◆ctuEhmj40s さんの作品一覧
http://s2-d2.com/archives/16606092.html
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393: ◆ctuEhmj40s:2012/04/30(月) 01:05:47.73:QuGSr0TO0 (14/24)
だから、きょろきょろと周囲を見回していた人を見かけても、話しかけることは本来ほむらにとってはあり得ないことのはずだった。
「あの…」
気が付いたとき、ほむらはその女性に話しかけていた。
話しかけた時に誰よりも驚いたのは、当のほむら本人だった。
「はい?」
鈴が鳴るような声と共に、女性が振り返った。
ウェーブの掛かった髪がふわりと揺れた。
バックに座っている子ザルもちゅ?とこちらに視線を返す。
二つの視線に見つめられ、ほむらは動けなくなった。
だから、きょろきょろと周囲を見回していた人を見かけても、話しかけることは本来ほむらにとってはあり得ないことのはずだった。
「あの…」
気が付いたとき、ほむらはその女性に話しかけていた。
話しかけた時に誰よりも驚いたのは、当のほむら本人だった。
「はい?」
鈴が鳴るような声と共に、女性が振り返った。
ウェーブの掛かった髪がふわりと揺れた。
バックに座っている子ザルもちゅ?とこちらに視線を返す。
二つの視線に見つめられ、ほむらは動けなくなった。
モバP「泰葉からチョコもらった時の話?」
絵里「なんとかストロガノフ!」穂乃果「そう、カレーです」
タマ「ニャー」タラオ「タマ口臭いですぅ!」タマ「!!!!!!!」
玲音「風邪を引いてしまったようだ…」
苗木「霧切さん、この蝶ネクタイつけてみてよ」
394: ◆ctuEhmj40s:2012/04/30(月) 01:06:57.16:QuGSr0TO0 (15/24)
「あ、その、えっと…」
「?」
何も考えていなかったので、言葉が出てこない。
そもそも話しかけるなど、思いもよらなかったことなのだ。
元々引っ込み思案なので誰かに道を聞いたこともないし、聞かれたこともない。
こんな時、どう対応すればいいのか分からなかった。
そのほむらの様子に女性は一瞬きょとんとし、そしてクスリと笑うと優しく声をかけた。
「道をお聞きしたいんですけど、よろしいですか? とりあえずホテルの場所をいくつか」
「あ、え、あ、は、はい…」
言われて、ほむらは幾分か冷静さを取り戻した。
しかし答えようとしたところで、見滝原のホテルの場所をあまり知らないことを思い出した。
一つくらいなら知っているが、ビジネスホテルであるし観光に使うにはあまり適していない。
しかたなくとりあえず駅に入り、観光相談所に案内した。
「あ、その、えっと…」
「?」
何も考えていなかったので、言葉が出てこない。
そもそも話しかけるなど、思いもよらなかったことなのだ。
元々引っ込み思案なので誰かに道を聞いたこともないし、聞かれたこともない。
こんな時、どう対応すればいいのか分からなかった。
そのほむらの様子に女性は一瞬きょとんとし、そしてクスリと笑うと優しく声をかけた。
「道をお聞きしたいんですけど、よろしいですか? とりあえずホテルの場所をいくつか」
「あ、え、あ、は、はい…」
言われて、ほむらは幾分か冷静さを取り戻した。
しかし答えようとしたところで、見滝原のホテルの場所をあまり知らないことを思い出した。
一つくらいなら知っているが、ビジネスホテルであるし観光に使うにはあまり適していない。
しかたなくとりあえず駅に入り、観光相談所に案内した。
395: ◆ctuEhmj40s:2012/04/30(月) 01:08:17.17:QuGSr0TO0 (16/24)
自分から名乗り出たのに満足に道案内をできないとは、とんだ間抜けだ。
笑われても仕方がない。自分がダメな人間であることを改めて自覚させられる。
やはり、自分はどうしようもなく弱い人間なのだ。
「あら、待っていてくれたんですか?」
声をかけられ、ほむらは自己嫌悪から抜け出した。
気が付くと、案内した女性が戻っていた。
どうやら、考え事をしている間にそれなりに時間が経っていたらしい。
「ありがとうございます。あなたは親切な人ですね」
「考え事をしていたら、行きそびれてしまっただけです」
「それでも親切なことに変わりありません。慣れていないのに、道を教えてくれて」
「すみません……」
「あら、責めているんじゃないですよ。素直に感謝しているだけです」
やり取りが可笑しかったのか、クスクスと彼女は笑った。
自分から名乗り出たのに満足に道案内をできないとは、とんだ間抜けだ。
笑われても仕方がない。自分がダメな人間であることを改めて自覚させられる。
やはり、自分はどうしようもなく弱い人間なのだ。
「あら、待っていてくれたんですか?」
声をかけられ、ほむらは自己嫌悪から抜け出した。
気が付くと、案内した女性が戻っていた。
どうやら、考え事をしている間にそれなりに時間が経っていたらしい。
「ありがとうございます。あなたは親切な人ですね」
「考え事をしていたら、行きそびれてしまっただけです」
「それでも親切なことに変わりありません。慣れていないのに、道を教えてくれて」
「すみません……」
「あら、責めているんじゃないですよ。素直に感謝しているだけです」
やり取りが可笑しかったのか、クスクスと彼女は笑った。
396: ◆ctuEhmj40s:2012/04/30(月) 01:09:44.49:QuGSr0TO0 (17/24)
改めて見てみると、やはり普通の人には見えない。
平日にこんな姿をしているというのもあるが、どことなく異質な気配が彼女にはあった。
しかし、不思議と警戒するような気分にはならない。
彼女の柔らかい雰囲気のせいだろうか。
笑った姿を見ると、少し幼く見えた。
もしかしたら、そんなに年齢は変わらないのかもしれない。
「見滝原というんですね、ここ。広くて、歩くのも面白そう」
「え?」
一瞬、ほむらは虚を突かれた。
「ああ、すみません。私変なことを言いましたか?」
「いえ……」
改めて見てみると、やはり普通の人には見えない。
平日にこんな姿をしているというのもあるが、どことなく異質な気配が彼女にはあった。
しかし、不思議と警戒するような気分にはならない。
彼女の柔らかい雰囲気のせいだろうか。
笑った姿を見ると、少し幼く見えた。
もしかしたら、そんなに年齢は変わらないのかもしれない。
「見滝原というんですね、ここ。広くて、歩くのも面白そう」
「え?」
一瞬、ほむらは虚を突かれた。
「ああ、すみません。私変なことを言いましたか?」
「いえ……」
397: ◆ctuEhmj40s:2012/04/30(月) 01:11:25.76:QuGSr0TO0 (18/24)
十分、変だろう。
この駅で降りたということは、何らかの目的がこの場所にあったはずだ。
それなら当然、土地の名前くらいは知っていて然るべきことのはずである。
まさか、用もないのに気まぐれで電車から降りたのだろうか。
だとしたら、随分とゆとりのある人生を送っているものだ。
年は分からないが、少なくとも平日から簡単に悠々自適な人生を送れるような年齢には見えない。
彼女の外見や振る舞いから見える浮世離れしたような雰囲気は、そこから来ているのだろうか。
少なくとも、彼女は普通から離れた人生を送っているようだ。
それは自分も同じだが、かといってこれといったシンパシーを感じることはなかった。
普通の人間とも関係が希薄になっているのに、異質な人間となら上手くいくなどというそんな道理があるはずがない。
そもそも相手の問題ではないのだ。
原因は自分にあり、そしてそれは生涯消えることは無い。
相手が変わったところで、何も変わらない。
十分、変だろう。
この駅で降りたということは、何らかの目的がこの場所にあったはずだ。
それなら当然、土地の名前くらいは知っていて然るべきことのはずである。
まさか、用もないのに気まぐれで電車から降りたのだろうか。
だとしたら、随分とゆとりのある人生を送っているものだ。
年は分からないが、少なくとも平日から簡単に悠々自適な人生を送れるような年齢には見えない。
彼女の外見や振る舞いから見える浮世離れしたような雰囲気は、そこから来ているのだろうか。
少なくとも、彼女は普通から離れた人生を送っているようだ。
それは自分も同じだが、かといってこれといったシンパシーを感じることはなかった。
普通の人間とも関係が希薄になっているのに、異質な人間となら上手くいくなどというそんな道理があるはずがない。
そもそも相手の問題ではないのだ。
原因は自分にあり、そしてそれは生涯消えることは無い。
相手が変わったところで、何も変わらない。
398: ◆ctuEhmj40s:2012/04/30(月) 01:13:26.52:QuGSr0TO0 (19/24)
それとも、何かを期待していたのだろうか。
だとしたら、何と女々しい事か。
普通から外れていても、まどかを知らない大多数の中の一人でしかないというのに。
それに気が付いた今は、もう彼女への興味は薄れ始めていた。
結局、そういうことなのだ。
淡い希望に惑わされた気の迷いであり、決して他人のためではない。
これが自分という人間であり、性根なのだ。
彼女の方を見ると「見滝原……見滝原……」と小さく何かブツブツと呟いていた。
何か思い当たるものでのあるのだろうか。
とにかくもう知りたい情報を聞いたようだし、さらに知りたいことがあってもまた案内所に来れば大丈夫だろう。
「ああ、そういえば聞いたことがあります。
そこに住んでいた知り合いがいたことを思い出しました」
それとも、何かを期待していたのだろうか。
だとしたら、何と女々しい事か。
普通から外れていても、まどかを知らない大多数の中の一人でしかないというのに。
それに気が付いた今は、もう彼女への興味は薄れ始めていた。
結局、そういうことなのだ。
淡い希望に惑わされた気の迷いであり、決して他人のためではない。
これが自分という人間であり、性根なのだ。
彼女の方を見ると「見滝原……見滝原……」と小さく何かブツブツと呟いていた。
何か思い当たるものでのあるのだろうか。
とにかくもう知りたい情報を聞いたようだし、さらに知りたいことがあってもまた案内所に来れば大丈夫だろう。
「ああ、そういえば聞いたことがあります。
そこに住んでいた知り合いがいたことを思い出しました」
399: ◆ctuEhmj40s:2012/04/30(月) 01:15:58.72:QuGSr0TO0 (20/24)
「そうですか」
適当に返事を返す。
それならここで降りたのも、きっとその知り合いのことが頭の片隅に残っていたからだろう。
そうでなかったとしても、別にどうだっていい。
ほむらは一言二言返して立ち去ろうとした。
「あら?」
そこで、女性は初めて気が付いたようにほむらのことを見つめた。
「なにかしら?」
「あなた、もしかしたら見滝原中学校の生徒さん?」
「ええ、そうだけど」
「まぁ。わたしの知り合いの二人も見滝原中学校の生徒さんだったの。
今は確か二年生になったと思うのだけれど」
「奇遇ですね。私も今二年生です」
「なら、もしかしたら……」
ここまで来たら、そのくらいの質問に答えてもいいだろう。
しかし自分に分かるだろうか。
何度も転入したからクラスメイトならばおそらくわかるだろう。
しかし他のクラスとなると、途端に記憶は怪しくなる。
女性は少し懐かしそうに、名前を口にした。
「そうですか」
適当に返事を返す。
それならここで降りたのも、きっとその知り合いのことが頭の片隅に残っていたからだろう。
そうでなかったとしても、別にどうだっていい。
ほむらは一言二言返して立ち去ろうとした。
「あら?」
そこで、女性は初めて気が付いたようにほむらのことを見つめた。
「なにかしら?」
「あなた、もしかしたら見滝原中学校の生徒さん?」
「ええ、そうだけど」
「まぁ。わたしの知り合いの二人も見滝原中学校の生徒さんだったの。
今は確か二年生になったと思うのだけれど」
「奇遇ですね。私も今二年生です」
「なら、もしかしたら……」
ここまで来たら、そのくらいの質問に答えてもいいだろう。
しかし自分に分かるだろうか。
何度も転入したからクラスメイトならばおそらくわかるだろう。
しかし他のクラスとなると、途端に記憶は怪しくなる。
女性は少し懐かしそうに、名前を口にした。
400: ◆ctuEhmj40s:2012/04/30(月) 01:16:51.29:QuGSr0TO0 (21/24)
「知っているかしら。一人は鹿目まどかさんっていうのだけれど」
同名の別人だと思う。
しかし、そんな考えはすぐに消し飛んだ。
そもそもその名前を持つ人間がいたら、自分は気づかないはずがない。
だが、今その名前が耳に届いたことを、ほむらは信じることができない。
「知っているかしら。一人は鹿目まどかさんっていうのだけれど」
同名の別人だと思う。
しかし、そんな考えはすぐに消し飛んだ。
そもそもその名前を持つ人間がいたら、自分は気づかないはずがない。
だが、今その名前が耳に届いたことを、ほむらは信じることができない。
401: ◆ctuEhmj40s:2012/04/30(月) 01:18:10.78:QuGSr0TO0 (22/24)
「もう一人は美樹さやかさんっていうの。
知っているかしら?
まどかさんはおとなしい人で、さやかさんは活発な人なんだけど……」
まさか、でも。
なんで、どうして、なぜ。
「どうしているかしら。元気にしているといいんですけど。……あの?」
視界が回る。
足が浮く。
体の芯が抜けたように、ふらつく。
頭に響くのは彼女の声。
優しく、自分に出来た初めての友達。
この世界に来てから、幾度となく幻想だと言われた記憶。
「もう一人は美樹さやかさんっていうの。
知っているかしら?
まどかさんはおとなしい人で、さやかさんは活発な人なんだけど……」
まさか、でも。
なんで、どうして、なぜ。
「どうしているかしら。元気にしているといいんですけど。……あの?」
視界が回る。
足が浮く。
体の芯が抜けたように、ふらつく。
頭に響くのは彼女の声。
優しく、自分に出来た初めての友達。
この世界に来てから、幾度となく幻想だと言われた記憶。
402: ◆ctuEhmj40s:2012/04/30(月) 01:19:08.14:QuGSr0TO0 (23/24)
封じ込めていたはずの記憶が、堰を切ったように溢れてくる。
出会った記憶。
別れた記憶。
再会した記憶。
奪った記憶。
約束をした記憶。
ほむらちゃん
そこで、ほむらは気を失った。
封じ込めていたはずの記憶が、堰を切ったように溢れてくる。
出会った記憶。
別れた記憶。
再会した記憶。
奪った記憶。
約束をした記憶。
ほむらちゃん
そこで、ほむらは気を失った。
403: ◆ctuEhmj40s:2012/04/30(月) 01:20:24.89:QuGSr0TO0 (24/24)
今日の投下はここまでです。
次はまた日曜日くらいになると思います。
お読みいただきありがとうございました。
今日の投下はここまでです。
次はまた日曜日くらいになると思います。
お読みいただきありがとうございました。
404:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2012/04/30(月) 09:04:46.25:IljJcIna0 (1/1)
ご迷惑なんて何も、続きがあるだけで・・・。
虫垂炎…まあそれでも、手当が遅かったらえらいことになってたろうし。お大事に。
それにしても・・・。ここで遂に薔薇の花嫁登場とは。
そうか、探しに出たのか。この世界にいなくなってしまった友達を。
覚えているってことは、生贄にして魔女、王子を縛る因果の鎖である薔薇の花嫁もまた、この世界の条理の外にあるのか。
暁生と彼女だけは、ウテナの事を覚えていたからな・・・。
魔女がいなくなった世界では、魔女でなくなった彼女が存在しても不自然ではない、か。
はっ!?すると、次は・・・
ご迷惑なんて何も、続きがあるだけで・・・。
虫垂炎…まあそれでも、手当が遅かったらえらいことになってたろうし。お大事に。
それにしても・・・。ここで遂に薔薇の花嫁登場とは。
そうか、探しに出たのか。この世界にいなくなってしまった友達を。
覚えているってことは、生贄にして魔女、王子を縛る因果の鎖である薔薇の花嫁もまた、この世界の条理の外にあるのか。
暁生と彼女だけは、ウテナの事を覚えていたからな・・・。
魔女がいなくなった世界では、魔女でなくなった彼女が存在しても不自然ではない、か。
はっ!?すると、次は・・・
405: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:04:49.46:ISWSPmHC0 (1/17)
書き溜めがないので遅れています。
続きを投下します。
書き溜めがないので遅れています。
続きを投下します。
406: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:05:19.39:ISWSPmHC0 (2/17)
―――――
「君たちは彼女たちの呪いそのものだ。僕と同じさ」
「ボクたちを、アンタなんかと一緒にするな」
「その絆は、呪いだよ。君たちは彼女たちを閉じ込めることしかできない」
「それなら確かに呪いだ。でも、ボクたちは外に出るためにここに来たんだ」
―――――
「君たちは彼女たちの呪いそのものだ。僕と同じさ」
「ボクたちを、アンタなんかと一緒にするな」
「その絆は、呪いだよ。君たちは彼女たちを閉じ込めることしかできない」
「それなら確かに呪いだ。でも、ボクたちは外に出るためにここに来たんだ」
407: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:06:08.76:ISWSPmHC0 (3/17)
―――――
目覚めると、見たことのない天井が目に焼き付いた。
不安が体を強張らせる。
気が付いたら見知らぬ場所に居れば、誰でも不安になるだろう。
しかし、自分のこの怖がりようは異常だとほむらは思う。
体が震えている。息が荒く、心臓が耳に届くほど早鐘を打っている。
目の焦点が合っていないのだろうか、視界が揺れている。
震える手を無理やり押さえつける。
まるで他人の手のように、言うことを聞かなかった。
―――――
目覚めると、見たことのない天井が目に焼き付いた。
不安が体を強張らせる。
気が付いたら見知らぬ場所に居れば、誰でも不安になるだろう。
しかし、自分のこの怖がりようは異常だとほむらは思う。
体が震えている。息が荒く、心臓が耳に届くほど早鐘を打っている。
目の焦点が合っていないのだろうか、視界が揺れている。
震える手を無理やり押さえつける。
まるで他人の手のように、言うことを聞かなかった。
408: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:07:08.55:ISWSPmHC0 (4/17)
同じ時間を繰り返してきた弊害なのだろう。
何度も同じ光景を見ている内に、それが普通になってしまった。
この先、変わることも変わらないことも全てわかってしまう。
そんなつもりはないが、もしかしたら心のどこかでは神様気取りだったのかもしれない。
一か月から抜け出せない、不自由な神様だ。
そのため、こんな想定外の事態には弱い。
そんなことが起きない場所にいたのだから当たり前である。
環境が変わることに、人一倍慣れていないのだ。
昔から知らない場所に行くことは苦手だったが、更に悪化したように思う。
大丈夫。
そう自分に言い聞かせる。
緊張してしまうことは克服できないが、それをほぐす方法は身につけている。
呼吸を整え、心を落ち着かせる。
何度も行うと体の震えも止まり、ある程度平静に戻ることができた。
同じ時間を繰り返してきた弊害なのだろう。
何度も同じ光景を見ている内に、それが普通になってしまった。
この先、変わることも変わらないことも全てわかってしまう。
そんなつもりはないが、もしかしたら心のどこかでは神様気取りだったのかもしれない。
一か月から抜け出せない、不自由な神様だ。
そのため、こんな想定外の事態には弱い。
そんなことが起きない場所にいたのだから当たり前である。
環境が変わることに、人一倍慣れていないのだ。
昔から知らない場所に行くことは苦手だったが、更に悪化したように思う。
大丈夫。
そう自分に言い聞かせる。
緊張してしまうことは克服できないが、それをほぐす方法は身につけている。
呼吸を整え、心を落ち着かせる。
何度も行うと体の震えも止まり、ある程度平静に戻ることができた。
409: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:07:52.52:ISWSPmHC0 (5/17)
どうしてこんなことになったのか。
まだぼんやりしている頭を叩き、記憶をさかのぼる。
確か自分は魔獣退治の帰りだったはずだ。
そして駅の前を通りかかり、そこで、
知っているかしら。一人は鹿目まどかさんっていうのだけれど
(……!)
