336 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:35:37.309ZkBhKGK0 (5/23)



「一方通行は……大丈夫かな?」

様々な意味が含まれたような質問だが、隋一なのは一方通行の精神面での問題だ。
打ち止め、そして番外個体。
上条も『あの一件』に大きく関わった人物の一人だ。
その際、一方通行という人間の奥底を垣間見た憶えもある。
ロシアで奇跡的に遭遇した時も、グッタリと動かない打ち止めを抱えて咆哮し、そのやりきれない
想いのたけを見たことも無い力に変換させて攻撃してきた。

一方通行にとって、“あの少女たちが”何よりも代え難い存在なのは上条も充分に知っている。
だからこそ、その“存在”を逆手に取られてしまっている現状で、一方通行は自我を保っていられ
るのだろうか……。そこが最大の懸念要素だった。

「発覚した直後は危ない感じだったが……一応大丈夫だと思うぞ? 寧ろ、冷静すぎるのが却って
 不気味だった。多分、そんな次元も超越しちまってんだろうな……」

「一方通行は、先にその指定された場所へ向かったのか?」

「……いや。アンタを迎えに行ってる道中で襲撃を受けたんだよ。第一位がそいつらを相手にして
 くれたから、ここまで来れたってワケさ」

「そういうことか……。大丈夫かな、アイツ……」

「仮にも『頂点』だぜ? 俺らみてえな無能力者に心配されるタマじゃねえよ」

「だと良いけどな……。あとで合流する手筈になってるんだろ?」

「おう、俺たちは一足先に本拠地へ殴りこみだ。どうせ付近一帯は駆動鎧部隊が編成されて待ち構
 えてやがるだろうから、せめて“アイツら”が到着した時スムーズに進める様、入り口周辺の門番
 だけでも除斥しとかねえとな!」



337 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:36:17.889ZkBhKGK0 (6/23)



何やら浜面のテンションがおかしな方向へ進んでいる気がした上条。
あまり振れたくはないが、それでも確認しておかなければ不安な気持ちの方が勝ってしまい、結局
低腰な口調で伺う形となった。

「……一応訊いても?」

「何だ?」

「……勝算は?」

「んなモンは無ぇよ! 連中に、無能力者を甘く見たら火傷じゃ済まねえってことを教えてやる!」


「………………」


心なしか、車が更に加速したような錯覚を上条は味わった。



338 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:41:37.299ZkBhKGK0 (7/23)


―――


「加速した……!? ちょっ、ヤバッ……置いてかれちゃうわよ黒子!」


「ふっ、ご心配には及びませんわ! わたくしにお任せあれですの!」


テロ騒動の影響で『学び舎の園』近辺が生徒の安全保護を旨とし、一時的に教員を主軸とした厳戒態勢
が張られている中、

「それにしても、あの車……上条さんを連れて何処へ向かってるんでしょう?」

「そんなの、後を追ってれば分かるでしょ! もしかしたら『外』で駆動鎧集団を中心に勃発した事件
 と何か関連があるかもしれない……! 今は現場へ行くより、こっちの方が優先事項よ!」

「上条さんは一切無関係であると……断言しきれないのが惜しまれますわね」

「そういう事っ! 黒子も大分アイツの本質ってヤツが解ってきたみたいね」

地を単純に走るのではなく、滑空するような移動術で前方の乗用車を追跡する二人の女子中学生がいた。
気づかれない様、一定の距離を保つ。
遠すぎず、近すぎず、常にレーダーで捕捉しつつも引き離されすぎないように空間移動を駆使して調節
を繰り返す。
そんじょそこらの探偵や刑事など比にもならない尾行技術である。

互いの能力の長所を駆使し合い、少女たちは想いを寄せる少年の動向を追い続ける。



339 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:43:52.149ZkBhKGK0 (8/23)



白井黒子を背負う形で演算式を組み上げ続ける作業に没頭する御坂美琴。
その眼は真っ直ぐに向けられ、今回の件に何らかの関わりがあると推測される人物から遠のいてしまわ
ないように全意識を注いでいた。


ほんの数分前の事。


常盤台でも高位に属する少女たちが揃って事件発生現場へと足を急がせていた途中、
緊迫した空気を醸しながらツンツン頭の見慣れた姿が彼女たちの視界を横切った。


「――――!?」


美琴と黒子は殆ど似たような反応を見せ、学生服を着た少年の消えた方向へ目を奪われてしまう。
神経が、別の方へと逸れていくのも道理。

「……今のって……」

「か、上条さん!?」

「……よね。間違いなく……」

二人揃って見間違いなど、稀でも滅多に起こらない現象だ。

顔を見合わせ、一瞬で意思疎通を終えた二人は何の迷いもなく進路を変更する。
通過する予定だった曲がり角の向こうに、ほぼ全速力で走っている少年の後ろ姿が見えた。
そして、大通りの方を何やらチラチラと気に掛ける素振りを見せた後に立ち止まり、バスの到着でも
待っているかのような身振りで路肩に佇んでいる。



340 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:44:54.579ZkBhKGK0 (9/23)



そのあまりにも不審な光景に、美琴も黒子も“見過ごす”という選択肢は浮かばなかった。

「アイツ……あんな所で何やって……! 行くわよ、黒子!」

「は、はいですの!」

が、駆け出した二人に思わぬ障害が後方から突然襲い掛かった。


「――――黒子っ、危ない!!」


「――――ッ!?」


咄嗟に庇われる形で道路の隅へ飛ばされる。
美琴に横から飛び付かれて密着した状態で宙を水平移動したまま、黒子はほんの一瞬前まで自分達が
立っていた地点を猛スピードで通過していく小型乗用車の全影を視界に収めた。

運転手の方も動転していたのか、車のタイヤをギュルギュルと鳴らしながら左右に揺れ動いている。
おそらく美琴と黒子を轢いてしまわない様、回避に挑んだのだろう。
だが、無傷で済んだのは実質的に危険を俊敏に察知した美琴の功績と言える。

素早い動作で立ち上がった双方は、停車して謝罪に来ることもせずに走り去って行こうとする不躾な
車を路傍から睨むように眺めた。

「なによアイツ……。詫びのひとつも入れずにトンズラ? 信じらんない……」



341 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:46:03.999ZkBhKGK0 (10/23)



「同感ですが、車道に堂々と立っていたわたくし達にも非がありますわ。お姉様」

「そうだけど……せめて車停めて『大丈夫ですかー? 怪我は無かったですかー?』ぐらいは言って
 くれたって良いんじゃないの? あれじゃ殆ど轢き逃げよ」

「まぁ、確かに礼儀としては最低………!? お、お姉様!! あれ……」

「ん……? えっ? あんな遠くで停車……ってチョット!? あの馬鹿、車に乗り込んだわよ!?」

「……あの車、上条さんの御迎え用でしたの???」

「んなどこぞの御曹司みたいなオプションがアイツに設定されてるワケないでしょーが!! 何かの
 トラブルに巻き込まれてるって考えるのが自然よ! ……もしかすると、例の『テロ騒ぎ』が絡んで
 んのかも……!」

「っ! お姉様……。流石にそれは短絡的すぎでは……」

「黒子はアイツの『事件(の)渦中(に身を置く)率』を甘く見てるのよ! それともこんな非日常
 の最中に、偶然アイツの元へ別件が転がって来たとでも思うわけ!?」

「………うーん、そう言われると少し自信が無くなってきましたわ。それならまだ関連性を疑った方
 が賢明な気がしますの……」

「でしょう? ―――――あっ! 動き出したわ……!」

そうこう話している間に、ツンツン頭の少年を乗せた車は何の躊躇いもなく走行し始める。
テロが発生したと報告されている現場を目指していた少女達の心が迷う。

「………どうするの? 黒子」



342 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:47:34.189ZkBhKGK0 (11/23)



あくまで美琴は『黒子の付き添い』という名目で同行を買ったのだ。行く先は当然黒子の意思に委ね
られる。
が、黒子の決断は清々しい程に早かった。

「どうするって……決まってますわ。―――――上条さんを追いますの!」

「ふふっ、……よね。……そう言うと思ってたわ!」

美琴の顔にも、強い同調の思想が表れていた。
既にあの車体に搭載された発電機から流出している『磁場』は観測済みである。
後は単純に速度の問題だが……。


「気づかれない様、着座地点にも細心の注意を払いますの! お姉様、参りますわよ!」


「オッケー!!」


育ちの良いお嬢様学生二名による追尾行動はここから始まった。



343 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:48:41.669ZkBhKGK0 (12/23)



―――


「ほいほい、アドレス交換終了ーっと」

「……交換に応じといて何だけど、運転中にケータイ出してると警備員とかに見つかった時面倒だぞ?」

「そう言や、警備員の姿がどこにもねえな……。一方通行たちが渦中にいる以上、コッチとしては来ねぇ
 方が都合良いんだけど……」

「まさか、駅前の『巨大スクリーン』で報道されてた『テロ事件』って……」

「『テロ』程度ならまだ生易しいモンだ、とコメントしておく」

「…………」

上条当麻は助手席に座りながら暴れ回る学園都市第一位の姿を想像し、微かに身震いした。
運転席に座る浜面仕上はそれよりももっと恐ろしい光景を頭に思い浮かべてから蒼白した。

両者の理念は同一していた。
敵(駆動鎧集団)の方を悼み、手を合わせて拝む行為を同時にやったのが良い証拠である。

「……一方通行の方はひとまず置いておくとして、俺たちはこのまま正面からぶつかるのか? 相手の
 戦力がどれぐらいの規模かは詳しく知らないけど、上条さん的に些か無謀すぎるのではと思うわけなん
 ですが……?」

「内部にまで侵攻できれば上出来だが、当然それ相応の危険も折り重なってくんだろうな……。『能力』
 に一切頼れねえ俺たちが揃って飛び込んだところで、すぐ殺されちまうのが関の山だ」



344 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:50:00.589ZkBhKGK0 (13/23)



「ならどうするんだ? ……まさか、何の策もなしに特攻かける気じゃねえよな?」

上条が不安そうに尋ねる。
すると、浜面の神妙な顔つきが百八十度転化した。

「ふっふっふ……。そんなのはただの自殺行為だってことぐれぇ、俺でも判るさ……。もちろん“秘策”
 有りだ」

「秘策……?」

「ああ、秘策って言うよりは『隠し種』に近いけどな」

意味ありげな発言に上条の眉がピクリと動いた。

「マジで!? そういう事は早く言えって! 本気で特攻かける気なのかって一瞬肝冷やしただろうが!
 ……で? その策だか隠しネタってのは一体何なんだ? 勿体ぶらないで教えてくれよ」

「まぁ逸るなって。もうすぐ目的地の『旧柊工場』が見えてくる……。外側の(見張り)構成を確認した
 ら一旦死角場所で停めるから、その際にでも―――――ッ!?」

浜面の口が途中で止まる。
その目は真っ直ぐに向いたままで、行動停止でもしたかのようだった。
異変を感じた上条も浜面の目線をすかさず辿り始める。


「……っ!?」





345 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:50:57.459ZkBhKGK0 (14/23)



前方に、“何か”いた。
対向車線を跨ぐ形で佇む“それ”は、明らかに異質で平和な日常ではまず拝む機会のない代物だ。
それもそのはず。どこからどう見ても、あれは破壊を目的とした『兵器』以外に表現のしようがなかった。

目立つ外装に仕上げられた『謎の兵器』。
その丸太のように重量感溢れる銃口らしき部位は、明らかにこちらを狙い済ませていた。


(駆動鎧―――――!?)


浜面と上条が懐疑の目を正体不明の物体へ束ねた、

その瞬間――――。



「――――ち……畜生ォォおおお!!!」



「――――ッッ!!?」



砲口最深部が黄金色に輝いたと思った途端、身の毛のよだつような感覚が浜面と上条の内面を支配した。
この震慴感に逆らわず、本能に従った行動を双方とも採択する。

威嚇も警告も踏み飛ばした『粒子砲』らしき熱線が、すぐ眼前にまで迫っていた。



346 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:52:04.909ZkBhKGK0 (15/23)



急停止した車から、命の危機に泡を食って転がり出る浜面と上条。

ボンネットを貫通し、爆発炎上を起こす車からの退避に辛くも成功。


「………クッソ! いきなり撃ってきやがった……! っつーか……何なんだよ!? あれは……」


爆風に煽がれ、肢体を地面に張り付かせながら砲撃者に遺憾を向ける上条。
炎上中の車体反対側へ避難していた浜面が憤った上条へ叫ぶ。

「もう一発来るか……!? や、やべぇ!! おい、止まるのはマズイ!! 的にされるぞ!!」

「ち……っくしょおおおおおっ!!」

勢いをつけて立ち上がり、走り出した浜面の後に続く。
直線ではなく曲線上に動き、照準を撹乱させる。
この甲斐あってか、追撃の放射による共倒れの未来は逃れられた。


「―――――ッ!!」


あの兵器は破壊力こそ抜群に優れているものの、命中精度はそこまで正確ではないらしい。
撹乱している最中でそこに気づいた両者は、一旦充分な距離を確保した上で死角に身を隠し、今後に
ついて議論に移った。ついでに荒々しい呼吸もこの間に何とか落ち着けたいところだ。



347 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:53:12.299ZkBhKGK0 (16/23)



「ハァ……ハァ……ふー……まさかあんなのが待ち構えてるとはな。あれも駆動鎧の一種かよ……」

「あんなデケェの、見たことねえぞ……ハァ……ハァ……」

冷えた汗を拭いつつ、先の怪物兵器をどう対処するか思索する両名。
あれをまずどうにかしないとこの先へ進むことは愚か、その前に命をあっさり奪われて終了だ。

「駆動鎧だとしたら、やっぱ人間が中で操作してんのか……それとも『無人タイプ』か……。どっち
 にしろ、性質が悪いことに変わりはねぇな……。あんなのが配備されてんじゃ、アジトへ近づく事も
 できねえぞ……」

「うーん……けど、待てよ……。あのレーザーっぽいの、どーっかで見覚えが……」

何か思い当たる節でもあるように首を捻る上条。
浜面も気に留まったのか、彼に視線を預けながらじっと言葉を待つ。


「―――!! そうだ! 『超電磁砲』だ! あいつのレーザー、『超電磁砲』とソックリなんだよ!」


「『超電磁砲』……? それって、確か第三位の能力者が持つ“通り名”だっけか?」

「ああ。実は俺、その第三位と知り合いっつーか……。まぁとにかく、“本家の超電磁砲”は幾度となく
 受け……いや、見てきたんだ。流石に“本家”程の威力は無いみたいだが、原理まで同じ設計で撃たれて
 るのか……? そいつさえ白黒つけられれば……」

「ってことは……あれはその『超電磁砲』を機械的に上手く再現した『超能力兵器』か!?」

「いや……超能力者クラスにまで届くような兵器が生み出せるんなら、能力開発(カリキュラム)の意義
 が成り立たなくなっちまうだろ? 『劣化版』が妥当な見解だと思うぜ?」



348 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:54:07.479ZkBhKGK0 (17/23)



(あれも御坂のDNAマップが元だとしたら、『妹達』を生む研究とは別の意味で最悪の捏造品じゃねえか……。
 いや、けどまだそうと決まったわけじゃねぇ。あの正体が何なのか、まずはこの目ではっきり突き止め
 ねえ事には―――ッ!!)


「……おい、何さっきから難しい顔してんだ? 気になってる事があるんなら話してみろよ」

(ただの科学的な兵器か、それとも異能系統の副産物か……。判明してない段階で『右手』に頼るのは
 危険すぎるな……)

「……どうしたんだよ? アンタ……」

ひとり表情の険しい上条を奇怪に見つめる浜面。
だが、小休止の時間もそこまでだった。

「あ……!!」

不意に空を仰いだ浜面の目が、驚愕の色に染まる。


「――――お、おい!! 上だ!!」


「――――んな……!?」


肉眼では目視できない速度で昆虫の羽根みたいな部位を激しく連動しながら、先の駆動鎧がこちらを
まるで嘲るように見下ろしていた。
背中に取り付けられている巨大なタンクの重量など関係ないとばかりに空中を浮遊するその無骨な姿
に、男二人は唖然とした直後に焦る。



349 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:55:23.519ZkBhKGK0 (18/23)



「に……逃げろおおおおお!!!」


掛け声と同時にその場を離れる上条、浜面。
未知の武装兵器が上部の銃身を回転させ、雑な射撃行動を開始した。

再度、轟音と共に周囲の風景が大規模に歪んでいく。

“雑”な狙いによるものか。或いは判断が早かったのが幸いか、ここでも浜面と上条は生命の死守に
紙一重ながらも成功した。あとは衝撃で派生した余波を追い風に利用しつつ、逃げる。ただひたすら、
振り返らずに無我夢中で走り続ける。
だが、際の逃走中に浜面が慌て口調で上条に詰め寄った。

「おい! あれのどこが『劣化版』なんだよ!? あの火力で本家に劣るって言ったかアンタ!!?
 冗談にしても笑えなさすぎるだろぉぉ!!!」

「うぎぃー! 嘘ですやっぱさっきの全部取り消し!!上条さんの勘違いでしたぁゴメンナサイ!!
 さっきのはただの威嚇射撃で、こっからが所謂“本領”ってヤツなんですね!? ええ、もう良ーく
 身に染みて実感ましたぁぁーっ!!………ってか、おいマジかよ……。単純な威力だけを考慮すると
 ………もしかして御坂よりも上……ッ!?」

背筋を冷たい汗が流れる。
同時に寒気が走り、上条はそれ以上考え耽るのを拒んだ。

『本家』の『超電磁砲』を上回る兵器――――。



350 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 22:59:10.549ZkBhKGK0 (19/23)



「…………ッッ」


そんなものが、既に存在しているという現実――――。

嫌な汗が止まらなかった。
 
着弾した跡地に目を傾ける。

地面に直接放たれた『擬似超電磁砲』の凄まじさに改めて直面し、頭がまともに働いてくれない。

直径約一メートルはあろうかと推定される巨大な穴がそこにあった。
温泉の水源地みたいに噴流する硝煙に、砕けたアスファルト。
まともに受ければ骨さえ残るかも怪しかった。

生唾を呑む上条、浜面の眼前にズシン! と重々しく着地する殺人機械。

近くでその風貌を目の当たりにした両名は、言葉も視線も交わさずに圧倒的な存在感を放ち続ける
『脅威』を凝視していた。
あまりの迫力、そして存分に披露された破壊力の凄まじさに身体が戦慄を覚えているのが窺えた。

そんな彼らの慄く様を、まるで嘲笑うかの如く、
三つだけ備わっている回転式の銃身が、再び装填される。
生々しい鉄音から推測するに、背中の巨大なタンクが弾倉庫の役割を担っているようだ。

何となく仕組みが理解できてきたものの、対策手段はまだ無い。
ただの『兵器』に『幻想殺し』は通用しない以上、無闇に“打ち消し”を狙うわけにもいかない。
アテが外れれば、その時点でアウトだからだ。
そして不幸体質の自分に用意された“表か裏か”の結果など、コインをトスする前の段階で決ま
っている。



351 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 23:01:08.489ZkBhKGK0 (20/23)



浜面は装填部の一点だけを先ほどから着目していた。
そこに製造メーカー名のような薄い文字が書かれていたのが気になったのだ。

掠れる声で、その短文を読み上げた。


「ガトリング・レールガン………」


更に、羽部分を収納するための腹部側面に目線を辿っていく。
そこには、アルファベットの刻印でこう記載されていた。



『FIVE_Over.』(ファイブ・オーバー)



『Modelcase_“RAILGUN”』(モデルケース・“レールガン”)




これから自分たちを地獄へ埋葬するやもしれぬ“怪物”の正式名称である。



352 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 23:02:15.419ZkBhKGK0 (21/23)

ここまでです
では例のごとく次回投下予定の一部を晒して締めます


353 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 23:07:56.269ZkBhKGK0 (22/23)



土御門「よう、早かったな。もっとゆっくりでも良かったんだぜい? そんなに俺たちに逢いたか
     ったのかにゃー?」


結標「貴方たちの顔なんて、二度と見たくないに決まってるでしょ? ……さっさと終わらせて、
    早いトコ永遠にお別れしましょう」


海原「直接会うのは久方ぶりだというのに、開口一番から手厳しいですね。ははは」


―――――――――


一方通行「駄目なンだよ……。頭で解っちゃいるが、いくら脳に命じても言う事を聞きゃしねェ。
      理屈じゃもはやどォにもならねェンだ……。どォしても抑えらンねェンだよォォ」


麦野「………少し前の私なら、今のアンタの考えを欠片も理解できなかったでしょうね……」


354 ◆jPpg5.obl62011/10/13(木) 23:09:13.079ZkBhKGK0 (23/23)

以上です
御読み頂きありがとうございました



355VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/14(金) 00:02:55.587YgCscjSO (1/1)

グループきたあああああ

これで勝つる


356VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/14(金) 00:13:30.51dPkCdVwR0 (1/1)



毎度ながら、ここのクオリティの高さには感服するしかないぜ…
ファイブオーバー相手じゃ上条さん詰んだな


357VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/15(土) 01:15:35.75e2lw6+6F0 (1/1)

一方さん早くうううううう!!!




358VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/16(日) 02:53:44.08rzZwlFuj0 (1/1)

繋げ方上手いなぁ…

シルクロ兄さん廃人確定ワロス


359VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/16(日) 16:18:55.427mPKstPSO (1/1)

御坂たちは…?


360 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 21:37:58.56DfwoBD+y0 (1/32)

お待たせ(?)してます
では更新


361 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 21:41:11.99DfwoBD+y0 (2/32)



―――


第七学区では一部地域がパニックに陥っている中、隣接する各学区では何やら怪しい動きが
起きていた。
暗部組織の著しい減少による摂理か、現在で使われていない廃屋や廃ビルは学園都市全体に
有り余っている。
ゴロツキの集まりにすぎないスキルアウトからしてみれば、正に『棚から牡丹餅』だった。

そんな元暗部組織がかつて使用していた隠れ家やアジト等も今では『無人区域』として制定
され、一般学生の立ち入りは禁止になっている。

だが、新たに導入された衛星中継の映像が送ってきた情報によると、


「―――― 七箇所の『無人区域』で集会を確認……。いずれも『暗部推進派』に加入した
       組織の“元たまり場”か。……狙いは差し詰め“増援”って所だろうな」


手に持った端末機のような物体を眺めながら、土御門元春は鬱陶しそうに吐いた。

「思った通り、『反政派閥』は息をかけていたみたいですね。『新入生』はあくまで最前線
 に起用し、残りは“陽動”か“混乱”……そして『第一位勢力』の削減要因に割り当てられ
 そうです」

「つまり、俺らの“敵”だと確定してるってワケだ」



362 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 21:43:47.95DfwoBD+y0 (3/32)



『新入生』を主戦力とし、上下左右を暗部改変に反発の意思を持つ『暗部推進派』で固めて
包囲網を形成し、一方通行や一方通行に加担する勢力を徹底的に毟り取るというのが上層部
(反省派閥)の抱く具体的な構成らしい。サイドに布陣する組織の一角をこれから強襲する
予定なのだが、生憎まだ全員揃っていなかった。

「……『暗部の復活』を切望している、というのはフェイクでしょう。騒乱に乗じて“彼”
 の首を狙い、多大な報酬を掴み、やがて復活を遂げた『暗部』の高峰に君臨……といった
 ところでしょうか……。薄汚い野望ですね」

「ああ、要するに“漁夫の利”ってヤツだ。最高に潰し甲斐のある連中さ」

海原光貴の容姿に身を包んだ元同僚の肩をポンと一叩きしたすぐ後、待ち合わせていた人間
がゲンナリした足取りで歩み寄ってきた。

「よう、早かったな。もっとゆっくりでも良かったんだぜい? そんなに俺たちに逢いたか
 ったのかにゃー?」


「貴方たちの顔なんて、二度と見たくないに決まってるでしょ? ……さっさと終わらせて、
 早いトコ永遠にお別れしましょう」


「直接会うのは久方ぶりだというのに、開口一番から手厳しいですね。ははは」

さして傷ついたわけでもない調子の男二人を呆れた目で見る結標淡希。不本意なのが態度に
表れている。それも恐ろしく露骨な程に。



363 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 21:45:27.24DfwoBD+y0 (4/32)



「……で? 一体何のつもりで呼び出したワケ? 私は貴方たちになんか、何の未練も無い
 のよ? 情の移るような出来事も、悪いけどさっぱり思い当たらないし」

「おいおい、そりゃちょっと薄情すぎるんじゃねーかい? 俺たちの英雄が命の危機に瀕し
 てるってのに、その言い種はあんまりぜよ」

「おどけてんじゃないわよこのピエロ。その洋画みたいなオーバーアクションの所為で余計
 なストレス溜まるのよコッチは。……しかも、要点を見事なまでに穿き違えてるみたいね」

呆れた目から汚い物でも見るような目に変わる。
あからさまに不機嫌な口調だが予想でもしていたのか、土御門はニヤケたままだ。
それが余分に苛々を募らせる。

海原の方も普段と何一つ変わらない“触らぬ神に祟りなし”状態で、苛立ちをぶつける気に
もなれなかった。

「要点? どういう事か、説明が欲しいにゃー」

「私は私で義理を果たすつもりよ。薄情だなんて言われる覚えは無いわ。大体、『グループ』
 の解散と同時に貴方たちとの縁は切れてるのよ。そっちもそのつもりだと思ってたけど?」

「その割りには、ちゃんとここまで来てるじゃん。本音はやっぱり俺たちとの再会に胸躍らs」

「口を閉じなさいよアンポンタン。貴方が私のプライベート番号を知ってる件について、まず
 はじっくりと追及させてもらうわ。ていうか、呼び出しに応じた理由の殆どが“その件”よ」

「悪いな。『グループ』が無くても俺には様々な“ルート”が健在してるんだ。闇に生きる分
 としては特に困る事もねーしな」



364 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 21:47:03.11DfwoBD+y0 (5/32)



「ふざけんじゃないわよ何勝手に人のマジ番調べてくれてんのよ! 貸しなさい! ケータイ
 ブチ壊してあげるから!」

「ダミーで良ければどうぞ。ちなみに、お前に掛けた俺の番号も当然ダミーですたい」

「どこまでも不公平な野郎ね……。だから会いたくなかったのよ。あー、不愉快だわ……」

腕を組んでソッポを向く結標。どうやら完全に機嫌を損ねたようだ。
再会のじゃれ合いも程々にしておくか……と土御門は内心で呟き、口調と雰囲気を“仕事用”
に切り替えた。

「よし。約一名“欠席”だが、場合が場合なだけに止むを得ないか……。んじゃ早速作戦に
 移るぞ」

「……概要ぐらいキチンと話してくれないかしら?」

「なあに、“これまで”と何ら変わらないさ。俺らは俺らのやり方で助力するまでだ。その
 ためにまず、『金魚の糞』の掃除から済ませるのさ」

「第一標的に直接危害が及ぶ前に排除、ですか……。まさに影の功労ですね」

「内容自体に文句は無いけど、私が貴方たちと共に行動しなきゃならない理由は皆無よね?」

「結標、そんな寂しい事言うモンじゃねーぜ? 確かに『グループ』が破綻した今、俺たち
 を結ぶ接点は何も無い。……だが、利害は一致してるハズだ」



365 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 21:52:08.32DfwoBD+y0 (6/32)



「……“馴れ合い”は規約違反じゃなかったの?」

「んなモン、解散と一緒に白紙化だ。……最後の最後くらいは自己意思で共同作業するのも、
 悪くないんじゃないか?」

「…………」

少し考え込む。
どの道、この非常事態を看過するつもりはなかったのもあるが、最後にもう一度だけ『この
面子』に付き合ってやるのも悪くない、……のかもしれない。

「……にしても、連中がここまで早期決着に精を出すとは思わなかったな。昨日の今日では
 流石に無い、と踏んでいたコチラが甘かったらしい……」

「考えてみれば、アチラには長引かせる理由が存在しませんからね……。自分は一応ですが、
 ある程度予感していましたよ」

「『番外個体』、『最終信号』、『妹達』……。もしこれらがヤツらの手によって落とされ
 た場合、第四位だけに任せておけなくなるぞ。数だけで言えば、一方通行サイドの不利はどう
 しても否めんからな……」

「……まさか、また“彼”を?」

「幸いなことに、“アイツ”は俺が頼む必要もなく動いてくれるだろう。一方通行の状況が
 優か劣かは不明だが、これ以上の兵力増加を抑えるに越したことはない……。っと、そろ
 そろ答えは出たか? 結標」



366 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 21:53:56.45DfwoBD+y0 (7/32)



「………えぇ――――」

海原と土御門の会話も耳に入れずに葛藤する結標だったが、どうやら決断したようだ。

「――――わかったわよ。『今日限りの復活』ってことで割り切ってあげる」

「ん、良い答えが聞けて良かったぜ。そうと決まれば早速制圧に取り組むとしよう」

そう言って複数の人物と通信機でコンタクトを取り始める土御門。
まさかとは思ったが、現在は堅気の暮らしを送っている元『グループ』関係者が総勢で今回
の作戦に協力しているらしい。
その大半が土御門たちと同じ思想だったのも案外驚きだが、もっと驚きのニュースが実は隠
されていた。

「元『ブロック』や元『メンバー』、その他の組織からも全員じゃないが加担してくれてる。
 “裏方兵力”なら向こうとの比率は大差無いだろうな」

一体どういう風の吹き回しなんだか……と、結標は軽く溜め息を吐く。
暗部解体によって自由となり、発端となった第一位に恩義でも感じているというのか。
それは彼等にしか分からない事である。

「……もういいわ。けど、これだけは言っておく」

結標がターゲット先の『無人区域』を睨む。
沢山の人が集まっているらしき気配が外にいても判る程だった。内部にいるのが『敵』である
事は既に断定されている。
ならば、遠慮はいらない。



367 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 21:54:44.27DfwoBD+y0 (8/32)



「私は、一方通行に恩義なんて感じちゃいない。ただ―――――」


懐中電灯にしては長めの棒を一振りした結標。すると、


「―――――“借り”を作ったままなのが癪なだけよ!!」


『無人区域』上空に出現した何台かの乗用車が斜め下方向へ重力に従い、霰のように落下して
いった。
突然の事態に混乱したまま飛び出してくる“暗部推進派集団”。
その様子を眺めながら静かに交戦準備に掛かる元“グループ構成員”。



「少し時期は早いが、『同窓会』の時間だ。一般人の被害は出さない様、くれぐれも注意しろ」



土御門による通信機越しの最終伝達に、各自が頷く。
他の暗躍活動部隊も、これを合図に各地で開戦、恐慌状態となった。



368 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 21:56:51.95DfwoBD+y0 (9/32)


―――


大規模な抗争へと発展していく中、元凶とされている第一位は第四位と共に『本陣』へと駒を
進めていた。

閑散としてしまった交戦跡地から能力で移動すること約三分。
第五学区方面へ向かう四tトラックの荷台に侵入した二人の超能力者は、今後の流れについて
軽く討論した。

第七学区の境まで到達すれば、目的地は目と鼻の先である。こうして身を潜めるように移動し
ていれば余分な襲撃も回避できる確率が跳ね上がるし、得はあっても損はない。
とにかく今は、『新入生』指定の場所に着くまで温存しておきたい。この先に何が待ち受けて
いるか……。一方通行の予想が正しければ、おそらく最大の修羅場となる可能性も高い。

気を引き締めるために、気を休める時間も時には必要だった。
移動中の狭い荷台に揺られながら、一方通行は本心を誤魔化すように雑言を漏らす。

「あの無能力者、まだ生きてンのかねェ……。俺らが抜けた直後に敵襲受けたとして、アイツ
 に打開策はあンのか? ……その辺考慮すっと、軽率な真似しちまったかもしンねェな……」

「大丈夫よ。……多分ね」

「自信無さげに聞こえたのは気のせいか?」



369 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 21:59:00.94DfwoBD+y0 (10/32)



「……そういうワケじゃないんだけどねぇ。アイツにはロシアでデケェ借り作っちまったからさ。
 んな簡単に撃沈されちゃ、色々と困んのよ。主に私の立場的に」

「オマエらの内部事情は未だに良く把握できちゃいねェが……そンなに心配ならアイツの所まで
 もォひとっ飛びして送ってやろォか?」

「……!? し、心配とかじゃないわよ! ……ええ、あの馬鹿ならきっと大丈夫。悪運強いし、
 マグレとは云えこの私に白星挙げてんだし……心配する要素皆無よ、皆無。どこまで役立つかは
 分からないけど、“エモノ”なら持たせてあるし……あとはアイツで何とかするでしょ。うん」

「……今、クチから心臓飛び出かけてたぞ? まァ、必要ねェンなら良いが……」

「アンタの能力使用時間を削ってまで頼もうと思わないっつーの。……あとどれくらい保ちそう?」

「……まだ二十分以上はいけそォだな」

「何もかもケジメつけるには、ちょーっと心許ない気がするわね……」

「どォせフルでも三十分が限度だ。そォ大差ねェよ」


いざという時に備えて能力使用を控えるのは、何も今に始まった境遇ではない。
その故か的確に状況を把握し、あらゆる要所で頭を素早く回転させる技術力が目覚ましく向上した。
これらの経験は、こういった『団体戦』と非常に相性が良い。



370 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:00:59.62DfwoBD+y0 (11/32)



知識の応用。
臨機応変。
創意工夫。

そんな言葉に頼る必要さえ無かった『以前』とは違う。
そう考えれば、暗部の世界で培ったものが決して無駄では無かったと自覚できる。

しかし幾ら己磨きのために場数を踏んだとしても、必ず全てのパラメータが上昇するとは限らない。
例えば『心』が強くなったという喩えは、同時に“弱点”とも言える。
鉄のように何の感慨も持たない心だったとしたら、まだ救いがあるのかもしれない。

だが、一方通行は紛れも無い人間である。

経験と並行して洗練された精神力や適応力。
そういった材料をどれだけ並べても、『無情』の境地へ立つことは不可能だった。

『愛すべき存在』を楯に取られている今、こうして平静を装うのが実は精一杯だったりする。


「……………」


沈黙は物事を一層深く考えさせる魔力を併せ持っている。
だから無言の空間を極力作りたくはなかった。のだが、延々と口を開き続けるというのもまた酷な
話である。当然、麦野も別段口数が多い性質ではない。



371 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:02:28.27DfwoBD+y0 (12/32)



知識の応用。
臨機応変。
創意工夫。

そんな言葉に頼る必要さえ無かった『以前』とは違う。
そう考えれば、暗部の世界で培ったものが決して無駄では無かったと自覚できる。

しかし幾ら己磨きのために場数を踏んだとしても、必ず全てのパラメータが上昇するとは限らない。
例えば『心』が強くなったという喩えは、同時に“弱点”とも言える。
鉄のように何の感慨も持たない心だったとしたら、まだ救いがあるのかもしれない。

だが、一方通行は紛れも無い人間である。

経験と並行して洗練された精神力や適応力。
そういった材料をどれだけ並べても、『無情』の境地へ立つことは不可能だった。

現に『愛すべき存在』を楯に取られている今も、こうして平静を装うのが実は精一杯だったりする。


「……………」


沈黙は物事を一層深く考えさせる魔力を併せ持っている。
だから無言の空間を極力作りたくはなかった。のだが、延々と口を開き続けるというのもまた酷な
話である。当然、麦野も別段口数が多い性質ではない。



372>>370は無しで(ry ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:03:55.24DfwoBD+y0 (13/32)



閑寂は自らの“黒い”心情を顕著にさせる効果を持つ。
この法則には抗えず、一方通行は会話の尽きた荷台の隅で感情の抑制に努めた。
麦野は、眉間の皺を寄せて内心を表に漏らさない様に装う一方通行に的確な言葉を見出せず、ふと
視線を床へと移す。
やがて、昔話でも聞かせるような声色で優しく語り出した。

「……心配なのね、第三位のクローンたちが……。アンタってさ、やっぱ噂に聞いてた『一方通行』
 とは別人だわ」

「………急に何を言い出すンだ?」

「まあ聞けよ。……なんつーかさぁー、イメージ通りの『一方通行』って外道は、自分以外の誰か
 に興味も情も持たない。冷徹で非道で、私以上にネジが飛んだ化け物だったのよ。……まぁ、最初
 会った時にそんな上辺だけのイメージなんて崩壊してたんだけどね」

「回りくどい言い方は好きじゃねェぞ?」

「私もどう表現して良いか、決めかねてんだよ。……頭ん中ぁ好き勝手に弄られて、能力の発現を
 口実にテメェの利益欲しさでフザけた計画を発案するイカれた科学者共……。私の周囲にはそんな
 大人しかいなかった。アンタも似たような境遇だって聞いてるけど?」

「…………」

麦野沈利は第四位で自分は第一位。
一見すると“たった三つ程度”の誤差と感銘するかもしれないが、実際は大きく違う。
確かに境遇自体は似たようなものである。が、しかし、彼は抱えている『力』そのものが強すぎた。



373 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:06:31.15DfwoBD+y0 (14/32)



数多の研究者が『一方通行』の驚異的な能力値に震え、匙を投げ、辞職していった。
木原数多のような人間ですらも怯えを感じさせるほどに……。
研究施設も彼の所有する爆弾を抱えきれず、次々に盥回しされる日々。
いつしか、そんな毎日を当たり前のように感じてしまっていた。

目の前にいる大人びた色香を漂わせる少女も、そんな神経の狂いそうな日常を経て育ってきたのか……。
そう考えてしまうと、普段通りの言動で否定する気分にはなれなかった。
他者が易々と踏み入って良い領域ではないと、即座に直感したからだ。
どう返すべきかぼんやり耽っている内に、麦野が乾いた笑顔混じりに吐く。

「……まぁ、そういう幼少時代な上に、そろそろ自我も確立できる年迎えたと思った時には『アイテム』
 が設立されてた。そっから先は、つい最近までと何一つ変わらねぇ生活よ……。時には血を浴び、流し、
 命懸けの任務にすら、いつしか何にも感じなくなってた……。自分以外の他人に全幅の信頼なんて心底
 有り得なかったし、“仲間意識”なんて概念も必要ないと思ってた……」

「…………」

「けど私は、今じゃそんな自分を“ただのクソ野郎”だって思ってる……。それもこれも、取り返しの
 つかない過ちを犯したのに気づくのが遅すぎたから……」

「…………」

「わかってたんだ。全部、私が弱かったから招いただけなんだってことも……。けどさ、弱いままなん
 てのは、私の性に合わないんだよ。――――だから私は、“今生きてるアイテムの仲間”を守りたい。
 ………勝手にこんな話して、何のことやらって思うかもしんないけど………今のアンタに何も共通して
 ないとは思えなくってさ……」

「……オマエは後悔してねェのか?」

何故だか、そんな事を訊き返していた。



374 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:08:51.40DfwoBD+y0 (15/32)



「ふふ、どうだろうねぇ……。“後悔していても始まらない”って奇麗事があるけど、人の心ってのは
 そんな単純に作られてないからねぇ。寧ろ成長のために“後悔する時間”ってのは必要なんじゃないか
 って、私は捉えてるのよ」

仮に麦野が『後悔してる』とはっきり答えていたら……、ふとそんな事を考えてしまう一方通行。
わかっている。いくら自己投影した所で、自分と重ねた所で所詮は他人の見方でしかないことも。
その程度で自分の『答え』が明確になるのなら、どんなに楽だろう。
尋ねた後で愚問だったと悟る一方通行に、今度は麦野が質問した。

「アンタはどう? 今でも一万人以上の“人間”を虐殺したことを後悔してたり、する?」

「……オマエの答えとほぼ同じだよ。“これから”についてなら幾らでも決められる。自分勝手だろォと
  何だろォと、俺は俺の思想に沿って進ンでいくし、過去に今後の生き方を縛られたくもねェ……。
 ―――――だがな……」

「……?」

「その“過去”が一番の問題かもしれねェ……。結局俺は昔の自分と、どォ向き合えば良いのかが……
 まだ掴めてねェンだろォな」

「割り切るには残酷すぎる、ってヤツ?」

「そンな泣き言を漏らすつもりはねェよ。オマエの科白を引用するみたいで悪いが、全部“俺の弱さ”が
 招いたンだ……。俺にもっと反発の意識があったら……。もっと早くテメェの間違いに気づけたら……。
 ハッ、今更ンな事言い出したらキリがねェけどな」



375 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:11:00.12DfwoBD+y0 (16/32)



「……結局そう。この街に来た時点で、この街に生まれた時点で……私ら子供の未来は確定されてんのよ。
 無知で何の抵抗力も満足に持てない内に『罪』を背負わされ、『罪の意識』に気づいた時は既に手遅れ……。
 自業自得なのかもしれないけどさ、始めっから大人が子供の自然な成長を歪曲させてる実態について、いざ
 客観視してみると……やっぱり納得できないっつーか……」


「あァ、理不尽な話かもなァ。“何が悪いか”も正しく認識できねェ世代で“道具の使用方法”を仕込ま
 され、手に入れた時にはどれだけ恐ろしいモノを脳に植え付けられちまったかも理解できてる。……そこ
 で引き返しが利くンなら、まだ救いは在ったかもしンねェ……。その段階で“引き返せなかった”事こそ
 が、俺の“弱さ”だったンだよ。強い能力に味を占めて、血の味を覚え、人体の素敵な神秘に甘美してた
 時点で、俺らはもォとっくに狂っちまってたンだ……」


――― それが幾ら脅威のチカラだったとしても、誰かを傷つけて良いとは限らねェ ―――
 

僅かな抵抗の表れと称していたこの朧げな信念が消えてしまったのは、いつからだろう?
大人に反抗するつもりで掲げていた当時の安い意地やプライドは、いつから淡く儚い夢物語へと昇華され
てしまったのだろう?


