383 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/27(火) 21:31:54.860y7Thqnno (6/12)



 その日の夜、播磨は病院清掃のバイトに復帰した。

 どうせ帰っても眠れないとわかっていたので、このまま働いていたほうがマシ
だと思ったのだ。

 そして、いつものように仕事を終えて休憩室の前を通りかかると、
やはり上条恭介が音楽を聞いていた。

「ご機嫌だな」

 そう声をかける播磨。

「あ、播磨さん。あの、大丈夫でしたか?」

「何がだ」

「少し前に警察とかきて、色々騒いでましたけど」

「まあ、問題ねェ」

「そうですか。詳しくはわかりませんけど……」

「ああ、今はまだ、あの時のことを落ち着いて話せる段階でもねェかな」

「そうですか」

「とはいえ、クヨクヨしてても仕方ねェから、こうして働いてるの」

「凄いですね、播磨さんは」

「別に凄くねェよ。お前ェらは大げさすぎなんだよ。凄い凄いって」

「いや、実際凄いですよ」

 そう言うと、上条は窓から外を見た。

「上条、お前ェこそ、前に来たときは元気なさそうだったけど」

「いや、今日はちょっと……」



384 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/27(火) 21:32:43.690y7Thqnno (7/12)


「何だ」

「志筑仁美さんって覚えてます?」

「あん? ああ、あいつか。ちょっと間の抜けたような声の」

「はは……、ええそうです。彼女が今日、お見舞いに来てくれたんです」

「そうか、よかったな」

「よかった?」

「いや、何でもない」

 仁美が播磨に、恋愛相談をしたことは秘密にしなければならない。

「それで……、この手のことも話たんです」

「そいつは……」

「ええ、知ってますか? 僕の手のこと」

「ああ、事故で動かなくなったやつだろう?」

「はい。神経のほうが特に酷くやられてて、もう、元のように動くことはないだろうって言われたんです」

「……そうか」

「最初はショックでしたよ。もう何日も口を聞かなくて、家族にも迷惑かけたと思います」

「どうしてそんな……」

「僕、ヴァイオリンをやってたんです」

「ヴァイオリンって、あのヴァイオリンか」

「そうです。こう、弓で弾くやつですね」

 そう言うと、上条はヴァイオリンを弾く仕草をしてみせた。



385 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/27(火) 21:34:03.330y7Thqnno (8/12)


「でも、この様(ざま)では元のように弾くことができません」

「そうなのか」

「あの日、覚えてますか? 播磨さんが最初に声をかけてくれた日」

「ああ」

「久しぶりに人と話したんです。あの日。それで、とても落ち着きました」

「どうして?」

「ど、どうしてでしょうね。貴方と喋っていると、落ち着いたんです。不思議なことに」

「そうなのか」

 播磨は少しこそばゆくなった。

「こうして悲しんでいても、僕の手が治るわけがないんですよね。

だから、今は身体を治して学校に復帰することを考えようと思います。

今のこの状態だと、普通の生活も大変そうだし」

「そうだな」

「まだ、ヴァイオリン自体を諦めたわけじゃないけど、前に進んでいかないと。
いつまでもくよくよしていてもはじまらない」

 上条は、壁を見つめ、何かを決意したように言う。

「ところで話は変わるが、上条」

「え? はい」

「お前ェ、その志筑仁美って子と、幼馴染の美樹、ええと」

「美樹さやか?」

「そう、その美樹さやかって女と、どっちが好きなんだ」

「え!?」

「お前ェ、なんかモテそうだし、他にも女が寄ってくるんじゃねェの?」

「も、モテませんよ僕は」

「ああん? 厭味かコラ」

「こ、怖いですよ。あの、さやかと志筑さんの話ですよね」

「ああ」


386 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/27(火) 21:35:10.130y7Thqnno (9/12)

「そりゃ、どちらも大切だと思います」

「二股か……!」

「違います」

「じゃあ何だよ」

「さやかは、小さい頃からよく知ってるし、大事な友人です。だけど、
付き合うとかは違うというか」

「違う?」

「え? はい。さやか相手だと、気を使わなくていいって思います。でも、なんか、
そのまま付き合ったら、僕、彼女に甘えてしまいそうで」

「別にいいんじゃねェの?」

「ダメですよ」

「あん?」

「これから先、もっと大変なことがあると思うんです。だから、そこで甘えてはダメというか。
上手く言えないんですが」

「いや、何となくわからんでもない」

「志筑さんは、ちょっと危なっかしいですけど、その……」

 不意に、上条は俯いた。

「お前ェ、志筑のほうが好きなのか」

「いや、別にそんな。でも、右手のことを話したとき、彼女は一緒に頑張ろうって言ってくれました。
普段はボーッとしているところもあるんですけど、その時は、強い意志を感じたと言うか、そこがとても」

「ノロケかよ、くそが」

「いや、惚気とかではなく……、播磨さん」

「ケッ、そんだけ元気になりゃ、退院ももうすぐだな」


387 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/27(火) 21:36:11.040y7Thqnno (10/12)


「そうですね。でも、もし退院したらもう会えなくなるんですかね」

「あん? 志筑なら同じ学校だから会えるんじゃねェか?」

「いや、志筑さんじゃなくて、播磨さんです」

「俺にそんな趣味はねェ」

「いやいや、そういう意味じゃなくて。こんな風に話ができなくなると思ったら」

「……上条」

「はい」

「俺はこの街にいる。お前ェと同じ学校の鹿目ってやつとも知り合いだから、またいつでも会えるさ」

「本当ですか?」

「ああ」

「播磨さん」

 そう言うと、上条は包帯の巻かれた手を差し出す。

「お前ェ、そっちの手は」

「いいんです」

「そうか」

 播磨は、上条の手を固く握った。

「感覚、やっぱりわからないや……」

 やや涙声で、上条は言った。

「……」

「ありがとう、ございます」

「頑張れよ」

 播磨は最後にそう言って、彼と別れた。




   *


388 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/27(火) 21:37:00.120y7Thqnno (11/12)


 翌日、また彼はいつものようにまどかを迎えに行く。

「おはよう、拳児くん」

 昨日よりも幾分明るい顔で、まどかは挨拶した。

「おう、行こうか」と、播磨。

「うん」

 初夏を思わせる強い日差しの中、播磨とまどかは並んで登校する。

 仁美たちとの待ち合わせの場所に行く途中、まどかは何やらソワソワしているようだった。

「どうした」

 まどかの様子に気づいた播磨は声をかける。

「あ、あのね、拳児くん」

「ああ」

「拳児くんは、携帯持ってるよね」

「ん、まあな」

「実は」

 そう言うと、まどかはポケットから桃色の携帯電話を取り出す。

「お前、それ」

「実は、ママが昨日買ってきてくれたの。最近は色々物騒だからって」

「そうか」

「それでね、拳児くん。あの、私とアドレス交換して欲しいなって」

「いいぞ、それくらい」

「ありがとう」

「何かあった時、連絡取れて便利だからな」

「え……、うん」

 播磨も、自分のポケットから携帯を取り出す。するとまどかは言った。

「赤外線のやつ、やってみたい」

「ああ、あれか。俺、あんま人とアドレス交換とかしねェから、ちょっと待ってろ」

「私、これやるの初めてだよ」

「そうか。ちょっと待ってろ、よし」

「初めての相手があなたでよかった」

「ぶっ!」

 まどかのその言葉に、思わず吹き出してしまう播磨。

「どうしたの?」

「いや、何でもねェ。それよか、はじめるぞ」

「うん」

 こうして、播磨はまどかと携帯電話の番号とアドレスを交換したのであった。



   つづく


389 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/27(火) 21:42:05.200y7Thqnno (12/12)

 余談ですがね、けいおんSSって百合物ばっかりだから、男出したらいかんのかなあという気持ちがあったですよ。

 某上条が出たときは叩かれていた記憶があったね。


390SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/27(火) 22:52:03.02hwm7nUeJ0 (1/1)

いやいや
播磨なら許せるもんだよ


391SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/28(水) 01:20:38.27b+16z18Bo (1/1)


まどかになんてことを・・・

はりおん!はこのスレ内なら大丈夫っぽいけど別スレ立てたら荒れるかもね


392SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/28(水) 17:35:24.45Ib0L73Kxo (1/1)

おつん!


393SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/29(木) 09:23:38.67sZWv/i90o (1/2)

つん!


394SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/29(木) 11:26:13.07hUIrIEtwo (1/1)

ん!


395 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/29(木) 16:40:38.11fLwzYkRHo (1/1)



というわけで、今宵は会社の忘年会ですので投下はできません。

あと、次回作。今書いてます。


396SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/29(木) 18:47:20.094v1t4M8t0 (1/1)

忘年会いってらー


397SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/29(木) 18:57:39.85sZWv/i90o (2/2)

いってらー


398 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:10:27.231r0Rv1RGo (1/34)

忘年会からは何とか無事に帰還いたしました。

寝酒とかよく言いますが、筆者の場合酒を飲むと夜中にちょくちょく目が覚めるので、

あまりよくはありません。

やはり運動して飯を食って温かくして眠るのが一番ですね。

というわけで今日はまとめて投下いたします。

今年中に全部はちょっと厳しい。


399 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:11:53.171r0Rv1RGo (2/34)


 とある朝の話。

 朝食の用意されたテーブルの前で、播磨はじっと携帯電話を見つめていた。

「どうしたの拳児くん。携帯壊れた?」

 そんな彼に、同居している和子がそう声をかける。

「ああいや、あのさ和子」

「なあに?」

「用もないのにメールするっていうのは、おかしいかな」

「……何を言ってるの拳児くん」

「は?」

「むしろ暇な時こそメールをするべきじゃない」

「え? どうして」

「そりゃあ、連絡がないと不安になるし」

「いや、でも迷惑だろう」

「そんなことないから! むしろメールとか着信がないほうが大変よ。
浮気してるんじゃないかって思っちゃうの」

「いや、まさか……」

「拳児くん、メールっていうものはこまめに出すものなのよ」

「でも、何を書けばいいんだよ。出す内容だって特にないだろ」

「そんなの何でもいいのよ。今起きたとか、これから仕事に行きますだとか」

「……そりゃウザイだろ」

「拳児くんもメールしなさいよ、私に」

「いや、たまにはしてるだろう」

「もっとしょっちゅうじゃなきゃイヤなの! 最近、ほとんど使ってないんだから、私の携帯」

「んなもん、知るかよ。それよか、早くメシ食っちまえ。学校遅れるぞ」

「んもう、拳児くんから話を振ってきたんでしょうが」

「教師が遅刻とかシャレにならんからな」

「そうね。はむはむ」そう言うと、和子は食パンを食べながら携帯電話をいじった。

「ん?」

 播磨の携帯が震える。

 開いて見るとそこには、

『今日、ゴミ出しを頼むわね。和子』

「口で言えよお前!」

 口の中一杯に食パンを詰め込んだ和子は、照れくさそうに笑っていた。




400 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:12:29.291r0Rv1RGo (3/34)





   魔法少女とハリマ☆ハリオ

     #16 予 兆











401 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:13:05.281r0Rv1RGo (4/34)





 鹿目まどかと携帯電話の番号とメールアドレスの交換をしてから数日。

 何事もなく時間は進んでいる。

(平和なのはいいことだ。しかし――)

 播磨はそう思いつつ、携帯電話を見つめる。

(特に連絡を取り合う必要もないものだな)

 そんなことを考えていると、不意に携帯電話が震える。

「ぬわっ!」

 思わず声が出てしまった播磨。

 そしてざわめく教室。

 クラスメイトの視線がこちらに集中した。

「いや、なんでもねェ」

 そう言うと播磨は、足早に教室を出て行く。

「ここならいいだろう」

 廊下の隅で、誰にも見られていないことを確認してから携帯のメールを開く。

 送り主は分かっていた。

《from まどか 今日、マルチカフェに行きませんか?》

 マルチカフェというのは、以前一緒に行ったことのあるショッピングモール内にある
微妙に入り難い喫茶店だというのはすぐにわかった。

 播磨はすかさず了解の返事を送ると携帯を閉じる。

(あんまりそっけないレスポンスだと感じが悪いか……)

 その後、彼はそんな感じの心配をしながら時間が過ぎるのを待ったのであった。



   *


402 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:13:31.801r0Rv1RGo (5/34)



 そして放課後。

 播磨がよく利用するいつもの公園で、待ち合わせすることになった。

「ご、ゴメン。待った?」

 不意に聞えてくる声。

「いや……、俺も今きたところだ」

 下手な芝居の台詞のようなぎこちない言葉が交わされる。

 播磨の目の前には、制服姿の鹿目まどかがいた。

「他の連中はどうした?」

「え? うん。なんか、誘ったんだけど、さやかちゃんは何か用があるからって、先にき帰ったし、
仁美ちゃんもどこか行くところがあったみたいで」

「そうか」

(ん、待てよ)

 播磨はそこで気づく。

(これってもしかして、デートというやつではないか)

 放課後に異性と二人きり。

 興味がない、と強がっていた播磨だったが、彼も密かにあこがれていた光景である。

 そして例のカフェ。

 播磨はコーヒーを、まどかはカフェオレを注文した。

 そろそろ、アイスコーヒーが美味しい季節である。

「なあ、まどか」

 落ち着いたところで、播磨は話しかける。


403 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:14:05.541r0Rv1RGo (6/34)


「どうしたの?」

「色々あったけど、平気か」

「うん。ありがとう。拳児くんこそ、大丈夫?」

「俺か? 俺は大丈夫だ」

「よかった……」

「……」

 話が続かない。

 改まって向かい合ってみると、何を話していいのか分からなくなる播磨。

 色々話したいことはあるのだけれど、いざとなるとそれが言葉にならないのだ。

 何か話題はないかな、そう思って周囲を見回していると、耳に聞き覚えのある音楽が入ってきた。

「こいつは」

「どうしたの?」

「夜想曲第二番だ」

「それなに?」

「ショパンの曲だ」

「播磨くん、クラシックとか好きなの?」

「いや、ちょっと知り合いが聞いてたのを思い出した」

「知り合いって?」

 上条恭介。

 初めて会ったとき、彼がCDで聞いていたのがこの曲だったと思う。

 右手が使えなくなり、ヴァイオリンを諦めた少年。

(あいつはこの先、どう生きるんだろうな)


404 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:14:44.661r0Rv1RGo (7/34)


 そんなことを考えていた時、不意にまどかの携帯電話が鳴った。

「も、もしもし? 仁美ちゃん? どうしたの、落ち着いて」

 どうやら、電話をかけてきたのは志筑仁美のようだ。

「え? なに? 今どこにいるの?」

 気が動転しているのは、傍から聞いている播磨にもわかった。

「ちょっと落ち着いて。今どこにいるの?」

「まどか、ちょっと代われ」

 播磨はそう言って右手を差し出す。

「え? うん」

 まどかはしぶしぶ、自分の携帯を播磨に渡した。

「もしもし、志筑か」

 播磨は努めて低い声で電話に出る。

『その声は、播磨さんですか?』

 電話越しにも、動揺しているのがわかる声であった。

「ああ、俺だ。志筑、ゆっくり息を吐いて、そして吸え」

『は~、ふ~』

 数秒の間。

「落ち着いたか」

『ええ、はい』

「何があったのか、ゆっくり言ってみろ」

『あ、はい。その、上条さんの手が』

「手がどうした」

『治ったみたいなんです』

「な!?」




   *



405 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:15:19.541r0Rv1RGo (8/34)


 見滝原総合病院――

 播磨たちは急いで店を出ると、病院に向かった。

 病院の建物に入ると、受付近くのロビーで不安そうにしている仁美を発見して声をかける。
 
「仁美ちゃん」

「まどかさん、それに播磨さんも」

 電話の時よりも幾分落ち着いた様子の仁美はそう言った。

「お前ェは大丈夫か」

「私は大丈夫です。それより上条さんが」

「手が治ったって」

「はい、今精密検査を受けているところですの。これまで動かなかった手が、急に動くようになって」

「……」

「お医者さまは、まるで奇跡か魔法のようだと」

「奇跡……」播磨はつぶやく。

「魔法……」それに呼応するように、まどかもつぶやいた。

 とてつもなく嫌な予感が播磨の脳裏をよぎる。

「拳児くん」

 不安そうに見上げるまどかに対し、播磨は言った。

「まどか」

「なに?」

「少し頼みがある」




   *


406 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:16:07.591r0Rv1RGo (9/34)


夜の公園は信じられないくらい静まり返っていた。

 犬の鳴き声や生活の音が聞こえてもよさそうなのだが、そういったものがほとんど聞こえない。

 あまりの静けさに、播磨の耳の奥には微かな耳鳴りが響いていた。

 そこでしばらく待っていると、人の気配がする。外灯の光に照らされる髪の短い少女が一人。

 夜にも関わらず、彼女は私服ではなく学校の制服を着用している。

「こんな夜中にこんな場所に呼び出してどうしたんですか? もしかして、アタシに気があるとか」

「そんなんじゃねェ」

 冗談めかしく笑ったさやかに対し、播磨はそっけなく答える。

「もう、そんな固いこと言ってたらモテませんよ」

 だがさやかの対応は変わらない。

「……美樹」

「なんですか」

「お前ェ、契約したのか」

「……」

 先ほどまでの軽薄な笑みが消える。

「答えろよ。魔法少女になったのか?」

「……あなたには、関係のないことでしょう」

「本気で言ってんのか」

「ええ、そうよ。あなたは、私の何なんですか?」

「確かにお前ェと俺とは、何の関係もねェ。だが、まどかはどうだ」

「……!」

 まどかの名前を出すと、さやかの動きが一瞬止まったように見えた。

「お前ェのこと、本当に心配してるんだぞ」


407 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:16:45.621r0Rv1RGo (10/34)


「……」

「手を見せてみろ」

 播磨は一瞬で距離を詰め、さやかの手首を握る。

 そして、彼女の指を見た。

 彼は夕方、まどかから聞いていた。

 魔法少女になると、その証としてソウルジェムと呼ばれる宝石を手に入れるらしい。

 そしてそのソウルジェムは、普段は指輪などの形に変化していると。

「……痛い」

 さやかの右手には、確かに指輪らしきものがあった。

「美樹、お前ェやっぱり」

「放して」

「上条の手を治すために契約したのはお前ェなんだな」

「放してって、言ってるでしょう」

 さやかはそう言って腕を振り払おう。

 どんなに力の強い女性でも、播磨の力に対抗するのは難しい。

 だが、

「な?」

 一瞬、彼は自分の身体が、まるで綿のようにふわりと浮きあがったように感じた。

 そして目の前には厚い雲に覆われた真っ暗な夜空。

 自分の身体が本当に宙に浮いているのだと認識するまでに、ほんの数秒かかった。

 そして、

「ぐわ!」

 180センチの身体が公園の石畳の上に叩き付けられた。

 何とか受け身をとって頭部への衝撃は防いだものの、それでも鋭い痛みが全身を襲う。



408 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:17:29.631r0Rv1RGo (11/34)


 起き上がってみると、右手に血が滲んでいた。

「は、播磨さん! 大丈夫ですか」

 そう言いながらさやかが駆け寄ってくる。

 そこではじめて彼は、さやかによって投げ飛ばされたのだということがわかった。

 しかし、女子中学生に投げられる。それも、柔道や合気道などの技ではなく、腕の力だけで。

「大変、血が!」

 さやかは、播磨の血を見て焦っているようだ。

「こんなの、大したことじゃねェ。唾付けときゃ治る」

 喧嘩に明け暮れていたころは、流血沙汰など日常茶飯事だったため、出血には慣れている。

「ごめんなさい、私のせいで」

 そういうと、さやかは両手で播磨の右手を握る。

「おい、何を」

「じっとしてて」

 そう言うとさやかは精神を集中する。すると同時に、彼女の両手から青白い光があふれてきた。

(どんな手品だ)

 彼は一瞬そう思う。だがそれは手品などではなかった。

「終わり」

 さやかがそう言うと同時に光が消え、そして彼女は手を放す。

「な?」

 見ると、播磨の右手から滲んでいた血は、きれいになくなっており、傷痕すら見えなくなっていた。

「この程度のけがなら」

 さやかは立ち上がりながら言った。

「美樹……」

 播磨を投げ飛ばすほどの力。そして奇妙な青い光と、それに伴う治癒。

 間違いなく、それは常識では考えられない現象であった。

「ごめんなさい。もう、後戻りはできないから」

 そう言うと、さやかはその場から走り去る。

「おい! 待てよ」

 播磨は彼女を追いかけようと走り出す。

 短距離走なら多少の自信はあった彼だったが、さやかの姿はすぐに、闇の中へ溶けていった。



   つづく




409 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:18:23.641r0Rv1RGo (12/34)

「いらっしゃいませ」が「エアロスミス」に聞こえるコンビニの店員というのを
やってみたいんですが、上手くできませんでした。

あれはすごいね。

それではもう一話いきます。


410 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:19:36.991r0Rv1RGo (13/34)


 星の見えない夜。

 すっかり暗くなった道を、ほむらは歩いていた。

 夜遅くに出歩いているのは、学習塾に通っているためである。

 長い入院生活で学習の進みが遅れていたため、周りに追いつくためにも彼女は
塾に通って勉強をしていたのだ。

(なんだか怖いな)

 その日のほむらは、塾を出たあたりからなんとなく嫌な予感を感じていた。

 といっても、家に帰らないわけにはいかないので、勇気を出して歩き出す。

 繁華街の少し明るい道を抜けると暗がりになる。

 落ち着こう、と自分に言い聞かせるものの、自然と早足で歩いてしまう。

 外灯の光に照らされた薄暗い道を歩いていると、急に目の前が真暗になってしまう。

「きゃっ」

 いきなりのことで思わず声を出してしまうほむら。

 そして次の瞬間、そこは先ほどまで自分が歩いていた道ではなくなっていた。

「この場所、見たことがある……」

 転校初日、わけのわからない動物や虫が自分に襲いかかろうとした場所。

 どちらが右でどちらが左なのか、立っているのか寝ているのか。

 あらゆる方向感覚が狂ってしまうような場所に、彼女は再び足を踏み入れていた。

「こんな場所にいたら」

 ほむらは震える両脚に活を入れるように歩き出す。

 本当は走って逃げたかったのだが、恐怖と足場の悪さと体力の無さを考慮して歩き出したのだ。

 まだ、周囲の奇妙などもはこちらの様子を伺っている。

(とにかく、早く逃げないと)

 そう思い、再び周囲を見回し、どこかに逃げられる場所がないか探すほむら。

 その時、彼女の目に一筋の光が見えた。

(もしかして、あそこ)

 出口かもしれない。そう思った彼女はその光に向かって歩き出す。

 しかし、

 一瞬で光は消える。


411 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:20:04.191r0Rv1RGo (14/34)


「え?」

 光そのものが無くなったわけではない。

 光と彼女との間に何かが現れたのだ。

 ほむらはゆっくりと見上げると、そこには巨大な熊のような生物がいた。

 しかもその顔は熊よりもはるかに恐ろしい。

「きゃああ!」

「グオオオオオオオオオ!!」

 目の前の化け物が吠える。

 ほむらは目をつぶり、両手で頭を押さえその場に座り込んでしまう。

(もう、ダメ……。今度こそ、ダメだ)

 以前は奇跡的に助かったけれども、今回は助からないだろう。

 そんな諦めにも近い確信が彼女の心を支配する。

「助けて……」

 蚊の鳴くような声でほむらは言った。

(播磨さん……)

 そして、その男の名前は心の中で。


 一瞬の光――


「へ?」

 来るはずだった衝撃はこない。

 そして彼女は、恐る恐る目を開ける。

 そこには、マントをたなびかせた青い服の少女が立っていた。

「あなたは……」

「白馬に乗った王子様だと思った? 残念、さやかちゃんでした」

 ショートカットの少女。

 それは間違いなく、クラスメイトの美樹さやかであった。




412 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:20:33.161r0Rv1RGo (15/34)








   魔法少女とハリマ☆ハリオ

     #17 赤い少女








413 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:21:39.271r0Rv1RGo (16/34)



 ほむらが化け物と遭遇していたころ、それを知らぬ播磨はいつもの総合病院で
深夜の清掃アルバイトをしていた。

 そこではすでに、上条恭介の右手が治った“奇跡”は話題になっていたようだ。

 顔見知りの看護師や入院患者、それにバイト仲間などがしきりにその話をしていた。

 新興宗教の本拠地も多くあり、オカルトな迷信が広く信じられているこの見滝原の街で、
その手の噂が広まるのは時間の問題であった。

 しかもここは、その噂の根源となった病院である。

「播磨くんも聞いた?」バイトのおばちゃんが嬉しそうに話しかけてくる。

「ええ、まあ」

「不思議よねえー」

「……」

 もともと話好きというわけではないけれども、そういった話題を意識的に避けていた彼は
仕事が終わるとそそくさと家に帰るのだった。

 星のない夜。

 そういえば、巴マミと初めて出会った日もこんな星の無い夜だったな、と播磨は思い出す。

 あの日は確か、バックヤードで荷物の搬入するバイトをやっていたのだ。

 パッと、何かが光る。

「そうそう、こんな風に変な光が光ってって、え……?」

 播磨は立ち止まり、光が見えた方向を見据える。

(まさか……)

 見覚えのある状況に彼は歩みを早める。


414 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:22:06.421r0Rv1RGo (17/34)


 そして、

 一人の少女が見えた。

「赤い、服?」

 まぶしい光の中で、丈の長い赤いふくを着た少女が播磨の目に飛び込んでくる。

「誰だ」

 若干気の強そうな少女の声が響いた。

「ん?」

 次の瞬間、播磨の目の前にいたのはパーカーにショートパンツ、そして赤みがかった
長い髪の毛を後ろで束ねた少女の姿であった。

 年齢は、身体の成長具合から見て中学生くらいだろうか。

「アンタ、“何者”だ?」

 ポニーテールの少女は、播磨を見据えてそう言った。

「以前にも似たようなことを言われたことがあったな」

「あん?」


 
   *


415 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:23:04.321r0Rv1RGo (18/34)




「食うか」

「おお、気が利くねえ」

 近くの公園のベンチ。

 ポニーテールの少女は播磨から紙袋に入った焼きまんじゅうを受け取る。

「どうしてアタシを見て魔法少女ってわかったんだ?」

 焼きまんじゅうを食べながら少女は聞いてきた。

「以前にも似たようなやつと会ったことがあったからさ」

「へえ、そいつは確か、巴マミとか言わなかった?」

「知ってんのか」

「まあな。厄介なやつだったけどさ」

「厄介?」

「ちょっとしたヒーロー気取りの女さ。まあ、魔法少女だからヒーローじゃなくて
ヒロインなんだろうけど。はむっ」

「ヒロインね……」

「これ、ウメーな」

「俺のも食うか」

「え? いいのか。へへ」

 少女は特に遠慮するようなそぶりも見せず、播磨からもう一つの焼きまんじゅうを受け取った。

「それで、その魔法少女がこの街に何の用だ? 今までずっといたってわけじゃないだろう」

「ああ。遠くの街にいた」

「それなら、どうしてここに」

「どうしてって……」


416 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:23:41.321r0Rv1RGo (19/34)


 少女はふと空中を見つめる。何かを考えているようにも見えた。

「マミのやつがくたばったって聞いたからさ」

「くたばった……」

「死んだんだろう? アイツ」

「ああ……」

「だからさ、こっちに戻ってきたわけ」

「戻ってきた?」

「ま、アタシも以前はこの街に住んでたことがあったからな」

「そうなのか」

「ここはいい“狩場”だからな」

「狩場……?」

「魔女がたくさんいるってことさ。アタシたち魔法少女は魔女を狩らないと生きていけないからね」

「魔女か」

「オッサン、魔女は見たことないのか?」

「オッサン言うな。俺はこれでも高校生だ」

「嘘だあ。ひげを生やした高校生がいるかよ」

「別にいてもおかしくねェだろう」

「しかし、話を戻すけど、アンタ魔女を見たことないって本当なのかよ」

「まあ、そうだな。どんな形をしてるんだ。やっぱホウキに乗って空を飛んでるのか?」

「ハハハ、そんなメルヘンチックな魔女もいたら面白いよな。でも実際は違うぜ」



417 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:25:27.031r0Rv1RGo (20/34)


「違う?」

「ああ。ふつうの人間は、あいつらを見たら嫌悪感を示すだろうな。なんたって、
人間の醜い部分の象徴みたいなもんだからな」

「……想像もつかんな」

「さてと」

 いつの間にか焼きまんじゅうを食べ終えた少女は勢いよくベンチから立ち上がる。

「どうした」

「さっさと狩りに戻らなきゃな」

「……いくのか」

「ああ。焼きまんじゅう、ウマかったぜ」

「どうってことねェよ。情報料だ」

「そうか。そう考えると、ちょっと安いくらいだったかな」

「残念だが俺はあんま金もってねェぞ」

「金なんていらないよ。それより」

「ん?」

「この街には、アタシのほかにもう一人魔法少女がいるらしいじゃないか」

「……」

 播磨の脳裏に美樹さやかの姿を浮かび上がる。

「ああ、ちょっと邪魔くせえな」と、少女は吐き捨てるように言う。

「なに?」

「ま、少しばかり現実ってものを教えてあげようかと思って。先輩の務めよ」

「何するつもりだ」

「関係ないだろう、あんたには。ま、せいぜい魔女には気をつけな。といっても、
一度“唾”つけられたら戻りようがないけどさ」



418 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:26:02.701r0Rv1RGo (21/34)


