416 ◆k.6bdeNTfg2012/09/14(金) 22:11:31.96b9Xkhi85o (9/15)




救護員「剣士さんのことが好きになっちゃいまして」

隊長「ぶっ」




417 ◆k.6bdeNTfg2012/09/14(金) 22:12:00.26b9Xkhi85o (10/15)

救護員「汚いですよ、隊長、本気で汚いです」

隊長「ごめん。予想の斜め上だったから」

救護員「隊長でも予測を外すことってあるんですねぇ。まあ、よく失敗してますけど」

隊長「……」

救護員「……まあ、剣士さんだろうと、私じゃ不釣り合いっすかね~」

隊長「そういう問題じゃなくてさ、今日、顔を殴られてたよね?」

救護員「うーん、容赦ないところもいいですよね!」

隊長「それにしても極端すぎやしないかい?」

救護員「なんていうか、いろいろキツいことを言うのも、ちゃんと考えて言ってることなんだぁとか、隊長に言われてから気になっちゃって」

救護員「ま、まあ、ツンデレ発動して私も意地張っちゃうんですけどね!」

隊長「……」

隊長(まあ、俺にならなかっただけマシか)

救護員「あ、今、隊長、なんで俺には惚れねぇんだよって思ったでしょ?」

隊長「思ってないけど」


418 ◆k.6bdeNTfg2012/09/14(金) 22:12:31.65b9Xkhi85o (11/15)

救護員「またまた~、こないだのお菓子作戦の時も、ちょっと私と触れ合ってドキドキしちゃったっしょ?」

隊長「あはは、今、血圧が上がってきたかなぁ」

救護員「でも、隊長は正直、チビだし前髪かかりまくってるし、顔も好みじゃないし」

隊長(すごく……不愉快です……)

救護員「あ、でも、尊敬はしてますよ! リスペクト!」

隊長「そういう軽いリスペクトはいいかなぁ」

救護員「まあ、それはいいんです! とにかく、私は新しい恋に生きるんです!」

隊長「ふーん。そう」

救護員「薄いなー、反応が」

隊長「いいけど、多分、剣士は冒険職につくよ。それもトップクラスの」

救護員「う」

隊長「ついていけるの?」

救護員「そ、それは……」


419 ◆k.6bdeNTfg2012/09/14(金) 22:12:58.53b9Xkhi85o (12/15)

救護員「……まあ! 憧れってのも、ありますし!」

救護員「秘める恋ってのも、その……」ゴニョゴニョ

隊長「別に、どうしようと構わないけどさ」

隊長「救護員は、自分がかなりのお調子者だって知っているよね?」

救護員「うう」

隊長「剣士だって、真剣にやってる相手で、なおかつ一定水準じゃないと目にも留めたくない感じじゃない」

隊長「そういう人を相手にするんだってことは分かってる?」

救護員「……」

救護員「なんていうか、ほんとうに、ほんとうに隊長、私にだけ容赦なくないですか……?」

隊長「いや、別に」

隊長(お前が言いたい放題だからだろうが、ボケッ)


420 ◆k.6bdeNTfg2012/09/14(金) 22:13:24.54b9Xkhi85o (13/15)

隊長「うーん、でも、剣士のことは俺もいろいろ聞いておせっかいを焼いてるし」

隊長「……応援してあげようか?」

救護員「マジッスか!? 隊長ぉ!」

隊長「つまり、一組に入るくらいまで救護員のレベルを引き上げればいいわけだよね」

救護員「やっぱり考えなおさせてください」

隊長「面白そうだから、俺もがんばるよ☆」

救護員「い、嫌がらせだ、ただの嫌がらせするつもりだ、この人……」

隊長「嫌がらせだけじゃないよ。救護員の成績が上がれば、うちの隊の総合力は素晴らしいことになるし」

救護員「そう……ですかね」

隊長「そうそう」

隊長(能力だけじゃなくて、後先も考えるようにしてやれば、こいつも恋愛脳が収まるかもしれないし)

救護員「でも、隊長がそう言ってくれるなら心強いっすねー」

隊長「そう? じゃあ、明日もがっつりがんばろうね」

救護員「あああ、明日は三冊、かー」


421 ◆k.6bdeNTfg2012/09/14(金) 22:13:56.09b9Xkhi85o (14/15)

廊下。

隊長「……」

隊長「……衝撃」

隊長「まあ、剣士に関して言えば、ご愁傷様ですとしか言い様がないな」

隊長「それにしてもあいつ、なんで俺のことをボロクソに言うくせに、時折信頼してますみたいなことを言うんだろうか」

隊長「本気で理解不能だわ」

隊長「しかし、これで二週間、やりきれそうな気がしてきたな」

隊長「……まあ、救護員を重点的に鍛えるとして」

隊長「あとは誰かの勉強も見てやるか」

隊長「テスト範囲もヤマを張らないとな~」


422 ◆k.6bdeNTfg2012/09/14(金) 22:15:06.46b9Xkhi85o (15/15)

今夜はここまで。さっくり中間試験を終わらせて、作戦に入りたいです。


423VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/14(金) 22:38:35.62gd6ddfVDO (1/1)

おっつおっつ!


それにしても……
救護員wwww


424VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2012/09/15(土) 00:01:59.032LKVXsGXo (1/1)



なんか剣士が一番まともに見える
むしろ隊長の方が(救護員よりはるかにマシとは言え)ウザったいな


425VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/16(日) 08:34:10.54A3H9syGco (1/1)

隊長が猫かぶってるからウザいんだよな、多少素を出しても良さそうだけど


426 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:39:11.09gaFmEY8yo (1/24)

2日目。

隊長「じゃあ、まず初日の課題のチェックから、と行きたいところだけど……」

工兵「アタマイテ……カラダイテ……」

術士「……」

救護員「あー、隊長。二人ほど、バキボキです」

隊長「見れば分かるよ」

工兵「タイチョ……マジ、キョウモコノチョウシダト……」

術士「なんか、目が覚めたら金縛りにあったみたいになって」

剣士「うるせぇやつらだなぁ、今日は緩めのトレーニングにするから我慢しろ」

工兵「マジでっ!?」

剣士「荷物背負って、学内の森を行軍」

工兵「マジで……?」

術士「森ってあれよね、樹海」

救護員「剣士さん、うちのメンバーの体力考えてくださいよー」

剣士「ああ? 昨日の様子を見て決めてやってんだよ!」

隊長「まあまあ」


427 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:39:41.93gaFmEY8yo (2/24)

隊長「とにかく、最初に言ったように、基礎学力と基礎体力を作るための訓練だから」

工兵「隊長の目指している基礎ってどんなもんなんすか……」

術士「目標の点数とか、決めたほうがいいんじゃないかしら」

隊長「統一試験で70点以上」

救護員「えっ」

剣士「まあ、そんなもんか」

救護員「あのののの、進級試験の時の二倍以上っていうか」

工兵「まあ、でも、専門知識じゃないなら、僕もできるかなぁ?」

術士「私は……偏らないでちゃんと回答できれば」

救護員「あのあのそのっ、私だけハードル高すぎっていうか」

隊長「だから、勉強しているんでしょ」

救護員「いやでも、こうして具体的な数字をつきつけられるとっ!」

剣士「いいから黙ってやれ」

救護員「いやでもっ!」

隊長「……みっちりスケジュールは立てたぜ」バンッ

救護員「『救護員、試験突破計画』……」


428 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:40:08.07gaFmEY8yo (3/24)

隊長「聞いたよ。救護員、昨年は追試も含めて中間試験で二回、進級試験で三回落ちているんだって?」

救護員「」

隊長「その時の情報をちょっとかっぱらって、それを元に対策立てるし」

救護員「た、隊長! こんな過密スケジュールじゃ、剣士と話す隙もないですよ」ボソボソ

隊長「実技の時に話せばいいと思うよ」

救護員「応援するって言ったのに……」

隊長「だから、学力面で応援するって言ったじゃないか」

救護員「そんな、そんな……」

隊長「こんなことでしか応援できなくて悪いけど、その分、全力で取り組むさ!」

工兵「隊長、ウキウキしてるなぁ」

隊長「死ぬ気でがんばろうね!」

救護員「……ウィ」


429 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:41:12.07gaFmEY8yo (4/24)

隊長「ああ、それと、なんか他人顔だけど、工兵」

工兵「な、なんだい?」

隊長「専門課程のカリキュラム、持ってきたよね」

工兵「こ、これのこと?」ガサガサ

隊長「ふむ……」

術士「隊長、もしかして、工兵のも」

隊長「うん、進み方次第では、専門課程も試験用に組むから」

工兵「いやあ、そこまでしなくてもいいんじゃないかな」

隊長「ダメ」

工兵「ダメって……」

隊長「教養ベースではそれほど成績が悪いわけじゃないもの。工兵は」

工兵「それはそうかもしれないけどさ」


430 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:42:01.65gaFmEY8yo (5/24)

隊長「工兵、いずれは工房に戻るんだろ? だったら、きっちりやっといた方がいいはずだよ」

工兵「それは、そうかもしれないけど……」

隊長「まあ、そんなに根を詰めても、続かないしね」

隊長「あくまで、今回は基礎の基礎を固めるだけ」

剣士「十分すぎるくらいだと思うがな」

術士「……」

工兵「た、隊長がそこまで言うなら、しょうがないね」

隊長「はい。で、昨日の課題のチェックからいくよ……」


術士「……隊長」

隊長「なに?」

術士「無理はしてないわよね」

隊長「いや、なんで?」

術士「……」


431 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:42:29.63gaFmEY8yo (6/24)

午後。

剣士「誰か樹海などと表現した奴がいるが、今回歩くコースはそこまで難しい箇所ではない」

救護員「はい!」

剣士「なんだ、救護員」

救護員「お散歩って聞いたんだけど」

剣士「そうだが」

救護員「フル装備じゃん!」どっしり

隊長「俺と剣士はプラス武器を二十本」

救護員「意味分かんないけど!?」

工兵「いやあ~……暑くてしょうがないんだけど」

術士「……」ハァ、ハァ

救護員「きょ、教官! 術士さんが早くも息を切らしています!」

剣士「俺が先行して、歩きやすいように道をつくる」

隊長「一応、しんがりは俺ね。様子は、見るけど、大丈夫?」

術士「……心配、しないで……はぁはぁ」

術士「それより、隊長の、ほうこそ。目に隈がある」

隊長「うん?」

剣士「おい、いいから、行くぞ!」


432 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:43:07.62gaFmEY8yo (7/24)

一時間後。

剣士「ダメだな、この剣じゃすぐ切れ味が悪くなる」

工兵「あ、あとで見とくよ。最近、武器のメンテナンスに凝ってるんだ」ハァハァ

剣士「いらん。それより息上がってるぞ」

救護員「お水、飲みますかー?」

  術士「大丈夫、よー!」ハァハァ

  隊長「おー、少し休憩しててくれー!」

  隊長「少しずつ追いつくー!」ハァハァ

剣士「チッ、何をもたついてやがる」

工兵「まあ、まあ、術士、あまり体力ないみたいだしさ」はぁはぁ

剣士「お前もだろうが」

救護員「昨日の今日ですよ? みんな、そう簡単に動けるわけじゃないんですし~」

剣士「お前は動いているだろうが」

救護員「ふへへ、すごいっしょ?」

剣士「あ?」

工兵「ふー。休憩、休憩」


433 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:43:33.94gaFmEY8yo (8/24)

二時間後。

隊長「やれやれ、意外と、キツいもんだな」

術士「隊長、私に、合わせ、なくても、はぁはぁ」

隊長「いや、やっぱり同じ隊なんだから、そういう、訓練だと思ってね」

術士「……はぁはぁ」

隊長(いや、それだけでもないな。結構、体が堪えているのかもしれん)

隊長「……」

隊長「よし、行けるかな?」

術士「すー……行くわ」

術士「でも、隊長も無理してない?」

隊長「いや、俺は大丈夫だ」

剣士「……だったら、もっと早く移動しろ」

隊長「おう、戻ってきたのか」

剣士「この速度だとさすがに訓練にならない。コースを切り上げて、こっちに移動するぞ」

隊長「ああ。悪いな」

術士「……はぁはぁ」

剣士「術士、苦しくても下を向かずに移動しろ」

術士「わかっ……てるわ」


434 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:44:29.98gaFmEY8yo (9/24)

開始から三時間後。

救護員「ふひゃー!」

工兵「うああああっ! 疲れたー!」

剣士「声があげられる程度の強度に過ぎん」

救護員「もう、剣士じゃないんだから、みんな」

剣士「……隊長たちは、まだか。よし、まだ元気のあるお前らに明日からの前準備をしておく」

工兵「いやいや」ハァハァ

剣士「いいから。明日からは、型、素振りをやってから、二十本の組手」

救護員「なに? 型って」

剣士「簡単に言うと、武器の構え方と振るい方だ」

剣士「昨日も言ったが、戦闘で一番困るのは、腹や首をやられることだ」

工兵「……ええと、つまり」

剣士「当たり前だが、首を狙いにくいように、腹を撃たれにくいように構えることが重要になる」

剣士「獲物を狙う時ならまだしも、急所を晒して戦う愚は避けたい」

救護員「……なるほどー」

剣士「わかってねぇだろ」


435 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:44:58.59gaFmEY8yo (10/24)

剣士「……熊が仁王立ちするところを想像してみろ」

工兵「あー、弱点丸出しって感じ?」

剣士「そうだ。だが、あれは体格差があるし、体の質も違うから、それほど問題ではない」

剣士「いくら腹を打てと言われても、お前らでは熊に一撃入れようとは思うまい」

救護員「そりゃそうですねぇ」

剣士「だが人間は違う。柔らかい。細い。血がいっぱい出る」

剣士「そういったわけで、武術にも幾つかの立ち姿勢があって……それにしても遅いな」

  隊長「……お~い」ハァハァ

  術士「……ハァハァ」

剣士「ま、それ以前の問題の連中もいるがな」

工兵「隊長も?」

剣士「お前らだよ! 体力だけあって、下手くそな立ち方をしてる」

救護員「立ち方をディスられたのは初めてですわ」


436 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:45:24.80gaFmEY8yo (11/24)

3日目。

隊長「……工兵用に、カリキュラム組んできたから」

工兵「お、おお」

隊長「これ、問題集と解説本……」クァ

術士「……」

救護員「ふふふ、マスターした! 私はマスターしましたよ!」

剣士「何をだ?」

救護員「『うな救』!」

剣士「嘘つけ」

隊長「……ホントだよ。つっても、実戦がまだだから、今日の午後は見てもらいたいんだけど」

剣士「なんだ? 要するに、一人怪我をさせりゃいいってことか?」

隊長「工兵あたりでどうかな……」

工兵「勘弁してください」


437 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:45:57.13gaFmEY8yo (12/24)

4日目。

隊長「これ、術士用に。魔法の発動条件と、その阻害方法について」

術士「……ありがとう」

隊長「昨日はがっつりぶん回したけど、カラダも大丈夫そうだね」

術士「いや、隊長の方こそ」

隊長「あ、それと、剣士」

剣士「なんだよ」

隊長「前からの懸念だった、あの肉体強化用の呪術印だけど」

剣士「……お前には関係ねぇだろうが」

隊長「だから、もっと安全な運用法を……」

工兵「ふたりとも、それよりも前に、僕に何か言うことあるんじゃない……」

救護員「ええ~? 工兵くんはばっちり手当したじゃない」

工兵「手当したとかしないとかじゃなくてね?」

術士「……」


438 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:46:39.22gaFmEY8yo (13/24)

5日目。

隊長「おはよう~」

救護員「おはようございまーす……?」

工兵「隊長、こないだもらった問題集だけど、あれ執筆者が間違っているよ」

隊長「どれのこと?」

工兵「ほら! これこれ。異世界関係は知ったかぶりしすぎると痛い目みるって言うのに」

隊長「……このへんは、ちょっと俺には難しいな」

工兵「ううん。ま、いいけど」

隊長「だとすると、この辺は一発論文とか書いてもよさそうだね」

工兵「ろ、論文!? 無理無理、そんな面倒くさい!」

剣士「いいじゃねぇか。別に試験中にやれとは言わねぇし」

工兵「他人事と思ってからかってるでしょ?」

剣士「ハッ、抜きん出ている部分があるのが羨ましいだけだ」

工兵「バカにしてるでしょ?」

隊長「あはは……」ヨロッ

術士「……隊長!」


439 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:47:16.28gaFmEY8yo (14/24)

隊長「な、なに?」

術士「いま、ふらついたでしょう」

隊長「いや、そんなことは」

救護員「ど、どうしたんですか?」

術士「救護員、あなた、サポート役なら、隊長の様子を見て分からないの」

救護員「へ? へ?」

術士「隊長、睡眠時間どのくらいなの?」

隊長「いや、別に……」

術士「毎日のように問題集探して! スケジュールも組んで! 小テストまで自作して!」

術士「それっていつやってるんの!?」

救護員「え、でも、夜、私の勉強を見たら寝てるんじゃ……」

術士「わざわざ付きあわせていたの」

隊長「俺が自分からやってるんだよ」

術士「でも、結局、その後にやっているんでしょう、テストづくりとかは」


440 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:47:42.63gaFmEY8yo (15/24)

工兵「術士、そんなに怒らないで……」

術士「怒るわ。そりゃあ、隊長が私達を信頼していないのはよく分かるわ」

隊長「むぐ」

術士「だけどね、自習ぐらい自分でできるし、初日にあれだけお膳立てされれば、自分の不足くらい、自分で補えるわ」

術士「いいえ、それを差し引いても、隊長がそこまで身を削る必要はないはずよ!」

剣士「うるせぇな、隊長は自分の体の範囲内でやってるんだから、それでいいだろうが」

術士「剣士、あなたも実技でよく見ているでしょ。隊長の動きがどうとかは」

剣士「……確かに、昨日、一昨日と、動きが落ちているのは認める」

術士「だったら、止めるべきでしょう、それは」

剣士「……何の権利でだ」

術士「同じ隊員だからでしょう! たとえリーダーだったとしても、貴方だって言うべきことは言っているでしょう」

隊長「……」


441 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:48:29.41gaFmEY8yo (16/24)

術士「隊長、今日は自分たちでできる範囲をやるわ。隊長は寝てて」

救護員「の、ノゥ! 私には一人は無理っす!」

術士「あなたも自分で考える癖をつけなさい。難しいことはわかりません、というのでなくて」

救護員「な、な、なんなんです?」

工兵「あー、はいはい。怒らない、怒らない」

術士「実技訓練は調子を見て参加不参加を決めてください。とりあえず寮に帰っていただいて」

隊長「いや、それはさすがに出来ないよ」

術士「でもね」

剣士「隊長、要するにお前はどういう状態なんだ。休んだほうがいいのか、動けるのか」

隊長「まだたった5日しか経っていない。この程度なら……」

術士「つまり、ちゃんと睡眠が取れてないのよね?」

救護員「あの……」


442 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:49:00.31gaFmEY8yo (17/24)

救護員「ごめんなさい、私も、さっき見た時、あれ、隊長ヤバいんじゃないかなーって思いました」

隊長「そうかな」

救護員「うん、でも、そのあと普通にしてたんで、気のせいだったかなって思って」

剣士「チッ、そう思ったなら最初から言え」

救護員「だからぁ! 気のせいかなって思ったの!」

隊長「……」

隊長「……分かった。とりあえず午前中はここで毛布を被って寝てる。なんかあったら起こして」

隊長「これでいいかな?」

剣士「そんなもん、意味があるのかよ」

隊長「どこいても、昼間から寝るのは難しいし」

術士「……いいでしょう。そこまで言うなら」

隊長(……参ったね)

隊長(くぁ、やっぱり、疲れているっちゃ疲れているかも……)


443 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:49:30.15gaFmEY8yo (18/24)

しばらくして。

   隊長「ぐずー」

救護員「……」カリカリ

術士「……」シュッ,ピッ,シュザッ

剣士「……」ペラ…

工兵「……」カリカリカリカリ

   隊長「くぴー」

救護員「……あのー」

術士「なあに」

救護員「ここんとこがちょっと分からなくて……」

術士「……? 私もちょっと。一度飛ばして、全部やりきってからにしたら」

救護員「あ、そうかもですね」

   隊長「すーっ、ずっ」

救護員「……」


444 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:50:12.37gaFmEY8yo (19/24)

救護員「隊長、めっちゃぐっすりしてますね」

工兵「あ、そう思う? なんか寝言いうでもないけど、マジ寝なのかな」

術士「あまりおしゃべりして起こさないでね」

剣士「……チッ」

救護員「それにしても、術士さん、いきなり怒ってびっくりしたぁ」

術士「怒ったんじゃないわ。隊長、変だから」

救護員「変、ですか?」

術士「この間、ちょっとあって……言わなきゃいけないことは言わないとって思っているから言ったの」

工兵「何があったの?」

剣士「言い難いことだろ。いちいち突っ込んでやるな」

救護員「でもさー、隊長もなんか妙に自己犠牲の精神が強いっていうかさー」

工兵「救護員、自己犠牲なんて知っているの?」

救護員「……知っているよ! そりゃあ」


445 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:51:19.10gaFmEY8yo (20/24)

救護員「こないだも私のところ来て、そう、なんかね、別に頼んだわけでもないのに、勉強見てやるとか」

剣士「……」

工兵「そうかなぁ」

術士「確かに、それはそうかも」

救護員「前からやたらと会いに来たりするしー」

救護員「最初は、もしかして私に気があるんじゃ、とか思ってたんだけど」

三人『それはないわ』

救護員「なんでよ!?」

剣士「……やつなりに、リーダーとして走らないとって自覚があるんだろ」

剣士「俺は認めていないわけじゃない、そのことは」

術士「私も、だからこそ、言ったの。隊長からも言われたし、おかしいと思ったら、ちゃんと言っていいって」

工兵「ふうん」

工兵「でも、術士が言ってたみたいに、隊長は僕らのこと、信頼してないよね」

救護員「えー、そう?」


446 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:52:07.96gaFmEY8yo (21/24)

工兵「だって、今やっている、訓練? だって、自力で試験を突破するのは無理だろうからって企画しているんじゃん?」

剣士「確かに無理なやつが一人いるようだがな」

救護員「なんで、私の方を見るのよぅ」

工兵「まあ、元々、世話好きというか、そうでもないと身を削ってまでこうはしないと思うけどさ」

術士「……確かに」

剣士「……」

救護員「信頼してないから、わざわざ会いに来たりするんですかねぇ」

工兵「それが不思議なんだよね……」

剣士「別に、それ自体はおかしなことじゃねぇだろ」

工兵「なんでさ?」

剣士「理解できないものを、分かりたいと思うから来るんだ。思惑がどうであれ」

術士「……」


447 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:52:36.12gaFmEY8yo (22/24)

剣士「……話していいものか知らんが」

救護員「な、なんです?」

剣士「こないだ、ちょろっと喋ってたんだ。大したことじゃねーけど」

術士「そう」

剣士「その時も思ったが、なんか隊長は、自己評価が低いんだ」

術士「……あっ」

工兵「それってさ、方便なんじゃないの」

剣士「俺もそう思ってた。でも、なんつーかな……もっと腹の底から、自己否定しているような……」

救護員「そりゃあねぇ、一組様の上位剣士様に相対したら、三組の戦士なんてカスみたいなもんですよ」

剣士「煽りたいだけなら怒る」

工兵「まあまあ」

剣士「……まあ、俺は思うがな。他の隊長連中はここまで面倒見ようと思わないだろうし」

救護員「やっぱり? 私も他の子と話してたら、そんなことまでグチグチ言うなんて、面倒くさいねーって」

工兵「救護員だから言いたくなるんじゃないかな」


448 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:53:03.08gaFmEY8yo (23/24)

剣士「それより、お前ら手が止まってるぞ」

救護員「うーん、だって、そろそろ煮詰まってきちゃったんだもん!」

救護員「隊長ー、隊長に聞かないともう分かんないよぅ」

術士「そうやってすぐに人に頼ろうとするからダメなんじゃないかしら」

工兵「そういう術士こそ、めっちゃ付箋貼りまくっているよね」

工兵「後で隊長に聞くために」

術士「……」

剣士「別に、あいつそこまで術が得意でもないだろ」

工兵「それがさ、全部が全部じゃないけど、なんでそこまで知ってるのってくらい知ってること多いよね」

救護員「言えてる~」


隊長(……なんか、聞こえてるな)

隊長(今日、夜、話しに行こうかな……いや、疲れているか……)

   隊長「……ぐー」


449 ◆k.6bdeNTfg2012/09/16(日) 18:54:39.75gaFmEY8yo (24/24)

とりあえず、ここまで。


450 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:41:11.20oKC1Cc7/o (1/14)

――10日目。

隊長「えー、そろそろ試験の分野も発表されましたので、一度、各組に戻ってね」

隊長「つまり、今日はお休みです」

救護員「えーっ!」

工兵「やったーじゃないんだ」

救護員「だって、ぶっちゃけ隊長の方が先生より教え方うまいもん」

剣士「お前は単純に進度が追いついてないだけだ」

術士「私もそう思うわ」

救護員「な、なんでよ!」

隊長「……午後は実技やる予定だけど」

工兵「一日クラスにいます!」

剣士「別に構わん。今日くらい、きっちり休んだほうがいい」

隊長「そう? なら、そうしよっか」

術士「……うん」


451 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:41:39.69oKC1Cc7/o (2/14)

3組。

隊長「おー」

A「お前、久しぶりすぎるだろ」

隊長「Aあらため、槍使い」

槍使い「お前、しばらく戦隊の作戦も受けずに、クラスにも来ないで、何やってたんだ?」

隊長「ちょっと中間試験に向けて訓練をね」

槍使い「あっ」

B「よーっす!」

隊長「おお。Bあらため、斧使い」

斧使い「何いってんだ?」

隊長「いや、さすがに記号はどうかなって」

槍使い「おい、斧」

斧使い「何だよ?」

槍使い「もうすぐ中間試験だぜ」

斧使い「知ってるぜ」


452 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:42:56.15oKC1Cc7/o (3/14)

槍使い「なん……だと……?」

斧使い「だって俺、七番隊だから。ほれ、戦隊ごとにテスト点も評価するんだろ?」

槍使い「マジか」

斧使い「知らないとか……うちのリーダーはしつっこく言ってきたからさ」

隊長「ああ。リーダーはな。自分は良いから、隊員の成績が気になるから」

槍使い「お前、遠まわしに自分が良いって言いたいのか」

隊長「ははは、そりゃそうだろ」

斧使い「笑顔が黒いわー」

槍使い「それで、訓練か。あー、俺も自分とこの隊長に言っとくべきだったか」

斧使い「なんだ、時々校庭内でなんかやってたのはそれかー」

隊長「そうなんだ。この手のは、レベルの低いのが引き上がらないとダメだからな」

槍使い「ううん、どうするかなー」


453 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:43:25.25oKC1Cc7/o (4/14)

斧使い「それにしても、お前のところには剣士がいるんだっけ」

隊長「そうだよ」

斧使い「いいな。一組で二番目に強いわけだし」

隊長「七番隊だって、ほら、その、天測士がいるじゃん」

斧使い「なんであいつを引き合いに出すんだよ! あー、いや、せっかくトップ層からいろいろ教えてもらってるんだろ」

槍使い「なにっ、てことは……今回の試験で狙ってる?」

隊長「どうかな。剣士とは差がありすぎて」

隊長「だってさ、今、一対四で手加減しながら組手やってるんだぜ」

斧使い「手加減って、どっちが」

槍使い「剣士の方だろ。信じたくないけど」

隊長「ああ、そっちだよ」

斧使い「うへぇ」

隊長「いやあ、力の差ってやばいよね」


454 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:43:52.61oKC1Cc7/o (5/14)

斧使い「そういや、隊長」

隊長「な、なに?」

斧使い「もしあれだったら、剣士と手合わせさせてくれよ。うちの戦隊、草取りばっかりでさ」

槍使い「お前の戦隊って草属性なんじゃね?」

斧使い「うるせぇ! 少しでもトップ層とやりあって、勘を戻したいんだよ」

隊長「……まあ、ウチの隊も仕上がりが間に合う、か?」

斧使い「そりゃラッキーだぜ!」

槍使い「隊長、試験は争いだぜ。下手に心をかけてやる必要はねぇよ」

斧使い「お前、友だちじゃん。そういうことは」

隊長「お、担任来るな」

担任「おーい、席付けー」


455 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:44:19.32oKC1Cc7/o (6/14)

午後。

剣士「断る!」

隊長「やっぱりか」

斧使い「ふっ、俺に恐れをなしたか」

剣士「単純な理由だが、相手にならん」

斧使い「偉そうなやつだな」

槍使い「お前が偉そうだからだろ」

隊長「……実際のところ、剣士の実力をもう少し知りたいってのはあるんだよね~」

剣士「……だったら一組の連中を連れてこい」

隊長「知り合いが会長しかいないけど?」

剣士「チッ」

隊長「三連戦だ。刃引きしてある武器で」

槍使い「えっ、俺もやるの」

隊長「せっかくの機会だし」

剣士「……準備運動はしておけ」


456 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:44:45.58oKC1Cc7/o (7/14)

斧使い「なあ、隊長さんよ。あいつってもしかして、結構気さくなやつなのか?」のびー

隊長「実際のところ、戦いたくてウズウズしてるんじゃないかなと思うんだ」

槍使い「……ひょっとして」

隊長「ちょっと犠牲になってくれ。多分、大怪我まではいかんだろ」

槍使い「ふざけんなよ、お前!」

斧使い「へっ、勝ちゃあいいんだろ」

剣士「……」

隊長「じゃあ、斧、槍、俺の順でいいか?」

槍使い「嫌だ!」

隊長「だったら、斧の次は俺で」

剣士「準備はできたか」

斧使い「おう! どこからでもかかってこい!」

剣士「……あああっ!!」ダッ

斧使い「ちょ、ま」


457 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:46:15.55oKC1Cc7/o (8/14)

剣士の攻撃! 斧使いの顎を木剣で穿った!

剣士「次だ!」

隊長「まだ倒れていないよ」

剣士「ふんっ!」

斧使い「うごっ」

剣士の攻撃! 斧使いは崩れ落ちた!

剣士「次だ!」

隊長「おう!」

剣士の攻撃! 隊長は攻撃を受け止めた!

剣士「受けるな! 打て!」

隊長「じゃあ、どけ!」

隊長の攻撃! 剣士は左に跳んだ!



458 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:46:43.38oKC1Cc7/o (9/14)

隊長(右手方向、薙ぐか払うか)

隊長(いや、接近だな)

……隊長が想像した通り、剣士は接近してきた。

つまるところ、剣士の攻撃とは速さなのだ。
攻めに攻め抜いて、隙をつかせずに斬り殺すタイプの。

隊長は後退せずに、剣士に向かって杖を打ち下ろした!

ガイン!

隊長「おうっ!」

剣士「あっ! おらっ!」

剣士の攻撃! 深く沈み込んで、足払いを狙う!

隊長(それは無駄だ)

隊長(足を刺すには的が小さい)

剣士が右に転がった。そこから、伸び上がって突き攻撃!

隊長「はやっ……」

隊長の腹に、木剣が突き刺さる!


459 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:47:15.95oKC1Cc7/o (10/14)

隊長「うぶっ」

剣士「次!」

隊長「待てや……!」

隊長の攻撃! 杖を剣士に投げつけた!

剣士「無駄だ!」

剣士は木剣で振り払った!

隊長(……槍使いは)

槍使い「おっ」

隊長(バカ、今のはチャンスだったろうが!)

剣士の攻撃! 槍の穂先を叩きつけた!

槍使い「くうっ」

剣士「あああっ!」

剣士の攻撃! 槍を引き抜こうとした相手の首筋に、一撃を与える!

剣士「終わりっ!」


460 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:47:42.41oKC1Cc7/o (11/14)

――しばらくして。

剣士「結論だ。総じて遅い」

斧使い「卑怯だろ、あれは!」

剣士「なぜだ? 相手が待ってくれるわけでもない」

剣士「現に、この間やりあってきたこともあって、隊長は反応できていた」

槍使い「そりゃ、やっていたならそうかもしれないけども」

剣士「お前が最悪だ。槍の」

槍使い「おいおい……」

剣士「前二人を見ていたのに、構えも満足にできていなかった。隊長が隙を作ったのに、それも狙わなかった」

槍使い「いや、でも、そういうのは訓練じゃやらんだろ?」

剣士「……ふん。隊長も見過ぎだ」

隊長「そうかな。ちょっと対応をミスっただけだと思うけど」

剣士「いいや。基本的には一対一想定なら、一人で倒し切るのが当然だ」

剣士「次を考えすぎて、打ち込みが遅れている」


461 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:48:28.81oKC1Cc7/o (12/14)

斧使い「ああー、隊長がいろいろいうから、腹にいいのもらっちまったし」

剣士「お前の使っている斧は大きすぎる。振りももっと早くしろ」

斧使い「おう、こんな感じだろ!」ブン

剣士「もっとだ」

槍使い「俺にはなんかないのか」

剣士「あの時点で武器は捨てろ。地面に刺さったものを抜いている間に殴られるなんて、バカにも程がある」

槍使い「……」

隊長「口は悪いけど、いいやつなんだ」

槍使い「とってつけたようなことを言いやがって……」

斧使い「わはは、俺の方がマシってわけだな」

隊長「うん、そうだな。五十歩百歩だな」

斧使い「ひでぇよ!?」


462 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:48:55.93oKC1Cc7/o (13/14)

剣士「……隊長、実技試験はこいつらと?」

隊長「ああ、まあね」

剣士「なら、言っておくが、隊長のレベルなら打ち合いになったら勝てないぞ」

隊長「……うん、前回もそんな感じだったし」

剣士「なら、速攻で行け。元々、隊長の体格は、待ち戦法向きじゃない」

隊長「流しで、相手の様子を見るのが癖になってるのかも」

剣士「……何をやりたいのかは分かる。が、やめておけ」

剣士「見ての通り、強引に攻めればあっという間に崩される連中だ。そういう風に攻めろ」

斧使い「おい……おい!」

槍使い「目の前で話すなよ、そんなこと……」

隊長「ははは、じゃあ、今回の試験は胸を借りるつもりでやろうかな」

斧・槍(うさんクセェ……)


463 ◆k.6bdeNTfg2012/09/17(月) 00:50:03.10oKC1Cc7/o (14/14)

今夜はここまで。以下、次回。


464VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/09/17(月) 08:35:10.91MNBf0beJo (1/1)

乙乙


465VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/18(火) 12:23:34.853q/DFyI+o (1/1)




466 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:17:56.36+1zDANfko (1/23)

14日目、夜。

隊長「……お疲れ様でした」

四人『お疲れ様でーす』

隊長「とりあえず、もう明日からはそれぞれのクラスで試験だから」

隊長(結局、スケジュールはこなせなかったか……クソッ)

隊長「一応、目標としては統一試験70点台だけど、最後のミニテストでは、十分、いけると思う」

隊長「……救護員以外は」

救護員「隊長、大丈夫っすよ!」

隊長「なにが?」

救護員「私、やってみせますよ! 今なら行けますよ!」

工兵「どうも疲れきって、ハイになってるみたいだね」

術士「……ごめんね、隊長」

隊長「あ、読みきれなかったんだっけ」

術士「8冊目までは来たんだけど……」

剣士「実戦で使えなくては無意味だ」

術士「無知なら使うこともできないわ」

剣士「それはそうだろうがよ」


467 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:18:24.32+1zDANfko (2/23)

隊長「剣士はかなり改善されたね。統一試験程度なら多分、満点取れるよ」

剣士「剣技以外に集中力を割きたくなかったんだ」

救護員「うげぇ」

剣士「あ?」

救護員「一つのことに夢中なあなたが好き! とか言って欲しいわけです?」

剣士「全てに置いて集中力を欠くお前に言われたくねぇ」

隊長「……。で、術士はまだ少し不安はあるけど」

術士「術式を中心においたから、しょうがないわね」

隊長「もう少し統一試験対策を取ったほうが良かったかな?」

術士「大丈夫よ。私も無理しない程度には、自習したし」

隊長「そっか」

隊長(積極的で何よりだ。だが、なんとなく皮肉を言ってきているような気がする)

隊長(……術士が姉に似てきているような……いや! 落ち着け! 冷静になれ!)

