465 ◆3dKAx7itpI2012/05/21(月) 20:43:11.67WFc6FdLOo (17/27)


「……ん、何?」

「いや、あれ」


垣根がベランダ、その先の外へ指を向ける。まだ寝入っていなかった
ドレスの少女、そして彼らの会話が耳に入り目を覚ましたルチアと
パトリシア=バードウェイが彼の指差す方向に視線を移すが、


「……? 何かあるのですか? 特に異変は見受けられませんが」

「マジで言ってんのか? そこ、空にふわふわ光が飛んでるじゃねえか」

「網膜剥離の前兆でも起きてんじゃないの? 何も見えないわよ」

「私にも……何も見えませんが。 それよりもうお休みになった方が……」



466 ◆3dKAx7itpI2012/05/21(月) 20:43:38.25WFc6FdLOo (18/27)


垣根以外の人間にその『光』は見えていないようだった。
しかし気のせいとは思えなかった。現に今も垣根の目には、上空から雪のように
ゆっくりと降りてきた小さな『光』が一つ、まるで何かを探し求めているように
右往左往しながら宙で漂っている光景が映っている。

すると、


「?」


ギクリ、と垣根の体が一瞬強張った。何故、と問われてもこの時の垣根は答えられないだろう。
うろうろと彷徨っていた『光』が急に動きを止め、こちら―――垣根の方を一点に見据えていたからだ。
ただの『光』にしか見えないはずの"それ"から何故視線を受けたように感じたか、これもまた不明である。



467 ◆3dKAx7itpI2012/05/21(月) 20:44:21.00WFc6FdLOo (19/27)


「なっ…………!!」


そしてその『光』は恐るべき速度で―――――壁もドアも透過して、垣根の胸を貫いた。


「が、ぁっ…………!!?」

「ちょ、ちょっと。 どうしたのよ?」


『光』が見えない女性陣からすれば、急に垣根が胸を押さえて悶絶したようにしか見えない。
三人は神妙な面持ちで彼の突然の動作をただ見つめるしかない。



468 ◆3dKAx7itpI2012/05/21(月) 20:44:58.35WFc6FdLOo (20/27)


そして当の垣根は混乱していた。確かに今、突然『光』に胸を貫かれ、例の『暴徒』による
遠距離攻撃型魔術でも食らってしまったかと危惧していたのだが……、


「………………、……、……………………? な、んだ? ダメージは、無い……?」


しばらく穴も何も空いていない胸を押さえて周囲を警戒していたが、
追撃はやって来なかった。痛みも無い、体調に変化もない。


(クソ……何だってんだ?)


しかし得体の知れない気味の悪さだけが、いつまでも彼の胸にのしかかっていた。
そして――――――。



469 ◆3dKAx7itpI2012/05/21(月) 20:45:39.12WFc6FdLOo (21/27)



――――――――――――――――――――――


「……あン? なンだありゃ?」

「ん?」


同時刻(と言ってもここは朝だが)、麦野、絹旗と共に第七学区を歩いていた
一方通行もまた、垣根が目撃した謎の発光物体を視界に捉えた。
『光』はイギリスで垣根が見た時と同じく、光に群がる羽虫のように不規則な軌道を
描いて空中をひゅんひゅんと飛び回っている。



470 ◆3dKAx7itpI2012/05/21(月) 20:46:51.93WFc6FdLOo (22/27)


「何ですか急に立ち止まって。 空を仰いで超感傷に浸りたくなってんですか?」

「このタイミングで俺が感傷に浸る意味がわからねェよ。 いや、アレ。
 オマエら見えねェのか? 光る球体が飛び回ってるだろォが」

「はぁ? …………何も見えないけど」

「超ヤバいクスリでもキメてるんですか? 私にも見えませんが」


一方通行は二人の反応に眉をひそめた。周囲を見渡してみるが、
大勢の通行人の中にその『光』を見て騒いでいる人間は見当たらない。
どうやら垣根のケースと同様、一方通行にしか『光』は見えていないようだ。。


(……なら『天使同盟』関連の現象か? 意図が見えてこねェが……)



471 ◆3dKAx7itpI2012/05/21(月) 20:48:02.97WFc6FdLOo (23/27)


とりあえず、という気持ちで『光』の正体を推測してみようと試みた彼だったが、


「―――――――――、あ、ァ?」


刹那。まさに一瞬の出来事であった。


その瞬間になぜ一方通行が『訳のわからぬ「光」に胸を貫かれた』と認識出来たかというと、
『光』の軌跡が尾を引いて自分の胸を通過していった痕跡が目下にあったからだ。
やはりこれも(一方通行は知る由もないが)垣根のケースと全く同じであった。



472 ◆3dKAx7itpI2012/05/21(月) 20:48:45.10WFc6FdLOo (24/27)


「チッ!!」

「?」


遠距離からの攻撃。これまで散々実戦の状況に身を置いてきた一方通行ならばそう直感するのも無理はない。
彼は即座に首元の電極チョーカーに手を添え、スイッチを切り替えて能力使用モードで臨戦態勢に入る。
一方通行のただならぬ雰囲気に麦野と絹旗も表情を『切り替え』、周囲に意識を巡らせるが、


(……………………追撃がこねェ? 攻撃ではない? なら、なンだ今のは?)

「……ねえ、つい私らも乗ってみたけど、結局なに?」

「戦争帰りの兵士じゃないんですから、そう気を張ってちゃ超身が持ちませんよ?」



473 ◆3dKAx7itpI2012/05/21(月) 20:49:29.18WFc6FdLOo (25/27)


二人の言葉を無視して一方通行は先程自分の胸を貫いた『光』を探してみるが、
当然というか、やはり見つけるには至らなかった。
胸に痛みはない。電極にも異常は発生しておらず、能力は問題なく使用出来る。


(どっかの誰かさンが俺への悪戯目的に放ったモンでもねェだろ。
 それにしちゃ地味過ぎるし、意味が分からねェからな。 ……)


あれこれと考察しても無駄に疲れるだけだと判断した一方通行は思考を放棄するが、


ここからわずか数分後。もっと今の現象について深く考えておくべきだったと後悔する事になる。



474 ◆3dKAx7itpI2012/05/21(月) 20:52:28.35WFc6FdLOo (26/27)


今回はここまでです。

さて、さっそくイレギュラーが発生しました。
これが失敗なのか否かは現時点では判断できませんが、
一方通行どころかイギリスにいる垣根にまで、その影響は及んでいます。
彼らの胸を貫いた『光』の正体、そしてその意味とは……てな感じで。

そして確認しておきますが、このお話はギャグパートです。

次回は舞台がロシアに移ります。なんだか忙しくなってきました。
久しぶりにロシア成教のあの子が登場、そして偉いことになります。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!



475次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI2012/05/21(月) 20:53:00.00WFc6FdLOo (27/27)




                          【次回予告】



「………………私、妊娠してる」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ






476VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/05/21(月) 20:54:34.62lMS/f0Jx0 (1/1)

>>1乙!!
ガブちゃんの友達が溢れてきたのか?
とか言おうとしてたけど次回予告に全部もってかれた


477VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/21(月) 20:58:30.09JBwgbYkf0 (1/1)

ワシリーサ発狂だな


478VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/05/21(月) 20:59:10.92gmALOws2o (1/1)

乙なんだぜっ

ガブちゃんがなんかやらかしてんのかなww?
俺の予想通りだとすると風斬がとても心配だ……(いろんな意味で)


479VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/21(月) 21:12:50.89cSs+Ij500 (1/1)

俺の子か…


480VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/21(月) 21:24:25.58a2z+N6dt0 (1/1)

>>479 そげぶ
最初垣根くんにガブリエルが降りたのかと思った




481VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2012/05/21(月) 22:28:51.30/b+TDi8i0 (1/1)

残念だったな 俺の子だ


482VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/05/21(月) 23:06:46.74+VlIsSl80 (1/1)

ガタッ

ていうか、『槍』の挙動から垣根サイドに繋げる構想が既にあるのか
このSSはほんとすげえな


483VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/05/22(火) 00:06:25.22oGYYdw2do (1/1)

受胎告知……?
なんかサーシャだけに留まるのかコレ?

乙!


484VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/05/22(火) 00:13:32.86zl2zlq5S0 (1/1)

1行だけの予告なのにすさまじい破壊力だな


485VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2012/05/22(火) 00:58:22.447yPmTARAO (1/1)

今回はかなり短めだったな。
続きが気になる。



486VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/22(火) 01:47:18.556NkUvB+DO (1/1)

>>480
俺も
久しぶりに垣根にあって歓喜のあまり飛び付いてしまったのかと…

そしてサーシャが妊娠か…

ワシリーサよ…
寝てるところを襲うのはどうかと思うぜ?


487VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/22(火) 02:04:11.82eW90YJPZo (1/1)

サーシャの受胎告知に感想が吹き飛んだ


488VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/05/22(火) 05:44:52.41qp9xKhC10 (1/1)

予告がぶっ飛んでてワロタ

あぁ、あの時のか・・・時期的には俺の子で間違いないな


489VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/22(火) 09:00:24.75wJXzY2Ivo (1/1)

>>488
いや俺の子だな



490VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/22(火) 13:14:16.832E+nmJRIO (1/1)

人喰い婆さん 「みんな私の為に争うのはやめて!」


491VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/05/22(火) 13:33:11.03hn6rONhY0 (1/1)

>>490
はいはいそげぶそげぶ


492VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/05/22(火) 19:16:05.716LXkndxp0 (1/1)

なんだ俺の子か


493VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/05/22(火) 19:55:00.63AcT92iK30 (1/1)

処女受胎とかサーシャちゃんマジ聖女


494VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/22(火) 21:41:21.403yTBqvQW0 (1/1)

まさか一方通行と垣根まで妊娠・・・なんてことは、ある訳ないですね


495VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/22(火) 23:35:45.97fii0Gu2zo (1/1)

一方通行が垣根の子を妊娠だと!?ガタッ


496VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/22(火) 23:52:19.42fBEPF4eO0 (1/1)

冗談でもやめろよ 気色悪い


497VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/05/23(水) 09:38:12.33p7Ik9Albo (1/1)

どっかのスレで頭ァやられちまったんだろうな
一応被害者みたいなもんなんだ、責めてやるない


498VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2012/05/23(水) 19:11:51.76fhpn2czAO (1/1)

あァ、あの第五位が腐ってるスレか。
他スレの話は荒れるからやめねェか?


499VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/24(木) 06:59:25.65TrwJh4PDO (1/1)

時事ネタだなww

まとめの時にリンクが貼られそうだ


500 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:37:12.30dYYN7Lwvo (1/27)

>>482
いやそんな大それたもんでもないですよ、このSSは……。
例えばオルソラなんか当初は(本編に)登場する予定すらなかったですし、
結構その時の思いつきで書いた話も多いですww

おはようございます、今日も更新を開始したいと思います。

前回、ついに発動した『御使堕し(改)』。不安要素てんこ盛りの
大魔術でしたが、やはり異常事態が発生してしまいました。
学園都市の一方通行はおろか、イギリスの垣根にまで及んだ『光』の現象。
この現象の意味するところは……そしてサーシャの運命は、という感じでしょうか。

それでは、よろしくお願いします!



501 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:38:07.08dYYN7Lwvo (2/27)



――――――――――――――――――――――


垣根帝督、一方通行ときたら当然、この男も。


「ッ!?」


フィアンマは荒れ狂う文字の嵐など問題とするに当たらないと言わんばかりに
飛んできた正体不明の『光』にその胸を貫かれていた。
二人同様、もちろんフィアンマにもダメージはない。だが、


「ど、どうしたのですか火野ちゃん……?」



502 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:38:58.08dYYN7Lwvo (3/27)


まず、小萌先生には今の現象が目視出来なかったらしい。おもむろに手を胸に
持っていくフィアンマの行動がいまいち理解出来ないでいるようだ。
今、この部屋で『光』を見たのはフィアンマのみという事になる。

そしてその『光』の正体は科学サイドのエキスパートである一方通行と垣根帝督には
看破出来なかった。皆目見当もつかなかった。なぜならこの現象は魔術サイドの領分、
世界は大きく二分して、魔術と科学に隔てられているのだから。

にも関わらず、


(今の光は……何だ?)


魔術サイドのトップクラスに位置する魔術師、右方のフィアンマは困惑していた。
同時に、ある種のストレスを感じていた。



503 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:39:40.30dYYN7Lwvo (4/27)


フィアンマでさえも先の『光』の正体が分からない。フィアンマにすら分からないのなら
この世界に『光』の正体を説明出来る者など居ないのかもしれない。


だがそこは、流石『神の如き者』を扱う常軌を逸した魔術師と言えるだろう。
『光』について具体的な解釈は出来ない彼であったが、しかし大凡、何となく、
ぼんやりとではあるが『多分ああで、こうなんだろうな』程度の推論を立てる
事は出来た。


(現時点の状況では情報が不足し過ぎていて推測のしようがないが……、
 今の光が俺様の『御使堕し(改)』によって出現したのだろう、という
 事は理解出来る。 これは推測ではなく、確信と断言して問題ない)



504 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:40:38.38dYYN7Lwvo (5/27)


現在進行形でフィアンマが実行中の大魔術、『御使堕し(改)』はこの世に
現存するどの魔術書にも、況してや『禁書目録』にも記載されていない、
ミーシャのサプライズのためだけにフィアンマが発案した全く新しい魔術だ。
そしてフィアンマは『神の右席』の魔術師という身分上、少々偏ってはいるものの
魔術という法則の知識を膨大に、その頭脳に貯蓄している天才である。


「……火野ちゃん」


そんな彼が新たな魔術を開発、実行し、そんな彼が知り得ない魔術的現象が
彼の目の前で起きたのだ。あの『光』が『御使堕し(改)』の影響で発生した
何かであるというのは明々白々であり、彼がその結論に至るのもまた当然だ。


しかし、腑に落ちない。



505 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:41:20.40dYYN7Lwvo (6/27)


若干のストレスが生じてしまう。『光』の原因を看破するに至り、
だがその『目的』が然しものフィアンマも全く予想出来ない。


(何故俺様の胸を貫いた? いや、身体部位などどこだってよかったのかもしれん。
 目的の対象に干渉さえすればそれで達成出来たと考えた方がいいだろうか……?
 だが、果たしてその目的、結果、理由は? 術者である俺様のコントロール下から
 外れて、術者である俺様自身に干渉するなど、本来の『御使堕し』からかけ離れた
 現象だ。 今俺様が発動している魔術の影響で発生した事は灼然たる事実。
 ならば何故、術者である俺様にあの光の正体がわからん? ……それ即ち――――)


イレギュラー、ということなのだろう。


腰掛け仕事的、当座凌ぎで急造した大魔術。そもそものベースが強大な大魔術である事という
リスクと、セフィラへの干渉、しかも純然たる『天使の力』が二つも組み込まれた荒唐無稽の術式。



506 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:42:19.24dYYN7Lwvo (7/27)


その弊害。フィアンマが危惧していた、想定の範囲外の現象、副作用が起きた。
想定の範囲外というか、想定そのものが不可能であるが故、未然に防ぐ事も出来ない
厄介極まりないアクシデント。


(やはり完璧に、何の障害も発生させんまま術式を実行するには至らんかったか。
 しかしその想定の範囲外の度が過ぎるぞ。 俺様、もしくは世界そのものに何らかの
 悪影響が及ぶ副作用ならまだ納得出来るが、……月詠の様子を見る限りではあの
 光が世界規模の大災害を起こしているようには思えん。 ……それがまた不気味だが)


もっとも、魔方陣が超局地的竜巻の如く荒れ狂う現状の室内では外の様子を窺うどころか
ここから動く事すら許されないため確認しようがないのだが、外に何らかの大規模な現象が
起こっていればこの室内にも変化があっていいはずである。何せあの『光』は室内の状況など
お構いなしにフィアンマの胸を貫いたのだから。



507 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:43:39.20dYYN7Lwvo (8/27)


(……胸を貫く、という行動。 ……意味するは何だ? マーキング的要素を含む何か?)


『光』の考察をしている暇で術式の次の過程をさっさと踏むべきなのだが、
フィアンマにはあの『光』の行動の一連がどうしても"不吉"に思えてならず、
嫌な予感が拭えず、魔術の失敗など思慮の外で考察を続けた。


(あるいは胸という位置に重要な意味合いがあるのか? だとしたら……胸は魂、心の位置。
 対象の情報を解析する自動制御型術式の類? 科学サイド風になぞらえるならスキャニングか。
 そう仮定して、光は俺様の心から何を読み取った? 思考、知識―――それとも、『個性』か)


だとすれば気味の悪さより一層際立ってくる。己の全てを覗き見られた感覚は、
改めて思い返してみればあったような気がしないでもない、とフィアンマは
更に沸き上がってくるストレスに思わず舌打ちをした。



508 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:44:37.92dYYN7Lwvo (9/27)


自分というプロフィールを全て読み取り、しかし情報を得てそこからどうするのか、
それが分からない事も彼の苛立ちを募らせていく。自分が発動した魔術なのに、
その際に生じた現象の効果が分からないという事実に忸怩たる思いも生じてくる。


「火野ちゃん」


と、そこでようやく、フィアンマの耳に小さな教師のか弱い声が届いた。
さっきからずっと彼の偽名を呼び続けていた小萌先生はようやくこちらに
視線を寄越してきたフィアンマに、しかし安堵する事はなく不安げな顔で見つめ返す。



509 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:45:08.36dYYN7Lwvo (10/27)


「……問題はない。 魔術の行使を続行する」

「無理はダメですよ?」

「無論だ。 ……すまん、少し、落ち着いた」


『天使同盟』が『天使同盟』の都合でやっている事で他人を不安にさせてどうする、
とフィアンマは迷ったが最終的に『光』に関する考察を保留し、術式の続行に
専念することを決めた。


「ミーシャちゃんは帰ってきたのですかー?」

「俺様が組み込んだ術式の通りに経過が進行していれば降りてくるはずなんだが……、
 その直前の光の影響で召喚に何らかの支障をきたしたか……? 遥か上空の『門』を
 さっきから『聖なる右』経由で監視しているが、一向にあのクソ天使が帰ってくる
 気配がない。 このステップで躓いたら元も子もない、いやどこで躓いてもダメだが」



510 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:45:53.26dYYN7Lwvo (11/27)


このままミーシャ=クロイツェフが帰ってこれなかったらとんでもない失態を背負う事になる。
『天使同盟』の全員に、そしてミーシャが交流をしてきたその他の人間に何を言われたか
分かったものではない。隣に小萌先生がいなかったら全てを投げ出してしまっていたかもしれなかった。
不安だけが、過ぎていく時間と共にただ募っていく。

だが、杞憂であった。


「ッ! 来たか」


高度約二〇キロ地点に出現している魔方陣が、エンジンに火を付けたように回転し始めた。
地上にいるフィアンマの赤く悍ましい第三の腕が尋常でない質量と力を感知し、痙攣にも
似た動きを見せる。


そして上空の魔方陣から、凄まじい輝きを帯びたミーシャ=クロイツェフのアストラル体が
大地を貫かんと下界へ、恐ろしい速度で降下していった。



511 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:46:34.58dYYN7Lwvo (12/27)


(チッ、あのクソ天使、どれだけテンションが上がっているんだ!? 予想以上に
 スピードが速い!! …………が、所詮は器無き魂、俺様の力で制御出来る)


フィアンマは肩から伸びるように出現する『聖なる右』に指示を送った。
それに呼応して、第三の腕は最初にミーシャへ合図を送った時のような
発光をし始める。


(行け、サーシャ=クロイツェフの下へ。 ここがお前の最後の踏ん張り所だ)


ミーシャ発案サプライズ計画はStep4、サーシャ=クロイツェフとの交渉へと移行する。



512 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:47:36.39dYYN7Lwvo (13/27)



――――――――――――――――――――――


偶然とは誰かの明確なる意志が原因で生じるものである、らしい。
故に偶然は『偶然』生じる事はないという事になる。
人の意志が生み出すのならばそれはもう偶然ではなく故意なのではと
思うかも知れないが、その人間の思慮とはかけ離れた、まるで別件の何かが
発生したらそれは偶然と呼べるのではないだろうか。


「はふぅ~……」


学園都市では今、フィアンマという人間の個の意志がとてつもない強さの意志を
発し、念じ、願っていた。意志。それは時に思いも寄らない偶然を生み出す。
左様であるならば彼の強い、強すぎる意志は世界のどこかで何らかの偶然を
生み出しているかも知れない。何せフィアンマの意志の強さと言ったら、それはもう
意志というか願いというか、『呪い』と言って差し支えない。



513 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:48:54.71dYYN7Lwvo (14/27)


『頼むからサーシャ=クロイツェフが意味もなく無人かつ広い場所で一人でいてくれますように』。


フィアンマが念じるその呪いは、果たして『偶然』にも叶ったのだった。
今も世界で跳梁している確率という概念を、彼が強引に歪めたのではと疑えるくらい、あっさりと。


「第一の私見……おっと、つい人前で振る舞う口調がこぼれてしまいました。
 今は私一人なのですから、あんな面倒な口調でキャラを装う必要はないのでした」


なんかとんでもない独り言をほざいたような気がしないでもないが、そこはひとまず置いておいて。


サーシャ=クロイツェフは露天風呂でそのどちらかと言えばまだ未成熟の身体を
露天風呂という場所で癒していた。



514 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:50:42.91dYYN7Lwvo (15/27)


ロシア。エリザリーナ独立国同盟領土から少し外れた、普段はあまり人が立ち寄らない
雪山の麓にある天然の露天風呂が満喫出来るジャパニーズ銭湯である。


かつてここを訪れた『天使同盟(アライアンス)』とその連れと共に、色んな意味で
思い出に残る時間を過ごしたサーシャにとって、やはり色んな意味で思い入れのある憩いの場。
憩いの場であると同時に、いつもサーシャの傍にいる金メダル級の変態クソシスターが居る場合は
これ以上なく危険な場所と化すのだが、


「今日はワシリーサも珍しく出張っていますし、思う存分羽を伸ばせます」


まだ幼さが残る顔に無垢な笑顔を浮かべながら、サーシャは独立国領土内に"停泊"している
超巨大メガヨット『アライアンス』号で見つけた水面を走るひよこのオモチャを眺めている。
この光景をワシリーサが見たらそれはもう某汎用人型決戦兵器の咆哮に負けず劣らずの歓喜の叫びを
轟かせているだろう。



515 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:51:43.09dYYN7Lwvo (16/27)


そんなワシリーサは現在、サーシャの口にした通り珍しくこの場に居なかった。
いや居たら居たでサーシャに追い出されているだろうが、実はこの露天風呂の死角に
いつかの第一位と第二位のように潜んでいるということもなく、ワシリーサは普通に
一人のシスターとしてロシア成教の本部に足を運んでいるのだ。

一応サーシャもワシリーサも『殲滅白書』としての立場が残っているが、
第三次世界大戦で同胞に対する裏切りに近い行為を起こした二人(というかワシリーサの独断だが)に
同組織の魔術師達はいい顔をしなかった。元直属上司のニコライ=トルストイの影響もあって
部隊にも戻れず、エリザリーナ独立国同盟で隠れるように生活をしていたのだが、『第一九学区事件』から
数日後の事だった。ロシア成教の総大主教であるクランス=R=ツァールスキーから招集命令が下ったのだ。

それを好機とみたワシリーサが総大主教と交渉し、どうにか『殲滅白書』へ正式に戻してほしいと
頼み込んでいるようだ。もっとも、クランスの姿が見たいがためだけにワシリーサも奮闘しているのかも
しれないが……、しかし自分のために居場所を取り戻そうとしてくれる彼女の姿に、サーシャは素直に感謝をしていた。



516 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:52:49.54dYYN7Lwvo (17/27)


(普段からああなら私も純粋に尊敬できるのですが……、頼りになるけど、相変わらず困った上司です)


ともあれ、自分の裸体を見て鼻息を荒くする変態修道女がいないのだから、今のうちに美しい
雪景色が一望出来るこの露天風呂を満喫しようとサーシャは改めて大きく息をつき、


「……、うん? ――――――――――うわっ」


叫ぶ暇も、戦闘態勢に移る暇も与えられなかった。


空の向こうから何か、ぼんやりと光る何かが見えたと思ったら、次の瞬間にはそれが
自分に向かって『墜落』し、湯船を派手にぶちまけてしまったのだ。



517 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:53:39.09dYYN7Lwvo (18/27)


お湯の雨がしばらく、浴場に降り注いだ。幸い男湯にも利用客はいなかったようで、
この墜落事故が何事かと騒ぎになる事も無かったが、


「あ、あ、わっ、う――――――は、ぁ、……? う、ぎゅ? な、何……」


サーシャ本人は騒がずにはいられない。もくもくと立ち上がる湯気で視界が確保出来ず、
先の飛来物の正体が何なのかも分からず、そして何やらやたらと身体が重い。背中に
何かがのしかかるような重さではなく、極度の疲労に陥った際の気怠さに似た重みだった。

より厳密に言うと、気のせいかその……下腹部辺りが特に重い、気がした。
湯気と混乱でまだ詳しく確認できないサーシャだが、全身の気怠さから一つ
飛び抜けた重さが、下腹部から感じられた。



518 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:54:36.73dYYN7Lwvo (19/27)


呼吸が上手く行えないのは混乱のせいかお腹の苦しみからか、答えは恐らく両者だろう。

湯気が晴れる前に更にもう一つ、原因不明の現象がサーシャ=クロイツェフを襲う。
"意識が、保ちにくい"。彼女は率直にそう思った。意識が薄れていくとかそういうものではなく、
何か別の意識が介入し、それに蝕まれていくような、想像するだけで恐ろしい感覚。
足元がおぼつかず、よろよろと湯船から上がろうとするが上手く歩けない。

操作系術式を食らい操られる寸前にそんな感覚に襲われる、とサーシャは以前に変態上司から
聞いたことを思い出す。つまりこれはどこかの魔術師による遠隔攻撃なのか。
混乱した頭を冷やすことに努めながらサーシャは警戒心を高めていく。



519 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:55:27.51dYYN7Lwvo (20/27)





『突然の事で驚いたと思う。 貴女には素直に非礼を詫びたい』

「のわぁっ!!?」




声がした。精神を乗っ取られた時にありがちな『頭の中から声がする』、という類のものではなかった。


『今の私の立場からこのような物言いは相応しくないが、まずは落ち着いてほしい』

「―――――と、"私自身がそう仰っていますが、どうしますか私"!?」



520 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:56:15.84dYYN7Lwvo (21/27)


そう。その声は音源不明ではなく、あろうことかサーシャ自身の口から発せられていた。
端から見ればサーシャが一人でコントを繰り広げているようにしか見えないだろう。
人によっては病院に連絡してくれるかもしれない。

口が勝手に動く。サーシャの意に介さず、言いたい放題言ってくれる。
サーシャの喉から放たれるその声は、しかし彼女とは似ても似つかぬ透き通った美声であった。
……一応断っておくが、別にサーシャの声が汚いと断じている訳ではない。

結局頭の中で現状を整理出来ぬまま、先に湯気の方が晴れていった。

視界が広がる。周囲に変化は見当たらない。謎の敵性魔術師の姿はおろか、
相変わらずこの浴場にはサーシャ一人しか居ない。声は二種類響いているのに。

そしてサーシャはある変化を見つけた。



521 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:57:00.25dYYN7Lwvo (22/27)


「…………………………………………」


さっきから妙にずっしりとした重みを感じるその下腹部に視線を落とし、彼女は絶句した。


「………………私、妊娠してる」




膨らんでいたのだ。さながら妊婦の如く、ぽってりと、サーシャの下腹部は膨らんでいた。






522 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:57:42.38dYYN7Lwvo (23/27)


「うわっ、うあああああああああああ!!! わ、わ、わ、ワシリーサ!! ど、だ、
 だ、第一の質問ですがど、どうしましょう!? に、妊娠してしまいました!!!」


極限までパニクったサーシャが頼ったのは、さっきまで居ないことに安心していた変態上司であった。


『落ち着いて、サーシャ=クロイツェフ。 貴女は身篭った訳ではない』

「い、いやこれはもうどう見ても妊娠………………おや? この感覚……」


と、ここでようやく、ようやくサーシャから激しい混乱が抜けていった。
あれだけ狼狽していた彼女の精神に落ち着きを取り戻させたのは、さっきから
落ち着けと説く訳のわからん謎の声ではなく、感覚。



523 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:58:25.48dYYN7Lwvo (24/27)


それは、とても懐かしい、しかしそら恐ろしい、不思議な感覚であった。
膨らんだ下腹部を摩りながらサーシャはこの味わった事のある感覚が何であるか、
半分くらい蝕まれてしまっている記憶を辿って思い返してみる。


大した時間はかからなかった。夏。八月がもう終わろうかという時期。
しかしサーシャにはその辺りの時期の記憶がすっぽりと抜け落ちている。
にも関わらず彼女がその日の事を想起出来たのは、


「だ、第二の質問ですが、あなたは……………………」


光の塊としてサーシャに突撃してきた何かの意識と記憶を"共有"しているため。
共有といってもその全ての記憶が読み取れる訳ではないが、薄ぼんやりとなら
あの八月下旬の出来事が思い出せる程度の……そんな、共有レベル。



524 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 08:59:11.71dYYN7Lwvo (25/27)


意識が蝕まれているのではなく、介入によって増えただけだ。その未知の違和感を
サーシャは蝕まれていると勘違いしてしまったのだ。

そして現在、共有している記憶はともかく感覚を、サーシャは覚えている。
懐かしいと思える。何故なら彼女はこの不思議と暖かく、抱擁感溢れる存在と
"直接触れ合った事があったから"。


「ミーシャ=クロイツェフ………………ですか?」

『正しい。 無沙汰である、私の友達―――サーシャ=クロイツェフ』


大天使ミーシャが、サーシャの口を借りて久方ぶりの挨拶をした。



525 ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 09:03:25.41dYYN7Lwvo (26/27)


今回はここまでです。

これでサーシャが妊娠どうのこうの言ってた理由がわかったかと思います。
決して私が『ボテ腹サーシャちゃんってのもいいんじゃね』と興奮して
このようなシチュエーションを書いた訳ではないので、勘違いなさらぬよう。
私はそこまで変態ではありませんので。ええ。

さてサーシャに憑依(?)することができたミーシャは彼女との交渉に望みます。
魂よこせという無茶すぎる要求にサーシャは答えてくれるのでしょうか。
そしてフィアンマまでも貫いた『光』の正体を放置しておいても大丈夫なのでしょうか。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

フィギュアメーカー『アルター』から発売する一方通行がイケメンで素晴らしいですね。
欲しいところですが、もう飾る場所なんてない……。



526次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI2012/05/24(木) 09:04:28.94dYYN7Lwvo (27/27)




                          【次回予告】



「ならば吐き出せ。 己の魂を」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・水を司る大天使『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ




「いや何さらっと恐ろしいこと言ってるんですか」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ




「頑としてそこを動くな。 その空きビンに魂をホールインワンしてやる」
『天使同盟』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ




「ふぇ? 何か叫び声が聞こえたような―――――――」
上条当麻のクラスの担任――――――月詠小萌






527VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/24(木) 09:33:55.01Y7ANMS4IO (1/1)

乙!

ボテ腹のサーシャ……ゴクリ


528VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/24(木) 10:29:11.60qpmA3TIxo (1/2)

>>1乙
キャラ付けだと・・・・・・・・・・・・・・・


529VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/24(木) 12:21:19.91IL6qaH8IO (1/2)

魂よこせってか器よこせじゃね?


530VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/05/24(木) 12:26:50.90vINHpp+E0 (1/1)


>今は私一人なのですから、あんな面倒な口調でキャラを装う必要はないのでした」

なん・・・だと・・・。
つかボテ腹サーシャちゃんとか新しすぎるな



531VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/05/24(木) 13:47:47.29rv3D6FbD0 (1/1)



必死にキャラ付けしてるボテ腹サーシャちゃんかわいい!


532VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/24(木) 15:31:19.26IL6qaH8IO (2/2)

>>1が面倒くさいがためにアイデンティティをキャラ作りにされたサーシャちゃんまじおれの嫁になって下さいお願いします


533VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/24(木) 17:14:46.63zN2DNqxGo (1/1)

ボテ腹サーシャちゃんってなかなかマニアックだな
大いに好きだけど
てかガブリエルによるセルフ受胎告知ってとんでもないジョークだなwwwwwwwwwwwwww


534VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/05/24(木) 17:29:14.627IpsZNxz0 (1/1)

今のサーシャにあのボンデージ着せて連れ回したら
いくらワシリーサでも十年はムショ暮らしになるぞww


535VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/24(木) 17:39:29.52qpmA3TIxo (2/2)

キャラ付けに必死なサーシャたん想像したらワシリーサの気持ちがわかってしまった。


536VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/05/25(金) 00:54:48.56kDAL0Vv60 (1/1)

ボテ腹サーシャちゃんってのもいいんじゃね


537VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/25(金) 05:35:06.64oF4jftiDO (1/1)

>>1乙!

キャラ付け…だと…?


ってか、ガブよ…
それは交渉ではなく脅迫では…?
フィアンマもなに上手いこと言ってんの?!


538 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:19:11.56UcF6Yn9Uo (1/27)

>>529
確かに、これは失敬。魂よこせだと天使じゃなくて死神ですねww


皆さんこんにちわ、マリテニのやりすぎで親指を痛めた>>1です。
日曜日の更新でございます。

一応言っておきますが、言うまでもないかとは思いますが、
サーシャのキャラ付け云々はギャグですからね!
原作のサーシャはこんな適当なキャラではないのでご注意ください!

さて今回はミーシャとサーシャが久々に再会し、奇妙な状況で喜びをわかちあいます。
サーシャは今回のサプライズに協力してくれるのでしょうか?

それでは、よろしくお願いします!



539 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:19:53.52UcF6Yn9Uo (2/27)



――――――――――――――――――――――


他の誰かがこの光景を眺めていたら、それは一人でコントの練習に励む
不思議な金髪の女の子だと認識していただろう。無論、覗きが発覚すれば
問答無用で『水よ、蛇となりて剣のように突き刺せ』の餌食であるが。




「―――――――ふむ、一方通行へのサプライズ……ですか」

『良ければ詳細を拝聴し、協力してほしい。 否、貴女の協力なくして
 この計画の成就は無い。 報酬を望むなら、制限なしで捧げる事を誓う』

「第一の質問ですが……誓うとは、ちなみに何に?」

『……、………………。 神』






540 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:20:41.49UcF6Yn9Uo (3/27)


天使が神に誓うって、それはただの直談判なのでは……とサーシャは呟くようにツッコミを入れた。
今のがミーシャなりのボケなのか、もしくはマジなのか、判断に困る発言だった。


ミーシャの派手な墜落で何事かと人が大勢集まってくるという事態はなんとか避けられたらしい。
あれだけの爆音が響き、しかし今も尚この露天風呂にはサーシャ=クロイツェフただ一人である。
正確にはサーシャと――――もう一人、


「それにしましても、挨拶が遅れましたがお久しぶりです、ミーシャ」

『今更か』


その切り込むようなツッコミはどこで覚えてきたのだろう、と困惑気味に笑いながら
サーシャは妊婦のように膨らんだ下腹部を湯船の中で摩る。その姿だけを見ると
本当に妊婦だと錯覚してしまいかねないが、ミーシャも言った通り、サーシャのお腹に
新たな生命は宿っていない。



541 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:21:29.75UcF6Yn9Uo (4/27)


宿ったのは、ロシアで交流を深めた、親友と言って大言壮語でない大天使。


いつだったか、現象管理縮小再生施設で上司のワシリーサと交わした、

『「神の力」の「天使の力」(ややこしすぎる)を体内に宿した場合、
 受胎告知のを引き受けた天使という説が反映され、下腹部が膨らむ』

という会話をサーシャはうんざりとした表情を浮かべながら思い出した。


八月の終わり頃、どうやらサーシャは『神の力』をその身に宿しどこかで
活動していたようだが、その時のサーシャの下腹部がどうだったとかは、
一切明らかになっていない。無論、本人も知らない。

ただ仮の話になるが、当時あの『現場』にいた数人の人間に尋ねれば、
恐らく『別に膨らんでなかったけど』的な答えが返ってくるだろう。



542 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:22:07.68UcF6Yn9Uo (5/27)


(けど実際……こうして膨らんでいる訳ですから、何でしょう……ちょっと恥ずかしい)


優秀な魔術師だろうと、サーシャちゃんだって立派な乙女なのだ。
そりゃそれ相応の身体部位が出っ張れば羞恥の一つや二つは感じるだろう。


『どうした。 ぽんぽんに耐え難い痛みを感じるか』

「お腹の事をぽんぽんと呼称するあなたの俗っぷりに私はもうどうリアクションを
 すればいいのか分かりかねますが、しかし第一の解答として答えさせていただき
 ますと、痛みはありませんよ。 補足説明すると、少し重みを感じますが……」

『ならば吐き出せ。 己の魂を』

「いや何さらっと恐ろしいこと言ってるんですか。 ……で、"その話なんですけど"」



543 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:23:08.46UcF6Yn9Uo (6/27)


何か嫌な感じで本題に引き戻されてしまったが、サーシャは落ち着いて話に乗った。


「学園都市で発動している『御使堕し』……『御使堕し(改)』に従い、私とあなたの魂を入れ替えろと」

『少しの間、貴女の肉体を器として扱う無礼を先に詫びておく』

「まだ了承してないのですが……」

『断ればあのロシア民謡のヒロインをここに呼ぶ』

「脅しに出た!?」

『冗談、だ。 しかし、ぜひとも協力を願いたい』 



544 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:23:52.96UcF6Yn9Uo (7/27)


うーん……、とサーシャは考え込み、顎の部分を湯船に浸してぶくぶくした。


「しかしその……、第ニの質問ですが、今も発動中である『御使堕し』の術者は
 あの右方のフィアンマなのですよね? あの男が『天使同盟』に加わっている
 という事実だけでも業腹なのですが、更にそんな男に協力しろとなると……」

『フィアンマは信頼出来る。 私の計画に加担してくれた事がそれを裏付けている。
 他の仲間も、彼を信用している。 もう、かの戦争のような真似は彼はしないし、
 そのような気もないだろう。 仮にそういう事を企てていて、実行しようとすれば』

「すれば?」

『グシャ……、っと』

「もっと具体的に言ってくださいよ怖いです!!」



545 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:25:21.45UcF6Yn9Uo (8/27)


そうでなくともフィアンマ現在、極度の疲労でグシャってなりそうなのを二人は知らない。

サーシャ=クロイツェフはミーシャ、フィアンマ、打ち止め等が絡んだサプライズの
一部始終を聞いた。最終的に一方通行へどのようなサプライズが披露されるかまでは
ミーシャが『秘密』と言って教えてくれなかったのだが、まぁそこは重要ではないのだ。

サーシャが考慮すべき問題は魂の入れ替え。武装兵器の換装とは訳が違う、
存在の入れ替えと言える行為の可否を今ここで下さなければならない。
どうやら数日考えせて、とは、ミーシャの話を聞く限りではいかないらしい。
ここで即決しろという大天使様からのムチャぶりにサーシャは頭を抱えた。
ていうか事前に連絡しろよ、って思った。


「第三の質問ですが、魂の入れ替え時に私が消滅、霧散する等の危険性はありますか?」



546 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:26:03.27UcF6Yn9Uo (9/27)


『その点に関してはもう我々を信頼してもらうしかない。 しかし術者はフィアンマ、
 安全面には関しては太鼓判を押して保証出来る。 急な申し付けである事は重々承知だ』

「………………第四の質問ですが、もう、今、即刻決断しなければならないのですよね?」

『貴女はただでさえ、以前に私をその身に宿している。 その副作用は
 後にフィアンマが処置を施してくれるだろうが、今こうして再び私が
 貴女の身に宿り続ける危険性は、説明するまでもないと判断する』

「……………………そして私の魂、私は学園都市へ、……」


学園都市に赴く事が出来れば、またあの愉快な仲間たちと交流できる。
ただその時、自分が一体どういう姿なのか、仮の器が用意されているのか、
サーシャは分からない。ミーシャにも聞いたが、不明であると申し訳なさそうに返ってきた。



547 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:26:48.81UcF6Yn9Uo (10/27)


安全面に関しては問題ない、とはいえ未知の恐怖が付随するこのギャンブルに、サーシャは、


「………………承知しました。 他でもないあなたの頼み、引き受けます。
 魂の入れ替えを承諾します。 そして私は学園都市へ向かうとしましょう」

『え……、マジで?』

「何ですかその『うわマジで引き受けたよこのバカ……』みたいなニュアンスの返事は!?
 ちょっとあなた本当にミーシャ=クロイツェフなんでしょうね!? いえ、この『天使の力』の
 総量からしてミーシャ以外あり得ませんが……しかしあなた、口調が右往左往してますよね。
 どうやら『天使同盟』以外の人間と交流していると窺えますが……ああ、でも不安になってきた。
 今一度確認しますがこれ、世界を巻き込んだ私に対する大掛かりなドッキリではないですよね?」

『世界を巻き込んでそんな不躾を働く理由と勇気は私にはない、安心して』

「どの口が言うんですか……まあ私の口が言ってるんですけど……」



548 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:27:35.68UcF6Yn9Uo (11/27)


ともあれ、サーシャ=クロイツェフは魂の入れ替えを許可してくれた。
恐るべき器の大きさ。ミーシャはこれ以上ない感謝の気持ちを全て伝えきれないことに
悔しさすら感じていた。


『本当に、……本当に感謝する。 私は、良き友人を持った』

「いえ、私も少しだけですが、楽しそうだなと思っていたりもするので。
 では時間も押しているようですし、早速始めま――――――――――」


と、言いかけた所で、


「サーシャちゃぁぁぁぁぁぁん! 今帰るから待っててね~!」



549 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:28:16.69UcF6Yn9Uo (12/27)


遥か、遥か遥かはるか遠方から、そんな黄色い、いやサーシャにとってはどす黒い声が飛んできた。
『殲滅白書』最強(自称)のシスター、ワシリーサである。
ミーシャを身に宿しているサーシャは特に聴力が強化されているため、ワシリーサの声がおよそ
三〇〇〇〇メートル前後の位置から飛んできている事が分かった。愛が伝播し過ぎである。


「バカな……早すぎる! マズいです、ヤツが帰ってきます!
 ミーシャ、魂の入れ替えに要する時間はどれくらいなのですか!?」

『大丈夫、すぐに終わるから心配はいらない』


ミーシャは狼狽しまくるサーシャを安心させるような声色で、



550 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:28:52.42UcF6Yn9Uo (13/27)





『では、先に学園都市へ貴女を送る――――――――


 ―――――――――――私も後から、追いつくから」




意識が、分離した。前者の声色と、後者の声色が変化していた。


『うわっ、あ、私がもう一人? いや、これは私の肉体を私が魂視点で
 眺めているという事…………って、のわあああああああああああ!!』



551 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:29:27.44UcF6Yn9Uo (14/27)


一瞬の出来事、という表現すら霞む程にそれは一瞬であった。
気付いたらサーシャの視界に"湯船に浸かるサーシャの姿"が映っており、
それが魂と化し分離した自分が見ているのだと認識したと思ったら、
景色が"飛び"、サーシャの魂はロシアの空を突っ切って飛翔していった。


「サーシャちゃん♪ ってなにィィィィ!!? サーシャちゃん自ら私へヌード提供だと!?」

「………………"解答一"。 この裸体はあなたへ捧げるために晒しているのではない」

「うん? この感じ……むむむ、サーシャちゃんじゃあないわねえ」

「恐るべき速度の看破に驚愕すると同時に、わずかながら気味の悪さを感じる」


ミーシャ=クロイツェフは、サーシャ=クロイツェフの姿で、
瞬間移動の如く帰ってきたワシリーサに、極めて冷静な口調で対応した。



552 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:30:40.90UcF6Yn9Uo (15/27)



――――――――――――――――――――――


本来の『御使堕し』で発生する魂の入れ替わりは大規模に、そして一瞬で終わる。
それこそドミノ倒しのように、止める間もなくその魂は別の人間へと憑依し、
追い出された魂もまた、別の人間に器を求めるように入れ替わっていく。


ミーシャとサーシャの入れ替わりも、だから一瞬で済んだのだが、


「どうやら入れ替え作業は滞りなく終了したようだな。 サーシャ=クロイツェフ、
 当然ミーシャから説明を受けての承諾だったのだろうが……よく引き受けたもんだ」

「と、言いますと……?」



553 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:31:13.72UcF6Yn9Uo (16/27)


「段階はいよいよ終盤、いや、ある意味これがラストフェイズだ―――サーシャの魂をここへ引き寄せる」

「引き寄せる、ですか」

「というか既に誘導している。 誰かの魂と入れ替わられてもかなわんのでな」


フィアンマが言い終えると同時、彼の肩から伸びる『聖なる右』が一際大きな動きを見せた。
もうすっかりこの状況に慣れたのか、小萌先生は暴風のように荒れ狂う赤き文字の渦中でも
のんびりとした調子で第三の腕を見つめる。


とぷん、と。川に小石が落ちたような音がアパートメントの一室で小さく鳴った。
フィアンマの禍々しい赤の腕が、彼と小萌先生を取り囲むように吹き荒んでいる
魔方陣に突っ込んだのだ。

回転稼働する洗濯機の水の中に手を入れるイメージが一番近いだろう。



554 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:31:44.18UcF6Yn9Uo (17/27)


「それにはどういう意味があるのですかー?」

「詳しく説明しても理解はできんだろう。 要するに、サーシャ=クロイツェフの魂を
 操ってここへ―――月詠が今持っている空きビンの中へ誘導するのに必要な行為なんだ」


冷静かつ平たい説明をするフィアンマだが、その口調とは裏腹に息は絶え絶え、
肩は疲労で上下に弾んでいる。少し小突いただけで倒れてしまいそうだ。
だがそれでも中断する訳にはいかない。ここで力尽きたら現在こちらに向かっている
サーシャの魂は、見えない何かに引っ張られるように誰かの肉体めがけて飛んでいってしまう。

そうなってはお終いだ。オリジナルの『御使堕し』ならともかく、この非合法な仕組みで
発動した『御使堕し(改)』で魂の入れ替えが起きた場合、どうやって元に戻せるのか分からないし、
元に戻す手段が果たしてあるのかどうかさえ定かではないのだから。



555 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:33:04.29UcF6Yn9Uo (18/27)


瞳を閉じ、サーシャの魂の気配を探る。肉体という壁が無い分、彼女の気配を感じるのは容易い。
何せサーシャの力の源が一糸纏わず露出しているのだ。力の露呈を阻害する衣服や肉体は
存在しない。


「……………………」


滴る汗を無視し、フィアンマは第三の腕でサーシャを誘導しつつ、その気配を探る。


(斜角では対応しづらい……やはり空きビンと魂の角度はゼロである事がベスト。
 全くのゼロとはいかんだろうが……多少の誤差はアドリブで補うしかあるまい)


学園都市からロシアまでの距離は言うまでもなく長い。が、今回距離に関する問題は
無に等しいと言って過言ではない



556 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:33:43.38UcF6Yn9Uo (19/27)


サーシャの魂の移動速度は学園都市製の音速旅客機をはるかに凌駕している。
まさにあっという間の到着となるだろうが、この凄まじすぎる速度を
フィアンマがコントロールする事が出来ないのがネックだった。

音速を超える速度で飛来してしまえばこんなアパートは粉々に吹き飛んでしまうだろうが、
魂に質量は存在しないのでそこも問題ない……と、フィアンマは考えている。
そもそも魂とは何なのかが具体的に証明されていない世の中である。質量がどうのこうのなど
考えるだけ無駄だ。


「月詠……」

「は、はい」


フィアンマがぼそりと、消え入りそうな声で小萌先生の名を呼んだ。



557 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:34:28.99UcF6Yn9Uo (20/27)


「空きビンを持って……そこから三歩、いや二歩……半、下がれ」

「え、ええっと……」


きゅぽん、というこの場にそぐわない間抜けな音がした。小萌先生が空きビンの
コルクを抜いたのだ。ピンポン球大程度の口。質量の無い魂なら口の大きさも
関係はないのだろうか、と小萌先生は不安を覚えながらもフィアンマの指示に従う。


「こ、この辺ですか?」

「そこから一歩も動かず、空きビンを掲げてみろ」

「ほい」



558 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:36:00.14UcF6Yn9Uo (21/27)


「頑としてそこを動くな。 その空きビンに魂をホールインワンしてやる」

「あの……今更ですが、こんなビンだと魂がすり抜けちゃうのでは?」

「魂を収めた後に俺様がどうにかする、余計な事は気にするな」

「り、了解なのです……!」


そんな事が出来るのかどうかと問われれば、術者であるフィアンマにも答えられない。
そう出来るよう術式を組んだのがこの『御使堕し(改)』だが、テストもしていない
新大魔術の成功率など見当もつかない。

だが何度も覚悟した事だが、とにかくやるしかないのだ。



559 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:36:40.52UcF6Yn9Uo (22/27)


やがて、


『―――――――――――――――……………………ぁぁぁあああああああああ』

「ふぇ? 何か叫び声が聞こえたような―――――――」

「来るぞ」


フィアンマの言葉に小萌先生は慌てて、


「ま、ま、魔封波ぁぁぁぁぁ!」


と意味不明の叫び声を轟かせた。フィアンマの『何の呪文だ!?』というツッコミも
彼女の耳には届いていない。



560 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:37:22.13UcF6Yn9Uo (23/27)


『ああああああああああああああああああああ助けてええええええええええ!』

「入れ……」


どこからともかく―――というか直上、恐らくは真上から響く女の子の叫び声。
距離感が掴めない、どの辺りから聞こえる声なのかが不明瞭で、小萌先生は眉をひそめる。
その隣でフィアンマは願うように言った。


「入れッ!!!」


直後、部屋の天井から床にかけて一筋の閃光が走った。
サーシャの魂が上空から一直線に小萌先生の部屋を通過したのだ。



561 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:38:01.04UcF6Yn9Uo (24/27)


そう、"通過した"。




美しさすら感じるその閃光は――――果たして小萌先生の背後に走っていた。




「……あれ?」

「なっ……クソッ!! わずかにズレたか!!」


背中に何かを感じたのか、小萌先生はポカンとした顔で後ろに振り向く。
だが既に魂が引いた軌跡は消え去っていた。



562 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:38:36.40UcF6Yn9Uo (25/27)


フィアンマは位置的に閃光が見えていたため、空きビンの口への軌道がズレてしまった事を
認識し、もしかしたらとっくに地面に激突して粉々になっているかもしれないと不安に
なりながらもサーシャの魂を操作しようと舵の役割を担う『聖なる右』に意識を向ける。


ぴし、と。硬い物に亀裂が入ったような音がした。
その音は気のせいか、天井から聞こえたように思え、小萌先生は首を擡げる。


「あ」


そこで何かを見た小萌先生が言葉を紡ぐ前に、


まず天井ではなく―――部屋の床が派手な崩落を始めた。



563 ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:41:40.75UcF6Yn9Uo (26/27)


今回はここまでです。

そうです、上の方でも言ってる方がいましたが、私も書き溜めてる時に
そう思ったので魔封波って言わせました。炊飯ジャーだったら完璧でしたね。

サーシャの器のデカさも大したものですが、しかしそれにしたって
小萌先生の家はろくな目に遭わねーです……原作一巻然り。
床の崩壊が始まったらあとはもう雪崩のように……理解いただけるでしょうか。
サーシャの魂の行方と共に、ご期待いただければと思います。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!



564次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI2012/05/27(日) 16:42:11.54UcF6Yn9Uo (27/27)




                          【次回予告】



「正直、あなたとは二度と会いたくなかったのですが、そうも言っていれらませんね」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ




「俺様に言及したい事などいくらでもあるだろうが、話は後だ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ






565VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/27(日) 16:46:15.33tP5Spd5Mo (1/1)

光速の金髪ボテロリ……これはこれでありだと思います!


566VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/27(日) 16:53:55.73utS7894ro (1/1)


話せてるって事は誰かに入っちゃったのかね


567VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2012/05/27(日) 17:50:00.40KXeYh1sA0 (1/1)

あー、せんせーがー…


568VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)2012/05/27(日) 18:48:05.80AaO8h3S+o (1/1)


テンパりすぎて舌が回ってないな
サーシャちゃん、よっぽど恐ろしい思いをしたんだな


569VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/05/27(日) 19:15:03.07giqDhhbK0 (1/1)


>『どうした。 ぽんぽんに耐え難い痛みを感じるか』
ガブェ・・・。
つかサーシャ可愛いなぁ


570VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/05/28(月) 05:32:38.70ySbYwoZJ0 (1/1)

大天使様直々にロシア民謡のヒロインに対するお仕置きとか、どうかな?どうかな?


571VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/28(月) 09:14:03.10hF302p5DO (1/1)

サーシャあああああああああああああああ!!!!!!!!


572VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/05/28(月) 19:01:16.79pCUhtAG20 (1/1)


ミーシャが普段こんな風にしゃべれたらどんなに楽しいのだろうかwwww


573 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:15:31.63V3fIZP09o (1/28)


おはようございます。更新を開始したいと思います。
支援レスをいつもありがとうございます。

さて今回はいよいよ一端覧祭六日目の"序章"がクライマックスを迎えます。
魂と化したサーシャをビンに収めることに失敗してしまったフィアンマ。
それどころか大魔術の悪影響なのか、月詠小萌のアパートが崩壊し始めてしまいました。

月詠小萌のアパートはもうダメそうですが、果たしてサーシャの魂の運命は……という感じです。

それでは、よろしくお願いします!



574 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:16:17.82V3fIZP09o (2/28)



――――――――――――――――――――――


高層ビルの解体に爆破という手段が用いられる事は、たぶんにある。
例えるならば小萌先生が体感したのは、その爆破解体した瞬間のビルの中の
それなのだが、これは些か比喩表現が大げさ過ぎると言えよう。
人間、生きている内に爆破解体するビルの中にいる事なんてそうそうない。
というか一度だってあってたまるか。小萌先生は死んではいないのだから。


もっと一般的にわかりやすい例えを用いるのならば、エレベーターだろうか。
それも降り。エレベーターが階下へ降りるとき感じる、わずかな浮遊感。
小萌先生が体感した感覚はこれに近い。実際はエレベーターのそれよりもう少し、
胃袋がせり上がる感があったが、スカイダイビングやバンジージャンプは一般的な
例えとしては行き過ぎているだろう。



575 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:16:47.68V3fIZP09o (3/28)



まあ要するに、


学園都市第七学区の一画。木造二階建てアパートの一室、月詠小萌宅の一室が崩壊を始めたのである。


「おいいいいいィィィ!!? せ、先生のお家がー!!!」

「ちっ!」


サーシャ=クロイツェフの魂が真上から真下へ綺麗に通過した。しかしそれはフィアンマの
目論見通り小萌先生が小さな手に持つ空きビンの中へではなく、それより少しズレた座標だった。
日常生活でほとんど聞く機会が無いであろう、アパートメントクラスの建造物ががらがらと
崩れる音が小萌先生の顔面を青く染める。



576 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:17:51.20V3fIZP09o (4/28)



この状況下で尚叫び嘆く事が出来る小萌先生の余裕っぷり(実際は混乱の極みにあるが)も相当だが、
小萌先生と同じく、床が崩落し半ば自由落下状態となっているにも関わらず舌打ちする態度を示す
フィアンマもやはり大物である事は疑いようもない。こんな惨事を招いたのも彼に一因があるというのに。


(床だけではなく、天井もか! しかし何故崩落が? 魂に質量があるはずないと
 踏んでいたが……認識が甘かったか? 魂そのものではなく、サーシャが有する
 魔力が物理法則を引き起こした? だとしたらこの程度の被害で済む訳がないが……)


と、天井も等しく崩れ落ち、その瓦礫が小萌先生の小さな体躯に迫っている事に気付いたフィアンマは、


「ッ!!」



577 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:18:31.98V3fIZP09o (5/28)



ぶん、と軽く腕を振った。彼の象徴たる右腕を。それに応えるように『聖なる右』が
数瞬遅れてその恐るべき力を発揮する。小萌先生を押し潰さんと迫っていた瓦礫は
溶岩に浸したかのように蒸発し消滅してしまった。

小萌先生がそれに対し感謝する暇はもちろんない。彼に救われたことにすら彼女はまだ気付いていない。
当面の危機を回避したフィアンマの頭に次によぎったのは、『サーシャ=クロイツェフの行方』と
『階下の部屋に住人がいるか』、である。

もちろんフィアンマとしては最優先に懸念したいのは前者。空きビンへの収納に失敗したサーシャの魂が
何らかの衝撃を受けて消滅でもしたら取り返しが付かない。超大規模な、しかし結果としてはただの殺人である。
だが後者の方も気掛かりではあった。もし階下の部屋に住人が居たら、瓦礫に飲まれて問答無用で死んでしまうだろう。


前者と後者の懸念事項を同時に晴らす方法を模索するフィアンマだが、そんなものは視線を
下に落とせば済む話だと気付いた。が、部屋の崩落からここまで現在約一秒。



578 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:19:28.78V3fIZP09o (6/28)


わずか一秒だが、木造二階建てアパートの崩落など二秒もあれば完遂してしまう。
つまり現時点で前者と後者の安全の有無を確かめる暇は存在しない。よって、


「月詠!!」

「ひ、火野ちゃ―――――むぎゅっ」


フィアンマは第三の腕を振るい少し離れた距離で落下していた小萌先生を引き寄せ、
自分の体に抱き寄せる形で確保し、一階へ着地する選択肢を取った。


遅れて、フィアンマの迎撃から逃れた瓦礫が雨のように地面へ降り注ぐが、
それも赤の一撃で全て吹き飛ばしてしまう。



579 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:20:05.01V3fIZP09o (7/28)



「怪我はしておらんか?」

「は、はい。 ありがとうなのです、火野ちゃん」


ここで部屋を壊された事に対し非難せず礼を言う辺り、小萌先生も大概お人好しである。


(サーシャ=クロイツェフの魂は―――――――?)


小萌先生の安全を確認し、どうやら幸いにも一階の部屋に住人が居なかった事を
察したフィアンマはようやくサーシャの魂の行方を追うに至った。
小萌先生を抱き寄せたまま忙しなく首を動かし周囲を見回す。アパートの崩落により、
当たり前だが二人は外へ追い出されていた。真冬の冷気が全身を撫でてくるが、
切迫した状況が二人に寒さを感じさせない。



580 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:20:39.56V3fIZP09o (8/28)



ぼひゅ、と。


「―――――――――ッ」


崩れ落ちた瓦礫の山から光が飛び出したかと思った時には、既にその光は
小萌先生の方へ向かって飛んできていた。彼女とフィアンマは密着状態に
あるため、その光がどちらに飛んできているかなど判断できるはずがないのだが、
『御使堕し(改)』の"術者"であるフィアンマには、


「クソッ、サーシャ=クロイツェフか!?」

『だ、第一の質問ですが……その声は右方のフィアンマ?』



581 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:21:20.41V3fIZP09o (9/28)


その光が小萌先生の魂との入れ替えを目的に漂うサーシャの魂だと判断する事が出来た。
一瞬『聖なる右』で消し飛ばしそうになったフィアンマだが、すんでのところで赤い腕を
急停止させ、小萌先生に向かうサーシャの魂の軌道を修正する事が出来た。

魂は小萌先生のすぐ傍を通過し、あらぬ方向へ飛んでいく。部屋の崩壊に伴って
魔方陣も完全に破壊されてしまっているが、フィアンマの魔力で魂の舵を取る事は
まだ可能であるらしい。


『う、く……ひ、引っ張られる……!?』


明後日の方向に飛んでいった魂は、しかし再び小萌先生を狙うようにUターンをし、
恐るべき速度で彼らの下へ向かってくる。



582 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:22:01.34V3fIZP09o (10/28)



恐らくこれがラストチャンス。フィアンマは直感した。


「月詠、"今度こそ"、見えるはずだ。 あの光が」

「え、……うわっ。 な、何ですかあの綺麗な光の……珠?」

「お前の下へ向かってくる。 空きビンを構えてそのまま封じ込めてしまえ!」


急にそんな事を言われても、と思う反面、小萌先生の体は勝手に行動を起こしていた。
説明している時間も、フィアンマが魂の軌道を修正する暇もない事を、無意識に察したのだろうか。
小萌先生は両手でしっかりと空きビンを握りしめ、突き出すように両腕を前へ持っていく。
サーシャ=クロイツェフの魂は導かれるように真っ直ぐと突き進み、



583 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:22:41.93V3fIZP09o (11/28)



しゅぽーん、と。惚れ惚れするくらい綺麗に空きビンの中に吸い込まれていった。


「蓋ァ!」

「は、はひ」


虫あみに捕らわれた蛾……否、蝶のようにビンの中で暴れる魂を確認した小萌先生は
フィアンマの一喝するような指示に従い慌ててコルクを取り出し、キュッとビンの口を閉じた。
そこでフィアンマがすかさず行動に出る。『聖なる右』をビンに向かって突き出し、"何かをした"。
何をしたかは小萌先生には分からなかったが、実はビンから魂が抜けないよう彼が術式を施したのだ。



584 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:23:25.35V3fIZP09o (12/28)



「………………」

「………………」


しん…………と不気味なまでに辺りが静まり返る。一端覧祭が今も絶賛開催中である事が嘘のように。
ビンの中のサーシャ=クロイツェフが『わーわー!! ぎゃーっ!』と叫んではいるが、如何せんサイズが
ピンポン玉大の魂なので声量が乏しい。ちなみに、どうやら全体の約半分が綺麗に崩壊したこの木造二階建て
アパート、今は小萌先生以外住人が居ないようだ。まさかこの騒ぎの隣で寝ていたり無関心でいたりは出来ないだろう。

ただ静まり返ったといってもそれはあくまでフィアンマと小萌先生が感じる雰囲気だけの話であり、
半壊したアパートの前を通る通行人の視線が色々な意味で痛々しい。というか通報されてもおかしくない。
早い所この場を立ち去ってしまった方が良さそうではあった。



585 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:24:03.94V3fIZP09o (13/28)



やがて、二人がようやく冬の外気に寒気を感じ始めた頃、二人は顔を合わせて互いを称え合うように言った。


「………………サーシャ=クロイツェフ、」

「ゲットだぜ。 なのですー」

『第一の私見ですが何を二人だけで完結しているのですか! ここから出してください!』


危うく全人類を巻き込む大騒動となりかけたこの『御使堕し(改)』によるミーシャのサプライズは、
小萌先生の自宅を除けばどうやら無事に全てのプログラムを終了する事が出来た。


はずだったのだが、やはりそうは問屋が卸さないらしい。



586 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:25:04.39V3fIZP09o (14/28)



――――――――――――――――――――――


「……上空の魔方陣が消滅していない? 魂の入れ替わりを俺様が強引に中断したからか?」


無論、空を仰いだところで『御使堕し(改)』の魔方陣を確認する事は出来ない。
相手は高度約二〇キロという途方も無い地点に出現しているのだから。

だが視認は出来なくとも、魔方陣があるか無いかの確認はフィアンマなら出来る。
『聖なる右』を通して感知できるし、何より彼は術者本人だからだ。
そんなフィアンマは全ての過程が終了したはずの大魔術がまだ発動状態である事に気付き、
漠然とした不安感を抱きながら眉をひそめた。



587 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:25:43.42V3fIZP09o (15/28)



「これが人間の魂……なのですかー? オーロラを球状に凝縮したらこんな感じになりそうなのです」

『だ、第一の質問ですが、あなたは一体?』

「ほえー……会話まで出来るのですか。 初めまして、先生は月詠小萌と言います」

『……ロシア成教「殲滅白書」所属の魔術師、サーシャ=クロイツェフです。
 まさかこのような状態で自己紹介をする日が来るとは思いませんでしたが』


何やらのん気に挨拶をしている小萌先生とサーシャだが、フィアンマの耳には届かない。
彼は第三の腕をアンテナのように動かしながら、ただ空を見上げて佇んでいる。
アパートを半壊させるという事故を起こした以上、早い内にここから消えなければならない
という考えは、今の彼の頭には無いらしい。



588 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:27:45.03V3fIZP09o (16/28)



(何だ……? 魔方陣そのものが、飽和している? こんな現象、予定には……)


それは喩えるならば、風船に絶え間なく水を注ぎ込むような感覚。
大量の水を風船に流しこめば当然風船は膨らんでいき、なかなか割れはしないものの
みるみるうちに大きくなり、ゴム膜が悲鳴をあげ、最後には破裂してしまう。

遥か上空に出現している魔方陣に、それと似たような現象が起きているとフィアンマは感じた。


(いかんな、またしても想定外の現象だ。 対処……しかしどう処理する? 
 あとはもう打ち止めの連絡待ちだ、俺様に出来る事など残っておらん)


鼓動が徐々に早まっていくのを感じる。



589 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:28:21.76V3fIZP09o (17/28)



(ヤバい)


嫌な汗がどうしても止まってくれない。


(よくわからんが、これはヤバい)


あと数秒で必ず爆発する爆弾の前でただ呆然と立ち尽くさざるを得ないような、
対処のしようがない状況に焦る。
爆弾は高度約二〇キロ地点。『聖なる右』で強引に消し飛ばす事も出来なくは
ないだろうが、それは爆破寸前の爆弾にハンマーを振り下ろすような愚行と同義である。
そんな衝撃を加えたらどうなるかなど、子供でも分かる。



590 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:29:17.64V3fIZP09o (18/28)



(しかし、ならばどうする? 放置していればその内消えるか?)


