◆j2IgCSzIVo さんの作品一覧
http://s2-d2.com/archives/16594259.html
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1:腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo:2012/10/06(土) 10:36:42.69:z3VSh9FT0 (1/1)
とある世界があった。
恐ろしい『怪物』が『人間』としての生き方を目指す世界。
これは、その記録の一部である――――
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1349487402
とある世界があった。
恐ろしい『怪物』が『人間』としての生き方を目指す世界。
これは、その記録の一部である――――
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1349487402
モバP「泰葉からチョコもらった時の話?」
絵里「なんとかストロガノフ!」穂乃果「そう、カレーです」
タマ「ニャー」タラオ「タマ口臭いですぅ!」タマ「!!!!!!!」
玲音「風邪を引いてしまったようだ…」
苗木「霧切さん、この蝶ネクタイつけてみてよ」
2:腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo:2012/10/06(土) 10:40:55.95:z2sYNNe+0 (1/1)
このSSは、上条当麻と一方通行が友人となった、という設定での原作なぞりです。
一応二十二巻までやっていく予定。
まだ三つ目ですが、頑張って書いていこうと思います。
前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/1298737794/
前々スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/1294925094/
このSSは、上条当麻と一方通行が友人となった、という設定での原作なぞりです。
一応二十二巻までやっていく予定。
まだ三つ目ですが、頑張って書いていこうと思います。
前スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/1298737794/
前々スレ
http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/1294925094/
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/06(土) 11:11:02.91:H/d2Oi5g0 (1/1)
>>1
乙
極上の腹パンをプレゼントするぜ
>>1
乙
極上の腹パンをプレゼントするぜ
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/06(土) 21:57:55.18:f+ZXzFeGo (1/1)
スレたて乙
スレたて乙
5:腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo:2012/10/07(日) 00:26:45.35:rREdMSQJ0 (1/3)
どうも。また書いていきます。目指せ、四巻完結。
どうも。また書いていきます。目指せ、四巻完結。
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:29:34.39:cK2g8afJ0 (1/1)
力と力の衝突する音に、魔術師は愉快げに耳を立てていた。
さながら、オペラの独唱に聴き入る観客のようだ。
風が唸りを上げ、澄んだ水音と金属音が響く。
とても、とても、美しかった。
目の前では、徐々に天使が前へと攻め進んでいた。
無謀どころではない戦いに挑む三人が、押されて後退しているのが見えた。
天使を相手に戦えている事だけでもとんでもないが、
男は、『聖人』である魔術師が神を討つ術式に精通している、と聞いていた。
だからこそ、上条当麻と合わせて、天使の力試しにちょうど良いと考えていたのだが。
「学園都市も一筋縄ではない、か」
攻め方を変えて翼を無数の氷弾として放っている天使の攻撃を、
これまた見事に避け方を変えて完全にかわしている超能力者を見つめ、男は感嘆の息を吐く。
しかし、男は自らの安定を危惧しない。
思った以上に楽しいショーだ、と思うだけである。
事実、もうかなりの距離を彼らは後退している。
敗北は必至だろう。
力と力の衝突する音に、魔術師は愉快げに耳を立てていた。
さながら、オペラの独唱に聴き入る観客のようだ。
風が唸りを上げ、澄んだ水音と金属音が響く。
とても、とても、美しかった。
目の前では、徐々に天使が前へと攻め進んでいた。
無謀どころではない戦いに挑む三人が、押されて後退しているのが見えた。
天使を相手に戦えている事だけでもとんでもないが、
男は、『聖人』である魔術師が神を討つ術式に精通している、と聞いていた。
だからこそ、上条当麻と合わせて、天使の力試しにちょうど良いと考えていたのだが。
「学園都市も一筋縄ではない、か」
攻め方を変えて翼を無数の氷弾として放っている天使の攻撃を、
これまた見事に避け方を変えて完全にかわしている超能力者を見つめ、男は感嘆の息を吐く。
しかし、男は自らの安定を危惧しない。
思った以上に楽しいショーだ、と思うだけである。
事実、もうかなりの距離を彼らは後退している。
敗北は必至だろう。
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:30:36.83:f4fmjtcM0 (1/3)
さらに、男にそれを確信させる事態が起きた。
一方通行が水翼の直撃を防ごうとしたのか、風の弾を打ち出す。
それは見事に翼の軌道を変えた。
だが、
「……ッ、上条!」
偶然にも、一発が翼を掠れて、一方通行の方に走っていた上条に直撃してしまったらしい。
身体をブーメランのように折り曲げて、彼がとんでもない速度で吹き飛ぶ。
ちょうど大天使の脇を擦り抜けたが、大天使はその時攻めに出ようとした神裂を抑えるのに集中していたらしい。
何度も砂浜を転がり、砂を巻き上げる彼を見逃した。
彼は、ショックのせいかピクリとも動かない。
「狙い通りなんですかね?」
ニコリ、と笑顔を付け加えて男は呆れたように告げた。
「……」
「……」
超能力者は答えない。
また、『聖人』も何も言わない。
二人とも余裕がないだけなのだろうが。
さらに、男にそれを確信させる事態が起きた。
一方通行が水翼の直撃を防ごうとしたのか、風の弾を打ち出す。
それは見事に翼の軌道を変えた。
だが、
「……ッ、上条!」
偶然にも、一発が翼を掠れて、一方通行の方に走っていた上条に直撃してしまったらしい。
身体をブーメランのように折り曲げて、彼がとんでもない速度で吹き飛ぶ。
ちょうど大天使の脇を擦り抜けたが、大天使はその時攻めに出ようとした神裂を抑えるのに集中していたらしい。
何度も砂浜を転がり、砂を巻き上げる彼を見逃した。
彼は、ショックのせいかピクリとも動かない。
「狙い通りなんですかね?」
ニコリ、と笑顔を付け加えて男は呆れたように告げた。
「……」
「……」
超能力者は答えない。
また、『聖人』も何も言わない。
二人とも余裕がないだけなのだろうが。
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:33:54.70:tTO1vleD0 (1/2)
「ふふ、諦めたんで――」
勝ち誇るような笑みを浮かべた直後、男は黙った。
超能力者が足を振り上げていた。
彼は、自棄になったようにそれを振り下ろす。
途端、砂浜中の砂が跳ね上がった。
「!」
慌てて目と口を閉じて、コートを深く顔を覆うように着直す。
そうして、顔を守っている最中も戦闘音がした。
それを聞いて、男は改めて勝利の笑みを浮かべる。
砂で不意打ちでも狙ったのかもしれないが、大天使相手にそんな小細工は通用しない。
数秒して、全ての砂が完全に戻ったのを感じて、男はコートを戻す。
目の前では、先程と変わらぬ戦いが続いていた。
コートに纏わり付く砂を払い落としながら、男はその光景に満足する。
そして、歩き始めた。
もうそろそろ片がつくはずだ。
ニコリ、と男は笑う。
まだ諦めない彼らに、完全な勝利を示すように。
そして、全てはこれで終わ――
「……狙い通り、だよ」
「……っ!?」
背後からした、ありえない声に凍りつく。
そんな馬鹿な事はない、と頭の中で声がした。
何故ならば、奴は……。
そこまで考えてから、男は急いで後ろを向く。
可能性を否定するために、振り向いた。
安心するために、振り向いた。
しかし、それは無意味な行動となる。
そこには、上条当麻が立っていたのだから。
「ふふ、諦めたんで――」
勝ち誇るような笑みを浮かべた直後、男は黙った。
超能力者が足を振り上げていた。
彼は、自棄になったようにそれを振り下ろす。
途端、砂浜中の砂が跳ね上がった。
「!」
慌てて目と口を閉じて、コートを深く顔を覆うように着直す。
そうして、顔を守っている最中も戦闘音がした。
それを聞いて、男は改めて勝利の笑みを浮かべる。
砂で不意打ちでも狙ったのかもしれないが、大天使相手にそんな小細工は通用しない。
数秒して、全ての砂が完全に戻ったのを感じて、男はコートを戻す。
目の前では、先程と変わらぬ戦いが続いていた。
コートに纏わり付く砂を払い落としながら、男はその光景に満足する。
そして、歩き始めた。
もうそろそろ片がつくはずだ。
ニコリ、と男は笑う。
まだ諦めない彼らに、完全な勝利を示すように。
そして、全てはこれで終わ――
「……狙い通り、だよ」
「……っ!?」
背後からした、ありえない声に凍りつく。
そんな馬鹿な事はない、と頭の中で声がした。
何故ならば、奴は……。
そこまで考えてから、男は急いで後ろを向く。
可能性を否定するために、振り向いた。
安心するために、振り向いた。
しかし、それは無意味な行動となる。
そこには、上条当麻が立っていたのだから。
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:34:49.93:C3kJTiUi0 (1/1)
「――――ッ!?」
ありえなかった。
彼は目の前で倒れていたはずだ。
それが何故、後ろに――!
様々な疑問とそれを解決するための情報が、男の脳内を駆け巡る。
数秒後、男は即座に理解した。
(……そうか、砂を隠れみのに……ッ!)
上条の身体全体に付着するサラサラした粒が、男に答えを与えた。
無理矢理大天使の間を抜けて、自分を不意打ちするために砂で視界を塞いだのだ。
あれは大天使ではなく、男を狙った行動だったのだ。
風の一撃で吹き飛ばされたのも、それを失敗したように一方通行が振る舞ったのも、布石。
全ては、男を倒して術を解除するという、勝利条件のためだったのだ。
「ふふ。やられましたねぇ」
初めて汗を流した男が言い終えるよりも早く、上条は右手の一発を放つ。
これまで何度も頼ってきたであろうその一撃は、恐ろしく正確に男の顔面を捉える。
「――――ッ!?」
ありえなかった。
彼は目の前で倒れていたはずだ。
それが何故、後ろに――!
様々な疑問とそれを解決するための情報が、男の脳内を駆け巡る。
数秒後、男は即座に理解した。
(……そうか、砂を隠れみのに……ッ!)
上条の身体全体に付着するサラサラした粒が、男に答えを与えた。
無理矢理大天使の間を抜けて、自分を不意打ちするために砂で視界を塞いだのだ。
あれは大天使ではなく、男を狙った行動だったのだ。
風の一撃で吹き飛ばされたのも、それを失敗したように一方通行が振る舞ったのも、布石。
全ては、男を倒して術を解除するという、勝利条件のためだったのだ。
「ふふ。やられましたねぇ」
初めて汗を流した男が言い終えるよりも早く、上条は右手の一発を放つ。
これまで何度も頼ってきたであろうその一撃は、恐ろしく正確に男の顔面を捉える。
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:35:56.33:yJYHrxah0 (1/1)
――捉えた、はずだった。
「――なんて、言うところでしたよ」
パキン、というガラスを踏んだような音が辺りに響く。
瞬間、上条の必殺が見えない『何か』に弾かれた。
男と拳の間には何も見えないにもかかわらずだ。
「な……」
思わぬ事態に、上条は弾かれた右手を構え直して動きを止める。
男はただ、ニコリと微笑んだ。
反撃もしないで、上条のペースを崩すように。
――捉えた、はずだった。
「――なんて、言うところでしたよ」
パキン、というガラスを踏んだような音が辺りに響く。
瞬間、上条の必殺が見えない『何か』に弾かれた。
男と拳の間には何も見えないにもかかわらずだ。
「な……」
思わぬ事態に、上条は弾かれた右手を構え直して動きを止める。
男はただ、ニコリと微笑んだ。
反撃もしないで、上条のペースを崩すように。
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:38:06.19:nm42JH9W0 (1/3)
何度目か分からない抜刀術を、神裂は水翼に繰り出す。
どれだけ斬っても、相手の攻めの手は止まない。
当然の事だった。
目の前の敵(ガブリエル)は水の属性にある大天使で、ここは海だ。
一方通行と二人がかりでも厳しい状況である。
それでもまだ生きているのは、今宵が敵の全力を引き出す満月ではないからだろう。
手加減されている、とすぐに気付いていた。
『天体制御(アストロインハンド)』、という伝承に残る魔術がある。
それは、惑星の位置を術者の好きに無理矢理変更させる、まさしく人外の術だ。
その程度が、大天使に出来ないはずがない。
どうせあの魔術師の差し金だろう。
天使の力がどれほど温存が効くのか見ておこう、という判断に違いない。
それを理解して、神裂は刀を握る力を強めた。
が、そんな事で攻勢は変わろうとはしない。
ギリギリの戦いの流れに、女神は天使の方へと微笑んでいた。
何度目か分からない抜刀術を、神裂は水翼に繰り出す。
どれだけ斬っても、相手の攻めの手は止まない。
当然の事だった。
目の前の敵(ガブリエル)は水の属性にある大天使で、ここは海だ。
一方通行と二人がかりでも厳しい状況である。
それでもまだ生きているのは、今宵が敵の全力を引き出す満月ではないからだろう。
手加減されている、とすぐに気付いていた。
『天体制御(アストロインハンド)』、という伝承に残る魔術がある。
それは、惑星の位置を術者の好きに無理矢理変更させる、まさしく人外の術だ。
その程度が、大天使に出来ないはずがない。
どうせあの魔術師の差し金だろう。
天使の力がどれほど温存が効くのか見ておこう、という判断に違いない。
それを理解して、神裂は刀を握る力を強めた。
が、そんな事で攻勢は変わろうとはしない。
ギリギリの戦いの流れに、女神は天使の方へと微笑んでいた。
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:40:49.28:9+hw+l6J0 (1/1)
「かはっ、う……」
三本の槍を同時に斬って、無数の氷弾を避けたところで、神裂は慌てたように下がった。
震えている手に握った刀を納めようともせずに、彼女は前を睨んでいる。
『力』の限界が来ていた。
神裂火織は『聖人』という特殊な体質によって、通常では考えられない能力を発揮している。
しかしながら、何事も万能にはいかない。
彼女の基本は『人間』であって、『神』ではないのだから。
神裂はその力をいつまでも出すことは出来ない。
力の反動による異常な高熱や筋肉にかかるとんでもない負荷に、彼女の意識は限界にあった。
しかし、彼女はまだ立っている。
「神裂、立てるか」
異変に気付いた少年が風を操って防御しながら、神裂に近寄ってくる。
神裂はゆっくりとした調子で応えた。
「当然です……と言いたいですが、そろそろ動きが鈍るでしょうね……」
一瞬だけ、神裂は視線を奥にやる。
そこには、魔術師に単身挑む少年がいた。
自らのために、何よりも父親のために戦う彼の姿を確認する。
それから、手前に集中した。
そちらにいるのは、望まぬ束縛の下で戦う天使。
「かはっ、う……」
三本の槍を同時に斬って、無数の氷弾を避けたところで、神裂は慌てたように下がった。
震えている手に握った刀を納めようともせずに、彼女は前を睨んでいる。
『力』の限界が来ていた。
神裂火織は『聖人』という特殊な体質によって、通常では考えられない能力を発揮している。
しかしながら、何事も万能にはいかない。
彼女の基本は『人間』であって、『神』ではないのだから。
神裂はその力をいつまでも出すことは出来ない。
力の反動による異常な高熱や筋肉にかかるとんでもない負荷に、彼女の意識は限界にあった。
しかし、彼女はまだ立っている。
「神裂、立てるか」
異変に気付いた少年が風を操って防御しながら、神裂に近寄ってくる。
神裂はゆっくりとした調子で応えた。
「当然です……と言いたいですが、そろそろ動きが鈍るでしょうね……」
一瞬だけ、神裂は視線を奥にやる。
そこには、魔術師に単身挑む少年がいた。
自らのために、何よりも父親のために戦う彼の姿を確認する。
それから、手前に集中した。
そちらにいるのは、望まぬ束縛の下で戦う天使。
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:44:39.46:f4fmjtcM0 (2/3)
「――救われぬ者に救いの手を」
祈るように呟き、今一度神裂は刀を握り直す。
無理矢理震えを抑え、鋭くなる身体の異常を無視した。
「貴方や上条当麻だけを、戦場には残せません」
強い疲労を感じていたというのに、神裂の口元には自然と笑みが浮かんでいた。
自分を突き動かす理由を胸に、彼女はさらなる力を感じていた。
「……なら後ろでサポートしてろ」
それだけを突き放すように言うと、少年は天使に向かっていく。
神裂もまた、それに続いていった。
「――救われぬ者に救いの手を」
祈るように呟き、今一度神裂は刀を握り直す。
無理矢理震えを抑え、鋭くなる身体の異常を無視した。
「貴方や上条当麻だけを、戦場には残せません」
強い疲労を感じていたというのに、神裂の口元には自然と笑みが浮かんでいた。
自分を突き動かす理由を胸に、彼女はさらなる力を感じていた。
「……なら後ろでサポートしてろ」
それだけを突き放すように言うと、少年は天使に向かっていく。
神裂もまた、それに続いていった。
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:46:23.90:B/0Yuh4/0 (1/2)
「はぁ、はぁっ……」
息を上がらせながら、上条は必死に拳をぶつける。
だが、結果は変わらない。
一瞬だけならば防壁は消える。
しかしながら、次の瞬間には元に戻ってしまう。
どれだけやっても、上条の想いは届かない。
「そろそろあちらも片付きますかね」
肩で息をする上条を見過ごして、魔術師はその奥を愉快そうに目でなめ回す。
つられて上条も後ろを見た。
一見すれば一進一退のようにも見えるが、あの『聖人』だって無限に戦える訳ではない。
「いやはや、素晴らしい力の実験台になりましたよ」
男は言った。
自らの勝利を誇示するように。
明らかに、見下した目で。
「……まだ、だ」
息を上がらせながらも、上条が魔術師に鋭い視線を送る。
その目には、強い闘志が宿っている。
「はぁ、はぁっ……」
息を上がらせながら、上条は必死に拳をぶつける。
だが、結果は変わらない。
一瞬だけならば防壁は消える。
しかしながら、次の瞬間には元に戻ってしまう。
どれだけやっても、上条の想いは届かない。
「そろそろあちらも片付きますかね」
肩で息をする上条を見過ごして、魔術師はその奥を愉快そうに目でなめ回す。
つられて上条も後ろを見た。
一見すれば一進一退のようにも見えるが、あの『聖人』だって無限に戦える訳ではない。
「いやはや、素晴らしい力の実験台になりましたよ」
男は言った。
自らの勝利を誇示するように。
明らかに、見下した目で。
「……まだ、だ」
息を上がらせながらも、上条が魔術師に鋭い視線を送る。
その目には、強い闘志が宿っている。
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:50:05.43:1WLhRmj50 (1/2)
「諦めが悪いんですね」
敵である上条に、魔術師は素直に賞賛する。
それは、まさに勝者の余裕だった。
「ですが、まぁどうにもなりませんよ?」
そう、どれだけ上条が殴り掛かったところで、この防御は崩せない。
この魔術は、『増殖』を意味する特殊な素材で作られ、
『再生』を意味するルーンを刻んだコートで身体を『包む』ことで、
使用者の半径一メートル以内に円周上の盾を生む、という仕組みになっている。
