1 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:17:04.753NsOQz0Wo (1/25)


   ☆ ご注意 ☆

 このスレは、漫画、スクールランブルの登場人物である播磨拳児を主人公とする

魔法少女まどか☆マギカのスレです。

・例によって、設定をかなりいじっております。

・ゲストキャラ(まどマギ、スクラン以外のキャラ)も多数登場予定。

・例によって雰囲気系です。

・以下に前スレとありますが、基本的に当スレの内容とは関わりのないパラレル世界です。


 前スレ

   孤独の魔法少女グルメ☆マギカ

http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1306/13064/1306497755.html


 前々スレ

   魔法少女まどか☆イチロー

http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1302/13023/1302346747.html


2 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:18:53.563NsOQz0Wo (2/25)



 少し遅めの桜が咲く街の昼下がり、彼は彼は散歩がてら近所を見て回っていた。

 今年からこの街に住むことになった彼には知らない場所も多い。

 内陸の田舎町だと思っていたその場所は意外と近代化されており、色々と見て回るものが多いのが
嬉しい誤算であった。

 ふと、彼の目の前を白い生物が横切る。

 猫か?

 一瞬そう思ったが、猫にしては尻尾が大きい。まるでキツネのような大きな尻尾。

 それでいて頭のほうはネコのような形をしており、何とも奇妙な生物に見えた。

「なんだありゃ……」

 思わず声を出す。

 ボーッとしていると、いつのまにか例の猫のような犬のような生物は消えていた。

 どこかへ逃げたのだろう。

 自分の知らない街には知らない生物が住んでいるのか。

 そんなことを思いつつ、彼は再び歩き出す。

 商店街の辺りに差し掛かると、児童公園の近くにしゃがんでいる少女の姿が見えた。

 年齢は十二、三歳くらい。制服から見て中学生だろうか。

 普段ならそのまま無視して通り過ぎるところであったけれど、少女の視線の先を見て彼は歩みを
止めた。

「あれは……」

 そこには先ほどの白い生物とは対象的な黒い塊が見える。



3 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:21:04.253NsOQz0Wo (3/25)


 サングラス越しのよく目を凝らして見ると本当に猫であった。

 今度のは尻尾も大きくない、正真正銘の猫だ。

「どうしよう、困ったな。おいで」

 長めの髪を二つに縛ったその少女は、不安そうな表情で猫に手を差し出し呼んでいる。

「フーッ」

 しかし猫のほうは警戒して彼女の寄って行こうとはしない。

「どおした」

 彼はしゃがみこんだ少女に声をかける。

 普段の彼ならば絶対にやらないことだ。

「え? あの。あそこの茂みにいる猫なんですけど」

 初対面の人間に声をかけられて動揺するかと思ったけれど、少女は特に動ずることもなく、
彼の声に返事をする。

「ん?」

「なんだか、脚を怪我してるみたいなですけど。私が呼びかけても寄ってこないんです」

「あれはお前ェんところの猫か?」

「あ、いや。そうじゃないんですけど……」

 少女は口ごもる。

 野良猫だろうか。

「ちょっとどいてな」

 彼は少女を押しのけるようにその場所にしゃがみこみ、猫と向き合った。

 その猫は野良猫らしい警戒心を持った瞳でじっとこちらを伺う。



4 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:23:37.583NsOQz0Wo (4/25)


「……」

 彼はそんな猫の目を、見つめ続けた。

 次の瞬間、黒い猫は脚を引きずるようにしてピョコピョコと歩いてこちらに向かってきた。

 確かに脚をかばっているようだ。

 彼は小さな黒猫を抱き上げる。両手から猫の生命の温もりが伝わってきた。

 先ほど引きずっていた脚をよく見ると、トゲのようなものが刺さっているのが見える。

「これか……」

 彼は右手で、猫の脚に刺さったトゲを抜く。

「これで大丈夫。トゲが刺さってたんだ。消毒とかはしといたほうがいいかもしれねェが」

「あ、はい。消毒は、私がやります」

「そうか」

 そう言うと、彼はゆっくりと左手に抱いた黒猫を少女に渡した。

 少女はしっかり両手で猫を抱きかかえる。あれだけ警戒していたので、猫が抵抗するかと思った
けれど、そうでもなかったようだ。

「それじゃ、頼んだぜ」

 そう言って彼は再び歩き出す。

「あの――」

 その後ろ姿に少女は声をかけてきた。

「あン?」

「猫、お好きなんですか?」

「そういう訳じゃねェんだけど、なんか昔から動物に好かれているっていうか」

「はあ」

「じゃ、俺はこれで」

「ありがとうございます」

 少女は猫を抱きかかえたまま頭を下げる。

 彼女の頭についている赤色のリボンがふわりと揺れた。

 そして顔を上げて見せる笑顔。

(カワイイじゃねェか)

 春の昼下がり、彼はふとそんなことを思った。


5 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:24:12.083NsOQz0Wo (5/25)









  魔法少女とハリマ☆ハリオ



     ♯1 出会い







6 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:25:52.383NsOQz0Wo (6/25)


 夕方、適当に買い物をして家に帰る。

 家と言っても彼の家ではない。

 今年から彼は母親の妹、つまり叔母の家に下宿しながら高校に通うことになっているのだ。

 ちなみに叔母は独身なのにマンションを買っており、部屋が余っているので家賃を払うことを
条件に住まわせてくれたのである。独身なのに。

「おかえりー、拳児くん」

 比較的早い時間にも関わらず、マンションには叔母が戻っていた。

「なんだ和子、随分早いんだな」

「もう、拳児くん? 和子はやめてって言ってるでしょう? こ、恋人と間違えられたらどうするのよ

……」

「安心しろ、それは絶対ないから」

「もー、昔みたいに和子お姉ちゃんって呼んでくれたらいいのに」

 そう言いながら和子は身体をくねらせる。

 実に気持ちが悪い。

「それより拳児くん」

「あん?」

「せっかくこの街に来たんだから歓迎会をやりましょうよ」

「歓迎会?」

「そう、播磨拳児歓迎会、イン見滝原」

「歓迎会なら前に散々やっただろうが」

「私たちだけじゃなくて、私の知り合いも呼んでいるの」

「ヤメロ、面倒くせェ」



7 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:27:05.503NsOQz0Wo (7/25)


「ほら、拳児くんこの街に来てからまだ短いでしょう? 知り合いとこもいないだろうと思って」

「大きなお世話だ」

「もう店の予約しちゃったから」

「おいおい」

「拳児くんが行かないっていうんだったら、私だけ食べちゃおっかなー♪」

「何の店だ」

「何って中華よ中華。とーっても美味しいの」

「……」

 そういえば、今日一日歩き回って腹が減っっていた。

「わーったよ」

「あら」

「行くよ。行きゃいいんだろう」

「やったあ。早速お着替えしましょう?」

「別にいいだろう」

「ダメよ、ちゃんとした格好でお出掛けしなきゃ、女の子にモテませんよ」

「大きなお世話だ! 和子は俺のことより自分のことを心配しろ」

「いやん。もしもの時は拳児くんが貰ってくれたら問題なしよ」

「無理に決まってんだろ。血ィつながってんだから」

「さあて、着替えましょうか」

「はあ……」

 悪い女ではないのだが、独特のリズムを持った性格は付き合い難いだろうな、
と播磨は昔から思っていた。

「拳児くん、覗いちゃ駄目よ」

「誰が覗くか!」

 ××歳の裸体には、当然興味のない播磨であった。



   *


8 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:28:50.983NsOQz0Wo (8/25)

   *



 午後六時、約束の店に和子と二人で訪れた播磨は店の中に入る。

 普段の彼には縁のなさそうな中華料理の店だ。

 店員に話をすると、既に彼女の知り合いは到着しているようだった。

「ここだよ、和子」

 心なしか、ドスの効いているような声が耳に入る。

「詢子」和子もその声に答える。

「あ、お久しぶりです」それに続いて男の声も聞こえた。

 一人だけかと思ったら家族連れのようだ。

「ヒゲー!」

 小さい子供が播磨に向けてそう言った。

「ちょっとたっくん」

 子供を宥めるように言う少女。中学生くらいの少女なのだが――

「あ……」

「え?」

 その赤いリボンには見覚えがあった。

「お前ェ、あの時の」

「ああ」

 少し長めの髪を両側で縛った小柄な少女。

 昼間に公園の近くで出会ったあの黒猫の少女だ。

「あの猫の」

「あ、あの時はお世話になりました」

「いや」

「あら、もう知り合いだったのかい?」

 先ほど詢子と呼ばれた女性がニヤリと笑みを浮かべた。



9 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:30:05.723NsOQz0Wo (9/25)


「まあ、立ち話もなんだから、早く座りなよ」

「失礼します……」

 播磨と和子が中華料理店独特の丸いテーブルの前に座ると、早速食前酒(子供たちにはジュース)
が配られた。

「さて、改めて自己紹介と行こうじゃないか」

 少女の母親らしき女性が言う。

「私は鹿目詢子、そこにいる和子の親友よ。拳児くんだったよね、小さい頃会ったんだけど、
覚えてる?」

「ああ、いや」

「無理もないか、本当に小さかったからね。あの頃は可愛かったなあ」

 詢子がそう言うと、和子もそれに反応した。

「うんうん、いつも和子お姉ちゃんとか言って私に着いてきたわ」

「……」

「僕は鹿目和久。詢子の夫です」

「どうも」

 メガネをかけた、優しそうな男性だった。悪く言えば気が弱そうな。

「じゃあ、ウチの子供たちも自己紹介させようか。まどか」

「え? はい……」

 詢子に名を呼ばれた少女は恥ずかしそうに肩をすくめる。

「か、鹿目まどかです。昼間はお世話になりました。今年から中学二年生です」

 やや顔を赤らめた少女が笑顔で自己紹介をする。



10 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:32:16.313NsOQz0Wo (10/25)


「おう……。よろしく」

「えへ」

 播磨が小さく声をかけると、少女は安心したように笑顔を見せた。

「ん……!」

「どうしました?」

「なんでもねえ」

 不覚にもドキリとしたことは秘密だ。

「そしてこの子が弟のタツヤです」

「やあ!」

「お、おう……」

 特に人見知りすることもなく話しかける幼児に、播磨の方が逆に戸惑ってしまった。

「んじゃ、そちらの自己紹介も頼むよ」

 詢子に促されて播磨は自己紹介をすることになった。高校でもこんなことはやらなかったのに。

「和子の甥の播磨拳児っす。よ、ヨロシクオネガイシマス」

 慣れない挨拶に戸惑いつつ、播磨は挨拶を終えた。

「はいはーい、お姉さん拳児くんに質問いいかなあ?」

 料理が運ばれてくる中、詢子が手を上げて質問する。

 子供が二人もいるのにお姉さんはねえだろう、と播磨は思ったがそれを口に出すと大変なことに
なりそうだったので、黙っておくことにした。

「拳児くんはどうしてこの街にきたの?」

「高校の進学のためっす。両親が海外に転勤なんで、俺は和子の家で世話になることにしました」



11 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:33:12.153NsOQz0Wo (11/25)


「そうなんだ。ちょっと地元じゃヤンチャしてたって聞いたけど?」

「まあ、中学時代の話ッス……」

「あんまり和子に迷惑かけちゃダメよ」

「わかってますよ……」

「別にそんなかしこまらなくていいのよ。まあ、こっからが本題だけど」

「は?」

「まどかとはどこで出会ったの?」

「たまたまッスよ」

 播磨は昼間にあったことをかいつまんで詢子に聞かせた。

「へえ、意外ね。動物好きなんだ」

「そういうわけじゃ……」

「なかなか素敵な出会いじゃないか。運命の出会いってやつかい? ねえ、まどか」

「へ?」

 急に話を振られたまどかは驚いたように身体を揺らすと、恥ずかしげに目を伏せた。

「いや、別にそんなんじゃ……」

「照れなくていいんだよ。見たところ、まどかも拳児くんのことを気に入ったみたいだから、仲良くして
やっておくれ、拳児くん」

「え、はあ……」

 その時、

「あのお、拳児くん?」


12 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:33:53.833NsOQz0Wo (12/25)


 不意に詢子と播磨の会話に割り込んできたのは和久だった。

「あン?」

「まどかに手を出したら……、絶対に許さない……、絶対にだ!」

 男は先ほどまでのさわやかな印象とは対照的なドスの効いた声を出しながら睨みつけてきた。

「……」

 そんな和久に詢子は声をかける。

「あらパパ、ちょっと“お話”しましょうか」

「え? なんですかママ」

「お話。じゃ、拳児くんたちは皆と楽しんでいてね。さ、行きましょう」

「ああ、ちょっと待って。僕はまだ拳児くんと話が」

「早く来い」

「……」

 詢子は夫を店の奥に連れて行った。

「パパとママって仲がいいでしょう?」

 そう言ったのはまどかだ。

「そ、そうだな……」

「私も将来結婚したら、あんな夫婦になりたいなって思ってるの」

「そおか。まだ早いんじゃねえのか?」

「え? そうだね。まず相手を見つけないとね」

「いや、そうじゃなくて。中学生だし結婚とか考えるのは……」


13 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:35:11.953NsOQz0Wo (13/25)


「中学生でも、そういうこと考えるんだよ」

「そうなのか」

「うん」

 まどかは急に何かを思い出したかのように下を向いた。

「どうした」

「あ、そうだ」

「ん?」

「昼間の猫」

「あ? ああ、あの猫か」

「家でパパとママに話したら飼っていいって」

「なに?」

「ずっと野良で気になってたんだけど」

「そうなのか。名前とか決めてんのか?」

「うん。エイミーって言うの」

「エイミー……」

「野良のころから、そう呼んでたから」

「おお、いい名前だな」

「本当? よかった」

 それからしばらくして鹿目夫妻が戻ってくる。

「ケンジクン、マドカヲヨロシク」

 席に着くなり、和久はそう言った。

「どうしたんっすか? この人」


14 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:37:21.743NsOQz0Wo (14/25)


 その問に詢子が答える。

「やだ、この人久しぶりの外食ではしゃいじゃったのね」

「マドカヲヨロシク」

 まるで壊れたおもちゃのように同じ言葉を繰り返す男の姿を見て、どういう話しあいが
行われていたのかは聞かないことにした。




   *


  
 それから、播磨にとって意外にも楽しかった夕食が終わる。

「うへえ、拳児くん気持ち悪いよお……」

 播磨に寄りかかりながら和子は言った。

「調子に乗って紹興酒がぶ飲みするからだろう」

「だってえ、久しぶりの中華だしい」

「先生、大丈夫ですか?」

 まどかは心配そうに聞いてくる。

「ほら“先生”、生徒の前でみっともねえ」

 和子がまどかの担任教師だということは、食事中に聞いた。

 偶然なのだろうけども、播磨は何となくまどかとは強いつながりのようなものを感じた。

「面目ない」弱々しく和子は言う。

「じゃ、和子を頼むよ、拳児くん」

 そう言ったのは、今回の歓迎会の主催者、詢子だ。


15 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:38:21.803NsOQz0Wo (15/25)


「あれ? 僕は今まで何を」

「パパ、帰ろ」

 どうやら和久は正気に戻ったらしい。背中におぶさっているタクヤが嬉しそうに笑う。

「あの」

 不意に声をかけるまどか。

「おう、どうした」

「また、会えますか?」

「しばらくはこの街にいるからな」

「よかった」

 こうして、ささやかな歓迎会は終わりを告げるのであった。

 播磨にとっては、まどかの笑顔がやたら印象に残る夜でもあったようだ。




   *





16 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:39:39.133NsOQz0Wo (16/25)



 数日後、播磨は高校にいた。

 彼は暴れまわっていた中学時代と決別するために、高校に入ってからはイメージチェンジを
行ったのだ。

 髪を伸ばし、髭を生やしてサングラスをかける。まるで別人である。

 しかしどう考えてもそれは逆効果だ。日本でサングラスをかけて登校する生徒がどれだけいるのか。

 周りの生徒たちはすっかり怯えて――

「よう播磨」

 同じクラスの男子生徒が話しかけてくる。

「あン?」

「お前いい身体してるよな、バスケ部入らないか?」

「バスケ部?」

「バスケの経験ないの? まあ、お前くらいのガタイがあればすぐレギュラーも獲れるって」

「悪いけど部活は」

「何かあるのか?」

「バイトもしなくちゃいけねェし」

「バイト?」

「親元を離れてるから、色々必要なんだ」

「そうだったのか、苦労してんだな」

「別にそれほどでもねェよ」

「まあ、もしバスケに興味があったら体育館に遊びに来いよ、待ってるから」


17 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:40:49.823NsOQz0Wo (17/25)


「ああ」

 そう言うと男子生徒は去って行った。

 中にはあんな風に話しかけてくるモノ好きもいるものだ。

「ねえ播磨くん」

「は?」

 今度は女子生徒の二人組だ。

「今日暇? どっか遊びに行こうよ」

「いや、今日は」

「もしかしてアルバイト? さっきバスケ部の一条くんと話してたけど」

「ああいや、そういうのはちょっと」

「そう、じゃあまた今度時間があったらでいいか」

「ああ……」

(この街の連中はどっかおかしいな)

 播磨は内心そう思いつつ、学校を後にした。

 といっても、その日は特に用があるわけでもない。

 予定していたアルバイトは明日だ。

「夕食でも買って家に帰るか。食い物がないと和子もうるせえし」

 そんな独り言をつぶやきながら彼は駅前のショッピングモールへと向かった。






18 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:42:04.153NsOQz0Wo (18/25)



 学校を出てしばらく歩いていると、不意に目の前で白い者が横切る。

(ん?)

 どこかで見たことのあるような影。

 目を凝らすと、そこには以前見たことのあるあの、白い生物がいた。

 猫のような犬のような。それでいて尻尾がデカイ。

 長い耳かと思っていた“それ”は、毛のようだ。耳は別に頭の上のほうについている。

 その形に播磨は見覚えがあった。

 はじめてまどかと会った日、偶然見かけたあの白い生物だ。

 夕日に照らされる中、その白い生物は西日を避けるように建物の影に入る。

 そしてこちらを見た。

(赤い目……)

 まるでウサギのような赤い瞳。それが暗い影の中で、怪しく光っているようにも見える。
 
(この街には不思議な生物がいるのか……?)

 そんな疑問を抱きつつ、播磨は再び歩き出す。

 しばらくして、ショッピングモール近くの広い歩道に差し掛かった時、急に刺すような頭痛を感じた。

 風邪か?

 いや、違う。

 なんというか、初めて飛行機に乗った時に感じたような、世界が変わる感覚。

(何かあったのか)


19 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:43:03.743NsOQz0Wo (19/25)


 播磨は周囲を見回す。

 特に何もない。

 街はいつものように動いている。

 車が行き交い、学校帰りと見られる制服姿の少年たちが歩いている。

「やはり気のせいか」

 そう思って、再び歩きはじめる播磨。

 しかし、そんな彼の視線の先に何かが見えた。

「ん」

 よく見ると制服姿の女子生徒だ。

「あの制服……」

 ゆっくり近づくと、頭を抑えうずくまっている女子中学生の姿があった。

 色と形に見覚えがある制服。

(この制服、確かまどかと同じ見滝原中学の)

 播磨は記憶を手繰り寄せながらそんなことを思った。

「おい」

 そして、小刻みに震える少女に声をかける播磨。

「何やってる」

 長い黒髪を三つ編のようにして二つ束ねている少女だ。

「おい」

 もう一度声をかける。


20 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:44:37.463NsOQz0Wo (20/25)


「ふえ?」

 少女は驚いたように顔を上げた。

「あ……」

 黒髪の少女と目があう。

 メガネをしているけれど、そのメガネ越しに涙ぐんでいるのがすぐにわかった。

「大丈夫か?」

 播磨は恐る恐る声をかける。

 どうにも、泣いている女は苦手だ。

「あ、ああ」

 少女は動揺しているようで、周囲を見回していた。

「具合でも悪いのか」

「そ、そういうわけじゃ」

「立てるか」

「え……、は!」

 少女はゆっくり立とうとしたが、バランスを崩して尻餅ををついてしまう。

「お、おい」

「す、すいませんすいません」

 涙目でひたすら謝る少女。それを見ている播磨。周囲の視線が痛い。

(イカン、これじゃまるで俺が泣かせてるみてェじゃねェか)


21 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:46:04.063NsOQz0Wo (21/25)


 とりあえず移動しようと思ったけれど、腰が抜けている少女は歩くことはできないだろう。

「仕方ない」

 意を決した播磨は少女を抱き上げる。

 思った以上に軽く、そして柔らかい感触。

「へ? 何を」

「すぐ近くのベンチまで移動する。大人しくしてろ」

 播磨は少女と、少女の持っていたカバンを抱えて、近くの公園のベンチまで走った。




   *




 夕闇に染まりはじめる公園のベンチ。

 播磨は買ってきた農協夏ミカンジュースをメガネの少女に手渡した。

「あ、ありがとうございます」

 微妙なチョイスにもかかわらず、少女は素直に受け取る。

「落ち着いたか」

「はい。もう大丈夫です。すいません、私なんかのためにこんな親切にしていただいて」

「いや、別に……」

「……」

「それよりどうして、あんな所にうずくまってたんだ? 危ないだろう」

「あの……、それは」


22 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:47:17.103NsOQz0Wo (22/25)


「病気か何かか?」

「そういうわけではないと思うんですけど」

「ん?」

「あ、いや、確かに病気はしてました。ついこの間まで入院してたんです、私」

「そォか」

「あの」

「ん?」

「あなたは、お化けとかって信じますか?」

「何言ってんだ?」

「ああいえ、すみません。ちょっと気になったもので」

「別に、信じてねェよ。いるわけねェだろう」

「そうですよね……。やっぱり気のせいだったんだ」

「ん?」

「いえ、何でもありません」

「それより、その制服」

「これですか?」

「確か、見滝原中学のもンだろう?」

「え、はい。そうです。ご存じなんですか? もしかしてОBの方とか」

「いや、そうじゃねェ。俺、今年ここに引っ越してきたばっかだから」

「あ、じゃあ私と一緒ですね」


23 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:48:38.093NsOQz0Wo (23/25)


「ん?」

「私、去年まで東京の学校に通ってたんです。といっても、病気で入院しちゃったんで、
あんまり思い出はないんですけど」

「そうか、大変だな」

「あの、それじゃあなんで、この制服が見滝原のものだってわかったんですか?」

「ああ、知り合いがな、そこの中学に通ってんだよ」

「はあ」

「鹿目まどかって、いうんだけど。知ってるか」

「え!?」

 不意に少女の顔が明るくなる。

「か、鹿目さんとお知り合いなんですか?」

「ん、まあ。たまたま知り合ったっていうか。同居人のつながりで」

「そうなんですか。鹿目さんて、優しくて親切で、いい方ですよねえ」

「お前ェ、まどかのこと知ってるのか」

「はい、同じクラスになったんです」

「そォか。仲良くしてやってくれよ」

「あ、はい、でも彼女は保健委員で、私のほうが世話になりっぱなしで」

「世話に?」

「退院したばかりで、体力もなくって、勉強もあんまりついていけてないんです。そんな私をフォロー

してくださったのが、鹿目さんです」

「そういや、アイツは世話好きだったな」

 播磨は中華料理店で弟の面倒をよく見るまどかの姿を思い出す。


24 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:49:46.383NsOQz0Wo (24/25)


「そうだったんですか、鹿目さんのお知り合い……」

「なあ、もう歩けるか?」

「え? はい」

「そうか。もうすぐ暗くなるから、早く帰れよ」

 そう言うと、播磨は立ちあがる。

 腹が減ってきた。半額弁当でも買おうか、と思いながら。

「あ、あの!」

 そんな播磨を少女は呼びとめた。

「なんだ」

「あの、私、暁美ほむらっていいます」

「ん?」

「お名前、お聞きしてよろしいですか」

「ん、ああ。播磨拳児だ」

「ハリマ、ケンジ……」

「じゃあな」

「ありがとうございます……!」

 少女は、播磨に向かい深く頭を下げる。

 人助けをするのは悪い気もしないが、どうにも恥ずかしい。

 ポリポリと頭をかきながら、既に日も暮れて暗くなりつつある街を彼は歩く。




   つづく


25 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/11(日) 19:52:47.613NsOQz0Wo (25/25)

久々のスレ立てで緊張いたしました。

今回も、前回同様地味に更新していきたいと思います。

それでは、お休みなさいませ。


26SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/11(日) 20:24:25.10IkpKDpNI0 (1/1)

スクランの播磨だと!なんて俺得スレなんだ
期待


27SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/11(日) 20:48:03.35sKIyT6jDO (1/1)

スクランで、しかも一周目くさいとか……

期待するしかないな


28SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/11(日) 21:10:58.13m9K89r6AO (1/1)

前作も見てたよー

今回も期待してます


29SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/11(日) 22:23:33.22KzzbICDT0 (1/1)

スクールランブル大好きの俺が来ましたよ

できることなら八雲を…


30SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/12(月) 02:37:03.64ne2qU2L30 (1/1)

なんと言う俺得

期待してます


31SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/12(月) 02:44:21.48Ijaq+xqAO (1/1)

何という俺得!



32SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/12(月) 07:50:21.08fyPkDMkAO (1/1)

いきなり一周目の魔法少女化フラグをへし折った感じ。


33VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/12/12(月) 13:09:14.15k38p5Y8No (1/1)

播拳龍襲!


34SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/12(月) 18:49:54.84b7Beu4wko (1/1)

おおこれは面白そう
しかし一週目ってことは、真実を知ってる奴はまだ誰もいない状態なんだよな
どんな展開になるのかwwktk


35 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:25:36.56hgPiPApso (1/15)

プリンタの設定に戸惑ってしまいした。デジタル機器にはとことん弱いな。
というわけで、今夜もいってみましょう。


36 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:27:41.67hgPiPApso (2/15)



 最近播磨は妙な噂を耳にする。

 今年の二月、市内で集団自殺があった。

 そこに悪魔が関わっているとかいないとか。

 確かに、この街に来てから彼の周りには妙なことが起こる。

 慣れない街の生活に疲れているのかとも思ったけれど、こういった違和感は
彼が生きてきた中では感じたことがないものだ。

「昔からそういう噂はあるらしいのよ」

 朝食のトーストに目玉焼きを乗せ、それにかぶりつきながら和子は言った。

「噂?」

「見滝原には昔から“神隠し”の伝説があってね」

「神隠し……」

「都市伝説みたいなものよ。年頃の女の子が何者かにさらわれて、何日かしてから
遺体で発見されるっていう」

「ただの誘拐殺人じゃねェのか?」

「そうだと思うけど、犯人が見つかってないケースも多いっていう話よ。だから、
昔からの言い伝えも含めて、そういう噂が立つんでしょうね」

「そんなものか」

「でも最近は物騒だから、拳児くんも気を付けてね」

「俺は大丈夫だろう」

「あなたじゃなくて、まどかちゃんとか」

「まどか?」

「ええ、あの子優しいから、知らない人に騙されて連れて行かれたりしないかちょっと
心配なのよ」


37 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:28:29.46hgPiPApso (3/15)


「だったら和子が直接言やいいだろ? 先生なんだからよ」

「一応、ホームルームとかでは言ってるけど、ほら」

「ん?」

「まどかちゃんも、沢山いるクラスの一人だから。一人の生徒を贔屓したとか言われたら私も色々と
面倒なの」

「そんなもんかね」

「そうよ。だからお願い」

「ああ」

「あら?」

「ん?」

「何だかやけに素直ね」

「べ、別に……」

「だっていつもの拳児くんだったら、面倒くせェとか言いそうなのに」

「んなこたぁねェよ」

「そう?」

「変なこと考えてんじゃねェ」

「拳児くん、相手はまだ中学生だし、あなたも高校生なんだから、ちゃんと節度を持って――」

「話が飛び過ぎだろうが!」
 


38 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:29:36.82hgPiPApso (4/15)

 





   魔法少女とハリマ☆ハリオ


       ♯2  噂









39 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:31:10.47hgPiPApso (5/15)


 学校でも、神隠しに関する噂はチラホラ出ていたのは知っていた。

 播磨自身、そういう方面の話には一切興味がなかったので気にしていなかったけれど、
改めて関心を持って聞いていると、この学校、というかこの地域では驚くほどオカルト系の
噂が多いことに気づかされる。

 また、そういう噂話は男子生徒よりも女子生徒のほうが好きなようだ。

 播磨自身、あまり女性相手が得意なほうではなない。けれども、これもまどかのためだと
心の中で言い聞かせながら、話をしてみることにする。

 そしてとある休み時間。

「なあ、ちょっといいか」

「ん?」

 彼は自分の席の近くで話をしている女子生徒二人組に話しかける。

 二人は話を中断して、播磨の顔を見た。

「実は聞きたいことがあってな」

「なあに?」

 そう言ったのは髪が短いほうの女子生徒だ。

 もう一人は、髪が長めで少し茶色がかっている。

 それはともかく、どこから話をしたらいいだろうかと迷いながらも、播磨は声を出した。

「この辺りってよ、なんか神隠しとか妖怪の伝説とかあるのか?」

「え?」

 二人の女子は播磨の言葉に顔を見合わせた。

(やはり高校生にもなって、こんなことを聞くのは不味かったか。そりゃそうだ。妖怪なんて
いるわけねェのに)


40 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:33:01.41hgPiPApso (6/15)


「うん、あるよ」

 髪の短いほうの女子生徒はあっさりと答えた。

「うん、有名だよね。小学校のころとか、結構噂になってたもん」と、茶髪も答える。

「そうなのか……」

「播磨くんは引っ越してきたばっかりだからわからないかもしれないけど、見滝原じゃあ、
神隠しとか昔から有名なんだよ」

「そうなのか?」

「見滝原(ここ)では新興宗教の本拠地とか結構あるの。仏教系とか神道系とか、西洋系の
宗教もあったかな」

「新興宗教……」

 播磨も宗教団体が駅前で何かを宣伝していたのを見た記憶がある。

「播磨くん、こういう話に興味あるの?」

「ああ、いや。なんつうか、最近物騒だし。実は知り合いに小さい子がいる人もいるしな」

 ウソはついていない。

「へえ、結構播磨くんって、優しいんだね」そう言って茶髪は悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「……」

「ともかく、そう言った類の話はあるよね。最近も変な事件があったし、また嫌な噂が蒸し返されてたよ」
軌道修正するように、髪の短いほうの女子生徒は言う。

「噂?」

「ほら、二月に起こった建設中のビルでの集団自殺事件。二月だから播磨くんはまだ」

「ああ、ここにはいなかった」



41 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:34:15.74hgPiPApso (7/15)


「だよね。私も詳しいことはよくわからないんだけど、建設中のビルから男女五人が飛び降り自殺。
でも、その五人の身元を調べると、五人とも、面識はないようだったって」

「少し前に流行った、自殺サイトってやつじゃないのか?」

 さすがの播磨も、そういう話は聞いたことがある。

 ネット上で知り合った自殺志願者が集まって集団自殺をするという話。

「そこまではわからないなあ。興味があるんなら、自分で調べてみてよ」

「ん、ああ……」

「ああ、そうそう。思い出した。そういえば、去年、中学生が行方不明になったって話も聞いたことがある」

「なに?」

「女子中学生なんだけど、あの当時ウチらも中学生だったんだけどさ、別の中学の生徒が行方不明になって、
警察も出動して色々調べてたの」

「そりゃあ……」

「ウチらの地元には神隠しの伝説もあったし、それで結構話題になったよ。ただ受験シーズンだったから、
先生たちがそういう話をしないようにって、わざわざ注意してたけど」

「……神隠しか」

 まどかのことを考えれば、集団自殺よりもこっちの事件のほうが問題があるかもしれない。

「それで、その神隠しはどうなったんだ? 女子生徒は見つかったのか?」

「それが、遺体で発見されたみたい」

「誘拐殺人?」

「でも、なんか外傷がなかったらしいよ」

「本当か?」

「うん。警察は心臓麻痺による死亡とか発表したみたいだけど」


42 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:37:38.15hgPiPApso (8/15)

「……。悪い、話を聞かせて貰ってサンキュー」

「いえいえ、どういたしまして」そう言ったのは茶髪のほうだった。

「もう、アンタはほとんど話してないじゃないのよ」と短髪が突っ込んだ。

 播磨は噂話を聞かせてくれた二人の女子生徒と別れる。

(確か、図書室なら新聞があったはず)

 妙な胸騒ぎを感じた播磨は、放課後、図書室で新聞のバックナンバーを調べて見ることにした。



   *



 しかし、バックナンバーを調べるのがこんなに面倒だとは、播磨も思わなかった。

 新聞を一枚一枚めくりながら播磨は自分の軽率な行動を反省する。それでも一度乗りっかかった
船を降りるわけにもいかない。

 何より、まどかの安全のこともあるのだ。

 播磨はまず、昨年起こった女子中学生失踪事件と、それに関連する記事を調べてみることにする。

 そして一つの記事にたどり着く。

 20XX年12月14日、学校から家に帰る途中の女子中学生、瀬川絵里さん(14)が行方不明となる。

 警察などが周辺を探すも見つからず。

 その後の記事を調べて見るも、行方不明となった女子中学生に関する報道は一切なされていない。

 そして年が明けた1月、件の女子中学生は遺体で発見された。

 検死の結果、死後2週間以上経ったものと推定される。ただ、遺体に特に目立った外傷はなし。
警察では寒さによる心臓麻痺として処理されたという。

「んん、これ以上調べてもわかりそうもないな」


43 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:39:22.91hgPiPApso (9/15)


 播磨は女子中学生失踪事件に関する記事を調べるのをやめて、今度は二月に起こった集団自殺について
調べることにする。

 一見すると平和そうなこの街で、かなりの死者が出ていることに彼は内心驚いていた。


 今年2月7日。建設中のビルの最上階から飛び降りたと見られる五人の遺体が発見される。

 五人の身元は全て判明するも、自殺者同士のつながりは不明。

 警察では、インターネット上で知り合った者同士が一緒に自殺する、自殺サイトが原因ではないかとみていたが、
その後の調べで彼らが携帯やパソコンを使って自殺サイト、もしくはそれに近いサイトにアクセスした履歴はほとんど
残っていない。

 しかも、自殺者の中の最年長の男性は、インターネットはおろか、携帯電話すら持っていなかったという。

 こちらの事件は、未だ捜査中とのこと。

 ただ、殺人事件と違って被疑者が特定されにくいため、捜査継続は難しいかもしれない、と言われている。

「……くそ、わからん」

 女子中学生失踪事件も集団自殺事件も、どちらも真相がはっきりしていないということでは共通している。

 しかもこの街は、神隠し伝説などがあるわりと神秘的な地域だ。

 だとすれば、オカルト系の噂が広まるのも無理はないだろう。

 そこまで考えた播磨は、久しぶりにじっくり新聞をよんだことを思い出して少し頭が痛くなってきた。

「お、いかん」

 図書室の時計を見て、播磨は今日がアルバイトの日であることを思い出す。

(どうも頭を働かせるのは苦手だぜ……)

 そう思い、彼は新聞を片付けてから学校を出た。




   *


44 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:40:08.65hgPiPApso (10/15)




 この日のアルバイトは、駅前のショッピングモールのバックヤードで荷物の搬入をする仕事だ。

 色々な荷物があり、中には重たい物もある。頭を使うことはあまり得意ではない播磨であったけれど、
体格に恵まれているだけあった、こういう身体を使う仕事は得意である。

「おう、播磨くん。頑張ってるね」

「ウッス」

 店の店員の一人が声をかけてきた。

 ここのバイトは、仕事はキツイけれども時給も良いので彼も嫌いではない。

 薄暗いバックヤードで、いくつかの荷物を仕分けし、台車に乗せて移動する。

 しばらく進むと、自分の視線の上のほうに何かが動くのが見えた。

「ん?」

 播磨はサングラスをはずし、目を凝らす。

 猫でも入りこんできたか。

 バックヤードには、たまに猫や鳥などの動物が入ってくることがある。

 よく見ると、見覚えのある白い塊だ。

「あれは……」

 大きい尻尾のようなものが見えたと思ったけれど、荷物の影に隠れてしまい見えなくなってしまった。

「何の生物なんだありゃ……」

 播磨はサングラスをかけ直し、一人つぶやく。

「播磨くん、どうしたんだい?」


45 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:40:50.51hgPiPApso (11/15)


 店員が声をかけてきた。

「あ、いや。なんか大きいネズミか何かがいるみたいで」

「え? そうなの? 困ったなあ。この前清掃業者に頼んだばかりなのに」

「あの、俺の見間違いかもしれませんから」

「そうなのかい? でもここのモールは食品も取り扱っているからねえ」

「はあ」

 播磨は気持ちを切り替えて、アルバイトに励むことにした。




   *



 すっかり日も暮れたその日の夜、播磨はバイトを終えて帰宅することにする。

 バイト先から家までは徒歩だ。

 空を見上げると、曇っているのか星がまったく見えない。

 途中、薄暗い公園のすぐ側を通りかかる。

「ん?」

 不意に、何か光ったように感じた。

(花火? それともカメラのフラッシュか)

 妙な違和感を覚えた播磨は、少し気になって公園の中を通って帰ることにしてみた。

 公園には、噴水があり、それがライトアップされている。

(やはり気のせいだったか?)


