1 ◆.2t9RlrHa22011/06/06(月) 23:59:06.12DV88R+210 (1/1)

やぁ、僕はQB。

このSSではなかなか登場が難しそうだから、ここでの解説役を任されたんだ。

このSSは作者が以前ニュー速VIPへ投稿した、『まどか☆マギカ』と『STAR DRIVER 輝きのタクト』のクロスSS

≪  さやか「銀河美少年…?」タクト「魔法少女…?」  ≫の続編になる。 


作者が無知故に不備が多く、おまけに途中で落ちてしまって終盤は後編に別れてしまったgdgdっぷりだったけどね。

もっとも今作は確かにそれの続編だけど、諸々の事情から当面は前作ほぼ未登場の杏子を中心に話が進む。

さらに状況に合わせて、所々で前作で起きた事を挟んだりするそうだから、前作のSSを知らずとも一応心配はいらないそうだよ。


まどかは8話、スタドラは16話終了時点と言う事だけは知っておいてね。

あと、作者の無能や暴走故にキャラの口調や思想、設定がズレたり間違ってたりする時があるから、広い心を持ってくれると嬉しい。

作者の文才の無さを罵りたい時は静かに去ってくれると助かる。


それじゃあ、始めようか。

僕と契約しなくていいから、SSを読んでよ!


2 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:02:19.39fAZZxolc0 (1/112)

美樹さやか。

甘ったれで弱っちい新米魔法少女だ。


なったばかりの新米で、どうみても大したことない魔女一匹倒すのに苦労する癖に、どこぞの正義の味方みたいな真似をする。

どこか鼻に着く喋り方で、綺麗ごとばっか抜かす上に、相性悪い遠距離型で、何回やっても引き分ける正義の味方気どりの大馬鹿野郎。

あいつと同じような瞳をして、アタシの前に立ちふさがる。


その大馬鹿野郎でさえ割り切る所は割り切ってたのに、あいつはもっと真っ直ぐな瞳をして戯言を抜かす。

それがアタシは最高に気に入らなかった。


3 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:06:28.11fAZZxolc0 (2/112)

魔法は人を救わない。


それはアタシの信条だ。

凄い力や凄い奴は、いつだって世界を救ってきたのか?

違うだろ?


魔法だって同じだ。

それ持って何やるのも自由。

力を持ってる奴が、誰かを救わなきゃいけないなんて誰が決めたんだ?


4VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/07(火) 00:07:25.24zLVqsoSIo (1/3)

綺羅星☆

ヒャッハー! 前の奴も面白かったぞー


5 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:09:34.87fAZZxolc0 (3/112)

そう。

『誰かの為』なんて言って力を使ったって、それが本当にそいつの為になるとは限らないんだ。

逆に相手を傷つけて破滅させる事だって…。



だから、こんな力自分の為に振りまわして、使いたいように使うしかないのさ。


実際に見てみろ。

綺麗事を並べた大馬鹿野郎の巴マミは倒れて、美樹さやかだってもう限界ってツラしてる。


6 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:12:51.37fAZZxolc0 (4/112)

ほらな、それ見た事か…!

それ見た事か…!

見た事か…。


『誰かの為』なんて言った奴は残らず破滅する。

そればかりを見て、自分の事すら見えなくなっていくから…。



結局自分の為に生きる奴が一番正しいんだ…。


正しい、筈なのに…。

なのになんで、こんなに胸に突っかかるんだよ…。


7 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:15:47.05fAZZxolc0 (5/112)

さやか「誰かの幸せを祈った分、誰かを呪わずにはいられない…。

    あたしたち魔法少女ってそういう仕組みだったんだ…」



なんで、お前がそんな…。

立ちふさがるんじゃないのかよ…。

あんたのやり方で戦うんじゃなかったのかよ…。



そんなつまんねー仕組みなんてどうだっていいよ…。


8 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:18:34.69fAZZxolc0 (6/112)

