1kyosuke2011/07/12(火) 23:19:11.47bwMKvAwX0 (1/16)

このスレは俺の妹がこんなに可愛いわけがないSSスレ Part.11
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1308021366/
から派生したスレです。

【題名】 願い
【語り】 桐乃+京介

基本的に桐乃×京介な物語です。
背景は、8巻で黒猫が京介に告白しなかったパラレルワールド。

どこまで続くかわかりませんが、2人の世界を見守ってあげてください。


2kyosuke2011/07/12(火) 23:22:22.98bwMKvAwX0 (2/16)

12月18日(日) 高坂家リビング

<<桐乃side>>

日曜日のお昼前というのは、どこの家でも家族の団欒の時間だろう。
我が家も日曜日ということで、リビングでは非常にまったりとした時間が流れている。
そして私は家族用に紅茶の茶葉をティーポットで蒸らし、
ゆったりと紅い色がお湯に広がるのを待っている。

「ん…こんなとこかな」

紅茶の色が十分濃くなったことを確認し、
紅茶の入ったカップをリビングのテーブルに並べていく。

なぜか私の家では麦茶は安物のパックなのに、
紅茶はお母さんがわざわざ専門のお店からいい茶葉を取り寄せている。
せっかくいい素材があるのだからと、
自分が満足できる味を出せるように紅茶の淹れ方を練習してきた。
その努力の成果として、今カップからは鼻孔をくすぐる甘い香りが漂ってくる。

リビングには私を含めて4人。みんなが私の入れた紅茶を飲んでホッと一息をつく。

「…ん。すげーうまいな。桐乃ちゃんってこういうのもできるんだな。」

「は……はぁ?」

「あ、すまん。別に悪い意味じゃないぞ。
 ただ桐乃ちゃんってかわいいし、服のセンスも良くておしゃれだろ?
 それに紅茶を入れるのもうまいから多才だなって思ってな。」

紅茶を一口飲むとそいつが突然意味不明なことをのたまってきたので、つい条件反射で聞き返す。
それを私が機嫌を悪くしたと勘違いしたのか、手を左右にふって謝ってくる。
……だけならまだしも、あまつさえそいつは私のことを、
恥ずかしいくらいどストレートに褒めちぎってくる。


3kyosuke2011/07/12(火) 23:23:57.80bwMKvAwX0 (3/16)

「かわっ!----ばっ、ばかじゃん!?
 こんなのただお湯にいれるだけなんだから、誰でもできるっての!」

「あはは、そんなことないぞ。
 俺も味とかはよく知らねーけど、こういうのを上手く入れるのって結構難しいんだろ?」

か…か…かわいいとか急に何言い出すのよっ!ありえないんですけど!?
そんな私の心の叫びもつゆ知らず、そいつはムカつくぐらい朗らかな笑みをこぼしながら、
紅茶を味わっている。

むぅ~っと目を細めて睨みつけても、そんなものどこ吹く風とばかりに
涼しい顔をして受け流される。
そう、何を隠そうこいつは私の兄貴、超シスコンでど変態の高坂京介その人だ。

こいつがシスコンで、私のことを死ぬほど好きなのはよーーーく知っている。
でも、いつもなら私が少し睨んだだけで怯むくせに、今に限っては全く動じた様子もなく、
おいしいおいしいと連発してくる。

『ほんっっと……調子狂うな。』

私は京介のあまりの変わりように頭に軽い痛みを感じて、はぁとため息をつく。

えっと……なんでこんなことになったんだっけ。
ことの始まり何だっただろう……

そうだ――全ては2日前のあの言葉から始まったんだ。
私の中で2日前の出来事が色鮮やかに蘇ってくる。






4kyosuke2011/07/12(火) 23:25:09.60bwMKvAwX0 (4/16)

金曜日 高坂家リビング
PM6:00

「明日でかけるから。」

ソファに横たわってファッション雑誌に目を落としながら、学校から帰ってきた兄貴へと話かける。
冷蔵庫から麦茶パックを取りだそうとしていた兄貴は、
突然声をかけられて少し驚いたように振り返る。

「はぁ?なんだよいきなり?
 別に俺に言わなくても勝手に出かけりゃいいだろう。」

「あんた、本気で言ってんの?
 もちろんあんたも一緒に出かけるに決まってんでしょ。」

「俺もかよっ!?
 ……あのなぁ、俺ももうすぐ受験なんだぞ? 土日くらいじっくり勉強させてくれよ。
 それに一緒に遊ぶなら黒猫かあやせとで行けばいいじゃねーか。」

ソファの上に座り直しふふんっとばかりに答えると、兄貴も負けじと言い返してくる。
だけど、甘い甘い。あんたの反論なんか最初から予測してるに決まってんでしょ?

「はぁ?ばかじゃん?
 そんなの毎日しっかり勉強してたら1日くらい余裕でしょ?
 それにみんなにはあんたを誘う前に聞いてみたに決まってんじゃん。
 みんな予定があるから、仕方なくあんたを誘ってやってんのよ。
 なに?こんなかわいい妹が付き合ってやるっていってるんだから、断る理由なんてなくない?」

「お前はなんでいつもそんな上からなんだよ……。
 たくっ仕方ねーな。わかったよ!明日1日だけだからな!」

はい、完全論破達成☆
一応弁明しておいてやると、兄貴は見た目は地味だけど、そこまで頭が悪いわけではない。
勉強はそこそこできるし、最近だと夜遅くまで机に向かっている日が多くなってる。
それに前回の模試の結果でもA判定をもらっていたってお母さんも上機嫌に言ってたしね。
実際1日勉強をせずにリフレッシュしたほうが、兄貴にとっていいストレス発散になるだろう。

「で、どこにいくんだよ? 」

「…ん?んっとね、今回は秋葉原でおもしろいイベントがあるんだ。」

「おもしろいイベントねー。一体どんなのだ?」

「ふっふ~ん。それは明日着いてからのお楽しみにとっときなさい。」

「へえへえ。わかりましたよ。んじゃ明日は……。」

その後のやり取りはどちらも馴れたものだ。
明日の時間を決めたり、兄貴の服を私好みの物に指定したりして、
金曜の夜はあっという間に過ぎて行った。



5kyosuke2011/07/12(火) 23:26:18.59bwMKvAwX0 (5/16)

12月17日(土)秋葉原電気街口


空はぶ厚い雲に覆われており、全体的に秋葉原には薄暗い雰囲気が作り出されている。
天気予報では夜から雨が降るという予報だったが、
今にも泣き出しそうな空は私の気分も憂鬱なものにさせる。
この時期にしては寒さも相当なもので、私の吐く白い息が風に流され空に小さな軌跡を残していく。

そんな寒さの中、さすがにあんた達薄着すぎるでしょって格好をしたメイドさんたちが、
駅から出てくる人達にお店のチラシを配っている。
周りにはそんな寒さなんて関係ないとばかりに、
オタクから外国人まで本当に多種多様の人達で溢れ返り、駅前には特有の熱気で包まれている。

そんな秋葉原ではお馴染みの光景を見やりながら

「………遅い。」

私はどうしようもないくらいにイラついていた。

今日の出で立ちは膝上まである黒いブーツを履き、
明るめの茶色いコートの胸元からは白いシャツと青色のインナーが見え隠れしている。
まさにファッション誌から飛び出してきたモデルような雰囲気(実際に読者モデルなのだが)で、
通り過ぎる人たちがちらちらと桐乃のほうを窺う。

そんな秋葉原では珍しい服装をした美少女が『私すっごく不機嫌ですよ』といった顔で、
どす黒いオーラを辺りに撒き散らしている。
何人か声をかけようと近づく猛者もいたが、そのオーラに怖気づいてあっさりと立ち去るか、
遠くから眺めるだけとなっている。なんともシュールな光景である。

「ちっ。」

私はイライラを隠すことは一切せず、舌打ちをしながら腕時計に目を移す。

AM9:30

腕時計はさっき見た時から2分程進んだ時間を伝えてくる。
時計を見た回数なんてもう忘れてしまったが、駅に到着してから長針はすでに半回転はしている。

『女の子を寒空の下で30分も待たせるなんて、何考えてんのあのバカ兄貴は!?
わざわざ待ち合わせにしてやったんだから、男の方が先に待ち合わせ場所に居るのがマナーでしょ!マナー!!』

私は怒りに燃える心の中で、兄貴へとありったけの罵声を浴びせなんとか理性を保っていた。
……もし、桐乃の腕時計に意志があるならば、こうツッこんでいただろう。

「さすがに待ち合わせ1時間前に到着するご主人様の方が悪いっすよ」と。

そんな時計の主への気持ち(?)も知らず、桐乃の理不尽な文句はまだ続く。


6kyosuke2011/07/12(火) 23:27:58.88bwMKvAwX0 (6/16)

『ていうか読モの私が地味なあいつに似合う服をわざわざ選んでやったのよ?
それに感謝して待ち合わせ2時間前に来るのが男として、いやヒトとしての常識でしょ!
そんな常識がなくて大学に行けると思ってんの!?3年くらい勉強し直してこいっつーの!!』

イライラを発散させるために頭の中で兄貴に即死コンボを何度も何度も叩き込む。
兄貴(イメージ)がボロボロになり頭上に死兆星が輝きだしたころ、
改札からかわいらしいメイドの服装をした2人組の女の子が、
黄色い声ではしゃぎながらこちらに歩いてくる。

「ねえ。さっきの男の子、結構かっこよくなかった?」

「あ~私も思った!雑誌のモデルさんっぽかったよね?」

「だよねー。いいなー。誰かと待ち合わせしてるのかな?」

「ちょっと~、仕事前にナンパとかしないでよぉ~?」

「そんなことしないわよ!もう!………ねぇ、今から仕事ってキャンセルできるかな?」

「……本気?」

メイドさん二人組が冗談(?)を交わしながら私の横を通り過ぎてゆく。

ちょうど兄貴(イメージ)に百烈拳をぶち込んでスッキリしたこともあり、
その二人の会話が耳に入ってくる。

『ふ~ん?』

仕事として読モをしているから、そういった服装やお洒落といった単語はやっぱり気になってしまう。
ようやく腕時計から改札の方へと目を移す。
すると図ったかのように改札の向こうからあの馬鹿兄貴が歩いてくる姿が見えた。
兄貴は少し辺りを見回して、私を見つけると片手を上げながら私の方に近づいてくる。

「おう、桐乃。待ったか?」

今日の兄貴は、下は細身のジーパンで、上は真っ黒なロングTシャツの上に、
厚地で藍色のカーディガン、そして雪のようにまっ白なダウンジャケットを羽織っている。
もちろん地味なこいつがこんなおしゃれな服を自分で買うわけはない。
この前、渋谷で兄貴を買い物に付き合わせたときに私がブランド店で選んでやったものだ。

「待ったに決まってんでしょ!あんた、今何時だと思ってるわけ?」

「え?今は……まだ9時半だよな。
 ……お前、もしかしてずっと前から待ってたのか?」

「は…はぁ?何都合のいいこと言ってんのよ。
 私はただ今日のイベントに間に合わないか心配してただけだし。」

「ほんとか~?」

時計を見て時間を確認した兄貴にあっさりと図星を突かれて、
思わず適当な言い訳を並べてしまう。
その反応を見て、兄貴はニヤニヤ笑いながら顔を近づけてくる。

くそぅ、したり顔でニヤけんな!ていうか顔が近いっつーの!!


7kyosuke2011/07/12(火) 23:28:30.45bwMKvAwX0 (7/16)

「もう!いいからさっさと会場にいくよ!?
 本当に遅れたらあんたのせいだからね!」

「へーへー。わかったよ。
 って、俺まだ何のイベントか全く教えてもらってねーんだけど?」

「ん。今日はね、星野くららさんのサイン会があるんだ。」

「へぇ、サン会か。星野きららってメルルの声優だよな?」

「そうそう。それでね、今回はあのシスカリにメルちゃんが参戦する特別版、
 『シス×メル』の体験版配布があるの!
 その記念ってことでくららさんのサイン会もあるんだ。」
 
 シスカリというのは、正式名称『真妹大殲 シスカリプス』。
これは「ありす+」制作の妹もの3D対戦型格闘ゲームで、
黒猫や兄貴と遊ぶ時には必需品となっている。
前からシスカリでメルちゃんを使えたらいいなぁ~って思っていたから、
今回のイベントはずっと前から目をつけていたのだ。

「なるほどな。それじゃあ俺もそのサイン会に並べばいいのか? 」

「はぁ?そんなわけないじゃん?
 あんたにはちゃんとやってもらうことがあるんだから。
 はい、これ。」

「……はい?」

私がそう言うと、事情を知らない兄貴の頭の上には?マークが飛び出す。
そんな兄貴に家から持ってきたカメラをちょっと強引に手渡す。

「それじゃあよろしくね。兄貴♪」




8kyosuke2011/07/12(火) 23:29:38.69bwMKvAwX0 (8/16)

<<京介side>>

……なるほどな 。
俺は桐乃から渡されたカメラを片手に持ち、思わずため息をつく。

到着した店の前には、メルルの立て札がデカデカと設置されており、
今回のイベントの規模の大きさを表している。店の中はいわゆる、
大きなお友達でごった返しの状態になっており、
声優のサイン会に並ぶ列が店の奥のイベントスペースから入り口近くまで長々と伸びていた。

コミケとかで慣れてきたとはいえ、こういうイベントのときのオタクの方々のパワーには本当に恐れ入る。
だって、外から見ただけで店内の熱気がすさまじいのがわかるんだぜ?
我が妹も先程、

「あーー!やっぱりすっごい並んでるじゃない。あんたが遅れてきたからだかんね。
 責任としてお昼ごはんはあんたのおごりね!」

と理不尽な言葉を言い残すや、俺の答えも聞かずに猛ダッシュで列の中に向かっていった。

そして、俺は俺で自身に与えられたミッションを達成するために戦場に目を向ける。
サイン会の列の横には、もう一つのイベントスペースがあり、
これまた多くのオタク達で山ができている。
その近くには、「日本の科学力は世界一ィィィ!星くずうぃっちが3Dに!!」と大きく書かれた垂れ幕がかけられている。
そして、オタク達の野太い歓声とシャッターの音が様々な場所から響き渡っている。
今の俺にとっちゃ最高のシュチエーションだよ、ほんと。

今このオタクの輪の中心でポーズをとり笑顔を振りまいているのは、俺もよく知る二人だった。
星くずウィッチメルルのメルルこと桐乃の表の友達の加奈子と、
アルこと金髪幼女でイギリス人のブリジットだ。
この2人とは以前にあやせからの頼みで、マネージャーとして一緒に仕事をした関係である。
桐乃から聞いた話では、2度のイベントが大成功を収めたため、
2人は事務所からの評価も鰻登りで、その後も様々なイベントに引っ張りだこ状態らしい。

そう、そして桐乃からのミッションは、この2人の撮影会に参加してカメラに収めてくることだった。
なんでも、

「加奈子に自分のことはバレたくない、けど2人の写真は死ぬほど欲しい。
だからあんたが代わりに加奈子とブリジットの写真を撮ってこい! 」

ってことらしい。
確かに納得できる内容なんだが、俺のことがバレることは桐乃にとっては全く問題無いらしい。


9kyosuke2011/07/12(火) 23:30:50.03bwMKvAwX0 (9/16)

「メルルちゃんこっち!こっち! 」
「アルちゃーーん!萌ーー!こっち向いて―!?」
「は~~い ♪」「はいっ!」

おっきいお友達の催促にかわいらしい笑顔で答えるメルルこと加奈子。
ブリジットもお客さんの声に1つ1つ健気に答え、愛用の剣を使って様々なポーズをとっている。
それにしてもこんな寒い季節に露出の高い服、というかほとんど紐といってもいいものを着てるのに、
寒そうな顔一つせず笑顔を振り撒くこいつらは改めてすげえと思うよ。
この2人の仕事に対する意思が非常に強いことは、マネージャーとして関わってわかったことだ。
ただ、加奈子の素を見たらここにいる全員が崖から身投げをするんじゃねーかな……。

いざミッションに立ち向かう頃には、俺は正直自分のことがバレることは無いだろうと半分開き直っていた。
加奈子にはマネージャーの時と桐乃との偽デートの時に顔を見られているが、
まぁなんとかなるだろう。
だってあいつバカな娘だし。(笑)


30分後、ようやく人混みを掻き分けて、円上のステージに近いところに陣取ることに成功する。

通勤時間の満員電車に負けず劣らずの人混みだったが、俺もそこらの素人じゃない。
コミケのあの地獄絵図に比べれば、こっちはまだまだ統率がとれているから初心者レベルだな!
……はぁ、さっさとミッションを終わらせちまうか。
自慢にもならないスキルを身につけてしまっていることに溜息をつきつつ、カメラを構える。

「こっちにも一枚たのむ!」

「はぁ~~…い?」

周りの歓声に負けないように大きめの声で呼びかける。
加奈子がその声に反応して営業スマイルをこちらに向けた瞬間、顔が一瞬だが固まった気がした。
だが、すぐにいつもの営業スマイルに戻りポーズをとる加奈子に、
気のせいかと思いカメラのレンズを向ける。

パシャパシャっ!

「よっし!ミッションコンプリートと。」

その後、10枚ほど2人の写真をデジタルカメラに収めた俺は、
再び人混みを掻き分けて店の外に出る。

「うん。どれも結構よく撮れているんじゃないかな。」

そして、念のため自分の撮影結果を確認して、ある程度の出来であることを確認する。
特に加奈子が写っている写真はどんなポーズでも目線が全てこちらに合っているから、
なかなか臨場感のあるものが撮れたと思う。
これならうちの依頼主の桐乃様も満足するだろう。

「さて、問題の桐野はと……。」

先ほど店の中から「大ファンなんです!がんばってください!」と、
桐乃の大きな声がここまで聞こえたからもうすぐ来るだろう。

『へ。あいつも変わんねーな。』

俺は桐乃の趣味への想いや態度が変わっていないことにどこか安心して、
頬が緩むのを隠せずにいた。



10kyosuke2011/07/12(火) 23:32:41.78bwMKvAwX0 (10/16)

「メルルちゃんこっち!こっち! 」
「アルちゃーーん!萌ーー!こっち向いて―!?」
「は~~い ♪」「はいっ!」

おっきいお友達の催促にかわいらしい笑顔で答えるメルルこと加奈子。
ブリジットもお客さんの声に1つ1つ健気に答え、愛用の剣を使って様々なポーズをとっている。
それにしてもこんな寒い季節に露出の高い服、というかほとんど紐といってもいいものを着てるのに、
寒そうな顔一つせず笑顔を振り撒くこいつらは改めてすげえと思うよ。
この2人の仕事に対する意思が非常に強いことは、マネージャーとして関わってわかったことだ。
ただ、加奈子の素を見たらここにいる全員が崖から身投げをするんじゃねーかな……。

いざミッションに立ち向かう頃には、俺は正直自分のことがバレることは無いだろうと半分開き直っていた。
加奈子にはマネージャーの時と桐乃との偽デートの時に顔を見られているが、
まぁなんとかなるだろう。
だってあいつバカな娘だし。(笑)


30分後、ようやく人混みを掻き分けて、円上のステージに近いところに陣取ることに成功する。

通勤時間の満員電車に負けず劣らずの人混みだったが、俺もそこらの素人じゃない。
コミケのあの地獄絵図に比べれば、こっちはまだまだ統率がとれているから初心者レベルだな!
……はぁ、さっさとミッションを終わらせちまうか。
自慢にもならないスキルを身につけてしまっていることに溜息をつきつつ、カメラを構える。

「こっちにも一枚たのむ!」

「はぁ~~…い?」

周りの歓声に負けないように大きめの声で呼びかける。
加奈子がその声に反応して営業スマイルをこちらに向けた瞬間、顔が一瞬だが固まった気がした。
だが、すぐにいつもの営業スマイルに戻りポーズをとる加奈子に、
気のせいかと思いカメラのレンズを向ける。

パシャパシャっ!

「よっし!ミッションコンプリートと。」

その後、10枚ほど2人の写真をデジタルカメラに収めた俺は、
再び人混みを掻き分けて店の外に出る。

「うん。どれも結構よく撮れているんじゃないかな。」

そして、念のため自分の撮影結果を確認して、ある程度の出来であることを確認する。
特に加奈子が写っている写真はどんなポーズでも目線が全てこちらに合っているから、
なかなか臨場感のあるものが撮れたと思う。
これならうちの依頼主の桐乃様も満足するだろう。

「さて、問題の桐野はと……。」

先ほど店の中から「大ファンなんです!がんばってください!」と、
桐乃の大きな声がここまで聞こえたからもうすぐ来るだろう。

『へ。あいつも変わんねーな。』

俺は桐乃の趣味への想いや態度が変わっていないことにどこか安心して、
頬が緩むのを隠せずにいた。



11kyosuke2011/07/12(火) 23:33:25.06bwMKvAwX0 (11/16)


<<桐乃side>>


「あー!超よかった!やっぱりくららさんはかわぃいなー!!
それにこんなイイモノももらっちゃったし、最高だわ~♪」

戦利品であるサイン入りの体験版ケースと、私の身長の半分くらいあるメルちゃんのぬいぐるみを胸に抱き、
私すっごく満足しました!と声を上げる。
このメルちゃん人形はサインをもらって会場から離れる時に、
なんでも100人目のお客ということでスタッフからゲットしたものだ。
やっぱ日頃の行いがいい人には運がついてくるのよね~♪

「よかったな。ほら、こっちもバッチリ撮れたぞ。」

「サンキュー 。どれどれ~?
…あぁメルちゃんもやっぱかわゆいなぁ/// ハァハァ。」

兄貴が撮った写真を見て、その出来の良さに思わず頬が緩む。
くふふー。やっぱ加奈子もブリジットちゃんもかぁわいーなぁ。
そう言えば加奈子がまた秋葉原でイベントをやるって言ってたし、
今度は変装して生メルルを見にいかなきゃね~♪

「はは。興奮しすぎだっつの。
それより、どっかで昼飯でも食べようぜ?思いっきり動いたから腹減ったよ。」

「ん。そだね。
それじゃこれ持って。いいお店知ってるから案内したげる。」

「……やっぱ荷物持ちは俺なんですね。そういうとこも全く変わらねーのな。」

お昼ごはんに行こうという兄貴に賛同し、持っている荷物とメルちゃんを兄貴に手渡す。
ちゃんと荷物を受け取りつつも、どこか不満めいたことを言ってくる。

「何言ってんのよ。こういうとき、女の子の荷物を持ってあげるってのは当然じゃん?
 女の子を疲れさせないっていうのもエスコートする側のマナーでしょ。」

「へいへい、わかりましたよ。桐乃様。」

「ん。わかればよろしい。
 んじゃ行こ?」

そんなどこにでもいる兄妹の会話をしながら、兄貴を従えて歩き出す。
駅から1つ通りを離れた店に向かうため、赤信号が変わるのを2人して待つ。

「……ありがとな、桐乃。」

「ど、どうしたの、急に?」


12kyosuke2011/07/12(火) 23:34:38.39bwMKvAwX0 (12/16)

兄貴が何か思い出したかのように、感謝の言葉を述べてくる。
兄貴から感謝される覚えは山ほどあるけど、突然そんな言葉を向けられたことに、
思わず動揺して口ごもってしまう。

「今日のことだよ 。
 なんだかんだ言って楽しいし、ストレス発散にもなっているからな 。
 それにお前も高校受験が近くて追い込みで大変な時期なのに、
 わざわざ俺のために時間を作ってくれたんだろ?」

「……キモ、考えすぎじゃん?」

「いいんだよ、俺がありがたいって思ってるんだからそれで。
 ……ま、また2人で一緒に遊びにいくのもいいかもな 。
 大学に入ったら遊ぶ時間なんていくらでもできるだろうしさ。」

不意打ち。これこそ本当に不意打ちだ!
確かに今回は兄貴のことを想って連れ出したわけだけど、
ここまではっきりと感謝の言葉を真正面から言われるとは思っていなかった。
そ、それにこれってどう聞いてもデートのお誘いじゃん!

兄貴からのデートの誘いにカァっと顔が一気に赤くなり、鼓動が速くなるのが自分でもわかる。

『や、やば!?あたし、もしかして顔真っ赤!?』

そう思うと同時に信号が赤から青へと変わる。
兄貴に赤くなっている顔を見られることが恥ずかしくて、早足で横断歩道を渡り始める

「ど、どうしてもっていうなら付き合ってやってもいいけどぉ~?」

心の中で深呼吸を繰り返し、横断歩道の真ん中でなんとか落ち着きを取り戻す。
それでもまだ赤いであろう顔を見られないように、前を向きつつ照れ隠しの言葉を投げかける。

「まぁ、あんたみたいなシスコンと遊んであげられるのは私ぐらいなもん……「っ桐乃!!」」

そう言葉を続けようとしたところに、突然後ろから名前を叫ばれる。
今まで聞いたことがないほどの大きな声に驚いて声の方に振り返ると、
兄貴がひどく焦った顔でこちらに走ってくる。

そして、私の視界にもう1つのものが入ってくる。
赤信号にも関わらず、スピードを落とさずに真っ直ぐこちらに突っ込んでくる車だ。

「え……?」

予想外のことに体が金縛りのように強張り、意味の無い言葉が口からこぼれ落ちる。
あまりの恐怖に目をつぶると、脳裏に子供のころの記憶が突然蘇る。
まだ私の足が遅く、かけっこで兄貴に追いつけず泣いている子供のころの思い出がだ。


『うえぇぇぇええん!お兄ちゃん待ってよー!?』

『へっへーん、桐乃は足遅すぎなんだよー!』

『ぞんなごどい゛わな゛いでよーー。うぇえええん!』


これが所謂走馬灯というものなんだな、とどこか冷静に感じる自分。
そしてそれ以上に兄貴と別れなくてはいけないことに心が絶望し、
黒い色に染め上げられるのを感じ、心からの想いが口に出る。

「助けてっ……お兄ちゃん。」


「っうぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


鬼気迫る叫び声に思わず目を開くと、そこにな大好きな人の大きな手が広がっていた。




13kyosuke2011/07/12(火) 23:35:15.65bwMKvAwX0 (13/16)


ドンッッ!!!!


強い衝撃と衝撃音。
自分の体が宙に跳ね飛ばされるのを感じ、直後に激しく地面に叩き付けられる。
背中から地面に強く打ち、そこから体が地面の上でもみくちゃに転がり一瞬息が止まる。
頭を地面に打つ度に意識が手から離れそうになるが、
衝撃が予測していたものよりも遥かに軽いためか、気を失うこともなく転がっていく。
ある程度吹き飛ばされ、体が地面の上でようやく静止するとと、
周りのつんざくような悲鳴や叫び声が耳鳴りのように響いてくる。

「う……っぐ。」

「――――ぶ!?」

あまりの痛みに身を丸め、痛みをこらえていると、
すぐに誰かが私の体を支える感触と薄ぼんやりと何かしら問いかける雰囲気が伝わってくる。

兄貴……?

しこたまコンクリートの道路に打ち付けた全身に強い痛みが走るが、
それを今まで培ってきた精神力でなんとかねじ伏せて、目を開ける。
薄っすら開いた目には、不安そうにこちらを見つめている女性が映る。

「あ、気がついた!あなた、大丈夫だった!?」
まだぼんやりとした意識の中で、ようやく周りを多くの人に取り囲まれていることをなんとか把握する。
頭が痛みと衝撃で混乱して何がおこったかわからなかったが、
自分に声をかけてきている人物が兄貴ではないことを認識すると、一気に意識が覚醒する。

「――――兄貴はっ!?」

痛みが全身に走るが、それを全て無視して無理やりに体を跳ね上げる。

最後に見た兄貴の手。自分が車に轢かれそうになって、
それを兄貴が身を挺して助けようとしたのを思い出す。

「ねぇ!兄貴はっ!!?」

「っ……。」

助け起こしてくれた女性に、ほとんど掴みかかる勢いで兄貴の様子を尋ねる。
そんな私に、その女性は息を詰まらせつつ、視線をもうひとつの人だかりの方に移す。

―――見るな。

そんな警笛が自分の心の中に響くが、それでもゆっくりとそちらの方に目を向ける。


14kyosuke2011/07/12(火) 23:36:21.49bwMKvAwX0 (14/16)


―――――見るな!

先ほどまで自分が立っていた場所には大量のガラスの破片と 何か赤い液体が飛び散っている。
そしてまっ白な羽のようものがある種幻想的に、宙に散らばまれている。
地面に落ちたそれの1部は赤い液体を吸い取り、生理的に吐き気を催すほどどす黒く変色していっている。
後で思い返せば、それは彼のダウンジャケットの羽毛だったんだろう。
その赤い液体はところどころ途切れつつも10mほど先まで続いており、
大きな人だかりの中に延々と伸びている。

うそ……

私を支えてくれている女性の制止の声を無視し、自身の中で鳴り響く警笛を振り払い、
ゆっくりと私は、赤い液体に沿うようにもう一つの人だかりの方へと這い寄って行く。

うそ……うそ……うそだ……そんな……

頭が割れるように痛む。
それが事故によるものなのか、自分の中で一気に膨れ上がるある1つの可能性を信じたくないからなのかはわからない。
私が人だかりに近づくと、野次馬たちは何か察したかのようにサッと左右に別れ、
人混みの中心まで一気に見渡せるようになる。


そして、


その中心には、大量の血の水溜りの中でうつぶせに倒れ伏せる京介がいた。





―――――いやぁぁああああぁぁあああああああああ!!!!!!!!!






絶望に色塗られた絶叫が秋葉原の空を突き抜ける。






               【序】完


15kyosuke2011/07/12(火) 23:53:03.02bwMKvAwX0 (15/16)

            【破】1章


12月17日(土)秋葉原中央病院
PM4:00

先程から病院の外では細かい雨が降り始め、しとしとと音を鳴らしている。
まだ4時前だというのにも関わらず病院の廊下には、
夜の帳が下りたかのような暗闇で包まれている。

その廊下の奥の一室、ドアの上にある赤く光る照明だけが唯一の光源として、
暗闇を薄ぼんやりと照らしている。
しかし、廊下の隅では、その人物の絶望を表すかのように、
外の闇よりも更に深い漆黒に塗り潰され、重い空気で澱んでいた。


「桐乃っ!!」「桐乃!」


最初、自分に声をかけられたと気づけなかった。
果たして気づけてたとしても、振り返る気力さえ無かった。

すると、お父さんとお母さんが慌てて私のもとに駆け寄る音が近づいてくる。

「桐乃っ!大丈夫だった!?」

余程心配してくれたのだろう、お母さんは目に涙を溜めながらも私の肩を掴む。

それでも私は虚空に光沢の消えた瞳を向けつつ、
ブツブツと心の闇を吐き出すことしかできない。

「私のせい…だ……。わた……し、兄貴が…真っ赤で……なんで?
…車……全然…動かなくて……。」

頭の中は兄貴のことだけで埋め尽くされていた。
まともに思考する力もなく、口から出るのは意味を為さない単語だけだった。

「っ!……大丈夫、もう大丈夫だからね!!」

お母さんは私のあまりの状況に一瞬息を詰まらせるが、
すぐに私をきつく抱きしめ、大丈夫なのだと声をかける。

抱きしめられたことで、人の温かさとお母さんの優しい気持ちが
私の冷えきった体へと流れ込み、ヘドロのように澱んだ心を洗い流す。

「ぅぐっ……ごめん…な…さいっ、おかあ゛さん。…わ、ゎたし……わたし!」

「安心しろ、桐乃!
お父さんもついているからもう大丈夫だ!」

「おとう…さ…ん。ぅ…ぁ…うぁああああああん!!」


16kyosuke2011/07/12(火) 23:55:36.42bwMKvAwX0 (16/16)


お父さんからかけられた声が切欠となり、
大粒の涙が堰を切ったように次々と流れ出し、止めることができなくなる。
私はお母さんの胸の中で、兄貴が!兄貴がっ!と何度も叫びながら泣きじゃくる。

お母さんも私を強く抱きしめながら、
私に言い聞かせるように大丈夫と何度も何度も呟く。


どれくらいの時間泣き続けたのか。
泣きじゃくる私の様子が少し落ち着いてきたところでお父さんが、
恐る恐る聞いてきた。

「桐乃、それで京介は……?」

「…っいま、ぅ…手術してて…ぐすっ…まだ…っ! 」

京介はあの事故の後すぐに救急車でこの病院にかつぎ込まれ、
そのまま手術室に運ばれていった。
それから大介達がくるまで、桐乃はずっと手術室の前で待っていたのだ。
胸に血糊でほとんど黒色になった京介のダウンジャケットを抱きながら。


桐乃がそう言い、手術室のほうに眼を向けると、二人もそれに倣う。

と、手術中の紅い光が消える。
ドアが静かに開き、青い手術着を着た医者が手袋を外しつつ手術室から出てきた。

「あ、兄貴は…、兄貴は大丈夫なんですかっ!?」

慌てて医者の近くに駆け寄り、半ば掴みかかるように兄貴の安否を尋ねる。
尋ねられた医者は一度目を瞑り、ゆっくりとマスクをとりながら口を開く。

「安心してください。お兄さんは一命は取り留めました。
 出血量は多かったのですが、奇跡的に外傷が少なかったことが幸いでした。
 今は麻酔でぐっすり眠ってますよ。」

「―――あ……ありがとうございます!
 本当にありがとぅ……!!」

その言葉は恐怖に包まれていた私の心に広がり、
助かったことへの嬉し涙を流しながら頭を下げる。

『生きてる!兄貴が……生きてる!!』

兄貴が死なずにすんで、心が軽くなるのを感じた。

「ぐ……ぅっ!」「京介ぇ……っ!」

お父さんとお母さんも命が無事だったことで、感極まり崩れ落ちる。

「ただ、意識が戻るまでは絶対安静が必要です。
 今日はとりあえず、こちらで入院するよう手配しましょう。」



兄貴の病室には、安静のためということで広めの個室が宛がわれた。

ベッドに横たわる兄貴の体には酸素吸入器や心電図のコード、
いくつもの点滴のチューブが繋がっており非常に痛々しい様相を呈している。
改めて兄貴がどれだけ危険な状態だったことを認識し、涙が溢れそうになる。

時間はそろそろ夜の7時。
後30分もしないうちに面会時間の終わりを告げるアナウンスがマイクから流れ出すだろう。
今病室にいるのは兄貴と私とお母さんの3人だ。




17kyosuke2011/07/13(水) 00:01:07.74dFDh8XXb0 (1/2)



お父さんは、1時間ほど前に

「……佳乃、少し京介と桐乃を任せるぞ。
 俺は署に行ってくる。」

「……はい、お願いします。」

と言い残し、早めに病室を後にした。

後で聞いた話だが、兄貴を轢いた奴はその日お酒を大量に飲み、
あまつさえ居眠り運転をしていて事故を起こしたらしい。
その後の裁判で、そいつは「鬼だ。鬼に殺されるっ……!!」と言い続けていたらしい。
正直こいつの話は兄貴が無事だったことに比べればどうでもいいことなので、ここまでにしよう。



「桐乃、今日は一度家に帰りましょう?
 あなたもいろいろあって疲れたでしょう? 」

お母さんが私の体調を心配して帰宅を促してくる。

「やだ……。」

それに対して、私は小さい声だがハッキリと拒絶の言葉を返す。
今この場を離れたら、そのまま兄貴が何処かに行ってしまうと思ったのだ。

「……桐乃。」

「……ごめんなさい、お母さん。
 でも今日だけ、今日だけはここにいさせて!?」

私の返事はある程度予想通りだったのだろう。
それでも心配そうに声をかける母に、私は謝りつつもここを離れないという強い意志を見せる。

「ほんと、一度決めたら絶対変えないところは誰に似たのかしらね……。
 わかったわ、桐乃。それじゃ京介のこと、お願いね?
 着替えとかは明日の朝に持ってくるから。」

「うん!ありがとうお母さん。」

自分がとんでもなくわがままだとはわかっているが、
それを寛容に許してくれる母に心から礼を告げる。

「それじゃ、気を付けてね?桐乃もしっかり眠りなさいよ。
 あと何かあったらすぐに看護師の人を呼ぶのよ?」

「うん、わかってる。ありがとね、お母さん。」

そう言い残し、お母さんは病室を後にした。

お母さんが帰ると、途端に部屋が静寂に包まれる。
それでも、兄貴の手術を待っている時の静寂と比べて、今は心の安らぐものに感じる。
耳をすませば京介の心臓の音が聞こえてくるような気さえする。

「…私を守ってくれたんだよね。」

兄貴の顔を見つめていると、ふと今日の事故がフラッシュバックし脳裏に蘇る。
自分が死ぬことへの恐怖と兄貴が死ぬことへの恐怖。
その身も凍るような二つの恐怖が一度に甦えってきて、
全力疾走した時のように呼吸が早まり、体も小刻みに震えてくる。

無意識に眠り続ける兄貴の手を強く握りしめる。

「……暖かい。」

繋がれた手を通じて、兄貴の体温がじわじわと伝わり、私の中の恐怖を包み込んでくる。

「兄貴の手……大きいんだ。」

これまであまり気にも留めなかったことを思いつつ、
兄貴の手を握ったり、掌を合わせ大きさを比べたりする。

すると、事故からずっと張り詰めていた緊張の糸が切れたのか、
私の体に突然強い睡魔が襲いかかる。
その眠気に堪えることもできず、重くなった頭を横たわる京介の胸に埋める。

「ありがとね……京介。」

心からの感謝の言葉をかけると、私は睡魔にその身を任せて深い眠りについた。


18VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2011/07/13(水) 00:15:18.19bqvAUPKAO (1/1)

良スレの予感


19kyosuke2011/07/13(水) 00:21:18.17dFDh8XXb0 (2/2)

????
AM?:??

