421 ◆jPpg5.obl62012/08/05(日) 22:27:37.65pQXo9UG60 (7/16)


黒コート「その場に駆けつけた『風紀委員』と戦闘になりました。 かなりの時間接触していたので私の特徴を把握しているかもしれません」

黒コート「彼らから『警備員』に情報が漏れる可能性は十分に考えられます」

上司「なるほど・・・・・・」


上司は部下の報告を聞き、現状についての考えを巡らせる。
一見平静を保っているように見えるが、内心がかなり動揺していた。それは何故か?

いまここで問題なのは、『部下の作業を一般人に見られたこと』でも『部下の能力を『風紀委員』に見られたこと』でもない。
その程度の問題ならば、いくらでも対処方法を考えることが可能だ。
自分の力を持ってすれば造作もないことである。

『未来を予知する力』。それが彼女の持つ力だ。しかし今回はその力を当てにすることは出来ない。
なぜなら、『そもそもこのような状況が起こることはあり得ない』はずだからである。


上司(私が見た未来にはこの結末は存在していない。 こんなことが初めて起きたのは確か、去年の夏頃だったかしら?)




422 ◆jPpg5.obl62012/08/05(日) 22:28:39.18pQXo9UG60 (8/16)


このようなことが去年の夏にも一度あった。

その時期、彼女は一人の少女の破滅を予見した。それは回避することは不可能である『死』という名の結末。
その少女は一人の男の手によって、無残に命を散らすことになるはずであった。
守ろうとしたものを何一つ守ることは出来ず。それを奪った男に一矢を報いることも出来ず。
薄暗い蛍光灯に照らされた操車場で、絶望で顔を染めながら自らの血の海に沈んでいくその姿を見たのだ。

それを予見したのは丁度彼女に初めて接触した時だった。
その頃の少女といえばエリート校に在籍し、周囲の人にも恵まれており、
絶頂とまではいかないにしてもそれなりの幸福の中で生活していた。

その幸福から一気に地獄にたたき落とされるのだと思うと、何とも言えない気持ちになった。
しかし、自分にはどうすることもできない。それどころか誰も対処することなど不可能だろう。
彼女が見る未来は誰も回避することは出来ないからである。

何もこのような出来事は初めてではない。
この能力を手に入れてからというものの、彼女は様々な人間の未来を見てきた。
ある人間は天に見初められたかのように幸福の道を歩み、またある人間は全てから見放されたかの如く不幸の奈落に墜ちていった。
例えばこの学園都市の要職に就いた人もいれば、肉体を腰から分割されて絶命した人もいる。
もちろんこのような人生を左右する未来だけでなく、○○という教師は帰りにどこそこの店で買い物するだとか、
△△という学生はこの日に登校中に転倒して足を怪我するだとか、そういった他愛のないものも数え切れないほど見た。
しかし、いずれにも共通していることは『自分が見た未来は必ず起こる』ということだ。




423 ◆jPpg5.obl62012/08/05(日) 22:29:51.54pQXo9UG60 (9/16)


能力を手に入れて初期の頃、自分が見た未来を変えることが出来ないか試したことがある。
その時自分が見た未来とは、自分の友人が帰りに車に轢かれて病院に運び込まれるというもの。
その未来を回避するべく、友人に普段とは違う道を辿って帰宅するよう注意を促した。

このまま何もせずにいたら友人はいつもの帰り道を通って事故に巻き込まれてしまう。
ならば別の道を通るようにすればそのようなことは起こらないのではないか。
交通事故が起こるはずの道路を通らなければ、そういった出来事には遭遇しないと考えたからである。

だが、その未来を回避することは叶わなかった。
翌日自分の友人が交通事故に遭って病院に運び込まれたということを聞かされて彼女は驚愕した。
彼女が驚愕した理由は、何も注意を促したにも係わらず友人が事故に巻き込まれたからというだけではない。
もし単に事故に巻き込まれたというのなら、不幸に不幸が重なった結果だと思ったであろう。
しかし友人を轢いた車は『自分が見た未来に出てきた車と全く同じ』だったのだ。

話を聞く所によると、運転手はその日に限って『たまたま』いつものルートを通ることはせずに、
友人が通っているルートを『偶然』選択したらしい。
このようなことが果たして本当に起こりえるのだろうか?

その後も未来を見るたびにそれを回避しようと行動したが、いずれも失敗に終わることになった。
どのような手段をとっても、まるでその行動を嘲笑うかのように必ず予知で見た出来事が起こるのだ。
十回ほど未来を変えることに失敗した彼女は、とうとう自分の力の本質を確信したのである。

自分が見た未来は変えることは出来ない。
たとえどんな方法を用いたとしても、まるで鎖に引きずられるかのようにその結末に引き寄せられてしまう。
それこそ、その出来事の当事者となる人間が巻き込まれる前に死にでもしない限り、阻止することは不可能だろう。

それを知った彼女は、たとえ他人の破滅の未来を見たとしても傍観に徹することにした。
無駄だと判りきっている行動を続けることほど愚かなものはない。それどころかその不幸に巻き込まれることもあり得る。
だからこそ今回も、多少心残りがあるとしてもただの観測者であろうとしたのだ。




424 ◆jPpg5.obl62012/08/05(日) 22:30:20.90pQXo9UG60 (10/16)






だが、その結末は回避された。その少女の生存という形で。








425 ◆jPpg5.obl62012/08/05(日) 22:31:06.94pQXo9UG60 (11/16)


街中で再び少女が五体満足で立っているのを見た時、まるで質の悪い夢の中にいるのではないのかと思ったほどだ。
自分は確かに少女の最期を見たはずだ。まさか他人の空似というわけではあるまい。
いや、似ている人はいるが予知で見た彼女は紛れもなく本人だったはずだ。

自分の予知は外れたことは今まで一度もなかった。そして、そのことに対して全く疑いを持ってなどいなかった。
なにせ百を優に超え、千に到達するほどの未来を見て、その悉くが外れることがなかったのだ。
自分の予知が必ず当たると思っても仕方がないだろう。

けれども、たとえ千回外すことがなかったとしてもその次も外れないという保証は何処にもない。
未来とは本来不確定な物だ。例えその一場面を観測したとしても、それは現在の変化で如何様にも左右されてしまう。やはり必ず的中するというのはただの思い込みだったのだろうか?

しかし予知を外したのはそれ一回きりであり、その後は相変わらず自分の予知は正確な未来を見せ続けた。
こうなればあの出来事が例外中の例外だったのだろう。
自分の予知を覆すような何かが起こったのだ。それが少女によるためのものなのか、それとも自分自身が原因なのかは未だに判らないが。


上司(どちらにせよ、私の予知が外れる原因となるような事が再び起こったということは間違いない)


過去の回想を中断し現状の分析を続行する。
今やらなければならないことは過去を思い出すことではなく、これからどのような行動を取るべきか考えることだ。
過去を振り返ることを絶対に悪いこととは言わないが、そこから解決策を見いだせない以上、
未来の視点に立って行動することの方が遥かに有意義である。




426 ◆jPpg5.obl62012/08/05(日) 22:32:26.70pQXo9UG60 (12/16)


上司(このままだと予定が大幅に狂う可能性がある。 最悪破綻することも考えられるわね)

上司(それだけは避けたいところだけれど、原因がわからない以上それを取り除くのは不可能に近い)

上司(手がかりになりそうな物は見つけたけど、それにそれを元に探すほどの時間もないし)

上司(幸い血液の採取を見られたことによる未来の変化は観測できていないから、今の所は現状維持ね)


対策がとれない以上、今の状況を悪い方向へ転がさないように努力するしかないだろう。
受け身にならざるを得ないのが癪だが、愚痴を言っても仕方がない。

人間の血液を集め始めてそろそろ一ヶ月。
その切欠となったのは『とある未来』を見たからであるが、もうまもなくその未来が訪れると予想される。
期間が短かったために十分な血液が集まったとは言えないが、少なくとも最悪の事態を避けることは可能だろう。
『自分が見た未来の先』は未だ見えていないので、全てが終わった後に何が起こるのかは未知数であるが。


黒コート「どうなさいますか?」

上司「とりあえず何があったのかはわかったわ。 今の所はそれが原因で何かが変わったというわけでもないから、
貴方には引き続き血液の採取をお願いするわね」

黒コート「了解しました」

上司「とは言ってもまだ以前集めた物もあるから、次は少し先になりそうね」

上司「久々の休暇よ。 しっかり休む事」


部下は普段の仕事だけでも十分忙しいのに、それに加えて血液の採取にまで手を貸してもらっている。
頼んだ時は本当にやってもらえるとは思わなかったが、彼女は上司に心酔しているようにも見受けられた。
何故彼女が自分をここまで慕うのかは判らないが、それで事が上手く運んでいるのだから深く詮索するのは止めておく。
そういったことは全てが終わった後にすればいい。今の関係を壊すような行動を取るのは愚の骨頂だ。




427 ◆jPpg5.obl62012/08/05(日) 22:33:04.08pQXo9UG60 (13/16)


上司「今日はお疲れ様と言ったところかしらね。 今日の所はもう用事はないから下がっても良いわよ」

上司「寝る前の仕事をきちんとこなしたら就寝しても良いわ」

黒コート「寝る前に何かお飲みになられますか?」

上司「いや、貴方は早く寝て疲れを取りなさい。 明日の仕事もあるのだから」

黒コート「・・・・・・はい」


コートを着た女性は無言のまま上司の部屋を退出する。扉を閉める時に不安が残る表情をしていた。
何に対して心配しているのかは判らない。自分の失敗がお咎め無しだったことに対してか、
それとも血液を集めさせる上司の思惑に対してか。もしかしたら、もっと他のことかもしれない。
だがそれを口に出すようなことはしない。彼女にとっては上司に忠誠を尽くすことが最大の生き甲斐であるのだから。


上司(・・・・・・行ったわね)


上司は部下の足音が聞こえなくなり、完全にこの部屋の周囲から離れたことを確認する。
これから自分が行おうとしている事は他人には見られたくない。特に部下が見たら取り乱す事は目に見えて明らかだからだ。
そうなったら完全に収拾がつかなくなる事は必至である。


上司(まぁ、人の血を飲むなんて普通の人が見たらドン引きするのは当たり前なんだけど)

上司(あの子に関して言えばそれはあまり問題じゃないのよね。 むしろ・・・・・・)




428 ◆jPpg5.obl62012/08/05(日) 22:36:03.38pQXo9UG60 (14/16)


上司は物思いにふけりながら棚から一個のワイングラスを取り出す。
そして血液の入った袋を開き、中身を静かにグラスの中に流し入れた。
静かな音を立てて鮮血がグラスの底に溜まっていく。それと同時に血液独特の鉄さびの匂いが鼻をついた。
グラスの四分の一ほど流し入れると、空気を抜いた上で自前の保存液を入れて厳重に封をする。
血液の保存期間は献血用の物だと採血後21日が限度とされる。
素人が作った保存液ではその期間は大幅に短くなるだろうから、精々一週間持てばいい方だろう。

ブドウ糖とクエン酸ソーダがあれば擬似的な抗凝固薬を作ることは出来る。しかし化学薬品をそのまま購入するのは悪手だ。
学園都市では化学薬品の情報は徹底的に管理されている。超能力開発の使う薬品が多く存在するため、
技術漏洩の防止のためにそのようなことをする必要があるわけだ。

ブドウ糖は健康食品として市販されているが、クエン酸ソーダは一般人が手に入れるには専用の業者に頼む必要がある。
そんなことをすれば足がついてしまい、『警備員』に見つかる可能性は少なからずあるだろう。
クエン酸ソーダを用いた血液保存法は、『保存血液』による輸血法を生み出す切欠になった物だ。
その気になれば一般人でも使える方法のため、当然『警備員』も予想しているはずである。

だからこそ薬局で売っているクエン酸とスーパーで買える調理用の重曹でクエン酸ソーダを作っているわけだが、
それでは質に問題が生じるのは当然のことである。
化石と比喩できるくらい時代遅れの方法なのだ。輸血用よりも日持ちはしないのは当たり前だ。


上司「・・・・・・」


ワイングラスを手に持ち、テイスティングをしながら血液を眺める。
最近になってやり始めたことだが、これがなかなか面白かったりする。
同じ血液でも微妙に色や粘度が違う。血液はその人の食生活を知るにはこの上なく有効だ。
不健康な生活をしていれば血液は赤黒くドロドロした物になり、健康であれば鮮やかな赤でサラサラした物になる。
「お前の血は何色だ?」という名台詞があった気がするが、その台詞は相手の健康状態を知る上でも使えるのではないかと思う。

そして、今回の血液の評価は――――



429 ◆jPpg5.obl62012/08/05(日) 22:36:44.57pQXo9UG60 (15/16)


上司(・・・・・・かなり黒いわね。 それにこれでもかっていうくらいドロドロ。 どうやら碌な食生活を送ってないみたい)

上司(健康に無頓着な学生か、元から学生生活を放棄しているスキルアウトか何かかしら?)

上司(まぁ血を採られた人は病院送りになってるだろうし、たまには健康的な食事をさせたと考えればいいわね)

上司(病院食では物足りないでしょうけど)


そんなことを思考しながらグラスをテーブルの上に置く。
別に本当に良いことをしたと思ってるわけではないが、そのことに対して負い目を感じているわけでもない。
自分がこれからなす事を考えれば、これくらいの犠牲など大したことではない。
実際に身を削っているのは自分ではないのだが。


上司(まぁいいわ、そろそろ始めますか。 ・・・・・・少し気が引けるのだけど)


考えるのを止め、意を決したようにグラスを再び持ち上げる。
そして彼女はグラスを持ったまま自分の部屋を出て行った。




430 ◆jPpg5.obl62012/08/05(日) 22:38:42.63pQXo9UG60 (16/16)

今日はここまで。

なんかもう全然隠れてないなこれ。いっそのことばらした方が良いんじゃないか?

質問・感想があればどうぞ。


431VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)2012/08/05(日) 23:14:59.19wHB77swbo (1/1)

乙乙
形式的に隠すだけでも雰囲気は違うと思いますよ
とはいえ、そろそろばらした方がいいかもね


432VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/08/07(火) 18:53:39.78Y6FkLRHDO (1/1)


ってかそこで飲むんじゃないのかw


433 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 20:46:14.77kyGuTOnD0 (1/15)

>>432
その場で飲まなかったことにもちゃんと意味があるんです
理由は言いませんが

これから投下を開始します。


434 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 20:47:18.14kyGuTOnD0 (2/15)






――――7月26日 AM8:30








435 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 20:48:51.40kyGuTOnD0 (3/15)


美琴「佐天さん、大丈夫かしら・・・・・・」

黒子「寮を出る前の初春からの電話ですと、まだ意識は戻っていないようですが」


美琴と黒子は『冥土返し(ヘヴンキャンセラー)』が経営している病院の中を歩いていた。
目指している場所は佐天にあてがわれた病室である。

あの事件の後、佐天は意識不明のままこの病院に搬送された。
初春は佐天の容態を見るために病院に行き、そのまま病室で一夜を明かしたらしい。
美琴と黒子もそうしたかったのだが、いきなりの外泊申請を常盤台中学に通すことは出来ず、
仕方なく次の日に見舞いに来ることになったのである。

相変わらず常盤台中学の規律は少し厳しすぎると思う。
学校の方針が『義務教育終了までに世界に通じる人材を育成する』ことなのだから当然のことなのかもしれないが、
今に限っては自分を縛るものに対して恨み言を言いたい気分だった。

なぜなら、そのせいで大切な友人の側にいることが出来なかったのだから。


美琴「まったく、少しくらい融通を利かせても良いのにね」

黒子「でもいきなりのことでしたし、仕方ないのでは?」

美琴「私たちのメンタルと規律、どっちが大事なんだか・・・・・・」

黒子「ルールとはそういう物ですの」

美琴「めんどくさいったらありゃしないわ・・・・・・」




436 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 20:50:39.24kyGuTOnD0 (4/15)


愚痴をこぼしつつ歩いていたが、しばらくすると目的の佐天の病室が見えてきた。
扉に近づいてくるにつれて、部屋の中から話し声が聞こえてくる。
どうやら誰かが部屋で世間話をしているらしい。ということは・・・・・・


黒子「どうやら、目を覚ましているようですわね」

美琴「・・・・・・!」ダッ

黒子「お、お姉様!?」


ガラガラ!


美琴「佐天さん!」

佐天「おぉ、御坂さん」モグモグ


美琴が勢いよく扉を開けると、佐天が気の抜けた返事を返した。

患者衣を来てベッドの上に座っているが、具合が悪いようには到底見えず、健康そのものに思えた。
どうやら差し入れであろうカットされたリンゴを口に頬張る様は、心配していたのがバカバカしくなるほどである。

ただ、頭には脳波を測るための簡単な機器が取り付けられており、まだ体調が万全でないことが伺えた。




437 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 20:52:40.76kyGuTOnD0 (5/15)


冥土帰し「御坂君? 病室で騒いではいけないよ。 患者さんの迷惑になるからね?」

美琴「す、すいません・・・・・・」

黒子「心配だったことはわかりますけれど、少し落ち着かれては?」

美琴「うぅ・・・・・・」

御坂妹「お姉さまはもう少し感情を制御すべきです。 と、ミサカは治るはずのないお姉さまの性格に無駄な非難を浴びせます」

美琴「アンタは一言多い」チョップ

御坂妹「あうち」


佐天の隣に携わっていたのはこの病院の院長である冥土帰しと、ナース服を着たミサカ10032号こと御坂妹。
冥土帰しは測定機器に映し出される情報を読み取り、御坂妹はその情報をカルテに書き込んでいる。

やがて測定を終えた冥土帰しは機器の片付けを御坂妹に任せ、心配そうに様子を見ていた御坂達に向き直った。


美琴「それで・・・・・・佐天さんの容態は?」

冥土帰し「脳波に異常は無し。 身体にもほぼ外傷はなく健康体。 これなら今日の昼にでも退院できるね」

初春「よかった・・・・・・」

黒子「大事にならなくてよかったですの」


冥土返しの言葉に一同は安堵の溜息を漏らした。
何せ気絶までしていたのだから、何か良くない後遺症でも起こしているのではないのかと心配していたからだ。





438VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/08/12(日) 20:54:22.489agzTbdWo (1/1)

来たか…(ガタッ


439 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 20:55:12.20kyGuTOnD0 (6/15)


美琴「それにしても昨日佐天さんに身に何があったのかしら・・・・・・」

冥土返し「昏睡状態になっていた理由であれば僕が説明しよう」

美琴「先生・・・・・・」


冥土返しは佐天のカルテを美琴に見せる。
それには運び込まれてから測定されたのであろう、様々な診療データが書き込まれていた。
そのデータの一つ、脳の活性度を視覚化した写真を指して説明を始める。


冥土帰し「運び込まれたときに検査をしたんだがね、脳の一部に異常な活性が見られた」

冥土帰し「活性した部位から考えると、どうやら何かが理由で能力が暴走したみたいだね?」

冥土帰し「その時に脳に急激な負担がかかって意識が昏倒してしまったんだろうね」

冥土返し「彼女を発見するとき何か変わったことはなかったかい?」

黒子「確かに突風のような現象が起こってましたけれど・・・・・・」

美琴「けど、佐天さんは・・・・・・」


佐天はレベルで言えばゼロである。
能力の区分では『空力使い』のカテゴリに入るが、彼女は能力を発現することが出来ないのだ。
しかし、あの場所で起きた突風は少なくともレベル3以上でなければ作り出すのは難しい。
能力を使えないはずの佐天が、暴走したからといってあれだけの風を生み出すことは出来るのだろうか?




440 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 20:58:03.29kyGuTOnD0 (7/15)


冥土帰し「確かに佐天君は区分ではレベル0のようだね。 でも、だからといって能力が絶対使えないわけではないよ?」

冥土帰し「能力の暴走によって自身のレベル以上の力を扱えるようになることは、稀ではあるけど全く無いというわけじゃないからね」

冥土帰し「その代わり脳を酷使するわけだから、体や『自分だけの現実』に後遺症を残すことがある」

黒子「例えばどんなことですの?」

冥土帰し「身体に関しては記憶喪失や言語機能の異常、『自分だけの現実』に関してはレベルの低下や変質といったところだね」

初春「それじゃ・・・・・・」

冥土帰し「それなら心配いらないね? 彼女の場合、暴走していた時間が短かったこと、
扱える力がそれ程大きくなかったことから脳にかかる負担が少なくて済んだ」

冥土帰し「その点に関しては運がよかったということだろうね?」

初春「よかった・・・・・・」


その知らせを聞いて一同は安堵の表情を浮かべる。

なにせ、佐天は1年前にも一度昏睡状態になったことがある。
前回は何事もなく回復したのだが、それはたまたまそのような状況だったというだけであり、
今回も同じ様になるとは限らなかった。




441 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 20:59:17.83kyGuTOnD0 (8/15)


佐天「にしても、レベルが低かったおかげで無事でいられるなんて、世の中分からないもんだね~」

黒子「ま、それについては佐天さんにツキが回ってたということですわね」

美琴「それを言うなら『不幸中の幸い』ってとこじゃない? 襲われたんだし」

佐天「ハハハ・・・・・・」

黒子「とりあえず、佐天さんの健康状態がわかったところで、本題に入りましょうか」

初春「そうですね」

冥土帰し「ふむ。 僕達は一度席を外した方がいいね?」スタスタ

御坂妹「そうですね。 と、ミサカは空気気味な自分の立場に寂しさを感じながら返答します」スタスタ


黒子は話を切り替え、真剣な表情で佐天を見据えた。
その顔は『風紀委員』としての顔。これから話される内容はお世辞にも平穏とは言えない内容だ。

佐天涙子の身に何が起こったのか。
このことを病み上がりの佐天に聞くのは酷だが、これだけは聞いておかなければ。

原因は色々とあるが、能力の暴走は余程のことがなければ起こりえない事態だ。
それ相応の出来事が佐天の身に降りかかったことになる。




442 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 21:00:44.98kyGuTOnD0 (9/15)


黒子「佐天さん、あの場所で何があったんですの?」

美琴「確か追われてるって聞こえたけど」

佐天「・・・・・・実はね、私、見ちゃったんだ」

初春「何をですか?」

佐天「・・・・・・『連続通り魔事件』の犯人」

黒子「それは本当ですの!?」

初春「白井さん! 声が大きいです!」

黒子「す、すみませんですの。 で、それは本当に・・・・・・」

佐天「うん。 倒れてる女性にかがみ込んで血を抜き取ってたから間違いないと思う」

美琴「・・・・・・! それじゃあ、黒子が取り逃がしたって言うのが」

黒子「・・・・・・犯人ですわね・・・・・・」ドンヨリ


黒子は自分の失態の大きさに心が暗くなる。
あの時犯人を捕まえておけば、一連の大事件を終結させることが出来たのに。


美琴「じゃあ佐天さんは犯人に見つかって追われてたの?」

佐天「そういうことですね」

黒子「なんて無茶を・・・・・・」

美琴「私たちが到着するのが遅れてたらどうなっていたか・・・・・・考えたくもないわね」


あの時到着するのが遅れていたら、佐天はあの路地裏に無残な亡骸を晒していたかもしれない。
考えただけでぞっとする。




443 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 21:02:02.13kyGuTOnD0 (10/15)


初春「それよりも佐天さんはなんで路地裏に行こうなんて思ったんですか!?」

初春「あそこはとても危険だっていつも言ってますよね!?」

佐天「何でって・・・・・・近道?」

黒子「何ですのその理由は・・・・・・」

佐天「いやぁね、荷物が重くてしんどかったから早く家に着こうと・・・・・・」

初春「そんな理由で行かないでください!」

佐天「わ、わかったよ初春・・・・・・もう行かないから・・・・・・」

初春「・・・・・・本当ですよね? そう言っていつも無茶するんですから」

佐天「うぐっ」


ぷりぷり怒る初春の前で縮こまっていく佐天。
自分の不用意な行動が原因なのだから同情の余地はないが。

それにここまで初春が怒っているのも佐天の身を心配しているからこそである。


黒子「初春、とりあえずそこまでにしておくんですの」

初春「でも・・・・・・」

黒子「説教は後でいくらでも出来るでしょう?」

初春「・・・・・・わかりました」

黒子「よろしい。 それじゃ佐天さん次の質問に移りますわ」

佐天(助かった・・・・・・)

黒子「佐天さん、犯人顔とか何か見てませんの?」


既に『連続通り魔事件』の犠牲者が10人を超えている。
何せ、今まで犯人の正体につながるこれといった情報が得られていないのだ。
『風紀委員』や『警備員』としてはどんな小さなことでもいいから情報が欲しいのが本音だ。




444 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 21:05:33.73kyGuTOnD0 (11/15)


佐天「顔か、見たには見たけどサングラスとマスクをしてたから・・・・・・」

佐天「わかったのは精々髪が白かったくらいかな?」

初春「そうですか・・・・・・」

黒子「となると、わたくしが見たものを合わせたのが現状でわかる犯人像ですわね」

佐天「白井さんは見たんですか?」

黒子「えぇ。 マスクはしていましたが、サングラスはかけてなかったんですの」

黒子「おそらくサングラスは佐天さんが起こした風で飛んでしまったのかもしれませんわ」

佐天「そうなんですか。 ・・・・・・犯人ってどんな顔だったんですか?」

黒子「『白い髪』というのは佐天さんが見たものと一致してますわね。 わたくしが見たものがそれに加えて『瞳孔が紅い』ということですの」

佐天「瞳孔が紅い? 瞳孔って目の黒い部分だよね?」

黒子「漫画やアニメで良くある表現ですわね。 おそらくそれらに影響されて赤のコンタクトでもしてたのですわ」

美琴「・・・・・・」

黒子「お姉様? どうされたんですの?」


腕を組んだまま床を見て黙っている美琴を見て、どうかしたのかと思い問いかける。
なにやら難しような顔をしていたので、また無茶な事をしでかそうとしているのかと心配になる。




445 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 21:06:50.84kyGuTOnD0 (12/15)


美琴「・・・・・・犯人は白髪で瞳孔が紅いのよね?」

黒子「確かにそうですけれど・・・・・・」

美琴「それならアルビノって奴じゃない?」

初春「アルビノ?」

美琴「正式的には『先天性白皮症』って言うらしいんだけど、遺伝的疾患の一種みたいよ?」

美琴「先天的にメラニンが欠乏する病気で、髪の毛とか肌が生まれつき白いんですって」

美琴「瞳孔は血管の色が透けて赤くなるんだってさ」

佐天「生まれつき色白かぁ・・・・・・でも白髪っていうのも・・・・・・」ムムム

美琴「メラニンが無いせいで紫外線に弱くて皮膚病になりやすいらしいから、羨むような物じゃないんだけど」

初春「それにしても、やっぱり御坂さんは物知りですね」

黒子「さすがはお姉様ですの」

美琴「まあね」

美琴(一方通行のことを調べたときに知ったんだけどね)


一方通行も血にように赤い目を持ち、真っ白な髪をしている。
確証があるわけではないが、もしかしたら彼もアルビノなのかも知れない。

ふと、一方通行がベクトル操作の中で早期に『反射』という能力を会得したのは、
本能的に紫外線等の脅威から身を守ろうとした結果なのだろうかと思った。




446 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 21:08:33.80kyGuTOnD0 (13/15)


佐天「そう言えば倒れてた女の人ってどうなったのかな?」

美琴「佐天さんが発見した人? たぶん『警備員』が発見して保護してるんじゃない?」

黒子「もしかしたら支部の方に連絡が来てるかもしれませんの」

初春「それなら私が行ってきます。 丁度仕事もありますし」

美琴「初春さんは休みじゃないんだ?」

初春「そうですよ。 早く行かないと固法先輩になんて言われるか・・・・・・」

黒子「あー、確かにそうですわね」


固法美偉は一見温厚そうに見えて、その実怒らせるととても怖い女性だ。
怒りのボルテージが一線を越えると、躊躇無く関節技を決めてくる。しかも微笑みながら。
実際そんなことは滅多にないのだが、出来る限り彼女の琴線に触れないように行動するのがいい。
固法を怒らせたときの恐ろしさは、自身の身を持って体験している。


初春「たぶん今回の事件についての情報が送られてくるかもしれませんし」

黒子「ふむ。 ならばその情報整理は初春にお任せしましたの」

黒子「何か解ったらその都度連絡をくださいまし」

初春「了解しました」




447 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 21:09:28.27kyGuTOnD0 (14/15)


初春「たぶん今回の事件についての情報が送られてくるかもしれませんし」

黒子「ふむ。 ならばその情報整理は初春にお任せしましたの」

黒子「何か解ったらその都度連絡をくださいまし」

初春「了解しました」

佐天「えー。 初春がいなくなると寂しくなっちゃうなぁ」

初春「佐天さんは仮にも患者さんなんですから、少し安静にしていてください」

佐天「でもまだ初春の『挨拶(スカートめくり)』をまだやってないし」

初春「そんなことしなくても結構です!」

佐天「そんな! あれは私と初春の友情を確かめる神聖な儀式なんだよ!?」

佐天「それを やらないなんて とんでもない!」

初春「いい加減にしてください!」


佐天の趣味には困ったものだ。

初春に対するスカートめくり――――
佐天が言うにはスキンシップの一環だそうだが、余り褒められたものではない。
だが、初春から積極的な拒絶の意志が見えないことを考えるに、まんざらでもないのかもしれない。
既に諦めている可能性もあるが。
とにかく、佐天に対して何を言っても意味がないことは明白だ。

結局、残りの時間はそのことでぎゃあぎゃあ騒いでいたのだが、


冥土帰し「佐天君、そろそろ検査の時間だよ?」

御坂妹「相変わらず周りの迷惑を考えませんね。 と、ミサカは呆れながらこの騒ぎに愚痴をこぼします」


医師と看護師が戻ってきたことでお開きとなった。




448 ◆jPpg5.obl62012/08/12(日) 21:15:03.04kyGuTOnD0 (15/15)

今日はここまで。

『妹達』の口調って結構文章が長くなるんですよね。まぁ、>>1としては文字数が稼げるからありがた(ry

次は紫色のあの人が出ます。
でも8月末から9月にかけて忙しくなるので、少しペースが落ちるかもしれません。
もちろん投稿出来るようには努力しますが。

質問・感想があればどうぞ。


449VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/08/12(日) 21:53:08.24ZWXn+iLvo (1/1)

紫色って誰だ


450VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/08/13(月) 02:03:24.472t45dtbDO (1/1)

この場合もやしだろ?


451 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 22:50:23.56+Ici/ZdQ0 (1/18)

これから投稿を開始します


452 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 22:51:07.25+Ici/ZdQ0 (2/18)






――――7月26日 AM9:00








453 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 22:52:38.25+Ici/ZdQ0 (3/18)


『とある高校』の学生寮 土御門の部屋――――


ピリリリリ、ピリリリリ


土御門「はい、土御門だにゃー」

ステイル『ステイルだ。 お前に頼まれてた調べ物が終わったぞ』

土御門「・・・・・・随分と早いな」

ステイル「今図書館の中にいるんだが、『最大主教』が魔道書のことを知ってたみたいでね」

ステイル「件の魔道書のことはすぐにわかったよ」

土御門「『最大主教』が、か・・・・・・」

ステイル「この場に居るから、ついでに意見を聞いてみたらどうだい?」

土御門「そうか。 とりあえず、調べてわかったことを報告してくれ」

ステイル「ああ、まずは――――」




454 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 22:53:37.35+Ici/ZdQ0 (4/18)






――――7月25日 PM3:00








455 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 22:55:07.89+Ici/ZdQ0 (5/18)


イギリス・大英魔術図書館――――

地下100メートル。蔵書量100万冊。
ブルームズベリーに所在する『大英博物館(アーセナル)』の真下に位置するそれは、
世界中から集められた魔術書・魔道書を保管するために設立されたものだ。

その中にはインデックスが保有する10万3000冊の魔道書の一部も存在する。
その歴史は古く、イギリス清教が成立したとほぼ同じ時期に建設された。

『大英博物館』のスタッフは全てが魔術とは無関係の一般人であるが、
ここで働いている人達の全てが、魔術に何かしら関わりがある人間である。
保管している物が物のため、非常時の際に的確に対処できる知識を持つ人間が必要だからだ。

魔術に対抗できるのは魔術のみ。
『悪い魔術師から市民を守る』という理念掲げたイギリス清教は、
それを確実に遂行できるようにするために、あらゆる手段を用いて霊品法具を収集してきた。

その方法には窃盗や略奪も含まれており、とても口に出せないような手段を用いたこともある。
そのため、一部の人間からは『血の祭壇』とも呼称されている。

だが、それ故にこの図書館は、世界に存在する半分以上の魔術に対して有効な手段を構築することが出来る。
人の命を奪って手に入れた物で人の命を救う。
それが良いことなのかはわからないが、『守るべき物を守る』という点では正しいのだろう。




456 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 22:56:46.14+Ici/ZdQ0 (6/18)


シェリー「ん? そこにいるのはステイルか」

ステイル「仕事は捗ってるかい?」

シェリー「可もなく不可もなくって所かね」

ステイル「それは何よりだよ」

シェリー「っつーか、何で暗号解読班の私が実働班に回されなきゃならないんだ?」

シェリー「そりゃ、私は一応戦闘も出来るけどさ」

ステイル「仕方ないだろう。 正規の実働班はみんな出てしまっているからね」

ステイル「重要な拠点を守るためにも、無理矢理人員を確保しないといけないのさ」

ステイル「それに、暗号解読班はこの図書館が主な仕事場だろう?」

ステイル「仕事場所が一致してる分、他の人達よりはマシだと思うがね」

シェリー「私が心配しているのは、オルソラが一人で仕事をしていることなんだけどね・・・・・・」

シェリー「マイペースすぎるから手綱を握る奴がいないと不安で仕方がない」

ローラ「ステイル~? 早く行きたるわよ~」

ステイル「おっと、僕は用事があってここに来たんだった」

シェリー「ああ、仕事の邪魔だからさっさと行きな」

ステイル「無論、そうさせてもらうよ」




457 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 22:58:13.71+Ici/ZdQ0 (7/18)


ローラの車椅子を押しながら、図書館の最深部に進む。
自分の背丈の倍以上の本棚が一斉に建ち並んでいる光景には圧倒される。
しかもここにある書物の9割以上が魔術に関するものなのだ。
魔術に関わる人間がこの光景を見たのであれば、茫然として見入ってしまうことは請け合いだ。

奥に進むにつれて本棚に埃や蜘蛛の巣が目立つようになってくる。これだけの広さになると管理するのも一苦労なのだろう。
しかもこの近くは危険な封印指定とまではいかなくとも、危険な魔術書が陳列されている書架なのだ。
易々と立ち入ることができる区画ではない。

しばらく歩いていると、やがて大きく古びた木製の扉が目の前に現れた。
この扉の先が曰く付きの物品が保管されている『封印指定区域』だ。


ステイル「さて、『封印指定区域』に着いたわけだが・・・・・・『最大主教』、本当にここに?」

ローラ「全く、心配性でなりにけるわね。 この私が言うのだから間違いなしにありけるの」

ステイル「だといいんですがね」

ローラ「とにかく管理人に話を通さないと・・・・・・」




458 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 22:59:46.76+Ici/ZdQ0 (8/18)


『封印指定区域』とは内容、もしくは本そのものが非常に危険である書物を、魔術の心得が全くなかったり、
または未熟な人間が好き勝手に読まないように隔離して保管している区域である。

その内容は、例えば十字教に仇なすような思想が書かれてある物であったり、
目を通したら最後、理性を修復不能になるまで破壊してしまう物であったりと様々であるが、
それとは別に、『イギリス清教にとって不都合かつ容易に抹消できない物』を秘匿するための場所でもある。

それ故に『最大主教』の許可がなければ立ち入ることは出来ず、普通の魔術師にとってはほぼ無縁の場所だ。
もちろん、ステイルもここに来るのは初めてである。

扉を開き、かび臭い本棚の間を縫うようにして通り抜ける。
歩いている途中で収められている本の背表紙を一瞥してみるが、かすれていて読めない物がほとんどだった。
つまり、ここに保管されている書物は相当古い年代の代物であることが読み取れる。


途中で鉄製の箱が整然と並べられている通路があったが、おそらく特に危険度の高い書物を個別に封印しているのだろう。


ローラ「うーむ。 なかなか見あたらざりけるわね」

ステイル「侵入者用の簡易トラップが多いですね。 一つずつ見つけるのは骨が折れる・・・・・・」

ローラ「極秘文書もとても多き場所なるから、仕方なきことでありけるの」


30分ほど歩き回ってみたが、目的の人物は見つからない。
何せただでさえ広い上に、盗難防止のためのトラップが敷設されているため、
その対処をしながらの探索にならざる終えない。

書物を守るには仕方のないことではあるのだが、ここまで厳重だとかえって煩わしくなってくる。




459 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 23:01:58.99+Ici/ZdQ0 (9/18)


ステイル「見つかりませんね。 用事があって居ないんでしょうか?」

ローラ「しかし、彼奴がこの場所から離れたることは考えにくい・・・・・・」

ローラ「もしや自室に戻っておるのか?」

ステイル「管理人とは一体どのような人物なのですか?」

ローラ「どのような、か。 一言で表したるのであれば、『本の虫』でありけるわね」

ステイル「『本の虫』・・・・・・?」

ローラ「なにせ彼奴は三度の飯よりも本が好きと豪語したる奴でありけるの」

ローラ「だからこそ、ここの管理人に相応しいと思って任命したるのだが・・・・・・」

ステイル「何か問題が?」

ローラ「彼奴は一度本を読み始めると、周りで何が起ころうと一切反応せずになりけるの」

ローラ「それに加えて図書館の管理人に命じてしまいたるがゆえに、
本を読むことにのめり込みすぎて業務に差し支えが出てきたるのだが・・・・・・」

ローラ「かといって、本を読むことの邪魔をしたると烈火のごとく怒りたるの」

ステイル(・・・・・・かなり厄介な人みたいだな)




460 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 23:05:00.07+Ici/ZdQ0 (10/18)


ローラ「一度収集の呼びかけに応じなきことがありてな。 いい加減更生させようと本を取り上げたるのだが・・・・・・」

ステイル「・・・・・・取り上げたら?」

ローラ「私に向かって全力で魔術をぶっ放してきたりけるのよ」

ステイル「はぁ!?」

ローラ「いやはや、その時は本当に肝を冷やしたることよ」ハァ


たかが本が読めなくなったことぐらいで『最大主教』に攻撃を仕掛けるとは・・・・・・
その人物は『読書』という事柄に対して並々ならぬ感情を抱いているらしい。
当麻がこのことを聞けば、「ご飯を奪われたインデックスみたいだ」と言うだろう。

だんだんその管理人のことが不安になってきた。
こんな体に悪そうな場所に好きこのんで居座っている時点で、変人であることには変わりないのだが。


ローラ「おや?」

ステイル「どうしたんですか?」

ローラ「どうやら見つかるやもしれぬ」


ローラの視線の先を見ると、赤髪の少女が本棚の整理をしているのが見えた。
身長は低く、女学生が着ていそうなシンプルな服装だ。
学校の図書館ならば様になっているところだが、いかんせんこのような場所で働くような姿ではない。




461 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 23:09:14.82+Ici/ZdQ0 (11/18)


ローラ「そこのお主、少し聞きたきことがありけるの」

赤髪の少女「え? あ、『最大主教』様!? 何か御用でしょうか?」

ローラ「ここの管理人はどこにいたるかしら?」

赤髪の少女「管理人ですか? 今の時間であれば自室で休憩を取っているところでしょうか」

ローラ「案内したりてくれるかしら?」

赤髪の少女「はい、かしこまりました」


どうやらこの少女は管理人の居場所を知っているらしい。
彼女に会うことが出来なければ留守と判断していたところだ。
この広い空間で彼女に会えたのは運が良かったと言えるだろう。


ステイル(自分で言うのも何だが、こんな子供が『封印指定区域』の本棚を整理していて大丈夫なのか?)