46 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:42:04.15hgPiPApso (12/15)


 疲れによる幻覚かもしれない。

 そう思った播磨は、再び元の道に戻ろうとした。

 その時、

「誰?」

 高い声が暗闇の中を通って播磨の耳に届く。

「ん?」

 振り返ると、先ほどまで誰もいなかったその場所に人影が見えた。

「……」

 目を凝らすと、公園の灯りに人の姿が照らしだされる。

「見滝原の制服……」

 以前、黒髪でメガネをかけた少女が着ていたのと同じ制服をきた少女がそこにいた。

 ただ、あのメガネ少女よりも背が高く、髪の毛も中学生にしては珍しい手の込んだ巻き髪
である。

「お前ェ、中学生だよな」

「そうですけど」

 妙に落ち着いた雰囲気で巻き髪の少女は答える。同じクラスの女子生徒たちよりも年下の
はずなのに大人びて見える、と播磨は感じた。

「こんな時間に何してるんだ?」

「あなたは先生か何かですか?」

「学ラン着た先公がいるかよ」

「そうですよね」

 そう言って少女は微笑んだ。



47 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:42:52.89hgPiPApso (13/15)


「ん……」

 どうも調子が狂う。

 播磨は頭をかきつつ、次に発する言葉を選ぶ。

「最近は物騒な事件が多いって聞いてるぞ。女の一人歩きは危ないんじゃないのか?」

「心配してくださっているんですか?」

「一応、親切心でいってんだけどな。まあ、らしくねェことはわかってるんだが」

「それはご丁寧に、ありがとうございます」

「あ、まあ気を付けて帰れよ」

 播磨は心の中にモヤモヤとしたものを抱えてしまう。

(やっぱ、慣れねェことはするもんじゃねェな)

 そう思い、そのモヤモヤを振り払うように、その場を立ち去ろうとする。

 しかし、

「あの――」

 そんな播磨の背後に少女は声をかけた。

「あン?」

 播磨は振りむく。

「少しお伺いしたいのですが」

「何だ」

「あなたは、“何者”ですか?」




48 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:44:39.43hgPiPApso (14/15)


「ん!?」

 質問の意図がわからない。

 どう答えればいいんだ。

 少女はじっと播磨の顔を見つめている。

「何者って、見ての通り、ただの高校生だ」

「そうですか」

「……」

「あ、申し遅れました。私見滝原中学三年の、巴マミといいます」

「ん? ああ」

「それでは、サングラスの人。またどこかでお会いしましょう」

 そう言うと、巴と名乗る少女は、闇の中に消えるようにどこかへ行ってしまった。

 コバエが周りと飛び回る外灯の光に照らされた播磨は、なぜかしばらくの間、
その場に立ち尽くしてしまった。



   つづく


49 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/12(月) 20:48:03.17hgPiPApso (15/15)

美琴と言えば周防、愛理とかいて「えり」と読む。

そんな時代は過去のものか。というわけで、今夜はこの辺で。


※注意
前回と違い、今回は1話ごとの分量を短めにしております。
これはサーバと筆者自身の負担を軽くするためです。


50SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/12(月) 21:03:56.74EHz6Se/3o (1/1)

乙!

ハリー・マッケンジーさんは出てきますか?


51SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/12(月) 23:18:16.10/QXTEUvI0 (1/1)

魔法不良ハリー☆マッケンジー

うん、ないわー


52SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/13(火) 07:38:06.97eQO1xxZAO (1/1)

ハリー・マッケンジーは不良ではないと思うのだが。


53SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/13(火) 11:47:37.31qKeCKWTLo (1/1)

スクランは1巻が一番面白かった


54 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:25:57.13N5KukWiuo (1/15)

年末で仕事が忙しい。でも多分、山場は超えたと思う。

たしかに、スクランは初期のほうが面白いですよね。天満と間違えて絃子に抱き着くところとか。

では、今夜も行くぜ。


55 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:26:38.85N5KukWiuo (2/15)


 播磨が巴マミと名乗る不可思議な中学生と出会ってかあ数日後、彼はまた別の噂を
耳にしていた。

「悪魔?」

「そう。ちょっと妹のいる学校で噂になっているの」

「どういうもんだそれ?」

 以前、播磨が話しかけた髪の短い、噂好きの女子生徒がそんな話をてくる。

「私も昔、聞いたことがあったんだけど、ねえ播磨くん、悪魔の契約って知ってる?」

「いや、そういう方面の話は……」

「悪魔はね、どんな願いでもかなえてくれるんだよ」

「ほう」

「でもその代わり、願いをかなえた者の命を奪うの」

「それじゃ願いを叶えても意味ねェんじゃねェの?」

「うーん、そうなんだけど。たとばその、自分の命と引き換えにしてでも叶えたい願いがあるとか」

「……よくわからねェ」

「あは、実は私も」

 願いをかなえるために命を要求する。確かにそれは悪魔らしい。

 ただ、そのために命を差し出したんじゃあ割にあわないのではないかと播磨は思う。

「ところでよ」

「なに?」

「悪魔って、どんな姿してるんだろォな」

「え? そりゃあ、バ○キンマンみたいな形で、黒くていかにも悪魔って感じの」



56 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:27:33.18N5KukWiuo (3/15)


「ああ、そうだね。人を騙そうとするんなら、もっとまともな姿じゃないとね」

「だろ?」

「ねえ」

「ん?」

「播磨くんは、どんな姿だと思う?」

「ん……」

 播磨はふと、以前見かけたあの白い生物のことを思い出す。

 猫のような、犬のような形をした謎の生物。

「中村、アンタいつの間に播磨くんと仲良くなったの?」

 不意に、茶髪の女子生徒が播磨と話している髪の短い生徒に後ろから抱きつく。

「いや、そんなんじゃないよ。ちょっとこの前の話の続きを言ってただけだから」

「そうなの? 仲良さそうだったからてっきり」

 仲良さそうにしている女子生徒同士を見て、播磨はその場を立ち去ることにした。

「じゃ、俺行くわ」

「そうなの?」

「えー? たまにはどっか遊びに行こうよ」先ほど乱入してきた茶髪の生徒が笑いながら言う。

「悪いな、少し気になることもあるんで」

「そっか、じゃあね」

「バイバイ播磨くん」

 女子生徒に別れを告げた播磨は、学校を後にする。

 しかし、行き先が決まっているわけではない。

 今日はバイトもないのだ。


57 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:28:58.05N5KukWiuo (4/15)







    魔法少女とハリマ☆ハリオ


        ♯3  命







58 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:30:10.19N5KukWiuo (5/15)



 夕焼けに染まる街を播磨は歩く。

 夏も近づき日が長くなってきたといっても、暗くなるのはそこまで遅くはない。

 その日、週刊ジンマガの発売日であることに彼は気づいた。

「たまには本屋にでも寄ってみるか」

 そう思い、彼は駅前のショッピングモールに足を運ぶ。

 あそこに行けば大抵の店はあるのだ。無論、書店もある。

 言うまでもなく、彼はあまり読書をするタイプの人間ではないのだが漫画は好きである。

 小さい頃からよく漫画を読んでおり、自分で描いたりもしていた。

 いつしかそういうこともしなくなったけれど、たまに読む漫画は彼にとって慣れない土地での
ストレスを軽減する良い方法でもある。

「新刊、色々出てんな」

 平積みにされた漫画の単行本を見ながら、人気の漫画をチェックする播磨。

 金があれば片っ端から買っていきたいところだが、生憎彼のバイト代には限界がある。

「お、こりゃあ二条丈の新刊か」

 ふと、手を伸ばした時、同じように手を伸ばした誰かの手と当たる。

 まるで漫画のような状況だ。

「あ、すいません」

「いや、別に……」

 素早く手を引っ込め、隣にいた人物の顔を見る。

「お」



59 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:30:59.54N5KukWiuo (6/15)


「あ、拳児くん」

 見覚えのあるツインテールと赤いリボン。それに見滝原中学の制服。

「まどか……」




   *




 目当ての単行本と雑誌を買った播磨は、ちょとオシャレなカフェテリアにいた。

 彼一人だったら絶対に入らないような場所だ。

 四人がけのテーブル席の一つに播磨が座り、その向かい側にまどか、そしてその隣には彼女の
友達らしい髪の短い少女が座っていた。

「改めて紹介するね、この子が私のお友達のさやかちゃん」

「み、美樹さやかです。フツツカモノですが、よろしくお願いします」

 ショートヘアーの少女はやや堅苦しく挨拶をする。

「それで、この人が播磨拳児さん。今年の四月から見滝原に引っ越してきたんだよ」

「お、おう……」

「……」

 黙り込む二人。

 一体何を話せばいいのだろうか、と播磨は考える。

 そんな状態で先に話を切り出したのはさやかのほうだった。


60 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:32:02.28N5KukWiuo (7/15)


「あの、播磨さん」

「ん?」

「早乙女先生と一緒に住んでるって、本当ですか?」

「ああ、その話か。そういや、お前ェらの担任だったな、和子は」

「カズコって呼び捨て。やっぱり新しい恋人は……!」

「違うよさやかちゃん」

 何やら勝手な妄想を始めた親友をまどかが止める。

「拳児くんと和子先生は親戚なんだよ。そうですよね」

「ああ、和子は俺の叔母だ。アイツから見たら俺は甥っ子だな」

「なんだ、そうなんだ」
 
 そう言うと、さやかはまた別の話題を振る。

「そういえば、最近まどかはよくまどかって、よくあなたの話をするんですよ」

「ちょっとさやかちゃん!?」

「俺の?」
 
 まどかが止めるのも聞かず、さやかは喋り続けた。

「はい、今まで男の子に興味を示さなかったまどかが、急に男の人の話をするから、
実は内心驚いていたんです。それがあなただったんですね」

「さやかちゃん」

 まどかは顔を真っ赤にしている。けれどもそれは、怒っているというよりは困っていると
言ったほうがいい。

 さやかもそんなまどかの姿が可愛く思えたらしく、更に話を続けようとする。



61 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:32:57.34N5KukWiuo (8/15)


「もう! 拳児くんとはそういうんじゃないんだよ。エイミーを飼うきっかけを作ってくれた人で、
そういう点で感謝してるの」

「そうなの? それ以外に思いとかあるんじゃないかなあ」

「さやかちゃん」

 まどかがあまりにも困っているようなので、播磨は年上として助け舟を出す。

「それくらいにしといてやれよ」

「はーい」

 播磨の言葉に、さやかはあっさりと従う。

「もう、さやかちゃんったら」

 まどかは少し怒ったように、頬をプクッとふくらませた。

(いかん!)
 
 まどかのその表情を見た播磨は、可愛らしいと思ったため思わず顔を逸らす。

「あれ? どうしたんですか播磨さん」と、さやかが聞いてきた。

「いや、何でもない」 

 播磨は、ニヤケ顔を隠すために話題を変えようとする。

(しかし何の話をしたらいいんだろうか)

 女子中学生の行方不明事件、集団自殺、新興宗教、オカルトな噂話。

 気になる話題はいくらでもあるのだが、どれも女子中学生相手にするような話ではないことくらい、
播磨にもわかっていた。

「あの、拳児くん?」


62 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:33:54.49N5KukWiuo (9/15)


 しかし幸いにも、話題はまどかのほうから出てきたようだ。

「あン?」

「もしもの話なんだけど」

「ああ」

「もしも、何でも願いが叶うとすれば、どんな願いを望む?」

「願い……?」

「そう、何でも叶うとしたらです。金銀財宝とか、満漢全席とか」さやかも続ける。

「……」

 播磨は少し考える。

 この日学校で話した話題とよく似ている気がした。

(偶然だろうか?)

 この手の噂はどこにでも広まっているかもしれない。

 播磨は向かい側に座るまどかの顔を見る。

(あいつ……)

 冗談混じりで聞いてきたにしては、どうも目が真剣だと彼は思った。

(そうまでして叶えたい願いが、あるのか?)

 播磨は色々考えてみたが、答えはまとまらなかった。

「何でも願いが叶うっていうけどよ」

「うん」

「やっぱり、そういうモノにはそれなりの代償が伴うんじゃねェかな」


63 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:35:26.20N5KukWiuo (10/15)


「代償?」

「ああ、リターンにはリスクが伴う。そうじゃなきゃ世の中は成り立たねェ」

「……」

「例えば、何でも願いが叶うっていうなら、それなりの代償があるんじゃねェかって、
言いてェんだよ」

「その代償って何ですか?」

「たとえば、命とか」

「命……」

 ふっと、まどかの表情が変わったような気がした。

「今のところ、自分の命と引き換えにしてでも叶えたい願いってのは、俺にはないな」

「そう……、ですか」

「まどかはどうなんだ?」

「私? 私は……。その――」

 ほんの少しの沈黙。

 そして、

「ない、かな……」

「そォか」 

 いつの間にか重たくなっていた空気がふっと軽くなったような気がした。

「ふ、二人とも何でそんなたとえ話で真剣に話してるのさ」

「そういえばそうだな。何でも願いがかなうなんて、ありえるはずもねェのに」

 そう播磨が言うと、まどかは苦笑いをした。


64 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:36:58.45N5KukWiuo (11/15)


「そろそろ帰るか」

 本当はもう少し話をしていたかったけれど、あまり遅くまで付き合っていると、
まどかの父の和久があまりいい顔をしないだろう、と思った播磨は話を切り上げ、
二人を帰らせることにした。

「まだ時間は大丈夫だよ」とさやかが言う。

「最近物騒だから、早めに帰ったほうがいい」

「なんだか播磨さん、先生みたいなこと言うなあ」

「一緒に住んでるからな。先生って職業の人間と。少しは影響がるかもしれねェ」

「あは、そうかも」

「二人とも、途中まで送るぞ」

「お、紳士だねえ」

「な、何かあったら俺の責任にもなりかねんからな」

 照れ隠しで播磨がそんなことを言うと、

「ありがとう、拳児くん」

 と、まどかは笑顔で返した。




   *



65 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:37:40.00N5KukWiuo (12/15)




 暗闇に包まれはじめる道を、播磨とまどか、そしてさやかの三人が歩く。

 長く延びていた彼らの影は、次第に夜の闇に溶けていゆく。

「じゃあ、アタシはこっちだから。後はお二人で」

「もオいいのか?」

「うん、アタシのマンションすぐそこだから。じゃあね」

「バイバイ、さやかちゃん」そう言ってまどかは手を振った。

「バイバイ、お幸せに」

「……」

 話好きで元気っ子のさやかがいなくなると、急に静かになった。

(何を話せばいいんだろうか)

 播磨にとってまどかと二人きりになるのは初めて会った時以来のである。

 ただ、初対面の時には間に猫のエイミーという緩衝剤があったので、本当の意味での二人きりは
これが初めてだ。

「あの、拳児くん」

「ん?」

「さっきの話なんだけど」

「話?」

「何でも願いがかなうならって、話」

「なんだ、そのことか」

「うん。自分の命と引き換えにしてでも叶えたい願いがあるのかって、ずっと考えてたの」


66 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:38:39.47N5KukWiuo (13/15)


「ああ……」

「でもわからなかった」

「そオだろうな。俺もわからねェ」

「うん」

「だがよ――」

「え?」

「自分のことはわからなくても、他人のことならわかるんじゃねェか」

「どういうこと?」

「もしまどかの大事な人が、親父さんやお袋さんなんかが急にいなくなったら、どう思う?」

「それは……、嫌だな」

「だったら逆に考えればいい。もし、お前ェがいなくなった時、お前ェを大事に思っている人が
どう思うかってことを」

「……ん」

 まどかは、急に歩みを止めた。

「どうした?」

「もし、私がいなくなったら、拳児くんはどう思う?」

「それは……」



67 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:40:37.32N5KukWiuo (14/15)


「私は、拳児くんが急にいなくなったら寂しいと思う……」

 ふと、消え入りそうな声で彼女は言った。

 ここで曖昧な答えをするのは男じゃない。

 そう思った播磨は意を決する。

「俺だって、まどかにはずっといて欲しいと思ってる」

「え?」

「折角知り合いになれたのに、急にいなくなったら寂しいじゃねェか」

「拳児くん」

 先ほどまで立ち止まっていたまどかが、急に走り出した。

「おい、まどか」

 そして、しばらく走ってから再び立ち止まる。

「拳児くん」

「ん」

「ありがとう」

 彼女は太陽を背にしていたため、逆光になってその表情は暗くてよく見えなかったけれども、
多分笑顔で言っているのだろう、と播磨は思った。



   つづく



68 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/13(火) 19:46:28.71N5KukWiuo (15/15)

次回は、まどかのお母ちゃんが再び出てきます。

今作のコンセプトとしては、外側から見たまどマギ、つまり主要キャラ以外の視点を重視
している構成なので、序盤は魔女も出てこないし、かなり退屈かもしれません。

物語が動くまでもうちょっと待ってくだされ。


69SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/13(火) 20:14:23.00MZjz48zDO (1/1)

イイヨイイヨー
この中途半端に非日常に片足突っ込んでる感が、とても美味しいです

と言うか魔女が出てきたら播磨ヤバいでしょw


70SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/13(火) 21:24:48.60nvOnALUd0 (1/1)

烏丸君を召喚すればいいだろ


71SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/13(火) 23:58:08.68W0FlqbYs0 (1/1)

今のところ播磨の必要性が見当たらないけど……期待


72 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:04:46.50caHHzrrpo (1/13)

会社終わってから、トレーニングジムに行ったから筋肉パンパン。明日は筋肉痛間違いなしだね。

ってなわけで投下。


73 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:05:41.76caHHzrrpo (2/13)


 なかなか夜、眠れなかった播磨は気がつくとペンを握っていた。

(何をやっているんだ俺は……)

 真っ白の紙にペンを走らせる播磨。

 そしていつしか、鹿目まどかにそっくりな少女が浮かび上がる。

 ただ、本物のまどかと違うところは、やたらフリルの付いた可愛らしい服装をしているところ
だろうか。

「まるで、魔法少女のようだな……」

 ふと、そんなことを口にしたその時、

「拳児くん! 私のプリン知らない?」

「ぬわ!」

 同居人の早乙女和子が急に、播磨のいる部屋のドアを開ける。

「か、和子! 入る時はノックぐらいしろとあれだけ」

「あらやだ、ごめんなさい。まだ途中だった?」

「……!」

「しかたないわよね、男の子なんだし」

「違うわ!」

「お姉ちゃんも協力してあげたいところだけど、ほら、私はあなたのお母さんの妹だから」

「違うって言ってんだろ! さっさと出て行けよ」

「もう、拳児くんのイジワル」

「うっせェ」

 和子を部屋から追い出した播磨は再び机に向かい、先ほど隠した紙を取り出す。

 そこには、魔法少女のような姿をしたまどかのような少女がいる。

 播磨には、なぜ自分がまどかに対してこんなイメージを抱いてしまったのか、
よくわからなかった。

 ただ、単なる妄想にしては、なぜかしっくりくると思った。



74 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:06:09.88caHHzrrpo (3/13)





   魔法少女とハリマ☆ハリオ


     ♯4  協力者









75 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:07:21.17caHHzrrpo (4/13)



 数日後の朝、播磨が朝食を食べながらテレビを見ていると、見滝原付近で自殺者が出たという
ニュースが流れていた。

「また自殺か」

「そうなの、建設中のビルからの飛び降り自殺」

 トーストにバターを塗りながら和子は言った。

「確か今年の二月にも似たようなことがあったよな」

「え? ああ、そうね。でもあれは集団自殺だし」

「この街はそういう事件が多いのか」

「そんなことはなかったはずなんだけど……」

「そォか」

「拳児くん」

「ん?」

「心配ごととか悩み事があるなら、ちゃんと私に相談するのよ」

「別にねェよそんなの」

「拳児くんにもしものことがあったら、私姉さんになんて言えばいいのよ。
一応、今は私が保護者なんですからね」

「わかってる」

「本当に?」

「ああ……」

『ニュースを続けます。タレントの桜井リホさんが3キロ太った問題で、昨夜所属事務所の
高木社長が会見を開き――』

 しばし訪れる沈黙の中、テレビの音が響く。


76 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:08:54.73caHHzrrpo (5/13)


「なあ和子」

「なに?」

「警察に知り合いとかいねェか?」

「拳児くん? 何か悪いことでもしたの?」

「いや、そうじゃねェけど」

「そういうことはちゃんとお姉ちゃんに言ってくれなきゃ」

「だから違ェって言ってるだろうが」

「うーん、警察の人に知り合いがいるほど顔が広い人なら知ってるけど」

「誰だ?」

「詢子」

「……」

 鹿目詢子――

 まどかの母親だ。

(あの人は何か苦手なんだよなあ……)




   *


77 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:10:28.31caHHzrrpo (6/13)



 
 その日の夕方。

 なぜか播磨は、仕事を終えた詢子と一緒に鹿目家にいた。

「あの、詢子サン……」

「話なら食事の後に聞くよ、さあ入った入った」

 昼間、播磨は詢子の職場に電話をかけた。それがなぜか一緒に家で食事をするという
約束になってしまったのだ。

「ただいまあ」

 その日一日の疲れを感じさせない明るい声で詢子は帰宅する。

「おかえりママ。それに、拳児くんも」

「お、おう」

 出迎えたのはまどかだった。

 事前に詢子が連絡していたようで、家の者は播磨がくることを知っている。

(それにしても、私服のまどかも可愛いな)

「どうしたの?」

 やや顔を紅潮させながらまどかが聞いてくる。

「いや、なんでもねェ」

「さ、拳児くん。手を洗ってきな。私も着替えてくるから」

「……はい」

 まどかの家は初めて訪れたけれど、まどかと同じ匂いがすると播磨は思った。

「ミー」


78 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:11:23.34caHHzrrpo (7/13)


 靴を脱いで家に上がると足元に黒い影が近づく。

「ん? お前ェは」

 いつか会った、あの黒猫である。そういえば、まどかが家で飼うことになったと
中華料理屋で言っていたことを播磨は思いだす。

「あ、エイミー。拳児くんだよ。覚えてる?」まどかはそう猫に話しかける。

「ニャー」

 エイミーは音もなく播磨に近づき、そして彼の脚に身体をそっと近付けた。

 親愛の表現なのだろう。

「拳児くんって本当に動物に好かれるんだね」

「そうだな」

 播磨はしゃがみこんで、エイミーの小さな頭をそっと撫でた。

 その後、洗面所で手を洗った播磨はリビングに行く。

「いらっしゃい」

 エプロン姿の鹿目和久がそう言った。

「お邪魔してます」

「ケンケンだ! ケンケーン!」

 まどかの弟、タツヤがそう言って手を振る。

(しかしケンケンってなんだ。俺はイヌか)

 播磨は苦笑しつつ、まどかに促されて食卓の前に座る。

「しかし凄いッスね」



79 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:11:53.41caHHzrrpo (8/13)


 播磨の目の前には、いくつもの料理が並んでいた。

 高級料理というわけではないけれど、おかずの種類が多い。

「いやあ、拳児くんが来るって聞いたらまどかが手伝いしたいって言ってねえ」

 料理を並べながら和久は言う。

「これとこれはまどかが作ったんだよ」

「そおなんですか」

「もうパパ! 恥ずかしいからあんまり言わないでよ」

「いやだって、せっかく作ったんだし」

「ごめんね拳児くん。美味しくなかったら美味しくないって言っていいから」

「いや、別に」

 まどかの作った物なら、毒でも入っていない限り食いつくす、と播磨は思っていた。

「あら、皆揃ってるね」

 昼間のスーツ姿から、すっかりリラックスした服装に変わった詢子が入ってくる。

「じゃあいただきましょうかね」




   *




80 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:13:13.87caHHzrrpo (9/13)



 夕食は和やかな雰囲気で進んだ。

 詢子はビールを飲みながら楽しそうに話をし、まどかは播磨やタツヤに対して色々と世話を
焼いていた。

 エイミーは部屋の隅で、自分の餌を食べている。

 久しぶりに感じるゆっくりとした時間。

 播磨がこの街に来て以来、殺伐とした事件を耳にすることが多かった分、こういう家庭的な
雰囲気は心地よさを通り越してこそばゆくもあった。

 そして食事も終わり、播磨は詢子と二人で話をすることになる。

 まどかと一緒にいる時間が楽しくて、忘れかけていたけれど、この日の鹿目家訪問はこれが
目的だったのだ。

 照明を落とした薄暗い部屋。隣からはまどかやタツヤの笑い声が聞こえる。

 詢子は水割りの入ったグラスを揺らした。

 グラスの中の大きめの氷が縁に当たって高い音を出す。

「私は、この音が好きなんだよね」

 窓から差し込む月の光が詢子の肌を照らす。

 その肌は、子供を産んだとは思えないほどきめ細かく張りのあるものであった。

「あの、詢子サン……」

 播磨が話を切り出す。

「なんだい?」

 酒のせいで頬は紅潮しているけれど、その瞳はしっかりと彼の顔を見据えていた。

「頼みがあるんですが」

「聞こうか」


81 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:14:14.49caHHzrrpo (10/13)


「警察に、知り合いがいないでしょうか。よければ紹介してもらいたいんです」

「それは、どうしてだい?」

「それは……、少し前に起こった女子中学生の失踪事件、それについて知っていることがあれば、
教えてもらいたいと思いまして」

「……」

 詢子は少し黙り、グラスに口を付ける。

「それを知ってどうするつもりなんだい?」

「それは……」

 播磨は考える。

 元々深く考える性質ではない。考える前に行動するタイプの人間である。

 だが、今は考える。

「知りたいんです」

「知りたい?」

「この街のことを」

「どういうこと?」

「この街に来てから、奇妙な違和感を覚えることがよくあるです。でも、それが何かわからなくて」

「ふん……」

「んで、クラスの連中とかに聞いたら、ここでは新興宗教が盛んだったり、集団自殺があったり
してるって話で。そこに何か裏があるのかと思って」

「それを知って、どうするつもり?」

「それは……」


82 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:15:45.82caHHzrrpo (11/13)


 播磨は言葉を止めて考えてみた。

 恐らく、この街に来てから一番頭を使った瞬間だっただろう。

 だが、

「……わからないッス」

「……」
.
「ただ、何だかよくわからない違和感の中で暮らして欲しくないんっすよ、やっぱり。
まどかたちも危ないんじゃないかって」

「まどかのこと、心配してくれてるの?」

「いや、まあ……」

「ありがとう拳児くん。まどかもキミのことを気に入ってるみたいだし、そんな風に思われて
幸せ者だね、あの子は」

「あの子が俺を気に入ってるんッスか?」

「……」

「どうしました?」

「いや、何でもないよ。それで、警察に話を聞いたらキミの疑問は晴れるのかな」

「わからないッス。でも、何か手掛かりはつかめるかもしれない」

「ふむ……」

 やはりダメか。播磨がそう思った時、

「わかったよ」

「え?」

「知り合いに見滝原署の刑事がいる。下っ端だけど優秀なやつだから、何か知ってるかもしれない。
ちょっと連絡を取ってみる」


83 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:17:00.52caHHzrrpo (12/13)


「本当ですか?」

「ああ、女に二言はないよ」

「ありがとうございます」

「ただし、条件がある」

「……。何でしょう」

「拳児くんが探している違和感とやら。何かわかったら私に知らせてほしい。
協力してあげるんだから、当然の権利だろう?」

「は、はい」

「それともう一つ」

「はあ」

「娘を、まどかを悲しませるようなことはしないでね」

「え?」

「わかったかい?」

「え、はい」

「この二つを守れるなら、取り次いであげる」

「守れます。お願いします」

「ふふ……」

「……」

「こうやって真剣な顔している男を見るのも、久しぶりな気がするよ」

「詢子……、サン」

「拳児くん」

「はい」

「キミが何を目指しているのか、私にはわからないけど、まあ頑張りな」

 詢子はそう言うと、グラスに残ったウイスキーを最後まで飲みほした。




   つづく



84 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/14(水) 20:19:36.76caHHzrrpo (13/13)

 次回、ゲストキャラが刑事役で登場。とあるゲームの登場人物です。


 あと、梨穂子は可愛いなあ!←ここ重要


85SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/14(水) 20:33:01.45Y651qGwX0 (1/1)

ビルの屋上から集団自殺なんて言われるとカオヘを思い出すな……

乙 面白い

さて、烏☆マギカを並列して進行する作業に戻るんだ!


86SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/14(水) 21:47:25.14qv9/MGiHo (1/1)

スクランスレと聞いてやってきましたよ、っと


87SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/14(水) 21:48:47.31/B9EtIfAO (1/1)

これはいいスクラン


88SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/15(木) 01:24:15.79EvHEARdG0 (1/1)



続きが楽しみだ


89SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/15(木) 11:15:20.53NzRW5whH0 (1/1)

>>84

でぶったのかww


90SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/15(木) 11:59:02.33Ae7LiO6Q0 (1/1)

梨穂子はかわいいなあ


91 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 19:39:23.78V/USX/oVo (1/16)

明日は寒いらしいですね。金曜日だというのに。


92 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 19:40:46.41V/USX/oVo (2/16)


 約束の時間は夕方4時。

 忙しい仕事をしている相手なので、なんとか都合のつくギリギリの時間だ。

 播磨のほうも、一応高校の授業があるのでそれを終えてからすぐに行かなければならない。

 約束をしていた日には、わざわざ和子から自転車(ママチャリ)を借りて学校にスタンバイしておき、
授業が終わったら即効で乗って待ち合わせ場所へと走った。

 瞬発力には自信のあった播磨だが、どうにも持久力は低いようで自転車をこいだだけで激しく
息切れをしてしまう。

 待ち合わせ場所である公園に行き、自転車置き場に自転車を置いてから指定されたベンチへ向かう。

 なんだかスパイ映画みたいだ、と思いつつ早足で歩く播磨。

(まだ着てねェのか……)

 ふと、周囲を見回すとベンチに座って大きめの手帳を読んでいる男の姿が目に入ってきた。

(あれは……)

 他の人間にはない異様なオーラをまとっている男。

 その男は播磨の存在に気づくと、すっと立ち上がった。

「あの……」

「播磨、拳児くんか」

 播磨の言葉を遮るように男は声をかけてきた。

「はあ」

 彼は曖昧に返事をする。

 その鋭い眼光に一瞬ひるんでしまったのだ。

 しかし気を取り直し、にらみ返す。

(ここで舐められたらまともに話なんかできねェ)

 喧嘩に明け暮れた中学時代の記憶がよみがえる。

「鹿目詢子サンの紹介で」

「ああ、聞いている。見滝原署刑事課の霧島だ」

「どうも……」



93 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 19:41:21.22V/USX/oVo (3/16)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ


      #5 事 件







94 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 19:42:02.55V/USX/oVo (4/16)





 霧島と名乗る刑事は、ヨレヨレのスーツとシャツ、そして無精ひげというあまり清潔感があるとは
思えない姿をしていた。

 にもかかわらず、播磨の目にはその姿がなんとなく様になって見える。

 なんというか、シワクチャのワイシャツですら、彼の引き締まった体躯にはよく似合って見えたのだ。

 まるで、映画『セブン』に出ていたブラットピットのようでもある。

 播磨は霧島とベンチに座った。

 時間がないという霧島のためにも、早めに話をしなければならない。

「聞きたいとことはなんだ?」

 霧島は鋭い目つきで播磨の姿を観察するように見ながら聞いてくる。

「少し前に起こった、女子中学生の失踪事件についてなんですが」

「あれか……」

 ふと、霧島は遠くを見つめる。

 その視線の先には、小学生らしい子供たちがボール遊びをしている風景があった。

「たしか名前は、瀬川……」

「瀬川絵里14歳。見滝原中学の当時2年生だ」

「……」

「友人たちと別れ、家に帰ろうとしたその途中で行方不明となった」

 そこまでは播磨が新聞で読んだものと同じである。

「周囲の目撃情報とかは」


95SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/15(木) 19:42:05.93L2+7OoEpo (1/2)

初めてリアル遭遇してしまった


96 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 19:43:17.68V/USX/oVo (5/16)


「わからない。目撃情報もなし、周辺の監視カメラなども全て調べたが足取りらしきものはつかめなかった」

「完全に蒸発」

「そうだな。だが人が蒸発するなんてことは考えられない」

「そうですね」

「だとすれば、何者かが連れ去ったと考えるのが妥当だ」

「……」

「とすれば、誰が何のために連れさったのか」

「誘拐でしょうか」

「そうだな、わいせつ目的か、はたまた身代金目的か。ただ、身代金目的なら、親か誰かに連絡が行く
はずだ。しかしそれもない。そして、別の目的なのだが」

「……」

「遺体発見は年明けだ。建設中のビルの一角で見つかった。報道でもされたと思うが遺体の発見はなし。
有力な目撃情報もなし。普通なら、何らかの手掛かりが見つかるはずなのだが、それもない」

「死因は」

「発表では確か、心臓麻痺としていたはずだが――」

「……」

 播磨は記憶をたぐりよせる。確か新聞のバックナンバーにもそんなことが書いてあった気がする。

「実際はわからない」

「?」

「明確な死因はわかっていない」


97 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 19:45:12.28V/USX/oVo (6/16)


「その、ナントカ解剖をしたりとか……」

「司法解剖な。確かにそれも行った。それでも原因はわからない。それどころか、
別の謎が浮かび上がってきてしまった」

「別の謎?」

「まず第一に、死亡推定時刻だ。播磨くんも、遺体を調べたらそれが死んだ時間をある程度まで
推定できることは知っているだろう」

「はい」

「まずそれがわからなかった。というのも、死亡推定時刻はおよそ72時間以内。
つまり、行方不明になってから一ヶ月近く経っているにも関わらず、遺体が発見される直前に
死んだことになっている」

「……?」

「まだわからないことがある」

「え?」

「胃の内容物だ。人は何かを食べないと生きていけない」

「はあ」

「それが、瀬川絵里の胃を調べた結果、失踪した12月14日の昼に食べた食品らしきものがわずかながら
残っていたんだ」

「……そんな」

「これに関しては推測でしかない。まるで失踪した12月から、翌月にタイムリープでもしたかのような現象だ」

「タイムリープなんて……。でも実際のところは――」

「わからない。上層部はこの事件に見切りをつけて捜査本部を縮小した。今は別の事件も発生しているので、
俺たちもそっちに行かされているのさ」

「それじゃあ……」


98 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 19:46:08.13V/USX/oVo (7/16)


「ああ、恐らくこの事件は迷宮入りだろう」

「……」

「これが俺の知ってる情報だ。大したものじゃないだろう」

「いえ、そんなことは」

「気を使わなくていい。現場の刑事なんてこんなものだ」

「はあ」

「キミはこの話をきいてどうするつもりだい?」

「どうするって」

「キミが犯人を捕まえる?」

「そんなつもりはないっすよ」

「じゃあどうして」

「知りたいんです」

「ん?」

「この街で感じる違和感の原因を」

「ふむ……」

「さっきの事件もそうですけど、この街には何か常識では測れないような事態が
起こってるんじゃねェかと思うこともあるっす」

「そうだな。……あっ、それと」

 霧島は少し考え、何かを思い出したように口を開いた。

「それから、もう一つ気になることがあるんだが」



99 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 19:49:06.49V/USX/oVo (8/16)


「なんっすか?」

「件の瀬川絵里の居場所を通報した人間がいる」

「通報?」

「同じ中学の生徒だ」

「同じ、中学」

「名前は巴マミ。当時見滝原中学の二年生。今は三年生だな。文字は、巴投げの巴。マミはカタカナでマミだ」

「巴……、マミ?」

「俺は気になって、個人的に少し調べてみたけれど、別段おかしいところはなかった」

「そうなんっすか?」

「ただ、被害者の瀬川とは面識はあまりなかったようだ。同じクラスの連中に色々と話を聞いたが、
二人が話をしていたと証言する者は少ない」

「……」

「あと、巴には両親がいないようだ」

「ん?」

「市内で一人暮らしをしている。そのためか、夜中に街中を歩きまわっている、とう話も聞いた」

 播磨はかつて、暗くなった公園を歩く巴マミの姿を思い出す。

「何か事件に関係しているんじゃないかと思ったが」

「証拠がない」

「その通りだ」

「……」


100 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 19:50:18.02V/USX/oVo (9/16)


 播磨が黙ると、霧島は左手首につけた腕時計を見る。

「そろそろ時間だな」

「今日は、スンマセン」

「いや、いい。俺も少しは気分転換になった」

「そうなんですか?」

「このことは内密に頼むぞ」

「わかってます」

「まあ、何かあったら知らせてくれ。見滝原署の霧島と言えばわかる」

「ハイ」

「それじゃ、まだ聞きこみが残ってるんで」

「ありがとうございます」

 播磨は立ち上がり、軽く頭を下げた。

 霧島も立ち上がると、スッと風のようにその場から去って行った。

「巴マミか」

 霧島のいなくなったベンチで、播磨は座ったままその名前をつぶやいた。

「ああ、いかんな」

 放課後に全力で自転車をきご、そしてあまり使わない頭をフルに使い身も心も疲れてしまった播磨は、
しばらく公園のベンチでボーッとすることにした。

 気力の回復を待ってから家に帰ろう。

 そんなことを考えながら、ベンチで俯いていると、見覚えのある黒いタイツの足元が視界に入ってきた。

「播磨さん?」

「暁美か」

 見滝原の制服に身を包んだ暁美ほむらがそこにいた。

 手には学校のカバンの他に、スケッチブックを抱えている。



   つづく


101SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/15(木) 19:51:55.47gGZhi/Uyo (1/1)

乙ん


102SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/15(木) 19:53:45.21L2+7OoEpo (2/2)



マミさん・・・


103 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 19:57:45.21V/USX/oVo (10/16)

 今回のゲスト、霧島刑事は、零(ゼロ)~月蝕の仮面~に出てきた私立探偵、霧島長四郎(長さん)がモデル。

 本来なら、この人を主人公にしようと思ったのですが、知名度と戦闘力の強さを考えて断念。

 また、大人と子供の架け橋という役割を帯びた今回の主人公には、完全な大人である長さんは不向きだったでしょう。

 長さんはすごく二枚目で、筆者の好きなゲームキャラの一人です。

 ちなみに月蝕の仮面には円香(まどか)というキャラも出てきます。


104 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 20:05:32.46V/USX/oVo (11/16)

さて、今回は前回よりも短かったので、今朝思いついた小ネタを投下しようと思います。

ほぼ即興です。仕事から戻って書きました。


105 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 20:07:15.63V/USX/oVo (12/16)


 播磨拳児の高校生活二年目は、びっくりするほど田舎町で始まった――

 稲羽市。

 何もないことがとりえ、と言われたこの小さな田舎町で囁かれる噂。

「ねえ、マヨナカテレビって知ってる?」

「ああ知ってる、霧の出る日の午前零時にテレビを見たら、そこに運命の人が映るって話でしょう?」

 くだらない都市伝説。

 はじめ、彼はそう思った。

 しかし、

「おい、死体が見つかったってよ! 殺人事件だ」

 静かな町を揺るがす殺人事件。

 死体は屋根の上のテレビのアンテナにつりさげられていたという。

 そんな稲羽市で、彼は再び奇妙な事件に巻き込まれていく。

「何だここは……」

 テレビの中に広がる不思議な空間。

 彼はそこで、一つの能力に目覚める。

「ペルソナ……?」

 自分の中にあるもう一つの自分。

 その能力(チカラ)で、シャドウと呼ばれる化け物と戦う。

 そして、

「証拠が残ってねェってことは、恐らく。犯人はテレビの中で被害者を殺してやがる……」

 警察でも解決できない、その難事件に彼は仲間たちとともに挑むこととなる。



106 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 20:08:10.76V/USX/oVo (13/16)



《あなたはこれから、たくさんの出会いをすることになるでしょう。

 その出会いの中のいくつかは、やがて絆となり、あなたの力となります》


【法王】

「これから一年間、お前の保護者になる、堂島遼太郎だ」

              播磨の叔父、稲羽警察署の刑事:堂島遼太郎

【正義】

「な、菜々子です。よろしく……」

             堂島の娘:堂島菜々子



【魔術師】

「行くぜ相棒!」

「相棒はよせ」

    陽気なクラスメイトにして頼れる(?)相棒:花村陽介


【戦車】

「お前、お嬢か?」

「お嬢とかやめてよ。あたしよりも雪子のほうがお嬢さまだっての」

               元気いっぱいのカンフー少女:里中千枝


【女教皇】

「播磨君。その、お弁当作ってきたんだけど……」

             老舗旅館の若女将、やや天然ボケ:天城雪子




107 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 20:09:06.53V/USX/oVo (14/16)




《出会いはまた、あらたなる出会いを生むでしょう》




【節制】

「ああ、お前ェは天城のトコの……」

「妹の天城八雲です。姉がいつもお世話になっています」

           しっかり者の雪子の妹:天城八雲


【剛毅】

「お前、いい身体してるな。バスケ部に入らないか?」

「なんか、以前も同じようなこと言われた気が……」

            バスケ部の主将:麻生広義


【 月 】

「今日からバスケ部のマネージャーになりました、稲葉でーす」

(なんだ、コイツ……)

             バスケ部のマネージャー(?):稲葉美樹


【隠者】

「わが教会へようこそ、播磨先輩」

「確かお前ェは、妹さんの友達の」

「はい、サラ・アディエマスです!」

「ここの教会のシスターだったのか」

「ええ、まだ見習いでけどね」

             教会のシスター見習い:サラ・アディエマス


【太陽】

「天文部って、もしかしてお前ェだけか?」

「ええ、実はそうなんです。先輩」

             天文部の一年部長:東郷榛名



108 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 20:10:39.60V/USX/oVo (15/16)




 絆の力であらゆる困難を打ち破る。

「頼むぜ相棒!」

「播磨くん、頑張って!」

「いけええ、播磨くん!!」

「播磨センパーイ!! ファイトだぜええ!」

「センセーイ」

「人任せにしてんじゃねェぞ! この! ペルソナアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」




   Persona4 with School Rumble
 

    播磨拳児のペルソナ4
















  特にやる予定はない
 


109 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/15(木) 20:13:41.31V/USX/oVo (16/16)

以上。

ちなみに天城の妹役は、中の人つながりです。

クールな番長も素敵ですが、熱血系の主人公も嫌いではないですよ。

若干カンジくんとキャラがかぶりますがね。


110SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/15(木) 20:41:57.49CmA9PJkB0 (1/1)

乙ハイカラ


111VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/12/15(木) 20:55:56.47NZBuijWRo (1/1)

おっぱいから


112SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/15(木) 21:53:10.8735977XRM0 (1/1)

おつ




113 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 06:08:19.970CLrAeMro (1/13)

巴マミ、一体何者なんだろう(棒)

というわけで今宵も投下予定。仕事行ってきます……。


114SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/16(金) 08:30:14.26pz/C4hiAO (1/1)

播磨以外のスクランキャラは出ないの?


115 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 19:35:50.690CLrAeMro (2/13)

スクランキャラは後半に出てきます。誰とは言えません。


116 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 20:09:35.640CLrAeMro (3/13)

よし、寒いけどやるか。


117 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 20:10:55.440CLrAeMro (4/13)



「ただいま」

 播磨が刑事と会ったその日、本来ならその後すぐに帰る予定だったのだが、
“とある事情”で寄り道をしてしまったため、少し遅れての帰宅となってしまった。

「おかえり拳児くん。今日も遅かったのね。バイト?」

 Tシャツ姿にショートパンツという、緊張感のかけらもない格好で和子は出迎える。

「ああいや、そうじゃねェ。ちょっと寄り道」

「そうよね。アルバイトにしては早いものね。それより今日の夕食」

「ん?」

「カレーにしてみた」

「またか」

「いいじゃない、カレー」

「……」

「まあ、下手なもの作って失敗されるよりはマシか」

 播磨は半ばあきらめた気持ちで着替えに向かった。

 制服を脱ぎ、部屋着に着替えながら播磨は色々と考える。

 昨年発生した女子中学生失踪事件に、何らかの形で巴マミという少女が関わっているのは
間違いない。

 しかも、夜中に街中を歩きまわるというマミの行動も怪しい。

 単に暇だから歩いているだけなのか、それとも何か目的があるのか。

 いずれにせよ、直接話をきいたほうが良さそうだ。

 そう思った播磨は、夕食後に再び街に行くことを決意するのだった。



118 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 20:12:09.180CLrAeMro (5/13)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ


       ♯6  夜






119 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 20:13:01.500CLrAeMro (6/13)



 夕食を終え、外出用の服に着替えなおした播磨は和子にバレないよう家を抜けだす。

 そして街に出た。

 夜の見滝原は、繁華街以外は人通りも少なく静かだ。

 ただ、その静けさが彼にとって異様に感じられたことは言うまでもない。

(この街の夜は、どうも慣れねェ)

 播磨はそんなことを考えながら歩く。

 別にアテがあるわけではない。

 ただ、自分の感じた妙な違和感をたどって行けば、そこに何かの手がかりがあるのではないか。

 そんな漠然とした予感だけは抱えていた。

 しばらく歩きまわった時、彼は見覚えのある制服姿の少女を見つけた。

 巴マミ、ではない。

「アイツは……」

 短めの髪の毛に見滝原中学の制服。

 彼の記憶が確かなら、彼女はまどかと同じ中学に通う美樹さやかという女子生徒のはずだ。

「おい」

「ひっ!」

 声をかけると、まるで身体全体が浮き上がっているかのように驚く。

「お前確か、まどかの友達の、美樹だったか」

「あ、ああ。美樹さやかです。あなたは播磨さん、でしたよね」

「そおだが。お前、こんな所で何やってるんだ」



120 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 20:13:59.050CLrAeMro (7/13)


「いえ、別に。散歩?」

「制服を着てか?」

「これはその、アハハ」

 彼女はあまり頭が良くないようで、何かを隠していることが播磨にはバレバレだった。

「一体何をしている」

 彼はさやかに歩み寄る。

「いや、それは」

 その時、別の方向から声が聞こえてきた。

「――何をしているですか?」

 女性の声だ。

「ん?」

「あ、マミさん」

 播磨が振り向くと、そこには以前会った時と同じように見滝原の制服に身を包んだ巻き髪の少女、
巴マミがいた。

 暗くて見えにくかったけれど、外灯の光に照らされた彼女の姿を見て播磨は間違いないと確信する。

「コイツは知り合いの知り合いだ。別に何もしやしねェよ」

 播磨は両手を広げ、とりあえず何もしていないことをアピールする。

「あら、あなたは」マミはふっと笑顔を見せる。

「覚えていたか」と、播磨。

「ええ、忘れませんよ。特徴的な姿ですもの」



121 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 20:14:41.280CLrAeMro (8/13)


 マミと播磨。二人のやりとりを見てさやかは戸惑っているようだ。

「ええと、お二人はお知り合いなんですか?」

「ええ、この間少し」

 さやかの言葉にマミが答えた。

「ごめんなさい、少し急ぎますので。今日はこれで。行きましょう、美樹さん」

 そう言うと、美樹さやかを連れてどこかへ行こうとする。

 だがそうはいかない。

「待てよ巴マミ」

「あら、何かしら」

「お前ェに少し話がある」

「私からは別にありません」

 そう言ってマミは再び歩き出す。

「瀬川絵里――」

 播磨のその言葉に、マミは歩みをとめた。

「この名前に、覚えがあるだろう」

「あなた……」

 マミの表情に動揺の色が見える。

(ここはビンゴか)

「場所を移しましょう」





   *


122 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 20:15:22.970CLrAeMro (9/13)



 
 駅近くの公園。

 かつて、播磨とマミが初めて会った場所でもある。

 播磨とマミは、公園のベンチに並んで座っている。ただし、お互いにベンチの両端に座っており、
少し離れていた。

 ちなみにさやかは別のベンチに一人で座らせている。

 あくまで、播磨はマミと二人で話したかったし、マミのほうも、同じように考えていたようだ。

「質問いいか」

 播磨はそう言って話を切り出す。

 煩わしい前置きは苦手だ。

「どうぞ」

 マミはそっけなく答える。

「瀬川絵里との関係は?」

「同じ学校に通っていたお友達です」

「特に交友はないと聞いているが」

「別に」

「彼女の遺体を見つけたのはお前だよな」

「そうですけど」

「どうして見つけられた?」

「たまたまです。本当にたまたま」

「たまたまで建設中の工事現場に入るのか?」


123 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 20:17:24.580CLrAeMro (10/13)


「少しおかしいなと思ったので。こう見えて、冒険心は豊富なんです」

「そォかい。じゃあ質問を変えよう。瀬川絵里の死体を見てどう思った」

「それは、驚きました。だって、少し前まで一緒に勉強していたお友達が、
、、、、、、、、、、、、、、、、
あんな姿になってしまって」

「あんな姿」

「ええ」

「見つけて、すぐに死体だとわかったのか?」

「それは、もちろんです」

「瀬川絵里の死亡推定時刻は、発見された日から遅くとも72時間以内だとされている」

「それが何か」

「死んでからそこまで時間が経っていないということだよ。おまけに死体が発見された日は1月で気温も低い。
夏場みたいにすぐ腐乱するとは思えねェ」

「……」

「実際、警察の話でも不自然な部分が多いんだよな。お前ェ、何か隠してるんじゃないかって」

「私を疑っているんですか?」

「いや、別に。俺はお前ェのことは知らないし、ましてや瀬川とお前ェの関係もわからない。
アイツを殺すことでどんなメリットがあるかもわからない」

「わからないことだらけじゃないですか」

「そうだ。だが――」

「?」

「お前ェは、彼女の死に関して何かを知っているんじゃねェかと考えちまうのさ」



124 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 20:18:33.460CLrAeMro (11/13)


「そんなの、推測です。たまたま、偶然が重なっただけですから」

「偶然ね」

「納得いきませんか?」

「まあな」

「私からも質問、よろしいでしょうか。ええと、播磨……さんでよろしいですよね」

「ああ」

「あなたは、あの事件のことを調べて何をなさるつもりですか? 見た所、瀬川さんの知り合い、
というわけでもないようですが」

「わからねェ」

「え?」

「わからねェから調べてんだ。この街には、今までの常識の通用しない、
なんか得体の知れない力が働いているような気がする」

「得体の知れない力」

「もう一度質問するが、お前ェ、何か知ってるんじゃないのか」

「……」



125 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 20:19:12.030CLrAeMro (12/13)


 マミはじっと播磨を見つめる。

 何かを訴えている目。

(あの目、どこかで見たことがあるような)

 少し考えたが、播磨は思いだせなかった。

「ところで巴、お前ェら何で夜中に歩き回ってるんだ」

「え?」

「よくよく考えたらそれが一番の疑問だ」

「いえ、別に」露骨に視線を逸らすマミ。

「オイ」

「そうですね、今日は遅いのでこれで帰ることにしましょう」

「おいちょっと」

「じゃあ行きましょうか美樹さん」

 播磨が止めるのも聞かず、巴マミは美樹さやかを連れてどこかへと行ってしまった。

 そのまま帰ったのならいいのだが、そうでなければ……。

(実際に話を聞いて見たが、何もわからねェ……)

 夜の公園に一人取り残された播磨は、静かに唇を噛む。



   つづく



126 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/16(金) 20:21:43.640CLrAeMro (13/13)

さてさて、巴マミは何を隠しているんでしょうか。

謎を残しつつ、次回はあの少年が登場します。


127SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/16(金) 23:09:19.39cVy0PSxE0 (1/1)

え、俺?


128SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/16(金) 23:11:06.24buU1KSLLo (1/1)

おいおい、俺かよ
参ったな


129SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/17(土) 00:16:40.20EYGH23e9o (1/1)

少年て書いてるだろオッサン共


130SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/17(土) 01:20:57.94EPudDbdm0 (1/1)

ならば俺か


131SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/17(土) 11:52:10.26pHFjclBAO (1/1)

いくつになっても心は


132SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/17(土) 14:18:01.69TvT621Cg0 (1/1)

男の子はいつも女の子のこと考えているって小倉優子さんも言ってただろ?
俺はいつだって五人の女の子のことを考えている
つまり俺は男の子なんだよ


133SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/17(土) 15:18:55.98GexivsHb0 (1/1)

>>132
そうなんだ、すごいね!


134 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/17(土) 19:38:30.50WQRy4XBgo (1/12)


今日は久しぶりにゲーム屋さんに行ってみたんですがね、スクランのDVDが売ってましたよ。

300円でした。


135 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/17(土) 19:46:57.71WQRy4XBgo (2/12)

では参るとしよう。ジワジワとだが真相に迫る播磨。
この先どうなるのか。

まずはプロローグからどうぞ
   ↓


136 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/17(土) 19:48:33.65WQRy4XBgo (3/12)





 その日の播磨のアルバイトは、夜の病院での清掃アルバイトだ。

 市内にある病院だが、建物が新しい割に夜中女の子の泣き声が聞こえたり、
誰もいないのに勝手にドアが開いたりする、といった怪奇現象の噂が多い。

 この街自体、オカルトな話題が多いだけにそこの病院に妙な噂がたっても不思議ではないと
彼は思う。

 ただし、播磨自身が直接出入りしている限りは“そういうもの”を見聞きしていない。

(やはり何かの見間違いだよな)

 そんなことを思いながら、彼は病院の清掃を行っていた。

 掃除も終わりに差し掛かったところで、休憩室に人影がいることに気がつく。

 面会時間も終わっており、患者も病室から出歩くのはあまり好ましくないとも聞いている。

「誰かいるのか?」

 播磨は掃除道具を持ったまま、休憩場所に入る。

「え?」

 人影は振りかえる。

 髪は短く、見た所中学生くらいの少年のこのようだ。

「そろそろ戻らねェと、看護婦さんとかに怒られるんじゃねェのか?」

「あ、すいません」

 右腕に痛々しい包帯を巻いた少年は、そう言ってイヤホンを外す。

 よく見ると、彼の手元にはCDプレーヤーが見えた。

「音楽、聞いてたのか」

「ええ、幼馴染が買ってきてくれるんですよ、色々と」



137 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/17(土) 19:49:38.73WQRy4XBgo (4/12)


「ふうん。部屋で聞きゃいいんじゃね?」

「そうですね。別にどこで聞いても同じなんですが」

「……」

「あ、戻りますね」

 そう言うと、少年はCDプレーヤーに手を伸ばす。

 しかし、包帯の巻かれた右手は上手く物を掴めない。

「ああ、しまった」

「右手、どうした」

「ああ、動かないんですよ。交通事故でこうなってしまいました」

「そうなのか」

「今でも右手が動く時の感覚があって、時々こんなミスをしてしまいます」

 少年はそう言うと、今度は左手でプレーヤーをしっかりと握り、その場を立ち上がった。

「ちなみに、どんな音楽聞いてるんだ?」

「夜想曲第二番……」

「ショパンか」

「よくご存じで」

「いや、たまたま知ってただけだ。親父がそういうCDとか持っててな」




138 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/17(土) 19:51:10.42WQRy4XBgo (5/12)


「まあ、ゆっくり怪我治せよ」

「はい。それでは、失礼します。あ、お仕事お疲れ様です」

「ああ……」

 薄暗い病院の廊下を、少年は歩いて行く。

 入院患者なので、当り前と言えば当り前なのだが、彼の後ろ姿を見た播磨は、

 力のない歩き方だな、と思った。









   魔法少女とハリマ☆ハリオ

       #7 特 技













  






139 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/17(土) 19:52:12.09WQRy4XBgo (6/12)



 放課後のカフェ。

 その日、アルバイトのなかった播磨は悶々とした気持ちを抱えつつ、コーヒーを飲んでいた。

 播磨が今いる店は、かつてまどかたちと一緒に行った店だ。

 一人だと絶対に入ることはないであろうと思ったその店なのだが、そこのコーヒーがやたら
美味かったので、こうして一人で来てしまった。

(しかし、これからどうすりゃいいんだ)

 手掛かりは何もない。

 肝心の巴マミは取り付く島もない。

 何かを知っていることは確かなのだが。

 元々コミュニケーションも上手くない彼にとって、言葉巧みに話を聞き出す、
などという芸当ができるはずもない。

「うむむ」

 播磨は考え込みながら、手を動かしていた。

 元々じっとしているのは苦手だ。

 気がつくと、テーブルの紙ナプキンに絵を描いていた。

「うぬ?」

 以前、紙に描いたような可愛らしい女の子が目に入る。

「何やってんだ俺……」

 このまま丸めて捨てようかと思ったのだが、わりと上手く描けてしまったので捨てるのを躊躇してしまう。




140 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/17(土) 19:53:10.23WQRy4XBgo (7/12)


 絵を描いている人間ならわかると思うけれど、集中して描いたときよりも、授業中とかに教科書や
ノートに描いた絵のほうが上手く描けることがある。

(絵か……)

 播磨は帰ってから何か描いて見ようかと思い始めていた。

「あ、拳児くん?」

「え?」

 思わず顔を上げる。どこかで聞いたことのある声が、耳に飛びん込んできた。

「あ」

 目の前にいたのはまどかだった。

「あの……、播磨さん?」

「お前ェは」

 そしてまどかの隣には、これまた見覚えのあるメガネとカチューシャ。

「暁美か」

「はい、この前はどうも」

 暁美ほむらである。

 そういえば二人とも知り合いとは聞いていたが、一緒にいるところを見るのははじめてだ。

「何してるの? これからアルバイト?」

「ああ、いや」

 バイトもないので、これから二人と一緒に過ごすことにした。




   *


141 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/17(土) 19:53:49.12WQRy4XBgo (8/12)



 まどかはカフェオレを、ほむらはミルクティーを頼む。

「へえ、ほむらちゃんと拳児くんは知り合いだったんだね」

「え、ええ」

 まどかがそう言うと、ほむらは照れながら返事をする。

「でもどういうきっかけで知り合ったの?」

「そ、それは……」

 ほむらが顔を赤らめる。

(誤解されてはまずい)

 そう思った播磨は、ほむらの代わりに説明する。

 体調が悪そうだったほむらを助けた時の話だ。ただ、一部の状況の話を割愛したことは
言うまでもない。

「そうなんだ。私の時もそうだったけど、拳児くんは優しいね」

「お、おう」

「鹿目さんと播磨さんが初めてであった時は、子猫を助けたんですよね」

「うん、そうだよ。エイミーを助けてくれたんだ。すごく嬉しかったよ」

「へえ」

「あんまそういう話をするな」

 今度は播磨が照れながらまどかの話を制する。

「何で? 凄くいい話じゃない。私の自慢だよ」

「なぜお前ェが自慢する」


142 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/17(土) 19:54:26.95WQRy4XBgo (9/12)


「え? 何でだろう」

 まどかは悪い子ではないのだが、どこか間のぬけたところもある。そう、播磨は思った。

(そこも可愛いんだけどな……)

 そう思うことも忘れていない。

「ところで――」

 播磨はあることに気が付き、話題を変える。

「ん?」

「まどか、この前一緒にいた、アイツはどうした」

「アイツ?」

「ほら、髪の短い」

「あ、さやかちゃん?」

「あ、おう」

「ええと、今日も用事があるって早く帰っちゃった」

 美樹さやかのことを語るまどかの表情はどこか寂しげだ。

「そうなのか」

「うん」

 播磨は少し迷ったが、あの日の夜のことを話してみることにする。

「そういえばよ」

「なに?」



143 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/17(土) 19:55:09.40WQRy4XBgo (10/12)


「その、美樹さやかを夜中に見たんだが」

「え?」

「その、何て言うか、お前ェらと同じ中学の生徒と一緒にいたんだ」

「そ、そうなの?」

 まどかは動揺している。

「確か名前は巴マミ」

「……」

 俯くまどか。

「鹿目さん? どうしたの?」

 隣にいるほむらが心配そうに声をかける。

 播磨にとってまどかとの付き合いは短いが、彼女が平気でウソのつける人間では
ないことはよくわかっている。

「何か知っているのか? あいつらは夜中に何をやってる」

「……ごめんなさい、わからないよ」

 何かを隠しているような口ぶりだった。

「播磨さん」

 ふと、ほむらが播磨のほうを見る。

 まどかを気遣っているのがよくわかる。

「悪いな。だが、和子やお前ェの家族も、まどかのことを心配してるんだぞ」

「……」




144 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/17(土) 19:56:06.93WQRy4XBgo (11/12)


「それだけはわかってくれ」

「うん」

 まどかは小さく頷いた。

(ったく、説教くせェのは苦手だ)

 そう思いながら播磨は頭をかく。

 その時、

「あれ、これ何ですか?」

 ほむらが何かを見つけたようだ。

「しまった」

「へ?」

 まどかもそれを見つける。

「可愛い」

「ああいや、それは」

「これ、拳児くんが描いたの?」

「ああ、まあ」

「凄い。拳児くんって、絵が上手いんだね」

「いや、別にそれほどじゃ」

「凄く素敵です、播磨さん」ほむらもそれに続く。

「そりゃ言い過ぎだ。ただの落書きじゃねェか」

「そんなことないよ。私、絵が下手だから」

 よく見ると、まどかの顔に明るさが戻ったような気がした。

 彼女を元気付ける方法。

 言葉では無理だけれど、別の方法ならあるかもしれない。

 播磨はそんなことを思った。



   つづく



145SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/17(土) 20:21:57.58mTU7J0ec0 (1/1)


しかし上条の怪我は左腕なんだ


146 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/17(土) 20:41:55.47WQRy4XBgo (12/12)

だが待ってほしい。まだ上条と決まったわけでは……

というのは冗談ですが、それも含めてストーリーの進行上設定を色々変えてます。

後半はもっとヤバいぜ。


147SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/17(土) 20:48:25.49jwv7SFbvo (1/1)

て事は手はミスじゃなくて伏線かwktk


148 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 08:37:04.02+zrhUEmho (1/29)

また余計なことを書いてしまった。反省してます。
というわけで、今日は二本立てでお送りします。


149SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/18(日) 09:40:52.43v9ZFkl0AO (1/2)

播磨だけスクランの絵柄でイメージされるからか、まどかたちと並べるとなんか色々とすげえ


150SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/18(日) 12:45:23.764TxaVx/AO (1/1)

ハーヴェスト『ミツケタゾ!!』


151SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/18(日) 13:19:26.742pw6aqKto (1/1)

絃子は俺の従兄妹だ


152 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:26:21.45+zrhUEmho (2/29)

そういえば、絃子ネタも結局消化せずに終わったんですよねえ。
播磨のファーストキスの相手でもあったのに。

というわけで、今夜は二本立て。黄色い人が再登場予定。


153 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:27:23.75+zrhUEmho (3/29)




「へえ、初めて描いたにしてはなかなか上手いじゃないか」

 連休明けのある日、播磨は東京の出版社にいた。

「はあ、どうも」

「絵も、なんていうか可愛らしいね。わりとしっかりとしたプロットになってる」

「そうなんですか」

「それにしても、ちょっと失礼だけどキミのような男の人がこんなメルヘンチックな絵を
描けるとはね」

「はあ……」

「クオリティとしては、まだ第一線級とは言えないけど、なかなかいいものを持ってるよ」

 対応した若い編集者は、比較的好意的な言葉で播磨の作品を迎えてくれた。

(それにしても俺が漫画を……)

 自分でも信じられない行動だった。

 播磨が絵を描いたことを喜んだまどかを見ているうちに、何かをやりたくなった。

 それが漫画だったのだ。

 いつの間にか描き上げた播磨は、それを出版社に持ち込んでいた。

「あ、これは」

 ふと、播磨の目にとある漫画雑誌が目に入る。

 いつも買っている雑誌だが、見たことがない表紙だ。

「あ、いい所に目をつけたね。これは今週発売されるジンマガの最新号だよ。もう出来てるんだ」

「はあ……」


154 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:27:54.56+zrhUEmho (4/29)


「よかったら、一冊持って帰るかい?」

「え? いいんっすか?」

「ああ、何冊か余ってるんで」

「あ、ありがとうございます」

「インターネットにアップとかしちゃダメだよ」

「しないっすよ、そんなこと」

「だったらいいよ」

「いや、本当ありがとうございます」

「キミは本当に漫画が好きなんだね」

「はい……」

 雑誌の出版社から、出来たばかりのジンマガをお土産に播磨は見滝原に帰ってきた。

(そういや、今日は病院の清掃のバイトの日だったな)

 漫画を描きはじめたといっても、所詮はデビュー前。

 金にはならない。

 つまり、金を稼ぐために播磨はアルバイトをしなければならなかったのだ。










155 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:28:15.67+zrhUEmho (5/29)





   魔法少女とハリマ☆ハリオ


      #8 希 望











156 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:29:28.90+zrhUEmho (6/29)



 この日もアルバイトの時間は単調に過ぎて行った。

 ここ最近、暇な時間は全て漫画を描くか、もしくは絵の練習をしていたので、
この街における謎については、忘れかけていた。

(むしろそっちのほうがいいのかもしれねェのかな)

 播磨はぼんやりとそんなことを考える。

 あれから手掛かりはゼロ。

 違和感はあるけれども、目立った事件などは起きていない。

 だいたい、普通に高校生活を送っていればいいのに、わざわざ危険性のある事柄に
身を投じる必要もないのだ。

 謎を解決して、まどかを安心させるよりも、別の方法で彼女を楽しませたほうがいいのではないか。

 むしろ、そっちのほうが自分に向いているのではないか。

 頭の中でグルグルと思考を巡らしながら、播磨はバイトを続ける。

 そして、バイトも終わりに近づいた頃、また休憩所で、入院患者の少年が音楽を聞いていた。

「よう坊主、また会ったな」

 播磨は、その日出版社で漫画を褒められたため、少し上機嫌だったので思わず声をかけてしまう。

「あなたは……」

 少し疲れた顔の少年がそう言って、耳からイヤホンを外す。

「イヤホンは耳に悪いって、言われなかったか?」

「病院内でスピーカーは使えないですからね」

「そりゃそうだ」

 そう言って播磨は笑った。




157 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:29:51.92+zrhUEmho (7/29)