術の核となるコートがある限り、盾は破壊されても恐ろしい速度で蘇る。
本来のそれは、前線で使うためのモノではなく、重要品の守護や拠点防衛に使われている。
大天使に攻撃を任せ、自らは完全な安全地帯から見守る。
それが、男の編み出した戦法である。
絶対的な天使への信用と、自らを信じた覚悟。
これらがある限り、自分の勝利は揺るがないとまで思わせるほど、男は自信を持っている。
そして、彼はそんな勝利に酔いしれようとした。
「諦めが悪いんですね」
敵である上条に、魔術師は素直に賞賛する。
それは、まさに勝者の余裕だった。
「ですが、まぁどうにもなりませんよ?」
そう、どれだけ上条が殴り掛かったところで、この防御は崩せない。
この魔術は、『増殖』を意味する特殊な素材で作られ、
『再生』を意味するルーンを刻んだコートで身体を『包む』ことで、
使用者の半径一メートル以内に円周上の盾を生む、という仕組みになっている。
術の核となるコートがある限り、盾は破壊されても恐ろしい速度で蘇る。
本来のそれは、前線で使うためのモノではなく、重要品の守護や拠点防衛に使われている。
大天使に攻撃を任せ、自らは完全な安全地帯から見守る。
それが、男の編み出した戦法である。
絶対的な天使への信用と、自らを信じた覚悟。
これらがある限り、自分の勝利は揺るがないとまで思わせるほど、男は自信を持っている。
そして、彼はそんな勝利に酔いしれようとした。
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:53:58.43:O/Y9TIvk0 (1/2)
「――いや、まだだぞ」
が、そこに水を差すような声がした。
魔術師は無言で声のした方――海を見た。
同様にそちらに視線を移し、誰がいるかを知った上条が呟く。
「土御門……?」
そこにいたのは、上条刀夜を逃がしに行った、ただの魔術師だ。
彼はずぶ濡れになって海から出てきた。
チラリ、と大天使の方を窺った。
そちらには、普通の人間がいたら間違いなく即死するであろう戦場がある。
戦闘中の彼らの間を抜けるより、泳いでくるべきだと判断したのかもしれない。
「……それで、どうするんです?」
そこまで認識して、男は聞いた。
この圧倒的な状況の中で、一介の魔術師に何が出来るんだ、と。
わざわざ、情けを持って聞いてみた。
「……お前の使っている術式と似たような拠点防衛の術を使う知り合いがいてな、よくそいつがぼやいていたよ」
答えにならない答えを言いながら、彼は懐に手を伸ばす。
男は僅かに警戒の意を込めて、身構える。
そんな男に、敵は不敵に笑った。
「――いや、まだだぞ」
が、そこに水を差すような声がした。
魔術師は無言で声のした方――海を見た。
同様にそちらに視線を移し、誰がいるかを知った上条が呟く。
「土御門……?」
そこにいたのは、上条刀夜を逃がしに行った、ただの魔術師だ。
彼はずぶ濡れになって海から出てきた。
チラリ、と大天使の方を窺った。
そちらには、普通の人間がいたら間違いなく即死するであろう戦場がある。
戦闘中の彼らの間を抜けるより、泳いでくるべきだと判断したのかもしれない。
「……それで、どうするんです?」
そこまで認識して、男は聞いた。
この圧倒的な状況の中で、一介の魔術師に何が出来るんだ、と。
わざわざ、情けを持って聞いてみた。
「……お前の使っている術式と似たような拠点防衛の術を使う知り合いがいてな、よくそいつがぼやいていたよ」
答えにならない答えを言いながら、彼は懐に手を伸ばす。
男は僅かに警戒の意を込めて、身構える。
そんな男に、敵は不敵に笑った。
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:55:41.33:rREdMSQJ0 (2/3)
「――核を守りきるだけの防御手段が欲しい、ってな」
瞬間、土御門の身体が光に包まれた。
正確には、その手に握られた一枚の折り紙が。
「紙ヲ折リ神ヲ結ブ(久々に出番だ)」
目にも留まらぬ速さで、土御門は紙を何か鳥のような形に折る。
朱い鳥は、その色をさらに強調するように濃い光を放つ。
それに合わせて、敵はさらに言葉を紡ぐ。
「其ノ役ハ燃(悪戯してやれ)!」
そう認識した時には、その光が一筋に伸びて一直線に魔術師へと迫る。
何かしらの攻撃魔術だと男は確信した。
細いながらも力強さを感じさせる一撃は、真っ直ぐに彼を貫こうとした。
が、やはり赤光は魔術の壁にぶつかる。
男は勝者の余裕を失わない。
しかし、それもまた一瞬の出来事。
「――核を守りきるだけの防御手段が欲しい、ってな」
瞬間、土御門の身体が光に包まれた。
正確には、その手に握られた一枚の折り紙が。
「紙ヲ折リ神ヲ結ブ(久々に出番だ)」
目にも留まらぬ速さで、土御門は紙を何か鳥のような形に折る。
朱い鳥は、その色をさらに強調するように濃い光を放つ。
それに合わせて、敵はさらに言葉を紡ぐ。
「其ノ役ハ燃(悪戯してやれ)!」
そう認識した時には、その光が一筋に伸びて一直線に魔術師へと迫る。
何かしらの攻撃魔術だと男は確信した。
細いながらも力強さを感じさせる一撃は、真っ直ぐに彼を貫こうとした。
が、やはり赤光は魔術の壁にぶつかる。
男は勝者の余裕を失わない。
しかし、それもまた一瞬の出来事。
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:57:14.03:SsCRfbQE0 (1/2)
「――なっ!?」
次の瞬間には、細い光は無理矢理に壁を突破した。
壁の再生よりも早く、魔術が突き抜けたのだ。
やったのか!? と上条が叫んだ。
だが、
「……ふ、ふふ」
魔術師は立っていた。
全くの無傷で、立っていた。
「残念でしたね。素晴らしい魔術ですが、勢いが足りなかったようだ」
そう、魔術自体は完全に障壁を越えた。
しかし、その炎は途中で消え失せてしまった。
おそらく、壁を抜く時点で込められた魔力を使い果たしたのだろう。
揺るがぬ絶望を、男は見事に彼らに示してみせた。
――みせた、はずなのに。
「知ってる」
何でもなさそうに、敵が同じような笑顔を見せた。
何だ、この余裕は。
こいつは、一体――
圧倒的に優位なはずの男は、後退りをした。
「――なっ!?」
次の瞬間には、細い光は無理矢理に壁を突破した。
壁の再生よりも早く、魔術が突き抜けたのだ。
やったのか!? と上条が叫んだ。
だが、
「……ふ、ふふ」
魔術師は立っていた。
全くの無傷で、立っていた。
「残念でしたね。素晴らしい魔術ですが、勢いが足りなかったようだ」
そう、魔術自体は完全に障壁を越えた。
しかし、その炎は途中で消え失せてしまった。
おそらく、壁を抜く時点で込められた魔力を使い果たしたのだろう。
揺るがぬ絶望を、男は見事に彼らに示してみせた。
――みせた、はずなのに。
「知ってる」
何でもなさそうに、敵が同じような笑顔を見せた。
何だ、この余裕は。
こいつは、一体――
圧倒的に優位なはずの男は、後退りをした。
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:58:30.73:SsCRfbQE0 (2/2)
そんな彼の様子に、敵はさらに嘲笑うように口角を上げた。
「俺はそんなところを狙った訳じゃない」
男はそこで、敵が自分ではなく、その下の辺りを見つめながら話していることに気付いた。
「……ま、さか」
魔術師はゆっくりと下を、自らの術を成立させるコートを見る。
すぐに気付いた。
白いだけだったそれに、赤い点が付いていることに。
点は一瞬の閃光を浮かべ、そして。
一気に爆発した。
「――――があぁぁぁああっ!?」
筆舌に尽くしがたいとんでもない熱と爆風が、男のみを襲う。
近くに立つ上条には何も起こらない。
爆炎は見えない障壁に包まれて展開している。
男にとっての絶対の防御が、皮肉にも上条の身体を守ったのだ。
あまりの熱に、男は倒れて辺りを転がり回る。
火を消さねばならない、と思考が一方向にしか進まない。
そんな彼の様子に、敵はさらに嘲笑うように口角を上げた。
「俺はそんなところを狙った訳じゃない」
男はそこで、敵が自分ではなく、その下の辺りを見つめながら話していることに気付いた。
「……ま、さか」
魔術師はゆっくりと下を、自らの術を成立させるコートを見る。
すぐに気付いた。
白いだけだったそれに、赤い点が付いていることに。
点は一瞬の閃光を浮かべ、そして。
一気に爆発した。
「――――があぁぁぁああっ!?」
筆舌に尽くしがたいとんでもない熱と爆風が、男のみを襲う。
近くに立つ上条には何も起こらない。
爆炎は見えない障壁に包まれて展開している。
男にとっての絶対の防御が、皮肉にも上条の身体を守ったのだ。
あまりの熱に、男は倒れて辺りを転がり回る。
火を消さねばならない、と思考が一方向にしか進まない。
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 00:59:49.26:O/Y9TIvk0 (2/2)
(……み、みず、水、を……っ!!)
鬼の如き形相で、魔術師は目を暴れさせる。
視界の端に求めるモノがあることに気付き、男は必死に転がった。
すなわち、海の方へと。
「――――がぁ、あぁあああっ!?」
当然だが、海の水は淡水ではない。
ともすれば、火傷に対して恐ろしい痛みを与えるのは当たり前だ。
地獄のような苦しみに、男はただもがくことしか出来ない。
おまけに、唯一の武器であるコートは燃え尽きてしまっている。
そんな事を考える余裕は彼には無いが。
そして。
ゆらり、と魔術師の前に影が立ち塞がる。
「……これで手品は終わりか?」
「――ッ!?」
聞こえた言葉に、魔術師は必死に起き上がろうとした。
だが、遅い。
「じゃあ寝てな!」
声と同時、肉を打つ音が連続する。
強烈なそれは、何発も夜の砂浜に響いた。
(……み、みず、水、を……っ!!)
鬼の如き形相で、魔術師は目を暴れさせる。
視界の端に求めるモノがあることに気付き、男は必死に転がった。
すなわち、海の方へと。
「――――がぁ、あぁあああっ!?」
当然だが、海の水は淡水ではない。
ともすれば、火傷に対して恐ろしい痛みを与えるのは当たり前だ。
地獄のような苦しみに、男はただもがくことしか出来ない。
おまけに、唯一の武器であるコートは燃え尽きてしまっている。
そんな事を考える余裕は彼には無いが。
そして。
ゆらり、と魔術師の前に影が立ち塞がる。
「……これで手品は終わりか?」
「――ッ!?」
聞こえた言葉に、魔術師は必死に起き上がろうとした。
だが、遅い。
「じゃあ寝てな!」
声と同時、肉を打つ音が連続する。
強烈なそれは、何発も夜の砂浜に響いた。
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 01:11:59.98:jq53c3nG0 (1/1)
パキリ、と目前に迫る翼に亀裂が入った。
次に、他の翼にもそれが起こって、一つの音となった。
それはゆっくりと、確実に拡がって。
ついに、その根元にいる大天使に辿り着いた。
そして、そして。
何事もなかったかのように、全てが戻ったように。
大天使は、消えた。
「……ったく、遅ェ、よ。大馬鹿」
息を整えながら、一方通行は途切れ途切れの言葉を零す。
回避のために動き回ったせいか、一気に疲労が押し寄せる。
しかし、彼の顔は気付けば笑みの形をしていた。
「やったんですね……」
足を引きずるように隣にやって来て、神裂が微笑む。
今にも倒れそうなぐらい青ざめてた顔をしているくせに、彼女は喜びに満たされたような表情をしている。
「……あァ、そォだな」
神裂の声に応えながら、一方通行は前を見て右拳を掲げた。
同じようにこっちに向かって右拳を突き出す、親友がそこにいた。
パキリ、と目前に迫る翼に亀裂が入った。
次に、他の翼にもそれが起こって、一つの音となった。
それはゆっくりと、確実に拡がって。
ついに、その根元にいる大天使に辿り着いた。
そして、そして。
何事もなかったかのように、全てが戻ったように。
大天使は、消えた。
「……ったく、遅ェ、よ。大馬鹿」
息を整えながら、一方通行は途切れ途切れの言葉を零す。
回避のために動き回ったせいか、一気に疲労が押し寄せる。
しかし、彼の顔は気付けば笑みの形をしていた。
「やったんですね……」
足を引きずるように隣にやって来て、神裂が微笑む。
今にも倒れそうなぐらい青ざめてた顔をしているくせに、彼女は喜びに満たされたような表情をしている。
「……あァ、そォだな」
神裂の声に応えながら、一方通行は前を見て右拳を掲げた。
同じようにこっちに向かって右拳を突き出す、親友がそこにいた。
22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 01:23:41.66:iqXf4ERV0 (1/2)
「……終わったんだな」
先程まで天使が放っていたぞわぞわした殺気が消えたのを感じて、上条は立ち上がった。
その手には、木製の人形だったモノの残骸が握られている。
足元で気絶している魔術師の懐から探し出したそれが、おそらくは遠距離から術を発動させるリモコンだったんだろう。
振り返れば、こちらに向かって拳を掲げた親友が立っていた。
同じように右拳を軽く突き出して、上条は笑ってみせた。
と、そこへ一つの影が近寄ってきたことに気付き、彼は拳を下げてそちらの方を見た。
影――土御門元春は、サングラスを月光に光らせながら上条に歩み寄る。
「助かったよ、土御門」
とりあえず礼を告げた。
彼が来なければ、上条達は本当に負けていたかもしれない。
「いやいや、これぐらいは余裕ですたい」
ニヤリと笑いながら、土御門は右手を何度も振った。
口調ももう、元に戻っている。
切り替え早いんだなぁ……と上条は感心した。
と、そこでようやく大事な事を思い出した。
「そうだ、父さんは……!」
上条刀夜は、どうなった。
翼に貫かれ、重傷を負ってしまったはずだが。
「……終わったんだな」
先程まで天使が放っていたぞわぞわした殺気が消えたのを感じて、上条は立ち上がった。
その手には、木製の人形だったモノの残骸が握られている。
足元で気絶している魔術師の懐から探し出したそれが、おそらくは遠距離から術を発動させるリモコンだったんだろう。
振り返れば、こちらに向かって拳を掲げた親友が立っていた。
同じように右拳を軽く突き出して、上条は笑ってみせた。
と、そこへ一つの影が近寄ってきたことに気付き、彼は拳を下げてそちらの方を見た。
影――土御門元春は、サングラスを月光に光らせながら上条に歩み寄る。
「助かったよ、土御門」
とりあえず礼を告げた。
彼が来なければ、上条達は本当に負けていたかもしれない。
「いやいや、これぐらいは余裕ですたい」
ニヤリと笑いながら、土御門は右手を何度も振った。
口調ももう、元に戻っている。
切り替え早いんだなぁ……と上条は感心した。
と、そこでようやく大事な事を思い出した。
「そうだ、父さんは……!」
上条刀夜は、どうなった。
翼に貫かれ、重傷を負ってしまったはずだが。
23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 01:40:34.32:DmBgqSXA0 (1/1)
土御門に介抱を任せておいたが、彼がここにいるという事はつまり――
「大丈夫大丈夫、ちゃんと生きてる」
気軽な声で、土御門はあっさりとそう言った。
彼なりに上条を安心させようとしているのかもしれない。
「ほ、本当か……?」
その安堵させようとしている調子が、逆に上条を不安にさせる。
そんな上条の態度に、土御門は呆れたように言う。
「こんな時にウソついてどうすんだにゃー」
救急車も呼んどいたから安心しとけ、という土御門の言葉を聞いて、やっと上条は胸を撫で下ろす。
そんな風に心配する彼を、土御門はやれやれと言わんばかりに両手を広げた。
それから、彼はサングラスをかけ直すと、
「……しかし、まぁ、今回は少しばかり、疲れたぜい」
「……土御門?」
ふと、上条は気付いた。
土御門の身体が、震えている。
ガクガクと、膝から頭まで電流でも食らったように震えを起こしていた。
驚きに目を見開く上条から身体の様子に初めて気付いたように、土御門は困った顔をした。
口元から、血が流れ出す。
じょうろのように血が少量ずつ、様々な箇所から溢れてくる。
「はは、ちょい、無茶、だったか」
グラリ、と魔術師の身体が傾く。
「土御門っ!」
慌てて上条が駆け寄った時には、彼は倒れ込んでいた。
抱き上げた彼の身体からは完全に力が抜けていて。
死体のように青くなった唇が、かすかに揺れていた。
土御門に介抱を任せておいたが、彼がここにいるという事はつまり――
「大丈夫大丈夫、ちゃんと生きてる」
気軽な声で、土御門はあっさりとそう言った。
彼なりに上条を安心させようとしているのかもしれない。
「ほ、本当か……?」
その安堵させようとしている調子が、逆に上条を不安にさせる。
そんな上条の態度に、土御門は呆れたように言う。
「こんな時にウソついてどうすんだにゃー」
救急車も呼んどいたから安心しとけ、という土御門の言葉を聞いて、やっと上条は胸を撫で下ろす。
そんな風に心配する彼を、土御門はやれやれと言わんばかりに両手を広げた。
それから、彼はサングラスをかけ直すと、
「……しかし、まぁ、今回は少しばかり、疲れたぜい」
「……土御門?」
ふと、上条は気付いた。
土御門の身体が、震えている。
ガクガクと、膝から頭まで電流でも食らったように震えを起こしていた。
驚きに目を見開く上条から身体の様子に初めて気付いたように、土御門は困った顔をした。
口元から、血が流れ出す。
じょうろのように血が少量ずつ、様々な箇所から溢れてくる。
「はは、ちょい、無茶、だったか」
グラリ、と魔術師の身体が傾く。
「土御門っ!」
慌てて上条が駆け寄った時には、彼は倒れ込んでいた。
抱き上げた彼の身体からは完全に力が抜けていて。
死体のように青くなった唇が、かすかに揺れていた。
24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 01:47:15.32:2X20afIY0 (1/2)
東京都のとある病院の個室。
ある一つの戦いから一夜を越え、二人の人間がそこにいた。
そのうちの一人、一方通行は椅子に座って、朝日の差し込む窓の外を見ながら呟く。
「絶対安静、ねェ」
彼の声には少しばかりの呆れが含まれていた。
そして、それを向けられたもう一人――土御門元春はといえば、
「いやー、助かったぜい一方」
はっはっは、とどこか軽い調子で『普段』のように笑っていた。
そんな彼の身体には無数の傷痕が存在しているというのに。
もっとも、魔術と超能力のコラボという珍しい応急処置をした甲斐あってか、
怪我人は、もう一人も含めてほぼ完全に治りかけてはいた。
魔術師との戦いの後、何故か土御門は学園都市ではなく、刀夜と同じ東京都の病院に搬送された。
普通、外で怪我をした場合、秘密を守るためにも、生徒は必ず学園都市の病院に戻されるはずなのだが。
学園都市とは違うコネ、というヤツらしい。
さっきから医者や看護婦を見かけないのも、ここがイギリス清教用に開放された場所だから、との事だった。
「そォかよ、良かったな」
呟くように言うと、一方通行は目線を下のベッドの隙間に送る。
ちょうどイイ機会だ、と思った。
東京都のとある病院の個室。
ある一つの戦いから一夜を越え、二人の人間がそこにいた。
そのうちの一人、一方通行は椅子に座って、朝日の差し込む窓の外を見ながら呟く。
「絶対安静、ねェ」
彼の声には少しばかりの呆れが含まれていた。
そして、それを向けられたもう一人――土御門元春はといえば、
「いやー、助かったぜい一方」
はっはっは、とどこか軽い調子で『普段』のように笑っていた。
そんな彼の身体には無数の傷痕が存在しているというのに。
もっとも、魔術と超能力のコラボという珍しい応急処置をした甲斐あってか、
怪我人は、もう一人も含めてほぼ完全に治りかけてはいた。
魔術師との戦いの後、何故か土御門は学園都市ではなく、刀夜と同じ東京都の病院に搬送された。
普通、外で怪我をした場合、秘密を守るためにも、生徒は必ず学園都市の病院に戻されるはずなのだが。
学園都市とは違うコネ、というヤツらしい。
さっきから医者や看護婦を見かけないのも、ここがイギリス清教用に開放された場所だから、との事だった。
「そォかよ、良かったな」
呟くように言うと、一方通行は目線を下のベッドの隙間に送る。
ちょうどイイ機会だ、と思った。
25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 01:52:10.64:iqXf4ERV0 (2/2)
一つ、尋ねた。
「オマエ、いつもこンな調子なのか?」
一方通行に、土御門はすぐには答えなかった。
数秒ほどの沈黙が流れる。
一方通行は二度も聞かず、答えを待つ。
そして、
「……まーな」
観念したような土御門の声が返ってくる。
それだけ答えると、彼は頭の辺りを適当に掻いていた。
土御門元春は魔術師である。