『まってよ!おにいちゃん!』

私は半分泣き声になりながらその人を追い掛ける。

どこを走ってるのかもわからない。

その人に追いつく。ただそれだけのために私は必死に脚を動かす。

その人は隣の女の子と一緒に、ずっと前のほうで走り続けている。

私は諦めず追い掛ける。追い付けない悔しさで涙を目にためながら。

それでも泣き顔にだけはならないように必死に我慢して。

どれだけの距離を走っただろうか。どれだけ悔し涙を我慢しただろう。

少しずつ私のスピードは上がっていき、ついには彼よりも早くなった。

そして彼の背中へ手の届きそうな距離になる。

『待って!』

やっと彼の側に行けると思い、心の底から思いの丈を叫ぶ。

すると、その思いが通じたのか、彼はすぐ目の前で立ち止まる。

彼が止まってくれたので、私も反射的に足を止める。

振り返った彼はどこか寂しそうな顔をしている。

追いつけた時のことを全く考えていなかった私は、彼の反応を待つ……。

『……ありがとな、桐乃。』

はにかむような笑顔で一言呟き、彼は歩き始める。

『え……?』

その言葉を理解できない。

反応しようとしても、なぜか体は全く動かず、声すら出すことができない。

彼はどんどんと遠くのほうへ歩いていってしまう。

「いやっ!……行かないで!!
 ――――――――――京介っ!!!」



そして私の世界は暗転する。




             【破】1章  完


20VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/13(水) 01:04:33.63KWvT4O18o (1/2)

本当に、初投稿なんですか~? 
けっこう書き慣れてるんじゃないかと、訊いてみたくもなるんだが……。
個人的には、こういったシリアスな展開は大好きです。


21VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/13(水) 01:10:52.38WqwV+u900 (1/1)

似たSSを見たことある。
http://www43.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/55.html


22VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/07/13(水) 01:18:28.45wXWH/RlAO (1/1)

乙です
次の話も楽しみにしてます><


23VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/13(水) 01:38:08.31KWvT4O18o (2/2)

シチュエーションが多少被ることは、どのSSでも避けられないかも。
毎度、飽きもせず京介×あやせばっかり書いてるヤツもいることだしさ。
文章は丁寧だから、ここから>>1がどう展開させていくかが楽しみ。


24VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/13(水) 03:36:18.766GTwbkzQo (1/1)

>>21
事故から戻ってきて、京介が変わっちゃったとこがメインじゃないの?
事故った部分とかは被るのはしょーがないかと。


25VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/13(水) 09:06:29.88q33Wd7Yy0 (1/1)

滞りなくすらすら読めていいなこれ
展開は超シリアスだけど
続き超期待


26VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)2011/07/13(水) 09:47:02.86F9unIr4No (1/1)

>>1乙!
久々に溜飲が下った!桐乃ざまぁ!!m9(^Д^)プギャー


27VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/14(木) 19:47:15.09/i5GzF4No (1/2)

>>1頑張って。
こんなにハマったSSは久しぶりな気がする


28VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県)2011/07/14(木) 21:41:05.57etgKnMdHo (1/1)

>>1
乙!
良スレの予感・・・ww


29kyousuke2011/07/14(木) 23:02:51.46jzK2PUrS0 (1/7)

こんなに評価していただけるとは感激です。

記憶喪失ネタはいいですよね~
純愛ルート、鬱ルート、鬼畜ルートなんでも選べるから楽しいww

ある程度まで話は出来上がってるので、順々あげてきます('w')b

では、続きをどうぞ。


30kyosuke2011/07/14(木) 23:06:22.90jzK2PUrS0 (2/7)


                   【破】 2章

秋葉原中央病院
AM6:00


意識が深い深い海の中からゆっくりとと浮上していく。
カーテンの隙間から漏れてくる朝日の光が、細い線となり顔に差し込む。

……あれ、ここ ?

先程までの夢と見慣れぬ景色のせいで、意識がまだぼんやりとしている。
寝ぼけ眼のままベッドの方へ視線を動かすと、静かに寝息をたてて眠っている京介が映る。
どうやら京介の手をずっと握ったまま、朝まで眠ってしまったらしい。

ふと、先程見た夢の内容が驚くほど鮮明に思い出される。
京介がどこか遠くに、私の手が届かないところまで行ってしまう夢。
自分の息が途端に速くなり、まるで胸を万力で締め付けられるような寂寥感に苛まれる。

「……京介が居なくなるなんてイヤ。」

先程の夢を追い払おうと小さく呟き、眠り続ける京介の手を強く強く握り締める。
繋いだ掌から京介の温もりが私の中に広がり、
夢で感じた焦燥感が少しだけ剥がれ落ちてくれた。
それでも全ては拭い切れず、自然と私の瞳からは涙が溢れ出す。

「ぅっ…ぐ…京介ぇ。」

そして改めて認識する 。
私にとって、京介がどれだけ大切な存在かを。
私は京介のことが好きなんだということを。
今まで様々な言い訳を並べ立てて、逃げて、誤魔化してきたけれど、
好きという気持ちを自覚すると、先程までの不安がすうっとどこかに霧散していく。

「側に…いてよ……。」

そのたった1つの言葉に様々な感情をのせて、京介の手を両手でぎゅっと包み込む。


31kyosuke2011/07/14(木) 23:09:55.86jzK2PUrS0 (3/7)



…………ピクっ

――――!!

握った手に、京介の指が本当にわずかだが、動く気配があった。
指が動いたことで、予感と確信を抱いて京介の顔を凝視する 。

「ん…んん ……。」

小さくうめき声をあげ、京介の瞼がゆっくりと開かれていく。

「っ… う…。」

嬉しさや愛しさといった感情で心の中が一杯になり、
瞳に溜まっていた涙がポロポロと零れ落ちる

「よかった…京介…京介ぇ………!!」

涙で顔がくしゃくしゃになるのも気にせず、
私は京介の胸に飛び付き、顔を埋めて涙を流した。





「少し眩しいですが我慢してくださいね。」

先生が、目にライトを当てたり頭の傷を触診したりと、
京介の状態を1つ1つ確認している。

あの後、私は京介に抱きついたまま、
お父さんとお母さんが荷物を持ってきてくれるまでずっと泣き続けた。
お母さんも京介が目を覚ましたことに感極まって涙を流し、
すぐに先生に伝えてくれたのはお父さんだった。

そして今、私達は不安な面持ちで、先生の診察を見守っている。

「京介さん、ここがどこかわかりますか ?」

患者に不安を与えないためだろう。
丸めがねをかけた先生は殊更柔らかい口調で京介に確認をとる。

「えっと……病院?」

京介はまだ頭がはっきりしないのか、先生の質問に単語だけで答える 。

「そうです。京介さんは昨日事故にあってここに運び込まれたんですよ。
 どこか体に違和感はありませんか?」

「……頭がなんだかはっきりしません。 」

「京介、あんた本当に大丈夫なの?
 どこか痛くない!? 」

京介は頭に手を置きながら、わからないとだけ答える。
その重苦しい雰囲気に耐え切れなくなったのか、お母さんが京介に声をかける。

「…えっと……?」

お母さんに声をかけられただけなのに、何故か困ったような顔をする京介。
そして、先生に訝しげに尋ねる。

「先生。あの、すいません…。この方達は……?」

―――――――!!!

その言葉に、私は頭を金槌で殴られたような強い衝撃をうける。
いま、京介はなんて言った…!?

「き、きょうす…け?」

「…………?」

途絶えがちになりながらも、なんとか私はか細い声を絞り出して京介に問い掛ける。
しかし、まるで赤の他人を見るかのような京介の目に射抜かれてしまう。

「あっ……う。」

その冷たい視線は、私の心を一瞬で凍りつかせるのに十分だった。


32kyosuke2011/07/14(木) 23:12:37.39jzK2PUrS0 (4/7)

二の句が継げられず、足に力が入らなくなって倒れそうになる。

「高坂さん。桐乃さんをお願いします。」

先生が途端に険しい表情になり、私をお父さんの方へ押しやりつつ京介に問い掛ける。

「京介さん、ご自分のお名前はわかりますか? 」

「……高坂京介。 」

「では、あなたのご両親のお名前は?」

「…………… っ。」

先生の質問に答えようとするが、答えが出てこないことに気づき、
京介は絶句する。

「すいません、高坂さん、桐乃さん。
 少し京介さんの状態を確認をしますので、
 部屋の外でお待ちいただけますか?」

「…………。」
「……はい 。」

まだ衝撃が抜けきらず、先生の声に全く反応できない私を、
お母さんが優しく、しかし有無を言わさぬ強さで外に連れ出す。
私達が外にでるのと入れ違いに看護婦さんがバタバタと病室に入っていく。

京介が目を覚まし喜んだ直後だったこともあって、
反動は大きく、頭の中はぐちゃぐちゃに混乱していく。

『なんで…なんで……?』

廊下で呆然と立ち尽くす私の中では、
同じ言葉が何度も何度も繰り返されている。

私のことを、まるで他人のように見る眼。
両親の名前がわからずに口ごもる。
このことから考えられることはただ1つだろう。

けど、信じられない。信じたくないっ!

私は自分の中で急速に膨れ上がる恐怖から、お母さんの腕にすがりつく。
しかし、お母さんの腕も小刻みに震えており、更に重苦しい空気に包まれてしまう。



私達が廊下に出てどれほどの時間がたっただろうか。
実際は5分もたっていないだろうが、
まるで何時間も待ち続けたように私の気持ちは沈んでいた。
静かに病室のドアが開かれ、先生が廊下に顔を出す。

「先生っ…京介は?
 京介は大丈夫なんでしょうか!? 」

「お母さん、どうか落ち着いて下さい。
 事情をご説明しますので、あちらの部屋へ。」

先生に促され、私たちは少し離れた場所にある診察室に案内される。
そこで、私達にパイプ椅子を勧めて全員が腰を落としてから、
先生は口を開いて、ゆっくりと語り出した。

「京介さんのことですが……。
 高坂さんもある程度予想されていると思いますので、
 単刀直入に申し上げます。」


33kyosuke2011/07/14(木) 23:20:20.80jzK2PUrS0 (5/7)


先生はそこで一息の溜めを作り、私達が覚悟を決めるための少しの猶予を作る。

「……京介さんは記憶障害の可能性があります。」

―――――!!

ある程度覚悟をしていたとはいえ、
改めて先生から事実を告げられて大きく息を飲む。

「先程のテストで、京介さんはペンを持ったり箸を使うといった、
 基本的な動作については問題ありませんでした。
 ですが、過去の記憶、特に家族や友人といった、人間関係の記憶が非常に希薄な状態です。
 自身のことも、名前が京介だということ以外は、性格や学校生活といった
 個人に関する記憶も非常に曖昧で思い出せないようでした。」

私はあまりの衝撃的な事実に絶句し、
手で口を抑え、漏れ出そうになる悲鳴をなんとか留めることしかできない。

「大きな事故に遭い、記憶が断片的に失われるケースはよく知られています。
 ですが、今回の京介さんのケースでは、ほぼ全ての記憶が失われています。
 恐らく、事故の時に頭部を強打したことが原因だと思われますが、
 詳しいところは精密検査を受けて頂かなければ何とも申し上げられません……。」

「そ、そんなっ!
 うちの京介の記憶は元に戻るんでしょうかっ!?」

先生は淡々と京介の置かれている状況を説明していくが、
お母さんがその内容のあまりの重たさに、話を遮って京介の記憶が戻るかを質問する。

「……申し訳ありません。
 今、私の口からは正確なお答えをすることはできません。」

「そんなっ―――!?」

その言葉は私にとって死刑宣告のようなものだった。
ズンッととてつもなく重いもので心と体が押し潰されるような錯覚に陥る。
記憶が一生戻らない可能性を考えると、
その責任の重さで、思わず椅子から崩れ落ちそうになる。



34kyosuke2011/07/14(木) 23:21:03.41jzK2PUrS0 (6/7)


「不安になるお気持ちはよくわかります。
 ですが、どうか落ち着いてくださいっ。
 今、誰よりも不安を感じているのは京介さんなんです。
 加えて、京介さんの記憶を戻すためには、ご家族の方の強い協力が必要不可欠なんです。
 どうか京介さんを支えるためにも、気持ちを強くもってくださいっ。」

私達の落ち込む姿を見て、先生はやや語気を強めて檄を飛ばす。

その言葉に、私達全員がハッとする。
そう、記憶を失ってしまった京介を支えることは私達にしかできないのだ。
その私達が不安にかられていたら、京介の不安を取り除くことなんてできなくなってしまう。

「「「…………。」」」

私達は顔を合わせ、それぞれの決意を胸に頷きあう。

「わかりました。
 先生、本当にありがとうございます。
 うちの京介共々、どうかよろしくお願いします。」

お父さんが私達を代表して、先生に深々と頭を下げながらお礼を言う。

「いえ、私も出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありませんでした。
 こちらもできうる限りバックアップはさせてもらいますので、
 京介さんのために頑張りましょうっ。
 それでは……。」

私達の心に決意の火が灯ったことを確信した先生は、
再び優しい声色に戻り、今後の予定を説明していく。

この後はまず、京介と私達の顔合わせを済ませてから、精密検査を行い結果を見ることになった。
検査で体の方に大きな問題が無ければ、昼までには退院ができるだろうという言葉に、
お父さんとお母さんはにわかに活気づく。
怪我をした息子が遠く離れた病院にいるという状況は、
やはり2人にとっても辛いものだったのだろう。

そして私も、これから京介を支えていくことにかける意気込みを新たにして、
色が白く変わるほど強く両手を握りこむ。



だって、京介を支えられるのは〝私だけ〟なのだから………。




                   【破】 2章 完


35kyosuke2011/07/14(木) 23:29:08.60jzK2PUrS0 (7/7)

今日はここまでです。

【破】が思った以上に長い。
早くておもしろい展開って難しい…


36VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/14(木) 23:49:03.60/i5GzF4No (2/2)

乙!


37VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/14(木) 23:52:46.90xY/RxVVdP (1/1)



ありふれたシチュだけどこれからどうなるのか期待


38VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/15(金) 10:20:29.50UOhokaLIO (1/1)

妹と言う事を忘れた設定でききりんと恋に落ちると言うのは勘弁。


39VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)2011/07/15(金) 11:22:28.20HiFEhRBt0 (1/1)

>>35
長いほうが読み応えあっていい
…けど、好きに書いてくれ。

ただ、記憶を無くしても
桐乃は妹だっていう設定を忘れないでくれ
って>>2-3で思った。


40VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/15(金) 11:46:31.13no7C68tVo (1/3)

京介は記憶がなくなってもイケメンだって信じてる


41VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)2011/07/15(金) 11:54:48.67kDeIRHlSo (1/1)

桐乃の京介を呼ぶ名が「兄貴」じゃなくて「京介」なのがすごく違和感あるけどGJ


42VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/15(金) 12:00:05.98PB2e7LwSO (1/1)

原作でも"兄貴"と"京介"は混ぜて使ってるからいいと思われ


43VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/15(金) 14:30:31.303vCUrLkDO (1/1)

>>41
原作の特典小説とかで明かされたんだが桐乃の内心での兄貴の呼称は京介なんだ


44kyosuke2011/07/15(金) 17:27:50.61PJ1/04do0 (1/1)

>>41
恋心を自覚したことで「兄貴→京介」に変わってます。
これ以降は基本京介呼びになります

>>43
初めて知りました
ポータブルのおまけでしたっけ?



45VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/15(金) 17:30:10.94c00kuGFlP (1/3)

いや、BD1巻の特典小説だね
原作第一巻の人生相談を京介に持ちかけるまでを桐乃の一人称で書いてる


46VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/15(金) 20:19:50.17no7C68tVo (2/3)

ちょっとBD買ってくるわ


47kyosuke2011/07/15(金) 21:06:14.81IG5vGS0D0 (1/10)

BD買いたいけどプレイヤーが無いんですよね…
ポータブルもやってみたい

地震で揺れたけど、続きあげてきます。


48kyosuke2011/07/15(金) 21:08:56.02IG5vGS0D0 (2/10)

                   【破】 3章 

秋葉原中央病院 403病室
AM 8:00

「京介さん、どうでしたか?
 ここの食事の味は?」

「そこそこでしたよ……?」

「はは。そんなに緊張して答えなくても大丈夫ですよ。
 テストはさっきので全て終わりましたしね。
 恐らく流動食は初めて食べられたんじゃないですか?
 正直おいしくなかったでしょう?」

「………半端なくまずかったです。」

「そうですよねー。私も1度試しに食べた時なんて……。」

今、病室では先生が食事の話を京介に振って、緊張を上手くほぐしている。
私達は、先生から呼ばれるまで病室の外で待機するよう言われたので、
廊下から聞き耳をたてている。

外から聞いているだけでも、先生と話す京介の声が段々と落ち着いていくのがわかる。
少しすると軽い笑い声さえ聞こえてきて、先生の人を安心させる話術に尊敬の念さえ覚える。
もしかしたら京介の笑い声を聞かせることで、
私達の緊張をもほぐそうとしているのかもしれない。


「……それでですね、京介さん。
 少し京介さんに会って頂きたい人達がいるんですよ。
 今ちょうど部屋に来てもらっているところなので、
 呼んじゃってもいいですか?」

「…はい、大丈夫です。」

そして、ある程度雰囲気が出来上がったところで、
先生が私たちを呼んでもいいか京介に尋ねる。
京介は一瞬だけ躊躇するが、すぐに問題ないと告げる。

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。
 取って食おうってわけではないですからね。
 …それでは高坂さん、どうぞお入りください。」


49VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/15(金) 21:10:19.76c00kuGFlP (2/3)

DVDでもちゃんとついてくるよ
まぁ、無理に勧めるつもりはないけどね。都合ってモノもあるだろうし


50kyosuke2011/07/15(金) 21:12:17.72IG5vGS0D0 (3/10)


ガララッ

その先生の言葉を合図に、私達は京介の病室へと足を踏み入れる。

「「「「…………。」」」」

沈黙。
どちらとも口を開くことができずに、
先生が築いた雰囲気が即座に硬いものへと変わっていく。

「…高坂さん。どうぞこちらの方へ。」

先生もある程度、雰囲気が硬くなるのは仕方なしと判断したのだろう。
先生に促され、まずお父さんとお母さんがベッドの側に近寄っていく。

「京介さん。もし気分が悪くなったらいつでも言ってくださいね。
 …このお2人のことはわかりますか?」

「……すいません。」

「――――っ。」

京介は本当に申し訳なさそうに俯き、謝罪の言葉だけ告げる。
その姿を見て、私は一瞬息が詰まりそうになるが、
決して表情にだけは出さないように歯を食いしばる。

「謝らなくても大丈夫ですよ。
 無理に思い出そうとしても、体に毒ですからね。
 ……こちらはですね、京介さんのお父さんとお母さんです。」

「……父さんと母さん。」

先生は再度無理をしないようようにと前置きをして、お父さんとお母さんを紹介する。
紹介された2人のことを自分の中で噛み締めるようにゆっくりと口に出す。

「とっ!?ああ。そうだぞ!
 お前の父さんだぞ!!///」


51kyosuke2011/07/15(金) 21:14:37.56IG5vGS0D0 (4/10)


「――すいません。やっぱり思い出せなくて……。」

「いいのよ!あんたが無事ならそれでっ。」

「お母さんのおっしゃるとおりです。今すぐ思い出す必要はありませんよ。
 ゆっくりと思い出していきましょう。」

やはり2人の記憶が無いことで謝る京介に、お母さんと先生が励ましの声を投げかける。
なぜかお父さんの顔が少し赤い気がするが、私の気のせいだろう。

その後、お父さんとお母さんは先生の助けを借りつつ、探り探りで会話を進めるが、
京介の記憶が戻る気配もなく、どこかぎこちない雰囲気に終始してしまう。


「では、桐乃さんもどうぞこちらへ。」

――――私の番だ。

心の準備をしていたつもりだったが、先生に呼ばれた途端、
心拍数が限界まで跳ね上がる。
京介の方へと歩を進める毎に、心臓がどんどんと早鐘のように鳴り響く。
先程のように知らない人を見るような目を京介から向けられたら、
正直平常心でいられる自信なんてなかった。

「京介さん。こちらの方は思い出せますか?」

「えっと……。」

先生にそう尋ねられると、京介は少し思案顔になり間ができる。

もしかすると…。

全員の心に、そんなありもしない期待と不安が過る。
病室の空気もより一層ピリピリと緊張していき……



「…………俺の彼女?」



「「「「……………は?」」」」


52kyosuke2011/07/15(金) 21:17:08.13IG5vGS0D0 (5/10)


バカの一言で、全てが粉々に砕け散った。


「いやー、さっきからずっとそんな感じがしてたんですよね?
 顔とかすごい俺の好みだし、目が覚めたら抱きついてくるし。
 こんなかわいい子が俺の彼女なんて、自分でも正直信じられないですよ。」

タハッ~と照れ隠しで頭をかきながらも、
勘違い100%全開フルスロットルのままで口を滑らせ続ける京介。
どうやら京介の中では完全に、私のことを彼女として認識されてしまったらしい。

先生とお父さんは、京介の発言にどこからツッこんだらいいのかわからず、
唖然としてしまっている。
お母さんは、 

< ● >  < ● >

といった感じの目で、京介を睨みつけている。


かくいう私も……

『かっ…かわっ…かわいいって!京介が私のことかわいいって!!//////』

京介の一言で、頭の回線が完全にショートしていた。


「…あ、あれ?俺なんか変なこと言っちゃいました……?」

ようやく、自分の発言で周りの空気がおかしくなっていることに気づき、
慌てた様子で問いかけてくる。

「え…えっとですね、京介さん?
 この方は京介さんの妹さんの桐乃さんなんですよ。
 ……思い出されました?」

「え”っ………!?」

「ふん、バカ息子が!」「本当にこの子は…。」 

先生に間違いを指摘され、恥ずかしさから顔が一瞬で真っ赤になる京介。
あたふたとする息子の姿にため息をつくお父さんとお母さん。


53kyosuke2011/07/15(金) 21:18:58.41IG5vGS0D0 (6/10)

先程までのシリアスな雰囲気は、一体どこにいったんだろう……。


「……。////」

「あー、あの、桐乃…ちゃん?ごめんな?
 俺、なんか勘違いして変なこと口走ってたみたいだ。
 えっと……大丈夫か?」 

「……別に…いいよ。///」

「ほんと、ごめんな。
 気分悪くさせちまったよな?(クシャッ)」

「―――――!!///////(ボッ」


完全にのぼせ上がって言葉数が少なくなってしまった私に、
京介は自分の言葉で不快な気分にさせたと謝ってくる。
だけでなく、顔を近づけた京介から頭をクシャクシャと優しく撫でられて、
私の顔は耳まで真っ赤に染め上がる。


「……えっと。本当に妹さんですよね?」

「ええ。そのはずです。」

「  < ◎ >  < ◎ >  」(←凍てつく瞳)

どこからどう見ても恋人同士のピンク色の空気に当てられ、
先生がちょっと引き気味にお父さんとお母さんに尋ねる。
それに毅然と答えるお父さん(内容は曖昧だが)と、
もはや視線だけで射[ピーーー]勢いのお母さん。

「な、仲の良いご家族ですね。ハハハ……。」

先生の乾いた笑いが病室に空しく響いていくのだった。







54kyosuke2011/07/15(金) 21:22:42.22IG5vGS0D0 (7/10)

「それでは、私は検査の依頼をしてきます。京介さん、少しの間待っていてくださいね?
 あ、あとお母さんには京介さんの入院と退院の手続きがありますので、
 一階の事務室までお越し頂けますか?」

「はい、わかりました。」

なんとか先ほどのカオス空間から立ち直り、
先生とお母さんが手続きのために部屋を後にした。
先程の騒動のおかげ(?)で、
私達の間には最初のどこか張り詰めた空気は無くなっていた。


「…父さん?」

「ん?なんだ、京介。」

「えっと、…その、ごめんなさい。」

この和んだ空気の中で、京介が伏し目になりつつ、謝罪の言葉を漏らす。

「なぜお前が謝ることがある?」

「…すごい心配かけたと思うし。
 それに、みんながこんなに俺のことを心配してくれてるのに、
 俺…、みんなのこと、何も思い出せなくて……、それが悔しくて!」

理由を問われ、京介は自分が記憶を無くしたせいで私達を悲しませていると悔しがる。
少し泣いているのか、京介の声は掠れており、
布団の上に置かれた手がきつく握り込まれる。

「そんなっ!京介は何も悪くないじゃんっ!?」

「……けど。」

「京介、桐乃の言う通りだ。お前が謝る必要などどこにもないぞ。
 もちろん俺も母さんも、お前が事故に遭ったと聞いたときは血の気が引く程心配した。
 今だから言うが、心の中ではお前が死ぬことさえ覚悟した。

 だから、お前たちが無事だったのなら俺は他に何もいらんさ。
 それにな……。」

京介の泣き顔を見て遣る瀬無い気持ちになり、私は精一杯否定するが、
やはり京介は納得ができないのか、口ごもってしまう。
すると、お父さんが京介の肩に手をかけて、
真っ正面から目を見つめて語り出した。

「記憶が無くなったからといって、それがどうした?
 記憶が無くなれば、お前は京介じゃなくなるのか?


55kyosuke2011/07/15(金) 21:26:06.32IG5vGS0D0 (8/10)

 そうじゃないだろう?お前は正真正銘、俺の息子だ。
 記憶を無くそうが、どうなろうが、お前は俺の息子の京介なんだからな。
 だから、お前はそんなことを気にする必要なんて無いんだ。」

「父さん…。」「お父さん…。」

お父さんの言葉はどこまでも真っ直ぐだった。
京介を、家族を愛する気持ちがそのまま言霊となり、
私たちの心の中にじんわりと広がっていく。

「それに、先生も言っていただろう?
 無理をして記憶を戻そうとしなくてもいい。
 みんなでゆっくり記憶を戻す方法を探していけばよかろう。
 お前の傍には俺だけじゃない、母さんも桐乃もいるんだからな。」
 
「父さんっ…。」

お父さんの熱い言葉に感極まった京介は、目を潤ませて今にも泣きそうになる。

「ありがとう…父さん。
 俺、父さんの息子で本当によかった……。」

「京介、こういう時くらい親を頼れ。
 でなければ、親の甲斐性が無いだろう?

 ……京介も桐乃も喉が乾いただろう?
 下の売店で何か飲み物でも買ってこよう。」

京介の感謝の言葉にそう言い残すと、
お父さんは何故か少し足早に部屋を後にして、売店に向かっていった。
さっきのお父さんの熱い想いが余韻として残っているのか、
部屋にはどこか暖かくて心地よい空気で包みこまれる。

「すごい人だな…。」

「当たり前じゃん。だって〝私たちのお父さん〟だよ?」

「…そうだな。俺達の父さんだもんな。」

私と京介が、改めてお父さんへの尊敬の念を強くしていると、
お母さんが入れ替わりに病室に入ってくる。




56kyosuke2011/07/15(金) 21:27:34.79IG5vGS0D0 (9/10)

「ねえ、あの人どうかしたの?
 怖いくらいの笑顔で廊下をスキップして行ってたけど……?」

「「…………………。」」

お母さんが、何か不気味なものを見たというように、
後ろを訝しげに見つめながら問いかけてくる。
そのお父さんの姿を想像し、私達は何とも言えない気分になってしまった。

「……おもしろい人だな。」

「…えっと、私たちのお父さんだから…かな?」

「……そうなのか?」


私のお父さんがこんなにかっこいいわけがない。



                   【破】 3章 完


57kyosuke2011/07/15(金) 21:29:11.04IG5vGS0D0 (10/10)

今日はここまで。

明日から北海道旅行なので、更新スピード遅くなりますが
どうぞ駄文を待ってやってください。


58VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/15(金) 21:36:17.87c00kuGFlP (3/3)


割り込んですまんかった

ちょっと桐乃の態度とか気になったけど先が気になるね

ただ、あまりギャグチックでもないので

> < ● >  < ● >

こういう記号での表現は話の腰を折るかもって感じた
他がちゃんと描写されてるからこれの部分だけ凄く浮いちゃってる感じかな


59VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/07/15(金) 21:37:40.83VAGh0xw8o (1/1)

なんで親父がデレてるんだよww


60VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/15(金) 22:49:56.97no7C68tVo (3/3)

いや、俺は<●><●>のおかげでにこやかに読めたぞw
そして桐乃が可愛すぎて死ぬかとおもたw


61VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/15(金) 22:51:41.77wx5Iyghwo (1/1)

待ってました
京介が桐乃のことを素直に好みだとか、可愛いとか言ってるのがいいなぁww
京介のそんな態度に照れてる桐乃も可愛い

本編でも、過去の確執とかから意地張ってる部分を取っ払ってやれば
京介の本心はこんな感じなのかもね
記憶喪失ネタをこういう風に使うとは上手いなぁとおもたww



62VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/15(金) 22:55:56.11mx0L0iEk0 (1/1)


上手いというか、いいものを読ませてもらってる
俺は<●><●>はなくてもよかったとは思うが、
まあこれはこれで


63VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/15(金) 23:22:28.56TjpOQ7tIO (1/1)

正直出てきた時吹いた。

責任とって俺のマイカフェ買ってこいよ>>1?
それかさっさと書け太郎。


64VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/16(土) 01:53:13.1107GN0ZT8o (1/1)

きりりんが可愛すぎる!


65VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/16(土) 04:30:36.88gOA5DxpDO (1/1)

深夜に爆笑しちまった

これで最強の天然ジゴロが生まれるわけだな


66VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/16(土) 05:27:02.16u2G7htTDO (1/2)

デレ親父ワロタ
アグネスは思わず吹いたからアリだろ


67VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/16(土) 09:25:16.309uPhbKAEo (1/1)

TXTに落として青空文庫で縦にして呼んでいる俺にしてみりゃ、読みにくい事この上ない。


68VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)2011/07/16(土) 09:37:41.38lb8Q8lYo0 (1/2)

>>67
しらんがな


69VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(青森県)2011/07/16(土) 10:04:59.37R6FCfeNq0 (1/1)

麻奈実、黒猫、あやせの登場がたのしみ
順番は私的な期待順で


70VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/07/16(土) 10:54:12.314085SpqP0 (1/1)

たいして面白くもないネタになんで皆同じようにマンセーしてんの?
ちょっと気持ち悪い


71VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/16(土) 15:02:32.13u2G7htTDO (2/2)

>>70
自分の感性がこの世の全てか?
ガキが


72VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/16(土) 18:24:37.68nZ2zqRkOo (1/1)

>>71
>>70はただの荒らしか、皆が褒めてる中で批判している俺カッコイイとか思っちゃってる痛い子かのどちらかだろうから
相手しなくてよいかとww


73VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2011/07/16(土) 19:35:42.55chmQVHnAO (1/2)

俺妹が本当にシリアスになったらこんな感じだろうね。
というかガチで桐乃END狙うならこれくらいしないと無理だし。


74VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/16(土) 19:47:11.48iha+eLBIO (1/1)

メール欄にsagaを入れると[ピーー]で規制されてる所が解消されるよ


75VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/16(土) 21:24:02.35IJNl209f0 (1/2)

>>73
いや、普通に桐乃ENDは楽勝だろ。家族的な意味で。
俺妹は桐乃が京介を攻略していく話だしな。
今回のSSもそういうのじゃないか?


76VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2011/07/16(土) 23:12:04.62chmQVHnAO (2/2)

>>75
すまん。最近やった「リアル妹がいる大泉くんのばあい」のせいでいかれてたぜ。


77VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)2011/07/16(土) 23:20:23.67lb8Q8lYo0 (2/2)

>>76
あれはいい作品だったな

√がどうとかで争わないで、
>>1が完走するのを見守ろうよ。


78752011/07/16(土) 23:31:52.14IJNl209f0 (2/2)

もちろんそのつもりだ。
だから、キャラ叩きと>>1叩きは無しにしてくれよ。
みんなの約束だぜ(・ω・)bグッ


79VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/17(日) 15:22:32.84b8lf6DxSO (1/1)

あやせとか普通に覚えてたら笑える


80VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/17(日) 17:13:49.94XOcynIvDO (1/1)

天使だから魂に刻み込まれてるんですねわかります


81VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/17(日) 19:03:06.84QRV76jTEo (1/1)

むしろヤンデレ部分だけ記憶に残ってたらw


82VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/17(日) 23:19:50.212KGyGP+00 (1/1)

知り合いが記憶喪失したらやることといったら「インプリンティング(刷り込み)」だろ。
あやせさんなら……

あやせ「お兄さんはすごくまじめでやさしくて、女の子にセクハラする人なんかじゃありませんで    したよ」

こうだろうか


83VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/18(月) 07:23:40.16RMhft8bK0 (1/1)

こんなの横島さんじゃない
みたいな?


84VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/18(月) 11:18:02.08f/8N1yZDO (1/1)

懐かしいなww


85kyosuke2011/07/18(月) 17:28:59.17dZBJDfwX0 (1/11)

お久しぶりです。北海道から戻ってきました。

思った以上に母の魔眼が好評(?)で何よりです。
ちなみに私のお気に入りは、桐乃>オタクになりかけ京介>大介です。

早速ですが、続き投稿させてもらいます。
最後に1つご報告もありますが、よろしくお願いします。





86kyosuke2011/07/18(月) 17:30:05.57dZBJDfwX0 (2/11)

                   【破】 4章 

千葉県千葉市 高坂家
AM 11:30


<<桐乃side >>

12月の刺すような寒さも、雲一つない快晴の中である程度過ごしやすい空気に変わっていた。
千葉の閑静な住宅街は、クリスマスを間近にしてか、浮わついた雰囲気に包まれており、
道行く人々の表情もどことなく期待に満ちているように見える。

――キキィッ

そんな中、小さなブレーキ音と共に年代物のパジェロが、1つの家の前で静かに停車する。

「さ、着いたぞ。」

「ここが……。」

「うん。私たちの家だよ。」

「……俺の家。」

車から降り、物思いに耽りつつ家を見つめる京介に声をかける。
その顔はどこか寂寥感を帯びて、普段より大人びた雰囲気を醸し出していた。

「どうだ、京介?」

「ん…。ごめん、やっぱり何も思い出せない。
 でも、なんだか懐かしい感じもする…。」

家に帰れば何かしら変化があるかもしれないという淡い期待もあったが、
京介の記憶が戻る様子は見られない。
しかし、京介にも何かしら感じるものがあるのか、じっと家を見つめ続ける。

「ほら、京介っ。早く入ろう?」

「お、おいっ?」

そう言うと、私は半ば強引に京介の手を取って家の方へと引っ張っていく。
手を握ったままで先に私が玄関から家の中に入り、
京介もそれに続いてドアをくぐったところで、クルっと京介の方に振り返り、


87kyosuke2011/07/18(月) 17:30:39.39dZBJDfwX0 (3/11)


「おかえり、京介っ。」

「……ああ。ただいま、桐乃ちゃん。」

「ふふっ…。」「はは…。」

私が満面の笑みで心から〝おかえり〟と言うと、
京介もはにかんだ笑顔で〝ただいま〟と応えてくれた。
そのやり取りがどこか照れ臭くて、思わず小さな笑みが零れる。

「……あんた達、いい雰囲気のところ悪いんだけど、
 後ろがつっかえてるんだからさっさと入りなさい。」

すると後ろから、あんたらいい加減にしろ、と言外に仄めかすお母さんにせっつかれて、
私達はお互い苦笑しながらリビングに駆け込んでいった。




「へぇ…。」

「京介。あんたはそこのソファに座ってなさい。
 まだ体も本調子じゃないでしょう?」

物珍しそうにリビングを見廻す京介に、お母さんがソファで体を休めるよう薦める。
昨日からお父さんもお母さんもバタバタとしていたのだろう、
リビングは普段と比べると少しだけ散らかっているように思えた。

「お母さんたちも座っててよ。
 私、みんなの紅茶淹れるから。」

私は二人にも座って待つようお願いして、紅茶を淹れるためにパタパタとキッチンに向かう。
そして、話は冒頭に遡っていく……。
 

<<京介side>>

「ふぅ―――。」

空になった紅茶のカップを机に戻した後、体にじわじわと広がる満足感から吐息を吐く。
桐乃ちゃんが淹れてくれた紅茶は、本当に驚くほど美味しかった。
しかし、思ったままに味を褒めただけなのに、なぜか桐乃ちゃんから少し睨まれてしまった。


88kyosuke2011/07/18(月) 17:31:14.19dZBJDfwX0 (4/11)

いや、まぁ睨まれても全然怖くないし。
というより、ぷうっと頬を膨らませて怒る顔は、
この上無く可愛いらしいからいいんだけどね?


ぐぅぅっ……。


そんな馬鹿なことを考えていると、俺のお腹から小さくない腹の虫音が鳴り響く。
記憶を無くしていても、生理的欲求は通常運転のようだ。

「ふふっ。そうね、いい時間だしお昼にしましょ?
 こんなこともあろうかと、ちゃんとご飯は作ってあるから。」

「朝から何も食べていなかったからな。
 話をするのも、まずは食事を済ませてからにするか。」

俺の腹の音を合図として、母さんと父さんはキッチンの方へと移動していく。
昼御飯の準備を始めた母さんが、キッチンの奥から桐乃に呼び掛ける。

「桐乃ー?使ったカップとかこっちまで持って来て頂戴。」

「はーい。
 それじゃ京介のも持っていくね?」

「ああ、ありがとう桐乃ちゃん。
 紅茶すっごく美味しかったからまた淹れてもらってもいいか?」

「うっ…。///
 そ、そんなに言わなくても、紅茶くらいなら毎日でも淹れてあげるって。」

桐乃ちゃんは少し頬を染めてそう言うと、パタパタとカップを片付けに行ってしまった。
ちなみに、次の日から毎朝食卓に紅茶が並ぶようになったことをここに明記しておく。

「京介…。あんたもそんなこと言う余裕があるなら、お皿並べるのを手伝いなさい。」

「はーい。」
 
その様子に母さんが少し呆れた口調で、食器の準備をするよう命じてくる。
俺はどうやらまた何か変なことを口走ってしまったようだ。




89kyosuke2011/07/18(月) 17:31:38.61dZBJDfwX0 (5/11)



「………。」

食卓の席についた俺は、目の前に並べられた料理を無言で見詰めている。
別に、出てきた料理が石炭だったとか、
明らかに毒物に見えるとかそういった理由じゃないぞ?
ただな…。

「カレーと、……味噌汁?」

「「「いただきます。」」」

変わった組み合わせに思わず首を傾げてしまうが、
他のみんなは何事も無くカレーと味噌汁を口に運び始める。
記憶は無いけど、カレーに味噌汁って組み合わせはどう考えてもおかしくないか?

「どうしたの、京介?
 お腹空いてるんじゃないの?」 

「あ、いや…なんだ?
 カレーに味噌汁って変わった組み合わせだなと思ってさ。」

食事に手をつけようとしない俺を不思議に思ったのか、母さんがそう問いかけてくる。
少し迷いながらも、俺はありのまま感じた疑問を口にする。

「…?別に普通じゃない?」

「あんた、バカなこと言ってないで早く食べちゃいなさい。」

「ふふ、おかしな奴だな。」

あれ~?俺、また変なこと言っちゃった?
当り前のことを言ったつもりが、逆に全員から、
『何言ってるのこいつ』
と疑問の眼を向けられてしまい、思わずたじろいでしまう。

『そう言われると確かに、カレーには味噌汁がセットだったような……?』

1人のささやかな疑問を解決(洗脳)しつつ、
高坂家の食事の時間は和やかに進んでいくのだった。




90kyosuke2011/07/18(月) 17:32:06.69dZBJDfwX0 (6/11)


「「「「ごちそうさまです。」」」」

全員で手を合わせて、空になったお皿に頭を下げる。
よく考えると、まともな食事は昨日から何も口にしていなかったので、
胃袋の方は相当に栄養を求めていたのだろう。
流動食?あれは食べ物なんて言える代物では無い。
気が付けば、カレーと味噌汁をそれぞれ2杯もおかわりし、ペロッと平らげていた。


「京介、ちょっとそこに座りなさい。」

流し台から食器を洗う音が途切れるのを見計らって、
父さんがソファに座るよう促してくる。
横に長めのソファに腰を下ろすと、すぐ隣に桐乃ちゃんも座って来た。

「どうだ。気分は落ち着いたか?
少し話をしようと思うが、大丈夫そうか?」

「問題ないよ、父さん。
 俺も話を聞きたいと思ってたし。」

「…よし。それなら、まずは俺たち家族のことから説明せんとな。」

父さんは俺の目を見て問題ないと判断したのだろう。
そこから、父さんが警察官であること、母さんが専業主婦であること、
桐乃ちゃんと俺を含めて4人家族であることなどが順々に説明されていく。


「それでね、この人ったら、
『京介から父さんと呼ばれるのは子供の時以来だっ』
て、 デレッデレになって言うのよ?
こんな怖い顔して真っ赤になってるもんだから、もうおかしくておかしくてっ!」
 
「ぶふぅっっ!!お、おまえ、それは2人には言わない約束だろうっ!?////」

「えー?だってあまりにおかしかったから。」
 
途中から話の主導権を握った母さんが病院での父さんの醜態を暴露し、
秘密をばらされた父さんが慌てふためく姿に思わず笑いが起きる。

少し聞いただけでも、この家族が本当に理想的な〝良い家族〟ということがよくわかる。



91kyosuke2011/07/18(月) 17:32:48.09dZBJDfwX0 (7/11)

父さんは風貌がおっかないし図体もデカいから、一見怖い頑固オヤジにしか見えないが、
実際は非常に家族想いで、なんていうか……ツンデレ(?)だ。

母さんも典型的なお喋り好きな母親といった感じだが、
言葉の端々から家族への深い優しさと気遣いが読み取れる。
けど、父さんとの秘密をあっさりとバラして笑いこける母さん、マジ鬼畜。


「そしたら桐乃がね、……。」

「も、もー。お母さん!
 そんなのもうずっと昔の話じゃん。///」

そして気づけば母さんの話は、段々と桐乃ちゃんのことへと移っていく。
話を簡単にまとめると、中学3年生ながらも学業優秀、運動抜群、容姿端麗、
多芸多才でなんでもござれな桐乃ちゃん。
えっと…なに、そのチート?
まぁ一番の驚きは桐野ちゃんがまだ中学生だったことだが…。

「これが初めて桐乃がモデルの仕事をした時の写真でね、……。」

母さんは、まるでご近所さんに自慢の娘を紹介するかのように、
桐乃ちゃんのモデル姿や陸上で走っている写真を誇らしげに見せてくる。
その写真は分厚いバインダーに入れられており、
そのバインダーの数は両手の指では数え切れない程だ。
これを見れば桐乃ちゃんがどれだけ2人から大切にされてきたかがよくわかる。
モデルの写真もそうだが、恐らく父さんが撮った陸上の写真もプロ顔負けの出来だし。

「へぇー。オシャレだとは思ってたけど、桐乃ちゃんモデルもやってるんだな。」

「ん。まぁ読者モデルだけど一応ね。」

「いや、読者モデルでも十分すごいだろ。
大人びてるなとは思ってたけど、そういうことだったんだな。」

「…お、大人びてるかな?///」

俺が素直にモデルのことを誉めると、少し照れつつも嬉しそうに首を傾げる桐乃ちゃん。
そういうところには年相応の可愛らしさがあって、実に微笑ましい。



「それでね、京介はどんな子だったかとういとねぇ…。
 一言で表すなら〝普通〟かしらね。」


92kyosuke2011/07/18(月) 17:35:49.27dZBJDfwX0 (8/11)


「…普通?」

「ええ。勉強もスポーツもなんでもそこそこできるんだけど、
 特別目立つようなことは無かったのよねー。」

俺がどんな奴だったかという話題になると、
母さんは少し頭の中で考えてから、とにかく普通だったと答える。
桐乃ちゃんの話があまりに凄かったせいか、どこか拍子抜けする気持ちは否めない。
…べ、別に悔しくなんか無いんだからね!?

「小学校のときから、田村さんと赤城くんって子といつでも一緒に遊んでたわね。
 あ、田村さんっていうのは、近くにある和菓子屋さんの子でね…。」

そして、話は俺の友達の話へと切り替わっていく。
なんでも、俺は小さい頃から田村さんと赤城って奴の3人でいつもつるんでいたらしい。
その2人は所謂〝幼なじみ〟ってやつだった。
余程仲が良かったのだろう、俺の昔話になると必ずといっていい程その2人、
特に田村さんという女の子の姿は常に現れた。

「………。」

「……?」
 
そして、なぜか『田村』という単語が出て来る度に、
桐乃ちゃんの表情が苦虫を噛み潰したような顔になっていくのがわかった。
マシンガンのように話し続ける母さんには申し訳ないが、
俺の意識は隣に座る女の子の方へと傾いていくのだった……。



<<桐乃side >>

「そしたらその田村さんがね……。」

京介の昔話が始まってから、私の心は徐々に黒く濁った何かに覆われていった。

当たり前のことだ。
京介と地味子はいつも一緒だったから、
昔の話となると自然にあの女寄りのものになってしまうのは予想できた。
最近のオタクの趣味や友達との付き合いをお母さんには話したことがなかったから、
この展開は当然と言えば当然なのだ。



93kyosuke2011/07/18(月) 17:37:02.05dZBJDfwX0 (9/11)

私も最初は地味子の話題が出るのを覚悟していたし、
京介の手前、不機嫌な顔にならないように気を付けようとした。
しかし、いざ地味子の話になり、京介が夏にお泊まりしたとか、
高校受験で勉強を毎日教えてもらっていたという話を改めて聞かされると、
どうしてもイラつく気持ちを抑えることができなくなっていた。

「………ぃ。」

「あんたったら、田村さんのこと怒らしちゃってね?それから…。」

私の口から無意識に言葉が漏れる。
しかし、その声は耳をそばだてていないと聞こえない程小さいもので、
お母さんは地味子と京介のエピソードを夢中で喋り続ける。
その話の中に出てくる京介は、すごく楽しそうで、幸せそうで、
それだけ地味子との差を見せ付けられるようで……。

ブチッと私の中で何かが裂ける音がした。



「―――――うっさいっっ!!!!」


自分でも驚く程大きな怒鳴り声で、
和気藹々とした雰囲気は一瞬でシンッと息苦しいほどの沈黙に包まれる。


「ど、どうしたの桐乃。急にそんな大きい声出して…?」

あまりに突然のことに、お母さんも理由がわからず尋ねてくる。

「……ごめん。
 でも、さっきから田村さんの話ばっかりで京介のことと少し違くない?」

「え…?でも田村さんは京介と一番仲が良かったんだからしょうがないでしょ?」

その沈黙に当てられて少し冷静さを取り戻した私は、
謝りつつ、それでも地味子の話は聞きたくないと遠回しに訴える。
しかし、そんな私にお母さんは至極最もな応えを返してくる。

「でも……、あいつはっ!地味子は……っ!」

「……桐乃ちゃん。」


94kyosuke2011/07/18(月) 17:40:40.79dZBJDfwX0 (10/11)


「あっ………。
――――っ。ごめん!!」

それでも何とか反論しようとする私は、
勢い余ってそのあだ名を口にしてしまう。
私の名を呼ぶ京介のほうを見ると、不思議そうな、
そしてどこか非難するような表情をしていた。

それが決め手だった。

私は京介の視線に耐えられず、ごめんと一言だけ言い残すと、
その場から逃げるように自室に駆け上がっていった。
扉を勢いよく閉めた音が、高坂家に重く響くのだった……。


                   【破】 4章 完


95kyosuke2011/07/18(月) 17:49:01.15dZBJDfwX0 (11/11)

4章はここまで。
桐乃のテンションの波が止まりませんね。

で、最後に1つ残念な報告です。

HDDがぶっ壊れました…orz
北海道から帰って来て、PC起動させたら全く起動しなくなってて初期化しました。
そのため、携帯に避難させてた4章とプロット以外のデータ全滅しました。OTL

内容はある程度頭に残ってるので、もう一回書きなおしますが、
更新スピードの遅れは否定できません。

楽しく読んで頂いている皆さんには申し訳ありませんが、
最後までは書き尽くすので、よろしくお願いします!



96VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/18(月) 17:59:53.096xFS4GH9P (1/1)

物書きのHDD故障率は異常


97VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/07/18(月) 18:11:28.28eDjZTsxZ0 (1/1)

カレーと味噌汁って普通だよな?
普通だよね?


98VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/18(月) 18:17:41.06W7HbfMgJo (1/1)

>>95
おおーどーなってくんだww 楽しみ。
データ全滅にめげずにやっておくれー。ゆっくりでも楽しみにしてるよー

>>97
松屋とかでカレーに味噌汁もついてきて、いらないだろこれ。って思っちゃうわ。
どっちが普通なのかはわかんないww


99VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2011/07/18(月) 18:38:18.72nNfq3XQAO (1/1)

スパゲティを箸で食べる我が家は異端なのだろうか?


100VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/18(月) 18:44:21.99h4lUJJDDO (1/1)

盛り上がってきたのにマジか
おのれ機関め破壊工作とは卑劣な


101VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/18(月) 23:25:19.88IbnqFH6no (1/1)

おつおつ。
早く続き読みてぇぇぇ
データ全滅してもゆっくりでも俺はずっと見てるぜ


102VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/19(火) 00:17:41.00cYruhwr20 (1/1)

現実がつらすぎるな...

ってか、赤城は幼なじみじゃないと思ったが?


103VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/19(火) 00:50:58.17tvvlNHgDO (1/1)

記憶無くした京介にみんながどう反応するか楽しみ


104VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/19(火) 03:44:47.26s1lBEgWko (1/1)

会う人会う人、自分が彼女だと吹き込んでいく。


105VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/19(火) 13:32:27.77u7ouZUiW0 (1/1)

桐乃にとってはまたしても正念場だな


106VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/19(火) 17:13:49.99fAf/Bhmco (1/1)

黒猫の反応やいかに


107VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)2011/07/20(水) 00:28:13.50ICDSwg4t0 (1/1)

>>106
黒猫もだが、あやせの反応も期待できるぞ
wwktk


108VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/20(水) 10:17:48.37I6eYLEJSO (1/1)

カレー食べたあと味噌汁のむと舌が痺れるよな


109VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/20(水) 16:52:50.68rqnZZb8R0 (1/1)

投げ出さなければ更新が遅いくらいどってことない
楽しみに待ってるぜ


110VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/20(水) 21:37:53.19q0vcTkVm0 (1/1)

>>272_274
おい...なんかこっちから話ふっといてなんだが
その、スマン
実はおれもガマン弱いんだ...


111kyosuke2011/07/21(木) 23:06:48.51YBXwII2F0 (1/8)

みんなカレーのところにすっごい食いつくねw
カレーは飲み物ってえらい人が言ってた

やっと5章書き終えたのであげてきます。
書き直したら結構話の雰囲気変わるなってちょっと驚いてますw

それでは続きをどうぞ。


112kyosuke2011/07/21(木) 23:07:26.96YBXwII2F0 (2/8)

                   【破】 5章 

高坂家 桐乃自室
AM 13:50


<<桐乃side >>

「……最低。」

部屋に駆け込むと、途端に足から力が抜けてズルズルとドアにもたれかかるように蹲まる。
電気も付いていない部屋は、私の心を表すかのように闇しか映さない。
その闇から目を背けたくて、両目を手で覆ってみる。
しかし、黒い気持ちからは逃れることができず、リビングでの醜態が頭の中に蘇ってくる。


『―――――うっさいっっ!!!!』

『でも……、あいつはっ!地味子は……っ!』

『あっ………。
 ――――っ。ごめん!!』


先程の状況を思い出し、激しい自己嫌悪に襲われる。
何をやっているんだろう…。
地味子の話が出てきただけで怒り狂って、殆ど八つ当たりでお母さんに怒鳴り散らして、
そのまま部屋を飛び出して…。
家族団欒の雰囲気を無茶苦茶にしたという罪悪感に苛まれる。

それに、京介の記憶を戻す過程で、地味子との話が出てくるのは当たり前なのだ。
その意味では、私は京介の記憶を戻す邪魔をしただけということになる。

『でも、京介は…。京介は…っ!』

自分の中で、京介への気持ちを制御できなくなりつつあることを感じていた。
これまで地味子の話が出てきても、不機嫌になる程度で、我慢自体はできていた。
しかし、今回は自分が地味子と比較されたと思っただけで、
気持ちが爆発するのを抑えることができなかった。
その結果があの様だ。

「……ほんと、最低。」



113kyosuke2011/07/21(木) 23:08:01.82YBXwII2F0 (3/8)

再び、自分を貶める言葉を吐く。
何よりも嫌悪しているのは、お母さん達への罪悪感よりも、
京介に嫌われなかったかどうかをより心配してしまっている自分自身なのだから。



トントンッ

そんな醜い嫉妬心に囚われていると、背中越しに扉がノックされる音が響いた。

――――っ!!

その音にハッとすると同時に、ある期待が胸を過る。
そして、京介が来てくれることを少なからず期待していた自分に気づかされて唖然とする。


トントンッ

「桐乃ちゃん、いるんだろ?
 少し話できないか?」

2度目のノックの音。
後に続く声は期待通り、京介のものだった。

京介が来てくれたことは嬉しいのだが、
あの醜態を晒した後でどんな顔をして会えばいいかわからずに黙りこんでしまう。

「……しょうがないな。
 よし、それじゃあこっから先は俺の独り言だ。
 だから別に答えなくてもいいし、聞きたくなかったら耳塞いでろよ?」

「……?」

その言葉の意味を掴みきれずにいると、
ドサッと京介も扉に背中を預けて座り込む気配がした。
薄い板越しにお互いの体温が伝わってくるようで、気持ちが幾分か落ち着いていく。
そして、少し間をおいてから京介はゆっくりと喋り始めた。

「本当に俺らの父さんと母さんっていい人たちだよな。

父さんなんて、最初はどこのヤクザだよって思ったけどさ、
話を聞いてみたら結構お茶目だし面白い人で安心したよ。
母さんも母さんで明るい人なんだけど、よくあんなに喋れるよな。


114kyosuke2011/07/21(木) 23:08:27.96YBXwII2F0 (4/8)

…まぁ正直いうと、あまりに話が長すぎるもんだから、
途中から殆ど聞いてなかったんだけどな?」

母さんには内緒だぞ?と、まるで悪ガキが自分のイタズラを自慢するような口調でぶっちゃける。

「それに桐乃ちゃんもすごいよなー。
 モデルに勉強にスポーツに、なんでも努力して全部成功させててさ。
 まるで映画の主人公みたいだよな?」

『…そんなことない。』

京介の誉め言葉も、今はただの皮肉に感じてしまう。
私が映画の主人公?
そんなバカな、と私の心がその幻想を否定する。
こんな嫉妬にまみれた主人公なんて、B級映画でもお断りだろう。

「…でも、父さんも母さんもめちゃくちゃ驚いてたぞ?
 それに、あれからずっと桐乃ちゃんのことを心配してくれてる。
 まぁ急に大声出して飛び出したんだから当たり前だけどな。」

「………けは?」

「ん?なんだって?」

自分でも驚くほどか細い声だったので、正直聞こえるとは思っていなかった。
それでも、なんとか京介の耳には届いたらしく、私の言葉を聞き返してきた。

「京介は、…その、私のこと心配してくれたの?」

「何言ってんだ、当たり前だろ?
 心配してないやつがわざわざこんな独り言を言いに来るわけないだろ。
 ……あ、そういえばこれって独り言だったっけ。」

「…あはは、そういえばそうだったね。」

京介が私のことを心配してくれていた。
それがわかっただけで安堵する自分の現金さに情けなくなる。
それでも少しおちゃらけた口調で、忘れてた、と言う京介がどこか可笑しくて、つい笑みが零れる。

「ん、やっと笑ってくれたな。
 それじゃこっからはちょっと真面目な話するからな。
 …正直、さっきの地味子っていうのだけは止めといた方がいいと思うぞ?」



115kyosuke2011/07/21(木) 23:09:19.54YBXwII2F0 (5/8)

「―――っ!あんたも、やっぱり地味子の肩を持つんだ?」

気持ちがようやく穏やかになりかけたところで地味子の話を振られて、
思わず京介に噛み付いてしまう。

「おいおい、記憶の無い俺がなんで見たことも無い子の肩を持つんだよ?」

「だ、だってっ!?」

「俺はな、ただ桐乃ちゃんにそんな悪口を言って欲しくないだけだ。
 俺の記憶もその田村って子も関係ない。
 これは〝今の〟俺の我が儘な願いなんだよ。」

京介は、記憶が戻ればはわからないけどな?と冗談めかしつつも、
悪口を止めて欲しい理由は自分の我が儘だと言い切る。
そう言われると、私からは何も言えなくなってしまう。

「それに桐乃ちゃん、あの田村って子のこと、あんまり好きじゃないだろ?
母さんからその名前が出る度に、顔がすごいことになってたぞ。」

せっかくの可愛い顔が台無しだった、と付け加える京介。
酷い顔を京介に見られていた恥ずかしさと、
可愛いと褒められた嬉しさで、顔が紅く染まっていく。

「2人がどんな関係なのか俺は覚えてないさ。
でも、家族の口から好きでも無い奴の話ばっかり出てきたら誰でもイラつくよな?
俺もそれはしょうがないと思う。」

「………。」

「でもな、俺は桐乃ちゃんにあんな優しい親を悲しませて欲しくないんだよ。
だからさっきのことはちゃんと謝っとけ?」

「…うん。わかった。
 ありがと、京介……。」

京介の優しさが扉を通して、部屋に浸透し染み渡っていく。
つい先程まで闇に覆われて真っ暗だった私の部屋は、
薄ぼんやりとだが目に見える程度には光を取り戻していた。

「ん。気にすんな。
 俺も好き勝手に自分の我儘を言っただけだしな。
 
 ……なぁ、桐乃ちゃん。


116kyosuke2011/07/21(木) 23:10:03.65YBXwII2F0 (6/8)

 できればさ、俺がどんな奴だったのか教えて欲しいんだけどいいかな?」

「え…なんで?」

京介からの突然の申出に驚いて、聞き返す。
その話はさっきお母さんから嫌になるほど聞いたはずだ。

「これも俺の我儘だよ。
 ただ俺は母さんじゃなくて、桐乃ちゃんの口から聞いてみたいんだ。
 俺がどんな兄貴だったのか、桐野ちゃんからどう見られていたのか気になるんだよ。」

『京介も私からどう見られていたのか気になるんだ…。』

それは以外な一言だった。
恐らく記憶を無くしたことからの発言だとは思うけど、記憶を無くす前も
そういう風に思ってくれていたのかな、と考えてしまう。

「えっと……、京介は…地味で変態で鈍感で……。」

「そ…そうなのか…?」

「でもね、それ以上にすごく優しくて、頼りになって、いつでも私を見てくれて…。
 お父さんやあやせと喧嘩したときも、間に入って仲直りさせてくれた。
 アメリカ留学中にスランプでどうしようもなくなったとき、突然アメリカまで迎えに来てくれた。
 辛い時はいつでも私の傍に居てくれる、京介はそういう人……。」

「 そっか…。俺は桐乃ちゃんにとっていい兄貴だったんだな。」

「…うん、今でも世界で一番大切な人だよ。」

それは遠回しで拙い告白だった。
記憶があっても無くても変わらない。
私はいつでも京介のことが誰よりも大切なんだと告げる。

「…はは、桐乃ちゃんからそこまで言われるとちょっと照れるな。
それなら桐乃ちゃんが嫌じゃなければ、これからも側に無くなっていさせてもらうよ。」

京介は私の言葉の真意には気付くことはなく、茶化すように答える。
だが、今はそれでいい。
本当に気持ちを伝えるときは、こんな扉越しなんかじゃなくて、
真っ正面から全力で言ってやるんだから。

「…よしっ、それじゃあ俺は先に戻るな。


117kyosuke2011/07/21(木) 23:10:42.14YBXwII2F0 (7/8)

 桐乃ちゃんも落ち着いてからでいいから、
 降りてきて父さんと母さんに謝るんだぞ?」

「うん。…ありがと、京介。」

京介が立ち上がり、ドアから気配が遠退いていく。
京介には聞こえないことを承知で、万感の思いの詰まった感謝の言葉を扉の外に贈った。




「…よし!」

京介が立ち去ってから5分後、自分の中でもある程度踏ん切りをつけることができた。
掛け声と共に自分に渇をいれて立ち上がる。
ドアノブがいつもより少し重たく感じたが、気持ちを奮い立たせて勢いよく回す。

「お、出てきたな。」

「え……?」

扉を開けた途端に思わぬ声をかけられた私は一瞬自分の耳を疑った。
目を声がしたほうに向けると、そこには先に戻っていたとばかり思っていた京介が立っていた。

「あれ、なんで…?」

「言っただろ、側にいさせてもらうって?
よし、それじゃ一緒に謝りにいきますか。」

京介はニカッと笑いながら、私の頭の上にポンッと手を乗せる。
よく頑張ったな、そんな言葉が聞こえそうなほど優しい力でクシャクシャと頭を撫でられる。

――まるで映画の主人公みたいだよな?

ふと先程の京介の言葉が脳裏に過る。

『やっぱり私は映画の主人公なんかじゃないよ。』

京介に撫でられて髪も頭ももみくちゃにされながら、その京介の言葉を再び否定する。
だって…。


―――だって、〝私の物語〟の主人公は目の前にいるんだから。



                   【破】 5章  完


118kyosuke2011/07/21(木) 23:15:36.05YBXwII2F0 (8/8)

5章はここまで。
京介説教(?)のターン。

破はあと2章くらいです
ラストまで2倍くらいあるんで、
気長に読んでやってください。




119VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)2011/07/21(木) 23:34:22.30TkvgNXcdo (1/1)

乙。
続きをゆっくりと待っとります


120VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2011/07/21(木) 23:39:10.494GuIGm3AO (1/1)

心が浄化される……


121VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/07/22(金) 00:07:49.60hVrcTFCq0 (1/1)

おつおつ
桐乃マジ乙女


122VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/22(金) 00:11:59.32IwfV1+c9P (1/2)

乙!

いい話だ。桐乃可愛いよ

しかし一つ訂正が。桐乃の一人称は『あたし』なのでそこは気をつけたほうがいいかと思われます


123VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/22(金) 00:16:28.369Te4ozlAo (1/1)

京介まじ京介‼
桐乃可愛い桐乃


124kyosuke2011/07/22(金) 00:17:17.134sB9a5CA0 (1/1)

>>122
小説確認しました。
確かに『あたし』だった…orz
訂正ありがとーございます!!


125VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2011/07/22(金) 00:23:27.10xqtT0egJo (1/1)


ラストまで2倍…だと…
楽しみ杉るじゃないか


126VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/22(金) 00:54:54.07mAbyzj140 (1/1)

ところどころ桐乃が桐野になってることに>>1は気づいているのだろうか?
脳内補完っちゃそうなんだが、そこだけが気になった


127VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/22(金) 02:13:12.12nITJUuzJ0 (1/1)

>>126
脳内変換できるが、やはり間違ってほしくないよな。
>>1はユーザー辞書を使ってる?


128VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/22(金) 06:43:04.00b6UVVOYDO (1/1)

記憶無くした京介の方が人気になったら何か哀しいな


129kyosuke2011/07/22(金) 18:22:33.01qIU6msGx0 (1/2)

ユーザー辞書の存在を忘れてました
とりあえず桐乃、京介、加奈子は登録終了
読み返すだけだと気付かないもんですね



130kyosuke2011/07/22(金) 18:23:34.38qIU6msGx0 (2/2)

ユーザー辞書の存在を忘れてました
とりあえず桐乃、京介、加奈子は登録終了
読み返すだけだと気付かないもんですね



131VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/22(金) 18:27:25.64IwfV1+c9P (2/2)

後使うかどうかはわからないけど、間違いやすい『麻奈実』も入れとくといいかも
些細なことだけど、名前間違っちゃうだけでなえちゃうことも結構ありますしね


132VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/07/22(金) 18:30:20.62mx7Rg1qGo (1/1)

エラーが出ても更新してから書き込めとあれほど


133VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/23(土) 00:10:48.52dfwJ/Dbao (1/1)

細けぇこたぁ(ry

>>1楽しみにしてる


134VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2011/07/23(土) 23:18:00.101fv7alvAO (1/1)

たかがマンガのキャラになにいってんだ


135VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/23(土) 23:20:53.14t6+IgxgSO (1/1)

あげんなって


136VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/07/24(日) 00:30:39.75VS40UydAO (1/1)

良スレ発見!兄妹SSは大好き
記憶無くてもあやせのことは本能的に恐怖しそう


137VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/24(日) 23:04:20.89NQJkTbqco (1/1)

記憶無くしても京介があやせに変態発言して桐乃がぐぬぬ…ってなるとこを想像したら萌えた


138VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/24(日) 23:35:26.27X7nAHYxw0 (1/1)

>>137
同意

京介は記憶を失っても京介だな。いつでも桐乃のヒーローだ
「そんな気持ちが、何処に残っているというんだい?」
「心に、じゃないですか?」そのまんまだな
きりりん可愛かったよb


139VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)2011/07/25(月) 02:31:00.18N6yvvtlW0 (1/1)

続きまだかよ


140VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/07/25(月) 02:38:06.56uzaFTWYAO (1/1)

>>139
ageんな黙って待ってろ


141VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/25(月) 06:29:03.58h4/AnEnmo (1/1)

まだぁ?


142VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/25(月) 20:20:22.45mkH6Lz9t0 (1/1)

真の紳士とは耐え忍ぶこととみつけたり。
Mじゃないよ。


143停止しました。。。2011/07/26(火) 04:53:21.67vTyQca0G0 (1/1)

スレッドストッパー。。。( ̄ー ̄)ニヤリッ


144VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/07/26(火) 05:47:12.84UQFBOoYQo (1/1)

==== 再 開 ====


145VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/27(水) 00:00:34.10MfJztXq70 (1/1)

テスト


146kyosuke2011/07/27(水) 00:21:51.96RET7jyE90 (1/1)

仕事が忙しくて全然書けない…
もう少しだけ待っていてください!


147VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/27(水) 00:28:27.54XW9YSJx50 (1/1)

いつまでも待っているが、全裸はさすがにキツいので早めにお願いします。


148VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/07/27(水) 00:30:15.10SREihh0mo (1/1)

ネクタイ、靴下、コックにリボンくらいつけろよ


149VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/27(水) 02:14:02.8172rWb+MDO (1/1)

ゆったり待とうぜ


150kyosuke2011/07/28(木) 08:02:33.98dwYVpslg0 (1/1)

やっと6章書き終わった(´;ω;`)
今から仕事なんで今日の夜にあげさせてもらいます。
今は予告だけですが、よろしくです。


151VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/28(木) 08:35:46.17EWIrxASDO (1/1)

キター!


152VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/28(木) 08:37:41.22kDmmOalIO (1/1)

待ってた


153VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)2011/07/28(木) 11:12:24.41IEmwCX6E0 (1/1)

ずっと我慢してたけど誰もつっこまないから
トラックとの事故で京介が2日で退院っておかしくないかな

そこだけずっとしっくりこなくて、
冒頭のそこだけなんだ不満があるのは・・・


154VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/07/28(木) 13:25:18.618q9MqMJp0 (1/1)

>>15320日の間違いってことで脳内変換しといてやれよコノヤロー


155VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/28(木) 13:54:45.015+BYVpZRo (1/1)

ノウナイヘンカンダイジネ!

待ってるよ!


156VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/28(木) 17:18:49.90XVrMQqV20 (1/1)

20日でもけっこう軽いよね?



157VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/28(木) 18:01:11.94Nu+h9EdDO (1/1)

待ってたぞー!


158VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/07/28(木) 22:36:32.82V5lfxEUC0 (1/2)

まだかなまだかな


159kyosuke2011/07/28(木) 23:09:31.05s7kTqS9v0 (1/15)

待たせたな!!

仕事やっと終わって帰宅しました。
>>153
逆に考えてほしい。
1か月も入院して京介と桐乃がイチャラブするだけの話が読みたいですかい
…あれ、結構面白そう?