(あの頃は、チッポケながらも『正義感』ってヤツに縋ってた……。一体、いつから俺はこンな風に変わ
 っちまったンだか……。ふン、そりゃ憶えてるワケねェか……)


「……なーに笑ってんのよ? 不気味ね……。はっ!? ま、まさかテメェ! ふ、不埒なこと考えてた
 んじゃないでしょーね!?!?」

「……なワケねェだろ馬鹿か?」



376 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:14:01.88DfwoBD+y0 (17/32)



「………あー、やっぱ聞かなかったことにしといて……」

冷めた目で見返され、何故か居た堪れなくなった麦野は口走った科白の無効を要求した。

「けど……今の話聞いて思ったわ。……能力に差はあれど、やっぱり境遇自体に大きな違いは無いのね。
 浜面みたいな無能力者が、実際のところ一番優遇されてんのかも……。見なくていいものを見てない。
 知らなくていいことを知らない、って意味で量ったら……ね」

「………一概にそォとも言い切れねェさ。“人間性”次第でヒトってのは際限なく変われる。そこじゃ
 『超能力者』だ『無能力者』だっつー隔ては、ただの装飾品に過ぎねェよ。『境遇』だって同じよォな
 モンだ。“人格の形成”こそ補助しよォが、そいつ本来が生まれ持った“性質”までは歪曲のしよォが
 ねェだろ? ……結局はテメェの芯がどれだけ頑丈か。原点に返るみてェな物論だが、意外に的を射て
 ると思わねェか?」

「第一位の持論、か……。覆してやろうとも思わないわね。……けど、一個共感できるとしたら―――」


――― 『超能力者』も『無能力者』も、人間性に優劣は付けられない ―――


「………ふん」

「オイ、一人でボソボソと何喋ってやがる?」

「くだらない独り言も吐きたくなるわよ。こんなクソ狭いトラックの荷台で野郎と二人きりなんてさ……。
 どんなシチュエーションよ? 古い映画の駆け落ちシーンみたい……」



377 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:18:18.93DfwoBD+y0 (18/32)



「贅沢ぬかしてンじゃねェよ。スペース的には特に問題ねェだろ?」

「構図的には異議を唱えたいわね。タクシーか普通の車でも捕まえた方が良かったんじゃない?」

「それだと、連中の車にすぐ見つかる恐れがあンだろォが。ここなら身を隠すには申し分ねェ」

「……見つかったらさっきみたいに戦乱起こしゃ良いのに」

「ドライバーを含めた余計な被害は、極力出さねェ方針なンだよ」

「それもアンタの自分勝手な信条?」

「そンな大層なモンじゃねェ。ただ、そォなるのが胸糞悪いだけだ」

「ふふっ、冗談よ。……私も今は無差別な破壊とかに気が咎められるクチだしね」

「そォかい……」

正義だの悪だの、そんな形ばかりの拘りはいつしか捨てていた。
悪人だから正義を振り翳せないとか、正しい事は必ずしも悪事に繋がらないとか、世の中にはそう云った
齟齬など幾らでも実在している。

そんな世でどちらかに傾いたとして、すぐ矛盾に苛まれて嫌気がさすのは目に見えているからだ。
学園都市の恐ろしさを初めて実感し、心に恐怖が芽生え、悟ったのだ。
救いたい人を救うには、時として己の築いた信条が邪魔になってしまう場合もあるのだと。

だから彼は、一方通行は自分が『悪人』か、『善人』かのどちらかに拘ろうとしない。


「………実を言うとさ」



378 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:21:46.27DfwoBD+y0 (19/32)



再び訪れかけた沈黙を嫌うように、麦野が言葉を紡いだ。

「嫌なんだよ……。『アイテム』のリーダーとして皆を引っ張ってた頃の自分に、どうしようもないくらい
 嫌気が差してるんだ……」

「……やっぱ、後悔してンじゃねェか」

「ああ、してる……んだね、やっぱ……。取り返しなんてつくはずないのに……過ぎた時間が巻き戻るわけ
 じゃないのに……割り切ったつもりでも、無理なんだよ……」

「…………」

「“仲間を殺した”時の話、覚えてる?」

「あァ……。やっちまったモンは仕方ねェ、で済む話じゃねェだろォな」

「………どんなに更生したつもりでも、過ちが記憶から消去される事はない。一生胸に刻み付けて、生きる
 しかない……。残酷だって自分を慰めるのも筋違い。……アンタの『絶対能力進化計画』とは状況も立場も
 違うけど、不思議と似てる気がしない?」

「互いに後ろめたい過去を背負ってる……って言いてェのか?」

「………少し前の私なら、今のアンタの考えを欠片も理解できなかったでしょうね……。何せ、『罪の意識』
 すらまともに感じちゃいなかったんだから……」

「……同情でも求めてンのかよ?」

「違うわよ。……無理に平静を装うのは無意味だっつってんの。ちょっと遠まわし過ぎたことは詫びるわ」

「…………」



379 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:22:55.68DfwoBD+y0 (20/32)



「そんなんじゃ、“あの子”たちと向き合った瞬間………アンタの精神(こころ)は間違いなく崩壊するわ。
 懸けてもいい」

「……なンで、そンな風に言い切れる?」

「言ったでしょ? ……わかるのよ。アンタの表情や仕草、言動、どれを取っても……。アンタ自身、本当は
 気付いてるってことも、ね……」

「……………」

「………そりゃそうよ。アンタも私も、ほんの少し前までは“自己犠牲”を生温い奇麗事としか思わず、自分
 以外は全て下にしか見ていなかったんだから」

「まるで、俺とオマエが同類っつってるよォに聞こえるンだが……?」

「違うんなら否定すればいいわ」

「……っ」

否定できなかった。
悔しいが、この女は何もかもを見透かしている。薄い外膜で感情を隠す行為を、無益と評するような瞳。
一方通行は、他の超能力者について考えた事などこれまでで一度たりとも無かった。

所詮は自分より下の人間。どんな環境を経て育っていようと、自分以上の壮絶な生き方は見込めないだろうと
決め付けていたのかもしれない。

しかし、その観測は間違っていた。
他人の環境や立場を何度明細に聞かされたところで、それがどれほど非道で残酷かを本人以上に知る事はでき
ないのだ。共感はできても、決して主観的な感覚を味わうには到らない。



380 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:26:11.31DfwoBD+y0 (21/32)



その点なら麦野にとっても同じ条件な筈だが、そこの所は流石女性特有の観察力とでもいうのだろうか?
確証はないのに確信めいた発言を耳に入れても、一方通行は否定する気が起きなかった。

「………オマエ、何でそこまで的確に人の心を突ける? ンで、何故今俺にそンな話をした? 意図が全然見
 えて来ねェ……」

「アンタの経緯と私の経緯を重ね合わせてみただけよ。アンタにも私にも、“命を危険に曝してでも失いたく
 ない存在”がいる。……この共通点に気づくだけで、今のアンタが考えることは簡単に見通せるってわけ」

「…………」

「意図は、アンタも薄々予感してる筈……。このまま心を処置ぜず、自分の中だけで溜め込んだ状態で臨んだ
 としたら………アンタは自分を見失わずにいられるって断言できるかしら?」

「……オマエは精神治療師《カウンセラー》でも目指してンのかよ?」

「ふん、まさか……。自分でもガラじゃないってわかってんのよ。けど、私はアンタの敵じゃない。それどこ
 ろか、同じ数少ない超能力者としての理解役を買ってやらなきゃならない立場よ。迷いを持ったまま“第五位”
 の手駒に堕ちた存在と向き合えるの? ……私じゃ残念だけど、アンタの不安を取り除いてやるまでの役目は
 こなせない。けれど、和らげるくらいならできるわ。……それだけでも大分違う筈」

「俺を何から何まで手助けしようってか? ……何で」

「死なせたくないからに決まってんでしょ? ……上層部の欲望に塗れた笑顔なんて、想像しただけで吐き気
 がするし」

「…………」



381 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:31:33.70DfwoBD+y0 (22/32)



麦野がそれ以降、口を閉ざしてしまったので一方通行の胸中は一層複雑に鬩ぎ合う。
結論を言うと、『心理掌握』の策略で番外個体と打ち止めの命運を敵に握られてしまった事実に、言い様のない
憤りを感じていた。
最悪の場合を想定するだけで、脳が強い拒絶信号を送ってくる。

しかし、現実はそんな淡い願望を何の情もなく残酷に破壊してしまう。
麦野の言う通り、こんな不安定な精神を携えたままでは相手の思惑に沿って動くようなものだ。
その未来が容易に想定できてしまったから、麦野は一方通行の心を覗くような言動をとったのだろう。


「………駄目、なンだよなァ……」


捗らない作業に隔靴掻痒する仕草で額に手を当て、溜めていたモヤモヤを口から吐き出す。
麦野は黙りこくったままで、耳だけを傾けた。

「こンな感情が非効率にしかなンねェのは、百も承知なンだけどな……駄目なンだよ」

「…………」

「頭で解っちゃいるが、いくら脳に命じても言う事を聞きゃしねェ。 理屈じゃもはやどォにもならねェンだ……。
 どォしても抑えらンねェンだよォォ……。あいつ等が敵の手に掛かっちまったのは俺のミスからだ。完全に自業
 自得だよクソったれが……。“アイツら”に手を出した『新入生』も、裏で糸を引いてる上層部の『反政側』も、
 何度叩き潰したって足りねェ程に昂ぶっちまってる……。冷静にならなきゃ駄目なのが判っていても、歯止めが
 利きそォにねェ……。だが、それ以前に何より、腑抜けていた俺自身を今すぐこの場でブチ殺してやりてェよ……」

最後に「畜生……」と漏らした。それは醜い心を曝した事による自身への侮蔑か、或いは今の状況に対する憤りか……。
麦野には判定できなかった。



382 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:35:38.73DfwoBD+y0 (23/32)



「なんだ……、ちゃんと本音が言えるんじゃん。それでいいのよ。厄介で邪魔な鬱憤はそうやってクチから吐いて、
 体内の淀んだ空気をしっかり換気しとけば対処するための余裕も持てるし、機転だって利き易い。……なんなら、
 もっと吐き出したって構わないのよ? ちゃんと聞いててやるからさ」

「いや……もォ充分だ。かなり落ち着いたわ……」

深い呼吸を繰り返し、麦野を真っ直ぐ見つめて感謝の意を告げる。

「……悪かったな。変に気ィ遣わせちまってよ……」

「暴走でもされたら流石に私でも止められる気がしないからね。自身への保険も兼ねて、よ」


「……そォか。――――――!?」


「おでましね……。安息の場所なんて、もはや何処にもないか……」


「初めから覚悟の上だがな……」


場の空気が一変し、二人の眼に緊迫感が戻る。
束の間の小休止が終了を告げた瞬間だった。


「―――――囲まれてるわね。どうする? 第一位」


「―――――蹴散らしてやるまでだ」




383 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:40:35.22DfwoBD+y0 (24/32)



顔を出して外を確認するまでもない。
車外から一定の間隔で並走しているらしき複数の音だけで状況は簡単に把握できる。
こちらの動きを待つ戦法か、或いは監視役として泳がせているだけか……。
いずれにしろ、素通りさせてくれる気はなさそうだ。

となれば選択肢は一つ。
障害として阻んでくるものは排除の一択。

しかし、闘争心露にチョーカーのスイッチへ手を伸ばした一方通行を何故か麦野は制止した。


「待ちな。無駄に制限時間を削らせるのが向こうの狙いだってことぐらい、アンタも気づいて
 んだろ?」

「……だったらどォした? 生憎だが、大人しく捕虜されるつもりはねェぞ?」

「おいおい。テメェの目の前にいるのが一体誰だか、分かった上でモノ言ってんの?」

「あァ?」


「私一人で充分だっつってんのよ。アンタが立つべき舞台は、ここじゃないでしょうが」


「オマエ、急に何言って……!」



384 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:44:56.49DfwoBD+y0 (25/32)



「アンタの能力使用時間が限られてる以上、無駄な浪費は避けるに越したことないでしょ?
 あいつ等は私が引きつけるから………アンタはその隙に行きなさい」


真剣な瞳を真っ直ぐに向けて言い放つ麦野。
その言葉は確かに正論だが、一方通行がすんなり納得できるはずもない。

「正気で言ってンのか……? 包囲してるヤツらが、さっきと同じよォな雑魚部隊だって
 確証は何もねェンだぞ!?」

「アンタこそ、私が何処の誰なのか忘れてんじゃないでしょうね? 私は学園都市第四位
 の超能力者よ? 駆動鎧が何百体集結しようが、恐れるに値しねえんだよ」

「そォいう問題じゃねェだろ!! オマエはヤツらの恐ろしさを何もわかっちゃいねェ!!
 ……木原の遺志を継いでるってのがどォいう意味か……わかってねェンだよ」

「……それでも、私はアンタを逃がす。……勘違いすんなよ? 別にアンタを守ってあげ
 たいだとか、そんな乙女チックな感情で動くわけじゃねえんだからな?」

「何で、だよ……」



385 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:48:45.89DfwoBD+y0 (26/32)



「――――自分のためよ。私はいつでもそうやって生きてきた。これからも、その生き方
      を変えるつもりはない」


――――それが、大切だった“あの子たち”に向き合うべき、本当の私――――


――――そして、もう二度と還らない“あいつ”に対する……私なりのケジメ――――


「…………」


一方通行はそれ以上声を発せなかった。
何故なら、世から“怪物”のレッテルを貼られているはずの麦野が――――、


「……ねぇ、第一位……ううん、一方通行(アクセラレータ)」

「もし、こんな私でも変われるチャンスが有るんだとしたら……」

「今だけは……掴ませて欲しいの」


――――ほんの一瞬だけ、聖母のような優しい顔を覗かせたから。

    この純真な印象さえ受ける微笑みこそ彼女本来の素顔、本当の姿。

    麦野沈利と言う名を持つ、能力という殻を破り捨てた少女の姿。

    醜悪も邪心も一切無い、ごく普通の女の子としての―――――姿。



386 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:53:19.33DfwoBD+y0 (27/32)



たった一瞬で充分だった。
一方通行は、麦野の本来在るべき姿を瞳に映してしまった。

他人に対し、『美しい』という感性を本気で抱いたのは生まれて初めてだった。
    
この少女は、『怪物』なんかではない。

ただ強い力を持ってしまっただけの、ただそれだけの人間だったのだ。


「………そろそろ、区の境に差し掛かる頃よ」

「勝負は一瞬……。飛び出してすぐ、先制で全放出するから、タイミングを絶対に逃さないで。
 振り返ったり迷ったり、手ぇ出してきたら……その時点でアンタも敵と看做す」

「……わかったわね? 一方通行」



「…………あァ、わかった」



低い声だったが、鮮明で力強く響いた返事に麦野は満足気な笑みを零す。



387 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 22:57:29.40DfwoBD+y0 (28/32)



「最後に、約束して?」

「……何だ?」

「アンタの“大切なもの”、絶対に取り戻しなさい。失ったとかほざいたら、ブチ殺し確定だからね」

「ああ、約束する」

「ふふっ♪」


会話はそこで終わる。
最後にもう一度だけ、優しい微笑みを浮かべた麦野は一方通行に背中を向けた。
そして、全身に薄い微光を纏い―――――、


――――――上部の鋼板を破壊し、そこから凄まじい勢いをつけて飛び出していった。



一方通行は、鮮烈な光に包まれたまま飛び立っていく麦野の燦爛たる姿を最後までその目に焼き付けた。
こじ開けられた大きな穴から外界を仰ぎ、静かに時を待つ。直に空が眩い光で覆われるであろう、その時を……。
また一つ生まれた、新たな覚悟と共に。



388VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/10/17(月) 23:00:56.35gHn8Oxlc0 (1/1)

当麻と馬鹿面がすげぇ心配だわ……


389 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 23:01:47.52DfwoBD+y0 (29/32)


ここまでです
長くなってサーセン
では次回投下予定の一部(ry


390 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 23:12:59.22DfwoBD+y0 (30/32)



上条「でええい!! 上条さんに頭脳戦を期待するのがそもそも間違いなんだよ!!」


浜面「テメェ……か………?」


―――――――


一方通行「………………クソったれが」


―――――――






食蜂「良い感じに荒ぶってるわねぇ。そんな精神状態で、この子たちの相手が務まるのかしらぁ?」



391 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 23:16:32.84DfwoBD+y0 (31/32)



上条「でええい! 上条さんに頭脳戦を期待するのがそもそも間違いなんだよ!!」


浜面「テメェ………か………?」


―――――――


一方通行「…………………クソったれが」


―――――――





食蜂「良い感じに荒ぶってるわねぇ。そんな精神状態で、“この子”たちの相手が務まるのかしらぁ?」


392 ◆jPpg5.obl62011/10/17(月) 23:19:48.12DfwoBD+y0 (32/32)

なんか重いな……しかも二重しちゃったし

今回は以上になります
次回もまた一週間くらい先ですが、ご容赦を
ではまた



393VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/17(月) 23:55:01.37nZRi49WSO (1/1)


麦のん……(:∋;)


394VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/18(火) 02:51:44.07vDY0f/+B0 (1/1)

乙だぜい…

今回は麦野回だったな
あわきんドンマイ


395VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/10/18(火) 08:57:01.40QbAE/zJAO (1/1)


麦野…


396VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/18(火) 10:27:56.52NWEqKaAwo (1/1)

乙ー
なんか今回だいぶ読みづらかった


397VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/18(火) 11:12:50.30jA8ew0ASO (1/1)

予想外……でもなかったりした
麦のん死亡フラグ立てすぎやww



398VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/19(水) 01:44:07.37/2nVphRA0 (1/1)

一方さんと麦のんって確かに経緯は違えど共通してる面が多いかも
一番近いはずのていとくんには拠り所みたいなものがないからなぁ



399VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/20(木) 00:40:52.93RK2UOYsSO (1/1)

>>398
一方通行→番外、打ち止め
麦野→新生アイテム面々
たしかにこうして見ると境遇近い希ガス


400VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/10/20(木) 12:08:37.35IXdAM23fo (1/1)

無能力者に2回負けて諭されてるところとか
殺したことを後悔してるところとかそっくりだと思うんだよなぁ
だからそれをきっかけに原子通行が進行するのをいつも妄想して文章にしようとしてたんだけど
あまりにも>>1の二人が綺麗にまとめてたからすげー満足した。


401VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/21(金) 00:21:56.11bCt8Mp4a0 (1/1)

一人で足止め役を買った麦野も心配だが無能力者コンビはもっと心配だ…
はまづらの秘策ってのが気になる


402VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/22(土) 01:57:54.25mxr/dp3f0 (1/1)

>>401
そういや麦野も浜面に何か渡したっつってたな…
フレンダなら爆弾だろうけど麦野が浜面に渡すようなものって何ぞ…?




403VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/24(月) 23:30:54.71HomTLFgD0 (1/1)

みさきちと一方さんの絡みが楽しみすぎて辛い


404 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 21:58:47.05uZsYV5yn0 (1/28)

お待たせしてすみませんです
続き投下します


405 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 21:59:41.04uZsYV5yn0 (2/28)



―――


浜面仕上の様子に上条が異変を感じたのは、眼前に立ちはだかる『ガトリング・レールガン』
から呻くような肉声を聴き取って寸分先のことだった。


『ォォオオ……ウオオオオ……!!』


まるで獣のような機械のノイズ混じりの音だが、良く耳を澄ませてみれば確かに男性の声だ。
上条はあの駆動鎧が『無人型』ではないのを確信したと同時に隣りにいた浜面へ視線を配る。

そこで異変が起きているのが判った。


「………ッ……ッ」


目を大きく開き、指を震わせながら絶句している浜面の姿を異常に思わないのが無理だった。

「……お、おい……? どうしたんだよ?」

敵から注意を逸らさないまま浜面に声を掛ける上条。
しかし、浜面はその言葉に反応を見せず、正面を睨んだまま硬直していた。



406 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:01:27.49uZsYV5yn0 (3/28)



「………………………」


が、やがてその表情がみるみる内に険しさを増していく。
時折呻く『鉄の塊』に呼応するかのように。

「その……声…………」

「?」

ポツリと呟いた浜面を怪訝な目で見る上条。

「その声は………まさか…………」

「な、なぁ……だからどうしたんだって……」



「テメェ………か……?」



途端、浜面の表情が鬼の形相にシフトチェンジした。
突如、激しい憎しみに支配された浜面の豹変に上条は取り残される。





「―――――テメエかァァああああああああああああ!!!!!」



407 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:02:36.45uZsYV5yn0 (4/28)



その形相のまま大音量で叫び声を上げ、怯んだ上条を置いて突進した。
何が何やらさっぱりだが、浜面の行動が無謀を通り越していることだけは判断できる。

「ば、馬鹿野郎……ッ!!」

完全に出遅れてしまったが、浜面の速度は緩むどころか加速していく。
咆哮を撒き散らし、我を忘れて襲い掛かる浜面に向けて、三段式の銃口が装填される。



「―――――テメエが滝壺をォォおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」



腹の底から吐き出す怒号と共に肉薄する浜面。
まるで何かに憑りつかれたような彼に、死の迎撃が放たれようとする。

が……。


「ォおおおお――――!!!?」


危険を予兆した上条が激昂のあまり真正面しか見ていなかった浜面にタックルする。
真横から体ごと飛び込んだ上条と重なり、地面に右半身から転倒した。

“迎撃”が実行されたのは、正にその直後だった。
ほんのニ~三秒の誤差で、浜面は直撃を免れたのだ。
上条の身を挺した行動によって。



408 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:03:49.59uZsYV5yn0 (5/28)



「………ッッッ!!」


上半身だけ起こした状態の二人。そのすぐ傍を通過していく『“擬似”超電磁砲』。
あのまま突っ込んでいたらどうなっていたか……。冷却された頭で想像し、体を震わせる。

しかし、あの“金属装甲”の中身は浜面の推察通りなら、一瞬とはいえ冷静さを失うほど
激情してしまうのも無理はなかった。

一言で述べるなら、全ての“張本人”―――――。


「……す、すまねぇ。助かった……」

「いや、それは別にいい……。……って! そんなやりとりしてる暇ねえぞっ!!」

「――――!!」


すぐさま立ち上がり、分散する上条と浜面。
追撃体勢に移っている異型の武装甲から距離をとる。

安全地帯、と呼べる場所は少ないが、無法地帯なだけあって他人を巻き込む心配が要らない。
まずは先と同様に撹乱し、無駄撃ちを誘う。

足を止めた時がデッドラインだ。

しかし―――、




409 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:05:10.05uZsYV5yn0 (6/28)



「……ッ!」

「うぉ!?」


金属砲弾の貫通力は大抵の遮蔽物を無効化させ、周囲に瓦礫が散漫する以外の進展がなく、
十代後半男子より平均的にやや高い程度のスタミナが磨り減っていくばかりである。

埒が明かない以前に、現状を保っているのが奇跡だった。

連射機能は無いらしいが、代わりに三つの銃身それぞれが違う方向に狙いを定め、同時に
発弾してくるため、爆風や余波に生身の肉体は翻弄され尽くす。
ついには風に乗って飛ばされて塀に全身を強打し、浜面と上条は一太刀浴びせる事叶わぬ
まま窮地に追い遣られた。

「クソォ………近づくどころか逃げることさえ満足に行かねえってか……。こんなの反則
 だろうがよぉ……」

ヒビだらけで何時倒壊しても不思議ではない塀にに背を預けながら愚痴る浜面。
しかし上条は無言で立ち上がり、浜面に言い放つ。

「お前はこんな所で死にてえのか? ……俺はゴメンだ」

「……俺も願い下げだよ。クソったれ」

「なら、絶対生き延びてやろうぜ? “無能力者を軽く見てるアイツ”に、一泡吹かして
 やらねえとな……」

「…………どうやって?」



410 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:06:06.72uZsYV5yn0 (7/28)



「それを今から考えるんだ!」


浜面の腕を掴み、強引に立たせた上条は塀沿いに走る。
すぐ後ろで射出された電磁の塊が塀を直撃、貫通し、再度轟音が響き渡った。


「格好いい科白吐いといて、結局打開策は何も無えんじゃねえか!!」

「仕方ねえだろ!? あんなのと生身の人間が相対する時点で、ハンデとか言うレベルの
 話じゃねえだろうが!! まともにぶつかったら消し炭にされて終わりだよ畜生!!」

「コッチには『思考』が残ってんだろ!? そいつを有効に使うしかねぇ! 実力じゃあ
 話にならねえのは一目で判るさ! だったら“知恵”で何とかするっきゃねえのも判る!
 けど残念、俺はまともに教育すら受けてねえ馬鹿組だ! ここはアンタの振り絞った知恵
 で逆転を狙う以外にねえぞ!?」

「んなスマートに事が運べたら必死に全力疾走する必要もねえんだよォォ!! っつーか、
 あからさまな他力本願は止めて、お前も少しは知能を振り絞りやがれ!!」

「だから俺は考えんの得意じゃねえっつってんだろうがァァ!! うおおお!!? やべえ
 死ぬ!!」

「でええい!! 条件は一緒だろ!? 俺だって知識レベルは能力レベルと一緒でゼロなん
 だよ!! 上条さんに頭脳戦とか期待するのがそもそも間違いなんだよォォおおおおお!!!
 ぬォお!! あ……熱ィィいいいいいい!!!?」


逃げ回りながら大声で口論する二人だが、この時点でまだ一発も直撃を喰らってはいない。
数メートル後ろは地獄絵図と化しているが、背中が火傷しそうなくらい熱いだけでまだ済んで
いた。



411 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:07:39.15uZsYV5yn0 (8/28)



だが、当然ながら安心できる状況ではないのもまた事実。

爆風で視界が不安定にも拘わらず、射出の方角に“ブレ”が見られない。
蛇行することにより電磁砲撃自体は空を走らせているが、直線上に逃げていたとしたらとっく
に全身爆ぜているだろう。
最低限の対人捕捉能力も備わっているのが窺える。

辺り一面が焼け野原になるのも時間の問題だった。
そろそろ体力的にも限界が近い。
大通りへ続く小道の狭間で逃走中の二人は立ち止まった。


「ゼェ……ゼェ……」

「ヒィ……ヒィ……」


一心不乱に走り回ったのと生か死かの瀬戸際に立たされた事による緊張感で、心身共に疲弊
しきっている。
このまま逃走を続けても、終着駅が近いという命運は避けられそうにない。

苦虫を噛み潰すような表情を作った浜面は、息絶え絶えに呟く。


「くっそ……。できりゃあ使いたくなかったんだがな、もうそんな悠長なこと言ってる場合
 じゃねえ……か」



412 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:11:04.06uZsYV5yn0 (9/28)



この言葉に上条の眉がピクリと動いた。

「おい、何だよその意味深な発言は……? そ、そう言えばお前……! 『隠し種』がある
 とか言ってたよな確か!?」

「ああ、まあな……」

しかし、浜面は気が進まないといった調子で頭を掻いた。
何かリスクでも付属されているのか? と上条が気にかけた所、浜面は重々しく告げた。

「いや……気にならねえと思えばならねえんだけどよ。ちょっとなぁ…………っと、やっぱ
 気にしてる余裕はねえ……っ! 死ぬよりはマシ、ってなぁ!!」

追いつかれた事に心を切迫され、躊躇いや迷いが消える。
決心を固めた浜面は、ジーンズのベルトに着用されたホルダーに手を伸ばす。
素早い動作で取り出された物体に上条も目を奪われる。

が、


「………は? ちょっ……いやいや、流石にそんなモンが効くとは……」


相当の期待感を抱いていただけに落胆する。
上条が肩を落とすのも当然、浜面が手に持っているのはそこいらの黒服でも所有してい
そうな一丁の拳銃だった。
モデルガンにも見え、特別不思議に感じる要素はどこにもなく、上条は失笑気味に指摘
する。



413 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:12:30.49uZsYV5yn0 (10/28)



ところが、浜面はフフンと鼻を鳴らし、


「まあ、見てろって」


と、自信満々に告げた。
そして次の瞬間、


「―――ッッ!!?」


上条の苦笑混じりな目が最大にまで開かれた。
良くガンアクション映画などで聴くような発砲音も響かない。

射出されたのは鉛弾ではなく、“火”。

小さな銃口から規模を拡大させた炎は、膨大な火力を帯びて最新兵装(ファイブ・オーバー)
を瞬く間に包み込んだ。正面の視界は炎渦に埋まっていく。

良くあるデザインの“拳銃型ライター”では象と蟻の差だった。一般的に最も良く知られて
いるサイズの変哲無き銃。一体どこにこれほどの火力が備わっているのか、是非とも解明を
求めたい上条。

「………す、すげぇ……!!」

ゴオオオ! と、勢いの収まらない“拳銃型火炎放射器”の威力に呆然とする上条だったが、
銃撃手の浜面はどういう現象か苦悶の表情を浮かべている。



414 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:14:59.28uZsYV5yn0 (11/28)



使用することで何らかの副作用が働く仕組みにでもなっているのか。

まるで頭痛を堪えているかのような印象を上条が受けたとほぼ同時、銃口から噴く炎がガス
の切れた状態みたいに鎮火された。
充分だと判断した浜面が引き金から指を放したからだ。

「や……やったか……!?」

上条が思わず期待に満ちた声を出す。

だがしかし、

炎上網は消え、煙も晴れた直後にこの期待は裏切られた。
大火に呑み込まれる前と何ら変わらない状態のまま、再び最新兵装がその巨体駆を露にする。
目立つ焦げ跡が殆ど見つからず、浜面は苦痛に歪んだ顔のまま舌打ちした。

「全くの無傷……? う、嘘だろ…!? あれだけの火力ならどんな鋼鉄だって溶けるだろ
 普通……!」

「耐火コーティングもバッチリ施されてやがんのか……!」

ようやく訪れた反撃の時間もこれで終わりか。
そう思った上条だったが、浜面の瞳からは何故か光が消えていない。

まるで『絶望に瀕するには早い』とでも言いたげに――――。


「――――けど、残念だったな。悪いがそいつも予想通りだ!!」



415 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:16:01.36uZsYV5yn0 (12/28)



威勢良く言い放ち、“拳銃型火炎放射器”をホルダーにしまう。
そのまま流れる動きで反対側のホルダーに手を掛け、またもや“拳銃”の形をした物体を引き
抜き構えた。




「よう化物、『蒸発熱』って知ってるか?」




ニヤリと口元を歪め、照準を定めたまま引き金を弾く。
すると今度は銃口から玩具の水鉄砲など比較にならない圧力の“水”が噴出した。

“消防用ホース型拳銃”から放出される水圧をまともに受けた装甲は、再度の一時停止を余儀
なくされる。
浜面の表情がまた苦痛に染まるが、上条は成り行きを見守る以外の行動をとれない。
浜面に何かの策があるなら、余計な手出しは慎むべきと踏んだからだ。

そして、その判断が正解とでも告げるような変化はすぐに現れた。

途切れなく放出され続ける水流と装甲を中心に、霧状のモヤが発生する。
熱の冷めない空気中に水素が結合し、水蒸気化したのだ。
やがて霧は範囲をどんどん広げ、上条達の位置にまで及ぶ。

「………視界を奪ったって、アッチに探索機能があるんじゃ意味ねえんじゃねえのか?」

そう指摘した上条に背を向けたまま、浜面は強気に返答した。

「目眩ましだけが目的じゃねえよ。……もちろん、ブッ倒すためさ」



416 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:18:05.45uZsYV5yn0 (13/28)



「え……?」

「屋外じゃ成功率は低いらしいけど、これだけの質量なら多分上手く行くはず……ってか頼む、
 上手く行ってくれ……ッ!」

祈るようなその口調に上条の疑問は深みを増す。
既に正面は濃い霧で覆われ、コチラからは敵の様子を確認できない。

しかし、そんな状況下でも確実に次の行動を捕捉できるパターンが一つ残っていた。


「に、してもスゲェ霧だな……、何も見えねぇ……。これじゃあコッチからも手の出しようが
 ないんじゃ……?」

「いや、そうでもねえさ。……気づいてるか? あいつが砲撃する寸前は、射出口が光り出す。
 幾ら霧がかった視界でも、その光は肉眼で捉えられるはずだ……」

「それが攻撃の合図みたいなモンか……?」


「ああ……そして――――その一瞬こそが明暗を分ける」


右手に火、左手に水。
二丁の拳銃を前方に向け、浜面は地を踏む両足にグッ、と体重を乗せた。

「……その武器、何かリスクでもあるのか? 使用した時、随分辛そうに見えたけど……」

「…………ひと仕事片付いたら、まとめて説明してやるよ」



417 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:19:10.33uZsYV5yn0 (14/28)



(さあ……来るなら来やがれ!!)


