不思議なくらいだ。

次に禁止エリアになるのは、1時からは東の方にある畑の一部が入っているE=10エリア、3時からはアスレチック公園の西の一部が入っているF=2エリア、そして5時からは南側の住宅地が入っているI=06エリア。

しかし、そんな事は今はどうでもいい。
問題は、この放送で呼ばれた死者だ。
今回呼ばれたのは、「このプログラムで最多だ」と進藤が喜んでいた、6人だ。
サッカー少年だった笠井咲也(男子5番)。
真面目な姿が印象的だった津田彰臣(男子13番)。
グループは違うが千尋とは気があった不良少年の脇連太郎(男子20番)。
文学少女で将来は小説家になると豪語していた小南香澄(女子6番)。
彰臣の幼馴染で薫とは部活仲間だった高山淳(女子11番)。
――そして、12時間ほど前まではここにいた、姫川奈都希(女子15番)。

薫は寝ているのでまだ知らないだろう。
部活仲間もだが、幼馴染がもうこの世にいない事など。

「なぁ、不破ぁ…」

「…ヤな天気」

千尋がぽつりと呟いた。
全く関係のない事だったので、藤馬は文句を言おうとした。
しかし、懐中電灯の明かりで僅かに見える千尋の表情は、今までとは違う悲しげな笑みを浮かべていたので、何も言えなかった。

「今日は晴れてたら満月に近かったのにね…
 まあ、気持ちが晴れ晴れしてる人なんていないだろうし…
 丁度いい天気なのかもね…」

それだけ言い、再び千尋は黙ってしまった。
藤馬と穂高は顔を見合わせ、外を眺めた。
確かに月は確認できない。
そういえば、千尋が夕方にぼやいていた。
「明日は雨かな」、と。
皆の気持ちに天気が同調するかのように。

千尋もショックを受けているのだろう。
連太郎とは気が合っていたようだったし、帰ってくると約束していた奈都希ももういない。

「おはよ…」


846VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:39:14.76wSnSqwBi0 (12/34)

茂みの中に隠れていた設楽海斗(男子10番)と曽根崎凪紗(女子10番)は互いに顔を見合わせた。

偶然だった。
走ってきた2人の人物が、偶然にも凪紗たちの前で止まったので、とりあえず隠れて様子を見ていた。
その2人――周防悠哉(男子11番)と結城緋鶴(女子19番)はどうやら知り合いらしく、いけない気もしたが、隠れて話を聞いていた。

2人が元は恋人同士だった事には驚いた。
普段大人しそうな緋鶴が、悠哉のような派手な人と付き合っていたとは。
しかし、話が進むにつれて、更に驚いた。
“戦闘実験体”意味のわからない言葉が飛び、緋鶴は今までに4回もプログラムに参加してきたという。
あの緋鶴が、今までに何人も人を殺しているとは、想像もできない。

そして緋鶴が去った今、悠哉は地面に倒れたまま、何度も地面を殴っていた。
緋鶴を止められなかった事が悔しいようだった。

「…どうするんだ?」

海斗がもう一度訊いた。
凪紗は気遣わしげに海斗を見上げた。
海斗は溜息を吐き、僅かに笑んだ。

「わかってる、気になるんだろ?
 まあいい、悪いヤツではなさそうだからな」

「…ありがと、海斗。
 あの転校生怪我してるから、ほっとくわけにもいかないよ」

「そうだな」

凪紗と海斗は、再び悠哉に目を向けた。

 

「ねぇ、こんな所で寝てたら危なくない?」

悠哉の側に来た凪紗が、声を掛けた。
悠哉の頭がピクッと反応し、目線を凪紗に向けた。



847VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:39:43.34wSnSqwBi0 (13/34)

そこを、1人の少年が歩いていた。
本来ならここにはいないはずの存在――転校生の周防悠哉(男子11番)。
転校生と言えば聞こえは良いかもしれないが、要はこのプログラムに自ら進んで参加しに来た志願者である。

元々は兵庫県神戸市にある中学校に通っている。
クラスでは中心に立って盛り上がるムードメーカー的存在で、本来なら殺害してしまった工藤久尚(男子6番)のような人は、一緒に盛り上がる事のできる好きなタイプだ。

部活はバスケ部に所属しているが、ほとんど参加していない。
それでも試合に出られるのは、ずば抜けた運動神経の成せる業だろうか。
スポーツならオールマイティにできるので、しばしば他の部活の助っ人に行ったりもしていた。

町で不良に絡まれれば喧嘩もしていた。
しかし、警察にお世話になったり停学になったりした事はない。
見つかる前にさっさと逃げるのは得意とするところだったので。

そんな少し人よりスポーツが得意で、少し喧嘩好きなだけの普通の中学3年生が、わざわざ全国の中学3年生のほぼ全員が選ばれないように祈っているであろうプログラムに志願した事には、当然理由がある。
政府の連中には『ちょっと興味があってん』としか言っていないが、当然こんなふざけたゲームに興味本位で来たわけではない。

探している人物がいる。
ただそれだけの理由だ。

少し抜けたところのある悠哉は、一度その人物を見つけたのにも拘らず、見失ってしまった。
いや、抜けていたからという理由ではない。
仕方がなかったのだ。
結城緋鶴(女子19番)を見失ってしまった事は。

緋鶴が学校の屋上で停戦を呼びかけていた少女――真中那緒美(女子16番)を殺害した瞬間は、しっかりと目に焼きついている。
その光景はあまりにショックで、思わず屋上の少女を見に行ってしまった。
もしかしたら息があるかもしれない、それなら手当てをしないといけないと思ったので。
もちろん少女は死んでいたし、その間に緋鶴はどこかへ行ってしまった。
それ以来会っていない。


848VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:40:39.16wSnSqwBi0 (14/34)

その家のリビング。
その隅っこで、坂本陽子(女子7番)はガタガタと震えていた。
茶色に染めた髪も、部活で浅黒く焼けた肌も、少しヨレッとした夏服のブラウスも、赤黒く汚れていた。
親友の血の色だ。

親友の今岡梢(女子1番)を、この手で殺してしまった。
今思えば、梢には殺意は無かったのかもしれない(かも、ではなく殺意など欠片も無かった)。

凶器になってしまったナタは、デイパックに突っ込んで少し離れた所に捨て置いてある。
触るのも怖い。
また、恐怖で誰かを手に掛けてしまいそうで。

けど…だけど…
あたし、見たんだ…
新島君が…中原さんを…

何度も蘇るあの光景。
再会する事ができて安心しきっていた中原朝子(女子13番)に、毒薬を飲ませて殺害した新島恒彰(男子15番)の姿。
いくら不良と呼ばれているからと言っても、自分の彼女をあんなに簡単に殺害できるとは思わなかった。
朝子も信じられなかっただろう。

「…ダメ…やっぱり…信じちゃダメなんだ…っ
 うぅ…ああぁぁ…っ」

陽子は頭を抱えた。
悲鳴になりきらない呻き声が静かな空間に響くように聞こえた。

元々陽子は精神的に強くない。
所属するテニス部の練習でも、上手くできなかったら狂ったように叫び声を上げたりする。
それでもまだマシな方で、更に状況が悪化すると、部の備品を壊そうとする。
正気に戻った時に、いつも後悔した。
どうしてこんなにおかしくなってしまうのだろうか、と。

『大丈夫、落ち着いたらできますよ?』

同じ部活に所属する遠江敬子(女子12番)にも何度も諭された。
しかし、落ち着く事ができれば苦労はしていない。

もう半分くらいまで減っちゃったよね…?
プログラムは進行してるんだ…
淳も奈都希も死んだ…

次は、あたし…?

身震いがした。
歯がガチガチと音を立てた。

怖い…もう嫌…
家に帰りたいよぉ…っ

陽子は膝に顔を埋めた。
何かハプニングでも起こってプログラムが中止にならないだろうか?
死にたくない。
最悪、自分の知らない所で、皆が死んでしまったら良い。
そうすれば、自分は帰る事ができる。


849VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:42:14.98wSnSqwBi0 (15/34)

G=06エリアは住宅地の端にあたる。
曽根崎凪紗(女子10番)と設楽海斗(男子10番)はその中を1軒1軒覗きながら進んでいた。
凪紗の持つ探知機に、反応があった。
同じような場所に2つ、少し離れた場所に1つ。
「むぅ…全部反応はこの辺だよねぇ?」

「ああ。 でも後はもう覗いていくしかないな」

2人の目的は仲間を探す事でもあるが、もう1つ、救急道具を探す事でもあった。
真田勝(男子9番)に襲われた時に傷つけられた海斗の肩からは、まだ少しだが血が出ていた。
ちゃんとした道具を探して手当てをしようとしたが、民家はほぼ全て鍵がかかっていて入れなかったし、入れても道具を見つけることが出来なかった。

 

「あ、ここは鍵が開いてる…」

凪紗がドアを開けた。
キィッと音がした。

「…油断するなよ」

「わかってる、入るよ?」

2人はそっと中に入り、ドアを閉めた。
念のため、鍵をかけた。

土足のまま廊下に上がった(だって埃っぽいし?)。
見つけたドアをそっと開けていく。
物置・トイレ・洗面所――建てられてから結構経っているのだろう、あちこちが薄汚れていた。

「んー…ないなぁ…」

物置を漁りながら凪紗が呟いた。
ここの住人が帰ってきたら驚くだろう、凪紗は物置に置かれた物をほとんど廊下に投げ捨てているのだから。

「…もう少し大事に扱えよ…」

海斗が溜息を吐きながらそれを廊下の隅に整頓して並べていた。

「だって海斗の怪我、早く手当てしたいもん!」

「いや、それはありがたいんだけどな、音は立てない方が…」

「…あっ」

凪紗の動きが止まった。
すっかり忘れていた。
この家には誰かがいるかもしれないのだ。

凪紗は物置を漁るのを止めた。
救急箱はなさそうだった。
一体どこにあるんだろう?


850VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:42:52.69wSnSqwBi0 (16/34)

進藤幹也(担当教官)が大声で叫んだ。
後ろの方ではガタガタと席に着く音が聞こえるが、前の方ではほとんどが立ち尽くしていた。

設楽海斗(男子10番)は曽根崎凪紗(女子10番)を抑えたまま、呆然と栗原佑(男子7番)の死体を見つめていた。

信じられない。
佑が、死んでいる。
目の前で。

海斗は一緒に凪紗を抑えていた不破千尋(男子17番)の方を見た。
千尋は瞬きもせず、佑の方を凝視していた。
涙はないが、ショックを隠せないでいる。

いつも、4人一緒だった。
互いの足りない部分を補い合っているような、そんな関係だった。
そのピースが、1つ欠けた。

「…凪紗、座ろう。 千尋も、大丈夫か…?」

海斗は2人に声を掛けた。
千尋は今までに見せた事のないような呆然とした顔で、海斗を見た。

「…千尋?」

「あぁ…うん、大丈夫…」

千尋はずれかけた眼鏡の位置を直し、自分の席に腰掛けた。
海斗は、もう一度凪紗に声を掛けた。
しかし、凪紗は何も言わない。
聞こえてすらいないようだった。
海斗は凪紗に腰を下ろさせ、自分もその前に座った。
佑の顔が、よく見える。
怒りに満ちたその目は、天井を睨んでいた。

 

全員が、座った。
机の大部分が佑の血で汚れた池田圭祐(男子3番)の顔は青ざめていた。

進藤は佑の死体には目もくれず、話し始めた。

「わかったかな? 首輪はこうなってしまうんだ!!
 えっと…地図の話だったかな?
 君たちに配る地図は、100マスに分けられているんだ!!
 例えばここ、中学校はD=04エリア、という風になっている!!
 そして、6時間ごとに定時放送を行う!!
 その時に、禁止エリアというものを言うからな!!
 時間になってもそこにいる死んだ者はそのまま…
 だが、生きている者は、電波を送って…ボン!!
 栗原君のようになってしまうから、注意しような!!
 あと、怪しい行動を起こしても、こっちから電波を送る!!
 首を飛ばされたくなければ、頑張って殺し合おうな!!」

突然、後ろの方で誰かが呻き声を上げた。
吐瀉物が床にぶちまけられる音がした。
それを聞いて、またどこかで誰かが呻き声を上げた。
それの臭いと佑の血の臭いが、教室を満たしていた。

気分が悪い。
最悪だ、すべて最悪だ。

「さあ、何か質問はあるかな!?」

「…どうしても、しないといけないんですか?」

後方から聞こえた声は、稲田藤馬(男子4番)のものだった。
何人かが頷いた。
しかし、進藤は希望を打ち砕いた。

「しないといけないぞ、もう決まった事だ!!」

予想通りの返事だ、捻りも何もない。

「どうして…何でオレらなんですか…?」

いつも穏やかな柚木康介(男子19番)が、泣きそうな声で言った。


851VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:43:29.62wSnSqwBi0 (17/34)

C=07エリアに聳え立つデパートの1階では、3人の少年少女がそれぞれやるべき事をしていた。
このプログラムを中止に持ち込むために。
作戦はいたってシンプルだ。
爆弾を作り爆破させ、本部ごと吹っ飛ばす。

爆弾を作る為に、爆薬の原料にする漂白剤を水で練り込み、それに木炭を砕いて入れ、ゆっくりと混ぜ合わせているのは、稲田藤馬(男子4番)。

そこから少し離れた所で、ガソリンに肥料を入れ、藤馬と同じように混ぜ合わせているのは、藤馬の相方である斎藤穂高(男子8番)。

そして、管理モニター室の前で監視カメラの画面とにらめっこをしているのは、姫川奈都希(女子15番)が抜けた為に紅一点となった濱中薫(女子14番)。

「うぇっ…ガソリン臭…っ
 換気しようぜ、換気っ!!」

穂高が眉間にしわを寄せながら叫んだ。
もうこれで何度目だかわからないが、穂高の顔色は悪い。

「穂高っ! 人が真剣に混ぜてる時に…
 これ、下手したら爆発する…って不破が言ってたんだぞ!?」

藤馬が叫び、溜息を吐いた。

「でも限界… 薫、頼む、窓開けてくれ窓っ!!」

「え? あ、うんっ!」

薫は慌てて一番近い場所にあった窓に手をかけた。
そこで、外に人影を確認した。
勢いよく窓を開け、大きく手を振った。

「おかえり、ちーちゃんっ!」

作戦を考えた張本人、不破千尋(男子17番)は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔を浮かべて手を振り返した。

千尋はドアをキィッと開け、ガソリンの臭いに僅かに顔をしかめた。

「おかえり、探し物は見つかったか?」

外の空気を吸う為に入り口まで来た穂高が、深呼吸をしながら訊いた。
千尋は口には出さなかったが、Vサインをした。
それを見て、穂高は「そっか」とにっこりと笑った。

千尋は1時間半ほど前に探し物をする為に外へ出た。
探し物は必要な薬品類、向かう先は南西にある小学校だ。
小学校といえば、クラスメイトに停戦を呼びかけて何者かに殺害された真中那緒美(女子15番)がいた場所だが、那緒美を見る気にはならなかったので、理科室を探してそこから薬品を持ち出し、そのまますぐに戻ってきた。

千尋は荷物を置き、中から学校から持ってきた物を出した。
そして、籠に入れて置いてあった陶器でできた花瓶と、何の変哲もない砂糖も取り出した。

「よし…こんなもんでしょ」

意気込む千尋の前に、薫がしゃがんだ。

「…ちーちゃん、これで何か作るの?」

「ん? あぁ、大した物じゃないよ、ただの簡易手榴弾。
 武器になるかな、と思ってさ」

「手榴弾!?」

離れた所で聞いていた藤馬と穂高が声をそろえた。
薫も目をぱちくりとさせている。

「おい不破、お前何でそんな事できるんだよ…
 どういう環境で育ったらそんな知識が…」

「失礼な、普通の環境だし、育ったのは普通の家庭――」

千尋は口を噤んだ。
ふっと笑う声が漏れた。


852VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:44:08.68wSnSqwBi0 (18/34)

不破千尋(男子17番)は不敵な笑みを浮かべ、監視カメラの画面に背を向けた。
濱中薫(女子14番)がばっと振り返る。

「ちーちゃん!?」

「おい、不破、何する気だよ!?」

稲田藤馬(男子4番)も振り返り叫んだ。

「…逃げた方が良くないか?
 相手はわけわかんない転校生だぜ!?」

斎藤穂高(男子8番)が千尋に近づき訊いた。
しかし、千尋は首を横に振った。

「転校生をここに入れるわけにはいかないでしょ?」

「じゃあ皆で…」

「1人で大丈夫だよ」

千尋は藤馬の提案をあっさりと却下した。
ウージー9ミリサブマシンガンの紐を肩から下げ、不安げに見つめる3人の方を向き、にっと笑った。
それは普段浮かべているのとは少し違い、3人はそれぞれ顔を強張らせた。
それもそのはずだ、この笑顔を喧嘩相手に向けると、相手は必ず怯むのだから。

「オレは、負けない」

千尋はそれだけ言い残し、外に出て行った。

「不破…死んだりしないよな…?」

「大丈夫だよ、ちーちゃんは。
 薫は、ちーちゃんを信じるの」

藤馬と穂高が心配そうに千尋を見送る横で、薫ははっきりと言った。

『曲者』で『悪魔』――それが他のクラスの不良たちから見たちーちゃん…
だったら、こんな所で負けたりはしないはず…
それでなくても、薫は信じてるよ…
だって、ちーちゃんが負けるところなんて、想像できないもん!!

 

 

千尋は外に出た。
少し建物から離れたところで、声を掛けられた。

「ちょっとそこのお兄さん♪」

千尋が睥睨すると、そこには肩まで伸びた茶髪に鋭い目――周防悠哉(男子11番)が笑顔で手を振っていた。

「…やぁ、周防悠哉クン…といったかな?」

千尋も笑顔を返す。
ただし、互いに相手の腹の探りあいをしているので、笑顔を浮かべてはいるが和やかな雰囲気ではない。


853VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:44:52.53wSnSqwBi0 (19/34)

千尋が認識した時には、既に悠哉の手にはコルト・ガバメントが握られており、弾が発射されていた。
弾は千尋の左腕に着弾し、思わず顔をしかめた。
悠哉はすぐに千尋に突っ込んでいき、左の拳を振るう。
顔面めがけて殴りかかってくる拳を、千尋は何とか腕でガードする。
千尋は悠哉の手を振り払い、ウージーを向け、引き金を引く。
悠哉は咄嗟に横に飛んで茂みに入り、その弾の嵐を避けた。

あまりに速い出来事に、千尋は少し荒くなった息を整え、ギリッと歯を食いしばった。
左腕をゆるゆると血が流れ、地面に少しずつ血溜まりを作っていく。

…思ってたより素早い…
反射神経は、海斗クン並ってとこか…
大きい銃は、こっちの動きが鈍って不利だね…

千尋は悠哉を見据えたまま、デパートの窓――換気のために薫が開けていた――からウージーを投げ入れた。
「うわっ」という声が中から聞こえた。
千尋は前に外に出たときからずっと腰のベルトに差し込んであったワルサーPPKを左手に取った。

これで万が一コイツが中に入っても迎撃できる…
ま、そんな事はさせないけど?

「なんや、武器2つも持ってたんか…
 つーかやっぱ中に誰かおるんやな?」

悠哉がニッと笑む。
千尋も笑みを返す。

「関係無いね、どうせ君は中には入れない…」

「…言い方があるんちゃう?
 気に入らんわ……邪魔や、アンタ」

悠哉が再びコルト・ガバメントを構えた。
引き金が引かれたが、千尋は今度は横に飛んで避ける。
千尋がワルサーの引き金を引くが、悠哉には当たらなかった。
千尋は舌打ちをし、悠哉に突っ込んでいった。


854VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:45:32.60wSnSqwBi0 (20/34)

千尋は喧嘩歴はそれほど長くないし、格闘技をやってきたわけでもない。
しかし、素手の喧嘩では今までに一度しか負けた事が無かった。
それはとても小柄で可愛らしい女の子――曽根崎凪紗(女子10番)。

肉弾戦では負けるわけにはいかない…
オレに勝っていいのは、凪紗チャンだけ…
オレの上に立っていいのは、凪紗チャンだけ…

こんなヤツに、オレは負けない――

「邪魔はそっちだ、周防悠哉」

千尋はカッと目を見開き、ワルサーを悠哉に向け、撃った。
あまりに至近距離だったので悠哉は避けきれず、弾は初めて悠哉を捕らえた(頬を掠めただけだったが)。
すぐに横向きに倒れた悠哉の上に飛び乗り、ワルサーの銃口を悠哉の額に当てた。

「退け」

ワルサーの銃口をきつく押し付けた。
薫たちが聞いたら驚くだろう――普段は中性的な千尋の声は、今ははるかに低く静かだった。
悠哉の喉が一度だけ上下に動いた。

「…わ、わかった… 入らんから、それ直してくれへん?」

千尋は動かない。

「…頼むわ、誓うわ、もうアンタを襲ったりせぇへんから!!」

千尋は少し迷った後、悠哉から離れた。
もっとも、銃口はまだ悠哉に向けていたが。

悠哉はその場に座り、溜息を吐きながら頭を掻いた。

「ったく、このクラスありえんわ…
 アンタといい、最初に会ったチビちゃんと大きい男のペアといい…」

チビちゃんと大きい男…?
それってまさか…

「その…小さい方って…茶髪を二つくくりにした女の子…?
 男の方って、やたら無愛想な…?」

千尋の口調も声色も普段通りに戻っていた。

「何や、知っとるんか…って当然やな、クラスメイトやし。
 ありえんねん、チビちゃんに投げ飛ばされてん!!」

千尋の考えは確信に変わった。
凪紗と設楽海斗(男子10番)だ。
千尋の顔に、今までで1番の笑顔が浮かんだ。


855VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:46:27.34wSnSqwBi0 (21/34)

アスレチック公園の一部になるF=04エリアは、休憩所のような簡単なつくりの建物がある。
中にはベンチとゴミ箱と自動販売機しかない。

小南香澄(女子6番)はそのベンチの中の1つに腰掛けていた。
自動販売機を壊してジュースでも飲もうと思ったが、香澄にはそんな力はないし、電気の通ってない自動販売機の、生ぬるい賞味期限がいつかもわからないようなジュースを飲むのは気が引けたので、それは諦めた。
因みに、すぐ隣のエリアにはアスレチックを陣取っているミステリアスな少年、長門悟也(男子14番)がいるが、香澄はその事には全く気付いていない。

香澄は反射的にとはいえ、人を殺してしまった。
彼――柚木康介(男子19番)は、狂っていた。
奇声をあげながら香澄に襲い掛かってきたので、反射的に手に持っていた小型自動拳銃(ファイブセブン)の引き金を引いてしまった。
あの時の光景は今でも目に浮かぶし、初めて引いた引き金の感覚もしっかりと手に残っている。

康介は普段はとても穏やかで優しい人だった。
常に周りの人に気を使っていて、修学旅行で同じ班になったので班行動をしていた時も、班員に気を配り、疲れきっていた黒川梨紗(女子5番)の荷物を持ったりもしていた。

そんな彼も、命のかかったこの状況では思いやりの欠片も感じられなかった。

あれが、素だったのかな…?
ううん、そんな事は無いよね、きっと。
混乱しただけで、狂っちゃっただけで、理性が働いていれば優しい人。

このクラスには、優しくて楽しい人たちがたくさんいる。
それは作り上げた性格なんかじゃない、そう信じている。

香澄は自分の荷物から1冊のノートを出した。
ごく普通の大学ノートだが、中はびっしりと文字が書かれている。
香澄が何かがある毎に書き記していた、このクラスの物語。
今のクラスになった2年の1学期から記録を始めた。
このノートは3冊目だ。

香澄はノートをパラパラと捲った。
修学旅行の事はまだ書けていないので、一番新しい大きな行事の記録は、篠山中学校春の恒例行事、新入生歓迎春の運動会だ。
運動会と言ってもそんなに体育会系の行事ではなく、楽しく障害物リレーをやってみたり、音楽を流してイントロクイズをしたりという楽しい行事だ。

 

とても楽しかった。
いつになく盛り上がった。
というのも、曽根崎凪紗(女子10番)率いるグループと真田勝(男子9番)率いるグループ、2つの不良グループが何故か燃えていたからだ。
“やるからには優勝を狙う”をモットーに掲げ、クラス全体が盛り上がった。

障害物リレーでは濱中薫(女子14番)が網の下をくぐり、高山淳(女子11番)が体を10回転させられて目を回し、伊達功一(男子12番)が何が混ざっているかわからないミックスジュースを一気飲みして、吐きそうになりながらも1位でアンカーにバトンを渡したにも拘らず、アンカーの栗原佑(男子7番)がハードル跳びで派手にこけて最下位になってしまった。
佑は後で勝や新島恒彰(男子15番)あたりにボコボコにされていた。

イントロクイズでは真中那緒美(女子16番)が意外にも音痴である事が発覚し、クラス全員に爆笑され、那緒美自身も大声で笑っていた。
バンドでボーカルをしている斎藤穂高(男子8番)がマイクを持った時には、2・3年の大勢の女子が盛り上がり、一時穂高のワンマンショーのようになっていた。

春の運動会内では珍しく運動会らしいリレーでは、それぞれ部活で陸上部顔負けの走りを見せる笠井咲也(男子5番)・工藤久尚(男子6番)・今岡梢(女子1番)・駿河透子(女子9番)と、「リレーなら任せろ」と参加した設楽海斗(男子10番)・不破千尋(男子17番)・凪紗といった不良グループの面々と、篠山中学校が誇る陸上部エースの椎名貴音(女子8番)が、見事なバトンリレーを見せて全校1位をもぎ取った。
応援はこの時が1番盛り上がっていた。

そして最後に1クラスずつが走ってタイムを競った40人41脚では、梨紗が最初に転んでそれが波紋のように周りに広がってしまい、それが何度も繰り返されて記録は悪かった(時には羽山柾人(男子16番)もこけていた)。
梨紗が何度も泣きながら謝っていたのを、皆で慰めた。

 

皆楽しくて良い人ばかりで…
でも、こんな事になっちゃったから、もうあのクラスには戻れないんだなぁ…

ノートにぽとっと雫が1滴落ちた。
黒目がちの大きな目には、涙が滲んでおり、それは頬を伝ってノートに落ちていった。

もう、あのクラスには戻れない。
たくさんのクラスメイトが死んでしまった。
不味そうなミックスジュースを見事飲み干した功一も、ハードルに引っ掛かって派手に転んだ佑も、音痴ながらも一生懸命歌っていた那緒美も、リレーで見事な走りを見せたも久尚も梢も、皆死んでしまった。
それも、クラスメイトに殺されてしまった。

どんな気持ちだったんだろう…?
仲が良いと思っていたクラスメイトに撃たれたり刺されたりして、何を思って死んでいったんだろう…?

あたしに撃たれた柚木君は、どんな気持ちだったんだろう…?



856VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:47:15.46wSnSqwBi0 (22/34)

姫川奈都希(女子15番)はF=07エリアにいた。

奈都希は幼馴染の濱中薫(女子14番)と共に、C=07エリアで稲田藤馬(男子4番)と斎藤穂高(男子8番)、そして不破千尋(男子17番)と共にプログラムを潰し逃げ出す為の作戦の準備をしていた。
しかし、とある事情で今は別行動をしている。

事情――愛しい人を探す事。

隠しているつもりだったが、見事に千尋に見破られ、半ば強引に追い出された。

『行きたいなら、後悔したくないなら、探しに行くべきだね』

千尋が言った事は、その通りだと思った。
行かないで後悔するなら、行って後悔した方が良い。
もちろん、後悔する気は無いけれど――いや、無かったけれど。

奈都希も当然1時間ほど前にあった放送を聞いていた。
愛しい人――工藤久尚(男子6番)の名前が呼ばれていた。
とてもショックだった。
体の震えが止まらなかった。
それでも、涙は出てこなかった。
頭のどこかで、久尚の死を信じていなかったからかもしれない。

しかし――

奈都希の足元の砂は、赤黒く汚れていた。
教室でしたような血の臭いはしない。
地面に染み込み、乾いたのだろう。

そして、その汚れた血の上には、見慣れた人。

工藤久尚がうつ伏せで倒れていた。

久尚……

奈都希はその場に膝を付いた。

そっと久尚に触れた。
人とは思えないほど、冷たくなっていた。

ぐっと力を込め、仰向けにした。
カッターシャツの腹の部分が黒くなっていた。
他には傷らしきものが見当たらない。
腹の傷が致命傷だったという事だろうか。

頬に付いた土を払い落とした。
小石がめり込んで型ができていたが、それ以外はほとんど変わらない、いつもの久尚の顔だ。
眠っているように穏やかだ。

「久尚…何穏やかな顔してんのよ…
 アンタ、死んでるんだよ…?」

この傷がどれだけ痛いものなのかは想像もつかない。
ただ、今まで感じた事の無いような痛みだっただろう。
それなのに、どうして表情に出ていないのだろう。
死ぬ瞬間、何を考えていたのだろう。

奈都希は久尚の体を抱き寄せた(死後硬直の為にとても大変だったが)。
愛しい人の一度は触れてみたいと思っていた体は、生きている時に想像していたものとは違っていた。
本当なら、生きている時にこうしてみたかった。
『うわ、何するんだよぉ!!』とでも反応してくれただろうが、当然の事だが反応は無い。

「ごめんね、久尚…
 アンタ好きな人いたのかな…?
 だったら、ホントごめんね、あたしなんかがこんな事してさ…」

奈都希が久尚の事を好きなように、久尚も奈都希の事が好きだったという事は当然知らない。

「でもさ…ちょっとくらい…良いよね…?
 あたしさぁ…好きだったんだよ、久尚…」

当然の事だが、返事は無い。
それでも奈都希は続けた。

「ほら、修学旅行…グループ一緒だったじゃん?あそこで…言えばよかったんだけど……あたしにだって…照れとか不安とか…あったわけよ……」


857VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:47:54.75wSnSqwBi0 (23/34)

奈都希は久尚の体を抱いたまま、ばっと振り返った。
銃を構えたそのクラスメイトの姿に、言葉を失った。
さらっとした黒髪に、可愛らしいがどこか毒のありそうな笑顔、華奢な体つき――美作由樹(男子18番)だった。
それなりに親しかった友人だった。
由樹は銃――S&W M36を下ろした。

「奈都希ちゃん…」

由樹は奈都希の顔をじっと見つめ、不思議そうに首を傾げた。

「どうして、そんなに泣いているの?」

「え…?」

奈都希は思わず声を洩らした。
“どうして”、それはこちらのセリフだ。
どうしてこの状況がわからない?
奈都希の腕の中には、動かなくなった久尚。
好きな人だったということは別にしても、仲の良かった友人が目の前で死んでいれば泣くだろう。
もしも泣かなかったとしても、理由は明白だ。

それなのに。

「ユキちゃんは…悲しくないの…?
 久尚、死んでるんだよ…?」

由樹は瞬きをするだけで、何も言わない。

「何で!? 何とも思わないの!?
 ユキちゃんだって久尚と仲良かったじゃない!!」

それでも何も言わない由樹を、奈都希は睨み上げた。

「頭おかしいんじゃないの!?
 悲しいだとか悔しいだとか…何か感じるのが普通でしょ!?
 何でそんなに平然としてんのよ!!」

由樹は笑顔を浮かべたまま、溜息混じりに首を軽く横に振った。
何故か、寒気がした。

「うーん… やっぱ僕って…頭おかしいのかな?
 久尚が死んでも、功一が死んでも、別に何も思わないんだ。多分、奈都希ちゃんが死んでも、何も感じないよ」


858VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:48:24.68wSnSqwBi0 (24/34)

それをまじまじと見つめていた今岡梢(女子1番)は、自分の鞄をそっと線に当てた。
バチッという音がし、鞄の端が焦げた。

うっわぁ… 電流とか流れてんのかねぇ…
念入りだな、有刺鉄線張るだけで十分じゃん…

梢は心の中で悪態付き、傍の家の庭に入り腰を下ろした。

クラスの女子の中で唯一身長170cmを越す梢は、運動能力に恵まれ、所属している(していた、だな。帰られそうにないし)バレー部でも活躍していた。
体力には自信があったが、放送ごとに減っていくクラスメイト、いつ襲われるかわからない恐怖などが手伝って、疲れが溜まっていた。

最悪だな、プログラムなんてさ…
あたしってあんま運良くないけどさ、まさかねぇ…プログラムかよ…
疫病神でも憑いてんのかねぇ…?