さやか「あたしってほんとバカ」



違う…。

違うよ、さやか…。

アタシがあんたに求めた答えはそんなんじゃない…。


なんでこうなるんだよ…。

さやかはこうなっちゃいけないんだ…。

こいつは、真っ直ぐで、真っ直ぐすぎるくらい真っ直ぐで…。



アタシはあの日以来、久々に願った。

叶いやしないって知ってる筈の『奇跡』ってヤツを。


9 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:20:17.40fAZZxolc0 (7/112)

さやか「………………………」



さやかが何かを呟いた時、あいつの胸の中央に何か光が輝いた気がした。

アタシは『奇跡』が起きたのかと思ったけど、すぐに目の錯覚だとわかった。



さやかを中心にエネルギーの奔流みたいなのが発生し、周囲を駆け巡った。

それが何かはわからないが、すぐにヤバイモノだってのはわかった。

魔女やその結界内の不快感。アレに似たモノを感じたから。





『奇跡』なんてやっぱりないらしい…。


10 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:25:36.07fAZZxolc0 (8/112)

杏子「くそっ、さやかっ…!」


駅のホームにあった柱に捕まり、暫くは耐えて見せた。

だけど、その不快なエネルギーは徐々に意識を遠のかせる。

耐えようと思ったけど、ダメだった…。




畜生…。

何でこうなるんだよ…。

さや、か…。


11 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:31:18.40fAZZxolc0 (9/112)

────────

────

──


シモーヌ「しかし、急に取引がしたい等と言ってくるとは意外でしたね、奥様」


カナコ「シモーヌ、あなたが私が不在の間に話を取りまとめていてくれて助かったわ…」


シモーヌ「代わりに息つく間もないスケジュールが完成しそうですが…、その割には嬉しそうですね」


カナコ「こちらの手を取るつもりのなかった相手が、渋々ながらも向こうから歩み寄ってくる。これは素晴らしい事よ。

    人間同士が互いに譲歩し合うことができれば、最終的にこの世から争いは無くなる…、そうは思わない?」


シモーヌ「現実はそう甘くないですよ、奥様。

     事実、我々はクラスメートとすら解り合えていません」


12 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:34:34.78fAZZxolc0 (10/112)

カナコ「そうね…。実際h」

シモーヌ「待って!」


シモーヌ「あそこに人が倒れています」


カナコ「わかったわ。車を止めて」


運転手「はぁ…。

    しかし、ここで車を止めると商談に間に合わなくなりますが?」


カナコ「それは人命よりも優先すべき事? 止めなさい!」


13 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:37:59.16fAZZxolc0 (11/112)

片田舎の海沿いの車道を窮屈そうに走る高級車が急停車する。

その車から、いかにもと言った令嬢とその侍女が現れる。

侍女が発見した倒れている人影を発見する為に、行きすぎた道を駆け戻っていく…。



シモーヌ「いました、あそこです」






??「うぅ…、さや…、か…」


赤い髪をポニーテールにして、さらに赤い衣装を纏った少女が倒れていた。


14 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:48:09.79fAZZxolc0 (12/112)

ちょいと小休止。
一言書いたらすぐ再開します

>>4
綺羅星☆
応援してくれるものがいるのはやっぱり最大の励みになるZE


さやかと銀河美少年絡めたいだけのSSの反対に、杏子と綺羅星絡めようとしただけだから無茶苦茶苦労しました…。

キャラ多いわ、杏子にも色々思想が必要だわで、今現在も結構迷走中。
大筋は決めてるんだけどね…。

キャラ多い作品は絡めるキャラ絞らないと地獄見る事を学びました。
おかげで長いです。
おまけに仕事の都合で来れたり来れなかったりします。

うまく完走できるように、綺羅星に願いを…。


15VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/07(火) 00:51:36.69zLVqsoSIo (2/3)

いったん乙乙

VIPと違ってここは落ちないからゆっくりでも大丈夫よ。
いや、早く続きが見れるのは嬉しいですけどね


16 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:53:36.71fAZZxolc0 (13/112)

