223VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/22(金) 18:58:52.79p1FwmdWM0 (5/7)























          振り下ろす事は無かった…!





「グギャッ!?」

ガシャン! そんな音を立てて地面に散らばる硝子の破片





「わーお!こいつぁたまげたねぇ~、この劇場じゃあ室内でお猿さんを
 飼ってんのかい?」


後ろからコツコツと厚底靴の音、訛った口調に立ち尽くすアタシ達の横を
素通りする黒コート、チャリッと音を鳴らす…

そう、"星"

誰よりも目立つ 誰よりも人の注目を寄せる"星"の存在を模った耳飾

ジャリ、ジャリと自分が投げた酒瓶の破片を踏み潰しながら"猿"へ進む
黒ずくめの男…

「ちょっと昼食には早ぇけど、緊急事態つーことで頼むわ」


「キイイイイイィィィィィィーーーーッ!」

「おっおっ、何?血走った目で見てくれんじゃん、こっわいねぇ…」

瓶の直撃で元から出血していた右目が更に血塗れた…
うん、文字通り血走ったソイツを睨む"猿"
"猿"の明らかな怒りの視線をなんでもないようにソイツは言った


「…ふーん、しっかし世の中分からないモンだねぇ
 こんな所で"絶滅危惧種"の[シルバーデビル]さんを見るたぁなぁ?」

値踏みでもするようにしげしげと…その"猿"?だかシルなんだかを見てる

「ギャアアアァァ―――ーッ」ブン

「あ、危ない!!」

鋭い爪の攻撃にシルクハットのエルフが叫ぶ、だけど…


スルッ         メシャッ!

「…なんだい?目に血が入りすぎて狙いが狂ったか?真正面の俺じゃなく
 コンクリートの壁に手ぇ突っ込ませてよぉ」

"猿"の攻撃が"コートに触れた"途端に…"滑った"のよ…ッ!!


224VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/22(金) 19:08:01.24p1FwmdWM0 (6/7)

>>217 毎日更新とは…ありがとうございます
    不定期更新の自分にはもったいないお言葉です

>>218 うわぁ…貧乳が好きとかお前………仲良くなれそうだな同士よ!


夕飯食べてきます、また書けそうなら書くかもしれませんが
あまりご期待はなさらずに


225VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/22(金) 22:09:30.445/zRpThL0 (1/1)

おつおつ
3時間も夕飯とは大食いな>>1だぜまったく


226VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/22(金) 23:34:09.49p1FwmdWM0 (7/7)


「さてと、そこの姉ちゃん、あんたぁ動けるかい?」

"猿"は力を入れすぎた為か、片腕が壁に深く突き刺さっていた
腕を引き抜こうと必死にもがく奴を無視して、友人に話しかけるナジミ

「い、いえ、あの、貴方は…」

「うん?ああ、君達の友達?に頼まれてね、助けに来た通りすがりさぁ」

今だ、瞳に涙を溜めている彼女に優しげな声を掛けながら左手で
ポケットから何かを取り出すのをアタシは見た

それは小さい頃、学校で見たようなモノだった

ほら、ええっと何だっけ、理科の実験にあるフラスコ?いやビーカー?
なんか、あの硝子でできた細長い奴…ああ、試験管だ

「…こいつぁ完全にイッちまってるな」キュポン

酒瓶の栓でも外すようにコルク製の蓋を外し容器の中の液体を
二度と動かないであろう彼女の脚へと振りかけた…!

「動かしてごらん?」

「一体何を言って…!、あ、あれ、う、動く!?」

腱やら骨やら色んなモノが駄目になった筈の脚が動いた!!
「ちょいと痛いが我慢しな」そう言って星飾りは
彼女の脚を素早く本来の…人として正しい向きへ脚を引っ張った

ぱきっ

「いぅ!?」

「はい、これで安心っと、もう立てる筈だぜ」

目を疑う光景のバーゲンセールだわ

[薬草]があったってこんな事ありえない、かといって目の前の男は
 腱の状態が修復不能になる前に[ベホマ]を使ったとかでもない…
ただ"液体"を振りかけただけだった…


…奇跡、正にそうとしか言えない

そして今、こんな時に考えるべきではないというのにアタシはコイツへの
期待が高まっている事に気付いた

医学的にも不可能な事を呪文無しでやってのける男

本当に宣言通りアタシの症状を治せるんじゃないかと


バコンッ


「やっと腕を引き抜いたかお猿さんよぉ」

「ギィギイイィィィィ…
 ウギャアアアアギャッギャッギャ
  ギャアアアアアアギャッ!!」


「…あぁ」ビクッ

猿の声を聞いてかシルクハットは震えながら泣き始めた…

「…俺ぁ"アイツ"みてぇに才能ねぇから何言ってかわかんねぇけどよぉ
 とりあえず、てめぇは俺がぶちのめす」


それだけ言うとナジミは脚が治った彼女に下がっていろと手で合図する
アタシ達もこの場から距離を引こうとした

「さてと、モンキーじゃ人間に勝てないってことを教えてやるさぁ」ニタァ





227VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/23(土) 00:12:57.70ZqgPWVcDO (1/2)

ひんぬう魔法使いがエルフちゃん……だ…と!?



228VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/23(土) 00:25:02.74f4hHvIkv0 (1/5)

=====
====
===
==



静まり返る廊下…!

対峙する一人と一匹
さながらその姿は雌雄を決しよう試みる剣闘士を連想させる

だが…

色褪せた壁、微かにワックスの匂いを感じさせる古めかしい木床

戦士が誇りと名声の為に闘う闘技場とは似ても似つかぬ光景

そしてそんな朱に染まるような闘いを見届けるのも僅か三名の女性

何もかもが我々の知る一般的な"剣闘士の試合"から逸脱したモノであった



「…」

「…ッ…ッ」

ナジミは動かない…! しかし、ソレは決して怯え故ではない
"舞台"の観客と化した女性陣は誰一人[シルバーデビル]の名前を知らない
当たり前だが、名も知らなければ、どのような習性を持つかさえも
知らないのだ…

"絶滅危惧種" 

其れゆえ知らぬ者が多いのも当然といえば当然の結果
理解できるとしたら魔物の生態系を1から100まで調べようとする変人だ

黒コートの奇人も完全に把握こそしていないがある程度の知識はあった

「グウウウウゥゥゥゥ…!」


顔にこそ出しはしないし、あれだけの軽口を叩き出すのだ
誰もがナジミに勝算があるのだろうと考えるだろう


結論から言えばそれは正解である


ナジミは対シルバーデビル用とは言わないが、この魔物に対してもっとも
効果を発揮する"込める技術"を持っていた…!

だが、今はソレを使わない、何故なら相手の特性を知っているからこそだ

[じんめんちょう][こうもりおとこ]達の様に翼で飛行するタイプの魔物
それでいて中型にしてその速度はトップクラスとも言われる
時折フラフラとしているのを見るに睡眠剤か何かを投薬され
本領を発揮できないと思われるが用心に越した事はない

最高速度を出せずとも反射神経はピカイチ…
"込める技術"を取り出す際に[あまい息]もしくは[ギラ]系統の呪文を
使用される恐れもある


ナジミのコートは"物理的な攻撃はかなりの高確率で逸らせる"だが
呪文による攻撃だけはどうしようもない、コートに覆われていない部位
主に頭部への物理攻撃も防ぎきれない

警戒…!  けん制…!     不動、全くの不動…!

この様は[ジパング]の空想物語"ガンリュウジマ"のようにも思える

しかし、その物語では功を焦ったモノが敗北するという内容
そしてッ! この闘いもまた同じ結末へと向かうッッ!!





229VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/23(土) 01:06:44.47f4hHvIkv0 (2/5)


先に動いたのは白銀の悪魔こと[シルバーデビル]であったッ!

ある程度予測していたとはいえ、ナジミもその敏捷性には目を見開く

「ジャッッ!」ブオン

「うおっと!」

身を屈め爪の攻撃を回避する、さっきまでナジミの首があった空間を
[鋼の剣]以上に切れ味の良い爪が横に放物線を描いてコンクリートの壁を
削り取る、それなりに知性も持ち合わせる魔物だ…

二度もギャグ漫画のように手をめり込ませるなどという展開は無く
腕を大きく振りかぶることも無かった為、胴を捻らせてもいない
全く無駄の無い動き、そこからもう片方の腕でまるで鷲掴みをするように
指の間接を曲げ、ナジミ目掛けて振り下ろす…!

「…ッ!させっかよ」

身を屈めたままのナジミは手を地につけ、フローリングをなぞるように
脚を滑らせる

「ゲガッ!?」

足払いだ

[シルバーデビル]の細く毛深い脚を蹴り飛ばし、予定調和のように相手は
体勢を崩す…!

「フンッ!!」がしっ

唯でさえ身を屈めたナジミに腕を振り下ろそうと
前屈みの体勢になっていた[シルバーデビル]はバランスを崩し
まるでナジミを押し倒すような形で倒れていく

そんな相手の動きを逆手に取るようにナジミは


…奴の腕を掴んだのだッッ!!


振り下ろすための左腕を左で掴み、倒れまいという本能から突き出した
右腕もナジミに掴まれる

これを遠目に見ていた女性陣からどよめきの声が上がる

端から見れば醜悪な化け物が細腕の人間を押し倒し、人間の方が細腕で
どうにか抵抗しようとしているようにしか見えないからだ

「ガアアァ―!」

[シルバーデビル]の腕力ならばナジミに掴まれた腕などどうとでもできた
どのように考えたかは知らないが奴は口を大きく開け
 トラバサミのような犬歯を覗かせた
そのままナジミに倒れ掛かり顔面を顔の骨格ごと噛み砕くか
[あまい息]を吐き出し、ナジミが抵抗できなくなった所で
いたぶるかの二択であったが…

「オラァ!」

「グギャッッ!?」

衝撃…ッ!   腹部への激しい衝撃が悪魔を襲う…ッ!!

「ヘゲェッ!」ダン!!

彼が行動を起こす前にナジミはその体勢で"腹部に蹴りを放った"ッ!
相手を蹴り上げて、後方へ吹っ飛ばす…"ともえ投げ"であった…!
勢いよくナジミとは正反対の壁面に叩き付けられた悪魔

そして、距離が開き尚且つ体勢を崩した敵を逃すナジミではないッ!!

[おおきなふくろ]の機能を付け加えてあるコートのポケットに左手を
入れて、目当ての品を取り出す




230VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/23(土) 01:28:18.15f4hHvIkv0 (3/5)


ポケットに左手を突っ込んだナジミは意識を集中させる!


頭の中で自分が望むモノ、この瞬間に必要とするモノのイメージを
真っ白なキャンパスに描くように思い浮かべる

ここには自分と[シルバーデビル]そして一般人が三名

ここで十八番の[魔法の玉]は使用不可能ッ!

こうも密閉された空間で使おうものなら自分はおろかナジミ自身が

この世で最も敬意を払う女性を傷つける可能性があるのは自明の理であり


そうでなくとも大部分が木造建築の劇場での火災が免れない…!

だからこそ、今から取り出す"込める技術"は今回の闘いに御誂え向きだ


「…!」


左手に確かな"感触"を感じる!

イメージしたブツが掌の上に来たのを感じた


「ギ、ギギ、ギギイィ!!」


「へい、モンキー、俺ぁてめぇの言葉は理解できねぇし、てめぇが
 俺の言葉を理解できる魔物かは知らねぇ…だがなぁ
 敢えて言わせて貰うぜ
                      この戦い、俺の勝ちだ」


「ガ、ギグエェェェ!!」

「あ、あああぁぁ!!」

女性陣が声を上げる
白銀の悪魔が飛び掛る…!
対してナジミはポケットから腕を引き抜く
左手に握っていたのは一本の短剣だッ
そしてソレの柄部分は長いチェーンで繋がっており、最後尾には…!

最後尾には…!



最後尾には…ッ!





最後尾にはァ……ッッ!!
















"純金製のバナナ"が付いていた…ッ!?

「「「!?!?!?」」」




231VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/23(土) 01:52:19.12f4hHvIkv0 (4/5)

「なっ、なっ、なああぁ!?!?」

声を上げたのはビビアンである

それもその筈、ナジミからある程度"込める技術"に関しては流し程度に
訊いたのだが…

これはあまりにも予想外である

チェーンの先に何が付いているのかと気になってみればこれはどうした!

以外ッ!それはバナナッ!!

命を賭した闘いでふざけているのか声を抗議の一つでもあげたくなる


だが…

そんな疑問はすぐに吹っ飛んだ


[シルバーデビル]は確かにナジミ目掛けて飛び掛った筈であった
だが一体何がどうしたというのだ、突然、我を忘れたかのように
奇声を発し、鎖の最後尾に付いている飾り目掛けて飛んでいくではないか

「…ウッギャロウ!! ウギャギャギァ!」


ガツッ!  ガツッ! ガツッ!


「ど、どういうことなの…」

まるで狂ったように純金製の果実のレプリカを引っかく白銀の悪魔を見て
ビビアンはふっとあることに気がついたのだ


「グゲエ、グゲゲゲゲ…」


"正気ではない"


いや、確かに見た感じが狂っているが
こう、根本的なところから何かがおかしいのだ

ふとシルクハットの彼女を見ると彼女は震えていた、頭がおかしくなった
猿の化け物に怯えていた

彼女は行く先々で拒絶、迫害にあった身であり、あまり人には言えない
出来事や人間を見たことがあっただから何となく

"ダブって見えた"


             "麻薬中毒者"


今、一心不乱に爪を訳の分からない物体に何度もぶつける彼を見た

…自慢の爪が硬すぎる鉱物に負け、ひび割れ、真っ赤な血液が滲んでいる

だが止めないのだ

痛みは間違いなく感じており、口からは唾の泡が垂れ流しの状態

目にさっきから血が滴って沁みるだろうに"笑顔"なのだ、怖くなるほど…

ビビアンの隣で耳を塞ぎ彼の言葉を聴かないようにするエルフ
確実に言える、今だけは魔物の言葉を理解できなくて良かった
何を言っているのか理解できなくて良かったのだと…

「てめぇはこれで終わりだ」

ナジミが"筒状の物体"を持って彼の前に立ち、そして先端を悪魔に向けて

「[イルイル]ッ!!」

その言葉を発すると同時に悪魔は光となって"筒"に吸い込まれたッ!
後には血塗れのバナナの玩具が残されたのであった…!


232VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/23(土) 01:57:19.53f4hHvIkv0 (5/5)

>>225 ち、ちちち、違うもん、ちょっと食べ過ぎた後で
    昼寝しただけだしッ!!大食いちゃうで!!

>>227 エルフにしたのは理由があります


>>バナナが付いた短剣 分かる人はトルネコが好きな人

>>筒 西の村編でもホイミスライム救出に使いました
   分かる人は分かるアイテムですね


233VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/23(土) 14:02:27.50ZqgPWVcDO (2/2)

おつ

面白いからさっさと書いてください



234VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/24(日) 10:10:16.71XvLb7acp0 (1/1)

おつ
エルフにバナナと短剣か…ゴクリ



235VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/01(日) 19:41:50.01Xhsnebvko (1/1)

克服前の猿か
乙!


236VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/06(金) 23:29:44.93UloNrrhDO (1/1)

そろそろ続きが読みたいです


237VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/12(木) 08:35:54.02FYA/iTfZ0 (1/5)


―――
――



「―――っという訳で俺ぁ見事に窮地を脱したワケでさぁ」

「すごいですよナジミさん!!」

「……はぁ」


今、アタシはいつも親友二人と駄弁ってる喫茶店にいる
三人で何処か適当な席に着いて割勘で食べたい物とかを注文して話し込む
そんないつもと変わらない光景の筈なんだけど…ねぇ?

「あん時もやばかったけど[スクルト]が掛かった[じごくのハサミ]に
 囲まれた時なんか慌てたモンさぁ」

「…いつまでコイツの武勇伝を聴いてなきゃいけないのかしらね?」




あの後…

 どんな手を使ったのかこの星飾りは"筒"の中に
化け物を閉じ"込めた"のだ


魔物を操る魔法使い…いえ、"魔物使い"の少女イナッツの公演は問題無く
行われた、劇場は今だかつて無い程の歓声が響いた
 そして誰もが羨む脚光を浴びた当の本人はといえば…


「…」オドオド


…私の隣でチビチビとメロンソーダを飲んでいた

「アンタも会話の輪の中に混ざってきたら?」

「あ、いや、私があの人を連れて来たからこんな事になった訳ですから
 そんな私が会話に入るというのは…」

「…はぁ、良いのよ、結果的にあの真っ黒くろすけのおかげで怪我人も
 死人も出てないんだし


 ………恋する乙女の目で黒コートの武勇伝を聴いてる彼女も
 脚が治ったからそれで水に流そうとか爽やかに言い切ったしね」ボソ



エルフ少女ことイナッツの謝罪に対して親友は迫害とかそういう理由で
やむを得なかったなら仕方ないとか酌量の余地があっても良いと言った

「そ、そうですか」

「ええ、そうよ」

「……あの人はこれから大丈夫なんでしょうか?」

アタシ等に迷惑を掛けたことに対して十二分に反省していて、それとは
別であの化け物の事を心から心配するイナッツ
 星飾りの推測らしいけど、あの後、化け物はどっかの外国に高値で
売り飛ばされる予定だったらしい

「"絶滅危惧種"故にその毛皮や骨、牙で作った工芸品を欲しがる
 悪趣味な貴族には腐るほど心当たりがある」とナジミは言った

…あのがめつい団長は劇場裏で何度も"そういう生き物"とか"薬"とか
やばいモンで金を稼いでいたんじゃないかっていう推論だった

後日、「二度と小遣い稼ぎができねぇようにしてやるさぁ」ニタァって
にやけながらナジミが団長の自宅を訪問したらしい…

何があったか知らないし知りたくないけど全治八ヶ月の重症を負った
団長は真面目に仕事に取り組むようになった…何があったか知らないけど


238VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/12(木) 09:24:35.92FYA/iTfZ0 (2/5)


「アイツは、何処か人目に付かない場所、化け物が暮らしやすい自然環境
 の土地に返すとか言ったわね」

少なくとも誰かに売り飛ばされる訳じゃないから安心なさいと伝えると
イナッツは安堵の表情でほっと一息をついたわ

「それにアンタも安住の地が手に入るかも知れないんでしょ?」

「ええ、ナジミさんが私や魔物達でも受け入れてくれる場所を知っている
 人宛てに紹介状を書いてくれましたからね」

「[グリンラッド]だったかしら?そこに一人暮らしでいる老人がなんとか
 してくれるって?」

正直、今ならアイツが何を言おうと驚かない、"込める技術"だとか
猿の化け物を手早く退治できた事とか魔物を連れたエルフを受け入れて
くれそうな人物を知っていたり、何から何まで予測不能だもの



「…っとまぁ、そんな訳で俺ぁ[レイアムランド]横断を無事果たした訳だ
 あん時、祠の巫女さんが助けてくれなきゃ危うく凍死しちまってたわ」

ある程度、武勇伝を語り終えたナジミはそろそろ御開きにしようぜと
時計を見てから言った、もうすぐ夕飯の時間だ

「あのナジミさん!」

「なんだいダンサー志望の姉ちゃん」

「この街にそんなに長く滞在しないのでしょう?また来てくれますか?」

「ああ、いつかは立ち寄るさぁ」

いつ来るかなんて言ってないのにそれだけで頬を染めて微笑む友人を見る
あっ、こりゃ駄目だ、所謂"恋は盲目"って奴だわ

ちょっとしたやり取りが行われた後で皆がそれぞれ帰るべき場所に帰った
アタシと星飾りの男を除いてね

「さてと、今日は悪かったね、俺が目ぇ離したのが悪かったわ」

「いや、アタシが離れてろって命令したのが悪いし…」

「わーお!寛大な精神に感服でさぁ」

おどける黒コートの後を追って本日三度目の命令を行使するためアタシは
再び此処へ来た

料亭 サンチョの看板の下、拘りの扉を開けて店内に入るアタシ達

「今日はパスタにでもするかね、あっ姉ちゃん、今日も俺が奢りね
 姉ちゃんの命令の内容を考えたらその方が良いと思うし」

「はいはい」

本日のお勧めメニューは南瓜のホワイトクリームスパゲティ…

牛乳と南瓜をよく煮込んだ甘みのあるとろとろクリームを使用した
スープスパゲティ、身体の芯まで暖かくなるような暖かさは
よく冷え込むような夜には最適といえるわね

「うん、おいしい」

「そいつぁ良かった、美人さんに喜んでもらえれば店長も料理人冥利に
 尽きるってモンでさぁ」

黒コートのお世辞を軽く流して本題に入る

「じゃあ三つ目の命令なんだけど、今日もアタシと話し合うことよ」

最初、こう言った時は目を丸くして「え、そんなんで良いのかい?」って
驚いてたけど、逆にどんなモノなら無理じゃないのか分からないしね
まぁ、それ抜きにしても今日の行動とかでコイツに興味が出たってのも
事実ではあった、純粋にコイツの事を理解してやろうと思った訳よ
 気になることも多いし…


「会話のキャッチボールを始めましょうか」


239VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/12(木) 10:03:21.16FYA/iTfZ0 (3/5)


「良いですねぇ、やっぱ親睦を深めるならディナーが最適って話だねぇ」

グラスにシードルを注ぎながらナジミが言う、水の入ったコップを持って
アタシは乾杯を交わした

「じゃあ気になることがあったんだけどさ、…あの時の"液体"
 あの子の脚を治したアレね、アレってなんなの?」

「あぁ、アレかぁ、あいつぁ[世界樹の雫]って奴でね"込める技術"を生成
 するのに使う道具の一種さ、効果は見たとおりのモンだよ」

「[世界樹]…」

台本やら旅芸人の話でソレは小耳に挟んだ事はあるけど

「それって凄く貴重なモンだって聴いたけど?」

「ん~?まぁ、年間でも限られた数量しか取れねぇし、確かにお高くは
 あるな」

「…どうしてそんな貴重なモンを躊躇い無く使ったの?」

…なんとなく、なんとなくだけど答えは分かりきってる気がした
まだ出会って一週間も経っていない奴なのに

「…」コト

一口シードルを口に含みグラスをテーブルの上に置く、先程までの
おちゃらけた笑いとは違う真剣な眼差しを見た

「昨日、来たときに姉ちゃんと一緒に三人で裏方やってるのをチラッと
 見てな、劇場で働くとなれば舞台に夢でも持ってるんだろうと思ったさ
 …そんな女の子がよぉ、脚を使い物にならなくされたんじゃあ
 泣くに泣けない、俺ぁそんなん見たくねぇんだよ」

「女の子の夢を守りたかった訳…ね、でも単に彼女がお金稼ぎでバイト
 してただけだったら?全部アンタの勘違いだったのかもよ?」

ダンサー志望なのは親友であるアタシも知ってるし、数時間前に喫茶店で
ナジミも聴いたからそれは無いけどね

「例えそうだったとしてもだぜ、夢だのなんだの関係なくだ
 脚が使えねぇ、長い不自由な一生を泣いて過ごさなきゃならねぇ

   …さっきも言ったが[世界樹の雫]は年間でも数量しか取れしねぇが
 ぶっちゃけそれが何だってんだい?
  少し待てばまた幾らでも採取できるモン、方やもう一方は
 たった一度きりしかない人間の一生だぜ?
 人生にゃリセットボタンなんざ付いちゃいねぇんだ…
 取り返しの付かないモンなんだぜ?双方を天秤に掛けりゃあ
 どっちが大事なんか分かりきってるじゃねーか」

「まぁ、バイト中に舞台をキラキラな瞳で見つめてたしな
 舞台に憧れれんのは確定よ、あ、姉ちゃん夢見る乙女の顔だったぜ」と
柔らかい笑みで 軽口を叩く…

ああ、やっぱりコイツはそういう奴なんだなと思った
よく人を観察してるってのもあるけど何より金銭的な価値より別の価値を
大事にするタイプだ

「舞台に憧れるかぁ、そういやぁ、俺も昔は舞台の奴に憧れを持つことも
 あったなぁ、子供の頃はバレエやりてえとかのた打ち回ったっけ?」

そういえばコイツ昔、この街に留学してたんだっけ?男性バレエダンサー
に憧れたのね…

「アンタさ、子供の頃の夢ってバレエダンサーだったの?」

「いんや違うね、ただやって見たいとは思ったけど夢とまではいかない
 それとは別に夢があったからな」

「どんな奴?」


「…まぁ、"絶対叶わない夢"ですわ」


「なにそれ気になるじゃん」


240VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/12(木) 10:30:19.90FYA/iTfZ0 (4/5)


「……笑わねぇかい?」

「どんな夢かによるけどね」

「なら言うのは「命令3はアタシと話し合いをすることよ親睦を深める
 為に話しなさい、これも無理なのかしら?」

「…はぁ、今の俺の夢は"込める技術"を世界中に広める事と
 故郷に"俺の名前が付いた塔"をおっ建てる事だ
  …昔の夢は…その、なんだ、子供の頃の夢だからよぉ」

歯切れが悪いわね、言いなさいよ

「…ンタ」

「っは?」

「…サンタだよ、サンタ、真っ赤なお鼻のトナカイと一緒にやって来る
 あのサンタクロースさんだよ」

………





っぷ!!


「ああーっ!!笑ったろ!今、姉ちゃんぜってー笑っただろ!」

「馬鹿ね笑ってないわよ!」

心の中でしか笑ってないわよ!

「ああ、いいよ、いいよ、全く……けどガキん時はクソ真面目にサンタの
 存在信じてたんだよ、んで大人になったら将来サンタクロースに
 なるんだって意気込んで、サンタの弟子になるためにーってソリ滑りを
 しまくったりしてたのさぁ」

「まぁ、わかんなくもないけどね」

子供の時は皆信じるしね

「背が伸びてくに連れて世の中の色んなモン見てく内に気付きたくない
 モンにも気付いちまってよぉ、俺ぁサンタさんにゃあなれないって
 思っちまったのさぁ…」

がっくりと肩を落とすコイツは…うん、少し可愛く見えた

「……なぁ、もしも本当にサンタが実在する人物でなれるとしたら
 目指せる人はいるのかねぇ?」

「…うん?」

今の言い方に少しだけ違和感を感じたわ
…"目指せる"人?   …"目指す"じゃなくて?
…その言い方だとサンタを目指すのに資格か何かでも必要みたいじゃない

「さぁ?目指そうと思う人は目指すんじゃないかしら?」

「…そうかい、"目指せる"奴はきっとすげぇ奴だろうな
             …俺ぁソイツを心から尊敬するよ」

おちゃらけた言い方でもなければ落ち込んでるってワケでも無い
ナジミはそんな態度だったわ

雪原を歩くための底が厚い靴、寒さに向けたブカブカの服

空を飛び、たった一夜にして世界中に"笑顔"を届けるために

無限に玩具がでる真っ白な"おおきな袋"を持った老人、そんな架空の人物

強い思い入れでもあるのか、この数日間で初めて見せるそんな顔で言う


「目指せる奴と目指せない奴がいるなら俺ぁ…後者だろうなぁ」



241VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/12(木) 11:00:16.63FYA/iTfZ0 (5/5)

>>233 申し訳ありません、すぐには書けませんでした…

>>234 な、ナニをかんがえているだぁー!(棒)

>>235 克服したらしたでバナナが無いと禁断症状になるかも

>>236 大変長らくお待たせしました僅か4レスですがどうぞ…

さて、『少女と星 編』ですが間も無くクライマックスです
ビビアンの症状の正体に迫ります




           【お詫びと謝罪】


よく >>"バナナの付いた短剣" 分かる人には分かる とか言いますが

元ネタが【トルネコ一家の冒険記】のアイテムとか
 
ネタが分かる人はよろしいのですが分からない人には本当に分からず結果


・話に置いてけぼりにされてしまう
・なんだか分からなくて後味の悪いモヤモヤ感を覚えてしまう 等

 
貴重な時間を割いて読んで頂いた方に不快な思いをさせてしまうのでは?

今更ながらその事実に気付きました、そこで話を投下し終えた後で

"筒"やジョセフィーヌが読んでいた[少年と竜と海老]の人物など

差し支えないようでしたら分かり辛いネタのちょっとした解説を交えたい

自分はそのように考えています

この度は読む側の気持ちを考慮せずに書き続けた事をお詫び申し上げます

              最後に長文でのお目汚しをお許しください


242VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/12(木) 20:48:34.73dUV+osl2o (1/1)

乙!
解説するのもしないのも自由だとおもうぞ
知らないなら調べるなりすればよくないかしら


243VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/12(木) 23:36:40.39oZH+HwMDO (1/1)

おつ
知らない俺にはうれしいけどね
まぁそれで本編が遅れなければいいと思う

それよりナジミさんいつ性別ばらすんだろ


244VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/19(木) 00:18:58.30Fnn+P0pT0 (1/5)


「何で"目指せない奴"なの?」

「…サンタさんって奴ぁ一夜にして多くの人をお幸せにすんのが商売だ
 間違っても"一夜にして不幸にする奴"じゃあ駄目だね」

…まただ、また昨夜と同じ葬式みたいな重っ苦しい空気だったわ
数十秒にも満たない沈黙が続く、でも昨日と違う事があるとすれば
ナジミが途中で話を切り上げて帰らなかったことかしらね?

沈黙に耐えかねたのか向こうが口を開いた

「昔…な、俺がまだ技術屋さんとして青二才だった頃だ
 そん時によぉ、一つ"失敗"をしたんだよ…」

「…話の流れからしてその"失敗"っていうのが
 サンタを目指せない理由って事で良いのかしら?」

「そゆこと」

肩を竦めて軽く一言だった、その後でコイツは言った




「『………技術の躍進が必ずしも"人"にとってプラスには働かない』」



「へ?」

「こいつぁ…その、俺のセンコーが俺に対して言った言葉さぁ」

「センコー?…"込める技術"に先生とか居んの?」

「ああ、俺が言っちゃあなんだけどさ、かなりの変人だったね
 主に格好とかが」

この男に言われる程とは…余程奇抜なファッションセンスの人だったのね

「ちょびヒゲにバーテンのオッサンみてーなリーゼントまるで冴えない顔
 自らを"遊び人"と名乗る奇人で、その癖、掴みどころが全く無ぇ…
 雲みたいな存在でな …糞ガキだった俺がマジに憧れた存在だよ」ボソ

最後だけ小声、ほぼ聞き取れないような小声だったわね

「さっきも言ったが俺ぁ本当に何もわかっちゃあいねぇ青二才だった
 だから『技術の躍進が必ずしも"人"にとってプラスには働かない』って
 言葉の意味もよく知りもしなかった
  だから、やらかしちまったのさ…この天才ナジミ様の生涯、絶対に
 忘れないようなミスって奴をよぉ」

アタシは口を出さない、ここまで話すナジミを見てふっと思った
これは…なんていうかアレに似てるなって

教会で神父様相手にやる、"懺悔"とかにすごく似ているって…

「…親を、…親を失望させたかもしれねぇ
 悪友を…俺のダチ公にも今だって迷惑かけてるさ
 ダチ公の弟にも無理難題だって押し付けちまってるし
 もう一人のダチにも取り返しがつかねぇことだってしちまった…!」

ここ数日で誰にも見せないような(少なくともアタシは見たことない)顔
険しい顔つきで次第にナジミの語りは吐き捨てるような口調になっていた
 いつも、おちゃらけていた人間とは思えないような一面
誰にでもある後悔とか秘めておきたい事柄…
ナジミの人間らしい部分を垣間見た気がした

「俺ぁぜってーサンタさんにゃあなれねぇ、やっちゃあいけないことを
 やらかしちまったからだ」

「…あのさ、アタシさ、例の症状で色んな医者に見てもらったのよね
 それで精神科のカウンセラーとかに会って、こう言われたのよ
 "時には誰かに悩みを打ち明ける事も必要です"って、アタシでよければ」

打ち明けてみない? そう訊ねてみた
化け物から助けてくれた恩人でもあった、そうでなくても純粋に助けたい
そんな感情を抱いていたのかもね

「………俺の失敗」


245VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/19(木) 00:23:11.34Fnn+P0pT0 (2/5)



















  「画期的な戦闘方を考えた…」











246VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/19(木) 00:36:25.38fFtg18ADO (1/1)

ここでスレタイか!!


247VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/19(木) 01:15:51.96Fnn+P0pT0 (3/5)



「は?」

「…」


画期的な戦闘法を考えた? コイツは今そう言ったのかしら?

「えっとさ、よく聞こえなかったけど"画期的な戦闘法を考えた"って
 言ったのよね?」

「ああ、画期的な戦闘方を考えた、ソレが俺の人生最大のミスよ」

あー、それのどの辺りが失敗なのかイマイチ解らないんだけど

「俺ぁな技術って奴は人を幸せにするモンだと考えてんのさ、けどな
 俺の開発したモンは結果的に人に悪用されるようなモンだった
 ……まだ誰にも悪用はされちゃあいない
 その件だけなら取り返しはつく、ソレを片付ける為なら
 俺ぁ何だってやってのけるさ」

「まとめると…アンタの作った技術が人に悪用されそうな代物で
 自分がそんなモノを作ったから極悪人だから人を幸せにできないって
 カンジでいいのかしら?」

「うん?まぁ、平たく言えばそうだが」



「馬鹿じゃないの?」



「へっ?」

「今のアンタの話ならその"技術"は悪用されていないってことじゃん?」

「あ、ああ、現段階じゃあな」

「自分でも言ったじゃんその件だけなら取り返しがつくって」

それ以前の親や友達(多分、昨日話してた三人の事かもしれない)に
迷惑掛けたって点はアタシは解らないから何とも言えないけど…

「これだけは言えるわ、取り返しつくなら取り返せば良いじゃないの
 どんな理由かと思ったらそんな事?
 責任感じちゃって『私は極悪人です』ってアピール?馬鹿じゃないの
 アンタ中二病か何かなの?」

「…ぅ、けどよぉ、俺ぁ、親やダチ公共に」って言おうとしたナジミに
言ってやったわよ
「何したかしらないけどさ、悪いことしたなら赦されるような事をしろ」
ってね

「…あー、赦してもらえるようなことじゃあ…」ポリポリ

困ったような表情で頭を掻いた後、ふっと笑みを零して

「でも、まぁ、そうだな、そんな風に考えりゃあ、少しは気が楽かも
 しんねぇ…かな?」

険しい顔でもないヘラヘラとした笑いを浮かべるナジミ
やっとコイツらしくなったって気がするわ



―――
――


「姉ちゃん、今日はありがとな!」

「良いわ、付き合ってもらったのはアタシの方だし(奢って貰ったし)」

「約束する明日にはちゃんと姉ちゃんの問題を解決してやるよ」

最後にそう言ったナジミとアタシはそれぞれの帰路に着いた


248VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/19(木) 02:24:35.33Fnn+P0pT0 (4/5)

>>242 するのもしないのも自由ですか、そう言われるとありがたいです

>>243 性別ばらせば、失恋的な意味で心に傷を負う人が出ますよね!!
    すごく…絶望的ですね、いやっほぉぉ!!!!

>>246 スレタイの『方』と『法』は敢えて違う字にしています
    べ、別にうっかり間違えたとかじゃないんだからねっ!

今回は実質上2レス分程度で申し訳ない…

*********************************
              【解説】
*********************************

今回より、解り辛いと思われるネタの解説を加えていきたいと思います

あまり堅苦しい語りというのも味気なく思うので所々ユーモアを交えた

解説となるかもしれませんが何卒、御了承くださいませ

最後に言い訳がましいですが自分はあまり説明が得意な人間では無い為

解説が全く意味を成さないと場合もありえます…

もし改善の意見があればあげて頂きたいと考えています




>>バコタ 【ドラゴンクエストⅢ・Ⅳ】より
Ⅲにおいて[盗賊の鍵]を作った人物であり
Ⅳにおいてはある国で発生するイベントで勇者一向に罪を擦り付ける盗賊
無論ですが魔物使いの才能があるわけではありません、あしからず

>>メディル 【ドラゴンクエストⅦ】より
正式な名称は[メディルの使い]、その辺の雑魚と違ってボス格の魔物
こちらはちゃんとした魔術師であり[てんばつの杖]なんぞに頼らずとも
[バギクロス]や[マホトーン]などの呪文を使用する【ピザ】じゃないッ!
原作と違い、此方では単なる詐欺師でレンガを脳天に食らった程度で
倒れますね、…アレ?それで生きてるって地味にすごくね?

>>"筒" 【ダイの大冒険】より
序盤で偽勇者一向を懲らしめるために使用し、又、ある誇り高き軍団長が
一時の気の迷いとはいえ、人質を取るために使用してしまった…
後に彼は最初から正々堂々と戦った上で負けたかったと悔いていた…

>>"進化の秘宝論" 【ドラゴンクエストⅣ】より
そのまんま進化の秘宝である



>>[少年と竜と海老] 登場人物一覧

>>木こり
ただの原住民であるッッ!!

>>青い帽子の少年 【テリーのワンダーランド】
引き換えけ…ごほん、DQⅥの蒼き閃光テリーの幼少期の姿だ
ある日タンスの中から現れた南国の精霊を名乗る毛玉に姉を拉致された為
後を追って毛玉(亜種)について行き魔物使いとなる
一時は姉と再会するも元いた世界で再び姉と別れてしまう
その後、姉を命がけの旅をするというが…
 ぶっちゃけ本気で姉を探そうとしたのか怪しい所である
少なくとも命がけで探している人物と三回すれ違って気付かないし
旅の最中で美しさコンテストに来てたりする
やっとの思いで再開した姉とのやり取り↓
「テリーの攻撃! ミレーユは*のダメージを受けた!死んでしまった」

>>戦斧を持った"竜" 【DQⅥ テリーのワンダーランド】
Ⅲの世界には登場しない[バトルレックス]通称ドランゴである
テリーの嫁…おのれテリー!そこ代われッ!!
自分を倒した強い男に惚れてしまうちょっぴりMな恋する乙女
愛する男の為に自力で生き返り、一切暴れる事無く
牢屋で健気に待つドランゴちゃんマジ乙女!
どうでもいいけど>>1は必ずゲームで仲間モンスターにしてました

>>"海老" 【テリーのワンダーランド】
真実の扉に出現するボス、Ⅲの世界に繋がっており泉の精との会話後
[ダンジョン海老]を差し上げましょう…ただし倒せたらと
プレゼント(襲わせる)してくれる


249VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/19(木) 02:53:08.68Fnn+P0pT0 (5/5)

>>スカイドラゴン
[スカイドラゴン]ダーマ地方に現れる魔物、DQⅢをプレイして
初めて見た見るからに強そうな姿に『おお!』って気分になった

>>ビビアン 【ドラゴンクエストⅣ】
彼女に関してはⅢにも登場するのだが個人的にはⅣの方が印象的だ
戦ったからかもしれないが

>>シルバーデビル 【DQⅡ DQⅤ トルネコの大冒険】
Ⅲの世界にいないけど、Ⅲから遠い未来設定のⅡにはいる
絶滅寸前の[シルバーデビル]が長い歳月を掛けてⅡの世代で繁殖した
脳内でそんな風に補完してますね

>>"バナナの付いた短剣" 【トルネコ一家の冒険記】
時系列的にⅣ終了後から不思議なダンジョンへ繋がる物語で登場
大魔王の命を受けてトルネコ一家の目的を妨げる為
部下の[ギガンテス][ガーゴイル]共に[シルバーデビル]が立ちはだかるも
"嗅覚を刺激する兵器"や[封印の杖]等に幾度と無く敗北してしまう
そんな彼等がついにトルネコ一家を倒せる機会を手にし向かうも
[デビルキラー]という武器のおかげで[シルバーデビル]は更なる痴態を
晒すこととなるッ!
 その姿に部下二人は涙を流さずにはいられなかったという…

余談だが、[デビルキラー]のバナナを首飾りにして[シルバーデビル]が
装備すると[ボミオス]の効果が現れるらしいが
 ナジミはこの機能まで再現しなかった…



今回の解説はここまでですが 如何でしょうか?
修正…
 ↓

>>その後、姉を命がけの旅をするというが…
>>その後、姉を求めて命がけの旅をするというが…


250VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/19(木) 21:14:36.78BZmWcPGQo (1/1)

乙!
ナジミは中二病だったわけね!


251VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/24(火) 00:00:41.24HNwkPnoJ0 (1/7)

>>250 中二病ッッ…それは人類誰しもが必ず患う事が運命として―(以下略


まず一言 『メリークリスマス』 と言わせていただきます
可能ならば早朝7時に投下させていただきます


252VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/24(火) 17:53:51.33HNwkPnoJ0 (2/7)


昨夜はあんなに眠れなかったのに、今日は打って変わってすぐに眠りに
就くことができた、最後に時計を見た時の時刻はまだ午後九時だった
寝不足だったからなのか、あまりにも濃厚な一日だったからかは知らない
 兎にも角にもアタシのお目覚めはお日様も昇らないような時刻だったわ

「…早起きは三文の得っていうけど、正直使い道に困るわね」

お目々はパッチリ、眠気はすっかりすっ飛んで行った
 午前四時三十分前のことだわ
三文の得ってのは昨夜のナジミとの会話の延長線で聴いた諺だ
…三文ってGに換算したら3Gあるか無いかなのよね

「使い道に困るような金額ね、…今、この瞬間と同じで」

早起きし過ぎなのも大概問題モンだわ、24時間営業の店なんて無いし
こんな時間から何をすれば良いのかも分からないし

折角だし今日のコーディネートでも決めておこうかしらね?
 目に付いた服とアクセサリーを持って姿見の前に立つ
劇場が急遽、休みになって従業員達は暇を持て余すことになった
理由は、うん…あの化け物が暴れまわった後は流石に誤魔化せないからね

「…やっぱりアタシにはコレが一番かしらね」

自分が一番と思う服装の上にお気に入りのアクセサリーを着ける
死んだ母親が持ってたブローチだ

 何だかんだでいつも、身に着けている気がする
碌に家に居なくて、何をやっていたのかも分からない母親だったけど
唯一の遺品だからかもしれない

早すぎる身支度も終わって特にできることも無い、カーテンの隙間から
窓を見れば空はまだ薄暗く、星も見える
いつもなら眠気覚ましにジョギングの一つや二つでもする所だけど

「そうね、散歩でもしてみようかしら」

眠気がすっ飛んではいるもののする事が無い
ならば街中を歩いてみようではないか、何時もと違う時間帯だからこそ
新しい発見があるかもしれないし

そんな思いで朝霧の立つ街中へと繰り出した



―――
――



「あっ」
「あら」

風景に発見こそは無かったけど、知り合いには出会えた

「えっと、ビビアンさん?でしたね」

耳が隠れるほどの長いロングヘアー、シルクハットが無いせいか
少し違和感を覚えるが、昨日の舞台の主役イナッツがそこに居た

ここで出会えたのも何かの縁ってことでアタシは彼女と
近場の公園のベンチに並んで座っていた

「そうですか、その時から舞台に立つ事を夢見ていたんですか」
「ええ、きっかけなんて以外にも些細なモンなのよ」

以外にも彼女とアタシは気が合うみたいで、気付けば話しこんでいた
小さい頃は何に憧れたか、何をしたかったか
 そんな齢相応の女同士の会話だ、こうしてみれば彼女も唯の人間と
なんら変わらなく思える

「…あの、ビビアンさん?」

不意にビビアンが怪訝そうな顔で訊ねてきたのだ

「何かしら?」

「そのブローチって貴女のモノですか?」


253VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/24(火) 19:15:44.537ECGVfkQO (1/1)

更新きたー


254VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/24(火) 19:33:01.70HNwkPnoJ0 (3/7)


「ええ、どうかしたのかしら?」

「いえ、…そのブローチ、何処かで見たような気がして」

紅く光るルビーを見つめるイナッツ、この時のアタシはこの街には
人が多く集まるから、旅の宝石商か何かが似たようなモノを持っていた
 そんな考えを持っていた

「あっ、もうこんな時間じゃないの」

公園の時計を見ればどうだ、短針は間も無く"六"の数字にたどり着こう
としていた、楽しい時間は早く過ぎるとはよく言ったものだ
 昨晩ナジミに六時に来いと伝えてあるのだ
いつ来るか分からないのでは困るし、アイツが朝食を作ってくれると
言っていた(材料費等はアイツの自費で)、この厚意に甘えない訳にも
いかないと考えて、頼んでおいた

「ねぇ、イナッツ、アンタが良ければだけどさ
 アタシん家に来ない?朝ごはん食べてきなよ」

「ええっ!?」

友人を家に招くのは結構嫌いじゃない、めんどい朝食作りはナジミが
やってくれる訳だしね

「良いんですか?」

「良いって、良いって家に遊びに来なよ」

陽も昇り始め辺りが明るくなり始めた頃、アタシは友人と家に向かう
ここ最近、アタシは充実しているように感じる…
 一番の原因は、多分"例の症状が治る"可能性があるからだと思う

手足が動かなくなる恐怖、声すら出なくなる恐れ
常に誰かが居て、誰かに助けられなければ生きていけない
自分の力で未来を掴めず、誰かの人生を縛らなきゃ先にいけない一生

まるで絶望しか視えてこない生涯
 そんな運命にもようやく光が射したんだ
まるで三流脚本家が書いたような内容、突然の奇跡…
不運に見舞われた主人公に魔法をかけてくれる魔法使い
子供向け絵本なんかじゃ手垢が付くほど使い古されたような展開だわ

でも、それが良い、それこそがベストなのよ…!


アタシん家の方角、丁度、昇る朝日を受けながらの帰路
目を細めながら、アタシ達は進む、あぁ、世界が輝いて見えるッ!



(今、アタシは、本当に幸せだ…!人生に流れがあるなら
 間違いなく、アタシに"流れ"が来ている…!)



アタシの人生に栄光がありますように…!
そんな想いを持ち、家の前の曲がり角を曲がると




        ボスッ!!



「へぶっっ!?」




「ビ、ビビアンさぁん!?!?」

「あっ、姉ちゃん!?わ、わりぃ」


曲がり角を曲がって出迎えてくれたのは
顔面目掛けて飛んできたボールだった…


255VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/24(火) 20:33:27.00HNwkPnoJ0 (4/7)


「…」サクサク


「わ、悪かったってば」

なんとも気まずい雰囲気の空気が流れるアタシん家
何で空気が悪いかって?

順を追って説明するなら…そうね
 ナジミは今日、早起きしてアタシの為にわざわざ宿の主人に了承を得て
クッキーを焼いてきてくれたらしい、そのクッキーってのが
シンプルなバタークッキーなんだけど、これがまた美味しいのよね
 昨日、南蛮風ハンバーグとやらを作ってきたり、クッキーを焼いたり
男の癖に地味に女子力が高いと思ったわね…
 で、その地味に女子力が高い男がアタシん家に来たわ良いけど
肝心のアタシがイナッツと公園で駄弁ってたから
外で律儀に待ちぼうけていたってわけなのよね

「…」サクサク・・・ゴクッ

可愛らしいラッピングのクッキーを少し目を放した隙に子猫に取られて
さぁ大変!ナジミさんは大慌てでポケットに左手を突っ込み
"込めていた"ボール(ドッチボールとかに使うサイズの奴)を取り出し
ブン投げます!

かえってきた ビビアンちゃんに クリティカル です!

 やったね! このやろう!

「…別に、顔に跡が残った訳じゃないし、美味しいクッキーに免じて
 許してやるわよ」

「そ、そか、まぁ、そのなんだ、マジでごめん」

目に見えて狼狽えていたナジミにお客様も居るんだから
美味いモン作りなさいよね、そんでチャラよと言ってやったわ
そそくさと台所へ逃げるように入っていくナジミを尻目にアタシは
本日お越しのお客様のお相手をする事にした

「ごめんなさいねイナッツ」

「あ、いえ…所で、気になることがあるんですが」

「うん?何かしら?」

お茶請けのお菓子と紅茶の入ったカップを差し出しながらイナッツを見る

「あの、その…」

「ハッキリ言って構わないわよ、アタシ等、友達じゃないの」

何かを言いたそうな友達に遠慮はしなくても良いと言う主旨を伝えると
彼女は口を開いて訊ねてきた

「じゃ、じゃあお聞きしますが、…ビビアンさんってナジミさんと
 お付き合いしているんですか?」


        ぶぶーっ


噴いた、紅茶噴いた

いやいや、君、なにいっちゃってんのわけがわからないからね
あの怪人黒コートとあたしがおつきあいってなんじゃそりゃ

「あ、いえ、そのこうしてご自宅に、異性を呼ぶというのは、その…」

「ああ、うん、まぁ普通はそう思っちゃうわよね、うん」

アタシはアイツとは別にそういう関係じゃないって事を伝えた
ただ、故あって一定期間アイツと行動を共にしなきゃいけないんだと

………確かに冷静に考えると平然と男を家に呼び込んでるわね、アタシ
 常識が通用しない奴と一緒だったからか、何か感覚が麻痺してたわ・・・

「"故あって"ですか?」



256VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/24(火) 21:19:17.37HNwkPnoJ0 (5/7)


「アタシは、小さい頃から身体がたまに動かなくなる病気を患っててね
 どんな医者も『本当に病気なのか』とか『手に負えない』だの
 『こんな症状は例が無い』って匙を投げるくらいのモンを患ってるわ
 ・・・ひょんなことから知り合ったアイツはこの病の謎を知ってるらしく
 現にアイツと出会ってから今日まで"身体が動かなくなる痺れ"が無い」

「…"身体が痺れる"?」

首を傾げて、何かを考え込むイナッツ
何を考え込んでいるのかは知らないけど、ナジミに治療してもらう事を
条件に共に過ごしているという事を説明した
 間違っても彼氏なんかじゃない(此処、重要)

「おーい、姉ちゃん!食器棚の皿ってどれを使っても良いのかい?」

「ええ、どれ使っても良いわよ!」

ナジミの質問に大きく声を出して答える
…イナッツ、何よその顔は? 微笑ましいモノでも見るような顔して

「あー、あー、そうね、劇場で公演予定の台本とかあるんだけど
 どう、暇つぶしに見てみない?」

とりあえず、話題を逸らそう、そうしよう
思い立って席を立ち、劇場で渡された公演予定の台本を幾つか持ってくる

イナッツの公演の後も、劇場を利用する予定の客は大勢いる
これはその中でも約一月先までに行われるモノの台本だ

基本的に裏方のアタシ等には縁が無い様に見えるけど、○○のシーンで
この舞台セットとか、○○で特殊な演出をかけるとか裏方もそういった
意味で台本を読んどく必要があるのよね

そこでアタシが持ってきた台本をテーブルの上に乗せる


・『トロイの木馬』


「これは…"トロイの木馬"ですよね?」

「ええ、有名な話よね」

今しがた言ったように有名な話だから大雑把な説明しかしないけど
"トロイの木馬"ってのは簡単に言えば
戦争で勝利したA国がB国から戦利品として持ち帰った木馬の中から
潜んでいた敵兵の奇襲を受ける話ね
 …持ち帰った宝は実は恐ろしい罠でしたって話

彼女と気が合うのはイナッツ自身が芝居好きで話題について来れるから
かもしれない、そこで次にアタシが持ってきた台本

これは間違いなく彼女の御眼鏡に適うわね、なんせ実話を元に作られた
お芝居なんだしね



・『リュウキュウ 物語』


「…これは!」

「ふっふっふ、知る人ぞ知る劇、"リュウキュウ 物語"よ!」

この話が本になって出回るようになったのは何でも二十年近く前らしい
どマイナーな話であまり知ってる人もいない
だからこそ、芝居にして一儲けしようなんて考えた役者がいるのね

「…世界中を魔物の友達と一緒に回ったけど、この話だけは
 手に入りませんでした」

目を見開いて、台本を手に取るイナッツ
うん、うん、その気持ち分かるわ
アタシも原作を知ろうとして古本屋や旅の商人と色んなトコ
探し回ったし



257VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/24(火) 22:06:44.31HNwkPnoJ0 (6/7)


"リュウキュウ 物語"

"トロイの木馬"と違って有名でもなんでもない話(個人的に好きだけど)

あの大国[エジンベア]の貴族の女性が世界を見て回る為に船旅に出た所
 船が予期せぬ事故で座礁、転覆した船から半ば投げ出されるように
海へ落ちたお嬢様が東洋の神秘[ジパング]に流れ着く話

そこで何でも"匠"というモノをやっている男に拾われ次第に心が惹かれ
恋に落ちるという話だ
 その時の男性が[ジパング]のその地方"リュウキュウ"という名前だから
そんなタイトルだったような気がする

「へぇ・・・随分と変わった話じゃあねぇかい?」

「あっナジミ」

ふと顔を上げれば黒コートの上にエプロンという画期的なファッションの
ナジミが居た、・・・・・・どうでもいいが、この男、室内でもコートなのか?

「さぁて、お美しいお嬢様方、本日の朝食でさぁ」カタ

食卓に並ぶのは簡単なモノだった、大根をおろし金で擦ったモノを乗せた
焼き魚に、豆腐を特製だし汁で茹でたモノだったり、同じくナジミ作の
自家製ドレッシングを使ったサラダ
ツナの入った[ジパング]風のオムレツね

「一風変わった料理ね?」

「昔、教えてもらったモンでさぁ、味は保障する」

世界を旅した星飾りが言う、   …言うだけの事はあるわね
味は悪くないわ

「アンタさ、この話知ってんの?」

世界を旅したコイツなら知ってても不思議は無さそうだから話題を振った

「応、知ってるも何も原作持ってるしな」
「「マジで(すか)!?」」

「…世界各地で本とか集めたりしてるからな
 二人ともそんな身を乗り出さんでくれ、落ち着けって、な?」

若干引き気味のナジミに色々と質問してみたいと思ったのはイナッツも
同じだったらしく、二人で質問の雨荒らしをぶつけてやったわ
―――
――


「それじゃ、お嬢様は[エジンベア]の政治が嫌で家出したってこと?」

「ああ、余りにも腐りきった裁判制度を導入してたからな
 裁判長の娘って立場でしか見られないお嬢さんは国のお偉いさん方に
 愛想尽かしちまったてぇ訳さぁ」

「でも一度は故郷に帰ろうとしたんですよね?」

「うん?まぁ、出会った人との婚姻を認めて欲しかったからだ
 さっき読み聞かせたようにご両親はカンカンに怒っちまってんで
 二人で何処か、誰にも見つからない場所へと駆け落ちって訳だわな
 いやぁ、ロマンチックだねぇ」

原作片手に大きく手を振って表現するナジミ
コイツ紙芝居とか劇団の語り手とか勤めれば良いんじゃないかしら?
割と様になってるし

「所で姉ちゃん、あんたぁ職場に行かねぇで良いのかい?」

「何言ってんのよ、アタシの今日の出勤は午前十一時、まだ余裕が」チラ


『十時 五十三分』


「…」

話に熱中し過ぎて気付けば遅刻寸前になってたアタシの叫びがあがった


258VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/24(火) 22:09:45.41HNwkPnoJ0 (7/7)

>>253 早朝7時に投下とか言っときながらこんな時間まで遅れてました
   ・・・できもしない宣言はするべきではありませんね





259VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/25(水) 01:40:06.27bnKrqmGDO (1/1)

おつ
いい感じにストーリーが落ち着いてきたね
このあとの展開も期待してます


260VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/25(水) 19:40:56.637xOK3WQa0 (1/7)

―――
――


午後四時、仕事と言っても単に劇場内の清掃活動くらいしかなかったから
本当にすぐに終わる予定だった

遅刻が原因で倉庫の機材運びが追加されなければね・・・

「あ~あ、やんなっちゃうわよ」

「大丈夫ですかビビアンさん」

今朝と同じく公園のベンチに座るアタシとイナッツ
イナッツから手渡されたソーダ水をグイっと喉へ流し込む

「良い飲みっぷりだねぇ!!でも乙女のするこっちゃあないな」

アタシ等の背後から声がする、何時ぞやと同じような台詞を吐く星飾りに
気だるそうに「別にいいじゃん」と返事をしてやった




今日で


今日で"約束の三日目"だ




「・・・」ゴクッ

アタシは再びソーダ水を飲んだ、ジャラっと砂利の様なサイズの氷が
紙コップで音を立てる、喉が渇いていたワケでも無い
強いて言えば緊張してたのカンジかしらね、暑くもないのに汗が出る

「ねえ、訊いて良いかしら?」

「はいはい、何でもどーぞ」

「これからアタシの症状の謎を"ある場所"で教えるっていったわね」

「そだね」

「…この場にイナッツが居る理由ってのは?」

「本来なら俺だけでも良さそうなんだがな、場合によっては彼女に
 手助けしてもらえないかと思ってねぇ」

コイツ一人では治療できない方法なのか?
…いや、でも、見た感じイナッツも医学に詳しいようには見えないし

「・・・それじゃあ、行くかい?」

「・・・ええ」




ナジミを先頭にアタシ等三人は街中を歩いていく
商人で賑わうストリートを横切り、料亭サンチョのあった場所を通り過ぎ
ボロボロの教会の前を素通りしていく、随分と街の中心から離れたものだ
殆ど、民家が少ない街の郊外・・・耳を澄ませば鳥の囁きが聴こえる
振り返れば石壁の向こうから顔を覗かせる煙突があんなにも遠くに思える


「随分遠くまで行くのね?」

「ん?ああ、でも何処に向かってるかは分かるだろ?」

「・・・」

歩き始めてから一言も話さないイナッツ、ナジミの目線の先には・・・

郊外に建てられた、ちっぽけな小屋が一件



261VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/25(水) 20:08:21.687xOK3WQa0 (2/7)


なんてことのない一件の小屋

木製の作りで、屋根は赤茶色の瓦屋根ただ遠目からでも分かる程に
生い茂る雑草と曇った窓ガラスを見るに人が使っていないってのは分かる

「あの、ビビアンさん」

ここに来て今まで沈黙を通していたイナッツが口を開いた



「私は・・・ビビアンさんを悩ませている病に心当たりがありました」



「えっ?」


医者が匙投げるような症状の謎を知ってる人物がここにも居た
思わず立ち止まってイナッツの方を見る

「心当たりといっても確証は無いし、・・・それでビビアンさんが劇場に
 行った後で、こっそりナジミさんに確認したんです
  私の考え方が正解なのか・・・合ってるかどうかを確かめました」

ナジミと出会った初日、アイツが自分は占い師だと騙っていた時は
何故かアタシの症状を知っていた
 そして、出会ってまだ一日も経たないイナッツ
彼女に症状の事を話したのは今朝が初めてだった

何故分かるの? アタシがあんなにも必死になって調べていた事が
こんなにもあっさりと? 
 気付けば、声に出ていたのかイナッツは答えてくれた


「ビビアンさん、これは多分、普通の人では決して気付けない事だったと
 思うんです"私"や"ナジミさん"だから気づけたんじゃないかと」

「姉ちゃん達!立ち止まってお話も良いが、そろそろ来ておくれ!」

既に小屋の入り口までたどり着いていたナジミに呼ばれて再び歩みを
進める、歩き続けながら彼女は言う



「ビビアンさん、今朝、公園で貴女のお母さんの話をしてくれましたね
    あまり、お母さんを嫌いにならないであげてください」

「・・・?、なんで今そんな事を言うのよ」



「・・・」

イナッツは再び黙りこくって歩くだけだった


でも最後に一言

一言だけ、ボソっと漏らした一言を訊いた









「ビビアンさんの"症状"は"病気の類"ではないんですよ」






アタシ達は小屋の前に到達した・・・!


262VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/25(水) 21:12:49.007xOK3WQa0 (3/7)


ガチャ

ドアノブに手を掛けて主人の居ない小屋へ入り込むナジミ、続いてアタシ
少し遅れてイナッツが入ってきた
 中は…うん、埃っぽいね
自慢の服が汚れそうだとかそんな事は心配しない
 イナッツの意味深な発言が頭の隅に引っ掛かって釈然としない

「鍵って掛かってなかったの?」

「いんや、掛かってたけど前来たときに抉じ開けた」

しれっとした顔でピッキングを告白した黒コート
前来たって、・・・ああ、よく見れば埃だらけの床に足跡があるわね
一度玄関から入って、家中を家捜ししたって感じかしら?

「ええっと確か此処だったかな?」

部屋の中央から少しずれた所で蹲るナジミ、何をしてるのかと覗き込むと
コイツはフローリングの繋ぎ目部分に指を掛け床の一部を外したわ
床に隠し階段があったのね・・・

「これは…!」

「姉ちゃんや、これからこの先で長年苦しめてきた"痺れ"の謎
 "何故、患ったか?"…そして姉ちゃんの母親の仕事について話すぜ」



どうして、アタシの親の話が出るのかが分からなかった

謎 謎 謎 ・・・謎だらけで頭が痛くなる

思考をフルに回転させようとするアタシは次に見た光景で言葉を失う


「・・・!」

「・・・これは!もしかしてこれ全部ですか!?」

「ん、その通りだエルフの姉ちゃん」


隠し階段先の石造りの通路、薄暗い通路をナジミが取り出したカンテラの
明かりを頼りに突き進み、奥の扉を開けば・・・その光景は実に圧倒的ッ!

床はまるで昔、公演された"宝島"の宝物庫のような黄金の床、全部が金塊
 その上の決してお芝居なんかに使うような安っぽいモノとは違う
真紅の絨毯には様々な金品、宝玉がばら撒かれ、壁には長剣、短剣、槍
他にも戦斧なんかも飾ってあった、壁際の本棚には隙間無くギッチリと
詰め込まれた本、部屋の隅に蓋のしてある壷が幾つか、それと机と椅子

そんな部屋だった

「こ、此処は?」

上擦った声でナジミに此処が何なのかを訊ねる

「ここかい?"姉ちゃんの母親の職場"だよ」

コツコツと黄金の床を厚底靴で踏み歩き室内の椅子に手を掛け
立ち話も何だし、椅子に座らせてもらおうぜとナジミが言う

「・・・」


わけがわからない

「・・・座ったわよ・・・」

「座りました」

「ん、おーけぃ、んじゃあ、まず順を追って話すが・・・
 

   姉ちゃん達は"鑑定士"ってのは・・・知らないか、かな?」




263VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/25(水) 21:40:24.397xOK3WQa0 (4/7)


「"鑑定士"?」

「簡単に言えば俺と同じ"込める技術"の同業者だな」

"鑑定士"
ナジミの説明によると"込める技術"で作られたモノの『解析』『分解』を
専門とする人達らしい

「・・・俺ぁ"込める技術"は人を幸せにするモンだと信じてる

 けどな、中には全くそうでない・・・俺の信条たぁ真逆なブツがあんのよ」

「どのような物ですか?」

イナッツが訊ね、そしてナジミが答える







「・・・  [破壊のつるぎ] [破滅の盾] それに[みなごろしの剣]とか

           そして"姉ちゃんが着けてるブローチ"が対象だ」







「・・・・・・・・・は?」






ブローチ? 母親の遺品のブローチが何だって?
今、何て言った?

「ちょ、ちょっと待った、あ、いや、待ってくんない、マジ意味不明
 なんだけど」

「いいよ、待ってやるよ」

深呼吸を2回、3回・・・よし

「あのさ、アンタの信条ってのは人を幸せにする事よね?」

「ああ、それで合ってる」

「じゃ、じゃあさ、アタシが着けてるこれって、これって・・・何?」

「・・・」



気付けば声が震えてた

「最後まで聴いてくれ、それが何かも話すから」

「・・・」


そしてナジミは全てを話した、この三日間のナジミの全ての行動をだ


264VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/25(水) 22:16:08.507xOK3WQa0 (5/7)

*************
********
*****
***

陽はゆるやかに落ちて、昇る月と地表を照らす役割を交代してゆく
この日、黒コートに身を包んだ一人の人間がこの街を訪れた・・・!

街中に吹き荒れる木枯らしが黒髪、耳の星を模ったイヤリングを揺らす

この人間には目的があった、三年、三年近くある[青い石]を探していた
そして、星飾りはある情報筋から、かつて幼少時代に留学していた街に
件の品があるという話を耳にする・・・!

その情報というのが黒コートの"悪友"が調べたことで
唯でさえ劇場目当てで多くの旅芸人、芸を見に来る人間目当ての商人等
人々が行きかう街であった

 黒コートことナジミは初めから旅の商人達の事は当てにしていない
(万が一ということもある為、念入りに情報収集は怠らなかったが)
ナジミが期待していた事、それは"悪友"が『この街に"鑑定士"がいる』と
言った事だった

先述述べたように、鑑定士の役割は"込める技術"を調べることにある
それもちょっとやそっとの量では無い、日々、かなりの量の技術を
鑑定するため
 隠し部屋など誰にも気付かれない所で"技術"を調べていた

その鑑定士ならば求めている[青い石]に関して何かしている可能性がある

問題は何処に住んでいるかなのだ、さしものナジミといえど恐らく調査に
は早くとも一日は潰すことになりかねない

そんな事を考えながら歩いていた時だった・・・

ドンッ

近場で何かが入る音がした
そして・・・

「あっ、すいません」

俯いて歩いていた女性とぶつかった、女性の後ろを見ればゴミ箱から
占いの雑誌が顔を覗かせている、そして風に舞う破かれた雑誌のページ

「・・・!」

ナジミは驚いた

何に驚いたか? 鑑定士の手がかりを探すなら"込める技術"関連のモノを
見つけられれば良いのかなどと考えていた矢先

その"込める技術"が目の前に飛び込んできたのだッッ!!!!


「いやいや、俺も前を見てなかったからねぇ、ところで綺麗な姉ちゃん
 一人かい?、良かったらディナーでもいかがかな?」

「は?」

相手は何だコイツ?ナンパか? とでも言いたそうな顔でナジミを見ます
この際、相手が何を考えてようが知ったこっちゃありません
 「どうにかしてこの女性と接点でも作れないか?」ナジミの頭の中には
その考えが浮かんでいました

この街で技術絡みと来れば必ず"鑑定士"に漕ぎ着けるッ!そんな確信が
現れました、何故なら彼女が首から下につけていたモノ

それは"ブツ"が"ブツ"だったからです・・・

ナジミは鑑定士でなくとも技術屋の端くれ、少なからず見抜く知識がある


女性が付けていたモノが普通なら決して手に入らないモノであること




     相手を"呪う"事に特化した"技術"だと気付いたからです



265VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/25(水) 22:51:39.267xOK3WQa0 (6/7)


ナジミはどうにか女性の気を惹こうと彼女の細かい仕草、言動から
どのような事なら関心を惹けるかを探ります
そこで自分は旅の占い師ですと騙った所どうでしょう?ドンピシャです!

当然占いなんぞできるワケのないナジミはにわか占いをした後

彼女に身体が痺れる事は無いか?と訊ねます

チキンライスを食べる手を止めるのを確認、またまたドンピシャリですね

人を"呪う"事を目的とした"込める技術" これは

"誰かが誰かに恨みを抱いていて、誰かを陥れようと考えて贈りつける"

そういうモノなのです

明らかに取り扱い注意の代物、それこそ鑑定士辺りが絡んでても
おかしくはない、そうでなくとも女が苦しむ事を好しとしないナジミは
黙って見過ごしはしません
 仮に鑑定士の件が無くとも女性を助けようとしたでしょう

早速、女性にブローチの件で訊ねようとしたところで運の悪い事に
ワケの分からないヘアースタイルの連中が酒場に入り込んできます

ソレを片付けた後も女性が"痺れ"て倒れてしまうなど
訊く機会を逃してしまう


倒れた女性の身元を近辺の住人に訊ね、送り届けた後、やむを得ず
先に女性の身元関係を洗う事にした

あのブローチを渡された女性は"誰かに呪われる程の恨みを買っている"
ナジミはそう解釈したからだ



  ここからがナジミ勘違い捜査の始まりであった・・・!

"鑑定士"にせよ、"女性を殺害しようとする何者"かを調べようにも
手がかりゼロ、せめて三日程の時間が欲しい

一番手っ取り早いのは朝一で目を覚ました女性から誰からブローチを
貰ったかとか、誰かに恨まれるような事をしていないかと訊くことだ

 が、下手に手を出せば"殺害を企む何者か"を刺激するのではないか?

技術を使っての犯行を狙うなら他にもなんらかの用意があっても
不思議じゃない、事は慎重運ばねば・・・
そう考え、極力、女性を守れるように(流石に24時間は無理でも)
三日間に渡り女性を保護、あわよくば犯人を炙り出し
捕まえて、何処で技術を手に入れたのか白状させよう・・・!

っと勝手に"存在しない何者か"を警戒していたというワケであった

彼女が劇場で働いてる間は流石に大丈夫だろうと
鑑定士の捜索をしたりもした・・・少し目を放した隙に[シルバーデビル]に
襲われるなんて予想外な事もあったのだが

そして遂に鑑定士がいたと思われる小屋を確認、内部を調べれば案の定
仕事に使われた部屋を発見、そこから鑑定士の物と思われた日誌もあった
その日誌・・・そして三日目の朝、ひょんな事から知り会ったエルフからの
証言でやっと自分の勘違いであった事を知った




これが三日間の真相だ!

*************
********
*****
***

「・・・という訳だ」

「…」


266VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/25(水) 22:58:56.897xOK3WQa0 (7/7)

>>259 この先の展開が少し無理矢理な気がしないでもないという不安・・・


クリスマスだし友達(男)とポケットの中の戦争、観てくる!
え、彼女と過ごす?なにそれ、おいしいの?


267VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/26(木) 01:40:28.412fvBFsnDO (1/1)

おつ
クリスマスなんてなかったんや


268VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/26(木) 13:23:52.39ZKcfGzLW0 (1/3)


アタシの前にナジミが歩いてきた、そして一冊の本を差し出した
今の話に出てきた鑑定士とやらの・・・母の日記なのだろうなと思った
 内容は、殆どが仕事と思えばアタシの事だった

今日、こんなドレスが届けられた、技術でもない普通のドレスだったら
あの子に似合ったんじゃないか
 ちゃんとご飯を食べているのか?

家に帰ってあげられなくて申し訳なく思っていた事とか・・・

読んでる最中、フォローでも入れてるつもりなのか星飾りが口を挟む

「エルフの姉ちゃんの話じゃあ、あんたぁ母親を好いていないようだが
 向こうさんは姉ちゃんの事を愛してたさ
 ・・・やべぇブツを取り扱う仕事柄、家に居られなかっただけなんだ」

こういう時、どういう顔すればいいのか分からない
今の今まで愛されていないと思ってた人が実は一番、愛していてくれた
 気持ちの整理がつかないじゃんか

「・・・ナジミ、もう少し、もう少しだけコレを読む時間を貰って良い?」

「構やしないよ」

―――
――


アタシが読み終えるまでの間、二人は取り出した茶菓子をつまんでた
そして「もう良いわ、ありがとね」と伝えて次の質問へ移る
 母さんの気持ちは解った、そして次にこのブローチが何かを訊きたい

「ソレか・・・、それはある"込める技術"の模造品でさぁ
 オリジナルはかなりの魔力が込められていてな
 完璧な複製品は作れる奴が全く居やしない
 俺が探してる[青い石]同様、大昔の鬼才が作り出した代物」

ナジミはアタシのブローチを…ブローチに付いていたルビーを指差し言う






「まるで"トロイの木馬"みてーに手にした人間を破滅へ・・・
  生涯、寝たきりに追い込んじまう"込める技術"[夢見るルビー]ッ!」






「・・・やはり、そうでしたか」

ナジミがブローチの正式名称を述べてエルフの少女イナッツが頷く

「そいつぁ元々ある技術屋がな、さる麗しの婦人に宛てて作ったモンでな
 その婦人ってのが人間じゃあねぇのさぁ」

アタシはイナッツの方を見る

「さっきも言ったがそのルビーの完成度は非常に高かった・・・
 人間には唯のルビーにしか見えないがエルフにはその真価が理解できる
 昔はその卓越した技術に憧れて多くのヒヨッ子共がそいつに近づこうと
 [夢見るルビー]の複製に挑んだ、そして多くの粗悪品を作ったって訳」

「アタシが着けてるコレも?」

「だな、まず[夢見るルビー]…こいつぁエルフを虜にできる魔力がある
 それはエルフから観れば"綺麗"だとか"美しい"とか、そんなモンだが
 人間は違う、人にはあまりにも強すぎる魔力ッ、故に覗き込んだ人間は
 魔力に取り付かれて身体全身が"麻痺"しちまうんだッ!」

「実物こそ見たことはありませんが里にいた時、小耳には挟みました
 族長が代々娘へと受け継がせている家宝だと」

「わーお、そこまで大切にされりゃ、作った奴も職人冥利に尽きるな」



269VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/26(木) 14:11:15.65ZKcfGzLW0 (2/3)

「でも、おかしくありません?聴いた話しではルビーを覗き込むだけで
 身体が"麻痺"してしまうと、それにその"麻痺"は普通に[まんげつ草]で
 治療できるとお聴きしましたが」

「ソコなんだよねぇ、ソコ、ソコ!…碌に才能も無ぇアホタレ共の作った
 粗悪品だ、オリジナルより悪い意味で上質なモンが出来ちまったのさ
  …今、エルフの姉ちゃんも言ったが覗き込むだけで"麻痺"しちまう
 だったらよォ、毎日肌身離さずとは言わずとも化粧台の前でいつも
 見る機会の多い姉ちゃんは何ですぐに"麻痺"しねぇんだって話だぜ」

確かにそうだった、自宅で少なからずアタシはルビーを見る機会が
多かった筈だ

「毒薬に即効性ってのあるように、鈍効性ってのがある、その粗悪品…
 目に入ってすぐにとかじゃあない
 指輪なりペンダントなり身体に密着する形でこそ真価を発揮する
 そいつぁまるで癌みてーに最初は"ほんのちょっとの違和感"そこから
 少しずつ徐々に身体全体に回っていくのさぁ」

それを聴いてゾッとした、つまり、何か?
アタシは小さい頃からソレと知らずにコレを肌身離さず着けていたと?

"トロイの木馬"さっきナジミが言った単語だ、ああ、正しくその通りだわ
芸術的な木馬を戦利品として持ち帰った王国は知らず知らずの内に内部へ
破滅を持ち込んでしまう…
 美しい宝石だと魅入って身に着けてしまう
それが体内に恐ろしい異常を招くとも知らない内に…

「粗悪品の厄介な所はこれだけじゃあない、悪い意味で上質っつたろ
 [まんげつ草]でも教会でも治せやしない、単純な"麻痺"と違って
 "込められていた"魔力が要因の"麻痺"…むしろ"呪術"的なモンに近ぇ
 単なる"呪い"じゃないから教会でも[まんげつ草]も駄目
 単なる"病気"じゃないから病院もお医者様も揃ってお手上げだ
 マジにタチの悪ぃ粗悪品だぜ、こいつぁ」

「…」
「…」

アタシもイナッツも黙っていた、黙って聴き入っていた

「こんなん一般人に見抜けるワケがねぇんだって…
 [夢見るルビー]の話を知ってる"エルフ"か"技術屋"でもなければ、な」

「あ、あのさナジミ」

「あぁん?」

「さっき医者も教会も駄目って言ったじゃん
 じゃ、じゃあ、アタシは…、アタシは治る見込みって…!
 治る見込みあんのよね!?」

あんな話聴いた後じゃ不安しかないに決まってるじゃない
でも、ナジミはそんなアタシに柔らかい笑みを向けて

「治せるに決まってんだろ、俺ぁ天才だぜ?」

と一言、言ってくれた馬鹿馬鹿しいかもしんないけど
言葉ってのは重要だ、こんな一言でアタシは勇気は持てたのだから

「それに下準備は済んでる」

「えっ?」

「姉ちゃんや、三日ルールを言ってみ?」

三日ルール? それってアタシがナジミと過ごす際の取り決めよね?
確か…

 ・朝食 昼食 夜食 を"決められた時間に必ず共にすること"
 ・寝る時は"アタシは自分の自宅" "ナジミはナジミの宿泊先の宿"
 ・自分が買いたいと思うモノは互いに自分の金で買う
 ・"ナジミにできる命令は一日三つまで"

「このルールは俺が姉ちゃんを殺そうと考えてる奴から守ろうとして
 作ったモンだ…ま、結果的にそんな奴はいなくて
 俺の恥ずかちぃ勘違いだったがな
 実は宿に帰る前にも金払って用心棒とかを近場に配備させてな
 無駄金だったが」

まぁ、それはどうでも良い、肝心なのは"食事"だ、ナジミはそう言った


270VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/26(木) 14:38:39.60ZKcfGzLW0 (3/3)

>>267 うん、そうだね くりすます なんて なかった(白目)


さて、本日26日、皆様はイブをどのように過ごせましたでしょうか?
カップルの皆様、末永く祝ってやろう

 [プレゼント]つ【夢見るルビー】




*********************************

>>モンバーラ劇場 【ドラゴンクエストⅣ】より
"モンバーラ"というのはⅣに登場の某姉妹から取った名前


>>ちみっこ共のお芝居 【ドラゴンクエストⅤ】より
"べら"とか"げれげれ"とか名前を見て解る通り
Ⅴの主人公が幼少時代の頃のイベントを題材にしたお芝居ですね


>>イナッツ 【ドラゴンクエストⅤ】より
モンスターじいさんの所にいる助手的な人
バニーガールの助手を侍らせるってあのじいさん何気にすごくね?


>>鑑定士 【ドラゴンクエストⅣ】より
正確に言えば違うけどトルネコはMAP上で
道具を【みる】というコマンドを持っている、この機能は対象アイテムの
装備可能なキャラクター、店で売った時の売値
戦闘中に道具として使用しようとすると特殊効果がある事などが判明する
このSSで言う鑑定士はトルネコのそんな機能を元にしている


>>夢見るルビー 【ドラゴンクエストⅢ】より
MAP上で使ってパーティー全員が麻痺→全滅

なんて流れのプレイヤーは俺だけじゃない筈だ…ッ!