隊長「こ、工兵は、まあ、元々の成績があるからね」

工兵「まあ、世間常識くらいはねぇ」


468 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:18:56.02+1zDANfko (3/23)

隊長「それから専門科目。一組は結局、スルーしたけど」

剣士「ああ。大したもんじゃない」

隊長(お前はホント、自分のことを面倒がるな……)

隊長「……術士は他の術式も基礎を見てもらったけど」

術士「うん。結構、体系というか、そういうのも考えられるようになったわ」

隊長「だけど、魔術、魔法の類は全然根源が違うものもあるからね」

術士「うん……講義では聞いていたけど、肌でも分かるようになってきたわ」

隊長「で、工兵だけど」

工兵「うん」

隊長「ぶっちゃけ、いろいろと問題集や参考書も探したけど、役立ちそうかい?」

工兵「ああ。十分、十分」

隊長(こいつはこいつで、適当だな……)

隊長「正直、特組の講義なんてよく分からないから」

工兵「うーん、だからさ、基本的にはうちのクラスはバラバラだし、一般常識さえあればいいってことなんだよね」

工兵「でも、隊長が言うように、専科にもそれなりに流用できる知識はあったし」

工兵「ま、だから、この辺は適当でいいのさ」

隊長「そうかい」(ま、しょうがねぇな……)


469 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:19:31.02+1zDANfko (4/23)

隊長「剣士から、実技面では、何かある?」

剣士「ねぇ。あると言いたいところだが、限度いっぱいまで引き上げたつもりだ」

剣士「……それから、それぞれが独自に鍛錬できるような方法は教えてやった」

剣士「お前の望みはそれだろ?」

隊長「ん、まあ、座学もそのつもりでやったしね」

剣士「救護員も処置の手順を少し改善できたしな」

救護員「えっへん」

剣士「バカか? おかげで型が中途半端になってることを忘れるなよ」

救護員「ええ? 褒めてくれないんですかぁ?」

剣士「当たり前だろうが! 同じ事を何回も何回も、何っ回も繰り返させやがって!」

救護員「や、やぶ蛇……」

隊長「ま、じゃあ、あとは明日に備えて、各自寝ること」

救護員「はーい!」

術士「隊長も、ちゃんと寝なさいね」

隊長「うん、まあ」

術士「……まだ、何かあるの?」


470 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:19:56.60+1zDANfko (5/23)

隊長「あー、実はね、例の盤面試験」

工兵「ボードゲームのこと?」

隊長「そうそう。あれの上位陣、っつーか隊長連中で、もう一回やれって言われてさぁ」

隊長「どこかの誰かが、隊長の指揮能力のテストで、リベンジしたいって言い始めたらしく……」

剣士「……」

救護員「なんですか、それ。めんどくさいの」

隊長「だからこれから、ひと通り定石を並べてから寝るよ」

術士「そう」

隊長「うん、みんなはまあ、お休み」

剣士「おい、隊長」

隊長「なに?」

剣士「あの野郎には絶対勝てよ」

隊長「……会長のこと?」

剣士「当たり前だろうが!」


471 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:20:25.23+1zDANfko (6/23)

隊長「悪いけど、何度も言うように、学習能力高いからさ、彼」

隊長「次にやったら、多分、負けると思うな」

剣士「お前は負けて悔しくはねーのか」

隊長「ないね」

剣士「は」

隊長「それより、この二週間は全然、作戦任務を受けなかったからね」

隊長「多分、結構、つまらない仕事を回されるとは思うな」

工兵「いや、でもさ、二十八番隊で唯一誇れるのって、隊長の一番くらいじゃん」

隊長「いや、それは……」

術士「隊長、せっかくだから、私にもそのゲームを教えて」

隊長「……いや、チームの編成の時にやったでしょ」

術士「あの時はルールも分からなかったし」

隊長「ふー……」

救護員「でも、あ、じゃあ、私も!」

四人『お前は寝てろ』

救護員「えええ~?」


472 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:21:00.61+1zDANfko (7/23)

試験当日。

>3組。

隊長「おはよう」

斧使い「よっ」

槍使い「……お前ら、元気がいいな」

隊長「ああ。だいぶ休めたし」

槍使い「そういう意味じゃなくてな」

二人『勉強やってきた?』

槍使い「やってねー! やってねーよ!」

隊長「統一試験くらいなら、多分、大丈夫だろ」

槍使い「そりゃ、お前はなぁ。進級試験だって楽勝だったんだろ?」

隊長(姉以下の成績だがな)

槍使い「で、お前はなぜそんなに不敵なんだ」

斧使い「ふっふっふ。俺は、パーティーの占い師ちゃんにもらったんだ! この、幸運の鉛筆を!」

隊長「数字が彫ってあるな」

斧使い「これを使えば! どんな選択式も!」

槍使い「穴埋めだったらどうするんだよ……」

隊長「それと、消しゴムはどうしたの?」

斧使い「あ」


473 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:21:26.30+1zDANfko (8/23)

>1組。

会長「おはよう~」

格闘士「おはようー」

斧戦士「……おはよう」

剣士「……」

会長「……おはよう」

剣士「ああ」

盗賊「うわ、めずらっしー。剣士が久しぶりに会長に口を聞いたわ」

剣士「うるせぇ!」

会長「なんだ、どうしたんだ?」

剣士「どうもしねぇ。まだ試験まで時間があるから、他の連中をみていただけだ」

会長「……そうか」

盗賊「お、お、もしかして、あれっすか、仲直りフラグ」

格闘士「ええー、ホモいなー」

会長「馬鹿なのか、君たち」

剣士(……自分のパーティーが最悪だと思っていたが)


474 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:22:08.70+1zDANfko (9/23)

>4組。

術士「……」ペラ

  呪術士「やばいよー、全然勉強してない」

  歌手「あんた、いっつもそう言ってるよね」

  呪術士「今回はマジなんだって、うちの隊長がきあい気合つって、山登りばっかり……」

  歌手「マジー?」

術士「……」ペラ

召喚士「……随分と古臭い書物を読んでいるものだな」

術士「……」ペラ

召喚士「娘よ、その書物の記述は正確さよりも表面上の手助けにしかならない」

召喚士「つまり、本そのものが術を歪めていると言っていい」

術士「……それは、すごい術ね」

召喚士「うむ。そういうことだ。だから、これを読め」バッ

魔法使い「いや、試験当日だから」

術士「……ありがとう」

魔法使い「受けとんの!?」


475 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:22:35.37+1zDANfko (10/23)

>2組。

教師「それでは。はじめ!」

救護員「……」カキカキ

救護員「……」カキカキ

救護員「……む」

救護員「むむむ」

救護員「これ、隊長のテストで出たところだ!」

教師「黙ってやりなさーい」

\ドッハハハハッ/

救護員「すんませーん」


僧侶(な、なんですって……?)

運び屋(あの、あの救護員が……!)


二人(普通に問題を解いている……ッ!)



救護員(なんだぁ、私もやれば出来るじゃん)カキカキ


476 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:23:01.35+1zDANfko (11/23)

>特組。

工兵「……くぁ」

工兵「……ん」

工兵(今回は、分かるところが多いせいで、すぐ眠れなかったなー)

工兵「先生、終わったんで……」

教師「お前な、って、本当に全部できてる」

工兵「実技まで中庭行ってまーす」

工兵(……?)

踊り子「」コソコソ

商人「」コソコソ

工兵(……。ふーん)

工兵「先生、やっぱり、ちょっと見回りしててもいいですか?」

教師「は? カンニングはダメだぞ」

工兵「もう答案出したでしょ。鉛筆落としたのとか拾うだけっすよ」

数名「……チッ」

工兵「ふふふーん」ニヤニヤ


477 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:23:27.49+1zDANfko (12/23)

>3組実技。

教師「それでは、3組は、従来通り総当り方式の試合を行う!」

教師「一方が有効打と見なされる攻撃を二回打ったら終了!」

教師「では、それぞれ前へ!」


斧使い「いきなりお前とかよ」

隊長「手加減してくれ」

斧使い「おいい!?」

隊長「冗談だよ」

斧使い「……お前、ちょっと変わったな」

隊長「そうかな? 元からこんな感じだよ」

斧使い「手加減はなしだ。こっちもほれ、リーダーがうるさくてよ」

隊長「七番隊だっけ」

斧使い「ああ。テン……なんだっけ?」

隊長「天測士か」(あの偉そうなやつか……)

斧使い「まあ、そういうわけで、一位を取るつもりでやるからよ!」

隊長「よろしくお願いします」ペコリ

斧使い「お、おう」ペコ

教師「はじめ!」


478 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:23:53.99+1zDANfko (13/23)

斧使いが頭を上げたその視線の先に、隊長が飛び込んできた。
剣士の言うとおりに、隊長は先手必勝を選んだのだ。


斧戦士「て、てめっ」

隊長「えいっ」


隊長が木刀を振り下ろす! 斧使いが受け止める!

斧使いが受け止めるのを読んでいたかのように、隊長は回転する。
刀をひるがえし、もう一度攻撃! 尾の戦士の横腹に木刀が突き刺さる。

さらに、斧使いが振り払う前に、引き上げた木刀で顎を打つ!


斧使い「がっ!」

隊長「おらよ」

教師「それまで! 隊長が二点先取で、隊長の勝ち!」

隊長「……ぷう」

斧使い「てめぇ、ず、ずるいだろ」

隊長「大して強くは打たなかっただろ」

斧使い「あー、初戦を落としちまったぁ……」

斧使い「初戦に勝ったら全勝できるって占いが出てたのにぃ」

隊長(アホかこいつ……)


479 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:24:20.18+1zDANfko (14/23)

槍使い「……うげぇ」

隊長「どうしたんだ、さらにげっそりして」

槍使い「お前に追いぬかれたくねぇ……」

隊長「……は?」

槍使い「俺とお前と、斧使いで、3組のバカ3人組としてやってきたつもりだったのに……」

隊長(ぶん殴られてぇのか)

槍使い「勉強じゃ敵わんから、戦闘では負けてないつもりだったのにぃ!」

隊長「いや、知らんし」

槍使い「ふ、ふふ、だがしかし、俺は斧使いよりも冷静だからな」

隊長「冷静な奴が、自分で冷静っていうのかな?」

槍使い「3バカの一番槍として、俺が一番強いところを見せてやる」

隊長(勝手にいれんじゃねぇよ!)


※ 隊長が勝ちました。


480 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:24:55.66+1zDANfko (15/23)

>盤面試験。

天測士「……来たわね」

隊長「お、会長、久しぶり」

会長「やあやあ。実技終わったのか?」

隊長「それが、総当たり方式だから、あと3日はかかる」

天測士「ちょっと待ちなさい!」

隊長「なに?」

会長「ああ、君は……」

天測士「私よ! こないだの模擬戦で一位だった!」

隊長「だから、何のよう?」

天測士「くふふふっ、盤面試験でのこと、覚えているかしら」

隊長「覚えてないなぁ」

天測士「私は覚えているわ! 観測さえ出来れば、絶対にお前みたいなやつに負けなかったのに……!」

隊長(……本当に覚えてないな)

天測士「お前を倒し、そして一番隊の隊長である、会長にも勝利する!」

天測士「そうして、わが天測技術こそが、冒険者の必須スキルであると認めさせるのよ!」

隊長「……で、ルールちゃんと覚えてきた?」

会長「俺ってそんなにゲーム好きじゃないんだよな」

天測士「おい! おまえらぁ!」


481 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:27:12.99+1zDANfko (16/23)

隊長「何度も言うけど、俺はルール知ってるから一位を取れたんだって」

天測士「ふっ、予防線を張る、負け犬らしい根性ね」

会長「おいおい、ルールだけで勝てるゲームなのかい?」

隊長「そうだよ、実際。目の前で何が起きてるか分からなかったでしょ?」

会長「いや、なんとなくは。でも、気づいたときは手詰まりだった」

隊長「あれでも正攻法なんだがなー」

会長「うわ、聞かなきゃよかった。あれよりもひどいの?」

天測士「聞きなさい!」

隊長「有益なことを話してくれてたら聞くよ」

会長「……隊長って、割りとクールだよな」

隊長「今日が冷淡なのは確かかもね」

隊長「……実技やったから体重いし」

天測士「(´;ω;`)」

隊長(ウゼェ……隅っこで涙目になってる……)


482 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:28:20.52+1zDANfko (17/23)

――省略――

隊長「かなり早く終わったな」

会長「……やっぱり負けたか」

隊長「うん。意外だな」

会長「何がだい?」

隊長「みんなルールを知ってれば、どっかで負けると思ってた」

会長「そうでもないよ。というか、君の言うルールってのが深すぎるんだよ」

隊長「……そんなに難しいルールじゃなかったと思うけどな」

会長「シンプルだよ。コマを進める、相手を倒す。でも、倒した相手を味方に出来るってのがなぁ」

隊長「人間、寝返ることなんていくらでもあるだろう」

会長「……」

隊長「ほら、ここで、会長がこう進めたら、多分俺のほうが積んでた」

会長「そんな手は思いつかないよ」

隊長「そうかな?」

会長「君は自分が思っているほど、強いんじゃないかなぁ」

会長「ほら、なんだっけ、さっき突っかかってきた子」

隊長「ああ、天測士か」


※ 天測士は隊長に負けました。


483 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:28:46.97+1zDANfko (18/23)

会長「彼女だって、別に弱くはないだろうに」

隊長「観測とやらをしているから、盤面を見てないんだ」

隊長「要するに、二つのルートがある。どちらを攻めてもいい。って時に、最高のルートを時間をかけて割り出そうとする」

会長「……けど、時間が経ってしまうと、いくら良いルートでも背面に兵を回されてしまうかもしれない」

隊長「そうそう」

会長「そんなことが可能なのは、ルールに熟知してないといけないけど」

隊長「だから、ルールを知ってればすぐ負けるよ。俺は」

隊長「……情報が不足しているときは大体誤った判断をしてることが多いし」

会長「やれやれ、だったらみんな勉強不足ってことかな」

隊長「さあてね」

会長「……」

隊長「……先生、遅いな」

会長「そうだね。もう終わってるのに」


484 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:29:13.82+1zDANfko (19/23)

会長「……あのさ、一つ聞いてもいいかな?」

隊長「なに?」

会長「剣士のやつ、どうしてる?」

隊長「ああ、いろいろ助かってるよ。本人は不満みたいだけど」

会長「そっか」

隊長「特務機関なんだって? 会長と同じ出身で」

会長「あ、やっぱり知ってたんだ?」

隊長「昔は二人で暴れまわってるって聞いたけど」

会長「今でもそうさ! 俺は一番隊、やつは最後の二十八番隊、でも、両方がどちらも話題豊富で絶頂だ」

会長「隊長、君たちの戦隊、最下の番号ながら、かなり注目されてるんだぜ」

隊長(ふーん)

会長「……ただ、やつはきっと快く思ってないんだろうな」

隊長「ああ。嫉妬しまくり」

会長「嫉妬……?」


485 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:29:39.67+1zDANfko (20/23)

隊長「本人に聞いてやらないでくれよ。剣士は、会長がコンプレックスなんだ」

会長「……」

隊長「それが剣士を強くした原因でもあるし、弱点でもある」

会長「……寂しいな」

隊長「なんで?」

会長「昔は、兄弟みたいに、心が通じあってると思ってた」

隊長(ホモホモしいっつったらいいのか、俺)

会長「でも、結局のところは、違うんだな。俺達は」

隊長「似たようなもんだよ」

会長「……そうかな」

隊長「そうそう」

会長「そうだと面白いけどな、多分、月と地面くらいの差はありそうだ」

隊長「思いつめすぎだと思うよ」

会長「隊長は、よくポンポン言葉が出てくるな」

隊長(なんだ? それは褒めてるのか?)


486 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:30:09.87+1zDANfko (21/23)

会長「将来、どこへ就職するつもり?」

隊長「んー……村に帰るかな。土地を買いたいから、その分は稼ぎたいけど」

会長「ふーん」

隊長「そういう会長こそ、特務機関に帰るんじゃないの?」

会長「いや、できれば一番隊のメンバーで、冒険者の戦隊をやりたい」

隊長「ああ、そういう手もあるのか」

会長「ああ。知らないと思うけど、最近、小さな竜が時々出現している」

会長「つまり?」

隊長「『討竜戦隊』の出番だな」

会長「そう! 現代の『討竜戦隊』! これやったらもう、将来安泰だぜ!」

隊長(俗っぽいな。子どもっぽいって言うべきか?)

会長「無論、竜の王が復活でもしないと、そこまでは呼ばれないだろうが」

隊長「そりゃ、会長が戦うなら、俺達は安心だ」

会長「隊長もやれよ。二大巨頭で有名になろうぜ」

隊長「器じゃないし、多分無理だな」

会長「けっ、つまんないの」


487 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:30:57.29+1zDANfko (22/23)

スパーン!

天測士「三位決定戦はまだかー!」

隊長「……」

会長「あ、はい」

天測士「な、何よ。やっぱり終わってるじゃないの」

隊長「いや、終わってるよ。終わってるけど、先生が来ないんだもん」

天測士「問答無用よ! 早くどかないと私が勝てないでしょ!」

会長「勝つ気なんだ」

天測士「くふふふっ。勝利など、私にかかれば簡単よ!」

隊長「敗北もあっさり決まったもんね」

天測士「うきゃああああああっ!!」ダンダンダン

隊長(うるせーよ、サルが)


※ 天測士は四位に決まりました。


488 ◆k.6bdeNTfg2012/09/18(火) 23:31:24.00+1zDANfko (23/23)

今夜はここまで。


489 ◆k.6bdeNTfg2012/09/19(水) 00:22:00.90MDllZqFho (1/1)

>>482
×思っているほど
◯思っている以上に

ですね。すみません


490VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/09/19(水) 14:42:14.40WvCjZxDvo (1/1)

乙ー。

天測士グダグダじゃねーかww


491VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/20(木) 09:58:45.02dO8lAU4DO (1/1)

将棋かそれに似たようなもんか…?




492VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/20(木) 17:48:37.579UHjp4P9o (1/1)

>>491
将棋っぽいイメージでやってます
ボードが渓谷とか沼地とか、いろいろなのがあるイメージですが

今日は投下あやしいですぬ…


493VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/20(木) 21:48:32.54is8Kun3co (1/1)

術士成長したなぁ…


494 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:26:07.14StEQbBjxo (1/31)

>1組、実技。

教師「えー、では、1組の実技は戦士組と術士組、それに補助員組に別れて試験を行う」

教師「実技の統一試験は昨日の体力測定に続いて、それぞれ……」


剣士「……」

会長「よう」

剣士「……なんだ」

会長「今日の試合、自由組手だろ。やらないか?」

剣士「チッ」

会長「どっちだよ」

剣士「……勝ち数の積み上げで競うんだから、もっと雑魚から狩ってこい」

会長「一番、強い相手と一番いい状態で戦いたいだろ」

剣士「ふぅー……」

会長「なんだ、怖気づいてるのか」

剣士「うるせぇよ、バーカ!」


495 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:26:39.63StEQbBjxo (2/31)

会長「今日は話してくれるんだな」

剣士「……」

会長「なんか、なんで怒ってんのか、俺にはよく分からねぇけど……」

剣士「うるせぇな、やるならとっとと武器を取れ」

会長「……そういえば、昨日の盤面試験だけど」

剣士「……」

会長「あ、先生! 組手やるんで、審判を」

剣士「言えよ!」

会長「だって、聞きたくなさそうだし」

剣士「聞かないとは言ってねぇだろうが!」

会長「え~、ほんとうに聞きたいのかい?」

剣士「ああ、聞きたい。うちの隊長のことだろ?」

会長「うん。優勝したよ、彼」

剣士「……お前には、勝ったのか?」

会長「ああ。決勝で俺が負けたよ」


496 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:27:05.63StEQbBjxo (3/31)

剣士「そうか……あいつ、勝ちやがったか……」

会長「にやにやしてんなぁ」

剣士「してねぇっ!」

会長「成長したなぁ。いつも俺にくっついてくるだけだった剣士が、こう、他人に興味を持つってのが」

剣士「誰がくっついてくるだけだって?」

会長「お前だろ」

剣士「ハッ、バカを言うな。お前がミスをして、俺が尻拭いをするってのが定番だったんだ」

剣士「いいか? 優等生ヅラしているが、本当は一番始末に終えないってのが機関での評判だったんだ」

会長「優等生も何も、TPOをわきまえているだけさ。バカをやる時は思いっきりやるってだけ」

会長「それとも何か? 他の人と仲良くしてて寂しいようってわけかい?」

会長「本当は俺の尻を舐めたくてしょうがないってこと?」

剣士「……剣を抜け! 知力でも剣技でも、敵わない相手がいるってことを教えてやる」

会長「それ、君のことだろ?」


497 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:27:36.58StEQbBjxo (4/31)

斧戦士「……おい、会長」

会長「なに?」

斧戦士「剣士とやりあう気か? やつは……」

会長「いいの、いいの。今回は試験の点数は度外視だよ」グッグッ のびー

格闘士「先に僕がやろうかー?」

会長「殺気立ってるから、やめた方がいいよ」


剣士「……」ゴゴゴゴゴ


格闘士「でも、こないだはけっこう痛めつけられたからねー、リベンジリベンジ」

会長「別に、三対一でもやってくれるんじゃない?」

格闘士「冗談よしてよ」

斧戦士「やめておけ。あの男は、感情で剣先が鈍るタイプではなかった」

会長「そうそう」

会長「……よし、行くかな」


498 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:28:05.38StEQbBjxo (5/31)

教師「では、前へ!」

教師「準備は?」

剣士「……よろしくお願いします」

会長「よろしくお願いします」

教師「それと、その、真剣はちょっとどうなんだ?」

剣士「刃引きはしてある」

会長「大怪我はしない程度にやります」

教師「……気をつけろよ。では……はじめ!」


剣士は言葉と同時に接近した! 会長も前へ飛ぶ。
剣士の攻撃! 会長は右方向に攻撃を流すと、さらに踏み込んだ。


剣士「ああっ!」ゴッ ギン

会長「おおっ!」ガチッ


剣士はしかし、踏み込んだ相手に頭突きするように顔を近づけた。
額を会長にこすりあてながら、流された刃を引き戻して、腹に突きさそうとする。
会長は体の間に剣を差し込み、それを受け止める。

一瞬の間の後、もう一度音を立ててると、二人は互いに飛び退った。


斧戦士「……本気で殴りあってるじゃないか」


499 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:28:52.41StEQbBjxo (6/31)

剣士「ふうぅぅーっ」

会長「あああっ!」


会長の攻撃! 目一杯に剣を振り下ろしたが、剣士は横に飛んで回避。

剣士が回り込みながら、突進の構えを取る。
剣士の突進! 構えよりもさらに低い姿勢を取りながら、接近する!

会長はその顔面を斬り払うように、剣を下に振るう!


剣士「……だあっ!」


剣士が急ブレーキを、いや、強く地面を踏んで、飛び跳ねた。
そのまま会長の顔に飛び込んで、殴りつける!

会長は剣を手放して、剣士の頭に手のひらを叩きつけた!

ゴロゴロッと剣士が地面を転がっていく。


500 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:29:20.63StEQbBjxo (7/31)

会長「サルみたいな戦い方しやがって!」ヒリヒリ

剣士「……チッ、鼻血が」ボタボタ

会長「魔物相手にもそんな戦法を取っているのかい?」

剣士「お前相手なら、多少オーバーに動いたくらいがちょうどいい」

会長「まったく、どっちがやんちゃなんだか」

剣士「お前だろ!?」

ピピーッ

教師「そこまで! 剣士が二点取った!」

剣士「ああ? 一発ずつだろうがっ!」

会長「……あー、最初の頭突きっぽいのがカウントに入っちゃったかな」

剣士「ノーカンだ! あと一撃入れさせろ」

会長「このままなら、君の勝ちになるじゃん」

剣士「……ふざけるな!」

会長「怒るなよ。そんなに負けたいなら、もう一撃やろうか」

教師「いや、しかしだな……」

会長「先生、このまま続行します!」ダダッ

教師「ちょっと、待ちなさい!」


501 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:29:46.72StEQbBjxo (8/31)

剣士「おおあっ!」

会長「やあああっ!」

ガッチィッ!


格闘士「うひー、会長までマジな目をしてるよー」

盗賊「何やってんだ、あいつら」

斧戦士「……ふーむ」

格闘士「なんつーか、本気でじゃれてるって感じだけどねー」

魔術師「ほー、随分派手にやってるじゃないか」

斧戦士「よし、俺も少し、準備運動しておくか」

格闘士「えー、斧くんもマジなら、僕ちょっと厳しいわー」


※ 結局、会長が勝ちました。


502 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:30:12.83StEQbBjxo (9/31)

>4組、実技。

術士「……」

魔法使い「あ、術士、ちゃん?」

術士「……」ペコリ

魔法使い「いや、お辞儀されてもね。昨日はうちのリーダーが迷惑をかけたみたいで」

術士「……何かしら?」

魔法使い「ほら、なんか絡んでたじゃん?」

術士「ええ、思わず頂いてしまったけれど、後で返すべきよね」

魔法使い「あ、いーのいーの。本人、好きでやっているから」

術士「そう」

魔法使い「術士ちゃん、実技は何受けるの?」

術士「隊長の方針で、全科目、もう一度ひと通り受けようかと」

魔法使い「マジで!? 私はダメだわー、発声だけ」

術士「そう。じゃあ、始まるまで、練習してましょう」

魔法使い「え? い、いやあ、そこまでせんでも」

召喚士「魔法使い!」

魔法使い「ひっ、出たぁ!」


503 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:30:59.39StEQbBjxo (10/31)

召喚士「ふむ。何をしている、召喚の試験が最初だったろう」

魔法使い「わ、私は受けないって言ったでしょ?」

召喚士「何を言う。魔の道は複雑でいて、魅力的なもの……」

召喚士「その根本は、まさに召喚にあるのだ。そう、魔とはこの世ならざるものを呼び覚ますことにある」

魔法使い「わーかったから! 今、この人と話しているし、ね?」

術士「私も、全科目受けるから、行くわ」

魔法使い「あ、そう?」

召喚士「ふーむ?」

術士「なにかしら?」

召喚士「ふむ、ふむ。これまで君にあった、迷いや揺らぎが減じている」

術士「……はあ」

召喚士「良い状態だ。この世ならざるものを引き込むには、こちらがしっかりと立たねばならぬ」

召喚士「つまり、この世と異なる法則にとっての正がまったく異質であるからこそ、異常な力が発現するのだからな」

召喚士「そう、揺らぎに身を任せるのではなく、正対することで、魔を操ることができるのだ」

術士「長いわ」


504 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:31:29.28StEQbBjxo (11/31)

魔法使い「えっと、まあ、要するに、最近落ち着いてきていいねって言ってるのね」

術士「……そ、そうかしら」

召喚士「うむ。では、共に行こう、我らが試練の間へ」

魔法使い「ごめんねー? リーダー、ダイブおかしいから」

術士「いえ、別に構わないわ」

魔法使い「そうなんだ。でも、なんていうか、術士ちゃん、変わったね?」

術士「……私には分からないわ。でも、好意で助けてくれるなら歓迎よ」ニコッ

魔法使い(うひょー、何この子。ちょっち暗めだけどめっちゃくぁいいー)

召喚士「魔法使い、君も悪い癖が出ているな」

召喚士「分かるか? よだれがこぼれている。これは比喩ではないのだ」

魔法使い「はっ」ジュル

召喚士「私のチームが申し訳ないことをしている。私も未熟なところがあるのだ」

術士「……お互い様にしておきましょう」

召喚士「それはありがたいな。今度、交流をしたいものだ」

術士「どうかしら? 他のメンバーは嫌がるかも」

召喚士「魔法とは、異物をぶつけあうことに近いものだ。君の隊長に言っておこう」

術士(半ギレになるんじゃないかしら)


505 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:31:56.25StEQbBjxo (12/31)

>2組、実技。

救護員「ふー、はー」

救護員「どやっ!」

教師「……よし、きちんと固定できている」

救護員「一発合格!?」

教師「ああ、いっていいぞ」

救護員「いえー! 僧侶ちゃーん!」

僧侶「ちょ、まだ私は試験中!」

救護員「ごめんなさい……」

僧侶「でも、そこまで出来たなら、今度は蘇生魔法でも覚えてみる?」

救護員「ええ~? 魔法は難しいよねぇ」

僧侶「一つだけ覚えているだけでも、随分違うはずよ」

教師「僧侶! ちゃんと対象を見なさい」

僧侶「す、すみません」

救護員(……魔法、魔法か~)


506 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:32:47.78StEQbBjxo (13/31)

救護員(うーん、魔法ねぇ)

救護員「……」


隊長『え、救護員が回復魔法を!?』

術士『すごいわ。正直、見なおしたわ』

工兵『うん、惚れ直しちゃったよ』

剣士『お前になら背中を預けられるな』

救護員『へへへ』


救護員「……うん、ないわ」

救護員「でも、術士に相談してみるってのはありかなぁ」

救護員「応急処置だけじゃ、限界があるしー」

救護員「うーんうーん、でも、魔法かー」

教師「救護員、魔法は分かったから、試験が終わったんなら出ていきなさい」

救護員「へいっ!?」


507 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:33:16.65StEQbBjxo (14/31)

>特組、実技。

工兵「……んー」キィィィ

工兵「……」バチッ バチッ

教師「えー、工兵くん」

工兵「はい?」

教師「確か、試験内容は武器の手直しのはずだったが……」

工兵「ええ。これでかなり強化されるはずですけど」

教師「……」

工兵「……」キュィィィン バチッ

教師「今日中に終わりそうかね?」

工兵「後少し……」

教師「……」

工兵「まあ、最硬度というわけには行きませんけど」

教師「そ、そうかね」


――試験、終了。


508 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 20:34:16.96StEQbBjxo (15/31)

隊長「……くあーっ」

隊長「ん、んー」

隊長「疲れた」

隊長「……十位に入れるとは思わなかったからな」

隊長「実技がこれだけ行ってるんだし、座学の試験も、なんとか」

隊長「でも、本当に、疲れたな」

隊長「他の連中は大丈夫かね」

隊長「顔、見に行こうかな……」


【選択肢】以下の中から、お好きなモノを選んでください。今回は下一つを見たいと思います。

剣士に試験の様子を伺う
術士と答え合わせをする
救護員に試験をちゃんとやったのか質す
工兵に試験の出来を聞く


509VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2012/09/21(金) 21:21:00.98Z2e/ngiso (1/1)

術師で


510 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 21:48:23.56StEQbBjxo (16/31)

術士好かれてるなー
書いてきまうす


511 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:17:04.33StEQbBjxo (17/31)

剣士
⇒ 術士
救護員
工兵


隊長(術士に会っておくか)

隊長(一回、キレ……もとい、怒られたからな)

隊長(関係を修復しておくべきだろう)

隊長「……」

隊長「……そうか、そんな風になったのか」

隊長「怒られるような関係に」

隊長「……術士はどこかな」

隊長「そういえば、試験が終了したし、図書館開放されてるんだった」

隊長「多分、いると思うんだが」


512 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:17:54.99StEQbBjxo (18/31)

図書館。

隊長「こんばんはー」

司書「ん、おー、試験ご苦労」

隊長「はい、すみません、試験勉強に」

司書「いいのいいの。ちゃんとばっちり取れそう?」

隊長「自分はまあまあでした。隊員がなんともわからないですね」

司書「ふーん」

隊長「なんですか」

司書「いやあ、ちょっと、隊長くん、柔らかくなったねぇ」

隊長「……」

司書「もうちょっと、こう、カッカしてなかった?」

隊長「疲れてるだけじゃないですかね」

司書「あ、そう? そういえば、メンバー二人ほど来てたわよ」

隊長「えっと、二人?」


513 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:18:22.37StEQbBjxo (19/31)

準備室。

救護員「だからさ、こう、私も必要なんじゃないかと思って!」

術士「別に構わないけど、私は蘇生魔法の系統は知らないわ」

救護員「えー、でもぉ」

術士「うーん、でも、そういう心がけは大事よ。隊長に相談してみましょうか?」

救護員「ええー? ダメダメダメ、たいちょーに言ったら絶対にバカにされそうじゃないですかぁ」

術士「そうかしら?」

救護員「絶対、バカにしますよ! あの人、きっと私がトカゲと竜の区別もできないと思ってるんですよ!」

隊長(実際できてなかっただろお前)

救護員「とにかく、こう、秘密裏に習得して、いざって時にぱっと使って、尊敬の眼差し! どうですか?」

術士「隠さないほうがいいでしょう、多分、なぜ隠してたんだって怒るんじゃないかしら」

救護員「う……」


514 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:18:56.48StEQbBjxo (20/31)

隊長「……いいかな~?」

救護員「うわっ、隊長が来た!」

隊長「そうだね、隊長だよ」

術士「あ、隊長。こんばんは」

隊長「こんばんは」

救護員「い、今の聞いてませんよね?」

隊長「蘇生魔法がどうとかってこと?」

救護員「うわっちゃ、聞かれてたー」

隊長「応急処置が完璧に出来るようになってからの方がいいと思うけどね~」

救護員「だって、でも……」

隊長「それより、今回の試験はどうだったのかな? ちゃんとやった?」

術士「お陰様で」

救護員「ま、待ってくださいよ!」

隊長「……なに?」

救護員「普通、『できた?』じゃないですか、『やった』ってなんですか!」


515 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:19:28.03StEQbBjxo (21/31)

隊長「まあ、それは置いといて」

救護員「置いとかないで!」

隊長「じゃあ、どのくらい出来たのかを聞こうかな」

救護員「う」

術士「なら、どうかしら。統一試験の答え合わせでも」

隊長「お、いいね。自分の回答は覚えている?」

救護員「あ、私、今日は疲れちゃったんで」ガタッ

隊長「おい」

術士「救護員」

救護員「は、はい?」

術士「回復魔法のことは考えておくわ」

救護員「え、は、まあ」チラッ

隊長「ん? 本人がやる気なら、俺も付き合うよ」

救護員「そ、それなら……じゃ、じゃあ、お休みです!」テテー

隊長「おやすみー」

隊長(回復魔法、あいつがね……)


516 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:20:00.54StEQbBjxo (22/31)

隊長「で、どうする? 答え合わせ」

術士「遠慮するわ。隊長も、実は疲れているんでしょう」

隊長「む……」

隊長(いかんな、なんとなく、鋭くなってきたし)

隊長(剣士とは別の意味で、手強い存在になってきたぞ)