「…いや、違うな…」

梢は呟いた。
静かな場所はあまり好きではないので、自分の声だけでもそれなりに落ち着ける。

「あのバカのせいじゃん…
 つーかあのバカに会った事が不幸の始まりだもんな…

 …そうだよ、全部アレのせいだ!!」

梢は怒鳴り、壁を殴った。
ハスキーな声を持つ梢の怒鳴り声は、クラスの友達にも部活の友達にも恐れられている。
好きでこんな声をしているわけじゃないんだけど…

 

 

「なぁなぁ、オレと付き合わない?」

「…は?」

あれは中2の始めの頃だ。
初めての会話がこんなものであるのはどうかと思う。
しかし、彼はそれをやってのけた。
今思えば、彼との出会いが不幸の始まりだったのかもしれない。

初めてクラスメイトになった彼、伊達功一(男子12番)。

「…アンタ誰?」

「うわ、キッツー!
 オレね、伊達功一っつーの、よろしく!」

何なんだコイツは、それが第一印象だ(当然でしょ?)。

「で、なんで初っ端に告ってんの?」

「梢ちゃんってバレー部だろ?
 オレバスケ部なんだよね。
 で、部活の時に梢ちゃんを見て、一目惚れってわけ。
 好きだぜ、梢ちゃん」

何で名前を知っているのか、何で馴れ馴れしく“梢ちゃん”と呼ぶのか、気になったがまあいい。
顔は良かったし、ノリも良いので、付き合ってみるのも良いかと思った。
後々後悔するとは思ってもいなかった。

付き合うのは楽しかった。
功一は明るい性格でリードも上手く、色々な所に遊びに行ったりもした。


859VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:50:03.57wSnSqwBi0 (25/34)

津田彰臣(男子13番)は今にも泣き出しそうな表情で、建物の屋上から下を見ていた。

下には、幼馴染だった伊達功一(男子12番)が倒れている。恐らく、もう息はないだろう。首が変な方向に曲がっており、頭の下には血が広がっている。自分が直接手を下したわけではない。功一が勝手に落ちた。自分は助けようとして手を伸ばしたが、届かなかった。――と割り切ってしまう事ができれば苦労はしない。オレがコウに怪我をさせなければ、コウは死ななかった…オレのせいだ…

彰臣は頭を抱えた。気が合わないとはいえ、掛け替えのない幼馴染を殺してしまった。その罪悪感は、彰臣の背中にずっしりと圧し掛かっていた。

「コウ!!?」

下で悲鳴とも取れる叫び声が聞こえた。
彰臣は弾かれた様に顔を上げ、屋上から僅かに身を乗り出した。この声は…

「コウ、何でこんな…っ」

功一の傍に駆け寄っていた人物が、建物を見上げた。
彰臣と目が合った。
彰臣は慌てて顔を引っ込めた。

どうする… 見られた…
もう、駄目だ…っ

彰臣はその場に蹲った。
全身がガタガタと震える。

下にいたのは、この状況を誰よりも見てほしくなかった、もう1人の幼馴染で彰臣の想い人――高山淳(女子11番)だった。
淳はこの状況をどう見たかはわからない。
ただ、十中八九、彰臣が功一に突き落とされたとでも思うだろうが。

階段を駆け上がる音が聞こえる。
徐々に大きくなっている。
間違いなく、淳だ。

どうなる…責められるよな、やっぱり…
決定的に嫌われただろうな…どうする…?

彰臣は、自分のアーミーナイフをじっと見つめた。ナイフ部分は赤く汚れている。

…仕方が、ないよな…当然の報いだよな…オレは、人を殺してしまったんだから…

ナイフを、そっと自分の手首に当てた。
震えを何とか堪え、静かに目を閉じた。

ごめん、淳… オレ、ちゃんと責任取るから…コウが死んだのは、オレのせいだから…頼む、嫌いにならないでくれ…自分勝手な願いだけど…頼むよ…

ナイフが僅かに皮膚に食い込み、そこから赤い液体がじんわりと滲んだ。

同時に、パンッと屋上のドアが開いた。

「アキ、何やってんだい!!」

淳が怒声を上げ、彰臣に突っ込んできた。
彰臣の手からナイフをもぎ取り、遠くに放り投げた。
そして、彰臣の肩を掴んで激しく揺らした。

「アンタ今何しようとしたか、わかってんのか!?」
「じゃあ…どうしろってんだ…」

消えてしまいそうな彰臣の声に、淳は眉間にしわを寄せた。彰臣は両手で自分の頭を抱えた。

「コウが…死んだのは…オレのせいだ…オレが…殺したようなものなんだ…っ」

淳がはっと息を呑んだ。

「それって…どういう…」

彰臣はしばらく黙っていたが、やがて訥々と語り始めた。自分と功一の間に起こった衝突の事、功一が襲ってきた事、功一の目を切りつけてしまった事、そして――


860VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:51:27.11wSnSqwBi0 (26/34)

会場内に音楽が流れ始めた。
某人気アニメの初代オープニング曲だ。

「やあ、みんな、おっはよ?!担任のサトルだぜ!」

1日目、午前6時――担当教官のサトルの声が、機械を通して聞こえてきた。

「あ、6時かぁ…」

「ホントだ、時計ちゃんと合わせないとね」

瀧野槙子(女子9番)が顔を上げた。
横では同じ中間派グループの佐々川多希(女子6番)が持参した時計の時刻を合わせている。

「じゃあ、さっそく死んだ仲間の名前を言うぜ!
 死んだ順番だから、気をつけてくれよ!」

ガサガサッと紙の擦れる音が聞こえた。

「えっと…まず、女子19番の森秋乃ちゃん!
 続いて女子18番の向井あずさちゃん!
 女子22番の若狭恵麻ちゃん!
 そして男子10番の西田大輔君!
 始まってから間もないからなぁ…まあまあのスタートだぜ!
 この調子でがんばってくれよ!」

やだ…まだ始まって1時間ちょっとしか経ってないのに…もう死んじゃった人が…?

槙子は溜息を吐いて名簿にチェックを入れた。
涙は出てこない。
まだ“死”に対する実感がないからだろうか。

「続いて禁止エリアだ!
 最後の人が出てから20分後だから、6時12分にG=04エリア!
 7時からはI=02、9時からはH=04、11時からはD=10だ!
 いいかい?この時間を過ぎてもそのエリアにいたら首輪がボンッ!
 だから、ちゃんと離れろよ!
 G=04、I=02、H=04、D=10だからな!
 みんな、がんばって殺しあってくれよ!
 あ、死神君はもう既に殺しているからな!
 うかうかしてると10人殺されちゃうぞ!」

ブツッと放送が切れた。

禁止エリアは自分たちがいるI=08エリアとは当面関係がなかった。

ちなみに、2人が今いるのはI=08エリアにある稔が丘高校内にある化学実験室だ。
鍵が開いていたので入れた。

「タッキー…もう4人も死んじゃったね…」
「う…ん」

多希は自分の黒髪のショートカットの頭を掻いた。これは多希が考え込んだ時に必ずする癖だ。

何考えてるのかな…?まさか脱出の方法?無理だよね、そんなのは…

多希と槙子なら、成績は槙子の方が上だ。しかし、それは教科書範囲での知識の量の話。雑学に関しては多希の知識はすごい。槙子の知らないことを沢山知っている。槙子は無意識に自分の髪に触れた。2つに結んだ肩までの髪は、今はボサボサになっていた。あっちゃー…結構必死に走ったもんなぁ…

とりあえず髪を結び直すことにした。
多希は時々名簿を見たりしながら相変わらず考え事をしていた。

「マキ、作戦会議しよっ!」

10分ほどたった後、突然多希が槙子に声を掛けた。

「作戦…会議?」
「うん、これからどうするのか…とりあえず、あたしは何もせずに死ぬのは嫌だな。マキは?」
「あ、あたしも嫌…」

多希が名簿を机の上に広げた。
既に退場した4人の名前には斜線が引かれていたが、それ以外にチェックが入っていた。


861VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:51:56.76wSnSqwBi0 (27/34)

「もしも、明らかにやる気になりそうにない人で
 更に他の人のために自[ピーーー]るような人だったら、
 死神を選んだ意味がないじゃない?
 明らかにやる気になりそうな人が死神になったら
 その人はがんばって10人殺そうとするし、
 他の人は10人にならないように少しでも沢山の人を殺そうとする…
 それが死神の存在理由だと思うんだよね。
 そうすれば進行も早くなるでしょ?」

そこまで言うと、槙子は名簿を見た。
女子にもチェックが入っている。
これは最初の推理が当たっている可能性がそこまで高くないからだろう。

多希の言う死神候補はこの通りだ。

稲毛拓也(男子1番)
戎嘉一(男子2番)
西川東(男子9番)
浜本卓朗(男子11番)
良元礼(男子16番)
近藤楓(女子5番)
瀬川小夜(女子8番)

「あれ?」槙子は首を傾げた。

「戎君と浜本君…何で?
 2人とも大人しい人じゃない?
 楓と小夜ちゃんも…。
 むしろ良元委員長の友達の方が怪しいんじゃ…」

もっともな話だった。
戎嘉一は恐らくクラスの男子の中で1番大人しい。
浜本卓朗は真面目ないい人だ。
槙子たちと同じグループである天条野恵(女子12番)の彼氏だ。
2人ともやる気になりそうではない。

「そうなんだけどね…」多希が溜息を吐いた。

「ほら、戎君って大人しかったでしょ?
 だからかえって何をするかわからないんだよなぁ…
 浜本君はお兄ちゃんがプログラムに巻き込まれたでしょ?
 政府の人たちがオフザケで死神にしちゃうかなって思って。
 まあ、これは信じたくないな…野恵のためにも…ね。
 委員長の友達は怪しいとは思うけど…そんなに悪い人じゃないと思う…
 楓と小夜はね…グループ対立がすごかったでしょ?
 もしかしたら相手のグループを全滅させようとするかもって…
 自分たちのグループが生き残るために…
 もしかしたら秋乃たちを殺したのも…」

槙子は俯いた。
多希はクラスメイトを疑っている。
みんなやる気なんじゃないだろうか…と。
しかし、男子委員長グループの一部をやる気にはならない、という考えは、少しだけでもみんなを信用したい、という気持ちがあるからだろう。

確かに疑ってみれば全員疑わしい。
しかし、ここで信じなくてはいけない。
疑心暗鬼に陥らせることが、このプログラムを円滑に進行させることになるのだから。

「そうだ、これからの作戦だねっ」

多希は思い出したようにポンッと手を合わせた。

「あたしはね、脱出したい。 ここから…」

「脱出? 出来るの?」

槙子が訊くと、多希は首を横に振った。

「わからない…けど、信用できる人を集めて脱出したいの。
 そのためには、また知恵を振り絞らなきゃいけないんだけど…
 とりあえず野恵を探したいな」


862VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:52:24.31wSnSqwBi0 (28/34)

今回のプログラムの会場の端、A=01エリアは森だ。
木が好き勝手に伸びているので、日の光も届きにくい。
そのため、他の場所より涼しく、避暑にはもってこいの場所だ。

そんな場所にいるのは真木頼和(男子14番)。
頼和はMDウォークマンで音楽を聴きながら涼んでいた。
今聞いている音楽は、米帝(アメリカの事を大東亜ではそう呼ぶ)から輸入されてきた退廃音楽、つまりロックである。
頼和は隠れロックファンだ。
何しろ日本では禁止されている音楽、政府にバレたりしたらどうなるかわかったものじゃない。

何でこんなカッコイイ曲、ダメなんだろうな…
絶対流行ると思うんだけどなぁ…

因みに、クラス内にはもう1人ロックファンがいる。
和久瑛介(男子18番)だ。
瑛介は一見真面目そうに見えるが、実はとても不真面目な人間だ。
オマケに軽楽部に入って、顧問にも内緒でロックを演奏しているらしい。
いつかロックについて語り合ってみたい、と思った事もある。

あーあ、オレは結局誰とも共通の趣味について語り合うことがないのかな…
死にたくないけど…それはみんな同じだろうし…
オレ、襲われても抵抗できないし…

頼和はもう何度したのかもわからない溜息をまた吐いた。
そして、ポケットに入れていた1枚の写真を取り出した。

せめて…せめて君には会いたいな…
最後に…気持ちを伝えたいな…

その写真には、隠し撮りをした佐々川多希(女子6番)が写っていた。
コーラス部の大会会場にこっそり行き、出てきた多希を撮ったものだ。
ストーカーっぽい行動をした事はわかっている。
しかし、頼和はあまり異性に親しく話し掛けることが出来なかった。
部活のテニスの大会では常に優勝するという優秀な成績を持っていたが、それとこれとは話が別だ。

「佐々川さん…元気にやってるかな…?
 そう簡単に死ぬ人じゃないと思うんだけど…ねぇ?」

頼和は写真の中の多希に声を掛けた。
当然の事だが、答えてはくれない。
頼和がそう考えるのには理由がある。
多希は頭が良い。
成績もいいが、それ以上に色々な知識を持っている。
きっと今も、その知識をフル活用して脱出方法か何かを考えているに違いない。
頼和はそう考え、ずっと今の場所から動かずにいた。

きっと、ここで勇気のある男子…
例えば…星弥とかならきっと好きな女子とか探しに行くんだろうな…
でもオレは…怖いな……
できればずっとここでロックを聴いていたい…
最悪な男だと思われるかもしれないけど…
オレはまだ死にたくないし、佐々川さんだってきっと生きてるはずだ…
でも…佐々川さんは女の子だし…
きっと怖がってるかもしれないし…
守ってあげるべきだよな、男として…
でも…

頼和の頭の中ではこの考えがずっと回っていた。
もしも武器が良い物なら、きっと探しにいっていただろう。
しかし、頼和のデイパックに入っていたものはスプーン1本だけだった。
今回の支給武器で最もハズレの物だろう。
ナイフのように切ることも出来なければ、フォークのように突き刺すこともできない。

これが自分の支給武器だと気付いた時はショックを受けた。
スプーンを思い切り地面に叩きつけた。

ちくしょう、これで目でも抉ってろっていうのか!?
あのペケモンマスターめ、ふざけんな!!

因みに『ペケモン』というのは、今子供たちに人気のあるアニメの名前だ。
主人公『サトル』がペケモンを連れて旅をしてペケモンを戦わせて…
あの担当教官は、正にサトルのコスプレだ(名前まで一緒にしていやがる)。


863VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:52:52.88wSnSqwBi0 (29/34)

居心地が良い場所だったので、離れるのは名残惜しかったが、そんなことを言っている場合じゃない。
ゆっくりと周りの様子を見ながら進んだ。

途中公園を通った。
地図でいうC=03エリア、様々な遊具がある。
その遊具の中で最も背の高いアスレチック。
その下を通りかかった時、少し離れたところに何かが落ちているのがわかった。

え……何だアレ……?

頼和がゆっくりと近づくと、それは人であることがわかった。
女子だ、茶髪の。

あ……酷い……

それは昼の放送で名前を呼ばれていた月野郁江(女子11番)だった。
左腕と背中の左部分がどす黒く染まっている。
近くの草も、血の海になっていたらしい、今は血が固まっているが。
口も血で汚れており、目は見開かれていた。

「うぅ…っ!」

胃の中の物が一気に逆流を始めた。
頼和はその場で吐いた。
胃の中にはあまり物が入っていなかったので、あまり出なかったが。
あたりにすっぱい酸の匂いが充満した。

頼和はデイパックの中からペットボトルの1本を出し、残っていた半分の水を一気に飲み干した。
荒い息をしながら、頼和はよろよろと立ち上がった。

行かなくちゃ…行かなくちゃ…
佐々川さんのこんな姿…見たくない…
早く離れよう…少しでも早くここから……

おぼつかない足取りで何とか5mほど離れた所で、頼和は立ち止まった。
くるっと方向を変え、郁江の所まで戻ると、郁江を仰向けに寝かせた。
顔のあちこちに赤紫っぽい斑点が付いていて(死斑とかいうやつか)、それでまた吐き気が襲ってきたが、今度はこらえた。
目を閉じさせた後、腕を組ませようとしたが、硬直していたために出来なかった。

「月野さん…成仏してよね……
 無理かな…こんな理不尽な殺し合いに巻き込まれて…」


864VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:53:21.51wSnSqwBi0 (30/34)

自分の手の中には銃(CZ M75)が握られている。
その銃口からはまだ煙が出ていた。
目の前には稲毛拓也(男子1番)が転がっている。
理由は簡単だ、彼の命を奪ったのは他の誰でもない、自分なのだから――

戎嘉一(男子2番)はCZ M75を下ろし、拓也の死体を見つめた。
腹の傷によって、カッターシャツは赤く染まっていた。
頭の傷からはゆるゆると血が流れている。

「稲毛…ケンカは強かったんだけどね…
 こんなにあっさりと死んじゃうんだねぇ…」

嘉一は拓也の傍に落ちていたダガーナイフを拾い上げた。
これが拓也の支給武器だったのだろうか?
とにかく、拓也はそのナイフで嘉一を殺そうとしていた事には変わりはない。

「全く…
 太陽を背に襲ったらバレバレじゃないか…
 ま、クラス最下位らしいし、仕方ないかな…」

嘉一は決して気配に敏感な方ではないし、反射神経も良くない方だ。
それでも拓也の存在に気付いたのは、拓也が朝日を背に立ったため、影が出来てしまったからだ。
その影に気付き、そちらを向いた時に拓也は丁度ナイフを振り上げていた。
だから、返り討ちにする事が出来たのだ。

とりあえず、嘉一は拓也のズボンに手を突っ込んだ。
紙に触れたのがわかり、それを出した。
真っ白の紙だった。

なんだ、死神じゃないのか…
コイツはオレを殺そうとしたのか…
ただ人数を減らすためだけに…

ふーん、と2,3度頷いた。

「一応同じ考えかな?
 ただ僕は君みたいに計画性の欠片も感じられないバカじゃないけどね」

クラスの連中はバカばかりだ。
一緒にいてもつまらない連中ばかりだ。
成績がどうこう、という問題ではない(因みに嘉一は10位前後を彷徨っている)。
存在がバカらしいのだ、つまらないのだ。
だから誰とも喋る事はなかった。
周りから見れば、真面目で根暗だとか思われているだろうが関係ない。
つまらない連中の相手をするほど暇ではないだけだ。

まあ、あんなバカなやつらは生きていても仕方がないだろ?
生き残るべきは…僕だよなぁ?

嘉一は右の方で分けている髪に触れた後、黒渕の眼鏡をクイッと上げた。
そのレンズの奥の目は、殺意に満ちていた。

 

 

 

 

嘉一が拓也を殺害するところを、誰も見なかったわけではなかった。
実は嘉一から5mほど離れたところに1人の少年がいた。

三木総一郎(男子15番)は今、走ってアパート密集地を抜けようとした。
涙が溢れ、鼻水も垂れていた。
男子で1番小柄で丸っこい総一郎は、転がるように走った。

戎が…戎が稲毛を殺した!
みんなやる気なんだ!!
昨日まで仲が良くても関係ないんだ!!
昨日の友は今日の敵だ!!

総一郎は自分のズボンのベルトに挟んでいたコルトガバメントM45口径を抜いた。
決して使わないだろうと思っていた。
さっきまでは。

しかし、もう誰も信用してはいけない。
何人生き残る事が出来ようが関係ない、信ずる者は己のみ、だ。
親友だった真木頼和(男子14番)も、時々休み時間に一緒に騒いでいた川口優太(男子4番)も信用してはいけない。
嘉一などは論外だ。
目の前で殺人をやってのけたのだから。


865VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:56:08.64wSnSqwBi0 (31/34)

一番最初に目を覚ましたのは佐々川多希(女子6番)だった。
あれ…? あたしは確か勉強合宿で……

周りを見て、多希ははっきりと目覚めた。
自分は錆びたパイプ椅子に腰掛け、木製の机に身を任せていた。
明らかに旅館ではない。周りを見ると、誰も起きていなかった。席順は夏休み前の授業時の席順と同じだった。窓際の後ろから2番目、そこが多希の席だった。どうやら、手入れしていない教室らしい。黒板もちゃんとあるが、電気は薄暗いし机は埃が被っている。

「ちょっと……茉有? 茉有ってばぁ……」

後ろの席にいた親友の野尻茉有(女子15番)の肩を揺すった。しかし茉有は目覚めない。茉有の肩を揺らしながら、多希は茉有の首に銀色の何かが付いているのがわかった。

何だこりゃ……悪趣味だなぁ……

しかし、それが周りのクラスメイトにも、そして自分にも付いているのがわかった。存在に気付くと急に鬱陶しい存在になる。

「ふああああ……」

あくびが聞こえ、多希は右を見た。男子委員長の良元礼(男子16番)だ。

「い……委員長……」

多希が声を掛けると、礼は振り向いた。そして、にっと笑った。

「よっす、グッドモーニング。 ……佐々川、今何時だ?」

多希は自分の時計を見た。超人気テレビアニメの『ドラ太郎』というネコ型ロボットの絵がある時計だ。あ、いや、そんなことはどうでもいい。

「えっと……4時前だよ、あ、午前の」
「あ? なんだそら。 ほとんど一日寝てたのか、オレら……」

そうだ、最後の記憶は朝ご飯を食べていた時だ。ちょっと寝すぎかな?頭がぼーっとしてる……おなかもすいた。

そのうち、生徒たちがだんだん起き始め、室内がざわついてきた。

「タッキー、何これ……」

茉有が目を覚ました。何か、だって? 知るかそんなもん。

多希が見回すと、誰とも喋っていない生徒が目についた。

多希の前方、1番前に座る幼馴染の天条野恵(女子12番)が、隣の席に座る彼氏である浜本卓朗(男子11番)やその後ろの月野郁江(女子11番)と喋っているために喋る相手がいない小路幽子(女子7番)、多希の2列横の武田紘乃(女子10番)の1つ後ろ、普段から友達付き合いがほとんど無い戎嘉一(男子2番)、嘉一の2つ横、男子に周りを囲まれている大野迪子(女子3番)、そして廊下側(船海第一中学と同じなら)の1番後ろで腕組をしている稲毛拓也(男子1番)。拓也の口が僅かに笑みの形を作っているような気がした。

稲毛君……何か知ってるのかな?

そう思ったが、詳しく聞くことはなかった。教室前方の扉がガラッと開き、4人の男女が入ってきた。

「さぁ、みんな静かにしろよぉ!」

赤い帽子を被った4人の中で最も背の低い15,6歳頃の男(160ないかもしれない)が叫びながら手を叩いた。すぐに教室内は静まり返った。

「ようし、みんなイイコだな!はじめまして、今日からみんなのトレーナー…いや、担任になったサトルだぜ!よろしくな!ついでに、皆から見て1番右にいるのが、タケル…あ、タケルはお姉さん大好きだから、女の子は注意してね!その横にいる見るからにオテンバそうな気の強そうな女はアスミだ!自称オテンバ人魚らしいけど、絶対ウソ、むしろ魚人…ウソだよ、イテッ!そして、1番左にいるキザなヤツは、オレのライバルのシゲキだ!皆君たちの世話をしてくれるんだ! よろしくな!」

タケルは今から登山にでも行くのかという格好をしている。アスミはヘソ出しにミニのズボン、海の近くに住んでいそうだ。さすが自称人魚。シゲキは普通の紫色のトレーナーを着ている。何なんだ、このアンバランスな組み合わせは。

え? 何、この人たち……何?

多希が声を出そうとしたとき、ガタッと椅子の動く音がした。

「何なんだ、お前らは……何するんだよ?」

それはクラス1騒がしい人間、堀田勝海(男子13番)だった。


866VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:58:00.99wSnSqwBi0 (32/34)

「最初の人は……君だぜ! 男子12番、平野辰紀君!」
サトル(担当教官)の声に、平野辰紀(男子12番)の体がビクッと震えた。

マジかよ……何でオレ? 40人もいるのに何でオレなわけ?

「平野君、はやくしなさいよ!」

紅一点のアスミ(軍人)が喝を入れたので、辰紀は立ち上がった。
その時に「ひゃい!」という返事も忘れていない。
アスミがフフッと笑った。

「ここのエリアは、最後の人が出てから20分後に禁止エリアになるから、
 気をつけろよ!
 次の人が出てくるのは2分後だ、見つからないようにな!」

サトルが付け足した。

知るか、んな事は最初に言っとけよ!

ほのぼの系グループの1人と言われる辰紀でさえ、もう堪忍袋の緒が切れていた。
自分のショルダーバッグを担ぎ上げると、デイパックの所へ行った。
そこで1番温厚そうなタケル(軍人)がデイパックを1つ持った。

「今からオレの言う事を3回言って?
 『私たちは殺し合いをする』…はい?」

何だ? 何言ってるんだ、コイツ……誰が言うか!

…などと思っていたが、この中で最もクールそうなシゲキ(軍人)が銃を構えたので、やけくそになって叫んだ。

「私たちは殺し合いをする、殺し合いをする、殺し合いをする!
 チクショウ!」

「『やらなきゃやられる』……はい?」

「やらなきゃやられる、やらなきゃやられる、やらなきゃらられる!
 クソ!」

「はい、よくできました。 最後噛んでたけどな。 舌回ってないぞ?」

デイパックを受け取ると、辰紀は走って部屋から出て行った。

「2分後、天条野恵さんの出発だぜ!」

試合開始 7月24日午前4時22分――

辰紀は外に出た。右側には木が茂っている。放っとかれたせいだろう。四方八方にツルも蔓延っている。

「チクショウ、何でこんな目に合わないといけないんだよ…」

とりあえず植物の中に隠れた。当然、殺し合いなんかには乗らない。だから、仲間を探そうと考えた。しかし運の悪いことに、親友の神田輪(男子5番)・関克哉(男子8番)・浜本卓朗(男子11番)、全員当分出てこない。そういえば、武器っていうのが入ってるんだっけ……何だろ?デイパックを開き、中を漁った。ペットボトル、不味そうなパン、地図、懐中電灯…ん?何か丸いものが……それが何か、すぐにわかった。自分が見慣れているもの…サッカーボールだった。はぁ!? ふざけんな! そりゃオレはサッカー部だよ! でもこれが武器? 武器じゃないっしょ、これは!しかし、捨てるのも勿体無いので、それの上に腰掛けてみた。チクショウ、椅子じゃないって!

「両手を挙げて?」

不意に後ろから声を掛けられた。同時に、後頭部に何かが押し付けられた。え? もしかしてオレって早速やばい!?

「ちちちち違う! オレやる気じゃないし!つーか武器サッカーボールだし! 命だけはぁ!」

全く、なんて情けない姿だ。しかし、手を挙げて必死に命乞いした。こんな所で出てすぐ殺されるなんて最悪だ。

「さ…サッカーボール? それって武器?」

聞き覚えのある声だった。それなりに交流のあった少女の声だった。

「て…天条?」
「ん?何?」

少女…天条野恵(女子12番)が、いつもと変わらない調子で訊き返してきた。
辰紀は脱力した。

「オレの頭に押し付けてるの…何?」
「ん? あぁ、ゴメンね、タツキ君。これ、あたしの支給されたヤツ。 君のと同レベルかもね」

辰紀が振り返ると、野恵が右手に携帯電話を持って微笑んでいた。どうやら頭に押し付けていたのはアンテナ部分だったようだ。

「け…ケータイ?」
「うん。 最悪だね、あの政府…武器って言うから銃とかナイフとか想像してたのにね」


867VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 01:58:50.46wSnSqwBi0 (33/34)

嫌だ!オレはまだ死なないんだ!
死なない、死にたくない!!
西田大輔(男子10番)は逃げた。
必死に走った。

「ちくしょう、待ちやがれ!ブッ殺してやる!!」

後ろからはケンカが強いことで有名な不良、西川東(男子9番)が追いかけてくる。

何でだよ、どうしてオレを追いかけてくるんだよぉ!!
オレが何をしたんだ!?
ちくしょう、だから不良は嫌なんだよぉ!!

 

 

先ほど良元礼(男子16番)が若狭恵麻(女子22番)らを襲った銃声は教室で聞いた。

 

バババッ

 

「ヒッ」と前の席の瀧野槙子(女子9番)が小さく声を洩らした。

「あ、みんな早速バトルしてるな!」

サトルがニカッと笑いながら言った。

何度か銃声が聞こえた後、それは静まった。
その銃声は大輔を怯えさせるには十分だった。

出発後大輔は丁度東から10mほど離れた場所で息を潜めていた。

嫌だ、何でオレがこんな目に遭わなきゃならないんだよぉ!
オレはまだ死にたくない!生きたいのに!死にたくないよぉ!!
誰か助けて助けて助けて!!誰かぁ!!

とりあえず、誰もいなさそうな民家か何かに入って落ち着こう、そう考えて大輔は四つん這いのまま移動を始めた。

 

ガサッ

 

「うわああああ!」

大輔は思わず大声を出してしまった。
目の前にいたのが、果物ナイフを持った西川東だったので。

ヤバイ!殺されちゃう殺される殺される!!

「嫌だ嫌だ嫌だあああ!!」

「待てよ」

大輔は必死に逃げようとしたが、東にカッターシャツを掴まれて身動きが取れなくなってしまった。

「ひぃぃ!」

嫌だ!あのナイフで斬る気なんだ!
首とかザクッとやっちゃう気なんだ!
嫌だ嫌だ!!

