982VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/21(月) 22:11:20.74CpeNUaoDO (5/12)

一方通行(待て…レナは何て言ってた…?)


未だに回転の悪い頭で記憶を探る一方通行


"すぐに来るって言ってたよ"


一方通行(……死んだはずのダム監督がすぐに来るだと…?)


体を起こし呆然となる

鈍っていた防衛本能が次第に働きだした


レナ「起きちゃダメだよ。道行くんは怪我人なんだから」


がし…とレナが優しく羽交い締めをしてきた

その優しい感触とは違いレナの腕はしっかりと一方通行の肩まで回っている


一方通行「レ…ナ……?」


ヒヤリと一方通行の背中に冷たい汗が伝う


レナ「ねぇ、魅ぃちゃん?」

魅音「…そうだね。監督が来るまでに済ませとくかな」

一方通行「済ませる…だと?」

レナ「罰ゲームなんだよ。罰ゲームなんだよ!」

魅音「レナのおはぎを当てる宿題あったじゃん。あれ宿題忘れだったよねぇ?」


魅音の言う通り確かにそんなこともあった

しかし何故よりにもよって今なのか

悪い予感がしてならない


983VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/21(月) 22:15:01.41CpeNUaoDO (6/12)

気づけばレナと魅音の二人はなにかしら企んでいるかの様な怪しい笑みを浮かべている


魅音「暴れないでよ?会則第…何条でもいいや。罰ゲームに抵抗しちゃダメなんだからさ」


そう言って魅音はポケットをまさぐり出して一本の細長いペン状になっているものを取り出した


魅音「監督が来る前に済ませないとね…」


キュポン…と独特の音を出してそれの蓋が外される


一方通行(……注射器?)


確かに注射器だった

何故か魅音の手にあるそれは病院で使われるような細く目盛りが書かれてあるごく普通の注射器で中には何の薬品か知れないが小量の液体が入っていた


魅音「大丈夫。痛くないよ~…クックック!」


中の薬品を交ぜるように注射器を揺らしながら魅音が言う


一方通行「な…ンの真似だ…お前らァ!?」

魅音「何って…見て分からない?今更カマトトぶられてもなぁ」

一方通行「はぐらかして煙巻いてンじゃねェ!!」


やれやれとばかりに魅音はため息を吐きこれまで以上に怪しく笑った


魅音「富竹さんと同じ目に遭ってもらう」

一方通行「…え……?」

レナ「……道行くんとぼけてるよね?…薄々は気づいてたくせにぃ☆」



984VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/21(月) 22:16:54.76CpeNUaoDO (7/12)

心臓の跳ね上がる音がはっきりと聞こえた

大石の言葉が一方通行の脳裏を駆け巡る


"富竹ジロウさんが昨晩お亡くなりになりました"

"死因は喉を自ら掻きむしった事です"


一方通行(あの薬を射たれると喉を掻きむしって死ぬことになンのか!?)


だが大石は薬物は検出されなかったとも言っていた

──しかしだとしたらあの注射器はどう説明できる?

──この状況で富竹と同じ目に遭うのなら殺される他に何がある!?


一方通行「は…離せ!」


反射的にもがくも一方通行の体はレナにしっかりと抑えられ思うように動かせない

以前罰ゲームでレナと梨花に抑えられた事がこんな状況で脳裏に浮かんだ


一方通行(能力だ!反射さえ使えばこの場を切り抜けれる!)


必死に首元へ手をやる一方通行

レナもそれに気づいたかのかより一層強く一方通行を押さえつける


魅音「おーおー抵抗しちゃって…そろそろ観念しなって?」


ゲラゲラゲラゲラ!!


馬鹿にしたように魅音とレナが笑い出す

力を振り絞って電極へ手をやる一方通行

不愉快な嘲笑と共に魅音の注射器が残り数センチという距離まで迫ってくる



985VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/21(月) 22:18:30.40CpeNUaoDO (8/12)

なかば諦めた瞬間一方通行の指が電極に触れる


一方通行「がァァ゙ッ!!」


渾身の力を入れ能力使用モードに切り換える一方通行

その瞬間一方通行はただの貧弱な身体障害者から学園都市最強の超能力者へと姿を変える


一方通行「…な?」


しかしそれだけだった

能力は確かに戻っているにも関わらず一方通行は相変わらずレナにしっかりと羽交い締めにされている

レナ達の笑いも止み薄暗い部屋に沈黙が訪れる


一方通行(……何がおこってやがる!?)


