232VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/15(金) 18:42:08.48jGqeWIdSO (1/1)




2332011/07/15(金) 23:22:04.7886PfxYlg0 (1/1)

>>231
一応本編自体は2005年設定なんで、
今年の春に改定されたばっかりの南草津はいれませんでした。


234サイドストーリー:思い出の置き場所2011/07/16(土) 01:52:15.29IJL1OLTs0 (1/11)




 インデックスと上条当麻が入院していた頃の話だ。



「あくせられーた、みこととらすとおーだが、『かめらー』でわたしの魂を吸い取ろうとするの!」

 病室を訪れて開口一番、インデックスはそう叫んだ。

「……いつの時代の人間よ。これで死ぬんなら、学園都市の人間全滅してるって。
 いっとくけど、あんたこれよりもっとすごい写真撮られてるわよ」

 美琴の呟きに、インデックスの肩がビックゥッ! と跳ね上がる。
 気になる、けど聞いたら後にはひけない、という恐怖を瞳に宿しつつ、インデックスが首をかしげる。

「も、もっとすごい写真?」

「レントゲン写真」

「あ、頭に何か冠してる! なにがすごいの?」

「骨とか内臓が透けて見える写真」

「内臓に直にダメージ!? わたしが知らない間に、ひどい、みこと!」

「撮ったのはあんたの主治医よ、主治医」

 美琴はどこからどう見ても適当に返しながら、インデックスを容赦なくカメラにおさめていく。
 そのたびにインデックスが短い悲鳴を上げ、懸命に避けようとするが、結局は撮られてしまう。

「ほらー。もう何十回も撮ってんのに、別に死なないでしょ? 平気平気。
 ……完全記憶能力もってるあんたにはピンとこないかもしれないけど、
 現代の人間ってのは、こうやって記憶を残さないと不安になっちゃうのよ。
 もし忘れた時、ちゃんとその時のこと思い出せますようにって」

 インデックスを映している美琴だが、美琴が見ているのは別の人間だろう。


 上条当麻。
 思い出を全て失った少年。
 自分の名前も、親や友達の顔を忘れ、これまで自分がどんな人生をおくってきたかを知らない少年。


 名前を覚えていないというところだけは一方通行と共通するが、
 本来の戸籍を抹消された一方通行と違い、上条当麻はちゃんとした戸籍を持っている。

 だが、戸籍になんの意味があるだろうか。
 教えてくれるのは、自分や家族の名前だけ。本籍地を移していたら、どこで生まれたかも分からない。

 四ヶ月間クラスメイトとして、寮の隣人として、認めたくないが友人として一緒にいたくせに、
 一方通行は上条当麻のことをなにも知らなかった。






235サイドストーリー:思い出の置き場所2011/07/16(土) 01:54:17.25IJL1OLTs0 (2/11)



 人間は何かしら、他の人間に離せないことを抱えていると言うが、
 上条当麻は、あの無邪気な態度にまぎれて様々なことを抱えていたと思う。

 例えば、魔術師。

 上条に合せる顔がないと言って、早々に退散した二人の顔を思い浮かべた。
 幼馴染である彼らと上条がどんな時間を過ごしていたか、一方通行も美琴も打ち止めも知らない。

 そして、幻想殺し。
 一方通行ですら理論が分からない力で、学園都市においてもまったくイレギュラーな力だが、
 上条はその正体を察していた節がある。


 ドラゴン――だったか。


 一度だけ、そんなことを呟いていた。
 くだらないファンタジーの話だと、その時は流したのだが、ちゃんと聞いていればよかった。

 今の上条は自分の力のことをよく知らないらしい。


(『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』……か。
 ドラゴンってなァ、十字教じゃよく使う単語なのか?)


 一通りの知識を身につけている一方通行だが、十字教そのものに関しては明るくない。
 歴史的な扱いは学んでいるが、『実践的』な内容は知らない。

 そもそも、魔術など、ほんの一週間くらい前までは信じてすらいなかった世界だ。
 上条やステイル、神裂などから透かして見る限り、学園都市クラスの闇を抱えた世界だろう。

 そんな世界で、上条は一体どんな役割を果たしていたのだろうか?

 きゃあきゃあ騒ぐ三人の少女の平和っぷりとは裏腹に、一方通行の頭の中は暗い考えがぐるぐると渦巻いていた。
 ふいに、インデックスの盾となっていた打ち止めが美琴へと手を伸ばした。

「お姉様、ミサカも写真撮りたいって、ミサカはミサカは主張してみる!」

「はいはい。使い方、分かる?」

「このボタンを押すだけでしょって、ミサカはミサカは確認をとってみたり」

「らすとおーだーが裏切ったぁ!」

「それ、ぱしゃぱしゃ連写だってミサカはミサカはひたすら連打してみる!」

 病室の中をどたばたと走り回る少女二人。
 片方はつい先日までは重傷人で、現在も入院中のはずだが、すっかり復活している。

 インデックスなら分かるだろうか。
 上条が呟いた単語、ドラゴン。その意味を。

(……聞きだすにしても、あの白いガキと上条が完全に回復してからだな)

 笑顔で振る舞っているが、インデックスも打ち止めもそれに美琴も、心理的には万全に程遠い。

 人が『死ぬ』とは、そういうことだ。





236サイドストーリー:思い出の置き場所2011/07/16(土) 01:56:41.89IJL1OLTs0 (3/11)


「私もあんたも記憶力いいから思いつかなかったけど、写真、色々撮っとけばよかったわね」

 一方通行の心を読んだように、美琴は苦笑した。
 一方通行は片方を歪め、あからさまに不快そうな表情を浮かべる。

「――別に、俺たちはそンな仲良しこよしな関係じゃねェだろ」

「あはは、そうかも。……でも、ちょっと考えれば、へんてこな関係よね。
 私は打ち止めを監視するために。
 打ち止めはあんたに殺してもらうために。
 あんたはあいつの弱点を暴くために。
 そして、あいつは、ただ単に友達と遊ぶために、一緒に行動してた」

「見事に歪んだ四角関係だな」

 生産性も何もない。

 一歩間違えれば悲劇へと変わる、一方通行と美琴と打ち止めの危うい関係は、
 上条という存在があって、ようやくまともな学生生活に結びついていた。

 友情や信頼と言えば聞こえはいいが、互いに依存して利用していただけだった。


「……やりなおさない?」


 だから、美琴のそんな呟きは、意外なものだった。

「インデックスもいれて、五人でのんびりやっていきましょうよ。
 クソったれな暗部がちょっかいをいれてくるかもしれないけど、
 それでも、周りの頼れる大人たちの力を借りたりしてさ」

 甘い言葉だ。

『七人戦争』で学園都市の暗部に放り込まれておきながら、
 それでも大人たちに対する幻想を捨てきれていない。

 より多くの闇を啜った先輩として、一方通行は肩をすくめてみせた。
 打ち止めやインデックスには聞こえない程度の声で言う。

「はン。この半年以上、ほっとかれてンのが異常な状況なんだぜ?
 なにか少しでもきっかけがあれば、あのクソ暗部は俺を連れ戻す。
 それこそ、今この時に何か仕掛けてきても俺は驚かねェよ」

 一方通行のその言葉に対する美琴の返答は、あきれたような笑いだった。

「ほんっと、難儀な性格してるわよね、あんた」

「あァ?」

 睨みつけるが、慣れっこな美琴はまったく動じない。

「打ち止めのことはいざって時に殺すため、
 黄泉川さんや芳川さんのことは名義的な保護者が必要だから、
 あいつのことは『幻想殺しのシステムを暴いて強くなるため』っていう言い訳つけなかったら、
 まともに人間関係構築できないんだから」

 初めて出会ってから数年間、一方通行のことを客観的に見てきた美琴だから言えた言葉だろう。
 人生経験は一方通行の方が勝るが、『まともな』人生経験に関しては美琴に負ける。

 なんだかんだでいつも自分を言い負かす善良な大人たちの顔が頭をよぎり、
「…………クソったれ」
 敗北宣言するのはしゃくなので、一方通行は短く吐き捨てた。





237サイドストーリー:思い出の置き場所2011/07/16(土) 01:59:01.33IJL1OLTs0 (4/11)


 一方通行は自分の髪の毛をかきまわしてから、打ち止めの手の中からカメラを没収した。

「一応この白いガキは入院患者だ。あまりはしゃがせンな」

「別にいいよ、あくせられーた。害がないのは分かったんだし」

 しかし、インデックスはわりと息が荒くなっている。
 冥土帰しの腕が確かなのは知ってるが、患者がちゃんと養生しなければ、その腕も意味がない。

「そう言う言葉は、ちゃんと退院してからはけ」

 肩を軽くつついて強制的にベッドに移動させると、インデックスは驚いた表情を浮かべた。

「い、今なにをしたの? こう、後ろにぎゅーんって引っ張られる感じがしたんだよ!」

「ベクトル操作、っても科学に無知なオマエには理解できないだろ」

 四か月ほどまでに、別の人間と同じような会話をしたことを思い出し、一瞬だけ焦燥感のようなものが胸をよぎった。

「ねえ、お願いだからカメラ返してって、ミサカはミサカは身長差を利用するあなたに訴えてみたり!」

「さっきこの白いガキ何枚も撮ってただろ。
 ……あんだけやって、まだ満足できねェのかよ、おい?」

 ぴょんぴょんと跳ねてカメラを取り戻そうとする打ち止めを、一方通行は揶揄するように嘲笑う。

「うう、インデックスのお姉ちゃんだけじゃなくて、
 あなたやお姉様のことも撮ってみたいって、ミサカはミサカは答えてみたり。
 あとその言い方なんかモゾモゾするからやめてって、ミサカはミサカはお願いしてみる」

「ネットワーク上に記憶をアップロードできンだろ?
 わざわざカメラ使って写真残す必要なンてねェだろ。

 例えば俺がまたオマエの記憶をリセットしても、
 ネットワーク上から簡単に取り出せちまうンだから便利なもンだな。
 本質的な忘却がないってのは、うらやましい話だ」

 言い放ってから、非常に珍しいことだが、一方通行は少しだけ後悔した。
 きつく言いすぎたかもしれない。





238サイドストーリー:思い出の置き場所2011/07/16(土) 02:00:18.91IJL1OLTs0 (5/11)


 しかし、打ち止めの返答は、少しもへこたれていなかった。

「あなたがそこまで言うなら、今日のことはネットワーク上に残さないって、
 ミサカはミサカはここに宣言してみる」


 まっすぐな視線を向けられて、思わず一方通行は打ち止めから視線を外していた。


「口では立派なことはいくらでも言えるたァ、ホントだな。
 頭でも打って忘れたら思い出せねェンだぞ。それでもいいのか?」

「残さないったら残さない! この記憶はこのミサカだけのものだって、ミサカはミサカは決意してみたり!」

 地団太を踏む打ち止めの手を、インデックスが優しく握った。

「ちがうよ、らすとおーだー。わたしたちだけの記憶だよ」

「おおそうだったぜって、ミサカはミサカは思わぬミスに肩を落としてみたりー」

 一回盛大に肩を落としてから、宣誓するように打ち止めは一方通行に向かって叫ぶ。


「今日のことは絶対忘れてやるもんかって、ミサカはミサカは叫んでみる!!」








239サイドストーリー:思い出の置き場所2011/07/16(土) 02:01:44.29IJL1OLTs0 (6/11)







 どうして、あの日の出来事を今こうして思い出しているのだろう。
 一方通行は自嘲せずにはいられない。

(悪ィな、クソガキ)

 全てを0に戻された彼女が、記憶をネットワークから拾い上げたところで、あの日の記憶は欠けている。

 だが、それが何になるのだろう?
 たかだか一日分の記憶が消えただけで、彼女の人格が変わるわけではない。

 なのに、なぜ、この場面でそれを思い出しているのだろう。


(まさか――寂しいとか思ってンのか?)