ステイル(ここには危険極まりない書物がごまんとあるはずだが)

ローラ「難しき顔をして、どうしたりけるのステイル?」

ステイル「いえ、何でもありません」

赤髪少女「ではこちらです。 遅れずに付いてきてください」


ステイルとローラの二人は少女の後について行く。
どうやらこの場所で働いているだけあって、侵入者用の罠の位置は把握しているらしい。
大した労力も無く、部屋の前までたどり着いてしまった。





462 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 23:12:33.24+Ici/ZdQ0 (12/18)


赤髪の少女「パチュリー様、私です」

「何かしら? まだ執務の時間ではないはずだけれど」

赤髪の少女「パチュリー様にお客様がいらっしゃったので、引率して参りました」

「・・・・・・わかったわ、通しなさい」


ドアの奥から少し眠たげな声が聞こえてきた。おそらく管理人のものだろう。
部屋の中に入ると、紫髪の女が椅子に腰掛けて黙々と本を読んでいた。
着ているローブも紫、奇妙な形をしている帽子も紫。身につけている物の殆どが紫で統一されている。

ネグリジェを着ている為か、正確な体型は分からない。だが、雰囲気から成熟した肉体であることが予想できる。
被っている帽子には赤と青のリボンが結びつけられ、大きな月の装飾が施されていた。

その女は本を見ながらステイル達を一瞥したが、再び視線を本に戻して読書を再開した。
『最大主教』を前にしても本を読み続けようとするところを見るに、やはり相当な読書愛好家らしい。


紫髪の女「お久しぶりね、『最大主教』。 最後に会ったのはいつだったかしら?」

ローラ「相変わらずでありけるわね、パチュリー・ノーレッジ。 たまには日の光に当たらぬと、体にカビが生えることよ?」

パチュリー「ほっときなさい。 好きでこうしているんだから」

赤髪の少女「そんなこと言って、ここ一週間碌にお風呂に入っていないじゃないですか」

赤髪の少女「こんな不衛生な生活を続けてたら持病が悪化してしまいます」

パチュリー「リトル、あなたは黙ってて」

リトル「えぇー・・・・・・」




463 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 23:14:41.62+Ici/ZdQ0 (13/18)


ローラ「あなた、喘息のほうは大丈夫たるのかしら? 発作が起こったら大変なることよ?」

ローラ「それに、お風呂に入らないのは女性としてどうかと思いたるの。 私など、毎日欠かさず湯船に浸かっておるのに」

パチュリー「いいじゃない、別に入らなくても死ぬ訳じゃないんだし。 それをするくらいなら本を読んでいるほうがいいわ」


パチュリーは最後に小さい声で「めんどくさいし」と付け加えた。

それはかなりの問題発言ではないのか。世の女性達が聞いたらショックで卒倒してしまいそうな会話である。

女性というのは余程のことがない限りは毎日風呂に入り、長時間かけて念入りに体を清める。
それは女性が持つ「美しさ」に対する欲求の現れであり、その欲の強さは計り知れない。
過去においては、それが原因で国が傾いた事例が数多くある。
女性の『美』に対する執念とはかくも恐ろしいものなのだ。

その点、パチュリーという女性は『美』に対する感情が希薄のようだ。
意識が強すぎないことはいいことだが、なさ過ぎるというのも困りものである。
素質は十分にあるのに、本人がこれでは宝の持ち腐れもいいところだ。
俗に、『残念美人』と呼ばれる部類であろう。


ステイル「『最大主教』、我々がここに来た目的を忘れてはいませんか?」

ローラ「おお、そうでありけるわね」

パチュリー「・・・・・・あなたは?」

ステイル「初にお目にかかります。 ステイル=マグヌスという者です」

パチュリー「マグヌス・・・・・・『ルーン魔術の天才』と言われているマグヌスかしら?」

ステイル「図らずも、そのようなことになっていますがね」

パチュリー「なるほど。 どうやらかなり急いでいるみたいだけど、今度会ったら是非ともご教授願いたいわね」

ステイル「若輩者ですが、それでもよければ」

パチュリー「謙遜しなくてもいいわよ。 あなたにはそれだけの力があるのだから」

ステイル(・・・・・・その力を持ってしても、あの子を救うことは出来なかったけどね)



464 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 23:16:00.84+Ici/ZdQ0 (14/18)


ローラ「パチュリー、あなたこれ以上使える魔術を増やしていかにするつもりなりけるの?」

ローラ「あなたには『精霊魔術(イノセンス)』がありたるのに」

パチュリー「ただの興味本位よ。 私が使うのは『精霊魔術』だけだし、これ以上手数を増やしても意味ないわ」

ステイル(『精霊魔術』・・・・・・か)


ステイルはパチュリーが扱う魔術の特性を思い返していた。

『精霊魔術』とは自身が生み出した魔力に属性を付け加えて行使する魔術である。
一般の魔術との異なる点は、魔術を用いる際のプロセスの部分だろう。

ステイルを例に取ると、彼の魔術はまず自身の生命力で魔力を生み出した後、
その魔力をルーンが刻まれたカードで作られた結界内で目的に応じて変換することで、
『炎剣』や『魔女狩りの王(イノケンティウス)』を生み出している。

しかし『精霊魔術』は、魔力にあらかじめ属性を付加させてから魔術に用いる。
属性が関係する魔術を用いた場合、魔力が持つ属性によって術式が強化され、さらにランクの高い魔術に昇華する。
ステイルが用いれば『炎剣』の数を増やしたり、『魔女狩りの王』をさらに巨大化させることが出来るようになる。

だが『魔力に属性を付加する』という行為は簡単なことではない。
その技術を習得し、完璧に使いこなせるようになるには相応の時間と労力がかかる。
そのため、『精霊魔術』を用いる人間は、大抵の場合かなり年を食った人達だ。

しかしパチュリーの場合、彼女の外見は二十代前後の姿をしている。
どう考えても、『精霊魔術』を習得できるほどの年月を重ねているとは思えない。

信じられないことだが、おそらく一般にかかる年月の半分以下の長さの修練で習得したのだろう。




465 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 23:18:34.95+Ici/ZdQ0 (15/18)


パチュリー「まぁ私の話はここまでにして、ステイル? あなたの用件は何かしら?」

パチュリー「ここは『封印指定区域』。 この場所にある書物を利用することが何を意味しているのか、分からないわけではないでしょう?」

パチュリー「知りたい物によっては、最悪イギリス清教を敵に回す可能性だって十分に考えられるわ」

ステイル「ええ、存じています。 ですが、私の求める情報がここにあると『最大主教』が自らがおっしゃられたのでね」

ステイル「イギリス清教の内部機密に関わるようなことではないでしょう」

ステイル「それに、私が調べる書物はそれ程危険ではない代物であることが既に分かっています」

ステイル「ですからその心配は無用ですよ」

パチュリー「そう、ならいいわ。 ここを利用した結果、あなたがどうなろうと私は一切関知しないから」

ステイル「分かっています」

パチュリー「よろしい。 で、あなたが知りたいことは?」

ステイル「『ヴォルデンベルクの手記』と呼ばれる魔道書です。 どこに保管されているか分かりますか?」

パチュリー「・・・・・・今調べるわ」


パチュリーは部屋の本棚にあった分厚い本の一つを手に取ると、目的の魔道書を検索し始める。

待っている間部屋の中を見渡してみると、部屋の壁がほぼ全て本棚で埋め尽くされているのがわかった。
収められている本は、魔術の教本や世界の伝承・童話、果てにはどこから仕入れたなのか分からないものまで様々である。

さすがに漫画の類までが本棚の隅にひっそりと置かれているのを見たときは、複雑な気持ちになったが。




466 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 23:20:09.68+Ici/ZdQ0 (16/18)


パチュリー「・・・・・・」パラパラ

ステイル「どうですか?」

パチュリー「・・・・・・あった。 Aランク区画の21番目の箱に保管されているわね」

パチュリー「リトル、案内してあげなさい」

リトル「かしこまりました」

ローラ「ステイル、私はここで待ちたるでありけるの」

ステイル「・・・・・・何故?」

ローラ「彼女とは久々に会いたりけるゆえ、たまには世間話でもと思いたるだけでありけるの」

ステイル「・・・・・・変な騒ぎは起こさないでくださいよ? 後始末をするのは私なんですからね」

ローラ「本当に信用がなきにありけるわね。 と言うかお主、最近私を子供扱いしておるのではないか?」


ステイルは少し肩をすくめた後、リトルの後について部屋を出て行った。
残されたのはローラとパチュリーの二人のみ。
パチュリーはステイルの後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。




467 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 23:22:39.04+Ici/ZdQ0 (17/18)


パチュリー「・・・・・・」

ローラ「どうしたりけるの、パチュリー?」

パチュリー「まさか、またあの魔道書の名前を聞くことになるとはね・・・・・・」

ローラ「ああ、あなたの父親も関わっていたでありけるわね」

ローラ「未だに引きずっておりたるのかしら?」

パチュリー「冗談。 もう全て終わったことなのだから、今更どうこう言うつもりはないわ」

ローラ「そう・・・・・・」


そこで二人の会話は途切れる。
だが、その部屋に流れた雰囲気にはまだ言葉に表されていない思いがあるように思えた。




468 ◆jPpg5.obl62012/08/26(日) 23:24:04.02+Ici/ZdQ0 (18/18)

今日はここまで。
質問・感想があればどうぞ。


469VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/08/26(日) 23:59:55.87s4CtoNXIO (1/1)




470VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/08/27(月) 04:21:05.47tGDqzcSxo (1/1)




471VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/08/27(月) 10:32:03.09mf/I91wDO (1/1)

レミィ側では無い……のか?

それにパチェさんが…成…熟?
構わん。続けてくれ。


472 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:27:46.61EkPzwhUs0 (1/18)

これから投下を開始します。


473 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:28:18.02EkPzwhUs0 (2/18)






――――7月25日 PM4:00








474 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:29:17.36EkPzwhUs0 (3/18)


ステイルとリトルは目的の魔道書の保管場所に向けて黙々と歩いている。

パチュリーの部屋を出てから今まで一度も会話をしていない。
出会ってからそれ程経っていないのだから、会話をする内容がないのだろう。
互いのことを何も知らないのだから当然のことと言える。

ステイルもそれ程気にもならなかったが、このまま会話がないのもあれなので、
先ほど自分が疑問に思ったことを目の前の少女にぶつけてみることにした。


ステイル「少し聞きたいことがあるのだが」

リトル「なんでしょう?」

ステイル「どうして君はこんなところで働いているんだい?」

リトル「そんなに不思議なことですか?」

ステイル「不思議も何も、この場所は多くの魔道書を保管している危険な区域だ」

ステイル「パチュリーは相当な実力者のようだからここを任されているのだろうけど、君はそれ程熟練した魔術師とは思えない」

リトル「そうですか? もしかしたら実力を隠しているのかも知れませんよ?」クスクス

ステイル「それはないな。 君からは魔術師特有の匂いを感じない」

ステイル「魔術師というのは術の力を上げるために色々薬品を使うことがあるからね」

ステイル「何より――――」





ステイル「君はまだ人を殺したことがないだろう?」

リトル「・・・・・・」




475 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:30:00.03EkPzwhUs0 (4/18)


『必要悪の教会』というのは魔術師に対抗するために作られた組織である。
『対抗』と言っても様々な方法があるが、基本的に荒事になることが殆どだ。
そのため、ここに所属する人間は一部の例外を除いて『殺し』の術を持っている。

ステイル自身、数こそ少ないものの人を殺したことはある。
それは仕事のためであったり、己の信念のためであったりと理由は様々であるが、
いずれにせよ彼は人一人の人生を自分の手で奪っているのだ。
『殺人』という行為は相応の覚悟を持たなければ出来るものではない。

しかし、目の前の少女からは魔術師が持っているべき覚悟が感じられないのだ。
『一部の例外』に入る人物なのかも知れないが、魔道書を隔離保管しているこの区域でそれはあり得ない。

魔術師でないとするならばそれ以外の、例えば聖人のような生まれついての体質が理由でここに配置されているとするのが妥当か。
だが聖人は世界で数十人しかいないほどの希有な存在だ。
このような薄暗いところで飼い殺しにしておくのは考えられない。

他に理由があるとすれば・・・・・・


ステイル「『悪魔憑き』・・・・・・か?」

リトル「・・・・・・」

ステイル「・・・・・・そうか」




476 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:30:46.75EkPzwhUs0 (5/18)


一般的な『悪魔憑き』というのは憑依の一種であり、悪霊または悪魔が人間に取り憑く現象のことを指す。
悪魔憑きの者は行動が凶暴になり、自身にとって邪魔な人物を滅ぼしたり呪いをかけたりなど、
本来ならば決して起こさないような行動を取る。
最終的には周囲との人間関係が破綻し、その本人は自殺などの破滅を迎えると言われる。
彼らの治療は『悪魔払い(エクソシズム)』の専門家によってなされるが、ここでは割愛しよう。

以上が一般に認知されている悪魔憑きであるが、魔術師にとってこの言葉はそれとはまた別の意味となる。
魔術師の世界における悪魔憑きとは『生まれながらにして異世界の法則を理解できる者』を指す。
つまり、特別な訓練を受けずとも魔道書を閲覧できる人々のことを言うのだ。

世界には、聖人ほど少なくはないが数百人の悪魔憑きがいると言われている。
だが、一般に認知されている悪魔憑きとは違い、見た目は正常な人間そのものであり、
聖人のような強靱な肉体を持っているわけではないため、魔術に関わらずに一生を終える者が多い。
しかし、強い魔力を浴びると肉体に変調をきたすため、魔術師にとっては判別は容易だ。

魔女狩りが盛んであった時代は、一般であれ魔術的であれ悪魔憑きの疑いがあるだけで処刑される事例が多々あったが、
現在においては『魔道書を扱える人材』として少数ながら組織に雇われている者がいるらしい。

だが、そうした人達は組織の底辺に位置されるのが殆どだ。
さらに内部からの迫害もあるため、聖人とは違いその存在自体が秘匿される。
今まで『必要悪の教会』の中で情報が広まっていなかったのもそれが原因であろう。




477 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:31:34.35EkPzwhUs0 (6/18)


ステイル「まさか、この目で見ることが出来るとはね」

リトル「軽蔑しますか?」

ステイル「してほしいのかい?」

リトル「え・・・・・・?」

ステイル「ここの仕事を任されているんだろう? 何故君を見下す必要がある?」

ステイル「君はここにいる資格がある。 それに関して僕がどうこう言う必要はないだろう」

リトル「・・・・・・変わった人ですね」

ステイル「自分の信念に基づいて行動しているだけさ」

ステイル「僕の進む道を邪魔しない限りは、僕は何もしないよ」


『仕事になったら話は変わるけどね』とステイルは最後に付け足した。



478 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:32:23.90EkPzwhUs0 (7/18)






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








479 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:33:40.30EkPzwhUs0 (8/18)


その後、何も会話することなく彼らは目的の書架に付いた。
目の前にあるのは頑丈な鉄の箱。箱の蓋には大きく『21』と刻まれている。
錠のような物は見あたらないが、おそらく魔術で錠が施されているのだろう。


ステイル「これがそうかい?」

リトル「はい、今からロックを外すので少し離れていてください」


リトルはそう言うと、懐から金属製の板を取り出した。
薄暗がりでよく見えないが、ルーンらしき文字がびっしり刻まれているのが見て取れる。
その板を箱の上にのせ、さらにその上に手を置くと、彼女は微かな声で呪文を唱え始めた。


リトル「――――」ボソボソ

ステイル(なかなか複雑な呪文だな。 保存されている物を考えれば当然のことかもしれないが)

ステイル(ヘブライ語、フェニキア語、アラム語の複合か・・・・・・? そんなめちゃくちゃな呪文を覚えられるとはね)


ステイルがそんなことを考えていると、突然『カシャン』と何かが砕けるような音が聞こえた。どうやら解錠が終わったらしい。
リトルは重そうな鉄の蓋を開けると中身の状態を確認し、一冊の古いメモ帳を丁寧に取り出した。

そのメモ帳は相当痛んでおり、あちこちに茶色いシミを作っている。一般人が見たら問答無用でゴミ箱に捨ててしまうだろう。
これの持ち主は相当ぞんざいな扱いをしていたのか、もしくは何度も手にとって眺めていたのか。

リトルは『ヴォルデンベルクの手記』を中身を流し読みしている。
『流し読み』と簡単に言うが、魔道書を相手にそれが出来るのは、彼女が悪魔憑きだからに他ならない。




480 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:34:32.40EkPzwhUs0 (9/18)


ステイル「どうだい?」

リトル「認識阻害の魔術が使われているみたいです。 レジストできないと中身が読めないですね」

ステイル「術式はどんなものかわかるかい?」

リトル「そこまでは・・・・・・でも、この魔道書独自のものである可能性があります」

ステイル「ふむ。 『最大主教』のところに戻って色々試してみよう」

ステイル「幸い、レジストに失敗しても危険は無いみたいだからね」


おそらく、この魔道書を一番知っているのはローラだろう。
これを所持していた魔術師のことも未だにはぐらかされたままだ。
さっさと戻って話を聞いてみるとしよう。




481 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:34:59.48EkPzwhUs0 (10/18)






――――7月25日 PM4:20








482 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:36:10.15EkPzwhUs0 (11/18)


ステイル「さて、教えてもらいますよ」

ローラ「そんなに慌てなくても教えるでありけるの」


部屋に戻ってきたステイルは開口一番で問い詰めた。
魔道書の方は施されている魔術の解除に時間がかかることが予想されたため、
それが終わるまでの時間にローラから話を聞くことにしたのである。

その作業にパチュリーが協力を申し出たのは意外だったが、
彼女であれば書物というものに興味を引かれるのは当然のことかもしれない。
それならばということで今は彼女に作業を任せており、ステイル自身はローラの話を聞いてから加わるつもりだ。

二人がかりで無理なら暗号解読班の人達に協力してもらう必要がある。
丁度シェリーがここにいることだし手間はかからないだろう。

ちなみにローラは戦力の内には入っていない。
おそらくめんどくさがるだろうし、彼女に貸しができたら何をされるか分からないからだ。


ローラ「ステイル、この魔道書に書かれているのは何かわかりけるかしら?」

ステイル「それを聞こうとしてあなたがはぐらかしたんでしょう?」

ローラ「そうだったかしら?」

ステイル「・・・・・・」

ローラ「まぁよい。 おぬし、この魔道書を見て何か疑問は沸きたるかしら?」

ステイル「疑問、ですか? それなら見る前からありますが」

ローラ「ほう?」




483 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:36:46.70EkPzwhUs0 (12/18)


ステイル「土御門の話では、魔道書の定義である『異世界の法則』が書かれていないどころか、魔術そのものすら書かれていないらしいこと」

ステイル「他者の閲覧を防ぐための方法が認識阻害というぬるい魔術であること等色々とね」

ステイル「ここまで来ると本当に魔道書なのか疑問ですね」

ローラ「その通り。 あれは魔道書として分類されているが、魔道書ではない」

ステイル「それはどういう・・・・・・」

ローラ「内容が内容でありけるから、魔道書扱いにして厳重に保管したるの」

ステイル「何故その必要が?」

ローラ「この本には『吸血鬼』のことが書かれておるからな」

ステイル「吸血鬼・・・・・・」


吸血鬼。魔術師の間では『カインの末裔』と称される血を啜る怪物。

不老不死であり、血を吸った人間を同じ吸血鬼にしてしまうと言われているが、真相は定かではない。
なぜなら、そこまで強力な存在であるにもかかわらず、今まで吸血鬼の存在が明確に確認されたことがないからだ。
言ってしまえば『未確認飛行物体(UFO)』や『未確認生物(UMA)』の類のものである。
そんなものであるから、オカルトを扱う魔術師にとってもオカルトじみた存在だ。

実はステイルは吸血鬼が関係した事件を追ったことがある。1年前の三沢塾の一件がそれだ。
その事件の中心人物に『吸血殺し(ディープブラッド)』と呼ばれる力を持つ少女がいた。
なんでも、『吸血鬼を呼び寄せて自分の血を吸った吸血鬼を灰にする力』らしいが、その力を見ることは叶わなかった。

そもそも、それを阻止することが目的だったのだから当然のことではあるが。




484 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:38:02.84EkPzwhUs0 (13/18)


ステイル「とすると、その魔術師達というのは吸血鬼の研究をしていたのですか?」

ローラ「うむ」

ステイル(まさか、あれを大まじめに研究している人がいるとはね)

ローラ「本当ならば荒唐無稽な研究として無視しているはずのものだったのだがな」

ローラ「『吸血殺し』は知っておろう?」

ステイル「当然ですよ。 当事者だったんですから」

ローラ「あの力は吸血鬼を殺すもの。 もし本当にそのような力が在りしことになりけるなら、逆説的に吸血鬼の存在が証明されたることになる」

ローラ「存在せざるものを殺すことはできぬことでありけるの」

ステイル「だから万が一、吸血鬼と魔術師が接触することがないように私が派遣された」

ローラ「こちらで保護せざれなかったのは残念なりしことではあるが、『吸血殺し』の封印は果たすことができた」

ローラ「これで仮に吸血鬼が存したりことにしても、呼び寄せられて他の魔術師の目に付くことはなかろう」

ステイル「ええ。 インデックスが渡したケルト十字架は、簡易的な『歩く教会』ですからね」

ステイル「自分から外したり、故意に破壊されない限りは大丈夫でしょう」


ケルトの十字架は少女の力を封印することに成功した。
その結果、少女は今まで通っていた学舎を去ることになったのだが、彼女にとってはそれで良かったのだろう。




485 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:39:03.67EkPzwhUs0 (14/18)


ローラ「とりあえずこの話は終えるとして、本題に入りにけるかの」

ローラ「ここでの問題は、今まで完全に絵空事と伝えられし吸血鬼が、『存在するかもしれない』という域にまでになりけりたること」

ローラ「研究したる魔術師一族が吸血鬼の力を得にしこととなれば、十字教全体を揺るがす大事となる」

ローラ「その可能性が出てきた以上、見過ごすわけにはいかなかったでありけるの」

ステイル(魔力は術者の生命力に比例する)

ステイル(つまり、不老不死になることは無尽蔵に魔力を生成できるようになることと同義だ)

ステイル(無限の魔力を持つ魔術師が現れるとなれば、当然の行動か・・・・・・)

ローラ「幸い、奴等があの魔道書を使って研究をしたることは把握していたるからの」

ローラ「研究内容を含めてこちらに提出するように持ちかけたるのだがな・・・・・・」

ステイル「素直に言うことを聞かなかったと」

ローラ「500年近くに及ぶ研究成果を他人に見せたくなかったのであろうな」

ローラ「いずれにせよ私は彼らを『異端者』とし、魔道書を回収せんとしたのだが、想定外の事態が発生してのう」

ステイル「魔術師の抵抗が予想以上だった?」

ローラ「それならまだ良かった。 なぜなら――――」




486 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:39:30.94EkPzwhUs0 (15/18)






――――7月26日 AM10:00








487 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:40:47.73EkPzwhUs0 (16/18)


土御門「・・・・・・俄に信じられないな」

ステイル『それは僕も同じだよ』


電話越しに二人はそう言いあった。

その顔に見えるのは危機感。
『最大主教』が言ったことが事実ならば、そして『それ』が魔術師達に認知されたら、
世界中の魔術組織が学園都市に殺到することになる。
もし『それ』を手に入れることができれば、一気に魔術サイドの覇権を握れるかもしれないのだ。
そうなれば魔術サイド内で、『それ』を巡った血で血を洗う抗争が繰り広げられることになる。

現在の魔術と科学の膠着は、自分自身の戦力の回復に専念する結果で成り立っている。
いま魔術サイドで戦争が起これば、戦力の回復が遅れて科学サイドに大きな隙を晒すことになりかねない。

それだけではない。学園都市にはインデックスがいる。世界中の魔術組織が、彼女をみすみす見逃すはずがない。
いくら上条当麻でも、一人では複数の敵を相手に彼女を守りきることはできない。


土御門「『最大主教』は何と言っている?」

ステイル「こちらからは一人派遣するそうだ。 今日の夜にでもそっちに着く」




488 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:41:40.63EkPzwhUs0 (17/18)


土御門「一人? いくら何でも少なすぎるだろう。 最低でも三人は送ってくれると思ってたんだが?」

ステイル「確かに複数人いれば足止めしながら攻略できるだろうが、生憎こちらも人手不足だ。 
重要な箇所の守りを緩めるわけにもいかないだろう」

ステイル「『最大主教』の権限で無理矢理集めることはできるかもしれないが、そんなことをしたら王室派や騎士派が黙っていない」

土御門「・・・・・・仕方ない、人員はこちらで集める」

ステイル「必要はないと思うがね。 どうやら『そいつ』はまだ完全じゃないみたいだし」

ステイル「そもそも完全だったらこの程度の騒ぎじゃ済まないんだけどね」

土御門「・・・・・・海原あたりに声をかければいいかにゃ~」

ステイル「後はよろしく頼む」


その言葉を最後に、ステイルと土御門の会話は終わった。
魔術による通話なので、電話の通話終了音は聞こえてこない。

外では遠くから街の喧噪が響いてきている。本格的に1日が始まったようだ。

自室で土御門はただ一人、


土御門「にしても、カミやんにどう説明しようか」

土御門「どうしてこうも立て続けに面倒事が起こるんだろうにゃ~・・・・・・」


と、ぼやいた。




489 ◆jPpg5.obl62012/09/02(日) 20:51:09.92EkPzwhUs0 (18/18)

今日はここまで。

そろそろ半年ですね。ここまででスレの半分を消費したということは大体一年で1スレ消費ということでしょうか。

実のところ、書き溜めしてある文章量で言えば半分も進んでいないという現実。
完結するのは何時になることやら・・・・・・

まだ手は付けてないけど、この後に妖々夢編と永夜抄編も書くつもりなんだぞ?こんなペースで大丈夫か?
妄想ばかり膨らんでも全く文章に書き起こせない。どうしてこうなった。

霊夢さんが学園都市にやってくる再構成の話とかすごく書いてみたい。


質問・感想があればどうぞ。


490VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/02(日) 20:54:39.33V4Qh3fQIO (1/1)


そういやスレ立てから半年か…
ゆっくりでもいいので頑張って頂ければと


491VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/03(月) 02:39:28.43C6Q9i0FDO (1/1)

乙!
ようやく話が大きく動き出すのかな?

一人の応援者ってのは…、
紅魔で、魔術で、解決側なら…やっぱり彼女なんだろうか?


492 ◆jPpg5.obl62012/09/09(日) 23:47:18.78Xh4CHKiB0 (1/12)

これから投下を開始します。


493 ◆jPpg5.obl62012/09/09(日) 23:47:52.09Xh4CHKiB0 (2/12)






――――7月26日 AM10:30








494 ◆jPpg5.obl62012/09/09(日) 23:48:47.74Xh4CHKiB0 (3/12)


上条「お~い、そろそろ行くぞ~」

禁書「もうちょっと待つんだよ!」ゴソゴソ


当麻とインデックスは出かける準備をしていた。
今日は補習のお誘いが来なかったので、こうして二人で外を出歩くことがことができる。

どうして出かけるのかと言われれば、冷蔵庫の中身の補充だとか、壊れた携帯電話の修理だとか色々あるが、
一番の目的は昨日出会ったフランドール及びその姉の様子の確認である。

そうはいっても少しだけ彼女の家に立ち寄るだけだ。さすがに昨日の今日でいきなりお邪魔しては失礼であろう。


上条(でもフランなら気にしないような気もするけどな)

禁書「~♪」

上条(それにしても、何でこんなに嬉しそうにしているんだ?)


それはここ最近当麻が補習に付きっきりなおかげで、余り一緒に出歩くことがなかったからである。
昨日にしても、途中で第三者(御坂美琴)の乱入があったために、満足することができなかったのだ。




495 ◆jPpg5.obl62012/09/09(日) 23:49:18.77Xh4CHKiB0 (4/12)


上条「えーと、フランに家の住所どこだっけ?」

禁書「第14学区の●●地区××番地だよ」

上条「ケータイ、ケータイっと・・・・・・」

禁書「何に使うの?」

上条「端末を使ってフランの家を特定するのさ。 道順は・・・・・・」

禁書「そういえばどうまのけーたいっていつ変えたの?」

上条「昨日の朝に味噌汁ぶちまけちまって故障した。 これは予備だ」

禁書「とうま、『また』けーたいを壊したんだね」

上条「俺だって壊したくて壊した訳じゃねぇよ・・・・・・」シクシク

上条(できれば今日中にケータイを修理したいところだけど・・・・・・)


当麻の携帯電話は味噌汁を被ったままなので、普段は使っていないスペアを使うことになっている。
一応友人達にはスペアの携帯電話の電話番号を教えてはいるが、なるべく早く修理したいところだ。




496 ◆jPpg5.obl62012/09/09(日) 23:50:14.93Xh4CHKiB0 (5/12)


ところでインデックスが学園都市に来てから早一年が経つが、どうやら彼女は携帯電話を自由に使いこなせるようにはなったようで、
最近は『打ち止め(ラストオーダー)』と頻繁にやりとりをしている。

彼女は元々学園都市外部の人間であり、魔術サイド側の人間でもあるため、学園都市の学校に通うことはできない。
学園都市の超能力開発を受けてしまうと魔術が使えなくなってしまうためだ。
彼女自身は魔術を使うことは出来ないのだが、肉体に刻まれている『自動書記』や、
彼女の様子をイギリス清教に伝える術式などに何らかの悪影響が出ないとも限らないのである。

学校に通うことの出来ない彼女は『学友』というものが作れない。
その結果、学生が大半を占める学園都市では自然と孤立してしまうことになる。

確かにステイルや神裂、風斬氷華という知り合いはいるが、前者の二人は海外で仕事、
後者は滅多に会うことは出来ず、しかも今は行方不明の状態であるため、もっぱら彼女は当麻と一緒に行動していた。

だが、当麻が一方通行と接点を持つようになったことで、彼の家族である打ち止めや『番外個体(ミサカワースト)』、
その保護者である黄泉川愛穂や芳川桔梗と知り合った。
今ではたまに家に遊びに行ったり、遊びに来たりする仲にまでなっている。


上条(でも、頻繁に電話をかけるのはいかがなものかと思うのですよ)

上条(このままだと上条さん、インデックスの将来が心配です)

上条(・・・・・・何ジジくさいこと考えてんだ俺)

禁書「あ、とうま、何か出たよ」

上条「ん、何々・・・・・・?」




497 ◆jPpg5.obl62012/09/09(日) 23:51:58.85Xh4CHKiB0 (6/12)



当麻は画面に表示された文面を読み取る。
どうやらフランの家に着くまでにかかる時間はおおよそ3時間強。途中で休憩することも考えると、もう少し時間がかかるだろう。
道中で昼食を取ってから向かったほうがいいかもしれない。


上条「41分のバスに乗ればいいかな。 インデックス、準備はできたか?」

禁書「できたよ!」

上条「ならばよし! それじゃあ、未知なる世界へ向けて出発だ!」

禁書「レッツ・ゴーなんだよ!」


目指す先は第14学区西欧圏。
あの場所は海外からの留学生が居を構えている区画であるため、当麻は一度も立ち入ったことがない。
記憶を失う前は定かではないが、おそらく行ったことはあるまい。

海外の文化が密集する地区に期待を膨らませながら、二人は意気揚々と部屋の外に踏み出した。


姫神「上条君。」

上条「おっと・・・・・・?」


が、いきなり姫神秋沙と遭遇した。
意外な人物との遭遇に、当麻は驚きの声を上げる。




498 ◆jPpg5.obl62012/09/09(日) 23:52:59.41Xh4CHKiB0 (7/12)


上条「ど、どうしたんだ姫神、何か用か?」

姫神「うん。 上条君に用があるの。」

上条「え?」

禁書「・・・・・・」


姫神が何かの用事で当麻の部屋に来るのは非常に珍しい。
学校ではそこそこ会話することがあるが、こうして寮の中で会話することはほぼ皆無と言っていい。
当麻自身も(色々不幸が起こるので)女性に部屋にお邪魔する勇気はないし、彼女の方も特に何もないようなので、当然のことだろう。

・・・・・・というのは当麻の勘違いであり、姫神は何度も当麻の部屋を訪問しようとしているのだが、
恥ずかしくて後一歩を踏み出せないでいるだけである。

そのおかげでいろいろなライバルに先を越されているようであるが。


姫神「ねぇ。 昨日変なこと無かった?」

上条「変なことって・・・・・・どうしていきなり?」

姫神「答えて。」ズイッ

上条「う・・・・・・」

上条(まいったな・・・・・・。 まさか魔術師がやって来てるかもしれないなんて言えるわけないし)


何故彼女がここまで真剣な顔をしているかは分からない。
でも本当のことを喋れば姫神を魔術サイドのいざこざに巻き込むかもしれない。
彼女も魔術とは無関係とは言えないのだが、実質一般人と同じようなものだ。

返答に窮した当麻は・・・・・・




499 ◆jPpg5.obl62012/09/09(日) 23:53:50.01Xh4CHKiB0 (8/12)


