◆LeqE6uV6e6Od さんの作品一覧
http://s2-d2.com/archives/16602743.html
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1:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/07/31(日) 18:13:54.80:7NkKhr4d0 (1/10)
注意事項
1.SSというものがよくわからないので何か粗相をしたらごめんね
2.アニメキャラなどもよくわからないので出てこないと思うよ
3.みんなの書き込みから文章を書くから何か書き込んで行ってね。単語でも情景でもセリフでも何でも良いよ
4.とりあえず100までは続けます
注意事項
1.SSというものがよくわからないので何か粗相をしたらごめんね
2.アニメキャラなどもよくわからないので出てこないと思うよ
3.みんなの書き込みから文章を書くから何か書き込んで行ってね。単語でも情景でもセリフでも何でも良いよ
4.とりあえず100までは続けます
モバP「泰葉からチョコもらった時の話?」
絵里「なんとかストロガノフ!」穂乃果「そう、カレーです」
タマ「ニャー」タラオ「タマ口臭いですぅ!」タマ「!!!!!!!」
玲音「風邪を引いてしまったようだ…」
苗木「霧切さん、この蝶ネクタイつけてみてよ」
2:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 18:14:35.56:7o2N2VJDO (1/1)
書かなくていいよ
書かなくていいよ
3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 18:17:44.92:Akw9j9P6o (1/1)
VIPでやってください
VIPでやってください
4:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/07/31(日) 18:26:11.10:7NkKhr4d0 (2/10)
「書かなくて良いよ」
「は?」
「書かなくて良いって。はい、お疲れ様でした」
投げやりな編集者の言葉に僕は肩を落とした。また、これだ。
家で頬を緩ませながら漫画を書き上げて、出版社に電話をして予定を取り付けて持ち込んで、駄作の烙印を押される。
一連の流れが何度も続いてしまうと相手方も僕の存在を理解してしまい、やがて真面目に漫画を読まれているのかもわからなくなった。
そんな現状をどうにかして打破したいと思い、「どうすればいいですか?」と問いかけた。
そして、この一言だ。「書かなくて良いよ」幼い頃からの夢だった僕の全てを否定する一言だった。
助言のしようがないほどにまで才能がないのか、その才能はどの部分に依存しているのか。
作画? 話の構成? キャラクターの造形? 根本的な創作の才能……?
「あ……」
唖然としているだけでは、いけないぞ。
どうしてそう思ったのか聞かないと、僕は次へと進めない。
しかし、我に返ったときにはもう全てが遅かった。
煙草をくわえながら僕の原稿を読んでいた編集者はもう席を立ち、どこかへと消えてしまっていた。
向かい合って座っていたはずの彼の代わりに、灰皿に残った煙草だけが残っている。先端が橙色に光っている煙草がやけに印象に残った。
仕方なく僕も立ち上がり、机と紙束がひしめく編集部へと礼を言ってから退室した。
世の中に出版された文字や絵を凝縮させれば、一つの惑星くらい作れるんじゃないか。
何気なく感じたことだったが、突き詰めていけば中々面白そうな題材ではないか?
次の題材はこれにしよう、と意気込んだが、すぐに編集者の言葉が頭をよぎる。
『書かなくていいよ』
一体、僕はどうすればいい。
「書かなくて良いよ」
「は?」
「書かなくて良いって。はい、お疲れ様でした」
投げやりな編集者の言葉に僕は肩を落とした。また、これだ。
家で頬を緩ませながら漫画を書き上げて、出版社に電話をして予定を取り付けて持ち込んで、駄作の烙印を押される。
一連の流れが何度も続いてしまうと相手方も僕の存在を理解してしまい、やがて真面目に漫画を読まれているのかもわからなくなった。
そんな現状をどうにかして打破したいと思い、「どうすればいいですか?」と問いかけた。
そして、この一言だ。「書かなくて良いよ」幼い頃からの夢だった僕の全てを否定する一言だった。
助言のしようがないほどにまで才能がないのか、その才能はどの部分に依存しているのか。
作画? 話の構成? キャラクターの造形? 根本的な創作の才能……?
「あ……」
唖然としているだけでは、いけないぞ。
どうしてそう思ったのか聞かないと、僕は次へと進めない。
しかし、我に返ったときにはもう全てが遅かった。
煙草をくわえながら僕の原稿を読んでいた編集者はもう席を立ち、どこかへと消えてしまっていた。
向かい合って座っていたはずの彼の代わりに、灰皿に残った煙草だけが残っている。先端が橙色に光っている煙草がやけに印象に残った。
仕方なく僕も立ち上がり、机と紙束がひしめく編集部へと礼を言ってから退室した。
世の中に出版された文字や絵を凝縮させれば、一つの惑星くらい作れるんじゃないか。
何気なく感じたことだったが、突き詰めていけば中々面白そうな題材ではないか?
次の題材はこれにしよう、と意気込んだが、すぐに編集者の言葉が頭をよぎる。
『書かなくていいよ』
一体、僕はどうすればいい。
5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 18:27:56.06:balMi3sJo (1/1)
なかなか新しい視点かも
「天気予報のお姉さん」
なかなか新しい視点かも
「天気予報のお姉さん」
6:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 18:28:02.49:KC1gFRQvo (1/2)
つまり、盗作したら良い!!?
つまり、盗作したら良い!!?
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 18:34:20.38:cj3+Zq6IO (1/1)
おちんぽミルク飲みたいよお
おちんぽミルク飲みたいよお
8:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州):2011/07/31(日) 18:34:41.52:6Q0uh0QAO (1/2)
いつからそこに居たのだろうか?幼馴染みが僕の前に立って僕の黒い壺の底のような目を見つめていた
いつからそこに居たのだろうか?幼馴染みが僕の前に立って僕の黒い壺の底のような目を見つめていた
9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2011/07/31(日) 18:36:36.65:+7yY4xJN0 (1/1)
おお、面白そうな試みですな。
頑張れ。
おお、面白そうな試みですな。
頑張れ。
10:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 18:39:44.36:e64E7EMO0 (1/1)
>>1は勇気あるな
頑張れ
>>1は勇気あるな
頑張れ
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県):2011/07/31(日) 18:40:15.62:4a/WKB8Oo (1/1)
セックスしていたと思っていたらじいちゃんが死んだ
セックスしていたと思っていたらじいちゃんが死んだ
12:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/07/31(日) 18:42:27.07:7NkKhr4d0 (3/10)
苛立ちが起こることは全く無かった。
それ以上に、自分自身に失望していたのだと思う。
どうして、こうなってしまったんだろう。僕には何が足りないんだろうか。
掴めるはずもない欠損している部分へと必死に手を伸ばす。
どこにあるのか。どんな形なのか。どんな感覚なんだろう。
わかるはずもないままぼんやりとしているといつの間にか家の前へと到着していた。
一軒家で、二階建て。
鍵穴に鍵を差し込みながら左を向く。幼い頃に遊んだ庭が荒れて放置されていた。
これは紛れも無く、僕らの家庭の代弁者だ。
「ただいま」
帰宅の挨拶をしても、応えるものは誰も居なかった。
玄関口には靴が二足並んでいる。擦り切れた革靴と、綺麗な婦人靴。
その横に薄汚れた僕のスニーカーが並ぶ。
居間からはテレビの音声が流れてきていた。
ちらりと覗いてみると父親が寝そべり、手で頭を支えながら僕へと背を向けている。
母親が死んでから父親はいつもこんな様子だった。
見ても、聞いてもいないテレビを一日中つけっぱなしにしている。
静寂が、怖いんだろう。僕は孤独に慣れていたけれど、いつも陽気に過ごしていた父親には未知との遭遇だったのかもしれない。
二階へと続く階段に足をかけて、上る。
上り終えた後、息切れがした。一日中机の前に座っていることからくる運動不足の証拠だ。
自分の部屋へと入り電源を入れっぱなしにしているパソコンを操作する。
すぐにお気に入りの掲示板へとアクセスして、今日の旨を書き込んだ。冗談交じりで、深刻さをできるだけにおわせないように。
(こんなところにまで見栄を張るのか。いや、掲示板の空気が悪くなってはいけないだろう)
誰かへの言い訳とともに送信が終わり、掲示板に僕の文章が表示される。
すると、瞬時にレスポンスがついた。僕を煽りたてる文章だ。哀れむような口調で扇情的な書き込みがいくつも並ぶ。
おかしいな、と思い、調べてみると、外部サイトからの突撃を受けているのだとすぐにわかった。
自然と舌打ちが出る。
「VIPでやれよ」
苛立ちが起こることは全く無かった。
それ以上に、自分自身に失望していたのだと思う。
どうして、こうなってしまったんだろう。僕には何が足りないんだろうか。
掴めるはずもない欠損している部分へと必死に手を伸ばす。
どこにあるのか。どんな形なのか。どんな感覚なんだろう。
わかるはずもないままぼんやりとしているといつの間にか家の前へと到着していた。
一軒家で、二階建て。
鍵穴に鍵を差し込みながら左を向く。幼い頃に遊んだ庭が荒れて放置されていた。
これは紛れも無く、僕らの家庭の代弁者だ。
「ただいま」
帰宅の挨拶をしても、応えるものは誰も居なかった。
玄関口には靴が二足並んでいる。擦り切れた革靴と、綺麗な婦人靴。
その横に薄汚れた僕のスニーカーが並ぶ。
居間からはテレビの音声が流れてきていた。
ちらりと覗いてみると父親が寝そべり、手で頭を支えながら僕へと背を向けている。
母親が死んでから父親はいつもこんな様子だった。
見ても、聞いてもいないテレビを一日中つけっぱなしにしている。
静寂が、怖いんだろう。僕は孤独に慣れていたけれど、いつも陽気に過ごしていた父親には未知との遭遇だったのかもしれない。
二階へと続く階段に足をかけて、上る。
上り終えた後、息切れがした。一日中机の前に座っていることからくる運動不足の証拠だ。
自分の部屋へと入り電源を入れっぱなしにしているパソコンを操作する。
すぐにお気に入りの掲示板へとアクセスして、今日の旨を書き込んだ。冗談交じりで、深刻さをできるだけにおわせないように。
(こんなところにまで見栄を張るのか。いや、掲示板の空気が悪くなってはいけないだろう)
誰かへの言い訳とともに送信が終わり、掲示板に僕の文章が表示される。
すると、瞬時にレスポンスがついた。僕を煽りたてる文章だ。哀れむような口調で扇情的な書き込みがいくつも並ぶ。
おかしいな、と思い、調べてみると、外部サイトからの突撃を受けているのだとすぐにわかった。
自然と舌打ちが出る。
「VIPでやれよ」
13:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 18:42:55.26:JoCDVgyDO (1/2)
これは新しい
これは新しい
14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/07/31(日) 18:45:36.36:7NkKhr4d0 (4/10)
苛立ちが起こることは全く無かった。
それ以上に、自分自身に失望していたのだと思う。
どうして、こうなってしまったんだろう。僕には何が足りないんだろうか。
掴めるはずもない欠損している部分へと必死に手を伸ばす。
どこにあるのか。どんな形なのか。どんな感覚なんだろう。
わかるはずもないままぼんやりとしているといつの間にか家の前へと到着していた。
一軒家で、二階建て。
鍵穴に鍵を差し込みながら左を向く。幼い頃に遊んだ庭が荒れて放置されていた。
これは紛れも無く、僕らの家庭の代弁者だ。
「ただいま」
帰宅の挨拶をしても、応えるものは誰も居なかった。
玄関口には靴が二足並んでいる。擦り切れた革靴と、綺麗な婦人靴。
その横に薄汚れた僕のスニーカーが並ぶ。
居間からはテレビの音声が流れてきていた。
ちらりと覗いてみると父親が寝そべり、手で頭を支えながら僕へと背を向けている。
母親が死んでから父親はいつもこんな様子だった。
見ても、聞いてもいないテレビを一日中つけっぱなしにしている。
静寂が、怖いんだろう。僕は孤独に慣れていたけれど、いつも陽気に過ごしていた父親には未知との遭遇だったのかもしれない。
二階へと続く階段に足をかけて、上る。
上り終えた後、息切れがした。一日中机の前に座っていることからくる運動不足の証拠だ。
自分の部屋へと入り電源を入れっぱなしにしているパソコンを操作する。
すぐにお気に入りの掲示板へとアクセスして、今日の旨を書き込んだ。冗談交じりで、深刻さをできるだけにおわせないように。
(こんなところにまで見栄を張るのか。いや、掲示板の空気が悪くなってはいけないだろう)
誰かへの言い訳とともに送信が終わり、掲示板に僕の文章が表示される。
すると、瞬時にレスポンスがついた。僕を煽りたてる文章だ。哀れむような口調で扇情的な書き込みがいくつも並ぶ。
おかしいな、と思い、調べてみると、外部サイトからの突撃を受けているのだとすぐにわかった。
自然と舌打ちが出る。
「VIPでやれよ」
苛立ちが起こることは全く無かった。
それ以上に、自分自身に失望していたのだと思う。
どうして、こうなってしまったんだろう。僕には何が足りないんだろうか。
掴めるはずもない欠損している部分へと必死に手を伸ばす。
どこにあるのか。どんな形なのか。どんな感覚なんだろう。
わかるはずもないままぼんやりとしているといつの間にか家の前へと到着していた。
一軒家で、二階建て。
鍵穴に鍵を差し込みながら左を向く。幼い頃に遊んだ庭が荒れて放置されていた。
これは紛れも無く、僕らの家庭の代弁者だ。
「ただいま」
帰宅の挨拶をしても、応えるものは誰も居なかった。
玄関口には靴が二足並んでいる。擦り切れた革靴と、綺麗な婦人靴。
その横に薄汚れた僕のスニーカーが並ぶ。
居間からはテレビの音声が流れてきていた。
ちらりと覗いてみると父親が寝そべり、手で頭を支えながら僕へと背を向けている。
母親が死んでから父親はいつもこんな様子だった。
見ても、聞いてもいないテレビを一日中つけっぱなしにしている。
静寂が、怖いんだろう。僕は孤独に慣れていたけれど、いつも陽気に過ごしていた父親には未知との遭遇だったのかもしれない。
二階へと続く階段に足をかけて、上る。
上り終えた後、息切れがした。一日中机の前に座っていることからくる運動不足の証拠だ。
自分の部屋へと入り電源を入れっぱなしにしているパソコンを操作する。
すぐにお気に入りの掲示板へとアクセスして、今日の旨を書き込んだ。冗談交じりで、深刻さをできるだけにおわせないように。
(こんなところにまで見栄を張るのか。いや、掲示板の空気が悪くなってはいけないだろう)
誰かへの言い訳とともに送信が終わり、掲示板に僕の文章が表示される。
すると、瞬時にレスポンスがついた。僕を煽りたてる文章だ。哀れむような口調で扇情的な書き込みがいくつも並ぶ。
おかしいな、と思い、調べてみると、外部サイトからの突撃を受けているのだとすぐにわかった。
自然と舌打ちが出る。
「VIPでやれよ」
15:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 18:57:03.18:JI5KpnyFo (1/1)
いや、これはすごい
いや、これはすごい
16:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県):2011/07/31(日) 19:03:51.16:7CYJZDIdo (1/3)
期待
期待
17:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/07/31(日) 19:11:37.60:7NkKhr4d0 (5/10)
呟いた後、そこではじめて苛立ちを覚えていることに気がついた。
編集者に「書かなくていいよ」と才能を全否定されたときよりも、今、お気に入りの掲示板で煽られたことのほうが苛立つ……?