その名前で、頭が一瞬でクリアになる。
鹿目まどか。
確かにそう言った。
聞き間違えるはずがない。
それに彼女は、美樹さやかの名前も知っていた。
もはや疑いようはない。
彼女が口にした『鹿目まどか』は、あのまどかのことだ。
どうしてこんなことになったのか。
まだぼんやりしている頭を叩き、記憶をさかのぼる。
確か自分は魔獣退治の帰りだったはずだ。
そして駅の前を通りかかり、そこで、
知っているかしら。一人は鹿目まどかさんっていうのだけれど
(……!)
その名前で、頭が一瞬でクリアになる。
鹿目まどか。
確かにそう言った。
聞き間違えるはずがない。
それに彼女は、美樹さやかの名前も知っていた。
もはや疑いようはない。
彼女が口にした『鹿目まどか』は、あのまどかのことだ。
410: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:09:18.94:ISWSPmHC0 (6/17)
でも、何故?
まどかの存在は、この世界から完全に失われてしまった。
それは、もう疑いようのないことだ。
ならば、いないはずのまどかのことを彼女はなぜ知っているのか。
あの口調からしてまどかの知り合いのようだ。
が、その程度の関係で覚えているはずがない。
いや、結びつきの強さの問題ではないのだ。
それなら、自分だけがまどかのことを覚えているはずがない。
自分が彼女のことを覚えていることは、単なる偶然の産物に過ぎないのだから。
ならば、まどかを知る人間が現れたというのはどういうことなのだろうか。
でも、何故?
まどかの存在は、この世界から完全に失われてしまった。
それは、もう疑いようのないことだ。
ならば、いないはずのまどかのことを彼女はなぜ知っているのか。
あの口調からしてまどかの知り合いのようだ。
が、その程度の関係で覚えているはずがない。
いや、結びつきの強さの問題ではないのだ。
それなら、自分だけがまどかのことを覚えているはずがない。
自分が彼女のことを覚えていることは、単なる偶然の産物に過ぎないのだから。
ならば、まどかを知る人間が現れたというのはどういうことなのだろうか。
411: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:10:19.90:ISWSPmHC0 (7/17)
まどかの祈りによって、世界の構造は変わった。
希望は必ず絶望に変わるというルールはなくなり、その代償にまどかは人間としての存在を失った。
まどかの犠牲によって今の世界は成り立ち、多くの魔法少女が絶望するだけの未来から救われることとなった。
どんなに目を逸らそうとしても、それが現実だ。
この世界では、まどかがいないことが普通の事であり、正常な状態なのだ。
そのまどかを知る人物が、自分以外に現れた。
それは、この世界に異常が起こっているということなのか。
もしそうならば、何としてでもその原因を突き止めて元に戻さなくてはならない。
この世界はまどかが望んだ世界であり、あの子が守ろうとした世界なのだ。
その世界を守ることが今の自分の願いであり、戦いだった。
彼女が守ろうとしたものを、守らなくてはならない。
それがこの世界でもまどかのことを覚えていた、自分の使命だ。
まどかの祈りによって、世界の構造は変わった。
希望は必ず絶望に変わるというルールはなくなり、その代償にまどかは人間としての存在を失った。
まどかの犠牲によって今の世界は成り立ち、多くの魔法少女が絶望するだけの未来から救われることとなった。
どんなに目を逸らそうとしても、それが現実だ。
この世界では、まどかがいないことが普通の事であり、正常な状態なのだ。
そのまどかを知る人物が、自分以外に現れた。
それは、この世界に異常が起こっているということなのか。
もしそうならば、何としてでもその原因を突き止めて元に戻さなくてはならない。
この世界はまどかが望んだ世界であり、あの子が守ろうとした世界なのだ。
その世界を守ることが今の自分の願いであり、戦いだった。
彼女が守ろうとしたものを、守らなくてはならない。
それがこの世界でもまどかのことを覚えていた、自分の使命だ。
412: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:11:18.78:ISWSPmHC0 (8/17)
(でも、本当にそんなことが?)
ほむらの頭に疑問が浮かぶ。
世界に異常が起きているとなれば一大事だが、その中心にあるはずの魔法少女としての活動には大きな変化は見られない。
ここ数日戦った魔獣は、いつも通りのものだった。
つい先ほども一戦戦ったばかりだが、これと言った変化は見受けられなかった。
出現する頻度も、格別増えたわけでも減ったわけでもない。
平和、というにはいささか物騒だが、魔獣に関してはこれといった異常は見られない。
魔法少女システムに異常が発生したのなら、まずここから変化が現れるべきなのではないか。
(もしかしたら……)
あの不思議な女性。彼女の方にこそ、何かあるのかもしれない。
(でも、本当にそんなことが?)
ほむらの頭に疑問が浮かぶ。
世界に異常が起きているとなれば一大事だが、その中心にあるはずの魔法少女としての活動には大きな変化は見られない。
ここ数日戦った魔獣は、いつも通りのものだった。
つい先ほども一戦戦ったばかりだが、これと言った変化は見受けられなかった。
出現する頻度も、格別増えたわけでも減ったわけでもない。
平和、というにはいささか物騒だが、魔獣に関してはこれといった異常は見られない。
魔法少女システムに異常が発生したのなら、まずここから変化が現れるべきなのではないか。
(もしかしたら……)
あの不思議な女性。彼女の方にこそ、何かあるのかもしれない。
413: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:12:27.16:ISWSPmHC0 (9/17)
思い返してみれば、確かに何か普通の人間とは違う雰囲気があった。
もし彼女が自分と同じ魔法少女だとしたらどうだろうか。
それならば、何らかの奇跡を叶えてその作用で以前の世界のことを知っている可能性もあるのではないか。
魔法少女は条理を覆す存在というのはあの白い獣の受け売りだが、どんな能力に目覚めてもおかしくはない。
だとしたら、彼女はこの世界のことをどのように捉えているのだろうか。
悪しきシステムを破壊した新世界か。
それとも条理を歪め、都合よく改変されたニセモノの世界か。
彼女が潔癖を好む性格だという場合も十分にある。
そんな清純な心を持つ者が魔法少女になることは、得てしてよくあることだ。
それならば、世界を元に戻そうと画策する可能性も……。
(……情報不足ね。これ以上考えても、進展はないわ)
まずは世界に異常が起きているのか、それとも彼女が異常と呼べる人物なのか。
それを見極めなくてはならない。
思い返してみれば、確かに何か普通の人間とは違う雰囲気があった。
もし彼女が自分と同じ魔法少女だとしたらどうだろうか。
それならば、何らかの奇跡を叶えてその作用で以前の世界のことを知っている可能性もあるのではないか。
魔法少女は条理を覆す存在というのはあの白い獣の受け売りだが、どんな能力に目覚めてもおかしくはない。
だとしたら、彼女はこの世界のことをどのように捉えているのだろうか。
悪しきシステムを破壊した新世界か。
それとも条理を歪め、都合よく改変されたニセモノの世界か。
彼女が潔癖を好む性格だという場合も十分にある。
そんな清純な心を持つ者が魔法少女になることは、得てしてよくあることだ。
それならば、世界を元に戻そうと画策する可能性も……。
(……情報不足ね。これ以上考えても、進展はないわ)
まずは世界に異常が起きているのか、それとも彼女が異常と呼べる人物なのか。
それを見極めなくてはならない。
414: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:13:48.06:ISWSPmHC0 (10/17)
まどかを知る人物がいることは異常であり、それは普通とは違う。
そこに何らかの異変があることに疑いはない。
まどかのことならば、自分は動かなくてはならない。
彼女と彼女の願いを守るために自分はここに居るのだから。
(それにしても……)
ここはどこだろうか。
改めて見回すと、妙なところだった。
一言で表すならば、欧州風の書斎、と言ったところか。
壁という壁に木製の本棚が置かれており、大量の英字の辞書や図鑑が並んでいた。
シックな雰囲気でそれだけならば映画に出てくるような書斎で終わるのだが、
その部屋の真ん中にある巨大なダブルベッドがその雰囲気を見事にぶち壊していた。
何を持ってこんなところに、こんなものをおいたのだろうか。
置くならこんなベッドではなく機能美に溢れた執務机だろう。
ともかく、ここはベッドルームらしい。
そうは見えないが、ベッドが置いてあるのだからベッドルームなのだろう。
まどかを知る人物がいることは異常であり、それは普通とは違う。
そこに何らかの異変があることに疑いはない。
まどかのことならば、自分は動かなくてはならない。
彼女と彼女の願いを守るために自分はここに居るのだから。
(それにしても……)
ここはどこだろうか。
改めて見回すと、妙なところだった。
一言で表すならば、欧州風の書斎、と言ったところか。
壁という壁に木製の本棚が置かれており、大量の英字の辞書や図鑑が並んでいた。
シックな雰囲気でそれだけならば映画に出てくるような書斎で終わるのだが、
その部屋の真ん中にある巨大なダブルベッドがその雰囲気を見事にぶち壊していた。
何を持ってこんなところに、こんなものをおいたのだろうか。
置くならこんなベッドではなく機能美に溢れた執務机だろう。
ともかく、ここはベッドルームらしい。
そうは見えないが、ベッドが置いてあるのだからベッドルームなのだろう。
415: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:15:03.14:ISWSPmHC0 (11/17)
無意識に歩いてこんなところに来たとは思えない。
となると、誰かに運ばれてきたことになる。
見知らぬ誰かに運ばれたのか、それともあの――。
その時、がちゃり、と奥の方から部屋の扉が開く音がした。
とっさに布団をかぶり、身を隠した。
おそらく戻ってきたのは、自分をこの部屋に運んできた人間だろう。
それが見知らぬ第三者だったら何の問題もない。
だが、それが例の彼女だったら?
無意識に歩いてこんなところに来たとは思えない。
となると、誰かに運ばれてきたことになる。
見知らぬ誰かに運ばれたのか、それともあの――。
その時、がちゃり、と奥の方から部屋の扉が開く音がした。
とっさに布団をかぶり、身を隠した。
おそらく戻ってきたのは、自分をこの部屋に運んできた人間だろう。
それが見知らぬ第三者だったら何の問題もない。
だが、それが例の彼女だったら?
416: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:15:50.07:ISWSPmHC0 (12/17)
彼女は要注意人物だ。
何故まどかのことを知っているのか。
どんな異常が起きているにしろ、彼女からは貴重な情報が得られることに違いはない。
何にせよ、彼女とはもう一度接触しなくてはならない。
もし、今部屋に入ってきたのが彼女なら手間は大きく省けることになる。
何ら裏もなく、こちらを助けたのも単なる親切心であり、こちらの欲しい情報を得られる。
それならばいい。
問題は、彼女が魔法少女であり、尚且つ世界に害をなそうとしている場合である。
そうだと考えた時、この状況は『敵』の手の中に落ちていることになる。
彼女は要注意人物だ。
何故まどかのことを知っているのか。
どんな異常が起きているにしろ、彼女からは貴重な情報が得られることに違いはない。
何にせよ、彼女とはもう一度接触しなくてはならない。
もし、今部屋に入ってきたのが彼女なら手間は大きく省けることになる。
何ら裏もなく、こちらを助けたのも単なる親切心であり、こちらの欲しい情報を得られる。
それならばいい。
問題は、彼女が魔法少女であり、尚且つ世界に害をなそうとしている場合である。
そうだと考えた時、この状況は『敵』の手の中に落ちていることになる。
417: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:17:21.59:ISWSPmHC0 (13/17)
(ソウルジェムは……)
手元にある。
起きた時に体も縛られていないことも考えると、こちらに敵意があるとは考えづらい。
やはり、単なる取り越し苦労だろうか。
いや、こちらの正体に気付いていない可能性もある。
まどかを知っていてこの街を訪れたのなら、やはり何かしらの意図があって見滝原に来たことは間違いない。
しかし、それならまどかとのつながりを知られていない以上、こちらにアドバンテージがある。
今ならば、奇襲が成立する。
そうだ。それが一番、手段としては手っ取り早い。
楽に相手が、どんな人間か推し量ることができる。
命を握られて反応を出さない人間など、早々いない。
一度、生殺与奪を握ってしまえば後はどうとでもなる。
敵ならそのまま事を運べばいい。
もしすべてこちらの考えすぎならば、それはそれで問題はない。
彼女には運が悪かったと考えてもらうしかない。
必要以上の危害は加えないし、自分がただの恩知らずな人間だったという事実が残るだけだ。
ほむらは行動をまとめた。
見知らぬ第三者なら、何もせずにやり過ごす。
あの女性ならば、不意打ちを行い、素性を確かめる。
(ソウルジェムは……)
手元にある。
起きた時に体も縛られていないことも考えると、こちらに敵意があるとは考えづらい。
やはり、単なる取り越し苦労だろうか。
いや、こちらの正体に気付いていない可能性もある。
まどかを知っていてこの街を訪れたのなら、やはり何かしらの意図があって見滝原に来たことは間違いない。
しかし、それならまどかとのつながりを知られていない以上、こちらにアドバンテージがある。
今ならば、奇襲が成立する。
そうだ。それが一番、手段としては手っ取り早い。
楽に相手が、どんな人間か推し量ることができる。
命を握られて反応を出さない人間など、早々いない。
一度、生殺与奪を握ってしまえば後はどうとでもなる。
敵ならそのまま事を運べばいい。
もしすべてこちらの考えすぎならば、それはそれで問題はない。
彼女には運が悪かったと考えてもらうしかない。
必要以上の危害は加えないし、自分がただの恩知らずな人間だったという事実が残るだけだ。
ほむらは行動をまとめた。
見知らぬ第三者なら、何もせずにやり過ごす。
あの女性ならば、不意打ちを行い、素性を確かめる。
418: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:18:43.79:ISWSPmHC0 (14/17)
ふと、そこでほむらは我に返った。
善意で助けてくれたかもしれない人間に、自分は何をしようとしているのか。
思考が、悪い方へと流れている。
頭に浮かんでくるのは最悪の事態。
そんなことが早々起こるはずはない。おそらく高い確率で杞憂となるだろう。
そんなことは分かっている。
しかし、事はまどかに関係している。
常に最悪の事態というものを想定して動かなければならない。
そうでなくては、守ることができない。
あの子の残したこの世界を。
彼女が祈った、途方もない願いを。
その事を思い出し、ほむらは覚悟を決めた。
少しでも最悪の可能性があるのなら、それを防ぐ手段を取る。
なかったらなかったで構わない。自分がその責任を取るだけだ。
それくらい泥ならば、いくら被っても構わない。
ふと、そこでほむらは我に返った。
善意で助けてくれたかもしれない人間に、自分は何をしようとしているのか。
思考が、悪い方へと流れている。
頭に浮かんでくるのは最悪の事態。
そんなことが早々起こるはずはない。おそらく高い確率で杞憂となるだろう。
そんなことは分かっている。
しかし、事はまどかに関係している。
常に最悪の事態というものを想定して動かなければならない。
そうでなくては、守ることができない。
あの子の残したこの世界を。
彼女が祈った、途方もない願いを。
その事を思い出し、ほむらは覚悟を決めた。
少しでも最悪の可能性があるのなら、それを防ぐ手段を取る。
なかったらなかったで構わない。自分がその責任を取るだけだ。
それくらい泥ならば、いくら被っても構わない。
419: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:19:49.90:ISWSPmHC0 (15/17)
変身する。
布団に隠れて服装が変わったことは、向こうからは見えないはずだ。
力も使わなければ気取られることは無い。
目を開けられないため直接確認することは出来ないが、あの女性の声は覚えている。
耳に全神経を集中させた。
どくん、と心臓が早鐘を打つ音が頭の中に響いた。
少しの音も拾おうとしている今では、その音すらも煩わしい。
ほむらは息をひそめ、部屋に入ってきたのが誰なのかを伺った。
足音が聞こえる。
世の中にはそれを聞いただけで誰かを判断できる人間もいるらしいが、生憎ほむらにそのような能力は無い。
訓練でもしておけばよかったと過去の自分を恨みつつ、ほむらは耳を澄ませた。
変身する。
布団に隠れて服装が変わったことは、向こうからは見えないはずだ。
力も使わなければ気取られることは無い。
目を開けられないため直接確認することは出来ないが、あの女性の声は覚えている。
耳に全神経を集中させた。
どくん、と心臓が早鐘を打つ音が頭の中に響いた。
少しの音も拾おうとしている今では、その音すらも煩わしい。
ほむらは息をひそめ、部屋に入ってきたのが誰なのかを伺った。
足音が聞こえる。
世の中にはそれを聞いただけで誰かを判断できる人間もいるらしいが、生憎ほむらにそのような能力は無い。
訓練でもしておけばよかったと過去の自分を恨みつつ、ほむらは耳を澄ませた。
420: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:20:56.44:ISWSPmHC0 (16/17)
がさり、と何かが置かれる音がする。
ビニール袋のようだが、聞きたいのはそれではない。
ふぅ、とちいさく息を吐く音が聞こえた。
声と呼ぶには程遠い、空気の流れる音。
それだけで、相手が誰だか判断することは出来ない。
ごそごそ、と衣服を脱ぐ音が耳に届く。
どうやら上着を脱いでいるようだった。
「高かったわね。チュチュ」
あの時の女性の声だった。
布団を跳ね上げ、身をひるがえすと、相手を壁に突き飛ばす。
「きゃ――」と小さく悲鳴が上がった。
混乱している相手に弓を向ける。
一瞬にしてほむらは相手を本棚に追いつめた。
がさり、と何かが置かれる音がする。
ビニール袋のようだが、聞きたいのはそれではない。
ふぅ、とちいさく息を吐く音が聞こえた。
声と呼ぶには程遠い、空気の流れる音。
それだけで、相手が誰だか判断することは出来ない。
ごそごそ、と衣服を脱ぐ音が耳に届く。
どうやら上着を脱いでいるようだった。
「高かったわね。チュチュ」
あの時の女性の声だった。
布団を跳ね上げ、身をひるがえすと、相手を壁に突き飛ばす。
「きゃ――」と小さく悲鳴が上がった。
混乱している相手に弓を向ける。
一瞬にしてほむらは相手を本棚に追いつめた。
421: ◆ctuEhmj40s:2012/05/09(水) 23:22:50.31:ISWSPmHC0 (17/17)
中途半端ですが、今日の投下はここまでです。
次回は再び一週間後くらいになると思います。
遅れていて申し訳ありません。
お読みいただきありがとうございました。
中途半端ですが、今日の投下はここまでです。
次回は再び一週間後くらいになると思います。
遅れていて申し訳ありません。
お読みいただきありがとうございました。
422:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/09(水) 23:28:53.99:Mu2dwmZuo (1/1)
乙
乙
423:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2012/05/11(金) 08:34:01.51:iX+RK1zj0 (1/1)
お疲れ様です。
冒頭の謎めいた台詞…「ボク」はあの子として、「たち」となると…誰だろう。
そして、出たなチュチュ…チュチュがついている限り、アンシーとほむほむが本気で争うことはないか。
チュチュはアンシーの…
お疲れ様です。
冒頭の謎めいた台詞…「ボク」はあの子として、「たち」となると…誰だろう。
そして、出たなチュチュ…チュチュがついている限り、アンシーとほむほむが本気で争うことはないか。
チュチュはアンシーの…
424: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:35:38.06:90hsLc3E0 (1/24)
続きを投下します。
続きを投下します。
425: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:36:44.84:90hsLc3E0 (2/24)