それじゃあ続きあげてきます



160kyosuke2011/07/28(木) 23:10:08.21s7kTqS9v0 (2/15)

                   【破】 6章 

高坂家 リビング
PM 2:10

<<桐乃side>>

「さっきはごめんなさいっ!!」

あたしはリビングに入ると、お母さんとお父さんに深々と頭を下げる。
しかし、その雰囲気や声には先程までのドロドロとした暗さは微塵も感じられず、
逆に潔ささえ感じられるものだった。

「もう、急に飛び出すもんだからビックリしたわよ。
 でもその様子ならもう大丈夫そうね。」

「うむ。桐乃も事故にあって精神的に疲れていたのだろう。」

「そうかもしんない。ほんとごめんね?」

二人から優しい声をかけられて、正直ホッとする。
叫んだ理由は事故とは関係ないのだが、説明するとまたややこしくなるので、
そういうことにしておこう。

「桐乃も明日から学校なんだから、今日はちゃんと休んどきなさいよ?」

「そう言えば俺って確か高3だったよな。
 明日から学校とか行ったほうがいいのかな?」

お母さんがあたしに学校の話を振ると、京介は自分の状況を思い出したのか、
明日からの予定に首を傾げる。

「うむ、その事だがさっき母さんとも話し合ってな。
 記憶が戻らないようなら無理に学校に行く必要はない。
 今は学校も受験前で特別授業になっている上に、すぐに冬休みに入るから問題はなかろう。」

「そうだよ、無理したら逆に体に毒だよ?」

落ち着くまでは家にいるよう京介に促すお父さん。
正直なところ、あたしも記憶が無い京介が学校に行くのは望んでいなかったので、
その提案には全面的に賛成する。

「あ、そっか。もうそんな時期だもんな。
 っていうか1月のセンター受験とかどうしようか?」


161kyosuke2011/07/28(木) 23:10:28.93s7kTqS9v0 (3/15)


今が12月の終わりで受験間近ということに気付いて対応を聞いてくるが、
京介自身も実感がないのか、どこか他人事のような喋り方だ。

「記憶を無くした状態で受ける必要もないだろう。
 今のおまえはとにかく自分の記憶を戻すことだけを考えればいいんだ。
 勉強なんぞ、その後でゆっくりやっていけばいい。
 子供に1年や2年ぐらいゆっくりさせてやる甲斐性は持ちあわせているさ。」

「父さん…。」


「あ、それじゃお父さん、あたしも…「桐乃は学校に行きなさい。」…はーい。」

お父さんの頼もしい言葉に、京介は尊敬の眼差しを向ける。
それならばあたしも一緒に家に居たいと願い出ようとしたところを、
即座にお母さんに却下されて渋々頷く。

「明日から京介が家にいるなら色々買いに行かなきゃね。」

「うむ。昨日は買い物に行く余裕もなかったからな。
 荷物が多くなるようなら車でいくか。」

「それじゃあ桐乃と京介は家で待っていてね。 
 桐乃、母さん達が買い物に行ってる間に家の中を案内しといてちょうだい。」
 
「はーい。
それじゃ行こ?京介。」

お母さんから食料品や日用品などの買い物に出掛けている間に、
京介に家の中を説明しておくように頼まれる。
それに快諾すると、すぐ後ろに立っていた京介の手を握ってリビングを後にする。




「ここがお風呂で、あっちがトイレでね…。」

この家は狭くはないのだが、歩きまわるほど広過ぎもしない極一般的な住宅だ。
お風呂やトイレの場所を案内するのにそこまで時間はかからなかった。
お父さん達が車庫から車を出す頃には、ザッと一階の配置を案内し終えてしまう。


162kyosuke2011/07/28(木) 23:10:49.51s7kTqS9v0 (4/15)

「ん。大体の場所は覚えたかな。」

「それじゃ、次は2階のあたし達の部屋だね。」


あたしを先頭に2人で階段を上がり、まずは階段のすぐ上にある京介の部屋の前で立ち止まる。

「ここが…俺の部屋か。」

その扉には【京介】と名前が書かれたプレートが吊るされている。
自分の部屋を前にして、京介は少し緊張した面持ちでゆっくりと部屋の扉を開ける。

5畳程の京介の部屋は、その主が1日居なかっただけで人気の無さが強まっているように見える。
目立つのは飾り気のないベッドと勉強机程度で、
机の上にも目覚まし時計やコンポが申し訳程度に置かれているだけだ。
椅子には数着の服が掛けられているが、
これらは金曜日にあたしが京介の服のコーディネートをあれやこれやと選んだ名残だ。

「なんていうか…思ってたよりずっと質素なのな。」

キョロキョロと部屋を見渡しながら、京介が呟く

「そだね。京介って趣味とかあんまり持ってなかったし。
 少し音楽を聞くぐらいだったかな。」

「んー。でもCDの数とかもそんなに多くないしな。
 ポスターとか雑誌もないし、俺って一体どんな高校生活送っていたんだよ。」

京介はコンポの横に置かれている何枚かのCDを手に取りながら、
記憶を失う前の自分が心配になったのかションボリと肩を落とす。

エロゲーにハマってたよ?と言おうかとも思ったが寸前で思い留まる。
ちなみに、京介に貸していたPCは定期チェックのために金曜の夜からあたしの部屋に戻っている。
べ、別に京介の履歴チェックとかじゃないからね?

「服は…ちらほらオシャレなのがあるんだな。
 これってもしかして桐乃ちゃんが選んでくれたやつなのか?」

「あ、それはねぇ、前にあたしと一緒に渋谷で買ったやつだね。」

「やっぱそうだよな。
 クローゼットにある他のとは全然雰囲気が違うもんな。」



163VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/07/28(木) 23:11:01.99V5lfxEUC0 (2/2)

仕事乙

待ってました!


164kyosuke2011/07/28(木) 23:11:13.34s7kTqS9v0 (5/15)

「京介の服のセンスってすっごい地味だからねー。
 ちょっと派手なぐらいが京介には似合ってるって。この前もさぁ、……。」

服の話から始まり、話題は段々とあたしと京介が普段どう接していたかという方向に移っていく。

「へー。お互いの部屋で遊ぶことも多かったんだな。
 まあ、桐乃ちゃんとは仲が良かったみたいだし、部屋も隣同士ならそんなもんか?」

「あと京介は重度のシスコンだったからねー。
 あたしじゃないとダメなんだ!みたいなぁ?」

「ははは、そこまでいくと俺も相当重症だな。」

仲の良さを強調する京介に、あたしは悪戯好きなシャム猫のように笑顔を浮かべて茶化すが、
本当のことと信じていないのか無邪気に笑って応える。

「それじゃあ桐乃ちゃんの部屋はどんな感じなんだ?」

「えぇ~。あたしの部屋見たいのぉ?
 京介がどおしても見たいって言うんなら見せてあげるけどぉ?」

「へいへい。私めは重度のシスコンなので、
 どうか可愛い可愛い桐乃様のお部屋を見せて頂いてもよろしいですか?」

「ん。素直でよろしい♪」

二人でそんなコントをしながら、ワイワイと京介の部屋を出てあたしの部屋へと向かう。
彼氏を初めて部屋に連れてきた時のように、
ふわふわと浮わつこうとする心を抑えながらドアノブに手を伸ばす。

『そういえば部屋にちゃんと戻るのって金曜日以来だな。
 さっきは部屋に入っただけで電気もつけなかったし。』

そんなほんの些細なことがふと頭を過り……


―――――――――っ!!!

その時桐乃に電流走る。


そう、そうだ。あたしの部屋には土曜日の朝から誰も入っていない。
その前の金曜日には、シスカリの体験版が楽しみ過ぎてテンションが上がってたあたしは


165kyosuke2011/07/28(木) 23:11:34.53s7kTqS9v0 (6/15)

メルちゃんグッズを部屋に出したままにしていたのだ。
例えば、メルちゃん抱き枕はスヤスヤとベッドの中で眠っており、
机の上にはメルちゃんフィギュアが可愛らしいポーズをとっている。
だけどこれだけならまだなんとかなる。
強引だが、友達からもらったものだと言い張れば何とかごまかすこともできるはずだ。

問題は、積みゲーをこなす為に机の上に置きっぱなしになっているエロゲーだ。
その名も

『鬼畜兄妹~でも大好きだから~』

内容にはストーリー性やオチなんてものは一切無く、ただただお兄ちゃんと妹がヤりまくるゲームだ。
そんなゲームなので、中身はもちろんパッケージも他人様には決して見せられるようなものじゃない。

そして、京介は記憶を無くし、あたしがオタクだということも忘れてしまっている。
つまり、今の京介はオタクの知識も免疫も全く無い、俗にいう一般人なのだ。
もし京介があたしの部屋で〝そんなもの〟を見てしまったら……、



『な、なんだこれはっ!?』

『京介、実はあたしね、エロゲーとかアニメが大好きなの。
 ううん、愛してると言ってもいいっ!』

『………ない。」

『え?』

『俺の妹がこんなにオタクな訳がないっ!!(ダダッ)』

『京介っ!?京介ーーー!!』


第3部  完



サアッとあたしの頭から血が一気に引いていく。

京介は記憶が無くなる前には、
あたしがどんな趣味を持っていても笑ったりしないと言ってくれていた。


166kyosuke2011/07/28(木) 23:11:56.04s7kTqS9v0 (7/15)

だが、今の京介はどうだ?
もしかしたら前と同じように、あっさりと趣味を受け入れてくれるかもしれない…。

『……駄目駄目駄目っ!!』

都合のいいほうへ傾きかける頭を無理矢理矯正する。
そんな博打を打つのは、余りにもリスクが高過ぎる。
それで京介から幻滅されようものなら本当に目も当てられない。

「ん?どうしたんだ桐乃ちゃん?」

ドアノブを掴んだまま固まってしまったあたしを不思議に思ったのか、
京介があたしの顔を覗き込んでくる。
その言葉で妄想の世界からハッと立ち直ると、
慌てて振り返って京介の胸を押し、一歩でも部屋から遠くに遠ざける。

「や、やっぱりダメッ!!」

「ど、どうしたんだ、急に?」

「どうしてもっ!今部屋は見せられないの!」

「……はっはーん。
 さては部屋を全然掃除してなかったんだろ?
 別に俺は桐乃ちゃんの部屋がちょっとくらい汚なくても構わないぞ?」

『そんな可愛らしい理由じゃないっつーーの!』

態度が急変したあたしに最初は驚いていたが、何かを納得する素振りを見せると、
したり顔で汚くても大丈夫だとニヤけてくる京介を、心の中でバカやろーと叫び声をあげて罵る。

「あー!もういいから!京介はちょっと自分の部屋に戻ってて!!
 あたしがいいって言うまでは絶対に出てこないでっ!」

「あはは、わかったわかった。
 それじゃ邪魔者は退散しとくよ。」

「いい!絶対入ってきたら駄目だかんね!?」

あたしの慌てる姿が余程おかしかったのか、笑いこける京介の背中を押して、
無理矢理部屋に押し込む。
扉の向こうの京介に再度言付けると、バタバタと慌てて自分の部屋に向かう。



167kyosuke2011/07/28(木) 23:12:14.28s7kTqS9v0 (8/15)


すぐに自分の部屋に戻ったあたしは問題のモノに目を走らせる。
今のところ、目につくのは抱き枕とフィギアとエロゲーの3つ。
それらを確認すると、ババッと本棚の荷物をベッドの上にぶちまけて
その後ろに隠された襖を開く。
オタクグッズで一杯になっている押入れにエロゲーとフィギアを強引に突っ込んでいく。

『あーもうっ!なんでこんなに邪魔なのが一杯あるのよ!』

押入れの中はエロゲーやフィギアなどで溢れかえっており、
思った以上に嵩張る等身大メルちゃん抱き枕はなかなか入りきってくれない。
なんとか無理矢理に押し込むと奥のほうで何かが崩れ落ちる音がしたが、
今はそんなことを気にしてはいられない。

『今の京介には〝こんなもの〟見せられないよね…。』

押し入れの中はオタクグッズと大きく形が歪められた抱き枕でぎゅうぎゅうになっている。
原型を留めていないメルちゃん抱き枕の目が、どこか怨めしそうにあたしへ向けられている錯覚に陥る。

『う…目を合わせられない…。
 浮気した男の人ってこういう気分なのかな…?
 ごめんね、みんなっ!京介の記憶が戻るまでの辛抱だから。』

そんなつまらないことを考えながら、隠し扉に手をかける。
心の中で謝罪の言葉を並べつつ、何かから逃げるようにピシャッと勢いよく扉を閉める。

『これでよしっと。後はこの荷物を戻せば大丈夫!』

ベッドの上にぶちまけた物を急いで本棚に戻していく。
このときには、既に意識は京介を部屋に呼ぶことで一杯になっていた。
こうしてあたしのオタクの扉は封印されたのだった。


<<京介side >>

時間は桐乃が本棚を元に戻しているときから少し遡る。


「仲がいい兄妹に汚い部屋を見られたくないなんて可愛らしいなぁ。」

桐乃ちゃんに自分の部屋へと無理矢理追いやられた俺はどこか場違いな感想に浸っていた。



168kyosuke2011/07/28(木) 23:12:55.77s7kTqS9v0 (9/15)

「さて…それじゃあこっちも急がないとな。」

先程、というよりもこの家に入ってからずっと懸念したことを思い出し、
気合いを入れて指をポキポキと鳴らす。
それは、自分の部屋に隠された〝いかがわしいブツ〟をどうするかということだ。

俺も高校生だし、所謂そういうことに興味津々な年頃だ。
長い高校生活の中で18禁の本やら何やらをコレクションしているのはほぼ確定的だろう。
もし、記憶を戻すために俺の部屋で思い出の品を探そう、なんて流れになってしまうと、
家族に俺のコレクションと性癖を御開帳する危険性が出てきてしまう。
そんな恥ずかしくて死にたくなるようなイベントを回避するためには、
俺が家族の誰よりも早くそれを発見し排除するしかないのだ。

記憶は失なっているが、所詮以前の俺と今の俺は同一人物に過ぎない。
思考や性格が大きく変わることはないだろう。
つまり、俺が〝獲物〟を隠す場所を一番よくわかっているのは俺なのだ。
その考えに行き着くと、狩人のように鋭い目でザッと部屋の中を見渡して、
危険な香りがする場所に何点か当たりをつけていく。

「まずはベッドの下…。
 隠し場所としては定番中の定番だな。」

どこぞの傭兵のようにササっと床に伏せるとすぐに、
ベッド下の隅に小さめの段ボールが置かれているのを発見する。
それを慎重に光の下へ引き摺り出して中身を確認する。
箱の中には薄い写真集が何冊か敷き詰められているが、マニアックな類いは一切無く、どれもノーマルなもので一先ず安堵する。

「眼鏡をつけた美女の写真が多いな…。
 我ながらいいチョイスだぜ。』

記憶を無くす前の俺のセンスに称賛しながら、
その本をクローゼットの隅で埃をかぶっていた中学の教科書の束の中へ紛れ込ませる。
非常に勿体無いが、この本はこの後にでも処分しておく必要があるな。

「ここは……鍵が無いか。」

机の引出しで唯一鍵がついている一番上の棚に目を付ける。
しかし、周りに鍵は見当たらず、少し隠されていそうなところを探しても見つからない。
鍵が無ければ仕方がないか、と鍵の探索を断念する。
念のため、他の引出しの中を一つ一つチェックしていが、
引出しの中は文房具や高校のプリントなどが入っているだけで、大きな異常は見られない。


169kyosuke2011/07/28(木) 23:13:18.12s7kTqS9v0 (10/15)

「他は問題無さそうだな…………ん?」

一番下の引出しも問題が無いことを確認して閉じようとすると、その奥にふと違和感を感じた。
うまく偽装はされているが、引出しの奥の壁がほんの少しだけ厚いのだ。
よく観察すると、薄い板がピッタリと付けられているが、ごく僅かな隙間が見える。

「ふふふ…甘い甘いぞ、以前の俺!
 このような小細工が俺様に通じるわけがないだろう!?」

そんなバカなことを呟きながら、その板に指を引っかけて少し強めに力を込める。
すろとカタッという音と共に、板が少しだけ前にずれる。
その隙間に手を伸ばすと指先に紙の感触が伝わり、それを慎重に手繰り寄せていく。

「なっ!?」

『なんじゃこりゃっーー!!!?』

口から思わず叫び声が上がりそうになるのを、理性で必死に押さえ込む。
出てきた〝ブツ〟はエロ本だが、ただのエロ本ではない。
あまりに衝撃的な品のため、無意識に両手を突き出して題名を再度確認する。


『妹シリーズNo. 117
 お兄ちゃんの妹観察日記』


題名も題名だが、表紙を飾っている女性が
どことなく桐乃ちゃんに似ているのが更に危険度を高めている。

『……ぅおいおいおいおいっっ!
 シスコンてレベルじゃねーぞ!!
 こんなもん爆弾どころか、核爆弾級じゃねーか!?』

中身をチラ見すると、桐乃ちゃんそっくりな女の子が兄貴役の男から
猥らな姿を視姦されるという非常にマニアックなシチュエーションがテーマのようだ。
妹のいる兄貴がこんなエロ本を隠していたことを家族にバレでもしたら……


『京介!あんたって子はっ!!』

『キモ過ぎ。近寄んないで…。』

『  死  ね  。』


170kyosuke2011/07/28(木) 23:13:39.38s7kTqS9v0 (11/15)


「――俺、記憶と一緒に家族も失っちまうぞ……。
 これはさすがにシャレになんねえよ。さっさと処分しないと…。」

あまりにも危険な〝ブツ〟のため、エロ本を持つ手が無意識に震えてしまう。
家族には、特に桐乃ちゃんだけにはこんなものを見せるわけにはいかない。
見られた時点で俺の人生やら何やらが終了してしまう。

「どうする、どうする!…「京介ー。お待た…せ………?」…。」

「「――――――――っ!?」」

お互いの時間が一瞬にして凍りつく。
あまりに動揺し過ぎた俺は桐乃ちゃんが部屋に近づいてくるのに気付かず、
その桐乃ちゃんも扉を開けた状態で固まってしまった。
桐乃ちゃんの視線の先は俺、正確には俺の手にある雑誌に定まっている。
その表紙には丸っこい文字で『妹観察日記』と書かれており、
桐乃ちゃん(に似ている女)の裸の写真がデカデカと載っている。


「…………………。」

パタン…
トントントン
バタンッ

無言で部屋の扉が閉められて、桐乃ちゃんが階段を降りる音が響く。
最後にリビングの扉が閉められる音で麻痺していた俺の意識も覚醒する。


お、落ち着け。落ち着くんだ高坂京介!
クールになれ!状況を整理しろ!!
まず妹が兄貴の部屋の扉を開けた。
すると自分の兄貴が妹系のエロ本を手に突っ立っていた…。

えっと…なんだ、その………



「正直すまんかったーーーーっ!!!!」



171kyosuke2011/07/28(木) 23:14:45.83s7kTqS9v0 (12/15)

事態を把握した俺は超高速で階段を飛び降り、
リビングに飛び込むと勢いそのままに頭を床に擦り付けながら土下座を決める。
ジャンピング土下座の世界大会があれば優勝間違いなしの完璧な土下座だった。

「…………。」

「いや、あれはっ…その、違うんだっ!
 ただ部屋を探してたら出てきたから俺のじゃなくてっ、けど俺の部屋だから俺のもので、
 それでも決して桐乃ちゃんを意識して入手したようなものじゃないんだ!?」

相当ショックだったのかソファに俯いたまま体育座りをしている桐乃ちゃん。
それに対して、土下座をしながらあたふたと器用に身ぶり手振りを加えて
言い訳にもなっていない言い訳を半泣きになりながらも繰り返す俺。

その後5分程言い訳を続けていると、桐乃ちゃんは、うーーと呻き声を上げながら、
耳まで真赤になった顔を上げて怨めしそうな眼で俺を睨んでくる。

「ほんとごめんっ!!
 あんなもん見せちまった俺が言うのもなんだけど、
 どんなことでも言うこと聞くから機嫌を治してくれないか?なっ!?」

「………なんでも?」

俺の何でもやる発言に反応して、桐乃ちゃんがようやく口を開いてくれる。
手を合わせて謝る俺はそれを好機と見て、なんとか機嫌を直してもらおうと、
桐乃ちゃんを真正面から見つめて語気を強める。

「あ、ああ!俺のできる範囲ならなんでもやる!
 永久奴隷でもサンドバックでも何でも言ってくれ!!」

「それじゃあ…付き合ってよ……。」

「―――え…?」

全くの予想外の答えに面食らった俺は思わず聞き返してしまう。
そんな俺に桐乃ちゃんは何も答えず、少し潤んだ瞳で見つめ続けるのだった。




                   【破】 6章  完


172VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/07/28(木) 23:16:39.11C3HJLmgxo (1/1)

ずっと思ってんだが、なんでコテにしないのか


173kyosuke2011/07/28(木) 23:18:53.20s7kTqS9v0 (13/15)

6章はここまで。
最後は2番煎じだけど、気にしないでね!

書いてて姉ちゃんにエロ本見られたのを思い出した。
今でもちょっと泣けるくらいのトラウマですよ。

さて、破も残りあと1章。
がんばって書いてくのでよろしくです。


174VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/28(木) 23:22:25.44yVF3HatQo (1/1)

ちなみに全体でどれくらいの分量を予定してるんだ?


175kyosuke ◆Oamxnad08k2011/07/28(木) 23:23:03.14s7kTqS9v0 (14/15)

>>172
初心者で申し訳ない。
コテをググったがこんなのあるのね。
ってことでテスト


176kyosuke ◆Oamxnad08k2011/07/28(木) 23:27:11.07s7kTqS9v0 (15/15)

>>174
データ全滅前の感覚だと6章で1/3ちょっと消化ってところ。
ちなみに6章とか結構書き足したので、今後もボリューム増える可能性は高いです。



177VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/28(木) 23:40:02.80esDXNJs6P (1/1)

期待


178VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/07/29(金) 00:13:27.90aYsRvpOAO (1/1)

1の気持ちすごい分かるw
俺も誰も居ないと思ってリビングのPCでマニアックなエロ動画見てたら、姉ちゃんが入って来て、急いで窓閉じようと思ったのに同時に開いてたせいで重くて消えなくてかなり焦ってディスプレイの電源切った事があった
姉ちゃん反応とか無かったから見てないのか、もう大人だし俺も年頃だからスルーしたのだろうか

そういうの家族に見られるとヤバいよな。 血の気が引くってああいうのを言うんだろうな


179VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2011/07/29(金) 00:48:30.76cMuRN7lAO (1/1)

ナニをしごいてるとこを母ちゃんに見られた苦い思い出……
なんで母親ってノックしねーのかな……


180VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/07/29(金) 02:03:40.99+AqBVAYE0 (1/1)

これで1/3とか超大作じゃないか
期待してる


181VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/29(金) 06:55:16.65xAyrPKpDO (1/1)

ワザと足音を立てて階段を上りしっかりドアをノックして許可がでたら入る←ここまで出来ない奴は母親失格


182VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/29(金) 10:04:29.59enTVQNiDO (1/1)

>>173
今回は明るい話で楽しかった
妹そっくりのものとか前の京介お前wwww
あと姉ちゃんの話kwsk


183VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/29(金) 19:57:47.6168WeAjiGo (1/1)

乙!
これからも期待してます


184VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 01:37:14.84fMO7gENu0 (1/1)

6章で1/3っていうと、18章か超大作だな。期待するぜ。


185VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)2011/07/30(土) 19:58:47.40q+Je6c8fo (1/1)

修羅場展開を期待していいかな?


186VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/31(日) 17:04:21.36Wg5HMJ5so (1/1)

記憶をなくした兄に無茶言う全く別次元のお話になちゃいましたね。

こうなると桐乃の性格の話では解釈が出来なくて、単に低能っていう設定と理解しました。




187VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/07/31(日) 19:28:16.28qSzjCwHH0 (1/1)

>>186言ってることがよくわからんぞ低能


188VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/07/31(日) 19:51:39.45n7ouFR7U0 (1/2)

>>186
何このクズゴミww


189VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/31(日) 20:01:30.63smCm9lNvo (1/1)

>>1気にしないで頑張って!応援してるからな!


190VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/07/31(日) 20:04:25.49gFaRtYp6o (1/1)

>>188
埼玉が偉そうに喋るんなwwww


191VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/31(日) 20:45:08.101B7JKDwrP (1/1)

王道展開は最強


192VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/31(日) 20:57:04.24mdrEfr4b0 (1/1)

つづきまだ~~??



193VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/31(日) 21:00:31.64/79T19VSO (1/1)

お前ら落ち着けそして上げるなしww


194VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2011/07/31(日) 21:45:06.33khJJoHu8o (1/1)

賑わうのは良スレってことだな


195VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/07/31(日) 22:06:23.88n7ouFR7U0 (2/2)

ageソーリーww


196kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/01(月) 00:41:39.75VKibvnLp0 (1/1)

絶賛執筆中のキョースケです。
7章50%ほど書きましたが、面白い展開思いついて書き直し中ですw

>>182
今回とほぼ同じ展開ですよ
親にチクられたのはいい思い出です…orz

>>185
修羅場くるー?
PSP版の修羅場おもしろいらしいから参考にしたいんですよね
黒桐乃、闇猫、ヤンデレetc
やりたいけど金がないからなぁ

>>みなさん
社会人2年目なんで執筆に時間かかってます
悪戯安価の人みたいに早く書く能力がほしい
自分は週1更新を目指して頑張ります!

でも今日はもう寝ますw


197VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/01(月) 01:36:56.97u3aYZzVDO (1/1)

面白い展開…!

ハードルあげるねえwwwwww


198VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/08/01(月) 01:37:01.811O8YmjLlo (1/1)

おやすみ
自分のペースで書いた方が丁寧なSSができるからゆっくりでおkだぜ
俺は毎日かなり進むSSだとまったく追いつけんからこのぐらいがちょうど良い


199VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/01(月) 02:59:40.92O4kMUzsO0 (1/1)

残りは約1/3およそ12章。週1で更新となると約3か月か。



200VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/08/04(木) 17:47:36.74VHtqsw1J0 (1/1)

そろそろ更新の告知欲しいお


201VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/04(木) 18:58:55.25E3WxLz1/0 (1/1)

俺も欲しいお


202kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:34:00.73IyTZhnDb0 (1/18)

どうもキョースケです。
更新告知ですが、明日更新しようと思ってたんですが…

ねーちゃん!あしたって今さッ!

というわけで、今から16レス頂きます。
では続きをどうぞ。


203kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:35:20.25IyTZhnDb0 (2/18)

                   【破】 7章 

千葉県  千葉駅周辺
PM 4:00


<<京介side >>

――どうしてこうなった…。


あの謎の告白の後、桐乃ちゃんから付いて来てとだけ言われて外に連れ出された。

口を閉ざしてズンズンと進む桐乃ちゃんに声をかけることもできず、
後ろから敗残兵のように目線を落としてトボトボと歩き続けている。
心の中では桐乃ちゃんの真意が掴めずに、先程から様々な疑念が飛び交っている。

『俺、このまま警察か病院に連れていかれるのか…?
 いや、だが万が一、億が一ここからピンクなシチュエーションにってことも…!」

そんな大きな不安と一抹の期待(妄想)を抱きながら、見知らぬ街を歩き続ける。

「…着いたよ。」

『っ!!どっちだ?警察か、ピンクか!?』

目的地に着いたらしく、立ち止まって振り返る桐乃ちゃんの声に反応して、
下げていた目線をバッと上げる。

「……………?」

連れてこられた先は警察でもピンクな建物でもどちらでもなかった。
俺の目が節穴でなければ、目の前のそれは、
【激安!携帯ショップ】という看板を掲げた普通の携帯量販店にしか見えない。

頭の上に?マークを浮かべていると、

「それじゃあ〝買い物に〟付き合ってね。」

と、お約束の言葉を投げつけられた。
そのあまりにもあんまりなオチに呆然となっている俺に、
ドッキリ大成功~♪と桐乃ちゃんは某テレビ番組の演出を真似してぶっちゃけっやがった。



204kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:35:38.29IyTZhnDb0 (3/18)

「………紛らわしいわっ!!
 買い物に付き合って欲しいならそう言えよっ!?」

「えぇ~?変に勘違いしたのは京介のほうじゃん。
 それとも何ぃ?本当に告白したほうがよかったぁ?」

騙されたと両手を振り上げながら激昂する俺に、
桐乃ちゃんはニシシ、とこれまた憎たらしい程に可愛いらしい笑顔で答える。

「ちげぇよ!俺は桐乃ちゃんの国語力の無さを嘆いてるんだっ。
 ちゃんと目的語を使いなさい、目的語を!」

「あれぇ、あたしにそんなこと言っていいんだぁ?
 あの本のこと、お父さんとお母さんに言っちゃおうかなぁ?」

「口答えしてすいませんっした!!!」

桐乃ちゃんの小悪魔的な脅迫に、コンマ0.01秒で俺は平身低頭する。
あの後、問題のエロ本は即没収されて桐乃ちゃんの部屋に持っていかれてしまった。
生涯弄られ続けるであろうネタを桐乃ちゃんに握られてしまった俺は、
今や忠犬ハチ公より従順な犬畜生に進化(退化?)したのだった。

――本当、兄の尊厳も何もあったもんじゃないな。

ちなみに桐乃ちゃんの鬼のような追及に遭い、他の秘蔵エロ本の在処も白状させられた。
その眼鏡っ子コレクションの方は全て紐に縛られて、問答無用にゴミ箱へ投げ捨てられてしまった。
すまん、以前の俺っ!桐乃ちゃんに俺達の理想郷が汚されちまったよ……。

「ちょっと、京介。なんか今すっごい失礼なこと考えてるでしょ。
 もともとはアンタが、…あ、あんな本を持ってたのが悪いんでしょっ!?///」

俺の心の声を読んだのか、顔を赤らめながらもジト目で睨んでくる桐乃ちゃん。

「それに、この買い物も京介のためなんだからね?
 車に轢かれた時に京介の携帯、壊れちゃったじゃん。
 記憶が無くなってるんだから連絡手段が無いってわけにはいかないでしょ?」

そう、あの車との事故で俺の携帯は原型を失うほど木端微塵になってしまったのだ。
病院で俺の所持品として先生から渡された時はなんのゴミ屑かと勘違いした程だ。
そして、記憶を無くした俺が何かのトラブルに出くわしてしまった場合、
連絡手段が無いというのはあまりにも危険だ。
まさに正論。しかし、正論すぎて反論できないのが余計に悔しさを募らせるんだよっ。



205kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:35:59.83IyTZhnDb0 (4/18)

「ほら、いつまでも文句言ってないで早く入るよ?」

「お、おい。そんな急かすなって。」

ぶつくさと文句を言っていると、桐乃ちゃんは俺の腕に自分の腕を絡めて、
店の中へとグイグイ引っ張っていく。
体がピッタリと密着する形になり、桐乃ちゃんの鼻を擽るような香水の香りと、
柔らかい腕の感触に心臓がバクバクと早打ち始める。

『いや、しょうがねえよ!?
 こんな可愛い子に密着されたら誰でもドキドキするだろ!
 っていうか、胸!胸が当たってるって!!』

誰に言い訳するでもなく、心の中でぎゃあぎゃあと喚き散らす。
京介は自らの理性がガリガリと削られていくのを、歯を食い縛って耐え忍ぶのだった。


<<桐乃side>>

「いらっしゃいませー。」

ショップの店員さんが営業スマイルを浮かべながら、入店してきたあたし達に声をかけてくる。
この店は幅広いメーカーを取り扱うスタイルなのだが、
穴場のようでこの時期としては客の数も疎らだ。
店内では中学生と小学生ぐらいの姉妹しか見当たらない。
その2人は携帯を手にとって楽しそうにじゃれあっており、実に微笑ましい。

『やっぱり妹はかぁわいいなぁ~。』

「…?どうしたんだ、そんなニヤニヤして。
 あの子たち、桐乃ちゃんの知り合いか?」

「あ、えっと…違う違う。
 や、やっぱりこういう買い物ってテンション上がっちゃう感じっていうか?
 …ほら京介っ、これとか良くない!?」

その姉妹に見とれていると、不思議に思った京介に横から声をかけられて慌てて話をそらす。
それを切っ掛けに、あたしと京介で携帯をあれやこれやと探し始めた。

「お、これとかどうだ?」

「えー?それっていわゆる簡単ケータイじゃん。
今時そんなの選ぶ若い子なんて誰もいないって。


206kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:36:22.34IyTZhnDb0 (5/18)

それよりこっちのオシャレな方のが絶対イイよ。」

何世代も前の携帯をわざわざ店の奥から探し出してきた京介。
それをバッサリと切り捨て、あたしは代わりに最新式のスマートフォンを勧める。
テレビでジャニー○がCMをしており、学校の友達の間でも非常に人気な機種だ。

「これって画面をタッチするヤツだよな。
操作も難しそうだし、俺には向いてないんじゃないか?」

「そんなことないって。
慣れたらこっちのが使いやすいよ。
試しにちょっと触らせてもらお?」

扱いにくそうだと訝しむ京介を納得させるため、店員さんに触らせてもらうようお願いする。
快く引き受けてくれた店員さんの懇切丁寧な説明に合わせて、必死に手を動かす京介。
勝手に画面が変わったり、ボタンを押し間違える度に慌てふためく京介を茶化しながらも、
要所要所で京介の手を取って操作を手伝う。


「使い勝手の方はいかがですか?」

「な、なんとか大丈夫…だと思います。」

「あはは、後は慣れるだけだし大丈夫だって。
それじゃあこれでお願いします。」

「お、おい。ちょっと待てって。
俺お金なんて持ってきてないぞ?」

一通り操作説明が終わり、店員さんが感想を求めると、京介は不安そうに応える。
それに太鼓判を打って店員さんに購入をお願いすると、
今すぐ買うとは予想していなかった京介が慌てて耳打ちをしてくる。

「元は携帯壊しちゃったのもあたしのせいだしね。
モデルのお給料も貯まってたし、ここはあたしが払うから大丈夫だって。」

「あたしが払うっても、おまえ…。」

「あたしがいいって言ってるんだから気にしなくていいのに。
あ、それじゃまた今度京介の奢りで遊びにいこうよ?
それならおあいこってことでいいでしょ?」

「うーん、それならいいかな…。」


207kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:36:41.37IyTZhnDb0 (6/18)


携帯の代金をあたしが払うことを渋る京介を、
次のデートを全て京介に奢らせるということで納得させる。
服とか買ってもらおうかなぁ、と冗談めかして京介を弄るのも忘れない。

「それではお手続きがありますので、こちらへどうぞ。」

「あ、はーい。」

あたしたちのやり取りを見守っていた店員さんがカウンターにあたし達を案内する。



「…では、こちらでお手続きの方は終了になります。
他にオプション機能などはどうされますか?」

「あ、それじゃこの『特定サイト制限コース』と『安心GPS ナビ』をお願いします。」

「ちょっ!桐乃ちゃん!?」

書類の記入を終えてオプションの有無を確認する店員さんに、
閲覧可能なサイトを制限するサービスと、GPSから居場所を特定できるサービスを指定する。
どちらも一般的には子供が危ない目に合わないように契約するサービスで、
高校生が進んで契約するものではない。

店員さんも一瞬呆気にとられるが、すぐに事情を察したのか、素の笑顔を浮かべる。

「フフフ、カッコいい彼氏さんを持ってらっしゃるといろいろ大変ですね?」

「そ、そうなんですよ。///
しっかり首輪をつけとかないとすぐにどっか行っちゃうんです。」

「もう好きにしてくれ…。」

クスクスと笑いながら苦労を労う店員さんの言葉に、顔を染めながらも調子を合わせる。
後ろで小さな姉妹がキャーキャーと盛り上がっており、恥ずかしいことこの上ない。


「ありがとうございましたー。」

どうぞお幸せに、というセリフ付きで見送られるあたし達。

「まったく。ちょっと調子よすぎじゃないか?」


208kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:36:59.13IyTZhnDb0 (7/18)