「馬鹿な」
先ほどの自分の心情を思い返すまでもなく、心のどこかで僕は同意していた。
「そうなんだろ? お前は結局話題になりたいだけだ。現実で会話する相手が居ないから、インターネットで私生活を曝け出したい。そうだろ?」
(そんなはずはない! 僕はコミュニケーションを図るサイトと利用してなんていないし、そんなサイトを嫌ってる。
自分の私生活を逐一報告するだなんて、自分が何か優等な存在と勘違いしているんじゃないか。お前の日常になんて誰も興味はないんだよ
「それじゃあ、どうして「おかしいな」と思ったんだ? 慰めの言葉を予想していたのに別方向の言葉を受けたからじゃないか?
自分の将来の夢へと繋がる手段を断絶されたとすれば、普通、感情を爆発させると思うがね。怒り、悲しみ、どんなものかはわからないけど」
(違う。今はただ唖然としているだけだ。あまりのショックに感情が追いついていないだけだ。
もうすぐしたらやってくるさ。感情の激流が。そうさ。お前が思うような、自分一人じゃあ抱えきれない感情の洪水が。
それに、一度否定されたくらいでへこたれてたまるか。こんなことで傷ついていたら、創作者なんてできやしないんだ)
「そうか。お前が言うんならそうなんだろうな。自分自身のことはお前が一番わかってるよなあ」
(黙れ!)
頭に血が昇っているのがわかる。違うぞ。この怒りは編集者に向けてだ。
表示されているページが自動的に更新された。
僕は切り替わったページに新しく僕へのレスポンスがついているのを見つける。
この掲示板の常連さんであり、僕自身をよく気にかけてくれる方だった。確か、境遇も似たようなものだったと記憶している。
『>>352さん、諦めてはいけませんよ。その編集者に見る眼が無かっただけですよ。
私は>>352さんの作品を拝見したことはありませんが、文章の書き方や時々公表なされる一枚絵はとても素人とは思えません。
>>352さんの漫画へとかける並々ならぬ情熱は今までの会話から、私も理解しております。
今回の出来事にめげずに、どうか素晴らしい作品を作り上げると信じております』
文章を読んだ途端、頭から血が引いていくのがわかった。溜飲が下がり、意欲が沸いてくる。
時計を確認すると十二時三十分。今日はまだまだ残っている。次回作品へと取り掛かろう。
その前に、感じている空腹を癒そうと考えて一階へと戻る。
扉を開けると窓から入る明るい日差しに思わず眼を細める。
フローリングを歩き、テレビへと顔を向けている父親の背後を通り抜け、キッチンへと至る。
料理なんて野菜炒めか炒飯しかできない人間なので、僕は迷わず、買い溜めしてあるにカップラーメンへと手を伸ばした。
テーブルの隅に置いてあるポットの頭を押していると、父親がこちらを振り向いた。
頬に刻まれた深い皺。いつもしかめている眉根。広い肩幅に、堂々とした態度。僕は厳格が皮を被ったような父親が苦手だった。
それも、母親が死んでから特に、だ。
母親の年齢は父親の半分にも満たなかったため(なんと、僕よりも年下なのだ)、先立たれた彼女への想いは容易に想像できた。
天気予報のお姉さんをやっていた母親が、朝の生放送中に刺された十年前のことを思い返す。
呟いた後、そこではじめて苛立ちを覚えていることに気がついた。
編集者に「書かなくていいよ」と才能を全否定されたときよりも、今、お気に入りの掲示板で煽られたことのほうが苛立つ……?
「馬鹿な」
先ほどの自分の心情を思い返すまでもなく、心のどこかで僕は同意していた。
「そうなんだろ? お前は結局話題になりたいだけだ。現実で会話する相手が居ないから、インターネットで私生活を曝け出したい。そうだろ?」
(そんなはずはない! 僕はコミュニケーションを図るサイトと利用してなんていないし、そんなサイトを嫌ってる。
自分の私生活を逐一報告するだなんて、自分が何か優等な存在と勘違いしているんじゃないか。お前の日常になんて誰も興味はないんだよ
「それじゃあ、どうして「おかしいな」と思ったんだ? 慰めの言葉を予想していたのに別方向の言葉を受けたからじゃないか?
自分の将来の夢へと繋がる手段を断絶されたとすれば、普通、感情を爆発させると思うがね。怒り、悲しみ、どんなものかはわからないけど」
(違う。今はただ唖然としているだけだ。あまりのショックに感情が追いついていないだけだ。
もうすぐしたらやってくるさ。感情の激流が。そうさ。お前が思うような、自分一人じゃあ抱えきれない感情の洪水が。
それに、一度否定されたくらいでへこたれてたまるか。こんなことで傷ついていたら、創作者なんてできやしないんだ)
「そうか。お前が言うんならそうなんだろうな。自分自身のことはお前が一番わかってるよなあ」
(黙れ!)
頭に血が昇っているのがわかる。違うぞ。この怒りは編集者に向けてだ。
表示されているページが自動的に更新された。
僕は切り替わったページに新しく僕へのレスポンスがついているのを見つける。
この掲示板の常連さんであり、僕自身をよく気にかけてくれる方だった。確か、境遇も似たようなものだったと記憶している。
『>>352さん、諦めてはいけませんよ。その編集者に見る眼が無かっただけですよ。
私は>>352さんの作品を拝見したことはありませんが、文章の書き方や時々公表なされる一枚絵はとても素人とは思えません。
>>352さんの漫画へとかける並々ならぬ情熱は今までの会話から、私も理解しております。
今回の出来事にめげずに、どうか素晴らしい作品を作り上げると信じております』
文章を読んだ途端、頭から血が引いていくのがわかった。溜飲が下がり、意欲が沸いてくる。
時計を確認すると十二時三十分。今日はまだまだ残っている。次回作品へと取り掛かろう。
その前に、感じている空腹を癒そうと考えて一階へと戻る。
扉を開けると窓から入る明るい日差しに思わず眼を細める。
フローリングを歩き、テレビへと顔を向けている父親の背後を通り抜け、キッチンへと至る。
料理なんて野菜炒めか炒飯しかできない人間なので、僕は迷わず、買い溜めしてあるにカップラーメンへと手を伸ばした。
テーブルの隅に置いてあるポットの頭を押していると、父親がこちらを振り向いた。
頬に刻まれた深い皺。いつもしかめている眉根。広い肩幅に、堂々とした態度。僕は厳格が皮を被ったような父親が苦手だった。
それも、母親が死んでから特に、だ。
母親の年齢は父親の半分にも満たなかったため(なんと、僕よりも年下なのだ)、先立たれた彼女への想いは容易に想像できた。
天気予報のお姉さんをやっていた母親が、朝の生放送中に刺された十年前のことを思い返す。
18:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方):2011/07/31(日) 19:16:06.77:sByNIyjP0 (1/1)
スレ主とか書いちゃう
スレ主とか書いちゃう
19:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/07/31(日) 19:17:55.41:i6l9yiEz0 (1/1)
急展開
急展開
20:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東):2011/07/31(日) 19:21:31.50:yX4kNLrAO (1/1)
アニメキャラ知らないとか、自分はオタじゃないですよアピールですかwwwワロスワロス。
という書き込み(ネタ提供)だお。
期待
アニメキャラ知らないとか、自分はオタじゃないですよアピールですかwwwワロスワロス。
という書き込み(ネタ提供)だお。
期待
21:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 19:28:17.65:bjerKz1vo (1/2)
新感覚SS
新感覚SS
22:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/07/31(日) 19:30:25.84:7NkKhr4d0 (6/10)
「おい。ちょっと来い」
「なに?」
「いいから、リビングに来るんだ」
「わかったよ。リビングからわざわざ大声で呼ばなくてもいいじゃないか」
「よし、座れ」
「うん。で、なに? 改まってさ」
「父さん、再婚するから」
「えっ」
父親が再婚すると聞いたとき、僕は酷く驚いたものだった。
こんな堅物に嫁入りしようと思う女性は、どんな人格をしているんだろうと真剣に頭を悩ませた。
相手方と初めて対面した日に、僕は再婚を告げられたときよりも驚いた。
いつの間にか何らかのフィクションに混じってしまったのではないかと世界そのものを疑った。
「この人が、お前の母さんになる人だ」
「初めまし……」
「えええええええええええええっ!?」
自分の妻の挨拶を遮られた父親は、驚きのあまり椅子から転げ落ちた僕へと更なる追撃を加えた。拳骨。いつもこれだ。
「これから母親になる人に対して、なんたる態度だ」と父親は言った。
しかし、僕は拳骨の痛みくらいでは収まらない興奮と驚愕を持て余していて、落ち着くのにしばらく時間がかかった。
一時的に僕が落ち着いたのは十五分も経過した後だった。
驚きの原因をいくつか整理していくと、次第に落ち着くようだったので、僕は家族の輪から離れ、一人、縁側で狩り揃えられた庭を見ていた。
そうすることで、現状が染み込むように受け入れられるのだった。頭の中で、文字にして一つ一つ整理していく。
父親の再婚相手が土・日曜日以外に放送している天気予報のお姉さんだったこと。
端麗な容姿から国民的アイドルと言っても過言ではない。.
そのお姉さんの年齢は父親の半分にも達しておらず、僕よりも年下だったこと。
信じられないことだが、父親には自分の娘のような年齢の女性を虜にする魅力があるようだった。
天気予報のお姉さんがテレビで引退宣言をしたのは、約一ヶ月前のことだった。
まだ若いし、人気もあるのに勿体無い。と彼女を知るものは異口同音にそう言ったが、彼女は答えを一切変えなかった。
その理由を彼女は一切明かさなかったが、まさか、自分の父親と婚約・結婚することが原因だったとは、神ですらわかるものか。
「おい。ちょっと来い」
「なに?」
「いいから、リビングに来るんだ」
「わかったよ。リビングからわざわざ大声で呼ばなくてもいいじゃないか」
「よし、座れ」
「うん。で、なに? 改まってさ」
「父さん、再婚するから」
「えっ」
父親が再婚すると聞いたとき、僕は酷く驚いたものだった。
こんな堅物に嫁入りしようと思う女性は、どんな人格をしているんだろうと真剣に頭を悩ませた。
相手方と初めて対面した日に、僕は再婚を告げられたときよりも驚いた。
いつの間にか何らかのフィクションに混じってしまったのではないかと世界そのものを疑った。
「この人が、お前の母さんになる人だ」
「初めまし……」
「えええええええええええええっ!?」
自分の妻の挨拶を遮られた父親は、驚きのあまり椅子から転げ落ちた僕へと更なる追撃を加えた。拳骨。いつもこれだ。
「これから母親になる人に対して、なんたる態度だ」と父親は言った。
しかし、僕は拳骨の痛みくらいでは収まらない興奮と驚愕を持て余していて、落ち着くのにしばらく時間がかかった。
一時的に僕が落ち着いたのは十五分も経過した後だった。
驚きの原因をいくつか整理していくと、次第に落ち着くようだったので、僕は家族の輪から離れ、一人、縁側で狩り揃えられた庭を見ていた。
そうすることで、現状が染み込むように受け入れられるのだった。頭の中で、文字にして一つ一つ整理していく。
父親の再婚相手が土・日曜日以外に放送している天気予報のお姉さんだったこと。
端麗な容姿から国民的アイドルと言っても過言ではない。.