「助けて…死にたくないぃ!!」
「うるっせぇな。黙れ!」

頬を殴られた。

「痛いっ痛いいいい!!」

そうか、リンチか!ちくしょう、オレをリンチしてから[ピーーー]気なんだな!?ちくしょう、[ピーーー]なら一気に殺せ…って死にたくないんだって!嫌だ!こんな所で死んでたまるかぁ!!大輔はデイパックを振り回した。それが東の頭に当たり、ガンッという音を立てた。東の手が離れた。やった!まだ死なない!何が入ってるんだ、このデイパック…そういえば、まだ武器の確認してなかったなぁ…


868VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 02:00:38.99wSnSqwBi0 (34/34)

草が多い茂っている以外に何もないH=03エリア、その草の間から一人の少女が顔を出した。
クラス内での身長の低さは5本の指に入る。
ほんの少し染めた茶色の髪で2本のみつ編みを結うその少女は、可愛らしい容姿からクラス内、外両方から人気があった。
その少女――武田紘乃(女子10番)は溜息を吐いた。

朝の放送を聞いて涙が出てきた。
昨日まで仲良くしていたクラスメイトたちが死んでいくのはショックだった。
しかも、4人のうち3人が自分と親しかったので尚更――

紘乃は瀬川小夜(女子8番)率いるグループの人たちと仲が良かった。しかし、あまりの大人数で騒ぐのはあまり好きではなかった紘乃は、大抵月野郁江(女子11番)と一緒にいた(グループ争いに巻き込まれたくなかったことも原因だ)。

ああもうあたしの大バカ!
どうして郁ちゃんを待たなかったのよぉ!冗談じゃない、こんな所で1人きりなんて…

紘乃はずっと後悔していた。出発直後は恐怖で頭が混乱していたため、人を待つということができなかった。たった4分待てば郁ちゃんに会えたのに――考えれば考えるほど、悲しくなった。

紘乃は出発後ずっと同じ場所に隠れていた。別に武器が外れだったわけでも、移動がつらいわけでも、恐怖で足が竦んでるわけでもない。

支給された武器はベレッタM8000という自動拳銃だ。説明書を見てもよくわからないが、撃った時の反動が吸収されるため、連続発射時の命中精度が高くなるらしい。しかし、その銃は今はデイパックの中にしまってある。紘乃はバドミントン部員だった(引退したから過去形でいいのよ)。部内では3年12人中3番目に強かったし、それなりに筋力も発達していた。その気になれば銃を手に会場内を歩き回ることも出来るが、それはしなかった。
紘乃にはやる気の欠片もなかった。

確かにこの状況、4人が死んでいる状況は怖かった。しかし、足が竦んで動けないほどではない。クラスの大半の生徒を信用しているから。人殺しをするような人ではない、と。名前を呼ばれた4人は死神に選ばれた人が仕方なく殺してしまったんだと考えることにした。

どのくらいの時間が経っただろうか。

周囲の僅かな葉が擦れる音にも敏感に反応し、常に辺りを見回している。緊張しているために少し疲労している。

疲れた…おなかすいたなぁ…

ガサッ  ガサガサガサッ

紘乃の小さな背中がピクッと震えた。
偶然風で葉が擦れた音ではない。そして、その音は徐々に近づいてきていた。誰…誰なの……?

「ひ…紘乃……お前紘乃か?」

声変わりした男子生徒の声。それは自分がクラスの男子の中で最も聞きなれた声だった。紘乃はほっと溜息を吐き、笑顔で振り返った。

「テツ君……」

その少年は岡哲平(男子3番)だった。
最も親しい人物――紘乃の恋人だ。紘乃の左手の薬指にはめられた指輪、これも哲平からのプレゼントだ。

「紘乃…よかった、探してたんだぜ。…横座ってもいいか?」
「あ、いいよ。 どうぞ」

哲平は紘乃の横に腰掛けた。そして、紘乃の肩に手を回した。

「会えてよかった…紘乃チビだから見つからないかと思ってたぜ」
「あ、失礼なっ!」
「ゴメン、ジョーダンだよ。でも無事でよかった…怪我はしてないな?」

紘乃は自分の体重を哲平に預け、小さく頷いた。幸せだった。大好きな人と一緒にいられることが。

「紘乃はさ、これからどうするつもりだったんだ?」


869VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 02:34:41.87xMnrqaeo0 (1/1)

最近は焼き依頼ちゃんと動いてるみたいだし今度やって貰ってくるか


870VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/10(水) 07:34:05.66evNJAIIAO (1/1)

>>869
宜しく


871◇x/rxoIq2T6 2013/07/24(水) 14:48:30.639qbTiNCL0 (1/1)

憂鬱


872VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/02(金) 20:57:43.295KybSMbL0 (1/1)

まだー


873VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 07:50:48.08868/ISGe0 (1/60)

電子音の間隔が、もう殆どなくなっている。
咲良は撫子の腕にしがみついた。
撫子は咲良を護るように立っていたが、その身体は震えていた。
瑠衣斗は2人から離れた所でその様子を見ていたが、眉を顰め、目を伏せた。

「いやっ、死にたくない、死にたくないのにぃいぃっぃいぃぃッ!!!」

「助けてよ、誰か、誰かああぁぁぁぁぁぁあぁぁっぁッ!!!」

短音が繋がったロングトーンの電子音と、2人の悲鳴が響き渡った。
電子音が鳴り止んだ刹那、くぐもった爆発音が鳴った。
咲良たちの眼前の3か所で、紅い噴水が噴き上がった。
静寂の中、液体が地面に落ちる音だけが耳朶を打つ。
呆然と鮮血の舞う光景を見つめていた咲良と撫子の足元に、ころころと何かが転がってきた――その大部分が紅く汚れた、恒祐の、頭部だ。


874VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 07:51:27.91868/ISGe0 (2/60)

『咲良は、お祖父ちゃんの“葉鳥神道流”が嫌いかな?』

『うん、さくら、ピアノしたりおえかきしたりする方が好き。
 だって、たたいたりけったりしたら、された人がいたいでしょ?』

『そうかそうか…それでいい。
 咲良、お前は人の痛みをわかってあげられる優しい子でありなさい。
 そして――』



「咲良さん…傷…痛みますか…?」

ぼそぼそと低く小さな声で池ノ坊奨(男子四番)が気遣わし気に聞いてきたので、上野原咲良(女子二番)は顔を上げ、できるだけいつもと変わらない笑顔を浮かべられるように表情筋を動かし、奨の小さく鋭い目を見つめた。

「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう、奨くん」

腕の傷はずきずきと痛み、あまりの痛みに頭痛までしてきた。
しかし、これ以上心配を掛けるわけにはいかない。
ただでさえ教室を出発した時には奨に支えてもらわなければ立ち上がることすらできない状態だったし、今は真壁瑠衣斗(男子十六番)と高須撫子(女子十番)が咲良の腕の怪我を処置し直すために、少し離れた場所にある診療所に必要な物を取りに行ってくれている。
こんなにも皆に迷惑を掛けてしまっていることが本当に情けない。

木戸健太(男子六番)がいない。
城ヶ崎麗(男子十番)がいない。
そのことがこんなにも響くなんて。

本当に心から愛しくてたまらない恋人の健太。
少しぶっきらぼうなところはあるけれど優しくて、とても真っ直ぐで熱くて目標のための努力を惜しまない、男らしくてかっこいい人。
初等部時代のとある出来事の際に初めて健太と出会ったのだが、曲ったことが許せない正義感の強さとどんなことにも怯まない勇ましさに、一目で惹かれた。
まさか中等部に上がって、健太が帝東学院に入学してくるとは思っていなかった。
再会できたことが嬉しくて、健太も咲良のことを覚えていて声を掛けてくれたことが嬉しくて、咲良と同じように健太も自分のことを想ってくれていたということを告げられた時はそのまま昇天してしまいそうな程だった。
毎日話をして、休日は健太はテニス部の活動があるのでそこに顔を出して、たまに休みになると一緒に出かけて(2人で並ぶと咲良の方が背が高い。咲良はそれが少し嫌だった。もっと小柄に生まれたかった。咲良の身長は168cmと女子平均を遥かに上回り、クラスでは荻野千世(女子三番)に次いで背が高い)――些細なことがとても幸せで、このままこの幸せが続いていけばいい、そう願っていたのに。


875VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 07:52:31.71868/ISGe0 (3/60)

心臓が止まってしまいそうだった。
もしも健太や麗、朝比奈紗羅(女子一番)や鳴神もみじ(女子十二番)に万が一のことがあったとしたら――すぐに駆けつけたいのに、その場を動くことが許されず、気が気ではないまま1時間半も経ってしまった。
無事であることをただ祈るしかなかった。

どうして、プログラムに選ばれてしまったのだろう。
どうして、プログラムなどというものが存在するのだろう。
クラスメイトが傷付け合うことを大人たちが強制するなんて、おかしすぎる。
田中顕昌(男子十一番)だって、横山圭(男子十八番)だって、死ななければならない理由なんて何一つなかったのに――いや、誰にだって死ななければならない理由なんかあるはずがない。

咲良は自分の隣に転がっている特殊警棒に目を向けた。
デイパックの中に入っていた物だ。
咲良の祖父が師範をしており咲良も幼い頃から鍛錬を積んできている“葉鳥神道流”は総合武術のため、素手での格闘だけでなく剣や薙刀などの道具を使ったものもあり、棒を使用しての格闘も当然身に付けてはいるのだが、それをクラスメイトに使えるかというと話は別だ。
人の痛ましい様を見るのは大嫌いだ。
本当は、格闘技や武道も好きではない。
祖父が師範をしていなければ、絶対に縁を持つことはなった。
試合も好きではないのに、戦闘だなんて、絶対に嫌だ。

「あたしも、奨くんみたいなのがよかったな…
 武器なんて、欲しくなかった…」

「……これは……多分……」

「うん、政府の人たちにしてみたら“ハズレ”…なんだろうね。
 でも…優しくて温かい奨くんらしい気はする。
 これって、ロイヤルゴペンハーゲンでしょう?
 あの人たち、センスは良いと思うな」


876VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 07:53:07.76868/ISGe0 (4/60)

太陽の姿はまだ確認できていないが、空が白み、木々に付けられた頼りない電球など必要としない程に周りは明るくなってきた。
プログラム本部である小中学校からは真西に位置するE=02エリアも緑が多いが頭上に茂る葉の間から薄い青色が確認でき、周りの景色を確認することができるようになってきていた。
学校の周りに比べれば木々が少なくて周りの状況を確認しやすいこの場所は、更に西へ行けば島の端に出るからか、そよぐ風には僅かに潮の香りが混ざっている。
地図によればあと数十メートル西に行くと森が切れて原っぱになっており、御神島の周りをぐるっと1周している道路に行きつくらしい。

…まあ、どうでもいいことだけど、そんなの。

芥川雅哉(男子二番)は大きな欠伸をし(首を上げたら、背中を預けている木の幹に頭部をぶつけた、痛い)、両腕を目一杯上げて固まっていた体を伸ばした。
目に入りそうな位まで伸ばしている銀色の前髪を指で摘まんだ――あーあ、せっかくプリンになりかけてたのを一昨日染め直して赤メッシュもちゃんとやり直したのにプログラムだってさ。染め直した時間と金返せっての、まあ金があってももうどうにもならないけど。
まさか自分のいるクラスがプログラム対象クラスに選ばれるとは、夢にも思っていなかった。
眠らされ、変な部屋に閉じ込められ、謎の首輪を付けられ、見知らぬ男たちが突然「殺し合え」と強要してくるだなんて、笑えなさすぎる。


877VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 07:53:44.81868/ISGe0 (5/60)

『選ばれたのが雅哉で良かった』、そう思っていることだろう、両親も、他の親族も。
そして、兄も。


雅哉には3つ年の離れた兄がいる。
雅哉の物心がつく前から兄は物事の吸収が早くしっかりしていたそうで、両親や親族からその将来を既に期待されている存在だった。
両親はどんな時でも兄のことを優先し、期待に応えて成長していく兄に一層の期待をかけ、兄がやりたいと言った習い事は何でもさせて兄が欲しいと言ったものは何でも買い与え、兄は一家の王だった。
雅哉はいつもそんな兄の陰にいた。
運動はできない、勉強も苦手――周りの同級生より遥かに劣っていた雅哉に対する両親の見切りの早さは生みの親とは思えないものだった。
何をどんなに頑張っても、誰も見てくれない。
それなら、何もしなくても変わらない。
気付いた時には、雅哉は何に対しても執着できない人間となっていた。

優秀な兄は、3年前には名門帝東学院中等部の生徒会長を務め、現在は高等部で再び生徒会長の職に就いている。
文武両道で人望もある、学院内の人気者だ。
そんな兄は、弟である雅哉のことを無視している。
“芥川”という苗字はそうあるものではないので、雅哉のことを知った周りの人間が「弟君もきっとあなたに似て優秀なんでしょう」と訊く度に、兄は「あれと俺を結び付けるのはやめてくれないか」と言って血の繋がりを拒絶していると噂で聞いた。
そのことが耳に入れば弟が傷付くことなんて聡明な兄ならわかるだろうに。
雅哉は当てつけのように、悪目立ちするように髪を銀色に染め、足りないと見ると赤メッシュを入れ、ごついピアスをいくつも耳に付け、指にもごてごてとしたリングをはめ、嫌でも人の目に留まるような容姿をした。
へらへらと女子に声をかけ、軽い告白をし、軽い男を演じた。
振られるなら振られるで、そこまでその子への執着がないので全く引きずらないし、稀にこんな野郎に引っ掛かる女子もいたけれど少し付き合って上手くいけばその身体をそれなりに堪能させて頂いて(お育ちの良い人間の多いこの学校じゃ、経験値はトップクラスだと自負している。負けてるかもしれないのは、援助交際していると噂のある星崎かれん(女子十六番)くらいだろう)それで終わり。
お陰様で雅哉の評判は男女共にすこぶる悪く、きっとこの噂は高等部にも届いているのではないだろうか。
兄がどれだけ否定しようが雅哉は正真正銘血の繋がった弟だ、雅哉の行動はきっと兄の評判を僅かだろうが落としていることだろう――いい気味だ。


878VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 07:54:34.42868/ISGe0 (6/60)

そんな雅哉がもう家に帰って来ないかもしれないという事実に、あの家族が心の底から悲しむはずなどないのだ、むしろ帰って来なければ良いと思っているだろう。
それならば、とっととこんな人生を終わらせてしまえばいい。
生まれ変わって新しい人生を謳歌する方がよっぽど良い。

これだけうだうだと考えるのなら自殺でもすればいいのだが、ところがどっこい雅哉に支給された物は扇子だった。
扇子自殺、だなんて聞いたことがない。
こんな物ではどうすることもできないので、今ものうのうと生きている。

そしてもう1つ、死に踏み切れない理由があった。
その理由は、眼前にある。

「…芥川くん…?
 どうしたの、ぼーっとしてるけど…あ…体調良くない…?」

向かいで膝を抱えて座っている奈良橋智子(女子十一番)が、泣き腫らした赤い目を雅哉に向け、心配そうに眉をハの字に下げていた。

「…内緒、言ったらトモまた泣くから」

「……良い話…のわけ…ないよね……こんな…プログラム…の中だし…」

智子はじわりと目に浮かんだ涙を指で拭い、小さく笑った。
無理して笑うことないのに。
どうせ雅哉に気遣って笑顔を浮かべたのだろうけれど、かえってこちらが気を遣ってしまうので困る。

智子は3年A組の副委員長だ。
ただしこれは智子が立候補して役職に就いたのではなく、新学期の始めの委員会を決めるホームルームの時に、星崎かれんや湯浅季莉(女子二十番)が「奈良橋さんがいいと思いまーす」という推薦という名の押し付けを行い、智子はそれを断ることができなかったので任命されることになったものだ。
押し付けられてもきっちりと仕事をこなす辺り、智子は根っから真面目なのだと思う――つまり、雅哉とは真逆の人間だ。
共通している点といえば、お互い友人と呼べる存在がいないことくらいだろうか。雅哉は自分で自分の評価を落として周りが寄って来なかったし友人を必要とすることもなかったからなのだが、智子は見る限りでは、人見知りがあまりにも激しくてなかなか人に声を掛けられず、特にA組の女子には気の強い者が多いので、誰とも関係を築くことができなかったのだろう。


879VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 07:55:11.21868/ISGe0 (7/60)

そんな智子こそが、雅哉の命をも握るチームリーダーだ。
智子が自らの腕のリーダーの印を見た時の錯乱の仕方は凄まじかった。
普段は物静かな智子が、「わたしなんかがみんなの命を背負うなんてできるはずがない、誰かわたしを殺して!!」と、珍しく感情を爆発させ泣き喚いていた。
メンバー全員で動きを抑えて宥めて、ようやく大人しくなった。
今も時々泣いているのは、その重圧に耐えかねてのことだろう。

残りの2人は現在近くの探索に出ているので、留守を預かる雅哉が智子の様子をしっかりと窺っておくことを頼まれた。
雅哉自身はそこまで生に執着がないのだが、この場にいない2人が智子の死によって突然首輪が爆発するというのは流石に気の毒だし、それ以上に、何となく、智子には死んでほしくないような気がしているのだ。
多分、自分のことを見てくれる唯一の存在だから、という理由で。

「トモ」

「…何、どうしたの…?」

声を掛けると、絶対にこちらを向いてくれる。
家族にすら無視されることの多かった雅哉にとって、それがどれだけ希少なことか。

「…んーん、別に。
 トモは可愛いなーって、見てただけ」

「やだ…こんな時に冗談とか言わないでよ…」

ふいっと顔を逸らされた。
でも耳まで真っ赤になっているところが、本当に可愛いと思う、ウブだなって。
その耳に触れたらもっと赤くなるのだろうか、見てみたい――雅哉は身を乗り出して四つん這いで智子に歩み寄り、手を伸ばした。

後頭部に、鈍痛。
上部からの圧力を受け、雅哉は地面に顔面をぶつけた。


880VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 07:56:04.68868/ISGe0 (8/60)

上から降ってきた女子の声に、雅哉はほっと胸を撫で下ろした。
雅哉のことを愛称で呼ぶ奇特な女子はクラスにたった1人しかおらず、その1人こそが雅哉と智子と運命を共にする同じチームの一員なので。
雅哉は自分の頭を押さえつける圧力が弱まったのを感じると、押さえつけていた何か(まあ、足だな。靴で踏まれた感触だ)を振り払うように無理やり起き上がりつつ首を捻って足の主を見た。

「…ちょっとさー、スカートの下にショートパンツ履くのやめよーぜ、つまんねー。
 水玉模様とか期待してた――いてててっ!」

「この状況でセクハラ発言はどうかと思うぞ」

耳たぶを引っ張られた後、最後の1人のチームメイトの声が降ってきた。

「ははっ、ジョーダンだって、ジョーダン!
 場を明るくするジョークじゃん、ね」

「もっと楽しい内容にしてよ、内容がサイテーっ。
 あー戻ってきて良かったぁ、智子、コイツに変なことされてない?」

空の明るさが髪を透かし、一層赤みが増して見える茶髪のショートヘアーが眩しい。
アングル的には短いスカートの中を十分覗けたのだが残念ながら黒いショートパンツという男の敵とも言えるガードを身に付けていた水田早稀(女子十七番)は、もう一度雅哉の頭を踏み付けた後、大袈裟な口調で智子に声を掛けていた。
早稀は智子に嫌がらせをしていたかれんや季莉といつも行動を共にしていたが、サバサバとしている早稀がそのような行為をしているところは一度も見たことがないし、智子も早稀と同じチームになったことにストレスを感じている様子はない。


881VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 07:56:37.63868/ISGe0 (9/60)

余談だが、早稀のことも口説いたことがあるのだが、「軽い男とかサイテー」と一蹴された上に、顔面にパンチを喰らった。
一時期喧嘩に明け暮れていたらしい、という噂のことを忘れていたので完全に油断していたために、左頬に出来た痣は暫く消えなかった。

「…何も変わったことはなかったか、芥川」

「特に何も。
 そっちこそさ、2人きりで何してたんだか――いてっ」

「ただの探索だっての、お前が期待してそうなことは何もねーよ」

雅哉の脳天にチョップを喰らわせた後横にどさっと腰を下ろしたのは、早稀と現在付き合っているという日比野迅(男子十五番)。
独りでふらふらしている雅哉とは違い、クラスの中心で盛り上がるグループの一員。
180cmという身長と抜群の運動神経を活かしてバスケットボール部で活躍するスポーツマン、つまり雅哉とは真逆の人間だ。

「早稀ー、奈良橋も、集合」

迅は女子2人を呼び、4人は小さな輪になって座った。

「とりあえず俺と早稀で南の住宅地に行って、食糧と救急道具持ってきた。
 飯は缶詰と菓子くらいしか見つからなかったけど、ないよりマシだろ。
 早稀ー、良い子だから、菓子全部食うなよ?」

「食べないよっ、全部はっ!」

早稀がぷうっと頬を膨らませると、隣で智子が小さく笑った。
迅もふっと笑みを零したが、すぐに真顔に戻った。


882VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 07:57:05.50868/ISGe0 (10/60)

身体が弱いので、今のように長時間外にいて不規則な生活をすれば恐らくすぐに熱を出すだろうし、例えば誰かに襲われたとしても走ることができるのは僅かな距離で、それ以上は身体がもたない。
なんという足手まとい、我ながら笑える弱さ。
こんな自分と同じチームだなんて、皆超ハズレくじ引かされたんだな、カワイソウ。

「…やっだ、そういうことは早く言ってくんなきゃ!!」

早稀が叫んだ。
迅も早稀も呆れたことだろう。
智子はリーダーだからたとえ足を引っ張っても護るだろうけれど、ただのメンバーで嫌われ者で病弱な雅哉のことなど見捨てるに決まっている。
家族ですら見捨てたのだから、関わりの薄いクラスメイトなら尚更だ。
見捨てるなら見捨てればいい、慣れてる、そんなの。

しかし、早稀の言葉は雅哉の予想とは違うものだった。

「ってことは、万一の時は、智子とマサを先に逃がすって方向でいいのかな、迅」

「…だな。
 俺と早稀で時間を稼ぐから、無理しない速さで逃げてもらうって感じだな。
 言うだけなら簡単なんだけどなー。
 あ、薬は絶対落とすなよ、芥川」

雅哉は目をぱちくりとさせた。
迅も早稀も、雅哉を見捨てるという選択肢は端からないような口調で、当たり前のように雅哉をも護ろうとしている。
命懸けの状況で、“時間を稼ぐ”だなんて下手をすれば自殺行為になるというのに、この2人はどうしてそれを当然のように口に出来るのだろう。

「…あ、智子が『私物持って行ってもいい?』ってイケメンおっちゃんに訊いたでしょ。
 あれって、もしかして…マサの薬のこと?」

早稀の質問に、智子が小さく頷いた。
まあこれはわかっていた。
智子は教室でのルール説明の後、イケメンおっちゃんことライド(担当教官)に私物を持って行ってもいいかということを質問し、その後に一瞬目が合ったのだ。
智子は以前たまたま雅哉が薬を服用しているところを目撃し、それ以来校外学習や泊りがけの学校行事など、イベントの際にはいつも雅哉の身体を気遣い声を掛けてきていた(今回の修学旅行でも、サービスエリアでの昼休憩の時間には『薬忘れてない?』と声を掛けてきた)。
智子がプログラム対象クラスに選ばれたという状況ですら雅哉の体を気遣ってくれたことは嬉しくて、皆が引き攣った顔をしていたというのに思わずにやけてしまった。


883VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 07:57:38.98868/ISGe0 (11/60)

「よし、マサ、あたしと迅はアンタと智子を護るから!
 だからアンタは、智子をしっかりしっかり、しーっかり護ること!!
 男らしく、姫を護る王子になんなきゃね!!」

何故か早稀のテンションが急に上がり、雅哉は顔をしかめた。
智子の方を見ると目が合ったのだが、姫と王子という早稀の喩えに反応したのか智子は頬を僅かにピンクに染めてふいっと顔を逸らした。
ほーんと、ウブだね、トモは。
俺?別に、ただの喩えだし。

迅と早稀は恋人同士で仲が良いのは当然として、クラス内では友人がおらず浮いた存在だった雅哉と智子も巻き込んで、チームとしては良い雰囲気なのかもしれない。
智子も発言は少ないが落ち着いてきているようだったし、雅哉も皆が自分の身体を気遣ってくれるという慣れないこの状況がむず痒いけれども心地良かった。
だからこそ、油断をしていたのだ。
というよりも何よりも、早稀の声が大きかったと思うのだけれど。

突如、銃声が響いたのだ。

智子と早稀が悲鳴を上げ、その場に蹲った。
雅哉と迅は辺りを見回し、迅の後ろの木の幹に、先程までなかった窪みを確認した。
この状況が示していることはただ1つ、何者かに狙われているという事実。

「ちっ…万一がもう来たのかよっ!!
 さっき言った通りだ、奈良橋、芥川、行けッ!!」

迅が顔をしかめて舌打ちをし、支給武器である全長10cm程度の小型自動拳銃、NAA ガーディアンを大きな右手に握り締めて構えた。
刹那、再び銃声が響き、雅哉の眼前にいて身体を起こしていた早稀が、何かに弾かれたように後ろに仰け反り、倒れた。

「早稀ちゃん!?」

「いやああ!! 水田さん…ッ!!」

「早稀っ!?」

雅哉と智子の声に恋人に起きた異常事態を知った迅が駆け寄り、その身体を抱き寄せて起こした。
鉛弾が早稀の左肩を貫通していたようで、左肩を抑えている早稀の小さくややぷくぷくとした手は真っ赤に染まっていた。

「こ…の…ッ!!」

苦痛と憎悪に顔を歪め、早稀は唸った。
怒りに燃えた瞳に、いつも飄々としている雅哉ですら、思わず怯んだ。
迅に目を向けると、迅の早稀を見つめるその表情が、少し悲しげに見えた。

「日比野…」

「…大丈夫、早稀は大丈夫だから。
 だから、早く行け、芥川。
 絶対全員生きて合流するぞ、だから、奈良橋を頼む。
 …ッ!! 早稀ッ!!」

迅の腕の中にいた早稀が身を捩って腕を振り払い、襲撃者のいるであろう方向へと飛び掛かった。
迅は舌打ちをし、「行け!!」ともう一度叫ぶと、早稀を追っていった。


884VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 08:00:08.98868/ISGe0 (12/60)

誰だ、あたしを撃ったのは!

水田早稀(女子十七番)の左肩に激痛が走った。
芥川雅哉(男子二番)の叫び声、奈良橋智子(女子十二番)の悲鳴、日比野迅(十五番)に抱き起こされた感覚――全てが自分から遠いもののように感じる程に、早稀の中では怒りの感情が迸っていた。

「こ…の…ッ!!」

あたしに喧嘩売ろうってか、ざけんな、百万年早いんだよッ!!



早稀は昔から騒ぐのが大好きなサバサバとした性格で、家では忙しい両親の代わりに2人の弟の世話をする面倒見の良さもある、今でこそ見た目は少々派手だが恋愛話が大好きなイマドキの女の子だ。

しかし、中等部に入って間もない頃から、喧嘩に明け暮れるようになった。
正確に言うと、喧嘩を売られるようになったのだ。
中等部に入学してからお洒落をするということに目覚めて、髪を赤みのある茶色に染め、派手な色のパーカーを着、スカートの裾を切って短くし、とにかく派手に自分を飾り、人の集まる場所に繰り出すようになった。
特にゲームをやるのも見るのも好きで、ゲームセンターに入り浸っていた。
目立つ容姿に加え名門校の制服に身を包んだ小柄な早稀は、ゲームをし過ぎて小遣いが足りなくなった連中にとっての恰好の獲物だった。
幾度となく裏路地に連れて行かれ、金をせびられた。
当時から気の強かった早稀は必死に抵抗し、時には蹴り、時にはパンチをかまし、時にはその辺に落ちている武器になりそうなもので殴り、1円たりとも渡すことはなかった(当たり前でしょ、あたしのお金は、あたしがお菓子買うためのものよ)。
しかし、一度早稀を脅した連中は仕返しと称して何度も早稀を襲い、早稀は抵抗しているうちに徐々に喧嘩の経験値を積んでいった。
次第に先手必勝という言葉の影響を受け、自分から喧嘩を売るようにもなった。
全身痣だらけになり、学校では恐れられて徐々に周りから距離を置かれた。

今では生活が落ち着き、迅に出会ってからは迅に相応しい女の子になろうと喧嘩をやめ、女の子らしく振舞おうとしてきた。
してきたのだけれど。



怒りの感情に支配された早稀は迅の腕を振り解き、襲撃者がいるであろう方向へ突っ込んでいった。
木と木の間を抜け――人影を確認した。
がぅん、と銃声が響いたが、今回は早稀の髪を数本引き千切っただけに終わり、早稀は怯むことなくその人影に突っ込み、襟首を掴み、押し倒して馬乗りになった。

「あたしのこと狙いやがったな、えぇっ!?
 その顔面原型なくなるまでブン殴ってやろ……え…?」

すーっと、血の気が引いていくのが自分でもわかった。
早稀が押し倒した人物の正体に、ようやく気付いたのだ。

「…早稀、柄悪っ」

女子にしては低めで抑揚の少ない声が、早稀の名を呼んだ。
襟足を伸ばした特徴的な黒髪、両耳に光る数多くのピアス、鋭い目の中性的な顔立ち――早稀の親しくしている友人の1人、財前永佳(女子六番)がそこにいた。

「ひ…さか……
 ……そう、アンタがあたしらを襲って…あたしに怪我させたんだ?」


885VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 08:01:19.25868/ISGe0 (13/60)

早稀の後頭部に何かが押し付けられた。
髪を通してチリチリと熱さを感じる、硬い何か――早稀はごくりと唾を飲み込んだ。
あくまで永佳からは目を逸らさなかったのだが、全神経が後頭部に集まっているかのような感覚だ。

「…へぇ…じゃあ、あたしにボコられるのは、アンタなわけ?
 言っとくけどさ、イケメンだろうが容赦しないよ…ヒデ」

心地良いテノールボイスの主、春川英隆(男子十四番)こそが、現在早稀の後頭部に銃口を押し付けている犯人だ。
強気なことを口にしてみるものの、早稀の口の中は急激にからからに乾き、汗が頬を伝い、少し油断すれば泣いてしまうのではないかという程に、怖い。
次の瞬間にでも英隆がトリガーを引けば、そこで早稀の人生は終わるのだから。

「早稀から離れろ…ヒデッ!!」

「…迅」

早稀を追ってきた迅が目の前の光景に顔を歪ませながらも、NAAガーディアンの銃口を英隆に向けた。
英隆は先程まで早稀に突き付けていたベレッタM92Fを迅へ向けた。
迅の名を呼んだその声は、僅かに震えていた。

「ちょっとヒデ…迅に傷1つでも付けてみな、顔面ボコじゃ済ませないんだから」

「水田さんこそ、財前から離れなさい」

「とか言って、早稀が財前から離れたら、早稀を撃つ気じゃねぇだろうな?」

互いが互いの様子を窺いながら、動けずにいる。
押し倒した時に銃を手離しているのだが、永佳がいつそれを取りに行くかわからないので警戒を解けない早稀。


886VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 08:02:28.04868/ISGe0 (14/60)


