275 ◆DAbxBtgEsc2011/08/14(日) 03:43:04.46xlKYvBbQo (20/20)

あと16日から19日位の間実家に寄生ではなく帰省するので、その間の投下は難しくなると思うます。
書き溜めは出来ないことも無いけど、ネットの環境があれしてるので。

そんな訳で大覇星祭編をなんとか帰省する前に終わらせたいです。という業務連絡。
終わらなかったらごーめんね


276VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/14(日) 05:43:47.34DtMglt7O0 (1/1)

>>274
この流れだと、行き詰ったときオルソラ再登場可能かも。

>>275連絡ご苦労である。
夏休み楽しんで来るのである。


277VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/08/14(日) 11:39:45.97I/VLuz9AO (1/1)

>オルソラさん達の努力
オルソラ……?
まさかオリアナと間違えていたりなんて事はいやいやまさか


278VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/14(日) 16:15:59.41KCgUAiZao (1/1)

乙なんだよ


279VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)2011/08/14(日) 18:04:57.98H9R+aL8AO (1/1)

>>277使徒十字の起動条件探しにチョイ役で出てたじゃまいか
いや、オリアナの努力も全くの無駄だけど


280 ◆DAbxBtgEsc2011/08/15(月) 08:59:41.21BjnNGAqgo (1/17)

透過するかァ

>>277執筆中に何度もオリアナとオルソラを間違えそうになってたけど、あとがきのオルソラはオルソラのつもりで書きました!プンスコ


281 ◆DAbxBtgEsc2011/08/15(月) 09:00:48.87BjnNGAqgo (2/17)

「おいお前ら」

病院の一室。
一方通行は窓から吹き抜ける風を受け、髪の毛がサラサラと揺れている。

ベッドの傍ら、そこには果物詰め合わせだの花だのと見舞いの品々が敷き詰められており、
一方通行が入院したと聞きつけた人々がお見舞いに来たと言う事は想像するに易い。

しかし、そんな一方通行は苦々しげな表情をうかべ、見舞いに来た人々へと声をかけた。

「「「んん?」」」

「……ンン?じゃねェよ、いつまで居座る気だァ?!ここは避暑地じゃねェンだよ!!」

そこには仮称特別捜索隊+幼女+白シスターにスキルアウト+幼女が見舞いの果物をガンガン消費していた。
いや、別に果物を食うのは構わないが、いつまでも居座ってワイワイされると、
静かにしてくれと怒られるのは一方通行なのだ。

学校に通ってない奴らはずっと居座るし、選手な上条当麻に御坂美琴、
フレメア=セイヴェルンは競技が終わる度に病室に足を運んでいる。

フレメアに関してはスキルアウトの面子がいるから分かるが、上条と御坂は何故いちいちここに来るのか。

大覇星祭初日に入院を始め、今日は大覇星祭三日目。
一方通行は能力を行使して傷の治癒力を促進させていた。

とはいえ、傷は大きく早くても2週間、すなわち大覇星祭など余裕で終わっている頃までは入院を余儀なくされた。

常人で学園都市外の病院なら普通に2カ月は入院させられるレベルであるが、
学園都市の医療技術に一方通行の能力によって入院期間をここまで縮めたのである。

出来れば静かに過ごしたいとか思っていたと言うのに、周りはそうは問屋が卸さないと病室に居座る。
一方通行はいやがらせか?とか思うのだが、実際は皆一方通行の事が心配なのだ。

とはいえ見た目はただ涼みに来てるようにしか感じられないから、
一方通行がそのように考えるのも仕方が無い。

すると、外から今後の競技予定のアナウンスが入った。

「お、もうそろそろ俺の出番か」

「そうなの?それじゃあ私も着いて行く!」

「おォ、行ってこい行ってこい。そして帰って来るな」

「負けろー」

上条はアナウンスを確認するように窓の外を眺めると、座っていた椅子から立ち上がる。
続いてインデックスが果物を何個か抱え、上条について行った。

一方通行はシッシと手を振り、御坂は上条の負けを祈願している。
そんな2人に苦笑しながら、上条とインデックスは病室を出て行くのであった。


282 ◆DAbxBtgEsc2011/08/15(月) 09:03:29.39BjnNGAqgo (3/17)

上条が病室を出ると、真っすぐ伸びる通路の一番奥にある階段から、女性が1人昇って来た。

「あれは……」

女性は少し回りを見まわすと、
上条の視線に気付いたのかこちらを向き手を振って来たので上条もそれに応えた。

インデックスはそれを見てジトっとした目で上条を見るが、
別に上条にやましい事はないので堂々としている。

そしてその女性はこちらに向かってきたので、上条もその女性の前へと歩みを進める。

「やあ、君がここに居ると言う事は彼の病室はこの先かな?」

「そうっすね、何か人いっぱい居ますけど……まあ気にしないでください。
 それじゃ、俺これから競技があるんで」

「む。それは引きとめてしまって済まなかったな。
健闘を祈る……と、そこのお嬢さんは上条君の彼女か何かか?」

「へ?いやいやいや、そんなことはありませんことよ!?」

「むう!そんな頭ごなしに否定されると頭に来るかも!」

インデックスは上条の否定っぷりに頭に来たのかキラリと白い歯を見せつけ、
噛みつきの体勢に入るが、ここは病院な為にあんまり騒がないよう注意されてしまったのでインデックスはシュンと小さくなった。

「ふふ、やはり君達は面白いな。その仲の良さ、大事にすると良い」

「あはは……ありがとうございます。それじゃあ失礼します、桐条さん」

「うむ、それでは頑張ってくれ。上条君」

桐条美鶴。
他の面々を連れて学園都市入りを果たしたのは良いが、
一方通行が入院したと聞きいち早く病院に向かっていた。

残りの一同はゆっくりと学園都市を見物してから来るそうだ。

というのも、山岸風香やアイギスと言った科学馬k……
ではなく技術に興味のある面々が学園都市に見え隠れする技術力の高さに目を輝かせていた為である。

ある意味今回の目的である『学園都市を知ること』という目的に近いものがあるので、
彼らにはそのまま学園都市観光をしてもらうことにして、
美鶴だけが見舞いがてらここ最近で集まった情報を一方通行に知らせるべく病院にやって来た、というわけだ。


283VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:05:01.96BjnNGAqgo (4/17)

そんな訳で、美鶴は一方通行の病室の前、何やらワイワイと声が聞こえてくるが気にせずノックすると、
息の合った声で「「どうぞ」」とドア越しに響いてきたので、それに従って入室した。

「やあ、意外と元気そうで安心した。
 あのように立ち回る君が入院などありえないと思っていたのだがね。
 いや、完璧な人間など居ないと言う事を改めて教えられた気分だ」

美鶴は少しだけ口角を上げて微笑みながら、見舞いの品を適当な場所に置きながら捲し立てた。
彼女の事を知っている人間は、この場では一方通行と上条しかいないため、一同はポカンとしている。

何せスタイル抜群でクールな印象を受ける彼女は、
『知的美人』とか『仕事出来る美人』とかそんな感じの評価を得られたからだ。

そんな彼女を見た一方通行以外の面子は、ただただ状況を飲み込めずにいた。

「ふむ……どうやら私以外に先客が居たようだな……」

一方通行はジッと美鶴を見つめ、その視線を察した美鶴は、

「ここは彼らの団欒の邪魔をしないようにしておこうか。
 どうせもうしばらく入院するのだろう?『2人きりで』色々話をしたかったのだが……
 大覇星祭が終わるまでは滞在する心算だから、そのうちまた来るよ」

「そォだな。来るならこいつらがいねェ時に頼むわ、『2人きりで』なァ」

2人のやり取りを見た一同は、ポカンとしていた表情から驚愕の色に変貌を遂げた。

何?そういう関係なの?2人きりってそう言う事ですか!?みたいな思考が一同の中に渦巻き、
自分達は空気の読めない一団なのではと勘違いしてしまう。

「「自分達これで退散します!!」」

駒場利徳がフレメアを、浜面仕上が打ち止めを抱えて病室を出る。

9982号に御坂は勿論、クマや布束砥信は2人の関係に興味津々だったのだが、
半蔵に無理やり引っ張られて部屋を出た。

そんな彼らが出て行った後の病室の扉を見て、美鶴はクスリと笑う。

「随分と面白そうな奴らだったな」

「そォだな、病室を避暑地として使う位には愉快な連中だな……」

一方通行は疲れた表情を浮かべながら、紙とペンを取りだした。
それを見た美鶴は、チラリと扉を見た後、頷きそれらを受け取る。


284VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:05:32.47BjnNGAqgo (5/17)

「しかし入院したとは聞いたが、何をしてそんなことになったんだ?」

口では一方通行に入院した背景を尋ねるような内容だが、

『学園都市内に桐条のラボの研究者を送った。
 やはりペルソナを扱える人間を人工的に開発しているようだ』

と、一方通行から受け取った紙に美鶴は書き込んだ。
一方通行はピクリと小さく眉を動かすが、動揺を見せず口を開く。

「いや、なンか通り魔的な事故に巻き込まれてよォ……」

「君ならばその程度の輩は返り討ちなのでは?
 私は、それ程の実力を持った通り魔など聞いたことが無い」
『十中八九情報は正しいものだと思われる。
とはいえ、このように簡単に情報を察知できるのには裏があるとしか思えない』

一方通行は同意をするかのように首を縦に振り、

「学園都市ってのは色々と裏があるからなァ……力を持った野郎も中には居るってことだ」

紙に書かれたことへの返答なのか、言葉への返答なのか。
おそらく、両方なのだろう。美鶴は軽く息を呑みながらも口を開いた。

「それは私が知るべきことでは無い、そうだな?」
『やはり、与えて良い情報だけ与えて、我々の動きをみる、と言ったところだろうか?』

「そォいう事だな。それでだなァ……」

筆談が無ければ、ただの雑談にしか聞こえないだろう。
現に、外で聞き耳を立てている連中にはそのようにしか聞こえなかったはずだ。


285VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:06:31.18BjnNGAqgo (6/17)





(何か……恋人!って感じの会話には聞こえないんだけど……)

聞き耳を立てながらヒソヒソと話しているのは、御坂。
同じく扉に耳をくっつけるクマ、9982号、布束の3人。と言うか上条を除く捜索隊のメンバーだ。

駒場達はそんな4人を呆れた目で見ながら(ただ単に人数の都合上聞き耳を立てるスペースが無かったのかもしれないが)、
上条の応援に行くことにしたのか病院を後にしていた。

(but、一方通行の事だからこうやって聞き耳を立ててるのがばれてるのかもしれないわ)

(ぐぬぬ……ミサカと言うものがありながら……
 と、ミサカはところてん方式で出番を奪われつつある現実を憤ります)

(僕達どんどん影薄くなってるクマよねー)

((それは言ってはいけない))


286VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:07:09.51BjnNGAqgo (7/17)



「では、私は皆と合流しなくてはならないから、そろそろ帰らせて貰うよ」

「そォか、岳羽達にもよろしく言っといてくれ」

「わかった……と言うか他の皆も連れてまた来るよ」

「はン、次くる頃にはもォ退院してるかもなァ」

「ふっ、休める時に休まねば、後で困った事になるかもしれないぞ?
 先輩からの助言だ、しっかり受け取っておけ」

「はいはい、アドバイス感謝しますゥ」

では。と美鶴が言うと、足音が病室の扉へと近づいてきた。

どうやら今日はもう帰るらしい。

この場に居ては聞き耳を立てていた事がばれてしまう、と4人は焦った顔を浮かべる。



(やばいクマ!あの美人さん帰るっぽいクマ!エマージェンシークマ!)

(ちょ、どーすんのよ!?隠れる場所がない!)

(anyhow、それでも適当な場所に隠れましょう!)

(こっちです!と、ミサカはこの病院の中を熟知している者として先導します!)


287VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:08:10.36BjnNGAqgo (8/17)


ガチャ、と美鶴が扉を開くと、そこには誰も居なかった。

とはいえ聞き耳を立てていたのは承知していたので、慌てて逃げたのだろうな、
とその様を想像して美鶴は微笑む。

チラリと下から布片が見える長椅子を見やると、何事も無かったかのようにその場を後にした。

そして、美鶴が階段から降りて行ったのを確認すると、4人は長椅子の下かニュッと出てきた。

「ふぅ~、ギリギリチョップだったクマねぇ」

「何がギリギリよ!あれ、どうみてもバレたわよね……」

「well、熟知してるとか言って結局隠れた場所は誰でもわかる長椅子の下だしね」

「仕方ないじゃないですか!熟知してるからこそ隠れる場所がないと瞬時に判断したんです!」

「なァにが隠れる、だよアホ共が……」

「「!!?」」

「病院内では静かにしろって何度言えば分かるンだァ……?」

突如現れた一方通行は、4人に病室に入るように促し、先にベッドへと戻っていく。
4人は顔を見合わせると、一方通行と同様に再び病室の中に入っていった。

「芳川も居れば結構話も進められそォなンだが……」

居ないものは仕方が無い。
研究者の観点も欲しかったのだが、とりあえず今いる面子でこれからについて話し合うしかないだろう。
そのように考え、先程美鶴から受け取った情報と美鶴達について話を始めた。


288VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:09:47.49BjnNGAqgo (9/17)

・・・

「あの人が桐条さんだったのね……一方通行恋の季節と思ったのに」

「何か、変な想像をしてたミサカ達が馬鹿みたいですね。
 と、ミサカは信じてたぜ一方通行とサムズアップします」

「てっきり、一方通行ンの彼女参加と思ったのに、残念クマー」

「but、聞き耳立ててたの完全にバレてたのが恥ずかしいわ。
 人目もはばからずにしてたのに」

「……人目はもォ少しはばかれよ」

やはりというか、やはり勘違いをしていたようだ。
御坂美琴と9982号に関しては桐条美鶴の事は話していたはずなのだが。

「いや、あんな美人なんて聞いてないわよ」

「むしろあんな美人と一方通行がフォーリンラブ何てあり得ませんよね。
 と、ミサカは冷静に考えればそうだと納得します」

「ハァ……」

何のために『全員』を病室から追いだしたのか、その意味を深く考えなかったようだ。
いや、深く考えなかったというより勘違いをしてしまったと言った方が正しいだろうか。

一方通行は軽く溜息をつくと、本題に入る事にした。
もちろん学園都市が行っている実験と、その内容についてだ。

人工的にペルソナを扱えるようにする実験。
以前布束砥信が受けていた実験で、他にもそれを受けている人間が居るそうだ。

「人工のペルソナ使いが他に居る……
 therefore、その人ないしは人達が私達の前に立ちはだかるかもしれないって事ね」

事情を理解した布束は少し考えるしぐさをしながら口を開いた。
その言葉を聞いて、一方通行や9982号は布束に同意するように頷くが、御坂は納得できないような顔をする。
クマは良くわかってないようだ。


289VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:11:14.51BjnNGAqgo (10/17)


「なんで私達と敵対するの?だってそんな実験を施した相手の言う事なんて……」

「実験者共が言う事を聞かせる為に、心を壊すだとか、そいつが取り巻く状況を利用して脅したりだとか……
 まァ、従わせる方法なンざいくらでもあらァな」

「そんな……」

暗部の非道さ、強かさをよく理解しているからこそ言える台詞で、
それは御坂には理解が出来ないものだった。

ある程度暗部を垣間見た御坂でも、やはり理解したくないという気持ちがにじみ出ている。
いや、むしろこのまま理解も納得もしないでいて欲しい、とも思う。

「だからまァ、さっさと退院して情報を集めようと思うンだが……」

「そうですね、ミサカ達だけでは手に余ると言うものです」

「well、調べるってもどうやって調べるの?ハッキングは危険だと思うんだけど。
 ダミー掴まされた挙句こちらの動きがバレたりとか」

「クマはよう分からんクマ、話が終わったら教えてほしいクマ」

「うぐっ」

一方通行の言葉に9982号や布束はこれからどうすべきか考えているようだったが、
クマは仕方ないとして御坂は何も言ってないのに勝手に図星みたいな顔をしている。

それを見た一方通行が御坂に突っ込みを入れた。

「……御坂ァ……お前まさか「研究所を片っ端から襲撃しよう」とか思ってねェだろォな」

「え、ええっと……」

本当に図星だった。
しかし無謀も良い所で、そんなことをされて本格的に暗部に動かれたらたまったものではない。

「アホかお前」
「well、愚かとしか言いようが無いわ」
「流石のミサカも擁護出来ないです、お姉さま」

「うぐう」

とここで、攻め立てられている御坂を救済するかのように、競技のアナウンスが。
それを聞いた御坂は、好機と言わんばかりにそそくさと病室から退場しようとする。


290VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:11:52.91BjnNGAqgo (11/17)

「お姉さまの出番ですか。ミサカ達も応援するので着いて行きますよ。
 と、ミサカは話はまだ終わってねえとほくそ笑みます」

「indeed、御坂さんの無謀っぷりを矯正する為なら仕方ないわ……」

「お?美琴ちゃんの出番クマか?クマも着いてクマー」

「おォ、行ってこい行ってこい。ついでに御坂に現実を教えてやってくれ」

9982号と布束はラジャーと返答し、御坂を引っ張って病室を後にし、クマもそれについて行く。
そこでようやく一方通行の静寂は取り戻されたのだった。

「やっと誰も居なくなったか……」

あっという間に静かになった病室の中、1人嘆息する一方通行。
やはり後になって看護婦さんにどやされるのがいやだったらしい。

昨日も久慈川りせが学園都市を発つ前にお見舞いに来たのだが、
その時にも彼らが騒ぎ立てた為にこっぴどく叱られたのだ。

何せ被害者は一方通行なのに、非は完全にこちらにあり何も言えないのだから辛いところだった。
今日も結局騒いでいたが、昨日よりかはマシだったはずなので怒られはしないはずだとか一方通行は思う。

「……まずはその外傷をぶち治すってかァ?」

心地よい風を受け、ひと眠りする事にした一方通行は毛布をかぶり、目を閉じるのであった。


291VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:13:04.52BjnNGAqgo (12/17)

・・・

時は大覇星祭初日にまでさかのぼる。
ステイル=マグヌスは『使徒十字』とそれを取り巻く魔術師達を何とかすべく、学園都市を動き回っていた。

上条当麻やインデックスの協力もあり、『運び屋』オリアナ=トムソンの捕獲に成功する。

しかし、もう1人この事件の首謀者であるリドヴィア=ロレンツェッティは逃がしてしまったが、
あの最大主教(バカ)の事だから何か対策は講じているのだろう。

ステイルは早々に追撃を切り上げると、学園都市の周りで潜入しようとする魔術師達を撃退すると言う部隊を見学しに行くことにした。
その部隊の手に余るようなら力を添えようと考えながら現場へと向かうのだが。

「あぁ?なんだテメェ、誰だ?」

そこには部隊とそれを率いる代表者らしき男が居た。
随分と人相の悪い男だ、とステイルは内心毒づくが恐らく話は通っているはずだと考えイギリス清教を名乗る。

「お?てことはあんたらの代表がうちらにこの戦場を用意してくれたって事になるなぁ。
 そうだ、俺は木原数多ってんだ。会う事はもうねぇだろうが、ヨロシク」

「そう言う事になるね……というか、この様子だと戦闘はもう終わったのかい?」

ステイルの心配は杞憂だったらしく、魔術師達は既に始末していたようだ。
ある程度有能な連中を使った、と言う事かと1人納得するステイルを値踏みするように木原数多は赤毛の神父を見ている。

そんな木原の視線を受け、ステイルはピクリと反応を示すが表情には表わさず、
タバコを吸いながら木原の返答を待った。

「あぁ。大した事の無い奴らだったぜ。死体は適当に処分するが構わねぇか?」

「問題無いと思うよ。死体の処分に関しては何も言われなかったからね。
 そちらで何とかしてくれると言うのならお言葉に甘えさせてもらおうか」

「そーかそーか、それなら任されよーじゃねぇの。
ま、そぉいう訳でこっちも仕事が山盛りなんでね。ここいらでお暇させてもらうぜー」

ヒラヒラと軽く手を振って早々に立ち去っていく木原を見て、
何となくステイルは違和感を覚えたが何も言わない事にする。



ステイルの見た木原の率いる部隊には、大人しかいなかった。


292VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:13:59.36BjnNGAqgo (13/17)




「いやあ、まさか依頼主から直々に人をよこすとは思わなかったぜ。
 ま、それだけ信用されてねえって事だろうが」

木原はステイルに嘘をついていた。
魔術師達を全て始末したと言ったが、そうではない。

実験に使う為何人か生かしておいたのだが、
それがバレたらややこしい事になりそうだと判断した為に、あのような嘘をついたのだ。

「あの赤毛は俺らの事は信用してなかったみたいだが、任務さえこなしてくれりゃ文句は無かったらしいな。
 死体の確認もせず引き下がるなんざ、依頼主がわざわざこの場に人をよこして確認させに来た意味がねえ。
 ってことはあいつは依頼主に頼まれて来たんじゃなくて、個人的に確認したいから来たってことだ。
 それなら俺らの姿を確認するだけでもできるしなあ。
 って事はだ……学園都市に奴らが侵入されて困る事でもあったってことか?」

先程のやりとりで、木原は自身の情報を名前しか明かすことなく、
ステイルから彼個人の事情を推測する事に成功していた。

使う事は無いかもしれないが、あって損は無い。そう考えてステイルの動向を軽く探ったのだ。

とはいえ、インデックスと言う存在も、それを取り巻く環境の事も知らない木原に、
ステイルの抱える事情を知る事は叶わなかったが。

「それに、あのガキ共だけは見られたくなかったしなぁ」

チラリと背後を向くと、そこには先程は居なかった子供が6人居た。

どうやらステイルがこちらに来ることをあらかじめ察知していたらしく、
6人の存在を隠す為に猟犬部隊から離れさせたようだ。

「ま、今はあの赤毛よりも実験だな、実験」

切るぞ~刻むぞ~、と物騒な内容の鼻歌を歌いながら、木原は学園都市へと帰還する。


293VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:15:00.19BjnNGAqgo (14/17)





「全く、何なんだあの男は……」

ステイルは不快そうな顔を浮かべ、口から煙を吐いた。タバコの味も二割減だな、と煙と同時に愚痴も吐く。
あの値踏みするような視線に、悪意と狂気を滅茶苦茶にかき混ぜたかのような目。

有能でも信用出来る人間とは思えなかった。

「まぁ、任務さえこなしてくれればこちらとしても文句は無いのだが……」

何かを隠している。
いや、むしろあのような人間が上の言う事を素直に聞いて行動するとは思えない。
飽くまでも自分本位で自分の為だけに部隊を動かす、そんな人間であると、そう考えた。

何より「この戦場を用意してくれた」という発言。

皮肉のようにも取れるが……と言うより最初は皮肉かとステイルは思ったのだが、
これが皮肉ではなく額面通りの意味だと捉えると、
戦場を用意してくれた事に感謝していると考えてもいいだろう。


何故戦場等に感謝をするのか?

戦闘中毒かと問われれば、違う気がする。

なら、何故か。


ステイルは知らない。木原が研究者であることを。
故に気付けない。これも実験の過程に過ぎないと言う事を。

ステイルは1人、思考の渦に呑まれながらも『使徒十字』騒動の事後処理に関して思いを馳せたのだった。


294VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:17:18.59BjnNGAqgo (15/17)

尾張です。
P3メンバーも交えてワイワイしようと思ったけど、俺の手に余るものだったので止めた。

そんで、原作11巻の女王艦隊の話って要るのかな?
要るよねどうしようかな。


295VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 09:32:54.39BjnNGAqgo (16/17)

>>288彼女参加ってなんだ。彼女さんかな


296VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 11:30:14.87M4kaIjXDO (1/2)

いや、一方通行の彼女が参加するってことだろ?意味はわかるぜ☆

あと筆談でデスノート思い出した


297VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 11:32:49.19M4kaIjXDO (2/2)

すまん!>>1だったか!

フォロー入れた的なあれで頼みます


298VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 12:22:06.31ItMmcDuDO (1/1)

九時川さんはもう終わり?


299VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 12:33:49.560AhPZ5580 (1/2)

>>294
ヴェントさん登場ですね、判ります。


300 ◆DAbxBtgEsc2011/08/15(月) 13:35:27.54BjnNGAqgo (17/17)

>>297気にするな、問題無い。紛らわしい俺が悪いねんて

久慈川さんの出番は終わりですね。何かあっけなくフェードアウトするけど、元々メイン張らせるつもりはなかったので。

ヴェントさん出す為にもやらないといけないかなあと思うんだけど、
キンクリで上条さんも入院って流れでもいいかなあとか思ったりもしてる。
ちなみに、11巻再構成するなら一方さんは出ません。出るようにする方法が思いつかぬので。


11巻やるやらない、どっちがいいですか?と、>>1は実家帰ってからの間に次の話の構成を練ろうと思うので参考にアンケートします


301VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 15:51:58.650AhPZ5580 (2/2)

不要なのである。


302VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/08/15(月) 16:45:35.22S+4A1uGAO (1/1)

原作と変わるようなら読みたいな


303VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/08/15(月) 19:29:08.05+MaZA/RAO (1/1)

別にいらないんじゃない?


304VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 19:31:08.21NNXBME/lo (1/1)

流れ的に別にいらないんじゃないか


305VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 19:59:48.29XXFeEgQn0 (1/1)

ペルソナを得た上条さんがどう動くかを読みたい気もするけど


306VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/16(火) 01:33:02.52tB9Dfv1DO (1/1)

パス


307 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 01:58:31.219TmIZQtZo (1/18)

想像以上に不評だな……いやまあ、俺も禁書11巻を手に取るまでここの話すっかり忘れてたし
はしょって序盤に11巻部分はあらすじだけちょろっと語る感じで行こうかな。

木原君とのいざこざの部分を書きたいが為にこのスレ立てたようなもんなので頑張って書きます。
今日の朝に触りの部分だけ投下出来たら透過するます

てか意外と見てる人多くてビビった。と、>>1は読者に感謝します


308VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/16(火) 04:28:47.75wCQJgrZTo (1/1)

誰か庇って体ボロボロになると上条さんに見えてくる不思議


309 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:22:29.699TmIZQtZo (2/18)

1試合目見終わったら実家に帰る。
つまりその前に透過するというわけだ


310 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:24:00.839TmIZQtZo (3/18)

朝である。
御坂美琴はカーテンの間から照らされる木漏れ日の様な朝日を受けて目を覚ました。
未だ眠気を訴える瞼をこすり、頭の覚醒を促すと、伸びを1つ入れて気合いを入れる。

時間にして、5時20分。
常盤台の朝は早いとは言え、その起床は些か早すぎるのではと思う。
流石に、鶏が鳴く頃より早く、おじいさんが起きるより早く起きる御坂の真意は読めない。

御坂はとりあえず顔を洗おうと洗面台に向かうのだが、
鏡で自身の顔を確認して驚愕を浮かべる。

「うわっ、眼の下の隈ヤバッ……」

普段の早起きをふた回りほど上回る早起きの訳。
それは遠足前の小学生的なあれだった。

本日九月三十日は、全学園都市的に授業は午前中に終わる。
と言うのも、学園都市の住人230万人のうち8割が学生と言う大御所帯が衣替えしようものなら、
それはもう大変な事になる。

そうは言っても採寸や注文自体はあらかじめ終えているので、
後はそれぞれの学校が生徒達の制服を受け取るだけだ。

確かに、去年から今年にかけて体の成長が見られなかった場合、
新たに制服を発注する必要はないのだが、学生と言う事で成長期の人間の方がマジョリティである。

それ故に学生の大半が新たに制服を注文するのだが、それだけでもう服飾関連の店はデスマーチ確定だと言うのに、
それの受け取り時期を各学校で決めてしまっては店も今日はこの中学校明日はあの高校と、振り分けに余計な時間を割く事になる。


311 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:25:21.709TmIZQtZo (4/18)

そんな事情も相まって制服の受け取る日は本日九月三十日で固定しているのだ。

それでも服飾の店はデスマーチ確定なのだが、
何にせよ今日の学園都市は午前授業確定なのである。

ちなみに、御坂は去年と比べ特に大きくなった所はない(誠に遺憾ながら)ので、
彼女にとっては今日と言う日はただの短縮授業だ。

と言う訳で、御坂は今日と言う日を上条当麻に対する『罰ゲーム』の日として定めることにした。
大覇星祭における御坂と上条の争いの軍配は、御坂に上がったのだ。

順当と言えば順当なのだが、御坂は罰ゲームを何にするか全く考えてなく、
『何でも言う事を聞かせる』とは斯くも魅力的で、
斯くもあそこまで人間性を露わにするとは御坂も思っていなかった。

大覇星祭での勝負がつき、ドヤ顔で上条の前に立った時、
上条が土下座しながら『何でも命令するがよい』と言われ、
何でもってことはあんなこともこんなことも、と脳内を一気にめぐって御坂は顔を真っ赤にさせて逃げ帰ってしまった。

御坂は純朴なのであんなことやこんなこと、と言うのは「手をつないだりとか一緒に買い物行ったり」とかそういうあれなので、
不純な想像をした輩は心が穢れているので煩悩を払いに寺に行くことを勧める。

兎にも角にも、結局罰ゲームをこなす前に上条が北イタリアなどに旅行へ行ってしまった為、
罰ゲームを行う日がこのような月末まで伸びてしまった。

「何してもらおっかなー……ふふ」

御坂が今日の予定に1人思いを馳せていると、隣のベッドがガタリと揺れた。

(あんの類人猿ンンン!!!お姉さまを毒牙にかけおってからにぃぃ!!!)

白井黒子。
彼女は昨晩御坂があーでもないこーでもないと今日の予定を考え続けているのを見せられ続けていた為、
彼女もまた寝不足でパンダの様な隈が出来てしまっている。

まさに白黒。とか言うとテレポーターの本領発揮されそうなので何も言わない事にする。

そんな訳で化粧台の前で身もだえする御坂と、ベッドの中で身もだえする白井。



今日もまた長い一日が、幕を開ける。


312 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:26:27.819TmIZQtZo (5/18)

・・・

上条当麻は上の空で授業を受けていた。

原因は、北イタリア5泊7日の旅にある。
普段不幸な上条とは思えないほどのクジ運を発揮して、
『大覇星祭来場者数ナンバーズ』で一等賞を当て、上記の旅行券(2人分)を得ることに成功した。

上条自身この結果が信じられないもので、何か裏があるのではと勘繰った程だが、
周りの人間の「たまにはそんなこともある」と言われ素直にインデックスと共に旅行に行ったのだが、
そこでも魔術師の抗争に巻き込まれたのだ。

その際、ビアージオ=ブゾーニとか言うローマ正教の司教と対峙し、
オケアノスを使わざるを得ない所まで追い込まれてしまう。

結局、天草式やらオルソラ=アクィナスの協力もあったし、
『海の神』を冠したオケアノスのフィールド上である海と氷の艦隊では、
敵地とは言えビアージオが叶う相手では無かったのだろうか、辛くもその司教を撃退する事に成功した。

しかしこの時、この力を最も見られたくない相手に見られてしまった。

インデックスに、この力の存在を知られてしまった。
オリアナ=トムソンと対峙した時だって、インデックスのナビのお陰であの力を見せる事は無かったのに。


―――彼女の知っている上条にはあのような力は存在しない。


故にその事について問いただされ、この力と引き換えに幻想殺しが無くなった……と言う事にしたのだが、
そのような端的な言い訳でインデックスが納得するはずがなく、いつから無くなったのかだとか、
幻想殺しと言う異能に対するジョーカーが無いのに魔術師に立ち向かったのかだとか色々言われてしまい、何となく気まずい感じになってしまった。

実際には上条も無事は無事なので、インデックスは思いの丈を全部ぶつけた事ですっきりしたのだが、
上条が勝手に気まずい感じになっている為に、腹を割って話し合う機会が得られないまま月末を迎えたのだった。


313 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:28:15.059TmIZQtZo (6/18)

(どうしたもんかなー……無いものは無いんだもんなー)

インデックスが怒った理由が幻想殺し消失にあると勘違いしている上条は、
早く影に帰ってきてほしいと思う。

と言ってもインデックス激怒の訳はそんなことではなく、
上条が危険な事に首を突っ込みすぎていい加減堪忍袋の緒が切れたという状態であった。

とはいえ先述したとおり腹を割って話す機会を得られないまま、
今日と言う日を迎えているので上条の悩みはある意味無駄なものとなっている。

なんやかんやで上の空で授業を受けようと受けまいと、本日は短縮授業。

上条もまた入学時春先に買った冬服でサイズはピッタリなので、
衣替えのドタバタに巻き込まれる事無く、単純に短縮授業の恩恵にあずかっていた。

結局終始上の空で授業を終え、次の授業までの10分休憩になると、
土御門元春や青髪ピアスが「ガッコー終わったらゲーセン行こうぜ」と誘ってきたのだが、
上条には予定があるので上の空のままそれを断る。

「すまん。今日上条さんは先約があるのでまた今度でお願いしたいのです」

「先約ってまさか……女!?」

土御門が大仰なリアクションを取りながら、教室中に聞こえるように叫んだ。

すると教室の空気が一瞬で凍りつき、男子はまたかこいつと言う目を向け、
女子は先を越された!と言う顔をする。

「な!?」

ぼんやりしていた上条は一気に覚醒し、普段の調子に戻る。
それを見ていた青髪ピアスが追撃の突っ込みを入れた。

「カミやん?そのリアクションにさっきまでのぼんやりと何か考えていた顔……
 それらが意味する事は……1つやで……!」


314 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:29:43.619TmIZQtZo (7/18)

青ピは「犯人はお前だ」と言う探偵のように上条を指差しつつ、語った。
そんな青ピを見て周囲の生徒達は息を呑む。

上条は何故こんなに追いこまれているのか理解できない、
と言った顔で青ピの次なる言葉を待っていた。

「デートのプランを立てていた!……そうなんとちゃうん?」

「「な、なんだってー!!?」」

「違ぇよ馬鹿!!いや、確かにこの後会う子は女の子ではあるが決してそのような関係では……」

告げた瞬間。上から下から右から左から、衝撃が走る。

全方位から均等に衝撃を与えられた為、慣性の法則に従って吹っ飛ぶ訳にもいかず、
万力で全身を押し潰されたかのような感覚が襲った。

何をされた?それを考えるより早く上条は彼らを視界に入れる。

土御門、青ピをはじめとするクラスメート達。

彼らはそれぞれ拳を握りしめ、中には血の涙を流す漢(おとこ)も居た。

「ら、らにするのれすかー!!?」

ぐらぐらと揺れる意識と頭を定め、彼らに対して声高々に文句を叫ぶのだが、
それに対して土御門がギラリとサングラスを輝かせると、

「……にゃー。言い訳など聞きたくないんだぜい?
『女の子と今日出かける』。それが全てだろう、違うか?」

「カミやんがフラグを乱立する事は百も……いや千も万も承知の上やったんやけど……
 それでも、カミやんと仲間(とも)……いや、戦友(とも)でいられたんは、
 カミやんが『フラグを回収する事が無かった』からやでえ……?それを、それをカミやんはぁあぁぁ!!!」

相変わらず意味のわからないことを言う彼らだが、そんなクラスメート達に悪気はない。

一種の愛情表現の様なもので、
何だかんだ言っても上条は慕われていると言えるのだが、それでも許せないものは許せない。

上条の断末魔と共に、本日のお勤め(学校)は終わりを告げた。


315 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:30:26.239TmIZQtZo (8/18)

・・・

一方通行は荷物をまとめ、病室を後にしようとしている。

以前にオリアナ=トムソンの魔術によって入院を余儀なくされた一方通行は、
本来全治2カ月はあったところをたったの11日で退院することになった。

その背景には能力使用やら学園都市の医学力は世界一など、色々あったのだが、
兎にも角にも退院を許可されたのだ。

とはいえ、主治医のカエル顔をした医師からしたら後もう1週間は入院してほしかったのだが、
一方通行の強い希望によって渋々ながらも退院を許可された。

そんな訳で退院の準備をしているのだが、実際は完全に治った訳ではなく、
強い衝撃を与えられたりしたら傷口が開くから注意するように言われている。

それでも傷が開くことよりも、ここ最近不気味にテレビの中に放り込まれる人が居ない事や、
学園都市で行われている実験が気になって仕方が無い。

退院したらまずはテレビの中の様子を見に行くかァ、
だとか後の予定を組みたてながらスポーツバッグをかつごうとするのだが。

グイッと引っ張られる感覚を受け、一方通行は首をかしげた。

(そンな重てェモン入れてねェンだが)

そんなことを思いながら、一方通行はバッグを見やる。するとそこには、

「何やってンだお前」

「んー?」

「ンーじゃねェよ、降りろクソガキ」


316 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:30:58.239TmIZQtZo (9/18)

「やだー!降りないもん!ってミサカはミサカは拒絶してみたり!
 このバッグの上はミサカに残された最後の領地だ!ってミサカはミサカは断固拒否!!」

「お前なァ……俺が病み上がりだって事理解した上でこンなくだらねェ事やってンのかァ?
 つゥか降りろクソガキ、重てェ」

「な!?うら若き乙女に「重たい」はちょっとひどいんじゃないかな!?
 ってミサカはミサカは猛抗議してみたり!!」

「そォか、そりゃあ悪かったなァ……あー軽い軽い、羽のよォに軽いぜェー」

「じゃあこのままでいいよね!ってミサカはミサカは誘導尋問してみたり!!」

「やっぱ降りろお前!!」

別に能力があるので打ち止めがスポーツバッグの上に腰をかけようと問題は無いのだが、
何と言うかつまり、邪魔なのだ。

歩こうとすると肩に下げたバッグが揺れ、それに伴い打ち止めも揺れる。

その度に打ち止めの頭が一方通行の腕にあたるのだが、
一方通行は打ち止めを気遣い念の為反射を発動させていないので、
その腕に当たるのが非常にわずらわしい。

なら反射してバッグから弾けばいいのではと思うが、そうしないところが一方通行の小さな配慮だった。

結局、打ち止めを降ろすことなく一方通行は病院の出口までたどり着いた。
それとほぼ同時に出入口の自動ドアが開き、白衣を着た女性が入って来る。


317 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:32:08.849TmIZQtZo (10/18)

