563VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/12(土) 23:51:58.57k8xzF/d9o (8/17)

有里「今回、確かに月はあった。テレビの中にね。そして、数多のシャドウ……」

直斗「そこなんです。月はテレビの中にあったと言います。ですが、その時テレビの外にも月はあるはずでは?」

有里「……まぁ、確かに。雨の日しか映らないから気にして無かったけど、おかしな話だね」

直斗「それとも、雨の日だけテレビの中に月が入りこむと?それよりは、こう考えた方が自然ではないでしょうか」

有里「テレビの中の月と、普段見ている月は別物である」

直斗「そうです。そうなると、もう一つ辻褄が合わない事が出てきます。有里さんの存在です」

有里「僕の?」

直斗「ええ。以前聞いた話では、その月を人の手が届かないように封印し、その際に有里さんはこの時間に……という話でしたね?」

有里「そうだよ」

直斗「……すみませんが、調べさせてもらいました。有里さん、三年前に死亡扱いになってますよね?そして、遺体は火葬されている」

有里「……」

直斗「その封印、もしかすると……文字通りの、命がけだったんじゃないですか?」

有里「……その通り。流石だね」

直斗「心配しなくても、他の人に言うつもりはありません……無用に気を遣わせるだけでしょうから」

有里「助かるよ。それで、僕がここにいる事に何の疑問が?」

直斗「はい。それを調べた時、有里さんはその命を使い封印を果たしたものと仮定しました。まず間違いありませんね?」

有里「その通り。命というより、魂を使ったというべきかもしれないね」

直斗「その言葉で、尚の事違和感が増しました。では、今ここにいる有里さんの魂は?」

有里「だから、封印が何らかの原因で解けて……」

直斗「肉体に関しては僕も良くわからないのですが、開放された魂が宿った、そういうことですね?」

有里「そうだろうね。だから、月がまた近くに……?」

直斗「気付きましたか。僕自身、突飛すぎて信じられなかったんですが……まぁ、ペルソナやシャドウの事を考えると有り得ない話ではないかと思いまして」


564VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/12(土) 23:52:24.18k8xzF/d9o (9/17)

>なるほど、確かにそうだ。
>むしろ、何故今まで気付かなかったのだろう。

直斗「つまり、月は―――」

>僕がここにいるということはそういう事なんだ。
>で、あるなら。
>あそこにあったアレは一体……。

>……。

直斗「……結局、今の事態を解決する案には至りませんでしたね」

有里「そうだね……まぁ、焦っても仕方ない。しばらくはゆっくりさせてもらうとしようよ」

直斗「そうですね……」

>同意しつつも、未だ何かを悩んでいるような直斗。
>前から思っていたが……。

有里「直斗、睫長いね」

直斗「はぇ?何ですか、急に」

有里「綺麗な顔してるなって思って。あ、そういえば何でいつも男装なの?」

直斗「え、あ、その……趣味?です」

有里「そうなんだ。いつか普通に女物着てるのも見てみたいな」

直斗「い、嫌ですよ恥ずかしい」

有里「あれ、駄目か……まぁ、その内見せてよ」

直斗「まぁ……その内には」

>どうやら照れているだけのようだ。
>是非見たいのでこれからもちょくちょくつついてみよう。

直斗「でも、意外でした」

有里「何が?」

直斗「いえ、有里さんは……こういった事態になったら、一番に手を離しそうに思っていたので」

>申し訳無さそうにそんな事を言われた。

有里「諦めがよさそうって事かな?」

直斗「というより、あまり興味が無いのかなと。無理なら無理で……どうでもいい、とでも言いそうだったので」

有里「……やめたんだ、そういうのは」

直斗「そうですか。……そういう姿勢には、好感が持てます」

有里「それはどうも。なら今度女物を……」

直斗「それとこれとは話が別です!……そろそろ、帰りますね。ではまた」

>ぺこりと一礼して立ち上がった直斗にひらひら手を振った。
>ちょっと、見直された気がする。
>『No.16 塔 白鐘直斗』のランクが3になった。


565VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/12(土) 23:54:09.48k8xzF/d9o (10/17)

>……。

鳴上「やっぱり、あっちでもテレビには入れないようです」

美鶴「そうか……我々に出来る事はもう無い、と」

岳羽「悩んでても仕方ないかも知れないですね……」

順平「しばらく様子見だろ、しょーもねー。んじゃ、俺用事あるんで。しっつれいしまーす」

美鶴「そうだな。解散にしよう。……ただ、油断が許される状況ではない、それを忘れないように」

>……何も出来ない。
>今までそれなりに気合いが入っていた分、抜けた時の反動も大きいのだろう。
>油断はするな、と言った桐条さん自身も、少し抜けているのが見て取れた。

鳴上「どうしたもんかな……」

美奈子「いいんじゃない?いい機会だし、普通に学校生活送れば。案外楽しいかもよ」

鳴上「そりゃ、そうかもしれないけど……途中で放り出すみたいで気分が悪いんだ」

美奈子「何も出来ないんだから仕方ないじゃん。それに、君みたいに思ってる人ばっかりじゃないみたいよ」

>美奈子が指差す先には山岸さんが座っている。
>……心なしか、安堵しているようにも見える。

鳴上「……?」

美奈子「ま、頑張ってねー。私はもうちょっと寝る……眠くてさ」

>美奈子はひらひらと手を振りながら去っていった。
>頑張れと言われても……。

鳴上「あの……」

風花「あ、はい。どうかした?」

鳴上「いえ、どうもしないんですけど。山岸さんこそ、どうかしたんですか?」

風花「私?何で?」

鳴上「いや、何ていうか……複雑そうな顔してたので」

風花「あはは、お見通しか」

>山岸さんは眉根を寄せて笑っている。

風花「……今日、時間あるかな?」

鳴上「あ、はい。ありますけど」

風花「良かったら、ちょっと付き合って欲しいの。話したい事があって」

鳴上「……?はい、じゃあ……」

>山岸さんと話をする事になった。
>……どうしたのだろうか。


566VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/12(土) 23:54:53.39k8xzF/d9o (11/17)



【シャガール】


>……。
>山岸さんはずっとコーヒーを飲んでいる。
>話があると言われた手前、こちらから話を振るのも気が引けて、俺も黙っている。
>気まずい沈黙が、続いている。

風花「……ごめんね、何か……」

鳴上「え?いや……別に……あの、話って……?」

風花「うん。気付いてると思うけど、私……最近調子悪いんだよ、ね」

鳴上「まぁ、何となくは……その事ですか?」

風花「うん……」

>それだけ言ってまた黙ってしまった。
>確かに、最近どうも上手くいっていないようだが、それと俺に何か関係があるのだろうか……?

鳴上「あの……それで、俺に出来る事とか」

風花「あ、うん……えっとね。体の調子が悪いってわけじゃなくて、心の……気持ちの問題なんだと思う」

鳴上「ペルソナは心の力ですからね。何か悩み事ですか?」

風花「ちょっと、ね……鳴上君って、誰か女の人と付き合った事ってある?」

鳴上「は?」

>予想外の質問に驚いて、気の抜けた答え方をしてしまった。
>真面目な話なのだから、真面目に聞かないと。

鳴上「いや、無いです。それがどうかしましたか?」

風花「ええ!?そうなの?」

鳴上「そんなに驚かなくても……」

風花「ご、ごめん。でも、意外だったから……うん、そっか。うん……」

>今度は何かに納得するように一人でうなずいている。
>俺の交際経験が何の関係があるんだろうか……?

鳴上「ええと、それがどうかしたんですか?」

風花「じゃあ、一般的な見解で答えて欲しいんだけど、いい?」

鳴上「はい。どうぞ」

>大きく深呼吸している……。


567VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/12(土) 23:55:24.39k8xzF/d9o (12/17)

風花「……二人の男の人を好きになって、どっちか片方を選べなくて、それでオタオタしてる女の子って、どうなのかな」

鳴上「二股って事ですか?」

風花「違うの、そうじゃなくて……どっちと付き合ってるとかじゃなくて、ただ好きなだけ」

鳴上「ああ、そういう……良いんじゃないですか?別に」

風花「そうかな……もっと、詳しく言うとね。一人は、以前好きだった人。もう会えなくなっちゃって、忘れようって思って。でも、また帰ってきちゃって」

鳴上「……?」

風花「その時には、もう別に好きな人がいて。でも、帰ってきたら、やっぱり好きだなって思って……それで、どっちにしよう、なんて悩んでる」

>山岸さんは視線を落として黙り込んだ。
>……何となく、覚えのある話だ。

鳴上「でも、悩むだけなら自由だと思いますけど」

風花「自分勝手じゃない?どっちにも申し訳ないっていうか」

鳴上「……まぁ、一般的には、酷い女って言うのかもしれませんね」

風花「だよ、ね……」

鳴上「いや、飽くまで一般的にですよ。ていうか、それでどっちもにモーションかけてるとか、そういう事はあるんですか?」

風花「そういうわけじゃ、無いんだけど。……納得いかなくて。私の中で」

鳴上「だったら一般的にも何とも言わないと思いますけど……それ、俺に何か出来るんですかね?」


568VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/12(土) 23:55:55.36k8xzF/d9o (13/17)

>ふと口をついて出た言葉だった。
>しまった、と思った時にはもう遅い。
>山岸さんは打ちのめされたような表情をしている。

鳴上「あ、その……」

風花「そう、だよね。ごめんなさい。あの、お金私が出しておくから。ゆっくり飲んでから帰っていいからね」

>自分が飲み終えていないのに、慌てたようにして席を立った。

鳴上「いや、あの……!」

>引き止める言葉が上手く出なくて、そのまま立ち去られてしまう。

鳴上「くそっ……馬鹿か、俺は」

美奈子「へっただねー、悠は」

>席の背もたれごしに声がした。

鳴上「美奈子、いつから……」

美奈子「最初から。内緒で見に来てたんだけど……どうすんのよ」

鳴上「どうするったって……」

美奈子「一回拗れたら修復大変なんだから。経験者はかく語るってね」

鳴上「俺、謝って……」

美奈子「もー、どんだけ鈍いのよ。今行ったって駄目だって。……そうねー、しばらく避けられると思うから、その後かな?」

鳴上「……でも」

美奈子「いいから、言うとおりにしときなって。女の子には心の準備が必要なのよん。とりあえず、コーヒー代悠がもってね」

鳴上「あ、ちょ、おい!」

>美奈子は伝票を渡すと帰っていった。

鳴上「どうすりゃいいんだ……」

>山岸さんに酷い事を言ってしまった。
>……ちゃんと、謝ろう。
>『No.02 女教皇 山岸風花』のコミュがリバースになってしまった。


569VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/12(土) 23:57:06.26k8xzF/d9o (14/17)



【夜 堂島宅】


菜々子「湊お兄ちゃん、まだ起きてるの?」

有里「うん、もうちょっとね」

菜々子「そっかぁ。菜々子もう寝るね」

有里「ん、おやすみ」

菜々子「おやすみ……」

>随分眠かったのだろう、菜々子はふらふらと部屋に戻った。

堂島「寝たか」

有里「みたいですね」

堂島「……どうだった、向こうは」

>僕はまだ起きている。
>堂島さんに説明する事がたくさんあるからだ。

有里「ええ、楽しかったです。……どこから、話しましょうか」

堂島「全部だ。……と、言いたい所だが、それじゃ俺の方が混乱しちまいそうだ。まず、お前は結局何なんだ?」

有里「漠然とした質問ですね。僕は……死んだ人間です。ある理由で。しかし、何の因果かおまけをもらったと」

堂島「冗談に聞こえるがな」

有里「これが、冗談じゃないんですよ」

堂島「だろうな。そんな顔じゃない。で、そのお前は何が出来る」

有里「事件の解決が出来ます」

堂島「事件ったって、俺の知る限り何も起こってないぞ」

有里「でしょうね。ですが、その内起こります。必ず、起こります。それはわかるんです」

堂島「……ちっ。とんでも無い拾いもんだ、お前は」

有里「すみません」

堂島「いや、いい。で、お前はこれからどうするんだ?」

有里「……あれ、もっと突っ込んで聞かないんですか?」


570VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/12(土) 23:57:47.45k8xzF/d9o (15/17)

堂島「なんでだ?」

有里「いや、だって……あからさまに胡散臭いじゃないですか」

堂島「……信じるさ。俺にも予感がある。なんだろうな、只事じゃない気がするんだ」

有里「刑事の勘ですか?」

堂島「そうだな。前にもこんな事があった。その時は、悠がお前のように事件解決に走ってたんだが」

有里「だから、信じてくれると」

堂島「正確にはそれもあって、だ。……まず、お前は肝心な所では嘘を吐かない。それが一番信用出来る理由だ」

有里「偉く信用されたもんですねぇ」

堂島「刑事だからな。人を見る目はある方なんだ……で、お前はどうするんだ」

有里「このまま、事件を追います」

堂島「危険は無いのか」

有里「あります」

堂島「……お前にしか、出来ないのか」

有里「出来ません」

堂島「……」

有里「……」

>堂島さんはため息のように長く煙を吐き出した。

堂島「お前がそうしたいなら、すればいい。わざわざ止める事はしない」

有里「すみません……」

堂島「ただ、俺や菜々子の事も少し考えてくれ。それだけでいい」


571VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/12(土) 23:58:17.04k8xzF/d9o (16/17)

有里「……」

堂島「そうすりゃ、無茶も出来ないだろ」

有里「酷いですね、止められるよりよっぽどキますよ」

堂島「そうだろ。わかってて言った」

有里「やられた……」

堂島「はは。ほら、もう寝ろ。時間も時間だ。菜々子と遊んで疲れただろ」

有里「はい、子供はエネルギーがあふれすぎて……じゃあ、おやすみなさい」

堂島「おう、おやすみ」

>堂島さんは、僕を信用してくれているらしい。
>……心の底から、有難い話だ。
>『No.12 刑死者 堂島遼太郎』のランクが4になった。

有里「しかし、月か……」

>夜空を照らす月を眺める。
>昼間、直斗から聞いた仮説。

直斗『封印が解けた本物の月がテレビの中にあるなら、外にある月は一体なんなんですか?』

有里「……どっちが、本物なんだろうね」

>カーテンを、閉めた。


572VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/12(土) 23:59:04.51k8xzF/d9o (17/17)

事件は終わり?

そんな事になったらこのSSが終わるじゃないか!

というわけで、本日分は終わり。
では、また後日。


573VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/13(日) 01:16:54.03extsmysSO (1/1)

乙!

更新が毎日の楽しみになってます


574VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)2012/05/13(日) 01:24:18.2428pV5PDAO (1/1)


なんかドキドキしてきた


575VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2012/05/13(日) 02:21:04.64UZSxpI400 (1/1)

おお・・・
おもしろくなってきたー!!
乙!


576VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/13(日) 22:39:36.34ppKvB5sTo (1/12)

だからなんで休日の方が忙しいんだよ!(バンッ

ここから色んな部分で物語が加速します。
というわけで本日分。


577VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/13(日) 22:40:38.45ppKvB5sTo (2/12)



【2012/5/13(日) 晴れ ポロニアンモール】


>今日はベルベットルームに行く事にした。
>事件の始まりはあそこに呼ばれ、事件が終わる時もあそこに呼ばれる。
>今回、事件が終わったと思えないのはそれが理由でもある。
>青い扉に手をかけて、ノブを回す。
>……。

イゴール「ようこそ、我がベルベットルームへ。今日は何の御用でしょう?」

鳴上「……話がしたい」

イゴール「お話ですか。良いでしょう、聞きましょうとも」

鳴上「すまないが、質問したい。影時間、マヨナカテレビ……あんたはその両方を見てきた。そうだな?」

イゴール「勿論でございます。人を眺め、人とは何か、生きるとは何かを見定めるのが私の唯一の趣味でありますから」

鳴上「あんたに聞きたい。昨日、影時間が来なかった。俺はもうテレビにも入れない。これは、事件が終わったからか?」

イゴール「慮外な事をおっしゃいます。貴方自身、わかっておられるでしょう?事件は終わってなどいない……滅びの時は、刻一刻と近付いておりますよ」

鳴上「やっぱり、そうなんだな。それで、俺に出来る事は無いか」

イゴール「それを探すのは私めにございません。貴方が探し、貴方が見つけ出すのです。そうしなければ、何の意味もない」

鳴上「……ヒントもなし、か」

イゴール「強いて言うなれば、貴方は既に鍵を握っていらっしゃる。後は扉に手を掛け、ノブを捻り、開くのみなのです。私から言える事はございません」

鳴上「今まで通りで良いって事か?」

イゴール「左様でございます。……ですが、貴方がもし事態を収束させたいのなら、急いではなりません。時を待つのです。その時がくれば、自ずと見えて来る物があるはずです」

鳴上「そうか……ありがとう、参考になった。また来ます」

イゴール「いつでもいらしてください。貴方には期待している……またのご来訪を、お待ちしております」

>……。
>結局、時を待て、という以外の情報は得られなかった。
>どうしたものだろうか……ただ待つだけというのも、気分が良くない。
>イゴールも言っていた通り、何かが起こる時が近付いているのが感覚としてある。
>変わらず日常を送りながら、徐々に沈んで行くような空気が町中を包んでいるからか……。


578VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/13(日) 22:41:08.69ppKvB5sTo (3/12)

エリザベス「お待ちください」

>ふいに、背後から声をかけられた。

鳴上「エリザベスか。どうかしたのか?」

>エリザベスはいつものように一礼する。

エリザベス「少し、世間話をと。どうやら行き詰っておいでの様子、息抜きも必要かと思いまして」

鳴上「……そうだな。いろいろ悩みが多すぎて、少し参ってる」

エリザベス「ええ、そうでしょうとも。……噂を、ご存知ですか」

>エリザベスは微笑みながら言う。
>彼女が表情を崩す事は滅多に無いが……
>変わらない微笑の裏から伝わる感覚は、恐らくこれが重要なヒントだと言っている気がする。

鳴上「噂っていうと、何の?」

エリザベス「噂の噂でございます」

鳴上「噂の……噂?」

エリザベス「はい。噂の噂……噂が、現実になるという噂」

>噂が、現実に?
>何故だろう、どこかで聞いたような記憶がある。
>そんなはずは無いのだが……。

エリザベス「噂というのはいつの世も無くならない物です。昔は人面犬や口裂け女など、様々な噂が流行ったものです」

鳴上「エリザベスって何歳なんだ?」

>一瞬、寒気がした。

鳴上「いや、何でもないです!」

エリザベス「……そういった噂が、現実になるという噂が流れた時期がありました。その時も、主は客人を迎えていたようです」

鳴上「噂が現実に、ね。どういう事なんだろう……」

エリザベス「例えば、憎い相手を殺してくれる呪いであったり」

鳴上「物騒だな。で、それがどうしたっていうんだ?」

エリザベス「当時は口伝でした。どこから伝わったのか誰も知らない。だけど、いつの間にか皆が知っている。そんな物だったのですが。最近は、どうやら事情が違うようですね」

鳴上「噂の伝わり方が違うってことか。今だと、そういうのはネットで……」

エリザベス「そうですね。例えば、そういう場所でのみ囁かれている噂。それが現実になっていたとしたらどうでしょうか」

>……なるほど、エリザベスの言いたい事がわかった。


579VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/13(日) 22:42:15.08ppKvB5sTo (4/12)

鳴上「ぞっとしない話だな。知らない間に事件の渦中かもしれないってわけか」

エリザベス「もしそうなった時、貴方は事態の解決に向かいますか?」

鳴上「多分、そうするだろうな。でも、事件の原因がわからなけらば解決も難しい。ネットでの噂が現実になって事件が起こるなら、まずネットを調べてみないとなぁ」

エリザベス「そうですね。解決の糸口が見つかるやもしれません。……そのお顔は、先ほどまでと違うご様子ですが?」

鳴上「少なくとも、悩みの一つに光明が差したからかな」

エリザベス「まぁ!このような他愛ない世間話でも悩み事の解決の一助になるだなんて!驚いてしまいます」

>エリザベスは大袈裟に驚いたフリをしている。
>俺の知らない所で、何かが動いている。
>まずそれの尻尾を捕まえない事には、何も始まらないようだ。

鳴上「世の中何があるかわからないな。ありがとう、気が楽になった」

エリザベス「それは何より。それと、もう一つ。彼……もう一人の彼の近くに、ある人が近付いています」

鳴上「彼?有里か。ある人ってのは?」

エリザベス「先ほど言った、噂が現実になるという噂。それに最も詳しいであろう方です。機会があれば、会う事もあるでしょう」

鳴上「そうか、覚えとく。今日は帰るよ。じゃあ、また」

エリザベス「ええ、また……」

>エリザベスはまた一礼して、見送ってくれた。
>ある人……?
>とにかく、帰ってネットを調べてみよう。
>何かわかるかもしれない。


【2012/5/14(月) 晴れ 八十神高校】


>何だか懐かしい心地だ。
>上履きがまだ無くてスリッパで廊下を歩いたり、そういうの。

有里「はじめまして、有里湊と言います。諸事情あって中途半端な時期での編入になりますが、これから皆さんと一緒に勉強できるのが凄く楽しみです。よろしくお願いしますね」

>にこりと微笑んでおく。
>対人用兵器の一つだ……。
>何だかんだで煩わしいのは苦手だし、ここで良い印象を得ておかないと。
>後ろのほうに陽介と千枝、天城さんがいるのがわかる。
>……好都合にも、その中心に空席が一つ。
>僕の席だ。

陽介「よ、来たな有里。まさかクラスまで同じとはなー」

有里「これは偶然みたいだけどね。流石にそこまで手回しはしてないみたい」

雪子「花村君から聞いてたけど、本当に学校通う事になったんだね。おめでとう!」

有里「ありがとう。これからよろしく」

千枝「こっちの制服、割と似合ってるね。学ランってタイプじゃないと思ってたけど」

有里「着た事無かったから新鮮だよ。ちょっと首が苦しいかも」

陽介「上のほう外しとけばいいだろ?そんなキッチリ着なくてもよ」

>皆と授業を受けた……。
>学校って、こういうのだったっけ。
>……。


580VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/13(日) 22:42:57.96ppKvB5sTo (5/12)

陽介「っし終わったー!どうよ有里ちゃん、こっちの授業は!」

千枝「月光館で地獄見たでしょ私ら……あそこ通ってたんだよ、有里君」

有里「面白かったよ。授業より他の話が長い辺り」

雪子「ウチは先生が面白い人多いから……」

りせ「里中せんぱーい!今日もお話聞かせてくださいよー!有里さんこんにちわ!……ええっ!?」

>授業が終わってすぐ、りせがやってきた。
>何故か驚いたようだ。

有里「ん?」

陽介「あ、言って無かった」

千枝「私も忘れてた……」

有里「ああ。僕も今日から八十神高校三年生だから。よろしく、久慈川後輩」

りせ「ひどーい!何で教えてくれないんですかー!」

有里「てっきり伝わってると思って」

千枝「ごめんね、うっかりしてた」

りせ「……しょーがないなー。二年じゃ私が一番ですよね!?」

有里「なのかな?」

陽介「二年組にゃ言ってねーかんな」

千枝「私も言ってないから、そうじゃないかな?」

りせ「だったらいいです!」

>直斗にはちょっと言ったような気がする。
>……黙っておいた方がいいだろう。

千枝「で、何の話?」

りせ「だからー、向こうでの土産話ですよぉ。聞かせてくれるって言ってたのにー」

千枝「あ、その話ね……」

>千枝がちらちらとこっちを見ている。
>僕の事でも話すのだろうか。

有里「あ、僕もう帰るから。陽介、良かったら」

陽介「おう、帰るか!」

>鞄を持って席を立つ。

千枝「あ、また明日ね!」

雪子「二人ともまたね。……で、千枝。勿論私にも聞かせてくれるんだよね?」

りせ「あ、なんだったら直斗も呼ぶ?」

千枝「別にいいけど……」

>……。


581VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/13(日) 22:43:30.37ppKvB5sTo (6/12)

陽介「最近、あいつら仲良いよな」

有里「そうだね。あの女子特有の盛り上がりはどういう心理で起きるんだろうか」

陽介「わかんねえけど、俺らが見たあの女子可愛くね!?とかってのと同じかね」

有里「なるほど、わかりやすい」

陽介「……実際のとこ、どうなんだよ。里中となんかあったのかよ」

有里「別に?」

>ふふんと笑って何かあったことを匂わせておく。
>……やっぱり、からかうなら陽介だ。

陽介「まぁ深くは聞かねぇよ?こう、知り合いのそういう話ってすげえ罪悪感がさ……」

有里「けど興奮するよね……」

陽介「まぁな……って言わせんなよ!」

完二「あ、花村先輩。今帰りっスか」

陽介「おう、完二。お前も帰りか」

完二「うぃっス。あれ、ところで有里サンなんでウチの学ラン着てんスか」

有里「完二!僕は先輩だぞ!その態度は何だ!」

>とりあえず、怒鳴ってみた。

完二「うわぁっ!え、どういうことっスかこれ」

陽介「ああ、こいつも今日から学校通えることになったんだよ。聞いてたんだけど言うの忘れててよ」

完二「マジスか!じゃあ有里先輩っスね!改めてよろしくお願いしゃっス!」

有里「うん、よろしく。完二も一緒に帰る?」

完二「あ、んじゃ俺もちょっと聞きたい事あったんで。有里先輩って、家事とかやるんスよね」

有里「まぁ、それなりにね」

完二「裁縫とかって、得意だったりしないっスか」

有里「ん、それなりにね」

完二「だったらちょっとお願いっつーか……頼みあるんスけど、いいスか?」

>……。


【夜 堂島宅】


有里「ふぅ。意外と難しいもんだなぁ」

>完二から借りた教本通りにやってみるものの、中々綺麗にはいかない。

有里「しかし、あみぐるみね……」

>意外性抜群の趣味を持っているものだ。
>しかもそれを子供達に配っているとか。

有里「そういう事なら喜んで手伝うけどね。あ、ここがこうなんだ」

>……あれ、これ楽しいかもしれない。
>夜更けまで、あみぐるみと格闘した……。
>……。


582VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/13(日) 22:44:03.69ppKvB5sTo (7/12)

>堂島さんが帰ってきたようだ。

有里「お帰りなさい、遅かったですね」

堂島「ああ、ただいま。お前もまだ起きてたのか……なんだ、それ?」

>右手にあみぐるみを持ったまま出迎えてしまった。

有里「ああ、あみぐるみって奴です。気にしないでください。……お疲れみたいですね」

>堂島さんはどっかりとソファーに座ると、深くため息をついた。

堂島「……わかるか。わかるだろうな。まぁ、事件だよ。……厄介なヤツだ。また帰りが遅くなる毎日だと思うと気が滅入る」

有里「菜々子が寂しがりますね」

堂島「何、お前がいる。多少は大丈夫だろう。ふぅ……」

>……?

有里「ライター、どうしたんですか?」

堂島「これか?もらったんだ。普段はコンビニで買ってるんだが、折角だし使おうと思ってな」

>堂島さんの手にはジッポーが握られている。
>確かに、いつものライターでは無いようだ。
>……見た事は無いはずだが、既視感がある。
>パチンッ。

有里「いい音しますね」

堂島「だろ。これをもらった奴……俺と同じ、刑事なんだがな。そいつが考え事をしながら鳴らしてたんだ。移ったかな」

有里「案外、いい考えが浮かぶかもしれませんよ。晩御飯、どうしますか?」

堂島「いや、いい。気分じゃない……明日の朝食べる。今日は、寝るよ……」

>堂島さんは本当に疲れているようだ。

有里「お風呂は入った方が疲れとれますよ。じゃあ、僕も寝ます」

堂島「ああ、おやすみ」

>階段を登る途中、またライターの音が響いた。


583VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/13(日) 22:44:35.61ppKvB5sTo (8/12)



【2012/5/15(火) 晴れ 八十神高校】


陽介「はよー……って、どしたの、コイツ」

>陽介の声が聞こえるが、振り向く気になれない。
>今は一秒でも長く休んでいたい。

雪子「原因、それみたい。鞄の横」

陽介「あ?何この袋……おわっ!んだこの量!」

千枝「なんか遅くまで編んでたらしいよー。完二君に頼まれたんだって」

陽介「あー、そういやそんな事言ってたな。って、初心者だっつってたのにこの出来かよ」

雪子「すごいよね、私一個もらっちゃった」

千枝「あはは、私も。凝り性なんじゃない?」

>遅くまで、とは言ったが実は遅くまでなんてもんじゃない。
>結局朝方までずっと編み続けていた……ハマってしまったようだ。
>授業が始まる頃だが、とにかく眠い。
>ちょっと、寝てしまおう……。

完二「……先輩!有里先輩!おい!流石にそろそろ起きろっつの!」

>はっと顔を上げる。

完二「もう放課後っスよ。どんだけ寝るのかと思っちまった」

>確かに、もう夕方だ。
>どうやら、一日寝て過ごしてしまったらしい。

有里「起こしてくれてありがとう……あいたた」

>机に突っ伏して寝ていたからか、顔とか背中が妙に痛い。

完二「いや、それはいいんスけど。先輩、俺の頼み聞いてくれてて寝不足なんだって聞いたんで。で、例のはこれっスか」

有里「そう、それ。一応色んなパターン作ってみたけど、上手く出来たかどうかは完二の判断に任せるよ」

完二「んじゃ、拝見しやス」

>完二は袋からあみぐるみを取り出すと、しげしげと眺めている。

完二「……つーか、これ俺の貸した本のレベルじゃないっスよね。どうしたんスか」

有里「途中から手が勝手に動いて……気付いたらそんな事に」

完二「いや、全く文句無ェどころか俺より上手ェじゃねえか。先輩、才能あんじゃないスか?」

>どうやら、完二を唸らせるレベルだったようだ。


584VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/13(日) 22:45:01.89ppKvB5sTo (9/12)

有里「これで問題無いかな?」

完二「問題無いっつーか、むしろ俺のが見劣りするかもしんねェ。良かったら今度教えてくれねえスか?」

有里「いいよ、じゃあ暇な時があったら言って。教えるから。今日は……帰って、寝たい」

完二「まだ眠いんスか。花村先輩が一日中寝てたって言ってたけど……」

有里「寝て悪いか!」

完二「キレるポイントがわかんねェよ!……でも、これ、ありがたく頂いときます。ガキども、喜ぶと思うっス!」

有里「ん。それじゃ、またね」

完二「うス、また」

>完二から高評価を受けたようだ。
>『No.14 節制 巽完二』のランクが3になった。
>……眠い。
>帰る途中で寝てしまいそうだ。
>どうしたものだろうか。
>などと考えながら校門に行くと、見覚えのあるストラップのついた鞄が見えた。

有里「あれは、昨夜作った鴨兎20号……ってことは、千枝?」

千枝「あ、やっと来た。遅いぞ、有里君!」

>あみぐるみをストラップにしているようだ。

有里「それ、気に入った?」

千枝「ん?ああ、ありがとね。可愛い」

有里「そう……ていうか、待っててくれたんだね。ごめん、待たせて」

千枝「いや、調子悪そうだからさ。付き添いいるかなって思って」

有里「今にも寝ちゃいそうな所を除けばすこぶる良好だよ」

千枝「それが調子悪そうって言ってんの……大丈夫?フラフラしてるよ?」

有里「いや、大丈夫……さぁ、帰ろうか」

>千枝と二人で帰る事にした。
>ああ、眠い……。


585VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/13(日) 22:45:30.46ppKvB5sTo (10/12)



【鮫川河川敷】


>……駄目だ!

有里「寝る」

千枝「へっ!?ここで?」

有里「睡眠は全てに優先する……ていうか……眠い……限界が……」

千枝「ちょ、ちょっと、フラフラしたら危ないって!えと、どっか……せめて座れる所……!」

>千枝はわたわたしながら場所を探してくれている。
>が……。

有里「後は任せた……」

>ふらっと倒れた。
>痛くなかったから、多分千枝が受け止めてくれたんだろう……。
>……。


【夜】


有里「ふわ……ん?」

>目を覚ますと、目の前に千枝の顔があった。
>……?

千枝「……ん……あ、起きた?」

有里「とするとここは千枝の膝の上か」

千枝「ごめん、私も寝ちゃってた……体痛くない?大丈夫?」

有里「おかげさまで。……これ、もうちょっと堪能してていいかな」

千枝「だ、駄目!駄目です!起きたら早くどいたどいた!」

>仕方ない、名残惜しいが起きるとしよう。

有里「ごめんね、わざわざ。千枝こそどこか痛くない?」

千枝「平気だよ。もう大丈夫?」

有里「うん。眠気は晴れた。……膝枕は、やっぱりいいね」


586VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/13(日) 22:46:00.78ppKvB5sTo (11/12)

千枝「私の膝で悪いけどねー。そんなにやわらかくもないし。鍛えてるから……」

有里「いや、そうじゃないんだ。やわらかいだけでは駄目で、弾力というか、とにかく筋肉が多少無いといけない。千枝の太ももは筋肉だけでもなく脂肪だけでもない、かなり理想に近いものだよ」

千枝「力説されても……」

有里「脂肪のふんわりとした感触の奥にしっかりと息づく若い筋肉のハリが良いんだ。中々できるものではないよ」

千枝「あ、そう……褒められてるんだと思うけど、あんまり女の子に脂肪脂肪言わない」

有里「おっと、ごめん。良かったらまたお願いしてもいいかな?」

千枝「膝枕?」

有里「眠いときに」

>千枝はちょっと考えて、それから笑った。

千枝「誰も見てない時だったらいいよ。恥ずかしいからね」

有里「それでいいよ。……ああ、こんな時間か。ごめん、付き合わせちゃって。家まで送るよ」

千枝「いいって、そんな……」

>足音が聞こえる。
>この時間にここを通る人が僕達以外にもいたのか……。
>足音が止まった。
>振り返ると、背広姿の男が一人。

?「君ら、高校生か?こんな時間までデートとは……うらやましいけど、関心しないぜ」

>パチンッ。
>男の手元から、聞き覚えのある音がした。


587VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/13(日) 22:47:04.01ppKvB5sTo (12/12)

ZIPPOを鳴らす癖のある、あの男の登場です。
多分、お気づきの方多いんじゃないでしょうかね。

短くて申し訳ないが、今日の所はここまでで。
では、また後日。


588VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/05/13(日) 22:57:01.32O/LQHrcf0 (1/1)

ぬぁぁぉぁあ!面白いのに!見ていたいのに!
なんか知らんが有里ムカつく
千枝を鳴上に返せ!とか思ってしまう


589VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/13(日) 23:04:28.91NHmUJsO00 (1/1)

乙ドラオンでございます。

こっちでも出てきた!
あと4日か……。


590VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2012/05/14(月) 00:16:20.82iW9NszL6o (1/1)

男ってのはなあ・・・


591VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2012/05/14(月) 01:02:39.89YmN2Ucy/0 (1/2)

乙!



592VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/14(月) 06:28:53.27bwji/hMb0 (1/2)


あのモノマネがすごい上手い人の登場か


593VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/14(月) 12:26:37.45SqxZ+5ddo (1/1)

モノマネのプロ登場かwwww

>>1はぜひ頑張って終わりまで続けて欲しい

しかし、他スレの似たネタとかぶって大丈夫か?



594VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:41:15.17zpATG7swo (1/17)

まぁ彼はぶっちゃけしばらく出番ありません。
鴨兎20号は、甥っ子(10歳)が作ってくれました。シュールでした。

そして作中、時間は少し前後します。
ぽんぽーんと進む本日分。


595VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:41:40.70zpATG7swo (2/17)



【2012/5/13(日) 夜 巌戸台分寮】


>ネット上で、都市伝説や噂話を扱うサイトをいくつか巡ってみた。
>……それらしい話は出てこない。

鳴上「おかしいな……エリザベスの言ってたのはこういう事じゃないのか?」

>ネットで飛び交う噂話。
>良く見れば、この手のサイトは更新日が軒並みかなり前だ。

鳴上「なるべく最新の情報が欲しい。こういうサイトだと、多くて月一更新なのか……じゃあ、こっちか」

>某巨大掲示板のトップを開く。

鳴上「何となく怖いイメージがあってあんまり見なかったけど、確かそういうスレッドもあったはず……」

>カテゴリ:オカルトの掲示板を開いた。

鳴上「……アセンション?呪い?予言……オノヨーコ?ここ、やっぱりヤバイんじゃないか?いろいろと」

>とにかく、スレッドリストを調べてみよう。
>……怪しい噂・都市伝説スレ。

鳴上「ここら辺かな。どれ……」

>1 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/05/9(水) 23:21:38.15
  新スレ立てまんた。
  現在進行中の噂→マヨナカテレビ
          影時間
          影人間

  適当に議論してくだし。

鳴上「……いきなり当たりか!」

>ざっと中身を辿ってみる。
>確かに、影時間、マヨナカテレビ、シャドウなど、気になるキーワードが盛りだくさんだ。

鳴上「まさか、本当にこれが原因で……?このスレッドの前のスレッドはどこだ」

>ログを辿っていくと、前スレへのリンクを見つけた。

鳴上「前スレが立ったのが一週間前?こんなに流れが速い物なのか?」

>試しに他のパート系スレを開いてみる。
>一年経っても埋まっていない所もあるようだ。

鳴上「なんで、ここだけ……とにかく、最初に影時間の話題が出た所まで遡ってみよう」

>初出は7スレほど前のようだ。
>そこから一気に流れが速くなり、どんどんパートを重ねているらしい。


596VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:42:16.28zpATG7swo (3/17)

鳴上「最初のレスは……これか」

>378 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/03/26(月) 24:00:00.00
   影時間、始まる。

鳴上「……最初に影時間って言葉が出たのはこのレスだが……これだけじゃ何もわからないんじゃないか?何故ここから話が広まったんだ?」

>379 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/03/27(火) 21:25:18.14
   懐かしい事言ってる奴がいるな。
   ほい、例のヤツ→ttp://xxxxxxxxx

鳴上「このリンク、踏んでも大丈夫なんだろうか」

>迷っても仕方が無い。
>リンクをクリックした。

鳴上「なんだ、このページ」

>ニュクス教……?
>何かの宗教の信者が作ったページのようだ。
>驚いたことに影時間やシャドウの事、Nyxの事までが事細かに書いてある。
>全てのページの括りには、極上の滅びを皆で!という一文が載っている。

鳴上「気味が悪い……けど、どうやらここが火付け役か。でも、これじゃ……」

>ページをスクロールしていくと、最終更新日が書いてある。

鳴上「2012/3/29……!?」

>スレッドに目を戻す。
>383 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/03/29(木) 22:45:58.22
   おい、ニュクス教ページ更新来てんぞwwww
   三年ぶりワロタwwwww

鳴上「ここだ、ここから凄い勢いでレスが……更新内容は……」

>新しい項目の追加が行われている。

鳴上「マヨナカテレビ……!」

>見つけた。
>今、騒動の中心にあるのはこの掲示板、このスレッドで間違いない。

鳴上「じゃあ、今影時間が消えた事も……?」

>最新のスレッドに戻る。
>……あった。

>63 名前:本当にあった怖い名無し[sage] 投稿日:2012/05/10(木) 24:51:20.18
   影時間とマヨナカテレビ、もう解決したらしいぜ。
   知り合いのペルソナ使いが言ってた、もう来ないってさ。
   テレビん中ももう入れないんだと。
   面白かったけどここで終わり?