隊長「そうだね、実は」

術士「ふふ。まあ、私はなんとか、目標には行きそうよ」

隊長「俺もだ。逃げ帰ったやつが一番危なそうなんだが」

術士「でも、試験を終わってすぐに次の勉強をしようだなんて、すごいじゃない」

隊長「……そうだね」

隊長(目移りしすぎなんだよ。きちんと抑えるところを抑えてから考えればいいんだ)

隊長(……俺もか)


517 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:20:31.41StEQbBjxo (23/31)

術士「隊長、結局あまり休めてないんでしょう。今日くらい、きっちり休んだほうがいいと思うわ」

隊長「うん、そうするよ」

術士「テスト結果が出たら、次の作戦、かしら」

隊長「そうだね。今度回ってくる依頼は、あまり選り好みできないかもな~」

術士「でも、ちゃんと体づくりもしたし、きっとなんとかなると思うわ」

隊長「うん……」

術士「あ、これ? 実は、同じクラスの人から、召喚系統だとこっちを読んだ方がいいって」

隊長「へぇ」

術士「私も、次を見据えて頑張るわ」

隊長「そうだね、それはいいと思う」

隊長(うわー……次を見据えて、なんて想像だにしなかったセリフだわ)

隊長「……すごいな」

術士「え?」


518 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:21:05.86StEQbBjxo (24/31)

隊長「うん、術士、すっかり変わったね」

術士「そ、そ、そうかしら」

隊長「うん。俺のことを考えてくれ、なんておこがましかったかな」

術士「……そんなことないわ!」

隊長「お、おう」

術士「私、が、ちゃんとやろうと、思ったのは……隊長のことを考えているからよ」

術士「隊長がしっかり、見ているから、私も落ち着いて考えようって、できているの」

隊長「わ、わかった」

術士「ふー、ふー……」

隊長(……俺のため、か? それなら、結局依存しているんじゃねーかって言いたいところだが)

隊長「どっちにしても、術士が変わったのは、嬉しいよ」

隊長「それに、俺にダメ出し入れてくれるのはありがたいしな」

術士「……そう。嬉しい、の。ふふ」


519 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:21:46.32StEQbBjxo (25/31)

隊長「しかし、クラスで浮いていると思ってたのに、本をもらうほど仲良くなったんだねー」

術士「そういう、ひどいことは言わないで」

隊長(ホントのことじゃねーか)

隊長「ごめんごめん。でも、誰にもらったのさ」

術士「召喚士、だけど」

隊長「あいつか……」

術士「知ってるの?」

隊長「そりゃねぇ。試験中も、盤面試験の時に、やたらブツブツ呻きながら対戦してたよ」

隊長「学園戦隊の隊長連中は、なんかキャラが濃いんだよな」

術士「隊長もキャラが濃いと思うわ」

隊長「どこが?」

術士「……自覚がないの?」

隊長「剣士や救護員と比べて考えてみてくれ」

隊長(どこが濃いんだよ、マジで)


520 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:22:12.45StEQbBjxo (26/31)

隊長「でも、あいつは確か、十三番隊か」

術士「気になる?」

隊長「いや、俺はそこまで他隊を気にしたりはしてないけど……」

術士「ランキングがどうのって言っていたじゃない。きっと試験結果もそういう形で評価が出るわ」

隊長「確かにな……」

隊長(そいつが問題だ。これほど長期のチーム実習で学力の向上効果ありと判断されたら、おそらく来年も続くだろう)

隊長(だが、それが正しいのか、よく分からない)

術士「……隊長、何を考えているの?」

隊長「うーん、この戦隊がどういう扱いになるのか、未だに見えないんだ」

術士「扱い?」

隊長「『集団による事件解決能力を高めるためのフィールドワーク』……」

隊長「実際に、冒険者たちはパーティーを組んで活動する」

隊長「でも、ここで組んだ隊で将来も冒険するわけじゃない」

術士「え……あ……」


521 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:22:54.03StEQbBjxo (27/31)

隊長「もちろん、会長なんかは、その気があるみたいだけど……」

隊長「全隊が良い成績を出せるわけじゃないし、従来通り個人で就職することもあるだろうし」

隊長「……術士は、どうするんだっけ?」

術士「えっ? わ、私は……」

隊長「まあ、まだ少し先の話しだしね」

術士「……た、隊長は、どうするつもりなの?」

隊長「俺? 俺は、まあ、里帰りできればいいかなって思ってる」

術士「冒険者、やりたくないの?」

隊長「ちょっと土地を買いたくてね。そのために金を稼ぐから、しばらくは冒険稼業をやるだろうけど」

術士「私は……できれば、このチームで」

隊長「そうかい? けど、剣士なんかは特務機関に戻りたいんじゃないかな」

術士「そ、そう」


522 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:23:21.27StEQbBjxo (28/31)

隊長「工兵は工房に戻りたいだろうし、救護員は、分からないけど」

術士「そう……残念ね」

隊長「……」

隊長(あ、やばい? もしかして……)

隊長「あー、でも、まあ、みんなきっちり進路を決めてるわけじゃないだろう」

術士「そ、そうよね」

隊長「術士も、記録に残る賢者みたいになれるかもしれないし」

術士「どうかしら? 賢者なんて、天上人みたいな感じがするわ」

隊長「案外、漏れ聞こえるところだと、ドジっ娘だったって噂があるよ」

術士「……私がドジだってこと?」

隊長「ちょっと抜けているとは思うけど?」

術士「ひどいわ」ぷい

隊長「ごめんって」


523 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:23:49.93StEQbBjxo (29/31)

廊下。

隊長「なんか、妙なところで機嫌を損ねちまったな……」

隊長「だが、正直な話、術士があれだけしっかりしてくると、もう成長がどうのなんて考えなくてもいいな」

隊長「そういう意味では、術士にあえて会う必要も減るだろうな」

隊長(上から目線で接していたことも、そのうち見透かされるだろうしよ。あー……)

隊長「しかし、救護員、魔法を習いたいなんてどうしたんだ?」

隊長「そんなに試験の出来が良かったと思っているのかね」

隊長「……」

隊長「分からん、何を考えているのか」

隊長「今日はもう寝よう。疲れちまった」


524 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:37:47.91StEQbBjxo (30/31)

寮部屋。

隊長「……ん? 次回の作戦依頼書か」

隊長「……えーと、『次回は二隊合同作戦となっており』」

隊長「」びびぃーっ

隊長「うえぇぇおお!?」

隊長「おい、ふざけんなよ! せっかく自分の隊がまとまってきたっていうのに、また面倒なものが来るのかよ!」

隊長「『前回の模擬戦の結果を踏まえ』……」

隊長「ぐ、ぐぬぬ……こっから選べってか」

隊長「どこも地雷臭しかしねぇ……」


【選択肢】次回の合同作戦の部隊を選べます。なければ、自動で決めるよ!

七番隊:天測士率いる、陽気な冒険者チーム
十三番隊:召喚士がいる、奇妙な冒険者チーム
二番隊:因縁浅からぬ、統率の冒険者チーム


525 ◆k.6bdeNTfg2012/09/21(金) 23:38:44.64StEQbBjxo (31/31)

今夜はここまでですよー。


526VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/22(土) 00:09:21.49gk8HN8guo (1/1)



僕は、天測士ちゃん!


527VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2012/09/22(土) 00:50:01.183ZnWTgp9o (1/1)

術師が好きっていうよりは他が安定し始めてたからなー
剣士と会長の過去がスポ根で片付いたのには正直拍子抜けだったが、それでも解決は解決だし
工兵はヘタレなだけで能力も精神も安定してる
そして救護員が剣士に惚れて向上の意思持ち始めたとなると、あとはもう術師と隊長本人しか解決すべき問題がないのかなぁと

というわけで俺は二番隊に窮地に追い込まれてキャラ崩壊する隊長が見たいです!
っていうか隊長マジお前いいやつなんだから仮面かぶる必要ねーよ


528VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2012/09/22(土) 03:03:32.080TA/52RAO (1/1)

乙 召喚士の隊は面白そう


529VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/09/22(土) 11:33:46.48cKXduFcwo (1/1)

ここは召喚士の隊だろなー


530VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県)2012/09/22(土) 12:10:44.79EkalyJYYo (1/1)

天測士が好きだから7で


531 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 21:09:58.40Ffle9P5fo (1/1)

うわっ、結構分かれたΣ(゚д゚ )
では申し訳ないですが、先着のもので行きたいと思います

今日の投下は難しいですが、そろそろ中盤なので、もう少しおまちを


532 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:20:15.39vLkI0szBo (1/13)

試験結果。

隊長「えー……次回の作戦の前に、中間試験の結果をお知らせします」

隊長「まず、俺から」

救護員「わくわく」

隊長「統一試験平均、80点。専科試験の点数は76点、実技は10位だ」

剣士「……」

工兵「すごいねー」

隊長「言うほどすごくはない、3組の統一試験の平均は72点だ」

救護員「おかしい……脳筋クラスがなぜ……」

隊長「言いたいことは分かる気がするけど、戦士職は冒険者の要だから」

隊長「切った貼ったから、依頼交渉まで。当然それなりに出来ないとダメなんだ」

術士「で、他の人はどうだったの?」

隊長「……剣士。統一試験平均、98点」

救護員「うぇぇぇぇ!? うぇぇぇぇぇっ!?」

剣士「うるせぇ!」

隊長「常識問題だったし、統一試験の方は体力測定も入っているからね。むしろ、俺の筆記は危うかったなぁ」


533 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:20:52.39vLkI0szBo (2/13)

隊長「で、剣技は……3位?」

剣士「……どうでもいいだろ」

隊長(会長には勝てなかったとして、なんかあったのかね)

隊長「まあ、次。2組の救護員、統一試験平均、58点」

救護員「やっ……! あれ?」

工兵「ダメじゃないの?」

術士「ダメよね」

救護員「あれー?」

隊長「……確かに、進級試験からすると大きく前進したね、けど、目標には」

救護員「ちょ、ちょっと待って下さい! 私、めっちゃ解いてましたよ!?」

隊長「ああ、そうだね。だが、ちょっと不審なのは、2組の平均が意外と悪くて、65点ってところもある」

救護員「ええー!?」


534 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:21:33.20vLkI0szBo (3/13)

工兵「……あのさ」

隊長「どうしたの?」

工兵「もしかしたらだけど、救護員があまりにも自信満々に試験を受けているのを見てさ」

工兵「みんな動揺してまともに受けられなかった可能性が」

隊長「ああ」

救護員「おかしいよ!」

術士「確かに……」

救護員「術士ちゃんも!?」

剣士「まったく否定出来ねぇ」

救護員「ふざけんな、おい!」

隊長「……実技は意外と点数が高いな。71点となっている」

救護員「お、おお、おおおおっ」フルフル

隊長(取ったことがない点数を見て震えている……)


535 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:22:06.03vLkI0szBo (4/13)

隊長「よくやった、というべきだね」

隊長「先に言っておくと……救護員がこの点数を叩いたので、連帯追試はありません!」

救護員「うおおおおおおっ」ガタッ

剣士「座れ!」

工兵「良かったねー」

術士「おめでとう」パチパチ

救護員「ありがとうございます! これで実家からの仕送りを堂々と受け取れます!」

四人(自分で稼げよ、そのくらい……)


536 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:22:47.79vLkI0szBo (5/13)

隊長「で、術士。統一試験平均は、71点」

術士「ぎりぎり、上回ったわけね」

隊長「専科は、全魔法科目を受けてるから、平均は52点だけど」

術士「ええ。これから、もっとがんばるわ」

隊長(うーん、確かに、術士はほどほどに落ち着いた感じがする)

救護員「ちょっと! 私より実技低いじゃないですか!」

隊長「方陣術では満点取ってる」

救護員「……そっすか~」

術士「ぶい」

隊長「特に言うべき点はないけど、それ以外の術についてはまだまだ課題だね」

術士「できるだけ早く、実戦レベルにまで引き上げたいわ」

隊長「うーん」

剣士「……焦る必要はねぇ」

術士「そう?」


537 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:23:18.92vLkI0szBo (6/13)

隊長「それから、工兵は、何? この点数」

工兵「うん?」

隊長「……統一試験平均、82点。まあ、これはいいとして」

隊長「実技112点」

救護員「はい!?」

工兵「ああ、制限時間ギリギリだったけど、ちょっと武器の改装で新技術を盛り込んだんだ」

工兵「ただ、いかんせん手間と時間と、何より場所とお金と道具が必要ってのがね」

隊長(特組は理解を越えているな、完全に……)

剣士「お前はもう少し、普段から真面目にやるべきじゃないのか?」

工兵「僕が必要だからやっただけさ」

工兵「でも、装備の改修なんてつまらないよねぇ、やっぱり」

術士「隊長……」

隊長「うん。工兵、今後も我慢してがんばるんだよ?」

工兵「いやだなぁ……」


538 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:23:53.58vLkI0szBo (7/13)

隊長「それで、だね。えー、お陰様で正式な学園戦隊の順位も出てきたんですが」

救護員「はい、はい」

隊長「9位です」

救護員「マジッスか!」

隊長「こないだの模擬戦の結果も入っていると思うんだけど、試験結果を総合するとそこそこ良い点数だったみたいね」

術士「わー」

工兵「へぇえ、すごいねー」

隊長「……以下に君たちが本気を出さず、好き勝手に生きていたのか、よく分かりますな」

救護員「た、隊長?」

隊長「いや、今後とも、気を抜かずにやろうってこと」

隊長「剣士も、その、まあ、相手になれるくらいまでは俺も頑張るさ」

剣士「……チッ。それどころじゃねぇんだが……」

隊長(なんだよ……まだ不機嫌なのか?)

隊長「……で、とにかく、だ。次の作戦はそれを踏まえて、二つの部隊の合同の作戦になってまして」

四人『え?』


539 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:24:42.58vLkI0szBo (8/13)

作戦6『竜の谷(?)を、調査せよ』


隊長「この作戦は、最近、街道奥の、学園よりの谷のほうで、竜が確認された、というものだ」

救護員「……えーっと、竜ってあれですよね。国を滅ぼしたっていう」

術士「それは竜の王と呼ばれている存在ね」

工兵「けど、そ、それにしたって、もし本当に竜だとしたら?」

隊長「未確認だからよくわからないけど、空を飛ぶ魔物はよくいるはず」

隊長「見間違いの可能性の方が高いが」

剣士「……俺が聞きたいのはそういうことじゃねぇ」

隊長「合同のこと?」

剣士「当たり前だろうがっ! ただでさえ5人でまとまってねぇのに、10人なんかもっとおかしくなるわ!」

隊長「まとめさせない筆頭に言われると説得力あるね」

術士「隊長、目が死んでる」

隊長「ははは」


540 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:25:38.46vLkI0szBo (9/13)

隊長「だけど、この作戦が終わったら、長期の休みに入れるんだ」

隊長「少し頑張って我慢して、終わらせよう」

救護員「はい!」

隊長「なんだい?」

救護員「どこと組むんですか?」

隊長「……二番隊か、七番隊、十三番隊」

剣士「断る」

隊長(俺も断りてーよ)

術士「これ、どれか選んでもいいの?」

隊長「ああ。といっても、相手も承諾する必要があるけど」

工兵「ふーん。ひょっとして、この四組で谷を見に行くってことなのかな?」

隊長「そうそう。二分して行動するわけだ」

術士「隊長は、どう考えているの?」

隊長「……みんなの意見から先に聞いてもいいかな」

四人(相当、悩んだんだな……)


541 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:26:06.72vLkI0szBo (10/13)

術士「じゃあ、私は、十三番隊がいいと思うわ。召喚士さん、面白いし」

隊長(一番、危険な奴を出してくるな……)

工兵「僕はどれでもいいかな」

隊長(お前、そればっかじゃねーか!)

救護員「私はぁ、占い師ちゃんがいるから、七番隊がいいな~」

隊長(……友達気分で決めるなよ)

剣士「二番隊」

隊長「こないだ殴りあったばっかりですよね?」

剣士「こないだの試験で負けたから、リベンジしてぇ」

隊長「……剣士、合同作戦って分かってる?」

剣士「じゃあ、お前はどう思うんだ? 正直、他の隊の連中なぞ、興味がない」

隊長「……じゃ、みんなあまりこれと言って理由は内容だから」


⇒ 七番隊
十三番隊
二番隊


542 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:26:34.43vLkI0szBo (11/13)

隊長「まず、戦力から言えば二番隊だろう」

隊長「いくら一度出し抜いたとはいえ、二番隊の実力は本物だ」

隊長(……正直に言えば、それが気がかりだ。つまるところ、本物を入れるというわけだから……)

隊長「ただ、彼らはリーダーを中心に動いているから、どちらが主導権を握るかで気を揉まなくてはいけないかもしれない」

隊長「模擬戦の件もある。できれば組みたくない」

隊長「次、十三番隊」

隊長「ここは、召喚士がネックだ。術士は仲が良いみたいだが、俺には何を言ってるのかよく分からない」

隊長「隊長同士で話した時に、会話が通じるのかどうかってのは重要だ」

隊長「ただでさえ行動を共にしなくちゃいけないのに、意思疎通でつまづきたくない」

隊長「七番隊は、その点、まだ与し易い」

隊長「隊長の天測士はこの間、何度か会って話したが、かなり分かりやすい性格をしている」

隊長「……俺の知り合いも隊の中にいる」

隊長「ちょっと個人的な理由だけどね」


543 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:27:02.68vLkI0szBo (12/13)

隊長「どうだろうか」

術士「……良いと思うわ。確かに隊長同士が仲が良くないとまずいわ」

剣士「適当にしろ」

救護員「じゃあ、じゃあ、占い師ちゃんにいろいろ聞こーっと」

工兵「んー、七番隊ってどんなパーティーなんだっけ?」

隊長「天測士、占い師、斧使い。それから、狩人と忍者だ」

工兵「そっかー」

隊長(一挙に興味をなくしたな、こいつ……)

隊長「……ともかく、顔合わせとともに、出発するから、こないだのように準備をしないとね」

四人『はーい』

隊長「こないだみたいに、無駄に荷物持ってきちゃダメだからね」

救護員「へーい」


544 ◆k.6bdeNTfg2012/09/22(土) 22:28:19.31vLkI0szBo (13/13)

短いですが、今夜はここまで。

皆様も風邪を引かぬよう……


545VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/09/23(日) 02:11:04.89BnWjaZu/o (1/1)

毎回楽しみにしてます。終わるたびに続きが待ち遠しいです。


546VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/23(日) 03:03:46.99w4uZ5zBXo (1/1)

乙!天測士可愛かったし期待


547VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/23(日) 08:27:34.65q8UfljODO (1/1)

>>492
回答ありがと

将棋より実戦に近い感じになるのかなー
なんか楽しそうだわ

乙。


548 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:04:40.24fmkgMEAno (1/24)

しばらくして。

隊長「じゃあ、隊長同士で挨拶から行こうか。これからしばらく、よろしくお願いします」

魔剣士「……チッ、よろしく」

天測士「くふふふ。私にかかれば、竜退治など簡単よ! お前らはおとなしく従うべき!」

魔剣士「いらねぇよ」

隊長「けど、今回は、二隊ずつ合同して行く事になるわけだし」

魔剣士「いらねぇっつってんだろうが」

隊長「はぁ」

魔剣士「いいか? こないだは不覚を取った。しかし、それでもだ。俺の隊がこのメンバーで最も優れていることは言うまでもない」

隊長(めんどくせぇ)

召喚士「どの隊が最も優れているか、それはこの際、重要な論点ではない」

召喚士「二隊合同の作戦であること、そして、10人が全力を発揮して作戦を成功させること、それが最も優れた論点ではないかね?」

隊長「……まず、あいさつからしてくれないかな」

隊長(疲れる……)


549 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:05:06.35fmkgMEAno (2/24)

召喚士「十三番隊、召喚士だ。知っての通り、今回の作戦は、竜が住まうという谷を調査することにある」

召喚士「正確を期せば、竜らしき魔物、であるが。このらしきというものが曲者なのだが」

隊長「……で、今回の合同の分け方だけどさ」

召喚士「隊長君、情報を統一しておくべきではないかな?」

隊長「そういうのは魔剣士がやるべきじゃないかなー。この中で一番優れているんだし」

魔剣士「ああ?」

天測士「何を言っているのよ。私の天測技術にかかれば」

魔剣士「お前、調子に乗るなよ。こないだの試験でも、俺はついにお前のところの剣士を抜いたしな」

隊長(ふーん……そう言えば、三位って言っていたな)

隊長「そうだねぇ、じゃあなおさら魔剣士から説明してもらわないと」

魔剣士「俺たちには俺達なりのチームワークがある。お前らから情報を頂戴する気はない」

隊長(そういうことじゃねぇだろうが、ボケが。ボ剣士が)


550 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:05:33.16fmkgMEAno (3/24)

隊長「じゃあ、魔剣士は聞かなくてもいいから、二人の方から、端的に説明してもらっていいかな?」

召喚士「ふむ……そうだな」

天測士「端的も何も、竜の谷をせめおとせばいいんでしょう?」

隊長「全く違うね」

召喚士「今回の作戦は、調査だ。調査にある」

召喚士「では、調査とは何を意味するのか」

隊長「……つまり、竜っぽいものが何なのかを調べればいいわけだね」

隊長「ただの飛ぶ魔物であれば、町を襲うようなものかどうかを確認する」

隊長「とにかく、学園に近いところの谷にあるから、下手に刺激して、学園にまで来られても困るわけだし」

召喚士「……そういうことだな」

魔剣士「……ふん。わかりきっていることだ」

隊長(わかってない奴がいたようだったが?)


551 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:06:00.50fmkgMEAno (4/24)

隊長「ただし、二隊合同だから、班分けをしないといけないからね」

隊長「で、提案なんだけど、二番隊と十三番隊、七番隊と二十八番隊で行くってのはどうかな?」

天測士「ふっふっ! どうやら、私の実力を認めたというわけね」

隊長「まだマシだと思ったんだ」

召喚士「……ふむ」

魔剣士「どこが来ようと、俺達には関係がない」

召喚士「隊長君、ちょっといいかな?」

隊長「なに?」

召喚士「確かに、戦士系のリーダーと術士系のリーダーが分かれていることはみるべきだ」

召喚士「しかし、この分班、決してバランスが優れているというわけではない」

隊長(む、まともなことを)

召喚士「七番隊は、どちらかと言えば戦士職が少ない。二番隊と組ませておいた方が自然ではないか」

隊長「それはそうなんだけどねぇ……」


552 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:06:26.64fmkgMEAno (5/24)

天測士「心配無用よ! それに、番号の早いものと遅いものを分けたほうがいいじゃないの」

天測士「実力だって、その方が拮抗しているわ!」

隊長「……まあ、そう言えなくもないかな」

召喚士「それならば、良いだろう。ただ、これは運命の分かれ道になるかもしれないのだ」

召喚士「分けるとは、安易にしてはならないことなのだ。分隊、分裂、すなわちそれはひとつのものを二つに分けること」

隊長「ここにいるのは元々四つの隊だけど」

召喚士「分けたものを、もう一度集め直すことは難しいと言いたいのだ」

隊長(……誰か翻訳してくれ)

召喚士「ならば、魔剣士君、彼らとはルートが異なるだろうから、打ち合わせをしようではないか」

魔剣士「だから、俺達は一隊で十分だっつってんだろうが」

召喚士「それは、異なことだ」

隊長(分かれ道、ねぇ……)


553 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:06:58.22fmkgMEAno (6/24)

天測士「くふふふ。どうやら、ついに、いよいよ、私を認めたようね!」

隊長「全然違うけど、今回の作戦については理解しているの?」

天測士「当たり前よ! 早速、天測するから、こっちに来なさい!」

隊長「いや、いらないよ。それより、まず谷の位置を確認しておきたいんだけど」

天測士「なに言ってるのよ! そんなの当然調べてあるに決まってるじゃない!」

隊長「通るルートと、行動計画も作ってきたんだけど」

天測士「それは天測してからでしょ」

隊長(何でそこまでこだわる)

天測士「さあ、器具は準備したわ。まずはついて来なさい!」

隊長「いや、メンバーの顔合わせからでしょ」


554 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:07:26.61fmkgMEAno (7/24)

学園門前。

隊長「というわけで、まずパーティー編成だよ」

  救護員「わー、占い師ちゃん~」

  占い師「あら~、救護員ちゃん~、テストばっちりだったみたいね~」

  救護員「そうなの!」

斧使い「おう、あんたが一組の剣士だったな!」

剣士「……チッ」

斧使い「舌打ち!? いきなり舌打ちされたぞ!」

狩人「まあ、落ち着いて。単にうざいって思われただけだから」

忍者「ですな」

斧使い「ひどいぞお前ら!」

  工兵「へー、これが天測機」

  天測士「ふふふ。どうやら、話が分かる奴がいたようね!」

隊長「……」


555 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:07:53.40fmkgMEAno (8/24)

術士「隊長」

隊長「うん、分かってるよ」

隊長「あー、二十八番隊の諸君! こっちに注目!」

三人『はい』

隊長「合同で作戦を行う人達と交流はいいけど、まず自己紹介をしないとね」

隊長「じゃあ、天測士。うちのメンバーに挨拶を」

天測士「言うまでもなく、私にかかればあらゆる事象の正道など、簡単なことよ!」

隊長「天測士さんだ。七番隊の隊長」

天測士「挨拶の途中じゃない!」

隊長「基本的には、どちらかが10人をまとめるんじゃなくて、それぞれが並行して進むことになってるけど」

隊長「仮に俺がいなくなったら天測士に従ってね」

四人『はーい』

天測士「ふ、ふふふ。そ、そうよ、いざという時は私を頼りなさい!」

隊長「……チッ」ボソリ

四人(隊長があからさまに舌打ちした)


556 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:08:20.16fmkgMEAno (9/24)

天測士「じゃあ、私の部下たちよ、早速挨拶しなさい」

占い師「部下じゃないですけど~、占い師です」

天測士「占い師よ! 極めてオカルティックな面から、私の天測をフォローしてくれるわ!」

斧使い「斧使いだ、隊長とは同じクラスでな」

天測士「斧使いよ! 我が隊唯一の筋肉役で、天測機を運んだりもしているわ!」

狩人「狩人です、よろしく」

天測士「狩人よ! 目端が利き、天候にも詳しく、私の天測をフォローしてくれるわ!」

忍者「忍者です」

天測士「忍者よ! 私の天測にいかなる関わりがあるかは不明だわ!」

五人(全員、目を逸らしまくってる……)


557 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:08:48.54fmkgMEAno (10/24)

隊長「じゃあ、こっちもだ。隣から、剣士、術士、工兵、救護員だ」

隊長「剣士は腕が立つ、斧使いと両輪で前衛に立ってもらうだろう」

剣士「……適当にしろ」

斧使い「お、おう、よろしく!」

隊長「術士は方陣術が得意だ。占いや天測とやらは分かる?」

術士「星見なら知ってるわ。魔法や術とは別種のものだけれど」

占い師「ぜひよろしゅう~」

隊長「工兵だ……ええっと、その荷物は?」

工兵「竜を相手取るにはと思って、いろいろ持ってきたんだ」

隊長「置いてこい」

工兵「じ、自分で運ぶからいいだろう?」

隊長「……まあ、このとおりだ」

救護員「ちょっと隊長! 私の紹介がまだでしょ」

隊長「以下略」

救護員「うぇぇぇえ!?」


558 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:09:17.23fmkgMEAno (11/24)

隊長「で、これから谷に向かうわけだけど、大体キャンプを含めて10日間で出来るようなルートを考えてきました」

天測士「えっ」

隊長「地図を開くよ。そらっ」バサッ

天測士「いや、天測、テンソク……」

隊長「学園からいわゆる、谷までこのルートが最短」

狩人「川沿いだね」

隊長「つっても、崖になっているから、落ちないように気をつけて」

隊長「で、目撃情報はこの当たりだから、2日かけて移動して、ココらへんでキャンプ」

剣士「妥当だな。それ以上、深く移動すると、テントを張るどころじゃなくなるだろう」

狩人「草木も生えにくくなるだろーし」

隊長「そこから、数日かけて調査。何日か余らせるとしても、ある程度情報がまとまったら撤収」

隊長「オーソドックスだけど、これが一番ベストだと思う」

斧使い「うおお……隊長が隊長やってる」

隊長「そうだよ、隊長だよ」

天測士「(´・ω・`)テンソク……」


559 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:09:43.60fmkgMEAno (12/24)

隊長「何か質問は?」

忍者「この計画ですと、行軍速度がいささか早すぎるのでは?」

隊長「キャンプ地の選定に時間をかけた方がいいと思ったんだけど」

斧使い「だろうな、テントって結構ちゃんとしたところに張らないと」

剣士「……討伐はしなくていいのか」

隊長「依頼内容は、もし可能であれば、だからね」

狩人「うーん、あ、そうだ。洞窟とか、そういうのはチェックしておくべきじゃないかな」

隊長「どうして?」

狩人「空を飛んでる獲物が一番狩りにくいんだ。飛んでるってだけで、当たりやすさは全然違うから」

狩人「そうなると、追い込んだり、あるいは逃げ隠れたり出来るようなポイントがあるといいなーって思う」

隊長「そうだね。キャンプ地も、周囲に狙われやすいところより、洞窟を利用するのがいいかも」

  救護員「ふぉぉ、まるで私達が要らない子みたいですわ」

  占い師「ね~」


560 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:10:11.27fmkgMEAno (13/24)

隊長「他にある?」

占い師「あの~、全然別の話なんですけど~、私達、占いと天測をしていて~」

隊長「うん」

占い師「それを~、やらせてほしいんですよ~」

隊長「どうぞ?」

占い師「あ、いいんですか?」

斧使い「おま、なんか信じてないかもしれないけど、占い師ちゃんのはすげぇ当たるし、リーダーのテンソクも結構当たるんだぜ!」

隊長(ハズレがあるのかよ……)

隊長「まあ、そちらなりのやり方は尊重するから、その間に荷物をチェックしておくし」

占い師「ありがとう~、ほら、リーダー!」

天測士「……はっ」

占い師「早くやって先に進みましょうよ~?」

天測士「く、くふふ。正しいルートなど、私にかかれば簡単よ」

天測士「ちょっと待ってなさい! 斧使い、機材準備!」

斧使い「へいへい……」


561 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:10:41.10fmkgMEAno (14/24)

天測士「経緯入力、風向、風量の確認!」

工兵「へー、数字を入れ込んで回していくタイプか」

天測士「光量測定! 天候の変移に応じて、ルートを選択する!」

斧使い「ほいほい」

天測士「竜に至る道を測るのよ……」

隊長「何を言ってるのかよく分からんが、すごい迫力だ」

工兵「元々膨大な数値が入力してあって、それに現在の値を照らし合わせるタイプなんだね」

隊長「ふうん?」

工兵「内部構造は見てないけど、多分、基礎数値が毎回更新されているみたいだ」

隊長「……手伝ってきてもいいよ」

工兵「本当に? よしよし」ダッ

隊長「……毎回、これをやっているのか?」

斧使い「しょうがないだろ。かなり精度はいいから」


562 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:11:07.38fmkgMEAno (15/24)

天測士「……」ガリガリガリ

天測士「……出たわ!」

天測士「くふふ、これよ! このルートが竜に至る道よ!」

隊長(一部、曲がりくねっているようだな)

天測士「ええと、これを、さっきの地図に照らしあわせていくわね」

天測士「キャンプ地の選定に至るまでの、このルートがまずいわ!」

狩人「……うーん、地図上だと少し開けている場所だーね」

隊長「しかし、ここを通過しないと、大分ロスになってしまうよ」

天測士「私が正しいの!」

狩人「この点に関しては、リーダーを支持。上から急襲されたらお陀仏だし」

斧使い「俺もだ」

忍者「ですな」

隊長(妙な連帯感だな)

隊長「……占い師さんは?」


563 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:11:39.53fmkgMEAno (16/24)

占い師「……困りましたね~」

術士「何が出たのかしら」

占い師「ううん、この作戦を行うのはかなり困難だと出ていまして~」

隊長「しかし、やらないわけには行かないでしょ?」

占い師「隊長さん、ひょっとしたら、あなたは誰かを見捨てないといけないかも」

隊長「へっ?」

救護員「ええ……そんなこと言ったら、真っ先に私っぽいじゃないですかぁ」

隊長「……」

占い師「どうしますか~?」

隊長「……なら、そちらのリーダーを見捨てますよ」

隊長「そうしたら、そっちはそっちで勝手にやるでしょ?」

占い師「それは面白い考えかもしれませんね~」


564 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:12:46.04fmkgMEAno (17/24)

天測士「占い師、他には?」

占い師「えっと~、帰りが大変かもしれないですね~」

天測士「なるほど、退路の確保が重要ってね」

斧使い「じゃあ、荷物も最大でも俺が全部を持てる分くらいでいいだろ」

狩人「そーだね。そのくらいがベストかな」

忍者「ですな」

天測士「ふ、見なさい! このチームワークを!」

隊長「隊長が頼りないと、チームが成長するんだよね」

七番隊の四人『うん、うん』

天測士「なに言ってるのよー!」

剣士「……なんでもいいから、行こうぜ」


565 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:13:26.21fmkgMEAno (18/24)

森。

隊長「……ふう。ここを抜ければ、そろそろ谷に入るな」

剣士「そうだな……」

隊長「剣士、大丈夫か?」

剣士「何がだ」

隊長「なんか、試験以来、元気がないから」

隊長(また会長に負けたのがショックだったのか?)