「何かいいこと、ありました?」

「どうして」

「なんだか、嬉しそうな顔をしてます」

「わかるか」

「なんとなく」

「まあ、小さなことさ」

「そうですか?」

「小さい幸せの積み重ねが、人生を作るって、誰かが言ってた」

「哲学的ですね」

「本当かどうかはわからねェよ」

「人生経験は豊富そうですけど」

「こう見えて、高校生だぞ、俺は」

「あ、そうなんですか。僕はてっきり」

「オッサンだって言いてェのか」

「別にそれほどとは」

「坊主、お前ェはいくつだ」

「十三歳、今年十四になります」

「ってことは、中学の」

「中学二年です」



158 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:30:30.63+zrhUEmho (8/29)


「ってことは同じか」

「同じ?」

「ああいや、知り合いと同い年だってことだ」

「そうなんですか……」

 ふと、少年は遠い目をする。

「お前ェ、なんか悩みでもあんのか」

「え? どうしてですか」

「いや、そんな気がしたから」

「まあ、悩みと言えば、こいつでしょうかね」

 そう言って少年は包帯でグルグル巻きにされた腕をさする。

「確か、動かねェんだったよな」

「ええ、まあ」

「怪我のことはよくわからねェが、治るといいな」

「そ、そうですね」

 ふと、暗い表情のまま少年は立ち上がる。

「もう帰るのか」

「え、はい。今日は検査とかあったので疲れました」

「そうか、お疲れ」

「いえ……、あ、それと」

 少年は立ち止まり、振り返った。


159 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:31:22.16+zrhUEmho (9/29)


「僕の名前は、上条、上条恭介っていいます」

「あ、ああ」

「あなたの名前を教えてくれませんか」

「俺は播磨拳児、高校の一年だ」

「播磨さんですか、どうも」

「達者でな、坊主。ああいや、上条」

「失礼します」

 そう言うと、上条と名乗る少年は、片手でポータブルCDプレーヤーを抱えて
自分の病室へと戻って行った。

(さて、眠くなってきたし、さっさと帰るか)

 上条の姿を見送った播磨も、道具を片付けて帰ろうと思った。

 その時、

「ああ、播磨くん、だったかな」

「あん?」

 白衣姿の男性が彼を呼びとめる。

 どうも、この病院の医師のようだ。

「さきほど、患者さんと話をしていたよね」

「ああいや、決してサボってたってわけじゃなくてですね」

 変な報告をされたらたまらない。

「いや、それはいいんだ。キミが真面目に働いていることは知っている。それより――」

「ん?」



160 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:31:48.12+zrhUEmho (10/29)


「キミが話をしていた患者さんは、上条恭介くんだよね」

「そうっすけど」

「いや、彼があんな風に誰かとよく喋っている姿を見たのは久しぶりな気がする」

「ん?」

「まあ、一人一人の患者さんをよく観察することはできないんだけど」

「はあ……」

「彼の手のことは、知っているかい?」

「ええと、確か交通事故で片一方が動かなくなったとか」

「そうなんだ」

「それが何か? 治るんでしょう?」

「いや、その……」

 若い医師は口ごもる。

「どうしたんっすか」

「いや。彼はねえ、ヴァイオリンの演奏者だったんだよ。それもかなり優秀な」

「……」

「でも事故で手を動かなくなってしまって、弾けなくなってしまったんだ」

「それで、そいつは治るんですか」

「それが」

 医師の表情から、その先の言葉は播磨にもだいたい想像できた。



161 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:33:10.88+zrhUEmho (11/29)


「辛うじて、手の形は治したんだけど、肝心の神経のほうがズタズタに
壊れてしまっていて、今の医学ではとても……」

「どうしてそんな話を俺に?」

「いや、なんだか仲良さそうにしていたから」

「最近は、個人情報の保護とかうるさいんじゃないっすか?」

「大丈夫だよ、キミは詢子さんの紹介なんだろう?」

(どんだけ信頼されているんだ詢子サンは)

「それと、僕自身の勝手な慰めを誰かに聞いてほしかったんだ」

「慰め?」

「上条くんが救急で運ばれてきた時、彼の手術を担当したのが僕なんだ。
僕がもう少し上手くやっていれば、彼も、あるいは」

「……まあ、酷な言い方になりますけど」

「?」

「俺は、ただの清掃アルバイトっす」

「……そうだね」

「じゃあ、俺はこれで」

「お疲れさま」

 播磨はそう言うと、医師に対して一礼して清掃員用の休憩室へと戻る。

 そして掃除用具を片付けると、元の服に着替えて帰ることにした。

 帰り途、彼は月明かりの中で自分の手を眺めながら、

(もし、俺のこの手が使えなくなったとしたら)

 そんなことを考えた。

(想像もできねェな)

 そう思い、播磨は考えるのを止めた。



   つづく
 


162 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:33:52.41+zrhUEmho (12/29)

いよっし、続いてもう一話いきます。今度のは少し長いぜ。


163 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:35:24.85+zrhUEmho (13/29)


   ☆


「おはようございます。早乙女和子です。最近甥の拳児くんがあんまり相手してくれなくて、
お姉ちゃん寂しい」

「誰に向かって話してるんだ」

「あら拳児くん、おはよう。今日は日曜日なのに早いわね」

「和子こそ早いじゃねェか」

「私は、『所さんの女神転生(メガテン)』を観るから」

「ああ、テレビか」

 日曜日の朝。

 昼間はアルバイトもないので、ゆっくり昼まで寝ていたかったのだが、妙に胸騒ぎがしてしまい
起きてしまった。

「朝ごはん、トーストでいいわよね」

「いつもそうだろう?」

「拳児くん、お湯沸いてるからコーンスープを作ってよ」

「ったく、面倒くせェなあ」

 そう言いながら播磨は素早く朝食の準備をする。

 バイトや学校に行かなくていいので、かなりゆっくりとした一日のはず。

 だが、彼の心の中は穏やかではなかった。

(何か嫌な予感がしやがる……)

 まったく確証はないのだが、この日が重要な転機になるような気がしてならなかったのだ。






164SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/18(日) 19:35:43.43GcvU8zCKo (1/1)

ほう


165 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:35:50.69+zrhUEmho (14/29)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ


      #9 誘 惑







 


166 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:36:44.58+zrhUEmho (15/29)

 
 日曜日の街は静かなものだ。

 日も高く上りはじめ、さわやかな水気を含んだ朝の空気が次第に暖められ、
昼間の顔色を見せ始める。

 なんというか、朝と昼との境界線上に立っているようで播磨は少しだけ嬉しくなる。

 変り目というのは、なにか心を変化させるものだろう。

 とはいえ、昼過ぎまで寝ているつもりだった彼が街に出たところで行く所もあるわけではない。

 書店に行っても、三時間も四時間も時間が潰せるわけはないのだ。

 というわけで、結局いつもの公園で時間をつぶすことにした。

 かつて所轄の刑事と話をした中央公園である。

(こんなとき、まどかと出会ったらどんな話をしようか)

 播磨は、都合の良い偶然を頭の中に描きながら、小さく鼻歌を歌う。

「あら、播磨さん」

「!!」

 不意に、どこからか声が聞こえてきた。

 確実に自分の名前を呼んでいる。

(誰だ?)

 播磨は、少し身構えて後ろを振り返る。

「お久しぶりです」

 そこには、見滝原の制服ではなく私服姿の巴マミがいた。

 やや黄色がかったカーディガンとベージュのロングスカートが、制服姿よりも少し
大人っぽく見える。


167 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:37:29.48+zrhUEmho (16/29)


「お前ェ、何でこんなところに……」

 努めて平静を装う播磨だが、心の中はまだ身構えたままだ。

(俺を待ち伏せていた? いや、俺がここに来たのはまったくの偶然だ。
自宅を監視でもしてねェ限りは、ここでばったり会うなんてことはありえねェ)

 一瞬のうちに色々と思考を巡らすものの、明確な答えは出てこない。

「――偶然ですよ」

 まるで播磨の思考を見透かすようにマミは言った。

「偶然」

「私も、今日は日曜日だし天気もいいので散歩しようって思ったんです」

 確かに天気は良い。

 天気予報では、今日一日雨の確立は0%だと聞いている。

(くそ、布団を干しとけばよかった)

「どうしました?」と、笑顔で巴マミは聞いてくる。

「俺に何か用なのか?」

「用があるのは私ではなく、あなたなんじゃないですか」

「……まあ、確かに」

 播磨は妙な違和感を覚える。

 こいつが本当に巴マミか?

 あの日、少し前の夜に会ったときとは雰囲気が違う。

 あの夜会った時は、もっと殺気だっているようにすら思えた。

 しかし今の彼女は違う。



168 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:38:19.30+zrhUEmho (17/29)


 この街に関する、分からないこと。

 巴マミが知っているであろう、重要な秘密。

「そんなに簡単に口を割ると思います?」

 そう言うと、マミは悪戯っぽく笑った。

 小悪魔の笑みというやつだろうか。

 播磨はそう感じる。

 だが駆け引きをしている、というよりも単純に播磨との会話を楽しんでいるように
彼には思えた。

「ねえ、播磨さん」

「ん?」

「私と、一緒に出かけませんか?」

「出かける?」

「ええ、お食事したり、お茶したり」

「なんで……」

「ダメですか?」

 播磨は少し考える。

 巴マミは重要な手掛かりの一人。

 恐らく彼女を逃がしてしまったら、大事な情報を逃してしまうかもしれない。

「……わかった」

「結論が早い人は好きですよ」

「迷うのは趣味じゃねェ」

「なるほど。じゃあ、行きましょう」


169 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:39:08.71+zrhUEmho (18/29)


「おい」

「何ですか?」

「行くってどこへ」

「それは、お日様にでも聞いてください」

 そう言ってマミは再び満面の笑みを見せた。



   *



 シャーッ。

 試着室のカーテンが開いた音で気がつく。

「播磨さん、これどうですか?」

「ん、ああ……」

「もう、ちゃんと見てくださいよお」

 値札のついた服を着たマミが少し頬を膨らませた。

「ん、じゃあこっちは? 赤はちょと派手かしら」

「どっちもあんまかわらねェだろう」

「女の子の気持ち、さっぱりわかってませんね」

「うっせ」

 マミはもう、かれこれ一時間近く来たり脱いだりしているのだ。

 一体この行為の何が面白いのか。どんな意味があるのか播磨にはわからなかった。

「これんなんてどうですか? 今年の夏物の新作みたいですけど」



170 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:40:13.55+zrhUEmho (19/29)


「んっ、お前ェそれちょっと!」

「ふふ、やっと反応した」

 マミは再び悪戯っぽく笑った。

 播磨が驚くのも当然であった。彼女が着ている夏物は、胸元を強調したものだった
からだ。

(くっ、コイツ本当に中学生か?)

 その強烈な戦闘力(バスト)に、視線が釘付けにならぬよう、彼は目を逸らす。

「でもイマイチですね」

 播磨にとっては、かなり長い時間試着をしていながら、結局マミは一着も買わずに
店を後にした。

「いいのか、買わなかったけど」

「いいんですよ。播磨さんのあの反応が見られただけでも」

 マミは嬉しそうだ。

 播磨は、大事な物を取られたような気持ちになってしまう。

(それにしても腹が減った)

 今にも腹の虫が鳴きだしてしまそうなほどの空腹だ。

「そろそろ食事にしましょうか」

「ん? ああ」

 マミの提案に、播磨は即答した。

「あそこの店なんていいんじゃないですか?」

「え?」

 そこはオシャレなイタリアンレストラン。

 男一人だと、まず絶対に入らないような場所だ。



171 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:40:59.59+zrhUEmho (20/29)


「私、一度行ってみたかったんです。一人だと入りづらくて」

「ん?」

 マミだったら、いつも行っているようなイメージだったが、どうやら違うらしい。

 播磨は、どちらかというとソバ屋とか定食屋のほうが好きなのだけど、
別にイタリアンが苦手というわけではない。

 ナイフを使うわけでもないし、音を立てずにパスタを食べるくらいの分別はある。

 ただ、周囲が皆若い女性か、もしくはカップルなのが気になったところだ。

「周りから見たら私たちって、どんな風に見られていると思います? 播磨さん」

 マミは嬉しそうに聞いてきた。

「さあな」

「恋人同士とか」

「……」

 播磨は答えない。

「ああ、でも恋人同士なら、苗字で呼び合うのも変ですよね」

「……」

「いっそ、下の名前で呼び合いますか?」

「巴」

 今まで少し、マミのペースに翻弄され続けてきた播磨は、気合いを入れ直す。

「はい」

「今日、美樹はどうした」



172 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:41:52.24+zrhUEmho (21/29)


「ミキ?」

「美樹さやか。あの夜、お前と一緒にいただろう」

「いつも一緒にいるわけではありませんよ。それより」

「ん?」

「私と一緒にいるのに、他の女の子の話をするんですか?」

「おい、そういうんじゃねェだろう」

 播磨が再び聞きだそうとしたその時、

「お待たせしました」

 店員が料理を運んできた。

「うわあ、美味しそうですね、播磨さん」

「ああ……」

 イマイチ自分のペースがつかめないまま、播磨は食事をする。




   *


173 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:42:33.29+zrhUEmho (22/29)



 食事が終わった後も、マミは駅前でウインドウショッピングを楽しんだりしていた。

 雑貨やを回ったり、ファンシーショップを訪ねたりする。

 ただ、何も買わない。見て回るだけである。

 そうこうしているうちに、播磨も疲れてくる。

 運動神経が高く、瞬発力もある播磨だが持久力は欠けているのだ。

「少し休まねェか」

 播磨はそう提案する。

 疲れてきたので、話を聞きだすどころではなくなってきた。

「じゃあ、お茶でも飲みましょうか」

「お茶?」

「ええ」

「ああ、じゃあ店にでも行くか」

 播磨の頭の中には、まどかと一緒にコーヒーを飲んだあの店が浮かび上がる。

 しかし、

「いい、紅茶の葉が入ったんですよ」

「ん?」



   *



174 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:43:44.64+zrhUEmho (23/29)


 セキュリティのしっかりした高級マンション。

 そこが巴マミの家であった。

(親戚の人の家なのか?)

 和子のマンションよりも幾分立派なその建物を色々と観察しながら播磨は考える。

「ここです」

 エレベーターからおりて、巴マミの部屋に行く。

「保護者の人とか、いねェのか」

 いきなり男を連れてきたら驚くだろう、と播磨は少し心配してみる。といっても、
マミやその家族を気遣ったわけではなく、専ら自分の立場が危うくなるのを恐れただけなのだが。

「大丈夫ですよ、一人暮らしですから」

「は?」

 巴マミの部屋は、独り暮らしにしてはしっかりと片付いていており、落ち着いている。

 ただ、生活感をあまり感じさせないなと播磨は思った。

 ちなみに播磨が初めて和子のマンションに行った時は、部屋にババシャツが干してあった。

「そこら辺に適当に座ってくださいな。今、お茶をいれますから」

「ああ」

 窓からオレンジ色の光が微かに差し込んでくる。

 決して眩しくはないが、一日の終わりを感じさせ、思考力が鈍ってきそうになるようだ。

 台所では、マミが色々と準備をしている。

 その間播磨は手持無沙汰だったので、携帯をいじってみる。



175 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:46:12.98+zrhUEmho (24/29)


 携帯電話のデータフォルダの中に、子猫のエイミーを抱いたまどかの画像があった。

 ちなみにそれは、パスワードを入れないと見れないような仕組みにしてある。

 その画像を、彼はしばらく眺めていた。

(こんな時に何を見ているんだろう、俺は)

 よく考えて見れば、播磨にとって女性宅に入るのは小学生の時以来である。

 しかも独り暮らし。

 播磨とマミの二人以外誰もいない空間。

(待て待て、これはチャンスじゃねェか。あの夜のことを聞きだす重要なチャンス。
ここなら、誰にも邪魔はされねェはずだ)

 播磨は遠まわしに聞くか、それとも単刀直入に聞くか考える。

 だが、決して口が上手いほうではない播磨にとって、婉曲に聞く方法など望むべくもなかった。

(素直に教えてくれるとは思えねェが、強引に聞けば……)

 そんなことを考えているうちに、マミがお盆を持って居間に現れる。

「お待たせしました」

「……」

 微かに食器のぶつかり合う高い音や、紅茶を注ぐ音が室内に響く。

 ふっと、高温のお湯に蒸らされた紅茶の葉の香りが鼻を刺激した。

「ダージリンか……」

「あら、よくご存じで」

「うちのお袋がたまに飲んでたからな」



176 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:46:50.75+zrhUEmho (25/29)


 播磨は専らコーヒー派であったため、紅茶はそれほど詳しくはない。

「播磨さん、お砂糖とミルクはどうします?」

「どちらもいらねェ」

「そうですか。じゃあ、ケーキを」

 マミはそう言って、チーズケーキを差し出す。

「サンキュー」

 播磨はケーキと紅茶を口にする。

 紅茶は、ストレートティーの微かな渋みとフルーティーな香りが心地よかった。

 紅茶には素人の播磨にも、一口で良い茶葉だということがわかる。

(おっとイカン、本題を忘れるところだった)

 播磨はティーカップをソーサの上に置くと、マミのほうを向く。

「播磨さん」

 不意に、マミが距離を詰めてくる。

「おい」

 オレンジ色の光に照らされたマミの印象は、昼間とはまた違うものに見えた。

「何やってるんだ」

 播磨のその言葉にも関わらず、マミは更に距離を詰めて、彼のすぐ近くまで来ていた。

「冗談はよせ」

「冗談じゃありませんよ」

 マミはゆっくりと、播磨の手を握る。


177 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:47:42.80+zrhUEmho (26/29)


「……くっ」

 心拍数が上がる。

「どうしました?」

 やや顔を紅潮させたマミが再び悪戯っぽく笑う。

「おい、巴」

 播磨が後ずさると、それに合わせるようにマミは距離を詰め、
そして播磨の身体に自らの身体を密着させる。

「おい……」

 播磨は服の上から、巴マミの体温を感じていた。

 更に高まる心拍数。

「欲しいですか」

「やめろ」

 急に播磨の視界が暗くなる。

 それと同時に、彼の口が塞がれた。

 目を開けると、すぐそこにマミの顔がある。

(うぐ……)

 播磨とマミの唇と唇が重なる。

 そして、舌が激しく播磨の舌に絡みついた。

 微かにミルクの味がした。

 彼女は紅茶にミルクを入れていたのだ。




178 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:49:21.22+zrhUEmho (27/29)


(まずい、このままでは)

 欲望に身を任せ、流されてしまいそうになる播磨。

「はあ、はあ、はあ……」

 やや息を荒げながら、マミは唇を離した。

 先ほどまで混ざり合っていた二人の唾液が、彼女の舌先からツーっと糸を引く。

「播磨さん」

「ん!」

 その時、播磨の脳裏にエイミーを抱くまどかの姿がフラッシュバックした。

「やめろ!」

 彼は力づくでマミの身体をひきはがす。

 さすがに男の力には勝てなかったのか、マミは播磨から離れ、そしてバランスを崩して
その場に尻餅をついてしまう。

「す、すまん」

 思わず謝る播磨。

 そしてその場に立ち上がった。

「巴――」

 播磨の言葉を遮るようにマミは声を出す。

「播磨さん、私、魅力ないですか?」

「何を、言ってんだ」

「私じゃあ、ダメなんですか」

「巴!」



179 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:49:47.27+zrhUEmho (28/29)


 播磨は語気を強める。

 その気迫に押され、マミは押し黙った。

「こういうのは、違うと思う」

 そう言うと、播磨は早足で玄関に向かう。

 急いで靴を履いてマンションを出ると、これまでたまった煩悩を晴らすように走りだした。





   つづく




 



180 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/18(日) 19:53:34.27+zrhUEmho (29/29)

くっ、ヘタレが!

さて、次回は本編とは全然関係ないんですけど、特別編も一緒に投下したいと思います。

皆が大好きなあのヒーローが帰ってきます。

では。おやすみなさいませ。


181SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/18(日) 19:57:29.12qdIUy3T2o (1/1)

>所さんの女神転生
なにそれ視たい


182SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/18(日) 20:19:23.70v9ZFkl0AO (2/2)

一体何が起きてるんです!?


183SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/18(日) 23:08:09.03gx2oX+FDO (1/1)

まさかのスクラン
今まで見落としてた


184 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/19(月) 20:41:01.07b+lQC6nqo (1/11)

 今日は金正日死去のニュースが流れたため、スペシャルの投下は延期します。

 本編のみでございます。


185 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/19(月) 20:41:27.38b+lQC6nqo (2/11)



 前回までのあらすじ

 播磨拳児、脱童貞のチャンスを逃す。






186 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/19(月) 20:44:29.31b+lQC6nqo (3/11)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ


     #10 繋がり






187 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/19(月) 20:45:22.04b+lQC6nqo (4/11)



 日曜日のあの事件から数日。播磨の唇には未だにあの時の感覚が残っていた。

(くそっ……! なんのつもりだったんだ)

 何か悪いことをしたような気持ちになり、あの日は帰ってから和子の顔もまともに見られなかった
ほどだ。

 何か情報を聞き出そうと、日曜日に巴マミと行動をともにする。

 だがそんな目論みも、マミの行動の前にあえなく崩れてしまう。

 そして、残ったのは大きな悶々とした気持ちだけであった。

 とはいえ、時間の経過とともに冷静になることができた。

 それでも、紅茶の香りをかぐと、あの時のことが思い出されてしまうのだが。

「……」

 モヤモヤした時は無心になって働けばいい。

 播磨はそう思い、この日も病院の清掃アルバイトにせいをだす。 

 この日も市内の病院で、薄暗い廊下を掃除していた。

 暗い病院の廊下で、見慣れない人影を見る。

「誰だ?」

 病院の職員には見えない。

 よく見ると、見滝原の制服を着ており、手にはヴァイオリンのようなケースを持っていた。

(また見滝原か)

「あ、あの……」

「面会時間はとっくに過ぎているはずだぞ」  


188 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/19(月) 20:45:53.57b+lQC6nqo (5/11)


 播磨は、恐る恐る声をかけてくる制服姿の少女にはっきりと言った。

「すみません。あの、どうしてもお会いしたい方がいまして」

 中学生にしては妙に上品な喋り方をする少女だと播磨は思った。

「ん?」

 やや、ウェーブがかった長い髪の少女がそう言って頭を下げる。

「何だってこんな時間に」

「本当に申し訳ございません。習い事などが多く、早い時間にここを訪れることが
できませんでして……。規則違反であることはわかっております。すぐに出て行きますので――」

 必死に謝る少女の言葉を遮るように、播磨は声をかける。

「それで、誰のところに行きてェんだ?」

「え?」

「少し会って、話をするくらいなら大丈夫だろう」

「本当ですか?」

「ほんの少しだけどな」

「ありがとうございます、親切な方」

「大したことじゃねェよ。病院の職員に見つかるとマズイからさっさと行くぞ」

「あ、はい。あの」

「あン?」

「私、志筑仁美と申します。見滝原中学の二年生です」

「そうかい。俺は播磨拳児、高校一年だ」


189 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/19(月) 20:46:21.27b+lQC6nqo (6/11)


「あら」

「ん?」

「すみません。もっと年上の方だとばかり思ってしまいまして」

「はっきり言うな。まあいいけどな。よく言われてるしよ。そんで、誰に会いてェんだ?」

「あの、上条」

「なに?」

「上条恭介というかたに会いたいのですが……」

「上条……、ああ、あいつか」

「ご存じなんですか?」

「まあな。ちょっとこっちに来い」

「え? すみません、こちらは病室ではない気がいたしますけど」

「このくらいの時間帯なら、多分あっちにいるだろう」

 播磨と仁美がしばらく歩いていると、月明かりの差し込む休憩室にたどりついた。

「あの、ここは」

「おい坊主。ああいや、上条」

「え? ああ、播磨さん」

 播磨の思った通り、上条恭介は階段の近くにある休憩・談話室で一人、CDを聞いていた。

「お前ェにお客だ」

「お客?」

「ほれ、こっちだ」



190 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/19(月) 20:46:47.36b+lQC6nqo (7/11)


 播磨が促すと、仁美が恐る恐る顔を出す。

「あ、あのお……」

「志筑さん?」

 どうやら上条の知り合い、というのは本当のようだ。

「じゃあ、俺は誰か来ねえか見張っとくから、話があるなら手短にしろよ」

 そう言うと、播磨はその場から離れる。

「ありがとうございます」

 彼の背後からそんな声が聞こえた。

 看護師が見周りにくるので、五分くらいしか話はできないと思ったけれど、
何も話ができないよりはマシだろう。




   *



191 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/19(月) 20:47:13.59b+lQC6nqo (8/11)




「本当にありがとうございました」

「構わねェよ」

 さすがに暗い中、女子中学生を一人で帰らすわけにはいかないので、
播磨は志筑仁美を送って行くことにした。

「あの、駅前までで結構ですので」

「なんだ? お前ェん家、駅前にあんのか?」

「いえ、そこからタクシーに乗って帰ります」

「タクシー?」

「はい。遅くなったら使うようにと言われております」

「ってことは」

 お嬢様なのか、と彼は思った。

(そりゃヴァイオリンを習うような家が普通なわけがねェよな)

 確かに、彼女の喋り方や立ち振る舞いは、同世代の中学生、
たとえばまどかやほむらとは、確かに違うように見える。

「そんで、上条とはちゃんと話はできたか?」

「え? はい。少しの時間でしたが、わたくしにとっては貴重な時間でした」

「そうかい。そりゃよかった」

「はい、とっても」

 上条の話をする仁美は、とても嬉しそうに見えた。

(こりゃ惚れてるな)



192 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/19(月) 20:48:21.47b+lQC6nqo (9/11)


 男女関係には疎い播磨でもそれくらいはわかる。

「お前ェ、もしかして」

「はい?」

「上条の幼馴染か?」

「はい?」

「ほれ、よく見舞いに来るときにクラシックのCDを持ってくるっていう」

「……ああ」

 仁美は歩きながら、少し空を見ながら考えた後に、何かを思い出したかのように
声を出した。

「その方は、わたくしではありません」

「ん?」

「恐らく、美樹さやかさんではないでしょうか」

「ミキ?」

「さやかさん。私と同じ中学校に通っておりますの。上条さんとは、幼稚園時代からの
付き合いと聞いております」

「ミキサヤカ……」

 その名前に聞き覚えがあった。

(確かそいつは)

 不意に、髪の短い活発そうな少女の顔が頭に浮かんだ。

「あ!」

「どうされました? 播磨さん」



193 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/19(月) 20:49:19.96b+lQC6nqo (10/11)


「いや、悪い。ちょっと思い出しちまって」

「何をですか?」

「いや、大したことじゃねえ」

「そうですか」

 播磨は、しばらくして駅前のタクシー乗り場まで仁美を送り届けると、自分の家に向けて
歩き出す。

 当然、播磨はタクシーを使うなどという贅沢はしない。

 ぽっかりと浮かぶ月の下を歩いて帰るのだ。

(美樹さやかっつったら、まどかの友達じゃねェか。ってことは、やはりアイツもまどかの
知り合いなのかな)

 帰り際、そんなことを考えてみた。

(にしても、あの坊主の幼馴染が美樹さやか……。随分と狭い街だな)

 

 
   つづく


194 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/19(月) 20:50:18.72b+lQC6nqo (11/11)

 右ひじが痛む。

 呪いを受けたかな。祟り神に矢を放った覚えはないのだが。


195SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/19(月) 21:28:32.13p7NWz2K+0 (1/1)

ごめんそれ俺のせいだ


196SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/19(月) 22:11:23.96ogXFK+NAO (1/1)

アシタカヒコ


197SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/19(月) 22:18:15.13tqUXN+7qo (1/1)

曇りなき眼で見定めよ


198 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/20(火) 21:42:44.27i/7Axu+do (1/1)

今日はちょっと、年末スペシャルを書いてるので、更新は無しです。

個人的に大好きなあの人が主役です。


199SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/21(水) 17:16:35.91HNQwXIJIo (1/2)

あい


200SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/21(水) 18:01:36.28fIRSjjT1o (1/2)

あの人って誰だろうな


201SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/21(水) 18:02:45.39HNQwXIJIo (2/2)

お、俺の事かな


202SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/21(水) 18:32:33.65fIRSjjT1o (2/2)

なんだエロソムリエか


203 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 19:19:29.01KyaUPy36o (1/19)

>>202
違うダス


204 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:03:34.20KyaUPy36o (2/19)

よし、久々に行くか。スペシャル書いてたら本編の内容忘れてきたった。

なお、投下の終わりに重要なお知らせがありますよ。


205 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:04:17.54KyaUPy36o (3/19)




 この日、播磨はアルバイトもないのでそのまま真っすぐ帰ろうとしていた。

 しかし、部活動もしていないのに早く帰るのはもったいないと思った彼は、
またいつものように駅前をぶらつこうと思ったのだ。

 運が良ければ鹿目まどかに会えるかもしれない。

 そんなことは考えていなかった、といったらウソになる。

 しかし、まどかに会えることが、必ずしも幸運とは限らない。

 後に彼はそう感じることになる。

「あ、播磨さん」

「ん?」

 彼は背後から呼ばれた声に振り返る。

「おう、暁美か」

 そこには見覚えのあるメガネ姿の中学生、暁美ほむらがいた。

 以前出会ったときと同じように、彼女はスケッチブックを大事そうに抱えている。

「どうしたんだこんなところで」

「播磨さんこそ」

「いや、今日はちょこっと買い物をして帰ろうかと」

「そうなんですか?」

「お前ェは?」

「私も買い物です。画材を少し買いに来ました」

「そうか、絵は続けてるんだな」


206 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:04:46.22KyaUPy36o (4/19)


「はい」

「そうだ」

「え?」

「画材って、あの駅前の店だよな」

「ええ。あそこで十分です。今はあまり専門的なモノは使いませんので」

「俺も一緒に行っていいか?」

「え? 一緒にですか?」

「ああ悪い。迷惑ならいいんだ。別に今日行かなきゃならんわけでもねェし」

「そ、そんなっ、迷惑なんてことはありません!」

「お、おう……」

 語気を強めるほむらに、播磨は少し驚いてしまった。



207 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:05:14.68KyaUPy36o (5/19)




   魔法少女とハリマ☆ハリオ


     #11  拒 絶












208 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:06:42.22KyaUPy36o (6/19)





 播磨が画材を買うのは、美術に目覚めたから、ではなく漫画を描くための道具を
見たかったからである。

「ところで、まどかたちはどうしたんだ?」

「え? 鹿目さんたちですか? ええと、今日はお友達のお見舞いに行くと言っていました。
多分、見滝原総合病院に行っていると思います」

「見舞いか」

「ええ、あの、交通事故に会った美樹さんの幼馴染の人と聞いています」

「あ、そいつって、確か上条恭介とか」

「はい? 何で知ってるんですか?」

「ああいや、たまたま」

「凄いです播磨さん! 顔が広いんですね」

「いや、バイト先で偶然知っただから。この街は狭いなと思っちまったものさ」

「それでも凄いです。私なんて、あまりお友達もいませんでしたから……」

「そんなことねェだろう」

「いえ。私、小さい頃から病気がちで、遠足とかも行けなくて。学校なんかも休んでばかりだったので、
友達もできなかったんです。だから、播磨さんみたいにお友達の多い人は、羨ましいです」

「別に俺だって友達が多いわけじゃ……」

 中学校時代は喧嘩ばかりで、友達どころではなかった。

「でも凄いですよ」

「……」


209 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:07:03.38KyaUPy36o (7/19)


 数秒の沈黙。

 播磨は、慎重に言葉を選びながら口を開く。

「なあ、暁美」

「はい?」

「友達ってのはさ、沢山いても仕方ねェと思うんだ」

「そうなんですか?」

「別に沢山作ろうなんて思わなくてもいい。一人でもいいから、信頼できる仲間がいたら、
それだけで十分幸せだと思うけどな」

「……」

(ちと臭かったか)

「は、はい!」

「どうした」

「凄いです播磨さん」

「はん?」

「私感動しました」

「いや、別に」

「やっぱり播磨さんは凄い人なんですね」

「いや、違ェから」

 そんな話をしながら、播磨とほむらの二人は駅前の文具店に到着した。


210 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:07:42.63KyaUPy36o (8/19)


 今までペン先や原稿用紙など、特に気にしていたわけではなかったけれど、
実際に漫画を描くようになってから色々と気になりだしていた。

(スクリーントーンも上手く使えるようになりてェな。いや、今はもっとデッサン力を磨くべきか)

 絵を描く道具を観ながら、播磨は色々と考える。

 このペンを使えば、線に命が吹き込めるだろうか。

 播磨は、新しいペン先で絵を描く所を想像してみる。

 そのペンから描き出される表情は、

 まどかの笑顔。

「何を見ているんですか?」

「うおっ!」

 妄想の世界に浸っているところで、いきなり声をかけられたので、播磨は声を出して驚いてしまった。

「あ! ごめんなさい」

 思わず謝るほむら。

「いや、いいんだ。ちょっと驚いただけだからよ」

 播磨はほむらを宥める。

 いつも一人で行動することが多い分、こういう場所では周囲のことを忘れてしまうこともあるのだ。

「暁美は、もう買い物を済ませたのか?」

「え? はい。デッサン用の鉛筆と、足りなかった絵具を少々」

 よく見るとほむらは、店の紙袋を持っている。その袋の中に買った商品があるのだろう。



211 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:08:43.23KyaUPy36o (9/19)


「そうか。じゃあ、出るか」

「播磨さんは何も買わないんですか?」

「いや、今はいい。今日は色々見たかっただけだからな」

「そういう日もありますよね」

 なぜか嬉しそうに言うほむらと一緒に、播磨は店を出た。

 途中まで一緒に歩き、そこから家に帰ろう。

 そんなことをぼんやりと考えていた時、

「あ、ほむらちゃんと……、拳児くん」

 覚えのある声が聞こえた。

「鹿目さん?」と、ほむら。

 ほむらの言うとおり、鹿目まどかの声だ。

 しかし、

「巴……」

 まどかのすぐ後ろには、制服姿の巴マミがいたのだ。

 鹿目まどかと巴マミの二人。

 よく見ると、まどかは急いでいるようだ。顔から焦りの色が見てとれる。

「そんな急いで、何やってんだ」

「ああ、いや、何でもないよ拳児くん」

 まどかは笑顔で答える。しかし、その口元はやや引きつっている。



212 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:09:24.90KyaUPy36o (10/19)


(無理に笑顔作ってんのがバレバレだろう、まどか)