これが既存の魔術ならばフィアンマの知識の中に対処法があっただろう。
だがこれはその彼が開発した穴だらけの新大魔術だ。何をどうしたらどうなるか、
術者本人にも分からない。魔術とはまず開発し、その効力、影響をを全て調査し、
弱点、対処法などがあれば可能限り穴埋めして、完成に至る。魔術の全てが全て
そうやって完成していく訳ではないが、大凡は以上の通りだ。


「……」

「火野ちゃーん? さっきからボーッとして、どうしたのですかー?」

『右方のフィアンマ……話には聞いていますが、本当に「天使同盟」に……』



591 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:29:52.60V3fIZP09o (19/28)



二人に声をかけられ、何の気なしにそちらへ首を向けるフィアンマ。


その時だった。


「ッ!?」

「うひゃあ!? 眩し――――」



592 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:30:19.42V3fIZP09o (20/28)





視界が、世界が、白に染められた。それが上空の魔方陣が『炸裂』し、
そこから噴出した光が(恐らくこの街全体を)覆い尽くしたのだと即座に理解した
フィアンマは実に聡明であると言えよう。






593 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:31:48.01V3fIZP09o (21/28)



(しかもこの光は……『天使の力(テレズマ)』!? 『神の力(ガブリエル)』のものか?
 だが『天使の力』にしては……暖かく、柔らかい感じだが、この光の噴出がどこに、
 どのような影響を与えるんだ? クソ、今日はずいぶんと『光』に縁があるな……)


光の氾濫はほんの数秒で終わった。その光によって照らされたのは学園都市の辺りだけなのか、
または全世界に及んだのか、さすがのフィアンマにもそこまでは推測出来なかった
(恐らく後者だとフィアンマは考えているが、確信が持てない)。
きつく閉じていた瞼をフィアンマがゆっくりと開くと同時、彼の足に何かが当たった。


『つ、月詠小萌……もう少し丁寧に扱ってください。 割れたらどうなるか……』

「……サーシャ=クロイツェフ」



594 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:32:37.30V3fIZP09o (22/28)



足元に転がっていたのは、サーシャの魂を収めたビンだった。どうやら先の
光の氾濫に驚いた小萌先生が落っことしてしまったようだ。ビンに使用されている
ガラスは結構な厚さがあったため、割れるまでには至らなかった。

フィアンマはビンを拾い上げる。その際、中にいるサーシャが『ひっ』と短い悲鳴を漏らした。
その悲鳴は恐るべき力を有するフィアンマに対して怯えたのではなく、単に(サーシャ視点からすれば)
巨大な手が頭上――魂である以上、頭上もクソも無いが――に迫ってきたのが原因だろう。
虫や小動物に触れようと手を近付けたら逃げる事があるが、サーシャはそれと似たような体験をしたのだ。


『正直、あなたとは二度と会いたくなかったのですが、そうも言っていれらませんね』

「俺様に言及したい事などいくらでもあるだろうが、話は後だ」



595 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:33:37.51V3fIZP09o (23/28)


魔方陣は跡形もなく消え去っていた。あの光の氾濫は消える寸前に起きる現象だった……らしい。
らしい、と断言出来ないことに若干のストレスを感じるフィアンマだが、魔方陣が消えたことで
『御使堕し(改)』は完全に発動を終えた事になる。


ならば気掛かりなのは、世紀の大魔術は『成功』したのか、『失敗』したのか。


サーシャ=クロイツェフがこうして魂と化している点から鑑みて、ミーシャとの魂の入れ替えは
どうやら成功したと判断していいだろう。その後のサーシャ→他者の入れ替わりも、ビンに彼女の
魂を収めるという荒唐無稽の荒業でかろうじて阻止できている。

だがこれで『御使堕し(改)』が無事に成功したとは言えない。未知の大魔術である以上、
術者のフィアンマでさえ想定出来ないような、何らかの副作用が発生している可能性があり、
そしてその副作用が起きておらず、世界は何の問題もなく平常運行していると判断したその時、
初めて『御使堕し(改)』は成功したと断言出来るのだ。



596 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:34:07.65V3fIZP09o (24/28)


打ち止めからの連絡が無い以上、ミーシャ発案のサプライズ自体が成功したかはまた不明であるが。


「火野ちゃん」

「ん?」


声をかけられた。火野ちゃん、と。小萌先生が、フィアンマに話かけたのだ。
彼はサーシャが収められたビンから視線を外し、小萌先生を見る。



597 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:34:39.18V3fIZP09o (25/28)





「……………………………………………………………………………………………………………………………………」









598 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:35:06.48V3fIZP09o (26/28)



そして。




フィアンマは、『御使堕し(改)』がこれ以上ない失敗に終わった事を確信した。






599 ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:38:12.65V3fIZP09o (27/28)


今回はここまでです。

というわけで、どうやら『御使堕し(改)』は無事に失敗したようです。
サーシャの魂を収めること自体には成功しましたが、大魔術の悪影響は
フィアンマの想像をはるかに凌駕するものでした。

あと>>593の後者は前者の間違いです。申し訳ありません。

次回は一端覧祭六日目の本番、メインパートをお送りします。
フィアンマが壊れに壊れまくります。ぶっ壊れます。
彼がなぜ失敗だと確信したのか、明らかになります。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!




600次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI2012/05/30(水) 09:38:45.83V3fIZP09o (28/28)




                          【次回予告】



「どうしてこんな事になっちまったんだ、クソッ!! ちくしょう!!」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ






601VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/05/30(水) 09:44:23.16rRAkWM220 (1/1)

>>1 乙です!

毎回楽しみにしてますー(・∀・)


602VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/05/30(水) 10:08:38.33MViszqzE0 (1/1)

乙。
今回も面白かった!続き気になる!!


603VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/30(水) 10:25:51.351RBLeJlIO (1/1)

乙です

面白いんだが、>>1がギャグパートと言い張る理由はいつわかるのか……?気になる


604VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/05/30(水) 10:41:50.96hSijhxkS0 (1/1)

>>1

乙です 数日かけて最初から読んで追いつきました
とても面白いです 更新楽しみにしています


605VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2012/05/30(水) 11:48:04.07ZgYjZHDw0 (1/1)


小萌てんてーマジ天使


606VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/30(水) 12:53:00.96ZM7ivCGDO (1/1)

クソッ!気になる終わり方しやがって、乙しか言えねぇじゃねぇか!


607VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/05/30(水) 15:19:03.160s1PQ5a/0 (1/1)

魔封波わろたwwwwwwww


608VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2012/05/30(水) 21:42:06.50wcQFbIMAO (1/1)

無事失敗wwww


609VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/05/30(水) 23:14:51.71rZYInQ0X0 (1/1)

フィアンマ壊れすぎwwwwwwwwww
小萌先生の身に何が起こるかなんとなく予想がつくが
お口チャックマンで次回を待つわ


610VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/31(木) 08:58:24.62QjOi+8iDO (1/1)

>>1乙!

失敗内容=小萌先生がオリアナになる

あのロリボイスで、歩く18禁に…







あれ?
これむしろ成功じゃね?


611VIPにかわりましてがNIPPERお送りします2012/05/31(木) 12:54:38.95Xf6hccir0 (1/1)

男女性別入れ替わりか?www



612VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/31(木) 16:01:04.06ZVD+pOM2o (1/1)

>>611
馬鹿なの?死ぬの?[ピーーー]よゴミ


613VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/31(木) 16:52:15.32Ji0tHtns0 (1/1)

>>612はTSした人に家族でも殺されたのだろうか


614VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)2012/05/31(木) 17:02:57.57W1rI2Kx3o (1/1)

予想してんじゃねーよってことだろ


615VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/05/31(木) 19:29:19.38Q6s5ZdQq0 (1/1)

予想はよそう!ってか。

まあ失敗するよね


616VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/31(木) 21:58:59.89yYhzqDBIO (1/1)

>>615
そういうのやめろwwwwww
地味にくるwwwwwwwwww


617VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/01(金) 07:09:24.50/UR00+Tr0 (1/1)

>>615
無駄にギスギスして雰囲気悪いときにこうやって体を張ってスベってオウフな人って
世界の穢れを一身に背負ってくれてるみたいで、俺は好き

平和が一番だよねー



618VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/01(金) 11:53:17.5976zGTmiDO (1/2)

そんなことよりオルソラの話しようぜ


最近おっぱい要素が足りないんだけど…
切実におっぱいを求める!
番外編とかで


619VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)2012/06/01(金) 12:01:47.40UepdRd3So (1/1)

確かに最近ナイチチばっかだな


620VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/01(金) 13:50:22.09is1mDJnz0 (1/1)

全ての乳を平等に愛せ


621VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/01(金) 13:55:29.0676zGTmiDO (2/2)

乳神さま…


622VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/01(金) 16:09:40.14/OZsbPbgo (1/1)

お前らおっぱいばかりだな
たまには尻について語ろうぜ
レッサーの尻コキの話とか


623VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/01(金) 19:01:52.98sKGTt0Nz0 (1/1)

そういえば禁書ってあんま腋キャラが思いつかないな、身体部位的な意味で
強いて上げるなら・・・・打ち止め?


624VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/01(金) 19:30:18.35HofvH94DO (1/1)

神は言っている、乳を愛せと


625名前:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/01(金) 20:15:46.60IyZpu1n+o (1/1)

常盤台の体操服を思い出すがいい
あの格好でアクションする御坂さん最高でした


626VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/06/01(金) 22:36:39.11XoLlSkt60 (1/1)

小萌てんてー混乱のあまりブロントさんになっとるwwwwww


627 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:23:11.86dxN9fr0qo (1/31)

>>603
いや、既に……え?認識の違いでしょうか?
それともこの程度でギャグパートとは片腹痛いわとか、そういう意味でしょうか。
もしそうでしたら私の力量不足をお許し下さい……、でもここから更にカオスですので!

皆様こんにちわ、今日も更新を開始します。

さて、今回から話がワケわかんないことになります。
正直結構遊びました。書いてて楽しかったですが(もういつ書きためたか分かりませんが……)、
今思うと少し調子に乗りすぎたかもしれません。

まあとにかくいってみましょう。フィアンマが大魔術の失敗を確信した理由とは?

それでは、よろしくお願いします!



628 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:24:00.61dxN9fr0qo (2/31)



――――――――――――――――――――――




「あ?」




間の抜けた声を発してしまうフィアンマだが、しかし無理もない。


「火野ちゃん」

「は?」



629 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:24:46.19dxN9fr0qo (3/31)





「火野ちゃん。 ……kuec火野arjcちゃxlusp」



「は?」


火野ちゃん、火野ちゃんと。壊れたスピーカーのようにフィアンマの偽名を呼び続ける
小萌先生の声に、"どっかで聞いたことのあるノイズ"が混じっているではないか。


声が。



630 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:25:25.58dxN9fr0qo (4/31)



酷似しているではないか。何と、誰と、とは言わない。言うまでも、ない。


「kkedwm火野czhhgk如何rjddeywn」

「あ…………? あ…………?」


およそ人間の声帯から発声されているとは思えないその言葉、言語、ノイズ。
確かにフィアンマも小萌先生が人間なのか疑ったこともあったが、念を押すまでもなく
小萌先生は人間であるし、フィアンマもそれは理解している。こんな小さな体躯ながら
自分より年上であることに、やはり疑問を抱きはするがそれでも理解している。



631 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:25:55.82dxN9fr0qo (5/31)



「klxutr火野aitguちゃutん」

「あ……? あ……? あ……? あ……?」

「jgiyde火野apwujo……」

「あ…………………………う、」

「火野ちゃん@zztxfjtc-myws.co.jp……」

「メールアドレス風に俺様を呼ぶな!」


ツッコミを入れるフィアンマが冷静さを取り戻したのかといえば、そうではない。
今のツッコミは反射的に出たものだ。無意識に、彼の意思とは無関係に口から出ただけ。



632 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:26:37.37dxN9fr0qo (6/31)



「yjbvi火野dlptu」


そのノイズ混じりの声にフィアンマは驚愕を禁じ得なかったが、しかしそれに似た驚愕を
彼はこの数秒前に一度、味わっている。小萌先生の声を聞く前に一度、味わってしまっている。

フィアンマはまず"見て"、驚愕したのだ。声を"見る"ことは、何らかの技術を使用しなければ
不可能だ。そう。フィアンマは、見て、驚愕している。声を聞いて驚くよりも先に、それを見て、
『御使堕し(改)』が途方も無いスケールの失敗をしたのだと確信したのだ。


何を見たのか。


「つ、月…………詠……」



633 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:27:22.28dxN9fr0qo (7/31)



当然、小萌先生を見たのだ。


どこを? 小萌先生の、何を見て、彼は戦慄したのか?


「火野ちゃん」

「月詠…………お前、その顔は」




顔、だ。顔が。月詠小萌のあどけない顔が――――――作りかけの、ドールの顔のように変貌していた。






634 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:27:56.98dxN9fr0qo (8/31)


のっぺりとしたその顔は、そう、のっぺりとしているのだから何も無かった。
小泉八雲の『むじな』はあまりにも有名であるが、日本の怪談知識を富むんで
いないフィアンマは想起出来なかった。

そんな彼が、では何を想起したかといえば、天使以外の何があると言えるのか。
小萌先生の顔には人間にとって必須である器官が何一つ存在せず、それら全てを
皮膚の凹凸だけで再現しているという、ある意味怪談じみた恐ろしい顔になっている。
ここは怪談じみたではなく、神話じみたという表現が相応しいかもしれないが。


一般人が今の小萌先生を見たら絶叫してその場で気絶してしまうかもしれない。
蕎麦屋に駆け込むまでもなく、だ。だがフィアンマは驚き叫ぶことも、失禁することも、
気絶することもなく、ただ小萌先生を見つめ続けた。というか、視線を逸らす事が出来ない。


何が起きた? フィアンマの頭の中は、もうその疑問しかなかった。



635 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:28:36.67dxN9fr0qo (9/31)



「uw火野tfhちゃんppm火野msちゃeんrz火野dh火gc野uge」

「ひっ……」


そして今更、忘れていたかのように、遅れてきた恐怖がフィアンマの感情を支配し始めた。
怖い、と彼は思った。人間ではあり得ない構造で象られた顔で、人間ではあり得ない声を
発しながら自分の偽名を呼び続ける小萌先生を、素直に怖いと思った。

とてとてと、ゆっくり歩きながらフィアンマの下へ向かう小萌先生。
そんな彼女から逃げるように、彼も一歩一歩後退っていく。


『………………フィアンマ?』

「ッ! さ、サーシャ=クロイツェフ……」



636 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:29:25.35dxN9fr0qo (10/31)


フィアンマが持つビンの中から声がした。普通の声がした。
魂という時点で普通ではないが、それでも彼にとってサーシャ=クロイツェフの声は
至って普通の、人間の声だった。


『第二の質問ですが、どうかしたのですか? 先ほどから狼狽しているようですが』

「どうかしたのか……だと? あぁ、どうかしている、どうかしているだろ!!」


彼は叫んだ。ぐちゃぐちゃになった感情を一気に吐き出すように。


「顔!! 顔顔顔顔顔!! おかしいだろうが!? 分かるだろ、見えるだろ!?
 月詠の顔があのクソ天使とそっくりだろうが!? 瓜二つじゃねえか、あ!?
 声も!! 意味不明な方向から飛んでくるノイズが混じってやがる!!
 これでどうかしない方がどうかしているだろう!? これが異常でなくて何だ!?」



637 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:30:13.10dxN9fr0qo (11/31)


『顔……? 声……?』

「見えるだろ!? 見ろや!! どうしてこんな事になっちまったんだ、クソッ!! ちくしょう!!」


いつもの口調が乱れるほどの混乱っぷりを示すフィアンマ。小萌先生の顔に向けて
ビンを突きつける。サーシャは暫くの間沈黙を挟んで、


『月詠小萌と対面したのはついさっきですが……別に何も変化はないかと』

「あ……?」


ビンの中でふよふよと浮かぶ魂は、当たり前のように続ける。



638 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:30:52.61dxN9fr0qo (12/31)



『普通の顔じゃないですか、と私は言っているのですが』

「普通だと? まさか俺様以外には認識出来ないのか? お前、普通って……。
 お前の中の顔の基準では目も鼻も口もねえのが普通なのか!?」

『いえ、目も鼻も口もない事は魂と化した私でも視認できています』


でも、とサーシャは若干困ったような調子で言った。



639 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:31:28.79dxN9fr0qo (13/31)





『"それがどうかしたのですか"? 別に……普通の顔だと思いますけど。
 声も、言葉だって、普通に理解できる言語を用いているじゃないですか』

「かはっ……!」




危うく、卒倒しそうになった。フィアンマは過呼吸を起こしたかのように息を荒げる。



640 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:32:07.80dxN9fr0qo (14/31)



「かはっ……かはっ……かはっ……かはっ……かはっ……!」


これが普通だと、言う。サーシャは、何の躊躇いもなく、断言する。
これが、世界であると。普遍的な日常であると、彼女は言う。


「かはっ……!」


気がつけば、小萌先生はフィアンマのすぐ傍まで接近していた。
もはや何が何やらわからぬ状況に目を回し、がっくりと項垂れるフィアンマの頬を、


「lgblfi火野vlorちゃんspitj」


そっと、優しく撫でた。彼女はどうやらフィアンマを心配しているらしく、
彼も彼女の思いやりに気づく事が出来た。どうやら彼女は自分を『心配している"らしい"』と。
人間と接しているはずなのに表情から、声から、思いやりなのだと断言出来ない事に絶望を覚える。



641 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:32:55.36dxN9fr0qo (15/31)



「gfiy火野―――――」

「クソったれがああああああああああああああああ!!!!!」


フィアンマは脱兎の如く駆け出した。逃走。恐怖と混乱と、そして
慈愛にあふれた優しさを提供してくる"異形"に耐えられなくなった。

がむしゃらに走り続けるフィアンマ。決して振り向かない。
小萌先生もノイズまみれの声で彼を追いかけるが途中で躓き、どてっと転んでしまった。
逃げては何も解決しない事は分かっているが、


「ちくしょう……!!」


フィアンマは、走り続けた。



642 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:33:40.21dxN9fr0qo (16/31)



――――――――――――――――――――――


学園都市の地形をまだあまり知識として取り入れていないフィアンマは
自分が今どこにいるのかさえ分かっていなかった。分からないが、それでも
ただひたすらに科学の街を駆けた。視線を落とし、ろくに前も見ず、そのため
何度も何度も通行人と衝突しながら、彼はとにかく走り続けた。

体力に自信がある方ではない彼は一〇分ほど全力疾走したところで力尽きた。
大通りのど真ん中ではあるが、彼は構わず膝をつき酸素を補給する。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はっ……、っ……クソッ……」



643 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:34:21.75dxN9fr0qo (17/31)


いっその事この街から出て行きたかった彼ではあるが、しかしそれはあまりにも
無責任が過ぎるというものだろう。今、街を出るには彼はやり残している事が
多すぎる。打ち止めからの連絡、ロシアだかどこだかでサーシャと入れ替わったミーシャの
帰還待ち、そして―――十中八九己の過失で『変貌』してしまった、最後まで自分の愚行に
付き合ってくれた月詠小萌。


(考えろフィアンマ……考えろ。 思考を止めるな、考えるんだ……。
 考えず感じるだけで打破出来る領域を凌駕してしまっている……。
 考えるんだ……どうすれば月詠小萌を元に戻してやれる?)


フィアンマは、激しく後悔した。後悔し、悔み、そして自己嫌悪した。



644 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:35:06.65dxN9fr0qo (18/31)


かつて自分がここまで己の振る舞いに対し『失』を感じた事があったか?
と、彼は振り返る。その振り返る暇で小萌先生を元に戻す手段を練るべきだろうが、
それでも振り返った。
『失』。失敗、失意、失策、失態―――失望。自分という存在に、失望さえした。
第三次世界大戦。あの一件も最終的には失敗し、方法を間違えたと彼は認めているが、
それでも自分が起こしたあの戦争に対しここまで絶望する事はなかった。


己の行為で被害にあった被害者を直接、明確に認識していたわけではなかったからだ。
戦争を起こせばどれほどの犠牲者が出るか、もちろんフィアンマには理解出来ていたが、
その犠牲者一人一人の顔を、彼は確認した訳ではない。


認識するとしないで心境の変化にここまでの差が生まれるのか―――フィアンマは、後悔した。



645 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:36:07.37dxN9fr0qo (19/31)


「月詠……」

『フィアンマ』


幻想的な響きの声が聞こえた。フィアンマが小萌先生から逃走する際に持っていた
ビン―――サーシャ=クロイツェフの魂が、彼の名を呼ぶ。


『どういう経緯であなたが錯乱するに至っているのか私には分かりませんが、
 落ち着いてください。 ミーシャの計画が成功したのか否か、私はまだ
 聞かせてもらっていません。 こんな所で膝をついている場合ではないでしょう』

「……」



646 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:37:01.76dxN9fr0qo (20/31)


確かにそれも大事だが、とフィアンマは、しかしそれよりもまず小萌先生を
どうにかして元に戻す方を優先しなければとも考えた。あのまま放置するわけには
いかない。なぜかサーシャはあの小萌先生が正常であると確信しているらしいが
(直前に普通の小萌先生を見ているにも関わらず)、あのままでは彼女がこの街で
築いていた立場が危うくなってしまう。

彼女は自分が教師だと言っていた。今、あんなマネキンのような顔で、
呪いのビデオのノイズみたいな声の小萌先生が教室に入ってきたら
生徒は阿鼻叫喚するだろう。――フィアンマは名前を覚えていないが――、
吹寄制理が、姫神秋沙が、クラスの全員が、理不尽な涙を強いられてしまう。


阻止しなければ。己のくだらない失態で、無駄な涙を流させる訳にはいかない。
この時、フィアンマは初めて本当に真の意味で、純粋に人を救おうと決意した。



647 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:37:47.22dxN9fr0qo (21/31)



(月詠小萌を……救う。 必ず元に戻してやる!)


と、


「?」


ぽん、と肩を叩かれた。この時フィアンマは膝をついてがっくりと項垂れた、
土下座にも近い体勢だったため肩を叩いてきた人物が誰なのか窺えなかった。
少し首を動かしてみると、その人物の足が見えた。長めのスカート、どうやら
この街の学生らしいが、見たことのない制服だったので少なくともフィアンマの
記憶には無い女学生だ。



648 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:38:28.39dxN9fr0qo (22/31)


彼女のすぐ傍に、何やら屋台……というには些か規模が小さすぎるが、
商店を押して移動させるタイプの荷車が確認できた。恐らくこの一端覧祭で
宣伝活動のような事をしている一般学生なのだろう。


「…………? あ、あぁ……すまん」


なぜ肩を叩いてきたのかフィアンマは最初、分からなかったが、やがて理解に至る。
そりゃ一端覧祭の影響で多くの人が行き交う大通りで(それでもここら一帯はあまり
通行人がいなかったが)膝をついていれば邪魔になろうというものだ。


「邪魔をした。 非礼を詫びる」


よろよろと立ち上がり、膝の汚れをぱっぱと払ってフィアンマは女学生に謝罪する。
その際に彼は女学生の方へ視線を向けたのだが、冗談抜きで眼球が飛び出るかと思った。



649 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:38:57.54dxN9fr0qo (23/31)





「irbbnsk大efug丈夫wyntzeznj?」

「お、おう」




生返事が出てしまった。あまりにも、あまりにも出し抜けに虚をつかれたからだ。
その女学生の顔は、果たして例のアレだった。目も口も鼻もない、皮膚の凹凸で
それら器官が表現された、のっぺりとした顔。そして―――例の、あの声。



650 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:39:40.41dxN9fr0qo (24/31)



「あ、あぁ、あれぇ!!? あああああああああああああああああああああああ!!!!!!」


獣のような咆哮。フィアンマの驚愕が世界中に伝播したのではと疑ってしまう程の
叫び声。小萌先生を何とかして元に戻そうというフィアンマの策が、思いが、
ガラスのように砕け散った。


「pncutど、どうしuyuたdyba大丈夫ですかzbaejyyz?」

「な……何故、こいつまで……!? いや、まず誰だこの女は、俺様は知ら―――」

「raseu……、eteepfhbsdyphdx?」

「え?」



651 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:40:16.87dxN9fr0qo (25/31)


おどおどしながら心配そうに話しかけてくる女学生に意味もなく吠えていたら、
後ろから声をかけられた。否、声をではなく―――もう聞き飽きたと言っていい
あのノイズをかけられた。


「tbnfcxxr」


男子学生だった。しかしその顔はやはり製作途中のドールのような顔であった。
なぜ男だと分かるのかといえば、顔では判別出来ないのだから服装や体格で
判断するしかない。のっぺりフェイスの男子学生は何の騒ぎだとこちらへ駆け寄った……のだと思う。


「これは……悪夢、なのか? 魔術師の仕業か……?」


魔術師の仕業だし、その魔術師はお前だ。



652 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:40:52.74dxN9fr0qo (26/31)


周囲を見回す。小萌先生から逃げる時は周りなど、ましてや通行人の顔まで
見ていなかったので気付かなかったが、


「……………………………………ぜ、全部。 全員、か、顔が……」


ミーシャが存在した別位相の世界の住人は、全員こんな顔なのかな。
と、フィアンマが呑気に考える事は、もちろんない。


喉が干上がった。全力疾走で失っていた酸素をせっかく肺に取り込んだのに
意味が無くなった。上手く呼吸が出来ない、胸が押し潰されそうな感覚。
この大通りを行き交う全ての人間の顔が、ミーシャ=クロイツェフのそれになっていた。
ホラー映画の撮影ですと言えば信じてしまうくらいの、筆舌に尽くし難い恐るべき光景。



653 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:41:37.41dxN9fr0qo (27/31)


小萌先生だけだと、何故思い込んでいたのか、フィアンマは自分の間抜けさに
憤りすら覚えた。小萌先生一人という事はない、そんな訳がない。たまたま自分の
近くに居て術式発動に加担していたからといって、『被害』が小萌先生だけで
済むはずがない、と。

でも、だからと言って、こんな事ってあるのか。


『第一の私見ですが、ここで騒ぎを起こしても何の得も無いでしょうフィアンマ。
 ひとまずここから離れ、計画成功の有無を確認しない事には終われません』


ビンの中にいるサーシャが、さも当然のように言う。
フィアンマは心の中で返答した。『成功か否かを確認するまでもなく、もう"終わっている"』と。
どれほどの範囲まで影響が及んでいるかは調査が必要だが、少なくとも最低限の結論は出ている。



654 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:42:19.22dxN9fr0qo (28/31)





学園都市は終わった。確認するまでもなく、学園都市に存在する全人類が"こうなっている"と、
フィアンマは得たくもないであろう確信を得てしまった。






655 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:42:57.92dxN9fr0qo (29/31)



「うわっははぁあああああああああああああん!!!!」


もう、走るしかなかった。その気になれば『聖なる右』の力でどこへだって
飛んでいけるフィアンマだが、そんな手段など思慮の外。


解決策を練るゆとりなんて、今の彼にはない。世界最強クラスの魔術師は、
世界最大クラスの失敗を犯し、(顔が)天使だらけの街を走り抜けていく。



656 ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:45:46.82dxN9fr0qo (30/31)


やったねフィアンマちゃん! ミーシャが増えるよ!

そんな感じで、今回の投下を終了させていただきます。

やっぱりね、という方もいればこの展開に驚いてくれた方もいらっしゃ……ればいいなぁ。
いかがでしたでしょうか?学園都市の人間のほとんどがこうなってしまいました。
いかがでしたかっていうか、まだこの話続きますけど……。

さてどうするフィアンマ、といった感じで次回に続きます。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

ただ今回のこの現象、被害者はフィアンマだけじゃありませんよ。



657次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI2012/06/02(土) 14:46:12.59dxN9fr0qo (31/31)




                          【次回予告】



「一体全体………………何がどォなってやがンだァァァァァ!!!」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「うああああああああああクソったれ、意味わっかんねえぞコラァ!!!」
『天使同盟』の構成員・学園都市第二位の超能力者『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督






658VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/02(土) 14:48:47.02upbVBJFao (1/1)




659VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2012/06/02(土) 15:03:04.71o4fK9/vk0 (1/1)


途中のフィアンマが福本画で再生されるww


660VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)2012/06/02(土) 15:16:51.89V77g7wzQo (1/1)

乙乙

福本よりは椎名高志っぽく思ったわ、GSぐらいの頃の


661VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/02(土) 15:22:14.53T964SMn2o (1/1)

一番の被害者は某不幸体質のウニ頭だな


662VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/02(土) 17:20:46.27R826OCqmo (1/1)

そっちかよ!?w

予告をみる限り一方通行と垣根も正常っぽいな


663VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/02(土) 20:35:00.56B9FHxsqb0 (1/1)

乙乙 フィアンマキャラ崩壊し過ぎワロタ

何がどうしてこうなったのかはさておき、とりあえず被害者の共通点は理解した


664VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/02(土) 20:57:22.52UQXi84N/0 (1/1)

>>1乙!!
>うわっははぁあああああああああああああん!!!!
俺様口調のフィアンマがこんな風に叫んでると思うともう……wwww


665VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/02(土) 21:07:32.03LxpmdmJPP (1/1)


見ろや!!でワロタ


666VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/06/02(土) 22:30:23.69wRwkSgI20 (1/1)

絶対に笑ってはいけない天使ハザード
生存者は天使同盟メンバーと幻想殺しだけ!


667VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/02(土) 22:47:11.92KYaN2BHOo (1/1)

おつ
上条さんマジ哀れwwwwwwwwww


668VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/02(土) 23:08:55.53IAGngF710 (1/1)

これ正気の人間からすりゃホラーなんてもんじゃないな・・・。
フィアンマの反応にも笑いつつ納得。



669VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/03(日) 00:28:32.35AIE1aoyB0 (1/1)

怪談ののっぺらぼうを絶賛体験中かwwwwwwww
俺ならその場で気絶する自信ある


670VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/03(日) 03:53:20.22ZsEC9t8L0 (1/1)

うはー、早く続き読みてーwwwwwwww
こんなにwwktkするSSってやっぱりすごいと思うの


671VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/06/03(日) 08:38:43.53yK8tH2Bt0 (1/1)

フィアンマがキャラ崩壊どころがもう別人にwwwwwww
まあこんな怖え体験したら人格なんぞ破綻するわなwwww


672VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/03(日) 09:28:43.272h41qL3Do (1/1)

>>670
こんなに臭いレス出来るってあるいみ凄いと思うの


673VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2012/06/03(日) 15:17:55.91MXsu3wYoo (1/1)

全員が顔無しか…
まるでクトゥルフ神話だなww
SAN値が1D20+5くらい減っても仕方ない状況ww


674VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/03(日) 16:03:21.36JELWwvDDO (1/1)

やっちまったねフィアンマ♪


これで第一次天使生産計画は無事に大成功だな
俺たちはまだ、これがガブリエルによる巨大な陰謀の序曲だとは…この時は知るよしもなかった………


みたいな展開になったらどうしよう…(;´д`)


675VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/03(日) 23:53:46.16S8kDt5GL0 (1/1)

乙。超面白かった!
これは天界の住人と見た目が中途半端に入れ替わってしまったということかな?


676VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/04(月) 01:40:02.092uPQPFTIO (1/1)

なんとなくブラザーズグリムで顔のパーツ無くなっちゃった女の子を思い出した


677VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/04(月) 07:32:49.08Z5IP9JbIO (1/1)

まさか周りから見たらこの3人が・・!?


678VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/04(月) 23:08:39.06nXHu/DODO (1/1)

乙www
なんて展開だwwww


679VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/06/05(火) 03:13:38.54KJm8SxE30 (1/2)

サーシャは目や口や鼻の概念を当たり前に持ってるのに
それが無くなってることに微塵も疑問を抱かないのが面白い

…ちょっと待て、ミーシャが人間の顔になってたらどうしよう
それはそれでキモいぞ


680VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/05(火) 09:26:48.31yRHy+G79o (1/1)

>>679
おいちょっと待て今は身体はアストラル体といっても
普段のミーシャは全裸だぞしかも一通さんには人として見えるんだぞ


681 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 11:50:56.27xAoQ9lSuo (1/27)


皆様こんにちわ。今日も更新を開始します。

さて前回、フィアンマがやらかしてしまい学園都市は素敵な楽園都市となってしまいました。
フィアンマは加害者であり被害者で、そして原因であるミーシャも悪気なんてものはなく、
とてつもなく厄介な現象としか言いようがないこの一端覧祭六日目。
どうやら概ね好評のようで私も心底安心しています……。

今回は天使だらけとなってしまった学園都市の純粋な被害者の模様をお送りします。
ああ、被害者が学園都市の住人だけとは限りませんが。

それでは、よろしくお願いします!



682 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 11:51:29.25xAoQ9lSuo (2/27)



――――――――――――――――――――――


しかし珍しい事も世の中にはあるもので、学園都市の住人がどいつもこいつも
ミーシャ=クロイツェフの顔になっているという、怪談のカテゴリに加えても
いいぐらいの現象にフィアンマが襲われているその頃、


「……」


彼と全く同じ恐怖と混乱に陥れられている人物が、実は同じく学園都市に居た。
レベル5第一位、一方通行である。彼は一端覧祭六日目に、あらゆる案件について
思考を巡らせながらそのついでに、街で偶然出会った『アイテム』の構成員、
麦野沈利、絹旗最愛らとファミレスへ向かう途中だった。



683 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 11:52:09.02xAoQ9lSuo (3/27)



「……」


そんな一方通行は現在、歩を止め、道を行き交う学生達の流れの中で一人、
ぽつんと佇んでいた。顔は呆然というか唖然というか顔面蒼白といった、
頭の中が空っぽになっていると窺えるような、そんな表情をしている。

彼は歩を止めたというより、歩けなかった。何故なら同行していた麦野と
絹旗が、彼の細い体をやや乱暴に抱きしめているからだ。
端から見ればじゃれ合っているようにもイチャついているようにも見える、
一部男性陣にとってはあまり面白くないであろう光景だった。



684 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 11:52:55.41xAoQ9lSuo (4/27)



ただ。

一方通行に抱きついている麦野も絹旗も、その様子を見てクスクスと
笑ってくる通行人達も皆、


――――――――顔が。


「………………こいつァ、一体誰からの、どォいう意図のサプライズなンだ?」


正鵠を射たようで、実はそうでもない発言をする一方通行。
確かにこれは全体的に言えば一方通行へのサプライズになるのだが、
街中の人間が『こう』なる現象が彼へのサプライズではない。



685 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 11:53:33.17xAoQ9lSuo (5/27)


これはただの一環というか、代償というか、端材のようなものだ。
本質ではなく、目的ではない。


「誰の仕業だ?」


麦野と絹旗に両端から抱きつかれながら、一方通行は無表情かつ平坦な声で疑問を口にする。

さっきからベタベタとくっついてくる二人の胸やら何やらの感触が凄まじい事になっていたが、でも顔が。
自分との距離をどこか置いていたはずの麦野や絹旗がやたらと甘えたように密着してくるが、でも顔が。
よく考えたらグラマーな美女と可愛らしい少女にもみくちゃにされるというシチュは喜ぶべきなのだが、でも顔が。
ここで道草食ってないでさっさと数ある案件を一つ一つ解決していかなければ、でも顔が。
今日も快晴空は青。一端覧祭にもってこいの文化祭日和なのだが、でも顔が。
こんな所でいつまでもボーッとしていたらいつまで経っても通行人から笑われるだけだが、でもその通行人の顔も。



686 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 11:54:36.45xAoQ9lSuo (6/27)



顔が。麦野の、絹旗の、そこら中に溢れる学園都市の人々の顔が。


自分のよく知る、よくよく知る知る、あの偉大なる大天使様のお顔立ちとクリソツではございませんか。


「だ、誰の……」

「ixsggtpg……。 buysuekrreji」

「ixsggtp超gbuysuekrreji」

「一体全体………………何がどォなってやがンだァァァァァ!!!」



687 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 11:55:12.19xAoQ9lSuo (7/27)



誰の仕業だ誰の企みだと言いながらも、一方通行の頭には既に約一名、容疑者の顔が浮かび上がっていた。


星よりも美しく流れる金髪と、何を考えているのか読めないフラットな顔つきの、あの大バカ野郎。
ここ最近ちっとも顔を出さず連絡も寄越さず、どこにいるのかも分からない銀河系宇宙の悪鬼。


「エイワス…………!」


思わずその名を口にしたが、しかし一方通行は確信する事が出来なかった。
大抵、意味もわからぬ現象が自分の身の回りで発生し、原因を探っていけば
たどり着くのはエイワスなのだが、ここ最近ではそうでもなくなっている。
この世から消えたのではと疑ってしまうくらい、一方通行はエイワスと連絡がとれていない。
誘拐事件でエイワスが干渉してこなかったのを機に、彼はあの怪物の身に何かあったのではと
考えている。よって、この吐き気を催す現象がエイワスの仕業だと断言できない。



688 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 11:55:59.03xAoQ9lSuo (8/27)


ただ連絡をとれないことも含め、それら全てが今日この日のこのためのフラグなのだとしたら
本当に大したものだと一方通行は思う。しかもその可能性が充分に考えられるからタチが悪い。


「yeb第一cku位ju」

「は、離せオマエら! その顔で近づくンじゃねェ! その不気味にも程がある
 ツラはあのアホ天使以外にゃ似合わねェンだよ、つか怖えェンだよ離せ!」


仕掛けてくるアプローチまでミーシャと似通う麦野と絹旗を押さえながら彼は推察する。


(だが……仮にエイワスじゃねェとしたら誰だ? 風斬やフィアンマがまさかこンな
 くだらねェ真似するはずねェし……垣根か? いや、あいつにこンな芸当が出来る
 とも思えねェ。 やっぱガブリエルか……? あいつにしちゃ回りくどいが……)



689 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 11:57:17.80xAoQ9lSuo (9/27)



それに、と一方通行は二人にもみくちゃにされながらも推察を続ける。
目的が皆目見当もつかないのだ。街中の人間、いや下手をすれば世界中の
人間をミーシャ化(ミーシャ化という造語に寒気を覚える一方通行)して、
一体どんなメリットがあるというのか?

そして人間がミーシャ化した事で仕草や性格までミーシャになると仮定すると、
麦野と絹旗の突然の奇行は納得できるが(したくもないだろうが)、ならば何故
周りの通行人は何も仕掛けてこないのか。顔も声も等しくミーシャのそれだと
いうのに、彼らだけは一方通行に何らかのアクションを仕掛けてこない。

現象と規模の基準が掴めない。そしてこの凄惨たる光景。信じがたい事に
ここまで平静を保ってきた一方通行だが、そろそろ彼の許容量にも限界が訪れ始めた。



690 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 11:58:19.04xAoQ9lSuo (10/27)


「kxwaz超yzgn超ip」

「よ、寄るな……」


絹旗の顔がド至近距離まで接近してくる。その彼女の顔が本来の絹旗ならまだ一方通行も耐えられるが、
今はどういう訳か、あのミーシャ=クロイツェフの凹凸フェイスだ。こう言うとミーシャに対して失礼
かもしれないが、普通に気持ち悪かった。怖く、気味が悪く、鳥肌が止まらなかった。

他の容姿は全て以前と同じ絹旗、そして麦野だが、整った二人の顔だけがミーシャなのだ。
いい加減天使のあの顔にも慣れてきたはずの一方通行が、あろうことか涙目になってしまっている。


(――――――――、風斬は?)



691 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 11:58:57.28xAoQ9lSuo (11/27)



ノイズとハグのスペシャルコンボに板挟みされる中、一方通行はハッとする。


(キャーリサは? オルソラ、アンジェレネ……ヴェントは今どォなってる!?
 それだけじゃねェ、芳川や黄泉川、番外個体も…………そして何より、)


麦野と絹旗がこうなってしまった以上、残りの人間も無事である保証はない。
むしろ『侵されている』可能性の方が高い。今挙げた人物達の顔を頭の中でミーシャの顔に
挿げ替えてみるが――――ダメだ、冗談ではないと彼は振り払うように首を振った。

そして、


(打ち止めのヤツは無事なのか? 電話…………いや直接確認してやる!)



692 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 11:59:57.41xAoQ9lSuo (12/27)


ここで彼が優先した人物はやはり、打ち止めであった。
彼女までもがこの現象の影響を受けていたら、さすがの一方通行も耐えられないだろう。
そのまま発狂して身投げくらいなら実行してしまいかねない。

麦野と絹旗による求愛行動(?)によって抱擁というかもう拘束に近い状況下に陥った彼は
やっとの思いでチョーカーのスイッチを切り替え、やむを得ず二人を『反射』した。
そのまま地面を踏み込んで黄泉川が住むマンションに向かおうとしたが、


「……!」


目の前に。立ちはだかるように。


「………………………………ウソだろ風斬」


『天使同盟』最後の良心が、佇んでいた。


果たして、顔は例のアレだった。



693 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:00:55.04xAoQ9lSuo (13/27)



――――――――――――――――――――――


学園都市が『ドキッ☆ ミーシャだらけの天使爛漫フェスティバル ~ポロリはあるけど顔がねえよ~』で
盛り上がっている同時刻。イギリスはロンドン、真夜中のランベス。石造りのアパートメントの一室で、


「………………どういう、冗談だこりゃ?」


垣根帝督もまた、フィアンマや一方通行と同じ地獄―――否、天国を味わっていた。


「xffcijcxbcm」

「cxbcmdtzj」



694 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:01:55.23xAoQ9lSuo (14/27)



垣根の場合、まずは『心理定規(メジャーハート)』の少女とシスターのルチアであった。
あの『光』に胸を貫かれ、しかしそれ以降目立った変化がないと察した彼は頭のもやもやを拭えぬまま
仕方なくといった調子で就寝についたのだが、彼が夢の世界へ旅立つ前に現象は起きた。

フライングボディプレスだった。横になって寝ている垣根にリングの上でもない審判もいない
状況で、危険極まりない技が突如として襲いかかった。
肺の酸素を全て吐き出す事を余儀なくされ、何事だと憤りながら起き上がると、垣根の体の上に
何かが乗っかっていた。ドレスの少女である。うつぶせの状態で彼女はのしかかっていた。


ふざけるなと一喝しやや暴力的にドレスの少女を振り落とそうとしたが、そこに第二の魔の手が
彼の背後から奇襲をかけてくる。神聖なる修道女、ルチアであった。彼女は後ろから甘えるように
垣根に抱きつく。普段の彼女の性格を考慮するとおよそあり得ない行為であり、怒りよりも疑問が
優先された垣根は首を動かし後ろへ振り向く。



695 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:03:07.36xAoQ9lSuo (15/27)



フィアンマや一方通行の例に漏れず、垣根に密着してきた二人は――――顔が無かった。


「おいテメェら、ふざけんな! んだよそのふざけた顔は!」


そのふざけた顔を彼はもう幾度と無く見ているのだが、ミーシャ以外の人間が凹凸フェイスに
なっている事に、戦慄せざるを得なかった。しかもフィアンマや一方通行と違い、垣根がいる
ここイギリスは真夜中である。月明かりだけが光源の暗闇の部屋で突然ミーシャの顔を被った
ドレスの少女とルチアが音源不明のノイズを撒き散らしながら密着してきたのだ。
ここで発狂せず、冷静とはとても言えないがしかし取り乱さなかった彼の精神は称賛に値する。


「fgnadzex」

「お前ら顔はどこへやったんだよ……。 まさかエイワスのクソ野郎が何かしやがったか?」



696 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:04:07.88xAoQ9lSuo (16/27)



一方通行と同じ推論に垣根帝督も至った。やはり思考パターンが似ているのだろうか。
もっとも、例えば風斬がこれと同じ状況下に陥った場合も、まずエイワスを疑うだろう。
その風斬はまことに残念ながら学園都市にて『被害者』と化しているのだが……。


少女とルチアは尚も上半身を起こした垣根の体に張り付くように密着し、離れない。
彼の胸と背中に柔らかな心地よい感触が伝わってきているが、そこで鼻の下を伸ばし
この状況を楽しむほど今の垣根に余裕は無い。


(顔だけじゃなく行動まであのクソ天使に似てやがる……! 急にどうしたってんだ?
 何が起きた? ちくしょう、こんな顔が至近距離にあったんじゃこの現象の原因を
 探る前に俺の精神がもたねえ……。 一方通行の野郎、いつもこんな思いをしてたのか……)



697 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:04:52.46xAoQ9lSuo (17/27)



自分でもよくわからない同情心を学園都市の第一位に向けていると、


「……」


もぞっ、と垣根帝督達とはまた別の影が動いた。同じ部屋で寝ていたパトリシア=バードウェイだ。
垣根の声が響いたため起きてしまったのだろうか。彼女は垣根に背を向ける形で起き上がる。


まるでこれからゆっくりと振り向いて――――垣根を心底驚かせてやろうと企んでいるかのように。


「ま、待てこのガキ……まさか。 こっちを振り向くんじゃねえ……!」



698 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:05:57.52xAoQ9lSuo (18/27)



まさか、というかやはりパトリシアも。そんな不安が頭によぎる。
さすがにミーシャフェイスのジェットストリームアタックを仕掛けられたら
垣根の精神的な許容量をオーバーしてしまう。パニック状態は避けられない。
フィアンマと一方通行は少なくとも二〇〇万以上という数の現象を現在進行形で味わっているが。

垣根の願いも虚しく、パトリシアはゆっくりと彼の方へ振り向く。


「よせ―――――」

「え? 何ですか……?」

「……!? ………………"無事"なのかよテメェは」



699 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:06:50.06xAoQ9lSuo (19/27)



結局、パトリシアから視線を逸らす事は出来なかった。が、豈図らんや、パトリシアの顔は
いつもの何ら変わらぬ、あどけなさが残った可愛らしい顔立ちのままであった。寝ぼけ眼が
彼女の可愛らしさを更に引き上げている。


「どうしたんですか垣根さ―――ひゃっ!? な、何をしているんですか
 あなた達は! そ、そんな……夜にそんな、はしたないというか大胆というか……」

「妄想たくましくしてもらってるとこ悪いんだがよ、お前が考えてるような
 リア充爆発シチュエーションとはかけ離れてんだこの状況は。 おい、
 今すぐバードウェイ……未だに帰ってきやがらねえお前のクソ姉と連絡取れるか?」

「え、お姉さんにですか……? 一体なぜ……」



700 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:07:39.20xAoQ9lSuo (20/27)


「何故じゃねえよ! これ見ろクソガキ、暗くてわかんねえのか?
 このバカ二人の顔が"攫われちまってる"! 明らかな異常事態だろうが」

「zjtwjsjih」

「urmnecu」

「テメェらは黙ってろ」


年頃の女の子二人と布団の上でイチャついている(ように見える)光景に
顔を真っ赤にしたかと思えば、今度はキョトンと首を傾げるパトリシア。
何かに対して疑問を抱いたらしい。

それは姉のレイヴィニア=バードウェイと連絡をとれという垣根の申し出に対してか、
少女とルチアの顔がつるぺたになってしまっている異常事態に対してか。



701 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:08:23.36xAoQ9lSuo (21/27)



否、そのどちらでもなかった。


「お二人の顔が……何かおかしいんですか?」

「いやマジ頼むぜ妹ちゃんよ。 お前は顔じゃなく頭がおかしくなったか?
 二人の顔がねえんだよ! お前は天使なんてお目にかかった事はねえだろう
 から分からねえかもしれねえが、それ抜きにしてもこの顔はおかしいだろうが!
 あと声も! ついでに行動も! これが異常じゃなかったらこの世に異常なんてねえよ」

「別に、普通の顔にしか見えませんけど……声も。 だ、抱き合ってるのはともかく……」

「なに? お前にはこいつらの目と鼻と口が見えてるのか?」



702 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:09:13.17xAoQ9lSuo (22/27)


尋ねてみる垣根だが、既にその心には新たな不安が沸き上がっていた。
こういう時、当たらなくてもいい不安は的中してしまうものである。


「いえ、その……目も鼻も口も無いですけど……それが別段おかしいとは思いません」

「あ……?」

「声だって、"最初から"そうだったじゃないですか」

「何を……言ってやがんだこのガキは。 ……じ、じゃあなんだよ、
 俺やお前はこんな顔じゃねえだろうが! まさか俺達の方が異常
 だって言うつもりか!? 最初からって、ここに来た時こいつらは―――」



703 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:09:53.23xAoQ9lSuo (23/27)


「顔に何も無いなんて、『普通』じゃありませんか。 私や垣根さんは
 元々こういう顔つきですし、彼女達は元々そういうお顔なんですよ。
 そんな事で取り乱すなんて……垣根さん、やっぱりお疲れなのでは?」

「ヤバいヤバい、マジヤバいよおいどうしちまったのこの世界」


目も鼻も口もない、声にノイズが混じっている。


それが普通であると、パトリシアは言う。多分、彼女は本気でそう言っている。
これが普通、平常、通常。これが世界の常識であると、彼女は断言する。


(………………この分だと、バードウェイやステイルも……)



704 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:10:39.17xAoQ9lSuo (24/27)


垣根は未だに背中から抱きついてくるルチアに体を預け、がっくりと項垂れた。
魔術との向き合い方、これからの生き方、そういった自分自身の指針について
真剣に考え、精神的にボロボロだった彼に、この現実はあまりにも酷であった。


「え、何? 何なのこれ? 急に、どういう罰ゲームだこれ?
 ドッキリにしちゃ手が込みすぎてるよな? ワケわかんね……」


思考を放棄して眠ろうにも、ドレスの少女とルチアにこうしてベタベタされては
眠れやしない。そこまで垣根帝督は図太くもないし無関心にもなれない。


「うああああああああああクソったれ、意味わっかんねえぞコラァ!!!」

「ひっ……」



705 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:11:21.04xAoQ9lSuo (25/27)



ついに叫んでしまう垣根。パトリシアが肩を震わせて驚いたが、彼は意に介さない。
原因も目的も不明瞭なこの現象に殺意すら覚えるがその憤りをぶつける対象も無い。
いっそこの現実を受け止めてしまおうかとも考える垣根だったが、普段の二人を知っている
だけに放っておくわけにもいかない。


「……」


しばらく茫然自失になっていた垣根はふと、ほぼ無意識にこんな事を言った。


「なんで俺とパトリシアは、"無事"なんだろうな」



706 ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:16:32.83xAoQ9lSuo (26/27)


今回の投下は以上でございます。

少なくともフィアンマよりは冷静だった一方通行と垣根帝督。
まあフィアンマは仕方がないと言うしかありませんが……。

現時点で何がどうなってどういう目的で何が起きてるのか、作中で明らかにはなっていませんが
しかしここまでのお話を読めばこの現象の詳細がわかるようにはなっています。
次のお話を読めばさらに判明しますが、最終的にどうなるんだっけこの話……。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!



707次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI2012/06/05(火) 12:18:01.23xAoQ9lSuo (27/27)




                          【次回予告】



「うおおおちっくしょう!! インデックス、どうなってんだクソッ!!」
学園都市の無能力者(レベル0)――――――上条当麻




「けろけろけろけろけろ……!」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ






708VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)2012/06/05(火) 12:22:38.00dlEEpANso (1/1)


フィアンマさん大丈夫かwwww
ゲコ太の呪いでもかかったのかwwwwww


709VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2012/06/05(火) 12:27:17.988YMY6fBe0 (1/1)


けろwwけろwwwwけろけろけろwwwwww


710VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/05(火) 12:28:37.5246QRRB2M0 (1/1)

>>1乙!!!!
けろwwwwwwwwwwwwけろけwwwwwwwwえおkrwwwwwwwwwwkろwwwwwwwwwwwwwwwwww


711VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽)2012/06/05(火) 12:34:56.39PCgqek3AO (1/1)

やはりか上条さんwwwwwwwwwwwwwwwwww



712VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/05(火) 14:32:33.899JuKj71z0 (1/1)

フィアンマが壊れたwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


713VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県)2012/06/05(火) 16:33:50.24Oj8kriIwo (1/1)

フィアンマwwwwwけろけろwwwwww腹がwwww


714VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/06/05(火) 16:37:45.110RmqdQON0 (1/1)

けろけろ、けろけろけろww
けろけろ!>>1けろ


715VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/05(火) 16:58:02.380eX21LL50 (1/1)

乙けろ!ww
どういうことだコレはwwwwwwww


716VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県)2012/06/05(火) 18:40:52.05XZeh3pkO0 (1/1)

乙wwwwwwww
フィアンマどうしたwwww


717VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)2012/06/05(火) 20:02:15.92TI5aaNoC0 (1/1)

けろけろwwwwけろwww
フィアンマwwww22巻挿絵でドヤ顔してたお前はどこいったんだよwww

正常なやつらのSAN値減少が心配だなー。よく精神吹っ飛ばなかったな(特に垣根)

乙でした


718VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/05(火) 20:44:47.33jmxHTYxd0 (1/1)

>>1乙
フィwwwアwwwンwwwマwww
けろけろけろけろwwwwwwww

風斬までもかー


719VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/06/05(火) 20:52:55.20t8QmWWG7o (1/1)

>>717
クトゥルフじゃねえからwww
SAN値なんてねえよwww


720VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/06/05(火) 21:07:21.78KJm8SxE30 (2/2)

上条さん、なまじ幻想殺しがあるだけに右手で触って治らなかったら絶望感すごそうww


721VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2012/06/05(火) 22:34:26.78QCvsF/mto (1/1)

腹痛いwwwwwwフィアンマwwwwwwwwwwケロケロwwwwwwwwwwww


722VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/06(水) 04:27:01.96sT0l0bXDO (1/1)

ヤバい…

感想がフィアンマのけろけろですべてぶっとんだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


723 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:48:22.89UR4JeBRMo (1/26)


こんにちわ皆さん、今日も更新をしていきますよ~。

って次回予告が全てを持っていってやがる……、これだから次回予告の選別は
慎重に行わなければいけないのですよね。いえ、私としては嬉しい限りですが。

さて今回はフィアンマに更なる、さらなる悲劇が襲い掛かります。
フィアンマ、一方通行、垣根帝督が天使だらけの桃源郷を楽しんでいる中、
やはりあの少年も被害に遭っていました。

そして今回はちょっとギャグパートではない行間を挟んでおります。

それでは、よろしくお願いします!



724 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:48:49.53UR4JeBRMo (2/26)



――――――――――――――――――――――


フィアンマの足取りは重い。端正な顔立ちは見る影もなくやつれており、
その浅い呼吸は今にも止まってしまいそうだった。


「…………このままではいけない。 このままでは……いけない」


ぶつぶつと譫言のように学園都市の現状をフィアンマは嘆く。
壁に手を添えながらふらふらと放浪者のように街を彷徨う。
学園都市の全住人が(顔だけ)天使と化したこの街を、宛てもなく彷徨う。



725 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:49:33.67UR4JeBRMo (3/26)



気がつけば結局、第七学区に戻ってきていた。いや、元々どこへ向かってという
明確な目標を持って走り回っていた訳ではないので、戻ってきたという表現は
適切ではないかもしれない。もしかしたらフィアンマはずっと第七学区をがむしゃらに
走りまわっていただけかもしれない。

とにかくフィアンマは現在、第七学区にいる。


「……どうする。 いくら『神の如き者(ミカエル)』でも過去へ遡って
 歴史を修正するという所業は……。 いや、そういう非現実的な考えを
 浮かべている時点で俺様はまともではないのだ。 考えなければ……」

『思考を巡らせているところ恐縮ですが、第一の質問を述べてもよろしいですか?』



726 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:50:23.80UR4JeBRMo (4/26)


声は、フィアンマの左手から聞こえた。正確には彼の左手が握っている透明のビン。
そこに収められているサーシャ=クロイツェフの魂。彼女は魂と化している影響なのか、
心にとぷんと響き渡るような幻想的な声色で言った。


「何だ……? 質問? 心当たりがありすぎるな……」

『どうやらあなたは自身が発動させた大魔術の効果に対しひどく落胆している
 ようですね。 補足説明させていただきますと、この街の住人の顔や声の
 絶望的な変化に、でしょうか。 私には何のことやら未だに分かりかねますが』

「……俺様にしか観測できん現象らしいからな」

『そこで質問なのですが、』


サーシャは適当に前置きをして、本題に移った。



727 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:51:23.99UR4JeBRMo (5/26)



『向こう、ほら、あのアパートのような建物です。 そこにいる男』

「?」


サーシャは魂だけの存在となっているため、『そこだ』と指をさす事も出来ない。
二時の方向です、と補足説明する事でようやくフィアンマにも伝わった。
そこには彼女の言う通り、安っぽいアパートメントのような建物がある。
二人は知る由もないが、そこはアパートではなく学生寮であった。

そしてその学生寮の入り口で、何人かの人間が揉め事を起こしている様子が窺えた。
学生寮は二人の位置から五〇メートルほど距離が離れているためなかなか詳しく
人物を特定出来なかったが、

モメている数人の内の一人、



728 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:51:59.00UR4JeBRMo (6/26)



『あの男……少年、私は以前にロシアで、あなたの作った空中要塞の中で出会っているのですが、
 彼は一体何者なのですか? あの時は聞きそびれてしまったのですが、あなたなら或いは
 知っていたりするかもと思いまして。 というか、あの少年とあなたは要塞で戦ってましたよね?』

「……!」


そうだ、とフィアンマは目を皿のように見開きながら、全身を細かく震わせた。
失意の闇に飲まれ、しかしその闇に一縷の望みというか細い、だが確かな光が
差し込んできた時のような、歓喜の震え。



729 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:52:34.75UR4JeBRMo (7/26)





「うだー、ちくしょー!!」

「上条……上条当麻……!」




特異な右手を有するツンツン頭の少年。かつてフィアンマが引き起こした
戦争の第一線を突っ走り、圧倒的な力を振るうフィアンマをその右手で、
異能の力を全て打ち消す『幻想殺し(イマジンブレイカー)』で撃破したヒーロー。



730 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:53:16.38UR4JeBRMo (8/26)



よく考えたら、それもそうだとフィアンマは納得した。
彼が何に納得したのかを説明する前に、上条当麻の『状態』を描写しておこう。

上条は『無事』だった。顔も、声も、あの大天使を模写したような現象は見受けられなかった。
相変わらず何らかのトラブルに見舞われているようで表情が歪んではいるが、それは立派に、
上条当麻という人間を主張する表情、顔であった。

では何故彼はこの『御使堕し(改)』の影響――というかもはや呪い――を受けていないのか。
フィアンマは納得した。右手だ。自分と同じ特殊な右手を持つ上条。『幻想殺し』は例え
世紀の大魔術だろうがその右手で打ち消せてしまう。

彼なら或いは、この現状を打破できるかもしれない。そう考えたフィアンマは表情を綻ばせかけたが、
しかしそれには至らなかった。



731 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:53:58.35UR4JeBRMo (9/26)



(……いいものなのか? 今、俺様があの男と接触して)


フィアンマは世界中を巻き込んだ戦争の引き金を引いた大犯罪者だ。
もちろんそこに、上条当麻をも巻き込んでいる。彼の大切な人間も。
上条のお人好しっぷりをフィアンマは最後の最後、ロシアでの別れ際に
思い知らされたが、しかしここでも普通に接してくれるとは限らない。

出合い頭にぶっ飛ばされるかもしれない。今のフィアンマとしてはそうしてくれた方が
いくらか気は休まるが、それでは話にならない。

どうやら上条は誰かとモメているようだし、それが収まってから接触してみようと
フィアンマは結論づけた。遠目から彼の様子を観察する体勢に移る。



732 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:54:40.55UR4JeBRMo (10/26)



しばらくすると、上条が学生寮の入り口から外へ出てきた。
それに続くように、恐らくは彼の口論の相手であろう何者かも一緒に出てくる。
小柄の、白い修道服を着た少女だった。


(…………禁書目録か。 あれからずっと、上条と共に……)


二人が外に出てきた事でしっかりと姿を確認できた。
ついでに二人の会話内容も、大声であるためか容易に傍受する事ができた。



733 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:55:17.03UR4JeBRMo (11/26)





「うおおおちっくしょう!! インデックス、どうなってんだクソッ!!」

「anjとうまdbとうnjまhgp」

「おえっ」




フィアンマは吐いた。ビンの中のサーシャが何か喚いたが、構わず彼は嘔吐した。



734 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:55:59.13UR4JeBRMo (12/26)



「けろけろけろけろけろ……!」

『ちょ、ちょっと……フィアンマ!? 急にどうしたのですか!』

「けろけろけろけろけろ……ヴォッ、おっ、おっ、おっ、……けろけろけろ……!」


別に気持ちが悪くなって吐いた訳ではない。別に、"インデックスの顔が例のアレに
なっていたから"吐いた訳ではない。


また壊してしまった。人と人との繋がりを。大切な絆を、よりによってあの二人の絆を。
もう二度と間違えないと誓ったはずなのに。上条が取り戻した世界を壊すまいと、
決意したはずなのに。フィアンマは壊してしまった。二人の世界を。



735 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:56:51.71UR4JeBRMo (13/26)



「bhrgとうeyeまyta」

「ああもう、何だよこれ……不幸とかそういう次元を超えてるだろ……。
 この気味の悪い顔もなんかどっかで見た事あるし……。 あーダメだ、
 いくら右手で触っても治らねえ……。 これも魔術師の仕業か、クソ!」

「hjaごcth飯dugm。 ごはん」

「んでこんな状況でもメシをご所望かい!」


その光景を、フィアンマは遠目から見つめる事しか出来なかった。
既にボロボロになった二人の世界に、に自分が土足で踏み込んで
荒らす真似など、彼にはもう出来なかった。



736 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:57:30.53UR4JeBRMo (14/26)



と、その時。


「?」


変貌してインデックスの相手に奮闘していた上条の下に、さらに何人もの女の子が突然
わらわらと集まってきた。フィアンマは怪訝に眉をひそめる。
上条の下へ集まった女の子達はもちろんのっぺりとしたあの顔になってしまっていたが、
そこら辺の通行人がランダムに彼の下へ詰め寄ってきている訳ではないらしい。

その証拠に、彼の意思に関係なく完成してしまった上条ハーレムの前を何人かの女子生徒が
スルーして通りすぎている。そして上条の下に集まった女の子の内、何人かはフィアンマも
見覚えがあった。



737 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:58:24.23UR4JeBRMo (15/26)