 思ったところで、どうしようもない。
 打ち止めの記憶はこの瞬間も0に戻されていく。

 感傷など全て振り切って、一方通行は演算能力の全てを打ち止めへと向けた。






240おまけ:そうだ、京都に行こう編(下)2011/07/16(土) 02:03:24.34IJL1OLTs0 (7/11)




京都市下京区、東本願寺。


石山「……というわけで東本願寺です、とミサカは現在地を報告します」

上条「ヨドバシカメラかKYOTOモールにするんじゃなかったっけ?」

打ち「それだと、どこか一か所で休んでぐだぐだ会話っていう流れになるから、
   オチはパフェ屋でしめたい>>1としてはそれだとやりづらいんだよって、
   ミサカはミサカは書き手側のエゴをおしつけてみたり」

美琴「まあ、京都駅すぐ前だし、地下道を使えばほとんど日にあたらずに来られるからね」

神裂「ここも歴史的に見れば面白いお寺なのですが、どうせお寺に行くのなら、
   三十三間堂か清水寺が良かったですね。特に清水寺」

一方「……清水寺には縁結びの滝があるからか?」

神裂「い、いいえ! そんなことあるわけないでしょう!?
   ただ上条当麻やステイルに清水の舞台を見せてあげたいと思っただけです!」

石山「バスで茶碗坂まで行って、そこから清水寺に上がり、そのまま二年坂を抜けて八坂神社まで下り、
   道なりに三条河原町や京極・寺町通りをぶらつく――と言うのが初心者向けルートなんですが、
   さすがに昼すぎからそれをするのは難しいですね、とミサカはため息をつきます。

   本来なら錦市場などもお見せしたかったんですが、とミサカは『一日』というリミットに限界を感じます」

美琴「ドラマだと、嵐山から清水寺に、さらにそこから金閣寺に移動してたりするけど?」

打ち「できなくはないけど、かなりの強行軍だよって、
   ミサカはミサカは京都に関してはほとんど無知なお姉様に突っ込みを入れてみる。

   ちゃんと時刻表を確認しないと、嵐山に行くのすら大変なんだよって、
   ミサカはミサカは嵯峨野山陰線の電車の本数の少なさを憂えてみたり」

禁書「これなんだろう。鳩豆? ひよこ豆みたいなものかな?」

神裂「一袋一〇〇円ですか? では、五袋いただくので、五百円玉でもいいですか?
   はい、こちらこそ。ありがとうございます。いえ、この格好は別にコスプレでは――
   照れてるわけじゃありません。本当なんです。
   これには一応理由があって、好きでしているわけではないんです」





241おまけ:そうだ、京都に行こう編(下)2011/07/16(土) 02:05:02.54IJL1OLTs0 (8/11)


ステ「……日本人が日本で目立ってどうする?」

神裂「好きで目立ったわけではありません……。
   どうぞ、みなさん。鳩豆です」

美琴「あ、わざわざありがとう。
   五袋ってことは――
  ・インデックス
  ・一方通行&打ち止め
  ・神裂さんとステイル君
  ・私と石山
   ……で、あんたってところかしら」

上条「どうしてそうかたくなに俺の名前を呼びたがらないんだよ。
   これが思春期少女の反抗期ってやつか?
   あ、インデックス、それはハトの食べるもの――ってこら、口にいれるんじゃない、人間やめる気か!?」

禁書「とってもゴリゴリかたゴリゴリいけど美味しいよ?」

ステ「ハトが大量に集まってきているな……燃やすか?」

禁書「ハトの丸焼き!」

上条「眼を輝かすな! 仮にもヒロインだろ!? ステイルもこんな人眼のあるところで魔術を使うな!」

神裂「そうですよ、ステイル。ここは仏教真宗大谷派の総本山なんですから、
   イギリス清教の私たちが魔術なんて使ったら、問題があります」

上条「そういう問題じゃ――って、しまった、気を抜いた隙に肩や足に何羽もハトが!」

打ち「わー上条のお兄ちゃんがハトまみれだって、ミサカはミサカはやたら凶暴なハト達にびびってみたり」

一方「……魔術サイドにまともな人間はいねェのか?」

美琴「たぶん、あんたにだけは言われたくないと思う」

石山「この寺のハトたちは数が多い上に人慣れしてるので、
   うかつに鳩豆を持つと危険なんですよね、とミサカは今さらな忠告をします」

美琴「ほんとに今さらだわ」





242おまけ:そうだ、京都に行こう編(下)2011/07/16(土) 02:07:37.44IJL1OLTs0 (9/11)



京都駅・室町小路広場(通称:大階段広場)

石山「さてそろそろ頃合いですので場所を移して大階段広場です、
   とミサカは皆さんと一緒に階段をてくてく登りながら今日何度目かの業務報告をします」

禁書「すごい長い階段だね。なにか魔術的な意味があるのかな。
   ……ふむふむ、段数は一七一段。
   ところどころに陰陽道の匂いを感じるんだよ」

ステ「こういうのは土御門の領分だな。しかし、こんなビルに魔術的意味を持たせるか?」

神裂「京都の街自体が一つの結界ですからね。
   意識しなくとも、魔術的な意味を持ってしまうのかもしれません。
   陰陽道の本場ですし、何があっても驚きませんよ」

上条「そういや、なんで土御門は来なかったんだ?
   あいつって陰陽博士とか呼ばれてたんだろ。だったら京都とか好きそうだけど……」

石山「ああ、それは字数の問題です……と、
   ミサカは土御にすべきかいっそ元春にすべきか悩んだ挙句登場なしにしたという楽屋ネタを披露します」

上条「そういえば主人公の名字が土御門で、名前に春がついて、
   ヒロインの名前に夏が入るラノベがあるんだけど、あいつに教えたら喜ぶかな」

美琴「そういうネタは禁止。せめて同じレーベルにしなさい。あるいはガンガン」

上条「科学サイド好きならフルメタル・パニック、魔術サイド好きならブラック・ブラッド・ブラザーズがお勧め!」

一方「一体どこからどんな電波受信してンだよ、オマエ……」

美琴「それにしても、どうしてまたこんな暑い日に、よりにもよって外階段なのよ。
   確か目的のパフェ屋は結構上の方よね?」

石山「エレベーターはいつも満員状態ですから、八人も乗れませんよ、
   とミサカは満員電車状態のエレベーターを思い出します。
   エスカレーターもあるのですが、正直そこの白いシスターが乗れるとは思いませし、と、
   ミサカは布地がエスカレーターに巻き込まれる瞬間を想像して身震いします」

一方「描写は省いたが、ここに来るまで結構な距離歩いたよな?
   それだったら大人しくエレベーターを使った方が早かったんじゃねェか?」

打ち「ここの階段を使ってレースも開催されるんだって、
   ミサカはミサカはネットワーク内にあるデータを持ち出してみたり」

石山「ああ、目片さんが参加したので、そこから得た情報ですね、と、
   ミサカはネットワークに接続できない皆さんに説明します」

一方「無視すンな」

打ち「……この外階段出したかっただけだよって、ミサカはミサカは打ち明けてみる」

禁書「そんなことよりも速くパフェが食べたい!」

上条「インデックス、あんまり走ると転ぶぞー」

石山「それではパフェ屋に行きましょうか、とミサカは誘導します」

美琴「ぐっだぐだね……」

神裂「まあ、いいじゃありませんか。こうして羽根を伸ばすのも、時には必要ですよ」

ステ「それにしてもパフェ屋か。僕とは縁遠い店だ」

打ち「普通のほうじ茶も置いてるから、甘いのが苦手な男性でも安心だよって、
   ミサカはミサカは報告してみる!」

ステ「……わざわざありがとう」




243おまけ:そうだ、京都に行こう編(下)2011/07/16(土) 02:10:14.73IJL1OLTs0 (10/11)


禁書「えっと、さっきみた地図が正しかったらこっちだね! この入口から入ると近いみたい」

上条「おお、やっぱり店の中に入ると涼しいな」

美琴「一応これでも節電モードらしいけどね」

一方「オマエが一人いたらこの店の電力くらい賄えるんじゃねェのか?」

美琴「理論的には可能かもしれないけど、私の電気を電源に変えるための変換器が必要ね。
   でもそんな変換器なんて、学園都市外で使えるわけないし、そもそも能力使用自体禁止でしょ
   アンタの使ってる無意識の反射は仕方ないとしてね」

一方「冗談のつもりだったンだけどよォ……」

神裂「ああ、見えてきましたね。あそこが今回の目的地・茶寮都路里です」

上条「結構人並んでるな」

美琴「そうね。でもちょっと待てばすぐでしょ。この時間なら回転率も高いだろうし」


…………十数分後


ハチメイサマデスネ コチラノセキニドウゾー ゴチュウモンハオキマリデショウカ

禁書「全部! とりあえずメニューに乗ってるの全部!」

上条「インデックス。はしたないからやめなさい」

美琴「まあ、待ってる間にメニュー見てたから大体決まってるんだけどね」

一方「おいクソガキ、ちゃんと自分で食べれそうなやつだけ頼めよ」

神裂「それにしても、今回で最終回ですか……。
   本編では私の出番は当分ないので、寂しくなりますね」

ステ「僕は『吸血殺し』編プレビューで出番があるそうだ」

美琴「逆に、『吸血殺し』編だと私たちの出番がないけどね」

一方「まァ、その分『妹達』編で出番が多いけどな」

上条「結局、『吸血殺し』編、『妹達』編、『御使堕し』編がプレビューつーか、
   原作からの変更点をざっとなぞるだけで、原作五巻を少しだけ再編するんだっけか?」

一方「一応はな。ただ、オマエの方は変えようがねェンだよな」

上条「宿題が終わってる以外変わりようがないしな」

一方「俺のほうは、クソガキが天井に誘拐されて、俺と御坂が奔走するってシナリオになるみてェだな。
   今回のサイドストーリーは、その終盤に持ってこようと考えてるエピソードらしい」

美琴「ってなわけで、私が海原対処のためあんたとデ……一緒に行動しながら、
   一方通行と協力して打ち止め捜索するってむちゃくちゃなスケジュールになるのよ」

上条「まあ、『吸血殺し』編が始まるのももうちょっと後だし、のんびりやってこうぜ」

一方「あと何回かは一学期と終章前後のエピソードか」

禁書「わたしの出番がほとんどないのはせつないかも」

上条「とりあえず、今回の京都編はそこらへんを労うってことで……
   ほら、パフェがくるぞー」


ほぼ一同「いただきます!」






244おまけ:そうだ、京都に行こう編(下)2011/07/16(土) 02:11:56.89IJL1OLTs0 (11/11)






打ち「せっかくの最終回なのに、ずいぶんと終わり方が地味だったねって、
   ミサカはミサカは呟いてみたり」

石山「ふふ、まだだ、まだ終わらんよ、とミサカは次回こそが真の最終回であることをつげつつパフェ美味え」


一方「つゥか、このおまけって需要あンのか……?」


 次回、『そうだ、京都に行こう』編フィナーレ!


245VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/17(日) 01:57:16.72De9dC3YI0 (1/1)

なに、このメタ発言のオンパレードwwww
とりあえず、楽しみに待ってる


246サイドストーリー:入学二日目2011/07/20(水) 14:29:09.52NAHKtTig0 (1/6)



 本来なら一学期二日目の今日は、簡単な能力開発の後に測定をするだけなのだが、
 とある超能力者が一暴れしたせいで、とある高校の職員室はどたばたと騒がしい。

 一暴れと言っても、


「本人いわく、『とことん手を抜いた状態で風のベクトルを操っただけ』だそうです」


 学園都市最強と謳われる一方通行――この学校では鈴科優生緒と名乗っているが――の能力特定の際、悲劇は起きた。

「『これくらいで機材が壊れるってどォいうことだよ』って本人の方が驚いてました」

 彼が今まで使っていた測定用機材は、レベル5である彼に合せてチューンアップされていた。
 その機材すら破壊してきたという一方通行は、無能力者か低能力者ばかりのこの高校では、あまりにも規格違いだった。

「それでF4クラスの竜巻って、学園都市中の空力使いが落ち込みそうじゃんね……。
 たしか、常盤台最強の空力使いでも瞬間的にF4クラスが精々じゃん?」

 この学校で唯一の高レベル測定用機械をぶっ壊した揚句、
 発生させた竜巻でグラウンドの土をごっそり削り取り、体育館の屋根を吹き飛ばした一方通行は、
 事後処理に勤しむ大人たちの影の努力もつゆ知らず、普通の放課後を楽しんでいるらしい。
 といっても打ち止め視線なので細かいところはあてにならないが。

 一方通行のクラス担任である月詠と、後見人である黄泉川は、本来ならこんなのんびりとしているヒマはないのだが、
 ちょっとタバコを吸うくらい許されるだろう。

「運動部の子たちには悪いことしちゃったじゃんねー」

 一応、削り取られたグラウンドは一方通行が直したのだが、細かい砂利が散乱している恐れがある。
 一方通行は「そンな心配なンざいらねェよ」と言っていたが、学校側としては、万が一は避けたいのが本音だ。

 よって、グラウンドはしばらく使用中止。
 体育館も壊れたので、体育系の部活の子たちはしばらく校内で練習を行わなくてはならない。

 ふいーと妙におっさんくさい動作でタバコの煙を吐き出してから、月詠は楽しそうに肩をすくめた。

「けど、手を抜きすぎたら正確な判断はできませんからねー。
 とりあえず、今度鈴科ちゃんと一緒に長点上機学園まで行って、機材を借りようと思います。
 ……この学校における鈴科ちゃんの目標は『能力の平和使用』ですから。
 F6クラスの竜巻をおこすことができたとしても、それで怪我人が出るなら意味がないんです」