そのお姉さんの年齢は父親の半分にも達しておらず、僕よりも年下だったこと。
信じられないことだが、父親には自分の娘のような年齢の女性を虜にする魅力があるようだった。
天気予報のお姉さんがテレビで引退宣言をしたのは、約一ヶ月前のことだった。
まだ若いし、人気もあるのに勿体無い。と彼女を知るものは異口同音にそう言ったが、彼女は答えを一切変えなかった。
その理由を彼女は一切明かさなかったが、まさか、自分の父親と婚約・結婚することが原因だったとは、神ですらわかるものか。
23:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 19:49:19.96:cJ+m0qEV0 (1/1)
日本語って難しい
日本語って難しい
24:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(西日本):2011/07/31(日) 20:07:02.60:sosLgjRfo (1/1)
面白いな
面白いな
25:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 20:12:40.58:/79T19VSO (1/1)
これは新しい
これは新しい
26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/07/31(日) 20:14:39.17:7NkKhr4d0 (7/10)
「彼女と籍を入れるのは、彼女が仕事をきちんと引退してからだ」父親らしい言葉であり、同居するのもそれと同時に行うと続いて言われた。
彼女は恭しく頭を下げて、落ち着いた僕へと挨拶をした。僕も、どもりながらもなんとか挨拶を返した。
僕は父親に彼女とどうやって知り合ったのかと聞いたのだが、父親は答えてくれなかった。
「照れているのね。かわいいでしょう、この人」そうやって、口に手を添えて笑う彼女が自分の母親になるということは、どうしても信じられなかった。
夕方頃にそうやって紹介されたのは、彼女が手料理を僕に振舞うためだった。
「期待してて良いわよ」と出された料理はとびきり美味であり、いつもインスタント食品やジャンクフードばかり食べている舌を唸らせた。
「こんなに美味しい料理が、毎日食べられるんですか」
「そうよ」と胸と張ってから、「どうですか? 美味しいですか?」父親へと聞く彼女は、まさに恋する乙女と表現できる。
「美味しいよ」その父親の一言で、彼女は満面の笑みを浮かべるのだ。
正直な話、とても羨ましく、父親を妬む気持ちがなかったといえば嘘になる。
日が落ちて、彼女が帰宅するとき僕に向かって「明日、私の最後の仕事の日だから、見てね」と告げた。
「毎日見てますよ」
「本当?」
「本当ですよ」
「上手なんだから」にへらと笑う彼女を見て、父親に「送らないでいいの?」と聞くと、彼女が私が断ったのだと言った。
「明日の朝までは、私は、まだ独身です」表情を引き締める彼女を見ると自然と顔がほころんだ。
短い間の会話だけであったけれど、母親の機嫌はころころ変わるもので、まさに『お天気お姉さん』だった。
そして、翌日、いつものように生放送中、笑顔を浮かべて天気を伝えていた彼女が暴漢によって刺された。
テレビ局の前に立ち、今日の天気のうつろいと仕事へと向かう人間へとエールを送った直後のことだった。
テレビ画面を見ていた僕は、次第に大きくなる人の声を不審に思っていると、画面端から黒い塊が現れ、彼女へと突っ込んだ。
彼女の着ている服がじんわりと赤く染まっていき、腹部へと突き立てられた柄がはっきりと中継されていた。
何がなんだかわからなくなっている僕の隣で、テレビ画面を見ていた父親が絶叫を上げた。
開けるのも忘れて近くの窓へと突っ込み、庭へと飛び出した。甲高い音が鳴り響いたが、父親はそのまま道路を走り続ける。
咄嗟のことに僕は動けなかったが、テレビ画面が「しばらくお待ちください」と切り替わったことを確認してすぐに、僕も飛び出した。
何度も曲がり角や交差点があったのだが、地面の血痕を辿っていくと、父親へとすぐ追いつくことができた。
体中をガラスで傷つけて、全身血まみれのまま声を上げて走り続ける父親は周囲の目を惹いていたが、そんなことを気にする余裕は一切無かった。
このままでは父親が危ないと思った僕は、父親となんとか止めようとするが、半狂乱になった父親に殴り倒されてしまう。
救急車か警察を呼ぼうにも携帯電話は家の中だったので、僕は父親の後をついていく。
そして、生放送が中継していた現場へと到着した。さほど遠い場所ではなく、五分ほどで到着したはずだ。
人、人、人。
事故現場を中心として何重もの人の輪が出来ており、皆、何かをささやきあっている。携帯電話で撮影しているものも居た。
救急車のランプが音を立てて点灯し、警察官による厳戒態勢が敷かれていた。
父親は人の波を押しのけ、自身を阻む警察官をも押しのけ(この辺りからは僕も手伝った)、黄色いテープで遮られた向こう側に婚約者を発見した。
僕が「発見した瞬間」を認識できているのは、父親が彼女の名前を呼んだからである。
僕をも阻む警察官に事情を説明したが、『国民的お天気お姉さん結婚相手の息子』なんてことは信じられるわけがなく、すぐに僕は取り押さえられた。
それから先のことは、よく覚えていない。
家へと葬儀の知らせが来て(父親が相手方の両親への挨拶に行っていたのだろう)、
僕は父親と自分の分の喪服を用意して会場へと連れて行った。葬儀に出席した父親の横顔が、自分の知る父親とは思えなかった。
そんな悲劇とは、自分は無縁の存在だと思っていた。
「彼女と籍を入れるのは、彼女が仕事をきちんと引退してからだ」父親らしい言葉であり、同居するのもそれと同時に行うと続いて言われた。
彼女は恭しく頭を下げて、落ち着いた僕へと挨拶をした。僕も、どもりながらもなんとか挨拶を返した。
僕は父親に彼女とどうやって知り合ったのかと聞いたのだが、父親は答えてくれなかった。
「照れているのね。かわいいでしょう、この人」そうやって、口に手を添えて笑う彼女が自分の母親になるということは、どうしても信じられなかった。
夕方頃にそうやって紹介されたのは、彼女が手料理を僕に振舞うためだった。
「期待してて良いわよ」と出された料理はとびきり美味であり、いつもインスタント食品やジャンクフードばかり食べている舌を唸らせた。
「こんなに美味しい料理が、毎日食べられるんですか」
「そうよ」と胸と張ってから、「どうですか? 美味しいですか?」父親へと聞く彼女は、まさに恋する乙女と表現できる。
「美味しいよ」その父親の一言で、彼女は満面の笑みを浮かべるのだ。
正直な話、とても羨ましく、父親を妬む気持ちがなかったといえば嘘になる。
日が落ちて、彼女が帰宅するとき僕に向かって「明日、私の最後の仕事の日だから、見てね」と告げた。
「毎日見てますよ」
「本当?」
「本当ですよ」
「上手なんだから」にへらと笑う彼女を見て、父親に「送らないでいいの?」と聞くと、彼女が私が断ったのだと言った。
「明日の朝までは、私は、まだ独身です」表情を引き締める彼女を見ると自然と顔がほころんだ。
短い間の会話だけであったけれど、母親の機嫌はころころ変わるもので、まさに『お天気お姉さん』だった。
そして、翌日、いつものように生放送中、笑顔を浮かべて天気を伝えていた彼女が暴漢によって刺された。
テレビ局の前に立ち、今日の天気のうつろいと仕事へと向かう人間へとエールを送った直後のことだった。
テレビ画面を見ていた僕は、次第に大きくなる人の声を不審に思っていると、画面端から黒い塊が現れ、彼女へと突っ込んだ。
彼女の着ている服がじんわりと赤く染まっていき、腹部へと突き立てられた柄がはっきりと中継されていた。
何がなんだかわからなくなっている僕の隣で、テレビ画面を見ていた父親が絶叫を上げた。
開けるのも忘れて近くの窓へと突っ込み、庭へと飛び出した。甲高い音が鳴り響いたが、父親はそのまま道路を走り続ける。
咄嗟のことに僕は動けなかったが、テレビ画面が「しばらくお待ちください」と切り替わったことを確認してすぐに、僕も飛び出した。
何度も曲がり角や交差点があったのだが、地面の血痕を辿っていくと、父親へとすぐ追いつくことができた。
体中をガラスで傷つけて、全身血まみれのまま声を上げて走り続ける父親は周囲の目を惹いていたが、そんなことを気にする余裕は一切無かった。
このままでは父親が危ないと思った僕は、父親となんとか止めようとするが、半狂乱になった父親に殴り倒されてしまう。
救急車か警察を呼ぼうにも携帯電話は家の中だったので、僕は父親の後をついていく。
そして、生放送が中継していた現場へと到着した。さほど遠い場所ではなく、五分ほどで到着したはずだ。
人、人、人。
事故現場を中心として何重もの人の輪が出来ており、皆、何かをささやきあっている。携帯電話で撮影しているものも居た。
救急車のランプが音を立てて点灯し、警察官による厳戒態勢が敷かれていた。
父親は人の波を押しのけ、自身を阻む警察官をも押しのけ(この辺りからは僕も手伝った)、黄色いテープで遮られた向こう側に婚約者を発見した。
僕が「発見した瞬間」を認識できているのは、父親が彼女の名前を呼んだからである。
僕をも阻む警察官に事情を説明したが、『国民的お天気お姉さん結婚相手の息子』なんてことは信じられるわけがなく、すぐに僕は取り押さえられた。
それから先のことは、よく覚えていない。
家へと葬儀の知らせが来て(父親が相手方の両親への挨拶に行っていたのだろう)、
僕は父親と自分の分の喪服を用意して会場へと連れて行った。葬儀に出席した父親の横顔が、自分の知る父親とは思えなかった。
そんな悲劇とは、自分は無縁の存在だと思っていた。
27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 20:20:33.28:p+2MQEWDO (1/1)
味噌汁は赤味噌一択だろ、と姉さんが教えてくれた。
味噌汁は赤味噌一択だろ、と姉さんが教えてくれた。
28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/07/31(日) 20:29:18.13:7NkKhr4d0 (8/10)
「おい、まだ仕事は見つからないのか?」
「うん」
「お前、何年間働いていないんだよ」
「……十年間くらい」
「さっさと働け!」
父親は僕を殴りつけた。あの固い拳が満足に外出もしない僕へと振るわれる。
痛みで蹲る僕の背中へと蹴りを入れると、冷蔵庫から新しい酒瓶を持って再びテレビの前へと戻っていく。
僕は、何も言わない。
父親が再婚相手を失ってから、僕も職を失った。なりたくもない、しがないサラリーマンだったためか、何の感情も抱かなかった。
母親になる予定だった人が刺されたその日の無断欠席は許されたのだが、それから、まったく仕事に身が入らなかった。
同僚や上司も気を遣ってくれていたのだが、そんな彼らの気遣いの容量を遥かに超えるほどに僕の態度は酷いものだったのだ。
父親も退職してしまったので収入源が無くなってしまったが、僕の家系は裕福であったため、
質素に暮らせば後何十年かは働かずに生活できるほどに貯えがあった。
僕に子どもが出来るという希望もないので、使いきらせてもらうことにした。
体の痛みが引いてきたので立ち上がり、箸を取り出してカップラーメンと一緒に持ち二階へと上がる。
ドアを開けると、夕陽が差し込む廊下から一転、パソコンの四角い明かりだけの世界になる。
パソコン前へと座り込むと、背中が少し痛んだ。
カップラーメンの蓋を開けて、箸で麺を口を運ぶ。
「……伸びてるや」
「おい、まだ仕事は見つからないのか?」
「うん」
「お前、何年間働いていないんだよ」
「……十年間くらい」
「さっさと働け!」
父親は僕を殴りつけた。あの固い拳が満足に外出もしない僕へと振るわれる。
痛みで蹲る僕の背中へと蹴りを入れると、冷蔵庫から新しい酒瓶を持って再びテレビの前へと戻っていく。
僕は、何も言わない。
父親が再婚相手を失ってから、僕も職を失った。なりたくもない、しがないサラリーマンだったためか、何の感情も抱かなかった。
母親になる予定だった人が刺されたその日の無断欠席は許されたのだが、それから、まったく仕事に身が入らなかった。
同僚や上司も気を遣ってくれていたのだが、そんな彼らの気遣いの容量を遥かに超えるほどに僕の態度は酷いものだったのだ。
父親も退職してしまったので収入源が無くなってしまったが、僕の家系は裕福であったため、
質素に暮らせば後何十年かは働かずに生活できるほどに貯えがあった。
僕に子どもが出来るという希望もないので、使いきらせてもらうことにした。
体の痛みが引いてきたので立ち上がり、箸を取り出してカップラーメンと一緒に持ち二階へと上がる。
ドアを開けると、夕陽が差し込む廊下から一転、パソコンの四角い明かりだけの世界になる。
パソコン前へと座り込むと、背中が少し痛んだ。
カップラーメンの蓋を開けて、箸で麺を口を運ぶ。
「……伸びてるや」
29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方):2011/07/31(日) 20:34:30.28:BL9A8H8C0 (1/1)
シリンダー・シンドローム
シリンダー・シンドローム
30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県):2011/07/31(日) 20:39:29.54:TfKTcYgD0 (1/1)
これが俺の門出だった。
これが俺の門出だった。
31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 21:00:44.26:JoCDVgyDO (2/2)
シュールストレミング
シュールストレミング
32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/07/31(日) 21:01:40.44:7NkKhr4d0 (9/10)
カップラーメンを食べ終えた僕は容器をそのままにして後ろへと寝転んだ。
パソコン前には布団が敷いてあり、毎晩、お気に入りのサイトを巡回してからすぐに眠れるのだ。
その状態から手を伸ばせば本棚へと届くので何の気なしに一冊の小説を取り出した。
創作意欲を刺激するだろうか、と、買うだけ買い、読んでいない書物が、僕の部屋にはいくつも存在していた。
いつもならそのまま棚に戻していたのだろうが、『娘を複製するために』というタイトルが目に入ってしまい、本を開くこととなった。
二時間ほどの時間をかけて、その小説を読み終えた。
パソコン明かりだけでは文字が読めないので、電気をつけて本を開くと、そのまま惹き込まれてしまった。
あらすじは、娘を失った母親が娘を生き返らそうとする物語で、硬い文体によって母親の苦悩や諦観する父親の内面が描かれていく。
『娘を生き返らせる』という母親の手段はエロティックなものもあり、その気ではない父親を乗り気にするために『おちんぽミルク飲みたいよお』と、
誘うシーンは、これまでのテーマの重さと相反して、シリアスな笑いを誘った。
『他人の娘を誘拐して自分の娘として育てる』『もう一度子どもを産む』などのあらゆる手段を試し、失敗する母親。
『まったく同じ外見で、まったく同じ内面でも、まったく同じ人間なんてありえないんだ』と、父親が母親を諭すシーンから、哲学的な話へとシフトしていく。
「面白かった」
率直な感想を呟き、腕を組んで色々と思考を練りまわす。
自分ならどういうふうに話を進めるか、この文章を漫画にするとすればどんな風に描くだろうか……。
小説を傍に置き、大学ノートを広げて鉛筆でネームを書く。
文章を読み、そのシーンを書き、文章を読み、そのシーンを書いていく。
夢中になっていたのか、気がつくと十五ページほどネームが出来上がっており、時間も深夜になっていた。
(とりあえず、今日は終わるか)
ネームを見直すと、かなりの面白さだった。
けれども、僕は自分が書いたものを見返すとき、毎回面白いと思っているのだから、第三者が読んでも面白いかどうかは判別できない。
その才能が欠落しているのかどうかすら、わからないのだ。編集者は、僕のどの部分を指したのだろか。それとも、深く考えなかった一言なんだろうか。
こうやって、やりたくもなかったサラリーマンから開放されて、一日中創作について考える生活をもう十年間も続けているのだ。
外界とのコミュニケーションをほとんど絶っているため、世間のことは何もわからなかったが、この人生は充実していると言えた。
(インタラクティブが、存在していないんだろうか)
しかし、今更どうやって世間へと復帰すれば良いんだろうか。無理に決まっている。
唯一の繋がりと言っても良い掲示板に、明日、ネームをアップしてみよう。そのとき得られる反応はきっと、僕の創作意欲を更に刺激してくれるだろう。
僕は、眠りに落ちていく。
カップラーメンを食べ終えた僕は容器をそのままにして後ろへと寝転んだ。
パソコン前には布団が敷いてあり、毎晩、お気に入りのサイトを巡回してからすぐに眠れるのだ。
その状態から手を伸ばせば本棚へと届くので何の気なしに一冊の小説を取り出した。
創作意欲を刺激するだろうか、と、買うだけ買い、読んでいない書物が、僕の部屋にはいくつも存在していた。
いつもならそのまま棚に戻していたのだろうが、『娘を複製するために』というタイトルが目に入ってしまい、本を開くこととなった。
二時間ほどの時間をかけて、その小説を読み終えた。
パソコン明かりだけでは文字が読めないので、電気をつけて本を開くと、そのまま惹き込まれてしまった。
あらすじは、娘を失った母親が娘を生き返らそうとする物語で、硬い文体によって母親の苦悩や諦観する父親の内面が描かれていく。
『娘を生き返らせる』という母親の手段はエロティックなものもあり、その気ではない父親を乗り気にするために『おちんぽミルク飲みたいよお』と、
誘うシーンは、これまでのテーマの重さと相反して、シリアスな笑いを誘った。
『他人の娘を誘拐して自分の娘として育てる』『もう一度子どもを産む』などのあらゆる手段を試し、失敗する母親。
『まったく同じ外見で、まったく同じ内面でも、まったく同じ人間なんてありえないんだ』と、父親が母親を諭すシーンから、哲学的な話へとシフトしていく。
「面白かった」
率直な感想を呟き、腕を組んで色々と思考を練りまわす。
自分ならどういうふうに話を進めるか、この文章を漫画にするとすればどんな風に描くだろうか……。
小説を傍に置き、大学ノートを広げて鉛筆でネームを書く。
文章を読み、そのシーンを書き、文章を読み、そのシーンを書いていく。
夢中になっていたのか、気がつくと十五ページほどネームが出来上がっており、時間も深夜になっていた。
(とりあえず、今日は終わるか)
ネームを見直すと、かなりの面白さだった。
けれども、僕は自分が書いたものを見返すとき、毎回面白いと思っているのだから、第三者が読んでも面白いかどうかは判別できない。
その才能が欠落しているのかどうかすら、わからないのだ。編集者は、僕のどの部分を指したのだろか。それとも、深く考えなかった一言なんだろうか。
こうやって、やりたくもなかったサラリーマンから開放されて、一日中創作について考える生活をもう十年間も続けているのだ。
外界とのコミュニケーションをほとんど絶っているため、世間のことは何もわからなかったが、この人生は充実していると言えた。
(インタラクティブが、存在していないんだろうか)
しかし、今更どうやって世間へと復帰すれば良いんだろうか。無理に決まっている。
唯一の繋がりと言っても良い掲示板に、明日、ネームをアップしてみよう。そのとき得られる反応はきっと、僕の創作意欲を更に刺激してくれるだろう。
僕は、眠りに落ちていく。
33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 21:05:03.34:UY5x6fTS0 (1/1)
下着泥棒がやってきた
下着泥棒がやってきた
34:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県):2011/07/31(日) 21:09:54.60:7CYJZDIdo (2/3)
そのとき誰かがやってきた
そのとき誰かがやってきた
35: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/07/31(日) 21:14:32.32:7NkKhr4d0 (10/10)
今日は終わり
消化済みレス紹介
>>2が>>4
>>3で>>12(>>14は手違い。すまぬ)
>>5が>>17、>>22、>>26、>>28
>>7が>>32
今日のお知らせ
1.なお、「頑張れ」「すげえ」「期待」などの励ましの言葉などは『お題書き込み(物語を進めるワード)』として受け取りません。単純に激励ありがとう
2.申し訳ありませんが、次回から(>>34以降)は文頭に【お題】と書き込んでください。
(俺が取り上げる例 【お題】ちんちん百裂拳)など
(俺が喜ぶ感想の例 おもしろい。つまんね。死ね)など
今日は終わり
消化済みレス紹介
>>2が>>4
>>3で>>12(>>14は手違い。すまぬ)
>>5が>>17、>>22、>>26、>>28
>>7が>>32
今日のお知らせ
1.なお、「頑張れ」「すげえ」「期待」などの励ましの言葉などは『お題書き込み(物語を進めるワード)』として受け取りません。単純に激励ありがとう
2.申し訳ありませんが、次回から(>>34以降)は文頭に【お題】と書き込んでください。
(俺が取り上げる例 【お題】ちんちん百裂拳)など
(俺が喜ぶ感想の例 おもしろい。つまんね。死ね)など
36:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 21:15:46.51:bjerKz1vo (2/2)
女の子が行き倒れていた
女の子が行き倒れていた
37:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県):2011/07/31(日) 21:26:18.48:7CYJZDIdo (3/3)
【お題】
そのとき俺は驚愕した
【お題】
そのとき俺は驚愕した
38:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 21:36:21.19:KC1gFRQvo (2/2)
俺のお題をつかわねーとかしね!これでいいの?このどMが!!