「これから聞くことに答えて頂戴。そうすれば危害は加えないわ」
話しかけながらも、テレパシーを飛ばしてみる。
しかし、何の反応もない。
だが聞こえないふりをしている可能性もある。油断はできない。
声色は出来るだけ冷徹に聞こえるようにして相手に向ける。
付け入る隙を見せてはいけない。
場の空気を支配し、こちらに主導権があることを分からせ、必要な情報を引き出す。
本心を隠すのは得意だったし、冷たい印象を持たれるような振る舞いも造作の無いことだ。
かつての戦いで得た経験を駆使し、空気を凍らせ、目の前の女性に敵意を向ける。
ここまでは予定通り。
これで完全に、彼女はこの場に支配されたことだろう。
ほむらは相手の反応を待った。
「これから聞くことに答えて頂戴。そうすれば危害は加えないわ」
話しかけながらも、テレパシーを飛ばしてみる。
しかし、何の反応もない。
だが聞こえないふりをしている可能性もある。油断はできない。
声色は出来るだけ冷徹に聞こえるようにして相手に向ける。
付け入る隙を見せてはいけない。
場の空気を支配し、こちらに主導権があることを分からせ、必要な情報を引き出す。
本心を隠すのは得意だったし、冷たい印象を持たれるような振る舞いも造作の無いことだ。
かつての戦いで得た経験を駆使し、空気を凍らせ、目の前の女性に敵意を向ける。
ここまでは予定通り。
これで完全に、彼女はこの場に支配されたことだろう。
ほむらは相手の反応を待った。
426: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:38:39.44:90hsLc3E0 (3/24)
「あらあら」
作り上げたはずの場にそぐわない、緊張感のない声が響いた。
「見て、チュチュ。凄いわねぇ、どんな手品なのかしら?」
チュッチ、といつの間にか主人の肩に来ていた子ザルが小さく答えた。
そしてどこからともなく、手品のように爪楊枝で作った小さな剣を取り出すと、ピュンピュンと振り回しポーズをとる。
「似てる似てる」と、その様子を見て彼女は小さく笑った。
予想していなかった、のほほんとした反応に、ほむらは固まった。
「あらあら」
作り上げたはずの場にそぐわない、緊張感のない声が響いた。
「見て、チュチュ。凄いわねぇ、どんな手品なのかしら?」
チュッチ、といつの間にか主人の肩に来ていた子ザルが小さく答えた。
そしてどこからともなく、手品のように爪楊枝で作った小さな剣を取り出すと、ピュンピュンと振り回しポーズをとる。
「似てる似てる」と、その様子を見て彼女は小さく笑った。
予想していなかった、のほほんとした反応に、ほむらは固まった。
427: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:39:47.03:90hsLc3E0 (4/24)
おかしい。
自分が求めていたのはこんな状況ではなかったはずだ。
予定では相手と脅して情報を引き出す手はずだったはずである。
それが何故、手品を見せ合っているかのような状況になっているのか。
いや、また挽回の余地は十分にある。
向こうの命をこちらが握っているという状況には変わりない。
圧倒的有利なのは変わらないのだ。
もしかしたら脅しが足りなかったのかもしれない。
土壇場で甘さが出てしまうのは、自分の悪い癖だ。
反省しよう。
しかしとりあえずそれは後だ。
今はこの空気を緊張したものに変えることが先決である。
再び言葉で脅しをかけるか、いっそ矢を壁に撃ちこむことくらいのことを――。
そんな状況を動かそうと頭を働かせるほむらの横を、彼女はするリとあっさり通り過ぎた。
一瞬、あっけにとられる。
そして、相手を逃がしてしまったことに気が付き、ほむらは慌てて弓を向けた。
おかしい。
自分が求めていたのはこんな状況ではなかったはずだ。
予定では相手と脅して情報を引き出す手はずだったはずである。
それが何故、手品を見せ合っているかのような状況になっているのか。
いや、また挽回の余地は十分にある。
向こうの命をこちらが握っているという状況には変わりない。
圧倒的有利なのは変わらないのだ。
もしかしたら脅しが足りなかったのかもしれない。
土壇場で甘さが出てしまうのは、自分の悪い癖だ。
反省しよう。
しかしとりあえずそれは後だ。
今はこの空気を緊張したものに変えることが先決である。
再び言葉で脅しをかけるか、いっそ矢を壁に撃ちこむことくらいのことを――。
そんな状況を動かそうと頭を働かせるほむらの横を、彼女はするリとあっさり通り過ぎた。
一瞬、あっけにとられる。
そして、相手を逃がしてしまったことに気が付き、ほむらは慌てて弓を向けた。
428: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:41:03.83:90hsLc3E0 (5/24)
「ちょ、ちょっとまちな――きゃっ!」
チュ。と彼女の肩にのっていた子ザルが、ほむらの肩に飛び乗った。
再びほむらは硬直する。
想定した中にこんな展開はもちろん無い。
ましてや動物と触れ合うこと事態ほとんど経験がなく、子ザルが肩にのるなど夢にも思わなかった特殊な状況である。
許容以上のアクシデントに見舞われ、ほむらは完全にフリーズした。
どうやら子ザルはほむらのことを手品仲間だと思ったらしい。
チュチュ♪、と期限がよさそうにほむらにじゃれ付いた。
じゃれつかれたほむらは、「や、やめ……」と何も口から出せずに尻餅をつくことしかできなかった。
「ほら、チュチュ。ちょっとはしゃぎ過ぎよ。困っているわ」
主人の声を聴き、子ザルはチュ、と返事をするとトテトテと歩いていく。
そこでようやくほむらは解放された。
「ちょ、ちょっとまちな――きゃっ!」
チュ。と彼女の肩にのっていた子ザルが、ほむらの肩に飛び乗った。
再びほむらは硬直する。
想定した中にこんな展開はもちろん無い。
ましてや動物と触れ合うこと事態ほとんど経験がなく、子ザルが肩にのるなど夢にも思わなかった特殊な状況である。
許容以上のアクシデントに見舞われ、ほむらは完全にフリーズした。
どうやら子ザルはほむらのことを手品仲間だと思ったらしい。
チュチュ♪、と期限がよさそうにほむらにじゃれ付いた。
じゃれつかれたほむらは、「や、やめ……」と何も口から出せずに尻餅をつくことしかできなかった。
「ほら、チュチュ。ちょっとはしゃぎ過ぎよ。困っているわ」
主人の声を聴き、子ザルはチュ、と返事をするとトテトテと歩いていく。
そこでようやくほむらは解放された。
429: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:42:28.23:90hsLc3E0 (6/24)
「何か食べる? とりあえずお茶とヨーグルトを買ってきたのだけれど」
息も絶え絶えになっているほむらに、彼女は心配そうに声をかけた。
「ひ、人の話を――」
「手品をするのはいいけれど、せっかく倒れたところを運んであげたのだからもう少し感謝してもらってもいいんじゃないかしら?
あれが感謝の印ならちょっと乱暴だと思うけれど」
肩をさすり、痛めたかのようなジェスチャーを取る。
先ほどの行動に対する不満を表しているらしい。
当然のことだがやはり怒っているようだった。
しかし声色は変わっていない。
それがほむらには不気味に感じられた。
それまでの経緯と仕草からそのことは明白なのに、その感情が彼女からは読み取れない。
そのギャップに、ほむらは少し、気圧された。
「何か食べる? とりあえずお茶とヨーグルトを買ってきたのだけれど」
息も絶え絶えになっているほむらに、彼女は心配そうに声をかけた。
「ひ、人の話を――」
「手品をするのはいいけれど、せっかく倒れたところを運んであげたのだからもう少し感謝してもらってもいいんじゃないかしら?
あれが感謝の印ならちょっと乱暴だと思うけれど」
肩をさすり、痛めたかのようなジェスチャーを取る。
先ほどの行動に対する不満を表しているらしい。
当然のことだがやはり怒っているようだった。
しかし声色は変わっていない。
それがほむらには不気味に感じられた。
それまでの経緯と仕草からそのことは明白なのに、その感情が彼女からは読み取れない。
そのギャップに、ほむらは少し、気圧された。
430: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:43:21.49:90hsLc3E0 (7/24)
「でも元気そうでよかった」
そんなことを知ってか知らずか、彼女は優しく声をかけた。
「急に倒れたから、とりあえず休めるところを探して運んだのだけれど」
倒れた。
そうだ自分は倒れたのだ。あの駅で。
彼女はわざわざ見ず知らずの自分の為に、わざわざこんなところまで自分を運んできたのだろうか。
倒れている自分を運ぶのは、相当な苦労があったことだろう。
いっそのこと救急車でも呼んでしまえば、何の苦労もせずにその場から離れることも出来たというのに。
その優しさが、この上もなく不快に感じた。
「でも元気そうでよかった」
そんなことを知ってか知らずか、彼女は優しく声をかけた。
「急に倒れたから、とりあえず休めるところを探して運んだのだけれど」
倒れた。
そうだ自分は倒れたのだ。あの駅で。
彼女はわざわざ見ず知らずの自分の為に、わざわざこんなところまで自分を運んできたのだろうか。
倒れている自分を運ぶのは、相当な苦労があったことだろう。
いっそのこと救急車でも呼んでしまえば、何の苦労もせずにその場から離れることも出来たというのに。
その優しさが、この上もなく不快に感じた。
431: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:44:54.14:90hsLc3E0 (8/24)
「ふざけないで」
温くなった空気を振り払うかのように、ほむらは怒気をこめた。
声は冷えきっていた。
冷たく、温情も愛情もどこにもない。
ただ怒りだけを込めたようなそんな声。
本当に怒りに体が支配されたとき、どこまでも頭は冴え冷徹に物事を実行しようとすることを、ほむらはこの時初めて知った。
相手の態度・緊張感のない空気・何もできない自分。
その全てに、ほむらは苛立っていた。
さらに、こちらが真剣であるにもかかわらず、相手は何の問題もないかのように過ごしている。
そればかりか、自分に対して慈悲の心を向けるくらいの余裕すらある。
それにほむらはひどく侮辱されたような屈辱を受けた。
「ふざけないで」
温くなった空気を振り払うかのように、ほむらは怒気をこめた。
声は冷えきっていた。
冷たく、温情も愛情もどこにもない。
ただ怒りだけを込めたようなそんな声。
本当に怒りに体が支配されたとき、どこまでも頭は冴え冷徹に物事を実行しようとすることを、ほむらはこの時初めて知った。
相手の態度・緊張感のない空気・何もできない自分。
その全てに、ほむらは苛立っていた。
さらに、こちらが真剣であるにもかかわらず、相手は何の問題もないかのように過ごしている。
そればかりか、自分に対して慈悲の心を向けるくらいの余裕すらある。
それにほむらはひどく侮辱されたような屈辱を受けた。
432: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:46:12.05:90hsLc3E0 (9/24)
いや、違う。きっとこの感情は自分がこの世界から感じ取っている印象そのものなのだ。
彼女への感情は、いわばその八つ当たりに過ぎない。
まどかにためにどんなに懸命になっても、世界は彼女を認識せず、何事もなかったかのようにその営みを続けていく。
どんな代償があってこの世界が成り立っているのか、誰もそのことを気に留めることは無い。
こちらがどんなに必死になっても、何も変わらずに時は流れていく。
全てを過去に流し、忘れ去ろうとしているかのように。
そんなことはさせない。あの子がいた事実を消すことは許さない。
ほむらは立ち上がった。
きょとんとした目でこちらを見ている相手に、弓を構えて、魔法の矢を向ける。
それは支配されまいと抵抗する、レジスタンスの狼煙の様だった。
「分かっていないようならもう一度言うわ。私の質問に答えなさい。拒否するなら撃つ」
「無理をしてはダメよ。大人しく――」
矢を放った。
放たれた矢は、彼女に当たらず、向こうの本棚に穴をあけて消えていった。
いや、違う。きっとこの感情は自分がこの世界から感じ取っている印象そのものなのだ。
彼女への感情は、いわばその八つ当たりに過ぎない。
まどかにためにどんなに懸命になっても、世界は彼女を認識せず、何事もなかったかのようにその営みを続けていく。
どんな代償があってこの世界が成り立っているのか、誰もそのことを気に留めることは無い。
こちらがどんなに必死になっても、何も変わらずに時は流れていく。
全てを過去に流し、忘れ去ろうとしているかのように。
そんなことはさせない。あの子がいた事実を消すことは許さない。
ほむらは立ち上がった。
きょとんとした目でこちらを見ている相手に、弓を構えて、魔法の矢を向ける。
それは支配されまいと抵抗する、レジスタンスの狼煙の様だった。
「分かっていないようならもう一度言うわ。私の質問に答えなさい。拒否するなら撃つ」
「無理をしてはダメよ。大人しく――」
矢を放った。
放たれた矢は、彼女に当たらず、向こうの本棚に穴をあけて消えていった。
433: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:47:11.51:90hsLc3E0 (10/24)
「次は当てるわ」
「こんなふうに自己紹介するなんて、初めてね」
「貴方の名前に興味はないの。ただ聞かれたことだけ答えて頂戴」
おかしな人、と彼女は小さく呟いた。
ふと、そこで横目でベッドに視線を向けた。
ほむらは座るように促す。
彼女はどうも、と礼を言うと、ふんわりとベッドに座った。
「魔法少女を知っている?」
まずは単刀直入にその質問から始めることにした。
「魔法少女? 何か緊張感のない質問ね」
その緊張感をそれまで壊していたのは他ならぬ彼女自身なのだが、そんな指摘は胸にしまっておく。
「アニメのことを言っているなら、昔いくつか見てましたよ」
「ちなみに嘘をついても私は貴方を撃つつもり。隠すと貴方のためにならないわよ」
「次は当てるわ」
「こんなふうに自己紹介するなんて、初めてね」
「貴方の名前に興味はないの。ただ聞かれたことだけ答えて頂戴」
おかしな人、と彼女は小さく呟いた。
ふと、そこで横目でベッドに視線を向けた。
ほむらは座るように促す。
彼女はどうも、と礼を言うと、ふんわりとベッドに座った。
「魔法少女を知っている?」
まずは単刀直入にその質問から始めることにした。
「魔法少女? 何か緊張感のない質問ね」
その緊張感をそれまで壊していたのは他ならぬ彼女自身なのだが、そんな指摘は胸にしまっておく。
「アニメのことを言っているなら、昔いくつか見てましたよ」
「ちなみに嘘をついても私は貴方を撃つつもり。隠すと貴方のためにならないわよ」
434: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:48:55.60:90hsLc3E0 (11/24)
「と、言われても」
困ったように彼女はほむらを見つめた。
「私だって撃たれたくないから、嘘はつかないわ。
でもそれをあなたはどうすれば信用してくれるのかしら」
「それはこちらが判断するわ。余計なことは言わないで」
「貴方にとっては余計なことかもしれないけれど、私にとっては重要なの。
正直に答えて撃たれたんじゃ、泣きたくなるもの」
矢の先は、今も彼女を捉えている。
それにも関らず、彼女の物言いにおびえるような様子は一切なかった。
「と、言われても」
困ったように彼女はほむらを見つめた。
「私だって撃たれたくないから、嘘はつかないわ。
でもそれをあなたはどうすれば信用してくれるのかしら」
「それはこちらが判断するわ。余計なことは言わないで」
「貴方にとっては余計なことかもしれないけれど、私にとっては重要なの。
正直に答えて撃たれたんじゃ、泣きたくなるもの」
矢の先は、今も彼女を捉えている。
それにも関らず、彼女の物言いにおびえるような様子は一切なかった。
435: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:50:47.63:90hsLc3E0 (12/24)
やはり嘘をついているのではないか。
疑いがほむらの中で渦を巻く。
普通の人間ならば、こんな衣装を着た相手に弓矢を向けられて平静でいられるはずがない。
しかし、魔法少女だとしてもそれはそれで疑問が生まれてくる。
それならば、これまで一切抵抗のそぶりを見せなかったのはなぜなのか。
こうやって脅されて質問される状況にたどり着くまでに、自分にはいくらでも隙はあった。
ベテランの魔法少女ならば、そこを突いてこちらを組み伏せることなど容易だったはずである。
新人の魔法少女だったとしても、やはり結果は同じだ。
そもそもこちらの隙など伺わずに襲ってきたことだろう。
成りたての魔法少女というのは、得てして自分の力を過信するものだ。
それに感性が普通の人間と変わらない新米魔法少女に、こうして矢を向けられて平静でいられるだけのメンタルは無い。
率直に言ってしまって、こうして自分がこの場を支配できていることが、既に異常な事態と言えた。
どのように考えても、脅しても怯えない相手を脅すこの状況に至る道筋が考え付かない。
彼女は何者なのか。
疑問はそこに戻る。
一般人にも、魔法少女にも見えない。
あまりにも不自然なこの状況の中心にいる彼女が、ほむらには得体の知れないものに見えた。
正体がわからない。
それは最も恐ろしい物だとほむらは思う。
なまじ、得体の知れないものを知っている分、それが余計に恐ろしく感じる。
自分の想像の外に彼女という存在はある。
もしかしたらすでに自分は彼女の手中に――
やはり嘘をついているのではないか。
疑いがほむらの中で渦を巻く。
普通の人間ならば、こんな衣装を着た相手に弓矢を向けられて平静でいられるはずがない。
しかし、魔法少女だとしてもそれはそれで疑問が生まれてくる。
それならば、これまで一切抵抗のそぶりを見せなかったのはなぜなのか。
こうやって脅されて質問される状況にたどり着くまでに、自分にはいくらでも隙はあった。
ベテランの魔法少女ならば、そこを突いてこちらを組み伏せることなど容易だったはずである。
新人の魔法少女だったとしても、やはり結果は同じだ。
そもそもこちらの隙など伺わずに襲ってきたことだろう。
成りたての魔法少女というのは、得てして自分の力を過信するものだ。
それに感性が普通の人間と変わらない新米魔法少女に、こうして矢を向けられて平静でいられるだけのメンタルは無い。
率直に言ってしまって、こうして自分がこの場を支配できていることが、既に異常な事態と言えた。
どのように考えても、脅しても怯えない相手を脅すこの状況に至る道筋が考え付かない。
彼女は何者なのか。
疑問はそこに戻る。
一般人にも、魔法少女にも見えない。
あまりにも不自然なこの状況の中心にいる彼女が、ほむらには得体の知れないものに見えた。
正体がわからない。
それは最も恐ろしい物だとほむらは思う。
なまじ、得体の知れないものを知っている分、それが余計に恐ろしく感じる。
自分の想像の外に彼女という存在はある。
もしかしたらすでに自分は彼女の手中に――
436: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:52:11.88:90hsLc3E0 (13/24)
「私は貴方に嘘をつきませんよ」
その時、ほむらの考えを彼女の声が遮った。
「余計なことを話さないで。聞こえなかったかしら」
「だって、信用されていないようだから」
「生憎、初対面の赤の他人の言うことを全て信じるほど、私はお人よしではないの」
「あら。もう赤の他人ではないでしょう、私たち」
少々、不満そうに彼女は声を上げた。
「少なくとも私はこれまであなたに嘘はついてないし、倒れたところを介抱もしたわ。
それに道を教えてくれて感謝もしているのよ?
赤の他人よりも、正直で、介抱して、貴方に感謝しているという要素分くらいには信用してくれてもいいんじゃないかしら。
いえ、むしろもっと積極的に信用するべきね。
なにせ休ませるためにこんな場所に入る羽目になったんだから。
それに大人しく質問を受けている分、私の忍耐力というものも考慮して、信用してほしいわ」
流れるような彼女の言葉に、ほむらは呆気にとられた。
その言葉の中身にではない。
彼女が普通の人のように感情を表したことが、心の底から意外だった。
もう彼女に得体の知れないような雰囲気は感じられない。
目の前にいるのは一風変わった普通の人間だった。
「私は貴方に嘘をつきませんよ」
その時、ほむらの考えを彼女の声が遮った。
「余計なことを話さないで。聞こえなかったかしら」
「だって、信用されていないようだから」
「生憎、初対面の赤の他人の言うことを全て信じるほど、私はお人よしではないの」
「あら。もう赤の他人ではないでしょう、私たち」
少々、不満そうに彼女は声を上げた。
「少なくとも私はこれまであなたに嘘はついてないし、倒れたところを介抱もしたわ。
それに道を教えてくれて感謝もしているのよ?