禁書「何もないんだよ」

上条「インデックス?」

禁書「とうまはこれから私と一緒にお出かけするんだよ。 だからこの話はこれでおしまい!」

姫神「・・・・・・私は上条君に聞いているの。 話の腰を折らないで。」キッ

禁書「私ととうまは急いでいるんだよ。 だからお話はまた今度にして欲しいな」ジロッ

姫神「・・・・・・」ゴゴゴゴ

禁書「・・・・・・」ゴゴゴゴ

上条「あの・・・・・・お二人さん?」


インデックスが助け船を出したかと思われたが、かえって状況が悪くなっている。
二人の間に視線の火花が散っているのを幻視できそうだ。
状況が掴めない当麻はその場であたふたするばかりである。

このまま上条争奪戦が始まるかと思われたが・・・・・・


姫神「・・・・・・ふぅ。 インデックス。 あなたは勘違いしている。」


姫神は自分から怒りの矛先を納めた。




500 ◆jPpg5.obl62012/09/09(日) 23:54:55.38Xh4CHKiB0 (9/12)


姫神「私には。 今すぐ聞かなくちゃならないことがあるの。」

禁書「・・・・・・例えば? 」

姫神「私の力に関することだとしても?」

禁書「え・・・・・・」

上条「・・・・・・何だって?」

姫神「上条君。 私の力がどんなものか知ってるよね?」

上条「ああ、『吸血殺し』だろ? 自分の血を吸った吸血鬼を灰に還すっていう・・・・・・」


『吸血殺し』。
姫神秋沙がもつ『吸血鬼を引き寄せ、死に至らしめる能力』。かつてはその力を巡って錬金術師と激突したこともある。
その効果を実際に見たことがあるのは姫神本人だけであり、本当にそのような能力なのかは定かではないが、
それでも魔術師が手を出そうとするには十分な代物である。
もしその力が本物であるのなら、幻とも思われている吸血鬼に会うことが出来るのだから。


姫神「そう。 それが私の力。 でもこの力には副産物のようなものがある。」

上条「副産物?」

姫神「血液のことに詳しくなったり。 血の匂いに敏感になるの。」

上条「へぇ~、そうなのか」

姫神「ここまでは蛇足。 本題はここから。」




501 ◆jPpg5.obl62012/09/09(日) 23:55:23.71Xh4CHKiB0 (10/12)


姫神「昨日。 ものすごく強烈な血の匂いが街の方角から流れ込んできた。」

姫神「あれだけ強い血の匂いを感じ取ったのは10年ぶり。」

上条「何でそんな?」

姫神「わからない。 学園都市に来てから何度か濃い血の匂いを感じ取ったことはある。」

姫神「でも。 あそこまでの匂いを嗅いだことはなかった。」

姫神「あれはもう。 人間が出せるようなものじゃない。 もっと根本的に違うもの。」

上条「じゃあ一体・・・・・・」

姫神「・・・・・・吸血鬼。」

禁書「え?」

姫神「あれは吸血鬼の匂い。 吸血鬼の肉体から漏れ出している鮮血の香り。」

禁書「ちょ、ちょっと待つんだよ! いきなりそんな・・・・・・」

姫神「これは間違いないこと。 私は10年前。 故郷で実際にその匂いを嗅いだのだから。」

禁書「本当に会ったことがあるの?」

姫神「うん。」

上条「・・・・・・」




502 ◆jPpg5.obl62012/09/09(日) 23:56:50.85Xh4CHKiB0 (11/12)



姫神が自分の能力を自覚することになった10年前の事件。
彼女からは直接語られていないために、その事件のことを詳しく知っている訳ではないが、
彼女の表情からは本当にその事件があったのではないのかと思えるほどの憂いを感じることが出来た。


姫神「もう一度上条君に聞く。 昨日何か変なことなかった?」

上条「・・・・・・ああ、あったよ」

禁書「とうま!」

上条「インデックス、昨日の話覚えてるか?」

禁書「どうしたのいきなり」

上条「あの話に出てきた魔道書、確か吸血鬼のことが書かれてるって言ってたよな?」

禁書「確かにそうだけど、でも・・・・・・」

上条「今の俺達には情報が圧倒的に少ない。 僅かでも手がかりになるのなら、それを逃す手はない」

上条「それに、姫神の話・・・・・・何か関係があると思うんだ」

禁書「・・・・・・わかったんだよ」


今回侵入してきている魔術師に関係があるであろう、吸血鬼の生態を記した『ヴォルデンベルクの手記』と呼ばれる書物。
そして魔術師の存在の発覚と同時に、姫神は吸血鬼の気配を感知した。
この二つの事柄に何らかの因果関係を見出そうとしてしまうのは、ある意味必然とも言える。




503 ◆jPpg5.obl62012/09/09(日) 23:57:27.70Xh4CHKiB0 (12/12)


姫神(私は。 上条君に質問に来ただけのつもりだったのだけど。)

姫神(私の想像以上に。 危ないことになってるみたい。)

上条「姫神、俺達も用事があるし、良かったら一緒に来るか?」

上条「それなら道中で説明できるし」

姫神「わかった。」


姫神が感じたという吸血鬼の気配。
そして学園都市に侵入した魔術師に関係があると思われる、吸血鬼の情報を記した魔道書。
何となくではあるが、この二つにはつながりがあるように思えた。


禁書「はぁ・・・・・・」

上条「分かってるさインデックス。 姫神が必要以上に関わらないようにするから」

禁書(当麻は何も分かってないかも)


インデックスが溜息をついたのは別の理由からなのだが、当麻はそれに気づくことはない。
相変わらず女心には鈍い男である。




504 ◆jPpg5.obl62012/09/10(月) 00:04:55.12U/ZE8N4K0 (1/1)

今日はここまで。

姫神さんが登場。まぁ吸血鬼と言ったらこの人は外せませんよね。

質問・感想があればどうぞ。


505VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/10(月) 15:35:15.09uYGFGfDDO (1/1)

吸血鬼消されてまうん?


506VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/11(火) 06:32:07.34Fy7rzZlDO (1/1)

今更だけど、一瞬だけでも強い能力使えて良かったね。佐天さん!


507VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/12(水) 10:01:42.412tJKKFwj0 (1/1)

魔術師の言う悪魔憑きとやらが嫌われてるのには、僻みだとかも含まれていそうだな。


508 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 17:58:49.784MF8VVK20 (1/28)

これから投下を開始します。


509 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 17:59:31.264MF8VVK20 (2/28)






――――7月26日 AM10:50








510 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:00:21.984MF8VVK20 (3/28)


~~♪ ~~~~♪


黒子「はい、こちら白井ですわ」

初春『初春です。 白井さん、今回の事件の情報が来ましたよ!』

美琴「来たみたいね」


冥土帰しの病院の屋上。黒子と美琴は佐天が最後の身体検査を受けている間、初春からの連絡を待っていた。
待っていた連絡とは、風紀委員支部に届いているであろう今回の佐天が襲われた事件の情報だ。

今回の事件は初めて犯人の姿を確認できた案件である。当然『警備員』はその情報を纏めるために奔走しているだろうし、
『風紀委員』の方にも『警備員』から何らかの指示が通達されているかもしれなかった。
初春は佐天の見舞いを終えた後に速やかに支部へ向かい、事件の情報を整理した上で二人に連絡をしてきたのである。


黒子「それで、どんな情報ですの?」

初春『最初に佐天さんが発見した人のことなんですけど、被害者はその近辺を根城にしているスキルアウトの女性ですね』

初春『現在は目を覚まして佐天さんとは別の病院で治療を受けています。 後遺症とかもないみたいですね』




511 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:01:20.934MF8VVK20 (4/28)


黒子「治療を受けていると言うことは、やはり血を抜き取られていたんですの?」

初春『そうですね。 搬送されたときは若干血圧が低下していたようですし』

初春『首筋にも刺し傷が付いてたそうなので間違いないと思います』

美琴(それにしても被害者の血が抜き取られている・・・・・・か。 まさか・・・・・・)

美琴「ちょっと黒子」

黒子「何ですのお姉様?」

美琴「佐天さんも言ってたけど、血が抜き取られてるって何よ。 そんな話初耳なんだけど?」

黒子「お姉様には伝えていませんでしたわね。 本来ならば一般人に教えるような内容ではありませんし」

美琴「・・・・・・教えなさい」ガシッ

黒子「お、お姉様? そんなに必死になられてどうしたんですの?」

美琴「いいから早くしなさい!」

黒子「わ、分かりましたから落ち着いてくださいまし! これでは話せませんわ!」

美琴「・・・・・・ごめん」




512 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:02:32.834MF8VVK20 (5/28)


美琴の脳裏に苦い記憶が蘇る。
『絶対能力進化』のために生み出された自分のクローン体である『妹達』。
彼女達を生むために必要なDNAマップを提供したのは、他ならぬ自分だ。

もちろん美琴自身は実験に協力する意志があったわけではない。
そもそも難病である筋ジストロフィーの治療な為にと称して、DNAマップを提供する案を持ち込まれたのである。
だいぶ幼い頃のことであったし、他人のことを疑うことなど無かった時期だ。
善意でその案に同意してしまったのも無理もない話である。

だが、その結果2万人に及ぶ自身のクローンが生み出され、その半数近くが実験の犠牲になったのは否定しようのない事実だ。

もしも、採取された血液を使ってクローンが作られていたら・・・・・・
そしてクローンを使ってあのような実験が行われていたら、あの悪夢がまた再来することになる。


美琴(あんなこと・・・・・・絶対に繰り返させたりなんかしないんだから!)

初春『白井さん? 何かありましたか?』

黒子「え? あぁ、何でもありませんわ」

初春『そうですか?』

黒子「初春、固法先輩に変わっていいただけません?」

初春『わかりました。 固法先輩、白井さんが替わって欲しいそうです』




513 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:03:21.764MF8VVK20 (6/28)


黒子としてはこれ以上美琴を事件に関わらせたくはない。
だが、正義感が人一倍強い美琴を説得できるとは到底思えない。
ならば事件の情報を教えるべきか?しかしそれを自分が決めてしまっても良いのだろうか。

彼女自身、自分の判断だけで行動をするようなことは度々あるが、
それは独断専行による責任を全て自分が引き受けるという覚悟があるからである。
しかし今回は自分の決定が他の人間に影響を与える場面だ。そのような重大な決断まで自分勝手にすることはよろしくない。
せめて自分の上司である固法に話を通した方が賢明である。


固法『はい、固法よ。 何かしら?』

黒子「実はお姉様が『連続通り魔事件』の情報を詳しく教えて欲しいと・・・・・・」

固法『あら? どうして御坂さんが?』

黒子「それは分かりませんわ。 でも、かなり深刻な顔をしておりましたし・・・・・・」

固法『何か心当たりでもあるのかしら?』

黒子「それは分かりませんわ。 問い質しても、たぶん教えてはくれませんでしょうし・・・・・・」

固法『そう・・・・・・』

黒子「それで、お姉様にこの事件の詳細を教えてよいものかと相談を・・・・・・』

固法『いいんじゃない?』

黒子「え?」




514 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:04:22.234MF8VVK20 (7/28)


固法『御坂さんはかなり頑固だし、教えなくても自分から事件に突っ込んでいきそうだし』

黒子「・・・・・・否定はできませんわね」

固法『それなら事件に協力してもらった方がこちらで手綱を握れるでしょう?』

黒子「たしかに・・・・・・」


自分勝手な行動を起こされるよりは、自分たちの目の届く範囲においた方が何かと安心だ。
何かあった時にすぐ連絡が取れるし、一緒に行動を起こす時も色々と都合が良い。
問題としては荒事になった時に巻き込まれるかもしれないという所だが、美琴の場合はその心配はないだろう。


固法『だから、あなたの口から事件の詳細を話しなさい。 何かあったら私が責任を持つから』

黒子「・・・・・・わかりましたわ」

固法『お願いね。 それじゃあ初春さんに電話戻すわ』

黒子「了解ですわ」

黒子(それにしても、結局こうなるんですのね)


初春に電話が替わる間、黒子は心中で大きな溜息をついた。
こうも簡単に一般人を『風紀委員』の仕事に参加させては、もはや規律も何もないような気がする。

まぁ、一年前の時点で既にこんな状態なのだから、今更何を言っても手遅れなのだが。




515 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:05:22.234MF8VVK20 (8/28)


美琴「それで、固法さんはどう言ってたの?」

黒子「この事件に協力することを許可してくれましたわ」

美琴「そう・・・・・・」

黒子「その代わり、あまり無茶な行動は慎んでくださいまし」 

黒子「と・く・に、自分勝手に行動するのは禁止でございますわ」

美琴「わかってるわよ」

黒子「そうだと良いのですがね・・・・・・初春?」

初春『はい』

黒子「それで、他の情報のことなのですが・・・・・・」

美琴「黒子、その話の続きは支部の方に行ってから聴きましょ」

黒子「お姉様?」

美琴「佐天さんの診察もそろそろ終わるだろうし、準備ができ次第そっちに行く」




516 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:06:13.074MF8VVK20 (9/28)


黒子「・・・・・・仕方がありませんわね。 初春?」

初春『何ですか?』

黒子「佐天さんが退院できたらそちらに行きますわ」

初春『え? でも白井さんは今日は非番じゃあ・・・・・・』

黒子「本当はいけないことですけど、遊びに街に出てきたついでということにしておきましょう」

黒子「それに、そちらで直接情報を聞いた方が色々と都合がよいでしょうから」

初春『わかりました。 固法先輩にそう言っておきます』

黒子「お願いしますですの」ピッ

美琴「それじゃあとりあえず、あまり時間がないけど佐天さんの診察が終わるまで事件のことを粗方教えなさい」

美琴「現状を知らないことにはどうしようもないからね」

黒子「わかりましたわ、お姉様。 それでは最初の事件から・・・・・・」




517 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:07:40.974MF8VVK20 (10/28)






――――7月26日 AM11:45








518 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:08:58.464MF8VVK20 (11/28)


上条(なんだ、この状況・・・・・・)


現在、上条当麻一行はとあるレストランにいる。
何故かと言えば、それはもちろん食事をするためだ。

第14学区で海外の文化料理を食べるのも良かったが、結局インデックスが我慢できなかったので、
こうして近場で済ませているという訳である。
全くもって、彼女の胃袋には困ったものだ。もう少し燃費を良くすることはできないのだろうかと思う。
それに、ここで食べたとしてもお昼を過ぎれば第14学区の方で食べ歩きすることになるであろうということは目に見えていた。
果たして自分の財布の中にはいくら入っていたか。もし必要であれば、この後に銀行でお金を下ろさなければならなくなる。


上条(いや、そんなことはどうでも良いんだ。 重要なことじゃない)


インデックスによって財布の中が壊滅的な打撃を受けることは、彼女と一緒に外出すると決定した時点で確定していることだ。
それを予想して多めの金額を財布の中に入れているが、正直に言って今回、
インデックスがどのくらいの金額を食べることになるのかは予想が付かない。
第14学区には、他での学区では食べられないような面白い料理が所狭しと並んでいるだろう。
それを前にしてこの『白い暴食獣』がどんな行動を取るのか?まぁ、それは最初から考えるまでもないことだが。

さて、上記のように自分たちがレストランにいること自体は何ら不思議なことではない。
だが、上条当麻は今の状況に酷く困惑していた。それは何故か?




519 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:10:42.944MF8VVK20 (12/28)


打ち止め「わぁ、このイチゴすっごく美味しいよってミサカはミサカは!」

一方通行「オイ、クソガキ。 飯食ってるときは静かにしろォ」

打ち止め「むー」

一方通行「ったく、落ち着いてコーヒーも飲ませてくれやしねェ」ズズー

姫神「このサラダのドレッシング。 なかなかいける味。」

禁書「」ガツガツ


打ち止め、一方通行。
この二人が自分たちと一緒に昼食を食べているということである。

インデックスと姫神は食べることに夢中になっており、この状況を戸惑っているのは当麻だけだ。
一方通行に至っては、打ち止めの兄と見間違えんばかりの保護者っぷりを見せつけている。

ぶつくさ言いながらも、打ち止めの口に付いた生クリームを拭き取ってあげている様はまさしく『優しいお兄さん』。
その野獣のような顔でなければ、尚良かっただろうに。


上条(これが『あの』一方通行か? だいぶ前から性格が丸くなったとは思ってたけど)

上条(人も変わろうと思えば変われるんだな)

一方通行「オイ、三下ァ。 なァにジロジロ見てるンですかァ?」

上条「あ、すいません・・・・・・じゃなくて!」

一方通行「あァ?」

上条「一方通行! 何でお前がここにいるんだよ!」ビシィ!




520 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:11:42.764MF8VVK20 (13/28)


一方通行「なンでって、飯食いに来たからに決まってンだろォが」

上条「お前ってそんなキャラだっけ?」

一方通行「俺だって好きで来てる訳じゃねェっての」

打ち止め「私がお願いしたんだよってミサカはミサカはヒーローさんに教えてみる!」

一方通行「チッ、こっちは色々やることがあるのによォ・・・・・・あ、ウェイトレスさン、コーヒーのブラック追加で」

店員「はい、畏まりました」

上条(一方通行も苦労してるんだな・・・・・・)

一方通行「ンでだ。 俺達がここを通りかかったのをお前が連れてるガキが発見して、なし崩しにこンな状況になっちまったわけだ」

上条「ああ、そうでござんしたね・・・・・・」

一方通行「ただでさえクソガキのお守りに手ェ焼いてンのに、これ以上面倒を増やすなっつゥの」

上条「それって上条さんのせいでせうか?」

一方通行「お前じゃなかったら誰なンだよ」

上条(ふ、不幸だ・・・・・・)


謂われのない批判を浴びせられて上条はがっくり肩を付く。
もちろんそのことを気にするような人物はここにはいないが。




521 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:13:14.764MF8VVK20 (14/28)


店員「コーヒーのブラック、お持ちしました」

一方通行「どォも」

禁書「そういえば、大きい短髪は一緒じゃないんだね」

一方通行「番外個体のことかァ? アイツならバイトに行ってる」ズズー

上条「バイト?」

一方通行「芳川が社会勉強にってなァ。 アイツは打ち止めと違って肉体は成熟しているンだ」

一方通行「他の『妹達(シスターズ)』の連中は仕事してンのにアイツだけニートなのは不味いだろ」

上条「へぇ、心配してるのか?」

一方通行「・・・・・・ちげェよ。 ニートを二人も抱え込むほど余裕がねェだけだ」

上条「ハハハ、ご冗談を」


学生に支給される奨学金は、能力のレベルによって上下する。
学園都市の第一位ともなれば、世の中のサラリーマンが泡を吹いて卒倒するような金額が毎月転がり込んでくるのだ。

そんな男が金に困るなんてことはあり得ない。おそらく照れ隠しだろう。




522 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:15:00.614MF8VVK20 (15/28)


一方通行「つゥか、仕事をしなきゃならねェのは芳川の方だろォが・・・・・・」ブツブツ

一方通行「番外個体に職を紹介できンなら、自分がまずその仕事に就けっつゥの」ブツブツ

上条「でも、良くバイトに付くことが出来たな。 身分証明とかはどうしたんだ?」

一方通行「その心配はいらねェ。 冥土返しも協力して探してくれたみたいだからなァ」

一方通行「大方、冥土返しに縁のある研究所とかじゃねェの?」

上条「そうか。 なら安心だな」


番外個体も御坂妹と同じく御坂美琴のクローンだ。
下手なことをすれば、心ない研究者達の目にとまって実験道具にされる可能性もある。

だが、冥土返しが関わっているとなれば心配は要らないだろう。
そんな素振りは見せないが、彼は学園都市の中でも相当な権力を持っている。
それこそ、前統轄理事長に意見を言えるくらいの身分はあるのだ。


打ち止め「それにしてもあなた、またお肉しか注文しなかったんだねって、ミサカはミサカはあなたの偏食を指摘してみたり」

一方通行「黙ってろクソガキ。 これは俺の原動力なンだよ」

打ち止め「でも、ちゃんと野菜を取らないと体に悪いよってミサカはミサカはあなたの健康を心配してみる!」

一方通行「俺は今まで病気らしい病気にかかったことはねェンだ」

上条「もう通常の状態が既に病人みたいなんだが・・・・・・」

一方通行「うるせェ。 それに体の調子が悪くなっても血流なりなンなり操作すればどうにでもなるしな」

上条「何という能力の無駄遣い・・・・・・」




523 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:15:43.474MF8VVK20 (16/28)


一方通行「有効活用だろォが。 使えるときに使わないでどォすンだよ」

上条「いや、だってお前、明らかにチョーカーの電池の無駄遣いだろ」

一方通行「それは大丈夫だァ。 ここに歩く充電器があるからなァ」

打ち止め「ひどい! そんな風に見てたのってミサカはミサカは憤慨してみる!」

一方通行「オマエのためにこっちは色々苦労してンだ。 少しは役にt」バタン

打ち止め「ふーんだ!」

一方通行「」ガタガタ


演算補助を切られた一方通行は机に突っ伏して激しく痙攣を始めた。
今の彼の頭の中は、さぞグロッキーな状態になっていることだろう。
こうなってしまっては、もはや自分の足で歩くことも、喋ることも、考えることすら出来なくなってしまう。
ある意味、打ち止めの尻に敷かれている状態と言える。

今回に限っては彼の自業自得なのだが。




524 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:17:46.484MF8VVK20 (17/28)


上条「これは一方通行が悪い。 女の子の気持ちは尊重しないとな」

禁書・姫神(お前が言うな!)


そして、人のことを言えない当麻にインデックスと姫神は心の中で盛大なツッコミを入れた。
だが、その思いが彼の心に届くことはない。この男の女心に対する鈍さは学園都市の医療技術でも治療不可能な域にある。
冥土返しであっても彼を更生するのは不可能だ。

しかし、このまま放置したら彼の行き着く先は鮮血の結末だけだ。むしろもっと酷いことになるかもしれない。
彼を狙う女性は学園都市内外を合わせて膨大な人数に膨れあがっているだろう。
それら全員に度を超した愛を向けられては、いくら彼でも無事では済むまい。


上条「そう言えばさ、最近どうなんだ?」

打ち止め「え?」

上条「一方通行のこと。 元気にやってるのか?」

打ち止め「・・・・・・最近は仕事が忙しくてあまり相手してくれないんだよって、ミサカはミサカは悩みを打ち明けてみる」

上条「仕事、ねぇ・・・・・・」

打ち止め「夜遅く帰ってくるし、聞いても何も教えてくれないし・・・・・・」

打ち止め「また私の知らないところで傷ついてるんじゃないかって・・・・・・」

上条「・・・・・・」




525 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:20:49.974MF8VVK20 (18/28)


一方通行が今、どのような仕事をしているのかは詳しく知らない。
親船統括理事長の下で何かをしているとは聞いているが、未だによく分からない。
土御門に聞いたりもしたが、上手くごまかされて結局話してもらえなかった。

だが一つだけわかることは、土御門と一方通行は未だに危険な仕事を請け負っているということである。

彼らが自分たちに事情を話さないのは、自分の戦場に『守るべき人達』を関わらせないためだ。
例えそれで『守るべき人達』の心に不安の種を巻いてしまったとしても、彼らは真実を語ろうとはしないだろう。

ならば、残された人達にできることは――――


上条「待っててあげればいいんじゃないか?」

打ち止め「・・・・・・?」

上条「話そうとしないのは君を危険から遠ざけるためだと思う」

上条「こいつは面と向かって『君を守るためだ』なんて言えるような奴じゃないし」

上条「だからさ、こいつが帰ってきたら精一杯の笑顔で迎えてあげるのが一番いいと思う」

上条「たぶん、それがこいつにとっての最高の安らぎだ」

打ち止め「・・・・・・うん」


当麻は自分が思ったことをそのまま打ち止めに告げた。彼女はその言葉を聞いていくらか安心したようだ。

こういう時、特に女性の場合においては、こうも的確な助言が出来るのだから上条当麻という男は侮れない。
この方法で何人もの女性を堕としてきたのだ。もちろん彼にそのつもりはない。




526 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:21:52.494MF8VVK20 (19/28)


禁書(それだけ的確なアドバイスをしておきながら、なんでそんなに鈍感なのかな!?)

姫神(それが上条当麻。 だからこそ堕としがいがある。)

一方通行「」ガタガタ

上条「あ~、そろそろ戻してやってくれないか? 視線も集まってきてるし」

打ち止め「そうだねって、ミサカはミサカはヒーローさんの意見に賛成してみる」


さすがに涎を垂らしたまま痙攣している人間を放置するのは、いろいろな意味で注目の的になる。
変な騒ぎが起きる前に元の戻したほうがいい。


一方通行「・・・・・・ぷはァ! クソガキ何しやがる!」ガバッ

打ち止め「当然の報いだよって、ミサカはミサカはあなたに冷たい目線を送ってみる」

一方通行「何なンだよ・・・・・・」

打ち止め「・・・・・・」ツーン




527 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:22:46.664MF8VVK20 (20/28)


上条「飯も食ったし、そろそろ行くか?」

禁書「ごちそうさまなんだよ!」

一方通行「・・・・・・コーヒーまだ残ってる。 勿体ねェ」グビグビ

上条「それにしても、コーヒー好きだなお前」

一方通行「うるせェ。 コイツは俺のガソリンだ」

上条「さいですか・・・・・・あ、会計は別々でお願いします」

一方通行「めんどくせェから、俺が払ってやる」

上条「いいのか?」

一方通行「学園都市第一位の財力を舐めンな。 この程度の値段なら一生かかったって尽きたりしねェよ」

上条「くっ、これが経済格差か・・・・・・」

一方通行「世の中は不平等で成り立ってるンですよォ」


インデックスが食べた分を払わなくて済むようになったことは嬉しいことだが、
その代わり男としての言い様のない敗北感を当麻は味わうことになるのであった。




528 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:23:39.144MF8VVK20 (21/28)


カランカラン アリガトウゴザイマシター


上条「それじゃあ、俺達は行くから」

一方通行「あァ、何処へなりと行っちまえ」

禁書「またね!」

打ち止め「うん!」

上条「そうだ、一方通行」

一方通行「なンだよ」

上条「お前がどんな物を背中に背負っているかは分からない」

上条「だけど、たまには周りを頼ったほうがいいと思うぞ?」

一方通行「・・・・・・そっくりそのままオマエに返すわ」

上条「はは、それは言えてるな。 また一緒に飯食いに行こうぜ!」

一方通行「・・・・・・フン」


小さく鼻を鳴らした後、一方通行はこれ以上は言うことはないといった感じで去っていった。
相変わらず無愛想な奴だとは思うが、だからといって不快に感じることはない。むしろ彼らしいと言える。

だが、今の彼の背中には何かを背負っているような、重い雰囲気を感じ取れた気がした。
彼が今、どのような状況に立たされているのかを知る術はない。
それに手をさしのべてもきっと拒絶するだろう。彼はそういう男だ。

ならば彼の方から助けを求めてきたとき、それに全力で答えられるようにすればいい。




529 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:24:31.334MF8VVK20 (22/28)






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








530 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:25:31.734MF8VVK20 (23/28)


一方通行「ったく、また余計な時間を食っちまった」


一方通行はサンサンと輝く太陽の光を浴びながら愚痴をこぼした。

やはり人が密集した場所にいるのはどうも落ち着かない。
打ち止めに強請られたために仕方なくこうして外を出歩いているが、本当の所はさっさと家に帰って昼寝をしたいというのが本音だ。
自分はあまりにも目立つ容姿をしているが為に、大通りを歩くとどうしても奇異な目で見られることになってしまう。


一方通行「何で俺がこんなくだらねェことをしなきゃならねェンだよ・・・・・・」ブツブツ

打ち止め「その割には楽しそうだったって、ミサカはミサカは自分の感想を言ってみる」

一方通行「あァ? 何言ってンだオマエ」

打ち止め「あなたがあんな風に他人と話してるところ久しぶりに見たよって、ミサカはミサカはあなたの普段の様子を報告してみる」

一方通行「会話ならいつも黄泉川の奴等としてるじゃねェか」

打ち止め「でもヒーローさんみたいなお友達とお話しすることなんてあまりないでしょって、
ミサカはミサカは人付き合いの悪い貴方を心配してみる」

一方通行「ほっとけ」


番外個体が聞いたらやれぼっちだの『ウサギさんなのに大丈夫?』だの言い出すのは目に見えている。
彼女は一方通行を弄ることに関しては類い希なる才能を持っているからだ。




531 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:27:56.964MF8VVK20 (24/28)


一方通行(その才能をもっと別のことに活かせってンだ・・・・・・いや、そもそも活かせるのかァ?)


ブルルルルッ ブルルルルッ


一方通行(・・・・・・電話?)

打ち止め「どうしたの?」

一方通行「ちょっと待ってろ」


ズボンのポケットから携帯電話を取りだし、着信を確認する。

一方通行が持つ携帯電話には一般用と仕事用がある。
一般用は自分の身内、黄泉川や打ち止めと連絡するためのものであり、仕事用は仕事の依頼の連絡を受け取るためのものだ。
今回は仕事用に電話がかかってきた。しかし今日は仕事の予定は入っていなかったはずなのだが。


一方通行(海原か。 一体何の用だ?)

一方通行「(ピッ) ・・・・・・俺だ」

海原『あ、一方通行さんですか?』

一方通行「何の用だァ? 今日は仕事は何も無ェはずだぞ?」

海原『それがですね、ついさっき仕事が入ってきたんですよ』

一方通行「・・・・・・チッ、さっさと話せ」

海原『では――――』




532 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:30:13.494MF8VVK20 (25/28)


海原から舞い込んできた仕事の内容を聞き出す。
どうやら、とある研究所で未認可の人体実験が行われているという情報が流れてきたそうだ。
海原が確認に出向いたところ、どうやらクロらしい。


一方通行「毎度毎度、懲りねェ奴等だな。 この類の話は今年で何度目だァ?」

海原『93回目です。 もうすぐ通算100回目の大台に乗りそうですね』

一方通行「笑えねェ冗談だ」

海原『全くです』


統括理事長が替わってから早数ヶ月、親船素甘直属の部下として一方通行たちは、
現在に至るまで相当な数の学園都市の闇を掃除してきたが、この手の話は未だに尽きることがない。

自分達の噂はかなり広まっているはずだが、今も尚そういった行為をしているということは、
その研究者は余程の馬鹿か自分たちは大丈夫だと思っている楽観者なのだろう。

いずれにせよ、害虫は即刻駆除するに限る。


一方通行「で、俺達は何をすればいい?」

海原『『警備員』に先んじて研究所内の情報を抑えることですね』

海原『今回の件は他の案件にも繋がっている可能性がありますので、こちらの動きに気づいて痕跡を消されないようにするのが目的です』

海原『『警備員』の行動というものはどうしても読まれてしまいますので』

一方通行「了ォ解」




533 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:31:27.474MF8VVK20 (26/28)


海原『あぁ、言い忘れましたが今回は土御門さんは参加しないので』

一方通行「ハァ? なンでだよ?」

海原『どうやら個人の事情やらなにやらがあるようでして、それが片付くまでは別行動になるそうです』

一方通行「あのバカ、またシスコン症候群を発症した訳じゃねェよなァ?」

海原「私からは何とも。 でもそれはないでしょう。 彼は公私の区別をはっきり付けられる人ですから」

海原「自分が守りたい物を守るための仕事を蔑ろにはしないでしょう」

一方通行「ったく・・・・・・結標の方はどうだ?」

海原『彼女は少々不満を言っていましたがOKだそうです』

一方通行「そォか。 じゃァいつもの場所に集まるぞ」

海原『了解です』ピッ

一方通行「面倒くせェったらありゃしねェ」ゴソゴソ




534 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:34:11.034MF8VVK20 (27/28)


携帯電話をポケットにしまいつつ、一方通行はそう愚痴をこぼす。
仕事のこともそうだが、いくら潰しても蛆のように沸いてくる闇に対する苛立ちが収まらない。
一体上層部は何をしているのだろうか。このまま対策を取らなければ完全にイタチごっこである。


打ち止め「またお仕事?」

一方通行「あァ。 オマエを家に届けたらすぐに向かうつもりだ」

打ち止め「大丈夫だよね?」

一方通行「オイオイ、俺は学園都市の第一位サマだぜェ? 心配するだけ無駄ってモンだ」

打ち止め(でも心配なものは心配だよってミサカはミサカは心の中で自分の思いを言ってみる」

一方通行「口に出てるっつゥの」ガシッ

打ち止め「痛い!」

一方通行「ガキはガキらしく今日の晩飯のことでも考えてろ。 俺の心配をするのは10年はえェンだよ」グリグリ

打ち止め「う~・・・・・・」

一方通行「さっさと帰るぞ。 遅くなると芳川の奴がうるせェからな」

打ち止め「は~い」

一方通行「ったく、たまには自分で飯を作れってンだ」


こうして帰路につく白ウサギと電気娘。
奇妙な組み合わせではあるが、意外と似合っているのは気のせいであろうか。





535 ◆jPpg5.obl62012/09/17(月) 18:36:45.884MF8VVK20 (28/28)

今日はここまで

質問・感想があればどうぞ


536VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/17(月) 20:26:47.33VAXAIh5DO (1/1)

乙です。
幻想郷では人間を弄るのは妖怪だし、そういう要素が混ざっていると
したら、今回話に出たマッドサイエンティスト共は、モブ妖怪だった人達だったりするのかねぇ?


537 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:47:43.98Eohaj/u10 (1/23)

>>536
妖怪は人を食べる存在ですけど、マッドサイエンティストのような存在って居るのでしょうかね?
むしろ娘々とかそういう系列の存在が当てはまるような気もします

これから投下を開始します


538 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:48:09.53Eohaj/u10 (2/23)






――――7月26日 PM1:05








539 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:49:16.61Eohaj/u10 (3/23)


佐天「たっだいまー!」バタン!

黒子「佐天さん!? 病み上がりなのですから無茶しないでくださいまし!」

佐天「大丈夫だいじょーぶ! 白井さんも心配性なんだから~」

美琴「はぁ、今までの不安な気持ちを返してほしい気分だわ」

初春「はは・・・・・・でも、何事もなくて良かったです」

固法「まったくね。 佐天さんが『また』事件に巻き込まれるなんてね。 あなたはそういう体質なのかしら?」

初春「何処の少年探偵ですか・・・・・・」ハァ

黒子「勘弁して欲しいですの・・・・・・」ハァ

佐天「あははー・・・・・・」タラー


とはいっても、常日頃スキルアウトやら何やらのいざこざが頻発している学園都市では、
騒動に巻き込まれて病院に厄介になることは珍しいことではなかったりする。
少なくとも、各学校の学年に一人や二人はそのような経験をした生徒がいるはずだ。

だからこそ『警備員』だけでなく『風紀委員』まで設立しなければならなくなっているのだが。




540 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:50:09.17Eohaj/u10 (4/23)


美琴「ところでさ、佐天さんの事件の情報ってどうなってるの?」

黒子「そうでしたわ。 初春?」

初春「はい、今出しますね」


初春は机の中から厚い紙の束を取りだして黒子に渡した。
その中には佐天の事件だけでなく、今まで起こった『連続通り魔事件』の資料も含まれている。


美琴「それが事件の資料?」ガサッ

黒子「本当は一般人に見せるような物では無いのですけどね。 でも、諦めてはくださらないのでしょう?」

美琴「当然よ」ペラペラ

黒子「本来ならこの件は『風紀委員』の出る幕ではないのですが・・・・・・」

固法「『警備員』も犯人の尻尾が掴めずに焦っているみたいね」

初春「本当ならば猫の手でも借りたいでしょうから」

固法「そのせいなのか知らないけど、『警備員』から流れてくる情報が多くなってきてる」

美琴「・・・・・・」ペラペラ


黙々と資料のページをめくり続ける美琴。
その姿からは、何かを恐れているかのような感情を見出すことが出来る。
だが幸運なことに、風紀委員一同は彼女の様子は事件を解決したいという志からくるものだと思っているようだ。




541 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:50:44.50Eohaj/u10 (5/23)


固法「随分と熱心ね。 何か思うことでもあるのかしら?」

美琴「それは、まぁ・・・・・・」ガサッ

固法「正義感が強いことはいいことだけど、あまり無茶しちゃだめよ?」

美琴「わ、わかってますよ」

黒子「そう言って、いつも誰にも言わずに一人で抱え込んでいるのですからお姉様は」

佐天「御坂さんは何でもできそうなイメージがあるからねー」

初春「レベル5にもなるとやっぱり使命感みたいなものが出ちゃうんですか?」

美琴「あー、ないない。 私みたいに誰かのために~なんて奴は殆どいないから」

初春「そ、そうなんですか?」

美琴「そうよ。 少なくとも私が今まであったレベル5でまともな奴はいなかったわね」

佐天「誰に出会ったんですか?」

美琴「第2位と第6位以外」

佐天「結構多いですね・・・・・・」




542 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:51:54.39Eohaj/u10 (6/23)


レベル5の人間は美琴と正体が分からない第6位を除いてネジが飛んだ人達ばかりである。
背中から変な羽をはやしたり、ドン引きするほど下品な単語を連発したり、
相手の精神を操って陰湿ないたずらをしたり、ただの根性バカだったり。

歴史を紐解いてみても、天才と呼ばれる人間は一風変わった人格をしている人が多い。
『バカと天才は紙一重』とはこのことを指しているのだろうか?