前髪を切り揃えた美しい黒髪の少女。前髪を別けて額を露出させた巨乳の女子生徒。
変わった配色の衣服をまとった、恐らくは魔術サイド側の人間であると見受けられる少女……は、フィアンマは知らなかった。
おまけに常盤台中学の『超電磁砲』も群れの中におり、彼は驚いた。
その美琴に容姿がそっくりの、額にゴーグルを装着した少女が何人も押しかけていたが、
あれが以前に美琴が話した体細胞クローンの『妹達』なのだろうとフィアンマは理解する。


当然、それら全ての女の子は皆例外なく『呪い』の被害を受けてしまっているが。


(この……現象は? 大勢の女が上条当麻に対し求愛に似た行動を起こしている?
 女はランダムではなく、あの様子だと恐らくは特定の女だけ……)



738 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:59:21.39UR4JeBRMo (16/26)



別に解決策が見つかった訳ではないが、それでもフィアンマは諦めかけていた
思考を再び巡らせる。変化した顔と声ばかりに注目しがちだが、今、上条の身に
起きている一種のハーレムじみた現象はどう考えても『異常』だ。

解決策はひとまず後回し。まずはこの現象、というか大魔術の副作用の『詳細』について
調べる必要があるのでは、と彼は考えた。


(吐いている場合ではないかもしれん。 現象の詳細を掴む事で、そこから解決策を見出せるかも……)


おぞましい顔の女性に取り囲まれた恐怖で絶叫している上条が気掛かりだったが、
フィアンマは心を鬼にしてその場を後にした。



739 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 14:59:52.82UR4JeBRMo (17/26)



――――――――――――――――――――――


さて、ここまで一端覧祭六日目の惨劇をお送りしてきたこの蛇足という名の物語ではあるが。


ここで一旦、時計の針を巻き戻してもらおうと思う。


遡るは現在より約一週間以上前―――そう、あの世界最大規模の、本当の意味での惨劇となった事件。


通称『第一九学区事件』。



740 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 15:00:25.84UR4JeBRMo (18/26)





『撃てます』

『当ァたれェェェェェェェェェええええええええええええええええええええええッッッ!!!!!!!!!!!!!!』




垣根帝督が錬成した『天使同盟(アライアンス)』を象徴する『槍』が、
一方通行の渾身の投擲によって空を突き抜けた直後の事だった。
『槍』の装飾であった羽根が、空から世界中に散りばめられるという
常軌を逸した超常現象が発生した。

世界中に降り注いだのだから、当然ほぼ世界中の人間が現象を目撃している。



741 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 15:01:14.20UR4JeBRMo (19/26)


それはロシアで『天使同盟』の無事を願っていたサーシャやワシリーサ、レッサーやエリザリーナだったり。
イギリスで『天使同盟』を支援に向かった仲間を見送ったエリザードだったりリメエアだったりヴィリアンだったり。
同じくイギリスで大天使ミーシャ=クロイツェフの現存を信じたオルソラだったりアンジェレネだったり、
ルチアだったりアニェーゼだったりシェリーだったり。
世界中に派遣された、事情を知らないはずの『妹達(シスターズ)』だったり。

後に『天使同盟』と相見える事になるオッレルスだったりシルビアだったり。

後に『天使同盟』に加盟する事になる右方のフィアンマだったり―――――そして。




「いっその事、この私から『聖人』の力を全て抜き取ってから終わって欲しかったものだ」






742 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 15:02:18.28UR4JeBRMo (20/26)



彼女は『必要悪の教会(ネセサリウス)』が管理する対一級魔術師用牢獄施設の一室にいた。


己の魔力を枯渇させんと吸収してくる謎の『黒い霧』に対し、しかし彼女は臆することなく
余裕の態度を見せながら誰に言うでもなくそう呟いた。
部屋の外から喧騒が聞こえてくる。『黒い霧』の他に、どうやらイギリス清教ほどの組織が
混乱状態に陥る何らかの現象が発生したらしい。


「こうなると……、こういうわかりやすい隙を見せつけられるとな……」


部屋の隅に座り込んでいた彼女はゆっくりと立ち上がった。
体調を確認するように彼女は拳を開閉させ、己が内に収められた"力"が
まだ完全には失われていない事を知る。



743 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 15:03:32.74UR4JeBRMo (21/26)



「―――足掻いてみたくもなる」


瞬間、彼女は迷いなくその拳を部屋の出入口である、厳重過ぎる不可侵術式が
施された扉に向かって突き出した。

案の定、強大過ぎる彼女でさえも突破出来ないはずの扉が派手な音を立てて吹き飛んだ。
『黒い霧』は彼女だけではなく、魔力をまとう全ての生物、物質を無と化しているのだ。
彼女ほどの力があればいくら厳重な術式がかけられていようと、ビスケットを割るのと同義であり、
容易だった。


そしてここは牢獄施設だ。



744 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 15:04:18.08UR4JeBRMo (22/26)



彼女が起こした行動は即ち―――脱獄であった。


作った穴から廊下に出てみる。どうやら彼女以外にここから脱獄を図ろうという
囚人はいないようだった。これは彼女の予想だが、恐らく『黒い霧』の現象を前に
取り乱し、脆くなった部屋から脱獄するという思考に至れないのだろう。

何者かが彼女に声を張り上げてきた。この牢獄施設の看守的な役職に就いている
魔術師だ。看守は彼女が脱獄した事実を壁に空いた穴の様子から即座に察する。
このような状況下に置いても、相変わらず混乱しながらも、しかし職務に全うする
その姿勢は賞賛に値するだろう。



745 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 15:05:09.57UR4JeBRMo (23/26)



だが彼女の知った事ではなかった。『黒い霧』は魔力を有する万物に干渉する。
つまりこの看守も魔力を吸い取られ、ろくに魔術を使えないということだ。


「ひっ」


彼女は石造りの床を蹴り、飛びかかるように看守の下まで距離を詰めた。
看守が腰に携えていたダガーを一瞬で奪い取り、刃を首に突きつける。


「私が持っていた西洋剣……、どうせ今もここで管理しているんだろう?
 まずそれの回収を手伝ってもらおう。 当然、脱獄の援助も……な」

「あ……、う」



746 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 15:06:13.75UR4JeBRMo (24/26)



「それともう一つ。 これはお前程度の人間には知らされていないかもしれないが」


首元の刃をより強く突きつけた彼女は小声で、しかし強調するようにその名を口にした。




「セイリエ=フラットレーという少年は今、どこで保護されている?」




この日、前代未聞の超常現象に見舞われた世界の裏で―――影で、
イギリス清教にとっての前代未聞の事件が勃発した。

事の発端は一人の女、魔術師の脱獄。


後の話になるが、彼女はこの現象を引き起こした連中と出会う事になる。



747 ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 15:10:45.50UR4JeBRMo (25/26)


けろけろけろ……という嘔吐の演出は、福本伸行氏の何かの漫画で
モブキャラがこういう嘔吐をしていた覚えがあったので真似させていただきました。
何の作品だったかちょっと思い出せないのですが……なんだっけ。

てなわけで今回はここまでです。

まあ当然ですけど、上条当麻もやられてしまいました。
大事なパートナーであるインデックスまでもがアレになってしまい、
さすがのフィアンマもショックを隠しきれません。

そして行間、これについては『急に何の話だ?』と思われる方が多いでしょうから、
お手数ですがその場合は本編の最終章、『槍』投擲直後辺りを読みなおしていただけると
わかるかと思います。過去の話を強制的に読ませるとかどんだけ最悪な書き手なのでしょうね……。

次回はフィアンマがそろそろ本腰を入れて事態の解決に望みます。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!





748次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI2012/06/08(金) 15:11:26.60UR4JeBRMo (26/26)




                          【次回予告】



「(原因は未だ見えてこねェが、これ、ガブリエルが"増殖"してやがるな?)」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「……事後処理だ。 俺様の失態で狂ってしまったこの『楽園都市』を修正する」
『天使同盟』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ






749VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/08(金) 15:34:13.608i1g+MvSO (1/2)

>>1乙………………楽園?


750VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/08(金) 15:36:16.15ZHMDTrYko (1/1)

楽園と書いて「がくえん」と読むべし


751VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/08(金) 15:49:29.58fmFv8CiZo (1/1)

まぁ楽しそうではあるな


752VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/08(金) 15:51:16.83Atjz3pPZ0 (1/1)

『楽園』と書いて『ハーレム』と読むんだ
つまり・・・


753VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/08(金) 19:30:21.758i1g+MvSO (2/2)

つまりどういうことだってばよ


754VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2012/06/08(金) 21:32:07.86vphakOFL0 (1/1)

つまりは、もう少し待ったら、オルソラと黒子が俺のとこに来て、ムニュムニュチュッチュってなるってことだな
それにしても、なかなか来ないなぁ、、、


755VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/08(金) 21:33:44.30tyf0QZza0 (1/1)

失楽園の間違いじゃないか?


756VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/06/08(金) 22:04:32.53fH7RcZ3q0 (1/1)

天使化した人間は性格や言動が天使寄りになってしまうらしいな
ちくしょう当麻爆発s……上条、さん………お体には気をつけて…(目を逸らしながら)


757VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/08(金) 22:36:22.61NQy2KGPF0 (1/1)

みんなガブみたいな行動とり始めるのか・・・。
羨まし・・・くないな


758VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/09(土) 02:34:51.84Ph30XLxIO (1/1)

ん?学園都市の住人みんなが「頂きます」したら窓割っちゃう状態なの?


759VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/06/09(土) 09:16:15.62/vYhgKZPo (1/1)

学園都市の住民みんながくしゃみしたらコンクリ粉砕する状態か


760VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/09(土) 18:26:39.62JScak7am0 (1/1)

学園都市の住民みんなが万引きを平気でするようになるのか


761VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県)2012/06/10(日) 19:13:36.84CjCkRWR3o (1/1)

それなんて世紀末?


762VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/11(月) 05:09:35.25k9mcg3d20 (1/1)

ヒャッハー!


763 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:28:10.606MieMPHGo (1/29)


天使だらけの世界なんて楽園以外表現のしようがないでしょう。
いや、でもこのSSに限っては地獄でしかないかもしれませんが……。

皆様おはようございます。今日も更新を始めたいと思います。

さて今回は……何でしたっけ。そう、フィアンマがやっと落ち着きを取り戻し始め、
事態の収拾に勤しむのです。
だがその頃、一方通行側では大変なことが……これ以上大変なことなんてあるのかと
言いたくなりますが、とりあえず大変なことが起きてました。そこから始まります。

それでは、よろしくお願いします!



764 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:29:17.116MieMPHGo (2/29)



――――――――――――――――――――――


やや遠慮がちながらもいつも自分に愛くるしい笑顔を見せてくれた風斬の顔が、
麦野や絹旗と同じく"無くなっている"事に一方通行は愕然とする他なかったが、


「jpwtuspbk」

「bkkpfr」

「やめろオマエら、急になンだってンだ!?」


もう顔がどうとか声がアレとか言っている場合ではなかった。



765 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:29:52.906MieMPHGo (3/29)


能力によって麦野と絹旗を振り払った一方通行の前に現れた風斬は、
麦野らと何らかの会話を交わした後――言語が理解出来ないため内容が把握出来ない――、
突如として戦闘行為を始めてしまったのだ。

容赦も遠慮も度外視した麦野の殺人光線が射出され、風斬がそれをAIM拡散力場で
構成したのであろうバリアのようなもので霧散させたと思ったら、絹旗が自身の能力を
駆使して一気に風斬の懐に詰め寄り拳を振るい、風斬は瞬時にあの紫電を放つ翼を展開し
空へ避難する。

風斬がその翼を振るって遠距離攻撃を放ち、対する麦野はやはり十八番の殺人光線で
それを相殺させていく。絹旗は脅威の跳躍で空中の風斬との距離を縮めてエリアルコンボを
披露し、それを全て(片手で)捌いた風斬が絹旗を地面に叩き落す。



766 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:30:35.616MieMPHGo (4/29)



映画の撮影ですと言えば言い訳もでき―――ない。ここにはカメラも回ってないし
スタッフもいない。いるのはバトル漫画のような戦闘を繰り広げる美女三人と、
その光景を前にあたふたするだけの学園都市最強(笑)の超能力者だけである。

構図だけを見れば麦野&絹旗vs風斬なのだが、漠然とそう捉えていた一方通行の
予想を裏切るように、さっきまで共闘していたはずの麦野が急に絹旗へ牙を剥いた。


「hkjktthdeucpfsh」

「――――超sfpccmkkni」


麦野の『原子崩し(メルトダウナー)』を絹旗はすんでのところで回避した。
風斬のように霧散できなかったため、そのビームは無関係の―――このバトルを
呆然と眺めていた野次馬に飛んでいったが、そこにすかさず一方通行が割り込んで
能力を使い上空へベクトル変換し事なきを得た。



767 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:31:43.876MieMPHGo (5/29)



「ふざけンなよ麦野、オマエ! 見境なしかよ!?」


とりあえずそう叫んで激昂してみた一方通行だったが、依然として混乱したままであるのは
言うまでもない。今の彼に脳内メーカーを照らせば頭いっぱいにインテロゲーションマークが
詰まっているだろう。

何が何やら分からない。麦野vs絹旗vs風斬という構図が成立している理由が分からない。
何の前触れも打ち合わせもほのめかしも伏線も無しに始まったバトルの意味するところが
理解できない。自分がいない間に、この三人の間で喧嘩に発展するようなトラブルがあったのかと
考えたが、だからといってこんな街中でドンパチを起こすほど彼女達の常識は欠けていない。
欠けているのは顔だけである。


さてどうしたものかと考える暇を、この歪んだ世界は与えてくれない。
三人が織り成す熾烈な戦闘に乱入者が現れた。『Here comes a new Challenger!』だ。



768 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:32:34.556MieMPHGo (6/29)



「………………irrwyyp邪cwf魔dzbxb」


三人の間に割りこむように上空から颯爽と舞い降りた乱入者は、ボンテージにも似た
真っ赤なドレスに身を包んでいた。言わずもがな、それは三日前に一方通行が必死で
看病をした英国『王室派』の第二王女様、キャーリサであった。

彼女のが右手に握る宝石の欠片のような物体――カーテナの欠片から、"淡い青の光"が剣の如く伸びている。
『グラストンベリ』の恩恵も受けていないのにどうやってカーテナの力を引き出しているのかは、
魔術に関する知識に疎い一方通行はおろか、恐らくキャーリサ自身も分かっていない。


(…………王室派の第二王女までもが、)



769 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:33:26.246MieMPHGo (7/29)



分かっているのは、狂戦士が四人となったこの戦場を陰からひっそりと除き見ている
フィアンマくらいのものだろう。上条が住む学生寮から移動し、この騒ぎを察して
彼はこの一帯に足を運んでいた。


(英国の移動要塞型霊装の恩恵など必要はないだろうな。 何せミーシャ=クロイツェフの
 純然たる『天使の力』がこの学園都市に等しく分配されているんだ。 当然、その対象に
 あの女が持つカーテナも含まれている。 『神の力』の属性である青の光を帯びているのが
 その証拠だ。 『御使堕し(改)』の副作用がこういう形で現れるとは思わんかったが……)


ここへ至る道中のコンビニで購入したミネラルウォーターを口に含みながら、彼は務めて冷静に
戦場の状況を分析した。ちなみにコンビニの店員がアレになっていた事は言うまでもない。



770×→除き見 ○→覗き見  ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:35:22.976MieMPHGo (8/29)



教科書にも載っているような名高い第二王女が現れた事で周囲の野次馬が更に騒ぎ出すのではと
一方通行はそんな心配をしている場合じゃない心配をしたが、よく見ると、よく見なくても、
キャーリサは透過度の低い黒のサングラスに、頭には例のうさ耳バンドを装着していたため、
周囲の学生たちは彼女が第二王女である事に気付いていないようだ。

キャーリサ達はもちろん、その周囲の学生も漏れなく顔がミーシャ仕様になっているため
表情は窺いようがないが、恐らくは気付いていない。


「bgs一閃eed」


そして、一瞬だった。一閃にして、一瞬だった。



771 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:36:17.106MieMPHGo (9/29)



キャーリサは頭のうさ耳をひょこひょこ揺らしながら右手に携えるカーテナを一振りした。
それだけの動作で科学の人工天使が、学園都市第四位が、一方通行の防御性を誇るレベル4が、
瞬く間に薙ぎ払われ、吹き飛んでしまった。その凄まじい剣撃の余波が一方通行と野次馬を襲う。


だが一方通行が驚かされたのはカーテナの威力ではなく、


「muyhうさぎuakk」

「う……」


もはや収拾がつかないレベルの騒動の中心に立ち、王女としての強さを遺憾なく発揮し、
風斬達を虫のように払った事などもう忘れたと言わんばかりに、一方通行の下へとてとてと
駆け寄って抱きついてきたキャーリサの奇行に、彼は絶句せざるを得なかった。



772 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:37:42.606MieMPHGo (10/29)



「rftxwgtf」

「……」

「fxferghc」

「……」


何を言っているかはもちろん分からなかったが、何が起きているかは、ここまで
地獄絵図ならぬ天国絵図を見せつけられた一方通行は大凡理解出来てしまった。


(あのクソ天使に似た顔……似た声、そして暇がありゃ抱きついてくるこの行為……)



773 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:38:30.536MieMPHGo (11/29)


それは一方通行だから。『天使同盟(アライアンス)』の創立者である彼だからこそ、至れる結論だった。


(原因は未だ見えてこねェが、これ、ガブリエルが"増殖"してやがるな?)


結論というか、仮説の域を出ない推測ではあったが、仮説の時点で一方通行は吐き気を催した。
フィアンマと同じく、危うくキャーリサのつるっつるのお顔に汚物を吐き散らすところだった。
天使の増殖。『追加』ではなく『増殖』という点がミソだ。

もっとも、追加だろうが増殖だろうが、まずあってはならない事だが、天使が増えるなどという
事態になれば一方通行は壊れてしまうだろう。ミーシャ一人でさえギリギリなのに、これ以上増えたら
さすがの彼も自我を保てる自信がない。



774 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:39:18.886MieMPHGo (12/29)



(この調子だと世界中の人間が皆こォなっちまってンのか……? いや、そォ考えるにゃ
 まだ情報が不足してやがる。 つかこれ以上情報を取得したくねェってのが正直な所だが、
 放置しておく訳にもいかねェ……。 とにかく避難だ、このバカ王女引っ剥がして、
 まずは打ち止めの安否を確認しねェと―――――)


そこまで考えた辺りで、一方通行の意識が数瞬断絶された。


彼の華奢な体が宙に舞っていた。空中で意識を取り戻した一方通行は顔を歪めて吐血する。
遅れて鈍い痛みがやってきた。『何かが自分に衝突した』と彼は意識朦朧の中推測したが、
自分と同じように宙を華麗に待っているキャーリサを見て、『自分をぶっ飛ばすついでに
キャーリサも巻き添えにした』と考えを改めた。



775 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:40:02.926MieMPHGo (13/29)



「げはァッ!」


コンクリの地面に背中から落下した。ごぽ、と口から粘つく血糊が溢れ出る。
彼は『反射』の対象をほぼ全ての現象に切り替え、ベクトル操作で瞬時に床から飛び起きた。


起き上がり、一方通行の視界に飛び込んできたのは、科学の街にはそぐわない『氷の帆船』だった。


「…………げぼっ、ヴェ…………ント……?」

「~~~~~~~~~ッッッ!!」



776 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:41:12.356MieMPHGo (14/29)



氷の帆船の上からズタボロになった一方通行を見下ろしているのは、
彼が今抱える懸念事項の一つ、前方のヴェントであった。
彼女がこの帆船で突貫攻撃を仕掛けたのであろう事と、両拳をギュッと握り締めふるふると
震えている様子から鑑みて、どうやら相当怒っているようだが、やはり顔は"無くなって"いるため
憤怒の表情は窺えない。


「jk他者wtt女bb複数…………、acac愚図kehu」

「……?」

「tzg私nh失念hc? jmh非情et憎fw悔d」

「え、何……?」

「i貴様jjk殺idmx私kyb死jxj。 ――――――!!!」



777 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:41:45.486MieMPHGo (15/29)



ずどん、という爆音が空気を震わせた。ヴェントが操る氷の帆船から、同じ素材で構成された
氷の碇がとんでもない速度で一方通行を圧殺せんと射出されたのだ。氷の碇は一方通行の体に
直撃したが―――その瞬間、碇はスリップしたかのようにあらぬ方向へ滑走した。その先に
一般人が居なかった事は奇跡としか言いようがない。

一方通行のベクトル変換が、碇を"逸した"のだ。これが物理法則なら碇はヴェントの方向へ
完璧に反射されていただろうが、魔術の法則のベクトルを完全に把握出来ていない彼は
魔術攻撃に対し"いなす"くらいの対処しか取れない。


「待てこの……! 俺を―――――」


殺す気かクソ女、と彼が言い終える前に、第二射が飛んできた。



778 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:42:34.366MieMPHGo (16/29)



だが氷の碇と一方通行の距離がゼロになる前に、


「!」


上空から縦一直線に、眩い閃光が走った。閃光は氷の碇に鉄槌を下すが如く、
粉微塵にそれを砕き、結果的に一方通行を守る形となる。
遅れて、閃光の衝撃波が周囲に伝播した。目も開けていられない突風が、この
(少なくとも一方通行からすれば)意味不明理解不能の戦いの場を鼓舞する。


閃光は、キャーリサに一蹴されたはずの風斬氷華が繰り出したものだった。
魔術師と堕天使による(一方的な)確執、そしてロシアでの再会を経て仲を深めた
はずの風斬とヴェントが、学園都市で『〇九三〇』事件のリプレイを始める。



779 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:43:27.366MieMPHGo (17/29)



「gjjatfwn渡jatfwnayd」

「cnb邪魔aj削除wjifgcu」

「httans……、tu障rda死滅fbka」

「pjjn殺害kmi確定jpx」

「gxtie超hfie」


そこにキャーリサ、麦野沈利、絹旗最愛も加わり、この殺し合いだか痴話喧嘩だか
わかりゃしない戦闘行為はいよいよ歯止めが利かなくなってきた。然しもの一方通行も
このメンツ全員を相手取って無力化させるのは厳しい。



780 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:43:56.426MieMPHGo (18/29)



「drbnt警告adwa警告ar確保spty」


第一位ですら手に負えないレベルの連中が喧嘩をすれば当然『警備員』が出張ってくる。
警備員は対能力者という状況に関してはやはり手馴れており、あっという間に周囲の
野次馬を避難させ、怪物ガールズを取り囲むように陣形を展開した。

もっとも、第一位でも手に負えない連中を警備員がどうこう出来る訳がなく、
果たせるかなガチガチの装備で身を固めた警備員の方々はゴミ袋のように
四方八方へぶっ飛ばされてしまう。彼らは頭に防護メットを装着しているが、
当然その奥の顔はアレになっているのだろう。警備員が放つ言葉もノイズが混じっている。


「……、」



781 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:44:36.106MieMPHGo (19/29)



途中、その防護メットを外し拘束対象の彼女達に何かを叫んでいる警備員がいた。
前髪を左右にわけ、長い髪を後ろで結び、防護服越しでも何となく窺える豊満な胸の
女性警備員を一方通行はよく知っているような気がしたが、やはり顔が顔だったので
気のせいだと思う事にした。

と、


「afac第一位cr」

「あン?」


くいくいっ、と背後から袖を引っ張られ、一方通行は振り返る。
金髪のツインテール。小柄な体躯に赤いランドセル。『風紀委員』の腕章。
しつこいようだが顔がアレになっているが、顔など見なくとも一方通行には
その少女が誰なのかすぐに理解できた。



782 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:45:26.216MieMPHGo (20/29)



「きは……、……那由他のクソガキか」

「kjk呼称bspt……。 ……ygtj此方rgz」


一端覧祭四日目でお世話になり、事務処理のお仕事を押し付けるという
素敵なプレゼントをしてくれた、木原那由他であった。一方通行は彼女を
『木原』と呼称することに抵抗を覚え、やや迷って彼女の下の名を口にした。
那由他は名前で呼ばれた事に何らかの反応を示したようだが、表情が無いので
その胸中を察する事は出来ない。

それにしても、突然後ろから不気味な声で話しかけられ、振り返ったら
のっぺらぼう顔負けの凹凸フェイスがこんにちわというシチュエーションで
冷静に対応する一方通行はやはり流石『天使同盟』のリーダーといったところか。
麦野と絹旗の時こそテンパッていたものの、今はもう落ち着いているようだ。
……否、落ち着いていると言い聞かせないと精神がもたないのだろう。



783 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:46:10.196MieMPHGo (21/29)


軽い戦争が起きているこの現状で落ち着くのもどうかと思うが、
ともあれ一方通行は那由他の呼びかけに応じる。


「もォ会話なンざ成り立たねェだろォが一応聞くぞ。 なンだ?」

「wat此方yihg」

「……着いてこいっつってンのか?」


わずかに首を動かして頷く那由他。



784 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:46:40.916MieMPHGo (22/29)



「オマエはあの化物女どもみてェな奇行にゃ走らねェンだな……」

「khsbz不愉快ewhz」


那由他はなぜか一方通行の足を蹴り、そして戦場から離れるように
街の奥へ小走りで移動する。警備員の他に風紀委員が駆けつけたのかと
一方通行は辺りを見回したが風紀委員の姿は見えず、ではなぜ那由他が
ここへ来たのかイマイチ理解出来なかったが、ここで立ち尽くしていても
ろくな目に遭わないと察した彼は那由他の赤いランドセルを追って行った。



785 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:47:28.156MieMPHGo (23/29)



――――――――――――――――――――――


その一連の流れを陰から観察していた元凶、右方のフィアンマは、


「――――成程。 まだ不確定要素が多いが、概ね事態の原因と詳細は掴めた」

『第一の質問ですが、あの赤いドレスを着た女性は「王室派」の第二王女……?』


直に見るのは初めてなのか、ビンの中をふよふよと漂う魂モードのサーシャは
やや緊張を帯びた声で尋ねた。と言ってもサーシャの場合、周りの人間とは違い
顔はおろか肉体すら無い状態なので、彼女が今本当に緊張しているのか、様子が
窺えない。ある意味一番厄介な状態なのだがフィアンマはサーシャの問いを無視して、



786 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:47:55.636MieMPHGo (24/29)



「月詠小萌のアパートに戻る」

『第二の質問ですが、何か打開策が浮かんだのですか?』

「これから俺様が行うのは打開ではなく―――修正だ」


何やら意味深な言葉を呟くフィアンマ。そんな彼のすぐ横を、


「yie垣根pp様iz!」

「zspwmdgfsj……」



787 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:48:43.316MieMPHGo (25/29)


二人の少女が走り抜けていった。二人は名門、常盤台中学の制服を着ていた。
一方の女子生徒が無我夢中で駆け回り、もう一方の女子生徒がその彼女を
引き止めようと追いかけている……というシチュエーションのようだ。

ミーシャの言葉を理解できるフィアンマでさえ、会話内容が何故か理解できないため
雰囲気で場面を予想するしかなかった。


(今の女は……? 一人は知らんが、もう一人の方は常盤台中学の能力実演で見かけたような……)


見覚えの真偽を確かめるため記憶をたどってみるが、常盤台中学の能力実演は
ラストが色々な意味で印象に強く残ったため、その他の実演内容がうろ覚えになっており、
結局思い出すには至らなかった。



788 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:49:21.666MieMPHGo (26/29)



「…………ふん。 まぁ、いい」


ぼごっ、と溶岩が噴き上げたような音と共に、フィアンマの肩口から禍々しい赤の腕が伸びた。
彼は尚も警備員や『敵』と乱戦を繰り広げる怪物女性陣主演の舞台に目を向けて、


「この騒ぎの原因も、辿るまでもなく俺様が元凶だしな。 ―――責任はとらせてもらう」


何でもないような仕草で、軽く片腕を振った。


それだけで、風斬氷華(というかヒューズ=カザキリ)、キャーリサ、ヴェント、
麦野沈利、絹旗最愛という錚々たる戦力が地に叩き伏せられた。
理不尽なまでの圧倒的な力が、誰にも止められないはずの争いを終焉へと導いた。



789 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:50:56.966MieMPHGo (27/29)


これぞ瞬殺劇。突然意識を失い倒れた女性陣を困惑しながら連行する警備員。
そこまで確認したフィアンマはミネラルウォーターのボトルをゴミ箱に放り捨て、


「……事後処理だ。 俺様の失態で狂ってしまったこの『楽園都市』を修正する」


一世一代の大仕事。第三次世界大戦で実行しようとした事と似て非なる行動。
世界の修正。その成否はフィアンマの双肩―――否、右腕にかかっている。

「一方通行が"無事"だったところを見ると、恐らく垣根帝督も……。
 垣根帝督の無事を確認出来ればあの『光』の正体も判明するんだが……」

『ところで、ミーシャ=クロイツェフが戻ってくる気配がありませんね』

「いっそ還ってくれればいいんだがな」



790 ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:55:01.326MieMPHGo (28/29)


今回はここまでです。

一方通行の下に集まった女の子達。垣根の名を呼ぶ常盤台中学の女子生徒。
そして上条当麻に群がった女の子達。

これらの共通点がわかればこの現象の正体がわかる……つもりで書いたのですが、
これ今読んでみるとわかんねえよな……まあギャグとして楽しんでいただくのが
このお話の目的なので問題といえば問題ないかもしれませんが……ホント行き当たりばったり。

さて次回はミーシャの方を覗いてみましょう。サーシャの身に宿ったミーシャ。
その事態を知ってあの変態が黙っているはずがありませんでした。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!



791次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI2012/06/11(月) 11:55:28.086MieMPHGo (29/29)




                          【次回予告】



「ふひ、例えば……私に、その生まれたままの姿でハグしちゃうとか」
ロシア成教『殲滅白書』のシスター ――――――ワシリーサ




「その程度で良いのか? 抱擁は私の専売特許である」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・サーシャの肉体に宿った『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ






792VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/11(月) 12:03:48.68XRv/bIvIO (1/1)

乙!


スレタイ通りだな!


793VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/11(月) 12:05:58.14qPXqIY0lo (1/1)

上条勢力で地球が滅びかねない


794VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/11(月) 12:09:23.93InG3gUNoo (1/1)

一方通行勢力でも地球を滅ぼせるぞ!
エイワスがいれば銀河も滅ぼせるぞ!


795VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/06/11(月) 12:46:45.27ZGaJ75qW0 (1/1)

えええ…誰かニートのサイヤ人呼んできてー!

フィアンマが一方退場まで隠れてたのは合わす顔がないからなのか?
いや顔はあるんだけども


796VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/11(月) 13:12:21.01wKz3IYSKo (1/1)

能力は元のままか
抱きつかれて背骨が折れるのは極一部で済みそうだな


797VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/11(月) 18:58:37.44jSs/XG6IO (1/1)

エイワスがアレイスターにチュッチュだと


798VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/11(月) 22:35:03.68hH1aVjpO0 (1/1)

アレイスター歓喜


799VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/12(火) 01:11:45.76sTZNrC9R0 (1/1)

>>1乙!

あれ?これワシリーサ背骨粉砕フラグじゃね?


800VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/12(火) 02:21:36.12LklglY4DO (1/1)

弁当がヤンデレと化しておる…


801VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/12(火) 18:27:10.20dQR+93tho (1/1)

お、追いついた……だと……?


802VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/13(水) 03:07:26.82Dvtg/ZuDO (1/1)

>>801
おめでとう

ちなみにまだまだ続くからね
DBで言うと今ヤムチャが、ヤムチャした辺りだから


803VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/13(水) 19:48:13.085adAladq0 (1/1)

ヤムチャが初登場した辺りだろ


804VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/13(水) 22:44:40.55xt+ZYn+z0 (1/1)

セル戦くらいだと思ってたが、マジか・・・大作すぎる・・・


805VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/13(水) 22:47:17.475uzBM4Foo (1/1)

>>1は数か月分書きだめてるらしいしあながち間違いでもなさそうなのが怖い


806VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/13(水) 23:14:47.38/IOT9mswo (1/1)

ワンピ―スで言うとルフィが悪魔の実食った辺りか


807VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/14(木) 02:17:30.66N6FB/hQDO (1/1)

幽白でいうと浦飯が死んだあたりだな


808VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/06/14(木) 03:44:42.90XaI0ukew0 (1/2)

>>807
ああ、プーちゃんがプーさんになる辺りな


809 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:21:20.99HYIhfDGro (1/30)

>>805
いやさすがに皆さんが言ってるほど序盤じゃねえよww
そもそもこれ蛇足という名の続編ですし……どうなんでしょう。
ドラゴンボールでいうと、悟飯が高校(だっけ?)通い始めた辺りか……?