「おい、ちょっと待て」

「なんだ? アタシは忙しいんだよ」

「名前、教えてくれねェか」

「名前? アタシのか」

「ああ」

「アタシは佐倉杏子」

「サクラキョウコ」

「佐倉のサは佐世保市の佐、クラは倉敷市の倉、キョウコは、杏子(あんず)と書いてキョウコと読む」

「なるほど」

「アンタの名前も教えてよ」

「俺は、播磨だ。字は――」

「ああ、わかった。ハリマだな」

「おい」

「そんじゃ。また機会があったらなんかおごってくれよ」

「ちょっと待て」

 それ以上は播磨が呼び止めるのも聞かず、杏子はどこかへと消えて行った。

 人間の動きとは思えないほどの素早さ。

(やはり、魔法少女というのは本当だったのかもしれねェな)


419 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:27:05.931r0Rv1RGo (22/34)


 そう思いつつ、彼は携帯電話を取り出し、電話をかけた。

 右耳から呼び出し音が鳴り、二回鳴ったところで低い声が耳に入ってくる。

『はい』

「霧島さんですか。播磨っす」

 播磨がかけたのは、見滝原署に勤務する霧島刑事の携帯電話であった。

『なんだキミか。どうした』

 遅い時間にも関わらず霧島の声は落ち着いていた。家でのんびりしていた、
という声ではない。おそらく警察署内で電話を受けているのだろう。

「実は調べてほしいことがあるんです。失礼なのは承知で」

『事件に関係のあることかい?』

「はい。警察の方でないと難しいかもしれないっすから。決して無理にとは言いませんが」

『それで、調べてほしいものとは』

「実は、佐倉杏子という少女についてです。年は十四歳くらい」

『もう一度頼む』

「サクラ、キョウコ。この街に住んでいたことがある人間だと聞きました」

『字はわかるか』

 播磨は、先ほど杏子が自己紹介したときと同じように、彼女の漢字を霧島に伝えた。

『わかった。一応調べてみよう』

「ありがとうございます」

 播磨は電話を切り、空を眺めた。

「もっと色々聞いときゃよかった……」

 厚い雲に覆われた暗い夜空からは、いまだに光が見えない。



   つづく
 


420 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:30:58.161r0Rv1RGo (23/34)

#18プロローグ


 その日もさやかは、まどかたちを避けるようにして一人で学校に来ていた。

「おはよう、さやかちゃん」

「ああ、おはよう」

 気遣うように挨拶をしてくるまどか。

 今、彼女の優しさが正直痛いとさやかは感じていた。

「あの、さやかさん?」

 同様に遠慮がちに話しかけてきたのは、まどかと同じ友人の志筑仁美だった。

「おはよう、仁美。何か用?」

「少しお話がありますの。お昼休み、よろしいですか?」

 声は遠慮がちであったけれど、彼女の目には強い意志のようなものが感じられた。

「うん……、いいよ」

 話の内容は、もう何となくわかっていたけれど、いざその現実が自分に迫ってきていると
思ったら怖くなってきた。




   *



 授業中、播磨はノートの片隅に知り合いの名前を書いていた。

(美樹さやかは上条恭介のことが好きなんだな)

 そう思い「美樹さやか」と書き込む。

 そして矢印を書いて、その先に「上条恭介」という名前を書いた。

(しかし、美樹の友人の志筑仁美も上条のことが好き)

 続いて「志筑仁美」という名前を書く。

 いわゆる三角関係というやつだが、肝心の上条恭介は、話を聞く限り志筑仁美のほうに興味を
持っているようだ。

 美樹さやか→上条恭介→←志筑仁美

 つまり、美樹さやかの気持ちは一方通行ということになる。

(わざわざ魔法少女になってまで、上条の怪我を治してやって、いったいどうなるってんだ)

 播磨は頭をかく。

(道理を捻じ曲げてまで叶えた願いに、何があるんだよ)

 播磨には、大きく世界がゆがんでいくように思えた。



421 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:31:31.351r0Rv1RGo (24/34)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ

      ♯18 信 用







422 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:32:34.821r0Rv1RGo (25/34)



 昼休みの屋上。

 さやかの友人、志筑仁美は彼女の前ではっきりと宣言した。

「さやかさん。はっきり申し上げます。わたくし、上条恭介さんのことを前から好きでした」

「仁美……」

「ですから、明後日告白しようと思います」

「……うん」

 転校生の暁美ほむらほどではないけれど、さやかはこれまでやや控えめな性格だと
思っていた仁美がこうも強く自己主張することに戸惑いを隠せなかった。

「あなたが上条さんをお慕いしているのは知っていました。そして、わたくしはあなたのことを
親友だと思っています。ですから、こうして告白する前にあなたに伝えておこうと思います」

「……」

「それが、最低限の“仁義”だと思いましたので」

「ジンギ?」

 上品な仁美には似合わない言葉づかいに、やや戸惑うさやか。

 けれども、仁美自身はそのことを気にしていないようだ。

「あの、大丈夫ですかさやかさん」

「ああいや……、突然のことで驚いただけだよ。ハハ……」

 さやかもそこまで鈍い少女でもないので、仁美が恭介に好意を持っていることは知っていた。

 ただ、自分のほうが幼馴染で彼のことをよく知ってるし、よく話もしているので、
恋愛における優位は変わらないと思っていた。

 いや、思い込もうとしていたのかもしれない。




   *



423 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:34:07.951r0Rv1RGo (26/34)


 仁美と別れてから、彼女は午後の授業にも出ず屋上の階段室のさらに上に上って空を眺めていた。

「恭介……」

 何もない空中うに手を伸ばす。

 演奏するための手が動かなくなり、ショックを受ける幼馴染。

 しばらくは茫然としていて何と声をかけたらいいのかもわからなかった。

(恭介はあたしが守らないと)

 さやかはそんな幼馴染の姿を見てそう思う。

 しかし、時間が経過するにつれて、恭介は自分の置かれた状況を冷静に見るようになっていく。

 理由はよくわからないけれど、子供のように泣きじゃくっていた少年は、いつの間にか大人になっていた。

 それから数日後、さやかが彼の見舞いに行くと、そこには親友の志筑仁美がいたのだ。

 自分の怪我について話をする恭介。 

 彼女は、そんな恭介の話を聞き、そして励ます。

 廊下で聞いていただけなので、細かい表情などはわからなかったけれども、あんなふうに楽しそうに
異性と話をする上条恭介の声を聞くのは、さやかにとって初めての経験だった。

 そして美樹さやかは、一度は思いとどまったキュゥベェとの契約を実行する。

 願い事は、「上条恭介の動かなくなった手を治すこと」だ。

 そして願いはかなえられ、さやかは魔法少女として魔女と戦う運命を受け入れることになる。

「あたし、バカみたい……」

 誰もいない空に向かい、さやかは一言つぶやいた。



   *




424 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:34:44.921r0Rv1RGo (27/34)



 相手の信頼を得るためにはどうすればいいのか。

 それは播磨にとっては難しいテーマだ。

 考えるよりも先に体が動き、話し合うよりも先に拳が飛び交う生活をしていた彼にとって、
そういう心と心が生で向かい合うような状況は苦手である。

 だが、今回はそうもいかない。

 まさか女子中学生と殴り合いをするわけにもいかないからだ。

 というわけで、彼は一人の大人に相談してみることにした。

 この街にいる数少ない知り合いであり、人との付き合いに優れているであろうと思われる人物。

「はあい、拳児くん」

「ども」

 赤い顔をした詢子がカウンター席で手招きする。

 仕事帰りのようで、スーツ姿だ。

 家で見る彼女とはまた違う雰囲気を持っている。

 駅近くの寿司屋。

 播磨一人ではまず入ることはないであろうその店が、詢子の指定した店であった。

「ここは私の行きつけなのよ。ねえ、大将」

 グラスにビールを注ぎながら詢子は言った。

「へい、詢子さんいはいつも世話になってます」

 ややアゴのでかいその寿司屋の店主はそう言ってさわやかな笑顔を見せる。

「はやく座って」

「はい」

 播磨が座ると、店の店主は素早くあがり(お茶のこと)と温かいおしぼりを出してくれた。

「どうぞ、兄さん」

「恐れ入ります」


425 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:35:23.731r0Rv1RGo (28/34)


 おしぼりで手を拭きながら播磨は礼を言う。

「詢子さん、会社の若い衆ですか?」と、店主。

「違うわよ」

「でしたら親戚とか?」

「正解は、私の義理の息子」

「ぶっ!」

 思わずお茶を吹き出しそうになるのを我慢する播磨。そして、口のまわりの茶をふき取った。

「大丈夫かい、兄さん。ほれ、おしぼりもうひとつ」

「あ、ありがとうっす」

 顔に似合わず気遣いのできる店主に礼を言い、播磨は新しいおしぼりで口のまわりをもう一度拭く。

「へえ、でもまどかちゃんまだ中学生でしょう?」と、店主は言った。

「あの子も結構気に入ってるみたいだからさ」

「……」

 播磨は二人の会話には、特に何も言わないことにする。また吹き出してしまいそうだったから。

「いやあ、最近の中学生は進んでるねえ。でも、こんだけ立派な男なら、安心だね」

「そうなの。あたしの旦那にほしいくらい」

「へえ、親子で男の取り合いなんて」

「あら、あたしはまだまだ現役よ」

「いやあ、こりゃ参った」

「……もう勘弁してください」

 店主と詢子の会話についていけない播磨は、たまらず言った。



426 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:36:46.641r0Rv1RGo (29/34)


「ふふ、ちょっとからかっただけだよ」

 そう言って詢子はグラスの中のビールを飲み干す。

「で、相談したいことってなんだい?」

「実は人との付き合いについてなんっすけど」

「付き合い?」

「その、相性が悪い人とかいるじゃないっすか。まあ、人によってはすぐに仲良くなれる
やつもいると思うんっすけど」

「まどかとあなたみたいに?」

「あ、いや……」

「ふふ、冗談よ。それで」

「詢子さんなら、仕事でいろんな人と付き合ってると思うんですけど、中にはこの人とは
合わないなって、いう人もいると思うんですけど」

「そうね」

「でも、仕事だったら、そういう人とも付き合わなきゃならないわけじゃないっすか。
そんなとき、どういう接しているのかなと思って」

「どう接する、というのは?」

「仕事には生活がかかっているわけだから、信用がないとダメなわけでしょう? 
その仲の悪い人相手でも、信用されるにはどうしたらいいのかと思って」

「そういうのは、私じゃなくて詐欺師の人とかに聞いたらどう? あいつらは人に信用されるのが
仕事みたいなものだし」

「え? 詐欺師の人はちょっと。聞きに行ったらそのまま騙されそうで」

「フフ、冗談だよ。そうだね、確かに仕事上では嫌な奴と付き合わないといけないこともあるよ。

でもね、拳児くん」

「はい」


427 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:37:59.721r0Rv1RGo (30/34)


「わりと、付き合ってみるとその人の良さが見えることもあるのよ」

「その人の良さ……」

「そうよ。人と人との信頼関係っていうのは、相手のことを誤解していたり、
何を考えているのかわからなかったりしたら、そこで崩れていってしまうものなの。
でも、相手のことをよく知っていれば、安易に恨んだりはしないものよ」

「……そうですか」

「別に人に限ったことでもないわ。たとえば勉強だと、苦手だなとか難しそうだなと思った分野でも、
実際に調べてみると結構面白いと感じてみたり」

「勉強のほうがちょっと」

「それは自分で調べようとしないからよ」

「自分で?」

「そう、人から与えられたものを食べたって仕方ないわ。自分で掴み取るからこと尊いのよ、
拳児くん」

 そう言って詢子は、ネタのトロを一口で食べた。

「うん、おいしい。拳児くんも食べたら」

「あ、はい」

 詢子に言われ、播磨も目の前にある寿司を食べる。

 確かにうまい。月並みな表現だが、「舌の上でとろける」という感覚を初めて感じた。
それでいて、しっかりと口の中にうまみが残っており、寿司飯と一緒に何とも言えない
至福感が全身を走る。

「こんな美味い寿司、初めて食ったかも」

「当たり前だよ。だってここは、私のお気に入りの店だからね」

「……」

「ただ単に美味いだけじゃないよ。ここの大将は私の好みをよく知っていてくれるからね。
ちょっと大げさだけど、“私だけの味”を提供してくれるのさ」

「……はあ」


428 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:39:15.801r0Rv1RGo (31/34)


 確かにすごいが、値段のほうも高くなるんだろうなと思う播磨であった。

「話を戻そうか」

「そうっすね」

「いいかい拳児くん。信頼ってのは相互作用なんだ。自分のことを疑っている相手を信じようと思う?」

「いや、それは」

「相手が疑うならこっちも疑う。不信は不信を呼び、人と人との関係は崩れていく。
でも、相手を信用すれば、相手もこちらを信用する。信用するというのは、片方だけの問題ではなく、
相手がいてはじめて成り立つものなんだ」

「難しいっす」

「拳児くんには少し難しいかもね。でも、そうやって築かれた信用は大きな力を呼ぶわ。
もちろん、裏切られてしまうこともあるけど」

「裏切りですか」

「ええ、それも仕事のリスクよ。信用した相手が裏切る。決して少ない話ではないわ」

「それじゃあ、裏切りが怖くなったりしないんですか」

「確かに。でもね、拳児くん。裏切られることを恐れていても、私たちの社会は信用なしではやって
いけないの。リスクをとるからリターンを得る。これがビジネス。リスクもなしに、
お金を稼ぐことはできないのよ」

 播磨もアルバイトをしているので、お金を稼ぐことの大変さはわかっているつもりであった。

 しかしそれは、単純な労働による成果であって、自分の持っている時間を売っただけである。

 その点詢子は違う。

 もっと経営的な立場から物事を語っている。

 もちろん、播磨が相談したかったことは商売のことではない。


429 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:40:22.081r0Rv1RGo (32/34)


 ただ、彼女の話から少しだけ見えてきたような気がした。

 リスクをとるからリターンが得られる。それがビジネスの鉄則。

 人を信用することは、裏切られるリスクを背負うことになる。

 けれども、そこから得られるリターンも大きい、と彼女は言いたいのだろう。

「今日は、ありがとうございます」

 そう言って播磨は深く頭を下げる。

「何か見つけたみたいだね。でも、こんな酔っ払いの戯言を本気にしちゃダメだよ」

「いえ、全然そんなことは」

「さて、拳児くん」

「はい」

「こっからが本題なんだけど」

「え?」

「まどかとは、どこまで行っているんだい?」

「いや、ちょっと!」

 ケタケタと、詢子の子供のような笑い声が、店中に響いた。



   つづく


430 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:41:20.791r0Rv1RGo (33/34)

大分消化したつもりだけど、まだ終わらねえ。

また続きます。


431 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/30(金) 18:42:18.751r0Rv1RGo (34/34)


 ちなみに今書いてる作品については、何もお答えできません。

 ヒントもありません。



 じゃあ、俺生徒会行くね。


432SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/30(金) 19:05:17.07UDLPfpjR0 (1/1)

結局マミさんの行動の真意は明かされるのか?
もしかして、このまま謎のまま?


433SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2011/12/31(土) 06:20:29.70nORLK8mAO (1/1)

極上生徒会か生徒会役員共とみた


434SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2011/12/31(土) 07:07:03.830sdPJsSqo (1/1)

一存をよろしく


435SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2011/12/31(土) 08:39:13.15HnlJpERxo (1/1)

しーすーまいうー


436 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/31(土) 16:38:25.92f3g4B3n7o (1/11)

今日は大晦日ですね。

ちょっと早いですが、今年最後の投下といきましょう。


437 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/31(土) 16:39:17.79f3g4B3n7o (2/11)


「本当に行くの?」

 不安そうな顔で和子が聞いてくる。

「ああ、もうきめた。俺もついていく」

「でもなんで拳児くんが。バレたら私クビになっちゃうかも」

 珍しくスーツを着込んだ和子は、口紅をつけたりしながら弱音を吐いた。

「そん時ゃ、詢子さんい雇ってもらいやいいだろうが」

「んもう、他人事だと思って」

「おい、いつまで洗面所使ってんだよ。早く使わせろ」

「まったく、女の子は準備が色々大変なのよ」

「何が“女の子”だ……」

「なんか言った?」

「イエ、ナンデモアリマセンヨ」

 播磨は棒読みでごまかす。

「そう、洗面所空いたわよ」

「おう」

 播磨はここしばらく伸ばしていた髭をすっぱりと剃り落し、トレードマークのサングラスと
カチューシャも外し、服装も普段の学ランではなくスーツ姿になっていた。

 ちなみにスーツは鹿目まどかの父、和久から借りたものだ。

 裏地には、「K.Kaname」というネームが入っている。

 これを借りるとき詢子は「拳児くんだったら、そのまま使えるじゃない」と言って笑っていた
けれども、播磨にはなぜ詢子が笑っているのか、その時は意味がわからなかった。

「あら、拳児くん。似合ってるよ。そっちのほうがいい男なのに」

 洗面所の鏡に、和子の顔が写っているのが見えた。

「うるせえ。行くぞ和子」

「待ってよ拳児くん。女の子は準備が色々」

「ああ、もういいから、早く」


438 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/31(土) 16:39:50.34f3g4B3n7o (3/11)





   魔法少女とハリマ☆ハリオ

      #19 親 子







439 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/31(土) 16:40:35.14f3g4B3n7o (4/11)



 播磨と和子の向かった先は、見滝原の中心街にあるオフィスビルの一つ。

 ここに目的の人物がいる。

「美樹さん、お客さんですよ」

 ワイシャツ姿の男性が名前を呼ぶ。

「ああ、失礼します」

 すると、スーツ姿の女性が現れる。少しくたびれた感じのその服装は、
彼女の疲労感を表しているようにも思えた。

「美樹さやかの母です」

 娘と違い、やや長めの髪の母親はそう言って名前を告げる。
目元などはさやかにそっくりだが、身にまとう雰囲気は何か違うな、
と播磨は感じた。

「お久しぶりです。担任の早乙女です」

 和子はよそ行きの声であいさつをする。

「そちらの方は」

 さやかの母は冷たい目をこちらに向ける。

「こちらは副担任の田中先生です」

 と、とっさに嘘をつく。

「田中先生は女の先生と伺っておりましたが」

「え?」

「名字は同じなんですよ。自分は田中ケンジといいます」

 慌てる和子に対し、播磨が助け船を出す。

「そ、そうなんです。あっちの田中先生はいろいろ用がありまして」

(お前ェは余計なことを言うな……!)

 播磨はボロが出ないかヒヤヒヤしながら和子の隣に座った。

 播磨は和子と同じ中学校の教師になりすまして、美樹さやかの母親の様子を見に来たのだ。


440 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/31(土) 16:41:17.78f3g4B3n7o (5/11)


 当然、こんなことがバレたら問題になるのだけれど、何とか彼女を説き伏せて
一緒に行くことができた。

「それで、今日はどんな御用で」

 さやかの母親は相変わらず冷たい瞳でこちらを見つめている。

「わざわざ職場まで訪ねてきてもらって申し訳ありませんが、
月末で仕事がたまっているので、手短にお願いいたします」

「え、……はい」

 彼女の無機質な言葉に、和子はうなずくしかないようだ。

 その後、和子は美樹さやかの学校生活や成績などについて色々と話をしていたけれど、
さやかの母親は聞いているのか聞いていないのかよくわからない態度で、正対している。

「それとあの、美樹さんが最近夜中に出歩いていると聞いておりまして」

「誰から聞いたんですか?」

「あの、クラスの子からです」

「そうですか」

「それで――」

「学校のほうで、そういうことは止めるよう言ってもらえますか」

「ですが……」

「お願いします。こちらも仕事が忙しくて、あまりあの子と話をする機会もありませんので」

「え、はい。でも、一度ご家族でゆっくり話されたほうが」

「はい、考えておきます」

「……」

 和子とさやかの母親との会話を、播磨は黙って聞いていた。

「では、これで。わざわざ会社までご足労いただきましてありがとうございます」


441 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/31(土) 16:41:54.20f3g4B3n7o (6/11)


 そう言って一礼する彼女。

 この時、今までずっと黙っていた播磨が口を開いた。

「あの」

「なんでしょう」

 職場に戻ろうとするさやかの母親は、振り返る。

「仕事、楽しいですか」

 播磨はふとそんなことを聞いてみる。

(拳児くん?)

 小声で和子が呼びかける。何のつもりなの? とでも言いたそうな顔だ。

「……ええ。まあ」

 播磨の問いかけに対し、消え入りそうな声で、彼女は言った。

「そうですか」

 母親の表情をじっと観察した播磨は、そう言って彼女の職場を後にする。




   *   



442 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/31(土) 16:42:41.74f3g4B3n7o (7/11)



 帰り際、和子は独り言のように語る。

「あまり生徒の家庭のことは言ってはいけないのだけれど、美樹さんのご両親は
離婚されて、今は彼女のお母さんが一人であの子を育てているの」

「母親はさやかのことをどう思ってるんだろうな」

「わからないわ。だって、家族の形は様々だから。

皆が皆、まどかちゃんの家みたいに幸せとは限らないの」

 播磨には子供がいない。

 だが親が子供のことを愛するのは当たり前だと思っていたので、
ああいう親子の関係はイマイチ理解できなかった。

(そういやあ、マミの両親は死んでいたんだよな)

 ふと、巴マミのことを思い出す。

(あいつも、一人なのか……?)

 そんなことを考えてみた。




   *


443 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/31(土) 16:43:12.08f3g4B3n7o (8/11)


 その日の夜。土曜日だというのに、相変わらず彼女の母親は帰ってこない。

 どうせ男の家にでも行っているのだろう。

 隠しているつもりでも、娘の彼女にはそれがわかる。

「そろそろ出るかな」

 食べかけの惣菜弁当を残し、彼女はマンションを出る。

「さやかちゃん」

 ふと、聞き覚えのある声がした。

「まどか……」

 同級生の鹿目まどかである。

「どうしたの、こんな夜遅く」

「さやかちゃん、本当に魔女を狩りに行くの?」

「そうだよ。魔女を狩らないと生きていけないからね」

「それじゃあ、私も一緒に行くよ」

「え? 危ないよ」

「さやかちゃんが一人で行くほうが危ないって。何かあっても助けが呼べないし」

「……」

 一人で戦うことの怖さは、さやかも十分承知している。

 自分の目の前で、先輩の魔法少女が殺されたのだから。

「わかった。でも、危なくなったらすぐに逃げるんだよ」

「うん」

「でも、家の人とかは大丈夫?」

「ティヒヒ、抜けてきちゃった」

「……」

 なるべく早く終わらそう。さやかはそう思った。




   *


444 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/31(土) 16:43:42.47f3g4B3n7o (9/11)



 さやかとまどかが魔女狩りに出かけてからしばらく経ったとき、

 播磨が部屋でくつろいでいると、彼の携帯に霧島刑事から電話がかかってくる。

「はい」

『播磨くんか、霧島だ』

「どうも。先日は失礼しました」

『いや、いいんだ。前に言ってた佐倉杏子の件だが』

「え、もう調べてくれたんっすか」

『ああ。警察の資料を調べていたら、その名前が見つかった』

「それで、何者なんです? 今、どうしているかわかりますか」

『ああ、結論から先に言おう。佐倉杏子は死んでいる』

「え?」

『だから、死亡していることになっているんだよ。六年前に』

「六年前……?」




   *


445 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/31(土) 16:45:15.39f3g4B3n7o (10/11)


 同時刻、見滝原市街地。
 
「やっと会えたね」

「あなた、誰?」

 さやかとまどかの目の前に、赤く長い髪を後ろで束ねたパーカー姿の少女が
彼女たちの前に立ちはだかる。

「おやおや、“先輩”に向かってその口のきき方はないんじゃない?」

「先輩? 同じ中学の人ですか?」

「学校なんて行ってねえよ。そうじゃなくて」

 そういうと、少女は手のひらの上に赤い宝石を出して見せる。

「ソウルジェム……」さやかはつぶやいた。

「そう、アタシはアンタの先輩ってことさ」

「新人には色々と教えておかなくちゃならないことがあるからね。
どうせあの白い生物は肝心なことは何も言っていないだろうから」

「教えておくこと?」

「さやかちゃん……」まどかが不安そうに寄り添う。

「まどか、ちょっと下がっていて。何か嫌な予感がする」

「う、うん」

 そう言われ、まどかはさやかから離れる。

「ほう、いい判断だ」

 赤髪の少女はそう言って目を細める。

「それで、何を教えてくれるの?」

「とりあえず、“魔法少女の現実”ってやつかな」

「え?」

 一瞬の出来事。

 赤い髪の少女はいつの間にか手に長い槍を持つと、

それをさやかの胸に突き刺した。

「かはっ……!」

 その槍は身体を突き抜けるほど、深く深く突き刺さっている。




   つづく



446 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/31(土) 16:47:01.79f3g4B3n7o (11/11)

眠い!

物語も終盤に差し掛かってまいりましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。

筆者は今日も次作を書いてました。詳細については来年。


では、良いお年を。


447SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2011/12/31(土) 17:51:12.657bigDXx6o (1/1)

よいお年をォオオオオオ!!!!


448SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2011/12/31(土) 18:45:51.42WUgYQLQeo (1/1)



良いお年を


449SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2011/12/31(土) 19:17:01.39S4/Q0mJAO (1/1)

乙ゥ
よいお年をー


450SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2011/12/31(土) 19:38:07.72VFwXTKoAO (1/1)

まさか大晦日にこんな良スレを見つけるとは思わなんだ

良いお年を


451 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:26:01.86+2IXjtNko (1/13)

あけましておめでとうございます! 

今年は初めての投下となります。

今年もハリマスレをよろしくお願い申し上げます。


452 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:27:00.66+2IXjtNko (2/13)


「それって、どういうことですか?」

 夜の部屋の中で播磨が受話器に向かって聞く。

『正確に言うと、佐倉杏子は六年前に死んだ少女の名前だ』

「……」

『俺がこの街に着任する以前の話なので、詳しいことはよくわからないのだが」

「はあ」

『六年前、この街にある新興宗教の教会の一つが火事で焼失した。

出火原因はよくわかっていないのだが、精神に異常をきたした

その教会の教祖が自ら火を放った、というのが有力な説だ』

「火事か……」

『焼け跡からその教会に住んでいたと見られる家族の遺体が見つかった』

「それが、佐倉杏子の家族と……」

『そういうこと。佐倉杏子はすでに死んでいる。彼女に一体何があるんだ?』

 しかし、播磨は霧島の質問に直接は答えなかった。

「……本当にそうなんですか?」

『どういうことだ?』
 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「本当に佐倉杏子は死んだんですか?」

『ああ、資料では死亡が認定されている』

 霧島との電話での会話を終えた後、播磨はベッドの上に寝転がった。

 ぼんやりと天井を見つめ、少し考える。

(佐倉杏子は死んでいる)

 暗がりの中であった赤い髪の少女の顔を思い出す。

(じゃあ、俺が会ったあの少女は一体なんなんだ?)