「私たちにできるのは、『何かを破壊することしかできない』と思い込んでいる一方通行の現状打破。
 それと、コミュニケーション能力の向上くらいじゃん」

「ああ、そっちの方は大丈夫ですよー。お隣の席の上条ちゃんとなんだか仲良くなったみたいです」

「一応、あの子と打ち止めから報告は聞いてるじゃーん。上条って子はどんな能力者なのかな?」

 それまではなんだかんだで笑顔だった子萌が、困ったような表情を浮かべた。

「それが、上条ちゃんは……その、まったく測定できなかったんです。
 普通だったらほとんど能力がない子でも、何かしらの方向性があるんですが、上条ちゃんはそれもないんです。
 どの資質も完全にゼロで、一体どこを伸ばせばいいのか……」

 腕を組んで、小萌が首をかしげる。
 月詠小萌は外見こそ小学生の少女にしか見えないが、教師としては、黄泉川の何倍も優秀な女性だ。

「能力開発自体が初めてだったらしいので、今日の結果だけではなんとも言えないんですけどねー」

「能力開発を受けてない?」

 口からタバコを離して、黄泉川は小萌に聞こえない程度の小さな声で呟いた。

「……それなのに、一方通行の反射の膜をすり抜けたって――どういうことじゃん?」




247サイドストーリー:入学二日目2011/07/20(水) 14:30:32.55NAHKtTig0 (2/6)



 それとまったく同じ疑問を、一方通行も抱いていた。

「……能力開発を受けてない?」

 昨日と同じファミレスで、昨日と同じメンバーに、上条の幼馴染だという土御門を追加して、
 能力測定について話をしている時に明らかになった事実に、一方通行は驚きを声に出していた。

 美琴や打ち止めの顔を見る限り、彼女たちも言葉には出さないまま、似た疑問を抱いているようだ。

「あれ、言ってなかったっけ?」

 さらりと爆弾発言を投下した上条は、逆に困惑した表情を浮かべた。

「それじゃあ、昨日のあれはなに? 私や一方通行の力が効かなかったのは何で?」

 美琴の質問に、上条は腕を組むとうんうん唸りながら天井に視線をやった。

「いや、そこらへんは上条さんにもさっぱりで……。
 とりあえず便宜的に『幻想殺し』って呼んできたけど、理由を述べろと言われると難しいというか」

 てっきり、ロンドンに来てからの数日で開発を受けたのかと思ったが、どうやら違うらしい。
 いや、それ以前の問題だ。

「……超能力者(レベル5)の俺達の力を打ち消しておきながら、無能力者(レベル0)?
 どうなってんだよ、おい」

 上条の身体検査(システムスキャン)の結果は、どの能力も最低ランクだった。

 確かに上条の年齢を考えれば、能力開発を行ったところで、結果は出ないかもしれない。
 能力が発言できるぎりぎりのラインなので、高校から受けた程度では、結果が出ないのは珍しいことではない。

 だが、それでは昨日の出来事は説明できない。

 一方通行の反射の膜をすり抜け、御坂美琴の電撃を消滅させたくせに、上条は無能力者。

「……おい、土御門。少し顔貸せ」

 土御門の襟を引っ張ると、土御門はすんなり後をついてきた。
 店内を進み、乱雑に男子トイレの扉を開けた。

「いやーん、トイレに一緒に行くのは女子の専売特許だぜい」

 軽い調子の土御門を壁に叩きつけると、さすがに土御門は真剣な表情に変わった。

「カミやんは『異能の力』なら何でも打ち消せる。
 学園都市最強の超能力だろうが、神様の加護であろうと、『異能』であればなんでもだ」

 質問する前にあっさりと答えられ、一方通行は言葉につまった。
 しかし、つまったのは一瞬だけ。すぐに頭を切り替えると、短く問いかける。

「どうしてそンな断言ができンだ?」

 異能の力――超能力は、学園都市の専売特許だ。
 天然物の超能力者の存在は否定しないが、その数はそこまで多くはないはずだ。
 それこそ、生きている間に一人か二人に出会えればいいレベルだろう。

 なのになぜ、上条は自分が『異能の力を殺せる』と明言できる?
 なぜ自分自身の力に、『幻想殺し』なんていう名前を与えている?

 最強の能力『一方通行』を打ち消しておいて、上条は特に驚きを見せずに当たり前のことのように受け入れていた。
 慣れているとしか思えない。

「イギリスに学園都市レベルの超能力者生産技術があるとは考えられねェ。
 それともあれか? 天然産の能力者限定のコミュニティでもあンのか?」

「世界には様々な法則がある。カミやんが生きていた世界は、学園都市とは縁遠い法則で動いていただけの話だ」

「…………?」

 意味が分からず顔をしかめた一方通行を見て、土御門は笑った。


「いずれ分かるさ、一方通行。いつの日か、それを目の当たりにする時が来る」





248そうだ、京都に行こう編(終)2011/07/20(水) 14:31:55.29NAHKtTig0 (3/6)




滋賀県、石山駅。


石山「ここが、このミサカの通称の元となった石山駅ですとミサカは説明します」

上条「……なんでわざわざここまで」

一方「京都駅と比べるとなンにもねェな……。小せェビルとマンションしか見えねェ」

禁書「あ! あそこに美味しそうな焼き肉屋さんがある!
   食べたいよー、とうまー、ステイルー、かおりー」

ステ「さあ、さっさと行くぞ上条当麻。金なら僕が出す」

神裂「夕ご飯には少々早いですが、あの手の店は早目に行かないと席が一杯になる恐れがありますからね」

上条「ダメです。というかインデックス……パフェマラソン二回した直後だろ?」

禁書「わたしがさっき食べたのはパフェだよ。これから食べたいのはお肉かも」

上条「それがシスターの言うことか!?」

美琴「それにしても……なんというか田舎ね」

石山「というより、滋賀県は全体的にこんな感じで、これでもまだ都会ですとミサカは釘を刺しておきます。
   出身有名人もレボレボの西川さんとUVERくらいですしと、
   ミサカは世界のナベアツとテツトモの青い方の顔を思い浮かべながら答えます」

一方「微妙なセレクションだな、おい」

石山「UVERの方はあなたとそこまで縁遠い存在じゃありませんけどね、と、
   ミサカは次の声優アワードで主演男優賞をゲットできたらいいですねと応援しておきます」

打ち「どうせなら『とある』で取りたいんじゃない? って、
   ミサカはミサカは岡本さんのミサカ大好きっぷりにややどん引きしてみたり」

一方「……なに言ってンのかさっぱり分かンねェ。だれだよ、岡本って」

石山「わかっていませんね、そこは『中の人などいない』と答えるところですよ、とミサカは淡々と答えます」




249そうだ、京都に行こう編(終)2011/07/20(水) 14:33:45.63NAHKtTig0 (4/6)



上条「それより観光だ、観光! 京都から二三〇円も払ってここまで来たんだから、楽しまなかったら損だぞ」

禁書「離してよとうま! わたしはあそこの焼肉屋さんに行くんだもん!」

神裂「お、おちついてください。とりあえずここは話を進めましょう」

ステ「あとでいくらでも食べさせるよ。上条当麻が」

上条「さっきと言ってることが変わってるぞ、おい。
   領収書は『必要悪の教会』あてでよろしいでしょうか!?」

ステ「君は、『インデックスと一緒に生活できる幸福』を甘受すべきだ」

上条「そんな堂々と返されるとこっちがリアクションに困るんだけど……」

神裂「どうせならそのポジションを変わってほしいですね」

ステ「どっちのポジションだ? 上条当麻か? それともインデックスか?」

神裂「どうしてそんな質問をするかさっぱり分からないのですが、どうやら私はあなたの教育を間違えたようですね」

禁書「焼肉ー!!」

上条「俺だって肉食べたいけどさ、どうせお前に全部持ってかれるってオチが確定してるんだから行くわけないだろ!」

ステ「聞いてるのか、トウマ! ……じゃない、上条当麻!」

石山「……とりあえず、魔術サイドの方々は無視して話を進めましょうか、とミサカは観光案内板にお姉様達を案内します」

美琴「ふーん、石山寺っていうお寺があるんだ。
   あ、このお寺にある天然記念物の巨大な岩山が、石山って地名の語源なんだって」

一方「紫式部が源氏物語を書いたところとして、古文や日本史に出てくるンだが……正直マイナーな寺だな」

※ちなみにまったくの偶然なのですが、
 東寺を総本山とする東寺真言宗の大本山が石山寺です。
 あと毎月一八日に市を開いています。東寺のに比べると大分規模小さいけど。

美琴「後は、松尾芭蕉が終の住みかにしたと言われてる幻住庵くらいかしら?
   それと、そのすぐ側の聖徳太子堂ってところね」

石山「だいたいそんな感じです、とミサカは細かすぎて伝わらない小ネタを呟いてみます。
   ……ちなみに、某夢の国にケンカ売ってぼこられた小学校の最寄り駅でもあるんですよと、
   ミサカは卒業記念のプールサイドの絵くらい許してくれよと嘆息します」

美琴「>>1の友達がその小学校の出身だったらしいんだけどさ……。
  『なんでこの小学校のプールサイドは灰色に塗りつぶされてるんだろう?』とか思ってたらしいわよ。
   事実を知った時とんでもないショックだったとか。
   >>1の友達が通ってる頃は、『何をやるにしても版権が関わる場合は即刻アウト』
   なんて暗黙の了解が残っていたらしいわ」






250そうだ、京都に行こう編(終)2011/07/20(水) 14:35:18.93NAHKtTig0 (5/6)



上条「著作権って……怖いな」

一方「いつの間にここまで来たンだよ、オマエ。あの白いガキと赤モヤシと刀女はどうした?」

上条「インデックスはステイルと神裂に託しました……」

美琴「えーと、石山寺へのアクセスは、京阪電車かバスを使えばいいみたいね」

一方「……京阪石山寺駅ってところでおりたらいいのか?
   俺達が今いるのが京阪石山駅だから……二駅か」

石山「ああそれは京阪電車の罠です。石山寺駅と言いながら、石山寺まで八〇〇メートルありますと、
   ミサカはそれなら目の前まで運んでくれるバスの方が確実ですと説明しておきます」

打ち「初めての観光客がほぼ確実に引っかかるトラップだから気をつけてねって、
   ミサカはミサカは>>1の友達のセリフをここで引用してみる。
   紅葉がきれいな秋はともかく、それ以外の季節は地獄なんだよって、
   ミサカはミサカは知ったかぶりの知識を披露してみたり」

上条「それじゃあバスか。乗り場は、下の方でいいんだよな?」

※石山駅・京阪石山駅ともに、改札はフロア的には二階にあります。

石山「いえ、石山寺観光はしませんよ、と、ミサカはさっさと京都まで戻ろうと誘ってみます。
   というかこの時間では、すでに閉山してる恐れもありますし、とミサカは諦めるように諭します。
   そもそもが石山はベッドタウンで、観光できる場所はバスじゃないといけませんからね、
   とミサカは石山周辺の観光事情を説明します。
   そうですねー徒歩で行けるのは上記の小学校と幻住庵くらいでしょうかとミサカはマップを参照して説明します」

打ち「一応、石山寺や、アクアびわとか、南郷水産センターにも徒歩で行けなくはないけど、
   正直歩くのが好きって人じゃないときついかもってミサカはミサカは補足説明してみたり」


一方「……だったらなンでここで降ろしたァ!?」


石山「はっはーそれはもちろんこのミサカの名前の元ネタを紹介するためですよと、
   ミサカは軽やかにこの番外編を締めくくります」





禁書「ちなみに次は、わたしとあくせられーたの『パワーストーン講座』だよ!」
一方「はァッ!?」




2512011/07/20(水) 14:37:34.73NAHKtTig0 (6/6)



風邪が長引いてなかなか治らないのと、
このスレ以外のお話が書きたいので
一週間ほどお休みします

次回のサイドストーリーは一学期の話になると思います




252VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2011/07/22(金) 11:13:15.04As9Oge2AO (1/1)


著作権こええ
てか某夢の国がこええ


253サイドストーリーというなのおまけ:青ピって結局関西人なの?2011/07/27(水) 12:19:45.889AQmZLmu0 (1/3)



 上条達のクラスは、一年生の中でもとりわけゆるい雰囲気のクラスだ。

 校則違反常習者たちが溢れかえってはいるが、『不良』がいるわけでもない。
 生徒たちはクラス担任のことをなんだかんだ言いながら信頼しているため学級崩壊は起こしていないし、
 連帯感はたいしてないがここぞという時には持ち前のノリのよさで結束を強める。