とあるエルフの娘、とある村の男性が駆け落ちの際に持ち出した宝石
この二人の最後は…
このSSに登場するのはあくまで本物ではなく粗悪品(コピー)ですね
実際にこんな鬼畜性能なモンはありません、あったらソフト叩き割る


>>264
その鑑定士ならば求めている[青い石]に関して何かしている可能性がある
訂正↓
その鑑定士ならば求めている[青い石]に関して何か知ってる可能性がある

>>265
チキンライスを食べる手を止めるのを確認、またまたドンピシャリですね
訂正↓
オムライスを食べる手を止めるのを確認、またまたドンピシャリですね


271VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/27(金) 22:44:55.01LgXUtXXDO (1/1)

おつ
夢見るルビーだったか…



272VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/28(土) 20:13:29.89cr+bv1Qvo (1/1)

>>146
高山みなみに1票


273以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/03(金) 19:42:06.0079nK6Qpk0 (1/10)


「食事ですって?」

「そー、そー、食事よ食事、分かるかい?鍵はあそこに有りってね」

…この三日間の食事

アタシとナジミが共に過ごした間での朝食、昼食、夜食
少し考えてから、ふっとアタシは共通点がある事に気付いた
 昨日会ったばかりのイナッツは当然ながらその共通点には気付けない

「あのさ…間違ってたら悪いんだけど良いかしらね?」

「何事も言わなきゃ始まらんさ、言ってみな」

あまり自身は無かったけど言ってみた


「朝食、必ず朝食は"アンタが用意したモノ"だった」


アタシは探偵なんかじゃない

推理小説なんて読まないし、先だって読めやしない
けど、それくらいしか共通して分かるモンなんてないのよね

「一応、聴いとこうかな、その結論に至った理由って奴をよォ」

「…アンタが三日間アタシと生活を共にするって宣言した時から振り返る
 まず、アンタと出会って酒場でモヒカン共と乱闘した日ね
 その日はまだ同棲宣言はしてないからカウントしない
 アタシが倒れた次の日、そこで初めてナジミは
 『俺と今日から、"三日間だけ"同棲してもらう』って言った…!」

「そだね、姉ちゃんの言うとおりでさぁ
 ・"モヒカン共の日はカウントされない"な三日間に入るのは

 ・【一日目】"その翌日の宣言した日"
 ・【二日目】"[シルバーデビル]の事件があった日"
 ・【三日目】"そして今、この瞬間"

 が範囲に入っている、…うん、特に訂正するような内容じゃあないね」


「続けるわよ?
 二日目、三日目はアンタが直接アタシん家に来て朝食を作りに来た」

「あれ?、…おかしくないですか?」

ここでイナッツが発言した

「二日目、三日目"は"ってことは初日は違うってことですよね?」

「ああ、うん、一日目はナジミはアタシん家で朝食を作ってはいないわ
 ただ、"昼食用のサンドイッチ"を作っていったのよ」

あの日はサンドイッチを喉に詰まらせて危うく死に掛けたわね…
ナジミが水入りの紙コップを渡してくれたけど

「"アンタは自分の作ったモンをアタシに食わせる"ことが重要だった
 アンタの作ったルールにあるわ

 『朝食 昼食 夜食 を決められた時間に必ず共にする(厳守)』

  "決められた時間"に"必ず共にする"これを一番大事にしていた理由
 多分、食事の中に治療する為の何かを入れて食べさせたってとこよね」

アタシは思う…
劇場内で会った時、アタシが紙コップの水を飲み干してからナジミは

"今日は痺れがあるか体調を訊ねた"その後で"今日はないかもしれない"と
言い切った、あの時に…

"サンドイッチを食べたのを確認できた時"にナジミは"言い切った"んだ


「違うかしら?」


「わーお、中々面白いねぇ」


274以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/03(金) 20:21:49.9079nK6Qpk0 (2/10)


「夕食は一日目、二日目と外食だし、チャンスがあるなら朝か昼
 それに必ずアンタは家に来て、食事を作りに来る
 二日目にアタシは眠れなくて街中を走ってた、その時の時刻は六時半
 朝食を取るには少し早すぎる時刻…
 そしてアタシが帰ってきたのは七時前、その時点でナジミ、アンタは
 アタシん家に来ていた…!」

おそらくアタシが適当なモノで朝食を済ませる前に…
確実にアタシに食わせる為だけに
早朝からアタシの自宅付近で待機でもしていた…ッ!

「今日だってそうだ、朝霧が出るような時刻から家を飛び出して
 イナッツと家に帰ればアンタは待っていたんだ」


パチパチ!


室内に拍手が鳴り響く

「大体合ってるねぇ」

口角を上げてナジミが語る

「その考え方で大体当たりさぁ、単純に"居もしない何者か"の毒殺を
 防ぎたいのもあったし、今、言ったとおり"特効薬"を飲ませるって
 理由もちゃーんとあんのよ」

ナジミがポケットに左手を突っ込んで何かを取り出す


ゴトッ!!


「…相変わらずどうゆう構造してんのよソレ?」

「"込める技術"は偉大ですってね」

取り出したのは[スライム]並みの大きさの"釜"だった
どう考えてもポケットに入るわけがない

「ジパングの諺にこんなモンがある"餅は餅屋に任せろ"ってな
 姉ちゃんのソレは"込める技術"が原因でなった症状だ
 なら目には目を、歯には歯を技術には技術の専門家で対抗しろってな」

ふっと気付いた、この"釜"は似ているのだ
この部屋に置かれている"壷"と少し似ている

「こいつぁ俺の悪友に作ってもらったモンでな
 技術屋なら一台は持っておきたい仕事道具の一つ
  [錬金釜]ってモンだ」

「「 [錬金釜]? 」」

イナッツと声がダブったわ、それがどんなモノか説明を求めると
よく分からない理論を説明された
中に入れたモノが魔方陣による融合がどうたらとか、まぁ簡単に言えば
中にモノを入れて、何かを作るって話だった

「"込める技術"なら現代医学じゃ無理な薬品もある程度は作れる
 これを手製の料理に混ぜたのさ」

サンドイッチのタルタルソース風味の味付け
南蛮風ハンバーグの味付け
お手製サラダの自家製ドレッシング

ああ、振り返れば分かる
料理全部にコイツの"特製のタレ"とやらが使われてた

「[まんげつ草]を複数、それに[げっけいじゅ]をベースに普通の食材と
 煮詰めて作ってある、あれで姉ちゃんの症状を徐々に弱めていった」

ナジミはアタシのブローチをじっと見つめる

「今日で特効薬を投薬し続けて三日間だ、ソレを外して触れることなく
 日々を過ごしてれば完治したも同然よ」



275以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/03(金) 20:47:18.25q0ALHDt80 (1/1)

縺翫b縺励m縺?〒縺吶?


276以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/03(金) 20:55:16.6179nK6Qpk0 (3/10)


完治したも同然、その言葉を聴いて心が震えた

ずっと悩まされてきた症状が消える、どれ程…どれ程、夢見ていたことか

「姉ちゃんに相談があるんだがいいかい?」

ナジミから声が掛かり浮かれ気味だったアタシは我に返る

「にぁ、…なにかしら?」

思わず噛んでしまう程の浮かれっぷりだったわね、今、思い返せば
あれは笑えてしまうわね

「こほん…大変嬉しいお気持ちは分かるんですがねぇ、俺ぁこの先が
 不安なんですよねぇ」

チラッとナジミはイナッツの方を見やり、続ける

「姉ちゃん、俺ぁなんでエルフの姉ちゃんを立会人としてご招待したか
 分かるかい?」

「…?、そういえば、何で?」

「そのブローチは姉ちゃんの母親が遺した、まぁ言っちまえば遺品だなぁ

 
     姉ちゃん、その遺品を俺に手渡す気はあるかい?」


真剣に問いかけてくるナジミに理由を訊いてみた

「手渡すってなんでまた?」

「あー、まずだな、さっき俺ぁ言ったが俺、さ
 世界中を飛び回ってんじゃん?」

「…例の[青い石]ってのを探す為でしょ」

「それもあるし、俺ぁ世界中に"込める技術"を普及させたいって夢がある
 技術は人を幸せにするモンだからな…
   けどよぉ、中には"人を不幸にさせちまう込める技術"もある」

沈んだ顔、俯きながら話すナジミ
この男は語ってくれた


かつて、自分が世界各地を旅し"込める技術"が多くの人を幸福にした事

だけど、その反面で同じくらい"込める技術"が人を不幸にしてしまった事


旅人のナジミはとある街に立ち寄った
…街を治めていた人間が"技術"を使い、女性連続殺人を引き起こした

だから、その人物をナジミは"消した"


旅人のナジミはとある村に立ち寄った
…一人の野盗が"杖"を使い、非力な村民達から財を奪うという暴挙を見た

だから、その"杖"をナジミはへし折った


そして旅人のナジミはかつて暮らした街へ来た

一人の女性が"明らかに人に害しか与えない技術"で苦しめられるのを見た



失望した


絶望した


だが何よりも絶望したことがあった


自分が作った技術で人を苦しめた事だとナジミは語ってくれた


277以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/03(金) 21:37:40.6579nK6Qpk0 (4/10)


昨日も話してくれた事
"画期的な戦闘法"とやらを考えたこともそうだが

それとは別に自分が作ったモノで人を後悔させた事があるらしい

だからこそナジミは…

そういうモノは放っておくことが出来ない

技術が悪用される事が…  技術が人を苦しめる事が我慢ならないのだと

「俺ぁなんつったて天才だからな、人に恨まれるより感謝される事の方が
 圧倒的に多かったしな…
 各地歩いてて、技術のおかげで助かったって奴を見たりしてさ
 失望とかより、喜びの方がでけぇさ
 この仕事やってて良かったって思えるんだ」ハハハ

手を広げて首を振りながら笑う星飾り、ため息交じりの笑い声だったけど
喜びの方が大きいって言葉に嘘は無さそうに思えたわね

「目的達成とは別で、姉ちゃんのブローチとか、他にも
 悪用されてるモンがあるなら、そいつぁ即座に回収
 そっからブッ壊すなり、なんなりすんのも一人の技術屋として
 責任持ってやるべきことなんじゃね?って俺ぁ思うわけなのよ」

「それでアタシのブローチを譲ってくれないかって事?」

「ああ、姉ちゃんの症状は回復に向かってるが、もしもだぞ?
 なんらかの事情で再びそいつを長い間、身に着ける事になるとか
 事情を知らない第三者、姉ちゃん家に空き巣か何かが入って
 運悪く[夢見るルビー]を手にしちまうって事もありえる」

ナジミは母親の遺品を取り上げるってのは、ちと忍びない
厳重に管理、誰の手にも渡らないというのならアタシに託すと言った

「ちなみ、受け取った後、アンタはどうすんの?」

「こいつぁアホみたいに魔力をバカスカ注ぎ込まれて出来た
 結晶みてーなモンだからな、半径数キロに渡って生物の居ない場所で
 爆破処理したい、昔は船の上から不法投棄が流行ったが
 それで海の生態系が狂うこともあったんでな…」

「昔の時代って怖いわね…」

「早いトコ街の外に持ち出してぇんだが…
 流石の俺もンな危険物持ち歩きたくなくてな」チラ

「そこで私の出番なんですね!」

平らな胸を張って自己主張するイナッツ

「人間には有害な魔力でもエルフなら問題ない、エルフの姉ちゃんは
 幸いにも[グリーンラッド]に行く、その道中なら目的の地域にも着ける
 そんな理由でエルフの姉ちゃんを立会人に抜擢したのさ」

で? どうすんだい? 姉ちゃんの意思にお任せしちゃうぜ?と来たわ

アタシの意思…か


「初め、アタシは母さんが嫌いだった
 家にはいつも居なくて、家族をほっぽりだすような女だと思ったから
 でも…違ってた、アタシ達を真剣に考えていてくれていたんだ」

母さんの日記をアタシは無意識に強く抱きしめてた

「今のアタシにはこの日記がある、だからさ
 その遺品は、それよりも大切なモノがあるから…!」

本音の書かれた本より大切なモノはないから、ね

「…おーけぃ、決まりだな」

三日間に渡るアタシの奇妙な生活
長年苦しめてきた"謎の症状"との闘いは、こうして幕を閉じた



278以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/03(金) 21:59:25.8979nK6Qpk0 (5/10)

*********************************
******************
*********


「本当に行くの?」

「ああ、俺も[青い石]を見つけなきゃならねぇんでねぇ」
「ビビアンさん、…私、絶対に手紙とか書きますからね!」

あれから一週間か…
長いようで短い、そんな日々だった

団長の家がナジミに襲撃されたり、イナッツがキッチンで鍋を爆破したり
モヒカンの総長が店の娘さんと恋仲になったり
親友がナジミに告白して玉砕されたり…

毎日が濃いモノだったからかもしれなかった

それも今日で終わると思えば、寂しく思えた

「ねぇ、ナジミ…」

「ん?なんでい?」

「…ッ、や、やっぱり何でもないわよ」

引き止められないわよ

今、引き止めたら…引きとめようとしてしまえば、きっと…
駄々こねて泣いちゃうかもしれなかった

「あーあ、騒がしい居候が居なくなって清々するわね」

背を向けて皮肉の一つや二つ言ってやるわよ、半分は事実だわ

「最近、やっと表舞台の方に出られそうな程、腕が上がったのに
 厄介なのも居なくなるし、やったわね!」

「ケッ、素直じゃねぇなぁ」

見なくとも分かる、悪態を付く黒コートの男、コイツは笑ってるんだろう



「じゃあなビビアン」


「…!じゃあね、ナジミ」


さようなら、ビビアンさん、後からイナッツの声も聞こえて
二人が遠ざかっていく



………

きっともう、遠くにいるんだろうな

本当に遠くに







「ナジミィ―ー!! イナッツ―ー!!また、またこの街に来なさい!」


気付けばアタシは叫んでた、早朝六時、街の門から叫ぶ










279以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/03(金) 22:02:14.4679nK6Qpk0 (6/10)






























「わたしも必ず、この街に遊びに来ますからね―ーーー!!!!」


「当たり前さあぁぁあ!!楽しみにまっていやがれよおおおぉぉぉ!!」


















280以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/03(金) 22:19:50.0479nK6Qpk0 (7/10)




「…ぷ、  ぷくく、あはははは」

笑いが出た、思わず笑った、もう姿だって見えないのに


遠くから真面目に叫ぶ親友の声と
遠くから馬鹿高いテンションで叫ぶ大馬鹿野郎の声に噴出さずには
いられなかった

「全く…、ふふ、あんな大声で近所迷惑だと思わないのかしら?」

街の住人はまだ寝てるに違いない
大声出した自分がとやかくは言えないわね



「…また来なさいよ、来なかったら、承知しないからねっ」


アタシは身を翻して街中へ戻っていく、舞台が…アタシの夢がある場所へ







『陽はゆるやかに落ちて、昇る月と地表を照らす役割を交代してゆくモノ

 アタシは思う、それを例えるなら"舞台"と同じなんじゃないかってね

 幕裏で役者と裏方が代わるのだってそう、その逆も然りだし 』


           "星"


陽が落ちて、月と一緒に地表を照らしてゆくモノ

人よりも高い所で輝いて、夜という僅かな間、多くの人を魅了していく

アイツは…ナジミは、   そう…、ね

本当に"星"みたいな奴だったわね

たった数日間の僅かな間だったけど
多くの人間を魅了した、まるで舞台だ暴れる物語の主人公みたいに…

一躍、時の人になった、多くの人間の注目を集める輝かしい奴だった

きっとアイツは、この先も何処かで
 夜空の"星"のように人に"魅せる"のだろうな



時刻は間も無く七時になる

アタシはそんな事を考えながら帰っていくナジミが去った街へ

星が落ちて、陽が昇り、朝日に照らされていく街へと…




*********************************

カラン、カラン

「ビビアンさん、いらっしゃい」

「どうも、店長」

あれから二年…アタシはオムライスを食べに行きつけの店に来ていた
ナジミと初めて出会った日に来た店だ

「繁盛してるわねっ!店長さん!」


281以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/03(金) 22:43:48.7279nK6Qpk0 (8/10)


「ええ、お客さんも今では倍以上になりましたっ!」

「ふふ、良かったわね」

自分でも驚いている、柔らかい微笑みを出せる自分自身に…
二年前のアタシにはできたか怪しい表情だった

(よくカリカリして、ナジミに怒鳴ったり、ヒステリックに叫んだわね)

最近、可愛くなった? 劇場の仲間達にも言われるようになって舞台に
出る機会が出始めたのもその頃かしらね?

「おーい、おまえ~、この食材は倉庫で良いのかい~」

「あ、アナタ…///」

「いやぁ、新しいメニューの材料だからつい、何処か分からなくなって」

「んもぅ、そんな事でどうするんですか?」

「ははははは」
「うふふふふ」

「…」…ゴク

うん、アタシは成長した目の前でバカップルがイチャイチャしてようと
笑顔は絶やさない、彼氏いない暦21年、舐めんなよ

ア・ナ・タ///
オ・マ・エ///

「クソッ、リア充めぇ!」バクバク
「裏切り者がぁ!」ガツガツ
「総長の野郎!!、ヘアースタイルもモヒカンからスキンにして!」ゴク
「我々を裏切りやがって!!」ムシャムシャ

「「「「心から祝ってやるッッッ!!!」」」」おかわり

「…」…ゴク

なんか変なのが店の常連として来ているけど、恒例の光景だからね
連中曰く、「モテナイ男も頑張ればモテル」「希望の象徴」とか
崇め祭ってるんだってさ、まぁ、店の売り上げに貢献してるから
誰も何も言わない


「アタシは"星"になれたのかしらね?」

「…?"星"ですか?」

「ええ、少し前に…憧れた人がいたのよ、その人みたいに魅力ある
 人間になれたのかな?っ思ってね」

アタシはそう言って、店長にお酒…シードルを注文する、彼が飲んでた

「未来の大女優に乾杯ですね」
「まだまだ駆け出しの女ですけどね」クスクス

笑みを零しながら、グラスを持つ
・・・貴方は今も何処かで人を魅了してるのかしらね?

「ナジミは・・・今のアタシを見たら驚くかしらね?可愛くなったって…」

香りを楽しみながらアタシはグラスの液体を喉に流し込む













「わーお!驚いたねぇ!!一瞬誰だかわかんなかったぜ!」



282以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/03(金) 23:10:08.3179nK6Qpk0 (9/10)

ぶふーーーーーーーーっ!!

吹いた

シードル吹いた

隣に、さも当然と言った顔で座ってた奴の顔面に吹いた

「・・・わーお、こいつぁアレだな、くれいじーな歓迎だぜぇ…」ポタポタ


「ナジミさぁーーーん!?!?」

パタパタと店内を走ってくる少女がいる可愛らしいエプロンドレスの子だ
齢は…十代半ばといった所かしら?

「おう、嬢ちゃん、悪ぃんだけどハンカチ取り出してくんない?」ポタポタ

「え、え、え? ナ、ナジミよね?」

「いやいや、俺ぁナジミさんじゃなけりゃ何さんだよオイ」

小柄な少女から渡されたハンカチで顔を拭くナジミ、
二年前より少し背が伸びたかしら?

「ええっとナジミさんのお知り合いの方ですか?」

ナジミの知り合いらしき少女が声を掛けた事で我に返る
綺麗な瞳の少女はドレスの裾をつまんでお上品にご挨拶をする

「ジョセフィーヌ・イーオーと申します、以後お見知りおきを」

礼儀正しい子だった為、やや気後れしてしまったけど
アタシも自己紹介をする

「私はビビアン、この街で女優をやっている女よ」

「いやぁ、姉ちゃんも別嬪さんになったなぁ二年の歳月ってすごいね!」

「どういう意味よナジミ?」

おっと失礼と手を広げておどけるナジミ、このやり取りも久しぶりねっ!
なんでもナジミは旅先でひょんな事から出会った少女と
行動を共にするようになったらしく
今は、"ナジミの故郷"へ向かう最中でこの街に立ち寄ったらしい

「ねぇ、ナジミ」ボソ

「なんでい?」

「アンタ、例の[青い石]は見つかったの?」

「…いや、まださぁ、ただ有力は情報を悪友が見つけたらしくてな
 それと、消耗した"技術"の補充に一度、里帰りすんのさ」

アタシはそれに、そう、大変かもしんないけど頑張ってよと伝えた
それから滞在中のナジミとは色んな話をした
旅先で色んなモノを見た事、アタシがイナッツと文通してる事
・・・旅先でかつて見たように、やっぱり"杖"や"指輪"で悪事働く人も居て
ナジミが少しガッカリしたこと、久しぶりに心躍る冒険譚を聴けて
満足だったわねっ!

「ねえ、ジョセフィーヌちゃん」ボソボソ
「はい?」ボソボソ
「貴女、あの男に変な事されてない?」ボソボソ
「へ?」

ナジミの奴…まさか童女趣味だったなんてね
まぁ可愛い子だから分からなくないけど、そんなアタシの囁きを聴いて
ジョセフィーヌちゃんは「ああ・・・まだ知らないんですね?」と
そんな顔をしていたわ、・・・? アタシ何か変な事言ったかしら?

結局ジョセフィーヌちゃんは何の事かは話してくれなかったわ

さて・・・と
・・・アタシが出会った奇妙な人物の物語、後日談も含めて知ってるのは
ここまでだわね

…ここから先は次の語り手の出番、願わくばアナタが"星"を見れるように
                ~fin~


283以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/03(金) 23:21:42.8979nK6Qpk0 (10/10)

>>271 [夢見るルビー]は俺のトラウマ!・・・うん、本当にね

>>272 おう!?一瞬何の話か分からず驚きました・・・

>>275 よ、読めませんでした、申し訳ありません・・・


たまにはナジミさんが性別バレしない回があっても良いじゃないか!
という精神でジョセフィーヌを最後にねじ込む形にしました…
すっかり空気ヒロインにして御免なさい

まぁ、今回は伏線だらけのナジミをちょっとでも説明出来れば良いと
作った話ですし(震え声)

そして、空気にしたジョセフィーヌ嬢に報告があります・・・



【 こ の 先 も 出 番 が 少 な い ! 】

メインヒロインなのにこの扱いッッ!!起訴も辞さないッッ!!

ジョセフィーヌ怒りの声が聞こえそうですね

次回はオマケ?として

・ある少女のクリスマス

・ある没落貴族の兄弟の話

   をお送りします



284以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/04(土) 01:01:59.33OkmdDmODO (1/1)

おつ
ジョセさん出ないって思ったら過去編だったのね



285以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/04(土) 01:10:57.07Tc9CktSro (1/1)

おつ


286以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/04(土) 01:27:58.728NAQLMH0o (1/1)

乙!
フィーヌはナジミの秘密独り占めかわいい


287以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/08(水) 18:50:35.32ARvKUDLC0 (1/5)


                ※

           -ある少女のクリスマス-

そこは名も無い土地だった

正確に言えば"誰も名前を呼ばない土地"であった
世界地図を広げれば、紙面上には沢山の地名が記されている

大海の上にインクを数滴垂らしたような、目を凝らさねば染みと見間違う
そんな、ちっぽけな諸島・・・

誰が第一発見者で、どんな意図で名づけたのかも知れぬ大地

世界は広い、旅行者や探検家が揃えて口にする月並みな言葉だが
言い得て妙である、人の歴史が始まって以来
今日に至るまで解明されぬ物事、存在すら確認されていない場所もある


此処に語るは、人々に忘れられた土地である


事の始まりは一隻の船であった

山岳に囲まれた国家[サマンオサ]より南西へ航路を執った船乗りが発見
[ポルトガ]と[エジンベア]、[サマンオサ]の三国が貿易船で海原を征く
俗に言う"大航海時代"の話であった

この時代では三国は協定を結び、互いの国家の貿易船を然るべき航路で
魔物達から守りつつ、利益を上げていった

当時は"海図"こそ在れど"世界地図"は無い時代であり

一隻の商船が不運な事故で漂流した事が切欠であった
船員は見知らぬ地に到達、星座の位置や季節風でどのように動いたか?
それらを元に[ランシール]大陸にたどり着いたのだと"勘違い"していた

いつも遠目にしか見なかったからこそ気付かない
"必ず国家の間で決められた航路しか征かぬからこそ"気付けない

こんなにも近くにあったにも関わらず、その大陸に気付いたのは
大航海時代の末期であったという・・・


舞台はその[ランシール]大陸だと勘違いされていた土地である

"ほぼ"未開の地であり、住民の殆どは[ランシール]から資源目当ての者…
故あって国を追われる人物、数少ない原住民の子孫達である



国と呼べるモノなんて無い、あって小屋や、集落だろう

港なんて無い、貿易船も来る筈も無く、あってボートが良いところ

学校などの教育機関だってありはしない、学びたければ留学でもすること

何かをしたいと思っても出来る事は・・・たかが知れており
何かを学ぼうと思っても何一つとて・・・分かりはしないのだ
ちっぽけで、どうしようも無く"狭い世界" 

井の中の蛙大海を知らず
知りたくも知る術は無し、狭き井の中で何ができると言えようか



まるで牢屋だよ、ろーや



さて、長い前置きは一先ず置いておくとして

そんな土地だが一軒だけ
一軒だけ、ひどく場違いな建築物があった

土地の中部に建てられた立派な館

そこに住む家族の会話、何の変哲も無い会話であった



288以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/08(水) 19:34:33.84ARvKUDLC0 (2/5)


「雪が綺麗だねぇ!」

「ええ、そうね」

屋敷には使用人達が居て、彼等は皆
パーティーに向けて、忙しなく動き回っていた

そんな中、玄関に近い窓の外を眺める女性が二人
一人は柔らかな笑みを浮かべる何処と無く気品のある女性
もう一人は年相応にはしゃぐ長い黒髪の少女で、齢は五つであった

「ねー、母さんや、もうクッキー食べていいかい?」

「お父さんが帰ってくるまで待ちましょうね」

「ちぇー・・・」

母親と二人で作ったクッキーは父親が帰宅するまで御預け
そんな状態に少女は頬を風船のように膨らませて窓から離れる

母親はずっと窓越しに夫の帰りを待っていた

大人の気持ちを察する事のできない小さな子供だった少女には
それが酷く退屈な時間であり、一人でテーブルの上にあるパズルを
組み立てていた

ガチャ

「アナタ、お帰りなさいませ」
「ああ、帰ったさ」


「・・・うん?父さん帰ってきたかぁ」カタカタ

尊敬する父、最愛の母は玄関でなにやら話し合っていた
正直な話、彼女はすぐにでも手作りのクッキーやご馳走の席につきたいが
両親の話が終わるまで待つことにした

大人の話は長いから好きじゃあないんだけどなぁっと考え
以前、買ってもらったジグソーパズルに挑戦する
両親の会話を背景に黙々と思考を目先の玩具に集中させる

「…やはり、[--ンベア]の方でし-か」

「ああ、お前を連れ戻--いと」

「・・・私は遺産は--くないですし、裁判-の地位など-みません」

「分か--おる、俺かてお前を手放-気なぞ、さらさらに無いわ」

「---先生にもご連絡すべ-なのではないでしょ--?」

「・・・師には迷惑--けとるな
 俺も職人として・・・、"-める-術"の匠などと
 呼ばれとろうに、たかがこれ-きの事も解決できなんだ
 実に滑稽--ろうて」

両親が何かを話しているが少女は何処吹く風と言った顔です
大人の小難しい話になど興味ありません、あるのは目先のパズルと御馳走
二人の会話内容など流し程度にしか聴き取らないし、そもそも距離的に
うまく聴き取れない

「待たせてすまなんだ」
「さぁ、夕飯にしましょうか?」

「ん?話は終わったのかい?」

ええ、と母親が少女の問いに答える
ほとんど完成に近いパズルを置いて両親の背中に付いて行く少女

「久しぶりの家族水入らずですものね今日という日を楽しみましょう」

「いつも家を空けてすまんな…」

妻子に謝罪の一つを告げる父の姿を少女は見ていた
頭を垂れるわけでもない、目線はしっかりと前へ向ける堂々とした態度だ
自分ではまだまだ届きそうにない背丈・・・
無愛想に見えて、実は誰よりも家族を大事にする父の背中を
少女はいつも追いかけていた


289以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/08(水) 19:50:28.22ARvKUDLC0 (3/5)


「はいよ父さん」

「ん、ありがとう」

少女は父の席を引き座るように催す、そんな父娘のやり取りを見て
クスリと笑う母親、あたたかい家庭であった

それは暖炉の熱で"暖かい"とは別な"温かい"空間が形成されていた

「今年も向こうへ行くがお前は大丈夫か?」

「うん?あぁ、平気さぁ、そりゃあ友達と数ヶ月お別れってのは
 寂しいけど、帰ってくれば会えるし、向こうにも友達いるしねぇ」

父親が娘に話しかける
この地では成人した子供は大抵、ボートに乗って漁師をしたり
森林で薬草を採り、野を耕して、生計を立てることが多い

海の向こうへ留学しようと思う者、出来る者は本当に希少な人間と呼べる

両親は別に娘には偉い人間になって欲しいとは思わない
ただ、全ての人間に共通する一度限りの人生である、願わくば我子に
悔いの無い生涯、本人が望むままの一生を過ごして欲しいと考えていた

「勉強は簡単過ぎでちょっちつまんないけどさぁ、でも面白いモンも
 あるし、父さんは心配しなくても大丈夫でさぁ」

同年代の子供達の中でも彼女は学習能力が高く
また突飛な発想を思いつける子供だった、故に人一倍に探究心が強い

狭き井の中で腐らせるのは惜しい人間

そして、本人も此処で何も見ず、ただ空を見上げて朽ちていくのは
性に合わないと考えるだろう


「そうか」


一言
ただ一言だけ言って目を閉じる、父が何を想い、何を考えるのか
娘にはたまに理解できぬ所があるが長年連れ添った母には分かるらしい


「あなたがそう想うのでしたら、私も賛成です」


今のやり取りでどう理解できたのか、娘は首を傾げるだけである
時たま窓の外の雪を見ながら、ご馳走を口に運びながら二日早い宴は続く
娘共々に海の向こうへ暫く滞在する事になるから
 今の内に馴染み親しんだ地で少し早いクリスマスを楽しんでいる
…"サンタさん"は二日後にちゃんと娘の枕元に贈り物を置いていくのだが

「ごちそう様」

手を揃え、生を分けてくれた食材に感謝の意を表し
母の手伝いで食器を片付ける娘

使用人達は「これは私共の仕事です」と言うが、そんな事はお構いなしに
家事をする母が娘に何となしに尋ねてみた


「貴女は将来、何になりたいのですか?」

「んー?将来なりたいモノ?」


少しの間、迷って少女が答えを出した

「そだね!やっぱりワタシぁサンタさんになりたいや!」

子供なら誰しもが一度は会いたいと思う架空の偉人を例に出す少女

「そうですか、サンタさんになりたいのですね?」

「もちろん!」



290以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/08(水) 20:18:34.75ARvKUDLC0 (4/5)


自身たっぷり胸を張って言う少女に母は少々困ったような顔で言う

「素敵な夢ですけど、サンタさんは"男の子"にしかなれないのですよ?」

「な、なんだってーっ!?」

両手で頬を押さえて、叫ぶ少女、まるでムンクの叫びを沸騰させるポーズ
そして唐突に娘は言うのです



「なら、ワタシぁ……男の子になるッ!!」



なんとも子供らしい単純な発言です

"女が駄目" だったら "男になれば良い"

そんな考え方に母は「ふふふ、"男の子"は私なんて言いませんよ」と
言うのであった

「ぐっ!…ぐぬぬぬ、ならワタ、お、俺ぁ男の子になるぜぇッ!
 これでどうだぁー!!」

今更、一人称を変えたところでどうともならないのは分かっている
それでも意地を張る我子を愛おしく思う母である

「ええ・・・!それなら可愛らしい男の子ですね、きっとサンタさんも
 弟子にしてくれるかもしれませんよ」


それにしてもこの母親、お茶目である



この頃からなのかもしれない

少しでも理想とする"強い男"に憧れ
少しでも近づこうと背伸びして
少しでもと涙ぐましい努力をしたのは


サンタさん

積雪で深く雪に埋もれた道も歩ける"厚底の靴"長靴を履き
東西南北、どのような地でも寒さに負けない"ブカブカな厚着"
夜空の星の如し、無限の贈り物を"収納できる おおきなふくろ"を持ち
目印となるクリスマスツリー頂上"星飾り"の上を飛んで、世界を飛び回る




思えば、ソレは象徴だったのかもしれない…

大人になって気付く


過ちを犯して気付く

決して自分では"なることの出来ない憧れの対象"


ソレ等は・・・きっと、そう、憧れた人を"象徴するモノ"なんだろう

厚底靴に身体を覆おうブカブカの服、モミの木にも飾られる星飾り
子供の望み、誰もが"こんな物が欲しい" "これさえあれば"と思うモノを
無限に取り出せる"真っ白な大きな袋"


きっと彼女は "星" になりたかったのだ

子供なら誰しもが憧れた、 誰しもが夢に見た偉人

多くの人の注目となる "星"のような存在に・・・



『少女と星 編』番外編1 ある少女のクリスマス ~ fin ~


291以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/08(水) 20:51:22.91wEdx9yLFo (1/1)

この少女抱きしめたい!
おつ!


292以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/08(水) 21:03:51.76ARvKUDLC0 (5/5)

>>284 『西の村 編』でナジミが女将に23歳って言ったのに
    料亭サンチョで21歳と発言してる辺りで
    気付かれるかとハラハラしてましたが、杞憂のようでした

>>285 『乙』ッ!?感謝せずにはいられないッ!

>>286  その言い方だとジョセフィーヌがナジミさんに対して
    ヤンデレっぽい! ふしぎ ですね!!

サンタになるべく、少しでも強く憧れた大人の男に近づこうと
厚底を履いて背を高く見せたり、お父さんのブカブカの黒コートを着たり
裾から手が出せない腕をぶんぶん振り回す幼女(5歳)の話である


…一体誰何でしょうね?

*********************************

>>[破壊のつるぎ] 【ドラゴンクエストⅡ】より
高い攻撃力を誇るが戦闘中たまに動けなくなるらしい
漫画【ドラゴンクエスト 幻の大地】ではテリーがある人物から渡される

>>[破滅の盾] 【ドラゴンクエストⅤ】より
装備すると呪文等のダメージが増加する呪われた盾
Ⅶのある街で普通にカジノで貰える…何を思って景品にしたのだろうか?

>>[みなごろしの剣] 【ドラゴンクエストⅣ】より
道具としてしようすれば
戦闘時[ルカナン]が発動する…・・・"込める技術"ですね!わかります
Ⅴだと備すれば攻撃力が0になる呪われた剣

>>[錬金釜] 【ドラゴンクエストⅧ】より
トロデ王が持ってたもので馬車の中に置かれている
これでアイテム合成リストを埋めようと躍起になるプレイヤーは多い筈だ

>>[まんげつ草]三つ
※[まんげつ草]三つだと[月のめぐみ]が完成します
味方単体のHP回復と麻痺の治療、解説メモ曰く
【まんげつ草に含まれる成分を抽出して作った薬】だそうです
多分、ただの[まんげつ草]より痺れを取る成分が高いんだろうな

>>[げっけいじゅ] 【テリーのワンダーランド】より
味方の呪いを解く事ができるアイテム
何気に呪い解きのアイテムってこれだけじゃね?



293以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/09(木) 00:27:10.40jNg5GnxDO (1/1)

おつ



294以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 14:07:43.45l5vFXmbf0 (1/7)


                ※

          -ある没落貴族の兄弟の話-



彼は父親を誰よりも嫌った




外を出歩く人間は皆、外套に身を包んで日々を暮らすために動き回る
どこの家庭にも生活はある
どこの家だって"暖かい"暖炉がある
どこの子だって"温かい"家族が出迎えてくれる


だが、この家は例外である


街の中心街から少し離れた郊外、一軒の館がある
ただ、年季の入った木造建築のそれは酷くボロボロで嵐が来たときに
屋根の一部が吹き飛び、本の虫食い穴が如く壁に幾つもの穴が空いていた
窓は窓枠そのものが拉げていた

穴から少しだけ館の内装が窺える

荒れ果てた内装、いつ掃除をしたのか分からない程に埃が積もっている
外の積雪より深いのではないか?
時折、鼠が走っては蜘蛛の巣に当たり、振り払う為に身体を震わせる
そんな光景が目に飛び込んでくる

さて、これだけ言えば、無人の廃館とでも思う事だろう、しかし
内装を見ればその考えは否定される

よく子供の頃、親に買ってもらった新品の長靴で誰一人足跡を付けてない
銀世界に初めの一歩を付けたがる、そんな経験が無いだろうか?

積雪の様に積もった埃の上には確かに"足跡が残っている"それも
つい最近のモノである

サイズからして、大人の足跡、小さな子供の足跡が灰色の床を踏み歩く
辛うじて絨毯と分かる布切れの上、鼠やら蜘蛛やら何かよく分からない
昆虫の死骸が散乱するテーブルの上には無数の酒瓶が転がっていた

「…」


そして、先ほどから玄関前に立つ"少年"


少年と言ったが、彼はとても背の低い子だった
身体は非常に細く、それこそ折れてしまう程に
まだ幼さが残り、男性というよりもその顔立ちは
可愛らしい少女を連想させる


・・・いっそ、少年というより少女と言った方がしっくり来る


そんな少年の手はこの寒空の下、水仕事によるモノなのか皸ており
靴はボロボロで底には穴だって空いている
水溜りを踏まなくとも、ただ雪の上を歩くだけで少年の足は・・・

「・・・あっ!お兄ちゃん」

「・・・ッ!お、お前、何故外になど出てている!」

少年は寒空の下でずっと兄の帰りを待っていた
息を切らし包みを抱えて走る兄の姿を目を輝かせながら待っていた

「何故だ!どうして外なんかに…ッ!まさかクソ親父の事か!?」

「ち、ちがうよ!ただ、僕は・・・お兄ちゃんが心配で・・・」

「・・・お前は病人なんだ
 何も心配なんかしなくて良いし、井戸汲みだって俺がやる
 だから休んでいろ!」



295以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 14:39:38.11l5vFXmbf0 (2/7)


「う、うん」

兄の力強い言葉に押し切られ身を引く少年
生まれつき身体が病弱だった弟、そのせいか言動も女々しく
それが何よりもコンプレックスだった

「ホラ、今日の飯だ」

「…ありがとう」

「ここは冷える、家に入るぞ」

「あ、あのねお兄ちゃん「俺なら問題ない」


自分がもっと強ければ、女々しくなんか無ければ「無理はするな」と
兄に言えた、きっと自分は負担になんてならなかった

そんな後悔ばかりが弟の中にあった



煤まみれの暖炉に拾い集めた枯れ木を放り込み、マッチを擦る
弟が取っ手の取れたバケツに汲んできた水を入れて暖炉に近づける

「いや、お前は布団に入って眠れ」

「で、でも「良いから!」


弟が布団に入り、自分が湯の沸くまで火の番をする
隙間風でいつ火が消えるかも分からぬのだ、穴を塞ぐように家具を
置いているとはいえ、やはり外気は防ぎきれない


「……クソがッ」

兄は軽く舌打ちして吐き捨てる
無性に酒の空瓶でも蹴り飛ばしたい衝動に駆られるが
そんな事をした所で、貧困から抜け出せる訳も無く
眠ろうとする弟をかえって不安にさせるだけ、体力の無駄遣いだと判断し
やがて考える事を止めた

「…」

パチパチと火の粉を吹き上げながら燃える木を見つめ彼は思う

何処でこうなっちまったんだ?っと




俺は父親が嫌いだ

誰よりも父親を嫌った


妻に先立たれて"事業"にも失敗して、裕福から貧しい階級に堕ちた男

俺はまだ良い、だが生まれつき不治の病を煩わせた弟に医者どころか
薬すらださない、自分の酒代は出し惜しみなく使う癖にだッッ!

我子が苦しんでいようと酒を飲まずにはいられないッ

そんなゲロ以下のクズ親父が心底嫌いだった!