453 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:27:27.96+2IXjtNko (3/13)







   魔法少女とハリマ☆ハリオ

     #20  家










454 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:28:13.46+2IXjtNko (4/13)



 赤髪の少女は、さやかの胸に突き刺さった槍を引き抜く。

「ガハッ」

 その反動でさやかは石畳の上に膝をついた。
 
「さやかちゃん」

「おっと、そこの小さいの。出てくるんじゃねえよ!」

 少女のその言葉に、まどかの動きが止まる。

「安心しな。そう簡単に死にはしねえよ。“アタシたち”はね」

「あたしたち……?」

 少女のその言葉にまどかははっと気が付く。

「アンタも知っているようだね。おっと、新人(ルーキー)。いつまでもうずくまってるんじゃないよ。
                 、、、、、、、、、
ちゃっちゃと気合入れなきゃ本当に死ぬよ」

「……ゴボッ。ゲホッ、ゲホッ」

 さやかの口から大量の赤黒い血が固まりとなって出てくる。

「さやかちゃん!」

 だが次の瞬間、

「え?」

 さやかの全身が青い光に包まれる。

「来たか」

 赤髪の少女は小さくつぶやく。

 さやかは、見滝原の制服姿から青を基調とした魔法少女の姿へと変身した。


455 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:30:27.42+2IXjtNko (5/13)


「はあ、はあ、はあ……」

 肩で息をしながらも、彼女はヨロヨロと立ち上がる。

「ほう、やはり回復力は高いね」 

「いきなりなんてことを……」

 胸のあたりを押さえながらさやかが言った。

「まだわからないか? アタシは魔法少女の現実を教えてやるって言ったんだ」

「お前も、魔法少女……」

「ああそうだ。なあアンタ。今、心臓を突き刺されたよな」

「ん……!」

「ふつう、心臓を突き刺されたら死ぬよな」

「……」
 
「だが生きている」

 いくら治癒がなされるといっても、心臓を突き刺されば普通即死だ。

「でも生きている。この意味がわかるか?」

「それは」

「まだわかんねえか? だったら今度はその使えねえ脳みそを突き刺してやろるぞ」

「なんでこんなことを」

「教えてやってるんだよ。むしろ親切だぞ。どうせあの白いのは肝心なことを
言わないんだからな」

「キュゥベェが?」

「一つ言っておくよ新人(ルーキー)」

「……」


456 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:31:24.67+2IXjtNko (6/13)


                         、、、、、、、、、、、、、、、
「アタシたしはもう、普通の人間じゃない。生きてなんていないんだ」

 赤い髪の少女の言葉に、さやかもまどかも言葉を失った。




   *



 翌日、播磨は市内の図書館で新聞の縮刷版を調べていた。

 学校の図書室では六年前の記事は探せないからだ。

「これか……」

 六年前の新聞に、見滝原市内で起こった火災の記事が掲載されていた。

[ 焼け跡から三人の遺体を発見、14歳になる娘一人が行方不明 ] 

「行方不明?」

 そして十四歳。

 中学二年生くらいの年齢。

(まどかと同じくらいか……)

 播磨の脳裡に、佐倉杏子と名乗る少女の姿がよみがえる。

 確か、中学生くらいの背格好をしていたな。

 しかし、そうなるとこの当時十四歳だから、今は二十歳ということになるのだが。

(くそっ、わからん)

 それ以上考えてもらちが明かないと思った彼は、別のものを調べることにする。


457 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:31:55.69+2IXjtNko (7/13)


 播磨はその後、図書館内にある情報端末から火災があった場所の位置を調べ、
それをメモ帳に書き入れた。

 ちょうど、場所を調べ終わったその時、

 不意に携帯電話が鳴る。

「なっ」

 周囲の人間が一斉にこちらを向く。

「ス、スンマセン」

 そう言って播磨は図書館の外に出た。

 どうやら鹿目まどかからのメールのようだ。



   *


 駅前のショッピングモール。

 まどかたちと行ったことのあるカフェテリアに向かうと、そこには鹿目まどかともう一人、
暁美ほむらが待っていた。

「お前ェたち、どうしたんだ」

「実は……」

 播磨が聞くと、まどかはうつむく。

「あの、美樹さやかさんのことなんです」

 そう言ったのは彼女の隣に座る暁美ほむらだった。

「ふむ……」


458 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:32:34.37+2IXjtNko (8/13)


 播磨はコーヒーは席に座り、コーヒーを注文した。

 二人とも表情は暗い。

「お前ェら。美樹が魔法少女になったことは知ってるみてェだな」

「……はい」

 まどかはうなずく。

「しかし、まどかはともかく、なんで暁美まで知ってるんだ?」

「それは、実はこの前」

 ほむらは、以前塾の帰りに美樹さやかに助けられたことがある、という話をした。

「美樹さんには秘密にするよう言われていたんですけど、なんだかここ最近彼女の
様子が変で」

「変ってのは?」

「なんだか元気がないというか、上の空というか」

「……」

 播磨は普段の美樹さやかの様子をあまりよく知らないので、あまり上手く想像できなかった。

「それで、鹿目さんに相談したんです」

「そうか」

 そう言って播磨はまどかのほうを見る。

「まどか、どうした」

 彼女は俯いたままだ。

「ねえ、播磨くん」

「ん?」


459 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:33:12.72+2IXjtNko (9/13)


「魔法少女って、何者なの?」

「それを、俺に聞かれても」

「昨日、さやかちゃんと一緒に赤い髪の毛の女の子に会ったの」

「なに? そいつはどんな感じだ」

「どんなって、髪が長くて、それを後ろで束ねてて。あと、パーカーとショートパンツを
はいていたと思う。それから……」

 まどかの話を聞く限り、その人物は佐倉杏子で間違いないだろう。

「もういい。そいつには、心当たりがある」

「本当に?」

「ああ。で、そいつがなんだって」
          、、、、、、、、、、、、、
「魔法少女は、生きていないんだって」

「……あいつ、そんなことを」

「ねえ、拳児くん」

「ん……」

「さやかちゃん、どうなっちゃうの?」

 まどかの目元が涙ぐんでいる。

「まどか……」

「あの、私からもお願いします。美樹さんには、助けてもらったご恩がありますので」

 ほむらもそう言って頼む。

 播磨は少し考える。

(俺に何ができる?)


460 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:33:39.09+2IXjtNko (10/13)


 だが何もしないという選択肢は彼にはなかった。

「よし。わかった」

「?」

「今、ちょっと調べものをしていてな。それで何かわかるかもしれねェ」

「拳児くん」

「播磨さん」

「ちょっとこれから行くところがあるんだ。悪いが、話はその後で――」

 播磨がそう言いかけた瞬間、

「私も行く!」

 まどかが立ち上がった。

「私も、連れて行ってください!」

 暁美も、強い口調でそう言う。

 二人の語気があまりにも強かったため、店にいるほかの客や店員がこちらに注目した。

「あ、お前ェら。ちょっと」

「お願い、拳児くん」

 まどかの強い言葉と瞳に、彼は根負けしてしまった。




   *


461 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:34:13.09+2IXjtNko (11/13)


 播磨たちは、見滝原郊外にあるとある道を歩いている。

 夏も近いので、大分日が長くなってはいるけれども、あまり遅くまで女子中学生を
連れまわすのはまずい、と思った彼は早いところ用事を済ませようと思った。

 途中、まどかから、昨夜起こったことの話を詳しく聞くことができた。

 佐倉杏子が美樹さやかの胸を槍で突き刺したこと。

 そして、さやかはそれにも拘わらず無事であったこと。

「それで、拳児くんが今から行くところっていうのは」

「ああ、その佐倉杏子に関係のある場所だ」

「うう……」

 暁美ほむらは怯えている。

「暁美」

 そんな彼女に播磨は声をかける。

「はひっ!」

「怖いんだったら、帰ってもいいんだぞ」

「いいえ、そんな。私、好きでついてきてるんですから」

 しばらく歩いていると、大きな教会に到着した。

 いや、正確にいうと教会だった場所だ。

 六年経っているはずなのに、その場所は更地になっておらず、建物の基礎がわずかに
残っていた。

「拳児くん。この場所は……」

 恐る恐るまどかが聞く。

「佐倉杏子の家だ」



462 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:35:15.43+2IXjtNko (12/13)


「家……」

「正確には、家だった場所なんだがな」

 そんなことを言いながら彼は敷地内に足を踏み入れた。

 その時、

「不法家宅侵入だぞ」

 不意に、どこからか声が聞こえてきた。

「な?」

 声のした方向を見ると、いつの間にかそこにパーカー姿の少女がいたのだ。

「佐倉杏子か」

「おお? 覚えていてくれたんだな、ハリマ。おや、そのちっこいのは、昨日の」

 そう言って、杏子はまどかに視線を向ける。

「……!」

 その視線にまどかは身構えた。

「お前ェ……」

 播磨はもう一度夕日に照らされた佐倉杏子を観察する。

 あの時は夜で、よく見えなかったけれど、今なら。

「拳児くん……」

 まどかの不安そうな声が聞こえてきた。

「大丈夫」

 播磨は小さくつぶやく。

「佐倉杏子」

「なんだ?」

「お前ェ、本当に佐倉杏子か?」

「はあ? 何言ってんだ」

 播磨が見る限り、その顔や体つきは十代の、それも中学生くらいのものにしか
見えなかった。




   つづく



463 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/01(日) 18:38:49.27+2IXjtNko (13/13)

 さて、ハリまども残すところあと5話となりました。

 はたしてこのペースで伏線をすべて回収できるんでしょうか。

 そして佐倉杏子とはいったい何者なのか。

 次回作の詳細も含め、また後日お会いしましょう。

 それでは、今年こそ良い一年でありますように(自分に言い聞かせる)。


464SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2012/01/01(日) 19:37:16.426aCw8DNAO (1/1)

ハリまどの魔法少女は成長できないのか……?
でもマミさんはちゃんと成長してたし……
てかここの杏子一家は全体的に時間が前倒しになってるのか?

そしてマミさんの誘惑がどういう思惑だったのか作中で明かされる機会はあるのか


465SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2012/01/01(日) 19:44:42.61nQwSbRbAO (1/1)

乙 謎が多いぜ


466SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2012/01/01(日) 22:18:11.66wjvlBsnYo (1/1)



あと5話・・・だと・・・!


467SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2012/01/01(日) 23:51:46.02pCTFMIE3o (1/1)

乙 果たしてほむループはあるのか…?!


468 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:13:45.20pJ/bogyUo (1/15)

今日は所用があるので早めに投下しておきます。

なお、投下の後には新年のお年玉プレゼント、はないですが、お知らせもありますよ。


469 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:15:20.59pJ/bogyUo (2/15)


 夕日に染まる教会跡地。

 その敷地内で佐倉杏子と播磨拳児が正対する。

 播磨の後ろには、鹿目まどかと暁美ほむらが、彼の影に隠れるように立っていた。

「お前ェ、“本当に”佐倉杏子か?」

 播磨は確かめるように語りかける。

「アタシはアタシだよ。でも厳密には、アタシじゃあないかもしれない」

「佐倉杏子は、死んだと聞いたが」

「そうだな。確かに死んだ」

「……!」

 播磨の疑問に、杏子はサラリと答える。

「じゃあお前ェは」

「アタシも佐倉杏子だよ。ほかに名前がないんでね。そう名乗ってる」

「どういう意味だ」

「もうわかってんだろう? アタシはもう、人間じゃないんだよ」

「……魔法少女」

「そう。魔法少女は人間じゃない。まあ、この身体はゾンビみたいなものかな」

「ゾンビ……?」

「ああそうさ。ゾンビだよ。そこのちっこいのにも言ったけど、魔法少女にとっての肉体は、
道具でしかないんだよ。“こいつ”と同じようにね」

 そう言うと杏子は、一瞬のうちに長い槍を取り出す。

「もうすぐ日が暮れる。そしたらアタシは狩りに出なきゃならない。アンタらはさっさと帰りな。
さもないと、安全は保障しないぜ。特に後ろの小さいのとメガネは、“引き付けやすい”体質
みたいだしね」

「狩りって、魔女のことか」
                  、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「そうさ。魔女を狩らないと、ウチらは存在していられないから」

「おい、どういうことだ」

「じゃあの」

 次の瞬間、佐倉杏子は高く飛び上がる。

 人間のものとは思えない跳躍力で、いつの間にか近くの木の上に上り、それから別の気に飛び移っていた。

「……」

「は、はりまさん」

「拳児くん」

 ほむらとまどかの二人は不安だからなのか、しばらく播磨の服の袖をつかんで離さなかった。


470 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:15:46.48pJ/bogyUo (3/15)







   魔法少女とハリマ☆ハリオ

      #21 生 存









471 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:16:37.56pJ/bogyUo (4/15)



 ほむらとまどかを送り、家に帰った播磨は、そのままバイトには行かず街に出た。

 夜の街は驚くほど静かだ。

 目的は美樹さやか、もしくは佐倉杏子のどちらか。

 この街にいることは間違いないのだが、探そうと思った時に限って見つからないのが
世の常である。

 コンビニ前でたむろしている若者やホームレスなどに、行方を聞いてみたが結局わからなかった。

 その後、二時間近く歩き回った播磨は疲れ果てて、公園のベンチに腰掛ける。

「ぐわあ」

 昼間も昼間で、色々と調べものをしたり、杏子がかつて住んでいた教会に行ってみたりしたので
今日だけでも何キロ歩いたかわからない。

 痛くなってきた脚をマッサージしながら外灯に照らされる暗い公園を眺める。

(確か、巴マミと会ったときは、何か光ったような……)

 そんなことを考えていると、急に遠くから光が見えた気がした。

(近い!)

 播磨は立ち上がる。

 諦めて家に帰ろうかとも思った彼だが、もう一度残った体力を振り絞って走り出す。

 そして、

「美樹か」

 当たりだ。

 歩道橋の上で美樹さやかに出会う。

「播磨さん?」



472 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:17:27.89pJ/bogyUo (5/15)


 さやかも播磨の姿を認識したようだ。

 そして逃げようとする。

 魔法少女になったせいか、美樹さやかの身体能力は異常に強化されているので
追いかけても間に合わない。

 そう思った播磨は思わず彼女の腕をつかむ。

「ひゃっ」

 驚いたさやかが腕を振りほどこうとする。

 以前はこれで彼女の驚異的な力で播磨は投げ飛ばされてしまった。

(今度はそうは行くか)

 そう思った彼は一気にさやかの体を引き寄せる。

「あ……」

 図らずも、彼女を抱きしめるような形になってしまった播磨。

 彼の目の前には、美樹さやかの顔があった。

 かすかにミントの香りがする。

「は、播磨さん。今、あたしが大声を出したら警察に捕まるよ」

 さやかはやや顔を紅潮させながらヒソヒソ声で言う。

「お前ェはそんなことは言わねェだろう」

「どうしてさ」

「警察を呼べば、親も呼ばれる。そうなったらやべェんじゃねェのか?」

「そこまでは考えてなかった」

「……美樹、話を聞け」

「……放して、播磨さん。あたし、強引にされるのは慣れてないから」

「ああ……」

 播磨は、ゆっくりと手の力を緩める。

 もしこの手を放したら、また彼女が逃げてしまうのではないか、とは考えなかった。





   * 




473 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:18:06.75pJ/bogyUo (6/15)



 
 再び公園のベンチ。

 かつて巴マミと並んで座ったように、播磨とさやかは一つのベンチの両端に腰を下ろす。

「お前ェ、何してたんだ?」

「魔女狩り……」

「狩ったのか」

「全然」

 そう言ってさやかはゆっくり首を左右に振る。

「魔女と戦うのは、危険なんだろう?」

「うん」

「じゃあなんでそんなことをするんだ?」

「しなきゃいけないのよ。それが魔法少女の義務だから」

「どうして」

「これ、ちょっと見て」

「ん?」

 そう言うと、さやかは手を広げる。

 すると、彼女の手のひらの上に青い光を放つ宝石のようなものがあらわれた。

「これは……」

「ソウルジェム。これが今のあたしの“本当の体”」

「なに?」


474 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:18:59.66pJ/bogyUo (7/15)


「あたしの魂は、このソウルジェムの中にあるの。だから、さっきあなたが抱いたあたしの体は、
人が乗る車みたいなもの」

「それは……」

 播磨はふと、夕方に会った佐倉杏子のことを思い出す。

 彼女は、魔法少女の身体のことを「ゾンビみたいなもの」と呼んでいた。

「見て、播磨さん」

「……」

「このソウルジェム、少し光が濁っているでしょう?」

「そうか?」

「うん。魔力を消費するとこの中に“穢れ”が溜まるの。そうすると、あたしらは生きていけない。
いや、最初から死んでるようなものだから、この言い方は適当じゃないか」

「穢れが溜まったら、どうなるんだ?」 

「わからない……」

「……」

「でも、ただじゃすまないと思う」

「どういうことだ」

「最近ね、なんかとても人が憎いの。憎しみとか妬みとか、自分の中にある醜い心がどんどん
大きくなっていく気がする」

「……」

「誰が悪いってわけでもないのに。あたしが自分で決めたことなのに。なんか、憎い」

「美樹」



475 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:19:35.59pJ/bogyUo (8/15)


「憎い憎い憎い」

「落ち着けよ」

「もうあたしに構わないで!」

 急に大声を出したさやかは不意に立ち上がる。

「おい」

 播磨はなだめようとするも、間に合わない。

「ごめん、播磨さん……! あたしのこと、心配してくれてたのに」

 暗くてよく見えなかったが、さやかの頬には微かに涙が伝ったような気がした。

「待てよ」

「ごめん」

 そういうと、さやかは走り出す。

 止めようとしても無駄であることは、播磨自身がよくわかっていた。 


 

   *


476 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:20:05.83pJ/bogyUo (9/15)



 数日後、学校が休みの日に彼は一人で外をぶらつく。

 その日は晴れていたので日差しが眩しい。

 ふと、たこ焼きの美味しそうな匂いが漂ってくる。

「たこ焼きか……」

 最近食べていないことを思い出した播磨は、ちょっと買ってみようかと思った。

 その時、

 ドンと、何かにぶつかった感触がする。

 ふと、視線を落とすとそこには見覚えのある長い髪。

「お前ェ……」

「お、ハリマか」

 パーカー姿の佐倉杏子であった。



   *



477 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:20:46.45pJ/bogyUo (10/15)



「はむ。ハフアフアフ」

 熱々のたこ焼きを口の中に放り込む杏子。

「誰もとりゃしねェよ」

 杏子に対し話がしたいと言った播磨は、なぜかたこ焼きをおごらされる羽目になってしまった。

 いつもの公園のベンチで二人並んでたこ焼きを頬張る。

 しかし、初夏を感じさせる日差しの中で食べるたこ焼きというのもなかなかのものだと彼は思った。

「うめえな、このたこ焼き」

「ああ……」

 ちなみに杏子の食べ物をおごったのはこれで二回目である。

「んで、話ってなんだよ。金ならねえぞ」

「俺から食べ物たかってるお前ェに、金なんて期待してねェ」

「だったらアタシの身体が目的か? 意外と見境ないんだな」

「違ェよ!」

「まあまあ、そんな怒るな。はむっ」

 そう言って、もう一つたこ焼きを食べる杏子。

 実に美味そうだ。

 そう思った播磨も、自分のたこ焼きを食べた。

 熱々の中に、ぷりぷりのタコ。しかも柔らかい。安い、ゴムみたいなタコとは違う、
良い食材を使っているのだろうと思った。

「オカカカケヨウゼー」




478 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:21:21.63pJ/bogyUo (11/15)


「もうかかってんだろう」

「冗談だよ」

「……」

「……」

 しばらく無言のまま、二人はたこ焼きを食べる。

「はあ、ウマかった。で、話ってなんだ。また魔法少女の話か?」

「いや、まあ。それもあるんだが」

「なんだよ」

「お前ェ、六年間ほどこの街から離れてたんだよな」

「そうだな」

「その間、何やってたんだ?」

「何って、魔法少女に決まってんだろう。別の場所で魔女狩ってた」

「泊まるとことかは?」

「んなもんテキトーだよ。ホテルに泊まったり、スーツ着た鼻のデカイオッサンの家に
泊めてもらったり」

「なんかまるで……」

「ホームレスみたいだろう? まあ、実際そうなんだよな。家、焼けちまったし」

「……」

「なんだよ」

「なあ、佐倉」



479 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:22:00.51pJ/bogyUo (12/15)


「あん?」

「魔法少女が、元に戻る方法って、ねェのか?」

「は? 何言ってんだよ」

「だから、魔法少女から元の少女に戻る方法だ」

「……んなもん」

「あ?」

「んなもんねーよ」

「オメー、六年もやってりゃ、なんか知ることもあるだろう」

「知らねえな。アタシは特に戻りたいとも思ってなかったし」

「どうして」

「どうしてって、決まってんだろう。アタシはもう死んでるんだぞ」

「それは……」

「もとに戻るってことは、復活するってことだろう? キリストさまでもあるまいし、そんなこと」

「それができるのが、魔法少女なんじゃないのか」

「そりゃ、なる前の話。なってからは違う。ひたすら魔女という名の化け物相手に戦うだけさ」

「戦うだけ」

「魔法少女に希望なんてない」

「……」

「なあ、ハリマ」

「あん?」


480 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:22:59.50pJ/bogyUo (13/15)


「魔法少女の“成れの果て”を知ってるか?」

「どういうことだ?」

「早い話、ウチらが“死んだら”どうなるかって話さ」

「いや、わからん……。だが、あまりいい感じではねェだろうな」

「っふ、わかってるじゃねえか。それが因果律を捻じ曲げる“報い”ってやつなんだろうな」

「報い?」

「無理を通せば、当然その反動が出る。その報いは、直接本人に向かってくるのさ」

「……」

 播磨は、数日前に見た美樹さやかの表情を思い出す。

「あの白いやつは、そういう理屈のわからねえ頭の悪い少女たちを狙って、契約を迫る」

「白いやつってのは、その」

「ああ、キュゥベェとか名乗ってる白い生物さ。知らねえ?」

「チラッと見たことはある。たぶん、あのウサギみたいなのがそのキュゥベェなんだろう」

「ま、大事な奴を守りたいなら、魔法少女にはさせねえことだな。とはいえ、あの短い髪の女はもう、
手遅れだろうけど」

「美樹のことか」

「ミキ? あいつの名前か?」

「美樹さやか。魔法少女になったばかりの女だ。お前ェ、会ったことあるよな」

「ああ、あの新人(ルーキー)ね。アイツはもう長くねえよ」

「わかるのか」



481 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:24:29.68pJ/bogyUo (14/15)


「ああ。たくさん魔法少女を見てきたが、あのタイプの寿命は短い」

「あのタイプって、どのタイプだよ」

「人のために何かしようっていうタイプ。マミのような自己陶酔型ならともかく、
美樹さやかだっけ? ああいうのはすぐに崩壊しちまう」

「マミって、巴マミか」

「そうだよ。アイツ必殺技の名前とか口にするんだぜ。ヒヒヒ」

 必殺技に名前を付けることは、播磨もやったことがある。

 若さゆえの過ちというものだ。

「そうだな……」

 しかし、そんな過去の恥ずかしい思い出は胸の奥にしまって、そのまま話を続けた。

「だろ? まあそれはともかく、人のためっていう動機じゃ長続きしねえ」

「それほど悪い動機じゃねェと思うが」

「他人のため、っていうのは本質的に“誰かから必要とされたい”とか“誰かに評価されたい”って
心理の現れなんだよ。それがないと、辛くなっちまう」

「お前ェはどうなんだよ」

「アタシ? アタシは、人間に対して期待なんかしてないよ」

「……」

「人のためじゃなくて自分のため。ただそれだけで続けてきた」

「お前ェ、それって……」

「じゃあな、ハリマ」

「おい」

「おりゃ!」

 杏子はたこ焼きの入っていた容器をヒョイと投げる。するとそれは、見事にクズ籠の中に
飛び込んでいった。

(自分のためだけに生きる……)

 それはそれで、辛いものがあるんじゃないか、と播磨は言おうとしたが、
すでに杏子の姿は見えなくなっていた。



   つづく



482 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/02(月) 16:34:12.41pJ/bogyUo (15/15)

   ☆ 姉妹スレのお知らせ ☆

 明日、1月3日(火)の夜。新作のために姉妹スレを立てようと思います。

 本来であれば、このスレを終わらせてから立てるべきなのですが、

私生活(リアル)の事情がありまして、早めに投下しておかなければなりませぬ。

 なお、新作の内容は見てのお楽しみということで、当スレともどもよろしくお願いいたします。 


483SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2012/01/02(月) 17:19:47.980D/IQwbjo (1/1)



了解した、楽しみにしてるよ


484SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2012/01/02(月) 19:34:17.62SFGimAXWo (1/1)

乙。
年末スペシャルのヤツか完全新作か今から楽しみですww
そういや播磨も必殺技持ってたな。確かハリケーンキックとかいった気が…。


485SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2012/01/02(月) 22:43:42.56eGshspuyo (1/1)

播拳龍襲!!


486 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/03(火) 20:55:16.20c4huLTh3o (1/1)

 昨夜は午前四時まで飲んでたのに、一気に投下するのはキツかった。

 はりまども、あともう少し続くので姉妹スレ共々よろしくお願いします。

 はりおん! スレはこちら
   ↓
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1325588400/


487以下、あけまして2012/01/03(火) 22:38:23.50XhLE1INH0 (1/1)

あ、こっちでちゃんと言ってたんだ

ごめん見てなかった

向こうの>>47です


488以下、あけまして2012/01/04(水) 01:06:53.21WfLvJiTdo (1/1)

ほろ苦いハッピーエンドよりみんな笑顔のハッピーエンドを見たい
魔法少女に幸せあれ


489 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:48:21.06AxuxTz+Ao (1/18)


 もうすぐ夏だというのにその日はやけに日暮れが早く感じた。

 それはおそらく、空を覆う分厚い雲のせいだろう。

 夕食を食べ終えた播磨は、再び外出の準備をする。

「今日もバイトなの? 拳児くん」

 テレビを見ながら和子が聞いてくる。

「ああ……」

 播磨は短く答えた。

 この日、というかここ最近彼はアルバイトに行っていない。

 その代わり、夜の街で美樹さやかをさがしていたのだ。

 少し前は、姿を見つけて話をすることもできたさやか。しかし、ここ数日は姿すら見せない。

 玄関を出て、エレベーターに乗ったところで彼の携帯電話に着信があった。

『もしもし、拳児くん?』

「ああ、まどかか」

 鹿目まどかからだ。

『さやかちゃん、今日も出てるみたい』

「わかってる」

『一昨日から学校にも来てないの』

「ん……」

 魔法少女としての寿命がもう長くない、と言った佐倉杏子の言葉が思い出される。


490 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:48:46.93AxuxTz+Ao (2/18)


『すごく不安だから』

「大丈夫だ。俺が見つける……」

 そうこうしているうちに、エレベーターが一階に到着した。

 播磨は早足でマンションを出る。

『ねえ、拳児くん』

「あん?」

『私も、一緒に行っていい?』

「危険だ。夜は出歩くなって、詢子さんいも言われてるだろう」

『でも、なんか不安なんだ。胸騒ぎがするっていうか……、上手く言えないんだけど』

「まどか……」

『お願い! お願いします』

「……わあったよ。だが無理はすんなよ」

『ありがとう、拳児くん』



491 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:49:09.89AxuxTz+Ao (3/18)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ

     #22   雨







492 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:50:07.62AxuxTz+Ao (4/18)



 正直なところ、播磨もさやかを見つけた後どうすればいいのかわからなかった。

 魔法少女に救いはない。

 おそらく佐倉杏子の言葉に嘘はないだろう。

 だがしかし、このまま美樹さやかが最悪の結末を迎えることを黙ってみているわけにはいかなかった。

 何よりまどかのためにも。

「お待たせ、拳児くん」

 少し息を弾ませたまどかが駆け寄ってくる。

「おい、本当に大丈夫なのか?」

「うん。平気。それより、早く行こう」

「ああ……」

 ここ数日、街中を歩き回ったせいですっかり中心部の地理を知り尽くしてしまった。

「あ、先輩チーッス」

「おう……」

 コンビニ前を通りかかると金髪に革ジャンの中学生が声をかけてきた。そのすぐそばには、
茶髪の男がしゃがみこんでタバコを吸っている。

「拳児くん、知り合い?」

 隣のまどかが聞いてきた。

「まあな……」

 ここ数日、さやかの足取りをこの街に住む色々な人間に聞いて回ったので、
妙に顔見知りが増えてしまったのだ。


493 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:50:48.37AxuxTz+Ao (5/18)


「あらケンちゃん。今日はおデート?」

 水商売風の女が声をかけてくる。

「違うっての」

「若い子はダメよ。犯罪よ」

「だから違うっつってんだろう」

「今度お姉さんの店にいらっしゃい」

「行かねェよ」

「もう、つれないわねえ」

 今度は怪しげなシルバーアクセサリーを売っている外国人と目が合う。

「オー、ハリー。元気シテタカ」

 陽気を絵に描いたようなマッチョな黒人だ。名前はジャックとか名乗っていたけれど、
恐らく偽名だろう。

「おいジャック。ハリーはやめろハリーは」

「髪短イコ、見ツカッタカ?」

「まだだ」

「ソウカ。ソコノ娘ハユーノフィアンセ?」

「ふえ? フィアンセ?」

 ジャックの言葉にまどかが驚く。

「違う。知り合いの娘だ」

「オー、ソウナノカ。ツカ、コンナ可愛イ娘ガイルノニ、他ノ女ヲ探ストカ、訳ガ分カラナイヨ」



494 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:51:31.21AxuxTz+Ao (6/18)


「そんな、かわいいとか……」まどかはそう言って顔を押さえる。

「こいつの言うことは一々気にするな。口から生まれてきたようなやつだ」

「ソンナ、酷イヨハリマサン」

「お前ェ、ちゃんと播磨って言えるじゃねェか」

「HAHAHAHAHA」

「行くぞまどか」

「あ、うん」

 繁華街には一癖も二癖もあるような連中が多くいるので、あまり教育上よくないと思い、
できるだけまどかは連れてきたくはなかった。

 そしてまた、しばらく歩いていると、彼の携帯電話に別の着信が入る。

 ディスプレイに表示された発信者の名前を確認して、少し緊張する播磨。

「もしもし」 

『播磨くんか。霧島だ』

 見滝原警察署の霧島刑事だった。

「霧島さん。ご無沙汰してます」

『挨拶はいい。それより、美樹さやかの件だが』

「あ、はい。何かありましたか」

『見滝原こども公園の近くで、目撃したという情報が入った』

「本当ですか? その、見滝原こども公園ってのは」

『マヒル食品工場のすぐ近くにある公園だ。結構大きいぞ』



495 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:52:22.42AxuxTz+Ao (7/18)