しかしながら、諜報のために学園都市に入った際に、超能力者として開発されていた。
それはつまり、土御門は魔術を使用すると身体に拒絶反応が起こるという事を示していた。
すなわち、死傷を負うことを。
……実際のところは、彼の無能力者(レベル0)クラスの能力、
『自動再生(オートリバース)』のおかげで、ある程度は無事らしいが。
超能力者に魔術は使えない、というのはインデックスにもステイルにも聞かされていた。
その上で、土御門はあの街にいる。
そこにどんな理由があって、どんな覚悟があるのか。
一方通行には分からない。
「もう一つ、聞いてイイか」
「……おう」
顔を上げた一方通行に、土御門はいつもと違う真剣な面持ちで対応した。
魔術師とか、学生とか、諜報員とかではなく。
ただの、土御門元春という一人の人間の目で。
一つ、尋ねた。
「オマエ、いつもこンな調子なのか?」
一方通行に、土御門はすぐには答えなかった。
数秒ほどの沈黙が流れる。
一方通行は二度も聞かず、答えを待つ。
そして、
「……まーな」
観念したような土御門の声が返ってくる。
それだけ答えると、彼は頭の辺りを適当に掻いていた。
土御門元春は魔術師である。
しかしながら、諜報のために学園都市に入った際に、超能力者として開発されていた。
それはつまり、土御門は魔術を使用すると身体に拒絶反応が起こるという事を示していた。
すなわち、死傷を負うことを。
……実際のところは、彼の無能力者(レベル0)クラスの能力、
『自動再生(オートリバース)』のおかげで、ある程度は無事らしいが。
超能力者に魔術は使えない、というのはインデックスにもステイルにも聞かされていた。
その上で、土御門はあの街にいる。
そこにどんな理由があって、どんな覚悟があるのか。
一方通行には分からない。
「もう一つ、聞いてイイか」
「……おう」
顔を上げた一方通行に、土御門はいつもと違う真剣な面持ちで対応した。
魔術師とか、学生とか、諜報員とかではなく。
ただの、土御門元春という一人の人間の目で。
26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 02:03:09.56:rYeojP080 (1/1)
「……オマエは、『どこ』にいるンだ」
彼の拠点、その根元にある場所。
イギリス清教、学園都市――それとも、どこか別の所か。
それだけを、一方通行は知りたかった。
「愚問だな、一方」
そんな彼に、土御門は吐き捨てるように告げる。
言うまでもない、当然の事だと断定するように。
「――俺は、舞夏のいる場所にいる」
それだけさ、と土御門は笑った。
一方通行はそう言った彼の目を見ようとしたが、サングラスで何も分からない。
それが、彼の笑顔の仮面をいっそう引き立てているように感じた。
結局、土御門の本心は完全には読めない。
しかし、
「……そォか」
一方通行は納得したように息を吐いた。
彼にとっての土御門と、今の言葉を述べた土御門が、重なったから。
彼は、それでよしとすることにした。
「……オマエは、『どこ』にいるンだ」
彼の拠点、その根元にある場所。
イギリス清教、学園都市――それとも、どこか別の所か。
それだけを、一方通行は知りたかった。
「愚問だな、一方」
そんな彼に、土御門は吐き捨てるように告げる。
言うまでもない、当然の事だと断定するように。
「――俺は、舞夏のいる場所にいる」
それだけさ、と土御門は笑った。
一方通行はそう言った彼の目を見ようとしたが、サングラスで何も分からない。
それが、彼の笑顔の仮面をいっそう引き立てているように感じた。
結局、土御門の本心は完全には読めない。
しかし、
「……そォか」
一方通行は納得したように息を吐いた。
彼にとっての土御門と、今の言葉を述べた土御門が、重なったから。
彼は、それでよしとすることにした。
27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 02:11:21.00:JC9To4PP0 (1/1)
一方通行の声に、土御門は頷き返す。
それから、彼は思い付いたように口を開く。
「そうそう、一方。一つ言っときたいことが」
「……何だ」
話し手が代わり、一方通行は土御門の言葉を待つ。
彼は、僅かに躊躇ったように口だけを何度か動かす。
そこから音が出たのは、長い間を置いた後だった。
「――悪いな。例の『実験』のこと」
予想外の台詞に、言葉が詰まった。
瞬間、脳内を過ぎったのは、一人の少女の無惨な死体。
怒り、苦しみ、そして、一つの救い。
様々な場面が、一息に蘇った。
喉が干上がるような感覚に、一方通行はしばらく黙って、
「……知ってたのか?」
ようやく、一言出した。
一方通行の質問に、彼は首を横に振って答える。
当日になって知ったよ、とどこか事務めいた口調で言った。
それから付け加えるように、
「だけどまぁ、一応ダチとして謝っとこうかなってことで」
と、顔を逸らして言った。
後ろめたい感情を隠すように、彼はそれだけ言うと黙った。
一方通行の声に、土御門は頷き返す。
それから、彼は思い付いたように口を開く。
「そうそう、一方。一つ言っときたいことが」
「……何だ」
話し手が代わり、一方通行は土御門の言葉を待つ。
彼は、僅かに躊躇ったように口だけを何度か動かす。
そこから音が出たのは、長い間を置いた後だった。
「――悪いな。例の『実験』のこと」
予想外の台詞に、言葉が詰まった。
瞬間、脳内を過ぎったのは、一人の少女の無惨な死体。
怒り、苦しみ、そして、一つの救い。
様々な場面が、一息に蘇った。
喉が干上がるような感覚に、一方通行はしばらく黙って、
「……知ってたのか?」
ようやく、一言出した。
一方通行の質問に、彼は首を横に振って答える。
当日になって知ったよ、とどこか事務めいた口調で言った。
それから付け加えるように、
「だけどまぁ、一応ダチとして謝っとこうかなってことで」
と、顔を逸らして言った。
後ろめたい感情を隠すように、彼はそれだけ言うと黙った。
28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 02:28:34.40:QAkBrdnx0 (1/1)
一方通行もまた、黙り込んだ。
深い思考の世界へと心が潜る。
もし、土御門が。
あの日、都合よく『実験』の事を教えてくれたら。
もし、惨劇を阻止するチャンスが与えられたなら――
(……くっだらねェ)
簡単に、一方通行は馬鹿げた考えを一蹴した。
そんな事、考えたところで無駄だ。
それに、その考え方はつまり、土御門に責任を押し付けているのだ。
一番の当事者を差し置いて、無関係な人間に。
一方通行はそんな逃げ道は好まない。
責任を取るのは、自分だけなのだから。
「……オマエのせいじゃねェ。当事者は俺だ」
短く、一方通行は自分の意思を伝えた。
謝るな、と。
「……そうか」
それだけ呟くと、土御門はまた黙る。
一方通行も、口を閉じた。
話は、終わった。
一方通行もまた、黙り込んだ。
深い思考の世界へと心が潜る。
もし、土御門が。
あの日、都合よく『実験』の事を教えてくれたら。
もし、惨劇を阻止するチャンスが与えられたなら――
(……くっだらねェ)
簡単に、一方通行は馬鹿げた考えを一蹴した。
そんな事、考えたところで無駄だ。
それに、その考え方はつまり、土御門に責任を押し付けているのだ。
一番の当事者を差し置いて、無関係な人間に。
一方通行はそんな逃げ道は好まない。
責任を取るのは、自分だけなのだから。
「……オマエのせいじゃねェ。当事者は俺だ」
短く、一方通行は自分の意思を伝えた。
謝るな、と。
「……そうか」
それだけ呟くと、土御門はまた黙る。
一方通行も、口を閉じた。
話は、終わった。
29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 02:34:42.21:rREdMSQJ0 (3/3)
「そろそろ帰る」
それだけ言うと、一方通行は立ち上がった。
もう用はない、と判断したのだ。
急ぐように、彼は出口へと向かう。
そして、病室のドアが目の前に迫って、
「おい」
土御門の呼び止める声がした。
だが、一方通行は振り返らない。
そんな彼にお構いなしに、土御門は言葉を投げ掛けた。
「思いつめるなよ、一方通行。お前がやったことはとんでもないかもしれんが、それはお前一人で解決した訳でもない」
諭すように土御門は言った。
それは本心なのか、嘘なのか。
一方通行には判別がつかない。
しかし、
「……あァ」
一方通行は目を閉じた。
不思議と土御門の言葉は、頭の中に残った。
後ろで、ふ、と土御門がニヤリと笑った気がした。
「それじゃ、また始業式でな」
「……じゃあな」
適当に返して、部屋を出た。
やっぱり、土御門は笑っていた。
変人め、と一方通行は心の中で呟いた。
どこか、嬉しそうに。
「そろそろ帰る」
それだけ言うと、一方通行は立ち上がった。
もう用はない、と判断したのだ。
急ぐように、彼は出口へと向かう。
そして、病室のドアが目の前に迫って、
「おい」
土御門の呼び止める声がした。
だが、一方通行は振り返らない。
そんな彼にお構いなしに、土御門は言葉を投げ掛けた。
「思いつめるなよ、一方通行。お前がやったことはとんでもないかもしれんが、それはお前一人で解決した訳でもない」
諭すように土御門は言った。
それは本心なのか、嘘なのか。
一方通行には判別がつかない。
しかし、
「……あァ」
一方通行は目を閉じた。
不思議と土御門の言葉は、頭の中に残った。
後ろで、ふ、と土御門がニヤリと笑った気がした。
「それじゃ、また始業式でな」
「……じゃあな」
適当に返して、部屋を出た。
やっぱり、土御門は笑っていた。
変人め、と一方通行は心の中で呟いた。
どこか、嬉しそうに。
30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 02:47:54.19:Chwa7HvE0 (1/1)
「……ま、そんな訳で上条刀夜の責任は実行犯一人に付くことになったぜい」
一人目の見舞客が去って、およそ三十分後。
土御門の病室には、二人目の見舞客――上条当麻がいた。
彼は、土御門から事件の処理について聞かされていた。
一人の魔術師と一人の素人が起こした、世界規模の混乱。
その責任をどうするかを話し合っていた土御門と神裂に、上条は必死になって頼み込んだ。
どうか、父親を見逃して欲しい。
大きな責任かもしれないが、彼を追い詰めたのは自分だ。
裁くのは自分にしてくれ、と。
そんな上条の願いを、土御門達は受け入れてくれた。
魔術師だけを、実行犯として。
「……ありがとう」
上条は頭を垂れた。
そんな事でも、まだ感謝の意は足りないくらいだとも思った。
「いやいや、気にするないカミやん。もともとこっち側の責任だ」
そんな風にされても困る、と土御門は言う。
彼からすれば、素人を巻き込む時点で玄人の責任だという事なのだろうか。
「……ま、そんな訳で上条刀夜の責任は実行犯一人に付くことになったぜい」
一人目の見舞客が去って、およそ三十分後。
土御門の病室には、二人目の見舞客――上条当麻がいた。
彼は、土御門から事件の処理について聞かされていた。
一人の魔術師と一人の素人が起こした、世界規模の混乱。
その責任をどうするかを話し合っていた土御門と神裂に、上条は必死になって頼み込んだ。
どうか、父親を見逃して欲しい。
大きな責任かもしれないが、彼を追い詰めたのは自分だ。
裁くのは自分にしてくれ、と。
そんな上条の願いを、土御門達は受け入れてくれた。
魔術師だけを、実行犯として。
「……ありがとう」
上条は頭を垂れた。
そんな事でも、まだ感謝の意は足りないくらいだとも思った。
「いやいや、気にするないカミやん。もともとこっち側の責任だ」
そんな風にされても困る、と土御門は言う。
彼からすれば、素人を巻き込む時点で玄人の責任だという事なのだろうか。
31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 02:52:41.14:eFV05oBj0 (1/2)
上条は顔を上げて、窓の外を見る。
空には、何だか知らない鳥の小さな雛が、大きくない翼を使ってひたむきに飛んでいる姿があった。
「……俺、弱っちいんだな」
自責の念が込められた、重い一言だった。
それは、刀夜を傷付けた事から来ているのか。
もしくは、彼を追い詰めた事に対して、感じているのかもしれない。
「強く、なりたいよ」
たった一つ、願いを口にした。
もちろん、この場にいるのは何でも叶える神様じゃなくて、ただの友達だった。
そんな愚痴めいた言葉に、それでも土御門は返してくれた。
「……ただ強くなったって、意味ねーぜよ」
「分かってる。分かってるけど」
『強さ』が腕力なんかじゃない事ぐらい、上条だって理解している。
それでも、やはり。
「……悔しいんだ。弱いのが」
もう、嫌だった。
大切にしたいと思える人が、害を受けるような事が。
無力なまま、何も出来ない事は。
上条は顔を上げて、窓の外を見る。
空には、何だか知らない鳥の小さな雛が、大きくない翼を使ってひたむきに飛んでいる姿があった。
「……俺、弱っちいんだな」
自責の念が込められた、重い一言だった。
それは、刀夜を傷付けた事から来ているのか。
もしくは、彼を追い詰めた事に対して、感じているのかもしれない。
「強く、なりたいよ」
たった一つ、願いを口にした。
もちろん、この場にいるのは何でも叶える神様じゃなくて、ただの友達だった。
そんな愚痴めいた言葉に、それでも土御門は返してくれた。
「……ただ強くなったって、意味ねーぜよ」
「分かってる。分かってるけど」
『強さ』が腕力なんかじゃない事ぐらい、上条だって理解している。
それでも、やはり。
「……悔しいんだ。弱いのが」
もう、嫌だった。
大切にしたいと思える人が、害を受けるような事が。
無力なまま、何も出来ない事は。
32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 03:10:53.92:rD2UP7cv0 (1/1)
「……付け焼き刃な強さなど、役に立たん」
きっぱりと否定するように、土御門は言う。
それはその通りだ、と上条はうなだれた。
今更、自分に何が出来る?
体力をつけるためにランニング?
ジムでも通ってトレーニングか?
週二回、誰でも毎日鍛えられます、ってか。
大馬鹿だ、と思った。
『力』は、そんな事で手に入らない。
手に入る、訳がない。
結局、自分は今回みたいに誰かの力を借りるしか出来ない。
上条はそんな無力さを、自嘲する。
所詮、彼は。
「ちゃんとした力を身につけさせてやるよ」
近くで、声がした。
上条は窓からそちらの方に目を移す。
ベッドで寝ている魔術師は、初めて見たと言ってもいいぐらい真剣な顔付きをしていた。
「……土御門」
そんな彼に戸惑いながら、上条は魔術師を見る。
同じく、真剣な瞳で。
「……付け焼き刃な強さなど、役に立たん」
きっぱりと否定するように、土御門は言う。
それはその通りだ、と上条はうなだれた。
今更、自分に何が出来る?
体力をつけるためにランニング?
ジムでも通ってトレーニングか?
週二回、誰でも毎日鍛えられます、ってか。
大馬鹿だ、と思った。
『力』は、そんな事で手に入らない。
手に入る、訳がない。
結局、自分は今回みたいに誰かの力を借りるしか出来ない。
上条はそんな無力さを、自嘲する。
所詮、彼は。
「ちゃんとした力を身につけさせてやるよ」
近くで、声がした。
上条は窓からそちらの方に目を移す。
ベッドで寝ている魔術師は、初めて見たと言ってもいいぐらい真剣な顔付きをしていた。
「……土御門」
そんな彼に戸惑いながら、上条は魔術師を見る。
同じく、真剣な瞳で。
33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 03:12:45.81:ePiSAh+L0 (1/1)
「ただし、上条当麻」
付け加えるように、土御門ははっきりと告げた。
その声は音量こそ無かったが、有無を言わせない威圧感があった。
「お前に覚悟はあるのか? 大事なモノのために血を見る覚悟が」
ギラリ、と土御門のサングラスが鋭く光った。
上条を試すように、刃のような視線が刺さる。
「……あるさ、そんなの」
上条は答えた。
強い意思の秘められた声で。
その決意のほどを、示してみせた。
「いつまでも、一方通行を頼ってたまるかよ」
突き刺す視線を押し返して、上条は真っ直ぐに土御門を捉える。
そうして、数秒の時を経て。
やがて、彼は柔らかな笑みを浮かべた。
「……じゃ、いいさ」
土御門は両手を広げた。
まるで、新しく入った社員を歓迎するように。
「教えてやる、戦い方ってのを」
「ただし、上条当麻」
付け加えるように、土御門ははっきりと告げた。
その声は音量こそ無かったが、有無を言わせない威圧感があった。
「お前に覚悟はあるのか? 大事なモノのために血を見る覚悟が」
ギラリ、と土御門のサングラスが鋭く光った。
上条を試すように、刃のような視線が刺さる。
「……あるさ、そんなの」
上条は答えた。
強い意思の秘められた声で。
その決意のほどを、示してみせた。
「いつまでも、一方通行を頼ってたまるかよ」
突き刺す視線を押し返して、上条は真っ直ぐに土御門を捉える。
そうして、数秒の時を経て。
やがて、彼は柔らかな笑みを浮かべた。
「……じゃ、いいさ」
土御門は両手を広げた。
まるで、新しく入った社員を歓迎するように。
「教えてやる、戦い方ってのを」
34:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 03:31:27.12:5cbRqVCV0 (1/2)
ヨーロッパ、イタリアのフィレンツェ近くの上空。
小さなプライベートジェットが、一機飛んでいた。
イギリス清教所属のそれは、昨晩捕らえられたある魔術の実行犯を護送している最中にあった。
貨物室、という名の牢屋の中に、男はいた。
その両手両足は見事な重さの錠を掛けられている。
酷い火傷を負っていた彼だが、今はある程度の治療を受け、目立たないぐらいには治されていた。
といっても、そんな事に意味はない。
どうせ術の細かい仕掛けをさんざん『拷問』で吐かされた後は、死刑に処されるに決まっている。
「ふふふ、ここまでか」
背を冷たい壁に預け、男は一人呟いた。
特に後悔は無かった。
これもまた運命だと、男は反ってすっきりした気持ちでいたのだ。
愉快そうに、男は笑った。
たった、一人で――
『そうなるな』
ピタリ、と男は笑顔のまま固まった。
それから、辺りを見回して、突如聞こえた声の正体を探す。
ヨーロッパ、イタリアのフィレンツェ近くの上空。
小さなプライベートジェットが、一機飛んでいた。
イギリス清教所属のそれは、昨晩捕らえられたある魔術の実行犯を護送している最中にあった。
貨物室、という名の牢屋の中に、男はいた。
その両手両足は見事な重さの錠を掛けられている。
酷い火傷を負っていた彼だが、今はある程度の治療を受け、目立たないぐらいには治されていた。
といっても、そんな事に意味はない。
どうせ術の細かい仕掛けをさんざん『拷問』で吐かされた後は、死刑に処されるに決まっている。
「ふふふ、ここまでか」
背を冷たい壁に預け、男は一人呟いた。
特に後悔は無かった。
これもまた運命だと、男は反ってすっきりした気持ちでいたのだ。
愉快そうに、男は笑った。
たった、一人で――
『そうなるな』
ピタリ、と男は笑顔のまま固まった。
それから、辺りを見回して、突如聞こえた声の正体を探す。
35:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 03:32:29.45:FizRol2M0 (1/1)
「……おや、どうやってここに?」
そうして、気付いた。
自分と反対の位置にある金属の壁に、一枚の札が貼られていることに。
そして、それに『通信』のためのルーンを刻んであることに。
『やり方なんていくらでもある』
何でもなさそうに声は言う。
事実、何でもないんだろう、と男は思った。
何せ、相手は――
『お疲れ様、と言っとこうか。色々と分かったし、それに――』
男の思考を遮り、声は楽しそうな調子で続けた。
『面白いモノが二つも見つかった』
「……は、なるほど。私を踊らせて様子見ですか」
全てを理解して、魔術師は諦めたようにため息を吐いた。
『まあな。助かったよ』
「それは何よりで」
嬉しそうにする相手に、男は祝福の言葉を申し上げてやった。
それに対し、声はそれが当然のように言う。
『どうも。こっちからも礼だ』
恐ろしく淡々と、声が響いた。
「……おや、どうやってここに?」
そうして、気付いた。
自分と反対の位置にある金属の壁に、一枚の札が貼られていることに。
そして、それに『通信』のためのルーンを刻んであることに。
『やり方なんていくらでもある』
何でもなさそうに声は言う。
事実、何でもないんだろう、と男は思った。
何せ、相手は――
『お疲れ様、と言っとこうか。色々と分かったし、それに――』
男の思考を遮り、声は楽しそうな調子で続けた。