 ウソをつくのが下手な、正直者のまどかも播磨が好きなところである。

「それじゃあね、拳児くん」

 そう言うと、まどかは早足で歩きだす。

「……」

 無言でそれに続くマミ。

「待てよまどか」

 播磨は、相手が急いでいるのを承知の上で声をかける。

「え? なに?」

「お前ェ、病院に行ったんじゃなかったのか?」

「それは……」

「美樹さやかと一緒だったんだろ? 暁美から聞いたぜ」

「その……」

 口ごもるまどか。

「急いでいるので」

 そんなまどかの言葉を遮るように、マミが声を発した。

 冷たく鋭い、短剣のような声。

「巴……」

 日曜日に会ったときとは、また別人のような冷たい視線。

 いや、むしろ初めて会ったときと同じ目をしている。


213 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:09:56.22KyaUPy36o (11/19)


 他者を拒絶しているような目。

「何を急いでるんだ?」

 だが、そんな視線や声に怯む播磨ではない。

 しかし、

 つっと、マミは唇を触る。

「……!」

 その行為の意味するところを、まどかもほむらも知らない。

 巴マミと播磨拳児だけが知る合図。

「あなたには、関係のないことです」

 一瞬播磨が引いたところで、マミはそう言い放つ。

 そして、

「行きましょう、鹿目さん」

 そう言うととマミはまどかを連れて、どこかへと行ってしまった。

「何があったんでしょうか」

 オロオロとするほむら。

「わからねェ……」

 そう言うと播磨は、なるべくマミやまどかたちを見ないように家路についた。




   *


214 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:10:33.49KyaUPy36o (12/19)


「……」

 このままで良かったのか。

 播磨は迷いながら歩く。

 ずっと考え込んでいたので終始無言である。

「あの、播磨さん」

「ん?」

 ほむらが呼びかける。

「私はこっちですので」

「あ、ああ。気を付けてな」

「はい」

「それじゃ」

 そう言って播磨は自分の家に向けて歩き出す。

 足取りは重い。

「あの!」

 少し離れた所で、再びほむらが声をかけてきた。

 夕方の街並みの中、彼女の声がよく通る。

「どうした」

 播磨は振りかえり、彼女のほうを見た。

 影が長い。

「無理、しないでください」


215 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:11:42.92KyaUPy36o (13/19)


「無理?」

「あなたは、播磨さんは自分らしく行けばいいと思うんです」

「自分らしく?」

 よくわからなかった。

「それでは」

 そう言うとほむらは、深く一礼して、自分の家へと帰って行った。

「自分らしくって、どういうことだよ」

 しばらく立ち止まり考える播磨。

 だが答えは見つからない。 

(それにしても)

 ふと、播磨は思う。

(暁美のやつ、随分大きい声を出すようになったんだな。初めて会った時は、
小動物のように怯えていただけのような気がしたのに)



 夕闇に染まる道の中、重い足取りで播磨はマンションへと戻った。

 この日は珍しく和子が先に帰っている。

「お帰り拳児くん」

 帰ってきたばかりのようで、まだ彼女は外出用の服のままだ。

「おお、早いな」

「ふふ、今日はね」

 そう言うと和子は笑った。



216 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:12:12.82KyaUPy36o (14/19)


「……」

「どうしたの拳児くん」

「あん?」

「元気ないわね」

「そおでもねェよ」

「心配ごと?」

「何でもねェから」

 播磨はそう言うと、自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。

(俺らしくって、何だよ……)

 このまま眠ってしまいたい気分であったけれど、妙な胸騒ぎのせいで落ち着かない。

(こんなとき、俺だったらどうする)

 播磨は自分で自分に問いかけてみる。

(俺らしい俺なら……)

 次の瞬間、播磨は飛び起き、そして部屋のドアを開けた。

「拳児くん、どうしたの? 夕食は?」

 いきなり部屋から飛び出した播磨に、和子は驚いたようだ。

「悪い、ちょっと出かけてくらあ」

「出かけるって? コンビニ?」

「病院」

「どこか悪いの?」

「ちょっと野暮用だ。じゃあな」

 播磨は玄関に行き靴を履くと、そのまま走り出した。



   *



217 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:13:02.95KyaUPy36o (15/19)




 答えは簡単だった。

(なぜもっと早くこうしなかった)

 普段使わない頭を使ったらわからなくなっていたのだ。

 気になるならそこに行けばいい。

 至極単純な答えに、彼は突き動かされる。

 以前の自分なら、考えるよりも先に身体が動いていただろう。

 その感覚でいいのだ。

 今、彼は身体全体で“嫌な予感”を感じていた。

 その原因が何かはわからない。

 ただ、まどかたちに危険が迫っていることは確かだ。

「待ってろ!」

 息切れするのも構わず、彼はまどかたちが向かったらしい総合病院へと走る。
そこは、彼がいつも掃除のバイトをしているところでもある。

(どこだ)

 いつも通い慣れているはずの病院への道が、この日はやけに遠く感じた。

(疲れているからか? それとも、本当は行きたくないからか)

 自分に問いかけながら、彼は走る。

 答えなど出るはずもない。

 もし出るとすれば、自らの行動による結果、それだけが答えだ。

 播磨はそう思い、道を急ぐ。



218 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:14:16.31KyaUPy36o (16/19)


 そして、ついに病院にたどり着いた。

(いる――)

 なぜだかわからないけれど、播磨はこの場所にまどかがいることを感じ取った。

(どこだ)

 ふと、横を見ると車いすを押した看護師の姿が目に入る。

(ちょうどいい)

 そう思った播磨は看護師に声をかけた。

「すいません」

「あ、播磨くんじゃない。まだバイトの時間には早いでしょう?」

「いや、バイトじゃないっすよ」

 顔見知りの看護師であった。

「どうしたの?」

「あの、背が低くて髪を二つに結んだ中学生くらいの女の子見ませんでしたか?
 見滝原中学の制服を着ていると思うんっすけど」

「ああ、その子なら、あっちの第二病棟のほうで見たわよ」

 そう言って看護師は指差す。

「そうっすか。ありがとうございます」

 播磨は、看護師に言われた方向へと走って行った。

 まどかは近い。

 焦りが大きくなっていく。

(何でこんなに不安なんだ)



219 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:15:28.53KyaUPy36o (17/19)


 播磨は思う。まるで自分の身体が自分のものではなくなっているような感覚。

「まどか!」

 人の気配を感じた播磨は、思わず叫んでしまう。

(どこだ――)

 播磨は周囲を見回したその時、

 彼の視界に、一つの人影が入ってくる。

「……!」

 巴マミだ。

 じっと立っているマミは、虚ろな目で宙を見つめている。

「巴!」

 播磨は彼女に駆け寄った。

「巴、何が起こった。おい!」

 播磨は、大きい声で彼女に呼びかける。

 しかし、答えはない。

「巴、おい」

 次の瞬間、巴マミは膝から崩れるようにして、播磨の方へと倒れこんできた。

「巴?」

 播磨の両手に、マミの柔らかな感触が伝わってくる。

 けれども“それ”は、以前抱いた時のものとはまったく別物であった。

 言うなれば、等身大の人形を抱いている感覚。

「おい……」

 播磨はそっと、マミの首元に手を当て、そして口元に耳を近付ける。

「何も……、聞こえない?」

 それは、人の形をした“入れ物”であった。



   つづく




220 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:18:55.85KyaUPy36o (18/19)

今回で、一つの区切りです。

非現実的な事態に生で遭遇してしまった播磨は、いったいどうなるのでしょうか。

次回から、新たな展開に?

見滝原の謎は解決されるのでしょうか。というわけで、次回までおやすみなさいませ。


221 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/21(水) 20:28:28.31KyaUPy36o (19/19)

☆お知らせ☆

 当スレの本編である『ハリまどか』とは直接関係のない、スペシャル企画を当スレに投下いたします。

 内容は、別スレでリクエストのあった、某漫画と某ラノベのクロス作と、偉大なゲストが主役の感動ドラマ(?)の
二本立てでお送りします。

 投下日は、12月24日(土)決定いたしました。なぜ24日かというと、陛下の誕生日(23日)に投下するのは畏れ多い
からです。それ以上でもそれ以下でもありません。

 今後の参考にするため、スペシャルにもレスポンスをいただければ嬉しいです。

 それでは、週末にお会いしましょう。



222SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/21(水) 20:49:37.96VYD3I74b0 (1/1)

へー、陛下の誕生日って12月23日なのか知らなかったぜー


223SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/21(水) 21:51:28.83ZjTjUF3AO (1/1)

>>222

23日は天皇誕生日っていう祝日何だぜ☆


224SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/22(木) 05:00:17.57qxQkNTUAO (1/1)

マミさんのハニートラップ!
マミさんが何考えてるのか分からなくて怖い

社会的にティロ・フィナーレさせようとしたのか、これ以上詮索させない為に弱みを作らせようとしたのか
マミさんに性的に襲われたい


225SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/22(木) 12:13:22.52Zue1nZDIO (1/1)

>>1乙。マミさんにマミマミされたい

コメディが少ないと播磨が意外にシリアスなキャラになるんだな


226SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/22(木) 15:43:47.90LoWvQ5wi0 (1/1)

原作準拠の播磨だと壮絶な勘違いをして
話がややこしい方向にしか進みそうにないなww


227 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/22(木) 20:45:43.11jo4+DSZxo (1/11)

序盤はミステリー風(笑)なので、主人公がバカだと話が進まない。
仕方ないんや……。

そのかわり、スペシャルではわりと軽いバカ話をやろうと思います。勘弁してください。

では、投下開始。




228 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/22(木) 20:46:52.54jo4+DSZxo (2/11)



 病院で巴マミを発見してから、その後のことはあまり記憶がなかった。

 いつの間にかすぐ側にいたまどかや、美樹さやかが近くにおり、播磨はマミの身体を抱え、
病院内に運び込む。

 医師が走りまわり、警察もきて病院内は大騒ぎである。

 そして播磨たちは警察から簡単に事情を聞かれ、後日また警察署に出向くことになった。

(何が起こったのか、訳が分からない)

 それが正直な彼の感想であった。

 巴マミの顔を思い出す。

 柔らかかった身体、そして唇の感触。

 生を意識させるそれらの感触が、次の瞬間病院の敷地内で感じた、人形のような無機質な感触に
変化していく。

 それが気持ち悪い。

(もし、あの時、もっと別の対応をしていたら)

 播磨は、巴マミのことをよくわからない。

 だが日曜日に、買い物に行ったり食事をしたり、一緒に過ごした限りでは悪いやつではなさそうだ、
ということはわかった。

(何か重大な選択ミスをしたんじゃねェのか)

 今、そんなことを考えてもどうしようもないということは、わかっているけれど考えてしまうのだ。

(くそ……!)

 こうして一晩中、寝ているのか寝ていないのか、よくわからない状態のままベッドに横たわり、
翌朝学校に連絡した上で警察署に向かった。




229 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/22(木) 20:47:18.36jo4+DSZxo (3/11)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ

      #12 出 発







230 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/22(木) 20:48:07.39jo4+DSZxo (4/11)



 警察の取り調べ室は殺風景なところだ。

 机と椅子以外は何もない。

 播磨はそんな環境が嫌いであった。中学時代は喧嘩をして、しょっちゅうここに連れて
こられたことを思い出し、心の中で苦笑する。

(よほど俺は、ここに縁があるようだな)

 そんなことを考えていると、部屋の中にいた制服警官が立ち上がる。

「お疲れ様です」

「おお、ちょっとキミは外に出ていてくれないか」

「いや、しかし」

「いいから」

 ふと、聞き覚えのある声がしたと思い顔を上げる播磨。

「播磨くん、だったね」

 ガッチリとした体格の青年がそこにいた。

「確かアンタは……」

「刑事課の霧島だ。しばらくぶりだな」

「どうもッス」

「昨日はよく眠れた、という感じではないな」

「まあ」

「実は俺も忙しくてほとんど寝てないんだが」

「でしょうね」



231 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/22(木) 20:49:35.89jo4+DSZxo (5/11)


 播磨たちが雑談をしている間に、今まで部屋の中にいた制服警官が書類などをまとめて
出て行った。

 バタンと、扉の閉まる音が無機質に響き渡る。

「これで、この部屋にはキミと俺だけだ」

 そう言って霧島は播磨の顔を見据える。

「スンマセン、色々教えてもらったのに、こんな事態になってしまって」

「別にキミのせいじゃない。ところで、播磨くんも気になっていると思うのだが」

 そう言って霧島は手帳を取り出す。

 使いこまれた手帳には、いくつも付箋がはさまれており、彼の真面目さが伝わってくるようでもあった。

「巴マミの死因だが――」

「!!」

「俺も検死に立ち会って、色々と話を聞く限り、“あの事件”、つまり瀬川絵里のケースと
非常によく似ている」

「……」

「死因は、心臓麻痺。公的には、な。だが実際は不明だ。外傷も一切ない。毒を飲んだと
いうわけでもない」

「はあ……」

「恐らくこの事件も、迷宮入りしてしまうだろう」

「そんな……。何も出来ねェままで」

 播磨は俯く。

 視線の先には自分の両足と、硬く握られた両手の拳。



232 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/22(木) 20:50:15.97jo4+DSZxo (6/11)


「巴マミについて、何かわかったことはあるかい?」

 霧島は、優しげな声で聞いてくる。

「……それが、少しばかり話をした程度なんですが」

「ああ」

「結局、何かを隠している、ということしかわかりませんでした」

「……そうか」

 日曜日のことについて、話をする気にはなれなかった。

「申し訳ない。力になれなくて」

「いや」

「しかし凄いっすね、霧島さんは」

「何が?」

「ずっと事件、追ってたんでしょう? こんなわけのわからない事件を」

「播磨くん」

「はい?」

「俺はね、逃げたんだよ」

「逃げた?」

「そう、刑事という職業にね」

「それは」

「刑事ってのは、漫画やドラマみたいに、好き勝手に動いて事件を追ってるわけじゃない。
いずれも上司の指示で動いているんだ。だから、逮捕しろと言われればそういう風に動き、
捜査を止めろと言われれば止める」



233 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/22(木) 20:51:09.45jo4+DSZxo (7/11)

「……」

「瀬川絵里の件に関しても、継続捜査ということにはなっているが、実質は捜査中止だ」

「捜査中止」

「俺はそれに従った。上の命令なのだから仕方がない、と。諦めた。それでも俺を凄いと
言えるか」

「それは……。仕事なのだから、仕方がないんじゃ」

「そうだな。キミは思ったよりも大人だな」

「そんな」

「だがね、播磨くん。捜査をやらなくなったからといって、事件は無くならない。結局我々は、
いや、俺はわからないことから逃げたんだ」

「霧島さん」

「もし、このままこの事件を放置していたら、また新しい犠牲者が出ると思う」

「それは」

「例えば、巴マミの知り合いとか」

「……!」

 播磨の脳裏にまどかの顔が浮かぶ。

「播磨くん、俺も出来る限り捜査を続けて行こうと思う」

「協力しますよ」

 播磨は間髪いれずに答える。

「いや、だが――」

「俺は、この街に来てからまだ間がないけど、最近ちょっと好きになりかけてる。だから、
とりあえずこの訳の分からない事態を止めねェと」



234 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/22(木) 20:52:05.98jo4+DSZxo (8/11)


「そうだな。しかし、俺のほうから色々言っておいて何だが」

「何っすか?」

「危なくなったらすぐに手を引いてくれ。これ以上犠牲が出てはたまらん」

「死にませんよ」

 播磨はそう言った。しかし、次に出る言葉は心の中で飲み込む。

(タダでは死なねェ)




   *



 午後から学校に戻った播磨。

 しかし、昨日からの疲れと警察での事情聴取に疲れてしまい、授業どころではない。

 そのため、播磨は昼からは保健室で寝て過ごした。

 霧島と話をして、少しだけ安心した彼はベッドに入るとすぐに眠りに落ちてしまったのだ。

 眠りの中で、播磨は夢を見た。

 ここ最近、彼はいつも同じ夢を見る。

 巴マミが出てくる夢だ。

 夢の中でマミは播磨に対して何かを言おうとしている。

 だが、声が聞こえない。

 彼の夢に、声がないのだ。

 そして目が覚める。



235 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/22(木) 20:53:31.50jo4+DSZxo (9/11)

 浅い眠りから覚めた播磨は周囲を見回した。カーテン越しにも橙色の光が差し込んで
きているのがわかる。

(随分長いこと寝ちまったな)

 播磨は目をこすりつつ、よろよろとベッドから出て、

(寝ている場合じゃねェ)

 そう思い、彼は教室に戻る。

 教室では、他の生徒たちはみんな帰っており、誰もいなかった。

 学校を出た播磨は、自分の携帯電話を取り出して電話をかける。

 相手は、早乙女和子だ。

「和子? 俺だ」

『拳児くん? 学校で倒れたって聞いたけど大丈夫なの?』

(誰かが連絡したか)

 彼は心の中で舌打ちをする。

「何でもねェ。それより、見滝原中学(そっち)の授業も終わったんだんだろう?」

『そうよ。迎えに行こうか?』

「いらねェ。それよりまどかたちはもう家に帰ったんだな」

『え? まどかちゃん? うん、もう帰ったと思うけど』

「そうか。わかった」

『ちょっと拳児くん?』

 和子が未だ呼びかけているにも関わらず播磨は電話を切る。

 そして次の番号にかける。



236 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/22(木) 20:54:12.99jo4+DSZxo (10/11)


「もしもし、播磨ですけど」

『あれ? 拳児くん? どうしたんだい』

 聞き覚えのある声が耳に入る。

 鹿目和久、まどかの父親だ。

『ダレー?』

 後ろのほうから聞こえるのは、まどかの弟だろう。

「あの、まど……、娘さん帰ってきてますか?」

『いや、まどかはまだ帰ってないな。いつもなら、もう帰ってきているはずなんだけど』

「……そう、ですか」

『一体どうしたんだい? 何かあったのかい?』

「ああいや、何でも無いッス。最近物騒ですからね。それじゃ」

『ちょっと播磨くん、はり――』

 播磨は再び電話を切った。

(まだ帰ってきていやがらねェか)

 播磨は少し考える。

 駅前のショッピングモールか、その近くの公園にならいるかもしれない。

 そう思い、歩き出す。

 これまで播磨は、まどかから無理やり話を聞こうとはしなかった。

 だがそれは、彼女のことを気遣っていたわけではない。

 無理やり聞き出すことで、彼女から嫌われることを恐れていたからだ。

 だが今の播磨は違う。

(嫌われても構わねェ。まどかがこの世からいなくなることのほうが、よっぽど嫌だ)

 播磨はそう思い、歩みを早めた。



   つづく


237 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/22(木) 20:57:18.39jo4+DSZxo (11/11)

次回、ついに真相が明らかになる、のか?

あの少女も再び登場。では、おやすみなさいませ。


238SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/23(金) 10:53:29.89RKDTHL8IO (1/1)

マミさん・・・


239SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/23(金) 12:44:51.55JVkHJ0KAO (1/1)

マミさん…


240SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/23(金) 12:55:28.776dY2UnSS0 (1/1)

キャンデロロさん…


241SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/23(金) 13:14:06.69QrhaOS7Qo (1/1)

おぱいさん・・・・・


242SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/23(金) 13:37:59.06sbgyzrb+o (1/2)

マミマミしたい……


243 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:18:03.19FKxMrm+Ho (1/13)

 とある漫画の主人公をヒロインに据えたら、ものすごく播磨が播磨らしくなった。

やっぱ、ヒロインに合わせて変化してしまうんだね、彼は。


244 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:19:49.50FKxMrm+Ho (2/13)


 今まで何の気なしに街を歩いていたら出会えていたはずなのだが、
いざ探そうと思ったらなかなか見つからないものだ。

(くそっ、どこにいるんだ)

 焦ったら余計にわけがわからなくなる。

 ショッピングモールを歩き、その中の本屋やCDショップ、それにカフェなどにも顔を出してみた。

 そして、駅や公園も歩き回ってみたが見つからない。

 日が陰ってきたころ、播磨はあることに気がつく。

(あれ? もしかして、ずっと待ってたらそのうちまどかは家に帰るんじゃねェか?)

 それに気づいた時、思わず播磨は頭を抱え、そしてそれまでの疲れがドッと出てきた。

「バカだ。俺は大バカだ」

 立っているのもしんどくなった播磨は、そのままベンチに腰掛けた。

 このまましばらく待ってから、まどかの家に行こうか。

 そんなことを考えていると、ふと目の前に誰かの足が見える。

 顔を上げると、見滝原の制服を着ている女子生徒が立っていた。

「あの、播磨さんですよね」

「お前ェは」

「少し前にお会いしました、志筑仁美です」

「ああ、あの病院の」

 夜中に、入院している上条恭介に会いに来た、どこぞのお嬢様だ。



245 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:20:15.73FKxMrm+Ho (3/13)


「ここで、何をされているんですか? 待ち合わせですか?」

「いや、そうじゃねェ。少し、疲れたから休んでるだけだ」

「そうなんですか」

「お前ェこそ何やってんだ。習い事じゃねェのか」

「それはこれから参ります」

「そうか。御苦労だな」

「いえ」

「ん?」

 すぐに立ち去るのかと思った播磨だが、仁美は何か言いたげな表情でその場に立っていた。

「どうした?」

「あの、その……、少しご相談したいことがありますの」

「なに?」



246 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:20:44.32FKxMrm+Ho (4/13)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ


     #13  気持ち







247 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:21:38.88FKxMrm+Ho (5/13)


 本当なら、一刻も早くまどかに会いたかった播磨だが、焦っても会えるとは限らないし、
少し時間を置いて冷静になる必要もあると考えた彼は、仁美の相談を聞くことにした。

「俺はあんま人から相談とか受けるようなヤツじゃねェからよ。
その、役に立つような助言とかできねェと思うぜ」

 播磨は夕闇に染まる建物を見ながら言う。

「そうでしょうか。播磨さんはもっと周りから頼りにされるお方だと思っておりましたわ」

「マジかよ……」

 生まれた年が自分とほんの数年しか違わないのに、何となくわかりづらいな、と思う播磨であった。

「そんで、相談って何だ? もしかして」

「ええ、上条さんのことです」

「ああ、あいつか」

 病院に入院している、いつも音楽を聴いている少年のことだ。

 病院の清掃アルバイトをしているとき、たまに話をしたりしている。

「あいつがどうした」

「実は私、彼のことが好きなんです」

 仁美はそう言うと頬を赤らめ俯いた。

「ああ、そうか。まあそうじゃないかと思った」

「どうしてわかるんですか?」

「そりゃお前ェ、面会時間過ぎたのにわざわざ会いにくるくらいだろう?
 惚れてると思うのは普通だろ」

「そうですよね……」

「何か、心配でもあんのか?」


248 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:22:33.87FKxMrm+Ho (6/13)


「実は、上条さんには幼馴染の女性がいるんです」

「それってアレか? 美樹さやかってやつか」

「ええ? どうしてご存じなんですか?」

「お前ェが言ったんじゃねェか」

「ああ、そうだったでしょうか。すみません」

「そんで、その美樹がなんだって?」  

「あの、さやかさんも、よく彼のお見舞いに来ているようなのですわ」

「そうなのか」

 もしかして、その幼馴染と顔を合わせたくないから、わざわざ面会時間後に病院にきたのか。
播磨はそんな推測をしてみる。

「多分、さやかさんも上条さんのことを好きだと思います」

「……だろうな」

「そして、さやかさんと私は、お友達なのです」

「なるほど。つまりお前ェさんと美樹とは親友(ダチ)で、二人とも上条のことが好きってことでいいんだな」

「ええ、まあ」

 三角関係である。

「もしも私が上条さんに自分の気持ちをお伝えしたら、さやかさんとの関係が壊れてしまうのではないかと
思いまして」

「……」

「でも、上条さんのことは好きなんです。だからどうしたらいいのかと……」



249 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:23:19.95FKxMrm+Ho (7/13)


「なあ、志筑」

「はい」

「お前ェが上条に告白したら、そいつとの関係はどうなると思う?」

「どうなるというのは?」

「変わると思うか?」

「それは、変わるでしょうね」

「だったら、その幼馴染との関係も、変わるんじゃねェかな」

「どうしてですの?」

「だってそうだろう? この世は、オメエと上条の二人だけで出来てるわけじゃねェんだ。
そいつにも親や友達がいるだろう。そういった人間関係の中で人は生きている」

「はあ」

「だとしたら、お前ェら二人の関係が変われば、自然に周りにも影響が出る。
それが良い影響もあれば、悪い影響もあるだろう」

「……」

「変わるってのは、良いこともあれば悪いこともある。そいつを覚悟することだ。
それができなきゃ、何も変わらねェ」

 播磨は途中から、自分に言い聞かせるように話し始めた。

「まあアレだ。その幼馴染のことを大事な友達(ダチ)と思うんだったら、告白する前に最低限の仁義はきっておけ」

「仁義ですか?」

「男らしく、まあお前ェは女だけど、とにかく堂々と告白しますって宣言すりゃいいじゃねェか。
それで壊れるような友情なら、ハナから表層だけの関係だってことだ」

「……そうですよね」



250 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:24:53.94FKxMrm+Ho (8/13)


 仁美は顔を上げる。

「やはり、播磨さんに相談して正解でしたわ」

「そうなのか?」

「ええ、彼が退院したら告白しようと思います。もちろんさやかさんに宣言してから告白します」

「そうかい」

「本当にありがとうございます」

 そう言うと仁美は立ち上がり、播磨の前に立ってから深くお辞儀をした。

「まあ、俺みてェな男の意見が役に立って嬉しいぜ」

「貴方は本当に素晴らしいかたです。まどかさんの言った通りでした」

「まどか?」

「あ、いえ。何でもありませんわ。ふふ」

「ん……」

「あの、今日のことは」

「わかってる。誰に言わねェよ」

「ありがとうございます。では、失礼いたしますね」

 そう言うと、仁美は足早にどこかへ行ってしまう。習い事か何かだろう。

 播磨はその場に一人残され、しばらくの間ボーッとしていた。




   *


251 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:25:17.28FKxMrm+Ho (9/13)



  
 さすがにいつまでもボーッとしているわけにもいかないので、播磨は本来の目的を思い出し、
鹿目家に向かった。

 すっかり日も暮れた街の中を歩いてまどかの家に。

 家には灯りが灯っており、人の気配もする。

 この家にくるのは二回目であるけれど、この日は予告もなく、しかも一人での訪問であった。

 緊張した面持ちで、ドアチャイムを押す。

「あら、拳児くん。いらっしゃい」

 仕事着から着替えて、リラックスした私服姿の鹿目詢子が彼を出迎える。

「今日は何のご用?」

「今日は……」

 播磨はサングラスを外し、まっすぐ詢子を見据える。

「あの、まどか……、いや、まどかさんに話があってきました」

「へえ……」

 詢子は播磨の目を見て、少し考えてから言葉を発する。

「まどかなら帰ってるわ。今呼んでくるから、上がって待ってて」

「スイマセン」

 播磨は靴を脱ぎ、詢子について行った。




   *


252 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:26:32.34FKxMrm+Ho (10/13)



「どうぞ」

 コーヒーが差し出される。

「すまねえな……」

 播磨はまどかの部屋にいた。

 よくよく考えて見れば、まどかの部屋に入るのは、彼にとって初めての経験である。

 しかし、そのはじめてを意識する余裕は、今の彼にはなかった。

「早速で悪いんだが、あそこで何があったのか、話してもらいてェ」

 播磨は、まどかの顔を見据えて言う。

 まどかのほうは、疲れたような顔で俯いている。

「無理もねェか。昨日の今日であんなことがあったんだし」

「……」まどかは何も喋らない。

「だがな、まどか。俺は何があったのかしりてェんだ。巴マミがあんなことになった理由も、
そしてこの街で起こっている奇妙な事件の真相も」

「……知って」

 不意にまどかが口を開く。

「知ってどうするんですか?」

「それは……」

「知ったからといって、何ができるんですか?」

「まどか?」

「確かに私は、全部じゃないけど……、知ってます。でも、何もできなかった……」



253 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:27:23.03FKxMrm+Ho (11/13)


 まどかは顔を上げた。

 彼女の両目からは大粒の涙がいくつもあふれ出ている。

「どうせ何もできないなら、知らないほうがよかった」

 まどかは両手で自分の顔を覆う。

「……拳児くんには、そんな気持ちは……」

「ふざけるなよ」

「え?」

「ふざけるなって言ってんだよ!」

 ドンッ、と思わず彼はテーブルを叩いてしまう。

 テーブルの上に置いてあったコーヒーカップやスプーンが少しだけ浮いて高い音を響かせた。

「ひっ」

「そうやってお前ェ一人で抱え込むつもりか? そうれでどうなる」

「それは……」

「周りのことを考えたことがあるのか? お前ェが悩んでいるのを傍から見て何もできねェんだ。

言っとくがなあ、お前ェみてェに悩んでる奴は、お前ェだけじゃねェんだよ……!」

「……」



254 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:27:58.21FKxMrm+Ho (12/13)


「何でもかんでも話せとはいわん。だがな、少しくらい周りに頼ってもいいんだ。
心の重荷ってのは、人に話すだけでも、重さが変わってくるもんだ」

「拳児くん……」

「まどか?」

 すくっと、まどかは立ち上がった。

 そしてゆっくりとテーブルを回って播磨の目の前にくると、倒れ込むように播磨に抱きつく。

「まどか」

「う、う、うわあああああん」

 播磨の胸の中で、声を押し殺すように無くまどか。

「辛かったんだな」

 播磨は、どうしてよいのかわからなかったけれど、とりあえず彼女の頭を撫でた。

柔らかい髪の感触が指に伝わってくる。

「……」

 小刻みに震えるまどかを抱えながら、彼女の気持ちが落ち着くまでしばらく待っていようと、彼は考えた。




つづく


255 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/23(金) 21:42:03.18FKxMrm+Ho (13/13)

   ☆年末スペシャルのお知らせ☆

・12月24日と25日の2日間は、年末スペシャルのため本編はお休みいたします。

・スペシャル投下時は、名前欄に「年末スペシャル」と表示いたします。スペシャルを見ずに、本編だけを見たいかたは、
通常のトリップを抽出するか、年末スペシャルを消してご覧ください。

・スペシャルだけ見たいかたも大歓迎です。当スレが続く限り、感想やご意見等を受け付けております。

 なお、スペシャルのタイトルが決定いたしました。

 24日投下予定

1本目 「帰ってきた変態仮面 ~学園都市奮闘編~」

2本目 「江頭2:50 VS アイドルマスター」


 25日投下予定(ただし、30日に追加投下をする可能性あり)

3本目 「はりおん! ~播磨拳児はうんたんに恋をする~ 」


 前スレ、もしくは他スレでリクエストのあったものを書いてみました。

 気に入っていただけるかどうかわかりませんが、頑張ります。


   追伸

 サンタ狩りに行かれるかたは気を付けてください。


256SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/23(金) 22:09:17.180LljqKguo (1/1)

ちょっとまてw特に二本目


257SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/23(金) 22:42:24.08sbgyzrb+o (2/2)

どういうラインナップだwwwwww


258SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/24(土) 02:55:44.88A531XEr00 (1/1)

乙 楽しみだわ

気をつけて狩ってきます


259年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:00:18.92UqEfXJhDo (1/38)


 イヴの夜に送る物語。狂気の宴をはじめませう。

 年末スペシャル、はじまるよ!

 


260年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:00:54.06UqEfXJhDo (2/38)


 彼の名は色丞狂介。

 学園都市で暮らすごく普通の高校生である。

 ただ、ふつうの生徒と違うところは――

「きゃあっ!」

 夜のコンビニに、女子生徒らしき声が響く。

「おらおら姉ちゃん、こんな夜更けに外出ですか?」

「なあ、俺たちと遊ばないか?」

 見るからに不良とわかるガラの悪そうな三人組に、女子高校生二人組がからまれている。

「待て!」

「なんだテメーは」

 夜のロードワークの途中だった狂介は、ジャージ姿で不良たちに叫ぶ。

「女の子が嫌がってるじゃないか。遊ぶなら自分たちだけで遊べ」

「な?」

「しまった!」

 不良たちが色丞狂介に気を取られているスキに、女子高校生二人組は
彼の後ろに隠れるように逃げ込む。

「すみません」女子生徒の一人が言った。

「もう大丈夫、早く逃げなさい」狂介は不良たちに見せる厳しい顔とは対照的な、
やさしい笑顔でそういう。

「あ、ありがとうございます」

 女子生徒たちはそういって、その場から逃げだして行く。


261年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:01:27.55UqEfXJhDo (3/38)


「オメー、なんてことしやがる」

 そして、当然ながら不良の一人が憎しみを込めた目で睨み付けてきた。

 しかし狂介は動じない。

「お前たちこそ、こんな時間に遊び歩いてるんじゃない。さっさと寮に戻ったらどうだ」

「んだと? 貴様に言われる筋合いなんてねーんだよ」

 金髪の不良が叫ぶ。

 そんな中、三人組のリーダー格らしき男が前に出てきた。

「まったく、退屈しのぎをしようとしたところに、とんだ邪魔が入ったものだ」

「お、ヤマシロくん、やるの?」

「見たところテメー、無能力者(レベルゼロ)だな」

「それがどうしたんだ」狂介は睨み返す。

「能力者であるこの俺に喧嘩を売るとはいい度胸だ」

「なんだと?」

「お! 出たー! ヤマシロくんの能力、レベル2の火炎放射器(ライター&キンチョール)だ!!」

 ヤマシロと呼ばれた男の右腕が燃える。

「なるほどね」

 そう言って狂介は構えた。


   5分後――


「くそ、なんて強さだ……」

 そこには、ボロボロになった不良三人組の姿があった。


262年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:02:06.40UqEfXJhDo (4/38)


「能力がまったく効かないなんて……」

「別に効かないわけじゃないよ。ただ、お前たちは能力を過信して油断しただけさ。俺は拳法部で毎日鍛えられているからね」

 色丞狂介。こう見えて拳法部のエースである。

「くそ……」

 その時、

「ジャッチメントですの!」

 妙にオバサンくさい女の声が聞こえた。

「あ、キミは」

 狂介が振り返ると、そこには常盤台の制服に、緑色の風紀委員(ジャッチメント)の
腕章をはめた中学生の姿があった。

 彼女は、レベル4の移動能力者(テレポーター)であり、ここまで瞬間移動でやってきた
のである。

「あらあら、色丞さんではありませんか。不良が暴れているという通報を受けてきてみれば」

「やあ、白井さん」

 ふわふわな髪の毛を二つに縛ったお嬢様口調の少女、白井黒子であった。

「もう、風紀委員でもないのに、こういうことをあまりしてもらっては困りますのよ」

「いや、どうも放っておけなくてね」

「正義感が強いのは結構ですが、学園都市にはあなたが知らないような能力者がたくさんおりますの」

「わかってるよ」

「本当ですの?」

「まあ、ね」

「ちょっとお待ちなさい!」

 そっと逃げようとする不良たちを止める黒子。

「手伝うよ」

 と、狂介はどこからか持ち出したのか、荒縄を手に取って不良たちを縛る。

 そして、あっという間に亀甲縛り三人分が出来上がったのである。

「その技術、驚愕に値しますわね」

「そう?」

「でも縛るなら、もっと簡単でもよろしくてよ」

「はは、そうだね、ははっ」

 色丞狂介の乾いた笑い声が、学園都市の夜にこだました。



263年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:03:24.84UqEfXJhDo (5/38)




   年末スペシャル第一弾!