アタシの頭をなでる優しい神父…。

この夢はよく知ってる。

ちょっと温かくて柔らかい布団で寝るとすぐ出てくるウザったいヤツだ。

アタシはコレを見るのが嫌で、宿を借りてもわざわざ床で寝るってのに…。


神父とその家族の優しい日々。

そのまま終わるなら良いんだ…。

でも、この夢の結末は決まってる。


最期は必ず最後に神父がトチ狂って、小さな女の子とその母親に迫るんだ。

そして…。


17VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)2011/06/07(火) 00:56:43.731DNn9mT/o (1/1)

16話ってどこまでだったか誰か教えてくれ
もう覚えてないよ


18 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 00:58:11.01fAZZxolc0 (14/112)

杏子「あああああああぁぁぁぁぁ……」


二人の断末魔で終わる。

もう毎度お決まりだが、何べん見ても慣れてはくれねぇ…。







杏子「はぁ…、はぁ…、はぁ…」


息を荒げながら、自分の上体を起こしてみる。

やはりと言うかなんと言うか、布団を伴ったベッドらしき所にいるらしい。


19VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/07(火) 00:58:31.77qkSTKtFHo (1/1)

>>17
レシュバルぶっ潰してミズノとマリノが出てったとこらへんじゃない?


20 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:00:14.24fAZZxolc0 (15/112)

>>15
頑張るね
現在も迷走中なのが困りもの

>>17
ヘッド(笑)を居合した所


21 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:02:29.92fAZZxolc0 (16/112)

杏子「チッ。どこの馬鹿だ…。余計なことしやがって…!」


????「当家の奥様ですよ」



すぐ後ろにそこに誰かいる。

気配がない…訳じゃない。

悪夢にやられて警戒を怠っていた。


アタシは反射的に、毛布をそいつに飛ばして視界を奪う。

そして、一気に襲い掛かる。


22 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:06:04.75fAZZxolc0 (17/112)

????「きゃッ…!」


侵入者は倒れ込み、アタシは毛布の下にいるそいつにマウントを取る形となる。

これでとりあえずの危機は脱した。

と思ったが、甘かった。





杏子「ッ…!」

???「動くな…!」


今アタシの下にいる奴とは違う。

今度の奴は本当に気配がなかった。

いつのまにか背後に立たれ、首筋に木刀を突きつけられている。


23 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:08:29.11fAZZxolc0 (18/112)

???「両手を上げて、そこから離れろ…」


こちとら油断してないかって言えばしてない事もないが、それにしたってどこの暗殺者だよ…。


渋々あたしは両手を上げた状態で立ち上がり、毛布に包まれた最初の侵入者から離れる。

勿論背後にはさっきの暗殺者みたいな奴が立ったままだ。


横目でしか見れないが、毛布の中から出てくる奴の姿を見てみる。


24 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:12:49.95fAZZxolc0 (19/112)

????「いてて…」


何の事は無い。

顔立ちがやけに綺麗なだけの侍女だ。


金色の髪と青い目が特徴的だが、殺気はおろかそっち方面の特徴は何も無いただの一般人。

攻撃する必要のない奴を攻撃して状況を最悪にしちまった。

危機なんて何も起きておらず、自ら寝ぼけて危機を作り出したんだ。



こりゃしくじった…。

あの夢を見るとほんとロクな事がねぇ…。


25 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:14:45.28fAZZxolc0 (20/112)

力尽くで行くか…?


こちとら魔法少女だ。

暗殺者の一人や二人、魔法少女になっちまえば造作もねぇ。

おまけに相手の獲物はたかが木刀だ。


だが、こう言ういかにも『名家』みたいな所で派手に騒ぐと後が怖い。

手を出したのは侍女一人だし、今ならまだ捕まった後にこっそり抜けても追手がかからない可能性が高い。


普通だったら切羽詰まってるんであろう状況でごちゃごちゃ考えてた所、後ろの奴から指示がようやく来る。


26 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:16:55.61fAZZxolc0 (21/112)

???「来い、奥様がお呼びだ」


とりあえず、言われるがままアタシは従って歩く。

途中でちらっと顔が見えたが…。


悪くもないが、どこにも特徴もない、ありきたりなラブコメの主人公みたいな顔してやがる。

顔だけ見りゃ暗殺者どころか、さっきの侍女さえ比較にならない凡人の面構えだ。


人はみかけによらないのか、それともアタシの嗅覚もいよいよアテにならなくなってきたか…?

