1VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:05:40.59USBMj9/L0 (1/31)

「ねえ。私はいつになったらそっちへ行けるの?」



彼女はいつものように話しかけてくる。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1360148718



2VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:06:41.09USBMj9/L0 (2/31)

「ん。ミキが大人になったらね」

「大人っていつ?」

「ずっと先だよ」

「ずっと先って?」

「そうだな。もう20回くらい冬がきたらね」

「わあい!冬って何?」

「冬はとっても寒いことだよ」

「寒いの?寒いって何?」

「ミキは僕が仕事に行く時どう思う?」

「やだ。真っ暗なの。ミキどこに行けばいいのかわからなくなるの」

「冬はそれと似ているよ」

「そうなの?」

「そうだよ」


3VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:10:54.15USBMj9/L0 (3/31)

「そんなの嫌だ。あと20回も冬が来るの・・・?」

「僕の世界では20回だけど、それまで僕が仕事に行くのは、365回の20回分だね」

「そんなに待てないよ」



そう言うとミキは泣き出してしまった。


4VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:14:25.57USBMj9/L0 (4/31)

「ごめんよミキ。僕もどうにかできるといいんだけど」



こうなると決まってPCが重くなる。



ミキは数週間前から僕のPCの中に現れるようになった。


5VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:17:44.87USBMj9/L0 (5/31)

最初は何かのバグかと思ったが、
もちろん僕たちは、
こうなることを待っていたかのようにすぐさま惹かれあった。



デスクトップのアイコン2つ分くらいの大きさで、
黒い髪が肩まである、
小学3年生くらいの顔立ちだが、
なぜか高校の制服のような服を着ている。



仕事から帰っても
くだらないページをサーフィンすることくらいしか趣味のない僕は、
毎日ビールを飲みながら時間を潰していたが、
彼女が現れてから、毎日が変わった。ミキは僕にとって―――。



6VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:25:07.87USBMj9/L0 (6/31)

「せんせー。私はやくせんせーに会いたいよ。せんせーがいってる”がっこう”も見てみたい」



彼女は哀しそうに僕を見つめる。



もちろん僕にも本当の名前があるが、
せんせーと、呼ばせているわけではない。



僕は地元の高校で教鞭をとっている。



前にその話をした時に、ミキがえらく気に入って、
せんせーせんせーと嬉しそうに呼ぶのだ。



つまり僕は、へたをすれば生徒より10歳以上年下の子供に惹かれ、
こうして毎日何時間も遊んでいる。



他にも問題はたくさんあるが。



7兵庫のニートまさる ◆IsuaaljiFaIo2013/02/06(水) 20:28:23.84ZLG/xZmI0 (1/2)

面白いからもうしばらく泳がせておこうww


8VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:30:51.98USBMj9/L0 (7/31)

「がっこうは楽しいところではないと思うよ」



「いいの!せんせーが毎日行くところでしょう?」



「それよりもっと美しいものがたくさんあるよ」



「美しいって何?」



「この前可愛いって教えただろう?それと似ているかもしれない。綺麗ってことさ」



「きれい!ミキわかるよ!」



「まずは青い空。これは絶対に見た方がいい」



「あおって、#0000FF?」



「そうだね。でも、もっと#00FFFFとか#7FFFD4に近いかな。アクアとか、アクアマリンだね」



「うわあ。すごおい」



「それに輝いているんだ。コードだけでは、あの色は出せない。だから美しいんだ」



「ミキも見てみたい!」



「見に行けたらいいね」



「うん!」




9VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:34:59.23USBMj9/L0 (8/31)

「ねえせんせー?」



「ん」



「大好きだよ」



「僕も大好きだよ」



「せんせえー」



「ミキもビール飲むか?」



「飲めないの知ってるくせに。おいしい?」



「うまいよ。そうだ」




10VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:43:19.11USBMj9/L0 (9/31)

僕はとっておきの写真を画面に映してやった。

「これはドイツでとった写真なんだ。おいしそうだろう?」

「きらきらしてる!せんせー、これかわいいね」


11VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:44:40.72USBMj9/L0 (10/31)