イマイチ他の漫画の進行具合と比較できない>>1です。
今日も更新を開始したいと思います。

さて今回は魂の入れ替えを行い、しかし未だにロシアでのんびりしてる
ミーシャとワシリーサのお話を挟みます。
中身が天使になってしまってもワシリーサの態度の変化はあまり見られず……的なお話。

それでは、よろしくお願いします!



810 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:21:48.75HYIhfDGro (2/30)



――――――――――――――――――――――


「言っておくけどね、私は別にサーシャちゃんそのものが好きな訳じゃないのよん。
 いいえ、もちろんサーシャちゃんは大好きなんだけど、サーシャちゃんだけを
 ただ一筋に、ただ執着して、愛でている訳ではないと言うべきかしら?
 私は可愛いものなならオールオッケー。 即ち、今のあなたでもイケちゃうって事」

「聞いていないが」

「でもこの状況で欲情してられる程、私も呑気じゃあないのよん?」

「私見一。 そう発言する貴女の感情に大幅な高ぶりが窺える点について。
 貴女の発言と感情に矛盾が生じている事を指摘する。 ある種、興味深い」

「うへへへへへ、バレた? そりゃでも、まぁこうして、」



811 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:22:45.90HYIhfDGro (3/30)



言われた通り、ワシリーサは両手をワキワキと動かしながら、


「目の前でサーシャちゃんがお着替えしているシーンをじっくり観察
 出来るとなれば、それはもう興奮しない方が失礼と言えるでしょ?」

「私見ニ。 その言葉の意味するところが私には理解し難い。
 私がサーシャ=クロイツェフではない事に貴女は気付いているのでは?」


エリザリーナ独立国同盟付近の雪山。その麓にある特設露天風呂。
女性専用更衣室でサーシャ=クロイツェフ―――否、ミーシャ=クロイツェフは
着替えをしていた。そのすぐ傍で、ロシア成教本部から帰還したワシリーサが
吐息を荒げながら彼女を凝視している。



812 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:23:26.67HYIhfDGro (4/30)



姿はサーシャ=クロイツェフ。ウェーブがかった金髪の長い髪。小柄な体躯。
前髪で隠れがちの瞳は、いつもより少しだけ露出している。
今は全裸であるが、やはりいつもの透けた素材のワンピース型下着に、
黒のベルトで構成された拘束具のような衣服、その上に赤の外套を羽織り、
仕上げにリード付きの首輪を装着してサーシャ=クロイツェフ"ぶる"のだろう。

そう、彼女は外見こそサーシャ=クロイツェフではあるが、中身が違うのだ。
文字通り、中身が違う。なにせ魂という存在の根幹たる概念が入れ替わっている
のだから、中身が違うと形容しても間違いではないだろう。


サーシャの器に宿る魂は、ミーシャ=クロイツェフ。より正しくは、大天使『神の力(ガブリエル)』。
『天使同盟(アライアンス)』の一方通行に捧げるサプライズの過程で魂の入れ替えを承諾してもらったのだ。


その事情をミーシャから聞いたワシリーサはあらゆる角度から彼女の裸体を観察しつつ言う。



813 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:24:19.77HYIhfDGro (5/30)



「そりゃあ気付くわよん、私はサーシャちゃんの事ならそれこそ魂レベルで
 知ってる、把握してるんだから。 あなた達が企てている計画自体はともかく、
 それにサーシャちゃんを巻き込むのは許しがたいのだけれど、でもサーシャちゃん
 本人が承諾したというなら私が口を出す余地はないわよねえ。 仕方ないって事」

「それについては、私は貴女に感謝する。 部下であるサーシャ=クロイツェフを
 貴女の許可もなしに巻き込んでしまった件については申し訳ないと思っている」

「へえ、申し訳ないと思ってるんなら、私の言う事くらい何でも聞いちゃうわよねえ?」


そう言うワシリーサの表情は、サーシャにすら見せた事のない悪魔じみたそれであった。
小悪魔じみたとか、意地悪そうなとか、そういうレベルではない。この女、明らかに
卑猥な考えを起こしている。



814 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:25:16.01HYIhfDGro (6/30)



「言うこと? 私に出来る範囲であればやぶさかではないが」

「ふひ、例えば……私に、その生まれたままの姿でハグしちゃうとか」

「その程度で良いのか? 抱擁は私の専売特許である」


言わば『抱き癖』だろうか。ともあれミーシャ=クロイツェフはワシリーサの指示通り、
生まれたままの姿―――すっぽんぽんの全裸姿で、


「ん」

「おおうっ!?」



815 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:25:45.70HYIhfDGro (7/30)



ぴと、と。ワシリーサに抱きついた。まさか本当に命令を実行してくれるとは
ワシリーサも思っていなかったらしく、突然の幸運に全身を強張らせている。


「おお、おおお。 い、いい感じよ! そのまま、抱きついたまま上目遣いカモン!」

「?」

「きゃわわわわわわわわわ」


言葉の意味がイマイチ理解できなかったミーシャだが、とりあえず変態シスターの指示通り
抱きついたまま視線を上に移す。前髪の隙間から覗くミーシャの瞳がこれまた何とも可愛らしく、
そして可愛いもの大好きなワシリーサにとってそれは二つの意味で『眼福』だったのだが、



816 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:26:18.21HYIhfDGro (8/30)



ごきゃっ、と。人間の脊髄辺りが綺麗にへし折れたような音がした。


「ご、が……!?」

「申し訳ない。 ついいつもの癖で背骨を……」

「ごぼっ……うふふふ。 オッケーオッケー、むしろ嬉しいくらいだぜ!」


ミーシャもこれまで何度も人間に対し抱擁を実行した事があるが(特に、理由は不明だがレベル5の
超能力者が彼女にハグされる傾向がある)、ワシリーサのような反応を返された事はなく、ミーシャは
若干戸惑いながらも彼女が満足するまで抱擁し、改めて衣服の着用に取り掛かる。



817 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:27:14.14HYIhfDGro (9/30)



「……」

「あ痛たたた……脊髄どころか肋骨もイッてるわねこれ。 ん、どうかしたのかしら大天使様?」

「今までは特に疑問を感じなかったのだが、サーシャ=クロイツェフが
 普段着用しているこの衣服、構造がかなり特殊である事が窺える。
 私が普段、本来の姿を周囲の目から隠すために着用する衣服は至って
 簡素な作りであり、着るという行為も実に容易なものであったが……」

「あー、学園都市であなた本来の姿を晒すのはちょっと目立っちゃうものね。
 服を着るなんて行為、あなたのような天使は無縁だろうし、着方わかんにゃい?」

「解答一。 貴女の言葉通り、この衣服の着用はやや難易度が高いと思われる」

「そうよねえ。 何なら服着なくてもいいんじゃない?」



818 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:28:14.63HYIhfDGro (10/30)


「解答ニ。 私が得た経験から鑑みるに、全裸での行動は人間界において
 慎むべきものだと私は心得ている。 よってその選択肢は論外だろう」

「ちっ……。 あ、それなら私が服用意してあげよっか? 前にロシア成教から
 逃げる時にサーシャちゃんに渡したコスプ……服があるんだけど、何故だか
 サーシャちゃん、着てくれなかったのよねえ。 今から持ってこようか?」

「解答三。 今の私はサーシャ=クロイツェフの肉体を器している。 そうである以上、
 私は差し当たりサーシャとして振る舞わなければならないと考えられる。 内面は
 致し方なくとも、せめて外見だけでも重視しておかなければ彼女に迷惑がかかる」

「ええい天使のクセにお堅い事ばっかり言って……。 じゃあ、私がその服
 着せてあげようか? それ、私がサーシャちゃんに用意した服でもあるし」

「解答四。 現状、それが最適な選択肢であると、私もその意見に賛同する」

「やったぜ! 合法的にその服をサーシャちゃんに着せられる日が来るなんて」



819 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:29:14.59HYIhfDGro (11/30)


という訳でまんまと衣服の着用許可を得たワシリーサはサーシャ……ではなく、
ミーシャ=クロイツェフに周りからの評価が散々の専用装備を着せてあげた。


「問一。 先程から必要以上に私の胸を触っている節があるが、それに意味はあるか」

「んんー? いやいや、だって魂の入れ替えでしょ? 万が一サーシャちゃんの体に
 異常があったりしたらどうするのよ。 大魔術の副作用は侮れないんだから、ふひ」


異常があるのはお前の頭だと、残念ながらそうツッコミを入れる人物は今ここにはいなかった。


「成程、得心いった。 貴女は心から部下を大切に扱う思いやりが溢れているな」

「お褒めに預かり恐悦至極に存じ奉ります、むふふふふ……」



820 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:31:36.44HYIhfDGro (12/30)


「問ニ。 この首輪は何を意味するのか」

「えーっと……まぁ何かこう、ロシア成教的に何かを象徴したアイテムだったり
 そうじゃなかったり? まあ何か神話とか逸話とかそういうアレに基づいてるんじゃねーの?
 だって可愛いじゃない、サーシャちゃん首輪似合うのよ。 理由なんてそれで充分なのよん」


一介の魔術師とは思えないあまりにも適当な発言だが、もちろんツッコミはない。


「問三。 私がこの姿で可憐さを主張する事で得られるメリットは何か」

「メリットっつーか、私に需要がありますハイ。 可愛い子は可愛くなくちゃダメなのよん」

「そういうものなのか。 この世界へ降りて私も長いが、まだ学ぶべき事柄が沢山あるな」



821 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:32:39.44HYIhfDGro (13/30)



『天使同盟』のヒロインに邪な教育が施された決定的瞬間であった。


「はい、出来たわよ」

「素晴らしい。 まさにサーシャ=クロイツェフのためにあしらわれた衣服。
 他の追随を許さないこの着心地は衣服を着用するという行為そのものが
 一つの娯楽であり、幸福なのだと理解できる。 この衣服を考案した貴女の
 センスに感服せざるを得ない。 サーシャが貴女を慕うのも頷けるというもの」

「………………う、う。 うぅ……」

「?」



822 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:33:11.42HYIhfDGro (14/30)



ワシリーサの手馴れた手つきで着用が完了し、ミーシャは満足気に感想を口にしていると、
ふとワシリーサが嗚咽を漏らし、涙を流し始めた。


「問四。 何故泣く?」

「褒められた……。 中身はミーシャだけど、外見と声はサーシャちゃんだから……
 まるでサーシャちゃんがこの服に感動してくれたような気がして……。 あの子、
 照れ屋さんだから今までその服を毛嫌いしてた傾向があって……。 だから、
 嬉しいのよ……初めて褒めてもらえた……およよよよよ…………………………」

「…………変な人間」


ともあれ、着替えを終えたサーシャは露天風呂を後にし、ワシリーサもそれに続いた。



823 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:34:06.66HYIhfDGro (15/30)



――――――――――――――――――――――


学園都市へ戻る前に、以前世話になったエリザリーナに礼が言いたいと
申し出たサーシャは、一度独立国同盟へ顔を出す事にした。外見がサーシャのため
相手を少し混乱させてしまう恐れがあったが、その辺のフォローはワシリーサが
してくれるという事で解決した。

その独立国への道中。


「ところでサーシャちゃ……じゃない、ミーシャ」

「?」


ふと、ワシリーサがこんな事を聞いてきた。



824 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:34:59.76HYIhfDGro (16/30)



「あなたやフィアンマが今やってるそのサプライズ、あなたを一度元の位階へ
 還して『御使堕し』に似た魔術を発動させて、あなたを再び現世へ降ろして、
 魂の入れ替えをサーシャちゃんと交わすというのは理解出来たのだけど、」

「なにか疑問があるか」

「ええ。 あなたの魂をサーシャちゃんの体に降ろすと、サーシャちゃんの
 魂は体から分離するでしょ? で、その魂を学園都市へ誘導するってとこ
 まではさっきあなたから聞いたけど……、そこから先はどう対処してるの?」

「対処と言うと」

「まぁフィアンマ程の魔術師ならサーシャちゃんの魂を学園都市まで
 運ぶ手段くらいいくらでも考案できそうなものだけど、そこから先、
 結局サーシャちゃんは別の誰かの魂と入れ替わらばければならないでしょ?
 それだと魂のイス取りゲームを防ぐことは出来ないじゃない」



825 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:36:12.69HYIhfDGro (17/30)


「……」

「その辺、どう対処してるのかなって疑問に思う訳ですよワシリーサさんは。
 なにせ大事な可愛い私の部下の命がかかってるからね。 聞いておかないと」


もっともな意見だ、とミーシャは思った。魂という定義の曖昧なそれは言ってしまえば
息を吹きかけただけで粉々になりそうなガラス細工よりもデリケートなものなのだ。
そしてその魂が自分の大切な部下の魂だと聞かされれば、心配して当たり前だろう。

そしてその辺りの話を聞いていない自分の落ち度をミーシャは反省した。


「解答一。 現状、世界規模の魂の入れ替えは発生していないと思われる」

「んー、まぁそれは私も何となく理解してるんだけど」



826 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:36:54.17HYIhfDGro (18/30)


「補足説明を加えると、恐らくフィアンマが何らかの対処を施し、
 サーシャ=クロイツェフの魂を保護しているのだと考えられる」

「他人の器を媒介にするとかかしらん?」

「それでは意味が無い。 魂のままで、保護をしないと。 根拠のない
 推測であるが、フィアンマが宿す『神の如き者』が引き起こす『奇跡』を
 用いて、魂の状態を維持しつつ保護しているのではないだろうか」

「……仮にそれが可能だったとして、だったら今サーシャちゃんは―――」

「フィアンマの傍―――手元、と言っていいだろう。 そこで保護されてるのでは」

「た、大変だわ!」


突然ワシリーサが叫んだ。わなわなと両手を震わせ、珍しく顔を青くしている。
彼女が狼狽する意味がわからず、ミーシャは首を傾げながら尋ねた。



827 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:37:41.41HYIhfDGro (19/30)



「問一。 貴女は何をそこまで困惑しているのか」

「サーシャちゃんの魂を手元に……。 フィアンマの野郎、忌々しい事に
 行動原理が私と似通ってやがる……! 悔しいけど、気持ちはわかるわ」

「問ニ。 フィアンマに何か問題が?」

「あの男―――サーシャちゃんの魂をコレクションするつもりだわ!」

「………………………………………………………………」


いきなり何を言い出すのだろうこのシスターは、とミーシャは閉口せざるを得なかった。



828 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:38:36.03HYIhfDGro (20/30)



「コレクション……?」

「そうよ! こう……、そうね。 例えば、私がフィアンマならサーシャちゃんの
 魂を学園都市に誘き出す……もとい! 誘導した後、空きビンね、空きビンに
 詰めると思うのよ。 魂の形状がどんなものか、そもそも形として存在するのか
 どうかは分からないけど、形があるなら私はサーシャちゃんをビン詰めにするわ」


なんか恐ろしい事を言い出すワシリーサだが、さらに恐ろしい事にその推測は的を射ていた。
サーシャの魂は彼女の指摘通り、現在ビン詰め状態になっている。


「で、ビン詰めにされたサーシャちゃんの……あぁ、きっと綺麗なんでしょうね……。
 そのサーシャちゃんの魂を目で、目で凝視して楽しむ! まず、目で愛でるのよ!
 視姦的な! で、たまにビンから出してツンツンつついたりして……サーシャちゃんの
 反応を確かめてそれで悦に浸る……。 フィアンマはそれが目的なのよきっと!!」



829 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:39:23.21HYIhfDGro (21/30)



名誉毀損で訴えられてもおかしくない、根も葉もない暴論を捲くし立てるワシリーサ。
まず何故自分とフィアンマの趣味嗜好が同じであるという前提が成り立っているのか
理解できないが、ワシリーサはその表情を歪ませながらさらに続ける。


「クソったれが……、それが右方のフィアンマか……! さすが、あんな大規模な
 戦争を起こしただけの男だけあるわ。 器が、発想がすでに常軌を逸している」

「私見一。 そんな推論に至る貴女の発想も常軌を逸していると言わざるを得ない」

「サーシャちゃんは騙されてる……、いえ。 サーシャちゃんだけじゃなく、
 あなたも騙されてるわよミーシャ! なるほど、思えば第三次世界大戦で
 サーシャちゃんを誘拐した理由も大天使の召喚という建前を振りかざし、
 その裏ではサーシャちゃんにあんな事やこんな事をしようと……ぐぬぬ」


ワシリーサの中でフィアンマがどんどん変態になっていく。



830 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:40:09.70HYIhfDGro (22/30)



「許せないわ……。 サーシャちゃんを独り占めしようだなんて、
 考える事が汚いのよ『神の右席』ってのは! そりゃサーシャ
 ちゃんはあれだけ可愛いのだから、独占欲が湧く気持ちも理解
 できるけれど……。 上司として、この事態は見逃せないわね」

「私見ニ。 妄想をたくましくさせ過ぎでは―――――、?」


ブレーキがぶっ壊れた暴走特急が如く加速し続ける妄想特急にさすがのミーシャも
ややうんざりしてきた所で――――彼女は気付いた。


「……? フィアンマが出現させた空の魔方陣が……『炸裂』した?」



831 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:41:02.70HYIhfDGro (23/30)





そう思ったと同時ミーシャは気のせいか、"自分の想い"、感情が『分配』されたような――――


―――――そんな、なんとも言えない、味わった事のない感覚を察した。






832 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:41:41.67HYIhfDGro (24/30)



(……? この違和感の正体についての考察は、後回しにした方が得策か。
 学園都市で現在、何らかの異常事態が発生している可能性が浮上)


隣で一人喚くワシリーサの声は、もはや彼女の耳には届いていなかった。


緊急事態を報せる鐘がミーシャの脳内に響き渡る。根拠はない。魂の入れ替え直後で
必要以上に感覚を研ぎ澄ませているせいで、敏感になりすぎているだけかもしれない。
この警告の鐘も単なる直感でしかないが、


「ワシリーサ」

「何としてもあの変態右腕クソ野郎からサーシャちゃんを―――、ん? 何?」



833 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:42:30.88HYIhfDGro (25/30)


「重ね重ね申し訳ないが、エリザリーナへ私からの挨拶を伝えておいてもらえるだろうか」

「え、どうしたのよ急に―――」


突然の申し出に言及しようとワシリーサが言葉を紡ぐ前に、ミーシャの体に変化があった。


彼女の小さな背中から出現するは、長いもので一〇〇メートルを超える巨大な水晶の翼。
瞬く間に数百の翼を展開させたミーシャは、とん、と地面を軽く蹴り宙へ浮かぶ。


「これから私は学園都市へ戻る。 私の勘が、事態の解決は急を要すると言っている」

「ちょ、ちょっと待ってよ! だったら私も乗せてって! 私もたった今学園都市に
 向かう用事が出来たのよ。 学園都市にいる右方のロリコン魔術師……、
 フィアンマに捕らわれてるサーシャちゃんを救出するという大事な任務が―――」



834 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:43:20.78HYIhfDGro (26/30)


「急ぎだと言った。 すまない、世話になった。 ありがとうワシリーサ」


ワシリーサに取り付く島も与えず、ミーシャは地面の雪を爆散させ、音速をゆうに
超える速度でロシアの空を切り裂いていった。


「……」


しばらくの間、呆然と空を仰いでいたワシリーサはポケットからおもむろに
携帯電話を取り出し、電話をかける。


『もしもし、エリザリーナ独立国同盟居住区の――――』

「あ、もしもしエリザリーナ? おっつー、ワシリーサでーす」



835 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:44:07.77HYIhfDGro (27/30)



相手はここ独立国同盟のトップ、魔導師エリザリーナだった。


『ワシリーサ? どうしたの、今日はロシア成教から招集されてたんじゃ?』

「いや悪いんだけど、私しばらく本部には顔出せないわ。 つかロシア出る」

『え?』

「多分ロシア成教からあなた宛てに抗議やら何やら飛んでくるだろうけど、
 私の不在に対するフォロー頼めるかしら? あとミーシャがよろしくだって」

『え、ちょ、急に何を言っているの? ロシアを出る? あなたが?
 それにミーシャって……。 あの天使、この国に来ているの?』


出し抜けな申し出に困惑するエリザリーナなどお構いなしに、ワシリーサは
さらに度肝を抜くような発言をした。



836 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:44:54.90HYIhfDGro (28/30)



「ちょっと学園都市行ってくる」

『学園都市って……そんなその辺のコンビニに行くような感覚で言わないでよ。
 あなたがあの街に何の用なの? 言っておくけど、学園都市行きの航空便を
 手配しろだなんて言ってきても無理よ。 ロシア成教は今もあなたに対して
 警戒網を張っているし、その範囲に私の国も含まれてるの、知ってるでしょ?』

「ん~にゃ、移動手段に関しては問題ないよん」

『ならどうやって向かうのよ?』


エリザリーナからの当然の問いに、ワシリーサは事もなげに返した。


「ちょっくら遠泳して日本海横断してくるわ。 愛しのサーシャちゃんを救いに」




837 ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:48:06.37HYIhfDGro (29/30)


今回はここまでです。

ようやくロシアからミーシャが飛び立ってくれました。彼女の速度なら
そう時間をかけずに学園都市へ到着するでしょう。

そしてその学園都市にもう一人、すんげぇ面倒くさい人がいらっしゃるそうです。
このSSでは学園都市にいろんな魔術師が来ていますが、彼女は初参戦ですね。
まあいつ学園都市に着いて、どう物語が展開していくかはまたいずれ……かなりいずれ。

次回はフィアンマ主体です。本格的に呪い……というか大魔術の悪影響を
修正する姿勢に入ります。
そして彼の心情にわずかな変化が起きるような、そうでないような。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!



838次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI2012/06/14(木) 13:48:38.11HYIhfDGro (30/30)




                          【次回予告】



「(…………全てが元通りになったら、月詠は俺様にまた、あの笑顔を見せてくれるだろうか)」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ






839VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/14(木) 14:04:05.04yvsXAZwDO (1/2)

>>1乙!

あれ?
いつのまにかフィアンマと小萌にフラグたった?


そしてワシリーサによる世界規模のトライアスロンが開幕か…


840VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/06/14(木) 14:10:16.73XaI0ukew0 (2/2)

なるほど、背骨と肋骨を犠牲にすればミーシャinサーシャに思う存分抱擁してもらえるのか


841VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/14(木) 14:38:11.54u/LBWqmCo (1/1)

俺、それならぎりぎり頑張れるかもしんねぇわ
sinuだろうケド、本望じゃん?


842VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/14(木) 16:32:44.92keJ2CHDDO (1/1)

>>841
独り立ちはさせないぜ俺も逝く


843VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/14(木) 17:18:02.21ysHh7fqN0 (1/1)

乙。
最近カオスすぎててワシリーサの暴走(妄想?)がおとなしく見えたww


844VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/14(木) 17:53:32.02Q+X4laBeP (1/1)


悟飯が高校行った辺りとかブウ編丸々残ってんじゃねーか
本編終了はセル完全体登場辺りだったのか


845VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/14(木) 19:30:39.51yvsXAZwDO (2/2)

>>844
ちなみにアニメ版の話だぜ?

だから ブゥ編→GT編→改編 と続き
そして、所々に劇場版がある

つまり、後10年は続くってわけよ


846VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/14(木) 21:11:43.23r1u81pjSO (1/1)

マジかよ…>>1パネェ


847VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/14(木) 22:56:02.13ZyPtRl2u0 (1/1)

一方通行とミーシャという異色の組み合わせから始まった話だしフィアンマが先生にフラグたてても違和感無い乙


848VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/06/15(金) 18:41:34.55ZgvsDA3D0 (1/1)

>>842
お前だけにいいかっこはさせないぜ



849VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/16(土) 02:20:50.05ZfNUQ+zU0 (1/1)

>>841
>>842
>>848

お前らの想いは俺が預かった


850VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大分県)2012/06/16(土) 10:24:51.9043E6AK7ho (1/1)

>>849ついでにお前の気持ちも預かるぜ


851VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/06/16(土) 11:07:04.76C+nGRLVe0 (1/1)

変態右腕クソ野郎はドラゴンボールで言うと誰?


852VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/16(土) 13:47:22.36MOQ6bSRro (1/1)

ブルマ


853VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2012/06/16(土) 14:51:46.92NJRXQPlk0 (1/1)

>>852 ちょwwwwwwwwww
せめてピッコロくらいにはwwwwwwwwwwww


854VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/16(土) 21:41:54.52mwduRec+0 (1/1)


「そんなその辺のコンビニに行くような感覚で」って
ロシアの場合日本と違って「その辺」にコンビニはすぐ見当たらないような気もするけど・・・


855VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/06/16(土) 22:42:39.33QW45MUsX0 (1/1)

こまけぇこたぁ


856VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/06/17(日) 01:39:07.39BLG5lDYEo (1/1)

ほんと細かいな


857VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/17(日) 01:42:28.60D1My+GTSo (1/2)

意訳の範疇です


858 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:47:57.6662C+UwSeo (1/29)

>>854
え、エリザリーナの国では数十メートル間隔で存在するんですよきっと……!

こんにちわ、日曜日の更新でございます。
いつも沢山の支援をありがとうございます。

さて今回はフィアンマが大魔術の修正に本格的に望みます。
そしてギャグパートもそろそろ終わりですかね。
一端覧祭六日目が終わったらそろそろ最終章が……いや、もうこれは言うまい。
どうせ最終章つったってまだ長いし……。

それでは、よろしくお願いします!



859 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:48:26.1862C+UwSeo (2/29)



――――――――――――――――――――――


大魔術儀式の舞台となった第七学区の木造二階建てアパートにフィアンマが戻ってくると、


「……、月詠」


今や見るも無残な、全体の半分しか残っていないアパートの前で、小萌先生が
ポツンと体育座りをして固まっていた。自分も加担したとはいえ、大魔術の過程で
我が家が崩壊してしまった事に悲しんでいるのか、憤っているのか、茫然自失と
しているのか、顔が変化してしまった今では彼女の心境を窺いにくい。



860 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:49:16.9862C+UwSeo (3/29)



「……」


だがその姿には、形容し難い哀愁が漂っていた。まるで、理不尽な災害によって
破壊された家の前で嘆く子供のような、そんな印象をフィアンマは受けた。
この狂った世界さえ修復出来ればそれで万事解決と思い込んでいた彼の心境を
揺るがせるに、小萌先生の寂しげな姿は充分な威力を有していた。


「kxy火野tbjちゃんfsbah」

「……」


戻ってきたフィアンマに気付いた小萌先生は慌てて立ち上がり、お尻の汚れを
払って小走りで彼に駆け寄ってきた。



861 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:49:59.1662C+UwSeo (4/29)



「kjeh平気wkxd」

「待たせてしまったな。 月詠、しかしまだもう少しだけ、
 俺様に時間を与えてはくれまいか。 少しだけで構わん」

「?」


フィアンマの申し出の意味が理解できず、小萌先生は可愛らしく首を傾げる。


「……これはまた、改めてみると盛大に崩壊してしまっているな。
 立案はミーシャとは言え、事の発端は俺様でもある。 しかし、
 俺様にお前の家を修復する力は無い。 家の件はすまんが後回しだ」



862 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:50:36.6862C+UwSeo (5/29)



「……」

「俺様に家を修復する力は無いが、だが世界と、お前を治す力はある」

「……、ckbj火野jtちゃんcxej」

「だから、少しだけ待っていてほしい。 お前の住処も、この世界も、
 何もかもが元通りになったら、また改めてお前に非礼を詫びるとするよ」


この時、自分が一体どんな表情を浮かべていたのか、本人であるフィアンマにも分からなかった。

有り体に言って、人の家がぶっ壊れようが消し飛ぼうが、知った事ではないというのがフィアンマの
性格であり本音だ。フィアンマという人間は、そういう人間である。
かつては世界に施す身勝手な『救済』のために多くの人間の命を脅かした魔術師だ。
人の家が、小萌先生の家が自分のせいで壊れてしまったところで、何の後ろめたさも感じないはずだった。



863 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:52:14.0762C+UwSeo (6/29)


おかしくなってしまった世界を元通りにしたいという気持ちは、確かにフィアンマにはある。
それは間違いない。こんな世界で、自分以外のほぼ全ての人間が変異してしまった世界で
平然と過ごせるほど、フィアンマも強くはない。


だがその裏で、小萌先生の環境も直してあげたいという気持ちに、フィアンマは嘘をつけなかった。
一日だか二日だかの彼女との共同生活を経て情でも湧いたか。そうかも知れない。
『家もあとでどうにかしてやるから』とでも言っておかないと小萌先生がうるさそうだからか。
それもあるかもしれない。ここまで色々と彼女に手伝ってもらったのだから、それぐらいの事は
してあげなくてはならないと思ったからか。可能性としては、それもあり得る。

この衝撃的過ぎる世界の光景が、彼の心境に何らかの変化をもたらしたのだろうか。
それは誰にも、本人でさえもわからない。



864 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:52:44.8762C+UwSeo (7/29)



(…………全てが元通りになったら、月詠は俺様にまた、あの笑顔を見せてくれるだろうか)


ただ、例えどれであろうと、今の自分の胸中にいずれかの想いが生まれていようと、
どれもが『らしくない』、フィアンマらしくないとわずかに照れのようなものを感じた彼は、


「……と、そうは言ったものの、正直お前の家の崩壊など想定の範囲内だったしな。
 なにせ未知なる大魔術。 家どころかしくじれば世界がお前の家のようになっていた
 かも知れんのだ。 住処が壊れる程度の覚悟くらい、魔術を理解しておらんお前でも
 漠然と決めていたはずだ。 よって尚ここまでお前に気を遣う俺様に感謝してほしいくらいだが」


と、心にもあるのかないのか分からない言葉を小萌先生の目を見ず――目は無いのだが――そっぽを向いて吐いた。



865 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:53:35.3162C+UwSeo (8/29)



そんな素直になれない不器用な魔術師に対し、小萌先生は手招きで返した。
『おいで』という意味のジェスチャーはなく、どうやら『姿勢を低くしろ』と
いう意図のものらしい。疑問に思いながらも、もしかしたら家を破壊された怒りで
屈んだところに跳び膝蹴りでも食らわされるのかと思いながらも、フィアンマは
小萌先生の指示に応じ身を屈めた。


「uucemgbixfnbatd……」

「な……、んの真似だ? これは」

「mdnpanttsu」



866 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:55:11.3662C+UwSeo (9/29)



撫でられた。真っ赤な髪が流れる頭を、フィアンマがこれまで味わった事のない
あまりにも『愛』溢れる力で、撫でられた。数十分前に頬を撫でられた時とは
比較にならない程の優しさだった。


ミーシャが普段からあちこちに伝播している『慈愛』。フィアンマの大魔術でミーシャ化した
人間が、外見だけではなく中身までミーシャと瓜二つになっている証拠だった。


(……やはり。 それで、上条当麻も一方通行もあのような状況に……)


ここでフィアンマはこの学園都市に起きている現象について再び推測してみる。



867 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:56:02.1662C+UwSeo (10/29)



上条と一方通行が直面した、女の子に突然囲まれるという漫画のような現象。
二人の下に訪れた女性陣には全員にとある『共通点』があった。それは、
彼らを取り囲んだ女性陣が彼らに対し『通常以上の感情』を抱いているという点だ。

その通常以上の感情が果たしてどの感情に該当するかは本人達にしか分からないが、
その感情にミーシャの『別け隔てなく愛を与え、愛を求める』という行動原理が追加され、
あのようなある種羨ましい惨劇を生んでしまった、という事である。ただ一方通行の場合、
人選が人選であるが故に愛が歪み、殺し合いの一歩手前まで発展してしまっていたが……。


簡潔かつ俗に言うなら、上条と一方通行の下にやってきた女性陣は、何らかの形で
彼らとフラグが立っている人物という事になる。



868 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:57:09.8262C+UwSeo (11/29)