鳴上「なんだこれ、とんでもない出鱈目じゃないか」

>しかし、スレッド内の人たちは信じているようだ。
>以後、終了、再開といったくだらないレスでスレは伸びている。

鳴上「このレスが原因で、影時間が消えた……?そんな馬鹿な話があるのか?」

>しかも、この書き込みの通りになっているとしたら、事件は終わった事になる。

鳴上「だけど、そうじゃないんだ。もっと下へ……」

>……見つけた。

鳴上「これか……」

>108 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/05/11(金) 22:22:38.32
   影時間とマヨナカテレビの一時的消滅は前段階らしいぞ。
   これからしばらくして、次のフェイズに移る。
   そうなったら平和にやってきたこのスレも終わりだな。



597VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:43:06.04zpATG7swo (4/17)

鳴上「こいつ……余計な事を……」

>本当に噂が本当になるのなら、さっきのレスで事件が終わっていたかもしれない。
>しかし、このレスがその意味を覆した。

鳴上「というか、何でこんな適当な話を信じるんだここの連中は。ソースの無い話題に食いつくなよ」

>久しぶりに長時間パソコンを弄っていた為か、酷く肩が凝った。
>この話、誰に相談すべきか……。
>とりあえず、今日は寝よう。


【2012/5/14(月) 晴れ 巌戸台分寮】


鳴上「あ、桐条さん、おはようございます。少し時間いいですか?」

>廊下でたまたま桐条さんに出くわした。
>丁度いいので昨夜調べたことを報告しておこう。

美鶴「何だ、何かわかったのか?」

鳴上「ええ、信じていいのかわかりませんが。実は……」

>昨夜見たスレッド、ニュクス教、事態が起こる前に常に書き込みがある事……を説明した。

美鶴「……にわかには信じ難い話だな。何より、そんなものに今まで踊らされていたというのが納得したくない」

鳴上「ですが、偶然というには少し出来すぎではないかと……」

美鶴「うん、看過は出来ないだろう。ただ、余りそういう方面に強い方では無いからな……」

鳴上「寮内に誰か詳しい人はいないんですか?」

美鶴「山岸なら、恐らく。ただ彼女はどうも様子がおかしいしな……そうだ、君から頼んでおいてくれないか?」

鳴上「俺ですか?……ええと」

>美奈子の言っていた事を思い出す。
>実際、昨日も顔を合わせていないし……良い機会といえばそうなのかもしれないが。

鳴上「あの、すみませんが桐条さんからお願いします。俺、他にも調べたい事あるんで」

>……逃げた。
>やっぱりあの時追いかけておけば良かったと思う。
>美奈子め……。

美鶴「そうか、なら仕方ないな。ご苦労だった。あまり、無理はしないように」

鳴上「はい。それじゃ学校行ってきます」

>桐条さんに伝えた以上、俺が調べる必要はもう無いのかもしれない。
>……たまに掲示板を覗く程度にして、普通に生活してみようか。
>逃げかもしれないが、このままじっとしているよりはマシに思えた。


598VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:43:37.28zpATG7swo (5/17)



【夕方 巌戸台分寮】


>ぼんやりとした一日だった……。

コロマル「ワン、ワンッ!」

>ラウンジに入った途端、コロマルが足元に駆け寄ってきた。

鳴上「どうした?」

>コロマルは尻尾を振っている。

鳴上「ああ、散歩か。行くか?」

コロマル「ワンッ!」

鳴上「ちょっと待ってくれ、荷物を置いてくる」

>コロマルと散歩に行こう。
>荷物を置いてラウンジに戻ると、アイギスさんとコロマルが遊んでいた。

鳴上「あ、アイギスさん」

アイギス「ああ、鳴上さん。おかえりなさい。どこかへ行かれるんですか?」

鳴上「ええ、コロマルと散歩に。あ、一緒に行きますか?」

アイギス「私もご一緒して良いですか、コロマルさん」

コロマル「ワン」

>アイギスさんはまるでコロマルと会話しているように見える。
>……バウリンガル。

鳴上「コロマルは何て?」

アイギス「かまわないだそうです。なので、ご一緒させていただきます」

鳴上「はは、じゃあ行きましょうか」


【長鳴神社】


>神社に着くなり、コロマルは走り去っていった。

鳴上「相変わらず元気だな。よっと」

>ベンチに腰を下ろすと、アイギスさんも隣に座った。

アイギス「コロマルさんとは良くお散歩を?」

鳴上「たまにですね。コロマルがねだってくる日は来てますよ」

アイギス「そうですか……コロマルさんが、あなたの事を心配していました」

鳴上「コロマルが?俺を?」

>というか、本当に犬の言葉がわかるとでもいうのだろうか。

アイギス「はい。なにやら疲れている様子だと。実際、そのように感じられます」

鳴上「ああ、まぁ……疲れていないといえば嘘になりますが」

アイギス「事件の事でしょうか?」

鳴上「そうですね……今まで気を張っていたのが、少し抜けたのも大きいと思います。何か、いろいろ空回りしてる感じで、何やってんだろう俺って思っちゃって」


599VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:44:04.04zpATG7swo (6/17)

>悩みはそれだけでは無いが……言っても仕方が無い事は言わない事にした。

アイギス「今、事件は言うなれば小康状態です。休んでも文句は言われないと思いますが」

鳴上「そうですね、そうかもしれません。けど、どうしても不安で」

>アイギスさんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
>……近い。

アイギス「あなたばかりが無理をしても仕方がありません。私達も協力します。だから、少し休んで?お願いだから」

鳴上「そうですね……わかっちゃいるんですが、どうしても」

アイギス「昨夜は余り眠れなかったのですか?」

鳴上「え、わかりますか?」

アイギス「何となくですが。少し眠られたらどうですか?」

鳴上「まぁ、帰ってから寝ますよ……ここで寝るってわけにもいかないし」

アイギス「……特別ですよ」

>アイギスさんはふとももをぽんぽんと叩いている。

鳴上「はい?」

アイギス「ですから、特別です。本来ならある人専用なのですが。寝心地は保障しますよ、永眠クラスです」

>どうやら、膝枕をしてくれるらしい。
>そういえば、以前天田に膝枕させたのもこの人だったっけ……。

鳴上「えーと、それじゃあ、お言葉に甘えて……しばらくしたら起こしてください」

アイギス「お任せください。では、ごゆっくり……」

>アイギスさんの手でそっと目を閉じられた。
>……硬いのかと思っていた。
>……。

鳴上「ん……ふぅ」

アイギス「お目覚めですか?」

鳴上「はい、すみません……っしょ、と」

>辺りはもう薄暗くなっている。

鳴上「結構寝ちゃってましたね、俺。足痛くないですか?」

アイギス「平気です。寝心地の方は如何でしたか?」

鳴上「あー……良かったです、凄く」

>良かったです。

アイギス「良かった。これからも、余り気を入れすぎないで……心配になってしまいますから。事が動くまで、せめて安らかに」

鳴上「そう、ですね。そうしてみます。ありがとうございました」

コロマル「ワンッ!」

>いつの間にかコロマルも戻ってきている。

アイギス「感謝するならここにもいるだろ、とおっしゃっています」

鳴上「ああ、そうだな。コロマルもありがとう。心配かけたな」

>コロマルは満足げだ……。

アイギス「では、帰りましょうか」

鳴上「そうですね」

>今出来る事はやっている……。
>少し、力を抜く事にしようか。
>『No.07 戦車 アイギス』のランクが4になった。
>『No.08 正義 コロマル』のランクが4になった。


600VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:44:36.05zpATG7swo (7/17)



【2012/5/16(水) 晴れ 放課後 八十神高校】


陽介「なぁ、男子高校生だよな、お前」

有里「そうだよ、陽介もそうでしょ?」

陽介「だからこそ疑問なんだけどよ、なんでお前は手芸の本を机いっぱいに広げてんだ?」

有里「いや、これが本当に面白くてね。陽介もやってみる?」

陽介「いや、いい……」

>授業中もこっそりと続けていたあみぐるみ製作。
>かなり納得のいく物が作れそうだ。

千枝「花村はなんか向きじゃなさそうだよね」

陽介「お前だってそうだぞ」

千枝「わ、私はちょっとくらい出来るもん!駄目なのは料理だけ!」

陽介「へーへーそーですねー」

>……視線を感じる。

有里「?」

雪子「……」

>天城さんがじーっと手元を見てくる。

有里「あの?」

雪子「あ、気にしないで。ほんとにすごいなって思って見てるだけ」

有里「ああ、そう……」

>陽介と千枝の漫才が続いている。
>……むぅ。

有里「ごめん、やっぱり割りと気になる」

雪子「へっ?ご、ごめん。もう見ないから」

有里「天城さん、もしかしてやってみたい?」

雪子「……実は、ちょっとだけ」

>それならそうと早く言えばいいのに。

有里「時間ある?良ければ教えるよ」

雪子「今日は平気。じゃあ、お願いします」


601VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:45:03.48zpATG7swo (8/17)

陽介「天城と二人っきりとかほっといていいのかよ」

千枝「はぁ?何で?」

陽介「……まぁいいや。俺ぁ帰るぜー、あとごゆっくりー」

有里「またね」

千枝「あ、私も帰るね。また明日」

雪子「うん、またね……それじゃ、よろしくお願いします。先生」

有里「うむ、じゃあちょっと適当にやってみてよ」

>……。

有里「そうそう。それでこっちをこう」

雪子「あ、こう?」

有里「うん。そうそう。天城さん、結構いいセンスしてるね」

雪子「そうかな。……ほんと言うと、用事ってこれだけじゃないんだよね」

有里「ん?」

雪子「お礼言わなきゃって思って。千枝とのこと」

有里「……ああ」

>昨日の土産話って、やっぱりそうだったのか。

雪子「ちゃんと聞いてくれたんだって、千枝言ってたよ」

有里「まぁ、ね。お礼を言われるような事じゃないと思うけど」

雪子「でも、ありがとう。言いたいから言うの」

有里「……結局、保留にしただけだけどね」

雪子「有里君の事だから、気付いてると思うけど……千枝ね、最近お化粧始めたんだよ」

有里「ああ、そうみたいだね」

雪子「何でだと思う?」

有里「うーん、何で?」

雪子「女の子らしくなるんだって。誰の為かは教えてくれないけど」

有里「……へぇ」



602VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:45:38.08zpATG7swo (9/17)

雪子「私が千枝の一番いいなって思う時って、何にでもまっすぐ頑張ってる時なの。だから、それを見せてくれてありがとうって事で」

有里「そっか。それは僕も何となくわかる」

>天城さんは微笑んだ。

雪子「さて、と。この本、借りていいかな?私もちょっと家でやってみたいの」

有里「ん、どうぞ。返すのはいつでもいいから」

雪子「うん、ありがとう。あんまり一緒に居ると千枝に怒られちゃうかもしれないし」

有里「そんな事気にするタイプには見えないけど」

雪子「これからわかるよ、きっと。あの子ってああ見えて……ふふ。じゃあ、また明日ね」

有里「うん、また明日」

>ああ見えて、何なんだろうか。

有里「……刺されないように、いや、蹴られないようにしないとな」

>天城さんと話をした……。
>なんだか、知らない間に評価が上がっているようだ。
>『No.18 月 天城雪子』のランクが4になった。


【2012/5/17(木) 晴れ 放課後 月光館学園】


美奈子「悠ー、ねーねー悠ー」

>授業が終わった途端、美奈子に後ろから抱きつかれた。

鳴上「ちょ、何なんだ一体」

美奈子「だってさー最近悠全然構ってくれないじゃーん。ていうか避けてるじゃーん。なんでよー」

>……山岸さんとの事を、美奈子のせいだと考えているから、だとは言えないだろう。
>というか、わかっている。美奈子のせいじゃないんだ。
>……仕方ない。

鳴上「避けてなんかないよ。ただタイミングが合わなかっただけだ」

>このまま避け続けていてもどうしようもない。
>なにせクラスはおろか住んでいる場所まで同じなんだから。

美奈子「ほんとにー?じゃあ、今日暇?」

鳴上「予定は無いけど、どうかしたのか」

美奈子「今日さー美鶴先輩とお出かけする予定なんだけど、悠も付き合ってよ」

鳴上「何で俺が?」

美奈子「いーじゃん。嫌なの?」

鳴上「そりゃ、構いはしないが……桐条さんはいいのか?」

美奈子「私の見立てでは多分大丈夫だと思うんだけど……」

鳴上「見立てって……」

>美奈子はにっかりと笑う。
>全く元気の良い事だ……。


603VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:46:06.20zpATG7swo (10/17)



【ポロニアンモール】


美奈子「あ、いたいた!おーい美鶴せんぱーい!」

>声に気がついて、桐条さんがこっちを向く。
>どうやら俺の存在にも気がついたようだ。

美鶴「鳴上、お前が何故ここにいる」

鳴上「それが、美奈子に誘われまして。出掛けるって、どこに行くんですか?」

美奈子「カラオケ」

鳴上「カラオケ?」

>……何故か、桐条さんは恥ずかしそうにしている。

美奈子「美鶴先輩って、カラオケ行ったことないんだって。で、この前私達がカラオケ行ったんだよって話をしたら」

鳴上「ああ、興味を持ったと」

美鶴「わ、悪いか!」

>顔が真っ赤だ。

美奈子「人数多いほうが楽しいかなって思って悠連れてきたんですけど、駄目でした?」

美鶴「いや、駄目というか……歌っているのを聞かれるのが少し……」

鳴上「なんだったら帰りますよ、俺」

美鶴「い、いや、帰らなくてもいい。……そうだな、一緒に行こう。わざわざ来てもらったし」

美奈子「ね、言ったでしょ。大丈夫だって」

>美奈子は何故か自慢げだ……。
>しかし、桐条さんの歌か……正直、気になる。

鳴上「なら、行きましょうか。そんな恥ずかしがるような事でもないですよ」

美鶴「う、うん。まぁそうか。行こう」

>……。

美鶴「思ったより狭いんだな。それに、他の部屋の声も結構聞こえる……ということは、私が歌ったのも聞こえるということか」

美奈子「みんな自分達が歌ってるのしか気にしてませんって。ほらほら、曲決めちゃってくださいよ!」

美鶴「わ、私からか!?私は初心者だし、君達から歌わないか?」

鳴上「カラオケに初心者も何もありませんって。さ、どうぞ」

美鶴「しかしだな……」

美奈子「先輩の歌聞きたーい。ね?悠もそうだよね?」

鳴上「確かに、かなり気になるな」

美鶴「二人して……わかった、これもまた戦いだ……」

美奈子「いや、戦いではないですけど」

鳴上「どんだけカラオケに真剣なんだ」

美鶴「ええと、これを押せばいいのか。よし、と」



604VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:46:33.52zpATG7swo (11/17)

美奈子「すごい上手い……びっくりするくらい上手いんだけど……」

鳴上「演歌……」

美鶴「ふぅ、思ったより気持ちの良いものだな。こうして大きな声で歌うというのは……」

美奈子「先輩、演歌好きなんですか?」

美鶴「な、なんだ。変か?」

鳴上「いや、何故か妙にマッチしますけど」

美奈子「今度和服で歌ってくださいよ」

鳴上「俺もみたい」

美鶴「なんだ、何故だ。いいだろう、何を歌っても……」

>桐条さんはまた顔を真っ赤にしている。
>この人、厳しそうに見えてからかうと面白いな。

美奈子「今、美鶴先輩ってああ見えてからかうと面白いなって思ったでしょ」

鳴上「なんでわかっ……」

美鶴「そうなのか?」

鳴上「思ってません!思ってませんから!」

>……。

美奈子「はー楽しかった!どうだった、先輩?」

美鶴「うん、楽しかった。また来たいな」

鳴上「良ければまた誘っていいですか?」

美奈子「そんでからかうんでしょ?」

美鶴「からかうのは許可できないが、誘ってくれればいつでも付き合うぞ。今日はありがとう」

美奈子「いいってことよ!そんじゃ帰りましょっか」

鳴上「そうだな。あなたとー」

美奈子「ゆきーたぁいー」

鳴上・美奈子「天城ー越ぉえ~」

美鶴「やめてくれ……」

>三人でカラオケに行った。
>『No.03 女帝 桐条美鶴』のランクが5になった。

鳴上「ん?」

美鶴「どうした、鳴上」

鳴上「今何か、カチって音が……気のせいかな」

美鶴「私には何も聞こえなかったがな……」

鳴上「そうですか。じゃあ多分気のせいだと思います」

>……?


605VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:47:00.95zpATG7swo (12/17)



【2012/5/18(金) 晴れ 放課後 八十神高校】


陽介「あっりさっとくーん!あっそびっましょー!」

有里「隣の席で大声を出す必要性がわからない」

陽介「悪い悪い、ノリでつい。いやさ、最近お前女子に取られっ放しだったからよ。たまには男同士遊ぼうぜぇ?」

有里「まぁ、それはいいんだけど。何するの?」

陽介「特に決めてない!」

>帰り支度をしよう。

陽介「ああ、待って!待って帰らないで!何か考える!考えるから!」

有里「冗談。まぁ別になんでも構いはしないんだけど」

陽介「あー、そうだな。……駄目だ、なんもおもいつかねー。とりあえず商店街行こうぜ」

有里「了解。行こうか」

>陽介と商店街へ行こう。


【商店街】


陽介「ビフテキ食う?」

有里「いいね。おごり?」

陽介「しゃーねーな……」

>ビフテキ串……これ、本当に牛肉なんだろうか?

有里「で、本当の所なんで誘ったの?」

陽介「だから、たまにゃ遊びてえなぁって思って」

>陽介の目を見る。

陽介「……いや、聞きたい事がありましてですね」

有里「最初からそう言えばいいのに。何?」

陽介「まぁたいした話じゃねえっつーか、なんつーか。えーと……」

>珍しく言いよどんでいる。
>何か深刻な相談だろうか。

有里「何かあったの?僕でよければ聞くよ。陽介は前に僕の悩みも聞いてくれたしね」

陽介「いやぁ、そうじゃねんだ。そうじゃねんだけど……」

>陽介はどうにも所在無さげにしている。
>そんなに深刻な悩みが……?



606VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:47:28.53zpATG7swo (13/17)

有里「陽介。僕は君のどんな悩みでも真剣に聞く。それが君に対する信頼の証だと思ってくれていい。君が悩んでいる事をなんとかしてあげたいんだ。正直に、話してくれないか」

陽介「あー……わかった、聞くぜ。あのぉ……よ」

>陽介の喉が動いた。
>唾を飲んだようだ。
>相談するだけでそんなに緊張するような悩みなのか……。

陽介「里中と、どこまで行ったの?」

>……帰ろうかな。

陽介「あ!あー!笑わねえっつったのにこいつ!」

有里「笑ってない。ていうか笑えない。え、本当にそれが質問?」

陽介「深刻な話だろーが!それ次第じゃ扱いも変わってくるしよ!気遣うでしょーが!」

有里「いや、気は遣わなくて良い。というか、どこまでも行ってないから。そこから勘違いだから」

陽介「そうなの!?」

有里「そうなんだよ。別に何もしてないから。そもそも付き合ってないし」

>陽介は安心したようにため息をついた。
>あれ、もしかして……。

有里「陽介、千枝の事好きなの?」

陽介「は?いやそれは無いんだけど。単に置いていかれたかと思ってよ」

有里「ああ、夏休み開けたら友達が何故か余裕綽々だった時の気持ちだね」

陽介「まぁそんな感じ。何も無いならいいわ。ふぅー焦ったぜ」

有里「陽介って常にそういう事考えてるの?」

陽介「うわ、お前そんな顔で友人を見るかね。いや、だってよお」

>陽介の相談に真剣になる事は今後無いかもしれない。
>まぁ、その不安は同じ男子高校生としてすごくよく……
>あ、あんまりわからないな。

陽介「ん?じゃああの話って何だったんだ?」

有里「あの話?」

陽介「おー。クラスのヤツが、有里と里中が鮫川でき、キスしてたって話が……」

有里「……?あ」

陽介「やっぱ心当たりあんのか!やったのか!?どうなんだ!」

有里「やったというか、やられた……のかな?」

陽介「なにそれどういうことぉ!?」

有里「いや、僕寝てたからもしかしたらその間にって思って」

陽介「いやー聞きたくなかった!聞かなきゃ良かった!いやー!」


607VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:48:05.56zpATG7swo (14/17)

>陽介は甲高い声で悲鳴をあげている。

有里「落ち着け」

陽介「それお前の台詞じゃなくね?……まぁ、いいや。お前には覚えないんだろ?じゃあまだしてないかもしれないし」

有里「そんなに重要な事なのかな……」

陽介「いや重要だろ。まず里中があいつ以外になびくってのも信じ難い話なんだよ」

有里「あいつって、悠?」

陽介「そ、そ。あいつ自身は全く自覚してなかったけどな」

有里「へぇ……やっぱり」

陽介「お前は自覚あるっぽいからその分マシっちゃマシか。自覚なしに攻略されてってるのに気付いた時は愕然としたもんだぜ俺ぁ」

有里「辛かったね……」

陽介「おう……」

>何だかよくわからないが、陽介に信頼されているようだ。
>『No.19 太陽 花村陽介』のランクが5になった。

有里「……ん、あれ?」

陽介「あん?どうしたよ?」

有里「陽介、今の聞こえなかった?」

陽介「今のって、何が?」

有里「いや、何かカチッって音……何かが嵌ったみたいな」

陽介「いや、聞こえなかったな。どうかしたんかよ?」

有里「聞こえなかったならいい。多分、気のせいだと思う」

>……?


【2012/5/19(土) 晴れ 巌戸台分寮】


>コンコン。
>軽いノックで目が覚めた。

鳴上「おはようございます」

美鶴「寝ていたのか。おはよう。少し、話がある。そのままでいいから聞いてくれるか」

>ノックしたのは桐条さんだったようだ。

鳴上「何の話でしょうか」

美鶴「君が言っていた、掲示板の話だ」

>噂が本当になる掲示板……というかスレッド。
>続報があったのだろうか。

鳴上「何かあったんですか?」

美鶴「次の段階とやらが、具体的に書かれていた。と言っても、良くわからないのだが……」

鳴上「良くわからない?」


608VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:48:44.70zpATG7swo (15/17)

美鶴「ああ。次は『入れ替わり』だそうだ。テレビの中と外、それが入れ替わる……というのが定説らしい」

>入れ替わり……?

鳴上「テレビの中と外が入れ替わるって事は……こっちの世界が、テレビの中に入るって事でしょうか?」

美鶴「わからない。実際、ただの噂でしかないしな……この先どうなるかは、未だ不明だ」

鳴上「……例えば、こっちの世界にシャドウが出るようになる、とか」

美鶴「かもしれない。そう思って山岸に探らせてみようとしたんだが……」

>桐条さんは何故か言いよどんでいる。

鳴上「山岸さんがどうかしたんですか?」

美鶴「いや、まぁ、それは気にするな。君のせいじゃない。とにかく、現状何か起こったというわけではないが、一応報告をと思ってな。じゃあ、私はこれで」

鳴上「あ、ちょ……何か、あったんだな」

>俺のせいじゃない?
>……多分、そんな訳は無い。

鳴上「山岸さん、今何をしてるだろう」

>やっぱり、謝らないと……。


【2012/5/19(土) 晴れ 商店街】


>完二に会いに商店街に来た。
>あみぐるみの作り方指南をするためだ。

完二「あ、先輩ちっス。今日はよろしくお願いしゃっス!」

有里「うん。ええと、で、何が知りたいのかな」

完二「あー、ここんとこなんスけど、これ、俺がやるとどうしても綺麗に揃わなくて」

有里「ああ、そこはね……」

>……。

完二「はぁー、たいしたモンっスね。どうやったらこんなやり方出てくるんスか」

有里「うーん、どうやったらというか、自然に?こう、何となく」

完二「いや勝てねっス。お見逸れしやした!」

>どうやら完二に一目置かれたようだ。

有里「まぁ、我流だから何もかも綺麗にってわけにはいかないけどね」

完二「我流だからすげェんスよ。誰かがやった事やるだけだったら簡単じゃないスか」

有里「そうでも無いと思うけど……?」

>視界の端に、何かが走った。

完二「ん?なんスか?」

有里「いや、なんでもない。ええと、それでここなんだけど」

完二「あ、はい。えーと、一回折り返して……」

有里「ああ、そうじゃなくてこっちから回した方が後で綺麗になるみたいだよ」

完二「はぁ~なるほど。いや奥深いっスね」


609VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:49:11.30zpATG7swo (16/17)

>……。

完二「お疲れ様っス!」

有里「はい、お疲れ様。どう?わかった?」

完二「なんとかってとこスかね。いやぁ、なんつーか……先輩、苦手な事とか無いんスか?」

有里「うーん、あんまり無いね」

完二「どんな完璧超人だよ……すげえっスわ。やっぱ」

有里「褒めても何もでないよ」

完二「いやいや、マジな感想っス。俺、こんなに出来る男って見たこと無かったんで。自分以外に」

有里「あんまり趣味にしてる人もいないしね」

完二「っスね。でも、面白いんスよ、意外と」

有里「それは良くわかる。とても良くわかる」

完二「ここまでわかってくれるの先輩で二人目っスよ……俺、なんか嬉しいっス」

>完二は今にも泣き出しそうなほど感じ入っている。

有里「まぁ、またわからない所とかあったら聞いてよ。いつでも教えるから」

完二「うぉっス!むしろこっちから新技編み出してビビらせてやりますよ!」

有里「楽しみにしてるね。じゃ、また」

完二「うス!お疲れ様っした!」

>完二から尊敬の念を感じる。
>『No.14 節制 巽完二』のランクが4になった。

有里「気のせい、だろ?」

>あの時視界の端に映った物……見覚えがあるような気がする。

有里「……そうだ、ベルベットルームにでも……」

>もしかすると、マーガレットなら何か知っているかもしれない。
>呼び出してみよう。


610VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/14(月) 22:51:56.35zpATG7swo (17/17)

事件はちょっとお休み。
なんてこと無い日常回。

本当に、日常回?

タイムリミットが近付いております。
あと例の彼はまた後ほど登場します。

何だか中途半端ですがここまで。
では、また後日。


611VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/14(月) 23:02:50.70bwji/hMb0 (2/2)


噂って怖い


612VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2012/05/14(月) 23:16:28.29YmN2Ucy/0 (2/2)





613VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/05/15(火) 00:18:53.50fMgkx4/C0 (1/1)

1に質問なんだが NTRないよね?あったら泣く


614VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/05/15(火) 00:27:02.28nvKiR2lFo (1/1)

>>613
過去ログ読め。

ただ菜々子が寝取られたら読むのやめる。


615VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/05/15(火) 01:00:25.73jDKpeFtO0 (1/1)





ここ何回かの更新面白くない・・・
というかギャグが入っていない!!


616VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2012/05/15(火) 07:09:16.65Jq8l4cnAO (1/1)

ギャグが入ってないとつまらんとか小学生かよ


617VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/15(火) 08:52:16.54i/SjKx+DO (1/1)

>>1おつー


日常ってのは得てして平穏でつまらなく見えるものさね


618VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/15(火) 09:32:12.85sAcV1RtVo (1/1)

>>613
NTRって言葉はこのスレでは口にしない方がいいやもしれない
まあ何だ1から全部読め


619VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/05/15(火) 21:09:43.14gNB20mUho (1/1)

キタロー好きだけど、一日二日で完二より裁縫上手くなるとかやり過ぎな気がするね

俺TUEEEEE!みたいに感じるし


620VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 22:55:02.94Rsmt2/Yao (1/20)

自分の中でNTRって本当に寝て取られる、いわゆる「やっぱりチ○ポには勝てなかったよ」だと思ってるんですが
どうやらこれでもNTRの匂いがするらしいということで・・・

いや、やめませんので、気になるならすみませんが回れ右を。
NTRうぎぎぎっぎってなりながらも読んでくださる人は、いくらでもNTR話してくれて結構です。

あとキタローさんは無双させるつもりで無双させてるんで、申し訳ないがここもそのままです。

菜々子は誰の物でもないよ!菜々子は菜々子だよ!
ということで本日分。


621VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 22:55:36.42Rsmt2/Yao (2/20)

有里「もしもし?久しぶり」

マーガレット『本当にお久しぶりでございます』

>電話から呆れと少しの怒気を孕んだ声が聞こえる。
>……そういえば、ほったらかしてたか。

有里「ごめん、ここの所忙しくて……マーガレットはどう?」

マーガレット『私の仕事は貴方のお手伝いですので、貴方がここを訪れない限りは』

有里「そうだったね、ごめん。って事は、今は暇って事かな?」

マーガレット『そうなります』

有里「それは良かった。少し話しがしたいんだ。良ければ出てきてもらえないかな」

マーガレット『……どちらに向かえば良いのでしょう』

有里「ドアの前にいるから。待ってる」

>……少しして、ドアからマーガレットが顔を出した。

マーガレット「……いらしているなら、少し顔を出してくれてもよさそうなものですが」

有里「ごめん。でも、外で話したかったんだ」

マーガレット「主に聞かれるとまずい話でも?」

有里「そうじゃない。客人とあの部屋の住人としてじゃなく、友人として話がしたかったから」

マーガレット「……まぁ、いいでしょ。で、何がお望み?」

>一つため息をついて、マーガレットは微笑む。
>エリザベスより幾分か感情を表に出すタイプのようだ。

有里「その口調、いいね。そういう風に接してくれると僕としてもやりやすい。……察しの通り、聞きたい事があって来たんだけど」

マーガレット「これでも少し期待してたのよ?」

有里「すまない。で、質問だ。今、何が起こっている?」

>マーガレットは少し思案してから言う。

マーガレット「見たままが。私より貴方が良くわかっているはずだけど」

有里「違う。僕の知らない所で事が動いている。君は、もしくは君の主はそれを知っているはずだ。そういう位置にいるはずだ」

マーガレット「それは……確かに、そうよ。でも本当に私から言える事は無いし、主も言う事は無いはず。貴方が選んでいる道は、常に正しいの。少なくとも貴方にとっては」

有里「……わかった、信用する。僕はこれからしばらく普通に生活するつもりだけど、それも構わないんだね?」

マーガレット「ええ、どうぞ。思い返せば、貴方が先手に回った事なんて今まであったかしら?後手に回っても、何とか解決してきた。違う?」

有里「そういえばそうか。巻き込まれ型だしね、僕。じゃあ、次に事が動くまで待機といこう。ありがとう」


622VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 22:56:30.83Rsmt2/Yao (3/20)

マーガレット「あら、もうお帰り?」

有里「用事は済んだからね」

マーガレット「酷い人ね。……でも、私は貴方みたいな人の方が好みかもね。以前の彼よりも」

有里「へぇ。嬉しいよ。ちなみにどういう所が?」

マーガレット「苛め甲斐がありそうな所とかね。……冗談よ、そんな顔をしないで。また、来るんでしょう?」

有里「ああ、また来る。今度は花でも持ってこようか」

マーガレット「飾る場所が無いわ。そうね、それならアクセサリーでももらえた方が嬉しいかも」

有里「……まぁ、覚えとく。じゃ、また」

マーガレット「またのお越しをお待ちしております……また、ね」

>大した情報は得られなかった……。
>が、マーガレットの言う通りだ。
>今まで、常に後手にいたが、それでも僕は何とかしてきた。
>……ま、なんとかなるだろう。
>『No.15 悪魔 マーガレット』のランクが3になった。


【巌戸台分寮 三階】


岳羽「あ、アンタ!」

>三階に上がるなり、岳羽さんに見つかった。

鳴上「いや、すみません。その、山岸さんに話があって。別にやましい目的で来たわけじゃ……」

岳羽「風花に話?アンタが?」

>何だろう、この雰囲気。
>女子階にいる事を咎められているのでは無いようだ。

鳴上「あの……山岸さんに何か」

岳羽「そっか、知らないんだっけ。アンタにゃ黙っとけって言われてるもんね。……そういうトコ、ちょっとは治ったと思ってたんだけど」

鳴上「何があったんですか!?」

岳羽「いいわ、教えたげる。風花ね、ペルソナが暴走して……今、寝込んでる」

>……ペルソナが、暴走?
>寝込む?

鳴上「どういう、ことなんですか?」


623VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 22:57:02.55Rsmt2/Yao (4/20)

岳羽「……ごめん、別に鳴上君のせいだけってわけでも無いのに。ペルソナって、実は凄く不安定なの。だから、私達は召喚機を使ってる」

鳴上「俺達は無くても使えますけど……」

岳羽「それも本当は危ないらしいんだけどね。ともかく、不安定な精神でペルソナを呼び出すと、ペルソナが暴走しちゃって。体はともかく、精神的にかなりダメージ負っちゃうんだよね」

鳴上「それで、山岸さんは……」

岳羽「さっきも言ったけど、寝てる。高熱出して。今はアイギスと美鶴先輩が看病してるよ」

鳴上「そんな……俺のせいで……?」

岳羽「鳴上君、この前風花と出掛けた時に何かしたの?あの日から、目に見えて様子が変だったから……」

>あの時、俺がちゃんと話を聞いていれば。
>こんな事には、ならなかったかもしれないのに。
>俺は……

鳴上「しました。酷い事を、言いました。それを、まだ謝れていません」

岳羽「アンタっ……いや、ごめん。まだ頭に血上ってるみたい。別に、人間だから。鳴上君と風花の間に何かあっても仕方ないと思ってる。頭じゃ、わかってるんだけどね」

鳴上「……」

岳羽「でも、実際風花は苦しんでて、鳴上君は平気な顔してここにいる。それが納得できてないみたい。ごめん」

>山岸さんは俺のせいで苦しんでいる。
>俺に出来る事……何があるだろうか。

鳴上「岳羽さん」

岳羽「何?」

鳴上「一発、思い切り殴ってもらえませんか」

岳羽「はぁ?急に何言っちゃってるワケ?それともそういうシュミ?」

鳴上「いえ、そうじゃなく。ケジメです」

>岳羽さんは一瞬ポカンとした後、大きく笑った。

岳羽「ぷっ、あははははは!何それ。私が殴ったら満足すんの?」

鳴上「しません。ただの反省です。俺がやらなきゃならないのはこれからです。今までの自分があまりにも不甲斐無いので」

岳羽「へぇ。鳴上君、そういうタイプなんだ。……うん、気に入った。後任せるね」

鳴上「え?」

岳羽「もし何かうじうじ言うようだったら、私ももっと言いたい事あったんだけどね。そんだけ潔いと全部吹っ飛んじゃったよ。風花の事は君に任せる。いい?」

鳴上「はい。出来るだけの事をしようと思います」

岳羽「うん。ま、それで許すかっていうとまた別問題だけどね。結果見るまでお説教は保留としましょ。んじゃ、きっついの行くよー」

鳴上「お願いします」


624VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 22:57:30.28Rsmt2/Yao (5/20)

>パッチィィ……ン……。
>寮内全てに響き渡るような破裂音。
>叩かれた側の耳がキンキン鳴って聞こえ辛くなった。

鳴上「……ッ」

岳羽「どう?足りないならもっかい行くよ?」

鳴上「いえ、十分です。ありがとうございました」

>十分気合いは入った。
>とにかく、山岸さんの所へ行こう。
>何が出ようと受け止める。

岳羽「んじゃ、美鶴先輩とアイギスには一旦出てもらう事にしますか」

鳴上「すみません、お願いします」

>岳羽さんは山岸さんの部屋に入っていった。

岳羽「……だから、内緒にしてもいずれバレるのわかってたでしょうに」

美鶴「しかし、余計な負担を増やすまいと……」

岳羽「あのね、変な気遣いは事態悪化させるだけだって知ってるでしょ?」

美鶴「……すまない」

岳羽「今からご本人が何とかするって言ってるから。私らは一旦待機。はい出た出た!」

>丸聞こえだが、桐条さんはまた怒られているようだ。
>あの人にここまで言えるのは岳羽さんくらいではないだろうか。
>扉が開いて、三人が出てきた。

美鶴「あの、鳴上。黙っていたのはすまなかった。君に不安を与えないようにと……」

鳴上「わかってます。でも、俺だって出来る事はしたいんです。心遣いを無にするようですが」

アイギス「でしたら、後はお任せしま……お顔、どうかされたんですか?」

岳羽「ああ、それ私がやった。殴ってくれって言われたもんだから」

アイギス「……スポ根ですか?」

岳羽「そういうのどこで覚えてくんの、アンタは……さ、いいから行くよ。あ、鳴上君」

鳴上「はい」

岳羽「……いい顔になったね。男の子って感じ。頑張んなさいよ」

鳴上「はい。……ありがとうございます」

>岳羽さんは二人の背中を押して階段を降りて行った。
>どうやら、少し見方が変わったようだ。
>『No.06 恋愛 岳羽ゆかり』のランクが4になった。


625VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 22:58:01.37Rsmt2/Yao (6/20)

風花「……鳴上、君?」

鳴上「はい。起きてたんですか」

風花「うん、さっき……えと、何か、用かな」

>声がとても弱弱しい。
>聞いているこっちが悲しくなる程に。

鳴上「用というか、話がしたくて来ました。あの日、きちんと聞けなかった部分を」

風花「……入って」

>黙ってノブを回す。
>山岸さんはベッドの上で、上半身だけ起こしてこちらを見た。

鳴上「あ、大丈夫です。寝ててください……お願いします」

風花「ん……わかった。ごめんね、寝たままで……」

>山岸さんの顔は赤い。
>なのに、それ以外の部分はやたら白く、不吉な予感さえする程だ。

鳴上「すみませんでした」

風花「……別に、鳴上君は悪くないよ。私が勝手に……」

鳴上「俺は山岸さんが悩んでるのを聞きました。けど、そこで手を離してしまった。それが許せないんです」

風花「……」

>山岸さんは黙っている。

鳴上「あの時、いや、多分もっと前から。俺は山岸さんの手を取る事が出来ました。なのに、俺はそれに気付かずに、自分の事ばかりで……情けないです」

風花「違うの、私が悪いの……声を出せば助けてくれるのはわかってた。でも、出来なかったから……怖くて。出来なかったから……」

鳴上「山岸さん……」

風花「あの時、ユノを通じてはっきり見えたの。あの人形劇……あれは多分、私のシャドウ」

鳴上「人形劇……あの時の、大型シャドウ」

>そういえば、確かにあの頃から少しおかしかった。
>あれが原因だったのか……。

風花「どちらかを選べば、どちらかが消えてしまいそうで。手も伸ばしきれないし、声も出せない。そんな私が、あの時曝け出された気がして……」

鳴上「……」

風花「何も言わなければ、このままいられる。里中さんは……声に出したみたい。そのせいで、悩んで……それを見て、怖いって思った」


626VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 22:58:32.15Rsmt2/Yao (7/20)

>く、くっと唾を嚥下する音が聞こえた。
>恐らくは喋るのも辛いのだろう。
>それでも、喋り続ける。

風花「だから、何も言わないでおこうって、逃げて……ずるい、私は、こうやって、罰を……だから、鳴上君の、せいじゃ……」

>思わず、手を握った。
>熱があるはずなのに、真っ白で冷たい。

風花「なる、かみ……く……?」

鳴上「山岸さんが選べないなら、俺が選びます……。山岸さんが伸ばせなかった分、俺が手を伸ばします。だから、もう怖がらないでください。逃げなくてもいいから」

>ぎゅっと、その小さい手を握る。
>何故気付けなかった。
>何故放っておいた。
>何故、俺は、何故……。
>悔いと憤りで体が熱くなる。
>奥歯をぎゅっと噛み締めて、涙と嗚咽を耐えた。