乙
俺のお題をつかわねーとかしね!これでいいの?このどMが!!
乙
39:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州):2011/07/31(日) 21:52:47.74:6Q0uh0QAO (2/2)
>>1
乙、まさかこんなスレになるとは思わんかった
>>1
乙、まさかこんなスレになるとは思わんかった
40:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/07/31(日) 22:20:04.69:kJGNrCCvo (1/1)
【お題】男も婚約者が出来る。その相手はまた•••
【お題】男も婚約者が出来る。その相手はまた•••
41:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2011/08/01(月) 01:25:54.12:3J6XoiUeo (1/2)
何この>>1素晴らしい。応援するよ
【お題】リセットボタン
何この>>1素晴らしい。応援するよ
【お題】リセットボタン
42:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/01(月) 04:29:58.17:ib0tHzWz0 (1/1)
乙、文学よりなのは期待
【お題】川端康成
乙、文学よりなのは期待
【お題】川端康成
43:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/01(月) 12:34:55.64:jWXtZB/DO (1/1)
【お題】釣りはいらねぇよ(足りない)
【お題】釣りはいらねぇよ(足りない)
44:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/01(月) 14:06:09.73:4+MOASWg0 (1/1)
【お題】腕相撲日本一
【お題】腕相撲日本一
45:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/01(月) 19:03:13.42:J1AYk/m0o (1/1)
【お題】家族団らん
頑張れよ!
【お題】家族団らん
頑張れよ!
46: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/01(月) 20:54:19.17:VLVsNVVk0 (1/12)
このままだと収拾がつかなくなると思うので、申し訳ありませんがお題を締め切らせていただきます
このままだと収拾がつかなくなると思うので、申し訳ありませんがお題を締め切らせていただきます
47: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/01(月) 21:05:56.05:VLVsNVVk0 (2/12)
夢を、見た。
夢というものはいつも唐突で、突拍子も無いことが立て続けに起こる。
そして、そのことをまったく疑わないのだ。夢の中で夢と気がつくことは、中々に難しい。
視野いっぱいに青空が映っている。顔は何らかによって固定されているようで、まったく動かせない。
上半身、下半身。手足の末端などの感覚も無いことから、僕は地面に張り付いているようだった。
その結論に至った理由を筋道を立てて説明はできないのだけれど、とにかく僕はそう理解していた。
白い雲が、青い空を背景に浮かんでいる。
鳥も飛んでいない。爽やかな景色から夏であると予想したが、蝉の鳴き声も聞こえない。
視覚以外の知覚神経を全てを剥奪されたようだ。
そのまま、どれくらいの時間が経過したのかわからなかったが、空の果てから何かが近づいてきていることに気がついた。
黒い点が青色の空の奥の奥から現れて、白い雲を突き抜けて、僕へと向けて落下してくる。
『大』の字に見えるあれは、人間ではないか? 小さな頭の下についた細長い胴体。胴体から生える四つの棒。
(危ない!)
心の叫びを聞き届けたのか、その物体は僕から二メートルほど離れた位置で停止した。
「これから、どうする?」
どうやら、聴覚は生きているようだった。
そうやって問いかけてくる人相に、見覚えがあった。
幼い頃からよく一緒に遊んでいた友人だ。僕の幼馴染。
確か、彼は二十歳になったと同時に首を吊ったのではなかったか。
夢を、見た。
夢というものはいつも唐突で、突拍子も無いことが立て続けに起こる。
そして、そのことをまったく疑わないのだ。夢の中で夢と気がつくことは、中々に難しい。
視野いっぱいに青空が映っている。顔は何らかによって固定されているようで、まったく動かせない。
上半身、下半身。手足の末端などの感覚も無いことから、僕は地面に張り付いているようだった。
その結論に至った理由を筋道を立てて説明はできないのだけれど、とにかく僕はそう理解していた。
白い雲が、青い空を背景に浮かんでいる。
鳥も飛んでいない。爽やかな景色から夏であると予想したが、蝉の鳴き声も聞こえない。
視覚以外の知覚神経を全てを剥奪されたようだ。
そのまま、どれくらいの時間が経過したのかわからなかったが、空の果てから何かが近づいてきていることに気がついた。
黒い点が青色の空の奥の奥から現れて、白い雲を突き抜けて、僕へと向けて落下してくる。
『大』の字に見えるあれは、人間ではないか? 小さな頭の下についた細長い胴体。胴体から生える四つの棒。
(危ない!)
心の叫びを聞き届けたのか、その物体は僕から二メートルほど離れた位置で停止した。
「これから、どうする?」
どうやら、聴覚は生きているようだった。
そうやって問いかけてくる人相に、見覚えがあった。
幼い頃からよく一緒に遊んでいた友人だ。僕の幼馴染。
確か、彼は二十歳になったと同時に首を吊ったのではなかったか。
48:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方):2011/08/01(月) 21:09:15.69:5GJiOpNn0 (1/1)
おい……じょ、冗談だよな……
おい……じょ、冗談だよな……
49: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/01(月) 21:21:46.48:VLVsNVVk0 (3/12)
そうだ。
大学二年生の時に、僕が誕生日を祝ってやろうと下宿を訪問すると、天井から吊り下がっていたじゃないか。
窓側へと顔を向けて、まるで空や星でも見ているかのように。命を終わらせてからも空を見上げられるように……。
幼馴染が自殺した後に噂で聞いたことだが、巨額の借金を背負っていたらしい。
机の上に置かれていたという遺書には『勝負に負けた』と彼の筆跡で書かれていた、と事情聴取に来た警察官から聞かされた。
まだ未成年だった彼がどうやってそんなに借り入れられたのか、そもそも金を浪費するような人間ではなかった、など、
色々な風評と謎が飛び交ったが、真相は闇の中で、ただ一つの不変の真実は僕の幼馴染が現世を去ったということだった。
「これから、どうする?」
再び疑問文が向けられる。
どうする、とは、どういうことだろう。返答しようにも、僕には口がないので出来なかった。
このときに、僕は理解したのだ。
受動的なものだけを僕が受け入れているということを。 ・ ・ ・ ・
眼を開けていたら見えてしまう。耳がついていたら聞こえてしまう。しかし、口は開かなければ声は出せない。
能動的行動を表現することが、僕はできないのだ。
不意に、腐敗臭が鼻(あるかどうかわからないが、とにかく嗅覚を刺激されたのだ)をついた。
幼馴染の眼球が眼窩から零れ落ちそうになっている。顔面は紫色をしている。
首にはロープが巻きついていて、上空へと伸びている。眼で追ってみると果ては見えず、天国から吊り下げられているらしかった。
天国から天使たちが人間を餌にして釣りを楽しんでいる風景を想像する……。
「これから、どうする?」
意識が逆流する。
僕は青色の景色の中に立っていた。
足元を見ると汚れ一つない白色の床で、柔らかそうに見えるのだが伝わる感触はしっかりとしたものだった。
周りには談笑している老人たちや、サッカーボールを蹴りあっている子どもたちがいる。全員が笑顔で過ごしているようだった。
(天国だ)
そうだ。
大学二年生の時に、僕が誕生日を祝ってやろうと下宿を訪問すると、天井から吊り下がっていたじゃないか。
窓側へと顔を向けて、まるで空や星でも見ているかのように。命を終わらせてからも空を見上げられるように……。
幼馴染が自殺した後に噂で聞いたことだが、巨額の借金を背負っていたらしい。
机の上に置かれていたという遺書には『勝負に負けた』と彼の筆跡で書かれていた、と事情聴取に来た警察官から聞かされた。
まだ未成年だった彼がどうやってそんなに借り入れられたのか、そもそも金を浪費するような人間ではなかった、など、
色々な風評と謎が飛び交ったが、真相は闇の中で、ただ一つの不変の真実は僕の幼馴染が現世を去ったということだった。
「これから、どうする?」
再び疑問文が向けられる。
どうする、とは、どういうことだろう。返答しようにも、僕には口がないので出来なかった。
このときに、僕は理解したのだ。
受動的なものだけを僕が受け入れているということを。 ・ ・ ・ ・
眼を開けていたら見えてしまう。耳がついていたら聞こえてしまう。しかし、口は開かなければ声は出せない。
能動的行動を表現することが、僕はできないのだ。
不意に、腐敗臭が鼻(あるかどうかわからないが、とにかく嗅覚を刺激されたのだ)をついた。
幼馴染の眼球が眼窩から零れ落ちそうになっている。顔面は紫色をしている。
首にはロープが巻きついていて、上空へと伸びている。眼で追ってみると果ては見えず、天国から吊り下げられているらしかった。
天国から天使たちが人間を餌にして釣りを楽しんでいる風景を想像する……。
「これから、どうする?」
意識が逆流する。
僕は青色の景色の中に立っていた。
足元を見ると汚れ一つない白色の床で、柔らかそうに見えるのだが伝わる感触はしっかりとしたものだった。
周りには談笑している老人たちや、サッカーボールを蹴りあっている子どもたちがいる。全員が笑顔で過ごしているようだった。
(天国だ)
50: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/01(月) 21:36:41.77:VLVsNVVk0 (4/12)
まさに、現世の人間が空想したままの光景が目の前で繰り広げられている。
金銭などは存在せず、食べ物は溢れかえり、娯楽施設も充実していて、良識ある人物だけが到達できる楽園。
けれど僕は、そんな人たちに混ざろうとはまったく思わなかった。違うんじゃないか、こんな世界は。
「争いも優劣も怒りも悲しみも勝利も敗北もない世界が酷くうすっぺらく見えるのは、お前がそういう世界で生きてきたからだ。
澱んだ両目で見るから、なんでもフィルターがかかってそういうふうに見えてしまうんだよ」
いつからそこに居たのだろうか?
幼馴染みが僕の前に立って僕の黒い壺の底のような目を見つめていた。
首のロープはなくなっていて、顔色も健康なものになっている。
ああん、という嬌声が聞こえたので反射的にそちらを振り向いた。
視線の先には、純朴そうな黒髪の少女に跨り、腰を打ち付けている僕の祖父が居た。二人とも全裸で、絡み合っている。
行為の近くにいるにも関わらず、談笑する大人たちや遊んでいる子どもたちは何も気にする素振りを見せなかった。
(そんな)
「性欲が汚らわしいものと思っているから、人目を忍んで行うんだよ。
元々あれは三大欲求の一つなんだから、睡眠と食事と同じように性交も行えばいいんだ。
だから、こうやって人がたくさんいる場所でも関係なくやるのさ」
生きている人間の心を覗き見ることが出来るのは、死んでしまったものだけの特権なんだろうか。
(こんなの絶対おかしい)
まさに、現世の人間が空想したままの光景が目の前で繰り広げられている。
金銭などは存在せず、食べ物は溢れかえり、娯楽施設も充実していて、良識ある人物だけが到達できる楽園。
けれど僕は、そんな人たちに混ざろうとはまったく思わなかった。違うんじゃないか、こんな世界は。
「争いも優劣も怒りも悲しみも勝利も敗北もない世界が酷くうすっぺらく見えるのは、お前がそういう世界で生きてきたからだ。
澱んだ両目で見るから、なんでもフィルターがかかってそういうふうに見えてしまうんだよ」
いつからそこに居たのだろうか?
幼馴染みが僕の前に立って僕の黒い壺の底のような目を見つめていた。
首のロープはなくなっていて、顔色も健康なものになっている。
ああん、という嬌声が聞こえたので反射的にそちらを振り向いた。
視線の先には、純朴そうな黒髪の少女に跨り、腰を打ち付けている僕の祖父が居た。二人とも全裸で、絡み合っている。
行為の近くにいるにも関わらず、談笑する大人たちや遊んでいる子どもたちは何も気にする素振りを見せなかった。
(そんな)
「性欲が汚らわしいものと思っているから、人目を忍んで行うんだよ。
元々あれは三大欲求の一つなんだから、睡眠と食事と同じように性交も行えばいいんだ。
だから、こうやって人がたくさんいる場所でも関係なくやるのさ」
生きている人間の心を覗き見ることが出来るのは、死んでしまったものだけの特権なんだろうか。
(こんなの絶対おかしい)
51: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/01(月) 21:52:12.54:VLVsNVVk0 (5/12)
「お前が思おうがお前がどう感じようが、ここでの常識は変わらないけどな。
さて、改めて問うぞ。これから、どうするんだ?」
(どうする、とは、とういうことなんだ)
「お前は一体、何を目標として生きているんだ?」
(決まってる。漫画を描くことだ)
「描いて、持ち込んで、雑誌で連載するのか? 本当にそれがやりたいことか?」
(当たり前だ)
「本当に?」
(うるさい。本当に決まってる)
「どうして怒るんだ」
(うるさいって言っているだろ。僕は漫画を描くんだ)
「夢に夢見ることをやめれば、お前の現実は何も無くなるものな。
現実の中に夢をたっぷり詰め込んだ結果が今のお前だ。まあ、良かったじゃないか。
幸いお前の家には貯金があるから、死ぬまで一人で創作に没頭できるぜ」
ぬふう。そんな祖父の声が聞こえた。
身体を硬直させてから二・三度震えると、そのままがっくりと少女へと覆いかぶさった。
「死んだな」
眼を覚ますと、全身に汗をかいていた。
シャツが体に張り付いていて気持ちが悪かったし、精神状態も良好とは言えなかった。
僕はいつも寝起きはぼんやりとしているのだが、現在、脳みその代わりに氷を置かれているかのように感じていた。
頭痛と、寒気。
風邪を疑ったが、身体が億劫ではないのでそれはないだろう。
「お前が思おうがお前がどう感じようが、ここでの常識は変わらないけどな。
さて、改めて問うぞ。これから、どうするんだ?」
(どうする、とは、とういうことなんだ)
「お前は一体、何を目標として生きているんだ?」
(決まってる。漫画を描くことだ)
「描いて、持ち込んで、雑誌で連載するのか? 本当にそれがやりたいことか?」
(当たり前だ)
「本当に?」
(うるさい。本当に決まってる)
「どうして怒るんだ」
(うるさいって言っているだろ。僕は漫画を描くんだ)
「夢に夢見ることをやめれば、お前の現実は何も無くなるものな。
現実の中に夢をたっぷり詰め込んだ結果が今のお前だ。まあ、良かったじゃないか。
幸いお前の家には貯金があるから、死ぬまで一人で創作に没頭できるぜ」
ぬふう。そんな祖父の声が聞こえた。
身体を硬直させてから二・三度震えると、そのままがっくりと少女へと覆いかぶさった。
「死んだな」
眼を覚ますと、全身に汗をかいていた。
シャツが体に張り付いていて気持ちが悪かったし、精神状態も良好とは言えなかった。
僕はいつも寝起きはぼんやりとしているのだが、現在、脳みその代わりに氷を置かれているかのように感じていた。
頭痛と、寒気。
風邪を疑ったが、身体が億劫ではないのでそれはないだろう。
52: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/01(月) 21:57:13.60:VLVsNVVk0 (6/12)
(くそ)
夢の記憶がまだ残っていた。
頭に手を当ててゆっくりとかぶりを振る。
しかし、夢の記憶は抜け落ちてくれなかった。
やがて、忘れるだろうか?