「…何が巨万の富を築く"事業"だ、その結果がこれではないか」


兄は父が自暴自棄になる前に"事業"の事を詳しく聴かされた
幸いにも兄には弟と違い"ソレ"ができる"才能があった"からだ
だからこそ、やり方を学ばされた




「巨万の富を築く事業・・・
             "込める技術"…か、フン馬鹿馬鹿しい」


296以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 15:16:34.61l5vFXmbf0 (3/7)




時は数週間前に遡る

その日も兄は教会へ向かっていた、この街は他所と比べれば大きい方に
部類されるひとえにソレは"モンバーラ劇場"があるからというのが大きい
この劇場では、金さえ払えば誰にでも貸し出しされる施設であり
旅のサーカスから金持ちのボンボン小僧による大して面白くも無い手品が
ご披露される、故に自然と人が集まりやすく移民や街の発展も大きい

街が大きくなることは何も良い事だらけではない

職にあぶれる者
移住区の少なさから路上生活を強いられる者
そして・・・

「…ぜぇ、ぜぇ、クソっ今日もこんなに並んでやがる」

教会前に長蛇の列を作る飢えた市民

国からの一応の保障だろう、教会で簡単な炊き出しが行われており
主にホームレスが対象となるが彼のような人間も対象に含まれる

ただ厄介なのは安定した収入、住居持ちの癖にタダ飯を食っていく連中だ

国の保障といえど限りがあり、ひとり一つが義務付けられている


必然、兄は"一人分"しか食料を得る事ができない


それも"残っていれば"の話である
まれに多く残る事があり、どうにか"二人分"を配給される事もある
…滅多にない事例だが


「ああ、君君ィ」

「…なんだ?」

「ここは教会なのよ分かるかねぇ?」

頬が弛んだ中年が兄に話しかける、青い僧衣からして神官か何かだろう

「分かってるから並んでるんだろう、そんな事も分からんのか?
 このマヌケがァ!」とでも怒鳴ってやりたいところだが兄はぐっと
言葉を飲み込んだ
この手の輩には何度も絡まれているからこそ分かる、コイツの次の台詞も

「ここはだねぇ、教会なんだよ教会、神聖なる神様のお膝元なのよ
 分かるぅ~?」

「なにが仰りたいのか理解しかねますね」

クイっと目線を兄の足元、・・・穴だらけのボロボロの靴へ向ける

「はぁ~、良いかい、神様のお膝元にそんな薄汚れたばっちぃ靴で
 来るとか君、ココ大丈夫、湧いちゃってるのぅ~?」

コンコンっと兄の額を指で小突く神官、見覚えの無い事から新しく
派遣されてきのだろう

…もう慣れた、だが虫唾が走るッ!そんな想いを持ちつつもあくまで
兄は冷静に対応する
ここで騒ぎを起こせば、食にありつけない事など過去の経験上理解してる

「申し訳ありません、私の家はこのみずぼらしい身形を見て分かる通り
 貧しいものでしてね靴もこれが最高のモノなんですよ」

最大限の皮肉を交えた声色で駄肉の多い神官に言ってやった

「はぁ?仕方ないなぁ、やれやれ、だから私はこんな所に派遣されたく
 ないんだよなぁ、いつ逆上したホームレスに襲われるかも分からんし」
 
そう言うとご丁寧に兄の足を高そうな靴で踏みつけて神官は去っていった


「…ッ!」



297以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 15:53:10.99l5vFXmbf0 (4/7)


元々、プライドの高い少年だった
故にストレスは酷く溜まっていく一方である

「はい、次の人どうぞ」

彼の番が回ってきて配給を受け取る、どうにか一人分は確保できた
手にした包みを抱えて彼は弟の待つボロボロの館へ走る
…妙な連中に目を付けられる前にである

―――
――


「ごほごほ、ありがとうお兄ちゃん」

「フン、気にする事はない俺は外で飯を済ませているからな」

嘘だ

弟には既に分かっていたことだ、本当なら自分の分こそ兄にあげたい
ガリガリに痩せ細っていく兄を見て思う、病弱で将来なんの役に立てる?
自分のような人間より"魔法使いの才"がある兄こそ生かすべきではないか
以前は魔法使いとして高名であった父も認める才
…彼こそ世の為に生きるべきなのだと、いつも弟は思う

「なぁ、弟よ」

「…?、どうしたの?」

「今日はだな、いつもより日差しが強い、風もそんなに強くない
 たまには二人で出かけるか?」

「…! うん!」

弟の返答を聴いて、外套を取り出す為二つ隣の部屋へ向かう
アルコール中毒で死んだ父親の隣の部屋である

(…爺さん達の遺産、食い潰して酒なんぞの為に借金まで負って
 俺達を何処まで苦しめりゃ良いんだよ)

父親の事でたまにガラの悪い連中が屋敷で目ぼしいモノを漁っていく

先日も「またクソ親父の事か!?」と無断で家捜しをしてる連中を
追い払った

(…くだらねぇ事に[メラミ]なんぞ使ったモンだな)

タンスからなるべく綺麗な外套を取り出す、他の衣類は先日に限らず
随分前に持ち去られてしまった

「ん?」

ふっとあるモノが兄の目に止まった

それは彼の父がやろうとした"事業"ではなく、彼の祖父が
遠い祖先の時代から研究していたモノを纏めた手帳であった
父親はこんな完成するかどうかも判らんモノに財と時間を使いたくないと
この部屋に置いていたモノだった

中には小難しい用語や"込める技術"を知る者でなければ理解不能な内容だ
だが、兄は父から"込める技術"に関してある程度の知恵を叩き込まれた
"魔法使いの才"もあり、手帳のルーン文字の意味、配列も少しだが
理解できる… 伊達に八歳の若さで[メラミ]が使えるワケでも無い


「なんだ?これは…」

なんとなく彼はその手帳を手に取り、読んでみた途切れ途切れだが分かる


「老いる事も、病で朽ちる事もない生命、究極生命体の研究?

          …"進化の秘宝" 理論?」

パラパラと流し程度に読み、彼はポケットに手帳を入れた
魔力を感じる手帳、もしかしたら売れば生活費程度にはなるか
そんな考えを持ちながら彼は弟の元へ戻っていった…




298以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 16:23:16.61l5vFXmbf0 (5/7)


「ほらよ」

「ありがとう!」

兄は弟に外套を着せてやる
その際に首元に見えた痣や煙草の火を押し付けられた跡が痛々しかった

「…おい、これも着けとけよ」

「え!?これお兄ちゃんのマフラー」

「いいから着けてろ!」

半ば強引に首元にマフラーを巻いてやる
弟の手を引いて公園に行こうと考えた、本当なら"モンバーラ劇場"にでも
行きたいところだ、今日は劇場でバレエの一座が来ていて
美しい舞いを披露しているそうだったから

「たまにはお外の空気を吸うのもいいよね」

「ああ、全くだ」

周りに人の影は無い…

両親がいない状態、そんな中でコイツを守れるのは他でもない俺だけだ
周りが過保護だ何だ騒ぐ事はあった

じゃあお前等は俺達を助けるのかッ!

同情して金でも恵むのかッ!


違うだろう、誰からも助けて貰えない、親族だって居やしない
だから俺しかいないのだろうが、勝手な事を抜かすなと言いたかった

「…いかんな、どうも暗い事ばかり考えちまう――」


ふっと思考の海から上がってみれば…








「……」
「え、ええっと…」

「…うめぇなぁ」モグモグ

俯いた状態から顔を上げれば、目の前に見知らぬ女が居た

齢は…弟より年上?か? 大体5~6歳ぐらいだな
長い黒髪に大人のモノなのか厚底の長靴
どうみても裾から手が出ないダボダボの黒コート
"星"を模ったペンダントをぶら下げた女だった

厚底靴のせいか知らないが、女にしては長身だ…単に自分達が栄養失調で
背が低いせいかもしれないが

「…なんだ貴様は?」

「あぁん?あんたぁ頭が馬鹿なのか?人に名を訊く前には
 名乗るのが、れーぎなんだぜぇ?」

イラっと来たが相手は自分より2、3歳年下の少女です
大人の対応をしようと…

「これは失礼、俺達はこの付近に住む町人Aだ、そしてコイツは弟だ
 分かったか?生意気な小娘」

訂正…最近ストレスが溜まり過ぎていた、故に八つ当たりと分かっても
目の前の年下相手に憂さ晴らしを兼ねてデカイ態度を取ったようです

「弟!?わーお!これはビックリだねぇ、妹さんじゃないのかい!」

少女は心底、驚いたようです


299以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 16:33:11.33l5vFXmbf0 (6/7)

>>291 うぇっ!?マジですかい旦那!この少女はあの人ですぜ!

>>293 『乙』は、乙は力なんだ!乙は、この>>1を支えているものなんだ


番外編2ある没落貴族の兄弟の話ですが長くなりそうなため分けます
可能なら今夜少しだけ続きは書きたい所です

ちょっとZガンダム見てくる



300以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 22:41:42.836+rXqJeo0 (1/1)

乙乙。


301以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 23:15:40.58RzBuwWqDO (1/1)

おつ
この兄弟に幸あらんことを…


302以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 23:53:23.07l5vFXmbf0 (7/7)


少女は手を広げて、自分は吃驚しましたよとワザとらしいアピールをする
兄はそんな少女は軽く一瞥した

整った顔立ち、長い黒髪に傷一つない新品同然の長靴
親のモノなのか綺麗な、そして大きな黒コート
右手には蒸気を発する饅頭が大量に入った紙袋
左手に食いかけの饅頭
首からぶら下げてるペンダントは日光に照らされて光沢を放つ純金製

なんだ、金持ちのお嬢様か…

「…ッチ」

兄は舌打ちをした、この少女はきっと家に帰れば
暖かい料理や暖炉が待っているのだろう
温かい両親が笑顔で出迎えてくれるだろう

…まさしく自分達とは対極に位置する人種だ

「あ、てめー舌打ちしただろう!」モゴモゴ

少女は口に食いかけの饅頭を放り込み、モゴモゴ言いながら
兄に人差し指を向けて言い放つ

それにしてもこの少女、作法がなってない

「黙れ、口にモノ入れて喋るな、そして人に指を射すな」

「お、お兄ちゃん!あ、あの、ごめんなさい!」

「わーお!兄貴は礼儀知らずのバカチンなのに弟ちゃんは何と良い子だ
 うし、そんな君にコイツをプレゼントだ!」

強引に持ってた紙袋を弟に手渡す少女、弟は押し付けられた紙袋に
思わず困惑してしまう

「え?えぇ!?」

「おい!貴様ァ!何を勝手なこモガァ!?」

口の中に何かを突っ込まれた
口いっぱいに広がる陽気、モチモチとした食感と久しく忘れていた
肉の味わい、しょっぱいとも甘辛いとも言いがたく
つい、次の一口を誘う味付け
饅頭を突っ込まれた事に兄が気付いたのはすぐである

「…」モグモグ

つい食べてしまった

「どうだい、旅の商人が開いてた出店で買ったんだがうめぇだろう!!」

にやりと笑って言う少女に兄は何を言うべきか迷った
まず、お前は一体何なんだとか、何故饅頭を寄越すとか
いきなり人様の口の中にモノを突っ込むなんぞ親はどんな教育をしてる
後、淑女たるもの"バカチン"などと言うな恥を知れッ!

…言いたい事が多すぎるし、饅頭が入ってるしで口が開けない

「あ、あのお姉さんは誰ですか?どうして僕達にお饅頭を?」

「あぁん?俺?まぁ、そこの兄貴を見習って留学生Aとでも
 名乗ってやろう、饅頭をやったのはだ…あー、気分?」

弟が疑問に思ったことを問いかけてくれた、帰ってきた答えはどれも
ふざけた回答であったが


「何のつもりだ?金持ちのお嬢様が施しのつもりか…一応、礼はするが」

「あ? んだ、てめーはいちいち態度がでけぇなぁ?」

食べ終えた後で、兄はようやく口を開く、ここは礼の一つでも述べるのが
筋なのだろうと兄自身理解はしている為、礼を述べた

だが、ちょっとした人間不信に陥っていた兄はどうにも心から
人を信用するという行為ができなかった



303以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/11(土) 00:23:27.46O0cc58+00 (1/2)


「…別に、ただ貴様がこのような事をする理由が思いつかんのだ」

「理由だぁ?んなモンねぇよ!
 俺が食わせてぇと思ったからやっただけさぁ!」

「あわわわ、ふ、二人とも喧嘩はやめようよぉ」

弟の仲介が入り
弟に弱い兄と、女性(女性じゃないけど)への不敬を誰よりも嫌う少女は
互いに一歩引く事になった


それから暫くの間、公園の一つのベンチに三人並んで座っていた
無論、兄と少女が喧嘩しないようにと弟が間に割って入る形である


それにしてもこの弟、気配りができる、嫁に欲しいくらいであるッッッ!


冗談はさて置き、三人で紙袋の中の饅頭を分け合い
なんて事のない会話を楽しんでいた

「ま、そんな訳で俺ぁ留学してる訳さぁ、こっちの友達に会うのは
 久しぶりでねぇ!」

「へぇ、海の向こうからいらしたんですかぁ」

「教育機関の無い辺境の地か…」パク

「あ、てめーソレ俺が食おうとしたんだぞ!」

「フン、貴様が俺達にくれたのだろう?それとも前言撤回でもするか?」

「だから、喧嘩はやめてってばぁ!」

ギャーギャーと騒いでいた時、兄はポケットから手帳を落とした

「うん?なんでぃ、何か落ちたぜ?」

「む!、ソレは…」

少女は地面から手帳を拾い上げ、雪を軽く払ってページを開きます

(…まぁ、どうせコイツには読めんだろう、俺でも所々にしか
 解読不可なのだからな)

そう考え、兄は手帳を真剣な眼差しで見つめる少女を放っておきました
それから数分、先ほどまで馬鹿騒ぎしていた少女が嘘のように黙り
流石に兄が不自然に思い始めました
弟は饅頭という贅沢なご馳走に目を輝かせていてあまり気にしていません

「…おい?」

「…」ペラ

「おい?」

「…」ペラペラ

「貴様!聴こえているのかァーーーー!!」

「うおあッ!?なんだよ耳元で大声出すなボケ」

「さっきから何度も呼んでいるだろうが」

「あ、ああ、そいつぁ悪かった、ちっと内容にめり込んでたわ」

「貴様…それが読めるとでも言うのか?」

「ん?読めっけど、どうかしたのか?」

さらりと、今日は天気が良いなとでも言うかのように簡単に言ってくれた
以前は高名な魔法使いとして名を馳せた父親の英才教育を以ってしても
完全に読めなかったソレを…この小娘あっさり読めると言いおったッ!

「馬鹿なことを言うなソレは――「究極生命体を生誕させる方法に関して
 "進化の秘宝"理論」

この瞬間、少女が只者ではない事を兄は悟った


304以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/11(土) 00:37:00.60O0cc58+00 (2/2)

>>300 分かるぞ・・・『乙乙』が皆の力を、皆の力が>>1に!

>>301 兄が少し、嫌な奴ぽく見えそうですが彼も色々と思う所があり
   少女に言った事を少し反省もしています、幸せにしたいものです…



305以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/12(日) 00:20:54.13xd0GZCqDO (1/1)

おつ
腹減ってきた
にくまん買ってくる


306以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/12(日) 05:43:47.926Jnp+j79o (1/1)

乙!
こういう展開大好きだから凄くわくわくするぞ


307以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/16(木) 20:52:32.424iOQHmha0 (1/7)


自分が目を通した内容は勿論の事、読むことのできなかった部分までも
すらすらと読み始め、終いには未完成の理論に関して考察、感想文まで
言い始めた少女に兄は驚きを隠せない

「へっ!これくらい読むことなんざぁ、どうってこたぁねぇのよ!」

ちっとは見直したか!っと威張る少女にやや気後れ気味に兄は答える

「フン、貴様は単なるバカだと思ったが…喜べ、認識を改めてやる
 貴様は学あるバカだ」

「はっはっは、雪玉作って口ん中にぶち込むぞこの野郎」

「二人とも!」

犬猿の中、水と油、二人を喩えるならばソレに近いモノである


 兄から見れば、突然現れて、意図の読めぬ行動をする変人

 少女から見れば高慢な態度が一々鼻につく男として見えただろう


兄が人間不信でなければ、純粋に人の好意を信用できれば
少女がもう少し穏便な態度ならば
互いに第一印象は変わったかもしれないが…過ぎた話である

「どうやら、俺は貴様とはソリが合わんらしいな」

「ケッ、こっちの台詞だぜ」


ぷいっと互いに顔を見ないようにあらぬ方向へ顔を向ける少女と兄
…あまりにも気まずい沈黙が漂う

「えっと、その…僕、トイレに行って来るね!」

空気に耐えられなかったのか逃げるように公衆トイレの方へ駆けていく弟
それを見て、しまった…!と顔を顰める兄
病弱な弟のメンタルケアも兼ねて出かけたというのにこれでは台無しだ

「…っ」

「…」

弟が見えなくなった途端にさっきまでの威勢は何処へ行ったのやら
項垂れて地面を見つめる兄、伸びきった髪のせいか顔は陰に隠れて見えず
ただ、僅かに唇を噛み締めているのを少女は横目に見ていた

「…あんたぁ、弟ちゃんが大事なんだなぁ」

「…当たり前だ、ただ一人の家族なのだからな」

「ふぅん…」

深くは追求しない、さっきの件(手帳の内容が読める事、内容の感想)で
ある程度判ったが少女は10代にも満たぬ齢の癖に何処か達観した面が
あった、"一人の家族"という所に敢えて追究しないのはそれ故か
単に興味を持たなかっただけかは知らない

「なぁ、訊いていいか?」

「あぁん?なんだよ」

「結局、お前は何で俺達に絡んできたのだ?何が目的だ?」

「…強いて言やぁ、ほっとけなかったんでな
 お前の格好見て尚更思った」

「俺の格好だと?」

「だな」

ガサガサと紙袋を左手で漁る少女、一口サイズの饅頭が大量に
入っていたが、そろそろ袋の底が見え始める程に減っていた



308以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/16(木) 21:26:31.894iOQHmha0 (2/7)


「このクソ寒ぃ中、そんなボロボロの格好でよく外にいる
 弟には外套とマフラーを渡して自分は薄着だぜ?」

せめてマフラーくらい弟から借りりゃあいいじゃあないかと少女は言う

「だが、借りようとしない
 というより借りたくないんじゃあないか?」

「フン、根拠はあ「ああ、言い忘れてたんだが、実は少し前から物陰で
 あんた等を見てたのよね俺」

「…バカなだけでなくストーカーとはな、つくづく救えんな貴様」

「何とでも言えボケ、…んで弟ちゃんは必死にマフラーを渡そうとするが
 頑なに拒むんでねぇ、どういう"理由"かちっと気になったのさ」

「それで?」

「俺さ、留学生なのよね」

「それはさっき聴いたぞ、貴様、その齢で認知症か?」

「んで、この街でも短い間だけど友達を沢山作ろうとすんのよ
 目指せ友達100人できるかな?って奴?」

「…」

突っ込むだけ無駄な気がしてきた為
兄は聴くだけに徹しようとした時であった

「色んな奴と会って友達になったりしてな、んで親に虐待されてる奴とも
 知り合いになった」

ほらよ、紙袋から取り出した饅頭を兄に手渡す少女、相変わらず顔は
あらぬ方向を向いたままだが


「あのマフラー…首元でも隠してんじゃねーのか?」


「…なんだお前、将来探偵にでもなるつもりか?」

饅頭を受け取り、ソレを口に運ぶ兄、相変わらず少女の顔を見はしない

「いや、俺ぁサンタさんになるんだよ」

「サンタさんねぇ」

「俺の直感みたいなモンでさぁ、なんとなくお前等兄弟が
 "そういう感じ"に思えたんでな、近場の出店で饅頭買ってきた」

「そこで饅頭を買うという結論に至るのが解らん」

「言ったじゃん、饅頭をやったのは気分だって」

少女が純粋な好意からあの行動に出たとようやく兄も信じた
このアホ娘は変に打算的な事を考えてやったのではなく
感情論で動いたのだと

「…俺は見て分かる通りの貧乏人なんでな、貴様が何を望もうと
 大した見返りは出来んぞ」

「かぁーっ、嫌だねぇ!俺ぁ見返り求めてなんかやるような卑しい奴に
 見えんのかい?」

三人で食べていたからか、紙袋の中身は間も無く底に尽きそうであった

すぐそこの出店で作られたからホカホカの蒸気を出していて
三人で食べてもすぐには無くならない…
決して女の子一人では消費しきれない数の饅頭が入っていた紙袋がである

「なぁ、あんたぁ」

「ん?」

「あんたぁ、あの手帳の内容をどう思う?」




309以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/16(木) 21:55:28.834iOQHmha0 (3/7)


手帳の内容

老いる事も"病で死ぬも事"もない究極の生命物 究極生命体の創り方

"進化の秘宝"に関して

少女が尋ねてきた、最初に手帳を開いた時は考えもしなかった
少女が詳しい詳細を読み始めた所でふっと"考え"が浮かんだ

いや、"魔が差した"


『ゴホゴホ、お兄ちゃん…』

まず、頭に浮かんだのが不治の病に苦しめられる弟
そして…


「あー、言っとけどよぉ、変な気は起こすなよ」

「貴様に言われるまでも無いわ」

「この"進化の秘宝"とやらは理論が未完成だし、仮にやるにしても
 準備しなければならねぇブツが判明してるだけでもかなりある
 …なにより
   "人間やめるようなモノ"だぜ、こいつぁ…」

「そんな得たいの知れんモノなど身内には使えんよ
 アイツには幸せになって欲しいからな」

「ん、聴いて安心した」


その後も少女が何故、手帳の文字が読めるのか等、到底、5~8歳とは
言えない者同士の会話が続いた

一般人から見れば実に異様な光景だろう
方や『魔術師の天才』、後に『"技術"の神童』と呼ばれる子供同士の会話

「って訳でセンコーに教えられたのさ」

「ふむ、その教師、さぞや名高い魔法使いなのかもしれんな」

まさか、目の前の少女も"込める技術"の関係者だとは思わなかった兄は
心底驚いた、世界に数えられる程しかいない"技術屋"の関係者と
こうも簡単に巡りあう、世の中、狭いものである


 最初こそ、喧嘩ばかりの二人だったが、奇妙な共通点があった…!


互いに技術屋である事、少女は無論だが
兄は酒に溺れて自暴自棄になる前は親を技術屋として尊敬していた
…事業と妻を失って荒れた事から大いに嫌ったが

なにより、共通の話題ができる、"込める技術"の論文や仕様は
唯の魔法使いや学校の教員…一般人の大人では高度過ぎ
着いてはいけない、トンチンカンチンである

そういう意味で、互いに議論できる相手、自分達の理論や疑問点に
賛同、論破できる同年代の人間というのは実に貴重である

「それは一理あるな、…だが何故バナナなんだ?」

「わーお…そいつぁ俺も悩んだんだが
 単にお猿さんが好きそうだからなんじゃね?」

話題は気付けばヒートアップしていた、兄も少女も学者気質だからか
めり込むと周りが見えない所があった、弟がトイレから帰って物陰で
見ているのにも気付いていなかった

(…どうしよう、タイミングを見て帰ってくる筈だったけど
 今行ったら、迷惑かなぁ)

空気を読んで気を使う弟であった…


実に天使だなッッッッ!!!!!



310以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/16(木) 22:18:58.704iOQHmha0 (4/7)


「黄金製のバナナに麻薬成分でも入ってるのかねぇ?」
「単に[メダパニ]が"込め"られているのではないのか」
「じゃあ、この部分はどうなんだよ?[メダパニ]以外にも何らかの効力が
 あるっぽいけどよぉ」
「鎖部分か…これは解らんな」


「っくちゅん」


「「あっ」」

ある"込める技術"の設計図に関して議論に没頭し過ぎていた二人は
木陰でくしゃみをした弟に気が付いた


―――
――


気が付けば高かった日は沈み始めカラスが鳴いている
子供はカラスが鳴いたら帰る時間だ

「…もう、こんな時刻か」

「んあ?マジで?まだ3時間くらいしか経ってないかと思ったんだがなぁ」

「楽しい時間はすぐに終わっちゃうって言うもんね!」

「フッ、たまにはバカと会話するのも良い物だな」

「あっ?てめー、雪玉食わせんぞコラ」

「お姉さん、もう帰っちゃうの?」

「んー?もうちょい兄貴と話してぇのは山々なんだがなぁ、そろそろ
 センコーが俺を探しにくんじゃねぇかなって」

「名残惜しいが、お別れと言うわけか」

「だな」

「ねぇねぇ、お姉さん」

「なんだい弟ちゃん」

「うう、弟ちゃんって呼ぶのは…ううん、それより訊いても良い?」

「何をだい?」


「お姉さんの名前!」


「俺の名前だぁ?」

「うん!」

長い間一緒に居て、長い間遊んでいた、少年少女達
しかし、いまだ互いの名前を知らなかった…

兄は「生意気な小娘」「留学生A」としか呼ばないし
少女も売り言葉に買い言葉で「町人A」だの「クソ兄貴」としか言わない
弟はそもそも少女の名を知らぬ為「お姉さん」兄は「お兄ちゃん」と呼ぶ

見事に三人共、互いの名前を知る機会が無かった訳であった


「俺の名前ねぇ、良いよ!教えてやんよ」

「ありがとう!」
「…まぁ一応、覚えておいてだけはやろう」

「一度しか言わねぇぜ!良いか?俺の名はナジ「見つけましたよ…!」

少女が兄弟に名を告げようとした所で別の声に遮られた少女が振り向くと
あからさまにバツの悪そうな顔でゲッっと言うのであった




311以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/16(木) 22:51:17.134iOQHmha0 (5/7)


「ゲェっ!センコー!?」

おほんっと咳払いを一つして中年の男性がそこには立っていた
リーゼントの様に整えた髪、ちょび髭にメガネで何処か冴えない顔立ちの
バーテンダー風の格好をした男である

「いけませんねぇ、レディーはそんな言葉遣いはしませんよ?」

人差し指を天に向け、チッチッチっと指を振るセンコーと呼ばれる男
先ほど少女が話していた教師なのだろうと兄は考える



だが、これはどういうことだ?








この男、"いつ現れた"のだ?




少女の背後に現れ、声を掛けた
それは分かった、だが、彼女の背後にはコレといって物は何もなかった
ブランコも滑り台も公園の木々も無い
あって、少女の後ろの砂場くらいだが砂の山すらない

まるで近づいてきた気配が無いのだ…っ!


「時に、そちらの方々はお友達ですか?」

「応!生意気な町人Aと可愛い弟ちゃんだぜ!」

男は少女の横を通り兄弟に近づき言う

「どうも、私の生徒がご迷惑をお掛けしたようで申し訳ありません」

眉を八の字にし困ったような顔で謝罪の言葉を述べる教師
冴えない顔という事もあり、何故だか謝られているのだが
こちらが悪い事をしたような何ともいえない感覚を兄は覚える

「あ、いえ、どうもこちらこそ…」

彼は基本的に大人は信用しない、大人は汚い生き物だというのが
彼の経験上、基本的な見方である(今日、足を踏みつけた神官然り)

だが、不思議とこの男には然程、嫌悪感を感じない

物腰が低いからなのか何なのかは知らない

ただ安心できる

安心感を覚える

そんな不思議な…"人を惹き付ける"ような魅力が声にあった


「あのう、おじさんはお姉さんの先生なんですか?」

「ええ、彼女から私の話を聴いたのですか?」

「はい!世界一、尊敬してる人だって言ってました!」
「わあああぁぁぁぁ!?馬鹿馬鹿、それは言わんでくれえぇいい!!」

慌てる少女におやおや、と微笑む教師

「これはこれは、リュウキュウに怒られてしまいますねぇ」

「~っ!世界一っつってもセンコーより父さんの方が一番だかんな!」

「はいはい」



312以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/16(木) 23:14:32.004iOQHmha0 (6/7)


少女と教師のショートコントがしばらく続いた後
教師が兄を見て両手を差し出した

「彼女の面倒を見ていただいたお詫びと言ってはなんですが
 これをどうぞ」

彼の両手には白い大きな布があった、それを広げ、兄弟によく見せる
まるで"種も仕掛けもありません"とでも言わんがばかりに…

「はい!」

ポン!

「うおっ!」
「うわぁ…!」

白い大きな布から出てきたのは真っ赤な薔薇の花束であった
それを手渡された兄は正直、花など貰った所で嬉しくも無かったが
流石に、要らないと返すのは失礼にあたる為、とりあえず受け取った

「すごい!すごい!」

手品を前にしてぴょんぴょん飛び跳ねて拍手する弟

「喜んでいただけたようで何よりです!」

屈んで弟と同じ目線になった教師はにっこりと笑って手を差し出す
手品を魅せてくれたおじさんとはしゃぐ少年が握手をした瞬間である

「さて、もう夜も遅いですし、お二人はもうお帰りなさいな
 そして、こっそり逃げようとしないでくださいね」

「うげぇ…!」

兄弟に別れの挨拶を言っている隙に抜け足差し足で逃げようとする
少女に教師は釘を刺します

「勝手にいなくなったりして駄目でしょう、リュウキュウも心配してます
 "ご両親を哀しませるような子はサンタさんになれませんよ"!」

めっ! っとあまり怒ってるように見えない顔で少女を叱り
教師は手を引いて帰ろうとする

「それでは、お騒がせしました」ペコペコ

「じゃあな!町人Aとその弟よぉ!」


ぽかーん

嵐の様に現れて、去っていた二人を見て兄は呆気に取られていた

「お兄ちゃん!僕達も帰ろう!」

「え?あ、ああ、そうだな」

兄弟も帰路に着く
そんな中、しかし兄の足取りは重たい
家に帰っても夕飯はないし、もしかしたら又、父親の借金関係で人が
勝手に入っているかもしれないと


「こんな薔薇をもらったところで何にな――」

帰る最中、渡された薔薇の花束を何気なく見る

すると…どういうことだ?





薔薇が全て"石"に変わっていたではないか


「な、なんだ、コレは…!」

全く気が付かなかった、いや、重みが変わった事さえ、分からなかった



313以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/16(木) 23:44:43.644iOQHmha0 (7/7)


「お兄ちゃん?どうしたの?」

「い、いや、何でも…ハッ!」

弟の首元…マフラーが少しずれた事で見えた首元から



煙草の火傷や痣が消えているではないか…ッ!



「…馬鹿な、一体なんだというのだ?」

「?」

弟は首を傾げて兄の顔を覗き込む

やがて考えたところで答えなど出る筈も無いと兄は再び歩み始める


「お、坊ちゃん達が帰ってきたぞ」

「…」
「あぅ…」

案の定、ガラの悪い連中が家の前で仁王立ちであった

「なぁ、お兄ちゃん、君は頭イイから分かるよね?
 借りたものは必ず返す、これ、人間の常識、ね?」

「…それは俺達の借金じゃあないだろう、くたばった親父のモンだろう」

「あー駄目駄目、わかってないねぇ、いいかお兄ちゃん
 親父のモンは息子のモン、親父の借金は子の借金よ、分かるぅ~?」

本日何度目か分からない舌打ちをする兄
この輩には[メラミ]などと言わず[メラゾーマ]でもお見舞いすべきかと
真剣に考える

「ねぇ~弟くぅん、君は借りたものを返さないのは悪い事だと思うよね」

「おい!貴様等、その豚みたいな顔を弟に向けるな!」

最悪、殺人を起こす覚悟で兄は手に魔力を込める
今まで、自分が投獄された後、弟はどうなるか?
弟の目に焼死体を焼き付ける訳にはいくまいと今日まで意識してきたが…

「君は本当に可愛いな、まるで女の子みたいだよ、もう幼女っていても
 誰も疑わないくらいだね!」

じり…っ

弟を庇うように前に出る兄

「お兄ちゃんと助けたいと思わないか?おじさん達についていけば
 お兄ちゃんを助けてあげられるよ?」

煙草のヤニ臭い両手で揉み手しながら近づく風俗店を受け持つ男
[メラゾーマ]を確実にぶち込む射程内まであと少し…

「お兄ちゃんも、そんな反抗的な目で…てええぇぇぇ!?」

兄を見て、男は奇声をあげる

正確には兄の右手を見てである


(…?、なんだ?)

まだ[メラゾーマ]は出していない、手を見て何に驚いた?


「な、ななななん、なんだそりゃあ!?」

ここで兄は男が自分が持っていた"石で出来た薔薇"を見ていると気が付く



314以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/17(金) 00:13:46.31WKnGzRdW0 (1/3)

「これは、[さばくのばら]じゃねぇか!?」

兄の持っていた"石で出来た薔薇"を見て叫ぶ

「[さばくのばら]?」

「……は、ははぁ~、そういうことかい」

何か一人で勝手に納得したような顔をするガラの悪い男

「大昔は[イシス]の近くで採れたが今じゃ滅多に手に入らない
 だからコレクターが喉から手が出るほど欲しがるお宝…
 あの酒飲み親父、こんな高価なモンを隠し持ってたわけか」

どうやらこの男は、この"石で出来た薔薇"…[さばくのばら]とやらを
兄弟達の私物と勘違いしているらしい

「生活苦から逃れる為にソレを質屋にでも持っていこうって考えたんだな
 兄ちゃんよ!そういうモンがあるならおじさん達に渡してもらおうか」

よく分からないが、この男はこのガラクタをえらく欲しがっているようだ
正直、兄にはコレの価値が分からない
男の様子から察して、値の張る逸品らしいが、兄は…

「フン、これが欲しいのか?ならばくれたやろう!」ブン

「うおぁっ!この糞餓鬼、投げるな、割れたらどうする気だ!」

貧困から脱却することも可能だったかもしれないが
金を持ったところで、この連中が二度と来ないわけではない
むしろ、持つ事で執拗に追い回されかねない

「それをくれてやったのだ、二度と俺達の前に現れるんじゃあないッ!」

「ちっ、まぁいいさ、半年はその家の家賃はチャラにしてやる」

ガラの悪い男は帰っていく

「ふぅー」

息を吐いて、その場に膝をつく兄

「お兄ちゃん!!…怖かった、怖かったよ!!」

「あぁ、大丈夫だ…っ!、俺達は大丈夫なんだ…っ!」

今にも泣きそうな弟の頭を撫で、落ち着かせる兄
自分一人なら路上生活もまぁ、悪くは無いが病人を冬の路上に寝かす訳に
いくまい、そのまま、永遠の眠りにつきかねないからだ


「それにしても…」


弟の身体から火傷や痣が消えた

ちゃんと"本物の薔薇"の花束だったものが"石の薔薇"に変わった


どうもこれらはあの教師とやらが関わっているような気がしてならない

「…興味が湧いた」
「え?」

「なんでもない、家に入るぞ」

また、あの少女に会えれば、あの男に会えるか?
奇跡を起こした人間に会えば、また奇跡に縋りつけるのではないか
そんな、根拠の無い何かが兄の中に生まれ始めていた
―――
――


「ふむ、"進化の秘宝"…ですか?」

「あぁ、俺でもあんまり解んなかったんだせ!
 センコーにだって解んねぇだろう」ニタァ

少女は挑発するように教師に言う



315以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/17(金) 00:37:39.38WKnGzRdW0 (2/3)


「ふむ、確かに難しいですねぇ」

「へっへっへ~、だろだろ!?」

自分より物知りな男にも知らない事がある、それを確信して
ケタケタ笑う少女

「ま、物知りセンコーでも知らない事を知ってる俺ぁセンコーより
 すっげぇって事だな!」

数刻前に「俺でもあんまり解んなかったんだぜ!」と言った少女
相手も知らないが自分もよくは知らないという事実は何一つとして
変わっていないのだが…それはどうなのだろうか?

「おっと、勘違いなさらないでくださいよ」

「へ?」

「私は"難しいですねぇ"と言っただけで"聞いた事も無いですねぇ"とは
 一言も言ってませんよ」

負けず嫌いなのか、変な所で子供っぽい中年の男は少女に言う

「う!うぐぐぐ、
 う、嘘こけぇー、あんなワケ解んないようなモン誰も見た事ねぇよ!」


「ええ、確かに誰も見たことがないかもしれませんねぇ」

穏やかに教師は言うが矛盾している
それに対して少女がハァ?と顔を顰めたのは言うまでもない

「私も、理論は見た事がないのですよ
 ただ、アレと全く同じようなモノが"私の地元"にありましてね」

それで知っているのです と舌をちろっと出して少女に言う教師

「むー、なんだよソレ」

「ふっふっふ、教えてあげません!」

子供っぽく言う中年男性はメガネをクイっとあげて目線を逸らす
その先には

「おお!何やら美味しそうな匂いがしますねぇ!」

「話題を逸らすなよー」

ぶーぶー、ブーイングの嵐を飛ばす少女はなんのその
「まぁまぁ、私が何か美味しいモノでも買いますから」とご機嫌取り
少女は2秒で先ほどまでの怒りを忘れ、万歳である

「あ、ですが食べすぎはいけませんよ
 お母さんのご飯が食べれなくなっちゃいますからね」

「応ともよ!でも覚悟しとけよ、財布の中スッカラカンにしてやるぜ!」

「おぉ、それは怖いですねぇ、カジノのスロット並みに恐ろしいですね」

「…? カ、カ、カジ? 家事のキャロット?」

聴いた事の無い単語に戸惑う少女

「おっと!私としたことが…、今のは、"私の地元"の娯楽です
 まぁ、聞き流してください」

「…?、よく分かんねぇけど分かった」

その後、二人は繁華街でホカホカの饅頭を大量に買い過ぎて

少女の両親にこっぴどく叱られて

教師、少女共に小一時間、正座してたそうな…




316以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/17(金) 00:55:05.86WKnGzRdW0 (3/3)

>>305 冬の寒い日、特にお腹が空く夜中の奴等は恐ろしいッ!
    あの味ッ あの食感ッ 誰もが奴等には勝てないッ!

>>306 わくわくする展開を創れたのなら嬉しい限りです






兄「あ、ありのままに起こった事を話すぜ
  俺は、薔薇の花束を渡されたと思ったら、薔薇の花が
  石の花束に変わっていたッッ!!超スピードとか催眠術とか
  そんなチャチなモンじゃあ 断じてねぇッ!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨



思った以上にオマケが長くてヤバイ…

そろそろ終わりにした方がいいですよね






********************************

>>[さばくのばら] 【ドラゴンクエストⅤ DS】より
[テルパドール]の南西にある名産品、無限に手に入る

>>カジノのスロット 【ドラゴンクエストⅣ】より
スロット…以前にカジノ自体の登場はⅣから
4コマでも占い師がよくスッカラカンになる







『[進化の秘宝]同様に "Ⅲ の世界には存在しない" ……』





317以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/17(金) 01:06:49.42Yie17CWeO (1/1)

訂正
>>占い師がよくスッカラカン

ごめん踊り子だった!


318以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/17(金) 01:52:43.49HUDpWR7DO (1/1)

おつです
この兄弟の成長記もじっくり読んでみたくなりました



319以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/20(月) 22:11:11.52KIqijman0 (1/4)


 兄はあれからというもの暇さえできれば少女(正確には彼女の教師)を
探し続けていた、だが教師は無論の事、手がかりである少女にすら
出会う事はできなかった…

「…今日も収穫は無し、か」

寒空の下、兄は両手を口元に運び吐息で温める
十二月は過ぎ去った、しかし冬の寒さはいまだ健在だ
 他所の家庭の子供達が手袋を着けているのを見ると妬ましいものである


(…まさか、もう帰ったのではないだろうな!?)


少女は元々、この街の住人ではない、遠い海の向こう
教育機関の無い辺境の地から留学する為に来ていた
 彼女の話し振りから察するにまだ街にいる筈なのだが

いかんせん、ここまで何の手がかりも無いとなると不安に思えて仕方ない

朝一番で教会の炊き出しに並び、その後は教師と少女の行方をひたすら
探し続ける、それでも会うことが叶わない
そんな日々が続いてはや数週間













そして、今週が彼等、兄弟にとって"人生最大の転機"となる時期だった














兄はこれまでの人生がそうであった為、何かと心配性な一面がある

今回に至り、それは大当たりだ

あの日、口に饅頭を突っ込んできた無礼な少女と出会った日
彼女と会話した時、確かに彼女はしばらく、少なからず二ヵ月は滞在する
そのように発言した

しかし、今回の留学は例外

"二ヶ月ではない"のだ…! "一ヶ月で海の向こうへ帰る"のだ!

少女の母方の両親、つまり祖母・祖父にあたる人間が[エジンベア]から
緊急で来日するとの事であった
祖母達は少女の両親に前もって連絡無しでやってくる
そして"今週"には少女含め家族三人、教師を連れて海の彼方へ帰るのだ

そんな一刻を争う状況とはつゆ知らぬ兄は今日も街をひたすら駆け回る


「…くそォ、何処なんだよ!あの小娘」

不安 焦り 苛立ち

藁にも縋りたい気持ちであった



320以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/20(月) 22:29:23.30KIqijman0 (2/4)


思いつく限りの場所を探した
ヒゲでメガネで物腰の低い男はいないかと訊ねて回った
男みたいな口調の変な少女を見かけなかったかとも道行く人に声を掛けた

だが反応は一向にない

結局、疲労しきった兄は帰って泥のように眠るしかなかった




「…」


チュンチュン

小鳥が鳴いている、隙間風の通る壁越しに良く冴え渡る鳴き声だ
おかげさまで我が家は目覚まし時計いらずですとでも言うか?