風花「……大丈夫、死ぬような話じゃないし……ありがとう」

鳴上「でも……」

風花「……鳴上君の手、すごく熱いね」

>山岸さんの手が、俺の手を握り返した。

風花「大丈夫だよ、もう。きっと、体治して……また、一緒に」

>一緒に、何をするのか。
>山岸さんは言わなかったが、俺は頷いた。

鳴上「何か、欲しい物ありますか?」

風花「ん……ちょっと、おなか減ったかも」

鳴上「じゃあ、何か買って……」

風花「あ、鳴上君が作ったのがいいかも……ダメ、かな」

鳴上「そんなに、美味いもんじゃないですよ」

風花「何でもいいから、お願いします」

鳴上「それじゃ、お粥でも……作ってきます」

風花「うん……鳴上君」

鳴上「はい?」

風花「好き、です」

鳴上「……返事は、体治してからでいいですか?」

風花「ふふ、はい」

>山岸さんとの距離がとても縮んだように感じる。
>『No.02 女教皇 山岸風花』が正位置に戻った。
>『No.02 女教皇 山岸風花』のランクが6になった。


627VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 22:59:02.45Rsmt2/Yao (8/20)

美奈子「や」

>部屋を出ると、扉のすぐ横に美奈子が立っていた。

鳴上「うわっ!……なんだ、美奈子か。どうかしたのか?」

美奈子「別に。ちょっと様子が気になって。風花は大丈夫そう?」

鳴上「いや、体調は悪いみたいだ。これからお粥でも作ってきて食べてもらおうかと思って」

美奈子「そう。まぁ、ペルソナの問題は心の問題だからね。体はその内治るでしょ。……任せたね」

鳴上「ん?ああ。まぁ、頑張ってみるよ。じゃ、ちょっと料理してくる」

>お粥か……あんまり作ったことないな……。
>キッチンを借りる為に、階段を降りた。

美奈子「……時間が無い。まるで、無いのに」

美奈子「……覚悟、か」


【2012/5/20(日) 晴れ 巌戸台分寮】


鳴上「ん……あ、朝か……」

>山岸さんの看病をして、それから……

鳴上「何してたんだっけ?確か……」

……鳴上『あ、汗凄いですね。体拭きましょうか?』

風花『え?い、いや、それはちょっと……』

鳴上『平気ですよ、菜々子が風邪ひいた時なんかは……』

アイギス『風花さん、そろそろ体を……』

アイギス『あなたは、ダメです』……

鳴上「あ、思い出した」

>……我ながら、随分混乱していたものだ。

鳴上「山岸さんと菜々子を一緒にするなよ、俺……」

>体中がやたら痛いのは、恐らくその後……。

鳴上「うぅ、痛い……ちょっと体ほぐすか……」

>いい天気だし、コロマルと散歩にでも行こう。


【長鳴神社】


真田「なんだ、また来たのか」

鳴上「真田さんこそ、また神社でトレーニングですか」

>神社には真田さんがいた。
>シャドーボクシングに勤しんでいるようだ。

コロマル「ワンッワンッ!」

>コロマルは、俺をけしかけているように見える……。


628VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 22:59:41.39Rsmt2/Yao (9/20)

鳴上「……真田さん、また組み手してもらえませんか?」

真田「何だ、ついに勝ちに来たか?」

鳴上「いや、まだ無理だと思います。なので、普通に稽古つけてくださいよ」

真田「そうか。ボクシングでいいのか?」

鳴上「まぁ、何でも。ちょっと体動かしたいし」

>真田さんは黙って構えている。

鳴上「それじゃ、よろしくお願いします」

>……。

真田「まず当てる事からだ。威力はモーションが正しければついてくる。大振りは緊張のしすぎだ」

鳴上「そうは言っても当たってくれないじゃないですか」

真田「当たったら痛いからな」

>真田さんはアドバイスをくれながら、俺の攻撃を避け続ける。

真田「……そろそろこっちからも手を出すぞ」

鳴上「いつでもどうぞ」

>相変わらず速射砲の如きジャブだ。

真田「無理に避けようとするな。体のどこかを使ってさばく事も視野にいれろ」

鳴上「ちょっと回転下げようって気にはならないんですか」

真田「それじゃ稽古にならんだろ」

鳴上「全く……」

>言われた通り、避ける弾と受ける弾を分けて考えてみる。
>なるほど、ただ単に避け続けるより幾分楽ではある。

真田「そう、その感じだ……なぁ、鳴上」

鳴上「話しかける時くらい手抜いてくださいよ」

真田「まぁ、いいから聞け。お前、今の状況をどう思う」

鳴上「どうって……」

真田「これで終わると思うか?」

鳴上「それは……そうは思いませんが」

>真田さんがにやりと笑った。

真田「同感だ。で、もし何か……とんでも無い事態になったら、お前はどうする」


629VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 23:00:09.27Rsmt2/Yao (10/20)

鳴上「どうするもこうするも無いでしょ。俺達に出来る事は、ただぶつかって……解決するだけです」

真田「相手がどんな物でもか」

鳴上「そうしなきゃ、解決出来ないならそうするまでです」

真田「……ブレるなよ、鳴上。お前のそのまっすぐな考え方、俺は嫌いじゃない」

鳴上「ええ、いけるとこまで行くつもりです……っと、スキあり!」

>卑怯とも思ったが、話しの最中に一つ見つけた隙間に差し込んでみた。

真田「バカ、そりゃフェイントだ」

鳴上「うわっ……ストップ!待った!」

>真田さんの拳は目の前スレスレの所でぴたりと停止した。

真田「ま、まっすぐ正直に行き過ぎるとこういう事にもなる。予定外の事態にも対応できる柔軟性を持てよ」

鳴上「組み手中に説教しないでくださいよ……」

真田「実際の戦闘でも起こり得るって事だ。俺はお前を気に入ってる。なんとか生き残れよ」

鳴上「どうしたんですか、急に。まるで俺がこれから死ぬみたいな。縁起でもない」

真田「このまま戦いに身をおけばそうなる可能性もあるだろ?……見たくないんだ、そんなのは」

鳴上「真田さん……」

真田「お前と同じだ。予感があるんだよ。多分、この事件はもう一段階厄介な事になる。そうなった時、お前は……」

>真剣な表情でそう言われた。
>この人はこの人なりに、俺を心配してくれているようだ。

鳴上「大丈夫ですよ。俺一人ってわけじゃない。真田さんだって助けてくれるでしょ?」

真田「なら、俺の手の届く範囲にいろよ。どこか知らない所で野垂れ死にされても、俺は何とも出来ん」

鳴上「努力しますよ。今日はありがとうございました……いろいろと」

真田「お前といると、似合わない真似ばかりさせられる。……悪くは無いがな。俺はもう少しトレーニングして帰るよ」

鳴上「はい、それじゃ」

>真田さんと別れた。

鳴上「俺、知らない間に随分気に入られてたんだな……」

コロマル「ワンッ」

>コロマルはこちらを見ている。

鳴上「参ったな、俺はアイギスさんと違ってコロマルの言葉はわかんないんだよ」

コロマル「クゥーン……」

鳴上「……でも、何となくわかるよ。コロマルも気に入ってるって言ってくれたんだろ?」

コロマル「ハッハッハッハ」

>コロマルは満足そうに尻尾を振っている。
>どうやら当たりだったらしい。

鳴上「ありがとうな。……帰る途中でジャーキーでも買ってやるか」

コロマル「ワンッ!」

鳴上「こら、足に飛びつくな、ははは……」

>コロマルとじゃれながら、寮に帰った。


630VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 23:00:36.48Rsmt2/Yao (11/20)



【巌戸台分寮】


鳴上「具合、どうですか」

風花「ん、だいぶ……」

>……まだ、熱は引かないようだ。

鳴上「何か欲しい物とかあります?あ、飲み物持ってきましょうか?」

風花「あ、いいの。今は……あの、ね」

鳴上「なんですか?」

風花「手……」

>山岸さんが寝付くまで、手を握っていた……。


【2012/5/20(日) 晴れ 商店街】


>今日は、何故か彼女に呼び出された。
>先に着いておこうと早めに家を出たのだが……。

有里「既にいるし」

直斗「おはようございます、有里先輩。どうかしましたか?」

有里「いや、別に。……で、何の用かな」

直斗「用という程でも無いんですが……今後について、もう少しお話しておきたいと思いまして」

有里「なんだ、デートってわけじゃないのか」

直斗「デートって……そ、そういうんじゃありません。とにかく、どこかでお話を……」

有里「なら家来る?」

>直斗は一瞬硬直した。

直斗「えぇ!?お宅にって……いいんでしょうか?」

有里「別に構いはしないけど……話するだけでしょ?」

直斗「ええ、まあ。やましい事など何一つ」

有里「じゃあいいじゃない。行こうか」

直斗「は、はい……」


631VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 23:01:02.87Rsmt2/Yao (12/20)



【堂島宅】


有里「どうぞ」

直斗「あ、どうも……」

>お茶を一気に……。

有里「喉渇いてたの?」

直斗「いえ、そういうわけでは……なんだか、緊張してしまって」

有里「緊張?どうして?」

直斗「男性の部屋に一人でというのは、やはり少し……」

有里「あ、そういうつもりで来たの?」

直斗「違いますっ!それに、里中先輩にも悪いし……」

>……うーん。

有里「僕と千枝は何でもないよ。聞いてるだろ?」

直斗「でも、やっぱり悪いです。里中先輩が有里先輩に、その、好意を持っている事は確かなわけですし」

>む、困ったな。
>なんだか可愛いぞ、直斗。
>ああ、こういう性格だから嫌になる。
>真剣な人をからかうのは酷い事だ。
>けど……。

有里「直斗は僕に好意は無い、と」

>どうしてかやらずにいられない!

直斗「えっ、その、そういうわけではないんです。ですが、男女の話となると別というか、その!」

>……楽しいなぁ、もう。

有里「そっか……残念だな。まぁ僕みたいな男を好きになる人がそんなに何人もいるわけないか」

直斗「ですから、嫌いと言うのではなく!その、まだお互い良く知らないし、そう思う材料が足りないというか」

有里「僕の事、良く知ってくれたら好きになるかな?」

直斗「それは……ゼロ、とは言い切れませんが。でも、先輩には里中先輩が、えっと、だから、あのっ」

有里「直斗」

直斗「へっ?はいっ!」

有里「で、話って何?」

>直斗が大きく目を見開いて静止した。
>すごく真面目なんだろう、彼女は。
>とてもからかい甲斐のある人材だ。


632VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 23:01:29.80Rsmt2/Yao (13/20)

直斗「んん、ごほんっ。……そういう態度は、嫌いです」

>咳払いを一つして、居住まいを正した。

直斗「率直に聞きます。先輩は、今後この事件がどう動くとお思いですか?」

有里「事件ね……どうかな。僕には見当もつかない。ただ、終わりではないよね。きっと、そうだと思う」

直斗「僕も同感です。先輩なら、先の展望もあるかと思ったのですが」

有里「今回、僕も知らない事の方が多いんだ。ただ、一つ気になる物を見た」

直斗「気になる物?なんです?」

>街を歩いていて、時折視界の端に入る物があった。
>その姿をはっきりと捉える事は出来なかったが、あれは……。

有里「シャドウが、街にいる気がするんだ」

直斗「シャドウが?影時間も無い、マヨナカテレビも無い今ですか?」

有里「そうだよ。気付かなかった?」

直斗「全然、気付きませんでした……ですが、それって」

有里「当然、とても危険な状況だね。ただ、まだ確信が持てない。直斗も気付いてなかったみたいだし、僕の気のせいかもしれない」

直斗「だからって、無視するわけにもいきません。……といった所で、僕達はテレビの中でないとペルソナが使えない。何が出来るというわけでも無い……か」

有里「……直斗が心配する必要は無いよ。何かあったら一番槍は僕の仕事だ」

直斗「そんな……僕達も協力しますよ」

有里「勿論、あてにしてる。だけど、何かあったらいけないからね。未知の部分に踏み入れるのは僕がやるって言ってるんだ」

直斗「だから、何かあったらいけないのは先輩も同じだと言っているんです」

>この流れは……。

直斗「先輩が僕達を大事だと思ってくれているのはわかりました。けど、僕達にとってもそれは同じです。余り、心配させないでくださいよ」

有里「こっちに来てからなんだかそのことで怒られてばかりだな」

直斗「そうなんですか?」

有里「うん、何かとね」

>向こうではなかったな、こういうの。
>僕が一番に動いて、それで当たり前で……
>この前会った所だと、どうやら随分と成長してたみたいだけど、悠は苦労していないだろうか。
>それでも、やっぱり仲間だと思っていたし、好きだったんだけど。


633VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 23:01:57.69Rsmt2/Yao (14/20)

直斗「だったらそろそろ自覚してください。先輩が動くなら、僕達も動きます。仲間って、そういうものでしょう?」

有里「……悠は、こんな所で戦ってたのか」

>それは、強いはずだ。

直斗「鳴上先輩がどうかしましたか?」

有里「ん?ちょっと羨ましくて。直斗にも好かれてるみたいだし」

直斗「先輩は、そういうんじゃ……」

有里「無いとは、言わない?」

直斗「あ、ありません!ありませんからっ!」

>……。

有里「ま、そういうわけだから。実の所先々については何も考えてないんだよね」

直斗「まぁ、情報不足ですね。仕方ないでしょう……押しかけるようになってしまって、申し訳ありません」

有里「いや、全然。こっちこそ期待に沿えず」

直斗「いえ、いいんです。あの……」

有里「ん?」

直斗「今日の事、里中先輩には、その……」

有里「ああ、内緒にしておこうか。気になるならね」

直斗「すみません。お願いします。では、僕はこれで」

有里「ん、またね」

直斗「また、学校で」

>直斗はぺこりとお辞儀すると帰っていった。

有里「あれ、そういえば……テレビの中でしかペルソナ使えないってどういう事なんだろう」

>その辺りの話を聞いていなかった……。
>まぁ、いいか。

有里「その方が好都合。……さっきはああ言ったけど、やっぱり最初は僕じゃないと。先輩としてはね」

>彼らに責を負わせるわけにはいかない。
>こっちにはいないが、悠のためにも。


634VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 23:03:03.86Rsmt2/Yao (15/20)



【夜】


>Pipipi……

有里「もしもし」

千枝『あ、もしもし?こんばんわ、私』

有里「ああ、千枝。どうしたの?」

千枝『どうしたっていうか。今日、直斗君が有里君とこ行ったって聞いたから』

有里「え、誰から?」

千枝『本人から。なんか謝ってたよ』

有里「ああ、そう……うん、来てたよ」

千枝『……私も行く』

有里「ん?」

千枝『今度、また私も遊びに行くから!いいよね?』

有里「いつでも。待ってるよ」

千枝『うん。……じゃあ、次の週末。行くからね?空けといてね?』

有里「はいはい。空けとくね」

千枝『そんだけ!お、おやすみっ』

有里「おやすみ。また明日学校で」

千枝『うん……』

有里「……切るよ?」

千枝『……ん』

有里「……」

千枝『……』

有里「……そっちから、どうぞ」

千枝『……いやいや、ここは有里君から』

有里「ん、じゃあ今度こそおやすみ」

千枝『うん、おやすみなさい』

>……電話を切った。

有里「電話の切り時ってわかんないんだよね……」

>まぁ、いいか。
>寝よう。


【2012/5/21(月) 晴れ 月光館学園】


>眠い。
>結局、山岸さんについて深夜まで起きていたのが響いているようだ。


635VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 23:04:00.77Rsmt2/Yao (16/20)

美奈子「悠眠そうだね。どうしよっか」

男子「どうするもこうするもあんの、これ」

美奈子「うーん、このまま寝てるようなら……とりあえず落書き?」

男子「結構エグい事思いつくね……よっしゃ、そういう事ならここに水性ペンがあります」

美奈子「おっけーでかした!水性ってのがいいね、油性じゃなくてちょっと温情が感じられて」

男子「おー。それがさ、実は水性ペンって結構落ちにくいんだよね。特に肌に書いた時とか」

美奈子「あ、アレでしょ。水溶性だから皮脂とかの間にインクが入っちゃって時間が経つほど落ちにくくなるっていう」

男子「そうそう、それ。だから、こう額に肉とか定番のヤツを……」

鳴上「待て。まず寝てないからな」

美奈子「起きてたよ、どうしよう」

男子「何もしなかった事がむしろ良かったな」

鳴上「全く……油断も隙も無いな」

>美奈子に至っては結局油性ペンも握っている。

美奈子「だってー悠が構ってくれなくて退屈なんだもーん」

鳴上「だもーんって……」

美奈子「ねぇねぇ、今日何か予定ある?」

鳴上「特に無いけど、帰って寝たい」

美奈子「じゃあさ、ちょっと付き合ってよ。中等科」

鳴上「中等科?何で?」

美奈子「天田君が部活で練習試合やるらしいからさ、見学!」

鳴上「ああ、いろいろやってるらしいからな……だったらいいよ、付き合う」

美奈子「やり!んじゃ行こう!」

>美奈子に腕を引っ張られて、武道館に連れて行かれた……。

男子「……いいなぁ、鳴上……」


636VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 23:04:29.16Rsmt2/Yao (17/20)



【月光館学園 武道場】


鳴上「ああ、剣道なのか」

美奈子「うん。あ、あれそうじゃない?」

>防具で顔はわからないが、背格好からしてそのようだ。

鳴上「竹刀、振れるのかな」

美奈子「結構強いみたいよ、天田君。あ、始まるよ」

>天田が立ち上がり、中央に進む。
>一礼し、蹲踞の姿勢……。

鳴上「ちょっと心配だな」

美奈子「うん。相手、高校生みたいだしね」

鳴上「何、そうなのか?」

美奈子「うん。ほら」

>確かに防具には高等科二年の文字が書かれている。

鳴上「こんなのアリか?」

美奈子「練習試合ならアリなんじゃない?怪我するような事も無いだろうし」

鳴上「天田、負けてもいいから怪我だけはするな……」

美奈子「……悠、お母さんみたいになってるね」

>試合が始まった。
>かちん、と竹刀の合わさる音。
>グラウンドや体育館からは他の部が練習していて騒がしい。
>しかし、武道場の中だけはしんとした静けさに包まれている。
>じり、じりと二人は動く。
>円を描くように、じわじわと……。
>先に動いたのは高等科の部員だった。

部員「えやぁーっ!」

>一声、気合いを吐いて打ち込む。


637VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 23:05:10.74Rsmt2/Yao (18/20)

鳴上「ッ当たりが強いぞ!」

>天田は竹刀で受けたが、力負けしたのか少し後退する。
>高等科の部員はそのまま鍔迫りに持っていく。

鳴上「まずい、ああなったら力と体格で負けている天田が不利だ!だが一度引けばそこに打ち込まれる……どうすれば……!」

>心配を他所に、天田はじっとこらえている。

鳴上「当たり負けしてない!いいぞ、そのまま……」

>高等科の部員が鍔を押し下げた。
>ここが機と、天田が相手の鍔をかち上げる。

鳴上「今だ!行けっ!」

天田「胴ッ!!」

>天田の竹刀が相手の右胴を叩いた。
>文句無しの一本勝ち。
>そして俺は……。

顧問「あのね、見学するのは構わんけども。集中してやってるわけだから、騒がれたら困るんだよねぇ」

鳴上「すみませんでした……」

>怒られた……。

天田「ちょっと、鳴上先輩何やってるんですか」

鳴上「いや、美奈子に連れてこられて天田の応援を……」

天田「応援って、ありがたいけど恥ずかしいですよ。ただの練習ですよこれ。大体美奈子先輩はどこに?」

鳴上「あれ、さっきまでここに……あいつ、俺が怒られるのわかって逃げたな」

天田「まぁ、いいですけど……今日試合だけなんで、良かったらこれから一緒に帰りませんか?」

鳴上「ああ、そうするか。待ってるよ」

天田「はい、それじゃちょっと待っててくださいね」

>……。

天田「お待たせしました!それじゃ帰りましょう」

鳴上「ああ。……しかし、驚いたよ。天田って結構力強いんだな」

天田「結構鍛えてますからね。体格は仕方ないですけど、筋力はそれなりに」

鳴上「スポーツ好きなのか?」

天田「まぁ、それなりに」

鳴上「それなりで、そんなに一杯色んな部に入ったりしてるのか」

>天田は何故か頬をかいている。


638VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 23:05:41.01Rsmt2/Yao (19/20)

鳴上「天田?」

天田「あー、いや……なんか、照れ臭いんですけど。理由は、強くなりたいから、です」

>照れ笑いと一緒に帰って来た答えは、少し予想と違っていた。

鳴上「強くって、強くなってどうするんだ?」

天田「今回みたいな事件は勿論、強くなって、いろんな人を守りたいと思ったんです。……いろいろあって、ですけど」

鳴上「なんていうか、立派だな。……まぁ、無茶はするなよ」

天田「それは弁えてますよ。多分鳴上先輩よりも」

鳴上「ぐうの音も出ない」

天田「あはは。でも、先輩は尊敬してます」

鳴上「何だ、急に」

天田「凄いじゃないですか、だって。先輩は、損得とか考えずに人の為に動ける人です。僕は知ってます」

鳴上「買い被られたもんだな」

天田「少なくとも僕はそう思ってます。だから、たまに心配だったりもします」

鳴上「最近良く言われる」

天田「だったらちゃんと自愛してくださいよ?」

鳴上「……努力はする」

天田「はい、してください。あ、それでどうでした?僕の試合」

鳴上「ああ、良かったんじゃないか。特に竹刀の振りが凄かった。あんなに速く振れるものなんだな」

天田「あ、ちょっとコツがあるんですよ。実は……」

>天田と話をしながら寮へ帰った。


【巌戸台分寮】


風花「あ、お帰りなさい」

鳴上「ただいま。もう体起こしても平気ですか?」

風花「おかげさまで。お世話になりました」

鳴上「何言ってんですか。まだ熱あるでしょ。まだまだ世話しますよ」

風花「うん……ごめんね、お願いします」

鳴上「はい。えっと、じゃあ飲み物持ってきます」

風花「うん、ありがと」

>……。


639VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/15(火) 23:07:41.19Rsmt2/Yao (20/20)

まったりまったり。
さて、どうなるんでしょうね。
事件もそうだけど、人間関係いろいろ。

NTR展開?続きます。ごめんなさい。

あとギャグパートはしばらく来ないと思ってください。
佳境に入りつつあります。
というわけで今日はここまで。
では、また後日。


640VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/15(火) 23:20:56.24ve/KoITR0 (1/1)

おつおつおー


641VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2012/05/16(水) 00:16:37.32Pxkr3F93o (1/1)

乙!
千枝チャンカワイイヨ


642VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2012/05/16(水) 00:52:09.75vRgCz/120 (1/2)

乙です


643VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/05/16(水) 01:35:34.86E1hmuXBY0 (1/1)

乙!
ギャグも言えないようなやつのところに人が集まるわけがないじゃないか
だからギャグは欲しかったんだ。

場合によるけど

NTRでもなんでも面白いから見続けます


644VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:36:35.698XVM19U4o (1/17)

やべぇ・・・
ネタ被ってる向こうが面白くてやべぇ・・・

というわけで本日分。


645VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:37:09.168XVM19U4o (2/17)


【2012/5/21(月) 晴れ 八十神高校 二年教室】


有里「ええと」

>授業が終わって、それと同時にりせに連れ去られて。
>なんだなんだと思っているうちに、椅子に縛られ……。

りせ「さ、準備オッケー!」

>一体何がオッケーなのかわからないが、僕は今身動きの取れない状況にある。

有里「とりあえず、何でこんな事になってるのかわからない」

りせ「そりゃ、先輩が逃げないようにですよぅ」

有里「別に何があっても逃げないけど」

りせ「えー?ほんとですか?逃げない?」

有里「逃げない逃げない。だからこれほどいて」

りせ「んー……やっぱり、逃げそうだからダメ!」

有里「逃げないってば……」

>どうやら、観念する他無いようだ。

有里「で、どうしたの。僕が逃げそうな用事って何?」

りせ「えーとぉ、まぁ、里中先輩との事ですよ」

有里「ああ、そういう……」

りせ「ズバリ!どうなんですかお二人!」

>テレビのレポーターばりの追求が始まった。
>というか、これって……

有里「何か、陽介にも似たような事聞かれたな」

りせ「げ、花村先輩と同じ発想って事?」

有里「うん、似たような」

りせ「……だってぇ、気になるじゃないですか!で、ほんとのとこどうなんですか?」

有里「どうって?」

りせ「里中先輩は、気持ちを聞いてくれただけだって言ってましたけど……部屋に二人だけだったんですよね?それだけですか?」

有里「それだけって……他に特別な事はしてないよ」

りせ「えぇー?そうなんですか?」

有里「うん、期待にそえなくて悪いけど」

>りせは露骨に不満そうにしている。

りせ「ふぅーん……あ、そういえば。返事、どうしたんですか?」


646VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:37:47.898XVM19U4o (3/17)

有里「返事?」

りせ「だって、里中先輩から聞いたんでしょ?どう答えたのかなって」

有里「ああ……なんていうか、保留?」

りせ「え、保留って……」

有里「うん、保留。嬉しいんだけど、まだ僕が決めかねてるって事で保留」

りせ「うわー、先輩ひどーい。女の敵ー」

有里「そう言われても。僕なりに真剣に考えた結果なんだよ。本当は全部つっぱねるつもりだったんだけどね」

りせ「え、何で?誰か心に決めた人がいる!とか?」

有里「んー、そうじゃないんだけど。まぁ、いろいろ。でも、それって結局逃げだから……逃げるの、やめたんだ」

りせ「何か、難しい事考えてるんですねぇ……もし私が男だったら、里中先輩に告白なんてされたら即オッケーなんだけど」

有里「勿論、千枝は好きだよ。だけど、その好きがどういう物なのかがまだわからないんだ。そんな中途半端で、恋人なんてなれないだろ?」

>……?
>何故か、りせが無言になってしまった。

有里「……りせ?」

>りせは信じられない物を見た、というような顔をして僕を見ている。
>……何にそんなに驚いているのだろうか。

りせ「先輩って、案外おこちゃま?」

有里「何を失礼な」

りせ「だって、それって小学生とか中学生が言う事じゃないですか?先輩、おいくつ?」

有里「肉体年齢18歳」

りせ「ですよね?もう大人に片足突っ込んでますよね」

有里「まぁ、そうだけど……」

りせ「……そんなおこちゃまな先輩に一つ、アドバイスしてあげます。里中先輩と会ってからこれまでを思い返してみましょー」

有里「今までを?」

りせ「はい、それでどう思ったかが答えだと思います」

有里「今まで……ね」

>最初に会ったのは病院だったか。
>……。

りせ「まぁ、そういうことですよ。そのお顔が何よりの証明だと思います」

有里「顔?何か、変な顔してる?」

りせ「べっつにー。あーあ、有里先輩は取られちゃったかー。ま、でも私には鳴上先輩がいるし!まだ希望はあるし!」

有里「……悠か。彼もあれで色々大変そうだけどね」

りせ「え、何かあったんですか?」

有里「ほんとに手に入れたいなら、早く仕掛けた方がいいだろうね。かなり強力なコマが狙ってるみたいだから」

りせ「やだ、ちょっと何ですかそれ!教えてくださいよ!ねー有里先輩ってばぁ!」

>放課後、りせと話をした。


【夜 堂島宅】


>今日も堂島さんの帰りは遅い……。
>何か、事件が起こっているらしいが。
>……一度、聞いてみる必要があるかもしれない。


647VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:38:23.758XVM19U4o (4/17)



【2012/5/22(火) 夕方 巌戸台分寮】


美奈子「る、る……ルビー!」

鳴上「ビール」

美奈子「ちょ、それさっき言ったじゃん!」

鳴上「さっきのゲームは美奈子が負けて終わっただろ。リセットだ」

美奈子「ええー……る、る、る……」

岳羽「何やってんの、二人して……」

>ラウンジにはコーヒーカップを持った岳羽さんがいた。

鳴上「あ、今帰りました。いや、帰り道しりとりしようって美奈子が言うもんで」

美奈子「ただいまー。悠しりとり強いんだよ……」

岳羽「はい、おかえり。いいね、楽しそうで……」

>岳羽さんは少しあきれているようだ。

鳴上「はは……ほら、帰って来たからもうしりとりいいだろ」

美奈子「一回も勝てなかった……悔しー」

>美奈子は鞄を持って部屋に戻っていった。

岳羽「風花、今寝てるみたい。……今行っちゃうと起こしちゃうかもよ」

鳴上「あ、そうですか。じゃあ少ししてから様子見に行きます」

>とりあえず、椅子に座った。
>最近少し疲れている……。

岳羽「ん」

>岳羽さんがカップを目の前に置く。
>コーヒー……にしては、少し粘りがあるような。

岳羽「鳴上君、あんまり寝てないでしょ。顔がもう疲れきってるよ。それでも飲んで、ちょっと癒されなさい」

鳴上「これ、コーヒーですよね?」

岳羽「そ。ただしコーヒーと等量砂糖を入れるっていう無茶な飲み方するんだけどね……イタリアンコーヒーってヤツ?」

>なるほど、それでドロドロしているのか……。


648VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:38:49.528XVM19U4o (5/17)

鳴上「詳しいんですか?コーヒー」

岳羽「あー、前に漫画で読んでさ。疲れてる時に試してみたらこれが効く効く」

鳴上「なるほど……」

>一口、啜ってみる。
>あ、甘い。
>甘くて、とろんとして、香り高い液体が喉を通り、胃へ……。
>体の中が少し暖かくなったような気がする。

鳴上「これ、疲れが溶けてくような感じしますね」

岳羽「でしょ。……この前は、ごめんね」

鳴上「何がでしょうか?」

岳羽「ほら、叩いちゃって。大丈夫だった?」

>どうやら先日のアレを気にしているようだ。

鳴上「ああ、平気です。元々俺がやってくれって言ったんですし……ちょっと、耳鳴りは続きましたけど」

岳羽「ごめんって。出来る事はやるって、アレ本気だったんだね。私達よりよっぽど献身的に看護してんじゃん」

鳴上「専門的なことはわからないんで、付き添いくらいのものですけどね」

岳羽「よくなってるの、見ててわかるでしょ?もうあと数日もしたら普段どおりになってると思うよ」

鳴上「そうですね……」

>もう一口、コーヒーを飲む。

岳羽「……ねぇ、鳴上君は、風花の事どう思ってる?」

鳴上「はい?」

岳羽「だから、風花の事。好きなの?女性として」

>コーヒーを噴出しそうになった。

鳴上「げぇっほ!ゴホッ、ん、んんっ!何で急に……」

岳羽「真面目な話。もう言われたかどうかはわかんないけどさ。何となくわかるでしょ?」



649VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:39:26.238XVM19U4o (6/17)

鳴上「……まぁ、言われはしました」

岳羽「どうなの?」

鳴上「正直、良くわかりません。好き……だとは思います。けど、付き合うとか、恋人とか考え始めると……今の感情は、本当にそういう好きなのかなって思ってしまいます」

岳羽「なるほど。私が口出しする事じゃないのはわかってるんだけど、どうしても気になっちゃって」

鳴上「すみません、はっきりしないで」

岳羽「でも、考えてみて。今、寝る間も惜しんで看病してるのは責任感から?それとも何か別の感情?」

鳴上「俺は……」

岳羽「どちらにせよ、はっきり答えてね。あいまいなまま放っておかれるのが一番辛いんだから」

鳴上「わかりました。……答えます、ちゃんと。そうじゃないと失礼ですよね」

岳羽「そういうことだね。おせっかいもほどほどにしときますか。あ、今日は私付き添うから。鳴上君はゆっくり休んで?」

鳴上「え、でも」

岳羽「悟んなさいよ、今日くらいゆっくり考えてみろって言ってんの。任せときなさいって。ね」

鳴上「……はい。それじゃ、お願いします」

岳羽「ん。それじゃ、早速行ってくるね」

>岳羽さんと話をした。
>山岸さんへの感情、少し自問してみよう。
>……。


【2012/5/22(火) 晴れ 夕方 商店街】


完二「すんません先輩、わざわざ来てもらって」

有里「いや、構わないよ。それで、今日はどうするの?」

完二「ああ、多分そろそろ……」

>完二に呼ばれて完二の家に来た。
>なにやら用事があるらしい。

男の子「こーんにーちわー!」

女の子「こーんにちわー!」

完二「おゥ、来やがったなガキ共!」

男の子「かんじー!来てやったぞー!」

完二「うっせ、ちっと黙ってろ!先輩、用事っつーのはこいつらなんス」

>子供達がやいのやいのと騒ぎながらあがってくる。

有里「ああ、この子達が例の……」

完二「あみぐるみ作ってやってたガキ共っス。先輩が作ったヤツ配ったら、一回会わせろって聞かなくて……」

有里「そっか。初めまして、完二の先輩の有里です。よろしくね」

男の子「よろしくー!いぇーい!」

>男の子にハイタッチを求められた。


650VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:40:16.318XVM19U4o (7/17)

完二「で、折角なんでこいつらに作り方教えてやったらどうかなって思ったんスよ」

有里「ああ、それはいいね。僕なんかでよければいくらでも教えるよ」

完二「あざっス!オラお前ら!先輩も教えてくれるっつってっから!俺と先輩どっちに習いたいか選びやがれ!」

男の子「せんぱいがいいー」

>男の子達に取り囲まれてしまった。

完二「……」

有里「あの、僕だけじゃ手が足りないから完二のほうにも……」

完二「いやぁ、いいんスよ。俺なんか……」

>落ち込む完二の手を、一人の女の子が引っ張った。

女の子「かんじがいい……」

完二「……!お、おお!わかった!教えてやっから待ってろ!」

>……。

有里「みんな出来た?」

男の子「できた!すげえかっけー」

女の子「できたー、ありがとー!」

有里「ん、良く出来ました」

>完二の方を見る。

完二「お前、いいセンいってるぜ。もっと練習したら俺より上手くなれるぜ!」

女の子「うん、がんばるね。かんじ、また教えてね」

完二「おう!いつでも来いよ!って、もうこんな時間か。ガキ共、とっとと家帰りやがれ!母親心配すんだろうが!」

男の子「かんじ、またくるからなー!」

完二「おう来い来い!返り討ちにしてやらぁ!」

>子供達は最後まで騒がしく帰っていった。


651VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:40:44.508XVM19U4o (8/17)

完二「ったく、ガキは騒がしくて……ん、なんスか先輩」

有里「いや、完二は優しいんだね」

完二「は、はァ!?いきなり何言いやがんだよ!」

有里「いいじゃない。褒めてるんだから」

完二「まぁ、そりゃかまやしねぇけど……びっくりしちまうじゃないスか」

有里「懐かれてたね、あの子に」

完二「ああ、ちょっと変わったヤツなんスよ」

有里「他の子達も、本当に僕に教わりたいんじゃなくて、そうした方が完二が面白い反応をするから選んだって感じだったしね」

完二「なっ!そうなんスか!?くっそ、あいつら……」

有里「しかし、流石にあの歳はどうなのかなぁ」

完二「は?何がっスか」

有里「直斗がショック受けるだろうなぁ……完二があんな小さい女の子と……」

完二「いや、別にそういうんじゃ無かっただろが!ていうか、何で今直斗が出てくンだよ!」

有里「あれ?てっきり完二は直斗が……」

完二「うわ、うわー!やめろってマジで!それ他で言ったらいくら先輩でもぶっ飛ばすからな!」

>完二は気付かれていないつもりらしい……。
>多分、気付いてないのは当人同士くらいのものだろうから、黙っておいてやろう。

完二「はぁ、はぁ……すんません、アツくなっちまって。とにかく、今日はマジでありがとざっした!」

有里「いやいや、楽しかったよ。よければまた呼んでほしい」

完二「へへ、そっスか。じゃあ、またお願いしやす」

有里「ん。じゃあ、また明日。今日は帰るよ」

完二「うス、お疲れ様っス。また明日!」

>完二は子供達に好かれているようだ。
>ああ見えて、人は良いんだよな……。


【夜 堂島宅】


菜々子「今日もお父さん遅いって……」

有里「そっか……忙しいんだ、仕方ないね」

菜々子「湊お兄ちゃん……」

有里「ん?……じゃあ、本でも読んであげようか。読み終わったら寝るんだよ」

菜々子「うん!えへへ……」

>……。


652VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:41:14.068XVM19U4o (9/17)



【2012/5/23(水) 晴れ 巌戸台駅】


>買い物に行こうと駅へ向かうと、駅前で順平さんを見かけた。

鳴上「……へぇ」

>物静かな女性と歩いている。
>女性のほうはともかく、順平さんは楽しそうだ。

順平「……じゃ、今日はこの辺で。またな!」

女性「……」

順平「おいおい、どしたよ?」

女性「何でもない。次は……」

順平「あ、もしかして寂しいか?まぁ俺がいなくちゃ寂しいってのもよーくわかるけどよ!聞き分けは良くしなきゃいけねーよ?」

女性「……帰る」

順平「あっ、悪い!謝るって!ジョーダンだから!な!」

女性「別に怒ってないわ。私も、ちょっとからかってみただけ」

順平「え?……ったく、焦らせんなよな。そんじゃ、また!」

女性「……また、ね」

>女性と別れた。
>……どうやら、こっちに気付いたようだ。

順平「よっ、鳴上じゃねーか。どした、出掛けんのか?」

鳴上「ええ、少し買い物に。……順平さん、中々やりますね」

順平「やるって、何を?」

鳴上「今の人、彼女じゃないんですか?」

順平「あ!?ああ……見てたんだな。まぁ、恋人!では、無い、よな……うん」

>自分で言いながらどんどん落ち込んでいく。

鳴上「仲良さそうに見えましたけど、違うんですか」

順平「あー、そうなれたらいいなっつーか。あいつは……特別な相手ではあるけど、恋人っつーとちっと違うんだな」

鳴上「何か、難しい関係みたいですね」

順平「難しくもねーけどな。……ほれ、前に言ったろ。俺の進路の話」

鳴上「ああ、やりたい事がある、とかなんとか」

順平「そうそう。それ、アイツの事なんだよな。アイツさ……なんつーんだろ、病気っつーか。体がちょっと普通じゃなくてよ」

鳴上「今医療系に進んでるのって、もしかして」


653VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:41:42.098XVM19U4o (10/17)