「えへへ、ごめんごめん。
…もしかして、気分悪くしちゃった?」

店を出るとすぐに、呆れたような口調で諌められる。
それに謝りつつも、京介の機嫌を損ねたかと心配になる。

「いや、全然。
桐乃ちゃんの彼氏に見られるなら逆に自信が持てるぐらいだ。」

「もう!京介の方が調子いいじゃん。///
ほら、あたしのアドレス登録したげるら携帯貸してっ。」

京介のおどけたセリフに、思わず顔が赤く染まってしまう。
照れ隠しで京介の携帯を引ったくり、真っ白な電話帳にあたしの名前を入れていく。

連絡先を保存しました
No. 1 桐乃

その表示と共に、あたしの名前だけが電話帳に新しく表示される
最初に登録したので当然なのだが、「1番」という文字が輝いて見える。
今この携帯は〝あたし専用〟だと思うと、気持ちが自然と昂っていく。

「はい、登録しといたよ。」

「ありがと、桐乃ちゃん。
まだ操作とか慣れてないから助かるよ。」

「これくらいいいってば。
…そういえば、なんであたしを呼ぶ時『ちゃん』付けなの?
普通に呼び捨てでいいのに。」

「ん?あー…何て言うのかな。
桐乃ちゃんは『妹』って感じがしないんだよなぁ。」

「え……?」

呼び方の違いを指摘すると、少し困った顔をして京介は答える。
その反応は、あたしの心臓をギュッと締め付けるものだった。

「あ、いや変な意味じゃなくてな?
記憶が無いから桐乃ちゃんは『妹』っていうより、ただの可愛い『女の子』って感覚なんだよな。
だから、呼び捨てにするのはなんだか恥ずかしいんだよ。」


209kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:37:17.59IyTZhnDb0 (8/18)


「ばっ、バカじゃん!///
そんなこと気にしなくていいって。
桐乃でいいよ?ほら試しに言ってみて。」

「……………桐乃?」

「なぁに?京介。」

「えっと、その…よ、よろしくなっ。///」

「ぷっ。はいはい、あたしのほうこそよろしくねっ京介♪」

「ちょっ、そんなに引っ付くなよ。
みんなに見られてるだろっ?」

「え~、別にいいじゃん。」

顔を赤らめてあたしの名前を呼ぶ京介がおかしくて、思わず吹き出してしまう。
恥ずかしがる京介の腕を絡め取り、お互いに何度も名前を呼び合う。
あたし達は束の間の幸せを堪能しながら、ゆっくりと家路に就くのだった。



高坂家 玄関
PM 5:30

「「ただいまー。」」

「あら、おかえり。
 何?2人してどこかに行ってたの?」
 
家の中に入ると、ちょうどお父さんとお母さんも帰ってきたところのようで、
お母さんが玄関からリビングに買い物袋を運びながらあたし達に問い掛ける。

「ああ、ちょっと桐乃と買い物に行ってたんだ。」

「ふーん?まぁいいけど、あんまり無理しちゃダメよ?
 すぐに夕飯の準備するから食材運ぶのを手伝って頂戴。
 あ、京介は病院からの荷物を部屋まで持って上がっときなさい。」

「「はーい。」」



210kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:37:36.18IyTZhnDb0 (9/18)

お母さんの指示の下、京介は大きめの紙袋を持って二階に上がっていく。
リビングに入ると、大量の食料品や日用品が入った袋が山のように積まれた光景に唖然とする。
正月に向けて、おせち料理の材料やおもちなども一緒に買ってきたようだ。
これだけあれば1週間は買い物に行く必要もないだろう。

『それにしたってお母さん、これはちょっと買い込みすぎじゃない…?』

荷物の多さに少し辟易しつつも、積まれた袋の中身をキッチンに運んでいく。
すると1つの袋の口から何冊かの本が姿を覗かせているのが目に入る。
チラッと題名を見ると…

『禁断の洗脳術』、『尊敬される父親』、『パパと呼ばせる10の方法』etc…

……………。

『……うん、あたしは何も見てない、何も見てませんよー?』

あたしはその本の存在を極力無視して、黙々と荷物を運ぶのに専念するのだった。




「「「「御馳走様でした。」」」」

夕御飯を終えて全員で手を合わせる。

「昼のカレーもおしかったけど、このハンバーグもおいしかったな。」

「本当っ!?」

京介は満足気にお腹を擦りながら、ハンバーグの味を絶賛する。
その言葉を期待していたあたしは、目を輝かせて京介の方を振り向く。
なぜなら…

「そのハンバーグは桐乃が作ったのよ。」

「そうなのか。
 うん、すっげーうまくて正直ビックリした。
 桐乃は本当になんでもできるんだな。」

「え、えへへ。ありがと、京介。///
 あっ、それじゃあさ、明日の夕御飯は一緒に作ろうよ?」



211kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:37:59.92IyTZhnDb0 (10/18)

お母さんが、ハンバーグを作ったのがあたしだと教えると、
京介はあたしの料理の腕を讃嘆してくれる。
その褒め言葉に照れながら、京介に夕飯を作ることを提案する。

「え?俺も一緒にか?
 たぶん料理なんてできないから桐乃の足を引っ張るだけだぞ。」

「だからあたしが教えたげるって言ってんのよ。
 今時男の人も料理の一つくらいできないとダメっしょ?」

「うーん、そんなもんか。
 わかったよ、それじゃお手柔らかに頼むな、〝桐乃先生〟?」

少し悩みつつも、その提案を了承する京介はおどけた口調で、よろしく先生と頭を下げる。
その答えに、あたしは腰に手を当てて満足気に頷く。

「任せなさ~い。
 それじゃ明日は学校終わったらすぐ帰ってくるから、京介はちゃんと家にいてよ?」

「ああ、どうせ行くところも無いから大丈夫だよ。
 明日は部屋で大人しく携帯でも弄っとくさ。」

「ん。約束だからね?」

「はいはい、そうと決まったら桐乃は部屋に戻んなさい。
 後2ヶ月で高校受験だし、ちゃんと追い込みなさいよ?

「はーい♪わかってるって。」

京介との予定ができたあたしは、上機嫌で階段をあがっていく。
部屋に入るとすぐに机には向かわず、ドサッとベッドに身体を投げ出す。
今日1日の間に様々なことがあったが、何とも心地よい疲労感に包まれる。

「…あ、そうだ。」

1つやり残していたことを思い出して、ベッドからムクリと体を起こす。
携帯を取り出してアドレス帳を開くと、そこには裏表関係なく多くの名前がズラっと表示されている。
そのアドレスの一番上へとアイコンを合わせる。

No. 1 シスコン兄貴

京介に見られたら文句を言われそうな名前が表示される。
新しい京介の携帯の番号とメアドは上書きしていたのだが、
大事な部分を変更するのを忘れていた。


212kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:38:17.49IyTZhnDb0 (11/18)


「これでよしっと!」

手馴れたキータッチで画面を進めて行き、変更された表示に満足して一つ頷く。


No. 1 京介


これは自分なりの〝誓い〟だ。

あたしと京介は兄妹で血が繋がっていることも、
この想いが世間一般には絶対許容されないことも十分理解している。
それでも、自分の素直な気持ちに気づいてしまった。
京介が好きだという気持ちに背を向けることはもうしたくなかった。

だから、今はまだこんな小さなディスプレイの中で誓いを立てる。
京介を『兄』ではなく、1人の『男』として意識するという誓い。
自分の気持ちから逃げ出さないことへの決意の顕れだった。

その誓いは静かであるが、消えることのない熱い炎を心に灯す。
体の中で、遥か昔に錆びついて動かなくなっていた歯車が、
低く鈍い音を響かせて再び廻り始める。




??? ????
PM?:??

『お兄ちゃん、どこーーっ!?』

ふええ、と涙声になりながら、幼い姿のあたしは彼を探している。
小さな商店街のようだが、あたしにとっては巨大な迷路にしか思えない。
トボトボと一人で店の間を縫うように歩き続ける。

『おにいちゃーんっ!!』

どのくらい探したかもう既に分からなくなっていた。
空は夕焼けで赤く染まりつつあり、子供の遊ぶ時間は終わろうとしている。
周囲が段々と暗くなり、小さな体に強い恐怖を植え付ける。



213kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:38:57.86IyTZhnDb0 (12/18)


その時、ベチャッと水っぽい感触が靴底に伝わる。

足下を見ると、そこには水たまりが広がっていた。
先程まで何もなかったところに現れたそれは、少しずつ地面に広がっていく。
周りを見回すと、場面はいつのまにか秋葉原に変わっていた。
白黒だった風景も色づき、水たまりだと思っていたそれが真っ赤な血の海に変わる。

そして、その中心には―――の体があった。
―――はうつ伏せに倒れて、ピクリとも動かない。

『お、…おにい…ちゃん?』

呼吸が止まる。
あまりに突然の状況に頭が付いていかない。
心臓が鷲掴みされたような強い圧迫感に襲われる。

『いや…。』

それでも血の海は広がり続け、ついには視界さえも真っ赤に染めていく。
そして世界が紅に侵させる。

『いやぁああああああ!!!!』




高坂家 桐乃自室
AM1:00

ガバッ!!

深夜の闇の中、あたしはベッドから飛び起きる。
部屋はひどく冷え切っているにも関わらず、驚く程の寝汗が額に浮かんでいる。
先程の夢が頭を過ると、心臓の音が早鐘を打ち、強烈な頭痛が襲い掛かる。

恐怖
罪悪感
不安
恋慕

様々な感情が現われては消え、神経が昂って眠気が一瞬で霧散する。
隣に京介の存在を感じられないことが、心の揺れを更に強めていく。


214kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:39:19.20IyTZhnDb0 (13/18)


―――京介ぇ……。

あたしの足は無意識に京介の部屋へ向けられた。
廊下は部屋の中より暗く、より一層の焦燥感に駆られる。

『起きてない…よね?』

物音一つしない京介の部屋。
躊躇しながらも、そのドアを静かに開く。

「京介…?」

「…ん?どうしたんだ桐乃?」

「あ…まだ起きてたんだ。」

「あ、ああ。なんとなく眠れなくてな。
 …まだ1時か。
 なんだ、桐乃も眠れなかったのか?」

「…?
 う、うん。嫌な夢見ちゃって怖くなって…。」

扉を開くと、予想に反して京介はベッドの上で片膝を抱えて座っていた。
京介もどうやら寝付けなかったのか、些か表情が優れない。
その返事にどこか違和感を感じながらも、夢のせいで眠れないことを伝える。

「えっと、それでね…。
 ちょっと京介とお話できないかなって思ったんだけど。」

「ああ、そういうことなら構わないぞ。
 ほら、そんなとこ突っ立ってないでこっちに座れよ。」

ベッドの縁に座り直した京介は、自分の隣に座るよう言うとベッドをポンポンと叩く。
その言葉に甘えて、京介の隣にストンと腰がける。

「「……………。」」

二人の間を沈黙が支配する。
ただ顔を見たかっただけなので、話すことなんて何一つ考えていなかった。
なんとか話を振ろうと頭を回転させるが、やっと出てきた言葉は謝罪の言葉だった。



215kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:39:33.65IyTZhnDb0 (14/18)

「…ごめんなさい。」

「なんだ?突然謝ったりして。」

「だって…事故に遭ったのも、記憶を無くしたのも全部あたしのせいだし。
 今まで京介にはずっと助けてもらってきたのに…。
 あたしは京介を助けるどころか…、迷惑ばっかり…っ!」

それはあたしの贖罪だった。
事故のこと、記憶を無くしたことだけではない。
気付けばこれまで様々な場面で京介に迷惑をかけてばかりいた自分が感じていた罪悪感を、
全て吐き出していた。

「……大丈夫。俺は全然桐乃のせいだなんて思ってやいないさ。
 事故も記憶のことも気にしてないしな 。
 それに以前の俺も桐乃のことを迷惑だなんて思ってなかったと思うぞ。」

「でもっ!」

「それにな俺は正直、自分を誇らしく思ってるんだ。」

「え…?」

桐乃は悪くないと諭す京介に納得できず、反駁しかける。
しかし、そこから返ってきた答えは全く予想外の言葉だった。

「記憶を無くす前の俺は桐乃を守ることができたんだろ?
 もし桐乃が事故にあってたら、俺は自分を許せなかったと思う。
 どうして桐乃を守ってやれなかったんだってな。
 だから桐乃を守れたことを自慢には思っても、後悔なんて絶対しないさ。」
 
「でもっ、でも結局はあたしがもっと気を付けてればっ!?」

「ったく、しょうがないな。
 よし、それならちょっと待ってろ。」

それでもやはり自分のせいだと、自虐の言葉を吐き出すあたしに対して、
京介はベッドから立ち上がると、部屋の隅に置かれていた紙袋から何かを取り出す。

「あ、それって…。」

それは一見するとボロボロの綿の塊に見えるが、よくよく見ると、
昨日秋葉原で手に入れたメルちゃんのぬいぐるみだった。


216kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:41:02.16IyTZhnDb0 (15/18)

事故のせいで至るところに大きな穴が開いて、
京介の血糊でどす黒く変色して原型を全く留めていない。

「やっぱり桐乃のものだったんだな。
 それじゃ桐乃は俺の命の恩人だ。」

「え…、どういうこと?」

あたしの反応で、そのぬいぐるみがあたしのものと判断した京介は、
なぜかあたしを命の恩人だと言ってくる。
その言葉の意味が分からず、思ったままに問い返す。

「病院の先生から聞いたんだ。
こいつが事故のときにクッションの役割をしてくれたから殆ど無傷で済んだってな。
もし、これが無かったら本当に死んでたかもしれないって言ってた。
俺は桐乃を助けたけど、桐乃も俺の命を救ってくれたんだよ。
だから、俺は桐乃に感謝こそすれ、恨むことなんて何一つ無いんだよ。
…ありがとな、桐乃。」

あたしの大きなぬいぐるみが自動車との緩衝材となったと説明する京介。
だからあたしは悪くない、あたしに命を救われたんだと改めて感謝を伝えてくる。

あたしが京介の助けになることができた。
その事実は、罪悪感を霧消させて心の中の闇に光を灯す。

「あたし、京介の役に立てたんだ…。」

「ああ。だから桐乃が気に病むことなんて何もないんだよ。
 俺たちは2人で助け合ったんだ。
 それだけで十分だろ?」
 
そう言うと、京介はあたしの頭をクシャクシャと撫でて、
今日はゆっくり休むように囁く。

「ありがと、京介。
 その…ごめんね?こんな遅くまで。
 おやすみなさい。」

「ああ、おやすみ。」

京介に撫でられる感触を満喫したあたしは、
一つ頷くとおやすみのあいさつを言い残して部屋を後にした。
暗い廊下を進む足取りは軽く、悪夢に怯えていた時の心の重さも消えていた。


217kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:41:22.77IyTZhnDb0 (16/18)

先程までの感情の荒波も収まり、ただただ温かい気持ちに包まれる。
布団にくるまったあたしは、京介への想いと共に深く安らかな眠りに就くのだった。



<<京介side>>

「ああ、おやすみ」

俺の言葉で安心してくれたのか、いつものような柔らかな笑顔に戻った桐乃を見送る。
そして桐乃が自分の部屋に戻ったことを確認した途端、手が小刻みに震え出す。

『…くそっ。止まれ、止まれよ!』

それをなんとか抑えようと腕を抱えるが、震えは身体全体に広がり止まらなくなる。
背骨に氷の棒を突っ込まれたような異常な寒さが体を襲う。
先程から嫌な汗が背中に流れ続けて、寝間着は既にその役割を果たしていない。

10時過ぎにベッドに入ってからずっとこの調子だった。
何度寝ようとしても、姿の無い焦燥感に苛まれて飛び起きるということを繰り返した。
途中からは寝ることを諦めて、ベッドの上でガタガタと震えながら2時間以上耐え続けていたのだ。

桐乃が部屋に来た時は、自分の震えが隣にまで伝わってしまったのかと肝を冷やした。
実際は違ったが、あれだけ不安そうにしている桐乃には自分が震えている姿は見せられないと、
膝に血が出るほど強く爪を立てて震えを我慢していた。
終始、異常な汗の量に気付かれないか戦々恐々と対応していたのだ。

その反動なのか、桐乃が部屋に戻った途端に身体の震えは尋常ではないものになる。


『事故も記憶のことも気にしてないしな』


―――はは…よく言うぜ。

先程の桐乃への言葉を思い出して、自嘲の籠った乾いた笑みが零れる。


なぜ俺が事故に遭わなければならなかったのか。

なぜ俺が自分の記憶さえ無くさなければならないのか。

なぜ俺だけ…。

一体誰のせいで……。


218kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:41:41.36IyTZhnDb0 (17/18)



耐え忍ぶ間、そんなことばかりがずっと頭を支配していた。
時間と共に思考が醜悪なものへと堕ちていく自分は、とても誇らしい人物だとは思えない。

身を挺して桐乃を助けたこと自体は神に誓って後悔はしていない。
しかし、桐乃が部屋を立ち去るときの柔らかな笑顔に嫉妬している自分がいることも確かだった。
幸せそうな笑顔のまま、今から安らかに寝りにつくであろう桐乃への醜くて矮小な嫉妬。
そんな気持ちを少しでも持ってしまう自分に吐き気すら覚える。

しかし、自分自身の立脚点を失った恐怖はそれほどまでに凄まじいものだった。
人間という生き物は自分が理解できないものに恐怖を抱く。
幽霊しかり、呪いしかりだ。

そして今、京介は〝全て〟に心の底から恐怖していた。
両親、桐乃、自分の部屋、そして自分自身でさえも恐怖の対象になっていた。
まるで周囲の全てが自分を押し潰そうとするような錯覚に陥いっていた。

特に自分自身を理解できない恐怖は、確実に京介の心を蝕び、磨り減らしていく。
それでも、自分の醜い姿を家族に、そして桐乃にだけは知られたくなかった。
もし知られたら、自分は本当に〝孤独〟になってしまう。
その思いが京介の精神を更に磨り潰していく。

『俺は…一体誰なんだ……?』

恐怖に苛まれつつ、そんな答えの出ない自問を繰り返す。
自分の存在に怯える少年は、底知れぬ闇の中でただ一人震え続けるのだった。





                   【破】 7章  完


219kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/05(金) 00:46:26.78IyTZhnDb0 (18/18)

今日はここまで。
長い長い【破】もようやく終幕。
ほんと1日が長かった…が、ここからが本番。

次からは、【Q】の章に入ります。
ようやく他メンバーも登場し始めます。

楽しみにしてくれたら何よりです。


220VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/05(金) 02:00:07.19MciWihEN0 (1/1)

乙なんだよ!



221VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/05(金) 02:13:40.43rIjpZNaIO (1/1)

乙です!

デレ乃パワーハンパねえなwww


222VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/08/05(金) 02:15:27.44Z8ggkJtx0 (1/1)

京介の気持ちよくわかるわ

俺もよく記憶喪失になる妄想してるからな……


223VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/05(金) 02:50:50.25lYZUbvRDO (1/1)

桐乃はチョコを石炭にするぐらい料理できないぞ


224VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/05(金) 09:50:09.45rroiFuQDO (1/1)

あれ?
じゃあ上条さんってスゴいんじゃね?


225VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/05(金) 10:28:32.738ASkeN6C0 (1/1)

>>223
大好きなお兄ちゃんのために修練したんだろうが


226VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/05(金) 18:43:01.05lgPjDDB90 (1/1)

更新乙なんだな


227VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2011/08/06(土) 01:16:44.95ZYhIpcDAO (1/1)

このまま消えていくのだろう…


228VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/08/06(土) 15:35:58.523QTm4RhRo (1/1)

乙ぅぅぅぅ!!
京介のために一生懸命料理する桐乃を妄想したら可愛すぎたww


229VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)2011/08/07(日) 21:03:24.53my60xFxA0 (1/1)

大量投下のせいで読者が減ったことはいなめない
少しずつ投下していけばもっと読者がいただろうと助言

知らない人のしかも素人の小説をガッツリ読もうと思う人は少数派。


230VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/07(日) 21:16:19.689bXL7D74P (1/1)

>>229
一体何を根拠にそんなこと言ってるのか知らんが自分の意見を作者に押し付けるのはどうかと

作者のやりたいようにやればいい
読む人は読むし、読まない人は読まない。それだけ
自分は次も期待してるよ!
京介さん自暴自棄になってきりりんに八つ当たりしなければいいんだけど


231VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/07(日) 21:39:13.44AJJF0IMG0 (1/1)

>>229
そんなこと言ったら完結してる中~長編SSには
読者がほとんどいなくなっちゃう


232kyosuke2011/08/07(日) 23:06:40.32I41PXOIf0 (1/1)

明日から一週間出張のキョースケです。
初出張なんで来週は更新できるかわからんです。
出張は自由時間あるんかな…

>>229の言うことも一理あるかも?
6レス毎ぐらいのほうが、読みやすいし書きやすいのかな
一回試しに小出しでやってみますわ







233VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/07(日) 23:11:39.92JHT0S4u/o (1/1)

別に今ぐらいの一回あたりの投下量ならガッツリ読もうとしなくても
気軽に読める量だと思うんだけど

>>229って読むペースがどんだけ遅いの?って思ってしまったり


234VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/08/07(日) 23:46:51.24jfMsQ/eU0 (1/1)

桐乃がかわいすぎて生きるのが辛いぜ


235VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2011/08/08(月) 00:13:59.22WgWBHe6jo (1/1)

作者の好きに書けばおk
読みたいやつは投下量なんか関係なく読むから


236VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)2011/08/08(月) 09:53:35.52ipxmhzU10 (1/1)

少数派
っていう部分まで見てほしいんだけど
たった3行のレスも読めないのに(以下略
まぁ>>1には出張あってもがんばって更新してほしい。


237VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/08(月) 11:17:41.56SNxvXpBIO (1/1)

何で少数派ってわかるの?
アンケートでもとったの?
おまえの周りの友達にでも聞いたの?
友達なんか一人もいないくせに…


238VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/08(月) 12:02:26.69YbvtUQGe0 (1/1)

>>236
いや、だからさ
>>229の理屈だと2~3回目以降を投下しちゃった後は
新たに読み出す奴がほとんど現れないってことになる。
それはおかしくないか?

小出しに投下しようと、まとめて投下しようと、
後から読み始めた連中にしてみれば『最初からガッツリ読む』ことになってしまうわけでしょ?


239VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)2011/08/08(月) 14:05:40.15DerHUrGgo (1/1)

俺はいつも纏めサイトで一気に読む派なので
余りにも更新が遅いとイライラしてしょうがない


240VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/08/08(月) 16:25:30.36FcMpfwvao (1/1)

まぁ落ち着け

とりあえず>>1のペースでやってくれて構わないから、応援してます


241VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/08/08(月) 22:11:45.40+9H9dWBD0 (1/1)

>>239じゃあ纏められてから見ればいいだろ……



242VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/11(木) 07:10:47.71imZ87ACi0 (1/1)

壁|´・ω・) じー


壁|ミ サッ


243kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/12(金) 23:03:27.43mMhGWn/70 (1/1)

出張から帰ってきましたキョースケです。

近況報告です
行き帰りの新幹線の中で必死に書きました!
けど、やっぱり書きあげられませんでしたorz

今50%くらい完成
日曜日には更新したいとは思うんで、
ちょっとばかし待ってやってください


244VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/12(金) 23:31:42.11D5TuY2tIO (1/1)

出張乙
ちょっとじゃなくても待ってるぞ


245VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/13(土) 07:38:54.22EsUSkNQt0 (1/1)

了解、待ってます


246VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/08/14(日) 14:49:07.53XzV6/v3C0 (1/1)

待ってるぜ!!


247kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/14(日) 18:31:08.76tPbq/QdG0 (1/7)

お待たせしました!
新章1話目やっと完成。

今回はちょと短めに5レス頂戴します。
それでは続きをどうぞ。


248kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/14(日) 18:31:54.00tPbq/QdG0 (2/7)

                   【Q】 1章 

12月19日(月)
高坂家 キッチン
AM 6:50


雀が冬の庭先で朝の挨拶を交わしている中、家の中ではトントンと小気味よいリズムの音が響く。
その音を奏でているのは包丁とまな板だ。
台所には手慣れた様子でキャベツを細かく刻むお母さんと、
制服の上から青いエプロンを着たあたしが忙しなく手を動かしている。

ウインナーがフライパンの上でパチパチと音を立てて弾け、芳ばしい香りが食欲をそそる。
つい先程淹れたばかりのティーポットの蓋からは、美味しそうな湯気が上がっている。
あたしはそれらの匂いを堪能しながら、
トースターから良い具合に焼き色のついたパンをお皿へ取り出していく。

「これで全部準備できたわね。
それじゃあできたのからテーブルに並べていって頂戴。」

「はーい。」

あ母さんに言われて、既にお父さんが席についているテーブルの上に、
手際よくパンとサラダと紅茶を並べていく。
甚平を着たお父さんは新聞に目を落としながら、うむと満足気に目を細めて頷く。

「そういえば、あの子ったらまだ起きてこないのかしら。
 桐乃、ちょっと部屋まで起こしてきてくれる?」

「ええー?しょうがないなぁ。」

お母さんが時計を見やり、まだ下に姿を現さない京介を起こすよう頼まれる。
普段なら、キモいから嫌だと断っていたであろうその申し出を、あたしは二つ返事で快諾する。
京介を起こしに行くなんて、すっごい新鮮だもんねー。
パタパタとクジラのスリッパの音を響かせながら、あたしは階段を1つ1つ上がっていく。

ジリリリリリリ……

京介の部屋からは目覚ましの甲高い音が廊下まで漏れ出していた。
目覚めの悪い兄を起こしにいくなんて、まさしくエロゲーのお約束じゃん。
そんな考えが頭に浮かび、そのシチュエーションに自分が立っていることで気分が高鳴る。

「京介!ほら、いつまで寝てるの?
 もう朝だよっ。」


249kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/14(日) 18:33:12.79tPbq/QdG0 (3/7)


バタンッと扉を開けて部屋に入り、必死に鳴り続ける目覚まし時計の音を止める。
閉じ切られたカーテンをサッと開くと、朝日の光が冷えきった部屋に差し込まれる。
京介は頭まで布団に包まって眠っており、寝息に合わせて微かに布団が上下している。

「早く起きないと朝御飯冷めちゃうでしょ?
 せっかく作ったのにぃ。」

「う…うう……ん。」

布団の上から体を揺すると、呻き声を上げながら京介が布団から顔を出す。
あたしが少し強引に布団を引っぺがすと、眠そうに目を擦りながらもゆっくりと体を起こす。
寝起きのせいか、寝ぐせがひどく、目も少し充血しているように見える。

「ん……。桐乃か、おはよ。
 …いま、何時だ?」

「おはよう、寝ぼ介さん。もうすぐ7時だよ。
朝御飯の用意もできてるから、早く着替えて降りてきてね。」

半分以上瞼が開いていない状態で、今の時間を尋ねてくる京介。
少し茶化しながらそれに答えたあたしは、手早く用件だけ伝えると、
踵を返して扉の方へと足を向ける…


ギュッ


「―――えっ?」

すると、後ろから突然左手首を掴まれる。
それほど強い力で握られたわけではないが、あたしの動きを止めるには十分だった。

熱を帯びた手に驚いて振り替えると、京介の視線とぶつかる。
その瞳は大きく見開かれており、一瞬吸い込まれるような錯覚に陥る。

「ど、どうしたの京介?」

「あっ、いや、えっと……お、おはよう?」

「……ぷっ。もしかしてまだ寝惚けてるの?
それはさっき言ったじゃん。」


250kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/14(日) 18:33:39.44tPbq/QdG0 (4/7)


「え、あっ、そうだっけ?
 はは、悪い。ちょっと寝起きでボーッとしてたみたいだ。」
 
不安げに問いかけると、京介はパッとあたしの手を放して疑問系でおはようと応える。
京介自身なぜあたしのことを掴んだのかわからない様子で、寝ぼけていたと謝ってくる。

「えっと、朝ごはんだったよな?
 すぐに着替えて降りるよ。
 悪いけど、先に行っててくれるか。」

「まだ寝惚けてるなら、あたしが着替えるの手伝ってあげよっかぁ?」

「ぶふっ!?お、おまっ、なに言ってんだ!
 いくら兄妹でもそれはダメだろ!?」

あたしがわざと上目遣いになって訊ねると、
京介は一瞬で茹で蛸みたいに顔を真っ赤にしながら、駄目だ駄目だと断ってくる。
むぅ~、でもそこまで頑なに否定されるとなんかムカつくんですけど…。

「ふーんだ。そんなの冗談に決まってんじゃん。
 ちょっと顔真っ赤にしすぎじゃない~?」

「――!ったく、朝から冗談きつすぎるぞ。
 本当に着替えるから下降りててくれ。」

少し反撃の意味を込めて茶化してやると、揶揄われたと気付いた京介は、
若干肩を落としながらシッシッとあたしを追い払う仕草をとる。

ほんっと京介はシスコンだよねぇと笑いながら京介の部屋から退散する。
しかし、その笑顔とは対照的に、あたしの心の中には妙なモヤモヤが溜まっていた。
途中強引に明るい雰囲気へ持っていったが、
先程のどこか怯えを含んだ京介の瞳があたしの目に焼き付いていた。

「……何だったのかな?」

小さく呟いて2階を振り返るが、もちろん答えが返ってくることはない。
京介の不可解な行動が、あたしの心に小さな波紋を広げていく。
あたしは掴まれた左手首を見て、首を傾げながらリビングに戻っていった。

その後、着替えて下に降りてきた京介は普段と変わらない様子で食卓に着いた。
本当に桐乃の淹れた紅茶は美味しいなぁ、と嬉しそうな顔をする京介を見ている内に、
さっきのは何かの気のせいかなと、小さな疑念は自然と薄れていった。


251kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/14(日) 18:34:43.11tPbq/QdG0 (5/7)

それからは、お父さんがやっぱり俺も家に残っていたいと駄々をこねたことを除いて、
いつも通りとても和やかに朝食の時間は過ぎて行った。
ちなみに、お父さんの嘆願はお母さんにあっさり却下され、半泣きで仕事に出掛けて行った。
可哀相なので、帰ってきたらパパと言ってあげよう。



桐乃の通う中学
AM8:30

始業前の校内は生徒たちが友達同士楽し気に喋り合い、非常に賑やかな雰囲気を作り出している。
交わされる話題はクリスマスや正月の予定から受験、卒業の話など実に様々だ。

「あやせ、加奈子、おはよ。」

「あ、おはよう桐乃。」
「…ちーっす。」

教室の扉を開けて、既に登校していたあやせと加奈子に声をかける。
あたしのあいさつに、あやせはパッと顔を輝かせて応え、加奈子はなんとも素気ない返事をする。
2日しか顔を合せなかっただけなのに、随分と久し振りな気がする。

「桐乃がこんなに遅いのって珍しいね。
 いつもなら私達より早いのに、何かあったの?」

「えっ…あれ、そうかなぁ?
 えーと、そう!ちょっと朝の準備に時間がかかっちゃってさぁ。
 バタバタしてたらこんな時間になっちゃったんだ。
 …あっ、べ、別に京介とかは全く関係ないからね!?」

あやせからの当然ともいえる問い掛けに、あたしは壁に掛けられた時計を見遣ると、
後数分でチャイムが鳴るような時間だった。

今日は京介とギリギリまで喋ってたから、家を出るのが遅くなっちゃったんだよね。
京介に紅茶を何度か淹れ直してあげたりしたことも理由なのだが、
そんなことを正直に言えば、あやせからどんなことを言われるかわかったものではないと、
咄嗟に思いついた適当な言い訳を口にする。

その言い訳が更に墓穴を掘っていることには、桐乃自身全く気付いていないのだが…。

「ふーーーーーーーーん。
 それは大変だったね、桐乃。」



252kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/14(日) 18:35:22.46tPbq/QdG0 (6/7)

「そうなんだぁ。あ、あははっ。」

あたしの強引な言い訳に、あやせは笑顔で苦労を労ってくれる。
しかし、その瞳からは半分光彩が失われており、背中には黒いオーラが見え隠れしている。
うぅ…。あやせのあの目は絶対信じてくれてないよぉ。
トラウマになりつつあるあやせのレイプ目から逃げるように、加奈子の方へ目を移す。

「……………。」

「……?」

いつもなら、
『へっ。どぉーせ、厚化粧すんのに時間掛けすぎたんだろww
 素材が微妙だと化けるのも大変だよなwww』
などとおちょくってくる加奈子が珍しくだんまりを決め込んでいる。
そのことに疑問を感じ、加奈子へ話かけようとすると…

キーンコーンカーンコーン……

タイミング良く予礼のチャイムが教室に響き渡る。
それに合わせて、今まで騒がしかったクラスもバタバタと席に戻っていく。

「あ。ほらチャイム鳴ったよ?
 すぐに先生来ちゃうし、あたし達も席に戻ろ?」

チャイムを格好のネタに、それじゃあまた後でねと2人から(主にあやせから)離れようとする。
すると、それまで一言も口を開かなかった加奈子が、ムスっとした表情であたしを呼び止める。

「…おい、桐乃。」

「ん?どうしたの、加奈子?」

「ちょっち昼休みに顔貸せよ。
 なんだぁ、その…少し話があるからよぉ。」

「……?うん、わかった。」

また加奈子には珍しく、言い渋るような様子で昼に時間を作ってくれと頼んでくる。
加奈子の普段と全く異なる雰囲気に戸惑いつつ、その申し出に頭を縦に振る。
その時のあたしは加奈子の思い詰めた気持には全く気付くことができなかった。
況してや、この日にあたしの大切な人を失うとは想像すらできなかった。





                   【Q】 1章  完



253kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/14(日) 18:41:17.16tPbq/QdG0 (7/7)

今日はここまで。
ようやく学校編に突入しました
あやせと加奈子との絡みが続いていくよ

ていうか、プロット読み返して真奈実が1度も出ないことに気づいた…
………ま、いっかw
要望が多ければどこかに割り込ませますw


254VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/08/14(日) 18:43:11.96b524laIho (1/1)

おい、続きが気になるだろこのやろう!


255VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/14(日) 20:00:29.09iOPpyzZSO (1/3)

いやいや、ここで 完 はない


256VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/14(日) 20:00:59.47iOPpyzZSO (2/3)

いやいや、ここで 完 はないw


257VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/14(日) 20:01:39.39iOPpyzZSO (3/3)

くっそw


258VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/14(日) 20:35:25.84NlDoJVVs0 (1/1)

今追いついた、単刀直入に言う。がんばって


259VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2011/08/14(日) 21:02:56.17BPKlqDsOo (1/1)

また思わせ振りな切り方しやがって…いつまでも待っててやんよ!


260VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/08/14(日) 21:41:45.773XwGmWeP0 (1/1)

麻奈実やっちゅーに


261VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/15(月) 05:24:54.311gYxopGDO (1/1)

加奈子が気付いたのか?
接点がわからんな…
続き楽しみだぜ


262VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/17(水) 19:35:17.98IZ7eh7vSO (1/1)

乙。ホントに久々にこんな面白いSS読んだ。
続きが気になる!!


263kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 17:01:00.64mw6vApo20 (1/1)

どうもキョースケです。
続きを書き終えました
仕事から帰ったら10時くらいにあげますね
もいちょいお待ちください

書き手になってみると
みんなの反応が楽しいですね~*´∇`*)


264VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/08/18(木) 18:25:22.14O5Cn8Vhv0 (1/1)

こういう作品好きだからなぁ
キョースケさんのペースで執筆していただきたいものだ
完結させてくれれば言うことナシ


265VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/18(木) 21:16:07.45lcboRn0K0 (1/1)

そーれ わっふるわっふる


266kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 22:40:41.60zuQZAKqm0 (1/12)

キョースケです
仕事から戻りました

早速続きあげてきます!
9レス頂きます('w')b
では、どうぞ



267kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 22:41:08.10zuQZAKqm0 (2/12)

                   【Q】 1章 

中学校校舎 3-B
PM12:45

学校は昼休みの時間となり、壁に据え付けられたスピーカーから最近のJ-POPが流れている。
それをBGMとして、教室の中では仲の良い友達同士で机を寄せ合わせて、
ワイワイと普段通りの賑わいを見せている。

食事を楽しむ周りとは対照的に、あたし達3人は異様な雰囲気を醸し出していた。
普段ならペチャクチャとファッションや化粧品の話題で盛り上がっているはずなのに、
今日に限っては3人ともが口を閉ざし、ピリピリとした緊張感がずっと続いていた。
お弁当を食べ終えてしまうと、空気は更に重苦しいものになっていく。

「あ、そうだっ。」

「ん?どうしたの、あやせ?」

「私、家に電話をかけなきゃいけないんだった。
 もうご飯も終わっちゃったし、ちょっと席外すね?」

最初に沈黙を破ったのはあやせだった。
この重苦しい雰囲気から抜け出すためにあやせの言葉にすぐに反応したが、
その内容はあたしの期待とは真反対のものだった。

あやせぇ…。
休み時間の度に携帯で電話してたからよっぽどの用事なんだろうけど、
この場から自分だけ逃げ出すなんてひどいよぉ。
そんなあたしの気持ちも知らず、あやせはそそくさと教室から出ていってしまう。

「「…………………。」」

―――ち、超気まずい。
本当になんでこんなことになったわけ…。

あたしは朝から続いているこの状況に、心底ウンザリしていた。
この緊張感の主因は、他でもなく目の前の加奈子だ。
朝から一言も喋らないうえに、時々加奈子から射るような視線を向けられることさえあった。
あたしには加奈子から恨まれるような覚えなんて当然無く、どうすることもできずにいた。

「加奈子っ、朝言ってた話って何なの?
 ずっと黙ったまんまで、今日の加奈子何か変だよ。」



268kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 22:41:28.37zuQZAKqm0 (3/12)

「………ここじゃ話したくねえ。
 わりーんだけど、ちょっと場所変えねーか?」

「……え?」

あたしが強引に沈黙を破って加奈子に話を促すと、
これまでTPOなど気にしたことも無い加奈子が場所を変えたいと口にした。
その言葉にあたしが面喰っていると、
加奈子はあたしの了解も得ずに席を立ち、スタスタと廊下の方へ歩いて行ってしまう。

「ち、ちょっと待ってよ、加奈子っ!?
 もうっ、ほんと意味わかんない…。」

加奈子の突然の振る舞いに意表を突かれたあたしは愚痴を吐きながらも、
無言で先に進む加奈子に後ろからついていく。

あたし達は生徒達で賑わう廊下を抜けて階段を上り、重い扉を開いて屋上へ出た。
真冬の屋上は凍えるような寒さに包まれており、
そんなところでせっかくの休み時間を潰す物好きはあたし達以外誰もいないようだ。
どうやらここが目的地だったらしく、加奈子はようやくその足を止める。

「こんなとこまで連れて来て何の話?
 いい加減、説明してくれてもいいんじゃない?」

「…………。」

あたしの問いかけに、加奈子は押し黙ったまま、口を開こうともしない。
どんなことでも臆面もなく喋る加奈子にしては本当に珍しいことだ。
そんないつもと違う加奈子の様子に、流石のあたしも少しイラついてくる。

「ちょっと、加奈子聞いっ…。」

「あーーーーーーもうっ!!
 なんで加奈子がこんなことでモヤモヤしねぇといけねーんだよっ!」

あたしがさらにせっつこうとすると、加奈子は突然、ふざけんなぁ!と言わんばかりに、
ウガーっと両手を振り上げて雄叫びをあげた。
その大声にビックリして思わずたじろいでしまう。

「か、加奈子…?」

「あのよー、前に桐乃のカレシって紹介してくれた奴いたろ?」



269kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 22:41:45.30zuQZAKqm0 (4/12)

「え?…ああ、京介のこと?」

加奈子は何の前置きもなく、以前に京介を紹介したときの話を掘り返してきた。
最初何の話かわからなかったが、すぐに今年の夏、京介と偽デートをしたときのことを思い出す。
そういえば、あのとき偶々鉢合わせになつ奈子とブリジットちゃんに京介を紹介したっけ。

「京介…?あいつ、確かコウヘイって言ったろ?」

「……?なに言ってんの、加奈子。
 前に喫茶店で紹介したのは京介だよ?」

「……………。」

2人共に京介の話をしているはずなのだが、会話がどこか噛み合わない。
それでも、あたしの言葉に加奈子はショックを受けたようで、顔には狼狽の色が浮かぶ。
親指の爪を噛みながら、…偽名?いや、でも……と、ブツブツ呟いている。

「チッ、それなら今は京介でもいいけどよぉ…。
 あいつって、本当に桐乃のカレシなわけ?」

「――――っ!?」

加奈子の思いもよらぬ質問に、今度はあたしが息を詰まらせる番だった。
今まで加奈子からは、何度かあたしの男関係のことを聞かれることはあったけど、
あの偽デート以来その話題を加奈子から振ってくることも無くなっていた。
それが今になって突然、しかも彼氏かどうか聞かれてドキリと心臓が跳ね上がる。

「えっと、言ってる意味がよくわかんないよ?」

「しらばっくれてんじゃねーぞ!
 この前、加奈子がモデルの仕事してっときにその京介が見に来てたんだよ。」

一昨日のイベントのときだ!
すぐに土曜日に秋葉原であったメルちゃんのイベントを思い出す。
あのとき、京介に写真撮影を頼んだのだが、そのタイミングで加奈子に気付かれていた…?

「へ、へぇ。そうなんだぁ。
 すっごい偶然だねー。でも、それがどうしたの?」

「それだけじゃねえ!
 そいつの声が、加奈子の糞マネと全く同じだったのはどういうこったよっ。
 よくよく見てみりゃ、髪型が違うだけで顔から背格好まで一緒だしよお!?」



270kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 22:42:07.17zuQZAKqm0 (5/12)

どうせ確証なんてないだろうと惚けると、加奈子の話は思わぬ方向に転がっていった。
く、くそマネって何のこと?
事情を全く呑み込めないあたしは、頭の中が混乱し始める。

「えっと…糞マネってもしかしてマネージャーのこと?」

「それ以外ねえだろ!
 あやせが連れてきたオールバックでサングラス掛けた奴だよっ。
 あのヤロー、加奈子に相談も無く勝手に辞めていきやがってよ!」

「……それってもしかして、加奈子が初めてモデルの仕事をした時の?」

「ああ、そうだよ!
 どうせてめえもあやせかあの糞マネから聞いてんだろ!?」

『―――やっぱり!』

あたしはパズルのピースが心の中でピタリとはまるように一瞬で事情を理解する。

あの日、加奈子が勝ち取った非売品のメルちゃんフィギアをあやせからもらった時に、
あやせは加奈子から譲ってもらったと言っていた。
あのメルちゃんのコスプレイベント会場には〝なぜか〟京介も居たことはよく覚えている。
それも〝オールバック〟で黒いホストのようなスーツを着て、だ。

あの日はメルちゃんフィギアをもらって有頂天になっていたせいで、
京介への尋問を忘れていたけど、加奈子の話から察すれば一目瞭然だ。
経緯はわからないけれど、京介は加奈子のマネージャーをやっていたということだ。

加奈子は京介の正体が自分のマネージャーだと確信していて、
その事実をあたし達が隠していたと勘ぐっているようだ。
しかし、この様子ならまだ京介があたしの実の兄ということまでは勘付いていないはずだ。
それなら、ここでなんとしても京介のことを誤魔化しておかなければならない。

「え~、加奈子の気のせいじゃないかなぁ?
 世の中には似てる人なんていくらでもいるじゃん。」

「あぁ!?仕事モードの加奈子なめてんじゃねえぞ!
 加奈子は一回見た奴はぜってー忘れねえんだよっ。
 あれは間違いなく加奈子の糞マネだった!
 そこまでいうなら桐乃のカレシをここまで連れてこいよ!?」

「そ、それは……。」



271kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 22:43:14.86zuQZAKqm0 (6/12)

下手に誤魔化そうとしたら、逆に火に油を注ぐ結果になってしまった。
加奈子の烈火の如き怒声に圧倒されて、思わず口篭てしまう。

「やっぱりできねーじゃねえか!
 前に喫茶店で会ったときから、どっか変な感じがしてたんだよ。
 恋人ってわりにはどっちもぎこちねーし、カレシカノジョって雰囲気でもなかったしよお。
 どーせ、テメーの我儘で加奈子の糞マネを引っ張り回したとかじゃねーの?」

「そ、そんなこと……。」

我が意を得たりと、加奈子は語気を強めてあたしと京介の関係を否定してくる。
反論しようとするが、京介を強引に振り回したことはある意味間違っていないので、
どうしても語尾が弱くなってしまう。

「加奈子は別にどーでもいいんだけどよー、
 ブリジットのやつが糞マネが居なくなってからうっせーんだよ。
 前のマネージャーさんじゃないとヤダってな。
 あいつもまだガキだし、人見知りも激しいからしゃーねえけど。」

「…………。」

「けど、どうせ桐乃も本当はアイツのこと好きでもなんでもないんだろ?
 カレシでもないなら別にいいじゃん。
 それなら〝京介〟を加奈子に返してくんねーかなぁ?」

最後はまるで勝ち誇ったように意地悪くニヤけると、
加奈子は『京介』のところをわざと強調して強請ってくる。
まるでいつものようにテンパったあたしが押しに負けて、
京介をあっさり譲るものと確信しているかのように…。


しかし、その京介という言葉がスイッチとなった。
ガチンッという音と共に、心の中でどす黒い感情が濁流のように渦巻き始め、
あたしの理性を一瞬にして決壊させてしまう。


「――はぁ?何言ってんの、あんた?」

「………ぁあ!?てめぇ!加奈子に今なんつった!?」

一瞬加奈子は何を言われたか理解できずに呆けた顔になるが、
すぐに怒り狂ったような怒鳴り声を上げる。
それでもあたしの心は氷のように凍てついていて自分でも驚くほどに冷静だった。
現に今、目の前で喚き散らしている加奈子でさえ、ただの生意気なガキにしか見えない。


272kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 22:43:42.47zuQZAKqm0 (7/12)


「1人でキーキー盛り上がんなっつってんのよ。
 日本語もわかんないくらいバカなの、あんた?
 あと、悪いんだけど人の彼氏を勝手に呼び捨てにしないでくれる?」
 
「なっ!?て、てめえ!!!」

その挑発的な言葉に、加奈子は額に青筋を立ててあたしの胸倉を掴みにかかる。
しかし、あたしはその加奈子の手を無碍も無く払いのけると、逆に語気を強めて声を張り上げる。

「彼氏じゃない?好きじゃない?
 そんなの全部加奈子の想像じゃん!
 加奈子の妄想で勝手にあたしの気持ちを決めつけんなっ!!」

「――――っ!?」

思いもよらぬ反撃を受け、加奈子は目を見開いて一歩後ずさる。
スイッチが入ってしまったあたしは、
そんなことは気にも留めず、さらに強い口調で熱弁を振るう。

「確かに京介は加奈子のマネージャーをやってたのかもしれない。
 けど、それとこれとは話が違う!!
 あたしがあの時、喫茶店で加奈子達に言ったこと覚えてる?
 あたしは京介の優しいとこも、頼りになるとこも、あたしのことを好きなところも全部好き。
 それは何も変わってない。全部あたしの本当の気持ちなの!」
 
「……………。」

「ううん、あの時よりあたしは京介のことがずっとずっと好きっ。大好きっ!
 誰になんて言われようと、そんなの関係ない!
 京介が誰かなんて全然関係ないっ!
 だって〝あたしが〟好きなんだから!!
 京介は加奈子にも他の誰にも絶対渡さない!!!」

京介はあたしのものだと屋上に響き渡るような大声で吼えた。
気が付けば外見や世間体なんてお構いなしに、
京介への気持ちを親友の加奈子に本気でぶちまけていた。
全てを言い終えたあたしは、はぁはぁと息切れを起こしながらも、
歯を噛み砕く勢いで軋ませて加奈子を睨み付ける。

「…わーった、わーったよ!
 桐乃の気持ちはよーくわかったから、そんなマジになんなって
 ちょっとおちょくっただけじゃねーかよ。」


273kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 22:44:15.95zuQZAKqm0 (8/12)


先程までの強張った表情から普段の気だるげな表情に戻り、
あほくせーと言わんばかりに加奈子は大きく肩を竦める。
あまりに急変した加奈子の態度に、あたしは面喰って狼狽えてしまう。

「え……どういうこと?
 ―――あっ、もしかして!?」

「ほんと、途中で気づけよなー?
 桐乃もどんだけマジになってんだよw
 途中から笑いを抑えるのに必死だったぜぇ~ww」

加奈子はお腹を抱えてケタケタと笑い声をあげ始める。

……か、担がれた!
あたしはこの時になってようやく、加奈子に誘導されていたことに気付く。
そうとわかると、顔を真っ赤にして好きだのなんだの大声で叫んでいた自分が、
無性に恥ずかしくなる。

「か、加奈子~~~!?」

「『あたしが好きなんだから!』ってか?
 ほんと、傑作なんですけどぉwww」

「……………。////」

加奈子に先程の発言を揶揄されて、恥ずかしさから耳まで真赤に染まる。
頭に血が上っていたとはいえ、なんてことを言ってんのよあたしはーっ!?
加奈子に醜態を晒してしまったと思うと、後悔で頭を抱えたくなる。

「てゆーか今のが桐乃の素なのな。
今までどんだけ猫被ってたんだよ、おめえは。」

呆れた顔で肩を竦める加奈子に、あたしは何も言えなくなってしまう。
ううう…。本当に泣きたくなってきたよぉ…。

キーンコーンカーンコーン……

そのとき、終わりを告げるチャイムの音が校舎に響き始める。
校庭に出ていた生徒達も次々と校舎の中に戻っていく気配が伝わってくる。

「ほ、ほら。チャイム鳴っちゃったよ?
 早く教室に戻らないとっ。」


274kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 22:44:40.76zuQZAKqm0 (9/12)


あたしは一刻も早くこの場所から離れたい一心で、チャイムを口実に早く戻ろうと加奈子に促す。
踵を返してドアの方へ向かうが、後ろから加奈子が付いてこないことに気付いて振り返る。

「…加奈子?どうしたの?」

「あー、加奈子はパス。」

「え、どういうこと?」

「なーーんか、桐乃のノロケ聞かされたせいでやる気失せちまったわ。
 加奈子はこのまま授業フケっからよぉ、センコーには適当に言っといてくれヨ。」

「そう…?わかった。
それじゃ先にいくね?」

加奈子はウゲーと吐く真似をしながらあたしを茶化すと、このまま授業をサボると言ってくる。
加奈子はこれまで授業をサボることが度々あったので、
そこまで気にすることなくあたしは屋上を後にした。



<<加奈子side>>

桐乃の姿が扉の向こうへ消えたことを確認すると、
加奈子は大きなため息を吐いて屋上の床に腰を落とした。

「タバコ、タバコと……チッ、そういや禁煙してたんだっけ。
あ~、こんなんなら禁煙する必要もなかったんじゃねーの?」

タバコを求めて制服をまさぐるが、すぐに禁煙をしていたことを思い出す。
そう愚痴りながら、桐乃が消えていった扉の方へと視線を移す。

「……そっか、桐乃とあの糞マネ、本当に付き合ってんのか。」

1人ポツンと屋上に残された加奈子は小さく呟く。
すると、水滴が加奈子のスカートにポタリと落ちてくる。

「チッ、雨でも降ってきやがったのかぁ?」

苛立たしげに空を見上げるが、頭上には雲1つない晴天が広がっていた。

「………?」


275kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 22:45:09.41zuQZAKqm0 (10/12)


疑問に首を傾げると、水滴は更に1つ2つと制服に跡を残していく。
何かと思えば、それは自分の目から頬を伝って流れ落ちていた。

「ちょ、ちょっと待てよ!なんだこれ!?
 なんで加奈子が涙なんて流してんだよ!
 ちっきしょー、だっせーな。マジで意味わかんねえし。」

自分が涙を流している事実に驚愕し、悪態をつきながら袖で目元を拭う。
それでも瞳からはボロボロと大粒の涙が頬を伝い落ちていく。
拭っても拭っても涙は止まるどころか、拭いきれない程に溢れだしてくる。

「っ…なんだよ!?単にあの糞マネと桐乃が付き合ってるってだけじゃねーか!
 べ、別に加奈子には何にも関係ないしぃ~?
 …うっぐ……だからいい加減止まれよ、バカヤロぅ………。
 うぅ……ヒグッ………ちきしょう……エグッ………ちきしょうっ………!」
 
罵倒の言葉も次第に涙声へと変わっていき、ついには膝を抱えて泣き崩れてしまう。
冬の寒空の下、肩を震わせた少女の泣き声は誰一人いない屋上に寂しく響き続ける。




                   【Q】 2章  完


276kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 22:54:27.19zuQZAKqm0 (11/12)

今日はここまで。

加奈子はやっぱりすごいいい娘なのですよ、なお話
最初予定した2倍以上の文量になってしまったw
次回はあやせメインのお話です
がんばって書くのでお待ちください('w')

p.s

何人くらいの読み手が見てるのかなぁと疑問に思う今日この頃
纏めて読めるようにどっかのSSサイトにでも上げ直そうか考えてます






277VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/18(木) 22:57:17.375i5kmRfSO (1/1)

乙。次はあやせか、楽しみだぜ!!


278VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/18(木) 23:03:35.90NhBbOxT7o (1/1)

桐乃は京介が幸せにするだろうから
かなかなちゃんは俺が幸せにしてやんよ!


279VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2011/08/18(木) 23:06:46.42kTHpurHr0 (1/1)




280VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/18(木) 23:08:37.498M/DlFWl0 (1/1)

>276
ちゃんとよんでるぞ


281VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/18(木) 23:14:50.17M28KwSTAO (1/1)



ノシ


282kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/18(木) 23:20:27.17zuQZAKqm0 (12/12)

>>277
どちらかといえばQ章はあやせが主役なのですよ

>>278
こんな話書いといてなんだが、かなかなちゃんは京介の嫁だと信じてる

>>280
目次がないと読みにくくない?
別にそうでもないか



283VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/08/18(木) 23:28:15.98XqiM5owoo (1/1)

これで京介=桐乃の兄貴と加奈子が気づいたらどうなるんだろうwwktk


284VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/18(木) 23:29:48.76Kplku4xJo (1/1)


楽しみに読ませてもらってるよ


285VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/18(木) 23:43:12.40GzpiWrhSO (1/1)

お疲れい


286VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/18(木) 23:44:40.36w3xg2XmE0 (1/1)

普段レスしてないけど、読んでるよ
スレ立てろって総合で誘導したのも俺だし


287kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/19(金) 00:00:17.441CaE0gMc0 (1/1)

>>283
それこそ修羅場ですなぁw

>>286
最初のアドバイスの人ですか!
その節はどうもですw


288VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/08/19(金) 00:20:12.79uEkN3w8AO (1/1)

みてるぜ


289VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2011/08/19(金) 00:21:37.85Q14/Y3hco (1/1)


毎日更新チェックしてるぞ
がんばれ


290VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/19(金) 03:35:25.506BRBZIXio (1/1)

俺も毎日見てるよ!
連載頑張れー


291VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/19(金) 07:12:17.63y5KP48Zq0 (1/1)

>>276

上げ直しは自由だが、ここを見捨てるのはカンベンしてくれよな


292VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/19(金) 07:59:56.42Ft1dktQB0 (1/1)

おもしろかった!
続きも是非!


293VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/19(金) 22:33:19.80rOiZA6dro (1/2)

読んでるよ!続きヨロ!


294VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/19(金) 22:38:11.99rOiZA6dro (2/2)

読んでるよ!続きヨロ!


295VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/20(土) 00:34:56.140AFfBQNDO (1/1)

かなかなちゃんカワイソス…
しかし兄貴だとバレると一転桐乃が苦しくなるな


296VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/08/21(日) 09:42:38.814VbVYMKa0 (1/1)

加奈子もいいものだ


297VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)2011/08/26(金) 13:28:17.46t6G45jdno (1/1)

GJ。しかし俺的には修羅場分が全然足りない…

誰がキスした寝とった張った刺したの怒涛の連続イベントを期待したいのだが
そんな俺妹SSがちっとも出てこないorz


298VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/26(金) 16:24:23.76ssbX+uRY0 (1/1)

>>297
待ってるぜ……君の超凄い[田島「チ○コ破裂するっ!」]を!


299kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/27(土) 02:29:43.948uLr1YRV0 (1/10)

>>298
おっと、そいつは楽しみだぜぃ!

どうも。キョースケです
やっと書き終えましたQ3章
またもや長くなりそうだったので前・後編に分けてみました。

それじゃあ8レス頂きます
続きをどうぞー



300kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/27(土) 02:30:26.308uLr1YRV0 (2/10)

                   【Q】 3章 

高坂家 リビング
PM12:40

<<京介side>>

季節は冬。
家の外には木枯らしが吹き、窓はカタカタと小さく音を立てている。
部屋の中は暖房で過ごしやすい温度に整えられて、
暖房の稼動する音と微かな寝息だけが部屋を支配している。

「んん…。」

その静寂の中で小さな呻き声が上がり、瞼がゆっくりと開かれていく。
開いた眼にはまずリビングの天井が入ってきた。

「…………。」

寝起きで頭がボーッとして、思考能力が正常に戻るのに刹那の時間がかかった。
そうだ。朝御飯を食べて桐乃を見送った後、
酷い睡魔に襲われた俺はリビングのソファに横になったんだ。
どうやらそのまま浅い眠りについてしまったようだ。
母さんが気を利かせてくれたのか、一枚の毛布が体にかけられていた。

「ちょっとは眠れたかな…。」

結局昨日は、あのまま朝方まで寝付くことができなかった。
朝の強烈な眠気もそれが原因なのは間違いないだろう。

「んんーーっ。」

ソファの上で大きな伸びを一つしてから、
変な体勢で寝ていたせいで凝り固まった肩をゴキゴキと鳴らして周囲を見渡す。
キッチンには母さんの姿はなく、俺以外に人の気配は感じられない。

リビングの机の上には俺の携帯と一枚のメモが置かれている。
メモは母さんが書き残していったものだろう。
寝ぼけ眼を擦りながら、それを手にとって軽く読み流す。


301kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/27(土) 02:30:58.988uLr1YRV0 (3/10)



「京介へ

 ちょっとご近所の方のところへ行ってきます
 お昼には戻るから、ご飯は待っててね

 母より                        」

ふむ、どうやら母さんは井戸端会議に出席しているようだな。
読み終えたメモをクシャリと丸めて投げ捨た後、壁に掛けられた時計を見上げる。

12:42

どう見てもとっくにお昼の時間は過ぎているよな…。
ぐぅううーと腹の虫も時間を思い出したかのように、体の中で喚き始める。

「腹減った…。
 どうせ喋るのに夢中になって時間を忘れてるんだろうなぁ。」

この調子では昼御飯を食べ損ねると判断した俺は、早々に1人で生きる道を選択する。

「けど、勝手のわからん台所で料理をするのも危ないか?
 しゃーない、カップラーメンぐらいならあるだろ。」

自炊を諦めてインスタントで済ますことに決めた俺は、ソファからスッと立ち上がる。
その際に、チカチカと着信を示して光り続けている携帯を手に取る。

まだこの携帯には桐乃のアドレスしか登録されてない。
恐らく着信も桐乃からだろうと当たりをつけてディスプレイを起動させると、
予想通り新しいメールの受信画面が表示されたのだが…

「うおっ?」

その画面を見た俺は、思わず驚きの声をあげてしまった。
朝は空だったはずの受信フォルダが、たった数時間で20を越えるメールで埋め尽くされていた。
送信者は全て桐乃からのものだ。

「まさか桐乃の身に何かあったのか!?」

在らぬ不安に駆られて、顔を少し蒼褪めながら一番最初のメールを開く。

from 桐乃
題名
本文 学校着いたよ~(*゚ー゚)v




302kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/27(土) 02:31:26.078uLr1YRV0 (4/10)


――なんだこりゃ?
桐乃から送られてきたメールは予想に反して、拍子抜けする程他愛のないものだった。
他のメールも開けてみるが、どれもこれも内容に大差はない。


授業つまんな~い(# ̄З ̄)
今日掃除当番なの忘れてた↓↓
数学のテスト100点だったv(。・ω・。)
加奈子がすっごい機嫌悪い…
今日は結構暖かいね(*´∇`*)
もうすぐお昼だよ~


どんだけメールが好きなんだ、あの子は…。
1文だけの非常に短いメールばかりなのだが、全てデコメや絵文字で可愛く装飾されている。
中には明らかに授業中に送られてきたと見受けられるものもある。

「記憶を無くす前も、俺は桐乃とこんなにメールしてたのか?
 恋人同士でもこんなにやらないだろ…。」

そう思うと、昨日から気になっていた疑問が湧いてくる。
俺と桐乃との関係って一体何なんだろう、と。

もちろん俺達は血の繋がった兄妹だ。
それ自体は当たり前のことだし、絶対に変わることのない事実だ。
ただ、今の俺はその当たり前の関係に微妙な違和感を感じていた。

記憶を無くしてから昨日一日過ごしただけだが、
俺と桐乃が非常に仲のいい兄妹だということはよくわかった。
いろいろと世話を焼いてくれるのも、記憶を無くしたことに責任を感じているからだろう。

しかし、それだけではどうしても腑に落ちない部分がある。
俺の幼馴染みの女の子の話が出た途端、異常な程の敵意を剥き出しにしたり、
街中では人目を憚らずにベタベタした態度を取るのに、常に俺の反応を気にしていた桐乃。
これをただ〝仲が良いから〟という言葉だけで安直に片付けてしまっていいのだろうか?

桐乃から好きという感情を寄せられていること自体は昨日の早い内から気付いていた。
正直あそこまで素直な感情を向けられたら、どれだけ鈍感でバカな奴でもすぐわかるだろう。

ただその好意も、ちょっとした家族愛のようなものだろうと俺は思っていた。
だが、桐乃の俺への態度やこのメールに関しても、
桐乃の感情は家族としての〝好き〟から少し逸脱している気がしてならない。



303kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/27(土) 02:31:49.418uLr1YRV0 (5/10)

あまりにも荒唐無稽過ぎて口にするのも億劫なのだが、
もしかして桐乃は俺を異性として意識している……?

桐乃の気持ちを考えていると、
自分の思考がありえない方向へと跳びかけていることに気付いてハッとする。

「―――っいや。無い!それは無いって!?
 ドラマかマンガの読みすぎだろ、俺!
 妹が実の兄のことを好きで、その兄も――ってことなんて…。」

そのバカげた発想を否定しようとするとするのだが、
頭で否定すればするほど、そこから更に思考は深みに嵌まっていく。
有り得もしない妄想で一杯になっていく自分の頭が正直怖くなってきた。

「ぐわーーっ!何考えてんだ馬鹿野郎っ!
 そんなの変態じゃねーか!?
 変に意識するなって!!」

あまりの妄想の恥ずかしさに顔を真っ赤にした俺は、
ガッデムっ!と叫びながらリビングで大きく身を捩らせ始めた。

リリリリン…リリリリン…!

「うおっ!?」

そんなところで突然、家の電話がけたたましく鳴り始めて心臓が飛び出るほど驚いてしまう。
家への電話なので、出るべきかどうか少し悩んだが、
家に居るのにとらないのも悪い気がして恐る恐る受話器を手に取った

「…もしもし?」

「あ、もしもし。高坂さんのお宅ですか? 
 私、桐乃の同級生の新垣と申します。」

「…はあ。」

電話の主は若い女の子のようで、畏まった口調で新垣と名乗ってきた。

『桐乃の友達がこんな真っ昼間に何の用だ?』

学校にいるはずの桐乃の友達と名乗る電話口の女に、俺の警戒心は自然と高まっていく。
言葉遣いは非常に丁寧なのだが、それが却って相手の胡散臭さを強める要因となっていた。



304kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/27(土) 02:33:19.378uLr1YRV0 (6/10)

「すいませんが、京介さんは今日どうされてますか?」

『―――俺?』

電話口の女から思わぬ質問が飛んできた。
桐乃の友達だと言うからには、何かしら桐乃に関しての用件だと警戒していたので、
意表を突かれた形となる。

「あ、えっと…俺が京介ですけど?」

「―――えっ!?
 お兄さん!!?」

「お、おにいさん?」

おずおずと自分が京介だと答えると、電話口の相手が大きく驚く様子がこちらまで伝わってきた。
そして俺は俺で記憶にない女の子から、突然お兄さん呼ばわりされて混乱が更に深まっていく。

「なんでこんな時間に家にいるんですかっ!
 学校はどうしたんですか!?」

先程までの丁寧な話し方から一転して、相手の声は興奮した大きな声へと豹変した。
なんで、どうして、と矢継ぎ早に俺へと詰問を投げ掛けてきた。
そのあまりの変わり様に腰が引けつつも、なんとか事情を説明しようとする。

「あ、いや。それはな…。」

「携帯の方に出なかったのも、そういうやましいことがあったからですね!
 朝から何度も電話を掛けてたんですよ!?
 それに、桐乃がお兄さんのことを京介って呼んでたのはどういうことですか!?
 私言いましたよね?桐乃に手を出したらどうなるかって――。」

な、なんなんだ、こいつは!?
俺の話は1つも聞かずに、質問を被せてきやがった!

喋りだしたら止まらないとは正にこの事だ。
ヒステリを起こしたかのような甲高い声で、
そいつは電話口でギャーギャーと叫び声をあげてヒートアップし続けている。
最後には、なぜか桐乃が俺のことを「京介」と呼んだだけで、
俺が妹を襲ったと勝手に決めつけられてしまった。

「ちょっと待て!
 何の話か全然…っ」


305kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/27(土) 02:34:35.138uLr1YRV0 (7/10)


「言い訳ならいつもの公園で聞かせてもらいます。
 学校が終わってすぐの3時半に来てください。
 そこでお兄さんの罪状を言い渡しますから。」

「……公園?」

何とか言い返そうとするが、無碍も無くピシャリと俺の言葉は断ち切られて、
更にはいつもの公園にこいと命令してきやがった。
〝いつもの〟と言われても記憶の無い俺にはさっぱりわからないので、
鸚鵡返しのように聞き直してしまった。

「またふざけてるんですか!?
 すぐ側に交番がある公園ですよ。
 3時半ですからねっ?
 少しでも遅れたらぶち殺しますからっ!」

ガチャッ!!ツーツーツー……

「こ、怖ぇええーーー!?
 なんなんだこいつは!
 悪戯電話にしても質が悪すぎるだろ!!
 キチガイか?キチガイなのか!?」

『遅れたら殺す』と物騒な言葉を残して、そいつからの電話は一方的に切られてしまった。
あまりにも理不尽過ぎる状況にやり場の無い怒りが込み上げてきて、
受話器を握ったまま叫び声をあげる。
その時、玄関のドアをガチャリと開けて母さんがようやく帰宅する。

「ただいまー。ごめんねぇ京介、遅くなって。
 あら、そんなとこで何してるの?」

「あ、ああ。
 なんか桐乃の友達っていう新垣って子から電話があったんだけどさ…。」

「あら、あやせちゃんから?
 何の電話だったの?」

帰ってきた母さんに事情を説明しようとすると、新垣という名前を聞いただけで、
母さんはすぐにあやせという名前を出してきた。
どうやら母さんはあのキチガイ女を知っているようで、
桐乃の同級生というのも一応は本当のことらしい。



306kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/27(土) 02:35:56.878uLr1YRV0 (8/10)

「俺もよくわからん。
 名乗ったら急に怒られて、公園に来いって命令されてすぐに切られちまった。」

うーむ、改めて説明すると自分でも本当に意味がわからん。

「公園に?…あんた、あやせちゃんに何したわけ?」

「何もしてねーよっ!?
 って言っても記憶がないから覚えてないけどさ…。」

「それもそうね。なら、ちゃんと行って謝ってきなさいよ?」

「…………。」

あ、あれれー?なぜか俺が謝りに行くって決定してるぞ?
どうやら母さんの中では、俺が悪いことは確定事項のようだ。
あんなキチガイより評価の低い俺って…。
母さんからの信頼の無さを知って、半分涙目になりながら渋々頷くのだった。



通学路近辺
15:25


俺は携帯のマップを頼りに、見知らぬ住宅街をキョロキョロと見回しながら進んでいた。
ちょうど学校が終わった時間のようで、周りにはチラホラと家路を急ぐ生徒の姿が目に入ってくる。

正直、ギリギリまで公園に行くかどうか迷ったのだが、
そのキチガイは俺と桐乃の共通の知人らしいので、俺たちの関係についても、
何かしらの情報を得られると思ったのだった。
今日の朝、桐乃から放課後すぐに帰るから家に居るように言われていたが、
掃除当番だから帰りが遅くなるとメールでもあったし、桐乃が家に帰るまでに戻ればいいだろう、
という気持ちになっていた。
あ、ちなみに桐乃のメールには一応全部返信しといたけどな?

「お、あれかな?」

そんなことを考えていると、住宅地から道の開けた眼前にお目当ての公園を見つける。
あの〝あやせ〟とかいう女の言葉通り、公園のすぐ側には小さな交番も見受けられた。
チラッと中を窺うが、パトロール中なのか警官の姿は見当たらない。
最悪、危なくなったらこの交番に逃げ込めばいいと思っていたのだが、
どうやらそうはいかないらしい。



307kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/27(土) 02:36:21.688uLr1YRV0 (9/10)

その交番の脇を抜けて、俺は壁に隠れるようにして公園を見渡す。
この公園はアスレチックなどはあるにはあるのだが、想像以上に寂れており、
加えてこんな刺すような寒さの中では人の数も非常に疎らだ。
そして公園の交番に近い方のベンチにセーラー服を着た女の子が1人、
俺に背を向ける形でポツンと座っていた。
後ろ姿を見る限り、至って普通の、どちらかと言えば華奢そうな女の子で、
特段怪しいところは見当たらない。
一先ず悪戯とかの類いでは無さそうなのでホッと胸を撫で下ろす。

『いや、外見が普通だからった油断するなっ。
 振り向いたら化け物みたいな奴かもしれん!』

先程の電話のせいで、相手の印象は最悪のものになっていた。
いつ襲い掛かってこられても大丈夫なように警戒しつつ、
後ろからこっそりとその女に近づいていく。

「あ、あやせ…ちゃん?」

手の届きそうなところまで近づいて、恐る恐る声をかける。
声が少し裏返ったのはビビってるからじゃないんだからね!?

俺の問い掛けに女の子は一瞬ビクッと肩を震わせた後、ゆっくりこちらへと振り向いた。
そして俺はその顔をみて、思わず自分の目を疑っていた。
なぜなら…

―――――そこには天使が座っていた。




                   【Q】 3章  完


308kyosuke ◆Oamxnad08k2011/08/27(土) 02:42:15.648uLr1YRV0 (10/10)

今日はここまで。
記憶を無くした京介は鈍感なんかじゃないんですっ
ってか本編は鈍感すぎ(ry

来週は遅めの夏休みで帰省するので、お休みです
もしかしたら、家でコツコツ書くかもしれませんがw
ちょっと長めに待ってやってください。

次回
京介があやせが交差する刻、物語が始まる



309VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/08/27(土) 02:56:40.94sbuw4lXN0 (1/1)

まぁ端から見ればあやせは普通にヤバい人だよな…


310VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/08/27(土) 05:40:29.27HwfK6grd0 (1/2)

激しく乙!続きが気になる!


311VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/08/27(土) 05:41:52.02HwfK6grd0 (2/2)

激しく乙!続きが気になる!


312VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/08/27(土) 06:28:50.62zNPKdZBAO (1/1)




>京介とあやせが交差するとき

ベッドの上でプロレスごっこ?わっふるわっふる


313VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/27(土) 09:32:22.95PeFBQIpZ0 (1/1)

乙!続きが楽しみだ!


314VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/27(土) 10:47:12.61NXTzZOfSO (1/1)

乙。おもしろ過ぎる…。早く続きが読みたい!!


315VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)2011/08/27(土) 11:46:41.19qco1AIZ80 (1/1)

追いついた


316VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/08/27(土) 12:10:30.64YxH8Obb+o (1/1)

おい!またいいところで切りやがって!
早く続きを書け!いや書いて下さい!!


317VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/27(土) 22:11:56.783Oy5cCUDO (1/1)

うぉぉいここで終わりかよ(;´Д`)


激しく続きが気になる


318VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/28(日) 06:44:28.28Tr2FYJtDO (1/1)

あやせのターンktkr
俺はいま猛烈に興奮しているっ!


319VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/28(日) 21:27:35.73g/rs9w410 (1/1)

さ あ 盛 り 上 が っ て ま い り ま し た

加奈子はどうか気を落とさずに……!!


320VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/08/29(月) 09:47:05.21d3LPvwSYo (1/1)

俺はぁぁぁぁ加奈子が大好きだぁぁぁぁ!!


321VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/08/31(水) 03:32:02.354gEE7N8AO (1/2)

待ってる自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


322VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/31(水) 09:48:33.556qvQg7Bp0 (1/2)

久々にいいのを発見!!
続編に期待自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


323VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/31(水) 11:52:11.006qvQg7Bp0 (2/2)

続きが気になって宿題が進まないww あ、俺中二です自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


324VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/08/31(水) 14:56:10.34yFKILoKuo (1/1)

wktk自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


325VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/08/31(水) 20:07:47.804gEE7N8AO (2/2)

待ってる自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


326VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/09/03(土) 12:23:04.67PwKuiTr20 (1/1)

はよ自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


327VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/03(土) 15:57:04.33AUicjpdk0 (1/1)

ssを読んでてこれみたいな長編読めない奴は小説の面白さをしらん人だと思う自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


328VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/03(土) 20:13:06.02ZZnnUtQk0 (1/1)

一週間たったよ~つづきまだ~自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


329kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/03(土) 20:34:35.72npU8+j680 (1/1)

どうも京介です。
帰省先から帰ってきました

ちょくちょく書いてはいましたが3割いってませんorz
あやせ書くの難しいよ、あやせ。
英気は養ったので今週中には完成させる予定です
待っててくだされ!

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


330VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/03(土) 23:11:23.11jHCwQ3r8o (1/1)

キター!自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


331VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2011/09/04(日) 02:18:19.73cu4RC1qgo (1/1)

把握
待ってるぞ

自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


332VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/04(日) 18:38:20.15Z24v0ry20 (1/1)

ま~だ~か~・・・。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


333VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/09/05(月) 08:20:33.083WGz94NEo (1/1)

楽しみだ。
個人的な意見を言うと、本編みたいにあやせに好意をもつより、
(記憶がないせいで)紳士的に振る舞う京介に逆にあやせが好意をもつみたいな展開を見たいぞ。


334VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/05(月) 22:46:52.80/61GpUgL0 (1/1)

記憶を無くした京介のあやせにたいする態度が気になる


335VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/08(木) 22:54:27.26VCl4lg2k0 (1/1)

まーだーかー


336kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/08(木) 23:28:15.98hqSFBmHo0 (1/10)

どうもキョースケです。

やっと4章書き終えました。
今回は投稿が遅くなってしまって申し訳ないorz

早速7レス頂いて上げてきますね
では続きをどうぞ。


337kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/08(木) 23:28:50.06hqSFBmHo0 (2/10)

                   【Q】 4章 

千葉市 児童公園
PM3:30


この児童公園には遮蔽物のようなものは殆ど無く、空はスッキリと晴れているのだが、
強い風のせいで気温以上に肌寒く感じられる。
辺りにはこの厳しい寒さにも負けることなく放課後を満喫している小学生がチラホラと見えるだけだ。

「あ、あやせちゃん…?」

そんな公園の隅で、俺はベンチに座る一人の女の子に後ろから声をかけた。
一応言っておくと、俺がへっぴり腰になってるなんてのはあんたらの見間違いだからな?

そんな俺の呼び掛けに、その子はビクッと一瞬肩を震わせた後、
ギギギと壊れたブリキ玩具のような音を立てながらゆっくりと立ち上がり、こちらへと振り返った。

その瞬間、俺はまるで時が静止したかのような錯覚に陥った。
なぜって?そりゃ俺の目の前に天使がいたからだ。


艶やかなストレートの黒髪は肩口まで伸び、髪の根本から先端まで乱れ一つ無い。
何故か眉を顰めているのだが、それでも美しさが全く損なわれることの無い美貌。
そして冬の制服の上からでもわかる引き締まって魅力的なプロポーション。
その佇まいは凛として、寂れた公園に咲く一輪の華のように輝きを放っている。


「お兄さん…今なんて仰いました…?」

振り返った女の子は腕を胸の下で組んで身構えつつ、少し震えた声で応えてきた。
しかし、その格好が小さくない胸をより強調しているだけだということには気付いていないようだ。
心の中でテンションがどんどんと上がっていく。

「あやせちゃんって呼んだだけだけど…?」

「あやせちゃ…!?///
 な、何を企んでいるんですか!?」

高鳴る心臓を強引に抑えつけながら答ええたのだが、どうやらその呼び方が問題らしく、
あやせちゃんはとても可愛らしい形相で俺を睨んできた。
あまりに強い警戒心を向けられたせいで、逆にこっちの方が冷静になることができた。



338kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/08(木) 23:29:18.37hqSFBmHo0 (3/10)

「いや、本当に何も企んでないって。
 実は言うと、俺の方があやせちゃんから事情を聞きたいくらいなんだ。」

「……どういうことでしょうか?」

できるだけ刺激しないようにやんわりとした口調で説明したおかげで、
あやせちゃんもどうやら俺の話を聞く気になってくれたようだ。
正直電話のようにヒステリを起こされたらどうしようかと心配していたので、
心の中で秘かに胸を撫で下ろす。
というか、目の前の女の子があの電話口のキチガイと全く結び付かないんだが、
どうしたらあんなに発狂するんだよ…。

「実はな、俺、記憶が無くなってるんだ。
 覚えているのは自分の名前だけで、あやせちゃんのことも正直何も覚えていない。
 事情が聞きたいってのはそういうことなんだよ。」

「記憶を……?
 ――嘘っ!お兄さん、また私をおちょくっているんですね!
 桐乃はそんなこと一つも言ってませんでしたよ!?」

記憶が無いことを説明すると、あやせちゃんは一瞬ポカンと呆気にとられたようだったが、
すぐにハッとして疑いの言葉をはさんできた。

「信じられんことかもしれんが、本当のことなんだ。
 ここに来たのも本当は、桐乃の友達のあやせちゃんから話を聞きたかったのが理由なんだ。
 だから一先ず俺から事情を説明させてくれないか?」

「――――わかりましたっ。
 まずはお兄さんの話を聞かせて頂きます。
 その話が真実かどうかは聞いた後で判断させてもらいますから。」

「ありがとう。
 それなら、どこから説明すればいいのかな――。」

まだ疑念を抱いているあやせちゃんの眼を真正面から見据えて、話を聞いて欲しいと頭を下げる。
その真摯な気持ちが伝わったのか、あやせちゃんは一瞬眼を逸らした後、
俺の方に向き直って話を聞く態勢になってくれた。
俺はあやせちゃんに、自身が知る限りの事情を一つ一つ思い出しながら説明していった。


土曜日に桐乃と一緒に秋葉原へ遊びに行ったこと。
交通事故に遭いかけた桐乃を庇って俺が車に轢かれたこと。
それが原因で俺は名前以外の記憶を失ってしまったこと。


339kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/08(木) 23:30:04.29hqSFBmHo0 (4/10)

携帯が壊れて買い換えたため、あやせちゃんからの電話に出れなかったこと。
学校を休んでるのも安静をとるためだということを順序立ててゆっくりと説明していった。

話が進むにつれて、あやせちゃんは顔を青くしたり、口に手を当てて驚いたりと、
目まぐるし表情が変わっていったが、途中口を挟むことなく最後まで黙って聞いてくれた。
俺の話が終わると、自分の中で話を消化しようと顎に手を当ててブツブツと何かを呟き始めた。
それから数分経って、あやせちゃんはスッと顔をあげて俺の方へ笑顔を向けてくれた。

「――事情は理解しました。
 嘘にしては話が良くできてますし、お兄さんの態度からも本当のことだと思って大丈夫でしょう。
 疑ったりして本当にすいませんでした。」

「俺自身信じられないようなことだから構わないさ。
 わかってくれて助かるよ。」
 
俺の拙い説明でもなんとか信じてくれたようで、
あやせちゃんは先程の態度から一変して俺に頭を下げて謝罪してくる。
そのことに苦笑しつつ、俺はあやせちゃんに顔をあげてくれと声を掛ける。

「………ええ。
 よーーーーくわかりました。」

――――ゾクッ!!!

そう笑顔で応えてくるあやせちゃんの瞳が怪しい輝きをを放った気がした。
天使の背中から黒い翼が生える幻覚も見えて、
背筋に氷の棒を突きたてられたような寒気を感じてしまった。
心の奥底、本能の部分で危険を訴える警笛がけたたましく鳴り響き始める。

「……どうしました、お兄さん?」

「え?あ、いや、なんでもない…。」

―――気のせいか?
思わず眼を擦ってみるが、あやせちゃんの様子はどこも変わらない。
いや、どちらかといえば先程よりも柔らかい雰囲気を帯びている気がする。
そんな俺の行動を奇特に感じたのだろう。
それでも極上の笑みで首を傾げるあやせちゃんは正に天使そのものじゃないか。
そう思うと先程の幻覚も何かの見間違いだと考え、未だ鳴り止まない警笛を無視する。

「お兄さんの記憶が無くなってしまったことは理解しました。
 それで、先程私から話を聞きたいということでしたけれど、一体どんな話なんですか?」



340kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/08(木) 23:30:29.24hqSFBmHo0 (5/10)

「あ、ああ。それはな……。」

いよいよ本題ということで、あやせちゃんの方から俺に話を振ってきた。
それで俺も口を開きかけたが、改めてこんな話を本当にすべきか思い悩んでしまい、
ついには言い淀んでしまった。

よくよく考えてみると、桐乃の友達に俺と桐乃の関係を聞くってのは非常に小っ恥ずかしい。
しかも、桐乃が俺のことを男として意識してるか聞くなんて何の羞恥プレーだよっ。
どう考えても変態です。本当に(ry

それに、そんな事を喋ってしまえば俺はまだしも、同じ学校に通う桐乃に迷惑が掛かるのでは、
変な噂が立ちはしないかと不安に駆られる。
すると、そんな俺の不安を汲み取ったのか、あやせちゃんはニコッと見惚れるくらいの笑顔を創った。

「安心してください。
 お兄さんの話はこの場の、私とお兄さん二人だけの秘密にします。
 どんな話であろうと絶対に桐乃には話しませんから。」

その吸い込まれそうな甘い声と笑顔を向けられて、
俺の不安や警戒心といったものは即座に形を失っていった。
この子なら真剣に聞いてくれる、そんな気分にさせてくれる雰囲気があった。
気付けば、俺は目の前の天使(悪魔)に話をし始めていた。

「その…もしかしたらあやせちゃんにとっては気持ち悪い話かもしれないんだけどな…。
 桐乃と俺って普通の兄妹だったのか?」

「―――普通の、とはどういうことですか?」

「あー、えっと、何て言うかな。
 兄妹だから仲が良いのは当たり前かも知れないんだけど、
 どうも桐乃の態度がその域を越えてるような気がしてるんだ。
 その、兄妹じゃなくて異性として意識されてる…なんてな……。」

最後の方は殆ど消え入りそうな呟きになってしまった。
だが、話の内容も年下の、まだ中学3年生の女の子に話すようなものでは到底無い。
そう思うと、一気に自己嫌悪の感情が膨れ上がっていった。
しかし、綾瀬ちゃんの方は俺の話から何かを思案するように、顎に手を当てて顔を伏せていただが、
一つ頷いて顔を上げると先程と同じ笑顔のまま答えてくれた。

「…確かにお兄さんと桐乃は私から見ても、とても仲のいい兄妹でした。
 傍から見て嫉妬しちゃうくらいに、です。
 けど、安心してください。お兄さんが心配してるようなことは絶対にありませんから。」



341kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/08(木) 23:31:04.31hqSFBmHo0 (6/10)

「そっか。やっぱりそうだよな…。」

あやせちゃんは、桐乃が俺を男として意識することはありえないとキッパリ断言してくれた。
桐乃の親友が言うのだから、事実その通りなのだろう。
そのことに俺はホッと安堵の溜息を漏らす。
しかし、心の中では少し、ほんの少しだけだが残念な感情が混ざっている気がした。

「当たり前じゃないですか。
 お兄さんはすごく誠実な方でしたからね。
 そんな、実の妹と〝穢らわしい関係〟になるわけありませんよ。」

「そ、そりゃそうだよな。」

「そうですよー。
それに私達、付き合ってたじゃないですか。
もし、万が一そんなことになればぶち殺しちゃいますよ?」

「そりゃそ……………え?」

穢らわしい、という言葉が強調され、少し複雑な気持ちになる。
そして、そのまま流れであやせちゃんの言葉に同意しかけたが、
その内容の重大さに気付いた俺は思わず聞き返した。
……この子は今何て言った?

「あー、すまん。
 ちょっと途中の方がよく聞こえなかったから、もう一度言ってくれないか?」

「もうっ。女の子にこんな恥ずかしいことを何度も言わせる気ですか?
 それならもう一回だけですからね?
 …お付き合いさせてもらってます♪」

「誰と誰が…?」

「お兄さんと私が、です♪」

俺のお願いにあやせちゃんは頬を朱色に染めながらも、最高の笑顔でサラッと答えてくれた。
言葉の意味を掴みきれずに頭の中がグルグルと激しく混乱していく。
え?なに?どういうこと?
俺とあやせちゃんが付き合ってるってことは、目の前の天使が俺の彼女というわけで……。


「な、なんだってぇえーーーー!!??」


342kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/08(木) 23:31:49.74hqSFBmHo0 (7/10)

心の許容範囲を軽くオーバーしたその衝撃の事実に、
俺は公衆の面前ということも忘れて叫び声をあげてしまった。

『あり得ねぇ!
 今目の前にいる女の子が俺の天使(マイエンジェル)だと?
 ドッキリか!ドッキリなんだろ!?
 どうせそっちの茂みに看板を持った奴がいるんだろっ!?』

そんな俺の考えが読めたのか、あやせちゃんはむぅと頬を膨らませて抗議の声を放ってくる。

「なんですか?
 お兄さんは私と付き合っていることがそんなに嫌だったんですか?」

「あ、すまん。別に嫌とかそんなんじゃないんだ。
 ただ余りに突然のことだったから、ちょっとビックリしただけで…。」

「ふふふ。それなら安心しました。
 お兄さんはどんなときでも優しいんですね。」

ご機嫌を損ねてしまったあやせちゃんに、あたふたと慌てながら何とか釈明をする。
その様子が可笑しかったのか、直ぐに笑顔に戻ったあやせちゃんは、
俺の服の裾をキュッと掴んできて、甘えるような声で褒めてきた。
その仕草は本当に彼女が彼氏に甘えているときのものに感じた。

「…っていうことは何だ。
 もう一度確認させて欲しいんだが、俺とあやせちゃんは付き合っていると?」

「はい、そうですよ♪」

バクバクと早撃ちを始めた心臓を宥めながら質問すると、
あやせちゃんは一目惚れしてしまいそうな笑顔で即答してきた。
…ヤバい、なんかクラッときた。
無性に目の前の女の子を抱き締めたい衝動に駆られるが、
残り少ない理性を総動員してその欲望を抑え込む。

「そういえばお兄さんは誠実なんですけど、私の前ではすごく変態で助平だったんですよ。」

「え………?」

俺の本能と理性が争っていると、あやせちゃんはちょっとした思い出話をするかのように、
サラリと聞き捨てならない事を口にした。

へ、変態?すけべい?


343kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/08(木) 23:32:21.13hqSFBmHo0 (8/10)

以前の俺はこの子に一体何をしでかしたんだ…?
頭の中で様々な妄想が浮かんでは消えていく。

「この前私の家に来た時なんて、突然手錠をかけて欲しいってお願いしてきたじゃないですか。
 だから念のため今日も持ってきたんですよ?」

予想の遥か上に突き抜けちゃったよーーー!!?
手錠って何だよ?っていうかそいつは一体どんなシチュエーションなんだ!?
あやせちゃんが開いた鞄から銀色の〝何か〟がチラリと視界に入ってしまい、
その生々しさから以前の自分の性癖に本気で恐怖を覚え始める。

「――あ、あやせちゃん?
せっかく以前の話をしてくれてるのはすごく嬉しいんだけど、
ちょっと今の俺には内容がヘビー過ぎな気がするんだが……。」

彼女に手錠を嵌められて喜ぶ変態を想像してしまい、
俺のテンションは一気にマイナスまで振り切れた。
精神ゲージに赤ランプが点り始めた俺は、
自分の心の平穏を守るために話を止めてと遠回しに頼み込む。

「本当に全部忘れてしまってるんですね。
 ……それじゃあ、あの事も忘れちゃったんですか?」

「……あの事?」

すると、あやせちゃんはモジモジと照れながらも、非常に意味深な言葉を投げつけてきた。
この態度を見れば、その内容がとんでもないことなのは一目瞭然だろう。
しかし、だからこそ無性に気になってしまい、ついつい話の先を促してしまった。

『大丈夫だ!
 とんでもない話なんざさっきからポンポンと、鶏の卵並みに飛び出てきているだろ。
 鉄の如く鍛え上げられた俺の魂(ハート)なら、どんな事実でも受け止められるっ!』

バッチこいっと心の中で気合いを溜めて、あやせちゃんの言葉を待つ。

「―――お兄さんが…私にプロポーズしてくれたことですよ。/////」

「………………。」

それは正しく今日一番の衝撃だった。
俺の鉄の心はそのあまりに衝撃的な内容を受け止めるどころか、脳味噌共々凍りついてしまった。
今までの話はただのボディーブローにしか過ぎず、
最後に世界レベルの右ストレートが俺の心に叩き込まれた。


344kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/08(木) 23:33:59.30hqSFBmHo0 (9/10)


「な、なにぃぃいいいいいーーーー!!??」

ようやくフリーズから立ち直った俺は、これまた今日一番の絶叫を上げるのだった。





                   【Q】 4章  完


345VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/08(木) 23:36:46.411lbUGWvoo (1/1)

よーやくキター!


346kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/08(木) 23:38:49.34hqSFBmHo0 (10/10)

今日はここまで。

最後まで書こうと思ったら想像以上に長くなったんで途中でぶったぎっちゃったZE☆
今回は記憶を失った京介とあやせの初絡みなお話でした。
セクハラをしない京介はなかなか書き辛かった…

次回はあの人の登場で更なる修羅場が京介を襲います
どうぞお楽しみに~



347VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/08(木) 23:44:33.98oCdKRmVUo (1/1)

おつ。
あやせ、恋人だったということ以外は嘘ついてないなww


348VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/08(木) 23:57:54.76Hk3K3+FIO (1/1)


あやせは黒い時こそ輝くな


349VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/09(金) 06:40:40.84lBflGCtm0 (1/1)

>最後まで書こうと思ったら想像以上に長くなったんで途中でぶったぎっちゃったZE☆
ふざけるな~!!早く続きを書けください、お願いしますm(_ _)m


350VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/09(金) 07:54:33.07CqqnkpHDO (1/1)

ダークエンジェル降臨!
彼女ってことはもちろんキスとかしますよねフヒヒ


351VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/09(金) 08:26:09.70WQggvnP40 (1/1)

なん...だと?
コイツは期待以上だぜ!



352VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/09/09(金) 18:06:47.43NAsKqx3Oo (1/1)

どう見ても桐乃vsあやせの修羅場が始まるようにしか見えない・・・・。


353VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/09(金) 19:58:06.75c2vHXOtCo (1/1)

>>352
俺も思ったわ


354VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)2011/09/09(金) 23:02:45.296EO9pmfh0 (1/1)

>>352
修羅場とか最高じゃないですか?


355VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/09(金) 23:06:53.94ZC+gDPc+P (1/1)

もしここで桐乃が出たとして
テキトウな言い訳して引いたら色々終わり
引かなかったら引かなかったで2巻再来というロクでもない状況になりそうだ

はてさて、どんな展開になるのやら


356VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/10(土) 23:18:33.532PZTYPfq0 (1/1)

修羅場がくるぞー!!


357VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)2011/09/11(日) 07:26:30.48jX2w2xO40 (1/1)

「あー、すまん。
 ちょっと途中の方がよく聞こえなかったから、もう一度言ってくれないか?」

「もうっ。女の子にこんな恥ずかしいことを何度も言わせる気ですか?
 それならもう一回だけですからね?
 …ぶち殺しちゃいますよ♪」




358VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/11(日) 10:22:28.62nNn2dykN0 (1/1)

>>357
ワロタwwwwwwwwwwwwwwwwwwww


359VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/11(日) 12:10:58.41Uhq0xP9DO (1/1)

ここより修羅となる!!


360VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/11(日) 12:18:10.28MXoHUuTK0 (1/2)

私はガマン弱い!


361VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/09/11(日) 13:26:40.87M+iPBfDB0 (1/1)

いろいろとまじってるwwww

京介が仮面付けて2刀流で無双してる姿が浮かんだ


362VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/11(日) 13:38:43.96+FXveHgBP (1/1)

これで京介がおとめ座だったら、と思ったが
京介って多分誕生日4月の頭らへんだと思われるのでおとめ座ではないんだよな


363VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/11(日) 15:21:14.3082WABNkF0 (1/1)

京介は修羅場入りしたらどうするんだろうか・・・
俺妹pのあやせ√BADみたいにはならないよね?


364VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/11(日) 17:39:33.79NWUZU5uSO (1/1)

上がってたから来たと思ったのに……


365VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/11(日) 18:49:29.30MXoHUuTK0 (2/2)

ハムスレのほうも楽しみにしてたんだが...


366VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)2011/09/11(日) 19:58:11.18GWfXU4h9o (1/1)

>>365
kwwsk


367VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/12(月) 21:25:00.25Mj0JKeXLo (1/1)

>>366
人のスレで書くのもアレだけど
グラハム「私の妹がこんなに可愛いわけがないっ!!」だよ


368VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/15(木) 23:28:34.64ptPmBNn/0 (1/1)

続きマダカナー


369kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/16(金) 22:27:36.200WJpOU0/0 (1/1)

どうも、キョースケです

更新を待ってくれている方、もうちょいお待ちください
今8割強できてるので、明日夕方には更新できると思います

がんばって書いてきますぜー


370VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/09/16(金) 23:11:46.97HcL1mQoGo (1/1)

楽しみにしてるぞー


371VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2011/09/17(土) 00:00:32.10DrrGXGWQo (1/1)

待ってます


372VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/17(土) 07:59:38.13L9G83AB/0 (1/2)

待ってましたー


373VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/17(土) 08:17:13.92fw0HjKUB0 (1/1)

くるか!


374VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/09/17(土) 12:55:40.410zh6ZccR0 (1/1)

わっふるわっふる


375VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/17(土) 16:38:14.91k8zXz+cSO (1/1)

もうすぐ夕方!


376VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/17(土) 18:47:46.33ur6f3mJ40 (1/2)

まだかなまだかなかなかな??


377VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/17(土) 20:26:07.01/8lj2fIm0 (1/1)

まだかー!!


378VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/17(土) 21:24:40.57ur6f3mJ40 (2/2)

おや?21:24分は夕方ではないような??


379VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/09/17(土) 22:43:30.53bDXDXfKJ0 (1/1)

ん?22:43分でもまだ夕方!!


380VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/17(土) 23:12:38.73L9G83AB/0 (2/2)

あやせに刺されたか?


381VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/18(日) 00:50:29.57xOOD0YPA0 (1/1)

こない...だと!

私はガマン弱い!!


382VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2011/09/18(日) 01:37:49.43oqF4RQtJo (1/2)

待機継続中


383VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/09/18(日) 02:00:31.92sgWQYjfj0 (1/1)

大丈夫、まだ夕方だ…まだ焦る時間じゃない……


384VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/09/18(日) 04:44:06.1657+KmLv4o (1/1)

きてない・・・だと・・・?


385VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)2011/09/18(日) 06:00:12.000T+2GvB00 (1/1)

おはようおまいら

さて、
「夕方」とは何かを議題に討論しようか


386VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/18(日) 07:27:07.54Obf+dL+SO (1/1)

それよりもageて作者が来たと誤認させる輩について議論しようか
昨日から何回期待させるんだと


387kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:42:00.65P/lwWzXG0 (1/14)

お、おはようございますキョースケです。

まずお待たせした方々、遅れてしまってすいませんでした!
昨日更新しようとしたら飲み会に誘われて、完全に酔いつぶれてましたorz
記憶がぶっ飛ぶ恐怖を久々に味わっております…

遅くなりましたが、12レス頂いて続きをあげさせてもらいます


388kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:42:40.87P/lwWzXG0 (2/14)

                   【Q】 5章 

千葉市 児童公園
PM3:50


あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

「おれは 知らない女の子に出会ったと
 思ったらいつのまにか結婚していた」

な…何を言ってるのか わからねーと思うが
おれも 何をされたのか(ry


「…って、いやいや!ち、ちょ、ちょっと待ってくれっ。
ぷ、プロポーズ!?って夫婦になるってことだぞ!?
わかってるのか?」

「…………(コクッ)/////」

「―――――。」

完全に狼狽しきった俺の問い掛けに、あやせちゃんは頬を染めながらも、
しっかりと頭を縦に振って肯定の意思を示す。
そうなるともう、詰みだ。
俺は陸に打ち上げられた魚のようにパクパクと口を動かすことしかできなかった。


「もう、またそんな顔するっ。
 どうせ信じてくれないと思って証拠も持ってきてるんですよ。」

俺の反応が気に食わなかったのか、あやせちゃんは頬を膨らませながらそう言うと、
ゴソゴソと自分の鞄を漁り始めた。
そして直ぐに、携帯を少し小さくしたような銀色の機械を取り出した。

よくよく見ると、それは小型のレコーダーのようだ。
あやせちゃんはそれを俺の眼前に掲げると、徐(おもむろ)に再生ボタンを押した。






389kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:43:00.59P/lwWzXG0 (3/14)

―――ザ、ザザッ…

『……その、責任を取るって、具体的に何をすればいいんでしょう?』
『結婚してくれ。』

プツッ―――


……た、確かに俺の声だ。
音質も悪く、非常に短い録音データたが、確実にそれはプロポーズの言葉だった。
っていうか、責任って一体俺はあやせちゃんに何をしでかしたんだ…?

この時少しでも冷静であったならば、なんでこんなものを録音したんだとか、
なんで今それを持っているのか、などツッコミ所が満載なことに気付けただろう。
しかし、度重なる衝撃的な話でテンパり過ぎていた俺はまともな思考能力が失われおり、
そのことに気付くことができなかった。

何より、普段であればこんな可愛い子と結婚の約束をしていたことがわかれば、
両手を上げて狂喜乱舞していたに違いない。
しかしこの時の俺は、
何とかしてこの話を断らなければならないという焦燥感で心の中が一杯だったのだ。


「いや、確かに…、けど、あの。
 ち、ちょっと待ってくれ。なっ?
 すげー突然のことだから、何て言えばいいのかわからないんだけど…。」

「…………。」

「俺もまだ学生でガキだし、あやせちゃんを養ってやる力なんて無いだろ?
 ただでさえ記憶が無くなってるから、プロポーズのことも、
 あやせちゃんとの関係もあやふやじゃないか。
 ―――それに、桐乃のこともあるから急にそんなこと言われても…。」

「――――っ!」

「…っ!あっ、いや。その、だからあやせちゃんの気持ちは嬉しいんだけど、
 今すぐ結婚とかそういうのはちょっと早いと思…。」

「…ぷっ、クスクス――。」

「…………ん?」



390kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:43:23.39P/lwWzXG0 (4/14)

思いつく限りの言い訳をするが、途中自らの失言に気づいた俺は、
取り繕いつつも強引に断る方向に話を持っていこうとする。
すると途中まで黙って聞いていたあやせちゃんが、
突然顔を伏せて、笑いを噛み殺したような声を漏らし始めた。

「クスクス…。ご、ごめんなさい、お兄さん。
 今のは冗談なんです。」

「――――なっ!!??」

「私とお兄さんが付き合っていたり、お兄さんが私に本気でプロポーズするなんて、
 そんなことあるわけないじゃないですか。
 さっきの録音データも以前にお兄さんが巫山戯て言っていたのを録音したものなんです。」

「――――――。」

あやせちゃんは笑いを堪えながら謝ると、先程までのネタバラシをしてくる。
一方俺はというと、余りの予想外の事態に開いた口が塞がらなくなっていた。


え?冗談ってことは何?どういうこと?
もしかして俺……

からかわれてたーーーー!?


あやせちゃんの掌で完全に遊ばれていたことに気付いた俺は、
色々な意味で舞い上がっていた自分の振る舞いを思い出して、顔が羞恥心から真っ赤になる。
うぉおおおお!俺は年下の女の子相手に何をやってんだぁ!!?
殺してくれ!もういっそ殺してくれぇ!!!


「本当は途中で冗談だって言おうとしたんですけど、
 お兄さんの反応があんまり面白かったので止まらなくなっちゃいました。」

テヘッと自分の頭を小突きながら舌を出して謝るあやせちゃん。
こ、こいつは天使なんかじゃねえ!
天使の皮を被った悪魔じゃねえか!


「あやせ貴様ぁ!よくも……よくも俺の乙女心を弄んでくれたな!」

「…な、なんだかすごくデジャブを感じるんですが、本当に記憶無くしているんですか?
 けど、お兄さんにはいつもセクハラされてましたからね。
 今回はそのお仕置きですから、これで差引ゼロですよ。」



391kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:43:48.62P/lwWzXG0 (5/14)

理不尽すぎるその仕打ちに、思わずちゃん付けも忘れて恨み事を口にすると、
あやせちゃんは若干引き攣った顔をしつつ、これで相殺だなんて戯言を抜かしてきやがった。

「けっ!言っとくが、俺はもう騙されねぇからな!
 そもそも俺がセクハラなんてするわけねぇじゃねーか。
 どうせ、手錠の話とかも冗談なんだろ?」

「あれ?私、恋人とプロポーズのこと以外は冗談だなんて一言も言ってませんよ?
 セクハラも手錠の話も本当ですし、プロポーズだってほら、実際しているじゃないですか。
 言ったでしょう?お兄さんはすごく変態でど助平だったって。
 ―――他にもお兄さんの変態な話は沢山あるんですよ?」

「なん…だと……?」

嘘とわかればこっちのものだと、俺は強気になってあやせちゃんに問い質す。
しかし、あやせちゃんは不気味に思えるぐらいの満面の笑みで、
これ以上駄々をこねるようなら全部バラしちゃいますよ?とやんわり脅してくる。


――手錠の件が事実…だと?

あの変態ストーリーが本当だとすると、京介変態説は一気に現実味を帯びてくる。
そして、それ以上の弱みをあやせちゃんが本当に握っているとしたら……。
そこまで考えると、俺の背中に冷たい汗が流れ始める。

……だが、しかし!この俺はそんな脅しには屈しない。絶対にだ!!
その不屈の精神というものを、この糞生意気な小娘にビシッと教えてやる!



「―――お願いですから、もう勘弁してやってください!!」


平伏低頭、俺は不屈の精神を持って勢いよく頭を下げた。
勘違いするなよ?
これは決してあやせちゃんに屈伏したわけじゃなくて、戦略的撤退なんだからね!?


そんな俺の狼狽した姿が余程ツボにはまったのか、あやせちゃんはお腹を抱えて笑い始めた。
笑い過ぎて、先程から目元には涙が薄っすらと浮かんでいるのが見える。
ちきしょう。こっちは違う意味で泣きそうだぞ。


392kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:44:15.21P/lwWzXG0 (6/14)


「あはは…ご、ごめんなさい……。
 でも、記憶なんて無くてもお兄さんはお兄さんのままなんだとわかって安心しました。」

「へいへい、どうせ俺は手錠で繋がれて喜ぶような変態野郎ですよ。」

あやせちゃんのフォローになっていないフォローに、俺は肩を落として自虐の言葉を吐き出す。

「そんなことないですよ。私、お兄さんの優しさもよく知ってますから。
 ………それに、お兄さんの本心も聞けましたからね。」

完全に拗ねてしまった俺に、あやせちゃんはまるで子供をあやすような口調で励ましてくる。
そして、その後に小声でボソボソと何かを呟いた。

「ん?なんだって?」

「ふふっ、お兄さんは恋人と同じぐらい私にとって大切な人だって言ったんですよ。」

「……え?」

その呟きがよく聞き取れずに問い返すと、惚れてしまいそうなくらい眩しい笑顔でそう答えられて、
思わずドキッとしてしまう。

「あ、もちろん〝桐乃の次に〟ですけどね。
 だからお兄さんは二番目です♪」

「あ、さいですか…。」

ちょっぴり期待した結果がこれだよ!
桐乃の次ってことは、友達以上恋人未満っていうことだろ?