能力は間違いなく戻っている。反射も正常に働いている

だとすると考えられる事は


一方通行(反射の設定ミスか!)


反射は基本的に一方通行の指定した物以外全てに適応される

雛見沢に来て魅音らと親密になっていくにあたって彼女らに対する反射を全てOFFにしたのだった


一方通行(反射のリストにレナと魅音を追加する!)


演算を組み直す一方通行
検算を含めても0.1秒も必要ない

一方通行「…な、ンで……?」


しかし状況は数秒前と何も変わらなかった

それどころか一方通行の精神的な面からすれば悪くなったのかも知れない


986VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/21(月) 22:21:42.87CpeNUaoDO (9/12)

またしても反射は全く機能しなかった

今でも電極に受信しているミサカネットワークの電波は能力で簡単に確認できている

能力には全く問題はないのだ

しかし反射は機能しない

検算にも狂いは無かった

設定ミスもあり得ない

たちの悪い悪夢でも見ているかのような心境だった


一方通行(なンで…?なンでだってンだ!?どォして反射が効かない!!?)


反射は基本的に一方通行に害する物全てに設定されている


一方通行(!──まさか俺はまだどこかでコイツらを敵として見れてない…のか?)


スイッチが切れたかの様に一方通行の体から力が抜ける

思い返せばそのような場面は幾度となくあった


おはぎに針が入れられてると気づいた時一方通行は彼女らに何もしなかったのは何故か

昨日レナが訪ねてきた際にもドアを閉めるなど中途半端な抵抗などせず能力で迎撃も出来たはずだがそれをしなかったのは何故か

魅音が犯人の一味と確信した時も問い詰める事をしなかったのは何故か

帰り道鉈を持って襲ってきたレナに直ぐさま反撃に出なかったのは何故か


987VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/21(月) 22:24:33.10CpeNUaoDO (10/12)

認めたくない思いに反して嫌な確信が一方通行に生まれてきた


一方通行(そンなワケあるか!レナと魅音は間違いなく敵だ!)


自分に言い聞かせるようにしながら一方通行は再び演算を組み直すも反射は機能しない


一方通行(あの日々は全て偽物で俺を油断させるための罠だ!そンなのも分からねェ程馬鹿じゃねェだろ!!?)


またもや演算を組み直す

小言を言いながら歩を進めた登校時
トラップの攻略に燃えた朝のひととき
悪態を吐きながら机を囲んだ授業風景
机を寄せ合って互いの弁当を自由につまみ他愛のない話をした昼休み
面倒な授業からも解放されハメを外して騒いだ部活
その日一日の余韻に浸りながら影を並べ歩いた夕日に照らされる帰りの畦道


その風景が一方通行の脳裏にはっきりと蘇る

反射は機能しなかった


一方通行「…ッ!」


それでも一方通行は演算を組み直す

休日を返上してまで不馴れな自分に雛見沢を案内してくれた事がありがたかった
宝探しでレナにゲコ太を掘り出してやれた事が自分の事のように嬉しかった
罰ゲームで一喜一憂する仲間の顔を見るのが楽しくて仕方がなかった
祭りのひとときは一生忘れられない宝物となった

気付けば完全に演算自体を一方通行は止めていた



988VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/21(月) 22:30:06.07CpeNUaoDO (11/12)

気づけば頬が濡れていた


──悪いのは自分の方だった

──今まで経験したことの無い二人の優しさに明るさに素直さに思いやりに輝くような笑顔に自分はようやく全てをやり直せた

雛見沢に来て確かに一方通行は救われていた


魅音「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!!!」

レナ「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげら!!!!」


突然涙をこぼし始めた一方通行を見てレナと魅音は大声で笑い出す

二人の狂笑が部屋に響き渡る


一方通行「…フ…ふ…ふざけてンじゃねェぞォォォォ!!クソッタレがァァァァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!!!!」


その咆哮が嘲笑を上げるレナと魅音にか
それとも未だレナと魅音に幻想を抱いてる自分に向けてかは一方通行自身も分からなかった

純粋なベクトル操作で羽交い締めにしているレナを振り払う

一方通行の呼吸は荒く上手く思考が働かない

しかし一つだけ確かなことがある

──この場を切り抜けなければ確実に明日はない

──しかし反射は通じない

──だったらどォする?

