374 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:09:48.56Y3thWHrBo (8/28)



 チーム小泉控えテント――

「くそ、いきなり谷リョーコのツモか」

 僕は思わず拳を握りしめてしまった。

「ねえ、弟くん」

「なんですか?」

 不意に三尋木咏が話しかける。

「最近、こうちゃんと打ったことある?」

「打つって、麻雀をですか?」

「当たり前さ。他になにがあるのよ」

「いや、ないですけど」

「前に打ったのは?」

「去年の、春でしたか。もうちょっと前だったかな」

「それじゃあ、わかんないよね」

「え?」

「弟くん。あなたの打ち方はこの一年で大分変わったよね」

「そうでしょうか」

「それは、お兄さんも一緒なんだよ」

「お兄が……」

「まあちょっとは意地があるのかな、あの子にも」

「意地?」

「兄としてか、それとも男としてか。ま、男の考えることなんて女のあたしにゃ
わかんねえけどな」

「……お兄の意地」





   *


375 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:10:32.07Y3thWHrBo (9/28)



 東二局、親はチームキリバナ、青木アイ。

「ポン!」

 谷リョーコは一局目に続き、次の局でも積極的に攻める。

 先が見えているのか、組み立ても早い。

「さあ、どう出る? 小泉さん」

 再び挑発。

 しかし、

「田中さん。それ、ロンです」

 コータローの和了。

「えーと、これは40符の2600点」

「……はい」

 コータローはロンで取った牌を谷に見せる。

「失礼しますよ」

 そう言ってニヤリと笑った。

 以前演じたドラマの登場人物をイメージしながら。

「……まだまだよ」

 そう言うと、谷は手配を崩し中央の落とし穴に流し込む。

(確かにまだまだ……)

 コータローは大きく息を吸って精神を整えた。


376 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:11:24.24Y3thWHrBo (10/28)


 何と言っても次の東三局の親は谷リョーコなのだ。

(あの早攻めは厄介だな)

 仮に打撃力が小さかったとしても、何度も連荘されてはコータローにとっては面倒なことになる。
だから早く和了して親を流したいところ。

(とはいえ、早アガリも結構だが大将のシンジローのために少しでも稼いでおきたい。
今まで兄らしいことは全然してやれなかったし、せめてここで助けてやれれば)

 そうこうしているうちに東三局開始。

「リーチ」

「!」

 味方であるはずの田中ミエコや青木アイですら驚くタイムリーチ。

 これは確実に連荘を狙っている。

(大丈夫、打点は大したことはないはず)

 だが、

「ツモ、三色ドラ付きで6000オール」

「……!?」

 まさかの高打点。

 直撃でないのが唯一の救いだが、これだけの打点だとツモでも十分痛い。

(これは一本背負いというよりも、巴投げってところかな)

 谷リョーコの絨毯爆撃のような攻撃に、会場は一瞬水をうったように静かになった。

 さらに攻撃は続く。


377 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:12:28.11Y3thWHrBo (11/28)


 親の連荘で迎えた一本場、コータローは谷の打牌を警戒して上手く手が組み立てられない。

「ロン!」

 迷っているうちに谷は青木アイを直撃。

 同じ小沢ガールズのはずだが容赦ない。まさに、邪魔するやつはたとえ味方でも排除する、
といった重戦車のような麻雀。

「60符2飜で、5800点」 


《決まったあああ! 谷リョーコ選手! ここで5800点! 中堅戦に入ってから早くも
27000点を突破。このまま突き放すのか!?

 柔道での攻撃力の高さは麻雀でも健在だああ!!》


 実況や観客席の騒ぎとは裏腹に、卓上は静かに進行していた。

(参ったな)

 コータローは自分の下家と上家の顔ぶれを見る。

 田中ミエコ、青木アイの二人はどちらも売りに出される前の家畜のような悲しげな顔をしていた。

 谷リョーコの火力の前に萎縮してしまったらしい。

(まだ東場だというのに)

 コータローは再び息を吸い、耐える。

「まだ頑張るの? 小泉さん」

「諦めが悪い家系なもので」


378 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:13:01.29Y3thWHrBo (12/28)


 そう言うと、コータローは次の配牌に思いを巡らせた。

 そして東三局二本場。

 谷リョーコ、三回目の親。

 何としても止めたいが。

 まだ機は来ない。

「ロンッ」

 三度親の和了。

 とどまることを知らない谷リョーコの攻め。

「親の満貫は、12000点」

 今度は田中ミエコからの打点。

 順番が一つズレていたら危なかった。


《これは強い! 谷リョーコ圧倒的だ。物凄い火力! 

 これはまさに、怒涛の火力と言っても過言ではないでしょう! 圧倒的だあ!》




   *


379 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:13:37.77Y3thWHrBo (13/28)



「おいおい、怒涛の火力ってなんだよ」

 実況の言葉に三尋木咏が反応する。

「本家本元の私がここにいるのに、そんなの使っていいのかね」

 モニターを見ながら咏は笑っていた。

「三尋木さん」

 口元は笑っていたけれど、目は笑っていない。

「こうちゃん。何やってんの? この程度でへこたれるような芸能人雀士に育てた覚えはないよ!」

 咏はモニターに向かって大いに叫ぶ。

「何やってるんですか三尋木さん。ここで叫んでも聞こえませんよ」

「弟くん! 気合だよ気合い。あの腑抜けな兄貴に気合いを送るんだよ!」

「ふ、腑抜けって。一応、僕の兄ですし」

「こんなところで負けたら承知しないんだから!」

「三尋木さん! 落ち着いて!」




   *


380 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:14:11.83Y3thWHrBo (14/28)


 

 試合会場。

「強いですね、谷さん」
 
 ふと、コータローは言った。

「今更謝っても許してあげないのよ」

 と、細い目をさらに細めた谷は言った。

 美少女に言われたらゾクリとくる言葉も、谷の口から出たと思うと吐き気がする。

「でも俺の知ってる“怒涛の火力”は、こんなもんじゃないですよ」

「は?」

「まだまだだって、言ってるんです」

「ほざけっ……!」

 東三局三本場。

 先ほど満貫を放った谷は、今回も高い打点を狙ってくる。

 完全に戦意を喪失した、田中、青木の二人のことを考えれば安い手でも十分なのだが、
彼女は妥協しない。

(そこがねらい目)

 高い手を狙って、必ず勝負に出てくる。

「リーチ!」

 12順目、ついにリーチをかける。

「こちらもリーチ」


381 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:15:01.54Y3thWHrBo (15/28)


 そこで狙ったようにコータローもリーチをかけた。

 直撃が出れば儲けものだが、

「……残念!」

「あら、何か?」と、谷は聞く。

「直撃をしたかったんですけど、ツモです。子の満貫は、4000、2000」

「……無駄なあがきを」

 谷の頬が引きつるのが見えた。

(乗っている時は強いが、攻められると弱いのか?)

 コータローは谷の精神の波を微妙に感じ取る。

 東四局、親は田中ミエコ。

 しかし、この卓に着いている面子はもちろんのこと、外部で見ている観客も立会人も全員、
親の田中が和了するとは考えていなかった。

 谷か小泉か。

 この二人の闘いに注目しいた。

「リーチ!」

 先に仕掛けたのはコータローのほうだ。

「ポン」

 アガリが近いと見たはすかさずコータローの順番を飛ばす。

 天性の勝負勘のなせる業だろう。しかし、それが裏目に出た。

「それ、ロンです」


382 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:15:43.28Y3thWHrBo (16/28)


「な……!」

「5200点」

 ついに谷が放銃した。

 もっと高い点数が欲しかったけれど、今の谷に勝つにはスピードが必要だとコータローは
判断する。

 しかも次はコータローの親。

(勝てると思って勝てるほど麻雀は甘くないけど)

 南一局。

(この牌はいける)

 コータローは自分のペースを取り戻していく。

 決して強くはないけれど、速さと正確さで相手を捉えるのが、本来の彼の打牌。

 芸能界麻雀大会を勝ち抜いた原動力だ。

「ロン! 4800点」

 青木アイの放銃。

 そして連荘。

(親であるうちに稼がしてもらう)

「ツモ! 800オール!!」

 さらに連荘。

(こんなこともあるのか)


383 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:16:14.01Y3thWHrBo (17/28)


 自分でも恐ろしい。

 南一局二本場。

 そろそろ高い点数が欲しいと思ったその時――

「ロン、1300点」

 谷リョーコ、青木アイの点棒を奪いコータローの親を流す。

(これはまさか)

 その時、コータローは違和感を覚える。

 谷リョーコの打ち筋に変化が見れたからだ。

 その時点で変化を感じた者は少ない。




   *


384 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:16:45.27Y3thWHrBo (18/28)



 チーム小泉、控えテント――

「ん!?」

 モニターを見ながら、何かが変わったと思った。

 何が変わったのかよくわからないけれど、確かに何かが変わった。

「お、気付いたかい弟くん?」

 ニヤニヤしながら三尋木咏が言った。

「三尋木さんも気付いたんですか」

「何年プロやってると思ってるんだい」

『ポン!』

 谷が鳴く。

 しかしこの鳴きは明らかに前のように早い手作りを狙った鳴きではない。

 捨て牌も読めない。

「これって」

「うん、明らかに谷リョーコの闘牌スタイルが変わったね」

「そうですね……」

「今までの闘牌が柔道で言えば背負い投げや巴投げみたいな、華麗かつ強力な立ち技を
主体としたものであるとすれば……」

 僕は彼女の言葉をつづけた。

「今の谷リョーコの闘牌は、むしろ泥臭く相手の動きを止める、寝技のような闘牌」

「その通り! やるね、弟くん」

「このままだとこの局は……」

  


 
   *


385 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:17:18.64Y3thWHrBo (19/28)


 流局、親流れ。

《おっとここで、はじめて。この中堅戦がはじまって初めての流局だあー!》

 確かに、先鋒戦では三連続流局なんてあったけれど、今回は序盤から派手な打ち合いで
ほとんど流れなかった。

 そして南三局。

 谷リョーコ、後半戦の親。

(いずれにせよ、こちらは負けている。攻めるしかない)

「それ、ポン」

 谷の鳴き。

 これもあまり意味があるとは思えない。

「……」

 手作りが進まない。

 全体の流れが遅くなった気がする。

 スピード麻雀が、かなりスローな麻雀になってしまった。

 ゆっくり、ゆっくり。

 なぜかわからないけれど、牌が重く感じる。

(どうなってんだこの空間は)

 上手く牌がそろわないまま、再び流局。

「ノーテン」

「テンパイ」

「テンパイ」

「ノーテン」

 親の谷がテンパイなので、そのまま連荘。


386 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:18:08.99Y3thWHrBo (20/28)


「……」

 コータローたちは中央の穴に牌を落とす。

「谷さん」

「何?」

「楽しいですか?」

「何がよ」

「いや、スタイルが変わったなって思って」

「ねえ小泉さん」

「はい」

「残り一分を切った試合で、こちらは技ありと有効を一つずつとっている。
相手は何も取っていない。それで攻めようと思う?」

(柔道の話か)

 柔道のルールはあまり詳しくないけれど、技ありと有効を獲得した状態が圧倒的に有利で
あることはわかる。

 ここで積極的に攻める必要はないだろう。

 勝ちはほぼ確定している。

(だからスタイルを変えた、というわけか)

「それは、勝負師としては正しい判断かもしれない」

 コータローは言った。

「そうでしょう」


387 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:18:50.46Y3thWHrBo (21/28)


「でも柔道家としてはどうなのでしょう」

「知ったような口を利かないで。柔道もしたことないくせに」

「柔道の経験はありませんが。麻雀の経験はありますよ」

「……」

「ウチの親はね、オーラスでトップでも役満狙うような男だったんです」

「バカなことを」

「確かにバカですよ。でもね、面白いですよ。攻めるってのは」

 南三局、二本場――

(連荘を止めようとか、親を流そうとか。そんなことはどうでもいい。とにかく、
自分の麻雀をやろう)

 コータローは腹をくくる。

(他人の作る流れに惑わされるな。俺には俺の打ち方がある。そこを見極めろ)

 大きく息を吸い、卓全体を見渡す。

(ここに、俺の必要とする牌がある)

 そう思い、牌を手に取る。

(考える。走りながら考える。それが小泉コータローの流儀)

 タンッ、とすかさずツモギリ。

 打牌のスピードが上がる。

(普通の麻雀なら逆転はほぼ不可能。役満でもやらない限り)

 素早く牌を組み換え、

(だが、今は後ろに弟がいる)

 そして打つ。




   *


388 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:19:17.92Y3thWHrBo (22/28)



「確かに場を作るのは親かもしれない」

 と、三尋木咏は言った。

「はい」

 僕は答える。

「でもね」

「……」

「それに従うか従わないかは、結局自分次第なんだ」

「自分次第、ですか」

「そうさ。多少痛い目をみても、抵抗して道を切り開く。“あたしたち”の目指す麻雀だよ」

「……」

「こうちゃんは今も、こうして目指しているんじゃないかな。知らんけど」




   *


389 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:19:58.45Y3thWHrBo (23/28)


「リーチ!」

 高々と宣言する。

(たとえ追いつけなくても)

 谷が迷った末に置いたその二萬(リャンまん)を、

「ロン! リーチ一発! 三色にドラもついて跳満!!」

「ぐっ……」

 親への直撃で12000点は大きい。


《ここで収支が逆転! 総合点でもチーム小泉がトップに立ちましたあ!》


「くっ!」

 谷は苛立ちの表情を隠さず、爪を噛んだ。

「今度は私が追う番。せいぜい逃げるといいわ」

 谷がそう言うと、

「何を言ってるんですか」

 コータローは言った。

「僕は逃げませんよ。追ってるんです」

「追ってる?」

「ええ。僕らよりもはるか前を行く人たちをね」

「プロにでもなろうっていうの?」

「いやあ、そこまで大それたことは考えてませんよ。でも、自分の好きな人や尊敬する人に、
少しでも近づきたいと思うのは、普通ですよね」


390 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:20:32.65Y3thWHrBo (24/28)


「……」

 そして南四局、オーラス!