「今日こそ見つけてやる…」スッ

硬いシーツの上から身を起こし、暖炉に近いベッドへ兄は歩み寄る
暖炉の火はちろちろと僅かに燃えていて
弟も身体を暖かくして寝れている筈だった

「起きてすぐだが、俺はもう出発するからな」

ベッドの上にいる弟に声をかける


「…」



「…?」


ここでふっと、ある事に気付くのだ、弟は病人だが自分より早起きな人間
そして、いつも第一声が「おはよう」で、出かける自分に
「行ってらっしゃい」の声を掛ける

珍しく寝坊したのかと思った

この時、兄は然程気にせず家を出た…


ベッドから一向に出てこない弟に気づけずに






もう一度だけ言おう






  『今週が彼等、兄弟にとって"人生最大の転機"となる時期だった』







―――
――


「はい、どうぞ」

兄は教会の炊き出しで食料を受け取り、急ぎ足で自宅へ帰ろうとした
そんな矢先である



321以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/20(月) 23:04:45.43KIqijman0 (3/4)



「おやぁ~?君ィ、まだ新しい靴を買っていないのかね?」


聴こえてきた声に内心で強く舌打ちする
この耳障りな声、あの神官だ

「失礼ですが、先を急ぐモノでして…「ちょっと!ちょっと!人とお話
 する時はちゃんと目と目を合わせてするって親に習わなかったのかね」

「これは失礼しました…ゴミなんかと目を合わせては言葉通りお目汚しに
 なると思いましてね
 無礼を承知でこの体勢のまま返答させていただきました」

「ふっふぅ~ん、解るじゃあないか!社会のゴミは
 確かに見るに耐えないモンなぁ!」

ゴミなんかと目を合わせては"誰の目が"腐るのかは言ってない
さりげない皮肉に気付かない中年の神官に兄は問う

「どのようなご用件で?」

「あぁ?ご用件?…おお、忘れていたよ、君さぁ最近配られてるご飯を
 持って行きすぎじゃあなぁい?」

くねくねと身体をくねらせながら言う神官、その動作の一つ一つに嫌悪を
抱く、これがその辺のチンピラなら呪文の一つでも食らわせたいのだが

「一人一つのルールはちゃんと守ってますよ」

「口答えしてんじゃねぇよ小僧ッ!おっと!しとぅれい~ぃ興奮すると
 素が出ちゃう性格でね、ホラ聖職者なんてやってると俺とか言っちゃ
 いけないしぃ敬語はやんなるね本当」

ツカツカと高級そうな靴で床を踏み歩きながら兄に近づく悪趣味な神官
ブランド物の靴に首から[銀のロザリオ]手にはゴテゴテの[ルビーの指輪]
何の生き物か知らないが、真っ白な毛皮のコート

聖職者を語るな質素な格好をしろとでも言ってやりたい

「君ィ、国の税金っていうのはねもっと大切な事に使うべきなんだよ
 将来的に一大企業でも興せる人材がいるなら良いけど
 特にそんなこともないゴミ屑みたいな奴を生かすのに
 使うべきじゃあ無いと思わない?ぶっちゃけ資金の無駄だしぃ」

神官が兄の持っている包みに腕を伸ばす

「はいっ!って事でコレ没収ね」

「っ!やめろ!」


神官が兄から食料を奪おうとする
もう我慢ならんッ!意を決した兄は[メラミ]を唱えようと…!


「はい」スッ


「へ?」
「はっ?」

突然の横槍
兄と神官の奪い合いに一人の少女が割って入った
格好からしてシスターか何かか?

「あなた達、お腹が空いているのでしょう?コレをどうぞ」

そのシスター(?)はパンを差し出しながら言った

「…ま~た、君か、イイよ好きになさい」

神官は乱暴にパンをひったくるとそのまま教会へ帰っていった

「…なんだ、お前は?」




322以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/20(月) 23:33:34.33KIqijman0 (4/4)


「私? あの教会で働いてた子」

格好を見れば分かるが、兄はそういう意味で訊いたのではない

「あの人、いつも来る人に意地悪するの」

「ああ、クソみたいな奴だな、それでお前は何だ?」

「? 今も言ったよ? あそこで働いてた子」

「いや、俺が訊きたいのはそういうことじゃなくてだな
 何で俺を助けたのかだ?」

「…? 分かんない、助けたかったから助けた」

兄は頭が痛くなった
変な小娘に絡まれる、なんだこのデジャブは?
どうせ絡まれるなら探してるほうの小娘に絡まれたかったものの…

「あぁ…わかった、もういい、俺が悪かった、変な事訊いてすまん」

ここ数日走り回って疲労していた兄は深く考える事を止めた
「…?どうして謝るの」と不思議そうに首を傾げる少女に
とりあえず礼を言い、その場を去ろうとする


ぐううぅぅぅ…


「…」

「お腹空いてるの?」

まぁ、否定はしない

「パン、沢山あるけど食べる」ッス

数週間前は饅頭、今日はパンを見ず知らずの女性に食わせてもらうか…
男として羨ましいシチュエーションなのか
男性として女性に施しを受ける事を恥じるべきか

兄は後者であろうな

教会に帰ればあの嫌味な神官がいるという事で、何処か落ち着ける場所で
食べる事になった、その場所は奇しくも数週間前に生意気な小娘と
出会った公園であった

「…はぁ」

「ため息吐くと幸せ逃げちゃうよ?」

男みたいな小娘、ぼけーっとして何処か頭の足り無そうな小娘
なんだ?女難の相でも出てんのか?っと兄は思わずにはいられなかった

「…フン、幸せに逃げられるか、とっくの昔に逃げられてるよ」

「なら追いかけて捕まえれば良いと思うよ?」

素で言ってるのか冗談なのか判断に困る返答であった

「追いかけろだと?何処に逃げた分からぬ幸せをか?」

行方知れずの人間を探そうにも手がかり無し
闇雲に動けば良いと言う話でもなかろうにと兄は心の中でぼやく

「うん、あのね、何処にあるか分からなくても
 宝物と同じで本当に見つけたいって思えば
 最後はきっと見つかるんだって友達も言ってたの」

「本当に見つけたいと思えば、か」

「私の友達もいつか[青い石]を見つけだすんだって張り切ってた
 頑張る事や、見つけたいって意思を失くすのが一番、駄目だと思うよ」

この少女はあまり頭が良くないのか、会話の内容が飛んでいるな
だが、なんとなく言いたい事は分からなくもない



323以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 00:59:30.21xYXzROX+0 (1/14)


「要はお前の友達とやらは何事に対しても諦めるなと言っていた
 そういう解釈で良いのだな?」

「うん!…だと思うよ?」

何故そこで疑問系になると思っても声には出さない
頭の弱い少女と一時間弱、途切れ途切れな会話をして少女が

「あ!後、なんで助けようとしたってさっき訊いたよね?」

「ん?ああ」

「あれからずっと、どうして助けたかったから助けたのかの理由を
 考えたんだけどね」

お前、今までずっと考えてたのかよ

「多分、後悔したくないからだと思うよ?
 私、もうすぐ遠い所にお引越しするんだ」

またしても話の前後が繋がっていない内容

引越しするから後悔したくなくて助けました…

この小娘は本当に説明が下手だ

「すまん、もう少し分かり易い説明で頼む」

「…? ええっとね、少し前に教会に知らないおじさんが来て私の新しい
 お父さんになってくれることになったの
 私の友達と一緒に居られてすごく嬉しいけど
 この街とさよならするから、遣り残した事やしたいと思った事を
 やっておきなさいって言われたの
 私がいなくなったら、あのおじさんが皆を虐めるから今の内に助けたい
 そう、思ったかな?」

教会で国語の授業…あ、いや、それ以前に彼女は
人とのコミュニケーションを学ばせたほうが良いなと兄は思った

「…やっぱり、私の言う事って変なのかな?」

しょんぼりとした顔で少女は言った

「私はお話がうまくなくて人と仲良くなれないの、私の友達が人間の
 初めてのお友達で、だから嬉しかったんだ…
 あなたも私の事が変だと思うよね?」

何が言いたいのか分かり辛いというのは確かにある、だが兄はある事に
気付いた

「お前の言い方では"諦めない事"を説いた友人が人間の初めての友達だと
 言っているようだが…他に友達はいないのか?」

「ううん!…"スラりん"とか"ロッキー"や"メッキー"他にも"ジュエル"
 私、友達たくさんいるの!
 でも私がお外から友達連れてくると、皆が怒るの…
 神父様もあの虐めるおじさんも
 でも!でも!私のお父さんになるおじさんは「すごいですねぇ」って
 褒めてくれたの!」

両手をパタパタ振ってボッチじゃないと主張する少女
…なんだか変な名前の友達だなと兄は不思議に思いましたが
この娘は説明が下手なんだと、それで片付ける事にしました

「とりあえず、言いたい事は分かったよ
 …お前はそろそろ、帰らないといけないんじゃあないのか?」

あれから大分時が経った、教会で働く子ならそろそろ休憩も終わりだろう

いい加減、この少女との会話に疲れた兄は
「じゃあな、それなりに気分転換にはなった、ありがとうよ」と告げ
公園を去っていった

(結局、あの生意気な小娘と教師の手がかりは今日も掴めそうにないか)

貴重な時間を妙な小娘と話す事で浪費した…そう思い兄は帰路に着いた




324以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 01:46:03.73xYXzROX+0 (2/14)


雪道を歩き、街の中心から離れて歩きなれた道を進む
道行く人の声も足跡も聞こえない郊外
街道には今朝自分が出て行った後の足跡がまだ、くっきりと残っていた

(日が沈んだら…そうだな、貴族があつまりそうな歓楽街でも探すか)

手に炊き出しの包みを抱えて兄はボロボロの館へと戻ってきた

ギィ…

建てつけの悪い扉を押して帰宅する兄

外の雪道より真っ白な埃だらけの床を進み軋む階段を昇る

「いま帰ったぞ」

暖炉のある部屋、自分と弟がいつも居る部屋に戻る

「…ん?」

もっと早く気がつくべきだったな

いつもならば階段が軋む音で兄の帰りに気がついた

「………おい?」

いの一番に「おかえりなさい!」と笑顔で迎えてくれていた


「…………おい!」


今朝、起きた時と何も変わらない部屋
自分が寝てから起きて、そのまんまのぐしゃぐしゃな布団

すっかり燃え尽きたのか暖炉の焚き木は既に無く、火も消えていた

継ぎ足しようの焚き木はそのまま

誰も触った形跡が無い


今朝、起きた状態と何も変わらない



「…………………………ぁ」



弟も"ベッドの上から一歩も動いていない"






















「……ぁ、…ぅぁ」



弟は…ベッドの上に居た、吐血と痙攣を起こしながら



325以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 02:03:56.90xYXzROX+0 (3/14)

>>318 この兄弟の成長ですか…納得できる内容に書ければ良いのですが


  兄弟にとって"人生最大の転機"が来ましたね!

このまま一気に書きたい所ですが眠気に勝てそうに無いので仮眠を取って
お昼ぐらいにラストまで書きたい所です…





※ 既に訂正しましたが前回、カジノでスッカラカンになるのは占い師と
書きましたがアレは踊り子の方です


ええいっ!私としたことが嫁と愛人を間違えるとは何たる不覚ッッッッ!





 「という訳で ちょっと己を戒める為にも 【裏切りの洞窟】で
        嫁もどき達と きゃっきゃ うふふ してくる!」キリ





326以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 16:31:26.34xYXzROX+0 (4/14)



雪道を兄は走った

弟を担いだ状態で以前世話になった医者の元へ駆けた、だが…


「何故だ!? 何故診れんというのだッ!?」

「診療代を払える見込みがない以上、ウチでは面倒みれないんだよ」

「貴様ァ!人命より金を優先するというのか!?それでも医者かァ!」

「人の命を救うのにも金がいるんだよ!!
  確かに君のお父さんがあんな事になる前は当院でもよく診療したがね
 それは払うモンを持っていたからだ!
 …冷たいようだが、これはどうしようもない」

「―ッ」


頭では分かっている、人を治すのだってタダじゃない
タダで治せるなら世界中から病人けが人なんてモノは一人もいなくなるし
たった一人を贔屓すればソレは他の患者に対する不敬ともなる
それでも、それでもだ…





「…お願いします、どうか、どうか弟を助けてください

       たった一人、血を分けた、俺の最後の家族なんです…!」






「…くどいようだが、金が無い以上、我々は何もしてやれない
       …だが、ウチには空き部屋と予備のベッドがある
 そこに寝かせてやりなさい」

「…心遣い、感謝いたします」


医者にできた唯一の慈悲である

(金…っ! 金さえあれば…!)

兄は思い出したようにポケットの中を探る
あの時、偶然見つけた手帳、あの"進化の秘宝"とやらが書かれた手帳なら
金になるのではないか?

いくらになるかは知らないし、そもそも売れるかも分からない

兄は最後の希望を手帳に託す事にした


しかし






「…ない…手帳が無いだと」





彼は少女と教師を探す為、四六時中街の中を駆け回った


希望を… 最後の希望を何処かに落としてしまったのだ




327以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 17:02:36.59xYXzROX+0 (5/14)


(ふざけるな!こんな、こんな馬鹿なことがあってたまるものか!)

唇を強く噛み締め、涙を堪えた
なんだこれは? 俺達兄弟が何をしたというのだ
神の恨みを買うようなことでもしたというのか?
神の気紛れだとでも言うなら、神様なんてクソ食らえだ
 兄は叫びたかった



「…ぅぉぉぉおお、っくそおおぉぉぉ!」

項垂れて壁に手をついて、嗚咽する…だせるのは金ではなくそんなモノだ

そんな彼の後姿を医者や来ていた客達は
気の毒そうに眺めてやるしかできなかった
 やがて、兄は肩を落として出入り口へ歩いていく
ベッドに寝かされたまま、未だに病に苦しめられている弟を残して


空を見れば雪が降っていた

灰色の曇り空で雪だけが真っ白、陽は既に落ちていて月明かりも輝く星も
雲に隠れて見えやしない

辺り一面が銀世界だった

行く当ても無く歩みを進め、気がつけば彼は…

(…ああ、また此処に来たのか)

例の公園に来ていた

(思えば俺も馬鹿だったかもしれんな、たかが一人の男だぞ?
 なぜあの教師とやらに出会えれば、全てが上手くいくと思い込んだんだ
 藁にも縋るか…、こんな事になるなら
 闇雲に探すなんて馬鹿やんじゃなかった

 もっとアイツの傍に居てやれば良かったんだ…)


後悔、元から病弱で余命も長くないと言われた弟
最後までアイツを幸せにできなかったと悔やむ兄であった

("後悔"…か、昼間知り合った小娘とは真逆だな
 アイツは後悔しないような行動を心がけ
 俺は大切なモノに気付けなくて後悔して…)


そこまで考えて、昼間の少女との会話が脳内で再び再生される




『頑張る事や、見つけたいって意思を失くすのが一番、駄目だと思うよ』
『何事に対しても諦めるなと言っていた そういう解釈で良いのだな?』




(………"意思を失くすな"  "諦めるな"か)

諦めかけていた兄の中でその内容がリピートされる

「…"諦めたくなんてない"、だがどうすれば良いのだッ!
    以前通院した時だってかなりの費用が掛かった、あんな金額…」


ここで兄は思い出した

彼は本当に弟を大事にしていた、だから"その意思"があった事を


偶然、たまたま、あの少女との会話で"諦めるな"と教えられたからか
あの時の会話は再び兄に決意をさせた…!




328以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 17:16:52.43xYXzROX+0 (6/14)







守るためならば"どんな事でも"必ず成し遂げようとした"意思"




『な、ななななん、なんだそりゃあ!?』




あれから数週間とは言えかなりの金額になるのならまだ使い切ってない筈
心の中で思ったとき、既に兄は立ち上がっていた








『これは、[さばくのばら]じゃねぇか!?』




兄には"その意思"が確かにあったッッ!!


大切なモノを守るためならば…
その為ならば"どんな事でも"必ず成し遂げようとする"意思"があったッ!



















       "殺人"を犯すことを…!

      …守るためならば"犯罪"をも厭わないッッ!!


     そんな "漆黒の意思" が兄には確かにあったのだッッ!!








"頑張る意思を失くすこと"   "諦めないこと"


少女との会話が再び…! 再び、兄に"決意"をさせたッ!


兄は走り出していた、もう人の目など一切、気にしない

 夜の歓楽街へただひたすら走り続けたのだ




329以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 18:00:36.87xYXzROX+0 (7/14)


ガヤガヤ ガヤガヤ

街の中心寄りのこの通りは今日も賑わっていた
多くの人の声が行き交う中、一人の少年が走り抜ける

彼は唯一人の家族のために"あの男"を探す

少し前に我が家に来て"石で出来た薔薇"を持って行った男だ

肩を組んで善いながら歌う仕事帰りの大人達
相手の胸倉を掴んで罵り合う男
道行く人に甘ったるい声を掛ける娼婦
誰からも気にかけてさえ貰えないホームレスの死体

人…

人、人、人、人、人、人

人 人 人 人 人

見渡す限り人の山

人混みを掻き分けてついに兄はお目当ての人物を見つけ出す

「それで、この間のオヤジを蹴り飛ばしてやったのさ!」
「きゃ~ん、おじさまカッコいい」

夜のカフェテラスで椅子の背もたれに身を預け
両脇に女を侍らせるガラの悪い男
ガーデンパラソル付きのテーブルの上にはビールのジョッキ
香ばしい焼き鳥や豆といった定番メニューが乗っていて
そして…

「うぅ~ん?おい!酒がねぇぞ、ウェイター、おいウェイター!」

「はい、お客様」

「酒だ!酒!ビールを大でもう一杯だ!」
「ねぇ、おじさまぁ、私達にもいただけないかしらぁ?」
「私も喉が渇いちゃったなぁ、苦味の強いのが飲みたいの」

「でへへへ、おい!後二杯追加な!心配すんな、ホラ、金なら
 たーんとあるからよ!」

テーブルの上に置かれているのは料理やジョッキだけではない
白いスーツケースが一つ
ガラの悪い男はスーツケースを開けるとその中から適当に札束を取り出し

「ペロ…ええっと、ひい、ふう、みい、っとホレ勘定だ釣りはいらねぇぞ
 チップとしてもらっときな!」


物陰からその様子を覗く兄
彼は"犯罪"を…そう"盗みを働く"気でいた

漆黒の意思はあるが彼とて可能ならば殺生の無いように済ませたい
だから"犯罪"であってもギリギリ
そう、強盗殺人ではなく、"盗む"で手を打つ…!

自分一人が投獄されれば、それで良い
無期懲役だろうが何だって構わない、それで弟が助かるならば
喜んで豚小屋にぶち込まれてやろうではないかッ!

ゴミ捨て場から拾ってきたボロを纏い、顔も隠す
体格であの男に気付かれてしまうのかもしれないが…
廃棄された古い香辛料入りの瓶、穴が空いて捨てられたボールを持ち

(…アレを利用させてもらおう)

目に付いたモノを見て彼は思った


兄は物陰から一歩前に出て辺り見渡す、周りの大人達は
自分を見向きもしない…死んでも気に留めないホームレスと同じように
思っているのかもしれない

「…行くぜ、[メラ]ッ!」




330以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 18:51:58.52xYXzROX+0 (8/14)


―――
――



「イッキ、イッキ!」

「だはは、もっお持っえこ~い」


「…? 何か焦げ臭くないかしら」

「あぁ?何いっれんらぁ?へんあ匂いなんぁ…あれ?」

グデングデンに酔った男が女に訊かれ鼻をヒクつかせる
確かに焦げ臭い匂いがする、しかし、周りを見ても火の気はまるで無い

「…気のせぃでないの?だっはははははは」グビ

手拍子を止めた女達に笑いかけ男は再びジョッキを口に運ぶ
近場の店で料理でも焦がしたのだろうと女達も考え手拍子を再開する


この時、男は腰に手を当て、上を見上げるようにして酒を飲んだ
そして、大いに噴出した


「な、な、はああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」



「きゃあああああああぁぁぁぁっ!?」
「か、か、火事だああああぁァーーー!!」
「うわあああああああぁぁぁぁ」


ガラの悪い男達が座っていた席
そう、カフェテラスのテーブルにはよく備え付けられている
"ガーデンパラソルが勢いよく燃えていた"のだッ!!


火災が発生した経緯はこうだ

まず兄が[メラ]を唱える
ただし!その[メラ]は極限まで火力を抑えたモノで
マッチ棒の火となんら変わらない程のモノである
[メラ]に限らず、呪文の調整は難しく、小さくしようものなら
火花すら発生しないし、逆に料理用に高い火力でやろうとすれば
鍋ごと消し炭にするなど
 常人では困難な事である

"天才的な魔法使いの才能"があった兄だからこそできる芸当

マッチ棒並みの火力にした火球を穴の空いたボールに入れる
キャッチボール用の小さなボールに入った火球は内部から徐々に燃え
次第にボールの表面からも火を噴出すようになる

完全にボールが燃え始める前に、火を入れてすぐ、燻り始めている間に
コレをガーデンパラソルの上に投げる

彼はどこぞの男っぽい少女と違い、根っからのスポーツマンじゃない
当然、コントロールを外すこともありえた
だから、更にもう一発最小の[メラ]をボールの中に入れる
 魔力調整ですぐに爆発しないタイプの火球だ

それでボールを着弾地点(パラソル)まで
"ボールの内部から[メラ]で押し出す"ような形で誘導した

店の明かりである程度は明るくとも夜間だ上空に火の玉が飛んだら
怪しまれる、だから敢えてボールの中に[メラ]を隠すような形にして
パラソルの上まで飛ばした、あとはタイミングよく発火させれば良いのだ


「うわああぁぁぁ!?」

燃えるパラソルに驚く通行人、突然の火災に混乱するガラの悪い男達
チャンスは今しかないッ!




331以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 19:31:53.65xYXzROX+0 (9/14)


逃げ惑う通行人と逆に見物人のつもりか
火の粉が飛ばぬ位置まで寄る野次馬の群れを掻き分けて兄は進む
目指すは燃えるパラソルの下…白いスーツケースだッ!

「店員!何あっえんだ、早く火を消せぇ!」

酔いが抜けず今だ、呂律の回らない口調で怒鳴る男
大慌てでテーブルから一度は離れたが金の入ったスーツケースを
置いてきた事に気が付き、燃えては困ると慌てて今も勢い良く燃える
火災の発生源へ向かう

「お客さん!危ないですよ離れてください!」

「るっせぇ!、離せ!」ガッ

男は自分を引き止めようとしたウェイターを突き飛ばし走り出した

「お、お客さああぁん!って、お、おい、き、君!」

地面に転がったウェイターが男に呼びかけた直後、自分の脇を小さな影が
通り過ぎる、そう、この件の放火犯だ!

「うおぉぉぉぉ!!」
「んあ!?だ、誰だお前!?」

顔を隠した兄はすぐに未開封だった香辛料の瓶を空け
男の顔にぶちまけた

「あだあぁぁぁぁぁぁ!!」

目を押さえコンクリートの地面に転げる男を追い抜き彼は…


ガッ!


(取ったッ! 取ったぞッ!!)


ペキペキッ

(!?)

火はパラソルの中棒部分にも既に燃え移っており
上部の傘布部分がそのまま落ちて来る

「…ッチィ!」

重たいケースを持ってその場からすぐに離れようとするものの
燃える傘布はテーブルの上に…
アルコールが大量に置かれている卓上に落下した


       ゴオオオオォォォォー――!

「あぐっ!」

アルコールに勢いよく引火し、暴発するジョッキ
更に煙と熱気を広げる火元
弾け飛ぶ大皿やグラス等の陶器の破片を背中越しに受ける兄

「おい!バケツはまだか!子供が飛び込んでいったんだぞ!」
「今、持ってきたぞ!」

数人の大人と店員達が消化作業を試みる

地べたを転げまわったガラの悪い男は酒で勢い良く燃えた火元から
膝を突きながら離れた、流石に命あっての物種である
熱気と黒煙で近づけない、兄の姿も確認できない
それでも大人達はとりあえず、火元をどうにかする事に必死だった


そして…程なくして火災は無事に鎮火されたのだが

「こりゃあ、ひでぇ、真っ黒焦げだ」

消火に当たった通行人が黒焦げの焼死体を見て嘆いた




332以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 19:53:55.50xYXzROX+0 (10/14)


テーブルの付近にあったのは小さな子供の焼死体であった
全身が炭化していたため顔はまるで分からないだが齢はおよそ八歳ほどだ
ウェイターもこれには「自分が止めなかったせいで…」と嘆いた

なお、現場に焼けたスーツケースが落ちており、中に入っていた紙幣は
殆どが燃えカスとなっていた

何故、火災が起きたのか店側は検討が付かないが分かっていることは
明日の朝刊にこのボヤ騒ぎが載るかもしれないということだけであった



























「…ぁ、…はぁ、ゲホゲホ」ドサ

肩を抑えながら彼は地面に倒れた

「へ、へへへへ、ざ、ざまぁみやがれ盗ってやったぜ…」

歓楽街から遠く離れた裏路地で彼は…!


兄は笑った…っ!

あの時、傘布が落ちる時だ、咄嗟の判断だった
二頭を追うもの一頭も得ずとはよく言ったもの

兄はスーツケースの中身を根扱ぎ頂くのではく、ケースを開けて
ポケットに入れられるだけ入れて逃げたのだ

あの重さのモノを持って離れようと思っても逃げ切れない
あそこで焼かれてお陀仏だったのは間違いない事であった

スーツケースは開きっぱなしだったから、余りは燃えカスになっただろう

それを思えば、少し、惜しい気もするが命には代えられない

「ッ~、肩が痛いな、早く行かねばッ…」

最後に彼はもう一度だけ、後ろを、歓楽街を振り返り


「…ありがとう、そして、すまなかった」とだけ言ったのだった


あの時、兄は
『(…アレを利用させてもらおう)』"目に付いたモノ"を見て思った

飲んだくれていた男達の更に奥の路地からチラッと見えた…"アレ"


死んでいても『誰からも気にかけてさえ貰えないホームレスの死体』だ





333以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 20:29:50.42xYXzROX+0 (11/14)


火の手から持てるだけの金を持って逃げる
燃えさかる火炎と黒煙で兄が奥へ向かった事は誰の目にも見えない
そして、ホームレスの死体に[モシャス]を使ったのだ

死体は見事に兄ソックリの姿となった、後はソレを焼ける所まで運び
自分はそのまま逃走すればいい


…この街は大きく発展している街と呼べる
その分、問題視されるモノも多いのだ

もしかしたら、あの死体は自分達だったのかもしれない

あの館を追い出されて、弟と二人で路頭に迷って
やがては誰にも気付かれずに死んでいた…

誰にも見向きもされない、居てもいなくてもいいようなゴミのような人間

道端の石ころや雑草と同じように、自分達も扱われたかもしれないのだ
国の人間が遺体を片付けるまで、ああして野晒しにされる

その可能性は自分達兄弟にも大いにありえたのだ



そんな自分達のもう一つの可能性とも言える人の死体をぞんざいに扱った
 決して罪悪感が無い訳ではない…

むしろ、泣きたかった…


"殺人"だろうと…"犯罪"であろうと"道徳に反する事"でも

"どんな事でも" 成し遂げる"漆黒の意思"が兄に会った…

だが実際に死体に対してした事に心を痛め、礼と謝罪の意を敬した




かくして、彼は弟を救う事ができたのだ…

*********************************
*******************
********



パチィッ


「ハッ…!」

兄は眼を覚ました

どうやら火の番をしたまま、うたた寝していたようだ

煤だらけの暖炉の中でパチパチと火の粉を吹き上げる焚き木
弟が取っての取れたバケツで汲んできた水はお湯に変わっていて
弟は規則正しい寝息でベッドに眠っている

(この寒空の下、井戸の水汲みなんぞしやがって…馬鹿者め)

手も皸ていただろうに、そこまで思い兄はここ数日で何度目になるか
分からぬため息を吐く

「弟よ、それだけ俺は頼りにならんというのか…」

まだ痛む肩を抑えて考える

(あれから丁度一日、[モシャス]が掛かった死体はそろそろ、元に戻る
 その前に国の共同墓地に埋葬でもされたなら良いが
 そうでなければ、俺が生きてる事があの男にバレちまう…
 隠し通せてるなら、今後は街中で二度と会わない事を祈るしかないか)




334以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 20:54:40.53xYXzROX+0 (12/14)




「ごめんくださぁい!何方かいらっしゃいませんか?」


ビクっ

誰かが我が家の前で声を上げた
つい前日、命がけのギャンブルをやった兄だ挙動不審になっていた

(だ、誰だ、こんな時間に!
 い、いや、そもそも、ウチを訪ねてくる奴など…)



「くぉらぁ、町人A!てめーが此処に住んでんの分かってんだぞ
 観念して出てこやぁ!」


「…」


気が動転してて気がつかなかった、そういえば今の男の声は…
 そして、今叫んだ、馬鹿みたいな女の声は…

窓から外を覗き見る、其処には確かに居たのだ

自分が求めて止まなかった人物が…!


「よかった、やっぱりここだったんだ!」
「おや、見えたのですか?」
「応、ソイツの言うとおりだぜ、町人Aはあそこの窓から見てるぜ」

饅頭の小娘、教師、そして何故か昨日会ったパンの小娘が居た
これは夢か?まだ夢でも見ているのかと頬を抓るが
現実的な痛みからこれは本当なのだと兄は知った


彼は慌てて、玄関へ向かう

何故、此処に居るのか、何の用で来たのか?

「どうも、お久しぶりですね、まずは突然の訪問で失礼致します」

頭を下げる教師、そして

「あのね、あのね、あなた公園でコレ落として行ったでしょう?」

パンの少女は手帳を持って兄に問いかける

「いつも教会にご飯を貰いに来てるよね?私の新しいお父さんに相談して
 探してたの」

「ごほん…、此方は故あって養子として引き取った子です、彼女の話と
 いつも教会に来る人の証言から失礼ながら
 貴方の住所を調べさせて貰いました
 …実は今日は貴方に折り入ってご相談があるのですが
 お時間宜しいですか?」

兄は三人を家の中に通した

「さて、どこからお話すべきですかねぇ?」

少し顎に手を当てて考える素振りを見せ教師は答えた

「私は現在、特別な才能のある子を訳有りで探していましてね
 この子もそういった理由、"形式上"は養子として引き取りました
 そこで、本題なのですがどうでしょうか?
 私の元で助手兼弟子として働いてみませんか?」

突然の勧誘であった

「いくつか質問をしても?」

「ええ、どうぞ!」





335以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 21:26:17.44xYXzROX+0 (13/14)


「まず、どう言った理由で雇うと?」

「貴方から素晴らしい"魔法使いの才"を感じましてね
 あ、私も一応は魔法使いの真似事ができるだけの才がありましてね
 貴方の素晴らしい才を感じ取れるのですよ」

「それだけですか?」

「うーん、それだけでも合格点なのですが
 もう一つ、どうしても気になる事がありましてねぇ」

教師が手帳を指差し言う

「その手帳に書かれている内容が個人的に気になるのですよ
 そこで所有者である貴方とビジネスがしたいのです」

ポンっと手を打ち教師は言う

「私の元で助手として働いて頂きたい、当然ですがお給料は
 お支払い致しますし、貴方と弟さんの生活も保障致します
 私の自宅で宜しいければ空き部屋を使っていただいて構いません
 お食事も三食、あ、三時のおやつもありますよ」

今の自分達の状況を考えれば天国と地獄の差がある程…だからこそ

「どうにも納得いきませんね、何故そこまでの優遇なのですか?」

「そこは今、ご説明致します
 先も言いましたがその手帳に書かれている内容が個人的に気になります
 ソレに記された内容は"私の地元"にあった"あるモノ"と非常に
 似通っていましてね…どうにも放っておけないのです」

「…つまり」

「ええ、今、お考えの事で合っています
 私にそちらの手帳をお譲りください…それが駄目だというなら
 読ませていただくだけで構いません
    私はその手帳にそれだけの価値があると睨んでいるのです」


「…」


兄は悩む

本当にコレを読ませていいものかと…
結局、自分にも読む事ができないし持っていても変わらない
ならば…


「問題があるとすれば、この街から出て行く訳でして
 遠い海の向こうへ移る為「良いでしょう」思い出の品など…へ?」

「構いません、ただし、俺と弟の生活を保障してくれるのは本当ですか」

「え、ええ、即決ですが良いのですか?」

白いハンカチを取り出し、汗を拭く男

「ええ」


どうせこの館に居ても、どうにもならない
子供だから働き口も無く弟の今後の診療代が払えるとは思えない
この街で暮らしていくのはもはや困難な状況なら
最後の大博打に乗ってやろうじゃないか

兄は自分の直感に従う事にした


「…では、たった今より貴方を助手として雇用しましょう
 貴方のお名前を御聞かせ願えますか?」

「俺ですか?…俺の名前は―――」



『少女と星 編』番外編2 ある没落貴族の兄弟の話 ~ fin ~   



336以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/21(火) 21:37:41.29xYXzROX+0 (14/14)

*********************************

もはやオマケじゃない程度の長さになってしまいましたね…

さて、此処で一つすごいネタバレをします

実は…










このオマケ編に出た口の悪い少女は何と


   『幼少期のナジミ』   だったんだァー!
クリスマスの少女と没落貴族の方の少女も同一人物(ナジミ)です

いやーまさか誰もナジミだとは気付けなかったでしょうねー

以前ナジミが 悪友 悪友の弟 もう一人 と[青い石]を探してるって
発言したので今の内にチラッと語れたらと思って今回のオマケを作った
すごく脇道に逸れたましたが…

何はともあれこれで次章に行ける
ジョセフィーヌの出番が(ちょっと)増える!
どうぞご期待を…



337以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/22(水) 00:07:29.09WqDQ9NvDO (1/1)

おつ



338以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/22(水) 06:37:56.94KxjIZ42qo (1/1)

チビナジミダッタノカー
所で「ッ!」ってなってると某荒野のRPGを思い出すわ


339以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/22(水) 21:09:38.52JSdnNd590 (1/1)

ナ、ナンダッテー!


340以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/22(水) 23:12:23.37K/qilW6vo (1/1)

全然気付かなかったわ・・・


341以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/23(木) 20:51:00.13oESFI21Oo (1/1)

乙!
ゼンゼンワカラナカッタワー


342以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/28(火) 20:48:36.45s2nuW+E/0 (1/4)

                   ※


                   ※


                   ※




 ‐ ねぇ、お母さん

 ― なぁに? 

 ‐ どうして、私はお家に帰れないの?

 ― それはね、私達はお引越しをしたからよ ここが新しいお家よ

 ‐ そうなんだ

 ― そうなのよ

 ‐ ねぇ、お母さん

 ― なぁに?

 - 私…まだ眠れないよ

 ― どうして?

 ‐ だって夜はお外も真っ暗でお化けが出そうで怖いから

 ― なら、お母さんがついててあげる そうだ 子守唄を歌いましょう

 - お歌を歌ってくれるの!

 ― ええ、私も子供の頃 怖いときは歌ってもらったのよ


   ずっと此処にいるから、傍で歌ってるから、安心してね
















                パチリ


「…夢かぁ」

目が覚めての第一声はおはようじゃない
欠伸から始まるスタート

今は朝でも昼でもなくて真夜中なんだけどね

「お目覚めですか」ペラペラ

「…アンタ、まだ読んでたわけ?」

「ええ、ただ何もせず無駄に時間を浪費するのは性に合いませんので」

寝起き一発で不愉快なモノを見たわね、顔色一つ変えずに本を読む女
…"こんな事態"なのによくもまぁ、落ち着いて読書が出来るわね

「ねぇ、"彼女"は何時頃帰ってくると思うジョセフィーヌ」

「さぁ?目当てのモノを採取するのにどれ程掛かるか分かりませんので」



343以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/28(火) 21:25:38.15s2nuW+E/0 (2/4)


素っ気無い返事ね

声にこそ出さないけど、視線で訴える
だけど、このクールぶって本の虫になってる小娘は此方を見ようとも
いえ…気付いてるけど無視の方向性なのかもしれない
そう考えたら私が今やってることが無性に馬鹿馬鹿しく思えた

「…やっぱり私はアンタが苦手かもしれない」ボソ

肌寒い空気、洞穴を暖める唯一の熱源は枝を拾い集めて作った焚き火
白い煙が夜空へと昇ってやがては消えていった
何となしに煙の行方を目で追えば視線の先にはお月様

まんまるなんかじゃない、笑ったような三日月だ



今、私はこの無愛想な読書家と二人っきりである女性の帰りを待っている

なんでこんな事になったかって言えば、そうね…

あれは今から遡って―――















「わーお…そりゃあマジですかい」

その日、読書家少女の旅の連れはいつものように酒場で大暴れしたらしい
いつも暴れるっていうのは一体どういう事なのか疑問に残るけど
詳しくは訊かない事にした

「あぁ、嬢ちゃん? ちょいと予定変更したいんだけどさ良いかい?」

「何かあったんですか?」

「予定なら、このまんま俺達ぁ船に乗って南下して
 俺の故郷まで行く予定だが途中で拾ってかなきゃいかん奴が居てな
 北上して[ムオル]地方へ向かう」

「拾ってかなきゃならない?」

「ずいぶん前に嬢ちゃんには話したっけ俺にゃあ悪友達がいる事」

「ええ」

「本来なら故郷の拠点で待ってたりすんだがな
 その内の一人がそっち側にいるらしい
 …どうせ帰るなら、せっかくだしソイツを連れてこうと思ってなぁ」

「さっき酒場前で人と話してましたがその人から聴いたんですか」

「ん、まぁな
 ソイツはこの街の奴に俺と思わしき人物が来たらそこへ向かうと
 メッセンジャーボーイに金を支払っていたらしい」

「? 私達がこの村に立ち寄るのをその人は分かってたんですか?」

「…あー、アイツはちょっと特殊な奴でな
 まぁ、その説明はアイツと会ったら教えてやるよ」

「…ちなみに『俺と思わしき人物が来たら』と言いましたが
 どういう人が来たら、メッセージが届くようになってたんですか?」

「…酒場で野郎をぶっ飛ばす奴、もしくはシードルを延々と飲む奴が
 目当ての人物だと伝えられてたらしい」




344以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/28(火) 22:13:10.29s2nuW+E/0 (3/4)


    実に的確な表現ですね!   う、うるせーやい!
などとそんな会話が繰り広げられたらしい

どっちみち彼女達の目的地行きの船は人気の無い場所で
限られた回数しか出航しない
 だから、港に到着した後も長く待ち惚けを食らう事になるらしい

それで二日掛けて(道中[ムオル]に立ち寄り宿を取り)件の人物に会う為
[ムオル]から更に北西を目指そうとした


そこが問題だった


ばきぃっ


川を渡ろうとつり橋を進む二人
そこでこれまたベタな展開と呼べるわ

見事に橋板が壊れて、読書家は真っ逆さま

そして…水しぶきを上げてどぼん!