ちなみに美琴は自分にとっては関係ないかのように話しているが、端から見れば彼女も十分変わった人種である。
周りが酷すぎて相対的に『穏当』に見えるだけだ。


美琴「んー、だいたいわかったわ」パタン

初春「もう読み終わったんですか?」

美琴「重要なところだけ選別して読めばそんなに多くはないでしょ」

美琴「それに、自分が思ってたほど『警備員』の捜査は進んでいないみたいだしね。 どれも同じような内容だったわ」

黒子「知っておりますように、今回の事件の犯人は佐天さんの事件を除いて痕跡を一切残しておりませんでしたの」

初春「捕まえようにも、手がかりがなければどうしようもありませんからね」

美琴「犯行現場が監視カメラに映ってなかったんだっけ?」

初春「はい。 犯人らしい目撃情報も一切ありませんでした」

黒子「いくら人気のないところで犯行を行っていたとしても、ここまで情報がないというのはかなり異常ですわ」

美琴「うーん」




543 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:53:28.27Eohaj/u10 (7/23)


10を超えるほどの犯行が行われているにもかかわらず、今まで犯人は誰にも目撃されず、証拠も一切残していなかった。
こんな事は本来ならば起こりえることはまず無いのだが、それを可能にしてしまう手段があるのが学園都市である。
ここでは外の世界の常識は全く通用しないことを頭に入れておかねばならない。


美琴「でも、今回は佐天さんが犯人の顔を見てるわよね? アルビノで検索すれば直ぐに分かりそうなものだけど」

初春「そのことについては私も調べてみましたが・・・・・・」

黒子「どうしたんですの?」

初春「アルビノに関する情報は規制されているみたいで表には流れていないみたいです」

固法「アルビノは目立つ容姿をしているからね。 おそらく無用な軋轢を起こさないための処置でしょうね」

初春「本格的に調べようと思ったら、病院のネットワークに侵入する必要がありますね」

初春「こうなると『警備員』の管轄になってしまいます」

美琴「そう・・・・・・じゃあアレについては調べたの?」

佐天「アレって何ですか?」

美琴「犯人の能力についてよ。 黒子の話だと『空間移動』の能力者らしいけど」

初春「それについても調べたんですけど、結局わかりませんでした」

黒子「わからなかった?」




544 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:54:18.41Eohaj/u10 (8/23)


初春「『空間移動』を持つ能力者の中には『先天性白皮症』の方はいなかったんです」

黒子「ということは、犯人が使っていた能力は『空間移動』ではなかったということですの?」

初春「そういうことになりますね」

美琴「それ以外の能力で『空間移動』みたいなことをしてたってことか・・・・・・」

佐天「一体どんな能力なんでしょうね?」


『空間移動』以外で自分の体を瞬時に移動させることが出来る能力。
『空間移動』のイメージが強すぎて、それ以外と言われると咄嗟には思いつかない。


美琴「『書庫』に登録されてないとかは考えられない?」

黒子「『空間移動』は稀少ですから、それはあり得ないと思いますの」

美琴「そうよねぇ・・・・・・」

美琴(でも、もし暗部みたいな人間と関わりがあるとしたら、可能性はなくはないわよね・・・・・・)

美琴(奴等なら情報の改竄くらいは平気でするだろうし)




545 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:54:59.04Eohaj/u10 (9/23)


初春「『書庫』を全部検索すればわかるかもしれませんけど、いつ終わるか見当もつきませんし・・・・・・」

黒子「やっぱりキーワードが必要ですの」


詳しく調べるためにはその鍵となる単語が必要だ。
今自分たちがわかっているのは、犯人が『先天性白皮症』の患者であることと、
犯人が持つ能力で『空間移動』と同じ事が可能であるということの2点のみ。
前者は『風紀委員』だけでは調べることは出来ず、後者だけでは調べるための情報としては心許ない。
もっと明確で具体性のある情報を手に入れる必要があった。

しかし、手に入れたくても肝心の情報源がない。
街中で聞き込みをしたとしても、有力な情報が集まるのは一体何時になる事やら。自分達だけでは到底無理な話である。
せめて犯人の能力を連想できるようなヒントのようなものがあればいいのだが、そんな都合の良いことなどあるはずもなく。
しばらく全員で考え込んでいたが結局良い案は浮かばず、見回りの時間が来たこともあって一端お開きとなった。




546 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:55:32.32Eohaj/u10 (10/23)






――――7月26日 PM2:05








547 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:56:46.81Eohaj/u10 (11/23)


禁書「おぉ~・・・・・・」

上条「で、でかい・・・・・・」

姫神「・・・・・・」


電車やバスに揺られて2時間。上条当麻一行は第14学区の一角に存在する、ある建物の前に来ていた。

その建物の姿を一言で表せば『中世の洋館』。
少し赤茶けた風貌をしているその建物は、周りに建っている近代的な家と比較して異様な雰囲気を醸し出していた。

建物をよく見ると所々建物の壁に蔦が這っていたり、壁に罅が入っていたりしている。
遠目で観察すると、相当な年月が経っているようにも見ることができる。
まるで西欧の国に建っていたものを、そっくりそのままこの場所に持ってきたかのようだ。

だが、おそらくこの古くさい雰囲気も学園都市の建築技術で再現されているのだろう。
その証拠に、鉄柵の正門の横には学園都市製のセキュリティ装置が設置されている。
無理に押し通ろうとしたり、塀を乗り越えようとすればすぐさま警報が鳴るに違いない。


上条「まさか学園都市でこんな立派な洋風建築が見られるなんてなぁ」

禁書「うーん、でも門の横に付いてる機械が雰囲気を壊しているかも」

上条「防犯のためなんだから仕方ないんじゃないか?」

禁書「でも、もっと目立たないようにできなかったのかな?」

上条「見たところインターホンも兼ねてるみたいだし、わかりにくかったら不便だろ」




548 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:57:55.13Eohaj/u10 (12/23)


姫神「・・・・・・」

上条「どうした姫神?」

姫神「この建物。 僅かだけど血の匂いがする。」

上条「・・・・・・本当か?」

禁書「・・・・・・!」


当麻とインデックスに緊張が走る。まさか本当にこの場所に吸血鬼が居るのだろうか。
いや、むしろフランとレミリアに魔術をかけた魔術師が原因かもしれない。
魔術を用いるために大量の血液を使用したとするのであれば、その匂いを姫神が感じ取ることが出来たとしても不思議ではない。


姫神「本当。 でも吸血鬼の匂いかと言われれば答えられない。」

禁書「どういうこと?」

姫神「この建物。 いろんな血の匂いが混ざって一つに絞りきれない。」

姫神「それに。 匂いも本当に僅かだからっていうのも理由の一つ。」

上条「直接中に入らないとわからない・・・・・・か」

姫神「そういうこと。」




549 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 21:58:47.95Eohaj/u10 (13/23)


禁書「魔術的な力は今のところ感じられないよ」

上条「そうなのか?」

禁書「うん。 どうするの、とうま?」

上条「・・・・・・」


元々はフラン達の身の安全を確認することを目的としてここに来るはずだった。
だが姫神の言う『血の匂い』、それから関連づけられる魔術師が存在する可能性。

もし魔術師がこの建物を根城にしているとすれば、このまま訪問するのは非常に危険だ。
相手は侵入者の迎撃のための策を何重にも巡らしているはず。それこそ『飛んで火にいる夏の虫』にもなりかねない。


上条(迂闊に入って攻撃を受けたらインデックスと姫神を守るのは難しい)

上条(俺の力は右手にしかないからな。 数で責められたらどうしようもない)

上条(ここはいったん土御門に報告するべきか?)

上条(でも魔術の力が感じられないとなると、ここを根城にしていない可能性も・・・・・・)

「そこで何をしているのですか?」

上条「え?」




550 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 22:01:52.60Eohaj/u10 (14/23)


背後を振り返るとコスプレでよく見るような、模範的なメイド服を着た銀髪の女性が後ろに立っていた。
白色と紺色と言うシンプルな色であしらわれた服は落ち着いた雰囲気を漂わせ、
頭につけられたカチューシャは彼女がメイドであることをより一層際立たせている。
素人の目で見ても、彼女がその手の仕事のプロであることがわかるだろう。

彼女はこの家の関係者なのだろうか。非常に不審そうな目でこちらを見ている。


上条「・・・・・・コスプレ大会の帰り?」

銀髪の女性「なんですかそれは。 これは正装です」ギロッ

上条「す、すいません・・・・・・」


思ったことがつい口に出てしまったようだ。鋭く睨まれた当麻はすぐに謝罪の言葉を口にした。
他人に謝ることに関して言えば、他の人の追随を許さないであろう事は自信を持って言える。

・・・・・・あまり誇るべき事ではないのかもしれないが。


銀髪の女性「用がないのであれば早急に立ち退いてもらいたいのですが?」

上条「あ、いや、知り合いの家を探していたもので」

銀髪の女性「知人の家ですか?」




551 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 22:05:24.25Eohaj/u10 (15/23)


上条「はい。 つかぬ事をお聞きしますが、ここはフランドール・スカーレットさんのお宅でしょうか?」

銀髪の女性「えぇ。 妹様が住んでおられるのはこの家ですが・・・・・・どのようなご用件で?」

上条「えーっと、それは・・・・・・」

禁書「今日遊ぶ約束をしてたからみんなと一緒に来たんだよ!」

銀髪の女性「・・・・・・あなたのお名前は?」

禁書「インデックスだよ」

銀髪の女性「・・・・・・なるほど」

姫神「そう言うあなたは誰? 見たところ使用人みたいだけど。」

銀髪の女性「申し遅れました。 スカーレット家の専属メイドをさせてもらっております、十六夜咲夜と申す者です」


咲夜と名乗るメイドは恭しく丁寧に一礼をした。その様子だけでも相当な気品を漂わせている。
当麻としては土御門の妹である舞夏とある程度会話することがあるので、
メイドに会うことはそれ程珍しくもないのだが、ここまで完璧な身のこなしのメイドを見るのは初めてのことである。




552 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 22:06:53.22Eohaj/u10 (16/23)


上条「咲夜さんですか。 俺は上条当麻って言います」

禁書「突然で悪いんだけど、今ってふらんはどうしているのかな?」

咲夜「妹様なら今日は用事で一日中おられませんわ」

上条「用事?」

咲夜「はい、レミリアお嬢様の付き添いですね」

禁書「ふーん」

上条「困ったな・・・・・・」


どうやらフランとレミリアは外出中で家にはいないらしい。
本当ならば何処に行ったのかを問い詰めるべきのだろうが、初対面の相手にそれをするのは些か不味い。

レミリアの『専属』メイドだというのだから、相応の立場にいる人物のはずだ。
下手に警戒されてしまっては、今後接触することすら難しくなってしまう。


上条「仕方ない。 今日は帰るとするか」

禁書「えー・・・・・・」

上条「思えば昨日の今日だし、フランもいきなり来るとは思ってなかったんだろうさ」

上条「こうして家の場所もわかったんだし、また来ればいい」

禁書「むぅ・・・・・・」

上条「だだをこねてもフランは帰ってきませんよっと。 姫神もそれで良いよな?」

姫神「・・・・・・わかった。」




553 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 22:08:04.94Eohaj/u10 (17/23)


姫神は咲夜を見続けながら当麻の問いに返答した。
さっきからずっと彼女に注目し続けているのだが、何か気になることでもあるのだろうか?
ただ単にメイドという存在が珍しいだけかもしれないが。


禁書「あ、そうだ! さくや!」

咲夜「・・・・・・何でしょうか?」

禁書「ふらんが帰ってきたらインデックスが遊びに来てたって伝えておいてくれないかな?」

禁書「何も言わないで帰っちゃうのもだめだと思うし」

咲夜「わかりました。 伝えておきましょう」

上条「じゃあ用事も済んだし帰るかな」

禁書「早く美味しいものを食べに行くんだよ!」ワクワク

上条「はいはいっと」

姫神「・・・・・・」

上条「? 姫神、行くぞ?」




554 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 22:09:31.58Eohaj/u10 (18/23)


当麻が急かすが、姫神は一向に咲夜から目を離そうとはしない。彼女は何かを疑うような、疑惑の目をしていた。
その視線に気づいた咲夜がどうしたのだろうといった顔つきで声を掛ける。


咲夜「どうしたのですか? 何か気になることでも?」

姫神「・・・・・・あなた、血の匂いがする。」

上条「え?」

咲夜「・・・・・・女性に対してその発言は失礼ではないかしら?」

姫神「私の能力だから。 こういうことには敏感なの。」

咲夜「なるほど。 貴方の疑問に答えるのであれば、先ほど料理の下ごしらえをしたときに魚を捌いていましたから、その匂いが残っていたんでしょう」

咲夜「手は念入りに洗っておいたはずですが」

姫神「・・・・・・そう。」

上条「・・・・・・姫神、いいのか?」

姫神「うん。」

上条「それじゃあ咲夜さん、俺達は帰りますんで」

咲夜「ええ」


二人は軽く会釈を交わし、当麻達はその場を後にした。
その後、彼らがインデックスのわがままで学区内の料理店を練り歩くことになったのはまた別の話である。




555 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 22:10:01.22Eohaj/u10 (19/23)






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








556 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 22:11:01.31Eohaj/u10 (20/23)


咲夜「インデックス・・・・・・お嬢様がおっしゃった通りね」


遠ざかっていく当麻達の姿を見ながら咲夜は呟いた。


咲夜(今日インデックスという名の少女が来るからうまく追い返すように言われたけど、未だにお嬢様の意図が掴めない)


咲夜は「フランはレミリアと一緒に外出中だ」と言ったが、実際のところフランは家にいる。
レミリアは今朝出かけるときに、フランを家から出さない、インデックスを家に入れないように命令して出て行った。
何故そのような命令を下したのかは分からないが、命令に逆らうつもりも毛頭無い。、
よって、レミリアの指示通りに当麻達を言いくるめ、家に立ち入らせることなくそのまま帰したのだ。

だが目的が理解できない命令となっては、さすがに気になるというもの。
咲夜はレミリアの命令の意図を理解しようと、これまでの間ずっと考え事をしていた。
従者というのはいつでも主の考えを理解し、主の求める行動をし、主の望む結果を出さなければならない。
そのためにも、レミリアの考えを知ることは急務である。


咲夜(一見、何の変哲もないただのシスターに見えるし、危険人物には見えないけど)

咲夜(外見だけで判断すると痛い目を見るのが学園都市。 警戒するに越したことはないわ)

咲夜(こちらで独自にあのシスターの素性を調査するべきかしら?)




557 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 22:12:01.04Eohaj/u10 (21/23)


あのシスターのことを詳しく知れば、自ずと主が考えていることもわかるかもしれない。
だが、その行動が主の意向に沿っているとは限らない。最悪、直接的な形でなくとも主を裏切る形になるかもしれない。
そのリスクを考えるとしたら、自分勝手に情報収集するのは望ましくない。レミリアの許可は取っておくべきだろう。

それに調査するとしても、実際に自分ができる行動は限られている。
咲夜は『警備員』や『風紀委員』のような人間ではなく、あくまでも一般人である。
『書庫』のような学園都市のデータベースにアクセスする権限があるわけではない。

とすると、彼女ができることと言えば地道な聞き込みくらいのものなのだが、それを行うことも難しい。
数日早ければ繚乱家政女学校の生徒達に聞き込みをするのだが、生憎それはできない。
咲夜が学校に行くのは月に一度。それ以外はレミリアの下で研修を受けることになっている。
無断で学校に顔を出せば不審な目で見られることになるだろう。
かと言って仕事を放り出して街に繰り出し、見知らぬ人に聞いて回るのも考え物だ。


咲夜(いっそのこと彼らの後を尾行するべきかしら?)

咲夜(さすがに今は無理だけど、あのシスターは今後も来るようだし、機会はいくらでもありそうね)

咲夜(仮に彼女の素性がわかったとして、もしお嬢様達に害をなす存在だったとしたら――――)




558 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 22:13:01.25Eohaj/u10 (22/23)


その時は相応の対処をしなければなるまい。
自分の主に危害を加えるような人間は、あらゆる手段を用いて排除する。
例えその過程で人道に反するような行動を執らざるを得なくなったとしても、それを行うだけの覚悟は既にある。


咲夜(とりあえず、お嬢様が帰ってくる前に仕事を終わらせないと。 まだやらなければいいけないことは山ほど残されている)

咲夜(それが終わったら、妹様の様子も見に行かないとね・・・・・・)


咲夜はこれからの仕事の計画を頭の中で組み立てながら、赤茶けた館の中に入っていった。




559 ◆jPpg5.obl62012/09/23(日) 22:13:45.36Eohaj/u10 (23/23)

今日はここまで

質問・感想があればどうぞ


560VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/25(火) 15:03:23.37EEjplJTf0 (1/1)

今回のメンバーで突撃したって、ろくな事にはならなかったろうね。


561VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/28(金) 13:46:44.40ofZu+R360 (1/1)

しれっとした嘘も流石に見える咲夜さん


562 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 22:53:05.47mSJL/wZm0 (1/16)

これから投下を開始します。


563 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 22:53:50.34mSJL/wZm0 (2/16)






――――7月26日 PM3:13








564 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 22:54:49.87mSJL/wZm0 (3/16)


黒子「初春ー?」

初春「何ですか白井さん?」カタカタ

黒子「何か情報は掴めましたの?」


風紀委員支部で黒子と初春の二人は、それぞれ自分のパソコンに向かいながら調べ物をしていた。
犯人の情報の当てがないにしても、それが何もしなくても良いという理由にはならない。
例え当てずっぽうでも、何かしらの情報を集める必要があった。


初春「一応『書庫』を調べてますが、今のところは掴めていませんね。 もう少し条件を指定しないと・・・・・・」

初春「やっぱり『警備員』に任せた方がいいと思うんですけどね」

美琴(でも『警備員』だけだと、もし犯人の裏に何かあった場合手がかりを失うかもしれない)

美琴(『警備員』の情報はすぐに広まるだろうし、そうなったらすぐに逃げられる)

佐天「・・・・・・」

初春「佐天さん? 何してるんですか?」


佐天を見ると椅子に座って漫画を読んでいた。昼頃に一緒に見回りに行ったときに買ってきたものである。
『風紀委員』ならば勤務中にそのようなことをするのは御法度であるが、彼女は一般人であるためおそらく問題はないだろう。




565 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 22:56:43.06mSJL/wZm0 (4/16)


佐天「さっき買ってきた漫画を読んでるんだよ」

黒子「こちらが必死に情報を集めているというのに、暢気なものですわね」

佐天「だって役に立ちそうもないし、邪魔しちゃ悪いじゃん?」

初春「それでも犯人捜索のアイデアなりなんなり考えることくらい出来るんじゃあ・・・・・・」

美琴「ところで佐天さん、どんな漫画を見てるの?」


美琴はそう言いながら佐天が読んでる漫画をのぞき見た。

その漫画と一言で表すなら、『画風がとても濃い漫画』だった。
それなりに有名な漫画なら一つや二つは知っている美琴だが、ここまで濃い顔立ちをしているキャラクターを見るのは初めてだ。

かと言ってリアルというわけではなく、独特の雰囲気を持つ画風であった。
特徴的すぎて一回見たらそう簡単には忘れられないだろう。


美琴「すごい絵柄の漫画ねぇ」

佐天「数十年前に流行った漫画ですから、結構人を選ぶかもしれないです」

美琴「結構有名なの?」

佐天「連載されていた当時は相当なファンが居たらしいですよ」

佐天「何度か再販もされていますし、その時代の人達にとっては需要があるんじゃないですか?」




566 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 22:59:01.98mSJL/wZm0 (5/16)


初春「佐天さん、最近その本の話をよくしますよね?」

佐天「なんて言うかさ、この漫画の中に出てくる『能力』が学園都市の超能力に似てるんだよね」

美琴「ふーん。 貸してみて」

佐天「いいですよ」


美琴は佐天から本を受け取るとあらすじを見た。
どうやらこの巻では長旅の末に主人公の一族の宿敵である吸血鬼に対峙し、仲間と共に死闘を繰り広げているらしい。


佐天「この漫画の登場人物はいろいろな能力を持っているんですけど、その力の源は『精神力』らしいですよ?」

黒子「精神力って・・・・・・根性とかそう言うものなのですの?」

佐天「根性と言うよりも『自分が持つ信念』みたいなものだね」

佐天「能力をうまく使うには『出来て当たり前』と思うことが大切みたいです」

美琴「確かに超能力の基になる『自分だけの現実』も『信じる力』のことだけど」

黒子「どちらかというと『精神力』というより『妄想力』と言った方が正しい気がしますわね」


超能力の源である『自分だけの現実』を構成しているものが『信じる力』であることは、能力開発者の間では常識である。
『○○することは可能である』と思い込むことで、確率が限りなくゼロに近い事象を現実へと引っ張り出すことが出来るようになるのだ。




567 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 23:01:31.63mSJL/wZm0 (6/16)


美琴(『出来て当たり前』と思うことが大切・・・・・・か)

美琴(『大人になると常識に縛られて頭が固くなる』って子供の頃先生が言ってたけど)

美琴(大人が能力開発を受けられないのは『常識』のせいで『自分だけの現実』を構築できないからなのかもしれない)

美琴(『あり得ないものはあり得ない』って考えちゃうのかしら)

佐天「御坂さん、気になります?」

美琴「え? あ、うん」

佐天「読みたいのであれば貸してあげますけど」

美琴「いいの?」

佐天「私はもう読みましたし、家にもいくつか読んでない本があるので」

美琴「じゃあ、お言葉に甘えて」

黒子「お姉様? 借りるのはよろしいですけれど、寮監の方にはばれないようにしてくださいまし」

美琴「わかってるわよ」


美琴はそう言うと、漫画を自分のバックの中に入れた。
寮に帰ったら早速見てみることとしよう。




568 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 23:02:15.16mSJL/wZm0 (7/16)






――――7月26日 PM4:35








569 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 23:03:16.75mSJL/wZm0 (8/16)


ガタンガタン、ガタンガタン・・・・・・


上条「あ~、疲れた」グデー

姫神「大丈夫?」


第7学区行きの電車内で当麻は溜息をついた。
フランへの用事を済ませた後、第14学区の探索にしゃれ込んだ訳なのだが、
日本文化とのあまりにも大きな違いを見せつけられて、精神的にかなり疲労していた。


上条「異文化交流って結構大変だな。 上条さん、カルチャーショックで少し驚きすぎましたよ・・・・・・」

禁書「でもとうまっていろんな国に行ってるよね?」

上条「あの時は観光目的で行った訳じゃないし、戦争とかクーデターとか色々あったからなぁ」

上条「こうやって落ち着いて異文化にふれあうのは久しぶりですよ」

姫神「その話は初耳。」ズイッ

上条「突然のことだったし、クラスの奴等にも言わなかったからな。 気にしなくていいぞ姫神」

姫神「・・・・・・そう。」




570 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 23:05:58.22mSJL/wZm0 (9/16)


思えば激動の1年を送ったものだ。
学園都市と十字教の戦争のまっただ中で、当麻は世界を縦横無尽に駆け回ってきた。
それと同時に何度も生命の危険にさらされた。彼ほど修羅場をくぐってきた人間はそう多くはあるまい。

それでも彼が今こうやって学生生活を満喫できているのは、果たして偶然なのか必然なのか。
全く持って『運が良かった』というしかない。『不幸属性』持ちの彼にしたら笑い話にしかなりそうもないが。


禁書「それにしてもやっぱり機械が多かったかも」

上条「何がだ?」

禁書「第14学区のこと。 せっかくいろんな国の町並みを再現してるのに、
   あちこちでお掃除ロボットが走り回ってるから台無しなんだよ」

上条「でも、それのおかげで街は綺麗だっただろ?」

上条「景観を重視して街が汚くなるのはどうかと思うけどなぁ」


学園都市は四六時中お掃除ロボットが走り回っており、道ばたに落ちているゴミを回収している。
そのおかげでいつでも街は綺麗なのだが、それに頼りすぎてゴミをポイ捨てしている人が多くなってきているらしい。
そんな状態でいきなりお掃除ロボットを廃止すればどうなるか・・・・・・想像に難くない。


禁書「むー」

上条「ま、街を開発してる人がお掃除ロボットを必要ないと感じたら廃止になるだろうさ」


マモナクダイナナガックエキマエー オオリノカタハアシモトニゴチュウイクダサイ


上条「お、着いたみたいだな。 降りるぞ二人とも」




571 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 23:06:35.59mSJL/wZm0 (10/16)






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








572 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 23:08:44.60mSJL/wZm0 (11/16)


姫神「上条君。」

上条「どうした、姫神?」


寮までの帰り道で姫神は当麻を呼んだ。
この時間帯ならば帰宅する学生で道は混み合うはずなのだが、不思議なことに今は通りに誰もいない。


姫神「私。 今まで考えてたことがあるんだけど。」

上条「なにがだ?」

姫神「咲夜っていう女の人について。 あの人は魚を捌いたって言ってたけど。 あれは絶対嘘。」

姫神「あの人は短い期間に。 多くの人の血に触れているはず。」

上条「・・・・・・そうか」


実際、当麻も咲夜に対して僅かな違和感を感じていた。。
漠然とした感覚ではあるが、咲夜には何か裏があるような気がしてならなかった。
最初は魔術師のことに気が向きすぎていて、無関係な彼女まで疑っているのだと思っていた。
だが、彼女と別れた後も違和感を払拭しきれていない。




573 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 23:11:18.42mSJL/wZm0 (12/16)


姫神「あなたはどう思う?」

上条「そう、だな。 何処かしらよそよそしい感じはしたけど。 俺達のこと警戒しているような気もしたし」

姫神「・・・・・・」

上条「まぁ、何かあったら俺が何とかするから。 姫神は心配しなくても・・・・・・」

姫神「それは駄目。」

上条「え?」

姫神「そうやって。 自分一人で何とかしようとするのが。 あなたの悪いところ。」

上条「だがな・・・・・・」

姫神「あなたは今朝。 吸血鬼のことを話していた。」

姫神「そんな話が出ている以上。 私も無視するわけにはいかない。」

上条「さすがにこれ以上関わるとお前の身に危険が・・・・・・」

姫神「それなら。 最初から私を関わらせなければ良かったはず。」

姫神「上条君が何を言っても。 私はあなたについて行くから。」

上条「・・・・・・!」


姫神の強い意志が宿った目で見つめられた当麻は思わずたじろいでしまった。
どうしてここまで強気に出ているのだろうか。その理由を知る術は当麻にはなかった。




574 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 23:12:21.54mSJL/wZm0 (13/16)


上条(誤算だった・・・・・・姫神がここまで強情だなんて)

禁書(やっぱりあいさを関わらせるべきじゃなかったかも)

禁書(っていうか『何を言ってもあなたについて行く』ってどういうこと!?)

上条「・・・・・・それでもお前を関わらせることは出来ない」

姫神「上条君・・・・・・。」

上条「でももし、俺がどうしても姫神に頼らなきゃならなくなったときは必ず連絡する」

上条「それで許してくれないか?」

姫神「・・・・・・絶対に。 自分一人で何とかしようしないで。」

姫神「あなたのことを。 待っている人がいるんだから・・・・・・。」

上条「ああ、わかったよ」

禁書(なんなんだよこの空気!?)




575 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 23:13:30.29mSJL/wZm0 (14/16)


嫉妬しているインデックスはさておき、一行は分かれ道にさしかかる。
片方は当麻が住む男子寮。もう片方は姫神が住む女子寮に通じている。


上条「・・・・・・分かれ道か。 送ったほうがいいか?」

姫神「その心配はいらない。 一人で大丈夫。」

上条「そうか。 それじゃあここでお別れだな」

姫神「本当に。 無茶はしないでね。 上条君。」

上条「じゃあな、姫神」


姫神は自分の住む寮へ向かって歩いていく。
当麻は姫神の後ろ姿が見えなくなるまでずっと見つめていた。


上条「そういえば土御門の奴、今何してるんだ? 今日のことを教えないと・・・・・・」

禁書「知らないよ」

上条「いや、お前に聞いた訳じゃないんだけど」

禁書「知らないよ」

上条「・・・・・・インデックスさん? どうしてそんなに怒っていらっしゃるのでせうか?」

禁書「ふーんだ」

上条「はぁ。 とりあえず土御門に電話だ」




576 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 23:20:10.35mSJL/wZm0 (15/16)


聞く耳を持たなくなったインデックスを置いて、懐から携帯電話を取り出す。

生憎、フランやレミリアに会うことは出来なかった。
しかしフランの家で会った咲夜という名のメイドはいかにも怪しい。
彼女はレミリアの専属メイドと言っていたが、本当にそうなのだろうか?
むしろ彼女が魔術師の可能性も・・・・・・


プルルルル、プルルルル・・・・・・


上条「・・・・・・でないな土御門の奴。 何やってるんだ?」

禁書「お仕事してるんじゃないかな?」

上条「仕方ない。 家に帰って戻ってくるのを待つか・・・・・・」


土御門はああ見えて結構忙しい男である。おそらく手が離せなくなるような用事を片付けているのだろう。
今すぐ情報を伝えたいのが心情だが、こればかりは仕方があるまい。
先に戻って彼が帰ってくるのを待つとしよう。




577 ◆jPpg5.obl62012/09/30(日) 23:22:13.60mSJL/wZm0 (16/16)

今日はここまで

佐天さんが読んでる漫画の元ネタは言うまでもなくアレ
まぁ東方原作者がファンだし、咲夜さんのスペカなんてそのまんまだし、別にいいよね?

質問・感想があればどうぞ


578VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/01(月) 05:53:36.99rtuVUUbDO (1/1)

佐天さんや……ジョジョで能力開発なんですかァ~ッ!?w


579 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:23:36.94IAgE9Omx0 (1/22)

これから投下を開始します


580 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:25:26.34IAgE9Omx0 (2/22)






――――7月26日 PM6:21








581 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:26:32.23IAgE9Omx0 (3/22)


土御門「・・・・・・来たか」


土御門は一人、第23学区の空港前に来ていた。
今日の夜に到着するとステイルに聞かされている、魔術師の協力者を出迎えるためだ。

この学区は学園都市の中でも特に機密性が高く、一般の人間は立ち入ることが出来ない。
学園都市の最新鋭の技術を反映させた様々な物品が行き交うためだ。
その他にも要人を学園都市内外に行き来させる拠点でもあり、そう言った人々を保護する目的もある。

今回協力してくれる魔術師も、名目上は『学園都市とイギリス清教の友好を深めるための大使』としての役割を持つ。
故にこうして第23学区まで遙々出迎えに来ているというわけである。


「へぇ、ここが学園都市ねぇ」

土御門「ご感想はいかがかにゃ~?」

空港の建物の中からローブを着た一人の女性が出てくる。どうやら慣れない長旅に疲れたようで、少し眠そうな顔をしていた。
しかしその反面、初めて見る学園都市の機械に興味深々の様子だ。

無理もない。そもそも魔術師という人種は科学を毛嫌いすることが多い。
そのような環境の中で暮らしていれば、自ずと科学の知識を用いて制作された機械に対して疎遠になってしまうのだろう。




582 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:27:27.24IAgE9Omx0 (4/22)


ローブの女「噂には聞いていたけど、実際見るとなかなか感慨深い物があるわね」

土御門「お気に召したようで良かったぜい」

ローブの女「ええ、やはり百聞は一見に如かずと言ったところかしら。 こうして経験するために外へ出るのも悪くないわ」

土御門「それにしても、変わった人だなアンタは」

ローブの女「何がかしら?」

土御門「普通の魔術師ならこんな科学だらけの街なんか毛嫌いすると思うんだがな。 お前さんも例外じゃないと踏んでいたんだが」

ローブの女「別に私は科学を嫌っているわけではないわ」

ローブの女「私の行動原理は『未知の事柄を既知とすること』。 つまりは知識欲。 本質的には科学者と似たようなものよ」

土御門「他の魔術師が聞いたらどんな顔をするやら・・・・・・」

ローブの女「好きなように言わせておけばいいわ」

ローブの女「私は魔術の全てを否定しているわけではないし、科学の全てを肯定しているわけでもない」

土御門「そんなことだといつか孤立するぞ? パチュリー・ノーレッジ」

土御門「現にローマ正教の連中からは白い目で見られているそうじゃないか」

パチュリー「スパイのあなたには言われたくないわね。 それに頭が凝り固まった古くさい奴等のことなんてどうでも良いでしょ」

土御門「随分と辛辣なことを言うにゃー」




583 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:28:16.24IAgE9Omx0 (5/22)


土御門の言葉に対してローブの女――――パチュリー・ノーレッジは皮肉で返した。
土御門はイギリス清教と学園都市を二股している多重スパイ。片やパチュリーは魔術と科学の両方を容認する求道者。
お互いに周りから信用されないであろう人間であるという点が似ているのかもしれない。


土御門「それにしても驚いたぞ? 『動かない大図書館』なんて言われてるお前さんがこうして自ら協力を申し出るなんてな」

パチュリー「・・・・・・最大主教にたまには外に出ろと言われただけよ。 私も吝かではなかったし、承諾したのだけれどね」

土御門「ほうほう」

パチュリー「それに勘違いしているようだけど、私が積極的に動かないのは『その必要がない』からよ」

パチュリー「『めんどくさいから』とかそう言う理由じゃないわ」

パチュリー「同じ結果が得られるのなら、手順は短いほうがいいでしょう?」

土御門「たしかに無駄の無いように効率的に行動するというのは理にかなっているな」

土御門「でもある程度余裕があるというのも必要なことだと思うぜい?」

パチュリー「・・・・・・まあね」

土御門「まぁ、お喋りはここまでにして本題に入ろうか」

土御門「車を待たせてあるから付いてきてくれ。 詳しいことは中で話そう」

パチュリー「ええ」




584 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:29:07.16IAgE9Omx0 (6/22)






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








585 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:30:25.85IAgE9Omx0 (7/22)


土御門「現在わかっていることだが・・・・・・」

パチュリー「待って」

土御門「・・・・・・どうした?」

パチュリー「運転手に聞こえないかしら?」

土御門「その心配はない。 運転席と後部座席を隔てているのは特殊な防音ガラスでな」

土御門「大声で喋ったとしても向こうに聞こえることはないぞ」

パチュリー「へぇ、便利ねぇ」

土御門「それに運転しているのは俺の知り合いだ。 信用していい」

パチュリー「知り合い?」

土御門「同僚で同族さ」




586 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:31:12.29IAgE9Omx0 (8/22)






海原(まったく、仕事が終わった矢先に土御門さんから電話が来たと思ったらこれですよ)

海原(ま、彼にも事情がありそうですし、深く詮索はしませんがね)

海原(しかし頼み事がただの送迎要員とは・・・・・・学園都市には魔術関係の仲間がいないので、
しょうがないことなのかもしれませんがね)

海原(本来ならば断るべきなのでしょうが、今回は相応の報酬がちゃんとありますからとりあえずは良しとしましょう)フフッ








587 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:32:36.16IAgE9Omx0 (9/22)


土御門「これまでの調べでわかったことだが、まず『標的(ターゲット)』は件の一族の生き残りであることは間違いない」

パチュリー「・・・・・・そう」

土御門「イギリス清教の攻撃からどうやって生き残ったのか、どんな経路で学園都市に来たのかまでは残念ながら分からなかった」

土御門「だが、記録では9年前から既に学園都市にいたようだな」

パチュリー「9年前、ね。 あの事件から1年後といったところかしら」

土御門「俺は『標的』が侵入していることを聞いたとき監視網に穴漏れが無かったかチェックしたんだが無駄だったわけだ」

土御門「最初から中にいるんだからな」

パチュリー「気づいたときには既に・・・・・・ってことね」

土御門「ただ、9年前といえばまだ魔術サイドと科学サイドの相互不干渉を徹底していた時期だ」

土御門「非正規の方法で入ってきたとは考えにくい。 おそらく逃亡していたところを学園都市の関係者から招かれたんだろうな」


一体誰が『反逆者』としてイギリス清教から追われている人物を、学園都市に招き入れるなどという暴挙を行ったのだろうか。
そんなことをすれば、魔術サイドと科学サイドの均衡が崩れるのは火を見るよりも明らかである。
もしかしたらその人間は『標的』の事情を知らなかったのかもしれないが、それはただの憶測に過ぎない。