「全く、退院当日まで病院内で騒いで、他の人たちに迷惑をかけたら駄目でしょう」

「はーい、ってミサカはミサカはボリュームを下げてみたり」

「うるせェ、俺が騒がしいンじゃなくて俺の周りで騒ぐ奴が悪い」

黄泉川愛穂は今現在学校に居るので、
代わりに2人を迎えに来た芳川桔梗が呆れた表情を浮かべて諌める。

打ち止めは素直に言う事を聞くが、一方通行は悪びれた様子も無い。

そんな2人を生温かい目で眺める芳川だが、
実を言うと一方通行入院の凶報を聞いてもお見舞いに来る事は1度たりとも無かった。

理由は恐らく「面倒だから」とかそんな感じで、
芳川の代わりに黄泉川を見舞いに行かせる位なので徹底している。

そんな訳で黄泉川邸に引っ越してから芳川はパソコンのモニターと睨めっこし続けるだけで、
下手するとろくに飯も食べないと言う凄惨たる状況だった為、
黄泉川が「一方通行を迎えに行かないとパソコンをとりあげるじゃん」とか言うので、
渋々病院まで足を運んだと言う訳だ。

兎にも角にも、こうして迎えにやって来た訳なので、芳川のパソコンの平穏は無事守られた。

「はいはい、ここは出入口なんだから、いつまでも遊んでると出入りする人たちの邪魔になるわ。
 そういうのは荷物を片してからにしましょう」

「むっ、ミサカは遊んでなんかいないもん!
 ってミサカはミサカはブランコの要領で前後に揺られてみたり!!」

「お前どォ見ても遊ンでるだろォが!!
 人のバッグをちょっとした遊具代わりにしてンじゃねェよ!!」

打ち止めの言動と行動が見事に正反対さに思わずカッとなって反射を起動させる一方通行。
一方通行はバッグから打ち止めが落ちる様を想像したのだが、そうはならなかった。

「おー!これは新しい遊び方かもしれない!
 ってミサカはミサカは激しく揺れるバッグにしがみついてみたり!」


318 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:33:06.879TmIZQtZo (11/18)


打ち止めはスポーツバッグに腰を降ろし、その肩ひもに手を付けまるでブランコに乗っているような格好なのだが、
反射を行った事により一方通行の右肩に下げているスポーツバッグが反射されて、
アメリカンクラッカーの片方だけの動きを取って来たかのようにスポーツバッグと打ち止めが跳ね続けていた。

思わぬ遊び方を体験したことで打ち止めの喜びは最高潮に達し、
一方通行の苛立ちも最高潮に達したところでスポーツバッグが床に降ろされた。

「あー!折角楽しくなったのにってミサカはミサカは―――」

「うるせェ!俺はレジャー施設じゃねェンだよ、遊びたいなら他当たれ」

「むうう!」

「ほら、いつまでもそんなところに居ないで、移動するわよ」

打ち止めの不満をそのままに、芳川はタクシーを呼びとめそれに乗り込むように2人を促す。
それを聞いた一方通行は再びバッグを肩に下げ、打ち止めはそれに乗りかかろうとするが、

「うわあ離して!ってミサカはミサカはアホ毛を掴んだその手を離すようにお願いしてみたり!!」

一方通行はそれを阻止した上に、打ち止めのアホ毛を掴みそのまま宙にぶら下げた。

「もォしませんって誓うなら無事に降ろしてやっても良いが、まだやるってンなら……」

「やるなら……?」

「このままアホ毛を引きちぎる」

「鬼!悪魔!!真っ白!!」

「お前、今の立ち場分かってねェよォだなァ……
 まず、アホ毛だけで全身を支えられている今の状況、
 これはすなわち俺が能力を使ってやってるから、全体重を支えられてンだよ。
 つまり、お前のアホ毛の命運は俺の気分次第ってことだァ……」

「わ!わ!ごめんなさい!もうしないからってミサカはミサカはアホ毛を守るために謝ってみたり!」

自身の置かれている状況をようやく理解したのか、打ち止めは両手足をじたばたさせながら謝った。

ここまで脅しを利かせればもう大丈夫だろう。
一方通行は打ち止めのアホ毛を掴んだままタクシーへと乗り込もうとする。


319 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:33:40.389TmIZQtZo (12/18)

「わ!離してくれないの!?うそつき!!ってミサカはミサカは一方通行を糾弾してみたり!!」

「バカ野郎、お前は前科一犯だからなァ。再犯防止策だよ」

一方通行は一言告げるとアホ毛から手を離す。

先程まで一方通行に掴まれていた事でピンと上を向いていたアホ毛は、
打ち止めの元気メーターを示しているかのように萎びて行った。

芳川はそんな2人のやり取りを見ながら、クスリと微笑む。
出来れば、こんな日常が末永く続いてほしい。

しかし、それが叶わない事は芳川自身よく理解している。

それでも、1秒でも長く。

そう思う芳川は、ペルソナとマヨナカテレビ、それに学園都市の関わりについて思いを馳せたのだった。


320 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:34:42.649TmIZQtZo (13/18)

・・・

上条当麻が『アドリア海の女王』にてビアージオ=ブゾーニを撃破してから、1日程経過した頃の事である。

バチカン、聖ピエトロ大聖堂。
ローマ正教の総本山と言えるその場所は、ローマ正教徒にとっては何に置いても神聖で不可侵。

そんな見る者全てを圧倒するような芸術性すら帯び静寂に包まれていた大聖堂を、不躾に歩く音で満たしていく。

「あーやだやだ!ブゾーニの野郎がヘマやらかしたせいで私の思惑何て全部ぶち壊しじゃない!!
 しかもミスった張本人は行方不明とか舐めてるでしょ?」

闇に包まれた大聖堂を歩くは、2人の男女。
外から優しく注がれる月明かりでは、その闇を照らすには値せず、彼らの細部までは分からない。
1人は腰の曲がった、老人らしきシルエットで。
もう1人は、若い女性のような、メリハリのあるシャープな体型をしたシルエットだった。

「しかしなあ、いくらお前と言ってもあれは性急過ぎるぞ。
 ……と言うより、いずれにせよビショップ・ビアージオでは成功出来なかったはずだ。
 あれに、想定外の出来事に対処できる程の能力を期待する方が間違っている」

「はっ、誰にモノ言ってんのよ?私がヤレっつったらヤル。
 それが世界の法則で、あんたらはそれにはいかイエスで返答したらいいんだっつーの」

「……貴様こそ、誰に向かってその口を開いているか、分かっているのか?」

老人の言葉に対して、女性の様な声が嘲るように返答すると、老人の威圧感が一気に増す。

その威圧感はまさに『頂点に立つ者』と言って差し支えないもので、
それを受けた相手は自分が是だろうと非だろうと、有無を言わさず頭を下げざるを得ない程、
場の空気はピンと張りつめた。


321 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:35:34.559TmIZQtZo (14/18)

それでも、女性のシルエットは動きを見せず、

「『ローマ教皇』。それがどうしたの?」

ローマ教皇、すなわち20億の信奉者を抱える宗派の中でも、その頂点に立つ人間。

その頂点に対して、女性の声は対等な口調、
いや女性の方が上位に当たるかのような口調で話を続けた。

先程までのローマ教皇によって支配されていた空気が一気に弛緩する。
それほどまでに軽い口調だった。

「ま、何でもいいわ。アンタが『名目上』てっぺんに位置しているのは事実だし。
 そう言う訳でこれにサインして頂戴な」

「……全く、この私に命令形か」

明らかな不遜。
不敬で首を飛ばされてもおかしくは無い態度で女性は1枚の書類を取りだした。

そんな女性の態度に教皇はピクリと反応を示すが、これの態度は今に始まった事では無い。
ポツリと愚痴をこぼした後、書類に目を通す。

「……!待て、これは」

「何よ、アンタだって2年か3年か、そのうちしたらこの書類を用意するつもりだったんでしょ?
 いずれやるなら遅かれ早かれ関係ない。それなら今やればいい、違う?」

「しかし……魔術に深く関わる者ならともかく、彼のもの達は主とするものを知らぬだけ。
 それなら彼らに示してやればいい。真に従うべき主を」

「『ローマ正教に盾突いた』、それだけで十分罪深いことよ。
 『アドリア海の女王』と『法の書』での騒動……表立って動いた馬鹿と裏で動いた阿呆。
 目立とうが目立つまいが、罪は罪。それを裁くか裁かないかは私次第」

「確かに、異教は罪だが、知らぬだけならまだ救いの道はある。
 それを見せないうちにここまでするとなると、私も否定的な意見を出さざるを得ない」

「この私に否定形は無い」

教皇の意見を、一言で断ち切る。


322 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:37:00.329TmIZQtZo (15/18)

「受動、連用、連体、命令、未然、已然、終止、仮定……後何だっけ?まあこんなもんか。
 兎に角、私は否定だけは認めない。私がやれっていったらやる。
 それはそこらを歩いてるガキだろうと、ローマ教皇だろうと『神の子』だろうと等しく同じ。
 だからアンタはこの書類にサインをするの。分かった?」

教皇は僅かながら苦々しげな表情を浮かべながらも、首を縦に振った。
女性はそれを見て満足そうにうなずく。

「よろしい」

それだけ言うと、女性の影は闇に消えた。
本当に姿を消したのか、はたまたそのように見せかけたのかはわからない。
というより教皇はそんなことを考えはしなかった。その代わりに、書類へと目を落とす。

やはりといえばやはりだが、その内容は最初に読んだ通りのものだった。

(……あやつは性急すぎるきらいがある)

老人は忌々しげな表情を浮かべると、書類にサインをすべく自身の居室に戻ることにする。
この場にペンは無い。そして、書類にはこのように記載されていた。

それを日本語に訳すると、
『上条当麻及び学園都市第一位『一方通行』。
 上記の者達を速やかに調査し、主の敵と認められし時は確実に殺害せよ』
というもの。

前者はローマ正教の司教を撃破し、後者は『法の書』の騒動において裏で糸を引いていたと思われる人間と似た容姿をしている。
後者に関しては正しい情報かはわからないが、所詮は科学の徒でローマ正教の敵。
いつ処分に動いても同じなのだから、今処分してしまえという考えだろうか。

なんにせよ、実質的にはローマ正教が総力を挙げ、
たとえ『神の右席』を使おうとも、確実に暗殺するようにするための申請書だった。

これが意味する事は、1つ。

『神の右席』が1人、『前方のヴェント』……先の女性が動く、と言う事だ。

その書類を読み終える頃には自身の居室までたどり着いており、
ローマ教皇はキリキリと痛む胃を抑えるように腹を抱えながら、
書類にサインするべくペンを走らせるのだった。


323 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:41:17.499TmIZQtZo (16/18)

・・・

木原数多は研究者だ。
暗部として『猟犬部隊』を動かし、人様には言えないような事も行ってはいるが、
基本的には様々な研究を行っている。

といってもその研究も主に人様に言えないものなので根っからの暗部気質というか、
つまりはそう言う人間なのだが。

そう言う訳で、彼が研究所に出入りすると言う事は当たり前の事で、
今日もいつものようにとある研究所に顔を出していた。

目的は、ある人物の顔を見る為。

その人物は女性で、ひょっとして……
とか思うかもしれないが、別にそういった関係ではなく、飽くまでも研究を行う為の『協力者』だ。

とはいえ、木原数多が行う研究は非道を極める者なので、
それに加担するものは木原と同様狂っているか、それか木原に「脅されて」いるかのいずれかに当たる。

「おーっす木山ちゃん。元気にしてっかー?」

木山春生。
木原は彼女の顔を拝みにやってきていたのだが、彼女は勿論後者の人間である。

木山は、木原の顔を見るなり仇敵を見るかのように恨みを込めた視線を飛ばすが、
当の木原は何も感じてはいないようで、

「その様子なら元気そぉだな。安心安心。飯はちゃんと食えよ?
 『人質』ってのは無事だからその価値を発揮するもんでね」

木原は愉快そうに語るが、木山にはそれらは一つも聞こえておらず、ただただ木原を睨みつける。

「……あの子らは本当に無事なんだろうな……?」

木山はギリッと歯ぎしりをさせ、爪が自身の手に食い込み、そこから血がにじむ程思い切り握りしめた。
その様子を見て更に楽しそうに笑った木原は、

「あーんしんしろって。あのガキ共の中から『適正』の高い奴6人選んでんだから、一番安全だろうよ。
 あいつらも必死こいて働いてるぜ?あんたと、残ったガキ共の日常を守る為になあ。
 いや、ホントに泣ける話だわ」


324 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:42:13.509TmIZQtZo (17/18)

ニヤニヤと笑いながらも、涙をすするかのような動きを見せ、木山を煽る。

その動きを見てキッと木原を睨みつけるが、
やはり無駄なあがきにしか見えていないようで、木原はただただ嘲るような表情を浮かべていた。

「ま、少なくともあんたはここで余計な事せずコーヒーでもすすってくれりゃいいんだよ。
 そしたら最低限研究に関わってねえ6人以外のガキ共は何も考えず、
 何も知らずにいつも通り学校言っていつも通りダチと遊んでって言う日常を謳歌できるだろうぜ?」

「貴様は!!どうしてそんな風に子供達を研究材料に出来る!?」

「……はっ!それをお前が言うかよ!
 『樹形図の設計者』の代わりにこの街のガキ共1万程使って実験してた癖によォ!!」

「ッ……!それは……子供達の為に……」

「ガキ共の為なら1万人を使っても良いってかあ!?
 いや、大は小を兼ねるって言うけどよ、小が大を越えるってのは初めて聞くぜ実際!
 助けられたガキ共も重すぎるだろ、「1万人と引き換えに助けられました」ってよお!」

ある意味、その方法で助けられなくて良かっただろ!
と呵々大笑する木原に、木山は何も言い返せなかった。

そうして、ひとしきり笑ったところで、木原は木山に言う。

「ま、さっきも言ったけどよ。俺ァお前に何もしないと言う事をしていてもらいてえんだわ。
 刑事ドラマとかでよく見るだろ?『余計な事をしたら殺す』って。
 とどのつまり、そーいうことだから。じゃあなー」

ひらひらと手を振りながら研究所の一室から去る木原に対して、
木山はただその後ろ姿を眺めるだけで何もできなかった。



9月のある日、ある時の出来事だった。


325 ◆DAbxBtgEsc2011/08/16(火) 09:43:06.069TmIZQtZo (18/18)

終わり。これ書いた後に思ったんだけど、木山先生の教え子って何人だ?十数人くらいいるだろって予想の元書いたんだけど、まあ十数人いるって事で頼む。


326VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/16(火) 19:45:39.23DLpgQQj+0 (1/1)

>>325乙
木山先生=並列処理なのである。


327VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/16(火) 23:52:20.070q3QD68h0 (1/1)

少しの間楽しみが無くなってしまうな…


328VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/17(水) 23:59:39.120TtEKXEHo (1/1)

毎回毎回面白いな
乙っす!


329VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)2011/08/18(木) 12:56:45.34LpUIpxOAO (1/1)

大覇星祭が終わったのに。私が。居ない。どこにも。


330VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)2011/08/19(金) 15:52:02.44DMaW8cVV0 (1/1)

アニメじゃ10人だったな


331 ◆DAbxBtgEsc2011/08/20(土) 13:52:22.77R04OIQTAO (1/1)

独り暮らしに戻る最中です。
休みの間に今後の展開を妄想してましたが、一文字たりとも文字に起こしておりませんので今日の投下はあやしーさーです。
でもあしたから通常運行で頑張るわ


332VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/20(土) 17:31:10.57nETX0zVf0 (1/1)

超ガンバレールガン


333VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/20(土) 18:05:34.286lzq9Y7IO (1/1)

せっかくの夏休みのんびりするといいさ
待ってるよ


334VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/21(日) 15:54:45.87rbAnt/qb0 (1/1)

>>329
…?
いないとおかしい人なんていたっけ?


335 ◆DAbxBtgEsc2011/08/21(日) 16:19:43.06SBeSs2W4o (1/12)

どうもです今から透過です。ちょっと久しぶりなのであらすじをば。




直進するっ…!!


聞こえるか……!?GPSにっ……何も映らねぇ……!!
クソッ……なんも聞こえねぇ……!!危機っ……圧倒的危機……!
GPSが無いと……俺は運転も出来ねぇのかよっ……!
帰ってこれるのかこれでっ……!?


中村、焦燥!!GPSの機械トラブルに、疲労がたまりつつある足に!!中村、冷静さを失う!!(ナレーション:立木)


対岸は見える……!だがこれじゃだめなんだろ……!?
へへっ……!悪いな……ヘボパイロットで……!!
だがっ……!エンジンだけは一流のところ、見せてやるぜ……!!
フルパワーだぜ……!信じらんねえ……!!
俺の人生は晴れときどき大荒れ……!いいっ……イイ人生だっ……!
風をっ…風を拾うんだ…!!押されてる……わかってるけど……!!


その時、中村の体に異変が生じる!!


左足がっ……攣ってる……!!?うぅぅ……ああ……あああああ……あああああ……!!!!!ボ゙ロ…ボロ…
があぁ……!左足……!!俺の左足がっ……!!


限界!!片足だけで廻すのは、最早限界だった!!
中村の右も、限界が近いっ! 


ああっ……痛いっ……!!ぅああ……あああ……!!!
東北大学だろ……ウインドノーツだろっ……!!!!
回れっ……!!回らんかっ……!!!!!
動けっ……!動けっ……!


叫ぶ、中村!魂の叫び!!


桂っ……!!今、何キロっ……!?ドボォ…ドボォ…


336ごめンなンでもない ◆DAbxBtgEsc2011/08/21(日) 16:21:28.61SBeSs2W4o (2/12)

最近春上さんの様子がおかしい。

初春飾利が最近付き合いの悪いルームメイト兼クラスメイトな春上衿衣に対して、
小さな違和感を覚えたのは始業式を終えた後、アメリカへ社会見学から帰ってきてすぐの事である。

放課後になるとたまにどこかへと直行しているようなので、
その事について何となく聞いたら、研究所に用事があると言われた。

一緒に着いて行っても良いか春上に尋ねたところ、「『実験』に直接関した関係者以外は駄目なの」と言われ、
「あの実験の後遺症か何か調べるのかな」と納得したので、
その時は素直に引きさがったのだが、それにしても研究所へ行く頻度が高い。

更に言えば最近春上の表情が浮かないもので、日を追うごとに疲れが蓄積されているように感じられた上、
ジャッジメントで部屋に帰るのが遅くなることがしばしばある初春よりも、春上の帰宅が遅くなる日もあった。

極めつけは、先日行われた大覇星祭だ。

初春自身はジャッジメントの仕事に駆り出されていたのだが、
その際競技場で会った友人の佐天涙子によると、顔を見せはしたが途中から抜け出しているらしい。

しかしそれは春上の独断によるものではなく、
きちんと手続きを踏み許可を得ての事だそうで、周りの生徒達も特に不振がる事も無く。

結局、初春は大覇星祭における警備で第177支部に缶詰状態だった為、
ろくに春上、佐天や他のクラスメイトと会う事が出来なかった為に、
春上に対する違和感やら不信感を抱く事になったのが一般客も減りにあわせて少し仕事が減った大覇星祭最終日の事だった。

初春は春上に対して不安を抱くが、
彼女が時たま見せる憂いを帯びた顔、どこか諦めにも似た何かを押し込めたかのような表情に言葉を失う。

とはいえ、それを感じたのは四六時中春上の事を観察してようやく感じた違和感で、
他の人間にそれを感じさせない事が初春にとっての違和感を増したのだが。

更に言えば、部屋で顔を合わせても普段通りなのなの言って気丈に振舞っているように感じられた為に、
その現状を崩すことを、彼女の表情を更に悪くする事を躊躇われ、何も聞くことが出来ずにいた、と言う訳である。


337 ◆DAbxBtgEsc2011/08/21(日) 16:22:30.24SBeSs2W4o (3/12)

そして本日、九月三十日。

(春上さんは今日も早々に帰ってしまいました……)

初春飾利は決めた。

(木山さんに、直接話を聞きに行きます!)


―――直接、『幻想御手』及び『暴走能力の法則解析用誘爆実験』に関わっていた木山春生に、直接話を聞きに行く。


……そのように決意を固めたのに。

「うーいーはーるぅー!!」

「にゃああああ!!?」

出鼻をスカートめくりにて挫かれた。
男子の目もあるこの学内にて堂々とジャッジメントたる初春のスカートをめくると言う行為。
明らかなセクハラで、ジャッジメントとして動いてもおかしくは無いのだが。

「何するんですか佐天さん!!?」

「いやあ、初春がずーっと考え事ばっかしてて構ってくれないからさあ……
 それにしても、今日は水色のストライプかあ」

スカートめくりをした張本人、それはクラスメイトの佐天涙子。
彼女は初春の友人であり、女子でもある為セクハラとして捕まえる訳にもいかない。

とはいえ、衆目を集めるような雄叫びと同時にスカートめくり。
初春は佐天への抗議をしながら、めくられたスカートを元に戻す。

周りの生徒達も最早見慣れた光景らしく、
女子は初春と佐天の2人をチラッと見て、男子は初春の下半身を凝視し、視線を逸らして行った。

いつもの学校での、いつもの日常。

その中に、初春の友達が1人、足りない。

この事実が初春の心を締め付け、決意をさらに固めることとなる。

「佐天さん、話があります」

「何々?どーしたのそんな改まって?」

初春の表情が急激に真剣なものに変化し、それを察した佐天も軽い口調ではあるが表情を硬くした。
そして、初春は語る。ここ最近感じていた違和感について。


338 ◆DAbxBtgEsc2011/08/21(日) 16:23:38.82SBeSs2W4o (4/12)

・・・

「……あァ?そりゃ別に構わねェが……」

「じゃ、そう言う事だから、行くわよ打ち止め。
後でパフェでも食べに行きましょう」

「え?いいの!?わーい!行く行く!
 ってミサカはミサカはホイホイと着いて行ってみたり!」

一方通行は芳川桔梗の提案に訝しげにしながらもそれを受け入れた。

何やら打ち止めをしばし借りたいらしいのだが、
確かにその提案は一方通行にとってもありがたいものである。

何せこの後テレビを置いているボロアパートに行きたかったのだが、
打ち止めをどのようにして離れさせるか考えていたのだから。

今月に入ってから余りテレビの中には行っていなかったのだが、これからはその問題も付きまとうだろう。

その問題とは、テレビに入る際、打ち止めに悟られないようにすること。

黄泉川愛穂は教師やアンチスキルとしての業務もあるので余り気にしなくていいが、
打ち止めはそう言う訳にはいかない。

何せテレビの中に行っている間に打ち止めに何かあっては困るのだから、
事情を知っている人間がそれと無く一緒に居なければならない。

今日は芳川に任せれば良いが、これからはその事に関しても考える事にしよう。
一方通行はぼんやりとそんなことを思いながら、2人と別れ、テレビを安置しているボロアパートへと向かった。




……はずだったのだが。


339 ◆DAbxBtgEsc2011/08/21(日) 16:24:27.05SBeSs2W4o (5/12)




「すみません、先生の部屋少しだけ汚れちゃってて……
 適当に空いてるとこに座ってください、お茶入れますから!」


「……」


「お茶っぱお茶っぱ……お菓子お菓子……ってひゃああああ!!
 ご、ごきごごごきbひゃああああ!!」


「……」


「親子連れですー!!?おかえりくださーい!!」


「……」


「はぁ、はぁ……すみません、お菓子はなさそうなのでお茶しか出せません……」


「……イエ、オキヅカイナク」


一体何が起きたのか?
それはテレビを置いているボロアパートに起因する。


340 ◆DAbxBtgEsc2011/08/21(日) 16:25:53.18SBeSs2W4o (6/12)


時は少し遡り、目的のアパートに辿り着いた頃まで戻る。

「あ!あの時の白髪ちゃん!」

「あァ?」

一方通行の借りた部屋は二階にあるので、階段を上らねばならない。

と言う事で一方通行がアパートの二階へと向かうべく、
階段に足を乗せた所で背後から声がかかった。

「まさかわざわざ先生の居場所調べてまでお礼に来てくれたのです!?」

「……はァ?」

何やらいつぞやのピンク髪の自称教師が目を潤ませながら声をかけてきた。
どうやら、自室が一方通行の借りたアパートにあるらしい。

確かに、一方通行目の前で感極まっているピンク髪は、何度かお見舞いに顔を見せに来ては居たが、
結局互いに知っている事は自称教師であることと、一方通行の名乗った偽名位だろうか。

互いに細かなプロフィールを知らないまま退院を迎えた為、
もう会う事は無いだろうと思っていた矢先にこれだ。

彼女の勘違いも仕方が無い……だろうか?

とはいえ一方通行からしたら別にそんなつもりも無いので思わず尋ね返すのだが、
ピンク髪の自称教師こと月詠小萌は何も語る必要はないと言わんばかりに掌を前につきだして、

「大丈夫です!みなまで言わずとも、わかります!」

「……どォでもいいけど、自称教師がこンなとこで油売ってンなよ」

「違います!今日は短縮授業なので、だから普段のこの時間は授業中ですよ!」

「……ふゥン」

「……その目は信じていない目ですね!?
 この後もお仕事はあるんですが、
 お弁当を部屋に置きっぱなしだったからこうして取りに帰って来たのです!」

「そォか、お勤め御苦労さン」


341 ◆DAbxBtgEsc2011/08/21(日) 16:27:19.41SBeSs2W4o (7/12)

じゃ、これで。と言った感じで一方通行はその場を後にしようとするのだが、

「ではでは、汚いところですが少しだけくつろいでってください」

「えっ」

いや、そんなつもりでここにいるわけじゃないのですが。

一方通行はどこまでもすれ違う思惑に頭を抱えつつ、
なし崩し的に部屋へと案内された、と言う訳だ。

ちなみに、一方通行の借りた部屋とお隣さんだったのは余談である。

そして時は現在。

「……どうですか?」

小萌先生はちらちらと差しだした湯呑とそれに手をつける一方通行を見やっていた。
それに構わず一方通行はグイッと緑茶をあおると、

「……まァ、うめェよ」

それを聞いた小萌先生の表情は花を咲かせるように明るくなり、
気を良くしたのか更にお茶を淹れようとした。

一方通行は天井のシミをボケーッと眺めつつ、どうしてこうなったか反芻している。
すると、小萌先生が急須を持ちあげた所でガチャリと玄関が開いた。

「あ!結標ちゃん、おかえりなさい!」

「あら?どうしてこんな時間に……ってあなたっ……!!」

当たり前のように入って来た、と言う事は小萌先生と同居している事だろう。
一方通行は結標ちゃん、と呼ばれた女性を見やりながらどうでもよさげに考えた。

対して、その女性の顔は驚愕の一色に染められている。
恐らく、『一方通行』というネームバリューを知っている者、と言う事だ。
それは総じて暗部に通じている、と言っても差し支えない。

とはいえここは月詠小萌の部屋である。
別に事を起こすつもりはないし、させるつもりもない。
そんな視線を結標に送ると、それを察したのか口をつぐんだ。


342 ◆DAbxBtgEsc2011/08/21(日) 16:29:04.50SBeSs2W4o (8/12)

結標淡希。
冬服のミニスカートに金属製のベルトを付け、
桃色の布で胸を隠しただけの上半身にブレザーを引っかけている。

見た所霧ヶ丘女学院の制服だ。
確かにそのレベルの学校ならば暗部に関わる生徒も居て然るべきだろう。
余りに斬新過ぎる着こなしをする彼女に対して、一方通行は不信感を露わにするものの。

どういう経緯でこの場に居るのかは知らないが、不干渉を貫く。
互いに視線を交わらせながら同様の内容を頭に思い浮かべた。

「あれ?結標ちゃんは白髪ちゃんと知り合いなのですか?」

そう言えば、基本的に『○○ちゃん』は名字が来るのだが、一方通行の時だけ『白髪ちゃん』と呼ぶ。

名前の知らない相手ならまだしも、一応「鈴科」と名乗ったのだが、
彼女から『鈴科ちゃん』と呼ばれた事は一度も無い。

(まァ、どォでもいいことだが)

一方通行は思考を切り替えつつも、
結標が帰って来た事は丁度良い区切りになると判断し、腰を上げた。

「あれ?もう帰っちゃうのですか?」

「あァ、この後用事があるンでなァ。茶ァごっそさン」

「そうですか……よかったらいつでも来るのですよ!先生次は茶菓子も用意してますから!」

「……そォかい、楽しみに待ってる」

ポツリと小さく、呟く。

「はい!」

小萌先生はそれに笑顔で応え、それと同時にスタスタと玄関へと向かって行く。
その際最後に結標に対して少しだけ視線を這わすと、すぐに前を振り向きそのまま出て行った。

直後、隣の住人(小萌先生は勿論結標も見た事が無い)が帰って来たのか、ガチャリと扉が開かれる音がした。


343 ◆DAbxBtgEsc2011/08/21(日) 16:30:43.61SBeSs2W4o (9/12)

「丁度隣の人も帰って来たみたいです。
白髪ちゃんに今度会った時、お隣さんがどんな人なのか教えてもらわないといけませんねー」

「……まだお隣さんのこと、諦めてなかったのね」

そう。「お隣さん」と言う事でたまに訪問するのだが、いつも居ないのだ。

明らかに今は居る。

ならば今から尋ねればいいはずなのだが、
こういったケースで訪問しても居留守をしているのか知らないが、居ない。

居留守をしているんじゃないかと、結標の能力である『座標移動(ムーブポイント)』にて小萌先生特製の肉じゃがを鍋ごと(手紙付きで)送ってみた。

一応部屋の内装は小萌先生の部屋と左右対称なので、
玄関から1m先の5cm程宙に浮かせる形で送ったので何かに埋め込まれる、と言う事は無い。

一応、明らかに玄関からは人の気配が無い時にそれを行ったので、
誰かの体に肉じゃがが……と言う事もない……はず。

次の日に玄関の前に空の鍋があったのでやはり住人は居るのだろうが、どうにも会いたがらない。

何か事情があるのだろうとは思うものの、ここまで徹底されると非常に気になるが、
やはり事情を抱えた人間に無理矢理それを聞くと言うのは良くない。

そんな考えも相まって結局お隣さんの事は放置すると言う方向で考えがまとまったのだが、
あのタイミングなら確実に一方通行はお隣さんの顔を見たはずだ。

こうなると気になると言う気持ちが再燃して来る。

「どんな人なんですかねー。今度は鯖の煮付けでも作りましょうか」

「……今度はあんな博打みたいな真似したくないからね」

「分かってます!今度は堂々と、玄関からですねー」

のほほんと話す小萌先生を見やりながら、結標は考える。
何故、一方通行がここに。

と言うかさっきの扉の音、下手したら一方通行自身の可能性だってある。

(まあ、こんなセキュリティもへったくれも無い場所に隠れ家なんてありえないだろうけど)

馬鹿みたい、と斬って捨てた考えが正解だとは結標も思わなかっただろう。

小萌先生に学校はどうしたと突っ込みを入れながら、
一方通行との邂逅を記憶の奥底に封印するのだった。


344 ◆DAbxBtgEsc2011/08/21(日) 16:31:43.40SBeSs2W4o (10/12)

・・・

部屋選びに失敗した、と後悔を露わにしながら部屋の中に入った。

するとそこには呑気にも見舞いの品で食べきれなかったもの、
生ものは優先的に消化していたのでお菓子等、を黙々と食べる布束砥信とクマ、それに9982号の姿が。

確かに壁が薄いので大声で話すと会話が筒抜けになる。
とはいえ無言になるほど意識する必要もないというのに。

「……辛気くせェ顔して何してンだよ」

狭い部屋の中、3人の男女が言葉も無くただただマドレーヌを食べ続ける。
何と言うか、シュールを通りすぎて軽くホラーだ。思わず突っ込みを入れさせられる程度には。

「いやさ、お見舞いの品をもらいうけたは良いのですが……多すぎです。
 と、ミサカは辟易した表情を浮かべながら部屋に詰まれた日本各地の銘菓を眺めます」

見舞いの品。
食べきれなかった分、とあたかも余り物のように表現したが、食べきれなかった分の方が多いのだ。

量にして食べた分:食べきれなかった分=1:9。
単純に9倍の量が残されている、というわけだ。


何故そんな量の物が残されたのか?


その原因は、久慈川りせと桐条美鶴。


345 ◆DAbxBtgEsc2011/08/21(日) 16:35:03.06SBeSs2W4o (11/12)

彼女らは嫌がらせのごとく―前者は本当に嫌がらせ、
後者は天然の好意による行為だろうと一方通行は予測している―見舞いの品々を送りつけてきたのだ。

久慈川にしても美鶴にしても、病院に直接来た時は軽く果物一式を持ってきた程度だった。

後日郵送で大量に送ってきて、誰に文句を言えばいいのか分からなくなった一方通行なのだが、
わざわざ返送する訳にも行かずそのまま受け取ったわけだが、当然ながら食べきれない。

誰かにあげれば良いのでは、と思うだろうが、
まずクマは論外として、布束は足がつくようなまねはできないし、9982号もそこまで人脈は広くない。

駒場利徳や上条当麻、御坂美琴に黄泉川愛穂らにもあげて行ったのだが、それでも余りまくっている。

ここで最終兵器・インデックスの名が挙げられるだろうが、
驚いた事に、何か心境の変化があったのだろう。

他の面々がもらった量と同じ分しか受け取らなかった。

ところで、そのインデックスなのだが、驚くべき事に今現在バイトをしている。

家事スキルと同時にお金も稼げる、と言う事で勤務地はいつものファミレスだ。

そこで店員とインデックスが繰り広げるどたばたファミレスコメディがおよそ30万字にわたって書きあげたのだが、この話は別の機会にするとしよう(虚言)。

兎にも角にも、余った見舞い品はこのボロアパートに集結したのだった。

「well、捨てると言う選択肢もなんだかもったいないし……」

「捨てる位なら胃袋に納めてやるクマよ!!もったいないおばけが出るクマ!」

「……そォだ、良い事思いついた。お前お隣さんと関わりとか持ってるかァ?」

「肉じゃがもらったクマよ。とっても美味しかったクマ!でも顔は見てないけどクマ……
 お礼をしたいところだけど、変に動いてめーわくはかけたくないクマ……」

「そォだな、顔をあわせねェのなら、変に首を突っ込まれる事もねェだろ」

チラリと箱の山を見ながら一方通行はクマの言葉に返答した。
それを聞いたところで、9982号と布束も理解する。

「それはまた……anyhow、ある意味恩をあだで返すような……」

「大丈夫です、飽くまで『善意』ですから。
 と、ミサカは黙々と未開封の菓子を段ボールに詰めて行きます」


翌日、月詠小萌宅には明らかに食べきれないだろう量の銘菓が敷き詰められた段ボールが3箱程詰まれていた。


346 ◆DAbxBtgEsc2011/08/21(日) 16:37:15.71SBeSs2W4o (12/12)

疲れたー。
日常ってあんまり人出し過ぎると訳わかんなくなるから困る。
いや、戦闘でも同じだけど。


いつになったら戦闘になる事やら。徐々に非日常パートに移行して行くと思う


347VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/21(日) 16:39:50.878Mwe8CPG0 (1/2)

>>1乙

インデックスいい子すぎて泣いた


348VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/21(日) 16:45:20.068Mwe8CPG0 (2/2)

インデックスがいい子すぎて泣いた

家事ができるようになって上条さんと一緒に料理を作っているのを想像して2828した


349VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/21(日) 16:52:40.72YyXWp4LGo (1/1)

インデックスinファミレス@バイトではいったいどんなドタバタコメディがあったんだww
上条さんが泣いて喜ぶ姿が目に浮かぶぜぇ……

しかし菓子をダンボール3箱は嫌がらせだ絶対ww
まぁ学校に持ってけば消費早くなる……か?


350VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/21(日) 18:11:26.95MnIb8FQb0 (1/1)

>>346乙
日常パ-ト好物。
インデックスとセロリがバイトすれば
ダブルホワイトだな。


351 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:37:16.44s41Jc9Bko (1/15)

※一方さんも上条さんも出ません


352 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:38:20.87s41Jc9Bko (2/15)

学園都市。

東京西部の山岳地帯を切り開いて作られた街で、
面積は東京都のおよそ1/3にあたる広さを持ち、その周囲は高い外壁で覆われている。

人口は230万人でそのうちの約8割が学生と言う、
学園都市の名に恥じない人口比率である。

あらゆる分野で科学技術を応用した研究を続け、
世界の中でも1位2位を争う程学問に力を入れているのだが、
この街にはもう一つの側面がある。

それは超能力育成機関であり、
この学園都市にある学校に入学したいと言う子供達にとっては
そちらの方面の方が有名だろう。

そうして学生を対象にして超能力を開発していくのだが、
その価値や強度、応用性や商業性によって6段階、レベル0~レベル5に分類されて行き、
そのレベルが高くなる程に希少性も高くなり、レベル5とまでなるとこの学園都市には現在7人しかいない。

人工230万人のうち8割が学生でそのうちの7人なのだから、希少性も一目瞭然だろう。

そんな中で、浜面仕上は無能力者(レベル0)である。

厳密に言えば『目に見えないレベルで何らかの変化をもたらしている状態』にあるのだが、
目に見えないのなら意味が無い。

浜面自身、学校などとうの昔に止めてしまっているので『○○系能力者』と書類に書いてあった気がする、
と言う程度のものでどんな能力者なのか忘れたまま今日までを過ごしてきた。


353 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:39:18.29s41Jc9Bko (3/15)

学生のうち6割がこれにあたるので、別に恥じるような事でも無いのだが、
やはり明確な『差』があるためか、時には無能力者の人間は落ちこぼれと揶揄されることもある。

酷い時には生徒を導くべき教師にすら馬鹿にされるようなこともあり、
そのような環境にいつまでも身を置いておけるような人間は少ないだろう。

そうして能力開発に絶望して学校を止めて行った者達の集団の事を『スキルアウト』と呼び、
先述した通り基本的にはグレて学校を止めて行っているなので、中々の荒くれ者の集団である。

浜面もまたスキルアウトの1人で、駒場利徳をリーダーとしているグループに属している。

駒場自身は女子供などの弱きものを虐げることを嫌っているからか、
このスキルアウトのグループは比較的優しい部類にあたるだろう。

それでもATM荒し等の窃盗行為でお縄にかかることもしばしばあるのだが。

そんな駒場の思想を受けて、浜面自身も弱い者いじめ等をする事は無い。

かといって上条当麻のように不良に絡まれているのを片っ端から助けるような熱血漢でもないのだが、
ある日、状況が違う現場に遭遇してしまった。

目の前にはお姉さん系からロリ系まで網羅した4人組がナンパされているのだが、
非常に嫌そうな顔をしており、ナンパをする側は明らかに不良っぽい感じの2人組で、しぶとく喰い下がっている。

人数としては4対2なのだが、女の子達が無能力者ならはっきり言って危ない。

普段ならスルーするところなのだが、相手は2人で何とかなりそうだし、
何だかボーっとしているジャージの娘など浜面的にはかなりストライクであった為に、
助太刀として助けようと動いたのだが。


354 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:40:40.49s41Jc9Bko (4/15)

時は九月三十日。

「はぁまづらぁあぁぁぁ!!!!テメェドリンクバーごときに時間かけ過ぎだろーがああ!!」

ファミレスに響き渡る少女の声に、浜面は複数のグラスを持ったままビクッ!と肩を震わせ、
またある所ではそれに吃驚した店員と思しき長い銀髪の少女は片付けられる皿を床にぶちまけた。

(畜生ォォォ!!どうしてこうなった!?どうしてこうなった!?)