赤の他人よりも、正直で、介抱して、貴方に感謝しているという要素分くらいには信用してくれてもいいんじゃないかしら。
いえ、むしろもっと積極的に信用するべきね。
なにせ休ませるためにこんな場所に入る羽目になったんだから。
それに大人しく質問を受けている分、私の忍耐力というものも考慮して、信用してほしいわ」
流れるような彼女の言葉に、ほむらは呆気にとられた。
その言葉の中身にではない。
彼女が普通の人のように感情を表したことが、心の底から意外だった。
もう彼女に得体の知れないような雰囲気は感じられない。
目の前にいるのは一風変わった普通の人間だった。
437: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:53:06.99:90hsLc3E0 (14/24)
「善処するわ」
平静を取り戻したほむらは、次の質問に移ることにした。
「キュゥべえ、魔獣、魔女。この中で特別知っている単語はあるかしら」
「一つだけなら」
「それは何? 答えて」
「魔女」
よりにもよって、その単語なのか。
「『魔女』について、貴方は何を知っているの?」
「知っているというか。私は元・魔女なんですよ」
ほむらは混乱した。
「善処するわ」
平静を取り戻したほむらは、次の質問に移ることにした。
「キュゥべえ、魔獣、魔女。この中で特別知っている単語はあるかしら」
「一つだけなら」
「それは何? 答えて」
「魔女」
よりにもよって、その単語なのか。
「『魔女』について、貴方は何を知っているの?」
「知っているというか。私は元・魔女なんですよ」
ほむらは混乱した。
438: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 11:59:04.45:90hsLc3E0 (15/24)
「……さっき、私に嘘をつかないと言ったのは嘘だったのかしら」
「と、言われても。私にとっては本当の事ですので」
まさか、本当に?
しかし、嘘をついているようには見えない。
というより、こんな嘘をつく必要がどこにもない。
魔女などという単語は、この世界の魔法少女の間では存在しない。
そもそも自分が魔法少女であることを隠す嘘ならば、知らないと答えるのがここでの道理だ。
しかし、ならばどういうことなのか。
「貴方の言う魔女とはいったいどんなものかしら」
「多くの人から希望を奪った存在。
王子を堕落させた女。
絶望の集まった虚無の少女。
王子様のいない女の子。
こんなところかしら。昔の自分のことを話すのはちょっと恥ずかしいわね」
何とも断片的で抽象的な物言いだった。
自分の知っている『魔女』と符合する部分もあるが、そうでない部分もある。
強引に解釈すればそれ以外の部分も結びつけることは出来る。
が、無理矢理当てはめたところでそれはただ単に自分の願望にすり合わせただけのように思えた。
「……さっき、私に嘘をつかないと言ったのは嘘だったのかしら」
「と、言われても。私にとっては本当の事ですので」
まさか、本当に?
しかし、嘘をついているようには見えない。
というより、こんな嘘をつく必要がどこにもない。
魔女などという単語は、この世界の魔法少女の間では存在しない。
そもそも自分が魔法少女であることを隠す嘘ならば、知らないと答えるのがここでの道理だ。
しかし、ならばどういうことなのか。
「貴方の言う魔女とはいったいどんなものかしら」
「多くの人から希望を奪った存在。
王子を堕落させた女。
絶望の集まった虚無の少女。
王子様のいない女の子。
こんなところかしら。昔の自分のことを話すのはちょっと恥ずかしいわね」
何とも断片的で抽象的な物言いだった。
自分の知っている『魔女』と符合する部分もあるが、そうでない部分もある。
強引に解釈すればそれ以外の部分も結びつけることは出来る。
が、無理矢理当てはめたところでそれはただ単に自分の願望にすり合わせただけのように思えた。
439: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 12:00:35.81:90hsLc3E0 (16/24)
元・魔女。
魔女が人間に戻ることなど、ほむらが知る限りでは在りえない。
一つだけ、その不可能を強引に可能する奇跡のような方法もあるが、そんな奇跡を願わなければならないほど、魔女が人間に戻るというのは在りえないことだ。
彼女の言う魔女は、ほむらの知る魔女ではない。
そもそもこの世界に魔女などいない。
そこを考えてもそれは明らかなことだ。
(でも……)
彼女は言った。
自分は昔、そんな魔女だったと。
彼女もまた、罪を背負っているのだろうか。
自分と同じような、一生背負うようなそんな罪を。
「貴方の目的は何?」
その問いには、彼女はハッキリと答えた。
元・魔女。
魔女が人間に戻ることなど、ほむらが知る限りでは在りえない。
一つだけ、その不可能を強引に可能する奇跡のような方法もあるが、そんな奇跡を願わなければならないほど、魔女が人間に戻るというのは在りえないことだ。
彼女の言う魔女は、ほむらの知る魔女ではない。
そもそもこの世界に魔女などいない。
そこを考えてもそれは明らかなことだ。
(でも……)
彼女は言った。
自分は昔、そんな魔女だったと。
彼女もまた、罪を背負っているのだろうか。
自分と同じような、一生背負うようなそんな罪を。
「貴方の目的は何?」
その問いには、彼女はハッキリと答えた。
440: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 12:01:36.00:90hsLc3E0 (17/24)
「親友を探すためです」
部屋に声が染み渡る。
その声はこれまで聞いたどの彼女の声よりも、澄んだ、綺麗な声だった。
親友を探す。
彼女にも親友がいるのか。
自分と同じように。
「まだ聞きたいことはあるのかしら」
ベッドの上で彼女は小さく、手を動かした。
手の上では子ザルがゴロゴロと、楽しそうにじゃれ合っていた。
その様子を、彼女は何とはなしに見つめていた。
「貴方、私が怖くないの?」
つい、そんな言葉が口に出た。
言ってしまってから、しまった、と内心後悔する。
無闇に親しくしては、こちらの優位は崩れてしまう。
しかし、彼女はそれも質問と受け取ったのか、別段態度を変えることもなく答えた。
「親友を探すためです」
部屋に声が染み渡る。
その声はこれまで聞いたどの彼女の声よりも、澄んだ、綺麗な声だった。
親友を探す。
彼女にも親友がいるのか。
自分と同じように。
「まだ聞きたいことはあるのかしら」
ベッドの上で彼女は小さく、手を動かした。
手の上では子ザルがゴロゴロと、楽しそうにじゃれ合っていた。
その様子を、彼女は何とはなしに見つめていた。
「貴方、私が怖くないの?」
つい、そんな言葉が口に出た。
言ってしまってから、しまった、と内心後悔する。
無闇に親しくしては、こちらの優位は崩れてしまう。
しかし、彼女はそれも質問と受け取ったのか、別段態度を変えることもなく答えた。
441: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 12:02:40.35:90hsLc3E0 (18/24)
「怖いですよ。でも私は何もできませんから」
「それなら、怖がってくれないかしら。そうしないと、ちゃんとこちらの意思が伝わっているのか不安になって、もっと過激なことをするかもしれないの」
「あら。そういう趣味があるの? 怖い人」
もしかしたら、諦めているのだろうか。
しかし彼女の眼からは、そんな風には感じられない。
さりとて隙を窺っているとも感じられない。
あくまでも平静。動揺も怯えも敵意もない。
なぜこのような状況で、そこまで平静でいられるのだろうか。
「何もできないから、私はあなたを信用するだけです。それしかできませんものね」
信用といったか。
こんな自分を信用しているのか。
だとしたら、何とも能天気なことだ。
こうやって矢を向けている相手を信用するとは、お花畑にもほどがある。
「自分に武器を向けている人間を信用するの? 何とも寛大なことね」
「怖いですよ。でも私は何もできませんから」
「それなら、怖がってくれないかしら。そうしないと、ちゃんとこちらの意思が伝わっているのか不安になって、もっと過激なことをするかもしれないの」
「あら。そういう趣味があるの? 怖い人」
もしかしたら、諦めているのだろうか。
しかし彼女の眼からは、そんな風には感じられない。
さりとて隙を窺っているとも感じられない。
あくまでも平静。動揺も怯えも敵意もない。
なぜこのような状況で、そこまで平静でいられるのだろうか。
「何もできないから、私はあなたを信用するだけです。それしかできませんものね」
信用といったか。
こんな自分を信用しているのか。
だとしたら、何とも能天気なことだ。
こうやって矢を向けている相手を信用するとは、お花畑にもほどがある。
「自分に武器を向けている人間を信用するの? 何とも寛大なことね」
442: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 12:03:29.95:90hsLc3E0 (19/24)
「誰でも無条件に、信用なんてしませんよ」
気が付く。彼女の手が、止まっている。
じっと、碧眼の異国の瞳がこちらを見つめていた。
「あなただから、信用しているんです。他の人だったら信用なんてしませんよ」
曇りの無い、しかし無垢とも言い難い瞳がこちらを見ている。
あなただから信用しているといった。
自分の何を、彼女は信用しているのか。
何を彼女は見て、そして何を判断したのか。
「それであなたを信用して、一つ提案があるのだけれど」
「誰でも無条件に、信用なんてしませんよ」
気が付く。彼女の手が、止まっている。
じっと、碧眼の異国の瞳がこちらを見つめていた。
「あなただから、信用しているんです。他の人だったら信用なんてしませんよ」
曇りの無い、しかし無垢とも言い難い瞳がこちらを見ている。
あなただから信用しているといった。
自分の何を、彼女は信用しているのか。
何を彼女は見て、そして何を判断したのか。
「それであなたを信用して、一つ提案があるのだけれど」
443: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 12:04:43.75:90hsLc3E0 (20/24)
「……何?」
「正直、ベッドに座ったままというのは疲れるし、あなたもずっと立ったまま弓を構えているのは疲れるでしょう?
話が長くなるのなら、もっとちゃんとした場所で話をしないかしら。
素敵なカフェを知っているなら、そこがいいのだけれど」
「馬鹿なことを言わないで」
誰が好き好んでこの状況を手放すのか。
相手から情報を一方的に引き出せる好機を逃すわけがない。
「でもそろそろ夜も更けてくるし。
急だったとはいえ、こんな場所じゃあ女の子二人が話をするにはちょっと不釣り合いだと思わない?」
困ったように辺りを見回す。
どことなく居づらそうに体をそわそわとさせている。
そこまで不快な空間だとは思わないが、彼女には合わないのだろうか。
「……何?」
「正直、ベッドに座ったままというのは疲れるし、あなたもずっと立ったまま弓を構えているのは疲れるでしょう?
話が長くなるのなら、もっとちゃんとした場所で話をしないかしら。
素敵なカフェを知っているなら、そこがいいのだけれど」
「馬鹿なことを言わないで」
誰が好き好んでこの状況を手放すのか。
相手から情報を一方的に引き出せる好機を逃すわけがない。
「でもそろそろ夜も更けてくるし。
急だったとはいえ、こんな場所じゃあ女の子二人が話をするにはちょっと不釣り合いだと思わない?」
困ったように辺りを見回す。
どことなく居づらそうに体をそわそわとさせている。
そこまで不快な空間だとは思わないが、彼女には合わないのだろうか。
444: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 12:05:39.92:90hsLc3E0 (21/24)
今の今まで忘れていたが、そういえばここはどこなのだろうか。
ベッドがあるから寝室ではあるのだろう。
しかし、彼女は見滝原には初めて来たと言っていた。
しかも道も分からない初心者だ。
ならば、個人や知り合いの住居とは考えづらい。
となるとどこかの宿泊施設になるのだろう。
が、こんな部屋があるホテルや旅館など聞いたことがない。
まぁ、どこか特殊なホテルならこんな部屋も――。
ちょっと、待て。
「やっぱり壁薄いのね。あんまりいい素材使ってないみたい」
その声を聴くのに、耳を澄ます必要もなかった。
甘い声。
睦言。
愛のささやき。
嬌声。
単純に喘ぎ声。
彼女の言う通り壁が薄いのか、肉と肉がぶつかり合う音もよく聞こえた。
今の今まで忘れていたが、そういえばここはどこなのだろうか。
ベッドがあるから寝室ではあるのだろう。
しかし、彼女は見滝原には初めて来たと言っていた。
しかも道も分からない初心者だ。
ならば、個人や知り合いの住居とは考えづらい。
となるとどこかの宿泊施設になるのだろう。
が、こんな部屋があるホテルや旅館など聞いたことがない。
まぁ、どこか特殊なホテルならこんな部屋も――。
ちょっと、待て。
「やっぱり壁薄いのね。あんまりいい素材使ってないみたい」
その声を聴くのに、耳を澄ます必要もなかった。
甘い声。
睦言。
愛のささやき。
嬌声。
単純に喘ぎ声。
彼女の言う通り壁が薄いのか、肉と肉がぶつかり合う音もよく聞こえた。
445: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 12:07:33.95:90hsLc3E0 (22/24)
「な・な・な……」
「文句は言わないでね。
倒れたあなたをつれて入れるところなんてこんな場所しかなかったの。
それとも別の部屋がよかった?
チュチュのおすすめはジャングルルームだったのだけれど」
夜のホテル。しかも女同士。
隣では男女が交わっており、そんな世界の中、自分はベッドに座った女性を前にしている。
そのことを考えると、カッと顔が熱くなった。
他人から見たら自分たちはどんなふうに見えるのだろうか。
夜・制服を着た女子中学生・異国の女性・女同士・ホテル・ダブルベッド・シャワールーム・コスプレ・SM・攻・受――。
「あら、純情」
今度こそ完全にフリーズしたほむらを見て、彼女はクスリと笑った。
「な・な・な……」
「文句は言わないでね。
倒れたあなたをつれて入れるところなんてこんな場所しかなかったの。
それとも別の部屋がよかった?
チュチュのおすすめはジャングルルームだったのだけれど」
夜のホテル。しかも女同士。
隣では男女が交わっており、そんな世界の中、自分はベッドに座った女性を前にしている。
そのことを考えると、カッと顔が熱くなった。
他人から見たら自分たちはどんなふうに見えるのだろうか。
夜・制服を着た女子中学生・異国の女性・女同士・ホテル・ダブルベッド・シャワールーム・コスプレ・SM・攻・受――。
「あら、純情」
今度こそ完全にフリーズしたほむらを見て、彼女はクスリと笑った。
446: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 12:08:20.66:90hsLc3E0 (23/24)
そこから、ホテルを出るまでのことはよく覚えていない。
変身を解いたり、制服が見えないように上着を着せてもらったりしたことはおぼろげに覚えている。
が、通ったはずのホテルの通路や受付は何も覚えていない。
チェックアウトなどのその他諸々は自分が出来たとは思えないから彼女が手続きをしてくれたのだろう。
気が付けばいつの間にか外を二人で歩いており、どこかいいカフェが無いか聞かれていたところで、ほむらは我に返った。
ただ、これだけは覚えている。
初めて大人のビラビラを潜った時、少し汚れたような気分になった。
そこから、ホテルを出るまでのことはよく覚えていない。
変身を解いたり、制服が見えないように上着を着せてもらったりしたことはおぼろげに覚えている。
が、通ったはずのホテルの通路や受付は何も覚えていない。
チェックアウトなどのその他諸々は自分が出来たとは思えないから彼女が手続きをしてくれたのだろう。
気が付けばいつの間にか外を二人で歩いており、どこかいいカフェが無いか聞かれていたところで、ほむらは我に返った。
ただ、これだけは覚えている。
初めて大人のビラビラを潜った時、少し汚れたような気分になった。
447: ◆ctuEhmj40s:2012/05/19(土) 12:09:16.60:90hsLc3E0 (24/24)
今日の投下はここまでです。
次の更新は再び一週間ほどかかると思います。
お読みいただきありがとうございました。
今日の投下はここまでです。
次の更新は再び一週間ほどかかると思います。
お読みいただきありがとうございました。
448:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2012/05/20(日) 11:15:38.71:eMCm3QnDo (1/1)
投下乙
空回りなほむらちゃん、ウブなほむらちゃんがかわいいよ
投下乙
空回りなほむらちゃん、ウブなほむらちゃんがかわいいよ
449:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2012/05/20(日) 12:40:52.60:wMeysS230 (1/1)
「前言を撤回する」…アンシー---ッ!!
天然だ。
そして邪悪だ(笑)。
歳月はアンシーを少しも変えなかった。
魔女ではなくなった魔女。
知っていたなアンシー、ほむらに免疫がないという事をッ…まあ知るわけがない。しかし知っていそうな気がする(笑)。
「前言を撤回する」…アンシー---ッ!!
天然だ。
そして邪悪だ(笑)。
歳月はアンシーを少しも変えなかった。
魔女ではなくなった魔女。
知っていたなアンシー、ほむらに免疫がないという事をッ…まあ知るわけがない。しかし知っていそうな気がする(笑)。
450: ◆ctuEhmj40s:2012/05/29(火) 00:12:32.59:OYeaCUjw0 (1/12)
続きを投下します。
続きを投下します。
451: ◆ctuEhmj40s:2012/05/29(火) 00:13:43.84:OYeaCUjw0 (2/12)
―――――
その喫茶店に入ると、紅茶の良い香りがスン、と匂ってきた。
時間もそれなりに更けてきていたので開いているかどうか不安だったが、運よく店は開いていた。
開けたドアからチリン、とベルが鳴る。
店長と思しき初老の男性がこちらに気付き、奥の席へと案内する。
淡い明りの電灯や、窓やテーブルに飾られたドライフラワーの柔らかい色が心を落ち着かせる。
「いい店ね」と後ろにいる彼女の感想が聞こえた。
自分の手柄ではない。
この店を見つけたのは巴マミだ。
仲間が出来て心に余裕ができたのか、彼女は以前よりも物事を楽しむようになっていた。
今日もきっと佐倉杏子を連れて、どこか新しいスイーツの店を探して見滝原を渡り歩いたに違いない。
体重が増えていないか少し心配だが、肥えたところで自分には関係ないので何も言ってはいない。
―――――
その喫茶店に入ると、紅茶の良い香りがスン、と匂ってきた。
時間もそれなりに更けてきていたので開いているかどうか不安だったが、運よく店は開いていた。
開けたドアからチリン、とベルが鳴る。
店長と思しき初老の男性がこちらに気付き、奥の席へと案内する。
淡い明りの電灯や、窓やテーブルに飾られたドライフラワーの柔らかい色が心を落ち着かせる。
「いい店ね」と後ろにいる彼女の感想が聞こえた。
自分の手柄ではない。
この店を見つけたのは巴マミだ。
仲間が出来て心に余裕ができたのか、彼女は以前よりも物事を楽しむようになっていた。
今日もきっと佐倉杏子を連れて、どこか新しいスイーツの店を探して見滝原を渡り歩いたに違いない。
体重が増えていないか少し心配だが、肥えたところで自分には関係ないので何も言ってはいない。
452: ◆ctuEhmj40s:2012/05/29(火) 00:15:19.55:OYeaCUjw0 (3/12)
案内された席に座る。荷物を置きで、立てかけてあったメニューをとりあえず開く。
何か注文しようとしたところで、そこで何を頼めばわからないことにほむらは気が付いた。
紅茶は嫌いではないが、具体的な種類や味の違いを知っているほど詳しくはない。
こういった店に入るときは、巴マミといつも一緒で全て任せてしまっていた。
少しは彼女の紅茶講座に耳を傾けておけばよかったと後悔するが、後の祭りである。
どの紅茶を頼めばいいのか。
付け合せは何にすればいいのか。
全く見当がつかなかった。
メニューを見て混乱していると、「見せて」と前から手が伸びてきた。
少し考えてメニューを渡すと、彼女は数秒見つめ、ウェイターを呼んでテキパキと注文を始めた。
途中、こちらの好みを聞いてきたので答えると、すぐに何か見繕ってそれも注文した。
かしこまりました、と言ってウェイターをいなくなると、テーブルは静かになった。
案内された席に座る。荷物を置きで、立てかけてあったメニューをとりあえず開く。
何か注文しようとしたところで、そこで何を頼めばわからないことにほむらは気が付いた。
紅茶は嫌いではないが、具体的な種類や味の違いを知っているほど詳しくはない。
こういった店に入るときは、巴マミといつも一緒で全て任せてしまっていた。
少しは彼女の紅茶講座に耳を傾けておけばよかったと後悔するが、後の祭りである。
どの紅茶を頼めばいいのか。
付け合せは何にすればいいのか。
全く見当がつかなかった。
メニューを見て混乱していると、「見せて」と前から手が伸びてきた。
少し考えてメニューを渡すと、彼女は数秒見つめ、ウェイターを呼んでテキパキと注文を始めた。
途中、こちらの好みを聞いてきたので答えると、すぐに何か見繕ってそれも注文した。
かしこまりました、と言ってウェイターをいなくなると、テーブルは静かになった。
453: ◆ctuEhmj40s:2012/05/29(火) 00:16:26.40:OYeaCUjw0 (4/12)
「困っていたようだったから。ちょっと出しゃばっちゃったけど、よかったかしら?」
「……ありがとう」
あまり下手には出たくないが、ここは素直に感謝することにした。
「それにしても、こんな素敵な店を知っているのにあまり利用していないみたいね」
「知り合いが見つけたところだから」
「いい友達がいるのね」
友達ではない。
そうほむらは思う。
昔は先輩・後輩という間柄だったが、それはもう過去の話だ。
今は一言で語れるほど、彼女との間柄は簡単ではない。
しかもそれがこちらから一方的なものというのが、より関係を複雑にしている。
よってほむらはこれら複雑に絡み合った関係を説明することを端から諦め、ただ単に「知り合い」ということにしていた。
「困っていたようだったから。ちょっと出しゃばっちゃったけど、よかったかしら?」
「……ありがとう」
あまり下手には出たくないが、ここは素直に感謝することにした。
「それにしても、こんな素敵な店を知っているのにあまり利用していないみたいね」
「知り合いが見つけたところだから」
「いい友達がいるのね」
友達ではない。
そうほむらは思う。
昔は先輩・後輩という間柄だったが、それはもう過去の話だ。
今は一言で語れるほど、彼女との間柄は簡単ではない。
しかもそれがこちらから一方的なものというのが、より関係を複雑にしている。
よってほむらはこれら複雑に絡み合った関係を説明することを端から諦め、ただ単に「知り合い」ということにしていた。
454: ◆ctuEhmj40s:2012/05/29(火) 00:17:34.09:OYeaCUjw0 (5/12)
「それで、あと私は何を話せばいいのかしら」
「その前に一つ言いたいことがあるのだけれど」
声にあらん限りの不満を込めて、ほむらは言った。
「いつまで私は貴方の荷物持ちをしなければいけないのかしら」
テーブルの横に置いたキャリーバッグに目をやった。
外を歩いているときはずっと運ばされていたが、こちらはまだいい。
問題は先ほどから制服のポケットで動いている生き物の方だ。
幸い悪戯をしたり暴れたりするといったことは無いが、モゾモゾとした制服から伝わる感覚は恐怖以外の何ものでもなかった。
外では外で肩に乗っかかるものだからすれ違う人からは奇異の目で見られ、今は今で店員に見つからないよう隠すのに必死である。
ペットの入店が認められている飲食店はあるが、生憎この店にはそんな表記は無い。
見つかったら間違いなく入店禁止となるだろう。
「それで、あと私は何を話せばいいのかしら」
「その前に一つ言いたいことがあるのだけれど」
声にあらん限りの不満を込めて、ほむらは言った。
「いつまで私は貴方の荷物持ちをしなければいけないのかしら」
テーブルの横に置いたキャリーバッグに目をやった。
外を歩いているときはずっと運ばされていたが、こちらはまだいい。
問題は先ほどから制服のポケットで動いている生き物の方だ。
幸い悪戯をしたり暴れたりするといったことは無いが、モゾモゾとした制服から伝わる感覚は恐怖以外の何ものでもなかった。
外では外で肩に乗っかかるものだからすれ違う人からは奇異の目で見られ、今は今で店員に見つからないよう隠すのに必死である。
ペットの入店が認められている飲食店はあるが、生憎この店にはそんな表記は無い。
見つかったら間違いなく入店禁止となるだろう。
455: ◆ctuEhmj40s:2012/05/29(火) 00:18:39.54:OYeaCUjw0 (6/12)
「だってあなたは私を信用していないんでしょう?