 大人になってふっと振り返ってみた時に、「高校の時のクラスはとてもよかった」と思えるくらいには恵まれているクラスだ。

 ……といっても、現在進行形で高校生な彼らがそんなことを想像することはないので、
 今抱いている感想は、「騒がしいけど楽しいクラス」程度だろう。

 そんなクラスは――というか学校そのものが――いつも通りのお昼休みを迎えていた。

 昼休み中の教室は、半分が学食組、半分が自前の弁当か購買のパン組に分かれるため、授業中に比べると人数は足りない。
 が、残ったメンバーがかなりの大声ではしゃぐので、授業中に比べるとはるかに騒がしい。
 六月になり、梅雨に入ったため、いきなりの雨を恐れて中庭等で食べる生徒が少ないのも影響しているのだろう。

 上条達――上条当麻と土御門元春と青髪ピアスに一方通行の四人、吹寄命名『デルタフォース・エコー』は、
 なんだかんだ言いながら机を四つくっつけて、傍目には仲良くお弁当を並べていた。

 実際には土御門には一方通行と上条の監視、一方通行には上条の能力をあばくため、といった裏側が存在するのだが、
 事情を知らない人間から見れば、男子高校生四人が青春を満喫しているようにしか見えないだろう。

 ちなみに、上条はミートパイ&お手製マフィン+紅茶、土御門は義妹の舞夏作の和風弁当、
 青髪ピアスは下宿先からもらったパン、一方通行は冷凍食品全開の彩りの薄い三段弁当と、それぞれの個性がそれなりに出ている。




254サイドストーリーというなのおまけ:青ピって結局関西人なの?2011/07/27(水) 12:20:47.539AQmZLmu0 (2/3)



 ミートパイを食べ終わり、マフィンに口をつけた上条は、
 なにか思いついたように手を止め、青髪ピアスの方へ顔を向けた。

「なーなー青ピ。俺、小さい頃にロンドンに移り住んだから関西とかいったことないんだけど、どんなところなんだ?」

「はっはー。ボクが住んでたんは子どもの頃の話やでぇ?
 憶えとるわけあらへんやろー」

「お前小学校からこの街に来たのか? その割には関西弁なんだなー」

「小さい頃に住んどった場所の方言はそう簡単には消えへんよ。
 カミやんかて、小さい頃からロンドンに住んどったけど、日本語はペッラペラやんか」

「いや、これは日本人街に住んでたからなんだけど――そうかー、よく知らないのか」

 ふむ、と納得して再びマフィンを食べ始めた上条にちらっと視線をやってから、
 土御門は机の中からノートを取り出して、なにかさらさらと書きつけた。

「お二人さん。……これ、なんて読むかにゃー?」

 ノートに書かれていた文字は、漢字八文字。
『関西電気保安協会』。


「かんさいでんき、ほあん……きょうかい?」

 たどたどしく読んだ上条と、

「かんさいでんきほあんきょうかい、やろ? いややなーボクはそこまでバカとちゃうで?」

 軽い調子で読んだ青髪ピアス。
 そんな二人を見て、土御門はにやりと笑った。

「ひっかかったな青髪ピアス! 一度でも関西に住んだ人間なら、嫌でも
『かんさいーでんきほーあんきょーかい♪』とリズムを付けて呼んじまう、魔の名なんだぜい、これは!」

「な、なんやってー。いやでもボクの家はそこまでテレビをつけてへんかったから、
 ボクが知らんでも何もおかしゅうところあらへんのとちゃう?」

 いつも以上におかしな関西弁の青髪ピアスにとどめを刺すように、
 それまで黙々と弁当を食していた一方通行が口を開いた。

「……いつも思ってたンだがよォ、オマエ、大阪弁と京都弁とそれ以外がごっちゃになってねェか?」


「い、いや、ボクは、ボクは関西人やー!」
「本家が京都にある土御門さん的にはその微妙な関西弁がいらつくんだぜい!」
「俺をだましたのか、青ピー!」


 そうして始まったのは、いつも通りのデルタフォースの暴走と、

「とりあえず黙れオマエら」

 それに巻き込まれた一方通行のツッコミという名の暴力と、

「だから貴様ら教室内で暴れるな!」

 という吹寄の制裁になのだが、結局これも日常として溶け込んでしまう、上条達のクラスだった。
 とりあえず、今日も学園都市の表舞台は平和です。




25512011/07/27(水) 12:26:13.809AQmZLmu0 (3/3)


ここ数日パソコンの挙動がおかしくて長時間稼働できないんで、
『パワーストーン講座』は次回にあとまわしです。

SS総合スレに投下しようと思ってるSSがまだ三分の一くらいしかできてないのに……。


256VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/07/27(水) 15:12:07.04PuC4R+hv0 (1/1)

カンサイーデンキホーアンキョーカイ♪
あれをさくっと普通に読める関西人は関西人に非ず
確かにいい証明方法だ


257VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄)2011/07/27(水) 15:22:21.55C57q/OLAO (1/1)

うちの地方には
オキナワデーンキホアーンキョウカイ♪
っていうCMがあったが同じようなものなんだろか?
みんな仲良しでいいな。乙!


258VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/29(金) 06:43:16.2833uSl0hSO (1/1)

俺のところは
アイチーコガタエレベーター
だったわ


259VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 02:57:03.96Wm3KlkCw0 (1/1)

追いついた
sage進行だったから全く存在に気づかんかったわ
さあ1時には寝ようと思ってた俺の時間を返してwww

上条さんとステイル、神裂、インデックスの話は正直幾度か涙腺がヤバかった
上条さんそこまで暴れられなかったけど、ステイルが上条さんのことよく知ってるししょうがないよね

結局、何が言いたいかというと>>1ありがとうって訳よ!!


26012011/08/08(月) 13:29:36.85gLwN3hyc0 (1/1)

いろいろとコメントありがとうございますなのですが、
キーボードが熱すぎて長文打てないのですこしの間お休みします



261VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)2011/08/18(木) 10:53:46.30RGZD0ZHj0 (1/1)

いつまでも待ているよ!
美琴が魔術の話を知っているだけで話の幅が広がる気がする


262VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/19(金) 16:59:37.30GhbHQZsz0 (1/1)




263序章 見えざる発端2011/08/24(水) 00:29:37.06Y4xvM15x0 (1/5)



 
 ステイルは、とある窓のないビルの一室に立っていた。

 学園都市には、数多くの『窓のないビル』が存在する。
 そのほとんど全ては、農業用ビルか工業用ビルだ。
 内部で野菜や果物、家畜を飼育するために、
 あるいは最先端技術の工場として稼働する、閉じられた空間。

 しかし、ステイルが今立っている場所は、唯一の例外だろう。

 農業用でも、工業用でもない。
 学園都市でも極々限られた一部の人間しか知らない、学園都市統括理事長の住まうビルだ。

 いや、『住まう』という表現は正しくないだろう。
 このビルそのものが、学園都市統括理事長といえるのだから。

 魔術側の人間であるステイルには理屈がさっぱりわからないが、このビルのありとあらゆる機構が、
 学園都市統括理事長を生かしている。
 逆に言えば、学園都市統括理事長という人間を生かすことによって、このビルは存在意義を得ている。

 ステイルの前には、一人の人間がいる。
 透明な赤い液体で満たされた巨大なビーカー、その中で逆さまになって浮かんでいる、銀髪の人間。
 年齢はおろか、性別すら判別できない。

 男性にも女性にも、老人にも子供にも、あるいは聖人にも囚人にも見える人間。
 二三〇万人の能力者を抱える一大能力開発期間『学園都市』統括理事長、アレイスター=クロウリー。

『科学』の総本山である学園都市のトップである人間が、
『魔術』の世界において最も有名な魔術師と同じ名前とは、奇縁か、皮肉か。

 魔術側の人間であるステイルが、科学側の人間であるアレイスターの元へと赴いたのは、
 ある問題を解決するための作戦会議を開くためだ。





264序章 見えざる発端2011/08/24(水) 00:30:54.63Y4xvM15x0 (2/5)



 学園都市内部に魔術師が侵入し、三沢塾という巨大塾を乗っ取った。
 その魔術師は、『吸血殺し(ディープブラッド)』と呼ばれる、特異な能力者を確保としている。
 その能力者は、魔術側ですら存在を確認できていないとある生き物を殺す力を持っているという。

 普段であれば、『必要悪の教会』やローマ正教の魔術師集団で叩けばすむ話なのだが、
 いかんせんその問題が起こった場所が悪すぎた。

 学園都市――科学サイドの総本山に、大量の魔術師を招き入れることはできない。
 逆に、魔術師と能力者の共闘も、『互いの知識が流出する可能性』があるため、暗黙の了解で禁止されている。

「つまり、そちら側の増援は期待できない、ということですね」

 質問ではなく、確認のために発したステイルの言葉への返答は、ただ一言だった。

「上条当麻」

 アレイスターが短く呟いた瞬間、ステイルは凍りついた。
 それでも平静を取り繕うとするステイルの表情を見て、アレイスターは楽しそうにほほ笑んだ。

「色々と検討してみたが、こちらから送れる増員は、残念ながら彼一人だ。
 先日の騒動の際に大怪我を負い、数日前に退院したばかりだが、彼の主治医についてはよく知っている。
 問題なく日常生活を過ごせるレベルまで回復しているだろう。
 幻想殺しの右手を持つ彼なら、君の助けになると思うが」

「しかし、彼は今は学園都市側の人間です」

「彼がロンドンに住んでいる時は親交が深かったと聞くが」

「……彼の住んでいた教会の神父が、私の洗礼親だったので、よく顔を合せていただけです」

「日本では、それを幼馴染と呼ぶのだがな。
 そんな君なら分かるだろう? 上条当麻には魔術を理解するだけの知能はない。
 それと同じように、こちらの技術がそちらへと流れる可能性は極めて低い」

「それでは……私と彼の二人で、三沢塾を攻略しろと?」

「早々に解決してもらえたら嬉しい。
 この街に、カインの末裔が訪れる前に」

 ふっとアレイスターが目を閉じた。
 その瞬間、ステイルの傍らに、音もなく一人の少女が現れた。
 少女と言っても、ステイルより二つか三つほど年上だ。

 アレイスターとの会見の度に、ステイルをこの場所へ空間移動させる、案内人。

 彼女が現れたということは、この話は終わりということだろう。

「失礼しました」

 ステイルが短く頭を下げた瞬間、ひゅっと眼の前の光景が変化した。
 巨大なビーカーを彩るように数万もの電灯が煌めく空間から、何の変哲もないビルの一室へ。

 まるで、先ほどまでの出来事が嘘のようだが、懐に抱えた資料が、現実であったと知らせてくる。

(トウマを戦場に連れて行け? 彼はまだ退院したばかりだぞ)

 思わず奥歯を噛みしめるが、上条の力があれば心強いのは確かだ。
 それに、「幻想殺しを使え」と言われたのだから、彼を連れていかねば逆に問題となるだろう。

 ――狐は人を化かすだけだが、狸は人を化かし殺す。

 いつだったか、土御門が言っていた言葉だ。

「狸だな」

 一人納得するステイルを見て、案内役の少女がいぶかしげな表情を浮かべた。





265第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 12011/08/24(水) 00:32:11.55Y4xvM15x0 (3/5)



 八月八日。
 太陽光がぎらぎらとコンクリートを焼く街並みに、上条当麻は立っていた。

「うん、いや、不幸だよなー。一万円札が風で飛ばされるなんてさ。
 しかもその一万円札以外に持ってたのが小銭数百円分とか、どう考えても三人分の交通費にならないよな。
 やっぱりアクセラレータや美琴の言ってた通り、お財布ケータイにしとけばよかったよ。
 ほらでもあともう少し歩いたら、この残りの小銭で二人分の交通費は賄えるから、頑張ろうぜ」

 上条の前には、二人の少女がいる。
 十四歳前後の白い修道服を着た少女と、十一歳前後の空色のワンピースの上に半袖ボレロを羽織った少女。

 インデックスと打ち止め(ラストオーダー)という、どう考えても偽名少女二人に、上条当麻は冷ややかな視線を送られていた。

「とうま。とうまが不幸なのはよーく分かってるけど、らすとおーだーを巻き込むのはひどいかも。
 わたしは別にいいんだよ? これも主が与えたもうた試練なんだから、ぜんぜん怒ってないよ。
 別にとうまの不幸は、不幸というか単なるドジじゃないかなって思ったりしてないからね?」

「ATMからお金を引き出す時に一部両替にすればいいのにって、
 ミサカはミサカは自分の不幸を自覚しておきながら何の対抗策もとらない上条のお兄ちゃんに文句を言ってみたり。
 あるいは、どうしてビル風が強い通りの自動販売機に一万円札を入れようとするのか理解できないって、
 ミサカはミサカは頭の上に疑問符を浮かべてみる」

 冷ややかな視線同様、その言葉もずいぶんと冷たいものだった。





266第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 12011/08/24(水) 00:33:31.60Y4xvM15x0 (4/5)