邪な心を持って人助けに及んだ結果が、これだ。

情けは人の為ならず、という言葉がある。

この言葉の意味は
「情けをかけ、恩を売っておけばいつか巡り巡って自分に帰って来るから人には親切にしておけ」
と言うものだが、まさに真逆の結果になってしまっている。

更に、そのナンパをしていた不良、確か横須賀とか言う男なのだが、
街中で会うたびにやたらと絡まれるようになってしまい、まさに泣きっ面に蜂状態。

この事から情けなどかけぬと心に誓った浜面なのだが、
助けた女の子4人組は高レベルの能力者だったらしく、
浜面の打算が入り混じった親切心は無駄も無駄だった。

華麗に助けに入って白馬の王子様計画は根本的に誤りで、女の子達は待っているだけのお姫様等ではなく。

普段の2割増し程イラついた口調なのは、
このファミレスに立ち寄る前に買おうとしていたシャケ弁が売り切れだったからだろうか、
今現在怒声を上げながらドリンクを催促した少女の名は、麦野静利。

とある暗部組織のリーダーを務めており、それに伴って実力も折り紙つき(レベル5)なものである。

浜面はそんな超能力者の前にのこのこと現れ、
眼に付けられてしまった為に暇さえあればこうしてパシリとして駆り出されているのだ。

そして、そのテーブルには他にも少女が3人。


355 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:42:22.32s41Jc9Bko (5/15)

1人は絹旗最愛と言う名で、
座席の上で体育座りをしながら映画のパンフレットを流し読みしている。

その内容はB級もB級で、物凄い残念そうな顔をしているが
それはB級な事で残念な顔をしているのではなく、
更にその下があるにも関わらずB級と言う中途半端な出来に残念がっていて、
絹旗の本来の趣味はC級映画なのである。

続いてその隣でサバ缶をつついているのがフレンダ=セイヴェルン。

浜面とフレンダが自己紹介した際フレンダはファミリーネームは名乗らなかったのだが、
「なんかフレメアに似てんな」と言う発言に過剰反応した結果、実は姉妹である事が発覚。
後に感動(?)の再開を果たしたのだが、それはさておき。

最後に何処か虚空を見つめ、何を考えているのかはたまた何も考えていないのか、
表情から読み取れないその可愛い少女は滝壺理后。

どこか一点をジッと見つめ、その目に揺らぎは全く見られない。

何秒その状態が続くのか数えてみたいところだが、
こちらが根負けしそうな程にボーっとしていた。

「結局、浜面ごときに何か期待する事自体無駄ってわけよ。
 見てよ麦野、このぬるっぬるのジュース。罰ゲームを提案したくなる位ぬるぬるだよ」

「そうね、ホントに使えないわね浜面は。満足にジュースの一つも入れられねえのかっての。
 これなら初めてのおつかいに出たガキの方がまだいい仕事してんぞ」

「確かに、ミジンコ以下の仕事量しか出来ない超浜面です。
 ですが私らの為に超奉仕活動をさせて下さいって言ってきてるのですから、
 シェンムーの続編程度には期待してもいいんじゃないですか?」


356 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:45:35.39s41Jc9Bko (6/15)

フルボッコだった。
余りの言われよう(と言うかパシリは浜面の願望ではなく、強制されたもの)に浜面は何も言えなくなった。

何となく目のやり場に困って、唯一何も言ってこない優しき少女の方を見やる。

「あーあ、優しいのは滝壺だけかあ。
 文句あるなら自分で取ってきてくれよな、つーか何で俺ここに居るの?」

味方がいない、まさに四面楚歌の中で見た希望の星、何も文句を言わない優しい滝壺。
そんな滝壺に助け船を求めるべくパシリにされていることへの嘆きを呟くのだが、

「……ぐー、ぐー……」

「寝てる!?と言う事は俺の味方確定ではないのか!?」

味方か敵かと問われたら、中立だった。
浜面のぬるジュースを見ていない為どのようなリアクションを取るのかは、不明。

すなわち滝壺が起きるまでは、敵しかいない状況で、とどのつまり圧倒的危機だった。

「きっと滝壺さんも目を覚ましたらこのぬるい飲み物達を見て、
 「流石の私も超応援できない」って言うに違いないです」

「いいやそんなことはない!!滝壺だけは俺の味方で居てくれるはず!
 じゃないと不公平だ!ただでさえ男1人で肩身狭いというのに!」

絹旗が浜面を絶望の淵に追いやるべく悪魔の囁き攻撃をするが、
浜面はそれに負けじと反論する。と言うかただの希望的観測だった。

「逆だと思う。結局、中途半端に浜面の味方なんてしたら、
 勘違いして付け上がるに違いない訳よ!」

「その幻想は初対面の時にぶち殺されてるので是非とも安心してほしいものだぜ」

「いや、ジュースもまともに運べねえ浜面だ。
 きっと学習能力ゼロで滝壺と2人きりになったら、
 滝壺がどんな目に会うか分かったもんじゃないって」


357 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:47:13.13s41Jc9Bko (7/15)

フレンダはサバ缶を食べ終わると、手持無沙汰になったのか何とは無しにメニューを広げていた。

するとメニューの最初に、
「本日九月三十日から1週間は、魚フェアー!」
と言う見出しと共に様々な魚をメインにした品ぞろえが描かれている。

それを見たフレンダはいじける浜面をいじることを止め麦野にそれを見せながら、

「麦野!これ見てよ!鮭のムニエルが美味しそうって訳よ!」

それを見た麦野は先程までの鬼がマジギレ5秒前の様な表情から、
一気に可愛らしい少女が可愛い人形でも見つけたかのような表情に変貌を遂げた。

麦野は何も言わずフレンダに対しサムズアップしながら、
もう片方の手で店員呼び出しボタンを押す。

すると、先程麦野の叫びに吃驚した店員がムスッとしながらやって来た。

「……やっとドリンクバー以外に注文する気になったのかな?」

店員の文句は最もなもので、
彼女らはドリンクバーだけでワイワイと騒ぎながら持ちこんだ食べ物を食べていたのだ。

ドリンクバーのみ、と言う注文は良くあるのだが、更に食べ物を持ち込む人間はそうはいない。

更には先程の麦野の声のせいで皿を割ってしまったのだから、
彼女達に良い思いを抱くと言うのは無理だろう。

とはいえ、それをあからさまに不機嫌な口調で客に対して表すと言うのは、店員としてどうなのか。

「あー、ごめんなインデックス。こいつらホントに我が強い奴らでさ、俺じゃあ止める事はできねーらしい」

「大丈夫だよ、しあげ。私も最初から期待していなかったから」


358 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:48:44.33s41Jc9Bko (8/15)

バッサリと斬られた浜面はその場に崩れ落ちた。

それを見た麦野は笑いながら鮭のムニエルを注文して、告げる。

「私らよりも付き合いの長いインデックスにすら見捨てられたら、終わりね」

実を言うと最近アイテムの面々+浜面は、
インデックスの働くいつものレストランに足繁く通っていた。

何故か一方通行達とは出くわす事が無かったのだが、ただの偶然だろう。

それはさておき、この店に来る度に基本的にはドリンクバーしか頼まずに過ごしていた為、
インデックスの事を顔見知りな浜面を通じてそれなりに仲良くなっていたのだ。

その為にあのような口調で文句を言っても、
客である麦野達は顔色を変えることなく話を続けられるので、
インデックスの接客が常にあのような辛辣なものと言う事では無いと追記しておく。

鮭のムニエルに、ライスのBセット(オニオンスープとサラダ)を注文したことで
インデックスはウキウキと伝票を刻む。

浜面はまだ立ち直れずorzの体勢を保っていたのだが、ふとその状態で顔をあげると。

視線の斜め左。

超ミニニットのワンピースを身にまといつつ体育座りをする絹旗の両足と、
太ももを覆うワンピースの先端部分が目についた。


359 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:49:34.11s41Jc9Bko (9/15)

浜面は驚きのあまり、飛び上がる。
しかし浜面が崩れ落ちていた地点は、テーブルの端。

彼の頭の射線上にはテーブルがギリギリあった為に、
それに従って思い切りテーブルを下から突き上げる。

と言っても、ぬるぬるのドリンクは嫌々ながらも大体消化し終えていたので、
主な被害は無造作に置かれていた水の方にあった。

見事にグラスが飛び上がるものの何とか着地を決めたり、
中身の無いグラスが倒れるだけで事は終わるかと思われたのだが。

1つだけ、水の入ったグラスが目を開けて寝ていた滝壺に。

結果として、滝壺は水を思い切り浴びる羽目になった。

そして滝壺は、開いていた目の焦点を浜面の方へとゆっくり合わせて、

「……はまづら……どうしたの……?」

「……原因は確かに俺だけど、ろくに情報を集めもせずに、犯人を俺と断ずる。
 成程、四面楚歌に変化はなし、か……」

よよよ、と再び崩れ落ちそうになる浜面を、麦野は煩わしそうな顔をして止める。
その手には、何やら長い文章が表示されている携帯電話が握られていた。

「浜面、アンタはもう帰れ。会計は私がしておくから」

「へ?」

浜面の言葉を待たずして、麦野は続ける。

「仕事が入った。こっからはR指定よ」

ぼんやりと浜面は、俺がアウトなら絹旗とかもアウトじゃないのか?とか場違いな事を思った。


360 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:50:30.92s41Jc9Bko (10/15)

・・・

垣根提督は第三学区にある高級ホテルの一室で嘆息した。

この学区では外交等、外部からの客を多く招く。

その為警備員関係の施設や、ホテルのランクは学園都市の中でも最高で、
学園都市の最先端技術を紹介する国際展示場が数多く並んでいる。

外部からお偉いさんを呼び寄せたり研究の成果を示す展示会を行ったりする為に、
自然とセキュリティも学園都市内でもトップクラスの物であり、
垣根が所属する暗部組織『スクール』でも隠れ家を1つ置いていた。

その隠れ家とは、今現在垣根がこもっているホテルの一室の事なのだが、
彼はそこにあるキングサイズのベッドに寝転びながら携帯電話をいじっている。

同室に居たスクールの所属と思われるドレスの少女は、
何度も何度も携帯を見返す垣根に対して訝しげな表情を浮かべ、

「どうしたの?携帯ばっかりいじって溜息なんてついちゃって。恋煩い?」

「ちげえよ、馬鹿かお前」

「じゃあ何よ。さっきから何度も携帯見たり見なかったり。
 好きな子からのメールを待ってる思春期の中高生にしか見えないんだけど」

「はっ。そんな楽しい青春を送って来たとでも思ってんのか?
 めでたい頭してんなあ、おい」


361 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:52:06.97s41Jc9Bko (11/15)

ドレスの少女の冗談を鼻で笑い受け流す垣根だが、
相変わらずカチカチと携帯をいじっている。

「それじゃあ何してるの?出会い系サイトで私の真似事とか?」

「金なんざ掃いて捨てる程あるっての。
 お前みたいな意味不明なバイトはしねえよ。
 探し物だよ、探し物。見つけにくいもんでな、
 カバンの中も机の中も探したけど見つかんねー」

「へえ。
 あなたが見つけられない程度のセキュリティに守られてるってことはよっぽどの物なのね」

意味不明、と言われて少しムッとするものの、
実際中々にずるい商売をしている為に、何も言い返さない。

しかし、探し物と聞いてドレスの少女の興味はそちらへと向かって行く。

「そうだな。昨日行われた展示会にも出てなかったからな。
 やっぱ本当に重要な技術はコソコソと秘匿しやがる」

それでも、技術を十全に示さなくとも、
各国のそれより一回り二回りも上回っているそれに対して、垣根は忌々しげに吐き捨てた。

「『あの意味分かんねえ物体』はまだしも、
 『ピンセット』の方は公開されてると踏んだんだけどな。
 やっぱ本物はどっか別の場所に隠してるらしい」

二つのキーワードを受け取ったドレスの少女はピクリと眉を動かす。

「『未元物質(ダークマター)』を扱うあなたが「意味分かんねえ」って、よっぽどなのね」

「まあ、そうだな。つってもそんなもんがこの世に本当に存在するのか怪しいけどな。
 だが、実際に存在しちまってるんだから仕方ねえ。『黄昏の羽』は、実際に存在しちまってるんだよ」

「黄昏の羽?」


362 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:53:20.68s41Jc9Bko (12/15)

事もなげに言い放つ垣根に対して、ドレスの少女は首をかしげた。

「ああ、『黄昏の羽』だ。知ってるか?『絶対能力進化実験』って奴」

垣根はけらけらと無邪気な笑みを見せながら、
暗部の人間なら誰だって知っているだろう言葉について尋ねる。

それに対し、ドレスの少女は何を当たり前のことを聞いているのか、
と言った顔をするが垣根はそれを無視して言葉を続ける。

「あれ、一時凍結……つか事実上中止になってるってのがもっぱらの噂だけどよ。
 ……まだ終わってないっつったらどうする?」

「……それはまた随分な話ね。第一候補(メインプラン)がまた動き出したっていうの?」

ドレスの少女のきょとんとした顔に、
垣根は悪戯が成功した子供のように笑う。

どうやらそう言う訳ではないらしい。

「絶対能力者への道は、人の『心』にあるらしいぜ?
 非科学も良いとこだよな、人類は心が何なのかすら理解できてねえってのによ」

「ふうん。よくわからないけど、それなら精神感応系の私もレベル6になれるのかしら?
 心を操るってそう言う事じゃない?」

クスクスと笑いながら冗談を告げるドレスの少女に、垣根は更に笑った。


363 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:54:20.47s41Jc9Bko (13/15)

「はっは、そりゃ傑作だな!レベル5の俺や『一方通行』を差し置いてお前が飛び級で昇進か!
 んな事になったら脳みそ切り開いたり人体いじくったりして、
 レベル5の研究を続けた科学者どもが馬鹿みてーだなオイ!!」

「……そこまで笑う事無いじゃない」

「ははっ、そりゃ悪かったな!何故かツボにハマっちまってよ。お前もあるだろ?
 別に面白くないのにどうしてかわからねーが、笑っちまう事ってよ」

「何だか釈然としないけど、まあ良いわ……
 それで、その『黄昏の羽』っていうのがレベル6に至る為のキーになるって事よね?」

ふてくされた顔をするものの、気を取り直したかのように話を本筋に戻した。
垣根はドレスの少女に対して首を縦に振りながら返答する。

「その辺はよくわかってねえけどな。
 とりあえず何かしら関わってる事だけは分かってる」

「なーんだ。その程度しかわかってないってことは、
 本当に実験が行われているかもわかってないんじゃないの?」

散々偉そうに話してた癖に、詳しい事はまだまったく分かっていないらしい。
ドレスの少女はつまらなそうな顔をして垣根に話を聞くが、やはりその通りらしい。

「……まぁ、そうだけどよ。それを調べる為に色々調べてんの!
 携帯をいじくってんのはそう言う訳だ」

「だったら最初からそう言えば良いじゃない」

「うるせえ、そうやって人話して金取んのがお前の仕事だろうが。俺の話も聞け」

ドレスの少女のバイト、それは援助交際……もどき。


364 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:55:24.96s41Jc9Bko (14/15)

実際に性行為を行う訳ではないのだが、
出会った男性と話をするだけでお金をもらう、実にボロい商売である。

仕事ばかりで人間関係を築けない、そんな悲しき男達の自尊心を満たす為の仕事で、
ドレスの少女の能力『心理定規』に恥じない、人の心を手玉に取るバイトをしていた。

「じゃあ、あなたからもお金取っていいの?」

「……リーダー権限で、無しだ」

そんな訳なので、ドレスの少女と話したと言う事でバイト代を請求するのだが、職権乱用攻撃をした。
大人げない垣根に対し、ドレスの少女はクスリと微笑みながら冗談交じりに皮肉を言う。

「お金は掃いて捨てる程ある、が聞いてあきれるわね」

「金は無駄に使わねえに限る。必要な時に必要なだけ使うもんだ」

「それを世間一般ではケチって言うのよ。
 あなたがお金くれたら私だってバイトなんてしないのに」

「……何で俺がお前を養わなきゃならねえんだ」

「今ならもれなく私の手料理も付いてくるけど」

「んなもんあれだ、普通にそこらの飯屋で事足りる。
 お前に金払う位ならレストランに払うわ」

「ゴチになりまーす」

「誰が奢るっつったよ」

「やっぱりケチじゃない。たまにはいいでしょ?」

「……仕方ねえな。だが場所は俺が決めるぞ」

垣根は少し不機嫌そうに腰を上げ、
それと同時にドレスの少女は少し嬉しそうな表情を浮かべ腰を上げる。

しかし、その瞬間。
垣根の携帯が鳴り響いた。

「……仕事だ。いつもの隠れ家に行くぞ」

垣根は普段は仕事が入ると不機嫌な顔になるのだが、
この時だけは少し嬉しそうな顔をし、それと同時にドレスの少女は少し不機嫌そうな顔になった。


365 ◆DAbxBtgEsc2011/08/22(月) 18:56:11.73s41Jc9Bko (15/15)

尾張。
何か登場人物増えてきたなー(他人事)


366VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/22(月) 21:47:40.46YdpxPbfCo (1/1)

はまづらさんはいつもどおりのポジションに落ち着きつつ
ていとくんカッケー。何となく爆発しろ。乙!


367VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/23(火) 02:16:01.21jSwqvqCK0 (1/1)

>>1乙

インデックスが働いてるファミレスがあるなら毎日行くな


368VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/23(火) 21:25:14.11q4Ps9bP80 (1/1)

お、俺も行く。


369 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:10:11.17VIc86ugYo (1/22)

透過するわァ


370 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:12:14.50VIc86ugYo (2/22)

よくよく考えたら、木山春生の入院先は知っているが、
退院した後の居場所までは知らない。

初春飾利は佐天涙子と共に木山の元に行こうとしたのだが、
居場所が分からないのなら意味が無い。

またしても出鼻を挫かれた初春は、今日は白井黒子に仕事を押し付けていたのだが
結局その仕事を消化しながら色々調べようと決め、第177支部へと向かった。

「何にせよ情報を集めないといけません!」

1人息巻く初春に対して、佐天はイマイチ乗り気ではない。

「ねーういはるー、本当にその話は本当なの?」

初春や佐天が通っている柵川中学の中に第177支部があるので移動は非常に楽だ。

最新鋭のセキュリティによる声紋、指紋、指先の静脈と振動のパターンのチェックによって
本人確認が行われている中で、佐天は気だるげな表情で初春に尋ねた。

たまにあるのだ。
初春が勘違いで暴走した揚句周りを巻き込んで何かをやらかす、と言う事が。

もちろん勘違い率100%と言う訳ではないのだが、
それでも結構な確率で勘違いしているので、
佐天の目の前で爛々と決意の目を輝かせている初春の事を疑うのは自明の事である。

しかし、突き詰めるとそれは初春の正義感やら善意やらで行われている為に、誰も文句は言えない。

そんな訳でセキュリティに認証された事で、
扉を開ける事が出来るようになった為、それを開けながら初春は言う。

「『今回』は、間違いありません!!」

(だからそれ前にも聞いたから、今改めて聞いてるんだけどなー)

フン、と胸を張る初春。

その奥で書類の山を死んだ眼で消化する白井。

白井の隣では悠々と武蔵野牛乳を飲んでいる皆の巨乳先輩。

何だかいつもの光景だなーと、佐天は初春の話を気楽に受け止めていた。


371 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:18:47.42VIc86ugYo (3/22)

・・・

何と言うか、普通にデートだった。

学友達の追撃から辛くも逃げ切った上条は、
予定通り待ち合わせの場所へとたどり着き、
罰ゲームを甘受するつもりだったのだが。


まずは何やらいちゃつ
くカップルの多いカフェで昼食をとり、
続いて御坂美琴が機種変をしたいと言
うのでそれに着いて行ったらゲコ太が何
とかと言いながら2ショットの写真を撮って
みたり、それが終わったらラウンドファイナ
ルにてパンチングマシーンの記録をそげぶ
で更新したところ、前最高記録は御坂が樹
立したものらしく、それを越えるまでマシン
を殴り続けたり、UFOキャッチャーにてゲコ
太再びでもの欲しそうに見ているのに上条
が気付いたのでそれを取ろうとしたところ、
何と一発でゲットすると言う快挙を成し遂げ
それを御坂にプレゼント。御坂はあわあわ言
いながら顔を真っ赤にさせてそれを受け取り
最後にプリクラをまたもや2ショットで撮って
(何やら笑顔を強要する機械だった)ラウン
ドファイナルを後にした。そうして向かった
先はカラオケで、ここ最近トレーニングや
ら魔術師やらマヨナカテレビやらでろくに
遊べなかったのだろう、思いの丈をぶち
まけるべく上条はシャウトし、それに負
けじと御坂も高らかに歌った。最終的
に採点で得点の高い方が罰ゲーム
と言う、何だか当初の目的を逸脱
しているのではないかと言う遊
びに発展し、それが終わると
次は歌う前にあらかじめ自
分が予想した得点と歌っ
た後の採点を一致させ
ると言う遊び(勿論負
けた方は罰ゲーム)
に昇華していった。


何と言うか、リア充はしねば良いと思う。
ちなみに上の文は読まなくていいです。


372 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:19:42.85VIc86ugYo (4/22)

そして時は現在。

「なあ……ちょっといいか?」

「ん?何?」

声が枯れそうになる程歌ったので、
2人は休憩がてら個室のソファーに座りこんでいる。

2人はテーブルをまたいで向かい合うように座っており、
何やら上条が黙りこんでいるので御坂も話題は無いものかとあれこれ考えながら口をつぐんでいた。

そんな中、上条は真剣な顔つきで意を決したように口を開くので
御坂はちょっとだけドキドキしながら上条の言葉を待つ。


「実は……」

「じ、じつは……?」


溜める。


「実はだな……」

「実は……?」


溜める。


「……御坂!」

「ひゃ、ひゃい!!」






「……実はインデックスに、ペルソナの事がバレた」


373 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:21:29.18VIc86ugYo (5/22)

「な、なによ期待させちゃって……ってバレた!?」

思っていた内容と違う言葉が飛んで来たのだが、
その言葉は御坂を驚愕させるに値する内容だった。
一体何があったのか、話を聞くべくソファーへと再び座る。

BGMは御坂が話題が思い浮かばずに、何となく送信した曲の「私京都さ行ぐだ(銅剣ver.)」。
これは大阪にある芸能人プロダクション「歳本興業」所属の芸人達が、
カラオケの映像をプロデュースしようというもので、としもと芸人である銅剣
(紙芝居をネタにしている芸人)がカラオケの映像を紙芝居にしていると話題になっていた為に、
御坂も普段歌うはずの無い歌を何となく機械に送信してしまった。

それ故に、上条が真剣に事情を話す(魔術の事は避けて)中、
その背景でガイドだけあってハイレベルなガイドボーカルがかなり珍妙なテンションで歌いあげている。

その内容としては歴史大好きな女の子が田舎のくせに
歴史を感じさせない地元に絶望し、独り立ちして京都に行き寺巡りをするんだ、
と言うものでオチとしてはでもやっぱり地元が良いというちょっとネタに走った臭い歌詞を感じさせるものだった。

普通にBGMだけで良いのに何故ガイドボーカル付きを選んだのか。

ガイドボーカルなので歌い手の邪魔をしない程度の音声なのだが、
誰も歌ってないので囁くように耳に入って来る。お陰で上条の話をろく聞けなかった。

「……ってな感じなんだけどさ、御坂。お前どう思う?」

全く聴いていなかった、とは言えない。
こんな真剣な顔をしている人間の話を一言たりとも聞いていない。
そんな不真面目な人間だと思われるのは嫌だ。

御坂はレベル5としての学園都市最高峰に位置する頭脳を駆使した結果、

「まぁ……あんた馬鹿なんだから、突っ走るしかないんじゃないの?
今までだってそうして来たじゃない」

良くわからない事を言って有耶無耶にする道を選んだ。
しかし、上条は真面目な顔をして御坂の言葉にうんうんと唸っていた。
御坂はヤバい、間違えたか!?とか思うものの、上条は何やら感じ入っている様子だ。

「そっか……やっぱ考え過ぎても駄目か……そうだよな、ありがとな!御坂!!」

御坂は思わずずっこけた。
そう言えばそう言う奴だった、といちいち怒ることも億劫になる程に、思わせぶりな男。

「へ?」


「何か人に相談したらすっきりしたな!それじゃ、上条さんはまた歌うとしますか!!
 って何だこれ?私京都行く?わはは、私京都さ行くだー!!」

「……」

何と言うか、結果オーライだった。


374 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:23:29.72VIc86ugYo (6/22)

・・・

無造作にダンボールの中にお菓子を詰め込む作業を終えた一方通行達は、
とりあえずテレビの中に入って話をする事にした。

とはいえ、ここ最近はテレビに放り込まれる人間が居ないので、情報は集まらない。

天井亜雄の影も、いつか行ったホテルへと赴いたのだが、文字通り影も形も無く。

代わりと言わんばかりにいつの間にか直っていたエレベーターから、
全身墨汁で塗りたくったように真っ黒な身体で
頭に青い花を咲かせた巨大な赤ん坊のようなシャドウが出てきた。

しかし、一方通行はまだ病み上がりで下手に動くと
傷口が開く恐れがあるので遠距離からの支援にあたる。

そうして一方通行の傷を悪化させること無く撃退する事に成功したのだが、
その巨体から繰り出される「暴れまくり」や「デスバウンド」はかなり強力な物理攻撃で苦戦を強いられた。

ちなみにこのシャドウは『刹那の児』と言って氷が弱点だったのだが、
上条当麻がこの場に居なかったのであそこまで苦労したと言うのは何とも運の無い話である。

結局、いつも通りテレビの中でペルソナを鍛えるだけに終わった一同は、
今日のところは解散しようと言う結論に落ち着き、一方通行と9982号はボロアパートを後にしたのだった。

辺りはもう夕方で、私服姿の学生達も最終下校時間を過ぎるなあと言った感じで家に帰り始めている。

そんな中で一方通行と9982号は、

「外食にする?コンビニ弁当にする?それともミサカにする?」

「全部却下だ、打ち止めと芳川を回収しに行くぞォ」

ろくな選択肢が無い。
などと言ったら9982号は怒るだろうか、
一方通行は軽く9982号の言葉をスルーして歩きだした。

「まさか……!」

しかし、9982号は何かイケナイことを知ってしまったかのような顔をしている。
思わず一方通行は立ち止り、

「なンだよ」

「いえ、大丈夫です。動揺は少ないです。
 一方通行のストライクゾーンは変則ストライクゾーンだったのですね?
 と、ミサカは今までミサカに迫って来なかった事に対しての理解が及んだことを一方通行に伝えます」


375 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:24:30.31VIc86ugYo (7/22)

「……はァ?」

「だってそうでしょう、年頃の乙女がこんなに近くに居ると言うのに、
一方通行はミサカを無視して幼女と年増の元に行くと言うのですから」

「……」

「何も言わない、と言う事は図星なんですね?
 ストライクゾーンは真ん中ではなく、本来はボールのはずの所を
 ドーナツ状に囲んだところがストライクなんですよね?
 と、ミサカは一方通行がどんな趣味をしていても大丈夫ですと女神の様な微笑みを浮かべます」

「……」

一方通行は何も言わない。と言うか、9982号の背後を見ていた。

そこには、

「年増、年増年増、とりま年増……」

何やら負のオーラを発散させながらブツブツと念仏を唱えるかのように年増と連呼している芳川桔梗が。

その後ろでは状況を飲み込めずポカンとしている打ち止めがいるが、
9982号にとって今はそちらはどうでもいい。

「あ、あの……芳川、さん?」

思わずさん付けで9982号は尋ねるが、芳川の耳には入っていないようだった。

「成程……成程ね……命を散らす場所はここで良い、と言うことね?
 大丈夫、毎年この日この場所に花束を添えてあげるから」

「ちょっと待っ―――」

9982号の弁明を待たずして、芳川は動き出した。
研究者のくせにいつそんなに鍛えたのかと言う程の俊敏な動きで9982号へと急襲し、
9982号は意識的ではなく反射的にバックステップをして何とか避ける事が出来た。

しかしあの場に居たらもれなく潰されていたに違いない。
それを感じさせるほどの威圧を芳川は放っており、思わず冷や汗が頬を伝う。

そして、9982号の汗が、顎から地面に零れ落ちた瞬間。

「ッ~~!!」

2人は声も無く駆けだした。
しかし、駆ける方向は、2人とも同じ方向。

それはすなわち、9982号の逃走と、芳川の追跡の開始だった。

そうして取り残された打ち止めと一方通行は、

「ねえねえ、お腹すいた!ってミサカはミサカは甘えてみたり!」

「……そォだな、ファミレスでも行くかァ」

何事も無かったかのように晩御飯を食べる事に決める。

空を彩っていた夕焼けは、徐々に雲による陰りを増し、
地上を染めていたオレンジは徐々に灰色と化して来ていた。


雨が、降りそうだ。


376 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:26:20.72VIc86ugYo (8/22)

・・・

夕陽を雨雲が覆ったまま、太陽は沈んで行ったのだろう。
雨がポツポツと降る中で、辺り一面は暗闇に染まっていた。

とはいえ、ここは科学の街。

道を照らす為の街灯を設置するなど当たり前の事で、学園都市の中は人工の光で満ちていた。

ただ、基本的には学生しかおらず、夜になって出歩く人間は
そのまま夜遊びするんだぜと言ったごくごく少数派の人々しかいない為、
道がわかる程度の照明しか学園都市には設置されていない。

更には最終下校時間を過ぎると最後、バスや電車などの公共の乗り物は完全にストップする為、
それを過ぎて帰れなくなると言うのは下校時間を過ぎた一種の罰と言って差し支えないと言えよう。

そんな中を、一方通行と打ち止めは歩いて帰っている。

芳川桔梗と9982号に関しては、知らない。
そのうち帰って来るだろと言う事で放っておくことにした。

晩御飯をいつものファミレスで食べインデックスの働きぶりを見た後に、
丁度上がりの時間だったインデックスを家まで送り届けた帰りが今現在の一方通行達の状態である。

しかしまだ上条当麻は家に帰っていないらしく、
インデックスはプリプリと怒りながら帰る道中で買った食材を持って部屋へと帰って行った。

流石完全記憶能力の持ち主だけあって、教わった事は確実に覚えるようで
ダイソンの掃除機のごとく店員達から教わったことを吸引していった。

しかしそれはあくまでも記憶の話で、家事スキル自体は実践して身につけるしかないので
こうして部屋でも料理の練習をしていると言う訳だ。

そう言う訳なので少し部屋に上がって料理の味見をしていかないかとインデックスに誘われたのだが、
さっき飯食ったばっかだし雨が強まっても面倒だと言う事で断った。

しかし誘ってもらった手前それではインデックスがかわいそうなので、
今度味見しに来ると約束をしてから帰ったのだが。


377 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:27:40.89VIc86ugYo (9/22)

「あの子の料理って上手になったのかな?ってミサカはミサカはあの時の事を思い出しながら尋ねてみたり!」

あの時の事。それは一方通行が入院を始めて1週間程度した時の事だろうか。
いつものファミレスでバイトを始めたインデックスが、
初めての料理そのいち「お粥」を一方通行の元へと持って来たのだ。

それは病院食のように単純に水で煮込んだもので、
それだけでは味気ないので塩と梅干で味付けをされたものなのだが、
煮詰める時間が短かったのだろうか、米は中まで水がしみ切っておらず、
だというのに米の外側は焦げており、さらにはもってきた塩は砂糖と間違えるベタなミスを犯して、
結局美味しかったのは市販されていたと思われる梅干だけ、と言う惨状を三乗した状態だった。

その時の事を考えれば打ち止めの疑問も頷けるものだろう。

「まァ……それなりに必死こいて働いてたみてェだし、大丈夫じゃねェの?」

よっぽどでない限りは、普通に食べられるものが作れるはずだ。
別に凄腕料理人と呼ばれるようなレベルの料理は求めていないのだから。

「じゃあ今度皆でカレーパーティとかしたいね!
 ってミサカはミサカはチキンカレーを所望してみたり!」

「なンでカレーなンだよ、そォいうのって鍋とかじゃねェのか?」

「んー、それじゃあ余りに普通すぎるかなって思って!
 ってミサカはミサカは実はただカレーが食べたいと言うだけの事をそれっぽくごまかしてみたり!」

「……お前のその本心駄々漏れな語尾は何とかならねェのかよ」

「でもこれがないとキャラが……」

「ガキがキャラとか気にしてンじゃねェよ!
 何処ぞのアイドルみてェなこと言ってンなよ!!」

思わず盛大に突っ込みを入れてしまうが、打ち止めは楽しそうに笑うと駆けだした。
しかしそれも束の間で、地面には何も無いのに足を捻って思い切り転んでしまう。

雨はそこまで強くないものの、降り始めから時間がたっていた為に
かなり湿っていたので打ち止めもそれに伴いすりむいた膝周辺に泥が付いて汚れてしまった。

しかし、打ち止めは服に付いた汚れ以上に出来た傷口を見て痛そうな顔をしてしゃがみ込む。

「……馬鹿が馬鹿みてェに走るからそォなるンだよ」

「うう……痛いってミサカはミサカは出血多量で危険が危ない……」

「……チッ、お前そこのバス停でおとなしく待ってろォ」

一方通行はそれだけ告げると、打ち止めの言葉を待たずして足早に少し先に見える薬局へと目指して行った。


378 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:28:59.06VIc86ugYo (10/22)

・・・

絆創膏を買った。
足を捻っていたので念のために湿布も買った。
ついでにこれからそんなことがあっても良いように絆創膏は多めに買った。

一言で言えば、過保護だった。

それらを入れた袋をぶら下げて、
一方通行は打ち止めを待たせているバス停まで戻っていく。

打ち止めを連れて行っても良かったのだが、
足が痛くて動けないとかのたまうに違いないと判断し、さっさと応急処置をして帰る道を選んだのだ。

バス停まではおよそ200m。殆ど目と鼻の先と言っても良いだろう。
しかし、雨脚が強くなり始めた上に、夜の暗闇に余り多くない街灯。
これらが相まって打ち止めの姿までは確認できなかった。

ここまで雨が強くなると、打ち止めを抱えて飛んで行った方が良いと判断した一方通行は、
バス停まで能力で移動しようとしたのだが、瞬間。

「ッ」

ドガッ!!と、何かがひしゃげた音が背後から聞こえた。
何だと思って振り返るとそこには、「元」を付けた方が良い位グシャグシャになった黒塗りのワンボックスカーが
電柱にぶつかったかのように潰れて止まっている。

一方通行の歩いていた場所は、歩道と車道をガードレールで仕切られた、歩道側の道。
車道には誰も居ないのに、吸い込まれるように一方通行へと突っ込んできたのだ。

更にはこの暗闇の中、ライトも付けずに走ってきていた。
まるで誰にも見られたくないと言わんばかりに。


一目見てわかった。


379 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:30:03.85VIc86ugYo (11/22)

「狙いは俺か……面倒くせェな」

個人的に恨みがあるのかはたまた組織として恨みがあるのか、或いは。

「まァ、知ってる事聞けばそれでイイか」

面倒くさそうに溜息をつくと、一方通行は自身の反射によって潰れたボンネットの上に乗ると、
そのままヒビの入っているフロントガラスに右腕を突き入れ、剥がした。

そこには黒づくめのまるで特殊部隊の一員とも見受けられる男が武装して呻いていた。
どうみても事故で突っ込んできたとは言い難い。

「とりあえず、何も知らねェクソからの指令か、何か知ってるクソからの指令か。
 『じっくりと』話を聞かせてもらうぜェ?鍛えられたクソか貧弱なクソか、
 どっちでもいいが、早めに吐いた方が楽になれるとだけ言っておく」

一方通行はニヤリと笑った。
運転席に座る男からしたら、それは死刑宣告をしに来た死神にでも見えた事だろう。

ここ最近、と言うかペルソナと言うものを入手してからそうなのだが、
余り人間に対して能力を振るう事は無かった。

それが一種の成長なのかそれとも衰退なのか、
一方通行には分からなかったが、とにかくこうして人間に「直接」能力を使うのは久しぶりだ。

「なァ?誰に言われてここに来たンだ?今ならもれなく1/3殺しで許してやる。
 病院で適切な治療を受けりゃあ後遺症も残らねェだろォよ。お買い得だけど、どォする?」

バキリ、と一方通行はあっけなくその男の右腕をへし折る。

自分の腕がポッキリとあり得ない方向に曲がったのを見て、
そしてその瞬間全身を駆け巡った痛みに対して、男は悲鳴を上げる。

しかし、一方通行はただただそれを煩わしそうに見つめると、再び能力を行使した。

すると男が感じていた痛みが一瞬にしてシャットアウトされ、
訳のわからないと言った顔をする男に対して、一方通行は告げる。


380 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:31:26.06VIc86ugYo (12/22)

「安心しろよ、痛覚は完全に遮断してやってるから。
 だから爪とか剥いでも問題ねェよなァ?」

1つ間を置いて、一方通行はつまらなそうに吐き捨てた。

「『俺が能力を使ってる間は』痛くねェもンな?」

能力を使っている間、と言う事は傷つけられた分だけ、
後からそれの痛みが一緒くたに襲ってくる。

それを想像しただけで男の顔からは生気がみるみると失われて行った。

「あのさァ、さっさと吐けって言ってるのがわかんねェ?」

一本目に一方通行の手が伸びた所で、男が許しを乞い始めた。

勢いそのままにある事無い事しゃべるだろうと思っていたのだが、
それよりも早く一方通行達の周囲を似たような黒塗りのワンボックスカーが3台ほどで囲んだ。

「ったく、わざわざご苦労なこったな」

一方通行は愚痴をつくと、3台の車の動向を探るべく、ジッとそれらを見つめる。
すると中からヒトではなく、長い銃口だけが顔を出し、一方通行を狙っていた。

それを見た一方通行は男の首根っこを掴むと同時に自身が乗っているボンネットを踏み抜き宙へと舞う。

一方通行が足で思い切り踏みつけた事をきっかけに、
最早限界に達していたのだろう、ワンボックスカーは爆発してその役目を閉じた。

「思わず助けちまったが……こンなクソったれ助けるとかヤキが回っちまったかァ?」

地に降りたった一方通行は、男の首を掴んだまま、
それを未だ銃口しか見せてないワンボックスカーの元まで転がす。

すると続々と3台の車の中から兵隊達が現れその部隊のリーダーと思しき男が、
地面で呻く男の前まで歩いて行くと、止めを刺した。

「だーから言ったじゃねえかよお」

事もなげに人間を撃ち殺した刺青を入れた研究者風の男は、
ゆったりと一方通行の方へと振り向いた。


381 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:32:19.23VIc86ugYo (13/22)