588 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:33:37.04IAgE9Omx0 (10/22)


パチュリー「貴方さっき、『標的』の侵入経路がわからないと言っていたわよね?」

土御門「ああ、全くだ」

パチュリー「でも学園都市のセキュリティってかなり強固だという話を聞いたことがあるわ」

パチュリー「魔術と科学が全く干渉しないようにしている時代であれば尚更。 正規に入ったのであれば資料が残っているだろうし、
逆に侵入したとしても何かしらの痕跡が残っているはずでしょ?」

パチュリー「それなら経路を特定できないのはおかしいんじゃないかしら? そんなことでスパイが務まるの?」

土御門「手厳しいご意見をどうも。 だがいくら俺でも情報を完全に抹消されたら調べることはできない」

パチュリー「抹消? ということは『情報があったという事実』はあるのね?」

土御門「ああ、あまりにも完璧に消されすぎててかえって不自然なくらいだ」

土御門「『正式で秘密裏に招かれた』と考えた方がいい」

パチュリー「矛盾してるわね。 そんなことしたら誰か気づきそうなものだけど」


『正式』かつ『秘密裏』。一見相反する言葉であるが、そこには主語が抜けている。
『誰かにとって正式』であり、『それ以外にとって秘密裏』であれば一応筋が通る言葉だろう。




589 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:35:04.34IAgE9Omx0 (11/22)


土御門「確かに。 だがそれが出来る奴がいることもまた事実」

土御門「そして仮にこの考えが正しければ、この取引に関わった奴は相当限られてくる」

パチュリー「・・・・・・統括理事長、もしくはそれに準ずる権力者」

土御門「そしてその時代の統括理事長はアレイスター・クロウリーだ」

土御門「統括理事が独自に行っていたとしても、奴がこのことを知らなかったはずがない」

土御門「十中八九関わっていたと考えていいな」

パチュリー「だけどアレイスターは・・・・・・」

土御門「残念ながら、あの事件以来生死不明。 イギリス清教の探知機からも生命反応の消失が確認された」

土御門「以前のようにうまく擬態しているとも考えられるが・・・・・・生きている可能性は低いだろう」

土御門「『最大主教』も死んだと思っているようだしな」

パチュリー「とすると、彼に直接聞くのは諦めたほうがいいわね」

土御門「ああ」


このようなことは関係者に直接聞くのが一番手っ取り早いのだが、行方不明の人間を当てにするのは愚かだろう。
仮に出会えたとしても、アレイスターからその答えを聞けるのかと言われれば疑問だが。




590 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:37:54.44IAgE9Omx0 (12/22)


パチュリー「じゃあ、どうやって学園都市に来たのかは『標的』に直接聞くしかないのかしら?」

土御門「いや、他に手はいくつかある」

パチュリー「へぇ。 どんな?」

土御門「考えてみろ、あのアレイスターが自ら外に出て『標的』を招き入れると思うか?」

パチュリー「・・・・・・なるほど。 彼の駒となった人間がいるということね?」

土御門「そうなるな。 9年前の時点でアレイスターと親交があって、
    尚かつ学園都市外部で行動していた人間は片手で数えるくらいしかいない」

土御門「そこから調べればおそらく目標に辿り着くことができるだろう」

パチュリー「そう。 色々長くなったけどそっち方面の捜査の心配はなさそうね」

土御門「ああ。 とりあえず『標的』の経歴についての話はここまでにしようか」

土御門「次に『標的』の現在の状況なんだが・・・・・・」




591 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:40:47.24IAgE9Omx0 (13/22)






――――7月26日 PM8:33








592 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:42:21.81IAgE9Omx0 (14/22)


黒子と美琴はパソコンに向かって『連続通り魔事件』の資料の再確認をしていた。
もちろん犯人の素性を絞り込むためである。

とは言っても、可能性のありそうなことは殆ど調べ尽くしてしまったため、現在行っていることの大半が徒労に終わっていた。
後は、非正規の方法でネットワークを粗探しするしかない。
だがその方法はリスクが大きいので、出来るだけ使いたくないのが本音だ。


美琴「どう? 何かわかった?」

黒子「やはりこれ以上情報を洗い出しても犯人を絞ることは出来そうにありませんわね」

美琴「やっぱり駄目か・・・・・・わかってたことだけど、確定的な情報がないと無理そうね」

黒子「そうですわね。 悔しいですけれど・・・・・・」

美琴「ま、これ以上急いでも良い結果はでないわ。 少し休みましょ」

黒子「・・・・・・仕方ありませんわね」フゥ


黒子は想うところがあるようだったが、美琴の言い分に素直にしたがった。
寮に帰ってきてから2時間以上も資料とにらめっこしていたのだ。
これ以上続けても集中力が低下してまともな思考は出来ないだろう。

美琴は佐天から借りた漫画を鞄から取り出す。
寮に帰ってくる間に我慢できずにある程度読み進めてしまっていたので、今度はその続きからだ。




593 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:45:03.60IAgE9Omx0 (15/22)


美琴「・・・・・・」ペラッ


こうして読んでみるとなかなか味のある漫画だと美琴は思った。
美琴は基本的にカワイイものが好きな性格だ。この漫画のようなやたら濃いデザインはあまり興味がない。

自身が着る下着やパジャマは何処か子供っぽいものであるし、持ち物に付けているストラップはゲコ太で全て統一されている。
ゲコ太については何故か周りからは不評であるが、自分はカワイイと思っているので気にしない。

そんな美琴ではあるが、この漫画については素直におもしろいと思えた。
重厚なストーリー、登場人物の心理描写、迫力のある戦闘シーン・・・・・・
読者を引き込むには十分な要素が揃っている。

ただ、漫画に登場する独特の効果音についてはなかなか慣れなかったが。ウケ狙いなのか真面目なのか判断に困る。


美琴(この吸血鬼、なかなかの外道ね)

美琴(それと同時に強者の余裕っていうか、妙な威厳があるわね)

美琴(これが『カリスマ』っていうやつかしら)

美琴(それにしてもまだ吸血鬼の能力を明かさないなんて、作者も結構じらすわね)ペラッ

美琴(あ、ミドリが必殺技を仕掛けるみたい)


ページをめくると、主人公の仲間である緑服の男が吸血鬼に攻撃を仕掛けるところだった。
未だに分からない吸血鬼の能力の正体を探るため、己の出しうる全てを用いた総攻撃である。




594 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:46:13.53IAgE9Omx0 (16/22)






緑服の男「全方位からの広範囲爆撃! 避けられるか――――!」

吸血鬼「――――」


上下前後左右、あらゆる方向から緑服の男が作り出したエネルギー弾が迫り来る。

その一つ一つが必殺の一撃。まともに食らえばいくら吸血鬼といえど重傷は免れない。
そしてこの攻撃を避けることは不可能。なぜならその弾幕には回避できるような隙間はないからだ。

緑服の男は勝利を確信した――――その時。


吸血鬼「時よ、止まれ」


吸血鬼が小さく呟く。するとどうだろう。
世界は色を無くし、そこにある有象無象全てが石のように動かなくなる。
その中で唯一動けるのは吸血鬼のみ。なぜならこの世界はその吸血鬼そのものだからだ。

吸血鬼はその中を悠々と動き回り、緑服の男が生み出したエネルギー弾をゴミをどけるように移動させる。
人一人分が通れる隙間を作った吸血鬼は、自分の家の玄関から出るように優雅に檻から抜け出した。

吸血鬼はそのまま時が止まった緑服の男の前に立ち、そして――――








595 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:47:37.37IAgE9Omx0 (17/22)


突如、美琴の脳内に電流が走る。この漫画の中の吸血鬼は時間を止めて物を動かしていた。

時間が止まっている間に物体が動けば、あたかも瞬間移動したかのようになる。
もしかしたら犯人は時間を止めて動き回っていたのではないか。


美琴(でも『時間を操る能力者』なんて存在するのかしら?)

美琴(『時間停止(タイムストッパー)』なんて下手すれば私以上の能力者じゃない)

美琴(少なくともレベル5、私が知らない第2位か第6位?)


『時間停止』。その力の前には並みの能力者では相手にすらならない。
時間を止めて心の臓に刃物を突き立てればそれで済む話なのだから。

だがそれ程までに強力な能力を持っているのならば、噂くらいは聞こえてきそうなものである。
余程自分の能力を隠したいのか、それとも情報規制がなされているのか・・・・・・




596 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:48:29.17IAgE9Omx0 (18/22)


美琴「ねぇ、黒子」

黒子「何ですのお姉様?」

美琴「『時間を操る能力者』っていると思う?」

黒子「時間操作ですの? わたくしはそのような能力は存じませんが・・・・・・」

黒子「でも、どうしてそのようなことを?」

美琴「いやね、もしかしたらそれがあれば『空間移動』を再現できるんじゃないかな~って」

美琴「まあ私もそんな能力は聞いたことないし、思いつきだから確たる証拠もないし」

美琴「一応念のためって所かしら」

黒子「初春に電話します? まだ起きていると思いますから調べられると思いますが?」

美琴「そう? じゃあお願い」


黒子は携帯電話を手に取ると初春に電話をかける。学園都市のデータベースを参考にしたいときは初春に頼めばほぼ確実だ。
この学園都市において、情報戦で彼女の右に出る者はいないだろう。
実際過去に美琴とやり合ったときは、初春の方に辛勝ながらも軍配が挙がっていた。




597 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:48:59.51IAgE9Omx0 (19/22)


初春『もしもし~?』

黒子「あ、初春ですの?」

初春『どうしたんですか白井さん、今お風呂の途中だったんですけど?』

黒子「それは失礼。 後でかけ直しますわ」

初春『いえ、急ぎの用だったのなら良いですけど』

黒子「でしたら、お姉様が貴方に調べて欲しいことがあるそうですの」

初春『調べ物ですか?』

黒子「今お姉様に替わりますわ」


黒子は自分の携帯電話を美琴に手渡した。
それを受け取った彼女は電話の向こうにいる初春に事情を伝える。


美琴「あ、初春さん? いきなり電話をかけたりしてごめんね」

初春『大丈夫ですよ。 ところで調べたいものって何ですか?』

美琴「お昼の事件のことなんだけど、『時間を操る能力者』について少し調べて欲しいのよね」

初春『時間・・・・・・ですか。 何か手がかりを掴めたんですか?』

美琴「わかったと言うより、ただの思いつきね。 でも今はとにかく情報が欲しいでしょ?」

初春『確かにそうですけど・・・・・・わかりました』




598 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:49:25.53IAgE9Omx0 (20/22)


美琴「どのくらい時間がかかりそう?」

初春『そうですね・・・・・・まともに調べれば結構時間がかかりますけど、今晩寝ずに調べれば明日には報告できると思います』

美琴「そこまでしてもらわなくても良いんだけどね」

初春『いえ、今夜は徹夜します。 折角御坂さんがアイデアをくれたんですから、私も頑張らないと』

美琴「無茶言ってごめんね。 じゃあ明日、風紀委員支部で会いましょ」

初春『了解しました~』


プツッ ツー、ツー、ツー




599 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:50:43.61IAgE9Omx0 (21/22)


黒子「初春は何と?」

美琴「明日には調べ終わるみたいだから、支部のほうで結果を聞くつもり」

黒子「そうですか。 良い結果が出るといいですわね」

美琴「そうね。 今回のお礼に黒蜜堂のお菓子でも買っていこうかしら」

黒子「それなら私は餡蜜をお願いしますわ」

美琴「初春さんへのお礼なのに何でアンタに買わないといけないのよ」

黒子「あら、お姉様がこの事件に関われるのは『わたくし』や固法先輩のおかげですのよ?」

美琴「・・・・・・それもそうね。 固法先輩の分も買わないと」シレッ

黒子「わたくしの分は?」

美琴「あーもうわかったわよ! 買ってあげるわよ! 佐天さんも入れて餡蜜4人分で決定ね!」

黒子「さすがお姉様。 器も広いですわ」

黒子(あぁん! お姉様からのご褒美なんて! 黒子感激!)クネクネ

美琴(・・・・・・一発シメといたほうがいいかしら?)




600 ◆jPpg5.obl62012/10/08(月) 01:51:14.49IAgE9Omx0 (22/22)

今日はここまで

質問・感想があればどうぞ


601VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/08(月) 02:40:37.45dAlH8KMDO (1/1)

乙!
まさかのパチュリーさんだった。となれば霧雨氏の暴れは永夜からかな?

子供ってのは影響されやすいらしいからな。ジョジョを
読んだミコっちにも心境の変化とかは起こるんだろうか?


602VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/08(月) 10:11:31.58W7M6/PBio (1/1)




603VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/08(月) 12:09:05.137+1NJXBE0 (1/1)

MMDのパッチェさんには大人っぽいやつもあるから、それでイメージすれば良いのかな?


604VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/10(水) 14:55:40.82PfO+QfEb0 (1/1)

そういえば、霊廟組ってどうなるんです?


605VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/14(日) 16:26:53.260qVFNDVB0 (1/1)

>>1さんは霊夢さんってどう思います?


606 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:14:23.25PROX3MpW0 (1/20)

>>601
どうでしょう?ジョジョの口調バリバリな美琴も見てみたい気もしますが
ですがたぶん自分にはあの独特な口調を再現することは・・・・・・

>>603
パッチェさんは着痩せするのがジャスティス。異論は認めない

>>604
妖々夢、星蓮船、神霊廟組は魔術サイドで出したいところですが・・・・・・
正直に言ってストーリーがなかなか浮かんでこない
禁書SSで魔術サイド側の本格的な話が少ない理由がわかるような気がします
魔術って超能力とは違って神話や御伽話といった明確な土台があるので、
それらに詳しくないと設定を考えるのが難しい
超能力については意外と何でもありな側面もありますからね

>>605
自分の中では2種類考えています
一つ目が他人に対する反応は冷ややかだけど、実際はかなりの情熱の持ち主というタイプ
公式で霊夢さんは何事に対しても平等に興味がありませんが、
ただ淡白な性格だと誰にも好かれないような気がします
人妖問わず好かれているそうなので、それなりに感情は表に出す人であると思います
ぶっちゃけツンデレ

もう一つが本当に冷酷無比な性格で何事にも関心がないタイプ
それこそ他人からの好意も一刀両断しちゃう感じ
でも実際は他人から向けられた好意に対してどう答えればいいのかわからないだけで、
彼女自身としてはかなり人との繋がりに飢えている。しかしそのことに全く気づいていない
ぶっちゃけ寂しがり屋


ふと思ったんだけど霊夢さんって

空を飛ぶ程度の能力=超能力
夢想封印、封魔陣、陰陽宝玉その他スペカ=魔術

と考えれば超能力と魔術両方使えるんじゃね?
霊夢さんマジ最強


607 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:15:27.53PROX3MpW0 (2/20)

これから投下を開始します


608 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:16:07.10PROX3MpW0 (3/20)






――――7月26日 PM10:46








609 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:17:46.59PROX3MpW0 (4/20)


咲夜「失礼します。 お嬢様、飲み物をお持ちしました」

レミリア「いいわよ。 入ってきなさい」


レミリアが許可を出すと、咲夜がマグカップを乗せたコースタートレイを片手に持ちつつ部屋の中に入ってきた。
レミリアは洋風の寝間着を着て、自分の部屋の机に向かってパソコンに何かを打ち込んでいた。
十にも満たない、しかも中世ヨーロッパの箱入り娘のような少女が、巧みに文明の利器を使いこなしている姿は異様に見える。
だがこう見えても彼女は立派な社会人。この現代においてパソコンも使いこなせないようでは生きてはいけない。
外よりも技術が進歩している学園都市においては尚更だ。ここでは小学生でも携帯端末を使いこなすことが出来るのだから。


咲夜「失礼します・・・・・・」コトッ

レミリア「ん・・・・・・」


咲夜が温めたミルクが入ったマグカップをレミリアの目の前に置いた。
液面から立つ湯気に乗せられて届くバニラの香りが心を落ち着かせてくれる。
これだけでも軽い睡魔に襲われそうだが、今は仕事中だ。やるべき事が終わるまでは眠ることは許されない。
それならばコーヒーを飲めばよいと思うが、そうすると今度は眠るのが難しくなる。
徹夜しなければならないほどの仕事は溜まっていないので、そこまでする必要はない。

レミリアはマグカップを手に取りミルクを少し口に含む。
舌の上にシロップな甘い味が広がる。それを口の中で少しだけ転がすと、静かに飲み下した。
ミルクの温かさが体の内部から広がり、体の隅々にまで行き渡る。
このままベットに横たわれば、そのまま夢の中に埋没できてしまうだろう。




610 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:18:53.99PROX3MpW0 (5/20)


レミリア「ふぅ・・・・・・とてもおいしいわよ、咲夜」

咲夜「お褒めに預かり光栄です」

レミリア「本当、毎回ベストな飲み物を持ってきてくれるわね。 これも一種の才能かしら?」

咲夜「私の取り柄はこれくらいしかありませんから」

レミリア「謙遜するんじゃないの。 その技術は一朝一夕で身につく物では無いのだから」

レミリア「これなら他の場所に勤めても十分にやっていけるでしょうね」

咲夜「私はお嬢様以外には仕えるつもりはありませんよ」

レミリア「そう言われるのは悪い気はしないけど・・・・・・」


確かに今の所はレミリアと咲夜は主従関係にあるが、これは咲夜の実地試験を行っているためである。
繚乱家政女学校では現在、実験的に『メイドを雇いたい人を募集し、その場所に生徒を送り込んで働かせる』という試験を行っている。
この試験は学校のカリキュラムを修了し、優秀な成績を修めたメイドの最終試験として行われる予定だ。
試験を合格して尚かつ雇い主のお気に召せば、そのまま雇われることになっている。
この試験の利点は卒業後の勤め先を探す手間を省けることと、
1年間の間でメイドと雇い主の相性関係を知ることが出来るという所だろう。




611 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:19:30.14PROX3MpW0 (6/20)


メイドというのは特殊な業種である。
古代ローマにおいては奴隷の仕事であり、中世において『使用人』としての立場を獲得した。
近代以降は中流階級の拡大と共にメイドの人口も増加し、19世紀の後半から20世紀の初頭において全盛期を迎えた。

日本でも昔においては庶民層の娘が富裕層に雇われるということは決して珍しいことではなく、女性の就職先としてはありふれた存在だった。
工場での労働に比べて身元のしっかりした家庭で働くことは、女性の両親としても安心出来ることなのだ。
今でこそ『メイド喫茶』だのなんだので不純なイメージがつきまとっているが、本来ならば健全で由緒正しい仕事なのである。

しかし、第一次世界大戦において『女性労働力の再評価』による女性の社会進出が始まると同時に、
メイドの文化は目に見えるように急速に衰退していった。
今ではメイドを本業として働いている女性はごく僅かしかいない。

そのため、今ではメイドの仕事先を見つけることは困難を極める。そもそも需要が殆ど無いからだ。
仮に働き先を見つけたとしても、そこの職場に適合できなければ彼女達にとって悲惨なことにもなりかねない。
メイドは雇われているという関係上、雇用主に私物化される可能性が十分に考えられる。
実際に雇用主による性的搾取が問題となり、それによって裁判が引き起こされた事例も存在しているのだ。

それだけでなくメイドによる犯罪も起こっており、雇用主の財産に対する窃盗や横領が起きたり、
最悪雇用主がメイドに殺害されてしまうという事件もある。
合衆国ではメイドによる盗難被害が問題視され、全裸で仕事をすることで盗難被害を防止するサービスが行われているほどだ。
流石に学校側は生徒達を裸にして働かせるようなことしないだろうが、
メイドが真に信用されるにはそこまでする必要があるということなのである。

見知らぬメイドに対する雇用主の信頼を如何にして獲得するか。
いきなり彼女達を現場で働かせるのは、メイドとしても雇用者としても少々リスクが大きい。
本来ならばメイドはどのような場所であっても働くことが出来るということが理想であるが、
出来るだけ彼女達の肌にあった職場に就かせたいというのが学校側としての願いだ。
それにその方が仕事中のトラブルも少なく、雇用主側としてもメリットがある。




612 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:21:01.19PROX3MpW0 (7/20)


一端短期間メイドに働かせてみて、雇用主に可否を判断させた方が良いだろう――――
この最終試験はそのような構想を土台として生み出されたものだ。

そして試験の有用性を確かめるために実験を行うことになり、その対象となったのが十六夜咲夜であった。
彼女は学校始まって以来の好成績を収めたメイドであり、学校では教師、同期、先輩、後輩といった、
あらゆる学校関係者からメイドとしての腕を認められている。
メイドの教科書とも呼べる彼女を用いて実験を行えば、最終試験の有用性を正しく評価できるのではないか。
そのような意図から彼女が被験者として抜擢されたのであった。


レミリア(でも、この子ったら私に過剰に忠を尽くしすぎているのよね)

レミリア(あまり主人に依存しすぎると私物化される恐れがあるのに・・・・・・まぁ今更か)


確かにメイドは『雇用主の使用人』という立場である。しかしそれは、『雇用主の道具』であるという意味では決してない。
メイドは人間であり、その人権は保障されるべきものなのである。

しかし咲夜の場合は、レミリアに陶酔とも言い表せるほどの忠誠を誓ってしまっている。
このままでは実験の結果に悪影響を及ぼすのではないだろうか。学校側としてはあまり望ましくないことだろう。


レミリア(私が説得するのもいいけど、それをしてしまうと余計に状況が悪化しかねないし・・・・・・)

レミリア(咲夜は私に絶対的な忠誠を誓っている。 それこそ私に仕えることを自分の存在意義にしてしまっている)

レミリア(そんな咲夜を私が突き放してしまったら・・・・・・『忠誠を誓うな』なんて言ったらどうなるか・・・・・・)

レミリア(最悪この子のアイデンティティーの崩壊に繋がる。 そうなったら、碌なことにはならないかもね)


そんなことを考えながらホットミルクの最後の一口を飲み干した。
咲夜はその間も自分の傍らに立ち、微動だにせず主の命令を待っている。
こうしていると精巧なマネキンを見ているようだ。ここまで来ると感心を通り越して不気味に思える。




613 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:22:52.55PROX3MpW0 (8/20)


レミリア「・・・・・・ふぅ、ごちそうさま。 もう片付けても良いわよ」

咲夜「畏まりました」


テキパキと食器を片付けていく咲夜を尻目に、レミリアは目の前のパソコンのモニターに向かった。

モニターには明日の仕事の予定がずらりと並んでいる。
彼女は一出版社の編集長をしているのだ。企画を立てたり、雑誌の原稿を整理したりと仕事は山積みである。
会社は比較的最近設立されたものなので規模は小さいが、レミリアの手腕によって経営は徐々に軌道に乗り始めている。
経営の好調による仕事量の増加は、彼女にとっては喜ばしいことと言えるかもしれない。


レミリア(さて、明日の予定は・・・・・・ん?)


視線を感じたので背後を振り返ると、そこには咲夜がこちらを見て立っていた。
食器の後片付けは既に終わっている。もはや彼女にはこの部屋にいる理由はないはずなのだが。

よく見てみると、彼女は何かを言いたげな表情をしている。
こちらが気づいても一向に話しかけてこないのを見るに、おそらくレミリアに話しかけるべきかどうかの判断に迷っているのだろう。


レミリア「どうしたのかしら、咲夜?」

咲夜「・・・・・・お嬢様、一つお聞きしたいことがあるのですが」

レミリア「・・・・・・何かしら?」


従者としての領分をわきまえている彼女が、主であるレミリアに質問をしてくることは非常に珍しい。
レミリアは滅多にない出来事に興味を抱きつつ、椅子を咲夜の方向に向けた。




614 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:24:06.65PROX3MpW0 (9/20)


咲夜「今日の朝にお嬢様に頼まれたことについてです」

レミリア「今朝の・・・・・・あぁ、あのことね。 上手くいったかしら?」

咲夜「はい。 お嬢様が仰った通り、シスターと思われる少女が妹様に会いに家に訪問して来たので、
妹様はお嬢様と一緒に外出しているということにして帰らせました」

レミリア「そう。 そのシスターは何か言っていたかしら?」

咲夜「いえ、得には・・・・・・シスターの付き添いで来た男の方は何かを考えていたように思えましたが」

レミリア「男・・・・・・? そのシスターには付添人がいたの?」

咲夜「はい。 その男以外にも同年代と思われる女も一緒にいました」

レミリア「ふぅん・・・・・・」


椅子に深く座り、レミリアは咲夜からの報告に思考を巡らせる。
シスター――――インデックスがここに来ることは自分の能力で事前に察知しており、
彼女とフランが会わないように咲夜を使って策を施した。
優秀な従者のおかげで自分の目論見は成功した。しかし、また別の問題も浮かび上がってきている。




615 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:27:25.76PROX3MpW0 (10/20)


レミリア(インデックスの付き添いの男と女、か。 誰かがついて来るという未来は見えてはいなかったのけれど)

レミリア(いや、私が見たのはあくまで『インデックスがこの家にやってくる』という未来のみ)

レミリア(『インデックスに誰かが付いて来る』という事象はもしかしたら私の能力の範囲外・・・・・・)

咲夜「お嬢様? どうなされたのですか?」

レミリア「ん? あぁ、何でもないわ」

咲夜「・・・・・・? そうですか」


咲夜に話しかけられてことで慌てて思考を中断する。
目の前の会話している相手がいきなり無言になったら不安にもなるだろう。
あれこれ考えるのは全ての話を聞いてから。そうしなければ最も重要な点を聞き逃してしまうことになる。


レミリア「そういえば、フランの様子はどうかしら?」

咲夜「妹様は自分の部屋でお休みになられています。 お嬢様が出掛けている間もきちんとお嬢様の言いつけを守っておられました」

レミリア「そう、なら良いわ。 正直そのことが一番気掛かりだったから」

咲夜「はい・・・・・・」


いくら自分達がインデックスをこの屋敷に中に入らないように策を施しても、
フランが自らこの家を出ようとしてしまったら全く無意味な話になってしまう。

いくら優秀な従者である咲夜でもフランを止めることは不可能だ。
無理矢理取り押さえることは出来るかもしれないが、フランは主であるレミリアの妹である。
そんな彼女に対して力をもって押さえつけるなど、従者という立場上あまり褒められたことではない。




616 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:31:17.00PROX3MpW0 (11/20)


咲夜「・・・・・・お嬢様。 無礼を承知でお聞きしたいのですが」

レミリア「何かしら?」

咲夜「どうしてあのシスターと妹様を会わせないのですか? 正直に申しますと、お嬢様の意図が掴めません」

レミリア「あら、これはフランに対するお仕置きなのだけれど?」

咲夜「それであれば、妹様がお仕置きを受けていることをあのシスターに伝えないのは何故なのですか?」

咲夜「私としてはその必要は全くないように思えるのですが」

レミリア「フランの沽券のためだとは考えないの?」

咲夜「妹様に対するお仕置きなのであれば、むしろ沽券を貶める方が理に適っているかと」

レミリア「・・・・・・」


なるほど、咲夜は確かに優秀だ。
ただ主の命令に従っているだけではなく、しっかりと自分の考えを持ち行動している。
それでいてその考えをやたらと主に押しつけるのではなく、あくまで従者の考えとして謙虚に述べている点も好感が持てる。
従順であるだけならば犬でも出来る。そこに意志を持ってこそ、人間の従者であると言えるだろう。




617 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:39:20.77PROX3MpW0 (12/20)


レミリア(これじゃあごまかしきれないわね。 でも『あの事』を全て喋るわけにもいかないし・・・・・・)


おそらく彼女は、フランの罰にはもっと他の理由が絡んでいることに気がつき始めている。
流石は家政繚乱女学校始まって以来の天才と言うべきか。洞察力も他とは一線を画しているようだ。

だが、だからといって全ての真実を暴露するわけにもいかない。
だいぶ巻き込んでしまっているのは事実ではあるが、最低限の線引きはしておかなければならない。
『表』の人間を『裏』の深部まで踏み込ませてしまったら、取り返しの付かないことになる。
かつて自分が見た『闇に沈んでいった者達』のように彼女も――――


咲夜「お嬢様」

レミリア「ん?」


再び視線をやると、そこには咲夜が自分の足下に跪いていた。
いきなりのことに内心動揺しつつも、平静を装って咲夜の姿を見つめる。
確かに彼女は自分の従者ではあるが、彼女がここまでするのを見るのは初めてだ。
何故自分に対してここまで忠誠を誓えるのか。私はこの子に『あんなこと』をさせているというのに。


咲夜「未熟な私ではお嬢様の意図をくみ取ることは出来ません。 そして私とお嬢様の関係は一年だけの短期契約のものです」

咲夜「そんな私に対して全面的な信頼を寄せるなど、絶対に無理であろう事は重々承知しております」

レミリア「・・・・・・」

咲夜「ですが私は、例え微々たる力しか持っていなくともお嬢様の役に立ちたい」

咲夜「お嬢様のためならば、どんな命令でもこなしてみせる所存です。 例え――――」




618 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:40:41.94PROX3MpW0 (13/20)






咲夜「夜な夜な人間から血を集めて回る、吸血鬼紛いのようなことであっても」








619 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:43:03.06PROX3MpW0 (14/20)


レミリア「――――!!!」

咲夜「ですからお嬢様、どうか私めに本当のことを教えてはいただけないでしょうか?」

レミリア「咲夜、それ以上言う必要はないわ」

咲夜「お嬢様・・・・・・?」


レミリアは足下で必死に懇願する咲夜の言葉を制止する。
このまま彼女を放置していたら、最終的には頭をこすりつけ始めたりするかもしれなかったからだ。
レミリアが欲しいのは『従者』であって『下僕』ではない。彼女に奴隷紛いのことをさせてしまうのはこちらとしても気分が悪い。
それに、今までの言葉で彼女の気持ちは十分にわかった。これ以上彼女を跪かせることは無意味だ。


レミリア「あなたの気持ちは十分にわかったわ。 そこまで言うのであれば教えましょう」

咲夜「・・・・・・! ありがとうございます!」

レミリア「それに、このまま放置したら何を言い出すかわからなかったからね」

レミリア「咲夜あなた、自分がさっき何を口走ったのか自覚はあるのかしら?」

咲夜「え・・・・・・あ!?」

レミリア「まったく、ここが私の私室だったから良かったものの・・・・・・もし誰かに聞かれていたらどうするつもりだったの?」

咲夜「も、申し訳ありません!」

レミリア「ま、今回は不問してあげるわ。 あそこまで忠誠を誓われちゃったら、私も何かしないと釣り合いがとれないし」

咲夜「ありがとうございます・・・・・・」

レミリア「最後の確認だけれど、本当に教えて欲しいのね? これ以上踏み込んだらもう後戻りは出来なくなるわよ?」

咲夜「二言はありません。 お嬢様の為であればどんなことでも受け入れましょう」

レミリア「良い返事ね。 じゃあ教えてあげるわ――――」





620 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:44:40.59PROX3MpW0 (15/20)






「どうして私が貴方に血を集めさせているのか。 その理由をね」








621 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:48:25.26PROX3MpW0 (16/20)






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








622 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:50:21.63PROX3MpW0 (17/20)


フラン「・・・・・・眠れない」


フランドールは自室で一人、ぽつりと独り言を言った。
自分の部屋にあるふかふかのベッドに寝そべっているのだが、どうにも眠気がささない。
先ほど従者のミルクを飲んだというのに、全く睡眠欲が沸き上がってこないのだ。
おそらくこのまま横になっていても、無意味に時間が過ぎるだけだろう。

原因はわかっている。自分の姉から課せられた罰のせいだ。

今日は一日レミリアからのお仕置きによって、一歩も家の外に出ることは叶わなかった。
家から出られないということ自体は過去に長らく経験しているのでそれほど苦痛ではないが、
今はむしろインデックスに会えないという事実が心に深く突き刺さっている。

一体罰はどれくらいの期間続くのだろうか。
もしかしたらこのままインデックスと疎遠になり、また一人になってしまうのではないのか。
そんなネガティブな考えばかりが頭の中に浮かび上がる。


フラン(大丈夫・・・・・・そんなことない。 そんなこと・・・・・・)


そしてその度に、フランはその悲観的な思考を否定しようと頭を振りかぶる。
この動作も今日だけで何回行ったのだろうか。もしかしたら十回は超えているかもしれない。
その他にも、この状況にいても立ってもいられずに自分の部屋から出て家の中を徘徊したり、
何を見るわけでもなくテレビをつけたり消したりするなど、無意味な行動を何度も繰り返していた。

だがそんなことをしても彼女の心が安まるはずもなく、重くのしかかるストレスで全く眠れないのが現状である。
この状況が続いたら一体どうなってしまうのだろうか。




623 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:51:21.59PROX3MpW0 (18/20)


フラン「・・・・・・」


ぼんやりと窓から外の様子を眺める。
もう夜中に近いためか、外を出歩いている人間は見あたらない。時々車が通るくらいである。

フランの家は住宅の密集地に建てられている。しかもマンションではなく立派な一戸建てだ。
一際土地の事情が切迫しているこの街で個人の家を持つことがどれほどのことなのか、推して知るべしであろう。

しかし一つだけ不可解なことがある。この家に住み始めたのは学園都市に来てまもなくのことだ。
お金もコネもないその時期に、姉がどうやってこれほどの屋敷を購入できたのか未だにわからなかった。
だがこの家に住むことには何ら不満はないので、姉に追求するようなことはしていない。


フラン(おとうさん、おかあさん・・・・・・)


そこまで考えた時、ふつふつと自分の両親のことが頭に浮かぶ。過去のことを思い出してしまったせいだろう。
もしかしたら『孤独』を恐れるあまり、無意識に親の温もりを求めてしまったのかもしれない。

フランの記憶の中には自分の両親のことはほんの僅かにしか残っていない。
しかもかなり朧気であり、顔を思い出すためには唯一残った写真を見ることしか方法がないのだ。

そして再び会おうと思っても、それは二度と叶わない。両親は自分が学園都市に来る前に事故で死んでしまっている。
姉が言うには両親が死んで私達が孤児になったところに、親と親交のあった人物の計らいで学園都市に来ることになったそうだ。




624 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:52:12.80PROX3MpW0 (19/20)


フラン「・・・・・・寝よう」


フランは昔に思いを馳せることを止め、再び寝る準備に入る。
思い出に縋っても現状が良くなることはない。そのことは彼女自身が一番よく知っている。
『あの事件』を起こしてしまった時に何度も心の中で懺悔を繰り返したが、結局日常が元に戻ることはなかった。
過去を見つめるのは構わないが、そればかりに囚われては一歩も前に進むことは出来ない。
自分もあの時後悔ばかりして現状から逃げだそうとしなければ、もっと変わった未来を歩めていたのかもしれない。


フラン(そう言えばあれ、結局何だったんだろう?)


ふと、今日に昼に奇妙な出来事があったことを思い出した。
大体2時頃だっただろうか。突然屋敷の中にとても美味しそうな香りが漂い始めたのだ。
最初は従者が夕飯の仕込みをしているのだと思ったのだが、台所に行っても料理をした形跡は全くなかった。
その香りがどこから来るのか突き止めようと家の中を歩き回ったのだが結局見つけることは出来ず、
香りは漂い始めた時と同じように突然消え失せてしまったのである。


フラン(ま、いっか)


実に不思議な出来事だったのだが、今となってはその原因を知ることはもう出来ないだろう。
フランは思考を切り替え、何とか眠りにつこうと再びベッドに潜り込んだ。




625 ◆jPpg5.obl62012/10/14(日) 19:54:24.49PROX3MpW0 (20/20)

今日はここまで。
次は門番さんが出るんですが、美琴のお母さんと字が被ってるんですよね
どうしましょう?

質問・感想があればどうぞ


626VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2012/10/14(日) 20:21:07.82Io8QUj6AO (1/1)


片かなでメイリンとかかな?中国は断固無しで


627VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/14(日) 20:22:20.57hc/RMlnDO (1/1)

乙乙!

咲夜さんは、既に全てを知っていたという訳では無かったのか。

っていうか……全………裸……だと…?

美鈴さん?カタカナで良いんじゃないかな?


628VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/14(日) 20:52:29.84KLId88FIO (1/1)


美鈴(御坂)の方と同時に出さないなら漢字でもいいのでは?
でも一言くらい言わないとごっちゃになるかもしれんしな…


629VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/14(日) 22:14:11.85Jy/pjyu40 (1/1)

血に惹かれしフラン……


呼び方か、門番美鈴 とか、
もしくは GK(ゲートキーパー)美鈴
なんてのもアリかも?


630VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/15(月) 12:45:25.409IF67ruM0 (1/1)

霊夢さんの考察、随分しっかりしてるな


631VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/15(月) 21:15:10.35aIV2GIGz0 (1/1)

咲夜さんはどうしてここまでするのか……

それにしても、俺もあのホットミルク飲みてー。


632VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/16(火) 15:59:31.704hC+eS8+0 (1/1)

>>1さんもメイドって欲しいと思う?


633VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/17(水) 12:14:45.48avpVj+Mk0 (1/1)

そうだよねー、”使いこなせれば”楽しいだろうね~。パソコンは


634VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/18(木) 23:58:02.09ffWu+yAa0 (1/1)

どう収まるのか見もの


635VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/19(金) 10:59:33.856/ZemhOY0 (1/1)

ファッション界は物の名前がすぐにコロコロ変わって困る


636VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/20(土) 11:01:45.12V/asG3D40 (1/1)

完璧過ぎるのも問題という事か。


637 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:42:44.35cSE8Oo820 (1/20)

>>626, >>627, >>628, >>629
考えた結果、漢字で行こうと思います

>>632
コミュ症の自分に女性を雇うなんてこと出来るわけ無い
と言うか、真剣にメイドを欲しがっている人なんて実際にいるのか?

>>633
パソコンを使いこなしていると言えるのはどのくらいの技量がある場合なんでしょうかね?

>>634
出来るだけ綺麗に収まるように努力します・・・・・・

>>636
何でも完璧にこなせている人がいざ困難にぶち当たるとパニックに陥るというのはよくある話


急にレス数が増えた・・・・・・
嬉しいけどプレッシャーがががg





638 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:43:35.51cSE8Oo820 (2/20)

これから投下を開始します


639 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:44:03.84cSE8Oo820 (3/20)






――――7月27日 AM6:02








640 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:44:57.26cSE8Oo820 (4/20)


上条「む・・・・・・?」パチッ


上条当麻は自宅の風呂場の浴槽の中で覚醒した。
起きるにしては幾分時間が早い気もするが、そういう日もあるだろう。

彼が風呂場に寝泊まりするようになったのは、インデックスに出会った1年前からである。
学生寮は基本的に1部屋にベッドが1つであり、そのままでは必然的にインデックスと当麻は同じベッドで寝ることになってしまう。
健全な男子高校生である彼としてはそれだけは何としてでも避けたかったため、自主的に浴槽で就寝するようになった。

インデックスはもちろんそんなことは気にしてはおらず、むしろ一緒に寝て欲しいとまで言っていたのだが、
地雷原でフラメンコを踊るようなことをする勇気が彼にあるはずもなく、今でも浴槽に布団を敷いて寝ている。

この前土御門からは『カミやんは相変わらずニブチンだにゃ~』と言っていたが、
何のことを言っているのか皆目見当も付かなかったので無視した。


上条「よいしょっと。 いつつつ・・・・・・ちょっと右肩が硬くなってるな・・・・・・」

上条(インデックスもまだ起きないみたいだし、外で運動でもするか)


流石に1年間同じような生活を続けていれば慣れたものではあるが、それでも窮屈であることには変わりなく、
こうして寝起きに体を動かさないと節々が痛くてしょうがない。
もちろんインデックスの前ではそんなことを口に出したりはしないが。




641 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:45:32.89cSE8Oo820 (5/20)


上条「・・・・・・これでよし」


風呂場から出た当麻はテーブルの上にインデックスへの書き置きを書き、散歩に出掛けてくる旨を伝える。
すぐ戻ってくるつもりであるが、自分が居ない間にインデックスが目を覚まして心配されるのも不味い。


禁書「んぅ・・・・・・。 とうま~、おなかすいた~・・・・・・」

上条「・・・・・・まったく、夢の中でも食べ物の話か?」


眠り姫は夢の中でも当麻にご飯を強請っているようだ。ここまでぶれないと呆れを通り越して感心する。


上条「全く、美味しそうに食べてくれるから作りがいはあるけど、もう少し遠慮してくれてもいいんじゃないですかね・・・・・・」

スフィンクス「なーぉ」

上条「はは、お前もそう思うか? スフィンクス」


当麻はインデックスと同じ部屋の居候であるスフィンクスと共に笑い会う。
彼女が拾ってきた捨て猫であるが、この猫も今では上条家の立派な一員だ。

その後彼はインデックスを起こさないように静かに部屋を出て行った。




642 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:46:13.34cSE8Oo820 (6/20)






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








643 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:47:21.15cSE8Oo820 (7/20)


当麻は散歩がてらに学生寮の周辺を歩き回る。朝早いため、道にはあまり人がいない。
精々、学校の部活でランニングしている人をたまに見るだけだ。


上条(それにしても、結局土御門の奴は帰ってこなかったな)

上条(インターホンを鳴らしてみたけど返事は無かったし・・・・・・)

上条(何か厄介事にでも巻き込まれてるのか・・・・・・?)


あの土御門のことだ。当麻の知らない間に事件に巻き込まれていたとしてもおかしくはない。
いや、むしろ彼は厄介事に巻き込むタイプだったか。

彼が持ってきた依頼でどれだけ当麻が苦労したか分からない。半ば強引に連れ去られて、戦地の放り込まれたこともあった。
だが恨んではいない。あの状況を解決するためには自分の力が必要であったことは事実であり、
事件を解決するために自ら率先して動いていたのだから。

どちらにせよ、魔術師が侵入してきているこの状況で連絡が取れないのは心配だ。
彼に限ってはないと思うが、深入りしすぎて捕縛されたのではないかと考えてしまう。


上条(ま、あいつのことだからヘラヘラしながらいきなり目の前に現れるかもしれないけど)

上条(とにかく、情報がないと迂闊に動けないからな)

上条「早いとこ連絡しないと・・・・・・ん?」




644 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:48:40.62cSE8Oo820 (8/20)


ふと気がつくと、当麻は近くの公園まで来ていた。
考え事をしている内に少し遠いところに足を運んでしまったらしい。

通学時にはよく通りかかる場所ではあるが、実際にここで遊んだことは全くといって良いほど無い。
ここの近く住んでいるのは大半が高校生であり、高校生ともなれば公園で遊ぶよりは市街地に出るのが殆どだからだ。
遊具があるわけでもなく、無駄に面積が広いため、この場所を使って自分の寮を新築してくれはしないかと考えたこともあった。


上条(誰かいる? こんな朝早くから?)


だが今日に限って、その公園には一人の人影があった。
ジャージを着たかなり長身の赤髪の女性がラジオから流れる音楽に合わせて変な踊りを踊っている。
背格好から見て大人のようだ。端から見るとかなり怪しい。
だがよく見ると、その動きは香港映画などでよく見るものであった。

太極拳。
東洋哲学における重要な概念である『太極思想』を取り入れた拳法であり、日本でも有名な武術の1つである。
他の武術とは違い、健康・長寿に良いとされているため、格闘技や護身術ではなく一種の健康法として習っている人が多い。
中国では市民が朝早くから公園に集まって練習するのが普通の光景となっている。


上条(でもなんでこんな所で・・・・・・?)


彼女を公園で見るのは初めてだ。
当麻の記憶は1年分しかないのでそれ以前のことは分からないが、たぶん見かけなかったはずであろう。

最近この近くに引っ越してきたのだろうか?
しかし、このあたりは研究者や教職員が住めるような場所は殆ど無かったはずであるが。




645 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:51:26.29cSE8Oo820 (9/20)


赤髪の女性「ふぅ~・・・・・・。 これでよしっと」


眺めている内に体操が終わったらしい。
ラジオの電源を消し、大きく背伸びしている。


赤髪の女性「帰ったら仕事の支度しないと・・・・・・ん?」

上条(あ・・・・・・やべ)


どうやら見ていることに気づかれたらしい。女性は当麻の方にスタスタと一直線に歩いてくる。
その歩き方に淀みは一切無く、やはり何かの護身術を修めているようだ。


赤髪の女性「君、どうかした?」

上条「あ、いや、その・・・・・・」


こうして近くで見るとかなり背が高い。少なくとも当麻よりも頭一つ分は超している。
近くに来られると自然と見下ろされる形となってしまうため、妙な威圧感を感じた当麻は少しまごついてしまった。
何と言えばいいか、自分が通っている学校の体育担当である鬼教師と姿がダブっているのである。

ついでに言うとアレも大きい。

アレって何かって? それは女性が持つアレだ。
多くの思春期の男子高校生を虜にするあのメロン(比喩)である。




646 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:53:19.76cSE8Oo820 (10/20)


上条(でかい・・・・・・黄泉川先生くらいあるんじゃないか?)

上条(というか、雰囲気も何となく黄泉川先生に似ているような・・・・・・)

上条(黄泉川先生をもう少しおっとりした感じにすれば同じようになるか・・・・・・?)

赤髪の女性「黙ってたらなにも分からないんだけど・・・・・・?」

上条「え~っと・・・・・・」タジッ

赤髪の女性「もしかして、何か悪いことでも考えてるのかな?」ズイッ

上条(近い近い! しかも胸元のチャック閉めてないから見え・・・・・・)


数多の恋愛フラグを叩き折ってきている当麻といえども、元はと言えば多感な男子高校生なのだ。

熟れた肉体を持つ女性に近寄られればどうしても意識してしまう。
それに彼の好みは『年上のお姉さんタイプ』。この女性は彼のストライクゾーンの範囲内だ。
このままでは色々な意味で危険だ。


赤髪の女性「なんてね。 君みたいな真っ直ぐな目をした子が悪いことするはずないし」スッ

赤髪の女性「このあたりを散歩してたんでしょ?」

上条「あ、はい、そうです・・・・・・」

上条(助かった・・・・・・)

赤髪の女性「早起きとは関心関心!」

上条(今日たまたま早起きできただけなんだけどな・・・・・・)


快活に笑う赤髪の女性。こういった所が黄泉川愛穂に似ている。
髪の色を黒にしてじゃんじゃん言わせればもっと似せられるだろう。
当麻としてはあの鬼教師が二人もいる場面など絶対に見たくは無いが。





647 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:54:42.49cSE8Oo820 (11/20)


赤髪の女性「そういえば名前を聞いてなかったね」

上条「・・・・・・上条当麻ですけど」

赤髪の女性「上条くんね」

上条「・・・・・・」

赤髪の女性「・・・・・・」


不自然な沈黙が二人の間に流れる。これは何か、こちらからも訪ねろということなのだろうか?
このまま沈黙か続くのも気まずいので、当麻は意を決して話しかける。


上条「え~・・・・・・貴方のお名前は?」

赤髪の女性「ふっふ~ん。 当ててみたら?」

上条「え?」


名前を尋ねたら今度は自分の名前を当ててみろと言ってきた。初対面の人間の名前を当てろなどと無茶ぶりにも程がある。
そんなことが出来るのは『読心能力』を持つ人間だけだろう。生憎、当麻はそんな便利なものは持っていない。




648 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:55:37.61cSE8Oo820 (12/20)


上条(いくら何でも無理ゲーでしょうそれは・・・・・・ん?)


女性の体をよく見ると、着ているジャージの胸元に『紅美鈴』と書かれている。
そのまま読むなら・・・・・・


上条「『くれないみすず』さん、ですか?」

赤髪の女性「ぶっぶ~。 は~ずれ~」

上条「えぇ!?」

赤髪の女性「罰ゲームとして、ヘッドロックの刑だ!」ガシッ

上条「のわぁ!」


赤髪の女性は罰ゲームと称して当麻の頭を脇に抱えて締め上げる。
それと同時に彼女のメロン(比喩)が上条の顔に当たった。
うらやまけしからん。




649 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:56:32.37cSE8Oo820 (13/20)


上条「いだだだだだ! 割れる割れる! 不幸だー!!!」

赤髪の女性「人の名前を間違えちゃう悪い子は君かな!?」ギリギリ

上条「それじゃあ何なんですか!? 上条さんの貧相な脳みそでは皆目見当も付きません!」

赤髪の女性「『ほんめいりん』って読むの!」ギリギリ

上条「ほんめいりんさんですね!? わかりました! わかりましたからぁ!」

美鈴「よし、いいわよ」パッ

上条「いっつ~・・・・・・本当に割れるかと思った・・・・・・」

美鈴「あははは、ごめんごめん」


紅美鈴と名乗る女性に解放された当麻は、頭の形が変わっていないか手で触りながら確認する。
誇張無しに頭蓋を粉砕されるかと思った。見かけによらずかなりの力の持ち主らしい。
それに実際に腕に触れてみてわかったことだが、彼女は相当鍛え上げられているようだ。

頭の歪みを確認していると、ふと、当麻はあることに気がついた。




650 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:57:15.60cSE8Oo820 (14/20)


上条「あれ? ということは、美鈴さんは中国出身なんですか?」

美鈴「生まれは中国だけど、育ちは日本かな」

美鈴「中学生のときに学園都市に来たんだよね」

上条「そうなんですか」

美鈴「そういえば上条くんはこのあたりに住んでるの?」

上条「はい、近くの寮に住んでます」

美鈴「この近くの寮っていうと・・・・・・○○高校の寮?」

上条「そうです。 俺は2年生ですね」

美鈴「もしかして、その高校に黄泉川って人いない?」

上条「黄泉川先生? 知ってますけど・・・・・・」


美鈴と黄泉川が似ているとは思っていたが、どうやら二人は知り合いのようだ。
どう言った関係なのだろうか?




651 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 20:58:13.20cSE8Oo820 (15/20)


美鈴「あの人、私と同期なのよ。 『警備員』のね」

上条「同・・・・・って、えぇ!?」

美鈴「そんなに驚くことないじゃない」

上条「いや、『あの』黄泉川先生と同期ですか?」

美鈴「『あの』って・・・・・・そんなに評判悪いの?」

美鈴「黄泉川さん、結構生徒に好かれるタイプだと思ったんだけどなぁ」

上条「いや、別にそういうわけじゃないですけど・・・・・・」

美鈴「あ、そう? びっくりした」


黄泉川愛穂といえば、当麻の通う高校ではいろんな意味で有名な女性教師である。
科目は体育を担当しているが、そのスパルタたるや、それなりに鍛えているはずの当麻でさえかなりキツイ。

とはいっても、それは彼女なりの生徒に対する接し方であり、
困っているときは親身に付き合ってくれるため人望は厚いという、優しくも厳しくもある教師だ。

当麻も喧嘩に巻き込まれたときはたまにお世話になっている。
もちろん補導されているという意味ではない。




652 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 21:04:20.02cSE8Oo820 (16/20)


美鈴「どう? 黄泉川さんは元気にしてる?」

上条「そりゃあもう元気ですよ。 というか、病気になったことあるんですかあの人?」

美鈴「う~ん、そういえば無いような・・・・・・」

美鈴「あ、でもべろんべろんになるまで酔って、次の日二日酔いでふらふらになりながら任務に当たってたことはあるわね」

上条「マジですか?」

美鈴「本当よ。 でも昔のことだから、今はそんなヘマしないんじゃないかな」

上条「まあ、そうですよね」


鬼教師の意外な一面を聞いて当麻は心から驚愕したが、それも昔のことのようだ。

あの教師も若い頃は色々とやんちゃをしていたのだろうか。
確かに快活な性格であるが、他人に迷惑をかけるような人手はなかったはずである。
長い年月が彼女に立派な正義感と義務感を芽生えさせたのであろう。




653 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 21:05:06.02cSE8Oo820 (17/20)


美鈴「黄泉川さんも昔は色々無茶しててね~。 いつも隊長に怒られて始末書書かされてたなぁ」

美鈴「居眠り常習犯だった私が言えることじゃないんだけどさ」

上条「・・・・・・黄泉川先生の意外な過去を知ってしまったような気が・・・・・・」

美鈴「黄泉川さんには言っちゃ駄目よ? 私が怒られちゃうから」

上条「じゃあ最初から言わなきゃいいんじゃ・・・・・・」

美鈴「あら、上条くんは女の人との約束も守れないの?」

上条「へ? いや、そんなことは・・・・・・」

美鈴「ま、ばらしたら上条くんも道連れだしね」

上条「ふ、不幸だ・・・・・・」


黄泉川からの制裁など考えただけでも恐ろしい。
このことは墓場まで持って行くことを誓う当麻であった。




654 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 21:14:06.43cSE8Oo820 (18/20)


上条「そういえば、美鈴さんはどうしてここに? このあたりの人じゃないですよね?」

美鈴「あまり詳しいことは言えないんだけど・・・・・・最近起こってる通り魔事件、知ってる?」

上条「女子生徒ばかりが襲われてるっていうアレですか?」

美鈴「そう、それ。 私はその事件の解決のために協力しに来たの」

美鈴「本当は第7学区の『警備員』だけで対処するはずだったんだけどね」

美鈴「なかなか捜査が進展しないから他学区の『警備員』にお呼びがかかったってわけ」

美鈴「で、その間の住む場所を確保するために近くの宿を取ったんだけど・・・・・・」

上条「そんな場所ありましたっけ?」

美鈴「学生には知られてないけど、教職員用のボロいアパートがあるのよ。 その分格安なんだけど」

美鈴「今はそこで寝泊まりしててね。 今やっているのは寝起きの準備体操なの」

上条「なるほど」

美鈴「本当は黄泉川さんの所に泊まりたかったんだけど、既に誰かと一緒に住んでいるみたいだったから諦めたのよね」


美鈴の言葉から、何故彼女がこの場所に来ているのかは知ることが出来た

『連続通り魔事件』が発生してから一ヶ月。捜査が難航している現状に『警備員』もかなり焦っているようだ。
出来れば当麻も協力したかったが、『幻想殺し』を持っていても所詮一般人。
『警備員』は彼が捜査に加わることを認めはしないだろう。

ふと、美鈴が公園の時計を見る。時計は6:50を指していた。




655 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 21:19:43.17cSE8Oo820 (19/20)


美鈴「あ、もうこんな時間か」

上条「え? あ! インデックス!?」

美鈴「ん? どうかした?」

上条「ヤバイヤバイヤバイ! 早く帰って飯作らないと・・・・・・!」


そろそろインデックスが目を覚ます時間帯のはずだ。
一応書き置きはしてあるが、待たせすぎるのも良くはない。何より寝起きの彼女はかなり飢えているのだ。


上条「それじゃあ、俺はもう帰りますんで! さよなら!」ピュー

美鈴「あ・・・・・・」


当麻はハイエナに追いかけられているシマウマのようなスピードで走り去ってしまった。
また歯形を付けられるのは勘弁願いたいのだろう。


美鈴「変わった子ね・・・・・・ま、いっか」

美鈴「さ、戻って仕事の支度をしないと・・・・・・」


美鈴はラジオを手にぶら下げると、陽気に鼻歌を歌いながら公園を去っていった。

今日も慌ただしい一日が始まる。




656 ◆jPpg5.obl62012/10/21(日) 21:20:27.02cSE8Oo820 (20/20)

今日はここまで

質問・感想があればどうぞ


657VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/21(日) 22:50:11.47qYamziCIO (1/1)


美鈴警備員か


658VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/22(月) 13:57:06.77E7drlGpH0 (1/1)

美鈴さんが大人している……

美鈴さんの名前を、いっつも みすず で変換してるのは内緒だぞ☆


659VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/23(火) 10:47:40.45nLaAtuFy0 (1/1)

この分だと、こまっちゃんは葬儀屋(霊柩車の運転手)とかかな?



660VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/23(火) 15:49:40.02HxcopeQx0 (1/1)

チルノ&大ちゃん+三妖精で、日曜朝の番組ごっことかやってるんだろうか?w


661VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/23(火) 17:13:10.4645YRKh3DO (1/1)

↑見た目通りの年齢ならやってるかもな。


662VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/24(水) 11:23:19.56AYSZPnDo0 (1/1)

今後どう絡んでくるか……


663VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/25(木) 12:38:14.19d3s5Y7MG0 (1/1)

ゆうかりんランドだかフラワーショップゆうかだかに行ってみたいぞ


664VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/27(土) 16:54:33.17T/hmqwfT0 (1/1)

プロローグの人が襲われたのが既に一ヶ月前か……安否はどうなっているのやら


665 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:12:58.48QwkRdq8W0 (1/17)

>>658
めいりん でも変換できるようにしてるけど以前の癖でつい みすず で変換してしまう・・・・・・

>>659
葬儀屋なんてあるんでしょうかね?
学園都市は宗教観が薄いのであまりそういったものは少ないような気もします
葬式なんて挙げずに燃やして埋めてお終いなんてこともあり得るかも・・・・・・

そう言えば学園都市で死んだ子供の遺体はどうなるんだろう?
本来ならば親の元の届けられるのでしょうが、学生の肉体は超能力開発の技術の欠片が残っているかもしれないし、
もしかしたら学園内で火葬なりなんなりされないと許可が下りないかも

>>660, >>661
⑨「あたいって、ほんとバカ」

・・・・・・魔法少女ものだけど、これは朝じゃなかったですね

>>663
ゆうかりんとむぎのんを会わせてみたい
居合わせた浜面の胃にストレスで穴が開くな・・・・・・

>>664
襲われた人達は献血程度の血を抜かれただけなので、少し入院した上で退院してます
まぁ、身体面では大丈夫でも精神面では・・・・・・


666 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:17:51.89QwkRdq8W0 (2/17)

これから投下を開始します


667 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:18:26.88QwkRdq8W0 (3/17)






――――7月27日 AM10:13








668 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:19:00.26QwkRdq8W0 (4/17)


美琴「黒子、初春さん、いる?」ガチャッ

初春「いますよ~」カタカタ

黒子「お姉様、遅いですわよ」


ところ変わって177支部。
美琴は黒蜜堂が開店するまで店前に並んでいたため、黒子よりも少し遅れて来ることになった。

美琴が中に入ると、黒子と初春がパソコンに向かって資料を作っているのが見える。


美琴「昨日お願いしたのわかった?」

初春「後もう少しで調べ終わります」カタカタ

初春「やっぱり『書庫』のデータ全てに検索をかけるのは時間がかかりますね」カタカタ

初春「おかげでちょっと寝不足ですよ」

美琴「そんな初春さんにお土産」

初春「お土産? 何ですか?」

美琴「はい、黒蜜堂の餡蜜。 これでも食べて元気出しなさい」

初春「えぇ!? もらっちゃっても良いんですか!?」

美琴「もちろんよ。 日ごろの感謝を込めてってやつね」

美琴「はい、黒子の分も」

黒子「ありがとうございます、お姉様」




669 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:19:36.96QwkRdq8W0 (5/17)


美琴は二人に餡蜜が入った箱を手渡していく。
一箱二個入りで1800円。五人分で計9000円の買い物である。
中学生としては随分と高い買い物であるが、『学園の園』に住む生徒にとってはそれ程でもなかったりする。

この餡蜜にしても店で扱っているものとしてはそこそこ安い部類に入る。
一個2000円以上もするデザートが店内に並べられていることもあるので、この程度の値段では驚きもしない。


黒子「これはあの店の中でもお手頃な価格のものですわね」

美琴「何よ、文句ある?」

黒子「滅相もありません。 お嬢様がくださったものであれば、安物のスナック菓子でも喜んでいただきますわ」

初春「でもお手頃と言っても黒蜜堂だからかなり高級な部類に入るんじゃ・・・・・・」

美琴「レベル5を舐めるんじゃないわ。 この程度なら朝飯前よ?」

美琴「それに、最近使わないからお金がどんどん貯まっちゃっててね。 たまにはパーっと使わないとね」

初春「羨ましいです・・・・・・」


レベル5の美琴はそれこそ宝くじ並みの金額の奨学金を毎回もらっている。
しかし、中学生である美琴がそれ程のお金を全て使い切れるはずもない。
ブランド物のバックやら何やらを買うなら別だが、残念ながら美琴にそういうものには興味はない。
車や家などを買う年齢でもないため、美琴の預金残高は増え続ける一方である。

三つ目の箱を取り出そうとしたところで、美琴は佐天と固法が部屋にいないことに気づいた。




670 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:20:37.18QwkRdq8W0 (6/17)


美琴「ところで佐天さんと固法さんは?」

初春「佐天さんはちょっと学校に呼ばれて来られないそうです」

初春「『連続通り魔事件』に巻き込まれたから、それに対するカウンセリング見たいなものですね」

美琴「カウンセリング? でも佐天さんには必要ないんじゃない? 気にしてなさそうだし」

黒子「とは言いましても、先生方も一応話を聞いておきたいのでは? 柵川中学にはもう一人被害者がいることですし」

美琴「ふ~ん・・・・・・」

初春「お昼頃には終わるそうなので、終わり次第来るの思いますよ?」

美琴「わかったわ。 じゃあ固法先輩の方はどうしたの?」

黒子「固法先輩なら『風紀委員』の会議があるそうなので、そちらに行きましたわ」

初春「『連続通り魔事件』、『研究所の連続火災』・・・・・・」

初春「大きな事件になかなか進展が見られないので、一度『警備員』と一緒に会議を開くことになったそうです」

黒子「実質、共同戦線を張ることと同義ですわね」

美琴「『警備員』が管轄のはずの事件に『風紀委員』を本格的に介入させるということは・・・・・・」

黒子「いよいよ本腰を入れる必要があるということです」





671 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:23:17.28QwkRdq8W0 (7/17)


『警備員』としては自分の管轄の事件に『風紀委員』を介入させたくはない。
彼らの目的の中には単に学園都市の治安を守るためだけではなく、学園都市に住む生徒を危険から守ることも入っている。
守るべき生徒を自身の戦場に介入させてしまっては本末転倒もいいところだ。

だが、『警備員』だけではどうにもならないことが明確になってきた以上、『風紀委員』の協力も検討しなければならなくなったのであろう。


初春「・・・・・・よし! 終わりました!」

黒子「ご苦労様ですわ、初春」

美琴「ごめんね、無理させちゃって」

初春「えーっと後はプリントアウトして・・・・・・」カタカタ

美琴「ところで、何人くらい該当してた?」

初春「一人だけです。 『時間操作(クロックオペレーション)』はかなり稀少な能力みたいですね」

美琴「まぁ、私自身聞いたこともないしね」

黒子「印刷が終わったみたいですわ・・・・・・あら? この人は・・・・・・」

美琴「どうかした・・・・・・!?」


黒子の持つプリントを横からのぞき込む。
その紙に印刷されている写真の顔は――――




672 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:24:01.17QwkRdq8W0 (8/17)






検体名:十六夜 咲夜(Sakuya Izayoi)

能力名:懐中時計(ルナダイアル)

強度:大能力者(レベル4)








673 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:24:37.99QwkRdq8W0 (9/17)


銀髪で両側に三つ編み。限りなく白い肌。そして何よりこの生真面目な表情。
カチューシャを付けていないという違いこそあれど、二日前に会ったメイドで間違いない。


美琴「この人は・・・・・・」

初春「御坂さん、知ってる人ですか?」

美琴「・・・・・・ええ、知ってるわ」

黒子「会ったのは二日前でしたかしら?」

美琴「私たちの寮で仕事してたわ。 メイドとしてね」

初春「メイドですか? ということは繚乱家政女学校?」

美琴「ええ。 土御門さんがそう言ってたし、間違いないと思う。 この人が持つ能力ってどんなものなの?」

黒子「えぇっと・・・・・・『時間の流れを、加速または減速させることができる』と書かれていますわ」

美琴「『時間』か・・・・・・」

黒子「どうしますのお姉様? 犯人の特徴は『白髪で赤い瞳孔』ですけれど・・・・・・」

美琴「・・・・・・」




674 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:25:04.39QwkRdq8W0 (10/17)


希望的観測で初春に捜査をお願いしたつもりだったのだが、
まさか自分の身の回りにいた人物が該当するとは夢にも思わなかった。

さて、その希望的観測は当たったわけだが、いきなり咲夜を捕縛するわけにもいかない。
確かに咲夜の能力は時間に関係があるので『連続通り魔事件』の犯行を行うことは可能かもしれないが、
それはあくまで可能性の話であり、犯行を裏付ける証拠が何一つ無いのだ。
普段の目が黒いのはカラーコンタクトをしているからだとすれば佐天が見たという犯人像とも一致しているが、
それだけでは彼女が犯人であると証明できる確たる証拠とは言えない。

今分かっている情報だけでは彼女が事件の犯人だと断定することは危険だ、
もしかしたら自分たちが見逃しているだけで、他にも同じようなことを出来る人間がいるかも知れない。

ここは本人に直接話を聞いてみるのがベストかもしれない。
そうと決まれば、まずは・・・・・・


美琴「とりあえず、土御門さんに聞いたほうがいいかも」

初春「土御門さんですか。 まあ妥当ですね」

黒子「お姉様なら真っ先に突っ込んでいくと思っていたのですけれど」

美琴「アンタ、私を猪か何かと勘違いしてるんじゃないでしょうね・・・・・・」

黒子「冗談ですわ。 お姉様のような聡明な方がそのような愚行を起こすはずがありませんの」

美琴「まったく、調子いいわね」

黒子「ですが、土御門さんは今は仕事中ではありませんの?」

黒子「メイドという立場上、仕事中に携帯電話をいじくり回すのは問題があるはず」

黒子「電話で話を聞くというのは難しいと思いますが」

美琴「そうね・・・・・・どうしようかしら?」





675 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:26:38.63QwkRdq8W0 (11/17)


今、土御門舞夏が何処で働いているのかは分からない。
彼女の仕事場は一定期間ごとに変わり、複数の仕事場をローテーションすることになっている。
今朝の時点で寮の中で彼女の姿を見ることはなかったため、おそらく別の場所で仕事をしているのだろう。


初春「学校の方に直接聞いてみますか?」

美琴「そうするのが一番手っ取り早いけど・・・・・・」

黒子「果たして情報を開示してくれるかどうか・・・・・・守秘義務というものがあるやも知れませんし」

美琴「ま、その時はその時ね。 でも何もしないよりはマシだし」

初春「事件の捜査に必要なら協力してくれると思いますが」

黒子「・・・・・・それもそうですわね。 とりあえず、十六夜咲夜が今どこにいるのかだけは聞いてみます」


そう言うと黒子は支部に付属されている電話の受話器を手に取った。
電話をかける場所は繚乱家政女学校の事務部である。本当は固法に指示を仰いだ方が良いと思うのだが、
彼女は現在会議中の身。携帯電話の電源は切っているだろうし、この方法を使うことは出来ない。

だからといって無断で行動するのもどうかと思うのだが、目の前にある可能性をただ黙ってみていられるほど出来た人間ではない。
美琴も黒子も正義感が強い方だし、その二人を初春だけで引き留めるというのも酷な話だ。
今回の場合は初春も佐天が襲われているということがあって、他二人に肩入れしている気がしないでもないが。




676 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:27:27.75QwkRdq8W0 (12/17)


黒子「もしもし、繚乱家政女学校事務部の方ですか?」

美琴「果たして上手くいくかしらね。 黒子なら粗相のあるようなことはしないだろうけど」


通話を開始した黒子を見て美琴は初春にこの作戦の成功の可否を聞いてみる。
黒子は美琴が関わると見境が無くなるが、普段は非常に真面目な『風紀委員』である。
さらに、お嬢様学校の集まりとも言える『学舎の園』出身の学生だ。
社交辞令なんてものは既に完璧にこなせるし、外国語も三ヶ国位なら現地人並みに話せるので、
その気になれば世界に通用するビジネスマンにもなれるだろう。

交渉でヘマをして失敗するようなことはまず起こりえない。しかし・・・・・・


初春「確率としては五分という所でしょうか」

美琴「ネックなのはそいつが事件の犯人かもしれない可能性があるという事実ね」

美琴「学校側としては自分の生徒が犯罪者かもしれないなんて意地でも認めたくはないでしょうし」

初春「一般的な学校なら、悲しい話ですけど学生の不祥事なんて珍しい物でもありませんからそれ程問題はないのですが・・・・・・」

美琴「繚乱家政女学校は名門校の部類に入るからね。 それに泥が塗られるともなれば・・・・・・」

初春「相手側が情報の開示を拒否することは十分考えられます」


学校側としては自分の生徒に要らぬ疑いをかけられるのは避けたい。
事件の関係有る無しに関わらず、疑われたという事実が不味いのだ。それだけで学校のイメージが悪くなるのは必定である。
例え冤罪だったとしても、それが原因で発生した噂により被害を被ることはよくある話だ。




677 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:28:15.21QwkRdq8W0 (13/17)


美琴「でもそれをやっちゃうのも悪手だと思わない?」

初春「そうですね・・・・・・隠蔽していると思われたら、それはそれで評判が悪くなりますね」

美琴「でしょ? だから学校側も拒否することはないと私は思うんだけど」


学校側が今回の事件のことを認めようと認めまいと、学校の評価が落ち込むことは避けられない。
だが認めて協力した方が認めないよりも、犯罪の解決に協力したという意味では評価の被害が少ない。
もし仮に情報開示を拒否して『やっぱり犯罪者でした』ということにでもなってしまえば信用は地に墜ちる。
それであれば、学校は必ず捜査に協力するであろうと美琴は踏んでいた。


黒子「○○校長ですか? お忙しいところすいません・・・・・・」

美琴「どうやら校長先生まで話を通すことが出来たみたいね。 以外だわ」

初春「事務から資料を受け渡される程度で終わると思ってました。 まさか校長先生が直々に出てくるなんて・・・・・・」

美琴「向こうもこの事件には頭を悩ませているのかしら?」

初春「被害者の中に繚乱家政女学校の生徒はいなかったはずですけど・・・・・・」

美琴「誰かが犠牲になる前に早く解決して欲しいのかもね」


そう言いながら校長と会話を続けている黒子を眺める。
流石に学校のお偉いさんともなれば緊張は隠せないらしく、少し顔を強ばらせ気味に応対していた。
それでも言葉が詰まらないあたりは流石と言うべきか。




678 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:28:53.88QwkRdq8W0 (14/17)


黒子「はい、はい、お忙しいところすいませんでした。 それでは失礼します・・・・・・」ガチャッ

美琴「お疲れ様。 どうだった?」

黒子「どうやら、学校の方にはいないみたいですわね。 何処かで住み込みで働いているとか」

美琴「そう言えば土御門さんがそんなことを言ってたわね・・・・・・」

黒子「月に一度は学校の方に来られるみたいなのですが、つい先日がその日に当たっていたらしいですわ」

美琴「私達に会ったときか。 うーん、このままだと学校で会えるのは一ヶ月後になるのか・・・・・・」


一ヶ月。流石にそこまで待っていられるほど余裕のある状況ではない。
『連続通り魔事件』の被害者の数は最初の発覚から一月で10人を超えているのだ。
このままさらに同じ期間放置するとなると、単純計算で被害者数は2倍、悪ければもっと増えることになる。
こうなったら直接職場に赴く必要があるのではないか。


美琴「咲夜さんに職場に訪問することって出来るかしら?」

黒子「今すぐには無理ですわね。 流石に先方の許可を取る必要がありますし・・・・・・学校側も協力はしてくれるみたいですが」

初春「そもそも何処で働いているかわかるんですか?」

黒子「それは学校の方から送られてくる資料に記載されているはずですわ。 ただ、少し遅れるかもしれないとは仰っていましたが」

美琴「つまり情報待ちってことか・・・・・・待たされるというのは歯がゆいわね」




679 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:29:41.85QwkRdq8W0 (15/17)


初春「でも『少し遅れる』ってどういうことなんでしょうか? 勤め先の住所なら簡単に纏められると思うんですけど」

黒子「それは仕方ありませんの。 プライバシーというものがありますから」

黒子「それに繚乱家政女学校の中でもトップに君臨する人のようですからね」

黒子「学校の顔も同然の人物ですから、出来るだけ慎重にならざるを得ないのでしょう」


おそらく十六夜咲夜は繚乱家政女学校の広告塔だ。
そうともなれば彼女の扱いに関しては万全を期したいというのが学校側の考えだろう。


美琴「『完全で瀟洒な従者』だっけ? 思えばかなり破格な扱いよねぇ」

初春「パーフェクトって呼ばれるくらいですから、それはもうすごいんでしょうね」

初春「メイドさんの仕事って詳しくは知らないので何とも言えないんですけど」

美琴「まぁ、土御門さんの話だとかなりの完璧超人らしいって事は確かみたいね」

美琴「今なら土御門さんが言っていたこともわかるわ。 50人分の料理を1時間で作るなんて、
それこそ『時間を操る』位しなきゃできっこないもの」

初春「50人を1時間・・・・・・ですか? なんというか、想像できません・・・・・・」


十六夜咲夜がどのように能力を駆使して仕事をしているのかは判らない。
残像が見えるほどの速さで動きながら作業している可能性もある。だが時間を操作できるなら朝飯前だろう。
もしかしたらもっと他にも有効な使い方があるのかもしれない。




680 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:30:24.77QwkRdq8W0 (16/17)


初春「白井さんはそろそろ・・・・・・」


初春が部屋にかかっている時計を見て黒子に巡回の時間であることを教える。
今日は初春は支部に残って色々作業をしなければならず、固法は会議で出払ってしまっている。
つまり、黒子一人で街を見て回らなければならないのだが・・・・・・


黒子「そうですわね。 午前の見回りに行くとしますわ」

美琴「私も行く。 ここに残っててもすることないしね」


暇をもてあましている美琴が必ず付いていくだろし、心配は無用だろう。
一般人が『風紀委員』の仕事に参加するのは本来ならば褒められたことではないのだが、美琴に関しては今更な話である。


初春「留守は任せてください。 学校の方から連絡が来たら報告しますので」

黒子「よろしくお願いしますわ。 では行きましょうお姉さま」

美琴「それじゃあ、ちゃちゃっと終わらせますか」

黒子「早く終わらせたいのは山々ですが、手は抜かないで欲しいんですの」

美琴「わかってるわよ」




681 ◆jPpg5.obl62012/10/28(日) 20:32:17.80QwkRdq8W0 (17/17)

今日はここまで。

黒子と家政繚乱女学校との電話の遣り取りも詳しく書いてたんだけど、
正直あまり面白いものでもなかったのでばっさりカットしたという裏話があったりする

質問・感想があればどうぞ


682VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/28(日) 21:12:57.64NclyjgqIO (1/1)


学園都市で死んだ場合は普通に親族に引き渡されるって原作で明言されてた希ガス
置き去りに関しては火葬後に集団墓地に入れられる事になってる


683VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/29(月) 13:02:10.02XSIjh95m0 (1/1)


料理に関しては、煮込みとか漬けおき、加熱・冷却、作業速度の加減速でどうとでもなるんだろうな。
それか”料理を作るという作業全体を加速”てな感じでいけるのかも知れないけど。


684VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/30(火) 10:57:59.17SjZLqz1T0 (1/1)

導入部の寮監って本当に鬼だったりするんじゃなかろうな?w


685VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/31(水) 14:18:43.42IhraLoni0 (1/1)

時間停止か……早く老けるぞ?


686VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/01(木) 11:37:47.164XfQsPWS0 (1/1)

萃香とかどんな扱いなのかねぇ


687VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/02(金) 10:59:50.34YlJJEj+M0 (1/1)

会議の結果も気になるな


688 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 21:35:53.66ZnljL1bX0 (1/18)

>>682
学園都市なら情報秘匿のためにそれくらいしそうだと思ってたんですが・・・・・・

>>683
時間操作があれば熟成・発酵の時間も余裕で短縮できますね
実際に原作でも彼女が保管しているビンテージワインは、能力で丁度良いくらいに熟成しているみたいです

>>684
あの鬼の面々の性格を考えると『学舎の園』の寮監が務まるとは思えないw

>>685
周りの時間を遅らせた分だけ自分の時間も遅らせればプラマイゼロです

>>686
番外編に出すつもりです。この話が終えたらになると思います

>>687
ちゃんと会議風景も描写するので楽しみに待っててください



689 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 21:48:05.13ZnljL1bX0 (2/18)

※注意
今回の話は所謂番外編のような扱いであり、部分的には繋がっていますが物語の根幹に関わってくる程ものではありません
ぶっちゃけると>>1がふと思いついたネタを自重しきれずに書いてしまった話です。
そんなものなので、一部の人々には不快感を与える内容になってしまっているかもしれません

では投下を開始します


690 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 21:48:51.34ZnljL1bX0 (3/18)






――――7月27日 AM10:45








691 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 21:50:23.53ZnljL1bX0 (4/18)


佐天「う~ん・・・・・・やっと終わったか」ノビー


佐天が今いる場所は柵川中学校の玄関前。
先日不幸にも事件に巻き込まれてしまった彼女は、その後の体調や精神状態を確認するために学校に呼び寄せられていた。

佐天自身は大丈夫だと思っているのだが、学校側としてはそうもいかないらしく、
せめて形だけでもということで渋々カウンセリングを受けることに相成ったのである。


佐天(私は大丈夫だって言ってるのにね。 先生達も心配性なんだから)

佐天(でも、そんなに質問されることもなかったし、その辺は気遣ってくれたのかな?)


カウンセリングで聞かれたことといえば、体の調子はどうだとか、時折頭痛が起きることはないかだとか、
そういった簡単な内容の質問をいくつかされただけだった。
そのおかげでカウンセリングは意外と早く終わり拍子抜けしたわけだが、
彼女としてはせっかくの夏休みを学校で過ごしたくはなかったので結果オーライである。


佐天(はやいとこ初春の所に行こうっと。 ここ数日『挨拶』してなかったからなあ)

佐天(初春、どんな顔するかなぁ・・・・・・)ニヤニヤ


最近は色々と忙しかったので、『挨拶』をする暇がなかった。
佐天にとっては初春との親交をはかるための大切なコミュニケーション手段である。
一日一回は行わないとむずかゆくて仕方がない。めくられる初春としては堪ったものではないのだが。




692 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 21:51:51.85ZnljL1bX0 (5/18)


佐天(あれ・・・・・・?)


玄関を出ると向こうから一人の少女が歩いてくるのが見えた。
緑色の髪にケロヨンの髪飾り。あの姿は確か――――


佐天(この前事件に巻き込まれたっていう隣のクラスの子かな?)

佐天(確かレベル3の『空力使い』だったよね・・・・・・)

緑髪少女「・・・・・・」トボトボ


少女の足取りはおぼつかない。今にも躓いて倒れそうだ。
髪はボサボサ、目の下に隈ができており、若干やつれているように見える。
どうやらかなり憔悴しているようだ。見ているだけで非常に痛々しい。

このまま放置したら非常に危険な気がする。
理由はないが、佐天はそう思った。


佐天「・・・・・・あのっ」

緑髪少女「・・・・・・誰、ですか?」


少女は虚ろな目で佐天を見据える。
どうやら目の前に来るまで佐天のことに気づかなかったらしい。かなりの重傷だ。




693 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 21:53:11.73ZnljL1bX0 (6/18)


佐天「どうしたんですか?」

緑髪少女「・・・・・・ですか」

佐天「え?」

緑髪少女「あなたも、私を嗤いに来たんですか」

佐天「どういう――――」

緑髪少女「――――」ギロッ

佐天「!!!」ビクッ


少女は濁った目で佐天を睨みつける。佐天はそれに思わず竦み上がってしまった。
誰も信用しようとしないその眼光が佐天の体に突き刺さる。
一体何があったらこのような視線を創ることが出来るようになるのだろうか。


緑髪少女「・・・・・・みんなで寄ってたかって私を哀れんで。 鬱陶しいったらありゃしない」

緑髪少女「普段はコソコソと私を避けてるくせに」

佐天「・・・・・・」

緑髪少女「でも、私は知ってるんです。 影では私のことを嘲笑ってることを」

緑髪少女「ええ、普段自分の能力を鼻にかけてたのは認めます。 私は学校でただ一人のレベル3ですからね」

緑髪少女「それを誇りに思ってたし、そのおかげで他の子から慕われてました」

緑髪少女「ですが、結局それだけなんですよ」

佐天「え・・・・・・?」



694 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 21:54:51.15ZnljL1bX0 (7/18)


緑髪少女「レベル3だから。 学校で一番のトップだから」

緑髪少女「私の友達『だった』人達は、そんな考えですり寄って来てただけなんです」

緑髪少女「私が襲われた途端に、近寄らなくなりましたからね」

緑髪少女「それどころか遠くから珍獣みたいに眺める始末」

佐天「そんな・・・・・・そんなこと」

緑髪少女「もう騙されませんよ私は。 あなたもそうやって弱みにつけ込もうとしているんでしょう?」

佐天「私はそんな――――」

緑髪少女「もう誰も信じない。 私を陥れようとしているに決まってる! みんなみんなみんなみんナみンナミンナミンナ――――!」

佐天「――――!」



695 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 21:55:24.92ZnljL1bX0 (8/18)






バシン!








696 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 21:56:43.11ZnljL1bX0 (9/18)


晴れた空に乾いた音が響く。
狂ったように同じ言葉を紡ぐ少女を見て、咄嗟に佐天が彼女の頬を叩いた音だった。
突然のことに少女は呆然としているが、おかげで正気に戻ったようだ。


佐天「・・・・・・大丈夫?」

緑髪少女「・・・・・・すいません。 取り乱してしまったみたいで」

佐天「結構危険な気がしたから思わず叩いちゃったけど・・・・・・」

緑髪少女「・・・・・・ごめんなさい」


しおらしくなり、顔を俯く少女。
錯乱しているときはかなり人間不信になっていたが、実際は礼儀正しい性格のようだ。
だいぶ落ち着いてきたようだし、今の所再び取り乱すようなことはないだろう。


佐天「落ち着いた?」

緑髪少女「・・・・・・はい。 あの、あなたは・・・・・・?」

佐天「佐天涙子。 隣のクラスだけど、わかる?」

緑髪少女「・・・・・・いえ」




697 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 21:58:27.32ZnljL1bX0 (10/18)


佐天「・・・・・・あ~もう! 私が気にしないって言ってるんだからいいの! じゃあ、あなたのお名前は?」

緑髪少女「私の名前、ですか?」

佐天「そうそう! 私だけ自己紹介するのは不公平でしょ?」

佐天「だから、あなたの名前を教えてもらうことで初めてに同じ土俵に建つことが出来るんだよ?」

緑髪少女「はぁ・・・・・・?」

佐天「ほらほら、早く教えて!」

緑髪少女「・・・・・・東風谷早苗です」

佐天「早苗さんね。 うん、覚えた」


自己紹介を終えた後、佐天は早苗の手を引いて玄関の階段に座らせた。
地べたに座るのはあまり褒められたことではないが、彼女の様子を見るに一度休ませた方が良いと佐天は考えたからだ。




698 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 22:00:26.69ZnljL1bX0 (11/18)


佐天「・・・・・・で、早苗さん。 どうして学校に来たの? 今は夏休み中だし、今日は補習とか無いみたいだし・・・・・・」

早苗「今日は先生に呼ばれて・・・・・・」

佐天「早苗さんもそうなの?」

早苗「え?」

佐天「・・・・・・まあ、よく考えてみれば当然か」

早苗「あの、話が見えないのですけど・・・・・・」

佐天「私も襲われたの。 早苗さんと同じ」


早苗は佐天の同じように『連続通り魔事件』の被害者だ。佐天は事件の被害者として学校に呼ばれた。
ならば、同じ境遇にある早苗も呼ばれるのは当然のことと言えた。


早苗「そうなんですか・・・・・・?」

佐天「うん、二日前にね」

早苗「・・・・・・」

佐天「・・・・・・どうしたの?」

早苗「・・・・・・あなたは平気なんですか?」

佐天「ん?」

早苗「襲われたのに、あなたは平気なんですか?」

佐天「ん~、そうだなぁ・・・・・・」




699 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 22:02:21.41ZnljL1bX0 (12/18)


佐天はふと考える。
思い返してみれば『連続通り魔事件』に巻き込まれたことは、確かに不幸な出来事であったことは間違いない。
だが、佐天は事件に巻き込まれたことに早苗ほどショックを受けてなどいないし、気にしているわけでもない。

それは何故か?


佐天「うーん、なんて言うか、『またか!』っていうのが正直なところかな」

早苗「・・・・・・え?」

佐天「実は私、結構面倒事に巻き込まれやすい体質みたいなんだよね。 友達もそう言ってるし」

佐天「以前も大きな事件に関わったことがあってさ。 たぶんそれで耐性が付いちゃったんじゃないかな?」

早苗「・・・・・・佐天さんは、強いですね」

佐天「でも、あまり嬉しくない強さだよね」

早苗「ふふ、そうですね・・・・・・羨ましいなぁ」

佐天「ん?」

早苗「佐天さんは酷い目にあっても挫けずに常に前を向いて歩いてる。 うじうじしてる私とは大違い」

早苗「何が学校のトップなんだか。 情けない限りです・・・・・・」

佐天「ん~、でもね。 私も昔は下を向いて歩いてたんだよね」

早苗「そうなんですか?」




700 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 22:04:23.36ZnljL1bX0 (13/18)


佐天は1年前のことを思い返す。

今となっては笑い話で済ませられるが、当時の自分はコンプレックスの固まりだった。
それこそ、劣等感のあまり犯罪に走ってしまうくらいに。


佐天「私ってばレベル0だからさ。 能力が全然伸びないことに嫌気がさしてたんだ」

佐天「友達はみんな高位の能力者だったり、『風紀委員』でがんばってたり、何か一つは取り柄を持ってたからね」

佐天「無力な自分が恨めしかったんだと思う」

早苗「・・・・・・」

佐天「そのせいで道を踏み外しちゃってね。 『幻想御手』って知ってる?」

早苗「1年前の、使うとレベルが上がるっていう? クラスの人がよく話題にしてましたけど」

佐天「私、それを使ったことがあるんだよね」

早苗「え・・・・・・」





701 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 22:05:02.34ZnljL1bX0 (14/18)


佐天「おかげでその時は能力を使えるようになったんだけどさ」

佐天「副作用で昏睡状態になっちゃってね。 悪いことした罰なのかもしれない」

佐天「私が眠ってた間何があったのかは分からないけど、友達がその事件を解決してくれてさ」

佐天「そのおかげで、無事目は覚めたんだけどね」

早苗「そんなことが・・・・・・」

佐天「で、その時思ったんだ。 『私は一人じゃない。 支えてくれる人がいる』って」

佐天「今まで一人で抱え込んでたけど、私を助けてくれる人がこんな近くにいたじゃないかってね」


佐天はあの事件で自分は一人ではないことを知った。
昏睡状態になる直前、自分の罪を懺悔しレベル0の自分は欠陥品なのかもしれないと、
今まで胸中にため込んでいた打ち明けたとき、泣きながら自分を必ず救うと約束してくれた『友達』。

絶望の闇から引き上げてくれたかけがえのない親友を心配させないためにも、佐天は挫けずに一生懸命生きていこうと決めた。




702 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 22:06:13.41ZnljL1bX0 (15/18)


早苗「・・・・・・私も」

佐天「・・・・・・?」

早苗「私もそんな友達が欲しかったなぁ・・・・・・」

佐天「・・・・・・」


寂しげな表情で空を見上げる早苗を、佐天は横から静かに見つめる。

目に映るのは心の支えを失い、孤独の中にいる少女が一人。果たしてこのまま彼女の側を去って良いのか。
佐天と早苗は同じ事件の被害者ではあるが、それ程深い関係というわけでもない。
ここで話を終えて別れてしまえば、再び何の繋がりもない赤の他人同士になるだろう。

しかし、『このまま彼女を一人にしてはならない』という感情がふつふつと沸き上がってきた。
それが彼女の正義感から生まれたものなのか、それとも同じ境遇の者を見捨てたくないという心から派生したものなのかはわからない。
しかし今、早苗を見てどうにか助けてあげたいと思っていることは事実であり、それに理由を付けるのは無意味なことだろう。


佐天「ねぇ、早苗さんは確か『空力使い』だったよね?」

早苗「え? そうですけど・・・・・・」

佐天「実は私も『空力使い』なんだよね。 レベル0だけど」

佐天「だからさ、私に能力の使い方を教えてくれないかな?」

早苗「どうしていきなり・・・・・・」

佐天「あ~もう! しょうがないなぁ!」

早苗「わ・・・・・・!」


佐天は早苗の肩を掴み、視線を合わせた。
早苗の深緑色の瞳に佐天の顔が映り込む。戸惑いの色が消えない早苗に佐天は――――





703 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 22:08:27.70ZnljL1bX0 (16/18)






佐天「私が、友達になってあげるって言ってるの!」

早苗「――――!」





笑顔で力強く告げた。




704 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 22:10:58.36ZnljL1bX0 (17/18)


早苗「・・・・・・ごめんなさい」

佐天「何で謝る必要があるのさ?」

早苗「でも・・・・・・」

佐天「な~に遠慮しちゃってるのよ! 私が友達になりたいんだから気にすることないじゃん」

佐天「そういえば早苗さん、先生に呼ばれてるんでしょ?」

早苗「え・・・・・・・、あ!?」

佐天「私も付いていってあげるからさ、一緒に行こ!」

早苗「・・・・・・ありがとう、ございます」

佐天「気にしない、気にしない!」




705 ◆jPpg5.obl62012/11/04(日) 22:16:06.86ZnljL1bX0 (18/18)

今日はここまで
佐天×早苗・・・・・・これは流行る!
結構二人って馬が合いそうなのは気のせいなのだろうか

質問・感想があればどうぞ


706VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/04(日) 22:19:56.40fMpvGxvK0 (1/1)


常識に囚われてる頃の早苗さんだな
これがああなると思うと少し複雑で胸厚



707VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長崎県)2012/11/04(日) 22:44:46.92GDLif2JRo (1/1)

幻想郷じゃないから常識から解き放たれることはないのか?


708VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/05(月) 12:00:40.36CwguPhML0 (1/1)


”巻き込まれやすい”体質?おいおい佐天さんよ、貴女は大体自分から突っ込んでってるだろうに

>>707
学園都市の人も大概おかしい奴ばっかじゃないかw


709VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/06(火) 10:04:27.14VjH0vZYe0 (1/1)

二柱とやらはどうなってるのか


710VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/07(水) 10:14:40.70msnAMWms0 (1/1)

早苗×佐天でツヴァイウィングとかどうよ(ドヤァ


711VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/08(木) 21:19:33.6471utUhBA0 (1/1)

能力の上昇しやすさは、東方パワーのおかげで上がってるのかな?


712VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2012/11/08(木) 22:09:10.655/R2yW6o0 (1/1)

佐天「学園都市では常識に囚われてはいけないんですね!」
早苗「幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!」

どういうことだおい……全く違和感がないじゃないか。生き別れた姉妹とかじゃないのかww



713VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/10(土) 11:24:44.26QIJHIZuC0 (1/1)

>>710
それを言うならツヴァイウィンド(二つの風)だろ?ウィングじゃ翼だ。一応風を起こすものではあるが


714VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/10(土) 17:10:06.93qpxuQFn20 (1/1)

早苗さんは自分の能力が、幻想郷では奇跡でもなんでもないって悩んでたみたいだからな。
このSSでは、その辺が今回のみたいな問題に変わった訳か。


715 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:00:01.95konE1+9Q0 (1/19)

>>706, >>707, >>708
超能力の源は『自分だけの現実』。そして『自分だけの現実』とは妄想力
つまり超能力者は基本的に妄想癖持ちということです
何処かネジが飛んだ人間が多いのはきっとそれのせい

>>709
出せたら出したいです

>>710, >>713
何と言う中二病・・・・・・というか、このスレの佐天さんと早苗さんはリアル中二だった

>>711
東方キャラって大半がレベル3以上に相当する能力持ちのような気がします
中にはレベル0としか解釈できない子も当然いますけど。わちきとか

>>712
二人が非常識に囚われるかは今の所不明。早苗さんと初春のフルーツ(笑)談義でも書いてみようか・・・・・・

>>714
二次創作では逆に、外の世界では自分だけ神様が見えることに悩んでいたような描写も見かけますけどね
このスレの早苗さんは友達選びに失敗したみたいな感じでしょうか


716 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:00:52.92konE1+9Q0 (2/19)

これから投下を開始します


717 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:01:38.19konE1+9Q0 (3/19)






――――7月27日 AM11:09








718 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:03:45.48konE1+9Q0 (4/19)


美琴「・・・・・・暇ねぇ~」

黒子「お姉様、そんなことを言ってはいけませんの」


第7学区の通りを美琴と黒子の二人が歩く。

支部にいてもやることがないからという理由で黒子に付いてきた美琴だが、
だからといってそう変わった出来事が起きるわけでもなく、いつも通りの平和な街中を歩き回っていた。

もちろん手を抜かないように黒子から釘を刺されてはいるので、不審者がいないか目は走らせている。
しかし退屈な物は退屈だ。別に平和が嫌いというわけでもないし、
起きた事件の犯人にレールガンをぶっ放してストレスを発散したいという危険な願望があるわけでもない。


黒子「油断した途端に事件が起こるやも知れませんのよ?」

黒子「常に周りに気を配っておかなければ・・・・・・」

美琴「確かにそうだけどさ、気を張り詰めっぱなしにするのも疲れるのよねぇ」

黒子「まぁ、お姉様は本来部外者ですから無理強いはしませんけれども・・・・・・」


黒子には悪いが流石にこのまま一日を過ごすのは気が進まない。
何か面白い出来事でも転がってはいないだろうか。
例えばウニ頭のヒーローが目の前をほっつき歩いているとか。

そんな風に思い始めた美琴であったが―――――




719 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:05:37.16konE1+9Q0 (5/19)


「オイ、そんな強く引っ張るんじゃねェよ!」

「でも、あなた歩くの遅いんだもんって、ミサカはミサカは未だに目的地に付けないことに不満を言ってみる」

「俺は一応病人なンですがねェ?」

「何なら車椅子でも調達してあげよっか? 10032号に頼めば嬉々として持ってきてくれるだろうし。
『最終信号(ラストオーダー)』に押させれば様になるんじゃない?」ケラケラ

「オマエは黙ってろ。 この阿婆擦れ女が」


遠くから聞き慣れた声が美琴の耳に聞こえてくる。
見やると一方通行が打ち止めと番外個体を連れて歩いていた。


美琴「アンタ・・・・・・こんな所で何してんのよ」

一方通行「あァン?・・・・・・チッ、『超電磁砲』か・・・・・・」

打ち止め「あ、おねえさま」


美琴と一方通行の間に妙な空気が流れる。二人の間にあった出来事を考えれば当然か。

当麻の仲裁で和解は出来ているが、美琴はあの悪夢を忘れることが出来ず、
一方通行も美琴に対して強い負い目を感じている。

会っていきなり憎まれ口の応酬に発展しなくなっただけ、関係はマシになったと言えるだろう。




720 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:06:55.11konE1+9Q0 (6/19)


美琴「・・・・・・」

一方通行「・・・・・・」

美琴「・・・・・・何か言いなさいよ」

打ち止め「この人は私たちと一緒にお買い物に来たんだよって、ミサカはミサカはおねえさまにこの人の外出した目的を教えてみる!」

一方通行「クソガキ、余計なこと言うンじゃねェ」

打ち止め「でもこのままだと全然話が進まないよって、ミサカはミサカは未だにおねえさまに遠慮してるあなたに言ってみたり」

一方通行「クソッ、やっぱり黄泉川に任せておくべきだった・・・・・・」

番外個体「とか何とか言っちゃって、最終信号がおつかいに行くって言ったとき一番反対してたのは誰だっけ?」ニヤニヤ

一方通行「オマエはもう一発ぶちのめされねェと気がすまねェらしいなァ? あの時は腕だったから今回は足でもいってみるかァ?」

一方通行「キャタピラに押しつぶされたような前衛的な美脚に仕上げてやるぜェ?」

番外個体「お姉さま~、白もやしが虐めるよぅ~☆」ダキッ

美琴「ちょ、ちょっといきなり抱きつかないでよ!」

一方通行「・・・・・・」イライラ




721 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:08:29.28konE1+9Q0 (7/19)


美琴に抱きつく番外個体。
番外個体の方が背が高いので、姉が妹に甘えているような奇妙な構図ができあがっている。
しかも顔があまりにも似ているものだから視覚効果は抜群だ。
そのせいでいくらかの通行人が二人の方を振り返った。


美琴「と、とりあえず離れなさい! 通行人が見てるでしょ!」

番外個体「お姉さまとミサカは姉妹なんだから、別に遠慮することはないんだよ?」

美琴「アンタの方が大きいんだから! 私の方が妹みたいじゃない!」

番外個体「まったくぅ~、美琴ちゃんは恥ずかしがり屋なんだからぁ~♪」

美琴「調子に乗るんじゃないわよ!」

打ち止め「ミサカもミサカも~」ダキッ

美琴「こら、アンタまで抱きつくんじゃない!」

黒子(あぁっ、お姉様達がくんずほぐれずしているですの・・・・・・)ピロリン

黒子(天 国 は こ こ に あ っ た !)ピロリン

美琴「そこっ! ケータイで写真撮るの止めなさい!」

一方通行「どうすンだこれ・・・・・・」




722 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:09:33.99konE1+9Q0 (8/19)


その光景を見て一方通行はゲンナリとしている。彼としてはさっさと買い物を済ませてしまいたいのだ。
だが自分が介入して収拾がつくような事ではないし、二人を美琴から引き離すためだけに貴重なチョーカーの電池を使おうとは思えない。
打ち止めに充電してもらうのも手だが、充電器扱いすると怒るのでそれだけはしたくない。
詰まるところ、結局は美琴が一人で何とかするのを待つしかなかった。

しばらくの間二人に抱きつかれていた美琴だが、電気で自分の筋肉を強化して無理矢理二人を自分の体から引き離した。
夏だというのに二人もの人間に抱きつかれては暑苦しいことこの上ない。

引き離された二人はブーたれて文句を言っていたが。


美琴「やっと自由になれたわ・・・・・・」

番外個体「ちぇっ、お姉さまのケチぃ~」

打ち止め「もっとおねえさまに抱きつきたい~」ジタバタ

一方通行「ちったァ俺の苦労がわかっただろ?」

美琴「・・・・・・アンタ普段から二人に抱きつかれてるの?」

一方通行「バッ・・・・・・ンな訳ねェだろォが!」




723 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:10:40.89konE1+9Q0 (9/19)


番外個体「でも昨日も自分のあぐらに最終信号を座らせてたよね?」

打ち止め「この人のあぐらはミサカの特等席なんだよって、ミサカはミサカはお姉さまに自慢してみる!」

一方通行「おォォォォふたァァァァりさァァァァン!? 余計なこと言わないでくれませンかァァァァ!?」

美琴「うわっマジ引くわ・・・・・・」タジッ

一方通行「やめろォ! そンな哀れみの目で俺を見るなァ!」

打ち止め「私は別に気にしてないよって、ミサカはミサカはあなたの趣味を肯定してみる」

一方通行「その発言はかえって誤解されるだろォが!」

番外個体「ぎゃはははは!」

一方通行(コイツハイツカマジデコロス)ギリギリ

美琴「どうどう」


腹を抱えて笑う番外個体を睨みつつ歯ぎしりする一方通行を美琴はなだめる。
擁護するなら彼は別にロリコンではない。ただ、『打ち止めLOVE』なだけである。

え?その時点でロリコンだって?




724 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:12:09.34konE1+9Q0 (10/19)


黒子「お姉様、そろそろ見回りを再開しないといけませんわ」

美琴「・・・・・・いや、アンタはそのまま見回りに行きなさい。 私は大丈夫だから」

黒子「ど、どういうことですの!?」

美琴「少しコイツに聞きたいことがあるからね。 それが終わったら支部の方に戻るわ」

黒子「それなら白い殿方と一緒に・・・・・・」

一方通行「オマエ、打ち止めと番外個体から離れたくねェだけだろ」

黒子「えっ」

美琴「まぁわかってた」

打ち止め「お仕事はサボっちゃいけないんだよって、ミサカはミサカは社会の常識を教えてみる」

番外個体「流石に変態と一緒になるのはちょっと・・・・・・」

黒子「」

一方通行「アホはほっといて『超電磁砲』、とりあえず店の中にでも入るかァ?」

美琴「そうね、さっさと行きましょ」

打ち止め「はーい!」


棒立ちになっている黒子をその場に放置し、一同は店の中に入っていった。
ちなみに黒子が正気に戻ったのは、それから5分後のことである。




725 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:12:51.02konE1+9Q0 (11/19)






――――7月27日 AM11:22








726 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:14:09.85konE1+9Q0 (12/19)


商店の中を美琴と一方通行が並んで歩いている。
打ち止めと番外個体は店のショーケースを眺めながらあちこちを走り回っていた。

背は倍近く違うというのに、二人とも子供のようにはしゃいでいる。
番外個体の感情が打ち止めの方に引っ張られているせいだろうか?
いや、番外個体がミサカネットーワークに感情を引っ張られるのは負の感情の時のみなので、おそらくあれが素面なのだろう。


美琴「そういえば、今日は何を買いに来たの?」

一方通行「炊飯器だァ。 後は食材とかいろいろだなァ」

美琴「炊飯器って・・・・・・アンタのとこ、確かもう4台くらいなかった?」

一方通行「なんでも最新型の奴が出るンだと。 それで今ある奴を一新しようって話だ」

美琴「炊飯器ってそうポンポン取り替えるような物じゃないでしょ・・・・・・」

一方通行「これまで使ってた炊飯器は欲しかったらくれるらしいぜェ? オマエの知り合いに欲しい奴はいねェのか?」

美琴「知り合いって言っても・・・・・・そうだ」

一方通行「いるのか?」

美琴「アイツなら喜んでほしがりそうね・・・・・・」

一方通行「アイツって三下のことかァ? それだったら食材を分けてやった方が喜びそうなンだが」

一方通行「炊飯器があっても米がなかったらどうしようもねェだろ」

美琴「・・・・・・それもそうね」

一方通行「世界を救ったヒーローの天敵が貧困だなンて笑えない話だとは思うがなァ」




727 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:15:21.42konE1+9Q0 (13/19)


当麻の功績は、それこそ人類史に未来永劫書き残されるほどのものである。
しかし残念ながら、その功績が世界に人々に評価されるようなことは決してない。
あの事件は公表されるべき物では無いし、彼自身も感謝されるために行動したわけではないので、
全てが収束した後も特別なことが起きるわけでもなく、何事もなく自分の日常に還っていった。


美琴「・・・・・・やっぱりお金とか援助してあげたほうがいいんじゃないの?」

美琴「私たちアイツに借りを作りっぱなしじゃない?」

一方通行「オイオイやめとけ。 三下の奴はそんなこと望ンじゃいねェよ」

美琴「じゃあ、家に行って何か食べ物を作ってあげるとか・・・・・・」

一方通行「・・・・・・『超電磁砲』、自分が何言ってるか分かってンのかァ?」

美琴「へ?」

一方通行「家に出向いて飯作るとか、それ完全に『通い妻』だろォが」

美琴「!?!?!?」カァァ////

一方通行「まァ、自分がそうしたいってンなら俺は止めねェけど」

美琴「~~~~~!」ガンガンガン!

一方通行「って、柱に頭ぶつけンな!」




728 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:17:11.61konE1+9Q0 (14/19)


恥ずかしさのあまり近くの柱に頭を殴打し始めた美琴を見て、一方通行は慌てて柱から引き離そうとする。

だが彼は松葉杖をつく程の重度の病人であり、尚かつ筋力も殆ど無いためそう上手くはいかない。
仕方なくチョーカーのスイッチをONにして何とか事なきを得た。


一方通行「ったく、余計な仕事増やすンじゃねェよ!」ゼェゼェ

美琴「はぁッ、はぁッ」

一方通行「どォだ、落ち着いたか?」

美琴「ふぅ~・・・・・・アンタに心配されるなんて、私も墜ちたものね・・・・・・」

一方通行「それだけ減らず口をたたけるなら大丈夫だな」

美琴「もうこの話は止めましょ・・・・・・で、何の話をしてたんだっけ?」

一方通行「俺達は炊飯器を買いに来たンだ」

美琴「そう、そうだったわね・・・・・・私も荷物運び手伝うわ」

美琴「アンタの所は大所帯らしいし、人手があったほうがいいでしょ?」

一方通行「それは願ったり叶ったりなンだが・・・・・・」

番外個体「あなたはもやしだから力仕事は無理だもんね☆」

一方通行「やかましいわ。 つゥかいきなり出てくンな」




729 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:18:27.50konE1+9Q0 (15/19)


脇から話に割り込んできた番外個体を睨みつける。

美琴の申し出はこれからのことを考えるとありがたいことは事実なのだが、
一方通行としては手助けをされるということに若干気後れしてしまう。

以前よりは改善されたが、やはり他人からの厚意というものには未だに慣れない。
その親切の裏に何かあるのではないかと警戒してしまうのだ。
幼少期や暗部時代の癖というものはなかなか抜けないもので、例え知り合いであったとしても心の何処かで相手を疑ってしまう。

今の所、打ち止めだけが表裏なしに付き合うことが出来る人間である。


番外個体「あなたが亀みたいにちんたら歩くからいけないんじゃない」

番外個体「ウサギなんだからもっときびきび動かないと♪」

一方通行「・・・・・・これ以上好き勝手言うならこっちにも考えがあるンだが?」

番外個体「へぇ、非力なあなたに何ができるっていうの?」

一方通行「オマエらの小遣いは誰が出してると思ってるンですかァ?」

一方通行「なんなら全部没収してもいいンだぜェ?」

番外個体「ミサカはもうバイト始めたから、そんなのは痛くもかゆくもないんだけど?」

一方通行「分かってねェなァ? その給料が誰の通帳に入るのか知らねェのかァ?」

番外個体「・・・・・・ちょっとそれってまさか」

一方通行「正解は俺の通帳でェす」

番外個体「」




730 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:19:44.42konE1+9Q0 (16/19)


衝撃の事実に番外個体の頭の中が真っ白になった。

自分の給料が一方通行の通帳の中に振り込まれる。
つまり、いくら働いても一方通行の許可が下りなければお金使うことが出来ないのだ。


番外個体「なっ・・・・・・なにそれ!?」

一方通行「0歳児のオマエにそう簡単に金を持たせるわけねェだろ」

一方通行「一応これでも保護者だからなァ。 オマエの給料のことはしっかり把握する義務があるンだよ」

一方通行「ちなみにこれは黄泉川と芳川も承諾済みだァ。 」

番外個体「ミサカの父親気取りってわけ? あなたにそんな役は似合わないよ?」

一方通行「どうとでも言え。 どんなに喚こうがオマエの給料は俺が握ってるンだからなァ」ケケケ

番外個体「ちくしょう・・・・・・」ガクッ

美琴「まぁまぁ、何か奢ってあげるからさ・・・・・・」

番外個体「やっぱりミサカの味方はお姉さまだけだよ・・・・・・」

一方通行「自業自得だ」


いつも一方通行を弄っている番外個体であるが、今回ばかりは地雷を踏んだらしい。
だからといって改心するわけでもないが。




731 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:20:28.50konE1+9Q0 (17/19)


美琴「でもバイトかぁ。 どこに勤めてるの?」

番外個体「え? んーっと、確か冥土帰しの病院と提携してる製薬会社かな?」

美琴「ふーん、なら安心かしら」

一方通行「冥土帰し直々の紹介らしいからなァ。 まァその辺は大丈夫だろ」

番外個体「でもあの会社、従業員がすごく少ないからさぁ。 忙しいのなんのって・・・・・・」

美琴「へぇ、あの先生の病院と提携してるって言うから、結構大規模だと思ったんだけど」

番外個体「なんでも薬剤の調剤とか調合とかはそこの所長が一人でやってるらしいよ?」

番外個体「ミサカも面接で一回会ったきりで詳しくは知らないんだけどさ」

一方通行「でも給料は良いらしいじゃねェか」

番外個体「あなたがミサカの給料を握ってる時点で何も嬉しくないんだけど」

一方通行「ハッ、精々独り立ちできるように社会勉強をがんばるこった」

番外個体「そんなの『学習装置(テスタメント)』で大方知ってるんだけど?」

一方通行「オマエのその口調なンとかしない限り一般社会には溶け込めねェっつゥの」

番外個体「それをあなたが言う? あ、顔の時点で論外か♪」

一方通行「・・・・・・給料」ボソッ

番外個体「スイマセンでした」ドゲザ

美琴(まるで私が土下座してるみたいで複雑な気分になるわね・・・・・・)


美琴は自分が一方通行の前に跪いている光景を想像する。

・・・・・・ちょっと寒気がした。




732 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:21:22.13konE1+9Q0 (18/19)


打ち止め「ねぇ、早くお買い物しようよって、ミサカはミサカはみんなに催促してみたり」

美琴「それもそうね。 で、どこの店に入るの?」

一方通行「ニ○リだ」

美琴「は?」

一方通行「聞こえなかったんですかァ? ニト○だっつってンだろ」

美琴「ちょっと待ってよ。 家電量販店って言ったらケー○とかヤ○ダとかでしょ?」

美琴「あの店ってってそういう所じゃなかったはずだけど」

一方通行「知らねェのか? 学園都市に出店してる○トリは学園都市製の家電製品の販売を一手に請け負ってるんだぜェ?」

一方通行「そンじょそこらの店なンか相手にすらならねェよ」

美琴「いつの間にそんな店に・・・・・・」

一方通行「ほら、さっさと行くぞ」




733 ◆jPpg5.obl62012/11/11(日) 21:25:46.01konE1+9Q0 (19/19)

今日はここまで

残念ながら、お値段以上の方は今回は出てきません。名前だけです

質問・感想があればどうぞ


734VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/11(日) 21:30:18.67DReHeC/s0 (1/1)

おつ
製薬会社とかお値段以上とか2828できてなんかいいなw



735VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/11/11(日) 21:45:02.90wnkZzK890 (1/1)



魔改造された家具と電化製品ですね


736VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/12(月) 00:30:05.14jmCQ607B0 (1/1)


少しずつ明るみに……これからも楽しみだ


737VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/12(月) 10:00:50.39kBbjZK5s0 (1/1)


みとりさんは居るんだろうか?
そして製薬会社は後々問題を起こすのか?
色々と興味は尽きない


738 ◆HTlu27uC.s2012/11/12(月) 20:49:15.40CiJjR7Q00 (1/1)

経営者が人見知りって大丈夫か?ww



739VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/12(月) 22:25:56.51OpGKKhCm0 (1/1)

そういえば、ひゅい!?症を患ってるんだったかwww


740VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/13(火) 20:57:43.94aT/Supse0 (1/1)

そういやぁ漫画版レールガンのプール掃除の時、水流操作の能力者居たな……


741VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/13(火) 21:50:49.177VzCjLPzo (1/1)

水を操るのと水流を操るのは違うような


742VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/16(金) 14:44:17.90DgAUfWCx0 (1/1)

製薬会社とかも気になるが、まずはスカーレット家をどうにかしないとな。


743VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/17(土) 12:14:26.012lSNRhek0 (1/1)

●~


744VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/17(土) 21:01:43.66BSoQsvv40 (1/1)

↑飛べないんだから ●... じゃないの?