順平「そういうこと。アイツの体なんとかできねーかなって。ほんとは薬学じゃなくて医学部行きたかったんだけど、俺の頭が追いついてくれなかったんだよ」

鳴上「なるほど、それで」

順平「だから、大切なヤツではあるけど。今のトコそれ以上にゃなってねーな。……そういや、お前は進路決まったんかよ」

鳴上「それが、まだ決まってないんですよ」

順平「ダメだぜ、早いうちに決めないと。トコロによっちゃ一年の後半じゃ受けてくれねーとこだってあんだからよ」

鳴上「そうですね……といっても、見えないんですよ、本当に。俺って何がしたいんだろう」

>順平さんは大袈裟なため息をついた。

順平「んなもん俺が知るかっつーの。なぁんだよお前全然だな。人の世話ばっかしてねーでちったぁ自分の事も考えたらどうだよ?」

鳴上「です、ね……」

>昔、誰だかに言われたような気もする。
>人に構うのは大いに結構だが、自分の足元もおぼつかないようで何が出来るのか。
>俺は……。

順平「いや、悪かったよ。言い方が悪かった。そんなにヘコまなくていいだろ。な?」

鳴上「あ、いえ……別に……」

順平「あー……なんだ。人の為に働くのが好きなら、例えば警察官とか、なんかあるだろ、それっぽいの。そういうのじゃダメなのかよ?」

鳴上「警察官ですか……何か、そういうんじゃないんですよね」

順平「じゃあそうだな……お前が今まで見た中で、あ、これいいなって仕事とかは?無いの?」

鳴上「あんまり……」

順平「……じゃあもうあれだ!何か、お前が感謝してるヤツとかさ!命の恩人でもなんでも、そういうヤツの仕事とか!?」

鳴上「感謝してる、人……」

>それならたくさんいる。
>だが、たくさんいすぎて逆に困ってしまう。
>感謝……か。

鳴上「……あ」

順平「お、キタか!?思いついたか!?」

鳴上「ちょっとだけ、ですけど。見えたかも……?」

順平「そーだよその意気だ!で、どう進むんだ?」

鳴上「まだ、内緒です」

順平「なんだよ、進路決定の大恩人だぜ?なあちょっとだけ教えろって」

鳴上「そう言われても……」

>どん。
>擦れ違った人と肩がぶつかってしまった。

鳴上「あっ、すみませ……?」

>その人はまるで俺の事など見えていないかのようにふらふらと歩いていった。

順平「ちっ……なんだアイツ、感じ悪ぃな」

>気になって、結局買い物にはいけなかった。


654VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:42:11.908XVM19U4o (11/17)



【2012/5/23(水) 晴れ 夕方 八十神高校】


陽介「終わった!帰る!帰るぞ!」

千枝「私も帰るー。有里君、良かったら一緒に……」

陽介「お、攻めるね里中!」

千枝「な、何よ、ダメなわけ?」

陽介「別に?スキニシタライーンジャナイデショーカー」

千枝「うわ、うざ……あ、有里君。校門とこで待っとくから」

有里「うん。すぐ行くよ」

陽介「俺も俺も!一緒に帰ろうぜ!」

千枝「……まぁ、いいけど」

>二人はさっさと荷物をまとめると教室から出て行った。

有里「天城さんは帰らないの?」

>天城さんは席に座ったままぼんやりとしている。

雪子「へっ?あ、ああ。帰る、帰るよ。うん」

有里「どうかしたの?」

雪子「どうかしたっていうか……うん。ちょっと、羨ましいなって」

>そう言うと、困ったように笑った。

有里「羨ましいって、誰が?」

雪子「千枝がね。……あんな風に、好きな人とか好きな物に向かうのって、凄く羨ましいっていうか、素敵だなって」

有里「……何でそこまで気に入られてるのか、僕としては良くわからないんだけどね」

雪子「何でだろうね?それは本人に聞いたらいいんじゃないかな、なんて。私は……そんなに好きな人、いないから」

有里「天城さん、美人なのに。もったいないね」

雪子「ふふ、ありがと。ほんと言うとね、鳴上君の事好きだったんだと思う。けど、りせちゃんとか、直斗くんとか。応援してる内に、諦めついちゃった」

有里「悠も罪作りだね……」


655VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:42:40.458XVM19U4o (12/17)

雪子「あ、でもそれ有里君が言うとちょっと違うかも」

有里「ん?何で?」

雪子「お前が言うな?みたいな」

有里「……あ、そう」

雪子「鳴上君の事は好きだったけど、友達を押し退けてまで欲しいかっていうと、それも違う気がして……ね」

有里「遠慮?」

雪子「まぁ、そんな感じ。友達より上に来なかったんだから、そんなに好きでもなかったのかな?なんて思ったりして」

>ペンを手で弄びながら言う。
>斜光に映える顔をしているな、と思った。

有里「天城さんがそれでいいなら、僕は何も言わないけど。それでいいなら、ね。後悔があるなら、きっと引くべきじゃなかったんだ」

雪子「後悔は無いよ。うん。だけど、羨ましいと思う事はある。私もあんな風に、まっすぐ生きていけたらなあって、思う」

有里「千枝は熱量高いからね。その点で言えばりせとかもそうかな。天城さんはそうなりたいの?」

雪子「なりたい。納得したフリして、言い訳して逃げたりしないから。私はまだ、そんな風にはなれてないから……」

有里「……熱量は燃料によって決まるんだよ。ほら、文字通り燃えるような恋でもしてみたらどうかな。陽介とか、待ってると思うよ」

雪子「花村君?花村君はお友達だよ」

>陽介には黙っておこう。

有里「そう?じゃあ僕とか。どうかな?」

雪子「……んー」

有里「微妙か……」

雪子「あはは、ごめんごめん。有里君は、うーん。鳴上君がいなかったらわかんなかったかも」

有里「あれ、意外と高評価」

雪子「ふふふ。千枝には内緒ね。って、そうだ二人とも待ってるよ。早く行かないと」

有里「ああ、そうだったね。急ごう」

>天城さんと話をした。
>彼女は彼女で色々複雑そうだ。

陽介「お、来た来た。おやぁ?天城女史と二人で歩いてきますねぇ。里中女史、これはどうしたことでしょうか!?」

千枝「……いやいや、普通に教室から一緒に来ただけじゃん。不思議な事ないでしょ」

有里「お待たせ。帰ろうか」


656VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:43:44.298XVM19U4o (13/17)

雪子「あっ……まただ」

>天城さんが見ている先には男が立っている。

陽介「知り合いかよ?」

雪子「ううん、違うんだけど……今朝学校に来る途中でも会ったの。何か、フラフラしてて……」

有里「影人間」

>無気力症。
>影を食われる。
>影人間。

千枝「ただの変な人なんじゃないの?」

陽介「何にせよ、ちょっと気味悪ぃな……」

>シャドウらしき影。
>堂島さんが追っている「事件」。
>無気力症。
>影時間の消失。
>テレビの中の世界の消失。

有里「……そうだね」

>繋がりつつある。
>それも、嫌な方向に。
>手遅れになる前に、手が見つかるといいが。



【2012/5/24(木) 晴れ 夜 堂島宅】


堂島「ただい……なんだ、今日は起きてたのか」

有里「ええ。少し質問がありまして」

>堂島さんは疲れきった様子でソファーに身を沈ませた。

堂島「手短に頼む。少し……いや、かなり疲れてるんだ」

有里「ええ、そう見えますね……ですが、簡単に済むかどうかはわかりません」

堂島「重要な話か」

有里「とても、重要な話です」

>件のライターで煙草に火をつける。

堂島「……聞け。なんだって答えてやる」

有里「ありがとうございます。まず、今堂島さんが追っている事件について。職業上、明かせないのはわかりますが、僕のような何の力も無い高校生に、ぽろっと話すくらいはしてくれても良いと思います」

堂島「今追っている事件か。事件なのか、また別の話なのかはわからん。が、とにかく異常だって事で俺達が捜査にあたってる」

有里「それは、例えば家を出た家族が帰ってこない、だとか。そういう案件が多数報告されているとかでしょうか」

堂島「その通りだ。学校に行った子供が帰ってこない、仕事に行った夫が帰ってこない。そういう話が多数あがってる」

有里「昔、そういった事件が話題になったのを覚えていますか」

堂島「ああ。三年ほど前だったか。あれは病気のせいだったはずだ。無気力症と言ったか」

有里「今、また同じ事が起こっている。そう考えて良いんですね」

堂島「……その線が濃いだろうな」

有里「……わかりました」

堂島「終わりか?」

>……一際、煙を長く吐いた。


657VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:44:16.628XVM19U4o (14/17)

有里「ええ、一応は。あまり喋らせても、警察としてまずいでしょうし」

堂島「ありがたいね。……この事件、お前が追ってたヤツと同じか?」

有里「ええ、恐らくは」

堂島「解決策はあるのか」

有里「……恐らく、は」

堂島「お前、覚えてるか。俺がこの前言ったこと」

有里「俺と菜々子の事も考えろ、でしたよね」

堂島「忘れてないなら良いんだ。……なんていうんだろうな。何かに殉じるっていうか、そういう目をしていたから」

有里「……菜々子は、泣きますかね」

堂島「さぁな。悠が出て行った時はどうだったかな……」

有里「まさか、菜々子を泣かせるわけにはいきませんよねぇ」

堂島「そう思うなら、わかってるだろうな」

有里「ええ。危ない事はしません……とは言いませんが。ちゃんと帰ってくるつもりです」

堂島「そうか。安心した。……俺はもう寝るぞ」

有里「はい。僕も寝ようと思います。……おやすみなさい」

>やはり、影人間だ。
>テレビの中にも入れず、影時間も無く。
>それでも影人間が生まれるということは、恐らくは……。

有里「帰ってくるつもりです、か。……はぁ」

>今日はもう寝よう。
>明日、悠に連絡をとってみよう……。


【2012/5/24(木) 晴れ 夕方 ポロニアンモール】


美奈子「ねぇ、気付いてる?」

鳴上「何にだ?」

>今日は、昨日買えなかった物を揃えに出掛けたのだが。
>寮を出るとき、美奈子に捕まってしまい、そのまま何故か一緒に買い物する事になった。

美奈子「人。変な人多くない?」

鳴上「ああ……確かに」

>ぼんやり立ったままの人、ふらふらするだけの人、俯いてじっとしゃがみこんでいる人。
>全体から見れば割合は多くないが、今まで見なかった分かなり多く思える。

美奈子「どう思う?」

鳴上「……事件と、無関係じゃなさそうだな」

>次の段階。
>中と外の入れ替わり。
>……影人間。

美奈子「でも、今テレビには入れない。どうしようか」

鳴上「どうしようも無いな……くそっ、どうなってるんだ」

>掲示板を調査していた山岸さんはまだ復帰できていない。
>今夜辺り覗いてみるか……。

美奈子「……とりあえず、今日は買い物して帰ろう。ね?」

鳴上「ああ……」

>必要な物だけを買って帰る事にした。


658VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:45:04.708XVM19U4o (15/17)



【巌戸台分寮】


アイギス「お帰りなさい」

美奈子「ただいまー」

鳴上「ただいま……」

>ラウンジにはアイギスさんがいた。

アイギス「鳴上さん、どうかしましたか?」

美奈子「ああ、ちょっとね。悠、私部屋戻るね」

鳴上「ああ。……ふぅ」

>アイギスさんが心配そうにこっちを見ている。
>なんだか、この人には心配かけっぱなしだな……。

鳴上「大丈夫です、疲れたとかじゃなくて……無力感っていうんですかね。ちょっと凹んでるだけで」

アイギス「……それも、心配です」

鳴上「そうですか。平気ですよ、別に。やる気だけはありますんで」

アイギス「……Mement mori」

>ぽつり、と耳慣れない言葉が聞こえた。

鳴上「えっと……なんですか?」

アイギス「Memento mori。哲学用語だったと思います。直訳すると、死を想え」

鳴上「死を、想え」

アイギス「人は……いつか必ず死んでしまいます。それは避けられない事です」

>アイギスさんはココアの入ったカップを差し出しながら言う。

アイギス「それを忘れるなと、そういう意味です。毎日を悔いの無いように生きる事、それが死を想うこと」

鳴上「なるほど……」

アイギス「私が見るに、鳴上さんはそうやって生きる事が出来ているように思います。何があってもただまっすぐぶつかって乗り越える……その姿勢はすばらしいです」

鳴上「……」

アイギス「無力なんかじゃないと思います。あなたは、あなたにしか出来ない事をしている。何も進んでいないように見えても、どこかで誰かに影響を与えている」

鳴上「俺が、ですか」

アイギス「ええ。私にも、他の誰かにも。だから、落ち込まないで。あなたが落ち込んでいると、周りの皆も少し……」

鳴上「……わかりました。だからそんな顔しないでくださいよ。ちょっと、これから事件の事調べてきます!」

アイギス「ココアを飲んでから、ですね」

鳴上「ん、そうですね」

>ココアを飲み干して、部屋に向かった。
>……。


659VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:45:40.688XVM19U4o (16/17)


鳴上「例のスレッドは……あった。うわっ、何だこれ……」

>以前見た時より遥かに勢いが増している。
>パートも、知らない間に随分と伸びているようだ。

鳴上「書き込みは……やっぱり、新しい噂が流れてる。次の段階か」

>内と外の入れ替わり。
>現実に徘徊するシャドウ。
>近付く滅び。
>……降臨の時。

鳴上「降臨の時……いつだ?」

>Nyx降臨に関する話題を辿る。

鳴上「影人間が増えて……それから。シャドウが目に見え始めて……それから。……次、か」

>入れ替わりとは、名の通り起こる現象の入れ替わりである。
>本来ならテレビの内側にしか存在しないシャドウが現実に現れ始める。
>最初はシャドウを見る事は出来ない。
>影人間が増え、シャドウの力が増すと、シャドウの姿が見えるようになる。
>そして、シャドウが姿を現すようになってから。

鳴上「最初の雨の夜、再びマヨナカテレビが映る。世界の滅びは、そこから発信される……」

>天気予報サイトを見てみる。

鳴上「次の雨は……27日。日曜日」

>決戦の時が、決まった。


660VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/16(水) 20:46:40.828XVM19U4o (17/17)

仲間と過ごす毎日。
侵食される毎日。
月が落ちてくる。

というわけで本日分はここまで。
では、また後日。


661VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2012/05/16(水) 21:06:26.52vRgCz/120 (2/2)

乙!


662VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/16(水) 21:48:45.27xUPhs54Uo (1/1)

乙!
しかしゆかりっちがジョジョを読んでいたとはな


663VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/17(木) 12:48:44.85p2iVzeT/o (1/2)

>>230
読んでるよレスも付けてるよ…
俺は向こうの手広過ぎた奴より、>>230のしっかりとP3P4のネタの方が好きだぜ?


664VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/17(木) 12:49:22.95p2iVzeT/o (2/2)

ごばった!(しくしく)


665VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:45:19.00PgrCTKVXo (1/18)

ゴバクヤメテクダサーイ
ハズカシイデース

というわけで本日分。


666VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:46:34.40PgrCTKVXo (2/18)



【2012/5/25(金) 晴れ 巌戸台分寮】


>Pipipi……
>電話だ。

鳴上「もしもし」

有里『もしもし、おはよう。少し時間をくれないか』

鳴上「そっちでも何かあったんだな」

有里『流石に理解が早いね、助かるよ。……ってことは、やっぱりそっちでも何かあったんだね』

鳴上「ああ。影人間……無気力症になる人間が増えてきている」

有里『こっちも同じ。何かわかった事は?』

鳴上「噂が本当になるんだそうだ」

有里『噂が?』

鳴上「火の無い所に煙が立ちまくってる。影時間も、マヨナカテレビも、ある掲示板で語られ始めた噂が最初だ」

有里『……冗談だろう』

鳴上「冗談でもなんでもない。そこに新しい噂が流れ始めて、今に至る」

有里『なんというか、力の抜ける話だね……』

鳴上「仕方ないだろう、事実だ」

有里『で、新しい噂って?』

鳴上「シャドウが現実に徘徊するようになるんだそうだ」

有里『あ、やっぱり』

鳴上「ああ。そして影人間が増え、シャドウは力をつけ続ける」

有里『……』

鳴上「今は目に見えないシャドウが、目に見えるようにまでなるんだと」

有里『それ、誰が言い出したんだろうね』

鳴上「さぁな、俺達からしたら荒唐無稽でも、何も知らない奴らにはそれなりに信憑性があるみたいだ。というか、面白がっているとしか思えない」

有里『それはある意味仕方ないよ。それで、その先は?』

鳴上「滅び、だそうだ。シャドウが目に見えるようになるまで、それほどの時間はかからない。そして、そこまで力をつけた後、初めに雨が降った日の夜」

有里『Nyxがやってくる?』

鳴上「みたいだな。マヨナカテレビがもう一度映って、そこから全世界に滅びが発信されるそうだ」

有里『予報だと……次の雨は』

鳴上「明後日、日曜だな」

有里『多分、その日だろうね』

鳴上「……ああ」

有里『……ありがとう。よくわかった』


667VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:47:37.95PgrCTKVXo (3/18)

鳴上「湊。お前、何考えてる?」

有里『別に、何も。ただこの事態を解決する事だけ考えてる』

鳴上「……お前、信じろって言ったよな」

有里『言ったね』

鳴上「信じてるぞ」

有里『……ああ。それじゃ』

鳴上「またな」

>……電話が切れた。

鳴上「……信じてるぞ」


【ラウンジ】


美鶴「未だ出掛けた者がいなかったのは幸いだったな。今日は遅刻だ、皆仲良く」

鳴上「すみません。けど、どうしても伝えておかなければならないので」

順平「どうしたっつんだよ、朝から」

>桐条さんに言って、寮内全員を集めてもらった。
>山岸さんだけは、まだ寝てもらっている。

鳴上「事件が動きました。皆さん、街を歩いていて妙な人を見ませんでしたか?」

順平「あ、ひょっとしてあん時の……」

鳴上「そうです。順平さんと歩いていた時にもいました」

岳羽「もしかして、最近よく見かけるやたらダルそうな人達って」

天田「無気力症……」

鳴上「そのようです」

アイギス「しかし、影時間もマヨナカテレビも存在しない今、どうして無気力症が起こるのですか?」

鳴上「シャドウが現実世界に現れるようになっているみたいです」

真田「なんだと?」

鳴上「今は、俺達のようなペルソナ使いにも見えないようですが……その内、誰にでも見えるようになると」

美鶴「感知型……山岸のペルソナなら何かわかったかもしれないが、それを調べさせる前にな……」

順平「あれっ、桐条先輩のペルソナで調べられないんすか?」

美鶴「私のペルソナはもうペンテシレアではない。元々実験で得た能力だったし、アルテミシアには同様の力は無い」

鳴上「山岸さんが全快し次第、調査してもらおうと思いますが……とにかく、現時点でそういう状態にあるらしいです」


668VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:48:25.88PgrCTKVXo (4/18)

真田「……現状報告の為に俺達を集めたのか?」

鳴上「いえ……もう一つ、重大な報告が。次の雨……予報通りなら日曜。またマヨナカテレビが映るみたいです」

天田「やっぱり終わってなかったんですね」

鳴上「そして、タルタロスの頂点に……」

岳羽「アレ、が?」

鳴上「Nyxが、やってくるそうです」

>沈黙。
>きっと俺以上に、他の皆はその意味をわかっている。
>だからこその沈黙。
>……今回は、命を捧げる男がいない。

順平「どうすんだよ……どうすんだよ!時間ねえってマジで!やばいだろコレ!」

岳羽「ちょっと、落ち着きなよ……」

順平「落ち着いていられるかっつーんだよ!またアレと戦うんだぜ!?しかも有里抜きで!……そうだ、有里だ!アイツなら……」

天田「有里さんには連絡したんですか?」

鳴上「ああ。あいつがどうするかはわからないけど、一応伝えてある」

真田「倒せるのか、俺達に……」

アイギス「アレは、倒すとか倒せるとか、そういう物じゃありません。ご存知だとは思いますが」

順平「じゃあどうすんだよ!このままほっときゃまたあん時みたいになっちまうんだろ?皆ぐちゃぐちゃに……」

美鶴「全員落ち着け。……時間は無い。それは確かだ。正直、ここまでの急展開は予想すらしていなかった。だから、私は彼に判断を預けようと思う」

>桐条さんは俺を見た。

鳴上「……美奈子。お前は何かないのか?」

>さっきからずっと黙っている美奈子に、意見を聞いてみる。
>美奈子は手をひらひらと振っただけで、何も言わなかった。

鳴上「俺は、前回の事件を知りません。ただ、その顛末だけは知っています。俺は……」

>絆が力になる。
>絆を集め、力にする事が出来る。
>ワイルドの……能力者。


669VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:48:37.53PgrCTKVXo (5/18)

鳴上「俺は、命を諦めません。俺達人間は、いつか死にます。けど、最後の瞬間まで足掻くのも人間だと思います。決戦は、明後日の日付が変わる頃」

>すぅ。
>はぁー……。
>覚悟を決めるのに、一呼吸。

鳴上「タルタロスを完全攻略し、ニュクスと……戦います。どうしても、倒せない、退けられなかった時は……」

美鶴「待て、鳴上。それ以上言うな」

>俺が、自分を……そう続けようとしたが、桐条さんに遮られた。

岳羽「それは、本当に最後の手段。今考えるべきは、倒し方でしょ?」

真田「確かに、戦う前から負けを覚悟するってのはナシだな」

天田「勝つ気で挑んで勝てるかどうかわからない相手ですし、ね」

順平「年下にそんだけ落ち着かれてちゃ、俺の立つ瀬無いっての。……しゃーねー、やるだけやってみっか」

アイギス「簡単には負けません。私達だって、今まで戦ってきたのだから」

>全員が、俺を犠牲にする選択肢を否定した。

美鶴「頼もしいだろう、自慢の仲間だ。……それでは、これ以降、特別課外活動部は一時解散とする。各々立場を忘れ、好きに行動するといい」

鳴上「再集合は、決戦の時。またここで」

美鶴「来たくない者は来なくても良い。だが……信じているぞ」

順平「あー、どうすっかなー。アイツ、今日暇じゃねーだろなー……」

岳羽「あ!あそこの新メニュー、まだ試してない!どうしよ、行っちゃおっかな……」

アイギス「あの、ゆかりさん。私もご一緒しても……」

天田「コロマル、散歩行こっか!」

コロマル「ワン!」

真田「俺は何時も通りトレーニングとしよう」

>皆、思い思いに動き出した。
>……美奈子だけが終始無言で、そのまま部屋に戻っていった。

鳴上「みな……」

美鶴「鳴上、少し良いか?」

鳴上「あ、はい。どうかしましたか?」

美鶴「いや、君と少し話をしておきたい。構わないか?」

鳴上「それは、はい。構いませんが……」

美鶴「そうか。では、私の部屋に来てくれないか」

>……。


670VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:49:04.42PgrCTKVXo (6/18)

鳴上「これは……うわぁ」

>過剰だ。
>これは過剰だ。

美鶴「そうか、見るのは初めてだったか……まぁ、彼以外に男性が踏み入れた事も無かったし、な」

>桐条さんは照れているようだ。
>どうやら本人の意思でこんな部屋になっているのではないらしい。

鳴上「ええと、それで、話というのは」

美鶴「ああ……君は、私を恨んではいないか」

>唐突にそう切り出され、一瞬理解が出来なくなる。

鳴上「は、ええ?何故です?」

美鶴「私が君を勧誘しなければこうはならなかったのではないかと思ってな。こうも絶望的な戦いに身を投じる事は無かったのに、と」

鳴上「いや、違いますよ、それ。桐条さんが勧誘してくれたから、戦う事が出来るんです。何も知らずに滅びを迎える、そういう選択肢を回避できたんです」

美鶴「強いんだな、本当に。……人は必ず死ぬ、だったか。深い事を言うものだな」

鳴上「受け売りですけどね。Memento mori、だそうです」

美鶴「死を想え、か。なによりこの状況に相応しい言葉だな。君は、どう思う?」

鳴上「どう、とは?」

美鶴「直訳すれば死を想え。いつか死ぬ事を忘れるなという意味だ。だが、私は思う。この言葉の意味は、受け取る側によって意味が違うと」

鳴上「受け取り方ですか」

美鶴「私にとって、死は恐怖だ。立ち向かうべき物だ。しかし、それを内包し受け入れ、飲み込んでしまうような者もいる。君にとって死とは何だ?人生をどう過ごせばいい?」

鳴上「……難しいですね。俺には何とも」

>桐条さんは笑った。

美鶴「そうだな。こたえなど、それこそ死ぬまで出ないのかも知れない。それを探すのも、人生なのかもな」

鳴上「命のこたえ、ですよ」

美鶴「そうだな……呼び止めて悪かった。君も好きなように過ごすといい」

鳴上「はい……それじゃ、失礼します」

>桐条さんの部屋を出た。
>……好きなように、か。
>……。


671VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:49:33.58PgrCTKVXo (7/18)

>コンコン。
>扉をノックする。

美奈子「ん、誰?」

鳴上「俺。今、いいか?」

美奈子「どーぞ、入って」

>扉を開けると、想像より遥かに殺風景な部屋が広がっていた。

美奈子「どしたの、驚いちゃって」

鳴上「いや、俺の想像する女の子の部屋と随分違ったから……」

美奈子「ぷっ、何それ。もっとファンシーなの想像してた?」

>美奈子は愉快そうに笑う。
>……さっき、様子がおかしく思えたのは気のせいだったのだろうか。

鳴上「それにしたって物無さ過ぎやしないか?学校の道具と……ぬいぐるみ?」

美奈子「それ以外いらないからね」

>何故だろう。
>美奈子の様子がいつもと違うのはわかる。
>ただ、どうにも核心が見えない。

鳴上「なぁ、もしかして何か知ってるんじゃないのか」

美奈子「知ってるって、何が?」

鳴上「事件について。それで、何か悩んでるとか」

美奈子「知らないよ、何も。元々私の領分の外だし。終わらせるのは、悠たちだよ」

鳴上「でも、お前はわざわざ俺達を助ける為に現れたんだろ?」

美奈子「んー、じれったかったからね。本当は皆、事件を終わらせるだけの力はあるんだよ。なのに、悩んだり、立ち止まったり、いろんな人困らせたり。見てらんなくて」

鳴上「そりゃ、悪かった……。心配になってさ。様子がおかしかったから」

美奈子「まぁ、最終決戦前だし?ちょっとナーバスにはなるよね」

>嘘だ。

鳴上「……いつ、話してくれる?」

美奈子「だから、別に何も……」

鳴上「いつだったか、私に嘘は通じないって言ったろ。同じだよ、お前は俺だった時もあるんだから」

美奈子「……そうだね。んー、でも、今は無理。その時が来るまでには話す。信じて」

鳴上「本当だな?」

美奈子「嘘だと思う?」

鳴上「……信じよう。じゃあ、俺山岸さんのとこ行ってくるから」

美奈子「ん、うん。あ、悠」

鳴上「どうした?」

美奈子「ありがとね」

鳴上「ああ。お前も、やりたいことやっとけよ」

美奈子「はーい」

>美奈子の部屋を後にした。
>……。


672VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:50:01.20PgrCTKVXo (8/18)



【風花の部屋】


>ノックをしたが、返事は無い。
>まだ眠っているのだろうか。

鳴上「失礼します……」

>少しだけ扉を開けて、中をうかがってみる。
>やはり眠っているようだ。小さく寝息が聞こえる。

鳴上「……」

>起こさないようにそっと近付いて、寝顔を眺める。
>随分血色は良くなった。
>熱ももうほとんどない。

鳴上「……よかった」

>起こさないように、寝顔でも眺めていよう。


【2012/5/25(金) 晴れ 堂島宅】


>悠に電話をかけた……。

有里「もしもし、おはよう。少し時間をくれないか」

>……。
>電話を切った。

有里「時間が無いな。……とりあえず、こっちの皆には内緒にしておこう。止められそうだし」

>Nyxは倒せるものではない。
>あれを遠ざける方法は一つ、大いなる封印。
>だが、その代償は……。

有里「学校、行かないとな……」


673VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:50:30.82PgrCTKVXo (9/18)



【八十神高校】


陽介「うっす、有里。……なぁ、例の変なヤツら、増えてねえか?」

有里「ああ、少し増えたみたいだね……」

陽介「なんかよ……ムズムズするよな、こういうのさ。何か起こってるのに、手が出せねーっつーの。すげえ嫌だぜ」

>まだ、千枝や天城さんは登校してきていないようだ。
>……よし。

有里「陽介、今日はサボろう」

陽介「サボ……何いきなり言い出してんの、お前」

有里「気分気分。付き合ってよ」

陽介「あのね……俺ら受験生なワケよ?そんなサボったりなんかしてたら大変よ?わかる?」

有里「愛家で肉丼おごるからさ」

陽介「……ちょっとだけですよ?」

有里「決まり。先生来る前に逃げちゃおう」

陽介「ちょ、おまっ!……ったく、このマイペース大王が!待てって!」


【愛家】


陽介「サボり、ダメゼッタイ」

有里「肉丼食べながら言う事じゃないね」

陽介「うるせっ!食費でも何でも浮かせるとこで浮かすんだよっ!」

有里「ははは……」

>学校をサボって陽介と愛家に来た。
>陽介は肉丼を食べながらこっちを見ている。

陽介「……で?何かあったんかよ」

有里「ん?別に。気分だよ、気分」

陽介「嘘だろ、それって。お前、里中も天城もいないの確認してから言ったもんな。何か話あんだろ?」

>驚いた。
>そこまでしっかり見抜かれているとは……。
>侮れないな。

有里「……別に、話は無いよ。ただ、陽介と少し二人で過ごしたかっただけ」



674VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:50:54.24PgrCTKVXo (10/18)

陽介「うぇ、なんだよそれ。お前まさかそっちの……」

有里「だったらどうする?」

陽介「……ま、冗談はいいよ。つか、何で俺よ。それこそ里中とかのがいいんじゃねえの?」

有里「千枝は明日家に来る予定だからね。今日は陽介」

陽介「あー、はいはいよござんすね。しかしまた何で俺と二人でなんて言い出したわけ?」

有里「内緒。まぁ、たまにはいいじゃない」

陽介「そりゃいいけど。何か事件絡みじゃねえかなって気になってよ。どうなんだよ」

有里「ああ、無関係。ただ、陽介のことが気になってね」

陽介「……お前って、たまにびっくりするくらい色気あるよな」

有里「ん?何が?」

陽介「な、なんでもねぇって!気にすんな!な!」

有里「……陽介なら、いいよ?」

陽介「うわぁ、よせ、やめろって!俺そんなんじゃねーから!ちげーからな!」

有里「わかってるよ。言ってみただけ。僕だって女の子が好きだ」

陽介「そういうネタは完二だけにしろっつの。ていうか、お前もそういう事言うんだな」

有里「そういうことって?」

陽介「いや、女好きとかそういうのよ。お前ってもっとこう、紳士的っつーか、そんな感じだと思ってた」

有里「ああ、女子の前ではね」

陽介「あ、計算?」

有里「うん。がっついても良い事無いよ」

陽介「っかー、きたねーな!そういう事は教えろよ俺にも!」

有里「陽介は手遅れじゃない?」

陽介「そうだね……もうバレバレだもんね……」

有里「あはは……」

>陽介と一日遊びまわった……。
>……。


675VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:51:29.00PgrCTKVXo (11/18)



【夜 堂島宅】


有里「菜々子」

菜々子「なぁに、湊お兄ちゃん」

有里「菜々子、一人で寝るの平気だよね?」

菜々子「うん、平気だよ。どうしたの?」

有里「一人で学校も行けるし、お父さんのお世話も出来るよね?」

菜々子「ちゃんとやるよ。お兄ちゃん、どこか行っちゃうの?」

有里「そういうわけじゃないよ。……菜々子、今日は一緒に寝ようか」

菜々子「えっ!ほんとに?」

有里「今日だけだったら、堂島さんも許してくれるだろうし。嫌?」

菜々子「えへぇ、嬉しい……」

>菜々子に本を読んでやって、そのまま一緒に寝た。
>……。


【2012/5/26(土) 晴れ】


>髪を誰かが撫でている……。
>優しい手つきだ。
>気持ちいい……。
>手が、頬にも触れる。

鳴上「ん……ぁ……?」

>目を開けると、いつもの自分の部屋ではなかった。
>あれ、ここは……。

風花「あ、起こしちゃった?」

鳴上「あ……山岸さん。あれ、俺……」

>……思い出した。

鳴上「っうわ!すみません、寝ちゃってたみたいで……」

>昨日、山岸さんの寝顔を眺めていたら、そのまま眠気に襲われて……。
>見た所、もう昼のようだ。
>随分と眠っていたらしい、座ったまま寝たからか膝が痛い。

風花「ふふ、おはよう。よく寝てたね」

鳴上「お、はようございます……」

>ということは、さっき髪を撫でていたのは山岸さんか。
>撫でられた辺りに手をもっていく。


676VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:52:19.86PgrCTKVXo (12/18)

風花「ごめんね、起きたら鳴上君がそこで寝てて……つい、手が」

鳴上「あ、や、全然大丈夫です。むしろ良かったです」

>山岸さんはくすくすと笑った。

鳴上「体調は大丈夫ですか?」

風花「うん、もうほとんど……病み上がりだから、ゆっくり戻していきたいけどね」

鳴上「……少し、お話しなければならない事があります」

>Nyx降臨の話、それに伴う決戦の話をした。

風花「……思ってたより、随分早いんだね」

鳴上「そうですか……そうですね」

風花「私ももう参加出来るし、いつでも言ってね」

鳴上「そんな、まだ……」

風花「大丈夫。私だけ寝てるわけにはいかないもの。それに、私がいないと皆帰ってこれないでしょ?」

鳴上「それは、そうですけど……」

風花「心配しないで。もう決めたの。逃げないから。辛くても、逃げない。逃げなくてもいいって、言ってくれたでしょ?」

>それを言われたら、反論出来ない……。

鳴上「あ、そういえば。聞きたかった事あるんですけど」

風花「ん?何?」

>これを聞くのはかなり気恥ずかしいのだが……。

鳴上「ええと、その。何で、俺なんですか?」

風花「何でって、何が?」

鳴上「……好き、だって」

>ぼんっ、と音がした。
>ような気がするほど、一瞬で山岸さんが沸騰した。
>顔は真っ赤だし目は白黒している。
>部屋には俺と山岸さんしかいないのに、きょろきょろと辺りを見回している。

風花「えっと、ごめ、熱が!熱があってね!い、勢いで!勢いで言っちゃったんだけど!その、嫌だよね、私みたいな子じゃ……八十稲羽にも可愛い子一杯いたし!」

鳴上「ちょっと、落ち着いてください。俺だって聞くの恥ずかしいんですから……勢いだったっていうのも、ちょっと悲しいですし」

>コップに水を入れて、山岸さんに勧める。
>コップ一杯の水を、喉を鳴らして一気飲みしてしまった。


677VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:52:53.44PgrCTKVXo (13/18)

風花「……ふぅ。びっくりしちゃった」

鳴上「俺もびっくりしましたよ」

風花「ごめん……うーん、答えないとダメ?」

鳴上「まぁ、聞かずに決戦となると集中できないかもしれませんし。戦ってる最中に聞いてもいいならいいですけど」

風花「それはヤメテ……わかった、じゃあ答えるね」

>「答えるね」、と言って、しばらく黙っている。
>黙ったまま、俺の目を見ている。
>……じっと見返した。

風花「……っ、うぅぅぅ……あーぅー……」

>また沸騰した。

風花「ごめんっ、恥ずかしい!ほんとに恥ずかしいの!だからこっち見ないで!向こう向いてて~お願い~」

>真っ赤になっている山岸さんを見れないのは非常に惜しい……が、仕方ない。
>黙って後ろを向くことにする。

風花「はぁ、ふぅ、うぅ……GWに、鮫川に行った時、ちょっと言った事覚えてる?」

鳴上「あれ、アレって冗談だったんじゃ……」

風花「うん、嘘ついた。ごめんね。……最初は、有里君に似てるなって思って、それから。何かある度に目で追っちゃって、駄目だなって思いながらもちょっとずつ重ねちゃって」

鳴上「……あの時期は、それなりに気にしましたよ」

風花「あはは、ごめん。で、それから……お料理の話した時くらいかな。気が付いたら、有里君じゃなくて鳴上君を見てたんだよね。彼と君は似てるけど、やっぱりすごく違って……」

>背後で一つため息が聞こえた。

風花「彼には、助けてもらった。色んな物をもらった。でも、こうして考えると……彼と私が一緒に持ってた物って、無いのかもしれないって思った」

風花「彼は私の一歩前を歩いて、道にある石とか、危ない物を取り去ってくれる。それから、無言で手を出して、私の手を引いて。そんな姿に、私は憧れて」

風花「でも、鳴上君は違う。隣に立って、一緒に躓いて。笑いながら先に立ち上がって、手を差し伸べてくれて」

風花「そういう人なんだなってわかったら、一緒にいてすごく居心地が良くって。気付いたら、好きに……」

>多分、今、山岸さんは泣いている。
>時折聞こえる嗚咽がそう証明している。

風花「私、ずるい子だから。まだ有里君の事も好きなんだ。だけど、それよりちょっとだけ、鳴上君の方が好きで」

風花「八十稲羽に行った時、里中さんや天城さん、りせちゃんに会った時、この子達には勝てないって思って。だから、先に、とか考えちゃって」

風花「里中さんが有里君の事好きだって聞いた時も、嫉妬しちゃって。私は……」

鳴上「もう、いいです」

>これ以上聞いていたら、山岸さんが壊れてしまいかねない。

鳴上「もうわかりました。……そっち、向いていいですか」

>ぐす、と鼻をすする音が聞こえた。
>ごそごそと、居住まいを正しているようだ。


678VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:53:27.31PgrCTKVXo (14/18)

風花「……はい、どうぞ」

>振り向くと、やっぱり泣いていた。
>涙は拭いたようだが、後から後から湧いてくるようで、ぽろぽろとこぼれている。

鳴上「……まぁ、きっかけが湊っていうのが悔しい所ですが。俺は、ずるいとか思いませんよ」

風花「……」

鳴上「そんなにまで思われるって、すごく嬉しいです。だから、そんなに卑下しないでください」

風花「ん……」

鳴上「あーっと、ですね。充分、その……俺の事を、好きだっていうのはわかりました。ありがとうございます」

>山岸さんは目を擦りながら笑った。

風花「どういたしまして。あの、それで……返事」

鳴上「それなんですが。明日、戦いに行くんですよ。生きて帰って来れるかわかりません。なので……」

鳴上「帰ってくるまで、内緒にしておきます」

風花「……約束。約束破って帰ってこなかったりしたら、怒るからね」

鳴上「はい。怒られたくないんで頑張ります」

>小指を差し出す。
>山岸さんの小指が絡んだ。

風花「指きり。……この後、どうするの?」

鳴上「特に予定は……」

風花「……」

>つないだ指を離してくれない……。
>山岸さんと長い時間を過ごした……。


679VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:53:53.66PgrCTKVXo (15/18)



【2012/5/26(土) 晴れ 堂島宅】


>今日は千枝が来る日だ……。

有里「そろそろ来るはずなんだけどな……」

>窓から様子を見てみる。

有里「……!?」

>気のせいだろうか。
>今、何か見えた気がする。

有里「……千枝に似てる、けど、別人かな?」

>……これで、このまま家に来たら確定だけど。

千枝「こんにちわー」

有里「来ちゃったよ」

>やはりアレは千枝だったようだ。

有里「や」

千枝「ども」

有里「……」

千枝「……何?」

有里「いや、その。どうしたの、それ」

>今日の千枝はいつもと違う。
>ていうか、服装が違う。
>いつものジャージはどうした。

千枝「ああ、これさ……今度、また有里君のお部屋にあげてもらうって話をしたのよ、りせちゃんに。そしたら……うん」

>りせコーディネートのようだ。
>なんというか、ふわふわしている……。
>襟と肩にレースがついた白い袖無しのトップス。
>その上から淡い緑のカーディガンを羽織って、下は紺のキュロットスカート。
>……多分、そこまで指定されなかったのだろう。
>足元はいつものローファーなのが千枝らしい。

千枝「変、かな?」

有里「良い」

千枝「へっ!?」

有里「あ、なんでもない。じゃあ、あがって?」

千枝「お邪魔しまーす……」


680VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:54:43.42PgrCTKVXo (16/18)

>参った。
>これは……妙に意識してしまう。

有里「どうぞ、適当に座ってて」

千枝「うん……ふぅ。慣れない服だと肩凝りますなぁ」

>あはは、と笑う千枝。
>膝頭に絆創膏が貼ってある。

有里「足、どうしたの?」

千枝「ん?ああ、ちょっとすっころんじゃって。まぁ鍛錬中には良くある事だから」

>何故かもじもじしている。

有里「……?」

千枝「あ、いや。その、さ。下にスパッツ履いて無いんだよね、今日。りせちゃんに言ったら『ナイ!』って言われちゃって」

>……りせに感謝しなければならない。

有里「……で、今日はどうしたんだっけ?」

千枝「ん、どうしたってわけではないんだけど。ちょっと、一日一緒に居たかったんだよね」

>照れ笑い。
>あれ、そういえば……。

有里「化粧、やめたんだね」

千枝「あ、うん。こっちは雪子に言われてさ。普通で十分だって」

有里「流石に天城さんだね。千枝は普通にしてても十分可愛い。化粧じゃ出せない部分があるから」

千枝「うん、そんな風な事言われた。そんな事無いと思うけどね、私は……」

有里「可愛いよ」

千枝「……ありがと」

>やはり、話しておこう。

有里「僕は、千枝が好きだ」

千枝「っ!」

有里「……どうやら、そうみたいなんだ。色々考えてみて気付いた」

千枝「うん……」

有里「でも、千枝が僕の事を好きな理由がわからない。よければ、教えてくれないか」

千枝「私が有里君の事を好きな理由?それは……」

>千枝はそこまで言って固まった。
>と、思ったら今度は考え込んでいる。


681VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 22:55:15.23PgrCTKVXo (17/18)

有里「あの……里中さん?」

千枝「あっ、ごめん。いや、私って何で有里君こんなに好きになったのかなーって思って」

有里「……割と、辛いんだけど」

千枝「ご、ごめんね?好きだから!ちゃんと好きだよ!」

>録音したい。

有里「でも理由はわかんない?」

千枝「うーん……言ったかな。私、鳴上君が好きだったんだけど」

有里「名前は言ってなかった気がするけど、そんな事は言ってたね」

千枝「うん。鳴上君はね……実は、まだ大好きなんだけどさ。あの人は、私がいなくても笑ってられる人だから」

千枝「でも、有里君は違うと思って。なんでも出来るんだけど、私……っていうか、他の誰かがいないと何も出来ない人。失礼だけどね」

有里「いや、良く見抜いてると思う」

千枝「それでさ、なんか、ちょっと寂しそうなとことか見てると……私が笑わせてあげたいなって思うんだよね」

>本当に、良く見ている。
>僕は今までずっとそうだった。
>多分、これからもそうなんだと思う。

有里「芸人みたいなものかな」

千枝「ん?芸人?お笑いなら私じゃなくて雪子に……」

有里「そうじゃなくて。まぁお笑いも含めてだけど、舞台に立つような人。僕は、そういうタイプなのかもしれない」

>観客がいる時は何にだって勝てる。
>だけど、誰も見ていない所では何も出来ない。
>そういう人間。

千枝「それはよくわかんないけど……多分、それが最初。有里君の笑顔が見たいの。そう思ってずっと君の事考えてる内に……ね」

有里「そっか。ありがとう」

千枝「別に、お礼なんか……どうしたの?」

>観客がいなければ何もできないのに。
>僕はその観客達と別れようとしている。

有里「千枝にだけ、話しておきたい事がある。……明日、僕はまたタルタロスに登る。そして……」

有里「恐らくは復活するニュクスを封じる為に、死ぬ」

>……一瞬の間があった。

千枝「……え?」


682VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/17(木) 23:00:55.23PgrCTKVXo (18/18)

諦める、諦めない。
捨てる、捨てない。
止める?止めない?