連れの黒コートは丁度、渡りきっていた為、落ちなかったらしいわ

多分、今頃は大急ぎで目的地の村に行って救助でも呼びに行ったかもね
流石に、ほぼ絶壁と呼べる渓谷の上から準備も無く降りるアホはいない




「う、うーん」
「いったぁ…なんなのよ一体?」

私はカヤックで川を超えようとしていた
そりゃ驚いたわよ
空から女の子が降ってくるんだもん
落ちてきた衝撃でアタシのカヤックは見事に転覆、沈没
二人揃って下流までどんぶらこっこよ

「…?ここは」

「ん、アンタ誰よ」

互いに目を覚まして見ず知らずの人間がいるのを確認する



これがアタシと無愛想でクールぶった読書家の出会いだった


―――
――



「…で、アンタはつり橋から落っこちて近くを漕いでいた私を
 巻添えにしてくれたわけね!」

「その事については大変申し訳なく思っています」

「…はぁ、いいわ、ここでぎゃーぎゃー言っても拉致が明かないし
 今はここから出る事を考えましょう」

まずはお互いの持ち物、装備の確認をしようという形で話はついた
私の持ち物、ナイフが二本にコンパス、地図…は濡れてびしゃびしゃ
おまけに食料と着替えも川の向こう…今頃海かもしれない
マッチは…これ使えるかしら?

それと……うん、防水加工の筒に入れてたから"これ"は濡れずに済んだ

「…アンタは、殆ど流されたみたいね丸腰じゃないの」

「いえ、私は大丈夫です"コレ"があるので」

そう言うと彼女は真っ白な[おおきなふくろ]を掲げる
…? いやいや、何も入ってないようなペラペラの袋一枚じゃないの!?



345以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/28(火) 22:41:51.92s2nuW+E/0 (4/4)

*********************************

>>337 スレを建ててより30年…『乙』されることは、私にとって最大の
    願いでした。今ここに『乙』を迎え、悲願は達成されました…。

>>338 村長の家とはッ!
    それ即ち爆破すべきものであるッ!


>>339 >>340 >>341
 や、やったぞー みんなをだますことに せいこうしたぞー(かんき)


さて、前回とオマケでメインヒロインの出番を大幅にカットし
尚且つ、今後ものすごく出番が少ないと宣言しました
その為…

今回はジョセフィーヌと巻添えで溺れた人にスポットを当てます
※ナジミさんはしばらく控えてもらいます

「なに?メインヒロインの出番が少なくて困る?
 ジョジョ、逆に考えるんだ…
 主役を空気化させて調整を取ればいいさと考えるんだ」

という逆転の発想を徹夜明けに思いつきました

『ジョセフィーヌの小さな冒険 編』開始です


*********************************

>>"ボールの内部から[メラ]で押し出す"ような形で誘導した

兄が使った[メラ]に関して分かりやすい補足

分かりやすく言えばアレはヤムチャの繰気弾と同じです
穴の空いたボールの中に繰気弾を入れて傘布まで内部から押して飛ばす
これで運動神経の無い魔法使いでも百発百中という訳ですね


346以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/28(火) 22:57:22.68aQDRYBteo (1/1)

メインはジョセフィーヌだ!依然変わりなくッ!
乙です


347以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/28(火) 23:18:41.60KNOGvKtq0 (1/1)

乙ッ!


348以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/29(水) 00:26:20.40Z8JbKenDO (1/1)

おおきなふくろがあれば青だぬき並みに安心だね


349以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/03(月) 21:54:29.52jX3eYZ3j0 (1/4)


「怪訝な顔をなされますね、理由は察しがつきますが」

目の前の少女…ジョセフィーヌはペラペラの袋に手を入れ、そして


ポンっ!


「!?」

「とりあえず荷物の確認も終わった所ですし、お互いに濡れた身体を
 どうにかしましょうか」

袋から取り出したのは綺麗に折り畳まれた大き目のバスタオルが二つ
その上に同じく折り畳まれた女物の服と新品のマッチ、[聖水]がある

…私、視力には結構自身があったんだけどなぁ

どう見ても厚さ1cmしかないような袋から出てきたように見えた
明らかに入ってなかったよね? 質量保存の法則に反してるよね?

「今、説明いたしますがまずは此方をどうぞ」

渡されたバスタオルで濡れた髪や身体を拭きながら
"込める技術"とやらの説明を受けた、あの袋も"込める技術"の産物らしい


程なくして辺りに[聖水]を振りまき、新品のマッチで焚き火を起こして
私達は暫く火にあたっていた

「くしゅんっ」

「…出発はもう少し先に致しますか?」

「いいわよ、早くこっから抜け出したいし」

私がカヤックで川を渡ろうとしたのが午前七時、そこから約一時間半
まだ、昼にもなってない時間だろうけど何時までもここには居られない
私には"目的"があるんだ…!

「そうですか…では参りましょう」

この時、私達は今後の方針について話し合った、まず自分達の現在位置
[ガルナの塔]から北東の[ムオル]まで続く長い渓谷のつり橋の真下
魔物は影も形も無くて、私達が流れ着いた地点は
丁度[ムオル]方面とは反対側の岸

ここから出ようと考えたらそのまま北上して…樹海を進むしかない

[ムオル]方面はそもそも絶壁で登れるトコが無い、必然的に樹海側から
ジョセフィーヌが向かってた村の方へ行くしかないという結論に至った

ザッ ザッ ザッ

「…服のサイズは合っていましたか?」

「ええ」

樹海

チチチっとよく分からない鳥の鳴き声
一歩進むたびに鳴る草木を踏みしめる音、苔で覆われた大岩
枝から垂れ下がる植物の蔦を潜り抜けて進む道、思った以上に道がキツイ

「もう一回確認するけど、その袋に武器は入ってないのね?」

「護身用の技術は多少ありますが、対魔物用と呼べるモノは何も…」

ジョセフィーヌの荷物で使えそうなモノと言えば
登山で使うようなフック付きロープ、[聖水]が4つ
旅の同行人にわたされたという[どくがの粉]…ヤバイ物持ってるわね

私自身はナイフ二本、魔物に襲われれば一たまりもない

「一つお尋ねしても宜しいでしょうか?」

「何よ」




350以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/03(月) 22:26:36.63jX3eYZ3j0 (2/4)


「貴女…ヴァージニアさんは何故カヤックで川を越えようと?」

「…」

私は防水加工を施された筒を見せた

「私は[ガルナの塔]を目指していたのよ」

「[ダーマ神殿]から北東に位置する塔でしたか?」


「ええ…
   ねえ? もし、もしもの話よ? 宝の地図って在ったら信じる?」


「宝の地図ですか?」

「そ、よくあるじゃない、海賊が財宝を隠した場所を書いただとか
 …これは、それと同じようなモノなのよ」

「はぁ…」

その時のジョセフィーヌは半信半疑って奴だったわね
突然コレは財宝の地図です!なんて言って信じたら色々とアレだし
反応としては正しいんだろうけどさ

「ちなみにその宝というのは?」

「分かんないわよ…見た事なんてないんだし」

「…あのう、何故それで探そうという気になられたのですか?」

彼女は当然のように尋ねてきたわ

「その地図はどのようにして手に入れたのですか?」

「…去年、母様から頂いたのよ、コレは私の人生を変える凄いモノだと」

「失礼を承知で言わせていただきますが
 その手の地図というのは信憑性に欠けます、何を根拠に宝が実在するか
 また、それがどのようなモノであるかも分からずに
 本当にどうして探そうという気になられたのですか?」

眉を顰めて訊ねる彼女に少しだけムッとした
そりゃあ現実味の無い話だろうと私も分かってたからね
とりあえず私はこう答える

「何で探すかですって?
    そこにロマンがあるからよっ!!」

フフーンっと笑みを浮かべて答える
本当は他にも理由があるんだけど、半分はマジにロマンの為よ!
隣を歩く少女はそんな私をポカーンとした顔で見てたわね

「…」

「何? 何か言いたそうだけど?」

「え、あ、いえ何でもありません…なんとなくナジミさんに似てる」ボソ

最後に何かボソボソと言ったけど聴こえなかったわね
そんなお喋りを続けながら二人で樹海を突き進んでいく
ここまで魔物と出くわさないのは偏に[聖水]のおかげだった
魔物の脅威さえなければ何も恐れることなんてない
 思えば慢心だったのかもしれない




だからあんな事も予想できなかったのかもしれない



ヌチャ

「この先は大分、道が泥濘んですわね」



351以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/03(月) 23:12:18.94jX3eYZ3j0 (3/4)


一歩前へ踏み出せば足が沈んでいく感覚
まるで屋内にでもいるんじゃないかと思わせてくれるような薄暗さ
生い茂る木々が日光を遮っているからか湿ってたり、水溜りも見掛ける

「ふっ」ダッ

「ヴァージニアさん!?」

よく小さい頃アスレチックで遊んだみたいに石や太い丸太の上に
足を掛けてに進む、これなら泥濘に足を取られて転ばないでしょと考えた


思えば馬鹿な事をしたと後悔してる


「[聖水]だって数が限られてるでしょ、なら使い切る前にここを通るのが
 得策よ!」

「いいえ!違います多少、遅れてもいいから迂回すべきです!!」

後からジョセフィーヌも続いてくる

「大丈夫よ、岩や丸太もゆっくり進めばバランスは崩れない――」
「そういうことを言ってるんじゃありません!」

ジョセフィーヌが叫んだ瞬間だった


ドボッ

「!?」
「っく、遅かった!」

突然私が乗った岩が地中に沈んだのだ私の足ごと

「な…!」

「ヴァージニアさん!掴まってください」

慌てて手を差し伸ばす彼女に掴まったけど…

(っく、ナジミさんから以前こういう所は底なし沼の存在に
 気をつけろと聴かされてたけど…ッ)グググ

私の両足は既に膝近くまで沈み始めていて助けようとした彼女まで
引き込んでしまった…

「きゃっ!?」バシャ
「わっ!?」バシャ

カラン カラン ポチャン!

「なっ、嘘でしょ!」

泣きっ面に蜂…あろうことか残りの[聖水]を沼に落とすなんて


「…っ そ、そんな」
「ヴァージニアさん!動かないでください
 動けばそれだけ早く沈みます!」

「ぐぅ…」

一瞬取り乱した私は彼女の言葉で冷静になった
でも互いに身体が沈んでいくっていう絶望的な状況に変わりはなくて…

「ジョセフィーヌ…ごめん!私「御静かに!」

この時は彼女を怒らせたと思ったわ
自分の身勝手な行動で[聖水]は落とすし、二人とも危うく死に掛けたしね

でも実際は違ってたのよね

「…やっぱり、何か聴こえる」

「えっ?」




352以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/03(月) 23:47:03.95jX3eYZ3j0 (4/4)

ジョセフィーヌに言われて私も耳を澄ませる
するとどうだ? ガサガサと何かが近づいてくる音が聞こえるじゃない

「ま、まさか魔物!?」

「い、いえ[聖水]の効力がまだ残ってる筈です」

私が魔物だと思ったそれは茂みから飛び出してきた



「ギャアァ、ギャアアアァッ!」

「二人とも掴まって!」



差し伸べられた手に掴まるべきか私は一瞬戸惑った
恐らく、隣に居たジョセフィーヌもだろう

茂みから現れたのは魔物だった

巨大なくちばし、羽に覆われた皮膚それだけ見ればただの鳥類だけど
ソレは首から下の胴体が無い
鳥の頭部から鶏のような足が生えた魔物…[レッドペッカー]だった!

そして足と頭部しかない化け物に跨って手を差し伸べているのは
紛れもなく"人間の女性"だった

ライトグリーンを基準にした服、長いサイドテールの女性だ

「ギャッギャッギャ」

「ひっ!」

奇声をあげる[レッドペッカー]も底なし沼に足を取られゆっくりと
沈み始めている

「ヴァージニアさん、掴まりましょう」

「えっ、で、でも」
「このままではどのみち私達は終わります!…それに恐らくこの人は…」

ジョセフィーヌ、サイドテールの女性、[レッドペッカー]
二人と一匹の顔を見合わせ私は…

「…ええいっままよ!」

やけっぱちにサイドテールの女の手を掴んだ

「二人とも、掴まったね?」

そういうと女性は手に持っていたモノをバサっと広げ始めた
紐で縛られた筒のようなモノであったソレは噂に聴いたことがあった

確か[ジパング]の書物で"巻物"という奴だったわ
彼女はソレを広げて"巻物を次の様に読み上げた"


「  [トラマナ]  」


刹那、私達の身体が宙に浮き上がった
[トラマナ]…女性は確かにそう言った
魔法使いか何かで[トラマナ]の呪文を唱えたのかと思った
本来、これは対象を宙にホバリングさせることで毒の沼を浮遊して通る
そういう物だわ

私達二人、そして[レッドペッカー]が地面すれすれに浮いた状態となり
底なし沼地帯から離れる

「…助かりました、ありがとうございます」

「ううん、お礼は良いの!」

「…つかぬ事を御伺いしますが
 貴女がナジミさんの探していたお方ですか?

ジョセフィーヌがサイドテールの女性に尋ねた



353以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/04(火) 00:18:23.57Cc1KgzSQ0 (1/1)

*********************************

>>346 あんたは果たしてメインヒロインでいられるのかな?ジョ嬢…

>>347 『乙ッ!』されただとッ!私は一向に構わんッッ

>>348 おおきなふくろは原作的にもドラクエ世界における
    四次元ポケットですからね…



少々、展開が急ぎ足かもしれない
次はもう少し分かりやすい内容にしたいorz

*********************************

>>[レッドペッカー]に乗って手を差し伸べる
 【ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章】より
記憶違いで無いなら確かルナフレアがカーメン城から逃げ出す際に
[アカイライ]…? 鳥頭の魔物を馬として使用していた気がする
あの城では兵達が馬代わりとして使用してたのだろうか?


>>[トラマナの巻物] 【トルネコの大冒険2】より
巻物、書物に[トラマナ]が "込め" られている
ダメージ床を受け付けなくする効果で
漫画版では火吹き山で妻のネネとマグマに落ちそうになったトルネコが
コレを読み窮地を脱した


>>対象を宙にホバリングさせることで毒の沼を浮遊~
【ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章】より
[トラマナ]に関しては様々な見方があり
上記のトルネコに至っては[トラマナ]が掛かれば
マグマに落ちても一切、痛みや熱を感じないという仕様であった
 だがロト紋に関しては身体を浮遊させて
マグマに落ちないようにする描写があるため当SSでは
此方の仕様を取らせてもらっています

身体を浮遊させて地形を回避、FFで言う所のレビテトみたいなモノです



354以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/04(火) 00:20:05.20BJqGidRK0 (1/1)

乙。


355以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/04(火) 01:37:02.47f/eikhDDO (1/1)

乙!!
ジョセさんのテンパったとこも見てみたかった


356以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/11(火) 11:56:27.58VHC8VCzh0 (1/4)


「うん、そうだよ」

彼女は質問に対して肯定で返した
強靭な二本足が生えた魔物の背の上、乗り心地は大変よろしくないわね
 大荒れの船上みたいに視界がブレまくる揺れの中でサイドテールの女は
不思議そうな顔で私達に問いかける


「…? えーと、もしかして二人とも気分が悪い?」


「あ、ああ、あ、ああた、当た、り前でしょおおおおおぉぉぉ!?」
「…うっ、ごめんなさい、できれ、ば、速度を落とし、てくれますか?」


船酔い…もとい魔物酔いしそうな感覚だわぁ

これ時速何キロよ?
耳に入るのは私とジョセフィーヌの声、心配そうに声を掛ける女
目に映るのはぐわんぐわんと上下にブレまくる景色
 緑、碧、翠…色の濃い葉、垂れ下がる薄い色の蔦、生い茂る草木
目に映る色が景色が…矢の如し速さで私達の後ろにすっ飛んで行くようだ

「あ、あの、えっと、…ごめんなさい
 安全な所まで二分くらいだから頑張れる?」


「い、いやああああぁぁぁぁぁぁ!?」


―――
――


日光が殆ど遮断された鬱蒼とした樹海
そんな樹海にも光が射すところがあるようで

良く澄んだ綺麗な湖

木々の隙間から射す木漏れ日に照らされた湖
上流から流れてくる天然水の川、こんな至近距離に人間がいるのに
鹿だって水をちろちろと飲んでいる
 まるで童話のワンシーンを切り抜いたような幻想的な光景

「やっ、と、止まりまし、たね」クラ
「そ、その、ようね…うっ」グラ

「あ、あの、お水飲む?」オロオロ

「ぎゃぁー」バサバサ


よろよろと鳥頭から下乗する私と読書家の少女
 そんな私達をすごく心配そうに見ながらうろたえるサイドテールの女
……何言ってるか解んないけど「やれやれだぜ」って感じで
羽をバサバサさせる[レッドペッカー]

「貴女には、色々と、お尋ねした、いのですが…今は、休んでからに…」

ジョセフィーヌがサイドテールの女に言う
私も色々訊きたいけどさ(魔物の仲間なのかとか)今は無理だわ

私達はしばらく湖で休息を取ることにした…

十分くらい経ってからかしらね、ようやく息も整い始めた
サイドテールの女を見ると彼女は"筒のようなモノ"を手に持っていて

「お疲れ様、ゲレゲレ」

「ぎゃぁ!」

筒を鳥頭に向けて言ったのだ

「 "イルイル" 」

ギュンッ!   シュポンっ!

"イルイル"と言った途端、鳥頭は光になって筒に吸い込まれていった…



357以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/11(火) 12:44:34.44VHC8VCzh0 (2/4)


「な!、な、なな」
「"込める技術"ですよ、ヴァージニアさん」

魔物が光になって消えた、その光景に驚いていたら
隣に来たジョセフィーヌに言われた

「[おおきなふくろ]と同じです…少し前に私はアレと同じモノを
 見た事があります」

「…」


空から女の子が降ってきたり、底なし沼で死に掛けたり、魔物酔いしたり
…誰も見た事も聞いた事も無い"技術"とやらを見たり
今日は本当に忙しい日ね

「それで?あれってどういうモノなの」

「簡単に説明してしまえば
 "一体だけ魔物を中に込められる"そういう筒ですね」

「あの女が今"イルイル"って言ったけど、使うには呪文みたいなモノが
 いるって訳? ヒラケゴマーみたいな?」

「ええ…千夜一夜物語ですか」

「詳しいわね」

その本持ってますからねと彼女は言う
ここで話の軸がずれそうになったから話を戻す事にした

「じゃあさ、…その、さ
 あの女、魔物に乗ってたし、休憩中に魔物と会話?してたじゃない
  …あれって人間なの?」


魔物と人間


普通に考えて相容れぬ仲…

草食動物が草花を愛でるだろうか?
果たして肉食獣や鹿や山羊と睦ましい関係となれるか?

答えはNOよ

それが世間一般での認識で常識なのだ、だとしたらあの女は人間じゃない
魔物が人間の皮を被っているだけの化け物なんじゃないのかと
小声で彼女に尋ねた


「ヴァージニアさん…
       それは違いますよ」


私の当然の疑問は次のように反論される

「では逆にお尋ねしますが
  魔物と人間が必ずしも相容れないと断言できる証拠はありますか?
 ある街で読んだ文献ですが過去に"魔物を操り曲芸をさせる人間"がいた
 そんな記録があります」

「…うっ」

[おおきなふくろ]から一冊の本を取り出しページを開くジョセフィーヌ
確かに、[スライム]の火の輪潜りや[いっかくうさぎ]の綱渡りなど
変わったサーカスがあると記されている

「ちなみにこの本もちゃんとフィクションではないと手に入れた店の店主
 実際に公演されたという街に立ち寄る機会があった為に当時を知る人に
 本の内容について関して訊ねて、真偽の裏づけも取ってあります」

本が間違っている場合もあるし、何より真実を探求するのが趣味ですし
彼女はそう言った

「もちろん、ヴァージニアさんのお気持ちも確かに解ります
  …人間が魔物と分かり合える筈がない
 少し前の私もそう考えてましたし」



358以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/11(火) 13:27:05.19VHC8VCzh0 (3/4)


「アンタもそう考えてた?」

「ええ、まだ少し視野が狭かったんですよ私は
 『そもそも、魔物は人語も話す事すら無理なんですよ』と
 一緒に旅をしていた人に突っ掛かったこともあります
 あの人は『頑張れば魔物も人になれる』とすら言ってのけましたが」

「魔物が人になる!?」

それこそ「そんな馬鹿な」反論したい

「私も色んなモノを見てきましたし
  実際に"[ホイミスライム]と恋仲になった男性"も見た事ありますし」


「えっ?」


   [ホイミスライム]

クラゲみたいにふよふよして[ホイミ]使えるあの[ホイミスライム]?

人間の男性がそれと恋仲になった?



えっ?




えっ?





「えっ? なにそれこわい」

「…うん、まぁ一般的な人間の反応ですよね」


「アンタ…底なし沼で死に掛けた時も妙に冷静だったけど
   なんとなくアンタが冷静な理由が解ったような気がする」

アレだわ
あまりにも非常識な光景の見すぎで
ちょっと悟り開いちゃった的なアレなんじゃない?

「アンタって命の危険にあったことが何度もあったりする?」

「…さぁ?一番の危険といえば自分が長年使えていた主が殺人鬼で
 ふとしたことから秘密を知って危うく殺されそうになった事かと?」

「予想以上にハードな人生送ってたァー!?」

冗談半分で訊いたつもりだったけど
この読書家少女の人生内容…色々と濃すぎでしょ!

 殺人鬼の使用人だったり、 "技術"という未知の存在を知ったり
人外カップル誕生に立ち会ったり、つり橋から落ちても生存してたり

うん、達観するのも頷けるわね!


「二人とも、もう大丈夫?」

首を傾げて訊ねるサイドテール、長い髪も同じように傾く
その「大丈夫?」という台詞は二人というよりも
突然叫びだした私宛のように思えた

「ええ、私もヴァージニアさんも落ち着きましたので大丈夫です」
「私は…色々突っ込みたいけど、大丈夫よ」

「良かったぁ」

本当に嬉しそうにぱぁっと微笑むサイドテール
悔しいけど可愛いと思った…私も顔には自身あるんだけどね



359以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/11(火) 14:08:48.82VHC8VCzh0 (4/4)

*********************************
>>354 『乙』だ乙の数を数えるんだッ
    乙は孤独な>>1に気力を与えてくれるッ 2…3…5…7ッ!

>>354 うろたえるんじゃあないッ!ジョセはテンパらないッ(経験的に)


3レス分で申し訳ありません、夜勤帰りなモノで睡魔に負けそうです
可能なら今夜…できるなら投下したいとは思います
*********************************


360以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/11(火) 16:45:51.17JJfaNbo6o (1/1)


無理せず頑張ってくれ!


361以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/12(水) 02:01:41.45y8DGAiIZ0 (1/1)

乙。
改めて考えてみるとジョセフィーヌの人生は壮絶だなwwwwww


362以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/12(水) 07:39:54.54qOawMR6DO (1/1)

おつ
だってジョセさんですから


363以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/12(水) 22:55:59.64fduuSGtd0 (1/2)


―――
――


時計なんてモノは無い

くどいようだけど此処は樹海だ
見渡す限りの自然、天然の景色がそこにある
カッチカッチっと規則的な音を立てる歯車仕掛けの人工物は無いのだ

比較的に日が射すため明るい湖周辺だが薄暗いことに変わりはなく
今が昼間なのか、はたまた既に陽は傾いているのか、時刻は不明だ

夜は魔物の世界である

底なし沼の出来事は確かに悪かったとは思ってるわ、でもね?
それ抜きにしても急いで樹海から抜け出すべきだってのは変わらないし
[聖水]を見事に全部無くした(ついでに私のコンパス…)なら尚更
夜になっちゃう前に急ぎで脱出すべきだと思うのよ…私はね

つまり何が言いたいかって言うと









「こんな所で暢気に
       おやつタイムなんかしてる場合じゃないでしょおぉ!?」


「ヴァージニアさん、騒がしいですよ」


底なし沼に浸かって泥だらけになった私とジョセフィーヌは
[おおきなふくろ]から出した新しい服に着替えた
そして、サイドテールの女はピクニックなんかで使うレジャーシートを
地面に敷いて、更にその上に彼女のお手製のおやつなんかを並べた

ついでにジョセフィーヌが自分の袋からティーセットを取り出した

そして現在に至る……

…いやいや、おかしいでしょ

「ジョセフィーヌ…アンタだって一刻も早く樹海から出るべきって
 考えないわけ?」

「いえ、考えてますよ、あっ、ダージリンとアールグレイどちらで?」

「だったら尚更、こんな所でゆっくりしてらんないんじゃ」

「…ええっと?ヴァージニアちゃん?」

「…何よ」

サイドテールの女が声を掛ける

「あのね、此処ならそんなに急がなくても大丈夫だと思うの」

「いや、魔物がわんさか住んでる樹海だから危ないんじゃないの」

「えっと、そうじゃなくてね、"この湖"のことを言っているの」

「…?どうゆうことよ」

「ここは皆があまり近づきたくない場所だから」

この女はあまり説明が得意な女じゃなかった
だから、初めは何を伝えたいのかがサッパリだったけど
あることに気付いて解った


「その人の言うとおりですよ…私達がこれだけ騒いでいるのに
         "さっきから一向に魔物が現れない"じゃないですか



364以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/12(水) 23:38:58.32fduuSGtd0 (2/2)


片手にブレンドティー、もう片方の手に何時取り出したのか本を持ち
ジョセフィーヌが答える

「これだけの大声で騒いでたら流石に気付かれてもおかしくない
 でも現れない…今、貴女は"この湖は急がなくても大丈夫"と言いました

 察するに此処の湖の水は…[聖水]の成分を含んでいるのか、源泉か?」

そんなところでしょう?とサイドテールに訊ねる

「うん!この時期は奥地の土の成分とかが雨水で流れてくるからね」


読書家は読んでいた本のページを私に見せてくる
タイトルは難しい単語をやたら並べた地学関係の本だった
地下空洞やら、湧き水、土地の成分について
冒険者の為の"回復の泉"などの解説を踏まえたページだ


「…た、確かに[聖水]の湖だって言うなら安全かもしんないけど
   あっ、だったら此処の水を瓶とかに詰めて樹海を進めば」

「ううん、それは駄目」

ここで再びサイドテールが口を挟む

「恐らく、此処の水に含まれている成分は
 あまり長く持たないのではないでしょうか?」

「うん、ジョセフィーヌちゃんの言ってることは合ってるよ
    あくまで奥地の成分は少しだけ流れてくるだけだもの
 そうでなければ"ゲレゲレ"は此処まで来れないもの」

"ゲレゲレ"…さっきの[レッドペッカー]の…名前?を出すサイドテール

「あのね、この位置から人里までは…寝ないで歩いても二日は掛かるの
 だから、休める地点で身体を休めながら行かないと危ないと思うよ?」

「二日…」

私は元々[ガルナの塔]を目指していた、樹海探検ツアーなんてやる予定は
無かったから地図上の樹海を凝視もしなかった

…まさか、そんなに掛かるなんて

「…ある人物の言葉を借りるなら
『急がば回れ、急いては事を仕損じる、こいつぁジパングの諺だぜ』と
 言われましてね、樹海の地理、少なくとも安全地帯に詳しい
 彼女の意見を尊重して進むべきだと思いますよ」

そんなぁ…

「あっ、それってナジミの諺?」

「ええ、ナジミさんから教わりました
 そして随分と遅れましたが自己紹介をさせてください」

そういうとジョセフィーヌは可愛らしいエプロンドレスの裾を掴んで
お辞儀をする

「ジョセフィーヌ・イーオーです、お見知りおきを…」

「はぁ、私は…ヴァージニアよ」

まだ夜は遠い、だというのにこんなにも疲れを感じる
読書家の様にお辞儀付きでフルネーム紹介をする気力も無い私は
軽い自己紹介をさせてもらった


「それじゃあ今度は私の番だね!」

嬉しそうね…何がそんなに嬉しいそうなのか分からないけど

「えっと、私の名前はセルミィ……セルミィ・グランパニアです!
 趣味はパンを作る事です!」

変わり者の女…
これが私達とサイドテールの女ことセルミィとの出会いだった



365以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/13(木) 00:29:54.51jA7neYJP0 (1/3)


「はい、どうぞ」

「あー、ありがとう」

いい加減に観念した私はサイドテー…セルミィから渡されたクッキーを
口に含んだ

さくっ

…ココアパウダー使用の簡単なクッキー
甘さは強すぎ、されど薄すぎない、それでいてしっとりとしたモノで
口の中に解けていく感じ、悪くないわね


 チー   チー


…ん?

「チー」

動物の鳴き声、よく見るとセルミィの肩に真っ白で小さな鼠が乗っていた
それを見て、彼女はポケットから一口サイズのチーズを取り出して手渡す
ペットか何かかしらね

「"チロル"チーズだよ」
「チー」

「その子ってペットなの?」

興味本位で彼女に訊くと「ペットじゃないよ、友達だよ」と返される
…この人はひょっとして人間の友達がいないんじゃないだろうか?

そんなこんなで休息を二時間
私も歩みを再開できる程の元気を取り戻した
立ち上がって、大きく背伸びをする
読書家とサイドテールは自分の荷物を袋に収納し出発の準備を始めた

「それでどうするのかしら道案内さん?」

セルミィ訊ねてみた所、彼女はポケットから三つあるモノを取り出す
それは先ほど見た"あの筒"であった
彼女はソレを上に放り投げて言う

「 "デルパ" 」

ぽんっ ぽんっ ぽんっ

煙と共に現れるのは先ほど見た"ゲレゲレ"…そして
残り二つから飛び出したモノは…

煙の中からでも分かる、特徴的なフォルム
大きなくちばしに鳥頭に二本の鶏足、そう[レッドペッカー]とまるで同じ
ただ違いがあるとすれば体色の違いだ

赤紫色の羽に覆われた"ゲレゲレ"と違い、その二体は橙色の羽である
[レッドペッカー]の下位互換[おおくちばし]であった

「"プックル"、"ポロンゴ"その人達を乗せてあげて」

「い"!?」

その言葉を聴いて、私は察した、詰まるところ彼女は私達に再び
あの乗り心地最悪な乗馬…もとい乗鳥をさせようというのだ

「あ、大丈夫だよ、この子達はあまりスピードを出さないでって言うし
 初めての人だから優しい走りでお願いするから」

「そ、そういう問題じゃ―」ポンッ
「乗りますよヴァージニアさん」

肩に手を乗せてジョセフィーヌが言う…くっ
ここは私の味方をしてくれてもいいじゃないの

「…あのさ、湖の[聖水]を瓶に詰めて運ばないの?」

私は疑問に思った事を訊ねる、長持ちしなくても
少しは持った方が良いのではと



366以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/13(木) 01:11:07.86jA7neYJP0 (2/3)


「えっと、ね…"ゲレゲレ"は大丈夫でも、"プックル"達は弱い[聖水]でも
 駄目なの、だから瓶に詰めて運ぶのもちょっと無理かなって思うよ?」

「あっ、そうなの…でもさ、[聖水]を持ってれば少しとはいえ魔物に
 襲われないし、そのリスクを考えれば、多少歩きでも…」

「ごめんなさい…次に安全そうな場所まではこの子達に頼らないと
 二時間くらい掛かるから、人の足じゃ辿り着く前に無くなるの」

「夜になれば魔物の活動も活発になります
   先ほどヴァージニアさんが仰ったように一分一秒も惜しくなります
 …私も気は進みませんが、[聖水]の効力、夜時間の魔物等
 冷静に後のメリットを考えるならセルミィさんの言うとおりにするのが
 最も効率的と言えます、気は進みませんが」

大事な事だから二回言ったのね


気は進まないけど、あくまで現実的に考えるジョセフィーヌ
私は覚悟を決めて乗鳥することにしたわ




―――
――



「ぎゃあぎゃあぎゃあ」ドドド

「きゃきゃきゃ」ドッドッド
「きゃきゃきゃ」ドッドッド


「…なんていうか」

「意外と辛くありませんでしたね…」


「うん!、安全運転を心がけてるもの!」

馬につけてる馬具のようなモノを取り付け私達三人は鳥頭に跨る
先導をセルミィがその後ろを私達二人がついていく形だ
乗馬体験は生まれて此の方、経験は無い
けどこの鳥頭、えっと…こっちが"ポロンゴ"だっけ?

「そっちは"プックル"ですよ」

「うっ…同じような見た目なんだもの分からないわよ!」

ともかく"プックル"の乗り心地は正直悪くなかった
風を切る感じや後ろに矢のように吹っ飛ぶ景色は変わらないけど
乗り物酔いの嫌な感覚はない、むしろ楽しい?

隣を平行して走るジョセフィーヌは以前使えていた主人(例の殺人鬼)の
馬車の御者台から馬に鞭を振るったり、乗馬経験はあったらしく
当然の如く乗りこなしている

未経験故にジョセフィーヌから出発前に色々教えられた
同い年とは言え、そこの読書家少女から
乗馬の基本姿勢をレクチャーされるのは少し悔しかったりもしたわね
いや、同世代だからこそ、相手が出来て自分が出来ないのが嫌なのかも

…いっそ、これを機に乗馬をマスターでもしてみようかしらね

「ぐえー」ドドッピタッ

「くえー」ピタ
「くえー」ピタ

「…?どうしたの「しー、静かにしてて…」

突然動きを止めたセルミィ、その視線の先には・・・"ソレ"はいた
全長約4~5m、平均的な"ソレ"よりも大きいソイツは威風を感じさせる
長く伸びきった毛皮、立派な二本の角を頭部に生やし歩いていた

「[マッドオックス]…それも普通のより大きい、此処のヌシかな?」



367以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/13(木) 01:31:46.43jA7neYJP0 (3/3)

*********************************
>>360 あ、ありがてぇ、こんな奴さ心配してくれるなんてっ
    涙が出るっ

>>361 ナジミさんとか人外カップルとかビビアンの話とかで
    空気になりがちだけどジョセフィーヌは
    本来なら主役も張れるキャラ

>>362 うん、ジョセフィーヌなら ちかたないね!




以外にもジョセフィーヌが人気で驚いてます

ナジミの技術に関心を持ったり、生き方に共感して世界を知ろうとしたり
本の内容がノンフィクションか調べたり誰よりも探究心に溢れています

何気に、所見でナジミの性別も見抜いたし、[探偵]とか[冒険家]気質です
今回の話でも受け売りだけど底なし沼の危惧をしたり、反論したりもした
ぶっちゃけ彼女単体で話が出来そうな気もするという…



どうでもいい内容↓

※ >>363で泥だらけになった為、着替えたとあります
せっかく湖あるんだし、乙女三人で水浴びして泥を落としてから着替え
というのを詳しく書こうと思いました


が、


ぶっちゃけ話の進行上、関係ないし話が展開するのを待ってる人を
これ以上待たせるのは失礼と判断し[水浴びシーン]は省きました

*********************************


368以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/14(金) 00:13:41.989AXY1LBBo (1/1)

水浴びシーン
今から詳しくかいても
いいんだぜぇ


369以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/14(金) 00:15:01.173aoCqyxCo (1/1)

> これ以上待たせるのは失礼と判断し
ダウト


370以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/14(金) 00:33:02.3228kDN0IDO (1/1)

貴重なサービスシーンががががが


371以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/14(金) 07:23:56.95Uo+zaUvuo (1/1)

それを はぶくなんて とんでもない!


372以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/06(木) 23:29:01.93HzBLH5ua0 (1/1)


「嘘でしょ…普通[マッドオックス]はアレよりも一回り小さいわよ
   アレじゃあカバとか像並みの大きさじゃない」

「う~ん、多分、えっと、何だっけ?」

人差し指を口に当てて何かを思い出そうとするセルミィ

「あっ、思い出した"とつぜんへんい"
  多分"とつぜんへんい"って奴だと思うよ?」

彼女曰く、難しい言葉ですぐに頭に思い浮かばなかったらしい
 …この女はもう一度国語の授業を受けた方がいいんじゃないだろうか?



「グモオォォォォォ…」



「気付かれましたか?」

「ううん、違うの、アレは欠伸、あの子は寝不足っぽいから」

私の真横にいるジョセフィーヌがセルミィに尋ねた
毎度毎度、よく魔物の言葉(?)が解るわね…

私にはただ巨大な怪物が呻り声を上げたようにしか聴こえなかった
欠伸とかどうやったて識別できないわよ

「…多分、アレが原因で寝付けないのかもしれない」

彼女は[マッドオックス]の巨体に人差し指を向けた
指先はよく見れば四本足の怪物の左前足を指しているように見えたわ

「…?、原因ってどれよ?」

「ほら、爪跡みたいなのが見えるでしょ?」


…見えないわよ、アンタ視力どんだけ高いのよ


「他の子と縄張り争いでもしたんじゃないかな?
 この地域の子はそういう意識が強いから
 ええっと、は、"はばつこうそう?"って奴かな」

そう言いながらセルミィは乗っていた"ゲレゲレ"から下鳥していく

「二人とも少し待ってて」

「なっ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「言うとおりにしますよヴァージニアさん」


あの女は何を思ったのか[レッドペッカー]から降りて像並みの巨獣に
駆け寄っていくではないか!


「グモォ!?」


当たり前のように警戒の色を露にした四本足

「ね、ねぇ、これマズイんじゃないの」

「…恐らく、大丈夫だとは思うのですが」

ジョセフィーヌもこの時ばかりは声が小さくなっていた

「あの人も"込める技術"を使うようですし…
 ナジミさん同様に何らかの対策をして近づいているのではと
 考えられるのですが…」


長いサイドテールを揺らしながら走る何処か天然が入ってそうな女を
二人で心配そうに見つめた


373以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/07(金) 00:22:19.009z4hLndw0 (1/3)


セルミィは魔物の目と鼻の先まで歩みを続けた、私は魔物の言葉なんて
理解できない、でも相手は鼻息も荒く、酷く興奮した状態だったと思う

「"チロル"!」

「チー」

彼女の肩にはあの時の白い小さな鼠が乗っていた
セルミィは自分のポケットから一つまみの小さなチーズを取り出して
それを鼠にあげていた、すると…


「あっ!」
「これは…」


チーズを食べた鼠が口から光を発した

白い輝きは巨獣の左前足を瞬く間に包み、そして

「…ンモ?」

「これで痛みも消えたと思うよ」ニコ

鼻息の荒かった魔物は落ち着きを取り戻して
左前足を何度も上げ下げしていた

「今のは一体…?」

隣に居たジョセフィーヌに解説を求める

「…"込める技術"は物体の中に力を"込める"モノ…例えば
 卵サイズの球に[ギラ]を"込めたり"
 杖の先端部の装飾に[バギマ]や[モシャス]を"込め"ていたり

  あのチーズは…[ホイミ]系の呪文を"込めた"[いやしのチーズ]です」

「[いやしのチーズ]って…"込める技術"は食べ物にも
 呪文を入れられる訳?」

「条件を満たした物質、物体ならば食料でも何でも可能だと
 聴いています」

それってかなり怖いわね
使い方一つで嫌いな奴の胃袋に爆弾投下って訳じゃないの

「氷や液体に火炎系の呪文を"込め"、その逆で
 熱源体に[ヒャド]を"込める"なんてことも可能ではあります
 ただし、開発の過程が複雑で、出来ても制限が掛かるデメリットがあり
 薦められない…あのチーズも"特定の生物が口に含む"という条件で
 成り立ちますから、人が食べても唯のチーズと変わりませんよ」


口には出さなかったけど顔に出てたみたいね
追加で説明を加えたジョセフィーヌは此方に帰ってくるセルミィを見る

「ただいま!
 此処を通りたいから道を空けてって頼んだら退いてくれたの」

地響きを鳴らしながら重い腰を上げて私達が通れるスペースを作る魔物

「話の解る人で助かりましたね!」

「えっ!? 人!? 魔物じゃない!?」

私のツッコミは虚しく樹海に響くだけ、私は二人の後を追うように
[おおくちばし]を走らせる

(…魔物って言うのは今の今まで凶暴なだけの存在だと思ってたけど)

「ぐえー」ドドドド

「くえー」ドドド
「くえー」ドドド

「…少しは認識を変えるべきかしらね
 (こいつ等も何か可愛く思えてきたし)」



374以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/07(金) 01:03:11.259z4hLndw0 (2/3)


―――
――


走り続けること早…何時間かしら?
懐中時計なんて無いし、空を見上げても鬱蒼とした木々によって
構成された天然モノの屋根で空の色は判らない
唯、さっきより薄暗いし陽も落ちてきてる事は確かだった


「ぎゃっぎゃっぎゃー」

「きゃっきゃっきゃー」
「きゃっきゃっきゃー」


「…はぁ」

道中、セルミィが底なし沼、地盤が不安定な地域を迂回するように進ませ
時折、魔物群れ、縄張りを確認しながら進む

最初こそ、風を切る感覚や超スピードで変わる景色を楽しんだものの
いい加減に飽き飽きしてきていた

「ねぇセルミィ」

「…?どうしたの」

「さっきの[マッドオックス]ってさ、縄張り争いでケガしたみたいな事を
 言ってたわよね?」

「うん」

あまりにも暇だったから暇つぶしを兼ねてセルミィに疑問をぶつけてみた


「あんな大きい奴でも傷を負わせられる奴がこの樹海にいるの?」


「此処は、癖の強い子達が沢山いるからね…あの爪跡は[グリズリー]
 だと思うよ」

「[グリズリー]…ですか?」

ここでジョセフィーヌが口を開く

「うん、見た事あるの?」

「いえ、ただ[ごうけつ熊]の上位種だなぁと思いまして」

「?、アンタそれがどうかしたの?」

「熊系のモンスターは個人的に感慨深いモノがありまして」

何かを懐かしむように言う読書家の少女

「この樹海の事は僅かばかりですが書物で読んだことがあります
 …たしか[ごくらくちょう]や[ばくだんいわ]が出ると」

「うぇっ!?」

乙女が出すべきでない声を思わず出したわね…
でも、[ばくだんいわ]なんて物騒な単語聴いたら、ね?