『面白いモノが二つも見つかった』
「……は、なるほど。私を踊らせて様子見ですか」
全てを理解して、魔術師は諦めたようにため息を吐いた。
『まあな。助かったよ』
「それは何よりで」
嬉しそうにする相手に、男は祝福の言葉を申し上げてやった。
それに対し、声はそれが当然のように言う。
『どうも。こっちからも礼だ』
恐ろしく淡々と、声が響いた。
36:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 03:34:11.09:HNFPqEWv0 (1/1)
『――せめて楽に死ぬといい』
瞬間、狭い室内に強烈な閃光と爆発音が響く。
その炎は、魔術的な防御を施された室内だけに、広がっていく。
(……あぁ)
ニコリ、と魔術師は笑みを浮かべた。
彼にとって、それはまるで迎えの光に思えたのだ。
業火に焼かれるような痛みを感じ、刹那、それを感じる器官までが破壊しつくされて、男は息を引き取った。
変わらぬ笑顔のままで。
『――せめて楽に死ぬといい』
瞬間、狭い室内に強烈な閃光と爆発音が響く。
その炎は、魔術的な防御を施された室内だけに、広がっていく。
(……あぁ)
ニコリ、と魔術師は笑みを浮かべた。
彼にとって、それはまるで迎えの光に思えたのだ。
業火に焼かれるような痛みを感じ、刹那、それを感じる器官までが破壊しつくされて、男は息を引き取った。
変わらぬ笑顔のままで。
37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 03:35:15.34:1WLhRmj50 (2/2)
「うーむ、少々やり過ぎたか?」
バチカンの聖ピエトロ大聖堂。
枢機卿やローマ教皇など、ローマ正教の重鎮のみが立ち寄るような場所の最深部で。
軽い調子で、一人の若者が声を上げた。
実際は彼の近くにいる、ただの『魔術師』の部下に向けて言ったのだが、どうも彼は愛想が悪い。
やれやれ、と退屈そうに若者は左手で赤い髪を掻き上げた。
部下は部下で、さっさと魔術を止めて片付けをしている。
「……次はいかがしますか」
片付けをする手を止めず、淡々とした調子で部下が聞いてきた。
「んー、そうだな」
グルリと身体を一回転させて、若者は辺りを見回す。
それから、思い付いたように答えた。
「とりあえずは泳がせよう。餌は用意しておくがな」
分かりました、とだけ言って部下が消えた。
実に機械的で無駄のない動きだった。
「……まぁ、優秀なだけマシか」
物足りなさそうに呟くと、若者は部下が消えた方とは真反対――さらなる闇の中へと歩みを進める。
迷いなく、彼は暗い中を歩く。
明かりも持たずに、彼は『右手』を掲げた。
まるで、それが彼にとっての光であるかのように。
「当分は見守っておこうじゃないか。少なくともこいつが『完成』するまでは」
小さく発した音は、広い通路を幾重にも反射し、若者を追いやるように存在し続けた。
「うーむ、少々やり過ぎたか?」
バチカンの聖ピエトロ大聖堂。
枢機卿やローマ教皇など、ローマ正教の重鎮のみが立ち寄るような場所の最深部で。
軽い調子で、一人の若者が声を上げた。
実際は彼の近くにいる、ただの『魔術師』の部下に向けて言ったのだが、どうも彼は愛想が悪い。
やれやれ、と退屈そうに若者は左手で赤い髪を掻き上げた。
部下は部下で、さっさと魔術を止めて片付けをしている。
「……次はいかがしますか」
片付けをする手を止めず、淡々とした調子で部下が聞いてきた。
「んー、そうだな」
グルリと身体を一回転させて、若者は辺りを見回す。
それから、思い付いたように答えた。
「とりあえずは泳がせよう。餌は用意しておくがな」
分かりました、とだけ言って部下が消えた。
実に機械的で無駄のない動きだった。
「……まぁ、優秀なだけマシか」
物足りなさそうに呟くと、若者は部下が消えた方とは真反対――さらなる闇の中へと歩みを進める。
迷いなく、彼は暗い中を歩く。
明かりも持たずに、彼は『右手』を掲げた。
まるで、それが彼にとっての光であるかのように。
「当分は見守っておこうじゃないか。少なくともこいつが『完成』するまでは」
小さく発した音は、広い通路を幾重にも反射し、若者を追いやるように存在し続けた。
38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2012/10/07(日) 06:52:19.91:gSxKwEKx0 (1/1)
>>1乙
先ずは、闇から…
よい、プロロ-グだ。
>>1乙
先ずは、闇から…
よい、プロロ-グだ。
39:すみません寝落ちしてました:2012/10/07(日) 09:01:01.43:nm42JH9W0 (2/3)
東京都内のとある病院の出口。
そこで一方通行は帰りのタクシーを待っていた。
そしてそのそばには、もう一人。
「……イイのか、あのガキに会わなくて」
確かめの質問を一方通行はそいつに投げ掛ける。
質問を投げられた相手――神裂火織は、ただ一度首を横に振った。
「……今回は、『仕事』でしたから」
それだけを事務的に言うと、神裂は押し黙る。
あのガキ――インデックスは、彼女にとって大切な同僚だった。
苦しんでいたインデックスが救われて、彼女ともう一人は一応喜んでいる。
そう、思っていたのだが。
勝手に作った溝は、簡単には埋まらないらしい。
それ以上何か言うのを、一方通行は止めた。
これは彼らの片付ける問題だ。
直接は何かする必要がなかった。
東京都内のとある病院の出口。
そこで一方通行は帰りのタクシーを待っていた。
そしてそのそばには、もう一人。
「……イイのか、あのガキに会わなくて」
確かめの質問を一方通行はそいつに投げ掛ける。
質問を投げられた相手――神裂火織は、ただ一度首を横に振った。
「……今回は、『仕事』でしたから」
それだけを事務的に言うと、神裂は押し黙る。
あのガキ――インデックスは、彼女にとって大切な同僚だった。
苦しんでいたインデックスが救われて、彼女ともう一人は一応喜んでいる。
そう、思っていたのだが。
勝手に作った溝は、簡単には埋まらないらしい。
それ以上何か言うのを、一方通行は止めた。
これは彼らの片付ける問題だ。
直接は何かする必要がなかった。
40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 09:02:02.13:ddQce1Lq0 (1/2)
沈黙が流れた。
それは自然の流れだったので、一方通行は特に気にしなかった。
タクシーを待つ時間で、とりあえず、これまでの事を考える。
この外出は、トラブルを除いてイイ経験になった気がする。
木原数多には、何か言っておかなければなるまい。
普段、絶対に言わないような事を。
上条が言えて、自分に言えない訳もないのだから。
待っていやがれ、と一方通行は心の中で笑う。
俄然、帰るのが楽しみになっていた。
それは、ちょっとした『ホームシック』というヤツなのだと、彼は気付いていない。
そもそも、理解もしていないが。
沈黙が流れた。
それは自然の流れだったので、一方通行は特に気にしなかった。
タクシーを待つ時間で、とりあえず、これまでの事を考える。
この外出は、トラブルを除いてイイ経験になった気がする。
木原数多には、何か言っておかなければなるまい。
普段、絶対に言わないような事を。
上条が言えて、自分に言えない訳もないのだから。
待っていやがれ、と一方通行は心の中で笑う。
俄然、帰るのが楽しみになっていた。
それは、ちょっとした『ホームシック』というヤツなのだと、彼は気付いていない。
そもそも、理解もしていないが。
41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 09:03:33.44:ddQce1Lq0 (2/2)
そんな考えに及んでいると。
「……あ、あの!」
「あン?」
突然、魔術師が話し掛けてきた。
彼女は、何か大きな決心でもしたように、真剣な目をしている。
「……何だよ」
質問に質問で返すのはあんまりだが、まぁそれ以外出来ないのだから仕方ない。
神裂は、大きく息を吸った。
それから、何だか知らないが後ろを向いて、ぶつぶつと何かを確認していた。
何なンだ……? と一方通行が訝んでいると、彼女はさっ、とこちらを向く。
「あの、ですね。一つ、その…………」
「だから、何だよ」
弱ったように、神裂は続きを言わない。
珍しいな、と思いつつ、一方通行は続きを促す。
そうしてようやく、彼女は喋った。
「良く考えると、私はまだ禁書目録を助けていただいたお礼をしていません」
お礼? と一方通行は首を傾げる。
別にそんな事しなくてもイイ、と彼は言おうとしたが、神裂はそれより速く言葉を紡ぐ。
そんな考えに及んでいると。
「……あ、あの!」
「あン?」
突然、魔術師が話し掛けてきた。
彼女は、何か大きな決心でもしたように、真剣な目をしている。
「……何だよ」
質問に質問で返すのはあんまりだが、まぁそれ以外出来ないのだから仕方ない。
神裂は、大きく息を吸った。
それから、何だか知らないが後ろを向いて、ぶつぶつと何かを確認していた。
何なンだ……? と一方通行が訝んでいると、彼女はさっ、とこちらを向く。
「あの、ですね。一つ、その…………」
「だから、何だよ」
弱ったように、神裂は続きを言わない。
珍しいな、と思いつつ、一方通行は続きを促す。
そうしてようやく、彼女は喋った。
「良く考えると、私はまだ禁書目録を助けていただいたお礼をしていません」
お礼? と一方通行は首を傾げる。
別にそんな事しなくてもイイ、と彼は言おうとしたが、神裂はそれより速く言葉を紡ぐ。
42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 09:04:00.98:nm42JH9W0 (3/3)
「……ひ、一つ、何でもしましょう!!」
「……ひ、一つ、何でもしましょう!!」
43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 09:04:50.06:tTO1vleD0 (2/2)
……む、無論、私に出来る限りですよ!? と彼女は何故か困ったように付け加えた。
「そォ言われてもな……」
神裂と同じくらい、一方通行も困った。
あれは自分達の意思でした事だし、
それで『ありがとう』の一言をもらうだけならまだしも、『何でもする』というのは突飛過ぎる気がした。
これが土御門とかだったら、間違いなく『ん? 今、何でもするって言ったんだにゃー? ニヤニヤ』とか言ってる。
……かなり真剣な目付きで。
一方通行は神裂を見つめた。
その目は固まりきっているし、たぶん何を言っても引き下がらないだろう。
……しょうがねェな、と一方通行は疲れたような顔をした。
……む、無論、私に出来る限りですよ!? と彼女は何故か困ったように付け加えた。
「そォ言われてもな……」
神裂と同じくらい、一方通行も困った。
あれは自分達の意思でした事だし、
それで『ありがとう』の一言をもらうだけならまだしも、『何でもする』というのは突飛過ぎる気がした。
これが土御門とかだったら、間違いなく『ん? 今、何でもするって言ったんだにゃー? ニヤニヤ』とか言ってる。
……かなり真剣な目付きで。
一方通行は神裂を見つめた。
その目は固まりきっているし、たぶん何を言っても引き下がらないだろう。
……しょうがねェな、と一方通行は疲れたような顔をした。
44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 09:05:45.81:B/0Yuh4/0 (2/2)
「……何でも、するンだな?」
確かめる声を聞いて、神裂は初めて自分が言った事を後悔した。
どうしてこんな事を言ったのか、という原因は土御門に違いないが、行動したのは自分である。
目の前の少年が、何だか獣に見えてきてしまった。
その目線がどこにあるのかも、神裂には分からない。
内心、不安と緊張でそれはそれは立派な胸が震える。
忘れてはならない事だが、神裂火織は、世界でも二十人といない『聖人』だとか、
厳格な性格をしている事などを除けば、
まだまだ少女、と一応呼んでも良い、十八歳の『女の子』なのだ。
それを考えれば、彼女の気持ちも何となくは理解出来るだろう。
「だったらよ」
ピクリ、と神裂の肩が跳ねた。
もうこれ以上ないほど、彼女は緊張していた。
対して、少年は気軽に笑う。
それから、内容を告げた。
「……何でも、するンだな?」
確かめる声を聞いて、神裂は初めて自分が言った事を後悔した。
どうしてこんな事を言ったのか、という原因は土御門に違いないが、行動したのは自分である。
目の前の少年が、何だか獣に見えてきてしまった。
その目線がどこにあるのかも、神裂には分からない。
内心、不安と緊張でそれはそれは立派な胸が震える。
忘れてはならない事だが、神裂火織は、世界でも二十人といない『聖人』だとか、
厳格な性格をしている事などを除けば、
まだまだ少女、と一応呼んでも良い、十八歳の『女の子』なのだ。
それを考えれば、彼女の気持ちも何となくは理解出来るだろう。
「だったらよ」
ピクリ、と神裂の肩が跳ねた。
もうこれ以上ないほど、彼女は緊張していた。
対して、少年は気軽に笑う。
それから、内容を告げた。
45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 09:07:46.49:f4fmjtcM0 (3/3)
「たまには、あのガキのトコに来いよ」
……思わず、耳を疑った。
「え、あの、それって……」
「だからよォ」
慌てたようにする神裂に、一方通行は呆れたような声で返す。
「俺からすりゃ、礼なンざそれで十分だ」
ついでにもう一人もな、とだけ言って、一方通行は振り返った。
その先に、彼を迎えに来たらしいタクシーが現れた。
「来る時は土産忘れンなよ」
足元のスポーツバッグを持って、少年はスタスタと歩く。
そんな彼に、神裂は微笑を浮かべた。
安心したからか、嬉しかったからか、それは定かではない。
彼女はなるべく大声で返した。
「分かりました! 必ず、必ず来ますから!」
それに対し、一方通行は片手を軽く上げて振った。
了解、と言いたげに。
そして、彼はその場を去った。
残された神裂は、彼のいた場所を見た。
時間にして、僅か数秒間。
しかし、それだけあれば充分だ。
「――行きますか」
誰に言う訳でもない独り言を呟いた。
次の仕事が待っている。
早く終わらせて、それで――
新しい目標に、彼女の目は輝いていた。
「たまには、あのガキのトコに来いよ」
……思わず、耳を疑った。
「え、あの、それって……」
「だからよォ」
慌てたようにする神裂に、一方通行は呆れたような声で返す。
「俺からすりゃ、礼なンざそれで十分だ」
ついでにもう一人もな、とだけ言って、一方通行は振り返った。
その先に、彼を迎えに来たらしいタクシーが現れた。
「来る時は土産忘れンなよ」
足元のスポーツバッグを持って、少年はスタスタと歩く。
そんな彼に、神裂は微笑を浮かべた。
安心したからか、嬉しかったからか、それは定かではない。
彼女はなるべく大声で返した。
「分かりました! 必ず、必ず来ますから!」
それに対し、一方通行は片手を軽く上げて振った。
了解、と言いたげに。
そして、彼はその場を去った。
残された神裂は、彼のいた場所を見た。
時間にして、僅か数秒間。
しかし、それだけあれば充分だ。
「――行きますか」
誰に言う訳でもない独り言を呟いた。
次の仕事が待っている。
早く終わらせて、それで――
新しい目標に、彼女の目は輝いていた。
46:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 09:10:35.64:vGBUIzm50 (1/2)
同じ病院のある個室。
そこのベッドに、上条刀夜は寝転んでいた。
多量出血と刺し傷で緊急入院することになった彼なのだが、傷自体はもう塞ぎかけている。
医者は不思議がっていたが、刀夜にも理由は分からない。
ついでに言うと、何があって自分がこうなったのかもだ。
ただ、覚えているのは――
『俺は「幸せ」だ。この場所にいられて、この時を生きてて』
『――アンタの息子で良かったってくらい、全力で「幸せ」に生きてるんだ!』
「当麻……」
小さく、名前を呟いた。
この場にはいない、自分が無事だという知らせを聞いてから帰った、息子の名を。
同じ病院のある個室。
そこのベッドに、上条刀夜は寝転んでいた。
多量出血と刺し傷で緊急入院することになった彼なのだが、傷自体はもう塞ぎかけている。
医者は不思議がっていたが、刀夜にも理由は分からない。
ついでに言うと、何があって自分がこうなったのかもだ。
ただ、覚えているのは――
『俺は「幸せ」だ。この場所にいられて、この時を生きてて』
『――アンタの息子で良かったってくらい、全力で「幸せ」に生きてるんだ!』
「当麻……」
小さく、名前を呟いた。
この場にはいない、自分が無事だという知らせを聞いてから帰った、息子の名を。
47:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 09:11:32.52:2X20afIY0 (2/2)
「――刀夜さん」
突如、外から声がした。
キィ……と軋んだ音を立てて、病室のドアが開く。
そこから現れた人物を視界に入れて、刀夜は微笑んだ。
「……やぁ母さん」
声を掛けられた人物――妻はニコリと笑みを返した。
それから、そのままの表情で。
「――あいたっ!?」
ポカンッ! と夫の頭を軽く叩いた。
「あらあらあら。どうして刀夜さんはこんな所に入院しちゃうのかしら。当麻さんといい、人を心配させることばかり」
それから、ギュウウ……! と締め付けるように刀夜の身体を抱きしめた。
「い、た、あ、たたっ!? 母さんちょっと、ね、熱烈すぎるというか……い――ッ!!」
そういうスキンシップは割と好きな刀夜だが、今はその重圧で傷口にとてつもない痛みが走る訳で。
ぶるぶると震えて、刀夜はマナーモードのケータイの如く悶絶する。
「知りませんよ、そんなの。もっと痛がっちゃえばいいんです」
さらなる力が込められ、刀夜は冗談にならないくらいの痛みを感じる。
「ち、ちょと、か、母さ、ん……?」
あんまりな痛みを訴えようとした刀夜だったが、そこで気付いた。
――妻の身体が、震えていることに。
「――刀夜さん」
突如、外から声がした。
キィ……と軋んだ音を立てて、病室のドアが開く。
そこから現れた人物を視界に入れて、刀夜は微笑んだ。
「……やぁ母さん」
声を掛けられた人物――妻はニコリと笑みを返した。
それから、そのままの表情で。
「――あいたっ!?」
ポカンッ! と夫の頭を軽く叩いた。
「あらあらあら。どうして刀夜さんはこんな所に入院しちゃうのかしら。当麻さんといい、人を心配させることばかり」
それから、ギュウウ……! と締め付けるように刀夜の身体を抱きしめた。
「い、た、あ、たたっ!? 母さんちょっと、ね、熱烈すぎるというか……い――ッ!!」
そういうスキンシップは割と好きな刀夜だが、今はその重圧で傷口にとてつもない痛みが走る訳で。
ぶるぶると震えて、刀夜はマナーモードのケータイの如く悶絶する。
「知りませんよ、そんなの。もっと痛がっちゃえばいいんです」
さらなる力が込められ、刀夜は冗談にならないくらいの痛みを感じる。
「ち、ちょと、か、母さ、ん……?」
あんまりな痛みを訴えようとした刀夜だったが、そこで気付いた。
――妻の身体が、震えていることに。
48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 09:12:25.25:vGBUIzm50 (2/2)
「――どうしてですか」
耳元まで頭を寄せて、妻は囁く。
「――どうして、刀夜さんまでこんな事になってるんですか」
そこで刀夜はさらに気付いた。
妻の声は震えて、今にも泣きそうだったことに。
いや、もう泣いているのかもしれない。
だって、彼女はさっきから一度も顔を見せようとしなかったから。
「母さん」
ポン、と刀夜は詩菜の頭に右手を置く。
それから、彼女の髪を梳くように撫でた。
「あ――」
たったのそれだけで、妻の力が弱まった。
そうして、今度は刀夜から彼女を抱き寄せた。
痛みは、もうない。
「すまなかった。思えば、母さんには辛い思いばかりさせてきたね」
昔から、そうだった。
刀夜が息子のために行動しようとしている間、彼女は夫の留守を守り、息子を見守ってきた。
誰にも理解をされず、誰にも助けられなかった中で。
刀夜と同じように、たった一人で闘っていたのだ。
「――どうしてですか」
耳元まで頭を寄せて、妻は囁く。
「――どうして、刀夜さんまでこんな事になってるんですか」
そこで刀夜はさらに気付いた。
妻の声は震えて、今にも泣きそうだったことに。
いや、もう泣いているのかもしれない。
だって、彼女はさっきから一度も顔を見せようとしなかったから。
「母さん」
ポン、と刀夜は詩菜の頭に右手を置く。
それから、彼女の髪を梳くように撫でた。
「あ――」
たったのそれだけで、妻の力が弱まった。