それを手元に置いておけば、私は嘘は言えませんよ。文字通り一文無しだから」
「……そうだろうけど」
「それにチュチュは私の友達だから。友達を人質に取られたら、何もできません。
さぁ、早く質問をして解放してくださいな。怖い狼さん」
「……」
なんだかんだ言いつつ、彼女に手玉に取られている。
上手く言いくるめられて、体よく荷物持ちをさせられているとしか思えない。
が、実際問題として人質を握っていることは確かである。
腹立たしいことに変わりはないが、この際自分のプライドは考慮しないことにする。
散々醜態を見られた今となっては、相手を威圧できるだけの空気はゼロに等しい。
これだけが彼女から話を引き出す唯一の道だった。
「だってあなたは私を信用していないんでしょう?
それを手元に置いておけば、私は嘘は言えませんよ。文字通り一文無しだから」
「……そうだろうけど」
「それにチュチュは私の友達だから。友達を人質に取られたら、何もできません。
さぁ、早く質問をして解放してくださいな。怖い狼さん」
「……」
なんだかんだ言いつつ、彼女に手玉に取られている。
上手く言いくるめられて、体よく荷物持ちをさせられているとしか思えない。
が、実際問題として人質を握っていることは確かである。
腹立たしいことに変わりはないが、この際自分のプライドは考慮しないことにする。
散々醜態を見られた今となっては、相手を威圧できるだけの空気はゼロに等しい。
これだけが彼女から話を引き出す唯一の道だった。
456: ◆ctuEhmj40s:2012/05/29(火) 00:21:13.64:OYeaCUjw0 (7/12)
「じゃあ、質問を再開するけど」
「はいはい」
「……貴方はまどかとどういう関係なの? どうしてまどかを知っているの?」
一番聞きたかった質問だ。
気を抜くと声が震えてしまいそうになる。
その感情を隠すために、普通に喋るだけでも必死だった。
彼女はまどかの何なのか。
まどかとはどこで知り合い、どういう関係なのか。
本当はどうしてまどかのことを覚えているのか、そこまで聞いてしまいたい。
しかしその質問をすれば「何故?」と聞かれることだろう。
そうなったら自分は全てを話さなくてはいけなくなる。
何度も疑われ、嘲られ、怯えられ、そして誰も信じなかった話だ。
彼女もきっと同じような反応を返すことだろう。
それ以前に、まず魔法少女の話を信用するところから怪しいものだ。
自分とまどかの話は、何も知らない普通の人間が受け止めるにはあまりにも荒唐無稽で、そして膨大すぎた。
一つ一つが嘘のような話で、そしてそんな嘘のような話の積み重ねが自分の歩んできた道だ。
少しでも疑えば全てが壊れてしまう、そんな儚い幻のような物語。
こんな話を真面目に聞くのは、よほどの妄想家かバカのどちらかだろう。
そんな失礼な評価を会って間もない他人に下すほど、他者を見下してはいない。
相手から判断材料となる情報を聞き出して、こちらで最終的な判断をするのが自分にも相手にも良い事だろう。
「まどかさんですか……」
少しの逡巡の後、彼女は話し始めた。
「じゃあ、質問を再開するけど」
「はいはい」
「……貴方はまどかとどういう関係なの? どうしてまどかを知っているの?」
一番聞きたかった質問だ。
気を抜くと声が震えてしまいそうになる。
その感情を隠すために、普通に喋るだけでも必死だった。
彼女はまどかの何なのか。
まどかとはどこで知り合い、どういう関係なのか。
本当はどうしてまどかのことを覚えているのか、そこまで聞いてしまいたい。
しかしその質問をすれば「何故?」と聞かれることだろう。
そうなったら自分は全てを話さなくてはいけなくなる。
何度も疑われ、嘲られ、怯えられ、そして誰も信じなかった話だ。
彼女もきっと同じような反応を返すことだろう。
それ以前に、まず魔法少女の話を信用するところから怪しいものだ。
自分とまどかの話は、何も知らない普通の人間が受け止めるにはあまりにも荒唐無稽で、そして膨大すぎた。
一つ一つが嘘のような話で、そしてそんな嘘のような話の積み重ねが自分の歩んできた道だ。
少しでも疑えば全てが壊れてしまう、そんな儚い幻のような物語。
こんな話を真面目に聞くのは、よほどの妄想家かバカのどちらかだろう。
そんな失礼な評価を会って間もない他人に下すほど、他者を見下してはいない。
相手から判断材料となる情報を聞き出して、こちらで最終的な判断をするのが自分にも相手にも良い事だろう。
「まどかさんですか……」
少しの逡巡の後、彼女は話し始めた。
457: ◆ctuEhmj40s:2012/05/29(火) 00:22:10.71:OYeaCUjw0 (8/12)
「まどかさんは私の後輩なんです」
「後輩?」
「ええ。まどかさんとさやかさんで。
私の通っていた学園に、交流の一環で一時期編入していたんですよ。聞いたことないかしら」
そういえば、何度目かのループでそんな話を聞いたことがあった。
一年生の時に、交換学生で美樹さやかと一緒に他の学校で一か月、学校生活を送ったというそんな話だったはずだ。
「確か、鳳学園……」
「あら、やっぱりご存じ? まどかさんとさやかさんとは同じ寮だったんですよ、私」
同じ、寮。そのことを聞いて、ほむらは一つ思い出した。
「まどかさんは私の後輩なんです」
「後輩?」
「ええ。まどかさんとさやかさんで。
私の通っていた学園に、交流の一環で一時期編入していたんですよ。聞いたことないかしら」
そういえば、何度目かのループでそんな話を聞いたことがあった。
一年生の時に、交換学生で美樹さやかと一緒に他の学校で一か月、学校生活を送ったというそんな話だったはずだ。
「確か、鳳学園……」
「あら、やっぱりご存じ? まどかさんとさやかさんとは同じ寮だったんですよ、私」
同じ、寮。そのことを聞いて、ほむらは一つ思い出した。
458: ◆ctuEhmj40s:2012/05/29(火) 00:23:46.10:OYeaCUjw0 (9/12)
まどかたちは、留学期間中は学園内の寮で過ごしていたらしい。
そこは、普段はあまり使われていない寮で、自分たち以外には二人しかいなったそうだ。
その二人の生徒は年上で、一風変わっていたがとてもよくしてくれたという。
一人は何故かぼんやりとしか覚えていないらしいのだが、もう一人の方は一度見たら忘れられないようなインパクトがあったという。
ということは、この人がその先輩なのだろうか。
確かに普通には見えない。
「薔薇を見ようと思ったんですよ」
「バラ?」
「ええ。学園に居た時に、まどかさんにバラの育て方を教えてほしいと頼まれたんです。
ちょうど、まどかさんのお家の近くに来たのなら、ちょっとどんなふうに育てているのか見てみようと思って。
弟子がちゃんと薔薇を育てることが出来ているか、教えた方としては心配ですもの」
バラ。
確かにまどかの家には、バラが咲いていた。
まどかたちは、留学期間中は学園内の寮で過ごしていたらしい。
そこは、普段はあまり使われていない寮で、自分たち以外には二人しかいなったそうだ。
その二人の生徒は年上で、一風変わっていたがとてもよくしてくれたという。
一人は何故かぼんやりとしか覚えていないらしいのだが、もう一人の方は一度見たら忘れられないようなインパクトがあったという。
ということは、この人がその先輩なのだろうか。
確かに普通には見えない。
「薔薇を見ようと思ったんですよ」
「バラ?」
「ええ。学園に居た時に、まどかさんにバラの育て方を教えてほしいと頼まれたんです。
ちょうど、まどかさんのお家の近くに来たのなら、ちょっとどんなふうに育てているのか見てみようと思って。
弟子がちゃんと薔薇を育てることが出来ているか、教えた方としては心配ですもの」
バラ。
確かにまどかの家には、バラが咲いていた。
459: ◆ctuEhmj40s:2012/05/29(火) 00:25:29.95:OYeaCUjw0 (10/12)
まどかの父親が手入れをしている花壇の中に、一か所、まどかが植物を育てている場所があった。
そこにバラは咲いていた。
これだけは自分の力で全部育てていると、まどかは言っていた。
聞くところによると、他の植物は父親に手伝ってもらうことはあるが、バラだけは一切触らせていなかったらしい。
最終的には、庭にバラ園を作ることだと嬉しそうにまどかは笑っていた。
前に見た薔薇の温室がとてもきれいで、憧れているのだとも。
見せてもらったバラは、とても綺麗だった。
品種とか出来とか、そういう詳しいことはその時は何一つわからなかった。
けれど、真っ赤に咲いたバラは今まで見てきたどのお見舞いの花よりも比べ物にならないくらい綺麗で、そして良い香りがした。
今でもはっきりと思いだせる。
セピア色になった記憶の中でも、決して色褪せないあの紅い花とあの香りは。
今はもうない、まどかのバラ。
彼女の家に初めて行った大事な思い出でもあり、その中でも特に印象深いバラの記憶。
「……まどかは、貴方の知っているまどかはどんな子だった?」
まどかの父親が手入れをしている花壇の中に、一か所、まどかが植物を育てている場所があった。
そこにバラは咲いていた。
これだけは自分の力で全部育てていると、まどかは言っていた。
聞くところによると、他の植物は父親に手伝ってもらうことはあるが、バラだけは一切触らせていなかったらしい。
最終的には、庭にバラ園を作ることだと嬉しそうにまどかは笑っていた。
前に見た薔薇の温室がとてもきれいで、憧れているのだとも。
見せてもらったバラは、とても綺麗だった。
品種とか出来とか、そういう詳しいことはその時は何一つわからなかった。
けれど、真っ赤に咲いたバラは今まで見てきたどのお見舞いの花よりも比べ物にならないくらい綺麗で、そして良い香りがした。
今でもはっきりと思いだせる。
セピア色になった記憶の中でも、決して色褪せないあの紅い花とあの香りは。
今はもうない、まどかのバラ。
彼女の家に初めて行った大事な思い出でもあり、その中でも特に印象深いバラの記憶。
「……まどかは、貴方の知っているまどかはどんな子だった?」
460: ◆ctuEhmj40s:2012/05/29(火) 00:27:34.21:OYeaCUjw0 (11/12)
「優しい人でしたよ」
まるで遠い過去を懐かしむかのような顔だった。
それでいて、楽しそうに彼女は語り始めた。
「他人が困っていると、自分の事よりもそっちを優先してしまいそうな人でした。
優しいけど、どこか危うい、そんな人でしたね。
自分に自信が無くて、いつも自分が本当にこのままでいいのか悩んでいて。
もしかしたら自分に価値を感じていないから、あんなに他人のために必死になっていたのかもしれないですね。
けど、それでも彼女の優しさは、とても尊いものだったと私は思いますよ。
何であれ、誰かのために必死になれるのは、それだけで素晴らしいことだと思いますから。
さやかさんとは大の仲良しで、引っ込み思案なまどかさんをさやかさんが引っ張っていっている印象がありましたね。
ああでも、二人とも料理は苦手で。寮でも――」
彼女の思い出話は続く。
ほむらはその話を聞いて、まどかのことを思い出していた。
そうだ。彼女はそんな人だった。
おぼろげになっていると思っていた記憶が鮮明になっていく。
彼女の顔・声・仕草・笑顔や伸ばしてくれた手。
今なら全部思い出せる。
まどかは確かにいた。
迷うことは無い。自信を持って言える。
この体と心が覚えている記憶やぬくもりが、彼女がいた何よりの証拠だ。
間違いない。彼女が知っているまどかは、あの「鹿目まどか」なのだ。
「優しい人でしたよ」
まるで遠い過去を懐かしむかのような顔だった。
それでいて、楽しそうに彼女は語り始めた。
「他人が困っていると、自分の事よりもそっちを優先してしまいそうな人でした。
優しいけど、どこか危うい、そんな人でしたね。
自分に自信が無くて、いつも自分が本当にこのままでいいのか悩んでいて。
もしかしたら自分に価値を感じていないから、あんなに他人のために必死になっていたのかもしれないですね。
けど、それでも彼女の優しさは、とても尊いものだったと私は思いますよ。
何であれ、誰かのために必死になれるのは、それだけで素晴らしいことだと思いますから。
さやかさんとは大の仲良しで、引っ込み思案なまどかさんをさやかさんが引っ張っていっている印象がありましたね。
ああでも、二人とも料理は苦手で。寮でも――」
彼女の思い出話は続く。
ほむらはその話を聞いて、まどかのことを思い出していた。
そうだ。彼女はそんな人だった。
おぼろげになっていると思っていた記憶が鮮明になっていく。
彼女の顔・声・仕草・笑顔や伸ばしてくれた手。
今なら全部思い出せる。
まどかは確かにいた。
迷うことは無い。自信を持って言える。
この体と心が覚えている記憶やぬくもりが、彼女がいた何よりの証拠だ。
間違いない。彼女が知っているまどかは、あの「鹿目まどか」なのだ。
461: ◆ctuEhmj40s:2012/05/29(火) 00:28:31.66:OYeaCUjw0 (12/12)
少々短いですが、今回の投下はここまでです。
再び一週間ほどかかります。
お読みいただきありがとうございました。
少々短いですが、今回の投下はここまでです。
再び一週間ほどかかります。
お読みいただきありがとうございました。
462:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2012/06/07(木) 23:50:54.62:g6LJrvhw0 (1/1)
おっと。
徹夜続きでチェックする間が開いたら、また1週間が。
しかし、…薔薇の色と香り、アンシーの柔らかい声(このシーンでは、その裏に潜んでいた底知れない悪意が消え、生身の人間の感情が戻っている)…上手いなあ。
目に見える。聞こえる、香るようだ。
最後まではまだまだ一山ありそうだが…これも本当に楽しみ。
おっと。
徹夜続きでチェックする間が開いたら、また1週間が。
しかし、…薔薇の色と香り、アンシーの柔らかい声(このシーンでは、その裏に潜んでいた底知れない悪意が消え、生身の人間の感情が戻っている)…上手いなあ。
目に見える。聞こえる、香るようだ。
最後まではまだまだ一山ありそうだが…これも本当に楽しみ。
463: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:02:05.65:/S4PToSU0 (1/14)
続きを投下します。
続きを投下します。
464: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:02:50.05:/S4PToSU0 (2/14)
「ねぇ。大丈夫?」
「大丈夫よ」
感情を隠すように答える。
こんなときでも平静と同じように答えることができてしまう自分が、少々恨めしい。
本当は言葉で表現しきれないくらい嬉しいのに、体は本心を隠すように働き、空虚な言葉が自然に口に出る。
ここで口に出すべきは感謝か歓喜の言葉なのに、そんなものは臟賦にしまい込んだまま何処かに行ってしまう。
仕方ない、と思っているが、それでもここまで機械のようだと一抹の寂しさを感じてしまう。
「ねぇ。大丈夫?」
「大丈夫よ」
感情を隠すように答える。
こんなときでも平静と同じように答えることができてしまう自分が、少々恨めしい。
本当は言葉で表現しきれないくらい嬉しいのに、体は本心を隠すように働き、空虚な言葉が自然に口に出る。
ここで口に出すべきは感謝か歓喜の言葉なのに、そんなものは臟賦にしまい込んだまま何処かに行ってしまう。
仕方ない、と思っているが、それでもここまで機械のようだと一抹の寂しさを感じてしまう。
465: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:03:31.61:/S4PToSU0 (3/14)
その時、向かいからハンカチが差し出された。
「はい」
「……何?」
「気づいていないの?」
呆れたように彼女は言った。
「涙。拭いたらどうかしら」
手を目元に当ててみる。指先にじんわりとした湿り気を感じる。
呆然と拭った指を見ようとすると、視界が歪んだ。
自分は確かに泣いていた。
気付くと、ポロポロと涙がこぼれ落ちてきた。
差し出されたハンカチをありがたく使わせてもらい、少しの間泣いた。
その時、向かいからハンカチが差し出された。
「はい」
「……何?」
「気づいていないの?」
呆れたように彼女は言った。
「涙。拭いたらどうかしら」
手を目元に当ててみる。指先にじんわりとした湿り気を感じる。
呆然と拭った指を見ようとすると、視界が歪んだ。
自分は確かに泣いていた。
気付くと、ポロポロと涙がこぼれ落ちてきた。
差し出されたハンカチをありがたく使わせてもらい、少しの間泣いた。
466: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:04:23.46:/S4PToSU0 (4/14)
「……ありがとう」
涙は直ぐに収まった。
少し濡れてしまったハンカチを返すと、「どういたしまして」と返ってきた
「あなたにとってまどかさんは、どんな人だったの?」
涙を流した感情を整理するまもなく、その質問はやってきた。