生唾を呑み、緊張の一瞬を待つ。

そして――――、


(――――今だ!!)


霧の向こうに一瞬浮かんだ微かな蒼い光を浜面は見逃さなかった。


「おい!! 俺から離れてろ!!!」


そう叫びかけ、左右の人差し指に力を込め――――両方の引き金を同時に弾いた。
浜面の持つ二丁拳銃から噴出する容量を無視した四大元素の内の二つ。
片方は“火力”、もう片方“水力”。
それぞれ異なる自然の驚異が浜面の手で一点に掌握され、蒼白い光へ向けて交じり合うよう
に放たれる。

向こうも砲撃体勢に移行しているのは承知。
だからこそ、浜面は敵の射出に合わせて“火”と“水”を同時にぶつけたのだ。

これらが導き出す結果は……、




418 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:19:59.54uZsYV5yn0 (15/28)




「―――――ッッ!!!?」




「ッ……ふ、伏せろォォおおおおおおっっっ!!!!!」




突然、前方で起きた謎の大爆発と轟音が解明してくれた。




419 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:21:29.60uZsYV5yn0 (16/28)



―――


第五学区の外れ。
学園都市内でも開拓を放逐している土地が極めて多いのは第十九学区だが、この周辺も人が
住むにはあまり適さない環境といえる。

そして、そういった土地は不適合者の集まりや裏世界の住人たちにとって恰好の場所だ。

統括理事会の方針、思想に反感を持つ権力者一派を総称して『反対政策派閥(反対派・反政派)』
と呼ぶ。現在、確たる敵として道を憚らんとする新星組織、『新入生』を裏で動かし、一方通行
の発現させた『自分だけの現実』を独欲しようと目論む背徳者たちである。
つまり、最終的に叩き潰さねばならない『中心核』だ。

遥か後方の大通りで、時折凄まじい爆音が微かに耳を振るわせる。
自分を行かせるために多大な兵力を請け負ってくれた唯一の理解者、麦野沈利が今も孤軍奮闘し
ているのだろう。

彼女の痛烈な気持ちに応えるためにも、今自分のすべき事を見失うわけにはいかない。

『番外個体』――――。

『打ち止め』――――。

そして、『妹達』――――。



420 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:23:03.40uZsYV5yn0 (17/28)



実験が凍結され、新たな道を歩み始めた生命。
それらを脅かす存在を、野放しにはしておけない。

打ち止めと出会い、自分自身の生き方を見つめ直すことができた。

番外個体と出会い、温もりや愛情に触れることができた。

今の自分を形成する上で、身体も心もかけがえのない存在と化した彼女たちを標的にした彼等
だけは―――――絶対に許せない。

『無人区域』に足を踏み入れた一方通行。
今の彼には何の迷いもなかった。


(ここか)


絹旗最愛から聞かされていた『旧柊工場』。
元々は何かの研究施設として稼動していたらしいが、今はただの廃屋である。
付近に幾つかの倉庫みたいな建造物が見えるが、やはりそちらも現在は空き土地のようだ。

(やけに静かだな……。隙でも窺ってンのか? 狡い真似しやがる……)

正面に聳える一際大きく目立つ建造物の中へ、侵入する。

(ここも倉庫か……? っつか、盛大に歓迎されるのを想定してただけに、コイツァ……)

不気味だった。



421 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:27:19.47uZsYV5yn0 (18/28)



警戒心を露にし、注意を張り巡らせる。
いつ襲撃を受けても対処できるように、チョーカーへ指を当てておくのを忘れない。

ここは敵地の中心地。
油断は即、命取りに繋がるのだ。

広く薄暗い倉庫内部を一通り見回す。

と、その時だった。



「あらあらぁー? もう御到着ですかぁ? 第一位さまぁ☆」



このヤル気を根こそぎ奪ってくれそうな声には聞き覚えがある。それもつい最近に。


「………『心理掌握』、食蜂操祈」


「ふふん、憶えててくれたみたいで嬉しいわぁ。つっても昨日の事だし、流石に痴呆症
 でも忘れないわよねぇ?」


首を四十五度ほど上に向ける。
視線の先には、二階足場の手摺りに腰を乗せた食蜂操祈が陽気な笑顔を提げて一方通行
を見下ろしていた。長めの金色髪(ブロンドヘア)が窓から射し込む日光に映えており、
甘え口調に不相応な気品と優雅さが演出されている。

「思ったより早い再会だったわねぇ。意外と縁があるのかも、ウチら」

「そォなる様に仕向けた癖して、良く言いやがる……」




422 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:28:48.85uZsYV5yn0 (19/28)



魅惑を誘うような少女の視線が癪に障る。
眉間に皺が寄り、苛立ちにも似た不快感が心を占拠する。
友好的とは決して呼び難い眼差しを食蜂へ浴びせつつ、そういった心理を一切隠さない
調子で単刀直入に尋ねた。


「番外個体と打ち止めはどこだ?」


ここへ来た最大の理由である。
たとえ罠だと理解していても、“慎重に賢く動く”という理論的な手段より感情が優先
する要素として、これ以上の材料は無い。

これよりも死に物狂いになる理由が在るのだとしたら、寧ろ食蜂が知りたい程だ。
様子を見るからに、思惑通りの状況が出来上がったといったところか……。

一方通行の冗談、誤魔化しを欠片も許さない低声。
しかし、食蜂の顔は強張るどころか更に不敵な笑みを深まらせた。
一方通行は気持ちが急く感覚を自認しながらも、もう一度同じ事を訊ねようと唇を微動
させる。

が、それよりも先に食蜂が透き通った声をぶつけてきた。


「あははっ、良い感じに荒ぶってるわねぇ。所詮、アンタも自然の定理に基づいて誕生
 した人間(ヒューマン)に過ぎないってコトかしらぁ? まぁ、もっとも全ての感情
 を無にコントロールする術なんて、『絶対能力』の域に達しても身に付くかは怪しい
 だろうから、別に恥じる必要なんかないのよぉ?」



423 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:31:41.14uZsYV5yn0 (20/28)



「……俺の質問に答える気は無ェ、か」

「答えたとして、その後どうしようっての? 自から身を差し出して、潔く散るつもり?
 第一位さまにマゾっ気があったとは知らなかったわぁ」

「何があったとしても、俺はアイツらから逃げたりしねェ。そォ誓ったし、約束もした。
 オマエに理解されよォとも思わねェ」

「真っ直ぐで馬鹿正直な志し立派ー、って褒めてやりたいトコだけどさぁ……どんなに
 覚悟を改めたって、現実はそれに応えてくれるほど易しくない。そして、アンタはこれ
 からすぐにソイツを強く実感する。……その強固な姿勢をどれだけ保ってられるかしら?」

「………」

「ううん、訂正。いつまでその虚勢を維持できるか、って言うべきね。“あの子たち”に
 弱い姿を見られたくないから? ……それとも、格下に主導権を握られたくないっていう
 第一位としての意地?」

「…………」


「もしかして、第四位の生き様に絆された……とか? ハハッ、流石にそれはないかぁ」


この言葉が出た瞬間、一方通行を包む空気がそれまで以上に禍々しく変異する。



424 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:33:19.46uZsYV5yn0 (21/28)



「…………………クソったれが、いちいち騒がしいガキだ……」


第四位の単語が耳朶を揺らし、一方通行の眉が不快そうに吊る。

「……無駄な時間をオマエと共有する気は無ェ。俺がここに来た目的は、オマエもご存知
 の通りだ」

チョーカーに指を当て、食蜂の口車に掻き乱されないように己の意志を反芻させる。
強く思念することにより、自意識をしっかり保つ。
自分を見失いやすい、最悪の場合暴走してしまう恐れも起こり得る状況の中、一方通行は
“飛んで”しまいそうな感覚を懸命に抑えているのだ。

まして、すぐ目と鼻の先には“実行犯”がいる。
昂ぶる気持ちが溢れそうにもなる。
しかし、理性を失わせて付け入るという敵の打算に敢えて乗るつもりはない。

「あら、やあねぇ。仕組んだのはコッチなんだから当然じゃなぁい? ……で? どうす
 るのぉ? まさか、私を拷問に掛けてでも居場所を聞き出そうって物騒なコト考えてたり
 するぅ?」


「―――――あァ、その“まさか”だよ」


スイッチが入り、障害者は能力者にシフトする。
それも右に並ぶ者が現時点で一切存在しない、最強の能力者へと。



425 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:34:47.72uZsYV5yn0 (22/28)



伸縮した杖が仕舞われたと同時、一方通行は“跳んだ”。
いや、正確には“地面から打ち上げられた”という表現に近いか。
大気中を流れる気体の“流れ”を捉え、最短で食蜂との距離が縮まる。

瞬きをする間もなく肉薄されたにも拘わらず、食蜂の笑顔は崩れない。
これも筋書き通りだと語っているようなその楽観的な瞳に、一方通行は憤懣した顔つきで
乱暴に手を伸ばし、足を組んだまま手摺りに腰を掛けた食蜂の身体を引き寄せる。

胸元を片手で掴まれ、食蜂の体重が一方通行の腕一本に支えられる。
しかし食蜂に苦悶の表情は見られない。
一方通行の計らいで幸い窒息には到っていないらしいが、こめかみに拳銃を突きつけられ
ているに等しかった。

あっさり、本当にあっさりと食蜂操祈の命を握れたことに肩透かしのような気分を味わう
一方通行。
今は空気のベクトルで自らと食蜂を浮遊させているが、気分次第では何時でも食蜂を始末
できる。たとえば食蜂の胸元を掴んでいる手をフッと放すだけで、死にはしなくても意識
を断ち切らせる程度なら欠伸をするよりも容易いだろう。


「いやぁーん、乱暴ねぇ♪ ちょっとぉ、制服に皺寄っちゃうじゃないのよぉー」


こんな状況に一転させられても、まだ食蜂は余裕綽々としていた。
危機感を持たない馬鹿にしか見えなかったが、これでも“七人の怪物”の一角。
裏があるのは一方通行も感じている。



426 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:37:20.75uZsYV5yn0 (23/28)



「オマエがこれから生きるか死ぬのか、俺の匙加減ひとつでどォにでもなるのは分かって
 るハズだ。その上でもォ一度だけ訊いてやる」

「………」

「番外個体《ミサカワースト》と打ち止め《ラストオーダー》はどこだ? 直接攫ったの
 がオマエだって事ぐらいは知ってンだよ。手遅れになる前に吐いちまえ」

「……私を殺す気ぃ? こぉーんな花も恥らう乙女を? 今のアンタにそんな度胸がある
 のか、正直疑問なんですケドぉ?」

「悪いな、コッチはとっくに腹ァ括ってンだ。あのガキ共に危害を及ぼすヤツには容赦し
 ねェし、区別もしねェ」

「恐いわねぇ。敵意を通り越した殺意なんて久しぶりに向けられたわ。今夜、夢にでも出
 てきそう……うふふ」

「死にたくねェなら素直になれよ。別の場所にいるンなら正確な位置を教えろ。もし近く
 で待機させてるンなら今すぐここに呼べ。オマエに拒否権はねェし、与えてやるつもりも
 ねェぞ?」

「ッ……」

掴んだ手に力を込める。食蜂の顔が微かな痛覚に歪んだ。

この時点では“まだ”脅しだ。
実際に彼女を殺す必要はないし、今殺してしまっては肝心の情報源が損失するだけに終わる。



427 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:38:29.85uZsYV5yn0 (24/28)



それに、

『心理掌握』の能力が番外個体たちの自律心を制御しているのだとしたら、単純に意識を
奪うだけで事足りるはずだ。
食蜂が番外個体たちの居所を吐くか、この場に“呼んで”しまえば一方通行の勝ちである。

だが、この後の応対次第ではこの予定を変更させる必要もある。
できればそうなる前に番外個体たちの無事を確認したいところだ。

明らかとなった直後に食蜂の意識を刈り取る寸法の一方通行をまるで嘲るように眺め、制
服のポケットから小型の機械部品を取り出したことでその工程を覆した。

「ふふふっ……」

ここまで全て食蜂の工程内だった。
何の保険も掛けずに『格上』と相対するほど、彼女も馬鹿ではない。

「そんな“複製品”を死ぬほど助けたい第一位さまに問題でぇす。これは一体何でしょう?」

一方通行の眼前に提示された謎の小型部品。
まるでテレビのリモコンを一段階縮めたような形状のそれに、自然と注意が傾く。

「……?」

「ハイ、時間切れぇ。正解は―――――」


「――――― バ  ク  ダ  ン  ☆」




428 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:40:20.47uZsYV5yn0 (25/28)



「――――ッッ!!!??」


「…………の、起爆スイッチ♪」


悪戯心溢れる口調で喋る食蜂。
“爆弾”という単語に一方通行の眉が大きく吊り上がる。
同時に心中がざわめき、言い様の無い不安感に駆られてしまう。
食蜂を拘束する右手が、わなわなと震えだす。


まさか……


まさか……ッ!!


「“あの子たち”のお腹の中にある爆弾。その起爆スイッチがこれよぉ。……じゃ、改めて
 訊くケド、今の心境はどうかしらぁーん?」

「………っっ!!」

「私が憎い? 殺してやりたい? ……ケド残念ねぇ、殺されるのはアンタの方。アンタが
 私の“シナリオ”通りに動き出した時点で、この結末は約束されてるの。折角の忠告も無駄
 に終わっちゃったみたいで、少し拍子抜けだわぁ。せめてもっとチャンスを与えてやるべき
 だったかしらぁ? ふふふっ」

「っ……こ……」

「“乱れ”が隠せてないわよぉ? ここまで顕著だと、能力が効かない分も充分補えるくらい
 に、ねぇ。そんな精神状態で“あの子たち”の相手が務まるのかしらぁ?」

食蜂の上品な笑みが、小悪魔の放つ雰囲気を匂わせている。
一見して不利な立場の食蜂が、事実上優位に立っていた。



429 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:42:40.23uZsYV5yn0 (26/28)

今回は以上です
正念場とかいうヤツです
食蜂さんはドSに見えて実はMな気がします

では次回予定の一部分


430 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:50:27.26uZsYV5yn0 (27/28)



食蜂「……もはや呆れを通り越して滑稽ねぇ。敵に献身してでも救い出したいなんて……。
    プライドとか無いワケぇ?」


一方通行「拘りや意地じゃ、実際誰も救えやしねェ。そンな事は嫌って程に学ンでる」


―――――――


美琴「何が起こったってのよぉ………あー、痛ったいわねぇ。もう……」


黒子「この惨状は……か、上条さんはっ!? 上条さんは何処ですのっっ!!??」


―――――――


浜面「……できれば、もうアンタとは敵対したくねぇんだ……。そこを退いてくれ」


上条「……そうはいかねえって言ってるだろうが」






431 ◆jPpg5.obl62011/10/25(火) 22:52:41.54uZsYV5yn0 (28/28)

次回も読んでくれると嬉しいです
ありがとうございました


432VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/10/25(火) 23:03:52.86gf+62DBXo (1/1)

Mな食蜂さんが見たいです乙


433VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/25(火) 23:07:53.30Hm6otmUSO (1/1)

ちょ、おま、ここで区切るとか……
鬼畜ですの乙!


434VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2011/10/26(水) 00:10:50.90yzc9ILhAO (1/1)

ホントにここのSSの一通はアホで弱っちぃよね


435VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/26(水) 01:23:39.92slOvEECa0 (1/1)

だがそこがいい


436VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/26(水) 01:44:57.21BGl7jdOSO (1/1)

「蒸発熱って知ってるか?」→じはし
浜面さん語呂が超悪いです


437VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/10/26(水) 19:11:36.02HJBA1gHAO (1/1)

乙です
次も期待してます!


438VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/27(木) 00:19:31.76jAFB6kKE0 (1/1)

科学の街らしい展開に胸熱でした
あ、浜上の方ね


どmなみさきちを書けいや書いてください



439VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/28(金) 10:36:01.74SFoi+tCk0 (1/1)

前スレで一方さんに向けた拳銃か
どっちにしろ反射で焼き面じゃん
結局、馬面は超馬面ってわけよ


440VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/02(水) 20:58:32.48GEqKFP8b0 (1/1)

そろそろかな?


441 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 20:26:30.8051IQKJzu0 (1/26)

遅くなりました
では続き


442 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 20:30:02.4551IQKJzu0 (2/26)



食蜂操祈の追い討ちは続く。
揺れた心の隙間に付け入るように、“言葉”という矛を用いて一方通行の精神面をじわじわと
侵蝕していく。

「可哀相だからもう一つ良い事を教えてあげる。『番外個体』『最終信号』の体内に仕掛けた
爆弾は時限式☆ そうねぇ……大体あと二時間くらいでグロテスクな人間花火が完成するわぁ」

「私の意識を断ち切って安全牌を取るのもイイけどぉ、起爆解除は私にしか出来ない。特殊な
 設計を用いて作られてるヤツだから、アンタの能力でも探知できない構造になってんのよねぇ。
 つまり、私を眠らせたら自動的に“あの子たち”は爆ぜ死ぬ運命」

「さぁ、困ったわねーぇ。どうするのぉ? 第一位さまぁ。因みにこの“遠隔操作装置”で起爆
 解除は出来るケドぉ、結構並びが複雑なのよねぇ。すぐ隣りは“起爆ボタン”だしぃ……。違う
 ボタン押して、ドカーン☆ ってなっても怒らないなら渡してあげなくもないわぁ」

「もちろん、どれが解除ボタンかまでは教えないけどねぇ♪ 流石にそこまで親切にする義理は
 ないわよぉ。ふふっ」


「事前情報は以上ぉ。今後の動きの参考程度にはなったかしらぁ? あとはアンタの自由。私を
 殺すも良し、意識を奪うも良し、無様に尻尾振って私の機嫌取りに努めるも良し。本当に彼女等
 を救いたいなら、どうすべきなのかも見えてくるわよねぇ?」


「…………っ!!」


こめかみの辺りにチクリと針で突かれたような刺激が走った。



443 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 20:32:48.2451IQKJzu0 (3/26)



殴り飛ばしたい衝動に駆られて腕を振り翳すが、残った理性がブレーキを掛ける。
行き場を失った手が虚空を泳ぐ。食蜂の言葉が事実なら、ここで叩きのめしても番外個体たちの
危機に拍車を掛けるだけである。

潰すべき相手がすぐ目の前にいるのに、既に手も届いているのに、あと一歩が踏めない。
手が、出せない。

全て、この女の計算通りに展開していた。
番外個体と打ち止めを楯に利用するかと予測していたが、甘かった。

残酷で、想像もしたくない結末。
そう、“彼女達の死”という最悪の結末に、より現実味を与える食蜂の打算。
後ろ盾にされるよりも性質が悪く、難易度も一層跳ね上がっていた。

しかし、


「……ッ…」


一方通行にとっては、“究極の選択”とまでに到らない。
食蜂に手を出すことで番外個体たちの身が危うくなるのなら、考えるまでもなかった。

食蜂と共に埃だらけの床へ着地し、歯痒い感情を剥き出しにしたまま、


「……………クソが」


彼女の胸元から静かに手を放した。



444 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 20:38:38.2251IQKJzu0 (4/26)



「……何が望みだ?」


自由の身となった食蜂へ問う。
可能な限り、要望は呑む。一方通行の苦渋に満ちた瞳がそう述べているようだった。
態度をガラリと変えて大人しくなった一方通行に、食蜂は高笑いしたくなる衝動に駆
られる。
だが、あくまで冷笑のまま言い放つ。

「あらあらぁ、随分と素直になっちゃって……そんなに“あの子たち”が大切ぅ?
 格上の威厳を捨ててでも守りたいワケぇ? そぉいうトコ、やっぱ私には理解でき
 そうにないわぁ」

「オマエに分かってもらおうとは思わねェよ……。俺をどォしよォと構わねェがな、
 アイツらは関係ねェだろ? 最終的に俺の頭さえ手に入れりゃ、オマエらの目的も
 達成になるンじゃねェのかよ? ……だったら、せめてアイツらは解放すると約束
 しやがれ。……ソイツさえ保障できりゃあ、後は何処だろォが付き合ってやるさ」

「ふーん……。泣かせる話だけど、信憑性はゼロね。口先だけなら幾らでも人は強く
 なれるし、在り得ない浪漫世界だって好きなだけ創造できるわ。“言葉”で私を誘導
 しようとか目論んでるなら、相手が悪かったとだけ言っておくわぁ。上面だけで人を
 信用しない性質なのよ、私ぃ」

「………っ」

舌打ちしそうになるのをグッと堪える一方通行。
搦め手からという人生で初めて行った試みも、残念ながら不発に終わったようだ。
この女は他人に媚を売っていそうな印象の反面、実に用心深くて隙がない。

実力的に差が開いているとは云え、腐っても自分と同じ『超能力者』。
人間の心を扱うジャンルなら、自分以上に頭がキレると考えて間違いはないだろう。



445 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 20:47:01.6451IQKJzu0 (5/26)



更に、他人の言葉になど最初から耳を貸さないまでに彼女自身の心の防壁は徹底されて
いる。
その上で人間の深層心理を知り尽くし、自身の思い描いた絵の通りに他者を動かせる女。

『心理掌握』の通り名は、伊達ではなかった。

そんな、言わば『心理学のプロ』を相手に巧みな言葉選びで好転を狙うなど、流石の
一方通行と云えど厳しい面がある。

「……どォすればガキどもを解放する? その爆弾とやらを解除させるために、俺は
 手始めに何をすりゃ良い? 犬みてェに跪いて、オマエの靴底でも舐めりゃあ良いのか?」

「………できるの?」

「それでアイツらを助けて貰えるンなら、安いモンだ」

「……もはや呆れを通り越して滑稽ねぇ。敵に献身してでも救い出したいなんて……。
 プライドとか無いワケぇ?」

「拘りや意地じゃ、実際誰も救えやしねェ。そンな事は嫌って程に学ンでる。ほらァ、
 遠慮しねェで好きなよォに命令してみろよ。こンな機会は滅多にねェぜ? 言った
 よなァ? 覚悟なンざとっくに決まってるってよォ」

「………ふふっ、いいわぁ。その正直な姿勢に免じて、まずはアンタの要望に応えて
 あげる☆」

一定の距離を開き、唐突に手に持っていた遠隔操作器のような物体を弄る食蜂。
静寂な空間に響いた機械音を合図に複数の人影が浮かび上がり、食蜂と一方通行の
立ち位置に次々と集結していく。


「……!」



446 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 20:50:02.8051IQKJzu0 (6/26)



人影の正体が明らかになった途端、一方通行は言葉を失ったまま直立不動と化す。
予想以上に最悪の結末が手を招き、彼を歓迎しているようだった。

十人近い同系統の姿と顔立ちをした少女たちが、食蜂を崇める形で取り囲む。
同時に一方通行へ収束される強い敵意。
無感情から発せられる氷のような冷たい視線が、一方通行を容赦なく貫いていた。


「オマエ…………学園都市近辺の『妹達』まで手駒に………!」


スーッ……と、全身の血が抜かれていくかのような錯覚を味わいながら、掠れる声を
零す。食蜂はそんな一方通行を査定でもしているみたいに眺めてから、軽やかに口を
転がした。

「ここまでは想定できなかったみたいねぇ……。まぁコッチとしては予想通りの反応
 で、今ひとつ面白味に欠けるケドぉ」

「………最高の嫌がらせじゃねェか……。ハッ、確かにこンな光景は悪夢以外に表現
 のしようがねェよ、クソが………。ンで、“コイツら”を俺の前に集合させて、どォ
 しようってンだ? くだらねェ悪巧みの予感しかしねェぞ?」

「安心しなさいよぉ。その子たちは私の護衛を兼ねた背景みたいなモノだから。アンタ
 に裁きを下す役目なら、もっと相応しい適任者がいるじゃなぁい。そこだけは、アンタ
 の期待通りに進捗させてもらおうかしらねぇ」

「……?」


――――その直後。



447 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 20:56:24.1951IQKJzu0 (7/26)


「ッ……!?」


右斜め上の天井付近が蒼白く発光した。
次いで轟く雷鳴に、一方通行は思わず身構える。

が、すぐに敵対心は露の彼方へ消し飛ばされる事となった。


「番外個体………!!」


見上げた先に映った少女。
それは、彼が現時点で最愛の想いを抱いている『番外個体』に間違いなかった。

そして、一直線に一方通行と『妹達』、食蜂の近くへ降り立った番外個体の肩に腰を乗せ
ている未熟個体。


「打ち…………止め……………」


枯れそうな声しか出せなかった。
精神が激しく掻き乱されているのが自身でも分かる。
いくら平静を装っていても、簡単に見破れる食蜂相手では意味を為さない。



448 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 20:58:39.7451IQKJzu0 (8/26)



打ち止めの自分へ向けられた表情を見た瞬間、一方通行は心臓が停止してしまいそうな程
の衝撃を受けた。
天真爛漫で無垢だった打ち止めは、もうそこにいなかった。

タネは理解できている。“あれ”は『心理掌握』が創り出した一種の“幻想”みたいな物
だということは。

しかし、まるで己の意思とは一切無関係のアレルギーでも発動したかのように、頭の中が
真っ白に染まっていくのを抑制できない。

更に、番外個体の親の仇でも睨むような憎悪に満ちた瞳も精神崩壊への片棒を担ぐ。
“あの時”、木原数多の施設で見た時と全くと言っていい程に同一。
二度とあんな悪夢のような体験はしたくない、と切に願っていたのに……。
『妹達』とは違う制服姿の番外個体を見つめながら、一方通行は悲しげな表情で奥歯を強く
噛み締めた。

一方通行の生存に欠かせない人間が今、確実な“敵”として立ち塞がっている。

『妹達』の蔑んだ眼。それはまるで、“実験”に従って自身が虐殺した少女たちの怨念の
ようにも見受けられる。

打ち止めの自身へ注がれる顕著な嫌悪感。
番外個体の明確に突き刺すような殺意。



449 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:00:14.1951IQKJzu0 (9/26)



嘘。

幻影。

作為。

そう、全て“まやかし”だと解っているのに……。
理性や意識とは別の“本能”が一方通行から判断力を奪い、思考回路を狂わせていく。


「その子たちの存在こそが今のアンタの存在意義。……だったらさぁ」


食蜂は『妹達』のバリケードに身を引いて残酷に告げるだけ。


「そいつらの手で葬られる事こそが、アンタにとっては最も相応しい最期なんじゃない
 かしらぁ?」


「…………………………ッ」


既に言い返すほどの余裕も失った一方通行は、口を堅く噤ませたまま同じ顔から発せら
れる敵視の的となっていた。

そして、時は無情にも一方通行に猶予を与えてくれなかった。




450 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:02:03.6251IQKJzu0 (10/26)



―――


路上の中央で折り重なるように横たわっていた異端の女子中学生二名。
グッタリと脱力しているツインテール少女の下敷きになっていた短髪短パン少女が薄っ
すらと重い瞼を開く。

「………ぅん……?」

耳鳴りが酷く、意識も半分寝惚け状態な短髪短パン少女こと御坂美琴。
が、ぼんやりとしたまま記憶を遡るに連れて脳が徐々に覚醒してきた。

「っっ……!!」

確か、上条の乗っている車を追跡していた最中の出来事だった。
突然動きが止まったと思った矢先、遥か前方にカマキリみたいな形状の武装兵機を捉えた。
嘗て幾度か直面した駆動鎧とは全く異なる姿形。
だが、あれが味方でないのは一目で判断できた。

そして、正体不明の武装機が問答無用の砲撃に移った時、不運にも自分たちは車体のほぼ
真後ろに転移してしまっていた。

車のボンネットを軽々貫通し、数え切れない量の金属弾が唖然としている少女たちに襲い
掛かる。まさしく“流れ弾”というやつだ。

美琴の咄嗟に張った『自動防御』が無ければ、おそらく肉片と化していたに違いない。
多角方位からの慈悲なき衝撃に、純粋な身体強度なら平均の女子中学生程度の二人は周囲
の爆風に翻弄される。その辺りで何処かに頭でも打ったのか、美琴は呆気なく意識を手放
してしまった。



451 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:03:21.2451IQKJzu0 (11/26)



「う……何が起こったってのよぉ………あー、痛ったいわねぇ。もう……」

一体あれは何だったのだろう……。
目覚めた美琴が真っ先に思慮する項目に不自然はないが、まずは今もまだ意識不明に陥っ
ている後輩の安否確認が最優先だ。

「……黒子……!? 黒子っ!!」

呼びかけに対し、返事がない。
がっしりと乗せられた体重。基本的に軽いとは云え、脱力しきった白井黒子からは圧迫さ
れるような重みが感じられる。それが不吉な予感を連想させ、美琴の語尾に緊張感が走る。

「ねえ……ちょっと! しっかりしてってば! 黒子…………っ!?」

「………………ん~ぅ」

微かに黒子の首が動いた。
次いで呻くような声が耳に届き、美琴の顔色が安堵に包まれる。

「ホッ………良かったぁぁ……。大丈夫? 起きれる?」

「う~……お……姉さま……?」

まだ夢の中から戻ってないのか、美琴を見つめる黒子の目はやや虚ろ気味である。

「ほら、しっかりして。……どこか怪我してない?」

「う~ん……どうやら駄目、みたいですの……」



452 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:05:56.0551IQKJzu0 (12/26)



「!? そ、そんな……っ! 気をしっかり持って! 嫌よ、こんなの………。ねえ、黒子ぉ
 ……黒子ってばぁああ!!」

「お姉様……最期にお願いがありますの………聞いてくださいますかしら……」

「嫌……やめてよ! 縁起でもないこと………言わないでよぉぉ……っ!」


「死ぬ前に一度で良いですから『愛してる』と耳元で囁いてくださいですの。それから頬を
 スリスリしてその豊満なバディで窒息死させるほどにわたくしの全てを包み込み、お姉様の
 温もりを隅から隅まで植え付け、あとできれば顔じゅうをベトベトになるまで舐め回し、全身
 を愛撫、いや介護して頂けたら安らかに天国へ昇れそうな気がしますの。何でしたらわたくし
 もお姉様のお身体を最後のチカラを振り絞って奉仕し―――」


「一瞬でも本気で心配したのが間違いだったわ」


一気に熱が冷めていく感覚を味わった美琴。
危うく涙まで出そうになった自分を心底戒めてやりたい。

何はともあれ、大した怪我も負っていないようなので取り敢えずは安心だ。



453 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:08:01.3951IQKJzu0 (13/26)



「な、何ですの? この惨状は……か、上条さんはっ!? 上条さんは何処ですのっっ!!??」


起き上がった第一声がこれである。
思っていたよりも元気な後輩の様子に改めてホッとするが、確かにそちらの方もどうなっているの
かが知りたかった。

「落ち着いて、黒子。……あの馬鹿だったら多分大丈夫よ。車が爆発する前に運転手と脱出したの
 を見たわ……。ってか、アンタは見なかったの?」

「お恥ずかしながら………。突然の事でしたので確認する余裕もございませんでしたの」

「………まぁ、いきなりあんな洗礼が来るなんて思わなかったもんね……。にしても、酷い有り様
 だわ。辺り一面焼け野原じゃないの……。空襲後の市街地って正にこんな風景よね……」

「……これもあのヘンテコな駆動鎧の仕業ですのね……。なんて非道いことを……」

「とりあえず、ここに居ても仕方なさそうね……。歩ける? 黒子」

「ええ、問題ありませんの。……それにしても、お姉様のおかげで助かりましたわ。お姉様が能力
 で『自動防御』を展開していなかったらと思うと、……ゾッとしますの」

「咄嗟の事だったから完全には防げなかったけどね……あはは」

「いやいや、あれほどの衝撃波の中心で五体満足なだけ充分凄いことですわ。流石お姉様ですの」

「や、やめてってば……。それより、さっさとあの馬鹿を捜さないと……」

「えぇ、そうですわね……。無事でいてくれると良いのですが……」



454 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:10:01.2951IQKJzu0 (14/26)



「…………」

上条の無事を切実に願う黒子の姿を見ていると、何故だか心中複雑になってくる美琴。
だが、今は言及している暇すら惜しい。

亀裂の入ったアスファルトで燻る火種を跨ぎ、少女たちは密かな想いを寄せる少年の行方を探索
し始めた。


―――


化学反応を活用した戦略で、浜面仕上と上条当麻は最新型駆動鎧の無力化に辛くも成功する。

晴れた爆煙の奥で機動回路のショート音をコンスタントに鳴らしながら動かなくなった『ファイブ
オーバー』の主兵装、『超電磁砲』の模造品。
能力開発部門最下層に位置する彼等にしては偉業すぎる功績に見えるが、実質この二人は“特殊”
な位置づけにランクされている。つまり、“この勝利は過去と比較すると霞む程度”ということだ。

「じゃあ、そいつは“能力補助道具”みたいな認識で良いのか?」

「厳密に言うと少し違うらしい。……つっても、俺も口頭で聞かされただけだから専門家みたいに
 詳しい解説はできねえんだが……」

会話の内容は、浜面が使用した火や水を有り得ない威力で放出する“ビックリ拳銃”についてだった。
こんな代物が普通に出回っている筈がない事ぐらい、銃機の知識に乏しい上条でも解る。

「“持ち手”の脳神経を伝ってAIM拡散力場を“無機物”に生み出させる……ってことか」

「お? そうそう、それだよ。何だ知ってるんじゃん。……ってか、何で知ってるワケ? 超極秘
 の研究レポートだって聞いたんだけど……?」



455 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:14:32.1151IQKJzu0 (15/26)



「いや、前に似たようなヤツを見た事があるんだよ。……確か、“能力物”とか言ってたっけな。
 元々は無能力者や低能力者の能力向上を補う目的で発案されたらしい。俺が見たのは“試作品”
 だったけど、完成したら軍事兵器として利用されるって話を聞いたんだ……。正直言って、良い
 イメージじゃないな……」


―――― 無能力者が『発火能力者《パイロキネシスト》』でもないのに火を使う方法は何だ?
      ライターを使えばいい。そういった単純な話よ。――――


(………なるほどな。“コイツ”もその一環で製造された試供品か)

監禁された御坂美琴を救出するため、木原数多の研究施設へに乗り込んだ際に交戦した科学者の
言葉が脳裏に過ぎる。
情報の断片がパズルのように組み合わさり、不明点が解消された気分に浸る上条の隣りで浜面は
顔を顰めた。

「……そうか……。確かに、もっと開発が進んで……こんなチンケな拳銃じゃなく、戦争に使わ
 れるような兵器にこの性能が加わったと考えると……あんま笑える話じゃねえかもな」

両手の“試作段階”を眺め、未来に戦慄を覚える浜面。
もしかしたら、今自分の持っている武器がこの先に途轍もない数の犠牲者を生む結果に繋がるの
ではないか……。そう思うと、それに助けられただけに複雑な気分だった。

「こんなことなら、麦野にもっと詳しく聞いておくんだったぜ……。いや、でも麦野も『知人から
 の横流し物だ』っつってたし……もしかしたら訊いても無駄かもな」

浜面の独り言に首を傾げつつ、上条が不意に尋ねた。



456 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:21:20.5851IQKJzu0 (16/26)



「なあ……。それ、一体どこで入手したんだ?」

「……聞いてどうすんだよ? 手回ししたヤツに喧嘩でも吹っ掛ける気か? だったら悪いこと
 は言わねえから止めとけ。……相手が悪すぎる」

「誰なんだよ……? 別に喧嘩売りに行ったりしねえって。……ただ、気になるんだよ。あんま
 出回ってねえような事を、確か聞いたような気がするし……」

「………“リーダー”だよ。これ以上は言えない……悪いけどな」

「……わかった。無理に聞くつもりはねえんだ。すまなかったな……」

「気にすんな……。にしても、能力者のAIMが原料だったのか……。道理で使うと頭痛がヒデェ
 わけだ」

「知らなかったのか?」

「原理とかまでは聞かされてねえもんよぉ……。覚せい剤とかドーピングとか、そういう非合法
 な部類の物だったとはな……。機密事項に引っ掛かってる謎が解けたわ」

「無理矢理に脳を活性化させてるようなモンか……。無能力者の俺たちじゃ、きっと相当負担が
 デカいんだろうな」(多分、“右手”のせいで磁場が派生しない俺じゃ扱えないだろうけど……)