そうして、今度は刀夜から彼女を抱き寄せた。
痛みは、もうない。
「すまなかった。思えば、母さんには辛い思いばかりさせてきたね」
昔から、そうだった。
刀夜が息子のために行動しようとしている間、彼女は夫の留守を守り、息子を見守ってきた。
誰にも理解をされず、誰にも助けられなかった中で。
刀夜と同じように、たった一人で闘っていたのだ。
49:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 09:15:24.36:eFV05oBj0 (2/2)
「……そんなの、どうでもいいんですよ」
頭の上の手を掴んで、詩菜は胸の辺りにそれを置いた。
段階的な動きが、掌に伝わる。
生命の活動を伝える、暖かな振動。
「分かりますか、この鼓動が」
妻は刀夜から離れて、ニッコリと笑った。
やっぱり、彼女の顔には泣いた跡があった。
「――ずっと、貴方と一緒に動いてきたんですよ?」
一人じゃないから、勝手な事をしないで欲しい。
仲間とか友達ではなく、『家族』なのだから。
そう、彼女の瞳は訴えていた。
「――ありがとう、母さん」
それだけ、刀夜は告げた。
それ以上の言葉など、不要だった。
「分かれば、いいんです」
笑みを浮かべたまま、彼女は刀夜から離れて近くの椅子に座った。
二人は笑いあって、それから窓の外に視線を移す。
そこには、包むような青空が広がっていた。
実に、晴れ晴れしい景色だ。
新しい門出にはぴったりなくらいには。
「……そんなの、どうでもいいんですよ」
頭の上の手を掴んで、詩菜は胸の辺りにそれを置いた。
段階的な動きが、掌に伝わる。
生命の活動を伝える、暖かな振動。
「分かりますか、この鼓動が」
妻は刀夜から離れて、ニッコリと笑った。
やっぱり、彼女の顔には泣いた跡があった。
「――ずっと、貴方と一緒に動いてきたんですよ?」
一人じゃないから、勝手な事をしないで欲しい。
仲間とか友達ではなく、『家族』なのだから。
そう、彼女の瞳は訴えていた。
「――ありがとう、母さん」
それだけ、刀夜は告げた。
それ以上の言葉など、不要だった。
「分かれば、いいんです」
笑みを浮かべたまま、彼女は刀夜から離れて近くの椅子に座った。
二人は笑いあって、それから窓の外に視線を移す。
そこには、包むような青空が広がっていた。
実に、晴れ晴れしい景色だ。
新しい門出にはぴったりなくらいには。
50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/07(日) 09:16:15.98:1wA1JODv0 (1/2)
「そうだ、母さん」
しばらく黙って空を眺めているうちに、刀夜は思い出したように妻を見た。
何でしょう? と首を傾げる彼女に、刀夜は一言伝えた。
「当麻は、『幸せ』だそうだ」
それを聞いて、彼女ははにかむ。
当然ですよ、とも彼女は言った。
「――私達の、子供ですから」
両親は笑った。
この場にいない、息子を祝福するように。
天にも届くような、快活さで。
ひたすら、笑った。
「そうだ、母さん」
しばらく黙って空を眺めているうちに、刀夜は思い出したように妻を見た。
何でしょう? と首を傾げる彼女に、刀夜は一言伝えた。
「当麻は、『幸せ』だそうだ」
それを聞いて、彼女ははにかむ。
当然ですよ、とも彼女は言った。
「――私達の、子供ですから」
両親は笑った。
この場にいない、息子を祝福するように。
天にも届くような、快活さで。
ひたすら、笑った。
51:腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo:2012/10/07(日) 09:19:57.58:rM1mtjv40 (1/1)
と、ここで四巻が終了です。
……長かったですね。でもここからがまた長いんです。
何せ、十八冊分ですから(SSも含めたら十九です)。
とりあえず、神裂は良いキャラクターだと思います。
それじゃ、次は小話編を。
と、ここで四巻が終了です。
……長かったですね。でもここからがまた長いんです。
何せ、十八冊分ですから(SSも含めたら十九です)。
とりあえず、神裂は良いキャラクターだと思います。
それじゃ、次は小話編を。
52:一番の苦労人――Mother or wife?:2012/10/07(日) 09:22:07.72:1wA1JODv0 (2/2)
――最初は、小さな事だった。
ちょっとした冗談とか、そういう段階で済むような話。
それがいつからか、家族を引き裂くところまで来て、初めて恐怖を感じた。
……そして、今は――
「――さん、母さんってば!」
「……ん、う……」
揺さぶりと小さな声が耳元でして、上条詩菜はゆっくりと覚醒した。
ぼんやりとした視界の先には、今年で高校生の一人息子の顔。
「当、麻さん……?」
目を擦り、彼女は息子の名を呟いた。
それを聞いて、息子は呆れ顔を見せた。
「父さん、起きたってさ」
その言葉に、詩菜の頭は一気に冴えていく。
そうだ。ここは病院で、昨日夫が重傷で担ぎ込まれたのだ。
動揺が止まらず、泣き腫らしもしたのを覚えている。
それから、峠を越えたと聞いて、安心して待合室のソファーで眠ってしまったのだった。
――最初は、小さな事だった。
ちょっとした冗談とか、そういう段階で済むような話。
それがいつからか、家族を引き裂くところまで来て、初めて恐怖を感じた。
……そして、今は――
「――さん、母さんってば!」
「……ん、う……」
揺さぶりと小さな声が耳元でして、上条詩菜はゆっくりと覚醒した。
ぼんやりとした視界の先には、今年で高校生の一人息子の顔。
「当、麻さん……?」
目を擦り、彼女は息子の名を呟いた。
それを聞いて、息子は呆れ顔を見せた。
「父さん、起きたってさ」
その言葉に、詩菜の頭は一気に冴えていく。
そうだ。ここは病院で、昨日夫が重傷で担ぎ込まれたのだ。
動揺が止まらず、泣き腫らしもしたのを覚えている。
それから、峠を越えたと聞いて、安心して待合室のソファーで眠ってしまったのだった。
53:一番の苦労人――Mother or wife?:2012/10/07(日) 09:23:42.13:/IbTWJxT0 (1/1)
「良かった……」
知らせを聞いてホッと一息吐いた彼女に、息子は笑った。
その笑顔を見て、彼女は何かを思い出しそうになる。
何だろう、昔、どこかで見たような――
「……それで、俺、そろそろ帰らなくちゃいけないから」
思案していた詩菜に息子が気まずそうに告げた。
それで、思い出せなくなった。
「……そう」
一言だけ返して、詩菜は俯く。
学園都市は規則に厳しめなところがある。
外出期限を越えているし、刀夜は安全だと言われてはいるが。
せめて、もう少しだけ、話をしてみたかった。
「……大丈夫、また大覇星祭とか、色々会う機会はあるからさ」
そんな彼女の気持ちを見透かしたかのように、息子は笑った。
不思議と暖かな気持ちになれる、変わった笑顔だった。
それをもう一度見て、詩菜はようやく、それをどこで見たのかを思い出した気がした。
「良かった……」
知らせを聞いてホッと一息吐いた彼女に、息子は笑った。
その笑顔を見て、彼女は何かを思い出しそうになる。
何だろう、昔、どこかで見たような――
「……それで、俺、そろそろ帰らなくちゃいけないから」
思案していた詩菜に息子が気まずそうに告げた。
それで、思い出せなくなった。
「……そう」
一言だけ返して、詩菜は俯く。
学園都市は規則に厳しめなところがある。
外出期限を越えているし、刀夜は安全だと言われてはいるが。
せめて、もう少しだけ、話をしてみたかった。
「……大丈夫、また大覇星祭とか、色々会う機会はあるからさ」
そんな彼女の気持ちを見透かしたかのように、息子は笑った。
不思議と暖かな気持ちになれる、変わった笑顔だった。
それをもう一度見て、詩菜はようやく、それをどこで見たのかを思い出した気がした。
54:一番の苦労人――Mother or wife?:2012/10/07(日) 09:27:03.63:JwC84nRT0 (1/1)
「じゃ、時間だから」
それだけ言うと、息子は歩き出す。
その背中は、何だか大きく見えた。
泣いてばかりいた子供時代とは、もう違うんだな、と詩菜は感じていた。
「あ、そうだ」
ふと、思い付いたように息子が振り向く。
忘れ物かしら? とどう考えたって違う事を詩菜は考えた。
彼が、戻ってくる。
時間が押しているはずだが、よほど大事な事があるのだろうか。
「どうかしたのかしら?」
近付いてきた息子に、詩菜は笑みを浮かべて尋ねた。
質問に、彼はちょっとばかり照れたような表情をすると、
「――ありがとう。俺、あなたの息子で良かった」
意外な一言に、詩菜はポカンと口を開く。
それから、言われた事を理解しきって、
「こちらこそ、生きててくれてありがとう」
ペコリとお辞儀した。
まさに、『母親』らしい包むような笑顔だった。
それを聞いた息子は、僅かに目を逸らした。
そこに小さな違和感を得たのだが、すぐに彼は表情を詩菜と同じモノに変えた。
「じゃ、時間だから」
それだけ言うと、息子は歩き出す。
その背中は、何だか大きく見えた。
泣いてばかりいた子供時代とは、もう違うんだな、と詩菜は感じていた。
「あ、そうだ」
ふと、思い付いたように息子が振り向く。
忘れ物かしら? とどう考えたって違う事を詩菜は考えた。
彼が、戻ってくる。
時間が押しているはずだが、よほど大事な事があるのだろうか。
「どうかしたのかしら?」
近付いてきた息子に、詩菜は笑みを浮かべて尋ねた。
質問に、彼はちょっとばかり照れたような表情をすると、
「――ありがとう。俺、あなたの息子で良かった」
意外な一言に、詩菜はポカンと口を開く。
それから、言われた事を理解しきって、
「こちらこそ、生きててくれてありがとう」
ペコリとお辞儀した。
まさに、『母親』らしい包むような笑顔だった。
それを聞いた息子は、僅かに目を逸らした。
そこに小さな違和感を得たのだが、すぐに彼は表情を詩菜と同じモノに変えた。
55:一番の苦労人――Mother or wife?:2012/10/07(日) 09:28:00.49:lAlU0vEn0 (1/1)
「それだけ言っておきたかっただけだよ」
じゃ、と改めて息子は振り向き、足を動かす。
迷いのない足取りだった。
進みながら、彼は一度こちらへ向き直る。
どうしたのだろう、と詩菜が思う前に、彼は大きく手を振った。
「――行ってきます!」
まるで小学生みたいに、少し子供っぽく、明るい声だった。
対して、詩菜は苦笑いを返してから、片手を小さく振った。
「――行ってらっしゃい」
それを聞いて、息子は満足そうに頷く。
そして、その場から消えた。
詩菜は、誰ももう周りにいないことを確認して、ソファに背を預けた。
真上には、白く磨かれた天井。
(……親子の血は、争えないんですね)
ここにはいない、誰かさんへの言葉。
昔、自分が苦しい思いをしても、彼の笑顔ですぐに立ち直れた。
息子も、あんな笑顔で誰かを立ち直らせているのかもしれない。
「それだけ言っておきたかっただけだよ」
じゃ、と改めて息子は振り向き、足を動かす。
迷いのない足取りだった。
進みながら、彼は一度こちらへ向き直る。
どうしたのだろう、と詩菜が思う前に、彼は大きく手を振った。
「――行ってきます!」
まるで小学生みたいに、少し子供っぽく、明るい声だった。
対して、詩菜は苦笑いを返してから、片手を小さく振った。
「――行ってらっしゃい」
それを聞いて、息子は満足そうに頷く。
そして、その場から消えた。
詩菜は、誰ももう周りにいないことを確認して、ソファに背を預けた。
真上には、白く磨かれた天井。
(……親子の血は、争えないんですね)
ここにはいない、誰かさんへの言葉。
昔、自分が苦しい思いをしても、彼の笑顔ですぐに立ち直れた。
息子も、あんな笑顔で誰かを立ち直らせているのかもしれない。
56:一番の苦労人――Mother or wife?:2012/10/07(日) 09:28:38.98:ONcedqFQ0 (1/1)
「――ふふ」
自然と笑みが零れた。
自分本来の調子が、簡単に戻った気がした。
「さ、お見舞いに行かなくちゃ」
そっと立ち上がり、詩菜は夫の病室へ歩き出す。
きっと、会ったらまた泣いてしまうな、と思った。
でも、関係ない。
たまには反省してもらおう。
もっと自分の身体を省みて欲しいから。
――あの人と息子には、世界一幸せになって欲しいから。
そんな願いを胸に、彼女は歩く。
その顔は、まさしく『妻』のそれだった。
「――ふふ」
自然と笑みが零れた。
自分本来の調子が、簡単に戻った気がした。
「さ、お見舞いに行かなくちゃ」
そっと立ち上がり、詩菜は夫の病室へ歩き出す。
きっと、会ったらまた泣いてしまうな、と思った。
でも、関係ない。
たまには反省してもらおう。
もっと自分の身体を省みて欲しいから。
――あの人と息子には、世界一幸せになって欲しいから。
そんな願いを胸に、彼女は歩く。
その顔は、まさしく『妻』のそれだった。
57:腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo:2012/10/07(日) 09:30:41.51:5cbRqVCV0 (2/2)
以上です。
それでは、次からは五巻編。
期待してくれる方に応えられるように頑張ります。
一日一回、感謝の正拳突きで。
以上です。
それでは、次からは五巻編。
期待してくれる方に応えられるように頑張ります。
一日一回、感謝の正拳突きで。
58:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/07(日) 09:41:48.36:Sn0PWpRDO (1/1)
乙です!
乙です!
59:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/10/07(日) 10:14:39.29:ryD13UrS0 (1/1)
乙
1日一回感謝のそげぶですねわかります
乙
1日一回感謝のそげぶですねわかります
60:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/07(日) 10:19:06.50:C0ArjpwIO (1/2)
乙パン
乙パン
61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸):2012/10/07(日) 10:34:42.46:aVJIlJ/AO (1/1)
乙
神裂がお礼に何でもすると言ったときの一方通行の応答がかっこよかった
一方通行めっちゃカッコイイやん…
鳥肌が立ちましたわ
これはねーちんフラグが…
乙
神裂がお礼に何でもすると言ったときの一方通行の応答がかっこよかった
一方通行めっちゃカッコイイやん…
鳥肌が立ちましたわ
これはねーちんフラグが…
62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/07(日) 10:44:19.99:WkwvaFHIO (1/1)
乙
つ一日一万回感謝の腹パン
乙
つ一日一万回感謝の腹パン
63:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/07(日) 10:52:48.68:C0ArjpwIO (2/2)
>>61
「中学生以上はなァ、ババァなンだよ」
>>61
「中学生以上はなァ、ババァなンだよ」
64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/07(日) 10:57:36.36:z1dp9zXK0 (1/1)
次は五巻か
天井くんのお金の心配はないけど、どうなることやら
そして上琴偽デート楽しみにしてる
乙した
次は五巻か
天井くんのお金の心配はないけど、どうなることやら
そして上琴偽デート楽しみにしてる
乙した
65:sage:2012/10/07(日) 11:33:20.24:Lw45873m0 (1/1)
これは神裂通行を期待していいのか!?
これは神裂通行を期待していいのか!?
66:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/07(日) 15:27:19.40:vfbhZKh8o (1/1)
>>63
意外と言いそうで怖いww
>>63
意外と言いそうで怖いww
67:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/07(日) 15:30:04.81:pSemKMdbo (1/1)
天井くンの活躍に気体!
天井くンの活躍に気体!
68:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方):2012/10/07(日) 15:36:09.05:LxI+DWQ2o (1/1)
★天井殴り代行始めました★
ムカついたけど天井を殴る筋肉が無い、天井を殴りたいけど殴る天井が無い、そんなときに!
天井殴りで鍛えたスタッフたちが一生懸命あなたの代わりに天井を殴ってくれます!
モチロン天井を用意する必要もありません!スタッフが学園都市にいる天井を全力で殴りまくります!
1時間\1200~ 24時間営業 年中無休!
_
/ jjjj _
/ タ {!!! _ ヽ、
,/ ノ ~ `、 \ 天井殴り代行では同時にスタッフも募集しています
`、 `ヽ. ∧_∧ , ‐'` ノ 筋肉に自身のあるそこのアナタ!一緒にお仕事してみませんか?
\ `ヽ(´・ω・`)" .ノ/ 天井を殴るだけの簡単なお仕事です!
`、ヽ. ``Y" r '
i. 、 ¥ ノ
`、.` -‐´;`ー イ
★天井殴り代行始めました★
ムカついたけど天井を殴る筋肉が無い、天井を殴りたいけど殴る天井が無い、そんなときに!
天井殴りで鍛えたスタッフたちが一生懸命あなたの代わりに天井を殴ってくれます!
モチロン天井を用意する必要もありません!スタッフが学園都市にいる天井を全力で殴りまくります!
1時間\1200~ 24時間営業 年中無休!
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i. 、 ¥ ノ
`、.` -‐´;`ー イ
69:腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo:2012/10/09(火) 02:59:44.95:Z92QteNC0 (1/1)
どうも、こんな時間じゃ誰もいないでしょうがひっそり投下開始。
どうも、こんな時間じゃ誰もいないでしょうがひっそり投下開始。
70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:00:45.08:HIlqdQui0 (1/1)
八月三十日の深夜。
学園都市最強の能力者、一方通行は自室のパソコンの前に居座っていた。
明かりの点いた室内で、彼はマウスやキーボードではなく、ゲーム用のコントローラーを握って画面に向かっている。
今日の午後、ちょっとした旅行から一方通行は帰ってきた。
その荷物を片付けてから、彼は明後日に控えている始業式の準備――提出課題の確認などだ――を始めた。
超能力開発機関、などと少し特殊な肩書のある学園都市だが、その特殊性を除けば、ただの学校の集まっただけの街だ。
当たり前だが、提出課題といっても、国語や数学などの一般的な学問の問題プリントや冊子ぐらいしかない。
そして、一応『優秀』な一方通行は、十日ほど前にその全てが終わっているので、わざわざ確認する必要もなかった。
それでも念のために見直したのは、彼が『優等生』の位置にいる所以なのかもしれない。
実際、そのおかげで彼は一つのやり残しを発見した。
それこそが、今までやっていたゲームになる。
八月三十日の深夜。
学園都市最強の能力者、一方通行は自室のパソコンの前に居座っていた。
明かりの点いた室内で、彼はマウスやキーボードではなく、ゲーム用のコントローラーを握って画面に向かっている。
今日の午後、ちょっとした旅行から一方通行は帰ってきた。
その荷物を片付けてから、彼は明後日に控えている始業式の準備――提出課題の確認などだ――を始めた。
超能力開発機関、などと少し特殊な肩書のある学園都市だが、その特殊性を除けば、ただの学校の集まっただけの街だ。
当たり前だが、提出課題といっても、国語や数学などの一般的な学問の問題プリントや冊子ぐらいしかない。
そして、一応『優秀』な一方通行は、十日ほど前にその全てが終わっているので、わざわざ確認する必要もなかった。
それでも念のために見直したのは、彼が『優等生』の位置にいる所以なのかもしれない。
実際、そのおかげで彼は一つのやり残しを発見した。
それこそが、今までやっていたゲームになる。
71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/09(火) 03:01:22.85:w/JK/bTSO (1/1)
読みが天井。いるぜ!
読みが天井。いるぜ!
72:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:02:29.47:/9z4vSgy0 (1/2)
(……終わったか)
コントローラーを適当な場所に置いて、一方通行は大きく伸びた。
ロード中、という簡素な文字が浮かぶ黒い画面から一度目を離し、少年は壁掛け時計を見る。
文字盤と針二本しかないシンプルなそれは、もう少しで日付が変わると示していた。
ゲームのパッケージを見つけてからずっとプレイしていたので、
かれこれ九時間近くはコントローラーを握り続けていたようだ。
ちなみに、何故彼がそんな強行軍をしているのかといえば、理由は単純なモノで、ゲームが彼の所有物ではないからだ。
本来の持ち主、友人の青髪ピアスに夏休みの間だけ貸してもらった訳である。
実のところは、貸してもらったというか、
『これおもろかったから貸したるわ、つか借りろ』と、
ぐいぐいと半ば押し付け気味に渡されてしまったたのだが。
傍から聞くとかなり迷惑そうな気もするが、これぐらいは彼とその友人達にはよくある事だ。
とにかく、一方通行はそんな訳で夏休みの最初の頃はこつこつとプレイしていた。
問題はその後で、様々な『想定外』のおかげで、見事にその存在を忘れていた。
そうして、現在に至るということだ。
(……終わったか)
コントローラーを適当な場所に置いて、一方通行は大きく伸びた。
ロード中、という簡素な文字が浮かぶ黒い画面から一度目を離し、少年は壁掛け時計を見る。
文字盤と針二本しかないシンプルなそれは、もう少しで日付が変わると示していた。
ゲームのパッケージを見つけてからずっとプレイしていたので、
かれこれ九時間近くはコントローラーを握り続けていたようだ。
ちなみに、何故彼がそんな強行軍をしているのかといえば、理由は単純なモノで、ゲームが彼の所有物ではないからだ。
本来の持ち主、友人の青髪ピアスに夏休みの間だけ貸してもらった訳である。
実のところは、貸してもらったというか、
『これおもろかったから貸したるわ、つか借りろ』と、
ぐいぐいと半ば押し付け気味に渡されてしまったたのだが。
傍から聞くとかなり迷惑そうな気もするが、これぐらいは彼とその友人達にはよくある事だ。
とにかく、一方通行はそんな訳で夏休みの最初の頃はこつこつとプレイしていた。
問題はその後で、様々な『想定外』のおかげで、見事にその存在を忘れていた。
そうして、現在に至るということだ。
73:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:04:35.37:/9z4vSgy0 (2/2)
(……ま、それなりに遊べたからイイけどよ)
彼なりの最高評価を下しながら、一方通行はパソコンの電源を切る。
もう立派に深夜だし、さっさと眠りたかった。
そもそも、彼は昨日とんでもない戦いをこなしてきていて、大変疲れていた。
壁に取り付けられた、部屋の光や空調機械を制御するスイッチを押して、部屋を真っ暗闇に変える。
寝よ寝よ、と少年はベッドに潜り込んだ。
布団を被って数秒で、すぐに彼は寝息を立て始めた。
そして、最高の世界へと旅立とうとして、
『ギャー! ストップ! ホント誤解だって!』
『とぉぉぉまぁぁぁあああっ!!』
馬鹿みたいな叫びが二つ、隣の部屋から響いてきた。
それから、ドッタンバッタンと何やら強烈な物音で、一方通行の部屋がガタリと一瞬揺れた。
一気に覚醒した。
(……ま、それなりに遊べたからイイけどよ)
彼なりの最高評価を下しながら、一方通行はパソコンの電源を切る。
もう立派に深夜だし、さっさと眠りたかった。
そもそも、彼は昨日とんでもない戦いをこなしてきていて、大変疲れていた。
壁に取り付けられた、部屋の光や空調機械を制御するスイッチを押して、部屋を真っ暗闇に変える。
寝よ寝よ、と少年はベッドに潜り込んだ。
布団を被って数秒で、すぐに彼は寝息を立て始めた。
そして、最高の世界へと旅立とうとして、
『ギャー! ストップ! ホント誤解だって!』
『とぉぉぉまぁぁぁあああっ!!』
馬鹿みたいな叫びが二つ、隣の部屋から響いてきた。
それから、ドッタンバッタンと何やら強烈な物音で、一方通行の部屋がガタリと一瞬揺れた。
一気に覚醒した。
74:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:05:34.41:Z2KlLZHM0 (1/2)
ベッドから起き上がると、一方通行は嫌そうに眉をひそめた。
安眠の邪魔をした怒りを伝えに行こうか、とも思ったが、厄介事の巻き添えを食うのもごめんだった。
(……『反射』使うか)
久しぶりに、最低限以上に能力を使う。
普段の彼は、日常生活に溶け込むために、せいぜい紫外線を『反射』するぐらいしかしていない。
もちろん、とっさの緊急事態に備えて能力を使うようにプログラムしてあるが。
とにかく、音を『反射』の対象に設定して、最強はさっさと惰眠を貪りに行く。
寝転がった途端、また安定した寝息をあっさりと立て始めた。
早寝選手権大会とかがあったら、彼はかなりの上位に食い込めるかもしれない。
そうして安眠モードに入る一方通行だが、二つ失念していた。
一つは、部屋の鍵。
当然ながら、部屋の鍵自体はかかっている。
ただし、手段は別だった。
一方通行は、ある少女に、『困った時は来るように』と部屋合鍵を渡している。
そして、彼女の家主の少年は、無くしたら大変だからと、出かける時以外は家に置かせていた。
さらに二つ目、それはある『能力』の存在。
たった一つの『最強』を打ち破る、たった一つの『最弱』。
まぁ、つまり。
ベッドから起き上がると、一方通行は嫌そうに眉をひそめた。
安眠の邪魔をした怒りを伝えに行こうか、とも思ったが、厄介事の巻き添えを食うのもごめんだった。
(……『反射』使うか)
久しぶりに、最低限以上に能力を使う。
普段の彼は、日常生活に溶け込むために、せいぜい紫外線を『反射』するぐらいしかしていない。
もちろん、とっさの緊急事態に備えて能力を使うようにプログラムしてあるが。
とにかく、音を『反射』の対象に設定して、最強はさっさと惰眠を貪りに行く。
寝転がった途端、また安定した寝息をあっさりと立て始めた。
早寝選手権大会とかがあったら、彼はかなりの上位に食い込めるかもしれない。
そうして安眠モードに入る一方通行だが、二つ失念していた。
一つは、部屋の鍵。
当然ながら、部屋の鍵自体はかかっている。
ただし、手段は別だった。
一方通行は、ある少女に、『困った時は来るように』と部屋合鍵を渡している。
そして、彼女の家主の少年は、無くしたら大変だからと、出かける時以外は家に置かせていた。
さらに二つ目、それはある『能力』の存在。
たった一つの『最強』を打ち破る、たった一つの『最弱』。
まぁ、つまり。
75:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:06:42.72:6nsd7tSF0 (1/1)
「起きてくれ! ホント助けて!」
『右手』でゆさゆさと身体を揺さ振られて、一方通行はまたも起こされた。
ゆっくりと開けた瞳が捉えたツンツン頭と合鍵を見て、ようやく彼はしまったと思った。
仕方なく起き上がり、一方通行は視線の先の親友を押し退けて、部屋の明かりを点ける。
部屋の外から『とうま! 逃げるのは卑怯かも!』という声がする。
「だから誤解だって! 事故なの事故!」
間に扉があるのに、上条は怯えた様子で一方通行の背後に隠れて言い返す。
扉の先からは返事がない。
上条の部屋に引っ込んでしまったのだろう。
「あのなァ……人ン家を勝手に避難所にするなよ」
びくびくしている隣人の手を離させて、一方通行は呆れ声を出す。
それに対して、上条は頭を掻きながら謝る。
「悪い。でもここ以外に良い場所が無いんだよ」
ハァ……と知らず知らずのうちに、一方通行は大きなため息を吐いた。
彼の事を『便利屋さん』か何かと勘違いしている馬鹿が最近多かったが、コイツもか、と思った。
ちなみに『便利屋さん』扱いし始めたのは、痴話喧嘩の平定を手伝わせた土御門元春だったりする。
それから、学生寮中の人間がそんな扱いをし始めた。
宿題代行とか、恋愛相談とかはまだマシだった。
果てには雨水タンクの修理なんかまで頼まれたのだ。
それも、大の大人から。
「起きてくれ! ホント助けて!」
『右手』でゆさゆさと身体を揺さ振られて、一方通行はまたも起こされた。
ゆっくりと開けた瞳が捉えたツンツン頭と合鍵を見て、ようやく彼はしまったと思った。
仕方なく起き上がり、一方通行は視線の先の親友を押し退けて、部屋の明かりを点ける。
部屋の外から『とうま! 逃げるのは卑怯かも!』という声がする。
「だから誤解だって! 事故なの事故!」
間に扉があるのに、上条は怯えた様子で一方通行の背後に隠れて言い返す。
扉の先からは返事がない。
上条の部屋に引っ込んでしまったのだろう。
「あのなァ……人ン家を勝手に避難所にするなよ」
びくびくしている隣人の手を離させて、一方通行は呆れ声を出す。
それに対して、上条は頭を掻きながら謝る。
「悪い。でもここ以外に良い場所が無いんだよ」
ハァ……と知らず知らずのうちに、一方通行は大きなため息を吐いた。
彼の事を『便利屋さん』か何かと勘違いしている馬鹿が最近多かったが、コイツもか、と思った。
ちなみに『便利屋さん』扱いし始めたのは、痴話喧嘩の平定を手伝わせた土御門元春だったりする。
それから、学生寮中の人間がそんな扱いをし始めた。
宿題代行とか、恋愛相談とかはまだマシだった。
果てには雨水タンクの修理なんかまで頼まれたのだ。
それも、大の大人から。
76:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:08:19.03:9CBbhiv+0 (1/2)
「うぅ、インデックスのヤツ、あーいう誤解から発展する痛みを少しは理解しろよな。だいたいアイツは――」
ここぞとばかりに、日々の不平を上条はだらだらと述べ始める。
溜まりに溜まって後を引かないそれは、まるで決壊したダムのようだ。
よくまァそンな出るモンだな、と一方通行は内心感心していた。
このままだと延々と愚痴を零しそうな上条に、一方通行は無言を貫く。
一々反応すると面倒そうだったのだ。
そんな彼の様子に遅くなってから気付いたのか、上条が口を動かすのを止める。
それから、じっと見つめる彼を訝しげに見返す。
「な、何だよ」
質問に、一方通行は一瞬どこかへ目をやると、
「いや、オマエも大変だなァ、って」
言葉と同時、ガシィ! と上条が両手で一方通行の片手を掴む。
「わ、分かってくれるか!?」
何やらキラキラと嬉しそうに目を輝かせる親友に、一方通行は実に迷惑そうに手を離す。
そうして、彼の背後を見て告げた。
「いや、オマエじゃねェ」
「うぅ、インデックスのヤツ、あーいう誤解から発展する痛みを少しは理解しろよな。だいたいアイツは――」
ここぞとばかりに、日々の不平を上条はだらだらと述べ始める。
溜まりに溜まって後を引かないそれは、まるで決壊したダムのようだ。
よくまァそンな出るモンだな、と一方通行は内心感心していた。
このままだと延々と愚痴を零しそうな上条に、一方通行は無言を貫く。
一々反応すると面倒そうだったのだ。
そんな彼の様子に遅くなってから気付いたのか、上条が口を動かすのを止める。
それから、じっと見つめる彼を訝しげに見返す。
「な、何だよ」
質問に、一方通行は一瞬どこかへ目をやると、
「いや、オマエも大変だなァ、って」
言葉と同時、ガシィ! と上条が両手で一方通行の片手を掴む。
「わ、分かってくれるか!?」
何やらキラキラと嬉しそうに目を輝かせる親友に、一方通行は実に迷惑そうに手を離す。
そうして、彼の背後を見て告げた。
「いや、オマエじゃねェ」
77:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:10:10.28:9CBbhiv+0 (2/2)
「…………へ?」
写真にしてやりたいな、と思うぐらいにはなかなかに間抜けな顔で、上条が口を開く。
それから、彼は一方通行の視線をなぞる。
そこにいたのは、
「……ふふふ。私知らなかったなー、とうまがそんな風に思ってただなんて」
どんよりとした暗いオーラを纏った少女だった。
白い修道服ではなく、薄いピンク色の寝間着姿でいた彼女は笑顔を見せる。
その笑顔には、いつもの無垢なイメージやら癒しの効果はない。
薄ら寒い感じがするのみだった。
どこから入ってきたのかといえば、部屋の鍵はかかっているから、おそらくはベランダの方から入ってきたのだろう。
ちょうど窓は開けっ放しだったし。
「…………へ?」
写真にしてやりたいな、と思うぐらいにはなかなかに間抜けな顔で、上条が口を開く。
それから、彼は一方通行の視線をなぞる。
そこにいたのは、
「……ふふふ。私知らなかったなー、とうまがそんな風に思ってただなんて」
どんよりとした暗いオーラを纏った少女だった。
白い修道服ではなく、薄いピンク色の寝間着姿でいた彼女は笑顔を見せる。
その笑顔には、いつもの無垢なイメージやら癒しの効果はない。
薄ら寒い感じがするのみだった。
どこから入ってきたのかといえば、部屋の鍵はかかっているから、おそらくはベランダの方から入ってきたのだろう。
ちょうど窓は開けっ放しだったし。
78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:10:55.66:OdcHvJWg0 (1/1)
「い、インデックスさん? 今のはですね、ちょっとした言葉のアヤなるものでして……」
慌てる上条から、一方通行はそっと離れた。
巻き添えはごめんだった。
「良いよ、別に怒ってないから」
「えっと……では何故にそのお白い歯を私に光らせていらっしゃるのでしょう?」
「良いよ、別に怒ってないから」
「あれ!? そのお言葉さっきもお聞きしたような……」
「良いよ、別に怒ってないから」
「やばい怒ってるよこの人完璧に怒ってらっしゃるよちょっと……!?」
上条の言葉はそこで止まる。
そこから先はただの絶叫だった。
ドッタンバッタンと部屋が物音で揺れる。
「……元気だな」
ハァ、と二度目のため息をした。
「い、インデックスさん? 今のはですね、ちょっとした言葉のアヤなるものでして……」
慌てる上条から、一方通行はそっと離れた。
巻き添えはごめんだった。
「良いよ、別に怒ってないから」
「えっと……では何故にそのお白い歯を私に光らせていらっしゃるのでしょう?」
「良いよ、別に怒ってないから」
「あれ!? そのお言葉さっきもお聞きしたような……」
「良いよ、別に怒ってないから」
「やばい怒ってるよこの人完璧に怒ってらっしゃるよちょっと……!?」
上条の言葉はそこで止まる。
そこから先はただの絶叫だった。
ドッタンバッタンと部屋が物音で揺れる。
「……元気だな」
ハァ、と二度目のため息をした。
79:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:11:55.24:NtkvcqzO0 (1/1)
「……気は済ンだか?」
乱闘(という名の痴話喧嘩)の跡を眺めながら、一方通行は勝者に話し掛ける。
「うん」
短く答えると、勝者は敗者の上をどく。
スッキリした、というような顔をしてから、彼女は自分が暴れた場所の事を思い出したのか、ペコリと頭を下げた。
手でそれを制してから、一方通行は敗者の方を見遣る。
体中に歯形が付いたそいつは慣れた様子で立ち上がると、頭を押さえて僅かに呻く。
「……頭に響くな」
そう言った彼に、一方通行は部屋の入口をそっと指差す。
「はいはい。イイから帰れよ」
「何だよ、冷てーな」
文句を言う隣人に対して、部屋の主も文句で言い返すことにする。
「こンな時間に飛び込ンでくる奴に言われたくねェよ」
「……だよなー」
悪かったな、と上条は頭を下げると、インデックスを連れて歩き出す。
パタン、と扉が閉まり、隣人達が消えた。
「……気は済ンだか?」
乱闘(という名の痴話喧嘩)の跡を眺めながら、一方通行は勝者に話し掛ける。
「うん」
短く答えると、勝者は敗者の上をどく。
スッキリした、というような顔をしてから、彼女は自分が暴れた場所の事を思い出したのか、ペコリと頭を下げた。
手でそれを制してから、一方通行は敗者の方を見遣る。
体中に歯形が付いたそいつは慣れた様子で立ち上がると、頭を押さえて僅かに呻く。
「……頭に響くな」
そう言った彼に、一方通行は部屋の入口をそっと指差す。
「はいはい。イイから帰れよ」
「何だよ、冷てーな」
文句を言う隣人に対して、部屋の主も文句で言い返すことにする。
「こンな時間に飛び込ンでくる奴に言われたくねェよ」
「……だよなー」
悪かったな、と上条は頭を下げると、インデックスを連れて歩き出す。
パタン、と扉が閉まり、隣人達が消えた。
80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:13:25.18:JsubPawD0 (1/2)
「ったく……」
ようやく深夜の静寂が部屋に戻ってきたのを感じて、一方通行はゲームの疲れを思い出す。
確かに彼らが困った時は助ける、という『約束』をしたが、痴話喧嘩の面倒までは見ていられない。
それぐらい頼られている、というと聞こえは良いが、単にいいように使われているだけな気もしてしまう。
……その辺、もっとよく言っておこう、と一方通行は決意した。
そして、今度こそ寝よう。
一方通行は明かりを消すためにスイッチを押そうとして。
――コンコン、と小さな音が閉まりきった部屋に響く。
「……」
一方通行は無言で扉を見つめる。
そこに誰がいるのかは予想はつくが、もう用事は済んだはずだ。
では一体……? と、そこまでで思考を止め、一方通行は止まらない音の元へと歩く。
扉を開ければ、やはりそこには見慣れた顔がいた。
彼は一瞬明るい顔を見せた、と思った時にはとてつもなく気まずそうな表情を作っていた。
「あのう」
「……何だよ」
おずおずと喋る彼に、一方通行は僅かに睨むように返す。
「色々と、お聞きしたいことが」
ピクリ、と一方通行の眉が動く。
これは、なんというか。
「……何だ」
一瞬過ぎった予感を捨てて、さらに短く返した。
そんな一方通行の返事に彼も何かを感じたのか、慌てたように口早に、一言、告げた。
「夏休みの宿題って……やりました?」
「ったく……」
ようやく深夜の静寂が部屋に戻ってきたのを感じて、一方通行はゲームの疲れを思い出す。
確かに彼らが困った時は助ける、という『約束』をしたが、痴話喧嘩の面倒までは見ていられない。
それぐらい頼られている、というと聞こえは良いが、単にいいように使われているだけな気もしてしまう。
……その辺、もっとよく言っておこう、と一方通行は決意した。
そして、今度こそ寝よう。
一方通行は明かりを消すためにスイッチを押そうとして。
――コンコン、と小さな音が閉まりきった部屋に響く。
「……」
一方通行は無言で扉を見つめる。
そこに誰がいるのかは予想はつくが、もう用事は済んだはずだ。
では一体……? と、そこまでで思考を止め、一方通行は止まらない音の元へと歩く。
扉を開ければ、やはりそこには見慣れた顔がいた。
彼は一瞬明るい顔を見せた、と思った時にはとてつもなく気まずそうな表情を作っていた。
「あのう」
「……何だよ」
おずおずと喋る彼に、一方通行は僅かに睨むように返す。
「色々と、お聞きしたいことが」
ピクリ、と一方通行の眉が動く。
これは、なんというか。
「……何だ」
一瞬過ぎった予感を捨てて、さらに短く返した。
そんな一方通行の返事に彼も何かを感じたのか、慌てたように口早に、一言、告げた。
「夏休みの宿題って……やりました?」
81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:14:02.05:JsubPawD0 (2/2)
「あぁぁぁぁっっ!! こんなん終わるかーっ!」
とある学生寮の一室。
そこの床で、大声を上げながら転がる少年が一人。
名は上条当麻。
八月三十一日(夏休み最後の日)を絶賛絶望中な状況にいた。
上条は横になりながら、右上の壁を見た。
現在、午前六時。
残った課題、たくさん。
わーい、最後まで最高の夏休みだー、と上条は自らの頭がヘンになりかけているのを理解しながら、そんな事を思った。
「あぁぁぁぁっっ!! こんなん終わるかーっ!」
とある学生寮の一室。
そこの床で、大声を上げながら転がる少年が一人。
名は上条当麻。
八月三十一日(夏休み最後の日)を絶賛絶望中な状況にいた。
上条は横になりながら、右上の壁を見た。
現在、午前六時。
残った課題、たくさん。
わーい、最後まで最高の夏休みだー、と上条は自らの頭がヘンになりかけているのを理解しながら、そんな事を思った。
82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:18:55.33:Z2KlLZHM0 (2/2)
「愚痴るぐれェならペンを動かせよ」
上条の真正面のテーブルの先、ベッドの方から一つの声がする。
勢いよく上条は起き上がると、
「そう言うなら写させてくれたりしませんかね?」
声の主、一方通行へと提案する。
ベッドに座る彼は眠たそうにしていた。
「その場合はチビ教師にすぐバレる、で追加の課題とか出される」
淡々とした調子であっさり返されて、上条はちょっと引き下がる気になれなかった。
「マジかよ、何で分かんの?」
「一回やって見事にバレた」
苦い過去を回送するかのように一方通行はベランダの方に目をやる。
いわく、その時は夜まで説教&涙の青春コースだったらしい。
「そうだったか……」
がっかりとした気持ちで、上条は諦めるようにうなだれた。
つまりは、自分の力で対処するしかない訳だ。
そんな彼に一方通行はぶっきらぼうに、
「……まァ、やり方ぐらいは教えてやるから自分でやれよ」
とだけ言うと、さっさとやれ、と上条を促した。
協力してやる、と提案してくれる友人を嬉しく思いながら、上条は頷く。
「愚痴るぐれェならペンを動かせよ」
上条の真正面のテーブルの先、ベッドの方から一つの声がする。
勢いよく上条は起き上がると、
「そう言うなら写させてくれたりしませんかね?」
声の主、一方通行へと提案する。
ベッドに座る彼は眠たそうにしていた。
「その場合はチビ教師にすぐバレる、で追加の課題とか出される」
淡々とした調子であっさり返されて、上条はちょっと引き下がる気になれなかった。
「マジかよ、何で分かんの?」
「一回やって見事にバレた」