「ツモ! 1000、2000!」

 小泉コータロー、確実な和了でさらに突き放し、終了。


《終りょおおおおおお!!! 先鋒戦で最下位だったチーム小泉が、中堅戦でまさかの
大逆転でトップに躍り出ました!!》


 中堅戦後チーム順位

 1位 チーム小泉    122000点

 2位 チームOZAWA 113900点
 
 3位 チームキリバナ   84900点

 4位 チームレッドパイン 79200点


 中堅戦個人収支

 1位 小泉コータロー 31700点(チーム小泉)

 2位 谷リョーコ   18200点(チームOZAWA)

 3位 青木アイ   -21900点(チームキリバナ)

 4位 田中ミエコ  -28000点(チームレッドパイン)




   *


391 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:21:00.10Y3thWHrBo (25/28)



「だあー! 疲れたあ!」

 控えのテントに戻ってきたコータローはそう言って倒れ込む。

「おめでとうお兄! 逆転トップだよ」

 それを受け止めた僕は言う。

「へへっ」

 そう笑った兄は軽く親指を立てた。

「ったく、情けないね。こうちゃんは。前半やられすぎ」

 小柄な三尋木咏は腰に手を当てて少し怒ったような顔を見せる。

「面目ない」

 ただ、兄はそれを見て笑っていた。

 怒り顔の奥に笑顔が隠れているのをすでに見抜いていたからだ。

 というか、誰にだってわかる。

「よっこいしょ」

 兄を椅子に座らせた僕は、咏に言った。

「兄のこと、頼みます」

「まかせといて」咏はそう言って笑う。

「じゃあ、行ってくるよ」

 今度は皆に向かっていった。

「おう、行って来いシンジロー!」


392 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:21:30.05Y3thWHrBo (26/28)


 兄はそう言って右手を挙げた。

「シンジローさん、頑張ってください」

 しばらく休んで、いくらか元気の回復したらしい花田煌も立ち上がる。

「小沢イチロウなんて、東場で飛ばしてやりなさい」

「はは。それはちょっと無理かなあ……」

 そんなことを喋りつつ、僕は大きく息を吸ってから全員に言った。

「それじゃあ、頑張ってくるよ!」

 いよいよ大将戦。

 この闘いを仕組んだ小沢イチロウとの直接対決だ。

 きっちり落とし前をつけさせてもらうよ。

 そう思い、僕は気合いを入れる。

 しかし、






 大将戦の会場に小沢の姿はなかった。





   つづく


393 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:22:00.49Y3thWHrBo (27/28)




 【次回予告】

 コータローの活躍でトップに躍り出たチーム小泉。

 しかし、最後の闘いの場となる大将戦に、大将である小沢の姿は見えない。

 その代わり出てきた謎の雀士。



「構わん、やれ。あの小僧を討ち取るチャンスだぞ。手段など問うてはおられんはずだ」



 目的のために手段を選ばない、小沢の非情な決断。

 それに対してシンジローは――


 次回、ムダヅモ無き闘い side‐S

 
 第十二話 「最強の代役」



 おたのしみに。


394 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/08(木) 20:22:39.59Y3thWHrBo (28/28)

あくまでメインヒロインは宮永照(震え声)


395VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/11/08(木) 20:38:46.83wV7kQMoQo (1/1)

え、谷亮子がヒロイン?(難聴)


396VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/08(木) 21:44:51.13EjK5GYvGo (1/1)

乙でした


397VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/08(木) 23:37:33.463HPxNYKp0 (1/1)

大丈夫だ、谷も咲絵なら萌えキャラだから


398 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:04:53.35kgIg6d2uo (1/20)

(なんやこの谷リョーコ人気は……)


399 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:05:42.77kgIg6d2uo (2/20)




 第十二話 最強の代役


 小泉シンジローたちが少し前のことである。

 岩手県某所にある小沢イチロウの事務所に、M主党副幹事長の細野ゴーシが訪れていた。

「予定通りか、細野」

 薄暗い部屋で革張りの椅子に深く腰掛けた小沢が、細野の顔を見ずに聞いた。

「はい、幹事長。本日の新幹線で、小泉シンジロー以下三名の雀士が盛岡に向かっております」

「小泉の子せがれだけでも厄介なのに、高校チャンピオンの宮永照と永水OGの神代小蒔まで
引きつれていることも問題だ。どうにかできるんだろうな」

「はい、既に手は打っております。岩手県警にも話を通しておりますので」

 細野は直立不動のまま答える。

「わかっていると思うが、万が一にも宮永たちを舞台に立たせるようなことはさせるなよ」

「はい。ぬかりはありません」

「わしの代役も、用意できているんだろうな」

「はい」

「弱い奴だと承知せんぞ」

「地元、宮守女子高校出身でインターハイ出場経験もある、姉帯豊音です」

「宮守……。エイリスンではないのか」

(知ってんのかよ)


400 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:06:46.00kgIg6d2uo (3/20)


「エイスリン・ウィッシュアートは既に帰国しております」

「そうか……」

 小沢の声が露骨に小さくなる。

「しかし、全国レベルとはいえ、高校を出て数年の小娘があの小僧に勝てるのか」

「その点も抜かりはありません」

 そう言うと、細野はスーツの内ポケットから首飾りのようなものを取り出す。

「ほう……」

 小沢は椅子を回転させ、はじめて細野と向かい合った。

 しかし彼の関心は細野ではなく、彼のもっている首飾りにあるようだ。

「イギリスの魔術結社から取り寄せました。これは有名な錬金術師が生成した代物です」

 不気味な光を発する宝石の付いた銀の首飾り。

 見た目だけでも怪しい雰囲気が満々だ。

「その効果は」

「これは、付けた者の精神に干渉し、脳のリミッターを外すことを目的に作られております。
彼女ほどのオカルト能力の使い手なら、十分強力な打ち手となるでしょう」

「具体的にはどれくらいだ」

「そうですね。国内で言えば――」

「……」

「小鍛治健夜と同等か、それ以上でしょうか」

「なん……、だと?」


401 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:07:12.61kgIg6d2uo (4/20)


「あくまで、目安ですが」

「……わかった」

「あと、これを使うこと問題ですが」

「どうした」

「この首飾りには強度の呪いが付随していますので、使用者の精神に後遺症が残る可能性が
あります」

「……」

「勝利の代償は小さくないかと」

「構わん、やれ。あの小僧を討ち取るチャンスだぞ。手段など問うてはおられんはずだ」

「……わかりました」

「不倫報道の時のようにぬかるなよ、細野」

 そう言うと、小沢は背を向ける。

「了解いたしました」

 細野はもう一度礼をした後、事務所を後にした。 




   *


402 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:07:39.49kgIg6d2uo (5/20)



 岩手県警盛岡東警察署内――

「いよいよシンジロー様の登場ですよ、照さん」

 応接室のテレビの前で、小蒔は両手をぎょっと握る。

「なあ小蒔」

「はい、なんですか?」

「なんか、私たちの出番って少なくないか? 署長、お茶」

「はい、かしこまりました」

 制服姿の警察署長が新しい紅茶を持ってくる。

「そうでしょうか」

「なんか前回も三尋木プロがヒロインっぽかったし」

「気にし過ぎですよ。あ、これはなんですか? 副署長さん」

「小岩井牧場のチーズケーキです、神代さん」

 副署長がそう言ってチーズケーキを用意する。

「まあ、おいしそうですね。照さんもどうぞ」

「うむ」

 署長の持ってきた紅茶を飲みながら照は考える。

(戻ったらなんと言ってやればいいのかな)

 テレビの画面には彼女の仕える政治家、小泉シンジローの顔が大きく映し出されていた。




   *


403 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:08:15.18kgIg6d2uo (6/20)



《ただいま入りました情報によりますと、小沢イチロウ先生は急病のため出席できない、
とのことです》

 主催者側のアナウンスメントに観客席は大ブーイングである。

 それはそうだろう。

 国王の出席しない王国式典などありえない。

《か、代わりの選手が急遽選ばれ、今ここに出てきます》

「ん?」

 僕は顔を上げた。

 そこには。

《で、でかい。そして黒い。この姿には見覚えがあるぞおお!!!》

 司会者の驚きの声。

 それもそのはず。

 二メートル近い長身で、しかも黒の服と帽子を被った女性が現れたからだ。

 それを見た僕も驚く。

「あ……、姉帯豊音さん?」

 今朝、盛岡駅で出会った姉帯豊音その人であった。

 この服装と慎重は見間違うはずもない。

 しかし、

「……」

 彼女は僕の姿を見ても特に何も反応せず、焦点の定まらない瞳を泳がせていた。


404 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:08:49.82kgIg6d2uo (7/20)


 そして胸元には不気味に光る、黒い宝石のついた首飾りが。

 あれはなんだ?

「豊音ちゃん? 何やってるのこんなところで」

 僕は豊音に話しかける。

「……」

「豊音ちゃん。まさか君が」

「やめてください小泉議員。近づかないで」

 警備員が二人の間を割り込むように僕の身体を止める。

「いや、だって。様子がおかしい」

「何もおかしくありません」

「おかしいだろう!」

「……」

《おっと? 小泉議員が何か揉めているようですが、時間もおしているので試合が開始されます》

「豊音さん!」

《ただ今入った情報によりますと、小沢イチロウ先生の代役は、姉帯豊音さんといいまして、

 先生の地元の事務所でアルバイトをしている女の子、ということです。

 彼女は高校時代、全国大会にも出場した経験があるという実力者でもあります》

「……」

 姉帯豊音。

 午前中、麻雀について楽しげに語ってた彼女の面影は、今はもうない。





   *


405 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:09:44.55kgIg6d2uo (8/20)


 盛岡東警察署内、応接室――

「どうして豊音が……」

 テレビで彼女の姿を認めた照は驚愕の声を漏らす。

「彼女の胸元に見えた首飾り、見覚えがあります」

「え?」

 先ほどまでお菓子に夢中になっていた小蒔が、食べるのをやめてテレビ画面に集中する。

「それって」

「遠くからなのでよくは見えないのですが、あれは西洋から持ち出してきた呪いの首飾りの類かと」

「呪い?」

「ええ、精神に干渉する機能を持った宝石を錬金術によって生成し、それを首飾りや指輪などに
したものです。一部の国の法律では禁じられたものですけど」

「何かヤバいのか」

「精神を直接支配する、というのは素手で心臓を鷲掴みするようなものです。
これで悪影響がないわけがありません」

「でも何でそんなものを豊音が」

「よくはわかりませんが、雀力のリミッターを外す作用があるのではないでしょうか」

「リミッター?」

「ええ、よく言うでしょう? 人間は自分の身体や心が壊れないように、頭の中に制限装置(リミッター)
を持っていると。あなたも、私も」

「……」


406 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:10:11.71kgIg6d2uo (9/20)


「ですが、それを外すことによって、その制限以上の力を発揮します」

「その結果、豊音はあんな状態に」

「はい。今、彼女は何者かの支配によって、闘牌(たたか)うだけの麻雀兵器(マージャンマシーン)
になっている可能性が非常に高い」

「署長!」照は叫ぶ。

「は、はい。何でしょうか」

「電話を貸してくれ」

「いやしかし、外部との連絡は」

「貸せと言っているのだ」

 ギュルギュルと照は腕を回転させた。

「わ、わかりました」

 そう言うと、署長は電話を取りに走る。

「小蒔、会場(あそこ)にいる奴で、番号を知っているのはいるか」

「え? はい」

 そう言うと小蒔は手帳を取り出し、ペラペラと頁を捲った。

「シンジロー様は、多分お出にならないと思いますから、会場に直接電話したほうがいいと思います」

「くそ、小沢イチロウめ……!」

 照は奥歯を噛みしめた。




   *


407 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:10:40.20kgIg6d2uo (10/20)




 闘牌会場に入っても姉帯豊音の様子は変わることがなかった。

「……」

 虚ろな瞳は麻雀卓だけを見つめている。

 本当にどうしてしまったんだよ。

 僕は心の中で何度も呼びかけるけれど、届くはずもない。

「豊音ちゃん。僕だよ、覚えてないの」

「いい加減にしてください小泉議員! 失格にしますよ」

 係員の一人が苛立ち交じりに注意する。

 そんなことってあるのかよ。

 僕は右手を握りしめる。

 身体は大きいけれど、小動物のように純粋な濁りのない瞳。

 そして純真な心。

 少ししか話した時間はないけれど、それくらいはわかる。

 単に僕の理想を押し付けた、というわけではない。

 彼女と関わりのあった小蒔も照も、豊音のことを悪く言うことはない。

 僕の言葉が通じないのは、心を閉じているというわけではないようだ。

 だとしたら――




   *


408 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:11:10.31kgIg6d2uo (11/20)




「もしもし」

 祭りの事務所で主催者の一人である鈴木という中年が電話を取る。

 電話は盛岡東警察署から。

「誰からだ?」

 スーツ姿の男が鋭い視線をこちらに投げかける。

 小沢事務所から派遣されてきた秘書の一人だ。

「警察からです」

 鈴木は答える。

「宮永照関連のことなら切れ」

「……わかりました」

 鈴木はそう言うと、適当に話をしたあと、電話を切った。

「……」

「それでいい、小泉シンジローをここで勝たせるわけにはいかない」

「すみません、自分ちょっと」

 電話の受話器を置いた後、鈴木は立ち上がる。

「どこへ行く」

「ト、トイレへ」

「そうか」

 プレハブ小屋を出た鈴木は、すぐに走り出した。

 目的地はトイレではなく――




   *


409 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:11:59.78kgIg6d2uo (12/20)



 チーム小泉控えテント。

 そこではシンジローの兄、コータロー、プロ雀士三尋木咏、そして麻生タロー事務所の
花田煌が試合開始をモニターの前で待っていた。

 そこに訪問者。

「誰だ?」

 最初に反応したのは咏だった。

「はあ、はあ、はあ……!」

 テントの入り口を開けると、息を切らした、少し頭の薄い祭典関係者がいた。

「あなたは確か」と、コータロー。

「麻雀まつりの開催実行委員の一人、鈴木です。先ほどお会いしました」

「我々に何か?」

「つい先ほど、盛岡東警察署から電話がありました。宮永照さんから、
小泉シンジロー先生に伝えたいことがあると」

「え?」

「何とか、試合開始までに連絡が付けば。早くしないと小沢の関係者が」

「!?」

 テントの外で人の気配がする。

「警察署の番号はこれです。すぐに連絡を。宮永照さんたちはそこにいます」

 そう言うと、コータローはメモ紙を受け取る。

「こうちゃん、どうするの?」

「どうするもこうするもないよ。ちょっと行ってくる」カバンから自分の携帯電話を
取り出しながらコータローは言った。

「ファイト!」

 そう言って、咏は扇子を振る。

 それに対し、コータローは親指を立てて答えた。



   *


410 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:12:29.56kgIg6d2uo (13/20)




 試合会場――

「審判、ちょっと待ってください。彼女の様子が」

 僕は豊音の異常を審判やスタッフに訴えて試合を止めようとしていた。

 しかし、周りの反応は冷たい。

「小泉議員。これ以上に試合開始を遅らせると、遅延行為として失格にしますよ」

 審判団の一人は言った。

「いやしかし、彼女の様子。明らかにおかしいでしょう」

 僕は豊音を見ながら言う。

「彼女はアレが普通なんですよ。ちょっと背が大きいだけで」

「身長は関係ないから!」

 その時である。

「シンジロー!!!」

 不意に、聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。

「何をしているですか、戻ってください」

「シンジロー!」

 よく見ると試合場の入り口で、兄コータローがスタッフともみ合っていたのだ。

「お兄!? どうしてここに」

「シンジロー! 受け取れ!」

 そう言うと、バランスを崩しながら兄が何かを投げた。


411 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:13:02.57kgIg6d2uo (14/20)