「実際気をしっかり持たないと意識失いかねないから、あんま人には勧めらんねえな……。開発
 が進んで問題が改善でもされりゃ別なんだろうけど……」

「ソイツも含めて“試作品”か……。あともう一つ気になってる事があるんだけどさ。そっちが
 発火能力者《パイロキネシスト》モデルなのは分かるが、もう片方はどうなってんだ? 水系統
 だと水流操作《ハイドロハンド》ぐらいしか思いつかないぞ?」

「ああ、元々火薬の代わりに水を詰めてるだけだから……多分そいつで正解なんじゃないの?」



457 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:24:11.1851IQKJzu0 (17/26)



「に、しては水の量が異常だったような……」

苦笑いの上条に、浜面も今ひとつ原理が掴めていない口調で解釈する。

「そうだな……。もしかしたら、単に『能力補助』以上の機能が備わってたのかもしれねえが……
 詳しい事は開発者本人じゃなきゃ何とも……。能力開発分野に関しちゃ落第点だからなぁ……。
 知識も頭に入ってねえ段階じゃ、考えてもピンと来ねえや」

「水の流れを変化させる上に増量って……。つくづくデタラメな性能じゃねえか」

「威力自体は両方とも強能力者(レベル3)クラスらしいけど、他にもオプションが隠されてた
 って別に不思議じゃねえし……。――――ん?」

と、そこへ鉄の擦り合うような音が二人の耳に入った。
同じタイミングで音がした方に首を向ける。


「あ……!?」


機能停止かと思われた武装兵器が錆びた鉄独特の軋み音を漏らし、身じろぎしている様子が目に
止まる。
これにより、議論は一時中断せざるを得なかった。

「あの野郎! まだ生きてやがったか……!!」

『ファイブオーバー』は元々『シルバークロース=アルファ』という男の所有物である。
正確には“コレクション”の一部に過ぎないのだが、搭乗者が所有者本人なのは浜面にとって
最も忘れてはならない確定事項だ。



458 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:25:31.8751IQKJzu0 (18/26)



生き延びている現実と勝利の余韻を噛みしめていた浜面の眼に、再び憎しみの色が表れる。

大切な恋人に直接手を下した人間を前にして、穏やかでいられないのは決して異常ではない。
むしろ、それが当たり前。そう主張するかのように、乱暴な足取りでスクラップ寸前の鉄塊に
近づいていく。上条も慌てて後に続いた。

「しぶてえ野郎だな……。どのツラ下げて生きてんだよ? あ?」

チンピラに相応しい啖呵の切り方だが、肩がぶつかったとか足を踏まれたからだとか、そんな
小事ではない。正式な男女関係に成り立てで、クズな自分に光を灯してくれた少女をこの男は
撃ったのだ。
既に取り返しなど、つくはずもなかった。

『ゴ……オオオ……ゴ……グゴ…』

「……憐れだな。テメェがやらかした罪と向き合うことさえできねえ程に壊れちまってる……。
 もういいからそのままでいろよ。今……楽にしてやるから」

憎悪に駆られるままに、浜面は先の拳銃を“ガラクタに埋もれた”シルバークロースに向ける。
直接裁ける機会が訪れたことに心底感謝しながら、銃身を固定させた。

だが……。


「!?」


それを阻む者が、たった一人だけ存在した。



459 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:28:59.8451IQKJzu0 (19/26)



それは、先程まで肩を並べて共闘した少年に他ならない。


「……何、やってんだよ?」


引導を渡してやる寸での所で割り込んできた上条。
制止に立った上条は両手を開き、浜面の問いに問い返した。


「お前こそ、何しようってんだよ……。まさか殺すつもりか?」

「このまま放置しとくよりは、いっそ楽にしてやった方がまだタメになるだろ」

「それを俺やお前の一存で決めるのはおかしいだろ」

シルバークロースと浜面の間に立ち、食い下がってくる上条に苛立ちを覚える浜面。

「……退け。俺はそいつを殺す。どうしてもやらなきゃいけねぇんだよ……。頼む
 から邪魔しねえでくんねえか?」

「駄目だ」

即答で却下され、こめかみ辺りに力がこもる。

「どんな事情があるかは知らないけど、目の前で人が殺されるのを黙認するわけに
 はいかねぇ……」

正論だ。だがその正論が、今の浜面には酷く煩わしかった。



460 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:30:34.7351IQKJzu0 (20/26)



「アンタ、馬鹿かよ? そいつだって俺たちを殺そうとしてきただろうが。これは
 立派な正当防衛なんだよ」

「そんな理屈で誤魔化すな。……殺す必要なんて、もう何処にもないだろ?」

「……何も知らねぇ癖に、んなこと勝手に決めてんじゃねえよ!!」

「もうコイツが俺たちに何もできねえのは、お前だって判るだろ!? これ以上は
 何の意味も為さねえって、本当はお前自身も思ってんじゃねえのか!!?」

「…………アンタに解ってもらおうなんて思わねえよ……。あぁあ、そうだよ!!
 コイツをぶっ殺してやりてえのは完全に俺の我が儘だよ!! そうでもしなきゃ
 俺の気が済まねえんだよ!! じゃあ訊くが、アンタは大事な“居場所”を奪った
 張本人を前にして、俺と同じ感情を抱かないって断言できるか!?」

「……っ!?」

「世間や神が許したとしても、俺は絶対に許さねぇ……許しちゃいけねぇ……っ。
 なんで……なんでこんなクズのために、滝壺が……滝壺がぁ……ッッ!!」

「お前………」

醜く、黒い。
偏にそう表現せざるを得なかった。
一体何が彼をここまで駆り立てているのか、上条には知る術もない。

「……っ…」

だが、何となく分かる。
おそらく彼にも身を危険に曝してまで守りたかったものがあり、それが叶わなかった
元凶が自分の真後ろで死に瀕していることが。



461 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:32:24.9951IQKJzu0 (21/26)



確証はないが、確信は持てた。
同じ“失いたくない者がいる”人間として、浜面の葛藤は共感できるし理解もできる。

だからこそ賛同や肩担ぎなど絶対にできはしないし、そういった明確で重大な理由が
あるのなら、全力で止めてやらなければならない。
そう、上条が今している事は、間違った道へ進みかけた親友を正しき方向へ導いてや
る行為そのものだった。

しかし、そんな上条の心情など今の浜面にとって気にするような概要でもなく、頑な
な姿勢を崩さずに通告する。昂ぶりかけた感情は無理矢理に抑えたらしいが、する事
自体に変更の意思はないようだ。

「……できれば、もうアンタとは敵対したくねえんだ。そこを退いてくれ……。我が
 儘なのは承知してんだよ。けど、そんな御託で罷り通るような問題じゃねえんだ……。
 頼むから、退いてくれよォォ」

「……そうはいかねえ、って言ってるだろうが。どんな言葉や持論を並べた所でお前
 が譲りたくないのと同様に、人の命を奪って良い理屈だって存在しねえんだ。なんで
 そいつが分からないんだよ……! 傷つけられた人間が、お前に仇を討ってくれって
 頼んだのか? 俺の後ろで今にも死にそうなヤツをその人が見たら、息の根を止めさ
 せるのか? お前にとって大切な人間は、そんな薄情なヤツなのかよ?」

「黙れ!! テメェが滝壺の何を知ってんだよ!? 分かった風な事ばっか言ってん
 じゃねえっ!! 俺たちに何があったかなんて知りもしねえテメェが、全部分かって
 るみてえに語ってんじゃねえよ!!!」

「……その人の事は知らないけど、傷つけたヤツを真剣に憎むぐらいの存在なんだろ?
 そこまで想われてるヤツが薄情な人間だなんて、俺には思えない。……違うか?」

「………ッ!」



462 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:34:12.0551IQKJzu0 (22/26)



「もしこの場にいたら、きっとお前を止めようとするんじゃねえのか? お前が手を
 染めちまうのを、決して望んだりはしないんじゃねえか!? もしそうなら……それ
 でもお前はコイツを殺すのか!? そいつが制止する手を振り払ってでも、引き金を
 弾いちまうのかよ!!?」


「………ちく……しょう……っ!!」


「だとしたら、俺が止めてやる。お前の大事にしていたモノの代わりに、俺がお前の
 目を覚まさせてやるよ」



「―――――ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!」



精一杯の絶叫と共に、手に握られていた凶器が火を噴いた。
先と同等、もしくはそれ以上の豪炎が上条の全身を包もうと畝る。が……。



「―――――ッッ……!!??」



グチャグチャに引ん曲がった浜面の形相が、驚愕の様に変わる。
『避けろ』という僅かな理性の元で放った爆炎が、掃除機にでも吸い込まれるように
消失していく。



463 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:35:45.0151IQKJzu0 (23/26)



「は……………!!??」


浜面の耳に届いたのは、どこか神秘的な“掻き消し音”。
そして目に映ったのは、火傷一つ負わずに勢い良くコチラへ猛進してくる上条の姿。


「こいつは“引き止め賃”代わりだ。釣りまで取っとけ、馬鹿野郎が!!」


「グブォバッッ!!?」


思考が完全にストップしたまま上条の振り下ろした右拳を鼻面に受けた浜面は、物理
の法則に従う形で地面を転がった。






464 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:37:12.1551IQKJzu0 (24/26)

ここまでです
では次回投下予定部分を(ry


465 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:42:19.0651IQKJzu0 (25/26)



打ち止め「憎い。アナタが憎くて憎くて仕方ないの。…………だから、いい加減にミサカ達
      の世界から消えてくれないかなぁ? ってミサカはミサカはお願いしてみる」


番外個体「死ぬ前にさあ、せめてミサカたちの前で土下座でもしたらどう? ま、そんな
      んで水に流せるはずもないんだけどね」


ミサカ10032号「全く以って遺憾です。どうしてミサカ達の命を笑いながら奪った人間を、
        ミサカ達が支えなければならないのでしょう? 
        と、ミサカ10032号は不快感を露にしつつ嘆きます」


ミサカ13577号「『守る』だなんてどのクチが言うのでしょうか? あなたのような大量
        殺人鬼にそんなセリフを吐く資格が、一体どこにあるのでしょうか? 
        と、ミサカ13577号は当然の疑問を投げ掛けます」


ミサカ10039号「確かに救ったのはあなたに違いありませんが、だからといって当然の様
        に末妹や上位個体と馴れ親しむなど、同じクローンとして我慢なりません。
        と、ミサカ10039号は拒絶反応により吐き気を催します」


ミサカ19090号「……ミサカの先任、いわば『姉』……更に言うなら家族同然……。それ
        を何のためらいもなく虐殺したあなたを、ミサカ達は絶対に許さない……。
        と。ミサカ19090号は……あなたを呪い殺してやりたい気持ちでいっぱいです……」




一方通行「………う…………ァ………」






466 ◆jPpg5.obl62011/11/03(木) 21:43:53.8651IQKJzu0 (26/26)

以上です
ここまで見てくれた方、ありがとうございました
次回もよしなに
では失礼します


467VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区)2011/11/03(木) 21:54:33.44i0WBronFo (1/1)

うわぁ…一方通行精神崩壊起こしそう…

今回も乙です!


468VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/03(木) 22:51:27.05U4epUhcSO (1/1)

うわぁ……これきっつ
一方さん死んじゃうww


469VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(神奈川県)2011/11/03(木) 23:49:32.25KGOBNQiR0 (1/1)

ひでぇww
ロシアの時の6倍のトラウマwww


470VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(愛知県)2011/11/03(木) 23:55:40.00IY8givSto (1/1)

残念だが当然


471VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(東京都)2011/11/04(金) 00:04:51.81q0vXpqQTo (1/1)

うわぁ…上条マジうぜぇ…


472VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/04(金) 00:14:42.20fNHSuYXT0 (1/1)

ここの>>1ドSやwwww
二人で一緒に逃げよう書いてた人も相当Sだったけどwwww




で、次回はまだですか?



473VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/04(金) 00:28:08.49vJK3SX/SO (1/1)

洗脳されてるってわかっててもこれは超キツイww
…超お可哀相ォな第一位のアフターケアは私に超任せてください


474VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/05(土) 01:39:17.61ZV6PpKDf0 (1/1)

ていうかさ…
本来ならこれが当然ってか妹達の正しい対応なはずなのに精神崩壊とかおかしくね?
全部一方通行自身が蒔いた種じゃん
虐殺した後に遺族の罵倒で精神崩壊って、完全に自業自得じゃん
なのにトラウマとか……



475VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区)2011/11/05(土) 02:45:48.12Lnsm57hbo (1/1)

自業自得でもなんでもトラウマはトラウマであると思うがな
黒歴史思い出してうわあああってあるだろ?アレの強化版みたいなもんじゃね?
理性で自業自得と納得しても感情?として精神崩壊したりするのは別におかしくない、
それに確かに出会いはそうで被害者側から見れば一方通行が罵られるのは当然のことなのかもしれないけどそれと罵られる一方通行の視点とはまた別だろう?
途中経過で彼女らは守りたかった存在として君臨していたわけだし、この身がどうなってもいいから助けようとしたりした相手に、今までなついてくれていた相手にいきなり罵られたらそれは苦しいだろうよ?
そりゃ打ち止めや妹達に出会った直後にこう罵られるなら仕方ないと納得できるだろうが割り切るには少し時間が経ちすぎたし、感情も愛情も育ちすぎた。そんななかで急な手のひら返しを見て冷静でいられるわけがないと思うんだがな。
またこれ以外の反応はなんか違うと思う。例えば妹達に罵られてどこ吹く風の飄々とした反応だったら?こいつ散々殺しておいてなんだって思うんじゃないだろうか。
喜べばいいのか?自虐的すぎて何悲劇のヒーロー気取ってんだってなって結局おなじ結論に至るとおもう。でもこれはこれでありえるな。と言うかこういう局面に達した時大体一方通行は笑い出すかビビりだすかの二択だよな。
笑い出すほうがベターでそれ以外認めないっていうならなかなかストイックだなお前。多少の性格改変くらいしかたないだろうに、作者の解釈と自分の解釈の違いってのもあるわけだしさ
それでもし泣いて謝り出したら、それこそ自業自得じゃねーかって話になる。怒り出したら逆切れしてんじゃねーよって話だし、
ここに来て急に冷静に分析を始めたらここまで来るのにカッカしてたのは何だったんだって話になって整合性がとれなくなるだろ。
結局反省してるってことをわかりやすく描写するならトラウマ扱いにしてビビらせるのがなかなか効果的だと思うがな


476VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/11/05(土) 02:57:43.64NaIDcFql0 (1/1)

>>1

上条のうざさが出てよかったぜ。
けどインデックスを殺されたら、上条って絶対ダークサイドに落ちるよな。
あと、変な所で改行されてて見にくいのと…や―は2個1セットだじぇ。


絶対能力進化実験って色々な意見があるけど。
戦闘力に差があったから虐殺っぽく見えるだけで、単なる双方同意の殺し合いなんだよな。
反射が使えない状況を仮定した実験もあったから、低確率とは言え一方通行も死ぬ危険があったし。


477VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(チベット自治区)2011/11/05(土) 11:44:19.39pj317UmTo (1/1)

>>475
>黒歴史思い出してうわあああまで読んだ


きついものがあるよな


478VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(愛知県)2011/11/05(土) 12:09:48.82f0hJzCLFo (1/1)

>>476
そうだね一方通行は悪くないね聖者だね


479VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(沖縄県)2011/11/05(土) 13:53:42.837pDDhgWBo (1/1)

>>478
精神病院行こうかww








480VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/11/05(土) 14:31:32.85dxPF8Ji+o (1/1)

実験について少しでも妹達側を悪く言うと必ず沸くなこいつ
どうせ一方アンチなんだろうけど


481VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/05(土) 15:05:05.83/oWmSW0DO (1/1)

すぐ一方さんは悪くない誰々の方が悪いとか言い出す一方厨もうぜえよ


482VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関西地方)2011/11/05(土) 15:46:25.92Ex/ZSNBRo (1/1)

極悪人って言い切るのも単細胞だし、全く悪くないっていう信者もキモい
打ち止めみたいな考えだってあるし、美琴みたいな考えもある
片方に決めつけるほど馬鹿なことは無い


483VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(兵庫県)2011/11/05(土) 18:05:46.83oanUIRPio (1/1)

両極端に流れるのはどっちも馬鹿ってことだ。


484VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/05(土) 19:20:44.9721iilj2Uo (1/2)

誰が悪い誰が悪くないとか誰のが罪が重い誰のは軽いとか
そんな簡単に割り切れるような事じゃないって話だよな
語れるのは当事者本人のみで、その本人だって語れるのは自分自身の事情以外を語ると途端に陳腐になる


485VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/05(土) 19:21:31.1721iilj2Uo (2/2)

×自分自身の事情以外を語ると途端に陳腐になる
○自分自身の事情のみ。それ以外を語ると途端に陳腐になる


486VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/05(土) 20:46:43.97AknPPnNt0 (1/1)

美琴は自分で自身に科した罪を絶対に許さない
一方通行は己の犯した罪を絶対に赦さない

この二行に尽きると思う
まず自分の罪が在って、その先に相手がいるんじゃね


487VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(新潟・東北)2011/11/05(土) 22:22:12.29hklesLvAO (1/1)

一方通行

これがあなたの更生の第一歩だとは思いませんか?

なぁ~んてね


488VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/06(日) 02:59:13.68ctZXZI3DO (1/1)

ゲームの発言とかただのクズじゃん


489VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/11/06(日) 13:14:13.73lK6L3uEmo (1/1)

クズのキチガイだったのが、いろいろ足掻き始めたから面白いんじゃない。
わかってねーな


490VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/06(日) 17:13:15.63ez2jouV50 (1/1)

妹達だって最初は自分のことを模造品だとか言ってたし
一方に向けて銃撃ったりしてたわけだよな

それが今更「実は怨んでます」なんて言われてものぅ…
一方が無罪だってことじゃ絶対無いけど。

まぁ、つまりあれだ。絹旗ちゃん可愛いよペロペロ



491VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/06(日) 20:05:44.77NuhpwJwEo (1/1)

いや、だから妹達が言った事が陳腐なのは俺らが傍から見てるからなだけでその事はこの状況には全く関係ないでしょw
一方さんとしてそう言われる事が悪夢的である事に意味があるんだし


492VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/06(日) 21:54:43.32i5ePrSSS0 (1/1)

>>490
言ってるんじゃなくて言わされてるんだろ
一方通行にとっちゃ妹達の本音だろうが外部の作為だろうが当然の現実が突き出されてる事には変わりないんだろうけど


493VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(関東)2011/11/06(日) 21:59:01.43dn88YgXAO (1/1)

ま~た自重出来ないお餓鬼様が俺様理論発表会してんの?


494VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/06(日) 22:22:59.82+05Nu8LSO (1/3)

世界に散らばってる妹達がMNWで電気信号送って正気に戻してやればいいのでは……?



495VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(香川県)2011/11/06(日) 22:25:22.46NvPKlKmzo (1/1)

>>494
MNW通じて世界に散らばってる妹達を操ってたら・・・?


496VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/06(日) 22:28:22.92+05Nu8LSO (2/3)

>>494
そうか、司令塔も手駒にされてるの忘れてたわ
すまん


497VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/06(日) 22:29:33.37+05Nu8LSO (3/3)

安価ミスった
>>495ね


498VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/07(月) 01:10:24.51Gzn2zUID0 (1/1)

妹達を率いる食蜂か・・・
やっぱここの>>1は発想がすごいな



499VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(新潟・東北)2011/11/07(月) 07:23:18.227X1vOc5AO (1/1)

ここの食蜂さん、非道な人間なのに輝いてるwww

聡明なお嬢様というよりは狡猾な捕食者であることが食蜂の本質だな、きっと


500VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/09(水) 21:28:09.014p6Qj0xB0 (1/1)

500get
続きが気になりすぎる


501VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/10(木) 03:18:50.13OHCLHVI00 (1/1)

成長した打ち止めが一方さんに毒を吐く未来系SSなら結構読んだけど…
これはこれで新鮮だな


502 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:19:33.72HdMl5Hxn0 (1/24)

食蜂さんが完全にただの悪役っぽくなった件について
当初はあわきんみたいなイメージにしたかったんですが、どうにも上手くいきませんでした
本当に申し訳ない

投下します




503 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:21:16.36HdMl5Hxn0 (2/24)



―――


四面楚歌。
総勢十人余りの妹達が食蜂操祈を護衛する。
奥で凛と佇む食蜂の姿は、まさに女王様と呼ぶに相応しかった。おそらく他人を楯と
して扱うことに手慣れているのだろう。
同顔の少女たち。その隙間から覗かせる厭らしい笑みは一方通行の癇に触れるに充分
な役割を果たしていた。

悪状況に輪をかけて前線に立つ、『妹達』の中でも異端の二名。
肉体の成長が特逸している『番外個体』と、それとは逆に幼い体つきの『打ち止め』。
両方とも一方通行にとっては己の命以上の存在である。
そういう意味では、最も敵に回したくない人物とも云えるのだ。

今、まさにその悪夢が現実のものとなっている。
逃げ出したい気持ちが全く無いかと問われれば、嘘になる。
彼女たちに敵視されることが、これほどまでに辛いとは予想していなかったのだから。


(どォする………?)


必死に思考を働かせる。
自分の意思とは無関係に踊らされている彼女たちに危害を加えるなど、以ての外だ。
とすれば、“原因”となっている彼女本体を直接叩く以外に選択肢はない。



504 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:24:19.22HdMl5Hxn0 (3/24)



そう。『心理掌握』という超能力を解かせるためには、奥に引っ込んで見物と洒落込
んでいる食蜂自身に接触する必要がある。

しかし、無論そんなことは食蜂も分かっていた。
その対策として、『妹達』をバリケード役に起用したのだ。
一方通行が『妹達』の壁を壊すという強行に及ばない事実を想定して……。

(確かに“対俺用”として、あれ以上に完璧な手はねェ。多分どっから攻めよォとも、
 躊躇無くクローンを身代わりにできる様計算されているハズだ……)

(その上、番外個体と打ち止めを惜しげなく活用して俺の精神力を奪うやり口………。
 あァ、正解だわ。完璧すぎて白旗振りたくなるぐれェだ)

(……『心理掌握』だけを的確に狙うのは、幾ら俺でも至難の業すぎる……。やはり
 あのSPみてェにほぼ全部の軌道を塞いでやがる妹達をどォにかしねェと……)

どうやら電気信号に干渉してミサカ妹達を集めたわけではなさそうだ。
あくまでも近辺の研究施設にいた彼女達の精神に作為を加えて引っ張り出した。ただ
それだけの事らしい。
もっとも世界に散らばる他の妹達を呼び寄せる様、打ち止めに指令を送信させた所で
時間的な問題がある。
現状でこれ以上の増加が無い分、まだ救いが残っているようにも思える。

たとえば“十人”ではなく“二十人”だったら、僅かな希望すら潰えていただろう。
約十人が一人の護衛に付いている。一見すると手の出しようがない布陣に思えるが、
妹達一人一人の間には狭いとはいえ“隙間”がある。
能力使用時に音速を超えられる一方通行(自分)なら、その小さな狭間を縫って食蜂
本体に肉薄する技も可能である。



505 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:27:10.22HdMl5Hxn0 (4/24)



(同じ手口がアイツに通用するとは思えねェ。……つまりチャンスは一度きり)

“通路”を目視で念入りに計る一方通行。
弾丸に勝る速度で通過する以上、派生した余波等で傍のクローン個体を傷つけてしま
う危険性も否めない。
角度、距離、速度、そしてタイミング。ありとあらゆる方向から計算し、遂に一箇所
だけだが突破口を見つけ出した。


(誰も反応できねェ内に『心理掌握』を人質にとる……。番外個体と打ち止めの爆弾
 を除去させるのが最優先だ。今度は安い脅しなンかじゃあ済ませねェ。俺が本気だと
 さえ判れば、命の危険を感じてまで反発するよォなヤツにも見えねェ。あァいう野郎
 はテメェの命を何よりも一番に扱うタイプだ)


予定はとりあえず決まった。
ともすれば、あとは実行に移すだけなのだが……。

食蜂がそれに対して先手を打つかのように動き出す。

『打開策なんてあると思ってるの? 仮にあったとして、そっちの好条件にコチラが
 合わせるとでも?』

食蜂の高飛車な目線は、そう述べていた。
そして、一方通行が狙い澄ませていた斜線上に影が二つ割り込む。
まるで何もかもが仕組まれ、見通されていたかのようなこの対応に動きかけた脚が停止
を余儀なくされた。



506 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:33:54.44HdMl5Hxn0 (5/24)



逡巡する一方通行に、唐突で過酷な試練が音も無く馳せ参じる。

「よっと」

番外個体の腕の中から軽やかに降りた未成熟体。それが始まりの号令となる。
打ち止めは軽快な足取りで一方通行にゆっくりと歩み寄った。
そして、言葉を投げた。


「アナタ、まだ生きてたんだ? ってミサカはミサカは残念そうに呟いてみたり」


「ッッッ……!!」


鈍器で頭を殴られた。それに近い衝撃が一方通行を襲う。
少女の容姿、少女の声、惑わされてはいけないと思っても能動的に疼いてしまう。
こんな事で揺さぶられている自分を情けないと意識しつつも、少女へ向ける眼は悲哀
に満ちていた。
打ち止めの後ろで笑いを堪えている食蜂の姿など、もう目に入っていない。

「打ち止め……!」

「馴れ馴れしくミサカを呼ばないで! ってミサカはミサカは嫌悪感のあまり身震い
 してみたり……! 何なのアナタ? 何でまだ生きてんの? あれだけの事しといて、
 何ミサカ達の守護神ぶってんの? ヒーローにでもなったつもり?」

「……!」



507 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:36:15.44HdMl5Hxn0 (6/24)



「ミサカ達がアナタなんかに心を許すとか、本気で思っちゃってるワケ? あははっ、
 なんだか可哀相に見えてきたかも。ってミサカはミサカは嘲笑うようにアナタを見下
 してみる」

「……………ッッ!」

耳を貸すな。
これは幻聴のようなものでしかない。
打ち止めの本心とは一切関係ない。

自らにそう言い聞かせる一方通行だったが、悲痛な色は何故か顔に表れたまま消えて
くれなかった。

あのガキの姿だから? あのガキの声だから?

精神力が激しく磨り減らされているのが判った。
ボディブローみたくじわじわと、抉り取るように。内部から身体を破壊されているか
のように。


「アナタに現実を教えてあげる。ってミサカはミサカは微笑みを浮かべてみる」


やめろ……。


「アナタはその手で一万人以上のミサカ達を―――――」


やめてくれ……。
オマエのクチから、その言葉だけは―――――



508 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:37:18.46HdMl5Hxn0 (7/24)






          「殺した」










509 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:40:48.86HdMl5Hxn0 (8/24)



――――――。




「憎い。アナタが憎くて憎くて仕方ないの。…………だから、いい加減にミサカ達
 の世界から消えてくれないかなぁ? ってミサカはミサカはお願いしてみる」



「…………………」


小さくて愛らしい容姿に似合わない冷酷な眼。吐き出される言葉。
胃の辺りがキリキリと痛み、胸を手で押さえたくなる。
空虚へと意識が飛ばされそうになる。


しかし、それでも打ちのめされるわけにはいかなかった。

こんなセリフを喋らせている人物が明らかとなっている以上、ここは堪えきらな
ければならない。
だが、それ以前に、

(その通りじゃねェか。打ち止めは何も間違った事を言ってねェ。……全て事実
 なンだよ……。受け入れるならまだしも、心に傷を作るなンざァお門違いも良い
 トコだ……)

正面を向いたまま、洗脳状態の打ち止めと番外個体を見つめる。
表情を変えない一方通行に、チッと舌打ちした打ち止め。
やがて、交代するように番外個体がザッ、と前に躍り出た。



510 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:43:36.56HdMl5Hxn0 (9/24)



「やっほう。第一位」


どこか明るい感じだが、目は笑っていなかった。
そして、気を落ち着ける間も与えないとばかりに罵倒が始まる。


「死ぬ前にさあ、せめてミサカたちの前で土下座でもしたらどう? ま、そんな
 んで水に流せるはずもないんだけどね」

「そうだよ。許されるなんて到底有り得ない話だけど、クズでも人間なりの誠意
 ってヤツ? 最期にそれくらい見せて欲しいな。ってミサカはミサカは賛同して
 みたり」


二人の冷笑が痛い。
が、何も言い返せない。言い返す資格など、あるはずもない。
紛れも無い事実なのだから。

そして、外野の妹達も食蜂の傍から少しずつ離れだし、一方通行に非情な言葉を
投げつけ始める。


「全く以って遺憾です。どうしてミサカ達の命を笑いながら奪った人間をミサカ
 達が支えなければならないのでしょう? 
 と、ミサカ10032号は不快感を露にしつつ嘆きます」


「『守る』だなんてどのクチが言うのでしょうか? あなたのような大量殺人鬼
 にそんなセリフを吐く資格が、一体どこにあるのでしょうか? 
 と、ミサカ13577号は当然の疑問を投げ掛けます」



511 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:46:59.99HdMl5Hxn0 (10/24)



「確かに救ったのはあなたに違いありませんが、だからといって当然の様に末妹
 や上位個体と親しむなど……同じクローンとして我慢なりません。
 と、ミサカ10039号は拒絶反応により吐き気を催します」


「……ミサカの先任、いわば『姉』……更に言うなら家族同然……。それを何の
 ためらいもなく虐殺したあなたを、ミサカ達は絶対に許さない……。
 と。ミサカ19090号は……あなたを呪い殺してやりたい気持ちでいっぱいです……」


報告業務みたいな罵声が、精神のゲージを刻々と削っていく。
その後も止まる所を知らない詰りと非難に、とうとう一方通行は頭を両手で押さ
えた。


「………う…………ァ………」


そして苦しみ、呻き、喘ぎだす。


「…うゥ……ァ…あ……ァ………ッッッ」


夢で何度か体験した地獄の映像が、現実の光景として現出している。
誰にも見せたくない“弱さ”が、表へ出んと押し寄せてくる。
どうしようもない。抵抗の術もない。



512 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:49:53.32HdMl5Hxn0 (11/24)



“本能”にまでは能力の応用も適わない。
これは教科書を読む以前の基本的で根本的な定義である。
第一位である前に能力者、能力者である前に人間であり、未成熟な少年。
どれだけ頭脳明晰だろうと、強大な力を所持していようとも、人間である以上は
生態学の基づきに逆らえないのだ。
世界はその秩序を乱すことを許さず、逸した者の誕生を特殊な例外でもない限り
は認めようとしない。

経緯、過去の塗り替え、記憶の改竄が利かない一方通行を蝕むように、罪という
名のロープが巻きついた体を締め上げていく。

許されない過去の悪行を贖罪するために彼女達の未来を守るわけではない。
しかし、心のどこかで無意識にそんな決意を抱いていたのではないか? と問わ
れれば、否定のしようもない。

罪悪感や罪滅ぼしの意思も、少なからず持っていたのだ。
こうして苦渋に満ちた顔で唸っているのが、その証拠に繋がる。


そして、“トドメ”の一言が番外個体の口から発せられる。
一方通行のこれまで全てを否定する言葉と同様に希望すらも刈り取り、正気を
保つことすら無意味に思えてしまう、決定的な一言を。


一方通行がこれまで歩んできた人生全てが否定されるに等しい言葉を――――。




513 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:54:09.92HdMl5Hxn0 (12/24)






「ミサカはあなたが大嫌い。ううん、好き嫌い以前に、そういう対象としても
 見たくない。わかる? 顔も見たくないんだよ。こうして同じ空間内にいる事
 さえ苦痛なんだよ? ………だから………お願いだから、もう死んで? 消え
 て無くなっちゃってよ。そのためなら、ミサカは何でもする。アナタがいない
 世界で暮らせるなら、それ以上の幸せはないんだから」







514 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:57:37.59HdMl5Hxn0 (13/24)



「ァ……ッ―――――――」



それがスイッチとなった。
一方通行を支える二本の脚は自立性を失くし、糸の切れた人形のようにクシャリ
と折れ曲がる。

生きる意味、それさえも捨ててしまった第一位は埃舞う床に伏したまま、死んだ
ように動かなくなってしまった。

痙攣みたいな身体の震えも、いつの間にか停止していた。


「精神破壊完了(メンタル・デストラクション・コンプリリート)ね……。案外
 呆気なかったわ。せめてこういう事態を想定して、耳栓くらい持参してくるかと
 思ったケドぉ……考えすぎだったみたいねぇ」


悠長に傍観し、苦悩する第一位の姿を存分に堪能した食蜂操祈は満足そうに笑う。
ここまで工程通りに事が運ぶとは想定してなかったのか、少しだけ意外そうな顔
を窺わせる。

何はともあれ、もう目の前の男は心を奈落の底まで落とした廃人も同然だ。
学園都市の頂点という大層な肩書きも霞み、同情すらしたくなる程に憐れな様と
化した一方通行に、靴音を鳴らして近寄る食蜂。



515 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:58:52.60HdMl5Hxn0 (14/24)



「だから言ったでしょう? 能力順位なんて、所詮は能力強度の値しか重視され
 ちゃいないんだからさぁ。純粋な能力の強さで敵わないんなら、他で補っちゃえ
 ば良いだけの話よぉ。今回は応用力と情報力が鍵を握ったって所かしらねぇ?」


食蜂の声が聴こえていないのは、無反応な様子から楽に推測できる。
もう誰の言葉も届かない状態、と言った具合か。
ここまで壊せばもう何の脅威も感じる必要はない。人間の精神状態に詳しい食蜂
はそう判断した。
だから不用意に一方通行へ接近しても問題はないのだが、念のため二人の妹達を
すぐ楯に回せる様に護衛させておく。

食蜂が一方通行へ近づいたのは、彼が唯一起こしている動作が気になったならだ。
うわ言のように何かをブツブツと呟いている。精神疾患者には良くある症状だが、
意味不明に聴こえても大半は自身の強い願望を囁いていたりするものである。

精神異常を起こした一方通行が何を口走っているのか、女子中学生特有の好奇心
が疼いて仕方が無かった。

「なぁに? ブッ壊れた頭で何を伝えようとしてるのか、是非聞かせて欲しいなぁ」

手を伸ばしても届かない程度にまで頭を垂らし、耳を傾ける。
すると、食蜂にとってはある意味で予想通りだった言葉が耳朶を揺らした。


「――――ォ……ろ……く、れ……」

「――――こ…ろ……て…くれ………」

「――――ころして……くれ……」



516 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 22:59:52.54HdMl5Hxn0 (15/24)



「殺して、くれ………」



「……あはっ」


懇願に近い声に、表情筋が崩れそうになる。
緩めてしまえば大爆笑なのは必至だった。


「殺して……くれ…………せめて………あいつ…らの………手で………」


単語をただ漠然と読み上げているだけに聴こえた。
イントネーションも何もなく、夢遊病患者のように生気の抜けた声を垂れ流し続ける。
何度も同じ言葉を鬱らに語り、妹達の手で直接裁かれる道を望む一方通行。

いや、もはや“食蜂に頼んでいる”と表現するのも疑わしかった。
それほどまでに瞳は虚空のみを照らし、声も人に向けて発しているとは思えなかった
からだ。


「ふふふっ、いいわよぉ。最期くらいアンタの要望を通してあげる。ていうか、初め
 からそのつもりだったしね。私が直接葬ることに拘る理由もないし、この年から血の
 味なんて憶えたくないしぃ」


そう言って数歩下がり、リモコンを操作する。
まるでラジコンのような規則正しい動作で、下がった食蜂と入れ替え式に一方通行へと
進行する妹達、そして打ち止めと番外個体。



517 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 23:01:05.80HdMl5Hxn0 (16/24)



卑下の意味を籠めた目線が、一斉に下へ向く。
当然、それは同情さえ誘う姿に成り果てた一方通行に対して向けられたものだった。

10032号、19090号が一方通行の腕をゴミでも拾うように掴み上げる。
顔は伏せられていて表情は窺えないが、されるがままに脱力しきった状態を見れば充分
だった。

畏怖と侮蔑、両方が混じった目で一方通行を睨みながら番外個体の背後へ隠れる打ち止め。
彼女のそんな挙動も、一方通行にとっては内臓が抉られる程に辛い。
元々見返りなどは求めていなかったというのに、何故拒絶されるとこんなにも胸に激痛が
走り、死にたい衝動に駆られるのだろうか……。一方通行自身もその心理については良く
理解できていない。