「ほ、ほら! 地図を見る限り、あと二キロくらい歩いたら、インデックスもラストオーダーも電車に乗って帰れるみたいだしさ!
 もうちょっとだけ頑張ろう!
 もしくは、インデックスをこども料金にしたら、すぐそこの駅からでも帰れるけど嫌ですよね、やっぱり」

 へこたれない上条に、インデックスの殺気のこもった視線を向ける。
 どうやら、お子様料金は彼女のプライドが許さないらしい。

 インデックスは目元を和らげらると、疲れたように呟いた。

「そんなことよりノドが渇いたかも」

「ミサカもノドがからからで熱中症で倒れそうって、ミサカはミサカは訴えてみたり」

「でも今飲み物買ったら、三人仲良く徒歩帰宅コースだぞ」

 上条とインデックスと打ち止めが、一斉に大きなため息をつく。

 微妙な空気の中、打ち止めは囁くような声とともに上条とインデックスに頭を下げた。

「ホントはミサカが悪いって分かってるんだよって、ミサカはミサカは謝ってみたり。
 部屋に携帯電話を忘れなければ、あの人やお姉様と連絡がついたのにって、ミサカはミサカは後悔してみる」

 インデックスはそんな打ち止めの頭を優しく撫でると、励ますように言った。

「それを言ったら、わたしが一番悪いかも。
 わたしが学園都市を見てみたいってわがままを言わなければ、街中で遭難なんてしなかったし」

 なんとなく停滞した雰囲気を払拭するように、上条は口を開いた。

「いや、一番悪いのはやっぱ俺だよ。おれがうっかり一万円札を飛ばさなければ――」

 その瞬間、それまでしおらしい表情でうつむいていた少女二人が明るい表情で顔を上げた。


「じゃあ、一番悪いのはとうまだね!」

「上条のお兄ちゃんが一番悪いってことでいいんだよねって、ミサカはミサカは納得してみたり!」


「いつの時代のコントだよ! というか俺一人が悪者なのか!?」


 その後、三人でじっくり話し合って、近くのファーストフード店で涼をとり、
 夕方涼しくなってから歩いて帰宅する……ということになった。




2672011/08/24(水) 00:34:54.14Y4xvM15x0 (5/5)



いきなりですが第二巻再構成です。
原作再現は(長さ的な意味で)難しいので、アニメ版基準で再構成していきます。
再構成と言っても、大きくチェンジしたシーンの抜粋という感じなので、お手元に原作二巻推奨。
というか二巻再構成が少なすぎて、『どこまでカットして許されるか』のラインが分からないので、
さくさくまとめたアニメ版基準となります。漫画版はオールカットだし……。

しばらくの間は投下ペースが超スローになると思います。

とりあえず今プレイしているTOGfクリアしたらマリーのアトリエやってくる




268VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/24(水) 03:57:37.48CWdi5TFq0 (1/1)


いよいよ新編に突入ですね。今回も楽しみにしています


269VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/24(水) 08:36:07.08qVYNyKh30 (1/1)

乙!
今になって全部読んだが面白かったです


270VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/08/25(木) 15:46:59.24xlt9W2sR0 (1/1)

乙津!


271第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 12011/08/29(月) 20:33:52.78aur2BoTy0 (1/7)



 ようやく見つけたファーストフード店の中は、クーラーが効いてひんやり涼しかった。
 外の温度と比べ、寒すぎるくらいだ。

 打ち止めの手を借りながら、携帯電話のインターネット機能を使い、クーポンを有効活用することで、
 残り持ち金で三人分の飲み物と、軽食を確保することができた。

 一階はカウンター席まで一杯だったので、お盆を両手に上条はインデックスと打ち止めと一緒に階段を上る。
 踊り場にかけられた時計にちらりと目をやってから、上条は軽いため息をつく。

「それにしても……まだ三時くらいか。日本のこの時期だと、六時くらいから涼しくなるんだっけ?」

 そんな時間から帰ったら、家につく頃には夜になっているだろう。

 ネットクーポンの割引価格で手に入れたポークバーガー×3とポテトM、
 たまたま財布に入っていた無料券でゲットしたハンバーガー×2をキラキラした目で見つめるインデックスを見ていると、
 今この時間から絶望的な気持ちになってくる。

 果たして、そんな時間までインデックスの腹が持つだろうか?

 それに、問題はそれだけではない。
 上条の面倒を見る、という名目で一緒に暮らしているインデックスはともかく、
 打ち止めは一方通行と生活している少女だ。

 遅くなれば、一方通行――それに、打ち止めの『姉』である美琴は心配するだろう。

 実を言えば、打ち止めが一方通行や美琴とどういった関係なのか知らない上条だが、
 三人とも、上条の大切な『友人』であることには変わりない。

「ごめんな、ラストオーダー。あんまり遅くなったら、アクセラレータが心配するだろ?」

 時計から打ち止めへと視線を移し、上条は軽く謝罪する。
 打ち止めは首を横に降ると、笑顔で応えた。

「遠隔的にあの人やお姉様と連絡を取る方法ならあるのって、ミサカはミサカは呟いてみたり。
 その方法はあまり使いたくないし、あの人からも『極力使うな』って釘を刺されてるけど、
 ミサカはミサカはとりあえず最終手段を提示してみる」

「まあ、アクセラレータも美琴も昨日から忙しそうだし、あの二人の協力は最終手段だな。
 それに俺も、いつまでもあいつらを頼りにするわけにもいかないしさ」

「おお、男の意地ってやつだねって、ミサカはミサカは驚嘆してみたり」

「むしろ、思春期の独り立ち願望かも」

「いや、どれも違うって……って、うわ」

 階段を上りきり、二階を軽く見渡して、上条は再び軽い絶望感に襲われた。
 どこも席が埋まっている。




272第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 22011/08/29(月) 20:35:44.32aur2BoTy0 (2/7)



「こうなったら三人バラバラになって相席か?
 最悪でも、インデックスとラストオーダーは一緒の席にさせたいんだけどなー」

 タイミング良く店員さんが目の前を通りがかったので、上条は店員さんを呼び止めると、座れそうな席がないか訊ねてみた。
 もしかして、影になって見えない席がある可能性もあるからだ。

「それでしたら、あちらのお客様に相席をお願いしましょうか?」

 店員さんがにこやかな笑顔で指示した先には――


「うっ」


 上条は思わずひきつった声を出した。

 どうやら、先ほど見渡した時、本能が『見なかったこと』にしたらしい。

 窓際は四人がけのボックス席がいくつも連なっているのだが、一か所だけ、一人だけが座っている空間があった。
 上条達は三人だし、インデックスも打ち止めも小柄な少女だ。頑張ってつめれば、片側に三人座れるかもしれない。

 しかし、上条は認識したことを後悔した。


 ボックス席に一人だけ座っている――というよりもつっぷしているのは、巫装束を着た、長い黒髪の人間だった。


 緋袴をはいているところを見ると女性だろう。男性なら、浅黄色の袴だろうし。
 そして彼女は、なんというべきか、近寄りがたい負のオーラを発している。

「あのう……あそこ以外には?」

「申し訳ありません、ただいま満席です」

 満面のジャパニーズ・スマイルで、店員さんは淡々とマニュアルを読みあげる。

 上条は、なんかもう、いろいろと諦めた。

「もう腹を決めるしかないんじゃないのかなって、ミサカはミサカはパンパンになった足を軽くさすってみる」

「とうま! ここは舐められないように、男のとうまがいくべきかも」

 と、左右の少女二人に訴えられては逆らえない。


 このまま再びコンクリートジャングルの熱波に包まれるのも嫌なので、上条は恐る恐る巫女さんに近づいた。

「あのーすいません、相席いいですか?」

 ロンドン時代、ステイルに『女王すら陥落させる』と言わしめた(もちろん上条は憶えていない)明るい声で、
 上条は巫女さんに話しかけた。

 上条の声に、ピクリと巫女さんの肩が動く。それからのそっと顔を上げた。

 想像していたより、ずっと可憐な少女だった。
 整ったパーツと、儚げな雰囲気がまざりあって、日本人形のような印象を与える。

「く、――――」

 顔を上げた巫女さんが、ゆっくりと口を開く。
 なんだか嫌な予感がする上条の耳に届いたのは、当然ながら日本語。





273第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 22011/08/29(月) 20:36:57.52aur2BoTy0 (3/7)





「――食い倒れた」







274第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 22011/08/29(月) 20:38:56.34aur2BoTy0 (4/7)



 単純明快な、六文字の言葉だった。
 上条が大阪のお笑い芸人であれば、オーバーリアクションですっ転んでいただろう。

 ファーストフード店で食い倒れる巫女さん。

 シュルレアリスムここに極まれりな案件だ。

 しかし、この案件を解決せねば、『ファーストフード店でまったり』は実行できない。

「く……食い倒れたって、なんで、また」

 背後からのインデックスと打ち止めの視線を一身に受け、上条は必死に会話の糸口をつかもうと試みる。

「一個五八円のハンバーガー。お徳用の無料券がたくさんあったから」

「うん」

 上条が持っていたのと同じやつだろう。
 ハンバーガーの味は憶えていないが、財布の中にわりと真新しい感じの無料券が入っていたところをみると、かつての自分が結構食べていたようだ。

「とりあえず三〇個ほど頼んでみたり」

 サイズを見る限り、食欲盛りの男子高校生でも、一度に三〇個はきつい。
 ましてや、目の前にいるのは細っこい少女だ。

 つまり結論は、
「お徳すぎだ馬鹿」

 思わず口をついてでたその言葉に、巫女さんのまとう負のオーラは五割増しになった。

「た、たぶん上条のお兄ちゃんは、『どうしてまた年若い女の子がそんな馬鹿な真似を』って意味で聞いたんだと思うよって、
 ミサカはミサカはとりあえず援護射撃してみたり」

 打ち止めの補足に、巫女さんのオーラは少しましになり、再び口を開いてくれた。

「交通費。四〇〇円」

「うん、それで?」

「所持金。三〇〇円。一〇〇円足りない」

「も、もしかしてそれでやけ食いしたのって、ミサカはミサカは訊ねてみたり……」

「それくらいだったら歩けばいいだろ。この街の交通費を考えたら、一〇〇円分くらいならすぐ賄えないか?
 それ以前に、一〇〇円くらいだったら誰かに借りれないか?」

「それは、いい案」

 言いながら、巫女さんは上条へと手を伸ばした。

「もしかして俺に請求してるのか? それだったら無理だぞ、そんな金はない」

「ケチ」

「ケチじゃない! 一万円札を風に飛ばされた上、キャッシュカードを家に忘れただけだ!」

「でも。百円持っていない」

「その場合は、ケチじゃなくて一文無しっていうんだよ」

「じゃあ。一文無し」

「たしかにそうだけど他人に言われるとなんかむかつく」

 額に青筋を浮かべはじめた上条を見て、インデックスは上条と巫女さんの間に割って入った。
 それから、巫女さんの格好を一瞥して、短く訊ねる。

「その緋袴を見る限り卜部流の巫女みたいだけど、最近の卜部流はそんなに貧乏なの?」

「私。巫女じゃない」

 巫女さんはゆっくりと首を振ると、それからおごそかに答えた。



「私。魔法使い」





275第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 22011/08/29(月) 20:40:36.91aur2BoTy0 (5/7)



「……………………………………」

 四者とも、思わず黙り込んでいた。
 どよーんとした空気を打ち破るように、上条が口を開く。

「えーと。魔術師じゃなくて?」

「そこなのって、ミサカはミサカは天然な上条のお兄ちゃんに突っ込みを入れてみたり。
 この街で魔法使いとか魔術師はいくらなんでもないよね、インデックスのお姉ちゃんってミサカはミサカは――」

 水を向けた打ち止めを無視して、インデックスがテーブルをバン! と叩いた。
 そして叫ぶ。


「魔法使いって何! カバラ!? エノク!?ヘルメス学とかメルクリウスのヴィジョンとか近代占星術とかっ!
『魔法使い』なんて曖昧な事言ってないで専門と学派と魔法名と結社(オーダー)名を名乗るんだよオバカぁ!」


「うわーお、この場面における常識人はミサカ一人かよってミサカはミサカはとりあえず現状を嘆いてみたり。
 あと一五〇四〇号、ミサカはこれくらいじゃめげないから根性根性うるさいってミサカはミサカは訴えてみる」

「???」

 首をかしげた巫女さん(もとい、魔法使いさん)を見て、インデックスは不機嫌そうに眉をひそめた。

「この程度の言葉も分からず魔術師を名乗っちゃダメ!
 大体あなた卜部の巫女なんだからせめて陰陽道の東洋占星術師ぐらいのホラ吹かなきゃダメなんだよ!」

「うん。じゃあそれ」

「じゃあ!? あなた今じゃあって言った!?」

 どうやら、なにかがインデックスの逆鱗に触れたらしい。
 ヒートアップし始めたインデックスを止めようとした上条は、

「インデックス。周りの人の迷惑になるから――」

 不意に違和感のようなものを感じ、インデックスたちから通路の方へと視線を向けた。
 そして、ある事実に気づく。


「――っ!」


 いつのまにか、十人近い人間が、上条達の席を囲んでいた。

 夏休みのこの時間に、スーツ姿の大人の男たちがこんなに集まっているというのに。
 上条以外の誰も、彼らの存在に気付いていない。

 それほどまでに、徹底的に気配を消している。
 まるで、殺し屋のようだ。

 クーラーの効いた店内だと言うのに、上条の背中を嫌な汗が流れた。
 ほとんど無意識のうちに、インデックスと打ち止めをかばうように体の向きを変える。

 そんな上条を見て、自称魔法使いが立ちあがった。
 男の一人に近づくと、短く呟く。

「一〇〇円」

 男がスーツのポケットから小銭を取り出すと、魔法使いへと手渡す。
 そして、彼女は上条達の方へと振り返ると、告げる。

「塾の先生。迎えにきたみたいだから。帰る」

「帰るって……」

「ハンバーガー。残った分は。食べていいよ」

 それだけ言うと、魔法使いは歩き去っていく。
 まるでそれに従うように、男たちもついていく。

 普通、塾の先生が生徒を迎えに来るものだろうか?
 そもそも、塾の先生とは、あんな殺し屋みたいな挙動ができるものなのだろうか?