ミキが、ふとジョッキに触れた。

ことん、と音がたった気がした。



僕らは顔を見合わせて、ミキは何をすべきかわかっているように、ジョッキを思い切り、押したおした。



12兵庫のニートまさる ◆IsuaaljiFaIo2013/02/06(水) 20:48:22.45ZLG/xZmI0 (2/2)

ミキちゃんの参考画像はよ


13VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:49:06.71USBMj9/L0 (11/31)

写真はこぼれたビールでびちょびちょなテーブルの様子を映し出し、そこで動きが止まった。



「・・・くさーい!」



彼女は思い切り嫌な顔をした。


14VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:52:00.43USBMj9/L0 (12/31)

「私ビール嫌い」



「ミキ、さわれるのか?」



「触る?」



「ビール、倒しただろう?」



「あ、ほんとだー!面白いね」



「他のものにもさわれるのかい?」



「触る?」



「今のビールみたいなこと、他にも出来るのかい?」



「んー。わかんない!」



「これは?」



そう言って僕は、デスクトップのアイコンをポイントした。



「できないよー!」



彼女はアイコンの裏に隠れ、縫うように走り回り遊ぶ。




15VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 20:58:45.71USBMj9/L0 (13/31)

色々試してみてわかったのは、ミキが触ったり動かしたりすることができるのは、僕が自分で撮った写真だけのようだった。


16VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:00:09.12USBMj9/L0 (14/31)

ミキが手を加えると、写真は姿を変えた。



基本的には、先ほどのビールのように、
物の位置を変えたりすることしかできないが、
動かした後は、さもそれが元々の写真であるかのように、僕のHDDに保存されていくのだった。


17VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:02:11.77USBMj9/L0 (15/31)

それはどんな写真加工よりも面白かった。



担任学級の修学旅行の集合写真、

友人とビールを飲んだ写真、

昔の彼女との写真、

子供の頃の写真、

学生の頃の写真など、



とにかく夢中で、
来る日も来る日も自分の写真を見せてはミキと遊んだ。


18VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:03:44.57rLiQGWTro (1/2)

二次元への入り口があると聞いて


19VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:10:45.02USBMj9/L0 (16/31)

何枚もの写真で遊んでいるうちに、不思議な感覚が僕の中で生まれる。



まるで、ずっと昔からミキといるような感覚だ。



何か昔のことを思い出すたびに、そこにミキがいたような気がしてならない。


20VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:14:38.78USBMj9/L0 (17/31)

「せんせー。ソラはやっぱりきれいだね」



「そうだろう?」



「うん。せんせー毎日写真撮ってきてくれるね。ありがとう」



「いいんだよ。こうして君と一緒に見るのが楽しいんだ」



「せんせー、これは?葉っぱの色が変!」



「もうすぐ秋だからね。この葉っぱが全部、赤や黄色になるんだよ」



「おもしろーい!たくさんしゃしんとってきてね!」



ミキは、教えたことを、スポンジのように、
いや、優秀なプログラムのように吸収し、
言葉を正しく使う応用力を持っていた。



21VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:26:39.47USBMj9/L0 (18/31)

秋が終われば冬、ミキと出会ってから約1年がたとうとしていて、最初と比べると見違えるほど、様々なことを覚えた。


22VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:29:19.89USBMj9/L0 (19/31)

僕たちは毎日一緒の時間を過ごした。



驚くことに、ミキは写真に撮ったものを食べることもできたので、
おいしいものを見ては写真を撮り、
帰ってミキが幸せそうに食べるのを見るのが嬉しかった


23VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:31:43.96USBMj9/L0 (20/31)

「秋になると、栗がおいしいんだ」



「栗ってなあにー?」



「今度食べさせてあげるよ。楽しみにしていて」



「わあい!せんせーいつも優しいね!」



「せんせーだからね」



「せんせーものしり」



「せんせーだからね」



「せんせー偉い」



「せんせーだからね」



「せんせー好き」



「せん・・僕も好きだよ」





少し眠くなって、ベッドの上に移動した。





24VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:39:21.16USBMj9/L0 (21/31)