 あれは、携帯電話。

 僕はジャンプして、その携帯電話を掴む。

 見ると電話は通話中になっていた。

「もしもし」

 反射的に、僕は兄の携帯を耳に当てる。

『シンジローか』

 懐かしい声が響く。

 電話越しにもわかる、照の声だ。

「照! 大丈夫か! 心配してたぞ!!」

『私は大丈夫。今、盛岡東警察署にいる』

「警察署……」

 僕がそう口にすると、先ほどまで兄や僕を抑えようとしていた人たちが急に目を逸らした。

『そんなことより、大変だ。シンジローの対戦相手』

「豊音ちゃんのことだろう?」

『ああ。今、小蒔に代わる』

「小蒔もいるのか」

『もしもし?』

 声が変わった。

 間違いなく神代小蒔の声。


412 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:13:43.05kgIg6d2uo (15/20)


「もしもし、僕だ」

『シンジロー様。ああ、御なつかしゅうございます』

「キミも無事なの」

『ええ。怪我等はありません。それより、先ほどテレビで姉帯豊音さんを見たのですが』

「ああ。何だか様子がおかしい」

『恐らく、彼女の首にかかっている首飾りが原因かと思われます』

「やっぱり」

『テレビ越しに少し見ただけですけど、あれは外国の錬金術師が作った呪いのアイテムです』

「そうなのか。じゃあどうすれば」

『呪いのある道具は無理やり剥ぎ取ると、持ち主に悪影響を与える可能性があります。
もっと別な方法で――』

 小蒔がそこまで話したところで、




「勝てばいいんですよ」





 不意に、後方から声が聞こえてきた。

 何となく癪に障るだと思って振り返ると、色黒で背が高く、そして体格の良い男が立っていた。

 スーツのエリには議員バッチが光る。


413 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:14:33.53kgIg6d2uo (16/20)


「あなたは、細野ゴーシ議員……」

 M主党副幹事長で、一部では小沢イチロウの右腕と言われている細野ゴーシだ。

「なぜあなたが」

「失礼。そこの大きい彼女、姉帯豊音のつけている首飾りについて、少し知っているもので」

「何ですか?」

「アレは小沢イチロウ幹事長の指示でつけられたものです。彼女の雀力を最大限まで高める
ためにね」

「……」

「もうご存知かもしれませんが、その首飾りには呪いが憑いております。

 無理やり引きはがそうとすれば、彼女の精神に重大な障害は出ることでしょう」

「それで」

「おっと。あなたの言いたいことはわかります、小泉議員。この首飾りを外すには、どうしたらいいのか、
ということでしょう?」

「ええ」

 こちらを試すような喋り方が腹立たしい。

「その首飾りは、おそらく麻雀の強さに特化させたものですから、その麻雀で打ち破るのが一番だと
思います」

「じゃあもし負けたら」

「……」

「……」

「わかりません。でも、タダでは済まないでしょう」


414 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:15:45.49kgIg6d2uo (17/20)


「何を言ってるんだ」

「え?」

「自分たちが何をやっているのかわかっているのか!? 女の子にこんなことをやって
許されるわけがないだろう!」

「おっと小泉議員、これは政治麻雀なんですよ。小沢がなぜこのようなことを考えたのかは
不明ですが、政治麻雀が元々命がけの闘牌であることはあなたもご承知でしょう」

「それは……」

「もっとも、議員が負けを宣言して不戦敗になる、と言うのならば話は別ですが」

「なに?」

「ええ。彼女の精神に後遺症が出ない方法で、呪いのアイテムをはがす手立てを、
こちらで考える、ということです」

「それは確実なのか」

「100%とは言い切れませんが、あなたがここで勝つ確率よりは、高いと思いますがね」

「……」

『シンジロー』

 不意に、携帯から声が聞こえてくる。

 そうだ。まだ電話はつながっていたのだ。

「照か?」

『ああ、私だ。話は大体聞かせてもらった』

「そうか。照、僕は――」



『あなたの信じる道を進めばいい。何を選ぼうと、私はあなたに従う。たとえ地獄の底でも』


415 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:17:21.34kgIg6d2uo (18/20)


「……」

『ただ一つ言わせてもらえば』

「なに?」

『悪役に従うあなたは見たくない!』

「そうか」

『健闘を祈る。私たちはテレビで見ているから。今、映ってないけど』

「わかった」

 僕はそう言うと、通話を切った。

「結論は出ましたか」と、細野。

「はい、出ました」

 僕は心を落ち着かせて、次の言葉を発する。

「やります。貴方がたには負けない。そして、姉帯豊音さんも救って見せる」

「結構です。さすがJ民党のエース」

 そう言うと、細野は不気味な笑いを浮かべ、試合場から退場した。

 僕は少し早足で、試合場の入り口に行くと、そこで警備のスタッフに止められていた兄、
コータローに携帯電話を返した。

「ありがとう、お兄」

「シンジロー、やるのか」

「うん。僕は豊音ちゃんを助ける」

「助けるのは彼女だけじゃないぜ」

 と、兄はそう言ってから言葉をつづけた。

「この日本も助けないとな」

「善処するよ」

 僕はそう言うと踵を返し、姉帯豊音の待つ麻雀卓へと向かった。




   つづく


416 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:18:32.99kgIg6d2uo (19/20)



 【次回予告】

 呪いの首飾りで操られてしまった姉帯豊音。

 精神のリミッターの外れた彼女の雀力は強大なものであった。

 彼女の攻撃にどんどんと点数、そして精神力を削られるシンジロー。

 彼女を救うためには、これに勝たなければならない。

 潜在能力をすべて解放した豊音に勝つ方法はあるのか。

 警察署に隔離された宮永照と神代小蒔は、シンジローの勝利を信じて祈る。


 そして死闘の果てにあるものとは。

 次回、ムダヅモ無き闘い side‐S 


 第十三話「黒の鎖」


 岩手編、最後の戦いが始まる!


417 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/09(金) 20:20:09.32kgIg6d2uo (20/20)

AQUAの新装版を買った。いいね。表紙の顔がいいね。


418VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/09(金) 20:53:32.96KOHjXlEJo (1/1)

おっつおっつ
もうどう見てもとよねぇがメインヒロインだな…


419VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/09(金) 20:55:24.491w2+3eXqo (1/1)

乙でした
えーと、メインヒロインのとよねぇが洗脳されたから助ける話だっけ?


420VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/09(金) 20:59:18.677CHg++eF0 (1/1)

いよいよ政局大好きイチローさんが動き出したな


421VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/11/09(金) 21:02:45.45vtmwqPaEo (1/1)

おつ
メインヒロインを洗脳なんて許せんな


422VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/11/09(金) 21:11:46.16f6hEYfdko (1/1)

なお細野の方にもモナの呪いがかかっている模様


423 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:12:55.07HjJZQl69o (1/30)

何度も言うように、メインヒロインは……、いや、もうやめておこう。


424 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:13:37.06HjJZQl69o (2/30)



 第十三話 黒の鎖


《大変長らくお待たせいたしました。いわて麻雀まつりのメインイヴェント!

 岩手杯大将戦、スタートしたいと思います!!》


 アナウンスメントのその言葉に観客席だけでなく祭り会場全体が盛り上がる。

 その影で、どれだけ多くの陰謀が渦巻いているとも知らずに。

 大将戦東一局、起親は姉帯豊音!


 東 姉帯豊音(チームOZAWA)

 南 永江タカコ(チームキリバナ)

 西 小泉シンジロー(チーム小泉)

 北 中村ミエコ(チームレッドパイン)


 僕の対面に座る姉帯豊音の威圧感は半端ではない。

 それは決して、大きな身長や黒い衣装だけのせいではないだろう。

 なんというか、まがまがしい気を感じる。

 これは確か、鹿児島で霊界麻雀をやったときの感じ。

 自分の祖父や先輩政治家が身にまとっていた黒い闘牌気。

 人々の恨みや妬みが具現化したという黒の闘牌気は、近くにいるだけで飲み込まれて
しまいそうだ。

 事実、僕の上家にいる永江タカコや下家の中村ミエコは始まる前からすでに気分が
悪そうであったからだ。


425 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:14:23.96HjJZQl69o (3/30)


 ツモって打牌。

 いつもの麻雀である。

 僕は手配を眺め、可能性に思いを巡らせた。

 大化けする可能性はあるけれども、現在はトップ。軽い手で早アガリして先制のジャブを
食らわせる必要があるだろう。

 何より、敵の出方がわからないのだから、いきなり攻め込むのは危険。

 そう判断して、僕は最も早く和了できる道筋を進んだ。

 しかし、

 その道が塞がれる。

 どういうことだ?

 手が上手く進まない。

 そうこうしているうちに、対面の豊音がリーチをかけた。

 しまった。

 そう思った瞬間である。

「ツモ、親の満貫は4000オール」

 静かに、豊音はそう言って手配を見せる。

「……」

 バカな。

 完璧な打牌。

 そして早い。

「……先勝」

 ポツリ、と豊音は言った。

「え、なに?」

「…………」

 僕は聞き返したけれど、返事はない。
  
 



   *


426 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:15:26.96HjJZQl69o (4/30)




「能力ですね」

 警察署内の応接間でテレビ観戦していた小蒔はそうつぶやいた。

「能力? 豊音の能力か」隣りで一緒に見ていた照は聞いた。

「はい。姉帯豊音さんの能力は、六曜にちなんだものと聞いております」

「六曜?」

「ええ。聞いたことがありませんか? 歴注の一つで、カレンダーにもよく書いてありますよ」

「それってあの、仏滅とか大安とか」

「ええ。そうです。豊音さんの持つ能力はその六曜にちなんだものと言われています。

 最初の東一局で見せた能力はおそらく――」



 先勝


 先んずれば勝ち、遅れれば負ける。


「バカな」

「私も信じられませんけど。この早さとこの打点の高さは能力によるものとしか思えません」

「あの首飾りが関係しているのか?」

 照の視線の先には、豊音の胸元で不気味に光る黒い宝石があった。


427 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:16:13.00HjJZQl69o (5/30)


「確か、豊音さんは公式戦では二つの能力しか使いませんでしたね。友引と先負。
しかしそれは、使わなかったというより、使えなかったと言ったほうが正しいかもしれません」


『ポン』


 豊音が字牌で鳴いた。

 役牌なのでこの時点で一飜ついている。

 そんな中、小蒔は話を続けた。

「なぜ、使えなかったんだ?」照は聞いた。

「人の体力に限界があるように、精神力にも限界があります。ですから、無闇矢鱈に能力を
使い切ることは、その人の肉体と精神に大きく影響が……」

『ポン』

 さらに豊音の鳴き。

「……」

『……ポン』

 三回目のポン。しかも今度のはドラだ。

「小蒔、この能力は確か」

「おそらく『友引』。チーやポンで鳴きを繰り返し、裸単騎にしたところでツモ和了する」

『ポン』
 
「……!」

 ついに裸単騎。


428 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:17:15.70HjJZQl69o (6/30)


 セオリーでは避けるべきと教えられてきた裸単騎の状態で、豊音は待つ。

「シンジロー……」

 祈るような気持で照はつぶやく。

 しかし、

『……ツモ。親の跳満は……、6000点オール』

「はあ……」

 ため息が漏れる。

「能力が強化されていますね。これも呪いの力やもしれません」

「そうか」

「危険です」

「わかっているけど」

 今更どうすることもできない。

 一度卓についてしまえば、どんな雀士も邪魔をしてはならない。

 それが麻雀の掟なのだ。





   *


429 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:17:43.42HjJZQl69o (7/30)





「友引……」

 豊音はそうつぶやいた。

 友引。たしかカレンダーなどに書いてある六曜星のことか。

 最初に言ったのは、おそらく先勝。

 次に友引。

 だとすれば、次の局は順番的に先負?

 先負だとどうなるのだろう。

 負けるのか?

 でもこのままじゃあ負けるのは僕じゃないか。

 なんとかしないと。





   *


430 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:18:19.42HjJZQl69o (8/30)





「まずいな」

 テレビ画面を見ながら照はつぶやく。

「どうしました?」

 小蒔は聞いた。

「シンジローが焦っている。彼は焦ると早く勝負に出る癖があるんだ。私と初めて打った
時もそうだった。悪い癖だ」

「そんな」

「恐らく、今は豊音の連続和了に焦って、自分も早くアガって流れを引き寄せたいと
考えているんじゃないか」

「それは不味いですね。順番から言って次に発動する能力は『先負』」

「先に仕掛けたら負けってことか?」

「ええ。ここでシンジロー様が勝負に出たら」




   *


431 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:19:02.26HjJZQl69o (9/30)



「リーチ!」

 豊音の配牌が悪い。

 そう判断した僕は、なるべく早くに手を組み立てて立直をかけた。

 手はあまり高くないけれども、ここは確実にアガることを優先した格好だ。

 運が良ければ一発や裏ドラも来るだろう。

 だが、

「リーチ」

「え?」

 対面の豊音も立直をかけてきた。

 いわゆる追っかけリーチだ。

 どうして?

 まだそんなに手は進んでいないはずなのに。

 僕は戸惑いつつ、次にツモッた牌を打つ。


「――ロン」


 冷たい一言に僕の精神は打ち砕かれる。

 リーチ一発。基本はピンフだが裏ドラも乗って、満貫。

「親の満貫は、12000点」

「……はい」

 追っかけ立直をした上に、その立直をかけた相手への直撃。

 先に仕掛けたら負ける。

 これが――

「……先負」

 いつものように豊音はつぶやく。


 いまだに東一局が終わらない。




   *


432 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:19:47.59HjJZQl69o (10/30)




「六曜か。厄介な能力だ……」シンジローの放銃を見ながら照はつぶやく。

 インターハイでも二つしか使わなかった能力。

 それを六つフルに使ったとしたら、

「今の私でも勝てるかどうか」

「何呑気なことを言ってるんですか、照さん」

 珍しく小蒔が語気を強める。

「どうした」

「よく見てくださいよ。この能力、明らかに異常です。もし豊音さんがこのまま能力を
使い続けたとしたら」

「……」

「壊れちゃいます」

 小蒔の目には涙が浮かんでいた。

「……すまない、小蒔。私としたことが」

 そう言って照は小蒔の肩を抱き、背中をさすった。

 豊満な肉体とは裏腹に、彼女の骨格は華奢だ。

 巫女服の布を通じて感じる体温から、彼女の悲しみと焦りが容易に読み取れる。

「小蒔」

「……はい」


433 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:20:13.42HjJZQl69o (11/30)


「私は、シンジローを信じている」

「……」

「必ず、救ってくれると」

「でも」

「必ずだ。お前や私を救ったように」

「え?」

「信じよう」

「……はい」

 小蒔は照から離れ、再びテレビ画面を見る。

「でも、次は」

「順番から行くと、次の星はなんだ」

「仏滅です」

「……名前からして禍々しいな」

「仏滅の日は一日中凶とされております。じたばたしないほうが良いのですが」





   *


434 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:21:09.42HjJZQl69o (12/30)




 順番から言えば次は「仏滅」

 どういう能力か見当もつかないが、仏滅らしく僕の配牌は壊滅的だった。

 ここから高くなる手が見えない。

 さっきの手が惜しかっただけに、非常に残念。

 しかし気にしてばかりもいられない。

 気持ちを切り替えて行こう。先ほどのように焦って振り込むのだけはもう勘弁だ。

 親からの満貫直撃は確かに痛かったけれど、そのことが僕を冷静にさせた。

 卓を包み込む禍々しい気も、今は気にならない。

 淡々と局が進む。

 恐らく、他の面子も、豊音を含めて配牌が悪いのだろう。

 だとしたら、焦って勝負をかけたほうが不利だ。

「……」

 静かな流れ。

 このまま流局かと思われたその時だった。

 上家の永江が「西」を切る。

 字牌は大抵序盤に切るので、中盤以降に出てきてもツモギリされるのが普通の字牌。

 それを、

「ロン」

「え!?」


435 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:22:30.80HjJZQl69o (13/30)


「7700点」

 振り込んだ永江も驚く。

 嘘だろう?