「とうま、氷とけちゃうよ?」

 インデックスがそう声をかけてくるまで、上条は階段の方を見つめ続けていた。



276おまけ:夏の土下座祭り2011/08/29(月) 20:42:12.86aur2BoTy0 (6/7)



上条「当麻とー」

石山「石山のー」


上石「夏の土下座祭りー」


上条「……ノリで言ったけど、なんだこれ」

石山「『そうだ、京都に行こう』編の土下座祭りです、とミサカは説明します」

上条「土下座祭りって、なにか土下座することあったか?」

石山「まず一つ。『そうだ、京都に行こう』編の元ネタは、元国鉄のわりと有名なキャッチフレーズのつもりだったんですが」

上条「ですが?」

石山「正しくは『そうだ京都、行こう』でした、とミサカは深々と頭を下げます」

上条「地味な間違いだな……」

石山「地味ですが大きな間違いです、とミサカはやや語調を強めて主張します」

上条「まずってことは、まだあるのか?」

石山「最終回にて、インデックスが『あそこに焼肉屋がある』的な発言をしていましたね、
   とミサカは確認をとってみます」

上条「そう言えばそんなこと言ってたな」

石山「まず前提条件として、大津市には二つの有名な食事所があります、とミサカは説明します。
   膳所の美富士食堂と、石山の焼肉麗門です、と、ミサカは時折全国区のテレビで紹介される二店の名を上げます」

上条「インデックスが行こうとしたのは、その焼肉麗門の方か」

石山「そうです、とミサカはあなたの言葉を肯定します。
   そして、問題はここからなのですが、石山駅からは、焼肉麗門もその案内看板も見えないんですよ、とミサカは呟きます。
   >>1が実際に石山駅に行って確かめたので、これは確かな情報ですとミサカは付け加えます」




277おまけ:夏の土下座祭り2011/08/29(月) 20:44:21.25aur2BoTy0 (7/7)



上条「わざわざ石山駅まで行って来たのかよ!」

石山「というわけで、匂いの元は焼肉麗門、インデックスが見たのは松喜屋の看板ということにしておいてください、とミサカは訂正を求めます」

上条「松喜屋……?」

石山「石山駅から徒歩十数分の場所にある、近江牛専門の高級レストランです、とミサカは説明します。
   ここなら改札すぐの地図にも名前が載っていたはずだと、ミサカは戦々恐々しながら呟きます。
   京都市営地下鉄にも広告が載っていたり、四条にも店舗があるので、京都の人でも知ってる人はいると思います、とミサカは続けます」

上条「大津市と京都市に住んでる人以外はおいてけぼりな土下座だな……」

石山「上記十行程の内容が正しく理解できるのは、全国でも十万人程度だととミサカは推察します。

   そして、次の土下座なのですが、こちらは『そうだ、京都に行こう』編ではなく、>>215です、
   と、ミサカはシリアルナンバーに大きな間違いがあることを謝罪訂正します。
   〇〇〇〇一号は『七人戦争』の前に死んでます、『〇〇〇〇二号は生き残っている~』にしておいてくださいと、
   ミサカはとりあえず頭を下げます。

   そして、最後の土下座なのですが――」

上条「まだあるのかよ!?」

石山「『散々二巻~四巻はサイドストーリーで補完する、と言っておきながら二巻再構成とか迷走してゴメンナサイ』、
   という>>1からの伝言をミサカは淡々と伝えます。

   他には誤字脱字、上条の口調がなんか違う、一方通行の『ん』が『ン』になっていないシーンがある、
   おまけの次回予告詐欺、ミサカたちの語尾が適当と言った、
   様々な謝罪があります、とミサカはもうどんな語尾になればいいのかなと投げやりな気持ちになります」

上条「これで土下座祭りは終わりか?
   ……えっとじゃあ、最後に>>1から。

  『月並みですがいつも乙コールしてくれる人たちホントありがとう。
   次回本編更新は、調子良ければ明日、調子悪ければ一週間以上後なんていうむちゃくちゃスケジュールにつきあっていただければ幸いです』、だとさ」


石山「いつも思うんですが、メタネタ嫌いな人いたらどうするんですかねーとミサカは適当に呟きます」
上条「スルーしてくれるのを願うしかないな……」
石山「まあ嫌いな人はたぶんそっとこのスレから離れるだけでしょうね、
   とミサカは無情な現実を呟いておきます。それではまた」




278VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)2011/08/29(月) 21:13:19.83yoXZbOk0o (1/1)


でも看板が見えるか見えないかなんて地元民でもあんまり気にしない気がするんだよ!
とりあえず京都、行きたい


279VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/29(月) 21:46:36.49e3xeFAiSO (1/1)

乙!以前はsageだったけど、ageにしたのか
更新わかりやすくて嬉しい


280VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/30(火) 05:59:41.65WlbxqTdio (1/1)

あんまり面白くて徹夜しちゃったよー自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


281VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)2011/09/03(土) 17:14:03.25GCQOQx1AO (1/1)

神裂だけ記憶喪失を教えないという設定で上条×神裂を書いて欲しいという至極勝手な意見を述べてみる。自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


28212011/09/05(月) 14:37:17.142GIj4KoH0 (1/1)


何も考えずに進めたせいで、こっからどうやってステイル登場につなげばいいか迷走中なんだよ!
一章終了まで書いたらまとめて投下に来ます。

>>278
もし京都に来るのなら、注意点が1つ。
バスは渋滞に巻き込まれやすい上に、時間によっては満車で乗れないこともあるから、
バスをメインの足に使うなら、ゆとりをもってスケジュールを組んだ方がいい。
行きたい場所があるなら、まずは電車+徒歩で行けるかどうか調べてみたらいいかも。

>>281
そういえばステイル&神裂が上条の記憶喪失知ってるかどうか決めてませんでした。
上条×神裂ってほどじゃありませんが、四巻再構成はこの二人メインでやる予定なので、
それまで待ってもらえればうれしいです



283VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/27(火) 20:33:29.01EyHAKJZ+0 (1/1)

来てくれ……


28412011/09/28(水) 18:59:52.37uGzL49RE0 (1/1)

もうちょっとだけ待ってくれ

俺は、かまちーにはなれない……




285VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/30(金) 23:33:43.76u/3NiOk8o (1/1)

待ってるんだよ!


286VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/10/01(土) 02:32:47.04oNTcxP0Wo (1/1)

さっき全部読んだ
面白い


287VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/10/01(土) 18:48:00.97she+NzUAO (1/1)

お前が、かまちーだ…

まさかこんな良スレを見落としていたとは
のんびり更新してくれるの待ってるんだぜ


288VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/03(月) 17:49:32.83Vy7uETgO0 (1/1)

待ってる


289第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 32011/10/06(木) 20:49:53.17Jcsfh3HO0 (1/12)



 真夏の金色の太陽が、茜色に変わり始めた頃。
 上条達三人は、このままもう少し涼しくなってから帰るか、それとも今から強行軍でもいいから帰宅するか悩んでいた。

 理由は、のどの渇き。

 時間を潰すのは容易だが、クーラーの効いた店内で会話をしていれば、嫌でものどが渇いてくる。
 しかし、残金は上条や打ち止めのポケットの中に残っていた小銭が数十円分。一番小さなサイズのドリンクすら買えない。
 男のプライドを捨てて携帯電話を取り出せば、不幸にも充電切れ。

 最終下校時間が近づいているせいか、店内はどこかあわただしい雰囲気に包まれている。
 この雰囲気にのまれて家に帰るか、もう少し粘って帰るか。

 タイミングを間違えれば、途中で熱中症で倒れてもおかしくない。
 真っ白い修道服(夏冬兼用)をまとったインデックスや、まだ幼い打ち止めにとっては死活問題だ。
 上条自身も、大怪我から退院してまだ間もない。
 記憶喪失なので自分の万全なコンディションは知らないが、少し慎重に行動するべきだろう。

「とうまー……お腹すいてきたかもー……」

 ハンバーガーの包み紙を恨めしげに睨みながら、インデックスがぐったりと呟く。
 華奢な外見のわりに燃費の悪い彼女からすれば、こんな小さなハンバーガーなど、ほんのおやつにしかならないのだろう。

 成長期真っ盛りな上条にとっても、それは同じだ。

「ミサカはそれよりノドが渇いてきたかもって、ミサカはミサカは空っぽな紙コップをつんつんと突いてみたり」

 早く帰りたい。しかしうかつに出れば倒れるかもしれない。
 傍から見れば間抜けな状況だが、上条達からすれば命がかかっている、と言っても過言ではない状況だった。




290第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 32011/10/06(木) 20:51:09.63Jcsfh3HO0 (2/12)



 そんな状況を打ち破るように、少女の大きなため息が聞こえた。


「まったく。『大金を下ろす時は細かくしろ』って助言、ちゃんと聞いてたのかしら?」


 その言葉とほとんど同時に、テーブルの上に、ドリンクとハンバーガーが載ったトレイが置かれた。

「みこと!」
「お姉様!」

 インデックスと打ち止めが嬉しそうに顔を上げ、上条も追従するように頭をそちらの方へと向ける。
 呆れかえった表情の美琴が、そこに立っていた。

 制服姿のところを見ると、風紀委員の活動をしていたのだろう。
 美琴は打ち止めの横に座ると、面倒くさそうにトレイを指さした。

「はやく飲み食いしちゃいなさい。さっさと帰るわよ」

「やった! いっただきまーす!」

「ふーノドの渇きが癒されるぜって、ミサカはミサカはおっさんっぽく呟いてみたり」

「ありがとな、美琴」

 どうして美琴がここに来たのか、なぜ状況を把握しているかといった疑問は無視して、
 上条はまずオレンジジュースを一口飲んでから、ハンバーガーにかぶりつく。

 胃に収めて一息つくと、ホットコーヒーに息を吹きかけている美琴に話しかけた。

「どうしてこの場所が分かったんだ?」

 上条のその質問に、美琴は一瞬だけ困ったような表情を浮かべ、それからすぐにいつもの得意満面な表情に変わった。

「えーっとね……ああ、そう、打ち止めのいつも着ている服には、学園都市製の最新鋭GPSがしこまれているのよ。
 繊維に織り込むっていう、街の外ではまず実用化不可能なレベルの代物で、
 打ち止めの携帯電話と連動しててね。打ち止めが長時間携帯電話に触れなかったら、
『誘拐の疑いあり』として、打ち止めの保護者の芳川さんや黄泉川さんに位置情報のメールが行くことになっているの」

「? ごめん、もう少し分かりやすく」

 べらっと説明されても、学園都市レベルの科学技術はよく分からない。
 台詞の端々から単語の意味を読みとるのが精いっぱいだった。

「これでも分かりやすく説明したわよー」

「棒読みなのは俺の気のせいか?」




291第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 32011/10/06(木) 20:52:17.83Jcsfh3HO0 (3/12)