男子1番 相葉優人
(あいば・ゆうと) 女子1番 朝比奈紗羅
(あさひな・さら)
男子2番 芥川雅哉
(あくたがわ・まさや) 女子2番 上野原咲良
(うえのはら・さくら)
男子3番 雨宮悠希
(あまみや・ゆうき) 女子3番 荻野千世
(おぎの・ちせ)
男子4番 池ノ坊奨
(いけのぼう・しょう) 女子4番 如月梨杏
(きさらぎ・りあん)
男子5番 川原龍輝
(かわはら・りゅうき) 女子5番 小石川葉瑠
(こいしかわ・はる)
男子6番 木戸健太
(きど・けんた) 女子6番 財前永佳
(ざいぜん・ひさか)
男子7番 榊原賢吾
(さかきばら・けんご) 女子7番 佐伯華那
(さえき・かな)
男子8番 宍貝雄大
(ししがい・ゆうた) 女子8番 阪本遼子
(さかもと・りょうこ)
男子9番 松栄錬
(しょうえい・れん) 女子9番 鷹城雪美
(たかしろ・ゆきみ)
男子10番 城ヶ崎麗
(じょうがさき・れい) 女子10番 高須撫子
(たかす・なでしこ)
男子11番 田中顕昌
(たなか・あきまさ) 女子11番 奈良橋智子
(ならはし・ともこ)
男子12番 内藤恒祐
(ないとう・こうゆう) 女子12番 鳴神もみじ
(なるかみ・もみじ)
男子13番 原裕一郎
(はら・ゆういちろう) 女子13番 蓮井未久
(はすい・みく)
男子14番 春川英隆
(はるかわ・ひでたか) 女子14番 平野南海
(ひらの・みなみ)
男子15番 日比野迅
(ひびの・じん) 女子15番 広瀬邑子
(ひろせ・ゆうこ)
男子16番 真壁瑠衣斗
(まかべ・るいと) 女子16番 星崎かれん
(ほしざき・かれん)
男子17番 望月卓也
(もちづき・たくや) 女子17番 水田早稀
(みずた・さき)
男子18番 横山圭
(よこやま・けい) 女子18番 室町古都美
(むろまち・ことみ)
男子19番 芳野利央
(よしの・りお) 女子19番 山本真子
(やまもと・まこ)
男子20番 林崎洋海
(りんざき・ひろみ) 女子20番 湯浅季莉
(ゆあさ・きり)


887VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 08:03:14.82868/ISGe0 (15/60)


1 ○ 榊原健吾(男子7番)
  鷹城雪美(女子9番) v.s.  池ノ坊奨(男子4番) ×
 真壁瑠衣斗(男子16番)
 上野原咲良(女子2番)
(5/31 2:48p.m. 池ノ坊奨 退場)

2 △ 高須撫子(女子10番) v.s.  松栄錬(男子9番) △
 湯浅季莉(女子20番)
(高須撫子 逃走)

3 ○ 相葉優人(男子1番) v.s.  荻野千世(女子3番) ×
(5/31 4:19p.m. 荻野千世 退場)
第一班リーダー変更:荻野千世→相葉優人

4 △ 相葉優人(男子1番)
  小石川葉瑠(女子5番) v.s.  春川英隆(男子14番) △
 望月卓也(男子17番)
 財前永佳(女子6番)
 広瀬邑子(女子15番)
(相葉優人・小石川葉瑠 逃走)

 

 

チーム編成
1班 男子一番・相葉優人 男子八番・宍貝雄大 女子三番・荻野千世 女子五番・小石川葉瑠
2班 男子二番・芥川雅哉 男子十五番・日比野迅 女子十一番・奈良橋智子 女子十七番・水田早稀
3班 男子三番・雨宮悠希 男子五番・川原龍輝 女子七番・佐伯華那 女子十九番・山本真子
4班 男子四番・池ノ坊奨 男子十六番・真壁瑠衣斗 女子二番・上野原咲良 女子十番・高須撫子
5班 男子六番・木戸健太 男子十番・城ヶ崎麗 女子一番・朝比奈紗羅 女子十二番・鳴神もみじ
6班 男子七番・榊原賢吾 男子九番・松栄錬 女子九番・鷹城雪美 女子二十番・湯浅季莉
7班 男子十一番・田中顕昌 男子十九番・芳野利央 女子八番・阪本遼子 女子十三番・蓮井未久
8班 男子十二番・内藤恒祐 男子二十番・林崎洋海 女子四番・如月梨杏 女子十六番・星崎かれん
9班 男子十三番・原裕一郎 男子十八番・横山圭 女子十四番・平野南海 女子十八番・室町古都美10班 男子十四番・春川英隆 男子十七番・望月卓也 女子六番・財前永佳 女子十五番・広瀬邑子


888VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 08:03:50.48868/ISGe0 (16/60)

E=04エリアの御神島小中学校は現在行われているプログラムの本部となっており、未だに田中顕昌(男子十一番)の亡骸が転がったままの6年生教室の隣の多目的教室は普通の教室の倍程の広さがあるのだが、今は多数のモニターや機材が運び込まれているためにそう広さを感じない。

「おー、怖い怖い」

つい先程まで動きのあった3班と6班のメンバーの盗聴(生徒たちがはめている首輪には盗聴機能が付いており、これで行動の詳細を知ることができる。もちろん、不穏な発言をする者を警戒することも可能だ)をスピーカーで聞いていたライド(担当教官)は、彼らの会話の内容を聞いた感想をそう表し、肩を竦めた。

「雨宮君、川原君、佐伯さん、山本さん退場…3班は全滅かぁ。
 結構良いチームやってんけどなぁ、相手が悪かったな」

シン(軍人)がソファーに腰掛けて生徒資料をチェックしながら呟き、死亡が確認された雨宮悠希(男子三番)・川原龍輝(男子五番)・佐伯華那(女子七番)・山本真子(女子十九番)の資料をバインダーから抜き、報告書の作成の準備を始めていた。
向かいに座っていたアキヒロ(軍人)が、シンの抜いた資料を手に取り、「ふーん」と鼻を鳴らして眺めた。
アキヒロの手からライドはそれを取り、アキヒロの隣に腰掛けた。

「確かにバランスは良かったな。
 佐伯さんの頭脳は勉強の面以外でもええ感じやし、雨宮君もおるし。
 運動面なら万能な川原君と、サッカー推薦の雨宮君、山本さんも中々やしな」

「ま、武器が最悪だったね」

アキヒロが溜息混じりに呟くと、モニター前に座る軍人たちに指示をしていたエツヤ(軍人)の背中に向けて、声を掛けた。

「エツ君、もうちょっとバランス良い武器の渡し方できなかったの?
 いくらなんでも3班の武器は気の毒だよ」

「え、俺!?
 そんなん、俺のせいちゃうよ、別に中身確認して渡してへんやんか!」

エツヤは振り返りながら言葉を返すと、唇を尖らせながらライドたちの方に来ると、シンの隣にどかっと腰掛けた。
「エツくじ運悪いもんなぁ、でも自分のくじ運の悪さに子どもを巻き込んだらあかんわ」というシンの言葉に「それ関係あらへん!」と声を荒げて言い返すと、ライドの前に広げられた資料に視線を落とした。

「…まあ、確かになぁ…悪かったなぁ…俺のせいちゃうけど。
 …あ、この子、川原…やっけ、ガンプラ当てたん!
 確か作ったんやんなぁ、いっやーこの子マジ熱いな!
 死んだのが惜しすぎるわ、ガンニョムについて語ってみたかったわぁ。
 でもエキュシアな、エキュシアもえぇねんけどな、やっぱ赤ザキュよな!
 赤い彗星ジャアの…あ、でもギュフもえぇよな、ザキュとは違うんだよザキュとは!
 なんせ3倍の――」

「エツ、エーツ」

シンにファイルでぱこっと頭を叩かれ、エツヤは機動戦士ガンニョムについての熱いトークを中断し、またも唇を尖らせてシンを睥睨した。

「睨まんといてぇや、今仕事中やねんからガンニョムの話は後。
 ほんまエツは昔っからガンニョム好きやもんな。
 ジャア好きすぎて、ずっと赤いTシャツ着てたもんな、エツのおかん呆れてたわ。
 『ジャア専用Tシャツやー』言うてはしゃいでなぁ…
 そうそう、シャツだけやなくて、確かランドセルも――」

「わああ、もう、シンちゃん今その話いらんっ!!
 もうせぇへんから、ガンニョムの話!!」

慌ててシンの口を押さえるエツヤの様子に、ライドはくくっと笑った。
アキヒロも溜息を吐いているものの、唇の端がくいっと上がっていた。
ライドとシン・エツヤとの出会いは専守防衛軍の養成学校に入って1年程経った頃だったのだが、シンとエツヤは幼馴染ということでいつもじゃれていた。
エツヤはライドやシンの1つ年下だというのにしょっちゅうシンのところに遊びに来るほどシンに懐いていたし、シンは昔からの付き合いの後輩ということでエツヤには少し厳しい面もあるのだが大切にしているのは見ていてすぐにわかった。


889VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 08:05:28.39868/ISGe0 (17/60)

誰か1人が飛び抜けた才能がある、もしくは強烈なリーダーシップを持っているというわけではないが、全体のステータスを見ればバランスの取れた班がこの4つだ。
1班の相葉優人(男子一番)と小石川葉瑠(女子五番)、3班の雨宮悠希と川原龍輝または龍輝と佐伯華那、7班の阪本遼子(女子八番)と蓮井未久(女子十三番)、9班の原裕一郎(男子十三番)と横山圭(男子十九番)または圭と平野南海(女子十四番)のように、普段から仲の良い生徒を同じ班にして、そこを中心にまとまることができるように配慮もした。
結果として、方向性はそれぞれあれど、全ての班で中心になるように配した生徒たちが班をまとめてくれたと思う。
9班の室町古都美(女子十八番)による内乱は完全に予想外だったが、良いデータが取れたということでこれも良しとする。
1班は宍貝雄大(男子八番)が、3班は全員が、7班は顕昌が、9班は圭が既に退場しているので(尤も、顕昌の退場はアキヒロが彼を射殺したからなのでプログラムの進行とは無関係だが)、人数が欠けた班がどのように動いていくのかはこれからも注目しておかなければならない。
偶然か必然か、今残っている班の中でメンバーが欠けているのはバランス型とした1班・7班・9班のみなので、これもデータとして残しておく必要があるだろう。


890VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 08:06:02.90868/ISGe0 (18/60)

 あの班はチームワークの欠片もない感じやったよなぁ」

シンの苦笑しながらのコメントに、ライドは頷いた。

「うん、8班の内藤・林崎・如月・星崎班は、自己中そうなメンバーで固めてん。
 まあ、内藤君は担任の塚村センセの資料で見たよりは仲間想いやったけど。
 どうなるかなー思ったけど、やっぱチームワークって大事やな。
 まあ、あれはあれで良いデータになったわ」

最初に全滅することになった8班。
やはりチーム戦においてはチームワークは必須なのだろう。
上辺だけで繋がっていたこの班がもしももっと協力して戦うことができていたなら、全滅は避けることができたかもしれない。
まあ、これが1回目の事例なので今後のプログラムでもデータを取らなければ一概には言えないのだけれど、今回に限って言えば、戦闘におけるチームワークの大切さを彼らは身をもって教えてくれた。

「なあライド、2班は?
 俺、あの班が一番謎やねんけど。
 いやまあ日比野君と水田さんはともかくとして、後の2人が。
 バランス型かなぁとも思ったけど、ちょっと頭弱いし、この班。
 運動も芥川君と奈良橋さんが足引っ張るし…ステータスとしては悪いやろ、これ」

エツヤはライドがノートパソコンを自分の前に置くスペースを確保するために他の場所に散らかした資料を集めながら(几帳面なエツヤらしい行動だ)訊いた。

「2班の芥川・日比野・奈良橋・水田班は、そういうのちゃうねん。
 クラスで孤立してる芥川君と奈良橋さんやねんけど、塚村センセの話やと、どうも
 2人は孤立はしてるけど互いを気にしてる節があるみたいってことやって。
 芥川君は病気のコンプレックスが酷い、奈良橋さんはいじめられっ子…
 あんま生きようって意思見せなさそうな2人やけど、一緒にしたらどうかなぁってさ。
 人の心の成長…っての? そういうの見られへんかなぁって思ってん。
 そのきっかけを作ってくれそうかなって思ったんが、水田さんみたいに人の関係に
 興味津津な子かなって思ってくっつけてみてん」

他の班の襲撃に遭って今は別行動をしているが、気遣い上手な日比野迅(男子十五番)と意外に面倒見の良い水田早稀(女子十七番)が一緒にいたことによって、盗聴を聞いた限りでは自身がリーダーであることに絶望していた奈良橋智子(女子十一番)も自身の命に対して投げやりになっていた芥川雅哉(男子二番)も、今は生きて迅と早稀と再会しようとしているようだ。


891VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 08:06:34.78868/ISGe0 (19/60)

「よう言うわ、アッキーってば朝比奈さんに銃向けてたくせに。
 4班の池ノ坊・真壁・上野原・高須班と5班の木戸・城ヶ崎・朝比奈・鳴神班。
 これは結構悩んでんけど、まあええ分け方になったと思うわ。
 5班は、城ヶ崎と幼馴染3人組。
 これは10班の春川・望月・財前・広瀬班とも対比になってるしな。
 幼馴染の中に入るその1人が、リーダーかそうでないかの違いしかないけど。
 ま、どっちも3対1の構図にはならんかったのは、ちょっとつまらんけどな。
 まあ5班は能力的には1番有利ちゃう?
 運動能力は全員高いし、勉強的な意味での頭の良さもあるし。
 絶対的リーダーの城ヶ崎が全員を落ち着かせてまとめあげてるしな」

ライドは無糖マシュマロを1つ口に入れ、続けた。

「対する4班はバランスがあんま良くない…というか繋がりが少し弱い班やな。
 塚村センセの資料によると、いつも一緒にいるけども、互いの関わりは少ない。
 池ノ坊君と上野原さんは、先祖代々城ヶ崎君の家に仕えてきた家の末裔。
 高須さんは上野原さんとは仲良しやけど、城ヶ崎君以外とはほとんど会話もせん。
 真壁君は城ヶ崎君がグループに引き込んだけどグループの輪の一番外側におる。
 …つまり、全員城ヶ崎君がおるからこそ一緒に行動してたってことやな。
 その絶対的リーダーがいない今、どう動くかなぁって思って」

4班に関しては、いつも一緒にいただけのことはあり思ったよりもまとまっている。
これは真壁瑠衣斗(男子十六番)が前情報以上にグループのメンバーを普段からよく見ていたことが大きいのかもしれない。
特に気が合わなさそうだった高須撫子(女子十番)を叱咤激励するとは思っていなかった。
行動面では瑠衣斗がリーダーらしさを発揮して、今は城ヶ崎麗(男子十番)ら5班のメンバーを探しているらしい。
そして撫子が誰よりも大切に思い、池ノ坊奨(男子四番)が身を挺して護り、瑠衣斗もその人柄を認めている上野原咲良(女子二番)が精神面で班を一つにしている。
絶対的リーダーが不在でもまとまるあたりは、麗が認めていたメンバーたちというだけのことはあるのかもしれない。


892VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 08:07:11.11868/ISGe0 (20/60)

麗はその強烈なリーダーシップでもって、木戸健太(男子六番)・朝比奈紗羅(女子一番)・鳴神もみじ(女子十二番)を引っ張っている。
資料によれば、どうやら健太たちは帝東学院入学以前から麗とは顔見知りだったらしく、そもそも帝東学院を受験したきっかけは麗にあったらしい。
それだけ強い絆で結ばれているのだから、班が分裂するということはないだろう。
4班と再会することがあればどうなるかわからないが。

一方鷹城雪美(女子九番)のリーダーシップは、モニターしている軍人たちや担当教官歴の長いライドたちでさえも戦慄させる恐ろしさだった。
恐怖で縛り付けるだけならまだしも、最初に全員に殺人という禁忌(まあプログラムではそれが許されるのだけれど、突然プログラムに放り込まれたごく普通の中学生の持つ常識としては、やはり殺人は禁忌に当たるだろう)を犯させたというのは、共犯として自分の傍から逃がさないようにする手段としてはなかなかのものだ。
松栄錬(男子九番)と湯浅季莉(女子二十番)は覚悟を決めたようなので、プログラム進行の台風の目になるだろう。

同じようにプログラムに乗る10班。
全員が乗るわけではなく、春川英隆(男子十四番)と財前永佳(女子七番)がその意思を見せ、望月卓也(男子十七番)と広瀬邑子(女子十五番)は2人のその意思を知ったものの恐らく戦うことはないだろう。
全員がプログラムに乗る6班と、2人が乗り残る2人には人を殺させたくないとしている10班――この2つの班の動きは注意しておかなければならない。
プログラムのスムーズな進行のためには、しばらく出遭わないでほしいものだ。

「ふーん、成程…
 ライドなりに色々考えてんな。
 俺的には、落ち着いた芳野君と蓮井さんがおる7班が優勝やと思うな。
 今は様子見らしいけど、体力温存して後半から頑張ってくれるんちゃうかな」

エツヤはそう言いながらコーヒーを飲み干した。

「あれ、トトカルチョ?
 エツ、そういうの好きとちゃうんちゃうの?」

「うん、人の命で賭け事とか、お偉いさんはやってるみたいやけど俺は嫌やで。
 そういうんちゃうくて、単に俺が思ってるだけ」

シンの疑問にエツヤは眉を顰めて答えた。
国の上層部ではプログラムの優勝者を予想して金を賭けるトトカルチョが行われており多額の金が動いている。
現場でもその真似事をする担当教官や軍人たちも多々いるのだが、ライドはそれを好まなかった。
プログラムは子どもたちの命懸けの戦いを通して国防のために必要なデータを収集するためのものであるのでプログラム自体に反対することはないが、子どもたちの命を賭け事の対象にするのは彼らに失礼ではないかと思うのだ。


893VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 08:07:59.34868/ISGe0 (21/60)

ライドのこの意見を『真面目すぎる』『プログラム担当教官に向かない』と揶揄する者もいるが、担当教官仲間に同じような意見を持つ者はいるし、いつも一緒に仕事をするシン・エツヤ・アキヒロはこの意見に賛同してくれている。

「僕はやっぱり6班が有力候補だと思うけど?
 鷹城のリーダーシップが続く限りは、早々負けたりしないでしょ」

「アッキーは鷹城さんと気が合いそ――あっはは、何でもない!
 俺はねー、個人的には4班に頑張ってほしいかなぁ。
 上野原さんと高須さん…女の子のレベルが高い! 可愛い女の子は正義!!」

「…何言ってんの、シンちゃん。
 ま、武道の心得がある2人は注目すべきといえばすべきだよね。
 ライド君は、誰に注目してるの?」

6つの瞳が向けられたライドは、視線をパソコンの画面から上げ、笑みを浮かべた。

「俺は、早々に自分の意志でプログラムに乗ることを決めて行動した10班かな。
 でも、みんなに頑張ってほしいな、ってのが本音…いつもやけど。
 大東亜のために戦うみんなが、俺たち大東亜の国民の誇りやからね」

頑張れ、子どもたち。
君たちの血が、肉が、命が、大東亜の未来を切り開くのだ。


894VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:26:19.79Y9S0BHWAO (1/1)

誰か焼き依頼よろしく


895VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:30:40.61868/ISGe0 (22/60)

「何で……?」
阿部美咲がそう言った瞬間、銃声が鳴り響いた。
それとほぼ同時に、牛尾まどかの左胸に大きな穴が開き、そこから血が溢れ出た。
そして、まどかは倒れた。
二度と動くことはなかった。
「…………」
蓮実は何も言わず、銃をみんなに向けた。
「ひっ!」
「きゃああああ!!」
「嫌ああぁああああ!!!!」
生徒達は一斉に上に戻った。
途中、階段で三田彩音と坪内匠が射殺された。
「ハスミン!やめーーー」
脇村肇が蓮実を説得しようと試みたが、蓮実は無言で肇を撃ち殺した。


896VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:38:16.44868/ISGe0 (23/60)

「う、うああああ!!!」
有馬透が階段から飛び降りるが、弾を込め終えた蓮実が確実に彼を捉えた。
「ハスミン!何で!?どうして!?」
佐藤真優が蓮実の足にしがみつくが、蓮実は彼女を蹴り飛ばし、そして射殺した。
「きゃあああ!!」
「やめてぇ!!」
今度は小野寺楓子を射[ピーーー]る。
その後、柏原亜里があまりにも煩かったため、彼女を階段から突き落とした。
そして、去来川舞、塚原悠希、吉田桃子を射殺した。


897VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:42:45.22868/ISGe0 (24/60)

「は、ハス…お、お願い、もうやめーーー」
美咲が土下座して命乞いするが、蓮実は無言で彼女を撃った。
銃弾は彼女の頭頂部に当たり、彼女の血と脳髄が辺りに巻き散った。
「う………」
蓮実が階段を降りると亜里が必死になって這って移動しようとしていた。
蓮実は彼女を撃つと、隠れた生徒を掃射するため、廊下を駆けた。



898VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:43:12.61868/ISGe0 (25/60)

最期に、会いたかった…一目だけでも…――

斬られる、はずだった。
しかし、予想した痛みは来なかった。
恐る恐る目を開け――驚愕に目を見開いた。

「大丈夫ですか…咲良さん…」

咲良の眼前には、奨がいた。
いつもは殆ど変わらない表情をしているのに、今は眉間に皺を寄せ、顔を引き攣らせ、それでも小さくとも穏やかな瞳に咲良を映していた。
じわじわと背中側からカッターシャツが紅く変色し始めている――咲良と雪美を庇い、賢吾の刃を背中に受けたのだ。

「しょ……奨…くん……なん…で……?」

また、庇われた。
洋海に襲われた時も奨は身を挺して咲良を護ってくれた。
そして、今回も。
本当に穏やかで優しくて争い事が苦手で、きっとプログラムという戦場に最も似つかわしくないはず奨のことは、武術を嗜む自分が護らなければならなかったのに。

しかし、奨は、咲良ですら滅多に拝めない笑みを浮かべてみせた。
本当は苦痛でそんな余裕もないはずなのに、とても穏やかで、慈しむようなそれを。

「当然です……
 自分は……咲良さんが――」

奨の身体がびくりと震えた。
腹部から、カッターシャツを突き破り、てらてらと紅く光る刃が覗いた。
それがずるりと引き抜かれると、奨は、咲良に向かってどうっと倒れた。
70kgを超す巨体に圧し掛かられたので支えきれずに咲良はその下敷きとなったが、ぶつかった時の痛みとか、そんなことはどうでも良かった。
触れた咲良の左手が、奨の口が触れているカーディガンの肩口の部分が、真っ赤に染まったこと――それが全てだった。

「奨…くん…?」

震える声で名前を呼ぶと、奨はゆっくりと身体を起こした。
息は絶え絶えで、目は虚ろだった。
本来なら絶対安静で、今すぐにでも医者に診てもらわなければならない程の怪我だということは、素人目で見てもはっきりとわかった。
しかし奨は刺されて吐血したために真っ赤に染まった歯を食い縛りながら、咲良の右腕に未だしがみ付いている雪美へと掴み掛った。


899VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:43:40.15868/ISGe0 (26/60)

賢吾が奨の襟首を掴むと地面に押さえつけ、その太い首に、刀を突き刺した。
刀が引き抜かれると同時に、鮮血が噴き上がった。
自らの血で全てを赤く染めた奨の目は、もう何も見ていなかった。

物心ついた頃にはいつも近くにいて、近くにいることが当たり前で。
周りからは怖がられてしまう容姿をしているけれど実際にはとても平和的で。
いつもいつも優しく見守ってくれて。
その奨が、今、目の前で、動かなくなった。

信じられない、受け入れたくない。
けれど、これは現実。
今までの思い出が次々と脳裏を過り、咲良の目にはみるみる涙が溜まっていった。

「奨…くん…奨くん…奨くん、奨くん奨くん奨くん…ッ!!
 いや…ッ、起きて、いやあああッ!!!」

咲良は奨に覆い縋り、泣き叫んだ。
顔に、髪に、服に、奨の生温かい血液が飛び散った。
みるみる体温を奪われていくことが嫌で、出血の酷い首を手で押さえるけれど、奨の身体が冷たくなっていくのを止めることはできなかった。


「あらあらお気の毒に…
 ふふっ…計画とは少し違ったけれど…上出来だわ、賢吾」


柔らかい、けれど酷く冷たい声が降ってきて、咲良は顔を上げた。
先程まで「怖い」と泣きじゃくっていたはずの雪美が、口許に手を添えてくつくつと笑いながら咲良を見下ろしていた。


900VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:44:30.27868/ISGe0 (27/60)

プログラム本部となっている御神島小中学校の敷地を出ると鬱蒼とした森が広がっているが、皆が長年踏み締めて出来た道を暫く歩いていくと、アスファルトで舗装された道路に出る。
御神島に設置された道路は、御神島をぐるりと一周できるように巡らされているのに加え、島のほぼ中央に位置する小中学校を起点として南北それぞれの端にある港と西にある灯台を結ぶものと、南北の港を結ぶ道路の東側に大凡平行になる形で商店や診療所といった主要な施設の脇を通るように作られたものがある。
それ程大きくはない島だが、主要な場所には車で行きやすいように整備が施されているのだ。

小中学校の真東にあたる南北をつなぐ2本の道路に挟まれたE=05エリアには、4番目に呼ばれたチーム4人が隠れていた。
このメンバーの名が呼ばれた時、残る誰もが思っただろう。
この4人に一体何の共通点があるのか、と。
それは、4人中3番目に名前を呼ばれた如月梨杏(女子四番)も同意見だ。
どうして自分がこんな連中と行動を共にしなければならないのか、理解に苦しむ。

そもそも梨杏は3年A組に対して思い入れもなければ親しくする者もいない。
いや、親しくする価値のある人間なんて、このクラスにはほとんどいないのだ。
誰も彼も馬鹿ばかり。
せいぜい認めてやっても良いのは、成績で梨杏の上を行く学年首席の真壁瑠衣斗(男子十六番)・委員長の芳野利央(男子十九番)・副委員長の奈良橋智子(女子十一番)くらいのものだ。
それ以外の人間とは、同じ空間にいるだけでも嫌になる。
梨杏は、馬鹿で愚かな人間が嫌いなのだ。

梨杏は黒いストレートヘアーを指先で弄びながら溜息を吐いた。

「…あのさ如月さん。
 ムカつくからさ、溜息とかやめてくれない?」

「私が何をしようが勝手でしょ。
 …じゃあ言わせてもらうけど、ムカつくので喋らないでくれる?」

「…マジムカつく、一回死んで」

梨杏に文句を言ってきた星崎かれん(女子十六番)は大袈裟な舌打ちをし、不機嫌な表情を浮かべて梨杏から視線を逸らした。


901VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:44:58.63868/ISGe0 (28/60)

梨杏に文句を言ってきた星崎かれん(女子十六番)は大袈裟な舌打ちをし、不機嫌な表情を浮かべて梨杏から視線を逸らした。

そう、まずこの女。
大東亜人には似合わない金髪と、中学生らしからぬケバいメイクとチャラチャラとしたアクセサリー類、男を誘っているとしか思えない短すぎるスカート――どんなに頑張って見ようとしても馬鹿以外の何者にも見えない(事実勉強もできない馬鹿だ、この女は)、梨杏が最も忌み嫌う下品なギャルだ。
伝統ある帝東学院において頭の湧いたような、街中で自分は頭が軽い馬鹿だという看板を掲げながら闊歩しているギャルはそれ程数が多くないのだけれど(ギャルがニュース番組などのインタビューを受けているのをたまに見るが、発言も喋り方も態度も全てが馬鹿みたいだ、あんなのと同じ生き物だと思うだけで吐き気がする)、このクラスにはそれが4人も存在している。
派手さはかれんを凌ぐ、金髪を巻いたツインテールに赤いピアス、赤いブーツに紫のセーターと、色合いからして馬鹿みたいで、耳に入ってくる声は腹立たしい程騒がしく甲高い湯浅季莉(女子二十番)。
髪色はかれんや季莉よりは落ち着いているがそれでも明るい赤みがかった茶色に染め、鼓膜を破りかねないような大声で季莉と騒いでいる、昔は喧嘩ばかりしていたという荒っぽい女、水田早稀(女子十七番)。
そして騒がしくないだけまだマシだが、両耳には頭がイカれているのかと思えるほどに多くのピアスをしており、昔は万引きの常習犯だったという噂もある財前永佳(女子六番)。
かれんは彼女らと行動を共にしているだけでなく、クラス内にいる彼氏と仲良くやっている3人とは異なり、援助交際という淫行に手を染めていると聞いたことがある。
そんな女が仲間だなんて、ありえない。

その隣で膝を抱えているのは内藤恒祐(男子十二番)。
A組男子の中で最も派手で馬鹿丸出しの出で立ちをしている恒祐も、梨杏の嫌う愚かな人間の1人だ。
いつも教室の真ん中でくだらない話をして大騒ぎしており、どこにいても恒祐の声は聞こえてくるのではないかと思えるほど煩い。
非常に軽い男であり気に入った女子に次々と声をかけていることは有名で、梨杏はその全てを知っているわけではないが、朝比奈紗羅(女子一番)や平野南海(女子十四番)といった、頭の軽そうな女子に軽く告白をしては振られているのは、彼女らが話をしていたのを小耳に挟んでいたので知っている。
その軽さから、頭の軽いギャルグループとも比較的親しく、かれんともそれなりに仲良くしていた記憶がある。


902VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:45:27.78868/ISGe0 (29/60)

今はその騒がしさも軽さもなりを潜めており、顔を膝に埋め、時折嗚咽や鼻を啜る音が聞こえる。
軽い男は嫌いだが、うじうじしているのも見ていて腹が立つ。

「内藤くん。
 いつまでもうじうじ泣くのはやめてくれない?
 こっちまで気が滅入るわ」

「は? その言い方はさすがにないんじゃないの?
 内藤は、田中と仲が良かったんだから」

反論してきたのは恒祐ではなくかれんだった。
馬鹿が馬鹿の擁護?――馬鹿らしい。

ライド(担当教官)にプログラムに対する異議を申し立てて射殺された田中顕昌(男子十一番)――余計なことを言えばああなる可能性はこの国でなら十分あり得る話だというのに、その考えに至らなかった憐れで愚かな男。
あまり目立たない地味な印象の顕昌が、派手な恒祐と親しいのは意外だった。

「…ああなることなんて目に見えてたのに。
 それがわからずに行動した人を悼んで泣かれても迷惑なのよ」

「テメェ…ッ!!」

恒祐がばっと顔を上げ、泣き腫らした目で梨杏を睨んだかと思うと、腰を浮かせて手を伸ばし梨杏の胸倉を掴んで後ろの幹に叩きつけた。
梨杏は背中を打ち、「うっ」と呻いた。

「あんなこと言えばああなることくらい、アッキーは絶対わかってたんだよ!!
 それでも言っちまうくらいに、アッキーは優しいんだよッ!!
 それを…テメェは馬鹿にしたな…アッキーを馬鹿にしたな…如月…ッ!!」

「煩いわね、誰かに見つかったらどうするのよ」

梨杏は右横に置いていた自身に支給されたデイパックの中に入っていた銀色に光る銃身と黒いグリップが特徴のリボルバー式拳銃、S&W M686を掴むと、その銃口を恒祐の額に向けた。
恒祐の元々ぎょろっとしている瞳が一層見開かれる。