そんなこんなを考えている内にその奥様とやらの居る所に着き、アタシはそれは素晴らしい歓迎を受けた。


27 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:19:33.39fAZZxolc0 (22/112)

杏子「……で、なんでこうなるんだよ」


カナコ「あら、食事はみんなで取った方が楽しいとは思わない?」


シモーヌ「奥様は皆で取る食事を大変気に入っておられます」


杏子「アタシが言いたいのは……、なんで得体のしれない奴をそこに……、招いているかなんだがなぁ……」


左手で頭を掻きながら、それでも右手と口の動きは止めない。

ごちゃごちゃ言いながらも、並べられた料理には食らいつく。

目の前に並んだのは、アタシみたいな奴には一生縁が無いような、名前もわからん高級料理ばかりだ。


28 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:24:43.97fAZZxolc0 (23/112)

ワタナベ・カナコ。

見た目は若いが、気品と大人の色気みたいなモノを放つ例の『奥様』。

柔らかい薄緑の髪と、笑顔を絶やさない様子ながらもどこかタダモノならぬ気配を感じさせる。

そのまんまコイツは既婚者らしく、「ミセスワタナベと呼んで」とかほざきやがる。

しかも相手は良い歳した爺さんらしい。金持ちの考える事はわからん…。



侍女の方はシモーヌ・アラゴン。

落ち着いてるのか冷静なのかわからんが、あんまり表情を変えない。

先も言った通り結構な美人で、カナコの話じゃかなり多芸でなかなかに優秀らしい。



ラブコメ坊やはダイ・タカシって言うそうだ。

コイツも正直よくわからんが、凡人染みた顔ながらも仕事の手際と手広さはシモーヌに劣らないっぽい。

シモーヌと決定的に違うのは、こいつは戦いとかそっちの心得があるのが間違いない事だろう。


29 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:27:21.61fAZZxolc0 (24/112)

しっかし、わかんねーのはそのシモーヌを攻撃したアタシがなんで昼食に招かれてるかってことだったんだが…。





カナコ「シモーヌから事情は聞いたわ。

    いきなり見知らぬ人間が枕元に立ってて驚いたんでしょう?

    見つけた時凄く衰弱していたから、相当酷い状況から流れついたんでしょうし…」


シモーヌ「あの事については気にしなくて良いです。こちらも不注意でした」


カナコ「それより、あなたのお名前を聞かせて貰ってもいいかしら?」


杏子「あぁ? …佐倉杏子だよ」


30 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:29:56.53fAZZxolc0 (25/112)

シモーヌ「ちなみに、杏子の杏はあんずと書きますので、あんこさんって呼ぶのがよろしいかと」


杏子「てめっ…/// 何言って…///

   つーか、何で知ってんだよ!」


シモーヌ「あんこさんの介抱を行ったのは私ですから。

     汚れた洋服から所持品をお預かりした際にたまたま…」


カナコ「ちゃんとシモーヌにお礼言うのよ、あんこちゃん…。

    あなたを発見してくれたのもシモーヌなのだから」


31 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:31:54.14fAZZxolc0 (26/112)

杏子「それはわかったが、あんこじゃねぇ!///」


タカシ「………さくらあん?」


杏子「しれっと何言ってんだ! 潰すぞ///」




ウザったいからかいだが、監禁されたり追手から逃げ回るよりはマシ。

何と言っても、美味い飯に無料でありつける。

この状況で裏が無いって考える方が不自然だろうが、考えても始まらない。

お人よしって奴は世にいない事もないしな。


せっかくだからと欲張って、現状でもっとも確認しなきゃいけない事をそれとなく聞いてみる。


32 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:33:30.69fAZZxolc0 (27/112)