「気のせい気のせい。あ、こらインデックス。口の端にケチャップついたままじゃない」

 美琴ははぐらかすように顔をそらすと、紙ナプキンをインデックスの口元まで運んだ。

「ありがとう、みこと」

 トレイに載っていたハンガーガー四個中三個をほぼ一瞬で腹の中に収めたインデックスは、満面の笑顔を美琴に向けた。

「それじゃあ、私がコーヒー飲み終わったら帰りましょう。もうちょっとしたらタクシー呼ぶから」

「タクシーって、……結構高くないか?」

 上条の預金口座の中には、なぜか七ケタくらいのお金が入っている。
 が、ここ数日のインデックスの食事量を考えると、なるべく節約したいのが本音だ。

 それ以前に、預金通帳の四月初めの数字と七月終わりの数字では悪い意味で結構な差があるので、
 お金は考えて使わないと、まだ見ぬ両親に泣きつく羽目になるだろう。

 しかし、美琴はのんびりとコーヒーをすすると、鷹揚な態度でやはりのんびり答えた。

「私がこれ飲み終わる頃には電車泊まるわよー。
 心配しなくても帰りのタクシー代くらいおごってあげるって。超能力者(レベル5)の財力なめないでよ?」

 軽い調子には見栄も驕りもなく、内容のわりに嫌味さは感じない。

 学園都市の常識に疎い上条だが、超能力者――学園都市のトップ7に入る美琴が、
 それだけで生活を送れるだけの奨学金をもらっていることくらい分かる。

 なのだが――やはり、上条にも男の意地くらい存在する。

「悪い。……俺、歩いて帰るよ」

「はあ?」

 美琴がすこし不快そうに眉をひそめたが、上条は構わず続ける。

「元々そのつもりだったしさ。インデックスのこと、送ってやってくれ」





292第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 32011/10/06(木) 20:53:36.75Jcsfh3HO0 (4/12)



 友達なのをいいことに、年下の女の子に甘えるのは、なにか違う気がする。


 その友情が、『いつのまにか築かれていたもの』なら、なおさら。


「……まあ、あんたらしいっちゃあんたらしいけど」

 美琴は一応は納得したのか、それでも眉はそのままに、再びコーヒーに口をつけた。
 そのまま紙カップをあおると、残りのコーヒーを全て飲み干す。

 空になったカップを握りつぶすと、美琴は上条に人差し指をつきつけた。

「でも、迷子になられたらもっと面倒なことになるから、私もついていく。いいでしょ?」

 語尾こそ疑問形だが、断ったなら店内で電撃が飛びそうな雰囲気だった。

「分かったよ。それじゃ、二人で歩いて帰るか。道案内頼むよ」

 そこが美琴の妥協点なのだろう、と、上条は頷く。
 が、その瞬間、美琴はなぜか顔を真っ赤にした。

「え? ふ、二人!? いやでもそれだと逆に面倒なことになるんじゃない!?」

「? あー確かにお前、顔はいいから不良とかに絡まれたりな。
 まあそん時は二人で逃げようぜ」

 コーヒー一気飲みして体温が急に上がったのかなぁとのんびり考えつつ答えると、美琴はさらに顔を赤くして、頭を抱え込んだ。

「か、顔! てか、二人で……逃げる!?」

 なぜかうろたえている美琴を見て、上条は冷や汗をかく。

「まさか、美琴、お前。不良を焼きたいとかそんなことを――」

「考えてないわよ、このバカ! ばっかじゃない、バカ!」

 心配になって美琴の顔を覗き込んだ瞬間、電撃が飛んできた。
 口元を隠すために、顔のすぐ側に右手をやっていたのが幸いして、幻想殺しがその電撃を打ち消す。


 ラッキーだが、なんか不幸だ。


「三回もバカって言わなくていいだろ!?」

「あんたがバカなのが悪いんでしょ!」

 ぎゃーぎゃーと口論を交わす上条と美琴を見て、打ち止めが呆れたように肩をすくめた。

「うーん、やっぱり上条のお兄ちゃんは乙女心が理解できてないのねって、
 ミサカはミサカはあきれたため息をもらしてみる。
 お姉様、ミサカも一緒に帰っていいかなって、ミサカはミサカは答えが分かりきった質問をしてみたり」

「え? べつに、打ち止めが疲れないんなら、一緒でもいいけど……」

 そのやりとりを見て、やや蚊帳の外に置かれていたインデックスが、少しだけ不機嫌そうに唇を尖らせた。

「……三人が歩くなら、わたしも歩く」






293第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 42011/10/06(木) 20:54:44.44Jcsfh3HO0 (5/12)




 歩いて帰ろうとしていた道だが、美琴のおごってくれた飲み物がなければ、その気力が途中で萎えていたかもしれない。

 いつか機会を見て恩返しをするべきだろうかと上条はそんなことを考えるが、上条にとって、美琴は出会って十日程度の知人だ。

 一体何をすれば恩返しになるのか、よく分からない。

 とりあえず今するべきなのは、美琴や一方通行の負担を減らすために、すこしでも早くこの生活に順応することだろう。
 周囲の景色を覚えられるように、きょろきょろと見渡す上条に、

「ねえ上条のお兄ちゃんって、ミサカはミサカは呼びかけてみる」

 非常に特徴的な語尾とともに、打ち止めが声をかけた。

「んー? どうした、ラストオーダー」

「このあたりって『知識』として残ってるって、ミサカはミサカは上条のお兄ちゃんに訊ねてみたり」

「デパート街なのは分かるけど、どの店によく行ってたとかまでは憶えてないな」

 せめてレシートでも残っていれば、どの店の常連かくらいは分かったのだろうが、
 現状、どういった食べ物が好物だったかは、その食べ物に関する知識量と、周囲に人間の発言に頼るしかない。

「じゃあ明日はインデックスのお姉ちゃんと三人でデパート巡りしようかって、ミサカはミサカはお誘いしてみるっ」

「らしいけど、インデックス、行くか?」

 水を向けると、インデックスは表情をぱあっと明るくした。

「デパートって、色々なものが売ってるんだよね。実際に行ったことないから楽しみかも。
 案内おねがいね、らすとおーだー!」

「例えば、あのデパートの五階には、美味しいケーキと、上条のお兄ちゃんお墨付きの美味しい紅茶が出てくる喫茶店があるんだよって、
 ミサカはミサカはよだれをたらさんばかりのインデックスのお姉ちゃんにややどんびきしながら答えてみたり」

「ねえ、らすとおーだー! おいしいご飯の出るレストランは――あ」




294第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 42011/10/06(木) 20:55:15.35Jcsfh3HO0 (6/12)



 眼をキラキラと輝かせていたインデックスが、不意に立ち止った。
 インデックスの視線の先には、段ボール箱があった。
 より正確に言うなら、中に仔猫を入れた、背の低い段ボール箱だ。

 もちろんこの場合、インデックスのお目当ては仔猫だろう。
 もちろんこの場合、食べたいという意味ではなく。

 段ボール箱に入っているは、生後二カ月前後の仔猫だ。
 今時珍しい、まるで漫画にでも出てきそうな見事な三毛猫だった。

 思わず上条と美琴と打ち止めも立ち止まる。




295第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 42011/10/06(木) 20:55:49.90Jcsfh3HO0 (7/12)


 そして、数秒の静止の後、インデックスが、上条のシャツの裾を軽く引っ張った。

「ねえね、とうま」

「ダメだ」

「まだなんにも言ってないかも」

「どうせ、『この子を飼いたい』だろ」

「拾いたいだよ」

「……いや同じだろ」

「ニュアンスが違うもん」

「お前に猫を飼うための知識があるのか?」

「ないけど、本を読めば覚えられるもん」

「説明書読んだ上で電気ケトル壊すお前が言ってもなぁ……」





296第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 42011/10/06(木) 20:56:39.71Jcsfh3HO0 (8/12)



 盛大にため息をついた上条を、インデックスは冷たい眼で睨みつけた。

「とうまは、スフィンクスを見捨てるの!?」

「スフィンクス!? もう名前付けてんのかよ!
 というかどっからどうみても日本産の三毛猫にスフィンクスはないだろ!
 ジャパニーズ・ボブテイルにスフィンクスってお前……。
 エジプシャンマウにネコマタって名付けるようなもんだぞ!」

「な。スフィンクスは古代エジプト時代から存在する神的存在であり――じゃない、今はそんなこと置いといて。
 猫の名前はスフィンクスだって、私の知識が言ってるんだよ!」

「どんな知識だ、捨ててしまえ、そんな知識。
 名前なんてつけたら、愛着がわいて捨てられなくなるだろ!?」

「私のご飯を分けてあげるから大丈夫だよ!」

「人間のメシに含まれる塩分は猫には濃すぎるだろ!」

「むー、とうま、男のクセに嫌味なお母さんみたい!
 ね、スフィンクスもって……あれ?」




297第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 42011/10/06(木) 20:58:31.01Jcsfh3HO0 (9/12)



 件の仔猫は、いつの間にか段ボール箱から姿を消していた。
 議論というか口論の理由が消え、すこし呆然としている上条とインデックスに、美琴と打ち止めが心底呆れかえった口調で呟く。

「ぎゃーぎゃー騒わいだせいで、仔猫が驚いたじゃない」
「猫の聴覚は犬の二倍もあるんだよって、ミサカはミサカは豆知識を披露してみたり」

 インデックスは悔しそうに唇を震わせた。

「ぜんぶ、とうまのせいかも」

「お前なあ……」

 仔猫が消えたであろう路地の入口に顔を向けたインデックスは、
「――え」
 何かに驚いたように、碧の瞳を見開いた。

「……属性は土、色彩は緑。この式は……地を媒介に魔力を通し、意識の介入によって……」

『科学の街』学園都市にふさわしくない独り言をぽつぽつ呟くと、

「――ルーン?」
 その双眸をぎらりと尖らせ、路地へと走り出した。

「インデックス……!」
 上条は思わず手を伸ばしたが、するりとかわされてしまう。

「とうま、みこと、らすとおーだー、先に帰ってて!」

「あ、待って! インデックスのお姉ちゃんって、
 ミサカはミサカは呼びかけたのに無視されたショックにまかせてインデックスのお姉ちゃんの後を追ってみたり」

 仔猫を追いかけに行ったと勘違いしたのか、打ち止めも走って路地の方へと消えてしまった。
 二人の元へと急ごうとした上条だったが、美琴に腕を強く掴まれ、止められてしまう。

「なにするんだよ、美琴!」

 上条は思わず怒鳴りつけたが、美琴は平然とした表情で、上条の腕を下へと引っ張る。

「ここで待ってて。スキルアウトに襲われた時、あんたがいたら私の力は制限される。
 それに病み上がりなんだから、しばらくはケンカから離れなさい。
 あんたが迷子になっても、探す方法はないんだから」

「いやでも……インデックスがルーンじゃないかって言ってただろ。
 そうだったら、俺の幻想殺しがあった方が――」


 美琴は短くため息をつくと、上条の額にデコピンをくらわせた。


「安心しなさい。万が一魔術師だったとしても、あんたの敵になるようだったら、私が焼いとくわ」

 それじゃすぐ帰ってくるわ、とだけ言い残して、美琴も路地へと走って言ってしまった。
 額を軽くさすると、上条は長く息をはいた。





298第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 42011/10/06(木) 20:59:29.00Jcsfh3HO0 (10/12)



 すっかり子ども扱いされている。

 失ったのは『思い出』だけであり、知識はちゃんと残っているというのに。
 年齢相応の知識はちゃんと持っているのだから、子ども扱いされるのは少し違う気がするが……
 まさか、元々こんな扱いだったのだろうか。

 美琴の言い分にも一理あるのは分かる。
 単純に考えて、学園都市で三番目の実力を持つ彼女より強い人間など、そう存在しない。
 彼女が最大限の力を発揮する際、敵味方関係なく異能の力を無効化する幻想殺しの存在は、邪魔になるだけだ。

(せめて……逆の入口を探すか)

 そう結論付けた上条の耳に、

「――久しぶりだね、上条当麻」

 そんな挨拶が届いた。

「――!?」

 振り返った先にいたのは、身長は二メートルはある、長身の少年だった。

 黒い修道服に身を包んでいるくせに、髪は真っ赤に染め、
 右目の下にバーコードの刺青を入れ、全ての指に指輪をはめ、
 あげくに十メートル以上離れているにもかかわらず香水の匂いが漂ってくる、破戒僧と呼ぶにふさわしい少年だった。

 もちろん、『見覚えのない』少年だ。

(…………?)

 そこまで考えて、上条は自身の思考に疑問を抱いた。

 どうして、目の前にいる人間を、
 身長は二メートルちかくもある、破戒僧という単語がしっくりくる人間を、

 なぜ、頭の中で少年と断言できた?