「しまったな。そっちのほうは逆だ」

『今どこにいる』

「中央駅すぐ近くの繁華街っす」

『そうか。部下が近くにいる。そいつに送らせよう』

「でも霧島さん。そんなことをしたら」

『この街の平和を望んでるのは、キミたちだけじゃないってことさ』

「霧島さん」

 播磨は、警察車両に乗ってさやかが目撃されたという見滝原こども公園の方角へ
向かった。

 中学時代に喧嘩をしてパトカーに乗せられて以来の警察車両である。

 運転している警察官二人は気を使って、特に何も聞かずに播磨とまどかの二人を
乗せてくれた。

「本当にありがとうございます」

 播磨は慣れない敬語で精いっぱいの礼を述べる。

「ありがとうございます」

 それに合わせるように、まどかも頭を下げた。

「気にしなくていい。霧島先輩には世話になってるからね」

「はあ」

「この街の奇妙な事件も、早くなくなるといいな」

 警官の一人はそういうと、すぐに車を発進させた。

「拳児くん」

 警察車両を見送った直後、まどかは播磨の袖を引っ張る。


496 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:53:30.90AxuxTz+Ao (8/18)


「どうした。まどか」

「さやかちゃん、近くにいるよ」

「なに? 見えたのか?」

「ううん、見えないよ。でもわかるの。私には」

「まどか」

「こっち!」

「お、オウ」

 まどかに引っ張られるようにして、播磨は公園の奥へと入って行った。

 見滝原こども公園は、いつも播磨が利用している公園ほど大きくはなかったけれど、
木々が多く、外灯が少ないためか、一層暗く見えた。

(不気味な雰囲気だ)

 播磨がそう感じたのは、暗さだけが原因でもないようだ。

 公園の中央には、開けた場所がある。

 ボール遊びなどができる場所だろうか。

 柔らかい芝生の上に足を踏み入れると、その中央に二つの影が見えた。

「おお、遅かったじゃねえか」

 そう言ったのは、片一方の影。

「……」

 もう一つの影は、何も言わず動かない。まるでマネキンか案山子のようだ。

「あれ、が……」


497 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:54:05.47AxuxTz+Ao (9/18)


 播磨は目を凝らす。

「さやかちゃん」と、まどかは言った。

 間違いない。

 公園の中央広場にいるのは、美樹さやかと佐倉杏子の二人だ。

「お、今日はちっこいのも一緒か。鹿目まどかとか言ったな」

「あなたは」

「佐倉杏子だ。もっとも、今更覚えても仕方ねえけどな」

「おい佐倉、何をやってるんだ?」

 播磨はまどかをおしのけるようにして前に出る。

「何って、もうすぐ時間がくるから、その舞台設定ってところかな」

「時間って」

「ハリマ、悪いけど」

 次の瞬間、ものすごい速さで杏子は播磨との距離を詰める。

「な!」

 播磨の目の前には、杏子の顔があった。

「悪いなハリマ。これからはガールズトークの時間だ。少し、眠っててくれねえか」

 そう言うと、杏子は播磨の首筋に手を回し、思いっきり口づけをした。

「!?」

 柔らかい感触が唇を通じて脳に伝わる。

 そして、播磨の意識はまるで、夜の海のような暗く深い場所へと落ちて行った。




   *


498 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:55:30.02AxuxTz+Ao (10/18)


「はわわわわ! は、拳児くん!」

 まどかは、播磨が他の異性に口づけされたことと、彼がその場に膝をついて倒れこんだことが
続けざまに起こってしまったため混乱した。

 しかもすぐ近くには、今まで探していた親友の美樹さやかがいるのだ。

「だ、大丈夫?」

 芝生の上に倒れこんだ播磨を助け起こす。

「心配ねえ。ちょっと眠ってもらっただけだ」

「何してるんですか!」

 まどかは杏子をキッと睨み付ける。

「別に他意はねえさ。ちょっとこの男は“アタシら”の魔法が効きづらい体質みたいだから、
直接魔力を流し込んだ。別にこいつが好きってわけじゃないから安心しな」

「そ、そんな」

「すぐに目を覚ます。その前に、やんなきゃいけないことがあるだろう? 鹿目まどか」

 そう言って杏子が向けた視線の先には、美樹さやかの影があった。

「さやかちゃん……」

 倒れた播磨を抱きかかえたまま、まどかはつぶやく。

 少しずつ暗闇に目が慣れてくると、それが人違いでもなんでもなく、正真正銘の美樹さやか
であることが嫌でもわかってくる。

 少しくたびれた見滝原の制服に身を包んだ彼女は、まるでマネキンのように無表情で、
少しも動かなかった。

「さやかちゃん!」

 まどかは叫ぶ。その声は暗闇の中、よく通った。



499 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:56:03.88AxuxTz+Ao (11/18)


 しかし、

「無駄だぜ」

 そう言ったのは杏子だった。

「どうして」

「“呪い”が心の奥にまで浸透してるんだろうな。人の声なんて聞こえやしない」

「そんな」

「だが、完全に手遅れってわけでもねえぜ。残った理性を叩き起こせばいい」

「ど、どうするの?」

「こうするのさ」

 次の瞬間、暗い公園の中央で真紅の光が輝く。

「!」

 その光に、まどかは一瞬目をつぶる。そして、次に目を開いたとき、赤い魔法少女の衣装に
身を包んだ佐倉杏子が立っていた。

 手には、大きな槍がある。

「さてと、今宵は楽しいパーティーになりそうだな。さやか」

 杏子がそう言うと、今までピクリとも動かなかった美樹さやかが身構える。

「さやかちゃん!?」

 さやかの身体から青い光が見える。

 しかしその光は、黒く濁っているようにも思えた。

 そして、光が無くなると、さやかもまた、青を基調とした魔法少女へと変身していたのだった。


500 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:56:48.67AxuxTz+Ao (12/18)


「そりゃ!」

 さやかが変身したのを確認するように、杏子は槍を構えて距離を詰める。

「せい!」

 金属のぶつかりぶつかり合う激しい音が聞こえる。

 いつの間にか、さやかも剣を持って応戦していた。

 闇夜にさやかの白刃が微かな光を放つ。

 わずかに聞こえてくる風を斬る音が、まどかの背筋をうっすらと寒くさせた。

「それが本気か? 美樹さやか」

 杏子が挑発するような言動とともに、さやかの剣を弾き飛ばす。

「……」

 だがさやかは魔力で別の剣を精製し、再び白刃を振る。

「へっ、そうこなくっちゃな」

 今度は、二刀流で杏子を襲うさやか。

 そして、

 わずかに杏子の肩口が斬れる。

 杏子の来ている服は袖のないデザインのため、肩はまる出しである。

 そこから赤い鮮血が流れた。

「この程度か? 深く斬らなきゃ相手の動きは止められねえぜ」

 杏子は足元を狙う。

 一瞬、バランスを崩すさやか。


501 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:58:06.02AxuxTz+Ao (13/18)


 どうやら足を斬られたらしい。しかし、すぐに体勢を立て直す。

「まだまだ!」

 杏子は、先ほどまで使っていた槍を分解する。槍の節と節が分離して、
その間を鎖でつないでいた。まるでヌンチャクのように槍を扱う杏子。

「どりゃ!」

 今度は杏子の槍の先がさやかの腕を斬る。

 肩、首筋、そして脇腹。

 少しずつであるけれど、徐々にさやかの身体にダメージを与えていく杏子。

 しかし、それと同時にさやかの傷がふさがっていくのが見えた。

「超回復か。だがどれくらい持つかな」

 槍を結合させ、再び元の形に戻した杏子は構える。

「……!」

「遊びは……、終わりだ」

 先ほどまでの、笑みを交えたしゃべり方とは一線を画する、冷たい氷のような声が闇に響く。

「時間がないのは、アタシもアンタも同じさね」

 素早く側面に回り込む杏子。さやかはそれを迎え撃つ。

 頭に響くような高い金属音。それと同時に、さやかの持つ拳が闇に消える。

 すぐに新しい剣を作り出そうとするさやかだったが、その一瞬の間に杏子は距離を詰める。

 さやかはバックステップで逃げようとするも間に合わない。

「終わりだ――」


 一瞬で杏子の持つ槍の先端が、鋭い錐(きり)のように細く変化し、さやかの腹部に突き刺さる。




502 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 19:58:55.65AxuxTz+Ao (14/18)


「――!!」

 まどかは、声にならない声を上げた。

 何を言っていいのかわからなかったし、その状況も理解できなかった。

 あの時、佐倉杏子と初めて会った時と同じ状況。いや、それよりも絶望的かもしれない。

「ったく、手間かけさせやがって」

 そう言って槍を引き抜く杏子。

 引き抜いたと同時に槍は消え、そしてさやかはその場に膝をつく。

「おい、鹿目まどか」

 杏子は、少し息を切らしつつまどかを呼ぶ。

「は、はい」

「こっちに来い、少しだけさやかと話ができるぞ」

「でも……」

「いいから来い、もう時間がない」

「うん」

 まどかは、抱きかかえていた播磨の頭をゆっくりと芝生の上に乗せると、
駆け足でさやかの元に駆けつける。

「さやかちゃん」

 腹部のあたりが血まみれになっている美樹さやかの姿を見て、改めて恐怖するまどか。

 しかし、

「ま、ど、か?」

 微かに、さやかの声が聞こえた。



503 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 20:00:20.58AxuxTz+Ao (15/18)


「さやかちゃん! 聞こえる? 私、まどかだよ」

 まどかは、さやかに顔を近づけて呼びかける。

「聞こえるよ……んっ」

 苦悶の表情でまどかの声に答えるさやか。

「早く治療を!」

 まどかは顔をあげ、杏子のほうを見た。

「無駄だ。もう手遅れだ」

 しかし杏子は冷たく言い放つ。

「でも!」

「今さっき、アタシの槍を突き刺したろ? それでちょっとばかしアタシの魔力を流し込んだ。
それで、話だけはできるようにしたんだ」

「それって……」

「今のうちに、話したいことを話しときな」

「……っか」

 ふと、さやかの声が聞こえたので、再びまどかはさやかの顔を見る。

「さやかちゃん、何? どうしたの?」

「まどか、あたし……」

「うん」

「まどかが……、羨ましかった」

「羨ましい? どうして? 私なんて、何のとりえもない普通の中学生だよ」

「でも、まどかはあたしの持ってないもの、たくさん持ってるし」

「持ってないもの?」



504 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 20:01:26.14AxuxTz+Ao (16/18)


「家族とか、まどかのことを大事に思ってくる人、とか……」

「さやかちゃん?」

「あたしには何もなかった。家族もないし、好きな人だって、結局はどこかへ行ってしまう」

「そんな……」

「でもまどか、あなたがいてくれた。あたしのことを心配してくれる友達が」

「そうだよ、さやかちゃん」

「それに気付かなかったんだ。本当、あたしって、バカだな……」

「さやかちゃん!」

 まどかが呼びかけたその時、杏子がまどかの肩に手をかける。

「え?」

「時間だ」

 杏子がそう言うと同時に、さやかの身体からどす黒い煙のようなものがあふれ出す。

「何これ」

「呪いを生み始めたんだ。お前も、見たことあるだろう」

「これって」


505 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 20:02:19.70AxuxTz+Ao (17/18)


 かつて、魔女のすぐ近くで感じたことのある“嫌な空気”だ。

「下がってな」

「でも」

「いいから下がれ!」

 物凄い力でまどかの体は浮かび上がる。

「ふえ?」

 そして、おしりに衝撃が走る。芝生の上でしりもちをついたらしい。

「あ!」

 前を見ると、さやかたちとは数十メートルほど引き離されていた。

 まるで瞬間移動でもさせられたようだ。

「さやかちゃん! 待って!!」

 まどかは立ち上がり叫ぶ。

「来るな!」

 それを杏子は制した。

 そして、彼女は倒れたさやかを抱きかかえる。

 杏子は軽く微笑むと、何かをさやかに語りかけていた。

 そして、二人のまわりにはまぶしい光と、それを打ち消すよな黒い闇が渦巻く。

「待って!!」

 まどかは叫ぶ。

 しかしその声は、ぽつぽつと降り始めた雨の音にかき消されるのだった。




   *



506 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/04(水) 20:06:15.57AxuxTz+Ao (18/18)




 暗い闇の中で誰かが播磨に語りかける。

(誰だ?)

 播磨は聞く。

「世話になったな、少しの間だったけど」

(この声は、佐倉杏子か?)

「アタシも長く魔法少女やって、正直疲れたよ」

(そうか)

「色々なところを見て回ったけど、やっぱ消えるんだったら、故郷がいいかなって思ったのさ」

(……)

「アタシは間違いなく地獄行きだね。色々悪いこともやってきたし。

でも、ウチの親父も多分地獄に行ってると思うから、そこで再会できるかもしれねえ。

 宗教やってて、人から鬱陶しがられて、誰にも相手にされなくなった哀れな糞野郎だから、

アタシが面倒見てやらなきゃ、多分誰も見ねえだろうしさ」

(……)

「じゃあな、ハリマ。鹿目まどかって言ったっけ、あのちっこいの。大事にしろよ」

(……お前ェ)

「はっ!」

 顔に冷たいものがかかった。

 目を開けると、雨粒が降ってくるのが見える。

「ここは……」

 周りを見回すと、そこはさっきまどかと一緒に来た公園である、というのがわかった。

 播磨は自分がどれくらいの間倒れていたのかわからない。

 ただ、彼が気が付いた時には佐倉杏子の姿はなく、公園内の広場の真ん中で、
美樹さやかの遺体を前に泣き崩れる鹿目まどかがいるだけであった。



   つづく



507以下、あけまして2012/01/04(水) 20:20:34.05qGBhKr2Wo (1/1)


マミ、さやか、が脱落。さらに杏子もか。救いのある結末であって欲しいな…。


508以下、あけまして2012/01/04(水) 21:16:35.37/EvzU94AO (1/1)

マミさんマミってさやかは魔女って杏子は心中、ほむらは一周目だし、まどかもまだ因果集中してないから仮に契約しても凄い奇跡は起こせない……
二週目でも無い限り救いが見えないな……
ギャグ漫画のキャラ参入は大抵鬱展開を吹き飛ばす光になるのに雰囲気に飲まれて完全にシリアスになってる播磨ェ……
なんかこのSS見てるとギャグ漫画のキャラだとは思えないなww


509以下、あけまして2012/01/04(水) 22:22:49.67N2UQPmNYo (1/1)



なんか色んな人に声を掛けられる播磨が俺たちに翼はないの隼人に見えてきた


510 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:35:24.169e1wVLifo (1/18)

 投下します。 今回は特別ゲスト出ます。


511 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:36:21.399e1wVLifo (2/18)


 重苦しい空気が街を包む。

 一週間前から気象庁はこの地域の梅雨入りを宣言した。

 昼間になっても暗い空を見れば、憂鬱な気分はさらに暗くなるだろう。

 鹿目まどかは親友を亡くし、その前には尊敬する先輩を亡くした。

 中学二年生という幼い少女の心に、この突然の別れは、季節の影響もあってかなり
重くのしかかっているであろうことは想像に難くない。

 和子の話では、学校も休みがちになっているという。

 播磨拳児は、そんな彼女に対してどう接していいのかわからなかった。

 ただ、まどかに元気になってもらいたい。

 そう思い、彼は筆を執る。

(今、俺にできることは漫画を描くことくらいだ)

 自分を慰めるように、彼は無心で漫画用原稿用紙に向かう。



   *



 それから数日後、播磨は学校をさぼって東京の文京区にある談講社に出向いていた。

 描いた漫画の原稿を、以前会ったことのある編集者に見せるためである。

 しかしこの日は急用が入ったのか、目当ての編集はなかなか現れない。

 小一時間待たされ、いい加減イライラしてきたところでやっとワイシャツ姿の編集者が姿を現した。

「待たせてゴメンネ田沢君」

 黒髪の見た目は真面目そうな編集者は、入ってくるなり合掌して謝る。

 しかし名前を間違えている辺り、本気で謝る気があるのか疑問である。

「いや、別にいいんっすけど、何かあったんっすか」

「じ、実は編集長が直接キミと会いたいって言うんだよ……」

「編集長……」



   *



512 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:36:48.419e1wVLifo (3/18)

 

 


   魔法少女とハリマ☆ハリオ

      #23 糸 口






513 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:37:32.939e1wVLifo (4/18)


 談講社の広い廊下を歩くと、ひたすらデカイ扉が目に入る。

(これが編集長室……)

 よく見ると、前を行く三井という名の編集者も緊張しているようだ。

「し、失礼します」 

 ドアを開けて中に入ると、そこには本当に巨大な男が座っていた。

(デカイ)

 まるで奈良の大仏のようなデカさ。

(いや、オーラで大きく見えているだけか……?)

 そう思ったが、周りの観葉植物とかも明らかに街路樹くらいの大きさがあるのでやはり大きいのだろう。

「彼が、その漫画を描いた人です」

 そう言って、ヒラの編集者は播磨を紹介した。

「うむ」

 編集長はうなずき、そして顔をあげる。

 髭の生えたその巨大な男は、岩をも射抜くような鋭い眼光で播磨を睨み付けた。


514 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:38:14.209e1wVLifo (5/18)




「播磨、拳児です……」

 播磨は、圧倒されないよう気合を入れて自己紹介する。

 しかし、編集長の威圧感は半端ではない。そのまま押しつぶされそうになってしまう。

「編集長の五島雄山だ」

 五島は短く自己紹介すると、再び目の前の原稿に目をやる。

 しかし、手もデカイので、原稿がまるで切手のようだ。

「で、では僕はこれで」

 そういうと、若い編集者は逃げるように部屋を出て行った。

「……」

 取り残される播磨。

 この広い部屋の中で、播磨は五島編集長と二人きりになってしまった。

「……」

 重苦しい空気が続く。

 そして漫画を読み終わった五島は再び顔を上げた。

「播磨、とか言ったな」

「はい」

 五島の太く、そして低い声が播磨の腹を突き刺す。

「なんだこの漫画は」

「……え」


515 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:39:02.659e1wVLifo (6/18)


「迷いだらけじゃねえか」

「迷い?」

「お前の線だよ。お前、何のために漫画を描いてる」

「それは……、描きたいから――」

「ウソだな」 

 播磨の言葉を遮るように五島は言い切った。

「な、なに?」

「お前は自分から逃げるために漫画を描いてる。わかるんだよ、長いことこの仕事やってりゃ」

「そ、そんな。俺はただ……」

「言っとくがな、漫画に慰められていいのは読者だけだ。作家がそんな行為をしちゃいけねえ」

「……」

「自分で楽しむためだけに描くんだったら別にかまわねえよ。だが、そうじゃねえだろう」

「それは……」

「人様に読んでもらうんだったら、それなりの覚悟が必要だ。プロとしてやっていくなら、なおさらだ」

「覚悟……?」

「いいか、播磨。いくら絵がうまくても、話がうまくできていても、作家が自分自身と向き合ってなきゃ
いい作品はできねえ。今のお前にはそれがない。ただ、機械的に筆を動かしてるだけだ」

「……」

「ここに持ち込みたけりゃ、ケジメをつけてから来い。迷いを抱えた状態で絵を描くのは漫画に対する冒涜だ」

「冒涜……」

「そう、冒涜。わかったか」

「ん……、はい」

 播磨は唇を噛む。

 そして突き返された原稿を手に、彼は談講社を後にするのだった。



   *


516 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:40:14.459e1wVLifo (7/18)



 五島編集長の言葉に播磨は一言も反論できなかった。

 やり場のないモヤモヤを漫画にぶつけていたことは確かだ。

 漫画は慰みものではない。

 それは漫画に対する冒涜だ。

 漫画を愛する編集長であればこそ、そのことが許せなかったのだろう。

(しかしどうすりゃいいんだよ……)

 現状を何とかしなければならない、ということはわかる。

 しかしやり方がわからない。

(魔女とか魔法少女とか、正直どう相手すりゃいいんだよ)

 播磨にとって、魔法とか奇跡というのはもっとも縁のない現象だからだ。

 雨が降り続く暗い空を眺めていると、ふと落ち込むまどかの顔が思い浮かんだ。

(まどか……)

 その暗い顔を笑顔にするために、何ができるのか。

 色々と考えながら歩いていると、不意に自分があてもなく歩き回っていることに気が付く。

「くそ、こんなところでウロウロしてても仕方ねェ。さっさと家に帰るか」

 そう思ったとき、ふと奇妙な気配を感じる。

「……なんだこりゃ」

 大正時代から昭和のはじめにかけて建てられたような和洋折衷の建物が、彼の目に入ってきた。

「こんな家、あったか」

 ビルの立ち並ぶ都会のど真ん中に、ひっそりとたたずむ建物。


517 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:41:10.249e1wVLifo (8/18)


 それはまるで真夏の雪だるまのような場違いな雰囲気に包まれていた。

 彼の足は、彼の意志とは無関係にその建物のある敷地内に向かって行く。

「なんだ?」

 何か得体の知れない不思議な力によって引き込まれる播磨。

 そして、玄関を開けた。

「……あの」

 中に入ると、そこは静かだ。そして暗い。

 祖母の家で見たことのある、昔の建物特有の暗さがそこにあった。

「あら、お客さんかしら?」

 不意に女性の声が聞こえてくる。

 すっすっと、まるで幽鬼のように音をほとんど立てず一人の女性が現れた。

 モデルのように背が高く、それでいて胸の大きな女性だ。

 腰まで届くほどの長く艶のある髪の毛がやたら印象的であった。

 そしてなぜか1970年代に流行ったような服を着ている。

「お客ってなんだ? 俺は気が付いたら、ここに」

「必要だからここに来たんでしょう?」

「ここは、なんだ?」

「ここは、何でも願い事をかなえる“ミセ”よ。対価さえ払えばね」

「店?」

「ま、立ち話もなんだから、奥へいらっしゃい」

「……」



   *



518 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:41:59.679e1wVLifo (9/18)



 播磨は靴を脱ぎ、奥の部屋へと足を踏み入れた。

 畳の部屋なのだが、なぜかソファや椅子がある。

 先ほど出迎えた女性が先に椅子に座った。

「さ、座って」

「おう」

 女性に促されるまま、播磨は椅子に座る。奇妙な形をした椅子だが、妙に座り心地だけはよかった。

「まずは自己紹介といきましょう。あたしの名前は壱原侑子。もちろん偽名よ」

「偽名?」

「そう、偽名。ニセの名前と書いて偽名」

「なんで偽名なんて使うんだ?」

「あら、知らないの? 自分の名を知られるというのはね、魂の一部を握られるのと同じなの」

「魂の一部……」

 何となくインチキ臭いな、と播磨は思った。

「だったら俺も、偽名を名乗ったほうがいいのか?」

「まあ、好きになさい。ただし――」

「?」

「たとえ偽名だとしても、名前というものは重要なのよ。それを名乗ったからには、
その名前があなたの人格に何らかの影響を与えるかもしれないわね」

「……ん」

「それじゃ、自己紹介行ってみよう~」


519 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:42:39.169e1wVLifo (10/18)


「は?」

 先ほどまでの重苦しい雰囲気から一転しておちゃらけた感じに話す侑子に、
播磨は一瞬同様したが、気を取り直して自己紹介することにする。

 しかし、ここで本名を名乗っていいのか、と少し考えてしまった。

(別にこの女の言うことを信じるわけじゃねェが……)

 少し考えた末、彼は名前を口にした。

「俺は……、ハリマ☆ハリオだ」

「……ぷっ」

「笑うな!」

「だって、何よそれ。偽名にするんだったら、もうちょっと考えなさいよ。なんなの、ハリマハリオって。
怪傑ハリマオ?」

「うるせェな。なんかその、子供たちにも覚えやすいだろうがよ……」

「はは。そうなの? ふうん」

 侑子は何かに納得したように、少しうなずいた。そして、テーブルの上に置いてあるキセルを手に取る。

「それでハリオ。貴方の願いは何?」

「別に、願いなんてねェよ」

「本当に?」

「ああ……」

「ではなぜここに来たの?」

「偶然、ここに足を踏み入れちまっただけだ」



520 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:43:29.859e1wVLifo (11/18)


「……ハリオ」

 再び侑子の雰囲気が変わる。

「なんだよ」

「この世に偶然なんてないの」

「ああ?」

「あるのは必然」

「必然……?」

「……あなたは何かを求めてここに来た。そして、それがここにはあるの」

「本当、だろうな」

「ええ。ここは何でも願いをかなえる“ミセ”ですもの。そのかわり、対価がいるわ」

「対価」

「そう。願い事にはね、対価が必要なの。それは、その願いに合ったものでなければならない。
多すぎても少な過ぎてもいけない」

「対価って、何を払えばいいんだよ。金ならねェぞ」

「お金じゃないわ。その“願い”に見合ったものを払うの。もちろん、単なる物とも限らないわ」

「ウソくせェ」

「ふふ、それが普通の反応ね」

「……」

「でもまあ、せっかくだから話だけでもしていったら? ウチはキャバクラでもないから、
聞くだけならタダよ」

 播磨は侑子の顔をじっと睨む。


521 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:44:17.689e1wVLifo (12/18)


 微かに笑みを浮かべてはいるが、その本心はさっぱりわからない。

「まあいい。別に信じてくれるかどうかはわかんねェが」

「あら、話をしてくれる気になったのね」

「俺の住んでる街の話だ」

 その後、播磨は見滝原で起こった謎の事件のことを話した。

 そして魔法少女のことも。

 この、壱原侑子という女性を全面的に信用したわけではないけれども、
誰かに話さずにはいられなかったのだ。

 それほどの孤独と葛藤を彼は心の中に抱えていた。

「なるほどね。で、あなたはその魔法少女や魔女というものをどうしたいの?」

「無くしてェと思ってる。平和に暮らすには、そういうのはいらねェ」

「ふうん……」

 そういうと、侑子はキセルに口をつけ、息を吐いた。彼女の口からは白い煙が出る。

(あれ? いつの間に火をつけたんだ?)

 播磨の疑問をよそに、侑子は話し始めた。

「結論から言うわ。あなたの願い、かなうわよ」

「な? 本当か」

「ええ。ただし――」

「対価」

「そう。よくわかってるわね」


522 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:45:12.339e1wVLifo (13/18)


「対価ってなんだ? 何が必要だ」

「そうねえ……」

「もしかして」

「なあに?」

「俺の、命か?」

「……」

 侑子はどす黒い瞳を播磨に向ける。

「……」

 彼女の視線には妙な圧迫感を覚える播磨であった。

 しかし、

「いいえ――」

 と、侑子は否定する。

「仮にあなたの命をもらったとしても、そんなのじゃ足りないと思うから」

「足りねェ?」

「ええ。足りないわ」

「じゃあどうすりゃいいんだよ」

「そうね……」

 侑子は、キセルをふかしながら少し考える仕草をしてみせてから答えた。

「格安で願いをかなえる方法もあるわ」

「なに?」

「うん。超格安。侑子ちゃんにしては出血大サーヴィスってところ♪」

「……」

 ふざけているのか真面目なのかイマイチよくわからない。


523 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:46:17.369e1wVLifo (14/18)


 播磨は、この壱原侑子という女性との距離の取り方に悩む。

「見滝原の怪事件の発端。仮に“魔法少女システム”とでも呼びましょうか」

「魔法少女システム……」

 随分違和感のある言葉だが、侑子の口から聞くとやけにしっくりくるものがある。 

「この“仕組み”を壊せば、少なくともあなたが言う、悲劇はなくなるはずよ」

「悲劇が、無くなる?」

 願いを叶えて以降は、希望が一切なくなる魔法少女というシステムが消える。

 それは確かに悲劇が無くなると言っていいのかもしれない。

「そう。なんでも願いをかなえるということは、そこで因果律の歪みが起きているの。
その歪みを矯正し、元に戻し、見滝原を他の地域と同じような場所にする」

「因果律ってなんだ? よくわかんねェんだが」

「簡単なことよ」

 そう言って侑子はどこから出したのか、ビー玉を手に持っていた。

「私がこのビー玉を手放すと、どうなると思う?」

「下に落ちて、転がる」

「正解」

 侑子はビー玉から手を放す。

 するとビー玉は畳の上に落ちて、コロコロと転がって行った。

「これが因果律。原因があって結果がある。無重力でもない限り、ビー玉は下に落ちて転がるわ」

「それがどうだっていうんだ?」

「その魔法少女システムというものは、そんな因果を歪めるものなの。例えばこんな風に」

 侑子は再びビー玉を手にした。

「よく見てちょうだい」

 彼女はゆっくりと、ビー玉を持った指を放す。


524 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:47:34.059e1wVLifo (15/18)


「な……」

 ビー玉は下には落ちず、ずっと空中にとどまったままになっている。

「これが因果の歪み。本来あるべき姿ではない姿を現す。でも世界はその歪みを矯正しようとするわ」

 パチンッ、と侑子は指を鳴らす。

 すると、先ほどと同じようにビー玉は下に落ちて転がっていった。

「それが、魔法少女システムとかいうやつなのか?」

「まあ、そうね。見滝原で起こる奇妙な事件の多くは、その歪みの反動だとみて間違いないわ」

「本当に、その歪みとやらを直す方法があるのか?」

「あるわよ」

「だがそれを頼むと対価は高いんだろ?」

「当然よ」

「それじゃあ、それを安くする方法ってなんだ」

「自分でやるの」

「自分で?」

「人に頼んだら高くなるわ。ほら、弁護士とか司法書士に頼むとお金がかかるでしょう? 
でも自分でやれば安く済む。それと同じ理屈」

「……なるほど」

「私がやり方を教えてあげるから。もちろん、その教育の対価は頂くけど」

「金は、あまり持ってないが……」

「お金じゃないの。そうね……」



525 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:48:09.369e1wVLifo (16/18)


 侑子は播磨の全身を眺める。

「その鞄の――」

「!」

「中に入っている物をいただこうかしら」

「いや、これは……」

 播磨が持っている鞄に入っているもの。それはついさっき編集長に突き返された自身の漫画の原稿であった。

「これはちょっと……」

「そう? じゃあ交渉は不成立ね」

(どうする? 俺)

 播磨は心の中で自問自答する。

(どうせ日の目をみることのない原稿だ。だったら人に渡せば。いや待て。ボツ原稿を人にあげるなど、
こんな恥ずかしいマネをしていいのか。ネットにアップされてバカにされたらどうする!)