杏子「ところで、アタシの他に倒れてる奴はいなかったかい…?」

杏子「青い髪をショートにしててさ、こんくらいの背丈で…」



カナコ「いいえ。一応後々近くを調べるようには言ったけど…」


タカシ「………………」



どうにもカナコ達の話じゃ、アタシは浜辺に打ち上げられてたらしい。

で、他の遭難者がいないかを一応調べさせたそうだが、周囲には誰一人いないとの話だそうだ。

カナコはこの島の内外で顔が利くそうだから、調べてくれるとは言うが…。




カナコ「でも、真っ先にその子の行方を聞くなんて…。よっぽど大事な子なのね」


33 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:35:45.11fAZZxolc0 (28/112)

言われて初めて気が付いた。



大事…?

アタシがあいつを…?

あり得ねぇ…。



でも、カナコの言う通り、こんな状況で真っ先に考えた事は何だった?

今にも死んじまいそうなあいつの様子を見て、なぜあんな気持ちになった…?



今にも死んじまいそう…。

そういや、最後に会った時のあいつはそんな状態だった…。

そう考えると、今どうなっちまってるかわからない…。


34 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:37:10.10fAZZxolc0 (29/112)

だが、問題はさやかばかりで無く、アタシ自身にも訪れていた。






杏子「南十字島だって…?

   どこだよ、そこ…?」


この島の名前らしい。

しかし、アタシの知る限り日本にそんな島は無い。

アタシの無知なら良い。

だが、イヤな予感がしたアタシは、シモーヌからノート型PCを借りると色々と検索してみた。


35 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:38:16.15fAZZxolc0 (30/112)

だが、問題はさやかばかりで無く、アタシ自身にも訪れていた。






杏子「南十字島だって…?

   どこだよ、そこ…?」


この島の名前らしい。

しかし、アタシの知る限り日本にそんな島は無い。

アタシの無知なら良い。

だが、イヤな予感がしたアタシは、シモーヌからノート型PCを借りると色々と検索してみた。


36 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:39:01.31fAZZxolc0 (31/112)

だが、問題はさやかばかりで無く、アタシ自身にも訪れていた。






杏子「南十字島だって…?

   どこだよ、そこ…?」


この島の名前らしい。

しかし、アタシの知る限り日本にそんな島は無い。

アタシの無知なら良い。

だが、イヤな予感がしたアタシは、シモーヌからノート型PCを借りると色々と検索してみた。


37 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:40:30.84fAZZxolc0 (32/112)

だが、問題はさやかばかりで無く、アタシ自身にも訪れていた。






杏子「南十字島だって…?

   どこだよ、そこ…?」


この島の名前らしい。

しかし、アタシの知る限り日本にそんな島は無い。

アタシの無知なら良い。

だが、イヤな予感がしたアタシは、シモーヌからノート型PCを借りると色々と検索してみた。


38 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:41:56.50fAZZxolc0 (33/112)

だが、問題はさやかばかりで無く、アタシ自身にも訪れていた。






杏子「南十字島だって…?

   どこだよ、そこ…?」


この島の名前らしい。

しかし、アタシの知る限り日本にそんな島は無い。

アタシの無知なら良い。

だが、イヤな予感がしたアタシは、シモーヌからノート型PCを借りると色々と検索してみた。


39 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:46:28.59fAZZxolc0 (34/112)

だが、問題はさやかばかりで無く、アタシ自身にも訪れていた。






杏子「南十字島だって…?