ただ、明らかな可能性を理論的に挙げられないわけではなかった。

そう、たとえば。
彼女達と過ごした緩く、温く、そして優しい時間に身体が慣れてしまったのだ。
だから無意識の内に確信していたのかもしれない。

“こいつらが自分を敵視するのは、絶対に有り得ない。そんな日は訪れない”と。

別に一方通行がそう望んでいたわけではない。
邪気の感じられない彼女達と接している内に生まれていた一つの結論。
そして、自身の臆病な側面が自己防衛のためにいつからか創り出していた慢心。

嘗て自分の犯した行為を棚に上げた“逃げ論”と指摘されれば、それまでだ。
しかし、過去がどうやっても塗り替えられない以上、そうやって精神を安定させなけれ
ば生きる気力を損なう時の対処法が塞がれる。



518 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 23:02:33.79HdMl5Hxn0 (17/24)



こうして『ミサカ妹達』から直接の罵倒を受けることで、精神安定の役割を担っていた
ロープは全て切れてしまったのだ。
表面に出さずに抑えていた“本来の年相応の少年が持つ弱い内面”が、充満するように
身体を蝕んでいったのだ。

思考も運動も、今の一方通行には一切期待できない。
罪の重さと堕落に沈んだ“ただの心なき器”。そんな人形同然の男を相手に警戒心など、
抱く自体で馬鹿馬鹿しい話だ。

食蜂が番外個体に命ずる。


“彼の命を奪う適任者、それは貴女だ”―――――と。


放心状態にも見える、俯いた顔。
番外個体はそんな一方通行の下顎に指を掛け、クイッと上げて強制的に正面を向かせた。

予想通り、その眼は酷く濁っていた。
何もかもを否定するような、腐敗しきった瞳。
だらしなく半開きのままで固定された唇。

自分の存在さえも認めようとしない表情の一方通行と向き合い、番外個体は一瞬だけ眉
をピクリと動かした。
食蜂が気づかない角度を保ったまま意味深に顔を顰めたが、すぐに唇の端を歪め戻して
宣告する。


「じゃあ、もういいかな? あなたには姉さま方の強い要望で、少なくとも“一万人に
 比例した苦痛の時間を味合わせる”手筈になってるの。一瞬で楽になりたそうなトコ、
 申し訳ないけどねえ……」



519 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 23:03:29.36HdMl5Hxn0 (18/24)



一方通行の項垂れた頭に手を置き、お別れを惜しむように一撫でする番外個体。
そして出力を言葉通りに少しずつ、少しずつ高めていく。
肉眼でも直接確認できる程の電子が番外個体に現れると同時、茫然自失状態の一方通行
の身体がビクンと震動した。


「ッ! ……がァ……っっ!!」


番外個体の手は頭に乗せられたまま。
そこを通じて流れた電流が、一方通行に裁きを与え始める。


「っぐ……ご、ァァァあああああああああああああああああああ!!!!!」


体内の許容量を大幅に超える電気を頭から全身に浴び、喉の奥からはち切れんばかりの
叫び声が溢れる。
番外個体が調整しているせいか、一方通行の叫びは途切れる所を知らなかった。本当に
じわじわと、長い時間を掛けて生命を削り取るつもりらしい。
飴玉を一気に噛み砕かず、溶けるまで舐め回すように。

打ち止めもその様子に御満悦そうな笑みを零した。まるで「いい気味だ」とでも言って
いるようにも見える。


「あぁァ………ぐ……ォオオおおおおァァァ!!!!!」


あまりの激痛に全身が麻痺して跳ね上がるも、いつの間にか食蜂の配下となった『妹達』
が一方通行の肢体を総勢で押さえつけているせいで、実刑を下している番外個体の妨害
には到らない。



520 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 23:06:31.57HdMl5Hxn0 (19/24)



身体は床に寝かされ、馬乗りになった番外個体が醜悪な顔のまま裁きの放電を流し続け、
意思とは関係なくジタバタと暴れてしまう手足を各個体が強く押さえている。
打ち止めは食蜂と共に上位個体らしく見物し、時折「フフフ……」と子供らしくない声
を発していた。

正に、集団リンチという名の『公開処刑』だった。

それも刑は、これ以上に無い適任者が行っている。
全くの部外者でもない食蜂にとって、このイベントこそがある意味最大の見所だった。
ゴミを捨てるも同然に殺していた実験道具に、最終的には殺される。
普段の日常ではまず見られない光景な上に、『学園都市最強』が堕ちる決定的な瞬間に
こうして立ち会えているのだ。
歴史上の事件に遭遇するほど貴重な体験と言ってもおかしくはない。これで感極まらず
にいろと命じる方が酷である。


「あははははははは!! なによそれぇ? 本気ぃぃ? 本気で命捨てようってのぉ!?
 その“玩具”に過ぎない子たちになら、それも構わないってワケぇぇえ!?」

「わかんないなぁぁ……ワケわかんねぇぇ!! どうやったらそんな新境地が切り開か
 れるってのよぉ!? 甘んじて罪を償います、ってかぁ!? んな武士みたいな潔さは
 ナニよ??? 人の手で勝手に生み出されて、社会的な地位すらも満足に与えられない
 ただの“玩具”に、一体どうやったらそこまで執着できんのよぉぉぉ!!??」

「誰だって自分の命が一番大切でしょ? アンタだって例外じゃないはずよぉ? あの
 『実験』の時だってそう、アンタが他人を想いやるような人種じゃないってコトぐらい、
 とっくに知ってるのよコッチはぁぁ!! あっはぁははははははははははは!!!」



521 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 23:09:52.48HdMl5Hxn0 (20/24)



「……ふふっ……まぁ、もう聴こえちゃいないだろうけどさ……。やっぱり驚きよねぇ。
 まさか本当に無抵抗を貫きやがるなんてさぁぁ……“学園都市最強の馬鹿”って称号の
 方がしっくりくるわね」


ギリギリまで粘っておいて、いざ自分の命が失われようとする時の人間がどんな行動に
出るのかを食蜂は知っている。知っているからこそ、一方通行の曲がり無き信念が本物
であった事に驚愕したし、戸惑いもした。

何より、理解ができなかった。
今までにここまで真っ直ぐな意思を持った人間が周りに居たかと問われれば、首を縦に
振れない。人間などはどれもこれも醜い欲望の塊で、自分に危険が及べば平気で他人を
見限ってしまうもの。なかには例外もいるが、そういった人間は逆に自分の強い願望を
表に出せずに四苦八苦し、結局周りに流されるままでしか生き残れないのだ。

一度決めた事を貫き通す。この難しさを食蜂は良く知っていた。
何しろ、これまで出会ってきた中で実行できそうな人間などは片手で収まる程度でしか
存在しなかったのだから。


「カッコつけてるだけの自己愛主義……。それが今じゃこのザマですかぁ? はははっ、
 笑えないジョークもいいトコだわねぇ。誰も寄せ付けない、寄せ付けたくない立位置を
 目指して落馬し、堕ちる所にまで堕ちた後に成長していく……。そして最後には全盛期
 以上の強さを取り戻す。……ふぁ~あ、つくづく欠伸が出る人生よねぇ。アンタって……」


見下すような否定論も、感電に悶え続ける一方通行には届いていない。食蜂もそれを承知
で喋っていた。
よく映画などを一人で視聴している際に意味も無く口走ってしまう独り言などと一緒だ。



522 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 23:10:48.04HdMl5Hxn0 (21/24)



調節された電磁量は一方通行だけを的確に痛め、各助手(妹達)に損害はみられない。
もっとも、彼女らも劣化版の模造品といえど『電気使い』の資質を持っている。
電気融合の要領で彼女たち自身も電磁波を発する事で避雷を可能としている節も生まれて
くるが、一方通行の絶望的な状況が好転する要素とは全く無関係だった。

このまま、意識を保ち続けたまま、身体じゅうを襲う痺れに苛まれたまま、最期を迎えて
しまうのか。

心のどこかで『それも悪くない。寧ろそれこそが本望であり本懐。そして今の自分に最も
適した断罪の手段ではないか』と、考えていたかもしれない。

意識外の願望だったが、今になって真実味が迫る。
これも『死』が目の前に近づいている予兆なのだろうか。
走馬灯みたいに、深層心理に宿る『本音』しか脳に浮かばない現象。
一方通行は正に今、その現象を体感しているのだろうか。
死ぬ間際の言葉で普段は絶対に言ってくれないようなセリフが多い理由とやらも、今なら
何となく分かる気がした。




523 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 23:13:39.08HdMl5Hxn0 (22/24)



今回は、ここまでです



524 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 23:15:16.36HdMl5Hxn0 (23/24)





食蜂「あーあー、駄目じゃないのぉ。意識は残しておきなさいってばぁ。第一位の断末魔よ?
   わかってる? そこいらのゴロツキなんかと違って、一生に一度聴けるか聴けないかの
   旋律(ハーモニー)なんだからさぁ……。もうちょっとぐらい堪能させなさいよぉ」







525 ◆jPpg5.obl62011/11/11(金) 23:18:08.66HdMl5Hxn0 (24/24)

書いてる自分が言うのも何ですが、惨い……
一応次回には決着つく予定です
お付き合い頂いた方、ありがとうございました
ではまた次回


526VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区)2011/11/11(金) 23:24:58.63vihqDp0Vo (1/1)

乙!

一方通行にとっては正念場だな

それでもなお守ると誓うか否か…


527VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(長崎県)2011/11/11(金) 23:29:48.978IE650UP0 (1/1)

おつ!!

正念場だなぁ
しっかし一方さんって上条に負けないぐらい酷い目に会うなww
出来れば一方さん自身の手で解決してほしいけど上条さんとかに介入されちゃうのかなぁ


528VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/11(金) 23:42:53.26LWFSHRySO (1/1)

うわあ……ミサカクローンの集団リンチ……
ギャグ以外で見たの初めてだ……


あ、>>1乙です
次回も楽しみです


529VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/12(土) 02:07:58.5456jWntyn0 (1/1)

乙乙
もう原作でみさきち見なくても充分な気がしてきた
ってか一方さん弱すぎwwww


530VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県)2011/11/12(土) 02:34:53.15elvXpHG5o (1/1)

一方さんが着々と逆転布石を打っているような気がするのは穿ちすぎか?


531VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/12(土) 22:15:30.72WuBbRttSO (1/1)

これがロシアで大天使を相手にした一方通行かよ…
格下、それも女子中学生の術中に嵌まるなんて違和感もいいとこだ


532VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/12(土) 22:36:10.09oJG6dyOXo (1/1)

精神操作系の敵キャラって「セコイ」感が強すぎるから大物ぶられても滑稽なんだよなあ


533VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(佐賀県)2011/11/12(土) 23:58:48.269SeWu4jAo (1/1)

俺だったらとっくに暴走して黒翼で皆殺しにしてるなw


534VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/13(日) 00:48:03.61BCEokh5f0 (1/1)

そういう意味じゃ二次SSの一方さんって基本は優しいんだよな
完璧から程遠いってか人間心に塗れてるってか・・・

まぁだから面白いんですけどね
むしろそれこそが二次需要ってやつだと俺は思うわけよ
中には原作以上に鬼畜で残虐なのもあるし、そっちもそっちで二次需要が適合するんだが、
俺はここみたいな甘くて隙の多い一方さんの方が好きだわ
崩壊しすぎない範囲でキャラ設定変えてくれた方が読み心を擽る




535VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区)2011/11/13(日) 00:54:26.33QPlNwCM40 (1/1)

御坂妹の「何故支えなければ」のところで
打ち止めに演算補助切らせちゃえば一発アウトじゃねとか思ったが
別にそんなことはなかったぜ。


536VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/14(月) 11:22:29.64+t99AQwI0 (1/1)

このみさきちなら殴っても問題ないな


537VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東)2011/11/14(月) 14:16:41.61ajvH2b3AO (1/1)

>>531
このSSの一方通行は誰が相手でもことごとく出し抜かれてフルボッコされるのがウリだから


538VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/14(月) 15:41:59.65FV55P4gGo (1/1)

>>536
殴られたあとのみさきちを慰める役目はオレが承った


539VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/17(木) 12:50:33.813rkQau/IO (1/1)

あんまり追い詰めると覚醒するぞ一方さん
つーか黒翼時は異界の法則すら制御出来る訳だからみさきちが行ってる脳波干渉とか平然とカット出来るだろうし、黒翼あるいは白翼が出たらそれだけでゲームエンド、やっぱりチートスペックだわ一方さん……


540 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 20:56:23.41AIUzUsmE0 (1/27)

新約三巻表紙公開!!
やべえ上条美琴ktkr!!
しかも一方さんと番外さんも同行……だと?

テンション上がりすぎて怒りが有頂天ですが、投下します
食蜂さんの回収班を志望されている方々はスタンバイよろしくです


541 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 20:58:50.51AIUzUsmE0 (2/27)



「……ッ……」


自ら死を敵に切願し、承諾されてから一体どれ程の時間が経ったか。

聴いていて耳を塞ぎたくなるほどの絶叫が突如収まり、とうとう一方通行の全身から防衛
反応が消えた。

脱力し、首をカクンと落とし、声も漏らさずに痙攣しながら電気を浴び続ける一方通行に
食蜂は興が殺がれたような顔を作る。

「あーあー、駄目じゃないのぉ。意識は残しておきなさいってばぁ。第一位の断末魔よ?
 わかってる? そこいらのゴロツキなんかと違って、一生に一度聴けるか聴けないかの
 旋律(ハーモニー)なんだからさぁ……。もうちょっとぐらい堪能させなさいよぉ」

“実行役”のメインを張る番外個体に不満を漏らし、無防備に電撃地帯へ足を伸ばす食蜂。
だが心配は無用だった。

「ハイハーイ、“私には間違っても当てないようにねぇ”。感電とか、静電気レベルでも
 願い下げよぉ」

バチバチと飛び交う紫電が、まるで意思を持っているかのように食蜂を避ける。
されども“中断命令”は下されていない。
尚も番外個体を中心とした“復讐クローンたち”の人誅は尚もまだ継続されていた。

だが、対象が気絶してしまったのでは面白くない。
そこで自らが出張ったのだ。



542 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 20:59:48.08AIUzUsmE0 (3/27)



能力で洗脳している“生人形”共に命令してもいいのだが、放電量の調整と兼用して操作
するよりはそっちの方が負担も少なくて済む。
複数を操るより各々に異なる“声”を伝える『同時命令』は勿論可能だが、これもこれで
結構面倒だったりするのだ。

「ほらぁ、起きなさいよぉ。もう御臨終ぅ? そんなあっさり逝かれちゃあ色々と困るん
 ですケドぉ~? 主に私の気分的に」

コツリ、と爪先で頭を小突く。

「うふふっ、格下だからって軽く見た結果がこれよ。よぉく分かったでしょう? アンタ
 は様々な困難を乗り越えて強くなったつもりらしいケド、私みたいな第三者からすれば
 “弱点が増えて難易度が下がった”ようなもの。自分以外に感情移入しちゃった時点で、
 アンタは私の敵にすらならないのよぉ。……って、聞いてるぅ? それとも、もう天に
 召されてたりぃ? あはははっ」

横を向いたままダラリと下がっている上、前髪に隠れているせいで目元は窺えない。
意識が落ちているのは見れば判る。だからこうして目を醒まさせに出向いた。
“気絶”という名の逃亡を阻止するために――――。

「やれやれ、参ったわぁ。こんな簡単に終わりを迎えるなんてねぇ……あー、つまんない。
 このまま起きなかったら達成感通り越して興醒め…………?」

と、丁度その時。

「……んん……?」

ふと、妙な違和感のようなものを探知した。
何か、自分の構成したストーリーに異変が起きている。
余裕そうな微笑みを崩して疑問点を模索する食蜂だったが、すぐにその正体を知った。



543 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:01:34.26AIUzUsmE0 (4/27)



「――ッ……!?」


半開きだった一方通行の口角が、斜めに吊り上がっている。
この状況で、匙加減で何時でも死をプレゼントできる状況で、



この男は、笑っている???



目と鼻の先にある奇異を直視した瞬間、食蜂は殆ど反射的にそこから飛び退いた。
再び距離をとり、不気味な物でも発見したような目線を一方通行に遣る。


(……なによぉ、ビックリさせちゃってぇ……。ひょっとして、アレ? 人って死ぬ前に
 至福の笑みを浮かべるとかって良く聞くケド……、そういうヤツ?)


まだ動悸の収まらない胸を押さえながらも自身を安心させようとする。
だがそんな縋る気持ちで用意した仮定も、あっさりと裏切られてしまう。
その事実に気づいたのは早かった。



544 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:03:40.31AIUzUsmE0 (5/27)



(な……!? え、ちょっ……なによコレ!? どういう……っ!?)


信じられない現実に直面した。
何かの間違いに決まっている、そう思いたい一心で電撃少女たちを凝視する。


『妹達』、そして番外個体を纏う紫電は収まっていない。
尚も夥しい電圧が仰向けで押さえられた一方通行を情け容赦なく虐げている、様にしか
見えなかった。


彼女達には現在、侮蔑と憎悪の感情を埋め込ませて一方通行を見下ろしている筈だ。


「はぁ……!? ちょっと…………」



その氷のような冷たい眼差しが、“何故自分に対して向けられている”???



伝達の変更は行っていないし、演算に支障はなく、『心理掌握』の代表的な能力である
『精神操作(マインドコントロール)』も間違いなく発動している筈だ。
たまらず手に持つ“リモコン”を眼前に翳し、修正を試みる。
手つきが自然と乱暴になり、心に忙しさが生まれ始めていた。



545 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:07:04.03AIUzUsmE0 (6/27)



「何やってんのよアンタたち……? その眼を向ける相手が違うでしょお!? まるで
 私がアンタたちの敵みたいな…………ちょっとぉぉ、やめなさいよぉぉ……。そんな眼で
 私を見てんじゃないわよぉぉおおおおおおおおお!!!!!」


誰も首を動かさず、食蜂をじっと睨んだまま一方通行に電気を送り続けている。
そんな不可解で不気味な光景に泰然自若が売りの自我は酷く混乱していた。
憤りが膨れ上がり、遂には“手駒”に向かって怒鳴り散らす始末である。


「何なのよコレぇ………一体全体、何がどうなってんのよぉぉぉ……何で私の意思に従わない
 ワケぇぇ!???」


一人呻くように呟く食蜂。その疑問符に答えを贈呈するように、為すがままだった“標的”が
斜め下に俯かせていた顔をグルリと上げた。


「っっ!?」


首を正面に戻し、今まで前髪に隠れていた一方通行の目元が露となる。
その瞳は全ての“負”を薙ぎ払うように紅く輝いていた。
先ほどまでの“心が抜け落ちた状態”が嘘みたいに――――。


――――嘘……?




546 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:08:56.26AIUzUsmE0 (7/27)



「まさか……そんな……」


食蜂の戦慄に満ちた声の直後、一方通行は静かな動作で首だけを起こした。
そのまま約数メートル前方で固まっている食蜂を見つめ、口端を僅かに上へ歪ませてから
告げた。



「オイ、もォいい。……いや、この場合はメガホンでも取って“カーット”っつった方が
 良いのか?」



「!!!??」



幽霊でも見たかのような表情を浮かべている食蜂を他所に、事態は緩み無しに進行する。
夥しく流れていた稲妻は消え、一方通行を拘束していた『妹達』がゆっくりと彼から手を
放す。

唖然、呆然としたまま直立不動の食蜂に真横から駄目押しの無邪気な声が飛ぶ。


「何だか状況が今ひとつ掴めてないんだけど、あなたの陰謀もこれまでなのだ!! って
 ミサカはミサカは悪役と思しきお姉さんにビシッと宣言してみたり!!」


「……は???」



547 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:10:38.56AIUzUsmE0 (8/27)



未だに何が起きているのか理解できず、目をパチクリさせるしかない。
そんな食蜂に同情するような視線が注がれた。主に一方通行から。


「……オイ、大事な場面をちゃっかり横取りしてンじゃねェよ。このクソガキが」

「えへへー♪ ってミサカはミサカはペロッと舌を出して可愛らしく装ってみたり」

「チッ……ハイハイ、そォだな。オマエにはやっぱそっちの方が似合ってンよ……」



「………………わけがわからないわ」



素でそう漏らすしかなかった。
このまま時間を掛けて一方通行を蹂躙し、最終的には殺す。
その結末しか頭になかったから。自身の能力を心の底から信用しきっていたから。

彼女が唯一信頼を寄せている『心理掌握』。

失敗などは在り得ないと確信していた。慢心でも驕りでもなく、これまでの過程で築き
上げてきた実績。『超能力者』という限られた人間しか立てない領域に到達した意地。
『自分だけの現実』に、一体何の弊害が生じたというのか?
食蜂はただ答えを求めた。
頭で考えても解らないし、この逆転した状況を素直に受け止められるわけもない。



548 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:12:00.43AIUzUsmE0 (9/27)



そんな食蜂を見て、一方通行は少しだけ逡巡した。
憐れむような表情で起き上がり、まずは身体に付いた汚れを弾き飛ばす。
すぐに敵対していた筈の『妹達』が一方通行を取り巻き、あたかも味方のように食蜂を
睨んでいる。

一番近くにいた番外個体が一方通行の袖を握って、不安げに寄り添う。その様子からも
判る通り、食蜂の『洗脳』は完全に解除されているようだ。

「アクセラレータ……」

「後でな」

説明を求めるよう目で訴える番外個体の肩にポンと手を乗せた。まるで、彼女が今抱え
ている不安を一抹も残さず取り除くように優しく。
それだけで、番外個体には充分伝わったらしい。一方通行の横顔に向けた微笑みがそれ
を立証していた。

「……不思議現象過ぎて何が何やら……。アンタたち、これは一体どういうつもりぃ?」


「どういうつもりも何も、ミサカ一同は“上位個体命令”に従ったまでです。
 とミサカ10032号は返答します。……っていうか、あんた誰?」

「ミサカの行動、思考、ネットワークの権限は上位個体、通称『最終信号』が握ってい
 ます。なので上位個体が反旗を翻せば、ミサカもそれに従事せざるを得ません。
 とミサカ10039号は懇切丁寧に解説します。……で、あなたはどこのどなた?」



549 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:13:40.10AIUzUsmE0 (10/27)



「あの……最終信号からの強制通信指令で、ミサカたちの意識も記憶も正直曖昧で……
 何がどうなっているのか上手く説明が……。
 とミサカ19090号は……うぅ」


「……チッ!」


要領が全く得られず、焦燥感だけが募った。
口々に喋り続ける妹達を尻目に、一方通行がうんざりした調子で口を開く。

「なァ、あンまりにも憐れだからよォ……せめて何処に穴があったかぐらいは教えて
 やろォか?」

「“アナ”、ですってぇぇ……?」

「あァ……小難しい話一切抜きの、な」

「……???」

「俺を虐げるのにオマエが番外個体を使ってくる事ぐらい、ハナから読めてンだよ」

「――!? な、なん……」

「番外個体を“俺に触らせた”のが一番の敗因だったなァ? 俺には『精神操作』なン
 ていうくだらねェ小細工は使用できねェが、他人の電気信号や血管、更には脳の働き
 まで触れただけで弄れるンだぜ? オマエの『洗脳』が俺には通じない理由の一つが
 それだ。“自分より強度の高い外部干渉”を阻害するってのは、流石に無理だったか?」



550 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:14:37.25AIUzUsmE0 (11/27)



「……ってコトは…………番外個体がアンタに触れた時点で!?」


「ま、そういうこと。気づいたら“あなた”が今にも自殺しそうな顔でミサカを見てた
 から、一瞬『悪い夢でも見てるのかな?』って思ったよ」


“操り人形”という呪縛から解放された番外個体は飄々と語る。
しかし、食蜂の中で不明点はまだ尽きない。


「嘘よ……確かにアンタが体内の異常信号をどうにかした所で、コッチには『最終信号』
 がいるのよぉ!? この子がミサカシリーズの指揮権を握ってる存在だってコトは調査
 済み……! 常に『上位命令』ってヤツを発信させていた……ッ!! なのにどうして
 番外個体の記憶回路は改竄されないのよ!? アンタから手を放した時点で『上位命令』
 が上書きされるはずでしょうがァァあああ!!」


ヒステリックな喚き声に鬱陶しさを感じたのか、耳を穿る一方通行。


「やれやれ、肝心な情報を入手できていなかったらしいなァ……。そンなオマエに正解
 をくれてやるよ。番外個体は“ある事情”の所為で電気信号を他のクローンと共有でき
 ない状態なンだよ。ネットワークの接続や情報のリークも一切不可能になっちまってる
 ってワケだ。つまり、クソガキからの『上位命令』なンて拾集できるはずがねェンだよ」


「な……なによそれぇ……。それじゃあ番外個体は“ミサカシリーズの孤立個体”って
 事!? でも、それっておかしいわよねぇ!? だったら最終信号や他の妹達の洗脳が
 解除されてるのはどういう理屈よぉぉ!! ええ!?」



551 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:16:35.49AIUzUsmE0 (12/27)



「番外個体が自我を取り戻してくれりゃあ、後は『電撃使い』としての連鎖反応を利用
 するだけでイイ。『欠陥電気《レディオノイズ》』の中でも、コイツは出力が他に比べて
 高いからなァ。態々ミサカネットワークなンざ介さなくても、自律神経に少し刺激を加え
 てやるだけで脳を正常にできる。隔離されたとはいえ、基本的な構造は同一されてるはず
 だからな……。ンで、その原理を用いてクソガキを正常に戻したらもォ説明は不要だろ?」


「……聞いてないわよぉぉ……。番外個体に、そんな特質があったなんてぇぇぇ……ッッ」


「まァ、調べる術があるとすりゃあオマエ自身がネットワーク内に介入するぐれェしか
 ねェわけだからァ? ンな落ち込むよォな事じゃねェよ。『神の目』でも持ってるわけ
 じゃあるめェし、完璧な情報収集なンて新参者のオマエにゃ荷が重すぎたンだ」


「ぐ……うぅ……全部……全部演技だったっていうのぉ……!? あの苦悶も、希望を捨
 てた眼も……何もかも……?」


「クソガキの信号が届いたのは執行の最中だったが、生憎俺の能力(ベクトル操作)は
 “触れてさえいれば”都合が付くンだよ。俺の身体に直接電流を流し込む処刑方を選ンだ
 のは失敗だったなァ。演技とすら呼べねェよォな三文芝居でも、オマエを欺くには充分だ
 ったみたいで安心したぜ。オマエ、内面を能力で探ることに慣れ過ぎた所為かは知らねェ
 が、外面から真意を見抜くことに関しては平均以下だな。あンなモンですンなり騙される
 とは思ってなかったからよォ、内心は相当ヒヤヒヤしてたンだぜェ?」


「ぎ……ぃ……!!」


唇を噛み、怒りの感情を包み隠そうともせずに眼光を放つ食蜂。
化けの皮などとっくに剥がれ、少女とはかけ離れた本性をむき出しのままに喚く。


「ふ……ふ……ッ――――」




552 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:17:40.71AIUzUsmE0 (13/27)






  「――――ふざけんじゃねえよゴミ共がァァあああああああああああ!!!!!」







553 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:19:33.69AIUzUsmE0 (14/27)



打算に長けた微笑みも、余裕に満ちた気品も何もない。
残っていたのは醜い本性だけだった。


「アンタら如きに私の書いた“シナリオ”が崩される、だぁぁ!? そんなの納得で
 きるかぁぁぁ!!」

「“如き”たァ大きく出るじゃねェか。オマエの目の前にいる俺は、本来オマエ程度
 じゃどォ足掻いたトコで遠く及ばねェ存在なンだぜ? 寧ろ善戦した方だと俺は思う
 けどなァ?」

「んな肩書き知ったこったないのよぉぉ!! たとえアンタが学園都市最強の能力者
 だろうと、優れた知性を兼ね揃えてようと、私の応用力にアンタの適応力が追いつか
 れるなんて事ぉ……あっちゃならねぇんだよおおおおお!!!」

プライドがズタズタにされた上に、予定通りの結末が訪れない。
こんな経験を今までに味わったことがない彼女の自制心は、既に崩壊の末路を歩み出し
ていた。
そして、先とはまるで逆の立場から一方通行は駄目押しを打つ。


「“爆弾をコイツらの体内に仕掛けた”とか抜かしてやがったが、ブラフだったンだな。
 そンなモンがあったら体外放電と同時に作動してるだろォし、身体に触れた時に異物は
 探知しなかった……。大方、オマエ自身に手を出させねェための予防線だったンだろォが――」


「――そォと判れば俺が躊躇する理由も、もォ見つからねェよなァ?」


ニヤリ、と白い悪魔が笑う。
攻撃的で獰猛で、視界に入れたものを全部食い尽くしてしまいそうな形相。



554 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:21:03.70AIUzUsmE0 (15/27)


「ひぃ……ッ!!」

その笑みに食蜂の顔が強張り、引き攣り、そして怯える。
自分の犯した行為がどれだけ愚鈍で無謀で自殺に等しい度合いだったか、気づかないほど
食蜂も馬鹿ではなかった。

すぐ前方に佇んでいるのは、紛れも無く“最強”。
“能力開発”を受けている学生、数は軽く見積もって二百万人以上。
その中で最上位に登録されている『化物』。

「うそ……い、いやよこんなのぉ…………いやぁぁ」

渾身の策が不発に終わった今、“たかが第五位”の食蜂操祈は途轍もない恐怖に足を竦ま
せることしかできない。

しかし、まだ……。

そんな絶対絶命といえる状況の中で、生き残れるための“希望”がまだ転がっていた。
逡巡している余裕もなく、食蜂はその“希望の藁”に手を伸ばし掴む。

それは彼女にとって、あまりに酷く惨めで、最低の手段であった。




「――――こ、来ないで!!」




555 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:24:19.82AIUzUsmE0 (16/27)



「ッ!?」


すぐ隣りに、本当にすぐ隣りに打ち止めがいたのは幸いだった。
食蜂は心底そう実感しながら、護身用に所持していた果物ナイフを鞄から素早く取り出し、
切っ先を幼い少女へ突きつけた。

「あう……、ってミサカはミサカは……」

「動くんじゃないわよぉ!? そんな小せぇ姿形(ナリ)の内から大流血体験したいのぉ?
 下手すりゃ急所に刺さって即死も有り得るのよぉ? ……ふふふ、ふふふふふふ」

「チッ……」

「こうなったらもう過程なんか拘ってらんないわね! 要はアンタがこいつら“人工生命”
 を救えるか救えないかで勝敗が決まるんでしょう? だったら最終的にこのガキだけでも
 始末すれば……アンタの負けってコトになるんじゃなぁぁい?」

狂った笑顔で一方通行を眺めながら、打ち止めの首元に刃を当てる。
まるで蛇に睨まれたように硬直した打ち止めの表情は、一瞬で恐怖に染まっていた。
しかし、そんな畏怖に包まれた顔すら今の食蜂にとっては生死を分ける“最後の希望”で
ある。

「第一位ぃぃ……。こんな未完成以前のガキでも、アンタにとっちゃ生命線なのよねぇ?
 さっさと私から引き離しとけば良かったものを……詰めを誤ったのはどぉやらアンタの方
 だったみたいねぇ!? ひゃはははははぁぁ!!」

「…………」

「こんな屈辱まで味合わせてくれてさぁ……簡単には死なせてやらないから、今から凍え
 た小動物みたいにガクガク震えて、私の機嫌を少しでも取り繕えるように精々最強の頭脳
 忙しく働かせるのねぇ!」



556 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:26:08.99AIUzUsmE0 (17/27)



「…………」

「……ふん、まさかの形勢逆転に状況が認識できないってトコかしら? あは、やっぱり
 アンタは“そいつら”と関係を持った段階で脆くなってたのよぉ! 嘗ては自分さえ守れ
 てりゃ敵なんて何処にもいなかった。自分以外に気を配る必要が無かった頃のアンタなら、
 “最強”の称号を保持できていたのにねぇ……」

「…………」

「それに比べて今のアンタときたら……無様な甘ちゃんに成り下がったモンよ。ガキ一匹
 人質に取っちまえば簡単に身動きを封じられる。……容易いなんてレベルじゃないわねぇ。
 ある意味じゃ良い方向へ成長したんだろうケド、そいつは“表の世界”でしか通用しない。
 こういう場面じゃ足枷にしかならないの。“情”だの“責任感”だの、んな面倒臭い事象
 は他人からすりゃ“優位に傾かせるための材料”でしかないのよぉ!!」

「…………はァ」

「ふふ、平然を装ってるつもり? 悪いケドそんな演技はお見通しよぉ。アンタの心拍数
 が尋常じゃないコトぐらい、わかってるんだからぁ。……現に、打開策を見出すのに必死
 で声も出せないくせに……ふふふ……。私の改竄力と頭の回転力ならどうとでも軌道修正
 できるんだから、いっそのこともう抵抗なんて止めて潔く死を受け入れちゃいなさいよぉ☆」



「…………イヤ、ここまで惨めだとよォ……流石に何て言葉ァ掛けてやりゃ良いのかすら
 も、分かンねェわ」



「な……ど、どういうコトよッッ!!?」





557 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:29:02.91AIUzUsmE0 (18/27)



「そのまンまの意味として受け取ってくれて、問題ねェよ」


「ッ……!!」


どこまでも、どこまでもこの男は自分の希望に沿ってくれない。
食蜂の眉間や鼻筋に更なる歪が生じる。
それは、思い通りに物事が進まなくて憤慨する人間の顔と非常に酷似していた。


「……私? 私が、惨め……だぁぁ!?!?」


「あァ、心から同情したくなっちまう。そンな強盗犯や誘拐犯が追い詰められた時にやる
 よォな……如何にも小者臭せェ道しか残されてねェオマエに、俺は何て言ってやれば良い?
 ドラマみたいに熱い説得で更生を訴える刑事さンでも演じてやりゃ良いのか?」


「アンタ……マジで状況が分かってないのかしらぁぁ? それともただの脅しだとでもぉ?
 私をそこいらの無能力者共(ゴミ)と同等に扱ってんじゃないわよぉコラ。……今すぐこの
 ガキの首、バッサリ切り落としてやろうかぁ? ん? ほらほらぁ!」


つんつん、と切っ先で打ち止めの首を突付くが、一方通行の憐れむような視線は消えない。
そのことが遂に食蜂の逆鱗に触れた。


「…………チッ、だからぁ…………んな眼でぇぇぇ――――」


「――――私を見てんじゃないってのよォォおおおおおおお!!! 馬鹿にしてるワケぇ!?
    アンタら私をナメすぎてんじゃないのぉ!? そりゃ表舞台じゃ第三位を目立たせて
    るケドねぇ! 実質、常盤台の裏を仕切ってんのは他でもないこの私なのよぉ!!」



558 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:31:21.28AIUzUsmE0 (19/27)



「丸くなった元最強や、ましてやアンタたち人形風情が楯突いて良い人間じゃないのよぉ!!
 私を誰だと思――――ッ!?」


激昂が途中で寸断された。
目をギュッと瞑った打ち止めへ振り下ろされた刃物は、右手ごとプラズマのような物質に撃ち
抜かれ、衝動でナイフを落とした食蜂はそのまま右手を押さえて悶絶し絶叫した。

「あ、あァァああああああああぁぁぁああああああああッッッ!!!!?」

ごろごろと地べたを這うように転がり、被雷した右手を大切な宝物を庇うように覆い、息荒く
激痛にもがく。その姿に哀憫だけでは足らず、庇護欲すらも抱いてしまいそうだった。

「電気の流れよりも速くクソガキを刺す……。可能か不可能かの区別もできねェ程、頭が回ら
 なくなっちまったらしいな。基本的な物理法則すらブッ飛ンでるなら、もォこれ以上は時間の
 無駄でしかねェ」

「ぐぅぅ……ぉ……あぁぁ!! 痛い……痛いぃぃぃ!!」

ひとしきりのた打ち回った後、よろよろと右手を左手で摩りながら立ち上がる食蜂。
高電圧を受けた右手を伝って全神経が麻痺しているのか、足下はおぼつかない。

「こ、のぉぉ……人為的に生み出された第三位の模造品がぁぁ!! 端金程度の価値しかない
 分際でぇ……この私に刃向かってんじゃないわよぉぉ!!!」

電撃を放った番外個体に凄まじい殺気を送る。
が、一方通行と番外個体はそんな食蜂を眼中に入れずに言葉を交わした。



559 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:32:41.53AIUzUsmE0 (20/27)