普通なら、夢での光景なんてすぐに忘れてしまうだろうが、悪夢は墓場に行ってくれないことを僕は知っていた。
僕の継母となる予定だった彼女が刺されてからしばらくの間、眠りにつくと彼女が僕を責めるのだ……。
せめてもの気分転換にシャワーでも浴びようと立ち上がった。
無意識のうちにパソコンを見る。僕の生活リズムに取り込まれているので意図せずとも気がつくと向かっているのだ。
そこで昨日書いていたネームのことを思い出した。
せっかくなのでいつもの掲示板にアップロードしていこう。
シャワーを浴びて終わってからページを更新すれば、いくつかの反応がついているだろう。
スキャナーでネームを取り込んでいる最中、段々と普段通りの気だるさが僕を支配しはじめた。
そもそも、ネームで画像とアップロードされたって状況があまりわからないのではないか。
(それに、十五ページも上げると目を通す側も次第に面倒になってきて、的確なアドバイスがもらえないかもしれない)
パソコンを見ると、画像が三枚取り込まれたところだったので、この三ページだけペン入れをしようと絵を描くソフトを起動させる。
不思議なもので、画面の向こうの誰かからの反応が貰えるとあれば、様々な煩わしさがどこかへと消えてしまった。
作画は進捗に進み、一時間ほどで三枚仕上がった。主線しか引いていないが、まあ良いだろう。このままアップロードしてしまえ。
『昨夜読んだ、娘を複製するために、という小説が面白かったので漫画形式にしてみました。
ファンの皆様方のお目汚しになるかと思いますが、どうかお見逃しください』
書き込み、反映されたことを確認すると、今まで押しのけていた全てが押し寄せてきた。
シャワーを浴びることも何かを口に入れることも忘れ、布団に横になると意識が遠のいていった。
(くそ)
夢の記憶がまだ残っていた。
頭に手を当ててゆっくりとかぶりを振る。
しかし、夢の記憶は抜け落ちてくれなかった。
やがて、忘れるだろうか?
普通なら、夢での光景なんてすぐに忘れてしまうだろうが、悪夢は墓場に行ってくれないことを僕は知っていた。
僕の継母となる予定だった彼女が刺されてからしばらくの間、眠りにつくと彼女が僕を責めるのだ……。
せめてもの気分転換にシャワーでも浴びようと立ち上がった。
無意識のうちにパソコンを見る。僕の生活リズムに取り込まれているので意図せずとも気がつくと向かっているのだ。
そこで昨日書いていたネームのことを思い出した。
せっかくなのでいつもの掲示板にアップロードしていこう。
シャワーを浴びて終わってからページを更新すれば、いくつかの反応がついているだろう。
スキャナーでネームを取り込んでいる最中、段々と普段通りの気だるさが僕を支配しはじめた。
そもそも、ネームで画像とアップロードされたって状況があまりわからないのではないか。
(それに、十五ページも上げると目を通す側も次第に面倒になってきて、的確なアドバイスがもらえないかもしれない)
パソコンを見ると、画像が三枚取り込まれたところだったので、この三ページだけペン入れをしようと絵を描くソフトを起動させる。
不思議なもので、画面の向こうの誰かからの反応が貰えるとあれば、様々な煩わしさがどこかへと消えてしまった。
作画は進捗に進み、一時間ほどで三枚仕上がった。主線しか引いていないが、まあ良いだろう。このままアップロードしてしまえ。
『昨夜読んだ、娘を複製するために、という小説が面白かったので漫画形式にしてみました。
ファンの皆様方のお目汚しになるかと思いますが、どうかお見逃しください』
書き込み、反映されたことを確認すると、今まで押しのけていた全てが押し寄せてきた。
シャワーを浴びることも何かを口に入れることも忘れ、布団に横になると意識が遠のいていった。
53: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/01(月) 21:58:49.14:VLVsNVVk0 (7/12)
『>>383さん。私は娘を複製するためにのファンなのですが、これは素直に拍手を送りたいと思います。
こういう風に書き出すか~と感心してしまったものです。
人物も母親と父親のイメージもピッタリです。早く続きを描いて娘も登場させてください。
素晴らしい出来だと感じましたので、いっそのことコミカライズを提案されてみてはいかがでしょうか』
『>>383さんスゴイですね! これが本当にあの小説ですか!?
あれが原作と言われてなければ気がつかなかったです。
この調子でしたら、上手い具合にオリジナリティを加えてくれそうですね』
シャワーを浴びながら、掲示板で貰ったレスポンスについて考えていた。
いつの間にか眠ってしまったことに気がついたのは漫画を上げてから三時間ほど経過した後だった。
反応してくれた方は二人だったが、胸中に喜びが溢れてきたのを自覚した。ああ、これだ。この感覚こそが創作の喜びなんだ。
(オリジナリティか……)
『こういう風に書き出すか~と感心してしまったものです。』『あれが原作と言われてなければ気がつかなかったです。』
こうやって言われていることから、僕にはオリジナリティが欠けているわけではなさそうだった。
むしろ、原作をわからないように、巧妙に設定を練りまわすことができるのではないか?
この世にあるいくつかの優れた書物から、少しずつ舞台設定やキャラクターの造詣を借りれば……?
(それは、つまり、盗作したら良い!?)
馬鹿な!
他人が必死に頭を悩ませて紡ぎあげた物語を、何の苦労もしていない僕が我が物顔で剽窃して良いものか!
創作者の矜持として、最もやってはいけないことだし、僕が最も忌み嫌う行為の一つではないか。
『>>383さん。私は娘を複製するためにのファンなのですが、これは素直に拍手を送りたいと思います。
こういう風に書き出すか~と感心してしまったものです。
人物も母親と父親のイメージもピッタリです。早く続きを描いて娘も登場させてください。
素晴らしい出来だと感じましたので、いっそのことコミカライズを提案されてみてはいかがでしょうか』
『>>383さんスゴイですね! これが本当にあの小説ですか!?
あれが原作と言われてなければ気がつかなかったです。
この調子でしたら、上手い具合にオリジナリティを加えてくれそうですね』
シャワーを浴びながら、掲示板で貰ったレスポンスについて考えていた。
いつの間にか眠ってしまったことに気がついたのは漫画を上げてから三時間ほど経過した後だった。
反応してくれた方は二人だったが、胸中に喜びが溢れてきたのを自覚した。ああ、これだ。この感覚こそが創作の喜びなんだ。
(オリジナリティか……)
『こういう風に書き出すか~と感心してしまったものです。』『あれが原作と言われてなければ気がつかなかったです。』
こうやって言われていることから、僕にはオリジナリティが欠けているわけではなさそうだった。
むしろ、原作をわからないように、巧妙に設定を練りまわすことができるのではないか?
この世にあるいくつかの優れた書物から、少しずつ舞台設定やキャラクターの造詣を借りれば……?
(それは、つまり、盗作したら良い!?)
馬鹿な!
他人が必死に頭を悩ませて紡ぎあげた物語を、何の苦労もしていない僕が我が物顔で剽窃して良いものか!
創作者の矜持として、最もやってはいけないことだし、僕が最も忌み嫌う行為の一つではないか。
54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2011/08/01(月) 21:59:02.98:c4Brjs3X0 (1/1)
【お題】ジェラシット祭りだ!
【お題】ジェラシット祭りだ!
55: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/01(月) 21:59:50.26:VLVsNVVk0 (8/12)
「おいおい。待てよ。何も丸パクリってわけじゃあないんだろう? じゃあ剽窃ではないんじゃないか?」
(そんなわけがない)
「じゃあ、お前が描いている話は完全にオリジナルって言えるのかよ。
コマ割り、構図、人物の容姿、ナレーション、物語の運び方……その他全てがお前が生み出したものなのか?」
(そうじゃないのか)
「長い黒髪の少女が、お前の作品には登場するだろ? あれは、盗用じゃないのか?」
(そんなものいくらでもあるじゃないか!)
「それだよ。『いくらでもあるから、自分も盗作しても良い』ってことだろ。
それともこう考えているのか? 『出典がわからなければいくらでも盗作して良い』と」
(盗用のアイデアから着想したって、きちんと自分の作品に仕上げれば問題ないはずだ)
「お前の言う『自分の作品』っていうのは、どんなものだよ」
(うるさい黙れ!)
「またこれだ」
シャワーを止めて、すぐに風呂を上がった。
体も満足に拭かずにパンツだけを履いて自室へと駆け込む。掲示板で、再び更新ボタンを押した。
『>>383のこれは、このスレのルールに引っかからないの?
>>1に「自作品を作るにあたっての有意義な会話にしましょう」って書いてるけど、>>383は自作品じゃないじゃん。
スレ主的にどうなわけ? ハッキリしてほしいな』
この書き込みを見ると、僕は一心不乱にキーボードを叩いて文章を作った。
直接的に「こいつの頭が悪い」ということを表す文章を何度も並べて、送信してやった。
「おいおい。待てよ。何も丸パクリってわけじゃあないんだろう? じゃあ剽窃ではないんじゃないか?」
(そんなわけがない)
「じゃあ、お前が描いている話は完全にオリジナルって言えるのかよ。
コマ割り、構図、人物の容姿、ナレーション、物語の運び方……その他全てがお前が生み出したものなのか?」
(そうじゃないのか)
「長い黒髪の少女が、お前の作品には登場するだろ? あれは、盗用じゃないのか?」
(そんなものいくらでもあるじゃないか!)
「それだよ。『いくらでもあるから、自分も盗作しても良い』ってことだろ。
それともこう考えているのか? 『出典がわからなければいくらでも盗作して良い』と」
(盗用のアイデアから着想したって、きちんと自分の作品に仕上げれば問題ないはずだ)
「お前の言う『自分の作品』っていうのは、どんなものだよ」
(うるさい黙れ!)
「またこれだ」
シャワーを止めて、すぐに風呂を上がった。
体も満足に拭かずにパンツだけを履いて自室へと駆け込む。掲示板で、再び更新ボタンを押した。
『>>383のこれは、このスレのルールに引っかからないの?
>>1に「自作品を作るにあたっての有意義な会話にしましょう」って書いてるけど、>>383は自作品じゃないじゃん。
スレ主的にどうなわけ? ハッキリしてほしいな』
この書き込みを見ると、僕は一心不乱にキーボードを叩いて文章を作った。
直接的に「こいつの頭が悪い」ということを表す文章を何度も並べて、送信してやった。
56:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県):2011/08/01(月) 22:02:11.08:cQWYQHBWo (1/1)
【お題】
叩かれる
【お題】
叩かれる
57: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/01(月) 22:03:37.52:VLVsNVVk0 (9/12)
「クソッ! クソッ! ふざけやがって! 素直に『上手ですね』って言えばいいんだ!」
スレッドの住民たちも僕の味方に決まってる。こんなやつ、ここから追い出してしまえばいいんだ。
人の利点を褒めることもできないくせに、適当な言葉を並べて人を否定するんじゃないぞ。
僕に賛同してくれる人がいるのは火を見るよりも明らかだったので、相手は何も言わずに消えていくだろう。
何かを言えばいうほど、僕らが袋叩きにしてやる。
論争において数は力だ。インターネットの掲示板ではさらにそれが顕著になる。けけけ、どうだ。
悔しさに顔を歪める相手のことを想像しながら、更新ボタンを押した。
あまりにも多く新着のレスポンスがあったため一瞬驚いたが、何のことは無い。どうせ僕の擁護だ。
画面に映る文字に視線を走らせる。
事実は、僕の予想を裏切った。
なんということだろう。僕の相手を挑発する書き込みを非難するレスポンスがたくさんついているじゃないか。
おかしいぞ。どういうことだ。ここでは僕は常連だから、優遇されるべきじゃないのか。どうして。
それも、「言われてみれば他人の小説を勝手に漫画するだなんて失礼極まりない」だなんてふざけたことを言っている。
「言われてみればってなんだよ」僕は悪態をつく。
自分一人で下した判断よりも他人が下した評価に乗っかるっていうのかよ。
主体性はどうしたんだ。お前はそうやっていつも他人に媚を売って生きているのか?
いや、この場合だと媚を売る相手は僕のほうじゃないのか!?
感情のままにまた書き込んだ。返ってくるのはやはり、僕を非難する内容。
やがてスレッドの勢いは上がっていき、状況ももはや四面楚歌になっていた。誰も、僕を擁護しやしない。
しまいにはいつもやり取りをしている、僕が贔屓にしている人までもが「今日はもうやめておいたほうが良いですよ」と書き込んでいたことだ。
『悔しかったら、オリジナルで何か書いてみろよ。
いつものような手抜きで、どうせダメだと思うけど、なんて作品じゃなくて、本気で書き上げてみろよ。
お前は本気で漫画家を目指していないんだ。ただ、夢を追っている自分に酔っているだけなんじゃないのか?
毎日ここにいるんだから、働いてもいないんだろ? 無職が本気出すのを怖がっているだけなんじゃないのか?
それとも、お前は漫画家を目指しているという、この掲示板でキャラクター作りをして、みんなに相手されたかったのか?』
何も考えられず、思い切り拳を布団の上に撃ち下ろした。
鈍い音が響き、拳に痛みが走る。衝撃が骨に沁みこんでいるのか、じんじんとする感覚が残っている。
勢いよく後ろに倒れこみ、無我夢中で寝返りをうった。
右、左、右、右、左。ごろん、どん、どんごろごろ。どうして、くそ、ふざけるなよ。
「クソッ! クソッ! ふざけやがって! 素直に『上手ですね』って言えばいいんだ!」
スレッドの住民たちも僕の味方に決まってる。こんなやつ、ここから追い出してしまえばいいんだ。
人の利点を褒めることもできないくせに、適当な言葉を並べて人を否定するんじゃないぞ。
僕に賛同してくれる人がいるのは火を見るよりも明らかだったので、相手は何も言わずに消えていくだろう。
何かを言えばいうほど、僕らが袋叩きにしてやる。
論争において数は力だ。インターネットの掲示板ではさらにそれが顕著になる。けけけ、どうだ。
悔しさに顔を歪める相手のことを想像しながら、更新ボタンを押した。
あまりにも多く新着のレスポンスがあったため一瞬驚いたが、何のことは無い。どうせ僕の擁護だ。
画面に映る文字に視線を走らせる。
事実は、僕の予想を裏切った。
なんということだろう。僕の相手を挑発する書き込みを非難するレスポンスがたくさんついているじゃないか。
おかしいぞ。どういうことだ。ここでは僕は常連だから、優遇されるべきじゃないのか。どうして。
それも、「言われてみれば他人の小説を勝手に漫画するだなんて失礼極まりない」だなんてふざけたことを言っている。
「言われてみればってなんだよ」僕は悪態をつく。
自分一人で下した判断よりも他人が下した評価に乗っかるっていうのかよ。
主体性はどうしたんだ。お前はそうやっていつも他人に媚を売って生きているのか?
いや、この場合だと媚を売る相手は僕のほうじゃないのか!?