「あのガキ潰すのに車1台なんて甘っちょろいことしてんじゃねえよ。
 だから言っただろ?俺が出るってよぉ」

「ンだよ、木原くンかよ。思わせぶりな登場しておいて、今更何の用だァ?
 つゥかそこに転がってるクソ共だって限りあるだろーって思って助けてやったのによォ。
 俺の善意を踏みにじりやがって、返せよ俺の善意」

木原数多。

かつて一方通行の能力開発にも携わった事のある研究者で、
今は『猟犬部隊』を率いている部隊長でもある。

そんな男が、こんな所で、そして自分に何の用なのか。

木原は手に付けたグローブをいじりながら、一方通行の発言に対して笑った。

「ハッ!使えねえ奴が残ってる方がこっちとしては迷惑なんだよ。
 いわばゴミ処理みてえなもんだなぁ。ま、お前もその中の1人なんだと。
 だから悪ぃーんだけど、ここで潰されてくんねーか?」

「あァ?何言ってンだお前?俺の能力研究に匙投げてどっか行った人間とは思えねェ発言だなァ?
 どっちが上でどっちが下か、そこンとこわかってますゥ?
 まずは上下関係はっきりさせるべくゆっくり話し合うべきだと思いませンかァ?」

「あっはっは、イイ提案だなそりゃ。あんまり素晴らしい提案なんかしてくれんなよなあ?
 思わず、殺したくなっちまうから。昔からお前はむかつくガキだったよなぁ?
 いやあ失敗失敗。あの時さっさと処分しちまえば、
 こんな憎たらしいガキが世間様にご迷惑をかける事も無かったのになぁ」

木原は、両手を広げまるで恋人に向かって抱擁をしに行くような体勢で、無謀にも悠然と近づいてくる。

そして一方通行の元まで残り5m程になったところで、笑みを消して言い放った。



「……つーわけで、[ピーーー]わクソガキ」


382 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:33:43.19VIc86ugYo (14/22)



瞬間、5mと言う距離を0に縮め、まるで上条当麻のように愚直な真っすぐを放ってきた。

先程も述べたが、木原数多は研究者だ。

それもただの研究者ではなく、超が付く程優秀で、
それこそ一方通行の能力開発を担当する程に。

木原もまた他の研究者と同様に、開発に携わったのは短い期間で、
その時色々あったのだがそれはさておき。

一方通行は瞬間的に考えた。
自身の能力を深く知っているであろう研究者が、何故ここまで無策なのか。

いや、それはあくまで一方通行から見て無策に見えただけであって。


―――木原数多は策があるからこそ、向かってきたに違いない。


そう判断してからの行動は早かった。
回避する事もできただろうが、相手の策を見る為に、直接攻撃を受ける。
そんな訳で一方通行は両手を十字に交差させると、木原の右ストレートを受け止めた。

その衝撃によって少し仰け反ってしまったのだが、やはり正解(ビンゴ)のようだ。

一方通行に考える暇を与えさせないかのように、木原は更に拳を振るう。
対して、一方通行は混乱する思考を一端打ち消し、その全てを受け流す事に集中した。

とはいえ、黄泉川愛穂にも「まだまだトレーニング不足」と言われるだけあり、
肉弾戦を得意とする人間相手に格闘で挑む気にはならない。

数合ほど打ち合ったところで隙を見つけ大きく後ろへとジャンプした。
木原は口笛を吹いて一方通行の判断をほめたたえるが、一方通行の耳には入っていないようだ。

何故、反射を貫いたのか。
思考はそれだけに集中していた。


383saga忘れとか不覚過ぎワロタ ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:36:22.46VIc86ugYo (15/22)

「へぇ……あの時の馬鹿っぷりからちったぁ成長したみてぇだなぁ。
 てっきり能力に頼ってノーガードで鼻血ぶちまけるかと思ったんだけどよォ」

一方通行の腕を捉えた右手をプラプラさせながら、
木原は見下したような声で言い放つ。

対して、一方通行はその言葉を無視して、考えていた。

(反射を貫くのは構わねェ。魔術だってあるンだ、『こっち側』にだってそンな奴が居ても不思議じゃねェ)

例えば、『幻想殺し』。
例えば、風斬氷華。

そういえば風斬とはあれから会わないなとか、戦闘中にもかかわらず木原の攻撃についてから、
思考が徐々にズレて行く中で、木原は子供の成長を喜ぶ親のように、楽しそうに歪んだ笑みを作る。

「まぁ、なんだ。お前の成長を見てる暇はこっちにはねぇんだわ。
 『アレ』はこっちで回収しとくから、テメェはここで潰れて掃除ロボにでも回収されてくれや」

アレ、と聞いた瞬間、一方通行の思考は熱を帯びた。

この場で言うアレとは、ほぼ間違いなく、

しかし、木原は再び動き出し、一方通行の思考時間を奪いにかかる。
そんな木原の攻撃を再び後ろに跳ぶ事で避けると、一方通行は両手を空へと掲げた。

「ハッ!お前のボクシングごっこにつき合うつもりは毛頭ねェンだよォ!!」

ズタズタになれ、と一方通行は笑い飛ばすと、風も飛ばした。

彼の能力、ベクトル操作を以ってすれば大気の制御、
すなわち局地的な暴風を巻き起こす事すら可能。

風速120mにも及ぶ暴風は、最早自動車や家屋の屋根を吹き飛ばすほどの威力で、
木原率いる猟犬部隊へと向かって行った。

しかし、その風が木原達を吹き飛ばす事は、無い。
一方通行は、暴風を放った瞬間に、何かピーッ、と甲高い音を聞いた。
その音が鳴り響いた途端に、集められた風が霧散して行ったのだ。

成程、策は反射以外の分も用意しているのか。
一方通行は制御の離れた風を仰ぐと、先程爆発した車の破片を無造作に投げ飛ばした。

勿論狙いは木原なのだが、唐突に横やりから風が吹きつけ、破片はあらぬ方向へと飛んで行く。

どうやら、あちらも何かしら機材を使って風を操っているらしい。
と言ってもその破片は木原に当たらなくとも後ろに控えている車に命中し、中で誰かが呻く声も聞こえたのだが。


384 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:37:42.64VIc86ugYo (16/22)

「なンつーか、俺ごときを潰す為にわざわざごくろーさまな事で」

「お、分かってくれんのかよ!!嬉しいねえ、前言撤回だ。ムカつくクソガキからクソガキに昇進だな!
 つか、クソガキの癖に妙に謙虚じゃねぇか!本当にお前はあの一方通行なのかよ!?」

後ろで破片による一撃を受けた部下がいると言うのに、
相変わらず馬鹿みたいに高笑いをしている。

別に一方通行自身、あの場で武装している男達は何かやらかして
暗部に堕ちてきているのだから、それを殺める事自体はどうも思わない。

とりあえず、不快だった。

何となくあの姿が昔の自分のように思えて。
人を殺すことを、何とも思わない自分だった頃に思えて。

しかし、その考えはすぐに消え去る。
何せそれが事実なのだから。自分はただの人殺しなのだから。

木原と同類と言われて当然だろう。
ならこの不快感は、同族嫌悪とかそのように表現すべきだ。

なんて、またしてもどうでもいい事に思考を重ねているうちに、再び木原が接近してきた。


385 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:39:00.13VIc86ugYo (17/22)

「なぁ?俺がどのくらいテメェの反射を貫けると思う?」

言った直後、手からパチンコ玉のような球体を投げ飛ばした。

それを見た一方通行は、木原の拳のように受け止めるのではなく、
完全に回避する形でしゃがみこむ。

木原は避けることを念頭に置いていたらしく、更に接近して前蹴りを放った。

高さにして丁度一方通行の顔に当たる高さで、
喰らったらマズいと一方通行も両手で頭をガードする。

しかし、衝撃自体は守れないのでそれを受け止めるとゴロゴロと地を転がった。

「おいおい、そんな必死こいて避けなくてもよ、別に身体に害のあるもんじゃねえよ?
 つか、お前の場合そんな物質は勝手に反射してくれんだろぉが」

一方通行は地面を転がりながらもすぐさま体勢を立て直すが、
木原はその隙を突いて更に先程と同様のパチンコ玉の様なものを
今度は避けきれない程の数投げ込んできた。

今度は避けられないと判断して、能力によってその全てを破壊する。

しかし、その玉は。

「!?ンだ、こりゃ……!」

所謂、煙幕。
しかし先述した通り、その煙幕に毒を仕込んでいたとしても
反射をすりぬける事は出来ないので、純粋に煙幕だ。

とはいえ、一方通行の思考は数瞬の間、止まる。

それが大きな隙だと、一方通行自身も理解できる程に。


386 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:39:55.49VIc86ugYo (18/22)

「ガッ!!」

やはりその隙を突かない馬鹿は居ないと言う事だろう。

ようやく木原は一方通行に対してクリーンヒットを入れられたようで、
満足そうに両手の指をバキバキと鳴らした。

「たくよぉ、まさかこんな小道具まで使わされるとはなあ……
 嬉しいねえ、やっぱクソガキは学園都市一位だけあってそこそこ強えクソガキだわ」

心底嬉しそうに、楽しそうにする木原だが、
一方通行は殴られた後地面に伏したまま、立ちあがる気配を見せない。

普段黄泉川によって鍛えられているのだから、
1発2発良いのをもらったところで気絶等ありえないのだが。

しかし、それは『本調子』の時だけの話で。

「ォ……ァ……」

倒れ伏した一方通行の周りには、濁々と血が流れていた。
雨によって薄らいでいくはずなのに、その血はますます濃さを増しているように感じられる。


開いた傷口は、大きかった。


「おいおい、俺のパンチは人を切り裂いちまうのかぁ?
 いやあ怖い怖い、ボクサー目指すとこだったけどやっぱ無理だな、
 このままじゃ人殺しになっちまうわ」

一方通行が入院していて、何処に傷を受けたのか分かっていたのだろう。
木原は寒がるように両肩を抱き、わざとらしく言い放った。

しかし一方通行からしたらそれどころでは無い。
すぐさま止血を施したが、これによってかた手がふさがれてしまっている。


387 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:41:16.43VIc86ugYo (19/22)

原理はわからないが、反射を貫く攻撃。
これを何とかしなければこの場を乗り切る事は出来ないだろう。
あの金髪巨乳魔術師は言葉だけで退いてくれたが、こちらはそうもいかない。

何せ金髪と違い、木原の狙いは打ち止めにあるのだから。

一方通行の考えを裏付けるかのように、一同からおよそ100m程離れたところから、
武装した男2人が1人の少女を連れて現れた。

どうやら気絶させられているようで、
2人が両肘を握ってやらなければその場に崩れ落ちてしまっているだろう。

思わず一方通行は、倒れ伏したまま叫ぶ。

「打ち止めァァァァァ!!!」

「いちいちうるせーぞクソガキ、ご近所さんの迷惑を考えやがれ」

そんな一方通行をあざ笑うかのように、木原は軽く一方通行を蹴り飛ばした。
それだけで一方通行の軽い身体は地面を転がり、再び地面に這いつくばらせる。

木原はそんな一方通行に興味を失ったのか打ち止めの方を見やると、
部下の報告を受け、一方通行に向けたのか、はたまた打ち止めを連れてきた部下に向けたのか。

ともかく勝ち誇ったように言う。

「回収完了ってとこだな。本命は生け捕りって話だが、アレは大丈夫なのかよ?
 あぁ?気絶させただけってお前どんだけ痛めつけりゃあんな生傷できんだよ。
 まあ生きてるってんならなんでもいいや、とにかく始末書は御免だからな?アレが死んだらお前も死ねよ?」

(……ふざけンじゃねェぞ)

小さく、呟いた。


388 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:42:28.04VIc86ugYo (20/22)

恐らくは生きているだろう。あの口ぶりからして、
一方通行を絶望に追いやる為の嫌がらせだけに打ち止めを殺すとは思えない。

しかし、利用する事は火を見るより明らかで。

そうしている間にも打ち止めは一方通行達の元へと近づいてくる。
と言っても近づいているのはワンボックスカーに向かってなのだが。

このまま連れ去られたら、文字通り終わりだ。

打ち止めはクソ共に散々使われた揚句、ボロ雑巾のように捨てられるだろうし、
一方通行はそもそもこの場で朽ち果てるだろう。

(やら、せる、か)

まずは隙を作りだす。

「打ち止めァアァァアァァ!!!」

ピクリと、少女は小さく肩を揺らした。

一方通行は思い切り両手を叩きつけると、辺り一面にアスファルトの欠片が舞い上がる。
それを受け木原もわずらわしそうに後ろへと下がった。

時間にしてわずか1秒足らずだろう。
一方通行の『風の制御』は非常に繊細だ。その繊細さを木原は狙ってきたはずだ。
ならば木原がその隙を突く前に、打ち止めだけでも助ける―――!

その意志を形に表すように、一瞬で制御した風は確かな力を以って、打ち止めのみを吹き飛ばした。

しかし、それは破壊する為の物ではなく、優しく包み込むような風で、
地上10mはあるだろうビルを何棟も飛び越え、打ち止めは夜の闇の中へと消え去っていく。

それをぼんやりと眺めると、木原はのんびりとした口調で告げる。


389 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:43:54.21VIc86ugYo (21/22)

「あーあーあー、面倒くせえことしやがって。
 ドヤ顔してる暇あったらさっさとクソガキすり潰しとけばよかったわぁ。
 つぅか誰が回収すると思ってんだよテメェはよ、俺はしねぇけど」

「どうしますか」

そんな中、部下の1人が木原の耳元で指示を仰ぐべく小さく話す。
木原が指示を出そうとした瞬間、再びアスファルトが舞い上がった。

「だぁー……ホントしつけークソガキだな。
 んだよあのしぶとさゴキブリか?それとも油汚れかぁ?
 ホウ酸団子かジョイ君もってこねーとな」

冗談を軽く呟くと、ボリボリと頭を掻きながら今度は部下への指示を出す。

「班を三つに分けろ。本命追うのと俺とここに残るの、後処理するの三つだ。
 異論反論ある奴は後で聞く。殺すけど」

それだけ聞くと、部下達は迅速に動き出した。
随分と統率されている動きだが、これは単に木原に対する恐怖から来ている。
それはさておき、数人の部下を残した木原は無駄なあがきを続ける一方通行へと向く。

「木原くンよォ……ちっとばっか早漏すぎねェ?まだ終わっちゃいねェぞコラァ!!」

「ハッ!!テメェが1人でイッちまったからどうしようか悩んでたとこだっつーの!!
 グダグダ言ってねぇでとっととかかってこいやぁ!!」

鬼の様な形相で、2人は肉薄する。
一方通行は左手で止血を施しているので、思い切り右手でストレートを放つ。

とにかく、木原が動く事がマズい。
なるべく時間を稼ぐ為に、木原をこの場に縛りつける為に、得意でない肉弾戦をする。

そんな意志が見え隠れする中で、木原は一方通行の思惑に乗ったのか、
笑いながらこちらも左腕を振りかぶった。



そして、交差する拳。



片方が、大きく仰け反った。


390 ◆DAbxBtgEsc2011/08/24(水) 17:45:02.26VIc86ugYo (22/22)

尾張。

>>381
「……つーわけで、殺すわクソガキ」

色々と台無しすぎるわ


391VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/24(水) 18:01:24.35mFOIVl2p0 (1/1)

>>1乙

原作と違って黄泉川に鍛えられてるし

仲間もいるからすごい安心する


392VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/24(水) 20:56:54.46mOcB8TBV0 (1/1)

>>390乙
それでも、自分の力を過信しているせろりですか…


393VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/08/24(水) 21:09:10.03uMT+SkAAO (1/1)

凹されないと黒翼出ないしなぁ



……出ないって可能性もあるか


394 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:43:19.51ygwqLV1Vo (1/13)

透過するわァ


395 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:44:32.03ygwqLV1Vo (2/13)

辺りは暗くなってしまっていた。
はっきり言えば、御坂美琴の門限が迫っている。
カラオケの個室にこもると時間間隔がくるってしまうから困る。

あっはっは、と快活に笑う上条当麻とは違い、御坂は顔を真っ青にさせていた。

今からダッシュで帰れば、ギリギリで間に合いそうな時間だ。

ヤバいヤバいと言いつつも、
運動前のストレッチをのんびりとしているとイマイチ危機感が伝わってこない。

「まぁ、ちゃんと謝れば許……」

「されないからこうして焦ってるのよ!」

「いや、そんなゆっくりじっくり丁寧にストレッチしているのを見てると
 とてもじゃないけど急いでいるようには見えないのですが」

「柔軟馬鹿にすんな!怪我する奴に限って柔軟怠ってるのよ!!」

「だぁー!そうですね!!ベストコンディションには欠かせませんよね!!」

ちなみに、場所はカラオケ店の受付の隅っこの方。
邪魔とは言わないが、そんな姿を見せられては仲睦ましいカップルの姿を妬む男もいるだろう。

だがそんなことはお構いなしの掛け合いだった。

「よし!終わった!」

「いや、むしろ今からが本番だろ。頑張れよー」

「な!女の子が1人で帰るってのに送ろうとかそんな心遣いは無いの?!」

「今からダッシュで帰るって宣言してる奴について行こうとは思わねーよ!」

「トレーニングと思いなさいよ!今日してないでしょ!!」

「うぐっ、そう言われると上条さんも言い返せません事よ……」


396 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:45:16.93ygwqLV1Vo (3/13)

結局、御坂と共にランニングをする事にした上条は、
カラオケ店の外へと足を踏み出した。

すると、雨。思わず上条は顔をしかめながら、

「うげっ、雨かよ……ちゃんと天気予報見とけばよかったわ」

上条は外に出てすぐさま空を仰いだために気付かなかったが、
続いて御坂が外に出て周りを見渡した時に、異変に気付いた。

「何、あれ……?」

何やらアンチスキルの数が多い。

何処かで事件でも起きたのだろうかと思ったのだが、
その瞬間、目の前を走っていたアンチスキルが突如として糸の切れた操り人形のように、プツリと倒れ伏した。

本当に、何の前触れもなく。

意味も無く水溜りの中に突っ込む人間がいるだろうか。
いや、居た所で上条の目の前でそんな事をする意味がわからない。

防水機能の自慢でもしたいのですか?
とか馬鹿みたいな事を考えつつ近づいてみると、

「この人……意識が……?」

御坂が上条の代弁をするように、呟いた。
防護服に身を包んだアンチスキルは、ピクリとも反応を示さない。
明らかに異常事態で、すぐさま他のアンチスキルを目で探す。

アンチスキルはすぐに見つかった。

「「ッ!!?」」

上条達の目の前にいるアンチスキルと同様に、いや、『一斉』に倒れた。

意味がわからない。音も無くアンチスキルだけを狙って意識を飛ばすなど、あり得ない。
麻酔ガスか何かかと思ったが、それなら自分や御坂が無事なのもおかしい。

とりあえず防護服で身を固めたアンチスキルのヘルメットの様なパーツを剥がすと、
とりあえず顔からは生気が感じられ、口からは確かに呼吸を感じられた。

何処か怪我をしているようにも見えないし、純粋に意識が無いだけに見える。

とはいえ、その現象そのものがあやしいのだが。


397VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/25(木) 00:45:19.87kNshSbADO (1/2)

予想外のリアルタイム遭遇来たー


398 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:47:30.54ygwqLV1Vo (4/13)


「……とりあえず救急車だな」

「……うん」

頭の理解が追いつかないが、
ここまで落ち着いていられるのも互いに互いがいたからだろう。

もし仮に1人でこの状況に陥って居たら混乱は必至だったはずだ。
携帯電話でお決まりの番号を押してコールセンターへと接続した。

こういった通報は初めてという訳でも無いので落ちついて状況と場所を説明し、電話を切る。

一先ずはこれで大丈夫だろう。
だが、この現象の原因が未だに不明。

ならばそれをなんとかせねば、
目の前で倒れているアンチスキル達の様な人間が続々と増えるに違いない。

これからどうしようか、考えるところで地面に転がっている
無線機からノイズ交じりの声が聞こえてきた。

『ザッ……聞こえるか……ザザざザざざ……侵入sザザ……繰り返す、
 侵入者!ゲートの破壊を確認!誰か聞いていないか!!?こちらの部隊も侵入者n』

無線機からの声は、最後まで言い切ることなくブツリと通信が途絶えた。

その先の声の主がどうなったかは、分からない。

何にせよアンチスキルが持っていた物なのなら、相手もアンチスキルなのだろう。
そう考えると、侵入者がアンチスキルをこのような姿へと変えたと見て間違いないはずだ。


399 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:48:25.44ygwqLV1Vo (5/13)

(インデックス、大丈夫か……?)

侵入者と聞くと、魔術師しか思い浮かばないのは今までの生活が生活だったからだろうか。

何にせよ、魔術師だとしてもインデックスが狙いとは限らない。
とはいえやはり彼女の事が真っ先に心配になる。

安全確認を兼ね、インデックスと合流したい。しかし、御坂の事もある。
帰宅は一端諦め、一緒に行動しないかと提案しようとしたところ、

「?」

その前に上条の背後から衝撃が走った。

衝撃を受けた位置は上条の腰辺りで、そちらへと振り向くとそこには、

「「打ち止め?」」

打ち止めが居た。

こんな時間に一方通行や、他の奴らも伴わずにどうしたと聞きたいが、
打ち止めは上条にぶつかったと言うより、しがみついたと言った方が正しいだろう。

その身体は雨の冷たさからかガクガクと震え、
濡れた髪の毛がぺたりと打ち止めの神に張り付いて、その表情は読めない。

しかし、切羽詰まっている事は分かった。

「ねえ、一体どうしたの?」

茫然と2人を見ていた御坂は気を取り直して打ち止めに尋ねる。

打ち止めが顔を上げると、その瞳は真っ赤に充血し、
頬を伝う水滴は雨だけでは無いと言う事が容易に見てとれた。

そして、打ち止めは息絶え絶えに叫ぶ。

「あの人を助けてほしいのっ……!ってミサカはミサカは頼んで……みたり……!!」

その願いを、聞き入れない理由は存在しなかった。


400 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:50:01.31ygwqLV1Vo (6/13)

・・・

拳が交錯する。

男は、大きく仰け反ったが、拳による痛みよりも、
殴られたと言う事実に驚愕していた。

「テメェ……!!」

木原数多は、一方通行によって殴られた。
木原数多は、一方通行を殴る事が出来なかった。

木原は先程の出来事を頭の中で反芻する。一体何が起きたのか。

まず、互いが互いに急接近する中で、一方通行は自身の傷口から手を離した。

そうして、木原の攻撃を真っすぐ伸ばした右腕で払って受け流し、
血まみれの左手で攻撃を放ったのだ。

しかしそれでは傷口から血液の流れを操作する事が出来ない。にも関わらず、血は流れ落ちなかった。

恐らく、演算を手で触れることを介して行うのではなく、直接血管から行ったのだろう。
しかし人間の体を十全に理解して、血管の強度や位置を把握していなければ出来ない行為だ。

それを為せるだけの演算力と知識があったと言う事なのだが、
それでも脳内の演算区域はかなり切迫するはず。

そこで気がついた。

(一方通行が『気付かないうちに』反射を切ってやがったってことか……!!)

木原が一方通行を殴る事が出来た理由。

それは反射の直前に手を引く事で、
一方通行自身がその木原方向に向かう運動ベクトルを一方通行へと反射させてしまっているのだ。

言ってしまえばそれだけの事なのだが、それを為す事の難易度は非常に高い。

何せ無駄な紫外線すらカットしている一方通行の反射の、わずかな隙をついての攻撃。
一方通行の動きや思考、能力の使用状況までも完璧に読みきる頭脳。

それが狙い通りとはいえ、『引き戻す』という本来の動作とは
真逆に動かされているのに問題無く動き続ける筋肉や関節。

そしてその理論に寸分の疑いも持たず、迷いなく実践する胆力。

はっきり言えば、ほぼ不可能な事を可能にしてしまっているのだ、木原数多と言う男は。

しかし、その自身の理論に対する疑いが無さ過ぎた。
確かに、一方通行が反射を切ると言う可能性も頭に入っていたのだ。
しかし、こうして一方通行自身が「反射をさせていたつもりだった」時は、木原の理論が足元から崩れさる。

とはいえそのような偶然、二度は無いのだが、それでも。


401 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:51:16.77ygwqLV1Vo (7/13)

「成程なァ……」

それでも、一方通行が木原の攻撃法に気付くのには、十分だった。

「今、明らかに俺は殴られなかったが……
 成程、反射を貫いていたのは、拳を反射する瞬間に引き戻してたからかァ……
 普通、考えついてもそンな事するかァ?
 失敗したら拳ぐちゃぐちゃになるじゃねェか、狂ってンなァオイ!」

攻撃方法がバレた。しかし、それがどうした?

意図的に反射を切ろうとも、
一方通行の思考パターンなら完璧に読み取る自信はある。

先程の偶然程度では木原の理論は揺るがない。

一方通行は口から血の混じった唾を吐きだしながらも、
ニヤニヤと木原に向かって笑いかけるが、木原もまたニヤリと笑った。

「ギャハハ!たった一度の偶然程度に喜んでんじゃねえよ!!
 そっこーでひねり潰してすり潰して肉団子にして好色家にでも売り飛ばしてやるよ!!
 つぅかあのガキ放っておいたらうちのクソ共がさっさと捕獲しちまうぜ?
 追わなくていいのか?まぁ邪魔するけどよ」

「ハッ!!だったらこっちはお前の四肢を千切り飛ばして達磨さんにして
 石膏で固めた後石像にして東京湾の海の底に沈めてやンよ!!!
 てか、お前の事そっこーでブッつぶせばそれで万事オーケーだろォが!!!」


「言ってろクソガキ!!」


「吠えてろオッサン!!」



「「ぶち殺すぞクソ野郎ォオォォオオォォォ!!!」」



舌戦は再び殴り合いへと発展。
二つの影は一つになり拳が交錯を始めた。


402 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:52:38.16ygwqLV1Vo (8/13)

・・・

次々と人間が倒れて行く。

冷たい雨が降りつける中で、
抵抗も無く、無造作に、悲鳴も無く、無意識に、鮮血も無く、平等に。
人々は倒れ伏して行った。

彼らは一様に装甲服だとか防護服だとか呼ばれる耐ショック機構を備えた物を着こんだ大人ばかりだ。

学園都市の守護を司る、アンチスキル達。
倒れた彼らは、冷たい雨に晒されて居ながらも、指一つ動かさない。

ドサリ、と音を立て倒れて行くアンチスキル達とは別に、
カツンコツンと細々とした足音が辺りを響かせる。

そのシルエットは女性の物で、その女は傘もささず、
雨をふる街を、倒れるアンチスキルの隙間を縫うように歩いていた。

まるで気軽に散歩でもするかのような足取りで。

そうして歩いた先、そこにはアンチスキルが無線機を用いて何かを発信していた。

「ふうん」

女は武装した男相手に、何の用意も無しに堂々と近づいて行く。

そして後ろからトントン、と肩を叩くとアンチスキルの男の顔は驚愕に染まり、
続いて意識を失ったのか、力なく崩れ落ちた。

女の方はそんなアンチスキルに目もくれず、男と共に地面に落ちた無線機を拾い上げる。
地面に落ちた事で泥にまみれている事に対して、眉をひそめながら。

そうして、女は無線機に向かって声を放った。


403 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:53:52.04ygwqLV1Vo (9/13)

『はぁーい、アレイスター元気ぃ~?』

ザザ、とノイズが混じった後に困惑する
アンチスキルの声が聞こえてくるが、それに構わず女は続けた。

『どうせあんたはこういう回線とかも傍受してんでしょ?
 せっかくだから相手してくれるとうれしーなー』

すると無線機のチャンネルが切り替わったのか
アンチスキルの声が聞こえなくなり、代わりに別の声が聞こえてきた。

先ほどとは違いこの場に居るのではと言う程の、明らかにクリアな声で。

『何の用だ』

『聞く気があるなら、話してやってもいいかな、って感じなんだけど』

『私がその挑発に乗ると思っているのか?』

『そっ。統括理事会の頭を何個か潰してきたけど、これくらいじゃあ揺るがないのね』

『当然だ、その程度の替え等いくらでも利くし、例え「全滅」させられたとしても、
 反対意見はねじ伏せて替えを据える事は容易いさ』

『それって独裁宣言?
 おー怖、ニンゲン身の丈にあった力を持たないと性格歪んじゃうってことね』

『……それは自分(貴様)に言っているのか?』

『そうね、自分(アンタ)に言ってるのよ』

『何やら見解の相違がありそうだが、まあいい。
 それで、もう一度聞くが一体何の用だ?』

『んー、とりあえず私の名前わかる?』

『さてな。賊は取調室で調べるので』

『神の右席』


404 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:54:46.87ygwqLV1Vo (10/13)

あっさりと、自身の立ち場をばらした。
それはローマ正教でも最も重要で秘匿すべき組織の名前。

知っている人間が居たとしても、それを『知るに値する』者で無いと判断された場合、
秘密裏に「処理」される程秘匿されるべき組織で。

そんな組織名をあっけらかんと女は言い放った。

『ふむ、テロ行為指定グループにそのような名前はあったかな』

しかし、その名を聞いてもアレイスターの口調に変化はない。

『6割、7割か。この街の掌握された人員は』

『へぇ、被害状況の把握は出来てるんだ。
 でもまあ、それの対応も出来ないようじゃ司令官としては置物レベルね。
 アンチスキルだかジャッジメントだか知らないけど、脆弱すぎてあくびが出るわ』

『クク、この街を甘く見てはいかんよ』

『ふふ、負け惜しみとして受け取っておくわ。いずれ10割にするから覚悟しといてね』

『「その程度」で、学園都市の防衛網を砕けたと思うのなら、本当におめでたいな。
 この街の形をまるで理解していないと見える』

『へぇ……』

『隠し玉は、君だけの専売特許ではないと言う事だ。
 この場でいつまでも暴れると言うのであれば、見せてあげよう。
 最も、そこまで学園都市で立って居られるかは君次第だがな』

『何であれ、私は敵対する全てを叩いてつぶす。それは生まれた時からの決定事項』

歌うように、女は無線機に口元を近づける。

『私は、『前方のヴェント』。20億が誇る最終兵器』

一息ついて、最後に告げる。

『全部壊してあげるわ。
 あんたの思惑も、禁書目録も、幻想殺しも、超能力者も。
 そしてこの街も、文字通り『全部』。この一晩の間にね』

アレイスターの言葉を待たずして、ヴェントは無線機を握りつぶし、2人の通信は終わりを迎えた。


405 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:55:45.75ygwqLV1Vo (11/13)

・・・

<???>

アレイスター=クロウリーは、相も変わらず窓の無いビルの中で、
フラスコのような円筒器の中に揺られていた。

自身の生命維持を全て科学技術に任せて、
そして彼もしくは彼女は思考のみに全てを捧げている為、
今もなお目の前に広がる異常を知らせるモニターの数々を見て、笑みを浮かべた。

普段そのモニターには異常など感知されるはずもないのだが。
それは大覇星祭の『使徒十字』でも同様だったのだが。


たった1人の魔術師によってここまで場を乱されてしまったのだ。


ヴェントが侵入してからわずか1時間足らずで、ここまでの人員が犠牲になった。
アンチスキル・ジャッジメントの7割弱が、ヴェントの手にかかったのだ。

調べる限りでは犠牲者は居ない、と言うか恐らくそう言う『術式』なのだろう。
とはいえ、いつまでもこの状態が続けば立て直しは図れないだろう。


この街は、既に死に体だった。


しかし、その街の長は、笑みを崩す事は無く。

『人間』は喜怒哀楽の全てを同時に表し、
それでいて全てを否定するかのような笑みを浮かべていた。

そうして呟いた言葉。

「面白い」

「これだから人生は止められない。
 人生にイレギュラーは付き物だが、ここまでの物は久方ぶりだな。
 しかし、これは丁度良い。飛んで火に居る夏の虫、とはこの事を指すのだろうな」

予想より早いが、『実験』にはうってつけの環境を奴は作ってくれた。
アレイスターはヴェントに対して感謝の意を示すと、無線装置の一つを使い、
とある暗部組織の部隊長に連絡を飛ばす。

「猟犬部隊――木原数多」

相手の返答を受け、アレイスターは短く指令を出した。

「虚数学区・五行機関……AIM拡散力場だ。少し早いが、
 ヒューズ=カザキリを起動させ『選別』のついでに奴らを潰すぞ。
 現在逃走中の検体番号20001号を捕獲後、指定のポイントへと運んでくれ。
 早急かつ丁寧にな」


無線を切ると、彼は言った。


「Project. Tartaros、まずは『適正者』を選び出すとしようか」


406 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:57:39.24ygwqLV1Vo (12/13)

尾張です

ヴェントとアレイ☆とのやりとりはほぼ原作まんまで言い回しとか変えてるだけなので早々に透過しました。
ペルソナと学園都市のクロス設定をようやくあれこれ出せそうです。

でも俺の妄想なのでこれ矛盾してね?とかあったとしても、まああれだ、ねぼし的なあれで許してやろうじゃねえか、寛容な心でよ……!


407 ◆DAbxBtgEsc2011/08/25(木) 00:58:41.53ygwqLV1Vo (13/13)

>>397安定して夕方に透過すると見せかけてのまさかの深夜。これをフェイントと言うのさ
ノブナガみて寝るわおやすみ


408VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/25(木) 01:07:42.66kNshSbADO (2/2)

乙です


409VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/25(木) 01:51:51.34jX0faPRc0 (1/1)

>>1乙

なんとなくだけど一方さんとタナトスって合いそうだな


410VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/25(木) 04:05:43.83+XmHfT7m0 (1/1)

>>406乙
オルソラがいたときの一方さんと、
別人のような脆さ。

オルソラがいれば、変心する?
ならば楽しみが増える。


411VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/25(木) 04:43:36.93qtcUNifoo (1/1)

一方さんと木原くンの罵り合い良いわぁ…
乙!


412VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/26(金) 18:23:35.55H1OTAetGo (1/1)

一方さンと木原くンはやっぱり相性抜群だな


413 ◆DAbxBtgEsc2011/08/26(金) 20:57:25.35D7otpaqro (1/1)

ここ二日何してたってパチンコしかしてませんでした
エバみながら書くけど投下は無理っすわ!何て野郎だ!


414VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2011/08/27(土) 01:27:22.42bRSxKiupo (1/1)

PCぶち壊れてる間に一杯進んでて嬉しい。
けど一つ気になったことが。

>>354の中程の紹介文において
「麦野静利」ってあるんだけど・・・?
誰も突っ込みいれてない気がしたので。


415VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/27(土) 06:47:44.654kvOZNWAO (1/1)

さらりと読んでたから気づかなかった


416 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:47:23.72xDGXGo14o (1/15)

透過するわァ
沈利は次から気をつけるわァ(悠然)


417 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:48:02.28xDGXGo14o (2/15)

月の淡い光と人工の光が学園都市を彩る。

雲の隙間から見る限りでは、今宵は満月のようであり、
普段の一回りほど強い光が街を照らしていた。

辺りは静寂に包まれ、雨が降る音だけが響き渡る。

そんな中で。

「ぎゃはっ!!テメェクソガキの癖に中々根性見せるじゃねえか!
 まあこのままならうちのクソ共があのガキ捕まえてゲームオーバーだけどなぁ!!」

「そンならお前ぶち殺してその首振り回しながらクソ共あぶり出してやるよ!!!」

「それが出来てねぇからこその現状だろーが!!やせ我慢してんなよ!!」

「ハァ~?そっちこそもう歳なンじゃねェの!?動きが鈍くなってンぞオッサン!!」

「ぶち殺すぞクソガキィィィ!!!」

「二度と朝日拝めなくすンぞクソ野郎ォォォ!!!」

一方通行と木原数多は互いに決め手を得られないまま殴り合いを続けていた。
と言うよりは、木原の攻撃を一方通行がひたすら受け流している、と言うのが現状だ。

反射を捨て止血することに全てを捧げている為、木原は一方通行に触れる事が出来る。
しかし、それだけでは肉弾戦では木原には及ばない事がよく分かった。分からされてしまった。

木原の反射を貫く戦い方、それは常人にはできるはずもなく、
理論を立てそれを実行するだけの格闘センスの持ち主である木原数多に、
ちょっと鍛えただけでは勝てるはずもなかった。

とはいえ、能力を使用した戦い方をしていては木原の理論通りになってしまう。

現状が最善の戦い方なのだが、それでも木原には及ばない。
何か綻びが無いか、それを探すものの見つからない。

一方で、木原も現状に歯?みしていた。
こんな所でいつまでも子守をしている時間は無い、と言うのが正直な気持ちだ。


418 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:49:10.97xDGXGo14o (3/15)

(……わざわざこいつに付き合ってやる必要もねぇか)

先程まで一方通行が何をして来るのか楽しみで仕方なかったのか
木原は獰猛な笑みを浮かべていたのだが、どうやらここまでのようだと表情を消した。

何か考えつくまでの時間稼ぎ、と言った様子の一方通行に終わりを告げるべく、一端距離を取る。

その為の準備も完了している。

「もーいいや。オッサンだからもう疲れた」

突然やる気なさげにヒラヒラと手を振る木原に、一方通行は怪訝な表情を浮かべる。

その表情からは疑いの色しか見えない。

胸元に手を当てて止血をしていると言う事は、
そちらの方が演算しやすいのだろう、恐らく反射も戻っているはずだ。

しかし木原は、一方通行がそのまま疑心暗鬼で居れば良い、と思う。

「もうさー、じゃれつくガキをあやすのも飽きたしさー、とっとと死んでくんね?」

「ハァ?何を……」

瞬間、一方通行の側頭部に何かが直撃した。

「ッ……!?」

「ギャハハ!!よかったなあ俺が離れたからってとりあえず反射を起動させてて!
 俺だけを見てたら間違いなく昇天してたな!!」

一方通行は木原の言葉を無視して弾丸の軌道上へと振り向くが、
少なくとも1キロは離れているだろう。狙撃手の姿形までは見えなかった。

そんな一方通行の姿を見て木原は更に高笑いをする。


419 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:49:40.99xDGXGo14o (4/15)

「ギャーッハッハ!!!俺と戦うなら反射もつかわねーと
 その真っ白な頭を真っ赤に染める事になるぜ!?」

そして木原は一方通行の言葉を待たずして駆けだした。
一方通行は、それを今まで通り待ち構えたいが、狙撃手の存在もある。

時間が足らない。

かといって逃げると言う選択肢もあり得ない。
木原が居る限り、猟犬部隊は打ち止めを追い続けるだろう。

何故なら木原の命令が絶対だから。
言われた事を必ずこなさねば殺されるから。

故に猟犬部隊は木原の命令に忠実に従う。
ならば木原を生かしておくわけにはいかない。

だが、一方通行だけの力では及ばない。
それでも、一方通行は抗う。

護れなければ、一方通行が今存在する理由が無くなってしまうから。
そんな大義名分以上に、打ち止めを、妹達を護りたいから。

迫る木原。
いつ来るかわからない弾丸。

双方に対抗するには少なくとも反射が必要。
かといって反射をさせると片手を止血にあてがわなくてはならない。

そんな状態で勝てるかと問われれば、否。


ならば、どうする?