というわけで本日分は終わり。
では、また後日。


683VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2012/05/18(金) 00:54:47.98xIwAqY6X0 (1/1)

うぉぉぉぉぉぉ!
続きが気になる!!!
乙!


684VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/18(金) 01:08:26.09r0lXjegDO (1/1)

乙!!

風花が可愛すぎる


685VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/18(金) 09:24:30.27dgEy8kU1o (1/1)

アニメ版はスパッツなし、ゲーム版はスパッツ有

スパッツの魅力が解らない
ここのキタローとは美味しいお酒が飲めない


後日楽しみだなー P4でもうちょっとP3組出してほしかったなぁー
トリニティーでもどうでもいい人しか出なかったし…

そんなわけで1乙


686VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:04:01.97S6sb1q1to (1/30)

スパッツがいらないとかじゃなくて、普段スパッツだからって気にせず動き回ってる千枝ちゃんがモジモジしてるのが可愛いんです。

今日は二段階にわけて投下。


687VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:04:28.19S6sb1q1to (2/30)



【2012/5/27(日) 雨】


日中であるにも関わらず、まるで影時間に落ちてしまったような錯覚に囚われる。
太陽の光は分厚い雲に遮られ、街は沈黙に包まれている。
ただ雨の降る音だけが嫌に耳障りで、精神の集中を妨げた。

「太陽は僕達にその恵みを与えず、人は影に呑まれるのみ……か」

窓の外を歩いているのは人ではない。
黒い影がその体を揺らしながら闊歩している。
予想通り、今日までにシャドウの実体化は成されたようだ。
シャドウに影を食われた人間は影人間となり、全てに対して無気力になる。
しかし、シャドウを倒して影を取り戻す事が出来れば、また元に戻る。

「小物をいくら叩いても意味は無し。やっぱり、大元を断たないとね」

あれらを掃討したとして、人がある限りシャドウもまた増える。
ならば、それを誘引する元を断たねば意味は無い。
雨音が思考の邪魔をする。

「雨が降らないと決戦は出来ない。けど、今日でお別れなんだ。もう少し綺麗な街を眺めさせてくれても良いだろうに」

覚悟はした。
三年前のあの日に。
この世界を救う為だったら、なんだってやってやる。

「……千枝は、どうしてるかな」

昨日は酷いものだった。
半ば以上わかっていた事だが。
泣いて、怒って、泣いて。
一言、帰るとだけ言って帰ってしまった。
千枝にだけ言う、と言っておいたものの、恐らくは一人では抱えられないだろう。

「相談するとしたら誰かな……」

もし、相談するとすれば。
……携帯が鳴った。

「まぁ、そうだろうね」

液晶には、鳴上悠と表示されている。


688VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:05:11.60S6sb1q1to (3/30)



【2012/5/27(日) 雨】


窓から外を眺めても、煙った灰色が広がるだけだった。

「シャドウ……しっかり見えてるな」

決戦は近い。
心臓の鼓動がいつもより早い気がする。
と、その時携帯に着信があった。
二回ほどコールして、すぐ切れる。

「悪戯電話か?」

液晶には里中千枝の文字が表示されている。
どうやら、悪戯では無いようだ。
こちらから掛け直す。
……数回コールが鳴って、声が聞こえた。

『……もしもし』

いつもと様子が違う。

「里中か。どうした?」

無言。
電話口からは泣き声だけが聞こえる。

「おい、どうし……」

『有里君が、死ぬ、って』

ただそれだけで、十分理解できた。
あいつは、三年前と同じ事をやろうとしている。
……俺達に、何も言わずに。

『どうしよう、私……止められなかった。どうしたら、どうしたらいいのかな』

「落ち着け。……アイツは口で言って止まるような奴じゃない。とにかく、そっちの皆を集めてくれ。勿論有里も」

『でも、呼んで素直に来てくれるかな……』

「来るさ。俺が言う。アイツがどういう決断をするかはわからないが、とにかく皆で集まって欲しい。こっちも皆に伝えるから」

『うん、うん……ごめんね、こんな時に……でも、私……』

里中は泣いている。
知っていた筈だ。
誰かが犠牲になって、事件が終わったとしても、誰かが泣く事になる。
湊はそれを知っていたはずなのに。

「大丈夫だ。良く話してくれた。あいつは止める。何としても、だ」

『……ありがとう。じゃあ、私皆に連絡するね』

「ああ。有里には俺が連絡する。後は任せろ」

『うん、ごめんね……じゃあ』

電話が切れた。

「信じろって言ったのはお前じゃなかったのか、湊」

携帯に登録してある番号にかける。
出るだろうか。
いや、出る。
あいつはそういう男だ。


689VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:05:48.84S6sb1q1to (4/30)

『もしもし』

「何で電話したか、わかってるな」

『……勿論。千枝だね?』

「ああ。話してくれたよ」

『で、君はどうするの?』

どうする?決まっている。

「お前を止める。口で言っても無理なんだろ?」

『それは当然。軽い気持ちで言える事じゃない』

「だったら、力尽くだ。お前も、戦う為にはテレビに入らなきゃならない。そこで、止める」

『……それなら、そうしてみればいい。僕は簡単には止まらないよ』

「もうこれ以上お前と話す事は無い。里中が今皆を集めてる。お前はそこに行け」

『わかった。じゃあまた夜に』

「ああ。……夜にな」

電話を切る。
知らない間に右手を握り締めていた。
爪が食い込んで血が出ている。

「……くそっ!」

そのまま、拳を壁に叩きつけた。
鈍い音がした。

「おいおい、どうしたんだよ……うわ、お前それ血でてんぞ?」

順平さんが音を聞いて様子を見に来てくれた。
丁度良かった。

「順平さん、今すぐ寮内の皆を集めてください」

「は?そりゃ、いいけどよ。何かあったんかよ」

「後で話します。早く」

順平さんも何かを悟ったらしい。
目つきを変えると、黙って扉を閉めた。


【ラウンジ】


「すみません、皆さん。集まってもらって」

……美奈子がいない。

「順平さん、美奈子は」

「彼女は今日寮にいない。恐らくは、どこかで悔いの残らないように過ごしているのだろう。それで、どうした?」

桐条さんが急かす。
恐らくはろくな話では無い事が、空気でわかるらしい。

「湊……有里が、またNyxを封印するようです」

全員の空気が変わった。

「つまり、あいつはまた自分の命を捧げようとしています。俺は、それを止めたい」

誰も何も言わない。
驚いているのか、悲しんでいるのか……。

「しかし、解決のためにはそれが確実なのも確か、だな」

真田さんが苦々しい顔で言った。
それもその通りだ。


690VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:06:35.05S6sb1q1to (5/30)

「ですから、これは俺の我侭です。リーダーとしてでなく、湊の友人として言っています。だから、皆さんに協力してくれとは言いません」

それでも、信じている。
この中には……少なくとも、湊の死なんて結末を望んでいる人はいないと。

「それでも、俺と一緒に戦ってくれる人がいるなら、今夜マヨナカテレビで。……もし、有里に協力したいなら、テレビ内で合流する事も出来るでしょう。そうしてください」

返事は無い。

「すぐに返事が出来る事とも思いません。ですから、行動で示す。ということで。今夜12時、俺の部屋に来てください。そのメンバーで、有里を止めに行きます」

何も答えない。

「……では、少し体を休めたいので。俺は部屋に戻ります。また、夜に」

皆に背を向けて、二階へ。
ああは言っても、複雑なのは自分も同じだ。
胃の辺りをはっきりしないもやもやが渦巻いて、色んな物と一緒に吐き出されそうだ。
……今は、皆を信じる事だけしかできない。
信じよう。


【ジュネス内フードコート】


傘をさして歩く。
シャドウはまだ僕達には無害だ。
襲われるのは、ペルソナ能力を持たない者が先……それは、今も変わっていないらしい。

「もう、お揃いか」

皆は黙って座っている。
来なければ良かった。

「有里……聞いたぜ、全部」

陽介はいつもと違う、真剣な表情をしている。

「なぁ、何でだよ。俺達と協力して事件終わらせるんじゃなかったのかよ」

ああ、胸が痛い。

「……最初から、こうするつもりだった。君たちは知らないかもしれないけど、今日の敵は……まず、本当は敵じゃないんだけど。戦って倒すとか、そういう物じゃないんだ」

「じゃあ、どうにもならないの?本当に、どうにも……」

天城さんの綺麗な顔が辛そうに歪んでいる。
原因が僕なのが本当に申し訳ない。

「ならない。僕達に出来る事は最早無い。アレをここから遠ざけるには、僕の命を捧げる必要があるんだ」

「やだ、私やだよ。有里先輩死んじゃうなんて……」

りせはもう泣いている。
感情を抑えない、僕には出来なかった生き方だ。

「どうせ、一度死んだ身だし。そんなに悲しむ事は無いよ」

「でも、今は生きている。それに、僕達は知り合ってしまった。……無視するなんて、出来ませんよ」

直斗も辛そうだ。
結局、女性らしい服装を拝めなかったのが心残りか。

「無視はしなくていい。たまに思い出して……いや、やっぱり忘れてくれた方が楽だな。最も、Nyxを封印してしまえばシャドウに関する記憶は消えるんだけど……僕の事も」

「んだよそれ……ホントに跡形も無く消えちまうってのかよ」

完二は悲しいというより、怒っているようだ。
完二らしいな……。

「ま、出会って一ヶ月かそこらの僕達だ。傷は浅い……だろ?」

「そんなワケないじゃん!」

千枝。
ごめん。


691VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:07:23.07S6sb1q1to (6/30)

「有里君だって、そんな風に思ってないくせに!ほんとは辛いくせに、黙って、誤魔化して……バカだよ」

言いながら、また泣き出した。
たかだか一ヶ月……大凡二ヶ月か。
随分と、見透かされたものだ。

「……僕の考えに不服なら、僕を止めればいい。悠が言ったんだ、お前を止めるって。彼は今日、マヨナカテレビの中で、力尽くで僕を止めると言った」

全員が顔を上げる。
悠の名前は効果が違うな。

「だから、それに協力すればいい。ただ、そうなったら僕はきっと止められるだろう。悠は勿論、君達は強いし。だから、もう一つ言っておく」

これは言いたくなかった。
悪手の中でも最悪だ。
ただ、手段を選ぶ時では無い。

「もし、僕に……僕の想いを、遂げさせてくれるなら。この世界の為に身を捧げる、その願いを叶えさせてくれるなら。僕に協力してくれ。今夜、マヨナカテレビで待つ。それじゃ」

傘を広げ、背中を向ける。
誰も何も喋らない。
これで、僕に協力するなんて人がいるだろうか?
僕が、どんな気持ちでこの選択をしたか。
少しでも理解してくれたなら、もしかしたら……。
期待するのは、よそう。
あと、高々12時間だ。


【マヨナカテレビ】


五人の男女と一匹の犬がタルタロスに侵入する。
手には各々の武器、それと召喚機を持って。

「ちっともたついちまったから、多分有里達上にいんだろうな」

「しかし、シャドウがいないのは好都合でしたね。全てテレビの外へ出てしまったのでしょうか」

ヘッドホンを首にかけた少年。
間接部から機関部が露出している少女。

「とりあえず、追いかけないとね。どうする?」

「……反応、あります。各階層に一人ずつ。多分、五層にいるのが彼だと思います」

長い黒髪を揺らす、赤い服の少女。
自らのペルソナの内側に入り、タルタロス内部を探査する女性。

「人数は、どうやら同じみたいですね。……全員で一層一層進んで行ったんじゃ時間がかかりすぎるか」

そして、鳴上悠。

「厳しい作戦ですが、各層一人が相手する事になりますか……大丈夫か?」

陽介は笑う。

「何が出たって負けやしねーよ。あいつを止める為にわざわざこっち側まで回って来たんだ。やってやんよ」

雪子も笑う。

「多分強いよね、相手。だって有里君の仲間だし。でも負けてらんないし、ね」

アイギスは頷いた。

「それが最善でしょう。……恐らくは、色々な意味で辛い戦いになると思いますが、大丈夫。私達だって一人じゃないもの」

コロマルも吼える。

「ワン、ワンッ!」

そして、風花が微笑みかける。

「だ、そうです。それじゃ号令をお願いします、リーダー」


692VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:07:56.88S6sb1q1to (7/30)

鳴上は一度黙った。
目を閉じて、一度深呼吸をする。
顔をあげ、目を開けて。
全員の顔を見回した後、口を開いた。

「これよりNyx討伐作戦の第一段階を開始します。まずは、先走った湊に一発お見舞いして、それから皆で最上階を目指す。異議のある者は?」

全員が答える。

「異議なし!」

鳴上は、微笑んだ。

「それじゃ、仲間を止めに行こう。登るぞ」


【第五層:焦炎の庭ハラバ】


『鳴上先輩達も登り始めたみたい。……ねぇ、本当に戦わないといけないのかな?』

「僕だって、出来る事ならやりたくないさ。けど、ぶつかり合わないとわからない事もある……そうだろ、りせ」

有里は一人立つ。
采配は済んだ。
後は、鳴上の刃が己に届くかどうか、それだけだ。

「しばらく集中したい。また後でね」

『わかりました……』

ヘッドホンを着ける。
手元のリモコンを操作して、曲を変更する。
「Heartful Cry」……。

「ごめん、皆」


693VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:08:28.81S6sb1q1to (8/30)



【第一層:世俗の庭テベル】


第一層と第二層の境目。
丁度、番人のシャドウが居た階。
一人の女が立っている。

「来たな。待っていたぞ」

紅い髪を揺らし、剣を構える。

「桐条さん……退いては、もらえませんか」

鳴上も、無駄だとはわかっている。
美鶴には美鶴の決意があってそこに立っている。
彼女と有里の関係を考えれば、それがただならぬ苦悩であった事は明らかだ。

「無理な相談だ……本当なら、すぐにでも追わせたい所だがな。私は、彼の力になりたいんだ。どんな結末であろうと……彼が決めた事を、手助けしたい。それだけだ」

鳴上が剣を構えると、その前にコロマルが立ちはだかった。

「ガウ!グルルル……」

「コロマルさんは、貴方が戦うべきではないと。貴方は先を急ぎ、彼を止めるべきだと言っています。ここは……」

アイギスが通訳する。
鳴上は剣を降ろした。

「俺が戦う、と」

「行かせると思うのか?」

「アオーン!!」

「走れ、と言っています!鳴上さん!」

コロマルの遠吠えに答えるように駆け出す。
階段は見えている。
美鶴の横を走り抜けたが、妨害らしい妨害は無かった。

「……桐条さん、もしかして」

「今は、上に行くことだけを」

「そう、ですね」

鳴上達は上階へ向かって登って行った。
美鶴は剣を降ろす。

「行ったか。……すまない、湊。私は、やはり君に……」

「クゥーン……」

コロマルが美鶴に擦り寄る。
美鶴はそっとその頭を撫でた。


694VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:08:56.84S6sb1q1to (9/30)



【第二層:奇顔の庭アルカ】


「よーう、お前ら。来たな」

二層には順平がいた。

「ま、来たばっかで悪いんだけどよ。ちっと相手していってくれや。あいつのやりたい事、手伝うって言っちまったからよ。お前ら、先に進ませるわけにゃいかねーんだわ」

順平は召喚機をこめかみに押し付ける。

「トリスメギストス!」

どうやら、美鶴と違い本当に鳴上達を止めるつもりのようだ。

「マハラギダイン!」

辺りを炎が包み込む。

「くそっ、これじゃ階段に……」

「ガルダイン!」

突風一陣。
階段までの道が開く。

「陽介!」

「順平さんの相手は俺に任せとけ。だから行くぜ、相棒!じゃなくって、行け、相棒!」

突風は、ジライヤのガルダインだった。
鳴上は黙って頷くと走る。

「行かせるかっての!」

「っとぉ、そうはさせねー!」

襲い掛かるトリスメギストスを、ジライヤと陽介が体を張って止める。

「陽介……負けるなよ!」

「あいよ!」

陽介と順平は対峙する。

「いいねぇ、お前は。かっこいい役回りでよ。俺なんか憎まれ役だぜ」

「ま、役得っすよ。嫌なら退いてもらっても俺ぁ全然構わねっすよ?」

順平は笑う。

「そういうわけにはいかねーの。こうなったら、すぐにでもお前倒してあいつら追っかけねーとよ。さ、こっからマジだぜ」

「……そーすか。畜生」

順平の表情が変わる。
ジライヤとトリスメギストスが、衝突した。


695VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:09:23.58S6sb1q1to (10/30)



【第三層:無骨の庭ヤバザ】


スカンッ。
三層の番人がいた部屋に踏み入れると、足元に矢が刺さった。

「そこで止まって。それ以上先は進ませない」

アイギスが前に出る。

「ゆかりさん。通してください。私達は、彼を止めなければいけない」

「駄目よ。私だってあの人がいなくなるのはいや。でも、でもね。やっと力になれる。やっと彼の為に戦えるの。だから、お願い。邪魔をしないであげて」

ゆかりは淡々と言う。
淡々と、心の内側を叫ぶ。

「鳴上さん、天城さん。ここは私が。貴方達は早く上に」

アイギスが構える。

「行かせないから」

走る鳴上と雪子にその弓が向けられる。
風を切って、矢が走る。

「天城!」

鳴上は天城を庇うべく立ち止まった。

「止まらないで!」

その前に、アイギスが走りこむ。
飛来した矢を叩き落とした。

「貴方はあの人を止める事だけ考えて。私は、彼だけじゃなく……ゆかりさんも、止めますから」

「アイギスさん……」

「行こう、鳴上君!」

雪子に手を引かれ、鳴上は再び走り出す。

「アイギス……こうやって戦うのはあの時以来だね」

「そうですね。ゆかりさんは、あの時から成長されましたか?」

「さぁね。またこうやって同じような事でケンカしちゃってる辺り、お互い様って感じじゃない?」

ゆかりが笑うと、アイギスも笑った。

「……でも、変わったモノもたくさんあります。私は、それを守りたくてここにいる」

アイギスの体、間接部から蒸気があがる。

「あの時とは違う。もう迷いは無い。本気で闘いましょう。私は、彼を助けなければならない」

「……上等。私だって同じだから」


696VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:09:51.03S6sb1q1to (11/30)



【第四層:豪奢の庭ツイア】


……黙っている。
鳴上も何も言わない。
雪子も何も言わない。
そして、千枝もまた何も言わなかった。

「……わからないよ。何で、千枝がそっちにいるの?」

最初に口を開いたのは雪子だった。
思ったままを、単純に口にする。

「千枝は、有里君の事好きなんじゃないの?どうして、彼がいなくなる手助けをしてるの?答えて」

雪子は怒っていた。
親友の行動が理解出来ずにいたからだ。

「何で黙ってるの?ちゃんと言ってよ。それとも答えるような理由が」

「雪子にはわからないよ」

千枝も、怒っていた。
自分の中の気持ちに決着が付けられず、それを親友に指摘されたからだ。

「わからないから聞いてるの。私には千枝のやりたい事が全然わからない」

「私は……有里君の為に、有里君の邪魔になりたくなくて。それで、ここに……」

「そうやって自分を誤魔化して、それで満足なの?私の好きな千枝はそんなじゃ無い。こんな格好悪い事絶対にしない」

「……っ黙ってよ!とにかく、二人ともここから先には……彼の所には絶対行かせない!邪魔させない!」

千枝は叫ぶ。
自分の中のもやもやした感情を振り払うように。

「鳴上君、先に行って」

「天城、大丈夫なのか?」

「大丈夫。いつもの千枝ならともかく、今のあんな千枝に負けるはず無いよ。さ、行って」

雪子は笑う。
鳴上は頷くと、階段に向かって走った。

「行かせない!」

トモエの薙刀が鳴上に向かう。
しかし、炎が走り、鳴上とトモエの間に壁を作った。

「千枝の相手は私」

「邪魔しないでよ!私は……私は!」

「うるさい!」

雪子が怒鳴った。

「……どうしたらいいかわからなくて、ただオタオタしてるだけ。そんな人に何が出来るっていうの?情けない」

千枝はうろたえている。
滅多に見ない、親友の「本気」の怒り。
雪子の中に、本人すら何者かわからない感情が渦を巻く。
それは、コノハナサクヤの操る炎に似ていた。
圧倒的熱量を持って、雪子を突き動かす感情。
親友を、救いたいという思い。

「いいわ、だったら……。私は、私の全力を賭けて、千枝に……私の憧れた千枝を、わからせてあげる」

そして、二人の間に本物の炎が舞った。


697VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:10:21.57S6sb1q1to (12/30)



【第五層:焦炎の庭ハラバ】


『この先に、多分、彼が……』

もう何階登ったかわからない。
疲れは無い。
それよりも大きな感情に背中を押されて登って行く。

『鳴上君、大丈夫?』

風花が声をかける。

「……大丈夫ですよ。俺がやる事ははっきりわかってます」

階段を登る。
駆け登る。
一刻も早く、あいつの所へ。

『次の階。準備はいいですか?』

一度、呼吸を整える。
刀を握り、振るう。

「……行きます」

階段を登りきる。

「やぁ、来たね」

「……湊!」

有里は今にも突進してきそうな鳴上を手で制した。

「少し、話をしよう。実力行使は望む所じゃない。お互いに、そうだろう?」

「……言ってみろ」

一定の距離を保ったまま、二人は対峙する。

「悠。そのまま帰ってくれないか。僕が仕事を終えるまで」

「却下だ。でなきゃわざわざここまで来てない」

「……だろうね。一つ聞いておきたい。君、アレを本当に倒すつもりでいるの?」

「そうだ。何かおかしいことでもあるか」

有里は笑う。

「あはははは……いや、まさか本気で言ってるとはね。聞いてないのかな?皆から。アレは倒すとか倒さないとか、そういう物じゃない。存在を消す事なんて、誰にも出来やしないんだ」

「聞いてるさ。それでも、やってみるまでわからない。だから俺は……」

「それは理想論だ」

「そうかもしれない。だが、理想を追う事の何が悪いんだ」

鳴上は刀を強く握る。

「違うね。君は理想を追っているんじゃない。ただ現実に目を向けたくないだけなんだ。どうしようも無い事なんて無い……そう思いたいだけだろ?」

有里はにやにやと、厭らしい笑いを顔に貼り付けたまま言う。

「君と違って僕はリアリストだ……現実主義なんだよ。勝てない物には勝てない。僕はそれを知っている。だから、こんなにも辛い思いをして、自分を……捨てることを選んだ」


698VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:11:01.89S6sb1q1to (13/30)

「湊。……最初に会った時、俺はお前を俺のシャドウじゃないかと思った」

「……奇遇だね、僕もだ」

「やっとわかった。お前はやっぱり俺のシャドウだよ。俺の見たくない部分をしっかり突いてくる」

「それは悪かった。それで、踵を返す決心はついた?」

「帰らないさ。お前は俺のシャドウだ。だけど、俺だってお前のシャドウだ」

有里の笑いが消える。

「お前、俺が羨ましいんだろう」

「……何が」

「現実主義だとか言って誤魔化してるが、お前こそ勇気が無いんだ。理想を追い続ける事が出来なかった、お前は……」

「黙れ」

「お前は俺達が羨ましいんだ。最後まで諦めない、俺達が。だから否定する。違うか?」

有里も剣を握る。

「……認めるよ。僕は、理想を追えなかった。だけど、そうする事で世界を守ったんだ。それは、事実だ」

「譲れないんだ、俺も、お前も。だったら、どっちが正しいか」

「決着を」

「付けよう」

有里はヘッドホンを付け直した。


【エントランス】


「さてと、手遅れにならない内にちゃちゃっといきましょー」

「全く、こんな役回りとはな」

「クマも頑張るクマ!手伝うクマ!」

「つーか、あいつらもあいつらだぜ。好き勝手やりやがって」

「仕方ないですよ。あの人達、みんな頑固ですから」

「そうですね。それじゃ、行きましょうか。仲間割れを止めに」

……。


699VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:11:28.37S6sb1q1to (14/30)



【第五層:焦炎の庭ハラバ】


剣が交差する。

「何だ、ひょろっとしてるからこっちは駄目なのかと思ってたぞ」

「これでも歴戦越えてきてるからね。まぁ、得意では無いんだけど、ねっ」

有里は鳴上の腹を蹴って、一度間合いを開ける。

「ぐっ……イザナギ!」

「オルフェウス!」

両者はペルソナを召喚し、ペルソナ同士が激突する。

「イザナギ、知らない間に強くなってるね」

「ああ、おかげさんでな。そっちこそ、ちょっと変わったか?」

「うん、色々あってね。強くなったんだ」

イザナギの一撃を受け止め、はじき返す。

「強いて言うなら、オルフェウス・改ってとこかな。多分、君のイザナギより随分と強いよ」

「ああ、よくわかる。……じゃあ、やり方を変えるか」

右の手を、眼前に。
心の中の、何かを握りつぶし、発露させる。

「チェンジ」

その力は、死の力。
ある男との絆が生んだペルソナ。

「タナトス!」

「る……ぐる……ルオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

雄叫びがフロア中に響きわたる。

「……そう、来たか」

「お前にもらった力だ……お前と戦うのにはピッタリだろ」

「確かにね」

タナトスの剣が有里を襲う。
オルフェウスが受けるが、どう見ても力負けしている。

「くっ……駄目か」

同時に鳴上も攻撃をしかけていた。
押さえ込むつもりで、体ごと覆いかぶさるようにまっすぐに。
有里も剣で受けるが、体格の差は埋め難い。

「湊ォ!」

「悠!」

キチキチと、刃が擦れ音を出す。


700VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:12:05.74S6sb1q1to (15/30)

「このまま押さえ込んで、俺の……勝ち、だ」

「……そう、みたいだね。僕の負けだ」

力が抜けて、二人とも倒れこんだ。

「……さぁ、その刀で僕を動けなくすればいい」

「そこまではしない。お前が負けを認めて、俺達に協力してくれればそれでいいんだ」

「僕はきっと裏切るよ。君を動けなくしてしまえば、僕の邪魔をする人はいなくなる」

「そうだな。だけど、お前は言っただろ。『信じろ』って。俺はまだ、お前を信じてる」

有里は笑った。

「この期に及んでまだそんな事を言えるなんて、君は本当にすごいな」

「それしか出来る事が無いんでな。……さて、皆を迎えに行くか」

鳴上が立ち上がり、有里に背を向ける。
階段に向かって歩き始めた時。

『鳴上君、後ろ!!』

風花が叫んだ。

「え?」

「チェンジ」

有里がこめかみに指を突きつけている。
いつか見た、有里の召喚シークエンス。

「メサイア」

タナトスは既に戻している。
今、鳴上の身を守る物は何もない。

「湊……お前」

「すまない、悠。それでも、僕は死ななくちゃならない。世界の為に、君達の為に、僕自身の為に。さよなら」

一撃で、鳴上の意識は途切れた。


【頂上:王居エレス】


『やぁ、久しぶりだね』

タルタロスの頂上では、巨大な人型が佇んでいた。

「少し前まで一緒だったから、ちょっと離れても久々に感じるね」

ニュクス・アバター。死の現し身であり、かつて有里の内にあった物。

『さて、君はやっぱり僕を倒すんだろうね』

「すまないが、そうさせてもらうよ。その後、また一緒になろう」

ニュクス・アバターが手を広げる。

『それじゃやろうか。手加減はいらないね』

有里は震えていた。
久しぶりに味わう死の恐怖。
体が竦んでいるのがわかる。

「……何を、今更。やるしかないんだろう」

MP3プレイヤーのリモコンを操作する。
この恐怖を焼き払ってくれ。
「Burn my Dread」。

『そのアルカナは示した……』


701VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:12:36.14S6sb1q1to (16/30)



【第一層:世俗の庭テベル】


「なんだ、戦っていなかったのか」

有里が頂上でニュクス・アバターと対峙している頃、一層では。

「……本心から言えば、私だって彼には消えて欲しくない。もし止められるのなら、止めて欲しかったのさ」

「クゥーン……」

美鶴とコロマルは戦っていなかった。
戦う意思が無くても、気を抜くと倒れてしまいそうな美鶴を放って上にも行けず、コロマルも留まる結果になっていた。

「それより明彦こそどうした。どちらに付く訳にもいかないと言っていたじゃないか」

真田はマントを翻し、二人に登るように促す。

「さっき見ただろ。あいつらと一緒にお前らを止めに来た。上に行くぞ。手伝いが必要だ」


【第二層:奇顔の庭アルカ】


「うら、喰らいやがれ!」

「んにゃろ!喰らうかよ!」

順平の力任せの一撃を短刀でしのぐ。

「なんだ陽介、普通につえーじゃねーの!」

「順平さんこそ、すっげえっすね!でも俺もまだまだこれからっす……よぉ!」

身をかがめ、突進する陽介。
順平が迎撃する構えを取る。

「てめェら、いい加減にしねェか!タケミカヅチィ!!」

両者に、稲妻が落ちた。

「うぎゃ!な、なんだぁ!?」

「タケミカヅチ……ってこたこりゃぁ……」

「二人してなに楽しそうに戦ってやがんだよ!俺ら仲間じゃねーのかよ。今は仲間割れよりあの二人の手伝いがいるんだろうが!」

完二が二人を怒鳴りつけた。

「つっても、なぁ。二人共多分戦ってるだろうし」

「俺らもそのつもりで来たしな」

「馬鹿じゃねえのか、アンタら。そこを手繋がせんのも仲間の仕事だろうよ。オラ、行くぜ」


702VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:13:38.52S6sb1q1to (17/30)



【第三層:無骨の庭ヤバザ】


「やっぱ、アンタ強いわ……」

ゆかりは膝をついている。
三層での戦いは、辛くもアイギスの勝利で終わった。

「ゆかりさんも、とても強かったです。技術とかではなく、想いが」

上階に向かおうと歩き出す。

「……あっ、こんな、時に」

オルギアの反動が体の各機関に走る。
アイギスはそのまま膝から崩れ落ちた。

「……試合に負けて、勝負に勝った……って感じかな」

「あ、丁度良かった。岳羽さん、アイギスさんに肩貸してあげてください。行きましょう」

「天田君?って、無理無理。私、アイギス上に行かせるわけにはいかないんだ」

「まだそんな事……僕達がやるのは同士討ちじゃないですよ。上で戦ってるあの人を、手伝わないと」

天田はゆかりに手を差し伸べる。

「手伝う……?」

「はい。だから、皆で行きましょう。上へ」


703VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:14:09.61S6sb1q1to (18/30)



【第四層:豪奢の庭ツイザ】


「っはぁ、はぁ、ぜっ……はっ」

肩で息をする千枝。
全力でぶつかっても、ビクともしない。
何でも知っていたはずの親友の、知らない部分。

「どうしたの?もう息切れ?」

「うるっ……さいっ!」

苦し紛れの、体重も乗っていない攻撃。
当然、効くはずも無い。

「なんでよ……なんでこんなに苦しい思いしてるのに……雪子の方が強いの?なんで……なんでよ!」

「当たり前よ。今の千枝には矜持が無いから」

雪子は凛と答える。

「矜持……?」

「プライド、思想、理念。私は、有里君を、千枝を助けたいと想って戦ってる。ここに立ってる。千枝は何がしたくてそこにいるの?」

「わ、私は……有里君を手伝って、街を平和に……」

「違うでしょ。千枝がしたいのってそんな事じゃない。嘘吐いたって、私にはわかる。そんな嘘ばっかりの信念で、私は倒せない」

「私のしたい事……私が、本当にしたい、こと……有里君……一緒に」

千枝がしゃがみこむ。
目には涙が光っている。

「わた、私……有里君と一緒にいたい。いなくなってほしくなんか、ひぐっ、なっ……うぅ、うぇええ……」

ため息をついて、ペルソナを戻す。

「やっとわかった?千枝はほんとにやりたい事に向かってる時が一番強いんだよ。私なんかじゃ敵わないくらい」

「わかった所で、それを実現しに行きましょうか」

戦いに夢中になっている間に、雪子の背後に誰かが立っている。

「直斗君?いつの間に……」

「ついさっきです。里中先輩と天城先輩のやりたい事、叶えに行きましょう」

「で、でも……ぐすっ」

「ぐずってないでさっさと動く。いつもそうやって発破かけてくれるのは里中先輩ですよ。さ、行きましょう。上へ」


704VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:14:41.99S6sb1q1to (19/30)



【第五層:焦炎の庭ハラバ】


『鳴上君!鳴上君!どうしよう、このまま目を覚まさなかったら……』

少なくとも、有里は死ぬ。

『誰か、誰か近くに……あれ、これって……』

「センセー!センセー起きてクマー!死んだらいかんクマー!」

上がってくるなり、倒れる鳴上に走り寄るクマ。

『クマくん!?どうして……』

「はっ!?この声、あの時のオネエタマクマ!?クマな、知らない間にテレビから出れてたクマ。そんで、センセイの匂い辿ってウロウロしてたら……」

「私に出会ったってわけ」

『美奈子ちゃん!』

「やっほー風花。あーあー、派手にやられちゃって……おーい、悠。起きろー。起きないと世界が滅ぶぞー」

『美奈子ちゃんお願い、鳴上君を……』

「うん、その為に来たんだ。クマくん、君はこれからここで待ってて」

「ええ!?クマおいてけぼりクマか!?い、嫌クマー……」

「大丈夫、後から皆来るから。そしたら、お願いね、風花」

『お願いって、何を……』

「すぐわかるから。じゃ、私達は行かなくちゃ」

◆メシアライザー◆


【頂上:王居テベス】


『おや、どうしたんだい?もう終わり?』

有里は大の字になって月を見上げていた。
一人で戦うのがここまで厳しいとは、予想だにしていなかった。

「いや、予想はしてたか」

ワイルドの……有里の力は、絆が産む力だ。
今、有里の心の中には誰との絆も無い。

「仲間達を裏切って、ここに来たわけだから。そりゃ、そうなるよね」

自分から絆を切って、上手く行くはずもない。
大いなる封印も、恐らく発動すら……。

「参ったな。これじゃ何も出来ない。このまま無意味に死ぬのか」

『一人で喋ってないで、ちゃんと僕の相手もしてよ。でないと、本当に死んじゃうよ?』

「作戦中。このままじゃ勝てそうにないんで」

不意に、涙が出そうになる。
自分の背後に誰もいない事がこんなに心細い物だったとは。

「やっぱり、僕は皆がいないと何も出来ない……?」


705VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:15:17.26S6sb1q1to (20/30)

視界に、何かが映った。
足に力を込める。
まだ動く。
手に力を込める。
まだ、動く。
立ち上がれる。

「認めよう。僕は、誰かの力で生きてきた。自分で何かをしたんじゃない。誰かに見られているから、誰かに背中を押してもらったから頑張れたんだ」

ゆっくりと、立ち上がる。

「僕は、そんな皆を守りたかった。でも、気付いたよ。守るんじゃない。守って、守られて、助け合って。それが、仲間だ」

少し、自信過剰だったかもしれない。
有里は思い直す。
仲間達は、皆。
守る必要なんてない。
もう、自分の足で立って、前に進む事が出来る。

「だから、手伝ってくれるかい?悠」

背後にいるだろう人影に声をかける。
自分が言った事も、した事も忘れてはいない。
しかし、返事は予想した……あるいは期待した通りだった。

「当たり前だ」

両雄が並び立つ。

「どうした、随分ボロボロだな」

「君は綺麗に治ったね。誰だい?」

「私だよん」

鳴上より一歩遅れて、美奈子もやってくる。

「美奈子。どうして……」

「私は貴方。湊の考えることなんてお見通し。さ、さっさと片付けちゃおう。本番はこの後だよ」

有里が剣を構える。
鳴上が刀を構える。
美奈子が薙刀を構える。

『よく来たね、皆。さぁ、それじゃあ第二ラウンドだ』

辺りを黒いオーラが包む。

「湊、作戦は無いのか」

「無いよ。美奈子は?」

「無し。ま、当たって砕け……ちゃだめか。当たって砕いちゃおうよ」

美奈子は笑う。
つられて、二人も笑った。

『じゃあ、行くよ』

「……メサイア!」

「イザナギ!」

「タナトス!」

それぞれにペルソナを召喚する。


706VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:15:46.06S6sb1q1to (21/30)

『……すばらしい。これが君達の心の形か』

「行け!イザナギ!」

◆ジオダイン◆

『ああ、痛い……君は、愚者か。愚かなまでに猛進し、全てを貫く真っ直ぐな光』

「俺は、それしか知らないからな。皆を信じて、自分を信じて。それだけだ」

「タナトス!やっちゃって!」

◆五月雨斬り◆

『やぁ、美奈子。君も久しぶりだね。その力は死の力……人が忌避し、恐れるべき力だ。それでも、君は使うのかい?』

「死は恐れる物じゃない。死がなければ、人は今を意識しない。死は、逃げるモノじゃない。これ以上無い力の形だよ」

「頼む、メサイア」

◆ゴッドハンド◆

『湊。君は審判か。審判を下すのは僕の役目なのに。君は僕にどういう裁きを与えようって言うんだい?』

「別に、裁くつもりはない。君は役割を遂げているだけ……審判は裁きを与える存在じゃない。真実を暴く光だ」

『いいね。君達はとても強い。だけど、それじゃ足りないんだ。単純な力では……ほら、こんな感じで』

ニュクス・アバターがその両腕を振るう。
それだけで、吹き飛ばされそうな衝撃に襲われる。

「ぐっ……湊、これ、勝てるのか?」

「やるしか、ないでしょ」

三人は身動きが取れない。
ゆっくりと、次の攻撃が迫る。

『……先輩!有里先輩!鳴上先輩も!聞こえる!?』

「……りせか。ごめん、今は聞いてる余裕が……」

『有里君!鳴上君!大丈夫!?』

「あれ、風花?」

二人のペルソナから、同時に声が聞こえる。

「どういうこと、悠」

「さぁな。何かやってるんじゃないか。美奈子なら何か知ってると思うぞ」

「うん、仕込みは私。皆連れてきちゃった」

『有里君、聞こえる?』

風花でも、りせでも無い声がする。


707VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:16:33.64S6sb1q1to (22/30)

「……この声。千枝」

『うん、私。今、皆と一緒にいる』

「そう。それは良かった。君達を戦わせた事だけが心残りだった……和解できたなら何より」

『そんなのいい。今、戦ってるんでしょ』

「そうだね」

『……私、もっと色んな事話したいんだ。もっと色んなとこ行きたいし、色んな季節を過ごしたい。本当は消えて欲しくなんかない。だから、』

『負けないで』

「……だそうだぞ、湊」

「だって、湊」

「……千枝。ありがとう。君は……最高だ。愛してる」

『……っ!』

通信が途絶えた。

「おい、里中とどういう関係なんだ、結局」

「内緒」

「全く……」

『鳴上君も、聞こえてる?』

「はい、聞こえてます」

今度は風花の声がする。

『私だって、里中さんと同じ。鳴上君と色んな物を見たい。料理だってまだ一緒にしてないし、何のお礼も言えてない。だから……』

「勝って、ですか」

『勝って。絶対に。私、待ってるから。……約束したよね?』

「覚えてますよ。大丈夫、負けるつもりは……ありません」

通信が、途絶えた。

「さて、どうやら今のが最後の通信らしいね」

「ねー悠。約束って何?」

「秘密だ。さて……」

「ああまで言われて、負けて死ぬわけにもいかないね」

「まぁ、男としてはな」

「どう、私の用意した声援?」

有里と鳴上は顔を見合わせて笑う。
そして同時に答えた。


708VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:16:59.22S6sb1q1to (23/30)

「最高だ」

MP3プレイヤーからは次の曲が流れ始めた。
「Reach out to the truth」。

「あ、これ陽介の入れてくれた曲だ」

「おい、そんな事言ってる場合か。来るぞ」

『仲間達が来てるみたいだね。それで、どうなるのかな?』

二人の心の中に光が射した。
かつての仲間と、新たな仲間との絆が、二人に更なる力を与える……。

「もう、負ける気がしないね」

「同感だ……はぁああああ!」

ペルソナ・イザナギが、絆の力で変化していく。
イザナギは転生し、伊邪那岐大神となった!