 すでに西は二つも捨てられている。

 しかも彼女の持ち牌に西が一つ入っていた。

 つまり、彼女の待ちは単騎で、しかも残り一個。

 完全なる悪待ち。

 普通なら絶対やらないような待ちだ。

「……仏滅」

 そう言って、豊音は自分の牌を中央の落とし穴に流し込む。

 これが仏滅か。

 不幸が一周回って幸福になる。

 ありえない。

「ああ……」

 放銃した永江はショックを通り越して茫然としていた。

 元々豊音の闘牌気に圧倒されていただけに、これはキツイだろう。

 しかし、負けるわけにはいかない。

 小沢に降伏するわけにはいかないんだ。何より彼女のために。

「……」

 次の能力は、順番からいって恐らく「大安」。

 これはわかりやすい。

 滅茶苦茶配牌がいいのだろう。

 下手をすれば天和だってありうる。

 だったら猶更勝ち目がないんじゃ――

 そう考えた時、ふと自分の配牌を見て何かがひらめく。

 少々危険だが、賭けに出てみるか。




   *


436 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:23:25.14HjJZQl69o (14/30)



『リーチ』

 かなり早い段階でのリーチをかけのはシンジローだった。

「はやい!」

 思わず身を乗り出す照。

 焦って前のめりになって、逆襲をくらったのはつい先ほどのことだ。

(シンジロー。さっきの展開を忘れたのか)

 ギリッと奥歯を噛みしめる照。

 しかし、

 一巡したところで彼の動きが止まる。

「これって」

 不意に、シンジローの配牌が映し出された。

「あ、照さん」

「……」

『ツモ、リーチ一発。裏ドラも……、ついて満貫!』

 そう言ってシンジローは牌を公開した。

「どういうことだ!?」

 一瞬何がなんだかわからなくなる。

 どうして、シンジローが和了することができたの。

 それも立直一発で。

 かなりツイている状態。


437 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:24:02.26HjJZQl69o (15/30)


「照さん。これってまさか」

 小蒔が言った。

「は……!」

 そこで照は思い出す。

 現在豊音が発動している六曜の能力は、



 大安――



「そうか、シンジローは大安に乗せたんだ」

「どういうことです?」

「つまり、豊音の能力は彼女自身だけでなく、周りにも影響を与えていたということだ」

「周りにも、影響ですか」

「ああ。実際、さっきの仏滅の時は、豊音だけでなく他の面子の配牌も悪かった。
悪い待ちの中で豊音は和了した」

「ということは今回」

「そう、シンジローだけでなくほかの三人の配牌も良かった。つまり全員が良かった」

「じゃあなぜ、豊音さんが先にアガれなかったんでしょうか」


438 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:24:40.11HjJZQl69o (16/30)


「今回の『大安』は、『先勝』とは違う。早くアガればいいってものじゃない。なぜなら」

 照はもう一度画面を見つめる。

 大きい手が入っていたから、すぐにはアガれなかった。

「そこでシンジローは早アガリに切り替えて、そして見事和了した」

「でも、かなり危険な賭けでしたね」

「仕掛けが一瞬でも遅かったら、危なかったな」

(まったく)

 テレビ画面の中のシンジローの顔を見つめながら、照は大きく息を吐いた。

(大した度胸だ……)



   *


439 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:25:37.94HjJZQl69o (17/30)




「……」

 豊音は無言で牌を崩す。

 その様子を対面から見ていると、中や撥、それに白などが見える。

 大三元、役満だ。これが完成していたら危なかった。

 それはともかく、これで姉帯豊音の親は終わった。

 次こそは反撃。

 東二局。

 親はチームキリバナ、永江タカコ。

 しかし、実質谷とコータローの一騎打ちとなった中堅戦同様、彼女たちに出る幕はなかった。

 注視するのは、もちろん豊音の次の能力。

 六曜の順番から見て、次は赤口。

 これはちょっと読めない。

 確か陰陽道の「赤舌日(しゃくぜつにち)」に由来するもので、いわゆる凶日の一つだ。

 火の元や刃物に気を付けると言われているが、果たして何が。

 僕はそう思いつつ、ふと手に取った牌を見る。

「……」

 それは何の変哲もないソウズである。

 赤いな。


440 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:26:24.02HjJZQl69o (18/30)


 ウーそうやチーそうには、中央に赤い部分が見える。

 もしかして。

 僕はできるだけ、赤い色の付いた牌を切るのを待ってみた。

 すると、

 上家で親の永江タカコが何の気なしにウーピン(ダンゴの5)を切った。

 こいつも、中央のダンゴが赤い。

「ロン」

「え?」

「3200点」

 再び豊音のロン。

「……」

 そこには、中やローピン、チーピンなど、赤い色のついた牌がそろっていた。

 しかもよく見ると全部だ。

 確かに赤い色のついた牌は多いけど、それだけで全部そろえるのは地味に難しい。

 逆に言えば、赤い色を避ければ直撃は避けられる、ということか。

 岩手ルールでは、赤牌(無条件でドラになる牌)はないけれど、もしそれがあったらどうなったことやら。

 とはいえ、これで豊音の能力は全て把握したはずだ。

 六曜の打ち筋はどれも厄介だけど、対策がないわけでもない。

 実際、大安の能力はその特性を逆手にとって一矢報いたわけだし。


441 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:27:02.04HjJZQl69o (19/30)


 さあ、次は僕の親だ。

 この局で六曜は一巡するとしたら、次に来る能力は――


「ツモ、400、800」


 しまったあああ!!

 最初に見た「先勝」だった。

 親番で巻き返しを図ろうとしただけに、そのスピードで足元をすくわれてしまった。

 くっそ、切り替え切り替え。

 僕は心の中で何度も自分に言い聞かせた。

「……」

 目の前の豊音は相変わらず無表情だ。

 そして続く東四局。

「ポン」

 序盤から勢いのいい鳴きを見せる豊音。

 次の歴は「友引」だ。

 大量の鳴きを行い、裸単騎でツモるという何とも奇妙な能力。

 僕は彼女の鳴き牌を見ながら決意する。

「それ、ポン!」

 鳴き麻雀。


442 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:27:28.08HjJZQl69o (20/30)


 付き合ってやるよ。

 一人ぼっちは寂しいだろう?

「チー」

 ふたたび豊音の鳴き。

「ポンッ!」

 追いかけるように僕は鳴いた。

「ぽ、ポン」

 親の中村ミエコもつられて鳴く。

「チー」

 全員が全員鳴くので、もはやツモの順番が滅茶苦茶になった。

「ツ、ツモ」

 そんな中、総得点で最下位だった永江タカコがアガる。

「400、700……」

 得点は大したことないけれど、豊音の和了を止められたことは大きい。

「……」

 僕は再び彼女の表情を見る。

 やはり、変わらない。




   *


443 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:28:11.07HjJZQl69o (21/30)




「そういえば、友引には共同の共に引くという書き方もあるらしいですよ」

 試合の様子を見ながら、不意に小蒔は言った。

「どういうことだ」と、照は聞く。 

「共に引く、ということで引き分けという意味ですね。勝負がつかない、という意味の」

「そうか。確かにそういう展開になったな」

 東四局は豊音もシンジローも、どちらもアガることはできなかった。

 つまり引き分け。

「しかし、次はどうだろう」

「豊音さんの親ですからね」

「だが順番から言えば、確か次は」

「先負です……」

「普通なら、親は積極的に攻めたいところだが」

「……どうなるんでしょう」




   *


444 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:29:17.56HjJZQl69o (22/30)


 どんなに恐ろしい能力でも、あらかじめくることがわかっていたら対策の打ちようもある。

 現在、姉帯豊音の六曜にちなんだ能力はすべて暦の順番に従って発動している。

 先勝の次に発生するのは先負。

 この能力は、先に立直した相手を追いかけるように立直して、ボクシングで言えば
カウンターのように相手を攻撃するもの。

 つまり、先に攻撃したら負け。

 まさしく先負。

 だが、攻撃しないことには勝てない。

 ここで流局になれば流れは変わるか。

 しかしこの後に控える仏滅や大安のほうが能力的には面倒だ。

 何かこちらが仕掛けずに、相手が仕掛けられる方法はないものか。

 理牌をしながら、相手の出方を伺う。

 この技も唐突にやられるとダメージは大きいけれど、すでに来ることがわかっていれば
それほど恐ろしいとは思えない。

 こちらの攻めを相手にわからせないようにしなければ。

 そうなると、

 僕は自分の配牌を眺める。

 ふむ……。

 南一局。姉帯豊音の親は静かに進んでいく。

 先ほどのように鳴きが乱舞することもなく、淡々と時が流れていくのだ。

 よし、テンパイだ。


445 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:30:09.14HjJZQl69o (23/30)


 門前で平和を完成させた。

 リーチをかければ裏ドラも乗って、それなりに行きそうな予感もするのだが、
ここで仕掛けたら、まず間違いなく豊音の能力の餌食となる。

 ならこのまま伏せているほうがいい。

 待ち伏せだ。

 こちらの動きを察知させず、相手の動きを見る。

 積極的に攻める必要はない。

 流局になっても構わない。

「ロン」

「え?」

 思わず声が出てしまった。

 まだリーチをしていないのに。

「2900点」

 豊音は静かに言った。

「……」

 リーチをしていれば、もう少し高くなっていただろうが、彼女はしなかった。

 例えリーチをしていなくても、仕掛けていることにはかわりないのだから、和了することが
できる。

 大した能力だ。

 ただ、打撃力はそれほど高くない。


446 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:31:03.64HjJZQl69o (24/30)


 親の和了なので、連荘で一本場。

 豊音の攻勢は続く。

 次の歴は仏滅。

 この能力の中では、悪い待ちこそ正解。

 つまり、普通ではありえないような牌が当たりになる可能性がある。

 だったらこっちも地獄待ちで対抗するべきか。

 いや、リスクが大きすぎる。

 しかし、通常のやり方で勝てるとは思えない。

 あ、しまった。

 先ほど切った牌とまた同じのを引いてしまう。

 くそう。

 豊音の出方が気になり過ぎて、自分の麻雀に集中できない。

 いかんな、これでは勝てるものも勝てない。

 どうすればいいんだ。

「ロン」

「ひっ!」

 そうこうしているうちに、再び豊音のロン。

 永江タカコの放銃だ。

「5800点」

 配牌を見ると、ピンズのカンチャン待ち。


447 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:32:29.47HjJZQl69o (25/30)


 具体的には、ピンズの3と5で待っていた。

 しかも当りのピン4は既に場に三つも出ている。

 これだけ出ていれば、相手も安牌だと思って油断するかもしれないけれど、あまりにも
危険な賭けだ。

 それで和了されるのだから仕方がないけれど。

 差は開く一方。

 そして仏滅の次は、大安。

 既に七万点差。

 最下位とは十万点以上の差がついている。

 絶望的。

 役満を直撃させても逆転不可能状態だ。

 どうやっても勝てるビジョンが浮かばない。

「……」

 “一矢報いる”じゃあダメなんだ。

 勝たないと。

 南一局二本場――

 発動能力は、大安。

 東場で僕は、相手の能力を逆手に取ってツモアガリした。

 今回も上手くいくかわからないけれど、積極的に攻めさせてもらう。

「リーチ!」


448 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:33:05.66HjJZQl69o (26/30)


 ついに来た。

 最低でも満貫。裏ドラがあれば跳満もありうる。

「リーチ」

 え?

 不意に追っかけリーチを仕掛けてきたのは豊音だった。

 これって、さっき発動した先負のような能力か。

 僕は警戒しながら、牌を切る。

 これが当たったら……。

「……」

 反応はない。

 ホッとしながら、次の順番を待っていると、

「ツモ」

「!」

 リーチ一発ツモ。

「8000点オールの24000点」

 倍満。

「……!」

「うう……」

「……」


449 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:33:57.58HjJZQl69o (27/30)


 永江、中村といった二人の参加者はもはや涙目を通り越して幽鬼のようになっている。

 豊音の持つ総得点はもうすぐ二十万点を越えようとしている。

 圧倒的な火力。

 そして支配力。

 これが六曜の能力をすべて解放した彼女の力。

 どうすることもできない状況に苛立ちは募る。

 でも、

「……」

 もう一度、僕は豊音の顔を見た。

「……!?」

 彼女の虚ろな目から流れ出ていたのは――



 涙


450 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:35:11.87HjJZQl69o (28/30)



 泣いているのか。

 どうして?

 いや、当たり前か。

 心を操られて嬉しい者などいるはずもない。

 僕はさらに精神を集中させる。

「あ……」

 思わず声が出た。

 彼女の背後を漂う、黒の闘牌気が少しずつ形になって行く。

 あれは……、鎖?

 彼女の身体には黒い鎖が幾重にも巻かれ、それが周囲に縛り付けられて
身動きができない状態になっていたのだ。

 これが呪いだというのか。

 ただ、豊音はそんな鎖の存在も、瞳から流れ落ちる涙も気にする様子もなく、
淡々と牌を並べていた。





   つづく


451 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:35:58.42HjJZQl69o (29/30)




 【次回予告】

 六曜の能力をすべて解放させて闘牌に挑む姉帯豊音。

 その圧倒的な闘牌力に、シンジローは何とか対抗しようとするも、ズルズルと点差が
開いていく。

 そんな時、彼は豊音の精神を縛る謎の黒い鎖を見た。


 呪いによって蝕まれる豊音の心と体。

 闘牌の中で彼女の精神世界を垣間見たシンジローはどうするのか。。


 そして彼の闘いを見つめる照は何を思う。

 次回、ムダヅモ無き闘牌 第十四話「解放」

 激闘の岩手編、ついに完結!