   どこだよ、そこ…?」


この島の名前らしい。

しかし、アタシの知る限り日本にそんな島は無い。

アタシの無知なら良い。

だが、イヤな予感がしたアタシは、シモーヌからノート型PCを借りると色々と検索してみた。


40 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:48:14.41fAZZxolc0 (35/112)

いや~、なんか重いと思ったら連続投稿しちょる…。
いや、まあlすぐ再開します、ハイ。


41VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/06/07(火) 01:49:07.24wVqP3nYAO (1/2)

続き来たか、回線不調子なんかね今


42 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:50:02.85fAZZxolc0 (36/112)

杏子「………やっぱり、見滝原が別の名前になってやがる」


シモーヌ「みたきはら…? 現在の日本にそんな所は無いと思いますが」



アタシらが居た筈の見滝原市が別の名前に置き換わってた。

カレンダー上じゃ、僅か三日と半日にしか経ってねーにも関わらず、だ。

おまけに調べりゃ、歴代の首相に知らない名前の人物がいたり、誰でも知ってるような便利な道具が存在してなかったりする。


43 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:52:35.12fAZZxolc0 (37/112)

パラレルワールド。

馬鹿げてるとも思ったが、よく考えりゃその馬鹿げてるモノの中心にいるのがアタシら魔法少女だ。

今更その馬鹿げた世界が広がっても驚く気も起きやしない。


しかし、そうなってくるとこの世界に魔女が居ない危険性が出てくる。

魔女ってのは魔法少女の敵たる化け物だが、倒すと魔法少女が生きていくのに必須な『グリーフシード』ってのを落とす。

アタシは溜めこんでるから暫くは持つが、全く手に入らなくなるってのは相当ヤバイ問題だ。


44 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:54:51.29fAZZxolc0 (38/112)

おまけにさやかは、ここに来る前から深刻なグリーフシード不足にある。

そうと解ればのんびりはしていられなかった。




杏子「色々ありがとな…。こんだけ聞ければとりあえずは十分だ」


カナコ「…すぐに向かうのかしら?」


杏子「できたらそうしたいけどさ…。ちょっと待った」


カナコ「…?」


45 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:57:01.94fAZZxolc0 (39/112)

杏子「アタシがこの飯残したら、それはどうなるんだ?」


シモーヌ「後片付けなら私が後で行いますが…」



あ~あ~。

やっぱりそう来たか。

これだから金持ちは…。






杏子「………」ムシャコラムシャコラ



シモーヌ「…?」

カナコ「急ぐんじゃないのかしら?」


46 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 01:58:11.88fAZZxolc0 (40/112)

杏子「あんたらにも言っておく……」

杏子「食い物を粗末にするなら、恩人だろうとぶっ[ピーーー]」



これもアタシの信条の一つだ。

これをする奴は、誰であろうと絶対に容赦はしねぇ。


理由?

勿体無いからだ。

そもそも理由なんて、いらねぇだろ………。


47 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:01:21.68fAZZxolc0 (41/112)

────────

────

──

杏子「あんたには色々迷惑かけちまったな」


シモーヌ「事故のようなものです。お気になさらずに」


杏子「………」


シモーヌ「私の顔に何か付いてますか?」



杏子「あんた落ちついてるよなぁ…」


シモーヌ「そうでもないですよ、あんこさん」


杏子「あんこさん言うな!///」





杏子「カナコも色々世話になったな」


カナコ「また遊びにいらっしゃい」


48 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:03:25.24fAZZxolc0 (42/112)

シモーヌとカナコに挨拶を済ませ、あいつらの住むデカイ船の外に出る。

そこでようやく、カナコに言われて島の地図を持ってきたタカシが追い付く。

アタシにとって最も重要な情報を持って。



杏子「さやかかもしれない奴に心当たりがあるだと…?」

杏子「本当かよ!? どこにいるんだ!?」


タカシ「落ち着いてください。

    今持ってきた地図に出入りしてそうな場所もマーキングしておきます」


タカシ「ただ…」


歯切れ悪く切るタカシに苛立つも、黙って話を聞き続ける。


49 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:04:37.66fAZZxolc0 (43/112)

タカシ「彼女、何か危険な事をしているみたいでして…。

    できればあなたの方からそれをやめるよう、説得してあげてくれませんか…?」




危険な事?

全く、あの馬鹿は人をどれだけ心配させりゃ気が済むんだよ…!