──簡単じゃなイか

──反射が通ジなクとも


989VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/21(月) 22:30:40.59CpeNUaoDO (12/12)




──血流操作ガアルジャナイカ






990VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/22(火) 07:49:57.68jSHBU5Z8o (1/1)

ぞくぞくする


991VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/23(水) 05:04:32.35MDhstSna0 (1/1)

幼女だったら抵抗諦めてたのかな?


992レス辺りの投下量をさらに二倍に増やす意地でも終わらせてやる。投下2013/01/23(水) 07:10:48.04Xpww3lwDO (1/7)

再び目が覚めた時はもう完全に暗闇に包まれており部屋の様子は全く分からなかった

杖を使い立ち上がり一方通行は部屋の灯りを着ける

蛍光灯の灯りで一瞬目が眩むも徐々に部屋の様子が分かってきた


一方通行「…………は?」


目に映った部屋の光景が理解できなかった

一年ほど前まで嗅ぎ慣れた匂いが鼻を刺激する


一方通行「ゥヴ!?」


途端に激しい吐き気に襲われ反射的に左手を口元に運ぶ一方通行


一方通行「がェッ!げはっ!!ぐふっ!!」


ついに堪えきれなくなった一方通行は膝をついてえづき出してしまう

昨日から何も口に入らなかったのが幸いしたのか胃からの逆流は無かったがそれでもしばらくは嘔吐感が消えることは無かった


嘔吐感がようやく消え今一度一方通行は虚ろな瞳で部屋全体を見渡す

血溜まりだった

白い蛍光灯の灯りは鮮やかに部屋を赤黒く照らしその中心にほとんど原型なんて留めていない二つの肉塊があった

一方通行は自分の掌を見つめる

その手からは反射の効かない彼女らの血がポタポタと滴り落ち血溜まりに波紋を作っていた


一方通行「なにが…守るだ…」


──結局自分は何も成長してなかったじゃないか

──再び能力を使い取り返しのつかない事をしてしまったじゃないか

──犠牲者を増やしただけじゃないか

──結局自分はただの化物だったじゃないか


一方通行「ゥ゙ぐッ!?」


血溜まりに手をつき再びえづき出してしまう一方通行

まだ生暖かい液体の温度ががじわじわと伝わってくる

あの優しく抱き締められた温かさが直に手から伝わってくる


一方通行「グァ…ァ゙ァ゙…ァ゙ぁぁあァァア゙ァ゙ァ゙亜ぁァ゙ァぁァァァア゙ァァ゙阿アアアァ゙ぁァァアアア゙ァ゙ァァァア゙!!!!」


乱雑に髪を掻きむしり糸が切れたように後ろへ倒れ込む一方通行

その目は照準が定まっておらず腕は力なくだらりと垂れており最早彼自身からも生気は感じられなかった

時計の針の音だけが不気味に静まり返った部屋に響き続けた



993VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/23(水) 07:19:42.17Xpww3lwDO (2/7)

外から車の急停止する音が時計の針の音を掻き消した


作業服を着た数人の男と白衣を羽織った男が白いワゴン車から慌ただしく出てくる
白衣の男が幾つかの指示の様なものを出した後一人の作業服姿の男が灯りの着いた玄関先に近づきインターホンを鳴らした
しかしドアの向こうからは何の反応も帰ってこず十数秒の時間が過ぎる
それを受け男は振り返り仲間と顔を見合わせ慎重にドアノブに手を伸ばした