感情のままにまた書き込んだ。返ってくるのはやはり、僕を非難する内容。
やがてスレッドの勢いは上がっていき、状況ももはや四面楚歌になっていた。誰も、僕を擁護しやしない。
しまいにはいつもやり取りをしている、僕が贔屓にしている人までもが「今日はもうやめておいたほうが良いですよ」と書き込んでいたことだ。
『悔しかったら、オリジナルで何か書いてみろよ。
いつものような手抜きで、どうせダメだと思うけど、なんて作品じゃなくて、本気で書き上げてみろよ。
お前は本気で漫画家を目指していないんだ。ただ、夢を追っている自分に酔っているだけなんじゃないのか?
毎日ここにいるんだから、働いてもいないんだろ? 無職が本気出すのを怖がっているだけなんじゃないのか?
それとも、お前は漫画家を目指しているという、この掲示板でキャラクター作りをして、みんなに相手されたかったのか?』
何も考えられず、思い切り拳を布団の上に撃ち下ろした。
鈍い音が響き、拳に痛みが走る。衝撃が骨に沁みこんでいるのか、じんじんとする感覚が残っている。
勢いよく後ろに倒れこみ、無我夢中で寝返りをうった。
右、左、右、右、左。ごろん、どん、どんごろごろ。どうして、くそ、ふざけるなよ。
58: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/01(月) 22:04:29.95:VLVsNVVk0 (10/12)
どんどんどん、と僕が出しているものではない音に気がついた。
音は次第に近づいてきており、それが階段を上っている足音だと気がついたときには僕の扉は開けられていた。
父親だ。
部屋に入るなりずかずかを僕へと近づき、寝そべっている僕のわき腹を蹴り上げた。
一発、二発と蹴った後手に持っていた酒瓶を投げつける。まだ中身が残っており、アルコールが僕にかかる。
父親の暴力は止まらず、僕は頭を抱え込んだ。そして、父親が何か言っていることに気がついた。
「いつまで経っても逃げやがって! お前が一体何を背負ってるってんだ! どうせ大したことはできやしないんだよ!
毎日毎日部屋に篭って好きなことだけやりやがって良いご身分だなあ! そして気に入らないことがあれば家を叩くのか!
俺や俺の親が溜めた貯金を食いつぶして一生生きていくのか? 一人でここで死ぬのか!?」
この十年間、顔を合わせると同じようなことを言われていたが、こんなにも興奮しているのは初めてのことだった。
悪い方向へと酔ってしまったのか、僕への攻撃は止まる気配を見せない。
「自分自身に期待してんじゃねえぞ! 優れた才能なんざ普通の人間は持っちゃいないんだ!
仮にお前が持っていたとしても、その体たらくじゃあ満足に扱えないだろうよ! とっとと出て行け!
いいか!? 今年中に自立しろよ! いつまで経っても逃げてばっかりいるんじゃねえよ!」
掲示板での苛立ちを引き継いでいたため、興奮しているのは僕も同じだった。
蹴る父親の足を払いのけ、立ち上がり、声を張る。
「うるさいな! 僕だって努力してるんだよ!」
「努力ってなんだよ!
今まで何もしてこなかったから、何かと理由をつけて逃げていたから今こうやってまだ実家にいるんだろうが!」
「一度仕事についたじゃないか!」
「辞めたんだったら何の意味もねえんだよ! そんなこともわかんねえのか!
いつまで経っても再就職はしねえしよ。
今は就職難なんだから、お前みたいに劣ってるやつが何倍も努力しなきゃいけねえんじゃねえのか!?
甘えることをいますぐにやめろ! 夢を見るな! 現実を見ろよ!」
父親の声から、似たような言葉が想起される。
どんどんどん、と僕が出しているものではない音に気がついた。
音は次第に近づいてきており、それが階段を上っている足音だと気がついたときには僕の扉は開けられていた。
父親だ。
部屋に入るなりずかずかを僕へと近づき、寝そべっている僕のわき腹を蹴り上げた。
一発、二発と蹴った後手に持っていた酒瓶を投げつける。まだ中身が残っており、アルコールが僕にかかる。
父親の暴力は止まらず、僕は頭を抱え込んだ。そして、父親が何か言っていることに気がついた。
「いつまで経っても逃げやがって! お前が一体何を背負ってるってんだ! どうせ大したことはできやしないんだよ!
毎日毎日部屋に篭って好きなことだけやりやがって良いご身分だなあ! そして気に入らないことがあれば家を叩くのか!
俺や俺の親が溜めた貯金を食いつぶして一生生きていくのか? 一人でここで死ぬのか!?」
この十年間、顔を合わせると同じようなことを言われていたが、こんなにも興奮しているのは初めてのことだった。
悪い方向へと酔ってしまったのか、僕への攻撃は止まる気配を見せない。
「自分自身に期待してんじゃねえぞ! 優れた才能なんざ普通の人間は持っちゃいないんだ!
仮にお前が持っていたとしても、その体たらくじゃあ満足に扱えないだろうよ! とっとと出て行け!
いいか!? 今年中に自立しろよ! いつまで経っても逃げてばっかりいるんじゃねえよ!」
掲示板での苛立ちを引き継いでいたため、興奮しているのは僕も同じだった。
蹴る父親の足を払いのけ、立ち上がり、声を張る。
「うるさいな! 僕だって努力してるんだよ!」
「努力ってなんだよ!
今まで何もしてこなかったから、何かと理由をつけて逃げていたから今こうやってまだ実家にいるんだろうが!」
「一度仕事についたじゃないか!」
「辞めたんだったら何の意味もねえんだよ! そんなこともわかんねえのか!
いつまで経っても再就職はしねえしよ。
今は就職難なんだから、お前みたいに劣ってるやつが何倍も努力しなきゃいけねえんじゃねえのか!?
甘えることをいますぐにやめろ! 夢を見るな! 現実を見ろよ!」
父親の声から、似たような言葉が想起される。
59: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/01(月) 22:05:08.44:VLVsNVVk0 (11/12)
『夢に夢見ることをやめれば、お前の現実は何も無くなるものな。
現実の中に夢をたっぷり詰め込んだ結果が今のお前だ。まあ、良かったじゃないか。
幸いお前の家には貯金があるから、死ぬまで一人で創作に没頭できるぜ』
『お前は本気で漫画家を目指していないんだ。ただ、夢を追っている自分に酔っているだけなんじゃないのか?
毎日ここにいるんだから、働いてもいないんだろ? 無職が本気出すのを怖がっているだけなんじゃないのか?
それとも、お前は漫画家を目指しているという、この掲示板でキャラクター作りをして、みんなに相手されたかったのか?』
夢に出てきた幼馴染の台詞。顔も声も知らないやつの書き込み。
『書かなくていいよ』
編集者の言葉。
「ああ、畜生! 黙れ! やってやるさ! やってやればいいんだろう!
わかったよ! 勝負だ! 次の作品に全てを賭けてやる!!」
感情が爆発した。
今までの苛立ちが全て加味されていたのだろう。後先考えずに発言したことは、初めてだった。
昔からことなかれ主義で、安全な道を見つけて進んできた僕が言ってやったのだ。やってやる。
『夢に夢見ることをやめれば、お前の現実は何も無くなるものな。
現実の中に夢をたっぷり詰め込んだ結果が今のお前だ。まあ、良かったじゃないか。
幸いお前の家には貯金があるから、死ぬまで一人で創作に没頭できるぜ』
『お前は本気で漫画家を目指していないんだ。ただ、夢を追っている自分に酔っているだけなんじゃないのか?
毎日ここにいるんだから、働いてもいないんだろ? 無職が本気出すのを怖がっているだけなんじゃないのか?
それとも、お前は漫画家を目指しているという、この掲示板でキャラクター作りをして、みんなに相手されたかったのか?』
夢に出てきた幼馴染の台詞。顔も声も知らないやつの書き込み。
『書かなくていいよ』
編集者の言葉。
「ああ、畜生! 黙れ! やってやるさ! やってやればいいんだろう!
わかったよ! 勝負だ! 次の作品に全てを賭けてやる!!」
感情が爆発した。
今までの苛立ちが全て加味されていたのだろう。後先考えずに発言したことは、初めてだった。
昔からことなかれ主義で、安全な道を見つけて進んできた僕が言ってやったのだ。やってやる。
60: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/01(月) 22:14:51.15:VLVsNVVk0 (12/12)
今日は終わり。
消化済みレス紹介
>>2が>>4
>>3で>>12(>>14は手違い。すまぬ)
>>5が>>17、>>22、>>26、>>28
>>7が>>32
>>8が>>47、>>49->>50
>>11が>>51
>>6が>>52->>53
>>18が>>55
>>19が>>57->>59
今日のお知らせ
1.お題があまりにも増えすぎているため「ちょっと書いてみようかな」と思っているくらいの俺にはヘヴィすぎる。
ので、一旦締め切りです。申し訳ありませんが>>46以降は保留とさせていただきます。
もしかしたら書くかもくらいの気持ちで待っててね。
2.話の構成上、お題の消化は順番通りになるとは限りません。
ご理解、ご協力のほどをお願い申し上げ。
今日は終わり。
消化済みレス紹介
>>2が>>4
>>3で>>12(>>14は手違い。すまぬ)
>>5が>>17、>>22、>>26、>>28
>>7が>>32
>>8が>>47、>>49->>50
>>11が>>51
>>6が>>52->>53
>>18が>>55
>>19が>>57->>59
今日のお知らせ
1.お題があまりにも増えすぎているため「ちょっと書いてみようかな」と思っているくらいの俺にはヘヴィすぎる。
ので、一旦締め切りです。申し訳ありませんが>>46以降は保留とさせていただきます。
もしかしたら書くかもくらいの気持ちで待っててね。
2.話の構成上、お題の消化は順番通りになるとは限りません。
ご理解、ご協力のほどをお願い申し上げ。
61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州):2011/08/01(月) 22:51:28.06:6Jde8JXAO (1/1)
>>60乙!あんたすげえよ…
>>60乙!あんたすげえよ…
62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2011/08/01(月) 22:53:19.41:3J6XoiUeo (2/2)
乙~
このスレ終了したら、もう本格的に書いてくれ。凄いよ
乙~
このスレ終了したら、もう本格的に書いてくれ。凄いよ
63:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県):2011/08/01(月) 22:59:47.89:YmAK+7Ago (1/1)
めっちゃ引き込まれるわ
突かれて痛いとこばっか突かれて悔しいのにみちゃうんだなあ…
無理せず書いてってくだせえ
めっちゃ引き込まれるわ
突かれて痛いとこばっか突かれて悔しいのにみちゃうんだなあ…
無理せず書いてってくだせえ
64:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/02(火) 17:26:52.97:EVMEoiuW0 (1/1)
こ、これはすごい奇才を見てしまった。
使われないかもしれないけどお題登録しておくんで、気が向いたら
書いてね
【お題】
セリフ「お前、俺のことを裏切るのかー!」
(発言者によって多少言い回しが違ってもいいよ)
こ、これはすごい奇才を見てしまった。
使われないかもしれないけどお題登録しておくんで、気が向いたら
書いてね
【お題】
セリフ「お前、俺のことを裏切るのかー!」
(発言者によって多少言い回しが違ってもいいよ)
65:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank):2011/08/02(火) 19:45:29.91:lc2b8/I40 (1/1)
世界観…いい言葉だ
世界観…いい言葉だ
66: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/02(火) 22:40:03.73:e+mZVVYc0 (1/3)
父親を追い出してから、僕は部屋の電気をつけ、カーテンを開けた。
何年も動かしていなかったせいで、とても滑らかに開いたとは言えなかったが、苦労して開ききると夕陽が部屋の中に飛び込んできた。
それはまるで努力した先に待ち受けている栄光に思えたし、そうでなくとも黒色しかなかった部屋の中に色彩をもたらした。
一時の爆発からやってきた感情では、物事を成し遂げるまで持続しない。
そのことを、今までの人生の経験から知っていたが、やる前から諦めようとは思わなかった。
一作品、一作品だ。本気で物語を書き上げよう。
一切手を抜かないで、推敲に推敲を重ねて、現在の自分の全勢力を注ぎ込んだ作品を――。
それで駄目だったら、漫画家の先生のアシスタントを申し出よう。
誇りだとかそういうものは全て後ろに置いて、頭でもなんでも下げてやる。
そして、もう一度そこで総決算を作品にぶつける。本当の限界が見えるまで、何度も何度も。
(どうしても駄目だという限界を感じたら、僕も幼馴染のように首を吊って死のう)
生きるということを、僕は今まで軽んじていた。
今更そんなことに気がついてしまっても手遅れかもしれない。もう自分自身に満足な価値は残っていないかもしれない。
元来、人間の価値はまったく無いんだ。
第三者から見れば、生きていようが死のうが関心を向けられることは無い。
僕が今も地球のどこかで死んでいっている子どもたちのことを自覚していないように。
生きている最中に他人を増やし、他人に影響を与えて価値を上げていく。
誰かを常にで蹴落として自分の順位を上げ、有為であることを世界に知らしめるんだ。
大多数の人間には『自分』なんてもの、ほとんど存在しないんだ。そんな存在が許されるのは、ほんの、十年間程度。
人は順位を維持するためにはいくらでも仮面を付け替えて自分を価値を上げようと工夫するんだ。
(今なら、幼馴染の気持ちがわかる気がする)
彼は、十代に命を懸けていたんだ。何者かになろう、と闘ったんだ。
そして負けた。敗残処理はきっと自分の身の丈に釣りあっていなかったから、周りに迷惑をかけて首を吊ったんだ。
生きるか死ぬかの大博打をいつ打つかは個人の自由だけれど、自分一人で抱え込めないことにまで膨れ上がらせたことは僕と同類で、褒められたものとは言えなかった。
「『いつかやる』なんてヤツは、一生やらないのさ」彼がよく言っていた言葉を口ずさんでみたが、僕には似合わないようだった。
幸運にも、僕は恵まれていたからまったくの無価値でもここまで生きてこれた。
父親に迷惑をかけ、編集者に遊びの延長に付き合ってもらい、インターネット掲示板では自己満足の相手を見つけた。
そんな日常がいつまでも続かないと予期していて、まったく揺れないものとして根幹で知っていたから、こうやって立ち向かえるんだろうか。
感情の激流は目を開けたままの僕を夢の世界へと連れて行ったんだ。
小難しいことはどうでもいいか。今の錯乱状態が明日には完治しているかもしれないのだ。
そんな僕にも、ただ一つだけわかったことがあった。
雑踏がないと眠れない街の中、コンクリートの床で眠る勇気は僕には無い。
終わり
父親を追い出してから、僕は部屋の電気をつけ、カーテンを開けた。
何年も動かしていなかったせいで、とても滑らかに開いたとは言えなかったが、苦労して開ききると夕陽が部屋の中に飛び込んできた。
それはまるで努力した先に待ち受けている栄光に思えたし、そうでなくとも黒色しかなかった部屋の中に色彩をもたらした。
一時の爆発からやってきた感情では、物事を成し遂げるまで持続しない。
そのことを、今までの人生の経験から知っていたが、やる前から諦めようとは思わなかった。
一作品、一作品だ。本気で物語を書き上げよう。
一切手を抜かないで、推敲に推敲を重ねて、現在の自分の全勢力を注ぎ込んだ作品を――。
それで駄目だったら、漫画家の先生のアシスタントを申し出よう。
誇りだとかそういうものは全て後ろに置いて、頭でもなんでも下げてやる。
そして、もう一度そこで総決算を作品にぶつける。本当の限界が見えるまで、何度も何度も。
(どうしても駄目だという限界を感じたら、僕も幼馴染のように首を吊って死のう)
生きるということを、僕は今まで軽んじていた。
今更そんなことに気がついてしまっても手遅れかもしれない。もう自分自身に満足な価値は残っていないかもしれない。
元来、人間の価値はまったく無いんだ。
第三者から見れば、生きていようが死のうが関心を向けられることは無い。
僕が今も地球のどこかで死んでいっている子どもたちのことを自覚していないように。
生きている最中に他人を増やし、他人に影響を与えて価値を上げていく。
誰かを常にで蹴落として自分の順位を上げ、有為であることを世界に知らしめるんだ。
大多数の人間には『自分』なんてもの、ほとんど存在しないんだ。そんな存在が許されるのは、ほんの、十年間程度。
人は順位を維持するためにはいくらでも仮面を付け替えて自分を価値を上げようと工夫するんだ。
(今なら、幼馴染の気持ちがわかる気がする)
彼は、十代に命を懸けていたんだ。何者かになろう、と闘ったんだ。
そして負けた。敗残処理はきっと自分の身の丈に釣りあっていなかったから、周りに迷惑をかけて首を吊ったんだ。
生きるか死ぬかの大博打をいつ打つかは個人の自由だけれど、自分一人で抱え込めないことにまで膨れ上がらせたことは僕と同類で、褒められたものとは言えなかった。
「『いつかやる』なんてヤツは、一生やらないのさ」彼がよく言っていた言葉を口ずさんでみたが、僕には似合わないようだった。
幸運にも、僕は恵まれていたからまったくの無価値でもここまで生きてこれた。
父親に迷惑をかけ、編集者に遊びの延長に付き合ってもらい、インターネット掲示板では自己満足の相手を見つけた。
そんな日常がいつまでも続かないと予期していて、まったく揺れないものとして根幹で知っていたから、こうやって立ち向かえるんだろうか。
感情の激流は目を開けたままの僕を夢の世界へと連れて行ったんだ。
小難しいことはどうでもいいか。今の錯乱状態が明日には完治しているかもしれないのだ。
そんな僕にも、ただ一つだけわかったことがあった。
雑踏がないと眠れない街の中、コンクリートの床で眠る勇気は僕には無い。
終わり
67: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/02(火) 22:41:51.34:e+mZVVYc0 (2/3)
一作目終わり。
お話に使わせていただいたレスを紹介
>>2が>>4
>>3で>>12(>>14は手違い。すまぬ)
>>5が>>17、>>22、>>26、>>28
>>7が>>32
>>8が>>47、>>49->>50
>>11が>>51
>>6が>>52->>53
>>18が>>55
>>19が>>57->>59、>>66
一作目終わり。
お話に使わせていただいたレスを紹介
>>2が>>4
>>3で>>12(>>14は手違い。すまぬ)
>>5が>>17、>>22、>>26、>>28
>>7が>>32
>>8が>>47、>>49->>50
>>11が>>51
>>6が>>52->>53
>>18が>>55
>>19が>>57->>59、>>66
68: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/08/02(火) 22:43:36.31:e+mZVVYc0 (3/3)
一作目の反省点
1.文章がおかしい部分がたくさんある。重複表現・誤字などは目も当てられない。
そもそもこれは作品か? 二作目には気をつける。
2.ラストシーンへの繋ぎが強引すぎる。まるで探偵が大した推理もしていないのに自白を始める推理小説じゃないか。
どんだけ当事者の物分りが良いのか。ある程度は仕方がないとはいえ、酷い後付け設定が満載である。ヒマリビーム。
3.テーマが押し付けがましい。さらにありがち。それに、やったゲームに影響されすぎ。
一作目の反省点
1.文章がおかしい部分がたくさんある。重複表現・誤字などは目も当てられない。
そもそもこれは作品か? 二作目には気をつける。
2.ラストシーンへの繋ぎが強引すぎる。まるで探偵が大した推理もしていないのに自白を始める推理小説じゃないか。
どんだけ当事者の物分りが良いのか。ある程度は仕方がないとはいえ、酷い後付け設定が満載である。ヒマリビーム。
3.テーマが押し付けがましい。さらにありがち。それに、やったゲームに影響されすぎ。
69:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/08/02(火) 22:49:15.45:6WrMDVv9o (1/1)
乙……!偶然開いたスレだが張り付く羽目になるとは思ってなかった
二作目もあるんだよな?