   帰ってきた変態仮面
 
                学園都市奮闘編
 







264年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:04:09.37UqEfXJhDo (6/38)



 その日、色丞狂介は部活動の帰りであった。

 週刊少年ジャソプが発売されているのを思い出した彼は、学校から寮に帰るついでに
コンビニエンスストアに立ち寄る。

「っらっしゃいませェ……」

 妙にやる気のないやせ形の店員がレジをいじりながらそう言う。

 しかし、今の狂介には店員よりもジャソプである。

 さっさと買って帰ろうかと思ったのだが、そういうときに限って週刊ベースボールに目が行ってしまう。

「豊田さんのコラムを立ち読みして帰るか」

 そう思い、彼はしばらく雑誌を手に取ってみる。

 その時である。

「店長、超大変です!」背の低い女性店員が裏から出てきて、別の男性店員に声をかける。

「なンだうるせェな……」

「なんでも、能力者専門の刑務所から能力者が超逃げ出したらしいですよ。現在も超逃亡中です」

「だからなんだっつうンだよ」

「どうやら、その刑務所っていうのが、学園都市内のものらしいんですよ」

「で?」

「だから、このあたりを今も超逃亡中なんです」

「それで警備員(アンチスキル)どもが騒いでたのかよ。ウゼェ……」

「店長、超どうしましょう」

「別にどうもしねェよ。さっさとからあげクンの用意しろや」

「店長、超年寄臭いです。ジジイなのは、髪の毛の色だけにしてください」

「うっせェ、髪は関係ねェだろが! ナルカミだって同じだろうが」

「ナルカミさんは超イケメンですよ」

「ああン?」

(これは大変だ)

 狂介は、急いで週ベを棚に戻すと、コンビニから飛び出す。





   *


265年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:05:20.49UqEfXJhDo (7/38)



 場所は変わって、学園都市内にある某公園。

 そこではすでに、事件が起こっていた。

「脱走犯の腰巻好男(こしまき よしお)、風紀委員ですの! さっさと投降いたしなさい!」

 風紀委員の腕章をはめた、白井黒子が拡声器を持って逃亡犯に呼びかける。

「うるせえ、こいつがどうなってもいいのか」

 無精ひげを生やしたやや太り気味の男性は、その毛むくじゃらの太い手で学校の
制服を着た少女を抱えている。

「人質を解放しなさい! これ以上罪を重ねてどうするのです!?」

 人質にされた少女は、頭に花を乗せている小柄な少女であった。

「し、白井さーん!」

「初春! 今助けますの!」

 そういって黒子は拡声器を捨てる。

「おっと、動くな! これが何かわからねえのか?」

 腰巻好男は、そういって右手を突き上げる。そこには見覚えのある白い布のようなもの。

「そ、それは……!」

 それを見た黒子は驚愕する。

「寒いですー」

 そして初春は涙声で叫ぶ。

「俺の能力、レベル3の下着泥棒(トレジャーハンター)は、半径10メートル以内にいる者の
下着を強制的に奪うことができるのだ!」

「くっ……! なんて羨ま――、変態的な能力ですの!?」

「ククク、このお花女は今、ノーパン状態だ。下手なことをすると……」


266年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:05:55.83UqEfXJhDo (8/38)

「ぐぬぬ……!」

 しかし、初春は叫ぶ。

「白井さん! 私のことはいいですから、早く犯人を捕まえてください」

「いけませんの初春! お嫁に行けなくなってしまいますわ!」

「でも、でもー」

 初春の顔は、すでに涙と鼻水でぐちょぐちょである。

(初春の精神も限界に近いですわ。ここは一か八か……!)

 黒子がそう思った瞬間、


「そこまでだ!」


 何者かの声がした。




   *




 時をさかのぼること、約十分前。

 騒ぎを聞きつけた色丞恭介は現場に向かっていた。

 その時、彼は道端に落ちている女性ものの下着を発見する。

「こ、これは!」

 不意に人の気配がした。

「最近暇だにゃー」


267年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:06:32.65UqEfXJhDo (9/38)

「なんや、オモロイことないかなあ」

 通行人を避けるように、パンティをポケットに押し込む狂介。

(こんな物を持っているところを見られたら、俺は変態と呼ばれてしまうだろう)

 狂介はパンティを持ったまま現場へと向かう。

 そして、現場に到着。

 犯人は人質をとっており、風紀委員も手が出せない状態である。

 公園の茂みで様子を伺っていた彼は、飛び出すタイミングを見計らっていた。

 緊張で汗をかいてきた狂介は、ズボンのポケットからハンカチを取り出そうとする。

 しかしそれは、ハンカチではなかった。

(くっ! これはハンカチではなく女性物のパンティじゃないか。こんなんで汗を拭こうなんて……)

 だが、

(ぐっ、なんだ? なんだかかぶりたくなってきた)

 パンティを手に取った彼は、そのパンティを顔にかぶりたくてたまらなくなってしまう。

(こんなものを被ったら、あそこの変態とかわらないじゃないか)

 必死に抵抗する狂介。

(ぐお、抵抗できない。欲望に抵抗できない)

 何か、目に見えない不思議な力によって彼は手に持っていたパンティを顔に被るのだった。

(くそ、早く脱がないと。こんなところ誰かに見られたら。でも、でも……)




268年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:07:22.28UqEfXJhDo (10/38)








 気分はエクスタシー







「フオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」


 説明しよう。

 色丞狂介の身体には、刑事である父親の正義の血とSМ嬢である母親の変態の血が流れている。

 普段は、父親の影響を濃く受け継いで正義感の塊のような彼だが、女性用のパンティを顔にかぶることによって、
母親譲りの変態能力が発動し、眠っていたチカラが覚醒するのである。

「クロスアウッ(脱衣!)」

 一瞬で、服を脱ぎ捨てた彼は、犯人の前に飛び出していく。





   *



269年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:08:17.39UqEfXJhDo (11/38)



「そこまでだ!」

「誰だ!」

 逃亡犯、腰巻好男は声のした方向を向く。

 すると、目の前には“チマキ”があった。

「なんでこんなところにチマキがあるんだ」

 そういって、腰巻はチマキを触る。

「しかもちょっと暖かい」

 暖かいチマキ、それは……。



         、、、、、、、、
「それは、私のおいなりさんだ」





「え?」


 気が付くと、彼の前にはブーメランパンツ一丁で、顔には女性物のパンティを被っている
マッチョな男性が立っていたのだ。

 男は、ベンチの上に立っていたので、ちょうど腰巻好男の顔の位置に股間の部分があった。

「ぎゃあああああああああああ!!!」

「きゃあああああああああああああ!!」

 あまりのインパクトに驚く腰巻。そしてつられて驚く初春。

「へ、変態ですのおおおおお!!!!」

 離れて見ていた白井黒子も叫ぶ。

「そう、私は変態仮面!」


270年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:09:22.58UqEfXJhDo (12/38)

 パンツ男はそう言ってポーズをとった。

「女性用下着を奪う変態男、この変態仮面がお仕置きしてくれる」

「お前にだけは変態なんて言われたくねえべ!」

 腰巻は叫んだ。

「問答無用!」

 そう言って変態仮面は、どこから取り出したのかわからない鞭を手に、腰巻の腕を狙う。

「ぐわ!」

 鞭はまるで生きているように“しなり”、腰巻の腕に当たった。

 そして、彼が手に持っていた初春のパンティを地面に落とすのであった。

「くそっ、パンティが」

 落ちたパンティに気を取られた瞬間、

「今だ! 黒子くん!」

 変態仮面が叫ぶ。

「な?」

 腰巻が気付いたときには、すでに腕に抱いていた少女の姿がなかった。

 ついでに、地面に落ちたパンティもなかった。

「そんな……!」

 ショックを受ける腰巻。

 ババ臭い声の風紀委員は空間移動能力者で、今の一瞬で初春とそのパンティを
奪え返したのだった。

 そしてそんな腰巻に変態仮面が歩み寄る。

「欲に負けた男よ、乙女の心の痛みを知れ!」

 彼の手には、荒縄が握られていた。

「ぎゃあああああああああああ!!!!」

 腰巻は、一瞬で亀甲縛りにされ、公園の並木につるされたのだった。




   *


271年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:10:12.84UqEfXJhDo (13/38)




 こうして、脱走した下着泥棒は捕まり、事件も無事解決した。

(しかしあの変態仮面とかいう男、どこかで見た覚えがしますわ)

 常盤台の寮で、白井黒子はそんなことを考えていた。

「ねえ、黒子」

 そんな黒子に、ルームメイトで一つ上の先輩である御坂美琴が話しかける。

「ど、どうされましたお姉さま」

「あたしのパンツ知らない? あなた、持ってるでしょう」

「え?」

 黒子は自分の制服のポケットを調べる。

「はっ、ありませんの」

「やっぱりアンタが犯人か」

「いえいえ、確かにわたくしかもしれませんけど、今は持っておりませんの」

「さっさと出しなさい!」

「ですから知りませんのおおおおおお!!!」





   お わ り


272年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:14:10.40UqEfXJhDo (14/38)

禁書・超電磁砲SSは多いですが、筆者が書くのはこれが初めてなんですの。

それでは、さっさと次に参りましょう。

あと、今飲んだトマトミックスジュースが絶望的に不味かった。


273年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:19:11.57UqEfXJhDo (15/38)


   プロローグ



 その日、如月千早が説明を受けた仕事は、当然彼女が納得できるような内容ではなかった。

「バラエティ?」

 それはまだいい。

 問題なのはその内容だ。

「あの、お笑い芸人、江頭2:50との共演……」

 彼女がバラエティ番組で共演する芸能人、それは数々の伝説を残したあの江頭2:50
との共演である。

「そうだ。社長直々に頼み込んでとった仕事だ。ぜひ、キミにやってもらいたいと」

 彼女の前にいる、若い男はそういう。

「そうは言いますけどプロデューサー、この内容、酷くありませんか?」

「え? それは……」

 千早の機嫌は悪かった。

 なぜならそのバラエティの企画とは、彼女が歌っている後ろで江頭がバックダンサーとして
躍るというものである。

 しかも、それが普通の踊りではなく水槽の中で息を止めて踊るのだ。

「こんな企画、歌に対する冒涜です」

「そうは言うがな」

 人一倍歌に対してこだわりをもっている千早にとって、このようなおふざけで歌うような企画に
乗れるはずもなかった。

「あの社長が、わざわざ知り合いに頭を下げてまでとってきた仕事なんだぞ。
それをわかってくれよ」

「でも……」

 千早もわかっている。

 仕事を選んでいては、次のステップにはいけないということくらい。

 しかも、あの社長が何の考えもなしに変な仕事を取ってくるはずもない。

「たのむ、千早」

 懇願するプロデューサー。

「……わかりました」

 千早は、不満を飲み込むようにその仕事を承諾した。



274年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:19:39.95UqEfXJhDo (16/38)





    年末スペシャル第二弾!!



   江頭2:50


          VS


             アイドルマスター!!








275年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:20:15.47UqEfXJhDo (17/38)



 都内某スタジオ。

 本番三時間前に、千早は一緒に出演する天海春香と星井美希とともにスタジオ入りした。

「おはようございます!」

「おはようございまーす」

「おはようございますなの」

 元気にスタッフに挨拶する三人。

「俺は少しディレクターと話があるから、楽屋でリハーサルの準備をしておいてくれ」

 千早たちを車で連れてきたプロデューサーはそう言って、彼女たちから離れる。

「じゃ、私たちもいきましょう」

 プロデューサの後ろ姿を見送った千早は、そう言って楽屋に行こうとした。

 その時、

「あ、あなたたちが765プロの人たちね」

 不意に女性の声が聞こえる。

「はい、そうですけど」

「ああ、写真で見るより可愛いわね」

 背の低い、やけに童顔で、それでいて胸の大きい女性が話しかけてきた。

「あの、失礼ですが」

 業界の関係者であることは間違いないが、千早はその顔に覚えがなかった。

「ああ、ごめんね。私、大川興業の小林っていいます。江頭のマネージャーをしてます」

「ええ?」

「そうなの?」

「びっくりなの!」

 大川興業という、ある意味アウトローな雰囲気をビシバシ出している事務所のマネージャーとは
到底思えないような美人な女性である。

「江頭との共演は初めてだったよね」



276年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:21:05.65UqEfXJhDo (18/38)


「え、はい」

「そうです」

「そうなの。美希、とっても楽しみなの」

 美希は嬉しそうに言った。

「あ、そうなの?」

「うん、美希ね。エガちゃんの大ファンなんだよ」

「若い女性にしては珍しいのね」

「そうなの? エガちゃん面白いのにね」

 そう言って、美希は春香と千早の顔を見る。

「え、そうかな……」

「アハハ」苦笑する春香。

 正直、千早は美希と違って江頭に関してあまりいいイメージは持っていなかった。

 テレビに出て暴れて、陰部を出して観客に唾をはきかける。

 そんな、笑いというよりはむしろ嫌悪感を引き起こすような芸風の彼に、好感を持てというほうが
無理な話だ、と思っていた。

「ところで、小林さん」

「なに?」

「江頭さんは、いつ来られるのですか?」

 千早は、少し気になったので恐る恐る聞いてみる。

 しかし彼女の返答は予想外なものであった。

「え? 彼なら来てるわよ」

「はい?」

「ほら、あそこに」



277年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:21:35.84UqEfXJhDo (19/38)


「ん?」

 マネージャーの視線の先には、ジャージ姿で帽子を目深にかぶった細見の男性が、
さっきから熱心にディレクターと話し込んでいた。

「え、あの人って」

 千早はスタッフの一人だと思って普通に挨拶をしていた人だ。

「本当に、あの江頭さんですか?」

「信じられないのも無理ないわね。普段のあの人はあんな感じだから。わからないでしょう?」

「はい」

 三人は素直にうなずく。

「ふふ、素直ね。私だって、街に出たら時々見失うことがあるんですよ」

 千早は目を凝らす。

 あの横顔は、確かに見覚えがある。

「ちょっと挨拶してくるのー♪」

 そう言って彼に近づこうとする美希を千早は止めた。

「ちょっと、なにするの?」

「おやめなさい」

 そのやり取りを見て、マネージャーは再び笑顔を見せる。

「そうね、そこは止めておいたほうがいいわね」

「どうしてですか?」と、春香。

「彼、ああ見えてアドリブにはとことん弱いから、打ち合わせは入念にするのよ」

「ええ? バラエティなのに?」

「そう、バラエティなのに」

 なんだか、得意げなマネージャー。


278年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:22:21.40UqEfXJhDo (20/38)


「確かに台本はもらいましたけど……」

 千早たちの鞄の中には、今日使う台本が入っている。

「だったら、しっかり読んで覚えておいて。バラエティ番組は、彼にとってはむしろ
お芝居よりも大変なのよ」

「どうしてですか?」

「だって、バラエティは自然に動かなければだめでしょう? 演技だけど、演技っぽくなく、
仕組まれていてもそれをアドリブっぽく対応しなければならない。根が真面目な彼には、
かなり難しいの」

「でも、江頭さんはバラエティやお笑い番組にしか出ませんよね」

「そうよ。だってあの人は、人を笑わせることが何よりも好きな人だから」

 そう言って、マネージャーは片目をつぶって見せる。

「そういえば、江頭さんは早めに来てるようですけど、いつ来たんですか?」

「うーん、今から三時間前くらいかな」

「三時間!?」

「ええ、普通よ」

「それって、本番六時間前にはすでに現場入りしてるってことですよね」

「そうね。彼は小心者だから」

「小心?」

「うん。台本や設備のチェックはもちろん、スタッフへの挨拶とか打ち合わせとか、
何か笑いに使えるものがないか探したり、とにかく入念に準備しなければ気が済まないタイプ」

「すごい……」

 そんな話を聞いて、千早の江頭を見る目が少しずつ変わっていくのだった。




   *



279年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:23:14.69UqEfXJhDo (21/38)



  
 本番二時間前。

 千早たちは、司会の男性アナウンサーと一緒にディレクターから説明を受けていた。

 バラエティ番組で、それも番組内の一コーナーとは思えないほど入念な打ち合わせが行われた。

 事前に渡された台本に、細かい注意事項などを赤ペンで書き込んでいると、
いつのまにか自分たちの出演するシーンは真っ赤に染まっていたほどだ。

 ドラマの撮影でもこれほど入念な打ち合わせは聞いたことがない。

「ずいぶん細かいところまで決めるんですね」と千早は言う。

「エガちゃんが出るんだから当然だよ。さっきも、ぎりぎりまで台本について質問されてたし」

「どうしてそこまで?」

「まあ、動きも多いし、結構危険なところもあるから、しっかり準備しておかないとさ」

「はあ……」

「じゃあ、もう一度説明するよ」


 ディレクターの説明の後、少し休憩してからスタジオでリハーサルが始まった。

 しかし、江頭2:50の姿は見えない。

「あれ? エガちゃんいないの」

 美希はさみしそうに言う。

「あ、僕が江頭さんの代わりをします」

 そう言ったのはジャージ姿のAD(アシスタントディレクター)であった。

「そうなの?」

「はい。どこの撮影現場でもそうだと聞いています」

「あなたも、プールに入るんですか?」

「あ、いや。僕は入りませんよ。はは」

 そう言って、ADは後ろにある巨大な水槽を見た。



280SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/24(土) 18:23:22.645TcJnmj5o (1/1)

エガちゃんは超イケメン


281年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:24:21.94UqEfXJhDo (22/38)


 これが今日、江頭2:50が中に入ってパフォーマンスをする巨大水槽だ。

 中に魚が入っていたらまるで水族館のようにも見えるだろう。

 千早はゆっくり歩いてその水槽に近づく。

 彼女は泳げないわけではないけれども、その水槽を見ただけで少し背筋が寒くなってしまった。

「大きいねえ」と、隣にいた春香が言った。

「そうね。なんだか、怖い」

「千早ちゃんも怖いと思う?」

「そうだね。深いし、危ないかも」

 水槽の底のあたりを見ると、足をひっかけるために設置されたベルトのようなものが見える。

「じゃあ、リハーサル始めますんで、出演者のかたはこちらに」

 ディレクターの声が聞こえたので、千早たちは指定の場所に集合した。





   *



282年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:25:06.37UqEfXJhDo (23/38)


 本番――

 司会のアナウンサーが高めのテンションで第一声を出す。

「さあっ、今夜もやってまいりました、ありえないコラボレーション。略して“ありコラ”のコーナー。
今週は765プロで今売出し中の、アイドル三人に来てもらいました!」

 ここで特設の観客席から拍手と歓声が上がる。

「星井美希です。よろしくなの!」

 美希が元気いっぱいに挨拶する。

「天海春香です! 今日は頑張ります」

 春香も負けずに声を張る。

「きょ、今日は歌を担当します。如月千早です!」

 少し噛んでしまったが、千早も自己紹介を終える。

「さあ、こんな元気いっぱいの三人と共演するのは……?」

 司会がそう言うと、聞き覚えのある音楽が聞こえてくる。

 特徴的なイントロは、布袋寅泰の『スリル』

 ベビベビベイベとボーカルが聞こえてくると、スタジオの隅から上半身裸で、下半身黒タイツの男性が
全力疾走で走ってきた。



「うおおおおおおおおおおお!!!!」



「きゃああああ!!」

 観客席から聞こえるのは、歓声よりも悲鳴だ。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 カメラの前に飛び出してきたのは、間違いなくあの江頭2:50であった。


283年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:25:54.08UqEfXJhDo (24/38)


 微かにコロンの香りの匂わす江頭は、薄い頭髪を振り乱しながらビタンビタンと床に倒れこみ、
そして最後はおなじみの江頭倒立(三転倒立)を決める。

 そして立ち上がると、

「金●日でーす!」

 のっけからちょっと危ない発言が飛び出す。

「いやあ江頭さん、久しぶりですねえ!」

 テンション高めの司会者がそう言うと、

「久しぶりじゃねえよ! 俺、干されたかと思った。これで半年ぶりのテレビ出演だからね!」

「江頭さん、今回このありコラのコーナーは、初出演ということですけど、今回の相手は若いアイドルですよ」

 司会者がそういうと、江頭は千早たちを睨む。

「ひっ」

 その鋭すぎる眼光に、千早はちょっとビビッてしまった。

「実はこの、星井美希さんは、江頭さんの大ファンだということですけど」

 司会がそう言うと、美希は大きく手をあげる。

「はいはーい。美希、エガちゃん大好きなのー♪」

「お前、そういうこと、あんま人前で言うなよ。俺どうしたらいいんだよ」

 江頭は少し照れ笑いしながら顔をそむける。

「エガちゃんカワイイのー」

「く……」

 江頭は、演技なのか本当に照れているのか、口元を手で押さえる。



284年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:26:31.06UqEfXJhDo (25/38)


「天海春香さんは、江頭さんどうですか?」

 今度は春香に振る。

「私はちょっと……」

 苦笑しながら春香が言うと、

「なんだとー!?」

 春香のその言葉を聞いて、ここぞとばかりに激昂する江頭。

「きゃあー!」

「俺の魅力に気づかせてやる!」

 そう言ってとびかかろうとする江頭。

「いや、ちょっと!」

 春香がその場から走って逃げだす。それを追いかける江頭。

 広いスタジオを縦横無尽に走り回る。

 会場は大爆笑だ。

 ここまで台本通りなのに、江頭に追いかけられる春香は本気で恐怖を感じているような顔をしていた。

 一通り、春香と追いかけっこを終えた江頭が息を切らしながら戻ってきた。

「江頭さん大丈夫ですか。本番前にもう、疲れてそうですが」

「はあ、はあ、大丈夫」

「江頭さん、今日は」

「今日はやるよー、俺」

「すごい自信ですね」

「全部オンエア不可能にしてやる!」


285年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:27:14.00UqEfXJhDo (26/38)


「ちょ、それはちょっと」

「エガちゃんエガちゃーん!」

 そこで声をかける美希。

「エガちゃん、1クールのレギュラーより?」

「1回の伝説! って、お前が言うのかよ」

「きゃー、カッコイイのー」

「ちょっと絡み辛いなこの子」あきれる江頭。

 軌道修正するようにい、司会者は話しかける。

「まあまあ。それより今回のパフォーマンスなんですけど」

「そう! 今回は息止めパフォーマンス!」

「息止め?」

 ここで音楽スタート。

《今回のパフォーマンスは、江頭2:50の息止めバックダンサー!

 江頭さんとアイドルの、文字通り美女と野獣の組み合わせで歌のパフォーマンスをしてもらいます。

 ただし、ただのパフォーマンスではありません。

 江頭さんには、あの、巨大水槽の中で息を止めてダンスを踊ってもらいます!》

 巨大水槽の紹介で盛り上がる会場。

「江頭さん、大丈夫ですか」

「息止めと言えば俺、俺と言えば息止め! とにかくねえ、俺は死んでもやるから!」

「いや、死んだらダメですよ」

 そういうと、江頭は水槽の上に上る。

「今日も伝説作るから!」

「お願いします」

 そして、司会者は千早たちのほうを向く。

「それでは、アイドルのみなさんも曲の準備、お願いします」

「はい」



   *


286年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:28:01.37UqEfXJhDo (27/38)



 千早たちは、打ち合わせ通りの配置につく。

 緊張の瞬間。

 今回は、ただ歌えばいいというものではない。

 歌を含め、台本通りに、“演じなければならない”のだ。

 そのことに関して、千早自身完全に納得したわけではない。

 それでも、仕事である以上は全力を尽くすのがプロというもの。

 彼女は覚悟を決める。

 司会者が紹介を終えると静かにイントロが流れてきた。

 江頭が潜る。

 深い水槽。

 千早が近づいただけで、心臓が締め付けられるような恐怖を感じたあの巨大水槽だ。

 あんなものに入って怖くないのだろうか。

 イントロも終わり、今にも歌いだそうとしたその瞬間――

《ボゴゴッ!》

 物凄い音とともに、江頭がプールから浮上する。

『エガちゃん! どうしたの』

 別のスタジオからタレントの声が聞こえてきた。

「足が、足がフックに引っかからなかった……」

「江頭さん! どうしました」司会者も声をかける。

「ちょ、ちょっと……」

「大丈夫ですか?」

「や、やれる」

 先ほどまで暴れまわっていた同じ人間とは思えないほど緊張した面持ちで江頭は水につかる。

「江頭さん?」

「行ける……」

 どこか一点を見つめた江頭がそう言って潜った。


287年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:29:01.44UqEfXJhDo (28/38)


 音楽開始。

 千早は再び歌の準備をする。

 クスクスと観客席から笑い声が聞こえてくる。

 千早には後ろは見えない。

 見たら集中が乱されそうなので、努めて見ないようにした。

 そして、

 歌い出し。

 順調な滑り出しだった。喉の調子も悪くない。

 後ろで踊る春香や美希のコーラスも完璧だ。

(大丈夫、自分はいつものように歌えば)

 そう言い聞かすけれども、周囲のクスクス笑いに集中が乱される。

 そして、

《ボゴゴゴッ!!》

 1コーラスを半分ほど歌い切ったところで江頭再浮上。

 ここで大爆笑が起こった。

「江頭さん! 江頭さん!」

 観客席や別スタジオの笑い声とは別に、江頭は顔面蒼白で息を切らしている。

 そんな必死な形相にスタッフを含め、みんな大笑いしていた。

 ここまで台本通り。

 にも関わらず、本当に必死の形相である。

(ギリギリの仕事。本当に死んじゃうんじゃ……)

 千早の心に不安がよぎる。

 テレビで見ていた時には、死ぬことはないと思っていたけれど、

 いざ自分が同じ現場に立ってみるとその迫力に気圧される。

 数分休んだのち、江頭は再びプールに入った。

 ここで、1コーラス歌いきってコーナーの収録は終了。


288年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:29:43.81UqEfXJhDo (29/38)


 ゴールが見えてきた。

 周囲の笑顔とは裏腹に、長い緊張状態に置かれていた千早の精神はかなり消耗していた。

 先ほどの大爆笑であったまった場の空気は、次の笑いを求めており、過剰なエネルギーが
観客席などから漏れ出ている。

(ん……!)

 笑いを求める空気。

 それに千早は慣れていない。

 なんだか自分が笑われているように思えて、彼女のプライドを微かに傷つける。

(それでもやらなきゃ)

 千早は歌う。

 だが、

「あ……」

 途切れる歌。

(しまった!)

《ボゴゴゴッ!》

「ああ」

 サビを前に、歌が途切れてしまい、タイミングを外した江頭が浮上してしまったのだ。

「江頭さん?」

「はいカット!!」

 カメラが止まる。

「……」

 最悪の空気だ。

「千早ちゃん」

「ご、ごめん……」

 目の前が真暗になる。



289年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:30:13.09UqEfXJhDo (30/38)


 自分が、NGを出してしまった。

 確かに、バラエティの仕事ということで甘くみていた部分はある。

 けれども、決して手を抜いたりしたわけではない。

「江頭さん!」

「エガちゃん! 大丈夫なの?」

 周囲の物々しい雰囲気に気が付き、千早は視線を上げた。 
 
 水槽の上にスタッフが集まる。

 待機していた白衣姿の医師がタオルで江頭の体を拭きながら色々と調べている。

「ちょっと下ろそう」

 数人がかりで江頭を抱え、水槽から運び下ろす。

 下にはすでに、車いすが待機しており、それに乗せられた江頭はスタジオの外へと連れて行かれた。

「あの……」

「休憩お願いします!」

 スタッフの一人が叫ぶ。

「わかりました、江頭さんの回復待ち! それまで休憩で」

 ディレクターのその言葉で、緊迫した空気が一気にゆるんだ。

「……」

 力が抜ける。

 千早は、まわりに誰もいなかったら、そのまま崩れ落ちてしまいそうな気持だった。




   *


290年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:31:04.38UqEfXJhDo (31/38)



 スタジオの隅に置かれたパイプ椅子に腰かけうなだれる千早。

(私のせいで、私のせいで……)

 台本通りいかず、パフォーマンスを失敗させてしまった。

 江頭は車いすに乗せられて別室に移動。そこで休憩をしているという。

 このままでは復帰できず、コーナー自体が流れてしまうことすらありうる。

「大丈夫だよ千早さん! エガちゃんは戻ってくるの!」

 隣に座った美希がそう言って励ます。

「そうだよ千早ちゃん。まだ終わったわけじゃないよ」

 春香も千早を励ました。しかしその目は、不安を隠せない。

「……ごめん」

 千早の気持ちは、失意のどん底に沈んでいた。

 その時である。

「あなたたち、何落ち込んでるの?」

 話しかけてきたのは、江頭のマネージャーだ。

「あ、小林さん……」

「千早ちゃんだっけ? あなた、責任感じてるの?」

「ごめんなさい」

「別にせめてはいないわ。バラエティではハプニングなんて日常茶飯事よ。それより」

「え?」

「見せたいものがあるの」

「なんですか?」

 江頭のマネージャーに連れられた三人は、スタジオ内に設置してあるテレビモニターの
前に立った。


291年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:32:02.93UqEfXJhDo (32/38)


「あの、すいません」

 マネージャーがスタッフの一人に話しかける。

「はい」

「さっきのVTR(ブイ)、この子たちに見せてあげてくれませんか?」

「ああ、いいですよ」

 スタッフは快く承諾し、モニターに映像を映し出す。

『今日も伝説作るから!』

 力強く叫ぶ江頭の声が聞こえた。

 先ほど、撮影したばかりの映像なのだろう。

 無編集なので少し見にくかったけれど、確かにテレビで見る江頭2:50だ。

 水槽に入り、音楽がかかる。

 しかし上手くフックが足にかからずもがく江頭。

 その姿を見ると、千早の心の中に何かがふつふつと湧いてきた。

 仕切りなおしてもう一度、今度はゆっくりと入ってフックを足にかける。

 歌っているときは、一切後ろを見ていなかっただけに、その映像は新鮮だ。

 水槽のすぐ横には美希と春香の姿も見える。

 水の中でうつろな表情をしている江頭の顔が、どうにもおかしかった。

「くっく……」

 そして、

『ゴボゴボッ!!』

 物凄いスピードで、錐揉みしながら浮上してくシーンで思わず吹き出してしまった。


292年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:32:44.84UqEfXJhDo (33/38)


「グフフ……!」

「すごいの! やっぱり面白いの!」

 美希も喜ぶ。

「どうしよう、笑っちゃいけないのに……」

 千早は自分の心の奥底からあふれ出る笑いを抑えきれなかった。

「笑ったらいいのよ」

 そんな彼女に、江頭のマネージャーは声をかける。

「笑ってあげなさい。それが、あの人の望みだから」

「でも……」

 江頭の真剣な表情は知っている。

 それがゆえに、笑えてしまうのだ。

「ふふ、いい笑顔ね」

 マネージャーはそう言ってほほ笑む。

 そしてその数分後、江頭は復活した。



   *



293年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:33:37.85UqEfXJhDo (34/38)




「江頭さん戻りまーす!」

 スタッフの声で、スタジオは再び緊張感に包まれる。

 先ほど車いすに乗せられていた江頭だが、戻ってくるときはしっかり自分の足で歩いていた。

「あの、江頭さん」

 水槽に向かう途中、どうしても謝りたかった千早は江頭に近づき、声をかける。

「ん?」

「あの、私のせいで――」

「千早くん、だったよね」

「え? はい」

 千早の言葉を遮るように江頭は言う。

 彼女が今まで聞いたことのないような、優しい声だ。

「キミ、歌は好きかい?」

 一瞬、千早には彼がなぜそんな問いかけをするのかわからなかった。

 けれども、何も答えないわけにはいかない。

「はい、好きです。とっても」

「俺もお笑いが好きだ」

「……」

 そう言うと江頭は背中を向け、確かな足取りで水槽に向かった。

 台本上は、三回目のチャレンジで成功する予定だった。

 しかし、千早のミスで四回目をやらざるを得なくなってしまう。

 江頭の体力を考えると、かなり厳しい。

(江頭さん……)


294年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:34:21.12UqEfXJhDo (35/38)


 千早は先ほどの江頭の言葉を心の中で繰り返しながら、精神を集中する。

 今まで、お笑いなんて、とバカにしている気持ちが彼女にはあった。

 けれども、今はもうない。

 少なくとも江頭2:50という芸人の前で、お笑いを軽視することは許されないのだ。

 イントロが流れる。

(最高の歌を……)

 千早は気持ちを込め、歌をうたう。




 心の中を吐き出すように。



 そして、


《ボコボゴゴボッ!!!!》

 1コーラスを歌い切ったところで江頭は浮上した。

「今日はこのへんでいいですか……」

 弱々しい彼の言葉に、会場が笑いに包まれる。

 しかし、笑っていられるのはここまでだった。

「ハイ、OKです!」

 ディレクターのその言葉で一斉にスタッフが走る。

「早くおろして!」

「大丈夫ですか?」

 数人のスタッフが江頭を抱えて水槽から下ろした。

 今度は車いすではくキャスターの付いた移動式のベッドに寝かす。



295年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:36:18.66UqEfXJhDo (36/38)


「江頭さん!」

 その様子に、千早はたまらず駆け寄る。

「江頭さん」

 もう一度名前を呼ぶ。

「千早くんか……」

 声は小さいけれど、意識ははっきりしているようだ。

 それでも、顔は真っ青で唇も青い。

「ごめんなさい、私のせいで――」

 千早はもう一度謝ろうとした。

 しかし、

「千早くん」

「はい」

「いい、歌だったよ」

「……!」

 江頭のその言葉に、千早の心の中にたまっていたものが堰を切ったようにあふれ出す。

「えがしらさん……」

 手で口を押えながら、千早は涙を止めようとするがどうしても止まらない。

 ちゃんと謝らなければならない。迷惑をかけた相手にもかかわらず、次に出る言葉が出なかった。

 そんな千早を見て、江頭は困ったように言う。

「泣くなよ、千早くん」

「ごめんなさい」

「俺が見たいのは、涙じゃない」

「……」

「笑いだ」

 江頭は微かに笑ったような気もするけれど、千早の目は涙で曇ってたため、よく見えなかった。




   *


296年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:37:11.84UqEfXJhDo (37/38)




 数日後、765プロでは千早たちの出演した番組のビデオを皆で見ていた。

「はるるん、追いかけられてるね」

「あのときはすごく怖かったんだから。本番前はすごくおとなしい人なのに、本番が始まった
途端にかわっちゃうんだから」

「エガちゃん、すごくかっこよかったの。また一緒に出演したいなあ」

「うへえ、自分もでたかったよ」

「江頭さんはとても素晴らしい芸人です。真の芸人と行っても差し支えないでしょう」

「うっうー! 弟も江頭さんの大ファンなんですよ」

「今回はすごく勉強になったわ」

 そんなアイドルたちの様子を見ながら、高木社長はしみじみ語る。

「うんうん、やっぱり成功だったようだね」

「はい。千早もあれから随分明るくなったような気がします」

 その言葉にプロデューサーの青年が答える。

「お笑いも歌も、芸にはかわりないからね」

「社長の言った通りです。学ぶところは大きい」

「一見バカらしい行為でも、それを真剣にやっている人がいる、ということを知ってもらいたかったんだ」

「彼との共演は随分無理を言ったと聞きますが」

「そうだね。江頭くんは滅多にテレビに出ないから、大変だったよ」

「また、共演できるといいですね」

「そのときのオファーは、キミに任すよ。私はもう疲れた」

「社長、それは……」

「見てごらん、あの笑顔」

 社長とプロデューサーの目には、テレビの前で明るく笑う千早の顔が実に印象的に映ったのであった。





   おわり 



297年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/24(土) 18:40:28.72UqEfXJhDo (38/38)


 何気にアイマスも初であります。

 星井美希のキャラクターは使いやすいのでとても助かりました。

 なお、このコーナーの元ネタはとんねるずの番組でやっていた江頭2:50の『センチメンタル息止め』です。

 見ていない方はぜひ一度ご覧ください。

 それでは、また明日の第三弾でお会いしましょう。


298SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/24(土) 21:26:56.38FW/FDMIuo (1/1)

エガちゃんいいよねー


299SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/24(土) 21:58:20.59z/O+G44AO (1/1)

ギリギリアイドルマスター


300SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/24(土) 22:19:02.23hKP+lA6g0 (1/1)

乙~


301SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/25(日) 00:46:17.98UE2wrvdS0 (1/1)

エガちゃん好きだなまったくww


302年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:02:06.29GEEMDRZko (1/51)

 さて、クリスマスも終わったことですけど、お祭りはもう少しだけ続きます。

 年末スペシャル第三弾、はじまりはじまり。


303年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:02:42.59GEEMDRZko (2/51)





   年末スペシャル第三弾!!