「あー、でも何だがすごくスッキリしました。
 今日は朝から桐乃の様子がいつもと違ってたのでずっとモヤモヤしてたんですけど、
 それもどこかに行っちゃいました。」

大きく伸びをしたあやせちゃんは、どこか吹っ切れたかのように晴れやかな雰囲気を纏い、
なぜか一気に大人びた様に見えた。
しかし、俺はそのこと以上に気になる点があったので思わず食い付いた。

「桐乃の様子が…?
 今日ってそんなに変だったのか?」



393kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:44:35.70P/lwWzXG0 (7/14)

今朝の桐乃は昨日と一緒だった、いや、どちらかと言えば機嫌はすこぶる良かった…と思う。
記憶が無いから判断基準があんまり無いけどな。

「いえ、別に悪い意味ではないんですが…。
 何て言うんでしょうか?いつもより一層綺麗に見えた…のかな?」

「――いや、………。」

桐乃が綺麗だったと言うあやせちゃんに、もともと桐乃は綺麗だろ?と言いかけたが、
寸前で何とか思い留まることができた。
なぜか、それを言った直後にあやせちゃんからハイキックされる姿が、
嫌って程リアルにイメージ出来てしまったからだ。

「あー!今、何いってるんだこいつって思ってるでしょう!
 桐乃は本当に凄いんですよ?
 誰よりも綺麗で、スタイルも抜群で、どんなことにも真面目で全力で、常に一直線で、
 学校だけじゃなくてモデルの仕事仲間の中でも人気者で……。」

俺が言い噤んだ理由を勘違いしたあやせちゃんは、堰を切ったかのように、
桐乃がどれだけ凄いかを力説し始める。




……5分後

「―――っていうこともあったんですよ。
 桐乃って本当に凄いと思いません!?」

「……あ、ああ。そうだな。」

長い、本当に長い話の最後に同意を求めてきたので、俺は少しげんなりしつつ同意する。
あやせちゃんの話を簡単に纏めると、桐乃は周りの皆から好かれる最高に綺麗な女の子なのだが、
今日は一段と綺麗に見えたってことらしい。
っていうか、この子はどんだけ桐乃のことが大好きなんだよ。
その桐乃への想いの強さに思わず苦笑してしまう。


「それでも、桐乃は〝あの趣味〟さえ無かったら完璧なんですけど。」

「―――あの趣味?」

最後にあやせちゃんは、本当に困ったものですと頬に手を当てながら大きな溜め息をついた。


394kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:45:06.04P/lwWzXG0 (8/14)

はて、桐乃にそんな困った趣味なんてあっただろうか?
昨日、今日の記憶を辿るが、思い当たる節は1つも無い。


「………お兄さん、もしかして桐乃から趣味の話は聞いてないんですか?」

「――いや、聞いてないけど。
 服とか陸上とかそういうのじゃないのか?」

「………そういうことですか。」

何の話かわからず首を傾げていると、あやせちゃんも俺の様子に気付いたようで、
意味深な質問を投げ掛けてきた。
昨日桐乃からそういった話を全く聞いていなかった俺の頭には更に大量の?マークが浮かぶ。
その様子からあやせちゃんの方は事情を理解したようで大きなため息をついた。

「はあああっ。桐乃ったら本当にお兄さんに何も言ってないんですね。
 私から話すのもおかしいかもしれませんけど、桐乃の趣味はオ――」
「――あんた達、そこで何してるわけ?」

仕方がないなぁと、あやせちゃんが桐乃の趣味を喋ろうとしたが、
それを言い終える前に、ゾッとするほど冷たい言葉が横から差し込まれた。
恐る恐る声のした方へと首を向けると、
その視線の先には仁王立ちでこちらを睨み付ける桐乃がいた。


「…何してんのって聞いてるんだけど?」

突然の事で何の反応もできずにいた俺たちに痺れを切らしたのか、
桐乃は更に冷たい口調で聞き直してきた。
無理矢理感情を抑えつけているのか、不自然な程に表情が無く、まるで能面のようだ。
しかし、俺達、というよりあやせちゃんを睨み付けてくるその瞳には、
ハッキリと憎悪の炎が顕れており、心臓を鷲掴みされるような圧迫感がある。


「――え、えっとね…桐乃。
 これには理由があって……。」

「へぇー?あたしに内緒で京介をこんなとこに呼び出した理由があるんだぁ。
 何?せっかくだから聞いといてあげるけど?」

「そ、それは……。」



395kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:45:40.70P/lwWzXG0 (9/14)

何とか口を開いたあやせちゃんだが、桐乃の皮肉が混ざった威圧的な言葉に、
二の句を繋げることができず再び口篭ってしまった。
まるで蛇に睨まれた蛙のように身が竦んでしまう。

最初は俺の帰る時間が遅くて怒っているのかと思ったが、
さすがにそんなレベルで無いことを読み取った。
しかし、それなら桐乃がここまで憎悪の感情を露わにする理由がわからなくなってくる。

「桐乃っ。あやせちゃんは悪くないんだ。
 ただ桐乃の友達から記憶を無くす前の話を聞きたくてな――。」

「それならあたしに直接聞けばいいじゃん!
 なんであやせから聞こうなんて思ったの?」

「う……。」

俺は、完全に怯えきったあやせちゃんをフォローしようと口を挟むが、
少しやんわりした口調ではあるがキッパリと桐乃から異を唱えられる。
桐乃との関係が気になったと正直に答えるわけにもいかず、俺の方も口を閉ざしてしまう。

「――――どうして?」

「はあ?」

「どうして、私がお兄さんと会うことを桐乃に報告しないといけないの?」

気付けば、先程まで顔を伏せて怯えていたはずのあやせちゃんが正面を見据えていた。
そして、静かだが身体の中に重く響く声で桐乃に問い返した。
その態度が気に食わなかったのか、桐乃はキッとあやせちゃんを睨みつけるが、
あやせちゃんも負けじとやや光彩の失せた瞳で睨み返す。

「桐乃とお兄さんは〝ただの兄妹〟だよね。
 それなら、別に私とお兄さんがどこで何をしようと、
 桐乃にどうこう言われる筋合いは無いんじゃないかな?」

「あんた…それ、本気で言ってるわけ?
 一応あんたのことも心配して言ってやってるんだけど。」

「――私を?本当はそうじゃないよね?
 桐乃が心配してるのはお兄さんの方でしょう?
 ……でも、それ以上に心配なのは、自分の趣味がお兄さんに知られることなんだよね?」

「――は、はあ!?
 趣味って何のこと?ほんっとに意味わかんないんですけど!」


396kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:46:02.73P/lwWzXG0 (10/14)


あやせちゃんの思わぬ口撃に、桐乃は激昂して強く否定するが、
強く否定すればする程、何かを隠していると自分で言っているようなものだ。



「…………桐乃、〝また〟嘘をつくの?」

「―――っ!!」

桐乃のその反応を見たあやせちゃんは一度顔を伏せると、
少し間を置いてから桐乃を光彩の戻った瞳で睨みつけた。

「私の時もそうだったよね。
 無理に嘘を重ねて、桐乃だけだとどうしようもなくなって。
 それで最後はお兄さんに泥を被せてまで助けてもらって!」

―――私の時。
昨日桐乃から扉越しに聞いた、あやせちゃんと喧嘩したときに、
俺が間に入って仲裁したという話をすぐに思い出した。
恐らくあやせちゃんが言っているのはその時の事だろう。

「今回もそうじゃない! お兄さんに自分の気持ちも、趣味のことも全部隠して!
 あのとき、私も趣味もどっちも好きだって、どっちも捨てられないって言ってくれたじゃない!
 なのに、今の桐乃はどうなの!?
 自分の〝好きなこと〟を全部誤魔化している桐乃なんて、私が知ってる桐乃じゃない!
 そんな桐乃がお兄さんのことで私にどうこう言う資格なんてないっっ!!」

激昂したあやせちゃんは、非常に強い口調で桐乃に訴えかけた。

俺は桐乃の趣味のことは何も覚えていない。
だがその趣味は、桐乃とあやせちゃん、そして俺の3人にとって非常に深い因縁があるようだ。
それでも、事態が呑み込めない俺には緊張感がピンと張り詰めた二人の間に口を挟む余地もなく、
ただやり取りを見守るしかない。

――だが、そんな俺にも一つだけは理解できる。
あやせちゃんの言葉は、親友に向けられた心からの〝願い〟なのだと。
あれ程桐乃のことが好きなあやせちゃんだからこそ、
本当の桐乃でいて欲しいという、桐乃を叱咤激励する強い想いが込められていた。


そんな親友からの言葉に桐乃は…


397kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:46:20.84P/lwWzXG0 (11/14)





「――――で?
 言いたいことはそれだけ?」


恐ろしく平坦で、全く感情が感じられない言葉を吐きだした。
しかし、その睨み付ける瞳は断じて友達へ向けていいようなものではない。
憎悪の念が篭ったそれは、本当に視線だけで人を殺しそうな錯覚さえ覚える。

「……え?」

「黙って聞いてれば、好き勝手言ってくれんじゃん。
 逆に聞くけどさぁ、あんたの方が何様なつもりなわけ?
 正直言って〝友達でも何でも無い〟あんたなんかに、
 あたしと京介との関係に踏み込んで欲しくないんですけど。」

「なっ―――!?」

予想外の桐乃の反応にポカンとしてしまったあやせちゃんに、
桐乃は能面のような顔のまま、友達であるという前提を完全に否定した。

それは正しく破滅の呪文だった。
その言葉が出た途端に2人を包む空気が、決定的に音を立てて崩れていくのがわかる。


「後、あんたが何か勘違いしてるようだから最後に言っといてあげる。
 趣味のことは本当に意味がわかんないけど、京介はあたしにとって誰よりも大切な、
 あんたなんかと比べられないくらい大好きな人なの。
 そのことを誤魔化す?そんな気なんてあたしには全く無いから。」

「き…桐乃……?」

「ウザいから、言い訳とか言わなくていいよ。聞く気も無いし。
 ただ、これからあたしの京介に変なことを吹き込むのも、会ったり連絡するのも2度としないで。
 友達じゃないあんたなんかが、あたしの京介に手を出す資格なんて無いでしょ?
 あ、もちろんあたしにも2度と話しかけてこないで。」

「―――――――。」

桐乃は赤の他人どころか親の仇を見るような目を向けつつ、


398kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:46:38.07P/lwWzXG0 (12/14)

あやせちゃんとの繋がりを完全に断つと、絶交をすることを告げた。
余りの衝撃にあやせちゃんは瞳を大きく見開いて、何も口にすることができないでいた。
その顔は最早真っ青を通り越して真っ白になっていた。



「ほら、京介!こんな奴放っといて早く帰ろ?
 今日は夕飯一緒に作る約束だったでしょ。もう帰んない間に合わなくなっちゃうよ。」

「あ、ああ」

そんなあやせちゃんの様子を全く気にせずに、桐乃は俺の手を取って、
家へ帰るよう促してくる。
拒否できるような雰囲気では無く、強い力で手を引っ張られるがままに、
俺は短く同意することしかできなかった。

茫然と立ち尽くしているあやせちゃんを置き去りにすることに後ろ髪を引かれる思いもあったが、
それ以上に俺の心は桐乃の方へ向けられていた。
何故なら…

「………いいのか、桐乃?」

「何が?
 もうあんな奴、あたしにも京介にも関係無いじゃん。」
 
俺の前で早足に進む桐乃にそう呼び掛けると、
桐乃は本当にどうでもよさそうな口調でそう応えてきた。



「だったら………。」

―――だったら、なんでお前がそんな泣きそうな顔してんだよ。

俺はそう言葉にしかけて、桐乃が纏う全てを拒絶する空気に負けて途中で口を噤んでしまった。

普通であれば、茫然となっているあやせちゃんと、絶交を一方的に突きつけた桐乃とを比べれば、
あやせちゃんの方が衝撃は大きいだろう。
しかし今、桐乃とあやせちゃんのどちらの方が精神的ダメージを受けているか問われれば、
俺は間違いなく桐乃だと答えるだろう。

桐乃は涙を一滴も流していないし、足取りもしっかりしている。
だが、俺にはまるで捨てられた仔犬のように、


399kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:47:11.59P/lwWzXG0 (13/14)

ボロボロと大粒の涙を流し続ける桐乃の姿が幻視(みえ)ていた。

もし今、桐乃の手を振り解いてあやせちゃんの方に戻れば、
何か一生取り返しのつかないことが起こるということが心の中で確信があった。
俺はその何かが怖くて、桐乃の後に黙って付いて行くことしかできなかったのだ。


―――こうして桐乃は、1人の大切な〝親友〟を失った。


後で振り返ってみれば、この時がまだ取り返しの付く最後の分岐点だったのだ。
ここで俺が何か一言でも桐乃に言ってやることができれば、
〝あんなこと〟には決してならなかっただろう。

しかし、この時の俺にはそんなことは想像すらできず、
数日後のそれを黙って待つことしかできなかったのだ―――。






                   【Q】 5章  完


400kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/18(日) 13:54:00.48P/lwWzXG0 (14/14)

今日はここまで。

桐乃が友達や趣味より京介を取るお話でした。
自分なりに修羅場を書きましたが、満足いただけるかどうか…
ポータブルの修羅場を見てから書きたかった話ですが、
如何せんお金が(ry

次回から新章スタートです
次章は黒猫さんがメインとなるお話です
納期の守れないダメ作者ですが、寛大にお待ちくださいorz

P.S
俺妹ポータブルに続編が出るって話きいたんですけど
マジですかい!?




401VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/18(日) 14:00:41.28HtYL5v5HP (1/1)

桐乃また勝手に色々抱えちゃってるなぁ・・・・・・壊れないか心配よ
京介の記憶回復のきっかけは何になるのか
まだまだ先が気になりますな


>俺妹ポータブルに続編が出るって話きいたんですけど
>マジですかい!?
マジですww
一応聞いた聞いた話だと、1のほうも一緒に収録?した上で
新キャラ、各ルートのその後とかが追加されるっぽいですよ


402VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/18(日) 17:35:49.24IYtEcyhSO (1/1)

乙。
俺妹P続編出ますよ。何か1,5見たいな感じらしいです。1のストーリー+追加ストーリーだけど全部原作者が書き直すらしいです!!
さらにエロさがアップするそうです(笑)。


403VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/18(日) 17:57:50.12T55EaAgZ0 (1/1)

俺の妹Pほしいなぁ     ただ中古でも4000以上するからなぁ


404VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/18(日) 22:39:18.23ByWfeZzDO (1/1)

予想外の展開になったな
桐乃がここまで思い詰めてるとは
あやせにNice boat.されなきゃいいが…ww


405VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2011/09/18(日) 23:52:30.77oqF4RQtJo (2/2)


想像以上の展開にwktkが止まらない
しかし…桐乃…


406VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/09/19(月) 01:15:11.57McdXX4oAO (1/1)

PSP完全新作じゃないのか…
悩むなぁ、特典が気に入らなかったら買うの控えようかな

それより1乙!凄いよかった。次も楽しみだ


407VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/19(月) 06:34:02.77bKap5BmE0 (1/1)

完全新作じゃなくても買うんだろ? 俺はPSP持ってないから、1も続編も買えないけど
ラノベは全部買ったさ! BDも全部買うさ!


408VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/19(月) 17:50:59.52v3FutO7vo (1/1)

出遅れたけど乙乙!
前半は面白かったけど、後半のきりりんがちと怖い気もww
続きがとっても気になります。



409VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 18:29:15.41jUFNkJFs0 (1/1)

乙!

この桐乃は如何なもんかと...
原作8巻の男前振りに期待したいが、まだ先は長いか


410VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/19(月) 19:08:45.82tJXgEc7ao (1/1)



>>409
原作はまだ歯止めがかかってたからな…ここの桐乃はルビコンを渡ってしまったんだろ。これはもうだめかもしれんね。


411VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/20(火) 15:45:18.14qZD/uGFIO (1/1)

乙。続き楽しみ。神視点がちょこちょこ有るので違和感あるが。


412kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/20(火) 23:21:56.652/0Fx+ZU0 (1/2)

>>408、409
桐乃スキーな自分としても暴走桐乃とかあんまり書きたくないんですけど、
今後の話の展開上しゃーなしなんです!桐乃スキーな方ごめんなさいorz
ちなみに桐乃はまだギア1なので更に暴走してきます


>>411
神視点って入ってたらあんまり良くないですか?
小説のいろはとか全く無いんで、頑張って修正してみますb



413kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/20(火) 23:32:10.902/0Fx+ZU0 (2/2)

更新じゃないのにageてもたorz
そういえば俺妹9巻発売したんですね
今回は短編集って聞いたので、大きな設定変更は必要ないと思いますが、
執筆と同時並行で読んでいこうと思います
もしかしたら更新スピードが(ry


414VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)2011/09/21(水) 03:28:05.24f4WQl1zSo (1/1)

>>1乙!
修羅場って、いいものですねぇ~
コープスパーティ並の鮮血の結末を超期待してます!


415VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/09/21(水) 05:51:42.23IqSNd0zqo (1/1)

さすがに鮮血なんてものいらねーよ。


416VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/21(水) 05:54:50.91tTapFdL7o (1/1)

鮮血物はちょっと…東海テレビの昼ドラ級愛欲・愛憎ドロドロ劇だろここは!


417kyosuke ◆Oamxnad08k2011/09/21(水) 12:10:54.49j/oD5FYZ0 (1/1)

>>414
すまない、nice boatな展開は無いんだ(´;ω;`)
ノーマル修羅場で我慢してくれ

>>416
何故東海テレビ指定w
でもドロドロものは俺も大好きですww


418VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/21(水) 12:29:13.39gDtgUO/Oo (1/2)

>>417
「なぜ東海テレビ指定か?」か・・・「牡丹と薔薇」「花衣夢衣」で検索してみてくれ。なぜ指定か分かるはずだ!


419VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/21(水) 19:17:54.12zdlA5iJJ0 (1/1)

そこは「愛の嵐」だろJK


420VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/21(水) 19:25:04.63gDtgUO/Oo (2/2)

>>419
「愛の嵐」はマジキチ度が足りないと思うんだ。だから上の二つにしたんだが、「愛の嵐」も良いよなあ


421VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/09/28(水) 13:34:30.62yChmatLD0 (1/1)

おつ!おつ!


422VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/28(水) 19:05:54.891shP+hDSO (1/1)

作者が来たと勘違いするから上げないでくれ


423VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/09/30(金) 13:32:07.76Nqu6x/kd0 (1/5)

スマン


424VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/09/30(金) 13:33:02.37Nqu6x/kd0 (2/5)

スマン


425VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/09/30(金) 13:33:45.76Nqu6x/kd0 (3/5)

スマン


426VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/09/30(金) 13:34:15.78Nqu6x/kd0 (4/5)

スマン


427VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/09/30(金) 13:36:11.06Nqu6x/kd0 (5/5)

スマン


428VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/30(金) 20:56:00.29fFWpu+YSO (1/1)

どっちにしろウゼェww


429名無しNIPPER2011/09/30(金) 23:52:46.31W9NDKnyAO (1/1)

あやせェ


430名無しNIPPER2011/10/01(土) 02:25:33.55yP+st9FAO (1/2)

更新予告もないとはこれいかに


431VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)2011/10/01(土) 05:00:44.75yLKaesr00 (1/1)

お前らもっと落ち着いてゆっくり待とうや
全裸待機は俺たちの得意技だろう?


432kyosuke ◆Oamxnad08k2011/10/01(土) 16:59:53.82Dl2Lqgvh0 (1/1)

どうもキョースケです。
9月末の激務で2週間仕事以外何もできませんでしたorz
10月からは仕事にも余裕が持てるようになるので、執筆再開します

目標は来週土曜日更新で
全裸待機だと風邪引くからソックスをはいて待っててくれ




433VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/10/01(土) 18:32:32.39r0EILv+1o (1/1)

ネクタイはしなくていいのか?


434VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/10/01(土) 22:12:32.87bxJObYu80 (1/1)

来週が待ち遠しいぜ! …あと、連投ほんとうにすいませんでした orz


435名無しNIPPER2011/10/01(土) 23:56:36.68yP+st9FAO (2/2)

>>432乙!
無理せず頑張ってくれ。来週土曜日まで全裸で待ってるぞwwww


436VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/10/05(水) 17:59:49.94LLWoOg6O0 (1/1)

今の状況からして桐乃の友達がどんどんいなくなっていって最終的に桐乃が壊れるパターンかな?


437VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/10/05(水) 18:08:37.76sCIrs7UAO (1/1)

>>436
まだ始まったばかり、予想は止そう。まあ修羅場展開と>>1が言ってるから京介争奪戦が始まるんじゃないか?



438VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/10/06(木) 19:45:21.83GT7vFHd20 (1/1)

俺はあやせが好きだからまたでてきてほしい


439VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福島県)2011/10/08(土) 01:51:14.76/x7R1xfCo (1/1)

涙を血で洗う凄惨な俺妹ド修羅場モノが読めると聞いて


440VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/10/08(土) 16:10:02.39aBmztIOS0 (1/2)

土曜だよー


441kyosuke ◆Oamxnad08k2011/10/08(土) 18:06:09.65EEklkxeh0 (1/11)

どうもキョースケです

約束の土曜日です!
今回はキッチリ納期に間に合ったのでご安心を
早速8レス頂いていきます

では続きをどうぞ~



442kyosuke ◆Oamxnad08k2011/10/08(土) 18:06:50.32EEklkxeh0 (2/11)

                   【急】 1章

12月21日(水)
高坂家リビング
PM3:45


母さんが井戸端会議に出掛けていった我が家で、
俺は今1人リビングのソファに腰掛けてテレビを見ている。
いや、見ているという表現には語弊があるな。
特段見たい番組があるというわけじゃなく、何の気無しにテレビの方を眺めているだけだ。

画面の中では、ニュースキャスターが主婦向けのワイドショーネタを大袈裟に解説していたり、
クリスマスのお勧めのデートコースが紹介されている。
だが、それらの情報も頭の中に入ってくることはなく、右から左へと素通りしている状態だ。


ふと、壁にかけられたカレンダーを見遣る。
12月の24日に赤字で二重丸が付けられているのを見て漸く、クリスマス間近だということに考えが至る。
そして、それは桐乃とあやせちゃんが絶交した〝あの日〟から2日が経過したことも示している。

―――そう。たった2日だ。
つい最近の出来事なのに、まるでずっと遠くの記憶のように感じてしまう。



―――あの日、公園を後にした俺と桐乃はどちらとも口を開くこと無く家に帰ってきた。
家に着いた途端に桐乃はリビングにいた母さんに、夕飯の仕度をお願いとだけ言うと、
まるで魂が抜けたかのような足取りで自分の部屋に閉じ籠ってしまった。
夕飯の時間にようやく顔を出したかと思えば、
ほんの少し食事に手をつけただけですぐに部屋に引き返してしまう始末だった。

今の俺には二人の間にどういう事情があってああなったのかはわからない。
それでもあんな形で親友に絶交を突き付けたのだ。
あやせちゃんはもちろんだが、桐乃の方も精神的に辛い状態なのは火を見るより明らかだった。
物音一つしない隣の部屋の主を心配しつつ、
明日の朝も意気消沈しているようなら仲直りするよう言ってやろうと心に決めたのだ。





443kyosuke ◆Oamxnad08k2011/10/08(土) 18:07:15.23EEklkxeh0 (3/11)

そして次の日の朝。
桐乃が学校に行く前に話す必要があるので、少し早めに設定した目覚まし時計に叩き起こされた俺は、
寝不足を訴える身体を叱咤してリビングへ向かった。
そこでリビングの扉を開けた俺は自分の目を疑うことになった。

キッチンでは、既に制服に着替えた桐乃が母さんと一緒に談笑しながら朝食の準備をしていたのだ。
まだ部屋に閉じ籠っている可能性もあると踏んでいた俺は、
余りに予想と掛け離れたその状況を理解できずに呆気にとられてしまった。
するとリビングの入り口で唖然としている俺に気付いた桐乃は、
おはよっ、京介。今日は早いじゃん。感心感心♪と笑顔で声をかけてきた。

少なくともこの時の俺には、桐乃の様子があやせちゃんと絶交する以前と全く変わらないように思えた。
余りにも普段通りなので、昨日のことは全て夢の中の出来事だったのかと錯覚してしまった程だ。


―――いや、一つだけ以前と変わったところがあった。
あの日からずっと、桐乃は俺と一緒にいる時間を露骨に増やそうとしているのだ。
朝は母さんに叱られるまで俺と一緒にご飯を食べて、
学校から帰ってくるなり夕飯の支度を一緒にしようと誘ってもきた。
夕飯の後に勉強道具を持って俺の部屋に来たときは流石に何事かと思った程だ。
結局、桐乃は夜遅くまで俺の部屋で勉強や雑談を続けて、
気が付けばクリスマスに2人で渋谷に遊びにいく約束までしてしまっていた。
これは他ならぬ俺自身が傍に誰かが居てくれることに安心感を感じており、
桐乃と一緒にいることを無意識に求めてしまっているのかもしれないが…。

そういった形の無い不安感は、俺の記憶が一向にして戻る気配すら無いことで、
日に日に膨れ上がってきている。
そしてそれに追い討ちをかけるように、不眠症も段々と悪化してきており、
日中ですら眠気はあるのに眠ることができないという矛盾した状況に陥ってしまっている。
記憶喪失と不眠症に加えて、更には桐乃に関係するモヤモヤとした気持ちが相俟って、
まるで液体が浸み込んでいくかのようにゆっくりと俺の体を蝕み続けている。



性の悪い睡魔に何とか耐えながら視線をカレンダーからテレビの方へ戻すと、
ちょうど午後4時のニュース番組が始まるところだ。
桐乃は今日も掃除当番の仕事が終われば直ぐに帰ってくると言っていたので、
そろそろ学校を後にしているところだろう。


444kyosuke ◆Oamxnad08k2011/10/08(土) 18:07:39.95EEklkxeh0 (4/11)



――ピンポーン

その時、来客を告げる家のチャイムの音が俺の思考に割って入ってきた。


『―――あやせちゃんか?』

チャイムの音を聞いてまず最初にそんなことを心配してしまった自分が心底情けなくなる。
何も言葉をかけずに公園に放置してしまった罪悪感があるなんて言い訳にすらならない。

―――ピンポーン

そんな俺の後ろ向きな考えを責めるかのように、チャイムの音が再度響き渡る。
その音に背中を押させるようにして意を決すると、ソファから腰を上げてそのまま玄関に向かう。

「……どちら様ですか?」

「あら、どちら様だなんてご挨拶ね、先輩。
 学校を休んでいると聞いていたけど、思いの外元気そうじゃない。」

覚悟を決めて玄関を開けてみると、そこには見知らぬ女の子がニヒルな笑みを浮かべて立っていた。
その子の背中まで真っ直ぐに伸びた黒髪は日本人独特の艶やかさを持ち、
目元の泣き黒子がちょうど良いアクセントとなった端整な顔立ちと相俟って、
まるで綺麗な日本人形に生命が宿ったかのような言い様のない佳麗さを漂わせている。
あやせちゃんや桐乃とはタイプが異なるが、美少女と言って間違いはない。

『桐乃の学校のものとは違うデザインの制服だし、
〝先輩〟ってことはやっぱり俺が通っている高校の後輩…なのか?』

予想と異なる来客で聊か拍子抜けしたところもあるが、その子の言葉からある程度の推測をしていく。

「……?どうかしたの、先輩?
 豆鉄砲をくらった鳩みたいに変な顔になっているわよ。
 私の顔に何かについてるのかしら?」

「あ…悪い。ちょっとボーッとしてた。
 何か用事だったのか?」

何の反応もない俺に違和感を感じたらしく、その子は少し棘のある口調で尋ねてくる。
何故かは知らないがご機嫌は余りよろしくないようだ。
綺麗だけど冷たそうな子だという第一印象を秘かに抱きつつ、その子が来た用事を聞いてみた。



445kyosuke ◆Oamxnad08k2011/10/08(土) 18:08:00.32EEklkxeh0 (5/11)

「用事も何も…。
 高校最後のクリスマスだから何かイベントをしよう、と言っていたのはあなたでしょう。
 それなのにあなた達からは何も連絡が無いし、
 何度かこっちから電話したのに出ないからわざわざ来てあげたのよ?」

呆れたとばかりに溜め息をついて、その子は俺の家まで来た経緯を説明してくれた。
どうやら記憶を失う前の俺は高校の連れとそんな約束をしていたらしい。
なにも考えずに昨日桐乃とクリスマスの約束をしてしまったが、
高校には当然俺の友達もいるわけで、俺はその繋がりを完全に失念してしまっていた。
この子がどことなく不機嫌に見える理由も、俺が連絡をしなかったからということか。

「あ、ああ。そうだったのか。それはすまなかった。
 えっと、クリスマスはちょっと妹とも約束が入ってるんだけど、
 高校の方の集まりはいつ頃なんだ?」

「………何を言っているの?瀬菜達は関係ないわよ。
 それにあなたの妹も今回のメンバーの1人でしょう。」

「え?そうなのか?」

俺の失態でこの子の機嫌を悪くしてしまったと頭を下げて謝ると、
桐乃を含めたクリスマスパーティーだと予想外の返事が帰ってきたので思わず問い返してしまう。

「本当にどうかしたの、先輩。もしかして、公衆の面前で自分の妹と乳繰り合ったせいで、
 頭の中がお花畑にでもなってしまったのかしら?」

「そ、そんなことしてねえよっ!」

「あら、でも前の日曜日にはその妹さんと携帯ショップで大層イチャついていたようじゃない。
 そのことも思い当たる節は無いのかしら?」

「――――なっ!!?
 なんでそのことを!?」

身に覚えがない…わけでもないが、桐乃とのことで乳繰り合うなどと茶化された俺は、
気恥ずかしさも相俟ってその疑惑を慌てて否認した。
だが、その子はまるで被告人に証拠を突きつける凄腕検事のように、状況証拠を突きつけてきた。

「私の妹達が偶々同じ店にいたのよ。
 どう見てもバカップルにしか見えなかったとそれは楽しそうにあの子達が話してくれたわ。
 ふふふ…。私が一緒に付いて行かなかったのが残念でしょうがないわ。本当に残念……。」


446kyosuke ◆Oamxnad08k2011/10/08(土) 18:08:37.90EEklkxeh0 (6/11)


「ひぃっ!?」

静かに、呟くように恨み事を口にするその子の様子を見てようやく俺は気付いた。
最初は少し機嫌が悪い程度に考えていたが、そんなレベルなんかじゃねえ!
実は最初から怒りゲージMAXだったんじゃないか!俺を殺る気だよこの子!?
黒い薔薇を付けた魔女の幻覚すら視える程、その子の背後から立ち昇る闇のオーラに怯えて、
俺は思わず小さな悲鳴を上げてしまう。

「ふふふ……。携帯ショップの件もそうだけど、
 さっき言った〝クリスマスは妹と約束がある〟という発言の真意も尋問しないといけないわね。」

黙秘は絶対に許さないという無言のプレッシャーを放ちつつ、
その子は楽しそうに、静かな笑い声を上げ始める。
あやせちゃんの怒りを暴力的だと表現すれば、この子の怒りには呪術的な恐ろしさがある。
まあ、どちらにしてもBAD ENDにしか繋がらないことは変わらないのだが……。

「えっと…その、言うのを忘れてたんですが、俺、事故に遭って記憶が無くなってるんです。
 携帯ショップの件は、その事故で携帯が壊れたんで桐乃と新しいのを買いに行ったんですよ。」

「―――はあ?あなた、言い訳をするにしてももう少し捻りのある言葉は出てこないの?
 それは余りにも稚拙過ぎるわよ。」

闇のオーラに怯えて自然と敬語になってしまったが、記憶が無くしたことと合わせて、
携帯ショップ事件の釈明をすると、その子は豚を見るような冷たい瞳と嘲りを俺に浴びせてきた。

「いや、本当なんだって!
 だからクリスマスのことも君の名前すら覚えていないんだっ。」

ある意味予想通りの反応だが、その冷たさに耐えられずに両手を翳しながら必死に説得を試みる。
すると、少し考え込むような態度を見せ…



「…………事故(イムパット)が触媒(カタリスト)となって、あなたの聖痕(ステイグマ)の扉を開いたのね。」


「―――――――は??」


その子は突然謎の呪文を唱えてきた。しかもすっげードヤ顔で、だ。
呪文の意味を1つも理解できなかった俺は目が点となり、聞き返すのに数秒を要してしまった。


447kyosuke ◆Oamxnad08k2011/10/08(土) 18:09:02.83EEklkxeh0 (7/11)


「――その様子だと記憶を無くしたというのは本当のようね。///」

先程の呪文は何かの暗号だったのか、俺の態度を見て納得してくれたらしい。
だが、それでもやはり少しは恥ずかしかったらしく、頬を薄く染めているのが可愛らしい。
そこからその子は何個か質問をさせてもらうと前置きして話を再開した。

「記憶を失ったということは、本当に何も覚えていないの?
 いつその事故に遭ったかは覚えているの?」

「ああ。人間関係の記憶は完全に無くなってるんだ。自分のことも名前以外は覚えていないんだ。
 事故に遭った時の記憶もないけど、先週の土曜日に桐乃と秋葉原に行った時だって聞いてるな。」

「…あの子から何故秋葉原に行っていたかは聞いているの?」

「え?いや、聞いてないけど…。
 観光とかじゃないのか……?」

「……そう。それじゃ最後の質問。
 先輩はあの子から〝趣味〟の話は聞いているの?」

「―――――っ!!」

その子からの最後の質問に俺は少なくない衝撃を受けた。
あやせちゃんだけじゃなく、この子も桐乃の〝趣味〟が何かを知っている。
その事実が、桐乃から俺だけ疎外されている証拠のようで俺の気持ちを更に重たくさせる。

「………いや、聞いていない。」

「………そういうことね。
 大体の事情は理解したわ。」

俺が渋々桐乃の趣味を聞いていないと答えると、その子は頭を抑えて溜息をついて、
一人で納得してしまった。

「え?本当か?」

「ええ。もちろん、全てがわかったというわけでは無いけれど、
 あなたの妹さんがどれだけお馬鹿なのはよくわかったわ。」



448kyosuke ◆Oamxnad08k2011/10/08(土) 18:09:30.22EEklkxeh0 (8/11)

「――――あぁっ!?」

その子の頭の鋭さに驚くと、その子は皮肉交じりの口調で桐乃のことを馬鹿にした。
俺の友達とはいえ、桐乃を馬鹿にされたことに思わずカッとなって睨みつけてしまう。

「……気持ちはわかるけど、そんなに熱り立たないで頂戴。
 それに、あなたは覚えていないから仕方ないけれど、
 私からしたら今あの子のやっていることは〝お馬鹿〟としか表現できないわ。
 ――このままだと、いつかどこかで取り返しのつかないことが起こるわよ?」

「……………。」

その子は、頭に血が上った俺を諭すように、だが自分の発言は間違っていないと警告してきた。
取り返しのつかないことが既に生じてしまったことは事実なので、
俺の方も二の句を継げることができなくなってしまう。

「…しょうがないわね。それなら明日の放課後に高校にいらっしゃい。
先輩が学校でどういう人達に囲まれて生活してきたか説明してあげる。
―――あなたの妹の秘密も合わせてね。」

「桐乃の秘密も……?
 それなら――あ、いや、駄目だ、、それは駄目だ!」

黙ってしまった俺を心配してくれたのか、その子は実に魅力的な提案を出してくれた。
それに同意しようとしたが、その瞬間俺の頭の中にあやせちゃんとの出来事が過る。

「桐乃は学校が終わったらすぐに帰ってくるんだ。
 その時に俺が家にいなかったら一昨日と同じことになっちまう!」

「――はあ。あの子、既に何かやらかしたというわけね…。
 わかったわ。それなら昼休みの時間にいらっしゃい。その時に詳しい話を聞かせてもらうわ。
 そうすればあのビッチも自分の学校にいるから大丈夫でしょうしね。
 部活のみんなには事前に事情を説明しておいてあげるから。」

「あ、ああ。わかった。
 ……ありがとな、色々気遣ってもらって。」

俺の言葉からある程度の事情を察してくれたらしく、その子はすぐに次善策を出してくれた。
俺だけじゃなく桐乃のことも気遣ってくれているその子の優しさに、
俺は頭を下げて感謝の言葉を述べる。



449kyosuke ◆Oamxnad08k2011/10/08(土) 18:09:53.49EEklkxeh0 (9/11)

「ふっ。構わないわよ。先輩にはいろいろお世話になっているものね。
 それじゃ私はあなたの妹さんが家に帰ってくる前にお暇させて頂くわ。
 明日のお昼に校門のところで待ち合わせにしましょう。

「ち、ちょっと待ってくれ
 俺、まだ君の名前を聞いてないんだけど。」

面倒事は御免でしょ、と言うとその子はクルリと背を向けて立ち去ろうとする。
そこで俺がその子の名前を聞いていないことに気づいて声を掛けると、
その子はピタッと足を止めると、少しの間を開けてから振り返って一言だけ呟いた。


「――――〝黒猫〟」


「………は?」


「私の名は〝黒猫〟よ。黒の眷属のね。」


手の甲を頭に翳し、片足を上げる謎のポーズをとってそれだけ名乗ると、
今度は立ち止まることなく足早に立ち去っていった。
唯一人玄関に取り残された俺は、状況を把握しきれず暫し呆気にとられていた。


「―――な、なんだか変わった子だな。」

何とも不思議な感覚に包まれながら、俺は遠退いていく黒猫の後姿を見つめ続けるのだった。





                   【急】 1章  完