299第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 42011/10/06(木) 21:00:08.31Jcsfh3HO0 (11/12)



「挨拶もなしか。僕が『おはよう』と言い忘れた時は一時間近く説教をかましたくせに」

 口ぶりからすると、知人――しかも、友達クラスの知り合いだったのだろうが、もちろん上条には覚えがない。

「誰、だ……?」

 疑問が思わず口から出た途端、少年は眼に殺気すら込めて、不機嫌そうに髪の毛をかき乱し、

「なるほどあのキツネ野郎。何が『問題ない』だ猟犬に追い立てられて死んでしまえ」

 普通の日本人なら聞き取れないほど高速の英国語で、さらりと恐ろしいことを言ってのけた。

 それから、気を取り直したように、コートからタバコを一本引き出し、口にくわえた。

「ステイル=マグヌス。『必要悪の教会』の魔術師と言えば、君は理解できるかな?」

 なんの予備動作もなく、タバコの先端に炎がともる。
 タバコをくわえたまま、少年は皮肉気に唇を歪めた。


「権謀術策がうずまく『魔術』という暗部を、君は知識として覚えているはずだ。
 さて、ここで一つ取引をしようじゃないか。
 君が記憶を失ってまで救ったインデックスを、その暗部に引きずり込まないために、君の右手を貸してほしい」





3002011/10/06(木) 21:02:58.71Jcsfh3HO0 (12/12)

あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
『俺は久しぶりにSSの続きを投下しようと思ったら、いつの間にか一月以上経っていた』。
な…何を言っているのかわかると思うが、俺は何が起きているかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…

お久しぶりです。
今日は時間ないので途中です。三日以内に一章終わらせる予定です。
有言不実行申し訳ない。




301VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)2011/10/06(木) 22:33:42.29nuwvYAYAO (1/1)

>>1おかえりいいいいい!!!!


次回も楽しみにしてるぞ!


302VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/10/08(土) 08:53:44.73AeI+4Lqg0 (1/1)

>>1再開乙そして久しぶり

待っている。




303VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/08(土) 19:02:48.53I8jvOI/80 (1/1)

来た!これで勝つる


304第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 52011/10/09(日) 12:41:12.46CvkdTUvH0 (1/5)



 インデックスの目当てのものは、路地の奥に放置されていた。

 ビルの壁に、数十枚の紙が張り付けられている。
 その紙には、ラテン語の『o』を象形化したルーン文字――オシラが書かれている。

「『人払い』をほどこしたい区域の、東西南北の端にルーンを刻む。
 一番基本的な方式の『人払い』だけど、基本的すぎて派閥はしぼれないかも」

 まるで、教本からそのまま持ってきたかのような、テンプレートな人払いだ。
 だが、たまたま写本を手に入れたこの街の人間が、好奇心に駆られて試した――にしては、あまりにも精度が高すぎた。
 確かな腕の魔術師が、わざと単純な『人払い』をしかけたと考えた方が妥当だろう。

 自分がどこに所属する魔術師か分からなくさせるための処置か。
 だとすれば、その魔術師は『禁書目録』という存在をよく分かっている。

「でも……とっても不用心。
 ルーンはルーンでも、ただの紙に描いただけ。しかもトラップは仕掛けられてない。
 確かに撤収する時に楽だけど、これだったら、魔翌力を何も持ってない人間でも壊せるかも」

 それ以前に、この状態では気まぐれに雨が降れば効果は消えてしまう。

 日本のこの時期――夕立が降りやすい真夏に仕掛けるのは、無謀としか言いようがない。
 屋外に紙に描いたルーンを配置するなら、水を象徴する『l(ラグズ)』で加護するのが、魔術世界では一般的だ。

 用意周到なくせに、途方もなく間が抜けている。
 わざとだとすれば、インデックスをここまでおびき寄せるための罠ということになるが、

 このルーンの傍には、他の魔術は仕組まれていない。
 そうなると、『敵』の狙いは――。

「まさか……とうま?」

 それはそれで納得がいかない。
 上条は、ありとあらゆる異能を打ち消す。

 彼のあの右手をかいくぐれるのは、高位の魔術師くらいなものだろう。
 学園都市で展開するには、リスクが大きすぎる。




305第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 52011/10/09(日) 12:43:09.74CvkdTUvH0 (2/5)


 思考の泥沼にはまったインデックスの腕を、不意に打ち止めが掴んだ。

「インデックスのお姉ちゃん、あそこにスフィンクスがいるよって、
 ミサカはミサカは訳の分からないことを呟いているインデックスのお姉ちゃんの服を引っ張ってみたり」

「え?」

 そう言って、打ち止めは今まで走ってきた路地とは真逆の出口を指さした。

 その先にいたのは、ピンク色のジャージを着た、黒髪の少女だ。
 上条と同い年か、少し上くらいだろう。

 胸のあたりに件の仔猫を抱いたまま、ぼんやりと中空を見つめている。

「本当だ。……あなたがこの猫の飼い主?
 もしそうだったら、なんで段ボール箱に入れてたか、聞かせてほしいかも」

 インデックスが声をかけると、少女はゆっくりとインデックスと打ち止めの方へ顔を向けた。
 眠たそうな顔で、それでも視線はインデックスたちにしっかりと向けて、少女が呟く。

「あなたたちが来た方から、走ってきたの。
 はまづらが来てくれるまで、何もすることがないから、この子と遊んでた」

「あのね、あなたがその子を飼うつもりじゃないなら、わたしが拾おうかなって思ってるんだけど」

「飼う……のは無理。むぎのの鮭を盗って怒られそうだから。
 だから、はい。あなたにあげる」

 そう言うと、少女は胸に抱いた仔猫をインデックスの方へと差し出した。
 そして、眠たそうな眼を意外そうに見開いて、ことっと首をかしげた。

「……あなたからは電波が来ない?」

「で……でんぱ?」

 一度見聞きしたことは絶対に忘れない。
 それがインデックスの特技だ。
 なので、『電波』という単語は一応知っている。

 その意味は皆目見当がつかないし、理解できないが、
 人間から発せられるものではないことくらい知っている。




306第一章 吸血殺し(ディープブラッド)の魔法使い 52011/10/09(日) 12:46:19.18CvkdTUvH0 (3/5)


「わ、わたしは人間だもん……。『でんぱー』なんて出ないよ」

 とりあえず仔猫を受け取りながら、インデックスは答える。
 しかし、少女は気分を害した様子もなく、淡々と続けた。

「でも、この街の人は、ほとんどみんな電波が出てる。
 例えばそこの小さな女の子は、電波がすごく大きい」

「確かにミサカは強能力者程度の発電能力を持ってるし、
 ミサカネットワークの司令塔として、それぞれの思考を束ねるポジションにいるけど、
 そんなビビビーってでる電波じゃないのになぜ!? と、
 ミサカはミサカは情報漏洩に気がつきつつも絶叫してみたりー」

「それよりらすとおーだー、ここに魔術師が来るかも! はやく逃げなきゃ!」

「あ、あったかい電波が近づいてきてる。はまづらのかな」

「違うって一〇〇三二号、今のは情報漏洩じゃなくてひとりごとだよってミサカはミサカは――
 一五〇四〇号、根性根性うるさいってミサカはミサカは反抗期の子どものごとくぶーたれてみる」

「あなたも早く逃げた方がいいかも。魔術師が来たら、殺されちゃう!」

 思い思いに呟いたり叫んだりする三人。
 ここに、まともな突っ込み役がいたらこう叫んでいただろう。

 全員、電波じゃねーか。

 そんな中、路地裏に少年の声が響いた。

「滝壺! 車が確保できた、はやく行くぞ!」

 沈むかけた太陽が逆光になって、インデックスと打ち止めにはその顔が見えなかった。
 分かるのは、上条や一方通行より背の高い少年、ということくらいだ。

「やっぱりはまづらだった。
 はまづらが呼んでるから、行くね。それじゃあ、ばいばい」

 少女はひらひらと手を振ると、何事もなかったかのように少年の方へと歩み去ってしまった。

 少女が完全に消えてから、インデックスはもう一度『人払い』のルーンへと視線をやった。

「……魔術師は来ないし、とうまが狙いとも思えない。どうなってるかわからないかも」
「滝壺って……どこかで聞いた覚えがあるかもって、ミサカはミサカは首をかしげてみたり」

 後に残されたインデックスと打ち止め、そして仔猫は、結局美琴が到着するまで、
 その路地裏で立ち尽くすことになった。




307行間一2011/10/09(日) 12:47:56.64CvkdTUvH0 (4/5)



 ロンドンの片隅には、規模こそ小さいが、日本人街が存在する。
 その外れ――通常のロンドンの街並みに、和の雰囲気が混ざり合った場所に、小さな教会が立っている。
 ステイルはその教会の入り口で大きくため息をついた。
 石造りの階段の脇に、大量の笹が飾られている。
 そして、その笹たちは例外なく、紙製の飾りや、願い事が書かれた短冊をぶら下げていた。

 七夕の笹である。

 宗教的に考えれば、十字教の教会の入り口に飾るものではない。
 とはいえ、この教会の神父様は、ニュー・イヤーには門松を、
 八月半ばにはナスやキュウリで作った小物を用意するような人だから、これくらいは、かわいいものかもしれない。

 重い扉を開き、いつも通り人のいない教会の中を見渡してから、ステイルはもう一度ため息をついた。
 通路のどまんなかに座る上条に近づいて、わざとらしく首をかしげる。
「いったいどうしたの、トウマ?」
「どうしたのって、猫拾った」
 そう言って、上条は膝の上に載せていた仔猫を指さした。
「……そこじゃないよ」

 左の頬と耳は大きなガーゼが、左目には眼帯があてられている。
 それに、この時期に長袖長ズボン姿なところを見ると、手足にもケガを負っているのだろう。下手したら胴体にも。

「えっと……樹の上から降りられなくなったコイツを助けようとしたら、うっかり落ちて、
 んで、落着した先がなんかそこそこ大きな魔術結社の本部だったらしくて、
 襲撃者と勘違いされて、襲われたところを謎のおじさんに助けられた」
「謎のおじさん?」
「すっごい強い人で、なんかすっげーでかい棍棒みたいなやつで、魔術師十何人をぶっ飛ばしてた」
「まさか、聖人じゃないよね……」

 上条当麻とは、なんか見覚えのあるオバさんと遊んでるなと思ったら、そのオバさんが英国女王だったりする少年だ。
 その助けてくれた謎のおじさんが、聖人でもなんらおかしくない。

 上条がなにかしらのトラブルに巻き込まれるのはいつものことだ。
 ステイルも幼いなりに、上条の事情は理解している。

「それで、その猫、どうする気なの。飼い主を捜すんだったら、一応手伝うけど」
 日本人街にある家は、ほとんど飲食店だ。
 日本には『招き猫』という風習があるらしいが、衛生的に難しいだろう。
「俺が育てようかなって。……神父(とう)さんにも、一応許可貰ったし」
「トウマが?」
「名前も決めたんだ。スフィンクスって言うんだぞ。な、スフィンクス」
「スフィンクスって……」
 ステイルは仔猫に視線をやった。
 体毛や眼の色からして、ロシアンブルーの仔猫だ。
 仔猫は状況が理解できないようで、きょとんとしている。
「あー、そっか。ロシアンってくらいだし、英語は通じないか……。
 なあステイル、こんにちはって、ロシア語だとなんて言うんだ?」
「知らないよ。それに、ロシアンブルーはイギリスの猫だからね?」
 ステイルの呆れかえった声にへこたれることなく、上条はスフィンクスを高々と抱き上げた。




3082011/10/09(日) 12:48:59.10CvkdTUvH0 (5/5)



浜面がなんでこの時期に『アイテム』の下っ端やってるかはどこかで書く予定。
一方通行と駒場の出会う時期や立場が原作とまったく違うので、
駒場や浜面たちスキルアウト、あとフレメアに関するあれこれを変更してます。

『人払い』云々のシーンは、場のノリで読んでください。
読みは後期ゲルマンルーンを採用してます。


次は二週間以内に仕上げられますように!




309VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)2011/10/09(日) 13:46:26.45ok2ybwZd0 (1/1)

乙!


3102011/10/23(日) 11:52:26.26gVRJu0X70 (1/1)

なんというか、あれだ。
まったく書けない \(^o^)/オワタ

とりあえず半月ちょいじっくり頭冷やす。
それでも無理だったらpixivに移動してさらにマターリ書きます。



311VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/24(月) 18:54:52.85ZGI9+H1I0 (1/1)

いつから自分が書いていないと錯覚していた?


3122011/11/02(水) 18:43:03.91YI1TIaqj0 (1/1)

半月経ってないけど決めました。
pixivに移動します。

たぶんタグは『とある魔術(科学)の幻想殺し』とかになると思います。

いままで乙コールくれた人たちに感謝です。

三日くらいしたら、html化依頼をだしに行きます。さようなら。


313VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/02(水) 21:25:09.666Q8Ub04DO (1/1)

>>1
今まで乙!

pixiv?
追いかけてやるぜい


314VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/02(水) 23:03:08.57ATkxB3/co (1/1)

依頼出して落とされる前に、>>1の支部のIDかハンネを教えてもらいたい


3152011/11/03(木) 10:39:36.30i/3rL85g0 (1/1)

>>314
大切なの忘れてた
192706

他の作品とかも更新してるから、別IDの方が分かりやすかったら言ってくれ


316VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/03(木) 13:10:42.11iZmRyE6eo (1/1)

IDthx
支部のお気に入りに入れてきた