420 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:50:20.90xDGXGo14o (5/15)




瞬間。
一方通行の両手が木原へと伸びていった。


(このガキッ……!)


それを見た木原は足を止め勢いが前に前に向かおうとする身体を無理矢理後ろに持って行った。
何とか体勢を整えてバックステップをする。

そうして一息ついた所で一方通行を睨みつけた。

「テメェ、正気か?」

「ハッ、何言ってンだこれくらい屁でもねェよ」

一言で言えば、「止血」を止めた。
更に言えば、足で地面を踏み抜き身体を固定した。殴られても、その場から動かないように。


そうして一方通行は木原を抱擁するように迎え入れようとしたのだ、確実に仕留める為に。


そんな一方通行は濁々と血を流し、服の白地の部分を赤に染めていた。
雨が血を薄めるように降り注ぐが、赤々とした血を洗い流す事は叶わない。

そのままではすぐに血が足らなくなるので一方通行はすぐさま傷口に触れ、血の流れを整える。

とはいえそのような戦い方を続けていればいずれ失血死もありえるだろう。

捨て身の策を捨て身でぶつけてきた一方通行に、木原は楽しげに笑った。


421 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:51:36.29xDGXGo14o (6/15)

「クソガキにしちゃあ、まぁまぁの作戦考えたじゃねえか!
 お前は弱いんだからその位しねぇと俺には及ばねえんだよ!やっと気付いたか!!」

「ハァ……御託並べてねェでとっとと来いよ、お望み通りさっさと終わらせてやるからよォ……」

「まあ、その策は悪手だけどなぁ……
 だったら、こっちから動かなきゃいいじゃねぇか。
 オラまだ動けるだろーが、かかってこいよ!
 こねーなら俺はあのガキ捕まえるまで仮眠でもとるかぁ!!?」

とは言え、この策は完全に受け身。
木原がそれに付き合う理由など存在しない。

ならば一方通行の策など、無視すれば良い。
捨て身の策は、決死の策は、一瞬にして瓦解してしまった。

そして、一方通行は。

「クソッ……たれがァァァ!!!!」

「そーだぜ一方通行!!
 亀が甲羅にこもってるだけじゃあ勝てるもんも勝てねーってもんだ!!
 まあ、どっちにしても勝たすつもりなんざねーけどなぁ!!!」

このまま戦うのなら、最早詰みだった。
とはいえ、逃げると言う選択肢は頭になく。

しかし、そんな一方通行を動かす出来事が起きた。

「そこで、何をしているの?」

思わぬ方向から声がかかり、木原も一方通行もそちらを振り向いた。

距離はおよそ20m程だろうか、木原と一方通行が相対している大通りの脇道から
不意に出てきたその少女は、とても長い銀髪で修道服を身に包んでいる。

一方通行ともなじみのあるその少女の名は。


422 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:52:35.42xDGXGo14o (7/15)

「インデックス!?お前こンなとこで何してやがる!!?」

血を大量に流しながらも、未だギラギラと生きた目を輝かせる一方通行だが、流石にこれには狼狽した。
猟犬部隊は、元々非公式の工作部隊で一般人が知っていいものではない。
ならばそれを見たインデックスがどうなるかなど明らかで、普通に逃げた所で3日ともたないだろう。

ここにきて、暗部から護らねばならない対象が増えてしまった。

打ち止めとインデックス、どちらかを選ぶなど、どちらかを見捨てるなど、一方通行には出来ない。

故に、一方通行は、すぐさま逃げる事を選択した。

打ち止めへの手がかりが木原しかなくとも、
打ち止めを見つける為に自分しか動けなくとも。

木原より、猟犬部隊より先に打ち止めを見つけてみせる。

その決意を抱いてからの行動は早かった。

先程地面を踏み抜いた時とは反対に、自身が高速で動く為に地面を蹴り抜き、
まるでロケット砲の様な加速でインデックスの元まで移動し、そのままビルの屋上まで飛び上がる。

そんな一方通行を茫然と見届けた木原は。

「ギャハハ!!第一ラウンドは引き分けって事でいいかぁ!?
 第二ラウンドは鬼ごっこってとこか!?先にあのガキ捕まえた方の勝ちな!!
 その為のヒントくれてやる、『マヨナカテレビ』だ!!
 真夜中のテレビは部屋を明るくして離れて見ろよぉ!!」

インデックスを抱えて逃げる一方通行の背を、
まるで遊ぶ約束をした子供のように笑いながら木原は見送った。

その言葉を、一方通行の耳は捉えていたのだろうか。

とはいえ、タダで見送る程木原は甘くない。

「まぁ、あの白いガキにはくたばってもらうけどなー」

気の抜けた声で超長距離対物ライフルを構える。
一方通行達は空中に舞い上がり真っすぐに飛んで行く。成程、的としては丁度良いだろう。

そうして後1mm、引き鉄を手前に引いたら弾丸が飛び出すその瞬間、一瞬だが標準に黄色い影が見えた。
更に不幸な事に、その影に遮られた間に一方通行は一端地面に降りたらしく、標準から見えなくなっている。


423 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:53:54.06xDGXGo14o (8/15)

「?」

木原はそれが何なのか確認するためスコープから目を離すと、女が地面に着地していた。
何やら顔面にピアスの数々を付けバランスの悪い顔つきになっている。

服装は学園都市に似つかわしくない
中世ヨーロッパのようなものの色違いの様なものとなっており、
黄色一色に染められたそれは見ていて目が痛い。

とはいえ、そんな事はどうでもいい。
今重要なのは、目の前の女のせいで標準を見失った事だ。

せっかく白いガキの血を以って楽しい楽しい幕間を迎えられそうだったのに、それを邪魔された。
木原の表情は一瞬にして消え失せ、迷わず女に対して引き鉄を引く。

しかし、何処からか風が吹き荒れ、木原や猟犬部隊達の視界をふさぐ。
そして風が消えると、女は変わらずそこに居た。

「良い街ね」

明らかに生きている。
弾丸を喰らった形跡も無い。

そんな中黄色い服の女は事もなげに呟いた。
まるで木原達等眼中にないと言わんばかりに。

「学生と教師ばかりの街ってのも考えものね。お陰で『侵食』が進むのが遅れたわ。
 まあ、それだけの話なんだけど」

そしてようやく、木原達の存在を認めたのかそちらの方を向きながら、


424 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:54:26.88xDGXGo14o (9/15)

「最も、あんたらは真っ黒みたいだけどね。
どんないい場所にも黒い部分はあるってことかな」

「何者だ」

「商売敵ってとこ?まあ別にあんたらがあいつらを殺っても良いんだけど、
 ターゲットを横から取られるのは気に食わないの」

「……殺せ」

木原は黄色い女と問答をするつもりはなかったらしく、迷わず部下達に女の処分を命じる。
それと同時に部下達は行動を開始するが、

「やめとくコトね……ってもう手遅れか」

部下達が構えた銃から、銃弾が放たれる事は無かった。
引き鉄を引く寸前に、バタバタと部下達がうめき声を上げながら倒れて行く。
それが当たり前のように、一切の抵抗なく。

木原はそれを見て眉をひそめる。

「なんだそりゃ」

「見て分かんない?」

「分かんねーから聞いてんだよ。馬鹿かテメェは」

「分からないとすぐ答えを求める、ひょっとしてゆとりなの?」

「ブチ殺すぞ」

「おー怖。にしても、殺意があっても敵意は無しと来たか。
 殺す事が当たり前で、その辺の雑草を摘む程度にしか思っていない。
 少なくとも、私程度には腐ってるわけね」

木原は、そんな女の言葉を無視しながら、
まだ意識のある部下達に億劫そうに指示を出す。


425 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:55:16.26xDGXGo14o (10/15)


「あー、班を二つに分けろ。使えねー奴を下から10人そこの黄色いのに当てがえ。
 残りは俺と本部に戻る。異論反論は殺す」

余りにもざっくりとした命令だが、木原の思い通りに動けねば殺される。
更に言えば、木原数多に一方通行、そして黄色い女。

先程までの一方通行と木原の戦いぶりを見る限りでは、
そこの黄色いのを相手にした方が幾分かましな気がする。

素早く囮を残して当の木原は黒のワンボックスカーへと乗り込む。

そんな木原の背中に、女は声をかけた。

「アンタには敵意が無いのね」

「向けて欲しけりゃ、もうちょい有能になるこった」

それだけ言い残し、運転手の頭をはたいて発進を促した。
そうして残ったのは女と囮。

「……全く、私の術式はこういう情報収集には向いてないってのに……
 あいつらが何者か知りたいけど、手加減も出来ないし……倒し過ぎってのも考えものね」

囮の方を見向きもせずに、女は小さくなっていくワンボックスカーを見やりながら溜息をつき、

「さてさて。随分と舐めてくれたみたいだけど、アンタらは私の役に立てるのかしら?」

ジャラリ、と鎖を舌から垂らしながら、ニコリと笑った。


426 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:56:34.30xDGXGo14o (11/15)

・・・

上条当麻と御坂美琴、そして打ち止めは雨の中立ちつくしていた。

そこには濛々と燃え盛るワンボックスカーと、
先程見たアンチスキル達のように身動き一つしない黒づくめの武装をした男達。

しかし、その男達は何となく正規の部隊には見えなかった。

別に武器に関して詳しい訳でも無いので、アンチスキルの武装と男達の武装の違いが
分からないのは事実なのだが、あくまでも何となくだ。

目の前で意識を失い倒れ伏す男達が何者なのか考えていると、打ち止めが口を開く。

「あの人たちに襲われたの。ってミサカはミサカは黒づくめの事を思い出して話してみたり」

打ち止めが嘘をつく理由は無い。ならば本当なのだろう。
たとしたら、目の前の男達は一体何だ?何故、打ち止めを襲うのだろう。

そして、

「一方通行はここで戦ったってことだよな」

「そうだよ、ってミサカはミサカは答えてみたり」

「ってことは、一方通行がこれを……?」

「そこまでは分からないかなってミサカはミサカは……」

「あっ、ご、ごめんね打ち止め。あなたは一方通行のことを途中までしか見れなかったんだよね」

そこで3人は口を閉ざした。
状況を何とか理解しようと試みるものの、分からない。
当の一方通行が居ないのだから仕方ない。

とりあえず無事か確認すべく連絡をしようかと思い携帯を開いたのだが、電話がつながらなかった。

「出ないじゃなくて、繋がらない……?」

それは上条達の不安を煽るものだが、一方通行の事だ。何か行動を起こしているに違いない。

一旦一方通行の事を頭から外して、目の前の状況について考える。


427 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:57:27.41xDGXGo14o (12/15)

(まず、こんなひでぇ状況なのに、誰も居ない、来てないってのはおかしい)

どうやら御坂も同じようなことを考えていたらしく、
辺りを見渡しながら呟くように語りかけてきた。

「ねえ、何で『倒れている人』しか居ないのかな……?」

「ああ、こんな異常な状況だ、誰かしら通報してもおかしくないのに」

現状の異様さに息をのむ2人だったが、
そんな中で打ち止めだけは1人黒づくめの男達の1人の懐をあさっていた。

何をしているのだろう、と上条達はぼんやりと思うが、
打ち止めは突如として何かに気付いたように顔を上げ、こちらへと駆けこんできた。

「奴らが来た!ってミサカはミサカは2人を物陰に引っ張ってみたり!」

奴らとは?と2人は思うが、十中八九『仲間達』の事だろう。

武器の事には詳しくないが、あのように完全武装する連中だ。
スキルアウトの様な素人ではなく、訓練されたプロなのだろう。

そんな奴らに追われた時、逃げ切れるかと問われれば無理と言わざるを得ない。

足元は水たまりが池のように溜まっており、
靴の中どころかくるぶし辺りまで水につかってしまうが、この際気にしていられない。

何故なら3人が車の影に隠れ、その視線の先にはヘッドライトも付けずに、
まるで人目を避けるように走って来た奇妙な黒いワンボックスカーから黒づくめの男達が現れたからだ。

数にして10人程。素手で戦えば勝てないし、ペルソナを使ったところで狙撃される方が早いだろう。
男達は全員肩にサブマシンガンを下げ、他にも腰に手榴弾や拳銃で武装している。
どう見てもアンチスキルがして良い武装では無い。

そんな中、御坂美琴だけはその男達を強い意志を以って見据えていた。
思わず上条は御坂に尋ねる。


428 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:58:21.75xDGXGo14o (13/15)

「……おい、何するつもりだ?」

「私が奴らを相手するから、その隙に逃げて」

「……そんなことできる訳ねぇだろうが。奴らだってあれで戦力のすべてとは限らないんだ、
 お前がレベル5の超能力者だからって長距離から狙撃されてそれを回避できるのか?」

確かに、いつまでもここに隠れてやり過ごせるかと言ったらどう考えても無理だろう。


何せ、相手はプロなのだから。


何か指紋や血痕を調べているのか、薬品の様なものをばらまいている。

そこまでする相手だ。こんなに近くに潜んでいる事自体が奇跡だ。

そんな相手が真正面から戦ってくれるのか?

そんな訳が無いだろう。

「分かってるわよ、だけどね」

雨は私の領域だから、あんたらが居ると邪魔なの。


御坂は突き放すように告げると、車から顔を出し、そのまま男達へと近づいて行く。

まるでアンチスキルに助けを求める少女のように。瞬間、


紫電が辺りを駆け巡った。


ここまでされて、最早この場に居る訳にはいかなかった。


429 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:58:53.72xDGXGo14o (14/15)

「くそ!行くぞ打ち止め!」

打ち止めの返答を待たずして、上条は打ち止めを抱えるようにして駆けだした。
しかし猟犬部隊の面々は御坂の攻撃によって気付かない。

(無事でいろよ!御坂!!)

路地裏に駆け込んだ上条は、どこか隠れられる場所が無いか模索を始めた。

御坂美琴はレベル5の電撃使い(エレクトロマスター)だ。
その能力は『超電磁砲』と言う異名が出来る程の強度を持っている。
しかし、彼女の力の真髄は、超電磁砲では無い。

(あいつはああ言ったけど)

上条の心配をよそに、御坂はのんびりと佇んでいた。

何せ彼女の力は、電磁波を自在に扱う事が出来る。
それはすなわち。




「近代兵器で私を打倒できると思ったら、大間違いよ」




―――彼女は電磁波や地の文など関係無しの、超電磁砲を放った。




一応、電磁波でレーダーの真似事だとか、機械の制御を奪ったりだとか出来、
多岐にわたった攻撃法を持っているとだけ追記しておく。


430 ◆DAbxBtgEsc2011/08/27(土) 21:59:28.78xDGXGo14o (15/15)

終わりです。無理矢理ペルソナ要素ぶち込んで行きますので!


431VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/27(土) 22:01:28.04Qv+pjfR1o (1/1)

>地の文など関係無し
吹いたwwwwww


432VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/27(土) 23:33:53.306FUfpwVk0 (1/1)

>>422の最後の辺り、「照準」が「標準」になってるぞー
まあとにかく乙!


433VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/27(土) 23:57:06.63k93F8wBz0 (1/1)

>>1乙

原作と話がどう変わっていくのか楽しみだ


434VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/28(日) 04:31:46.91gh631/Ku0 (1/1)

>>1乙
魔法、ペルソナ、超能力そろいましたね。
展開が楽しみ。

>>429
なんと、美琴が考えて行動している。



435 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:01:03.79oqJcByqvo (1/38)

透過するゥ


436 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:01:48.32oqJcByqvo (2/38)

>>432間違えた!人間、誰にだって間違いはあるよね!(テヘペロ


437 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:03:11.14oqJcByqvo (3/38)

一方通行はインデックスを抱えて重力を逆らって空を舞っている。

何処に向かっているのか知らないが、
とりあえずインデックスは一方通行の身体が血に染まっている事を見てギョッとした。

「あくせられーた!病院行かなくちゃ!!どうしてそんな……」

「うるせェそりゃこっちのセリフだっつゥの!
 なンでまたあンなとこに……!」

「……とうまが帰ってこないから探してたんだけど、物音が聞こえたから……」

どうやら帰宅しない上条当麻を探すべく外に出てきたらしい。

しかし、インデックスと言うイレギュラーが無ければ
一方通行は自ら退くことをしなかっただろう。

それを感謝すべきか否かと問われると、
どちらを選ぶと言うのは出来そうもない。

何故なら、インデックスが暗部を見てしまったから。

ほぼ確実にインデックスも狙われる事になるだろう。

ならば自分がしなければならない事、
それは猟犬部隊ごと木原数多をこの世から消し去る。

とはいえ、その間インデックスを安全地帯に置いておきたいのだが、心当たりが一つしかない。

最悪マヨナカテレビに放り込んでしまおうとか考えたのだが、
木原数多はマヨナカテレビと関わりがありそうだ。

とてもじゃないがそんな事は出来ない。
魔術側の人間を、これ以上科学の闇に引きずり込む訳にはいかない。

従ってその心当たりに頼ろうと携帯を取り出そうとするが、
電波を傍受される可能性を考え何処か適当な公衆電話に行こうと決めた。

その前に、目的地の近くに辿り着いたので地面に降り立つ。

どうせ雨が降っているのであまり意味は無いのだが、
なるべく水溜りの少ないところを選び、水が跳ねないようにゆっくりと。


438 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:03:55.82oqJcByqvo (4/38)

「こっから歩いて5分か10分した所に、俺が入院してた病院がある。お前もわかるだろォ?」

「うん、今からそこに行くんだよね?」

その言葉に、一方通行は首を横に振りながら、

「あァ、行くのはお前だけだけどなァ」

「何で!?治療が必要なのはあくせられーたのほうで……!」

「まァ待て、何もこの状態で行動しよォって訳じゃねェ。
 ただ、じっくり腰を据えて治療って訳にもいかねェから、応急処置だけしてェンだ。
 だからこっから病院まで行って来てくれねェか?
 俺の傷の具合を把握してるのは冥土返し……
 あのカエル顔の医者しか居ねェから、あいつに会って話を聞けばわかる」

「……わかった!」

インデックスは一方通行の言葉に訝しげにしていたが、
一方通行の様子を見る限りでは相当に切羽詰まっているのだろう。

了承の意を示すと同時に病院へと駆けだした。

一方通行はその背が曲がり角を行くのを見送ったと同時に
近くの公園に公衆電話があったはずだ、と再び宙へと舞い上がった。


439 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:05:03.69oqJcByqvo (5/38)

・・・

木原数多は一方通行が逃走を図った後、
数人の部下を伴って本部へと戻っている。

しかし、その前に気になる事があるので
運転手の後頭部をはたき、自身の研究所で道草を食う事にした。

(あの女……)

黄色い女。
あれに銃を向けた奴全員が突然糸が切れたように倒れていった。

全くをもって不可解。

あの場はすぐに離脱した為倒れた部下達を連れ帰り検分する事は出来なかったが、
あのような理解不明な出来事に少しだけ興味があった。

―――魔術。

大覇星祭の時に外部の人間が侵入しようとしているのでそれを殲滅、という指令が下ったのだが、
その際に魔術と言う物と出会う事となったのだ。

超能力とはまた違ったプロセスで発動させる異能に木原は大いに喜び、
命令を無視して何人かの魔術師を生きたまま連れ帰った。

その後その魔術師達がどのような目にあったのかは、不明。


440 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:06:58.09oqJcByqvo (6/38)

しかし、こうして木原が研究所に赴いて話を聞きに行くと言う事は
まだ生きている者も居ると言う事だろう。

そうして自身の研究所に辿り着いた木原は、
真っ先に一番奥にある地下へと向かう階段へと進んだ。

そこには全身に電極を刺されている男に、
培養液に全身を浸からせている女や、
とりあえず健康そうな人間は木原を除いて誰1人として居なかった。

先に挙げた男女はまだマシな方で、元々なのかあるいはこの場で持っていかれたのか、
四肢や身体の一部が欠損していたり、腹部を切り開かれてそこから何本もチューブが通され
何か薬品の様なものを注入されている者も居た。

そんな中で、電極を刺されている男の耳元で、木原は囁くように質問をする。

「ある特定の相手の意識を問答無用で飛ばす魔術ってのはあるのか?」

「……」

男は何も答えない。
しかし、そんな男を見ても木原は眉一つ動かさない。
その代わりに男の隣に設置されているモニターに顔を移す。

そこには一般人が見てもわからないような大量の数字と、
脳波を示すグラフか何かだろうか、波線が絶え間なく変動していた。

今この男の状態としては、意識はあるが身体を動かす事が出来ない、という状態である。

更には薬品と電極からの信号によって
常に大脳上皮を麻痺させられながらも無理矢理正常な状態を保たせている為、
本人が望む望まないに限らず質問した事には必ず自身が知っている情報を以って返答をする。

それはモニターに示されている大量の数字で判断出来るのだが、
それをできるのはこの場では木原しかいない。


441 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:08:29.66oqJcByqvo (7/38)

そんな木原はじーっとモニターを眺めた後に、キーボードを叩き始める。

しばらくの間、何かをモニターに打ちこんだ後に
エンターキーを押すと男の身体がビクンと震えた。

続いて、再び木原が男に質問をする。

「あー、魔術に関して詳しい人間ってのは居るのか?」

もしあれが魔術師だとしたら、
今までも似たような感じで魔術師が侵入してきた事があるのだろうか。

だとしたら色々と調べないといけない事が出来る。
はっきり言って木原もあまりこの実験体からの情報に期待はしていなかったのだが、
とりあえず何も知らない木原からしたら無いよりマシ、と言う程度で質問をしていたのだろう。

しかし、その思いとは裏腹に、実験体は予想以上の答えを返答してきた。

「お、あ……Ind…ex…あ、Libr、、oruう、m…Prohib、itorum……」

無理矢理口と声帯を動かされているからだろうか、
母国語で語っているというのに何処か慣れない異国の地の言葉を
使っているかのような片言で、魔術に関するヒントを提示した。

聞き取りにくい口調だったが、このようなやりとりは今までに「何度も」してきたので、もう慣れた。

「Index-Librorum-Prohibitorum……?姿形は分かるか?」

「イギリス……清教…う、ぎ、…シスター…ぐ、修道服…」

イギリス清教と言うと、この実験体を回収するきっかけを作ってくれた組織の名前ではなかったか。
どうやらそこに所属する人間らしいが、『インデックス』という単語。


「……あのクソガキが何か言ってたよなぁ……?」


まさかとは思うが、一方通行は既に魔術と関わっていたのだろうか?


木原の思考は呻く男の声すらも聞こえない程に深くへ潜り込んで行った。


442 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:09:25.50oqJcByqvo (8/38)

・・・

インデックスと別れた一方通行は、公園の公衆電話にて通話を開始した。
とりあえず、打ち止めに対して電話をかける。

しかし、相手からの返答は無い。
電話が壊れたか、落としたか、電波が届かない所に居るか、或いは。

そこまで考えて思考を打ち切った。

そもそも逃げている最中で、声を出せない状況かもしれないし、
何にせよ打ち止めの安否を考えるより、打ち止めの安否を信じた方がまだマシだろう。

兎にも角にも、こうしている間にも状況は変動して行くのだから。

一方通行は続いて別の番号へと電話をかける。
何度かコール音が鳴り響くと、女性看護師と思われる声の主が応対をした。
一方通行はカエル顔の医者に取り次ぐように命令すると、すぐに医者に代わった。

『こんな時間にどんな用件かな?』

『デケェトラブルが起きた』

『一応、『彼女達』の電気的ネットワークを介して情報はある程度集まっているけど?』

『成程なァ、そォいやそんなのもあったな。だったら話は早ェ。
 あのガキは今どォなってる?』

『今は猟犬部隊の別働隊に追われていたらしいけど、上条君と御坂さんに保護されたらしいね?
 ただ、御坂さんが囮になったから今は上条君と2人で逃げているようだが……』

それを聞いて思わず舌打ちをする。
まさか上条達がこんな所で暗部に目をつけられる可能性を持ってくるとは思わなかったからだ。

そして何より、自分の抱えた闇を、上条達に尻拭いさせてしまっている自分自身に腹が立つ。


443 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:10:39.88oqJcByqvo (9/38)

『場所は?』

『どこか路地裏を走っているようだが……場所までは分かっていないようだね?』

それだけの情報では何も分からなかった。
とにかくこの電話を終えた後、上条にも連絡を飛ばさねばと思う。

このような闇の世界に上条達の様な人間に足を踏み入れて欲しくないと思うが、
今の自分では、自分だけではその闇には及ばない。


ならば、頼るしかないじゃないか。惨めだろうと、情けなくとも、弱弱しくとも。


だけど、それでも、結果だけは出して見せる。

何せこちらには『冥土返し』が居る。

怪我前提と言うのもどうかと思うし、
勿論無傷で全員が帰ってこられるのに越した事は無い。

それでも、可能性として十分あり得る事なのだ。
一方通行は、ギュッと受話器を握りしめると口を開いた。

『そっちに白シスターは来てるな?』

『今対応に困っていたところだよ。それはそうと君、また無茶なことしたみたいだね?
 この件が終わったらまた戻ってきてもらうけど構わないかな?』

『問題ねェよ』

『それは入院など要らないという意思表示なのか、
 僕の言葉に同意したのか、どっちなんだい』

『ンなこたァどォだってイイ。そのガキ保護してくれ。猟犬部隊のクソ共に目をつけられた。
 少なくとも24時間程度は命を狙われるかもしれねェ』

『……やれやれ、ネットワークを介して話を聞いたけど、
 こうやって当事者と話をすると、ますます危機感が募って来るよ』

『わかってンなら丁度イイ。難しいだろォが、
 非戦闘員……特に重病者や妊婦とか、退避させられるか?
 急患の対応もそォだが……出来るか?』

はっきり言って無茶苦茶を要求しているのは一方通行自身良くわかる。
しかし、事は急を要するのだ。それだけ切羽詰まっているのだろう。


444 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:11:40.75oqJcByqvo (10/38)

そんな一方通行に対して、冥土返しはきっぱりと告げる。

『やろう』

そして一方通行の言葉を待たずに、冥土返しは続ける。

『発煙筒か何かで火事が起きたと言って、そこからテロにでも結び付ければ大義名分も立つ。
 動かすのも危険な患者もいるが、そう言った者達を救うのが僕の仕事だ。やってやるよ』

『……悪ィな。最悪あと数人急患を送りつける事になるかもしれねェ。
 勿論、俺も含めてなァ』

『おや、意外だね。僕はてっきりこの件に関わった者
 全てを救ってみせる位言ってくると思ったんだけど?』

少し申し訳なさそうに感謝の意を示す一方通行だが、
冥土返しはそれ以上に一方通行の言葉に対して意外そうな口調で返答した。

『ハッ、夢は寝て見るもンだぜェ?まァ、それが出来るのに越した事はねェンだけどな。
 なるだけ無傷で助けてみせる。だが、最低限『助ける』しか出来ねェ場合もある。
 ……ムカつくけどな、形振り構ってらンねェンだ。だからその後は任せる……俺達を、助けてくれ』

『……当然だ、僕を誰だと思っているんだい?……『冥土返し』、だ。
 それが出来なくてその名を名乗るなんておこがましいとは思わないかい?』


その力強い返答が、どれだけ心強いものだったろう。
一方通行は感謝の意をもう一度示すと、続いて病院の退避先を聞いてから受話器を降ろす。



―――その目には、今まで以上に炎のようなギラついた何かが滾っていた。


445 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:13:14.41oqJcByqvo (11/38)

・・・

ビリビリッ!と電撃が水たまりや宙を駆け廻りあたりを照らした。

そうしてその電撃が止んだ時、その周辺には黒づくめの男達が倒れ伏し、
電撃が放たれたと思われる中心点には、茶髪の女子中学生。

彼女の名は御坂美琴。
ここ学園都市が誇るレベル5の序列第三位『超電磁砲』その人だ。

彼女は今現在手ぶら状態で、学生鞄とゲコ太ストラップの入った
携帯電話の紙袋は近くのコインロッカーに放り込んでいた。

というのも、上条当麻と罰ゲームと言う名のデートを敢行するにあたって
その日の日程や天候は既に把握していた為、
上条の学生鞄も共にそのロッカーにしまっておいたのだ。

しかし、カラオケ店に入るまでは雨が降らなかったので結局雨の事を忘れていた為に、
鞄に入れた折り畳み傘を取り出す事は無かったせいで、
今現在彼女は水もしたたるイイ女状態になっている。

自分は濡れ濡れだが、主にゲコ太ストラップをあらかじめ
コインロッカーに置いといて本当に良かったと思う。

そんな中で、ポケットに入れた携帯電話が鳴り響いた。

彼女の携帯は見た目ゲコ太だが中々に実用性が高く、
勿論防水機能もありありなので雨の中でも気にせず携帯を開く。

表示は白井黒子、彼女の後輩だ。

『おっねえさまーん』

『何よ黒子』

『あのですね、ジャッジメントの職務の為寮に帰れないので、
 あの口うるさい寮監に一言連絡してほしいのですの。
 ほら、もう門限も過ぎてますでしょう?』


446 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:14:59.74oqJcByqvo (12/38)

そこで御坂も思い出した。
自分は門限ギリギリだったという事実を。
そしてそれは既に過ぎてしまっているという事実を。

冷汗を雨で洗い流しながらも、それでもなお流れ落ちる水滴は、
やはり雨だと思いたい御坂は震える声で話す。

『あの、ごめん、私も今外』

『何……だと……?』

思わず白井も淑女らしくない返答をよこした。
そんな中で、白井の少し後方から、別の声がスピーカーに届く。

『あれー?白井さん、御坂さんに連絡付かなかったんですか?
 よかったですね、これで寮監さんからの懲罰確定で――』
『うおっとしいですの!!』

何やら騒がしいが、この声は恐らく初春飾利のものだろう。
となると、彼女らは今現在支部でお勤めの真っ最中という事か。

『しかし、これはまずいですの。
 2人して外に出ているという事は門限超過に関する書類を提出できませんし。
 と言う事は2人してあの寮監に……』

『あれ?そういえば白井さんは良いとして、御坂さんはどうしてこんな時間に外に?』

『ッッ!!?』

白井と初春の声をぼんやりと聞いていた御坂だったが、
ここで通話の音声に雑音がすこし混じり、ミシミシッと何か圧のかかったような音が響いた。

恐らく、白井が力の限り携帯を握りしめているのだろう。

『お、お姉さま?まさかとは思いますが、あの類人猿と今一緒に……?
 己れあのクソッタレめ!!雨の夜景を楽しむとはなんて渋いチョイスを……だが、良いセンスだ!』

『……良かったわね、私は1人よ(今は)』


447 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:16:14.12oqJcByqvo (13/38)

白井の憎々しげだが何処かライバルの力を誇るような声に、御坂は少しだけ間をおいて返答する。

この冷静さは実際にデートっぽい事をできた事による余裕だろうか、
何にせよ落ちついた口調で返答して来るので白井は安心したように少しだけ溜息をついた。

『良かったですの……てっきり黒子は、お姉さまの貞操の危機かと思い、
 今すぐにでも逆探知をかけお姉さまの元へと誰よりも早く向かおうとしてしまいましたわ』

本当にやりかねないから怖い。
御坂はそんなことをぼんやりと思いながら突っ込みを入れようとするものの、初春によって遮られた。

『駄目ですよー、白井さん。
 今晩はこのアルプス山脈の様な書類達を更地に変えるって誓ったじゃないですかー。
 ほらほら手が動いてないですよ、電話しながらでも書類は減らして行って下さーい。
 ここで遅れた分だけ私の仕事もしてもらいますよ?
 とにかく、今日は徹夜です。デスマーチです。お弁当はありますし部屋から出る必要もありませんね、
 お風呂も駄目ですトイレは書類を片しながらなら許可します』

『……にゃあああああああああああああああああ!!!!』

『!?白井さん?白井さーん!!』

電話の向こうで何やらドタバタと物音が聞こえる。
携帯電話を離しながら、もう片方の手でうるさそうに耳をふさぐと、御坂は呆れたように口を開いた。

『もう切っていい?』

白井はどうやら錯乱しているらしく、代わりに初春が答える。

『はい、もう大丈夫です。白井さんは馬車馬のごとく働いてもらうので、
 あの、邪魔は入りませんので!』

『だから違う!(今は)』

割と事実なので、あまり言い返せない御坂であった。


448 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:16:46.87oqJcByqvo (14/38)

・・・

上条当麻は打ち止めを抱えて走る。
前にも後ろにも『立っている』人は居ない。

その代わり、地面に倒れ伏した人、人、人。
ここでもアンチスキルの部隊が1つ撃破されたらしい。

(マジで何が起こってんだ……!?この街で!!)

焦る思考の割に冷静にあたりを見渡せているのは、
御坂美琴が囮になって猟犬部隊を引きつけてくれたからだろう。

追手は今のところ来ていないようで、
緊張感はもっているがそこまで張りつめたものではなかった。

それでも不安なのだろう、
打ち止めは心細そうに上条のシャツをギュッと掴んでいる。

そうして、バシャバシャと水たまりに足を取られながらも大通りへと躍り出た。
そろそろ追手にも気を張るべきか、そう考えた所で100m先だろうか、ある異変を見つける。


そこには、1人の女が悠然と佇んでいた。
そこには、多数のアンチスキルと思われる人員が倒れ伏していた。



―――そして、その女は、こちらを振り向いた。



思わず身を翻して曲がり角に隠れる。


449 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:18:08.32oqJcByqvo (15/38)

「ハッハァーイ♪びっくりしちゃったカナ?怖がらないで出ておいでー?」

聞こえてきた女の声は、想像以上に自己主張の激しいものだった。

遠目に見る限りでも黄色を基調とした服で、
どう見ても御坂が相手をしている黒づくめとは違う人種だ。

そして、倒れ伏す人々の中で、あのように笑う人種とは。

(魔術師……か……?)

だとしたら、マズい。
何がマズいってどう見ても打ち止めより上条の方が狙われているだろう。

別にそれは構わない。

しかし、そうなった時打ち止めだけでも逃がしたとして、打ち止めが1人になってしまう。
とは2人で言え逃げ切れるかどうか、相手の力も出方も不明なのだから、分からない。


ならば、囮になるしかない。


「打ち止め、お前携帯は?」

「えっと……あれ?落としちゃったかもってミサカは―――」

「なら、これ持ってけ。とりあえず逃げろ。
一息ついたら一方通行でも誰でも連絡を飛ばしてくれ。
 多分、あれの狙いは俺だ」

「でも、」

「打ち止めには辛いかもしれねぇけど、頼む」

「……分かったよってミサカはミサカは静かに駆けだしてみる」

そうして打ち止めが先程来た道を引き返すと同時に、上条は再び大通りへと歩いて行った。
そこには、変わらず女が雨に打たれていた。

ただし、その距離をゆっくりと縮めながら。

                     ターゲット
「さてさて、ようやく見つけた最初の被害者。
 他にも居たけど、普通にこっちに気付かずに逃げられちゃったしねー」

じゃらじゃらと音を立てながら、その女は笑った。
あまりに女性に似つかわしくない醜い笑いに、
上条は少しだけ動揺しながらも口を開く。

戦わなくとも、とにかく打ち止めがここから離れるだけの時間稼ぎをする。
それだけで頭はいっぱいだった。

「お前、は……?」

「『神の右席』、前方のヴェント」

ヴェントは手にしていたハンマーを肩に担ぐように振り上げながら、続ける。

「とりあえず、まあ、ぶっ殺されてくれない?」

舌から垂らされた十字架付きの鎖から、唾液か雨水かが滴り落ちた。


450 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:20:51.65oqJcByqvo (16/38)

尾張ますん
誤字脱字はホラ、俺の十八番みたいなとこあるから、ね?(迫真)


451 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 01:26:57.58oqJcByqvo (17/38)

ちなみに木原くンのシーンはハンターのポックルを科学的にしたイメージですというどうでもいい補足


452VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/29(月) 02:48:52.33bJdY8ot30 (1/2)

>>1乙

誤字脱字は脳内変換してるから大丈夫だよがんばってね

あと冥土帰しだよ


453VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/29(月) 02:50:51.30E2CM1aELo (1/1)

上条さん大丈夫か…幻想殺し無しはかなりやばいぜ



454VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/29(月) 04:41:28.60uuvxmArs0 (1/2)

>>1乙
三重点いいね、最高だね。


455 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 12:02:53.58oqJcByqvo (18/38)

うわあああ冥土帰しィィィ!!
>>449の とは2人で言え とかも意味不明だしよォォォ!!