(ならば『御使堕し(改)』発動時に俺様の胸を貫いた光は『選別』の意味があったのか?
 俺様や上条当麻のような例外を除いて、尚且つミーシャ化しておらん一方通行が俺様と
 同じくあの光に襲われているのならこの仮説は真実味を帯びてくるが……)


しかしあの『光』が何を基準としてフィアンマや一方通行、そしてフィアンマはその目で確認していないが
垣根帝督を選んだのかは分からなかった。仮説ならいくらでも立てられるが、それを証明出来ないのは
『御使堕し(改)』が未知であるが故か。不明瞭な点があまりにも多すぎる。


(該当者がいるのなら、今頃垣根帝督も二人のような目に遭っているのかも
 知れんな。 副作用の効果範囲がどこまで及んでいるのかは知らんが……)



869 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:58:36.1462C+UwSeo (12/29)



フィアンマの頭を撫で終えた小萌先生はどこか満足気に微笑んだ―――ような気がした。


「……さっき、月詠は何と言っていたんだ? 俺様の頭を撫でた時に」


フィアンマは手に持っていたビンの中にいるサーシャ=クロイツェフに尋ねた。
魂だけの存在と化した彼女はやや間を空けて小萌先生の言語を通訳する。


『第一の解答ですが、「家なんかより突然走り去ってしまった火野ちゃんの方が
 心配でした……」と言っていましたよ。 補足説明……するまでもなく、
 自分の住処より突然錯乱したあなたを彼女は心配していたのでしょうね』

「……くだらん。 底抜けのお人好しだ、この女は。 上条当麻に負けず劣らずの、な」


複雑な面持ちを浮かべながらフィアンマは小萌先生の前で屈んだまま、



870 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 12:59:18.2962C+UwSeo (13/29)



「これから大魔術の後始末を行う。 お前は俺様が今から言う場所で待機していろ」


『天使同盟(アライアンス)』が好き勝手に利用しまくる、『グループ』のアジトである
アパートの場所と部屋を小萌先生に伝えた。ここからアジトへの道筋をフィアンマが
よく把握していなかったため苦労したが、アパートの特徴を言うと彼女はすぐに理解してくれた。
サーシャの通訳によると、どうやら小萌先生はそのアパートを見た事があるらしい。


手を振りながら去っていく小萌先生の姿を最後まで見送ったフィアンマは、


「…………ところで、気付いているかサーシャ=クロイツェフ」

『第二の解答ですが、どうやら私の思い過ごしではないようですね』


アパートが半壊する騒ぎが起きたというのに、"さっきから周囲に人っ子一人通りかからない"
違和感に対し警戒心を高めた。



871 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:00:48.9162C+UwSeo (14/29)



――――――――――――――――――――――


フィアンマとサーシャ=クロイツェフが感づいたその『視線』には、
対象を監視する以上の感情が含まれていなかった。
その『視線』に怒りや悲哀、怨恨や同情といった感情はわずかも入り交じっておらず、
ただ単純に、監視する事だけを目的とした『視線』である事に、二人は気味の悪さを
感じずにはいられなかった。


「ふん。 もう今更、どこぞの魔術結社が重犯罪者の俺様を拘束しに
 やってきたというようなオチは期待しておらんぞ。 ……誰だ」

「気分を害されたというのでしたら、深くお詫び申し上げましょう」



872 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:01:34.8362C+UwSeo (15/29)



フィアンマが驚いたのは、自分たちを刺し続ける『視線』を送る監視者が本当に
存在していたからではない。いくら気配を絶とうと、百戦錬磨のフィアンマの警戒網を
逃れられる実力者など数える程しかいないだろう。

そうではなく、彼が驚いたのはその声だった。知り合いの声だったとかそういうのではなく、
自分が原因で狂ってしまったこの世界で、フィアンマや一方通行と同じように"通常言語"を
用いてかけてきたという事実に、彼は驚愕したのだ。


即ち、フィアンマ達を監視していた人物は『御使堕し(改)』の副作用―――呪いを
何らかの手段を以って回避しているという事になる。



873 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:02:34.1062C+UwSeo (16/29)



「誰だと聞いている」

「名乗る名などありません。 道具に愛着を持つ感情は我々でも理解できますが、我々
 にはそれは該当しない。 道具以外の何者でもない我々には名詞も名刺もありません」


およそ人間から出る言葉とは思えない言葉を当たり前のように言いながら、
監視者―――否、監視者達は音もなく、初めからそこに居たかのように
姿を現した。

全身を黒のローブで包み込み、今この学園都市を襲っている現象とは違う意味で
表情が窺えず、フードの部分には金色の鷹の頭部の意匠があしらわれている。



874 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:03:47.5362C+UwSeo (17/29)



「黄金の鷹……? 『黄金』系、いや、その程度の連中ではないな。
 隼頭はホルスの象徴……お前ら、アレイスターの御使か何かか」

「流石は『神の右席』の頂点に立っておられた魔術師。 察しが良くて助かります」

「クソったれが、『セレマイト』か。 セレマ教の狂信者共……ラブレーの物語から
 尚も発展し続ける屍のような宗教が科学の総本山であるこの街に潜伏してやがるとは、
 アレイスターは誰からそんな冗談を学んだんだ? 大体予想はついているが……」

『……?』


魔術に関してはかなりの知識を有しているサーシャでも、フィアンマと謎の連中が交わす
言葉の意味が理解できなかった。両者の間に流れる空気は険悪というそれではなかったが、
しかし少なくともフィアンマはセレマ教の魔術師の出現を面白く思っていないようだ。



875 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:04:49.4062C+UwSeo (18/29)



「クロウリー教が動けぬ今、我々はエイワス様に遣わされる道具。
 既に一方通行様と垣根様にも接触を済ませております」

「セレマイト……実在したとはな。 それで、何故俺様を監視していた?」

「監視……というようなつもりはございませんでしたが。 フィアンマ様が
 これから実行される『修復』に、我々もお力添えをと考え至った次第です」

「……全てはお見通しか」

「フィアンマ様が今回引き起こしたこの現象について我々が言及するような事は
 一切ございません。 我々はただ、『天使同盟』という舞台の裏で動くだけです」



876 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:06:25.6662C+UwSeo (19/29)



隠す素振りも見せずフィアンマは舌打ちをした。信用など一つも出来ないこの連中が
力を貸すと申し出た事に対しての苛立ちもあるが、何より先の小萌先生とのやり取りを
恐らく見られていたのだろうという事実が、彼は何より気に入らなかった。

それでも、


「どうせここにお前らが来たのも、アレイスターかエイワスに命令されたからだろう。
 あの怪物二人も『御使堕し(改)』の副作用を何らかの手段を用いて避けている訳だ」

「ええ。 ただクロウリー教だけは回避が間に合いませんでしたが」

(うわ……じゃあアレイスターの野郎も例のあの顔に……)



877 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:07:19.8162C+UwSeo (20/29)


「魔方陣飽和からミーシャ=クロイツェフの『感情』が氾濫する過程で、我々が
 エイワス様の指示に従い第七学区の『ビル』を虚数学区へ避難させました。
 当然、ここら一帯の土地も今は虚数学区に『転移』しております故、ご了承を」

「虚数学区……五行機関、アレイスターが構成した擬似星幽界か。
 どうりでさっきから人間が一人も通りかからん訳だ。 勝手に
 俺様まで五行機関に移した事は……文句を言える立場ではないが。
 それで、この事態を解決するに対するお前らの見解を聞かせてみろ」

『第一の私見ですが……私、完全に置いてけぼりですよねこれ』


セレマ教の力を借りる事に迷いはなかった。今も継続している学園都市の異常の解決に
私情を挟んで意地を張っている場合でないことを彼は理解していた。
フィアンマは半壊したアパートに視線を向けながら意見を求める。



878 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:08:14.1562C+UwSeo (21/29)



「まず此度、フィアンマ様が発動した術式……『御使堕し(笑)』ですが、」

「(改)だ。 お前まで月詠のような言い間違いをするな、気分が悪い」

「失礼。 『御使堕し(改)』ですが、そもそもフィアンマ様が構成した魔方陣には
 このように人間がミーシャ=クロイツェフ様の擬似体と化する現象は効力に含まれて
 おりません。 即ち、フィアンマ様が構成した魔方陣に間違いがあるものと思われます」

「……だろうな」


『御使堕し(改)』の魔方陣作成から完成に至るまで、フィアンマは小萌先生と共に
何度も構成内容にミスが無いか確認してきた。魔術に関してはトップクラスの知識を
有している自分がそれでもミスを犯していたなど信じたくはなかったが、セレマ教の
魔術師にまでそう指摘されてはフィアンマも認めるしかなかった。



879 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:09:00.7962C+UwSeo (22/29)



「そもそも、あの狭い部屋を大魔術の儀式場に仕立て上げようと決めたのが
 間違いだったのかも知れんがな。 儀式場の中で生活をするようなものだ、
 どうしたって紡いだ文字が歪んでしまったりする。 ……俺様も大概だな」

「然るべき場所を選択して行うのがベストでしたでしょうが、状況が状況だけに
 選択の余地は残されていなかった。 むしろ学園都市内で行う事で、副作用の
 効果範囲がこの街に収まっただけ儲けものだと考えるのが良いでしょう」

「効果範囲……ミーシャ化が起きているのはやはりこの街だけなのか?」

「左様でございます。 学園都市はフィアンマ様の所業で一種の『ホーンティング』と
 化している。 ただ垣根様は現在、……この街ではないある場所におります故、
 学園都市外でも特定の人物がミーシャ様の擬似体と化してしまっていますが……」



880 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:10:46.0962C+UwSeo (23/29)


そこだけは確認しておきたかっただけに、フィアンマは心底安堵したが決して表情には出さなかった。
もっとも、テレビでも見て映っている人間の顔を見れば確認できる程度の事なのだが、当時の彼に
悠長にテレビを鑑賞する余裕などありはしなかった。


「この現象を解消するにはやはり魔方陣の再構築が適切かと、畏れながら申し上げます」

「忌々しいが同意見だ。 この半壊したアパートの瓦礫から魔方陣――魔方陣を構成する
 文字を抽出し、ミスを犯している部分を術者である俺様が修正する他あるまい。
 抽出作業は俺様の『右腕』で出来ん事もないが……残り使用回数に多少の不安があるな」

「抽出作業は我々に一任していただければ、残りの魔方陣の修正作業にフィアンマ様が
 集中していただけるかと。 どちらにせよ、『神の如き者』は必要不可欠ですので」

「だったら話は早い。 さっさと―――」

「それと、」



881 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:11:19.0262C+UwSeo (24/29)



フィアンマの急かすような指示を中断させて、セレマイトの一人が言った。


「我々の抽出作業が滞り無く完了し、フィアンマ様の修正作業が問題なく終わったとして、
 しかしそれだけではこの現象を改善するには至らぬ事をここで告げておかなければなりません」

「……ミーシャ=クロイツェフか」

「左様で。 ミーシャ様が最後の仕上げに四散した感情……というよりは『スピリット』と
 表現するのが正しいのですが、ここでは感情で一貫させていただきます。 四散した感情を
 修正した魔方陣を経由し、己が身の内に戻さなければ、街の人間はあの状態が続きますよ」

「あのクソ天使、そういえば何故学園都市に戻ってこんのだ」



882 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:12:03.4162C+UwSeo (25/29)


「ロシアにてサーシャ=クロイツェフと肉体と精妙体の入れ替えを実行した後、
 ロシア成教本部より帰還したワシリーサと湯浴みを満喫し、談笑を交わしている
 最中に学園都市に異常に感づき、現在日本海上空をのんびりと飛行していますよ」

「もう殺していいよなあいつ……」

『ていうか、え? ちょっと待ってください、ワシリーサと湯浴み? 私の肉体で?』


セレマ教の魔術師達は視線だけで言葉を交わし、やはり音も立てず半壊した
アパートの前へ移動した。



883 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:12:43.4862C+UwSeo (26/29)



「どうやって瓦礫に紡がれた文字を抽出するんだ?」

「そこは近代西洋魔術の技術を利用させてもらうまでですよ。 目には目を、と言いますでしょう?」

「……『ホルス』を代表するお前らが十字教の技術を用いると」

「畏れながら申し上げますが、セレマ教はただ一つの教義に縛られません。
 諸経混合的宗教……、我々の同胞に原理主義者は存在しません。
 前時代的技術であろうが、利用出来るものは利用するのがセレマ教です。
 携帯電話が普及する現代でも、公衆電話や黒電話を利用する人間がいるのと同義ですよ」


そういえば月詠小萌の家に黒電話があったな……、とフィアンマがあの汚らしくも
居心地の良い部屋を思い出している内に、セレマ教の魔術師達が抽出作業に入った。



884 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:16:54.7262C+UwSeo (27/29)


今回はここまでです。

『ホーンティング』はアメリカのホラー映画の事ではなく、
特定の場所で生じた特異現象の用語……だった気がします。

とりあえず大魔術の修正は可能らしいということでフィアンマも一安心。
エイワスとかアレイスターはどうなったのという疑問についても少しだけ
触れています。アレイスターはどうやらダメだったようですが……。

虚数学区に移転とか正直かなり無理がある展開ですが、まあ前からそんな感じですよね。

次回はフィアンマそのものにちょっと視点を置き換えつつ、一端覧祭六日目(前半部)を終わろうと思います。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!

にしてもよく建物が壊れますねこのSSは。


885次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:17:36.6862C+UwSeo (28/29)




                          【次回予告】



「第一の質問ですが、あなたはどのような経緯で「天使同盟」に加わったのですか?」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ(ビン詰め)




「俺様から志願したんだ。 いや、もう熱望と言って過言ではなかろう。
 たまたま他国で邂逅した一方通行とエイワスに土下座をして頼み込んだ」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・元『神の右席』の魔術師――――――フィアンマ






886VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/06/17(日) 13:19:33.83bCdZR20+0 (1/1)


乙です!



クローリー教はクローリー卿のことなのかな?
それとも人物を指してない?


887VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/17(日) 13:23:14.09i7XHaVgJo (1/1)

やっと理解した
これはシリアスじゃなくてギャグパートかもしれない


888VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/17(日) 13:32:27.49rMbBai3IO (1/1)

アレイスター、エイワスに笑われまくってんだろうな...(合掌)


889 ◆3dKAx7itpI2012/06/17(日) 13:45:26.8562C+UwSeo (29/29)

>>886
アレイスター=クロウリー教導者の略称だったのですが、
教導者という言葉自体まずあまり相応しくない言葉らしく、
しかも信者が教導者呼ばわりするのはおかしいですね……。

ご指摘ありがとうございます!ちょいと先の話のセリフを改善しておきます。


890VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2012/06/17(日) 15:18:00.90lvtL6hza0 (1/1)

アレイスターは、エイワスに迫ってるんじゃね?
エイワス逃げてーー


891VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/17(日) 17:59:59.75JhBT+3YAP (1/1)


これはエイワスパートが欲しい超欲しい
またウソだろおいとか言ってるのか


892VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/17(日) 20:27:47.86pG6FZVgDO (1/1)

マジでエイワスちゅっちゅっ状態だったのか


893VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/17(日) 20:30:03.60D1My+GTSo (2/2)

あれ、ハッピーエンドじゃねえのコレ


894VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/06/17(日) 21:49:45.40irHVAFTy0 (1/1)

セレマイト…セルライト…ベジマイト………むむむ
あ、>>1乙


895VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/17(日) 22:29:13.51gBxE+pXT0 (1/1)

本人には異常が自覚できないわけだからあの顔でエイワスに対して暴走しとるんかアレイスター



896VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/06/18(月) 16:33:06.71W+wCfonp0 (1/1)

っつかアレイスターは動けな・・・ミーシャ化してるなら生命維持装置ぶっ壊してエイワスに執着してそうだ・・・
>>1乙


897VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/18(月) 22:03:27.3491anYY5k0 (1/1)

生命維持装置から破り出てきて打ち上げられたマグロのような状態になりながらもエイワスに迫るアレイスターを幻視した


898VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/19(火) 04:11:24.17EkYQNgZZ0 (1/2)

>>1乙!
このスレもそろそろ1000か・・・

>>897
なにそれこわい \ビチビチッ/


899 ◆3dKAx7itpI2012/06/19(火) 06:49:37.483ENKxtWPo (1/1)

私事で申し訳ありませんが、どうやらモニタの調子が悪いです。
突然更新が来なくなったら『ああ、こいつのモニタ逝きやがったな』と思ってください。

早めに買い換えるようにします。それでは、失礼しました!


900VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/19(火) 06:55:07.29cjFeTlGV0 (1/1)

>>1乙!!
スレ埋まる寸前に逝ったら面倒くさそうだなww


901VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/19(火) 09:05:26.37EkYQNgZZ0 (2/2)

>>899
>>1wwwwなんてこったwwww
モニタには頑張ってもらいましょうwwwwww



902VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2012/06/19(火) 19:26:46.07qF4Zxhjs0 (1/1)

大丈夫。今なら目をつぶったって更新出来るさ。


903 ◆3dKAx7itpI2012/06/20(水) 11:52:18.53Av+caoS8o (1/1)

あの本当……大変申し上げにくいのですが……
今日更新予定だったのですが、明日に延期というわけにはいかないでしょうか。
モニタの問題で明日には解決出来るのですが、今日中はちょっと……

『次回更新は三日以内』を破りたくはないのですが、どうかご容赦を……!

明日は必ず更新しますので!お待ち下さい!


904VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/20(水) 12:40:22.973llQdOQDO (1/2)

仕方ないね

乙でーす


ってか、モニターにも御使堕し(泣)の影響が行っているようですな

おのれ魔術師め…


905VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/20(水) 12:50:22.68231n2FjIO (1/1)

エイワスだって今モニタなしで頑張ってるんだし仕方ないよね


906VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/06/20(水) 14:59:10.75HxADR1Bo0 (1/1)

ちょ、一方通行ってむぎのんにフラグ立ててたっけ?
いつフラグ立てたかお願い


907VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/20(水) 17:07:40.68AqHxbTBUo (1/1)

いつからフラグが建ってないと錯覚していた・・・?


908VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/20(水) 18:23:07.283llQdOQDO (2/2)

>>906
学園都市で鬼ごっこしてる時にむぎのんと話した時かな

フレンダをフレ/ンダにしたことについて悩んでるみたいなことを相談してた


909VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/21(木) 04:54:19.09LGysQSHE0 (1/1)

おのれ魔術師!

更新まってまーす。>>1のペースでいいと思いますぜー。


910 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:28:51.69dBCHJmlAo (1/28)

>>906
まあフラグと言いますか……実は私、一方通行と麦野の組み合わせが(も)好きでして。
この二人で色々話書きたいという衝動を抑えつつ今のお話を書いてる面もあったりします。
だからあの時の屋上での会話は私の欲望がやや漏れてしまったために出来た話だったりしますww

皆さんおはようございます!そして大変おまたせしました。
更新を開始したいと思います。

モニタはもう面倒なので液晶テレビをモニタにしました。
余裕が出来たら買い換えるということで……はい、これも私事です。
申し訳ありませんでした。

えー、今回もフィアンマが物思いにふけたりしますが、その前に奴らのパートを。

それでは、よろしくお願いします!



911 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:29:24.72dBCHJmlAo (2/28)



――――――――――――――――――――――


学園都市ミーシャ=クロイツェフ化現象という前代未聞の超常現象に見舞われ、
しかしその影響を辛うじて逃れた者がいる。

一人はフィアンマ。彼が『御使堕し(改)』の術者であるためこれは当然だ。
次にミーシャ=クロイツェフ。逃れるも何もこの天使こそが元凶中の元凶だ。
次にサーシャ=クロイツェフ。魂だけの状態のためだろう、彼女も通常のままだった。
魂だけという時点で通常もへったくれもないかもしれないが……。

そして謎の『選別』により一方通行と垣根帝督も逃れている。
垣根帝督の場合はイギリスという場所が幸運だった点もあるが、
しかし彼らに限ってはいっそミーシャ化した方がマシなのでは思えるほどの
地獄を体験しているので、一概に『逃れた』とは言い難い。



912 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:30:27.11dBCHJmlAo (3/28)


さらに例外として上条当麻も『幻想殺し(イマジンブレイカー)』の効果で
現象の影響を未然に防いでいる。ただし彼のパートナーはご愁傷様だが。


そして、


「いつ以来だろうな。 先のように……正体不明の事象の、その正体について
 真剣に推理を立てようと試みたのは。 『ラプラス』が機能していた頃の
 私では思考する前に解答が提示されてしまうからな。 この現状が愉しい
 と思えるのならいっそ、システムの修復など必要ないのかもしれない」


『天使同盟(アライアンス)』が一人、聖守護天使エイワス。



913 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:31:37.33dBCHJmlAo (4/28)


セレマ教の魔術師がフィアンマに言ったように、エイワスも現象の影響が
及ぶ直前、セレマイトに指示を出しエイワスが現在居る『窓のないビル』を
虚数学区に移転することで難を逃れていた。


「フィアンマが『御使堕し』に酷似した大魔術を発動。 その影響により
 『天使同盟』の"男性構成員"以外の学園都市の人間、及び『天使同盟』
 男性構成員とある程度の『フラグ』が立っている者にミーシャ=クロイツェフの
 感情と呼ぶべきエネルギーが分配され、いわゆるミーシャ化に至る……。
 君のとこの信者と答え合わせをしてみたら、見事に正解だったじゃないか。
 『ラプラス』を失ったとはいえ私もまだまだ有能だとは思わんかね?」


ただし、セレマイトはフィアンマにこうも言っていた。



914 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:33:24.11dBCHJmlAo (5/28)



「ふふ……まったく。 聞いているのか、アレイスター=クロウリー」


セレマ教の開設者にして学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリーは"間に合わなかった"と。


「きょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


エイワスの言葉に、生命維持装置の中から返事をするアレイスター。
だがどうも、いやどう考えても様子がおかしい。
アレイスターの言葉は返事というより、狂気に満ちた叫びのようだった。



915 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:34:16.89dBCHJmlAo (6/28)



「ひょーん。 ひょーん」

「ふふふ。 いや人間、長生きしていればそれは醜態の一つや二つは晒すものだが……
 アレイスター。 今の君は実に哀れで、滑稽で、しかしどこか美しさを秘めている」

「ひゅるるる……」


実を言うと、そして正確に言うとアレイスター=クロウリーは"半分間に合わなかった"。
ミーシャ化現象の脅威に対し、半分はもろに食らってしまったのだ。

ただ半分は間に合っている。具体的にアレイスターがどの部分を避けたのかというと、
ミーシャ=クロイツェフのような顔に変貌する現象、ミーシャ=クロイツェフのように
言葉を発する際ノイズが混じってしまう現象、この二点だ。



916 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:35:31.88dBCHJmlAo (7/28)


では何を避けられなかったのかというと、それはエイワスが言うミーシャの『感情』の分配。
つまり特定の人物へ極端な求愛行動を起こす現象。これだけは避けられなかった。


「きゅーぉ」

「そして私も長いことこの世界を観測しているが……このような事態を見るのは
 初めてだ。 純粋に興味深い、好奇心をくすぐられる。 アレイスター、」


しかもある意味このビルの外の現状より、アレイスターの容態は悪化していた。


「感情と感情……もしくは無意識と無意識のせめぎ合い。 まさか人間という器の中で
 そんな事が起きようとは。 ユングでさえ想定出来なかったんじゃないだろうか。
 今も君の中では君の意志とミーシャ=クロイツェフの意志が激しく衝突している」



917 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:36:31.54dBCHJmlAo (8/28)



半分間に合った間に合わなかった云々がまずかった。非常にまずかった。


アレイスターは例の現象の影響が及ぶ寸前、ほぼ反射的に超上級クラスの防護術式を展開した。
まだ完全にはその力を振るえない彼が全身全霊を込めて魔力を精製したのだ。
そうしてしまう程に、アレイスターは『御使堕し(改)』に対し脅威を抱いたのだろう。直感的に。

それでも完璧には防御出来なかった結果、アレイスターの中にミーシャの感情が介入し、
だがアレイスターの意志は上書きされなかった。中途半端に防いだ事が災いを招いてしまった。
エイワス曰く、それによりアレイスターとミーシャの意識がぶつかり合い、現実―――生身の
アレイスターが自我を保てなくなったようだ。

そういった経緯を経て、



918 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:37:32.84dBCHJmlAo (9/28)



「ファー……ブルスコ……ファー……ブルスコ……」

「アレイスター、めっ」

「モルスァ」


アレイスターは壊れてしまった。生命維持装置の中から狂ったように(ていうか狂っているのだが)
ガラスを両手で叩き、それをエイワスに窘められアレイスターは萎縮してしまう。
……『天使同盟』などという連中に関わらなければこんな事には、と思うと彼に同情心が湧こうというものだ。
エイワスが加盟した時点で手遅れである事実は否めないが。

ただ驚くべきはアレイスターの変異ではなく、やはりその実力であろう。
あのフィアンマでさえ詳細が掴めなかった『御使堕し(改)』を直に見ることもなく、
完全ではないとはいえ防御出来る術式を即興で作り上げてしまったのだから。



919 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:38:25.52dBCHJmlAo (10/28)


この辺り、アレイスターの魔術師としての才能は他の追随を許さない。
意志が半分"持っていかれて"これだ。全盛期、『第一九学区事件』当時のアレイスターは
まさに世界最強最悪の魔術師に相応しい力を持っていただろうし、それを撃破してしまう
エイワスに至ってはもう知らん。


「さて……一つ危惧しなければならない事は、フィアンマがこのまま現状を放置するという
 選択をしてしまうケースだな。 こんな姿になってしまったアレイスターも愉快ではあるが、
 こんなものあと数分も見たら飽きであくびを禁じ得ない。 退屈は避けたい私としては
 そのような事態もやはり避けたいのだが……。 さて、彼はどうでるかな」


『滞空回線(アンダーライン)』はおろか街中の監視カメラにも干渉出来ないため、
力を失ったエイワスが外の様子を窺う手段は無い。



920 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:39:12.85dBCHJmlAo (11/28)



「私の予測だとこの現象は本質ではなく、価値もまた別の方向にあるようだからな」


『御使堕し(改)』がミーシャ=クロイツェフ提案サプライズ計画の通過点に過ぎない事まで
見抜いているエイワスの洞察力は驚愕に値するが、一人でこんな推理をしてもつまらない。
この現象に価値を見極め、そして興味を失いつつあるエイワスとしてはさっさと解決の道を
辿ってほしいという気持ちが正直なところだった。


「しかもアレイスターがこの状態では彼の肉体回復どころか、私の『ラプラス』修正に支障を―――」


カチャカチャカチャカチャカチャカチャガチャガチャガチャガチャッッ、ターーーーンッッッ!!!


エイワスの耳に打鍵音が響く。



921 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:40:41.74dBCHJmlAo (12/28)


まるでトップクラスのピアニストが如く、アレイスターが宙に浮かぶキーボードを
打鍵した音だった。キーボードといっても立体映像なので本来ほどの軽快な打鍵音ではないが。
どうやらこんな状態であってもアレイスターはシステムの修復に力を注いでいるようだ。
注ぐことが出来るようだ。

執念。エイワスを治す、自分も治す。その確固たる執念が彼の意志を、魂を揺さぶっているかもしれない。


「……余計な心配だったか」

「はぁ……はぁ……」


結論から言えばフィアンマはこの後きちんと大魔術の修正を行う姿勢に移るのだが、
しかし例え世界が永遠にこのままであっても或いはそれもアリか、とエイワスは考えている。

避けたい事態は避けたい。だが、避けられなかっとしてもその結果を酒の肴には出来る。
エイワスにとっ酒とは興味と価値観。肴は、それを見出せる現象や事象。


エイワスは動じない。


この先、何があったとしても―――エイワスがエイワスたらしめるのだから。



922 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:42:12.53dBCHJmlAo (13/28)



――――――――――――――――――――――


『御使堕し(改)』の修復作業は長期に渡ると見ていたフィアンマではあったが、
いざ実行に移してみると豈図らんや、ものの八時間程度で作業は最終段階、
あとは学園都市中(極一部イギリス)に散らかったミーシャ=クロイツェフの
『天使の力(テレズマ)』やら何やらを本人の手で回収する作業を残すのみとなった。


ミーシャ=クロイツェフ様によろしくお伝え下さい、と言い残し、次の時代を
生きる魔術師―――とカテゴライズしてもいいのか判断し難い黒のローブ集団、
セレマ教のセレマイトは既に全員姿を消していた。彼らの手により小萌先生の
住んでいた半壊の木造二階建てアパートとその一帯は虚数学区から元の位相へ
戻されており、セレマイトが抽出し修復した魔法陣が、アパートの瓦礫の中から
禍々しい赤の光を放っている。



923 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:43:02.70dBCHJmlAo (14/28)


フィアンマは、それでも八時間という長時間の魔力の行使を余儀なくされたため、
アパートの前に座り込んで体力回復に務めつつ、現在学園都市へ帰還中らしい
ミーシャ=クロイツェフを待っていた。彼の傍には小さなビンが無造作に転がっており、
その中には魂だけの存在となったサーシャ=クロイツェフが詰められている。
暇なのか何かを考えているのか、表情も肉体も無いため様子を窺い知れない。


『第一の私見ですが、魂だけという状態は暇です』


暇らしい。ビンの中には娯楽など無いし、あったとて肉体が無ければどうしようもないので無理もないが。


『フィアンマ。 何か面白いお話を聞かせてください』

「いっそ清々しい程のムチャ振りに感謝すらしたい気持ちだが、しかしサーシャ=クロイツェフ。
 お前も見ていた通り俺様はついさっきまで膨大な魔力を消費して大魔術の修復を行なっていたんだ。
 お前の魂を震わせるようなエピソードを今の俺様に期待されても、俺様はその期待には応えられん」



924 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:44:35.83dBCHJmlAo (15/28)


『では、私からいくつか話題を提供しますので、その話題に合わせて会話を盛り上げてください』

「コミュニケーションによほど飢えているようだな。 俺様との会話を求めるとは」

『第一の質問ですが、あなたはどのような経緯で「天使同盟」に加わったのですか?』

「ミーシャ=クロイツェフから聞いておらんのか」

『聞いていないから今こうして質問をしている訳です』


ぴん、とフィアンマは指でビンを突付く。ビンは何の抵抗もなくころころ……と転がり、
中のサーシャが『うわっ、うわっ……!』と慌てふためいた。それを見てフィアンマは
意地悪く笑みを浮かべるでもなければ無視するでもなく、ただサーシャの質問に答える。



925 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:45:33.60dBCHJmlAo (16/28)



「俺様から志願したんだ。 いや、もう熱望と言って過言ではなかろう。
 たまたま他国で邂逅した一方通行とエイワスに土下座をして頼み込んだ」

『……第二の私見ですが、驚きました。 私の予想では半ば強引に、
 あなた自身も仕方なくといったところで渋々加盟したものだと……』


フィアンマは超適当に嘘をついた。この男、どうやらサーシャとまともに会話をする
つもりが無いらしい。


『しかし、よく一方通行が許してくれましたね。 加盟する以上、あなたの素性も彼には知られる訳でしょう?』



926 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:46:39.44dBCHJmlAo (17/28)


「地面に額をこすりつけ、涙で顔面をグチャグチャにしながら懇願したからな。
 もうドン引きだったよ一方通行は。 むしろあいつが仕方なくで俺様の加盟を
 認めてくれたんだ。 『神の右席』を失って行き場のない俺様を拾ったんだよ」

『……成程、わかりました。 それでは次の質問に移行させていただきます』


番組の司会進行っぽく会話を続けるサーシャ。他人との会話に慣れていない―――という事はないだろう。
恐らく、相手が右方のフィアンマだから、沸かした湯船の温度を確かめるが如く慎重に言葉を選び、
よってやや緊張気味の口調になってしまっているのだろう。


『第二の質問ですが、あなたが起こしたあの戦争には結局何の意味があったのですか?』

「少なくとも、俺様が第三次世界大戦を起こさなかったら『天使同盟』は無かっただろうな。
 聞けばあの戦争でミーシャ=クロイツェフが一方通行を痛く気に入り、今日に至るらしいじゃないか」



