583 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 21:30:45.88/i08EZMAO (29/43)

車掌「あれ?前にもお客さんきたことあるんですか?」

男「はい?」

切符を受け取り確認しながら若い車掌は言う。

車掌「二、三年前に亡くなりましたよ、彼」

女「え?」

車掌「変に抜けてて面白い人だったんですけどねぇ」

そのままスタスタと行ってしまった。

男「……」

女「……」

男女「なにそれ怖い」


584 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 21:35:12.11/i08EZMAO (30/43)

ボックス席に座り、窓の外を眺める。
白い世界が広がり、あの惨劇などなかったようだ。

男「……気かがり、だったんでしょうか」

女「かもね……」

トンネルに入る寸前。

女「あ」

男「あ」

帽子を脱いで一礼したあの老車掌がいた。
その隣には、美しい二十歳ほどの女性が。

その姿は、誰かをそのまま大きくさせたようで。

女「あの人、まさかオミナちゃんの―――」

立ち上がってよく見ようとした時にトンネルに入った。


585 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 21:40:58.06/i08EZMAO (31/43)

男「……」

女「……」

無言。

女「夢みたいだったわ」

男「だったら良かったんですけどね」

女「ええ」

男「先輩」

女「なあに?」

男「もうこれから先、今回についてお互いに話さないと思います」

女「そう、ね」

男「だから、今のうちに聞いていいですか?」

女「いいわよ。何かしら」


586 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 21:41:49.39/i08EZMAO (32/43)

男「嫌なら、答えなくてもいいです。聞くだけ聞いてください」

女「ええ」

男「ああなると分かっていたんですか?」

女「…ああなるとは?」

男「彼女、エリザートが自ら死を選んだこと。俺には――」

数秒黙り。

男「『死ぬ』という選択肢しかないから死んだ、そういう風に感じられます」

ポワソンは目を伏せる。

女「つまり」

女「つまり、私が彼女を追い詰めたのではないかと」

男「……はい」

ふう、と彼女は息を吐く。



587 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 21:50:09.79/i08EZMAO (33/43)

女「どうする?私が彼女を追い込み炎を纏わせ殺したなんて言ったら」

男「訂正ですよ、先輩。エリザートは“自殺”です」

男「あなたは人を殺していない」

女「どうかしらね……あれ、わざとなのよ」

男「何がですか?」

女「自殺という選択肢を提示したこと」

男「でしょうね」

女「本当は、警察のほうを選ぶかと思ったんだけどね――」

女「――刑務所に行けばひとりになってしまうことぐらい、分かってたのね」

男「だからあえてあそこで死んだ、と」

女「自分で殺した子たちもいたからね……そして一緒に燃えた」


588 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 21:55:05.44/i08EZMAO (34/43)

男「……あの執事もどき二人はどうなるんですかね」

女「前科もちでしょ?…まあ、無期か死刑かしらね…」

男「やっぱそうですよね」

女「なによりあなたも捕まらなくて良かったわね。ボキボキ骨折ったから」

男「トレフ…オミナが証言してくれたんで、正当防衛ということで」

女「良かったわね」

男「全くです」

女「……」

男「……」

女「話、戻るけど」

男「はい」

女「間接的に、私はあの人を殺した」

男「……」

女「それでもあなたは私を好きでいてくれるかしら」

男「先輩が離れてくれといっても俺は離れませんよ。大好きですから」


589 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 21:55:37.65/i08EZMAO (35/43)

女「……ふふ」

男「はは」

女「私たちも、だいぶ歪んでるわね」

男「そうですね」


590 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 22:01:04.35/i08EZMAO (36/43)

-2ヶ月後、探偵事務所-

同僚「すごい。未だにあの事件は一時間で五スレ行く勢いだ」

所長「いや、仕事してね?お願いだから」

女「はぁ……やめてよもう。思い出したくないんだから」

同僚「あ、ごめんね…」

所長「君も漫画読まないでね?泣くよ?」

男「まあPTSDがない俺たちも俺たちでかなり異常ですけどね」

女「むしろ私は過去のPTSDがやばかったわ」

所長「君もエロゲしないでね?犯すよ?」

男「やめて下さい」




591 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 22:04:36.08/i08EZMAO (37/43)