蜂を眼中に入れずに言葉を交わした。

「悪りィな、手間掛けさせてよォ」

「ミサカが出来る子だって、ようやく分かったでしょ?」

「あァ、見くびってたわ……。まるで俺の考えが全部読めてるみてェに動いてくれたおかげで、
 思ったより呆気ない幕切れになった」

「ふふーん、伊達にあなたのパートナー務めてないよ。ミサカの知能はそこまで高くないけど、
 こういう時、あなたならミサカにどうして欲しいかぐらいは察知できるし」

「……助かった。今回ばかりはな」

「一か八かの賭けだったの? おいおい、ちっとはミサカを信用しなって。あなたを苦しめる
 ヤツはミサカの敵でもあるんだから、下手を打つワケないじゃん。……ま、そういう事だから
 最終信号! いつまでもアタフタしてないでコッチに来いっての! また人質に取られたいの?」

「う、あわわわ! ってミサカはミサカは迅速にエスケープしつつアナタに駆け寄ってみたり!」

怒りで視野が狭くなった食蜂の横を掻い潜り、そのまま一方通行の胸へ飛び込む打ち止め。

「うわああん! 恐かったよー! ってミサカはミサカはアナタとまた無事に会えて嬉し泣き
 してみる! ぐすっ……」

「あァ……オマエまで巻き込ンじまって本当にすまなかった。だが、もォ大丈夫だ」

「うぅぅ……ひぐっ」

腕の中で泣きじゃくる打ち止めを一方通行は優しく撫で、番外個体に預けた。

「ガキを頼ンだ」

「あいよ」



560 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:33:44.25AIUzUsmE0 (21/27)



「ぐすっ……番外個体ぉぉ」

「あーもう、ほらほら、涙と鼻水拭いて。後はミサカたちのヒーローがやってくれるから、
 あなたは何も心配しなくていいの」


「……さァて、『心理掌握』」


母親のような番外個体と、事の成り行きを黙して見守る『妹達』を背にし、第一位と第五位は
対峙する。


「オマエの一人遊びもこれまでだ。……オマエは、手を出しちゃいけねェモンに手を出しちま
 った。いくら俺が前より優しくなったっつっても、許してやるわけにはいかねェ……」


「……ッ」


「あながち、オマエが言ってた事も間違いじゃねェな。確かに俺には両手で掬っても掬いきれ
 ねェ程の命を勝手に背負ってる……。そいつはオマエらからすりゃあ立派な弱点にしか見えねェ
 だろォよ。……だがな」


「……?」


「同時に、オマエらの命を奪いかねない“一番危険な爆弾”でもあるンだよ。つまり、相応の
 リスクは覚悟してから臨め、ってなァ!!」




561 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:34:48.13AIUzUsmE0 (22/27)



風を切るような轟音が倉庫内に響き渡り、身の危険を直感した食蜂は再び打ち止めを洗脳しよ
うと“演算補助機能付きリモコン”を手に持つ。
先程までとは違い、冷静な思考力を戻していた食蜂の行動は速い。

確かに速いのだが……。


「きゃ……ッ!!?」


相手はケタ外れの演算力と超能力を持つ一方通行だ。
当然、この機転も一方通行はあっさりと予測し、食蜂の左手を華奢な指で掴む。

左手の感覚が無くなった。
何を持っているのかも識別できない左手から、命綱とも呼べる器具が滑り落ちる。

カラン、と地面から乾いた金属音がした瞬間、すぐ目の前に一方通行の白い頭があった。
次に見えたのは、肉食動物が獲物を仕留める時に放つものと似た凶暴な眼差し。
紅く光った瞳が食蜂の背筋を凍りつかせ、戦慄を覚えさせる。


「少ォォし、悪戯が度を超えちまったなァ? 第五位」


「ひぃ……ぃ、や……いやァァああああああああああ!!!」


これが第一位の恐怖。これが学園都市最強と謳われる所以。
自分も同ランクに属する超能力者だというのに、それでもこの男とは圧倒的で理不尽な力の差が
設けられている。



562 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:37:49.32AIUzUsmE0 (23/27)



押せば自分も死ぬ。それを知っていながら面白半分でスイッチを押してしまった。
至近距離で一方通行を見据えながら抱いた感情は、『恐怖』と『後悔』だった。

だがしかし、気づく頃には全てが遅かった。何もかもが手遅れの段階だった。
引き返しも取り返しも不可。この先を辿る道は文字通りの『一方通行』。

これから食蜂操祈を待ち受ける運命は、『絶対の死』。
一方通行という怪物に無謀な挑戦を仕掛けてしまった。その愚行の代償である。

顔中からの至る箇所から液体を漏らす憐れな少女に、鉄槌が迫る。



「っつーワケで、悪戯好きなお嬢様に今から御仕置きだ。コッチもちっとばかし度を越えさせて
 もらうが、お互い様って事で我慢しやがれェェ!!」





563 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:40:54.61AIUzUsmE0 (24/27)




「グポ……ァ――ッッ!!!?」



グッと堅く握られた右の拳が視界一杯になった途端、グニャリと世界が歪んだ。
一息の間に高速で鼻から下の顔面に拳を打ち込まれた食蜂は、もの凄い勢いで水平に吹っ飛ばされ、
倉庫の隅で山積みになっていた木箱に背中から激突した。

ガラガラ!! と音を立てて崩れていく木箱の山。


「……ぐふっ……ぁ……ぁ……ッ」


その上で横たわったまま顔を鼻血と口内出血で真っ赤に染めた食蜂は痛みに呻き、ニ~三回痙攣し
た後ガクッと失神した。


「……まァ、やり方次第で番狂わせも可能っつう点については否定しねェけどよォ」


振り切った拳を納めて木片に沈んだ第五位を一瞥し、一方通行は後味の悪そうな表情で囁く。


「オマエの場合は最も洒落にならねェンだよ。これに懲りたら、無闇に人の内情を弄ぶ真似は今後
 控えやがれ。……このアバズレが」


そう残して背を向ける。
彼が歩く先には何よりも替え難い少女達が待っていた。




564 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:42:28.17AIUzUsmE0 (25/27)

ここまでです
正直やっちまった……

では次回予定箇所晒し又の名を次回予告


565 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:48:04.25AIUzUsmE0 (26/27)



上条「俺以外にはいないみたいだけどな。……そっか、お前とは前に素手で殴り合っただけで右手の事
    まで教えてなかったんだっけ」


浜面「信じられねぇ……って言いたいけど、現に火を手で消した瞬間はこの目で見ちまってるしな……。
    ったく、何なんだよ。その格ゲーに出てくる反則キャラみたいなチート設定」



―――――――




美琴「こんな所で何してんのよ? アンタ……」


黒子「お姉様? お知り合いの方ですの?」


麦野「ん……? あぁ、第三位かよ。相変わらず乳臭さそうなガキで安心したわ」


麦野「」


566 ◆jPpg5.obl62011/11/17(木) 21:49:42.47AIUzUsmE0 (27/27)


最後の行の“麦野「」”はミスですごめんなさい
ではまた次回
亀進行すぎて本当申し訳ないです



567VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/17(木) 22:02:58.864wbHpeSSO (1/1)



一方さんによる男女平等パンチの犠牲者がまた増えたな


568VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県)2011/11/17(木) 22:50:50.36ZjbqjHiro (1/1)



みさきちの顔芸…だと…






ふぅ


569VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(兵庫県)2011/11/17(木) 22:58:32.58PtzLG7jTo (1/1)

乙、それにしても……

>>顔中からの至る箇所から液体を漏らす憐れな少女

センセー、顔だけじゃないと思います!


570VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/18(金) 00:49:22.150xj5O3m60 (1/1)



ようし
みさきちの回収は任せろぐへへうわおい何をするやめedjlmnxmmcnnznnbiokl;.::n~~~~~


571VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/18(金) 10:12:56.11+D+54+FDO (1/1)

乙!


食蜂さんには悪いけどすっきりした。
一方さん弱ぇぇぇとか思っててサーセンっした!ドゲザー


572VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岡山県)2011/11/18(金) 10:38:56.76VtMlDSKT0 (1/1)

気絶したみさきちをぺろぺろするのは俺が請け負った


573VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/18(金) 11:21:42.44RMO9MjfSO (1/1)

話さなくても意思疎通できるとかもうお前ら結婚しろよ
って思ったけど考えたらここ番外通行SSだった

>>「ガキを頼ンだ」
>>「あいよ」
このやりとりが個人的に好き
やっぱ一方さんの相棒は番外だな


574VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都)2011/11/18(金) 15:44:05.56+/ec2x7ro (1/2)

食蜂弱すぎわろたwwwwwwwwwwwwww


575VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/18(金) 20:59:36.43V2B0IgXDO (1/1)

>>574
ちげぇよ、一方通行が強すぎるんだよ


あと「あいよ」はスクライド思い出した


576VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都)2011/11/18(金) 23:58:03.50+/ec2x7ro (2/2)

>>575
いやいや食蜂弱すぎwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


577VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/19(土) 00:13:57.52t3dVdMvT0 (1/1)

一方通行にとっては総合的に雑魚だろ食蜂は
絶対能力進化実験編で序列二つ上の御坂ですら簡単に戦意喪失させられてるし能力的にも実戦向きじゃないし・・・
能力抜いたら超能力者なんて普通の人間と大差ない


578VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/19(土) 00:38:00.18APD7leG3o (1/1)

食蜂さんは直接戦闘じゃこんなもんだけど使い方ハマればヤバいなんてもんじゃないしな
美琴さん辺りも戦闘だけなら互角以上が何人かいるだろうけど
戦闘以外の万能性考えると足元にも及ばないのばかりになるって意味で間違いなく第三位と言えるのと一緒かと


579VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/19(土) 00:52:17.753b3XGp9SO (1/1)

そういう意味じゃ一番期待通りってか…模範的な結末だな
強いて言うなら一方通行が欺き目的の芝居をした所がちょっと変かな



580VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(栃木県)2011/11/19(土) 08:48:05.80/pH9S4bEo (1/1)

それでも番外と直接触れられなかったらヤバかっただろう
爆弾がブラフだから黒翼発動でどうにかなるとしても
シスターズに負傷者でそうだし


581VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(北海道)2011/11/19(土) 14:03:31.49zlbmliwQ0 (1/1)

食蜂の能力って、「電磁波系で防げる」「リモコンなければ操れない」と意外と穴大きいからな
一方と美琴以外にも、多分麦野にも通じないだろう。垣根は…常に能力出してるのか、アイツ?
妹達くらいの電磁波では防げないだろうけど、いざとなれば打ち止めには逆らえないだろうし


582 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:00:58.82atPzIbfi0 (1/18)


少し投下します


583 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:02:08.98atPzIbfi0 (2/18)


―――


「……『幻想殺し』ぁ? 聞いたことねえよそんな能力……」

「俺以外にはいないみたいだけどな。……そっか、お前とは前に素手で殴り合っただけで右手の事
 まで教えてなかったんだっけ」

「信じられねぇ……って言いたいけど、現に火を手で消した瞬間はこの目で見ちまってるしな……。
 ったく、何なんだよ。その格ゲーに出てくる反則キャラみたいなチート設定」

「つっても消せるのは“異能”が絡んだ場合のみだから、お前が普通の拳銃使ってたら上条さんは
 今頃ゴートゥーヘブンですよ?」

「……能力補強効果が仇になったってか? んなの予想できるかよちくしょう……。まさか、また
 アンタから響く一発を喰らわされるとはな……」

「コッチは下手すりゃ丸焼けだったんだぞ!? 鼻血の滝よりよっぽど悲惨だっつーの!」


一悶着あって、上条当麻と浜面仕上は歩行者専用道路上で小休止を取りつつ会話を弾ませていた。
浜面の鼻からは未だ止まることなく流れ出てくる血が目立っており、ティッシュも無いので腕の袖
で時折拭うくらいにしか対処できていない。



584 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:03:37.64atPzIbfi0 (3/18)



とはいえ、浜面の激しい憎悪も上条の制裁で綺麗とまではいかないが吹っ飛んでいた。
外れかけた理性も顔面血だらけという代償のみで元通り収まり、再び沈黙したファイブオーバーの
いる地点には救急車を手配しておいた。
ひとまずの難はこれで完全に去ったといえる。

「……で、問題はここからだな。だいぶ距離が遠のいちまった」

浜面が難しそうな顔で悪態を吐き、上条も同感な雰囲気を醸しながら眉を顰める。

「あんなのがこの先も待ち構えてるんだとしたら……一方通行やお前の仲間(?)ってのを待った
 方が良いかもな」

「一理あるな。実際、今こうして生きてられるのが幸運って気分だし」

「第三位……御坂の能力をあそこまで再現するどころか、火力だけなら桁違いだったし……。幾ら
 何でもあんなのに右手構えて特攻する勇気はねえぞ」

「あれが第三位か……」(ロシアで襲撃してきたのは確か、第二位の模造品だったな……。――)

(――ってことは、一方通行も……トンデモ兵器を製造するための素材として利用されちまうのか。
 一方通行の“脳”が必須なのも、より完璧な機械を作り上げるため……。分からねえのはそいつを
 一体何の目的があって生産するのか……。大規模な戦いに備えて兵力を増加させるとか、そういう
 具体的な狙いでもあんのかな?)

「……おい、ボーッとしてるけど大丈夫か? 強く殴りすぎたんなら、今更で良ければ謝るぞ?」

「ん? ……あぁ。そうじゃねえよ。ちょっと不謹慎な妄想してただけだ」



585 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:04:50.59atPzIbfi0 (4/18)



「そう? ……で、何の話してたっけ?」

漫才でもしているかのような掛け合いはこの後もうしばらく続くのだが、この二人に安息の地は
無く、次の受難もすぐ側まで迫っていた。
それもそのはず。今立っている付近一帯が敵地の中心核であり、第七学区や第五学区の住人や学生は
殆どが学園都市の技術を最大限に活用し作られた防空壕、『地下シェルター』へ避難済みである。

よって、普段は人で賑わっている地域も冷たい風と科学の街特有の機械音しか流れていない。
もし警備員が警邏に出ていたなら、上条や浜面は今頃とっくに保護されていることだろう。

もっとも最高権力者には全て筒抜けである以上、敢えて黙認しているという住民としては嘆かわしく
もあり腹立たしい真実が発覚するはずなのだが、彼等の知能ではそこまで考えが及ばなかった。


―――


そんな浜面や上条よりは幾分、というか段違いで知性豊かな“野に咲く二輪の花”。
御坂美琴と白井黒子は何時ぞやの地下街テロ事件の時みたいに肩を並べて走っていた。
目的は言わずもがな、上条当麻の捜索である。

ファイブオーバーからの不意打ちで不覚にも意識を一時手放し、上条の足取りが完全に絶たれてしま
った今、こうして闇雲に足で捜し回る以外に方法はないのだ。
その際に二人とも携帯電話の機能を一時的な使用不可状態にしてしまい、初春飾利に連絡して上条を
見つけさせるという手も使えなかった。

ちなみに彼女達は避難警報をしかと耳に入れていたので、人気の無くなった商店街を見ても不思議に
は思わない。



586 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:06:23.89atPzIbfi0 (5/18)



今はそれよりも、遠くで響いていた如何にも交戦中みたいな爆音が、走る度徐々に近くなってきてい
る事の方が気になっている。
この商店街を抜けた先は、多分大きな国道と繋がっていたはずだ。

つまり、

「路上で戦争おっ始めてるみたいね……! 音が近いわ」

「……もしや、上条さんでしょうか!?」

「いやぁ、それは無いでしょ。どう考えても銃機同士、それも片っぽは“荷電粒子砲”みたいな武器
 使って戦ってるみたいだし……アイツはそんな“人を殺す専用道具”になんか手ぇ掛けないわよ」

「あ、確かにそうですわね。全くその通りですの。杞憂だったみたいでひと安心……」

「………」

上条の善良ぶりをあっさり納得した黒子。上条に好意的な彼女の姿は美琴にとってまだ何処か物珍し
くて見慣れない上に、自分も好意を秘めている立場からするとあまり愉快な話ではない。
いずれ、その辺についても決着を付けなければならない時がやってくる。
そう考えると正直ナーバスになりそうだった。


(アイツも心配だけど……、これ以上この街を戦場にされるのは住民として勘弁願いたいし、まずは
 手近な騒乱から鎮圧させてもらおうかしら!)


決意改め、美琴と黒子は速度を落とさないまま商店街を駆け抜けた。



587 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:07:38.89atPzIbfi0 (6/18)



広い国道沿いの路傍。
エリート校、常盤台に在籍する少女二名が目にした光景は一言で表すなら『地獄絵図』。

車両通行止めは必至なレベルにまで抉られているアスファルト。
そこら辺で無造作に転がっている鉄の塊。その形状は多彩で、高出力の粒子を斬撃状に受けて頭部を
断絶されたものや、高出力の粒子を浴びて半分以上は熔融しているものもある。
そんな所々でスクラップと化した金属物からは今も硝煙や小火が発生しており、酷い有り様だった。

「ちょっと……。何よ、これ……」

「うっ……」

おそらく、どれもこうなる前の姿は強硬な装甲に包まれた駆動鎧だったに違いない。
そして凄惨な姿から推察するに、“戦いの果てに相討ちした”という線は低い。“正体不明の強者が
圧倒的な猛威を振るって彼等を躯に変えた”。そっちの方がまだ納得し易かった。鉄の屍達を見渡し
てみれば良く解る。それぞれ損傷部位や深度は相違しているものの、痕跡自体は明らかに同一犯だ。
とすると、“これだけの戦闘マシーンを相手にここまでの所業をこなす化物”が存在しているという
結果に結びつく。
それも手口から窺える通りだと犯人はかなり残忍で凶暴、更に自分と同じ超能力者クラスの実力者で
ある可能性が高い。

転がっている“駆動鎧だったガラクタ”は十体や二十体ではない。軍事施設の一小隊規模はある数だ。

予想以上の惨状を目の当たりにし、ショックが強すぎたのか口元を手で覆ったまま声も出せない黒子。
対する美琴は嫌悪感を露骨に表しながらも“この惨状を創り出した犯人”について思考を働かせる。

(溶け具合に見覚えがある……。電子熱線の跡かしら? でもそれにしては……。大体、電子操作
 系統の能力者でここまで出来るヤツが私以外にも……?)



588 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:08:39.25atPzIbfi0 (7/18)



最も近場にあった一体の屍を観察し、首を唸らす。

(ん……? ちょーっと待てよ。心当たりがあるような、無いような…………いや、まさかねぇ)


「――――まったく、一丁前に数ばっか揃えて来やがってさぁ……磯辺の岩場に湧くフナムシじゃ
      ないんだから、そろそろ大概にして欲しいわねぇ……。演算し過ぎて頭痛てぇし……」


「!?」


突然聞こえてきた若い女性の声に、美琴と黒子の首が九十度横へ動く。


「あ……!!」


「……ん?」


プスプスと焼け焦げた駆動鎧。その正面に茶系の巻き髪を背中まで伸ばした女性が悠々と佇んで
いた。女性の方も丁度同じタイミングで美琴たちの声に気づき、目が合う。

美琴はその女性と面識があった。


「アンタは……!」



589 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:10:06.03atPzIbfi0 (8/18)



「……あぁ、第三位かよ。一瞬誰かと思ったわ」


女性は美琴を見て意外そうな表情を見せるも、すぐに普段の調子で軽口を叩く。
過去の因縁など、まるで最初から無かったかのように。


「っつーかアンタ、こんな戦場のド真ん中に何の用事があって来たわけ? ……つっても、粗方
 片付いたからもう跡地だけどさ」

「それはコッチのセリフよ! ……こんな所で何してんのよ? アンタ……」

「見りゃわかんでしょ? ゴミ掃除よ」

「やっぱり、“これ”はアンタが……」

「だったら何よ? 文句でも付けようっての?」

「そういう訳じゃないけど……。何でアンタがこんなことを?」

以前、研究所の破壊活動を行っていた際に一戦交えた女。
今でも鮮明に憶えている。この女は、

「お姉様? お知り合いの方ですの?」

「第四位、『原子崩し』よ……」

「んな……ッ!!? こ、この御方が……お姉様の真下に格付けされている第四位……!!」



590 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:11:12.75atPzIbfi0 (9/18)



素直に驚嘆する黒子に、麦野沈利は慣れた動作で軽く手を振った。
こういうリアクションは過去に何度も受けているが、よくよく考えれば黒子の隣りには自分より
表面では格上の第三位がいる。
なのに麦野を見る目がどこか熱烈な気がするのは、一体どういう事情だろうか?

(お姉様のパートナーとして私が最も着きたい椅子に座っている方と御会いできるとは……!
 どうにかしてわたくしに地位をお譲りして頂けないか、全力で交渉したいですのおおおお!!)

などという腹積もりがあるなど、麦野は夢にも思わないだろう。
ただ、有名なアイドルと街中で遭遇した時のファンみたいに目をキラキラさせている黒子を見て
純粋に気味が悪いとは思ったらしい。

「……第三位。話を急に変えるけど、コイツは大丈夫なのかしら?」

「…………無視していいわ。んで、話の続きだけど……、アンタが何でここにいるのよ? 何か
 戦わなきゃいけない理由でもあるわけ?」

「理由……ねぇ。ま、無いっつったら嘘かにゃーん。私にも色々事情があんのよ。邪魔でもした
 いなら、“あの時”の延長線おっ始めても良いけど?」

「やめとくわ……。今はアンタと争う理由が私には無いし」

「賢い判断ね。んじゃあコッチの番。どうしてアンタみたいなガキんちょがこんな危険地帯まで
 足を踏み入れたのかにゃーん? いくら超能力者でも、アンタは表の人間でしょ? もしかして
 正義感が疼いて仕方がなかったとか言うつもりじゃないでしょーね?」

「……アンタと同じで、コッチも訳ありだとしか言えないわね」



591 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:12:39.88atPzIbfi0 (10/18)



「ふーん……、まぁアンタの性格考えたら理解できなくもないわ。周りに流されて地下シェルター
 へ避難している姿が正直想像つかないから」

「なによそれ? 貶してるの? 人を食み出し者みたいに言ってんじゃないわよ」

「ふん……、“あれ”から結構時間も経って、ちっとはおしとやかになったかと思ったら……」

「な……!」

「相変わらず乳臭そうなガキで安心したわ。元気でやれてんなら、それが一番良い」

「……アンタ、何か変わった?」

「さあね……」

黒子の前で“あの時”の話をされるのは非常に不味い。
そんな美琴の心情を悟ったのか、麦野はそれ以上話題を広げようとはしなかった。
そして、麦野の気遣いを直で感じ取った美琴もまた、『麦野沈利』という少女について良く分から
なくなっていた。

以前に衝突した時の野蛮ぶりは風景を見るからに健在のようだが、それでも何か前とは違う印象を
不明瞭ながらも美琴は感じていた。

「……今度さ」

唐突に麦野が話しかける。

「機会ができたら、ゆっくり話でもしましょ。紅茶でも飲みながらマッタリとね」



592 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:18:09.01atPzIbfi0 (11/18)



「……えっ?」

「折角こうやってまた出会ったんだしさ……もう敵対する必要もないんなら、少しぐらい仲良く
 したって損はないんじゃない? もちろん、アンタが嫌じゃなければ……だけど」

「…………別に、いいけど……」

「そんな警戒しなくて良いって。取って食うわけじゃないんだから」

「ゴメン……正直、アンタのクチから吐き出される言葉の全てが意外すぎて……まだ頭が追いつ
 いてないんだけど……。少なくとも私の記憶に残ってるアンタはゴキブリも笑って殺してそうな
 印象で……結びつかないっつーか」

「あぁ? テメェ、人が親切に誘ってやってるってのに……あんま調子こくんじゃねえぞ?」

「うん、やっぱりそっちのイメージの方が強いわね。っていうか、何かしっくりくるわ」

「……ははっ」

「ふふっ……」

第三位と第四位は顔を向き合わせたまま微笑した。
もはや美琴の側も、過去の蟠りはこの女に不必要だと判断したのだろう。
麦野からの誘いを快諾しない理由が思い浮かばなかった。

「――さてと、んじゃ私はもう行くわ」

「……そう」



593 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:20:21.15atPzIbfi0 (12/18)



驚くほど自然な流れで携帯番号とアドレスを交換し、麦野が席を立つ。
そして、優しい口調で注意を促した。

「駆動鎧部隊や裏の組織構成員が多分ここら一帯に蔓延ってるだろーから、アンタも充分気を
 つけなさいよ? 何の目的で動いてんのかは知らないけどさ……」

「私、こう見えてもアンタよりは序列が上なんだけど?」

「能力レベル云々の話じゃねえよ。……年上からの忠告として素直に受け取っておきなさい」

「面倒見が良いのね。……一応、ありがとう……って言っとくわ」

「ったく、反抗期真っ盛りなだけあって可愛気ないわねー。……コッチは果敢に歩み寄ってる
 ってのに」

「悪かったわね! ど、どうせまだ子供よ! ……っていうか、アンタと私じゃそもそも比較
 になるワケないじゃない……。反則凶器二つも胸にぶら下げやがってさ」

「あははっ、コンプレックスなら私にだって普通にあるわよ。そういう話も今度またじっくり、
 ね♪」

「……えぇ、悪くないかも……しんないわね」


「……楽しみにしてるわ……。じゃあ、またね。“御坂”」


「……!」


踵を返し、ヒラヒラと手を左右に振りながら麦野は遠ざかっていく。
最後に本来の名で別れの挨拶を締められた美琴は麦野の背中を唖然と見送り、姿が見えなくな
ってからポツリと吐いた。


「“麦野”……ううん、年上なんだからやっぱり“さん”付けで呼んだ方が良いのかしら……?」


「……わたくし、もしや存在を忘れられてたりしませんわよね……?」


寂しげな黒子の呟きを聞いた美琴はそこでハッとなり、とりあえず後輩に謝罪する事にした。




594 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:21:58.66atPzIbfi0 (13/18)



―――


「あー、なンか肩の力がどっと抜けた気分だなァ。超能力者っつっても衣を剥いじまえばただの
 小娘じゃねェか……。そンなのを俺と相対させるほど切羽詰った集団かよ? 『新入生』ってのは」


番外個体・打ち止め・今回の一件に巻き込まれた妹達と一旦別れた一方通行は、悲観的に嘆く。
先ほど彼女達を無事に救出し、これで一先ずは安心できるはずだった。
その時に敵対した第五位を倒したはいいが、どうも過程が不味かったようだ。

気づけば全員が「女の顔にグーはないだろ……」と非難するような鋭い眼差しを向けていた。
確かに今なら『やりすぎだったのか?』と思えなくも無いが、やってしまったものはどうしようも
ない。

ミサカ系統全般が今や致命的弱点の一方通行は回らない頭でしどろもどろの弁解をする気も起きず、
先延ばしにする道を選んだというわけだ。

『……まだやる事が山ほど残ってンだ。苦情や文句諸々は全て終わったら耳が爛れ落ちるまで聞い
 てやるから、オマエ達は先に帰ってろ。番外個体、悪いがクソガキを引き続き頼む』

目を少女達から逸らしたまま言うだけ言って、あとは返答も聞かずに裏地まで逃げてきたのだ。
『心理掌握』は没させたのでもう心配は不要だと思うが、念のために小型のGPS端末機を番外個体に
持たせた。これで今度何かが彼女達の身に起きてもすぐに駆けつけてやれる。ちなみに端末機は食蜂
が所持していたのを勝手に拝借したヤツだ。校則の厳しい常盤台の学生ならきっと持っているだろう
と踏んだが、見事に当たりだった。



595 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:22:52.63atPzIbfi0 (14/18)



で、折角こうして無事に助け出せた番外個体たちから離れた本当の理由だが……。


「なァ。『新入生』を率いてる立場のオマエなら、この素朴な疑問にどォ回答してくれンだ?
 ――――黒夜海鳥」


「……あっれぇ? 私、アンタに名乗った憶え無いんだけど」


鉄柵の向こうに建つプレハブ小屋。その小屋の屋根の上に彼女はいた。
一方通行は軽い身のこなしで廃工場の裏地を仕切る鉄柵を跳び越え、不敵に微笑む黒い少女に近づく。


「“『新入生』のメンバー”、“『暗闇の五月計画』の被験者”。これだけヒントがありゃ充分調べ
 が利くンだよ。俺を軽く見積もり過ぎてンじゃねェのか? って、普通なら訊ねるトコだがなァ……。
 あの計画に関わってたンなら、まずそいつは有り得ねェ。“俺”の詳細はオマエ自身の思考を通じて
 伝達されているハズだからな」


「確かにアンタの“脅威度”ってのが実際どれほどのモンなのかは、“あの日以降”正確に植え付け
 られてるよ。ただ、誤解しないで欲しいね……。アンタが八月三十一日以前より大幅に劣化したのは
 コッチからしてみりゃ嬉しいニュースだった。けど、だからといって緊張の糸を切らせたりはしない。
 どんなに深手を負っていたとしても、アンタの“最優秀な頭脳”が健在な限りは私も気ぃ抜かないよ。
 それが私なりの“悪党としての流儀”ってヤツさ……」


「ハッ……そンな程度の流儀じゃ、せいぜい小悪党止まりだな」



596 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:23:32.56atPzIbfi0 (15/18)



鼻で笑い飛ばす一方通行を不快そうに睨む黒夜。
すでに火花が互いの間を交錯しているような空気が漂っていた。


「そうかい……。だが悪の道を貫き通せず、“平穏”という名の微温湯に浸かりすぎたアンタが言えた
 事かにゃーん? あろうことか、アンタにとっちゃ本来敵役にすら立てない筈の『第五位』に“接触”
 を許したのが良い証拠だろう?」


余も無く、空気が不穏な色へと形を変えていく。
地中から呻き声でも聴こえてきそうな黒色へ。


「まァ、それについては反論できねェなァ。俺に“過信”や“慢心”があったのも事実だしよォ、オマエ
 らの底を計り誤ったってのも間違いはねェよ。……ホント、良い教訓になったわ」


一方通行もこの雰囲気に順応する不敵な笑みで返す。


「遠慮なく今後に生かさせてもらう。もうオマエ達を格下の雑魚共とは思わねェ……。全力を以って叩き
 潰すまでだ。――――そンな訳で、覚悟はイイな?」


返事も待たずに電極のスイッチを入れ替える。
ここまでの計算に狂いが無ければ、能力の使用制限時間は約半分。つまり十五分余りだ。
しかし、一方通行は遊ぶ気などない。敵の土俵にも上がらないし、手の内を曝させるつもりもない。

――――文字通りの瞬殺で終わらせる。

背中から突如発生した四本の竜巻がそう叫んでいた。



597 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:25:56.00atPzIbfi0 (16/18)


半端ですいませんが、ここまでです
麦野さんと美琴っちゃん、原作で親友とかになんねぇかなぁ……

とと、
次回次回


598 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:28:23.31atPzIbfi0 (17/18)



黒夜「余裕ぶっこき過ぎるってのも間抜けだが、逆に余裕が無いってのも問題なンだぜェ?」


一方通行「……気味の悪りィペット飼ってンじゃねェよ」








599 ◆jPpg5.obl62011/11/23(水) 22:29:33.96atPzIbfi0 (18/18)

以上です
ではまた来週に来ます



600VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/23(水) 22:44:24.3879dL4LEOo (1/1)

うおお乙

>>超能力者っつっても衣を剥いじまえばただの小娘じゃねェ

のところで不埒な妄想をした俺を許して!


601VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)2011/11/24(木) 00:07:08.17exSxjS7ko (1/1)

乙です
一方さんはとりあえず竜巻の翼使いたがるな
もっと効率いい戦いかた有りそうなもんだけどな
いや、かまちーに効率を期待しちゃいかんか


602VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/24(木) 01:35:46.909SexHcnv0 (1/1)

一方さん食蜂さんぶっ倒して調子づいてきたなwwww
ってか黒夜逃げた方が…


603VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/24(木) 01:59:30.39qCl/wDoSO (1/1)

まさかの上条さん登場フラグ……?


604VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/25(金) 02:00:30.09zJg7J5+c0 (1/1)

最初から全部読んできた…長かった…
やっとここまで追いついたぜい
支援


605VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/25(金) 02:23:14.67GSE397mSO (1/1)

>>604
よくもageたな
ママに言いつけてやる


606VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(空)2011/11/27(日) 22:13:42.31iXDKsRqD0 (1/1)

ぶっちゃけると、自分には、男の顔面は殴っても文句は少ないのに、女の顔面なぐったら非難ごうごうなのが意味わからん


607VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/27(日) 23:03:14.42KLeuqfNdo (1/1)

顔面を股ぐらに替えて考えてみるんだ。

男女の一緒にしちゃいかんと言うことが非常によくわかるから。


608VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/28(月) 00:48:42.13kTfv4F5Y0 (1/1)

いいじゃまいか
人道に反する云々なら原作でも嫌ってほど出てるし



609VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(空)2011/11/28(月) 21:00:50.981hcyoE5E0 (1/1)

>>607
男にペニスはあるけど、女にはないだろ
しかし、男も女も顔はあるではないか



610VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関西地方)2011/11/28(月) 21:23:39.92igv88G5no (1/1)

>>609
男は顔が悪くても生きていける
女は顔が悪けりゃ生きていけない


611VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区)2011/11/28(月) 21:28:55.53pc9BQC1xo (1/1)

いつまで気味悪い話してるんだ!


612VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/28(月) 23:44:59.383XgyZjCSO (1/1)

結局女は顔が猪木って訳よ


613VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都)2011/11/29(火) 00:15:31.58oWZQEVQno (1/1)

>>612
元気ですかーっ!?


614VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(空)2011/11/29(火) 06:36:15.46YzyLsYeA0 (1/1)

顔が悪くて苦労するのは、男女おなじ


615 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 21:55:59.74y99xCPVg0 (1/25)

>>612
不覚にもw
そういや禁書にアゴしゃくれキャラいないですね

一気に投下します



616 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:02:28.38y99xCPVg0 (2/25)



『一方通行抹殺任務』の主力を担う組織、『新入生』。
この組織に属する一人の少女と“最終標的”が今、真っ向から激突しようとしていた。
奇しくも、彼等には『暗闇の五月計画』という因果関係がある。
場所は『新入生』が拠点を張っている『無法区域』の更地。無論彼等以外の人気は皆無だった。


(アイツの能力が俺の演算パターンを参考に『攻撃重視』で組み込まれてンだとしたら、防衛線は薄い。
 このままゼロ距離まで詰めて踏ン捕まえちまえば、チェックメイトだ!)