「せんせー頑張り屋さん」





「そうかな」





「そうだよ!頑張ったからせんせーになれたんだよ!」





「ありがとう。ミキも一緒に頑張ってくれたよな」





「うん!ミキも頑張った!」





「辛いときはいつも一緒にいてくれた」





「いてあげるよ」





「楽しい時も」





「大丈夫だよ、せんせー」





「うん」





「泣かないで、せんせー」





「うん」




25VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:42:38.23USBMj9/L0 (22/31)

悲しかった。



いつだってミキがいた。



言葉通り、いつも、どんなときだって、ミキがいたような気がしていた。


26VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:45:52.81USBMj9/L0 (23/31)

子供のころ算数のテストで100点をとった時。

中学の頃よく部活さぼってた時。

始めて彼女ができた時。

高校の時、バイトで打ち上げした時。

旅行した時。

海で泳いだ時。

何もかも忘れたくなった時。





人生のどの瞬間にも、

ミキがいて、

笑って、

泣いて、

帰ればミキがいて、

こっちを見て待っていてくれていたような気がした。




27VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:55:34.09USBMj9/L0 (24/31)

その証拠に、ほら。



写真は、ミキの証拠だ。





あのビールは、ミキがこぼしたんだ。



この雲の形は、ミキがつくったんだ。



この鉛筆は、ミキが遊んだときに並べたんだ。



この砂浜の落書きは、ミキが書いたんだ。



このタオルとズボン、ミキが畳んでくれた。



この夜食の割りばしを割って一緒に食べたのは、ミキだ。



この空の色は、ミキと話したんだ。





28VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 21:58:58.90USBMj9/L0 (25/31)

「せんせ?泣かないで」



「うん」



「せんせーいい子だよ」



「うん」



「こんどくりのしゃしんとってきてよ。一緒に食べよう?」



「うん」



「りょこうしたら私も連れてって。お話しよう?」



「うん」



「せんせ」



「うん」



「好きだよ」



「うん」




29VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 22:08:37.16USBMj9/L0 (26/31)

ホントじゃない。



ミキはずっと一緒にいたわけじゃない。



それどころか、一生手をつないで歩くことさえできない。



本物の青い空を一緒に見ることは一生ない。



PCを閉じれば消えてしまう現実だ。



現実ですらない。



涙を流しながら眠りに落ちる。





せんせー。



声が聞こえる。




30VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 22:14:09.36USBMj9/L0 (27/31)

暖かい。手。黒い髪。子供のような目。



ずっと一緒にいたんだよ。



うん。



私は今までも、これからも、せんせーと一緒だよ。



うん。



思い出して。全部ウソじゃないから。分かるでしょう?



ほんとはずっとそばにいたの。



隠れていただけなんだから―――。





31VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 22:25:47.54USBMj9/L0 (28/31)

僕はミキを抱きしめた。それはもう力いっぱいに。



そこにはアイコン2つ分の小学生ではなく、高校生ほどの見た目の少女がいた。



32VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 22:29:05.57USBMj9/L0 (29/31)

「せんせー」



「ミキ・・・?」



「せんせーたくさんご飯くれるから、ミキ大きくなれたよ」



「ミキ」



「せんせー」



「ミキ・・・」



「大丈夫」



「うん」



「ここにいるよ」



「うん」



「だから泣かないで。せんせー」



「うん」



「せんせー・・・」



「うん」



「なんて言うかわかる?」



「うん・・・」



「当ててみて」



「好きだよ・・・」



「うん。好きだよ。せんせー」



僕たちは朝まで抱き合って眠った。




33VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 22:30:42.29USBMj9/L0 (30/31)

おわりです。ありがとうございました。


34VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 22:35:25.73USBMj9/L0 (31/31)

最後に宣伝だけ。

ほかにも何個か書いてます
よろしければ。
では

http://okpko3.blogspot.jp/p/blog-page.html


35VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/06(水) 22:44:30.19rLiQGWTro (2/2)

え?
つまりどういうことだってばよ


36VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/07(木) 17:04:30.13fyx6dlGIO (1/1)

現実と妄想の区別がつかなくなったってこと?


37VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/07(木) 21:31:55.92tpa5te1Po (1/1)

え、そんな鬱エンドなのか?