同僚「そう言えばカルネ君は今日くるんだっけ?」

女「うん。なんかおばさんから和菓子もらったらしくて」

女「なんだっけ……洋館?」

男「羊羮ですよ、先輩」

所長「あともう一人お客さんが来るんだよね。あの時の子」

女「うん。来たいっていうから」

男「こんなとこ来ても面白くないだろうに…」

女「閑古鳥鳴いてるしね」

所長「ぼくも泣きそう」


592 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 22:11:07.96/i08EZMAO (38/43)

―――

少女が一人、キャリーケースを引きながらあたりを見回していた。
名刺を見ながら、一歩進んでは止まり、一歩進んでは止まる。

側を歩いていた青年は、それに気付いて声をかけた。

女弟「どうかしました?」

少女「あの、ここ行きたくて……」

女弟「あれ?姉さんの名刺だ」

少女「そうなんですか?」

女弟「うん。僕もそこ行くから、いっしょに行こうか」

少女「お願いします」

女弟「もしかして、トレフルとかオミナって子?」

少女「はい。オミナといいます」


593 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 22:17:21.81/i08EZMAO (39/43)

女弟「オミナちゃんか。僕はカルネ」

少女「ポワソンさんはお姉さんなんですか?」

女弟「そうだよ。迷惑かけなかった?」

少女「むしろ助けられました!だから、改めてお礼にいいにきまして」

女弟「いい人すぎて涙が」

金色のロケットが少女の胸元から覗いて日の光にきらりと輝いた。

それを見ながらカルネはふと思い出す。

女弟(オミナ…。確かオミナエシの花言葉は『忍耐』)

女弟(トレフルはええと…テレビで見たことあるんだよな)

女弟(あ、思い出した。クローバーだ。クローバーの花言葉は――)



594 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 22:24:35.86/i08EZMAO (40/43)


――例えば。

もしもポワソンやシュヴァインが来なかったなら。

彼女が孤独に戦うことになっていたのなら。

姉を手にかけたという確かな事実をもしもポワソン達に会う前に入手していたなら。

どうなっていたのか。


オミナは、ただ本当に姉を探しに来ただけなのか?


そう言われると彼女も恐らく口ごもるだろう。

オミナは、死ぬ覚悟のほかにもう一つの覚悟をしていた。

そしてそれを偽名に込めて、エリザートの前に立った。

その意味は


595 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 22:25:01.57/i08EZMAO (41/43)




『復讐』。






596 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 22:25:39.76/i08EZMAO (42/43)



女「羊羮?」男「洋館ですよ、先輩」



――了


597 ◆Oamxnad08k2012/09/16(日) 22:27:03.68/i08EZMAO (43/43)

かなり放置をしましたし、最後駆け足で、肝心のロジックも無茶苦茶でしたけども

お付き合いありがとうございました。楽しかったです




598VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/16(日) 22:27:16.03vWUjres2o (2/2)

おつおつ



599VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/16(日) 23:15:56.10+TPPcgGDO (1/1)

おつ

いつかまたこの二人の話を読んでみたい


600VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2012/09/16(日) 23:21:58.13t1Oi9teuo (1/1)

乙!!

次はこの前の続きを期待


601VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/16(日) 23:45:42.545ccF8aCDO (1/1)

乙!!


602VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/17(月) 01:07:11.19nSVF/Fj7o (1/1)

今日見つけて一気読みしたわ



603VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/17(月) 01:25:01.23bQx6lPAAo (1/1)

終わりか
よく見りゃ始まってからちょうど一年経ってるんだな
>>1乙


604VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/09/17(月) 10:26:27.14++JJ7ZCvo (1/1)