夜に等価出来たらします


456VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/29(月) 18:56:11.58uuvxmArs0 (2/2)

>>455了解
待っている。


457VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/29(月) 23:10:37.31bJdY8ot30 (2/2)

待っている あと冥土帰しィィィ!じゃなくて冥土帰しァァァ!だよ


458 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:12:17.11oqJcByqvo (19/38)

うるさい!横文字が多すぎるんだよ!!
透過する


459 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:13:15.38oqJcByqvo (20/38)

暗闇の中、とある大通りでは張りつめたような緊張感で覆われていた。
ドクドクと脈打つ心臓が持つ熱を、降り注ぐ雨が幾度となく冷まして行く。
それでも、上条当麻の極度の緊張感から来る熱を冷ます事は叶わない。

「緊張なんてしなくても大丈夫ダヨ?痛みなんて感じるヒマも無いんだし」

彼の目の前にはヴェントと名乗った女が、
薔薇の茎のような有刺鉄線を巻きつけたハンマーを持って、
鼻歌交じりに野球選手の様な素振りをしていた。

何だかそれだけを見てると悪そうな人には見えないが、
倒れ伏すアンチスキル達の中、平気な顔して素振りをしているのでその評価は一気に覆るというものだ。

何にせよ、呑気に素振りしてるしそろそろお暇をば……
と言った感じでそそくさとその場を去ろうとする上条に、ヴェントは声をかける。

「私をムシして何処行こうっての?」

「え、ええっと……その、あっちの方に」

「ふうん、成程ね」

しどろもどろに返答する上条だったが、何やらヴェントは納得したように頷いた。
え?どゆこと?と疑問符を浮かべる上条をガン無視しつつも、ヴェントは笑う。


460 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:14:04.74oqJcByqvo (21/38)

「他の人間に被害が及ばないように場所を変えようってことね?
 OKOK、そう言う事ならいくらでも付き合ってあげるヨン。
 私もアンタを抹殺する為にやってきてるんだし、
 周りの事気にしなくてもイイかなーとか思ったりしてたけど、
 死者への手向けってのも乙なモンだしね、その望み叶えてあげよう!」

「は?イヤ、そげなことなかですたい!?」

「またまたそんなこと言ってー」

もう、イヤン♪と言った突っ込みのテンションでヴェントがハンマーを振るった。

両者の距離はおよそ10m。

突如として上条の体に、横殴りに衝撃が走りそれに従って
車道の端にあるガードレールまで紙切れのように吹き飛ばされる。

そんな上条を見てヴェントは少しだけバツが悪そうに呟いた。




「あ、いっけね。術式発動したまんまだった。ごっめーん」




ガードレールにぶつかったことでその勢いを止めた上条、はすぐに直感した。




―――あれと敵対してはならない、と。


461 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:15:43.14oqJcByqvo (22/38)

・・・

「さァて……」

まずは上条当麻と御坂美琴の安否が知りたい。
とりあえず上条の電話にかけたが、誰も出なかった。

それだけで不安を煽るものであるが、
とりあえず御坂にも電話をするべく硬貨を入れる。

すると今度は繋がった。

一先ず御坂は無事そうだ、と言う事実に安堵しながら口を開く。

『御坂、無事か?』

『その声、一方通行?……その口ぶりだと、あんたも無事そうね』

実際は胸がぱっくりと開いていてそれを無理矢理閉じているという状態なのだが、
気を抜くとすぐに傷口から血も抜ける。

しかし、そんな重症な状態だと微塵も感じさせない一方通行の口調に、
御坂は安心したように溜息をついた。

『ただ、上条と連絡がつかねェ。何処行ったかわかンねェか?』

『ごめん、途中まで打ち止めと一緒だったんだけど……』

『そりゃ仕方ねェってもンだ。誰が悪いってあのクソ共が悪ィ。
 とりあえず、インデックスの奴も暗部に目をつけられたかもしれねェから、
 あいつはあのカエル顔の医者に匿ってもらってるンだが、戦力に不安がある。
 だからお前にそこでの防衛を頼みてェンだが……』

『あら?てっきり俺1人でやる位言ってくると思ったのに……』

『……そォしてェのは山々なンだがな。ちっとばっか俺の手に余る問題なンだよ。
 とにかく、頼めるかァ?』

『了解~、頼まれちゃあ行くしかないわね。』

『何でちょっと嬉しそうなンだよ』

『いや、こうやって一方通行から頼みごとされるのって初めてだから……
 何でもかんでも1人でこなしたりこなそうとしたりするし』

『……うるせェさっさとしろォ』

『はいはい、それじゃあね』

何だか楽しそうな雰囲気を醸し出しながら、御坂は電話を切った。
そうして取り残された一方通行は、舌打ちをしながら硬貨を入れる。

続いて芳川桔梗にも連絡を入れるためだ。
恐らく鬼ごっこを終えて9982号も近くに居るはずだと考えながら、電話に出るのを待つ。

しかし出なかった!

チッ、と舌打ちをしながら受話器を置き、
返却された硬貨をもう一度入れ、今度は9982号の電話番号を押す。

しかし出なかった!

一方通行は叩きつけるように受話器を置いて、硬貨をポケットに突っ込み公衆電話を後にした。

(なンであいつらは電話に出ねェンだよ!!)

ひょっとしたらあいつらにも何かあったのだろうか。

そんな嫌な予感が脳裏によぎりながらも、
とりあえずテレビの中に言って何か異常が無いか調べに行く事にした。


462 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:16:49.17oqJcByqvo (23/38)

・・・

一方その頃。

「はぁ、はぁ……!!」

少女は雨の降る街を駆ける。

その表情は焦燥に満ちており、
明らかに異常事態であると主張しているようにも見える。

しかし、そんな少女に助けは来ない。

その代わり、背後からは追手がやってきている。
彼女が前進しながらも背後にチラリと視線を送ると。





「悪ぃ子はいねぇか~?人を年増呼ばわりする悪ぃ子はぁ~いねぇが~!!?」

「ひぃぃいい!!!こいつしつけえ!と、ミサカは芳川に戦慄します!!」





修羅の国を生き抜いてきたような威圧感……いや、最早存在感と言っても良いだろう。

圧倒的な恐怖を携えて、鬼が少女に迫っていた。

成程、未だに追いかけっこをしていたようで、
一方通行の電話に出る余裕などなかったのだろう。

あまりに呑気な2人は、家に帰る事も忘れて走り続けていた。

「一発!一発ぶん殴らせて!全力で!!」

「だが断る!と、ミサカは逃走を続けます!!」

「先っぽ!先っぽだけでいいから!!」

「何処の部位を指して言ってるんですかそれは!!?」

未だに2人は街の異常に気付いていなかった。


463 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:17:51.15oqJcByqvo (24/38)

・・・

風が、吹き荒れていた。

それは一方通行や布束砥信のペルソナに
勝るとも劣らないレベルの風だと、上条当麻は感じている。

その風は辺りに溜まっている雨水や地面へと落ちようとしている
雨粒すら吹き飛ばし、局地的に雨が降って来ない空間を生み出していた。

そして吹き飛ばされた雨は、何処かの店の看板やら駐車されていた車両やらと共に上条に襲いかかる。

そんな中で上条は回避できないと反射的に判断して、
オケアノスのブフーラによる人工の氷壁を作りだし防御に回った。

何とか逃げ切ろうとか思っていたのに、力を使わざるを得ない。

(どうする!?逃げる!?いや、既に逃げ切れてねぇし!!
 かといって、あんな風を使われたら、成す術なく吹き飛ばされるんじゃんかよ!?)

そして何より、『頭に召喚器を突きつける』という過程が圧倒的なまでに隙を作ってしまう。

テレビの中では仲間達も居たからその隙を無くす事も出来たし、
オリアナ=トムソンの時は事前にある程度の情報―オリアナの魔術について
知っていたからこそ、ペルソナを使って戦う事も出来た。

しかし、今相手の力は未知数なのである。

例えば今使っている風も、全力ではないかもしれないし、
それ以上の魔術を行使して来る可能性もある。

そして何より、アンチスキルが事ごとく意識を奪われたという現実。

どう見ても隠し玉があると言っているようなものだ。
少なくとも、打ち止めが遠くに移動するまでは相対して戦う気にはならない。


464 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:19:05.95oqJcByqvo (25/38)

(クソ、打ち止めの安否が気になって仕方ねぇ……
 一方通行も何処居るかわかんねーし、ああああ御坂も大丈夫なのか?!
 久々葉とか芳川さんとか、気になりだしたら止まんねーぞ!!?)


上条が極限まで思考をフル回転させて現状を打破する策を考えていると見せかけて
思考が脱線している一方で、風を生み出した本人はぼんやりと上条が使用した力について反芻していた。


(どう見ても幻想殺しではなく、別の力を行使している)

(ひょっとすると、幻想殺しは、使わないじゃなく使えない?)

(でも、時折織り交ぜている『本命』には引っかからない)

(それはただ単に戦意が無いから?
 てっきり幻想殺しに阻まれているだけかと思ったんだけど、
 『幻想殺し消失』の噂は本当なのか、確かめる必要があるわね)

まあ、そんな反則は消失してくれてた方が楽なんだけど、
とヴェントは声にならない程小さく呟いた。

「てゆーかさ、アンタと一緒に居たちっさいの、どっかに逃がしたみたいだけどイイの?」

「……何がだよ?」

「こんな暗闇にあんな幼子を1人放り込んで、嗚呼可愛そうに。
 今も雨の寒さに、暗闇の深さに震えてるかもネ。
 それだったらこの場で苦しみも無く死んだ方が楽じゃない?」

「……大丈夫だよ、携帯持たせてるし、すぐに誰か助けを呼ぶだろうさ。
 それに、俺も居る。すぐに打ち止めの元まで向かうさ」

ヴェントは上条のリアクションを見て、やはりヴェントと敵対する気はない……
と言うかそもそも別の事に気を取られていると考えた。

それはやはり、上条が逃がした子供の事だろう。


465 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:19:58.38oqJcByqvo (26/38)

(全く、心ここにあらずなら、そりゃ私の術式も反応しないわ)

だったら、こっちに意識を向けさせなきゃね。
ヴェントはジャラリと舌から垂らした鎖を揺らしながら、口を開く。

「とりあえず、あなたの背後に居る『ソレ』、一体何?」

「お前は、自分の魔術についてペラペラ人に話すのか?
つまりはそう言う事だよ、手の内は晒さないに限るよな」

「え?同業者には結構話してるけど」

「えっ」

「私のチカラは、分かってて避けられるモノでも無いし。
 それこそ、『幻想殺し』でも引っ張って来ないと。
 ……どんな力か、知りたい?」

ニタァ、と言う効果音がふさわしいだろうか、
おぞましい笑みを浮かべたヴェントに対して、上条は焦りながら召喚器を頭に突きつける。

「……ケッコーです!」

上条はオケアノスを召喚し、マハブフを唱えた。
すると降り注ぐ雨粒が氷のつぶてとなって無差別に降り注いで来る。
それを目くらましに上条は逃走を図ろうとしたのだが。

すると氷のつぶての中心点、前方のヴェントはその氷を全く気にする事無く、
少し風を操るだけでその氷を退けつつ、笑った。


466 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:21:05.19oqJcByqvo (27/38)






「アンタが相手してくれないなら、あっちで寝転がってる奴らを玩具にして遊ぼっカナー?
 だってそっちが約束反故にして逃げようとしてるんだモン。仕方ないよね」




基本的に軽いノリでどんな事でも大したことない、
と言った口調をするヴェントだが、彼女は一度口にした事は何があってもやり遂げる、
上条は、ヴェントがそんな人間に違いないと、彼女と相対している間に理解させられた。

その彼女が、『意識の無い一般人に手を出す』と言ったのだから、
それは確実に行われてしまうだろう。


上条当麻が前方のヴェントから逃げ続ける限りは。


その言葉を受けて思わずカッとなった上条は、
逃げる足を止め召喚器をこめかみに突きつけた。


―――明確な『敵意』を持って。


それを感じとったヴェントはニヤリとほくそ笑む。

トリガーは上条の手によって引かれた。

そして、魔術と言う名の弾丸は上条当麻の喉笛を食い破る。

「ガッ……!!?」

条件は、魔術を発動させる条件は完全に出揃い、
上条当麻もまたヴェントの『チカラ』に呑まれてしまった。

突然息が出来なくなった上条は召喚器を地面に落とし、喉に手をやる。
しかし、彼を蝕む魔術を解除する事は叶わずに、彼は水たまりの中に音を立てて崩れ落ちた。



そして薄れる意識の中、ヴェントの笑い声と。



―――いけ好かない自分の片割れの溜息が聞こえた気がした。


467 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:22:08.11oqJcByqvo (28/38)

・・・

一方通行はテレビの中へ入った。
何か情報が無いか、何でもいいからという藁をもつかむ思いで。

するとそこには何か焦った表情を浮かべるクマと、狼狽する布束砥信が居た。

何かあったな、と一方通行は考えながら地面に降り立つと2人に声をかける。

「オイ、なンかあったのかァ?」

「well、クマが何か嗅ぎ取ったらしくて……ってむしろあなたの方が何かあったの?!」

白と黒のストライプの変則形みたいな服を着ている一方通行だが、
その服の白地部分は真っ赤に染まった上、全身ずぶ濡れ状態である。

布束の突っ込みは当然のモノなのだが、詳しく説明する暇も無いので
「暗部が動き出した」とだけ言うと、布束も何となく理解したようだ。

「それで、クマどォしたってンだ?」

「クマ。最近放り込む人の匂いを感じなかったけど、ここにきて強烈に嗅ぎとれるんだクマ!
 これは1人じゃなくて、いっぱい居るクマよ!!」

クマの言葉と、木原数多の言葉を合わせると、これは罠なのではと考えた。

とはいえ放り込まれた人間が関係の無い一般人だとしたら、
ただ巻き込まれただけの存在だとしたら、助けねばならないとも考える。

「……案内しろ、行くぞォ」

「indeed、事は急を要するみたいだけど、他の人を待つ時間も無い程切羽詰まってるの?」

「それは移動しながら説明する。とっとと行くぞォ、こォしてる間にも事態が悪くなる」

先導するクマを抱え、布束の首根っこを掴むとクマのナビを受けて
足を踏み抜きジェットコースターのごとく一気に駆け出した。

悲鳴を上げる布束に、悲鳴のようなナビをするクマ。
そんな中で、ふんふんとクマのナビを聞きながらも、2人に状況説明をする一方通行。

いちいち2人のリアクションを気にする暇などなかった。


468 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:22:54.68oqJcByqvo (29/38)

・・・

<天上楽土F1>

「すごくきれーな場所クマね……」

「but、暗部の人間でこんな場所を作りだせる人が居るとは思えないんだけど……」

「……確かになァ……」

そこは天国、と言う物を具現化したような場所だった。

豪奢な装飾の施された石造りの柱や壁、石畳などに木々が絡まっており、
ところどころ浮き島のような構造をしていて、一面が静かだった。

何処か中世ヨーロッパに建てられた城の園庭の様な外観をするその場所は、
純粋な「白」に覆われた世界で、人の心から生まれるこの地において、
ここまで真っ白でまっさらで、ここまで純粋で綺麗な場所を作りだせると言うのは、
とても素晴らしい事だと思う反面で、そんな人間がこの場に放り込まれたという事実にただただ驚愕させられる。

そして何より、今まで不気味なまでに放り込まれる人間が居なかったというのに、
動き出した暗部と木原の言った言葉、そしてこの状況。

どう見てもこの現状には木原数多が関わっている。
だとしたら、この場を作った人間もしくは人間達は木原の味方か、敵か。

何にせよ一度顔を合わせねばならない。
そう考えた所で入口に足を踏み入れた一方通行だが、不意に『声』が聞こえてきた。

それは初めてこの地に降り立ち、御坂美琴や9982号を伴って研究所に行った時に聞いたような、
ラジオか何かで放送しているような音声で、思わず一同はその声に聞き入った。


469 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:23:24.87oqJcByqvo (30/38)

・・・


《《―――木山先生っ!》》


470 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:24:43.87oqJcByqvo (31/38)

・・・

《いよう木山先生?元気してるー?》

《誰だ、貴様は》

《俺?俺ぁ木原ってんだ。しがない研究者だよ、
 今日はお前んとこのガキ共を……5人かな、回収にあがったわけだ》

《なっ!?貴様どういうつもりだ!!?》

《どーもこーもねーよ、つべこべ抜かしたら殺す。
そーだな、医療ミスにでも見せかけて殺すか?
そしたらここの医者もおしまいだな、お前ここの奴に世話になってたんだろ?
恩を仇で返す気かぁ?》

《ふざけた事を……!!》

《しーんぱいすんなって、そもそもこっちもこんな事するつもりなかったっつーの》

《どの口が抜かすんだ……!?》

《だーかーらぁ、飽くまでも一時の間……そーだな長くて3カ月、
 早くて1カ月ガキ共のうち何人か借りるだけだって。
 色々しなきゃならねぇ事があってな。それが終わったら解放するっての》

《そんなふざけた話、信じられると思うのか?》

《いや、信じる信じないの問題じゃねーよ。既に規定事項だし、そいじゃおやすみー》

《なっ!?ふざけ……る、な……》


471 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:25:50.41oqJcByqvo (32/38)

・・・



《とりあえず、おめーらには普通に学校に行ってはもらうが、
 放課後たまに呼び出しすっから、その時は必ず来いよ?
 でねーとお前らの大好きなセンセーはサヨナラする事になるからなぁ!
 ん、そーいやお前は木山春生とは関わり無かったんだっけか。
 まーいいやお前の場合、そっちのデコっぱちの危険が危ないってなぁ!!》

《《……》》

《俺の命令に対しては、はいかわかりました、もしくはイエッサーと返答しろよ?
 あんまり我儘なクソガキは殺したくなる程大嫌いだから。
 まぁ、言う事を聞く限りはそんなひっでーことにはならねーから安心しな……
 例えば、何年も意識不明になったりなぁ!ギャハハッ!!》

《《……はい》》

《よーしそれでイイ。そんじゃ一人ずつ身体検査してくから……
右から順にあっちの部屋に行ってこい》

《《……はい》》



・・・



《よーしガキ共、朗報だぜー。
 今回の任務が終わればお前らも木山センセーもお役御免で開放してやるよー。
 何せ『適合者』があつまりゃお前ら『人工』のはいらねーかんな。
 実際人工のはお前らと言う成功例もあるし、いつでも造り出せるしよぉ》



《《……はいっ……!》》



《それでだな、最後の任務地は―――》


472 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:26:21.85oqJcByqvo (33/38)

・・・



《《―――木山先生!》》



・・・



《……バァーカ、解放するって意味を履き違えてんなよ》


473 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:27:07.28oqJcByqvo (34/38)

・・・

一方通行はあふれんばかりの激情を抑えきれずにいた。
布束砥信は血が出る程に唇を噛みしめていた。
クマは状況が分からないものの、放り込まれた人たちは被害者なのだと理解した。

今、この場に居ると思われる人間達は、『暴走能力の法則解析用誘爆実験』の被験者達の一部。

そして響き渡る音声を聞いた限りでは、本来『暴走能力の法則解析用誘爆実験』は
『AIM拡散力場制御実験』を隠れ蓑として行われた実験だったのだが、
実はそれすらフェイクに過ぎず、この実験での目的は『人工』のペルソナ使いを作りだす事にあったのだ。

結局その被験者達が昏睡状態に陥った為、見た目上は中止になった。

しかし木山春生や御坂美琴達がその被験者を見事に救ったので、
『色々』とデータを収集する為に再び被験者達を集めたようだ。


そして今、用無しになったからか、適当な事を言ってテレビの中に放り込んだのだ。
事もあろうに、一方通行達の足止めをするついでに。


「あンのクソ野郎ォ……何処までも馬鹿にしやがってェ……!!」

ギリギリと歯ぎしりをする一方通行だが、
そんな中で布束砥信は神妙な顔つきで一方通行に語りかけた。

「well、この世界は、「木山先生と共に日常に戻れる」という安心感から出来たものかもしれないわね……
 それはさておき、一方通行。あなた外に戻った方がいいわ。ここは私とクマが何とかするから」

「ハァ?何を……」

「私とクマは、ココでしか動けない。でも、あなたは違う。そうでしょう?
 therefore、適材適所って奴」

「……」

確かに、そうだ。
あの音声を聞く限りでは、木原はここには居ない。

だったらいつまでもこんな所に居る暇は無い。
かといって騙された子供達を放っておく訳にもいかない。

ならばクマと布束がこちらで動けばいい。

そして一方通行はあちらで木原を叩けばいい。


474 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:28:14.22oqJcByqvo (35/38)

「それじゃークマと一方通行ンは一旦戻るクマ?」

「イヤ、ここであっちに戻る」

「「えっ」」

「考えても見ろ、あいつらが何処から入って来たのか」

「……高確率で奴らの研究所がありそうね」

「恐らく、罠なンだろォな。
 だが、あいつは、あいつらは骨の髄まで消し飛ばしてやらなくちゃー気が済まねェ」

「……分かったクマ、それじゃあここで出口を出すけど、気をつけるクマよ?
 敵は人を人とも思わない外道クマ!!」

「分かってる。餅は餅屋、蛇の道は蛇……ってなァ。
あァいうクソ共の相手は俺がすべきなンだよ」

落ちついた口調に聞こえるが、その表情を見ると今にも爆発しそうな時限爆弾、と表現したらいいだろうか、
これを敵に回した奴らの方に同情したくなる程に、一方通行はキレている。

布束とクマは南無南無と心の中で念じながら、
一方通行がクマの出したテレビの中に吸い込まれて行くのを見送ったのだった。


475 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:28:56.78oqJcByqvo (36/38)

尾張です。
幻想殺し無いのにヴェントに勝てるわけねーじゃん!!チートじゃんアイツ!!
今日もまた詰まらぬ誤字脱字を見逃した……


476VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/29(月) 23:35:30.27oqJcByqvo (37/38)

て言うか天上楽土を出したくてこのSS書き始めたと行っても過言ではない。
我が生涯に一片の悔い無し、おやすみなさい


477 ◆DAbxBtgEsc2011/08/29(月) 23:41:08.59oqJcByqvo (38/38)

>>457あの、うるさい!って言ったけど、そんなに怒ってないからね、怒らないでね!(挙動不審)


478VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/08/29(月) 23:53:40.77F31P4I2AO (1/1)

あらやだこの>>1かわいい

ヴェントさんの無理ゲーっぷりが原作以上だな、☆の計画含めて果たしてどんな展開になるのか…
乙です


479VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/30(火) 00:19:52.07f4zs0Gtn0 (1/1)

>>1乙

>>457だけど気にしてないよ

それより>>1が可愛いそして悲鳴を上げる布束さんが可愛い


480VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/30(火) 05:35:38.35CqQN2YY10 (1/1)

>>1乙
>>476 このSSだと天上楽土の裏がこわいな。


481VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)2011/08/31(水) 01:26:15.95k+XIXNCJo (1/1)

そういや布束が怪我した一方さんにディア掛けたら治ったりするんだろうか自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


482 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 02:27:23.06Av3vpw7Go (1/15)

回復するよ!
でも外で怪我する→ペルソナで治す

とかすると周りに怪しまれるからしないよ!
ただでさえヘブンキャンセラー(←端から横文字)に怪我の悪化がばれてるしね!
治したけど血が足りてないみたいな展開も考えてたけど……


あと、明日と言うか今日の夜くらいに投下しようと思いますんと言う名の業務連絡。

ちなみに、天上楽土はただ出したかっただけなので特に深い意味は無いです。
ただのダンジョンなので別にオリジナルの物でも話の展開に違いは無いのです自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


483VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/31(水) 03:14:25.98SLQmvyeB0 (1/1)

>>482分かった 待ってるよ頑張ってね自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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484 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:28:38.52Av3vpw7Go (2/15)

ハンターハンターが日曜の朝11時からか……胸が熱くなるな

子供達「わーい新しいアニメだー」

ピトー「系統の判別方法は?」
ポックル「あっあっ」

子供達「」


透過する自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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485 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:30:02.45Av3vpw7Go (3/15)

「ホントに第一位は来るのか?」

黒づくめの1人は第五学区に点在する研究所のうちの一つの中で待機しながらも、
本当に来るかもわからない敵に対して溜息をついた。

ここ第五学区は大学や短大などが多く、
数多くのビルが建ち並ぶ学区で、それに伴い大学の付属研究所なども多い。

そんな学区にある『野村産業技術総合研究所』の
敷地内で『猟犬部隊』の1班は待ち伏せをしている。

待ち伏せをするにあたって武装している事を怪しまれないように、
テロリストが潜伏している可能性ありと言う名目の元、
アンチスキルに扮した状態で目的のポイントに部隊を並べた訳だが、
こんな場所で戦闘行為をしても良いのかという疑問が一同の頭の中にあった。

この研究施設はそこらにある研究所とは一線を画しており、
環境を利用したエネルギー運用や、ナノテクノロジーを駆使した材料の製造、
個人の身体に合わせた健康維持や増進、回復を支援する技術の開発など、
とにかく名前の中に『総合』とあるだけあって多くの研究が為されており、
分野ごとの研究所が野村産業技術総合研究所の敷地内に、所狭しと立ち並んでいる。

この「野村産業技術総合研究所(通称ノムケン。その名を呼ぶ者は少ないが)」
と言う名はその地を呼ぶ為の便宜上の物に過ぎず、その実態は大量の研究所を
ショッピングモールの様に一つにまとめている場所だった。

その広さは約9平方キロメートル。およそ3キロ四方にわたって展開されるこの場所では、
一流と呼べる優秀な研究者達が集まっている為、研究者にとっては一つのパーソナリティと言うか、
ここに配属される事を目標にしている者も少なくない。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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486 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:31:40.35Av3vpw7Go (4/15)

木を隠すには森の中、と言う事で人の為に尽力している研究者が居る傍らで、
人に言えないような実験を行う研究者も中には存在している。

ここ野村産業技術総合研究所には木原の研究所もあり、
その研究所から置き去りの子供達はテレビの中に放り込まれた。

そして、木原数多には放り込む事は出来てもそこから戻す術を知らない。
だが、そこから戻る力は一方通行達には存在する。
その事実を知っている木原は、一方通行は間違いなくこの研究所にやって来るはずだと考えている。

そんな訳でこの班に対する指令の内容は、一言で言うなら「時間稼ぎ」。

この研究所に20時までに一方通行がやって来た場合、
最低でも30分足止めを、可能であれば一方通行及び
一方通行に加担する者を撃破しろ、と言うものであった。

ペルソナに関する実験は猟犬部隊の面々は知らない所で行われている為、
木原の指示に頭をかしげたいところだが、命令は絶対なので
こうして待ち伏せをしつつも、影で疑問を露わにする黒づくめだった。

「さぁ、とりあえずあの人の言う事は絶対だから、来るんじゃない?」

「全く、とんでもねぇ上司が居る所に配属されたものだな、ナンシー」

黒づくめのため息に対して、どうでもよさげに返答した、女の声。

同僚の「ナンシー」という言葉に、言われた本人は思わず笑って
誰がナンシーかと呟いてしまうのだが、そう言うコードネームで行動しているのだから仕方が無い。

ナンシーは普通に普通で黄色人種のジャパニーズだ。
勿論黒髪黒眼で日本人ぽくない部位は存在しない。

本人も別にその事にコンプレックスは抱いていないのだが、
どうせなら普通に漢字のコードを付けて欲しかったものだ。

この名付け親である木原数多はきっとネットなどでは派手なハンドルネームを使っているに違いない。

(例えばなんだろう、アクセラキラーとか?)

ナンシーは自分で考えた事に自分で噴き出した。

本人は面白いのだろうが、もし仮に周りの人間達と仲が良ければ、
突然噴き出してどうしたという和やかな雰囲気に包まれるかもしれない。

しかし、このメンツではそんなことはありえない。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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487 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:32:34.81Av3vpw7Go (5/15)

ナンシーは勿論そうだし、ここ『猟犬部隊』に配属される人間は
男女問わずとにかくクズばかりを集めた組織なので、
とりあえず仲良しこ良しなんて雰囲気が出来るわけがない。

例えばアンチスキルとして犯罪者を嬲る様に追い詰める快感に酔いしれた奴や、
身体に傷を残さない拷問方法を提唱・実行に移した奴。

兎にも角にも、自分も含めて周りの人間は全て軽蔑されるべきクソ野郎なのだから。

彼女は周囲の重苦しい雰囲気などガン無視し、
未だにくつくつと笑いながら手の中の先程まで使っていた器具をゆっくりと揺らしていた。

一見玩具の拳銃に見えるのだが、それは実は嗅覚センサーという、対象の匂いを追い続ける道具だ。

途中までそれを使って一方通行を追っていたのだが、突然対象の匂いが『消えた』。
このセンサーは例え雨によって匂いが混ざろうとも、正確に対象のみを追う。
だと言うのに文字通りセンサーから消えたのだ、当然ナンシーは驚きを隠せなかった。

と思ったらこの研究所で待ち伏せしてろと言う木原数多の指示。
更には命令の中から分かる通り、一方通行に加担する者が居るかもしれない、と言う事実。

自分の知らない裏側に、一体何があるのだろうか。
気にはなるが、追及する気にはならない。好奇心は猫を殺す、つまりはそう言う事だ。
ただでさえこんな肥溜めにいるのだから、これ以上余計なことして命すら散らすのは勘弁したい。

しかし、これだけは気になる。


「あの人は自分の研究所で戦闘されても気にしないのかしら?」自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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488 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:33:22.07Av3vpw7Go (6/15)

「気にしないからこうやって班を動かしたんだろ」

別に誰に向けて言った言葉でも無いのだが、
ナンシーの隣に立った黒づくめの男が返答をした。

無駄口であるが、確かにその通りである。

木原の研究所は300m四方程度の敷地で、研究所としてはかなりの広さを誇る。

野村産業技術総合研究所の中では裏の研究も為されていると先述したが、
木原数多は『木原一族』のブランドも相まってかなり有名である為、
「この」研究所ではあまり裏側の研究は為されておらず、
基本的には表向きの立ち位置を固定する為の研究しか木原はしていない。

つまり、そんな研究所にて一方通行を待ち伏せする意味がわからない。


「まあ、何か俺達の知らない裏があるんだろ」

「そーね」

またしても聞いてないのに返答をする同僚に対して、ナンシーは気の無い返事を送った。
それと同時に、嗅覚センサーに反応が示された。音も気配も無く。


「……来たわね」


そして猟犬部隊は動き出す。音も気配も無く。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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489 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:34:29.58Av3vpw7Go (7/15)

・・・

学園都市は東京西部の山岳部を切り開いて作られた街だ。

自然破壊だ何だと騒ぐ団体もあるが、
利益とそれに代わる植栽の技術を提供したら全員が黙った。

兎にも角にも紆余曲折を経て造られた学園都市だが、
山岳部にある為にその周りには村すら存在せず、
学園都市から一度外に出ると人と出くわすのにかなりの時間を要する。

そんな中で山道を通る豪奢で面長な車体が1つ。

所謂リムジンと呼ばれるそれはもっと走るにふさわしい道路があるだろうと突っ込みを受けそうだが、
突っ込みを入れる人間がその周囲には居ない為に、リムジンは丁寧な運転で音も無く快適に目的地へと向かっていた。

その車内には、運転手のほかに7人の男女と犬が1匹。

明らかにリムジンに似合う面子ではないと突っ込みを受けそうだが、
やっぱりそもそも周りに突っ込みを入れる人間が居ないので、何事も無かったかのようにリムジンは進む。

「ところで、学園都市に入る時どうするんですか?」

まるで戦闘前の張りつめた空気が漂う中で、
少しでもそれを和らげようとする為か、ふかふかリッチな座席に縮こまりながら岳羽ゆかりは口を開いた。

「そうっすよ、だってこないだの大覇星祭に行った時もかなり厳重な感じだったじゃないっすか」

やはり緊張感はある程度持った方が良いのだろうが、こういった重苦しい雰囲気は苦手なのだろう。
岳羽の質問に同調して伊織順平も桐条美鶴に対して質問をした。

2人の質問は他の面々も気になっていたらしく、美鶴が口を開くのを一同は待つ。

「……いつだったか、夜の学校に侵入したのは。
 懐かしいな、私は今あの時の事を思い出しているところだ」

「……いや、流石に学園都市へ侵入するのと夜の学校に侵入するのを同列に考えるのはどうかと思うぞ」

思わずずっこけそうになった真田明彦だが、
体勢を立て直すとかなりズレたことを口走る美鶴に対して突っ込みを入れた。

しかし、流石にそんな無計画なはずもなく、美鶴は口角を上げながら答える。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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490 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:35:18.11Av3vpw7Go (8/15)

「ふふ、冗談だ。一応先方には話を通してある。
 学園都市に送った研究者達の様子を見る為にそちらに向かう、とな」

「「何だよかった……」」「わん!」

「……」

「どうしたの?アイギス」

美鶴の言葉に安堵する一同とコロマル。

しかし、そんな中で1人アイギスだけが思案顔をしていたので、
山岸風香がアイギスの顔を見やる。

「いえ、先程の美鶴さんの言葉だと……
 桐条グループの長として学園都市に行くのですよね?
 なら私達は一体どんな立ち場として学園都市に入れるのかなーって思いまして」

「「あっ」」「わふ……」

そこのとこどうなのだ、と言う視線が美鶴に集まった。

すると先程と同様に口角を上げながらなのだが、
若干の動揺が見え隠れしつつ言い放つ。

「……ぶ、部下と言う事にしよう」

「それ、かなり苦しいと思うんですけど……」

パッと思いつきましたみたいな事を言う美鶴に対して苦言を呈したのは、天田乾。

しかし、彼の言い分は最もだ。
何せ桐条グループの人間とは思えないような普通の私服でリムジンの車内に居るのだから。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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491 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:36:11.29Av3vpw7Go (9/15)

「ぐぬぬ……」

「?どうしたのアイギス」

するとまたしてもアイギスが思案顔をしながら呻くので、
山岸は再びアイギスに声をかけた。

「いえ、強行突破も已む無しという事で、
 弾薬が早くも減りそうだと思うとちょっと今後が不安になりますね」

「「止めて!」」「わふ!」

それだけはあかん。学園都市を敵に回すのはあかん。
美鶴に対して総突っ込みを入れていた面々が一気にアイギスに対して総突っ込みを入れた。

え?駄目なの?と言った感じでキョトンとするアイギスだったが、

「……冗談ですよ」

「いや、今の絶対マジだったでしょ!?」

岳羽が代表してもう一度突っ込んだ。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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492 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:37:09.22Av3vpw7Go (10/15)

・・・

木山春生の本職は研究職である。

色々あって今は木原数多と言う男が所有する研究所に
半ば監禁状態で押し込まれているが、厳重に拘束されたり監視されたりはしておらず、
所内ならば自由に動いていいと言うのでそれに従って彼女も自由に動いている。

一応この研究所にはシャワールームも仮眠室も、
更には娯楽室としてビリヤードやら卓球やらゲームやらが出来ると言う
何だか研究所と言うよりは娯楽施設だなと間違えそうな程過ごしやすい空間であった。

そんな中何か木原の弱みでも握れまいかと、自分の得意分野とする大脳生理学の研究をする傍らで
度々木原の研究室を漁るという暴挙に出ているが、今のところ何も見つかっていない。

と言うよりは、この場では木原にとっても木山にとっても
本当にどうでもいい(表側)の研究しかしていないらしく、
火の無い所に煙は立たないと言うか、本当にこの研究所にはやましい部分が無いらしい。

それ故に木原も木山に対して別に好きに動けばいいと言ったのだろう。

唯一気になる点が今日の夕方頃に、監視の目を付けた上で部屋から出ないように命令された事だ。

確実に裏があると思いながらもそれを調べる事は不可能な状況で、
結局日が落ちた所でようやく解放された為、今日もまた所内をうろうろと徘徊している。

すると、ある異変を察知した。

(今日は誰も居残ってないな……)

ここ木原研究所では「アフターファイブは残らない」をモットーにしているのだが、
それは木原数多のみで他の研究所員は律義に仕事をこなしてから帰る為、
かなりの確率で誰かしら残っている。

しかし、今日に限っては人っ子一人いない。
仮眠室やらシャワールームも行ってみたのだが、誰もいないのだ。

確かに、居残りメンバーが少ない日は存在する。しかし、0と言う日は今まで一度も無かった。
そして今日の監視も相まって、それが酷く不自然なものに感じられる。

(一体何が……)

木山の疑問に答える者は誰もおらず、彼女は1人所内を彷徨う。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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493 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:38:36.73Av3vpw7Go (11/15)

・・・

意識が暗転する。

目を開いているのか、はたまた閉じているのか。

落ちているのか飛んでいるのか。

倒れているのか立っているのか。

何も分からない。
しかし、深い暗闇だけが視界を捉えている事と、
ぼんやりと自分が上条当麻であると言う事だけは分かった。

すると徐々に先程まで感じていた息苦しさは無くなり、
何だか天に召される時はこんな感じなのかとぼんやり思っていた。


(いやいや、天に召される時はこんな感じって……)


それってまさに今なのではとか自分で突っ込みを入れられる辺り、
本当に自分は死ぬ直前なのか?とか考えてしまうものの、
やはり先程受けた謎の攻撃で息が出来なくなったと言う記憶がある所を見ると―――


そこまで考えた所で暗闇が一気に晴れる。


「ふっふ。ようこそ、ベルベットルームへ。お久しぶりでございますなあ」

するとそこはいつか見た車の中で、
目の前にはいつか見た鼻の長いおじいさんと、いつかみた幸薄そうな金髪美人。

そして、

「おーっす」

「何でテメーがここにいるんだよ?」

「まあ、ちょっとな」

上条当麻の影が、金髪美人・マーガレットの隣で紅茶をすすっていた。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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494 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:40:27.77Av3vpw7Go (12/15)

以前も意識を飛ばされた時にここに来た事があったが、
あれ以降この場に来る事は無かった。

いや、そもそも意識を飛ばされるような事態に陥る事が無かったからなのか、
はたまた何か別の事情でもあるのか。

何にせよ「客人」でない上条が、またしてもこの場に呼ばれた。
それにはきっと何か意味があるのだろう。

本能的に何かあると察知した上条は、改めてイゴールの方を向く。

「いやはや、本来は『今』お呼びする事は無かったはずだったのですが、
 こちらの方がどうしてもとの事ですので、こうして再びお呼び立てた次第でございます」

「ま、そーいうこと。で、どうだった?今回の敵は強かったか?」

「強いも何も……」

何もさせてもらえなかった。
訳もわからずここに来た。

そうとしか言えない。

ポツポツと語り出す上条を、影は楽しそうに眺める。

「まあ何て言うか……完敗?」

「なっさけねーなー。少し位どんな力か見定めてからこっち来いよなー」

「うるせえよ!」

何だか双子の兄弟のやり取りの様だ。
そんな2人のやり取りを、イゴールもまた楽しそうに眺めていた。

マーガレットは上条の影が飲み干した紅茶に注ぎ足して、
更に別のカップに紅茶を入れて上条に勧める。

「あ、ども」

上条はそれを受け取るとゆっくりと紅茶を口にした。

「まあ良いや。何にせよ、おめーがあいつに勝つには、『コレ』が無いと駄目だろ?」

上条の影は左手でカップを掴みながらも空いた右手をプラプラと揺らす。

「そりゃあ異能に対しては『ソレ』が合った方がありがたいけど……」

「オッケーオッケー。本当はそこのおっさん風に言えば
 『命のこたえ』を見つけたらってつもりだったけどあれだ、緊急事態って奴だな」

「は?」

どういう事だ、と上条が尋ねる前に、上条の影は紅茶を一気に飲み干して続ける。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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495 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:41:27.14Av3vpw7Go (13/15)

「俺を屈服させろって言ってんだよ、その為の場を借りる為にこいつらの所に来た」

「ふっふ、私どもからは特に用があった訳ではございませんが、
 思う存分動ける場所をお貸ししろとの事でしたので……こちらのマーガレットが御用意致します」

「そう言う訳だから、着いてきて頂戴」

今まで紅茶を淹れる以外には置物の様に口を閉ざしていたマーガレットだが、
ポツリとつぶやくように口を開くと、腰を上げ車の扉を開いて外へと出て行った。

それに追従して上条の影も出て行く。

訳もわからないうちに話が進んで行く為、
首をかしげながら上条もまた流されるようにして車内から出て行った。


そして一人、残されたイゴールはどこから取り出したのか、1枚のタロットカードを眺めている。


以前一方通行に占った時の様に、1枚のカードを選び出したのだ。
その対象は、今回は上条当麻である。

イゴールの手に握られたカード。
そこには左手に天秤を、右手に剣を持った女神が描かれていた。

「正義の正位置……相反する二つの力の調和……
 ふっふ……彼はお客人ではあられませんが、やはり面白い……
 いずれ、彼もまた『命のこたえ』に辿り着けるやもしれませんな」

「しかし、それと同時に一歩間違えるとその均衡は一気に崩れさる……
 さて、彼らは無事均衡を保つ事は出来るのでしょうか」

イゴールの独り言は、彼以外に誰もいない車内に響き渡るだけだった。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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496 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:42:09.36Av3vpw7Go (14/15)

・・・

一方通行は暗闇の中に突如として現れた。
先程まで割と明るい場所に居た為に、目が慣れない。

ゆっくりと目を慣らしながら、辺りを見やるとどうやら何処かの研究所内の様だ。

何か機材のようなものがずらりと並んでおり、自身の背後には巨大なモニター。
恐らくここから置き去りの子供達は放り込まれたのだろう。

更に、この場は無菌室の様に厳重に閉め切られた空間のように見受けられた。

(木原の野郎が居ないにせよ……猟犬部隊のクソ共が居る可能性は高い)

ならば、何かしら対策を講じてくるはずだ。
何せこちらは腐っても超能力者で、相手はプロといえども無能力者の大人。
普通の武器を普通に扱っても勝てるはずが無い。

(キャパシティダウンやらAIMジャマーは当然として、他に何かあンのかァ?)