927 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:47:24.89dBCHJmlAo (18/28)


『……第三の私見ですが、「天使同盟」を利用して戦争の正当性を高めようとしている
 発言としか思えません。 そういう意味なのでしたら取り消してください』

「ならばそうしよう。 ついでに、ミーシャ召喚にお前を利用した事実も詫びようか」

『第一の解答ですが……、結構です。 ついでで片付く案件ではないですし、
 それに私とミーシャは今や友達です。 そこまで否定されたくないので』

「ふん。 生意気な女だ」


フィアンマは横倒しになったビンを片手で拾い上げると、缶コーヒーを飲む前に
振る動作のように、『ビン詰めサーシャちゃん(定価三四八円)』をシェイクした。
缶ビールでやったら確実に吹き出すくらいの勢いで振りまくった。
ビンの中から『うわわわわわわわぁぁぁ!!!? ……きゅ~』という声が響いた。
サーシャ=クロイツェフ、完全にグロッキー状態である。



928 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:48:05.85dBCHJmlAo (19/28)



(……何をやっているんだろうな、俺様は)


片手でサーシャを撃破したフィアンマは、しかし満足したような表情も素振りも見せず、
退屈そうにビンを地面に置き、ボーッと半壊のアパートを見つめた。


「……加盟した理由か。 ミーシャ=クロイツェフを召喚した責任、
 上条当麻が救った世界の行く末を見届けるため。 そう思っていたが」


もうサーシャ=クロイツェフは彼の言葉など聞ける状態にないが、それでも彼は独り言を続けた。



929 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:48:59.82dBCHJmlAo (20/28)



「前者はともかく、後者はこんな組織に関わらんでも出来る事かもしれんな。
 少なくとも、俺様が見たかった世界は今の学園都市のような世界ではないが」


別に空を仰いだところで世界が見渡せる訳ではないのだが、フィアンマは視線を空に向けた。
『地球は、世界は広い』という話題を例えばしたとして、一〇人に一人くらいは空か地平線を眺めるような、
それと同じ何の気なしな感覚で、フィアンマは空に向かって言葉をかける。


「だったら、俺様は一体どんな世界を見てみたいのだろうな」


これで返事が聞けたらどれだけ楽だろう、とフィアンマは思う。
どんな世界を見届けたいのか。そもそも、世界の『救済』に失敗し、立場を失い、
拠り所の無くなった自分は、その世界とやらを見届けるまで何も得ずに生きていくのか、と。



930 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:50:08.89dBCHJmlAo (21/28)



(何も得ず……いや、『天使同盟』という居場所を得たには得たが……しかし)


そういう、普段の彼ならまず考えないような事を、彼は今漠然と考えていた。

一方通行も垣根帝督も、大小はともかく明確な目標を掲げて今日も生きている。
ミーシャ=クロイツェフも現在進行形で頑張っているし、風斬氷華も、進むという
方向ではないにせよ何かを待ち続けて生きている。エイワスは……全ての事象の
『観測』そのものが顕現し続ける理由だったはずだとフィアンマは思い返す。


ならば彼は―――フィアンマはどうだろうか。求めている形に世界が変わって、
それを見届けるまで自分は空っぽなのか。今こうしてこの世界で生きている事が
世界の『観測』として成り立っているのか。このミーシャ提案のサプライズが
滞り無く終了したら、自分はどう過ごしていこうか。



931 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:51:13.97dBCHJmlAo (22/28)


別にフィアンマは深く悩んでいる訳ではない。イギリスで生きる方向性を見失い、
苦しんでいる垣根のように頭を抱えて苦悩している訳ではない。
彼はただ、あくまで漠然とこの先どうしようかなと考えているだけである。
『今日の夜ご飯どうしよっかな』と献立を適当に考える主婦のようなものだ。


だがそんな事を考えている時点で、既に以前のフィアンマでは無くなってきている。
少なくとも『神の右席』の時分はこんな事を考える人間ではなかった。
それは考える価値が無いと切り離していたからなのか、考える暇が無かったからか。


(……暇か)


サーシャは魂と化した己の現状を暇だと言っていた。確かに魂だけになってしまえば
やる事なんて思考か会話くらいしか無いのだから暇だと嘆くのも致し方ないだろう。
そしてようやく、フィアンマも気付いた。気付くと表現する程大げさな発見ではないが、



932 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:52:10.58dBCHJmlAo (23/28)



「俺様も暇だな。 毎日が」


八時間という、想定より短かったものの長時間の精密作業で疲れ果て、しかし充実した
時間である事を心の奥底で自覚しているからこそ気付けたのか。久しぶりにあんなに
『働いて』、終わって、疲れて、やる事が無くなって。暇―――だった、彼も。


『天使同盟』の新参者。彼以外の五人はかつて明確な目標を掲げて辛く険しいながらも
充実した日々を送ったが、フィアンマが加盟した時には事態は全て終了していた。
『天使同盟』にとって『第一九学区事件』後の世界は全てがオマケ。いや、フィアンマ
以外の五人はその後も何らかの目標を持って生きている。

しかしフィアンマにはそれが無い。細かく見直せば彼にも目標のようなものはあるが、
このサプライズ計画だってもうすぐ終わるし、上条当麻が救った後の世界が見たいと言っても
具体的にはどんな世界なのか、見るだけでは人間として充実した日々を送る事は出来ない。
ミーシャ=クロイツェフ召喚の責任も―――正直あって無いようなものだと彼は思う。
本来、用が済んだら元の位相へ還す予定の天使を『天使同盟』が引っ張り回しているだけだ。



933 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:54:13.16dBCHJmlAo (24/28)





「……くく、俺様は。 『天使同盟』の『蛇足』を象徴する存在だな」




『天使同盟(アライアンス)』の『蛇足』を歩み続けているのは、自分ただ一人と彼は思った。


「なんたる茶番。 これが何もかもを失った俺様の姿、か」


と、彼がボーッと考えた故に算出された結論に至ったのとほぼ同じ時。



934 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:55:09.72dBCHJmlAo (25/28)



『……ん? フィアンマ』

「ようやく帰還なされたか。 ミーシャ=クロイツェフ」

「問一。 早速で申し訳ないが、この街で一体何が起きているのか」


アパートの敷地内にその姿はあった。特殊すぎる作りの衣服に赤い外套。
外見はサーシャ=クロイツェフの―――ミーシャ=クロイツェフ。
ずっと空を見上げていたフィアンマが姿を目撃出来なかったという事は、
恐らく『外』のどこかで降りて学園都市に侵入し、徒歩でここまで来たのだろう。


『わ、私からも第三の質問なのですが、あの、ワシリーサと湯浴みをしたというのは……?』



935 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 09:56:16.90dBCHJmlAo (26/28)


「待て。 そういうくだらん話は全て後回しにしろ」

『く、くだらん!? 第四の私見ですがこれには私の体の貞操がかかっているのですよ!?』


フィアンマはミーシャが来るまで考えていた事と結論を全て破棄した。
都合よく記憶や思考を忘失させる機能など彼にはないが、そのつもりで破棄した。


とりあえずまずはやるべき事を、出来る事をやり遂げる。
フィアンマは呆れたように薄い笑みを浮かべて、ミーシャに告げた。


「さてミーシャ=クロイツェフ。 事情を全て話すのはこの世界を直してからだ」



936 ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 10:00:22.20dBCHJmlAo (27/28)


今回はここまでです。

蛇足からの新キャラ、フィアンマ。今回は彼の話を少し深く書いてみました。
明確な目標がないんじゃないかと疑う彼には、しかしまだやる事が沢山あります。

……いえ、そんな事はともかく、前半です。エイワスパート。
これ正直もうアレイスターファンに殺されるんじゃないかと
怯えながら投下しました。アレイスターを少しギャグに走らせすぎてますよね……すみません。

ですが蛇足でのアレイスターのような扱いを、本編では垣根帝督が受けていました。
そして彼は最終章で活躍しましたが、つまり蛇足最終章ではアレイスターが……というつもりです。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!





937次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI2012/06/21(木) 10:01:09.62dBCHJmlAo (28/28)




                          【次回予告】



「オマエら俺を差し置いて何の話をしてやがった!?」
『天使同盟(アライアンス)』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「―――だから、テメェの方からいきなり抱きついてきたんだっつってんだろ!!
 おい妹ちゃん、お前も見てただろ? 俺がルチアやこのクソ女に襲われてたのを」
『天使同盟』の構成員・学園都市第二位の超能力者『未元物質(ダークマター)』――――――垣根帝督




「即ち、この肉体をどう扱おうが私の勝手と解釈する事が可能である」
『天使同盟』の構成員・サーシャの肉体を乗っ取った……?『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ




「うわーん騙されました! 天使に体を乗っ取られたー!」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ(ビン詰め)






938VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/21(木) 10:08:35.43VZKuAL3P0 (1/1)

>>1乙
アレイスタークソワロタ
まさかのアレイスター大活躍ですか!?
瓶詰めサーシャちゃんを一つ貰おうか



939VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/06/21(木) 13:06:58.205jSgi1mF0 (1/1)

乙!
アレイスターがペットみたいになっとるww
>>938じゃあ俺はミーシャちゃんで。


940VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/21(木) 13:45:28.64zMpkA5ZDO (1/1)

>>939なら俺はアレイスター貰うわ



941VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/06/21(木) 14:06:51.45hSnSiCcf0 (1/1)

ファーwwwwブルスコwwwwファーwwwwwwモルスァwwwwwwwwww
しかし腐っても☆は☆だな、前代未聞の新魔術を反射的に半分防ぐとは

あ、俺は忘れられてる小萌先生貰っときますね


942VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/21(木) 14:17:54.53kqMkDaWIO (1/1)


ファービーとか懐かしい


943VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/21(木) 15:28:23.25djrqsjDIO (1/1)

ちなみに、麦野のフラグがわかるところは、6スレ目の>>715
「ん? ……コーヒー奢ってもらった方♪」
だね
麦野はツンデレだし


944VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/06/21(木) 18:13:40.76TUvHM3Yl0 (1/1)

じゃあ俺はバードウェイ姉妹をもrくぁwせdrftgyふじこlp;@:「」


945VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/21(木) 18:31:15.96UHGn6SgIO (1/1)

天使同盟と一方崩しを並行してやってくれでもいいんだよ??チラッチラッ


946VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/21(木) 19:51:28.02OSY+cmQDO (1/1)

じゃあ俺はみんながガチで忘れてそうなレッサーちゃんを頂くよ



947VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)2012/06/21(木) 20:13:00.14uwJ4031B0 (1/1)

乙!
アレイスターの活躍に超期待w


948VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/06/21(木) 23:40:37.26V/BGetKK0 (1/1)

アレイスタァwwwwwwwwwおまえはwwwww本当にwwww愉快だなぁwwwww
俺もエイワスにめっ、てされたい乙


949VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/21(木) 23:57:22.840CU5bIsIO (1/1)

めっ


950VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/22(金) 17:57:53.285/QdPf/K0 (1/1)

腹筋が死んだ


951VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国四国) [sage] 2012/06/22(金) 22:43:50.713BUsyfoZ0 (1/1)

では俺様はファミレスの店員さんをもらおうか


952VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/22(金) 22:48:40.50W1xFcgUSO (1/1)

sageの仕方間違ってますよ


953 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:19:57.65p+QH+/XAo (1/30)


こんにちわ、今日も更新を開始したいと思います。
いつも沢山の支援をありがとうございます。本当に。

今回で一端覧祭六日目の『御使堕し(改)』パートは終わりです。
やんわりとですが、ここから話の雰囲気も変わっていきます。

そしてやってきてしまった次スレの季節……ホントどうしてこうなった。

それでは、よろしくお願いします!



954 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:20:27.64p+QH+/XAo (2/30)



――――――――――――――――――――――


『壊れかけのRadio』という曲がこの世にはあるが、実際に故障寸前のラジオが
あって、そのラジオを延々と聞かされるという状況が生じたとしたら、きっと
こんな感じなのだろうなと一方通行は壊れかけのラジオを延々と聞かされる中思った。


「iwjpwpz、fnxp……npzc」

「あァー、はいはい」


厳密に言えば彼はラジオを聞いているのではなく、人間の声を聞いていた。
聞いて、適当にそれらしい相槌をうつ、を繰り返していた。



955 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:21:21.50p+QH+/XAo (3/30)


ただし、喋る言葉全てにノイズがまみれた声を出すそれを人間と称していいのか
どうかは甚だ疑問ではあるが。


「yrdwfdfjgmwymjb」

「srdawknp」

「はいはい」


一方通行は風紀委員第四九支部がある学校に連れて行かれていた。
第七学区で怪物ガールズの熾烈な喧嘩を前にどうしようかと立ち尽くしているところに
四九支部所属の木原那由他が現れ、彼女は一方通行をこの教室へ招いたのだ。
以前、女子中学生誘拐事件で彼はここを訪れている。



956 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:21:55.62p+QH+/XAo (4/30)


まず、何故那由他が一方通行をここへ連れてきたのかが彼には分からなかった。
連れてきた理由を那由他は恐らく口にしているのだろうが、何せ言語がミーシャと
同じ言語であるため(しかもたまに聴き取れるミーシャと違って那由他――街の住人
達の言語は一切理解する事が出来ない)、要領を得ないどころの話ではない。
あの戦闘に一方通行が巻き込まれないよう避難させてくれたのかもしれないが、
それを確かめる術もない。質問して頷いてくれれば確かめる事も可能だが、
というか実際それを促すために何度も質問形式の言葉を口にしているが、那由他が
なかなか頷くだけという返事をしてくれない。わざとやってんのかと彼は思った。

そして次に、何故那由他が所属するこの四九支部の教室にオルソラ=アクィナスと
アンジェレネがいるのかが分からなかった。ただ何となく一方通行は予想がついている。
オルソラ達が学園都市へ遊びに来て間もない頃に出会った風紀委員。金髪のツインテール
だとシスターの二人は言っていた。恐らくは木原那由他の事であろう。その時に軽く
那由他と交流をしたシスター二人は今日、ないしは昨日、再び出会い交流を深め、
まぁ何やかんやあって友人としてここにお呼ばれした……という程度の予想だ。



957 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:22:53.01p+QH+/XAo (5/30)


当然、オルソラもアンジェレネも―――『例外なく』ミーシャ化している。変異している。
もっともこの街においては変異、変わって異なるのは一方通行の方なのだろうが。


「siiktdyxf」

「うンうン」


そしてこれが最も重要かつ根本であり、元凶といっても過言ではないのだが―――
結局一方通行は何故この街の人間全てがミーシャと化しているのか、分からなかった。
訳の分からない事はこちらの都合も考えず訳の分からないタイミングで発生する事が
ままあるが、それにしたってピンからキリまで訳が分からなかった。最初、この現象を
目の当たりにしてひどく取り乱していた一方通行も、この教室に来てからは落ち着きを
取り戻していたが、それは冷静になったのではなく思考を放棄した事による落ち着きであった。



958 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:23:49.52p+QH+/XAo (6/30)


那由他とオルソラ、アンジェレネは(これもまた恐らくとしか言いようがないが)仲睦まじく
談笑し、たまに一方通行に話を振ってきて(いるのだと思う)、彼は適当に当たり障りのない
返事をする。正午を回ってお昼ご飯をごちそうになり、そしてまた談笑。

それを繰り返している内に、時刻は午後の三時を迎えようとしていた。

同時に一方通行のメンタルもまた、限界を迎えようとしていた。


(誰でもイイ……つかこの事態を起こしやがった張本人、もォそいつでイイ……。
 もォ怒りゃしねェから、そいつでも誰でもイイから、この悪夢を終わらせろ……)


悪夢。彼以外の人間にとっては何の変哲もない、一端覧祭の六日目という現実が、
一方通行にとっては悪夢でしかない。



959 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:24:43.88p+QH+/XAo (7/30)


ミーシャ一人と会話を交わすだけでも実は結構精神的に疲労するのに、それが今は
三人だ。三人相手だ。一方通行は死んだ魚の目をしていた。この場面を漫画にしたら
彼の瞳のハイライトは消えているだろう。彼が発する返事も、もはや機械的なものになっていた。


おまけに今日まで親交度を深めた女性陣は警備員にしょっぴかれ、
もうこうなったらひたすら心配する他ない打ち止めや番外個体の安否も分からず
(黄泉川愛穂は手遅れだった。芳川桔梗も恐らく同じだろう)、肝心要のミーシャの
居場所も分からず、捜す気にもなれない。もう暗部の事も考える気力を削がれている。
このまま塵になって消えてしまいそうでさえあった。


(誰か……)



960 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:25:30.66p+QH+/XAo (8/30)


誰かこの世界―――にまで及んでいるのか定かではないが、せめて学園都市だけでも
正常に戻してくれ、と。この事態、現象はやはり間違いなのである、と。誰でもいいから
証明してくれと。


―――そう、半ば呪文のように心の中で願い続けていた時だった。




ぱっ、と。教室の窓に強烈な光が差し込んできたのだ。






961 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:26:09.84p+QH+/XAo (9/30)



「!」


本当の意味での戦争を体験した事のある人間なら、空からの爆撃かと思ったかもしれない。
本当の意味での戦争を体験した事のある一方通行は、空からの爆撃かと思った。


だがその考えはすぐに彼の中で否定される。一方通行はこの街全体を覆い尽くすような
光を一度浴びていた。それは、


(このミーシャ化現象が―――起きる前に!)


あの時の光も今のような、目が眩む光量だが攻撃性は感じられず、
むしろ"どっかで感じたような"暖かさで溢れていた。



962 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:26:48.23p+QH+/XAo (10/30)



(この光が現象の原因だとすると、いよいよ俺もか?)


自分も、今この場に居る那由他やオルソラ、アンジェレネ。そして街中の人間のように
"ああなって"しまうのかと予感した一方通行は、しかしそれに対して恐怖や絶望感は
沸いてこず、自然と受け入れられるような気が―――するわけなかった。ふざけんなだった。
自分もミーシャのようになるのかと思うと、そしてそれを自覚出来ぬまま一生を過ごす可能性も
あるのかと思うと、ミーシャには失礼だが自律性を失いかねないと彼は焦燥した。


光が収まる。時間にして一秒にも満たなかっただろうその光が消え、いつもの街の風景が
窓から窺えるようになる。



963 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:27:21.75p+QH+/XAo (11/30)





「――――――ねえ、さっきから尋ねてるんだけど、聞いてるのかな。 第一位のお兄さん?」

「ッ!?」



『突然』声をかけられ、一方通行は肩を弾ませた。
見ると、那由他が若干不機嫌そうな顔で一方通行の方をジッと見つめてきていた。


不機嫌そうな顔で―――不機嫌そうな『表情』で。



964 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:28:20.56p+QH+/XAo (12/30)



不機嫌そうな―――『声色』で。


「あ、お、オマエ―――顔が!?」

「……私の顔が、何? 何か付いてる?」


顔が、木原那由他の顔が、歳相応の無垢……とはとても言えないが、歳相応の少女の、
整った顔立ちに変化していた。否、戻っていた。


「お、オルソラも……アンジェレネも、顔が……」

「え……? わ、私の顔がどうかしましたか……?」



965 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:29:23.92p+QH+/XAo (13/30)


「先程から一方通行さんはお顔を気にしていらっしゃるようでございますね」

「ほら、私の言った通りでしょ? 第一位のお兄さんは顔で女を選ぶタイプだって」

「オマエら俺を差し置いて何の話をしてやがった!?」


一方通行はツッコんだ。ツッコミを入れる事が出来た。即ち―――会話が成立した。


顔だけじゃない。声も、元通りだった。女の子三人の華やかな声色が一方通行の鼓膜をくすぐる。
そして彼女たちの会話はあのノイズトークから引き続き、何ら変わる事なく行われている事が分かった。
つまりあの光を経て現象が改善された事実を観測したのは、少なくともこの場においては自分ただ一人
なのだと一方通行は理解に至る。



966 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:30:01.27p+QH+/XAo (14/30)



「差し置いてって、あなたも私達の会話に加わっていたでしょ、第一位のお兄さん。
 まあなぜか適当に生返事を返すだけの、会話をするつもりもないですって感じだったけど」


ということは彼女たちに先の現象について尋ねても、一方通行が望む答えは返ってこないという事だ。
何故なら彼女たちにとっては現象なんてものは起きてなく、いつも通りの日常が流れていただけなのだから。
現象の観測が出来たのは果たして自分だけなのか。一方通行の頭にまた新たな懸念が生み出されていったが、


「おい、那由他」

「……その、那由他呼ばわりについてなんだけどさ、第一位のお兄さん。
 さっきも私を下の名前で呼んだけど、どういうつもりなのかな?
 普通に苗字か、それが嫌なら――嫌だろうから、フルネームで呼んでく――」



967 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:30:34.93p+QH+/XAo (15/30)



「那由他」

「な、なに……ですか」


下の名前での呼称を貫く一方通行にやや気圧されたのか、那由他は注意深く観察しないと
確認できない程度に頬を染めながら、少し噛みつつ返事をした。
一方通行は名前を呼び、そして何を聞こうか散々迷ったあげく、


「オマエの風紀委員の権限使って、街の監視カメラの映像をこっちに寄越してくれ」


と頼んだ。



968 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:31:16.78p+QH+/XAo (16/30)



――――――――――――――――――――――


「―――だから、テメェの方からいきなり抱きついてきたんだっつってんだろ!!
 おい妹ちゃん、お前も見てただろ? 俺がルチアやこのクソ女に襲われてたのを」

「う、う~ん……」

「私の方から? 垣根帝督に? あり得ません、あってはならないのです!!
 適当な事を言って逃れようとしないでください! 寝ている私の体を起こして
 自分の体に密着させたとか、そういうふしだらな真似をしたに決まっています!」

「都合良く記憶が改竄されすぎじゃねえ!?」

「んー、でもまぁ、確かに腑に落ちない点はあるかも」



969 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:32:00.02p+QH+/XAo (17/30)



ドレスの少女は人差し指を唇に当てながら、そんな事を言った。


「自分の意志であなたに抱きつくなんて事はないにしても……、んん。
 アレじゃない? ほら、夢でも見てて、無意識に彼に抱きついたとか」

「む、無意識下においてもこの私がこの男に抱きつくなどあり得ません。
 それはイコール、私の精神構造に何らかの異常が発生している事に……」

「ちょっと……お前、ルチア……それは言い過ぎじゃねえ……?」

「あ、すみません……」


軽く自殺したくなる程のルチアの言葉に垣根帝督はへこみにへこんだ。



970 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:32:54.13p+QH+/XAo (18/30)



イギリスにも発生していたミーシャ化現象は、学園都市と同じく解消されていた。
一方通行が浴びた激しい光を垣根もまた目撃し、気がついたら抱きついてきていた
ルチアとドレスの少女の顔や声は元通りになっており、そして垣根はルチアから
渾身のビンタを食らった。おかげで彼の頬には綺麗な紅葉が浮かび上がっている。


イギリスは現在、朝の七時頃。『明け色の陽射し』のアジトを兼ねるアパートの一室。
この部屋には垣根帝督、ドレスの少女、ルチア、そしてパトリシア=バードウェイが
在室しているが、朝までぐっすり眠れたのは女性陣の三名のみであった。
垣根は結局朝まで少女とルチアに抱き枕の如く捕縛され、寝るに寝られなかった。


「ちくしょう……眠い。 テメェらのせいだぞ」

「知りませんよ。 あぁ、もう……どうしてこのような事に……」



971 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:34:05.60p+QH+/XAo (19/30)


「幸せ者ね垣根帝督。 女の子に抱きつかれて寝不足だなんて」

「と、とりあえず朝ご飯にしましょう! ステイルさん達やお姉さん、
 まだ帰ってきてないようですし……先に済ませてしまいましょう」


特に垣根帝督とルチアは納得出来なかったようだが、これ以上口論しても
埒があかないと判断したのか、渋々布団を片付け始めた。

片付けついでに、垣根は三人にこんな質問をしてみる。


「お前らよ、さっき外ですげえ光ったヤツ、あれ見た?」



972 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:35:04.17p+QH+/XAo (20/30)



「?」

「?」

「?」

「だよな」


やはりあの光を目撃したのは垣根帝督ただ一人らしい。

結局、深夜から朝にかけて発生したあの恐ろしい現象は何だったのか。
垣根は夢だと思おうともしたが、現象が発生してから一睡もしていないのに
夢もクソもない事に気付き、ずしりと重い瞼をこすりながら布団の片付けを続行した。



973 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:36:00.91p+QH+/XAo (21/30)



――――――――――――――――――――――


こうして学園都市―――否。一方通行、垣根帝督、フィアンマを襲った
人類ミーシャ=クロイツェフ現象は無事に幕を閉じた。フィアンマは
『御使堕し(改)』の完全終了を確認すると、徹夜が続いた事もあってか、
全身の力を抜いてその場にへたり込んだ。


「終わったか……」

「問一。 私がこの世界へ再び降りた時、この街に発生した現象に
 ついては貴方から聞いたが、しかし何故解消する必要があったのか」



974 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:36:40.70p+QH+/XAo (22/30)


「お前にとっては居心地が良い世界だったかもしれんがな、その他にとっては地獄
 でしかなかったんだよ。 その他には俺様と上条当麻、そして一方通行くらいしか
 該当せんだろうが。 ……ああ、それと垣根帝督も恐らくは地獄を見ているはずだ」

『何だかよく分かりませんが、これでフィアンマが抱えていた問題は
 全て解決したのですね? 労うつもりはないですが、お疲れ様でした』


サーシャ=クロイツェフの魂が収められたビンは、現在ミーシャが持っている。
ミーシャと言っても外見はサーシャ=クロイツェフで、しかしそのサーシャは
ビンの中で魂だけと化しているのだからややこしい事この上ない。


『しかし、第一の私見ですが……自分の肉体をこうして自分で見るというのは
 かなりの違和感がありますね。 鏡で自分の姿を見るには見ますが、ですが
 他者の視点だと私はこう映っていると思うと……ううむ』



975 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:37:37.39p+QH+/XAo (23/30)


「問二。 思うと、何か」

『……うん。 あり得ませんよねこの服。 ミーシャ、そこで第一の質問なのですが
 これからこの街のデパートで衣服を購入しませんか? 補足説明しますと、別に
 購入しなくても、誰かから譲り受けるという手段もアリですが……とにかく着替えましょう』

「私見一。 衣服を着替える必要性を私は感じない」

『第二の質問ですが、なして!?』

「解答一。 サーシャ=クロイツェフはこの衣服が一番適合していると思われる」

『第一の私見ですが、そのサーシャ=クロイツェフである私が着替えましょうと言っているのです!』



976 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:38:37.85p+QH+/XAo (24/30)


「解答ニ。 そのサーシャ=クロイツェフの肉体は、今は私の管理下である。
 即ち、この肉体をどう扱おうが私の勝手と解釈する事が可能である」

『うわーん騙されました! 天使に体を乗っ取られたー!』
 
「……お前ら二人が会話すると本当、面倒な台詞回しの応酬になるな……」


ぎゃあぎゃあと抗議するサーシャに対し、ミーシャはビンを思い切り振りまくる事で
黙らせた。魂というそれが具体的には何なのか、科学サイドでも魔術サイドでも明らかには
なっていないが、一般人に言わせても魂とはデリケートなものであると考えるだろう。
そんな魂をビン詰めにして振り回すなど正気の沙汰ではないのだが―――――



977 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:39:17.02p+QH+/XAo (25/30)





「フィアンマ!」




魂の扱いについて議論する暇は、フィアンマの名を叫んだ少年が与えてくれないようだった。
学園都市第一位、一方通行は杖をがっがっと地面に叩きつけながら木造二階建てアパートの
敷地内に入ってきた。


「誰かと思えば、我らが『天使同盟』のリーダー様か。 久しぶりだな」

「フィアンマ、オマエさっきの現象…………。 ………………」



978 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:40:32.25p+QH+/XAo (26/30)


「ん? どうした一方通行」

「なァ、フィアンマよ。 この光景から俺はどォいう解釈をすればイイと思う」


一方通行が言う光景とは、ド派手に半壊したアパート、その前でぐったりと座り込むフィアンマ。
そして何故か学園都市にいる"サーシャ=クロイツェフ"と、彼女が持つ綺麗な光が収まったビン。
ここから正しく現状を把握できる者など、せいぜいエイワスくらいのものだろう。


「貴方」

「あ?」


と、不意に"サーシャ"が一方通行に飛びついた。飛びついて、抱きついた。
その際サーシャの魂が入ったビンは放り投げられ、フィアンマが危うくキャッチする。



979 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:42:05.24p+QH+/XAo (27/30)



「貴方。 先の誘拐事件は互いにお疲れ様でしたと労うべきだと私は考える」

「は? 誘拐事件? 何でオマエがその事を……ていうか、監視カメラで
 第七学区"漁ってたら"サーシャが居たモンで驚かされ…………、おい」

「?」

「オマエ、ガブリエルだな?」


恐るべき洞察力。一方通行は一分もしない内に『サーシャ=クロイツェフ(in ミーシャ)』を
看破してみせた。これには然しものフィアンマも驚愕を禁じ得ない。事情を知っているなら
ともかく、サーシャを知っている者がサーシャを見たら、誰だってサーシャだと思うだろう。

もっとも、彼は知る由もないがロシアにてワシリーサがサーシャがミーシャであることを見破っている。



980 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:42:48.75p+QH+/XAo (28/30)



「解答三。 その通り、私はミーシャ=クロイツェフ。 流石」

「その通りじゃねェよクソ天使、サーシャだったら俺にこンな事して
 こねェだろォが。 つか出合い頭に俺に抱きついてくるバカなンざ
 クソガキとガブリエルくれェしかいねェしな。 で、何だこれは」

「問三。 何だこれは、という言葉の意味するところは」

「なァンでサーシャの中にガブリエルが入ってるンですかってこった」

「経緯を説明するためには、まずこの学園都市で起こっていた現象に
 ついても、ついでに説明せねばならんのだろうな。 面倒だが」

「! オマエ、フィアンマもあの現象を観測出来てたのかよ!?」

「そういう事だ。 少しは説明する手間も省けるだろう」


フィアンマは『御使堕し(改)』発動から終了までの経緯を一方通行に説明した。



981 ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:47:53.18p+QH+/XAo (29/30)


今回の投下は以上となります。

いかがだったでしょうか。一端覧祭六日目前半部、『御使堕し(改)』。
きちんとギャグで通せていたでしょうか。楽しんでいただけていたら
幸いなのですが……。

最初に触れましたが、ここからゆっくりと雰囲気が変わっていきます。
軽く今後の展開を述べますと、再び御坂美琴が登場したり、あの夫婦が登場したり……他にも色々。
お楽しみに。

そして次スレですが、もう今すぐ立てた方がいいのかな……。
ですが、それならもう少し待ってもらえるとありがたいです。
頃合いを見てちゃんと立てますので。

次回更新は三日以内。

それでは、今日もありがとうございました!



982次回予告はここまでです。  ◆3dKAx7itpI2012/06/24(日) 15:48:45.52p+QH+/XAo (30/30)




                          【次回予告】



「もう遅い。 貴方へのサプライズ贈呈はカウントダウンを始めている」
『天使同盟(アライアンス)』の構成員・サーシャの肉体に宿った『神の力(ガブリエル)』――――――ミーシャ=クロイツェフ




「なンでサプライズなのにそンな死の宣告みてェな言い方になるンだ!?」
『天使同盟』のリーダー・学園都市最強の超能力者(レベル5)―――――― 一方通行(アクセラレータ)




「だ、男性の胸元に密着し続けるというのもその……何やらアレですね」
ロシア成教『殲滅白書』の魔術師――――――サーシャ=クロイツェフ(ビン詰め)






983VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2012/06/24(日) 15:54:35.12vGed3JyAO (1/1)

乙!

ミーシャ×サーシャワロタwwww


984VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/24(日) 15:54:50.417rvm/XjXo (1/1)

大津


985VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道) 2012/06/24(日) 16:40:52.16P8KHHJNZ0 (1/1)

乙。
やっと平和な世界にもどった・・・!(サーシャ以外)