 みてね。


452 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/10(土) 20:38:07.56HjJZQl69o (30/30)

なぜ、小沢イチロー(ムダヅモ)ではなく「小沢イチロウ」にしたかというと、一部の圧力に筆者が屈したからです。




???「“あの人”の名前を汚すことは絶対に許さない。絶対にだ……!」

※ プライバシー保護のため、名前は伏せてあります。


453VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/10(土) 20:51:50.38uMUGENWJo (1/1)

乙でした
いったい>>1はなにリンに屈したんだ


454VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/11/10(土) 21:36:44.99wvIWJ63Ho (1/1)

やっぱりホモスレじゃないか(歓喜)


455VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/10(土) 23:34:54.20zdq5MNNAo (1/1)

ホモがメインヒロイン?(難聴)


456VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/10(土) 23:44:23.98Grid+ix20 (1/1)

そっちのイチさんは全盛期なら麻雀も強そうだな


457 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:02:52.27zV+/dtBoo (1/35)

いよいよ最終盤。正直、盛り上がるところってここくらいしかないんだよね。


458 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:03:37.33zV+/dtBoo (2/35)






 第十四話 解 放


 六曜にちなんだ能力を操る姉帯豊音。

 彼女の持つ圧倒的な火力の前に、僕は反撃不可能なほど打ちのめされていた。

 オカルト的な能力を駆使する豊音に対して、防戦一方の僕は、打開策を見いだせず
ズルズルと点差を引き離される。

 一発逆転すら不可能になった状況の中で、僕が見たものは彼女の手足や身体を
縛る黒い鎖であった。

 あれが呪いなのか。

 よくわからないけれど彼女は今、心も身体も拘束されている状態だ。

 そこで僕は気付く。

 対策?

 そうじゃない。

 僕の後ろにはもう誰もいないんだ。

 誰かに頼ることなんてできない。

 彼女を救うためには彼女を倒すしかないのなら、その役目は僕にしかできない。

 現在の得点は姉帯豊音(チームOZAWA)、19万6300点

 そして僕のチームは、9万7100点

 約10万点差。


459 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:04:03.89zV+/dtBoo (3/35)


 残り南場だけでこの10万点差を逆転する必要がある。

「フッフッフ……」

 改めて見ると笑えてくるな。

 半荘で5万点を獲得しなければならなかった、あの霊界麻雀がお遊びに見える。

 やれるのか?

 確かに不可能に近いだろう。

 でも――




   *


460 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:04:53.68zV+/dtBoo (4/35)





「――可能性はゼロじゃない」

 不意に宮永照は言った。

「え? どうしました」

 再び小蒔は聞いた。

「なあ小蒔」

「はい」

「シンジローは……、勝てると思うか?」

 重苦しい胸の中のモヤモヤを吐き出すように照は言葉を発する。

「勝てますよ」

「え?」

 小蒔はきっぱりと言い切った。

 10万点差だ。

 麻雀経験者でなくても、この点差が絶望的なことくらいわかる。

 にもかかわらず彼女は勝てると言った。

「どうして」

「どうしてってそれは、信じてますから」

「信じている?」

「だってシンジロー様は、宮永照が認めた男なんでしょう?」


461 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:05:20.68zV+/dtBoo (5/35)


「私が、認めた……」

 弱気になってどうする。
  
「そうだな」

 照は頷くと、テレビに目を向ける。

「シンジロー。離れていても、私はあなたの傍にいる」

「小蒔もおりますよ」

 そう言うと、小蒔は照に身を寄せた。

 微かに震えている。

 口でははっきり言った彼女も、内心不安なのだろう。

「私たちがいれば、シンジローは勝てるさ」

「はい」





   *
 


462 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:06:02.42zV+/dtBoo (6/35)



「クックック……」

 再び笑いが漏れる。

「ど、どうしました小泉議員。気でも触れましたか」

 恐る恐る永江タカコが聞いてくる。

 そりゃそうだ。いきなり笑い出したら不気味だろう。

「いや、失礼。それにしても楽しいですね」
 
「は?」

「わかりませんか。この世がひっくり返る瞬間を見るのは、楽しいですよ」

「……」

 自分でも何を言っているのかよくわからないけれど、僕は理牌を行った。

 南一局三本場。

 次の六曜の能力は、赤口。

 だが、そんなものはもう関係ない。

 再び僕は精神を集中させた。

 照、少しの間だけでいい。

 僕に力を貸してほしい。

 不意に周りの音が聞こえなくなる。

 まったくの無音の空間の中で、荒野が現れる。

 草木が枯れ果てた、生命の躍動を感じさせない乾燥した荒野。


463 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:06:40.50zV+/dtBoo (7/35)


 その荒野の中心に椅子が一つあり、その椅子に女性が座っている。

 見つけた。

 彼女の名前は姉帯豊音。

 彼女の身体には無数の鎖がぐるぐる巻きにされている。

 大丈夫だよ、豊音ちゃん。

 すぐに助けてあげるから。

 僕はそう呼びかけてから、現実へと戻る。

「リーチ!!」

 そして先制の立直だ。

「……」

 現実(こっちの)世界での豊音は、虚ろな目で卓を見つめたまま。

 先ほど流した涙はすでに乾いていたけれど、流した涙の跡は残っている。

 局はゆっくりと進む。

 僕の立直以降、騒がしかった卓上が一気に大人しくなった。

 僕は今まで、豊音に支配されてきた世界の中で、どうやって抗するかを考えてきた。

 だがそれは間違いだったんだ。

 親父だったら、そして多分宮永照だったらそんなことは考えないだろう。

 なぜならあいつらは、常に場を支配してきたから。

 そうだ。


464 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:07:06.72zV+/dtBoo (8/35)


 ここは僕の場なのだ。

「ロン!!」

「……」

 姉帯豊音への直撃。

「裏ドラもついて、子の跳満は1万2000点!」

 一方的な虐殺の続いた南一局は終わりを告げる。

 これからが本当の反撃。

 そう思った次の瞬間、不意に悪寒が走る。

 どういうことだ?

 流れは確実にこちらにある。

 でも、何かおかしい。

 僕は豊音の顔を見る。

 わからない。わからないけど、今は攻めるしかない。

 次の能力は、先勝なのだから。





   *


465 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:07:47.61zV+/dtBoo (9/35)




 盛岡東警察署――

「風が」

「え?」

「風が少し変わった」

 照はふとつぶやく。

「どういうことですか、照さん」と、小蒔。

「シンジローの流れであることは変わりない。でも、何か違和感が。ここからでは
よくわからないのだが」

「それって、豊音さんの身に何かあったってことじゃあ」

「恐らく」

「……」

「嫌な予感がする」




   *


466 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:08:26.22zV+/dtBoo (10/35)



 南二局。

 ここで和了し、次の親に流れを繋げていきたいところだ。

 次の能力は先勝。

 早アガリでこちらを突き放してくるのは必至。

 でもそんなものは関係ない。

 僕は、僕の麻雀をするだけだ。

「ん?」

 局がはじまってから、僕の中の違和感は更に大きくなる。

 もし、先勝の能力が発動していたら、豊音は瑞原はやり並みの和了スピードで押してくる
はずなのだが、攻める気配が見えない。

 だったらこっちから攻めてやる。

 今の彼女なら、防御も弱いはず。

 ここで一気に――

「ロン」

「え?」

 豊音のロン。振り込んだのは中村ミエコ。

 どういうことだ。

 局中盤以降のアガリ。

 普通に考えたら、何のおかしいこともないのだが、彼女の能力を鑑みると奇妙だ。


467 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:08:54.44zV+/dtBoo (11/35)


 そして、豊音の牌を見て二度驚いた。

 北の単騎待ち。

 しかも、北自体はすでに場に二つ出ている。

 地獄待ち。

 偶然? いや違う。

 間違いなくこれは能力が発動している。

 それも仏滅の能力が。

 どういうことだ。

 六曜が順序よく回っていない。

 ということは、




   *


468 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:09:25.70zV+/dtBoo (12/35)




 一般の人から見れば普通の展開だとしても、事情に詳しい彼女たちには
また違うものに見えた。

「……時間が逆流している?」

 盛岡東警察署の応接間でテレビ観戦していた神代小蒔も、そう言って驚きの
表情を隠さない。


「そんなことがありうるのか」

「わかりません。でも、普通はありえないんです。時間の力に逆らって術を
発動させるなんて。それこそ禁呪ですよ」

「それを使ったとしたら、豊音は」

「借金の上に借金を重ねるようなもの。いや、もはやそんなレベルではありませんね。

 宇宙の法則にすら逆らうのですから」

「どうして、そんなにしてまで」

 


   *


469 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:10:00.73zV+/dtBoo (13/35)




 僕は再び精神世界に潜る。

 鎖に繋がれた彼女の精神へ。

「……」

 そこで見たものは、小さな子どもだった。

 しかし、その髪の毛や雰囲気から、それが姉帯豊音であることはすぐにわかった。

 どうして子どもに?

 僕は近づく。

 しかし、彼女に触れようとしたその瞬間、目の前に大きな壁が出現した。

 時間の逆行?

 それが先ほどの能力順序の乱れに影響しているのか。

 理由はよくわからない。

 だが、彼女の精神がさらに良くない方向へ向かったことは確かだ。

『やーい、やーい。オバケー』

『気持ち悪いんだよー』

『消えろー』

 子供の声が聞こえる。

 男の子だろうか。

 小さい子は残酷なところがあるので、人が嫌がることも平気で言ってしまう。


470 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:10:39.93zV+/dtBoo (14/35)


『魔法つかって見ろよ』

『何なら呪い殺してみろよ』

『気持ち悪い、出て行けくそがあ』

 これは、彼女の記憶なのか。

『うっく……、酷いよ』

 小さいころの、辛かった記憶。

『わたしはただ、みんなと仲良くしたかっただけなんだよー』

《恨め》

 不意に、別方向から声が聞こえてきた。

《憎め》

 腹の立つ声だ。

《怒ればその力がお前の道を切り開く》

『私は、救われる?』

 幼い声の豊音が、藁をもつかむような必死な声で言った。

《救われる。強く恨め》

『でも、私は……』

 闇に染まる……?

「小泉議員」

「はっ!」


471 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:11:05.77zV+/dtBoo (15/35)


 再び現実に戻される。

「早く牌を取ってください。あなたの親です」

「す、すいません」

 僕は牌を並べながら、豊音の顔を見る。

「豊音ちゃん」

 そして声をかけた。

「……」

 相手は答えない。

「憎しみや恨みだけじゃなくても、道は開けるってところを、見せてあげるよ」

 南三局、親は僕だ。

 

   *


472 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:11:34.70zV+/dtBoo (16/35)



「本物のリーダーというものは、どんな絶望的な状況でも希望を失わないものだ」

 照は言った。

「リーダーが絶望してしまったら、ほかの人も絶望してしまいますからね」

 小蒔もそれに続く。




   *



 そう、僕は勝つ。

「ロン! 2000点」

 豊音への直撃。打点は低い。

 だが僕の親は続く。

 南三局一本場。親は小泉シンジロー。

「ツモ! 1300点オール!」

 そして連荘。

 この卓は、僕が支配するんだ。

 南三局二本場。

「ロン! 4800点!」

 さらにロン。

 豊音への直撃は逃したけれど、確実に点数を稼いでいる。


473 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:12:02.11zV+/dtBoo (17/35)



 南三局三本場。

「ツモ、2000点オール」

 他の二人が戦意を喪失してくれているおかげで、僕は豊音との勝負に集中できる。

 南三局四本場。

「逃がしませんよ。ロン、7700点」

 再びトップ直撃。

 だがまだ足りない。

 全然足りない!




   *


474 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:13:18.23zV+/dtBoo (18/35)


《凄い! 凄すぎるぞ小泉議員! 脅威の追い上げ! 驚異的な追い上げだ!

 あの絶望的な状況の中で、まったく諦める気配すら見せません!!》

 司会者の興奮した声が、控えのテントまで届いてくる。

 コータローや煌たちは、自身の疲労も忘れて食い入るようにモニターを見つめる。

「連続和了。これってまるで……、宮永照」

 照との対戦経験もある花田煌は言う。

 それを聞いてコータローは不意に思い出した。

「そういえば、シンジローは、衆院選挙の時に照ちゃんと同じような技を使っていたよなあ。
連続で」

「いや、違うよ」

 コータローの言葉を、隣りにいた三尋木咏は否定する。

「衆院選時の連続和了は、似ているってだけの話だった」

 咏は衆院選時、シンジローの闘牌をコータローと一緒に観戦していた。

「でも、今日の弟くんの闘牌は違う。コピーでもなければ、偶然似ているというわけでもない」

「本物……?」

「弟君はテルリンだけじゃなくて、その技まで自分のものにしちゃうなんて。本当欲張りだねえ」

 咏はそう言って苦笑する。

(笑って済ませられるレベルなのか?)

 コータローはそう思ったが、何も言わないでおくことにした。

 今は、弟の闘牌に集中しよう、そう思ったのだ。




   *


475 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:14:16.37zV+/dtBoo (19/35)



「ツモ、4000点オール」

《ここで満貫! 満貫が出たああああああ!!!》

 シンジローの連続和了で、今までお通夜のように静まり返っていた会場が一気に
沸き立つ。

《信じられない! まったく信じられない!! 親に入ってから南四局。

 ここまで連続和了の回数は実に六回!》


《一時約10万点差がついていたトップとの点差が、ついに二万点台へと迫りました!!》



《この追い上げ!! この和了率。これはまるで、全盛期の宮永照のようだあああ!!!》


 波のようにうねる歓声。盛り上がる観衆。


《さて、このまま小泉議員が逆転してしまうのかあ!》

 
 しかし、

「ツ……、ツモ」


476 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:15:05.62zV+/dtBoo (20/35)


 アガッたのはシンジローでもなく豊音でもなかった。

 最下位だった永江タカコである。

「ごめんなさい。400、800」

「いいんですよ」

 僕は言った。

「勝負ですから」



《さあ、ここでチームOZAWA、16万7400点。チーム小泉、14万5000点ジャスト。

 その差は22400点!! どうですか、解説の平山さん》

《ええ。よくぞここまで追いついた、と言いたいところですけど、これ以上は難しいでしょうね。
次はもうオーラスですし》




    *


477 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:15:35.02zV+/dtBoo (21/35)





「確かに、私があの場にいたら勝つのは難しいかもしれない」

 照はそのことを素直に認める。

 彼女の連続和了は、徐々に点数を上げていくもの。

 一度アガリが止められてしまったら、もう一度低い点数からはじめなければならない。

 そして残された局は南四局のみ。

「だが、あそこで戦っているのは“私だけじゃない”」

「私もいますよ、照さん」

 隣にいた小蒔が笑う。

「うん」

 照は大きく頷く。

「シンジローの持つ固有の能力。それは私には使えない。シンジローだからこそ使える
能力がある」

「その能力とは?」

「見ればわかる」




   *


478 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:16:36.95zV+/dtBoo (22/35)




 南四局。

 最後の局を前に、僕は豊音の背後を見た。

 そこには鎖に繋がれた、姉帯豊音の本当の姿が浮かび上がる。

 絶対に解放する。

 絶対に。

 点差は未だに大きい。

 軽い手で勝てるなんて思っていない。

 それこそ、必殺技でもない限り。

《さあ、長かった戦いも、ついに終わりを迎えます》

 麻雀は静かに進む。

《このままチームOZAWAの姉帯豊音が逃げ切るのか》

 揃った。

《それとも、チーム小泉大将。小泉シンジロー議員が逆転をするのか》

 僕は豊音ちゃんに言いたい。

《どうなるんだああ!!》





 キミは今も一人じゃないってことを。






   *


479 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:17:03.77zV+/dtBoo (23/35)