べぎゃッ…


何かが砕ける音がして男の腹部に違和感が生じる


「え…?」


見ると白く細い腕がドアを突き破って腹部へと伸びており作業着からは赤い染みがじわじわと広がっていた


「なにこ─」


言い終わるよりも前に男の体は不自然に歪み水風船を割った様に内側から破裂した

玄関先の灯りと街灯に照らされ鮮血の雨が周囲を赤く染める

作業服の男達は何が起きたか全く掴めずにいた

さっきまで仲間の一人がいた今はもう赤黒く染まってしまった玄関先には中心に不自然に穴が開いたドアがあるだけで誰もいない

そのドアがゆっくりと力なく開いていく


暗い玄関には一人の白髪で中性的な顔立ちの少年が項垂れて立っていた
よく見るとその体の至るところには赤黒い何かがこれでもかと付着している


一方通行

虚ろな目で脱け殻のようになってはいるが学園都市level5がそこにいた


ゆらり。と顔を上げる一方通行
作業着の男達に緊張が走り風が彼らの間を不気味に通り抜ける


「…ひっ!」


後方から小さな悲鳴が聞こえた
男達が振り返ると今の今まで玄関にいたはずの一方通行が一番後ろに控えていた白衣の男に右手を伸ばしている

ブチブチゴリュベリャ!

その手が左肩に触れた瞬間その肩から肉の繊維が切れる音と骨が外れる音、そして肩から体が千切れ飛ぶ音が響いた
男の体はそのまま20~30メートルほど地面を転がりピクリとも動かなくなる

主を失った左手が重力に従いぼとりと地面に落ちた

作業着の男達は目の前で起こった光景を飲み込むことが出来ずにいた
首だけを動かし虚ろな目で一方通行は男達を睨む
本能的な恐怖に刈られ散り散りに逃走を始める男達

それを見て一方通行は無言で足下の左手を拾い上げ目についた一人に向かって投げつける
それだけでその男の頭はショットガンで撃ち抜かれたかのように爆散し残された体は3メートルほど走り前のめりに倒れ込んだ


994VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/23(水) 07:22:32.62Xpww3lwDO (3/7)

「あぁ…ば…ば…けも」


玄関の方から震えた声が聞こえ横目でチラリと見る一方通行
そこには完全に腰を抜かして震えている男の姿があった
一方通行はふらふらと玄関に足を進める
それを見て男はさらに怯えだし涙と鼻水と汗で顔をぐしゃぐしゃにさせズボンには染みが広がっていった
そうしてる間にも彼の目の前まで一方通行は迫っている


「待っ…て。違う!君は勘─」


ぐじゃり…


水っぽい何かが潰れる音がした


ワケが分からぬまま男は一方通行の足下を見る
そこには砕けたプリンのようになった赤黒い何かが無惨に散らばっていた
そしてそこには自分の左足首があったはずだった


「───────!!」


声にならない絶叫が夜の静寂に響きわたる
悶え叫ぶ男を一方通行は気にも止めずさらに一歩足を踏み出した

ズシャ

骨が砕ける音と肉が潰れる音がし男の左腰が地面と一体化する


「あ…ぁ…俺の…こ、し…」


うずくまり一体化した土を男は手に取って茫然と呟く
後頭部に一方通行の靴底が静かに運ばれた


ふいに車のエンジンのかかる音が響く
見ると一方通行が先ほどまでいた所の少し先に停められていたワゴン車がものすごい勢いで発進していた


「き…聞いてねぇ!聞いてねぇよ!なんなんだよあの化け物は!?」


アクセルを強く踏み込みサイドミラーに男の目が行く
そこに映る先ほどの化け物は既に豆粒ほどに小さくなっていた


「あは…あははは…助──」


地面をも揺るがす様な轟音が安堵の声を掻き消した
あまりの衝撃に男はフロントガラスに頭から突っ込みそうになる


「クソッ!!電柱か!?こんな時に!」


見ると前方のバンカーはヘの字に折れ曲がっており助手席と後部座席に続く空間は完全に潰れてしまっていた
また車のガラスは全て粉々に砕けておりフロントガラス至っては運転席側に破片が飛び散っている
さらにタイヤは歪み完全にパンクしてしまっていた
車体も歪に曲がっておりドアを開こうともびくともしない
これだけワゴン車は破壊されているのに関わらず運転席の男はガラスによる切り傷ほどしか目立った外傷が無かったのは奇跡だろう