[ばくだんいわ]…子供でもその凶悪さは知っている
ある意味タチの悪さではどんな大悪魔よりも上だもの

「大丈夫だよ、ついさっき[ばくだんいわ]の群れを通り過ぎたから」


「えっ」


「…?、気付かなかった? さっきゴツゴツした道を通ったけど
 あそこ[ばくだんいわ]の巣だよ」


「なにそれ、めっちゃ怖い」



375以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/07(金) 01:44:07.439z4hLndw0 (3/3)

*********************************
>>368 >>369 >>370

 oh…まさか、ここまで水浴びシーンを望まれるなんて、そんな…そんな













 ここで書かなきゃ『漢』が廃るなッッ!
 いいぜッ!お前等が望むなら
 その幻想(女の子の水浴びシーン)を書いてやるッッ!


>>371 「なんと このシーン は のろわれていた >>1は何が何でも
    かかなければ ならない」 だと…!?



随分遅れましたが復旧祝いに来ました!

そして水浴びシーンですが、この章が終わったらオマケとして書くことが
確定しましたァ!

※ただし、過度な期待はしないでください
*********************************

>>ゲレゲレ、プックル、チロル、ポロンゴ
 【ドラゴンクエストⅤ】より
もはや説明不要のあの仲間モンスターの名前ですね

鳥頭三体と鼠の名前…なんだか某破壊神暗黒四天王みたいなポジションだ

>>[いやしのチーズ] 【ドラゴンクエストⅧ】より
主人公のちt…げふんげふん、ペットの鼠に食べさせると仲間の傷を
癒してくれる、[ふつうのチーズ]と[アモールの水]で出来る


376以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/07(金) 02:25:33.426NCnPpPm0 (1/1)

よっしぁぁぁぁぁぁ!!!!!
みぃぃぃぃずあびぃぃだぜぇぇぇぇぇ!!!!!!!!


377以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/08(土) 23:24:03.08f+7GkwXDO (1/1)

出来る>>1が居ると聞いて全裸待機して待ってるぜ


378以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/14(金) 00:17:11.37SAlR2r600 (1/8)


「うーん、そうかなぁ? 良く見れば愛嬌のある子達だよ」

すごく不思議そうな顔で言うサイドテール
根本的に私達とは価値観が違うのだろうか?

命からがら[ばくだんいわ]から逃げ延びた者達は皆、口を揃えて
厳つい顔をしてると言うが…


「着いたよ」


「わぁ…」
「此処は、遺跡ですか?」

少し拓けた場所だった

草木は当然のように生い茂る、枝から蔦も垂れ下がってる
 けれどその場所は他とは違って人の手が入っていた

…手入れされたのは古い大昔の事なんだろうけどね

「ゲレゲレ、見てきて」

「ぐえー」

入り口前で下鳥して辺りを見渡した後
彼女は乗っていた[レッドペッカー]を遺跡内部へ進ませる

「セルミィさん、ここは?」

「昔は人が住んでたとこ、でも今は誰もいなくなった所」

読書家の質問に答えるサイドテール、訊きたいところはそこじゃないわ

「いや、そうじゃなくてジョセフィーヌが訊きたいのはこの遺跡が
 どんな用途で使われてたか、とかじゃないの?」

「うーん、本当に今は"誰もいなくなった所"としか言えないの」


「ぎゃぎゃぎゃー」

そうこうしてる間に[レッドペッカー]が帰ってきて
セルミィに何かを伝えた

「中には魔物はいないんだって、今日は此処で休んで出発は明日だね」

そういって中に入っていくセルミィ

「あっ、ちょっと待ちなさいよ、説明がまだ終わって無いじゃん」

私も彼女の後を追うように、更に後からジョセフィーヌ
さっきまで乗っていた[おおくちばし]は入ってこない

良く見るとくちばしで地面を突いてる…ていうか雑草食べてる



セルミィの『誰もいなくなった所』という単語から薄暗く
人の死骸が転がっている内装を私はイメージしていた

そんなトコで一晩明かすなんて祟られるんじゃないかと考えたが


「…綺麗だ」
「ふむ、[ひかりゴケ]ですね」

石戸を開くと待っていたのは闇ではなく光だった

「松明を袋から取り出していましたが、必要なさそうですね」

読書家曰く石造りの天井から垂れ下がる植物の根に生えたコケが光るのだ
それは昔、母様から聴いた"天の川"という光景に近いものだった
 私はひたすらその光景に心を奪われていた、その間、読書家は遺跡内を
ぐるりと一回りしたらしく

「…確かに『誰も"いなくなった"場所』ですね」



379以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/14(金) 00:35:55.70SAlR2r600 (2/8)


サイドテールと同じような事を言う読書家

「そりゃ、"遺跡"って言うんだから誰もいなくて当たり前じゃないの」

本当に二人揃って、何を当たり前の事を言っているのか?

「…あー、今の説明は少々言葉が足りませんでしたね
 ヴァージニアさん、一度この遺跡を見てみましょう」

百聞は一見にしかずですよと私はジョセフィーヌに誘われるまま
 遺跡内部を探索してみた、幾つかの小部屋
ひび割れた天井から光が差す通路
 昔の人が描いたのか壁画の間…壊れた石像のようなモノが散らばる場所
地下への階段を降りれば地下水が湧き出ている間へ来る
そこにも[ひかりゴケ]がありセルミィが水汲みをしていた

「あっ、二人ともご飯の準備はすぐに終わるからそれまでもう少し
 探検しててもいいよ」

「ねぇ、聴きそびれたけどさっきのってどういう意味なの?」

「?」

きょとんとした顔で此方を見るセルミィ

「だから、此処がどんな遺跡かとか…」

「えっと、壁に描かれてる絵とか文字っぽいモノとかは読めないし
 あまり、詳しくは知らないけど
 随分昔に人が"此処から"いなくなったのは判るよ」

頭の上に疑問符を浮かべていると読書家が口を挟む

「遺跡を一周してどうでした?」

「どうも何も変わった事なんて無かったわよ」

「ええ、本当に"何も"ありませんでしたね」

その辺の石に腰を下ろし、ジョセフィーヌは続ける




「この遺跡には"人の遺骨が全く見当たりません"ね」


「あっ」




ここでようやく二人が何を言いたいのか解った


遺跡…つまり此処は人の手で創られた建造物だ
昔は人が住んでいた、なら通路なり広場なり人骨の一つや二つあっても
何らおかしな事はない

「うん、だから昔の人は何処かに"お引越し"したんじゃないかと思うの
 それで"此処は"誰もいなくなった場所なんだ」

「どのような理由で廃棄されたかは判りかねますが」

「外の魔物達が入ってきて遺骨を食べたとかは?」


「それはないよ、あの子達は骨が食べられない子だもの」

魔物の専門家が私の意見を否定する

「一応、この辺に住んでる子達、お祖父ちゃんやお祖母ちゃんの魔物から
 住んでた人達の事を訊いてみた事はあるよ」

魔物は人と違って長生きなのもいる
言葉通り、歴史の生き証人と言う訳だったわ

「どんな人が住んでたんですか?」



380以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/14(金) 00:52:04.62SAlR2r600 (3/8)


好奇心からジョセフィーヌがソレを訊ねる

「それが皆、よく判らないんだって、"究極の生物"を作ろうとしたとか
 その為の"石"が手に入らなかったとか人間のやることは分からないって
 皆が首を傾げてたよ」

人間達はその後も訳の分からない事を続けてある日、とうとう諦めた顔で
荷物まとめて何処かへ去っていったらしい

 結局、何も判らなかった、ジョセフィーヌはペンとメモ紙を取り出して
遺跡の建築年数や当時の人の暮らしなんかを可能な限りセルミィから
聞き出そうとしていた

魔物の声が理解できる才能…ある意味、考古学者が羨みそうな才能だ
人間なんかより歴史の深い原住民に貴重な話を訊けるのだから…

私は最初こそ、興味本位で訊いてたが…如何せん歴史のお勉強は苦手だ
教科書を読むより、フィールドワークで覚える派だからね

二人を置いてさっきの星空の部屋に戻ってきていた
 体育座りで天井を見上げながら独りごちる



「昔住んでた人は"お引越し"した、か…」


"お引越し"…か







『ねぇ、お母さん』

『なぁに?』 

『どうして、私はお家に帰れないの?』

『それはね、私達はお引越しをしたからよ ここが新しいお家よ』

『そうなんだ』



母様…


私は気付けば貰った宝の地図入りの筒を握り締めてた


「ヴァージニアちゃん?」

「うあっ!?」

不意に声がして振り返れば、心配そうに此方を見るセルミィが居た

「ごめんなさい、驚いた?」

「え、ええ、まぁ」

きょどって変に敬語を使っている自分がなんだかおかしくて

「そ、それはそうと、な、何の用よ!」

とりあえず立ち上がって人差し指を刺して強気に言ってみた

なにやってんだ…私


「ご飯ができたから呼びに来たんだよ?」

「そ、そう、なら行きましょう」




381以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/14(金) 01:12:46.41SAlR2r600 (4/8)


「ジョセフィーヌは来てないの?」

食堂(?)のような小部屋に私とセルミィは来ていた
聴けば私は二時間近くあの部屋で呆けていたようだ

時計が無いからね、時間間隔がどうも分からない

「遺跡の事を話したら、もうすこし探検したいって言い出して
 ゲレゲレに呼びに行ってもらったからすぐに来ると思うよ?」

クールぶってるけど、そういう所はやっぱり齢相応な子供ね!


なーんて考えたけど

そうやって相手を子供扱いする事で自分の方がお姉さんぶってる自分こそ
お子様なんじゃないかと後々になって思うようになった

やばい、私の黒歴史だ…



「簡単なモノだけど、はい!」

「ありがと」

美味しそうな匂いと共に渡されたモノを見る

目玉焼きが乗っただけの食パンと焼きたての南瓜パイだった
パイの方は表面に可愛らしいお魚の模様があって愛らしい

「よくパイなんて焼けたわね」

昔の人が使ってたらしい竈があったらしくソレを使ったそうね
通りで来る途中、良い匂いがすると思った…


「遅くなって申し訳ありません」
「ぎゃあー」


切り分けられた南瓜のパイを渡された所でジョセフィーヌも入ってきた

「はい、ジョセフィーヌちゃんの分」

「すいません、こういうのは私がやるべきなのに」

「ううん、良いの!」


三人と一匹が揃った所で床に敷いたレジャーシートの上に腰を下ろす



「それじゃあ皆、揃ったことだし、いただきます」

両手を揃えて、ご飯の前にお辞儀するセルミィ、真似るように私達も


「いただきます!」
「頂きます」
「くえー」


―――
――


「そういえばさ?」

目玉焼きの乗っかったパンを頬張りながらセルミィに訊く

「あの湖みたいにこの遺跡も魔物が寄って来ない訳?」

パンと卵はどうしてこうも相性が良いのか、そんな事を考えながら訊く





382以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/14(金) 01:46:41.35SAlR2r600 (5/8)


「この遺跡の地下に湧き水があったよね、アレもほんの少しだけど
 [聖水]の成分が含まれてるの」

「だから"ゲレゲレ"は入れて、あの二匹は外で待機してたのですか?」

今、この場に[レッドペッカー]が居る、でも私たち二人が乗ってた
[おおくちばし]は遺跡の外で雑草を突いてた
 あれは単に外で見張ってるとか、餌を食べてたとかじゃなくて
入ってこれなかったのね…

「ぎゃー」

「[聖水]の成分が僅かなら[レッドペッカー]の様な魔物も
 多少無理をすれば遺跡に侵入可能、だからセルミィさんは初めに
 "ゲレゲレ"に遺跡内部を探索させた、と言ったところでしょうか?」

「うん!それでも殆どの子は[聖水]が無くても
 この遺跡には近づきたくないの…」

「?、なんでよ」

南瓜のパイに手を出しながら、私は尋ねた…クリーミーでおいしい

…なんだろう、母様の味を思い出す…ちょっと泣けてきた

「えっと、ね」

私はセルミィが近場に落ちてる小石を拾うのを見る
 そして真ん中に丸い小石、それを囲む様に
砂利のような石をばら撒くよう置く


「この真ん中の石が遺跡だとするよ?」

砂利で囲んだ円の中心を指差しセルミィは説明する

「遺跡を中心に[聖水]の力が広がっていて、遠ければ遠いほど皆は
 近づきたくなくなるの」

「この砂利が[聖水]の効力が届かなくなる
 言わば境界線と言ったところですか?」

「ううん、それもあるけどこれは違うの
          これ[ばくだんいわ]の巣だよ」


「!?、げほ、ごほ!?」

咽た、すんごく咽た

えっ? 何、[ばくだんいわ]の巣?
この砂利が?

「ちょい待ち!それってアレじゃん!
 この遺跡[ばくだんいわ]に包囲されてんじゃん!?」

「うん!」

笑顔で元気良く答えてくれたわね!!

「…なるほど、[聖水]の効果で[ばくだんいわ]は遺跡内部には来ない
 そして、他の魔物達は[聖水]より[ばくだんいわ]の巣に踏み込むのを
 恐れて来ないという訳ですね!」

「この辺りは[聖水]の成分が流れる地下水とは別に色んな水源があるから
 ここら辺一帯の土は美味しい成分に溢れてるって
 [ばくだんいわ]の皆に好評なの」

「"[聖水]"と"[ばくだんいわ]の巣"
 …正に大自然が生んだ鉄壁の防壁ですね!」

「ア、アンタ今の聴いてよく平気でいられるわね…」

一応、安全な理由は解ったけど、釈然としない中
私達の食事会は続いた…




383以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/14(金) 02:26:41.68SAlR2r600 (6/8)


遺跡内部は[ひかりゴケ]のおかげで外以上に明るかった
 おかげで窓がある食堂(?)の方が少し薄暗いという話

途中、セルミィが[おおくちばし]達の餌を用意すると再び竈のある間へ
行ったり、その隙に白い鼠が南瓜のパイを狙おうとしたり
[レッドペッカー]が羽をバッサバッサやって私がくしゃみをしたり
それでジョセフィーヌに笑われたり
 久しぶりに楽しい食事だった気がした


母様が亡くなって
食事なんて何時も独りだったからかもしれない…


「香ばしい匂いがしますね」

隣で笑ってたジョセフィーヌが言う
匂いの元を探してみると皿にトウモロコシを乗せたセルミィが戻ってきた

「くりぇー」バッサバッサ

"ゲレゲレ"が我先にとセルミィに向かっていく…どうやら彼女が言ってた
彼等の餌らしい

「トウモロコシを醤油で焼いたものですね」

「ショウユ?ショウユって[ジパング]の食材だっけ?」

「調味料ですね、それにしても食べたばかりだというのに
 食欲をそそられる香り…」

「うっ」

確かに美味しそうだけど、太りたくは無いわ…

「"ゲレゲレ"!」

ポイッ

「くりぇー」

ピョン  パク

 トウモロコシが宙を舞う、一つ、また一つと…
黄色の表面にショウユとやらの焦げ色がよく映えて、地を蹴り
飛翔する鳥頭が大口を開いてソレを食べる

「次は"ポロンゴ"達だね」

セルミィは少し席を外すねと私達に一言だけ述べて部屋を出て行った

「…本当に不思議な奴」

長いサイドテールを揺らして出て行った女の後ろ姿を見ながら私は呟く

「ねぇ、ジョセフィーヌ、魔物の言葉が解る人間ってセルミィの他にも
 会った事があるのよね?」

「ええ」

「どんな奴が多かったの?…やっぱり変わり者ばっかり?」

「そうですねぇ、……あー」

少しの間、考え込んでバツの悪そうな顔をする

「…あくまで私が会った事のある人であって
 全ての人がそうではありませんよ?」

「もったいぶらないで言いなさいよ」

「…味ですね」

「…?、なに聴こえない」

「童女趣味ですね…」

「えっ?」



384以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/14(金) 03:07:46.43SAlR2r600 (7/8)


「…」
「…」

「ま、まぁ、今のはともかく他の人とか」

「すいません、実際に会ったのはその人だけです」

「ふ、ふーん」

もしかして、その人って例の[ホイミスライム]と恋仲になった人かと
訊ねたら、そうだと帰ってきた

あの女だけが格別変って訳じゃないのかもしれない

「実際に私はお会いした事はありませんが
 ナジミさんが"イナッツ"という女性に会った事があるそうです」

「へぇ、どんな人?」

「その方は放浪のエルフでして、路銀を稼ぐ事と安住の地を求めて
 サーカス団を営んでいたと」

「サーカスか…」

私はサーカスを見た事がないから、その手の話には興味があった

「サーカスと言っても実質上、その方お一人でシルクハットを被り
 お供の魔物達に曲芸をしてもらっているといったものです
 以前、立ち寄ったある街で彼女と親しい関係にあった女優から
  今では安住の地を見つけられて、魔物達と共に生きていると
 お聴きしましたが」

「へぇ」
「くえー」

餌を食べ終えた"ゲレゲレ"が相槌を打つように鳴く
そういえば彼等は人間の言葉を理解できるのだろうか?

「魔物ってさ、私達の言葉を理解できるのかしら?
 私達は彼等が何を言ってるのか分からないけれど…」

「…さぁ?としか言えませんね」

「そもそも、魔物の声が解る人ってどうやって識別できるのかしら?」

「…周波数でしょうか?」
「周波数?」

「蝙蝠やイルカにしか聴こえない音と同じように特殊な音で魔物は
 [仲間を呼ぶ]ことができます、それと同じで特定の生物にしか解らない
 音域で音を出してるとか?」

「仮にそうとして何でその人達は分かるのよ?」

「さぁ?生命の神秘としか言いようが無いですね
 普通の人には無いけど、"絶対音感"を持った人間もいれば
 "1/fゆらぎ"…所謂、川のせせらぎ等の自然現象に含まれる
 癒しの周波数fを声にして発せられる人間もいますし…
 人外と対話できる人もいるにはいるのでしょう」


セルミィとの会話を思い出す

言われて見れば、何処となく不思議な感覚を感じはした…

二人で話し合った結果、解ったこと




「結局何も解んないってことじゃん…」




自分達じゃいくら考えても何一つ理解できない事が解ったわね




385以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/14(金) 03:20:51.00SAlR2r600 (8/8)

*********************************
>>376 ※オマケで申し訳程度のモノです

>>377 まだ寒いぞ、せめてネクタイは忘れるなよ!
 



>>パンの上に目玉焼き 魚模様のパイ
ジブリ飯には夢が詰まっている!異論は認めん
あとパイは魔女の宅急便祝いです…はい



もしかしたら明日か明後日ぐらいに続きを書けるかもしれませんね
ロリコン扱いされたバコタェ…
*********************************



386以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/14(金) 11:35:52.82lFsg7tpDO (1/1)

おつ



387以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/15(土) 11:34:28.91CH2n0qVto (1/1)

たまにはロリもいいよね!


388以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/16(日) 11:13:14.23X7kzW5cs0 (1/6)


その後、帰ってきたセルミィ…と鳥頭を含め
三人と一匹で一晩を過ごした





夜は怖い





遠くから聴こえてくるよく解らない生き物の鳴き声、風で揺れる木の陰
子供の頃から夜という存在はどうにも苦手だった

そして時は進み


「…眠い」

まだ重い瞼を擦りながら私は起き上がる
目を覚ますとセルミィは既にお供の餌やり
ジョセフィーヌは石畳に敷いた布団を袋に仕舞い込んでいた

なんだ…私が一番の寝坊助か

「おはようございます、気分は…あまり宜しくない様で」

読書家は私の顔を見るなり、そう言った

「まぁ…、ね」


欠伸をしながらジョセフィーヌと共に食堂に向かい、そこで戻ってきた
セルミィのお手製朝ごはんを頂いた

「今日中に樹海から抜け出せたりってしないかしら?」

人の足で二日、昨日セルミィはそう言った…なら鳥頭に乗って移動した
状態ならもう少し早く人里まで行ける筈だと私は思う

何より、樹海に長く居たいとは思わないからこそ期待を込めて訊いた

「えっと、ちょっと待ってね」

そういうとセルミィは食堂の窓の一つから顔を出し空を…
目を細めて、ほとんど木々に覆われ僅かな隙間しかない空を見る

「……」

沈黙

私達はただ、その後ろ姿を見ていただけだった

「…うん、ありがと」


「?、今、誰にお礼を言ったのよ?」
「いえ、私にも判りませんでした」

窓の外には魔物はいない、ぽけーっと空を眺めてたようにしか
見えなかったのだけど

「今日中は難しいかもしれない、丁度、行き先付近で
 ハ…ハバツコーソウ? …とにかく喧嘩してるんだってさ」

「あー、うん、縄張り争いをしてるのね、分かった」

「どうやって知ったんですか?」

「え、えっと大地の人に教えて貰ったからかな?」

説明下手な彼女との会話は朝の気だるさに拍車を掛けるようだった
結局、昨日のジョセフィーヌとの議論同様、謎というモヤモヤをまた一つ
増やしただけだった… 
 



389以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/16(日) 11:42:54.19X7kzW5cs0 (2/6)

―――
――


「ぎゃあぎゃあ」ドドド

「きゃあきゃあ」トトト
「きゃあきゃあ」トトト

初日に比べれば鳥頭に乗るのにも大分慣れたと自分でも思う

「ヴァージニアさん…」

ほーら、こんなゴツゴツした道を走行してても酔いは感じないし…

「ヴァージニアさん!」

目隠し走行だってお手のモノよ!!


「…いい加減に目を開けてくれませんか?」
「もう突破した!?突破したよね!?」

「ええ、[ばくだんいわ]の巣は(たぶん)通り抜けました
 ちゃんと目を開けてください…危ないですし」

「本当に本当よね!?まだ道がゴツゴツしてるけど実は[ばくだんいわ]の
 上を歩いてますとかじゃないわよね!?」


「くぇー…」トトト

私が乗る[おおくちばし]…"プックル"が小さく鳴く
目は瞑ってても良いからせめて手綱はもう少し強く握って欲しいと
私に訴えてるように聴こえた


「うぅ…」

丁度目を開けたとき、ゴツゴツした道から比較的に平たい道に出る
そこでようやく安堵した

「生きた心地しないわよ」

「ふふ、そうですか」

「…何がおかしいのよ?」

隣でクスクス笑うジョセフィーヌを見て少しムッとした

「いえ、なんでもありませんよ」

目は口ほどに物を言う
単なる被害妄想かもしれないけど、「怖がりなのですね」と笑われてる
そんな気がした

「はぁ…私、アンタの事苦手かもしんない」

「ふふ、そうですか」

先頭をセルミィ、後ろに並んで私とジョセフィーヌ、昨日と同じ並びで
走り、一つの川に出た、水面に顔を出す岩の上を三頭の鳥頭が
ぴょんぴょんと飛び乗って向こう岸へ渡ろうとする…

昨日の底なし沼を思い出すけど、ここは沼じゃなく川だから大丈夫よね?

向こう岸に着いた所で小休止を取る事になった
ここは[聖水]の成分があるわけでも
魔物が近づきたくない理由があるわけでもないけど
見渡しが良いため、向こうから魔物が来れば、十分に分かるという事だ

川自体も浅いから川から魔物が来る事もあまり無いらしい

「流石にずっと同じ体勢は疲れるわね」

ここを逃すと次の休憩は3時間後、プロのジョッキーでもない私達に
長時間あの姿勢は辛いモノがある



390以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/16(日) 12:09:50.96X7kzW5cs0 (3/6)


河原の適当な石に座り、ぼんやりと空を見る

「…川かぁ」

最後に地図で見た地形を思い出す、樹海の東南部、北[ムオル]海域へ
流れる川があった筈だけど、此処なのか?

樹海なんて人が全く踏み入れない土地だし
もしかしたら地図にも載ってない未登録の河流か何かかもしれない

周りを見渡す…

チチチっと鳥のさえずりが耳に入ってくる

人にとって未開拓の地にいることすら忘れそうになる穏やかさ

ゆったりと流れる雲

ぴちゃっと水しぶきを上げて飛び跳ねる小魚

風に揺れる枝の音

地面をついばむ"ゲレゲレ"達

涼しい顔で本を読むジョセフィーヌ

甲羅を指でつんつんと、突っつくセルミィ

平和なモノね…










…ん?




「ちょっと待ったアァーーーーーー!?」


「わっ!何ですか!?」バサッ

「ひゃ!吃驚したよ…?」ナデナデ

「ぎゃあ!?」
「きゃあ!?」
「きゃあ!?」

「チー!」

「バゥ!?」

私の叫びに全員が驚いたように此方を見る

「いきなりどうしたんですか?…本を落としてしまったじゃないですか」

「…? どうしたの、もしかして遺跡に忘れ物しちゃったの?」ナデナデ

「ぎゃー」
「きゃー」
「きゃー」

「チー…」

「パウパウ」

「いやいや、驚こうよ!?何かナチュラルに増えてる事に驚こうよ!?」

私はセルミィがさっきから突いたり
撫でたりしてる亀のような甲羅を指差し叫んだ




391以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/16(日) 12:54:20.94X7kzW5cs0 (4/6)


「バゥ?」

「…?ゴンさんがどうかしたの?」

「ゴンさん!?」

「…ふむ、[ガメゴン]ですか、珍しい魔物ですね
 確か[サマンオサ]地方にいる魔物の筈ですが?」

「この子、迷子なの」

「迷子!?いやいや、[サマンオサ]は海の向こうだからね!?」

本来の生息地は此処からずっと遠い地である
海の向こうの大陸だもの、ていうか国境を越えた迷子ってすごいわね!?

「この子、船に乗ってたけど、船が座礁して泳いでたら迷って
 此処に来たって言ってるよ」

船? 座礁? …ま、まぁいいでしょう

「そ、そう、それで、ゴンさん?…は人を襲わないのね?」

「うん!昔は人に飼われてたんだってさ」

言いながら小魚を[ガメゴン]…もとい"ゴンさん"にあげるセルミィ

「パゥ!パウ」

「…うん!」

何か私達の知らない所で勝手に話が進んでいくのは分かった
現にセルミィは今、例の"筒"を[ガメゴン]に向けて…


「"イルイル"」


「どういうお話をしたのですか?」

「迷子みたいだったからせめて、分かる所まで連れてってあげるって」

「そ、そうなんだ…」

こうして訳の解らない同行人が増えましたってね…
*********************************
**************
*******

   とある村の酒場にその人は来ていた

「マスター、シードルもう一本頂戴!」

「お客さん飲みすぎじゃないですか」


床に転がる無数の酒瓶
これら全て、一人の人間が全て飲み干しただなどと誰が信じようか?

「だぁいじょうぶ!だぁいじょうぶ、俺ぁ酒に強いんでさぁ」

辺境の地であり、男達は皆、明日の生活の為に野良仕事へ駆り出す
必然、店内で飲んだくれるような人間は観光目当ての人間だ

「しかし、お客さんも災難ですね…橋が壊れてお連れの方が落ちたと」

「あぁ、そのことだが問題無さそうでねぇ、俺の連れぁ無事みたいで」

でなければ、此処で安心して酒も飲めやしねぇんでね、と
黒コートの旅人は小さくウインクする

「何故、お分かりで?」

「…知らせが来たんでさぁ」

「はぁ」



392以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/16(日) 13:20:29.93X7kzW5cs0 (5/6)


まるでそんな素振りは見せないが、この全身黒ずくめ連れとはぐれた際に
普段は決して見せないようないような慌てぶりで
単身で樹海に行こうとして村の男達に止められたりもした

事情を知らぬ者が見ればヤケ酒でもしてるように見えるのだろう

当然、店主もこの客が酒に溺れて現実逃避を図っているのではと考えた


「知らせとは?」

「んー、そだなぁ、まぁ"妖精さん"が知らせに来たとでも言おうかね」


やっぱり逃避かな? いや、酒が回りすぎて支離滅裂な事を言ってるのか

「お客さん、やはり、お酒はもう止めた方が…」

「問題無いさぁ、まだ二、三十本くらいしか飲んでねぇから
 それより俺の話に付き合ってくれや、飲みながらのお喋りは
 極上の酒の肴なんでね」

それは問題ないのだろうか?

「はぁ…わかりました」

「ん!ありがとよ」キュポンッ

酒を専用グラスに注ぎながら語る黒コート

「まぁ、さっきも言ったが連れは大丈夫さぁ、知らせを送った奴と一緒
 なんでねぇ」

「その人と一緒なら大丈夫なんですか?」

「おう、安心安全だぜ、この"樹海でなら"アイツぁ…セルミィなら

             俺なんぞより圧倒的に強いからな」


「お客さんがどれ程お強いのかは分かりませんが樹海の魔物達は…」


「いや、良いんだよ、"相手が魔物だから、なお良い"
   此処の魔物が全員束ンなっても勝てやしねぇなガチに」

「ご冗談を」
「いや、これはマジだぜ」

グラスを傾けながら黒コートは目を細める


「アイツぁ…まぁ、"怒る"なんこたぁ天地がひっくり返ってもねぇけど
  本当にンな事が起きちまえば洒落にならんからなぁ」

それだけ言って黒コートの飲んだくれはグラスの酒を煽るのだった

*********************************
*******************
**********


「セルミィ、次の休憩地点は遠いの?」

「えっと、遠いかもよ?」

「いや、なんで疑問系なのよ」

仮にも樹海に詳しい人間がそれじゃ問題でしょうに…

このサイドテールの女は頼りになるのかならないのか…
いや、ならないかもしれない

私の不安は募っていく一方だったわ




393以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/16(日) 13:33:39.78X7kzW5cs0 (6/6)

*********************************
>>386 ヒャッハー『乙』だー!ありがたく頂戴するぜェ~!

>>387 <●>「このロリコンどもめ!」



アイエエエエ!ゴン=サン!?ゴン=サンナンデ!?

※[ガメゴン]は通常サマンオサ地方、もしくはネクロゴンド海域に出現し
 間違っても樹海(世界樹付近)ではエンカウントしません
*********************************


394以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/16(日) 14:44:17.47scuhS+ERo (1/1)


久々にでてきたなナジミ!
ナジミの空気感が凄い


395以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/16(日) 22:29:58.15Tcl+gTrDO (1/1)

おつ
やっぱナジミも焦ってたのね



396以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/21(金) 00:19:41.93PxT2chuHo (1/1)


>>1=サンはヘッズな…?


397以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/30(日) 22:50:30.57h0ancFLI0 (1/3)


水筒に入るだけのの水を入れて準備を整える
三頭の鳥頭達も十分に休息は取っただろうし、何ら問題はない

無いったら、無い [ガメゴン]の"ゴンさん"を連れて事になったけど
問題じゃないからもう突っ込まないッ!

「出発しますよヴァージニアさん」

出発の合図と共に鳥頭に跨る私達

相変わらず先頭を行くのは頼りなさげなサイドテールの女
並んで私と読書家だった

前方の揺れるサイドテールを見つめながら私は思う

(川上の方へ向かうのね…)

毎度毎度、この女はどういった基準で行く先を考えているのか?

「ねぇ、セルミィ!」

「どうしたの?」

「アンタって何時もどんな感じで道を決めたりしてるの?」

「見て、魔物が極力いない道だったら行くようにしてるよ?」

「いや…見ても判らないから訊いてるんじゃない」

道を見ただけで、何故、その先に魔物がいないと判るのよ?


「…? 道のずっと先に魔物がいるのが見えるから
 いない道にするんだよ」


・・・ん?


「ごめん、もう一回言って?」

「"道を見て" "道の先に魔物が見えるから"いない道にするんだよ」


「あっ、もういいです、ハイ」


何か理解できるかと思ったけど全然、そんなことは無かったわ

―――
――



最初は緩やかだった上り坂も徐々に急な登り坂へと変わってゆく
進めば進むほど、斜面は急なモノへと変わり、景色も変わり始めた

一時的に樹海から、碧の海から抜け出したのだ


「これは、絶景ですね」

「そう、ね」

緑の絨毯から苔だらけの地面
苔どころか雑草一本すら見当たらなくなる岩肌だらけの大地
そこを登りきった天辺からの眺めはまた格別で…
 同時に私がどれだけ馬鹿な事をしようとしたかを思い知った

樹海

読んで字の如く、樹の海だ

高い所から見渡してよく判る、大海原の波を表現するかのような樹の起伏
早く人里に行こう、脱出しようと規模をろくすっぽ考えずに
私は焦ってばかりで…

こんなんじゃお宝を見つける以前に[ガルナの塔]にすら辿り着けないなぁ



398以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/30(日) 23:15:59.73h0ancFLI0 (2/3)


ふっと、私がそんな感傷に浸りながら何気なくセルミィを見ると
彼女は目を細めて、ある一点を見つめていた

その様はまるで、そう、例えるなら"鷹"

遥か彼方の大空から地表の獲物を…まるで黒い豆粒のように見える獲物を
捕らえるような、そんな"鷹の目"に似ていた


「―――--―」ボソボソ


(…?)

目を細め、何かを呟くセルミィ、彼女の声を聴き取ろうと
耳を澄ませてみれば




 ―――北9千と39歩 ―――西7千と4百38歩――



上手くは聞き取れなかったが確かにそう言った

北? 西?

私はセルミィが見ている方角に目を向ける


……


何も見えやしない、相変わらず目に痛いほどの緑が飛び込んでくる

けれども、彼女の目は明らかに"ずっと先にある何か"を見ている様な…





『…? 道のずっと先に魔物がいるのが見えるから
 いない道にするんだよ』


『"道を見て" "道の先に魔物が見えるから"いない道にするんだよ』







「…」

大して暑くもないのに汗をかいた、うん、冷汗だね!

まるで訳の判らない言葉だったけど今なら…
今なら本当に言いたい事の意味を理解できそうな気がする

いや、たしかに視力は良さそうだと思ったわよ、でも、これは…

「道が決まった!このまま北西へ向かおっか」

いい笑顔でセルミィがさっきまで見てた方角を指差す

「もしかしたら、早く村に辿り着けるかもしれないよ?」

「ナジミさんも村に居ればいいのですが…」

はぐれた同行者は果たして村に居るのかと心配するジョセフィーヌ

「あっ、大丈夫だよ、ナジミなら酒場でシードル飲んでるもの
 えっと…今は…32…33本目くらいかな?」

村どころか豆粒のようなモノすら見えない遠くを見ながらそんな事を
言うサイドテールの女であった



399以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/30(日) 23:47:28.37h0ancFLI0 (3/3)


きょとんとした顔でセルミィを見る読書家
少しの沈黙の後、彼女は突然笑い出し

「ええ、確かにナジミさんならそれぐらい飲んでるかもしれませんね」

というのである、多分ジョークか何かだと思ってる


……ジョーク、よね?


「それじゃ行こっか」


「ぎゃあ」

「きゃあ」
「きゃあ」


その後の進み具合は早いモノでこれといって魔物に遭遇することもなく
本当に[聖水]無しで一体にも遭遇することなく樹海を突き進んでいく

「予定よりも半日は早く着けそうかな」と樹海の専門家は語ったが
それでも後一晩は何処かで一夜を明かさなければならないらしい


そして




ついに"この瞬間"が来た


先の岩山や川岸ほどで無いにしろ、比較的に日光が差し射る隙間がある
地域だった、此処に着てから私は夕日を拝めていない
ただ、暗いか明るいか、それだけの違いで昼か夜かを区別するだけだった
 だから夕射光を浴びる事が私にとっては久しぶりの事の様に思えた

一晩明かす為の地点から数キロ離れた所だった

鳥頭から降りて、自分の二本の足で往復できるくらいの距離だったと思う

まるで円でも描いたように開けた場所で見慣れない草が生えていた

そこで下鳥して、セルミィが見慣れない草達を引っこ抜いていった

「セルミィさん、この草は?」

「これ?これはナジミに頼まれてたモノの一つかな」

「ナジミさんがですか?」

そういえば私達は成り行きでこの樹海に来たけど
この女はどうして樹海にいたのか訊いてなかったわね…

「此処は"込める技術"の材料になるモノが多いの
 この地域でしか採取できない薬草や此処にだけ生息する子の牙とか爪」

「…そういえばナジミさんが材料にもなるからって
 魔物の生態系を研究してましたね」

「うん、ナジミの代わりに私が皆の意見を聴いたりして
 研究れぽーと?って言うのを作ってるんだ」

「つかぬ事をお伺いしますが爪や牙の回収は?」

「分けてくれるか皆に頼んで、虫歯の歯とか伸びた爪とか貰うよ」

すっごい平和的ね!


「…これぐらいあればナジミも喜んでくれるかな[火炎草]」

引っこ抜いた草を袋に収納しながらサイドテールはそう言った




400以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/31(月) 00:09:35.96Gu277tNm0 (1/2)


「これってそんなに貴重なモノなの?」

私はちょっとした好奇心でセルミィ達に訊いてみた

「環境の問題でここでしか見れない草達だもの」

「これだけではありませんが、[魔法の玉]の…正確には"火薬"の材料に
 なるらしいので」

[魔法の玉]、彼女の同行者がよく使うという武器だ
実物を見た事のない私にはそれがどれ程強力なモノか知らないが
ソレは非力な人間でも上級モンスターと対等に渡り合える可能性が
あるらしい


ほんの小さな好奇心だった


私は鳥頭から降りて、草を間近で見つめようとした


そして"その瞬間"はやって来た





「うわっ!」ズル


どしゃ!





私は…すっ転んだ


丁度、降りた所で出っ張りに躓いた

「~ッ!」

「大丈夫ですか?」

同じように好奇心で下鳥したジョセフィーヌに起こされて鼻を抑えながら
立ち上がる、顔面から地面に激突したのだから当然痛い

これだけなら良かった

本当に良かったのだ



―――
――



「そろそろ出発するよ」

私達は鳥頭に乗って、移動する

ここから徒歩で30分もあれば往復できる距離にある洞穴へ


私はそのまま気付かずに進んだ





宝の地図を


亡くなった母様から貰った宝の地図入りの筒を落とした事に気付かずに…





401以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/31(月) 00:30:35.28Gu277tNm0 (2/2)

*********************************
>>394 ※主役を空気化させた為、次章あたりからジョセフィーヌ嬢は
    驚くほど空気化します


>>395 か弱い女の子だし、護身用の"技術"がまるで入ってないし
    か弱い女の子だし、そりゃ心配しますよォー!