「シンジロー! シンジロー! シンジロー!!」

 観客席内に湧き起こるシンジローコール。

「シンジロー! シンジロー! シンジロー!」

「おいコラ、やめろ! ここは岩手だぞ。わかってんのか!」

 小沢の関係者がコールを止めさせようとするが、観衆の声は止まらない。

「シンジロー! シンジロー! シンジロー!」




   *


480 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:17:31.62zV+/dtBoo (24/35)




 チーム小泉控室――

「シンジロー頑張れええ!!」

「シンジローさん!」

「弟くんファイトおお!!」

 コータロー立ちもモニターに向かって応援する。



   *



 盛岡東警察署内――

「署長、もっとしっかり応援しろ!」

 照が叫ぶ。

「はい! すいません。シンジロー! シンジロー!」

「副署長さんも応援してください!」小蒔も負けずに叫んだ。

「かしこまりました! 頑張れシンジロー!!」




   *


481 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:18:09.96zV+/dtBoo (25/35)


 鹿児島県 神代家――

「若様頑張っているのですよー」

 かごしまケーブルテレビの麻雀専門チャンネルで、石戸霞や薄墨初美なども応援していた。

「私も若様に会いたかったなあー」

 メガネをかけた巫女がテレビを見ながらぼやく。

「じゃあ今度会いに行きましょうか。小蒔ちゃんと若様に」

 霞がそう言うと、

「やったー。楽しみですよー」

 真っ先に初美が一番喜んだ。

「そんなことより、黒糖……」

 もう一人いた巫女は、特に関心を示す様子もなく黒糖を食べていた。

「しかし、若様勝てますかねー」

 再びテレビ観戦に戻った初美は、少し心配そうに言ってみる。

「何言ってるの?」

 それに対して霞は、


482 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:18:35.94zV+/dtBoo (26/35)


「絶対に勝ちますよ」

 そう言いきった。

「ん?」

「私たちがついてるでしょう?」

「それもそうですね。若様、頑張るのですよー!」

 再び初美は応援に戻る。

「頑張って若様」

 霞も、祈るような気持ちで応援した。

「若様カッコイイなあ」

「黒糖がもうない……」





    * 


483 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:19:12.40zV+/dtBoo (27/35)



 大阪市某大学構内――

「うわ、すごい展開やなあ」

 一人の女子学生が、大学のパソコンで生配信の動画を見ていた。

「ちょっとお姉ちゃん! 大学でニ○ニコみたらアカンっていつも言われてるでしょう!」

 巨乳でメガネをかけた女子大生がそう言って注意する。

「何言うてんの。これニコ○コちゃうで。ニコ生や」
 
「んなもん同じやろう! また先輩に怒られるんやから」

「せやけどほら。今岩手で小泉シンジロー議員が頑張っとんのやで。奇跡の大逆転や」

「シンジロー? シンジローって、あのシンジロー? 国会議員の」

「他に誰がおんねん」

「ウチはお兄さんのほが好っきゃな」

「あー、惜しかったなあ」

「へ?」


484 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:19:38.83zV+/dtBoo (28/35)


「お兄さんのほうやったら、さっき試合しとったで」

「え、ホンマ!?」

「もう終わったけどな」

「なんで教えてくれんかったんよ!」

「大学でニコニコ見たらアカンのやろ?」

「ちょっ、それとこれとは話が別やろう!」

「おっしゃあ、オーラスや」

「話聞いてや!」




   *


485 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:20:05.45zV+/dtBoo (29/35)




 茨城県内にある某一戸建て住宅の居間――

「シンジロー! シンジロー!」

 その家の娘がテレビに向かって叫んでいた。

「ちょっと、何やってんの? 独身続きで頭がおかしくなったの?」

 母親が心配して声をかけてきた。

「あ、お母さん。お母さんも応援してあげて」

「へ?」

「前神奈川に住んでた時、同級生だったシンくんだよ。今頑張ってるの」

「え、ああ」

 母親は洗濯物の入ったカゴを置いて、テレビに向かう。

「シンジロー! シンジロー!」

「シンジロー! シンジロー!」

 母子の応援は続く。





   *


486 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:20:45.74zV+/dtBoo (30/35)





「シンジローの持つ最大の能力は――」

 宮永照は確信する。

「自分を応援してくれる人たちの力を」

 シンジローの手が止まった。

「そのまま雀力にすることができる」

 彼はゆっくりと、牌を倒す。

「それは――」







  希 望 を 力 に
 
 HOPE TO FORCE






   *


487 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:21:32.08zV+/dtBoo (31/35)





 荒野の真ん中で、鎖に縛り付けられた少女。

 その鎖が、今砕かれる。


「四暗刻、役満です……!」



 僕がそう言った瞬間、姉帯豊音の胸にある首飾りの宝石が砕け散った。



 そして静まり返る世界。

 ここまでの静寂が、今まであっただろうか。

 確立を支配し、因果から解き放たれた瞬間。



《決まったあああああああああ!!!!! 大逆転! 

 それも役満での大逆転勝利ああああああああ!!!!》



 劇的な逆転勝利に、会場は大きく盛り上がっている。

 でも、今の僕にはそれよりも気がかりなことがあった。

 僕は席を立ち、対面に座っている大きな女性の前に身をかがめる。

 安らかな寝顔を少し触ると、涙の流れた跡を少しだけ感じた。


488 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:21:58.28zV+/dtBoo (32/35)


「……あれ?」

 ふと、目を覚ます豊音。

「おはよう、豊音ちゃん」

 僕は、なるべく笑顔で言った。

「あれ、シンジローさん。どうして?」

「大丈夫。悪い夢を見てたのさ。さあ、帰ろう」

「……うん」

 僕は豊音の手を取って、試合会場を後にした。

 応援してくれた会場の人たちにも挨拶はしたかったけれど、そんな余裕はなかったのだ。

 正直、前もよく見えていない。



  *


489 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:22:28.08zV+/dtBoo (33/35)


 試合後の警察署内は、何だかお祭り騒ぎであった。

「いやあ、凄かったなあ」

「マジ感動した」

 警察署内にいた警官や職員、はてはチンピラまでも一緒に試合のことで盛り上がっていたのだ。

「照さん」

「ん?」

 不意に小蒔が話しかける。

「帰りましょう。シンジロー様のもとへ」

「そうだな」

 照は頷く。

 興奮する周囲の様子を横目に、照は別のことを考えていた。

(強くなったな、シンジロー)

 小泉シンジローは十分強い。彼女はそう感じた。


490 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:23:10.58zV+/dtBoo (34/35)









「もう、私がいなくても大丈夫かもしれない」










 思わず口に出してしまう。

「え? どうしました? 照さん」

 隣にいた小蒔が聞く。

「いや、何でもない。早く行こう」

「はい」

 照たちは、その後警察の車両で、シンジローたちのいる祭り会場へと向かった。




   つづく


491 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/11(日) 20:24:38.03zV+/dtBoo (35/35)

予告なし

次回、最終回でございます。短い間でしたが、応援ありがとう。


492VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/11(日) 20:28:00.83wkFXmPoIO (1/1)

乙ー

え?最終回?


493VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)2012/11/11(日) 20:29:23.70zNWX8pk8o (1/1)

豊音ちゃんが無事で良かった


494VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/11(日) 20:31:05.46pYIf/7GAo (1/1)

乙でした
強くなったシンジローを見て自ら消えようとするとかやっぱりメインヒロインというより師匠ポジじゃないか


495VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)2012/11/11(日) 23:25:52.59lAOINHC3o (1/1)

むしろ照がいたときの方が少ないのでは


496 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:51:18.50SfktF19zo (1/35)







   最終話 新たなる旅立ち



 自身の権力と権威を見せつけるために行われた「いわて麻雀まつり」の政治麻雀、
岩手杯。

 そこで岩手の帝王、小沢イチロウはJ民党の若手ホープであった小泉シンジローを
潰すことを画策する。

 しかし、細野ゴーシに用意させた小沢の代打ち、姉帯豊音は最終的に逆転負け。

 この敗北は小沢の権威と勢いを大きく失墜させることとなった。

 そして約一か月後、小沢幹事長が裏で操っていた鳩山ユキオ内閣は瓦解する。

 東京都内の小沢事務所。

 ここで、小沢は側近の秘書から報告を受けていた。

「小沢先生。残念ながら、鳩山の辞任に伴い、先生の幹事長職もなくなります」

「次の総理は誰だ。どうせ菅ナオトだろう。あいつもバカだから上手く操ってやる」

 自身の傀儡である鳩山の辞任にも関わらず、小沢はまだ強気であった。

「神輿は軽くてバカがいい、とは言うけれど、鳩山の場合は狂っていた。狂人はいかん」

「先生、そのことなんですが」

「どうした」

「実はM主党側からの通達で、小沢先生への要職への就任は認められない、とのことです」

「どういうことだ?」


497 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:52:07.30SfktF19zo (2/35)


 小沢は目を見開く。

「つまり、権力の中枢から遠ざけられた、ということです」

「バカな! 誰の差し金だ! 誰がアホばかりのM主党に政権を取らせてやったと
思ってるんだ」

「それが……」

「おい、細野を呼べ。次の政権でも、俺は裏で操るぞ。細野はどこだ」

「先生、それが」

「あん?」

「小沢先生を執行部の主要人事から外すよう指示を出したのは、その細野副幹事長です」

「細野ゴーシ、謀ったか……!」

「どうやら細野は鳩山内閣の倒閣にも暗躍したようで」

「くそが……!」

 細野ゴーシ。副幹事長として小沢の政策支えた者の一人で、M主党内では小沢に
最も近い人物の一人と目されていた。

 しかし、鳩山ユキオ辞任後は、小沢から離れ、代わりにM主党内の反小沢派に接近し、
積極的に小沢排除の方針を支持したという。

「くそっ、それもこれも、あの小泉の子倅のせいだ!」

「先生、落ち着いてください」

「うるさい!」

「先生」

「おのれ小泉シンジロー……!」


 その後、鳩山内閣に代わりM主党新代表の菅ナオト率いる菅内閣が成立。

 その菅内閣の状態で、M主党は夏の参議院議員選挙を迎える。





   *


498 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:52:43.73SfktF19zo (3/35)




 政権交代から一年。

 夏に行われた参議院議員選挙はM主党にとっても、また日本にとっても一つの
転機であった。

 M主党政権は首相を鳩山から菅に切り替え、巻き返しを図る。

 その中で小泉シンジローは選挙のために東奔西走した。

 選挙中に行われた政治麻雀では、11勝1敗という驚異の勝率で菅首相をはじめとする
M主党の実力者を一蹴。

 M主党の選挙敗北の大きな要因となったのである。

 結局、参議院で与党は過半数割れ、J民党など野党の躍進もあり、日本は再び参議院と
衆議院との多数派が異なる、いわゆる「ねじれ国会」の時代を迎えることとなった。





   *


499 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:53:32.81SfktF19zo (4/35)



 それから季節は流れ、秋。

 選挙も終わり、この年の正月からほとんど休みらしい休みがなかった小泉シンジロー事務所も
ようやく落ち着いてきた。

「シンジロー様。お茶が入りました」

「ありがとう」

 秘書(お茶係)の神代小蒔が紅茶を持ってきてくれた。

 気のせいかもしれないけど、紅茶の香りからも少し秋を感じる。

「今日は人が少ないんですね」

「そうだね。皆休みが少なかったんで、ここいらで休んでもらってるよ」

 いつもは騒がしい小泉シンジロー事務所も、今日は静かだ。

 思えば宮永照と自宅でたった二人からはじめたシンジロー事務所も、いつしか十数人のスタッフを
抱える大所帯になっていった。

 もちろん、地方の大物政治家の事務所はこれよりも大きいけれど、ついこの間までフリーターだった
僕にとっては、この規模の組織をまとめるのも大変なことなのだ。

「今日は照さん、どこか行かれたんですか?」

 テーブルで羊羹を食べながら、小蒔は聞いてきた。

「え、今日は休みじゃないの?」

「いえ、今朝は普通に準備して、いつもより早く家を出たんですけど」

「ん?」

「だから、どこか出張にでも行くのかな、と思って」


500 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:54:22.04SfktF19zo (5/35)


「僕は聞いてないぞ」

 彼女が、僕に何も言わずどこかへ行く、というのはあまり考えられない(迷子になるから)。

「そうなんですか?」

 ちなみに照と小蒔は、他の事務所の女性スタッフと一緒のマンションに共同で暮らしている。

「どこ行ってんだあいつ」

 携帯電話に連絡しようとしたその時、

「シンジローさーん」

 不意に大きな女性が事務所に入ってきた。

「どうしたの、豊音」

 姉帯豊音。

 岩手で働いていた事務所をクビになったので、現在は僕の事務所で働いている。

「郵便受けにこんな手紙が入っていたんだよー」

「手紙?」

 僕は豊音から封筒を受け取る。

 そこには、やたら丁寧な字で「小泉シンジロー様」と書かれていた。

 裏面は見なくてもわかる。

 照の字だ。

「あいつ、何でこんなことを」

 確かに照はメールを打つのが苦手だ。


501 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:54:53.80SfktF19zo (6/35)


 しかし、手紙を書くことはもっとやりそうにない。

 僕は嫌な予感がした。

「何が書いてあるんですか?」

「照さんどうしたのー?」

 豊音と小蒔が顔を近づけてくる。

 二人も、照のことが気になるようだ。

「ちょっと待って」

 僕は手紙の封を切って中を見る。

「……」

「これって」

 そう言ったのは小蒔だ

「退職届……?」

「ええ!? 何それ」

 突然のことで、豊音は涙目になる。

「落ち着いてみんな。くそ、どういうことだよ」

 僕はもう一度彼女の手紙を読み返す。

 しかしそこには、「辞めさせてください」としか書かれていなかった。


502 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:55:33.25SfktF19zo (7/35)


「あいつ」

 僕は立ち上がった。

「どこへ行くんですか? シンジロー様」

「照を探してくる」

「私も行きます」

「私もいくよー。照さん心配だよー」

「ありがとう。でも二人は事務所で留守番していて。他の人にも連絡して欲しい」

「わかりました」

「わかったよー。気を付けてね」

「ああ」

 僕は事務所を出ると、携帯電話で照以外の人たちに連絡した。

 彼女が行きそうなところはだいたい検討がついているけれど。




   *


503 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:56:23.55SfktF19zo (8/35)



 横須賀市内の雀荘「スカイブルー」

 思えば、彼と初めて会ったのがここだった。

「やあ、照ちゃん。今日は一人。おや、その格好は仕事かい?」

 すっかり顔見知りになったハゲの店長が親しげに話しかけてくる。

 私は彼に挨拶をすると、コーヒーを頼んだ。

「ここは喫茶店じゃねえんだぜ。まあ出すけどよ」

 どうでもいいが、この店のコーヒーは下手な喫茶店のものよりもはるかに美味しい。

「照ちゃん。最近忙しかったみたいだね。滅多に顔出さなかったし。最後にここへ来たのは、
正月だったかな。正月早々雀荘ってもアレだけど」

 久しぶりに来たけれど、相変わらずこの雀荘の人は少ない。

「少ないって、今日はまだ平日だからね。平日の午前中から来るやつはほとんどいねえよ」

 それならなぜ店を開けているんだろう。

「まあさ、この店は一種の避難所みたいなものかな」

 避難所?