「なんで…」


しかし男の口からは震えた声がこぼれる
信じられないとばかりに砕け散ったフロントガラスの前方を指差し声を張り上げる


「なんでテメェがここにいんだよ!!?」


995VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/23(水) 07:27:25.57Xpww3lwDO (4/7)

そう。激突したのは電柱でもなんでもない

ありとあらゆる物を反射させる学園都市のlevel5一方通行にだった
男の問いに一方通行は答えない。ただ不気味なまでに押し黙ったまま原型を留めていないバンパーにおもむろに手を突っ込み豪快に中の機器を引き抜いた
ファンベルトやエンジンなどの残骸が無惨に地面に転がる
そのまま一方通行はいつか宝探しでしたように千切っては捨ての解体作業を繰り返す


「止めろ…止めてくれ…」


解体音が足元にまで迫ってくる
ガクガクと震えたまま両手と右足でドアを開こうともするもびくともしない
蹴っていた右足を下ろし今度は体当たりをドアにし始める
ギシギシ…と僅かだが徐々にドアに隙間が生まれてくる

男の顔に微かな希望の色が出た

その一筋の希望に向け必死にドアに体当たりを繰り返す
しばらくするとガコンと何かが外れる音と共にドアがゆっくりと開いていった
急いで車から降りようとする男
しかし左足首に不意にやって来た妙な感覚に動きを止めた
恐る恐る自分の左足を確認する

そこには病的に白く細い手がクラッチペダルがあったはずの場所からぬうっと伸び男の左足首をがっしりと掴んでいた


「ひっ!?」


ずるずると引き摺られていく作業着の男
その先には一方通行の腕が伸びていた直径10センチにも満たない小さな穴しかない
骨と肉の潰れる音と男の断末魔が短く響く


ウインナー状になった男を投げ捨て一方通行は辺りを見渡した
月明かりに照らされた夜の雛見沢には動く物はもはや見当たらず虫の声一つも聞き取れない

月を仰ぐように一方通行は手を広げる

風一つ吹かない中一方通行の口元が僅かに上がっていく


──もはや全てがどォでもいい

──こんなにいい気分は久しぶりだった

──嫌、ここまでテンションが上がってしまったのは始めてかもしれない

──この爽快感、高揚感は今まで味わった事はなかった


一方通行「ククク…アハハ…ンはひゃ…ぎゃははハはぎゃハはヒャひゃヒャヒャひゃハはハはハハハ!!!」

静かな。ただ静かな夜に一方通行の狂笑は響き続けた



996VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/23(水) 07:34:30.28Xpww3lwDO (5/7)

深夜、興宮署に一本の電話が鳴り響いた


「大石さーん。一般の方から外線でーす」


名前を呼ばれた大石はため息を吐いて吸っていた煙草を潰し電話に出る


大石「お待たせしました。大石です」

『お…大石…か?俺だ…』

大石「!?一方さん!?」

『あァ…』


荒い息が受話器越しに聞こえてくる
言い様の無い嫌な予感を感じとる大石


大石「こんな時間にどうしたんです!?今どこにいるんですか!!すぐそちらに行きますよ!!」

『ァァ…ゲボッ…もォ…無理…だ…ゲホッゲホッ』

大石(この咳は普通じゃない…嘔吐…まさか血!?既に犯人に教われている!?)