苦い過去を回送するかのように一方通行はベランダの方に目をやる。
いわく、その時は夜まで説教&涙の青春コースだったらしい。
「そうだったか……」
がっかりとした気持ちで、上条は諦めるようにうなだれた。
つまりは、自分の力で対処するしかない訳だ。
そんな彼に一方通行はぶっきらぼうに、
「……まァ、やり方ぐらいは教えてやるから自分でやれよ」
とだけ言うと、さっさとやれ、と上条を促した。
協力してやる、と提案してくれる友人を嬉しく思いながら、上条は頷く。
83:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:20:39.34:W9w+6hVy0 (1/1)
「はいよ。あぁ、朝日が綺麗だなー」
「こっからじゃ見えねェよ」
「ぐっ、気分の問題だよ」
適当に言葉を交わし、だれることがないように上条は根気よく問題に向かう。
時間はあまりないが、不思議と逃げる気にはなれなかった。
その理由は、協力してくれる人達がいるからだろう。
そう、一方通行ともう一人――
「とうまー、あくせられーたー、はいごはん」
適当に手で摘めるような軽食を載せた皿を抱えてきた少女を目にして、上条は笑う。
「おー、ありがとよ」
礼を言いながら、上条はサンドイッチを口にした。
自分や一方通行の仕込みの元、インデックスの生活スキルはそれなりに向上している。
そもそも、彼女は覚えが良い。
もちろん、教える側が一方通行みたいな優秀な人間だったから、というのもあるだろうが。
こうした時には、居候も良いなぁ、と都合のいい事を考えてしまう。
「夏休みも終わり、かぁ」
外で鳴く蝉の声を耳にして、何となく口にした。
それから、さらに続けた。
「今年の夏は色々と大忙しだったな」
記憶喪失――は置いておいて、錬金術師や『最強』、魔術師などとの戦い。
思い返せば目が回りそうだ。
「はいよ。あぁ、朝日が綺麗だなー」
「こっからじゃ見えねェよ」
「ぐっ、気分の問題だよ」
適当に言葉を交わし、だれることがないように上条は根気よく問題に向かう。
時間はあまりないが、不思議と逃げる気にはなれなかった。
その理由は、協力してくれる人達がいるからだろう。
そう、一方通行ともう一人――
「とうまー、あくせられーたー、はいごはん」
適当に手で摘めるような軽食を載せた皿を抱えてきた少女を目にして、上条は笑う。
「おー、ありがとよ」
礼を言いながら、上条はサンドイッチを口にした。
自分や一方通行の仕込みの元、インデックスの生活スキルはそれなりに向上している。
そもそも、彼女は覚えが良い。
もちろん、教える側が一方通行みたいな優秀な人間だったから、というのもあるだろうが。
こうした時には、居候も良いなぁ、と都合のいい事を考えてしまう。
「夏休みも終わり、かぁ」
外で鳴く蝉の声を耳にして、何となく口にした。
それから、さらに続けた。
「今年の夏は色々と大忙しだったな」
記憶喪失――は置いておいて、錬金術師や『最強』、魔術師などとの戦い。
思い返せば目が回りそうだ。
84:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:24:11.58:XBlzYP1r0 (1/1)
「主に俺がな」
と、付け加えるように一方通行が言う。
言われてみると彼にはたくさん力を借りたし、そんな気もする。
でも何だかんだ言ってやっぱり、
「えー、俺のが苦労してたって」
そう、結局は上条が駆け回るからこんな苦労に一方通行も巻き込まれる訳で。
きっと一番大変だったに違いない、と無理に自分を奮い立たせるために上条は思い込むことにした。
そこへ、ぽつり、と一つの意見。
「……一番の苦労人は心配させられる私じゃないのかな?」
「「…………」」
上条と一方通行は顔を見合わせる。
それから、上条は弱ったように頬を掻き、一方通行はそっぽを向いた。
言い返せないので、さっさと宿題に逃げることにした。
インデックスは特にその事を言及しない。
無駄だと思っているのか、彼女は三毛猫と遊びだした。
「主に俺がな」
と、付け加えるように一方通行が言う。
言われてみると彼にはたくさん力を借りたし、そんな気もする。
でも何だかんだ言ってやっぱり、
「えー、俺のが苦労してたって」
そう、結局は上条が駆け回るからこんな苦労に一方通行も巻き込まれる訳で。
きっと一番大変だったに違いない、と無理に自分を奮い立たせるために上条は思い込むことにした。
そこへ、ぽつり、と一つの意見。
「……一番の苦労人は心配させられる私じゃないのかな?」
「「…………」」
上条と一方通行は顔を見合わせる。
それから、上条は弱ったように頬を掻き、一方通行はそっぽを向いた。
言い返せないので、さっさと宿題に逃げることにした。
インデックスは特にその事を言及しない。
無駄だと思っているのか、彼女は三毛猫と遊びだした。
85:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:25:34.33:ePzZ8nUr0 (1/1)
集中すること一時間、ようやく一束のプリントが終わる。
それを未達成の宿題とは別に置いてから、上条は唸る。
「あーあ、こりゃダメだ」
その視界の中には、残った宿題が数えられないほどに段を作り上げている。
「……間違いなく徹夜決定だな」
山を見て、一方通行が小声で感想を漏らす。
「ファミレス行くか? 長期戦にピッタリだろ」
基本的にどこでしても同じ気がするが、上条は涼しい店内で冷房代の節約を考えていた。
単に気分を変えるという意味もあるが。
そんな上条に、一方通行は呆れたような目をすると、
「ほォ。オマエにそンな経済的余裕があったとはな」
言った途端、上条は肩をピクリと跳ねさせた。
それを指摘されると困る。
「うぐっ……な、なー一方通行君。俺たちは友達だよなー?」
「利害関係の繋がりなンて友達じゃねェよなァ、上条クゥン?」
集中すること一時間、ようやく一束のプリントが終わる。
それを未達成の宿題とは別に置いてから、上条は唸る。
「あーあ、こりゃダメだ」
その視界の中には、残った宿題が数えられないほどに段を作り上げている。
「……間違いなく徹夜決定だな」
山を見て、一方通行が小声で感想を漏らす。
「ファミレス行くか? 長期戦にピッタリだろ」
基本的にどこでしても同じ気がするが、上条は涼しい店内で冷房代の節約を考えていた。
単に気分を変えるという意味もあるが。
そんな上条に、一方通行は呆れたような目をすると、
「ほォ。オマエにそンな経済的余裕があったとはな」
言った途端、上条は肩をピクリと跳ねさせた。
それを指摘されると困る。
「うぐっ……な、なー一方通行君。俺たちは友達だよなー?」
「利害関係の繋がりなンて友達じゃねェよなァ、上条クゥン?」
86:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:28:31.38:RcnDuJAN0 (1/1)
適当に返すと、むむっ、と上条は口をつぐんだ。
それからすぐに小さな非難の声を上げる。
「……ケチ」
知るか、と言わんばかりに一方通行は無視する。
甘やかしてはいけない、という彼なりの戒めだった。
と、そこへ、本職のお説教モードに入ったシスターが窘めるように告げる。
「……あくせられーた、とうまもこう言ってるし」
「いやいや! インデックスさん、お前も頼むの!」
「えー」
「えー、じゃない!」
また騒ぎだした二人に、一方通行は心底うんざりしたような顔をする。
そうして、本日三度目のため息を吐いた。
ため息をすると幸せが逃げるというが、なかなか当たってるかもしれない。
少なくとも、幸せな気分ではなかったから。
「……来週には返せよ」
我ながら甘いな、と一方通行は自分を評価する。
……まぁ、たまにはそれもいいだろう。
適当に返すと、むむっ、と上条は口をつぐんだ。
それからすぐに小さな非難の声を上げる。
「……ケチ」
知るか、と言わんばかりに一方通行は無視する。
甘やかしてはいけない、という彼なりの戒めだった。
と、そこへ、本職のお説教モードに入ったシスターが窘めるように告げる。
「……あくせられーた、とうまもこう言ってるし」
「いやいや! インデックスさん、お前も頼むの!」
「えー」
「えー、じゃない!」
また騒ぎだした二人に、一方通行は心底うんざりしたような顔をする。
そうして、本日三度目のため息を吐いた。
ため息をすると幸せが逃げるというが、なかなか当たってるかもしれない。
少なくとも、幸せな気分ではなかったから。
「……来週には返せよ」
我ながら甘いな、と一方通行は自分を評価する。
……まぁ、たまにはそれもいいだろう。
87:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:30:40.48:Tsdayl510 (1/2)
まだまだ朝が始まったばかりの学園都市。
日が昇り、上昇した気温から逃れるように、彼らは適当なファミレスにいた。
「やー、涼しいな」
冷房から流れてくる癒しの風に、上条は楽しげにシャープペンを握る。
実際は楽しくないけれど、そうでもしないと気分が乗りそうになかった。
二人がけのソファが一つずつ、テーブルを挟んで設置してある席に三人は着いている。
上条の隣、インデックスが二度目の入店に興奮しているのか、声を上げる。
「とうまとうま、もう早速注文しちゃっていいよね? 注文しちゃうよ!」
いつも通りの食欲に輝く目でメニューに顔を埋める勢いの彼女を、上条は手で止める。
「待て、待ちやがれこのダメシスター。まだ世の中ではお昼の時間じゃねーんですよ?」
すると、シスターは爽やかな笑みと共に堂々と宣言した。
「ちがうよ、これはお昼前の腹ごなしってヤツだよ!」
「……オマエは一体どォいう考え方でメシを見てンだ」
呆れを越えて感服した一方通行に、インデックスは自分の考えを異常とは思わないらしく、不思議そうにした。
まだまだ朝が始まったばかりの学園都市。
日が昇り、上昇した気温から逃れるように、彼らは適当なファミレスにいた。
「やー、涼しいな」
冷房から流れてくる癒しの風に、上条は楽しげにシャープペンを握る。
実際は楽しくないけれど、そうでもしないと気分が乗りそうになかった。
二人がけのソファが一つずつ、テーブルを挟んで設置してある席に三人は着いている。
上条の隣、インデックスが二度目の入店に興奮しているのか、声を上げる。
「とうまとうま、もう早速注文しちゃっていいよね? 注文しちゃうよ!」
いつも通りの食欲に輝く目でメニューに顔を埋める勢いの彼女を、上条は手で止める。
「待て、待ちやがれこのダメシスター。まだ世の中ではお昼の時間じゃねーんですよ?」
すると、シスターは爽やかな笑みと共に堂々と宣言した。
「ちがうよ、これはお昼前の腹ごなしってヤツだよ!」
「……オマエは一体どォいう考え方でメシを見てンだ」
呆れを越えて感服した一方通行に、インデックスは自分の考えを異常とは思わないらしく、不思議そうにした。
88:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:32:12.60:QKMOrFZk0 (1/1)
まぁいい、彼女は放っておこう。
上条と一方通行はこっそりと目で話し合って結論付けると、手早く宿題に取り掛かる。
生憎と時間は惜しい。
その辺は理解してくれているのか、インデックスは何も追及しない。
そうしてやっと、彼らがスタートラインに立った、といったところで。
一つの声がした。
「おっす、何してんのアンタら?」
反射的に三人は同時に顔を上げた。
その先にいたのは――
相変わらずの制服姿の、御坂美琴だった。
「……」
「……」
「あ、みことー!」
唯一、インデックスだけが嬉しそうにメニューに向けていた顔を上げる。
「……で、ここで公式を変形させンだよ」
「おーなるほどな」
そんな中、上条と一方通行は何事もなかったかのようにプリントに向き直る。
まぁいい、彼女は放っておこう。
上条と一方通行はこっそりと目で話し合って結論付けると、手早く宿題に取り掛かる。
生憎と時間は惜しい。
その辺は理解してくれているのか、インデックスは何も追及しない。
そうしてやっと、彼らがスタートラインに立った、といったところで。
一つの声がした。
「おっす、何してんのアンタら?」
反射的に三人は同時に顔を上げた。
その先にいたのは――
相変わらずの制服姿の、御坂美琴だった。
「……」
「……」
「あ、みことー!」
唯一、インデックスだけが嬉しそうにメニューに向けていた顔を上げる。
「……で、ここで公式を変形させンだよ」
「おーなるほどな」
そんな中、上条と一方通行は何事もなかったかのようにプリントに向き直る。
89:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:33:41.56:714l84eC0 (1/1)
「……ちょっと、何無視してんのよ」
ぷるぷる、と何やら無視された怒りに震えているらしい少女に上条はひらひらと手を振る。
「あ? あー、御坂ね御坂。今忙しいから後でな」
んな……ッ! と彼女はちょっとだけ帯電し始める。
そんな彼女に、インデックスが何やら申し訳なさそうに釈明した。
「ごめんね、みこと。とうまは今『しゅくだい』とかいうのに追われてるんだって」
アンタが謝らなくて良いわよ、と言いながら、御坂は何気なく空いていた一方通行の隣に座る。
構う時間が惜しいので、一方通行も上条も何も言わない。
宿題に勤しむ彼らを、彼女は実に興味津々に見つめているが、やはり無視する。
ところが、
「ところで宿題って何よ?」
突然の発言に、ピタッ、と上条の手が止まる。
それから、からくり人形みたいにぎこちない動きで首を御坂に向けた。
「……ちょっと、何無視してんのよ」
ぷるぷる、と何やら無視された怒りに震えているらしい少女に上条はひらひらと手を振る。
「あ? あー、御坂ね御坂。今忙しいから後でな」
んな……ッ! と彼女はちょっとだけ帯電し始める。
そんな彼女に、インデックスが何やら申し訳なさそうに釈明した。
「ごめんね、みこと。とうまは今『しゅくだい』とかいうのに追われてるんだって」
アンタが謝らなくて良いわよ、と言いながら、御坂は何気なく空いていた一方通行の隣に座る。
構う時間が惜しいので、一方通行も上条も何も言わない。
宿題に勤しむ彼らを、彼女は実に興味津々に見つめているが、やはり無視する。
ところが、
「ところで宿題って何よ?」
突然の発言に、ピタッ、と上条の手が止まる。
それから、からくり人形みたいにぎこちない動きで首を御坂に向けた。
90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:34:28.60:a4oQ0PUq0 (1/1)
「……御坂さん、今何て?」
「だから、宿題って何よ?」
爆弾発言に上条は完全に動きが止まる。
本当に驚くと人は何もかも忘れるというが、事実らしい。
何よ、どうしたの? と質問した当人は上条を心配そうに見ていた。
そんな彼女の着ている服を目にして、ふと、一方通行は思い出した。
「……そォいや聞いたことあるな。一部名門の学校じゃ、夏休みの宿題なンざ無いンだとか」
中学生ぐらいの頃、学校通うなら決めておけよ、
と木原に渡されたパンフレットにそういう事を明記している名門校があった気がする。
ああいう文句に弱い学生とかもいるのだろうか、などと幼いなりに感じた記憶があった。
「……御坂さん、今何て?」
「だから、宿題って何よ?」
爆弾発言に上条は完全に動きが止まる。
本当に驚くと人は何もかも忘れるというが、事実らしい。
何よ、どうしたの? と質問した当人は上条を心配そうに見ていた。
そんな彼女の着ている服を目にして、ふと、一方通行は思い出した。
「……そォいや聞いたことあるな。一部名門の学校じゃ、夏休みの宿題なンざ無いンだとか」
中学生ぐらいの頃、学校通うなら決めておけよ、
と木原に渡されたパンフレットにそういう事を明記している名門校があった気がする。
ああいう文句に弱い学生とかもいるのだろうか、などと幼いなりに感じた記憶があった。
91:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:35:12.71:Tsdayl510 (2/2)
「な、マジかよ!?」
驚愕する上条をそっちのけで、御坂は何やら勝手に納得したように、
「……あ、あー、分かった分かった。前に佐天さんとかに聞いたことあるわ。
休み中でも気を抜かないように宿題出す学校があるんだってね? へー、アンタらんトコもそうなんだ」
物珍しそうにする御坂に、上条はバッ、と両手を挙げる。
「……う、うぅ、うらやましい……ッ!」
心の底から羨むような声に、御坂は若干引きながら、はっと気付いたように言う。
「ってか、今日で夏休み終わりでしょ? まだやってないの?」
それはあまりにも正論で。
少なくとも上条が固まるぐらいには、絶大な効果を与えたらしい。
「な、マジかよ!?」
驚愕する上条をそっちのけで、御坂は何やら勝手に納得したように、
「……あ、あー、分かった分かった。前に佐天さんとかに聞いたことあるわ。
休み中でも気を抜かないように宿題出す学校があるんだってね? へー、アンタらんトコもそうなんだ」
物珍しそうにする御坂に、上条はバッ、と両手を挙げる。
「……う、うぅ、うらやましい……ッ!」
心の底から羨むような声に、御坂は若干引きながら、はっと気付いたように言う。
「ってか、今日で夏休み終わりでしょ? まだやってないの?」
それはあまりにも正論で。
少なくとも上条が固まるぐらいには、絶大な効果を与えたらしい。
92:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:36:08.68:8p3rV8SB0 (1/1)
「……俺は終わってるからな」
チラリ、と一方通行は前を見る。
「そりゃ分かるわよ。天下の第一位がそんな、ねぇ?」
チラリ、と御坂も視線を同じ場所に移す。
「えぇえぇそうですよそうですとも。わたくしめはテメェらと違って不真面目さんだよコンチクショー!」
おのれ優等生どもがっ! と何やら八つ当たりのように叫ぶと、上条はさっさとプリントに集中を戻す。
「にしても、宿題ってどんな感じなの?」
学園都市の頂点すらも取り組むそれに何となく興味を持ったらしい彼女に、一方通行は適当な薄い冊子を渡してやる。
彼女はそれを受け取って開くと、自然に上条の筆箱から一本の鉛筆を取って『簡単に』解いていく。
「……俺は終わってるからな」
チラリ、と一方通行は前を見る。
「そりゃ分かるわよ。天下の第一位がそんな、ねぇ?」
チラリ、と御坂も視線を同じ場所に移す。
「えぇえぇそうですよそうですとも。わたくしめはテメェらと違って不真面目さんだよコンチクショー!」
おのれ優等生どもがっ! と何やら八つ当たりのように叫ぶと、上条はさっさとプリントに集中を戻す。
「にしても、宿題ってどんな感じなの?」
学園都市の頂点すらも取り組むそれに何となく興味を持ったらしい彼女に、一方通行は適当な薄い冊子を渡してやる。
彼女はそれを受け取って開くと、自然に上条の筆箱から一本の鉛筆を取って『簡単に』解いていく。
93:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:37:05.58:6MGZDyKQ0 (1/1)
「……何でそんなすらすら解くの?」
注意するより先に、上条は愕然とした表情で言う。
その言葉を受けて、御坂はしまったというような顔をした。
「あ、ゴメン。私が解いたらマズイか」
軽く謝りながら、自らの書いた答えを彼女は丁寧に消していく。
「……名門だからなァ」
高校生程度の問題は楽勝なのかもしれない、と一方通行は納得する。
上条はショックを受けたらしく、勝手に落ち込んでいる。
ズゥゥゥン……と深く沈む彼に、御坂は『あの、ちゃんと謝った方が良かった? 答えは消えたよ?』と困惑気味に尋ねる。
それが余計に彼を惨めな気持ちにするのだが、どうも御坂は分かっていないようだ。
「……何でそんなすらすら解くの?」
注意するより先に、上条は愕然とした表情で言う。
その言葉を受けて、御坂はしまったというような顔をした。
「あ、ゴメン。私が解いたらマズイか」
軽く謝りながら、自らの書いた答えを彼女は丁寧に消していく。
「……名門だからなァ」
高校生程度の問題は楽勝なのかもしれない、と一方通行は納得する。
上条はショックを受けたらしく、勝手に落ち込んでいる。
ズゥゥゥン……と深く沈む彼に、御坂は『あの、ちゃんと謝った方が良かった? 答えは消えたよ?』と困惑気味に尋ねる。
それが余計に彼を惨めな気持ちにするのだが、どうも御坂は分かっていないようだ。
94:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:37:40.66:pz4gcH8F0 (1/1)
「ふふ、いいっていいって。上条さんはちょっぴりレベルの違う世界を見ただけですよ……」
暗い雰囲気をさらに増した上条が笑う。
笑ってはいたが、目元に涙が浮かんでいる辺りが妙に怖い。
「あ、いや、ほらあの……あれよ、『こんな事』出来たってたいしたことないし、その、ええと」
そこでようやく彼の落ち込む原因が理解出来たのか、御坂が口早に慰める。
しかし、
「うふふ、そうだよなー『こんな事』も出来ないんだよなー」
ニコニコと上条はさらに笑顔を深める。
同時に、重たい空気がさらに増していく。
あわ、あわわーっ!? と口元を押さえて、御坂はその優しさが逆効果だったことを思い知る。
「ふふ、いいっていいって。上条さんはちょっぴりレベルの違う世界を見ただけですよ……」
暗い雰囲気をさらに増した上条が笑う。
笑ってはいたが、目元に涙が浮かんでいる辺りが妙に怖い。
「あ、いや、ほらあの……あれよ、『こんな事』出来たってたいしたことないし、その、ええと」
そこでようやく彼の落ち込む原因が理解出来たのか、御坂が口早に慰める。
しかし、
「うふふ、そうだよなー『こんな事』も出来ないんだよなー」
ニコニコと上条はさらに笑顔を深める。
同時に、重たい空気がさらに増していく。
あわ、あわわーっ!? と口元を押さえて、御坂はその優しさが逆効果だったことを思い知る。
95:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:40:01.75:OxOYOvbk0 (1/1)
これ以上何も言わない方が良いと一方通行は思ったが、冷静さを失ったらしい彼女は必死な様子で叫ぶ。
「わ、私は! アンタがすごいヤツだって知ってるから!