乙……!偶然開いたスレだが張り付く羽目になるとは思ってなかった
二作目もあるんだよな?
70:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄):2011/08/02(火) 23:03:02.35:FFrU8mXAO (1/1)
マジで作家志望の人なの?凄いな
なかなか面白いやり方だと思う
マジで作家志望の人なの?凄いな
なかなか面白いやり方だと思う
71:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県):2011/08/02(火) 23:54:57.41:9RCDUiUs0 (1/1)
いや、これはもはやVIPのSSのレベルじゃねーな。
久々に戦慄したよ。書き手の才能に
いや、これはもはやVIPのSSのレベルじゃねーな。
久々に戦慄したよ。書き手の才能に
72:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東):2011/08/03(水) 00:27:42.12:Ed7lzlUAO (1/1)
こ れ は す ご い
こ れ は す ご い
73:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 00:28:11.85:nAAP15Gu0 (1/1)
今来て「はいはいワロスワロス」とか書き込みに来たらあまりの凄さに唖然とした
今来て「はいはいワロスワロス」とか書き込みに来たらあまりの凄さに唖然とした
74:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/08/03(水) 02:46:39.91:wfCnD5In0 (1/1)
クソスレだと思って開いたらいつの間にか引き込まれていた
行き当たりばったりなテーマからここまで作れるのは素直に凄いと思う
【お題】
仮面
クソスレだと思って開いたらいつの間にか引き込まれていた
行き当たりばったりなテーマからここまで作れるのは素直に凄いと思う
【お題】
仮面
75:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 18:52:23.03:N6UExjdSO (1/2)
この終わり方がいいな
物語の続きを想像させるような
【お題】ビターエンド
この終わり方がいいな
物語の続きを想像させるような
【お題】ビターエンド
76:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/03(水) 18:53:37.39:N6UExjdSO (2/2)
この終わり方がいいな
物語の続きを想像させるような
【お題】ビターエンド
この終わり方がいいな
物語の続きを想像させるような
【お題】ビターエンド
77:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岩手県):2011/08/05(金) 00:53:36.21:CIdV5T18o (1/1)
スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス
スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス
78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/07(日) 11:50:36.47:PE1YWRISO (1/1)
立て逃げか
立て逃げか
79:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/08/07(日) 11:55:39.95:osOPpR8o0 (1/1)
>>78
早漏杉wwwwww
>>78
早漏杉wwwwww
80:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/08/07(日) 15:55:30.06:P5Xvp4Zmo (1/1)
これだけ書いても建て逃げって言うんでしょうか
これだけ書いても建て逃げって言うんでしょうか
81:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/08/08(月) 21:38:16.41:MsRSY6bto (1/1)
電話は根本的に頭悪いからな
電話は根本的に頭悪いからな
82:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方):2011/08/17(水) 01:22:45.49:G3tPJ5fA0 (1/1)
まだかなー
まだかなー
83:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県):2011/08/19(金) 23:40:30.59:8ukm6OMu0 (1/1)
「才能の無駄遣い」 ニコ動ならこのタグだな
「才能の無駄遣い」 ニコ動ならこのタグだな
84: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/09/04(日) 23:45:47.36:F89mblmA0 (1/2)
Act.1 ◆ 【みえないばしょ】
夜がネオンライトによってその色を変えられていた。
赤、黄、橙、緑、青……無数の光が飛び交うきらびやかな表通りでは、喧騒が止むことはない。
しかし、光が強ければ強いほどに影も濃くなることは世界の常であり、建物の間を抜けていくとすぐに影へと到達する。
細い路地。壁に這うパイプ管。壊れた室外機。路地裏にある全ては黒く汚れている。
まるで、表側の穢れの一切を引き受けたかのように。
そんな、裏側の風景に似つかない端麗な少女が複数の男たちによる怒号に囲まれていた。
傷の走った顔面。膨らんだ肉体。威圧する空気……。
その風体から、表側の定義では真っ当でない人間だと一目で分かる凄みを発散させている。
「テメェ裏切る気かこの野郎!」
「裏切ってなんかいません。ソレニ、ワタシは野郎じゃありませんけど」
頬に傷を持つ男が吼える。
金色の癖毛を指でいじりながら、怯む様子なく少女は返した。
「依頼は完了しました。デスカラ、通してください」
「組長の容態が治ってねェじゃねえか!」
「コレカラ、治っていきますって」
Act.1 ◆ 【みえないばしょ】
夜がネオンライトによってその色を変えられていた。
赤、黄、橙、緑、青……無数の光が飛び交うきらびやかな表通りでは、喧騒が止むことはない。
しかし、光が強ければ強いほどに影も濃くなることは世界の常であり、建物の間を抜けていくとすぐに影へと到達する。
細い路地。壁に這うパイプ管。壊れた室外機。路地裏にある全ては黒く汚れている。
まるで、表側の穢れの一切を引き受けたかのように。
そんな、裏側の風景に似つかない端麗な少女が複数の男たちによる怒号に囲まれていた。
傷の走った顔面。膨らんだ肉体。威圧する空気……。
その風体から、表側の定義では真っ当でない人間だと一目で分かる凄みを発散させている。
「テメェ裏切る気かこの野郎!」
「裏切ってなんかいません。ソレニ、ワタシは野郎じゃありませんけど」
頬に傷を持つ男が吼える。
金色の癖毛を指でいじりながら、怯む様子なく少女は返した。
「依頼は完了しました。デスカラ、通してください」
「組長の容態が治ってねェじゃねえか!」
「コレカラ、治っていきますって」
85: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/09/04(日) 23:58:56.44:F89mblmA0 (2/2)
「そう言って逃げる気だろうが!」
「ソンナコトしません」
金色の髪から指を抜き、ため息を吐いた。
どうしてこの人たちは黙って帰してくれないんだろう。
原因はワタシと姉さんが解決したから、もう大丈夫なのに。
とは言っても、ワタシたちが何もしなくても組長さんの体に影響はなく、自然と容態は快復していくだろう。
ただ、これから先に起こるであろうことを、先に潰してあげたのだ。
その出来事が組長にとってどういうものか、ワタシたちにはわからないけれど、ワタシたちにとってそれは関係ない。
組長さんが『シリンダー・シンドローム』になってしまったのだから、ワタシたちは仕事をしただけだ。
一から十まで事情を説明していないこちらにも非はあるかもしれないが、説明したところでこうやって絡まれることに変わりはないだろう。
知識がないと対処はできないし。知識を得るにはまず認めなければならない。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
自分の『想像もしなかった世界』を認めることは、短期間では不可能だ。だから、説明は行わない。うん、当然だ。
ワタシと姉さんと、姉さんと仲の良い探偵(ワタシはあの探偵のことをあまり好きじゃないのだけど)。
『シリンダー・シンドローム』を理解している人は、ワタシが知る限りこれだけしかいない。
理解しているといっても、発症する前兆だとかそういうものではなく、ただ、それにどういう風に対処するのかという点だけだ。
「組長さんから依頼料金は受けとっています。モウ、この件は終わってますでしょう?」
「そう言って逃げる気だろうが!」
「ソンナコトしません」
金色の髪から指を抜き、ため息を吐いた。
どうしてこの人たちは黙って帰してくれないんだろう。
原因はワタシと姉さんが解決したから、もう大丈夫なのに。
とは言っても、ワタシたちが何もしなくても組長さんの体に影響はなく、自然と容態は快復していくだろう。
ただ、これから先に起こるであろうことを、先に潰してあげたのだ。
その出来事が組長にとってどういうものか、ワタシたちにはわからないけれど、ワタシたちにとってそれは関係ない。
組長さんが『シリンダー・シンドローム』になってしまったのだから、ワタシたちは仕事をしただけだ。
一から十まで事情を説明していないこちらにも非はあるかもしれないが、説明したところでこうやって絡まれることに変わりはないだろう。
知識がないと対処はできないし。知識を得るにはまず認めなければならない。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
自分の『想像もしなかった世界』を認めることは、短期間では不可能だ。だから、説明は行わない。うん、当然だ。
ワタシと姉さんと、姉さんと仲の良い探偵(ワタシはあの探偵のことをあまり好きじゃないのだけど)。
『シリンダー・シンドローム』を理解している人は、ワタシが知る限りこれだけしかいない。
理解しているといっても、発症する前兆だとかそういうものではなく、ただ、それにどういう風に対処するのかという点だけだ。
「組長さんから依頼料金は受けとっています。モウ、この件は終わってますでしょう?」
86: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/09/05(月) 00:10:26.91:tq+/yoxA0 (1/5)
「舐めた口聞いてんじゃねェぞ! 犯してやろうか小娘が!」
ノースリーブにホットパンツという露出の多い格好の少女をねばつく視線が這う。
下卑た笑いを浮かべる周りの男たち。この人数で、この裏通り。誰も見てやいないし、ことが終わっても誰にも喋らせない。
ずい、と男たちが少女へと近づく。少女の背には壁しかなく、前方は囲まれている。逃げ場は何処にもない。
少女は危険を感じ取ったのか、半身になり、左肩から掛けたハンドバッグを体の影に隠す。
ここには依頼完了を示す料金が入っている。
姉さんに取って来てくれと頼まれたものだから、絶対に渡すわけにはいかない。
なんとしてでも持ち帰らないと。姉さんに失望されることは嫌だ。ワタシは姉さんが大好きなんだ。
少女は眉を寄せて目を細める。
警戒する様子を見せたことから、男たちも気を引き締めた。
自分たちの手に負えなかった出来事をいとも簡単に解決した(という)女なのだ。
それに、この情況で震え上がらない女なのだ。間違いなく一般人ではない。飛び掛る気持ちを抑えて、口を開いた。
「俺たちに味噌をつけるって気じゃあなかったら、黙ってればいいんだよ」
「味噌?」
少女の表情がぱっと戻り、首を傾げる。聞いたことのない言葉であったので答えを聞こうと考えた。
だがすぐに彼女は思い出す。「味噌汁は赤味噌一択だろ」と姉が以前に教えてくれたことを。
味噌をつける気……? 赤い味噌……? 味噌をつける気ではなかったら、黙っていれば良い……。
(味噌をつけることができるのだったら、つけてください。そういうこと?)
「舐めた口聞いてんじゃねェぞ! 犯してやろうか小娘が!」
ノースリーブにホットパンツという露出の多い格好の少女をねばつく視線が這う。
下卑た笑いを浮かべる周りの男たち。この人数で、この裏通り。誰も見てやいないし、ことが終わっても誰にも喋らせない。
ずい、と男たちが少女へと近づく。少女の背には壁しかなく、前方は囲まれている。逃げ場は何処にもない。
少女は危険を感じ取ったのか、半身になり、左肩から掛けたハンドバッグを体の影に隠す。
ここには依頼完了を示す料金が入っている。
姉さんに取って来てくれと頼まれたものだから、絶対に渡すわけにはいかない。
なんとしてでも持ち帰らないと。姉さんに失望されることは嫌だ。ワタシは姉さんが大好きなんだ。
少女は眉を寄せて目を細める。
警戒する様子を見せたことから、男たちも気を引き締めた。
自分たちの手に負えなかった出来事をいとも簡単に解決した(という)女なのだ。
それに、この情況で震え上がらない女なのだ。間違いなく一般人ではない。飛び掛る気持ちを抑えて、口を開いた。
「俺たちに味噌をつけるって気じゃあなかったら、黙ってればいいんだよ」
「味噌?」
少女の表情がぱっと戻り、首を傾げる。聞いたことのない言葉であったので答えを聞こうと考えた。
だがすぐに彼女は思い出す。「味噌汁は赤味噌一択だろ」と姉が以前に教えてくれたことを。
味噌をつける気……? 赤い味噌……? 味噌をつける気ではなかったら、黙っていれば良い……。
(味噌をつけることができるのだったら、つけてください。そういうこと?)