大石「一方さん!犯人は誰なんです!?」

『ォ…れ…俺も最初…犯人はヒトだって思っ…ガボッ』

大石「大丈夫ですか!?一方さん!!」

『オヤシロさゴボッ…まの…祟りなンざありゲホッガボッ…えねェ…って』

『でもガボッ…ォお…おぉオオオオゲバッ』



『オヤシロさまはいる』



『あのあとも…ガボッ…潰しても潰しても…ゲホッ離れることなく…つけてきやがって』

『今も俺の後ろにピッタリ張り付いて…ゴボッ』

大石「あなたの後ろに犯人がいるんですかっ!?」

『振り向ケるワケねェだろ…ゲホッゲボッ振り向いたら…ゲボッゲボッゴボッ』


一方通行の咳が次第に荒く増えていく


大石「お願いです!チラッと見てくれるだけでいいんです!!教えてください!!」


受話器の向こうからの反応はない
ゲボッ…ガボッ…ゴバッ…という咳と共にバリッ…バリッ…と妙な音が聞こえてきた


大石「…一方さん…あなた…まさか」


大石「喉を掻きむしったりしてないでしょうね…?」


ガシャァァン!と倒れ込むような音が受話器の向こうから響いてきた


大石「!一方さん?もしもし一方さん!?」


『ごめンなさい…ごめンなさい…ごめンなさい…ごめンなさい…ごめンなさい…ごめンなさい…ごめンなさい…ごめんなさイ…ゴメンナサイ…ゴメンナサィ…ゴメンナ』


何の誰に対する言葉かは大石には検討もつかなかったがその謝罪は電話が切れるまで延々と響きつづけた


997エピローグ~とある畦道の夕暮れの中に~2013/01/23(水) 07:46:20.81Xpww3lwDO (6/7)

気づけば夕暮れの畦道を歩いていた
意識ははっきりしないが冷やされていく空気とひぐらしの鳴き声が妙に心地よい

これまでの事が上手く思い出せない

まるで夢と現実が混ぜ合わされているかのような感覚だ

いや、たぶんこれは夢なのだろう
恐らくこの夕暮れの風景が完全に闇に包まれたら自分はまた目を覚ますのだ

ふと右に目を向ける

そこには夕闇で顔ははっきりとは見えないがレナがいた


「──────」


彼女の言葉は聞き取れなかったが恐らくそれは優しい思いやりのある言葉なのだろう
今まで誰にもそんな言葉はかけてもらえなかった
友人として対等な目線での彼女の優しさは何よりも温かかった

そんなレナが大好きだった


次に左へ目を向ける

そちらには同じくはっきりと顔は見えないが魅音がいた

魅音はこちらの視線に気づくと踊るように体を回し数メートル先まで走っていった

明るく活発な彼女との思い出が浮かび上がってくる

休日を早く起きて遊び回るなんて以前の自分からしたら考えられない事だった
初めて心から気を許せる友になってくれた

そんな魅音が大好きだった

勿論この思いは自分が思っているだけの一方的な感謝で彼女らにとっては何の特別な事でも無いのかも知れない
ただ単に普通に雛見沢に来た転校生と打ち解けようとしていただけなのかも知れない
だけど自分はそれに救われた

そんな雛見沢の普通が大好きだった

気づけば辺りはますます暗くなっていた
二人の姿もかなり見えなくなっている

暗くなれば自分は違う状況で目を覚ますかも知れない
ならば最後に一つだけ言わなくてはならないことがある

自分を救ってくれたレナと魅音、そして雛見沢に。

心からの最初で最後の


「…ありがとう」


視界は完全に闇に包まれた
ひぐらしの声はまだ鳴き続けている


998VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/23(水) 08:31:37.36s69c1LpV0 (1/1)

>>1乙 第一位逝ったか…




999以下、名無しに変わりまして前原圭一がお送りします2013/01/23(水) 08:43:06.04Xpww3lwDO (7/7)

終わり!疲れた!
とりあえず質問に答えとくと

>>976最初の先回りは一方通行もあまり速度出していませんでしたし土地勘のあるレナが近道して回り込んだだけです
二回目のチラッと見たときは雛見沢症候群お馴染みの幻覚だと考えてください。大方農作業中の婆さんを見間違えたんです。
でその後がむしゃらに森を駆けてたら元の場所に戻ってきちゃった。といった感じですね

今まで読んでくださった方ありがとうございました

次スレは

とある一位の綿流し
http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/1358897860/-20

で名前はミサカ17330号で行こうと思います

第二位は出てきません(笑)

それではまた次スレノシ



1000VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/23(水) 08:57:06.30SfPYf6Yu0 (1/1)