四方に散らばる竜巻を一気に噴射、暴風を巻き起こし、轟音と共に華奢な身体が空へと弾け飛ぶ。
その行く先には、お世辞にも強靭とは呼べない小柄な外見をした少女、黒夜海鳥がいた。

距離が瞬く間に縮まり、到達時間を計測し終えた一方通行が片手を伸ばす。
この手が彼女の身体に触れれば、勝負は終わる。

が、しかし……。


「――――余裕ぶっこき過ぎるってのも間抜けだが、逆に余裕が無いってのも問題なンだぜェ?」


「――――!?」




617 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:05:15.20y99xCPVg0 (3/25)



伸ばした手が、黒夜の嘲笑うような声と同時に後方へ引き寄せられた?
いや、一方通行を支点とした竜巻の風圧に対抗するような衝撃が前方からぶつかってきたのだ。
黒夜が一方通行へ向けて五指を開いた直後の出来事だった。
気を抜いていれば押し戻されてしまいそうな程に強烈な暴風が、黒夜方面から返される。


「……! そいつが『窒素爆槍《ボンバーランス》』か。掌に圧縮させて、長い棒状に固めた窒素
 を噴出させてンのか……。射程範囲が狭い上に攻撃性に主軸が掛かってるだけあって、真正面から
 受けるのは賢明じゃねェな」

「デフォ設定の『反射』はどォしたよ? まさかたァ思うが……この期に及ンで出し惜しみしてン
 じゃねェだろォな?」

「ケッ……幾らオマエの手から途切れなく伸びて来るエモノを跳ね返したところで、新たに噴出さ
 れた『窒素爆槍』に相殺されンのは解ってンだよ。あンまし見縊ってンじゃねェぞ」

「それでもアンタにダメージが通らねェことに変わりはねェ。試しもしないとは随分慎重だなァ?
 いや、この場合は臆病って言うべきか?」

「埒が明かねェンじゃ試すだけ無駄だろォがよ。それに薄汚ねェオマエのことだ。またくだらねェ
 策略でも練ってンだろォが、馬鹿親切に応じてやる気は毛頭ねェよ」

「…………ふ、どォやら本当に私らを『敵』だと認めたらしいねェ。光栄って思うべきなンだろォ
 けど、そンなミーハーな概念は持ってねェンだ」

「あっそォ、……だが安心しろ。『反射』に頼らなくても、戦法なンざァ思いつくだけでも百通り
 以上はあるから、なァ!!」


地面を踏み砕き、亀裂を作る。



618 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:06:10.22y99xCPVg0 (4/25)



ドミノ式に広がった亀裂は黒夜が佇むプレハブ小屋にまで侵食し、激しい地割れと共に小屋は倒壊
の末路を辿った。


「!? ちィ……っ!!」


黒夜の足場をまずは奪い、“移動を已む無くさせる”。
移動しなければならないという事は、少なからずそこに意識が傾いて、集中の削減を助長する結果
に繋がるのだ。

そしてもう一つ。

何も“正面から仕掛ける”必要はない。
小屋を壊して足場を奪ったのは、注意を自分から外させる目眩ましの意味も含まれている。

掌からジェット機みたいに窒素を噴射させたまま滞空する黒夜に毒手が迫っていた。


「ひゃは、ぎゃはっ」


狂った笑い声を発したのは、何故か黒夜。


「っ……!!?」


そして、度肝を抜かしたのは一方通行の方だった。



619 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:07:46.88y99xCPVg0 (5/25)



懐に潜るまでは手筈通りに運べた。
だが、そこから事態が思わぬ方向へ傾く。
一方通行の突き出した腕を縫うように避けた黒夜が、表情を不気味に歪めた所から――。


「知ってるぜェ? 何でアンタが反射を使わないか」


「っ……クソが!!」


至近距離で囁かれた言葉に動揺したのか、突き放すように手を振るう。
が、これも心理を熟知したような動作で軽くいなされた。

そして、ある程度の距離まで遠ざかった黒夜が続きを語る。


「私の持ち味が『窒素爆槍』だけじゃないって事、もォ分かってるンだろォ? ンで、
 肝心な中身も既に理解してるンだよなァ? まァ隠すほどの内容じゃねェし、機密度
 も高く設定されてねェから、アンタが本気で調べりゃ楽に入手できるデータだよ」


「…………」




「“木原数多”」




「……!!」



620 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:09:07.87y99xCPVg0 (6/25)



この名前を聞いた途端に心の奥が一層ざわつきを増す。
概要に偽りなしだとすれば、この少女は文字通り――。


「今は亡き、一方通行に唯一“生身”で対抗できる狂人科学者。……そいつの“データ”
 を私が引き継いでいるのさ。『プログラム・チップ』を脳に取り付けた時点で、アンタの
 “天敵”である『木原数多』の人格、思想、そしてアンタを攻略するための知識と技術も
 取得済みよ」

「……そのチップとやらに、あのクソ野郎の遺志が組み込まれてンのか……」

「っつか、ぶっちゃけクローン技術を併用して生き返らせた理由の殆どが“それ”なンだ
 よねェ。より精妙なデータ収集には形も伴った“再現”も要求されるンだよ。……まァ、
 “本人”にゃ流石に教えられちゃいなかったらしいがな」

「……つまり、オマエは今も……」

「そォ、“被験者”だ。『暗闇の五月計画』の時はアンタを対象(モデル)とした概要だ
 ったが……、今回はアンタとの因縁が最も強い研究者に白羽の矢が立った訳だ。皮肉な話
 だよなァ? 研究する側の人間が研究対象に抜擢されちまうなンてよォ……。最初に説明
 聞かされた時は笑いが止まらなかったぜ」

「そォか、だからか……」

「あン?」

「オマエから反吐が出そォなぐれェにムカつくニオイが漂ってたのは、やっぱり気のせい
 なンかじゃなかったってワケだ……。くくっ……、こりゃあさぞかし研究チームも荒れた
 だろォなァ。俺(研究対象)をシメるために木原(研究者)まで具の材料に混ぜちまうと
 はな……。他人事なら盛大に笑ってるところだろォぜ」



621 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:10:55.26y99xCPVg0 (7/25)



「……、脱線したな。じゃあ続きだ」


一旦地へと降りた両者。
そのまま臨戦態勢を取り、出方を探る一方通行に黒夜が伝える。


「『反射の壁』はアンタに攻撃が届く寸前に引き戻してやればいい……。クチじゃ簡単に
 解説できるが、水の上を走るのと同レベルの理屈だ。木原数多の偉大な所業は後世に残す
 べきだが、ヤツは能力者ではなく研究者だった……。故に体術を行使するしかなかった訳
 だが、それじゃあ攻撃性能が心許ない……。――――だが、私なら」

「……!」


ゾゾゾゾ、と地の底を這うような不審音が耳に入った。
音の発生地を目で追ってみると、そこには先程倒壊したプレハブ小屋の跡しかない。

だが、よく見てみると……。


「アレは……?」


瓦礫に埋もれたビニール製のイルカ人形が微かに確認できる。確か黒夜が常備していた
事を思い出し、この不協和音の元凶だと判断した。

が、一方通行の脚は動かなかった。
正確には“突如爆ぜ散った人形から姿を現した謎の物体”を視中に収めてしまい、警戒
心が働くあまりに動かせなかった。



622 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:12:27.30y99xCPVg0 (8/25)



「……気味の悪りィペット飼ってンじゃねェよ」


「『窒素爆槍』の発動原理を知ってるンなら、そンな悠長な感想吐いてる場合じゃねェ
 って気づかねェのか?」


人形から生まれた“歪な手”が黒夜を中心に収束され、不躾な動作で一方通行を手招き
している。


「…………どォいう造りになってンのかは知らねェが、なるほどなァ……。“掌”から
 じゃなきゃ放出できねェ欠点を、“手を増やすこと”で改善しやがったのか」

「流石だねェ。正解だよ」

「だがよォ、そいつが俺に有効かっつったら微妙な線だよなァ。本物とダミーの区別も
 できねェとか思ってンなら、ただの浅知恵で片付くぜ?」

「……? っ! あァー、そォかそォか。……アンタ、盛大に勘違いしてるよ」

「あァ……?」


「この“腕”は全部、私の神経と直結してンだ。『無線』でね」


「……なンだと!? そンなわけが……」



623 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:14:09.32y99xCPVg0 (9/25)



「技術の成長と進化は、私やアンタが想像しているよりウンと早い。ワイヤレス接続
 だって現代じゃ当たり前のよォに普及してるだろォ? 神経を脳から各パーツに送信
 すれば、こんな紛い物でも私の能力に適用される。……当然、『木原プログラム』も
 込みで、なァ」


「ってことは……!」


「“全ての『窒素爆槍』”に『対反射膜用システム』が働く仕組みってわけさ。そして、
 どこに逃げよォとも絶対に逃げ切れねェ様にあらゆる角度、方位からブチ込む……。ふふ、
 詰ンだな? 第一位。既に王手が掛かってるぜェ?」


「ぐ……」


「これだけの“腕”から一斉に噴出させたらどォなるか……わかるよなァ? 最後には
 肉片も残らねェかもしンねェが、そこは安心しな。“頭”だけは綺麗なままにしといて
 やっからさァ」


黒夜が中心に立つ形で上下左右に広がっていく“腕人形”。
まるで孔雀が羽を開いたような絵図が完成し、各腕がその掌を翳す。

ロックオン先は言うまでもなく一方通行。




624 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:16:40.05y99xCPVg0 (10/25)


「………」


さっきとはうって変わって大人しい一方通行を、黒夜は挑発する。


「どォしたァ? 蛇に睨まれた蛙みてェに固まっちゃって……。突っ立ってても“反射膜”
 は普段通りに助けてくれねェンだぞ?」

「余計な気遣いは要らねェよ。とっとと仕掛けりゃ良い……」

「……潔いじゃねェか。――そンじゃ、遠慮なく殺させてもらうわ」


――次の瞬間、何十本あるかも判らない“腕”と黒夜自身の両手が轟音を響かせた。


人の体など簡単に吹き飛んでしまう程の風速と風圧が生まれ、窒素の槍同士が絡まり乱れ、
膨大な嵐と化して一方通行を呑み込もうと畝る。


「――ッ!!」



周辺の砂利や草木、建築物までもが凄まじい暴風に巻き込まれて宙を回りだす。
激しい砂嵐が連鎖的に発生し、一方通行を起点とした更地を覆い尽くしてしまった。

『窒素爆槍』の渦に翻弄される一方通行を直接目で確認できなくなった事態に、黒夜は残念
そうな表情を浮かべる。


(チッ……、思ってた以上に風向きが良かったな……。まァ、逃れる術はないだろォし……
 さして気に病む必要もねェか。視界が良くなる頃には逝ってるはずだから、余波が収まるのを
 一旦待つか……)




625 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:18:43.79y99xCPVg0 (11/25)



一度暴発した災害はそうすぐには鎮まらない。
充分と判断して噴出を止め、二分程経ったか。ようやく視界が良好となり、屍となった第一位を
最初に拝んでやろうと黒夜はしたり顔で眺める。


「…………?」


しかし、一方通行のいた位置に人の気配はなかった。
少しの風でも簡単に吹き飛んでしまいそうなほど華奢な体だ。目の届かない場所まで消し飛んで
いったのだろうか? 


「……だとしたら、探すのが面倒だな。どこまで飛んじまったのか分からねえぞ……」


やはりやり過ぎだったか……。と普段の口調で呟く黒夜。

と、その時。




「――――いィや、わざわざ探す必要はねェ」




「――――!!?」



626 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:22:34.53y99xCPVg0 (12/25)



少女の小さな背筋が凍った。
急に襲われた得体の知れない悪寒。その正体は背後からの囁き声と共に明らかとされた。


「死体確認も済ンでねェ段階で殺ったと決め付けンのは、ちっと早計なンじゃねェか?」


確実に仕留めたと思われる標的本人の声が、黒夜の目を剥かせる。


「テメェ……どォして……!?」

「とりあえず落ち着けよ。まずはその鬱陶しい“作り物”から処分しなきゃ、なァ?」


背中に言い様の無い圧迫感を覚え、振り返るどころか金縛りにでもあったかのように硬直
しきっている黒夜。
瞬間、“歪な腕”は見えない圧力によって黒夜の身体から巣立つように分散されていった。
黒夜本体には影響を与えずに大気の流れを器用に操るという豪技。こんな非常識な真似が
可能な人物を黒夜は一人しか知らない。


「っく……!」

「ハイ、掃除完了ォ」


楽しげで余裕のある声。
そして、



627 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:26:50.65y99xCPVg0 (13/25)



「あとは、オマエの両肩に付いてる“それ”を取り除くだけだ。ピンチを感じる間もなく
 終わらせてやっから、感謝しろよ?」

「……っざ、けんなっ!!」


切迫した感情が遂に臨界点を超えた。
自力で硬直状態から立ち直った黒夜は、昂ぶった感情のまま勢いをつけて身を反転させる。
同時に構えた右腕から手加減なしの『窒素爆槍』を見舞おうとするも、当然すぐ背後にいた
一方通行はこれを先読みした。


「が……ぐァァあああああああ!!!!?」


窒素の槍が噴出される前に右腕を掴まれ、そのまま制御不能に陥った。
ゼロ距離で黒夜を捕えた一方通行は、ニヤリと妖しく微笑みながら、


「ハァイ、“一本目”ェ! ぎゃはハハははァァ!!」


自身の手を黒夜の右腕を掴んだまま大きく横へ薙いだ。
バキッ!! と金属同士の接合が外れるような鈍い音が響く。


「ぎゃァァあああああッッ!?!?」



628 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:27:56.03y99xCPVg0 (14/25)



激痛に襲われ、たまらず大声を上げてのた打ち回る黒夜。
肩から文字通りに外れた“右腕”を地面に放り捨て、尚も苦痛にもがく無惨な少女を
冷ややかに見下ろす。


「サイボーグ、ねェ……。能力じゃ到底俺に及ぶはずねェのに、何故か自信に満ちた
 オマエの態度がやたら気にはなってたが……ハッ、そォいうカラクリかよ」

「…う……ぎ、ぐううう……!!!」

「“生身”じゃなくて良かったじゃねェか。そいつが義手じゃなかったら、毛細血管
 ごと弾けてもっと悲惨な光景になってたぜェ? っつか、本物の腕じゃねェにしても
 神経自体は繋がってンのか……。詳しい訳じゃねェから、そこン所の原理が今ひとつ
 ピンと来ねェな」

「…て…テメェェ………ッッ!!!!」


狂気に憑りつかれた瞳で一方通行を睨み、残された左手を向ける。

だが、


「おっと、そっちも取り外し式か? ――――なら、もうオマエにゃ不要だよなァ!?」


超人的な素早さで左手さえも抑えられ、黒夜の顔が青ざめる。
自分の手を掴んでいる一方通行の華奢な手が魔手にしか見えなかった。


「いや……ちょっ、な、なにす……ま、待っ――――!!?」



629 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:28:57.31y99xCPVg0 (15/25)





 「ハァァイ、“二本目”も没収ゥゥゥゥ!!」







630 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:33:03.45y99xCPVg0 (16/25)



ボキッ!


「――――ぃぎゃアァァアアアアァああああああああァァあああ!!!!!!!!!」


二度目の地獄を迎えた齢十二歳の少女。
掴んだ時、つまりは“触れている”ので、生身か義手かの識別どころか仕組みや設計
まで最速で収集できる。それが第一位の能力である。

右腕同様に金属反応を感知したので、一方通行は容赦なく左腕も力ずくで引き外した。
まさに取り外し手順などクソ喰らえと言わんばかりの強引手段。
ちなみに手順通り以外だと痛覚神経に途轍もない刺激が伴ってしまう事を一方通行は
知らない。正確には知ったことではない。


「おいおい……、まるで本当に腕が取れたみてェなリアクションだな。……そンなに
 痛ェのか? スプラッタ映画みたく血だまりにならねェだけで、実は本物の腕と同じ
 神経でも通わせてンのかよ?」


「あァァああ……ッ……あ……は……ァ……ッッ……ッ」


涙で濡れながらも虚ろな目の黒夜を見て、流石に背徳感を抱く一方通行。
勝敗など誰が見ても明白だが、これでは話ができない。
元々黒夜は喋る体力を残す程度で済ます予定だっただけに、今度は一方通行が「やりす
ぎちまったか……」と頭を掻く。ここまでの効果は正直期待していなかった。
せいぜい相手の攻撃手段を封じることで無力化するくらいの工程しか立てていなかった。



631 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:35:51.78y99xCPVg0 (17/25)



そんな両肩から先を失った黒夜は、痛みを緩和する手段も得られず無様に地べたを這う
しかない。両腕が無いために、未だ激痛が伴う接合部の断面を押さえる事は愚か起き上
がる事さえできず、加えて武器(能力)も使用不可に陥り、“まな板の鯉”状態である。

もはや戦闘不能なのは一目瞭然だった。


「ち、くしょ……う……っ」


苦しみと屈辱に悶える少女に、一方通行は勝者として悠然と見下しながら話しかける。


「おーおー、不憫な姿に成り下がっちまって……。すぐにでも病院に緊急搬送してやり
 たい所だがなァ、その前にもォしばらく俺との会話に付き合えよ」

「……ど、どうして……あの渦に囲まれて……逃げ場なんて、なかったはず……」

「あァ、それなら単純だ。“全部読ンだ”。風向きから速度、質、風量、値を弾き出す
 のに十秒も掛からねェよ。あれくらいじゃあなァ……」

「ッ……!?」

「オマエ、“反射”ァ破ったぐらいで俺を攻略できたとか……本気で思ってたのか?
 木原みてェにもっと徹底されてるって考えてた俺が馬鹿みてェじゃねェか。……まァ、
 オマエらは言い換えりゃ“新人”だから、らしいっちゃらしいかもしンねェけどよォ」

「な、に……?」



632 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:38:39.87y99xCPVg0 (18/25)



「まだ理解できねェか? ならもっと丁寧に説明してやンよ。“オマエ”が仕向けた
 『窒素爆槍』は一つ一つ綿密に解析され、大気のベクトルをオマエの攻撃方法と同じ
 要領で操作してぶつけ、相殺してオシマイってなァ」

「――!! ば……」

「で、砂埃で視界が悪いのを利用して、間抜けに勝ち誇ってるオマエの後ろまで移動
 したって訳だ。特に驚くよォな真相でもねェだろォがよ?」

「…………っ」


返す言葉が思い浮かばないとはこの事である。


「……馬鹿言ってんじゃねえよ……。あんな短時間で、あれだけの射出口から放った
 『窒素爆槍』を解析し終えたってのか?」

「所詮オマエが植え付けられたのは俺の“一部”に過ぎなかったよォだな……。俺の
 “際限”をそもそも把握しきってねェ。だから『軽く見すぎてる』っつーンだよ」

「馬鹿、な……! コッチには、『木原数多』との戦歴データだって……」

「確かにアイツにゃ何度か後れは取った。そン時のデータを参考に戦略を立てたンだ
 としたら、オマエに自信や希望が芽生えるのも頷けなくはねェ……。だが、そいつは
 あくまでも“シミュレーション”の範疇でしかねェンだよ。俺を完全に攻略しきった
 とは言えねェよな」



633 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:41:04.74y99xCPVg0 (19/25)



「なん、だと……!」

「オマエは“あの計画”で俺の片鱗くれェは知り得た。実際、一部の演算パターンや
 思考能力は参照程度に身に付いてる筈だ。俺自身の能力についても大凡の知識がその
 チンケな脳に組み込まれてる……」

「……だから、何だよ?」

「オマエは『暗闇の五月計画』や『木原数多』から取得した情報で俺を知り尽くした
 気になっていた。それが敗因に繋がったンだよ」

「……!」


「頭で理解すンのと直接体感するのとじゃ、意味が全く違うだろォが。そこに気づけ
 なかった時点で、ハナからオマエに勝機は無かった」


「――!!」


突きつけられた残酷な現実を何とか振り払おうと懸命に頭を振る。
地面に額を打ちつけて悪夢から逃れようと呻く。

しかし、どう足掻いたところで受け止めざるを得なかった。

“敗北”という、この世で彼女が最も嫌う運命を――。



634 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:42:17.64y99xCPVg0 (20/25)


「なん、だと……!」

「オマエは“あの計画”で俺の片鱗くれェは知り得た。実際、一部の演算パターンや
 思考能力は参照程度に身に付いてる筈だ。俺自身の能力についても大凡の知識がその
 チンケな脳に組み込まれてる……」

「……だから、何だよ?」

「オマエは『暗闇の五月計画』や『木原数多』から取得した情報で俺を知り尽くした
 気になっていた。それが敗因に繋がったンだよ」

「……!」


「頭で理解すンのと直接体感するのとじゃ、意味が全く違うだろォが。そこに気づけ
 ない時点で、ハナからオマエに勝機なンてモンは無かったンだ」


「――!!」


突きつけられた現実を振り払おうと頭を振る。
地面に額を打ちつけて悪夢から逃れようと呻く。

しかし、どう足掻いたところで受け止めざるを得なかった。

“敗北”という、この世で彼女が最も嫌う運命を――。



635>>633は無しで ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:45:00.54y99xCPVg0 (21/25)




「く、そ……。ち…く…しょう……ッッ!!」


“認めたくない”。そんな一途な想いが強く表れている。
だが、音を立てて崩れ去った自信やプライドに縋ることも適わず、黒夜は屈辱感に
堪えながら奥歯を力一杯に噛み締めた。


「オマエ達から仕向けた戦争だ。同情の余地がねェのは判るな? この末路を受け
 る覚悟も、勿論あった筈だ。……まァ、愚鈍に気づいた時ってのは大体が手遅れの
 ケースだろォから、オマエだけを嘲笑ったりはしねェさ」

「…………もういい、殺せよ」

「……良い覚悟だ。と言いたいトコだが、生死の境に立つにはまだ若すぎンだろォ。
 もォ一度、人生をやり直そうって気分にはなれねェのか?」

「今更……生きる場所なんかない……。私は暗い世界に浸ってるのが似合いなんだ。
 表で堂々と生きていける訳、ねえよ……」

「そンなの分かンねェだろ。オマエが出来ると思ったら、案外何とかなるかもしれ
 ねェじゃねェか。居場所くらい、腐りきった裏社会に比べりゃすぐに見つかる……。
 ンで、そォいうのは意外と近くに転がってたりするモンだ」

「……なに、どこぞの奇麗ごと教師みたいに振舞ってんだよ……。私を殺さないの?
 放っておいたら、またアンタを狙うかもよ? 今度は確実に息の根を止められるかも
 しれないぜ?」

「根本的な勘違いを指摘してやるが、俺は『オマエを殺す』っつった覚えはねェぞ?
 『叩き潰す』とは言ったかもしンねェがなァ」



636 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:48:01.49y99xCPVg0 (22/25)




「……、詭弁かよ……」

「どォ受け取ろォと構わねェよ。……それに、また俺にリベンジする度胸が果たして
 オマエにあンのかねェ……。ま、仮にあったとしても問題ねェがな。そォいうヤツら
 を相手すンのは嫌気がさすほど慣れてっからよ。オマエ一人増えた所で大して気には
 ならねェなァ」

「ケッ……、余裕こいてられるのも今だけだ、クソ野郎。その内ケツから泡吹かせて、
 私が今日受けた屈辱の十倍は苦しませてやるからな……!」

(そォなったらそォなったで、番外個体がまた面倒臭せェ事になりそォだ……)

「……今日の所は、私の……負けだ。『新入生』も解散する。……つっても、アンタ
 や第四位に大半は削られたんだけどな」

「あァ……」(第四位……無事なンだろォな?)


黒夜の瞳から闘争心が消え、因縁のぶつかり合いもこれで一応は一幕下りた。
そして、一方通行は――――。


「じゃあ、ここからは俺の質問に答えろ。今回の、一連の実権を握っている黒幕共の
 巣窟は何処にある?」




637 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:50:07.66y99xCPVg0 (23/25)


今回はここまでです
義手だからグロにはならない……よね?

では次回告知


638 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 22:59:09.11y99xCPVg0 (24/25)



浜面「“多勢に無勢”にも限度ってモンがあんだろーーー!!」


麦野「テメェ……、首より下ぁレンコン模様にされてぇのか?」



―――――――



上条「……あれ? お前ら、地下シェルターに避難してなかったのかよ?」


美琴「目の前で死にかけたばっかりの癖に、気なんて遣ってんじゃないわよ馬鹿!」


黒子「まったく……、貴方のせいでもう心臓一つでは満足に生きられませんの……」




639 ◆jPpg5.obl62011/11/29(火) 23:00:32.96y99xCPVg0 (25/25)


以上です
次の更新はちょっと遅くなるかも…
あんまり延びるようなら生存報告だけでもしますので気長に頼んます

ではまた


640VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(愛知県)2011/11/29(火) 23:07:52.658fiKiCJE0 (1/1)


一方さんはドS



641VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(神奈川県)2011/11/29(火) 23:17:42.12ueu3IZun0 (1/1)

神経ごと持って行ったのかwwww
まじキッツイなwww


642VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(東京都)2011/11/29(火) 23:58:36.02C0feI4MUo (1/1)

前回もやってしまったが今回もまたやってしまったな・・・・・・


643VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/30(水) 00:23:52.58xeGHWh9T0 (1/1)

このssの一方さんは甘くて優しい


……そう思ってた時期が私にもありました


644VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/30(水) 00:32:03.26/g68MG+SO (1/1)

本当予想の斜め上いかされるよなww

ここの一方通行>>643の言う通り甘いからてっきりもっと紳士的に済ませるかと思ってたのに……けど不思議と惹き込まれるんだよな…
なんでだろ?


645VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(岡山県)2011/11/30(水) 07:47:00.67RE5G9HBv0 (1/1)

一方さんが黒夜をお持ち帰りフラグかこれ


646VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/30(水) 13:00:13.23+yC/1bY/o (1/1)

乙!


647VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/12/01(木) 01:50:15.88qwXUpkP80 (1/1)

おつー

黒ダルマwwww


648VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/12/02(金) 23:13:15.54c2mqIKzO0 (1/1)

女でも顔面グーで殴るわサイボーグ化してるとはいえためらいなく両腕捥ぎ取るわ・・・
まさに本来の一方通行さんではないかもっとやれ


649VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(チベット自治区)2011/12/04(日) 23:56:45.58fYwgswW80 (1/1)

黒夜に苦戦するパターンかなー、と思ってたら原作通り余裕でやっつけた(浜面無しで)wwwwwwさて、ナイトロジェンで可愛い黒夜でも見るか……


650VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/12/05(月) 05:55:52.734bGDCUyt0 (1/1)

流石にそこまで日和ってなかった。ってことか
まぁ少女に苦戦する一方さんなんて見るに堪えんからよかったけど


651SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/08(木) 23:38:41.53WNV6Wh9uo (1/1)




652SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/14(水) 00:10:48.211Lt9ScY20 (1/1)

まだかーーーーーーーーー


653SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/16(金) 23:41:37.15It4rO6zl0 (1/2)

生存報告に来ました

すいません
続きの投下にはもうしばらく時間掛かりそうです…
待っててくれてる方、本当に申し訳ないです

年明けまでにあと一回は更新したい…





654 ◆jPpg5.obl62011/12/16(金) 23:43:35.18It4rO6zl0 (2/2)

おっと
酉忘れてた


655SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/16(金) 23:54:06.30AUFsMrSE0 (1/1)

舞ってる


656SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/17(土) 01:42:49.11OSLHkrOSO (1/1)

無理せず自分のペースで構わんよ
打ち切りさえしなければ問題ない


657SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/17(土) 01:48:30.24ncUICxlM0 (1/1)

生存報告きたか……
いつまでも待ってるぞ


658SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/17(土) 23:49:34.05fFsjX3H50 (1/1)

投稿まで無眠無休で舞ってる


659以下、あけまして、おめでとうございます2012/01/03(火) 00:05:35.97mCdYuxHU0 (1/1)

楽しみに待ってます!


660以下、あけまして2012/01/04(水) 22:30:55.59BmcdGESC0 (1/1)

年末年始休業ですね
再開心待ちにしてます


661VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/01/21(土) 14:39:27.30t1zA8Onx0 (1/1)

待ってるぞ


662VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2012/01/29(日) 13:18:37.20SGSebIBAO (1/1)

待ってる


663VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/02/06(月) 12:38:04.30UI+/hx6o0 (1/1)

そろそろ生存報告を……


664VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/16(木) 04:58:33.77EjTcyWREo (1/1)

早く来い……


665VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/02/18(土) 23:12:32.04iGb3TKlG0 (1/1)

つつきはまだですかぁ~?


666VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2012/02/19(日) 00:53:40.65Ydy+1/VAO (1/1)

あげんな。おとなしく待て


667 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:22:57.86LZIt7T/Q0 (1/18)

えー…
長い間放置してて本当に申し訳ありません
待っててくれてる人がいるとは正直思ってませんが、ようやく来れましたので久しぶりに更新します



668 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:23:57.25LZIt7T/Q0 (2/18)



―――


第五学区、『新入生』本拠地から数キロ離れた『無法区域』内。
全力疾走中の浜面仕上を追うのは、種類豊富の駆動鎧。総勢十数体以上。
帝国軍のイチ中小隊に相当する布陣がターゲットとしているのは、どこにでも
転がっていそうなチンピラ約一名。

いくら内情有りとはいえ、流石に不条理且つシュールな絵図だ。

そんな喜劇の台本にでもありそうな状況だが、当人たちは至って大真面目である。
特に、直撃すれば即死必至の銃火器から放たれる砲撃が先程から横を通過しまく
っている浜面の方は顔も動きも必死さが表れすぎていて、茶化す気分にもなれな
いであろう。

実際、生きるか死ぬかの絶賛修羅場中だから無理もないのだが……。


「ぃひぃい!? う、うそだろぉオイ!! 弾の無駄、ってか……兵力の無駄な
 浪費って言葉知んねえのかテメエらぁ!!? こっちは凡人どころか、地位的に
 は落ちこぼれの部類に入ってんだぞ!!? いくら何でも勢ぞろいし過ぎっ!!
 “多勢に無勢”にも限度ってモンがあんだろーーー!!?」


涙まじりの訴えにも武装集団は耳を傾けてくれない。
ウサギを狩るにも一切気は抜かずに全力を尽くす獅子。まさにそんな構図だった。
的を絞らせないために直線を走るのは基本だが、ジグザグに走るのも楽ではない。
既に莫大なスタミナが浜面の体内から消費している。
早い話、そろそろ限界が近づいていた。



669 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:25:01.20LZIt7T/Q0 (3/18)



「はぁ……っはぁ……! ちっ…きしょお!!」


腿が張ってきている。故に段々と足を動かすのが辛くなり、追手との距離も徐々に
狭まっていた。
唯一の対抗手段だった『能力物』もとっくに素が尽きており、使い物にはならない。


(やべぇ……逃げ切れる気がしねぇ! あんな数のセンサーじゃ、きっと何処に隠
 れたって見つかる……! かと言って、このまま追いかけっこしてたんじゃ間違い
 なく召される!!)


小道を見つけ、すかさず駆け込む。無駄な足掻きでしかないかもしれないが、広い
道を逃げるよりは何倍もマシなはずだ。幸いなのは追手全員が搭乗型駆動鎧である
事だった。人が乗る構造上、ある程度は巨体躯なのがお決まりだ。狭い場所へ誘導
すれば、僅かながらも足軽の方が有利なのは否めない。


「……撒くのは無理でも、インターバルの時間くらいは稼げるか……?」


ひとまず壁と壁の狭間に身を潜め、息を殺す。
乱れた心拍を落ち着けてから消耗したスタミナの回復に努めようと計画を練る。

が、やはりそう都合良く運ばせてくれるほど敵も甘くはなかった。



670 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:26:10.77LZIt7T/Q0 (4/18)



「――うぎぃ!?」


背面の壁がガラガラと破壊され、浜面の身体が後ろへ転倒しかける。
素っ頓狂な声を発しながら、傾く身体のバランスを立て直して顔を上げた浜面の目
に映った光景は、


「……あはは、やっぱねー。逃がす気なんてサラサラありません、ってか? ハッ、
 まるで凶悪指名手配犯並の扱いだな」


おどけたコメントに返事をくれる者などいなかった。
転びそうな体勢で壁から出てきた浜面を「待ってました」とでも言いたげに各武器
を構えているのは十数体近い駆動鎧集団。

ここから逃げようと指の一本でも動かした瞬間、蜂の巣にされる運命なのは浜面で
すら理解できる。
逃走劇の終幕は案外呆気なかった。


(お手上げ、か……)


強運もどうやらここまでらしい。浜面がそう悟った時だった。


『――――ぐぎッ!?』

『――――ッッ!!?』



671 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:27:40.97LZIt7T/Q0 (5/18)



悲鳴は弱者の方ではなく、武装した敵の方から上がった。
急展開に浜面が唖然とする中、次々と駆動鎧の腹部から“光の線”が生える。
そして、派手な轟音と一緒に怪光線が貫通した駆動鎧は爆発し、その場で無力化
したまま動かなくなった。


「んな……、えっ!? な、何だよ……どうしたってんだ……???」


浜面があたふたしている間に作業的な駆逐は完遂され、目の前の敵部隊は十秒も
経たない内に全滅の末路を辿った。

こうして、またも奇跡的に生き残った規格外無能力者の浜面。
そんな彼の耳に聞き馴染んだ声が届く。


「やーっと見つけたと思ったら……、何また勝手に絶体絶命ゴッコしてんのよ?
 つくづくアンタって追い詰められる様が定着してるわねぇ。ここまで来ると属性
 ついてんじゃないかって疑うくらいだわ」

「はぁ……助かったよ、ありがとう……って素直に感謝したい所だがなぁ麦野!
 ヤラレ属性だけは流石に寛容できねーぞ!? ってぇか、好きで死の淵に立つ様
 な異常快楽者がいるんだとしたら、そいつは精神病棟行き決定だ!!」


プスプスと煙を噴かす駆動鎧の残骸を踏みならして浜面に歩み寄って来たのは、
頼れる姐御肌な雰囲気を醸した麦野沈利だった。

とりあえず、浜面は売り言葉に買い言葉で反論する。
その幼稚ぶりに呆れる麦野だったが、それ以上の口論には応じずに近況報告を
要求した。


672 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:29:01.19LZIt7T/Q0 (6/18)



「はいはい、アンタが望むなら後で精神病棟にでも何処にでも送ってやるから、
 さっさと“あの後”の経緯を話しなさい。場所も場所だし、あんま無駄話して
 ても仕方ないでしょ?」

「あっ……! そうだ思い出した!! お前さっきはよくも俺を敵地内で一人
 ぼっちにしやがったな!? 第一位にしろお前にしろ……自由ってか自分勝手
 過ぎるんだよ! さらっと“あの後”とか言っちゃってるけどねぇ麦野さん?
 俺がどれほど死ぬ思いしたか……! “一歩踏み違えるだけでサヨナラ現世”
 レベルだったんですよ!?」

「あー……、まぁアンタなら死にゃしないだろーって思ってたし……実際今も
 そうやって五体満足で生きてんだから、問題ないでしょ?」

「…………何故そこで俺を“うわー、コイツ面倒臭え”的な目で見る?」

「過ぎたことをグチグチ言うヤツは面倒臭い。異論ある?」

「いやいや、命に関わってんですけど!? “過ぎたこと”で済ませて良い
 問題じゃ……」

「あぁもう、うっせえなぁ。文句あるってのかよ? あぁん? 大体、この
 私や第一位が雑魚の囮役をわざわざ買ってやったのよ? 普通そういうのは
 下っ端の役目だってのが無条件で確定してるのを、捻じ曲げてまで引き受け
 たっていうのに、感謝されるならまだしも不満漏らされるってのはどういう
 事だよ? なぁ、浜面ぁ? それでもまだつべこべ言う気かコラ」

「…………すみませんでした。不満なんてとんでもない。寧ろ大感謝ですよ
 わっはっは」




673 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:30:58.45LZIt7T/Q0 (7/18)



雲行きが怪しくなる前に危険を感知し、退く。
これまでの死線で磨きに磨いたチキンスキルは今回も絶好調のようだ。


「っていうか麦野、第一位と一緒じゃなかったのか?」

「途中からは別行動よ。一通り片付けた後に新手が合流しちゃってねぇ……。
 能力の使用時間が限られてる第一位をたかが遣い回しにぶつけるのは得策じゃ
 ない……。そんな訳で先に行かせたから、てっきりアンタと合流してんのかと
 思ってたわ」

「う……」

「で、浜面。アンタは今までなーに道草食ってたわけ? 目的地周辺の制圧
 は無理でもさ、スムーズに乗り込めるようにせめて入り口付近は掃除しとけ
 っつったわよね? 少なくともそこに留まってれば第一位と合流できた筈よ?
 ……さて問題。ここは一体何処? 目的の場所から何キロ離れてる?」

「いやー、そのデスネ? これには色々と複雑な事情があって……って麦野
 の方こそ何でここに!?」

「適当に暴れ回ってたら流れ着いてたのよ。んで、敵も殲滅し終えたから私
 もその工場跡だっけ? とにかくそこを目指してたら偶々四面楚歌のアンタ
 を発見したってワケ」

「……それについてはホントウに助かりマシタ。感謝のコトバもございません」

「はぐらかそうとしてんじゃないわよ。……んで? 結局アンタは何の成果
 も上げられなかったってか? それでも私の正規部下かよ? あー、こりゃ
 元通りの下っ端に降格すべきかしらねぇ」



674 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:32:24.71LZIt7T/Q0 (8/18)



「へ!? いや、ちょっと麦野さぁぁん!!?」

「パシリ人生に逆戻り、おめでとう♪」

「っつか、肩書きだけで実質何も変わってねえだろうが!!」


浜面の“キレ”が最高潮に達しかける中、麦野が話を戻す。


「もういいから、早く第一位と連絡取りなさいよ。もしかしたらアッチも
 終わってるかもしんないし」

「……クソッ、弄るだけ弄ってシメやがって。その自由奔放ぶりはマジで
 どうにかなんねえのかよ……」


ボソッと低く呟いたが、こういう時の対象は決まって地獄耳だ。


「聞こえてんだよ。テメェ、首から下ぁレンコン模様にされてぇのかぁ?
 腹に幾つ風穴開けられてぇんだ? ああ? ゴルァ!!」

「ひいぃゴメンナサイ発光しないで下さい光った手ぇコッチに向けないで
 下さい折角生きて帰れそうな俺の希望を圧し折らないで下さいぃぃ!!!
 ちょ、ま、待て落ち着け麦野!! 謝る! 全力で謝るから次の駆除標的
 を俺に指定するなウギャアアアあああああああ!!」



675 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:33:01.47LZIt7T/Q0 (9/18)



―――


「ハァ……ハァ……っクソ、しつけーんだよっ……!」


五分前の浜面仕上とほぼ同じ状況の人物がここにもいた。

追われる立場には割りと慣れている彼だったが、そこいらのチンピラから
逃げるのとは緊迫感も危険度も違う。捕まると同時に死を迎えても不思議
はない。
走り続ける上条当麻の数十メートル背後で群れを成して迫ってくる武装集団
(駆動鎧付き)からは、“穏やかな話し合いで済ませよう”という平和的な
思想が感じられなかった。

その証拠に、上条の肩や腰、脚等の僅か隣を何度も即死クラスの飛び道具が
通過している。直撃しないのは向こうが威嚇程度に撃っているからか、追い
ながらの発砲では上手く照準が定まらないのか、或いは上条がごく稀に発揮
する“不幸中の幸い”(悪運)か。

どの要素が当てはまろうが駆け足は止められないし、追手も諦める気配ゼロ
のようだ。
そして、この状況が延々と続けば右手の力以外は平均的な上条の体力が保た
ない。というか既に相当キツそうだ。浜面と別れてから休む暇なく逃げ続け
ている男子高校生の活力源は今や気力と根性が大半を占めていた。


「ヤバイ……ま、マジで……ヤベェ……!!」



676VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/02/24(金) 01:33:23.99BkPlSicE0 (1/1)

待ってた!