   
             は り お ん !


       ~ 播磨拳児はうんたんに恋をする ~












304年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:04:09.02GEEMDRZko (3/51)


   プロローグ


 高校二年の新学期。

 この日の播磨のやる気はみなぎっていた。

(ついにこの日が来た! 俺の愛しのマイエンジェル、平沢唯ちゃんと同じクラスになることができたぞ!
これを機会に仲良くなって、ゆくゆくは付き合い……!)

 播磨の思い人である平沢唯。

 一年生の時は違うクラスだった上に、播磨自身恋愛に疎いため、ほとんど話をする機会がなかった
のだが、二年生になってからは同じクラスである。

 播磨が、これを大きなチャンスだと思ったのは言うまでもない。

「やっほ、ノドカちゃん」

 播磨の視線の先には唯の姿。

(こ、ここは自然に声をかけてみるべきか。何て声かけりゃいいんだ? ここは無難におはようとか。

いや、それは俺のキャラじゃねェな。よう、とかどうだろう)

「よう、播磨」

 しかしそんなことを考えている彼の前にぬっと、人影が現れた。

「な、なんだ田井中か」

「へへ。なんだはないだろう。せっかく同じクラスになったってのに」

「別に今更どうってことねェだろうがよ」

「ったく、つれないね。それじゃ女にモテねえぞ」

「うるせえ、大きなお世話だ」

「それがあたしの性格だからさ」

 田井中律は小学校時代の同級生である。たまたま同じ高校に入学しており、播磨がほぼ唯一気兼ねなく
話のできる女子生徒だ。

「ああ、そうかい」播磨は軽く律の言葉を軽く受け流す。

 その時である。


305年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:05:15.25GEEMDRZko (4/51)


「ねー、みおちん。せっかく同じくらすになったんだから、今日遊びに行こうよお」

 しまりのない声が聞こえてきた。

「おっと、また澪が変なのに絡まれてるな」不意に律がその声の方向に視線を向ける。

「ん?」

「ちょっと行ってくる」

 そう言うと、律は早足で長い黒髪の女子生徒と、金髪の男子生徒の前に割って入った。

「はいはい、澪が迷惑してるだろ。帰った帰った」

「なんだよ田井中、邪魔すんなよ」

「うるせえな今鳥、早く戻れ」

「ちぇっ。みおちんまたねー」

 金髪の男はそう言って自分の席に戻っていく。

「やれやれ、やっと行ったか」律はそう言って腰に手を当てた。

 ふと、さきほど澪と呼ばれていた黒髪の女子生徒が播磨のほうを向く。

「……!」

 播磨と目が合うと(と言ってもサングラスをしているのだが)、はっと驚いたような顔をして、
すぐに目を伏せた。

「……」

 女子供に怖がられるのは慣れている。

 播磨はそう考えて強がってみたものの、少しばかりさみしい思いをしたのは確かだ。



306年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:06:31.55GEEMDRZko (5/51)







   第一話 馴れ初め







 山中さわ子のマンション。それは播磨が居候をしている場所でもある。

「それで、拳児くんは好きな子とかいるの?」

 同居人の山中さわ子は酒臭い息で聞いてきた。

 今日はこれで缶ビール五本目だ(もちろん500ml)。

「飲みすぎだぞ、さわ子」

「これが飲まずにやってられますかっての。もう、拳児くん、話を逸らさないの!」

 ビシッと、アタリメを播磨にむけるさわ子。

「……」

 播磨は未成年なので、一応ビールではなく三ツ矢サイダーを飲んでいる。

「平沢唯ちゃんのどこが好きなの?」

「ブッ」

 思わず吹き出す播磨。

「あはは、きったなーい」

 酒を飲んでいるため、今日のさわ子はハイテンションだ。

「なんでお前ェ、そんなことを」

「あれれ? 軽音部をちょくちょく覗きにきてるの、私知ってるんだからあ」

「……」

「ねえ、そろそろ聞かせてくれてもいいでしょう?」

「いやだと言ったら?」

「ここで脱ぐ」

「勝手にしろ。ここはお前ェの家だ」

「ちょおっとー!」




   *



307年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:07:38.57GEEMDRZko (6/51)



 あれは俺が入学してすぐのことだった。

 まだ学校の並木に桜の花が残っていたころなんだが。

「うんうん、それでそれで?」

「回想シーンに出てくんなさわ子!」


 その日、朝市で他校の生徒に絡まれて、十数人ほどボッコボコにして学校に行ったんだ。

 当然、そんなことをしてるから遅刻だわな。

 俺は、生徒のほとんどいない学校の敷地内を歩いていた。

 そしたら、

「ん?」

 一人の女子生徒がいた。

「おやおや、キミも遅刻かな?」

「なんだ?」

 その女子生徒は、俺の外見も気にすることなく気さくに声をかけてきやがった。

「いやあ、私もちょっと遅刻しちゃった。今日は憂が早めに学校行っちゃったから、
つい二度寝しちゃってねえ」

「……」

 憂って誰だ?

 なんて答えていいのかわからなかった俺は、じっと黙っていたら、彼女は不意に何かに気づいたようで、
鞄からハンカチを取り出した。

「どうした」

「動かないで」

 少女は言う。

「ん?」

 素早く近づいた女子生徒は、手に持ったハンカチでそっと俺の口元を拭く。



308年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:08:17.18GEEMDRZko (7/51)


「何やってんだ?」

「血が、ついてるよ?」

「ん?」

 そういえば、少しばかり反撃を食らって怪我をしていたらしい。それでもかすり傷程度だったし、
そのときは興奮していて気が付かなかった。

「どこかでころんじゃったのかな? 私も時々やるんだ。気が付いたら膝とかすりむいてて、血だらけ。
もう、憂が心配しちゃってねえ」

「あ、おう……」

 天使だと思ったね。

 見知らぬ俺に対し、それもどこからどう見ても不良にしか見えない俺に対して、
なんのためらいもなくハンカチを差し出して血を拭いてくれた。

 これほどの天使がいたのか、と。

 俺は、一瞬にして惚れてしまったのさ。

 その優しさと、笑顔に。




   *



309年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:10:03.20GEEMDRZko (8/51)



「ウィッヒッヒッヒッヒ」

「おい、聞いてんのかさわ子」

「いやあ、聞いてますよ。ほんと、拳児くんは純でいいわねえ……。あれ、もうない」

 さわ子は五本目のビールを空けてしまった。

「もうねェぞ」

「ええ? せっかく拳児くんのいい話を聞けたのにい」

「おい、言っとくが」

「ん?」

「絶対誰にも言うなよ! 絶対だ」

「はいはい、わかってますよ。私は教師よ。こう見えて口は堅いんですよお。
下の口も堅いから未だにカレシがオヨヨヨヨ~」

 さっきまで笑っていたかと思ったら今度は泣き出すさわ子。

 酔っ払いの世話をあきらめた播磨は、自分の部屋に戻るのだった。


   *


 翌朝、言うまでもなくさわ子は播磨との約束を破る。

「って、ことなんだけど、唯ちゃん覚えてる?」

「ふえ? 何の話ですか?」

 放課後の音楽室で、カスタードプリンを食べながら、世間話をしている中で、
さわ子はさりげなく昨夜播磨から聞いた話をしてみた。

「いや、去年の話なんだけど。拳児くんと会ったでしょう?」

「播磨くんとは今年初めて会ったんだよ? 一年のときはクラスも違ったし」

 そう言って唯は首をかしげた。

(ああ、拳児くん。かわいそうね)

 幸せそうにプリンを食べる唯の顔をみながら、自分の親戚の行く末を憐れむさわ子であった。



   つづく



310年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:10:41.51GEEMDRZko (9/51)




   登場人物紹介(補足説明)


   播磨拳児

 主人公。バカ、不良。喧嘩は強い。

 平沢唯のことが好き。ただし、その思いは通じていない。


   平沢唯

 メインヒロイン(?)。あまり頭はよろしくない。天然。うんたん。

 播磨のことは、今のところ特に何とも思っていないようだ。


   山中さわ子

 サブヒロイン。播磨の同居人で、彼の従姉妹。

 独身。とにかく独身。怒ると怖い。



   田井中律

 播磨の幼馴染。軽音部部長。小学生のとき一緒のクラスにいた。

 活発な性格だったため、よく播磨と雷魚やナマズを獲りに行った。

 播磨のつけているカチューシャは、高校入学時に再会した際、律が渡したもの。



   秋山澪

 律の親友で同じ軽音部の部員。男が怖い。

 Dカップ。そのためDハンターの今鳥恭介に狙われている。




311年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:12:32.63GEEMDRZko (10/51)





   第二話 将を射んとすればまず馬から







 平沢唯に恋い焦がれる播磨拳児は、なんとか彼女と仲良くなろうと思い、色々と考えていた。

 しかし彼は基本的にバカなので、いい考えなど浮かぶはずもない。

 というわけで、彼は同居人であり親戚であり、また同じ高校の教員でもある山中さわ子に教えを乞う

ことにした。

 他に教えてもらえそうなやつがいないのだ。

 不良だし、友達もいないし。

 そして保健室。

「そうね、まずは外堀から埋めていったらどうかしら?」

「外堀?」

「本人と仲良くなりたければ、まずその友達と仲良くなるとか」

「なんだか面倒くせェな」

「拳児くんダメよ! 恋愛に王道なんてないの! 回り道を恐れてはダメ!」

「今日も合コン行くのか?」

「当たり前よ! 今日こそいいの捕まえるんだから!」

 大人の言葉は矛盾ばかりだ。

 そう思った播磨は相談室代わりに使っていた保健室を出た。



312年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:13:25.32GEEMDRZko (11/51)




 教室に戻る播磨。

 このクラスには、唯と仲の良い生徒が何人かいる。

 代表的なのは、同じ軽音部の田井中律と秋山澪だろうか。

 しかし、律とは顔なじみだし、今更仲よくなんていう間柄でもない。

 ということは――

 播磨の視線の先に、髪の長い女子生徒の姿が見えた。




   *



「ねえ、みおちん。今日遊びに行こうよ」

 金髪でチャラチャラした感じを絵に描いたような男子生徒、今鳥恭介が澪に話しかけてくる。

 ここ最近ずっとこうだ。

 彼女は正直うんざりしていた。

 だが、気の弱い澪は、律のように強く拒絶ができない。

 ただでさえ男性は苦手なのに。

「あの、今日は部活あるから」

「じゃあ部活終わってから」

「あの、困りまるから」

(早く律、戻ってきてくれないかな)

 彼女は内心、そう思っていた。一人では到底追い返せそうもない。

 その時、
 
「へ?」


313年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:13:59.45GEEMDRZko (12/51)


 今鳥の後ろ襟を、まるで“猫つまみ”のように掴んだ大柄な男子生徒が現れた。

「なにをするだ!」

「うるせえ、来い小僧」

 その姿には見覚えがある。今年から同じクラスになった、不良で有名な播磨拳児だ。

 男性恐怖症の澪にとっては、今鳥よりもさらに話し辛い相手であった。

 それが今、

「話せばわかるって」

「……」

 先ほどまで澪に絡んでいた今鳥をどこかへと連れて行ってしまった。


 三分後、播磨は手ぶらで帰ってくる。

「あ、あの!」

 自分の席の前を通る播磨に対し、澪は勇気を振り絞って声をかけた。

「ん?」

 播磨は立ち止まってこちらを見る。

「今鳥くん、どうしたんですか?」

「捨ててきた」

「あ、そうなんだ」

「なんつうか……」

「え?」

「余計な世話、だったか?」

 少し照れたような仕草で、播磨は言う。


314年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:14:44.57GEEMDRZko (13/51)


 その様子が、澪にはなんとなく可愛く見えた。

「いえ、ありがとうございます。助かりました」

「そりゃ良かった」

 そう言うと、播磨は自分の席に戻り、何かの本を取り出して読み始めた。

(男の人って、嫌な人ばかりだと思ってたけど……)

 ふと、澪の心にそんな思いが浮かぶ。

 それから、

「いよう、澪。調子はどうだい?」

 ここで田井中律、登場である。

「あ、律。うん。大丈夫だよ」

「今鳥のやつ、また絡んできたんじゃないの?」

「ああ、それなら、播磨くんが何とかしてくれたから」

「え? 播磨が? アイツ、なんでそんなことしたんだろうな」そう言って律は播磨のほうを見る。

「わからないよ」

「案外、澪に気があったりしてな」

「ちょっ、冗談やめてくれ! もう」

「うふふ。こりゃ、澪にも春が来たかな。相手がちょっとアレだけど」

「もう! 律!」

「あははは」




   *


315年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:17:05.33GEEMDRZko (14/51)





 一方、播磨は『魁!!恋愛指南書』(民明書房)を読みながら心の中でほくそえんでいた。

(クックック。これで唯ちゃんの好感度も上昇だぜ)

 浅いのか深いのかよくわからない彼の作戦は、当然ながら彼の思惑とは別の方向に進むのであった。



   つづく

  



316年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:18:48.22GEEMDRZko (15/51)





   第三話 隣のリズム



 播磨たちの通う高校では、中学校とは違い一学期に体育祭(正確には全校体育大会)が行われる。

 中間考査の後に行われるその行事は、どちらかというと新入生歓迎行事の色合いが強い。

 言うまでもなく不良の播磨はそういう行事にはあまり関心がないので、
その日も出場者と出場種目を決めるホームルームのときは漫画を読んで過ごしていた。

 しかし、今年は少し状況が違った。

「頑張ろうね、澪ちゃん」

「え? うん」

 同じクラスの生徒で、播磨の思い人である平沢唯がやる気を見せているのだ。

 その時、播磨のあまり出来のよくない脳内コンピュータが計算を始める。


 体育祭で活躍→「播磨くん素敵!」→唯の好感度アップ


(これだ!)


 そう思った播磨は立ち上がり、体育祭実行委員の一人に詰め寄る。

「俺に出られる種目はあるか?」

「え? 播磨くん出るの?」気の弱そうな男子生徒は困ったように言う。

「当たりめェだろうが。それで、何の種目だ」

「実はもう、一つしか種目が残っていないんだけど?」

「なに?」

「男女混合二人三脚」

「なん……だと……?」

 よりによって二人三脚、しかも男女混合である。


317年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:22:00.34GEEMDRZko (16/51)


「ひい、だって播磨くん、ずっと漫画読んでたから、その間に決まっちゃって」

「く……」

 ここで無理やり誰かの枠を奪ったら、唯の好感度が下がりそうだったので彼は自重する。

 その代わり――

「おい、田井中」

「んあ? なんだよ播磨」

 播磨は、クラスメイトであり幼馴染の田井中律に声をかけた。

「お前ェ、二人三脚。俺と一緒に出ろ」

「はあ? いきなり何言ってんだ」

「ありゃあ男女混合種目だから、女じゃなきゃダメなんだよ。俺が出られる種目、
これしか残ってねェし」

「いやだよ。あたしはクラス対抗リレーにも出るんだよ」

「両方出りゃいいだろう」

「何でよ」

「わがまま言うな」

「わがまま言ってんのはアンタだろ!」

「く……」

 取りつく島もないといったところだが、そこは(余計な)世話焼きの律である。

「うーん」

 律は少しばかり腕を組んで考える。

 そして顔を横に向けた。

「ん?」


318年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:22:52.25GEEMDRZko (17/51)


 律の視線の先には、数人の男子生徒に囲まれた秋山澪の姿があった。

「ねえ、秋山さん。一緒にやろうよ」

「いや、俺と」

「俺といこうよみよちん」

「秋山さん」

 そんな澪の様子を見て律はニヤリと笑う。

「あたしにいい考えがある」

(どうせまたロクでもないこと考えてんだろうな)

 播磨はそう思ったが、それは口に出さないようにした。




   *



 そして放課後である。

 学校のグラウンドには、上体操服に下ジャージ姿の播磨拳児と秋山澪の姿があった。

「おい、どういうことだ田井中」

「律……」

 二人は困惑した様子で、目の前にいる田井中律を見る。

「いやあ、播磨は競技に出場したい。澪は、周りによって来る男子どもを追っ払いたい。
その二つを同時にできる名案だと思ったんだけどねえ」

 そう言って得意げな顔をする律。

「何が名案だ。秋山は確か、男が苦手なんだろう?」

「まあ、その男嫌いを治すための治療も兼ねてるっていうかね、テヘッ」

 律は片目を閉じる。

「……はあ」

 この時点で、播磨は律との会話をあきらめた。そして、隣にいる澪に声をかける。



319年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:23:57.10GEEMDRZko (18/51)


「秋山」

「は、はい!」

 緊張しているようだ。

「お前ェ、迷惑なら断ってもいいんだぞ。田井中(あいつ)が勝手に言ったことだし」

「いや、その……」

 澪は俯いて、何かを考えてる。

 そして、

「あの、播磨くん?」

「あン?」

「一緒に、出てもいい」

「本当か?」

「お? 澪もついにやる気になったかあ」

 と、律が身を乗り出す。

「田井中、お前ェは黙ってろ」

「播磨くんには、恩もあるし」

「ん?」

「いや、なんでもない。よ、よろしく」

「お、おう。こちらこそ」

 こうして、播磨と澪の二人三脚の練習が始まった。




   *



320年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:25:00.55GEEMDRZko (19/51)



 二人三脚で大事なことは、いかにお互いのタイミングを合わせることか、だ。

 ふつうに走ったり歩いたりするのと違い、二人三脚には相手がいる。

 それを無視して進むことはできない。

 それ以前に、歩くときはお互いが身体を密着させなければならない。

 男に慣れていない澪にとっては、そこがまず第一の関門であった。

「……!」

「大丈夫か?」

 気遣う播磨。

 彼のその気遣いが、澪には心苦しかった。

「大丈夫」

 そう言うと、澪は意を決して播磨の身体に自分の身体を密着させる。

「……?」

「どうした」

「な、なんでもない」

(思ったほど、嫌じゃないかも)

 彼女にとって、父親以外の異性とこんなにも密着するのはほとんど経験のないことだった。

 それゆえに、恐怖心もあった。

 だが、いざ密着してみるとそれほど怖くはない。むしろそのぬくもりに安心さえしてしまう。

(ああ、いけない。そんなこと考えてる場合じゃない!)

 澪は自分の心に喝を入れて、練習をはじめる。

「いくぞ」

「うん」

「いちに、いちに、いちに……」

 だがしかし、

「うお!」

「ごめん」

 二人のタイミングが合わない。



321年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:26:38.80GEEMDRZko (20/51)


 声を出しているのだが、どうも息が合わないのだ。

(どうしよう)

 焦る澪。

「もう一度やるぞ」

「うん、わかった」

 そして転倒。

「うわ!」

「ふぎゅっ!」

 情けない、と澪は思った。

「大丈夫か秋山」

「ああ、大丈夫。播磨くんこそ」

「どうってことねェ」

 播磨の気遣いが心に痛む。

(ああ、せっかく彼が我慢して付き合ってくれてるのに、これじゃあ……)

 澪が落ち込んでいるその時、

「みおちゃああああん、播磨くううううううん!」

 聞き覚えのある声がグラウンドに響いた。

「?」

 顔を上げると、友人の平沢唯が走ってきている。

「唯!?」

 そして、彼女は二人の前で立ち止まった。

「はあ、はあ、はあ……」走ってきたせいで、息を切らしている。

「どうした? 唯」

 と、澪は聞いた。本来なら、部室で練習をしている時間だ。

「なんか、澪ちゃんと播磨くんが二人三脚をやるって聞いて、これを持ってきたの」

「え?」

 彼女の手には、赤と青のカラーが懐かしいカスタネットがあった。

「カスタネット?」

「うん。なんかね、二人三脚はリズムが大事だって、体育の先生が言ってたから、
リズムならカスタネットかなあって、思って」

「……?」


322年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:28:06.90GEEMDRZko (21/51)


 播磨は意味がわからず、黙っているようだ。

 澪も、一瞬意味が分からなかった。

「ほら、こうして」

 そう言うと唯はカスタネットのゴムを指にはめる。

「うんたん、うんたん、うんたん、うんたん、うんたん」

 そして、身体でリズムを取りながら軽快にカスタネットを鳴らした。

「あ、そうか……」

 不意に、澪は気付く。

「どうした、秋山」と、播磨。

「リズムだ」

「ん?」

「なんで、今まで上手くいかなかったのかわかった気がする」

「どうして……」

「あの、播磨くん。お願いがあるんだけど」

「なんだ」

「私がリズムをとるから、それに合わせてほしい。私のリズムに」

「ん? ああ」

 澪は今まで、播磨に合わそうとして必死になってきた。

 だから上手くいかなかったのだ。

 彼女は自分のバンドを思い出す。

(私の楽器はベース。ベースは文字通り、音の土台を作り出すもの。律のドラムと同じように、
自分で音楽を作らなきゃ)

 澪は大きく息を吸い、一歩足を踏み出す。

「いっち! にっ! いっち! にっ!」

 先ほどようりも力強く、自信を持って。

 澪の足に合わせるように、播磨も進む。

 今度は驚くほど歩調が合う。

 まるで楽器のセッションをしているような感覚だ。

「ペース上をげる」

「おう! いいぜ」

「いちに、いちに、いちに、いちに……」

 一度交わった波長は、なかなか止まらない。たとえスピードが速くても、狂うことがない。

 その日、澪と播磨は遅くまで二人三脚の練習をしたのだった。




   *


323年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:29:15.67GEEMDRZko (22/51)




 体育大会当日。

 播磨たちの所属する2年3組は、隣の4組と激しい競争を繰り広げていた。

 そして、大会終盤。

 播磨の出場する、男女混合二人三脚の時間である。

「ふふ、3組よ。この二人三脚で引導を渡してやる」

 やたらマッチョな長髪男が話しかけてきた。

「誰だお前ェ」

 澪と一緒に出場準備をしていた播磨が言う。

「この東郷雅一(愛称:マカロニ)の名前をまぁだ覚えてないのか!!」

「ひっ!」

 あまりの暑苦しさと迫力に、澪は播磨の影に隠れてしまう。

「一体、何がいいてェんだお前ェ」

「ふふふ、ここで決着をつけようと言うのだライバルよ」

「誰がライバルだ」

「播磨拳児、貴様も二人三脚に出るのだろう」

「ああ」

「俺も出る!」

「だからなんだ」

「実は私も出るんですよ」

 不意に、東郷の背後から見覚えのある長い金髪の少女がひょっこり顔を出す。

「お前ェは確か」

「はい、二年四組、琴吹紬です。そちらの秋山澪さんと同じ軽音部の」

 ニコニコした笑顔に、太い眉毛が印象的だった。

「あ、ムギ……」

 知り合いの登場で、ようやく正気を取り戻す澪。



324年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:30:01.01GEEMDRZko (23/51)


「ふふ。今日は負けませんよ」

「の、望むところだ。部活は同じでも今は勝負だからな」

「なかなか気合が入ってるな!」東郷は嬉しそうだ。

「お前ェは黙ってろ」

 そして競技開始。

 すでに三つの組が競技を終えており、四組とは二勝一敗。

 三組はここで勝って突き放したいところだ。

「播磨くーん! 頑張ってえー! 澪ちゃんもがんばれー!!」

 遠くから唯の声が聞こえる。

 声援に応えてガッツポーズでもやりたいところだが、そんな余裕はない。

 特に隣にいる者が。

「…………」

「秋山、秋山」

「へ?」

「大丈夫か」

「う、うん……」

 どうやら緊張しているようだ。

 学校行事ごときでこれほど緊張するものなのだろうかと思ったが、全校生徒が見守る中にいるから
無理もないかもしれない。

 これでは競技どころではない、と思った播磨は澪の緊張をほぐす手段を考えた。

(そうだ)

 そして思いつく。

「秋山」

「え?」

「その……、うんたん、うんたん」

 播磨は小声でそう言いながら、手を叩く。

 実に恥ずかしい。


325年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:32:05.86GEEMDRZko (24/51)


「ぷっ……」

 思わず吹き出した澪。

「お前ェ、これ恥ずかしいんだぞ」

「どうしたんだ、いきなり」

「なんか、緊張してるみたいだったから、ほぐそうと思って」

「唯のマネ?」

「まあ、そんなところだ」

「なんか、ちょっと和んだかも」

「そりゃ、良かった……」

 先ほどよりは、表情が柔らかくなったようで、とりあえず播磨も一安心である。

「今度はお前ェがリズムを刻んでくれ」

「わかった」

 そう言って、二人はスタート位置につく。

「位置について」

 係の女子生徒がスターターピストルと呼ばれる陸上用の合図銃を上に構える。

 パンッ、と乾いた音が初夏の空に響き渡った。

「いちにっ、いちにっ」

 勢いよく飛び出す播磨と澪のペア。

 スタートダッシュは完璧だ。

 しかし、すぐに後ろから追いつかれてしまう。

「ふふ、どうした三組よ。その程度か」

 どうやら後ろは東郷のようだ。

 こっちはリズムをとるのに必死だっていうのに、よく話をする余裕があるな。

 そんなことを思いつつも、さらにペースを速める播磨たち。

「オラオラ、どうしたその程度か!」

「あんまりいらないこと言ってたら転ぶわよ、マカロニくん」

 紬の声が聞こえた。

「フハハハハ、それもまたよ――」

 何かが倒れる音。

 どうやら本当に転んだようだ

(これはチャンスだぜ)

 播磨は思う。



326年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:33:11.87GEEMDRZko (25/51)


 最大のライバルである四組の東郷(マカロニ)琴吹ペアが倒れた今、播磨たちに死角はない。

 だが、それが最大の油断であった。

「いちにっ、いちにっ、いちにっ」

 ゴール直前。

「播磨くん頑張ってええええ!!」

 播磨の視界に、平沢唯の姿が入る。

「あ……」

 バランスを崩す二人。

「まずい!」

 転倒を防ごうと、播磨は澪の身体を支える。

 その時、




 むにゅっ




 そうとしか表現できない感触が、播磨の右手を通じて伝わってきた。

「え?」

 どうやら、播磨の右手が澪の左胸を“鷲掴み”していたようだ。

「い――」

「あ、これは……」

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 次の瞬間、澪の左ストレートが播磨の顔面を襲った。

「ぐはああああ!」


 なおそれ以来、澪のまわりに集まっていた男子生徒たちは、あまり彼女に近づかなくなったそうな。

 めでたしめでたし……?


   つづく





327年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:35:52.60GEEMDRZko (26/51)

少し休憩。

CMの後もまだまだ続くよ


328年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:39:39.83GEEMDRZko (27/51)

ベン・トーって、なんだかんだで最後まで見てしまった。

ちなみに筆者が子供のころは、ベン・ジョンソンが流行った。失格になったけど。


329年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:40:52.69GEEMDRZko (28/51)


   第四話 天国と地獄


 月末。

 それは播磨にとって憂鬱な時期でもある。

 学費以外の生活費諸々をアルバイトで賄っている彼は、急な出費などで月末にお金が無くなることが

多い。

 そして今月も、生活費が底をついた。

 同居人も金銭面ではあまり頼りにならないため、これからアルバイト代が振り込まれる三日間、
彼は昼飯無しで過ごさなければならない。



 昼休みになると、播磨は教室を抜け出して校舎の隅にある水飲み場で水を飲んで空腹を紛らわせた。

「んぐ、んぐ、んぐ……。ぷはあっ」

 喉も乾いていないのに水を飲むという行為ほどキツイものはない。

 それにいくら腹にいれたところで、それは所詮水である。汗か排せつ物になって外に出て行ってしまう。

「ああ、やっぱここにいたか播磨」

 聞き覚えのある声が響く。

「田井中か」

 同じクラスの田井中律である。

「お前、また金が無くなったのか? 月末になるとよくあるよな」

「うるせえな」

「ほれ、貸してやるから購買で何か買ってこいよ」

 そう言うと、律は右手に百円玉を二枚ほどつまんで播磨に差し出す。

 実にけち臭い。

「施しは受けねェ」

「施しじゃねえよ、貸しだっつうの」

「だったらなおさらいらねェ」

「腹減ったら授業に集中できねえぞ」

「もともと聞いてねェから問題ねェ」

 播磨はそう言って、教室に戻る。

「ったく、強情なやつだな」

 別れ際、律は吐き捨てるように言った。



   *



330年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:42:12.82GEEMDRZko (29/51)




 翌日、播磨は昨日と同じ場所で水を飲む。

 言うまでもなく、腹は膨れない。

 いっそのこと、野草でも獲って食おうかとさえ思い始めた時、

「あ、あの」

 不意に誰かが声をかけてきた。

「田井中か? 別にいらねェって……」

 律かと思った播磨だが、どうやら違った。

 律よりも髪が長くてつり目の少女。

「秋山?」

「あ、ごめんなさい」

「いや、別に。どうした、こんなところで」

「その、播磨くんにお……、お弁当を」

「なに?」

 さすがに水飲み場で立ち話も気分が悪いので、播磨は中庭に場所を移した。

「何で急に弁当なんか。田井中になんか言われたか」

「いや、そうじゃない。まあ、律に言われて知ったってこともあるけど」

「ん?」

「播磨くん、今日はお昼持ってきてないだろう?」

「ん? ああ」

「だから、これはこの前のお詫びというか」

「お詫び?」



331年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:42:39.60GEEMDRZko (30/51)


「た、体育大会で私、あなたに酷いことしてしまった」

「別に気にしてねェよ。いいストレートだとは思ったが。いや、フックだったか」

「ごめん、本当に」

「いやいや、身体が丈夫なのだけがとりえだから大したことはねェ」

「でも、ちゃんとお詫びとかもできてなかったから、それでこれ」

 そう言ってハンカチに包まれた箱を差し出す。

「それは……」

 その時、播磨の腹の虫が勢いよく鳴き出す。

 身体は正直である。

「悪い」

「ど、どうぞ」澪は差し出した。

「いいのか」

「うん」

「サンキューな」

 播磨は弁当箱を受けとり、それを空けた。

 中には数個のおにぎりが入っている。

「ごめん、何を作っていいのかわからなくて」

「いや、いい。最高だ」

 そう言って播磨はおにぎりにかぶりつく。

 久しぶりのまともな昼食に、思わず涙が出そうになった。




   *



332年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:44:43.97GEEMDRZko (31/51)



 そんでもって次の日。

「播磨くん♪」

 授業が終わると、さっそく声をかけてくる女子生徒が一人。

(ゆ、唯ちゃん!?)

 平沢唯である。

「ど、どうした平沢」播磨は努めて冷静に対応してみせる。

「実は、私もおにぎり作ってきたんだけど、播磨くん食べる?」

(マジかあああああ!!!! なんてこったあああああ!!!)

 播磨は心の中で狂喜乱舞する。

「いいのか」

 しかし、表向きは冷静である。

「うん」

 平沢唯が作ったとされるそのおにぎりは、

「四角……」

 まるで豆腐のように四角かった。

 昨日食べた、澪のおにぎりのように三角ではないけれど、ごはんだから大丈夫だろう。

 そう思い播磨は一口食べる。

「ま……」

「どう? 播磨くん」

 唯は目をキラキラさせながら聞いてくる。

(まずうううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!!)

 播磨は心の中でのた打ち回る。

(不味い不味い不味い不味い不味い不味い)

 心の中で、不味いという言葉がゲシュタルト崩壊しそうなほどの不味さだ。

(不味いってレベルじゃねェぞ!!! なんだこの不味さは! どうやったらおにぎりをこんなに
不味く作れるんだ!?)