友達だ。
本当にそうだったら、どれだけ良かっただろうか。
そんなことを言えるはずがない。
結局、彼女を苦しめ、人としての生き方を放棄させてしまった自分にそんな資格はない。
誰が許す許さないの問題ではなく、自分がそれを許せそうにない。
たった一人の友達も助けられなかった自分を。
「別に。ただの知り合いよ。深い関係ではないわ」
「……ありがとう」
涙は直ぐに収まった。
少し濡れてしまったハンカチを返すと、「どういたしまして」と返ってきた
「あなたにとってまどかさんは、どんな人だったの?」
涙を流した感情を整理するまもなく、その質問はやってきた。
友達だ。
本当にそうだったら、どれだけ良かっただろうか。
そんなことを言えるはずがない。
結局、彼女を苦しめ、人としての生き方を放棄させてしまった自分にそんな資格はない。
誰が許す許さないの問題ではなく、自分がそれを許せそうにない。
たった一人の友達も助けられなかった自分を。
「別に。ただの知り合いよ。深い関係ではないわ」
467: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:05:22.14:/S4PToSU0 (5/14)
「嘘」
自分に対する罰の言葉は、たった一言で否定された。
「ただの知り合いに、そんなに一生懸命になるものですか。
本当はどういう関係なの? 幼馴染? それとも義理の姉妹? まさか恋人かしら」
何故そんな方向に行くのか。
的外れな、あらぬ疑いをかけられている。
きっと、この後も何も言わなければ、この人はどんどんと勝手に想像を膨らませていくのだろう。
冗談ではない。自分とまどかの関係を、そんな下種の勘繰りに汚されたくはない。
考えるだけで不快になる。
安い挑発だ。そんなことは分かっている。
だが、効果は抜群だ。
まどかのこととなれば、自分は何もせずにはいられない。
それがあらぬ誹謗中傷ならなおさらだった。
「嘘」
自分に対する罰の言葉は、たった一言で否定された。
「ただの知り合いに、そんなに一生懸命になるものですか。
本当はどういう関係なの? 幼馴染? それとも義理の姉妹? まさか恋人かしら」
何故そんな方向に行くのか。
的外れな、あらぬ疑いをかけられている。
きっと、この後も何も言わなければ、この人はどんどんと勝手に想像を膨らませていくのだろう。
冗談ではない。自分とまどかの関係を、そんな下種の勘繰りに汚されたくはない。
考えるだけで不快になる。
安い挑発だ。そんなことは分かっている。
だが、効果は抜群だ。
まどかのこととなれば、自分は何もせずにはいられない。
それがあらぬ誹謗中傷ならなおさらだった。
468: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:06:07.72:/S4PToSU0 (6/14)
「……友達よ」
「やっぱりね」
予想通り、分かっていてやっていたらしい。
嫌らしい人だとほむらは思った。
「態度でバレバレですよ。まどかさんのことが気になって仕方がないって。
でもあれはさすがにやり過ぎじゃないかしら。人に武器を突きつけるなんて、ね」
「でも貴方、動じていなかったじゃない。平気な顔して」
「まぁ、まどかさんの友達なら、ある程度は信用できるから」
「それが、あの態度の理由?」
「ええ。知り合いのことを信用するのは、当然でしょう?」
ということは、自分が信用されたわけは、ひとえにまどかのおかげというわけだ。
「……友達よ」
「やっぱりね」
予想通り、分かっていてやっていたらしい。
嫌らしい人だとほむらは思った。
「態度でバレバレですよ。まどかさんのことが気になって仕方がないって。
でもあれはさすがにやり過ぎじゃないかしら。人に武器を突きつけるなんて、ね」
「でも貴方、動じていなかったじゃない。平気な顔して」
「まぁ、まどかさんの友達なら、ある程度は信用できるから」
「それが、あの態度の理由?」
「ええ。知り合いのことを信用するのは、当然でしょう?」
ということは、自分が信用されたわけは、ひとえにまどかのおかげというわけだ。
469: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:07:03.41:/S4PToSU0 (7/14)
「それに、あなた良い人ですもの」
「良い人? 知らない人間を脅迫する私のどこが良い人だっていうの?」
「友達のためにそこまで頑張れるのは、良い人くらいですよ」
そのとき、オーダーした紅茶と付け合せのお菓子がやってきた。
ウェイターがテーブルの上に丁寧に品を並べていく。
並べ終わると若いウェイターは「ごゆっくり」と挨拶をすると奥へ下がっていった。
紅茶を一口飲む。
味の良し悪しは正直よくわからない。
不味くはないことは分かるが、具体的にどう美味しいのかと聞かれると答えることは出来ない。
だが、飲んで気分が良くなるのは確かだ。
暖かい紅茶の香りと味は心に沁みわたるようだった。
向かいのテーブルからも良い香りがする。
バラのような香りは、また違った風情を感じた。
会話は自然と止み、静かな時間が流れた。
「それに、あなた良い人ですもの」
「良い人? 知らない人間を脅迫する私のどこが良い人だっていうの?」
「友達のためにそこまで頑張れるのは、良い人くらいですよ」
そのとき、オーダーした紅茶と付け合せのお菓子がやってきた。
ウェイターがテーブルの上に丁寧に品を並べていく。
並べ終わると若いウェイターは「ごゆっくり」と挨拶をすると奥へ下がっていった。
紅茶を一口飲む。
味の良し悪しは正直よくわからない。
不味くはないことは分かるが、具体的にどう美味しいのかと聞かれると答えることは出来ない。
だが、飲んで気分が良くなるのは確かだ。
暖かい紅茶の香りと味は心に沁みわたるようだった。
向かいのテーブルからも良い香りがする。
バラのような香りは、また違った風情を感じた。
会話は自然と止み、静かな時間が流れた。
470: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:07:52.39:/S4PToSU0 (8/14)
「まどかさんは元気?」
さらりと、聞いてほしくなかった事が静かだった空気に流れた。
自分は彼女に何を話せばいいのだろう。
彼女のことを何と話せるのだろう。
「いなくなってしまったの」
考える前に、口からは懺悔の言葉が出ていた。
「いなくなった? もしかして亡くなられたのかしら」
「亡くなったのは美樹さやかのほう。つい最近ね」
「さやかさんが……?」
「でも彼女がいたことはみんなが覚えている。
まどかも、普通に死ぬことが出来ればどれだけ救われたか」
「まどかさんは元気?」
さらりと、聞いてほしくなかった事が静かだった空気に流れた。
自分は彼女に何を話せばいいのだろう。
彼女のことを何と話せるのだろう。
「いなくなってしまったの」
考える前に、口からは懺悔の言葉が出ていた。
「いなくなった? もしかして亡くなられたのかしら」
「亡くなったのは美樹さやかのほう。つい最近ね」
「さやかさんが……?」
「でも彼女がいたことはみんなが覚えている。
まどかも、普通に死ぬことが出来ればどれだけ救われたか」
471: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:09:38.56:/S4PToSU0 (9/14)
理解してもらう必要はない。ただ聞いてもらうだけでいい。
「まどかは消えてしまった。文字通り、世界からいなくなってしまったの。
もう誰もあの子のことを覚えていない。あの子の家族も、仲の良かった友達も」
自分が勝手にわけの分からないことを話し始めて、さぞや困惑していることだろう。
それでも話すことを止めようとは思わなかった。
自分は身勝手な人間だと、改めて自覚する。
自覚してもなお、止めようとしない自分にさらに気分が悪くなった。
「私がいけなかったの。私があの子の人生を台無しにしてしまった。
全部私が悪かったのに、それでもあの子は私のことを最高の友達だと言ってくれて。
私のしたことは、結局まどかを苦しめただけだった。
あの子のしたことは無駄じゃない。そんなことは分かっている。
でもまどかが幸せになったとは、どうしても思えない。
きっと今も、あの子はどこかで戦っている。
そこに人としての幸せは無い。
私は彼女から当たり前の人生や幸せを奪ってしまった。
そういうのが一番似合う子だったのに。
選んだのはまどか自身だけど、そうせざるを得ない状況を作ったのは誰でもないこの私なの。
そうなったら、迷わずその道を選んでしまうような子だってわかっていたはずなのに」
理解してもらう必要はない。ただ聞いてもらうだけでいい。
「まどかは消えてしまった。文字通り、世界からいなくなってしまったの。
もう誰もあの子のことを覚えていない。あの子の家族も、仲の良かった友達も」
自分が勝手にわけの分からないことを話し始めて、さぞや困惑していることだろう。
それでも話すことを止めようとは思わなかった。
自分は身勝手な人間だと、改めて自覚する。
自覚してもなお、止めようとしない自分にさらに気分が悪くなった。
「私がいけなかったの。私があの子の人生を台無しにしてしまった。
全部私が悪かったのに、それでもあの子は私のことを最高の友達だと言ってくれて。
私のしたことは、結局まどかを苦しめただけだった。
あの子のしたことは無駄じゃない。そんなことは分かっている。
でもまどかが幸せになったとは、どうしても思えない。
きっと今も、あの子はどこかで戦っている。
そこに人としての幸せは無い。
私は彼女から当たり前の人生や幸せを奪ってしまった。
そういうのが一番似合う子だったのに。
選んだのはまどか自身だけど、そうせざるを得ない状況を作ったのは誰でもないこの私なの。
そうなったら、迷わずその道を選んでしまうような子だってわかっていたはずなのに」
472: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:10:58.29:/S4PToSU0 (10/14)
ただ一方的に事実を話していく。
まどかのことを知っている相手に、自分の感情をぶつけるかのように話す。
何を期待しているのだろう。慰めてもらいたいのか。
それとも、こんな断片的な会話を聞いたうえで全てを察知してもらって理解者になってほしいのか。
何と、相手に甘えた考えだろうか。
まるでサンドバックのようだ。
相手のことを何も考えていない。
ただ自分のことをぶつけているだけだ。
こんな事では誰にも理解などしてもらえない。
だが、そもそも誰にも理解できない話などどうすればいいのだろうか。
結局、どんなに理解してもらおうと思っても無理な話なのだ。
それならば、こんな態度に出て何が悪いとも思う。
最初から希望など抱いていない。
もうそんなものはとうに消え失せている。
ただ知ってほしかったのかもしれない。
自分以外で『鹿目まどか』のことを覚えている彼女に、自分がしてしまったことを。
ただ一方的に事実を話していく。
まどかのことを知っている相手に、自分の感情をぶつけるかのように話す。
何を期待しているのだろう。慰めてもらいたいのか。
それとも、こんな断片的な会話を聞いたうえで全てを察知してもらって理解者になってほしいのか。
何と、相手に甘えた考えだろうか。
まるでサンドバックのようだ。
相手のことを何も考えていない。
ただ自分のことをぶつけているだけだ。
こんな事では誰にも理解などしてもらえない。
だが、そもそも誰にも理解できない話などどうすればいいのだろうか。
結局、どんなに理解してもらおうと思っても無理な話なのだ。
それならば、こんな態度に出て何が悪いとも思う。
最初から希望など抱いていない。
もうそんなものはとうに消え失せている。
ただ知ってほしかったのかもしれない。
自分以外で『鹿目まどか』のことを覚えている彼女に、自分がしてしまったことを。
473: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:12:14.54:/S4PToSU0 (11/14)
ああ、そうだ。
これは懺悔なのだ。
誰もまどかのことを知らなかったから、誰にも謝れなかった。
彼女に話せば、自分は謝ることができる。
貴方の知っている人に、私は酷いことをしてしまった。
私は酷い人間なのだ、と。
返ってくるのが罵倒でもいい。
ただ罪を知ってほしかった。
こんな自分がのうのうと生きていることが、例えまどかの願いであっても耐えることが出来なかったから。
全てを話し終わるまで、彼女は何も言わなかった。
「そう」
きっと自分の言うことは、十分の一も理解してもらえなかったことだろう。
それでもかまわない。
ただ自分の罪を知ってもらう、それだけでいい。
ああ、そうだ。
これは懺悔なのだ。
誰もまどかのことを知らなかったから、誰にも謝れなかった。
彼女に話せば、自分は謝ることができる。
貴方の知っている人に、私は酷いことをしてしまった。
私は酷い人間なのだ、と。
返ってくるのが罵倒でもいい。
ただ罪を知ってほしかった。
こんな自分がのうのうと生きていることが、例えまどかの願いであっても耐えることが出来なかったから。
全てを話し終わるまで、彼女は何も言わなかった。
「そう」
きっと自分の言うことは、十分の一も理解してもらえなかったことだろう。
それでもかまわない。
ただ自分の罪を知ってもらう、それだけでいい。
474: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:13:21.62:/S4PToSU0 (12/14)
「ごめんなさい。何を言っているのかわからなかったわよね」
「まぁ、そうですね。でも大筋は大体」
今聞いたことを纏めるように数秒考え込むと、彼女は確認するようにこちらを見つめた。
「あなたは鹿目さんの親友だった」
「……はい」
「あなたは鹿目さんを苦しめてしまった」
「はい」
「鹿目さんは、あなたを救うためにあなたの前から消えてしまった」
「少し違いますけど。はい」
それだけわかってくれたのなら、十分だ。
むしろ、そこまで理解してくれたことが驚きだ。
ただの電波話として、軽く流されてもおかしくなかった。
そうだとしても、聞いてくれただけで自分は嬉しかっただろうが。
「ごめんなさい。何を言っているのかわからなかったわよね」
「まぁ、そうですね。でも大筋は大体」
今聞いたことを纏めるように数秒考え込むと、彼女は確認するようにこちらを見つめた。
「あなたは鹿目さんの親友だった」
「……はい」
「あなたは鹿目さんを苦しめてしまった」
「はい」
「鹿目さんは、あなたを救うためにあなたの前から消えてしまった」
「少し違いますけど。はい」
それだけわかってくれたのなら、十分だ。
むしろ、そこまで理解してくれたことが驚きだ。
ただの電波話として、軽く流されてもおかしくなかった。
そうだとしても、聞いてくれただけで自分は嬉しかっただろうが。
475: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:14:11.26:/S4PToSU0 (13/14)
もういい。
これ以上は望まない。
覚えてもらっただけで十分だ。
自分が鹿目まどかを消してしまった張本人だということを。
「私と同じね」
「――え」
ほむらは、相手が何を言ったのか、よくわからなかった。
聞こえなかったわけではない。
その発言がどういう意味を持つのかが分からなかった。
「私にも友達がいたの。とても大切な、掛け替えのない親友が、ね」
もういい。
これ以上は望まない。
覚えてもらっただけで十分だ。
自分が鹿目まどかを消してしまった張本人だということを。
「私と同じね」
「――え」
ほむらは、相手が何を言ったのか、よくわからなかった。
聞こえなかったわけではない。
その発言がどういう意味を持つのかが分からなかった。
「私にも友達がいたの。とても大切な、掛け替えのない親友が、ね」
476: ◆ctuEhmj40s:2012/06/11(月) 00:14:58.58:/S4PToSU0 (14/14)
今日の投下はここまでです。
再び一週間ほどかかります。
お読みいただきありがとうございました。
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お読みいただきありがとうございました。
477:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2012/06/11(月) 03:25:43.67:e1G5r/Wxo (1/1)
おつ!
おつ!
478:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2012/06/11(月) 21:17:53.95:1Q31y4xJ0 (1/1)
乙乙
乙乙
479:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2012/06/12(火) 00:44:51.78:zIat8NKL0 (1/1)
おつかれ!
おつかれ!