87: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/09/05(月) 00:11:00.56:tq+/yoxA0 (2/5)
ソウイウコト。と一人納得する。
「アア! そういうことですか!」
少女が手を叩いて叫んだので頬の傷の男は一瞬体を竦ませたが、自分たちの要求を理解したという言葉を聞き、笑みを深くした。
「そうだよ。そういうことだよ。大人しくしてりゃあすぐに済むからな。
といってもこの人数だったらお嬢ちゃんのほうが壊れちまうか」
ぐへへ、と涎を垂らしながらベルトを外す頬の傷の男を見もせず、少女はハンドバッグを探っていた。
「みそ、ミソ、味噌?」と呟いてからペットボトルを取り出した。それからキャップを取り外す。
左右に容器を二三回振ってまだ中身の残っていることを確かめてから、男たちへと向けてぶち撒けた。
「赤味噌ですよ!」
顔面に液体を振り掛けられたことに驚き、ベルトを外し終えた先頭の頬の傷の男が転んだ。
その後ろにいた男も倒れ数人がドミノ倒しのように倒れる。
慌てふためいて倒れた男の姿を見て、一人の男が悲鳴を上げた。
なんと、真っ赤な液体が頬の傷の男の顔面を覆っていたのだ。
男は消え入りそうなうめき声を上げている。まさか、この一瞬で……と憤るよりも先に彼らの背筋が凍りついた。
唖然としている男たちを押しのけて少女は走り出した。
振り向き様に空になったペットボトルの容器を投げつけると、風のように路地裏の奥へと入り込んでいった。
額にペットボトルをぶつけられた男が、地面に転がった容器を拾い、パッケージを読み上げた。
「トマトジュース……」
激昂した男が空の容器を壁に投げつけると軽い音が鳴り、まだ幾分か残っていた赤色の液体が飛び散った。
ソウイウコト。と一人納得する。
「アア! そういうことですか!」
少女が手を叩いて叫んだので頬の傷の男は一瞬体を竦ませたが、自分たちの要求を理解したという言葉を聞き、笑みを深くした。
「そうだよ。そういうことだよ。大人しくしてりゃあすぐに済むからな。
といってもこの人数だったらお嬢ちゃんのほうが壊れちまうか」
ぐへへ、と涎を垂らしながらベルトを外す頬の傷の男を見もせず、少女はハンドバッグを探っていた。
「みそ、ミソ、味噌?」と呟いてからペットボトルを取り出した。それからキャップを取り外す。
左右に容器を二三回振ってまだ中身の残っていることを確かめてから、男たちへと向けてぶち撒けた。
「赤味噌ですよ!」
顔面に液体を振り掛けられたことに驚き、ベルトを外し終えた先頭の頬の傷の男が転んだ。
その後ろにいた男も倒れ数人がドミノ倒しのように倒れる。
慌てふためいて倒れた男の姿を見て、一人の男が悲鳴を上げた。
なんと、真っ赤な液体が頬の傷の男の顔面を覆っていたのだ。
男は消え入りそうなうめき声を上げている。まさか、この一瞬で……と憤るよりも先に彼らの背筋が凍りついた。
唖然としている男たちを押しのけて少女は走り出した。
振り向き様に空になったペットボトルの容器を投げつけると、風のように路地裏の奥へと入り込んでいった。
額にペットボトルをぶつけられた男が、地面に転がった容器を拾い、パッケージを読み上げた。
「トマトジュース……」
激昂した男が空の容器を壁に投げつけると軽い音が鳴り、まだ幾分か残っていた赤色の液体が飛び散った。
88: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/09/05(月) 00:13:06.97:tq+/yoxA0 (3/5)
Act.2 ◇ 【たっているばしょ】
(あの野郎! しばらく学校に来なかったくせに! なにが、体調不良だ!)
友人が女の子と歩いていたことを目撃した日、俺は警察に通報するか真剣に悩んだ。
あの友人があんなにもかわいい女の子と手を繋いでいるだなんてことが、現実的にありえるとは思えなかったので、
そこには多くの金銭の介入か、はたまた何か弱みを握り脅迫して自分に恭順させているのではないか、と。
その日、俺は高校からまっすぐに家へと向かわず、新発売のゲームソフトを買いにゲームショップへ訪れた。
予定通り目的物を手に入れた俺は、パッケージ裏面に書かれたあらすじやゲームシステムを読みながら空想を広げていた。
空想が一段落つき、帰宅してからすぐに始めようと決意して前を向いた途端、現実が空想の全てを吹き飛ばした。
夕暮れ時の繁華街。そこにいた全ての人の視線の先は前方から歩いてくる二つの人影に集約されていた。
そう。友人と、その隣の女の子だ。
二人が手を繋いで歩いている様子は、男性であれば友人を羨ましがり、
女性であれば女の子のセンスを疑うだろう(いや、友人には友人なりのいいところはあるのだが)。
俺は友人に一生涯彼女ができないなんて思ってはいないし、本気でそんなに酷い顔立ちをしているとは思わない。
けれどもこんなにも俺が目の前の現実を疑い、二人の関係性を疑い、最終的に友人の犯罪行為にまで直結させられる理由は女の子の容姿にあった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そもそも、本当にこんな女の子が現実に存在するのか?
圧倒的なまでの不釣合いとでも表現すれば良いのだろうか。月と、スッポン、流れ星と、路傍の石……。
そして、その女の子の隣に誰が立っていても同等の評価を受けることは決してないだろう。
Act.2 ◇ 【たっているばしょ】
(あの野郎! しばらく学校に来なかったくせに! なにが、体調不良だ!)
友人が女の子と歩いていたことを目撃した日、俺は警察に通報するか真剣に悩んだ。
あの友人があんなにもかわいい女の子と手を繋いでいるだなんてことが、現実的にありえるとは思えなかったので、
そこには多くの金銭の介入か、はたまた何か弱みを握り脅迫して自分に恭順させているのではないか、と。
その日、俺は高校からまっすぐに家へと向かわず、新発売のゲームソフトを買いにゲームショップへ訪れた。
予定通り目的物を手に入れた俺は、パッケージ裏面に書かれたあらすじやゲームシステムを読みながら空想を広げていた。
空想が一段落つき、帰宅してからすぐに始めようと決意して前を向いた途端、現実が空想の全てを吹き飛ばした。
夕暮れ時の繁華街。そこにいた全ての人の視線の先は前方から歩いてくる二つの人影に集約されていた。
そう。友人と、その隣の女の子だ。
二人が手を繋いで歩いている様子は、男性であれば友人を羨ましがり、
女性であれば女の子のセンスを疑うだろう(いや、友人には友人なりのいいところはあるのだが)。
俺は友人に一生涯彼女ができないなんて思ってはいないし、本気でそんなに酷い顔立ちをしているとは思わない。
けれどもこんなにも俺が目の前の現実を疑い、二人の関係性を疑い、最終的に友人の犯罪行為にまで直結させられる理由は女の子の容姿にあった。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
そもそも、本当にこんな女の子が現実に存在するのか?
圧倒的なまでの不釣合いとでも表現すれば良いのだろうか。月と、スッポン、流れ星と、路傍の石……。
そして、その女の子の隣に誰が立っていても同等の評価を受けることは決してないだろう。
89: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/09/05(月) 00:30:17.62:tq+/yoxA0 (4/5)
現実に存在している俺に認識できるということは、相手も同じ場所に立っているということだから、
そんなことを考えてしまうということすら『有り得ない』と思っていても、『立ち位置』を疑ってしまうほどの美貌。
利己的で嫉妬深い女性ですら、自身の全てを投げ打ってまで保護したいと思わせるような、可憐さ。
だらけきった顔をした友人と、口に手をあてて微笑む女の子を見た俺は地面に縫い付けられたように動けなくなった。
友人は俺に気がつくことなく歩いていき、首の痛みを感じた俺はそれ以上視線で追うことをやめた。
数秒間だけ見た人物が、俺の頭の中に鮮烈に焼きついている。どんな些細なことだって思い出せそうだ。
外国の人なのだろうか? 肩あたりまで伸ばした、癖のある金髪。宝石のような碧眼の瞳。活発そうな褐色の肌。
人で溢れているこの繁華街でも落ち着いた佇まいで、所作の一つ一つに気品があり、和洋折衷の極致とでも表現すれば良いのだろうか……。
本当に、あんな女の子が現実に存在するものなんだろうか?
◇
そして、翌日。学校でのことだ。
友人は久方ぶりに登校してきたことから、欠席していた理由を聞いているクラスメイトたちに囲まれていた。
そんな彼らを押しのけてから俺は友人の腕を引き、教室の隅にまで連れて来てから、問い詰めた。
引きずられている最中、友人は怪訝な顔をしており、
それ以外の態度も、特別変化があるようには見えなかったことがやけに腹が立つ。
「ちょっと待ってくれ。いったいどういうことなんだ。繁華街を一緒に歩いていたあの女の子は誰だ?
俺は君たちが並んで歩いているところを目撃したとき、警察に通報するか真剣に悩んだんだぞ。
いったいどういうことか説明してもらおうか。妹? いや、何度か君の家に訪れたことがあるが、
君に妹は居なかったな。姉も居なかったよな。娘は論外として……まさか、母親なのかい!?
いや、君の母親は豹柄の服を好む、もっとパーマのキツい方だったよね。女友達? いやいや、
君に女友達なんていないよね。いや、失礼。でもやはり事実だからね、そのことは。謝らないよ。
と、いうことはだよ、最も妥当な線は俺の知らない従姉妹の人? ねえ、早く説明してくれないか!」
「彼女」
「そんな馬鹿な!!」
俺は大声を発して、思い切り仰け反った。
周囲から見ていれば、質量を持った声が俺を突き飛ばしたかのように見えただろうか。
現実に存在している俺に認識できるということは、相手も同じ場所に立っているということだから、
そんなことを考えてしまうということすら『有り得ない』と思っていても、『立ち位置』を疑ってしまうほどの美貌。
利己的で嫉妬深い女性ですら、自身の全てを投げ打ってまで保護したいと思わせるような、可憐さ。
だらけきった顔をした友人と、口に手をあてて微笑む女の子を見た俺は地面に縫い付けられたように動けなくなった。
友人は俺に気がつくことなく歩いていき、首の痛みを感じた俺はそれ以上視線で追うことをやめた。
数秒間だけ見た人物が、俺の頭の中に鮮烈に焼きついている。どんな些細なことだって思い出せそうだ。
外国の人なのだろうか? 肩あたりまで伸ばした、癖のある金髪。宝石のような碧眼の瞳。活発そうな褐色の肌。
人で溢れているこの繁華街でも落ち着いた佇まいで、所作の一つ一つに気品があり、和洋折衷の極致とでも表現すれば良いのだろうか……。
本当に、あんな女の子が現実に存在するものなんだろうか?
◇
そして、翌日。学校でのことだ。
友人は久方ぶりに登校してきたことから、欠席していた理由を聞いているクラスメイトたちに囲まれていた。
そんな彼らを押しのけてから俺は友人の腕を引き、教室の隅にまで連れて来てから、問い詰めた。
引きずられている最中、友人は怪訝な顔をしており、
それ以外の態度も、特別変化があるようには見えなかったことがやけに腹が立つ。
「ちょっと待ってくれ。いったいどういうことなんだ。繁華街を一緒に歩いていたあの女の子は誰だ?
俺は君たちが並んで歩いているところを目撃したとき、警察に通報するか真剣に悩んだんだぞ。
いったいどういうことか説明してもらおうか。妹? いや、何度か君の家に訪れたことがあるが、
君に妹は居なかったな。姉も居なかったよな。娘は論外として……まさか、母親なのかい!?
いや、君の母親は豹柄の服を好む、もっとパーマのキツい方だったよね。女友達? いやいや、
君に女友達なんていないよね。いや、失礼。でもやはり事実だからね、そのことは。謝らないよ。
と、いうことはだよ、最も妥当な線は俺の知らない従姉妹の人? ねえ、早く説明してくれないか!」
「彼女」
「そんな馬鹿な!!」
俺は大声を発して、思い切り仰け反った。
周囲から見ていれば、質量を持った声が俺を突き飛ばしたかのように見えただろうか。
90: ◆LeqE6uV6e6Od:2011/09/05(月) 00:33:43.84:tq+/yoxA0 (5/5)
今日は終わり。
今日の投下レス
>>84->>89
お題消化
>>29が>>85
>>27が>>86
今日のお知らせ
1.ただいま。一月以上も放置してた。ごーめーん。
2.けれどこれ以降の更新ペースが一作品目ほどになるというわけでもない。ごーめーん。
3.二作品目、開始。
今日は終わり。
今日の投下レス
>>84->>89
お題消化
>>29が>>85
>>27が>>86
今日のお知らせ
1.ただいま。一月以上も放置してた。ごーめーん。
2.けれどこれ以降の更新ペースが一作品目ほどになるというわけでもない。ごーめーん。
3.二作品目、開始。
91:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/05(月) 01:07:09.52:zwgAp4dQo (1/1)
おかえり。
相変わらずうめえ。
続き待ってる。
おかえり。
相変わらずうめえ。
続き待ってる。
92:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/05(月) 01:37:01.70:f3ZKDatDO (1/1)
さりげなく今までの登場人物がどうなったのか察せる程度の描写なんかを別のお話の中にちょっとだけ書いて欲しいな
さりげなく今までの登場人物がどうなったのか察せる程度の描写なんかを別のお話の中にちょっとだけ書いて欲しいな
93:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/06(火) 23:44:16.05:eScfcGOSO (1/1)
久々に見に来たのに全然レスが増えてなくてわろた
久々に見に来たのに全然レスが増えてなくてわろた
94:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県):2011/09/07(水) 21:11:39.82:3wHpIIRso (1/1)
こんどのはミステリー調か。楽しみだ
こんどのはミステリー調か。楽しみだ
95:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/19(月) 01:14:24.33:qtSbYk9To (1/1)
すたれたね
あきられた?
すたれたね
あきられた?
96:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/20(火) 03:57:03.67:qvkR5dXDO (1/1)
すたれても、こっそり楽しみにしてる
あと>>81
ひとくくりにするなら根本的な頭悪いじゃなくて、根本的に貧困って言ってくれない?
好きで携帯なわけじゃないから
すたれても、こっそり楽しみにしてる
あと>>81
ひとくくりにするなら根本的な頭悪いじゃなくて、根本的に貧困って言ってくれない?
好きで携帯なわけじゃないから
97:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/09/21(水) 11:16:22.99:xJOo3FFEo (1/1)
あちゃあ…
あちゃあ…
98:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/10/02(日) 14:27:02.88:RdCYsN4g0 (1/1)
支援
支援
99:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/10/31(月) 00:02:19.61:3r7/MOsLo (1/1)
なんじゃこりゃ?
くっそつまらんのだが
なんじゃこりゃ?
くっそつまらんのだが
100:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(宮城県):2011/11/01(火) 21:29:55.89:Buo+krqH0 (1/1)
101:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(関東・甲信越):2011/11/17(木) 22:15:06.77:CHfPAG7AO (1/1)
更新ないが、どうしたのだろうか……。楽しみにして待ってます。
更新ないが、どうしたのだろうか……。楽しみにして待ってます。
◆LeqE6uV6e6Od さんの作品一覧
http://s2-d2.com/archives/16602743.html
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