 しかし、期待を込めて見つめてくる(可愛い)唯を前に、「マズイ」などと到底言えるはずがなかった。

「う……、うまいぞ、平沢」

 なんとか飲み込んだ播磨は、辛うじてそう言う。

「えへ、たくさん作ったからどんどん食べてね、播磨くん」

「お、おう……」

 この日、播磨は天国と地獄を同時に味わった。





   つづく


333年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:47:13.87GEEMDRZko (32/51)

当スレの上に「とある原石のオニギリ」というスレがあったので、なんか複雑な気持ち。

四角いおにぎりは、スクランのネタですな。


334年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:48:14.67GEEMDRZko (33/51)


 

   第五話 勉強は大事だよ




 期末考査の時期である。

 当然、不良の播磨は、成績も不良である。

「ええーん、テストやだよー。律ちゃん助けてよお」

 平沢唯もあまり成績は良くないようだ。

「ねえ、花井くん。ここの問題なんだけど」

 クラスの女子が成績の良いメガネ生徒に質問している。

 その様子を見た播磨は、再び出来の悪い脳内コンピュータを働かせた。


 成績が良くなる→ 唯「播磨くん、勉強教えて」 → 仲良くなる


(これだ!)

 そう思った播磨は立ち上がる。

 しかし、これまで最悪だった成績がそう簡単によくなるはずもない。

(誰か成績のいい奴に教えてもらうとか)

 そして播磨は思いつく。




   *


335年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:49:35.58GEEMDRZko (34/51)


 校舎の屋上。

 秋山澪は、播磨拳児に呼び出されていた。

 なぜか今日はやけに風が強い気がする。

(播磨くん、いったい何の用なんだろう……)

 播磨の意図が読めずに同様する澪。

 その時、以前親友の田井中律が言ったことを思い出す。


『案外、澪に気があったりしてな』


「……!」

 一気に顔が熱くなる。

(まさか、そんな……)

 ここで告白されたらなんて答えればいいのか。

(そりゃあ、確かに播磨くんはカッコイイところもあるけど、ちょっと怖いし……)

 澪の思考が頭の中でグルグル回る。

「おい」

「ひっ!」

「悪い……」

「あ、播磨くん」

「俺から呼び出したのに、待たせちまって悪いな」

「ううん、気にしてない。それで、用ってなに」

「実は」

 いつになく真剣な表情。

(来るか……!)

「勉強を」

「?」

「勉強を教えてほしいんだ」

「へ……?」

「こんなこと、他に頼めるやつがいねえ……」

「はあ……」




   * 


336年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:51:15.85GEEMDRZko (35/51)



 校内の図書室。

「ねえ、澪ちゃんは今日はいないの?」

 テスト期間中にもかかわらず、まったくやる気のない様子の唯が言う。

「ああ、なんか用があるとか言って、帰っちまったな」律は問題集を見ながら答えた。

「そうなんだあ」

「唯。ちゃんとやらないと、また追試食らうぞ」

「うーん」

 律の注意にも関わらず、唯のやる気は出なかった。




   *



 秋山家――

 人に見られたくないという播磨の希望により、澪は自宅で勉強するという選択をする。

「本当にいいのかよ」

 遠慮がちに播磨は言う。

「だ、大丈夫だから」

 帰り際、澪は自分の携帯電話で家に連絡を入れておいた。

 反対するかと思っていたら、澪の母親は快く承諾してくれたので、そのまま家に連れてくることに
したのである。

「た、ただいま」

「お、よく帰ってきたな」

「ママ……」

 なぜか、玄関前で腰に手を当てて出迎える澪の母。

 いつから待ち構えていたのだろうか。

「やあ、キミが播磨くんか。澪からいつも話を聞いてる」

「ちょと、マ……! お母さん」

 いつものように「ママ」と呼んでしまいそうだった澪は(すでに呼んでいるけど)、

とりあえず播磨の前では「お母さん」と呼ぶように修正する。



337年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:52:40.17GEEMDRZko (36/51)


「はっはっは。私が澪の母だ。よろしく。気軽に“お義母さん”と呼んでもらっても構わない」

「全然気軽じゃないよ! 思いっきり重いよ! というか、初対面の人に何言ってるの!」

「いや、すまない。澪が家に男の友達を連れてくるなんてはじめてだから、私もついうれしくなってな」

「はあ、そうなんっすか……」

 播磨は反応に困っているようだ。

「まあ、とりあえずあがりたまえ」

「し、失礼します」

「播磨くん、こっち」

 これ以上、播磨と母親を一緒にいさせたら、何を言い出すかわからない。

 そう思った澪は、速攻で播磨を自分の部屋に連れて行こうとするのだが、

「ご、ごめん。ちょっと待って」

 部屋の片づけをしていないことを思い出してしまう。

「どうしたのだ、澪」

 再び母登場である。

「なんでもない」

「部屋の片づけなら問題ないぞ。ウィ○パーはちゃんと隠しておいたからな」

「おおおおお母さん!」

 顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。

「いやいや、年頃の子供の部屋には、人に見られたくない物の一つや二つ、あるものだ。
なあ、播磨くん」

「はあ……」

「もう! 播磨くんに話を振らないで!」

「澪も私に似てナ○キン派だからな。貸し借りができて助かっている」

「サラッと何言ってるのよ!」

「最近のは性能がいいから、多い日もサラッサラ」

「まあああああまああああああああああ!!!」




   *



338年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:55:28.64GEEMDRZko (37/51)


「はあ、はあ、はあ……」

 ドッタンバッタンの末に、播磨と澪は部屋に落ち着いた。

 いつもは軽く流している母親の言動だが、この日だけは許されない。

「ご、ごめん。播磨くん」

「なんで謝んだ?」

「マ……、じゃなくて母さんが、色々失礼なこと言ったみたいで」

「いや、別に失礼だとは」

「そうかな」

「しかし、お前ェとお前ェの母さん、やっぱ似てるな。特に声とか」

「声はよく言われる。でも性格は全然似てないけど」

「なんか学校だと大人しいイメージがあったから、あんなに叫ぶ秋山はちょっと意外かもな」

「んぐ……。そ、そんなことより」

「ああ、勉強か」

 色々あったけど、まずは勉強である。それが彼の目的のはずだ。

 テストも近いし、自分の勉強もしなければならない。

「数学の範囲はここからここまで、特に重要なのは」

「なるほど……」

 出来の悪い子を教えるのは唯で慣れている。

 播磨は、唯と同じくらい頭がよくないけれども、彼女と違ってやる気があった。

「ここ、違ってるよ」

「悪ィ」

 先ほどまで高まっていた興奮が、少しずつ覚めてくる。

 冷静になって考えてみると、急に恥ずかしくなってきた。

(私の部屋に、男の人がいる……)

 最近は自分の父親ですら入れたことがないのに。

「ひっ!」

 不意に部屋がノックされる。


339年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:57:07.64GEEMDRZko (38/51)


 そして、部屋のドアが静かに開けられた。

「おやつだ、澪」

「もう、お母さん……!」

 先ほどの反省もあって、少し声を潜める澪。

「そうだ、播磨くん」

「はい?」

「キミにはこれを渡しておこう」

 そう言って母は播磨に黒い箱を差し出す。

「なんっすか?」

「どうも、ウチのパパには大きすぎるのでな、よかったら使ってくれないか」

 箱の表面には、『XL』という文字と北斗の拳のラオウの絵が描かれていた。

「どりゃあ!」

 澪は、その“アレ”が入っている箱を握りつぶさん限りに持って部屋の外に放り投げる。

「ああ、勿体ない」

「何出しとるかあ!」

「あまり興奮するな澪。生理が遅れるぞ」

「お、お母さん? 邪魔しにきたの?」

「いや、むしろ協力しに来たわけなのだが」

「お母さん」

「播磨くん、娘をよろしく頼む」

「早く出て行って!」

「ついでに私のこともよろしくたのむぞ」

「んもう……!」

 母のはしゃぎっぷりに、澪はいつも以上に疲れたのであった。
  




   *


340年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:59:21.48GEEMDRZko (39/51)


 しばらくすると、母の来襲もなくなり、播磨はおとなしく勉強をしていた。

 体育祭の時もそうだったけれど、播磨は実は真面目なんだな、と澪は思うようになっていた。

「なあ、秋山」

 勉強をしながら、不意に播磨が話しかけてきた。

「え?」

「ちょっと聞きてェんだが」

「なに? わからないところ?」

「ああいや、そうじゃなくて」

「うん」

「なんでお前ェ、男が苦手なんだ?」

「それは……」

「ああ、悪ィ。言いたくないことだったか」

「いや」

 ふと、澪は何かを決意する。

「聞いて」

「ん?」

「中学校の時なんだけど、私、学校の先生にいやらしいことをされた。もちろん、律が助けてくれて、
大事には至らなかったんだけど」

「そうなのか。田井中のやつ、いいところあるな」

「律には助けられっぱなし。でも、それが原因で男の人が怖くなって……」

「そうだったのか」

「……うん」

「俺とは普通に話をしているように思うが」

「それは、よくわからないけど。播磨くんは、特別なのかな……」

 そう言うと澪は再び顔が熱くなるのを感じる。

「男の人は、今でも怖い。話くらいは、普通にできるようになったけど、それでもちょっと……」

「そうか」

「ダメだよなあ、このままじゃ」


341年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 20:59:57.12GEEMDRZko (40/51)


「いや、でも世の中悪い奴も多いからな。警戒したほうがいいだろうよ」

「そう、なのかな」

「だけどよ、悪いやつも多いけど、いいやつも多いんだ。田井中みたいに。そう思うと少しは安心だろ

う?」

「そうだね」

「あのよ……」

「なに?」

「まあもうし、田井中とかがいないとき、困ったことがあったら」

「え?」

「俺が助けてやるよ。できることなら」

「……!」

「べ、勉強教えてもらった礼もあるからな。俺は、借りは作らん主義だし」

「播磨くん……」

「ん?」

「ありが――」


 バタンッ!!


 その時、急にドアが開いてプラスチックのコップを手に持った母が倒れこんできた。

「ママ!?」

 どう見ても、盗み聞きをしていた姿である。

 だが、

「播磨くん」

「え、はい」

 娘は怒り心頭だが、母は動じる素振りもない。

「澪をよろしく頼む」

 そう言うと、澪の母は親指を立て、軽く片目を閉じた。




   つづく



342年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 21:01:49.40GEEMDRZko (41/51)

 久々の大量投下で疲れた。

 でもあとちょっとだ。ここまで読んでくれた方、ありがとう。ラストスパート!


343年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 21:02:26.94GEEMDRZko (42/51)




   第六話 人の噂も七十五日?

 うっとおしい雨の季節も終わりと告げようとしていた

 季節はもうすっかり夏だ。

 一学期という時期は本当に早く感じる。

「夏休み、楽しみだな。澪」

 田井中律は、隣を歩く親友の澪にそう話しかける。

「そうだな。それより、テストのほうは大丈夫か?」

「あたしは問題ないけど、唯がねえ……」

 ふと、律の視界に見覚えのあるガタイの大きな男子生徒の姿が目に入った。

(播磨だ)

 そう思った律は声をかけようとする。

 しかしそのとき、

「播磨くん」

「え?」

「おはよう播磨くん」

「おう、おはよ」

 律よりも先に声をかけたのは、なんと澪のほうだった。

 男嫌いで有名だったあの澪だ。

「調子はどうかな」

「ん、まあまあよ……」

 決して無理しているという感じではなく、自然に話しかけている。

(随分仲良くなったもんだな)

 ふと、律は友人との距離が遠くなったような気がした。

「律?」

「ん?」

 澪が振り返り、こちらの様子を見ている。

「どうした」

「いや、なんでもない」

 そう言うと律は早足で播磨の隣に行き、彼を挟むようにして一緒に学校へと向かった。

 



   *



344年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 21:03:34.63GEEMDRZko (43/51)




 期末テストのほうは、秋山澪の教育もあってなんとか無事に乗り越えられそうな播磨。

 そんな彼は、最近妙な噂を耳にするようになる。

 もともと世間の評判など気にするタイプではない播磨だが、夏休み前の浮ついた雰囲気の中で、
その噂は決して看過できる物ではなかった。

 なぜならその噂とは、

《播磨拳児と秋山澪が付き合っている》

 というものだったからだ。

(冗談じゃねェぞ。そんな噂が出ちまったら、きっと唯ちゃんは――)


『播磨くん。澪ちゃんと付き合ってるんだね。お幸せに、オヨヨヨ……』


(こんな風になっちまうじゃねェか!)

 そう考えると、彼は少しばかり焦ってきた。

 教室に向かう途中、妙な視線に気づく。

「あの人が秋山さんと?」

「ウソー」

「でも不良っぽい人がモテるって聞いたし」

 彼の地獄耳センサーがいくつかのヒソヒソ話をキャッチする。

(こりゃ本格的にマズイな)

 高校生、特に女子生徒は噂話が大好きだ。

 それが恋愛関係となればなおさら。



345年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 21:05:17.33GEEMDRZko (44/51)


「播磨くん?」

「うおっ!」

「どうした」

「いや」

 目の前に、教科書やノートを抱えた秋山澪の姿があった。

「それより、次の授業は教室移動だぞ」

「そうか」

「あの……、一緒に行かないか」

「ん? 田井中は?」

「律は選択している授業が違う」

「お、そうか。わかった」

 ここで澪に対する態度を変えたら、周りから露骨に怪しまれてしまう。

 そう思った播磨は、努めて平静に、いつも通り行動することにした。

 それでも頭の中では、事態の打開策を練る。

(女子は女子で、情報のネットワークみたいなものを持ってるはずだ。

 そこに俺のような男子生徒は割って入れねェ。

 ということは、この噂の“根本”を、誰かに切ってもらう必要がある)

 播磨にしては珍しくまともなことを考える。

(だとしたら秋山はダメだ。噂の張本人だし、何より性格が控えめすぎる)

「ん? どうした。私の顔に、何かついてる?」澪はそう言って顔を伏せる。

「ああ、いや」

(となれば、頼める人間は一人しかいねェ)

 播磨は、一人の女子生徒の顔を思い浮かべた。




   *


346年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 21:06:28.08GEEMDRZko (45/51)


 その日の昼休み、律は播磨から屋上に呼び出されていた。

(播磨のやつ、話ってなんだ……)

 初夏の日差しの中、青い空を眺めながらぼんやりと考える律。

(澪と付き合ってるって噂もあるし、その辺も聞いてみたいな。でも、本当に付き合ってたら……)

 不意に胸が痛む。

(なんだよ。澪のやつもまんざらでもないようだし、別にいいじゃねえか。そりゃ、ちょっとは寂しいけどよ)

 そんなことを考えていると、播磨が現れた。

「すまねェ、待たせたな」

「お、おう……」

 律は平静を装う。

「それで播磨、話ってなんだ?」

「実は噂のことなんだ」

(来たか……!)

 律は心の中で身構える。

「俺と、秋山が付き合ってるんじゃねェかって噂」

「ああ、知ってるよ。まあ、澪本人はそういう話に疎いから、まだ知らないと思うけど」

「やはりか。それでな、その噂は」

「本当に付き合ってるのか?」

「ち、違う」

「ん?」



347年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 21:07:39.38GEEMDRZko (46/51)


「俺と秋山は付き合ってねェ。そのことを、お前ェからほかの女子にも話してほしいんだ」

「そうなのか」

 律は、今まで身構えていた分、身体の力が抜けてしまう。

「借りは作らないんじゃなかったのか?」

「この際しかたねェ。緊急事態だ」

「ほほう」

 安心した律は、自分のペースを取り戻しつつあった。

「でもさあ、播磨」

「あン?」

「澪はいい女だぜ? 付き合ってもいいんじゃねえのか?」

「いや、まあ確かにアイツはいい奴だと思うけどよ」

「だったらそのまま付き合っちゃえよ」

「バカ言うな。秋山が迷惑するだろう」

(鈍いな……。相変わらずか)

 ふと、律はそんなことを思う。

「澪じゃ、ダメなのか?」

 調子に乗った律は、墓穴を掘るのも覚悟で突っ込んでみる。

「別に、そういうんじゃねえ。秋山はいい女だと思うぞ。だが、付き合うとか、好きとか、
そういうのは違うんじゃねェのかと」

「どうして」


348年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 21:09:28.97GEEMDRZko (47/51)


「そりゃ、俺には……」

「ん?」

「他に好きな奴がいるんだよ」

 播磨は顔をそらし、少し照れながら言った。

 律はこんな播磨を見るのが初めてだったので、少し、いや、かなり新鮮な気持ちになった。

「その、お前の好きな相手って」

「言えるわけねえだろう!」

 播磨は語気を強める。

 この時、律の脳内にあるコンピュータが少々オーバーヒート気味に計算を始めた。


 播磨と澪は付き合っていない→それをわざわざ自分に言う→播磨には好きな相手がいる→その相手は……


(まさか、アタシ?)


 興奮のためか、律の思考回路が少し、いやかなりぶっ飛んでしまったようだ。

(いや、確かに播磨とは幼馴染だし、よく知ってるし、一緒に雷魚やナマズ釣りをした仲だし。

そりゃ、播磨のことは嫌いじゃないよ。でも……)

「ん?」

 改めて播磨の顔を見ると急に恥ずかしくなってきた。

「そ、そりゃあアンタのことは嫌いじゃないから、その」

「何言ってんだお前ェ」

「急にそういう風に考えろって言われたら、それは無理があるというか」

「グズグズしてたら夏休みになっちまうだろうが」

「まあ、夏休みに色々と話をすりゃあいいのかな」

「おい、田井中」

「はひ!?」

「大丈夫か。暑さでやられたか」


 その時、


349年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 21:11:20.83GEEMDRZko (48/51)


 物凄い勢いで屋上の階段室のドアが開かれた。

 驚いた二人は、一斉にそちらの方向をみる。

 すると、そこには栗色の長い髪の毛の少女が立っていた。

 赤い髪留めが妙に印象的なその女子生徒のことを、律は知っている。

(確か生徒会の……)

 よく見ると、彼女の後ろには十数人の女子も続いていた。

「二年生の播磨拳児くんね」

 鋭い目つきの女子生徒が言った。

「何だお前ェら」

 播磨は訳が分からない、という顔をしていた。

「私は秋山澪ファンクラブ、会員番号一番、曽我部恵!!」

 ワ○ピースとかだったら、後ろに「ドン」という文字が見えてきそうなほどの堂々とした自己紹介である。

「はあ?」

「秋山澪に近づく悪い虫は、我々が排除する!」

「な……!」

「かかれー!」

 曽我部の合図で、一斉に襲いかかる女子生徒軍団。

「澪先輩に近づくな、このクズムシー!!」

「捕まえて!」

「何だお前ェら!!」

 その勢いに播磨は逃げ出す。

「え、あの、ちょっと……」

 そして、しばらくすると屋上には律一人だけポツンと残されていたのだった。

(播磨のこと、もう少しちゃんと考えてやらないといけないな)

 ついでにややこしい勘違いも残していた。





   第一部 完


350年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 21:14:01.66GEEMDRZko (49/51)

 ちなみに、澪と播磨は日本史、律と唯は地理を選択しております。


351年末スペシャル ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 21:19:56.00GEEMDRZko (50/51)


   ☆お願い☆

 年末スペシャル、ご覧いただきましてまことにありがとうございます。

 本編が鬱展開なだけに、明るい話が書けて自分としては良い気分転換になりました。

 さて、年末スペシャル、いかがだったでしょうか。

 今回、三本ほど投下させていただきましたが、いずれも趣向を変えてみたつもりです(特に二本目)。 

 みなさん、どのお話がお気に入りだったでしょうか。

 今後の参考のため、ぜひお聞かせください。

 楽しかったよ、と思えた作品がありましたら、以下の作品番号をこのレス番号にレスしていただければ
光栄です。


 
 1.『帰ってきた変態仮面 ~学園都市奮闘編~』

 2.『江頭2:50VSアイドルマスター』

 3.『はりおん! ~播磨拳児はうんたんに恋をする~』

 4. その他(過去作品など)



 厚かましいようですが、以下のような感じで書いてくれると非常にうれしいです。

※例

(作品番号)
  1

(ご意見、ご感想、ご要望など)

 変態仮面大好きです。でも、もっと黒子の活躍が見たかった



 なお、年末スペシャルに関するアンケートは、今後の参考にさせていただきたいので、
このスレが続く限り受け付けております。

 それでは、良いお年を。

 ※ 『はりまど』はまだ続きますよ


352 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/25(日) 21:24:06.49GEEMDRZko (51/51)

 ああ、キツかった。

 年末スペシャル終了です。スペシャルの播磨のほうが、よっぽど播磨っぽいですよね。

 三段論法みたいな単純な思考とか。

 明日以降はまた、チマチマ投下に戻したいと思います。今回は、日曜日だったことと、

安価系のスレと投下時間がかぶってしまったので余計にキツかった。

 サーバくん、ごめんよ。

 では、おやすみなさいませ。


353SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/25(日) 21:24:43.80O354lZlvo (1/1)




354SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/25(日) 21:33:49.40XqYQh9GQ0 (1/1)

3かなー
スクランっぽいラブコメ風だし、続きを読んでみたい!
もちろん、1、2も面白かったです!


355SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/25(日) 21:40:33.89ipfs+p3G0 (1/2)

3
エガちゃんが出てきた2も捨てがたいのですが、
播磨らしい3を推させてもらいます。


356SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/25(日) 21:41:00.01ipfs+p3G0 (2/2)

3
エガちゃんが出てきた2も捨てがたいのですが、
播磨らしい3を推させてもらいます。


357SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/26(月) 02:39:30.502PDkcyvAO (1/1)

3かな?続きが気になりすぎる
最終的にほぼ全員とフラグ立ちそうだなw
関係無いけど平沢と表記されると我が愛しのおっさんが脳裏にフラッシュバックしてしまう

でも2もかなり良かったんだよなー
エガちゃんが凄くエガちゃんなエガちゃんだったからやっぱエガちゃんは最高だった


358SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/26(月) 02:53:03.50Uq9skTmAO (1/1)

3だろ
けいおんならスクランとコラボしやすそう


359SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/26(月) 03:16:40.42LnOa7pnDo (1/1)

3
2のエガちゃんも最高に面白かったけど
3はスクラン的ラブコメのおもしろさが詰まってた


360SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/26(月) 06:11:34.81eZP5WQbS0 (1/1)


新しいスレ立てていいんじゃね?


361SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/26(月) 07:30:58.58zIk2pZSAO (1/1)

3人気過ぎワロタ。
やはりスクランといえばラブコメか。


362 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/26(月) 20:46:11.50o0KlkSZjo (1/10)

 みんな簡単に言うけどさ、けいおんとのコラボは結構苦しいんだよ。

 この先どうすりゃいいんだよ。乱立したフラグが倒れて大変なことになりそうだよ……。


 はい、愚痴はここまで。

 本編続き行きますよ。


363 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/26(月) 20:51:47.88o0KlkSZjo (2/10)

>>254
 以下はここからの続きです。


364 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/26(月) 20:53:12.45o0KlkSZjo (3/10)

   ☆

 まどかの部屋は静かだった。

 わずかに、時計の音が耳に響く。

 泣き続けるまどかを、播磨は何も言わず抱き続ける。

 まどかの持つ熱いくらいの生命を、彼は身体全体で受け止めていた。

 そえからどれくらい経っただろうか。数十分くらいかもしれないし、数秒かもしれない。

 まどかの甘い香りに最初のうちは心拍数が上がりっぱなしだった播磨も、
少しずつ落ち着いてきた。

 するとまどかのほうも落ち着いてきたらしく、そっと播磨から身体を話す。

 熱い身体が離れて、ほんの少しだけ彼は寒く感じる。ちょうど、
冬の日にコタツから出たときのようなほんの少しの寒気だ。

「落ち着いたか」

「……うん」

 ズズッと、まどかは鼻をすする。

 播磨は目を逸らし、それを見ないようにした。

 これ以上恥ずかしいところを見ないようにしてあげようという、彼なりの気遣いだった。

「ごめんね、顔、洗ってくる」

 そう言うと、まどかは立ち上がり部屋を出て行く。

 播磨は彼女の部屋に一人残される。

 何もすることがないので、ふと窓の外を見ると、何かが通りすぎた。

(猫、ではないな……)

 白い、大きなシッポが通り過ぎるのを確実に見えた。

 少し前に見た謎の生物だ。播磨は、心の中でそう確信する。

 最近、あまり見ることはなかったけれど、彼の記憶にはしっかりとその姿は残っていた。





365 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/26(月) 20:53:39.73o0KlkSZjo (4/10)






   魔法少女とハリマ☆ハリオ

      #14 変 化









366 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/26(月) 20:54:25.60o0KlkSZjo (5/10)




 すっかり温くなったコーヒーを飲んでいると、まどかが戻ってきた。

「ごめんね拳児くん」

「構わねェ。それよりお前ェのほうこそ、大丈夫か?」

「私は大丈夫だよ」

「そうか」

 まどかはゆっくりと歩いて、播磨の向かい側の座布団の上に座る。

 心なしか、すっきりした表情になっているのは、やはり泣いたからだろうか。

 そんな風に播磨は思った。

「じゃあ、話すね」

「おう」

「信じられない話かもしれないけど、聞いて」

「ああ。この街には変な噂も多いし、今更驚かねェ」

「あの、魔法少女って知ってる?」

「はい?」

「あの……」

 播磨のリアクションにまどかが委縮したようだ。それに気づいた彼は取り繕う。

「いやいや、まあ、知ってるって言えば知ってるけど。カードを使ったりとか」

「この街にはね、魔法少女がいるの」

「……」

「絶望をまき散らす“魔女”という存在と戦う魔法少女」

「まどか……」


367 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/26(月) 20:55:11.42o0KlkSZjo (6/10)


「信じられないと思うけど」

「んなこと、いきなり言われても」

「そうだよね」

「もしかして、あの巴マミってやつも」

「うん、マミさんも魔法少女なんだよ。この街を守る」

「あいつが……」

 まどかの言うことは信じられない。

 だが、彼女の言うとおりだとすれば巴マミのあの不可解な行動も理解できる。

「夜中に出歩いていたのも」

「うん。マミさんはいつも、夕方から夜にかけて、魔女を狩るためにでかけていたの」

「何でお前たちがそれに」

「私もね、選ばれたんだよ。キュゥべえっていう生き物に」

「キュゥべえ……」

「うん。魔法少女を生みだす生き物なんだって。彼が魔法少女になれる才能のある
少女を選んで魔法少女を作る」

「……」

「ねえ、拳児くん」

「ん?」

「いつだったか私、願いごとについて聞いたことがあるよね」

「そうだったな」

 ショッピングモール内にあるオシャレなカフェで聞いたことがある。

「キュゥべえは言ったんだ。何でも願いを叶えてくれる。その代わり、魔法少女になって
魔女と戦わなければならないって」

「それで、お前ェはあんなことを」


368 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/26(月) 20:55:52.35o0KlkSZjo (7/10)


「……うん。でも、私には叶えたい願いなんて、よくわからなかった」

「そうなのか」

「でも私は、皆のために戦っているマミさんが凄いと思っただけなのかもしれない」

「凄い?」

「うん。あの、二月に起きた集団自殺の件は知ってる?」

「ああ、建設中のビルの屋上から五人くらいが飛び降り自殺をしたっていう」

「あれも魔女の仕業なんだって」

「なに?」

「この地域には魔女が多いから。先日も一人自殺したけれど。魔女は絶望をもたらすの。
自殺に至らなくても、障害や窃盗など、絶望感の中から犯罪を発生させるって聞いたの」

「絶望」

「だから、その絶望を生みだす魔女を倒すために、マミさんは頑張っていたんだけど」

「……」

「でも、あの病院でマミさんは……」

 ここでまどかは再び言葉を切る。

 状況はよくわからないが、マミはあの病院で魔女と戦い、そして死亡したのだという。

 まどかの話はにわかに信じられなかったけれど、それならば巴マミの死因が
よくわからなかった理由も、納得できないことはない。




   *



369 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/26(月) 20:56:38.85o0KlkSZjo (8/10)


 
 帰り途に、播磨は歩きながら考える。

 魔法少女なんて漫画の中だけだと思っていたのに、まどかの口から出てくるのは、
まるでファンタジー世界のような話だ。

 しかし、彼女がウソをついているようには思えない。

 必死に隠し続け、そしてこの日、絞り出すように口にした告白がウソだとすれば、
もはや播磨にはどうすることもできないだろう。

 魔法少女。

 魔女を狩る者。

 何か一つ、願いごとをして、その代償として魔法少女になり、魔女と戦う。

 魔女は絶望をまき散らす存在で、そのせいで人々は自殺や他殺、それに犯罪などに
手を染めてしまう。

 まどかの話をまとめるとそういうことなのだろう。

 巴マミは魔法少女であり、それゆえに死んだ。

 こんなもの、警察が発表できるはずもないし、ましてや新聞が報じたら東ス○扱いされてしまう。

 だからこそ、謎に満ちた事件として処理されてしまうのだろう。

 この街に、不可解な事件が多かったのはそのためなのか。

 ではどうすればいいのか。

 播磨は魔法少女ではないし、魔女も見ることはできない。

 まどかはマミの死にショックを受けている。

 この先、一体どうすればいいのか。

「くそっ」

 どうせ何もできないなら、知らないほうがよかった――

 まどかのその言葉が、播磨の心の中にジワジワと沁み込んでくる。



   つづく


370 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/26(月) 20:58:59.80o0KlkSZjo (9/10)

 今日はこれでおしまいです。すごく少ないですね。

なお、>>352のアンケートはまだ受け付けておりますので、遅レスとか気にせずどんどん書き込んでください。



371 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/26(月) 21:00:07.33o0KlkSZjo (10/10)

レス番間違いました。
アンケートは>>351が正しいです。

すいません。



372SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/26(月) 21:27:29.40N4vet+Muo (1/1)

3に投票させてもらおう
エガちゃんも好きだけどそれ以上に播磨が好きだからね
てか、「はりおん」は別スレで立てて欲しいくらい面白いわ


373SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/26(月) 22:58:15.36s0Rudkzl0 (1/1)

4
前スレの孤独のグルメがヨカタよ。
所々の小ネタもさることながらちゃんと孤独のグルメと上手く
クロスしているのが面白い!
思わず文庫版を買ってしまった。


374SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/26(月) 23:17:50.88d1pnYKtx0 (1/1)

うん、いや、これは3でしょ
播磨はラブコメでこそ輝くんだ
下手なシリアスよりは全然いい
あ、はりマドが面白くないってわけじゃないでーす



375GUNMAR2011/12/27(火) 01:08:04.91X0z6nqA90 (1/1)

3です。
俺けいおん知らないけど面白かった。

次点で4
但し群馬に来て焼きまんじゅうに餡子が入ってるのは残念
あと、讃岐うどん強すぎ 水沢うどんを忘れないで下さい


376SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/27(火) 12:39:16.71rW2lCMxTo (1/1)

>>372と全く同じことを書こうとしていた 3に投票
両方とも楽しく読ませてもらいましたが短編としてよいのがエガちゃん
連載でじっくり見たいと思ったのがはりおんでした


377SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/27(火) 16:42:58.92OxYzGjsAO (1/1)

ハリおんの場合は憂が八雲になるのか?それとも澪?いろいろ気になるから是非書いて欲しい


378 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/27(火) 21:28:50.280y7Thqnno (1/12)

 スペシャルの感想、ありがとうございます。
 はりおん! の続きについては随時検討中にございます。

 それでは、#15スタート


379 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/27(火) 21:29:16.160y7Thqnno (2/12)


 まどかの認識する世界は播磨にとっては、全くの別世界であった。

 別の世界にいる自分にはまどかを救うことができないのか?

 播磨は考える。

 だが答えなど出てくるはずもない。

 彼は考え込むのは苦手だった。

 ゆえに行動する。

 自分が正しいと思ったことを。

 それが例え、間違った選択だったとしても、“選ばない”という行為は許されない。


   *


「お、おはようまどか」

 朝の鹿目家。

 そこには播磨拳児の姿があった。

「拳児くん! どうして」

「学校、行こうぜ」

 辛いできごとがあった時だからこそ、日常生活を守る。

 誰かからそう教えられ気がした。



380 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/27(火) 21:30:10.170y7Thqnno (3/12)





   魔法少女とハリマ☆ハリオ

       #15 支 え







381 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/27(火) 21:30:48.890y7Thqnno (4/12)



 学校までの道のりを、まどかと播磨は並んで歩く。

 もちろん播磨は高校へ、まどかは中学校へ行くので、途中で道は別れてしまう。
それでも彼は、一緒に行こうと言った。

「……」

 まどかは重い足取りで歩く。

 本当なら、家で寝ていたい気持ちだろう。それは播磨も同じだ。

 しかし、そんなことをしていたら、本当に外に出られなくなってしまうかもしれない、
と彼は思った。

 沈黙の時間。

 お喋り好きな年頃であるまどかが、ほとんど喋らない。

 播磨のほうは、それほど喋りが得意というわけではないので、どういう話をしていいのかわからない。

 ただ、そんな沈黙の時間も彼にとってはそれほど苦痛ではなかった。

 沈黙に慣れている、というわけではなく、まどかと一緒にいれば黙っている時間もそれなりに
安心していられるからだ。

「朝メシ、ちゃんと食ったか?」

 ふと、気がついた播磨はそんなことを聞いてみた。

「……うん」

 まどかは頷く。

 すると今度は、まどかのほうから声をかけてきた。

「拳児くん」

「ん?」

「……ありがとう」

「おう」



382 ◆tUNoJq4Lwk2011/12/27(火) 21:31:11.900y7Thqnno (5/12)

 短い会話だった。

 けれども、今の自分たちにはそれで十分なのかもしれない。播磨はそう思った。

 しばらく歩くと、見覚えのある姿が目に入る。

「おはようございますまどかさん。あら、今日は殿方のエスコート付きですか?」

 少し癖のあるウェーブがかった髪の毛、そしてどこか間の抜けた声。

「ええと、お前ェは確か、上条のとこの……」

「はい、志筑仁美です。ごきげんよう、播磨さん」

「拳児くん、仁美ちゃんと知り合いだったんだね」まどかは播磨のほうを見て言う。

「ん? ああ」

「あれ? さやかちゃんは」

 そして周囲をキョロキョロと見回すまどか。

「さやかさんは先に学校に行くと連絡がありましたの」

「え?」

 ふと、まどかの表情に影が差す。

「まどか」そんな彼女に播磨は声をかける。

「なに?」

「お前ェが迷惑じゃなければ、帰りも迎えに来ていいか」

「拳児くん……」

 まどかは少し顔を伏せると、不意に笑顔を見せた。

「私は、大丈夫だよ」

「そうか」

 状況は何一つ変わっていない。

 ただ、まどかの気持ちが少しでも前向きになってくれればそれでいい。

 播磨はそう考えつつ、自分の学校へと向かった。



   *