ドーモ。>>396=サン。>>1です
    知り合いのススメで最近web上のキルズを読み始めた程度の
    にわかでニュビー・ヘッズを名乗るのもおこがましいッ!
    サツバツ!

    という訳で、ヘッズとして認められるよう
    勉強しようと考えています





今回は4レスのみの投下となります
 遅い展開でようやく起承転結の『承』の部分かと思われます、はい
*********************************


402以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/31(月) 04:02:45.52/jlfOuYo0 (1/1)




403以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/31(月) 23:28:18.69QHWyG15DO (1/1)

どじっ子ってカワイイよね


404以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/31(月) 23:40:02.75lAyERcbao (1/1)

おつんつん
ジョセが空気化とかめちゃゆるせん
ゆるせん!


405VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/07(月) 14:08:18.90imkgaB130 (1/5)


あの[火炎草]畑から徒歩にして往復三十分の地点
鳥頭に跨り駆ること僅か十分近くの場所にその洞穴はあったわ

ゴツゴツとした外観、それでいて入り口は広い
所謂、"かまくら"のようなドーム状のモノだった


「着いたよ」


"ゲレゲレ"から降りたセルミィが[おおきなふくろ]に手を入れて何かを
取り出そうとしていた

「この付近には魔物がいないのですか?」

「ううん、此処より他の場所の方が住み易いから少ないだけで
 ちゃんと魔物は生息してるし、この洞窟にだって近づいてくるよ」

入り口から洞窟の内部へと一歩踏み出すセルミィ、その後に続く私達二人
鳥頭に乗ってた時となんら変わらない構図だ

視線の先は真っ暗な暗闇で奥なんて誰にも見えやしなかった


「…誰もいないみたいだね?」


…訂正、異常な視力持ちの女は闇の先まで視えてたようね


ボゥ…っ


松明に灯を点し、それをジョセフィーヌに手渡しセルミィは
水筒のような筒を取り出す
それは蓋の部分を捻れば簡単に開けられるタイプの筒だった

「あの遺跡とは違って単純な構造ですね」

読書家のストレートな感想、確かに初めに私も思ったとおり
この空洞はまんま"かまくら"のようなモノなのだ

曲がり道があるだとか、天井に外に繋がりそうな穴が空いてるだとか
そういうんじゃあない、本当に奥まで一直線、明かりを付けて見て解る
入り口から奥の壁までの真っ直ぐな空間

…本当にそれだけでだったわ



きゅぽんっ


そんな事を考えながらぼんやりしていたら後ろから何かを開ける音が
聴こえた、セルミィが持ってた筒を開けたのだ

「二人とも少し下がってて、"プックル"!"ボロンゴ"!」

「「くえー」」

間の抜けた鳴き声を上げながら二頭の鳥頭が走ってくる
その内の一頭は入り口の外へ、もう一頭は私達の方へ…
入り口のど真ん中に立つセルミィを挟み、丁度分かれる形に配置される


バサァ…


蓋を開けた筒から取り出した"モノ"を広げるセルミィ
"ソレ"は見た事のあるモノだったわ

底なし沼で私達二人が溺れた時にも似たようなモノで助けてくれたから


「それって"巻物"よね?」


私はセルミィが広げる[ジパング]風の書物を指差し尋ねた



406VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/07(月) 14:37:43.30imkgaB130 (2/5)


「うん!、昔、ナジミや友達の男の子と作った"巻物"なの」

ナジミ… ジョセフィーヌの話で度々出てきた黒コートの人物
彼女曰く、"込める技術"を作る天才らしく
その名前が関わるという事は…


「それも何かが"込め"られているのですね?」

「紙もそうだけど、コレに文字が書かれてるでしょ?
 この文字を書くインクや文字自体が…えっと、す、すぺしゃる?
 そう言ってたよ」

使い方は非常に簡単!っと言って彼女は実際に実演してくれた





・一つ、 ぐるぐる巻きの巻物を広げます。

・一つ、 全部広げたら、絨毯の様に床に敷きます





以上ですっ!

「早ッ!?」

「えっ!それだけですか?」

「床に置いとくと発動する"技術"だもの、これだけ良いよ」


私は真上から巻物に書かれている文字を見てみたけど、正直言って


「…何が書いてあんのか全然、読めない」

「ルーン文字や…何処の語源か解らない文字が散らばってますが
 "ᛉ"<エオルー>、保護の文字が書かれてる所を見ると"防御用の込める技術"
 と言った所でしょうか?」


訳の解らない文字を見つめながらジョセフィーヌが訊ねる


「そうだね、コレを床に敷いてれば魔物はコレの上を歩けなくなるの」


それを聴いて私はしげしげと床に置かれた巻物を見る

丸められたモノを伸ばしたからかソレは横に長く薄っぺら
それこそ、絹の薄布のように風で飛ぶんじゃないかと思う程
頼りなく見える


「こんなの風で飛ばされたら終わりじゃないの!大体、魔物がコレの上を
 歩けなくなるっていうけど、破くなり床から引き剥がせば一発よ!」

「それは無いよ、魔物はコレ自体に触れないし、一度床に置いたら
 もう剥がれないもん!」


彼女の言葉を確かめるように私…あとジョセフィーヌも巻物を床から
拾おうとした


けれど


「…取れないっ!」

そよ風一つで飛びそうな見た目に反してそれはまるで取れやしなかったわ
まるで地面に根を張る大樹のようにピクリとも動かないッッ!!




407VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/07(月) 14:59:18.04imkgaB130 (3/5)



「た、確かに魔物でも引き剥がせないように出来てるのかもしれません」

「ぜぇ…ぜぇ、そ、そのようね」

地面に座り込んで息を整える私達二人にセルミィは申し訳無さそうな顔で
「二人にどうしても頼みたい事があるの」と訊いてきた


「実は後、二日くらい"この洞窟に"居てもらってほしい」



「へっ」
「と、いいますと?」


じっと、外の方へ目を向けたままのセルミィは言う

「勝手なお願いだと思うけどお願い…」


「理由を御聞かせ頂けますか?」


「私が此処で"技術"の材料を集めてるのは話したよね?」

「ええ」
「お聴きしています」

「この時期…もっと言うと、今日から二日以内じゃないと絶対に
 手に入らないモノがあるの、それを回収しなきゃならないのもあるし
 それに…」

「それに?」


「…ううん!なんでもない、とにかく二日くらい此処に居てほしいの
       本当なら早く帰してあげたいけど、その…ごめんなさい」



  嘘偽りは無く、セルミィは本当に申し訳なく思っていたのかも




頭を下げて頼み込むセルミィに止むを得ない事情があるなら仕方ないと
読書家は妥協、私は…本当なら一刻も早く出たいけど
何だかんだ言って、此処まで来れたのは彼女のナビゲートがあったし
 そもそも、彼女が居なければ底なし沼の時点で私達は詰んでたし

不本意だけど承諾した










こうして、私達はセルミィの帰りを待つことにしたのであった





「くえぇぇ…」



一頭だけ鳥頭を置いてけぼりにして…




408VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/07(月) 15:25:03.87imkgaB130 (4/5)



ここで何故、この一頭が置いてけぼりにされたかと言うと飼い主曰く

「"プックル"は此処でお留守番しててね!」

っとの事よ


「くえぇぇ…」オロオロ


初めの内は主人が自分を置いて何処かへ行ったことに動揺でもしてたのか
同じ場所を行ったり来たりしていたけど
 しばらくすると地面にぺタッと座り込んで目を瞑り眠り始めた
ニワトリは三歩歩くと物事を忘れるらしいけど、この子等はどうなんだ?

「セルミィさんは留守番と言いましたが恐らく、彼女なりの気遣いかも
 しれませんね」


セルミィが出発する前にジョセフィーヌは"プックル"を入れておく"筒"
そして、お世話の仕方を教わったらしい

約二日間、同じ場所…密室と言う訳ではなく、出ようと思えば外には
出れるけど、わが身の安全を考えれば、あまりソレはしたくない

結局の所、狭い空間でとーーっても長い時間、暇を持て余す訳よ

それで"プックル"は遊び相手、護衛
といった形で"留守番"係に任命されたらしい

食料はセルミィから貰ってるし、そうでなくてもジョセフィーヌが余裕で
一ヶ月は暮らせる程度に[おおきなふくろ]に収納してるらしい

それと別で、鳥頭用にトウモロコシとショーユを貰ってる

できる暇つぶしは鳥の飼育と読書家の本でも読むことくらいかしら


「くぅー」


入り口の端から端っこまで隙間無く巻物が広げて置いてあるせいで
鳥頭は出たくても洞窟から出れない、また、外部から入り口経由で魔物が
入り込む恐れも無い


「洞窟の壁とか破って来られたらどうするのかしら」ボソ


少しばかり不安に思った事を呟くけど隣で本を読んでた読書家に
壁の厚さ的にそれは無いと断言される、仮にあっても"その為に"鳥頭が
留守番しているのだと諭される


比較的に空が見える地点、空には無数の星が見えていた
街の街灯とか人工的な光とは全く無縁な状況じゃなきゃ拝めない景色

私も未熟かもしれないけど冒険者の端くれで、こういう光景を見れるから
街を出て旅をするのは好きだった

今回は色々とアクシデントがあったけどね…


「さてと、……あれ?」

二人と一頭で焚き火を囲みながら、それぞれ読書、睡眠に浸る中
私も暇つぶしで母様から頂いた宝の地図を見ようとした

そして気がつくのだった



「…っ! ……っ!! 無い! 無い無い無い、無いッ!

     母様から貰った宝の地図が…無い!」




409VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/07(月) 15:58:34.80imkgaB130 (5/5)

*********************************
>>402 『乙』よ…>>1を導いてくれ!

>>403 それに賛成だ!(CVバーロー)

>>404 大変申し訳ありません、ですがその分主人公も空気化されており
    何卒、お許し頂けないでしょうか?



※"プックルだけ"が洞窟内でジョセフィーヌ等と待機している状態です
"ゲレゲレ"はセルミィが乗ってますし
もう一頭は諸事情で連れて行きました

判り辛い内容で失礼致しました…
*********************************


410VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/08(火) 19:50:40.28YtQovsqA0 (1/1)

2日かけて追い付いた…




411VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/08(火) 20:06:59.02rMZOkfX6o (1/1)

聖域ってちょっとエロいよね
乙!


412VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/08(火) 22:12:11.32Ne46eyhx0 (1/1)




413VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/19(土) 19:11:31.43IBzCCoF/0 (1/1)

まだかな


414VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/19(土) 21:35:27.82HjAlHjeX0 (1/4)


突然大声を上げたからだろう、ぐぇ!っと鳴きながら飛び起きる鳥頭
何事かと顔を顰めて私の表情を窺う読書家

「…っ!何処にも無い! …! あの時に落とした!?」

荷物、衣服のポケット、果ては地べたを這って宝の地図を探す

ええ、あの[火炎草]畑で落としたんだろうと気がついたわ
気付いたけど身近な所を探すのを止めない
 私は宝の地図を安全じゃない所に落としてきちゃいました、なーんて
認めたくは無かったから
人間、頭で理解してても心で受け入れたくないモンなのよ

「如何されましたか?」

「ぎゃぁー?」

「…地図を …宝の地図を落としたのよ」

声に力なんて無かったわよ
ただそれだけ、単純、明確に何があったかを一言で伝えたわ

「…例の宝物の地図、ですか?」

「ええ、多分、あの変な草が生えてた所だと思うのよ」

私はふっと、ジョセフィーヌの隣にいる鳥頭を見て


「今から、"プックル"に乗ってあの場所まで行けないかしら?」
「駄目です」


即答だったわ

「セルミィさんが帰られるまでは待機、落とした場所に
 おおよそ検討が付いているならば尚更です」

彼女が戻られたら、取りに行けないか交渉する、それが無難でしょうと
ジョセフィーヌが言う、でも私は居ても立ってもいられやしない!

「あくまで"かもしれない"なのよ!本当にそこに落としたかも分からない
 だから、確認の為にも行かせて頂戴!」

「だったら尚の事、行かせる訳には行きませんね
 コレと言って急いで回収しなければいけない理由も無いのです
 確実かつ安全の為にもセルミィさんを待ちましょう」


正論だった

ジョセフィーヌと私はほぼ同い年だ
そんな彼女と私では決定的に違う点があった、それは…


「命あっての物種という諺もあります、一枚の地図に…
 そもそも、本当に実在するかも分からない宝の在り処が示された地図に
 命を賭けるのはあまりにも…」

「…ッ!」



彼女と私で決定的に違っていた点



「アンタ何が言いたいのよ!あの地図が何の価値も無い紙っきれだって
 言いたいのッ!!」

「いえ、私が言いたいのは――」

「アレは…母様がッ
         お母さんが私にくれた…形見の品なのよッ!」


彼女と私で違う点…ジョセフィーヌはあくまで "冷静"に"論理的"に

私はその逆…"直感"や自分の気持ちで"感情的"に動こうとするタイプだ


415VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/19(土) 22:19:30.25HjAlHjeX0 (2/4)


ドーム状の洞穴に私の声が響く
鏡なんて無いけどこの時の私は多分、酷くみっともない顔をしてたかもね
涙が止まらなかったんだもの




嫌に静まり返ったわ…




目の前にいる読書家は何も口を開かない
ただバツの悪い顔をしていた
 母様から貰った手紙である事は言ったけど、形見であるとまでは
言ってなんていなかった
 気不味い空気が漂っているのがよく分かる


「…」
「…っ …っ」ポロポロ


すごく小さかった

私が本当に小さい頃に母様は私を連れて国を出て、ちっぽけな田舎に来た
ぼんやりとだけど、覚えてる
 父親なんか居なくって、女手一つで育ててくれた

雨漏りも酷くて風で窓がガタガタなるような家だったけど
母様と一緒だから何一つ辛くは無かった…


そんな母様が亡くなられる前に私に遺していたった大切なモノだ


綺麗な装飾の筒に入れて、何時だって肌身離さず大事にしてた地図

一生裕福に暮らせる富があるだとか、そんなことはどうだって良かったッ

ただ…

  ただ…


母さんが遺したモノを"何の値打ちも無い紙っきれだった"と言われる事が
堪らなく嫌だった

 まるで、それを生涯大事にした母さんが "そんな人間だった" って
言われてるみたいで、すごく嫌だったんだ…

ジョセフィーヌに悪気なんて無かった…頭では解ってるわよ
でも心は受け入れない、心は叫びを上げるだけだった








結局、その後、ジョセフィーヌと私は一言も話す事無く
就寝に就いた…仲直りもできないままで…


―――
――


ぎゃあぎゃあ

      ぎゃあぎゃあ




樹海に迷い込み二日目、現地の怪鳥達の鳴き声をモーニングコールに
気分の悪い目覚めを迎えた、木々の隙間から僅かに見える朝日を拝み
私はため息を吐き出した


416VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/19(土) 22:51:42.47HjAlHjeX0 (3/4)


私が目を開けた時、ジョセフィーヌは既に朝食の用意をしていた
朝食の支度といっても焚き火で保存食を適当に炙ったり煮詰めるような
簡素なモノだったけどね

彼女が私の分の朝食を手渡し、私は黙って受け取る

無言

一言も会話の無い食事

食べてもいないのに、胃に何かが詰まるような感覚を覚えながらも
食事を水と一緒に食道へ流し込んで食事は終了

暇つぶしで出来る事なんて、鳥の飼育か本を借りて読書…


誰に借りれる?


必然的に私がやれる事は、無意味に空を見上げている事か
トコトコ歩いてた"プックル"の顔を拾った木の枝でつんつん突っつく位だ

「くぇー…くぇー…」トテトテ

相変わらず、何を言ってるのか分からない

ただ膝を抱えて体育座りしてた私に擦り寄って何か言ったり
仕返しなのか何なのかくちばしで肩をこんこん突っつく鳥頭

…絶妙な力加減で肩のマッサージっぽいわね


「…私に構ってったって面白くないわよ、焼きトウモロコシをくれる
 彼女の所にでも行きなさい」

手でくちばしを払いのけ、洞穴中心の焚き火付近で読書をしてる彼女を
指差す、どうでも良いけど火の近くで本を読むってどうなのかしら


「きゃあきゃあ」フルフル


「…だから、何を言ってるのか解んないってば」

「くれぇー」グイッグイッ

器用に私の服の袖を咥えてグイグイっと引っ張ろうとする
主に洞穴中心の方に向かって

「…」

私はセルミィとは違って魔物が何言ってるかなんて理解できないし
コレは単なる思い過ごしかもしれない
"プックル"は私とジョセフィーヌに仲直りしろとでも言いたいのだろうか

「くぇー」グイグイ

「止めてってば、服が皺になるでしょ!」

一応、コレはジョセフィーヌに借りた服だからね
くちばしを手で払いのけてしばらくすると「くりぇー…」と
弱弱しく呻りながら鳥頭はトボトボと私から離れて行ってしまった
何処となく哀愁を漂わせる後ろ姿だったわね


(…仲直り、か)


彼女は悪気なんて、無い

理解してるけど、声を掛け辛い、なんて言えば良いの?
どう切り出せばベストなの? どんな顔して言えばいいの?

ひょっとしたら、向こうも同じ事を考えてるかもしれない

(…なんれにせよ、どの道謝んなきゃいけない、わよね?)

とりあえず、声を掛けよう、まずは相手に向き合おう、私はそう考えた



417VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/19(土) 23:39:41.78HjAlHjeX0 (4/4)

*********************************
>>410 数日使って読んで頂けるとは、ありがとうございます

>>411 漢字が苦手な小学生の頃トルネコのダンジョンで白紙の巻物に
   「せいいき」って書こうとして違うモン書き込んで
    モンスターハウスで死亡したのは良い思い出

>>412 抱きしめたいなぁ!・・・『乙』!

>>413 お、おぅ…丁度、今日投下しようと予定しておりました
    なんという預言者…ッッッ!>>1、驚きを隠せないッッ!


可能なら明日また投下したいですが、リアルが少々厳しい>>1です
ヴァージニアさんとジョセフィーヌさんがギスギスする回ですね

すごく くうき わるい です。

何とかしてセルミィさんに早く帰ってきてもらわねば…!(使命感)
*********************************
>>[火炎草] 【トルネコの不思議なダンジョン】より

飲むと(どういう原理か不明だけど)口から火を吹けるという謎の草

胃液で化学反応が起きて発火するのか?

岩や鉄の塊である[動く石像]や[さまよう鎧]を蒸発一撃で葬る熱量の火を
吐いて何故トルネコは無事なのか?
そもそも、そんなモンを(餓死を避ける為とはいえ)躊躇なく口に入れる
トルネコの神経はどうなってるのか?
 ダメージはおろか胃や口内に火傷一つ負わないトルネコは
人間止めてるんじゃあないのかとか

トルネコの七不思議の一つを生み出すアイテムである



>>[聖域の巻物] 【トルネコの不思議なダンジョン】

トルネコシリーズにおいてコレにお世話になるプレイヤーは多く、特に
モンスターハウスで床に敷く前に転んで、泣きを見るプレイヤーは多い

あれ? おかしいな、画面が涙で歪んで見えるぞ?
*********************************


418VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/20(日) 00:00:14.54TpoLvWfe0 (1/1)

流石に「なんれ」は無いぜヴァージニアさん……
乙!


419VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/20(日) 17:58:12.323Z43AZlso (1/1)

乙!
聖域を貼り付けて使い終わったら水をかける
そして再利用すばらしいリサイクル


420VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/20(日) 21:45:11.13KLsydrV60 (1/3)


意を決したように私は立ち上がった
仲直りしようとするだけだってのに、なんでこんな緊張すんだろう

「あ、あのさジョセフィーヌ」

「はい」ペラッペラッ

彼女に歩み寄りまず、声を掛けた

「その、怒鳴ってごめん」

ペラっとページを捲る音が止まる
彼女は顔を上げた、眼差しは手元の紙面から私へと移っている

「いえ、知らずとはいえ無神経な発言をした私にも非があります」

「そ、そう?」

「そうですね」




「「…」」





…会話が途切れたわ

「あ、あー、あのさ、今アンタが読んでるのってどんな本なの?」

「これですか?[エジンベア]の童話ですよ」

「[エジンベア]の?」

「はい、ナジミさんが(どんな手段を使ったか知りませんが)その昔
 入手したモノでしてね、暇つぶしを兼ねて読んでいるんですよ」

「へぇ」

まだ会話はぎこちないけど、さっきまでのお通夜みたいな空気よりかは
幾分もマシに感じるわね

「その童話ってどんな奴?ジャンルは?」

「まぁ、大雑把に言えば冒険譚でしょうか?
 空を飛べる子供が海賊と戦う話ですね」


「…あっ、ぅ」


「…?」

ジョセフィーヌの話を聴いて、また昔の事を思い出した

独りでベッドに寝れない時に母様と一緒に眠った事
よく子守唄やよく話してくれたお話もそんな感じの物語だったっけ?

今は地図の件を思い出すから
あまり母様の事は思い出さないようにしたいんだけどね…

「ヴァージニアさんもどうですか?
 [エジンベア]と言えば半鎖国状態の国ですからね
 興味があっても触れる事の出来ない物珍しい異文化に触れてみます?」

「いや、私は遠慮するわ、なんか気取った感じで気に入らないって噂が
 絶えない国だからね…」

「…気取った感じで気に入らないという点に関しては同意ですね」

そんな感じで私と彼女、あと時々、相槌を打つように「くえー」という
鳥頭とで何気ない会話を続けていった




421VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/20(日) 22:56:50.71KLsydrV60 (2/3)

会話はあまり弾まなかった…単なる私の思い過ごしかもしれないけど
自分の思いつく限りの一番楽しい話題を振っても
読書家の反応はなんだか素っ気無いように感じる


(なにさ、まるで興味が無いみたいじゃないの…)


正直な話、へこんだわね
彼女と仲直りはしたいと思うけど結局これといって良い方向に
進展はしなくて、半ば私は不貞寝のような形で眠りに就いた


相手は私をどう思ってくれてるか分からないけど
私はまだ少しだけ…彼女との空気は気不味いモノだと思う


まどろみに意識を沈ませながら私は考えてた

"歩いてでも行ける距離"  "魔物があまりいない周辺"

懲りない奴だと呆れられるかもしれない
「馬鹿でどうしようもありませんね」と罵声でも飛んでくるかもしれない
それでもあの地図だけは何が何でも絶っっっ対に回収したかった

良くない考えだとは分かってたけど、悪魔の囁きを振り切れない




  ジョセフィーヌにばれない様に洞穴を抜け出して
       地図を取りに行ってしまおう


*********************************
**************
*******

「グエー」ドドドドド

「くえー」トットット

 青葉生い茂る道を踏みしめる音と共に二頭の足音が樹海に鳴る
時は数刻遡り、読書家とお転婆娘が喧嘩をする少し前のこと

「…この先から独りだけど大丈夫?"ボロンゴ"」

「くえー」バッサバッサ

長いサイドテールを揺らしながら彼女、セルミィ・グランパニアは"友"を
心配そうに見つめていた
 そんな彼女に対して"彼女"は羽を撒き散らしながら「大丈夫」と
彼女だけにしか解らない独特の語源で告げる

「ぎゃー」

「きゃあきゃあ」

「ぎゃぁ…」


三頭の中で最年長で先輩でもある"彼"は、これから主人の元を離れて
一頭で人里まで駆ける"彼女ことボロンゴ"に激励の言葉を掛けた
 感謝の言葉を返し、静かにそれを受け取る"ゲレゲレ"…

今、この場に置いて彼等の会話を解することができるのは人間は唯一人だ

「頼んだよ"ボロンゴ"」

その人間の頼みを受け"ボロンゴ"は走り続けた、目的は唯一つ
 我が主が、敬愛して止まない"人間の友人"を人里まで迎えに行く為だ

昨日、遺跡で一晩を明かす際に主人は
"ある手段で予め人間の友人に伝えていた"、早ければ今日中には迎えが
到達すると

魔物である"ゲレゲレ"達でも見る事は叶わず、されどサイドテールの女は
目で"視える"らしい、遠く離れた地にいる友人が迎えが来る事に対して
OKサインを出している姿が…!



422VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/20(日) 23:46:57.82KLsydrV60 (3/3)


セルミィが読書家とお転婆娘を洞穴へ置いてきたのには理由があった
 まず、彼女が本来この樹海に来た理由――すなわち素材の確保である

ある特定の時期、それも少量、採取できるかどうかも定かではないソレは
この樹海に… 否! 世に一つだけの存在からしか採れない




            [世界樹]




毎年、彼女は其処へ行く、そして"一枚でも落ち葉が無いか"探す
だが今日まで生きてきて未だに一枚も発見できた例が無いのだ

コレに関してはセルミィも"セルミィの友人3人"も半ば諦めており
それよりも[世界樹の雫]を採る方がメインとなっていた

素材の確保、"4人が分担する中で1、2を争う危険な役割"だが
セルミィが一番適材であり誇りも持っている

二年ほど前だったか… セルミィが入手してた[世界樹の雫]のおかげで
 "[シルバーデビル]に襲われた一般人を助けられたという出来事"があり
それもあって彼女はこの役割に誰よりも積極的に関わる



必然、樹海の事にも詳しくなっていった



さて、ようやくジョセフィーヌ等を置いてきた二つ目の理由が語れる…

今しがた説明した通り『必然、樹海の事にも詳しくなっていった』のだ
 樹海の専門家はこれまでと明らかに違う違和感を感じていた

"魔物同士の縄張り争い"…コレに至っては対して珍しいモノではないが
今回の件はおかしい

[マッドオックス]…本来ならば樹海よりも南下した地域にいる彼等の群れ
ヌシと思われるモノまで一緒に北上してる事

そして、そのヌシに傷を負わせたのが[グリズリー]という事

本来、ならばテリトリーに入るか興奮状態でもない限りは
此方が刺激しない限り彼等は戦闘行為を行わない

[マッドオックス]がうっかり彼等のテリトリーにでも入ったのなら解る
だが、群れを率いるヌシともあろうモノがそんなヘマをやらかすか?

それにここ数日、樹海を"目で見渡して"セルミィは自分の脳内にある
魔物生息マップと今の樹海の状況を比較した

"ゲレゲレ"達に跨り、高速移動中も木々や地面をよく観察していた

去年まで見なかった足跡、別の魔物の縄張りだったトコに
[グリズリー]が食い散らかした木の実の残骸
 去年は誰も手を付けなかった樹木の青葉や幹に歯型がある
多分、縄張りを追い出されたモノ達だ



自分が知らない"何か"が居る

そんな状況で少女二人を連れまわすなどリスクが高すぎる…っ!

そう判断した上でセルミィは"友人"を連れて来させようと考えた
少なくとも"友人"が来ればジョセフィーヌは安心感を覚えるだろうと



…まさか、自分が少し二人から目を離した隙に問題が起きようとは
若干、焦りを感じていたセルミィには予想も出来なかっただろう…
*********************************
**************
*******



423VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/21(月) 00:13:43.84CRmS1uUH0 (1/1)

*********************************
>>418 何<いず>れに…ですよね、よく調べなかった自分のミスです…

>>419 シレンも面白いですよね!





話の都合上、問題を起こすのはお転婆娘と相場が決まってるッ!(偏見)
精神状態が非常に不安定なヴァージニアさんがやらかしてくれそうです




         【補足】

少し触れましたが、ヴァージニアさんはマザコンです

なんかあると度々、母様、母様言ってますし、予兆はありました
実際、女手で身体が弱っていても愛する子の為に頑張るお母さんですし

マザコンこじらせても仕方ないレベルで愛されてました
13才ぐらいまで一人で寝るのが怖くて
「お母さんと一緒じゃなきゃやだー」的な事言いながら
ベッドに入り込むくらいのマンモーニですね

びびり が あんだよ! せいちょうしろ!


【補足の補足】

マザコンの女の子って可愛くね?と訊かれました、皆さんはどう思いで?
*********************************


424VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/21(月) 00:23:16.21yjZDkp9X0 (1/1)

ヴァージニアさん、最悪の事態に陥りつつあるんじゃないか、これ。
乙!


425VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/21(月) 19:47:57.172h/d73uGo (1/1)


可愛いけど僕はジョセ一筋!
お転婆娘はかわいい


426VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/30(水) 14:43:15.79W0QFD4tf0 (1/5)


私は夢を見ていた


 ‐ ねぇ、お母さん

 ― なぁに? 


小さな私と母様が出てくる夢、遠い昔の夢だった


 ‐ どうして、私はお家に帰れないの?

 ― それはね、私達はお引越しをしたからよ ここが新しいお家よ

 ‐ そうなんだ

 ― そうなのよ


ソレは誰が見てもオンボロな小屋だったわ…
雨の日は雨漏りが酷くて、台風なんかが来れば窓枠はガタガタ唸るし
水滴を受け止めるバケツや鍋の大合唱が始まるくらい

母様は自然の恵みが生んだオーケストラねって茶化したりして
縮こまって震える私に勇気をくれたっけ…



 ‐ ねぇ、お母さん

 ― なぁに?

 - 私…まだ眠れないよ

 ― どうして?

 ‐ だって夜はお外も真っ暗でお化けが出そうで怖いから


夜は怖かった
野犬の遠吠え、ひび割れた窓ガラスに映る月の影
オンボロ小屋の壁を突き破ってお化けが入り込むんじゃないかって
子供の頃から夜という存在はどうにも苦手だった


 ― なら、お母さんがついててあげる そうだ 子守唄を歌いましょう

 - お歌を歌ってくれるの!

 ― ええ、私も子供の頃 怖いときは歌ってもらったのよ


   ずっと此処にいるから、傍で歌ってるから、安心してね


いつだって一緒だったんだ


いつだって

いつだって、いつだって

いつだって母様は私と居てくれて

いつだって慰めてくれた…



そんな母さんは…もういないんだって思うと、涙が止まらなかった

―――
――


「夢かぁ…」

「お目覚めですか」ぺらぺら



427VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/30(水) 15:24:13.24W0QFD4tf0 (2/5)






…っと、ここまでね

今、私はこの無愛想な読書家と二人っきりである女性の帰りを待ってた

今から遡って――この二日、三日近くの出来事がこんな感じだわ


…今、読書家は相も変わらず本の虫で、鳥頭は腹も膨れたのか隅っこで
丸くなって眠っている

今なら

今ならば"母様の地図を取りに行ける"…

意を決した私はゆっくりと毛布から抜け出し、音を立てないように
這って出入り口を目指す

ジョセフィーヌから借りたままの衣服、初めから私が所持していた
二本の銀のナイフ、それ以外の荷物は無し

のっそりと進み、セルミィが敷いていった"巻物"の真上を通過した

 そうだ、私はたった今、絶対に魔物が来ない安全領域を抜け出たのだ
この先、命の保障なんて無い
 それでも、それでも!命を懸けてでも取り戻したいモノがあるッ!


―――
――

「はぁ、はぁ、はぁ」ガサガサ

走った、長距離走とは違うペース配分なんて一切考えない様な走り
短距離走でもするような全力疾走だった

立ち上がって小枝を踏んでも音で気付かれない距離まで洞穴を離れて
一心不乱で走る、目指すはあの[火炎草]畑だ

ずっと走り続けるせいか、お腹が痛い
動悸が激しいくらい心臓がバクバク言ってるのが自分でも判った

「はぁ、はぁ、ん…髪の毛が邪魔ね」

長い髪が目に当たる、此処を無事に出られたら、そうね…
ショートヘアーにしてみようかな…、三つ編みおさげも良いかもね

薄暗い夜道、木々の合間を縫うように
苔やらおかしな植物が生えた道を抜けて辿り着く
 …そう、月明かりが指す広場、まるで月光に手を伸ばすように
天を仰ぐようにも見て取れる[火炎草]の大草原

そして…


「あ、あ、あぁっ!」


畑の真ん中、月明かりに照らされて光る白銀の光沢
いつも手に取っていた見慣れたフォルム

そう、母様の形見の品がそこにはあったんだっ!

「見つけた! 見つけたわよ!」ガサガサ

草の根を掻き分けて地図の入った筒へ一直線に駆け寄り拾い上げた
そして、私は筒をぎゅっと抱きしめたわ!







            グルルルウゥゥ・・・



428VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/30(水) 16:38:19.23W0QFD4tf0 (3/5)











ソレは低い唸り声だった


私は…動けなかった、振り向きたくなかったわ

樹海に入ってから、たったの一度だって魔物とは遭遇していない
いや、セルミィの連れてた鳥頭や[ガメゴン]なら遭遇したわよ?

この感じはそのどれとも違う

今は私一人で、そして人懐っこい鳥頭の声でも[ガメゴン]の声でもない
気付けば膝がガクガクと笑ってた、肩が意味も無く震えだしていた

「ぁ…っ、ぁぁ!」

ゆっくりと首を動かす




【止めなよッ!振り向くな!今のは幻聴か何かなのよ!
 夜だから、私の大っ嫌いな夜だからッ!
 私の恐怖心が生み出した幻聴なのよ!?】



【違うでしょ、"居るのよ"!ジョセフィーヌは
 私に散々忠告したじゃないのッ!
 あれだけ言ってたのに無視した私が悪いんだ、これは罰なのよ
 自業自得なのよ、早く後ろを見なさいッ!そこに"居る"のを見て
 すぐに此処から逃げなさいよ!!】



今、自分の中で二つの声がぶつかり合ってる

"振り向きたくない" "これは幻聴だと思いたい"という願望と本能

"振り向いて確認したい" "これは現実だ"という理性ともう一つの本能


私は

私は見てしまった




月明かりに照らされた大きなシルエット
人間のように二本の足で地に立ち、二本の腕がある、ただ違うのは
両手両足に下手な刃物よりも凶悪な鋭い爪が伸びており
 人の背丈を優に超える体格、フサフサで灰色の体毛に覆われた容姿
動物特有の犬や狐の様に突き出た鼻、丸みを帯びた耳は嫌でも
ソレが人外の生命である事を悟らせた


「…っぁ!グ、グ[グリズリー]…」


私が振り向いた時。既に[グリズリー]は目と鼻の先まで来ていたのだ

ご丁寧に腕まで振り上げていて、頭では逃げろと判っていて
脳が身体に危険信号を送っていた、なのに身体は動けない



そして…魔物の腕が私目掛けて振り下ろされた




429VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/30(水) 17:26:49.60W0QFD4tf0 (4/5)

*********************************
**************
*******
ジョセフィーヌ達が待機していた洞穴…

「くえー」

「これは…」

鳥頭に跨った人間が其処へ辿り着いたのはすぐだった





「わーお…こいつぁひょっとすると一歩遅かったか?」

黒コートの旅人、ナジミは迎えに来た"ボロンゴ"に跨り樹海奥地の洞穴に
辿り着いていたのだ!

セルミィの予定通り、親友ナジミは来てくれた
ナジミが来れば、ヴァージニア等は…少なくともジョセフィーヌは大いに
安心してくれるだろうと踏んでいたのだ

しかし、予期せぬ事態が起きていたッ

そう、"居ない"のだ
洞穴で待っている筈のヴァージニアが…


そして、"ジョセフィーヌとプックルも洞穴に居ない"ッッ!!


「…不味ぃな」ザッ

ナジミは直ぐ様、事の事態を察した
何かが這っていた跡(人のモノと思われる)消えた焚き火の周りに
散乱しているのは読みかけのジョセフィーヌの本

黒コートは注意深く付近を観察する

洞穴の壁を突き破って魔物が入り込んだという事はまず、ありえない
唯一の出入り口は自分達が開発した"込める技術"[聖域の巻物]がある
 なにより、焚き火は明らかに人の手で消したモノ…

這った跡は地面に手形や靴の先…それもジョセフィーヌのモノとは型が
違う辺り、恐らく"同行者"のモノと判定

理由は判らないが"何らかの理由"で同行者の少女が洞穴を抜け出し
それに気がついたジョセフィーヌが慌てて、火の始末をして
飛び出して行った…
 焚き火の跡はまだ熱が残っている事から本当に少し前
それこそ5分も前の出来事だったかもしれない

ナジミは瞬時にそう推察し鳥頭に跨る

「クエッ」

「おう、"ボロンゴ"ここまで来ンのに疲れたろうが、もう一っ走りして
 もらうぜ!」

*********************************
**************
*******

「はぁ、はぁ」

「グガァ?」

私はあの瞬間、自分の死を悟った・・・だけど、生きている?




「…はぁっ、はぁっ、なに…をしているんです、か・・・貴女は!」

「・・・ジョセフィーヌ?」

気がつけば私は読書家の少女に押し倒される形で草原に倒れていた



430VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/30(水) 17:58:56.61W0QFD4tf0 (5/5)

*********************************
>>424 ※例えるならダンガンロンパでDVD見ちゃった舞園さんレベル
    違いがあるとすれば支えてくれる人が居れば大丈夫な事ですね

>>425 ファ…! ファンの鑑だ・・・ッッ!!(震撼)


ようやく主人公が来ましたね、後、数分待ってばナジミと合流できたけど
何とも間の悪い事にすれ違ったっという訳です
その代わりと言ってはなんですが
月が綺麗な草原でジョセフィーヌ嬢がヴァージニア嬢を押し倒しました

[グリズリー]の攻撃から助けただけです ふかい いみ は ない。
*********************************


431VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/30(水) 20:21:44.43gUobssLRo (1/1)


こっからナジミも目を背ける濃厚なジョセ×ヴァジが!
待ってたら合流できたけど確実に美味しく頂かれていたのでナイス判断だよなジョセ


432VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/30(水) 23:21:31.90dr+mOxCC0 (1/1)

押し倒された!?(ガタッ


433VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/01(木) 01:43:26.87Z5jBi7LK0 (1/1)

別になじみが押し倒しても良いんだぜ?


434VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/01(木) 06:34:10.78T3L9otsDO (1/1)

ナジミの嫉妬に期待


435VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/05/08(木) 15:55:24.64k3xgd0Ar0 (1/7)


今だ状況を掴めず地面に倒れていた私は読書家に引き起こされて
 そのまま彼女に手を引かれて茂みの方へ走り出す



「グ オ ア ア ア ア ァ ァ ァ ァ ァ !!」



「ひっ!?」
「…っ!」

背後から聴こえてくる咆哮に私は声を漏らす、私の手を引く彼女は顔を
引きつらせながらも足を止めたりはしない

ようやく自分の置かれた状況を理解できたわ

私は読書家に…ジョセフィーヌに救われたのだと

「あ、あ、あぁ、わ、わ"だし…」

今、自分は死に掛けたのだと改めて思い知った
声はさっきよりも震えて、体中から嫌な汗が噴出す

「ヴァージニアさん!足を止めないで!走り続けてくださいッ!!」

背後から地響き響き渡るのが良く分かった、[グリズリー]は4足歩行で
私達に追いつかんとばかりに駆けてくる

我武者羅だったわ、ただ足だけを前に運ぶ、それ以外は何も考えない

そして、茂みまで僅か少しの所で[グリズリー]は私達に飛び掛るッ!




「"プックル"!」



茂み目掛けてジョセフィーヌが叫ぶ


「ぐええぇぇぇぇっ!」ダッ



   ド ス ッ ッ !


「グゴアァ!?」



ジョセフィーヌが叫ぶと同時に自身と私の身を屈めさせた
丁度、その上を飛び越えるように一頭の鳥頭が[グリズリー]の腹部に
タックルをお見舞いしたわ

[グリズリー]と[おおくちばし]そもそも体格差の違う二体の魔物だ
相手と比べ小柄な"プックル"では助走をつけた体当たりでも
図体のデカイ[グリズリー]を吹っ飛ばす程の威力などは無い…



それでも…っ!



「ゴ、ゴオォォ」ヨロ…


"プックル"の一撃を受け、よろける巨獣
此方が勢いをつけて頭突きを繰り出したのもあったけど向こうも同じく
勢いをつけて私達二人に飛び掛った
その結果が空中での正面衝突…

「くえっ!」フフン