 播磨の中にいる色々な播磨が色々と意見を言っていたけれど、結局――

「わかった……」

 播磨は自身の原稿を侑子に渡した。

「ふふ、交渉成立♪」

 侑子は嬉しそうに、原稿の入った封筒を受け取るのだった。




   つづく


526 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:51:04.039e1wVLifo (17/18)

 魔女のことは魔女に聞け。

 ちょっと反則気味ですが、実は侑子さんの登場構想は『孤独の魔法少女』の時からありました。

 ただ、それが流れてしまったので今回の登場となったわけでございます。

 ちなみに、刑部絃子と声優さん繋がりなのは偶然です。


527 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/06(金) 19:53:06.759e1wVLifo (18/18)

>>526
間違い、絃子ではなく姉ヶ崎妙さんでしたね。

ちなみに妙さんに恋愛相談した人は振られるというジンクスがあるそうです。


528VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)2012/01/06(金) 20:04:44.51hOwOBSdSo (1/1)

乙。
まさか侑子さんが出てくるとはww しかも対価がハリマ☆ハリオの没原稿。
これは播磨が漫画の神様クラスになるフラグ…!だといいなww


529VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/06(金) 20:13:00.61OpyM5a61o (1/1)

おつ


530VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/06(金) 20:33:27.81lXO8HID60 (1/1)


誰かスクランとまどマギキャラ以外に出たキャラを教えてくれ。自分そこまで知識が多いほうじゃない。
さすがに侑子は知っているけど・・・。カードキャプターの作者が書いた漫画の一つの登場人物で「次元の魔女」だっけ?


531VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/06(金) 21:00:43.10uRzQs00Do (1/1)

作者っつーか作者達な、あと一つじゃなくて二つ


532VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)2012/01/06(金) 21:39:53.65YF5L6/Dno (1/1)



まさかのゲスト
そして妙さんにそんなジンクスがあったとは知らなかったわ


533 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:14:06.63TtSXhkSbo (1/13)

 ラスト二回! 今日は所用のため少し早め。


534 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:14:42.22TtSXhkSbo (2/13)


 播磨拳児は自分の生原稿を対価にして、都内某所にある“ミセ”の主人、
壱原侑子から魔法少女システム(仮)を破壊するための方法を教えてもらうことになる。

「そんなんでいいのか?」

「行為そのものは簡単よ。でも、実際問題はそこからなの」

「どういうことだ?」

「作用反作用の法則って聞いたことない?」

「物理か。苦手なんだが」

「その通り。地震なんかでも同じ原理なんだけど、歪みによってたまったエネルギーがあるじゃない」

 そう言うと、侑子はこれまたどこから取り出したのかよくわからないプラスチックの物差しを取り出す。

「魔法少女システムによる因果の歪みがこんなふうに、エネルギーとして蓄積されると」

 侑子は右手に持った物差しを左手で曲げる。

「その反動で」

 ビヨーンと震えて、物差しは大きなしなりとともに元の形にもどった。

「大きな被害を出してしまうこともある」

「……」

「魔法少女が魔女と戦うのは、恐らくその反動を軽減するためのものだったんでしょうね」

「つまりそのシステムそのものを破壊するってことは――」

「ご明察、その反動を“あなたたちの街”はモロに受けなければならない」

「……!」

「それでもやる?」

「……ああ」

「ふふ。あなたならそう言うと思ったわ。では、やり方を教えましょう」

 侑子はそう言って、再びキセルを吸った。

 幻想的な煙が天井を舞う。




535 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:15:11.04TtSXhkSbo (3/13)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ

      #24 破 壊







536 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:16:13.94TtSXhkSbo (4/13)



 壱原侑子から、魔法少女システム(仮)の破壊方法を教えられた播磨拳児は、
さっそく放課後や休日を利用してその破壊のための術式を組むことにする。

 方法は、侑子の言うとおりそう難しいものではない。

 特定の場所に、彼女の指定した水晶と酒(日本酒)を埋め込むのだ。

 水晶は、霊力を集めるための憑代として、日本酒は土地の神々に対するお供えの酒、
つまり「お神酒」としての効果を持つ。

 今回播磨が行うのは、“反術式”と言われるもので、簡単に言えば結界の逆バージョン。

 つまり、結界が内部を守るための術式だとすれば、その結界を破壊して内部と外部を
調和させるのがこの術式のキモだ。

 数日かけて彼は指定した場所を調べ上げ、そこに憑代を埋め込んだ。

 だが問題はここから。

 既存の秩序を壊すことは大きな反動を呼び起こす。

 播磨は、とある神社で祝詞を読み上げ、すべてを終了させた。

 その日は、雨こそ降っていなかったけれど、空は相変わらず重苦しい雲に覆われていた。

 それはこれから始まる参事の前触れのようでもあった。



   *



 変化は翌日にはすぐに表れた。

 巨大な低気圧の接近により、見滝原全域に大雨洪水警報が発令されたのだ。

 川が増水し、風も強い。ところどころ、雷も聞こえる。

 堤防が決壊する危険性も出てきた。

(これが、反動ってやつなのか)

 播磨は、荷造りをしながら考える。

「拳児くん早く。車出ちゃうわよ」

「お、おう……」

 播磨たちの住んでいる地域も避難区域に指定されたため、彼は和子と一緒に街の
体育館に避難することになった。

 播磨は不安になる。

(俺がやったことは本当に正しいことなのか……)




   *



537 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:17:09.25TtSXhkSbo (5/13)




 避難所となっている街の体育館にはすでに多くの人たちが避難していた。

 自衛隊の災害派遣もすでに行われており、ずいぶんと騒がしい。

 大人たちは一様に不安な表情をしているけれど、子供たちは騒がしかった。

「まどか、大丈夫かい?」

 不意に、母親の詢子が声をかける。

「うん、大丈夫だよ」

 まどかは無理にでも笑顔を見せる。

 彼女には嫌な予感がしていた。

(この感じ、多分“魔女”)

 かつて、自分が遭遇したことのある魔女と同じ気配を彼女はひしひしと感じていた。

 しかも今回のは、結界の中に隠れて獲物を待つようなタイプではない。

 堂々と外に出て、獲物を捕食するようだ。

「パパ、ママ、私ちょっとお手洗いに言ってくるね」

 まどかはそう言って家族のそばを離れる。

 窓から外を見ると、雨粒が激しく窓ガラスにぶつかっている。

「どうしよう……」

 まどかが、階段で立ち止まっていると、不意に懐かしい声が聞こえてきた。

《これは相当大きい魔女だね。まどか》

「?」

 いつの間にか、階段の手すりの上に白い生物、キュウベェが座っていた。

《今までにないほど巨大な魔女だよ。まどか》

 キュゥベェは相変わらずの無表情で淡々と話す。

「どうすればいいの?」

《キミも知ってのとおり、この街にはもう魔法少女はいない。だから、この街はあの魔女に
蹂躙されるのを待つだけだ》

「……」

《でも、希望がないわけじゃない。鹿目まどか。キミなら、運命を変えられるかもしれない》




   *



538 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:18:21.11TtSXhkSbo (6/13)


 播磨と和子が避難所に到着したころには、雨もかなり強くなっていた。

「ふう」

 とりあえず、空いた場所に荷物を下ろした播磨は周囲を見回す。

 あまり知った人間はいないけれども、不安な空気が漂っているということだけはわかった。

「そういえば、まどかちゃんたちもここに避難しているみたいよ」

 と、和子は服をタオルで拭いながら言う。

「そうか」

 ここでまどかと会って、何を話せばいいのかよくわからない。

 ただ、播磨は自分自身の不安を紛らわすためにも彼女の顔を見たいと思った。

「ちょっと便所行ってくる」

 そう言って彼は立ち上がった。

 体育館の廊下を歩く。

 体育館内の騒がしさに比べると、ここは少し静かでもある。

「播磨さん!」

 聞き覚えのある声が天井に響く。

「暁美か」

 振り向くと、長い黒髪を三つ編みにした少女、暁美ほむらがいた。

 ずいぶんと久しぶりに会ったような気がする。

「お前ェもここに避難してたんだな」

「ええ。それより」

「ん?」

「鹿目さんが見つからないんです」

「何?」

「さっきちょっと会って話をしたんですけど、その後姿に。体育館の中はおおむね見て
回ったので、恐らく外へ……」

「外っつったって」


539 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:18:53.49TtSXhkSbo (7/13)


 播磨は窓の外を見る。

 激しい雨がガラスにぶつかっていた。

「播磨さん。実はこの感じ……」

「魔女って言いてェのか」

「ええ」

「まどかを、連れ戻さねェと」

「危険です」

「わーってるよ。だがまどかはもっと危険だ」

「でも……」

「大丈夫だ」

 そう言って播磨は踵を返す。

 その時、彼の体が止まった。

「待ってください……」

 ほむらが後ろから彼の身体を抱きしめたのだった。

 背中越しに彼女の小さなぬくもりと心臓の鼓動が聞こえてくる。

「鹿目さんだけじゃなく、あなたまでいなくなってしまったら私……」

 震える声でほむらは訴える。

 不安なのは自分だけではない、播磨はそう思う。

 しかし、彼は止まらなかった。

 ゆっくりとほむらの手をほどくと、身をかがめて彼女と向き合う。

「暁美」


540 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:19:24.41TtSXhkSbo (8/13)


「……はい」

 眼鏡越しに涙が見えた。

「泣くな」

 そう言って彼はポケットからハンカチを取り出し、彼女のメガネを少し上にずらして目元を拭う。

「播磨さん」

「俺は必ず帰ってくる。まどかと一緒に。絶対にだ」

「本当ですか?」

「ああ、約束する」

 そういうと、彼は自分のハンカチをほむらに渡した。

「あの、これ」

「俺が戻るまで預かっといてくれや。どうせ雨でずぶ濡れになるから、もう必要ねェ」

「……絶対」

「ん?」

「絶対無事でいてくださいね」

「おう」

 播磨はそう返事をすると、走り出した。




   *


541 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:20:07.78TtSXhkSbo (9/13)




 丘の上の公園。

 見滝原を一望できるその場所に鹿目まどかはいた。

 風は地上よりもはるかに強い。

 彼女の目線の先には巨大な“負の感情”の塊が見える。

 普通の人間には視認できないであろうそれは、一部で“魔女”と呼ばれるものだ。

「イーッヒッヒッヒッヒ!!」

 大きな笑い声が嵐とともに空に響く。

「っく!」

 一層強くなる風に、彼女の着ていたレインコートはすでに用をなさなくなっていた。

 ここまで来るのに逡巡がなかったわけではない。

 道中でも色々なことを考えた。

 家族のこと、友人のこと。そして何より――

「拳児くん……」

 恐らく、自分が魔法少女になることを強硬に反対するであろう男性。

 そして何より、今の彼女にとっての最愛の相手でもある。

 魔女との距離が近くなる。

(やるしかない!)

 彼女はついに決意する。

 街を守るため、そして何より最愛に人を守るために。

《まどか、覚悟はできたかい?》



542 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:21:36.40TtSXhkSbo (10/13)


 大嵐にも関わらず、澄ました顔で手すりの上に立つキュゥベェ。風で尻尾や耳毛(?)が
吹かれているというのに、その場から飛ばされそうな気配が一切ない不思議生物。

「うん」

 まどかは静かにうなずいた。

 世界が静かに思える。

 今、この瞬間にも激しい風や雨が身体にビシビシとあたっているにも関わらず、
そんなことは気にならない。

《さあまどか、願いごとを言うんだ》

 キュゥベェの声が頭に響く。

「叶えて、私の願い――」

 この街を守るために彼女が望む願い。

「……!」

 しかし一瞬、言葉を飲み込む。

 不意に、あの顔が頭に浮かんだためだ。

「でも、私……」

 魔女の驚異は刻一刻と迫ってきている。

《どうしたんだい? 早くしないと》

「私の、願い……」
















「待て、まどか」



 彼女の華奢な肩を掴む大きな手があった。

「拳児……、くん?」

 息を切らした播磨拳児がそこに立っていた。




   *


543 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:22:35.37TtSXhkSbo (11/13)



 播磨拳児がその場所に来たのはまったくの偶然、というわけではない。

 だがある意味賭けであった。

 まどかの気持ちを考え、魔女とやらを迎え撃とうとする場所を予測する。

 この予想が外れれば、彼女は魔法少女になっていただろう。

 彼が生涯で一番頭を使った瞬間でもあった。

 今まで美樹さやかの捜索や“逆結界”の設置などで街の地理は十二分に把握していたので
目的地がっ決まればそこから迷うことはなかった。

「拳児くん、どうしてここに……」

 丘の上の公園でずぶ濡れになっているまどか。

 恐らく自分も同じようにずぶ濡れだろう、と播磨は思う。

「バカなお前ェを止めるために決まってるだろう」

「そんな。でも、この街を守るためには――」

「ふざけるな!」

 そう言って、播磨はまどかを抱きしめた。

「け、拳児くん」

「魔法の力で街を守ったところで意味なんてねェんだ」

「そんな……」

「まどか」

 彼女を抱きしめたままで播磨は言う。

「本当の強さってやつはな……」



544 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:23:39.80TtSXhkSbo (12/13)


 嫌な空気がどんどんと近づいてくるのを感じる。

(これが魔女ってやつか)

 播磨はそう思ったがそれでも言葉を続ける。

「本当の強さってのは、奇跡や魔法では得られねェ」

「どういうこと?」

「それはただの逃げだ。本当に強いのなら、目の前のどんな現実でも立ち向かって、
乗り越えてみせる」

「でも……」

「俺たちはもう、覚めなきゃいけねェんだよ」

「……」

「この夢からな」

「拳児くん……」

 播磨は抱きしめた手を緩め、まどかと向かい合う。

 まどかは涙をたくさん溜めた目を閉じた。

 それを見た彼は、身をかがめて彼女の唇を、自分の唇でふさぐ。




   つづく


545 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/07(土) 16:26:58.92TtSXhkSbo (13/13)

 最終回に続く!


546VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2012/01/07(土) 16:27:30.29wOmvSG8wo (1/1)

坐して待つ!


547VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/07(土) 16:39:50.17d4ABqcS3o (1/1)

スクラン全巻買ってきてしまった
中古で1000円なら安い買い物

最終回まってる


548VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)2012/01/07(土) 19:04:20.29BL1WFy2Io (1/1)



いったいどうなるんだろうな


549 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 19:58:00.90rjWT9VOTo (1/17)

 最終回、というか少し長いエピローグ。

 今夜、完結。


550 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 19:58:54.50rjWT9VOTo (2/17)




 その後、どうやって自分たちが助かったのか播磨自身にも上手く説明できない。

 気が付いたときには、公園事務所の小屋の中でまどかと二人、抱き合って一夜を
明かしていたのだという。

 巨大な魔女のせいだと思われるその嵐は、堤防を決壊させて市内の約三分の一を
浸水させるという、市制始まって以来の大きな被害をもたらした。

 しかし、これだけ甚大な被害を出しながらも犠牲者は数人のけが人を除けばゼロという、
これまた我が国の災害史上稀に見ぬ奇跡を引き起こしたのだ。

 見滝原は、嵐の翌日から復興のために動き出す。

 学校や職場、それに住宅の多くが水に沈み、公共機関などのインフラストラクチャーが
ほとんどマヒしたにも関わらず、人々の表情は明るかった。

 暑い日差しが照りつける中、薄着のボランティアが泥かきをする。

 もちろん、播磨やまどかたちもまた、災害の後片付けに駆り出された。


551 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 19:59:25.51rjWT9VOTo (3/17)







   魔法少女とハリマ☆ハリオ

    #25 夢の終わり
 




 


552 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:01:27.18rjWT9VOTo (4/17)



 悪夢のような豪雨災害から数週間、梅雨もすっかり明けて見滝原の街に夏が到来した。

 災害など嘘のように、街には笑顔があふれている。

 多くの人々がそう感じていた。

 夏の日差しとともに、空にはすがすがしいほどの青空が広がっている。

 その青いキャンバスに一本の線を引くように伸びる飛行機雲。

 見滝原総合病院の屋上で、それを見つめる車いすの少年がいた。

 少年の後ろには、ウェーブがかった髪のおっとりした雰囲気の少女がたたずんでいる。

「夢を、見たんだ」

 少年は、ポツリとつぶやく。

「夢ですか?」

 と、少女は聞いた。

「うん。僕のこの手が治る夢さ」

「それは素敵なことですのね」

「でも、夢から覚めたら、また元のままだった。余計に悲しくなったよ」

「……たしかにそうかもしれません」

「だから僕は、その夢を現実にしてみようと思う」

「現実ですか?」

「うん」

 彼は、動かない片手を持ち上げて空にかざす。

「いつかまた、この手でヴァイオリンを弾くときがくることを願って。僕は何でもするよ」

「私も、お手伝いしてもよろしいですか?」

「え? うん」

「ありがとうございます」

「お礼を言うのは、僕のほうさ」

 少し、照れながら少年は頭をかいた。

「ありがとう、仁美――」



   *


553 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:02:19.44rjWT9VOTo (5/17)




 遠くで、決壊した堤防を治す工事をしている。

 そんな川を眺めながら、少女は一人、河川敷に設置してあるベンチに座り込んでいた。

 ほんの数週間前に暴れまわったとは思えないほど、その川は穏やかな流れを紡いでいた。

「はあ……」

 髪の短いその少女は一つ、大きなため息をつく。

「そんなため息ついたら、幸せが逃げるよ。さやか」

 ふと、大人の女性が彼女の隣に座った。

「母さん……?」

 さやか、と呼ばれた少女は驚いたような顔をする。

「何しに来たのさ」

 そして、ぶっきらぼうに対応する。

「母親が娘と話すのに、理由なんているの?」

「今更母親面なんてしないでよ。今日は仕事じゃないの?」

「今日は日曜日よ。仕事はお休み」

「そう」

 さやかは、顔をそらしたまま返事をした

「ねえ、さやか」

「何よ」

「私、母親失格だね」

「何を今更」


554 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:02:52.09rjWT9VOTo (6/17)


「その通り、今更よ。あなたと、まともに向き合ってこなかったんだもん」

「ふん」

「だからね」

「ん?」

「お友達からはじめない?」

「はい?」

「だから、私とあなたはお友達」

 そう言うと母親は悪戯っぽく笑った。

「何言ってるのよ。家族でしょう?」

「家族の形なんて人それぞれなんだから。私は私のやり方で、作って行こうって思ったの」

「……そう」

 不意にさやかは立ち上がる。

「どうしたの?」

「おなかすいた。朝ごはん、食べてなかったし」

「どこか食べに行く?」

「家で作るよ。最近、母さん外食ばっかりでしょう?」

「さやか、作れるの?」

「ちょっとは練習したんだよ?」

 それは幼馴染の上条恭介に食べさせたいと思って練習した料理だった。

 ただ、今はまた別の方向で役に立ちそうだ、と彼女は思う。




   *


555 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:03:25.86rjWT9VOTo (7/17)




 日曜日、鹿目詢子の朝は遅い。

「ううーん、おはよう」

 目をこすりながらパジャマ姿の詢子が台所に顔を出す。

「おはよう、ママ」

 エプロン姿の夫の和久が笑顔で挨拶をした。

「おはよう、パパ」

「おはよう!」元気よく挨拶したのは、長男のタツヤだ。

「おはよう、タツヤ」そう言ってタツヤの頭をなでる。

 その後、詢子は家の中を見回した。

「あれ? まどかは?」

「出かけたよ。拳児くんと」

「そういや、今日だったかなあ。大丈夫かな」

 ふと、詢子は何かを思い出したようで考え込む。

「まどかの心配かい? キミらしくないな」

 コーヒーを淹れながら和久は笑う。

「ああ、いや。そっちのほうは心配じゃないんだけど。“本当に心配なのは”あっちのほう」

「あっち?」

「うん」




   *




556 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:04:07.57rjWT9VOTo (8/17)




 平和な休日。

 駅近くの中央公園で、彼はベンチに座っている。

 こんな風に平和な休日を過ごすの何日ぶりだろう。

 見滝原警察署に勤務する刑事、霧島はその日は完全に休みとしていた。

 土曜も日曜もなく働き続けた彼にとって、何もすることのない休日というものは逆に
苦痛でもある。

 そのため、後輩の警官から「相談がある」と言われたときは、面倒だ、と思う反面、
予定ができて少しうれしいとすら思えていた。

「先輩、霧島先輩」

 橘という後輩刑事が私服姿で駆け寄ってくる。

「橘……」

「すいません、お待たせして」

「いや、別に待ってない」

 待ち合わせの30分前にすでにその場にいたことは秘密だ。

「それより先輩、腹減ってません?」

「そういえば、もうすぐ昼だな。どっか食いに行くか」腕時計を見ながら霧島は言う。

「いや、それなんですけど」

「ん?」

「霧島さああああああん!」

「!?」

 どこかで聞いたことのある甘ったるい声が聞こえてきた。

「は!」


557 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:04:47.11rjWT9VOTo (9/17)


 彼の目の前には、いつの間にか風呂敷に包まれた重箱を抱えたメガネをかけた女性が
立っていたのだ。

「早乙女先生?」

「どうも、お久しぶりです」

 知り合いの紹介で顔見知りとなった、見滝原中学の教諭、早乙女和子であった。

「では、僕はこれで」

 橘は忍者のように静かにその場を離れようとする。

「おい橘! これはどういうことだ」

「スイマセン、詢子さんに言われたんです。僕にはどうすることもできません」

「はあ? おい待て!」

「あと、僕は妻(マイラブリーワイフ)を待たせてるもので。これで失礼します!」

 霧島が橘を追いかけようとすると、その間に和子が割って入る。

「あの、早乙女先生」

「和子で構いませんわ、霧島さん」

「あの、その……」

「今日はお弁当を作ってまいりました! 一緒に食べましょう」

「へ?」

「霧島さん!」

 ヤクザやチンピラを相手にしても、一歩も引かない自信のある霧島だったが、
この日はタジタジであったという。



   *


558 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:05:23.30rjWT9VOTo (10/17)




 同じ日。

 播磨とまどかは都内某所にいた。

 洋風と和風のまざったようなその建物に、播磨はまどかを連れて再び足を踏み入れる。

「あら、いらっしゃい」

 先日とはまた違った着物のような服装で出迎えるこのミセの主人、壱原侑子(偽名)。

 播磨たちは靴を脱いで、ミセの奥に入る。

 この日は前と違って晴れていたので、ミセの雨戸はすべて開かれており、部屋の中も明るく感じた。

 部屋から広い庭が見える。

「可愛らしい女の子を連れているじゃない? 妹さん?」

「いや、違います。知り合いの娘さんです」

「か、鹿目まどかです」

 まどかはそう言って、一礼する。

「ふふ、本当にかわいい」

 まどかの顔を見て、侑子は微笑む。

「それにしても暑いわね」

 そう言うと、侑子はペットボトルの水をコップに注いでぐびぐびと飲んだ。

「ぷはああ。生き返る、あなたも飲みなさい」

 侑子は、空いているグラスを出して、そこに水を灌ぐ。


559 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:06:04.27rjWT9VOTo (11/17)


「スンマセン」

 客に水を出すのもどうかしている、と思ったが播磨自身、喉が渇いていたので
ありがたくいただくことにした。

 しかし、

「ぶっ!」

「あらもったいない」

「まどか、飲むな! こりゃ焼酎だ!」

「ふえ?」

「なんてもの飲ましやがる」

 播磨の抗議にも関わらず、侑子は涼しい顔をしていた。

「あら、いいじゃない。暑いときは冷えた焼酎。最高よ」

「俺たちゃ未成年だ!」

「もう、固いこと言わないの」

 侑子がケタケタ笑っていると、不意に部屋のふすまが開いた。

「もう、侑子さん。お客様にはちゃんとお茶をお出ししないと」

 どこかで聞いたことのあるような声がしたと思い、播磨は顔を上げる。

「あ、お前ェは……」

「あら、お久しぶりね」

 特徴あるクルクル巻いた髪の毛。そして豊満な肉体……。

「マミさん!」


560 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:06:50.76rjWT9VOTo (12/17)


 まどかが思わず声を出す。

「ふふ、こんにちは。鹿目さん、それに播磨さんも」

 そう言うと、マミは冷えたアイスティーを二つ、テーブルの上に乗せる。

「巴、お前ェ……、どうしてここに」
 
 播磨がそう聞くと、マミではなく侑子が答えた。

「アルバイトよ」

「アルバイト?」

「ええ。ちょっと人手が欲しくてね。料理をしたり、掃除をしたり」

「そうなの。私たちは、ここで働かせてもらっているの」

「ちょっと待て。私“たち”?」

「アタシもいるぜ」

 勢いよく誰かが入ってきた。

「佐倉!」

 赤みがかった長い髪を後ろでまとめた活発そうな少女が飛び出てくる。

「もう杏子さん? お風呂の掃除終わったの?」と、マミが苦笑しながら聞いた。

「あんなもん楽勝よ。へへ」

 杏子は得意げに笑う。

「この子たちは、魂がないからこのミセの中以外では動けないけど、なぜか現世に
とどまってしまったのよね」

 侑子はそう説明した。

「そうなのか……」

「でも不思議よね。魂がないから、本来なら消えてしまうのに。ねえ、ハリオ。
あなた、彼女たちに何かしたんじゃない?」


561 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:07:45.03rjWT9VOTo (13/17)


「え?」

 二人の顔を見ると、唇のあたりを押さえて顔をそらす。

(まさか……)

「拳児くん……?」

 隣にいるまどかが、やや暗い顔で播磨を睨む。

「ふふ。冗談よ。彼女たちは私の“チカラ”でここに残しているの。それよりハリオ」

「おう」

「今日はどういうご用かしら?」

「ご用っつうか。まあ礼を言いに来た。色々と世話になったし」

「あら、随分遅いんじゃない?」

「仕方ねえだろう。街が浸水して、後片付けとか忙しかったんだし」

「それもそうね。でも、こうやってもう一度来ただけ偉いわ」

「まあ、最低限の仁義だと思う。ただ」

「何?」

「例のシステムを壊すのに、あの程度の対価で済んだのは、ちょっと不思議だと思ったんでよ」

「ふふ、そうね。あなた一人では確かに荷が重いわ。でもね」

「ん?」

「システムの消滅を願ったのは、あなた一人ではない、ということもあるわ。

だからそういうときは、皆で対価を分割するべきだと、思わない?」

「そりゃあ……」

「ハリオ。あなたがあの街で紡いだ絆が、大きな力になったってことよ」

「そうなんっすか」

 播磨は、見滝原で出会った色々な人の顔を思い出す。

 親しく付き合った者もいれば、そうでない者もいる。

 彼らの存在も、播磨にとって支えとなったことは、事実だ。




  *


562 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:09:56.71rjWT9VOTo (14/17)




 短い挨拶を終えた播磨とまどかの二人は、ミセを出ることにする。

 玄関前には、侑子だけでなくマミと杏子も見送りに出てきた。

 彼女たちはミセの敷地から出ることができないので、玄関での見送りとなるらしい。

「ありがとうっす。本当に」

 靴を履いて、改めて播磨は礼を言う。

「お世話になりました」

 隣のまどかも、そう言って深く頭を下げる。

「何だか夫婦みただな」

 笑いながら杏子が言うと、

「ふえ? 何を」

 まどかは顔を真っ赤にして驚いていた。

「ハハハ。初々しい反応ね。お姉さんそういうの好きよ」

 その反応に、ミセの三人は笑う。

 いい笑顔だ、と播磨は思った。

「あんまりまどかをからかうんじゃねェぞ。それじゃ、俺たちは行くから」

 播磨はそう言って別れを告げる。

「元気でね、鹿目さん。播磨さん」笑顔でマミは告げた。

「達者で暮らせよ、お前たち」と、杏子も続く。

「また必要になったらいらっしゃい。その時は、いつでも待ってるわ」

 最後はミセの主人、侑子の言葉で終わる。

「じゃあな」

「失礼します」

 そう言うと播磨とまどかの二人は、歩いてミセの敷地を出た。



563 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:10:39.46rjWT9VOTo (15/17)


 外の日差しは強く、セミの鳴き声が聞こえる。

 世間夏真っ盛りだ。

「終わったのか……」

 そう言って播磨は振り返る。

「うん」

 まどかも振り返る。

 播磨とまどかの見つめる先。そこには、広くて何もない更地があるだけであった。


「……行こうぜ」

「うん」

 しばらく眺めた後、彼らは歩き出す。

「ねえ、拳児くん」

 歩きながらまどかが話しかけてきた。

「ん? どうした」

「手、つなごうか」

 少し照れくさそうに、まどかは言う。

「いいぜ」

「ふふ。ありがとう」

 まどかの小さく柔らかい手が、ごつごつとした播磨の手に包まれる。

「夏だね」

「ああ。夏だ」

 他愛もない会話を繰り返しながら、二人は駅まで歩くのであった。





   おわり    


564 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:25:47.37rjWT9VOTo (16/17)


 これにて終了でございます。

 過去三作の中では一番特殊能力の無かった主人公でしたが、一番デカイことをやってしまった。

 外側から見たまどか☆マギカ。いかがだったでしょうか。

 魔女や魔法少女とは直接かかわらせずに物語を進めるというのは、結構つらいものでありました。

 結局播磨は魔法少女も魔女も、一度として見ていないんですね。

 前作の孤独の魔法少女で、ほむらが言った「本当の強さ」というものを今回は追及してみた結果、
こうなったのです。

 といっても、オチ(結末)については途中まで考えていませんでした。

 納得いかねえ、という方もいるかもしれませんが、申し訳ない。

 ここいらが限界だ。

 現実の世界に奇跡や魔法はないけれど、希望がないわけではない(絶望は結構ある)。

 それでは、長い投下となりましたがここまで読んでいただきありがとうございます。

 またいつかどこかでお会いしましょう。


 ◆tUNoJq4Lwkこと、イチジクでした。

 


565 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/08(日) 20:26:40.28rjWT9VOTo (17/17)

 はりおん! はまだ続きます。

 今日から新シリーズです。時間がありましたら、どうか見てやってください。


566VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2012/01/08(日) 20:32:35.642ao45Ta7o (1/2)

おつ

いい主人公だったぜ


567VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2012/01/08(日) 20:39:18.59EhBPbVgAO (1/1)


楽しませてもらった


568VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)2012/01/08(日) 20:46:12.255gM98D47o (1/1)



面白かった
また何かやって欲しいな


569VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/08(日) 20:54:32.90CCU7LgnDO (1/1)


今まで楽しませてもらった。
次も頑張って下さい。


570VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)2012/01/08(日) 20:56:45.45mlxMkqmho (1/1)


ほむー


571VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/08(日) 21:11:57.42rBGxN1pno (1/1)

乙ほむ
しかしエピローグにメガほむ未登場ってどういうことなの……


572VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県)2012/01/08(日) 21:29:42.74NOgCzD720 (1/1)

幸せだ
このスレのおかげで俺はいま幸せだ


573VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県)2012/01/08(日) 21:51:51.02wwix06JLo (1/1)

良いハッピーエンドだった
一つ不満を言うなら
エピローグにメガほむの出番が無いこと


574VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/08(日) 21:56:59.842ao45Ta7o (2/2)

……おいおいお前ら





>>1がそんなミスをするもんかよ
メガほむは、番外編のヒロインに決まってるだろ?


575VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/01/08(日) 23:17:46.30e1FW4mIh0 (1/1)

なんだ、ほむほむ最後出さないのかと思ったが

そうか、番外編か。焦らしやがるぜ


576VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/01/09(月) 01:19:06.41EWw0CUBZo (1/1)

     _. -‐- 、 ,. -─;-
     >- !i! ′ !i!  ̄`>
.    /  i!i  !ii  i!i  i!i \
   '7"´!i!  i!i  ,.、 i!i  !i! ゝ    いいか お前ら…
.   イ !!i , ,ィ /-ヽ. ト、 ii! ii |゙
   | i!i /l/‐K ̄ ,ゝl‐ヽ!、i! |    考えるな………!
   ,h ノ==。= ,  =。== i r〈
    |f_|.| `二ニ | | ニ二´ |.|f,|     「>>1がほむらの存在をガチで忘れている」
    ヽ_|| , -‐' 、|_レ ー-、 ||:ン
     ハ l ー───一 l ハ     可能性なんて………!
_,.. -‐1:(:lヽ.   ==   /l:((!`''ー-
...l.....l....|::):l ::\    /  l::)):|....l.....l
...l.....l...|((:)l.  ::::`ー'´::   ,'((::(| ..l.....l
...l.....l...|::))(:ヽ.  ::::::   /;リ::)):|...l.....l
...l.....l..|::((::));.ヘ     /へ:((:(:|...l.....l


577VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国・四国)2012/01/09(月) 07:25:36.69CwR38OYAO (1/1)

魔女や魔法少女が消えているので、播磨とほむの出会いも無くなるのでは?


578VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2012/01/10(火) 12:36:56.634CwQ9bYAO (1/1)

結局マミさんが播磨を(性的に)襲った理由はなんだったのか気になって仕方がない


579 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/10(火) 20:02:27.089ZYvhkCEo (1/1)

魔法少女とハリマ☆ハリオ・オルタナティブ計画進行中。



これでいいんだな。

さあ! 早く子供たちを解放するんだ!


580VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/01/10(火) 20:45:13.72E6ferRnZ0 (1/1)

1乙!
ヒャッハー!!
これは楽しみです!!!


581VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2012/01/10(火) 21:29:02.57aREJHTjAO (1/1)

いいだろう、子供達は返してやる

お土産に山盛りの駄菓子を持たせてな!


582VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [sage] 2012/01/11(水) 04:31:53.625277Vpal0 (1/1)

さあ、物語が始まる


583 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/12(木) 19:16:55.43B2Dkg7who (1/1)

   ☆お知らせ☆

 こんばんは。

 魔法少女ハリマ☆ハリオ ・ オルタナティブの投下日が決定しました。

 1月15日(日曜日)から投下開始。全6話を予定しております。

 なお、当日は『はりおん!』の最終回も予定しておりますので、興味のある方は
ぜひ、そちらもご覧ください。

    ◆tUNoJq4Lwkイチジクからのお知らせでした。


584VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)2012/01/12(木) 19:22:18.73W6UxfgGdo (1/1)

把握!


585 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/13(金) 18:57:39.76teW5OHYno (1/1)

訂正。はりおん!の最終回は土曜日(14日)でした。


586VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)2012/01/13(金) 20:02:15.461ziSENfQo (1/1)

何!?じゃあこの脱いだ衣服はどうすれば!?


587VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)2012/01/13(金) 21:51:12.61OSv3E7IIo (1/1)

>>586

今すぐスチュアート大佐ごっこをするんだ!


588VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)2012/01/13(金) 21:52:01.96Zzz3/OgWo (1/1)

とりあえずパンツだけでも履いとけww


589VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県)2012/01/15(日) 00:19:33.38PTrykW6p0 (1/1)

まて







ネクタイを忘れるな


590 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:47:16.75EP0D5twCo (1/16)


 みなさま、こんばんは。お待たせしました。

『はりおん!』も終わりましたので、今夜『魔法少女とハリマ☆ハリオ』の

オルタナティブを開始したいと思います。

 これは『はりまど』に隠されたもう一つの物語。

 本編を読まれたことを前提に書かれているので、未読のかたはまず>>1からどうぞ。


 あと、知らなければ良かった、と思える真実もあるかもね。 


591 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:48:22.76EP0D5twCo (2/16)


   プロローグ


朝の教室――

「皆さん、はじめまして。あ、暁美ほむらです」

 精一杯の声を出そうとしたほむらの声は、力み過ぎたせいでやや裏返ってしまった。

「はい、よろしくね」

 担任の早乙女和子教諭がそう言うと、教室内で拍手が起こる。

 彼女の新学期は、数週間遅れてやってきた。


   *


「ねえ、暁美さん、どこから転校してきたの?」

「都会からなんでしょう?」

「この街はどう?」

「何か部活やってた?」

「え? え?」

 数人の女子生徒の囲まれた少女は、必死に答えようとする。

 しかし誰から、そしてどういうふうに対応していいのかもわからず混乱してしまう。

「暁美さん大丈夫?」

「ご、ごめんなさい。すいません」

 ほむらは頭を抱えた。

 初日からこんな状態では先が思いやられる。


592 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:49:18.42EP0D5twCo (3/16)


 新しい日々の始まりにも関わらず、彼女の気持ちは晴れやかどころか暗く沈みかけていた。

「みんな、いきなり色々なことを聞いたら迷惑だよ」

 ふと、生徒の誰かがほむらを取り囲む女子生徒たちに向かって言う。

 ほむらの視界に、ふわりと揺れる赤いリボンが入ってきた。

 少し長めの髪の毛を二つに縛った小柄な女子生徒だ。

「大丈夫? 暁美さん、気分悪いの?」

 赤いリボンの少女は笑顔でそう呼びかけてきた。

「あ、少し」

「じゃあ、保健室行こうか。私保健委員だから」

「……うん」



   *



 保健室に行くほどの重症ではないのだけれど、あの混乱の渦から抜け出せたことに
ほむらはホッとしていた。

「あ、あの……」

「ああ、自己紹介がまだだったね」

 少女はそう言って振り返る。

「え?」

「私、鹿目まどか。よろしくね」

「は、はい。暁美ほむらです。こちらこそよろしく……」

「大丈夫? 顔色悪いけど」

「ごめんなさい、私、この前まで入院してて、学校生活自体まだ慣れていないんです」

「そうなんだ、大変だね」

「え、はい」

「困ったことがあったら何でも言ってね」

「あ、ありがとう」

 それが暁美ほむらと鹿目まどかの最初の出会いだった。



593 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:49:58.17EP0D5twCo (4/16)







   魔法少女とハリマ☆ハリオ

      オルタナティヴ

   ♭1 もう一つの出会い







594 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:51:20.25EP0D5twCo (5/16)


 ほむらにとって、学校生活がこれほど疲れるものだとは思わなかった。

 既に始業式から一週間以上経っており、学年はじめのオリエンテーリングなども終わって
いるので、いきなり授業を受けなければならない。

 入院生活が長かったため、授業について行くのも必死だ。

 そして何より、体力がついていかなかった。

 体育の授業はあえて受けて見たけれど、グラウンドを一周走っただけで息が上がってしまい、
とても何かをやれる状態ではない。

 授業が終わり、帰宅するころにはもうクタクタであった。

 何人かの生徒が、帰りにどこかへ寄って帰ろうと誘ってくれたけれども、ほむらは丁重に断る。

 何か用があるというわけではなく、とにかく疲れてしまい何もする気が起こらなかったのだ。

(あ、しまった……)

 しかし学校の帰り、まだ新しいスケッチブックを買っていないことを思い出す。

 彼女の趣味は絵を描くこと。

 退屈な入院生活の中で、唯一楽しめることであった。

(どうしよう)

 家に帰ってからまた買いに出かける余裕などない。

 ならばここは少々辛くても、買って帰ろう。

 そう思ったほむらは、疲れた体を叱咤しつつ、駅前の文房具店に足を向けた。

 さすがに家の近くのコンビニでスケッチブックは売っていないからだ。

(ああ、早く帰って休みたいな)

 そんなことを思いながら、重い足取りで彼女は道を歩く。


595 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:51:48.75EP0D5twCo (6/16)


 その時――

「え?」

 急に周囲が暗くなる。

「どういうこと?」

 辺りを見回すと、それまで通行人や車が走っている道が見えない。

 それどころか建物すらわからなくなっている。

 何だか、いきなり別世界に連れ去られてような感覚。

(どこ?)

 場所がわからない。

 というか方角すらわからない。

 ただ、この場所にいたら危ない、それだけはわかった。

(逃げなきゃ!)

 頭ではそう思うのだが身体が上手く動かない。

 そうこうしているうちに、自分の周りに巨大な蛾や奇妙な形をした動物が現れた。

「え? これ何?」

 何だかよくわからない正体不明の生物がほむらを囲む。

「……!」

 声が出ない。

 ここから早く逃げないと。

 不意に物凄い速さで何かが通り過ぎた。

「ひゃっ!」



596 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:52:29.18EP0D5twCo (7/16)


 驚いた彼女はバランスを崩し、その場に尻餅をついてしまう。

(どうしよう)

 早く逃げたいのに立ち上がれない。

 恐怖のあまり、ほむらは頭を抱えその場にうずくまってしまった。

(助けて! 誰か!)

 声にならない声を発する。

 本当にもう、おしまいかもしれない。

(誰か――!)



「おい」



 不意に視界が開ける。

 誰かが彼女の肩を触った。

 顔を上げると、そこには大柄な男性が覗きこんでいる。

 サングラスにヒゲ、それに長めの髪の毛をカチューシャでおさえている男性。

 普段なら絶対に驚いて声をあげてしまうような、いわゆる“怖い大人”だったのだが、
その時のほむらにとっては、まるで神様か仏様のように見えた。

「大丈夫か」

 ゴツイ見た目とは裏腹に、優しげな声で話しかける男性。

 何か返事しなければ、と思ったのだが嬉しさと驚きと恐怖で胸が詰まり声が出ない。

「おい」


597 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:53:12.86EP0D5twCo (8/16)


 男性が再び声をかけた。

「ふえ?」

 間抜けな声が出る。

 しまった、と彼女は思ったがどうしようもない。

「大丈夫か?」

「あ、あわわわ」

 ほむらは再び周囲を見回す。

 そこは先ほどまで見た、街の歩道である。

 車が行き交い、仕事帰りのサラリーマンや学生が歩いている。

「具合でも悪いのか」

「そ、そういうわけじゃ」

「立てるか」

「え……、は!」

 ほむらは立とうとするも、上手く立てずその場でバランスを崩し、再び尻餅をついてしまう。

「お、おい」

「すいません、すいません」

 ほむらは涙声で謝る。

 通行人が注目しているのがわかったら余計に申し訳ないという気持ちになってしまった。

「仕方ねェ」

 困り顔の男性は、意を決したように屈みこむ。


598 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:53:42.75EP0D5twCo (9/16)


 ほむらの身がふわりと浮きあがる。

「へ? 何を」

「すぐ近くのベンチまで移動する。大人しくしてろ」

 男性が、彼女のカバンと彼女自身を抱え上げたのだ。

 ほむらは恥ずかしさのあまり、声が出なくなってしまう。

 でもそれは、決して悪い気持ちではなかった。

(これが男の人の匂い……)

 彼女にとっては、父親以外で初めて感じる男の匂いだった。



   *



 近くの公園まで抱きかかえられて連れて行かれたほむらは、そこのベンチに座らされた。

「ここでいいな」

「あ、はい」

 ぶっきらぼうな言葉づかいに対して、その態度は優しい。

「ちょっと待ってろ」

 そう言って足早にかけていくサングラスの男性。

 公園のベンチで一人になり、自らの状況を思い出すと急に恥ずかしくなってきた。

(お、お姫様抱っことか、漫画の中だけの話だと思ってたのに……)

 しばらくすると、件の男性が戻ってくる。


599 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:54:22.65EP0D5twCo (10/16)


「これ……」

「え?」

 そう言って手渡したのは『農協夏みかんジュース』である。

(は、これ。茨城にしか売ってないと思ってたけど、ここにもあったんだ)

 みかんジュースの中でも、この農協夏みかんジュースは、ほむらのお気に入りの一つであった。

「あ、ありがとうございます」

 ほむらはジュースを受け取る。

 冷えているため、微かに濡れている缶の表面がまた気持ちよかった。

 ジュースの缶を手渡した男性は、ゆっくりとほむらと同じベンチに座る。

「落ち着いたか」

「はい。もう大丈夫です。すいません、私なんかのためにこんな親切にしていただいて」

「いや、別に……」

「……」

「それよりどうして、あんな所にうずくまってたんだ? 危ないだろう」

「あの……、それは」

 ほむらは口ごもる。

 本当にこんなことを言ってもいいのだろうかと思ったからだ。

 言ったところで信じてもらえるとは思えない。

 彼女が迷っているところで、相手のほうから質問してきた。



600 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:54:56.70EP0D5twCo (11/16)


「病気か何かか?」

「そういうわけではないと思うんですけど」

「ん?」

「あ、いや、確かに病気はしてました。ついこの間まで入院してたんです、私」

「そォか」

「あの」

「ん?」

 ほむらは男性の顔を見据え、少しだけ勇気を出して聞いてみた。

「あなたは、お化けとかって信じますか?」

「何言ってんだ?」

「ああいえ、すみません。ちょっと気になったもので」

(やっぱりそうだ。これが普通の反応だ……)

 ほむらは焦りを隠すように目を伏せた。

「別に、信じてねェよ。いるわけねェだろう」

「そうですよね……。やっぱり気のせいだったんだ」

「ん?」

「いえ、何でもありません」

「それより、その制服」

 男性が、彼女の服に向けて指をさす。

「これですか?」


601 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:55:39.60EP0D5twCo (12/16)


 ほむらは、自分の着ている制服を見ながら言った。

「確か、見滝原中学のもンだろう?」

「え、はい。そうです。ご存じなんですか? もしかしてOBの方とか」

「いや、そうじゃねェ。俺、今年ここに引っ越してきたばっかだから」

「あ、じゃあ私と一緒ですね」

「ん?」

「私、去年まで東京の学校に通ってたんです。といっても、病気で入院しちゃったんで、
あんまり思い出はないんですけど」

「そうか、大変だな」

「あの、それじゃあなんで、この制服が見滝原のものだってわかったんですか?」

「ああ、知り合いがな、そこの中学に通ってんだよ」

「はあ」

「鹿目まどかって、いうんだけど。知ってるか」

「え!?」

 ドキリとした。

 まさかここで、知り合いの名前が出てくるとは思わなかったからだ。

 世間は狭い。

「か、鹿目さんとお知り合いなんですか?」

「ん、まあ。たまたま知り合ったっていうか。同居人のつながりで」

「そうなんですか。鹿目さんて、優しくて親切で、いい方ですよねえ」


602 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:56:15.45EP0D5twCo (13/16)


 困っていた自分に声をかけてくれたまどかという存在は、ある意味恩人であった。

「お前ェ、まどかのこと知ってるのか」

「はい、同じクラスになったんです」

「そォか。仲良くしてやってくれよ」

 そう言って男性は優しく微笑む。

 サングラス越しでよく見えなかったけれど、それも優しい笑みだと彼女は思った。

「あ、はい、でも彼女は保健委員で、私のほうが世話になりっぱなしで」

「世話に?」

「退院したばかりで、体力もなくって、勉強もあんまりついていけてないんです。
そんな私をフォローしてくださったのが、鹿目さんです」

「そういや、アイツは世話好きだったな」

 彼は何かを思い出しているように、宙を見つめる。

 きっと、自分の知らないところで鹿目まどかとの思い出があるのだろう。

「そうだったんですか、鹿目さんのお知り合い……」

 今日会った鹿目まどかの顔を思い出していると、不意に男性は言った。

「なあ、もう歩けるか?」

「え? はい」

 男性と話しているうちに、先ほどまでの動悸はすっかり収まったようだ。

「そうか。もうすぐ暗くなるから、早く帰れよ」

 男性はそう言うと立ち上がる。


603 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 19:56:58.51EP0D5twCo (14/16)


 ほむらはなぜか、できればもう少しだけその人と一緒にいたいと思った。

「あ、あの!」

 そして思わず、呼び止めてしまう。 

「なんだ」

 ほむらの声に、相手の動きが止まる。

「あの、私、暁美ほむらっていいます」

「ん?」

「お名前、お聞きしてよろしいですか」

「ん、ああ。播磨拳児だ」

「ハリマ、ケンジ……」

 ほむらは、その名前を頭の中で何度も繰り返す。

「じゃあな」

 播磨はそう言って手を振った。

「ありがとうございます……!」

 ほむらは、その姿に深く頭を下げる。

(ハリマケンジ……)

 その名前を心の中でつぶやくたびに、彼女の胸が大きく高鳴った。

  


   つづく



604 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 20:00:24.02EP0D5twCo (15/16)

第一話終わり。

本当はスクラン増刊号のように、所々にエピソードを挟もうと思ったのだが、そんな余裕はなかった。

ちなみに、スクランと同様に本編のナンバリングは♯、オルタは♭としました。

これで未回収の伏線が回収できるのか。それは今後のお楽しみ。


605 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/15(日) 20:01:32.61EP0D5twCo (16/16)

>>604

訂正(二行目)

×所々に

○時々


606VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)2012/01/15(日) 20:19:43.11JokgOWtco (1/1)


そしてめがほむの切ない恋の物語が始まるのか……胸熱ww


607VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/16(月) 02:31:55.08vhu2zHnDO (1/1)

おつおつ
なるほど、確かにスクランもマガスペの方読んでないと「あれ?」ってなる所あったもんな
件のマミさんのくだりはあれに相当する訳だ

話のナンバリングが♯だった時点でこの補完は気付くべきだったぜ…


608VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2012/01/16(月) 15:30:00.59QDdKzccAO (1/1)

メガほむ一周目、まどかじゃなくても親切にされたら割と簡単にコロッと落ちると言うか、懐きやすそうだよな
播磨みたいなタイプが相手だと余計に
なんか鳥の雛みたいな子だ


609 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:31:18.60FwuKrF9no (1/20)

 第二話、ちゃっちゃと行きます。


610 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:32:23.09FwuKrF9no (2/20)

 ♭2 プロローグ

 さやかはその日、親友のまどかと一緒に、駅前の大型ショッピングモール内にある
CDショップでCDを見ていた。

 入院している幼馴染の上条恭介に持って行くためのCDを選んでいたのだ。

 元々クラシックには興味なかったさやかだが、ヴァイオリンの演奏者である恭介と話を
合わせるためにも、色々とクラシック音楽、とくにヴァイオリンの演奏曲を聴いている。

「あれ? まどか」

 一緒に来ていたまどかが、宙を眺めながらそんなことを口走る。

「呼んでる」

「え?」

 メルヘン好きな彼女は、時々変なことを口走ることがあるので、今日もまた、
中学二年生がかかる特殊な病気がはじまったのかと思っていた。

 しかし、

「こっちか」

 そう言ってまどかはCDショップを出る。

「ちょっとまどか。待ってよ」

 まどかは誰かに引き寄せられるように、早足で進む。

「まどか、どこへ行くんだよ」

「ここからかな」

「何がだよまどか」

「誰かが助けを求めてるの」

「へ?」

 そう言うとまどかは、『立ち入り禁止』と書かれた区域へと入って行った。



611 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:33:00.58FwuKrF9no (3/20)





   魔法少女とハリマ☆ハリオ

     オルタナティブ

    ♭2 魔法少女







612 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:34:05.37FwuKrF9no (4/20)



「まどか、まずいよ。何だか嫌な予感がする」

 薄暗い立ち入り禁止区域の中をまどかとさやかは歩く。

 さやかは、その場所からただならぬ雰囲気を感じ、まどかをとめようとするも、
彼女はずんずんと先に進んでしまうのだ。

「まどか」

 グイと、さやかはまどかの肩を掴む。

「さやかちゃん?」

「警備員さんに見つかったら怒られるから、早く戻ろう」

 そう言って、まどかを説得するさやか。

 本当は、それ以外にも嫌な予感がしてたまらないのだが、それを口に出してしまうと、
もっと怖くなってしまいそうなので、胸の奥にしまっておいた。

「でも、誰かが助けを求めてるんだよ。聞えない?」

「聞えないよ。夢でも見てるんだろう? ほら、行こう」

 さやかは、そう言うとまどかの腕を引っ張って元の場所へ戻ろうとした。

 しかしその時、

「あれ? こっちでいいんだっけ」

 先ほど歩いていた場所と違う、空気が流れる。

「何これ」

 変な、アリ塚のようなものが彼女の目の前に現れた。

 それと同時に、やけにカラフルな色合いの蛾が飛び出す。それもかなり大きい。

 周囲を見ると、そこはもうショッピングセンターのバックヤードなどではなく、
もっと別の世界のようだ。

 暗く、気味の悪い色の不気味な世界が広がっている。


613 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:34:45.16FwuKrF9no (5/20)


「きゃあ!」

「まどか!」

 さやかはまどかをかばう。

 近くには、コウモリのような奇妙な動物が飛び交う。

 さやかの心臓が高鳴る。

 先ほどまで、ふつふつと静かに沸き起こっていた恐怖心が、今は沸騰したお湯のように
あふれ出てきた。

「まどか! 逃げよう」

「逃げるってどこに?」

「とにかく逃げるんだよ!」

 こんな場所にいたらどうなるかわかったものじゃない。

 そう確信したさやかは、まどかの手を引いてその場から逃げようとする。

 目の前の光景も気持ちが悪く、出口がどこかもわからない。

 それでも、その場に留まっているよりは幾分マシだろう。

 しかし、

「さやかちゃん、待って!」

 そう言ってまどかが立ち止まった。

「何やってんだまどか」

「あそこ」

「ん?」

 まどかの視線の先には、白い生物がいた。

 さっきから周りを飛び回っている不気味の生物の仲間だろうか。



614 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:35:18.79FwuKrF9no (6/20)


「あなたが私を呼んだの?」

 まどかは、その白い生物に語りかける。

 さやかもその生物をよく見てみると、猫のような外見をしていると思った。

 けれど、猫よりも大きな尻尾を持っており、耳の辺りから長い毛のようなものが生えている。

「まどか!」さやかは呼びかける。

「ほら、おいで」

 まどかが両手を広げると、その白い生物はピョンピョンと飛び跳ねるようにまどかのもとに
やってきた。

「こっちに」

 そしてまどかは、その白い生物を抱き上げる。

「ほら、行くよ」

 さやかはまどかのその一連の行為を見守った後、その場から逃げることにする。

 しかし、

「くっ!」

 目の前には、巨大な目玉のような不気味な生物が立ちはだかる。

 明らかにヤバイ雰囲気だ。

 以前、野良犬に睨まれたことがあったさやかだが、その時と同じ、いや、それ以上の緊張感を
味わっている。

「これはマズイかも」


615 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:35:47.53FwuKrF9no (7/20)


 引き返そうと後ろを見ると、こちらも先ほどの蛾やコウモリのような形の化け物が迫って
きている。

「囲まれた」

「どうしよう」

 不安そうにするまどか。

(この子は、あたしが守らないと――)

 さやかは恐怖心を押し殺すように心の中でつぶやく。

 そうしないと、パニックになってしまいそうだったからだ。

 しかし、

(武器、武器はないかな)

 周りに武器になりそうなものはない。

 空手などの格闘技の経験もないさやかにとって、徒手空拳ほど心細いものはない。

「うう……」

 じりじりと迫ってくる目玉のお化け。

「そうだ、蹴りを」

 足元が震える。

 とても靴跡を付けられそうにない。

「さやかちゃん」

 まどかが身を寄せる。

「まどか」


616 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:36:16.65FwuKrF9no (8/20)


 それをかばうように、さやかはまどかを両手で抱いた。

 その時、

 風船が割れたような音とともに、目の前の目玉のお化けが弾け飛ぶ。

「え?」

 一瞬、何が起こったのかわからなかった。

 そして次の瞬間、同じように化け物が弾けて行く。

「どういうこと?」

 さやかとまどかの二人は、何が起こったのかよくわからずそのまま呆けていると、
何者かの足音が近づいてきた。

 今度は人間だ。

 歩き方が、今までの化け物とは違う。

「危ないところだったわね」

「あ……」

 暗がりの中から、小さな宝石のようなものをを手に持った少女が現れた。

 その宝石は、まるで電球のように黄金色に輝いている。

「あなたは……」

 少し背が高く、長い髪をくるくる巻きにした女性。着ている服を見ると、さやかたちと同じ
見滝原中学の制服であった。

「あら、キュゥべえを助けてくれたのね。どうもありがとう」

 制服の少女はそう言ってほほ笑む。

「キュゥべえ?」



617 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:36:51.20FwuKrF9no (9/20)


「そこの女の子が抱っこしている子よ。その子は私のお友達なの」

「あの、あなたは……」

「あら、自己紹介がまだだったわね。でもその前に――」

 少女は手に持っている光る宝石を掲げる。

「ちょっと一仕事」

 そう言うと、掌の上にある宝石は、先ほどよりも強い光を放った。

「うわっ」

 あまりに眩し過ぎて、さやかたちは直視できない。

 しかし、光に目が慣れてしっかりと前を見据えた時、目の前には制服姿とは違う、別の服を着た
先ほどの少女が立っていた。

「ええ?」

 小さな帽子を被り、可愛らしくかつカッコイイ服装に身を包んだ少女はまるで、

「魔法少女みたい」

 まどかはつぶやく。

「ふふ、鋭いわね、あなた」

 そう言うと巻き髪の少女は、どこからか映画に出てくるような銀色のマスケット銃を取り出した。

「え?」

「危ないから二人とも、私の後に来なさい」

「え、はい」

 少女に言われるまま、さやかたちは背後に回る。

 目の前が開けた少女は、持っていたマスケット銃を次々に撃ちだす。


618 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:37:49.54FwuKrF9no (10/20)