◆コンセントレイト◆

「終わりだ。イザナギノオオカミ!!」

◆メギドラオン◆

光が全てを包み、崩壊させる。
それはNyxの現し身とて例外ではなく。

『お見事。流石だね……でも、これで終わりじゃない。むしろここからが、君達の……』

ニュクス・アバターは破壊の光に包まれ、しかし安らかな表情で消え去っていく。
後には、静寂だけが残った。


709VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:17:26.78S6sb1q1to (24/30)

『……有里先輩?鳴上先輩?聞こえますか?』

通信が回復したらしい。
りせの声が聞こえる。

「うん、聞こえてるよ」

『急に大きな力が無くなって……で、二人が無事って事は』

「俺達の勝ちだ」

『……!やったあ!先輩達勝ったって!』

りせは大喜びしている。
しかし、勝利したはずの三人は複雑な面持ちだ。

「これで、どうなるんだ。湊は知ってるんだろ」

「うん。この後……月を封印しなければならない」

「で、それには……」

有里は笑った。

「僕……『宇宙』のアルカナが、必要になる」

いつかのように。
奇跡を奇跡で無く、普通の事として行う力を使い……あの月を、誰の手にも届かない場所に。

『えっ、ちょっと待って……先輩、今何て?』

「りせ、皆にも伝えて。やっぱり、封印するには僕の命が必要だ」

「他に手は無いのか。俺だって『世界』のペルソナを……」

「少し、違うんだ。僕と君では出来る事が違う。君は全てのまやかしを打ち払う力を得た。僕は、この世の奇跡を降臨させる力を得た。ただし、その力は命と引き換え。それだけさ」

『うそ、やだ……そんな……』

「りせ。……皆に、ありがとうと、それから、さようならを」

『待って、待ってよ。先輩、そんな……』

「湊!行くな、まだ方法は……」

「悠。君は理想を追い続けると言った。けど、理想ではどうにもならない瞬間は確かにあるんだ」

「だけど、だけど、そんな……」

「そんな顔しないでくれ。君と一緒に戦えて良かった。僕も、君と理想を追う事が出来た。君は僕のシャドウじゃない。……光さ。お互い、足りない部分を補いあってたんだ」

「湊……」

「Memento mori。死を想え。僕はこれを、如何に死ぬか、だと捉えた。僕は君達を、大好きな仲間達を救う為に死ぬ。それで、いいんだ」

「湊!」

『先輩!行っちゃダメ!やだったら!』

『有里君!お願い、もう少し……!』

有里の体から強い力が放たれる。
これが、奇跡を起こす力。
『宇宙』のアルカナの、力の余波。

「気にしないで。僕は満足だ。……さよなら」

有里の体が、消えた。


710VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 22:18:34.90S6sb1q1to (25/30)

一段階目、終わり。

また後ほど。


711VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 23:51:03.59S6sb1q1to (26/30)

というわけで二段目。

といってもほんの少し、締めの部分だけです。


712VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 23:51:29.78S6sb1q1to (27/30)



【2012/6/12(火) 晴れ 雪子の部屋】


陽介「っだー!わかんねぇ!諦めよう!」

千枝「諦めたら勉強会の意味無いでしょーが」

雪子「焦らなくていいから、ゆっくりやっていこうよ。期末テスト、もうすぐだよ?」

千枝「雪子は余裕だね……流石才女」

雪子「千枝だって頭が悪いわけじゃないんだから、やればできるって。ほら、頑張って」

千枝「わっかんないんだもんさー。なんで数学ってこんな記号とか使いたがるのかなぁ」

「わかんないって思うからわかんないんだよ。普通に数字の計算と同じ。ほら、解いてみて」

千枝「ん、うん……えっと、これが、X?になるのかな」

陽介「やーれやれ。有里の言う事にゃ素直なんだな、里中は」

雪子「ほら、茶化さない。花村君もさっさとやる」

陽介「へーい……」

>僕は、結局ここにいる。
>あの時、僕の命を使ってNyxを封印するつもりだったのだが……。


713VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 23:51:56.60S6sb1q1to (28/30)



【Nyx】


有里「二回もここに来る事になるとは……」

美奈子「同感」

>気がつくと、隣に美奈子が立っていた。

有里「美奈子!どうして……」

美奈子「私は、貴方。ていうか、気付いてるかな。私と湊、まだ繋がってるの」

>確かに、どこか繋がっている感覚はずっとあったが……。

美奈子「……実言うとね、この体、湊のと違って急造だから、長くは持たないんだよね。ほら」

>見ると、確かになんと言うか……存在感が希薄というか、透けているような気がした。

美奈子「私、もうすぐ消えちゃうから。使うなら、私を」

有里「美奈子……」

美奈子「湊は、皆に想われて、そうやって帰ってこれた。運が良かったんだね。だから、それを無にする事ないよ。私が消えるから」

有里「でも、それじゃ美奈子は」

美奈子「いいの、私は。私のいた世界では……荒垣先輩が、死んじゃったんだよね」

有里「それは、こっちでも同じだよ」

美奈子「こっちの先輩は、私の知ってる先輩と違うもの。向こうじゃ恋人だったんだよ、私達。だけど、死んじゃった。その時、思ったの」

美奈子「死を想う事。それはどうやって死ぬかだってさっき言ったよね。多分、荒垣先輩もそう思ってたと思う。でも、私は違うんだよね」

>美奈子は満面の笑みを向けた。

美奈子「いつか死んじゃうから、今を楽しめ。それが私のMemento mori。私は、オマケを十分楽しませてもらったから。後は、湊が」

>美奈子の体が消えていく。
>恐らくは、本人がその姿を維持する事を諦めたから。

有里「美奈子!」

美奈子「私の体が消えたら、また湊の中に戻る。この事件を終わらせるっていう、私の目的はこれで完了。お願いね」

有里「……わかった」

>恐らくは、その笑顔の裏に自分と同じような苦悩を隠して。
>美奈子は消えていった。
>大いなる封印が発動し、自分の中から何かが抜けていく感覚があって、それから。

千枝「有里君!」

>気がつくと、皆に囲まれていた。


714VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 23:52:43.86S6sb1q1to (29/30)



【雪子の部屋】


>あれから、誰も美奈子の話をしない。
>恐らくは、記憶から消えてしまっているのだろう。
>かつての自分がそうであったように。
>月日は流れて、もうすぐ期末テスト、その後夏休みだ。

有里「そういえば、夏休みには悠が来るんだったっけ」

>悠とは、あの直後に話をした。
>僕と同じく、悠も美奈子の事を覚えていた。

鳴上『あいつは、多分最初からそのつもりだったんだと思う』

>彼はそう言っていた。
>多分、そうなんだと思う。
>それでも、軽く受け止める事は出来ないけれど。

陽介「あー、そだな。アイギスさんもまた来てくれねーかな。海行こうぜ海。皆でさ」

千枝「水着目当て?」

陽介「ばっ、そういうんじゃねえから!な!有里!」

有里「僕は水着見たい」

雪子「だって」

千枝「何で私を見るか、雪子」

雪子「見せてあげないの?」

有里「見せてくれないの?」

千枝「……見せる、けど」

>天城さんが笑って、僕も笑った。
>陽介は、少し不満そうだった。
>日常が流れていく。
>僕達は、いつか必ず死ぬ。
>それは変えようの無い事で、どれだけ足掻いても同じ事だ。
>だけど、その時をどう迎えるかは変える事が出来る。
>いつ、その時を迎えてもいいように。

>今を、楽しめ。


715VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/18(金) 23:58:51.78S6sb1q1to (30/30)

「お疲れ様です、お客様」

青い部屋に、再び招待された。

「これを持ちまして、お客様の物語は一時閉幕と相成ります」

イゴールが愉快そうに笑う。

「お客様がお望みであれば、契約者の証たる鍵を返却なさる事も出来ます。そうした場合、二度と我々と見える事も無いでしょう。平穏が約束されますぞ」

手には、あの時受け取った鍵を握っている。
鍵を、返しますか?

>いいえ

「……流石はお客様、と言ったところでしょうか。まだ何も終わっていない。お忘れでなかったようですな。失礼いたしました」

イゴールは一層愉快そうに体を揺らした。

「お客様は再び鍵を握りました。それをいつ使うかは、お客様の自由です。今しばらくは、平穏をお楽しみください」

「それでは、再び会い見える日まで、ごきげんよう。また、いずれ……」

ピアノと女性の声が響く中、ゆっくりと、部屋の扉が閉じた。


716VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/19(土) 00:02:46.598MOfbj/do (1/1)

一巻の終わり。
一つの事件の終幕。
けれど、物語は未だ終わらず。

というわけで、一区切りとなります。
大凡一ヶ月、毎日更新をちまちまとやってまいりました。
ようやく一息……とはいきません。
いろいろ伏線張りっぱなしなので、回収しなければなりません。
が、肩凝りが酷いのと有里君と鳴上君にもっと楽しい毎日を送って欲しいので、しばらくまったりとやっていこうと思います。

というわけで、本日分は終わり。
SSは終わりませんが。
では、また後日。


717VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/19(土) 00:07:30.96Bjto+A7DO (1/1)




718VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2012/05/19(土) 00:18:15.60qbJy0Pqco (1/1)

乙!
今後も楽しみにしてる。


719VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/19(土) 00:20:04.568tTSeVK10 (1/1)




720VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)2012/05/19(土) 00:29:35.87rZk+Q+5co (1/1)




721VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/05/19(土) 00:43:00.71yTEbn9w50 (1/1)

今んとこのキャラ好感度を詳しく


722VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2012/05/19(土) 01:30:25.76TPGinRB60 (1/1)





723VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/19(土) 09:11:32.66Rql8vkcAo (1/1)




724VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/19(土) 11:55:38.00TtvBsaiSO (1/1)

乙!


725VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)2012/05/19(土) 12:07:42.78vvNYlCqAO (1/1)


これからも楽しみ


726VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/20(日) 01:02:56.67/b3BuFTQo (1/11)

まったりまったり、箸休め的に。

自動車教習がめんどうでしかたないですが、本日分。


727VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/20(日) 01:03:22.40/b3BuFTQo (2/11)



【2012/6/17(日) 晴れ 天城屋旅館】


>今日も天城さんの家で勉強会だ。

有里「ったはずなんだけどね」

>着くなり、まるで疾風のような動きで拘束され、転がされている。

完二「すんませんね先輩。俺ぁんなことやめとけっつったんスけど……」

陽介「まぁまぁ完二君。んな事言ってお前も気になんだろ?」

完二「いや、そりゃ……ちょっとは」

有里「まず僕に説明すべきだよね」

陽介「有里被告!許可なき発言は禁じます!」

有里「被告……」

>この感じは覚えがある。
>りせにやられたアレだ。

陽介「えー……それでは第一回ー……」

陽介「結局里中とはどこまで行ったの会議を行います!イェー!」

>陽介は盛り上がり、完二は申し訳なさそうにしている。

陽介「ちなみに別室では女性陣による同様の会議が行われています」

有里「千枝はあんまり苛めないでやってね」

陽介「はぁーその感じ、そのさり気なく気遣いを見せる感じ?俺のだから、みたいなオーラ出しちゃってまぁ」

有里「……仕方ない。どうも離してもらえなさそうだし、何でも答えるよ」

陽介「よし。それじゃこれを付けてもらう」

>血圧計のような物を手首に巻きつけられる。

有里「これは……?」

陽介「これはアレだ。直斗特製嘘発見器だ」

有里「えらい念の入れようだね」

陽介「おおよ。いつものノリでケムにまかれちゃ困るんでな!洗いざらい吐いてもらうぜ」

>……。


728VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/20(日) 01:04:01.74/b3BuFTQo (3/11)

陽介「……前によ、ちらっと言ってただろ。美鶴さんとどうとか」

有里「うん、そうだね」

完二「だから、誰っスか」

陽介「お前、向こうの寮のお姉さま方とはどうなんだよ」

有里「何も無いよ」

>ピーッ、ピーッ!

陽介「鳴ってんぞ」

有里「いや、本当に何も無いんだってば。これ、調子悪いのかも……」

完二「あー、でもあの、山岸さん?とか。普通じゃないリアクションっしたよね」

陽介「だよな。絶対何かあったと思うんだよ。正直に言え?」

有里「……えーと。全員に好きだって言われて、大抵黙ってこう、抱き締めて……」

陽介「あるんじゃねーか!!」

完二「全員って、花村先輩。向こうに女の人って何人くらい……」

陽介「知る限りじゃ、アイギスさん含めて四人だな」

有里「あ、アイギスには好きだって言われてないね」

陽介「で、抱き締めて……それからどうしたんだよ」

有里「いや、特に何も。ありがとう、とは言った覚えがあるけど……それ以降特別な事は無いね」

陽介「つまり、友達以上恋人未満な関係って事か」

有里「そうとも言う」

完二「……四人だけ、なんスかね」

陽介「そーだよ!どうなんだ!寮に四人……アイギスさん抜いて三人?で、他に女はいなかったのか!」

有里「いない、いない」

>ピーッ、ピーッ!

陽介「むちゃくちゃ鳴ってんじゃねーか!」

有里「……ほんとの所を言うと、それにプラス何人か……下級生とか、同級生とか、先生とか?」

陽介「……もう、いいや。次」

>……。


729VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/20(日) 01:04:33.72/b3BuFTQo (4/11)

陽介「まぁ、本式に俺達が気になってんのはこっからなんだよ。結局、里中と今どうなってんだよ」

完二「そうっスよ。さっきの質問って大半俺知らねェ人なんスけど」

有里「どうって言われてもなぁ……」

陽介「じゃあ、段階で聞いてくぞ。全部いいえで答えろよ。嘘吐いたら鳴るからな」

完二「お、らしくなってきたっスね」

有里「仕方ない、どうぞ」

陽介「まずだな。あん時聞いてたんだけど、お前、里中に愛してるとか言ってたよな。あれ、本心?」

有里「いいえ」

>ピーッ、ピーッ!

陽介「……このくらいは予想の範疇だな。次。里中とは結局つ、付き合う事にしたの?」

有里「いいえ」

>ピーッ、ピーッ!

完二「うぉ、マジっスか。おめでとうございやっス」

陽介「……そんじゃ次。里中とはもう手繋いだ?」

完二「なんスかその質問。子供じゃあるまいし……」

有里「いいえ」

>ピーッ、ピーッ!

陽介「じゃあ、き、キスは!?もうしたのか!?」

有里「……いいえ」

>ピーッ、ピーッ!

陽介「う、ぉお……」

完二「先輩、もうそろそろ……なんか先輩見てるこっちが辛いっスよ……」

陽介「うるへぇ!……実はな、俺が今日こうやって強行手段に出たのはワケがあんだよ」

完二「なんスか、ワケって」

陽介「この前ジュネスに来てた菜々子ちゃんから聞いたんだよ……里中のヤツ、こいつん家に泊まったらしいんだよ……」

完二「!!」

有里「いや、あれは……」


730VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/20(日) 01:05:12.40/b3BuFTQo (5/11)

>ピーッ、ピーッ!

完二「うぉおお、鳴ってる!言い訳しようとしたらめちゃくちゃ鳴ってんじゃねェか!」

陽介「これが最後の質問だ。いいえだぞ、わかってんな?……里中とは、その、エ……セ……お、お泊りした時になにかあったんでしょうか」

完二「うわぁ、なんか情けねェ」

有里「あー、その。えっと……いいえ」

>ピーッ、ピーッ!

陽介「……どうだったんだよ」

有里「え?」

陽介「どうだったんだよ!教えろよ!詳しく!どうやって誘ったんだよ!」

完二「こ、コラ!取り乱しすぎたっつの!落ち着けって!」

陽介「おち、落ち着いていられるかこれが!」

有里「いや、まずこれ音止まらないんだけど」

陽介「あ!?」

完二「あ、ほんとっスね。……調子悪いみたいっスわ」

有里「何も無かったって。ただ勉強教えてって言われて、遅くまで付き合っただけ。寝る時は菜々子の部屋だったし、堂島さんもいたし。何もしてないよ」

陽介「……鳴り止んだな」

完二「ほら、なんも無かったんスよ」

有里「これでも健全な関係で行きたいと思ってるからね」

陽介「……悪かったな、有里。変な疑いかけちまってよ。そうだよな!俺達友達だもんな!何も言わずに先に行ったりしないよな!」

完二「先にってなんスか……」

有里「陽介に断るかどうかはわからないけど、今の所は清い関係だよ」


731VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/20(日) 01:05:40.03/b3BuFTQo (6/11)

>ピーッ、ピーッ!

陽介「鳴ったあああああ!」

完二「うるせっ、ちっとだぁってろ!」

有里「とりあえず、これ解いてくれない?」

完二「あー、すんませんね。今解くんで」

有里「あとこれも外しといた方が良さそうだね。錯乱しちゃうし」

完二「そっスね……」

陽介「お前はいいよなぁ!こっちじゃ里中はともかく天城やりせちーにまでチヤホヤされてさぁ!向こうじゃ皆がお前大好きでさぁ!」

完二「……そういや、直斗がりせに相談してるの聞いちまったんスけど。有里先輩、直斗に何か言ったんスか?」

有里「ん?何が?」

完二「いや、服がどうとか」

有里「あー……言った」

完二「そこんとこ詳しく教えてくれやしやせんかね……」

陽介「美鶴さんにゆかりさんに風花さんに美奈子ちゃんに……不公平だろうが……」

有里「別に今は……え?」

完二「どうかしたんスか」

有里「陽介、今誰って言った?」

陽介「あ?美鶴さんにゆかりさんに風花さんに……」

有里「その後!」

陽介「み、美奈子ちゃんだよ。どうしたんだよ、そんなマジな顔して……」

有里「……!」

>急いで携帯を取り出して、悠に連絡を入れる。
>数回コールが鳴って、悠の声がした。

鳴上『湊か』

有里「ああ、悠、大変なんだ。みんなの記憶が……」

鳴上『……こっちもだ。ていうか、多分原因は……』

『湊ー?湊元気でやってるって?』

有里「その声……」

鳴上『良くわからないんだが……美奈子、帰ってきてるぞ』


732VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/20(日) 01:06:35.99/b3BuFTQo (7/11)



【2012/6/17(日) 巌戸台分寮】


>事件が終わってからこっち、どうにも朝に弱くて困る。
>気が抜けたんだろう。
>急転直下で日常に戻された今、どうにも体も心も揺るんでしまっている。

鳴上「……昼前か。また桐条さんか岳羽さんに怒られる……っしょ、と」

>進路も大まかにだが決まり、もう気合いを入れるようなことも無い。
>仕方ない、と誰にでもなく言い訳する。

鳴上「あ、夏休み……来月末には八十稲羽行けるんだよな。桐条さん達、本気で行きたいって思ってるなら相談しといた方がいいか」

>湊たちもいる事だし、誰かはまた一緒に行く事になるかもしれない。

鳴上「風花さんにも話しておかないと……」

>コッ。

鳴上「くそ、まだ眠い……なんてたるんだ生活だ……」

>コッ。

鳴上「ん?」

>コッ。
>窓に何かが当たっている。
>小石……?

鳴上「誰だ、こんな悪戯……順平さんか?」

>窓から外を見てみる……。

美奈子「おーい、おーい。っかしーな、気付いてないのかな」

鳴上「なんだ、美奈子か。……美奈子だって!?」

>だって、美奈子はあの時……

美奈子「あ、こっち見た。ていうか聞こえてんでしょ実は。ちょっと助けて欲しいのー。ねー悠ー」

>とりあえず、降りよう。


733VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/20(日) 01:07:27.09/b3BuFTQo (8/11)

鳴上「美奈子、何でお前……」

>やはり、美奈子で間違いなかった。
>湊の話では、あの時湊の代わりに消えたはずの……。

美奈子「うん、なんていうか……私も運が良かったみたい。助けてくれた人がいるの。多分、悠とか湊の知ってる人……の、関係者。まぁ、その事についてはあんま聞かないで。泣きそうになるから」

>美奈子はそういって少し切なそうに笑った。

鳴上「そうか……で、何で助けて欲しいんだ」

美奈子「うん、私さ、しばらくいなかったじゃない。その間に寮がどうなってるかわかんなかったから」

鳴上「ああ、そのことか。あの後……」

>あの後、一度全員で集まって今後について話した。
>一応は事件は終わったが、これからどうするか。
>本来事件解決の為に使われているこの寮は、再び閉鎖するはずだったのだが……。

鳴上「桐条さんが、何度も手続きさせるのも忍びないし、問題なければ皆今年一年は住んでていい事になったんだよ。で、結局誰も出て行かなかった」

美奈子「そっか。皆らしいね。それじゃ、皆いるんだ……」

鳴上「どうした、会いたくないのか?」

美奈子「んー、ていうか……怒られたりしないかな」

鳴上「それなんだが……皆、お前に関する記憶をなくしてるみたいだ。あの事件は俺と湊が解決したと思い込んでる」

美奈子「ああ、やっぱり……そうなんだ」

>美奈子が本当に知りたかったのはこれなのかも知れない。
>帰ってきても皆は自分の事を知らない。
>それはどんな気分なんだろう。

美奈子「うん、じゃあ……私、どうしよっかな。湊の所でも……って、そのお金も持ってないし。あはは、変なの。帰ってきてからの方が悩むなんて」

>美奈子は今にも泣き出しそうな顔をしている。

順平「おい、鳴上。何慌てて……」

鳴上「あ、順平さん」

>順平さんが俺が慌てて階段を降りたのに気付いて出てきたようだ。
>まず俺を見て、それから美奈子を見た。

鳴上「あ、あのっ、こいつは……ええと、俺の……」

>急過ぎて、何も良い言い訳が出てこない。


734VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/20(日) 01:08:03.95/b3BuFTQo (9/11)

順平「おいおいおい!今までどこ行ってたんだよ。ちょっと待ってろ、皆に知らせてくっから!」

>順平さんは寮の中へ戻っていった。

美奈子「えっと、あれ?」

鳴上「変だな、確かに皆……とにかく、中へ行こう」

>少し尻込みする美奈子の手を引いて、玄関を開ける。

美鶴「美奈子が帰って来たというのは本当か、鳴上」

真田「何だ、人騒がせな。帰って来たならそう言えばいいものを」

岳羽「ほんっと、心配させるんだから……」

天田「でも、帰って来てくれて良かったじゃないですか」

アイギス「本当に。お帰りなさい、美奈子さん」

風花「良かった、居なくなった時はどうしたのかと……」

鳴上「あ、あれ?皆、美奈子の事覚えて……」

美鶴「少し居なくなったくらいで忘れるわけが無いだろう?失礼な事を言うものだな」

美奈子「えっと、その……」

鳴上「……どうも、思い出してくれたみたいだな。お帰り、美奈子」

>美奈子は笑った。

美奈子「あはは、恥ずかしながら、有里美奈子……帰って参りました」

>……誰だか知らないが、美奈子を助けてくれた人には感謝しなければならない。
>ようやく、欠けていた物が揃った気分だ。

鳴上「また、騒がしくなりそうだな」

>皆に飛びついて抱きついて回る美奈子を見ながら、そう思った。


735VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/20(日) 01:12:25.16/b3BuFTQo (10/11)

2012/6/17現在の状況

鳴上
『No.00 愚者 特別課外活動部』ランク4
『No.01 魔術師 伊織順平』ランク3
『No.02 女教皇 山岸風花』ランク5
『No.03 女帝 桐条美鶴』ランク5
『No.04 皇帝 真田明彦』ランク3
『No.05 法王 天田乾』ランク3
『No.06 恋愛 岳羽ゆかり』ランク4
『No.07 戦車 アイギス』ランク4
『No.08 正義 コロマル』ランク4
『No.09 隠者 エリザベス』ランク3
『No.13 死神 有里湊』ランク4

有里
『No.10 運命 鳴上悠』ランク4
『No.11 剛毅 里中千枝』ランク5
『No.12 刑死者 堂島遼太郎』ランク4
『No.14 節制 巽完二』ランク4
『No.15 悪魔 マーガレット』ランク3
『No.16 塔 白鐘直斗』ランク3
『No.17 星 久慈川りせ』ランク3
『No.18 月 天城雪子』ランク4
『No.19 太陽 花村陽介』ランク5
『No.20 審判 自称特別捜査隊』ランク3

鳴上、風花と???
有里、千枝と???

Next→期末テストと夏休みと修羅場


736VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/20(日) 01:13:34.27/b3BuFTQo (11/11)

まぁ、誰とは言いませんが、助けてくれたようです。
詳細は美奈子のみが知る。
皆揃ってなきゃね。

というわけで本日分は終わり。
では、また後日。


737VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2012/05/20(日) 01:47:51.32+yIRSyZh0 (1/1)


美奈子帰ってきたのか・・・


738VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/21(月) 00:00:50.79UR+If3igo (1/12)

今日からなるべく影時間更新を心がけようと思います。
せっかくなんで。

というわけで本日分。


739VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/21(月) 00:02:39.33UR+If3igo (2/12)



【2012/7/16(月) 晴れ 天城屋旅館】


>あの事件から二ヶ月が経とうとしている。
>美奈子も戻り、僕達にはいつもの日常が帰って来ていた。
>季節は夏に入り、今日も燦々と照り付ける太陽から逃げるように天城さんの部屋で勉強会が行われている。

陽介「あっぢぃ……あっぢぃ……」

千枝「っるさいなぁ……暑いって言うから余計暑いんでしょー……」

雪子「ごめんね、エアコン調子悪くて……」

>……日差しは避けても、扇風機のみで凌げる暑さでは無いようだ。

陽介「有里は涼しい顔してんな……」

有里「やせ我慢は得意だからね。生命力ゼロで二ヶ月過ごしたくらいだし」

陽介「良くわかんねぇけどすげえな。つーか、お前は勉強しねえのかよ」

千枝「有里君は頭良いでしょ、私らと違って……あっつー……」

>期末試験まで後一週間。
>受験組の三年は、一月も前から連日勉強会を行っているのだが……

陽介「全然進歩してねぇ気がする」

千枝「すっごい悔しいけど同感。これ、大丈夫なのかな……」

>元より成績の良い天城さんを除いて、彼等は成果が見えていないらしい。

有里「それを確かめる為にテストがあるんじゃないの?」

陽介「それよ。何で夏休み前にテストがあんだよ……一学期終わったー!っつってはしゃげねえんだよ、それで……」

雪子「うーん、千枝もテスト嫌なの?」

千枝「嫌ってわけじゃないんだけどねぇ。別に何かご褒美あるわけで無し、こう、手応えというか、やり甲斐みたいなのは欲しいよね」

陽介「里中良いこと言うね!それよ、それ。やり甲斐!やったら良い事あるとかさ!そりゃ、進学とか就職とか色々あるけど、手近に実感できるもんがねーんだよな」

雪子「もう、二人してそんな事言って……」

>このままでは二人の進路に支障が出かねない。
>ここは一つ、奮起してもらうしかないだろう。

有里「ご褒美というか、ゲーム性を持たせてみたら二人もやる気が出るかもしれないね。というわけでちょっと失礼」

>りせに電話しておこう。


740VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/21(月) 00:04:51.29UR+If3igo (3/12)



【2012/7/17(火) 晴れ 八十神高校】


陽介「男女対抗?」

千枝「点数対決?」

有里「そう」

>昨日の内にりせに電話して決めておいた。
>りせもテストの点が良い方では無かったが……

有里「男女に別れて、合計点で勝負って事で、二年生組にはりせから報告が行ってると思うよ」

雪子「へぇー、面白そうだね」

千枝「ちょ、ちょっと待って。対決って事は、負けたら何かあるって事?」

有里「りせと相談して決めたんだけど……勝った側は負けた側を、一日自由に出来る権利を与える、っていうのでどうかなと」

千枝「無理無理!自信無いって!」

>千枝はぶんぶん首を振った。
>どうやらこの試合の要点に気付いていないらしい。

陽介「なんだそれアツイじゃねえか!あれ?でも待てよ……男女対抗って事は、俺と、有里と、完二だろ?」

有里「そうだね」

>動転している千枝より先に陽介が気付いたか。
>りせが自信の無い点数勝負を受けたのはそこに理由がある。

陽介「そりゃ、俺も完二も勉強できる方じゃねえからチーム戦は有難いけどよ。女子の方が一人多いぜ?」

雪子「あ、ほんとだね。私、千枝、直斗君、りせちゃん。四対三になっちゃうよ?」

有里「そのハンデを踏まえた上で勝負を挑んでるんだ。千枝とりせが自信無くても直斗と天城さんはいつも良い点だろ?」

千枝「そっか、最悪私達が駄目でもそれで……」

陽介「勝ち目薄すぎじゃねえか!なんでそんな条件で勝負しなきゃなんねんだよ!」


741VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/21(月) 00:08:19.67UR+If3igo (4/12)

>陽介は憤慨しているが、その目の奥にちらりと欲が見えたのを見逃すつもりは無い。

有里「陽介。好きに出来るんだ。わかるかな。天城さんも里中さんも、アイドルのりせも直斗も自由。自由に、指示を出せるんだよ」

陽介「そ、そりゃ……勝ちゃぁよ……」

有里「その果実を前にして、多少の障害で手を伸ばすのをやめる?そうじゃないだろう。男なら」

陽介「男なら……」

有里「やるしか、無いだろ」

陽介「有里……!」

>釣れた。

千枝「でもなぁ……もし負けたら花村に何させられるかわかんないし、私はちょっと……」

有里「大丈夫だよ。こっちが勝っても変な事はさせないから。信じて?」

千枝「まぁ……有里君がそう言うなら……」

>もういっちょ釣れた。

有里「さて、これで全員だね」

雪子「二年生の皆は参加決定なの?」

有里「直斗と完二は嫌がるだろうけど、直斗はりせに押されて押し切られるだろうし、完二は……直斗が参加すれば参加するだろうし。全員だよ」

雪子「しっかり織り込み済みなんだね……」

有里「まぁね。さ、これでちょっとはやる気出たでしょ?今日から勉強会も男女に別れてやろう。陽介と完二は僕が面倒見るから、千枝とりせは直斗と二人でお願い」

雪子「ん、わかった。ふふ、楽しみだね」

陽介「燃えて来たぜ!うおっしゃああああ!」

千枝「花村、暑苦しすぎ……」

>こうして、僕達の戦いが始まった。


742VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/21(月) 00:11:04.64UR+If3igo (5/12)



【2012/7/17(火) 晴れ 月光館学園】


男子「やって参りました、夏休み前に我々を脅かす最恐のイベント」

美奈子「期末テストです……!」

>美奈子まで、おどろおどろしく迫ってくる。

鳴上「いや、俺が見た限りじゃ美奈子は……」

美奈子「あんまり好きじゃないんだよねぇ、テスト。数字に出ちゃうのはどうも」

男子「わかるぜ美奈子ちゃん。俺達人間だもんな。数字で価値決められちゃ困るぜ」

鳴上「お前が嫌なのは単に勉強が嫌いだからだろ」

男子「まぁ、そうなんだけど」

美奈子「おっくーだなー……でも一応は勉強しないとねぇ」

>美奈子は暑さも手伝ってか、えらくくったりしている。

男子「そーだ、美奈子ちゃん。俺がテストの点数で美奈子ちゃんに勝ったら何かご褒美ちょーだいよ」

美奈子「えー?そういう事言っちゃう?」

鳴上「はは、それいいな。チューでもしてやれよ」

美奈子「あ、悠まで。じゃあ私が悠に買ったら悠がちゅーしてよね」

鳴上「ん?誰に?」

美奈子「私ー」

>両手を広げてアピールしてくる美奈子を無視した。

鳴上「テストの時くらい真面目に勉強してもいいじゃないか」

男子「わかってますー。優等生は言う事が違うから……」

美奈子「あ、ひどい。無視だ。……そういえば、ご褒美か」

>美奈子が何かに気付いたような顔をした。
>直後、にやりと口をゆがめる。

美奈子「悠と私は、もうちょっと面白いことになるかもね。とりあえず帰ろうよ。帰って美鶴先輩に相談しないと」

>……?
>まぁ、任せてみよう。


743VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/21(月) 00:13:25.10UR+If3igo (6/12)



【巌戸台分寮】


美奈子「みっつるせーんぱい!お話があるんですよー」

美鶴「なんだ、美奈子に……鳴上まで。どうかしたのか?」

鳴上「いや、俺は別に用は……話があるのはこっちです」

美奈子「へへへー、美鶴先輩!私達今度テストあるんですよ!」

>桐条さんはきょとんとした後、合点がいったようで微笑んだ。

美鶴「……なるほど。いいだろう。条件を言ってみなさい。それによっては、ご褒美も考えよう」

鳴上「え、いいんですか?」

美鶴「私の在学中にやっていたんだ。当時、探索もこなして学業もこなす湊を少しでも労ってやろうと思ってな。美奈子もそれを知っていたんだろう」

美奈子「そういうわけです。そーだなー……やっぱり、目標が高い方が良い物もらえるんですよね?」

美鶴「それはそうだな。例えば、学年一位……君達は最上級生だから、事実上の学園一位だが、そのくらいすれば何でも好きな物を聞いてあげよう」

>たかがテストに凄く派手なおまけがついてきた。

美奈子「それじゃあ、すっごく難しい事達成したらどうなりますか?」

美鶴「ん?そうだな……物に限らず、なんだってしてやろう。対価として見合うならな」

>美奈子が不敵に笑った。

美奈子「じゃあ、私と悠で一位取ります!」

美鶴「何?男女別の順位では無いぞ?」

美奈子「わかってますよー」

鳴上「な、おい」

>流石にそれは無理ではないだろうか。

美鶴「ほう、それは凄いな。一位を取るだけならまだしも、二人でとなると点数も揃える事になる。それこそ満点でも取らない限り難しいと思うが、いいのか?」

美奈子「構わないです!だから、もし出来たらそれなりに言う事聞いてもらいますからね!」

美鶴「いい度胸だ。鳴上もそれでいいのか?」

鳴上「いや、俺は別に……」

美奈子「悠、ちょっと」

>何か耳打ちをされる……。
>……?
>……!

鳴上「俺もそれで構いません。是非お願いします」

美鶴「良いやる気だ。こちらも提供し甲斐があるというものだな。まぁ、頑張るといい。万が一にも達成出来たら、何でも聞いてみせよう」

鳴上「だ、そうだ。早速勉強に入ろう。美奈子、後で部屋に来てくれ」

美奈子「おっけー!美鶴先輩!約束ですからね!」

>なんとしても満点を取ろう。
>……なんとしても、だ!


744VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/21(月) 00:15:53.92UR+If3igo (7/12)



【2012/7/18(水) 晴れ 八十神高校】


千枝「うそ……花村が休み時間に勉強してる……」

有里「ここの助動詞ちゃんと覚えといて」

陽介「おう……ここんとこさ、綴り合ってる?」

有里「あー、Fだね」

陽介「くっそ、また間違えちまった……」

雪子「聞こえてないみたいだね……」

千枝「わ、私も勉強しよっと」

>どうやら目論見通りに事が進んでいるようだ。

雪子「二人共やる気になったみたいで良かったね」

有里「うん、これならなんとかなるでしょ」

>このまま続くといいが……。


【2012/7/20(金) 陽介の部屋】


陽介「んだよ、これ!わかんねえって!」

完二「うるせェな、気が散んだろうが!」

有里「完二の言うとおりだよ、落ち着いてやれば出来るはずだから」

>今日は男子組が集まっての勉強会だ。

陽介「あー辛い……ていうか完二までマジになってんのかよ」

完二「……まぁ、テスト前くらい勉強するモンだろうが」

有里「直斗も受けてくれたしね」

完二「ばっ、何言って……んなんじゃねえって!」

陽介「あーなるほどな。そりゃ本気になるわ。悪かったな、からかってよ。俺も頑張るから、絶対勝とうぜ!」

完二「先輩……!」

>……うーん。
>予想はしていたが、完二はともかく陽介のモチベーションが下がりがちだ。
>自分が提案したとはいえ、やるからには勝ちたい……。

有里「これじゃ華が無いし、そうだな……陽介はともかく、完二は直斗に任せた方が伸びも良さそうだ」

>やっぱり、そうするとしようか。


745VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/21(月) 00:19:07.53UR+If3igo (8/12)



【2012/7/22(日) 晴れ 天城屋旅館】


陽介「で、結局合同になるんだな」

りせ「今日で最後だし、最終調整は堂々といかなきゃね!」

>結局、全員で集まっての勉強会になった。

陽介「でもよー、こう暑いとどうもやる気がなー」

有里「陽介、昨日も言ってたよね……完二を見てみなよ」

完二「でよ、ここんとこがわかんねえんだけど……」

直斗「ああ、そこはこっちです。この公式が対応してるので、数を入れ替えてみてください」

>完二と直斗は仲良く勉強している。

陽介「ありゃお前、暑さよりもっと熱い何かが勝ってんだよ。俺はそういうの無いしー」

千枝「ばっかじゃないの、真面目にやんないと知らないよ?」

雪子「千枝もちゃんとやる。さっきからずっとパタパタしてるだけで進んでないよ?」

千枝「……いや、こう暑いとさ」

りせ「有里せんぱーい、ここわかんなーい」

有里「はいはい、ちょっと待ってね」

陽介「あ!てめー敵に塩送るような真似しやがって!」

有里「みんなの成績が上がる事が一番だよ。その上で報酬があった方がやる気出るでしょ?」

陽介「まーそうだけどよ……」

有里「陽介、ちょっとモチベーション落ちてきてる?」

陽介「正直、ちょっとな……」

>やっぱりか。
>だけど、こうなる事を見越してわざわざ合同勉強会にしたんだ。


746VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/21(月) 00:22:15.87UR+If3igo (9/12)

有里「陽介、良く聞いて。僕が教えてる間、りせの事を良く見ててね」

陽介「あん?そりゃいいけど、何かあんのかよ」

有里「すぐわかるよ」

>りせの隣に移動し、参考書をめくる。

りせ「私化学嫌ーい……どうせ将来使わないですよお」

有里「まぁまぁ、そう言わずに……」

>陽介は対面からしっかりこっちを見ている。
>よし、そのまま……

有里「ほら、ここに書いてある式が使えるから。それでやってみて」

りせ「あーん、ややこしい……暑いしもーやだー」

>今だ!
>陽介、見ているか?
>気付けたか?

有里「……」

>陽介の顔が輝いている。
>気付いたようだ。

有里「そう、それでいいから。同じやり方でやっていって。僕は陽介も教えないといけないから」

りせ「はーい、また教えてね」

>言いながら、りせは胸元をパタパタと扇いでいる。
>陽介のそばに戻った。

陽介「有里……お前が言いたかった事って」

有里「わかったみたいだね。夏は、そういう事もあるのさ」

>これだけ暑ければ薄着になる。
>そして、今日のりせは胸元がゆるい。
>前のめりになって文字を書く以上、場合によっては「見え」るのだ。


747VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/21(月) 00:23:19.20UR+If3igo (10/12)

陽介「うおお、燃えてきた!」

有里「それだけじゃない。見てごらん。天城さんを」

>陽介の視線を天城さんに向ける。

陽介「確かに、天城も今日は薄着だな」

有里「うん。見てみなよ、脚を」

>今日は流石に暑いのか、いつもその白い肌を包んでいる黒のタイツを履いていない。

陽介「いつもと違うな……これもいい!」

有里「しかも、よく見てるとわかるんだけど……今日はスカートじゃないからか、いつもより少し油断してるんだよね」

>今日はハーフパンツだ。
>本来なら、それはチャンスの喪失を意味するのだが……今日は違う。
>ムレるのか、何度も脚を組みなおしている。
>その度に、裾の奥が見えそうで……

陽介「すげえ、桃源郷かここは……」

有里「さらに直斗はどうだ」

陽介「いつも通りだろ、流石にこれじゃ驚く事もねーんじゃねえの?」

有里「そうだね、一見涼しげですらある。だけど、夏に暑くない人間なんていないんだよ。見てごらん」

>一見すると汗一つ無いようだが、肌はしっとりと水気を帯びている。
>そして、そのせいでいつものワイシャツがほんの少しだけ透けている。

陽介「こ、これは……どうなんだ、これ。何か下手に見えてるよりむしろ……」

有里「そういう物なんだよ、人間っていうのはね」

陽介「も、もしかして里中も……」

有里「あ、それはいいから。とにかく、今の季節がどれだけすばらしいかわかっただろ?」

陽介「ん?お、おう。ばっちしだぜ。で、それがどうしたんだよ」

有里「もし勝負に勝てれば、これどころじゃない事が出来るんだよ」

陽介「……これどころじゃない事、だと?」

有里「だって、彼女達に何を命令してもいいんだよ?考えてみなよ、自分ならどう使うか」


748VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/21(月) 00:23:53.00UR+If3igo (11/12)

>……千枝は、見せたくない。
>どういうつもりか、単に自覚が無いのか、千枝は見れば見るほどはしたないことになっている。
>汗でくっついたTシャツに下着の線は透けてるし、襟をつまんでばさばさやるもんだからかなり際どい所まで見えてしまっている。
>火照った顔と、汗でくっついた前髪がまた……

有里「……おっと、僕が没頭してどうする。しかし、アレは良くないな」

>陽介は再び火がついたようだ。
>もくもくと問題集に向かっている。

有里「あー、天城さん。ちょっと」

雪子「はい、どうしたの?」

有里「あの、僕から言うのもなんだから伝えて欲しいんだけど。千枝に、その……胸と、あと肩と……」

雪子「え?……あ、ほんとだ。もう、千枝ったら」

>天城さんは苦笑いしながら千枝に耳打ちした。

千枝「ほぇ?……!!」

>がばっと、自分の体を抱くように隠す千枝。
>逆効果だって。それ、どう考えても不審だから。
>暑さで赤くなった顔が余計に真っ赤になる。

陽介「おい、有里!これ教えてくれ!物理!」

有里「ああ、はいはい。ええと、どこだって?」

>明日から、期末テストだ。


749VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/21(月) 00:25:33.44UR+If3igo (12/12)

これからしばらくはこんな感じ。
しょーもない毎日、大切な毎日。
八十稲羽男子の運命は!
美鶴はあの二人を敵に回して勝利できると思っているのか!

というわけで本日分は終わり。
では、また後日。


ところで、このスレ内で終わりそうに無いんですけどコテ付けた方がいいのかな。
スレ変わるギリギリくらいでコテ搭載します、多分。


750VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2012/05/21(月) 01:34:02.03F/kwbxtco (1/1)

乙!


751VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2012/05/21(月) 04:21:24.47X/+MHgmg0 (1/1)

乙!
オレもこんな環境だったら勉強したのに・・・


752VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2012/05/21(月) 07:15:02.67eA/SKQ2AO (1/1)

青春っていいなぁ( ´A`)


753VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/21(月) 10:20:04.04iAv4p+hVo (1/1)

乙!毎日楽しみにしてる


754VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/21(月) 11:05:59.56x9w9jCHuo (1/1)

今からちょっと八十稲羽いってくるわ^^

>>1は折角だからコテをつけていくといいよ…


755VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/21(月) 21:25:54.61dn1flB6To (1/1)

こんな環境だったら俺は先週のテストで惨敗しなくて済んだのに…

あ、>>1乙


756VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:00:14.52qBrsUykbo (1/25)

テスト勉強なんか生まれてこの方やったことないです。

と言うわけで本日分。


757VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:01:06.65qBrsUykbo (2/25)



【2012/7/23(月) 晴れ 八十神高校・期末テスト一日目】


>今日から期末テストだというのに、まだ陽介は登校していない。

千枝「そろそろ時間だよ」

雪子「花村君、大丈夫かな……徹夜して勉強して、そのまま遅刻とか……」

>陽介なら有り得る……。
>いくらなんでも二人の人数差を埋める事は不可能に近い。
>このままでは……

陽介「……よう」

有里「おはよう、陽介。ギリギリだ……ね……?」

>陽介の目の下には濃いクマが出来ている。

千枝「うっわ、花村アンタどうしたのその顔!」

陽介「……ためよ」

雪子「え?」

陽介「全ては、勝つ為よ……!楽園の為なら睡眠の九時間や十時間、削ってみせるぜ!」

>悲惨な様相の陽介だが、その姿からは間違いなく漢を感じる。

千枝「っていうか九時間十時間って、あんた普段どんだけ寝てんの……」

陽介「うるせぇ。その俺が一睡もしなかった意味を考えるんだな。里中、お前にゃとびっきり恥ずかしい目にあってもらうぜ……」

>いつもと違い、静かに言い放つ陽介。
>だが、かえって不気味な説得力と迫力がある。

千枝「う、あんな事言ってる。有里君……」

>千枝がすがるようにこっちを見ている。

雪子「勝てば問題無いよ。ね?」

>天城さんが千枝を励ましてくれた。
>すまない、千枝。
>もうこれからは勝負なんだ。
>陽介の気迫に応えなければならない。
>こうして、期末テストが始まった。


758VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:01:41.91qBrsUykbo (3/25)



【2012/7/24(火) 晴れ 月光館学園・期末テスト二日目】


>テストも二日目に入った。
>だが、俺のペンは止まらない。
>どんな問題も今の俺の前では無力だ。
>一通り終わらせた後、もう一周解き直す。
>かつ、誤差のあった問題を再度検証する。
>無敵だ。
>今の俺は無敵だ。
>本来短いはずの一教科の時間が有り余って感じられる。
>ちらりと様子を伺うと、美奈子も同様に鬼気迫る勢いで問題を解いている。
>いける。
>これはいけるぞ。
>とにかくミスを無くす事だ。
>ケアレスミスが死に直結すると思え。
>……勝てる。
>いや、勝つ!
>余った時間で、出来る所までチェックを行おう。


759VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:02:26.19qBrsUykbo (4/25)

【2012/7/26(木) 晴れ 八十神高校・期末テスト終了】


>四日間の期末テスト、その全工程が終了した。
>……恐らく、四日間不眠不休で戦った陽介の顔色は、最早すさまじい程だ。

陽介「……有里。俺、やったよな。戦ったよな」

有里「ああ。陽介は立派にやったよ。僕が誇りに思うくらいに……」

陽介「……少し、疲れたよ。寝る。ありがとな、ありさ……と……」

>陽介は机の上に崩れ落ちた。

千枝「終わったー……かつてない程勉強したしある程度上がってくれないと困るなー」

雪子「真面目にやってたもんね、千枝。大丈夫、きっと良い点取れるよ」

有里「お疲れ様。結果発表っていつだっけ?」

雪子「来週の頭かな。それが終わったら完璧に夏休みだね」

有里「夏休みか……夏期講習とかあるんだっけ」

雪子「成績次第じゃ補習もあるよ」

有里「ん、てことは明日で一学期の授業終わり?」

雪子「そうだよ」

>夏休みか。
>そういえば、向こうはどうなっているのだろう。

有里「悠、いつ頃来れるのかな」

千枝「そっか、夏休みには来るって言ってたもんね。どのくらいの間いるんだろう」

有里「聞いておこうか。……帰り際、私達も行くーって言ってた人たちがいたね、そういえば」

千枝「ああ、そういえば……向こうの皆も来るのかな」

>……もし来たら、どうなるだろう。
>少なくとも、休む事は出来なさそうな気がする。

有里「……楽しみだね、色々」

千枝「そうだねー」

雪子「そういえば、海行くのかな、結局」

>今日の所は帰って休もう。
>流石に少し疲れた……。

陽介「俺は……やったぜ……相棒……」


760VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:03:08.68qBrsUykbo (5/25)



【2012/7/26(木) 晴れ 月光館学園・期末テスト終了】


男子「終わったー!そして終わったー……」

>どうやら手応えが今一つだったらしい。
>しかし、今そんな事はどうでもいい。

鳴上「美奈子」

美奈子「悠」

>お互いの目を見る。
>その奥には確信があった。

鳴上「フッ」

美奈子「ふふっ」

>ピシガシグッグッ。

男子「まった古いネタやってんな、お前ら……」

鳴上「よし、後は結果発表を待つだけだ。帰ろう」

美奈子「そだね。帰ろっか」

男子「よー、二人共これからカラオケいかね?打ち上げ打ち上げ」

鳴上「いいな。騒ぐか」

美奈子「いいねー、思い切り歌っちゃおう!」

>後は、結果を見るだけだ。


【2012/7/28(土) 曇り 商店街】


>今日は一人で商店街だ。
>というのも、今朝マーガレットから連絡があり……頼みがあるから聞いてくれと言われたからだ。

マーガレット「ちゃんと来てくれたのね。待ってたわ」

有里「まぁ、マーガレットからお呼びがかかっちゃね。で、どうしたの?」

マーガレット「貴方……昔、妹から色んな依頼を受けてたのよね?」

有里「うん、それはもう色々と」

マーガレット「そんな貴方にお願いがあるのよ。実は、あるモノが欲しいのだけど……私、調達に出るわけにいかないでしょ?」

有里「ああ、そういうことね……」

>なんだか懐かしくもある。

有里「いいさ、引き受けよう。それで、何が欲しいの?」

マーガレット「ありがとう。ただ、名前もわからないのよ」


761VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:03:47.31qBrsUykbo (6/25)

有里「またそういう難題を……どういうモノかはわかるんでしょ?」

マーガレット「そうね……洋服なのだけれど、白と、黒で……そう……例えて言えばブリリアントな感じの」

有里「……うん、全然わからない。じゃあそれらしい服を見つけたら持ってくるよ。それでいいんでしょ?」

マーガレット「ごめんなさいね、お願いするわ」

有里「慣れてるからね。……あれ、あれは……」

>向こうから千枝とりせが歩いてくる。
>珍しい組み合わせだな……。

マーガレット「お友達?」

有里「まぁね」

マーガレット「ふぅん……」

>マーガレットが目を細めた。

マーガレット「可愛らしい子達ね」

有里「でしょ」

マーガレット「その軽口、いつもそうなの?」

有里「大体はね」

マーガレット「……ま、とにかくお願いするわね。それじゃ、また」

>マーガレットは僕の頬にキスをするとベルベットルームへ帰っていった。

有里「突然何を……ん?」

>りせが抱えていた袋を落としている。
>千枝も、ただならぬ様子でこっちを見ている。
>……見られた?

りせ「せ、せんぱい?さっきの人ってダレ?」

有里「いや、知り合いの女の人だけど……」

千枝「が、外国の人かな?キスは挨拶って言うもんね」

>まぁ、日本人ってわけでは無いだろうけど……どうなんだろう。

りせ「そ、そっか!スキンシップだよね!んもう、びっくりしちゃった!」

千枝「だよね、有里君!そうだよね?」

有里「うん、軽いノリでしたんじゃないかな」

千枝「だよねー!そうだよ、だって……うん、そうだよ!」

>りせが走ってくる。

りせ「センパイ、あんまり軽くそういう事するの良くないですよ……」

有里「いや、僕に落ち度は無いと思うけど……」

りせ「里中先輩、アレで結構嫉妬深いとこありますから……」

>千枝はまだ何かぶつぶつ言っている。

有里「……覚えとく」

>しかし、ブリリアントな服……ね。
>なんなんだろう、一体。


762VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:04:17.34qBrsUykbo (7/25)



【2012/7/28(土) 曇り ポロニアンモール】


>朝早く、エリザベスから電話があった。
>頼みごとがあるから来てくれという話だったが……。

エリザベス「おはようございます。よく来てくださいました」

鳴上「いや、エリザベスが頼みたい事があるって言うから。一体どうしたんだ?」

エリザベス「……お客様は、以前姉の頼みを尽く達成せしめたと聞き及んでおります」

鳴上「まぁ、な。それがどうかしたのか」

エリザベス「そのようなお客様にこそお願いしたい事なのですが、あるモノを手に入れてくださいませんか」

鳴上「モノ?……いいけど、一体何なんだ?」

エリザベス「青い肉じゃがでございます」

鳴上「……は?」

>肉じゃが、なら良く知っている。
>しかし、青いとなると聞いた事も……

鳴上「あ」

>あった。

鳴上「しかし、アレは再現性のあるバグかどうかわからないんだが……」

エリザベス「以前、彼が言っていました。世にも珍しい物だと。一度、見てみたくて……」

>有里か、余計な事を……。

鳴上「作れそうな人を知ってる。今度、その人の住んでる所に行くから、トライしてもらうよ」

エリザベス「ありがとうございます。是非、お願いします」


763VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:04:56.29qBrsUykbo (8/25)

>エリザベスは喜んでいるようだ……?

エリザベス「では、私はこれで」

鳴上「ああ……」

>エリザベスは一礼して青い扉に入った。
>今、一瞬……

鳴上「あれ、どこに……」

>いた。
>アイギスさん……だと思ったのだが、どうやら違うらしい。

鳴上「全然似てないけど、似てるな。髪は黒いし、目は赤い。アイギスさんとは何ていうか、真逆……」

>だが、何か気になる。
>人ごみに紛れてしまう前に追いかけてみよう。

「この匂いは!こ、この匂いはぁあああ!」

>……?
>聞き覚えのある声がする。

鳴上「この声……」

クマ「セーンセーイクマアアアアアア!!」

>人ごみの中から着ぐるみが飛び出してきた!

鳴上「うわっ、クマ!どうしてここに?」

>クマはなんと言うか、薄汚れている。
>そして何故か子供達に蹴られている。

鳴上「こらこら、あんまりこのクマいじめちゃ駄目だぞ」

子供「これクマなの?」

鳴上「そうらしいぞ。ほら、やめてあげよう。な?」

>子供達も悪戯はいけないとわかってくれたようだ。

クマ「う、うぅ……辛かったクマ……八十稲羽じゃ人気者なのに、この街じゃ酷い目にあったクマ……」

>クマはよろよろと立ち上がった。

鳴上「大丈夫か?というかなんでここに。テレビがどうなったかわからないから、てっきりまだ出てこられないもんだと……」


764VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:05:24.90qBrsUykbo (9/25)

クマ「テレビの中は、ちょっとずつ直ってったクマ……で、この前ようやく出られるようになったから飛び出て来たら、どっかに飾ってあるテレビから出ちゃったクマ」

鳴上「それがこの街だったわけか」

クマ「辛かったクマ、駄目かと思ったクマ……けど、なーんか知ってる匂いするからずっと待ってたクマ。そしたら、そしたらなんと……」

>クマにタックルを喰らった。
>これも久しぶりだ。

クマ「センセイだったクマ!ありがとう、ありがとセンセイ!おかげで生きていけそうクマぁ!」

鳴上「落ち着け。……そうか、まぁ、丁度良かったよ。陽介達も心配してただろうから連絡しておこう。それから……中身だけでついてこい。また蹴られるぞ」

>さっきのアイギスさんに似た人は見失ってしまった。
>が、まずはクマを連れて帰ろう。


【巌戸台分寮】


風花「おかえりなさ……あれ、その人は?」

鳴上「ああ、ええと……クマの中身ですね」

風花「……何言ってるかちょっと」

鳴上「ええと、だから……」

クマ「クマはクマクマ」

風花「あ、ほんとにそうなんだ。え、じゃあどうしてクマ君がこっちに?」

鳴上「どうも、テレビを出たらこっちだったらしくて。それで、放っておくと色々危なそうだったんで連れて来ちゃいました」

クマ「フーカチャンとセンセイは一緒に住んでたクマか?」

鳴上「まあそうだな」

クマ「ど、どどど同棲!?センセイ大人クマー!!」

>……さて、とりあえずどうしようか。
>まず、桐条さんに相談して……そうだ、八十稲羽行きの話もしないといけない。

鳴上「風花さん、今桐条さんいますか?」

風花「あ、お部屋にいると思う」

鳴上「そうですか。ちょっと、クマの事含めて相談してきます。クマよろしくお願いします」

風花「はい、わかりました。クマ君、とりあえずその着ぐるみ、お洗濯しよっか。なんか凄く汚れてるよ?」

クマ「しゃーないクマ……いっぱいいじめられたクマ……」


765VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:05:54.76qBrsUykbo (10/25)



【巌戸台分寮・三階】


>扉をノックする。

美鶴「誰だ?」

鳴上「あ、鳴上です。少しお話が。良いですか?」

美鶴「鳴上か。入ってくれ」

鳴上「失礼します……どうしたんですか?」

>桐条さんは這いつくばって棚の下に手を突っ込んでいる。

美鶴「いや、それが……この下に、ペンが転がっていってしまって。気に入っているから、取りたいんだが……よっ、んんっ……」

>ベネ。

鳴上「俺やりますよ」

美鶴「そうか?」

鳴上「俺の方が手長いんで……よい、しょ……あ、これかな」

>細い何かを握った。
>引っ張り出すと、やはりペンだった……が、桐条さんらしくないというか、変わったデザインのボールペンだ。

美鶴「ありがとう、助かった。……埃がついてしまったな。後で綺麗にしておかなければ……」

>本当に大事そうにそのペンを握る。
>あのペン、どこかで見た気が……。

鳴上「あ、それと同じの……湊が持ってたんだ」

>桐条さんが跳ねた。
>あまりにも驚くと、人間は跳ねるらしい。

美鶴「そ、そうか?偶然だな。……で話というのは何だ」

鳴上「あ、はい。そろそろ夏休みなんですが、俺、また八十稲羽に行こうかと思ってるんですよ」

美鶴「ん、そうか。もう止める理由も無い。行って来るといい」

鳴上「それで、なんですが。長期滞在になると思うんですが、良かったら桐条さんも一緒に行きませんか?」

>予想だにしなかった、という表情をされた。



766VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:06:22.26qBrsUykbo (11/25)

美鶴「何故、私と?……いや、すまない。今、何かとても君を傷付けるような事を言ってしまったかもしれないが」

鳴上「多分桐条さんが思ってるような事ではなく。皆で遊びに行けたら楽しそうだなと思っただけで……」

美鶴「ああ、そういう事か」

鳴上「向こうには湊もいますしね」

美鶴「別に、彼がいようと関係無い……が、顔を見せるくらいはしてもいいかもしれないな。うん、そうか。そうだな……」

>桐条さんは一人何かを考え込んでいる。
>まぁ、詳しい日程は一学期が終わってからでいいだろう。

鳴上「あ、それからもう一つ。ちょっと拾い物をしまして……よければしばらく寮に置いてもらえないでしょうか」

美鶴「ん?それは構わんが、なんだ、犬か猫でも拾ったのか?それなら私よりコロマルの機嫌を取らないとな」

鳴上「犬猫ではないですが……クマです」

美鶴「……んん?」

鳴上「あの、Nyx封印した時の事覚えてますか?」

美鶴「あまり、思い出したくは無いがな」

鳴上「はは……あの時、妙な着ぐるみが居たんですが、知ってます?」

美鶴「……ああ!確かにいたな、原色の奇妙な……」

鳴上「アレ、俺達の仲間なんですけど、どうやらこっちに出てきちゃったらしくて。どうせ夏休みには向こうに行くんで、その時までこっちで保護できないかと」

美鶴「なんだ、そういう事か。脅かすんじゃない。いいだろう、ただし部屋が無いから君の部屋で寝泊りしてもらっていいか?」

鳴上「それでいいです。話はそれだけです。じゃあ、クマの様子を見てきます」

美鶴「ああ。……鳴上」

鳴上「はい、なんですか?」

美鶴「八十稲羽行き……日程が決まったら教えてくれ」

鳴上「わかりました。それじゃ、失礼します」

>桐条さん、どうやら相当行きたいみたいだな……。
>しっかり日程を組もう。



767VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:07:30.93qBrsUykbo (12/25)



【2012/7/29(日) 雨 巌戸台分寮】


クマ「朝クマー起きるクマー」

>耳元でクマが五月蝿い……。

クマ「起きないとひどいことするクマー、とんでも無い事するクマー、それでも良ければ寝てるクマー」

>とんでも無い事……?

鳴上「それは困る」

クマ「あっ起きちまったクマ」

鳴上「なんだ、そのしまった!みたいな言い方」

クマ「ミナコチャンに教えてもらったとんでも無い事しようと思ってたクマ……」

>あいつ……。

鳴上「……おはよう。起こしてくれてありがとうな」

クマ「ぜんぜんクマ。おはよーさんセンセイ!」

>着替えるとしようか。


【ラウンジ】


>ラウンジには寮内の皆が集まっていた。
>なにやらわいわいと騒いでいる……。

順平「どういうとこなのよ、八十稲羽って」

風花「いい所だよ。あんまり人はいないけど、こっちには無い物がたくさんあるって感じかな」

アイギス「美味しい物もありました。それから温泉も」

岳羽「でも田舎だもんね、長い間いたら暇しちゃうかもね」

天田「有里さんもいますし、向こうの皆さん楽しい人達みたいですし……そんなことも無いんじゃないですか?」

真田「田舎も悪いもんじゃないぞ。どこでシャドーしてても警察は来ないしな」

美奈子「やーん楽しみかもー」

>……まさか。

美鶴「起きたか。おはよう。……クマだったか?君も、おはよう」

クマ「おはよークマ!皆集まってどったの?」

美鶴「ああ。鳴上を含め、皆夏休みに入るからな。折角なら鳴上の言うように『皆で』旅行でも出来たらいいなと」

鳴上「なるほど……流石に全員って事は無いですよね?」

天田「残念ながら、僕は部活です……コロマルと留守番してますよ。何か、いつかを思い出しますね」

順平「やめろって、旅行に温泉と来たら古傷が疼く……」

鳴上「そうか、天田はいけないのか……あれ、えーと。じゃあ他の人達は……」

美鶴「全員参加だそうだ」


768VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:08:02.63qBrsUykbo (13/25)

鳴上「……天城に礼の一つでも言われるな、これは」

クマ「ユキちゃんがどしたクマ?」

鳴上「何でもない。ところで、日程がまだ決まっていないんですけど……どうしましょうか」

美鶴「そうだな、これだけ大人数だと中々な。一ヶ月丸々というわけにもいかないだろうし」

岳羽「流石に一ヶ月はねー。鳴上君は夏休み全部向こう?」

鳴上「とも思ったんですけど……ちょっと考えが変わりました」

順平「なんだよ、俺は別に一月だろうと平気だったのに」

鳴上「いや、旅館に一ヶ月だと費用が……」

美鶴「それなら気にしないでいいぞ?」

鳴上「あ、スポンサーついてたんですか。いえ、何なら向こうの連中をこっちに呼ぶのもアリかなと思いまして」

風花「それ、いいかもしれないね。じゃあとりあえず皆と相談?」

鳴上「そうですね、とりあえず。まずは一学期を滞りなく終えて、って話になりますね」

美鶴「だそうだ。旅費・宿泊費はこちら持ち、好きなだけ楽しむといい。そうだ、鳴上。向こうの仲間達にもそう言っておいてくれ」

鳴上「ええ!?いいんですか?」

美鶴「彼らだって事件解決の為働いてくれたんだろう?なら、それを労う必要がある。遠慮するな。どうせ使うなら有意義に、だ」

順平「その発想、過剰に持つ者特有のモンっすよ……」

>どうやら、夏休みも退屈せずに済みそうだ……。


【2012/7/30(月) 晴れ 月光館学園】


>学校について来たがるクマを引き剥がして、何とか登校した。
>今日はテストの結果発表の日……
>勝負の日だ。

美奈子「悠、おっそーい!ほらほら、貼られてるよ!」

>美奈子は先に出たはずだが、まだ結果は見ていないようだ。

鳴上「ああ、悪い。よし、それじゃ見ようか」

>まず前提として、美奈子が一位で無ければならない。
>出席番号の問題で、美奈子が先に来るはずだからだ。
>順位表の一番上は……


769VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:08:44.94qBrsUykbo (14/25)



【2012/7/30(月) 晴れ 八十神高校】


>今日はテストの結果発表日だ。
>順位はこの際どうでもいいが、一応確認しておこう。

有里「……うん、よし」

>さて、後は女子陣がどうだったか……。
>……メールだ。
>終業式後、ジュネス集合。

有里「どっちが勝ったかな、と」

>とりあえず、一学期は終わりだ。
>……楽しかったな。


【ジュネス内フードコート】


陽介「おう、来たな有里、完二!」

完二「うぃーっス」

有里「あれ、僕らだけ?」

陽介「まず俺らだけで結果見ようと思ってよ。あいつらにゃ後で集まるように言っといた。……つーか、見たぜ有里」

完二「あ、俺も見たっス。有里先輩、一位だったじゃないスか!すげェっスよ!」

有里「ありがとう。まぁ、ミスしなければ何とかね」

陽介「普段だったら嫌味にしか聞こえねーけど今日ばっかりはお前が仏様みたいに見えるぜ!で、点数はどうなのよ」

有里「はい、これ」

陽介「ちょっと拝見……んだ、こりゃ」

完二「なんスか?……うわっ、なんだこりゃ!三桁しか載ってねえ!」

有里「俗に満点って言うらしい」

陽介「くっそ、俺らの頑張りが霞むぜ……」

完二「いや、でも頼もしいっスよ。チームなんスから、喜ぶとこっしょ、これ!」

陽介「お、おお!そうだな!で、どうだったんだよ完二!」

完二「俺が先っスか!……しゃあねえな、とくと見やがれィ!」

>完二は勢い良く結果通知表を出した。


770VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:09:11.87qBrsUykbo (15/25)

有里「すごいね、90台もいくつもあるし……80以下無し、か」

陽介「おいおいやるじゃねーか完二!」

完二「へへへ、あざっス!先輩のおかげっス!」

>完二は照れているようだ。
>どちらかというと、僕ではなく直斗のおかげのような気もするが……。

有里「で、陽介は?」

陽介「あ?……ふっふっふ。お前ら、ちょっとバカにしてんだろ?どうせ大した事無いんだろうなーとか、どうせオチ担当なんだろうなーとか思ってんだろ?」

完二「なんだよ、もったいぶらずに見せてくれよ」

陽介「おら、これだぁ!」

>陽介が出した通知表には驚きの数字が書かれていた。

完二「平均点が……92!?嘘だろ、これマジで花村先輩のかよ!」

有里「すごい、良く頑張ったね」

陽介「やりゃあ出来んだよ俺だって!でもよ、これ、いけると思わねーか?」

完二「そうっスね。いつも通りなら、こんだけ取れりゃ下手すりゃ直斗にも負けねー」

陽介「こっちだって天城より上あるぜ!それにこいつだよ、満点!100以外の数字は知らない男!」

有里「まぁ、本人達が言ってた事が正しいとすれば……りせと千枝は足して一人分いくかどうか、だね」

陽介「人数なんてハンデにならねんだよ!これが……俺達の力だ!」

>陽介と完二が盛り上がっているところに、女性陣が到着した。

雪子「あれ、皆早いね」

千枝「どうせ花村の事だから、変に張り切って来たんでしょ?」

陽介「その通りだけど別にいいだろ!お前ら、結果見せ合ったんかよ」

直斗「いや、まだですよ。……テストっていうのは、こういう事する為にあるんじゃないと思いますけどね」

りせ「まぁまぁいいじゃん!その方が楽しいしさ!さて、それじゃ早速……いっちゃいますか!」

>りせは自信満々だ。
>あれは、点が良かったからなのか、それともこちらを甘く見ているのか……。
>後者なら、りせの顔はもうすぐ変わるだろう。


771VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:09:57.66qBrsUykbo (16/25)

陽介「っしゃぁ、まず完二行け!」

完二「お、おうよ!どうだ!」

>完二が通知表を出すと、りせの顔色が変わった。

りせ「うっそ、完二でしょ!?」

直斗「……これだけ取ってくれると、少しですが教えた甲斐があったと思えますね」

完二「おう、ありがとよ。おかげで初めて見る点数だぜ」

直斗「それじゃ、次は僕が。……といっても、大した物じゃないですけど」

>直斗が通知表を広げる。

完二「相変わらず良い点だぜ……あれ?」

直斗「そうですね。負けました。巽君の方が高得点です。これじゃ、次から僕が教えてもらわないといけませんね」

>完二が複雑な表情をしている。
>あれは、勝って嬉しいと何か悪い事しちゃったな、の間くらいだろうか。

完二「で、でもよ!すげえ点だぜ。お前に教えてもらってなかったら俺も取れなかったし、良かったらこれからもちょくちょく……」

陽介「っしゃ、次誰だ!?そっちが人数多いんだからそっちから来いよな!」

>陽介は相変わらず空気を読まない。

雪子「それじゃ、次私ね。はい、こんな感じ」

>……やはり、軒並み高得点だ。
>が。

陽介「……ふっふっふっふっふ」

りせ「ヤダ、花村先輩なんか気持ち悪い……」

千枝「何か気合いが変な方向にいっちゃってるよね……」

陽介「何とでも言え!俺は今!確実な勝利の予感に打ち震えています!俺のはこれだ!」

>合計点を見ると、わずかにとは言え陽介が上回っている。

千枝「うそっ!ほんとなのこれ!」

りせ「えええええ!花村先輩がこの点……嘘だぁ!」

陽介「嘘じゃねーんだなこれが!どうだ!これが俺の本気だぜ!」

りせ「ううう……ごめんみんなー……私、こんな感じ」

>どうやら、りせは余り普段と変わらないらしい。

りせ「こ、これでもいつもよりちょっと良いんだから!勉強した分ちゃんと出てるもん!」

有里「まぁ、今回は皆頑張ってたからね。仕方ないよ」

りせ「うー、有里せんぱぁい……」


772VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:10:37.58qBrsUykbo (17/25)

有里「で、僕はこれ」

>ぴらっと、机の上に乗せる。

雪子「……」

千枝「……いや、これは……」

直斗「……多分、生まれて初めて見ました」

りせ「……ジョーダンでしょ……」

>何故か、陽介が勝ち誇っている。

陽介「さぁどうだ。こっちにゃ有里がついてんだよ。さーて、残る一人は誰だったかなぁ?」

>千枝は何か計算している。

陽介「ほら早く出せよぉ。待ってんだぜこっちは。まぁ里中がどれだけ取れてるかしらないけど?普段の里中だったら絶対……」

千枝「あの、さ」

>千枝が通知表を出す。

千枝「勝ってるよね、これ」

>……点数は、陽介を越えていた。

陽介「……ん?」

雪子「……すごい」

完二「あ?……マジかよ」

直斗「90以下が一つもありませんね」

りせ「里中先輩、すごすぎじゃない?」

有里「……ええと」

>天城さんがあれだけで、直斗があれだけで。
>りせと、千枝を合わせて……。

有里「僕達の、負けだね」

陽介「……えっ?」

りせ「や、やった!!先輩!ハイタッチハイタッチ!」

千枝「え、あ、ハイターッチ」

直斗「驚きました。里中先輩がそんなに高得点を……」

雪子「私もびっくり。教えてる時はここまでじゃ……」

完二「いや、しゃーねーわこれは。先輩が上手だったっつーことっスね」

>陽介は放心している。


773VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:11:10.01qBrsUykbo (18/25)

陽介「ウソ、だろ?ウソだって言ってくれよ。嘘だよな?あ、アレだろ!里中カンニングとか……」

有里「陽介」

陽介「いや、だってよ!あの里中だぜ!?」

完二「見苦しいっスよ、先輩……」

有里「良く考えたら、千枝は僕と結構前から勉強会してたし。今回は最後まで詰めてたみたいだし、成果が出たって事じゃないかな?」

直斗「なるほど、地道な努力の結果ですね」

りせ「花村先輩サイテー……」

陽介「嘘だ……ま、負け……」

千枝「有里君に色々教えてもらってたし、雪子も分かりやすく教えてくれたし……二人のお陰だね。ありがと」

雪子「違うよ、千枝が頑張ったからだよ。ね?」

有里「そうだね。真面目にやれば何とでもってことだね」

りせ「あ、勝ったって事はアレ、私達にって事ですよね!?」

有里「ああ。僕らは一日君達の奴隷だ。好きな日に使うといいよ」

完二「ちっ、仕方ねぇな……ま、腹括るっきゃねえか!」

りせ「やったあ!えへへ、何してもらっちゃおうかなー」

雪子「良かったね、千枝」

千枝「へっ?何で私?」

直斗「なるべく軽い事にしましょうよ、折角皆成績上がったんですし」

陽介「嘘だ……」

>男女対抗テスト対決は、女子組の勝利で終わった。
>何をさせられるかわからないが、受けるしかないだろう。
>……それはそれで美味しいし、良しとしよう。


【夜 堂島宅】


>……メールだ。

有里「悠からか。……何も書いてない。添付だけついてるな」

>とりあえず、展開してみよう……。

有里「……何っ!?」

>添付されていた画像は、巌戸台分寮のラウンジらしき場所で、スクール水着を着た美鶴が何故かコスプレをした女性陣にいじられまくって真っ赤になっている画像だった。

有里「……詳細モトム、返信と」

>……寝よう。


774VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:11:37.70qBrsUykbo (19/25)



【巌戸台分寮】


美奈子「今日で一学期も終わりかー。さーて夏休み、夏休み!」

鳴上「そういえば、美奈子も行くのか?八十稲羽」

美奈子「そのつもりだけど、駄目かな?」

鳴上「いや、聞いてみただけだ。深い意味は無いよ」

美奈子「旅行って好きなんだよねー、温泉があると特に!」

鳴上「混浴じゃないけどな」

美奈子「あ、それはどうでも」

>美奈子としゃべっていると、桐条さんが降りてきた。

美鶴「おかえり。今学期は滞りなく終わったか?」

美奈子「余すところ無く!」

鳴上「おかげさまで無事に。それで、丁度お話があったんですよ」

美鶴「ふ、テストの事だろう。どうだった?」

>美奈子と顔を見合わせる。

鳴上「……どうぞ、ご覧ください」

>二人の通知表を見せる。
>笑顔で受け取った桐条さんの頬が、ひくっと動いた。

美鶴「……間違いなく、君達の成績だな?」

美奈子「間違い無しです」

鳴上「俺達の点数ですよ、それ」

美鶴「ぷっ、あははは!まさか、本当に二人共満点で一位か!ブリリアント!エクセレントだ!恐れ入ったよ」

美鶴「じゃあ、私はこれで」

美奈子「待った」

鳴上「約束は守ってくださいよ」

美鶴「……仕方ない。約束だからな。で、君達は私に何をさせたいんだ?」

美奈子「美鶴先輩にはいっぱい頭を下げてもらいます」

美鶴「……え?」


775VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:12:07.96qBrsUykbo (20/25)