「そう、迷える子羊が麻雀牌の音を聞きつけてここに引き寄せられる。ほら、コーヒーお待ち」

 ありがとう。

 私はそう言ってコーヒーを受け取った。

 コーヒーにはあまり詳しくないけれど、インスタントでは決して出せない香りやコクがある
ことくらいは、私にもわかる。


504 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:57:00.55SfktF19zo (9/35)


「若もね。昔はよくこうしてここに来てたよ。色々迷った時なんかは特に」

 迷った?

「ああ、アメリカに留学する前とか、野球を辞める時とか」

 そうなのか。

「若はああ見えて悩むことが多いからな」

 私も同じだ。

「そうかい。照ちゃんもそういうところがあるのかい?」

 ああ、迷ってるよ。

 今も迷ってる。

 私はコーヒーに口をつけた。

 温かい。

 今頃、事務所では私が出した手紙が見つかったところだろうか。

 あれを読んで彼は、何と思うだろうか。

 考えるだけで胸が痛い。

 でもこれでいいんだ。

 私は自分に言い聞かせる。

 彼は十分強くなった。だから私はもう必要ない。

 そして、私が近くにいれば迷惑をかけてしまう。

 だから、私は彼の元を去ろう。

 そして遠くから、彼の活躍を祈っていよう。ずっと、ずっと。


505 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:57:30.89SfktF19zo (10/35)










「ここにいたか」








「え?」

 不意に現実に引き戻される。

 私が振り返るとそこには、息を切らせたワイシャツ姿の彼がいた。

「シンジロー」

「いきなり辞めるって、どういうことだ」

 彼は詰め寄る。

 汗ばんだ額と男臭さが私の胸をさらに締め付ける。

「あの手紙に、書いていた通りだ」

 私はできるだけそっけなく言った。

「何で今更辞めるなんて言うんだよ。折角二人でここまでやってきたのに」


506 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:57:58.25SfktF19zo (11/35)


「シンジローには!」

「え?」

「シンジローには、もう私は必要ない」

「何を」

「これ以上私がいても迷惑がかかるだけ」

「……」

「だから、私はあなたのもとを去ろうと思う。さよなら、シンジロー」

「……」

「私は、いつまでもあなたのことを応援している」

「……」

 しばしの沈黙。

 その沈黙を破ったのは、彼のほうからだった。

「なあ照」

「何か」

「キミの言いたいことはわかった。じゃあ僕から一つ聞かせてくれ」

「……どうぞ」

「照にとって、僕はもう必要ないのかい?」

「……」

「……どうかな」

「その聞き方は……、卑怯だと思う」


507 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:58:50.92SfktF19zo (12/35)


「照」

「必要に決まってるじゃないか! あなたの代わりは、地球上のどこにもいない!」

 ダメだ、とわかっていても抑えきれなかった。

 気が付くと私は、彼の小柄だけど筋肉質の身体を思い切り抱きしめていた。

 彼の息遣い、体温、そして匂いを感じる。

 こんなにも強く抱きしめたのは、鹿児島出張以来だろうか。

「照、僕にとっても君の代わりはいない」

「それって……」

「戻ってこい」

 目の前が歪み、彼の顔がまともに見えなくなっていた。

「あの、シンジロー」

「どうした」

「キス、しよう」

「え!?」

「この展開だと、そうなるのも普通だろう」

 一体何が普通なのかよくわからないけれど、これは大きなチャンスだと私は思った。

「いやいや、気持ちはわかるけど」

「私のことはキライか」

「そうじゃなくて、皆見てるし」

「店の主人(マスター)なら、気を利かせて外に出ている」


508 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 19:59:44.26SfktF19zo (13/35)


「いや、マスターだけじゃなくて」

「へ?」

 気が付くと、入口の影で多数の人たちがこちらを見ていた。

 一応、物陰には隠れているようだが、人数が多いのでバレバレだ。

「……いつからそこにいた」

 私は、一番前にいたシンジローの兄、コータローに聞いた。

「ええと、『シンジローには、もう私は必要ない』くらいから」

「ほぼはじめからじゃないかあ!!」

 私が叫ぶと、かくれんぼが見つかった子どもたちのようにぞろぞろと人が出てくる。

 事務所の関係者だけでなく、個人的な知り合いもいた。

「さっさとキスしちゃえよ、弟くんもヘタレだねえ。もうすぐ三十だろう?」

 三尋木咏。

「これだけ人に見られている状態だと、俺でも嫌ですよ。演技なら別だけど」

 小泉コータロー。

「照さん、辞めるなんて言わないでください! あと、抜け駆け禁止です」

 神代小蒔。

「照さんが辞めるなんて嫌だよー」

 姉帯豊音。

「すばらっ、休みの日にわざわざ出てきた甲斐がありましたね」

 カメラを構える花田煌。


509 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:00:28.28SfktF19zo (14/35)


「いやあ、いいもん見させてもらったのう」

 名前は忘れたけど、広島で会ったメガネ。

「いよお、色男。またフラグを立てちまったのかい?」

 葉巻をくわえた麻生タロー。

「照さん、また麻雀やろうぜ」

 海上自衛隊の隊員。

「ククク……、まるで中坊だな」

 他にも事務所の関係者や雀荘の常連が多数押しかけていた。
  
「皆……」

「なあ、照」

 シンジローはそう言って、私の肩に手を乗せる。

「シンジロー」

「これでも自分は必要ないって、思ってるか?」

「……ったく」

 私は目元を拭う。

 自分にも、まだできることはあるかもしれない。

 なければ探せばいい。

 私は、ずっと彼の傍にいたいのだから――



「よしっ、皆! 聞いてくれ!!」


510 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:00:57.27SfktF19zo (15/35)


 私はこれまでにないほど大声で呼びかける。

「私はシンジローを内閣総理大臣ごとき地位で終らせたりはしない」

「ええ?」

 そう言うと、当のシンジローだけでなく周りにいた全員が驚いた。

 それを見て、私は人差し指を立てて上に向ける。

「世界一だ!」

 一息ついて、

「シンジローを世界一の政治家にする!」

 おおお!!

 そして盛り上がる雀荘。

「そして私は、世界一の秘書になる!!」

「へ!?」

 そう言うと、私はもう一度シンジローに抱き着いた。

「おい、照」焦るシンジロー。

「ズルいです、照さんばっかり」

 怒った小蒔もシンジローに抱き着く。

「こら! シンジロー! 私以外にデレデレするな」


511 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:01:26.40SfktF19zo (16/35)


「してないから!」

「シンジローさん、照さん。皆も大好きだよー」

 事務所で一番大きな豊音がガバッと三人同時に抱き寄せた。

「モテモテだな、シンジロー」

「アハハハ。一夫多妻は認められていないから、まずは民法を改正しないとね」

 笑いながら咏は言った。

 多分、これからも辛いことや悲しいこと、苦しいことはたくさんあるだろう。

 それでも私はできる限り彼を支えて行こうと思う。

 なぜなら、私は彼にとって最初の秘書であり、私にとって大事な人だから。
 











   シンジローや照たちの闘いは、まだまだこれからも続く!


512 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:02:05.65SfktF19zo (17/35)





   出演(年齢は物語終了時点)





   小泉コータロー(32)

 タレント兼俳優として順調に活躍。

 元々芸能界麻雀大会でベスト4に入るなど、麻雀の腕前は高かった。

 いわて麻雀まつりでの活躍もあって、その後は麻雀関係の仕事も多数こなすことになる。

政界には進出する予定はなく、今後も芸能人として活動していくとのこと。

 よく共演する三尋木咏との関係を噂されることになるが、真相は不明。


   コメント

 モデルは言うまでもなく、小泉○太郎。

 ただし、本人よりは若干アクティブかつワイルドな存在となった。

 特に岩手編での活躍は、直撃が一度もないなど、抜群の安定感。

 まあ、あのジュンイチローの息子ですから。

 シンジローほどではないけど、彼の雀力もかなり成長した。

 コーチが良かったのかもね。しらんけど。


513 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:02:49.75SfktF19zo (18/35)




   三尋木咏(26)

 神奈川県横浜市にあるプロ麻雀クラブで活躍するプロ雀士。

 怒涛の火力と言われるほどの攻撃力が特徴。

 麻雀大会だけでなく、雑誌やテレビでの芸能活動も盛んに行っている。

 小泉コータローとの関係については、「わっかんねー」とだけコメント。


   コメント

 当初は神奈川繋がりで登場しただけのゲストキャラ。

 ただ、説明役としてはかなり重宝した。奈良の小中学生には不評のようだが、
筆者は好きよ。

 声優の松岡由貴さんもいいね。コータローのことをこうちゃんって呼んでるけど、
彼女のほうがかなり年下です。ただ、この世界では麻雀の強さが社会的な地位に
結びついているので、ため口でもいいじゃないっすかね(適当)。


514 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:03:24.87SfktF19zo (19/35)





   ヨコクメ勝仁

 シンジローの対立候補。小選挙区で敗れたけれど、比例で復活当選。

 後に内閣不信任決議に賛成してM主党を離党。党からは離党は受理されず、

 除籍ということになった。


   コメント

 特にない。助っ人秘書は、ちょっとだけ好きだった。


515 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:04:29.09SfktF19zo (20/35)


   石戸霞(20)

 神代小蒔が神奈川へ行ってしまったため、不在の神代家を支える中心的存在となる。

 密かに東京・神奈川旅行を計画中。

 シンジローには、鹿児島の選挙区へ鞍替えして欲しいと思っている。


   コメント

 鹿児島ではお母さん的な存在だが、特に目立った活躍はなかった。

 特定地域のキャラを偏らせないように、後の出演は自粛。

 これは初美も同じ。




  薄墨初美(20)

 実家の手伝いをしながら、小蒔不在の神代家を支える。

 東京・神奈川旅行を一番楽しみにしている子の一人。


  コメント

 鹿児島編では岸ノブスケを体に宿す。

 霊界麻雀以外では特に活躍はないけれど、可愛いからいいじゃん。

 永水勢は小蒔を含め、この三人のみ。他の二人はストーリーの都合上カット。

 本当に申し訳ない。


516 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:05:45.67SfktF19zo (21/35)



   花田煌(19)

 政治家秘書。当初、麻生タローの福岡事務所に勤めるも、その後辞職してシンジロー事務所へと
移籍する。

 麻雀力はそんなに強くないけれど、高い事務処理能力と人を見る目でシンジローをサポートする。


  コメント

 新井美里さんの演技があまりにも素晴らしかったので採用。

 雀力は並でも、鋼鉄の精神でチームを支える姿勢はグッド。

 本編でも、集中攻撃を受けながら、二度も反撃を成功させたのは、タフな精神力のなせる業。

 筆者の「すばら愛」が不足していたため、口調が上手く再現できなかったのは惜しい。

 名前だけ見ると相撲取りみたいだけど、可愛い女の子ですよ。すばらっ!


517 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:06:33.48SfktF19zo (22/35)




   福島ミズホ

 S民党党首。当初はM主党と連立を組んでいたけれど、方針の違いにより約一年で連立を離脱。

 同党内の辻本キヨミが裏切って、離党し、政権に残ることとなる。


   コメント

 モデルは福島○穂。

 彼女が好む融通の利かないピンフ麻雀は、社民党の方針と結構あってたんじゃないかなと今でも思う。

 昔はキライな政治家だったけれど、今はちょっとだけ好きになった。

 だが辻元、お前はダメだ。

 ちなみに喋り方のモデルは、セシリア・オルコット(IS)ですわ!
 
 


518 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:07:29.27SfktF19zo (23/35)



  亀井シズカ

 K民新党代表。しばらくの間は連立与党の一員としてM主党に協力するも、

後に消費税の問題を巡ってM主党と対立。

 その後、亀井本人は連立離脱を決断する。しかし部下の議員が着いてこず、

結局自分ともう一人の女性議員だけが党から追放されるという結果になった。



   コメント

 当スレの出演者の中では筆者が最も闘牌したくない相手。

 泥亀戦法は、上級者同士の闘いに向いた戦法なので、筆者のような素人にはあまり関係ないけどね。

 泥をかぶって身を隠し、相手の出方を伺うというのは亀井の政治手法にも通じるものがある(?)

 ラストはワカメに裏切られ終わるところも、ある意味亀井らしい。


519 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:08:14.11SfktF19zo (24/35)





   染谷まこ(19)

 元亀井シズカ事務所のアルバイトメイド。

 高校卒業後は、故郷広島に戻り、一時的に亀井の事務所でアルバイトをしていた模様。

 本業は不明。だが、再びどこかの政治家に接近している。




   コメント

 裏切りのワカメ。実は長野・清澄勢では唯一の出演。

 間接的にシンジローを支援し、亀井を負かせた女。

 こういう汚れ仕事が似合いそうなのは、まこかロッカーしか考えられなかった。



   佐々野いちご(20)

 地元は広島だが、高校卒業後は関西の大学に進学し、関西大学リーグで活躍中。

 劇中では一時的に広島に帰郷して、亀井を助けたという設定。

   コメント

 広島弁、という点ではわりとキャラが立っていたけれど、アイドル設定とかは……、

そんなん全然考慮し取らんよ。


520 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:09:16.43SfktF19zo (25/35)





   姉帯豊音(20)

 岩手で勤めていた事務所を解雇されたため、小泉シンジロー事務所で働くことになった。
意外と家事スキルは高いため、私生活で照や小蒔を助ける。

 呪いの首飾りの後遺症でしばらく麻雀は打てない状態であったが、鹿児島にいる
神代家関係者の措置により、回復に向かっている模様。


   コメント

 宮守勢の中で唯一の出演。

 人気の高さゆえに起用。

 彼女の持つ六曜の力のおかげもあって、ラスボスと囚われのヒロインという二つの
役どころを同時にこなす万能ぶりは作者自身もびっくり。


521 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:10:23.81SfktF19zo (26/35)



   谷リョーコ


 参議院選に比例で出馬して当選。

 小沢がM主党を離党した際は、彼に着いて行った。


   コメント

 モデルは言うまでもなくあの人。

 柔道家としては尊敬できるけど、政治家としてはどうでしょ。

 小沢への忠誠を守ったという点ではよかったのかな。

 結局噛ませ犬だったけど、意外な人気に筆者も驚いている。



   細野ゴーシ

 小沢イチロウ幹事長時代に副幹事長を務めた。

 党務では小沢の右腕として働く。

 しかし小沢が党執行部(中枢)から遠ざけられると、さっさと小沢を見切り、
反小沢に取り入る。

 後に首相補佐官、閣僚、党役員などを歴任。

 一時M主党代表選挙に担ぎ出されそうになるが、短命政権を嫌がり出馬せず。


   コメント

 モナ・ヤマモトと不倫していた人。

 キャラ的には胡散臭いイケメン。

 サラッと、豊音に呪いのアイテムをつけた責任を、全部小沢になすり付けようとした
辺りはさすがのズルさ。 


522 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:11:00.73SfktF19zo (27/35)