480: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:41:12.05:z19xm25b0 (1/14)
続きを投下します。
続きを投下します。
481: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:42:06.83:z19xm25b0 (2/14)
そう言った彼女の顔は、それまでとはうって変わった複雑なものだった。
それまでのニコニコとした優しい顔であることに変わりはない。
ただそこに、愁いや喜びの欠片があった。
それが何を意味しているのかは、分からない。
ただこのことが、彼女にとってとても重要なことであることは察しがついた。
「それは、ホテルで話していた……?」
「ええ、その人。天上ウテナという人なのだけれど。貴方は何かしらないかしら?」
残念ながら聞いたことは無い。
特徴的な名前であるし、忘れたということはないだろう。
何も知らないことを告げると、「残念」と一言だけ彼女は呟いた。
そう言った彼女の顔は、それまでとはうって変わった複雑なものだった。
それまでのニコニコとした優しい顔であることに変わりはない。
ただそこに、愁いや喜びの欠片があった。
それが何を意味しているのかは、分からない。
ただこのことが、彼女にとってとても重要なことであることは察しがついた。
「それは、ホテルで話していた……?」
「ええ、その人。天上ウテナという人なのだけれど。貴方は何かしらないかしら?」
残念ながら聞いたことは無い。
特徴的な名前であるし、忘れたということはないだろう。
何も知らないことを告げると、「残念」と一言だけ彼女は呟いた。
482: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:42:47.74:z19xm25b0 (3/14)
「ごめんなさい。力になれなくて」
「いいの、気にしないで。特に何か期待していたわけじゃないから」
そう言った彼女の顔は、本当に気にしていないようだった。
失望も、かといって諦念があるわけでもない。
その態度にほむらは少し反感を抱いた。
大事な友達の手がかりが掴めなかったというのに、どうしてそこまで冷静でいられるのか。
自分と違い、探せばその親友と会えるというのに。
「冷たいのね」
「何が?」
「いえ。大事な友達のことなのに、あまり必死に見えないから」
そう言うと、少し困ったような顔で彼女は答えた。
「ごめんなさい。力になれなくて」
「いいの、気にしないで。特に何か期待していたわけじゃないから」
そう言った彼女の顔は、本当に気にしていないようだった。
失望も、かといって諦念があるわけでもない。
その態度にほむらは少し反感を抱いた。
大事な友達の手がかりが掴めなかったというのに、どうしてそこまで冷静でいられるのか。
自分と違い、探せばその親友と会えるというのに。
「冷たいのね」
「何が?」
「いえ。大事な友達のことなのに、あまり必死に見えないから」
そう言うと、少し困ったような顔で彼女は答えた。
483: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:44:56.83:z19xm25b0 (4/14)
「必死になってもいいのだけれどね。
たぶん、あの人はそんなことは望まないだろうから。ちょっと歯がゆいけれど」
「どういうこと?」
「あの人は私を解放してくれたの。
それで私がまたウテナに縛られてしまったら本末転倒じゃない」
何とも抽象的な物言いだった。
彼女はどこかの良家の人間で、しきたりなどに縛られていたのだろうか。
それなら、こんなに浮世離れしているのも当然だろう。
「まるで王子様のようね、その人。貴方はさしずめ、鳥かごのお姫様かしら」
「必死になってもいいのだけれどね。
たぶん、あの人はそんなことは望まないだろうから。ちょっと歯がゆいけれど」
「どういうこと?」
「あの人は私を解放してくれたの。
それで私がまたウテナに縛られてしまったら本末転倒じゃない」
何とも抽象的な物言いだった。
彼女はどこかの良家の人間で、しきたりなどに縛られていたのだろうか。
それなら、こんなに浮世離れしているのも当然だろう。
「まるで王子様のようね、その人。貴方はさしずめ、鳥かごのお姫様かしら」
484: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:45:57.26:z19xm25b0 (5/14)
「正確には王子様気取りでしたけどね。なれもしない王子様になろうとしていましたから」
その言葉には、明らかに棘があった。
明らかに、その人物に対する否定であり、怒りが感じられた。
一体、彼女をそのウテナという人物は、どのような関係だったのだろう。
彼女自身は「友人」と語っている。
しかしただ仲の良かった友人とは思えない。
彼女の言葉には様々な感情が見えた。
ただ肯定的な感情だけではない。
相手を否定的に見る感情もあった。
そんな否定でも成り立つ友情をほむらは知らない。
友人というのは、好きということから始まると思っていた。
「正確には王子様気取りでしたけどね。なれもしない王子様になろうとしていましたから」
その言葉には、明らかに棘があった。
明らかに、その人物に対する否定であり、怒りが感じられた。
一体、彼女をそのウテナという人物は、どのような関係だったのだろう。
彼女自身は「友人」と語っている。
しかしただ仲の良かった友人とは思えない。
彼女の言葉には様々な感情が見えた。
ただ肯定的な感情だけではない。
相手を否定的に見る感情もあった。
そんな否定でも成り立つ友情をほむらは知らない。
友人というのは、好きということから始まると思っていた。
485: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:47:08.44:z19xm25b0 (6/14)
「どんな人だったの、その人は?」
「王子様になりたかった女の子ですよ」
紅茶を一口すすると、彼女は話し始めた。
「優しく、無邪気な人でした。
周囲からはカッコイイ人だと思われていましたね。
本人も王子様のように気高く生きようとしていましたし、そう言われるだけの特別なものも持っていましたよ。
正々堂々としていて、正義感が強くて。
学園ではとても人気があって、みんなの憧れの的でしたね」
あこがれの的、か。
最初に出会ったころのまどかも、自分にとっては憧れの的だった。
強くて、かっこよくて、優しかった。
そんな彼女に自分は甘えてしまっていた。
友達として何もできなかった。
だから彼女が死んでしまったとき思ったのだ。
今度は自分が彼女を守ってあげたい、と。
それが、自分が友達としてできる唯一のことだと思った。
「それで。貴方もその人に憧れていたの?」
「どんな人だったの、その人は?」
「王子様になりたかった女の子ですよ」
紅茶を一口すすると、彼女は話し始めた。
「優しく、無邪気な人でした。
周囲からはカッコイイ人だと思われていましたね。
本人も王子様のように気高く生きようとしていましたし、そう言われるだけの特別なものも持っていましたよ。
正々堂々としていて、正義感が強くて。
学園ではとても人気があって、みんなの憧れの的でしたね」
あこがれの的、か。
最初に出会ったころのまどかも、自分にとっては憧れの的だった。
強くて、かっこよくて、優しかった。
そんな彼女に自分は甘えてしまっていた。
友達として何もできなかった。
だから彼女が死んでしまったとき思ったのだ。
今度は自分が彼女を守ってあげたい、と。
それが、自分が友達としてできる唯一のことだと思った。
「それで。貴方もその人に憧れていたの?」
486: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:47:52.48:z19xm25b0 (7/14)
「まさか」
彼女は笑った。
「女の子はどうあがいても王子様になれませんから。
ごっこ遊びに夢中になっている彼女を笑っていたと思います。
いえ、軽蔑していた、と言ったほうが正しいかしら。
私のことを見ようとしないで友達面しているあの人の事を、私は軽蔑していました」
辛辣な言い方だった。
「本当に友達?」
「ええ。掛け替えのない親友です」
「まさか」
彼女は笑った。
「女の子はどうあがいても王子様になれませんから。
ごっこ遊びに夢中になっている彼女を笑っていたと思います。
いえ、軽蔑していた、と言ったほうが正しいかしら。
私のことを見ようとしないで友達面しているあの人の事を、私は軽蔑していました」
辛辣な言い方だった。
「本当に友達?」
「ええ。掛け替えのない親友です」
487: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:48:43.21:z19xm25b0 (8/14)
「その割には随分と酷いことを言っているようだけれど」
「まぁ、本当の事ですし。それにいい思い出もたくさんありますよ」
「その思い出の中に、親友になった成り行きが含まれているのかしら?」
「恥ずかしいので聞かないでくださいね。大事な思い出ですから」
そこで、ほむらは追及するのを止めた。
誰にでも触れられたくない思い出がある。
それが大事なものなら尚更だ。
そんな風に考えていた相手を「親友」と呼ぶに至るまで、多くの出来事があったのだろう。
その多くの出来事を語るには、こんな場末の喫茶店と紅茶を飲む時間では場所も時も足りないのだろう。
自分とまどかの話のように。
「その割には随分と酷いことを言っているようだけれど」
「まぁ、本当の事ですし。それにいい思い出もたくさんありますよ」
「その思い出の中に、親友になった成り行きが含まれているのかしら?」
「恥ずかしいので聞かないでくださいね。大事な思い出ですから」
そこで、ほむらは追及するのを止めた。
誰にでも触れられたくない思い出がある。
それが大事なものなら尚更だ。
そんな風に考えていた相手を「親友」と呼ぶに至るまで、多くの出来事があったのだろう。
その多くの出来事を語るには、こんな場末の喫茶店と紅茶を飲む時間では場所も時も足りないのだろう。
自分とまどかの話のように。
488: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:49:24.35:z19xm25b0 (9/14)
彼女とその人が親友であることには疑いはなかった。
口でこそキツイ物言いだったが、そのウテナという人物を語る時の彼女は本当に楽しそうだった。
そこには言葉にあるような嘲笑や軽蔑は感じられない。
嘲笑や軽蔑はすべて過去であり、思い出だった。
現在の彼女は、その人のことを「友」と語っていた。
「寂しくないの。彼女と会えなくて」
そんな疑問が言葉に出た。
彼女とその人が親友であることには疑いはなかった。
口でこそキツイ物言いだったが、そのウテナという人物を語る時の彼女は本当に楽しそうだった。
そこには言葉にあるような嘲笑や軽蔑は感じられない。
嘲笑や軽蔑はすべて過去であり、思い出だった。
現在の彼女は、その人のことを「友」と語っていた。
「寂しくないの。彼女と会えなくて」
そんな疑問が言葉に出た。
489: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:50:01.25:z19xm25b0 (10/14)
「寂しいけど、いつかきっと会えるから。そのために外に出たんですもの」
「私は寂しいの。もうまどかに会えないから」
弱音も口から出た。
「まどかさんは幸せね。こんなに心配してくれる友達がいて」
「そうかしら」
「そうですよ。自分のことを覚えてくれる人が居ることは、幸せなことだと思うわ」
彼女は断言した。
自分の考えとは180度違う。
そう言える彼女が、羨ましかった。
「寂しいけど、いつかきっと会えるから。そのために外に出たんですもの」
「私は寂しいの。もうまどかに会えないから」
弱音も口から出た。
「まどかさんは幸せね。こんなに心配してくれる友達がいて」
「そうかしら」
「そうですよ。自分のことを覚えてくれる人が居ることは、幸せなことだと思うわ」
彼女は断言した。
自分の考えとは180度違う。
そう言える彼女が、羨ましかった。
490: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:51:20.02:z19xm25b0 (11/14)
「ねぇ。ちょっといい?」
「……何かしら」
「まどかさんとは、どうして会えないの?」
簡単な質問だった。考えることもない。一言で答えられる質問だ。
「まどかはもうこの世界のどこにもいない。あの子は世界の外に行ってしまった。
もう誰も彼女とは……」
「じゃあ、あなたも世界の外に行くべきね」
静かに彼女は言った。
「ねぇ。ちょっといい?」
「……何かしら」
「まどかさんとは、どうして会えないの?」
簡単な質問だった。考えることもない。一言で答えられる質問だ。
「まどかはもうこの世界のどこにもいない。あの子は世界の外に行ってしまった。
もう誰も彼女とは……」
「じゃあ、あなたも世界の外に行くべきね」
静かに彼女は言った。
491: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:52:15.55:z19xm25b0 (12/14)
「世界の外?」
「まどかさんは今のあなたの世界から居なくなってしまったのでしょう?
そこに居続ける以上、まどかさんとは会えませんよ」
世界の外?
まどかが行ってしまった概念の世界に行けというのか。
それこそ無理な話だ。
この人は何もわかっていない。
行ける行けないの問題ではないのだ。
「無理よ。あの子の居る場所に、私は行くことは出来ない」
「世界の外?」
「まどかさんは今のあなたの世界から居なくなってしまったのでしょう?
そこに居続ける以上、まどかさんとは会えませんよ」
世界の外?
まどかが行ってしまった概念の世界に行けというのか。
それこそ無理な話だ。
この人は何もわかっていない。
行ける行けないの問題ではないのだ。
「無理よ。あの子の居る場所に、私は行くことは出来ない」
492: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:53:05.20:z19xm25b0 (13/14)
「どうして?」
「まどかの居る場所は、私の居る場所とは違う。
歩いていける場所にいるかもしれない貴方たちとは一緒にしないで。
まどかはどこにもいないのよ」
「それはあなたが閉じこもっているからでしょう。棺の中に居るのがあなただけなのは当然よ」
棺。棺とは何……?
「世界はまどかさんによって変わった。まどかさんは新しい世界の中にいる。
なのに、あなたは一人変わらない棺の中で眠り続けている。
何時までそうしているつもりなの?」
「どうして?」
「まどかの居る場所は、私の居る場所とは違う。
歩いていける場所にいるかもしれない貴方たちとは一緒にしないで。
まどかはどこにもいないのよ」
「それはあなたが閉じこもっているからでしょう。棺の中に居るのがあなただけなのは当然よ」
棺。棺とは何……?
「世界はまどかさんによって変わった。まどかさんは新しい世界の中にいる。
なのに、あなたは一人変わらない棺の中で眠り続けている。
何時までそうしているつもりなの?」
493: ◆ctuEhmj40s:2012/06/22(金) 01:54:07.62:z19xm25b0 (14/14)
今日の投下はここまでです。
再び一週間ほどかかります。遅筆で申し訳ありません。
お読みいただきありがとうございました。
今日の投下はここまでです。
再び一週間ほどかかります。遅筆で申し訳ありません。
お読みいただきありがとうございました。
494:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2012/06/24(日) 23:48:15.53:uJ+Q81JM0 (1/1)
今気づいた(^^)。
ここで棺か。
いつもの通り、表現が素晴らしい。
まどかと会えないまま戦い続けるほむらは、…いや、あの世界の魔法少女は元々、動く死体だ。
まどかが塗り替えた世界の法則の中でも、一度魔法少女になった者は戦いの運命から逃れられず、必ず消えていく定め。
棺の中に閉じ込められ、変わることが出来ずに消えていく運命から…解き放つのは王子でなく、魔女か。
今気づいた(^^)。
ここで棺か。
いつもの通り、表現が素晴らしい。
まどかと会えないまま戦い続けるほむらは、…いや、あの世界の魔法少女は元々、動く死体だ。
まどかが塗り替えた世界の法則の中でも、一度魔法少女になった者は戦いの運命から逃れられず、必ず消えていく定め。
棺の中に閉じ込められ、変わることが出来ずに消えていく運命から…解き放つのは王子でなく、魔女か。
495: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:44:58.88:U5nAMCdu0 (1/29)
大変遅くなりました。
今回で最終回になります。
続きを投下します。
大変遅くなりました。
今回で最終回になります。
続きを投下します。
496: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:46:03.60:U5nAMCdu0 (2/29)
「何を言っているの?」
まどかを守るのが自分の願いだ。
そして罰だ。
自分はまどかの替わりにこの世界を守らなければならない。
それが自分に出来る唯一の友情の形だ。
守るのだ。まどかの替わりに世界を。
世界をまどかの替わりに。
「もう、あなたがまどかさんを守っている時間は終わっているんですよ」
違う。終わってなどいない。
「何を言っているの?」
まどかを守るのが自分の願いだ。
そして罰だ。
自分はまどかの替わりにこの世界を守らなければならない。
それが自分に出来る唯一の友情の形だ。
守るのだ。まどかの替わりに世界を。
世界をまどかの替わりに。
「もう、あなたがまどかさんを守っている時間は終わっているんですよ」
違う。終わってなどいない。
497: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:47:17.83:U5nAMCdu0 (3/29)
「あなたは何をしているの?
終わったことをいつまでも続けて。
そんなにまどかさんの王子様ごっこがしたいんですか?」
「ごっこ遊びなんかじゃないわ……!」
こちらは真剣だ。
そのことを非難されるいわれはない。
まどかのことを守りたいと本気で考えている。
それは彼女が好きだった世界を守ることで、今となっては実現するのだ。
「まどかが守った世界を守るのが私の役目。
残された私ができる唯一のことなの。
それの何が悪いというの」
「あなたが守りたいのは、世界じゃなくてまどかさんでしょう?」
ぐさり、と耳に音が刺さった。ような感じがした。
「あなたは何をしているの?
終わったことをいつまでも続けて。
そんなにまどかさんの王子様ごっこがしたいんですか?」
「ごっこ遊びなんかじゃないわ……!」
こちらは真剣だ。
そのことを非難されるいわれはない。
まどかのことを守りたいと本気で考えている。
それは彼女が好きだった世界を守ることで、今となっては実現するのだ。
「まどかが守った世界を守るのが私の役目。
残された私ができる唯一のことなの。
それの何が悪いというの」
「あなたが守りたいのは、世界じゃなくてまどかさんでしょう?」
ぐさり、と耳に音が刺さった。ような感じがした。
498: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:48:19.96:U5nAMCdu0 (4/29)
「替わりを守ってもまどかさんを守ったことにはなりませんよ。
本当は気づいているんじゃないですか? あなたも」
止めて、と声を上げそうになった。
しかし、声を上げたところで何になるというか。
止めようとしたということは、それがまぎれもなく自分にとって真実だからだ。
そのことに気づいてしまった。
「世界なんて、本当はどうでもいいんでしょう?」
何の慈悲もなく、そのことは告げられた。
「替わりを守ってもまどかさんを守ったことにはなりませんよ。
本当は気づいているんじゃないですか? あなたも」
止めて、と声を上げそうになった。
しかし、声を上げたところで何になるというか。
止めようとしたということは、それがまぎれもなく自分にとって真実だからだ。
そのことに気づいてしまった。
「世界なんて、本当はどうでもいいんでしょう?」
何の慈悲もなく、そのことは告げられた。
499: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:49:38.25:U5nAMCdu0 (5/29)
「態度を見ればわかりますよ。
あなたはまどかさん以外は、心底どうでもいいってこと。
だから平気でどんな手段でも取れるし、他人やましてや自分がどうなろうとも素知らぬ顔でいられるんです。
他人も自分もどうでもいい人が、どうして世界を守りたい、なんてことを考えますか」
彼女の言葉は止まらなかった。
今まで目を逸らしていたことが浮き彫りになっていった。
止めることは出来ない。
彼女の言う「どんな手段」も使おうかと思った。
しかしできなかった。
自分以外の「まどか」がいた残り香に、どうしてそんなことが出来ようか。
そうだ。自分は世界などどうでもよかった。
いや、どうでもよくはない。
ハッキリと言える。
自分はこの世界が、嫌いだった。
「態度を見ればわかりますよ。
あなたはまどかさん以外は、心底どうでもいいってこと。
だから平気でどんな手段でも取れるし、他人やましてや自分がどうなろうとも素知らぬ顔でいられるんです。
他人も自分もどうでもいい人が、どうして世界を守りたい、なんてことを考えますか」
彼女の言葉は止まらなかった。
今まで目を逸らしていたことが浮き彫りになっていった。
止めることは出来ない。
彼女の言う「どんな手段」も使おうかと思った。
しかしできなかった。
自分以外の「まどか」がいた残り香に、どうしてそんなことが出来ようか。
そうだ。自分は世界などどうでもよかった。
いや、どうでもよくはない。
ハッキリと言える。
自分はこの世界が、嫌いだった。
500: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:51:13.17:U5nAMCdu0 (6/29)
世界にまどかが生きる場所は無かった。
どんなことをしても、彼女は普通に生きることは叶わず、死んでしまった。
彼女に何の罪があったのだろうか。
普通の人生を生きていたはずの彼女が、どうしてそのまま普通に生きることを絶たれなければならなかったのか。
結局、彼女は世界から否定されたのだ。
お前が生きる場所はない、と。
誰もが幸せに生きている。
彼女を殺した世界は、幸せに日々を送っている。
友達を殺した張本人が、目の前で幸せな人生を送っている様を見ているかのようだった。
しかし、それは彼女が望んだことだった。
彼女が守った世界は、彼女の望み通り希望がありうる世界となった。
唯一にして最大の価値が、それだった。
それがあったから、自分はこの世界を憎もうと考えずにいられたのだ。
そうでなければ、誰がこんな世界好きになるものか。
世界にまどかが生きる場所は無かった。
どんなことをしても、彼女は普通に生きることは叶わず、死んでしまった。
彼女に何の罪があったのだろうか。
普通の人生を生きていたはずの彼女が、どうしてそのまま普通に生きることを絶たれなければならなかったのか。
結局、彼女は世界から否定されたのだ。
お前が生きる場所はない、と。
誰もが幸せに生きている。
彼女を殺した世界は、幸せに日々を送っている。
友達を殺した張本人が、目の前で幸せな人生を送っている様を見ているかのようだった。
しかし、それは彼女が望んだことだった。
彼女が守った世界は、彼女の望み通り希望がありうる世界となった。
唯一にして最大の価値が、それだった。
それがあったから、自分はこの世界を憎もうと考えずにいられたのだ。
そうでなければ、誰がこんな世界好きになるものか。
501: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:52:11.02:U5nAMCdu0 (7/29)
どうすればいいのだろう。
気が付いてしまった。
自分の本当の気持ちに。
目を背けるのは簡単だ。
だが、そのことを自覚してしまった以上、以前のようには戻れない。
自分はもう、友達が好きだった世界を守り続ける、そんな小奇麗な人間ではない。
大事なものを守れず、失ったことを認められずに好きでも何でもない替わりを守ってその現実から逃げている、
ただの屑のような人間だ。
自分がまどかにしてあげられる事は何一つない。
会うこともできない。
自分の中にあるのは、行き場のない望みと、それを永遠に叶えることのできないことへの喪失感だ。
どうすればいいのだろう。
気が付いてしまった。
自分の本当の気持ちに。
目を背けるのは簡単だ。
だが、そのことを自覚してしまった以上、以前のようには戻れない。
自分はもう、友達が好きだった世界を守り続ける、そんな小奇麗な人間ではない。
大事なものを守れず、失ったことを認められずに好きでも何でもない替わりを守ってその現実から逃げている、
ただの屑のような人間だ。
自分がまどかにしてあげられる事は何一つない。