「こ…の…ッ!!!」

恒祐も梨杏のM686と同じ位の大きさだが形が大きく違う黒光りする自動拳銃、ジェリコ941Lをベルトから抜き、梨杏に向けてきた。
梨杏自身人に銃口を突き付けているというのに、恒祐の行動に息を呑んだ。

「貴方…馬鹿じゃないの…?」

「ああ、馬鹿だよ、テメェに比べりゃ馬鹿だよそれがどうしたよッ!!
 ダチ1人できない冷徹女に比べたら、大馬鹿の方がマシだねッ!!」

“ダチ1人できない冷徹女”――確かに梨杏には友人と呼べる人はいない。
くだらない馬鹿な人間たちとつるむくらいなら読書をしている方が何倍も有益なので、休み時間はいつも自分の席で読書に勤しんでいた。


903VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:46:42.68868/ISGe0 (30/60)

不意に恒祐が梨杏から離れた――いや、恒祐は大きく目を見開いた状態で自分の意思に反して梨杏との距離を取らされた、という言い方が正しい。
恒祐は襟を後ろから引っ張られ、バランスを崩して仰向けに倒れていた。

「何すんだよ…林崎ッ!!」

恒祐は起き上がりながら、自分を引っ張ったもう1人のチームメンバーである林崎洋海(男子二十番)を見上げた。
細身だがクラスで最も背の高い洋海は、手にしていた金属バットを振り下ろした。
恒祐が身を起こすために地面に付けていた右手のすぐ横にそれは振り下ろされ、小石に当たったらしくカァンという高音が響いた。
恒祐はぎこちなく首を動かして金属バットが振り下ろされた先を見、口許をわなわなと震わせていた。

洋海は梨杏とは同じ文芸部に所属する部活仲間だ。
とは言うものの、洋海は挨拶以外では言葉を発しないのではないかと思う程に無口で(このクラスには池ノ坊奨(男子四番)や榊原賢吾(男子七番)や瑠衣斗や利央といった口数の少ない者が多いが、その彼らですら饒舌だと思えてしまう程に洋海の無口さは群を抜いていた)、梨杏も挨拶以外には言葉を交わさない。
梨杏に言わせれば、何を考えているのかさっぱり理解できない、勉強も運動も人並以下のことしかできないウドの大木だ。
辺りを見回しているところをみると、騒いで誰かに見つかるのを防ぐために、梨杏と恒祐を引き剥がし、騒がしい恒祐を威圧して黙らせたのだろうか。
洋海自身がこの間一言も発していないので、真相は定かではないが。

「あーあ、馬鹿馬鹿しい」

かれんはわざとらしく溜息を吐き、人工的な睫毛に覆われた瞳で3人を見遣った。

「一応チームメイトなわけだしさ、仲間割れとかやめない?
 こんなところ誰かに狙われたら、あっという間に全滅じゃないの」

「星崎…でも俺やだぜ。
 星崎と林崎はともかく、如月とつるむとか絶対できねーよ。
 しかも、他のヤツらと戦うことになったとしたら、コイツ護らなきゃいけないとか…
 やだよ、こんな最悪なヤツのために命張るとか」

恒祐は失礼なことに梨杏を指差した。
そう、この共通点もなければ普段の接点もなければチームワークが生まれる兆しもないチームのリーダーは、他でもない梨杏だ。
馬鹿たちの命を、梨杏は背負っているのだ。
自分の左腕に王冠のマークを見つけた時、心底ほっとした。
当たり前だ、こんな馬鹿たちの中の誰かに自分の命を握られていたかもしれないだなんて、考えただけでぞっとする。


904VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:47:18.82868/ISGe0 (31/60)

日比野迅(男子十五番)と水田早稀(女子十七番)が休息を取っている民家から見ると北西に位置するE=06エリアに、迅と早稀が探し回っている対象である芥川雅哉(男子二番)と奈良橋智子(女子十一番)はいた。

「…トモー、ここは神社?」

「…みたいだね、鳥居があるし。
 この階段の上が境内なのかなぁ…?」

雅哉と智子は目の前に立ちはだかる昇り階段を見上げた。
ぼんやりと浮かんで見える赤く古ぼけた鳥居、真夜中のため最初の数段以降は暗闇に飲まれているので階段が何段程あるのか確認はできないこと、“丑三つ時”に差し掛かる時間帯――怪談話に興味がなくとも、不気味さを感じずにはいられない。
智子自身、心霊番組などにはあまり興味がないのだが、さすがに怖い(もっとも、この現状では、何よりも恐ろしいのはクラスメイトなのだが)。

「…上がってみる……?」

雅哉を見上げて訊いてみたものの、語尾が震えてしまったことが情けなく、俯いてしまった。

「んー…あんま上りたくないかな。
 しんどそうだし、不気味だし、早稀ちゃんたちがいそうなイメージないし」

智子が顔を上げると、「夜中の神社ってやだねー」と、雅哉は笑みを浮かべていた。
何だ、怖いのはわたしだけじゃなかったんだ――智子は安心して笑みを返した。

2人は5時間程前に、早稀がいるのではないかという予想をしてC=06エリアにある商店に行ったが誰もおらず(ただし、誰かが潜伏していた痕跡はあった。飲み食いをしたゴミが残っていたし、棚の商品も抜き取った跡があった)、交代で睡眠を取った後に商店を出て、道に沿って南下してきた。
1時間以上歩きっ放しだったため、階段の傍の茂みの中に入って腰を下ろした。

智子は隣で膝に顔を埋めている雅哉に目を遣った。
いつ誰に襲われるかわからない神経をすり減らし、ゆっくりと休むことも十分な睡眠を取ることも許されず、慣れない土地を動き回っている。
体力が人並みでが健康優良児である智子ですら辛い状況だ、身体の弱い雅哉が疲弊するのは当然で、智子の前では元気に振舞おうとしているが無理をしているのが目に見えてわかる。


905VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:47:56.74868/ISGe0 (32/60)

そして、戦場において頼りない智子を支えて励ましてくれる優しさ。
星崎かれん(女子十六番)から、『雅哉に騙されてはいけない』と忠告を受けたこともあったが、今智子の隣にいる雅哉の言動に嘘があるとは思えない。
きっとかれんは、派手な外見や気だるそうな態度の中にある雅哉の本当の心を見ていなかっただけに違いない。
智子が惹かれているその心こそが、雅哉の本質だと信じている。

雅哉が自分なんかのことを何とも思っていないこと位はわかっている。
雅哉が自分なんかを特別扱いしているなんて、そんな奢った考えは持っていない。
それでも、構わない。
雅哉の役に立ちたいと思う自分の心は本物で、せめて少しでも長い間一緒にいられたらという願いが叶うのならこんなに嬉しいことはない。

雅哉のためにできることは、死なないこと。
班のリーダーである自分が死ぬことは、雅哉を道連れにしてしまうことになってしまうので、何としても避けなければならない。
そして、一刻も早く迅と早稀と合流すること。
これは、これまで何度も何度も自分に言い聞かせてきたことだ。

では、そのためにはどうするか。
迅と早稀に逃がされてからこれまで誰とも出会っていない智子たちには、誰が危険人物で、誰が信用に足る人物なのかという情報が全くない。
誰かを発見すれば気付かれずに逃げるのが鉄則なのだが、もしもその相手がやる気ではない且つ迅と早稀に出会っていて何かの情報を持っているとしたら、迅と早稀に会うチャンスを潰してしまう可能性もある。
早稀の支給武器は探知機であること、2人揃って交友関係が広いことを考えると、積極的に人に会い、信用できると判断すれば智子と雅哉を探していることを伝えている可能性は十分にある。
迅と早稀からのメッセージを受け取るには、クラスメイト全員を避けるわけにはいかないが、誰彼構わず近付けば命を落としかねないことは、クラスメイトがほぼ半分にまで減ってしまった現状が物語っている。
つまり、今必要なのは、今持っている少ない情報から、誰が危険で誰がそうではないかというある程度の予測と線引きをしておくことだ。

智子は頭の中の情報を引っ張り出した。
少なくとも、班編成だけは全てを把握している。
名簿にもメモをしてあるが、いちいち見直す程のものではない。人に誇れることなどあまりないが、記憶力と物事を整理し分析する能力についてはクラス内でトップレベルだということは自負している。


906VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:48:29.87868/ISGe0 (33/60)

伊達に、頭脳レベルが全国平均を大きく上回る帝東学院において、真壁瑠衣斗(男子十六番)・芳野利央(男子十九番)に次ぐ、クラス・学年共に第三位の成績を修め続けてはいない。

少ない情報の中、智子が最も警戒しているのは、榊原賢吾(男子七番)・松栄錬(男子九番)・鷹城雪美(女子九番)・湯浅季莉(女子二十番)という一見バラバラに見えるが個別に見れば関係性のある6班だ。
その根拠は、プログラム開始直後に響いた銃声だ。
最初に出発した木戸健太(男子五番)・城ヶ崎麗(男子十番)・朝比奈紗羅(女子一番)・鳴神もみじ(女子十二番)という麗とその取り巻きで構成された5班と、6班のみが教室を出た時点で銃声が響いた。
双方未だ全員が健在という点から、これは本格的な戦闘ではなく、どちらかがどちらかを襲撃し、襲われた方が発砲し無事逃げることに成功したという可能性が高い。
本格的な戦闘であるなら銃声が一度だけということが不自然で、仮に襲った側が発砲したのなら逃げる相手目掛けて数回発砲するだろうが、逃げた側の発砲だとすれば相手を怯ませるために一度だけ発砲するという理由ができる。

もしそうであると仮定するなら、襲った側は6班、逃げた側は5班である可能性が高い、と智子は見ている。
襲った側が6班とする根拠は、誰一人犠牲にならなかったことだ。
10個の班の中で、最も運動能力が高いのは、全員が運動能力に秀でている5班。
対する6班は、錬と雪美が人並み以下で、足も遅い(雪美になら、智子は勝てる)。
運動能力や体力に関しては、プログラムにおいて、普段の成績が大凡そのまま能力値として反映されるだろうから、5班全員が追いかければ錬か雪美を捕まえ殺害することができただろう。

このことから、全員が生き延びることができる可能性は、6班が追いかけて5班が逃げ切ったという構図の方が高い。
もちろん、麗が出発前に放った『俺は政府の連中の言うことなんか絶対聞いてやらねぇ』という言葉とその言葉を裏切らないであろう人柄も加味しての考察なので、論理としては穴は多いが、その宣言を聞いた直後に5班を襲った可能性が高い6班の面々は、疑って掛かって損はない。

それから、横山圭(男子十八番)を殺害した人物についてだ。
圭は教室を出て間もなく響いた数度の銃声の中で命を落とした。
これは6班は関与していないと思われる。
何度も銃を発砲できるのなら、5班との戦闘でも同じことができたはずだからだ。
やる気ではなくその場を立ち去っていたであろう5班を除外すると、利央・阪本遼子(女子八番)・蓮井未久(女子十三番)という男子委員長と女子主流派グループ2人が属する7班(本当は田中顕昌(男子十一番)もメンバーの一員だが、彼は誰もできなかった勇気ある行動を取った結果、出発前に命を落とした)と、内藤恒祐(男子十二番)・林崎洋海(男子二十番)・如月梨杏(女子四番)・かれんという関係性を見出すことが容易ではない8班が、圭の死に関与した可能性がある。
8班が関与しているのであれば、最初の放送で全員が名前を呼ばれてしまっているのでこれ以上考える必要はないが(この考え方は酷く冷たいけれども)、7班であったとするなら運動能力が総じて高く、麗とは違うタイプのリーダーシップを持つ利央がいることを考えれば大きな脅威である(尤も、真実は圭の仲間であるはずの室町古都美(女子十八番)が犯人である、ということだが、智子の知るところではない。仲間に恵まれ内部で揉めることのなかった智子には、仲間割れの可能性までには考えが及ばなかった)。


907VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:50:05.92868/ISGe0 (34/60)

小石川葉瑠(女子五番)といえば、遼子や未久と仲が良く、教室でいつも大きな声で騒いでいるムードメーカーの一人で、頭の回転が速い女の子だったが、先程の放送で名前を呼ばれた。
ライド(担当教官)曰く、リーダーの相葉優人(男子一番)の死亡により、首輪が爆発したことが死因となった。
その場に居合わせたということは、智子たちの首にも巻き付いている首輪が爆発するところを目の当たりにしてしまったのだろう。
想像しただけで胃の中の物が逆流してきそうだった。

「小石川は、はっきりと、奈良橋たちはやる気じゃないと言っていた。
 恐らく、日比野か水田か、その両方かと会ったんだろうな」

智子たちがいつまで経っても会えずにいる迅と早稀に会っていた人がいた――クラスで浮いた存在である智子や雅哉にも気さくに話しかけてくれて気遣ってくれた2人のことだ、葉瑠とも仲良く話をしたのだろう。
日頃の元気な2人の姿を思い浮かべると、一層会いたいという思いが募った。

「葉瑠はね、最期に言ってたの…『やる気じゃないみんなを、助けてあげて』って。
 あたしたちは葉瑠を助けられなかった…だから、せめて、葉瑠がやる気じゃない
 って言ってた奈良橋さんたちを助けたい、葉瑠の願いを叶えたい。
 だから、あたしたちが知ってること、全部教えてあげたい…いいかな?」

未久は今にも泣き出しそうな声で、しかしはっきりと述べ、最後は遼子と利央の顔を交互に見遣った。
無言を許可と取った未久は「ありがとう」と小さく呟き、智子たちに向き直った。

未久が主導で話し、利央と遼子がたまに補足を入れた。
3人から得た情報は、非常に大きなものだった。
智子の推測通り、やる気になっている6班(賢吾と季莉が確実にやる気になっているそうで、賢吾と親しい利央、季莉と同じ部活をしている未久は辛そうだった)と、やる気ではないが銃を所持している5班との衝突の話。
銃を所持し、且つやる気になっている10班。
そして何より驚いたことは、圭を殺害した犯人が、同じ班の仲間だったはずの古都美という事実だ。
これは完全に予想外で、大人しい古都美や真面目なイメージのある原裕一郎(男子十三番)がやる気になっているということも考えもしなかった。


908VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:50:42.54868/ISGe0 (35/60)

プログラム本部である小中学校から見て真東に位置するE=05エリア、茂みの下からひょっこり顔を覗かせた暗がりの中で光る2つの瞳に、広瀬邑子(女子十五番)はたたっと駆け寄ってしゃがみ、小さな手を差し伸べた。
警戒しているのだろうか、猫は近寄らずに耳をピクピクと動かしていた。

「…誰かの飼い猫だったのかもね、首輪が付いてる」

邑子の隣に財前永佳(女子六番)が腰を下ろし、じっと猫を見下ろしていた。
永佳とは物心ついた頃からの幼馴染なので、彼女が猫が好きなことも、しかし父親が猫アレルギーのため飼うことを許されなかったことも知っている。
今も、猫をじっと見つめる永佳の横顔は穏やかだ。

「猫ちゃん、お腹空いてないのかなぁ…」

「そりゃあ、空いてるんじゃない?
 飼い主はここにはいないし、誰も世話してないだろうし」

あ、そうか。
今はプログラム会場になっている御神島は有人島で、民家があるのだから当然人が住んでいて、猫に首輪が付いているということはこれも当然だが誰かに飼われていて、飼われていたのだから食糧は飼い主に恵んでもらっていたはずだ。
しかし、現在、ここには住人は一人もいない。
プログラムが開始されてまだ一日は経っていないけれど、昨日住人をここから追い出したわけではないだろうから、この猫は数日何も食べていないこともあり得る。

可哀想だなぁ…
人間の都合で飼い主に置き去りにされちゃって…

邑子は鞄の中を漁るが、出てきた食糧は支給されたパンのみ。
邑子は暫くじっとパンを見つめた後、永佳を見上げた。

「猫ちゃんって、パン食べるのかなぁ?」

「…あんま聞かないけど…良くないんじゃない?」

永佳は眉間に皺を寄せて答えると、持参の鞄のポケットを探っていたが、飴しか出て来なかったらしく、「早稀が勝手に鞄に入れてくることもあったんだけど、もう全部食べちゃったか」と呟いて溜息を吐いていた。
永佳の表情が曇ったように見えたのは、いつも一緒につるんでいた水田早稀(女子十七番)との何気ない日常風景と、今朝撃って傷付け揉み合いになった時のことを思い出したからではないだろうか。
あの時、邑子は、早稀の恋人である日比野迅(男子十五番)に拳銃を突き付けられ人質に取られた。
怪我を負うことはなかったけれど、あの時の迅の険しい表情と低い声、首が締め付けられる感覚を思い出し、邑子は身震いした。

「パンはやめときなさい、猫は一応肉食なんだから。
 残念だけど俺たちが持っていてあげられるものは、水くらいしかないよ」

邑子と永佳の間から、すっと腕が現れた。
邑子たちの幼馴染、春川英隆(男子十四番)が、水を満たした丸みを帯びた長方形のプラスチックケースを猫の前に置いた。


909VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:51:08.75868/ISGe0 (36/60)

邑子を挟んで永佳と反対側にしゃがんでいた望月卓也(男子十七番)に訊くと、元気は足りないけれど人懐こい笑みを返してくれた。

「おう、チワワの“いぬ丸”と、最近拾って飼い始めた“ワン太”!
 すっげー可愛いの!」

「ほんっと卓也さんってネーミングセンスない」

「同感、それ自分の子供に“人太郎”とか“人子”って付けてるのと同じだよね」

「あっ、永佳もヒデも酷い…俺可哀想!!」

「可哀想なのは卓也さんの家のペットたちでしょ」

可愛いペットに付けた名前を永佳と英隆から辛辣に批判された卓也は、しゅんとして猫の背中をそろりと撫でていた。
3人のやり取りが、まるで普段の生活の中から切り取ってきたような穏やかなものだったので、邑子は表情が自然と緩むのを感じた。

卓也は外見だけを見ると、茶髪にピアスといった派手な身なりをしているので取っつき難そうなのだが、人当たりが良くて人懐こい。
イベント事になればクラスを盛り上げていた人たちの一人で、所属するテニス部でもムードメーカーだ。
男子テニス部は全国大会での上位を争う常連校なので、邑子が所属する女子テニス部も含めて学校を上げて応援に行く機会も何度かあったのだが、団体戦ではレギュラーでありながらも応援している部員たちを盛り上げる応援団長でもあった。
初等部の頃から何度か同じクラスになっていたことや男女テニス部でテニスコートを共有していることもあったため、卓也と話をする機会は非常に多く、邑子自身が自覚できる程に卓也には可愛がってもらってきた。

永佳とは物心ついた時には既に仲が良かった。
昔は卓也と同じようにクラスの中心でクラスメイトたちを盛り上げることが多かったのだが、今では無表情であることが多く言葉もぶっきらぼうで、両耳には痛くはないのかと心配してしまう程のピアスを付け、付き合う友人も少し崩れた感じの派手な容姿をした面々が多い。
しかし、あまり表には見せないが周りのことを良く見る優しさは昔から変わっておらず、邑子には昔から変わらず優しいお姉さんのように接してくれる。
卓也と付き合い始めた時は、卓也に永佳を取られたようで悔しかったけれど、永佳が変わらず邑子に気を配ってくれていることが嬉しかった。

英隆も、邑子の中にある一番古い記憶の中には既に存在している程に長い付き合いで、邑子と永佳にとってはお兄さんのような存在だった。
一般庶民である邑子や永佳とは違って、ゆくゆくは祖父が経営する商社を継いでいく御曹司というやつなのだが(邑子たちよりも、城ヶ崎麗(男子十番)に近い人種なのだ、本当は)、そのような育ちを鼻に掛けることはない。
仲の良い男子たちとは一緒に騒ぎつつも気を配って世話を焼き(しばしば相葉優人(男子一番)や川原龍輝(男子五番)あたりには“オカン”と言われていた)、親しくなくとも柔らかな物腰で接するので、周りから好感を持たれやすい。


910VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:52:09.04868/ISGe0 (37/60)

背丈は邑子と似ているのに邑子と違ってしっかりしていて気の強い阪本遼子(女子八番)の、「アンタ、永佳とか春川とかに甘えてばっかじゃ駄目なんじゃないの?」という声が聞こえてきそうだが。

いつまでも猫を相手にしているわけにもいかないので、邑子たちは猫に別れを告げ、再び歩き出した。
はっきりとした目的地はないのだが、クラスメイトを探すために。
クラスメイトを探し、殺めるために。

英隆と永佳はこれまでクラスメイトを発見すれば積極的に攻撃し、宍貝雄大(男子八番)を殺害し、荻野千世(女子三番)を死に至らしめる原因となった。
邑子と卓也は何もしなくて良い――2人からはそう言われていた。
2人に任せて自分は何もしないなんて良いのだろうかと疑問に思う反面、クラスメイトを傷付けなくても許される現状に安堵している自分もいた。
小石川葉瑠(女子五番)に“共犯”と責められた時にはショックを受けたが、涙が枯れる程泣いた後に改めて考えると、英隆たちを止めない自分は確かに“共犯”なのだろうと思った。

いいんだ、ゆーこは“共犯”で。
だって、死ぬなんて怖いもん。
でも、誰かを撃ったり刺したりするのも怖い。
どっちもしなくて済むなら、ゆーこは“共犯”って言われた方がずっとずっと良いもん。


がさっ


不意に、右側から葉の擦れる音がし、邑子は足を止めた。

「邑ちゃん…?」

英隆の声色からは、気を付けろという思いが伝わってきたのだが、邑子はさして気にも留めず、茂みの方へ足を向けた。

「さっきの猫ちゃんかも」

先程水を与えた猫が、ついて来てしまったのかもしれない。
どこかに、先程見たものと同じ光る瞳があるはずだ――邑子は茂みの傍にしゃがみ、枝の隙間を覗き込んで猫の姿を探した。
しかし、光る瞳はどこにも見当たらない。

代わりに邑子が目を留めたのは、枝の色とは少し違う、ブラウン地のチェック模様――そう、邑子にとって見慣れた、帝東学院中等部の男女の制服のズボンやスカートの布地の模様。
そこまで思考が及ぶと同時に邑子は丸い目を大きく見開き、ばっと顔を上げた。
何かが自分目掛けて近付いており、邑子は「わっ」と声を上げながら咄嗟に上半身を後ろに倒しつつ、反射的に両腕を顔の前に出して防御の構えを取った。
次の瞬間、左腕を鋭い激痛が襲った。

「あああぁぁぁぁあぁっぁあッ!!!」

邑子は絶叫し、痛みの突き上げる左腕を右手で押さえた。
右手が生温い液体で濡れた。
左掌から肘の裏側に掛けてすっぱりと皮膚が裂けていたのだが、ただ痛くてたまらないということ以外、今の邑子にはわからなかった。

「邑ちゃんッ!!」

英隆が邑子に駆け寄った。
邑子を抱えようとする英隆に、襲撃者が再び襲い掛かった。

「春川、前ッ!!」

永佳がデイパックをぶんっと振るうと、それは襲撃者に当たり、「ぐっ」という短い悲鳴が聞こえ、襲撃者の身体がよろけた。
永佳は目の端で別の人物を捉え、もう一度デイパックを振るったが、今度は空を切るに終わり、相手はお返しとばかりに何かを持った手を振り下ろしてきた。
永佳はデイパックを捨ててその手を押さえようとしたが、伸ばした手は空を切り、何かが緑色のカーディガンの左肩部分を掠めて繊維を裂いた。


911VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 09:54:10.31868/ISGe0 (38/60)

身体に痛みを憶え、湯浅季莉(女子二十番)はゆっくりと瞼を持ち上げた。
顔の下敷きになっていた右手がじんじんと痺れているし、首が痛む。
まるで授業中によく眠った後のよう――そこまで考え、季莉は眉を顰めた。
おかしい。
季莉は上半身を持ち上げたのだが周りは暗くてよく見えないので、自分が体を預けていた板を触り、そこから手を滑らせてその全体像を把握した。
これは、学校で使うような机だ。
しかし、帝東学院のものとは少し形が違う。
同様に自分が腰掛けている椅子にも触れてみたが、やはり形状が違うようだ。

ここは、どこ?
学校じゃない。
そもそも、あたしたちは修学旅行に行く途中だったはず――あれが夢じゃなければ。

季莉は前に手を伸ばしてみた。
すぐに、温かい何かに触れることができた。
これは、人の体温による温かさ――丸みを帯びたフォルムは、恐らく背中だ。
少し手を上にずらしてみると、別の布の感触がした。
それを掴み、形を確認してみる――フードだろうか、これは。

「…早稀?」

季莉は友人の水田早稀(女子十七番)の名前を呼んでみた。
フードがついている服を着ている人間で最初に思い浮かんだのが全体はカーキ色でそこに白黒のストライプ模様のフードが付いたパーカーをいつも着ている早稀だったこともあるが、早稀が前にいるのなら、それは教室での席順と同じ可能性が高いからだ。

前にいる人物は何も答えないので、今度は後ろや左側に手を伸ばしてみたが空を掴んだだけに終わった。
季莉の席は最後列で窓側から2列目、ただし窓際の列は机が1つ少ないので季莉の左隣には誰も座っていなかった――つまり、やはりこれは教室での席順と同じ並び方なのではないだろうか。
そうであれば、右隣にはクラス1大きな体を持つ無愛想な林崎洋海(男子二十番)がいるのだろうし、右斜め前には副委員長の奈良橋智子(女子十一番)が、左斜め前には銀髪赤メッシュという、パーマをかけた明るい金髪をツインテールにしている季莉と同レベルで派手な頭をしているサボリ魔の芥川雅哉(男子二番)がいるはずだ。
とにかく、こう暗くては確認することも困難なのだけれど。

「ねえ、早稀…早稀ってば」

洋海とは会話をしたことはないし、智子はたまにからかったり嫌がらせをしてやったりしたこともある仲だし、雅哉は女子相手にヘラヘラしているところがあまり好きではないので、声を掛けるならやはり前にいるであろう早稀しかいなかった。
お互い一時は問題児扱いされていた者同士ということもあって仲良くなったのだけれど、お互い落ち着いた今では様々なことに対して同じテンションではしゃぐことができる1番の親友だ。


912VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 10:56:18.44868/ISGe0 (39/60)

536 :名無しさん@お腹いっぱい。:2013/08/05(月) 08:11:26.09 ID:IiiUx2HC
ゲーム本編はシナリオとの絡みがあるからなー
メインヒロインとされる霧切さんですら恋愛成分はかなり控えめだし
その制約の中でも、セレスさんの自由行動は特に回数が多くてラストの密度が濃い
アニメ組にも自由行動は是非やってもらいたい所だ



913VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 10:56:57.59868/ISGe0 (40/60)

 東堂あかね(女子14番)の姿が見えなくなってから、澤部淳一(男子6番)は小さく息を吐いた。そこには、どこか安堵したような響きが含まれている。

 

――ようやく厄介払いできたか。

 

 右手に持ったままの鉄製の定規(あかねの首筋に当てたのはこれだ。本人は刃物の類いと思っただろうが)をポケットにしまい、足下に置いた荷物に細心の注意を払いながら、玄関の方へと視線を向ける。どうやら、宮崎亮介(男子15番)はまだ教室から出てきていないようだ。けれど、もう出てくるのも時間の問題。あかねが一人でいたところから、もう同じようなことを考える輩はいないだろうが、念のためにもう一度ブレザーの左ポケットから端末を取り出して電源を入れた。すぐに画面が明るくなり、画面に星マークが現れる。

 個々がつけている首輪に反応する探知機――それが、淳一に支給された武器だった。画面上だけでは誰であるかは分からないという欠点はあるし、直接攻撃するといった観点から見れば、まったく役に立たない代物だろう。けれど、身を守る上でこれほどありがたいものはない。この探知機の範囲百メートルよりも外から遠隔射撃でもされない限り、不意打ちで殺されることはまずないからだ。だからこそ無事に学校まで戻ってこられたのだし、玄関近くに誰かが留まっていることもすぐに分かった。近づけば、その内の一人があかねであるということも。

 亮介と合流するにあたって、極力別の誰かが入ることは避けたい。そのためには、ここに自分以外の誰かがいてもらっては困る。それに、亮介がまだ教室にいるかどうかも知りたい。そこで、まずはあかねが薮内秋奈(女子17番)と合流できないようにし(複数だと何かと面倒だからだ。それに秋奈はああ見えて頑固なところがあるので)、必要な情報を聞き出した。そうしてから、わざと挑発的な言い方であかねを煽り、正門の方へと行くように仕向けた。ああ言えば、あかねの性格上必ず確かめに行くと踏んだからだ。狙い通りあかねは正門へ行ってくれたし、おそらくしばらくこちらに戻ってくることはないだろう。今も探知機に映し出されている彼女を示す星マークは動いていない。つまり、まだあそこにいるのだ。いや、正確には動けないといったところか。もしかしたら禁止エリアになるまであそこに留まるのかもしれないが、それは淳一の預かり知るところではない。

 

 気になるのは、今も淳一の近くにいるであろうもう一人の存在。その人物は、探知機の表示によれば校門とは反対方向、左手にある建物の影に潜んでいるようだ。あかねがここにいるときから何もアクションを起こさないところからして、仲間を作ろうとしている輩ではないだろう。そして攻撃するつもりもないということは、今も沈黙を守っているところからして明白だ。しかしそれなら、何のためにここにいるのか分からない。もう教室に残っているのは、亮介と最後の出発である槙村日向(男子14番)だけ。亮介と合流しようとしているのは自分くらいしかいないだろうし、日向なら加藤龍一郎(男子4番)や弓塚太一(男子17番)が考えられるが、それにしても単独で待っているのが引っかかる。それに日向を待つくらいなら、あかねにだって声をかけるはずだ。もしかしたら他に何か目的があるのかもしれない。けれど、少なくともわざわざこちらからアクションを起こす必要はないだろう。そこまで考え、淳一は探知機の電源を落としていた。


914VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 10:58:49.87868/ISGe0 (41/60)

 須田雅人(男子9番)が発したその一言は、この教室全体に波紋を広げていた。橘亜美(女子12番)も、一瞬我を忘れてポカンとする。それは、心の奥底では誰もが思っていたことだけれど、同時にこの状況では言うことを躊躇う内容でもあったから。

 

「それって、自分は参加したくないってことかなー?」
「い、いや、そうじゃなくて……。このクラスで殺し合いとかするのが嫌なんです。中止するとか……できませんか?」

 

 雅人の言っていることは、日常生活の中で言えば真っ当なことだ。クラス内での殺し合いなど赦されることではないし、できるかできないかと言われれば、もちろんできないに決まっている。

 けれど、このプログラムの場においては、それはあまりにも現実を見ていない発言ともとれてしまうのも――また事実だった。

 

「須田くんは、今までどれくらいのクラスに対してプログラムが行われたか……知ってるかな?」

 

 寿担当官に質問に質問で返されたせいか、雅人は「えっ……?」と呟いたきり、何も言えずにいた。プログラムは、確か1947年から毎年行われているはず。毎年五十クラス、今年が1993年。頭の中で概算してみたが、それよりも担当官が答える方が早かった。


915VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 10:59:56.35868/ISGe0 (42/60)

 高槻清太郎(男子十四番)は地面のぬめりに足を取られて滑り落ちぬよう気を付けつつ、斜面に対して平行に歩いていた。
 七時間睡眠を基本としている普段の生活と比べて、十分な睡眠時間を取れたとは言い難いが、生死の狭間に立たされたこの状況下では、幾分でも休息をとれたというのは幸運だったのかもしれない。いろいろあって疲れていた夜間よりも、足取りが軽くなったような感覚があった。
 支給されたバッグを肩に掛けているが、その重さもさほど気にならない。林間学校用に家から持ってきた私物も詰めているが、必要な物だけを選別した甲斐があった。先日買ったばかりのカードゲームの束など、破棄するのを躊躇われた物もあったが、命には代えられない。
 支給品の他で残したものは、少ない衣類と菓子類くらいに留まった。
 苦渋の決断の末に身軽さを手に入れることができた清太郎。だが、支給された武器が頼りなく、不安は残る。
 本来は木材などに穴を開けるために用いられる工具である錐を、利き手でしっかりと握り締める。今、自らの身を守ってくれるものは、頼りなくともその唯一の武器しかないのだ。
 敵に見つからぬよう周囲に注意を払いつつ、物音を最小限に抑えるよう努めた。目指すはG-5エリアにある洞窟である。
 昨夜、西村歩美(女子十二番)と行動している増田拓海(男子二十二番)が、清太郎が隠れている傍を通りかかった際に、そこで“皆”と合流する、と確かに話していた。
 “皆”とは一体誰のことなのか分からないが、それなりの人数が集結するらしいと窺える。それも歩美や拓海の様子から察するに、ゲームに乗る目的ではなさそうだ。
 同じくクラスメートと戦う気など毛頭なく、今後どう行動するべきか考えが纏まっていなかった清太郎は、その集合場所とやらの様子が気になっていた。
 何人、誰が、どういう目的で集まるのか、それらを探った上で、仲間に入れてもらうか、別に行動するかを判断したかった。
 幸いなことに、G-5はそんなに遠いエリアではない。誰かに襲われたりしていなければ、夜間に行動していた拓海たちはとっくに到着しているはずだ。
 問題は、無事に仲間と合流を果たした彼らが、その後もその場所に留まっているのか、ということ。
 うっかりしていたが、G-5はアジトではなく、ただの集合場所でしかないのかもしれない。拓海たちはずっと同じ場所に留まり続けるつもりなのだと勝手に思い込んでしまっていたが、メンバーが集まり次第、さらにどこかに移動してしまう可能性だってあると、朝になって気付いてしまった。
 己の迂闊さに嫌気がさした清太郎は、癖毛でもじゃもじゃの頭を掻き毟った。
 普段の冷静さがあれば、このようなミスをしでかすなんて考えられないが、よほど頭も疲れていたのだろう。
 拓海たち以外のメンバーが、都合よく集合場所の近くからスタートできたとは思えないので、おそらく未だ合流は果たせていないと思われるが。G-5に留まっていることを願うしかない。


916VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 11:00:39.00868/ISGe0 (43/60)

「俺らのアジトはすぐ近くだからさ。歓迎するよ」
 そう言って拳銃の大男、浜田智史(男子十八番)は手を伸ばしてきた。
 強く握手を交わし、清太郎は「よろしく」と返す。
 そして今度は清太郎から、マシンガンの小太り男、佐久間祐貴(男子九番)へと手を差し出す。
 祐貴は数秒間黙って清太郎の手を見ていたが、これまで緊張していた顔を緩めて、最終的に握り返してきてくれた。
「しかし、そんな貧相な武器でよく無事にたどり着いたな」清太郎が拾い上げた錐を見て、智史があきれたように言った。
「政府も人が悪いよな。こんなもんで戦わそうなんて」
「ははっ。俺らみたいに銃とか持ってる相手には、威嚇にすりゃならねぇわな」
 笑いながら智史が見せるのは、自動拳銃シグザウエルP250。一方、祐貴が抱えているのはIMIウージー・サブマシンガン。確かに彼らが殺意を持つ相手だったなら、全く相手にすらならなかった。


917VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 11:01:11.47868/ISGe0 (44/60)

 複雑に絡み合った植物の茎に足をとられそうになりながら、必死に逃げているのは高橋宗一(男子十五番)。お調子者で常にテンションが高い彼は、地声が大きくてボリュームの調整がきかず、内緒話等も周囲に聞かれてしまったりすることが度々ある。それがクラスメート同士の諍いの種になってしまう可能性もあるため、秀之からは注意レベルと評価されていた。
「くそっ、なんで俺がこんな目に……」
 背後に迫る脅威に怯え、宗一は走りながら時々後ろを振り返る。
 視界の中、流れていく森の景色の奥に、禍々しく殺意を滾らせる追跡者の姿をはっきりと捉えた。狐の面を被った転校生、危険レベルの辻斬り狐(男子二十五番)。その手には大型のククリナイフが握られており、重厚で切れ味の鋭そうな刃が暗闇で時折光る。
 脳裏をよぎったのは、自らが斬り付けられる凄惨な光景。背筋が、ぞくっ、とした。
 絶対に追いつかれてしまっては駄目だ。仮に戦っても勝ち目はない。こちらの武器である手万力は、戦闘においてククリナイフより劣るし、そうでなくても宗一は他人と争うことが苦手だった。
 必死に森の奥へ奥へと進む。今、自分が島のどの辺りにいるのか、もはや全く分からない。
 位置を確認しようにも、走っている最中にバッグから地図を取り出すのは難しい。
 森の中から抜け出すには、いったいどれだけ走らなければならないのだろうか。足場のよい平地に出ないことには、まともに走ることもできない。このままでは追いつかれてしまうのも時間の問題だ。そもそもこういう追いかけっこでは、相手の動きを見て走るコースを選べることから、追いかける側のほうが断然有利なのだ。
「ヘケケケケケケケッ! 待ァーテェーーーーーーッ!」
 仮面の内側に仕込んであるらしいボイスチェンジャーを介した、不気味な笑い声が森の中に響く。命がかかっているこのクソゲームを、心の底から楽しんでいるかのようだ。
「誰が待つかー!」
 辻斬り狐の挑発に、律儀に反応してしまう生真面目さが、自分でも嫌になる。
 船の中にいたときの言動を聞いたかぎり、相手は頭のイかれた快楽殺人者と何ら変わらない。常識が通用しない彼の挙動に、一々反応することは無駄でしかない。
 走っている最中、時折足がもつれて転びそうになる。雑草と木の根が這う地面は凸凹していて足場が悪く、そのうえ背負った大きな荷物に身体を揺さぶられるためだ。政府から支給された物品以外に、林間学校のために持ち込んだ余計な私物も持ち歩いていたのが失敗だった。
 余分に用意してきた着替えとか、おふざけで持ってきた変装道具なんか、今となってはただただ邪魔だ。
 しかし今さら走りながら荷物を仕分けるのは不可能だし、大切な食料などが入っているバッグごと捨てるわけにもいかない。


918VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 11:01:53.31868/ISGe0 (45/60)

 鳴神空也(男子二十六番)と山田花子(女子二十五番)のことだ。二人は船の中で口数が少なく、一見した限りでは辻斬り狐ほどの異常性は感じられないが、この糞ゲームに志願する理由なんて、確かに殺人への興味以外に考えられない。
「僕ノ場合ハ、テレビゲームガ好キデサ。特ニ、出テクル敵ヲ銃トカ[ピザ]ッ殺スヤツ。バキューン、バキューン、ッテネ。デモ、ソレニ飽キテキタノカ、近頃ハゲームナンカデハ興奮デキナクナッテキテネ」
「現実でやってみたくなったわけか……」
「ソウイウコト!」
「その仮面は?」
「コレ雰囲気出テイイデショ。イカニモ殺人鬼ッテ感ジデ。顔モ声モ謎ニシタ方ガ、皆ノ恐怖感ヲ高メルト思ッテ、ワザワザ用意シタンダヨ」
 などと楽しそうに語りながら、宗一の頭を踏みつけている足に、より体重をかけてくる。
 コイツ、マジで狂ってやがる。
 宗一は怒りと悔しさのあまり、顔を歪ませる。
「アッ、ソノ表情生意気! カチーン」
 唐突に振り下ろされるナイフ。腕を貫通して脇腹にまで到達し、激痛から悲鳴が漏れる。元からそういう色だったのかと見間違うほど、制服全体がもはや血で真っ赤だ。人間は血液の三分の一を失うと死ぬというが、傷を放っておけば、それに近い量が余裕で流れ出してしまいそうだ。
 嫌だ。こんなところで死にたくない。
 絶望に立ち向かうべく、今度は手足に力を集中させようとするが、既に血を流し過ぎているのか、どうにも身体が言うことを聞いてくれない。僅かに四肢が浮き上がるだけで、それ以上はどうにもならない。
「ヘケケケケケッ」
 辻斬り狐のあの独特な笑い声が聞こえる。まず一人目の獲物を順調に仕留め、とても昂揚している様子だ。
 もちろんこれで満足したわけではないだろう彼は、宗一の全てを終わらせた後、また新たな獲物を求めて動き出すだろう。そして、第二、第三と殺人を繰り返すに違いない。
 他人のことを考えている余裕なんて皆無であったが、自分を陥れた相手に一矢報いたいという思いからか、気がつくと、満足に力が入らない手で、辻斬り狐の足首を掴んでいた。
「……コレ、僕ヲ捕マエタツモリカイ?」
 血濡れの手で白い靴下を汚されたからか、ボイスチェンジャー越しの声は僅かに不快感が入り混じったようだった。
「ボケガッ! コノ程度ノ握力デ、僕ヲ止メラレルハズガナイダロ!」
 辻斬り狐はいとも簡単に拘束を解き、その足を振り上げて一気に下ろした。
 短い、しかし断末魔のような悲鳴が上がる。
 バキリと音をたてて砕かれた宗一の指は、あらぬ方向へと曲がっていた。かなり複雑に粉砕したようで、関節がどこにあったのかも分からないような形になってしまっている。本人的には身体の傷よりもこちらのほうが、目も当てられぬ光景に思えた。


919VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 11:02:24.00868/ISGe0 (46/60)

 潮風が吹き付ける海岸をゆっくりと歩く人影は、肩にかけたバッグの意外な重さに、早くも音を上げそうになっていた。
 細身で小柄なその正体は、足立宏(男子一番)。
 彼は、海とは反対側の茂みの中から沖田秀之に覗かれていることに気づいておらず、砂浜に僅かに残されている移動の痕跡も、完全に見落としていた。まさか自らが参加することになるとは夢にも思っていなかったプログラムに突如巻き込まれたことにより、情緒不安定な状態に陥ってしまい、冷静に周囲に注意を払えるほどの余裕なんて残されていなかった。
 寒いわけではないのに身体の震えが止まらず、俯き加減になりながらしきりに、両腕で自らの肩を抱いたり、癖毛でもじゃもじゃの頭を抱えたりを繰り返した。
 歩を進めるごとに、力が入らない足を砂にとられ、体勢を崩してしまいそうになる。
 決して強くはない彼の精神はかなり深くまで恐怖に蝕まれており、それに伴って気力が急激な速度で奪われていた。
 怖い……死ぬのは嫌だ……。
 クラスメート達に自分が殺される不吉な映像が、何度も頭の中をよぎる。気弱で力の無い自分は、皆にとって格好の標的なのではないか、という、悪い考えばかりに頭の中を支配されていた。
 プログラムに巻き込まれる以前の平和な日常においても、宏は弄られ役としてターゲットにされることが多かった。そして、そのポジションに大いに不満があっても、反抗することが全くできなかった。
 弄られる程度ならまだ良かったのかもしれない。特に関口康輔(男子十二番)たち不良グループからは、ほぼ苛めに近いことをしつこく繰り返され、学校に通うのが憂鬱に感じるほどになっていた。
 そんな昨日までのことを思い出すだけで、さらに気分が沈み、蓄積されたストレスが我慢の限界点まで迫ってくるのが自分でも分かった。
 なんとかして落ち着かなければ、気がどうにかなってしまいそうだった。しかし死と隣り合わせのこの状況下では、むしろストレスは一方的に溜まっていくばかり。
 まるで脱出不可能な迷宮に迷い込んでしまったかのような、どうしようもない状況だ。
 宏はおもむろに肩にかけたバッグを引き寄せ、政府からの至急品である飲料水のペットボトルを取り出し、口に含んだ。喉の渇きを癒せば、少しは気分が落ち着くかもしれないと思ったのだった。しかし残念なことに、そのくらいの事では状況は何も好転しない。
 ボトルの蓋を捻り、バッグに戻そうとしたとき、開いたファスナーの隙間から“武器”が姿を覗かせた。
 ドクン、と胸が高鳴る。
 自分の身を守るために必要な物であるとはいえ、死を直接的に連想させるその存在は、なるべく目にしたくは無い。
 武器を隠すように、そっとその上にペットボトルを乗せ、そそくさとファスナーを半分だけ閉めた。半分開けておいたのは無意識だが、いざというときに武器を取り出しやすいようにしておかないと不安、という気持ちの表れなのかもしれない。
 宏はバッグから目を逸らすようにして前を向き直った。
「誰? そこのアンタ!」
 視線を進行方向に向けると同時に、誰かから声をかけられて飛び上がりそうになった。
 今まで余所見をしていたせいで気づかなかったが、前方に誰かが立っている。
 しまった。誰にも遭いたくなかったのに、つい他の事に気を散らせて、こんなにも相手の接近を許してしまうなんて……。と宏は自らの不用意さを心底恨んだ。
 ほんの数メートルという距離なのに、暗さのせいで相手の顔がはっきりとは見えない。しかし癖のかかった髪を少し伸ばしているのは分かるし、スカートを穿いていることから、女であるのは間違いない。そして背は、小柄な宏ですら見下ろすほどに低い。
「だ、黙ってないで答えなさいよ!」
 強気で威勢の良い口調の相手も、この状況に怯えているのか、声がうわずって発言の所々で吃っている。
 右手の指に挟んでいるのはタバコだろうか。小さな赤い点が鈍く光っているのが見える。
 このクラスで喫煙者は数少なく、女子では根来晴美(女子十三番)の一人しかいない。


920VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 11:05:59.36868/ISGe0 (47/60)

?烙焔島(らくえんじま)?

千葉県から数キロ沖に存在する、およそ2km四方の島。
廃村等の存在から、かつては人が暮らしていたのが分かるが、今は無人となっている。
長い間外界から遮断されていたため、あまり調査は進んでいない。
島内の施設も、何のために造られたのか、不明なものが多い。


921VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 11:07:41.80868/ISGe0 (48/60)

「…今、何か音…したか…?」
滝井良悟(男子10番)から直線距離にして50m。
間には本棚が並んでいるため視界は開けていないので存在には気付いていないが、常陸音哉(男子14番)は音を聞いた。
微かに、聞こえた気がした。

「さぁ…あたしは聞こえなかったけど…?」

高井愛美(女子13番)は首を傾げた。

「疲れてるんじゃないの?
 かれこれこんな状況で1日起きてるわけだし…」

愛美は小さく欠伸をし、横で椅子を4つ並べて作った簡易ベッド(寝心地は最悪だけど、床よりは感触が少しだけ柔らかい)に寝転がっている伊賀紗和子(女子3番)の頭を、優しく撫でた。
紗和子は規則正しい寝息を立てて眠っている。
放送があった時には、呼ばれた人数の多さと、呼ばれた全員が仲が良かったはずだということにショックを受けて泣きじゃくっていたが、この緊張状態では、紗和子の小さな身体は疲れきっていたようで、5分も経たないうちに眠ってしまった。

鳳紫乃(女子6番)との争いを避けて図書館に入った後、3人は2階の奥の方で休息を取ることになった。
1人が眠り、2人が見張る。
そう決めて、放送の前までは愛美が眠っていた。
唯一の男である音哉は、自分が最後まで起きて見張っておくべきだと思ったので、最後まで起きていることを買って出た。
愛美が寝ている間、紗和子がこくりこくりと舟を漕いでいたのが微笑ましかった。

音哉は政府からありがたく頂戴した煙草を1本取り出し、口に咥えた。
口元を落ち着けるためなので、火は点けていない。

先ほどの放送で、40人いたクラスは残り半分となった。
生き残ることができる可能性は10%――少しずつパーセンテージが上がってきているのだと思うと、複雑な心境になる。
パーセンテージが上がるということは、それだけクラスメイトが死んでいるということなのだから。
そして、いつ自分がその数字を上げることに貢献するのか――つまり、退場しなければならなくなるのか、それを考えると、かなり、怖い。


922VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 11:08:22.28868/ISGe0 (49/60)

音哉は溜息を吐いた。
なぜ15歳という歳で、せいぜい風邪をひいたことがあるくらいの健康体である自分が、戦いを強要され、死と隣り合わせにならなければならないのか。

…チッ、わかってる…アイツらの…政府のせいだ。

蘇る紅い記憶。
権力に怯える自分の姿。
歯向かうことのできなかった、弱い自分の姿。

「…ねぇ、音哉くん?」

愛美に呼ばれ、音哉は顔をそちらに向けた。
愛美は首を傾げた。

「ずっと気になってたんだけど…
 音哉くんは昔は須藤くんたちと一緒に悪いことしてたんでしょ?
 何で今は大人しくなって、生徒会長までしてるの?」

「悪いことって…せいぜい喧嘩くらいだって。
 荒れに荒れてた大和のストッパー役。
 でもまぁ…聞く?」

音哉は記憶の引き出しを引いた。
できれば封印していたいけれど、なくなってほしくはない記憶。
音哉の転機。
人生の目標を掲げるきっかけ。

 

 

小学生の頃の音哉は、決して馬鹿ではなかった。
教師たちに反抗するようなことは表向きはしなかったし、勉強もそこそこできた。
ただ、素行はあまり良くなかったので、教師受けは悪かった。
須藤大和(男子7番)・山神弘也(男子17番)・野原惇子(女子16番)といった、教師受けの悪い連中とつるみ、暴力という手段を使って、反抗してくる者たちを屈服させていたのだから。

そんな音哉の家族構成は、自分と父母と祖父。
祖父は数ヶ月前に祖母が他界したことをきっかけに、同居するようになった。
歳に比べれば若々しい雰囲気を持つ、元気な老人だった。

音哉は祖父が大好きだった。
何故か父母には祖父とあまり関わるなと言われていたが、その忠告は無視した。
理由がわからなかったし、そういう父母の方が好きではなかったので、反抗したい気分になったからだ。

祖父は優しいわけではなかったが、同じ目線で話せる人だった。

「音哉、お前また喧嘩かァ?
 ほら顔見せなさい、消毒してやるから」

「…ってぇ…染みる…!
 喧嘩したっていーじゃん、年寄りの小言なんか聞きたかねぇよ!」

「年寄り言うな、クソガキ!
 俺のハートはいつでも若々しいんじゃい!
 大体喧嘩が悪いなんざ言ってないだろうが。
 俺が若い時にゃ毎日のようにバトルしとったもんだ」

「へぇ、若い時なんてあったのかよ」

「馬鹿たれが!
 こんなダンディーが小学校にいたら怖いだろうが!」

「ダンディーって…自分で言うなっつーの」

口喧嘩のような会話が楽しかった。
音哉の弁舌は、この頃形成されていったのかもしれない。
大好きな祖父だった。


923VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 11:08:49.71868/ISGe0 (50/60)

祖父は週に1,2度、1人で出かける日があった。
行き先は決して教えてくれなかった。
父母に聞いても、関わるな、と言われるだけだった。

その日も、祖父は出かける準備をしていた。
小さな鞄を1つ持っていた。

「今日も行き先は内緒なわけ?」

音哉が玄関で靴を履く祖父に後ろから声をかけると、祖父は笑った。

「秘密を持つ男っつーのはミステリアスで良いだろうが」

「ミステリアスっつー歳かよ」

音哉も笑った。
祖父はよく外来語を使っていた。
今思えば、その理由は何となくわかる。

祖父が靴を履き終わったので、音哉は靴を履かないで玄関に下り、祖父が開いたドアを支えた。

「ジジィ、帰ったら将棋の相手してくれるんだろ?」

「俺の連勝記録を伸ばしてくれんのか、音哉は良い子だなぁ」

「違うっつーの、連勝記録を今日こそ止めてやるの!」

「ははっ、楽しみ楽しみ」

祖父は音哉を軽くあしらい、外へ出て行った。

その時だった。

音哉は目を見開いた。
突然、眼前に散る、紅い雫。
それを撒き散らす、祖父の姿。

「ジジィッ!!」

音哉は祖父に駆け寄った。
そして、見た。
祖父の額に開いた、穴。
そこから流れる、紅いモノ。

な…何がどうなって……

足音が聞こえ、音哉は呆然としながらもそちらを見た。
2人の男が立っていた。
その胸元には、桃のバッヂ――政府関係者の証。

理解した。
祖父は、政府にとって不利益となる活動をしていたのだ。
1人で出掛けていた先は、その関係だ。
父母が祖父に関わるなと言ったのは、政府に楯突いている祖父と関わることで音哉の身が危険に晒されるのを防ぐためだったのだ。

1人の男が近付いてきた。
そして、音哉の方にサイレンサー付きの銃口を向けた。

「お前は何も見なかった、良いな?」

音哉は、頷くことしかできなかった。
ふざけるな、と掴みかかることも、殴りかかることもできなかった。
男たちが去っていく背中を見続けることしかできなかった。
怖かったのだ。
歯向かえば殺されることが、わかっていたのだから。
大好きな祖父だったのに、何もできなかった。


924VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 11:14:24.44868/ISGe0 (51/60)

人工の薄明かりでぼんやりと見えたのは、我らが母校、春日宮中学の生徒会長、常陸音哉(男子14番)。学年トップの頭脳と、パソコン部部長らしからぬ運動能力の持ち主で、クラスメイトや教師からの信頼が厚い。不良連中とも良好な関係を築いているので、誰とでも分け隔てなく接することができるのだろう。簡単に言うと、反吐が出るような野郎ということだ。
「…そこにいるの、会長だよな?」
滝井良悟(男子10番)は、恐る恐るという風を装って、訊いた。正体なんてとっくにわかっているけど、敢えて訊いた。音哉の横で、音哉の恋人だという高井愛美(女子13番)が動いた。小さく声が聞こえ、副委員長である伊賀紗和子(女子3番)も一緒にいるということがわかった。知力は2人共音哉には及ばないまでも優秀で、運動能力についても、愛美は陸上部中距離部門のエースで、他の競技でも苦手なものは無いほどだ。さすが生徒会長様、侍らす女も只者じゃない。
「そうだよ…良悟」
音哉が笑みを浮かべ、答えた。誰からも好まれる穏やかな笑顔だ。良悟も笑みを返した。大丈夫だ、負けない。頭の良さは月とスッポンなのだから、下手な小細工をしても仕方がない。運動能力なら、この中では1番だ。全国区プレイヤーをなめてもらっては困る。パソコン部部長と、女2人になんて、負けない。生き残ると決めた。人のためになんて死にたくないのだから、[ピーーー]のは仕方がない。北王子馨(男子5番)の分も生きるんだ。そう、決めたんだ。…運が悪かったな、会長――
「なぁ、会長。悪いけどさ、俺のために、死んでくれない?」
「ちょ――滝井くんッ!?」
愛美が非難の声を上げた。それに対して、音哉の反応は静かだった。
「…本気?」
声も口調も穏やかだった。それなのに、何故か、背中に冷たいものが走った。しかし、それに負けてはいられない。
「マジに決まってんだろうが、冗談だとでも思ったのか?死にたくないから、[ピーーー]んだよ。文句、あんのか?」
「人を[ピーーー]って…そんな簡単に言えることなのかな…?その重さがわかってるのかな、良悟…」
ハッ、これだから優等生は…
良悟は鼻で笑った。ずっと右手に握り締めていた大型の自動拳銃(コルト・ガバメント)の銃口をゆっくりと上げ、照準を音哉に定めた。
「うるせぇよ、優等生が…説得でもする気かよ?俺は、翔平も淑仁も…馨だって殺ったんだよ。そんな俺がよ、お前を[ピーーー]のに、躊躇うと思ってんのか?」
愛美と紗和子が息を呑んだ。机に隠れて頭だけを出した紗和子が、震える声で、呟いた。
「そ、それって…3人とも…仲良かったんじゃ……」
「そうよ、それに馨くんはあなたのパートナーじゃないの!?」
愛美が叫んだ。その言葉が、胸に刺さった、少しだけだけど。罪悪感は、もう置いてきたんだ、ここにはない。
「これがプログラムなんだ、関係ないだろ?…とにかく、テメェらなんか、ブッ殺せるっつーこった」
更に何かを言おうとした愛美を制し、音哉が1歩前へ出た。
「ルール上、君に関係あるのは俺の死だけだ、愛美ちゃんたちは無関係だよ。2人には手を出さないでもらいたいな」
「…テメェが死ぬならそれでも構わないぜ」
音哉は前髪を掻きあげ、黒縁の眼鏡を指で押し上げた。手の間から見える瞳が、妙に涼しげだった。
「……俺に、勝てるとでも?」
穏やかな口調なのに、威圧感があった。
何かが、何かが違う。いや、気のせいに決まっている。ハッタリだ、頭の良いヤツが考えそうなことじゃないか。
「オタクパソ部の部長なんか、瞬殺だっつーの!!」
良悟は気付いていなかった。これは優越感に浸って出た言葉ではなく、精一杯の虚勢だということを。頭では優勢だと思っているのに、本能がそれを否定しているということを。鳥肌が立った。音哉が、笑い声を上げた。それは低くて小さくて、それなのに酷く響いた。気のせいじゃ、ない…?笑いを収めてもう一度前髪を掻きあげた後、音哉は笑みを浮かべた。先ほどまでとは明らかに違う、“不敵”という言葉が似合う笑顔だった。
「様子見てたけど、お前はマジでやる気っつーことだな?よくわかったよ、良悟。話し合いっつー平和的解決法は通用しないってことがな」
口調まで違う。どういうことだ、これは。
「お、お前…何なんだ……!?」
声が震えた。無意識のうちに、疑問が口を出た。ようやく頭で理解した――銃口を向けているのはこちらなのに優勢ではないし、主導権も握っていないということを。引き金を引いてしまえばいいのに、引けなかった湧き上がってくる疑問と恐怖が、指を硬直させていた。音哉は鼻で笑った。

「ハッ、何言ってんの、お前。お前が言ってただろ、生徒会長でパソ部部長の常陸音哉だよ」

その手から、何かが落ちた。煙草だ。何で、誰からも信頼される優等生の生徒会長の手に、煙草がある?音哉は指の関節を鳴らした。

「大和たちに比べれば劣るかもしれないけど、場数は踏んでんだよ…ま、大分鈍ってんだけどね。とにかく、お前に俺は倒せない、残念だけど――」

音哉の視線が、良悟から離れた。

「…良悟、後ろ……」

良悟は目を丸くし、次の瞬間には笑った。

何だ、やっぱりハッタリか。
後ろに注意を向けておいて、その隙に――ありきたりな戦法だ。
やられまいとして、役作りまでしたっつーわけか。

「バーカ、いくら俺がバカでも、そんなハッタリに騙されるかよっ!!」

「馬鹿、後ろ……弘也だッ!!」

え、弘也……山神…ッ!?

説明中に、男子相手には容赦しないと宣言していた山神弘也(男子17番)。
後ろにいるなら、確実に、殺られる。

良悟は、音哉の声に反射的に振り返った。
目の前には、汚れたカーディガンとカッターシャツ。
そして、鎌。

ヤバい……ッ!!

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


925VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 11:15:57.38868/ISGe0 (52/60)


男子10番・滝井良悟(たきい・りょうご)

テニス部。男子主流派運動部系。
金持ちの家に生まれ育てられた為か、自己中心的な性格。
しかし部内では北王子馨(男子5番)とペアを組み、その実力は全国クラス。

身長/174cm
愛称/良悟、タキ、タキくん

能力値

知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★☆☆☆☆

★★★★★

★★★☆☆

★★★★★

★★★★☆

★★★☆☆
 


支給武器:コルト・ガバメント
kill:津村翔平(男子12番)
出雲淑仁(男子1番)
北王子馨(男子5番)
killed:山神弘也(男子17番)
凶器:鎌
 

B=06エリアで馨を襲う。馨のことが嫌い?