剣士「……チッ。どうでもいいだろ」

隊長「良くないよ」

剣士「これは、俺の問題なんだ、どこまでいこうとな」

隊長「剣士の問題は、隊に直結するんだよ。悪いんだけど」

剣士「ああ?」

  斧使い「うおーい! 待ってくれよー!」

隊長「おー!」

剣士「……れが」

隊長「ん?」

剣士「何でもねぇ、言うべき時に言う」

隊長「……それじゃ困るんだけどなぁ」


566 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:13:55.15fmkgMEAno (19/24)

狩人「森はもうすぐ抜けられるーって」

天測士「は、は……そ、そうね! 私に、かかれば……かんったんよっ」

占い師「ふひ~、はひ~」

救護員「大丈夫? 持ってあげようか?」

占い師「救護員ちゃん、急に、強く、なってる?」

術士「このくらいは、まあ、こないだ訓練したから」

工兵「いくら技術に優れていても、基礎体力がなければねぇ」

天測士「なく、なく、ないわよ!」

斧使い「ふー、めんどくせぇなー」ガシッ

天測士「きゃわっ!?」

斧使い「ほれ、おとなしく。せっかく導き出したルートもたどり着けないんじゃ意味がないっつーに」

天測士「おおおお、下ろしなさい!?」

工兵「さすが戦士組だね、体力すごいね」

斧使い「はっはっはっは」


567 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:14:21.35fmkgMEAno (20/24)

隊長「よし、一旦、休憩!」

救護員「はーい!」


占い師「……ふい~」

救護員「大丈夫?」

占い師「うーん、私、やっぱり冒険者には向いてないのかなぁって」

術士「体力はつけられるわ」

占い師「そ、そうね~」

救護員「そうそう、私達もさぁ、荷物を背負って樹海を行進させられたりしたんですよ、こないだ」

占い師「聞いただけで気絶しちゃいそう……」

救護員「お水、お水」

占い師「ありがとう~」


568 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:14:53.00fmkgMEAno (21/24)

斧使い「よ、隊長さん」

隊長「ん、ああ」

斧使い「なんつーか、本当に隊長やってんだなぁ、お前」

隊長「どういう感想だよ」

斧使い「そのまんまの意味だよ。こう言ったらなんだけど、お前ってリーダーの器っぽくないじゃん?」

隊長「まあ、チビだしね」

斧使い「そこかよ」

隊長「人生の半分くらいは身長で決まるんじゃないかと思う」

斧使い「ははは、アホか!」

隊長(真剣に思っているんだが……)

斧使い「でも、今回の作戦ってどう思う?」

隊長「二番隊も出張ってきているんだ、俺達はあまり出る幕がないと思うな」

斧使い「あ、そっち? まあ、さっさと出発しちゃったしな」


569 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:15:22.46fmkgMEAno (22/24)

隊長「そっちじゃないって言うなら、なんで合同作戦なんかやるんだってことか?」

斧使い「そーそー! お前、そういう陰謀論得意だろ」

隊長「陰謀論じゃなくて、ただの推論だけどさ」

斧使い「なぁんか妙なんだよなぁ~」

隊長「どこが?」

斧使い「だって、今までもチーム実習はやってきたわけだろ」

斧使い「それが学園戦隊だ、番号の割り振りだ、ランキングだ、で、合同作戦?」

隊長「軍隊化、のような感じもするな」

斧使い「あー? そう、か?」

隊長「あるいは健全化、かな。これまでも冒険者は単独で依頼を受ける奴もいたし、学園側も個人を鍛えることを中心にしてきた」

隊長「けど、最近は冒険者が集まって徒党を組むと、すぐに盗賊になったりする」

斧使い「貧乏だからなぁ。冒険者って」

隊長「だから、学園側としても、いかにして盗賊に崩れないかを考えて指導を入れてくるだろ」

斧使い「あー」


570 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:15:50.54fmkgMEAno (23/24)

隊長「もっとも、盗賊団から冒険者を目指している奴も入学してきてるけど」

斧使い「おお、一組の」

隊長「そうそう」

剣士「……あいつは、別に盗賊団から入ってきたわけじゃない」

斧使い「うおっ!? いつの間に?」

剣士「隊長、そろそろ休憩は終わりにして、先に進まないか」

隊長「そうだね」

斧使い「元気なやっちゃね」

剣士「それと、お前らの仲間。なんとかならんのか」

斧使い「誰のことだ?」

剣士「忍者とか言う奴、気がつくといないくせに、こっちに視線を送ってやがる」

斧使い「あー、あいつ、あんまり近くに来ないからさ」

剣士「だったら視線を送るのはやめさせろ」

斧使い「いや、俺はここにいますよーっていう合図なんだよ」

剣士「……チッ」

隊長「斧使いのところも変なのばっかりだね」

斧使い「や、やっぱりそう思うよな!」


571 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 19:16:30.67fmkgMEAno (24/24)

今夜はここまで。

風邪、引きました。
皆様もお気をつけて。


572VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/25(火) 21:08:15.46jRPH3qXDO (1/1)


お大事に



天測士って聞いて星天停止的なアレができる術士の上位職みたいなんかなと思たんだけどなんか違うぽい

なんかこう…気象予報士+αみたいな感じなんやろか


573VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/25(火) 21:08:37.65Pzl8NGeDO (1/1)

乙!季節の変わり目で風邪多いね。お大事にー
なんか天測士がバカワイイw


574 ◆k.6bdeNTfg2012/09/25(火) 22:33:12.47ZINrA4a3o (1/1)

天測士は大技が使えるというよりは、天候・ルート予測・行動予測が得意なタイプかなーって
もちろん、一定魔法も使いますけど、リーダーに選ばれたのはその辺の能力の高さに寄りますねー

やはり冒険者にはフィールド魔法必須ですよ!


575VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/09/26(水) 00:43:01.28x8VN3hEQ0 (1/1)

今一気読みし終えたった
召喚士と会話して適度に相槌をうってヒートアップさせてみたいです


576VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2012/09/26(水) 01:10:06.81H2Ngv9poo (1/1)

七星剣(グラン・シャリオ)ぐらい使って欲しいな


577VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/26(水) 01:13:42.54V1+HSXKfo (1/1)

僕も天測士ちゃんと天体観測がしたいです!
8月の流星群を見届けた俺に死角は無い


578VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/26(水) 09:12:12.22rwxMcSeDO (1/1)

天測士が大げさな荷物背負ってきて始めようか天体観測ほうき星を探してなんですねわかります


魔法は使えるのねー
戦闘力皆無でバトル中はわーきゃーわーきゃー言ってるだけとかもあり得ると思ったんで
その辺は良かった



579 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:49:12.24PwAS7JmHo (1/28)

2日目。

隊長「……で、ここから迂回か」

天測士「あんたのルートからはね。私の測定結果によれば、この崖道を通ると確実にお陀仏よ」

隊長「随分と自信があるんだね」

天測士「自信ではなくて、事実だからよ! 天測機には賢者が生み出した『レコード』と接続してあってね――」

隊長「そういうのは工兵に言ったほうが喜ぶなぁ」

天測士「ふん! それと、注意することね。これから四つの時を刻むと雨が降り出してくるから」

隊長「それを早く言ってくれ。四つの時?」

天測士「ほら、時計!」

隊長「数字が書いてあるだけだが……」

天測士「光ったり、音が鳴ったりして知らせてくれるの」

隊長「……身を隠している時はどうするんだ?」

天測士「そ、そんな、隠れているような任務は負わないわ。あんたと違ってね」

隊長(……。目玉をぐりぐりしてやろうか、こいつ)


580 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:49:39.45PwAS7JmHo (2/28)

隊長「とにかく、ここから岩山をぐるりと廻るようにして移動だ」

隊長「各自、落下物には注意して進もう」

斧使い「おう!」

狩人「いや、こういうところに気がついてくれるリーダーっていいねー」

天測士「な、なに言ってるのよ!?」

占い師「うふふ、テンソクちゃんは空のことばかりだもの」

天測士「ら、落下物に注意するような予測は出てないもん」

剣士「しゃべってねえで、進め」

狩人「は、はい」

剣士「口が回るのと同じくらい、足も動かしてもらいたいもんだ」

斧使い「おーおー、言うねぇ」

隊長「ごめんね、こっちは口も回るんだ」


581 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:50:16.69PwAS7JmHo (3/28)

しばらくして。

天測士「ぜひゅ~、ぜひゅ~」

隊長(ダメだ、こいつ……)

ピロリロリン♪

天測士「ほ、ほらぁ、四つ鳴ったわ!」

ポタ、ポタ……

ザアァ――

隊長「はぁ、はぁ、そーだね。降ったね」

天測士「これこそ、天測、技術っ、の、真骨頂よ!」

隊長「ゴクッ……天候を操ったりは出来ないのかい?」

天測士「出来なく、はない、けど、すごい、すごい魔力を、使う、のよ?」

天測士「ハー……別に、私がここでぶっ倒れても良いって言うならやるけど」

斧使い「やめてくれ! 俺もいい加減疲れてるんだから!」

隊長(やれんのか、こいつ……)


582 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:50:47.02PwAS7JmHo (4/28)

隊長「ふー。よーし、この辺の窪みが影になってるから、ちょっとここで休憩しよう」

占い師「セひゅっ、ふひゅー」

狩人「は、早いよ、おたくの隊は」

隊長「いや、2日目で、キャンプを張りたいって言ってたのに、まだ半分だし」

術士「けほっ。えっと、大丈夫?」

占い師「だ、だいじょ、ぶ、じゃない」

救護員「はいはーい、お水いる人ー」

救護員「全身は冷やしちゃダメですよー、無闇に雨に濡れちゃいけませんよー」

隊長(覚えたてのなんとやらか)

天測士「はぁ、はぁ、な、なかなかやるわね!」

隊長「いや、見栄を張らないで座ったら?」


583 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:51:14.66PwAS7JmHo (5/28)

隊長「……ふう」

術士「隊長、ムリしないで。落ち着いて行きましょう」

隊長「う、焦っているみたいだ。ありがとう」

剣士「おい、隊長」

隊長「なに?」

剣士「あいつらにわざわざ合わせる必要はあるのか?」

隊長「合同作戦だからしょうがないでしょ」

剣士「はっきり言うが、練度が違う。忍者はともかく」

隊長「別に戦闘だけが目的じゃないしね」

剣士「本音を言え! 俺はこじつけた理由を聞きたいんじゃない!」

隊長「……剣士もウザいなー」

術士「剣士、隊長もイライラしてるんだから、追い詰めないで」

剣士「チッ」

隊長「実際のところ、竜を相手取るとしたら俺達だけじゃ不足がある」

剣士「足手まといの間違いじゃないか」


584 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:51:43.94PwAS7JmHo (6/28)

隊長「天測士の予測はそれなりに役に立つ」

隊長「忍者は偵察が上手いだろうし、先制的に動けるチームなんじゃないだろうか」

隊長「たとえば、罠に引っ掛けたり、そういう手は使えるんじゃない?」

剣士「……」

工兵「天測士はいい子だよね」

隊長「お?」

工兵「どうもあの天測機、異世界の技術や魔法が複合的に組合わさっているものみたいなんだ」

工兵「素晴らしいよ、内部構造もかなり掴みつつあるみたいだし」

隊長(キラキラしていやがる……)

剣士「お前の好き嫌いはどうでもいい」

術士「でも、足並みが揃わないのは問題だわ」

隊長「そうだねぇ」

救護員「大丈夫ですよ!」


585 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:52:10.59PwAS7JmHo (7/28)

隊長「うん?」

救護員「占い師ちゃん、意外とタフなんですよぉ?」

救護員「占いのために、山にこもったりしますしぃ」

隊長「息切れしてたけど」

救護員「意外と底力あるってことですよ! 持久力はそんなにないけど」

剣士「……しかし、連中に合わせてもな」

隊長「もう少し考えよう。狩人は遠距離、天測士も占い師も遠目から行動したほうが得意そうだ」

隊長「俺達が前衛を取るなら、あっちは遠距離からフォローしてくれる、かもしれない」

隊長(……というか、それしかない)

術士「そもそも、戦闘を目的としてないわけでしょう」

剣士「……」

隊長「剣士、落ち着けよ。焦っても、いい結果は出ないよ」

剣士「……分かっている!」


586 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:52:41.57PwAS7JmHo (8/28)

ポポロポーン♪

天測士「あ、鳴った」

隊長「まだ止んでないけどね」

天測士「このまま降り続けるわよ」

隊長「……じゃあ、待っていたら暗くなってしまうよ」

天測士「う……でも、おかしいわね。確かに予測は正しいけれど、こんなところでこうすぐに雨が降るとは」

隊長「そりゃ、そうだ。空の状態からしても、そこまで不安定ではなかったはずだし」

天測士「うーん、そうね……」


   ギャァァァァァァッ


天測士「……」

隊長「……聞いた?」

天測士「ええ、近くはなかったけど」

隊長「竜のお出ましかね」


587 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:53:10.45PwAS7JmHo (9/28)

占い師「はや~」

天測士「どうしたの、占い師」

占い師「記録によれば、竜は天候を操ることもできるそうです~」

隊長「……へぇ」

天測士「確かに、天候を操る魔法はあるけど……」

隊長「だとしたら、下手に動くのもそうだが、ここに留まるのもまずいな」

天測士「ど、どうしてよ」

隊長「雨が続けば、この土の具合だと崩れる可能性もある」

天測士「む」

占い師「ええと~、もう一度、天測してみては~?」

天測士「そうね、よし、ぬかるみの中でも正道を探してみせるわ!」

隊長「いや、手短に頼むよ」

天測士「任せなさい! 斧使い! 機材!」

  斧使い「へーい」


588 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:54:15.27PwAS7JmHo (10/28)

ピロリロリン♪

天測士「待たせたわね!」

隊長「……おう」

天測士「この雨の中だけど、進む道が見えたわ! 岩を回りこむのではなく、少し右手の方に進路を決めて、直進する!」

隊長「ふーん」

天測士「そうすると、多少頑丈な洞穴にぶつかるはずだわ!」

隊長(地図では……うん、確かに、別の崖にぶつかることになっているな)

隊長(少し開けちゃうけど、天候不順だから、魔物や竜に見つかるってことも、まあ少ないだろう)

天測士「くふふふ、御覧なさい、道を探すなど、私にかかれば簡単よ」

隊長「……よーし、じゃあ出発するよー」

全員『はーい!』

隊長「テントとか食料とか、濡れるとまずいものは全部布か何かでくるんだよね?」

全員『はーい!』

天測士「ちょっと! 少しは褒めなさい! たたえなさい!」

隊長「天測士はすごいなぁ、僕にはとてもできない」

天測士「くぬぬぬ……」


589 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:54:42.09PwAS7JmHo (11/28)

雨の中。

サァァァ――

天測士「くっ、はぁはぁ、はぁはぁ」

隊長「……」

天測士「……まだ、よね」

隊長「わかってるなら、しゃべらない方がいいんじゃない」

天測士「……はぁ、はぁ」

天測士「早、すぎない?」

隊長「雲のせいもあるけど、暗くなるのが早い。もう少し、先に進みたいんだ」

天測士「……はぁはぁ」

隊長「……」

天測士「……あ、あんたに、言っておくことが、あるわ」

隊長「なに?」


590 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:55:13.14PwAS7JmHo (12/28)

天測士「私、あんたのこと、結構、バカにしてたわ」

天測士「最低の、番台だし、大した、こと、ないと思ってたし」

隊長「……」

天測士「盤面、だけ、勝てないのが、悔しくて」

天測士「でも、やっぱり、隊長な、だけ、あるのね」

隊長「仲間に恵まれてるだけだよ」

天測士「それは、私、の方が、恵まれて、るわ」

隊長「俺は、天測士の思ってるとおりだよ。大したことない」

天測士「はぁはぁ、ふん、今、さら、ごきげん、取られても」

天測士「こないだ、っから、さんざん、バカに、された、あと、はぁはぁ、なんだし」

隊長「……」

天測士「きゃわっ」

隊長「あぶない」ぎゅっ


隊長は天測士を抱きとめた。


591 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:55:45.46PwAS7JmHo (13/28)

天測士「あ、ありがと」

隊長「いいから喋ってないで、歩くのに集中して」

斧使い「……おっとぉ、こいつはあれですかぁ?」

救護員「まさか、隊長に春が……春がっ!」

隊長「お前らも歩くのに集中しろ」

二人『うひょー!』ダカダカダカダカ

天測士「はぁはぁ、ま、まあ、いいじゃない、別に」

隊長「いや……」


その時、遠くで激しい閃光が立ち上った。
一瞬の間の後、雨が光を沈めるようにまた降り始める。


隊長(……なんだ、今の)

天測士「いまの、割りと、近かった、わね」

忍者「報告」

隊長「うわっ!」


592 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:56:18.16PwAS7JmHo (14/28)

天測士「に、忍者。ちょっと、待って」

忍者「はい」

隊長(こいつ、いつの間に)

天測士「……ふぅー。いいわよ、何か?」

忍者「先行した二隊が竜と交戦中」

二人『交戦!?』

忍者「ただし、すでに負傷者多数、今の光が登る前の話ですが」

隊長「……とすると、雷じゃなさそうだな」

天測士「そ、それで、それって本当に竜だったの?」

忍者「予め説明を受けた竜そのものです。なお、私が確認した限りでは十五を数えました」

二人『十五!?』

忍者「は。それから、この直線方向に、洞穴も発見……」


……風が吹いてきて、雨が顔に飛び込んでくる。
忍者の報告を聞きながら二人が顔をあげると、
何か黒々としたものがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。


593 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:56:55.16PwAS7JmHo (15/28)

天測士「全隊、停止ーッ!」

隊長「武器を準備しろ!」

剣士「おう」チャキ

斧使い「おー、こんなに早いとは思わなかったぜ」

隊長(くそっ、どうする……? 十五も数がいるんじゃ相手にならないだろう)

忍者「竜が来ます」

天測士「忍者は、洞穴まで先行するのよ!」

忍者「承知」

隊長「天測士……!」

天測士「とにかく、洞穴まで走りましょう! ルートは決めたのよ!」

隊長「天測で、これは出なかったのか」

天測士「ちょっとズレがあったみたいね」

隊長「褒めて損した」

天測士「褒めてないでしょ!?」


594 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:57:25.83PwAS7JmHo (16/28)

隊長「竜に見つからないうちに、まず走れ!」

剣士「……おい、やらねぇのか」

隊長「態勢を整える方が先だ、洞穴へ急ぐ」

工兵「しょうがないな」

狩人「ひぃ、ひぃ」

占い師「ダメよ、一匹来るわ!」


占い師の言葉どおり、正面の道を塞ぐようにして、黒い塊が地面に降り立とうとする。


  斧使い「うおぉりゃっ!」ガッ

  斧使いの攻撃! 竜に斧を弾き返された!

  斧使い「おっ、おう」


天測士「馬鹿馬鹿! 私の指示に従うの!」

隊長(まずい! 先行してる救護員と斧使いが)

隊長(相手がでかすぎる……くそっ)


595 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:57:52.56PwAS7JmHo (17/28)

救護員「あ、は、はは……」

斧使い「バカ、ボケっとするんじゃねぇ!」

剣士「チッ!」


剣士の攻撃! 竜の爪を受け流した!


剣士「早くそいつを連れて、右手へ回り込め!」

斧使い「分かった!」

剣士「……隊長!」

隊長「剣士、表皮じゃ相手にならない!」

剣士「目だな!?」

隊長「いや、下がれって!」

剣士「あああっ!」ガイン

隊長「あのバカ……!」


596 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:58:34.22PwAS7JmHo (18/28)

竜は、斬りかかる剣士に構わず、大きく息を吸込む。
薄暗い雨の中で、その口の中だけが、赤く光をふくらませていく。

隊長は悟った。
次に何が来るか、そして、間に合わないということも。


隊長「あ、ち、散らばれーっ!」


叫んだ。
だが、周りは動けていない。

そこへ、術士が駆けつけた。


術士「展開! 術式、1―3―9―7―1……」


術士の方術が展開される。
緑色の風のドームが全員をすっぽりと覆った瞬間、竜の口から火炎が放たれた!


597 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 22:59:23.98PwAS7JmHo (19/28)

轟音。

隊長は、炎と風がぶつかった衝撃で頭を振った。
周りを見渡すと、竜も反射した炎でのけぞったようだ……


隊長「……術士!」


術士は、最後に目にした場所から遠い位置にいた。
真正面から相対したためか、衝撃で跳ね飛ばされたのか。

それよりも隊長の目には、術士が血に汚れているように見えた。


隊長「うぐっ」

天測士「……聞け!!」

隊長「おい……」

天測士「七番隊、これより竜を出し抜く行動に入る!」

『おう!』

天測士「相手は怯んだ! 私にかかれば、万物の運命など、簡単なことである!」


598 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 23:00:09.26PwAS7JmHo (20/28)

天測士が機械のレバーを回す。
回して回して、筒状の先端から光がこぼれ落ち、地面に何事かの図を描いていく。


天測士『三手予言!』

占い師「ふ、フォローします!」

天測士「相手、頭を振り、足元をなぎ払う! 雲を呼ぶ! 剣士の攻撃!」

占い師「斧使いさん、倒れた人を救ってください! 先んじれば、抜けられます!」

斧使い「分かったぜ!」

狩人「僕はどーしよ!」

天測士「銀をつがえ!」

狩人「了解!」


狩人が頷いた瞬間、竜が右の爪で剣士を薙ぎ払った。
大振りに剣士が飛ばされる。

それから、竜が空に向かって吠えると、あたかもその意に従うかのように、黒雲が集まり始めた。


599 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 23:01:04.99PwAS7JmHo (21/28)

雨が激しくなり、周囲を暗く染めていく。

そこに天測士はあえて叫んだ。


天測士「来るが良い! 雷よ!」


ビシャアッ、という音。
呼んだはずの黒雲から、激しい稲光が竜を貫いた!

そこに加えて、怯んだ竜の爪の間に、さっくりと剣士がカタナを差し込んだ!



600 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 23:01:32.45PwAS7JmHo (22/28)

隊長「……どうやら、見捨てられそうなのはこっちだな」

斧使い「おう、隊長! ちょっと、やばいぞ」

隊長「分かってる!」

救護員「ああ、あ、じ、術士さんが血を流している」

隊長「見りゃ分かる」

斧使い「俺は洞穴まで彼女を運んでくる! そこの子も、手当の道具持ってるだろ!」

救護員「え、えと」

隊長「救護員、斧使いについていくんだ。安全なところで手当をした方がいい」

救護員「……はい!」

隊長「……剣士は前か。工兵は?」

工兵「ん」

隊長「工兵!」

工兵「とりあえず、斬撃系統は狙いが難しいようだね」


601 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 23:02:17.76PwAS7JmHo (23/28)

隊長「ああ、何か手はあるかい?」

工兵「隊長こそ、一応、竜のことは調べているんだろう」

隊長「硬い鱗、巨大な体、空を自在に動き回る翼……」

隊長「まともにやりあってたら、勝ち目なんかないね」

工兵「……」

工兵「つまり、卑怯な手を使って、身動きを取れなくさせるしかないってことかな?」

隊長「……何かあるかい」

工兵「投網なんかじゃ無理だろ」

隊長「魚じゃないんだから……」

工兵「じゃあ、別の手だ」

隊長「……実を言えば、術士に動きを封じる方陣を仕掛けさせるつもりではあった」

工兵「なるほどね。手が失われたわけか」


602 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 23:03:02.13PwAS7JmHo (24/28)

工兵「なら、僕から提案だけど、さっきの炎をもう一度撃たせるってのはどうかな」

隊長「冗談だろう?」

工兵「大真面目だ。で、そこに爆雷管を仕掛けておく」

隊長「ダメだ、こっちが巻き込まれる」

工兵「……だったら」

  天測士『三手予言!』

  天測士「相手、飛び上がる! 顎を向ける! 爆発!」

  占い師「た、食べられちゃいますよ~」

  狩人「……移動しながら、位置取りするよ!」ザザッ


竜が翼を広げる!
ばさり、と一振りするたびに、猛烈な風が戦隊に襲い掛かってくる。


603 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 23:04:00.88PwAS7JmHo (25/28)

剣士「隊長! 向かってくるぞ!」

隊長(ど、どうする)

工兵「湿気ない爆薬」ポン

隊長「投げるぞぉ――――っ」


隊長の攻撃! 大口を開けた竜に向かって、爆薬を投げつけた!

ずど、という爆発音。
竜の口腔内で、炎が燃え上がる。


天測士「今!」


狩人の攻撃! 銀の矢が、赤い瞳を貫いた!


  ぐぉぉぉおおおおおおおん!


天測士「竜が怯んだわ! 仲間が来る前に、駆け抜けるの!」

占い師「はい~!」

狩人「リーダーも、早く」

天測士「だ、だいじょうぶよ!」タタタッ


604 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 23:04:49.09PwAS7JmHo (26/28)

隊長「よし、俺らも抜けるぞ」

剣士「まだだ!」

隊長「おい、剣士?」

剣士「……っぐ」

隊長「何やってんだ、態勢を、ととのえ、ないと……」


破けた袖の下に、赤い筋が何本も模様を描いて走っている。
隊長は、少しだけ戸惑って、それから理解した。


隊長「……呪術印か?」

剣士「しびれが出てきてる。だが、竜とやりあう程度の腕力を作るには――」

工兵「……隊長! まだ全然動くよ、こいつ」

剣士「チッ」


605 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 23:05:37.36PwAS7JmHo (27/28)



剣士が走る。
走りながら正確に腕の呪印をなぞると、赤い筋が雨の中で光った。

剣士の、攻撃。

竜の首が跳ね飛んだ。


606 ◆k.6bdeNTfg2012/09/26(水) 23:06:27.03PwAS7JmHo (28/28)

今夜はここまで。


607VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/09/27(木) 12:25:06.97LmW+iEBno (1/1)

乙!


608VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県)2012/09/27(木) 17:29:46.93BBqeoY54o (1/1)

剣士強えええ・・・



609 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:20:33.52o811vaeFo (1/21)

隊長「剣士!」

剣士「ぐうっ」

隊長「工兵は先に行ってくれ」バチャバチャ

工兵「はいよ」バチャバチャ……

剣士「寄るな!」


剣士の腕は、真っ赤に腫れていた。
いや、血管が破裂して、腕が赤黒く膨らんでいるのだ。


隊長「……立てる?」

剣士「問題ない!」

隊長「もうひとつ、聞いてもいいか」

剣士「……」

隊長「もしかして、魔剣士に負けたってのは……」

剣士「まだ、あの時はしびれだけだった」

隊長「冗談は止してくれよ。剣士が剣を振るえないってんじゃ」

剣士「……まだ歩ける。行くぞ」ジャバッ


610 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:21:22.93o811vaeFo (2/21)

――洞窟。

隊長「ぶはっ」バシャッ

斧使い「おお、お前で、最後だな」

隊長「すまん、遅れた」

斧使い「いや、いいんだ。助かったよ」

剣士「……」ポタ、ポタ……

狩人「血ぃ、出てるよ?」

剣士「救護員は?」

斧使い「奥のほうで、お前さんとこの術士ちゃんの怪我を見てるよ」

隊長「俺も行く。様子はどうだ?」

斧使い「あまり、良くはないな」

天測士「……こら、出入口からもう少し下がりなさい!」

斧使い「へ~い」



611 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:21:49.14o811vaeFo (3/21)

洞窟奥。

救護員「……ううう」

忍者「打ちどころがまずかったようです」

隊長「……」

工兵「気絶しているだけなんでしょ?」

忍者「全身を打っており、出血もあります」

救護員「……ごめんなさい、私の力不足で」

隊長「いや、忍者の言うとおり、打ちどころが悪かっただけだよ」

隊長「それより、剣士の方の手当もしてもらえるかな?」

救護員「は、はい!」

剣士「……死んでるわけじゃねぇ。落ち込むのは筋違いだ」

救護員「は……はい」


612 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:22:41.22o811vaeFo (4/21)

隊長(術士、青ざめている……)

術士「はぁ、はぁ」

隊長「……息はあるけど、自分で歩いて行くってのは無理そうだね」

占い師「まずいといえば、まずいです。この人の道がわかれています」

隊長「生か死かってこと?」

救護員「え、縁起でもないこと言わないでくださいよ!」

隊長「……」

占い師「見ての通りだと思います……」

忍者「このままではまずいですな。安全なところまで運ばないと……」

隊長「いずれにせよ、作戦は中止だな」

救護員「さ、作戦作戦って……!」

剣士「うるせぇ! こっちの処置に集中しろ!」

隊長(剣士も傷ついている。しかし、どう逃げるかが問題だが)

天測士「……ちょっといいかしら」


613 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:23:07.26o811vaeFo (5/21)

さらに奥で。

隊長「……お疲れ様」

天測士「……言ってる場合じゃないでしょ」

隊長「そうだね、一体仕留めるのに、全力費やした」

天測士「あんたのところ、満身創痍じゃない!」

隊長「ちょっと無駄な特攻をしたかもしれないしねー」

天測士「……私の方も、天測の結果は絶望的よ」

隊長「なんて出てる?」

天測士「これから、晴れ間が出るわ」

隊長「それは好都合じゃないの」

天測士「つまり、相手は星の導きを頼りにして、私達を探すことになっている」

天測士「ここで一泊してもいずれ見つかるし、出ていって逃げるルートを探っても、見つかるわ」

隊長「……」


614 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:23:36.83o811vaeFo (6/21)

天測士「そっちのけが人はどうなの?」

隊長「術士の怪我が、思ってたよりもひどい」

隊長「それから、剣士だ。竜の首を刎ねるほどの腕力と引き換えに、もう腕から血が出まくりだよ」

天測士「はぁー……まあ、生かしてたら追いかけられてたでしょうし、倒したのは間違ってなかったけど」

隊長「確かに、今は静かだしな」

天測士「おそらく、私達が逃げおおせたのに気づいて、相手も作戦を練り直しているんでしょう」

隊長「で、どうする?」

天測士「どうするって、なにが」

隊長「ご自慢の天測では竜を予測出来なかったし、今後の展望は絶望的で、どうするってこと」

天測士「こんな時に、嫌味を言わないでほしいわ!」

隊長「……」


615 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:24:10.67o811vaeFo (7/21)

天測士「私から言わせてもらうわよ」

隊長「どうぞ」

天測士「今回の作戦、少なくとも竜は本物だった、そして十五匹以上はいる、ということが分かったわ」

隊長「……忍者が見ただけだが」

天測士「信頼出来るわよ。それに、忍者なら、先行して学園に帰ることもできるでしょう」

隊長「彼を一人で先に戻すってことか」

天測士「それで、救援を待つ!」

隊長「無理だね」

天測士「なんでよぉ!?」

隊長「待っててもどうせ見つかるという結果なんだろう? ということは、救援が来る前にやられる可能性は大だ」

隊長「あ、いや。作戦としては、全滅するより、忍者だけでも報告者として回すってのはありだよ?」

天測士「ううん……」


616 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:24:39.03o811vaeFo (8/21)

隊長「それ以外の方法で言うと……そうだね、うちのお荷物を見捨てて、全力で逃げる」

天測士「……あんた、本気?」

隊長「可能性としては大きな案じゃない? 正直、負傷者を抱えて脱出するよりマシだと思うけど」

天測士「本気で考えているなら、ぶん殴るわよ」

隊長「戦隊の隊長なら、あらゆる可能性は排除しちゃダメだと思うけどね」

天測士「いいわ! だったら、時間ギリギリまで、全員が助かる道を探してみせるわ!」

天測士「くふふふ、その程度、私にかかれば簡単よ!」

隊長「……他にも可能性はある」

天測士「たとえば何よ?」

隊長「地理的に言えば、この谷は川沿いだ、川に逃げ込めば、あるいは」

天測士「……うーん、川の魚を漁るドラゴンは聞いたことがないし、可能性はあるかもね」

隊長「ただ、ここからだと川までの距離が遠い」

天測士「そうね……」


617 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:25:10.77o811vaeFo (9/21)

隊長「……ごめん」

天測士「何が?」

隊長「今度のこと、明らかに行動の軸を二つにしていたのが失敗だった」

天測士「どういう意味よ」

隊長「天測士のルートと、俺の想定していた日程を、無理矢理に合わせたのが失敗だったんだ」

隊長「どちらかが、きっちり相手に合わせるべきだったんだ」

天測士「……そ、そんなこと」

隊長「おそらく、あのタイミングで竜を予測できなかったのは、俺が無理な行進を強いたからじゃないか」

天測士「……」

隊長(……先発隊に追いつきたかったんだが)

天測士「……ふ、ふふふ」

隊長「ん?」


618 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:25:39.06o811vaeFo (10/21)

天測士「馬鹿馬鹿しい! そんなことを言ったら、先発した二隊はどうなるの」

天測士「調査するどころか、交戦して、はい、おしまい。無駄死もいいところじゃないの!」

隊長「……別に、死んだとは限らんだろ」

天測士「ふん! 交戦が終わったから、こっちに飛んできたんでしょうよ。つまり、全滅したとしか思えないわ」

天測士「別にあいつらをバカにしたいわけじゃないけど、こちらは一体を屠ってまだ死者はなし」

天測士「最低でも学園への報告は出来る見通しはあるわ!」

天測士「どうなの、え!?」

隊長「いや、そう言われてもな」

天測士「そんな、まるで私に合わせたから失敗したみたいな言い方はやめてくれる!」

天測士「あんたは私に盤面試験で先んじてんのよ! もっと胸をはりなさい!」

天測士「それとも、何、自分は周りに気を使ってるから、いつも本気が出せないんですぅとか言いたいわけ!?」

隊長「……」


619 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:26:06.50o811vaeFo (11/21)

隊長「ああ、そうだよ」

天測士「なんっ……!」

隊長「四隊が出ること、二隊合同であることにこだわりすぎていた」

天測士「あ、あ、そう」

隊長「隊長連中は全員、自己主張ばっかりで頭が悪いし」

天測士「おい」

隊長「だが、協調する気もない学生に、こんな危険な仕事を押し付けた学園側も何考えているんだか」

天測士「知らないわよ、そんなの」

隊長「……」

隊長(めんどくせぇな、ホント)

隊長(隊員を成長させようなんて無駄に考えたり、うまく折り合いつけようなんて無駄に考えたり)

隊長(挙句の果てにはそれに文句つけられたり)

隊長(なんで、こんな……)


620 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:26:52.69o811vaeFo (12/21)

隊長「……とりあえず、二手に別れよう」

天測士「お、囮になれってこと!?」

隊長「単純に頭が二つは良くないってことだ。天測士は独自のルートで脱出してくれ」

隊長「……怪我人も引き受けてくれると助かるな」

天測士「なに、その、ハズレクジ状態」

隊長「こいつは信頼だ。安全なルートを予測出来るんだろ」

天測士「……ふ、ふふん。そりゃ、もちろん」

隊長「じゃあ、それで行こう。俺はメンバーと話し合ってくる」

天測士「あ、ちょっと!」

隊長「頼んだよ!」


621 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:28:04.37o811vaeFo (13/21)

隊長「……集合したね」

救護員「は、はい」

剣士「……」

隊長「まず、剣士と術士はこのまま天測士の部隊とともに移動してくれ」

剣士「なんだと?」

隊長「工兵と救護員は俺と一緒に行動。危険だが、二番隊と十三番隊の生き残りを確認して脱出しよう」

工兵「うわ、けっこキツいね、それ」

剣士「ふざけるな!」

隊長「何が?」

剣士「俺を、役立たず扱いするつもりか!」

隊長「竜を一匹倒したんだ。十分、役に立ったろ」

救護員「で、で、でも、ドラゴンってすごーく強いじゃないですか」

隊長「別に戦うわけじゃない」


622 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:28:43.07o811vaeFo (14/21)

隊長「それに、相手を一匹倒したのは大きい。相手がこちらに気づいても、うかつに攻撃してはこないんじゃないの」

剣士「そんなもん、ただの推定だ!」

隊長「だけど、いずれにしても10人で固まって行動することに意味はない」

隊長「少人数なら、小回りは聞くし、他の連中よりは体力がある」

工兵「ううん、ただ、相手だって空を飛べるし、機動力はあるしね」

隊長「正面突破しなければいい。撹乱は有効なはずだ」

剣士「バカじゃねぇのか、そんなことで竜を相手取れるわけがねぇだろうが!」

隊長「相手にしないって言ってるんだよ」

救護員「う、うう」

剣士「俺はまだ戦えるんだよ!」

隊長「いや、だからね……」

剣士「……お前も、俺を置いていくのか」

救護員「け、剣士さん」


623 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:30:09.30o811vaeFo (15/21)

剣士「俺は強くなるんだ、ならないと、ダメなんだ」

剣士「そうでないと、あいつに追いつけない……!」

隊長「……」

剣士「腕はまだ動かせる、お前らとだって、体力差はある」

剣士「俺は足手まといなんかじゃない!」

救護員「お、落ち着いてください」

剣士「うるせぇ! お前らみたいなのに、まで、抜かされて、どうやってあいつに追いつけるんだ!」

剣士「俺は竜だって殺せる、そうだろうが!」

剣士「俺がいなかったら、お前ら」


隊長「聞き分けのないこと言ってんじゃねぇ」


624 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:30:45.40o811vaeFo (16/21)

救護員「た、隊長?」

隊長「つまんねー対抗心で自分を削るのは止めにしろ、バカじゃねぇのか」

隊長「追いつくも何も、命がかかっている状況なんだよ、今は」

隊長「お前が考えなくちゃいけないことは、全力で逃げて、腕を治すことだ」

剣士「だっ……!」

隊長「お前は、全力で、逃げろ。聞こえなかったか?」

剣士「な……! そ……!」

隊長「隊長命令だ」

救護員「……」

工兵「……」

剣士「う、お……」


625 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:31:11.46o811vaeFo (17/21)

隊長「……というわけだけど、文句ある?」

工兵「……ま、しょうがないね。なるようにしかならないでしょ」

救護員「ううっ、やだなぁ、こういうの」

隊長「救護員も、付きあわせてすまんね」

救護員「まあ、剣士さんと術士ちゃんに比べたら、私はねぇ」

術士「んう……」

隊長「術士?」

術士「ん、んぁ……」

隊長「よし、しゃべらなくていい。簡潔に伝えるぞ」

術士「ん……」

隊長「作戦は、中止だ。撤退することにした」

隊長「術士は、怪我しているから、剣士と一緒に、脱出」

術士「ん」b

隊長「よーし、俺は別で動くが、もちろん死ぬつもりはない」

術士「……」クタッ

隊長「剣士」

剣士「……クソが」


626 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:31:43.25o811vaeFo (18/21)

洞窟出口付近。

隊長「工兵、ちょっと装備の確認をしよう」

工兵「うん。この際だ、ばら撒くよー」

隊長「だな。これが最後になるかもしれんし」

救護員「や、やめてくださいよー、そういうの」

工兵「とりあえず、発雷装置だ。雨にぬれても大丈夫型」

隊長「ふむ」

工兵「エアバッグ。瞬時に気体を発生させて袋が膨らむ装置。衝撃吸収用」

隊長「ほう」

工兵「ただし、作り方が悪かったせいか、衝撃が強すぎて自分も吹っ飛ぶ」

隊長「役に立つんか、それ」

工兵「発光爆弾。めちゃくちゃ光るから、ひるませるには最適」

隊長「そいつは向こうの隊にも渡しておこう」

救護員「なんでもありますねー」

工兵「お菓子。剣士が作ってくれたやつ」

隊長「食っておこう」モグモグ

救護員「あっ!? 隊長、ずるい!」


627 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:32:09.82o811vaeFo (19/21)

工兵「これはどうかな。爆発によって生じた圧力でピストンを押し、回転運動に利用することで、推進力になる」

隊長「意味が分からん」

工兵「足につけるとすっごく早く進めるよ、ただし、すっ転びやすいと思うけど」

隊長「よし、いざって時に使おう」

救護員「ほえぇ」

工兵「……んー、隊長」

隊長「なんだ? できれば、天測士と最後の打ち合わせがしたい」

工兵「なんていうか、さっきのって、本性?」

隊長「さあねぇ」

救護員「めっちゃ怖かったっすけど……」

隊長「下手になだめても、言うこと聞かないじゃん」

工兵「日頃の恨みつらみ的な……」

隊長「ああ、そうかもね」

救護員「隊長、普段からイライラしてたんですねぇ」

隊長「……そう思ってんなら、聞き分け良くなってほしいなー、俺は」


628 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:32:52.86o811vaeFo (20/21)

出口。

ピロリロリン♪

隊長「……その音、なんとかならんのか」

天測士「……と、とにかく、御覧なさい、空が晴れてきているわ」

隊長「ああ。じゃあ、俺はこっちだ」

天測士「いいけど、死なないでよ」

隊長「お前こそ、剣士と術士を見捨てたら、一生恨むぜ」

天測士「ふふん、任せなさい。私にかかれば……」

斧使い「じゃあ、隊長、また学園でな」

隊長「ああ、そうだな」

天測士「ちょっと……!」

斧使い「しーっ、隠密行動!」

天測士「わ、わ、わかってるわよ」

ガサガサ……


隊長「――さてと」


629 ◆k.6bdeNTfg2012/09/28(金) 20:33:25.48o811vaeFo (21/21)

今夜はここまで。
作戦中止? まだもう少し続きます。


630VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/29(土) 06:25:31.50JUqYALr5o (1/1)

乙ー
やっぱり天測士ちゃんを選んだのは間違いじゃなかった!


631VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/10/02(火) 13:45:44.50B4wFXBc5o (1/1)

追いついた
面白い


632 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 00:33:32.85BgN4DlKIO (1/1)

もうちょい待ってくだされ…
明日くらいにはなんとか…


633 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:17:28.26cFOYNAufo (1/23)

隊長「では、今後の作戦を説明する」

救護員「は、は~い」

工兵「それなんだけど、隊長、ちょっといいかな?」

隊長「なんだ?」

工兵「さっきは、生き残りを確認するって言ってたけど、実際、危険じゃん」

工兵「生き残ってる保証もないし、それこそ、囮にでもなる……?」

隊長「いや、囮は考えているが、別に俺達が囮になるわけじゃない」

隊長「発雷装置と爆雷管を使用する。時間差で巻き込むように」

工兵「時間かかるよ」

隊長「ああ、計画は、一応立てた。竜の巣がある方向から推測して、三箇所に」

工兵「……うーん」

隊長「それに、生き残りはいるんじゃないかと思う」

救護員「ほ、ほんとですかねぇ」

隊長「考えてくれ」

隊長「なぜ、さっき竜がこちらの行く手を阻んだか」


634 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:18:00.35cFOYNAufo (2/23)

工兵「こっちを察知したからじゃないの」

隊長「雨の中、視界も良くないのに?」

救護員「……あ、雨の中でもよく見えるんだ!」

隊長「なら、晴れる前から行動してるはずでしょ」

工兵「……生き残りを追いかけていた」

隊長「その通り」

隊長「あの光の柱は、別働隊たちの、おそらく最後っ屁みたいなもんなんだろう」

隊長「あれが発動するより前に、逃げ出した奴がいるってわけだ」

隊長「それを追いかけて、たまたまちょろちょろ動いている俺達を見つけた、だから正面に立ちふさがったんだ」

隊長「おそらく……あの柱から、竜が移動していた方向から考えると……」


隊長は、暗い草地を指さした。


隊長「……あの辺りから、こっち方面が中心だろう」

救護員「おお~……」


635 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:18:31.42cFOYNAufo (3/23)

隊長「じゃ、まず、発雷装置と爆雷管の組み合わせを三個用意して」

工兵「分かった」

救護員「む、むむ」

隊長「救護員は、出来たものから順に背負って」

救護員「了解です!」

隊長(星が出てきたな……)

隊長(竜の生態は不明だ。勇者が討伐したことによって、謎が深まった)

隊長(稀に出てきても、一匹が関の山だったから……)

隊長「……黄泉が近いな」

二人『え?』

隊長「なんでもない」

隊長(姉ちゃん、こっちの方が先にくたばりそうだぜ)


636 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:18:57.94cFOYNAufo (4/23)

数分後。

工兵「……よし」

救護員「う、なんか、声がしてきたような」

隊長「あまり言葉で命令は出さないから」

隊長「――出発」

コクコク。

隊長「……」ザッザッザッ

救護員「……」サク、サク

工兵「……」


隊長は、身を低くしながら先頭で歩き方の手本を見せる。

空から眼下の獲物を狙うには、いくら星の明かりが強烈とて、難しい。
加えて、隊長は、直線的に移動するのではなく、風の吹く方向に沿いながら行動することを考えた。
背丈の高い草が風に揺れる方向を加味しながら、それに紛れて移動するのだ。


  グルォォォォォォンン―― グァァァァァ


咆哮だか、掛け声だか分からない声が聞こえる。


637 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:19:30.72cFOYNAufo (5/23)

―――草地中心部。

隊長「……停止」

隊長「……周囲、よし」

隊長「設置はじめ」

工兵「……」コク

救護員「……えっと」

隊長「落ち着いて、下ろして」

工兵「遠隔は無理だからね、時限っつったって限界がある」

隊長「しっ」

工兵「ん」カチャカチャ

救護員「……うう、ドキドキする」

工兵「……できた」

隊長「よし。移動準備」

隊長「移動再開」


638 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:20:09.36cFOYNAufo (6/23)

―――林、付近。

隊長(もう一つ、設置は出来た)

隊長「……停止」

隊長「……周囲確認。ちょっと待て」


ガサッ!


救護員「ひっ」

工兵「しっ」

隊長(魔物か? くそっ! こんな時に)


はぁはぁ、という息遣いが近づいてくる!


隊長「武器、準備」

工兵「ん」チャキ

救護員「ううう、うそ、うそ」

隊長「救護員、木の影!」ヒソヒソ

救護員「は、はい!」

隊長「来るぞ!」


639 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:20:41.80cFOYNAufo (7/23)

――商人が現れた!


隊長「!? おい、ちょっと待て!」

商人「ひゃああああっ!」

工兵「えいっ」


工兵の攻撃! 商人は頭を殴られた!


商人「ひいっ、ひいぃ……」

救護員「ひ、人! 人ですよ」

工兵「あ、ごめん」

隊長「しーっ、しーっ!」

工兵「なんだ、商人じゃん。特組の」

商人「いやああ、もういやああ!」グスグス

隊長「ば、バカ! 泣いてる場合か!」


640 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:21:30.67cFOYNAufo (8/23)

商人「来てるの! そこまで!」

救護員「き、来てる!? ドラゴン!?」


犬「アオォォン!」

ゾンビ犬が現れた!


三人『……』

隊長「……俺が殴る。派手に音を出したら困るし」


隊長の攻撃! ゾンビ犬は崩れ落ちた!


641 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:21:58.05cFOYNAufo (9/23)

隊長「ええっとね……」

商人「な、なによ、一人で怖かったんだからぁ!」

救護員「そういう問題じゃないでしょ」

工兵「あ、隊長、確か、商人は十三番隊に所属してたはずだよ」

隊長「ふーん、生き残りか」

商人「いきのこ……」

隊長「まあ、待て。とにかく、ここで騒いでいたらまずい」

救護員「ふうぅ、脅かしやがって」

工兵「まったくだ」

商人「なに。この扱い……!」

隊長「とにかく、俺の指示に従ってくれ。俺は二十八番隊の」

商人「あ、う、しろ……」パクパク


風を感じた。

三人が、振り返ると――――


竜「ギャオオオオオオオオオオオン!」


竜が現れた!


642 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:22:26.70cFOYNAufo (10/23)

隊長「全員、目を閉じろ!」

隊長「……工兵、発光弾!」

工兵「おお!」くるり


工兵は発光弾を発射した! 閃光が辺りを包み込む!


竜「グギャァアアアアアアア!」

隊長「……南方へ向かって走れ!」

工兵「おお!」ダダダッ

商人「ひぃいやあああああ!」

救護員「わああああああああ!」

隊長「叫ぶな! 走れ!」

隊長(くそっくそっ、早すぎだ!)

隊長(設置した囮も役に立たねぇぞ――)


643 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:22:58.74cFOYNAufo (11/23)

隊長「はっ、はっ、はっ!」

工兵「ぜっ、はっ、はあっ!」

商人「へひゅっ、ひゅごっ」

救護員「げほっ、がはっ!」

隊長「頭を、下げろ! 三歩、先! 窪地に、飛び込め!」


工兵のヘッドダイビング! 続けて、二人が飛び込む!


工兵「ぐへぇ」

商人「きゃあっ!」

救護員「ごぼぉ」

隊長(後ろは!?)


隊長は振り返る、先ほど出くわした竜は、姿を見失ったか、見当たらず。

空を見上げる。
飛んでいる竜の姿は見当たらない。


隊長(まいたか……?)


644 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:23:31.17cFOYNAufo (12/23)

工兵「隊長」ハァハァ

隊長「……待て」

商人「ひぃ、ひぃ……」

隊長「……声はする」

救護員「あの、あの、ここ」ケホッ

隊長「うん?」

救護員「ここ、もしかして、なんか光が立ち上っていたところじゃないですか……?」

隊長「なんだって?」

工兵「……うん、そうだ」ゼェハァ

工兵「この窪み、自然に出来たものじゃない」


工兵が、飛び込んだ穴を触って確認している。

確かに、不自然なほど滑らかに、その窪みはえぐれていた。
ごっそり空間を切り取ったかのごとく、円状の窪みができている。


645 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:23:59.30cFOYNAufo (13/23)

隊長「救護員、水は残っている?」

救護員「イエスです、隊長!」

隊長「みんなに、水を回して。警戒はしながら」

救護員「了解!」


救護員が水を配りながら、四人ともが息を吐く。
窪みで身を低くしつつ、ではあるが、呼吸を整えていく。


隊長「……商人」

商人「こ、こここ、ここよ」

隊長「ここが竜との交戦地か」

商人「お、思い出したくない、わ」

救護員「……どんな感じだったわけ?」


646 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:24:25.62cFOYNAufo (14/23)

商人「どんな感じも何も! 突然、ぶわーっと現れて、こっちが応戦する間もなく、しっぽで張り飛ばされたわ」

商人「二番隊は戦ってたけどね……召喚士は、早々に諦めて、負傷者を集めていたけど」

救護員「あなたは何してたんですか?」

商人「わ、私は……」

隊長「待て」

工兵「どうしたの?」

隊長「交戦地だとして、死体は? 負傷者は?」

工兵「……なにもないね」

救護員「焼き払われちゃったんじゃないですかぁ」

商人「怖いことを言わないで」

工兵「この手触りからすると、炎の形跡はないね」

救護員「……あの光の柱は、周囲を巻き込む自爆の魔法だった、とか」

商人「そんなわけないでしょう!」


647 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:24:57.11cFOYNAufo (15/23)

隊長「何か、心当たりでもあるのか?」

商人「いや、その、えっと……」

商人「……彼は、最後まで諦めない人だったし」

隊長「ふうん」

隊長(話が通じないやつだとばかり思っていたけどな……)

救護員「要するに、商人は諦めて逃げちゃったんでしょ?」

商人「そんなこと、ここで言わなくてもいいじゃないの」

工兵「地面ごと、えぐるような、例えばどんな魔法?」ブツブツ

隊長「……工兵、もう十分だ」

工兵「いや、でも」

隊長「交戦地だとすると、もう生き残りがいるとは考えにくい」

商人「う」

隊長「……それにその、ここで交戦していたってことは」


ぶぁさっ! ばさばさっ!

  ギャォォォォォオオオオオオ!


隊長「……来たか」


648 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:25:47.58cFOYNAufo (16/23)

救護員「あ、あの、隊長」

商人「な、な、なにか、囲まれてない!?」

隊長「水筒は捨てておけ、まともにやりあうな」


竜が現れた!

竜が三匹現れた!


隊長「……多いな」


竜が二匹現れた!

竜が現れた!

巨竜が現れた!


隊長(……追い込まれたのか? いや、そんな知恵を持ってるようには……)

工兵「……いっぱいいるね」

商人「どう、ど、どうするの! 切り札とかなんとか、ないの!?」

隊長「切り札なんかない」

隊長(あったらとっくに使ってる)


649 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:26:33.76cFOYNAufo (17/23)

隊長「工兵、時間は?」

工兵「もうそろそろ」

隊長「よし、囮のタイミングに応じて、一発めくらまし」

隊長「その後、さらに南方向へ撤退」

隊長「……当初の予定通りだ」

商人「よ、予定って……」

隊長「見ろ、連中はこちらを警戒している。光の柱のこともあるのだろう」


竜は様子を伺っている……


救護員「は、はは。生ドラゴンは、もう一生分見ましたよ」

工兵「救護員、僕の背中に」

隊長「……まだ動くなよ」


ズン、と巨竜が一歩、近づいた!


隊長(……まだか!)


650 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:27:00.50cFOYNAufo (18/23)

巨竜が、口を開く。そのクチの中に、青白い炎が膨らんでいる――

   その時、ドン、と遠くで、火柱が上がった。


隊長「……工兵!」

工兵「いくよ!」


工兵は閃光弾を投げつけた――


651 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:27:31.82cFOYNAufo (19/23)

―――七番隊。

天測士「よし、ここの崖から降りるのよ!」

斧使い「ええ~? けが人がいるんだけど?」

狩人「仕方ないねー。リーダーの予言は絶対だから」

占い師「ひぃ、はぁ。やっぱり、か、体、鍛えなきゃ~?」

斧使い「おっと! 俺が運んでやるぜ」

占い師「あ、ありがとう~」


天測士「ほら、あんたたちも降りなさいよ!」

剣士「……」

術士「……」

剣士「抱えるぞ」

術士 コク

剣士「……チッ」


652 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:27:59.63cFOYNAufo (20/23)

天測士「大丈夫、これから先、竜を引き付ける何かが発生するから」

天測士「そこに寄せられて、私たちは逃げられる」

斧使い「それって、あいつらが……」

狩人「……仕方ないねー」

剣士「くだらねぇことを言うな」

術士「……」

      ―― ドン!

斧使い「!」

狩人「あー……」

天測士「振り返らない! 私たちはけが人を抱えているの」

天測士「全力で脱出!」

      ―― ドン!


653 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:28:25.73cFOYNAufo (21/23)


      ―― ドォォォン!!

天測士(……三つ目!)

天測士(二つは予測、できていたんだけど……)

占い師「……リーダー、何か、あり、ました?」ハァハァ

占い師「私、みま、しょう、か?」

天測士「いらないわ」

天測士「こういう時は、行動をぶれさせちゃダメ!」

天測士「自分に関することは、一切予測できている、はず!」

天測士「私にかかれば……」

剣士「……斧使い、前方に注意しろ」

斧使い「なんだ?」

剣士「竜の食い散らかしを狙っている魔物だ」

天測士「ん! 予測できているわ!」

剣士「なら、早く指示を出せ」

天測士「分かってるわよ!」

天測士(……隊長、死ぬんじゃないわよ)



654 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:29:48.17cFOYNAufo (22/23)



その後、七番隊は夜明けまでに、無事に谷の周辺地域から離脱した。

二十八番隊は―――


作戦6、終了。


655 ◆k.6bdeNTfg2012/10/03(水) 22:37:09.74cFOYNAufo (23/23)

【選択肢】作戦が終了しましたが、隊長の安否が確認できていません。
一旦、以下のどれかの視点でお届けします。


剣士:呪術印によって傷ついている。戦力外も宣言されたので傷心

術士:バリア張ったけど、勝てなかったよ……絶賛療養中

その他:天測士、学園側へ怒りの交渉/会長、「討竜戦隊」で意気込む


今夜はここまでです。
遅筆でごめんよ


656VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/10/03(水) 23:05:10.83F+PH6rLC0 (1/1)

天測士見たいかな


657VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県)2012/10/03(水) 23:24:00.70UX0Eex8Lo (1/1)

天測士ちゃんだわ


658VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/03(水) 23:29:24.83bAA3vrbao (1/1)


やはり天測士ちゃんかな
剣士も気になるけど


659VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/10/03(水) 23:46:43.58vh6V7F2Mo (1/1)

おつん
俺は剣士だな


660VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2012/10/04(木) 11:20:11.143mDo2MeAO (1/1)

剣士と天測士
チームの内と外で両方見たいな


661VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/04(木) 16:10:14.333lqdf/Fro (1/1)

天測士も捨てがたいけど剣士で!


662 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:07:22.67ek2j9trso (1/13)

では、半々くらいで。みんな天測士好きだなぁ。

天測士「(*゚∀゚)b やるじゃない、あんたたち!」

こんな感じで喜んでいるに違いない。



663 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:07:50.94ek2j9trso (2/13)

――天測士。

天測士「……5日経ったわ」

斧使い「そうだな」

天測士「あんたたち、何も思わないわけ!?」

占い師「う~、そりゃあ、あっちは大変だと思いますけど~」

天測士「そうじゃなくて!」

狩人「はっきり言ってくんなきゃわかんねーだよ」

忍者「二十八番隊の残った三人の安否、それに、今回の作戦以後の学園側の対応に不満があるのですな」

天測士「そう! 忍者くんは本当に物分かりがいいわね」

斧使い「そんな話で俺ら全員集めたの?」

天測士「当たり前じゃない、抗議しに行くのよ」

斧使い「パス」

狩人「僕もだねー」

天測士「どうしてよ!?」


664 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:08:26.18ek2j9trso (3/13)

占い師「……不満はあるけど、一人でやるのは怖い、って出てますよ~」

天測士「占うな!」

忍者「上層部に問うには、我らには荷が重過ぎますな」

天測士「冷静に判断しない!」

斧使い「しょうがないだろー?」

天測士「ふん、あんた、隊長とは友達だったんでしょ? 友達がいのないやつ!」

斧使い「……うるせ」

天測士「私も分かっているわ。竜が、十匹もいたら、うちの学生が相手になるわけないもの」

忍者「十五匹です。確認できた数のみで」

占い師「……よく、生きて帰ってこられたわね~」

天測士「でも、だからって、プロを集めるのに時間がかかってるからって、安否の確認に人もやらないだなんて……!」

斧使い「不用意に近づいたら、やられるだけだろうに」

狩人「あまり先生も追い詰めちゃダメだよ。二隊全滅、一隊は二人だけしか残らなかったなんて、学園としても大失敗なんだから」

天測士「こっちは一匹落としたのよ!」

狩人「剣士くんがね」


665 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:08:57.73ek2j9trso (4/13)

天測士「ああ、怒りが収まらない!」

斧使い「あのなぁ、もう5日目なんだぜ?」

天測士「だから何よ! あの二人は大怪我しているんだし、そういうのも代弁して上げるべきじゃないの!」

斧使い「だからって、日参して先生問い詰めてもしょうがないだろ……」

天測士「……」ウロウロ

占い師「でも、今度の件、正直に言って、私達……」

天測士「そうよ! 予測を徹底させて、大怪我はしなかったものの、どう考えても足手まといだったわ」

忍者「ですな」

四人(あんた以外の話だけどね)

天測士「……傷ついたとはいえ、よ」

天測士「さすが一組の剣士、竜を倒した」

天測士「術士ちゃんは竜の火炎を防いだ」


666 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:09:29.60ek2j9trso (5/13)

天測士「他の連中も頑張ってたし、何より体力が違ってたわ」

狩人「僕も目に命中させたんだけどなぁ……」

天測士「そこはさすがだったわ! あの雨の中で」

狩人「えへん」

天測士「でも、とにかく、このままでは、竜を相手取ることはとうてい無理よ」

斧使い「……相手取るつもりなのか?」

天測士「当たり前じゃない。恐怖を恐怖のままにしておく、それよりは、立ち向かう手を考えるべきよ!」

占い師「で、でも~」

天測士「……このまま黙ってて、本当にいいの?」

天測士「私達、これでこの作戦関係は終わりにしていいわけ?」

忍者「終わりも何も、調査自体は終了しました」

天測士「だけど! 一緒だったパーティがバラバラで、それを助けることもできないじゃない!」

天測士「見に行きたいって言っても、足手まといだからダメだって言われるし!」

四人(言ったんだ……)


667 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:09:57.96ek2j9trso (6/13)

天測士「だったらせめて、追いつけるように、鍛えたりしないと!」

占い師「き、鍛える……」

狩人「わー、一番いやな響きの言葉だー」

斧使い「まあ、いいんだけどよ。作戦が出来ないなら、そういうのしかないわけだし」

天測士「賛同してくれるのね!?」

狩人「よ、余計なことを」

天測士「そうね! たとえば忍者の訓練法とかどうかしら」

忍者「私の、訓練法ですか?」

天測士「そ、そうよ! その、秘密ならしょうがないけど……」

忍者「それほど秘密でもなく、難しい方法でもありません」

斧使い「へぇ~?」

忍者「単純に五感を鍛えるのですよ」


668 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:10:28.07ek2j9trso (7/13)

忍者「普段は農作業をします。食料生産は忍びの要ですから」

天測士「……えーっと、そこは重要なわけ?」

忍者「走力を鍛えるために長い布を腰に巻いて、地面につかないように走ったりします」

斧使い「なんか変な訓練だな」

忍者「まあ、走力と言うよりは転ばないように走る訓練ですかね」

忍者「後は遠目とか、夜目を鍛える訓練、味や臭いで毒物を判断する訓練もやります」

忍者「毒は意外と見抜けないですからね」

狩人「分かるわ。きのことか難しいもんねー」

忍者「あとは、砂の入ったツボに指を突き入れて、指先を鍛えます」

占い師「え~?」

忍者「足の指だけで、天井が歩けるようになったら、一人前ですね」

天測士「どこのびっくり人間よ……」


669 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:10:59.83ek2j9trso (8/13)

忍者「まあ、後はこれくらいですかね」 ドサッ

斧使い「ちょ……」

占い師「重り……ですか~?」

忍者「普段からつけています。矢を防ぐために、鎖で出来た衣服で、鎖かたびら、と言います」

狩人「えっと、普段からって」

忍者「訓練にもなりますから」

斧使い「おい、リーダー、持ってみろよ」

天測士「……おもい」どっしり

斧使い「わははは、持ててねーじゃん!」

忍者「着せましょうか」

天測士「む、無理無理無理無理!」

狩人「訓練だよー、リーダー」

天測士「あ、あんた達!? 自分に見合った訓練をしないと!」

忍者「それでは竜に勝てませんぞ」

天測士「いやああああああっ!」


670 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:11:26.14ek2j9trso (9/13)

ガラッ。

呪術士「ええっと……」

斧使い「わーっしょい! わーっしょい!」

天測士「助けて!」

呪術士「ううんっと、先生が呼んでるからって頼まれたんだけどね」

狩人「そー、なんだ? そー、いやっ、ソイヤッ!」

天測士「わ、分かった! 分かったから!」

呪術士「とりあえず、隊長格だけでいいって」

天測士「ほ、ほら、あんた達、呼ばれてるから! 私、呼ばれてるから!」

忍者「まったく我が隊は不真面目ですな」

天測士「……はぁはぁ」

呪術士「……」

天測士「ちょっと待って」

天測士「……お前もだろうがっ!」ぺし

忍者「はは」


671 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:12:00.10ek2j9trso (10/13)

職員室。

天測士「天測士、来ましたけど」

教師「ああ、来たか」

天測士(なんだ? なにか、空気が妙ね)

天測士(……天測してくればよかったわ)

教師「ご苦労さんだった。お前たちの隊だけでも残って、本当に良かった」

天測士「……」

教師「で、まあ、なんだ。七番隊は、昇格して、六番隊となる」

天測士「はぁ……」

教師「そういうわけだ。二番隊が、まあ、あれだからな……」

天測士「……ちょっと待って下さい」

教師「どうした?」

天測士「ひょっとして、今回でいなくなった戦隊を、抹消するってこと?」

天測士「二十八番隊は? 二人いますし、残り三人の安否確認がまだです」

教師「……解散する」

天測士「ふざっ」


672 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:12:26.26ek2j9trso (11/13)

天測士「ふざっけんじゃないわよ!」

教師「な、なんで怒ってるんだ?」

天測士「私達が無事に脱出できたのも、そこの隊のおかげなんです!」

天測士「二人はいるし、三人だって、きっと無事だわ!」

天測士「まだ解決もしてないのに、その、解散だなんておかしいじゃない!」

天測士「……おかしいですよ!?」

教師「いや、それはそうかもしれんが」

天測士「だったら、はっきりと安否が確認できるまで、留めるべきよ!」

教師「そんなことになったら、残された二人が宙に浮くだろう?」

天測士「彼らはまだ休養中なの!」

天測士「そこに、そんな、そんなこと言ってみてご覧なさいよ」

教師「もう、伝えてある」

天測士「……!」


673 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:12:56.62ek2j9trso (12/13)

天測士「ふ、ふふふ……」

天測士「……学園は、戦隊で売り込みたいのかもしれないけどね」

天測士「肝いりで始まったものが失敗したからって、体面取り繕うために、抹消措置とか」

天測士「バカにしてんのか!」 バンッ!

教師「落ち着いて、話を聞いてくれ。お前たちには何も悪いことはないだろう」

教師「……番号が早い順から、就職先に声がかかるようになっているんだぞ」

天測士「死にくされ!!! くされチ○ポ野郎がっ!!!!」

教師「しっ……!」

教師陣『……』

生徒『……』

全員(すごいこと言ったぞ)


674 ◆k.6bdeNTfg2012/10/04(木) 23:13:38.85ek2j9trso (13/13)

短いですが、今夜はここまで。
剣士視点⇒合流と続きます。


675VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/10/05(金) 08:27:39.19WhKm1CSX0 (1/1)

ええ子や
選んで正解でしたわあ


676VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/05(金) 19:21:50.51vxmgkQjJo (1/1)

流石俺たちの天測士ッ!ありがとうございます!