677 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:34:00.33LZIt7T/Q0 (10/18)



本気でこの世の終わりを意識し始めた頃には、脚の感覚も麻痺していた。
急激な疾走の影響で痛む肺を手で押さえ、それでも捕まるものかと足掻いて
はみるものの、嗅覚に優れている上に機動力や数も普段相手にしている不良
とは格が違う。


(これまでかよ……ちくしょう!)


遂に限界が訪れてしまった。
力の入らない脚は上半身を支える事すら敵わず、地面に崩れる。逃走不能と
なった上条に、もう為す術などないと判断した集団が威嚇射撃を止めて歩み
寄ってくる。


(ははっ……俺、この後どうなるんだろうな……。やっぱ、消されちまうの
 かな……。あいつの方は大丈夫かな? ちゃんと逃げ切れたのか……?)


こんな絶体絶命の状況でも他人(浜面)を気にかける面が上条らしかった。
倒れた上条を取り囲む駆動鎧集団。その中の一体が力尽きた上条の身体へと
アームを伸ばす。上条は虚ろな目で自身へ近づいてくる手を見つめるだけで、
微動だにしない。正確には体力が底を尽いているために動けない。


「くそった……れ」


ボツリと最後にそう呟き、意識を手放しかけた時だった。



678 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:37:06.77LZIt7T/Q0 (11/18)



「――――?」


あと寸での所で自分を捕える筈だった機械手が、“蒼白く光って焼けた”。


「……っ!?」


その光景を間近で捉えた上条の瞼がカッと開かれる。
半ば諦めと自棄に染まりかけていた心が仰天に変わった。

アームを貫通した“稲妻のような光”は駆動鎧の全身をくまなく走り、間も
なく機能停止にまで追いやった。
この雷鳴のような轟音、そして雷撃のような輝き。どれも記憶にあった。


「――――捜したわよ、この馬鹿。苦労させやがってさ……。しかも、何気
      に生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされてんじゃないわよ」


この声も、上条の記憶に真新しかった。
上条は信じられないといった口調で何故だか怒り心頭で語気を荒げている声
の主の名を呼んだ。


「私の見てない所で、勝手に正念場迎えてんじゃないっつってんのよ!!」

「御……坂……?」




679 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:40:09.61LZIt7T/Q0 (12/18)



「――――わたくしもおりますのよ」


「は!?」


前髪に電流をバチバチ走らせながら仁王立ちする御坂美琴の後ろからヒョイ
と姿を見せた白井黒子。彼女もまた上条に呆れたような視線を送っていたが、
どこか安堵している風にも感じられた。


「ずいぶん心配掛けやがりましたわね? 上条さん。その上、やっと見つけ
たかと思いきや、この状況……。心臓に悪すぎもいいとこですわ」

「御坂……って白井も!? お前ら、何でここに……!?」


ようやく思考が通常通りに働いてきた。
何故この場に彼女たちが居るのか? 皆目見当もつかない上条は素直に伺う
が、彼を取り囲んでいた駆動鎧集団が常盤台少女二名の前に立ちはだかる。

仲間の一体を撃破したのが彼女らなのは明確な上、相手が能力者である事も
分かっている。だとしたら、たかが女子中学生だと高を括ってはいけない。
プロの彼等に油断は無かった。無駄の無い流れで各々の銃機が美琴と黒子に
向けられる。
それを見て、上条が全力で叫んだ。


「お、おい馬鹿! やめろぉ! そいつらは……ッ!!」


一見、か弱くいたいけな女学生が危険に曝されているようなシーンに思える
だろう。



680 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:41:44.23LZIt7T/Q0 (13/18)



「ええい、邪魔ですのよっ!!」

「ってか、何だってのよアンタらはああああっ!!」


夥しい雷撃の雨と無数の金属矢の究極コンボで駆動鎧部隊は何の抵抗もでき
ずに撃沈した。
すぐ傍にいた上条は青ざめた顔で、


「……あーあ、だから“やめろ”って言ったのに……」


『大能力者』と『超能力者』相手に敵意を向けるのは愚行である。
そう伝えようとしたのだが、どうやら間に合わなかったようだ。
ガラクタと成り果てた雑兵にはもう目もくれず、美琴たちは上条に詰め寄る。


「――で? 今度はどんな事情が隠されてる訳?」

「何つったらいいのか……。ってか、俺も全容を知ってる訳じゃねえし……」

「貴方、事の重大さが分かってますの? 既に学区内全域を巻き込んでいます
 のよ? 適当に誤魔化そうとするのだけは止めて頂けませんこと?」

「そうよ。ここまで来たら、私らには無関係だなんて言わせないからね?」

「……うーん、つってもなぁ……」



681 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:42:32.34LZIt7T/Q0 (14/18)



騒乱の元凶として一方通行の名を出すのは流石にためらってしまう。
とはいえ、他の上手い言い逃れ方がすぐ思いつくはずもない。
どう説明すべきか悩んだ末、


「……今言った通りだよ。本当にただ巻き込まれただけなんだって。裏に真実
 が隠されてるなら、俺の方が知りたいぐらいさ」


こう答えるしかなかった。

白井黒子は『絶対能力者進化実験』の内容、及び今回の中心核である一方通行
と御坂美琴の間にある深い因縁について何も知らされていない。
そんな彼女の前で“一方通行”の名を出してしまっては、美琴の心中としては
さぞかし複雑な筈である。最悪、話を聞いた際に美琴が表情を激変させ、それ
に気づいた黒子が追求してしまう可能性もある。そうなっては美琴をより苦し
める展開にもなりかねないのだ。

上条にしては偉く頭の回転が速いこの決断に、少女達は……、


「……じゃあ、テロの詳細とかも知らないのね……。何ていうか、残念な反面
 安心したわ。またアンタが深く関わってるんじゃないかって……、けど今回は
 違ったのね」

「ホッ……。では、貴方が狙われている訳ではないんですのね……。杞憂なら
 それに越したことはありませんわ」

(ふぅ……、とりあえずは納得してくれたみたいだな……)




682 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:44:43.58LZIt7T/Q0 (15/18)



嘘は気が引けるが、これも彼女達を想っての行為だと自己正当化させる。
さて、問題はここからの流れだが……。


「じゃ、俺はもう行くから、お前らも気をつk」

「なにサラッとお別れ発言してくれちゃってんのよ! こんな危険地帯で単独
 行動とか、アンタ正気!?」

「いや……何がどうしてこうなったのか、俺も調べたいし……」

「それなら尚更私達も一緒の方が良いに決まってんでしょ!!」

「お姉様に同じですの! というか、ここで別々になる意味が分かりませんわ!」

(しまった……! そうだよな、コイツらなら絶対そう言うよなぁ……。うわ、
 どうしよ……。このまま一方通行と合流でもしてみろ。折角の機転も全部無駄
 に終わっちまうぞ!)


冴えているようで、実際は穴だらけ。後先を考えずとは正にこの事である。
美琴たちが一緒だと、一方通行がいるであろう敵地の中心へ赴くのは非常に拙い。
下手に嘘を吐いてしまったおかげで余計に拙い。


「俺なら大丈夫だって! ほら、こういう状況慣れてるし、お前らまで危険な目
 に遭う必要なんかねえよ! 俺もしばらくしたら大人しく避難するからさ、お前
 らは先に……」

「はい却下! たった今さっき目の前で死にかけたばっかりの癖に、気なんて遣
 ってんじゃないわよ馬鹿!! 大体、避難しようにも地下シェルターへの入り口
 なんてとっくに塞がれてるっつーの!!」

「……あれ? お前ら、地下シェルターに避難してなかったのかよ? 確か警報
 (アナウンス)流れてたよな?」

「避難してたら今ここにいませんの! ……こんな時にじっとしてられないのは
 この街に住む学生として当然の心理ですのよ」

「だからって避難警報ガン無視とか……、お前らも大概無茶するよなぁ……」


「「アンタ(貴方)が言うな!!!」」




683 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:50:08.94LZIt7T/Q0 (16/18)

区切ります

>>676
待たせてしまって本当にごめんなさい


684次回予定 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:52:51.90LZIt7T/Q0 (17/18)



一方通行『――――最後にオマエに会えて、良かった……』


番外個体「――――!!?」




685VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/24(金) 01:53:35.62lX0hmbmh0 (1/1)

乙  続きが読めて嬉しい 


686 ◆jPpg5.obl62012/02/24(金) 01:55:06.67LZIt7T/Q0 (18/18)

もうちびっと続きます
次回はまた一週間くらい後の予定です
それでは




687VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/24(金) 02:09:45.64veU1kicIO (1/1)

超待ってました!
次回も楽しみにしてます


688VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2012/02/24(金) 03:33:26.51etFjd9OAO (1/1)

待っていたとも!


689VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/24(金) 12:12:15.65u/E0rQGro (1/1)

馬鹿野郎!お前の事を待ってる奴なんていないだって?
まずはそのふざk(ry 乙


690VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/24(金) 14:05:07.61C7iAdJ180 (1/1)

乙 

待ってた


691VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/25(土) 00:45:23.64ga/Y9/iu0 (1/1)

必ず来ると信じてた
そして次回の予告が完全に番外通行です本当に(ry



692 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:31:26.50EhEcTyxP0 (1/17)

遅くなりました
待ってる人いてくれて良かったです
投下します


693 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:32:23.26EhEcTyxP0 (2/17)



―――


「さァて……、ンじゃ行くとすっか」


華奢な肉体をユラリと動かし、普段みたく億劫そうに歩き出す一方通行。
次の目的地は決まった。黒夜は意外にも素直に応じてくれた。

迷う時間も休む暇も破棄し、一方通行はそのまま更地を後にしようとする。


「!」


「――――なーんだ、結局一人で片付けちゃったか……。ミサカの出る幕
      もなかったね」


そんな彼の正面に、一人の少女が待ち構えるように佇んでいた。
自然と一方通行は歩みを止め、その少女を見遣る。


「……オマエ、まだここに居たのか? ガキ共を頼むっつっただろォがよ」



694 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:33:05.31EhEcTyxP0 (3/17)



あからさまに不機嫌な声で話しかけるも、彼女の真剣な眼差しは揺らがない。
何か大切な事でも確認したそうな……そんな雰囲気を放っていた。

少女、番外個体は腕を組んだまま目を細め、会話の流れを無視して訊ねる。


「何処へ行くの?」

「……野暮用だ」

「誤魔化せると思ってる?」

「嘘は言ってねェ……」


番外個体は一方通行の正面から動こうとしない。
まるで一方通行の道を阻むように、行かせまいと必死で食い下がっている
ようにも見える。
現に、一方通行の一挙一動を注意深く見つめている。
一瞬も目を離さないのは、一方通行をこのまま行かせないという強い意思
表示なのだろうか。

真意は彼女の本心だけが知っている。

そして、一方通行も番外個体の本音に感づいていた。
その所為なのか、接し方にどこかぎこちなさが表れている。



695 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:33:53.99EhEcTyxP0 (4/17)



「もう終わったんでしょ? ……なら、早く帰ろう? ミサカ達の家へ……
 一緒に帰ろうよ」

「……まだ、駄目だ」

「……どうして?」

「一番重要な仕事が片付いてねェンだよ。……俺は、まだ帰れねェ」

「…………」


気まずい沈黙。
重苦しい空気。

一方通行も番外個体も、強固な意志の元で動いている。
譲歩など、最初から期待する方が間違いだった。

このまま平行線を辿っていても意味がない。
ならば……と、番外個体は提案する。


「……ミサカも、一緒に行く」

「!」

「あなたと一緒に……それなら、この場はミサカが折れてもいいよ」

「オマエ……全部聞いてたンだろ? 俺がこれから何処へ行こォとしてン
 のか……」




696 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:36:48.94EhEcTyxP0 (5/17)



「もちろん、わかって……るよ」

「……なら、尚更オマエを連れてく訳にはいかねェな。来ても邪魔にしか
 ならねェ」

「…………」


「――――念のために、もう一度忠告してやるがな……」


そこで第三者の声が割り込んできた。
一方通行の後ろで“両腕の無い”少女、黒夜海鳥は地面に寝そべったまま
先程一方通行に告げた内容をもう一度語る。番外個体の耳にもしっかりと
入るように。


「“あそこ”は能力開発部門のトップチームや、統括理事会メンバー……
 そういったVIP共が蔓延る地区だ。そんな場所に堂々と城を構えられる
 ようなヤツらに直接殴り込みを掛けるなんて、馬鹿げすぎてて欠伸が出る
 話だ。……アンタがどうしても行くってんなら止めてやる義理なんざねぇ
 が、生き永らえたいんなら行くべきじゃねぇ。たかが“最優秀賞の実験鼠”
 如きが粋がれる領域じゃないんだよ。……てか、アンタだってそれくらい
 は常識として頭に入ってんだろ?」


「…………まァな」


「はっきり言ってやるよ。とても正気の沙汰とは思えない。まさか生きて
 帰れるなんて淡く儚い希望抱いてんじゃないよねぇ? どう見ても自殺し
 に行くようなモンじゃん。折角延びた寿命を自ら縮めるなんて……マジで
 頭のネジでも外れてんじゃないの?」



697 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:37:37.30EhEcTyxP0 (6/17)



「もォいい、黙ってろ……。それ以上喋れなくされてェか?」


鋭い目つきで振り向き、背後の黒夜を睨みつけた。


「……私としてはアンタが死に腐ってくれりゃ万々歳だから、好きにすりゃ
 いいけどな」


面白くなさそうにソッポを向いてしまった黒夜を視中から外し、再び正面に
首を戻した一方通行に番外個体は震える声で確認した。


「あなた……その子の言う通り、死にに行くつもり……なの?」

「そォじゃねェ。“元を絶ちに”行くだけだ」

「……どうしても?」

「またこンな大事に巻き込まれてェのか? 裏で糸を操った連中を野放しに
 してる限り、同じ事の繰り返しになっちまう……。それじゃ駄目だろォが」

「相手が悪い、って分かってても?」

「オマエ達……オマエのためなら、最高権力者相手だろォが生かしちゃおか
 ねェよ。人を玩具として扱うほど偉いヤツなンてのは、神でもねェ限り存在
 しねェ。もっとも、たとえそいつがマジモンの神だったとしても許しはしねェ
 がなァ」




698 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:38:47.83EhEcTyxP0 (7/17)



正面きっての反逆は、一方通行にとって最終手段だった。
そして、今がその時なのだと一方通行は決意していた。

以前、統括理事会のトップ相手に全能力をぶつけた経験がある。
だが、通称“窓の無いビル”は結局倒壊どころか、ヒビのひとつも入れられ
なかった。

一国の軍とも渡り合える能力を保持していながら、一方通行はその時に改め
て思い知らされたのだ。

“所詮、自分は高い権力を持つ大人にとってただのモルモットでしかない”
と……。

ゲームの中のキャラクターがどんなに強くても、操作主(プレイヤー)の
意思次第で簡単に消せるのと同様に……。


「ヤツらが俺を消したがってるンなら、どっち道ケリをつける必要がある。
 逃れられねェのも充分に分かってる。……だからこそ、今叩いておかなきゃ
 駄目なンだ……。俺の全てを懸けてでも、これ以上ヤツらに甘い汁を吸わせ
 る訳にはいかねェンだよ」

「…………ミサカが、知りたいのは……あなたがちゃんと帰って来てくれ
 るのか、ってこと……」

「……俺が信用できねェか?」

「信じてない訳じゃない……けど」

「“けど”、何だよ?」



699 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:39:55.70EhEcTyxP0 (8/17)



「…………恐い」

「………」

「ミサカは、恐いよ……。何ていうか……上手く言えないけど、あなたが
 どっか遠くに行っちゃって……二度と帰ってこないような気がして……」

「はっ……。なァに言い出すかと思ったら……、ンな心配してたンかよ?
 俺がもォ帰って来ねェだァ?」

「もちろん、気のせいだって信じてるよ? ……なのに、なんでかなあ……。
 胸騒ぎってか……胸の辺りがチクチクするの。まるで何か悪い事が起きる
 予兆みたいな……。もし、ミサカの予感が当たってるんだとしたら……」

「………?」


「……あなたをここで止めるしか、なくなる……」


『最悪、戦闘に移行してでも』。番外個体の真っ直ぐな瞳(め)はそう
告げており、彼女のちょっとやそっとで動かない頑固な意志は一方通行
にも充分すぎる程に伝わっていた。

一方通行はそれまで保っていた無表情を崩し、困ったように薄く笑う。


「そォ来たか……。はっ、そりゃ参ったねェ。オマエが本気で俺を止め
 よォと体張ってきたンじゃあ、コッチは大人しく両手を上げるしかねェ
 よなァ。……だが、今回ばっかりはそこで曲げる訳にゃいかねェンだよ。
 理解しろとは言わねェ。許してくれとも言わねェ。……こいつは、完全
 な俺の我が儘……みてェなモンだ」



700 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:41:53.12EhEcTyxP0 (9/17)



「…………いや、だ」


「ゴメンな……番外個体」


「やめてよ……。なんで……そんな、『元気でな』みたいな顔するの……?」


「――――オマエの面ァ見たら……、よォやく吹っ切れたわ」


「――――ッッ!!?」


次の瞬間、番外個体は目を見開いた。
一方通行が心残りの無い笑みを浮かべた直後、彼の背中から神秘的な輝き
が発現する。
輝きは巨大な扇状の形へと具現化され、徐々に白く展開されていく。

やがて、背中から生えた白い光は“翼”へと形を変えた。
汚れ一つ無い純白の翼を生やした一方通行の頭上には、いつの間にか薄い
“輪っか”が浮き上がっている。

その姿は、まさに更地へ舞い降りた“天使”―――。

又、彼の表情は今の姿に相応しいほどの清々しさと優しさに満ちており、
嘗ての狂気など微塵も感じられなかった。
おそらく、これこそ一方通行が時折垣間見せた本来の素顔であり―――、



701 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:43:18.78EhEcTyxP0 (10/17)






―――ずっと心の奥底に封印してきた純粋な一面なのだろう。





702 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:44:37.67EhEcTyxP0 (11/17)



番外個体は一方通行の目を見た。
そこにはためらいも迷いも邪心も無い、ただ大切なものを守りたい強き
心と、自身の運命を甘受する穏やかな意思が残されていた。


『番外個体……』


言葉が出ない番外個体に、天使姿の一方通行が囁きかける。
まるで別人なくらいに優しい声で―――。


『――――最後にオマエに会えて、良かった……』


「――――!!」


聞き取るのが困難なほどに小さな声だったが、番外個体の耳には確かに
届いた。


『……ごめンな』


本当の最後の呟きが、“それ”だった。
番外個体が何か言おうとする前に、突風が視界を妨げる。
腕で目を覆いながらも、必死で正面に向かって叫ぶ。



703 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:45:23.79EhEcTyxP0 (12/17)



「って……待って…………待ってよ!! どういうこと!? “最後”
 って何だよ!!? わかんないよ!! あなたが何を言ってるのか……、
 ミサカには全然わかんないっ!!!」


すでに、一方通行の両脚は地を離れていた。
自分の声が届いているのか、番外個体には確認できない。
ただそれでも、彼女は風圧に逆らい、視界が不安定な中で懸命に手を伸ばした。

そこにはもういないと分かっていても、届かないと分かっていても。


「アクセラ――!!」


ようやく目を開けた時には、何もかもが手遅れだった。
背中から生えた純白で巨大な翼が、すでに小さくなっていた。


「……っ!!」


見送る事しかできない番外個体は静かに地面へ崩れ落ち、堅いアスファルトを
思い切り殴りつける。


「ばか……やろう……」


誰も聞き取れない声量で彼女は震えながら呟いた。
おそらく濡れているであろう両目は、長い前髪に隠れて見えなかった。




704 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:46:59.88EhEcTyxP0 (13/17)



―――


街の上空を鳥のように飛翔する一方通行。
彼の顔には一切の迷いも感じられなかった。
前だけを見据え、終息に向かって翼をはためかせる。


「…………」


黒夜から仕入れた情報が正しければ、今目に映している遥か前方の一際目立つ
高層ビルが終着駅だ。
あそこに全ての根源が集結している筈だ。

学生という身分では近づくことさえまず叶わない、謂わば皇居のような聖域。

しかし、一方通行は躊躇しない。
どんなに巨大で強大な壁が立ち阻もうとも、街や国そのものを敵に回そうとも、
彼は止まらない。

その理由は極めて単純。

『自分の大切なモノ(存在)に危険が迫ったから』。

そして、その危険性を完全に消滅させるための条件が今、一箇所に集まっている。
こんな好機を見逃す手はなかった。




705 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:47:50.86EhEcTyxP0 (14/17)



行政学区(第一学区)の末端に聳える幾つかの高層ビルを中心とした“そこ”は
第三学区に隣接しており、各国の権力者や政治家、都市機能の中枢を握る有力者
が来訪し、集う場所として有名だった。

一般人には踏み込めない“そこ”は、俗に『聖域』と呼ばれている。
実は一方通行も目を付けていた場所だったが、確証の材料が何も無いままに踏み
込むのはただの自滅に繋がる事ぐらい弁えていた。

だが、今は違う。

少なくとも、『新入生』を仕向けた張本人達が“あそこ”にいるのは間違いない。
黒夜の情報が嘘ではないと、何故だか知らないが自信を持って言えた。


 終わりにしよう これですべてを 

 あいつらと一緒に生きられなくてもいい 

 ただ これからもあいつらが平和に生きていってくれるなら……

 


 ――― 俺はそこにいなくてもいい ――― 







706 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:48:44.13EhEcTyxP0 (15/17)



ひとつの想いが固まり、そして爆発したかのように。

両翼は突如火がついたように激しく起動する。
急加速した一方通行の身体は、何十階はあろうかという高層ビルの最上階一点
に向かって移動する。

まるで、テロリストが放ったミサイルが国家重要機関に直撃する映画のシーン
を再現しているかのようだった。

勢いは止まらず、自身の体を最大限に加速させた状態でビルの一角に到達した。


その直後だった。


凄まじい轟音。

爆風。

砕け散り、飛び散り、豪雨のように周囲へ降り注がれる窓ガラス。

炎上する高層ビルに、まるで貴族でも住んでいそうな皇居地域は一瞬で大混乱
に陥る。

思わず耳を塞ぎたくなるような悲鳴の嵐。

鼓膜が破れてしまいそうな破壊と破滅の音。



707 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:49:56.12EhEcTyxP0 (16/17)



それらが導いた結末は、気品の漂う『聖域』を見る影も無くさせるほどの―――



――――大惨事。




後に、この出来事は今回起きたテロ事件の『集大成』として語られる事となる。

真実を知る者はごく少数。大戦後に起きた『学園都市の内乱』は、最後に天使
姿の少年が投下した“空爆”により締め括りを迎えた。

『一方通行』という、能力開発部門最高傑作の犠牲と共に――――。



708 ◆jPpg5.obl62012/03/04(日) 23:53:01.78EhEcTyxP0 (17/17)

ここまでです
多分あと二~三回ぐらいで完結します
ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました

次回予告はなしです

では


709VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/03/05(月) 01:07:29.98ENw8qbXDO (1/1)

言葉にならないよ、乙!


710VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/03/05(月) 01:45:28.8411tJrREJ0 (1/1)

え?




……え!?


711VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/03/05(月) 01:49:23.197sk/UFkIO (1/1)


一方さん死んだの?



712VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/03/05(月) 08:39:17.12eZFzbsnT0 (1/1)

“一方通行”じゃなくなったんじゃないかね


713VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2012/03/05(月) 13:44:05.43dEBrYyEAO (1/1)

結末の予想は控えようぜ


714VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/03/05(月) 20:06:31.68b4IuAsWDO (1/1)

乙!

更新再開したと思ったらもう終わってしまうなんて…
最後まで楽しみにしてます


715VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/03/06(火) 02:08:00.20dUkqdV3t0 (1/1)

乙!

まさに天使特攻隊ww
上層部ざまぁww
終わりは寂しいけど途中で打ち切られるよりはいいかな…


716VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/03/07(水) 22:19:50.98wL4YjP4mo (1/1)

おつにゃんだよ!


717VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/03/08(木) 02:01:25.38JwdVajJG0 (1/1)

素直な番外もいいな


718 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:10:46.11BMRQcH7P0 (1/19)

遅くなりました
では更新します


719 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:12:23.80BMRQcH7P0 (2/19)



―― 二ヶ月後 ――


◆ ◆ ◆


「―――で? どっちと付き合うかはもう決まったのかい?」


第七学区のとある高校から、どこにでもいそうな学生三人組が
仲良さげに下校してきた。
青髪と金髪の少年が黒髪の少年を挟む形で歩いている。
ちなみに尋ねたのは金髪の方だ。


「いや、正直まだ実感ないし……どうすりゃいいのかサッパリ
 見えてこねえんだよ。っていうより未だに信じられねーってか
 素直に現実が受けきれないってか……」

「贅沢やなぁ。その贅沢な悩みは貴族も腰抜かすでカミやん!
 せめてどっちのコの方がタイプとか、でもコッチも捨て難いと
 か、それ以前で悩んでどーすんねん!? まさかとは思うけど、
 両方フるつもりやあらへんよね?」

「何度も言うが、相手はまだ中学生だぞ? 受け入れる前提で
 考えるのは色々とマズイだろやっぱ……」



720 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:13:46.92BMRQcH7P0 (3/19)



「高校生と中学生のカップルなんて、今時珍しくもないぜい?」

「そーかもしんねえけど……できればもうちょっと考える時間
 が欲しいかな」

「カミやん……。ようやっと不幸な日常にピリオドを打つべく
 幸福の女神が微笑みかけてるんやで? 何でそれに気づかへん
 かなぁ? 折角応援したろ思てんのに、これじゃコッチの肩が
 下がるわぁ」

「………」


確かに、こういう状況なら鉄拳の嵐に見舞われそうなものだが、
クラスメートの反応は意外にも穏やかだった。
それどころか、青髪ピアスも土御門元春も上条当麻に訪れた突然
の春に祝福の言葉という、何とも友達らしい対応をしてくれた。

殴られるリスクなど顧みないほど気持ちに余裕が無くなっていた
上条は、唖然とした後に寒気を感じたらしい。


「御坂はともかく、白井まで……。俺、何かしたっけかなぁ……」


本気でそうぼやく上条。




721 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:16:31.43BMRQcH7P0 (4/19)



自分を想い慕っていた二人のお嬢様。
この事実に直面し、頭の中で疑問は尽きなかった。

無能力者で、総合的に落ちこぼれの部類に入る自分なんかに。
何故彼女たちは……。

打算的に動けない人間には考えても解かるはずがなかった。


「……、………」


だが、このまま自然の流れに任せるわけにはいかない。
それだけは解かっている。
もう知ってしまったのだ。
彼女たちは、その胸に秘めていた思いの丈を自分に向かって
吐き出してくれた。
嘘偽りなき真っ直ぐな眼で。

答えを出さなければならない。
自分自身で考え抜いた答えを。


「…………」


土御門、青髪と別れて帰路に着く上条。




722 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:17:21.66BMRQcH7P0 (5/19)



そんな彼を待ち侘びていたと言わんばかりに佇む二つの影。
栗色ショートヘアの少女とツインテールの小柄な少女。

今から自分が彼女たちの運命を選択しなければならないのだ。
そう思うと足がやや竦む。
しかし、上条は逃げずに向かい合った。
二人とも昨日の今日で緊張しているのか、どこか俯きがちだ。
普段の強気が嘘のようなしおらしさ。どこから見ても恋する
乙女そのものだった。

御坂美琴、白井黒子。

おそらく彼女らの間でもう話はついているのだろう。
でなければ同時に告白なんてしてこないはずだ。
あとは、上条の返事次第といったところか。

上条が選んだ道は―――?




723 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:19:31.36BMRQcH7P0 (6/19)



◆ ◆ ◆


第七学区、病院。


「忘れ物はないか?」

「うん、大丈夫」


荷物を担ぎ、恋人に確認を取る。
様々な精密検査やリハビリを乗り越え、ついに今日退院する。
滝壺理后は世話になった病室のベッドを一瞥し、先に部屋を
出た浜面仕上に続いた。

外に出た二人を看護婦たちが見送り、入れ替わるように見慣
れた顔が出迎えてくれた。


「どうよ? 久々の娑婆は」


超能力者、“元”第四位。面倒見の良さそうなお姉さん系の
麦野沈利と、





724 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:20:57.93BMRQcH7P0 (7/19)



「ちょっと麦野! それじゃまるで出所みたいじゃないですか!!
 滝壺さんの超退院です! 超前科持ちの浜面じゃないんです
 から……」

「ひでえ言いぐさだなオイ」


小柄で超ミニが売りの絹旗最愛である。
滝壺はいつもと変わらない二人に聖母のような笑みを送った。
そして訊いた。


「二人とも、私が寝てる間、浜面に手を出してないよね?」


「!!?」


凍りつく三人。
あまりに予想外の第一声な上、優しい笑顔の裏に隠れた恐ろ
しい念でも見えたのか。誰も言葉が紡げなかった。が、


「ふふふ、冗談だよ。心配かけて本当にごめんね」


普段ジョークをあまり口にしない人間がたまにジョークを
言うと、大抵は本気にされてしまう。
まさにそんな一面だった。




725 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:21:50.01BMRQcH7P0 (8/19)



ははは……と苦笑交じりに新生アイテムは歩きだした。
久しぶりに全員が揃った形で。

いや、


「さて、んじゃ早いトコ“あいつ”にも報告しに行くわよ」

「ああ、久しぶりに全員で挨拶に行けるな……」

「はまづら。しばらく顔見せなかった私に、フレンダ怒って
 ないかな?」

「『超浜面のせい』って言っておきましたから、心配は要り
 ませんよ」


これから向かう場所に着いた時が本当の全員集合である。


「……にゃあ」

「お? フレメアに先越されてたみたいだな」




726 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:22:34.30BMRQcH7P0 (9/19)



◆ ◆ ◆


滝壺が退院した二時間後、同病院にて。


「ったく……。もうメンテとか必要ねえってのに……」


あのお節介医者が! と愚痴を零しながら一人の少女が出入り
口用の自動ドアを潜った。
間接の位置を確認するように腕を鳴らし、どこかやさぐれ顔の
少女はぶつぶつ呟きながら病院を背に歩く。

そこへ、


「はぁ~い、黒夜ぅ~♪ “新しい腕”のメンテナンス、どう
 だったぁ?」

「げ……」


待ち伏せていた人物に露骨なまでの嫌悪感をぶつける。
不貞腐れ気味の顔が更に険しくなった。




727 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:23:47.41BMRQcH7P0 (10/19)


「なんでアンタがいるんだよ……」

「あらぁ、随分な物言いじゃないのぉ? せぇ~っかく放課後
 ティータイム相手に抜擢してあげたってのにぃ……。あんまり
 冷たくすると、お姉さん泣いちゃうゾ☆」

「泣け、タコ、ボケ、ぶりっ子。私に近づくな、死ね」

「……うぇ~ん☆」


泣き真似をし出したイタイ女子中学生に罵声を浴びせるだけ浴び
せてから早足で去る。
だが、そこであっさりお別れできるほど容易い相手ではなかった。


「――ぎっ!?」


黒夜の足が止まる。いや、“強制的に止められた”。


「……おい、何のつもりだよテメェ」


静かに振り返って殺意込みの眼光を放つ。
放たれた当人は嘘泣きなどとっくに止めて小悪魔な笑みを浮かべ
ている。




728 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:25:08.32BMRQcH7P0 (11/19)



そして質問にあっけらかんと応じた。


「暇ぁ」

「私は暇じゃねぇ。この“鬱陶しい信号”を今すぐ止めろ。頭ん
 中に念仏みたいなノイズが走っててすげえ不快なんだよ」

「やだ♪ だってそうしないと黒ちゃん逃げちゃうじゃな~い。
 操作可能範囲に制限掛かってるせいで、全身服従は免れてんだ
 からぁ、金属混じりの身体に感謝してよねぇ。本当ならアンタ、
 今頃私のペットとして尻尾振ってなきゃいけないのよぉ?」

「だぁれが“黒ちゃん”だ! ってか逃げてねぇよ!! んだぁ?
 超能力者ってのはどいつもこいつも暇人か? えぇ食蜂よぉ?」

「んふふ♪」


悪戯を楽しむ子供の顔で黒夜に近づく食蜂操祈。


「大体、アンタと私との間にはもう何の接点もねえはずだろぉ!?
 何だって気安く私の前に姿現してんだよ!?」

「そぉねぇ。私もアナタも『裏社会』とはスッパリ手を切って、
 今じゃ平和で退屈な世の中の住人。“アッチ”で得た収穫って
 言えば、鼻面に今も残る疼きくらいかしらぁ?」


やや斜めに曲がっている鼻頭を優しく撫でながら、瞳を曇らせる。




729 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:26:28.94BMRQcH7P0 (12/19)



「……鼻骨が折れた程度で済んで良かったじゃん。私なんか両腕
 もぎ取られて半達磨にされたんだぜ」

「生身じゃなかっただけマシでしょーぉ?」

「……で、私に何の用があんだよ? 今さら私に利用価値なんざ
 あるとは思えないけど?」

「失礼なコねぇ。別に腹黒い気持ち抱えて会いに来たんじゃない
 わよぉ」

「じゃあ何――!?」


黒夜が喋り終える前に食蜂の手が伸びた。
何かを持った素早い手は黒夜の小ぶりな頭部へ。
そして、持っていた物体をこれまた素早く装着完了。


「…………へ?」


ポカン、と固まる黒夜。


「……うふふ、くく、ぷくく……」


食蜂、堪えきれずに抱腹。




730 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:27:42.33BMRQcH7P0 (13/19)



「あーはははははは! うひひひひ……! に、似合いすぎ……!
 予想以上すぎてツボったぁ♪」

「な……何しやが――ッ!!?」

「あー、取っちゃダメぇ」


頭に付着した物を取ろうとする黒夜を食蜂は阻止した。


「っざけんなぁ!! 私をおちょくってんのか!? 早く外せ!!」

「なんでぇ? 良く似合ってるわよぉ、 ネ コ ミ ミ ☆」

「良い度胸してンじゃねェか……。喧嘩売りに来たンなら最初から
 そォ言や良いだろォがよ!!」

「ハイハイ。行動停止、行動停止♪ 駄目だゾ~☆ オイタしちゃ」

「ぐっ……テ、テメェ!」


怒りに震えながら窒素爆槍をくり出そうとするも、食蜂は涼しい顔
でリモコンを操作する。改造人間(サイボーグ)化が影響している
のか完全な洗脳には及ばないが、脳から伝達している神経を通じて
動きを制限させるくらいなら造作もないらしい。

無抵抗のまま現状の悔しさを噛み締める黒夜(ネコミミ付)。





731 ◆jPpg5.obl62012/03/14(水) 22:29:49.73BMRQcH7P0 (14/19)



「……こんなくだらねぇ事で私を待ってたんじゃねえだろうな?」

「まっさかぁ♪ いくら暇でもそんな理由じゃ私の行動力は活性化
 されないわよぉ」

「…………まぁ、そうだよな」


だが、ホッとしかけた黒夜の耳に悪夢到来の序章が告げられる。


「こんなのまだまだ序の口☆ 私の観察力が確かなら、黒ちゃんは
 コーデ次第で相当化けるとみたわぁ。ふふ、そっちも改造し甲斐が
 ありそうねぇ」

「は……???」


展開が読めずに呆然とする黒夜を気にぜず、想像を膨らませて治った
ばかりの鼻を膨らませる食蜂。


「さぁ、そうと決まったら早速『学び舎の園』へ行きましょうねぇ♪」

「おいこら待て! アンタが何考えてんのかがまるで理解できないん
 ですけど!?」

「うふふ♪ 安心して良いわよぉ。アンタもちゃ~んと私の派閥に加
 えてあげるからねぇ♪」