G=05エリアで翔平を襲う。右手を負傷するが、翔平を銃殺。

F=06エリアで吉住徳馬(男子18番)を襲う。後一歩のところまで追い詰めるが、西谷克樹(男子13番)に邪魔され逃走。負傷した模様。

D=04エリアで淑仁と馨を発見。2人を銃殺。ワルサーPPK入手。

B=07エリアにいる。馨が嫌いだと思っていたが、本当は馨が嫌いだと思っている自分のことが嫌いだと言うことに気付き、悔やむ。人の声に気付き、殺害するために移動開始。それは常陸音哉(男子14番)・伊賀紗和子(女子3番)・高井愛美(女子13番)だった。対峙するが、音哉の豹変に動揺。その音哉に忠告を受けたが間に合わず、背後にいた弘也に鎌で頭部を刺され死亡。

 

終盤戦最初の犠牲者はタキでした。
友だちがまぶしすぎて自分が陰になってしまう・・・割とありそうじゃないですか?
自己中というよりも、人間らしかったんじゃないかなぁと思ったりします。


926VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 11:17:07.05868/ISGe0 (53/60)


男子13番・西谷克樹(にしたに・かつき)

部活は無所属。孤立派。
クラス1大柄な体と強面のために、滅多に人が寄り付かない。
顔の傷は不良との喧嘩で付いたと噂されている。

身長/182cm
愛称/特になし

能力値

知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★★☆☆☆

★★★★★

★★★★☆

★★★★☆

★★★★★

★★★★☆
 

支給武器:ブローニング・ハイパワー9ミリ
kill:なし
killed:村主環(女子12番)
凶器:USSR マカロフ
 

顔面の傷は、母親からの虐待によって付けられたもの。
小学生の頃から、村主環(女子12番)を気にかけている。

甲斐駿一(男子3番)・鳳紫乃(女子6番)に襲われている高谷貴瑛(女子13番)を救い、共に行動する。

誰かを探している。吉住徳馬(男子18番)を探す貴瑛と共に行動し続けることにする。

F=06エリアで、滝井良悟(男子10番)に襲われている徳馬を救う。

C=03エリアで休息を取る。貴瑛に告白するか悩む徳馬の背中を押してやり、気を遣って外に出た。D=02エリアで駿一・紫乃に再び襲われ、被弾と腹部を刺されたことで瀕死の重傷を負うが、駿一を刺して逃げ出す。E=02エリアで環に発見され、上半身を撃たれる。最期に環を助けられなかったことを謝り、想いを告げ、息を引き取った

 

今作の無口ボーイ、克樹くんでした。人間不信って難しいですね。
でも、本当は優しくて、人を思いやることができる良い子だったんです、ということが伝わればなぁと思います。個人的に書きにくいけど好きな子でした。


927VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 11:19:02.94868/ISGe0 (54/60)

 



女子1番・逢坂珠尚(あいさか・すなお)

テニス部。孤児院組。
クラス1低身長で、外見・中身共に幼い。
天真爛漫で、時に我侭。

身長/144cm
愛称/珠尚、珠尚ちゃん
特記/両親が事故死したため、施設に引き取られた。

能力値

知力:

体力:

精神力:

敏捷性:

攻撃性:

決断力:

★★★☆☆

★★★☆☆

★★☆☆☆

★★★★☆

★★★☆☆

★★★★☆
 


支給武器:S&W M686
kill:薮内桃子(女子19番)
佐倉信祐(男子6番)
梶原匡充(男子4番)
吉住徳馬(男子18番)
伊賀紗和子(女子3番)
須藤大和(男子7番)
加古美里(女子7番)
killed:玖珂喬子(女子9番)
凶器:鎌
 

潤井正純(男子2番)と生き残る為にやる気になる。

D=07エリアで桃子を銃殺、津村翔平(男子12番)に傷を負わせる。翔平に突き飛ばされ、追う事ができなかった。

F=10エリアで村主環(女子12番)と戦闘になるが、環に追い詰められたため敗走。

D=04エリアでの騒ぎを聞きつけた。クラスメイトたちの亡骸の中愕然としていた信祐を発見、銃殺。Vz61 スコーピオン入手。

D=02エリアで匡充と遭遇。昔は懐いていたが、「いらない」と突き放し、銃殺。探知機入手。

F=04エリアで常陸音哉(男子14番)・伊賀紗和子(女子3番)・高井愛美(女子13番)に襲撃をかけ、紗和子に傷を負わせる。追撃を音哉に阻まれ、音哉にも傷を負わせるが、自らも傷を負った。その後吉住徳馬(男子18番)・高谷貴瑛(女子14番)を発見、攻撃。徳馬を銃殺した。更に探知機を使って音哉たちを発見し再び襲うが、紗和子の邪魔で音哉と愛美を逃がし、探知機も破壊された。癇癪を起こして紗和子を射殺。

E=06エリアで正純・加古美里(女子7番)を発見。美里を負傷させるが、正純から予想外の抵抗を受け敗走。図書館(B=08エリア)で癇癪を起こし暴れ、スッキリする。

E=10エリアで須藤大和(男子7番)と山神弘也(男子17番)の決闘を目撃。弘也が倒れた後、隙だらけの大和と玖珂喬子(女子9番)を撃ち、正純を優勝へ導く。美里を[ピーーー]ため、礼拝堂へ向かう。

H=08エリアの礼拝堂で、正純・美里を発見。2人の仲睦まじさに機嫌を損ね、美里と正純を罵り、正純の過去を暴露。怒った美里を殺害。更に正純に見下されたことに腹を立てて殺そうとしたが、殺したはずの喬子からの襲撃を受ける。腹部を撃たれ重傷。正純に助けを求めるが叶わず、鎌で頭部を刺され死亡。

 

幼い、天真爛漫、我侭・・・全ての設定を活かせたと思われる珠尚でした。
読者様からも怖いという意見をいっぱい頂き、嬉しかったです。
動かしやすく、書いてて楽しい子でした。決して悪い子ではないと思います。


928VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 12:49:16.25shoXMm5Io (1/1)

投下中には荒らさないとこみるとこの荒らしはツンデレなのか?


929VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 14:37:33.82868/ISGe0 (55/60)

「俺のは誰が書くの? あぁ、山城ね、ナルホド。
 正純は良いヤツだな、誰にでも優しいし…あ、正純、宿題見せて!!
 いつも同じ孤児院の連中とつるんでるから、時々少し近寄りがたい」
 

男子2番・潤井正純
「たまには宿題は自分でやろうよ、淑仁。
 シュンは他の野球部員に比べたら大人しい感じだよね、それっぽくないというか…
 鳳さんに尻に敷かれてない?」

 

男子3番・甲斐駿一
「敷かれてないよ!! 正純失礼だよ!!
 カジは明るいヤツ、小さいけど俺なんかよりすごいしっかりしてる。
 可愛いよね、顔立ちが」

 

男子4番・梶原匡充
「小さいとか可愛いとか余計なこと言い過ぎ、シュンの馬鹿っ!!
 馨くんはなんかほんわかしてるよね、でもテニスすると別人になるらしいよ!
 俺ね、馨くんの青い目に憧れるんだ!!」

 

男子5番・北王子馨
「これは親の遺伝だからね、匡充、憧れるならカラコンとか入れてみる?
 信祐は赤縁眼鏡のお洒落さん、黙ってればいい男だと思うけど少しうるさいかな。
 うわ、殴らないでよ!!」

 

男子6番・佐倉信祐
「黙ってなくたって良い男だいっ!! そりゃ馨ちゃんには負けますけどねっ!!
 大和はおっかない――嘘です、とってもかっこよくてとっても喧嘩がお強い!!
 髪留めてるピン、いつもしてるけどチャームポイント?」

 

男子7番・須藤大和
「これは喬子が可愛いって言うから…って何言わせる、[ピーーー]ぞ信祐っ!!
 隅谷は小さい、女顔、やかましい、多分しょっちゅう暴走してる。
 あ、信祐とは従兄弟、だったか?」

 

男子8番・隅谷雪彰
「女顔って言わないで…いや、何でもないです須藤サン!
 勇人はとってもおっとりしてるよね、爽やか笑顔っ!!
 吹奏楽部で…楽器何やってるの?」


930VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 14:39:18.32868/ISGe0 (56/60)

男子9番・十河勇人
「パーカッションだよ。 てか別に爽やかじゃ…雪彰の方が爽やかかも。
 良悟はお金持ちでテニスが上手で僕なんかよりとてもすごい人。
 馨とペアを組んで全国大会に行ったこともあるみたい」

 

男子10番・滝井良悟
「うぜっ、何卑屈になってんだっての、十河。
 ナオは外見すっげぇぼーっとしてんのに、実はすごいヤツだよな。
 頭も良くて運動もできてさ」

 

男子11番・多田尚明
「なぁ良悟、俺ってそんなにぼーっとしてるか?
 翔平はとても面倒見いい人だ、多分薮内が関係してるんだろ。
 水泳頑張ってるから肌すっげぇ黒いな、紫外線大丈夫か?」

 

男子12番・津村翔平
「大丈夫だろ、わかんねぇけどさ。 多田っちも大概焼けてるぜ?
 俺西谷の事書くの? よくわかんないから書けないって!! 無愛想で無口だし…
 顔にあるでっかい傷、喧嘩でついたのかな?」

 

男子13番・西谷克樹
「津村、余計な詮索はするな。
 常陸は生徒会長。 学年1の天才。 運動もできる。 教師にも信頼されている。
 眼鏡を掛けている。 身長は俺より低い」

 

男子14番・常陸音哉
「そりゃあそうだよ、西谷は1番背が高いじゃないか。
 勝則は不良少年、粗暴だし学校の備品は壊すし反省文はサボるし煙草臭いし。
 まぁ、俺はあまり関わりを持ってないからわからないけどね」

 

男子15番・藤野勝則
「嘘付け!! 会長だって昔は…いいや、すまん、許せ。
 持留はウゼェ、ちまちましてるし、うじうじしてるし、ちょっかい出すと泣くしよ。多田がお守り役なんだろ?」


931VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 14:40:08.64868/ISGe0 (57/60)

男子17番・山神弘也
「持留、言っとくけど俺は女の子には優しいんよ?
 吉住はうちのクラスの委員長だ、真面目なヤツだな。
 この他己紹介の紙回そうって言い始めた張本人」

 

男子18番・吉住徳馬
「山神君、後がつかえてるから1週間も持つのは…ごめん、何でもない。
 四方君は頭がいい人、クラスでは2番目か3番目?
 休み時間はいつも難しそうな問題集解いてるよね」

 

男子19番・四方健太郎
「あの問題集は吉住ごときには解けない代物だぜ。
 湧井はサッカー部だか何だかに入っているタレ目。
 もっと真面目に勉強するべきだと思うけど?」

 

男子20番・湧井慶樹
「うるせー四方、余計なお世話だよ。
 逢坂は多分クラスで1番ちっこいよな、可愛らしいと思うぜ。
 部活とか見てて思うんだけど、テニスのラケット大きくないか?」

 

女子1番・逢坂珠尚
「あー! 慶ちゃんひどぉい!! 人と同じラケットでも大きく見えちゃうの!!
 怜江ちゃんは珠尚の次に小さいの、大人しい良い子だよ☆
 珠尚も怜江ちゃんくらい女の子らしくならなきゃ!」

 

女子2番・有馬怜江
「そんな…あたしは珠尚ちゃんみたいに明るくなりたいな…
 伊賀さんはこのクラスの副委員長さんでしっかりしてる人。
 とても頭が良くて、真面目な人」

 

女子3番・伊賀紗和子
「有馬さん、そんなに褒めないで。
 卜部さんは明るくて、とても人懐こい人。
 運動神経抜群で、いつも元気にはしゃいでいる人」

 

女子4番・卜部かりん
「紗和子、そんな他人行儀に名前呼ばないで、かりんで良いって!
 純佳はとっても派手、美人、だけど口悪いよね!
 …追加、柄も悪い、今もこれ見られて頭叩かれたっ!!」

 

女子5番・大谷純佳
「うるせーよかりん、人の事言えるほどそっちも上品じゃないだろ!
 鳳は大人びてる、あたしより小さいくせに。
 甲斐と付き合ってるって事くらいしか知らない」

 

女子6番・鳳紫乃
「小さいって大谷さんより1cm低いだけじゃない。
 美里はあたしの記憶ではクラスの女子の中で1番の長身。
 とても美人で長いストレートヘアーが似合っていて素敵よ」

 

女子7番・加古美里
「うっわ照れる! 紫乃、褒めても何も出ないよ!
 茉沙美は普段は大人しめ、テニスがとっても上手!色んな子に“まぁ子”って言われてるの、可愛いよね!」


932VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 14:40:57.09868/ISGe0 (58/60)

女子8番・柏原茉沙美
「美里ちゃんも呼んでもいいよ、ちなみにこれ最初に言い始めたのはかりん。
 喬ちゃんは頭が良くて可愛らしい子、誰とでも話ができる良い子。
 何で須藤君みたいな人と付き合ってるのかわからない」

 

女子9番・玖珂喬子
「柏原さんも付き合ってみればわかるよ、大和くんは良い人だって!
 リッちゃんはとっても素敵でかっこいい女の子。
 体育でサッカーしてるのを見て、本当に憧れたもん!」

 

女子10番・河本李花子
「喬子に褒められた! 頬染めて書いてる、マジ可愛いっ!!
 サチは頭も良いし運動もできて冗談もわかってくれる良い子!
 知ってた? サチって男子に人気あるんだよ?」

 

女子11番・志摩早智子
「そんな事ないって、それよりリッちゃんはピンクな話ないの?
 環サンは大人っぽくて綺麗な人、きっと笑顔もとっても素敵だよ☆
 やっぱり…喧嘩とか強いの…?」

 

女子12番・村主環
「さぁ。 周りの人が強いから出番少ないし。
 高井は頭が良い、喬子と一緒の塾に通ってる、三つ編み2本。
 確か常陸と付き合ってる」

 

女子13番・高井愛美
「何で村主さんが知ってるの!?
 貴瑛ちゃんは女の子って感じの女の子だよね、ラブリィ☆
 お兄ちゃんっ子って感じだよね、いつもお兄ちゃんの話してる」

 

女子14番・高谷貴瑛
「愛美ちゃんも見たらわかるよ、お兄ちゃん素敵な人なの☆
 鶴田さんはあたしの中ではクラスで1番大人っぽい人。
 お化粧もして、大きいピアスもして…中学生とは思えないくらい大人」

 

女子15番・鶴田香苗
「あら、ありがとう高谷さん。 というか何でこんなの真面目に書くの?
 野原さんには女っ気が足りないと思う。 がさつっぽいし喧嘩はするし。
 何で山神くんがこんな人選ぶのか理解できないわ」

 

女子16番・野原惇子
「鶴田だって書いてるし。 こんな紙で嫉妬炸裂させんなっての。
 畠山は良いトコのお嬢さんなんだっけ? 見た感じそうだけど。
 喬ちゃん情報では茶道部だって。 オシトヤカだねぇ」


933VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 19:51:39.50868/ISGe0 (59/60)

創立50年を超えた春日宮中学校では、部活動が盛んである。
特に運動部は、全国大会まで出場する者も出るほどの、ごく普通の公立中学とは思えない成績を残してきている。
春日宮中学校で最も有名なのは、男子テニス部だろう。
特に、あるダブルスペアは、朝練が7時半から始まるにもかかわらず、たくさんの見学者がテニスコートの周りに戯れている。

女子が大部分を占める見学者の注目の的にいる少年――北王子馨(男子5番)は、ラケットのガットをギシギシと指で弄びながら、ぼーっと遠くにある水道を眺めていた。
大東亜人の父と、大東亜に旅行に来た時に出会ったというフランス人の母を持つ馨は、母の血を強く受け継いでおり、色白の肌に栗色の髪と青い瞳を持つ為に、嫌でも皆の目を引いてしまう。

 

ぱこん

 

馨の後頭部に、衝撃が来た。
見ると、テニスボールが当たったようだった。

「馨、ボーッとしてんな、練習するぞ!」

「…あぁ、ごめん、タキ、やるよやるよ」

馨は後ろでラケットを手で器用に回している滝井良悟(男子10番)に謝り、コートに入った。
良悟は両耳に計6つのピアスにチョーカー、明るい茶髪という派手な外見をしている為、馨とは別の意味で目立っている。
もっとも、部活が終わればリングが両手に3つはまるので、今はまだマシな方だが。

馨と良悟は、全国でも名の知れたダブルスペアである。
1年生の時にペアを組み始め、2年生で全国大会まで行ったが2回戦敗退、今は優勝目指して練習に励んでいる。

「で、何ボーッとしてたんだよ。
 ま、馨がぼけてるのはいつもの事か」

「失礼だなぁ、タキはいつも。
 いやね、今日北山さん見てないなぁ、と思って」

北山さんとは、男子テニス部のマネージャーである。
現在2年生の、まだあどけなさの残る可愛らしい女の子だ。

「北山は調子悪いんだと。
 今日は柏原が代わりに手伝ってくれてるみたいだぜ」

「柏原…?
 何で、女テニは今日休みでしょ?」

「間違って来たんだと、アイツ抜けてるトコあるからな」

馨は倉庫からボールの入った籠を出して派手に転んだ柏原茉沙美(女子8番)を見つけた。
ボーイッシュなショートヘアーを砂埃で汚した茉沙美は、恥ずかしそうにいそいそとボールを片付けている。
顔を真っ赤にし、小さな瞳は今にも泣き出しそうになっている。


934VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 19:52:07.96868/ISGe0 (60/60)

馨の声を遮って、派手な音が響いた。
見ると、テニスコートの横、学校の外にボールが飛び出さないように高く張られた金網フェンスが小刻みに揺れていた。
フェンスにぶつかり、急に失速したソフトボールが、テニスコートに落ちた。

「おーい!!
 馨ちゃん、タキ、どっちでもいいや、ボール取ってー!!」

フェンスの向こう、手を振っていたのは、ユニフォームに小柄な身を包んだ少女、水上朱里(女子18番)だった。
ボールに近かった良悟がボールを手に取り、バッターボックスを一瞥し、大きく息を吸い込み、叫んだ。

「テメェはバカか、かりん!!
 手加減を知れ、いつかフェンスがブッ壊れるぞ!!」

「はっ、良悟にゃ言われたかないねぇ!!
 いつもいつも相手を完膚なきまでに倒してるくせに!!」

間髪いれず、ホームランを打った女子のハスキーな声が飛んでくる。

「俺ぁいつでも真剣勝負なんだよ!!」

「矛盾してんだよ、バァカ!!」

100mほど離れた所で、口の悪い良悟に張り合う口の悪さで対抗しているのは、朱里と同じソフトボール部員の卜部かりん(女子4番)。
男家系で育ったからか、女子とは思えないほどの口の悪さをしているが、それでも全く憎めないのは、サバサバとしたかりんの性格のお陰だろう。

「朱里も大変だね、あのかりんはもう止まらないでしょ」

「まぁね、でも幼馴染だもん、慣れてるよ」

馨は声を嗄らして口論を繰り広げる良悟からボールを取り上げ、ボールを待っている朱里に手渡した。

 

「朝から元気ね、かりんもタキも」

 

不意に朱里の横から声が掛かり、2人はぎょっとして声のした方を見た。
上は半袖のTシャツ、下は学校指定のジャージを膝まで捲り上げる、という格好をした鳳紫乃(女子6番)がバット数本を手に溜息を吐いていた。
肩に付くほどの黒髪を耳に掛けている紫乃は、かもし出す雰囲気が大人びている。

「おはよう、馨くん、朱里ちゃん」

「や、シュン、おはよ」

紫乃の後ろからひょこっと顔を出したのは、穏やかな笑みを称えた甲斐駿一(男子3番)。
野球部のユニフォームに身を包み、ボールの入った籠を抱えていた。
駿一と紫乃は野球部の控え投手とマネージャーという関係であると同時に、恋人同士である。


935VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/05(月) 23:52:13.15+v/w0MO9o (1/1)

>>928
どういう意味なんだ?

もう次スレかな?


936VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 00:26:52.118xn3YkS7o (1/2)

荒らしにも慣れてきて早くしないと埋めるぞ、と急かしてるように見えてきた

そろそろ次スレだけど1の最終レスが>>815で1ヶ月過ぎてるから生存報告も欲しいな


937VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:13:11.61D/J1TKXp0 (1/61)

あたしたちはみんな仲良し。

プログラムなんて、成り立つはずがない。



「君たちは、この大東亜共和国の名誉ある第68番プログラムに選ばれた。」
低く美しい声で紡がれた信じられない言葉に、櫻田かおる(女子1番)は言葉を失った。
かおるだけではなく、全員が信じられないといった様子で、教壇に立つ紳士風の男を見上げていた。

第68番プログラム――大東亜共和国に住む中学3年生で、この言葉を知らない人などいない。
全国の中学校から任意に選出した3年生の学級内で、生徒同士を戦わせ、生き残った一人のみが、家に帰ることができる、わが大東亜共和国専守防衛陸軍が防衛上の必要から行っている戦闘シミュレーション――小学4年生の社会の教科書にも出てくるし、ローカルニュースで年に一度くらいは目にするものだ。
傷だらけ血塗れの少年少女が両脇を軍人らしき人たちに抱えられながらカメラの方をじっと見つめ、なぜか総じて笑みを浮かべる――ニュースで流れるホラー映画顔負けの不気味な映像は、かおるの脳裏にもしっかりと焼きつき、忘れようと思っても忘れられない。

「い…いやぁ……冗談っしょ?うちみたいなさ、6人しかいないちっちゃいクラスでそんなの…なぁ?」

神尾龍之介(男子3番)が引き攣った声を上げ、クラスメイトたちを見回した。「誰か、冗談だって言ってくれ」、龍之介の目が訴えてきたけれど、かおるは視線をそらし、俯くことしかできなかった。

「ごめんなあ、神尾ーこれ、冗談ちゃうねん。でもこんな空気の中頑張って発言した神尾の勇気に免じて一コケシやろ!」

チューリップハットに花柄のシャツを着た若い男はヘラッと笑い、龍之介の机の上にコケシを置いた。
龍之介はコケシを凝視し、視線をチューリップハット男の顔へと上げ――笑顔を向けられて慌てて視線を逸らしていた。
龍之介の背中越しに見えるコケシの顔が不気味に見えて、かおるはぶるっと体を震わせた。

「話を戻そう。君たちは第68番プログラムに選ばれた。つまり、これから、君たちには殺し合いをしてもらう」


938VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:14:06.24D/J1TKXp0 (2/61)

”殺し合い”――その言葉が、ずしんとかおるに圧し掛かる。

そんな、たった6人の仲良し同士なのに…そうだよ、できるわけないよ。
みんな、いい子だもん、そんな酷いこと、できるわけない…よね?

かおるは隣に座っている大塚千晴(男子1番)へと目を遣った。
椅子に深く腰掛け、じっと前に座る龍之介の広い背中を見つめていた千晴だったが、かおるの視線に気づいたのかかおるの方へ首を傾け、ふっと笑みを浮かべた。
大丈夫だよ、かおるちゃん。そう言ってくれているみたいで、少しだけ、心が落ち着いた気がした。

「プログラムの間、私たちが君たちの担当となる。私は、担任の、榊原五郎(さかきばら・ごろう)だ。隣の2人は、私の補佐を行っていただく先生方で、右側が虎崎れんげ(とらさき・れんげ)先生、左側が渡部ヲサム(わたなべ・をさむ)先生だ」

榊原と名乗るスーツ姿の男は、まるで指揮者がタクトを振るような優雅な動きで黒板に名前を書いた。
ピンクジャージの気が強そうな中年女性は虎崎、チューリップハット男が渡部だそうだ。

「ちょっと待ってください」

かおるの前の席に座る中條晶子(女子2番)が声を上げた。
かおるは、ぴっちりと綺麗に結い上げられた晶子のお団子頭に視線を向けた。

「私たちの担任は、藤くん…藤丸先生です。藤丸先生は、私たちがプログラムに参加することを認めるはずがありません」

凛とした声、はっきりとした口調。いつもと変わらない、委員長であるかおるよりもずっとしっかりとした口調で、晶子が述べた。

そう、かおるたちの担任は藤丸英一先生。23歳の新任の先生で、クラスのみんなから「藤くん」と慕われ、藤丸も全員のことをファーストネームで呼ぶ。休み時間に一緒に遊ぶこともあれば、放課後に勉強に付き合ってくれることもあり、生徒たちにラーメンを奢ってくれることもある、先生と言うよりもお兄さんのような存在。
そんな藤丸が、かおるたちのプログラム参加を認めるはずがない。

「中條、次からは質問の際は挙手をするように。
確かに藤丸先生は君たちがプログラムに参加することを反対しておられた。そのため、少々手荒な手段を取らせてもらった」

榊原は渡部に視線を投げ、ぴしっと親指以外の指を前方に突き出した。渡部は頷いて一度廊下に出ると、ずるずると何かを引きずりながら戻ってきた。

「いやあああああッ!!!藤くん、藤くんッ!!!」

かおるの後ろ、成瀬萌(女子3番)が金切り声を上げた。
元々色白だが、むしろ顔面蒼白となった萌がふらりと椅子から崩れ落ちたが、隣の席の柏谷天馬(男子2番)が咄嗟に両手を伸ばして受け止めたので、床に体を打ち付けることはなかった。
萌の華奢な身体を抱き止めた天馬の表情は引きつっていた。そして、それは、天馬だけではなく全員だったのだが。
それもそのはず、渡部が引きずり椅子に座らせたのは、かおるたちの担任の藤丸だった。
ただし、その姿は、見慣れたものではなかった。青いTシャツは所々黒く変色し、Tシャツから生えた筋肉質な腕にはいくつもの痣ができ、やや幼いけれども整ったパーツが並べられた顔は見る影もない程に腫れ上がり、外はねのクセがある赤みのある茶髪はぼさぼさになっていた。小さく肩を上下させているので息はあるようだが、意識があるのかどうかはわからない。

「藤くんッ!!!」

机を倒して駆け寄ろうとした龍之介だったが、虎崎の蹴りを鳩尾に食らって吹っ飛び、千晴の机へ突っ込んだ。


939VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:14:35.36D/J1TKXp0 (3/61)

「勝手に席を立つんじゃないよ!!今度やったら、こんなモンじゃ済まないからね!!」

龍之介のもとに駆け寄ろうと腰を上げていた晶子が、虎崎の怒声に身を硬直させた。
かおるは身が竦んで動くことすらできず、ただ苦しそうに咳込む龍之介と、「大丈夫か」と声を掛けて背中を摩る千晴を見ていることしかできなかった。

「静粛に。それでは、藤丸先生もいらしたところで、プログラムのルールについて説明を始める。皆の命に関わることなので、注意して聞くように。神尾、柏谷、成瀬、席に着け」

千晴の机に体を預けて咳込んでいた龍之介が、ふらふらと立ち上がり、自分で倒した机を元に戻して着席した。痛みと恐怖と怒りが綯い交ぜになったような、普段の明るく元気な姿からは想像できないような表情を浮かべていた。
天馬は萌を座らせた後無言で席に戻ったが、その体はずっと震えていた。

龍之介と天馬と萌が席に着く様を確認すると、榊原は黒板の脇に丸めて立て掛けられていた模造紙を開き、黒板に磁石で貼り付けた。縦横4マスずつに区切られた地図のようだった。榊原は咳払いを一つし、話し始めた。

「ルールについては皆知っていると思うが、最後の1人になるまで殺し合いをしてもらう。基本的にここでは何をしてもらっても構わないし、誰かと手を組むことも、裏切ることも、また単独行動をするのも自由だ。
黒板に注目してほしい。これは、皆が戦う会場、青春海立運動公園(せいしゅんうみだちうんどうこうえん)の地図だ。端には柵を作ってあるので、この地図に書かれていない場所へは行くことができないので注意するように。ちなみに、今皆がいるのは、B-3エリアにある公園の管理事務所だ」


940VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:15:08.14D/J1TKXp0 (4/61)

青春海立運動公園――かおるは、何度か訪れたことがあった。春は桜、秋は紅葉が美しいことで有名な場所であり、家族と来たこともあれば、美術部仲間の千晴とスケッチに来たこともあった。そんな場所で、プログラムを行うだなんて。

「プログラム中、誰かが死亡する毎にこちらから放送を行う。その時に、禁止エリアというものを発表する。禁止エリアとは、立ち入りを禁止するエリアのことだ。
それに関係するのが皆に装着してもらっている首輪だが、これは皆の居場所や生死をモニターするものである。禁止エリアに立ち入った場合、こちらから首輪に電波を送る。電波を受信した首輪は、1分間警告音を発した後爆発するので、禁止エリアには立ち入らないように。また、警告音が鳴った場合には、1分以内に禁止エリア外に出るように。
それと、無理に引っ張っても爆発するからあまり触らないように、櫻田」

首元に手をやっていたかおるは、榊原から名指しで注意されて慌てて手を膝の上に戻した。それにしても、首輪が爆発だなんて、おかしいにも程がある。今、かおるたちは、首に爆弾を着けて座っているということになるのだから。

「それから、出発の際には、こちらから荷物を渡す。水や食料、会場の地図と磁石、懐中電灯と時計、それから武器を入れてある。これはランダムで渡すので、武器を選ぶことはできない」

渡部が再び廊下に出、今度は6つのデイパックを両腕に提げて戻って来た。相当の重さがあるのだろう、それらを床に置いた時にはその振動が足元に伝わってきた。

「説明は以上だ、質問はあるか」

かおるは俯いた。質問なんて、「どうして自分たちがプログラムに参加しなければならないのか」くらいしか思い浮かばないが、そんなことを言えば藤丸や龍之介のように理不尽な暴力を振るわれるに決まっている。
ちらっと隣を盗み見ると、千晴も同じように俯いていた。クラス1騒がしい龍之介も、しっかり者の晶子も、何も言わなかった。

「っく…ひっく……いや…怖いよぅ…」

かおるの後ろで、萌が消え入りそうな声で嗚咽交じりに呟いた。その悲痛な声に、かおるの双眸からもぼろぼろと涙が零れ落ちた。怖い、怖い、怖くてたまらない。


941VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:16:04.87D/J1TKXp0 (5/61)

「泣き事言ってんじゃないよ!!世の中、嫌なことを避けて進めるようにはできてないんだよッ!!」

虎崎の怒号が飛び、かおるはびくっと体を震わせた。萌の嗚咽が一瞬止まったが、先程よりもより大きな声で泣きじゃくり始めた。
そのことに苛立ったらしい虎崎が、大きな足音を立てて萌の横に立ち、萌のふんわりとした栗色の髪を鷲掴んだ。萌が「いやぁッ!!」と甲高い悲鳴を上げた。

「や、やめろよ、成瀬を離せッ!!
泣いたって、怖がったって…そんなの当たり前だ!!今から殺し合えとか言われて平気なヤツ、いるわけないだろ!!成瀬の反応ってすっげー普通じゃん、声にしてなくたって、俺ら全員絶対同じこと思ってるし!!!」

天馬が叫んだ(恐怖からか、声は引き攣り時に裏返っていたけれど)。
虎崎は萌から手を離し、今度は天馬の隣へと移動し、拳を振り上げた。「天ちゃん!!」とあちこちから声が上がり、天馬は目をぎゅっと瞑った――が、天馬が先の龍之介のように吹っ飛ぶことはなかった。拳が当たる寸前で、榊原から制止の声が掛かったのだ。

「まあまあ虎崎先生、落ち着いてください。柏谷の言う通りですよ」

「…まあ、そうだねぇ」

虎崎は納得したように何度か頷くと、教室の前方へと戻って行った。
萌が席を立って天馬に泣きついた時には立ち止まって振り返りその様子を睨んでいたが、「ほれ、さっさと席に戻りな」というお咎めの言葉以外は何もなく、皆がほっと溜息を吐いた。

「それでは、これから1人ずつ順番に出発してもらう。なお、足元に置いてある各自の私物は持って行っても構わない。
出発した者が本部のあるB-3エリアを出た時点で次の者が出発し、最後の者が出発してから20分後にこのエリアは禁止エリアに指定されるので、早くここから立ち去るように。あまりに長いこと居座っていると後が閊えてしまうから、その場合には制裁を行うこともありうるので気を付けること」

榊原はスーツの内ポケットから封筒を取り出すと、鋏で封を切った。中から1枚の紙を出した。

「それでは、最初の出発者を発表する。

男子1番・大塚千晴、逝ってよし!」

全員の視線が、千晴に集まった。千晴はぽかんとしていたが、虎崎の「ほれほれ!!」と急かす怒号に押されるように立ち上がった。足元の鞄を肩に掛け、ゆっくりと教卓の前に立った。

「みんなのご家族にはちゃんと報告してあるから、存分に戦ってな!ほんなら大塚、先生の言う言葉を繰り返してなー!
私たちは殺し合いをする、はい!」

渡部の口から飛び出したとんでもない言葉に、千晴は「…え?」と茫然とした声を漏らした。

「ほらほら、ちゃんと言わなコケシで殴るで?私たちは殺し合いをする、はい!」

「わ…たしたち、は、殺し合いを、する…」

「よっしゃよくできました、ほんなら次、殺らなきゃ殺られる、はい!」

「やらなきゃ…やられる…」

まるで洗脳しているみたいだ、かおるは思った。

「…千晴……ごめんな……」

不意に、小さな声が聞こえた。掠れて虚ろだけれど、藤丸の声だった。
千晴が藤丸の方に顔を向けた。

「藤くんのせいじゃないよ……藤くんは、何も悪くない…でしょ?」

千晴の静かで優しい声。相手を思いやり労わる、聞き慣れた声。
千晴はあんな上辺だけの言葉で洗脳なんかされやしない、いつもの穏やかで優しい千晴のままだ。


942VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:16:36.22D/J1TKXp0 (6/61)

千晴は渡部からデイパックを受け取ると、クラスメイトたちの方へ向き直った。一人ひとりの顔を順番に見遣り、小さく笑んだ。

「俺は、みんなを信じてる…だから、みんなも俺を信じて」

千晴はそう言うと、まるで毎日の下校時のような足取りで教室を出て行った。

千晴の残した言葉は、ほんの僅かだけれど教室内に満ちた重苦しい空気を晴らした――少なくともかおるはそう感じた。

そう、きっと大丈夫。誰も、実際に殺し合いなんてするわけがないんだ。

【残り6人】


943VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:17:44.62D/J1TKXp0 (7/61)

藁路文雄(男子22番)はペアの森川達志(男子20番)に声を掛けた。
達志は半泣きの状態でその場に蹲った。

「おい、タツ!
 危ないって、こんなところで止まってたら…」

因みにここはD=07エリアにある山の麓だ。
ここは木がはげていて、周りから見たら一発で見つかるような場所だ。

「だって…俺怖い…
 今のピストルの音で誰かが死んだんだよ、きっとっ!」

達志は文雄の幼馴染だ。
小さい頃から一緒に遊んだりした仲なので、達志についてはよく知っている。
達志はとても優しい少年なので、きっと今の銃声で死んだと思われるクラスメイトに心を痛めているのだろう。
心を痛めてるのは文雄も一緒だが。

文雄は達志の頭をポンッと軽く叩いた。

「わかってる、俺だって怖いし。
 でもな、俺はまだ死にたくないし、お前にも死んでほしくないんだ。
 和に手紙渡して合流できるようにしたから…
 俺らはその場所に先に行かないとな」

「手紙…?」

「ああ、この島の1番東で落ち合おう…ってな。
 和なら大丈夫だ、俺は信用できるし、タツもできるだろ?」

和――土谷和(男子10番)は、殺し合いができるような人間ではないと思う。
あの不良グループのリーダーの江原清二(男子3番)にさえ、気軽に話し掛けられるほど友好的な人間だ。
文雄とは席が前後だったこともあって、手紙を渡す事が出来た。

「できるだけ仲間を集めたいんだ。
 信用できるヤツを集めて、脱出したい」

「だ…脱出!?」

達志が驚いて顔を上げたので、文雄は頷いてみせた。
脱出、確か何年か前に香川でそれをやってのけたヤツらがいたらしい。
政府が血眼になって探しても見つかっていない。
このクソゲームには、穴があるに違いない。

政府の言いなりになんかなるもんか!