677 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:43:53.90QHO7XdIPo (1/29)

~~~~~~~~~~~~~~~
過去。

おっさん「あー、ダメダメ」

幼剣士「なんでだよ」

幼会長「えー?」

おっさん「だからよー、体を開かないの」

おっさん「いいか? 獣は四足歩行、腹を地面に向けている。人間は立ってるから腹が無防備」

おっさん「内蔵詰まってるし、腹は柔らかい。殴られたら痛い、攻撃されたら死んじゃう」

おっさん「腹を守る!」ポンポン

幼剣士「……こう?」サッ

おっさん「ダメー。体を真横にして、顔だけ向けてみろ」

幼会長「こうだ!」

おっさん「そうそう」


678 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:44:23.71QHO7XdIPo (2/29)

おっさん「他にも、両手持ちに武器を持ってみろ」

幼剣士「……こうだ」ガシッ

おっさん「そうそう。そういう時でも、持つことに精一杯じゃなくて、相手を見据える」

幼剣士「……」すすす

おっさん「そう、相手が移動したら、真正面に来るようにこっちも回転する」

幼剣士「よし!」

おっさん「バカ」ぽこん

幼剣士「おいた!」

おっさん「横からの攻撃に強いわけじゃない、構えたら相手と距離を詰めるつめる」

幼会長「むむむ。うごくなよー!」

おっさん「はっはっはっは」


679 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:44:50.96QHO7XdIPo (3/29)

幼剣士「はぁ、はぁ、おっさん、強すぎ」

幼会長「ひぃ、ふう」

おっさん「いんや、ま、俺が見てきた中ではお前らは強くなれる方だな」

幼会長「ほんとか!?」

おっさん「ほんと」

幼剣士「……でも、おっさんにまけるし」

おっさん「そりゃ、これから頑張れば強くなれるし、何もしなければ、体だけでかくなる」

幼剣士「ちっ、からかってんだろ」

おっさん「はっはっはっは。からかってるけど、嘘じゃねーしなー」

幼会長「……ほんとは、りゅうをたおしたなんてうそなんだろ?」

おっさん「それもほんと」

二人『うそだー』


680 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:45:59.39QHO7XdIPo (4/29)

おっさん「……ま、どっちでもいいさ。あらかた倒しちまったから、お前ら一生会わないかもしれないし」

幼剣士「でも、どうやってたおしたんだ」

おっさん「そりゃ、竜だって生き物だ。強靭な皮膚、鱗、だけど爪の間とかはどうだ? 意外と斬れる」

おっさん「魔法を跳ね返す? 口の中に爆弾でも放り込めば一発だ」

おっさん「血管もあるし、首筋がそこまで硬いわけじゃない。俺は無理だけど、戦士とかやってたし」

幼会長「ええー?」

おっさん「……何より、竜は弱くなってたんだ」

幼剣士「ふーん?」

おっさん「本当だぜ。竜は元々強いからな。魔法だって使えたって話がある」

おっさん「はるか昔には悪魔と戦ってたらしいからな。だが、敵がいなくなれば、そういうのは廃れる」

幼会長「……よくわかんない」


681 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:46:29.27QHO7XdIPo (5/29)

おっさん「うーん、そうだなー……」

おっさん「……今まで剣の腕を磨いてたのに、平和になっちまった」

おっさん「そうしたら、剣の使い方より、お金の計算が出来る方が人生で役に立つわけだ」

幼剣士「えー?」

幼会長「なるほどー」

おっさん「もちろん、道場を開いてお金を稼ぐとかが考えつければ別だけどよ」

おっさん「そういう、一個だけ磨くってのは、案外恐ろしいもんよ」

幼剣士「でも、おれはけんがつよくなりたいよ!」

おっさん「別に悪いわけじゃない。でもな、世の中には、剣の腕が大したことなくても、強い奴がいるんだよ」

幼会長「ほんとにー?」

おっさん「たとえば、俺だ。俺は戦士よりも剣の腕はしょぼい」

幼剣士「……ふーん」


682 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:47:19.56QHO7XdIPo (6/29)

おっさん「だが、自分の力量をちゃんと理解して、相手を良く見ていたからな」

おっさん「誰にも負けなかったし、竜だって倒した」

おっさん「……お前らの周りにもいるだろ? 喧嘩は苦手、計算も不得意、だけどこっちをよく見ててさ」

おっさん「『俺なんかまだまだ』とかいうやつさ」

幼会長「いる、かなぁ?」

おっさん「いるんだよ!」

幼剣士「どうかなぁ?」

おっさん「うるさいぞ、お前ら!」

おっさん「……とにかく、そういうやつは化けることもあるんだぜ? 魔物にもたまにいるんだ」

おっさん「よーく、こっちを見ている奴。そんなやつほど、成長するんだ」

おっさん「竜もそうだ。俺があらかた倒したことで、もしかしたら、次のやつらはより知恵をつけているかもしれん」

二人『……』ごくっ

おっさん「ははは、ビビッてんじゃねぇ―よ」

幼剣士「び、ビビってなんかない!」


683 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:47:48.19QHO7XdIPo (7/29)

特務機関職員「……あ! ……さん、こんなとこにいた」

おっさん「おうおう、どうした?」

特員「こんなところでサボってないで、もう他所の土地に行かれるんでしょ?」

おっさん「後進の育成も大事なことだぜ」

特員「そう言われましても……」

幼会長「おっさん、行っちゃうの?」

幼剣士「まだだ! おれたちがかつまで!」

おっさん「まあ、もう少し付き合ってやるよ」

幼会長「おっさんみたいに、つよくなる!」

おっさん「おお、頑張れ頑張れ」

幼剣士「バカにしてんの?」

おっさん「してないさ。だが、お前らは挫折を味わったこともないだろ?」

おっさん「そういうガキには、強くなれって言っても伝わらないよ」

二人『え~?』


684 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:48:29.75QHO7XdIPo (8/29)

おっさん「これはホントさ。ホントに強くなれる時ってのは、挫折の瞬間だ」

おっさん「勝てそうもない相手にあった時、実際に負けた時、なんでもいい。立ち止まる時がくる」

おっさん「あるいはみじめに追い返されたりしてな。ははは!」

幼剣士「そんなこと、ない!」

おっさん「あるある」

幼会長「おっさんも、そういうこと、あったの?」

おっさん「あったとも。いくらでも。けど、俺は諦めなかった」

おっさん「そういう時に諦めないと、とんでもないことをやらかす人間になれるんだ」

特員「それって、悪い意味にも取れますよね」

おっさん「ははは! その通りに決まってんじゃん!」

特員「なに、子どもに教えてんですか!」

おっさん「いいんだよ。どっちだって」

おっさん「諦めない奴が強いのは、善悪関係ないからな」

特員「もう、勇者さんは……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


685 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:49:04.02QHO7XdIPo (9/29)

談話室。

呪術士「……し。剣士?」

剣士「あ?」

呪術士「あ、じゃないわよ。せっかく診ているんだから、ちゃんと聞いて」

剣士「聞いている」

呪術士「……いいけどね。呪術痕、診させてもらったわ」

剣士「どうなんだ?」

呪術士「……あなた、これ、自分一人でやったのよね?」

剣士「独学だ」

呪術士「はっきり言うわ。解析にかなりの時間がかかる」

剣士「だからなんだ」

呪術士「だから、治療がどうのとかは難しいの」

剣士「症状は話したはずだ。慢性的な軽いしびれ。発動した際の反射で自身への攻撃」

呪術士「だから、聞いてもよくわからないのよ。一部は私でも分かるような術式が使用されているけど」


686 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:49:35.45QHO7XdIPo (10/29)

剣士「単純にそれの組み合わせだと思うんだが」

呪術士「そんなものにはなってないわ」

呪術士「あなたの、その、感情っていうのかしら。それが、かなり呪いを増幅しているところはあるし」

剣士「……」

呪術士「正直なところ、解呪って、相当難しい術なの。下手に解いても、命ごと開放しちゃうかもしれないし」

剣士「要するに、俺はどこまで治る?」

呪術士「普通に治療すれば怪我は治るわ。呪術については、二ヶ月くらいもらえれば、なんとか……」

剣士「……チッ。わかった、いらねぇ」ガタッ

呪術士「な!」

剣士「要は、持病みたいなもんだと思えばいいんだろう」

呪術士「あ、あ、あなたねぇ」

剣士「……いいんだ。どの道、呪われているようなもんだ」

呪術士「はあ?」


687 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:50:10.84QHO7XdIPo (11/29)

剣士「……」スタスタ

呪術士「ちょっと待ちなさい!」

剣士「なんだ?」

呪術士「私にもプライドがあるわ! せめて、一週間!」

剣士「遅すぎる。隊長を探しにいかないといけねぇ」

呪術士「あ、あ、あのねぇ」

剣士「それとも、あんたも来るのか?」

呪術士「いや、私だって、自分の戦隊があるし」

剣士「そうだろ」

呪術士「いや、でも、あの」

剣士「……」クルッ

呪術士「お、思いが残るわ。私の、悔しいって思いが」

剣士「ありがとう」ペコッ

呪術士「……へ?」


688 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:50:54.55QHO7XdIPo (12/29)

剣士「……」スタスタ

呪術士「ち、ちょっと!」

剣士「……」

剣士(『諦めない奴が強い』)

剣士(隊長は生きているはずだ。だが、そのままにしておいて生き残れるとは思えない)

剣士(……テーピングはキツくした。武器を触れないわけじゃないし)

剣士(いざとなれば、魔物を避けて、隊長のみ救い出すって手もある)

呪術士「待ちなさい! 私も自分のところの隊長に言ってくるから!」

剣士「あ?」

呪術士「大体、その、独学であそこまで複雑なものを作られちゃ、悔しくてしょうがないっての!」

剣士「いらねぇよ」

呪術士「……まあ、自分の戦隊長が苦手ってのもあるけど」

剣士「いらねぇーって」


689 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:51:21.41QHO7XdIPo (13/29)

廊下。

会長「……ん、おい!」

剣士「……」スタスタ

会長「剣士、剣士ってば」

剣士「……チッ」

会長「なんだよ、また、だんまりになって」

剣士「……お前、俺に気を使え」

会長「なんでさ」

呪術士「ちょっと……早い……はぁはぁ」

剣士「分かるだろうが!? いちいち言わせる辺りが、本当にお前は無神経なクズだな!」

会長「いや、知らないけどさ。今度の、竜退治、俺達も行くんだ」

剣士「……!」

会長「けど、プロの邪魔になるだけかもしれない」

会長「だから、隊長を……」

剣士「いらねぇ。隊長は自力で帰ってくる」


690 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:51:54.08QHO7XdIPo (14/29)

会長「なんでそんなことを言うんだ? 剣士だって、隊長のことは好きなんだろ」

剣士「俺は事実を述べただけだ!」

剣士「隊長は強いんだ、あいつは、最後まで、諦めたりしない……!」

会長「……」

剣士「失せろ。お前の顔を見ていると、むかむかする」

剣士「自分に絶対に勝てない相手を、上からヘラヘラ笑って見ている、そんな感じがする」

会長「……そんなつもりはない」

剣士「俺がどう感じるかだよ! はっ」

会長「そんなこと、言われても」

剣士「……俺の腕はな」

会長「なに?」

剣士「呪術で、使い物にならないかもしれん。お前に対する憎悪の念が強すぎて、自分に受けるダメージが強すぎたんだってさ」

会長「知るかよ」

  呪術士「えっと……」


691 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:52:24.05QHO7XdIPo (15/29)

剣士「……最強の一番隊様が、俺なんかに何か言うのはやめろ」

剣士「お前を見ているだけでも不愉快だ」

会長「僻んでんじゃねーよ」

剣士「あ?」

会長「俺がどんな気持ちで、ここにいるのかも分かんねーのか」

剣士「……『なんでこいつが生き残ってんだ』」

会長「はあ?」

剣士「『隊長の方が、よっぽど面白いやつだったのに』」

会長「お前、殴られたいのか?」

剣士「お前の首は竜より硬いか? 腕を台無しにするならな、俺はお前を殺せるぞ!」チャキ

会長「バカも休み休み言え!」

会長「……はっ、確かにな。お前みたいなやつを割り当てられた、隊長がかわいそうだ」キン

  呪術士「ちょっ、やめなさーい!!」


692 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:52:51.70QHO7XdIPo (16/29)

剣士「言ってろよ……」

会長「……あーあー、はっきり分かったぜ」

会長「隊長がバカだったんだな。お前ごときを、制御できない」

剣士「!」

会長「生き残りの確認? 囮? 最下番台とはいえ、身の程知らずって言えるんじゃないの」

剣士 プルプル

会長「ま、立派に務めを果たしたわけだ。せめて自分たちより優秀な七番隊だけでも……」

剣士「あいつをバカにするな!」

呪術士「呪法、転ばし!」


呪術士は、呪法で二人をすっ転ばせた!


剣士「うおっ」

会長「わわっ」

呪術士「……一組の人は頭おかしいんですか? こんなところで喧嘩して」

呪術士「みなさんが成すべきことはなんなんですか?」


693 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:53:21.12QHO7XdIPo (17/29)

呪術士「こんなところで喧嘩していれば、何か願いが叶うんですか?」

呪術士「まったく……」

      短パン「お、呪術士!」

呪術士「ひっ」ビクッ


      短パン「おおおおおおおい! そんなところでっ、会長たちと、なにやってるんだぁああああああああああっ!!!!」


呪術士「と、と、とにかく、喧嘩はダメですからね!」ダッ

呪術士「あと、剣士さんは、勝手にどっか行かないで、私も、師匠とかに」ダダダッ


     短パン「どうしたんだぁあああああっ! 今行くからなあああああああああああ!」

  呪術士「どうもしてないから、近寄らないでぇぇぇぇぇぇぇ……」


会長「……えーと」

剣士「……」


694 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:53:48.72QHO7XdIPo (18/29)

会長「……とにかく、無理すんなよ」

剣士「……チッ」

会長「行くからな」

剣士「……」

会長「ったく」

剣士「……爪の間も、斬れた」

会長「あ?」

剣士「口の中に、爆弾を放り込んだのも、効いていた」

剣士「首も……落とせた」

会長「……」

剣士「『竜だって生き物だ』」

会長「……」

剣士「……知恵をつけているかもしれん」

会長「ああ。肝に命じておく」

剣士「……」


695 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:54:14.46QHO7XdIPo (19/29)

病室。

剣士「術士はいるか?」

術士「いるわ」

司書「まだ療養中なのに、逃げるわけもないでしょうに」

剣士「……」

術士「あ、ありがとうございました」

司書「はいはい、おばさんは退散しますよっと」ガタッ

術士「いえ……」

剣士「……すみません」

司書「あら。謝っちゃってまあ」

司書「ちゃんと謝れる子は、私は好きよ」

剣士「……チッ」

司書「おい」


696 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:54:43.95QHO7XdIPo (20/29)

剣士「何の話をしていたんだ?」

術士「召喚のこと」

剣士「話が見えん。なぜだ」

術士「説明が少し、必要だから。後にしてもいいかしら」

剣士「……分かった」

術士「それで、どうかした?」

剣士「正式に解散指示が出た。二十八番隊もこれで終わりだ」

術士「そう」

剣士「俺は自由に動いてみる。隊長を探りたい」

術士「無理してない?」

剣士「そんなことはない」

術士「その腕、まだ治ってないでしょう」

剣士「……」


697 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:55:13.84QHO7XdIPo (21/29)

術士「どうなの?」

剣士「解析するまでに二ヶ月らしい」

術士「だったら、待てばいいわ」

剣士「待ってられるか。持病みたいなものだと思えばいいんだ」

剣士「どうせ、俺には敵わない相手なんかいくらでもいるんだ」

術士「……」フー

剣士「なんだよ」

術士「……隊長なら、どう説得したかしら」

剣士「……うるせぇな」


698 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:55:39.97QHO7XdIPo (22/29)

剣士「解析して、もし二度と治らないってなったらどうする?」

術士「逆に、治療に専念すれば完治するってなったら?」

剣士「ならねぇよ。なんとなく分かる」

術士「いずれにせよ、もう少し待つべきだわ」

術士「情報が足りてないもの」

剣士「……情報ってのは何の情報だ?」

剣士「待ってたら、舞い降りてくるのか!?」

術士「……うまく、言えないわ。だけど、隊長を探しに行くのが、最善とは思わない」

剣士「救助を待っていたらどうするんだ!」

術士「そうね。3日前なら、助けられたかもしれないわね……」

剣士「……」

術士「仮に、救助を待つような状態なら、5日間は長すぎだわ」

剣士「そんなことはねぇ……」

術士「私は、隊長は脱出していると思うわ」


699 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:56:11.23QHO7XdIPo (23/29)

術士「脱出しているとしたら、ここに戻ってくるまで、もっと時間がかかることもあり得る」

剣士「そんなものは願望だ!」

術士「願望かもしれないわ。けど、救助を待っているなら、もう助けられない状態」

術士「つまり、何をしても無駄だわ。どちらにせよ、別の手段で情報を集めるべきよ」

剣士「……チッ」

術士「……」

剣士「チッ、クソが」

術士「舌打ち、しないで」

剣士「あ? あー、すまない」

術士「……私も、信じたくない。隊長は……」

剣士「やめろ」


700 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:56:37.34QHO7XdIPo (24/29)

剣士「俺も怖がっている。死んでいるかもしれないってことは……ある」

術士「……」

剣士「なら、お前は何をすべきだってんだ?」

術士「剣士は、治療に専念することと、学園内外の動きを探ってほしいの」

術士「仮に、竜が復活したとなれば、そこら辺の冒険者、プロでも普通レベルなら無理でしょ」

術士「国も、動くはず……」

剣士「一番隊も行くはずなんだがな」

術士「そんなに、すごいの? あの人達」

剣士「……二番隊が潰れても学生を出すっていうことは、そういうことなんだろう」

剣士「本人らの希望もあるんだろうが。まあ、お前より強いことは確かだ」

術士「ふーん」ムッ

剣士(むくれやがった)


701 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:57:10.69QHO7XdIPo (25/29)

剣士「で? お前は何の調べ物をしていたんだ?」

術士「……召喚の基礎」

剣士「何のために?」

術士「最後の、光の柱。あれは召喚術のはずよ」

術士「この間、召喚魔法は少し勉強したから、知っているの」

剣士「……それで?」

術士「ところが、あそこに何か召喚されたのかしら」

剣士「知らねぇよ。よく見てないんだから」

術士「少なくとも、あの光の柱が上がってから、竜は別の場所に移動したりしていたわ」

術士「つまり、あれは何かを呼び寄せて始まりを告げたんじゃなくて」

剣士「終わりの焚き火だった、ってわけか?」

術士「そう」


702 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:58:01.87QHO7XdIPo (26/29)

術士「で、召喚の基礎を思い出していたの」

術士「まったく異なる世界から来れば、その世界の法則そのものが、彼らにとっての害毒になるかもしれない」

術士「だから術者は、異世界よりきた者たちの負担を背負わなくてはならないの」

剣士「ふうん?」

術士「術自体も、異世界から力を借りて、終わったら帰ってくれ、という送還の術とワンセットになっている」

剣士「……」

術士「術自体はそういう構成になっているんだけどね……」

術士「みんな普通はどこからどこまでが召喚で、負担で、送還になっているかは、まるごと暗記しちゃうから分からないわけ」

剣士「ああ、なるほど」

術士「うん」

剣士「召喚士が、その送還のみの術を使ったってことか」

術士「あるいは、異界渡り、かもしれない」


703 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:58:28.47QHO7XdIPo (27/29)

剣士「それは、その……」

術士「召喚も送還も、相手を呼んだり、還したりする術よ」

術士「だけど、自分を送り出したら」

剣士「バカじゃねぇのか。目の前の相手を異界送りにすればいいのに」

術士「自分たちより強大な竜を、十五匹も?」

剣士「……まあ、そりゃそうだな」

術士「怪我人もいて、絶体絶命となった時に、とっさに思いついたのかも」

剣士「ふうん」

術士「どの道、全員死ぬよりは、と思ったのかもしれない」

術士「毒がどうの、ということも、考えられたんでしょうけど……」

剣士「で、それを調べてどうするつもりだ」

術士「それよ」


704 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:58:55.39QHO7XdIPo (28/29)

術士「もう、二番隊も十三番隊も、全滅のような扱いになっているわ」

剣士「……それによれば、なってない、可能性もあるってわけだな」

術士「ええ。逆に入った時点で死んでしまっているかもしれないけれど」

剣士「考えたくもねぇ」

術士「それで、もう少し詳しく載ってないかしらと思って、調べていたの」

術士「仮に、自分たちを送れたとしても、帰ってこられないところなのかも」

剣士「つまり……」

術士「ええ。召喚士たちを異界から召喚すればいい」

剣士「……」

術士「そんな、突拍子もない事は言ってないとおもうんだけれど」


ドタドタドタ……

 バターン!!!

天測士「ちょっとぉ!」


705 ◆k.6bdeNTfg2012/10/05(金) 22:59:26.82QHO7XdIPo (29/29)

今夜はここまで。


706VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県)2012/10/06(土) 00:35:11.53Gmj/oi+Jo (1/1)

キリのいいとこでやめやがって・・・
乙!


707VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/06(土) 08:46:04.151jPff7tDO (1/1)





術士話すようになったなあ…


708VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/06(土) 22:40:21.51AL2hFIfIO (1/1)

二ヶ月…長々とすみません。
明日にはまた投下していきます

キャラ大目ですが、どんなのが愛されるんですかね…


709VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2012/10/07(日) 00:17:46.53lXNzBzzpo (1/1)

ここまで読んで、やっぱ隊長うぜえとしか思えねえ・・・
人を見下しすぎなんだよ、ただの根暗クズ野郎だ


710 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:48:45.42orlSQD7/o (1/47)

>>709
もっと嫌いになっていくと思うんで、程々にお付き合いください

投下していきまーす


711 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:49:18.52orlSQD7/o (2/47)

術士「……」

剣士「なんだ?」

天測士「あんたたち、何をぼさっとしているの! 行くわよ」

剣士「どこへだよ」

天測士「決まってるでしょ! あんたたちの隊長のところへよっ!」

術士「……! 場所が分かったの?」ガタッ

剣士「おい、落ち着け」

天測士「そ、それは、これから天測してからだけど」

術士「なんだ。じゃあ、いいわ」

天測士「いやいや、それどころじゃないでしょ!? 隊が解散になったんでしょ!?」

天測士「このまま黙ってていいと思ってんの!」

剣士「思っていない。だが、見ろ。術士は動ける状態じゃない」

天測士「ですよね!」

術士(剣士もだと思うけど……)


712 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:49:44.47orlSQD7/o (3/47)

天測士「でもね、あんたたち、悔しくはないわけ」

天測士「あのクソ教師どもに自分のところの隊長を馬鹿にされて!」

剣士「なんでそうなる」

天測士「だって、どうせ死んでるんだろうと思って処理されてるんでしょ!」

天測士「それもこんなに早く、確認もしないで!」

天測士「そういう……そういうムカつくのは、私は許せないわけよ!」

術士「……」

剣士「戻ってきて、恥をかくのは学園側だ。俺はどうでもいい」

剣士「生きているのかどうか、そして、帰ってこれるのかどうか、問題はそこだ」

術士「ええ」

天測士「むがーっ!」

剣士「うるさいやつだな。こんなのでも隊長になれるのか」

術士「そちらの隊員はストレスフルなんじゃないかしら」

天測士「あれであいつらがストレス溜まってるなら、私は血管を大爆発させてないといけないわよっ!」


713 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:50:11.67orlSQD7/o (4/47)

剣士「だが、天測とやらで、安否を確認してもらえるのはありがたい」

術士「そうね。お願いできるかしら」

天測士「い、いや、だから、助けに行こうって、一緒に行こうって」

剣士「だから、術士は動けねぇって言ってるだろうが」

天測士「いや、その、あ、あんただって、気になっているでしょ!?」

剣士「……ついさっき、その話しをしたところだ」

剣士「俺も……行きたい、探したい、とは……思う」チラ

術士「……」

剣士「だが、足手まといになるのであれば……ここでなすべきことを、なす」

剣士「あんたの天測も手伝おう、まずは情報を集めるのが先だ」

天測士「……えー」

剣士「えーってなんだ」


714 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:50:44.24orlSQD7/o (5/47)

天測士「いや、だって、考えなしに行動しそうなタイプだと思ってたから」

天測士「そこそこ腕は立つし、ちょろいと思っていたのに……」

剣士「ああ?」

術士「剣士はそういう人じゃないわ」

天測士「とにかく、怒りとか、あるでしょ!?」

天測士「爆発させろよ、その思いを!」

術士「周りをよく見るべきよ。危険な時こそ、冷静に情報を集めないと」

剣士(……なるほど)

剣士(こいつ、隊長の『代わり』のつもりか)

天測士「ふ、ふふん。そんな情報を集めるなんて、私の一番得意なことよ!」

術士「じゃあ、お願いします」

天測士「任せなさい! でも、その前に、教師を殴るのよ!」

二人『……』


715 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:51:10.35orlSQD7/o (6/47)

ガラッ。

斧使い「ちわー」

剣士「チッ」

斧使い「え、見るなり舌打ち?」

術士「こんにちは」ニコ

斧使い「どうも、うちの、アホが来てたと思うんだけどねぇ」

天測士「……誰がアホだって?」

斧使い「もちろん、うちのリーダーだよ」

天測士「おい待て」

斧使い「あのな、いつものリーダーなら、他所様に迷惑かけたりまでしてなかったろ?」

斧使い「だから、こういういけないことはめーってしないとダメだと思うんだよ」

天測士「はぁぁぁああ!?」

剣士「ここは病室だ」チャキ

斧使い「あっ、病室で武器を握らないで」


716 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:51:40.48orlSQD7/o (7/47)

天測士「私はっ、悔しいだけよ」

斧使い「まあまあ」

天測士「……あの隊長、危険な方をわざわざ選んだ」

天測士「怪我人を押し付けて、隠れながら進むだけなら、あんな爆発はいらなかったでしょ?」

天測士「わざわざ別ルートで、まあ、目算があるみたいだったけど」

天測士「そこまでやるような相手をバカにされて、あんた達は悔しくないわけ?」

剣士「……どうでもいい」

天測士「本気で言ってる?」

術士「本気じゃないわ。でも、きっと、そんなことより、知りたいの」

剣士「そうだ。もっと優先すべきことがあるだけだ」

天測士「あ、あのね~……」ワナワナ

斧使い「ま、まあまあ」


717 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:52:09.79orlSQD7/o (8/47)

術士「でも、剣士は行きたいんでしょ? さっきは息巻いていたし」

剣士「……」

天測士「なにっ」

剣士「それに関しては、お前の説得に応じることにした」

術士「そう?」

天測士「何よ! このチキン野郎!」

剣士「剣が握れなくても、殴れないわけじゃないんだが」ググッ

斧使い「あっ、拳を握らないで」

術士「私は、消えた十三番隊のことを調べるわ」

術士「天測士さんは、隊長の行方や学園の動きについて、いろいろと調べてもらえないかしら」

天測士「……十三番隊?」

術士「ええ。光の柱、調べてみたいの」

天測士「……ふん」


718 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:52:37.78orlSQD7/o (9/47)

術士「いずれにせよ、七番隊の調査能力は優れたところがあるわ」

術士「お願い、私だって悔しいわ。でも、それは……」

術士「……隊長を失った方がもっと悔しくなるから」

天測士「……」

斧使い「……あいつ、いつのまにモテモテになってたんだ?」ヒソヒソ

剣士「そういうことじゃねぇだろ」

斧使い「……でも、死んでから好かれてもなぁ」ヒソヒソ

剣士「そういうことじゃねぇって。あと、死んでるかどうかは」

天測士「やかましい!」

天測士「ちょっと男どもは出ていきなさい!」

斧使い「ええ?」

剣士「……調査には、後で俺も加わるから、呼べ」

天測士「分かったわよ」


719 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:53:10.74orlSQD7/o (10/47)

術士「……」

天測士「その、あの、悪かったわね、怒鳴りこんで」

術士「もう少ししたら、体の具合も良くなると思うわ」

術士「そうしたら、もっと詳しく話しましょう」

天測士「ええ。それにその、学園側の動き、気になるわ」

天測士「竜があれだけいた、ってのにはびっくりしてるみたいだけど、何隊か捨てたことに関しては気にしてないみたいだし」

術士「……どういう意味?」

天測士「だから、学園戦隊は使えないから、学園としてプロを雇って……」

天測士「ん? どうしてそうなるのかしら?」

天測士「あの谷は、学園に近いとはいえ、別にうちの敷地ではないわよね」

術士「……確かに、それは妙ね」

天測士「どうも、外国の様子が気になってきたわ」

術士「うん」

術士(だから、それを話していたのに)

天測士「ああ、もう。分かりにくいったらありゃしないんだから」


720 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:53:36.91orlSQD7/o (11/47)

天測士「とにかく、私なりに調べてみるわ。学園のことも、いろいろ」

術士「あ、あの」

天測士「なに?」

術士「……隊長のこと、天測、お願いします」

術士「頼りに、してるから」

天測士「……ふふ」

天測士「くふふふ、ふふっ。そうよね!」

天測士「任せなさい。私にかかれば、あらゆる調査など、簡単なことよ!」

天測士「まったく、うちの連中は、私を頼ってる素振りも見せないんだからっ!」

術士「はぁ」

天測士「いいことっ、あんたもまずはゆっくり休むのよ!」

術士「じゃあ、休むから出ていってね」

天測士「あ、はい(´・ω・`)」


721 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:54:20.39orlSQD7/o (12/47)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
―――数日前、川原。

救護員「……んぁ」ゆさ、ゆさ

救護員「ん、ん?」

救護員「んぇ?」

救護員「……どらごんはっ!?」ガバッ


救護員が辺りを見回すと、川原にエアバッグが打ち上がっていた。


救護員「あれは……そーだ。全力で逃げて、川に飛び込んだあと、あれを破裂させたんだ」

救護員「えーっと、隊長、工兵くん」

隊長「いるぞ……」ジャブ、ジャブ

救護員「た、たいちょ……うわぁあああああ!」

隊長「……」

救護員「こ、こここ、工兵の、腕が!」

隊長「応急処置をしてくれ」

救護員「た、隊長、隊長」

隊長「竜は振り切ったはずだ……」バタッ


722 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:54:47.41orlSQD7/o (13/47)

救護員「隊長!? うあ、たい、ちょう、も、背中と、足が……」

救護員「……」

救護員「泣いてる場合じゃない、出来ることをしないと」

救護員「ええと、包帯と添え木と、救急キットは落っことしたから」

救護員「あ、商人もいる」

救護員「隊長、その、流されているの、拾ってきたのかな」

隊長「……いいから、処置してくれ」

救護員「あ、あ、意識、あるんですか」

隊長「早く、工兵から」

救護員「はいっ」

救護員「工兵くん、ごめんね。腕が、ちぎれちゃう、なんて」グスグス

隊長「……」

救護員「こ、呼吸! そうだ、呼吸も見ないと」

隊長「……落ち着け。それはさっき見た」


723 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:55:13.87orlSQD7/o (14/47)

隊長「……」ムクリ

救護員「た、隊長?」

隊長「敵が、いないか、警戒してくる」

救護員「ダメ! 隊長も怪我しているんだから!」

隊長「……分かっている。無理はしないから」

救護員「で、でも」

隊長「いいから、頼む」ズルズル

救護員「足引きずっているじゃないですか!」

隊長「いいから」ズルズル

隊長「……」

隊長「生き残った……」

隊長「か……」


724 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:55:40.89orlSQD7/o (15/47)

しばらくして。

隊長「どうだ?」

救護員「状態は、良くないです」

隊長「そりゃ、そうだ」

救護員「とにかく、助けを呼ばないと……」

隊長「……」

隊長「あの谷から流れていた、川の下流。地図のイメージだと、大体……」

救護員「ええっと、地図、ないですけど」

隊長「いや、覚えている。確か、少し歩けば、町があったはずだ」

救護員「川の、近く……あっ」

隊長「どうした?」

救護員「それって、私の住んでた町じゃないですかね!?」

隊長「そうなのか?」

救護員「そ、そういえば、この辺、見覚えがあるかも……」

隊長「よし……案内、頼む」

救護員「任せてください!」


725 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:56:07.37orlSQD7/o (16/47)

隊長「じゃあ、俺が、工兵を背負うから」

救護員「私が商人ちゃんですね」

救護員「……隊長、大丈夫ですか? 顔色が」

隊長「まだ、大丈夫だ。工兵を、放置する、方が、まずい」

救護員「……」

隊長「行こう」

救護員「はいぃ」

救護員「よっと、重いなぁー」ガシッ

隊長「……ふんっ」グイッ

隊長「片手と片足を、体の前に……」

救護員「だ、大丈夫ですか?」

隊長「ダイジョブだ」


726 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:56:34.40orlSQD7/o (17/47)

――数刻。

隊長「……」

救護員「あ、あれ……」

救護員「おかしいな……」

隊長「方角は、合っているかな?」

救護員「ええと……」

救護員「ど、どうですかね」

隊長「……商人を、下ろして。ちょっと遠目に、町があるか、見てくれないか?」

救護員「は、はい!」

救護員「よっと」ドサッ

救護員「あの、あの」

隊長「俺は、二人の様子を見ているから……」

救護員「はいです!」


727 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:57:34.39orlSQD7/o (18/47)

救護員「うーん、この辺りだと思ったんだけどなぁ」

救護員「だって、見覚え、あるもん」

救護員「ん……」

救護員「あ、あれ。町の物見やぐら!」

救護員「やった! 間違いなかったんだ!」

救護員「よし、隊長に、知らせてこないと」

救護員「……隊長!」

隊長「……」

救護員「た、隊長! 町、見えましたよ!」

隊長「……」

救護員「あう、え、隊長?」

救護員「ひっ、お腹にも、血が……!」

救護員「隊長、隊長……?」

隊長「……ん、すまん、少し、眠くて」

救護員「あの、あの」


728 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:58:01.52orlSQD7/o (19/47)

隊長「町か?」

救護員「は、はい。見えましたよ!」

隊長「……ちょっと、動くのは無理そうだ。ひとっ走りしてもらっても、いいかな」

救護員「はい、はい!」

隊長「あと、お金、隊長バッジ」

救護員「えと」

隊長「見せれば、町の人にも分かるだろうから」

救護員「え、あ、う」

隊長「……よろしく、頼む」

隊長「工兵も、商人も、ちゃんと見てるから」

救護員「……」

救護員「寝ちゃ、ダメですからね!」

隊長「ああ」


729 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 20:58:42.91orlSQD7/o (20/47)

救護員「はぁ、はぁ……!」

救護員「急げ、いそがないと!」

救護員「隊長が、工兵も……!」

救護員「はぁ、はぁ!」

救護員「うあっ」こてっ

救護員「うう……もう……」

救護員「……」グッ

救護員「い、行くんだ!」ダッ

救護員「助け、呼ぶんだ」

救護員「……お、おどぉさぁあああああん! おがぁあさぁあああああん!」

救護員「救護員だよぉおおおお! 助けが、いるのおおおおおおお!」

救護員「誰か来てぇえええええええ!」

救護員「うああああああああああああっ!!」

――――

――

……


730 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 21:00:18.39orlSQD7/o (21/47)

一旦、休憩


731VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/07(日) 21:53:11.63mjcyutLzo (1/1)

尻ASSだぜ・・・
どうなるんだろ


732 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:20:40.33orlSQD7/o (22/47)

夢。孤児院。

男「ちっ、まだ皿洗いが終わらねぇのか」

男「そんなことでどうするんだ!? 世の中には、もっと苦しいことがあるんだ!」

男「早くしろ、ガキども!」

少年「はぁい」ゴシゴシ

男「なんで、そんなちんたら洗ってんだよ!」ボカッ


男の攻撃! 少年は皿をおっことした!


男「あ~あ、落としちまいやがって」

少年「すみません、せんせい」(死ねよ、ボケ)

男「なんだ? その反抗的な目は」

男「クズがっ、ボケがっ! 拾ってくれた恩は感じないのか!」

少年(謝ってるだろうがよ、クズがっ!!)

少女「せんせー、理事長がきてるけどー?」

男「な、なんだと」


733 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:21:09.76orlSQD7/o (23/47)

男「早くいえ! お茶は出したのか?」

少女「出してますよ」

男「ちっ、割れたのは片付けておけよ!」どたどた

少年「分かりましたぁ」

少女「……ばっかでぇー」

少年「……何」

少女「あんなの、相手にしないで、あしらわないと」

少年「あしらってる」

少女「ああいうのは、あしらうって言わないの」

少年「……」

少女「お前もさ、要領悪いよね。ま、あいつと似たような感じ?」

少年「なんで、俺があいつと似てることになるんだ?」

少女「エライ人にはニコニコしたり、文句言わないけど、裏ではゲロゲロ言ってるところ」

少年「知らねーよ、そんなこと」

少女「あー、悪い影響受けてるわー」

少年「うるせぇな、ババア」