会うこともできない。
自分の中にあるのは、行き場のない望みと、それを永遠に叶えることのできないことへの喪失感だ。
502:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県):2012/07/19(木) 02:52:59.04:U5nAMCdu0 (8/29)
こんな虚無を自分はこれからも抱えて生きていくのだろうか。
そんなことができるのだろうか。
いや、生きなくてはいけない。
まどかが世界を守ったことを理解し、それを守り続けることができるのは自分だけだ。
何を、ふざけたことを、言っている。
もう、そんなことはできない。
まどかが守った世界に、何も価値を感じられない自分には。
それならば、他の人間と同じように生きていくのか。
何も知らず、何もかも忘れ、まどかの事も忘れて幸せな世界で生きるのか。
こんな虚無を自分はこれからも抱えて生きていくのだろうか。
そんなことができるのだろうか。
いや、生きなくてはいけない。
まどかが世界を守ったことを理解し、それを守り続けることができるのは自分だけだ。
何を、ふざけたことを、言っている。
もう、そんなことはできない。
まどかが守った世界に、何も価値を感じられない自分には。
それならば、他の人間と同じように生きていくのか。
何も知らず、何もかも忘れ、まどかの事も忘れて幸せな世界で生きるのか。
503:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県):2012/07/19(木) 02:53:46.67:U5nAMCdu0 (9/29)
何時からだろう。
生きることがこんなにも苦しくなったのは。
息をするだけでも、刃のような空気が肺を切り裂いていくようだ。
光は目を焼き、音は鼓膜を破いていく。
苦しみに対して、自分は何もできずにズタズタにされていく。
どうして生きることがこんなにも苦しくなったのだろう。
理由がなければ、生きることも叶わない。
今の自分に、こんな世界で生きる理由があるのだろうか。
何時からだろう。
生きることがこんなにも苦しくなったのは。
息をするだけでも、刃のような空気が肺を切り裂いていくようだ。
光は目を焼き、音は鼓膜を破いていく。
苦しみに対して、自分は何もできずにズタズタにされていく。
どうして生きることがこんなにも苦しくなったのだろう。
理由がなければ、生きることも叶わない。
今の自分に、こんな世界で生きる理由があるのだろうか。
504: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:54:29.13:U5nAMCdu0 (10/29)
「まどかさんは、もうあなたの世界にはいないんですよ」
ふと、思った。この人は薔薇のような人だと。
綺麗な花に近づけば、棘によって近づいた者は痛手を負う。
きっとこんな印象を受けるのは自分だけだろうが、希望と絶望の両面を持つ彼女は本当にバラの様だった。
「じゃあ、私はどうすればいいの?」
出た声は掠れていた。
もしかしたら、また泣いているのかもしれない。
「まどかさんは、もうあなたの世界にはいないんですよ」
ふと、思った。この人は薔薇のような人だと。
綺麗な花に近づけば、棘によって近づいた者は痛手を負う。
きっとこんな印象を受けるのは自分だけだろうが、希望と絶望の両面を持つ彼女は本当にバラの様だった。
「じゃあ、私はどうすればいいの?」
出た声は掠れていた。
もしかしたら、また泣いているのかもしれない。
505: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:55:30.88:U5nAMCdu0 (11/29)
「あなたのことは、私にも分かりません。あなたはどうしたいんですか?」
彼女に問われる。
自分は何がしたいのだろうか。
生きる理由はあるのか。
こんなにも苦く苦しい世界の中で。
まどかがいなくなってしまった世界に、一人取り残された自分は。
「私は……」
少し考える。
世界に復讐したいのか。
まどかと思い込んで、その替わりを目を逸らして守っていくのか。
それともいっそのこと生きることを止めてしまうか。
様々の選択肢が浮かんでは消えていった。
やがて、一つだけ残った。
これだけは、どうしても消えない。
おそらく、これが自分の本当の望みなのだろう。
「あなたのことは、私にも分かりません。あなたはどうしたいんですか?」
彼女に問われる。
自分は何がしたいのだろうか。
生きる理由はあるのか。
こんなにも苦く苦しい世界の中で。
まどかがいなくなってしまった世界に、一人取り残された自分は。
「私は……」
少し考える。
世界に復讐したいのか。
まどかと思い込んで、その替わりを目を逸らして守っていくのか。
それともいっそのこと生きることを止めてしまうか。
様々の選択肢が浮かんでは消えていった。
やがて、一つだけ残った。
これだけは、どうしても消えない。
おそらく、これが自分の本当の望みなのだろう。
506: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:56:06.76:U5nAMCdu0 (12/29)
「……まどかに会いたい」
それが、自分の本心だ。
「まどかに会って、話がしたい。
手を握っていたい。
一緒にお茶を飲みたい。
困っているなら助けてあげたい」
「それがあなたの気持ち?」
「たぶん、私の本心。私はまどかに会いたいの。もう一度」
「……まどかに会いたい」
それが、自分の本心だ。
「まどかに会って、話がしたい。
手を握っていたい。
一緒にお茶を飲みたい。
困っているなら助けてあげたい」
「それがあなたの気持ち?」
「たぶん、私の本心。私はまどかに会いたいの。もう一度」
507: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:57:01.74:U5nAMCdu0 (13/29)
だが、それは叶わない願いだ。
まどかは、二度と会えない場所に行ってしまった。
だから、その気持ちに目を背けるしかなかった。
嘘をつくしかなかった。
その気持ちを抑えるには、まどかを守るように世界を守るしかなかった。
抑えるには、まどかがいなくなったことを認めなればよかった。
まどかの替わりにまどかが好きだった世界を守れば、心は楽になった。
出来なかったことができたような気がした。
それは、本当に自分にとっては救いだった。
大事なものが守れなかった喪失感が埋まったと思った。
だから続けた。
まどかを守り続ける、その繰り返しの続きを。
だが、それは叶わない願いだ。
まどかは、二度と会えない場所に行ってしまった。
だから、その気持ちに目を背けるしかなかった。
嘘をつくしかなかった。
その気持ちを抑えるには、まどかを守るように世界を守るしかなかった。
抑えるには、まどかがいなくなったことを認めなればよかった。
まどかの替わりにまどかが好きだった世界を守れば、心は楽になった。
出来なかったことができたような気がした。
それは、本当に自分にとっては救いだった。
大事なものが守れなかった喪失感が埋まったと思った。
だから続けた。
まどかを守り続ける、その繰り返しの続きを。
508: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:57:49.19:U5nAMCdu0 (14/29)
「卵の殻を破らねば――」
「え?」
「雛鳥は生まれずに死んでいく。
我らが雛で、卵は世界だ。
世界の殻を破らねば、我らは生まれずに死んでいく。
世界の殻を破壊せよ。
世界を革命するために」
突然の言葉に呆気にとられる。
聞き覚えがある言葉だ。
昔、入院中に読んだ本にあった気がする。
確か、ヘッセのデミアン――。
「卵の殻を破らねば――」
「え?」
「雛鳥は生まれずに死んでいく。
我らが雛で、卵は世界だ。
世界の殻を破らねば、我らは生まれずに死んでいく。
世界の殻を破壊せよ。
世界を革命するために」
突然の言葉に呆気にとられる。
聞き覚えがある言葉だ。
昔、入院中に読んだ本にあった気がする。
確か、ヘッセのデミアン――。
509: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:58:46.65:U5nAMCdu0 (15/29)
「まどかさんは、あなたの世界から消えてしまったのかもしれない」
思い出は、『まどか』という言葉で塗りつぶされる。
かつての入院中の記憶など、とうの昔に彼方へ行ってしまっていた。
『まどか』は自分にとって、切り離せないものとなっている。
何の意味があるのだろう。
いないものに、こうまで縛られている。
自分はまどかの思い出と共に、どこまでも生きていくのか。
それもいいのかもしれない。
「でもそれは、あなたの世界から居なくなってしまっただけ」
いない。
まどかはどこにもない。
この気持ちは、どこに行くのだろう。
どこに行けば、いいのだろう。
「だから、まどかさんに会いたかったら、外に行かないと」
「まどかさんは、あなたの世界から消えてしまったのかもしれない」
思い出は、『まどか』という言葉で塗りつぶされる。
かつての入院中の記憶など、とうの昔に彼方へ行ってしまっていた。
『まどか』は自分にとって、切り離せないものとなっている。
何の意味があるのだろう。
いないものに、こうまで縛られている。
自分はまどかの思い出と共に、どこまでも生きていくのか。
それもいいのかもしれない。
「でもそれは、あなたの世界から居なくなってしまっただけ」
いない。
まどかはどこにもない。
この気持ちは、どこに行くのだろう。
どこに行けば、いいのだろう。
「だから、まどかさんに会いたかったら、外に行かないと」
510: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 02:59:37.38:U5nAMCdu0 (16/29)
「外?」
「世界の果ての向こう側。
まどかさんとあなたが居た世界。
でもまどかさんは世界を変えた。
その世界の外に行ってしまった。
それなら、追いかけて探すのが一番の近道じゃないかしら」
「でも、それは……」
「世界は変わった。
それなのに、あなただけは元の場所に留まって、新しい世界に進めずにいる。
そこに居たら、いつまでもまどかさんとは会えませんよ。
まどかさんの居る世界に、ちゃんと行ってみたらどうですか。
まどかさんが願った世界を、彼女がどこかに居る世界に、ね」
「外?」
「世界の果ての向こう側。
まどかさんとあなたが居た世界。
でもまどかさんは世界を変えた。
その世界の外に行ってしまった。
それなら、追いかけて探すのが一番の近道じゃないかしら」
「でも、それは……」
「世界は変わった。
それなのに、あなただけは元の場所に留まって、新しい世界に進めずにいる。
そこに居たら、いつまでもまどかさんとは会えませんよ。
まどかさんの居る世界に、ちゃんと行ってみたらどうですか。
まどかさんが願った世界を、彼女がどこかに居る世界に、ね」
511: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 03:01:16.59:U5nAMCdu0 (17/29)
「……」
まどかは概念になった。
それが、あの獣の言葉だった。
もう彼女はどこにもいない。
始まりも終わりもなくなり、一つ上の領域にシフトしてしまったと。
この世界のルールになったしまった、と。
「あなたは、まどかさんの居る世界で生きていますか?」
まどかの居る世界。
まどかがかつていた世界と、まどかがルールとなった世界。
「会いたかったら、外に行くしかないんです。会いたい人の居る、その世界に」
魔法少女が魔女になる世界。
その世界では、まどかは死んでしまう運命だった。
だから、守ろうと必死になった。
どんなことがあっても、必ず彼女を守る。
何度失敗しようとも、諦めない。
そのために全てを犠牲にした。
もう、その世界は無い。
まどかが世界を変えてしまった。
魔法少女が魔女にならない世界に。
今でも彼女は戦っている。
魔法少女たちの希望を守るために、世界のどこかで。
「……」
まどかは概念になった。
それが、あの獣の言葉だった。
もう彼女はどこにもいない。
始まりも終わりもなくなり、一つ上の領域にシフトしてしまったと。
この世界のルールになったしまった、と。
「あなたは、まどかさんの居る世界で生きていますか?」
まどかの居る世界。
まどかがかつていた世界と、まどかがルールとなった世界。
「会いたかったら、外に行くしかないんです。会いたい人の居る、その世界に」
魔法少女が魔女になる世界。
その世界では、まどかは死んでしまう運命だった。
だから、守ろうと必死になった。
どんなことがあっても、必ず彼女を守る。
何度失敗しようとも、諦めない。
そのために全てを犠牲にした。
もう、その世界は無い。
まどかが世界を変えてしまった。
魔法少女が魔女にならない世界に。
今でも彼女は戦っている。
魔法少女たちの希望を守るために、世界のどこかで。
512: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 03:02:32.28:U5nAMCdu0 (18/29)
「ああ……」
忘れていた。
まどかは、消えてなんかいない。
こうして世界から魔女がいなくなっていることが、彼女がいる何よりの証だ。
存在が無くなったはずがないのだ。
そのことは、何よりも自分が知っているではないか。
彼女は生きている。
今もこの世界の中で、必ず。
自分は何をしていたのだろう。
まどかを守る、それはもうなくなった世界の話だった。
それなのにそこに閉じこもり、あの世界を一人続けていた。
まどかが新しくした世界を、見ようともしないで。
何ということだろう。
まどかはいなくなったと思っていた。
でもまどかをいないものと思い込み、世界から消していたのは、自分だ。
「ああ……」
忘れていた。
まどかは、消えてなんかいない。
こうして世界から魔女がいなくなっていることが、彼女がいる何よりの証だ。
存在が無くなったはずがないのだ。
そのことは、何よりも自分が知っているではないか。
彼女は生きている。
今もこの世界の中で、必ず。
自分は何をしていたのだろう。
まどかを守る、それはもうなくなった世界の話だった。
それなのにそこに閉じこもり、あの世界を一人続けていた。
まどかが新しくした世界を、見ようともしないで。
何ということだろう。
まどかはいなくなったと思っていた。
でもまどかをいないものと思い込み、世界から消していたのは、自分だ。
513: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 03:04:36.59:U5nAMCdu0 (19/29)
「……でも」
「はい」
「出来るのかしら。今更、外の世界に行くなんて。
もうどうしようもないほど、前の匂いが染みついているのに」
人を信じなくなった。
打算だけで、人間関係を見るようになった。
散々、他人を見捨ててきた。
どんなに汚れても気にしなくなった。
こんな自分を、この世界は受け入れてくれるのだろうか。
「……でも」
「はい」
「出来るのかしら。今更、外の世界に行くなんて。
もうどうしようもないほど、前の匂いが染みついているのに」
人を信じなくなった。
打算だけで、人間関係を見るようになった。
散々、他人を見捨ててきた。
どんなに汚れても気にしなくなった。
こんな自分を、この世界は受け入れてくれるのだろうか。
514: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 03:05:26.10:U5nAMCdu0 (20/29)
「大切なのは、そこに居る気があるかどうかですよ」
何の不安もなくなるような声だった。
「拒絶するのは、いつだってその人自身です。
世界が拒絶したり、束縛することはありません。
だって人は自由に動けるんですもの。
行こうと思えば、どこにだって行けますよ」
嘘も虚飾もない、ただの現実をそのまま伝えている声だ。
現実は自分にとって、辛く苦しいものだった。
何度心を削られ、血を流したかわからない。
しかし今のその声には、恐れは感じなかった。
「魔女だった私が、こうしてここに居られているんです。あなたができないはず、ありませんよ」
「大切なのは、そこに居る気があるかどうかですよ」
何の不安もなくなるような声だった。
「拒絶するのは、いつだってその人自身です。
世界が拒絶したり、束縛することはありません。
だって人は自由に動けるんですもの。
行こうと思えば、どこにだって行けますよ」
嘘も虚飾もない、ただの現実をそのまま伝えている声だ。
現実は自分にとって、辛く苦しいものだった。
何度心を削られ、血を流したかわからない。
しかし今のその声には、恐れは感じなかった。
「魔女だった私が、こうしてここに居られているんです。あなたができないはず、ありませんよ」
515:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県):2012/07/19(木) 03:06:04.48:U5nAMCdu0 (21/29)
まるで、自分の経験を語っているようだ。
そこで、思い出した。
彼女にも親友がいると言っていた。
自分にとってのまどかのように、この人にも掛け替えのない親友が。
「あなたも外の世界に行ったの? 友達のために?」
まるで、自分の経験を語っているようだ。
そこで、思い出した。
彼女にも親友がいると言っていた。
自分にとってのまどかのように、この人にも掛け替えのない親友が。
「あなたも外の世界に行ったの? 友達のために?」
516: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 03:07:09.15:U5nAMCdu0 (22/29)
「ええ」
そう言って、彼女は再び紅茶を飲み始めた。
自分も同じように口に運ぶ。
相も変わらず、でも少し冷めてしまっていたが、心が落ち着くような味だった。
二人で静かに紅茶を飲む。
もうあまり会話は無い。
きっとこの人も、大切な友達のことを考えているのだろう。
自分もそうだ。 失礼なことかもしれないが、きっとこの人との関係はこんな感じでいいのだと思う。
仲間とも友達とも違う。
このような関係を、『同胞』とでもいうのかもしれない。
飲み終わるまで、二人の間に会話は無かった。
紅茶も冷めてしまっている。
でも、暖かい時間だと、ほむらは思った。
「ええ」
そう言って、彼女は再び紅茶を飲み始めた。
自分も同じように口に運ぶ。
相も変わらず、でも少し冷めてしまっていたが、心が落ち着くような味だった。
二人で静かに紅茶を飲む。
もうあまり会話は無い。
きっとこの人も、大切な友達のことを考えているのだろう。
自分もそうだ。 失礼なことかもしれないが、きっとこの人との関係はこんな感じでいいのだと思う。
仲間とも友達とも違う。
このような関係を、『同胞』とでもいうのかもしれない。
飲み終わるまで、二人の間に会話は無かった。
紅茶も冷めてしまっている。
でも、暖かい時間だと、ほむらは思った。
517: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 03:08:17.73:U5nAMCdu0 (23/29)
「一つ聞いていい?」
ふと、思い出した。
そういえば、今の今までこのことを聞いていなかった。
「何ですか?」
静かにカップを置く。
他人に興味などなくなっていた。
だから、こんなことを聞くのも随分と久しぶりのような気がする。
「貴方、名前は?」
その問いに、彼女は静かに笑って答えた。
「一つ聞いていい?」
ふと、思い出した。
そういえば、今の今までこのことを聞いていなかった。
「何ですか?」
静かにカップを置く。
他人に興味などなくなっていた。
だから、こんなことを聞くのも随分と久しぶりのような気がする。
「貴方、名前は?」
その問いに、彼女は静かに笑って答えた。
518: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 03:09:02.02:U5nAMCdu0 (24/29)
「アンシー。姫宮アンシーです」
そのまま、自分も答えた。
「私は、暁美ほむらよ」
誰かに自分のことを知ってもらう。それがその世界とつながる第一歩だ。
「アンシー。姫宮アンシーです」
そのまま、自分も答えた。
「私は、暁美ほむらよ」
誰かに自分のことを知ってもらう。それがその世界とつながる第一歩だ。
519:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県):2012/07/19(木) 03:09:38.61:U5nAMCdu0 (25/29)
「よろしくね、ほむらさん」
「ええ。よろしく」
いつか、まどかと再会して。
この人にもまどかを紹介したい。
そう、ほむらは思った。
「よろしくね、ほむらさん」
「ええ。よろしく」
いつか、まどかと再会して。
この人にもまどかを紹介したい。
そう、ほむらは思った。
520: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 03:10:42.97:U5nAMCdu0 (26/29)
―――――
いつ間にか、周りは自分と彼女だけになっていた。
あの男は、もうどこにもいない。
どこかに行ったのか。
それとも消えてしまったのか。
自分とあの子の関係を呪いだと言っていた。
呪いの輪の中から自分たちは出ることは出来ない、と。
そんなことはない、と彼女は否定してくれた。
呪いそのものだったあの男は、もうどこにもいなくなっていた。
―――――
いつ間にか、周りは自分と彼女だけになっていた。
あの男は、もうどこにもいない。
どこかに行ったのか。
それとも消えてしまったのか。
自分とあの子の関係を呪いだと言っていた。
呪いの輪の中から自分たちは出ることは出来ない、と。
そんなことはない、と彼女は否定してくれた。
呪いそのものだったあの男は、もうどこにもいなくなっていた。
521: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 03:11:47.81:U5nAMCdu0 (27/29)
「天上先輩」
話しかける。
かつてどこかで、知り合った先輩に。
「私、友達がいるんです。最高の友達が」
その言葉に、彼女は笑って答えた。
「天上先輩」
話しかける。
かつてどこかで、知り合った先輩に。
「私、友達がいるんです。最高の友達が」
その言葉に、彼女は笑って答えた。
522:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県):2012/07/19(木) 03:12:25.89:U5nAMCdu0 (28/29)
「ボクにもいるよ。親友が」
話したいことは多い。
きっとお互いに、友達のことを話し合うのだろう。
そしてきっと、お互いの友達を紹介しあうのも遠くない。
そうまどかは思った。
「ボクにもいるよ。親友が」
話したいことは多い。
きっとお互いに、友達のことを話し合うのだろう。
そしてきっと、お互いの友達を紹介しあうのも遠くない。
そうまどかは思った。
523: ◆ctuEhmj40s:2012/07/19(木) 03:14:48.89:U5nAMCdu0 (29/29)
これで、当SSは終わりになります。
後日談に入ってから、投下ペースを守れず申し訳ありませんでした。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
これで、当SSは終わりになります。
後日談に入ってから、投下ペースを守れず申し訳ありませんでした。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
524:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県):2012/07/19(木) 03:23:13.81:lhBWiU1Uo (1/1)
乙
祈りと呪いは同じモノ
二人の呪いはどこに行き着くのか
乙
祈りと呪いは同じモノ
二人の呪いはどこに行き着くのか
525:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越):2012/07/20(金) 06:03:37.86:pPWrdywAO (1/1)
完結乙!
ファビュラスマックスなSSをありがとう!
完結乙!
ファビュラスマックスなSSをありがとう!
526:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県):2012/07/20(金) 07:32:11.54:hh3Npqvt0 (1/1)
ありがとう。
見せてもらいました。
投下ペースは問題ないし。…楽しみは長く。ふさわしい結末だった。
アンシーは、五十六億八千万年後、アドゥレセンス黙示録の世界でウテナと再会した。
ほむらも、きっと…。
ありがとう。
見せてもらいました。
投下ペースは問題ないし。…楽しみは長く。ふさわしい結末だった。
アンシーは、五十六億八千万年後、アドゥレセンス黙示録の世界でウテナと再会した。
ほむらも、きっと…。
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