能力者の力を削る物としてはそれらが有効だろうが、
そのどちらもあらかじめ存在を予測しておけば対策するのは易いものだ。

とはいえ、そんなことを思えるのは学園都市第一位としての力があるからなのだが。

(とりあえず、ココが何処なのか、それからだなァ)

動かない事には始まらない。
一方通行は暗い室内から出るべく、目を凝らして出口を探すのだった。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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497 ◆DAbxBtgEsc2011/08/31(水) 18:43:09.85Av3vpw7Go (15/15)

尾あっ張ですあっあっ

そろそろあっ暗部あっあっメンバーもあっでるあっあっ自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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498VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/31(水) 20:35:49.689KA4WUr80 (1/1)

>>1乙
いいね、いいね、先が見えないのが最高だね。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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499VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/08/31(水) 22:48:30.79KAm/ai9B0 (1/1)

P4vitaでテンションあがりまくりですぜ

乙自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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500VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/01(木) 02:27:34.03Kba6pksP0 (1/1)

>>1乙

一方さんだけじゃなくて上条さんも命のこたえに辿り着けるのか自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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501 ◆DAbxBtgEsc2011/09/01(木) 21:36:28.57weMyKDDvo (1/1)

今日明日の投下は怪しいですう自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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502VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/02(金) 05:07:04.52nFKI6pYg0 (1/1)

>>501了解した。
週末を待つ。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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503 ◆DAbxBtgEsc2011/09/03(土) 20:00:47.91rG01YgxGo (1/2)

すまん、正直行き詰まってる。
話の展開は前から妄想してたからあれだけど、そこに至るまでの流れがあれしてる
後風邪引いたし。寝ながら色々妄想しても目覚めたら全部忘れるという悪循環自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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504 ◆DAbxBtgEsc2011/09/03(土) 20:13:28.65rG01YgxGo (2/2)

鼻もつまってるってやかましいわ!(ドッ


……おとなしく寝ます自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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505VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2011/09/03(土) 20:17:04.08KVy53mSwo (1/1)

台風に気をつけてナー自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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506VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/03(土) 21:04:10.06Jljjs2kV0 (1/1)

>>1 回復を祈っている。
オルソラに看病してもらえばなおるかも?自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
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507 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:24:06.97GQuHMGOqo (1/14)

透過するわ
げっほげぇっほ!!!!(過度なリアクション)


508 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:24:33.26GQuHMGOqo (2/14)

暗闇の中。
一方通行は室内から廊下へと出た。

廊下を照らす淡い蛍光灯が一方通行の視界を明るくするが、
急激に明るくなった事で目がはっきりするのに少しだけ時間がかかる。

ようやくはっきりとし始めた目を良く凝らしながら前を見ると、壁。

両サイドに道が広がっており、奥まで歩くのにはかなりの距離があるようで、
相当にデカい研究所だと言う事が見て取れる。

まるで研究所と言うよりどこかの企業のビルの中、
と言った内装をしているその場から、一方通行は足を踏みだした。


(とりあえず、近くに誰かが居る感じはねェな……)


きょろきょろとあたりを見回しながら、右か左か、どちらから行ってみるか考える。


(まァ、ンなもンどっちでもイイか、どォせここが何処かすらわかンねェンだし)


とりあえず右で。と、アバウトに決めた一方通行は、再び歩き始めた。


509 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:25:36.55GQuHMGOqo (3/14)

・・・

「どういう事だ?」

猟犬部隊の1人がナンシーの提案した作戦に首をかしげる。

と言うのも、今現在猟犬部隊はアンチスキルの格好をしているのだが、
名目上は研究所に潜伏していると思われるテロリストの捜索と言う事なので、
なるべく戦闘は避け目標を捕捉する事だけに集中するべき、と提案したからだ。

ナンシーはだらんとしてやる気なさげに自身が潜伏している待合室のソファーに座りこみ、
とてもじゃないがこれから任務を行う姿には見えない。

ナンシーの同僚は、彼女の考えが読めずに首をかしげている。

ここで、一方通行がこうして猟犬部隊に狙われているのは、彼が打ち止めを保護しているからだ。

その為、打ち止めを捕獲するにあたってその障害になり得る一方通行は
出来れば排除したいところ、と言うのがお上の決定である。

とはいえ、最低限時間稼ぎが出来ればそれで良い為、必ずしも排除をする必要はない。

本気で一方通行を殺害するなら、このように大々的に部隊を動かすよりも、
普段の日常の中で一方通行が本領を発揮する前に暗殺する、
と言った方法を取った方が人材的にも金銭的のも楽なものである。

そう言った事情もある為、木原数多は猟犬部隊に対して
「時間稼ぎ30分もしくは撃破」と言う条件で任務を与えたのだ。

確かに、今後も障害になり得る一方通行は、今撃破した方がいいのだろう。しかし、

「手負いとはいえ、反射を稼働させた状態の一方通行を打倒できる人間は限られているわ」

例えば、木原数多。
例えば……ここでもうナンシーが挙げられる人物は居なくなった。

ナンシーは嗅覚センサーをゆらゆらと揺らしながら、事もなげに続ける。

「あの人は私らに何も期待していない」

木原は、猟犬部隊に何も期待していない。
失敗したら殺すし、成功したら引き続き使い潰す。
それが当たり前で、従前から十全に当然のことで。


510 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:26:31.29GQuHMGOqo (4/14)

「そんなこたぁここに居る全員が知ってるっての」

何を急に、と言った表情でナンシーの同僚は
拳銃に弾を込めながら呆れた様子で突っ込みを入れた。

「ま、有り体に言えばどうせ死ぬなら、なるべく楽な道を進みたいわよねって話よ。
 何が楽しくて超能力者何かと戦わなきゃならんのさ」

ナンシーに宿っている感情、それは諦念。

自分がクズである事はとうの昔に知っているし、
自分が無様に死ぬと言うのも暗部に落ちた瞬間に理解している。

木原数多と言う男の下についた時点で、明日死ぬかもしれないし
今すぐ死ぬかもしれないし、何にせよ長生き等望めるはずもない。

とはいえ自殺しようと言う気にもならないナンシーは、
どうせ死ぬなら困難はなるべく避けたい、そのように考えて今までの任務も気を抜いて行ってきていた。

今回も、例え相手が学園都市最強といえどもその精神は変わらない。
いつも通り楽な道を選び、任務に失敗したらあっけなく死んでしまおう。
そして「時間稼ぎか撃破のどちらか」と言うのなら、迷わず時間稼ぎを選ぼう。

と言っても、何も無い状態で時間稼ぎと撃破を比較したら、
そんなん無能力者のナンシーからしたら五十歩百歩で縊り殺されるのがオチだろう。

しかし、今回は違う。

作戦の為の装備と場所は、既にそこにあるのだから。

「ここが『表』の研究しかしてないってのと、木原の名前に宿ったブランド。
そして私らの格好を考えたら、わざわざ反射を貫く方法考える必要も無いって事よ」

嗅覚センサーは、相手の大まかな位置を知らせる事は出来るものの、
はっきりと何処に居るのかまでは分からない。

何せ匂いを追う為だけの機械なのだから、そこに地図などはインプットされていないのだから。
そんな訳で、この研究所内に一方通行が居る事は分かっている為、一先ず嗅覚センサーは用無しである。

ナンシーはスッと立ち上がると嗅覚センサーを腰に差し、
軽くストレッチをしながら床に放置していた装備品を拾い上げた。

「どっからどうやってこの場にやって来たかは知らないけど……」

彼女はニヤリと意地悪な笑みを浮かべながら、呟く。

「何にも情報すら得られないまま時間つぶしてしまえば良いのよ、主に私の為に」


511 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:27:31.68GQuHMGOqo (5/14)

・・・

テレビの中から直接木原が居たと思われる
拠点を叩くべくクマの力を借り、何処かの研究所へと降りたった。

まず一方通行は自身が何処に居るのか調べる為に所内を動き回る事にしたのだが……。

(うげっ、蜘蛛の巣張ってやがる……反射出来ねェのがなァ……)

今現在の一方通行の所在地。
それは通風口の中。

研究所の中でもかなりの広さを誇るこの研究所は通風口も
人が通れるくらいの大きさで、隠れるには持って来いだろう。

いや、そんな話はさておき、何故隠れざるを得ないのか。

(なンだってアンチスキルがここに居るンだよ……!)

アンチスキル(ホントは猟犬部隊)が所内を探索して回っているのだ。

こちらには気付いていなさそうだったが、
一方通行が先にその姿を発見できたのは不幸中の幸いだと言えよう。

しかし、彼らの武装はアンチスキルに模しているだけであり、本物ではない。

それ故に黄泉川愛穂などの本職ならば遠目に見ても気付けただろうし、
一方通行も間近でよく見れば分かったはずだ。


―――それがアンチスキルの真似事をしているナニかだ、と言う事が。


しかし、ここは敵の懐で、そんな場所にアンチスキルの姿を見れば
まずは身を隠すことを考えてしまうのも無理は無い。

そう言う意味ではやはり一方通行は不幸だったと言う事だろうか。

(本物かどォかはわからねェが……偽物と見極められるまでは手を出せそォにねェな……)

一方通行は肘を立てながらほふく前進で進んでいる為、
胸の傷に触れて血流操作を行う事が出来ない。

その為、今は反射を切って通風口の中を這って進んでいる。
一定の距離を行くたびに通風口の出入口が見える為、そこから辺りを見渡して。

何度かそれを繰り返したところで、一方通行は異変に気付いた。

(アンチスキルしか居ねェ……)

今現在、この建物で見つけた人間はアンチスキルしか居なかった。
はっきり言って、何かあったとしか思えない。

(待て待て、ここは木原の手が加わってる可能性大な場所だ、
 アンチスキルが踏み込んでくるようなヘマをあのクソ野郎がするかァ?)

先程まで頭に血がのぼっていたのか、考えが巡ってなかったがようやく落ち着いてきた。
まず、何故アンチスキルがこの場に居るのか。

アンチスキルの任務、それは街の治安維持。


512 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:28:22.52GQuHMGOqo (6/14)

(ってこたァ犯罪者がこの中に居るってことだァ)

犯罪者。

(一番怪しいのって、俺だよなァ)

不法侵入の一方通行。

ならば彼らの任務は、研究所に侵入した一方通行を逮捕する事だろうか。
何故既にいるのかと言うのは、あらかじめアンチスキルを動かすように手配をしていた等が考えられる。

一方通行は、過程は違うが結果として正しい結論を導き出した。
そして一方通行の思考は続く。

(だとしたら、木原の目的は俺を潰すンじゃなく、
 時間稼ぎでこの場に縛りつけるってことかァ……?)

頭に血がのぼっていた時は、立ちはだかるモノ全てを
撃破して進む位のつもりだったが、こうして冷静になってみると馬鹿みたいである。

一方通行も、妹達も、打ち止めもここで終わりではない。
これからも学園都市で生きて行くと言うのに、この程度の事で学園都市と敵対してどうするのだろうか。

そこまで考えると猟犬部隊も潰す必要はないのではと思う。
どうせ替えの人材(クズ)はいくらでもいるはずで、あれらを消したところで何の意味も無い。
それどころか無駄に戦力を削いで、「じゃあ削いだ戦力の分働け」等と言われたらたまったものではない。

まず第一に何としても打ち止めの命を救う事。

そして余裕があるのなら、木原数多を殺す。

(まァ、あのクソッタレも有能だ。消して困るのはやっぱ学園都市じゃねェか……)

とはいえ、飽くまでも所詮は1人。
その程度なら膨大な要求をしてこられるはずもない。

(ハッ、結局助ける過程でアイツは殺す事になりそうだけどなァ……)

一先ずこの場を相手に見つからずに抜け出すとしよう。
結局何一つ得られてねェじゃねェか、と自嘲しながら一方通行は蜘蛛の巣を払ってほふく前進を続けた。


513 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:29:15.01GQuHMGOqo (7/14)

・・・

『こちらクリス、監視カメラからターゲットは発見できない。
 恐らく予定通り通風口を移動中と見られる、オーバー』

『りょーかーい。それじゃクリスは引き続きカメラから所内を探索、
 私を含めたその他は予定通りのポイントで待機。
 今回の作戦はターゲットをこの場に釘付けにする事だから、
 適当にアンチスキルのフリをして時間稼いで頂戴な、おーばー』

『『了解』』

必要な事だけ伝えると、ナンシーは無線を切った。
状況を開始してから10分が経過して、交戦は0。依然どちらも被害は無し。

この時点で一方通行がアンチスキルと言うか、
表側の人間に手出しはしない人種であると言う事は確実となった。

流石にこちらが偽物だとバレれば命も無いだろうが、その前に先手は打てる。

アンチスキルとして動く理由を先に一方通行に教えるのだ。
それと同時に、この場所がどういった場所なのか、知らしめる。

木原数多は裏の世界の人間であるが、何も普段からずっと裏側に居る訳ではない。
表としての立ち位置もあり、それを作っているのがこの場所である。

すなわちこんな所で殺し等働けば、表側の人間を表立って敵に回す事になるのだ。
こうなってしまえば一方通行の逃げ場がなくなってしまうだろう。

(ま、後20分、適度に時間つぶしてから外に出してあげればいっか)

等とナンシーはぼんやりと気楽に思っていた。

しかし、そこに小さなイレギュラーが介入する。

『こちらクリス。監視カメラに人影、恐らく木山春生と思われる。オーバー』

『うげ、そう言えば木原さん、科学者1人ここに軟禁してるみたいな事言ってたよねー……。
 その地点から一番近いのは誰?そいつに木山と接触させるから』

『ナンシーだな』

『げっ面倒くさ……了解、変に動かれて邪魔されても困るから、
 部屋に戻ってもらう事にするわ、おーばー』

『了解』

ブツリ、と無線が切れる音と同時に、
ナンシーは通風口の見える潜伏ポイントから移動を始めた。


514 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:31:08.05GQuHMGOqo (8/14)

・・・

「あ、それポン」

「オイオイ、またかよ畜生。どんだけポンすんだよ、ポンポンとポンすんなよ」

垣根提督は対面の少年―360度にプラグが挿してあり無数のケーブルを腰の機械に繋げている、
土星の輪のように頭全体を覆うゴーグルが特徴である少年に対して苦言を呈した。

「速攻で上がるのが僕のやり口だよ。何事も早い方が良い」

「その理論だとベッドの上じゃ1人先にイクんだろうな?」

「……一応、女子が居る中でその発言はどうかと思うぞ」

ゴーグルの少年の早上がり安上がりのお陰で何度も良い手が潰されて、
鬱憤がたまったのだろう、垣根は冗談交じりに下ネタを吐くのだが、
下家に座る傭兵の様な装備を舌単発の男、砂皿緻密はそんな垣根を諌める。

「こいつを女の子扱いしてくれる奴がまだいたとは……お兄さん嬉しい」

「……黙って聞いてれば、言ってくれるじゃない。
 あんまりふざけた事言ってると、ムキムキのそっち系な男の人との『距離』を『ゼロ』にするわよ?」

「「すみませんでした」」

そして上家に座る少女は、舐めた扱いをしてくれた
一同に対して(主に垣根のせいだが)ギロリと人睨みすると、3人は平伏した。


515 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:32:21.87GQuHMGOqo (9/14)

何せ彼女の能力は心の距離を操るもの。

その気になればノンケをガチにすることも、逆にする事も出来るのだから。
とはいえ、彼女よりも上位のレベルの垣根に効くかは怪しいものだが、そこはノリと言うものだ。

彼らは『スクール』と言う名の暗部組織に所属しており、今日は任務のはずだったのだが。

「……しかし、学園都市に呼ばれて何をするかと思えば、麻雀とは……
 俺の値段はそんなに安いものだったか?」

「いやいや、紹介料だけで70万ってとんでもねえ額だっての。
 俺だってお前の初仕事をこんなんになっちまうとは思ってなかったわ。
 まぁ、こーして麻雀牌いじってるだけで金もらえるなんて、
 なんて楽なお仕事でしょ、って気楽に受け止めてくれや」

垣根はヘラヘラと笑いながら、不要牌を不用心に切った。
それを見たゴーグルの少年は自身の疑問を吐露するついでに、上がる。

「……ていうかさ、『隠れ家』で待機っていつも通りじゃん。どゆこと?あ、それロン。白のみ」

「げっ……まあ大した手も入ってなかったから良いけどよ……」

やってらんねー、と自身の牌を閉じた垣根に続いて、
何事も無かったかのように砂皿も牌を裏返した。

そんな中でプルプルと震え、何度もゴーグルの少年に上がりを
阻止された事に怒り心頭したのか、ドレスの少女は頬を膨らませながら文句を言う。

「私トイトイと三色同刻だったんだけど!?」

「……上がれなければどうという事はない」

彼女の文句を一刀両断する、砂皿。
しかし彼自身今日に入ってまだ一度も上がってない。
だと言うのに何も気にした様子も無く牌の山を崩して行く。


516 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:34:11.84GQuHMGOqo (10/14)

「とか言う砂皿さんよぉ、アンタ今日一回もあがってねーじゃん。
 その代わり放銃もしてないけどさ」

「……む」

「とか言う垣根さんは僕から何回上がられたのさ?
 大物狙いか何か知らないけど、狙い撃ちさ、そんなのは(←?)」

「……良いぜゴーグル野郎、てめーが何度も
 俺から上がれるってんなら、まずはそのふざけた常識ぶち壊す」

そう。

「隠れ家で待機してろ」と言われて、こうしてダラダラと待機しているのだ。

ついでに『アイテム』によって潰されたスナイパーの代わりとの顔合わせも行った。

しかし、顔合わせに何時間もかかる訳も無く、
上からの指示が来るまでどうしようか話し合う事にした。

そうして始まったのが、麻雀。

隠れ家の中でじゃらじゃらと麻雀牌がぶつかり合う音が響き渡る。
ここは雀荘では無いので、自動の麻雀卓は置いてない。
少し早目のこたつに麻雀用のゴムマットを乗っけただけの簡易的なものだ。

ドレスの少女はすっかり白熱した様子で、
メラメラとゴーグルの少年に対して対抗意識を燃やしていた。

「見てなさいよね……その早上がりが、巨大な「ツキ」の偏りを生むみたいな事を
 燃牌って漫画が言ってたんだから……!」

「あ、それ読んだ読んだ。4巻だか5巻だっけ?面白かったよねー。
 でも実際にそんな事が起きてないから今の状況じゃない?」

て言うか、あの漫画のは自動卓だしね。とゴーグルの少年。

「ぐぬぬ……」

そんな突っ込みに対して、ドレスの少女は何も言い返せずに呻いた。
しかし、垣根がドレスの少女をたしなめながら、

「まあまあ、落ちつけよ。あのゴーグルに俺達の点棒
 剣山のように突き刺してやろうぜ、勿論麻雀でな」

「え?それって僕に点棒献上してくれるってこと?しまったなー、お金かければよかったよ」

「……言ったなクソったれ、金賭けるぞデカピンくれー行っとくか?」

「乗ったわ!」

「僕は構わないよ」

「……問題ない」

一応、この場に待機しておくと言うのも任務の一つなのだが、
そんな事は頭の隅っこに追いやって、全力で麻雀を始めるスクールのメンバーだった。


517 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:35:06.53GQuHMGOqo (11/14)

・・・

「ヘイヘイヘイテメェそれでも心にソウル刻んだブラザーなのかよ!?」

「抜かせ短足!!お前程度の炎じゃちっともたぎらねぇんだよ!!」

「だったら……燃やしてやるよ!!テメェのソウルをよ!!」

「御託は良いからかかってきな!!」

「「うおおお!!!」」

アフロの男とロン毛の男が荒野で向かい合って、決闘をしている。
互いが互いに違った信念を持ち、それがぶつかり合ったからだ。
最早この戦いを止められるものは、ただ1人。

「もう止めて!!」

「「その声は、キャサリン!!」」

「もう、戦わなくても良いのよ!?どうして血を流すことでしか語りあえないの……?」

「そんなもん、決まってらあ……」

「そうさ、最早生まれる前からの運命ってとこだな……」

「「俺の中の魂が、信念を貫けと叫んでいるんだ」」

「トム……ダニー……なら私はもう何も言わないわ。でも、これだけは言わせて。
 ……2人とも、無事で戻ってきて頂戴」

「「当然さ!!」」


518 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:35:38.08GQuHMGOqo (12/14)

「……絹旗ァ、いつまで続くの?この茶番」

絹旗最愛が借りてきた映画の数々を見せられて、辟易した表情で絹旗に尋ねるは麦野沈利

アイテムに課せられた任務、それは「隠れ家にて待機する事」。

最初それを言われた時、意味が分からずに電話の主と口論をしたものだったが、
電話の主はこいつときたらこいつときたらと捲し立てて一方的に電話を切った。

結局良くわからないが、隠れ家で待機する事にしたアイテムだったのだが、
絹旗がウキウキと映画を用意していたので待機で暇な麦野やフレンダ=セイヴェルン、滝壺理后もそれに便乗する事にした。

しかし、

「ちょっと今いいところなので、少し超静かにしてもらっていいですか?」

「……分かったよ」

はっきり言って、詰まらない。

何が面白いのかさっぱりなのだが、麦野はそれでも根気よく映画を見続けた。
そんな中で、フレンダと滝壺は。

「「zzz」」

寝ていた。
それはもう気持ちよさそうに。

(私も寝たいんだけど……)

この待機と言う任務。
任務と言うからには何か裏があるのだろう。
いざ何かあった時、動けないのはマズいはずだ。


「行くぜ!!燃えるソウルハンド!!」
「させるか!!凍てつくコールドソウル!!!」


最初はカウボーイとか、西部劇的な感じだったのに、
いつの間にか超能力バトルみたいな特撮物に変貌を遂げていた。
全く理解できない。

(……暇つぶせるモン、そのうち買ってこよう)

映画に釘付けになる絹旗に、肩を寄せ合って眠っているフレンダと滝壺。
そんな3人に囲まれた麦野は、とりあえず4人だし麻雀か?とかそんなことを考えていた。


519 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:37:32.95GQuHMGOqo (13/14)

尾張です。吃驚するほど話が進んでねえ

1人暮らしで風邪引くと絶望的なまでに辛いよね。
何にもする気にならないし。


520 ◆DAbxBtgEsc2011/09/05(月) 02:43:35.79GQuHMGOqo (14/14)

そういやP4vitaは俺も見て狂喜乱舞したものだ。
こうしちゃいられねえPSPとはお別れDA。

オルソラさんの胸に包まれて窒息死か圧殺されたい。

おやすみなさい


521VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/05(月) 04:18:04.92rqsFCG/x0 (1/1)

>>1乙そして無理するなよ



522VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/05(月) 17:20:07.25LxYBf9W1o (1/2)

>>45>>47

「…最低でも1年は待機しなければ渡れない」

【FNを腰に収めながら相手の言葉を冷静に訂正する】
【】

「…目的があって回っているのではない」

【だがそれ以上は何も言わない。理由は単純明快】
【PTSDを悪化させる単語だから】
【この言葉を発した当たりから再び震えと汗が始まる】
【左眼で見れば明らかに男の変化がわかるだろう】


523VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/05(月) 17:20:42.41LxYBf9W1o (2/2)

果てしなく誤爆!


524VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/05(月) 17:32:59.942RLINadMo (1/1)

どこからの誤爆だよ


525 ◆DAbxBtgEsc2011/09/08(木) 21:19:25.42I+nKuk2eo (1/2)

あうあう、お久しぶりです。
何してたってバイト探してました。お金が無ければ食って行く事すら出来ねえのでなァ……
バイトが見つかった代償が、書き溜め1500字しか出来てねェと言う事だ。

故に書き溜めてきます。続きはアシタカ明後日に。


526 ◆DAbxBtgEsc2011/09/08(木) 21:20:00.08I+nKuk2eo (2/2)

アシタカっておま……明日か、ね


527VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/08(木) 22:29:54.77OuD4RaQ/o (1/1)

社畜乙であります



528 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:29:18.115XMi+z0uo (1/16)

拙者働きたくないでござる。しかしお金が無いと死んでしまうでござる故、渋々働くのでござる

俺の突拍子の無さはブリーチに通じるものがある。なんて思う今日この頃。
多分前に「あれはこうならない」とか言っておきながら妖怪掌返しが俺の掌を返して行くに違いない。

透過する


529 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:29:55.155XMi+z0uo (2/16)

「さて、こちらの扉へどうぞ」

本来は、私が闘う為の場所なんだけど。
と、マーガレットは面倒くさそうに2人に部屋へ入るよう促した。

「ここは……」

そこは無数の扉が宇宙の中を漂っている、と表現したら良いのだろうか。
上を見ても下を見ても、左を見ても右を見ても。

そこはキラキラと星が3人を照らしていた。

上条当麻はそんな幻想的な風景に見入るが、
そう言えば地面はどうなっているんだと思い、ぺたぺたと地面を触る。

下も星空だったが、しっかりと足を踏みしめる事が出来ていた。
透明な何かが辺りを覆っているのか、それとも周りの星は作りものなのか。

そんな疑問を浮かべるが、今そんな話はどうでもよかった。

「ガッ!?」

唐突に、後頭部から衝撃を受けたからだ。

「おいおいどーしたァ!?この俺をどうにかしてお前ん中にもどせねーと、
 あっちにゃ帰れねーし何にも助けらんねーよ!!」

それの正体は、上条の影。
思い切り蹴り上げた足をそのままに、戦闘は既に始まっていると、笑った。

「ちっくしょ……!オケアノス、ブフーラァ!!」

上条はちょっと涙目で頭をさすりながら召喚器を取り出すと、オケアノスを顕現させる。
それを見た上条の影は大仰に両手を広げながら、上条の攻撃を迎え入れるべく攻撃を受け入れた。


530 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:30:53.935XMi+z0uo (3/16)

「ハッハァ!!良いぞ、かかってこいやぁ!!
 今後良い関係を築く為にも、殴り合いで語りあいってのも悪くねぇだろ!!?
 時間はたっぷりあんだからよ!!心配すんな、こっちとあっちじゃ時間の流れが違うから、
 あっちじゃまだ1秒もたってねーだろうよ!!」

それをあっさりと影が持つ幻想殺しで打ち消すと、真っすぐ上条へと向かって行く。

「そんなもん俺ん中帰ってきたらいくらでも出来るだろ!?」

影は右のハイキック。上条はそれをしゃがんで避けると、
影の軸足である左足を屈んだ状態で蹴り払い、体勢を崩しにかかる。

しかし、影は余裕の笑みを浮かべながら蹴りの勢いで
横に回転しながらその場で軽くジャンプし上条の足を避けた。

「たしかにそれもそう……おっと、そう言う誘導尋問的なもんはお断りってなあ!!」

そして空中で1回転すると、影はその勢いを利用し宙に浮いた状態で回し蹴りを放つ。

しゃがんだ状態で避ける事の出来そうにないと、
上条は両腕でガードしたものの、回し蹴りの威力によって思い切り地を転がった。

「オケアノス!ブフーラだ!!」

しかし、タダでやられる上条ではなく、影の追撃をかわす為に
転がりながらも器用に召喚器を使い、オケアノスに攻撃させる。


面ではなく、点での攻撃。それも右手だけでは止めきれない程の量を伴って。


531 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:31:30.705XMi+z0uo (4/16)

大量のツララが、影を襲う。
明らかに一つ一つが必殺になりうる威力を持っている。

しかし、これは上条に殺意があった訳ではなく、
その位しないと自身の影には勝てないと判断したからだ。

そしてその考えは正しかったらしい。

「……イヤイヤ、ありえねーだろ、右手だけでそんなとめられるわけねーだろ!?
 これでも、かなりの量を飛ばしたつもりだったんだけど……」

体勢を崩しながらの攻撃だった為、影が何をしたかは
分からなかったが、確かに上条は影に向かって攻撃を放っていたはずだ。

それも大量のツララで、それこそ広い壁でも生み出さねば止めきれないだろうと、上条が考える程の。

しかし、何かを使って攻撃を止めたと言う痕跡は残されておらず、
影の射線上だけぽっかりと空き、その周りの地面にツララが突き刺さっていた。

と言っても、下は星空にしか見えないので、ツララも宙に浮いているように見えるのだが。

・・・

「へえ、中々の威力を持ったブフーラね」

マーガレットは感心したように上条と影の戦いを眺めていた。
やはり、力を司る者としては強い力には興味が沸くのだろう。

影と初めて対面した時も軽く手合わせしたのだが、
どう考えてもこの影は上条が勝てる相手では無い。

それ程に強敵だった、とマーガレットは思う。

(それでもここで勝たねば、これから一生勝つ事は無くなるわね)

有り体に言えば、自分に勝てない者が一体何に勝てようか、と言う事だろうか。

マーガレットは最初3人がこの場に入って来た扉に
もたれかかりながら腕を組み、2人の戦いをゆったりと観戦し続ける。


532 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:32:41.625XMi+z0uo (5/16)

・・・

「あっはっは、あぶねーだろこのやろー」

間延びした間抜けな声で、影は上条に対して文句を言う。
確かにあんな攻撃を受ければ誰だって文句は言いたくなるだろう。

「何言ってんだよ、この攻撃すらノーダメージの癖によく言うぜ……」

「いやいや、まあまあ焦ったぜ?流石に『右手だけじゃ』止めらんねえよ」

「……そりゃどういう事だ?」

「前も言ったけどわかんねーだろうな、幻想殺しの本質は、今のお前じゃわかんねーよ。
 よしんば俺がお前の中にもどっても。まーそのうち理解出来るようになるって」

やはり、何の事かわからない。
上条は影の言葉に首をかしげるが、それを待つ程影も甘くない。

「真っすぐ行ってぶっ飛ばす、右ストレートでぶっ飛ばす!!」

真っすぐと上条の元へ向かった影は、渾身の右ストレートを放った。

影の放つ何の変哲もない右ストレートを上条は左腕で止めたのだが、
かなりの威力でビリビリと痺れさせられた。

それにより上条は少し表情を歪めるが、余った右手で影の右手を掴むと、


「……オケアノス、剛殺斬」


「おろ?」


ポカンとする影に対して何のためらいも無く、
自身が持つ最大の物理攻撃を上条の影へと放った。


しかし、影は表情を切り替え、再び笑みを浮かべる。
その口から、何か短い単語が吐かれた瞬間に、オケアノスの剣が振り下ろされた。


533 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:34:22.395XMi+z0uo (6/16)

・・・

木山春生は不気味に静まり返った研究所内を彷徨っていた。

人の気配を感じないこの異様な雰囲気に呑まれまいと、
ギュッと手を握りしめ、辺りをきょろきょろと見渡す。

……人は居ないはずだ。気配を感じない、だというのに。

嫌な予感がする。
木山の素人ながらに研ぎ澄まされた神経は、その予感だけを感じ取った。
気配は感じないが、誰かいるのではないか?という確信めいた予兆。

そして、それはすぐさま現実として現れる。

木山が居る地点の10mほど先に見える曲がり角から、
1人の女が出てきてその場から木山に語りかけてきた。

「止まってくださーい、アンチスキルです。
 只今この研究所はテロリストが潜伏している恐れがあるので、この場に居ては危険です。
 あなたここの研究者さんですよね?」

「あ、ああそうだが……」

一応木山は表向きはこの研究所で働いているという設定である。
そんな訳で女のアンチスキルに対して曖昧に頷いたのだが、少しおかしい。
確かに、アンチスキルはかなりの手練も中にはいるはずだ。

しかし、ここまで鮮やかに気配を感じさせない人間が、アンチスキルに何人いるだろうか。

戦闘に関しては門外漢な木山ではあるが、この研究所に軟禁されている間は人目を避けて
木原数多に関する情報を集めていたのだから、ある程度は人の気配を感じ取る事は出来るようになってきた。

とはいえ、意図的に気配を消している人間相手に、それを読みとることなどは出来ないのだが。


そんな木山だからこそ感じた違和感。


(目の前に居る人間は、本当にアンチスキルなのか?)


そこまで瞬間的に考えた木山は、とりあえずカマをかけてみる事にする。


534 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:35:13.385XMi+z0uo (7/16)

「……私はこう見えて昔はやんちゃしててな」

「はい?」

「アンチスキルには結構世話になってるんだが、君は何処の支部の人間なんだ?
 ひょっとしたら私の知っている人も近くに所属しているかもしれん」

木山はジッと女を見つめる。しかし、女には動揺は見られない。
女は自分にしか分からない程度に目を見開くと、続いて口も開いた。

「私はこの通り、第八十三支部でしがない下っ端をやらせていただいてますよ」

女は懐をごそごそとまさぐった後、警察手帳の様なアンチスキルとしての証明証を取りだした。

これは研究員達をこの場から離れさせる為にも使った
偽造手帳なのだが、一般人に対してならほぼ確実に騙せるほどの精度である。

それを見た木山は納得したように一つ頷きながら、続ける。

「ほほう、これはすごい偶然だな。数多くあるアンチスキルの支部で、私が知ってる支部と一致するとは……
 そこの部隊長に『黄泉川愛穂』って女性が居るんじゃないか?彼女には随分と世話になってね」

黄泉川愛穂とは、『幻想御手』の際に顔を合わせていたのだが、彼女は第七十三支部の所属だ。
これにどう反応するか、木山は表情一つ変えずに女の様子をうかがう。

「え?違いますよ、うちの隊長は『山笠』さんですけど、
 どっか別の支部と勘違いしたんじゃないですか?」

当たり前のように返答する女からは、動揺の一つも見られない。


535 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:36:48.695XMi+z0uo (8/16)

「そうか、そういえばそうだったな。黄泉川さんは第七十三支部だったか」

「そうですよ、そんな人聞いたことも無いです」

少し首をかしげながら言い放つ木山に対して、女は笑いかけながら答えた。
そして木山も、そんな女と同様に笑いながら答える。

「……おや、おかしいな?彼女は第七十三支部の部隊長なんだが、
 やる事為す事物凄く派手でな。部隊長全員を把握する事は出来なくとも、
 彼女の名くらいは知っていないとおかしいぞ?」

両者の距離は、変わらず10m。
木山はジリジリと後ずさりしながらその距離を伸ばしつつ、女に対して質問する。

「そして何より、その装備、一見してアンチスキルに模してあるが、アンチスキルのそれでは無いな。
 非殺傷を目的として改造された装備ではなく、本来の殺傷を目的とした非改造のライフルなのではないか?」

木山はもう一度、笑った。

「アンチスキルには、ずいぶんと世話になっていてな。装備の違いがわかる程度には」


「あーらら、バレちゃ仕方がねぇ。
とりあえず動かないでくださいね、ケツに挿れられる穴を増やしたくないでしょう?」

「……残念ながら、そのような関係を持った事など一度も無いよ。
 研究者とは孤独なものだ」

「……そいつは失礼しました」

瞬間、2人は動き出す。

木山は後ずさりそのままにバック走で勢いを付け身を翻し、
女―ナンシーは笑みを浮かべながらライフルを構えつつ駆けだした。


536 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:38:18.125XMi+z0uo (9/16)

・・・

「嘘、だろ……?」


剣を振り下ろしたはずだ。


自分の半身だとかそんな事情抜きに手加減なしで渾身の一撃を入れたはずなのに。

影が持つ幻想殺しも自身の右腕で動かせないように止めたはずなのに。

確実に、攻撃を当てることが出来る状況だったはずなのに。


故に上条当麻は驚愕を隠せずにいた。
この攻撃すら、止められたと言う事実に。


そして何より。


「何だってお前が……『ペルソナ』を出してんだよ……!?」

「あ?そりゃ防御するためだろ」


上条の知りたい内容はそんなことではない。それは影も分かっててとぼけたのだろう。
オケアノスの剣を、影の背後から現れた天秤を持つ『女神』が止めたと言う事実について知りたかった。


「ユースティティア、ってんだ。法を司る女神様ってとこか?
 そしてお前のそれは、本来ミカエルが持つべき断罪の剣なんだけどな……」

何処を間違えてオケアノスが持ってんだか、と影は笑うが、何の事かさっぱり分からない。
何にせよ、幻想殺しを持つ影が、上条と同じくペルソナを扱っている。


力量差は、はっきりしていると言えよう。


「何かよくわかんねーが、やる事は変わんねえよな……
お前を俺ん中に戻して、そんであっちに戻るだけだ!!
 オケアノス、ブフーラァ!!」

「だったら、力と覚悟をこの場で示してみろ!!ユースティティア、ジオンガ!!」


ペルソナは、すなわち心の力。
覚悟と、折れない心を持つ事が、自身のペルソナをより強くする。

オケアノスは、上条の強い思いに呼応するように力を発揮し、
それを見た影はニヤリと笑いながらユースティティアに攻撃の指示を出した。


537 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:40:29.205XMi+z0uo (10/16)

・・・

木山春生は逃げる。

この研究所内は隅々まで歩きまわったので監視カメラの死角を縫って行くのは容易い。
ナンシーの追走を振り切ると、監視カメラにも気を回して見つからないように隠れる事にした。

とはいえ、逆に死角を縫って捜索されればすぐに見つかるだろう。
どう考えても、敵は単独では無く複数で行動しているはずだ。

そして何より、木山自身が戦闘を得意としない。

何度も言うようだが、彼女は素人なのだ。
確かに戦闘は経験した事はあるものの、訓練していた訳でも無い。

(それでも上手く撒けたのは、見逃してもらったと言う事だろうか……?)