734 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:21:36.54orlSQD7/o (24/47)

少女「私、お前と少ししか違わないけど?」

少年「ババア、ババアのくせに、俺にいちいち文句言ってんじゃねぇ」

少女「ふーん、こっから出る方法を考えてやったのに」

少年「!」

少女「せっかく、同じ村出身だって思って声かけたのになー」

少年「ご……ごめんなさい、お姉様」

少女「私はお前の姉じゃないけど?」

少年「……」

少女「はっ、シケた面して」

少年「……いい」

少女「なに?」

少年「別に、いい。出たければ一人で出れば」

少女「今度はへそ曲げてんの? 言われるまでもないわよ」

少年「どうせ、どこにいたって同じだ」


735 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:22:02.64orlSQD7/o (25/47)

少女「……」

少年「周りは、馬鹿ばっかりだ。先生は表裏激しすぎてうぜぇし」

少年「でも、本当は……」

少女「なに?」

少年「俺が、一番、生きている価値がない、クズだ」

少女「……どこが?」

少年「俺らの、村、滅ぼされて、あいつら、俺らを見下してる」

少年「だけど、俺も、そういう、クズだって、あいつらを見ている」

少年「……クズを馬鹿にするだけの、クズだ」

少女「はあ? 馬鹿にされて怒らない方がおかしいでしょ」

少年「怒ってる、わけじゃない」

少女「ああ、そう」

少年「……めんどくせぇだけだ。お前は、ちゃんと生きられるなら、そうしろよ」

少女「……」ゲシッ

少年「いてぇな!」


736 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:22:28.63orlSQD7/o (26/47)

少女「お前、私まで馬鹿にするわけ?」

少年「はぁ?」

少女「なーにがちゃんと生きられるなら、よ」

少女「自分はクズだと思うんなら、改めればいいじゃない」

少年「……でも、このまま、生きてて、何になるんだ?」

少女「かわいいお嫁さんもらうんでもいいじゃない」

少年「……チビで、ブサイクだって言われた」

少女「はぁー……それは馬鹿なのって言わざるをえない発言よ」

少女「だったら大金持ちになるとかさ」

少女「私は安定収入を得て、楽ちん生活送りたいわー」

少年「……」

少女「適当に理由つけてもいいから、暗くなるのはやめなさい」

少年「……」


737 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:23:14.77orlSQD7/o (27/47)

少年「じゃあ、村に帰りたい」

少女「は?」

少年「村に帰って……」

少女「いや、滅びてんでしょ」

少年「だから、魔物に襲われて、誰も墓を立ててないだろ」

少年「金稼いで、立派な墓を作って……墓守にでもなって」

少女「誰がお参りするのよ」

少年「お前はするだろ」

少女「しないわよ、そんなん」

少女「あー、ほんっと馬鹿よねー」

少年「うるさいな」

少女「そんなくだらないことに縛られてさ」

少年「……別に、いいだろ」


738 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:23:42.06orlSQD7/o (28/47)

少女「まあ、いっか。で、来るの、来ないの?」

少年「……行ってもいいの?」

少女「いいの、いいの」

少女「つーか、皿、片付けないの?」

少年「あ、あ」ガチャガチャ

少女「んむ。では、そのまま聞きなさい」

少年「早く言えよ」

少女「ここはね、冒険者の学校、学園っていうの」

少女「学費はあるけど、全寮制で、何より、依頼が直接来て、冒険者みたいに働けるわけ」

少年「……自分で、金を稼げるのか」

少女「そういうことー」

少年「それ、いいな」

少女「でしょ? ほれほれ、私を崇めなさい」

少年「するわけねーだろ!」

少女「ふん、でね、理事長はお人好しだから、自立したいっつってさ――」


739 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:24:09.16orlSQD7/o (29/47)

……

夢。また夢。

隊長「ここは……」

工兵「あーあ、片腕、とれちゃったよ」

隊長「こ、工兵」

工兵「隊長ってさ、何もかも詰めが甘いよね」

工兵「あの場面、危険な竜がいるところを抜けて、川に飛び込むなんてルート、正気の沙汰じゃないよ?」

隊長「……二番隊と十三番隊を見殺しには出来なかった」

工兵「その代わりに、僕らを犠牲にしたの? ひっどいなー」

隊長「……」

工兵「あれ? 言い返さないんだ。そっか、隊長は優しいもんね」

隊長「……それは、お前らが、そうでもしないと成長しないからだろうが」

工兵「誰もそんなこと、頼んでないじゃん?」

隊長「うるせぇ……」

工兵「剣士も、術士も、隊長に付き合わされてかわいそうー」

工兵「隊長のわがままに振り回されちゃってさ」

隊長「……」


740 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:24:35.88orlSQD7/o (30/47)

剣士「何がつまんねー対抗心だ」

隊長「剣士? あれ、工兵は……」

剣士「お前が不甲斐ないから、術士も俺も命をかけたんじゃねぇか」

剣士「それを、突き放すような言い方をしやがって」

剣士「お前さえきっちりやっていたら、無傷で乗り越えられたんじゃねぇのか!」

隊長「そ、それは……」

剣士「天測だかいう女に気を使って、命をかけてないのはお前の方だ」

剣士「いつまで他人を犠牲にして生きている? 俺は、俺は自分の命を使っているにすぎない」

隊長「いや、だから……」

剣士「お前のしようとしたこと、うまくいく事もある」

剣士「だが、圧倒的に失敗のほうが目立つ。なぜか分かるか?」

剣士「結局のところ、本質では、お前は他人のことなぞどうでもいいからだ!」

剣士「いや? それとも、嫉妬しているのか? 俺たちに」

剣士「だから、ふざけた態度をとるのか!」

隊長「……知らねぇよ」


741 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:25:04.27orlSQD7/o (31/47)

救護員「隊長はですねー、チビのくせに、かっこつけようとしているからモテないんですよー」

隊長「俺がいつかっこつけたよ?」

救護員「つけてるでしょ? こうすればうまくいく、とか」

救護員「私が馬鹿だと思って、いろいろ言ってるけど、こちとらそんな浅い演技は見ぬいてるってーの」

救護員「みんな知ってますよ? 本当は、ビクビクしながら接してるんでしょ?」

救護員「探り探りでちょっとキモいっていうかぁ」

隊長「……」

救護員「言い返さないんですか?」

救護員「そうやっておきながら、こっちが攻められると思ったら、とことん言ってくるんだもん。ひっどーい」

隊長「……うるせぇよ」

救護員「都合の悪いことにだけ押し黙るのはやめましょうよ」


742 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:25:30.57orlSQD7/o (32/47)

術士「隊長。私、頑張ったでしょ」

術士「どうして、認めてくれないの」

隊長「……認めている」

術士「嘘。突き放して、見ている」

術士「私、辛くて、チームの実習なんかやりたくなかった」

術士「だけど、隊長が励ましてくれたから、頑張ったんだよ」

隊長「分かってるよ!」

術士「分かってない。隊長は何も分かってない」

術士「どれだけ、みんな、隊長を信頼しているのか」

術士「隊長は、それに甘えている。絶対」

隊長「違う……甘えてなんかいない……」

術士「ちょっと自分に犠牲を払ったからって、許されないから」

隊長「やめろ……」


743 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:26:06.20orlSQD7/o (33/47)

工兵「自分勝手なのはやめてほしいよ」

剣士「羨ましいんだろ、俺達が」

救護員「馬鹿にしているくせにね」

術士「私達に、依存しないで」

隊長「うるせぇな……」

隊長「うるせぇな……!」

隊長「俺はっ! お前らが嫌いなんだよ!」

隊長「自分勝手なのはお前だろうが!」

隊長「嫉妬しているのもお前!」

隊長「馬鹿にしているのもお前!」

隊長「依存しているのも、お前!」

隊長「だからなんなんだよ!?」


744 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:26:33.63orlSQD7/o (34/47)

隊長「踏み台にでもなんでもすればいいだろうが!」

隊長「どうせ、俺は世間的には死にたくてしょうがないんだ!」

隊長「お前らが、俺のために、戦ってるなんて、虫唾が走る!」

隊長「俺を利用して、とっとと先に進めばいいんだ!」

隊長「お前らが傷つく必要なんてないんだ!」

隊長「手探りなのはしょうがないだろうが、傷つけたくないんだよ!」

隊長「なんで、うまくいかないんだよ!」

隊長「俺は……!」

隊長「……」


745 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:27:53.31orlSQD7/o (35/47)

隊長「……」


隊長「……いつ死んでもいいって思ってたのに」


「じゃあ、死ねば?」


隊長「……死にてぇ。でも、俺が死ぬ前に、あいつらが死ぬ」


「そんな考え方だから、余計にみんな傷つく」


隊長「知っている」


「だったら直せよ」


隊長「……分からない。どうすれば、なくなるんだ?」

隊長「生きるのなんか、めんどくせぇって気持ちは」


少年「馬鹿じゃねぇのか」

隊長「……」


746 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:28:44.32orlSQD7/o (36/47)

少年「誰にも言わずにしまっておいたら、いつか誰か分かってくれんの?」


隊長「……」


少年「それに、お前がしなくちゃいけないことは、もっと別にあるだろ」


隊長「……なんだってんだ」


少年「最後まで責任を持つってことだ。自分と他人に」


隊長「偉そうに……」


747 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:29:11.81orlSQD7/o (37/47)

少年「他人に甘えてはいても、他人の言葉をなぞって生きてきたわけじゃないだろ」

少年「辛い時こそ、冷静に判断しろ。情報を、集めろ」


隊長「……」


少年「いつもやってきたことじゃねぇか。嫌われようが、やるしかないんだ」

少年「早くしろ。みんな、待ってる」


隊長「……そうだな」


隊長「早く、起きないとな」


――――


748 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:29:41.35orlSQD7/o (38/47)

ベッド。

隊長「……」

隊長「……ぐおっ。いってぇ」

隊長「死ぬほど、痛い」

隊長「……」

隊長「腹が減ってる……」

隊長「ベッドの上だ」

隊長「……動く? 足も、体も」

隊長「うわ、動かねぇ。ろくに動かせねぇ」

隊長「うわー、なんだこれ。うわー」

隊長「……」

隊長「助かったみたいだし、人は見に来るだろ」


749 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:30:07.28orlSQD7/o (39/47)

ガチャ。

救護員「……」

隊長「……」

救護員「隊長、すみません」

救護員「私の、力不足で……」

救護員「もう、起きてくださいよぉ……」

隊長「起きている」

救護員「ぶわぁっ!?」ガシャーン

隊長「落ちたよ」

救護員「ど、ど、ど」

隊長「……」

救護員「料理! 持ってきます!」

隊長「あ、拭き掃除、してからで」

ドタバタドタ……


750 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:30:35.42orlSQD7/o (40/47)

隊長「……」

救護員『都合の悪いことだけ押し黙るのはやめましょうよ』

隊長(夢、だよな?)

工兵「隊長~? 起きたって本当~?」

隊長「う」

バタン。

工兵「あ、はは。ホントだ。起きてる、起きてる」

隊長「お、おう」

工兵「一番お目覚めが遅かったみたいだよ」

隊長「工兵、腕は……」

工兵「んー? お、いいところに目をつけたね」

工兵「異世界の技術を駆使して出来た、自分の意思に反応して指先が動く義手さ!」

隊長「義手……」

工兵「ま、ここまで来ると義腕というべきだけどねー」

工兵「だけど、いろんな機能を搭載したんだ」

隊長「あ、ああ」


751 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:31:01.27orlSQD7/o (41/47)

工兵「ほら、ずっと前に、『小さい手』って見せたじゃん?」

隊長「ああ、あったな」

工兵「ふっふっふ。これは、それを利用しているから、常人よりも細かい作業が得意になっているのだ」

工兵「他にも兵装として、発雷装置、爆雷管発射装置、魔物のセンサーもつけたよ」

隊長「あ、ああ」ぐぅ~

工兵「お、お腹が鳴ったね! 実は音を拾う機能も……」

隊長「すまん、あまり、体が、動かないんだ」

工兵「ん、改造する?」

隊長「先に、ご飯食べさせてくれ……」


752 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:31:27.71orlSQD7/o (42/47)

工兵『誰もそんなこと頼んでないじゃん?』

隊長「……」

工兵「ま、僕は隊長を検査していたから、目を覚ますくらいには回復しているって知ってたけど」

工兵「救護員が、毎日、泣きながら、隊長のいる部屋を掃除するからさ」

隊長「ごめんね。迷惑、かけた」

工兵「今に始まったことじゃないじゃん」

工兵「ど、どっちかってーと、僕らのほうが、かけてなかった?」

隊長「……そうかもな」

工兵「あははっ」

隊長「そういや、検査って……」

工兵「ああ。ここ、僕の師匠がいるから」

工兵「工房でね、医療機器も作ってるから、試作品をちょっと……」

隊長(怪しげなものを使いやがって……)


753 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:31:57.22orlSQD7/o (43/47)

救護員「……隊長! おまたせしました!」

救護員「あ、愛情、愛情たっぷりの病人食です!」

隊長「……うすい」

救護員「下手に濃いめの取ると、お腹がびっくりしちゃいますから」

隊長「ああ、そう」

救護員「とにかく、これ食べたら、も、もう一回、寝てください!」

隊長「いや、でも」

救護員「私はほら、救護の、プロですから」フフン

隊長「……」

工兵「眉間にしわ寄せしないでもいいじゃん」

隊長「まあ少し休むよ、なんかまだ、動けない」

救護員「四日も寝込んでたんですから!」

隊長「……四日も」

工兵「なんつーか、なんだかんだで一番深手だったんだよ」

隊長「しんがりを務めてたからかな」


754 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:32:23.37orlSQD7/o (44/47)

商人「起きたの?」

救護員「……あ! この、女」

商人「なによ、敵視して」

救護員「知ってるんですよぉ、竜から逃げるとき、隊長を盾にしたり!」

商人「そ、それは、しょうがなかったし」

工兵「まあまあ」

隊長「別にいいよ」

救護員「この人が引っ掻き回さなければ、もっとうまく逃げられたんじゃないんですかぁ」

商人「……悪かったわ」

隊長「それより、商人はこの町の交易には詳しいの?」

商人「えっ、いきなり、その」

救護員「隊長、まずは休まないと」

商人「……知り合いがいるから、聞いておくわ」

隊長「学園に、報告書なり、手紙も出さないと」

商人「そうね……」


755 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:32:52.37orlSQD7/o (45/47)

救護員「隊長、痛くないですか?」

隊長「お腹は、痛い」

工兵「随分、怪我してたもんねー」

隊長(なんだ、その言い方)

隊長「ええっと、商人、でなくてもいいか」

商人「なに? 私だって、受けた恩くらい返すわ。格安で」

隊長「……新聞もついでに、買ってきてくれ」

救護員「隊長、だから、すぐ仕事するのはやめましょうよ」

工兵「ま、気になるのもわかるけど」

工兵「でも、竜が出たとか、侵略してきたとか、そういう話題は全然きてないよ?」

隊長「……マジか」

隊長(変だな。夜があけて、そこから四日眠ったとする)

隊長(あの夜から、五日経った。天測士たちが学園に帰ったとして……)

隊長(……竜の話題は黙殺されるほど、小さい話でもない。全く無いってのは)


756 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:33:20.11orlSQD7/o (46/47)

隊長「……うん、寝よう」

救護員「はいはい、早く寝てください」

隊長「みんな、は、怪我大丈夫?」

工兵「ご覧のとおりさ」ガッション

隊長「どう判断すればいいんだ?」

救護員「私は、大丈夫です!」

隊長(こいつが一番恐ろしくなってきた)

商人「……わ、私も? 大丈夫、よ。休んだし」

隊長「じゃあ、また俺が起きたら、作戦を開始したい」

三人『作戦?』

隊長「学園に戻る前に、速達で手紙を出す、竜の情報を集める――」

隊長「何か気になる。情報の広がりが遅い気がする」

隊長「どのみち、傷が多少でも良くなるまで、大きくは動けないから」

隊長「……よろしく、頼む」ペコ


特別作戦『竜に関する情報を収集せよ』


757 ◆k.6bdeNTfg2012/10/07(日) 22:34:15.59orlSQD7/o (47/47)

今夜はここまで。

なんだかんだで、いろいろカットしようと思ってたところも全部乗っけてます
天測士、剣士サイドも、もっと隠しといた方が良かったかな?


758VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)2012/10/07(日) 23:00:00.43OEZevxFRo (1/1)

隠すとか隠さないとかは作者の技法にしかすぎないのだから、つべこべ言わず、面白い話しを続けてくれ

楽しみにしてんだ

支援


759VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/10/08(月) 01:04:31.98XbAEvFzbo (1/1)

なんだかんだで1人もうざく感じない
完走さえしてくれればどんな路線で行こうが俺は読む


760VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/10/08(月) 01:18:52.26qbgcd9lBo (1/1)

うああ続きが、続きが読みたい!!工兵は逆に今回のおかげで強くなりそうだなぁ


761VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/08(月) 03:39:44.52qTygZDQlo (1/1)

進めば進むほど、どのキャラクターもどんどん好きになってるぜー
すごく面白い!あと工兵やるじゃん。


762VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/08(月) 23:58:46.07B07WSFlso (1/1)


本当の姉弟じゃなかったのね


763 ◆k.6bdeNTfg2012/10/09(火) 09:29:59.69ZU4d/iAIO (1/1)

最初はもろに血縁とか言ってるなぁ…
まあ、その辺はあいまいで


764 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:35:07.73j+KXlgDAo (1/22)

翌日。

隊長「さて、パーティー編成だ」

二人『わー』

商人「え、パーティー……? なに?」

隊長「作戦を始めるための事前準備のようなものだよ」

商人「そ、そう。うちのはそういうことしてなかったから……」

工兵「なんとなく、これを挟むとやるんだーって感じがするよね」

隊長「まあ、まずは状況確認からだ」

隊長「俺達はとりあえず、とりあえず竜から逃げ出せた。だが、別働隊の七番隊がどうなったか……」

隊長「竜がその後どうなったか、竜ってのはなんなのか。そして、学園と各国がどう対応しているのか」

隊長「これらを把握しないといけない」

救護員「そうですね!」プシュー

商人「なんか煙出てるわよ」

隊長「学園には、報告を出さないと」

工兵「そういうのは、隊長がやってくれるんでしょ?」

隊長(めんどくせぇなぁ)


765 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:35:57.53j+KXlgDAo (2/22)

隊長「それから、この町は工兵と救護員の故郷なんだよね?」

救護員「実家があります!」

工兵「え、実家に寄るの?」

隊長「そうじゃなくてさ。いや、滞在費が浮かせられるならそれでもいいけども」

工兵「ここでいいと思うよ?」

隊長「そういえば、ここは?」

工兵「師匠の工房。町を出る前は寝泊まりしてたから」

隊長「……あとでそのお師匠様には挨拶しておかないとな」

工兵「えええ~!?」

隊長(うるせぇな)

隊長「とにかく、宿もそうだけど、帰る手段とか路銀の調達をお願いしたいんだ」

救護員「親のスネをかじるんですね!」

商人「かじれるものはなんでもかじらないとね」

隊長「……いや、まあ、いいけど」


766 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:36:25.35j+KXlgDAo (3/22)

商人「で、私は何をすればいいわけ?」

隊長「商人は情報収集。それから、学園の報告についても、協力してもらいたい」

商人「わかったわ。で、隊が違うわけだから、私に報酬は出るわよね?」

救護員「な、なに言ってるんですか!」

商人「当然じゃない」

救護員「むきーっ、ピンチの時は散々泣きついてきたくせに!」

商人「そ、それは別に、いいでしょ」

隊長「学園への報告は、十三番隊がバラバラになった以上、商人の任務に含まれるだろ?」

商人「それもそうか。でも、情報収集だって、タダじゃないんだから」

隊長「経費として報告してくれ。二十八番隊として支出する」

商人「絶対よ」

工兵「ふーん」


767 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:36:53.53j+KXlgDAo (4/22)

隊長「で、編成について」

隊長「……作戦の性質上、四人でぞろぞろ行く必要はないが、町でも危険がないわけじゃない」

工兵「この町は割りと呑気だからねぇ」

救護員「うーん、野盗なんかは出ないと思いますけど」

隊長「ま、下手に突っ込めば、の話だ」

隊長「いずれにせよ、最低でも二人行動が望ましいってことだ」

工兵「ふ、二人行動か、うーん」チラッ

救護員「あー、からかわれちゃうかもしれないですねぇ」

隊長「じゃ、午前中は俺と工兵で行動しよう。お師匠様、にも挨拶したいし」

商人「え? ホモ?」

隊長(こいつ……)

工兵「あまり調子に乗るなよ?」ガシャ

商人「な、なに!? 変なの向けないで!」

工兵「ちょっとビリっとするだけだからさ」

隊長「まあまあ」


768 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:38:48.00j+KXlgDAo (5/22)

隊長「ま、お昼に一度集まって、午後は俺と救護員でもいい」

救護員「ふぇっ?」

隊長「……町のことがある程度分かる二人は、分けたほうが効率がいいだろう」

救護員「あ、あー、そういうことですか」

救護員「てっきり、隊長が私に惚れちゃったのかと思いましたよ~、あははは」

隊長「……」

救護員「はは……」

隊長「で、何か質問ある?」

救護員「ボケたんだから、突っ込んでください!」

工兵「リアルボケは置いといて、僕らの方でも、分かる範囲があれば情報は集めるんだよね?」

救護員「工兵くんもひどいよっ!」

商人「何か知ってるの?」

工兵「うちの師匠、勇者に会ったことがあるって言ってたし、竜のことは少し知ってるかも」

隊長「なるほど。じゃあ、まずはそこから聞こうかな」

救護員「……ごめんなさい、許してください……」


769 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:39:19.83j+KXlgDAo (6/22)

隊長「それと、自分がそうだから言うけど、くれぐれも無茶は駄目だよ」

工兵「うん、まだ義腕の調子も完全とは言い難いし」

商人「ええ。気になる点は、お昼に相談してから突っ込むわ」

隊長「そうしてくれ」

救護員「わ、わ、私も頑張りますから!」

隊長「話聞いてた?」

救護員「……無茶はダメなんですよね?」

隊長「そうだねー、ちゃんと聞いてたねー、えらいえらい」ナデナデ

救護員「うへへ」

商人「……ねぇ」

工兵「馬鹿にしてるわけじゃないから」


隊長「それじゃ、作戦開始だ」

三人『おー!』


770 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:39:54.20j+KXlgDAo (7/22)

一階、工房。

隊長「ええと、じゃあ、まず」

工兵「こっちこっち」

隊長「……どの人が師匠なの?」

工兵「あそこで腕組みしている人」

隊長(……女?)

師匠「ん?」

工兵「師匠! ちょっといいですか」

師匠「ダメ」

工兵「まあ、そう言わずに聞いてください。うちの隊長が動けるようになったんで、お礼も兼ねて挨拶したいと」

隊長(工兵が丁寧で若干、違和感……)

師匠「ああ、動けるようにね。良かったね」

隊長「その節は、どうもありがとうございます」

師匠「どうでもいいよ、君の怪我を診たのは医者だし、私は部屋を貸して試作品の実験しただけ」

隊長(まためんどくさいのか)


771 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:40:25.68j+KXlgDAo (8/22)

師匠「それよりも私が言いてぇのは、うちのバカ弟子の腕を何ちぎってんのってことなんだけど」

隊長「……」

工兵「師匠!」

師匠「なに?」

工兵「義腕つけたんだしいいじゃないですか」

師匠「バカじゃねーの。足がちぎれても体を取っ替えても同じ事いうの、お前」

工兵「僕は納得してるってことです」

師匠「私が納得してない」

工兵「けど」

師匠「大体、私はお前に聞いてねぇよ、で、どう思ってんの?」

隊長「……申し訳ないと思ってます」

師匠「ぶっ潰すよ?」

工兵「しーしょーう!」


772 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:41:06.99j+KXlgDAo (9/22)

師匠「さすがにその答えはないわ」

工兵「あのですねぇ」

隊長「……申し開きはできません」

師匠「ん?」

隊長「隊員の怪我は俺に責任がありますから」

工兵「いや、違うって。隊長は最善を尽くしたわけだし」

師匠「……」

工兵「師匠も、やめてくださいよ! 半分からかってるでしょ?」

師匠「バレた?」

工兵「散々、隊長が寝てる間にもやりたい放題したんだから、そういう人の傷口を突くのはやめてくださいって」

隊長(……ふざけんなババァ)

師匠「でも、思っていることは本当だけど?」

工兵「はぁあ、だから、挨拶なんかさせたくなかったんだ……」

師匠「いいからさ、ちょっと三番棚からガラス瓶取ってきてよ」

工兵「……いいですけど、隊長で遊ばないでくださいね!」タッ


773 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:42:40.16j+KXlgDAo (10/22)

師匠「で、どう? 体の調子は」

隊長(何事もなかったかのように……)

隊長「なにぶん、寝っぱなしだったもので、うまく体が動きません」

師匠「あ、そう」

隊長「いろいろとご迷惑をお掛けしまして」

師匠「いーよ、たまには弟子の顔も見たかったし」

師匠「あと、別にそこまで怒ってないから、気にすんな」

隊長(やりづれぇ……)

師匠「むしろ、こっちの方が御礼を言いたいくらいよ」

隊長「は?」

師匠「工兵がここまで他人に関心を持つとは思わなかったから」

隊長「はぁ」

師匠「あいつ、ここに入った時も人の話を聞かないようなやつでね」

隊長(お察し)


774 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:44:56.83j+KXlgDAo (11/22)

師匠「久しぶりに戻ってきたと思ったら、片腕も意識もなくしてやんの」

師匠「で、起きたと思ったら、腕がないから義手つくってくれだって」

隊長「……そりゃあ、なんと言っていいか」

師匠「まあ、私の顔を見るなり、うわって叫んでたけどね」

隊長(なんか、会いたくない筆頭みたいだったしな……)

師匠「でさ、義手をする理由って聞いた?」

隊長「……この際、いろいろ付けられるように、とは言ってましたけど」

師匠「『隊長が見たら、傷つくっぽいでしょ』だって」

隊長「え、と」

師匠「数日であそこまで動かせるようになるようにリハビリもして」

師匠「自分は大丈夫だアピールしたかったみたいよ。あんたのために」

隊長「……」

師匠「ふざけんじゃねぇっつうの、下手してたらお前が亡くなってたわ」

師匠「弟子に目の前で逝かれたら、こっちの方が傷付くっつーのに、別のやつの心配かって」

隊長「……」


775 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:45:56.63j+KXlgDAo (12/22)

師匠「まあ、はっきり言って、今は義手も様子見の段階でね」

師匠「あそこまでガシャガシャ何でもないように動かすのはマズイわけよ」

隊長「普通に考えても、大怪我ですしね……」

師匠「ただあのバカ、私が言ってもなかなか聞きやしないから、あんたからも言ってもらえる?」

隊長「――わかりました。後でちゃんと言っておきます」

師匠「よし」

隊長「……すみません」

師匠「師匠の話を聞かなくさせるよーな相手に、嫌味言いたくなるのも分かるでしょ?」

隊長「その、俺は……」

師匠「ああ、いい、いい。別にあんたに怒ってるわけじゃない」

師匠「そもそも、冒険者の学校に行けって言ったのは私だし、命の危険があるってことも、伝えてたしね」

隊長「そうですか……」


776 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:47:22.65j+KXlgDAo (13/22)

師匠「で、単に挨拶しに来たわけじゃないだろ」

隊長「え、ああ、そうですね」

隊長「工兵が、あなたが竜について詳しいって言ってたんですが」

師匠「あ? 別に詳しくないよ」

隊長「勇者と知り合いだったそうですけど?」

師匠「勇者って、ああ、あのおっさんのこと」

隊長(おっさん。まあ、活躍したのは数十年も前だもんな)

師匠「まあ、あのおっさんは、私がガキの頃から全然変わらなかったしな」

師匠「いなくなる時はふいっといなくなっちまったし」

隊長「はぁ……」


777 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:48:35.08j+KXlgDAo (14/22)

隊長「で、その、竜の王を倒した時の話とか聞いてないんですか?」

師匠「そういや、あんたら、竜に会ったんだって?」

隊長「え、あ、ああ、そうですね」

師匠「……」

隊長「まさか、まだ生き残っているとは信じられませんでしたけど」

隊長「いるとなれば、少しずつでも調べる必要があるなと」

師匠「竜にあって、生き残ったってことだよね、あんたら」

師匠「……」

隊長(なんだ?)

師匠「正直、私がおっさんから聞いたことはそんなに多くはないけどね」

隊長「なんでもいいんですけど」

師匠「んー……」


778 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:49:08.99j+KXlgDAo (15/22)

師匠「あのおっさんは、竜は強い、と言っていた」

師匠「強い生物だってね。巨大な体、堅固な鱗、武器も魔法もまともに通用しない」

隊長「光には弱かったですよ」

師匠「そうだ。生物だからな」

隊長「生物……」

師匠「悪魔族などは生物の枠にはまらないようだからな、その点、竜は別だ」

隊長「ええと、つまり、スケールのでかい野生動物みたいに考えればいいんですか」

師匠「面白い例えだね。だが、竜の王は人語で対話できたようだし、それ以上だな」

隊長(そりゃすげぇ)

師匠「かつては悪魔族と戦っていたというし、王が現れるまでは単に棲み分けしていたに過ぎん」

隊長「……ん? ってことは、俺らが棲み分けしていた竜を刺激したとか……」

師匠「ありうることだわな」

隊長(やべぇ)


779 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:49:36.35j+KXlgDAo (16/22)

師匠「だが、それだけでもないだろ。町ではそれほど噂になってはいないが、竜の姿は何度か目撃されてる」

師匠「これがどういうことか分かるか?」

隊長「えーと、示威行動、ですかね」

師匠「それなら、村の一つでも攻撃しているだろう」

隊長(……なら、なんだ? 姿を見せるメリットなんぞ)

師匠「接触はしてないんだぞ」

隊長「……」

隊長「……偵察」

師匠「よしよし。うちのバカ弟子と違って、察しがいいな」

隊長「体がでかいから、目撃されているだけっていう……?」

師匠「そうだね。そして、偵察をしているということは、なんらかの目的があるということだ」

隊長「もしかして、リーダーがいるってことですか」

師匠「知らん。だが、組織立っている可能性もある」

隊長(そういえば、連中、あの夜もまるであの谷に追い込むような……)

隊長(いや、結論は避けよう)


780 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:50:03.09j+KXlgDAo (17/22)

師匠「しかし、いくつか疑問があるな。あれだけの巨体を支えるための食料、どうしている?」

師匠「また、なぜ最近、行動をはじめるようになったか」

隊長「……」

工兵「……師匠~? 三番棚、ガラス瓶なんて無いですよ」

師匠「そうだった?」

工兵「どうします? 探しましょうか」

師匠「まあ、ないならいい」

工兵「……なんなんですか」

師匠「とにかく、隊長には説明したが、私は竜には詳しくない」

工兵「師匠もこういう時に知識をひけらかさないと」

師匠「黙れ」

隊長「いや、参考になりました」

師匠「駄目だ」

隊長「え?」


781 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:51:03.89j+KXlgDAo (18/22)

師匠「単なる私の感想を参考にするだけではダメだ」

師匠「もう少し、自由に発想しろ」

工兵「……僕に普段言っていることと違わないですか?」

師匠「私とて人を見て物を言う。お前はコロコロ好きなものが変わるから」

工兵「そんなこと、ないですって」

隊長「でも、工兵には助かってますから」

工兵「そ、そう?」

師匠「そりゃいい傾向よ。人の助けになるかどうかは、大事なことよ」

師匠「異世界の技術は、そういうことと無関係に流れてくるから」

工兵「……なんでもいいですけど」

師匠「工兵、お前の義手、もう少し調整してやる。後で来い」

工兵「はーい」

隊長「いろいろありがとうございます」

師匠「素直な子は好きだよ」


782 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:51:30.97j+KXlgDAo (19/22)

表通り。

隊長「変な人だったね」

工兵「参っちゃうでしょ。金物を直すし、金を出せば手伝うし、腕はいいからお客は多いんだけど……」

隊長「良い人だったね」

工兵「それはないんじゃないかなぁ。どうせ自分の好き勝手やってるだけだよ」

隊長「つまり、工兵と同じか」

工兵「えええ~? 僕はあそこまで傍若無人じゃないよ」

隊長「ほう?」

工兵「そ、それより、師匠と何話してたの?」

隊長「工兵のこととか、勇者のこととか」

工兵「何か収穫はあったの?」

隊長「うーん、やっぱり、竜とまともに戦うのは難しいよ。それこそ、勇者でもなければ」

工兵「そっかぁ」


783 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:51:59.83j+KXlgDAo (20/22)

隊長「むう、図書室に通っていた頃も、勇者の英雄譚なんかろくに読まなかったしな」

工兵「んー、大体、どうやって倒したのか、なんて載ってるとは思えないけど」

隊長「そうなんだよな……」

工兵「とりあえず、どうする?」

隊長「親御さんへの挨拶はいいのかい?」

工兵「それこそ、冗談でしょ」

隊長「けど、君のお師匠様は、竜は少し前から目撃されていたって言ってたぜ」

隊長「『町の人』に話を聞くのは大事じゃないかな」

工兵「……隊長、からかってる?」

隊長「少しね」

工兵「あー、ほんと困るなぁ」

隊長「はははっ、じゃあ、それは置いといて、少し金策をしよう」

工兵「金策か~、だったら、師匠に借りるかなぁ」

隊長(あの人にかよ。すげぇなこいつ)


784 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:52:51.49j+KXlgDAo (21/22)

隊長「ま、人に借りるのもいいけど、ここは手っ取り早く――」


隊長は、靴を叩いた。……分厚い靴の底に何かが埋まっている。


隊長「この宝石でも売ったほうが早いだろ」

工兵「へぇえ? そんなもんつけてたんだ」

隊長「意外とバレるけどな、これ」

工兵「でも、この町でちゃんとした宝石商なんてあったかな」

隊長「ああ、そうか。どのみち、商人にお願いした方がよさそうだ」

隊長「じゃあ、集合場所に向かいながら、新聞を買ってこう」

工兵「んー、じゃあ、道案内するよ」

隊長「よろしく、頼む」


785 ◆k.6bdeNTfg2012/10/12(金) 20:53:38.52j+KXlgDAo (22/22)

今夜はここまで。


786VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/12(金) 23:49:19.30A+aAx93DO (1/1)

乙。


787VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)2012/10/13(土) 09:04:07.27bSXMRPV8o (1/1)



愛のある師匠っていいな


788 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 22:57:01.29fjpC19vCo (1/22)

工兵「それでね、こっちの方に市場があって」

隊長「ふんふん」

工兵「馬車を借りるなら、こっちの方かなー」

隊長「しかし、馬車を借りるなら、谷をぐるっと囲んで、川も渡らないといけないな」

工兵「そうなんだよね、まあ、徒歩で行っても竜がいるし」

隊長「……そうだな」

工兵「それから、ここは川下といっても、まだ山が近いからね。鉱山の町からも近いし」

隊長「ああ、なるほど。それで煙がもくもくと」

工兵「そ。工房が多いんだ」

工兵「つっても、最近は洗濯物汚れがつくし、人体にも影響があるからってんで、規制もあるけど」

隊長「なるほどねぇ」


789 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 22:57:27.17fjpC19vCo (2/22)

工兵「あとは、流通業を営んでいる、あ、そうそう救護員の実家がその仕事で」

工兵「えーっと、こっちの方にその家が」


―――バァン!

   救護員「な、なんで怒るの!?」

   救父「当たり前だ! これ以上金をせびる気か、この厄病神!」

   救護員「投資みたいなものじゃない!」

   救父「投げ捨てることを投資とは言わん!」


工兵「……」

隊長「あー、そうみたいだね」


救護員「だって! お金が足りなくなっちゃったんだもん!」

救父「もん、じゃない! 普段から仕送りしているのに、なんだそれは!」

救父「そもそも、あそこの学校では、自分で学費を稼ぐのが普通だと聞いたぞ!」

救護員「予想外なことが多かったから、しょうがないじゃない!」

救父「いいかげんにしろ!」

救護員「なによ!」


790 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 22:58:03.87fjpC19vCo (3/22)

商人「あ、あのー」

救母「まあ、まあ」


救父「お前がな、見聞を広めるためとか言って、男を追いかけたことは知っているんだ」

救護員「そ、そんなんじゃないもん」

救父「別にそれは、いい。もう、いい」

救父「だが、顔を見せるなり挨拶も抜きに金をよこせだの……」

救護員「緊急にお金がいるんですよ!」

救父「お前に緊急に必要なのは、恥だ!」

救護員「恥も捨てて頼んでいるのに!」

救父「最初から持ち合わせてないくせに、威張るんじゃないっ!」

救護員「じゃあ、どうすればいいのよー」

救父「失せろ! 二度と我が家に顔を見せるなっ」

救護員「なんっ……」


カッカッカッ……


791 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 22:59:15.77fjpC19vCo (4/22)

救護員「あああ、行っちゃった」

救母「行っちゃったわねー」

救護員「お、お母さん、止めてくれればよかったのに……」

商人「いや、いくらなんでもそれはないわ」


隊長(クズすぎじゃねぇか……)

工兵「……見ちゃいけないものを見ちゃったねぇ」

隊長「……救護員って、お父さんと仲が良くなかったのか?」

工兵「昔はね、とっとと結婚させたかったみたいだよ。町の誰かとか」

隊長「ふうん……」