745 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:18:43.213INmyHKb0 (1/22)

>>734, >>735
「いちごおでん」なんて商品を出しちゃうくらいだから、電化製品も相当カオスなはず
魔改造された機械が陳列されてもそんなに違和感ないかもしれない

>>737
二次創作で一番有名であろうみとりさん。私も大好きです。特にテーマ曲が

>>738, >>739
技術部に属しているから部屋に引きこもっていろんな機械を造ってるよ!人見知りでも安心だね!

>>740, >>741
『水』の意味が液体のことを指しているのか、水分子のことを指しているのかで意味合いが変わってきますね
液体のことを指しているのであれば『水流操作(ハイドロハンド)』と同じ能力になると思います。
でも水分子のことを指しているのであれば、液体の水はもちろん、氷も水蒸気も操れることになりますね
氷の場合は自然に液体が気化して出来る水蒸気とは違って熱を奪う必要があるので、
水分子の位置を固定して氷のように見せかける方法をとると思いますが

>>742
製薬会社が本格的に絡んでくるのはおそらく第三章・・・・・・何時になるのか・・・・・・

>>743, >>744
●<とべないのかー

魔術側だったら出来たかもしれないけどね。でもこのスレの●は能力者なんだ。すまない


746 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:19:40.873INmyHKb0 (2/22)

これから投下を開始します。


747 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:21:04.883INmyHKb0 (3/22)






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・








748 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:21:53.333INmyHKb0 (4/22)


美琴「本当に家電量販店になってる・・・・・・」


美琴達は某有名家具店の店内に来ていた。

見渡す限りの家電製品の群れ。所狭しと電子レンジやらオーブンやらが並んでいる。
別のブースには本業である家具が並んでいるそうだが、それにも匹敵するほどのスペースが家電製品販売に当てられていた。

科学が発達した学園都市では、その有り余るほどの技術力を何かに使いたいという技術者達の欲求が強い。
そのため毎日のように色々な製品が彼らによって世に送り出され、受け入れられなかったものは消えていっている。
そしてそのサイクルが学園都市外部のそれよりも遥かに早いというのが特徴だ。

作られたばかりの製品が一週間後には廃棄処分にされているなどということは、ここではさほど珍しいことではない。
大量生産・大量消費社会を極限まで突き詰めたようなとんでもない街ではあるが、
廃棄物の9割以上をリサイクル出来る程の技術力も持っているため、資源の枯渇や最終処分場の寿命を気にする必要はないのである。


一方通行「炊飯器はこっちか」スタスタ

美琴「あ、待ちなさいよ!」

打ち止め「こっちだよって、ミサカはミサカはみんなを呼んでみたり!」

一方通行「わかったから一人で行くなァ! 迷子になったらどうすンだ!」

美琴「・・・・・・随分と面倒見が良いわよねアイツ」

番外個体「そりゃあぞっこんだしねぇ」ニヤニヤ


打ち止めの元に向かって走る一方通行を見て、美琴はそんな感想を漏らした。
普段の無愛想な彼からは想像できない行動である。ギャップのせいで違和感がありすぎだ。

まぁ、美琴としては打ち止めを大切にしてくれるのであれば文句はないのだが。




749 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:23:02.163INmyHKb0 (5/22)


美琴「ちゃんと見てくれてるのはありがたいけど、あれじゃちょっと過保護過ぎない?」

番外個体「それだけあの人がロリコンってことじゃない?」

美琴「・・・・・・アンタ、それじゃいつまで経っても給料渡してもらえないわよ?」

番外個体「あ~、でもこれって一種の本能みたいなものだから。 そもそもミサカの製造目的が『一方通行の抹殺』だったし」

一方通行「オイ、置いてくぞオマエら」

番外個体「はいよー」

美琴「・・・・・・」

番外個体「な~に辛気くさい顔をしてるのさ?」

美琴「・・・・・・いや、なんでもないわ」

番外個体「まったく、くよくよ悩んでるよりもいっそのこと割り切っちゃったほうがいいと思うんだけどな」

番外個体「ストレスで太るよ?」

美琴「なっ・・・・・・」パリッ

番外個体「おお、こわいこわい」ダッ


口角を釣り上げながらそのまま走り去る番外個体。
美琴はここが家電製品売り場だったことに気づいて、慌てて電気を収めた。

一方通行を殺すために生み出された存在だというのに、彼女の素振りにはそんな出生の影は微塵も見えない。
十年来の友人のような口調で話しかけ、あまつさえ軽口までをも平気で叩いているのだ。
あの剛胆さを見ていると、一方通行に対して引いている自分が滑稽に思えてくる。




750 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:24:21.133INmyHKb0 (6/22)


美琴(はぁ、あそこまで綺麗に割り切れたらどんなにいいか・・・・・・)

美琴(同じDNAのはずなのにどうしてこうも違うのかしら)スタスタ

打ち止め「おねえさま、遅いよ!」

美琴「ごめんごめん」

一方通行「『お米を入れれば米とぎから炊飯までボタン1つ』・・・・・・? 便利っちゃァ便利だが・・・・・・」

打ち止め「お水たくさん使うかもって、ミサカはミサカは水道代のことを心配してみる」

一方通行「別に金のことは心配いらねェンだけどな。 黄泉川の奴が五月蠅いからなァ」

番外個体「それにモード切替がないのが欠点だね。 私たちが入れるのは米だけじゃないし」

美琴「炊飯器でステーキを作ってるのはアンタ達の家だけよ」

打ち止め「でも美味しくできるよって、ミサカはミサカは炊飯器の万能さを自慢してみる!」

美琴「いや、それがおかしいんだってば」

一方通行「議論するだけ無駄だァ。 ありゃァ七不思議の1つに入る代物だ」

美琴「そんなのが七不思議って・・・・・・」

番外個体「『全ての料理が作れちゃう魔法の炊飯器』・・・・・・意味不明すぎる・・・・・・」




751 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:25:54.773INmyHKb0 (7/22)


そんな炊飯器があったら他の調理器具はお役御免である。

他の商品を探そうと辺りを見回していると、この店で一押しとなっている炊飯器が目に入った。


一方通行「・・・・・・ン? 『河城製造長監修 多機能付き炊飯器』・・・・・・?」

美琴「多機能って・・・・・・お米を炊く機能以外に何つけてんのよ」

番外個体「えーっと、炊飯機能、5段階の温度調節機能、レンジ機能、グリル機能、オーブン機能・・・・・・」

打ち止め「焼き魚から煮物まで全てこれ一品でOKって書いてあるよって、ミサカはミサカはこの炊飯器の多機能さに驚愕してみたり・・・・・・」

一方通行「まるで俺達のためにあるような炊飯器だなァ。 買うのはこれで決まりか?」

美琴「どういうことなの・・・・・・」


どうやら『全ての料理が作れちゃう魔法の炊飯器』は実在していたらしい。
さようなら、フライパン。さようなら、お鍋。


番外個体「・・・・・・ん? これって・・・・・・」


番外個体はふと炊飯器の紹介に書かれている一文を見つけた。
その文章を見て番外個体は凍り付く。

そこに書かれていたのは――――


番外個体「ねぇ、『この商品は消費者のリクエストに基づいて制作されました』って書いてあるんだけど・・・・・・」

一方通行「・・・・・・黄泉川ァァァァァァァァ!!!」

打ち止め「ヨミカワ以外あり得ないかもって、ミサカはミサカはバレバレな消費者に溜息をついてみる・・・・・・」ハァ


こんな炊飯器を制作できるとは学園都市、恐るべし。
というかよくそんな企画が通ったものだ。
出来ることが多すぎるこの炊飯器を完璧に使いこなせる人間は果たしているのだろうか?

結局その炊飯器を5台購入し、黄泉川宅に郵送することにした。





752 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:27:00.533INmyHKb0 (8/22)


一方通行「ここら辺で昼飯にするかァ」

打ち止め「お子様ランチ食べたいって、ミサカはミサカはかっこいいあなたにお願いしてみる!」

一方通行「おだてても駄目だっつゥの。 そればっかり注文しやがって」

一方通行「それにファミレスに行くって決まった訳じゃねェンだぞ?」

打ち止め「え~・・・・・・」

美琴「そうよ。 あなたも他の『妹達』みたいに大人にならないとね」

番外個体(この姿で大人っていうのも変だと思うけど)

打ち止め「でも今日お子様ランチを頼むとゲコ太のおもちゃがついてくるんだよって、ミサカはミサカはおねえさまに耳寄りの情報を教えてみる」

美琴「よし、ファミレスに行くわよ」

一方通行「御坂さァァァァン!? さっきのセリフはなンだったンですかァァァァ!?」

美琴「ゲコ太は全てにおいて優先されるのよ」キリッ

番外個体「お姉さまの方がよっぽど子供じゃない・・・・・・」




753 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:28:02.423INmyHKb0 (9/22)






――――7月27日 PM12:35








754 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:29:33.853INmyHKb0 (10/22)


一方通行「オイ、『超電磁砲』」

美琴「なによ」ニヤニヤ


とあるファミレスの一角で、一方通行はゲコ太人形を眺めてニヤニヤしている美琴に訪ねた。
子供用のおもちゃをものすごく嬉しそうに手に取っている彼女を見ると、
一年前に自分と対峙したときの気迫は何だったんだと思えてくる。

ちなみに頼んでいる料理は、美琴がペペロンチーノ、
一方通行が生姜焼き定食+コーヒー(ブラック)、
打ち止めがお子様ランチ(オムレツ)+ショートケーキ、番外個体がドリアである。


一方通行「オマエ、俺に聞きてェことがあったンじゃなかったのかよ」ズズー

美琴「そういえばそうだったわね」

番外個体「お姉さまがこの人に聞きたいことがあるなんて珍しいよね?」

打ち止め「どんなお話が飛び出てくるのか、ミサカはミサカは期待の眼差しを送ってみる!」

美琴「そんな期待するほどのことじゃないわよ」

一方通行「とにかくさっさと話せ。 内容によっちゃあ協力してやる」

美琴「・・・・・・ねぇ、『時間操作』の能力のこと、詳しく知らないかしら?」

番外個体「『時間操作』? 漫画にある時間を止めたりする奴?」

打ち止め「時間を止めるときは『ザ・ワールド!』って言うんだよって、ミサカはミサカはヨシカワが見てた漫画の真似をしてみたり!」

一方通行「オマエらは黙ってろ。 ・・・・・・で、どうしてそんなこと俺に聞くんだァ?」

美琴「ちょっとね、少し調べ物してたときに気になっただけよ」

一方通行「・・・・・・」




755 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:31:06.923INmyHKb0 (11/22)


一方通行の問いに美琴はにべもなく答えた。
美琴が一方通行に対して質問してくる時点でかなり異常であるが、それ以上に『時間操作』の能力を聞く理由を喋らないのは怪しい。
明瞭な理由を提示しないのは決まって何か後ろめたい感情があるからだ。本来ならばその場で断る所である。

しかし目の前の女は、ある意味一方通行にとってのアキレス腱とも言える存在だ。
それに加えて、自分の周りにはその女の親類縁者である少女が二人。
しかも小さい方は彼の口から『時間操作』について語られるのを今か今かと待ち構えている。
無視しても良いのだが、そんなことをすれば厄介なことになるのは目に見えて明らかだ。
彼女の機嫌を直すために無駄な労力は使いたくないので、自分の知っている範囲のことを話すことにした。

それに美琴は仮にも学園都市第三位の能力者。この話を聞いて何か厄介事に巻き込まれても自分で何とか出来るだろう。
彼女が事件に巻き込まれた時は手助けしてやるが、自分から危険に突っ込んでいくのであれば止めるつもりはない。


一方通行「・・・・・・まァいい。 その能力についてなら噂くらいは聞いたことがある」

美琴「本当に?」

一方通行「1つ聞いておくが『超電磁砲』、『時間操作』ってェのがどんな代物なのか分かってるのかァ?」

美琴「え? そりゃあ時間を速くしたり遅くしたりする能力なんじゃないの?」

一方通行「ったく、その程度の認識たァ呆れるな」

美琴「むっ・・・・・・」

一方通行「一言で『時間操作』って言うけどなァ、実際に行うのは簡単じゃねェンだぞ?」

番外個体「そんなに難しいの? 漫画とかだと結構簡単に使ってるイメージがあるんだけど」




756 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:32:28.423INmyHKb0 (12/22)


一方通行「まずオマエら、時間について知ってる知識を上げてみろ」

番外個体「えーっと、『時の長さの単位』?」

美琴「1秒の定義は『セシウム133の原子の基底状態の2つの超微細準位間の遷移により放射される電磁波の周期の9192631770倍に等しい時間』ね」

打ち止め「おねえさまが言ってること難しすぎてわかんないよ・・・・・・」

一方通行「まぁそんなモンだろォな」

美琴「で、アンタは何が言いたいの?」

一方通行「まず『時間操作』を理解する上で一番重要なのは、『時間はスカラー量』だってことだ」

番外個体「スカラー量?」

一方通行「『スカラー量』っつゥのは、ざっくり言えば『大きさのみを持つ量』のことを指すンだ」

一方通行「これには時間の他に質量、長さ、エネルギー、電荷、温度なンかが含まれるな」

一方通行「ちなみに俺が操る『ベクトル』は『大きさと方向を持つ量』のことだ」

番外個体「なるほど」




757 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:34:41.603INmyHKb0 (13/22)


一方通行「このベクトルやスカラーみてェな幾何概念を一般化したのが『テンソル』っつゥンだが、今は関係ねェからそこまでは説明しねェ」

美琴「ちょっと待って、時間は『流れる』んだから方向があるでしょ? それならベクトルのような気がするんだけど?」

一方通行「確かに時間は『流れる』という表現を使われちゃァいるが、その方向が複数ある訳じゃねェだろ?」

一方通行「『過去から未来へ』とか『未来から過去へ』とか捉え方は色々あるが、時間の流れる方向は一つに決定づけられる」

一方通行「だから時間はスカラー量として扱うのが普通なンだ」

一方通行「で、時間操作のことなンだが、コイツは『時間』っつゥスカラー量を操作する能力だ」

美琴「ふーん、でもそれが能力を扱うの難しさとどういう関係があるのよ?」

美琴「『電撃使い』は電荷を操る。 電荷だってスカラーでしょ? それなら時間を操ることだって簡単に出来そうなものだけど」

一方通行「確かに、単純に時間を操るだけならそンなに難しいことじゃないかもしれねェ。 だがそれだけじゃ不十分なンだよ」

打ち止め「不十分ってどういうことなのって、ミサカはミサカは続きを促してみる!」

一方通行「『時間の停止』を例に考えてみろ。 今自分以外の時間が止まったらどォなる?」

美琴「え? えーっと・・・・・・」

一方通行「正解は『全く身動きがとれなくなる』だ」

一方通行「光も見えねェし音も聞こえねェ。 『空気の塊』に完全に閉じ込められる」

美琴「・・・・・・確かに。 物体が動けるのは時間が流れるからだもんね」

一方通行「だから時間停止っつゥのは簡単なことじゃねェンだよ」




758 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:35:40.783INmyHKb0 (14/22)


美琴「じゃあ『時間の操作』はどうなのよ? 加速したり減速したりは難しいことじゃないでしょ?」

美琴「周りを限界まで『遅く』したり、逆に自分を『速く』すれば擬似的に時間停止も出来るんじゃない?」

一方通行「確かに、単純な時間停止よりは現実味があるなァ。 だがそれでも色々問題がある」

一方通行「周りの時間が遅くなればなるほど自分の周囲にある空気の『粘度』が増大するンだ」

打ち止め「ねんどってなーにって、ミサカはミサカは質問してみる!」

一方通行「『粘度』ってのは流体の粘り気のことだ。 粘度が大きいほどドロドロした流体ってことだなァ」

美琴「空気と水を比べた場合は水の方が粘度が高いってことになるわね。 水の中は動きづらいでしょ?」

一方通行「わかりやすい例えをどォも。 話を続けるぞ」

一方通行「周囲の時間が遅くなるってことは、本来の1秒が能力者にとっては2秒にも3秒にも『増える』ってことを意味する」

一方通行「粘度の単位は『Pa・s(パスカル秒)』だ」

一方通行「単位から考えれば時間が増えると粘度が大きくなるのは一目瞭然だなァ」

一方通行「つまり周囲の時間を遅くすれば遅くするほど・・・・・・」

番外個体「空気の粘度が大きくなって仕舞いにゃ動けなくなるね」

一方通行「そォいうことだ」




759 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:37:13.793INmyHKb0 (15/22)


打ち止め「じゃあ『時間操作』って使い物にならないのって、ミサカはミサカは少しがっかりしてみる・・・・・・」

一方通行「そう結論づけるのは早計だ。 これはあくまで操作対象を『自分とその他』の二つに限定した場合の話だからなァ」

美琴「つまり?」

一方通行「自分と周りの空気の時間の流れが違うから身動きがとれなくなるンだ」

一方通行「だったら自分と周囲の時間をまとめて操作しちまえばいいだろォ?」

美琴「あ、そっか」

一方通行「おそらく『時間操作』の能力を持つ奴はそォやって使ってるはずだ。 どうだ、理解したかァ?」

打ち止め「あなたってやっぱりすごい物知りって、ミサカはミサカは羨望の眼差しを送ってみる!」

一方通行「そりゃどォも」

一方通行(本来なら地球の自転とか公転に対する対処も必要なンだが、説明するのも面倒だ)

美琴「それにしても、噂を聞いた程度にしては随分と詳しく知ってるじゃない」

一方通行「そんなにおかしいことかァ?」

美琴「・・・・・・それもそうね。 第一位だし」

一方通行「オマエにその理由で納得されると違和感しかねェンだが」

美琴「ま、ありがとね」

一方通行「・・・・・・そろそろ店出るぞ。 飯食い終わったのに席占有してたら何言われるかわかったもんじゃねェ」

番外個体「あなたの顔って凶悪だから、誰も怖くて声かけられないんじゃないの?」

一方通行「・・・・・・給ry」

番外個体「スイマセンデシタ」ドゲザ

美琴(懲りないわねぇ・・・・・・)

一方通行(ぶっちゃけこの脅し無駄なンじゃねェか?)




760 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:39:42.883INmyHKb0 (16/22)


カランカラン マタオコシクダサイマセー


番外個体「でさ、実際の所はどうなのよ?」

一方通行「あァ? 何の話だ?」


番外個体は歩きながら美琴に聞こえないように一方通行に聞いた。
美琴は打ち止めと一緒に前を手をつないで歩いている。打ち止めに強引に引っ張られている感じにはなっているが。


番外個体「『時間操作』のこと。 単に噂に聞いたってだけじゃないでしょ?」

一方通行「・・・・・・チッ。 やっぱりオマエにはばれるか」

番外個体「お姉さまも気づいてると思うよ? あれは自分から手を引いただけ」

一方通行「そォか。 ・・・・・・教えて欲しいのか?」

番外個体「そりゃあもちろん☆」

一方通行「仕方ねェ。 言っても聞かねェだろォし、オマエにだけは教えてやる」

番外個体「やった♪」

一方通行「最初に言っておくが、面白いもンじゃねェぞ?」

番外個体「いいから早く!」




761 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:40:46.613INmyHKb0 (17/22)


一方通行「・・・・・・俺が『時間操作』のことについて知ったのはつい最近だ」

一方通行「俺が過去に関わってた実験の資料を漁ってたときに見つけた物なンだよ」

番外個体「へぇ。 あなたが関わってたってことは碌でもないものだったんでしょうけど」

一方通行「あァ。 俺にとっちゃ慣れたクソみてェな実験だよ」

番外個体「で、その内容って?」

一方通行「・・・・・・『RSP実験』だ」

番外個体「RSP?」

一方通行「”Reproduction of Scarce Power”。 日本語で言えば『稀少能力の再現』ってェところだな」

一方通行「コイツは『特力研』と提携してた研究所で行われてた実験らしい」

番外個体「特力研・・・・・・正式名称は『特例能力者多重調整技術研究所』だっけ?」

一方通行「まァな。 この実験の目的は『脳の開発方法とそれに伴って発現する超能力の因果関係を調査すること』だが、
     本命はそれを元にして『数ある超能力の中から希少性の高い物を狙って発現させること』だ」

一方通行「最終的には俺の能力を量産できるようにするのが目的だったみてェだ」




762 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:42:03.843INmyHKb0 (18/22)


番外個体「でも失敗したんでしょ?」

一方通行「でなきゃ『一方通行』なんざありふれた能力になってるだろォな」

一方通行「もしかしたらレベル5が全てベクトル操作関連の能力になってたかもなァ」

番外個体「そりゃつまんないわね」

一方通行「脳に電極ぶち込んだり劇薬を大量に投与したり色々したみてェだが、案の定無駄だったてェわけだ」

一方通行「で、この方法はダメだってことで俺の演算方法を直接脳に植え付ける『暗闇の五月計画』に実験はシフトしたそうだ」

番外個体「ああ、アレね・・・・・・」

番外個体(そういえば最近クロちゃんに会ってないなぁ・・・・・・)

番外個体(今度また弄りにいこ♪)




763 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:43:17.723INmyHKb0 (19/22)






黒夜「・・・・・・!?」ゾクッ

絹旗「超どうしたんですか? 顔が少し青いですよ?」

黒夜「いや、さっき変な悪寒がしたンだが・・・・・・」

絹旗「それよりさっさと中に入りましょうよ。 映画が超始まってしまいます」

黒夜「・・・・・・これ以上B級映画は見たくねェンだけど」ゲンナリ








764 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:46:37.553INmyHKb0 (20/22)


一方通行「・・・・・・だが俺の能力は再現できなくとも、希少価値の高い能力を発現した奴は僅かにいたらしい」

番外個体「その一つが『時間操作』ってこと?」

一方通行「あァ。 他にも色々あったが、実用性がねェってことで処分されたそうだ」

番外個体「じゃあ『時間操作』の能力者は処分を免れたんだね」

一方通行「一応、時間について研究してる奇特な奴等もいたらしィからなァ」

一方通行「RSP実験に関わってた奴等もある程度成果が欲しかっただろォし、そういう意味では貴重なサンプルだろォな」

番外個体「で、その能力者はどうなったの?」

一方通行「知らねェ」

番外個体「・・・・・・は?」

一方通行「どうやら研究所が『警備員』に見つかってしょっ引かれたらしい」

一方通行「まァその時には大方証拠隠滅も終わってたから、『特力研』の方には何もダメージは無かったみてェだが」

一方通行「能力者も処分されたのか『警備員』に保護されたのかは分からず仕舞いだ」




765 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 21:47:16.193INmyHKb0 (21/22)


番外個体「わからないって訳? つまんないの」

一方通行「文句言うんじゃネェよ。 ま、俺としては保護されてると思うがなァ」

番外個体「どうして? 生かしておく必要ないじゃない」

一方通行「生存者がいれば、事件が終わったよォな雰囲気を出せるだろ? そうすれば深入りされずに済む」

番外個体「確かに安心しちゃうかもね」

一方通行「そォいうことだ」

番外個体「で、話はもう終わり?」

一方通行「俺が知ってるのはこれくらいだ。 もっと知りたかったら黄泉川にでも聞けばいいだろ」

一方通行「アイツのことだから何か知ってるンじゃねェか?」

番外個体「教えてくれない気もするけどね」

一方通行「まァな」

打ち止め「早くお買い物にいこって、ミサカはミサカは歩くのが遅い二人に叫んでみる!」

美琴「早く来なさいよ! アンタがいないとどこに行けばいいのかわかんないでしょ!」

一方通行「チッ、ほっとくとうるせェから早く行くぞ」

番外個体「はいはーい」




766 ◆jPpg5.obl62012/11/18(日) 22:00:55.143INmyHKb0 (22/22)

今日はここまで。

時間の説明だとかベクトルとスカラーの違いだとかこれで合ってるよね?
間違ってたらごめんなさい

原作の方でフレ/ンダさんが生きていたみたいですね
クローンかもしれないのでまだ本人かどうかは怪しいみたいですけど
ていとくんの再登場フラグもそうですが、このスレみたいに原作が完結した後の後日談みたいな話を書いている場合、
書いている途中で『死んだ人が実は生きていた』みたい展開になるとそれに沿うように書き直すべきかどうか非常に迷う

書く量と投下する量のバランスが崩れて書き溜めが少なくなってきたので、来週はお休みにしたいと思います


質問・感想があればどうぞ


767VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2012/11/18(日) 22:51:08.40QTmlxx8N0 (1/1)

>>766
既にこのスレで”死んでる”って描写しちゃったりとかこのキャラ死んで無いと別のキャラの設定に影響しちゃうとか
物語が破綻しない程度なら出してもいいんじゃない?

まぁ、ゆっ⑨り考えっていってね!


768VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/18(日) 23:11:27.36nSKVQ3Ep0 (1/1)

乙!
実用性が無い能力?   小傘ちゃんの事かあああぁーーー!!


769VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/19(月) 10:28:51.41Q8V5qW7k0 (1/1)


ベクトルもスカラーも、詳しく理解してる人なんてそうそう居ないだろうから大丈夫っしょ。


770VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/19(月) 14:01:35.92UBFjGR1O0 (1/1)

ほうほう、ルーミアは能力者か。出て来る時が楽しみだ。


771VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/20(火) 16:30:18.69/raFQzuK0 (1/1)

時計が出来る前は、時間ってのは”状態が変化してゆく事”でしかなかったのかもな


772VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/22(木) 12:32:50.87O6AcerIV0 (1/1)

あんな炊飯器を作れるとは……流石は技術チートのにとりだ。


773VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/23(金) 16:06:09.45pI7Awaqu0 (1/1)


霖之助氏は出るんだっけ?


774 ◆jPpg5.obl62012/11/25(日) 20:25:25.49RBMqgJMJ0 (1/1)

>>767
アイテムの面々が出てくるのはもっと先なので修正はいくらでも利くのですが、
フレンダさんが退場したままの方が面白い話を作れそうかな~と思ってました
まぁ、そこまで話が進むまでには次巻が出てるかもしれないので、詳細が判明するまでは保留しておきます

>>768
?「私も『人を驚かす程度の能力』っていう似たような能力だけどね」
?「あんたはまだ魔術側で出番があるかもしれないだけマシでしょ。 あたいなんて『死体を持ち去る程度の能力』っていう誰特能力だし・・・・・」
?「『春が来たことを伝える程度の能力』というのもありますよー」

>>769
結構こういう設定にはこだわってしまう性格。超科学が跋扈する学園都市でそんなこと気にしてどうするんだって言われたらそれまでですが
常識に囚われない発想が出来る原作者さんには驚きを禁じ得ません

>>770
他のバカルテット共々登場予定です

>>771
現代人にとっての時間は追われるものですかね?
>>1は書き溜めをする時間がもっと欲しいです・・・・・・ありすぎてもかえって筆が進まなかったりしますけど

>>772
?「ニ○リの科学力は世界一イイイイ!!」

>>773
科学側で出すか魔術側で出すか検討中。たぶん魔術側が濃厚
なぜならDAZE☆が関わってくるから


とりあえずレス返しだけ。来週になったら再開します


775VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/26(月) 10:54:36.28H1rfqR8ro (1/1)

白黒……


776VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/27(火) 13:12:34.37HRaQ0O3F0 (1/1)

レス返し乙
最近レティさん荒ぶってんなー。寒い事寒い事


777VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/28(水) 12:06:45.69SJpoSBqA0 (1/1)

>>770へのレス返
ほぅほぅ、それはそれは。楽しみだな


778VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/28(水) 15:26:47.82GDWXbmaG0 (1/1)

春を伝えるってのは、リリーだと癒されるから良いじゃん?
それともハイテンション弾幕の代わりに、ハイテンション体当たりでもかましてくるのか?それだとちょっと……


779VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/29(木) 11:42:42.362T00txSW0 (1/1)

上海人形可愛いよね。あれって売ってるとしたら、一体幾らなんだろ


780VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/30(金) 13:43:11.712RguhZJB0 (1/1)

神霊廟の電撃さんは絡むんですか?


781VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/30(金) 20:40:05.933uPFf2gn0 (1/1)

死体を持ち去る……闇病院の裏スタッフとかで活躍してそうだ


782VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/01(土) 12:22:53.92ZqPAhfUL0 (1/1)

脳に電極とかサイバーパンクな


783VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/02(日) 17:04:45.57qWCv8WCt0 (1/1)

チルノ達が出てくるなら、霧の泉とかあるのかな?学園都市風に表現するとどうなるんだろう


784 ◆jPpg5.obl62012/12/02(日) 19:32:54.582hIMO8fo0 (1/13)

>>776
部屋のストーブが壊れたので毛布をかぶって作業してます。本当は炬燵がいいんですけどね

>>778
リリー「我が世の春が来たぁ!」とか言いながら回転タックルを繰り出してくるのか・・・・・・

>>779
上海人形がどんな人形なのかで変わってくると思います。ただのぬいぐるみであればそんなに高価ではありませんが、
球体関節人形のような精巧なものになると、オーダーメイドのものは数百万の値打ちが付くそうです
アリスの人形の場合槍とか弓とか平気で使うので、球体関節のような気もします

>>780
絡ませたいけど、相当先になると思います。そこに至るまでにエタる可能性が高いのであまり期待しないでください

>>781
もうただの猫でいいんじゃないかなと思ってたりもする。古明地姉妹のペットで彼女達とは会話できるとか
でも『肉体変化(メタモルフォーゼ)』という能力もあるし、そっち方面もありえるかも

>>782
一方さんなら能力開発でそれくらいされたんじゃないかと思いまして
RSP実験は『能力開発の方法と発現する能力の因果関係を調査すること』であり、『一方通行』を生み出すことが最終目標なので
一方さんに対して行った開発方法をRSP実験の被験者に対しても行ったというわけです

>>783
学園都市に霧の湖に相当する大きさの湖はあるんでしょうかね? 公園で見かける程度の大きさならばあるいは・・・・・・
むしろ通っている学校に備え付けられた池程度にまで小さくなるかも


785 ◆jPpg5.obl62012/12/02(日) 19:33:44.482hIMO8fo0 (2/13)

これから投下を開始します


786 ◆jPpg5.obl62012/12/02(日) 19:34:26.712hIMO8fo0 (3/13)






――――7月27日 AM10:30








787 ◆jPpg5.obl62012/12/02(日) 19:38:41.492hIMO8fo0 (4/13)


鉄装「えー、これから『第7学区警備員・風紀委員合同対策会議』を始めます」


『第7学区警備員統轄支部』にある大会議室。
そこで第7学区に所属している『警備員』と『風紀委員』の各支部長が一堂に会した会議が開かれようとしていた。


鉄装「今回の会議の議長を務めさせていただく第73活動支部所属の鉄装綴里です。 今回はよろしくお願いします」

鉄装「では、時間も押していますので早速議題に入りましょう。 黄泉川さん、お願いします」

黄泉川「わかったじゃん」


黄泉川がスクリーンの脇に立つと、『第7学区連続婦女暴行事件対策会議』と銘打たれたスライドが映し出された。


黄泉川「まず始めに夏休み中の警備で多忙な所、多くの『警備員』や『風紀委員』に集まっていただき感謝している」

黄泉川「同じく学園都市の治安を守る者として誇らしく思うじゃん」

黄泉川「それじゃあ鉄装が言ったように時間も押していることだから、早速本題に入るじゃんよ」


黄泉川はそう言って話を続ける。




788 ◆jPpg5.obl62012/12/02(日) 19:40:28.222hIMO8fo0 (5/13)


黄泉川「今回集まってもらったのは他でもない、今巷で起こっている『連続通り魔事件』のことについてじゃん」

黄泉川「『風紀委員』には先日詳細が伝わったかも知れないが、この事件は今から約一ヶ月前の6月25日に発生して以来、
週に1~2回のペースで被害者が出続けている」

黄泉川「つい一昨日も被害者が2名発生し、これで被害者数は計14名になったじゃん」

黄泉川「一度に2名の被害者が出たのはこれが初めてじゃん。 このまま続けば事件がエスカレートする可能性があるじゃんよ」

風紀委員「週1~2回ですか・・・・・・かなりのペースですね」

黄泉川「この事件の問題は最新の事件が起こるまで犯人の手がかりが一切掴めていなかったことじゃん」

黄泉川「本人を特定できる物的証拠はなく、監視カメラにも姿が確認されていない。 これが原因で犯人の特定が難航してるじゃんよ」

黄泉川「最新の事件でわかったことはいくつかあるが、決定的な情報がないために捜査は進展していない」

黄泉川「そこでより多くの情報を集めるために『風紀委員』諸君にも協力してもらうことになったじゃん」

黄泉川「とは言っても、昼間の見回りのついでに情報収集をしてもらう程度じゃん。 
『風紀委員』に仕事に支障が出るようなことはないと思うじゃんよ」

黄泉川「今回の会議で『警備員』が把握している『連続通り魔事件』の詳細、
そして君たちにどんな行動をとってもらうかを説明するから心して聞くように」

黄泉川「ここまでで何か質問は?」

一同「・・・・・・」

黄泉川「無いのであれば現在の状況の説明はこれで終わりじゃん」

黄泉川「次に犯行状況について説明するじゃんよ」


黄泉川はスクリーンに映っている映像を切り替える。
次は今まで起こった事件の犯行場所、時間帯、発見時の状況などが纏められたスライドが映し出された。




789 ◆jPpg5.obl62012/12/02(日) 19:48:30.222hIMO8fo0 (6/13)


黄泉川「手元に配られた資料を見てくれるとわかると思うが、この表は今まで起こった事件を纏めた物じゃん」

黄泉川「今回に事件の発端は、先に話したように6月25日に常盤台中学学生寮周辺の路地裏で女子生徒が襲われたのが始まりじゃん」

黄泉川「犯行時刻は8時半前後。 女子生徒は犯人によって背後から首筋にスタンガンを押し当てられて気絶させられた」

黄泉川「その後、女子生徒に付けられた傷と女子生徒の血圧が正常値と比べて低下していたことから、
女子生徒は気絶させられた後に血液を抜き取られたと推測されたじゃん」

風紀委員「犯人はどのように血液を抜き取ったんですか?」

黄泉川「先日送った資料に記載しているように、被害者の女子生徒には針による刺し傷が見つかっている」

黄泉川「おそらく注射針を使って何かの容器に詰めたと思われるじゃん。 まぁ十中八九輸血用のパックだろう」

黄泉川「その日に使いでもしない限り、どうしても長期保存のための容器が必要になるじゃん」


血を抜き取ったのであれば、必ずそれを保管するするための容れ物が必要だ。
血液は生ものであり、しかるべき方法で管理しなければあっという間に使い物にならなくなってしまう。

何の用途も考えず単に血液を抜き取ることだけが目的なのであれば、そのような準備をする必要はないかもしれない。
それでこそ、ただのビニール袋でも十分こと足りるだろう。

しかし『血を抜くこと』だけを目的にしてこのような犯行を及ぼすとは考えにくい。
必ず何か目的が存在しているはずだ。その目的が何なのかはまだ知りようがないが。