そんな事があるのだろうか。
木山は監視カメラに気を使いながらも、思考の渦に呑まれていく。



一方で、ナンシーは動くのが面倒なのか、本来のポイントに戻っていた。

『あー、こちらナンシー。目標喪失。多分監視カメラにも映ってないから
所内の見取図と比較してカメラの死角を挙げてってー。多分そこに隠れてるから』

『了解……ナンシー、お前のやる気の無さは前から知ってたが……
 もう少し本気出さないか?俺はまだ死にたくねーんだけど』

『はいはい、それじゃ私の分まで頑張って頂戴』

ナンシーの面倒くさそうな声に、監視カメラを監視しているクリスが苦言を漏らした。
適当な返事をして無線を切ると、ナンシーはそんなクリスの言葉に嘲るように笑う。

「なーに言ってんのよ、私らみたいなクズが生きたいなんて望み叶えられる訳ないでしょー。
 それを叶えるには、クズなりに有能になって周りの人間出し抜く位出来ないとねー」

こんな肥溜めで燻ってる時点で、たかが知れてるっつーの。
ナンシーの独白……もとい毒吐くは小さく所内に響き渡った。


538 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:41:43.515XMi+z0uo (11/16)

・・・

「……それで、こんな狭い所で何をしようって言うのだ?」

「……とりあえず、お前の知ってる事を話せ。
俺ァお前の教え子の居場所を知ってる。それと引き換えだァ」

その言葉に木山春生は息を呑んだ。
一先ず敵ではなさそうだ、と考え木山も自身の事情を話す事にする。


2人は、通風口の中でうつぶせになって向き合っていた。


と言うのも、木山の姿を一方通行が通風口から発見し、
話を聞く為に通風口にぶら下がりながらUFOキャッチャーのように
木山を捕まえて通風口に引きずり込んだからだ。


何だかシュールな光景ではあるが、2人は真面目も大真面目で話をしている。
一方通行は木山がここに居る理由や、ここが何処なのか等の情報を仕入れると、溜息をついた。

「すると何か?あのアンチスキルは偽物っつゥ事は……」

十中八九猟犬部隊の連中だ。
それを知った一方通行は更に深く溜息をつく。

「時間稼ぎ確定だなァ……そして何故時間を稼ぐ必要があるのかってのを考えっと……」

木原数多が打ち止めを必要とする理由が思い浮かばない。

一方通行の心をへし折り、そして殺すつもりなのであれば、
さっさと打ち止めを物言わぬ肉塊に変えて一方通行の下へ送りつければ良いはずだ。

それをしない理由は、目的はそんなことではないから。


539 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:42:37.705XMi+z0uo (12/16)

(なら、目的はなンだ?)

こう考える事も出来る。
木原は自発的に行動をしているのではなく、誰かからの指示を受け、こうして動いている。

木原数多と言う男を動かせる存在となると、学園都市内に何人もいるとは思えない。

(こりゃ下手すると……統括理事会……いや学園都市そのものが、
 打ち止めを使って何かしようとしてるのかァ……?)

ギリッと歯ぎしりをすると、一方通行は口を開いた。

「まず、こっから先は常識が通じねェ事だけを理解してくれ」

「……?良くわからないが、とにかく君を信じれば良いのだな?」

「まァ、そォだな。それにお前が居ればあいつらも止める事が出来るだろォし」

「それはどういう……」

木山の言葉を待たずして、一方通行は通風口を降りた。
そして木山にも降りるように促す。
続いて、降りてきた木山を抱えると、一気に駆け出した。


目的地は、モニターのあった研究室。


最早人目は気にしなくて良い。
何せ相手はアンチスキルでは無いのだから、こちらを捕まえる権限など無く。
そしてこちらが相手に手出しをしなければ、表側の人間が動く事は無い。

途中何人か猟犬部隊と思われる人間と遭遇したが、これを一切無視して突き進み、
木山の言葉も無視して有無を言わさずモニターの中へと駆けこんだのだった。


540 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:44:17.705XMi+z0uo (13/16)

・・・

『ハァ?一方通行が消えただぁ?』

木原数多は猟犬部隊からの報告を受け、もう一度確認を取る。

『ええ、文字通り消えました。場所は第三実験室です。後木山春生も同様です』

『くは!オーケーオーケー、取り逃がしたかと思って危うくおめーらに
 処分の命令を出すとこだったじゃねえか!!
 そこで消えたんなら問題ねえ、てこたあアイツはケツまくってテレビん中に逃げたって訳だ!
 殺しに日和って逃げだすたぁ情けねぇなあオイ!!』

木原は1人納得していたが、報告をしたナンシーは良くわかっていなかった。

何せ失敗したと思い、今日が命日だなー、と気楽に考えていたのに、
何故か任務成功だと言われたのだから。

『よし、今そこの実験室に居るな?』

『はい』

『その室内の中央に、デケェモニターがあるだろ?それ粉々にぶっ壊してくれや』

『了解です』

ナンシーは終始木原の考えが読めなかったが、その疑問を質問にする事は無い。
余計な口をはさむ事自体が無駄な事であると理解しているからだ。

とりあえずモニター壊せば良いんだな、とライフルを構えながら無線を切った。

そして通信を終えた木原は、用済みの無線をその辺に放り、笑う。

「ったく馬鹿だねぇ、こっちはとっくに目的を捕まえてんのに、まだ必死こいて動きまわってやがる」

笑う木原の視線の先、そこには頭に何か機器を取りつけられた打ち止めの姿があった。

意識は無く、ピクリとも動かさない打ち止めだが、
死んでいると言う訳では無く、確かに呼吸も心臓も働いている。

「ったく、こんな時間なんだからガキはオネムの時間だってのに、
 一方通行の野郎添い寝の一つもしてやれねえたぁ保護者失格だなオイ」

木原は1人自分の冗談に笑うと、キーボードを叩きパソコンの液晶を眺め始めた。


541 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:46:15.395XMi+z0uo (14/16)

「虚数学区……AIM拡散力場……そして……ペルソナ」

ブツブツと呟きながらも思考を回転させる。
いや、むしろこの呟きは無意識的なもので、思考に全てを注いでいる状態だろう。

それでもキーボードを叩く指の動きは止まらない。
もはや身体に染みついた動きで慣れたものである、と言ったところか。


(『心』と言う自分だけの現実と演算によって事象を歪める超能力。
 対して、『心』によって直接現実を歪めるペルソナ……。
 そして、現実の理に沿って現実を歪める魔術……)

(魔術と超能力は対を為す存在であるってのは分かったが、
 ペルソナと言う存在の立ち位置は……どちらかと言えば超能力寄りだよなぁ……)

(いやむしろ、超能力をもっと広義的なものにしたのがペルソナと言えるか……?
 だとすると、学園都市の超能力開発の目的は……イヤ、そりゃいくらなんでも突拍子なさすぎるな)

(……『召喚器』が無い場合、マヨナカテレビの中でしかペルソナを出せない。
 マヨナカテレビとこちらの世界、その差はなんだ?)


そこまで思考を続けた所で、ふう、と息をついた。
知らない間に呼吸をしろと言う命令すら脳が行えない程に思考が集中していたのだろうか。

身体が限界に達し、酸素を求める事で思考を一旦中断した。


「マヨナカテレビに虚数学区。ヒューズ=カザキリだったか、それにAIM拡散力場とペルソナ。
 この辺の関連性をはっきりさせりゃ、色んな疑問が解決出来そうだよなぁ」


やはり人生はこうでなくてはならない。
分からない事を理解出来るようになる、それが気持ち良くて、研究職についた。


子供の時からそうだった。


どうして車は動くのか。
どうして物は下へ下へと落ちるのか。
どうして生物は息をするのか。


日常の中で『どうして』と言う疑問はいくらでも浮かび上がっていた。
そしてそれを一つ一つ調べ上げ、理解する。


そんなことを繰り返しているうちにいつしか人の身体をもいじくるようになっていた。


少し前までは何故こうなるんだ、と言う事を考える事自体が少なくなっていたが、最近は違う。
魔術に超能力、そしてペルソナと、自身の理解を越えた何かがそこにはある。

木原はそれを確信したものの、理解には程遠いと痛感したが、そこには喜びしかなかった。


(アレイスターの野郎は、どんだけ俺より先に行ってんだぁ!?)


ワクワクが止まらない。と、木原は高らかに笑ってキーボードを叩き続けた。


542 ◆DAbxBtgEsc2011/09/09(金) 14:47:53.175XMi+z0uo (15/16)

上条さんの影はP3的にいえばメティスみたいな感じでしょうか。
突拍子の無さに定評のある(当社比二倍)俺でしたとさ。

続きはそのうち。


543なすーん [なすーん] なすーん ()

                     __        、]l./⌒ヽ、 `ヽ、     ,r'7'"´Z__
                      `ヽ `ヽ、-v‐'`ヾミ| |/三ミヽ   `iーr=<    ─フ
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544なすーん [なすーん] なすーん ()

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545VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/09(金) 15:51:41.165XMi+z0uo (16/16)

ナス板


546VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/09(金) 19:33:15.677dIoX9Ofo (1/2)

なすーんってどういうことなの・・


547VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/09(金) 19:33:51.467dIoX9Ofo (2/2)

なすーんってどういうことなの・・


548VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/09(金) 20:46:30.70du5eDevV0 (1/1)

>>542乙
読み応えあるSSに感謝。
頭脳戦になってきた。楽しみ。




549VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/09(金) 22:56:23.032TmuMpPOo (1/1)

熱いねぇ。複雑になってきたような気がするがついていくぜ
おつー


550VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/10(土) 04:25:33.63e6J5i5Neo (1/1)

このスレでP4買った面白
ここのお話をもっと楽しめそうだ


551 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:19:43.977T4Cw5wio (1/17)

最近はP3色が強いから、そっちもオヌヌメしてみる(あからさまなせんでんこうい

透過するよん


552 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:20:55.937T4Cw5wio (2/17)

最初は、上条当麻と影は基本的に殴り合いの肉弾戦を行っていた。
たまに上条が隙をついてオケアノスによる攻撃も放ってはいたが。

つまり、影は上条ともう一つ、オケアノスによる攻撃も視野に入れて立ち回らねばならない。
そんな中で上条は影に大きな隙を作り、オケアノスによる強力な一撃を入れたかに見えた。


しかし、それは影に更なる本気を出させる為の布石に過ぎなかったのだ。


「うらあああああああああ!!!!」

影は咆哮と同時に上条へと向かって駆けあがる。

その背後には天秤を左手に持った『女神』が全身から雷を纏って、
まるで御坂美琴が能力を放つ3秒前のような状態を見ているような佇まいをしていた。

それを見た上条はオケアノスを顕現させ、
まず先にブフーラにてユースティティアに対する迎撃を行う。

しかし、オケアノスを出す為に使う召喚器。これが隙となるのだ。

上条は基本的に召喚器を持って戦っている。
ちなみに召喚器はかなり丈夫なので乱暴に扱っても問題は無い。

と言うのもいちいち召喚器を取り出す暇も無いからなのだが、
それでも召喚する瞬間はどうしても隙が出来てしまう。

上条と影による攻防は目まぐるしく何度も入れ替わっていたが、
やはり上条がペルソナを召喚するのと影がペルソナを
召喚するのではワンテンポ差がついてしまっていた。

その隙を突く事は簡単だが、上条にその隙を埋める方法を考えつかれてはたまったものではない。

隙を突く時は、そこで上条に大ダメージを与える。
そしてその隙を突く瞬間は、今。


553 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:22:32.967T4Cw5wio (3/17)

影は笑いながら、上条が右のこめかみに召喚器を
突きつけているのに対して、左のこめかみに向かってハイキックを放つ。

対する上条は思わずそれを回避するために
首を下に曲げることで、辛くも影の足を避ける事に成功した。


しかし、


「あっ!?」

上条の頭上を通過した影の足は、上条の右手に持ったままの召喚器を弾き飛ばしていた。

からからと音を立てて弾かれた召喚器は、上条から10mは離れてしまっただろうか。

取りに行くには隙が大きすぎる。

しかし、その一瞬の逡巡すら、大きな隙となっていて。

「あぐっ!!?」

召喚器の方を見やった上条の腹に、思い切り前蹴りを放つ影。

痛みによる叫び、と言うより思わず肺から息が漏れてしまったような
音を出しながら、上条もまたゴロゴロと地に倒れ伏した。


「さぁて、いつまでもあんなオモチャに頼ってんじゃ……ねぇよ!!」




倒れ伏した上条に対して、影は。




―――ボキリ。


554 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:23:54.377T4Cw5wio (4/17)





「~~~ッ!!!」

鈍い音が鳴ると同時に、上条は自身の右腕を抱えて声にならないままに叫んだ。
それを見た影は、盛大に笑って嘲る。

「おいおい、まだ右腕がやられただけだろ?足は動くし左も動く。
 もうギブアップ何て言うんじゃねえだろうな?」

影は、いともたやすく上条の右腕を圧し折った。

普段から怪我の絶えない上条ではあったが、
こうして骨がポッキリしてしまう事など初めての体験である。

いや、確かに三沢塾に行った際にポッキリどころかバッサリと斬り落とされた事はあったが、
何かあそこまで行くと色々と吹っ切れてしまいアドレナリン全開だった為に痛みはあまり覚えていなかった。

しかし、今回はあまりにあっけなく、あまりに当たり前のように折られた為に、
すぐに現実を受け入れてしまい、それによって右腕から常に電気を流されているかのようなビリビリとした痛みが全身を駆け廻る。

「ぐっ、うぅ……!」

その痛みに耐えようと、残った左腕で自身の肩を抱き、
歯を食いしばる上条だが、チラリと右腕を見やるとあらぬ方向に腕が曲がっており、
新たに追加された関節部は真っ赤に腫れあがっていた。

追撃を入れないのは、影の余裕だろうか。
何にせよ、上条はまだ戦いを止めるつもりはない。

前方のヴェント。
彼女の目的が分からない以上、インデックスどころか学園都市の住人全員が危険の可能性もある。
いや、既にアンチスキルは全滅してしまっているだろうか。

早く戦わねば、早く戻らねばと思い、何とか立ち上がろうとするものの、
少し右腕が動くたびに鋭い痛みが上条を襲う。


555 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:26:34.967T4Cw5wio (5/17)

(痛え……くっそ、動くたびにズキズキしやがる……)

しかし、ここで違和感が上条の脳裏をよぎった。

(何で、痛いんだ?)

(いや、腕折られりゃそりゃ痛ぇに決まってる)

(だが、それは現実の世界での話だ)

現実での世界。
上条は確かにヴェントによって意識を刈り取られた。
そして、イゴールの下へとやって来たはずだ。

ならばその世界が現実のはずは無い。


ここは夢の狭間。


(そんな場所なら……!!)


ここは心の世界。


(ペルソナくらい、召喚器に頼らなくても、出せてもいいだろ!?)


ここは信じる心が力となる世界。


とはいえ、それは『この世界』だけの話ではないのだが、
上条はまだそこまでは気付かなかった。


だが、それでも十分だ。


それを見た影は、待ちくたびれたように呟く。


556 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:27:22.947T4Cw5wio (6/17)

「やっと気付いたか……この場での戦い方ってのによ」

あっちでもそれが出来れば上等なのだが、
凝り固まった常識と言う物は中々覆す事は出来ない。

それは異世界だろうと変わらない。
目の前の現実を受け入れたつもりでも、心のどこかで信じきれない事もあるのだ。

しかし、上条はここだけとはいえ、受け入れた。
そして心のままに、その言葉を口にする。

「ペ、ル、ソ、ナ……!!」

痛む腕に耐えながらの発声だった為にとぎれとぎれになったものの、
その合言葉を口にする事によって発現する。

「オケアノス!!」

召喚器があらぬ所に転がったままに。
上条は何もこめかみにつきつける事無しに。
自発的に『死』を受け入れ、『恐怖する心』を受け入れた。

それにオケアノスも上条の望んだ力を以って応える。

「オケアノス、アムリタ」

上条が唱えると、以前吹寄制理に降り注いだ淡い光が、上条の右腕にも照らされる。

すると真っ赤に腫れあがりあり得ない方向に曲がっていた右腕は、
いつもの真っすぐな状態へと戻った。

それを確認した上条は手を何度か握ると、影を見やる。


557 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:27:58.967T4Cw5wio (7/17)



「わざわざ待っててくれるとか、ありがとな」

「悪役は正義の味方の準備が整うのを待つもんだろ?」

「それってお前負けフラグだろ……」

「バカか、そんなテレビみたいな事が現実にあってたまるか。
 いつだって生き残るのは生きる意志の強え奴だ。そこに悪も糞もあるかよ」

「そうだな……はっ!つまりやっぱり俺が勝つってことじゃねえか!!」

「バーカ、言ってろ三下!!」

「へっ、そっちこそいつまでもえらそーにしてんなよ!!」

「ブン殴んぞテメェ!!!」

「そりゃこっちのセリフだ!!人の腕へし折りやがってええええ!!」

第二ラウンドの、ゴングが心の中で鳴り響いた。

「オケアノス、ブフーラ!!」

「ユースティティア、ジオンガ!!」


558 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:28:28.187T4Cw5wio (8/17)



再び、異能と異能がぶつかり合う。
今度は互いに隙は無い。

しかし、ペルソナ同士の戦いではある意味決着がつく事は無いだろう。
何故なら、本質的には上条と影は同一人物なのだから。

それでも、今まで影が上条を上回り続けたのは、
『心』に対する理解の深さの差から来るものだろう。

だがそのアドバンテージは、この場においてのみ、無に帰すこととなった。

上条もまた、本能的にそれへの理解を深めた為だ。

「駄目だな、やっぱ男なら夕陽を背後に殴り合いだわ」

「確かにこんな宇宙みたいな場所で殴り合うのは何か違うよなー」

「いや、俺ぁそう言うつもりで言ったんじゃねーっての!!」

影は相殺されたジオンガを見ると同時に上条の下へと駆ける。
しかし、上条も同じことを考えていたらしく、上条もまた影の下へと駆けて行った。


559 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:30:12.387T4Cw5wio (9/17)

・・・

紫電と氷塊がぶつかり合い、氷塊に遮られた電は四方八方へ霧散していき、
電撃を受けた氷塊は粉々に砕け散っていく。

紫電が辺りを駆け巡り、氷がつぶてとなって降り注いでいる中で、
上条当麻と影はその中を無傷で潜り抜け、互いに肉薄する。

高ぶる心と研ぎ澄まされた神経が瞬間的に身体を動かしたのだろうか、
上条と影は舞うように拳を突き合わせていた。


それを何度繰り返しただろうか。


互いが互いの拳を受け止め、まるで鍔迫り合いの様な状況になる中で、上条は影に笑いかける。

「なぁ……俺は今記憶をなくしちまってるけどさ……」

「あん?」

言葉を紡ぎながらも、上条は掴んだ影の手を離すと同時に影に掴まれた手も振り払うと、
少しだけ後ろに下がり影の顎を蹴りあげる為か思い切り右足を振り上げる。

何だか不意討ちっぽいが、戦いの最中に動きを止める事は致命的になるかもしれない事は
影もわかっているので、上条の言葉に返答しながらも軽く仰け反ってその足を回避した。

「ごめんな、お前の味わった苦しみも、わからなく……てっ!!」

とか言いつつ上げた右足を踵落としする。

謝る気があるのかと問いただしたいが、その言葉からは真摯な思いが込められていた。
それを聞いた影は少しだけ口角を上げるが、軽く踵落としをいなしつつ口を開く。

「はっ、別に謝罪が欲しくて『外』に出てきたわけじゃねえっての!」

「……それ、どーいう……」

右足をいなされた事で若干体勢を崩しながらも地面に踵を叩きつける。
しかし崩れた身体を立て直す隙を、影は逃さず突きながら意地悪そうな笑みを浮かべた。


560 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:31:13.227T4Cw5wio (10/17)

「おしえ……ねぇっ!!」

「うおっ!?……だけどさ、『死』と向き合って、『死』を体感して、分かったんだ」

影の放った右ストレート、それをスウェーバックで衝撃を和らげると、
顔を回した方向に身体も回すことで勢いを付け、後ろ回し蹴りを影の側頭部目掛けて放った。

「何を分かったって!?」

上条の足は影に届いたかに見えた。
しかし、足の動きに合わせて影も側転した為に、上条の後ろ回し蹴りは空振りする。

そして影は一端距離を取ると、攻撃の手を止めた。
続いて、それを見た上条もファイティングポーズを構えつつも警戒を解く。

「俺が、お前に『死』への恐怖を押しつけていたって事だよ」

上条当麻が記憶を失って、そして上条の影と別れるまでに、
命を賭して戦った事は吸血殺し騒動の時しかなかったはずだ。

しかし、頭で覚えていなくても、心が覚えていた。

『死』の恐怖を影に押しつけながらも、それを見て見ぬふりをしていた自分が居たと言う事を。

そして、それに気付いたのが、召喚器に組み込まれた『黄昏の羽根』を通して『死』と向き合った時。

「人を助けて、怪我して。
 俺が怪我するだけで事が済むならそれでいいと思ってたんだけどな……
 それじゃ駄目だって事だよな……「誰もが笑って終われるハッピーエンド」、
 そんな事考えてたけどさ、俺自身もそこに含まれているつもりになってただけだった。
 だからこうして俺とお前が対峙する事になってんだ」

まあ、自業自得っつったらそれまでなんだけど、と上条は自嘲気味に笑った。
上条の謝罪に対して、影もまた笑った。上条の笑みとは違って、楽しげな笑みである。

「……その謝罪、記憶がある時に言えりゃあ説得力もアップするもんだがな」

「そりゃ悪かったな、記憶戻ったら改めて謝るわ。許してくれるかしらねーけど」

「まぁ、その時の態度によるなぁ。なんつーかこう、金一封でも持ってよ」

「……お前って意外と俗物なのな」

「……まぁ、『お前の分身』みてーなもんだしな」

影はそう言ってバツの悪そうな顔をする。


561 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:32:40.227T4Cw5wio (11/17)

その言葉を聞いた上条は鬼の首を取ったかのような顔をすると、

「今、認めたな?お前=俺だって認めたな?」

「あっ」

「だったら話は早いじゃん!戻ってこいよ!!
つーかさっさとあっち戻りたいんだっての!!」

大体、屈服させろってなんだよ!厨二病かよ!
と大笑いする上条だったが、影は自分の失言にプルプルと震えている。

しかしすぐに落ちつきを取り戻すと、軽く溜息をついて背後にいるユースティティアを消した。

「……ハァ。おーけーおーけー、何か疲れた。このまま戦っても埒が明かねえしな。
 とりあえず、戻っても良い」

影の言葉を受けて、「ホントか?!」と上条は聞き返そうとするが、それより早く影の言葉が遮る。

「ただし、だ。飽くまでも緊急事態による措置みてーなモンだからな。
 色々と事が落ちついたら俺は帰るぞ、第一完全には認めてねえから」

「よし!話が決まれば善は急げだ!!あっちに帰る!!あ、でもどうやって!?」

そしてそんなやり取りを、マーガレットは楽しそうに眺めていた。

「ふふ……戦わずとも、影の心を変える。か……私には出来ないわね。
 力が全てじゃないってことかしら」

「……2人が本当の意味で1人になった時、手合わせを願いたいわね」

私より強い奴に会いに行くと言わんばかりの力に対するこだわりは、
やはり力を司る者にふさわしいものであった。

「心配しなくても、すぐ帰れるわ」

そして、マーガレットが上条と影を元の場所へ帰す為に案内をするのだった。


562 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:33:23.127T4Cw5wio (12/17)

・・・


窓の無いビル。
その中でただ1人の住人である彼、もしくは彼女は、実に人間らしい笑みを浮かべながら、誰に向かって言う訳でも無く呟いた。


「予定の時間より早いが、それによる予想との差異を調べるのも悪くない」


くつくつと笑い、それに合わせてアレイスターを包んでいる液体から、ゴポゴポと空気の泡が浮かんで行く。




―――その時、『学園都市』と言う場は、世界から切り離された。


563 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:34:18.857T4Cw5wio (13/17)





・・・

場はオーラス。
手牌は最悪。

垣根提督は今現在、残り17600点。
対して、ゴーグルの少年は30000点。

1位のゴーグルに追い付くには跳ね満以上をツモで上がるか、満貫以上を直撃するしかない。

しかし、ドラは東。
せめて南がドラならまだ何とかなりそうなものだったが。

(金はある、金はあるんだが……こいつにやるのだけは許せねぇ)

チラリと対面に居るゴーグルの少年を見やる。
何を考えているかわからない眼が、ニヤリと歪むのを見て、垣根は軽くプチッと来た。

(ぜってぇ上がる……いや、まずこの場は何とかテンパイして流すしかないか……?)

とはいえ、親は砂皿緻密であり、彼がノーテンだった瞬間終わってしまう。
下家の砂皿を見るが、相変わらず何を考えているのかわからない。

場にはまだ役牌が白と發が1つずつしか出ていない上に、
ゴーグルの少年の手の動きを見る限りでは手が良く進んでいる事がわかる。

(やっぱ早上がり濃厚くせえ……)

切る牌に迷いが無い。真っすぐ最短ルートを目指していると考えて差支えないだろう。
ゴーグルを上がらせず、かつ砂皿に差しこむ。

(いや待てよ、砂皿の捨て牌を見る限りじゃチャンタ濃厚じゃね?)


564 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:35:29.367T4Cw5wio (14/17)

ヤオ九牌を一つも捨ててない。

何を考えているかは分からないものの、鳴いてすらいない為、
字牌どころかドラの東を抱え込んでいる可能性もある。

そうなると差しこんで泣きを見るのは垣根だ。

だがしかし、ゴーグルの少年が東を捨て、続いてドレスの少女も東を捨てた。

(まず親の砂皿は東のみで上がる事は無くなった、か……)

順子でも明刻でも構わない。とにかく鳴いてくれれば
何考えてるかわからん砂皿の動きもわかると言うもの。

淡い期待を抱きながら萬子の1を捨てようとした瞬間。

垣根の目の前のゴーグルの少年と、右に見える砂皿が。

「何だこりゃ」
「何よ、これ……?」

思わず呟いたのだが、ドレスの少女も同じような事を呟く。
考えた事は同じだったらしい。

「敵襲?にしちゃ随分突拍子どころか殺気もないな。
 つーか何の気配もねーし」

敵襲だとして何故自分達だけが無事なのか。
そして2人が棺桶の様な姿になったのは一体何なのか。


565 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:36:07.787T4Cw5wio (15/17)

「とりあえず外出てみるか?」

「え、ええ、そうね」

狼狽するドレスの少女を率いて垣根は外がどうなっているのか確認を取る事にした。

「あ、その前に」

垣根はドレスの少女の後ろを通り、ゴーグルの少年が居た所まで移動すると、

「やっぱ中握ってやがったか……つーかもうテンパイだし」

犯罪は見つからなければ犯罪ではないし、
イカサマも見つからなければ……いや、例え見つかっても黙認されればイカサマではない。

サムズアップするドレスの少女を見るのと同時に、
垣根は中で出来た暗刻を王牌の3つと入れ替えた上に、
ゴーグルの少年の捨て牌と手牌をぐちゃぐちゃに入れ替えると言う鬼畜も真っ青な所業を為した。

「よし、これでこいつがこっからテンパイすることもねーだろ」

「そうね、後は私達がノーテンで終われば、
 砂皿さんがテンパイしようとするまいとこの局は千点以上の被害はない、と言うことね」

利害が一致した、と言う事だろう。
2位のドレスの少女と3位の垣根。彼らはこの場においてのみ同盟を結んだ。

「ああ、だがこの後からは敵通しだと言う事を理解しておけよな」

「ええ、分かってるわよ」

こんな異常な状態の中、いつまでも冷静な垣根を見て、ドレスの少女も落ちつきを取り戻したのだろう。 
先程の狼狽はどこへやら、隠れ家の出入口へと向かう垣根にドレスの少女も迷わず追従して行った。


566 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:37:15.457T4Cw5wio (16/17)

・・・

「生まれてから死ぬまで、いつだって俺は俺だけの味方だよ」

成程、台詞はカッコイイのだが、半裸でブーメランパンツのみと言う装備で言われても説得力に欠ける。
麦野沈利は辟易した表情で映画を見続けていた。

相変わらず絹旗最愛はワクワクした面持ちで映画を眺めている。

「生きるも死ぬも自由だ。立ち向かう事も逃げる事も出来る」
「だが、お前が例え死んでも何も変わらない。世界は変わらず回ってるだろうさ」
「だが、お前が生きているのであれば、きっと何かを変えられるはずだぜ」

やはりカッコイイ事を言っているのだが、彼は半裸なのだ。
これを作った脚本家と監督に今すぐ物申したい。「真面目に作ったの?」と。

だがしかし、役者の演技力自体はかなり高いもので、
金ばかりかけてイケメンタレントを映画に出演させるよりも、
この役者を安く使った方が儲けも出るのではと思うほどだ。

(私が生きても、何も変わらなかったっつーの)

あれは映画、あれはフィクション。
それは分かっているものの、その台詞に何か思う事があったのだろう。
脳内で毒を吐きつつも映画を見続けていたのだが。


唐突に、ブツリとテレビが切れた。


そして全身にザワザワとした違和感が走り、思わず辺りを見渡すと。

「滝壺!フレンダ!?」

先程まで寄り添って寝ていたはずの滝壺理后と
フレンダ=セイヴェルンの居た場所には二つの棺桶があった。

そしてその場に残ったのは、麦野と絹旗。

「これは……超敵襲ですか?にしても物音どころか殺気の一つも感じませんが……」

「分からない。分からないけど……とりあえず、外に出てみる?」

コンコンと棺桶を叩き、丈夫な何かで出来ているらしいと言う事だけを確認すると、麦野は外に出て行く為か上着を着込んでいた。
それを見た絹旗もポップコーンに洗濯バサミで封をしてテーブルの上に置く。

「まずはこの超異常現象の中、私達みたく無事な人を超探してみるって事ですよね」

「そゆこと。何となく、これが私達を狙った事って訳じゃなさそうな気がするしねー」

修羅場には慣れている。
麦野と絹旗は散歩に出るかのような気軽さで外へと向かって行った。


567 ◆DAbxBtgEsc2011/09/13(火) 19:38:58.757T4Cw5wio (17/17)

尾張です。
散々強そうアピールをした影を今の上条さんが倒すって無理だよなって思ったので妥協案。
長々となりそうだったので戦闘描写はぶつ切りに。

所謂影時間って奴ですね、棺桶になっちゃったのとならなかったのの違いはまあ、そのうち適当に。


568VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/13(火) 20:54:31.91FwcSFFdB0 (1/1)

>>1乙
ペルソナタ-ンなるほど、心象世界か。


569VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/09/14(水) 02:53:26.56oHyxDJ3j0 (1/1)

ていとくん最低だなwwww




570 ◆DAbxBtgEsc2011/09/16(金) 11:21:57.9761qfjt2Qo (1/14)

ご都合主義デスと言う保険
透過する


571 ◆DAbxBtgEsc2011/09/16(金) 11:22:58.5961qfjt2Qo (2/14)

桐条御一行が誰もいないゲートを潜り抜け、
学園都市入りを果たしてからしばらくの事である。

懐かしいあの感覚が一同の身体を駆け廻った。

「これは……!」

誰とは無しに辺りを見渡す。
まだ零時では無いと言うのに、表の時間はなりを潜め、裏の時間が影を出した。

「待て待て!まだ影時間には早すぎじゃねーのかよ!?」

伊織順平が、皆が同時に抱いた疑問を叫ぶ。

しかし、それに答えてくれるものなどおらず、
結局は自分達のすべきことをするだけであるという結論に達した。

すべき事、それは影時間に誘われた者の救助。
はっきり言って、この現象自体を止める事は不可能だった。
何より情報が足らず、今日と言う日に影時間が来る、と言う事しか分からなかったのだ。

とはいえそれだけ分かったのも僥倖で、後は何も知らない人間を助けることと、この事態に一方通行も動いているはずなので、
彼と合流し今後の方策を考えることの二つを同時に行おうと言うのが一同の考えである。

とはいえこの学園都市はかなり広い上に連絡を取ろうにも影時間では普通の機械は動かせないし、
事実岳羽が懐から出した携帯も動かなかった。

やはり、『黄昏の羽根』を組み込んだ無線機しか使えそうにないらしい。


572 ◆DAbxBtgEsc2011/09/16(金) 11:23:32.2361qfjt2Qo (3/14)


「さて、とりあえず4人二組に分かれるか……」

ここでどう分かれるかはかなり重要になって来るため、
桐条美鶴は慎重にそのメンバーを選び出す。

「山岸程ではないが私にも索敵能力はある。
 それ故に山岸と私は分かれて行動しようと思うんだが、どう思う?」

「そうですね、私もそれが良いと思いますよ。
 それなら戦闘面も考慮して、私は風香さんの方に行きましょうか」

「それじゃ、男女のバランスも考えて僕とコロマルもお2人の方に混ざりますね」

「何だか適当な感じはするが……まあ確かにバランスは取れているか……?」

「まあ何とかなるでしょ!天田君はしっかりしてるし、アイギスの手綱を握ってくれるはず!」

真田明彦が思案顔をするが、岳羽のそんな言葉にすんなりと納得し引き下がった。

何だか後半は割と適当だったが、そんなやり取りをして
4人ずつのパーティを二組作って行動を開始した一同であった。


573VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/16(金) 11:23:39.32WJOQN2reo (1/1)

リアルタイム遭遇ktkr


574 ◆DAbxBtgEsc2011/09/16(金) 11:24:51.8361qfjt2Qo (4/14)


・・・

時は少しだけ遡り、学園都市に影の時間がやって来る前の事。

土御門元春は学園都市の外でただ一人、剣山のように大量の杭が刺さっている中で、
杭の一つにもたれかかり気だるげな表情を浮かべていた。

何故学園都市の外に居るのかと言うと、勿論魔術師関連である。

ローマ正教が誇る『神の右席』が1人、前方のヴェントが学園都市に侵入した。

それが学園都市における現状ではあるが、
いくら戦力に自信があろうとも本当に彼女だけが単騎で攻め込むだろうか?

結論から言えば、それはあり得ない。

まず間違いなく学園都市の外で他の魔術師が待機し、制圧する準備でもしているだろう。

学園都市を本気で制圧するなら数で押すなりなんなり出来ると言うのに、
それをしないのはヴェントと言う人間の力がそれほどまでに圧倒的なのだろう。

すなわち、学園都市の周囲にはヴェントが先攻した「後始末」をするだけの人員しか配備されていないのかもしれない。

兎にも角にも、ヴェントの扱う術式が一体どんなものなのかすら、土御門は分かっていなかった。

そして今、土御門は学園都市の外にてとある術式の破壊に成功した。

恐らく、学園都市内部で動けなくなった人間達を、
目の前に広がっている杭のにて串刺しにしていくつもりだったのだろう。

しかし、それは阻止した。

後はヴェントを何とかしなければならないのだが。

(カミやんは無事なんだろうな……?)

まず第一に上条当麻、インデックス等が狙われると考えて間違いないだろう。
ある意味、学園都市制圧は事のついでと見ても良いはず。


575 ◆DAbxBtgEsc2011/09/16(金) 11:26:46.2161qfjt2Qo (5/14)

それでも学園都市の中には、舞夏が居る。

彼にとって、彼女の無事を確保する事が最優先事項であった為にこうして術式の破壊を行った。
しかし、それを行う為に何度か魔術を使ってしまった為に、既に身体はボロボロだった。

土御門は血の塊を吐きだすと、自身が出てきた第三ゲートから再び学園都市に戻ろうと身を翻す。


しばらく重たい身体を引きずるように走っていくと、
視線の先から車のヘッドライトが見えたので、
思わず木の影に隠れその車がなんなのか確かめる。

そこには山道に似合わないような面長な車体をしたリムジンが目の前を過ぎ去っていった。
遠目に見る限りでは黒塗りの窓である為に、運転手が乗っていると言う事しか分からない。

(リムジン……?)

どこのどいつだ、と土御門は思うがどうやら土御門を探している訳でも無く、
学園都市に行くのが目的であるらしい事から何処かのお偉いさんが
ノコノコやって来たという事だろうか。

魔術師、と言う可能性も考えたが、あのような目立つ車に
乗って来るだろうかと思ったら、それは無いと考えた。

(敵なら排除すればいい、か)

どの道ここからならあのリムジンに追いつくことなど出来ないのだから。
隠れていた木の陰から身体を出して、再びゲートへと向かう。

しばらく歩を進めると、先程のリムジンも第三ゲートを目指していたのだろう。
リムジンがゲートの前に止まっていた。

どうやら中に乗っていた人間は既に学園都市入りを果たしたらしく、
そこには運転手しか居ないようだ。


(さて、接触すべきか否……ッ!?)


瞬間、全身を衝撃が駆け抜けた。

突然受けた謎の攻撃に、土御門はゴポッ、と音を立てながら血を吐きだす。