 光の弾が先ほどの化け物に命中すると、まるで風船が割れるようにいなくなってしまう。

 しかし化け物の数は多い。

「キリがないわね。早く本体を見つけないと」

 そう言うと、少女は更に被っている帽子を大きく振る。

 すると、今まで地面に現れていたマスケット銃が、空中に現れる。

「弾丸のシャワーといきましょうか」

 飛び立つ少女。

「逝きなさい!」

 少女の叫びとともに、大量の光の弾が降り注ぐ。それはまるで流星のようだ。

 しかしその流星は、空中や地上にいる化け物どもを次々に駆逐していく。

 まるで花火大会でも見ているような密かな興奮がさやかたちを包んだ。

「うわ……」

 言葉にならず、ただ感慨の声が漏れるだけである。




   *



619 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:38:22.03FwuKrF9no (11/20)




「どうやら本体は逃したみたいだけど、まあこれでいいわ」

 そう言うとマミは被っていた帽子を脱いだ。

 すると、彼女の白のブラウスや黄色のスカートなどが消え、元々着ていた
見滝原中学の制服へと変わって行く。

「ど、どうなってるの?」

「魔法みたい」

 まどかがそういうと、少女は答える。

「魔法みたい、じゃなくて魔法なのよ」

「魔法?」

「そうよ」

 気がつくと、先ほどまで周りに広がっていた不気味な雰囲気の世界もいつの間にか、
元の見覚えのある空間に戻っていた。

「とりあえずはじめまして。自己紹介をしておきましょう。私は見滝原中学三年、巴マミよ」

 巴と名乗る少女は、そう言って笑顔を見せる。

「あの、巴先輩」

「マミでいいわ。そういう堅苦しいの、苦手なの」

「あ、はい。マミさん」

「なあに?」

「この子は、あなたの飼い猫か何かですか?」

 そう言って、まどかは両手に抱えていた白い生物を差し出す。



620 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:39:04.06FwuKrF9no (12/20)


「この子はキュゥべえっていうの。私のお友達。飼ってるわけじゃないわ」

《いやあ、助かったよマミ。一時はどうなることかと思った》

「え?」

「何?」

 まどかとさやかは周囲をキョロキョロと見回す。

「今の声、マミさんですか?」と、さやかは聞く。

「私じゃないわ。この子が自分で喋ったの」

「へ?」

《よっと》

 不意に、白い生物はまどかの両手からスルリと抜けだす。

《やあ、僕の名前はキュゥべえ。僕、今日キミたちにお願いがあってきたんだ》

「キミたち?」

《そうだよ、鹿目まどか。そして、美樹さやか》

「はい?」

「何であたしたちの名前を?」

 まどかとさやかは顔を見合わせる。

《僕と契約して、魔法少女になってよ》

 キュゥべえはそう言って、笑顔を見せた。






621 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:39:43.25FwuKrF9no (13/20)



 さやかとまどかは、詳しい話を聞くため、マミのマンションへと訪問していた。

「すごいマンション。いきなり来ちゃって、家族の人とか大丈夫なんですか?」

 さやかはそう質問してみる。

「家族は、いないのよ……」

 ふと、一瞬暗い表情を見せつつマミは言った。

「一人暮らしなの。だから気にしないで」

「そうですか」

 さやかは、マミの見せた一瞬の影が少し気になったけれども、すぐに忘れた。

 それからマミの部屋でお茶を飲みながら魔法少女についての説明をうけるまどかとさやか。

 キュゥべえとマミの話によると、キュゥべえは何でも願いをかなえることができるという。

 その代わり、マミのように魔法少女となって魔女と戦わなければならない。

 魔女というのは絶望を集める化身。

 モールの立ち入り禁止区域でマミが倒したあの化け物は、その魔女の使い魔だという。

 魔女は普段、結界の内側に隠れているけれどまれに表に出て、人々の命を喰らう。

 まどかとさやかは、たまたま魔女を見る能力を有していた、つまり、魔法少女になる才能を
有していたということになる。

 だからキュゥべえは、魔法少女になるよう勧誘してきたのだ。

「うーん、願いごとかあ……」

 マミの家からの帰り途、まどかはそんなことをつぶやいていた。


622 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:40:27.83FwuKrF9no (14/20)


「でも何でも願いが叶うって、凄くない? 億万長者にもなれるんだよ」

「そうだけど、あのお化けみたいなのと戦わなくちゃいけなくなるんだよね」

「そ、それはそうだな……」

 何でも願いが叶うという期待、そして魔女と呼ばれる化け物と戦わなければならない不安。

 それらが入り混じり、さやかの心の中に複雑な波が押し寄せていた。



   *




 翌日、まどかとさやかは一緒に下校していた。

「ねえ、まどか」

 と、さやかが話しかける。

「なあに、さやかちゃん」

「“あのこと”、誰かに相談したか?」

「あのことって?」

「そりゃあ、魔法少女のことだよ」

「ううん、誰にも」

「そうだよなあ。相談できないよなあ」

「たとえ相談したとしても、誰も信じてもらえないよ」

「うーん……」

 さやかが考え込んでいると、不意にまどかが立ち止まる。


623 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:41:11.99FwuKrF9no (15/20)


「どうした?」

「そうだ」

「ん?」

「ねえさやかちゃん、ちょっと本屋さんに寄って行ってもいい?」

「え? いいけど」

「よかった。ちょうど『花と梅』が発売日だったの」

「へえ」

 まどかの好きな少女漫画雑誌が、今日発売されるらしい。



   *




 まどかが本屋に寄りたいと言ったので、さやかもそれに付き合うことにした。

 といっても、小説や参考書を見るわけではなく専ら漫画が目的なのだが。

 さやかは本に囲まれた空間で、何で本屋の中に入るとトイレに行きたくなるんだろう、
などと考えていた。

「私、あっちを見てくるから」

 そう言って、まどかはさやかとは別の方向へ歩いて行く。

 さやかも、雑誌コーナーに向かい、自分の好きな雑誌を目で探してみた。

 しばらく、いくつかの雑誌を手にとって読んでいると、背後から人の気配がした。



624 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:42:34.96FwuKrF9no (16/20)


「まどか、遅かったじゃ――」

 さやかが振り向いた時、そこにはまどかではなく、彼女とは似ても似つかぬ巨大な男が立っていた。

「ひっ!」



   *


 
「改めて紹介するね、この子が私のお友達のさやかちゃん」

 隣に座るまどかが、そう言ってさやかを紹介した。

「み、美樹さやかです。フツツカモノですが、よろしくお願いします」

 緊張のため、変な言葉遣いになってしまったさやか。

「それで、この人が播磨拳児さん。今年の四月から見滝原に引っ越してきたんだよ」

「お、おう……」

「……」

 身長180センチくらいはあるだろう、体格の良いその男性は、どうやらまどかの知り合いらしい。

 サングラスをしていて、ヒゲも生やしている。

 さやか自身男っぽい性格ではあるけれども、身近にいる男性は上条恭介のような、
細く中性的な人物が多かっただけに、こういういかにも“男”という感じの相手は苦手である。

 まどかがたまに彼の話していたけれど、すごく楽しそうに話していたので、播磨という男性は
まどかの父親のように、さわやかなお兄さんタイプなのだろうと勝手に想像していた。


625 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:43:52.35FwuKrF9no (17/20)


 しかし真実は違ったわけである。

 さやかは、担任の早乙女和子と一緒に住んでいる、という話を覚えていたのでそのことに
ついて質問したりしてみた。

 第一印象と同じように、ぶっきら棒な喋り方であった播磨だが、言葉のいたるところで
こちらを気遣ってい様子が感じられた。

 特にまどかに対しては特別気遣っているようだ。

 そして隣にいるまどかを見ると、とても穏やかな笑顔をしている。

 まどかがよく、播磨の話をしているということを言うと、彼女は顔を真っ赤にして口をふくらます。

(仲がいいな、この二人……)

 さやかは、何となく疎外感のようなものを感じていた。

 もちろん、まどかがさやかをのけ者にするはずはないのだが、二人の間からは精神的に強い
“つながり”のようなものが感じられ、そこに割って入るだけの隙間は見当たらなかった。

 しばらく雑談をした後、不意にまどかが神妙な顔つきをする。

「あの、拳児くん?」

「あン?」

「もしもの話なんだけど」

「ああ」

「もしも、何でも願いが叶うとすれば、どんな願いを望む?」

 昨日の話だ。

 さやかはすぐに気づく。

 魔法少女云々の話はしていなけれども、この質問に昨日の出来事が影響していないわけがない。



626 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:44:21.23FwuKrF9no (18/20)


「願い……?」

「そう、何でも叶うとしたらです。金銀財宝とか、満漢全席とか」さやかも続けてみる。

 何でも願いが叶うとすれば、彼はどんな願いをするのだろう。

 さやかも興味があった。

 何を望むかで、その人のことがわかるかもしれない、と思ったからだ。

 しかし、播磨から出てきた答えは、さやかの予想していたものではなかった。

 というか、まともに質問には答えなかったのだ。

「何でも願いが叶うっていうけどよ」

「うん」

「やっぱり、そういう状況にはそれなりの代償が伴うんじゃねェかな」

「代償?」

「ああ、リターンにはリスクが伴う。そうじゃなきゃ世の中は成り立たねェ」

「……」

「例えば、何でも願いが叶うっていうなら、それなりの代償があると思う」

「その代償って何ですか?」

「たとえば、命とか」

「命……」

「今のところ、自分の命と引き換えにしてでも叶えたい願いってのは、俺にはないな」

「そう……、ですか」

「まどかはどうなんだ?」


627 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:45:30.09FwuKrF9no (19/20)


「私? 私は……。その――」

 ほんの少しの沈黙。

 そして、

「ない、かな……」

「そォか」 
  
 その後、さやかたちは帰ることにした。

 帰りは、暗くなってきたからと言って播磨が送ってくれることになる。



   *



 帰り途、相変わらずまどかと播磨は楽しそうに話をしていた。

 二人ともさやかを無視しているわけではない。

 しかし、二人の瞳の中にはお互いの姿しか写っていないんだろうなあ、とさやかは
思ってしまう。

 そして、自分のマンションが近くなると、まどかたちと別れてその場を離れた。

 それは親友に対する気遣いでもあり、二人に関係に少し妬いている自分を守るための
防衛行為でもあった。

 早足で、自分の住むマンションに帰ったさやかは、カバンからカギを取り出し中に入る。

「ただいま――」

 返事はない。

 薄暗い部屋の中に、自分の声だけが響く。

 微かに響く時計の音を聞きながら、台所のテーブルの上に目をやると、そこには母親からの
置手紙があった。

 内容は見なくてもわかる。

「いつも同じことを書くんだったら、わざわざ手書きじゃなくてもいいじゃない」

 さやかは常々思っていたことを口に出してみた。



   つづく


628 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/16(月) 19:46:46.06FwuKrF9no (20/20)

さやかのターンはこれでおしまい。

次回からはまた、ほむらが主役に戻りますん。

それではまた次回。


629 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/17(火) 20:52:28.15cLE8yXD4o (1/12)

まだ火曜日か。今放送しているおねティのリメイクは面白いですね。


630 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/17(火) 20:53:06.31cLE8yXD4o (2/12)

 
 彼女は何かを期待してその公園に来たわけではない。

 ただ、まったく期待していなかったといわれれば嘘になる。

 再来週から学習塾に通う予定になっているので、こんな風に放課後にブラブラ歩くことは
できなくなるだろう。

 だからこの時間を有効に使いたいと彼女は思っていた。

 だが何も思いつかない。

 そもそも、学校帰りに何かするという発想自体、これまでの彼女にはなかったことだ。

 本当は、友達とどこかへ遊びに行きたいとも思った。

 けれども、病気がちであまり人と接したことのなかったほむらにとって友達を作る、
という行為は高いハードルであった。

 今のところ、鹿目まどか以外との同級生とほとんど話もできない状況である。

 そんな彼女が色々考えた末、天気もいいので風景のデッサンでもしてみようという結論に達した。

 室内で生活することが多かった彼女にとって、外で過ごす時間というのは貴重なものだ。

 そして外に出れば、家の中では出会えないことに出会えるかもしれない、などと思いながら。

 公園内を歩いていると、不意に見覚えのある人物が目に入った。

 日本人の中では比較的大柄な男性。

 学生服を着ているが、高校生には見えない風格(おもに髭とサングラスが原因だろう)。

 ずいぶん疲れたような様子でベンチに座り込んでいる。

(声をかけようか)

 彼女は一瞬躊躇する。

(迷惑じゃないかな)

 不安が頭をよぎる。

 今までもそうだった。なんでも悪い方向に想像してしまい、心が前に進まない。

(でも……)

 胸が高鳴る。

「播磨さん?」

 気が付くと、声が出ていた。

「暁美か」

 こちらの様子に気付いた播磨拳児はすぐに、彼女の苗字を呼んでくれた。



631 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/17(火) 20:53:51.24cLE8yXD4o (3/12)








   魔法少女とハリマ☆ハリオ

      オルタナティブ

      ♭3 勇 気






632 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/17(火) 20:54:36.55cLE8yXD4o (4/12)



 暁美ほむらは遠慮がちに播磨の隣に座る。

「なんでそんな端っこ座ってんだ?」播磨は不思議そうに聞いた。

「いえ、特に意味はありません」

「そういや」

「はひっ」

「大丈夫か」

「大丈夫です。それより、なんですか?」

「そのスケッチブック」

「ああ、これですか」

 ほむらは学校からずっと、スケッチブックを抱えていたのだ。

「何か描くのか?」

「ふ、風景を描いてみようと思ったんです」

「ほう」

「でも、いい場所が見つからなくて」

「そうか?」

「それに、私あんまり風景って描いたことないんです。入院生活も長かったから」

「……」

「外に出て、色々なところを見て回るって、大変なんですよね。私体力無いから、あんまり
遠くにはいけないんです」

「そうなのか……」

「この街にも、素敵な場所はあると思うんです。でも、そういうのほとんど見たことがなくて」

「ん?」

「写真くらいでしか見たことないんです」


633 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/17(火) 20:55:07.41cLE8yXD4o (5/12)


 そう言ってほむらはうつむいた。

「なあ、暁美」

「はい」

「少し時間あるか?」

「え?」

「まだ間に合うな」そう言って播磨は時計を見る。

「どうしたんですか?」

「すぐそこまで、行ってみねェか?」

「え?」




   *


634 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/17(火) 20:55:57.01cLE8yXD4o (6/12)




 日が傾きかけている時間、急な坂を播磨は自転車をこいでいた。

「播磨さん、おりましょうか?」

「じっとしてろ」

 その日、めずらしく自転車で出かけていた播磨はほむらを後ろに乗せて公園を出発した
のである。

 そして、

「ついた。はあ、はあ、はあ……」

 息を切らしながらほむらを乗せた彼は坂道を登りきる。

「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。それより、間に合ったみてェだな」

 そう言って、播磨はガードレールの向こう側を眺めた。

「ここは」

「初めてこの街に来たとき、色々と見て回ったんだけどな。たまたまこの場所に来たら、
すげェきれいなもんが見れたからよ」

「あ……」

 ほむらの目の前には、見滝原の街が広がり。そしてその奥に今にも沈もうとする太陽の姿。

 夕日の色に染められた街。

「きれい」

 ほむらは思わずメガネの奥の目を細めてつぶやく。

「ここに来たとき、はじめていいところだなって、思った」



635 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/17(火) 20:56:28.55cLE8yXD4o (7/12)


 播磨は独り言のようにつぶやく。

「私も、そう思います」

 今はこの夕日を絵にできるほどの実力は持ち合わせていない。そう思ったほむらは、
自分の頭の中にあるメモリーにこの光景を保存しておこうと思った。

「あ……」

 しかし、ずっと夕日を眺めているとふと寂しい気持ちになる。

「どうした」

 ほむらの変化を感じたのか、播磨が聞いてきた。

「ダメですね、私」

「何がだ?」

「だって、この街にはこんな素敵な場所があるのに、全然気が付けないでいて」

「そうか? 気が付かないのが普通だと思うけどな」

「それに、播磨さんに迷惑かけてしまって……」

「迷惑?」

「だってそうでしょう? 私なんかを後ろに乗せて走ったから、疲れてしまったと思うし」

「別に迷惑だなんて思ってねェぞ」

「でも……」

「暁美」

「はい」

「人は誰かに迷惑かけるもんだ。それが普通だ」


636 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/17(火) 20:56:56.78cLE8yXD4o (8/12)


「普通、ですか」

 普通――

 その言葉は、病気のせいで人と同じ生活のできなかったほむらにとっては憧れの言葉でもある。

「俺だって和子とか詢子さんとか、色んな人に世話になって生きてる」

「……」

「それにな、暁美」

「はい」

「誰かに頼りにされるってのも、悪いことじゃねェぞ」

「でも迷惑じゃ」

 ふと、ほむらの脳裡に両親の顔が思い浮かぶ。

 病気がちな彼女を見る目は、決して愛に満ち溢れたものとは言い難かった。

「確かに何度も続けば迷惑って思うこともある。だがよ、よく考えてみろ」

「え?」

「お前ェは好きでもないやつに頼ろう、って思うか?」

「それは」

「誰かに頼るってことはな、ある意味親愛の表現の一つだと俺は思う」

「親愛、ですか」

「だからよ、好きな奴には頼ってほしいって思うわけよ。でもそれを遠慮されたら、やっぱ辛いもんがあるな」

「そうなんですか」


637 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/17(火) 20:57:24.30cLE8yXD4o (9/12)


「ああ。暁美も、もう少し誰かに甘えてみたらどうだ」

「私がですか?」

「なんつうか、俺はお前ェのこと、そんなに知ってるわけじゃねェけど、肩に力が入ってるっつうか。
そんな感じがするから」

「え……」

 ほむらは少しショックを受ける。

 自分が播磨にそう思われていることに対してだ。

 そして彼の指摘は、概ね当たっていた。

「播磨さん……」

「ん?」

「ありがとうございます」

 いつの間にか日は沈み、あたりは少しずつ闇に包まれはじめる。




   *


638 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/17(火) 20:58:20.76cLE8yXD4o (10/12)



 翌日、ほむらは緊張していた。

 何か特別なことをしようとしているわけではない。

 いや、普通の生徒にとっては特別なことではない、と言ったほうが正しいだろうか。

 ほむらにとっては大きな冒険である。

 昼休み、数人の女子が椅子に座って話をしていた。

 そこに、教科書を抱えたほむらが向かう。

 それほど仲の良い女子生徒ではない。

 というか、ほむらにとって鹿目まどか以外の生徒は、概ね全員関わりが薄いのだ。

 その生徒たちに、ほむらは思い切って声をかけた。

「あ、あの……」

「ん? どうしたの、暁美さん」

 女子生徒の一人が彼女の声に気づき返事をする。

「実は、お願いがあって」

「お願い?」

「私、その、数学が苦手で、もし迷惑じゃなかったら、教えて欲しいと思って……」

 脚が震える。

 生徒同士で教え合う、なんてことはよく行われていることである。

 今までのほむらならば、それを羨ましいと思いつつ横目で見るだけであった。



639 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/17(火) 20:58:43.41cLE8yXD4o (11/12)


 それを今日、彼女は実際にやってみようと思ったのだ。

「いいよ、どこの問題?」

「ゆり、あんた数学苦手じゃなかった?」

 別の生徒が悪戯っぽい笑みを浮かべながらからかう。

「あたしもテストに向けて復習しようと思ったんだ。暁美さん、一緒にやろう」

 さらにまた別の生徒も声をかけてきた。

「あ……、ありがとうございます」

 緊張が収まらないなか、ほむらは震えながら頭を下げた。

「いいっていいって。あ、教科書どこだっけ」

「こっちでやろうよ。ほら、中沢。アンタ邪魔よ」

 活発そうな女子生徒が男子生徒を小突く。

「な、なんだよお前ら」

 気の弱そうな男子生徒はそう言いつつ、教室から退散していった。

(播磨さん。私、もう少し勇気を出してみようと思います)

 クラスメイトと机を並べ、わからない箇所を質問しつつ、ほむらはそんなことを考えていた。




   つづく


640 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/17(火) 21:00:53.80cLE8yXD4o (12/12)

芥川賞と直木賞が発表されましたね。

まあ、どうということはないんですがね。


641VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)2012/01/17(火) 21:12:49.24GDCzX6Z1o (1/1)

まあ、そのなんだ・・・・・・乙


642VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/18(水) 03:21:16.88mWEdiXhDO (1/1)

おつほむ


643 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/18(水) 11:10:18.89FpYHUOiAO (1/1)

ほむほむ


644VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/01/18(水) 18:12:08.141H+F/YMw0 (1/1)

乙ほむ
二人乗りで坂を登るなんて
ムネアツ!(耳をすませば的な意味で)


645 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/18(水) 19:56:44.60O9JpTr3wo (1/12)

 眠い。疲れた。面倒な仕事が待っている。

 というわけではないけれど、今日は短めに投下。


646 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/18(水) 19:57:33.14O9JpTr3wo (2/12)




 ほむらはその後、学習塾にも通いはじめ、友達も少しずつ増えていき、
学校生活にも少しずつ慣れてきた。

 そして、あの天候初日に経験した恐ろしい出来事を忘れかけたころ、
ほむらは再びあの恐ろしい化け物と遭遇する。

 それは、学習塾からの帰り道であった。

 かつて経験したことのある不気味な空間。

 そして見たことのない恐ろしい化け物。

 恐怖に慄くほむらを救ったのは、播磨ではなかった。


「白馬に乗った王子様だと思った? 残念、さやかちゃんでした」


「美樹さん?」

 クラスメイトの美樹さやかである。

 しかし様子がおかしい。

 彼女の着ている青を基調とした服は、なんとなく奇抜だ。

 そして、無数に出てくる剣は一体どこに隠しているのか。

 わからないことが多い。




647 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/18(水) 19:58:19.80O9JpTr3wo (3/12)


 何かのイリュージョンなのだろうか。

 そうこうしているうちに、さやかは化け物を倒す。

「あちゃあ、やっぱりグリーフシード持ってなかったか」

 さやかはそんなことを言いながらほむらの元に戻ってきた。

「あら……?」

 いつの間にか周囲はいつもの街並みに戻っており、目の前にいるさやかの姿も、
見滝原の制服であった。

「どういうことなんですか?」

 ほむらは混乱していた。

「えへへ。やっぱバレちゃうよなあ」

 さやかは照れながら言う。

「……」

「そうそう、暁美さん」

「は、はい」

「このことは、クラスの皆には内緒だぞ」

 そう言って美樹さやかは片目を閉じた。





648 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/18(水) 19:58:50.11O9JpTr3wo (4/12)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ

     オルタナティブ

     ♭4 秘 密






649 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/18(水) 19:59:21.65O9JpTr3wo (5/12)



 美樹さやかの話によれば、この街には魔女と呼ばれる化け物がおり、
彼女はその魔女を狩る魔法少女だという。

 この街で起こる奇妙な事件の多くに、その魔女が関わっているという。

「でも大丈夫!」

 そう言ってさやかは親指を立てる。

「この街の平和は、この魔法少女のさやかちゃんが守りまくっちゃうからね!」

「……」

「だから安心して、暁美さん」

「……はい」

 さやかは笑顔だった。

 でも彼女の笑顔はどこか寂しげだと、ほむらは感じた。

 かつて、ほむらの両親が見せた笑顔にどことなく似ていたのだ。




   * 


650 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/18(水) 20:00:13.78O9JpTr3wo (6/12)



 それから数日、ほむらは不安を抱えつつもそれを誰にも言えずい過ごしていた。

「どうしたの? ほむら」

 クラスメイトの一人が心配そうに声をかけてくる。

「ううん、なんでもない。風邪でも引いたのかな」

 ほむらはそう言ってごまかす。

「大丈夫? 保健室行ったほうがいいんじゃない?」

「だ、大丈夫だよ」

 とは言ったものの、彼女の不安が消えるわけではない。

 その後、学校でよく笑顔を見せていた美樹さやかは次第に表情が暗くなり、
ボーっとすることが多くなった。

 そしてついに、彼女は学校を休む。

 ほむらの不安はさらに大きいものになった。

(あんな化け物と戦って、いくら魔法少女という“力”があっても無事で済むはずがない。
美樹さんが休んだのも、きっと何かあったからだ)

 ほむらはそう確信した。

(誰かに相談したほうがいいかも)

 彼女は何度も考えた。

 しかし誰に相談すればいいのか。

 こんな話をクラスメイトにしたところで信じてもらえるはずがない。



651 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/18(水) 20:01:53.86O9JpTr3wo (7/12)


(播磨さん)

 ふと、サングラスの高校生が頭に浮かぶ。

 もしかして、あの人なら何とかしてくれるのではないか。

 根拠はないけれども、ほむらにはそう感じた。

(でも信じてもらえるかな)

『いるわけねェだろう』

 播磨の言葉がよみがえる。

 自分を救ってくれた、ある意味“恩人”である彼に変な目で見られることは
ほむらにとって耐えがたいことでもあったのだ。

(それでも……)

 さやかには秘密と言われたけれど、その不安を一人で抱えるには重すぎる。

 その時、鹿目まどかの姿が見えた。

 まどかはクラスでも、美樹さやかと特別仲が良かった生徒の一人だ。

 そんな親友のさやかが学校を休んだのだから、心配しないはずがない。

 現に、まどかの表情は暗い。

「あ、あの、鹿目さん」

 ほむらは思わず声をかけてしまう。


652 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/18(水) 20:03:05.68O9JpTr3wo (8/12)


「なに? ほむらちゃん」

 ほむらの声に気づいたまどかは、笑顔を見せる。

 その笑顔は、どことなく痛々しく感じた。

(どうしてみんな、そんな笑顔をするんだろう)

 ほむらはそう思いつつも、勇気を振り絞る。

 誰かを頼ることは悪いことではない。

 播磨の言葉を思い出しながらほむらは言った。

「実は、少し相談したいことがあって」

「なあに?」

「ここだと人に聞かれるかもしれないから、場所、移さない?」

「え?」

 ほむらの言葉に、まどかはただならぬ様子を感じ取ったようだ。



   *


653 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/18(水) 20:03:33.81O9JpTr3wo (9/12)

 

 誰もいない放課後の屋上で、ほむらはまどかに、美樹さやかについてのことを話した。

 そして意外にもまどかはほむらの話を信じた。

 それどころか、より詳しいことを知っていたのだ。

「今まで黙っててごめんね。まさかほむらちゃんも巻き込まれてるなんて、知らなかった」

 まどかはそう言って謝る。

「別にいいの。私だって、実際に目の当たりにするまでわからなかったんだから」

 本当は、転校初日に一度遭遇していたのだ。

 しかしその時は、なぜか助かっていた。

「でも、美樹さんのことはどうするの?」

 ほむらは自分の懸念を口にする。

 もちろんさやかだけでなく、自らの身の安全も危ない状況である。

「ほむらちゃん、ありがとう。私に相談してくれて」

「そんな……」

「私ね、さやかちゃんのことも含めて、ある人に相談しようと思ってるの」


654 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/18(水) 20:04:40.54O9JpTr3wo (10/12)


「ある人?」

「うん」

 不意に、まどかの瞳に光が宿ったような気がした。

「そのある人って」

「拳児くんだよ」

「え?」

「播磨拳児くん。とっても頼りになるんだ」

 そう言うと、まどかはポケットから携帯電話を取り出した。

 確かに、播磨とまどかが知り合いであるということをほむらは知っていたけれど、
まさかここで、彼の名前が出てくるとは夢にも思わなかった。




   *



655 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/18(水) 20:06:05.94O9JpTr3wo (11/12)


 その後、ほむらは魔法少女や魔女についてさらによく知ることになる。

 何より、その恐ろしさも含めて。

 また、この街には美樹さやかだけではなく佐倉杏子という新しい魔法少女も入ってきて
いるという。

 この先一体どうなってしまうのか。

 ほむらの不安は、解消されるどころかさらに膨らんでいく。

(播磨さん……)

 佐倉杏子と初めて会った日の帰り道、ほむらはずっと播磨の袖を握っていた。


 それでも、播磨拳児や鹿目まどかといった理解者ができたことは、それはそれで心強い。

 自分は一人ではない。

 そう思うだけで心持ちは違ってくる。

 しかし雨の季節の到来は、梅雨前線とともに最悪な知らせを彼女の元に運んできた。

 空を覆う暗い雨雲。

 それと同じくらい暗い表情で、担任教諭の早乙女和子は告げる。

「実はみなさんに残念なお知らせがあります。私たちのクラスの美樹さやかさんが、



 昨夜亡くなられました――」



 ざわめく教室。

 すでに何人かの生徒は、そのことを知っていたようだ。

 ほむらは昨日まで鹿目まどかが座っていた場所に目を移す。

 そこには、誰も座っていなかった。




   つづく



656 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/18(水) 20:10:20.62O9JpTr3wo (12/12)


 順調に進むと思われた新生活。

 しかし、見滝原の怪異現象はそこに大きな影を落とす。

 ほむらに明るい未来はあるのか。

 次回、ほむらの父親。通称パパほむが登場予定。


657VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2012/01/18(水) 21:30:11.49vZefoYpAO (1/1)