792 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:00:01.95fjpC19vCo (5/22)

救母「でも、救護員、いったいどうなったのか、話してくれる?」

救護員「うーん、本当はこっちに来る予定じゃなかったの」

商人「あの……数日前からこっちには来ていたんですが」

救母「あら、そうなの」

救護員「私にもね、プライドはあったから」

商人「工兵さんの勤めてる工房で寝泊まりを……」

救母「まあ」

救護員「い、言わないでくださいよ!」

商人「ご家族に下手に隠しておいてもあまり意味が無いわよ」

救母「うふふ、そうね。まあ、甘やかすのも良くないけど、何もなしもかわいそうねぇ」

救護員「で、ですよねー」

救母「じゃあ、お父さんには一言いっておいてあげるわ」

救護員「やった!」

商人「すみません、いろいろ」


793 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:01:40.49fjpC19vCo (6/22)

商人「……はぁ~」

救護員「ま、まあ、これはこれとして、お金を稼がないと」

商人「あんた、もうちょっと危機感を持ちなさい」

救護員「何を?」

商人「いいこと? あんたのご両親は、もうあからさまにあんたを見限っているわ」

救護員「そうかしら?」

商人「そ・う・な・の・よ!」

救護員「でも、お母さんは」

商人「ありゃ、あそこで食い下がられたら迷惑だからでしょうがっ!」

救護員「ええ~? そうかなぁ」

商人「……とにかく、あの二人は例の工房の師匠とやらに挨拶するんでしょう。時間がかかると思うわ」

商人「その間に、なんにもなしじゃあ、笑われるにきまっているわ」


工兵「……どーする?」

隊長「もう少し、様子見てない?」

工兵「隊長も趣味が悪いねー」


794 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:02:06.33fjpC19vCo (7/22)

――市場。

商人「えーっと」キョロキョロ

救護員「市場まで案内させて、何を探しているの?」

商人「あんた達、何か手持ちで売れるものはないのよね」

救護員「そうですけどぉ」

商人「じゃあ、こうするしかないでしょ……あ、すみませ~ん」

防具屋「……あん?」

商人「お兄さん、その鎧ってすごく高そうですねぇ」

防具屋「おお、分かってくれるか! もう、この町の連中はみんな見る目がなくって」

防具屋「この鎧の材質はかの高名な賢者が異世界から取り寄せた不思議な鉱物」

防具屋「軽くて、しかも硬い、竜の吐く火炎ですら防げるというな」

商人「へぇぇ、すごいですねぇ」

救護員「へぇ、本当にすごいんだぁ」

商人「そんなわけないでしょ」ヒソヒソ

救護員「うえっ!?」



795 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:05:19.75fjpC19vCo (8/22)

商人「そんな代物が、こんなアホっぽいやつの手に渡るわけないじゃない」ヒソヒソ

救護員「どういう理屈なんですかぁ?」ヒソヒソ

商人「この町は鉱山からも近く、工房も多いのよ。つまり、武具に関しては目利きが強いの」

救護員「……あーあーあー」

商人「まあ、魔法がかかってるのは確かみたいだけど」ヒソヒソ

防具屋「ど、どうしたんだ?」

商人「……いくらぐらい、するんですかぁ?」

防具屋「金10枚だ」

救護員「ぶふぉっ」

商人(ありえねーわ)

防具屋「そんぐらいの価値はあるぜぇ~? この鎧はよぉ~」

商人「……でもでもぉ、見る目がない人達だと、なかなか売れないですよねぇ」

防具屋「あ、ああ、そうだなぁ」


796 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:05:52.94fjpC19vCo (9/22)

商人「良かったらぁ、私達、売ってきましょうかぁ?」

防具屋「はぁ? お前らが?」

商人「私ぃ、こう見えてパパが商人だからぁ、こういうの得意でぇ」

防具屋「……」

救護員「あ、あ、私もぉ、こういう硬いのすっごい興味ありますぅ」

防具屋「はぁ?」

救護員「任せてくださいっすよー」

商人「ちょっと黙ってなさい」ぐいっ

救護員「きゃんっ」

商人「市場なのに、何も売るものがないからぁ、ちょっとパパに怒られちゃうって思ってぇ~」

商人「お願い! 売れたら、一部は払いますし~」

防具屋「うーむ」

商人「だめぇ?」もじっ


797 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:06:19.22fjpC19vCo (10/22)

防具屋「わ、分かった。そのかわり、売れなかったら、責任取れよ」

商人「ええ~、どんな責任~?」

防具屋「そりゃあ、もちろん、ぐへへ」

商人「やだぁ~、お兄さんったらえっち~」

救護員「えっち!」

防具屋「よーしよし。別につり銭はいらんな」

商人「大丈夫ですって」ガチャ

救護員「わ、わ、思ったより軽い」

商人「じゃあ、行ってきますねぇ~」

防具屋「おう、悪い奴に騙されんなよ!」

商人(どの口が言うんだか)

救護員「いってきまぁす」


798 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:06:46.29fjpC19vCo (11/22)

救護員「……で、で、どうするんですかっ」

商人「そりゃ売るしかないでしょ」

救護員「でも、金貨10枚なんて無理もいいところですよ」

商人「もちろん、普通ならね」

救護員「はぁ?」

商人「あんたさ、私は冒険者である前に、商売人なわけ」

商人「いくら、その……ピンチの時に慌てふためいたとは言え、そこまで馬鹿にされたら怒るわよ」

救護員「怒ったらどうするってんですか」

商人「売春させる」

救護員「す、するわけないでしょー!?」

商人「しなくてもね、遠くで客を捕まえて『あの子、頭とお股が緩いんです』っつって金だけ貰ってトンズラとかさ、いくらでも方法はあるわけ」

救護員「ささ、さいってい!」

商人「だから、方法はあるけど、しないわ。隊長さんには助けてもらったし」

救護員「むー」


799 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:07:21.07fjpC19vCo (12/22)

商人「えーっと」キョロキョロ

救護員「今度は、誰を探しているんですか?」

商人「冒険者の一団」

救護員「あそこら辺で、物色してる人たちとかは……」

商人「よし、行くわよ」

救護員「あ、ちょっと!」

商人「すみませ~ん!」

冒険者「……ん?」

商人「ちょっといいですかぁ」

冒険者「なんだ、子どもじゃないか」

商人「えへへっ、良かったら、この鎧を買ってほしいなって」

冒険者「悪いが、鎧なんか興味は……」

商人「お願いしますぅ、これを売らないと、お兄ちゃんに殴られたりしちゃうの」

冒険者「そ、そんなこと言われてもな……」


800 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:07:48.42fjpC19vCo (13/22)

商人「それだけじゃなくって、か、体に、ひ、ひ、ひどいこととか」

冒険者「なんだって!」

商人「私を助けると思って、お話だけでも……」

冒険者「む、むう。お兄さんに怒られてしまうものな」

商人「そうなの……でも、冒険者さんにも悪くない話だと思うの」

冒険者「ふうん?」

商人「あのね、この鎧、金貨100枚」

冒険者「ひゃ……!」

救護員「百枚っ!?」

商人「そうなのぉ~」(余計なリアクションすんなっ)


商人は、見えない位置で救護員の足を踏みつけた!


救護員「ひにゃぁっ」

冒険者「そ、そんな金額はさすがに出せないなぁ」


801 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:08:17.69fjpC19vCo (14/22)

商人「でもねっ、この鎧、ほら、ここのところ、見て?」

冒険者「ん? 何かマークが、あるな……」

商人「これ、勇者一行の賢者が作った鎧、なの。このマークは、そのあかし」

冒険者「へぇ~?」

商人「それでね? お兄ちゃんは、この鎧を見つけたところに、もっと勇者達の遺物があるだろうって言ってるの」

冒険者「ふうん?」

商人「ただ、腕っ節のある人がいないから、どうしようかなぁって」

冒険者「なるほど」

商人「一緒についてきてくれること込みでなら、金貨50枚ではどうかなって」

冒険者「ふーむ」

救護員「……ちょっと」

商人「何よ」

救護員「嘘じゃないですか」ヒソヒソ

商人「ホントにすればいいのよ」ヒソヒソ


802 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:08:44.19fjpC19vCo (15/22)

冒険者「もし、勇者達の遺物があるとなれば、金貨100枚どころの騒ぎじゃないしなぁ」

商人「本当よぉ、この鎧もね、ほら、竜の火炎にも負けないって言われているし」ガンガン

冒険者「なるほどなぁ」

商人「ねぇ、どうかしら?」

冒険者「しかしその、それは確かなのかい?」

商人「まず、間違いないわぁ」

商人「お兄ちゃんが持ってきたから、詳しくはお兄ちゃんに聞かないとだけど」

冒険者「……」ジロジロ

商人「おねがぁい」

冒険者「ちょっと、その鎧、貸してくれ」

商人「ええ、はい」


冒険者は剣を抜くと、鎧を斬りつけた!


救護員「ああっ!?」


803 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:09:10.40fjpC19vCo (16/22)

冒険者「……なるほど。賢者が作ったかはともかく、傷もついてない」

冒険者「魔法か何かがかかっているということだな」

商人「……」

救護員「……うそぉ」

商人「信じてもらえましたァ?」

冒険者「ああ、じゃ、お兄さんのところへ」

商人「あ、まだ、別のところでお仕事してるからぁ、後で宿屋に行かせますから」

冒険者「そうかい、じゃ、市場の南西の方な」

商人「あぁ、それと、先にお代を……」

冒険者「あ、うーん、どうしようかな」

商人「いま、お手持ちはいくらです?」

冒険者「金貨20枚だ」

商人「そしたらぁ、15枚だけ頂いて、残りはお兄ちゃんに相談するように言っておきますから」

冒険者「……すまないな。ほら」チャリンッ

商人「まいどあり~」


804 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:09:40.24fjpC19vCo (17/22)

商人「それじゃあ、また後で~」

冒険者「ああ、じゃあな」

商人「……」フリフリ

救護員「……」

商人「……さ、行くわよ」

救護員「ええーっ!?」

商人「何を驚いているのよ?」

救護員「い、一連の流れが、どうしてそうなったのか、さっぱりわかりませんけどっ!」

商人「……あんたには一生無理ね」

救護員「だ、大体、鎧を斬らせるなんて……」

商人「魔法がかかってたのは見て取れたし、万一本当に壊しやがったら、弁償しろって泣きつけたし」

救護員「うわぁ……」


隊長「……」

工兵「恐ろしいことやってのけたね」

隊長「だねぇ」


805 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:10:07.34fjpC19vCo (18/22)

商人「……というわけで、売って来ましたぁ」

防具屋「ま、まじかよ! 早すぎだろ!」

商人「お兄さん、それじゃあね、金貨1枚」

防具屋「……おいおい」

商人「だってぇ、私達、頑張って売って来たんだしぃ」

防具屋「そりゃそうだが……せめて半分は貰わないと」

商人「ええー? パパに、怒られちゃう」

防具屋「むむむ……」

商人「お、ね、が、い?」

防具屋「し、仕方ないな。3枚だ、3枚で、どうだ!」

救護員「あー」

商人「黙って」ギュムッ

救護員「ひだいっ!?」

商人「……分かったわぁ。7枚なら、パパも許してくれると思うしぃ」


806 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:10:46.21fjpC19vCo (19/22)

商人「ありがとねぇ」

防具屋「……う、うむ」

商人「あとねぇ、パパの友達が、市場の南西の宿屋に、後で来てくれって」

防具屋「ほう? そりゃどういった?」

商人「若いのに、なかなかやるみたいだから、一緒に冒険で探索をしないかってぇ」

防具屋「そ、そうだな。戦える人がいれば安心だし」

商人「んじゃ、夜になってからって言ってたから、よろしくねぇ」

救護員「よろしくお願いしますぅ」

防具屋「はっはっは。任せておけ」

商人「チョロッ」ヒソ

救護員「うん」ヒソ


807 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:11:27.01fjpC19vCo (20/22)

――集合場所、酒場。

商人「……というわけよ」

救護員「ふわー」

商人「ま、これで12枚なら、そこそこのものは買えるでしょう」

救護員「ただのヘタレじゃなかったんですね」

商人「……」

救護員「ど、どうやら、あなたの実力を、み、見くびっていたようね、これからはお互いをライバルとして」

商人「やかましいわっ」ビシッ

救護員「あうっ」

隊長「……喧嘩してるのかい」

救護員「あ、隊長!」

隊長「やあ」

工兵「おまたせ」

商人「……ふん」


808 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:11:54.16fjpC19vCo (21/22)

隊長「いやあ、見てたよ」

救護員「へ、何を?」

工兵「救護員が家を追い出されたり、商人が奮闘しているところとかかな」

商人「ちょっと、待ちなさい!」

隊長「どうしたの?」

商人「そ、それって全部じゃない!」

隊長「商人も、あんな風にかわいい声が出せるんだね」

商人「うわーっ、何なのよ、あんたのところの隊長はー!」

工兵「割りと陰湿かな」

救護員「た、隊長、追い出されたのは、あの、その」

隊長「ちゃんとご両親にはごめんなさいしないとね」

救護員「いやああああああっ!」


809 ◆k.6bdeNTfg2012/10/15(月) 23:12:27.91fjpC19vCo (22/22)

今夜はここまで。

サクサク話を進めていきたい。


810VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2012/10/16(火) 03:25:16.29BRDv22IAO (1/1)



家庭訪問回かと思ったら追い出されてたでござる


811 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:39:33.68XTS1z/sio (1/34)

隊長「まあ、それはそれとして」

救護員「うう……簡単に片付けられたぁ」

商人「なんでこう、隊長連中ってのは」ブツブツ

隊長「お金の方は、少しばかり手に入ったみたいだけど」

商人「感謝してほしいわ」

隊長「ありがとう。で、こっちは、新聞」バサッ

商人(普通にお礼を言われちゃった)

隊長「工兵の師匠から、竜についても少し話が聞けたんだが――」

工兵「そうだねぇ」

隊長「まあ、下手に相手にはできない、ということがひとつ」

隊長「もうひとつは、この間、この町の周辺でも何度か目撃されていたってことだ」

商人「目撃? 本当?」

工兵「へぇえ、それであまり話題になってないのかなぁ?」


812 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:40:01.49XTS1z/sio (2/34)

商人「……思ったんだけど、竜が、その、町で暴れてるとかじゃないのよね」

商人「だとしたら、学園側からの情報がメインってことでしょう」

隊長「うん、そうだね」

商人「つまり、その、あんたと合同していた隊が学園に帰ってから、事態が分かるわけよね」

商人「そこに、タイムラグがあってもおかしくないんじゃないの」

隊長「うん……結局、竜を突いたけど、相手はまだ大々的には行動してないってことだ」

隊長「そうなると、あまり話題になってないのも無理はない」

救護員「あー、そりゃそうですよね~」

隊長(お前はちゃんと分かってるのか?)

隊長「……ただ、そうだとすると、この新聞記事はかえっておかしいんだ」

工兵「うん?」

隊長「今日付けの新聞だ。ひと通り、見てもらってもいいかい」

商人「どれどれ……」


813 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:40:40.31XTS1z/sio (3/34)

――『帝国、ついに軍隊の結成』

――『共和国、軍隊へ懸念』

――『王国の王女に恋人発覚!?』

――『竜の生き残りか、冒険者の卵が犠牲に』

――『新世代の討竜戦隊、学園一番隊が出撃』


商人「……なにこれ」

救護員「へー、王女様って恋人いたんだ~」

工兵「そこじゃないでしょ、そこじゃ」

商人「……十数の竜が発見されて、学園の生徒が行方不明に」

商人「そこへ、プロの冒険者と一緒に一番隊が。五人のプロフィールまで出てるわ」

隊長「すげぇプッシュだろ」


814 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:41:13.01XTS1z/sio (4/34)

商人「……こっちは早すぎるわね」

隊長「そうだ。えーっと、あの夜から、六日経った。仮に七番隊が帰着したのが、一昼夜歩いたとして……」

工兵「四日前かなぁ」

隊長「四日前としよう。それで、俺らの報告はともかく、一番隊が出撃?」

隊長「その彼らを紹介……新聞の出稿を考えると、帰着してほとんどすぐに記事の情報を流しているって計算だ」

隊長「ここから川をぐるっと回って移動すると、大体徒歩なら三日はかかる」

救護員「……うん、はい。はやい、ですね」プシュー

商人「大丈夫なの、この子」

隊長「……救護員。学園は川の反対側にあるだろ?」

救護員「は、はい」

隊長「竜にやられて、学園へ帰ってくる。その日の内に、一番隊が出撃っていう記事を書かないとここまで届かないよね」

救護員「おおー、結構遠いですもんね」

隊長(……めんどくせぇ)


815 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:41:45.70XTS1z/sio (5/34)


商人「でも、それってどういうことなの?」

商人「もしかして、あらかじめ、知ってたってこと?」

隊長「……」

工兵「よく分かんないんだけどさ、すげー不愉快な感じだよね」

工兵「なんかこの記事だと、僕ら死んでることになってるぽいし」

救護員「へええ、不思議な感じですね」

隊長「……学園が何を考えているのか、正直、よく分からない」

隊長「どうする、商人? 報告書、速達で馬を飛ばしてもいいかなって思ってたけど」

商人「……控えたほうがいいんじゃないの」

隊長「やっぱりそう思うか」

隊長(剣士や術士のこともあるし、合流はしたいんだが……)

救護員「あ、あの~」

工兵「どうしたの?」



816 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:42:11.53XTS1z/sio (6/34)

救護員「隊長、その、こないだ試験をやったばっかりで何何ですけどねぇ」

隊長「なにかな?」

救護員「一面に載ってる、この、帝国が軍隊をーってあるでしょ?」

隊長「ああ、そのことか。こないだ人事部の人が来てたけど、そこでも聞いたんだ」

隊長「要するに、今は冒険者頼みだったけど、今後は自前の軍事組織を……」

救護員「じゃ、じゃなくて、この帝国とか共和国? ってどういう国なのかなーって」

隊長「あ?」

商人「え……」

工兵「それ、試験で出たよね」

救護員「ちちちちょっとど忘れしただけなんですけどっ!」

隊長「……」

救護員「ほほほほら、復習もしないとですよねっていう!」

隊長「じゃあ、とりあえず、回答してみて」

救護員「うあっ」


817 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:42:37.80XTS1z/sio (7/34)

商人「まさか外はアホ面、中は真性のアホだと……」

救護員「うるさいっ! あんたには言われたくないですー」

隊長「確かに無知で少しおかしいけど、そんなにアホじゃないよ」

救護員「隊長ーっ!?」

工兵「あはは」

隊長「いいところもあるんだ」

商人「どこよ、言ってみなさいよ」

隊長「体力があるところと、空気が読めないところかな」

救護員「それって褒めてますか!? 褒めてないですよね!?」

商人「空気が読めないのが何がいいの」

隊長「うーん、ウチは内向的な性格の人が多いからねー。ぶち壊してくれる人がいるってのはありがたいんだー」

工兵「隊長も根暗だしなぁ」

商人「へぇ。そう。」

救護員「うわーんっ、なんか辱められたぁーっ」


818 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:43:07.12XTS1z/sio (8/34)

隊長「……じゃあね。カードはないから、ステップ式に説明するね」

救護員「しくしく」

隊長「いいかな?」

工兵「あ、その間に、料理を注文してもいい?」

商人「私も」

隊長「じゃあ、俺達の分もよろしく」

工兵「おっけ」

隊長「……簡単に言うと、帝国とか共和国っていうのは、国を誰が運営しているのかって意味なんだよ」

救護員「運営……ふむふむ」

隊長「帝国なら、皇帝が。王国なら、王様が。共和国なら、共にだから、大勢の人が」

救護員「はい! 皇帝とか、王様の違いってなんですか?」

隊長「旧大国、昔の大きい国で一番偉い人が皇帝だったんだ。で、その皇帝に任命されたのが王様」

救護員「えーっと、皇帝が一番えらいってことですか?」

隊長「今は国が分裂しちゃったから、当時の名残ってだけだと思うね」

救護員「……えーっと」


819 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:44:11.04XTS1z/sio (9/34)

隊長「『昔は、俺は偉かったんだぜ~』って言っているのが今の皇帝」

救護員「じゃあ、王様は?」

隊長「『今は別の国なんだから偉ぶってんじゃねぇ』って言ってる」

救護員「はぁ、仲が悪いんですね」

隊長「そういうこと。それだけじゃなくて、帝国は自前の軍隊を持ちたいわけだ」

隊長「旧大国の時、軍隊の指揮権を持っていたのは皇帝だったから」

商人「帝国は商売がやりにくいのよね~」

隊長「冒険者も商人もなんだかんだで移動が激しいし、金はかかるしで良いことないからね、自前がいいって思うんだろう」

救護員「わ、私達が、ダメ、みたいな?」

隊長「ダメって言うより、商売も自分たちのところで住んでる人でやるし、冒険者任せにしないで国を作ろうって言ってるんだ」

隊長「きちんとした軍隊を持っていても、竜には勝てなかった。だけど、もう竜はいない」

隊長「……勇者が、冒険者が活躍する時代は終わったんだ、ということでね」

工兵「復活してんじゃん」

救護員「そうですよ!」


820 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:44:41.13XTS1z/sio (10/34)

隊長「そりゃ、まあね。でも、実際に竜が脅威になってるわけでもないし……」

隊長「他の国でも冒険者に対する目は厳しくなってきている」

工兵「そうなの?」

隊長「そうだよ。冒険者は儲からなければすぐ盗賊化するし」

隊長「仕事だから、その国がどうなっても知ったこっちゃない」

隊長「もちろん、元冒険者として国のお抱えにする手もあるけど、下手をすればあっちこっちの機密を握られる可能性だってある」

商人「……ああ、なるほどね。それで学校に行くとき、商隊の他のやつらも止めたわけだ」

隊長「ふーん、商人の間でも、なんかあったんだ?」

商人「そりゃもちろんよ」

救護員「冒険者って、なんか……」

隊長「先のない商売ではあるよね」

工兵「まあ、誰でも彼でもなるものではないよねぇ」

隊長「工兵とか、商人なら、冒険者の技術を身に着けても、別の面で食っていけるだろうけど」

救護員「わ、私……」



821 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:45:10.40XTS1z/sio (11/34)

隊長「救護員は、どうするの……?」

救護員「お、あ、そ、そりゃ! お嫁さん、とか?」

商人「いくらなんでも……」

工兵「金ドブもいいところだよ……」

隊長「それって冒険者関係無いよね」

救護員「だって! 別に冒険者になりたいわけじゃなかったですし……」

隊長(工兵を追ってきただけだもんな……)

商人「思いつきで進路を選択すると、こうなるわけよ」

工兵「なるほどねぇ。僕も、師匠に言われたから来たけど、考えなしだったのかもねぇ」

救護員「うわ~ん、隊長ぉ」

隊長「……分かった分かった。進路相談してやるから」

商人「大変ね、隊長って」

隊長(報われる気がしない……)


822 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:45:42.17XTS1z/sio (12/34)

――食後。

隊長「というわけで、だ」

救護員「くはー」

工兵「結構、食べたね。隊長も」

隊長「ん?」

商人「……病み上がりが山盛り二杯も食うってちょっと」

隊長「いつまでも足手まといは嫌だからな。で、午後と、今後の行動についてなんだけど」

商人「いずれにせよ、早く帰ったほうがいい気がする」

隊長「俺もそう思う。馬の方が早いと思うけど」

救護員「馬なら、実家が結構持ってますよ!」

工兵「ああ、そういえば、実家が流通業、だったね」

救護員「そう!」

隊長「さっき追い出された」

救護員「そう……見てたんですよね……」


823 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:46:08.74XTS1z/sio (13/34)

隊長「もし、その、家族ってことで格安で準備してもらえるならすごく嬉しいけど……」

救護員「いやあ、無理なんじゃないですかねぇ」

隊長「……ま、一度、挨拶はしないといけないとは思ってたから」

救護員「い、行くんですか!?」

隊長「どの道、午後は救護員と行動する予定だったし、ちょうどいいじゃん」

救護員「ど、どうでしょう……」

商人「あんた、さっきの様子を見てたんでしょ」

隊長「ああ」

商人「……ひっくり返せる公算はあるの?」

隊長「ないな。情報が足りないんだもん」

工兵「しょうがないさ。だけど、そっちを当たってみるのは悪くないと思うな」

隊長「ま、馬を取るのだけが目的ってわけでもないし」

商人「はぁー……」

隊長「どうかした?」


824 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:46:34.57XTS1z/sio (14/34)

商人「……ん、ウチの隊長は、よく分からないことばかり言って、有無を言わせなかったけど」

商人「あんたはあんたで頑固よね」

隊長「そう、かな?」

工兵「ああ、なんだかんだで、隊長は自分の意を通そうとするもんね」

商人「物腰は丁寧だけど、腹は真っ黒って感じ?」

隊長「腹が黒いのは商人の方じゃないの?」

商人「……ぷっ」

隊長(笑うな)

商人「まあ、あんたがそういうなら、私はもう少し情報収集するわ」

商人「さっきの市場では、小銭を稼いだ程度だし」

工兵「じゃあ、僕がついてくよ」

商人「よろしく」

隊長「ああ、頼む」

救護員「ああ、お父さん、怒ると長引くんだよなぁ……」


825 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:47:00.96XTS1z/sio (15/34)


――救護員宅。

救護員「ど、どうぞ」

隊長「お邪魔します」

救母「あらあら、どうぞ。いらっしゃいました」

隊長「いつも救護員にお世話になっています」

救母「迷惑になっています、の間違いじゃなくて?」

救護員「もう、お母さん、隊長の前でまで、そういうこと言わないで」

救母「あら、ごめんなさい。お母さん、ちゃんと知ってもらいたくて」

救護員「なんなの~?」

隊長(また、クセの有りそうな母親だな……)

救母「……何か?」

隊長「あ、いえ、随分お若いんですね」

救母「ええ、かなり早くに嫁いできましたので」

救護員「隊長! 年上趣味だからって、お母さんを口説かないでくださいよ!」

救母「あらあら」

隊長(ふざけんな)


826 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:47:41.21XTS1z/sio (16/34)

救護員「お父さん、出かけちゃった?」

救母「ええ、けど、少ししたら戻ってくるでしょうから」

救護員「うう……」

隊長「すみません、いろいろと」

救母「遠慮なさらず、応接室にどうぞ」

隊長「よろしくお願いします」ニコッ

救護員「うーわ」

隊長(お前、ここでその反応はねぇだろ)

救母「お茶いれてくるわね~」

隊長「あ、お気遣いなく……行っちゃったか」

救護員「そんなん、やらなくてもいいのに」

隊長「救護員はやりたい放題だね」

救護員「ど、どうしてですか?」


827 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:48:13.23XTS1z/sio (17/34)

救護員「……それでね、竜がね、ぐわーっと」

救母「その話はもう聞いたわ~」

救護員「だから、そこで、隊長がビシィッと『爆雷管作動!』ってやって、もう、竜も私達も吹っ飛んじゃったわけよ!」

救護員「まあ、その拍子に私も背骨をぼきっとやっちゃったんだけどね!」

隊長(良く生きてたな……)

救母「それは大変だったわね~、隊長さん?」

隊長「無我夢中でしたから」

救母「……」

隊長「すみません、お嬢さんを危険に晒してしまって」

救母「そりゃあ、そういう仕事なんだもの~」

救護員「お母さんも、あまり隊長を突っつかないの!」

隊長「いや、けど」

救護員「もう~、隊長は自己評価低すぎなの! 私は、隊長を信頼してますから」


828 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:48:39.63XTS1z/sio (18/34)

救母「けどね、一歩間違えれば命を失ってたのは確かでしょ?」

救護員「そりゃそうかもしれないけど」

救母「あなたじゃなくて、隊長さんに聞いてるのよ?」

隊長「命の危険は、確かにありました。でも、やらなくちゃいけないことだとは、思っていましたので」

救母「それはあなたの考えだけど、パーティーはあなただけの問題じゃないでしょう」

隊長「……」

救護員「おかあさん!」

救母「まあまあ」

隊長「……正直に言うと、本当は、自分の判断が間違っていたんじゃないか、と思った瞬間もありました」

救母「ふうん」

救護員「た、隊長……」

隊長「けど、最善を選びました。結果的に、私も重症を負いましたが、命までは失いませんでした」

救母「……」


829 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:49:05.64XTS1z/sio (19/34)

隊長「だから、その、認めてほしい、というわけではなく……」

救護員「た、隊長は、頑張ってるのよ」

救父「……努力がすべて実るものとは限らん」

救母「あら、あなた」

救護員「お、お父さん」

隊長「あ、おじゃましてます」

救父「うむ。ええと……」

救母「救護員の、学園でのお友達よ」

救護員「学園戦隊の隊長なの!」

救父「……? ああ、冒険者のパーティーのことか」

隊長「すみません、こちらに寄ったので、ぜひ挨拶をと」

救父「ふん! 出て行けと行った奴は懲りずに戻ってくるし」

救護員「な、なによ!」


830 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:49:31.78XTS1z/sio (20/34)

救父「大体、私は学園なんぞ最初から反対していたんだ!」

隊長「はぁ……」

救父「君も、大方、学卒資格が欲しくて入ったんだろうが、どうせ冒険者なんか廃れる仕事だ!」

救父「伝説を夢見るのは結構だが、まじめに働いた方がいいんじゃないのか」

救護員「な、なによ、そんな勝手に……」

隊長「おっしゃるとおりです」

救護員「た、隊長!?」

隊長「自分は夢見てではなく、なんとか家から出たくて学園に入りましたので」

救父「……なんだ、それは」

隊長「ええと、まあ、あまり仕事口のあるところではありませんでしたから、親に迷惑を掛けたくなくて、ですね」

救父「冒険者になる方がよっぽど迷惑だろうが!」

救護員「な、何言ってるのよ!」


831 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:50:10.50XTS1z/sio (21/34)

救護員「何が迷惑だっていうの!」

救父「現にここに来たのは、金をせびりに来たんじゃないのか、だったら今も迷惑をかけている真っ最中ではないか!」

隊長(まったく、そのとおりだわ)

救父「冒険者はクズだ! 勝手に運送の仕事を始めるわ、役所に正規の手続きは取らないわ!」

救父「特務機関だって斡旋業者みたいなもので、悪質な連中を取締もしない!」

救父「おまけに盗賊に崩れる連中も多い!」

救父「実害を被っているんだよ、私は!」

救護員「だっ……!」

隊長「よく分かります。連中、金でしか動きませんからね」

救護員「隊長!?」

救父「そ、そうだろう」


832 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:50:50.37XTS1z/sio (22/34)

救父「今後の見通しを見て見給え、帝国は軍隊を持つし、王国も財政状況が安定してきた」

救父「いずれ、冒険者は切り捨てられて、仕事を失う」

救父「そうなったら、どうなる、総崩れで犯罪者になるに決まっとる!」

隊長「間違いないでしょうな」

救父「……いや、だから、君もそれを目指しているんじゃないのかっ?」

隊長「私の姉は、卒業して王国に就職しておりますし、必ずしも冒険者になっているわけではありません」

隊長「学園の生徒の大半は、地元に帰ったり、移動の激しい職業などに就いたりしています」

隊長「冒険者の学園が、冒険者のみを生み出しているわけではないですし」

救父「あー……そうか」

救母「うふふ。あなたの負けですわね」

救父「ま、負けとかそういうのではない!」


833 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:51:20.39XTS1z/sio (23/34)

救母「まあまあ、帰ってきてすぐに、そんなに怒鳴ったら、喉がかわいたでしょう」

救母「お茶を持ってきますわ」

救父「う、うむ」

救母「救護員、あなたも手伝いなさい」

救護員「えええ?」

救母「こういう時は、そういうことが必要なの」

救護員「……お、お父さん」

救父「行け。私は、彼に話がある」

救護員「それはいいわよ。けど、隊長は、昨日まで、重症で、寝ていたの!」

救護員「分かる? いじめないでね!」

救父「うるさい! 早く行け!」

隊長(……父親似っぽいのかな)


834 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:51:47.03XTS1z/sio (24/34)

救父「……救護員から、自慢話のように聞かされた」

隊長「何を、ですか」

救父「君たちが竜にあって、命からがら脱出したという話だ」

隊長「……はい」

救父「私に言わせればな、そんな話は引き受けるべきではなかった」

救父「リスク回避というやつだ。竜はいまや絶滅しているとも思われている種だが、危険は危険だ」

隊長「仕事でしたので」

救父「仕事? ふん! 一人前になったつもりかっ」

隊長「学園では、実際の冒険者のパーティーのように戦隊を結成して、実際に依頼を受けて行動する実習をやっているんです」

救父「そんなままごとみたいなものは無意味だ! 素人が寄り集まっても素人の考えしか出ない」

救父「本来は、プロの近くで仕事ぶりを盗み見ながら、少しずつ経験を積むべきではないか」

隊長(ほう……そういう考えもあるのか)


835 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:52:57.70XTS1z/sio (25/34)

救父「プロであれば、間違いは犯すまい。あるいは、限りなく少ないだろう」

救父「そんなことも分からずに、子どもに武器を持たせるような学園など、推して知るべしだな」

隊長「もちろん、そういう考えも理解できます」

隊長「しかし、実際のところ、竜に対しては誰かが切り込む必要はあったのでは?」

救父「……なぜだね」

隊長「この町に住んでいる人でも、何人か目撃していますし、下手をすれば近づいているとも考えられます」

救父「そのために、真っ先の犠牲になったのは、君たちのような子どもだぞ!」

隊長(うるさい親父だ。子ども扱いするのがうぜぇ)

隊長「……一応、言っておきますが、川上の谷に生息している竜は十数匹以上、いますよ」

隊長「もっと繁殖しているとしたら、人類の脅威になると思います」

救父「大規模に襲われるよりはマシだった、とでも言いたいのか? ふん!」

救父「竜退治が流行るようになれば、また冒険者達の時代になるものだからな」

救父「そうすれば、そう、君も仕事に困らないだろう」

隊長「はぁ……」

隊長(……冒険者たちの、時代、ねぇ)


836 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:53:28.42XTS1z/sio (26/34)

救父「君にとっちゃ、竜が世界を闊歩している時代の方が嬉しいのかもしれん」

救父「だがな、そんな迷惑ごとを冒険者に任せておけるわけがない」

隊長「勇者でもなければ、そうそう太刀打ち出来る人はいないと思いますし……」

救父「あんなものは伝説だ。本当に竜の情報を信じるなら、それを相手取った勇者は化物でもなきゃおかしい」

隊長(化物かもしれんがなぁ)

救父「とにかく! 娘を連れ出すのはやめてほしい」

救父「この際、学園からも引き戻すべきだ!」

隊長「……」

救父「な、何か、言ったらどうだ」

隊長「先程は、お家を追い出されたのですよね?」

救父「……そんなのは、くだらん揚げ足取りだ。冒険者の将来など、目に見えている!」

隊長「そうですか」

救父「そ、そうですかって貴様」

救母「はいはい、お茶が入りましたよ」


837 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:53:54.93XTS1z/sio (27/34)


隊長「あ、ありがとうございます」

救母「まあまあ、白熱しているわね」

救護員「はい、お菓子ですよ~」

隊長「おお。救護員は得意だもんね」

救護員「へへへ」

救父「……ちっ」ヒョイ、パク ズー

救護員「ちょっと、いただきますもなしに!」


隊長(冒険者の将来、ね……)

隊長(俺は村に、帰るつもりだったが、他の連中は……)

隊長(まさか、あのメンバーでパーティーを組むわけにもいくまい)

隊長(救護員も……)

隊長「あの」

救父「んぐ、んぐ。なんだね」

隊長(あっという間にお菓子平らげたぞ。このおっさん)


838 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:54:26.84XTS1z/sio (28/34)

隊長「……自分では、その、卒業後もずっと冒険者を続けるつもりはないです」

隊長「ただ、他のメンバーのことは、あまり、聞いたことはありませんでした」

隊長「どこへ出しても通用するようには、高め合っている、つもりですが」

救護員「……そ、そうですよ! ほら、こないだの中間試験!」

救護員「万年追試追試アンド追試の私が、一発合格ですよ!?」

救護員「こりゃもう、隊長の教え方が」

救父「うるさいから黙っておれ」

救護員「なによぅ!」

隊長「とにかく、私は救護員に……助けられてきました。救護員は大切な仲間です」

隊長「同じ隊の隊長として、できる限り、責任を持ちます」

隊長「出来れば、今後もよろしく、お願いします」


隊長は深々と頭を下げた。


839 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:54:52.80XTS1z/sio (29/34)

救護員「た、隊長……」

救父「き、君、いやその」

救母「あなた」

救父「うっ、なんだ」

救母「若い人を怒鳴りたいだけなら、もう良いでしょう」

救父「いや、その、しかしだな……」

救母「あなたはどうなさりたいの? こんな危険なことはやめろ、と?」

救父「……」

救母「言えないわね。若い頃は竜なんか目じゃないくらい、もっと無茶したものね~」

隊長(どんだけだよ)

救母「あまつさえ、私を命の危険に晒したわよね~」

救父「そ、それは、この場では関係無いだろう! いや、むしろ、大切ならもっと守るべきではないか!」


840 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:55:20.54XTS1z/sio (30/34)

救父「頭を下げれば、解決するものではないんだぞ!」

救母「ふうん?」

救父「そ、そうだ。娘の命がかかっていたんだ」

救父「できる限りも何も、さんざん危険に晒しておいて、責任も何もあるか」

救父「無責任だよ、君は」

救母「あなた」

隊長「……」

救母「ねえ」

救父「……そ、そうだな」

隊長「……すみません」


救護員「――もう、いいですよ。隊長」


841 ◆k.6bdeNTfg2012/10/18(木) 23:55:46.33XTS1z/sio (31/34)

救父「な、何を言ってるんだ!」

救護員「……隊長は何も、悪くないです」

救護員「お父さん、私がやめれば気が済むなら、私、学園をやめます」

隊長「えっ」

救父「は?」

救護員「そう、その。今、私達、困っているから。馬が欲しいし、旅費も必要なの」

救護員「でも、私達がやったことが、気に食わないんでしょ」

救父「き、気に食わないとか、そういうことではない!」

救護員「私たちは、自分なりに正しいことを選んできたもん。それに、隊長は……」

隊長「え?」

救護員「隊長は、最後まで諦めなかったよ。竜に囲まれても、最後まで指示を飛ばしたし」

救護員「川に流されて、ボロボロになっても、ちゃんと、ちゃんと私を引き連れて……」

救護員「隊長は、隊長は無責任なんかじゃ……」ポロポロ