誰だか知らない人をいきなり助けようとしたりとか、あの、立ち直らせてくれたりとか!」
それは自身の経験からの言葉なのだろうか、実感の込められた声だった。
顔を赤くしながらも、彼女は続ける。
「だ、だから……その、気にしなくて良いわよ!」
……私は認めてるからさ、と最後に隣の一方通行にしか聞こえないぐらいの小声を出して、御坂は黙った。
大声のせいで注目が集まっていたことに気付くと、彼女は赤い顔をさらに赤く染めた。
……馬鹿なヤツ、と一方通行は心の中だけで彼女の度胸を褒めた。
これ以上何も言わない方が良いと一方通行は思ったが、冷静さを失ったらしい彼女は必死な様子で叫ぶ。
「わ、私は! アンタがすごいヤツだって知ってるから!
誰だか知らない人をいきなり助けようとしたりとか、あの、立ち直らせてくれたりとか!」
それは自身の経験からの言葉なのだろうか、実感の込められた声だった。
顔を赤くしながらも、彼女は続ける。
「だ、だから……その、気にしなくて良いわよ!」
……私は認めてるからさ、と最後に隣の一方通行にしか聞こえないぐらいの小声を出して、御坂は黙った。
大声のせいで注目が集まっていたことに気付くと、彼女は赤い顔をさらに赤く染めた。
……馬鹿なヤツ、と一方通行は心の中だけで彼女の度胸を褒めた。
96:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:41:11.82:Eutq19oK0 (1/2)
「……えっと、ありがとう……?」
対応に困ったように、上条はペンを回しながら答える。
冗談のつもりだったらしく、彼としてはそんな真剣な返しをされても弱るようだ。
むー……とインデックスは渋い顔で、二人を交互に見た。
一方通行は嫌そうな顔でコーヒーを飲む。
何と言うか、修羅場に巻き込まれた一般人の気持ちがよく分かる気がした。
「……みことはどうしてここに?」
話題を換えて微妙な空気を変えようと狙ってか、インデックスが疑問を口にする。
「へ? あ、あーちょっとね」
ちゃんとした答えではない適当な返事をして、御坂は水を一杯飲む。
彼女の顔からは、やっと朱色が引きつつあった。
「……えっと、ありがとう……?」
対応に困ったように、上条はペンを回しながら答える。
冗談のつもりだったらしく、彼としてはそんな真剣な返しをされても弱るようだ。
むー……とインデックスは渋い顔で、二人を交互に見た。
一方通行は嫌そうな顔でコーヒーを飲む。
何と言うか、修羅場に巻き込まれた一般人の気持ちがよく分かる気がした。
「……みことはどうしてここに?」
話題を換えて微妙な空気を変えようと狙ってか、インデックスが疑問を口にする。
「へ? あ、あーちょっとね」
ちゃんとした答えではない適当な返事をして、御坂は水を一杯飲む。
彼女の顔からは、やっと朱色が引きつつあった。
97:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:42:20.73:ioY0OdgB0 (1/2)
コップを置いて御坂は、
「――おや、御坂さんじゃないですか」
口を開けたまま、固まった。
あン? と一方通行は急に掛けられた声のした方向を見る。
そこには、一人の少年が人の良さそうな笑顔で立っていた。
歳は御坂と同じぐらいだろうか、整っている柔和な顔付きは、昨日会った嫌なヤツを思い返させた。
(……っつ)
途端、胸に何かよく分からない軽度の圧迫を感じた。
これは……と深く考える前に、上条の声で思考を遮られる。
「知り合いか?」
「んー、まぁね」
無難な調子で返すと、御坂はいつの間にか笑顔を作っていた。
自然のモノではないな、と一方通行はすぐに判断出来た。
目が笑っていなかったのだ。
コップを置いて御坂は、
「――おや、御坂さんじゃないですか」
口を開けたまま、固まった。
あン? と一方通行は急に掛けられた声のした方向を見る。
そこには、一人の少年が人の良さそうな笑顔で立っていた。
歳は御坂と同じぐらいだろうか、整っている柔和な顔付きは、昨日会った嫌なヤツを思い返させた。
(……っつ)
途端、胸に何かよく分からない軽度の圧迫を感じた。
これは……と深く考える前に、上条の声で思考を遮られる。
「知り合いか?」
「んー、まぁね」
無難な調子で返すと、御坂はいつの間にか笑顔を作っていた。
自然のモノではないな、と一方通行はすぐに判断出来た。
目が笑っていなかったのだ。
98:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:43:43.37:BpL6/WBK0 (1/1)
爽やかな雰囲気を纏った少年は上条達を見ると、ペコリとお辞儀した。
「ええと、初めまして。海原と申します」
丁寧な自己紹介に、上条もペコリと適当なお辞儀で返す。
「上条。で、そっちがインデックス。それと――」
「――木原だ」
上条が言うより早く、一方通行が名乗る。
それを聞くと、御坂が笑顔を取った。
思わぬ台詞に虚を突かれたらしい。
「へ、アンタって名前……」
ジッ、と彼女の目を見た。
黙ってくれ、と懇願するような瞳で。
「――ん。木原よ、木原」
何でもないように言って、御坂は海原に笑顔を向けた。
微笑み返しながら、彼は上条達を見回すと、
「はは、なるほど。御坂さんの用事というのは――」
何やら納得したような声を上げる。
それに御坂は食いつくようにつらつらと言葉を並べた。
「あ、うん。そうなの、だから――」
「おい、いつそんな約束――」
ギロッ! と不平を言おうとした上条を笑顔でありながら、御坂は笑っていない目で睨む。
瞬間、上条は張り付いたような笑みを浮かべる。
「シテタッケナー」
気の入らない声を出して、『さっ、宿題宿題ー!』とわざとらしくプリントに向かう。
爽やかな雰囲気を纏った少年は上条達を見ると、ペコリとお辞儀した。
「ええと、初めまして。海原と申します」
丁寧な自己紹介に、上条もペコリと適当なお辞儀で返す。
「上条。で、そっちがインデックス。それと――」
「――木原だ」
上条が言うより早く、一方通行が名乗る。
それを聞くと、御坂が笑顔を取った。
思わぬ台詞に虚を突かれたらしい。
「へ、アンタって名前……」
ジッ、と彼女の目を見た。
黙ってくれ、と懇願するような瞳で。
「――ん。木原よ、木原」
何でもないように言って、御坂は海原に笑顔を向けた。
微笑み返しながら、彼は上条達を見回すと、
「はは、なるほど。御坂さんの用事というのは――」
何やら納得したような声を上げる。
それに御坂は食いつくようにつらつらと言葉を並べた。
「あ、うん。そうなの、だから――」
「おい、いつそんな約束――」
ギロッ! と不平を言おうとした上条を笑顔でありながら、御坂は笑っていない目で睨む。
瞬間、上条は張り付いたような笑みを浮かべる。
「シテタッケナー」
気の入らない声を出して、『さっ、宿題宿題ー!』とわざとらしくプリントに向かう。
99:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:45:44.47:Eutq19oK0 (2/2)
そんな彼らのやり取りを、海原はニコニコと笑って見守っている。
それから、邪魔して申し訳ない、というように後退った。
「そうですか、いや、すみません」
いいのいいの、と御坂が同じく社交的な笑みを返す。
死ぬほどイメージに合わないそれに、一方通行は、コイツも苦労してンだな、と思った。
「それではさようなら」
ペコリ、とまたお辞儀をして、爽やか少年は出口へと歩く。
「それじゃー」
右手を軽く振りながら、彼が消えるまで、御坂は笑顔を張り付かせたままでいた。
そうして彼がいなくなると、
「……はぁー、やれやれ」
心底疲れきった顔で、テーブルにしな垂れかかった。
あれ? 大丈夫みこと? と心配するインデックスに、猫かぶりな少女は起き上がると、親指を弱々しく立てた。
そんな彼らのやり取りを、海原はニコニコと笑って見守っている。
それから、邪魔して申し訳ない、というように後退った。
「そうですか、いや、すみません」
いいのいいの、と御坂が同じく社交的な笑みを返す。
死ぬほどイメージに合わないそれに、一方通行は、コイツも苦労してンだな、と思った。
「それではさようなら」
ペコリ、とまたお辞儀をして、爽やか少年は出口へと歩く。
「それじゃー」
右手を軽く振りながら、彼が消えるまで、御坂は笑顔を張り付かせたままでいた。
そうして彼がいなくなると、
「……はぁー、やれやれ」
心底疲れきった顔で、テーブルにしな垂れかかった。
あれ? 大丈夫みこと? と心配するインデックスに、猫かぶりな少女は起き上がると、親指を弱々しく立てた。
100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:46:23.75:E9rSozvo0 (1/1)
一方通行は面倒そうに頬杖をつくと、
「で、一体どォいうことだ?」
とりあえずの説明を求める声に、御坂は待ってましたとでも言うように、こちらを見た。
「いやー、それがさ」
彼女はペラペラと喋った。
最近、あの海原という男に好意を持たれていて、よく誘われるということ。
彼は常盤台中学校の理事長の孫で、面識自体はあるのだが、あまりにいきなりな話で驚いていること。
そういう気がさらさら無い(ついでに経験も無い)御坂からすると、
どうすれば良いか分からず、かといって相談する相手もいなくて弱っていること。
今日も今日とて、彼と出くわすのが嫌でこのファミレスに逃れてきたこと。
色々と語った。
何もかも出し切ると、彼女はため息を吐く。
結構、真剣に悩んでいたらしい。
一方通行は面倒そうに頬杖をつくと、
「で、一体どォいうことだ?」
とりあえずの説明を求める声に、御坂は待ってましたとでも言うように、こちらを見た。
「いやー、それがさ」
彼女はペラペラと喋った。
最近、あの海原という男に好意を持たれていて、よく誘われるということ。
彼は常盤台中学校の理事長の孫で、面識自体はあるのだが、あまりにいきなりな話で驚いていること。
そういう気がさらさら無い(ついでに経験も無い)御坂からすると、
どうすれば良いか分からず、かといって相談する相手もいなくて弱っていること。
今日も今日とて、彼と出くわすのが嫌でこのファミレスに逃れてきたこと。
色々と語った。
何もかも出し切ると、彼女はため息を吐く。
結構、真剣に悩んでいたらしい。
101:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:47:13.88:ioY0OdgB0 (2/2)
「……ふーん。別に遊べばいいのに」
嫌いじゃないんだろ? と適当に言って、上条はペンを握り直す。
彼からすれば、色恋沙汰なんて今はどうでもいい話なのだろう。
それを聞いて、御坂は首を数回横に振る。
「そう言ってもさ、何か気まずいのよ」
これまで特に意識もしていない人間から、突然告白されて積極的にアプローチを受ける。
なるほど、確かに急だ。
一方通行もそんな経験は無いし、
恋愛なんて馬鹿馬鹿しくて考えたこともないが、
海原の行動はあまりにも早過ぎて、何だか慌てているように思える。
まぁ、世間一般の恋愛なんてそんなものなのかもしれないが。
「……ふーん。別に遊べばいいのに」
嫌いじゃないんだろ? と適当に言って、上条はペンを握り直す。
彼からすれば、色恋沙汰なんて今はどうでもいい話なのだろう。
それを聞いて、御坂は首を数回横に振る。
「そう言ってもさ、何か気まずいのよ」
これまで特に意識もしていない人間から、突然告白されて積極的にアプローチを受ける。
なるほど、確かに急だ。
一方通行もそんな経験は無いし、
恋愛なんて馬鹿馬鹿しくて考えたこともないが、
海原の行動はあまりにも早過ぎて、何だか慌てているように思える。
まぁ、世間一般の恋愛なんてそんなものなのかもしれないが。
102:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:48:21.64:MNl0rQum0 (1/2)
そんな事を思いながら、一方通行は思い出したようにケータイを取り出す。
それで時間を確認すると、彼は立ち上がった。
「……じゃ、俺は行くぞ」
御坂にどいてもらい、一方通行は席を離れる。
突然の行動を上条は不思議そうにしながら、ファミレスの壁掛け時計を見て、閃いたように言う。
「例の特訓か、佐天だっけ?」
一方通行は簡単に頷いた。
今日も今日とて修業の時間だったのだ。
そうして席を離れようとした彼に、御坂が疑問の声を発した。
「あれ? こいつの宿題は?」
「オマエが面倒見てやってくれ」
例の海原の誘いを断る材料にしたのだから、彼女には付き合う義務がある、と建前で思った。
「……まぁ良いけど」
言われた御坂も大して不満を零さなかったので、一方通行は任せることにした。
彼はさっさと出口に向かう。
「悪いな、御坂」
「はいはい……っと、数学かぁ」
「とうま、これ食べよ。ほら、これなら書きながらでも食べれるし」
「おー、頼むわ。珍しく気が利くな」
珍しくは余計なんだよ! という叫びを背に、一方通行は店を去った。
そんな事を思いながら、一方通行は思い出したようにケータイを取り出す。
それで時間を確認すると、彼は立ち上がった。
「……じゃ、俺は行くぞ」
御坂にどいてもらい、一方通行は席を離れる。
突然の行動を上条は不思議そうにしながら、ファミレスの壁掛け時計を見て、閃いたように言う。
「例の特訓か、佐天だっけ?」
一方通行は簡単に頷いた。
今日も今日とて修業の時間だったのだ。
そうして席を離れようとした彼に、御坂が疑問の声を発した。
「あれ? こいつの宿題は?」
「オマエが面倒見てやってくれ」
例の海原の誘いを断る材料にしたのだから、彼女には付き合う義務がある、と建前で思った。
「……まぁ良いけど」
言われた御坂も大して不満を零さなかったので、一方通行は任せることにした。
彼はさっさと出口に向かう。
「悪いな、御坂」
「はいはい……っと、数学かぁ」
「とうま、これ食べよ。ほら、これなら書きながらでも食べれるし」
「おー、頼むわ。珍しく気が利くな」
珍しくは余計なんだよ! という叫びを背に、一方通行は店を去った。
103:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/10/09(火) 03:48:50.76:MNl0rQum0 (2/2)
同時刻。
少年がファミレスを出たところを、二つの影が見守っていた。
向かいの建設途中のビルの鉄骨の上で、二つの影はファミレスの中を静観している。
まるで、獲物を狙う狩人のように。
「――機を窺って行動しましょう」
「――了解。監視を続ける」
夏休み最後の日。
災難は上条と一方通行を見逃しはしない。
同時刻。
少年がファミレスを出たところを、二つの影が見守っていた。
向かいの建設途中のビルの鉄骨の上で、二つの影はファミレスの中を静観している。
まるで、獲物を狙う狩人のように。
「――機を窺って行動しましょう」
「――了解。監視を続ける」
夏休み最後の日。
災難は上条と一方通行を見逃しはしない。
104:腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo:2012/10/09(火) 03:49:47.40:STcLcRAJ0 (1/1)
ここで区切りです。
それではまた。
ここで区切りです。
それではまた。
105:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道):2012/10/09(火) 06:21:59.42:6nlTHKJgo (1/1)
乙!
乙!
106:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/09(火) 08:01:46.05:j6ZCCqnY0 (1/1)
乙
次も楽しみ
乙
次も楽しみ
107:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東):2012/10/09(火) 08:31:21.96:sRae6AFAO (1/1)
乙
ダウナー上条さんを必死に慰める美琴かわいい
乙
ダウナー上条さんを必死に慰める美琴かわいい
108:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2012/10/09(火) 08:35:24.97:g/Bxmz3L0 (1/1)
これ一方通行ばっかフラグ建ってね?
これ一方通行ばっかフラグ建ってね?
109:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2012/10/09(火) 08:37:23.77:sPGox0Fpo (1/1)
乙!
アレ…?ファミレスの支払いは誰が…?
乙!
アレ…?ファミレスの支払いは誰が…?
110:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/09(火) 09:47:34.28:jOO7P5BIO (1/1)
乙パン!
乙パン!
111:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県):2012/10/09(火) 21:05:14.60:NldPU9Zao (1/1)
>>109
まあ、みこっちゃんもレベル5だし
>>109
まあ、みこっちゃんもレベル5だし
112:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/09(火) 23:18:34.20:9WZZqsoDO (1/1)
しばらく居座って宿題するんだし、特訓終わったら帰ってくるんじゃね?
しばらく居座って宿題するんだし、特訓終わったら帰ってくるんじゃね?
113:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2012/10/12(金) 05:49:04.55:gwtGBeO40 (1/1)
>>1乙 さすがに、面白いな。
佐天さんの努力やいかに?
>>1乙 さすがに、面白いな。
佐天さんの努力やいかに?
114:腹パンの人 ◆j2IgCSzIVo:2012/10/16(火) 18:27:46.18:aEKJQciu0 (1/1)
お久しぶりです。
復活早々に言いたくないのですが、来年の春あたりまで来れなくなりました。
途中過ぎて実に残念ですが、ここで休止とさせていただきます。
それでは失礼。
お久しぶりです。
復活早々に言いたくないのですが、来年の春あたりまで来れなくなりました。
途中過ぎて実に残念ですが、ここで休止とさせていただきます。
それでは失礼。
115:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/16(火) 18:29:48.54:8ATDmLKIO (1/1)
なん……だと……?
落ち着いたら、立て直しのうえ続きオナシャス!
なん……だと……?
落ち着いたら、立て直しのうえ続きオナシャス!
116:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/16(火) 18:30:40.41:PZmxi5Cp0 (1/1)
ウソ……だろ……?
ウソ……だろ……?
117:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2012/10/16(火) 18:32:29.03:aTZE4SCf0 (1/1)
冗談……だろ……?
冗談……だろ……?
118:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/16(火) 18:39:32.57:2lJEXo/I0 (1/1)
なん……だと……?
なん……だと……?
119:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2012/10/16(火) 18:43:18.24:tFs1S5cP0 (1/1)
わたしまーつわ
わたしまーつわ
120:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2012/10/16(火) 19:14:33.04:Y8Uml1Vdo (1/1)
春か 覚えた
春か 覚えた
121:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/10/17(水) 18:21:45.00:xEa/oXUho (1/1)
ばいばい
ばいばい
◆j2IgCSzIVo さんの作品一覧
http://s2-d2.com/archives/16594259.html
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