乙!
パパほむよりほむパパの方がそれっぽい気がするw
パパほむだとほむほむがパパみたいじゃないかww


658VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)2012/01/18(水) 21:52:36.60VfBMZMDto (1/1)



暁美・・・何だろうな


659VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/19(木) 00:48:48.33HkVCXiy4o (1/1)




660 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:24:41.76gZmXTKMLo (1/17)

自分で書いといてなんだが、パパほむはないわな。


661 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:25:41.17gZmXTKMLo (2/17)


 東京に行くのは嫌いだった。

 入院生活、なじめない学校。そして両親。

 あまりいい思い出はない。

 でも、最近はやっと慣れてきた見滝原の街でも嫌な事件が続いたため、
正直今はほっとしている。

 窓の外に流れる灰色の街並みを眺めながら、ほむらはそんなことを思っていた。

 月に一度、ほむらは実の父親と会うことになっていた。

 ここ数か月は、体調不良を理由に会っていなかったけれど、この日は会いに行くことにした。

 それほど、街を離れたかったのだ。

「最近どうだ? 叔母さんは元気か」

「うん。元気」

「一人でここまで来たのか? すごいな」

「そうね……」

「ああ、すごいぞ。数か月前まで入院してたのが嘘みたいだ」

「……」

 ホテルのレストランで食事をしながら、父は他愛もない話をする。

 静かな食卓。

 そこに笑顔もなければ、楽しげな会話もない。

 ほむらは、淡々と父の質問に答えるだけだ。

 なぜこの人が自分の父親なのだろう。

 彼女はふと考える。

 でも、答えは出てこない。

 もしも、この場にいるのが父親ではなく播磨拳児であったら。

 そう考えると少しだけ胸が熱くなった。



662 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:26:13.72gZmXTKMLo (3/17)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ

     オルタナティブ

    ♭5  離 別
 





663 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:27:04.41gZmXTKMLo (4/17)





 駅まで送って行こう、と父親は言ったけれど、ほむらはあの内装が革張りで、
変なニオイのする自動車に乗る気にはならなかった。

 だから父の提案を丁重に断る。

 父親のほうも、無理に乗せようとは思っていなかったらしく、あっさりと引き下がった。

 ほむらは、子供の時から親子というのはこういうドライな関係なのだとずっと思っていた。

 テレビに映し出されるホームドラマは嘘だと。

 でも、見滝原で見た鹿目まどかの家庭はそうではない。

 すごく温かくて、人と人との関わりが密だったと彼女は思う。

「はあ……」

 ため息をつきながら、ほむらは歩いた。

 なんだか、歩きたい気分だったのだ。

 空を見上げると、灰色の雲が広がっている。

「あれ?」

 ふと、視線を落とすとそこには見慣れない建物があった。

 昔の映画に出てくるような、古い木造の建物。といっても、和風建築ではなく、
妙に洋風な要素も加わっている感じ。


664 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:27:36.88gZmXTKMLo (5/17)


 都会の真ん中で、その建物と土地はまるで何かを引き寄せるようにそこにたたずんでいた。

(……こんな家、あったのかな)

 暗くて不思議な建物の中に、ほむらはいつの間にか足を踏み入れてしまう。

「あら、いらっしゃい」

 正面玄関の戸を開けると、中から不思議な声が聞こえてきた。

「あ、あの……」

 はじめ、暗くてよく見えなかったけれども、すぐに背が高く髪の長い女性であることがわかった。

「いらっしゃい、あなたはお客さんね」

 不思議な雰囲気を持つその背の高い女性はそう言って笑みを見せる。

 怖い、という感じではあったが同時に魅力的にも思える。

「すみません。別に用というわけではないんですが、無意識のうちにここに入ってしまって」

「ここは、何でも願いをかなえる“ミセ”よ」

「店、ですか?」

「立ち話も何だから、奥へいらっしゃい」

「え……、はい」




   *


665 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:29:07.79gZmXTKMLo (6/17)



 不安がないと言えばうそになる。

 むしろ不安しかないだろう。

 しかし、そんな不安を吹き飛ばすような圧倒的な存在感が、目の前にいる女性にはあった。

(この雰囲気、どこかで感じたような)

 ほむらはふとそんなことを思ったけれど、努めて考えないようにした。

「こんにちは、お嬢さん。私はこのミセの主人、壱原侑子よ」

 建物の奥の間で、洋風の椅子に座った侑子がそう自己紹介した。

 この建物は、洋風と和風が入り混じった奇妙な外観をしているけれど、
内装もまた和洋折衷でしかも、中の広さがよくわからなかった。

 それは広くもあり、また狭くも感じる空間だった。

「あなた、お名前は?」

「え? あの、暁美ほむらです」

 ほむらは素直に自己紹介する。

「ダメよあなた」

「へ?」

「それ、本名でしょう」

「はい」

「他人に安易に本名を教えてはダメなの」


666 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:29:41.01gZmXTKMLo (7/17)


「え?」

「名を知られるというのはね、相手に自分の魂の端を掴まれるようなものなの」

「じゃあ、あなたの名前も」

「そ、偽名よ。壱原侑子はニセの名前」

「……」

 なんだかよくわからないけれど、すごく居心地の悪くなるほむらであった。

 しかし、そんなほむらの気持ちもお構いなく、侑子は話を続ける。

「ところで、あなたには願いがあるようね」

「別に、願いなんて」

「ウソよ」

「……」

「何の願いもなしに、ここに来るなんてことはありえないわ」

「それは、偶然です……」

「そんなことはないわ」

「え?」

「この世にはね、偶然なんて無いの。あるのは必然」

「必然……」

「話してごらんなさい。何か解決策が見つかるかもしれないわ」

「……あの」

 ためらいはあった。



667 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:30:36.55gZmXTKMLo (8/17)


 あったけれどしかし、今親友の鹿目まどかに会えず、頼りにしていた播磨拳児も近くにはいない。

 そして現在の状況に対する適切な対処方法は見つかっていない。

 このまま見滝原の街で魔女に怯えながら暮らすということはできそうもない。

「実は……」

 ほむらは、魔法少女に関すること、そして魔女に関する事柄。

 また、それによる奇妙な事件の数々について、自分の知っている限り淡々と話した。

「そう」

 侑子は、ほむらの話を頷きながら真剣に聞いていた。

 播磨やまどか以外で、魔法少女に関してまともに話したのはこの日が初めてである。

 しばらく黙って話を聞いていた侑子は、ふと思い出したように声を出す。

「それで、あなたの願いはなに?」

「願い、ですか」

 ほむらは少し考える。

 この状況で願うこと、それは――

「私はただ……」

「ただ?」

「平和に暮らしたいだけです」

「……そう」

 侑子はその言葉にうなずく。


668 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:31:17.65gZmXTKMLo (9/17)


「……」

「でもね、ほむら」

「え?」

「平和に暮らすっていうのは、ある意味一番贅沢なことなのよ」

「それは……」

「だってそうでしょう? 世界中は争いに満ちているんですもの。

それに、日本のようにインフラが充実して治安のいい国はないわ」

「……」

 確かにそうかもしれない。

 ふと、戦争や自然災害のニュースが頭によぎる。

「でもまあ、ちょっと意地悪言っちゃったけど、あなたの願い、叶うわよ」

「へ?」

 不意に笑顔を見せる侑子に、ほむらは少し動揺する。

「だから、願いがかなうって言ってるの。平和に暮らすためにね」

「ど、どうすればいいんですか?」

「これ、あげるわ」

 そう言うと侑子は、どこから取り出したのかわからない指輪を差し出す。

「これは」

「お守りみたいなものよ」

「お守り?」


669 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:31:52.64gZmXTKMLo (10/17)


「これを持っていれば、少しは役に立つかもしれないわ」

「でも、私お金は」

「私はあげるって言ったの。“これは”無料(タダ)よ」

「は、はあ」

 ほむらは侑子から、指輪のようなものを貰った。

 お守りと言っていたけれど、彼女には玩具の指輪にしか見えない。

「それをどう使おうとあなたの自由。自分が持っていてもいいし、人にあげてもかまわない」

「自由……」

「さ、遅くなるといけないから帰ったほうがいいわよ」

「あ……」

 時計を見ると、かなり時間が過ぎていることに気づく。

 どういうわけか、この屋敷の中にいると時間の感覚が狂う。

 こうしてほむらは、壱原侑子から指輪をもらい、そのまま帰宅することになった。




   *



670 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:32:25.15gZmXTKMLo (11/17)



 数日後、街に異変が起こる。

 市内全体に大雨洪水警報が発令され、多くの人たちに避難指示が出された。

 当然ほむらの住んでいる地域も例外ではなく、彼女は一緒に住んでいる親戚の
人と一緒に近くの体育館に避難していた。

(なんだろう、この感覚……)

 漠然とした不安が、はっきりとした恐怖となってほむらの背筋を伝う。

 バケツをひっくり返したような酷い雨と強い風は、体育館の中にいてもはっきりと感じられた。

(もしかして……)

 彼女の記憶がよみがえる。

 思い出したくもない恐怖の記憶。

(魔女……?)

 そんなことを考えていた時、避難している多くの人の中から見覚えのある赤いリボンと、
長めの髪の毛を両側に束ねた少女が目に入った。

「鹿目さん!」

「え」

 鹿目まどか。ほむらのクラスメイトだ。

 ここ最近学校を休みがちだったのでほとんど会って話をする機会がなかった少女。

 数日ぶりに会ったまどかは、少し痩せているようにも見えた。

「ほむらちゃん」

「鹿目さん、大丈夫なの?」

「え、うん。身体のほうは……」



671 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:33:10.16gZmXTKMLo (12/17)


 悪天候で不安になっているのだろうとは思ったけれど、それ以外にも不安の要素はあるだろう、
とほむらには思えた。

「もしかしてこの雨って――」

 ほむらがそう言いかけた瞬間、

「大丈夫だよほむらちゃん」

 まどかはそう言って笑顔を見せる。

 無理に作った笑顔。

 ほむらの嫌いな表情。

「鹿目さん、その……」

「ほむらちゃんごめんね。ちょっとお手洗いに行ってくるから」

「え、うん」

 そう言うと、まどかは足早にほむらの前から去って行った。

 なんだか逃げるようにも見えた。

(もし、鹿目さんも私と同じように魔女を感じることができるのなら)

 ふと、そう考える。

(この嫌な感じも、多分感じているはず)

 一人になったとき、そう思った。

(だとしたら)

 美樹さやかの顔を思い出す。


672 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:33:41.55gZmXTKMLo (13/17)


 彼女も、鹿目まどかも美樹さやかと同じように魔法少女となって、魔女と戦おうとするかもしれない。

 誰にでも優しいまどかなら、そうするような気がする。

 しかし、

(この魔女は今までの魔女とは違う)

 恐らく、街一つを飲み込むくらい強力なものだろう。

 根拠はないけれど、そう感じた。

(だとしたら止めなくちゃ)

 確かに街の平和は大事だ。

 しかし、親友の命もまた、大切なものだ。

 そう思い、ほむらは再びまどかの姿を探す。

 が、見つからない。

(どこ? どこなの鹿目さん)

 不安が焦りを呼び、焦りがまた不安を呼ぶ。

 悪循環だ。

 そんな時、

「ん?」

 見知った顔が彼女の目に入ってきた。

「播磨さん!」

「暁美か」


673 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:34:18.80gZmXTKMLo (14/17)


 特徴あるカチューシャとサングラスの播磨拳児であった。

 不安のあまり、思わず抱き着いてしまいそうになったが辛うじてその衝動を抑える。

「お前ェもここに避難してたんだな」

「ええ。それより」

「ん?」

「鹿目さんが見つからないんです」

「何?」

「さっきちょっとあって話をしたんですけど、その後姿に。体育館の中はおおむね見て回ったので、
恐らく外へ……」

「外っつったって」

 そう言って播磨は窓の外を見る。

 外は酷い雨だ。風も強い。

 こんな状況で外に出るのは自殺行為である。

「播磨さん。実はこの感じ……」

「魔女って言いてェのか」

「ええ」

「まどかを、連れ戻さねェと」

「危険です」

「わーってるよ。だがまどかはもっと危険だ」


674 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:35:48.30gZmXTKMLo (15/17)


「でも……」

「大丈夫だ」

 播磨はそう言うと踵を返した。

 これから外へ出てまどかを探しに行くつもりなのだろう。

 播磨ならきっとそうする、という確信がほむらにはあった。

 ただ、ここで別れてしまったら二度と会えないような気がした。

 だから、

「お……」

 ほむらは、播磨の背中に抱き着く。

「待ってください……」

 懐かしい匂いがした。

 初めて会ったとき、ほむらを抱き上げた時に感じた匂い。

 播磨の匂いは今も変わっていなかった。

「……」

「鹿目さんだけじゃなく、あなたまでいなくなってしまったら私……」

 それでも彼は行くだろう。

 ほむらはそう確信していた。

 少なくとも“ほむらが好きになった播磨拳児という人”は、ここで何もしないような
男ではないからだ。
 
 そして、気づかれないように彼女は、壱原侑子からもらった例の“お守りの指輪”を、
そっと彼のズボンのポケットの中に入れた。


675 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:36:49.77gZmXTKMLo (16/17)

 
 しばらくすると、播磨はゆっくりとほむらの手をほどく。

 そして身をかがめて彼女と向き合った。

「暁美」

「……はい」

 あふれ出る涙のため、播磨の顔が曇ってよく見えない。

「泣くな」

 そう言うと彼はポケットからハンカチを取り出し、ほむらのメガネを少し上にずらして目元を拭う。

「播磨さん」

「俺は必ず帰ってくる。まどかと一緒に。絶対にだ」

「本当ですか?」

「ああ、約束する」

 そういうと、彼は自分のハンカチをほむらに渡した。

「あの、これ」

「俺が戻るまで預かっといてくれや。どうせ雨でずぶ濡れになるから、もう必要ねェ」

「……絶対」

「ん?」

「絶対無事でいてくださいね」

「おう」

 播磨はそう返事をすると、走り出した。

(さようなら、播磨さん)

 播磨からもらったハンカチを見ながら、ほむらは心の中でそうつぶやく。





   つづく


676 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/19(木) 20:37:39.28gZmXTKMLo (17/17)

次回、最終回。

そしてもう一つのエピローグへ。


677VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)2012/01/19(木) 20:38:37.37VSYSw/kNo (1/1)


ほむほむ…


678VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)2012/01/19(木) 22:00:42.04s3NWYhfeo (1/1)

なるほど

お守りの指輪、ね


679VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/19(木) 23:49:41.649I+aeMkXo (1/1)


ほむほむ……


680VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/01/19(木) 23:56:35.89h0g21Urbo (1/1)

乙ほむ・・・・・・



681 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 20:45:40.93W7oVHpI5o (1/17)

 明日から本格的に書き出そうと思った矢先、
アマゾンで資料だけでなくゲームまでポチってしまった。

これはやばいかもしらんね。


682VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/01/20(金) 20:46:15.75ftMtfzam0 (1/1)

乙ほむほむ...


683 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 20:51:15.49W7oVHpI5o (2/17)

気を取り直して最後の投下いきます。

実は精神系の魔法を使った佐倉杏子は過去三作の中で今回がはじめて。

そういえば彼女だけは毎回立ち位置が変わりましたね。


684 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 20:52:01.43W7oVHpI5o (3/17)



 夏休み。

 少女は数人の友達と一緒に、都内の図書館に勉強に来ていた。

 といっても楽しみは勉強の後に寄るファーストフード店だったりするのだが。

「それにしても暑いよねえ」

「そうそう。梅雨が長かっただけにねえ」

 夏の日差しは強く彼女たちを照りつける。

「本当、暑い」

 そう言って少女はハンカチを取り出した。

「ねえ、あんたのハンカチってさ」

「え?」

「なんか男の人が持ってるやつっぽいよね」

「そうかな」

「もしかして、お父さんの?」

「いや、お父さんのじゃないと思うけど」

 少女の箪笥の中に、大事にしまわれていたハンカチ。

 シンプルなデザインは、確かに彼女の趣味とは違う。

「でも、なんか気に入ってるの」

 少女はそう言うと、大事に鞄の中にハンカチを入れた。

 その時、

「あれ、カップルかな」


685 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 20:52:29.28W7oVHpI5o (4/17)


「?」

 別の友人がそう言う。

 彼女の視線の先には、やけに身長差のある男女が歩いていた。

「兄妹じゃないかな……」

 と、少女は言ってみる。

「兄妹で手はつながないよ」

 笑いながら友人は言った。

「そうだよね」

 背の高い男性と、小柄な中学生くらいの少女。

 その姿を見ていると、どこか懐かしいと思いつつ、同時に悲しくなっていた。

「どうしたの?」

 隣にいた友人が驚く。

「え? なにが?」

「いやだってあなた、泣いてる」

「へ?」

 少女は驚いて目の周りを拭う。

 確かに目から涙があふれている。

「本当に大丈夫?」

 心配する友人。

「あれ? なんでだろう」 

 少女は再びハンカチを取り出して涙を拭うものの、しばらくそれは止まりそうになかった。




686 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 20:52:56.20W7oVHpI5o (5/17)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ

     オルタナティブ

     ♭6 深 層







687 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 20:53:48.89W7oVHpI5o (6/17)


 

 客の帰った静かな屋敷の縁側で、この“ミセ”の主、壱原侑子は夏の太陽に照らされる
庭を眺めていた。

「何してんだ? 侑子」

 雇われている身でありながら、およそ無遠慮な少女、佐倉杏子は侑子の隣にドカリと座る。

「別に、何もしてないわ」

「そうか」

「仕事は終わったの? 杏子」

「ああ、楽勝よ。ちょっと休憩」

「そう」

 不意に乾いた風が流れる。

 すると、軒下につるしてあった風鈴が静かに鳴った。

 まぶしい日差しに合わせるように、どこからともなくセミの鳴き声が聞こえる。

「なあ、侑子」

「なあに」

「結局さ、ハリマってやつは何者なんだ?」

「何者って?」

「だってあいつ、魔女の力に干渉されないんだぜ? 

あいつが近づいたら、結界も消えちまうんだ」

「そうねえ……」

 侑子は空を仰いだ。


688 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 20:54:32.43W7oVHpI5o (7/17)


「その話、私も聞きたいわ」

 そう言ったのは、もう一人の従業員、巴マミである。

 手にはお盆を持っていた。

「あら、マミ。それって」

「水ようかんですよ。暑い日にどうかと思いまして」

「いいわねえ、水ようかん」

 縁側に腰掛けた三人は、マミの持ってきた水ようかんを食べながら話をする。

「それで、何の話だったかしら?」

 ようかんを一切れ食べた侑子が再び杏子に聞く。

「ハリマのことだよ。あいつは何者だ? 結局わからねえよ」

 と、杏子。

「私もわかりませんでした。調べようと思ったんですけど」

 マミもそう言った。

「確かに、“あなたたちにとっては”不思議な存在だったかもしれないわね」

「どういう意味だ?」

 ふと、杏子は表情を変える。

「どう表現していいのかわからないけど彼はね、“特異点”なの」

「特異点?」


689 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 20:55:55.24W7oVHpI5o (8/17)


「そう、特異点という言葉には色々と意味はあるけれど、彼の場合は周囲の状況に関わらず
自己を保持することが可能な能力、とでも言えばいいかしら」

「……?」

 杏子の頭の上に?マークが浮かぶ。

「人間は、周囲の温度と関係なく自分の体温を保持するじゃない? それと同じ。
ジャイロスコープのように、どんな状況でも一定の角度を指し示すとか」 

「つまり、周りがどんなに異常でも自分だけは正常でいられるってことですよね」

 マミがまとめる。

「そういうこと。言ってみれば、鈍いのよね」

「鈍い……」

「あなたたちには、前に少し説明したと思うけど、見滝原は“異界”なの。
正確には『異界だった』、と言ったほうがいいかもしれないけど」

「異界って、なんだったっけ」

 と杏子。

「もう、この前説明したでしょ? 異界とは、この世とこの世ならざる世界を結びつける地域。
最近はめっきり少なくなったけど、そこでは特別な力が生まれやすいわ。
あなたたちのような、魔法少女も」

「……ああ」

「もちろん、異界は見滝原だけじゃないわ。まだ全国にいくつか残っているわね。例えば京都とか」

「なるほど」

「昔の人は、都市計画に陰陽道を利用したわ。今風に言えば風水ね。暦(こよみ)や方角などを
計算して都市を作る。これは異界のエネルギーを増幅させる効果があるの」



690 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 20:56:31.03W7oVHpI5o (9/17)


「エネルギーか……」

「でも、その反動もある。異界の力を利用することによって、物の怪や悪霊が発生したりするわ。
もちろん、あなたたちの言う“魔女”というのもその一種ね」

「そうかあ、魔女も妖怪だったのかあ」

「そういえば杏子」

 不意にマミが呼びかける。

「ん?」

「あなた、見滝原を離れていたときはどこに住んでたの?」

「まあ、色々転々としていたけど、だいたいいたのは……」

「どこ?」

「鎌倉」

「近っ!」

「京都とか行ってられっかよ。金もねえし。あそこは結構魔女がいたぜ」

「鎌倉も、典型的な異界よね」

 水ようかんの最後の一切れを食べた侑子が笑いながら言う。

「ところであなたたち」

「ん?」

「なんですか? 侑子さん」

「日本で、一番大きい異界はどこかわかる? いえ、一番大きかった、と言うべきかしら」

「うーん、京都?」


691 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 20:57:16.36W7oVHpI5o (10/17)


 と、杏子は答える。

「惜しいわね」

「出雲」今度はマミだ。

「残念」

「どこだよ。大きい都市か?」

「正解は、ここよ」

「へ?」

「東京」

「あ……」

「今から約100年前までは、日本だけでなく世界有数の異界だったのよ、東京は」

「なんか、聞いたことがあるような」

「でも、今は違うんですよね」

 と、マミは聞く。

「ええそうよ。科学技術の発達に力を入れた当時の帝國政府は、異界の力を利用した従来の
都市計画から、近代的な都市の建設に着手したの」

「見滝原の時みたいに、大きな反動があったわけですか?」

「ええ。あったわよ。大正12年9月1日午前11時58分32秒」

「関東大震災」

「その通り。すごかったわ、まさに火の海ね」

「侑子は見たのか?」



692 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 20:58:28.22W7oVHpI5o (11/17)


「まあね。伊達に長生きはしていないわよ。たっくさんの人が死んだわ」

「うへえ。さすが“極東の魔女”だけのことはある」

 そう言うと、杏子はアイスティーを飲み干した。

「それで話を戻しますけど侑子さん」

「ああ、ハリオのことね」

「彼は、見滝原という異界の影響を受けなかったってことですよね」

「そうね。どういう原理なのかはわからないけれど、かなり珍しい人間よ。稀に現れるんだけど」

「侑子さんにもわからないんですか?」

「私にもわからないことはあるわ。だからこの世は面白いのよ」

 侑子はそう言って笑った。

「しかもハリオの面白いところは、自分だけでなく周囲にも影響を与えてしまうことなの」

「周囲に影響?」

「“あなたたち”もそうよ」

「ん?」

 杏子とマミは二人、顔を見合わせる。

「本来なら、“見滝原という異界”の力で存在してきたあなたたちは、異界が消えた時点で
その存在も消えるはずだった」

「そうですね。魔法少女という存在そのものが無くなるのですから、私も杏子も」

 マミは首をかしげる。

「でも、あたしらはいるぜ? これって、侑子の力じゃないのかよ」



693 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 20:59:24.49W7oVHpI5o (12/17)


「ええ、確かに私の力も供給している。でも、いくら私でも“存在しないもの”を現出させる
ことはできない」

「ん?」

 再び杏子の頭に?マークが浮かぶ。

「多分だけど、あなたたちはハリオと接触したことで因果の鎖から解放されたのよ」

「ってことはさ、侑子」

「なに?」

「ハリマ自身が“異界”なんじゃねえの?」

「そうね、そうとも言えるわね。フフフ」

 そう言って再び侑子は笑った。

「ところでマミ」

 今度は杏子がマミに話しかける。

「なあに?」

「マミはハリマと接触しようとしてたよな」

「そうね」

「でもなんで、“あんな方法”だったんだ?」

「へ? あんなって……」

 マミの顔がみるみる赤くなる。

「チューとかしてたし」

「そ、それは……。ってかなんで知ってるのよ!」



694 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 21:01:02.03W7oVHpI5o (13/17)


 すると侑子が、

「お姉さんは、何でも御見通しよ」

 と言ってどこからともなく水晶玉を取り出す。

「はあ……」

 マミは観念したようにため息をつく。

「私も今言った播磨さんの体質に興味があって、それを調べようとしてたんです」

「うんうん、それでそれで?」

 侑子は嬉しそうだ。

「でも私、男の人と仲良くなる方法なんてわからなかったから、雑誌を買って調べてみたんです」

「……え」

「そしたら、『気になる男の子と仲良くなる方法』っていうのが色々書いてあって、
『体を寄せ付けたら好印象』とか書いてあったから、とにかくやってみようと思ったの。
さすがにキスはやり過ぎたと後で反省したけど……」

「え~」

「うわあ……」

「もう! 言わないでよ!!」

 耳まで真っ赤にしたマミがそう言って怒る。

「良い子のみんな、雑誌に書いてあることを鵜呑みにしちゃダメよ」

 最後に侑子はそう言った。

「っていうか侑子さん、誰に言ってるんですか?」

「恥ずかしいわマミ。ふつう、そんなことされたドン引きだろうがよ」

「もー! 知らなかったのよ! 私だって恥ずかしいわよ!! ってか、あなたもやったじゃない!」

「ありゃ魔法のためだ。お前とは違うよ。この淫乱魔法少女」

「淫乱っていうなー!」

「あははは」

 風鈴の音とともに、杏子たちの笑い声が響く。

 しかしその声は、セミの鳴き声や都会の喧騒の中でかき消されていった。





   *



695 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 21:02:31.36W7oVHpI5o (14/17)



 地上のセミの声が届かない地下鉄のホーム。

 そこで播磨とまどかは並んで電車が来るのを待っていた。

 ふと、播磨がポケットの中に何かを見つける。

「どうしたの? 拳児くん」

 隣にいるまどかが聞く。

「いや、なんかズボンのポケットに入ってた」

 そう言ってポケットから異物を取り出す播磨。

 手に取って見ると、それは指輪であった。

 しかし、覚えのない指輪だ。

「それ、指輪? どうしたの?」

「いや、わからん」

 播磨はじっくりとその指輪を観察する。

 それは“何の変哲もない玩具の指輪”だった。

「ふむ」

「それ、拳児くんが買ったの?」

「いや、わからん」

 播磨は再度否定する。

「だけどよ――」

 播磨は無意識に言葉を発する。

「大事なモンのような気がする」

 そう言うと、播磨はその指輪を再びポケットの中に入れた。

「へえ、そうなんだ」

 まどかはそう言ったが、それほど興味はないようで、すぐ別の話題を話しはじめた。

(大事な物か……)

 自分の言った言葉に少し驚きつつ、それを表に出さないよう彼はまどかと話を続ける。

(せっかく東京に来たんだし、何か買い物でもして帰るか。できれば何か、
記念になるようなモンでも)

 そんなことを思いながら。




   おわり 


696VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)2012/01/20(金) 21:05:38.2818dXHXdAo (1/1)


マミさんスイーツ(笑)すぐるwwwwww
てっきりもっと深い理由があるものかとww


697 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 21:07:55.75W7oVHpI5o (15/17)

 これにて本当におしまい。

 本編での疑問は解消できたでしょうか。

 え? ガッカリした? それはすみません。

 でも真実なんてそんなもんです。人生は札幌時計台です(はりまや橋でも可)。

 暁美ほむらは結局対価を支払ったのか否か。それはみなさんの想像にお任せします。

 それではまたいつかお会いしましょう。

 明日から小説生活の再開です。また血尿が出ない程度に頑張ります。

 それではごきげんよう。

 平成24年1月20日 筆者


698 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 21:11:09.85W7oVHpI5o (16/17)

   ※没ネタ

 実は魔法少女化による精神的な副作用という設定も考えたんですよ。

 さやか→情緒不安定になる

 杏子→やたら食欲が増す

 マミ→性欲が強くなる

 みたいな。

 でも、このスレは全年齢対象なのでR18になりそうな設定を回避した結果、先のような理由となりました。


699 ◆tUNoJq4Lwk2012/01/20(金) 21:15:03.51W7oVHpI5o (17/17)

 あと、このスレにはストーリー的な原作はないのですが、故中島らも先生の小説、

『白いメリーさん』を少し参考にしたような気がします。


700VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2012/01/21(土) 18:53:55.74k2k6maJAO (1/1)

マミさん意外とどうでもいい理由だったww
仮に播磨がその気になってそっから先に行こうとかになっちゃっても慌てたマミさんに吹っ飛ばされてた訳か
どっちみち卒業出来ず、播磨残念

出会わなかった事になっちゃってるほむほむカワイソス


しかし播磨は結局なんなの?
近づいたら魔女結界消えるとか全身そげぶなの?


701VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/01/21(土) 19:21:53.63mGikA1HDO (1/1)

おつ!
ほむ…


702VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山口県)2012/01/23(月) 22:34:48.31l8N4qm7jo (1/1)

マミさん()