 

文雄は養護施設で育った。

文雄が4歳くらいの時だったと思う。
それまでは普通に家で家族に囲まれて過ごしていた。
しかし、ある日突然政府の連中がオレの家にずかずかと入り込んだ(靴ぐらい脱げってんだ)。


944VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:19:08.20D/J1TKXp0 (8/61)

文雄が4歳くらいの時だったと思う。
それまでは普通に家で家族に囲まれて過ごしていた。
しかし、ある日突然政府の連中がオレの家にずかずかと入り込んだ(靴ぐらい脱げってんだ)。
そして、いきなり父親を撃ち殺した。
母親は文雄を押入れの中に隠し、その後撃ち殺された。

文雄は運良く見つからなかったので、今もこうして生きている。
文雄の両親は、どうやら反政府組織に入っていたらしく、それがバレて殺された。

 

政府に両親を殺された文雄が出来る政府への仕返し、それはこのクソゲームから脱出する事だ。
逃げ出して、政府のやつらに一泡吹かせてやる。

「ふ…文雄!」

達志がいきなり文雄の名前を呼んだ。
すごい怯えた声で。

「何だ、どうかしたか?」

「だ…誰かが今そこに…!」

何だと!?
文雄は舌打ちをして、支給されたマシンガン(イングラム M11)を構えた。

「誰だ、出て来い!
 あ、言っとくけど、俺は殺し合いなんかしないからなっ!
 神様仏様に誓ってこれ撃たねぇからなっ!」

達志は自分のデイパックを自分たちから離して置いた。
それはもちろん正しい行動だ。
達志の支給武器はガソリン1リットル、引火したらただじゃ済まない。

やがて、茂みの中から2人出てきた。

「陸ちゃん! 依羅!」

文雄は声を上げて、イングラムを下ろした。
それは陸社(男子6番)と依羅ゆた(女子18番)だった。
社は、達志と仲が良くていつも一緒にいた。
小説家志望の達志と、読書好きの社は気が合うらしい。
ゆたはすごいボーイッシュな女子で、休み時間はよく一緒に遊んだ。
最近は受験勉強だ何だで、遊んでくれないが。

「ワラ…タツ…無事だったのか」

社の声はとても静かで、かっこいい。
そんな声で話し掛けられたら照れる…ってそんなことはどうでもいいか。

「陸ちゃん!!」

達志が社のもとに走り寄った。
社は少し笑って、達志の頭を撫でた。
たった142cmしかない達志と、文雄より2cmほど高い179cmもある社は、まるで父子だ。

「なあ、陸ちゃん、依羅。俺らと組む気ないか?」

文雄の提案に、2人は文雄の方を見た。

「俺ら、仲間を探してるんだ。だから…」
「いや、やめとくよ」

社は文雄の言葉を遮って答えた。

「あ、勘違いしないでくれよな。別にワラたちを疑っているわけじゃない。ただ…」

ゆたにバトンタッチ。

「信じきれる自信もないんだよね。そのせいでギクシャクして…っていうのも嫌でしょ?」

文雄は言葉に詰まった。確かに、こんな状況で人を信じることは難しいだろう。

「…わかった、じゃあ引き止めない。でもさ…俺らがもう1回会って、その時陸ちゃんたちの力が必要なら…その時は力になってくれないかな?」

「……考えておくよ」

それだけ言うと、社とゆたはまた茂みの中に入っていった。文雄と達志は再び東を目指した。同時刻、新藤鷹臣(男子8番)は支給されたリボルバー式拳銃(S&W M686)を右手に、とにかく学校から離れていた。横には、先程の銃声に怯えきった幼馴染の雪倉早苗(女子16番)がいる。


945VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:19:54.26D/J1TKXp0 (9/61)

同時刻、新藤鷹臣(男子8番)は支給されたリボルバー式拳銃(S&W M686)を右手に、とにかく学校から離れていた。
横には、先程の銃声に怯えきった幼馴染の雪倉早苗(女子16番)がいる。
早苗の手にはうちわが握られている。
こんな物が武器って言えるのか?

「…早苗、少し休むか?」

「え? あ、ううん、大丈夫。
 鷹臣こそ大丈夫?
 あたしの荷物まで持ってもらっちゃって…」

「平気だって。
 これでも元運動部員だぜ?」

そう、オレはまだ大丈夫なんだ…
問題なのは早苗だ…

早苗はこのプログラムには最も相応しくない非暴力主義者だ。
とても大人しくて、か弱い女の子だ、ついでに関係ないが元演劇部員だ。

何でかは知らないが、昔から早苗は虐められていた。
その度に鷹臣は早苗を守った。
今では虐めもなくなったが、早苗を虐めた張本人は同じクラスだ。
不良グループの楠本章宏(男子7番)と平馬美和子(女子11番)。
早苗は今でもあの2人に怯えている。

あの2人はきっと早苗に会ったら躊躇せずに殺しにかかるだろう。
そうなる前に、自分ががあの2人をどうにかしないといけない。
しかし、早苗は鷹臣が暴力を振るおうとすると怒る。
「鷹臣、暴力なんてだめ!!」、と泣いて怒る。
きっと、今のこの状況でも、早苗は同じ事を言うだろう。

「…早苗、もし誰かが襲ってきたら…どうする?」

早苗はにっこり微笑む。

「説得かな?
 それはきっと怖いから襲ってくるのよ。
 だから、落ち着かせたら大丈夫…だと思うの」

ほら、やっぱり。
しかし、本気でプログラムに乗る人間だっているはずだ。
だから毎回毎回プログラムの優勝者というものが出てくるんだと思う。
乗った人間には何を言っても無駄だろう。
おそらく朝倉伸行(男子1番)を殺した人物も乗ったか、狂ったかだ。
伸行も抵抗したに違いない、しかし死んだ。

俺はただ早苗を守りたいだけなんだ…

なので、鷹臣は1つの決心をした。
誰か絶対的な信用ができる友達――例えば委員長の宇津晴明(男子2番)や、早苗の友達――例えば結木紗奈(女子15番)らがいるペアを見つけたら、早苗を彼らに預けよう。

そうすれば、早苗もきっと安全だし、鷹臣は自分のしたいことができる。
鷹臣は楠本たちを許さない。
早苗に危害を加えようとするヤツも許さない。

「鷹臣、どうしたの?
 そんな険しい顔しちゃって…」

早苗が鷹臣の顔を覗き込んだ。
鷹臣は早苗の頭を撫でた。小さい頃から、早苗が心配そうな顔をした時にはやっていたことだ。


946VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:22:41.09D/J1TKXp0 (10/61)

赤木明子(女子2番)は、学校の廊下を先先進んでいく水城蓮(男子16番)を追いかけている。
明子は蓮のことを『蓮くん』と呼んでいるが、決して親しいわけではない。
何しろ『みずきくん』と呼ぶと、実月裕太(男子18番)と一緒になってしまう。
これは明子だけでなく、クラスメイト全員がそう呼んでいる。
蓮や裕太を苗字で呼ぶ人はいない。
しかし『蓮くん』と呼ぶのには、蓮は可愛らしいのでお近づきになりたいという下心が、ないわけではない。
関係無いが、可愛いとは言っても、身長は明子の方が低い。
バレー部に所属していたにもかかわらず、明子の身長は151cm。
バレー部だと背が高くなる、と聞いて入ったが高くならなかった。
蓮は男子にしては低いが、それでも160cm。

「ね、ねぇ、蓮くん!
 ちょっと待ってよぉ!」

明子が叫ぶと、蓮は歩くのをやめた。
振り返って明子が来るのを待っていた。

蓮は、とても優しい人だと思う。
双子の姉の水城凛(女子13番)に近寄る男子に対しては別だが。

例えば凛と付き合っているという土方涼太(男子13番)への対応は凄い。
朝、涼太が登校してきたらまず睨む。
授業中、涼太が当てられてたら睨む。
休み時間、涼太の声が大きかったら睨む。
凛と喋れば睨む。
昼休み、お弁当を食べている涼太を睨む。
とにかく1日中睨み続けてる。

何でそんなに明子が知っているのか。
それは、明子がずっと蓮を見ているからだ。

蓮のプロフィールは頭の中に入っている。
誕生日は6月29日で、血液型はB型だとか。
昔から体が弱くて、運動があまりできないとか。
いつも森川達志(男子20番)や陸社(男子6番)と一緒にいるとか。
凛の事が大好きだとか…

明子の口から無意識のうちに溜息が出た。
こんなに見ていても、蓮にとってはただのクラスメイトに過ぎない。

「どうしたの、赤木さん…?」

「あ、ううん、何でもない…
 どうしてこんな事になっちゃったのかな、って思っただけで…」

「…そうだよね、どうして…凛ちゃん……凛ちゃん、誰とペアなんだろう…
 嫌だよ、土方とペアになってるとか…」

明子は何も言わなかった。ただ、本当に凛の事が好きなんだな、と思った。なんとなく悔しい。嫉妬でもしているのかな…?おかしいね、ただの血を分けた姉弟なのに。明子と蓮は学校の外に出ると、正面の茂みに身を隠した。

「蓮くん、誰か待ってるの?」
「凛ちゃんが誰と出てくるか見ないと…」
「…そう」

あたしはまた溜息を吐いて、デイパックを開けた。中は荷物を無理に詰め込んだようでパンパンだ。とりあえず防寒具を外に出し、支給武器を探した。誰かを殺そう、とか考えているわけではない。ただ、護身用に何かあったほうが良いかな、と思っただけだ。

「あ、あった、コレかな……え…?」

明子は開いた口が塞がらなかった。当然だろう。武器だと思われた物が、季節外れの花火セットだったので。

「…何?どうしたの、赤木さん?」

蓮が明子の方を見て、同じくポカンと口を開いた。そして、笑った。その笑顔はとても愛らしく、おそらく男子が見ても惚れてしまうだろう。

「それで遊べって事かな?」
「いや…そんな…」

明子は自分の頬が火照っているのがわかった。あんな可愛い天使のような笑顔を向けられたら誰だってこうなってしまう、きっと。蓮も自分のデイパックを開いて武器を探し始めたようだ。

「あ、あった…」

蓮の武器はシグ・ザウエルP230という名前の銃だった。蓮の視線はそれに釘付けになっている。当然だろう、普通の中学生が手にできるような物ではないのだから。明子もそれをずっと見ていた。こんな物で簡単に人を[ピーーー]事ができる。そう考えるととても怖かった。

「蓮くん…それ…使うの…?」

明子が訊くと、蓮は笑った。明子にはその笑顔の意味がわからなかった。『使うわけないじゃない』っていう笑い?それとも『使うに決まってるでしょ?』という笑い?先程の笑顔とは少し違うようだった。

「ねぇ、赤木さん…」蓮が明子の名前を呼んだ。「赤木さんは…死ぬとどうなるかわかる?」

明子は首を傾げた。もちろんそんな事を知るわけが無いし、どうしてそんな事を突然言うのかわからなかったので。


947VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:24:56.04D/J1TKXp0 (11/61)

第1回放送
PM4:07 朝倉伸行(M1) 牧山久美(F12) ボウガン 頭部損傷 D=06
PM4:11 矢口宗樹(M21) 金坂葵(F5) ブローニング・ベビー 頭部被弾 D=06
PM4:36 赤木明子(F2) 水城蓮(M16) シグ・ザウエルP230 胸部被弾 D=06
PM4:44 西野葵(M12) 笠原飛夕(M5) コルト・ロウマン 胸部被弾 E=05
PM5:02 実月裕太(M18) 相原香枝(F1) 釣り糸 窒息死 E=07
PM5:32 遠藤圭一(M4) 江原清二(M3) ミニウージー 全身被弾 E=05
PM5:40 湯中天利(F17) 今村草子(F4) ジェリコ941 胸部被弾 E=05
第2回放送
PM7:02 平馬美和子(F11) 高原椎音(F8) ワルサーP99 頭部被弾 D=03
PM8:17 宝田義弘(M9) 福屋和行(M15) 文化包丁 失血死 C=06
PM8:19 福屋和行(M15) 江原清二(M3) ミニウージー 全身被弾 C=06
PM10:07 新藤鷹臣(M8) 都竹航(M11) シグ・ザウエルSP2340 頭部被弾 C=06
PM10:07 楠本章宏(M7) 都竹航(M11) シグ・ザウエルSP2340 頭部被弾 C=06
第3回放送
AM0:51 鈴原架乃(F7) 高原椎音(F8) ワルサーP99 失血死 F=02
AM2:05 宇津晴明(M2) 江原清二(M3) サバイバルナイフ 失血死 E=07
AM2:05 雪倉早苗(F16) 今村草子(F4) 日本刀 頭部損傷 E=07
AM2:06 結木紗奈(F15) 江原清二(M3) ミニウージー 全身被弾 E=07
AM2:58 相原香枝(F1) 都竹航(M11) シグ・ザウエルSP2340 頭部被弾 C=05
第4回放送
AM6:29 高原椎音(F8) 水城蓮(M16) シグ・ザウエルP230 頭部被弾 G=05
AM7:10 小泉洋子(F6) 牧山久美(F12) ボウガン 首損傷 C=06
AM7:11 宮脇一希(M19) 牧山久美(F12) ボウガン 頭部損傷 C=06
AM8:44 今村草子(F4) 江原清二(M3) グロック19 頭部被弾 F=05
第5回放送
PM0:06 都竹航(M11) なし(自殺) 毒薬 毒物飲用 G=05
PM1:32 藤村優(F10) 水城蓮(M16) シグ・ザウエルP230 頭部被弾 C=06
PM1:41 水城蓮(M16) 日向翼(M14) シグ・ザウエルP220 胸部被弾 C=06
PM2:42 牧山久美(F12) 江原清二(M3) ミニウージー 頭部被弾 D=07
PM4:28 森川達志(M20) 笠原飛夕(M5) Vz61スコーピオン 失血死 C=08
PM4:29 笠原飛夕(M5) 金坂葵(F5) ブローニング・ベビー 頭部被弾 C=08
PM4:36 藁路文雄(M22) 金坂葵(F5) 文化包丁 失血死 C=08
第6回放送
PM6:28 日向翼(M14) なし(自殺) カッターナイフ 失血死 C=05
PM7:22 陸社(M6) 江原清二(M3) グロック19 頭部被弾 E=06
PM7:24 依羅ゆた(F18) 金坂葵(F5) 文化包丁 首損傷 E=05
PM8:40 朝霧楓(F3) 江原清二(M3) ミニウージー 失血死 E=05
PM9:20 土谷和(M10) 金坂葵(F5) ブローニング・ベビー 胸部被弾 E=04
PM9:31 金坂葵(F5) 水原翔(M17) ベレッタM1934 頭部被弾 E=04
PM11:59 江原清二(M3) 春野櫻(軍人) マシンガン 失血死 E=05


948VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:27:21.85D/J1TKXp0 (12/61)

男子8番・新藤鷹臣(しんどう・たかおみ)

バスケットボール部。正義感が強く、優しい。
雪倉早苗(女子16番)とは幼馴染で昔早苗をいじめた人物を憎んでいる。


ペア:雪倉早苗(女子16番)
支給武器:S&W M686
kill:なし
killed:都竹航(男子11番)
凶器:シグ・ザウエル SP2340
 

早苗と共に学校から離れるが、いつか信用できる人を見つけたらその人に早苗を預け、自分は楠本章宏(男子7番)や平馬美和子(女子11番)を[ピーーー]つもりでいる。
D=08エリアで宇津晴明(男子2番)・結木紗奈(女子15番)と合流し、早苗を預けて別行動を取る。
C=06エリアで章宏・航を発見し襲うが、章宏がやる気でないことを知りショックを受ける。和解し、別れようとしたところを、背後から航に頭部を撃たれ死亡。

サブメインに見せかけてたくせに退場させてしまいました(ToT)
でも、1/3まで進んだんで・・・かなり理想の男子ですね、クラスに欲しいもんです!
「タカさん」は某テニス漫画の某バーニングから・・・名前を見た瞬間にピンときてしまいました、、


949VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:29:28.72D/J1TKXp0 (13/61)

戦闘実験第七十番プログラム、通称「ペアバトル」のルール

 

今回の試験クラス

→茨城県北浦市立桜崎中学校3年1組

 

会場

→茨城県沖にある大宮島。約3km×2.5km。中には村と山が2つずつある。学校は小・中・高一環になっている。

 

ペアバトルとは・・・

→政府側があらかじめ決めておいたペアで教室を出発する。

→出発後に相手を殺害または別行動をしてもかまわない。出発後のペアの組換えも自由。

→優勝者は最後に残った2人。

 

制限時間

→会場内を100に分けたエリアがすべて禁止エリアになるまで。例外は以下の通り。

最後に誰かが死亡してから24時間以内に誰も死亡しない場合はその時点で終了。
制限時間を過ぎた場合は、生き残っているすべての生徒の首輪が爆発する。優勝者はなし。

 

優勝条件

→最後の2人になるまで生き残った場合。

 

定時放送について

→放送されるのは以下の事。

前の定時放送後に死亡した生徒の名前(死亡順)
禁止エリアの報告
担当教官からの激励(ない場合もある)
 

禁止エリアについて

→1日目は2時間に1箇所設定。
 (学校のあるエリアは最後の生徒が出てから20分後に指定される)

→2日目以降は1時間に1箇所設定。

禁止エリアに侵入した場合、警告音が鳴り、1分後に首輪は爆発する。


950VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:30:04.29D/J1TKXp0 (14/61)

水原翔(男子17番)は空のポリタンクを持って移動していた。
森川達志(男子20番)・朝霧楓(女子3番)・鳥江葉月(女子9番)の3人で全員分の荷物を持ち、土谷和(男子10番)と藁路文雄(男子22番)で中身の入ったポリタンクを持っている。
文雄はそうでもないが、和は足がふらついている。
「…和、やっぱ俺も持つって」

翔はもう何度目かになる言葉を発した。

「怪我人だろ? 気、遣うなって。
 つーか、荷物持って咳き込んで…不安になるし。
 俺だって運動部員だったんだ、ナメちゃあアカンぜよ」

「アカンぜよって…どこの人だぁ、和」

和も何度目かになる言葉を返す(“アカンぜよ”は初めてだな)。
文雄もつっこむが、どうもいつもの勢いは無い。
それも当然だろう、ポリタンクの重さは半端ではない。
いくら文雄が空手全国3位の実力者だと言っても、気を張り続けなければならないこの状況も手伝って、疲れがピークに達そうとしているのだろう。

「あ、あの… やっぱあたしも…」

「やめときなさい、鳥江さん。
 今の荷物の量でふらついてる人に、誰が持たせられるってのよ?」

「ご、ごめんなさい…」

葉月と楓の会話も、これで何度目だろうか?
葉月はクールな楓が少々苦手らしい。
言葉を掛けられるたびにビクビクしている気がする。

翔たちが目指しているのは、先程までいた花屋から見て西にあたるC=07エリアだ。
そう距離は無い。

「…そうだ、翔」

文雄が疲れきった声で言ったので、翔は足は止め振り返った。

「あー…足止めなくていい、早くエリア出たいしな。
 あの…飛夕は…説得できなかったのか?
 アイツは馬鹿だけどさ…そんな融通の利かない馬鹿じゃないだろ?」

「…できなかった。
 『確実に生きる道を選ぶ』…だってさ」

そっか、と言う文雄の表情が暗くなった。
文雄と笠原飛夕(男子5番)は、クラスでは仲良くしていた仲だ。
その飛夕が人を殺そうとした。
正義感が強い文雄にとっては、何よりも許せないことであり、何よりもショックなことだろう。

「…あのさ、もしもまた飛夕に会えたら…ビックリするだろうね。
 翔が生きてるんだもん」

ここまで黙々と荷物を運んでいた達志が口を開いた。
翔は自分左胸を何度かポンッと軽く叩き(痛みが走り、咳き込んだ)、苦笑した。

「だよなぁ…
 心臓撃ち抜いて、血が出るのも見えたはずなのに、ってな」

「翔くん、血が出たの!?」


951VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:30:43.00D/J1TKXp0 (15/61)

「あー…何か眠くなってきたな…
 良い子は寝る時間だし?」
「…今時こんな時間になんか小学生だって寝てないわ」

「そんな冷たいこと言わないでくれよ、朝霧…」

B=08エリアの中心より西寄り、鬱蒼と茂る木々の間を、藁路文雄(男子22番)と朝霧楓(女子3番)は進んでいだ。
普段接点などなかったので、傍から見れば奇妙な組み合わせだろう。

その上、文雄には森川達志(男子20番)、楓には土谷和(男子10番)というペアがそれぞれいる。
しかし、今は2人はここにはいない。
C=08エリアの商店街にある、花屋で留守番だ。

 

 

時間を遡ること3時間前、4人はプログラムを破壊する作戦(学校ごと燃やしてしまうという単純な作戦だが)の準備のため、材料と準備場所を探していた。

そんな時に文雄が見つけた場所、それが花屋だ。

誰も世話をしていないからだろう、花は大部分が枯れてしまっていた。
しかし、さすが花屋だ、肥料が置いてあった。
肥料に含まれる物の中には、可燃性のものもある。
ガソリンに混ぜれば火の勢いも強まる。

店の奥の畳の部屋に上がり(土足さ、ゴメンよ)、ちゃぶ台を囲んだ。
達志はちゃぶ台の上に支給されたガソリンを出した。

このグループのリーダー的存在である文雄は、咳払いを一つし、本題に入った。

「…とりあえず、ここで準備だ。
 ここからの行動は2人1組にしようぜ。
 1組は外に出て探し物…俺と組んだヤツな。
 もう1組は留守番な、この店の中と、近所なら出てもいいか。
 使えそうだなって思ったやつを集めてきてくれ。
 非常食とか、あったら助かる」

3人は頷いた。
文雄はガソリンの横に置かれた武器、イングラムM11とベレッタM1934に視線を移し、またすぐに3人に視線を戻した。

「武器は1組1つずつな。
 イングラムはオレが持つ。 
 移動範囲が広い分危険が大きいだろうからな。
 ベレッタはもう1組な」

「…絶対にあなたが裏切らないっていう保障はあるの?
 そんなマシンガンなら、皆一撃じゃない…」

楓が鋭い視線で文雄を睨んだ。
達志と和の顔も強張る。
文雄は強く首を横に振った。

「神に誓って、俺はそんなことしない。
 疑うなら、俺はベレッタを持つ…それでいいか?」

楓はしばらく文雄を睨んでいたが、やがて視線を外した。
イングラムに手を伸ばした。

「遠くに行くならマシンガンの方がいいって言ったのはあなただわ。
 …いいわ、あたしがあなたと一緒に行く。
 でも、マシンガンはあたしが持つわ。
 あたしは…油断しないから」

「でも、朝霧だって…」

反論しようとした達志を、文雄が制止した。
でも、というように目で訴えかける達志に、首を横に振って見せた。

「疑ってちゃキリがない…俺は信用する、朝霧を。
 行こうぜ」

こうして花屋を出た文雄と楓は、最初に北村住宅地へ向かったが、最も重要な物が見つからなかったので、港に向かった。


952VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:32:37.56D/J1TKXp0 (16/61)

こうして今に至る。銃声が聞こえるたびに、2人は辺りを警戒し続けたので、移動はそう早くない。

「ガソリン…ねぇ…そう簡単に見つかるものかしら?」

楓が文雄のコートを引っ張った。

「さあ…な。でもさ、何となくあるかも…だろ?」
「どうだろ?」
「ま、やってみなきゃ何もわかんないっしょ!」

文雄は北村住宅地で手に入れた空の灯油のポリタンクを振り回した。楓は溜息を吐いた。

「そんな適当でいいわけ?」
「適当にやってるつもりなんてないさ。俺の元からの性格なんだわ」
「…幸せ者ね……」

やがて港の倉庫の前に辿り着いた。文雄は側においてあったトラックのガソリンを入れる部分を、転がっていたコンクリートブロックを何度もぶつけて開けた。

「あ、あったぜ!」

文雄は灯油のポリタンクの蓋を開け、灯油を移すパイプのような物を取り出した。パイプの先をトラックのガソリンの中に入れ、上のスポイド部分を押した。ガソリンは少しずつだが、ポリタンクに溜まっていく。

「へぇ…あるもんなのね、ガソリン…」
「ほらな、言っただろ?ただ…ちょっと入れ物が足りないかもなぁ…」

文雄は溜息を吐いた。あと1,2個タンクを持ってきておけばよかった。

「大丈夫でしょ、花屋からそう離れてないし…」
「あ、そっか、そうだよな!」

さすが朝霧、いつでも冷静っつーかクールっつーか…ちょっと取っ付きにくそうだったけど、実際はそうでもないしな。
頼りになるな、かなり…

「ねぇ…」

楓が文雄の横に腰を下ろした。

「何で、政府にたてつこうと思ったの?
 危険なのに…」

文雄は楓に視線を移した。文雄の方を見ていた楓と目が合った。

「…何? 朝霧は政府擁護派?」

楓が目を逸らす。

「そんなわけないじゃない、政府なんて最悪よ」

「同意見だな」

ガソリンがなくなったので、文雄もそこに腰を下ろした。

「俺は政府を許さない、絶対にな」

力のこもったその声に、楓はビクッと震えた。いやいや、そんなに怖がらないでおくれよ。

「何か…あったの?」

文雄はポリタンクの蓋を閉め、目を閉じた。それだけで、あの時の光景が蘇る。

「…ガキの頃にさ、政府に殺されたんだ、俺の両親」

忘れはしない、あの日のことを。雨が降っていたと思う。文雄は両親と共に夕食を取っていた頃だったので、夜の7時くらいか。突然ドアの開いた音がしたかと思うと、土足でフローリングの廊下を歩く音が聞こえた。当時4歳の文雄は何が起こったのかさっぱりわからなかったが、両親は顔色を変えたのを覚えている。


953VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:37:26.52D/J1TKXp0 (17/61)

女子4番・今村草子(いまむら・そうこ)

部活は無所属。不良グループ副リーダー。
常に凶器を携えている。体力は人並、頭は良くない。
江原清二(男子3番)とは小学生の頃からの仲で、唯一心を開ける存在。


ペア:江原清二(男子3番)
支給武器:ミニウージー
kill:湯中天利(女子17番)
雪倉早苗(女子16番)
killed:江原清二(男子3番)
凶器:グロック19
 

E=05エリアで清二を殺しかけていた天利を銃殺。口げんかをしつつ、南へ向かう。
D=05エリアで水城凛(女子13番)・土方涼太(男子13番)と遭遇。凛をゲームに誘い対決。凛に重傷を負わせたが、催涙スプレーによって戦闘不能になり敗北。
E=07エリアで宇津晴明(男子2番)・結木紗奈(女子15番)・早苗に会う。早苗を刺殺。グロック19入手。
F=05エリアで都竹航(男子11番)に襲われる。油断した隙に腹を刺される。痛みから解放されるため、清二に頼んで殺してもらった。
ゲームに乗っていた。

草子ちゃん好きでした。それにしてもゲーム好きなんて設定なかったのに(汗
本当はもっと清二君と一緒にいてほしかったんですが・・・ここで退場です。
凛ちゃんの件も併せて、敗因は油断ですかね。


954VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 06:51:45.41D/J1TKXp0 (18/61)

>>370
いいや、誤解はない
理解している

それは「24時間監視を、フルメンテを、発注を、していないから単独犯ではありえない」と
同じ事を繰り返しているだけ
単独犯ではできない事を想定して「単独犯ではない」と言っているだけだ

だがそれは、
「もし24時間監視を、メンテを、発注をしていなかった場合」にも、
犯人は「単独犯ではない」という結論には絶対になりえない

監視、メンテ、発注、していなかった場合はどのようにしてるか、
今まで色々予想して挙げてきたが、
全部無かったかのように戻しちゃうもんだから呆れてるんだがな

375 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 05:45:45.17 ID:wCtCOgSE0
>>371
もしかしたら昭和からタイムスリップしてきた人なんじゃね?
自動顔認証や異常察知しての自動通報なんてとっくに実用化されてる技術だけど昭和辺りの人から見たら超科学なんだろ

376 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 05:46:48.99 ID:dokZ5PxT0
>>371
心臓止まったら知らせる機械って現代の場合、全員胸に色々貼り付けてる事になるよ
埋め込み式にすると電池交換も必要な上、皮膚の上から埋め込まれてるの見えるし

377 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で:2013/08/06(火) 05:48:33.62 ID:dokZ5PxT0
>>374
自分はモノクマがくつろぎつつ、メンテとか発注とか監視とか
脱走者を出さない為の工夫とか、一人で全部してるという設定は無理があると思うだけ

374はそれが無理があると思わないだけ
見解の相違だから、これ以上はなしてもムダじゃね?