   小沢イチロウ

 政界の壊し屋。剛腕(笑)

 後に消費税増税問題を巡ってM主党執行部と対立。

 自らの派閥議員を引き連れて集団離党した。

 しかし裏切り者が多数出た模様。


   コメント

 政界でも一、二を争う悪役顔。

 実際、意図的に悪役を演じているところもあるのでしょうけど。

 都合が悪くなると雲隠れ。

 本人ではなく、代役の豊音を戦わせるあたりが小沢らしい。

 物語では、最後は細野に裏切られている。

 しかし、こうして見ると政界っていうのは本当に裏切りが多いのね。


523 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:11:44.33SfktF19zo (28/35)




   ?????(29)

 栃木県在住のプロ雀士。

 同級生が政界で活躍しているのを見て、自身もやる気を取り戻す。

 後に女子世界ランキング10位にまでランキングを上げ、日本代表でも大将を任されるまでに
なるが、それはまた別のお話。

 相変わらず独身。



   コメント

 最後まで本編には絡まなかった人。

 正直、彼女が絡むとストーリーがややこしくなるのは必至だったから、

あえてモブキャラのままで終らせた。

 番外編でもない限りやらない。


524 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:13:11.16SfktF19zo (29/35)




   神代小蒔(19)

 小泉シンジロー事務所のお茶係として、シンジローの出張にはいつも水筒持参で
同行している。

 料理は全然だが、お茶だけなら緑茶、紅茶、麦茶、ウーロン茶など、様々な品種を
出すことが可能になった。

 宮永照とはライバル。しかし同時に親友でもある。

 私生活のポンコツぶりは相変わらずだけど、姉帯豊音や花田煌の指導もあって、
少しずつ改善している模様。


   コメント

 鹿児島編だけのゲストキャラだったはずだった。しかし、『シンジロー様』という言い方が
あまりにも可愛かったのでレギュラー化。

 なお、麻雀は霊界麻雀を除けば、一度も打たなかった。

 基本はお茶係で常に巫女服。この世界ではメイドも看護師もふつう。ただし痴女はNG。

 フラグ三本までならハーレムではない、という勝手な筆者理論により彼女もメインヒロイン。

 ちなみに筆者が認めるメインヒロインは、彼女と照だけ。


525 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:14:29.42SfktF19zo (30/35)




   小泉シンジロー(29)

 J民党青年局長に就任し、更に忙しい毎日を送る。

 最年少総理大臣との呼び声も高いものの、まずは総選挙での勝利、
と現実的なコメント。



   コメント

 ムダヅモ無き改革の主人公、小泉ジュンイチローの実子という設定で、
今回主役を張ることに。

 純一郎≠ジュンイチローであるように、シンジローも進次郎ではない。

 本物(モデル)よりもかなりヘタレに設定。

 しかも今読み返してみると、昼間から雀荘に行くようなダメ人間だった。
 
 M主党への批判だけでなく、J民党の方針にも疑問を持つなど、理想と現実のはざまで
悩む姿が若者らしい。

 雀力は最強と思われがちだが、防御が薄い。焦って攻めに出て、直撃されることもある。

 作中で二度ほどトバされたのもご愛嬌。


526 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:15:11.29SfktF19zo (31/35)



   宮永照(20)



 小泉シンジローの秘書として、その後も彼の傍に寄り添う。

 ジュンイチローの妹でシンジローの叔母にあたるミチコから、小泉流点棒術を習得。



   コメント

 メインヒロインにして主人公。


 本作は彼女の成長物語でもある。

 二次創作界隈では色々な性格が出ているけれど、今回はかなりポンコツに設定した。

 嫉妬深い性格なので、シンジローに近づく女性は気を付けたほうがいい。

 昨年は三原ジュンコが照の点棒の犠牲になったとか。 

 神代小蒔とのコンビはわりと好きで、自分以上に私生活がポンコツな小蒔の面倒を
見ることによって、照の生活力がわずかばかり改善された。

 動物セラピーみたいなものか。

 強すぎて逆に使いづらいキャラの典型。


527 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:16:20.85SfktF19zo (32/35)





   小泉ジュンイチロー

 シンジローの出馬により、政界から引退。

 しかし引退後も、国会の地下闘牌場や世界中で各国首脳と闘牌を繰り広げるなど、
闇での活動は健在。

 金○日をツモ殺したこともある(報道規制)。


  コメント

 作中最強のキャラだが、そこまで強い演出はできなかった。

 トマトジュースで吐血の真似をするなど、お茶目な一面も。

 第一話の時点で、照がジュンイチローの秘書になると思っていた人も多かったと思うけど、

ゴメンね。彼の出演は第二話だけでした。

 必殺技は国士無双十三面(ライジングサン)。

 地球が割れるくらい凄い技だが、家族麻雀では不発。 


528 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:17:45.23SfktF19zo (33/35)





   能力について(オリジナルのみ)


 《宮永照の連続和了》


 連続で和了するたびに打点が高くなっていくという能力。

 一度流れたり、相手にアガられるとまた低い打点からのやり直しという、かなり制約も多い。

 ただし、照はこの能力なしでもふつうに麻雀力は高い。高校三連覇は伊達じゃねえ。

 後半で、シンジローに一時的だが完全コピーされた。



 《六曜全発動》

 姉帯豊音の能力。

 原作では六曜のうち、二つしか出なかったので、今作で勝手に四つ追加。

 一番怖いのは、仏滅と先勝だろうか。

 赤口は完全にギャグ。六曜の能力はどれも強力だが、順番に回さないといけないという
制約がある。

 逆回転やランダムで発動した場合は、ペナルティを食らう。

 呪いの首飾りによって、能力の限界値を壊したためにできた技。

 普通にやると死ぬ。



 《希望を力に(ホープトゥフォース)》

 小泉シンジローの固有能力。

 自分を応援してくれる人の力を雀力にできる。

 ただし命がけの対局のように、極限の状況でしか使えない。

 闘牌力の強い人の祈りだと、更に強力になるらしい。  


529 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:20:01.59SfktF19zo (34/35)

 以上、投下終了。

 最後に、番外編のリクエスト受け付けますん。

1:白糸台のあの後輩が遊びにくるよ

2:魔界の女王が……

3:みんなで熱海温泉旅行

4:次回作情報


530VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/12(月) 20:23:06.59aYbJO5H5o (1/1)

おっつおっつ
まだまだ読みたかったわ
番外編は3で


あと>>523の年齢間違ってない?(震え声)


531VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/12(月) 20:23:28.71lKbxDKvIO (1/1)

あえて2

おつー


532VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/11/12(月) 20:25:32.36WhG9f5SNo (1/1)

おつー
とても楽しく読めました
番外は3で


533 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/12(月) 20:25:58.49SfktF19zo (35/35)

もう最後だからぶっちゃけるけど、何で麻雀素人なのにこんなの書いたかっていうと、

某白糸台スレが一向に照ルートに行きそうになかったので、我慢できずに書いてしまった。

今は反省している。

もう麻雀モノは書かない。マジでキツ過ぎる。

特に亀井戦がキツかった。シンジローもイライラしてたけど、書いてるほうもイライラしたよ。

リッツ頑張れ。


534VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/11/12(月) 20:29:41.55ytVB5EB+o (1/1)

3で面子は三宅ユキコ 谷リョーコ 田中マキコ 土井タカコ 鳩山ミユキあたりでオナシャス


535VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/11/12(月) 20:46:15.02tOoJlXSV0 (1/1)




536VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/12(月) 21:40:03.76HdkIcc5mo (1/1)

乙!


537VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/12(月) 22:21:24.44XrJd/Suto (1/1)

乙華麗
番外編は1がいいな


538VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)2012/11/13(火) 20:06:08.45pNaFqMj40 (1/1)

乙乙ー
1希望です、テルー


539VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/11/13(火) 23:02:32.61p5ZoAi/p0 (1/1)

>>534
BBAは帰って、どうぞ


540VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国・四国)2012/11/14(水) 05:28:30.45leoerQJAO (1/1)

1なのよー


541VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/14(水) 21:23:27.56BJk5cps60 (1/1)

乙!
1で淡登場でオナシャス!!


542VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)2012/11/17(土) 22:17:49.28q/WguBvdo (1/1)

ラスボスは咲さんかと思ってた


543 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/18(日) 20:04:17.81abwAl5lTo (1/7)

実は番外編で魔王ルートに咲さんが出ていた。

というわけでラスト


544 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/18(日) 20:04:52.22abwAl5lTo (2/7)

 番外編 後輩の職場見学



 今日は照の後輩だという女子高校生と女子大学生が僕の事務所を訪れた。

「おっす照。久しぶりい」

 一人は大星淡という、元気そうな高校三年生。

「こら淡。あ、すみません。私、宮永照と同級生でした、広世菫と申します」

 長い髪のこの女性は、広世菫。

 見た目の雰囲気と同じように落ち着いた喋り方で、とても礼儀正しいと思った。

 長い髪の毛がとてもキレイだ。

「いたっ!」

 急に耳を引っ張る照。

「痛いじゃないか照」

「何か不埒なことを考えた気がしたので」

「不埒なことですか?」

 そう言って菫は首をかしげる。

「いや、何でもないですよ」

 そんな話をしていると、つかつかと先ほどの元気な高校生、大星淡が僕の前に歩み寄り、
僕の顔をじっと見つめる。

「えっと、何かな」

「ねえ、テルー。こんなのがいいの?」僕の顔を見ながら大星淡は言った。

「い!? こんなの?」


545 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/18(日) 20:05:37.44abwAl5lTo (3/7)


 いきなり何を言い出すのだこの女は。

「こら、淡。口のきき方に気を付けろ。年上の人にはもっと丁寧な言葉を使え」すかさず
照が注意する。

「というか、お前がそれを言うのか照」

 しかし淡は特に照の注意を気にする風でもない。

「ふーん。確かにちょっとイケメンだけど、照が全てをささげるほどのものかなあ」

 淡は僕の顔と事務所の中をジロジロと見ながら言った。

「ねえ、議員さん」

「なんですか?」

「私と勝負してよ」

「勝負って」

「決まってるでしょう、闘牌よ闘牌! あの照を籠絡した男の実力、見てみたいの!」

 そういうと淡は腕まくりのような仕草をしてみせた。

 半袖の制服なのに。

「こら! 淡。相手の都合も考えずに無茶を言うんじゃない!」

「だからお前がそれを言うのか、照」

「本当、ウチの後輩がすみません」すかさず菫が頭を下げる。

「いや、いいですよ。構いません」

「デレデレするなシンジロー!」

「照、お前ちょっと黙ってろっ」


546 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/18(日) 20:06:10.53abwAl5lTo (4/7)


 というわけで僕らは急遽、事務所で麻雀をやることになった。

 面子は僕、照、菫、そして淡の四人である。

「へへーん。高校MVPの私の実力、見せてあげるわ」

 淡は子どものように目を輝かせて卓に着いた。

 心底、麻雀が好きなのだろう。

「小泉さんすみません、こんなことになるとは」

 菫はさっきから謝ってばかりだ。

「大丈夫ですよ。すぐ終わりますから」

 僕がそう言うと、

「そうよ。すぐ終わるわ」

 と、淡も似たようなことを言う。

 そしていよいよ闘牌開始。

「東場でトバしてあげるわ」

 そう言った淡はペロリと自分の唇を舌でなめた。彼女の癖だろうか。



   *


547 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/18(日) 20:06:37.49abwAl5lTo (5/7)




 十数分後――

「まさか、本当に東場でトバされるとは」

 菫は驚愕の声を漏らす。

「淡が……」

 チーン

 ショックのあまり、卓に頭を乗せて動かなくなった淡。

「あの、大星さん。その、ゴメン」

 一応謝ってみると、

「ってか何でそんなに強いのよ!」そう言って急に立ち上がる淡。

 お、復活したか。

「ちょっと強すぎるでしょう。どういうことよテル!」

 今度は照に詰め寄る淡。

「どうと言われても、これが私のご主人様」

「照、変な言い方はやめろ。誤解されるだろう」

「あー、よし! 決めた!」

 そう言うと、淡は背筋を伸ばす。

「何を決めたんだ?」

 僕が聞いてみると、

「私、大星淡は卒業したら、小泉シンジロー事務所に入る!」


548 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/18(日) 20:07:44.70abwAl5lTo (6/7)


「へ?」

「ここで更なる高みを目指すのよ」

「あの、大星さん。ここは別に麻雀屋さんじゃないから」
 
 しかし僕の言葉は耳に入っていないようだ。

 というか、この子は元々人の話を聞かないんだな。

「入るのー!」

 彼女のことを理解していくうちに、段々諦めにも似た感情があふれ出てきた。

「こら、淡。落ち着け!」

 同じく立ち上がった照が淡と向かい合う。

「いいか淡。就職というのは大事なことなんだ。もっとよく考えてから、慎重に決めろ」

「だからお前がそれを言うのか照」

 そう僕は言ってみたけれど、僕の声は彼女たちには届かない。

「私も照と一緒に働きたいのー!」

「こら、わがまま言うな!」

 そんな二人から目を逸らし、僕は広世菫のほうを見る。

「……すみません」

 また謝った。
 
 いや、その気持ちわかるよ。

 僕は無言で右手を差し出し、菫と固い握手をかわすのだった。






   おわり


549 ◆tUNoJq4Lwk2012/11/18(日) 20:13:29.51abwAl5lTo (7/7)

短いですが、今回で本当の終わり。

熱海編は書けなかった。一度緊張の糸が切れるともう書けませんね。

あと、魔界の女王ルートは中途半端で物語が終わるので、今回は没。

ついでに次回作情報。できるかどうかは不明ですが、物語の舞台は地球ではありません。

論文の合間に書いてますが、もうすぐ論文も終わりそうなんで、近いうちに投下できるかも。

つまんなかったらまた途中で打ち切りますん。

では、今度はかつて火星と呼ばれたあの惑星でお会いしましょう。


 作者


550VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/11/18(日) 20:16:41.71qsIb/1l7o (1/1)


かつて火星……まさか!?
素敵で恥ずかしいセリフ禁止なあそこか?


551VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/18(日) 20:27:05.84ZKC7OHG8o (1/1)

おっつおっつ

…菫さんは広世じゃないよ


552VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/11/19(月) 15:40:44.50Gv15J5amo (1/1)

火星でゴキブリ退治するのか


553VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/20(火) 00:58:43.83TBcSJekoo (1/1)

菫さんは弘世だよ
自動でカロリーを摂取するすごいやつだよ