【夜】


岳羽「……で、こうなってると」

美鶴「すまない、私が軽率だった……。だが、今日だけで良いんだ。我慢してくれ」

岳羽「外に出るで無し、別にいいですよ。そんな頭下げなくても」

>寮内の女子は全員、コスプレさせられている。
>あの日、美奈子が俺に提言したのはこうだ。

美奈子『みんなにコスプレで給仕してもらいたくない?』

>……されたい。
>そして俺は本気で勉強し、今に至る。

アイギス「給仕の伝統的なファッションですか。確かに、気が引き締まるようですね」

>アイギスさんはメイド服。結構気に入っているようだ。
>元々外見がそれらしいので、酷く似合っている。
>ただ、動きが少々雑なのが難点か。

岳羽「っていうかセレクトがおかしくない?これ、何の衣装なのよ」

鳴上「イメージとしてはOLです」

岳羽「こんなミニスカのOLいないっての……恥っずいなー、もう」

>岳羽さんはミニのタイトスカートが良く似合っている。
>個人的にはベージュかブラウンのストッキングを履いて欲しかったが、生足も……アリだな。
>勿論、メガネも完備だ。

風花「たまにはこういうのも楽しいかもね。……ちょっと、恥ずかしいけど」

>風花さんはセーラー服だ。
>今でも高校生で全然通じそうだ。
>これもミニスカートで、普段余り見る事の無い脚が目につく。
>……美奈子にセレクションを任せたのだが、どうやら良い判断だったらしい。

鳴上「あれ、そういえばその美奈子と桐条さんは……」


776VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:12:43.24qBrsUykbo (21/25)

>さっき、嫌がる桐条さんを連れて上に行って以降、降りてくる気配が無い。

美奈子「諦めましょーよ、ね?約束したじゃないですか」

美鶴「だ、だがこれは……せめて皆のように普通の服にしてくれないか」

美奈子「いや可愛いですって。ありですよあり。さ、いきましょー」

美鶴「待って、ああ、もう……」

>上から声が聞こえる。
>どうやらつれてこられたようだ。

美奈子「やっほー、お待たせ。どうよ!」

>美奈子は水着とも他の何かとも取れない服を着ている。

美奈子「昔はこれ着てタルタロス探索したもんよー」

岳羽「懐かしー、それハイレグアーマーじゃん。着るの恥ずかしかったなー」

美奈子「どう?いい感じ?」

風花「ていうか、美奈子ちゃんは別にコスプレしなくても良かったんじゃ……」

美奈子「いや、気分気分。だって楽しそうなんだもん」

>ハイレグアーマーというのか。
>白いエナメル質の素材が何ともいやらしい……もとい、美しい。
>露出が多いのに、手袋やブーツが長い辺り製作者のこだわりを感じる。
>これでタルタロス探索か……見たかった。

美鶴「あ、余り動かないでくれ……」

>その美奈子の後ろに、桐条さんが小さくなっている。
>……いや、ほとんど隠れていないから、もうわかってしまったのだが。

岳羽「うわ、それは流石に……」

風花「えっと……その……」

アイギス「スクール水着、ですね」

美鶴「私だって好きで着ていない!美奈子が着ろと……」

>……これは。

美奈子「ほれ悠。どうよ」

鳴上「ああ。なんていうか、アレみたいだ。あの、アレ」

>……アダルトビデオ、とは間違っても言えない。

美奈子「そーいうビデオみたいでしょ?絶対えろいと思ったんだよね!」

>しかし美奈子は躊躇無く言い放った。

美鶴「ビデオ……?何がだ?」

岳羽「いや、その……ねぇ?」

風花「あ、あはは……」

>良く見ると、下に黒のストッキングを履いている。
>肌の露出を抑えたのだろうが、余計にいやらしいというか怪しいというか。

美奈子「うーん、でも何か足りないんだよねぇ。なんだろ」


777VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:13:16.14qBrsUykbo (22/25)

アイギス「あ。アレでは?」

>アイギスさんが何かを持ってくる。

美奈子「あ、これだ!美鶴先輩、これつけてこれ!」

美鶴「なんだこれは……ちょ、やめ……」

>……耳、だ。

美奈子「アニマルイヤー(猫)!」

美鶴「なんだ、どうなってるんだ?何がついてるんだ?」

>桐条さんは自分の頭上なので見えないようだが、しっかりと猫耳カチューシャが乗っている。
>随分と可愛らしくなったものだ。

岳羽「くっ……ぷ、これは……可愛いかも……くくっ……」

風花「ちょっと、ゆかりちゃん。笑っちゃ悪いよ。あの、えっと……凄く可愛いですよ!」

アイギス「お似合いであります」

美鶴「なんだどうなって……」

>美奈子が満面の笑みで鏡を見せた。
>桐条先輩がそれを見る。

美鶴「……」

美奈子「可愛いよ、美鶴」

>あ、茹だった。
>ぱしゃ。
>思わず携帯で写真を撮ってしまった。

美鶴「!?こ、こら鳴上!撮るな、撮るんじゃない……」

美奈子「にゃーって言ってくださいよ、にゃー」

岳羽「あ、私も聞きたい!にゃー」

風花「桐条先輩がにゃー……聞きたいかも、にゃー」

アイギス「にゃーであります」

美鶴「に、にゃー?」

美奈子「やーん可愛い!もって帰っていい!?」

岳羽「そーね、もって帰って好き放題しちゃって」

>コスプレ軍団にもみくちゃにされる桐条さん……。
>もう一枚撮っておこう。
>……陽介にでも送ろうか。いや、湊だな。

>明日から、夏休みだ。


778VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:13:43.87qBrsUykbo (23/25)



鳴上「ふぅ」

>……いや、本当に色んな意味で『ふぅ』、といった所だ。
>多分、まだ桐条さんは遊ばれているのだろうが、アレ以上あの場にいたら身がもたない。

>コンコン。
>扉がノックされた。

風花「私」

鳴上「ああ、入ってください」

風花「お邪魔します。あはは、お疲れ?」

鳴上「ちょっとはしゃぎすぎましたね」

風花「そう?落ち着いてたみたいだけど」

鳴上「内心バクバクでしたよ、色んな意味で」

>風花さんは楽しそうに笑う。
>というか、まだセーラー服なのか。

鳴上「まだ着替えないんですか?」

風花「あ、もうちょっとね。楽しくて。それに……こういうのも、スキかと思って」

>確かに、好きだが……。

鳴上「あんまりその格好で動き回られると、なんていうか目に毒ですよ」

風花「……可愛くないかな?ごめんね」

>少し違和感があった。
>風花さんはそんな事を言うような人だっただろうか。

鳴上「そうじゃなくて。魅力が強すぎて、って事で」

風花「ふふ、ありがとう」

>風花さんはベッドに腰掛けて、そのままぱたんと寝転んだ。

鳴上「ああ、そんな風にしたらスカートめくれちゃいますよ」

風花「……いいよ、別に」

>おかしい。
>これはおかしい。

風花「私、本当に魅力ある?」

鳴上「ありますよ、そりゃ……」

>口の中が渇く。
>……何の緊張だ?

風花「だったら、ね……」

>風花さんの瞳が濡れている。
>少しだけ頬が上気している。
>うす桃色の唇の奥、真っ赤な舌が見える。
>心臓が早鐘を打つ。
>俺は……。


779VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:14:19.12qBrsUykbo (24/25)



【2012/7/31(火) 晴れ 巌戸台分寮】


>Pipipi……
>電話だ。
>今は……八時か。
>電話に起こされた。

鳴上「……ていうか、なんて夢を見てるんだ、俺は」

>昨夜のバカ騒ぎのせいだろうか。
>電話の主は有里だった。

鳴上「もしもし」

有里『僕だけど、もしかして寝てた?』

鳴上「わかるか」

有里『なんとなくね。悪いね、起こしちゃって』

鳴上「いや、むしろ助かった。ありがとう」

有里『……?ええと、そう。話があったんだ。そっちももう夏休みでしょ?』

鳴上「ああ、そうか。そっち行く時の予定だな」

有里『そう、それと……昨日の写真、アレは何だったの?』

鳴上「ああ、あれはな……」

>湊と打ち合わせをした……。
>昨夜の夢はなんだったのだろうか。
>まさか、何かの異変?
>それとも……ただ、俺が若いだけだろうか。


780VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/22(火) 00:16:00.78qBrsUykbo (25/25)

悪夢ではない。断じてない。
むしろ良いんだけど、起きた時に随分と情けない思いをするのではあるまいか。

そして夏休み、始まる。

といわうけで本日分は終わり。
では、また後日。


781VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2012/05/22(火) 01:49:46.80rC5RMXSk0 (1/1)

すくうるみずぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!
乙!



782VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/22(火) 11:58:21.60d+WhGRSIO (1/1)

美鶴可愛すぎ

あ、>>1乙


783VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/22(火) 12:00:35.06WbBbP+b0o (1/1)

美鶴さんはともかくエリザベスさんは俺の嫁。

夏休みに入りましたか、解決までどれくらいの時間がかかるの?(この世界的な意味で)やはり1年くらいかかるんかな




784VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/23(水) 00:01:26.91Vqh621xgo (1/8)

>>783
そうですね、せっかくだし、四季のイベントはやらせてあげたいなぁ。

というわけで本日分。


785VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/23(水) 00:03:19.78Vqh621xgo (2/8)


鳴上「どっちにせよ……気まずい」

>とにかく、日程は決まった。
>とりあえずは桐条さんに報告と……あと、風花さんには自分で伝えておこう。

鳴上「俺ってもしかして結構求めるタイプなのか……?」

>……やっぱり、桐条さんに伝えてもらおう。


【ジュネス内フードコート】


有里「というわけで、来週から十日間滞在の予定だそうだ」

陽介「十日か、なんだかんだで忙しいんだろうな……」

りせ「夏休みだからもっと長い間いると思ってたのにぃ」

>悠の滞在日程を伝えると、全員が残念そうにした。

有里「ただ、面白い話が聞けたよ」

千枝「面白い話?」

有里「うん。旅費・宿泊費は桐条グループ持ちで旅行に行けるらしい。……ポートアイランドに」

りせ「それって……?」

有里「どうやら美鶴直々にご招待いただいたみたいだね。勿論参加は自由。悠が帰る時に一緒についてって、それから十日間は保障」

陽介「うおお!マジかよ!前回ほとんど遊べなかった分、今回は遊ぶぜ!」

千枝「前は普通に学校があったもんね。今回誰も補習無いし……」

雪子「私、お母さんに聞いてみるね」

完二「俺もお袋に言っとかねーとな」

直斗「十日ですか。……洋服、どうしようかな」


786VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/23(水) 00:04:37.66Vqh621xgo (3/8)

有里「あ、それと向こうのメンバーも一緒に来るらしいよ。かなり大所帯になるみたい」

雪子「団体さんになるのかな」

有里「そこまでの人数はいないけど……部屋数は取るかも」

雪子「鳴上君がお得意様になりそう……」

>今回は全員乗り気だ。
>さて、用事は済んだし……どうしようかな。

有里「あ、そういえばあの話どうなったの?」

千枝「あの話?」

りせ「あ、罰ゲーム?あれはまだ相談中でーす。何か革新的なアイディア出るまで握っとくって事で」

有里「ふぅん。まぁ決まったら何でもするよ。しっかり考えてね」

>帰ろうとした所、袖をつかまれた。

有里「おっと、何?」

雪子「この後ちょっと時間良い?ちょっと手伝って欲しい事あって」

有里「ああ、別に用事は無いし、構わないよ」

雪子「ありがと。じゃあ家来てね」

千枝「あっ……」

有里「ん?」

千枝「ん、なんでもない。じゃあまたね」

>千枝も何か用事があったのだろうか。
>……まぁ、今度でいいんだろう。


【天城屋旅館・厨房】


有里「なるほど、料理ね」

雪子「うん。多分山岸さんも来ると思うから、その時また料理教室やってもらおうと思って」

有里「ああ、それで予習を。まぁ僕も上手く無いけどね」

雪子「私より上手いでしょ?だから、お願い」

有里「……とりあえず、余計な事をしない事から始めようか。今日は何作る?」

雪子「えっと……鶏肉のトマト煮?」

有里「また微妙なラインを……それじゃ、材料を用意して」

>……。


787VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/23(水) 00:06:29.37Vqh621xgo (4/8)

有里「ああ、だからそれ入れちゃ駄目だって」

雪子「えっ、でももうちょっと塩味が……」

有里「いや、これでいいと思うよ。そもそもその量はちょっとじゃない」

雪子「そうかな?えっと……じゃあ、後はしばらく煮込んで出来上がり」

有里「うん。お疲れ様」

雪子「有里君が止めてくれたから変な事はしてないと思うけど……」

>確かに、幾度も幾度も静止をかける事になった。
>こんな作り方をしていたら、料理の形をした謎の物体が出来るのもうなずける……。

有里「天城さん、不器用ってわけじゃないんだから。まずレシピ通りに作れば失敗はしないはずだよ」

雪子「……ねぇ、有里君。その、天城さんっていうの、やめない?」

有里「どうして?」

雪子「なんか、さ。他の皆は名前で呼んでるでしょ?なのに私だけずっと苗字だなーって」

有里「……そういえば、そうだね。じゃあ何て呼ぼうか」

雪子「千枝とかと同じ感じで、雪子って呼んでくれていいから」

有里「ん、じゃあ雪子。鍋見てないと」

雪子「あ、わっ、ごめん!……千枝とは、上手くいってる?」

有里「あー……またその話?雪子は千枝から聞いてると思ってたんだけど」

雪子「うん、聞いてる。だけど、有里君からも聞いてみたくて」

>雪子は鍋を見つめている。
>どことなく、違和感を感じる。
有里「……千枝はどうかわからないけど、僕は千枝に不満は無い。多分、上手く行って無くは無い……と思ってるんだけどね」

雪子「あれ、ちょっと自信ない?」

有里「こと恋愛に関してはね。相手を喜ばせる事は出来ても、どうやらそれで全てって訳ではないらしい。難しいもんだね」

雪子「そうだね……あ、もう出来たかな」


788VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/23(水) 00:08:26.71Vqh621xgo (5/8)

有里「ああ、そうだね。じゃあ火を止めて」

雪子「ちょっと味見してみて?はい」

>菜箸で一つまみつまんで、口の前に持ってこられた。

雪子「あ、ちょっと熱いか。ふーっ、ふーっ……どうぞ」

>……少し、照れ臭い。

有里「じゃあ、いただきます。……うん。思ったとおりの味だ。多分成功」

雪子「ほんと!?……あ、でも今日はほとんど有里君が作ったみたいなものだしね。ありがとう」

有里「いやいや。僕はちょっと手伝っただけだよ」

雪子「ふふ、でもありがとう。これからもいろいろ練習してみるね」

>雪子と料理の練習をした。

千枝「や!」

>帰り道で千枝に出会った。

千枝「えっと、偶然だね!良かったらそこまで一緒に……」

>恐らくは偶然では無いだろう。
>少しおかしくなって、思わず笑ってしまった。

千枝「……なによぉ」

有里「別に。それじゃ、一緒に帰ろうか。はい」

>手を差し伸べると、恐る恐るといった感じに手が伸びてきた。

有里「汗」

千枝「あ、暑いからだからね!別に緊張とかしてないっすよ!」

有里「はは……」

>……恋愛に限らず、人間関係は難しいよなぁ。


789VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/23(水) 00:12:46.97Vqh621xgo (6/8)



【ポロニアンモール】


>買い物を済ませた帰り道、また順平さんと例の女性を見た。

鳴上「仲良さそうに見えるんだけどなぁ」

>しばらく談笑?した後、二人は別れた。

鳴上「順平さん」

順平「うぉっ!ああ、鳴上か。もしかして、また見てた?」

鳴上「はい。そういえば、順平さんも八十稲羽旅行、参加するんですよね」

順平「おうよ。あのー、ほら。千枝ちゃんだっけ?あの子可愛かったしな!」

鳴上「ははは……そんな事言うと彼女に怒られますよ」

順平「だーから彼女じゃねえって」

鳴上「そういえば、夏休みなのに彼女さんと会えなくていいんですか?」

順平「ん?あー……」

>順平さんはぽりぽりと頭を掻いている。

順平「ほれ、アイツって体弱いんだよ。だから、どうせ夏場はあんまり出てこれねんだわ」

鳴上「ああ、そうだったんですか……すみません」

順平「謝んなって、怒っちゃいねーよ。アイツさ、俺がどこ行ったとか、なにやったとか。そういう話好きなんだわ」

>少し照れているのだろうか。
>しかし、嬉しそうだ。

鳴上「いいですね、そういうの。なんていうか、憧れます」

順平「憧れるって事もねーだろ。お前だって彼女くらい……」

鳴上「……ええと、まぁそれはいいじゃないですか。それで、八十稲羽で土産話を調達しようと」

順平「ま、そゆこと。……ていうか、何でぼかすんだよ」

鳴上「いや、別に何でも」

順平「お前、もしかして振ったのか!?」

鳴上「い、いやいや!ちゃんと……」

順平「だよなぁ。惚気られても困るけど、あからさまに避けられても困っちまうぜ。あ、それともなんかあったんかよ」

鳴上「何かあったというか……ちょっと」

>昨夜の夢の事を話した。


790VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/23(水) 00:19:41.88Vqh621xgo (7/8)

順平「あー、昨日はびっくりしたぜー。皆どっかおかしくなっちまったのかと思ってよ。なんだ、お前らが糸引いてたのか」

鳴上「ええ、まぁ……」

順平「にしても、夢ねぇ」

鳴上「やっぱり、変でしょうか」

順平「変っつーか……お前、ちゃんと処理してる?」

鳴上「処理?」

順平「こう、溜まってくリビドーっつーの?持て余すじゃん?」

鳴上「……まぁ、それなりに」

順平「でもお前がねぇ。聖人みたいな顔してなぁ」

鳴上「からかわないでくださいよ。結構真剣に悩んでるんですから」

順平「あー、そうか。悪かったな。……でも、それだったら簡単だろ」

鳴上「簡単ですか?」

順平「おー簡単だ。要するに、お前溜まってんだよ。だから、普段よりこう、多く処理すれば……」

鳴上「やっぱり、そうですかね……」

順平「……お前さ、童貞?」

鳴上「……今まで、彼女らしい彼女っていたこと無いですからね」

順平「あー……わかるぜ、その気持ち。とにかく自分で処理するか、後は……」

順平「相手に処理してもらうかじゃねーの?」

>処理してもらう……。

鳴上「む、無理ですよ!まだそんなじゃ……」

順平「おーおー純な反応だねぇ。けど、他に方法も無いんじゃねえの?それか我慢するか。別に害があるってわけでもねーしよ」
鳴上「まぁ、そうですけど……」

順平「いやぁ、なんつーの?お前でもそういう事で悩むんだな!これもまた青春ってか?先輩は嬉しいぞ!んなっはっはっは!」

>順平さんに相談したら、何故だか喜ばれてしまった。
>……処理、か。
>溜まってるんだろうか、いろいろ……。


791VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/23(水) 00:20:25.69Vqh621xgo (8/8)

溜まってるんじゃないですかね。いろいろ。

今日はごく短い更新になります。
全部教習が悪い。

というわけで本日分は終わり。
では、また後日。


792VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2012/05/23(水) 01:19:36.507ziyAMN/0 (1/1)

きっと溜まってますね
乙です



793VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/05/23(水) 08:11:52.96v+R8+oOh0 (1/1)

間違いなく溜まってるな色々


794VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/23(水) 23:07:36.32nn5yl2hIO (1/1)

P4G予約してきたぜ



795VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:00:31.16nBdmnuhqo (1/17)

>>794
Vitaさえあれば俺だって・・・

というわけで本日分。


796VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:01:00.48nBdmnuhqo (2/17)



【2012/8/5(土) 晴れ時々雨 堂島宅】


有里「にわか雨か。夕方じゃなくても夕立って言うのかな」

>突然雨が降り出した。
>別に出かける予定は無かったからいいものの、出掛けていた人達は大変だっただろう。
>Pipipi……

有里「電話?……珍しいな」

>久慈川りせ、と表示されている。
>りせが電話をかけてくる事は滅多に無いのだが。

有里「もしもし」

りせ『あ、先輩……今お家ですか?』

有里「そうだけど、どうかしたの?」

りせ『良かったぁ、今から先輩のお家にお邪魔しようかなって思ってたんですけど、大丈夫ですか?』

有里「うん、それは良いけど……雨だよ」

りせ『実はもうすぐ近くなんで、走って行きます!着いたら良かったらシャワー貸してくださいぃ』

有里「ん、ご自由に。えーと、じゃあ玄関前に……」

りせ「こんにちわー!」

直斗「お邪魔します……」

有里「近っ」

>とにかく、バスタオルでも持って行ってあげよう。

有里「いらっしゃい。直斗も一緒だったんだね」

りせ「うん、ていうか直斗が先輩のトコ行こうって……」

直斗「た、タオルありがとうございます!ええと、それで……」

有里「良かったらシャワーも浴びる?って言っても着替えが無いか……」

りせ「ふっふーん、実はあるんですよ、ちゃーんと。ね?直斗」

直斗「……まぁ、一応は」

>直斗は何故か尻込みしている。

有里「そう。時間あるなら服乾くまでゆっくりしていったらいいよ。もう晴れるて来てるし、これだけ暑かったらすぐでしょ」

りせ「あ、じゃあそうさせてもらいますね!えっと、お風呂は……」

有里「ん、こっち」

りせ「ほら直斗も!」

直斗「う、はい……」

>……あれ。
>そういえば何で二人は家に来たんだろう。
>何か用事頼まれてたっけ?

有里「まぁ、いいか……お茶でも入れておこう」


797VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:02:06.23nBdmnuhqo (3/17)



【有里の部屋】


りせ「いやー急に押し掛けちゃってごめんネ、先輩」

有里「構わないけど……今日はどうしたの?それと直斗もどうしたの?入ればいいのに」

りせ「そうそう、用事があるのは私じゃなくて直斗なんですよ。ほーら、入んなさいってば」

直斗「まだ心の準備が……」

りせ「いいから!準備終わらないでしょどうせ!はいどーん!」

直斗「わっ……た、っと……」

>りせに腕を引っ張られて直斗が転がり込んできた。

有里「お?」

>目が、合った。

直斗「……」

有里「……」

>帽子を深く被り直して顔を隠してしまった。

有里「直斗」

直斗「な、なんでしょう」

有里「可愛いよ」

直斗「……ッ!」

>……良く見えないけど、多分真っ赤になっている。
>りせはとても楽しそうだ。
>その気持ち、わかる。

りせ「直斗ってば、悠先輩が帰ってくるからって張り切っちゃって。折角だから湊先輩にも見てもらおーって事で」

有里「ああ、そういえば前に言ったんだった。よかったら見せてって」

>今日の直斗はいつもの服装じゃない。
>なんとも夏らしい薄手のワンピースだが、多分どうしても恥ずかしいのだろう。いつもの帽子はかぶっている。
>見た目にはアンバランスだが、仕草が非常に可愛いのでよし。


798VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:02:46.29nBdmnuhqo (4/17)

りせ「直斗くらい素材が良いと、思いっきりシンプルにした方が良いと思って。本当はもう少し短いのにしようと思ったんですけどね」

直斗「無理です!」

りせ「まぁ、こんな感じで。ノースリーブも最初は嫌がってたもんね」

直斗「だって、すかすかじゃないですか。油断できなくて……」

有里「……ん?」

>おかしい。
>胸の辺りに違和感が……

有里「直斗、もしかしてさらし巻いてる?」

りせ「あー、何かどうしても外せないんだーって。直斗くらい大きいと苦しいと思うんだけどなー」

直斗「べ、別に大きく無いです!というか、有里先輩の前でそういう事言わないでください!」

有里「いつもの服なら仕方ないと思うけど、女物なんだし外せばいいのに」

直斗「そういう問題でも無く……ええと、その」

りせ「……直斗、アンタもしかして」

直斗「な、なんですか?」

りせ「ちょっと先輩あっち向いててくださいね」

有里「ん?いいけど……」

>なんだろう。

りせ「アンタ、やっぱり……」

直斗「ええ、実は……持ってきてなくて」

りせ「あー、そりゃ外せないよね……ノー……」

直斗「ちょ、聞こえる!言わないでくださいって!」

りせ「……私の……無理か。悔しいけど」

直斗「悔しいって……」

有里「あのー」

りせ「あ、もう良いですよー」

有里「うん。で、結局なんだったの」


799VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:03:27.82nBdmnuhqo (5/17)

りせ「……なんていうか、敗北感が募りました」

有里「……何で?」

直斗「あ、あはは……気にしないでください」

有里「そう……」

りせ「何でちょっと残念そうなんですか……?」

>それから、りせと二人で直斗に似合いそうな服を選んだ……。

りせ「あー楽しかった!っと、もうこんな時間。そろそろお暇しますね!」

直斗「そうですね……あの、先輩」

有里「ん」

直斗「今日はありがとうございました。突然来ちゃってすみません……良ければ、またお願いできませんか」

有里「いいよ。悠の為だしね」

直斗「鳴上先輩は関係ありま……!す、けど」

有里「男性目線も必要だと思うし、僕でよければいつでも。じゃ、またね」

直斗「はい。それじゃ失礼します」

>直斗とりせが帰った……。

有里「ノーブラか……くそっ!」

>是非見たかった……。



800VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:05:02.00nBdmnuhqo (6/17)



【2012/8/6(月) 晴れ 八十稲羽行き電車内】


>結局天田以外全員が八十稲羽に向かう事になった。
>アイギスさんと順平さんとクマが騒ぎ、それを岳羽さんが止める。
>真田さんは寝ていて、桐条さんは……美奈子に猫耳を乗せられている。
>そして、俺の正面には……

風花「今日もいい天気だね」

鳴上「そうですね」

>風花さんが座っている。
>あの夜以降、何となく気まずい……。
>別に何をしたわけでもないし、堂々としていればいいと思うのだが。

風花「……どうしたの?どこか具合悪い?」

鳴上「いや、そういう訳では……」

>例の夢はあれから一度も見ていない。
>ただの偶然、気の迷いだと言い切りたいのだが、どうしても意識してしまう。

鳴上「……もしかして、コスプレに弱いのかな」

>あの日と今までの違いとなるとそのくらいしか思いつかない。

風花「へ?コスプレ?」

鳴上「あ、なんでもないです」

風花「そう?……なら、いいけど」

>き、気まずい。
>恐らく皆は気を遣ってくれたのだろうが、好意が痛いとはこの事か。
>これから八十稲羽まで、どう過ごそうか……。

風花「……ふふ」

>突然、風花さんが笑った。

鳴上「あの、何かおかしかったですか?」

風花「あ、違うの。ごめんなさい。……わくわくしちゃって。鳴上君と一緒だからかな。つい、ね」

>臆面も無くそう言って微笑む。
>……そんなに楽しみにしてくれていたのか。

鳴上「……俺も、楽しみです。十日間、何しましょうか」

風花「あ、お祭りがあるって聞いたんだけど、向こうにいる内にあるかな?」

鳴上「今年はどうですかね。皆で回れたらいいんですけど」

風花「そうだね、皆で……」

鳴上?「山岸の浴衣姿とか見たいしな」

風花「え?」

鳴上「いや、俺じゃないですよ」

順平「俺だよ!なーにいちゃいちゃしちゃってんだよ鳴上ぃ?ん?」

鳴上「別にそんなつもりは……」

順平「いやいや良いんだよ。若い二人はそれが正常!邪魔したな!」

>……酔っているのだろうか。
>いや、あの人は素面でもあんな感じだったな。
>八十稲羽までの道中を楽しく過ごした……。


801VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:05:37.31nBdmnuhqo (7/17)



【八十稲羽】


>八十稲羽に到着した。

真田「さて、それでどうしたらいい?」

鳴上「バスで移動になりますから、とりあえず……」

>ホームを出た所で、菜々子が待っていた。

鳴上「ああ、菜々子。ただいま」

菜々子「お帰りなさい!」

>菜々子は言いながら抱きついてきた。

鳴上「っとと。わざわざ悪いな、菜々子」

菜々子「ううん、私が来たかったの。待ってたよ、お兄ちゃん」

美鶴「随分と可愛らしい出迎えだな、鳴上」

菜々子「ありがとう!でもお姉ちゃんも可愛いよ」

美鶴「ん?そうか……あ、ありがとう」

菜々子「ネコさんのお耳、可愛いね!」

>桐条さんが恐る恐る頭の上に手を持っていった。

美鶴「違うぞ。これは私が好きでつけているわけではないんだ。ええと……」

菜々子「どうじま菜々子です!」

美鶴「そうか、菜々子ちゃん。世の中には悪い人がいてな。人が眠っている間に悪戯をしたりするんだ。その人に着けられたんだよ」

菜々子「可愛いよ?」

美奈子「可愛いよ?」

クマ「可愛いクマ」

鳴上「……可愛いですよ」

美鶴「……いっそ殺してくれ」

陽介「や、や、や皆さんお揃いで!よーこそ八十稲羽……って、どうかしたんすか」


802VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:07:45.69nBdmnuhqo (8/17)

>陽介達が出迎えに来てくれたようだ。

美鶴「なんでもない。久しぶりだな」

完二「おお?つかお前、クマじゃねえか。なんでそっちにいんだよ」

鳴上「いろいろあってな……久しぶり、皆」

有里「うん。あ、悠。荷物置いたら菜々子連れて雪子の所ね」

鳴上「それはいいけど、どうかしたのか?」

有里「……さぁ、わからないけど。とりあえず、今日一日は僕らに自由は無い」

鳴上「……?」

陽介「順平さんお久しぶりっす!彼女できましたか!?」

順平「こっちの台詞だっつの!」

真田「お前……すごい筋肉だな。何かやってるのか?」

完二「うわっ、なんスかアンタ!べ、別に何もやってねぇよ!」

岳羽「ちょーっと疲れたかなー。旅館行くならさっさと行っちゃおうよ」

アイギス「荷物が重いなら私が……」

鳴上「ええと、風花さん、旅館わかりますよね?」

風花「ん、案内は任せて。鳴上君は荷物置いてきたらいいよ」

鳴上「助かります。それじゃ後で」

>菜々子と一緒に荷物を置きにいこう。
>その後旅館か……何があるんだろう。


【2012/8/6(月) ジュネス内フードコート】


陽介「暑いから、出迎えはやめよう」

完二「うーわ、友達甲斐ってもんが無ェ先輩だよ」

陽介「冗談だよ……つっても暑いんだよなぁ」

有里「で、なんで僕らだけなの」

>いつものように集合すると思っていたのだが、何故か男性陣しかいない。

陽介「コレだよ、コレ」

>陽介の携帯……りせからのメールだ。

有里「えーと?例の権利今日使います……出迎えはそっちでお願い、と。珍しいね、りせ達が会いたがらないなんて」

完二「あー、なんか企んでるっぽいっスよ」

陽介「ま、そういうわけで一番に会えんのは俺らだな。あ、でもどうなんだ」

有里「菜々子が出迎え行くみたいだよ」

陽介「あー、だったら菜々子ちゃんも呼べばいいんじゃねえの?」

完二「あれ、ここでやるんじゃねえんスか」

陽介「天城んとこだってよ。まぁ向こうのメンバーが泊まるらしいから、その方が都合いいんじゃねえの」

>一体何をやる気なのだろうか……。
>とにかく、悠達を迎えにいこう。


803順序逆になりました。鳴上達の到着前に【2012/8/6(月) ジュネス内フードコート】が挿入されます2012/05/24(木) 00:08:52.66nBdmnuhqo (9/17)



【天城屋旅館】


菜々子「お兄ちゃん、今日は何するの?」

鳴上「さぁ、俺も聞いてないんだ……なんだろうな。というか、まずどこに行くんだろう」

>と、思ったら、陽介がずんずん歩いてきた。

鳴上「ああ、陽介。丁度良かった、俺達どこに……」

陽介「ああ!?おお、相棒か。悪い悪い。あー、あれだ。宴会場。俺も後から行っから」

鳴上「あ、ああ。……どうしたんだ?」

陽介「……楽園の匂いがすんだよ。けど俺買出し担当だってよ。ちくしょう、何で俺ばっかり……」

鳴上「そうか、大変だな」

陽介「リアクション薄いな……まぁいいや、そういうわけで行ってくるから。後でな」

>……なんだろうか。
>まぁ、行ってみるか。

鳴上「ええと……ここか」

>中からは何か楽しそうな声が聞こえる。

菜々子「わぁ、何してるのかな!」

鳴上「なんだろうな。開けてみようか」

>襖を開ける。

有里「やぁ」

鳴上「……」

菜々子「なぁに?どうしたの?」

鳴上「菜々子、お前は見ない方がいい」

>菜々子の目を覆った。
>……これは一体

鳴上「湊、説明してくれ」

有里「僕が聞きたい。何で僕はこんな格好なんだ」

鳴上「わからん。何でだ」

有里「着ろって言われて……」


804VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:09:25.39nBdmnuhqo (10/17)

>湊は何故かメイド服を着ている。
>……というか、このメイド服、見覚えがある。

鳴上「それ、アイギスさんが着てたヤツだな」

有里「ああ、例の……まぁ、いつまでも突っ立ってないで入りなよ。面白い事になってるから」

鳴上「今の時点で十分面白いんだが」

菜々子「なに?面白いの?菜々子も見たーい」

鳴上「……そうだな。見てやれ」

>菜々子の目を隠していた手をどける。
>しばらく硬直。

菜々子「……可愛いお洋服だね、湊お兄ちゃん。あ、菜々子宿題やるから帰るね」

>切なげな笑顔を残して、菜々子は帰っていった。

有里「……一人で平気かな」

鳴上「……今追いかける勇気は俺にも無い」

有里「……僕、今日も家帰るんだよね」

鳴上「……菜々子は、賢いから。大丈夫だろ」

有里「……とにかく、まぁ見てみなよ」

>湊が退いたので、座敷の奥を見る事が出来た。

鳴上「こ、これは……!」

>とりあえず、一枚撮っておこう。

美奈子「へへへ、観念しなさいよ」

直斗「やめっ、やめてください!なんで僕ばっかり……」

岳羽「諦めた方がいいよ。その子、見た目こんなだけど中身おっさんだから」

美奈子「あー、ゆかりひどーい。こんな可憐な乙女捕まえてそれは無いんじゃない?」

風花「でも、可愛いよ?もっと色々見てみたいかも」

千枝「いや、それはいいんですけど……和服ってこういう感じでしたっけ?」

雪子「あはは、千枝それどうしたの?ぷっ、は、あはははははは!」

りせ「あ、これかわいー。後で着てね、直斗!」

美鶴「私はもう疲れたよ……」

アイギス「酒池肉林ですね」

>……もう一枚、撮っておこう。


805VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:10:30.38nBdmnuhqo (11/17)

鳴上「あの衣装、持ってきてたんだな」

有里「こっちで用意したのもいくつか混ざってるよ。巌戸台の皆が合流した途端コスプレパーティーになっちゃって」

鳴上「それで、何でお前まで」

有里「命令だからね……」

鳴上「趣味でやってないだけ良かったよ……」

>よく見ると、部屋の隅で完二が倒れている。

有里「他の皆は部屋で休んでるよ。どうする?混ざってく?」

鳴上「いや、いい。……!?」

美奈子「ほれほれよいではないかよいではないかー」

直斗「や、やだっ、やめてくださいって!」

>直斗が美奈子に服を脱がされている。

鳴上「流石にそれは待て!」

直斗「へっ!?」

美奈子「あ、悠来てたんだ」

直斗「……早く、あっち向いてください!」

鳴上「悪い、すぐ出てく!」

有里「同じく……一通り着替え終わったらまた呼んで」

>宴会場の襖を閉めた。

鳴上「……惜しい事したかな」

有里「……悠は正しかったよ。さ、順平達の所へ行こう」

>……惜しい事を……。


806VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:12:20.81nBdmnuhqo (12/17)



【順平・真田の部屋】


クマ「そこでークマが出ていってー!どっかーんってなったのを一人で止めたクマ!」

順平「おーそうかそうか。クマは偉いなー」

真田「どっかーん、っていうのは何だ。爆発か?」

クマ「どっかーんはどっかーんクマ」

真田「……わからんな」

>良かった、ここは平和だ。

順平「お、鳴上も来たか。……有里、お前どしたの」

真田「変わった格好だな」

有里「いろいろありまして。……下着までなんですよね、コレ」

順平「うわ……流石にそれは……」

鳴上「そ、そうなのか?」

有里「うん。見る?」

鳴上「い、いやいい。見なくていい」

有里「まぁ冗談だけど。もうしばらくしないと準備整わないみたいだから、僕らはこっちで休憩しとこう」

>どこまで冗談なんだ……?

>うぉーい、買出し行ってきたぜー、という声が聞こえた。

鳴上「あ、陽介が帰ってきたみたいだ」

有里「ああ、そういえば買出し行かされてたね」

>宴会場の方にいったのか……いや、待て!

鳴上「陽介、今そこは……!」

>悲鳴が聞こえた。
>……主に、陽介の。

有里「……準備、まだみたいだね」

鳴上「そうだな」


807VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:12:59.84nBdmnuhqo (13/17)



【小宴会場】


>結局皆元の服装に戻したらしい。

美奈子「残念だなー、可愛かったのに」

美鶴「あんな服で食事できるか!」

千枝「あはは……」

岳羽「あれ、順平と真田先輩は?」

有里「ああ、疲れたから休むって」

アイギス「折角の機会なのに……お疲れなら残念です」

>恐らくは、気を遣ってくれたのだろう。
>クマは普通に寝ていたが……。

鳴上「あれ、そういえば陽介は……」

美鶴「……聞きたいか?」

鳴上「あ、いえ。いいです。すみません」

>やはり、運のステータスが……。

有里「完二もいないね」

雪子「完二君、目覚まさなかったから……」

鳴上「そうか……じゃあ俺達は明日また別に集まろうか」

有里「そうだね。というか、僕はいつまでこれ着てたらいいのかな」

りせ「えー、可愛いからそのままでいてくださいよー」

アイギス「そういえば、こういうものがありますよ」

>アイギスさんの手には、例の獣耳がたくさんぶら下げられている。

岳羽「あんた、それどっから持ってきてるの……」

アイギス「それは秘密です。どうでしょう、これを装着してみては」

有里「……僕が?」

りせ「やーん見たーい。着けて?」

有里「命令とあれば。……どれ?」

>バリエーションは猫、犬、タヌキ、キツネ……うさぎ、か。

鳴上「湊だったらやっぱりこれだな」


808VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(香川県)2012/05/24(木) 00:15:34.82nBdmnuhqo (14/17)

>キツネ耳を着けた。

有里「……どうなの、これ」

岳羽「あっは、可愛い可愛い」

美奈子「いいねーこれも。新しい感じ」

雪子「有里くっ……あはははは!に、似合いすぎ!あは、あはははははは!」

風花「雪子ちゃん、今日笑ってばっかりだね……」

アイギス「持ってきた甲斐がありましたね」

有里「……千枝」

千枝「や、ちょっとそのカッコで近寄らないで……」

有里「そんなこと言わずに」

千枝「待って、待ってほんと無理!そのちょっとうるっとした目をやめて!危ない!危ないから!」

>何だか分からないが楽しそうだ。

鳴上「良かった良かった……ん?」

>さっきまでそこに座っていたアイギスさんがいない。
>……背後に何者かの気配を感じる。

鳴上「……」

>手を、頭に持っていく……。
>もしゃ、と。
>明らかに髪の毛とは違う、毛の感触。

鳴上「……ちなみに、何ですか」

アイギス「犬です」

>天城はもう今にも噴出しそうだ。
>というか岳羽さんは既に笑っている。
>美奈子は目を輝かせているし、桐条さんと風花さんは必死に笑いを堪えている。

鳴上「……わん」

>全員、決壊した。