しかし、よくよく考えりゃ無理もない話で、最後に会った時のあいつは今にも死にそうな面をしてた。

あんな状態のあいつなら、危険な事の一つや二つしててもおかしくはない。


タカシから地図を受け取ると、アタシは駆け出していた。


50 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:06:56.44fAZZxolc0 (44/112)

────────

────

──


アタシはあいつを探す為に、地図にある箇所を訪ねた。

一つ目の道場?は人が誰もいなくて空振りだったが、

二つ目の神社へ向かう途中で、あいつを見つけた。


青い髪のショートヘア。

あのムカつくツラ。

忘れもしないアイツ…。



美樹さやかがいた。


51 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:08:55.08fAZZxolc0 (45/112)

さやか「杏子…?」


さやか「よかった! アンタも無事だったんだ…!」


それを見たアタシは目を疑った。

あいつはすっかり元気を取り戻していた。


最後に見た時は死にそうな顔をしてたのに…。

あっちの世界とこっちの世界で時間軸にズレがないなら、まだ四日も経っていない筈なのに…。




それとタカシから聞いた『危険な事』。

合わせると、どうしても良い予感はしなかった。


52 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:10:38.58fAZZxolc0 (46/112)

さやか「良かった。心配してたんだよ…。

    アンタあの時やけに近くにいたから、巻き込まれたんじゃないかって…」


杏子「………」


さやか「………ちょっと。なんか言ってよ」


杏子「さやか、お前何があった?」


さやか「何って…?

    あぁ、アンタには情けないモノ見せちゃったもんね…」


杏子「それはいい、答えろ」


アタシには見せた事のなかった笑顔を一瞬だけ見せ、さやかはどこか悟りきった表情をした。


53 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:11:51.52fAZZxolc0 (47/112)

さやか「……会えたんだ」


杏子「あぁ…?」


さやか「あたしのしてきた事…。

    受け止めて、その上で称えてくれる人に…、会えたんだ」



普通なら、よかったじゃんって返せば良いんだろう。

だが、こんな状況とこんな短い期間で、さやかの言う人物と『危ない事』とやらが無関係ってのは考えづらい。


まして、こいつは…。


54 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:13:01.74fAZZxolc0 (48/112)

杏子「………気にいらねぇな」


さやか「…………」


杏子「お前、なんか今危ない事やってんだって?

   そいつも『それ』に絡んでるのか…?」


さやか「どうして、それを…?」


杏子「答えろ!」


55 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:14:29.98fAZZxolc0 (49/112)

さやかはホレた男の為に魔法少女になり、結局その男に捨てられ、それを大きな一因にして病んでいった。

そんなさやかが何か支えを欲しがるのは無理はないだろうさ…。


気にいらねぇのはそいつだ…。

心が弱り切ったさやかを甘い言葉で惑わせて、『危ない事』だか何だかやらせてるってのか…?



そいつへの嫉妬…?

そいつが気に入らない…?

それはある。


だけど…。


56 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:15:48.37fAZZxolc0 (50/112)

さやか「その人は、その状況に巻き込まれたあたしを助けてくれただけ。

    もっとも、その後はあたしが自分の意志で『それ』をやってるけど」


杏子「『それ』が何なのか、アタシには言えないのか?」


さやか「………言えない。言えばなんだかんだでアンタを巻き込むだろうし。

    アンタには借りを作りたくないし、アンタはアンタらしく自分の事だけ考えてて欲しいから…」



少しだけ迷った様子をみせて、さやかは切り出す。

さやかもアタシに気を使ったんだろうその言葉は、今のアタシには完全に逆効果だった。

そいつへの庇い立てと取ったアタシはとうとうブチ切れる。



それだけじゃないな…。

たぶんだけど、あいつの瞳が妙に決意に満ちてる事から、嫌な予感がしたんだと思う。


57 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:17:50.19fAZZxolc0 (51/112)

杏子「もういい。そいつはどこだ!」


さやか「仮に言ったとして、会ってどうする気?」


杏子「化けの皮を剥がすのさ。

   アタシがそいつをボコボコにして、それでもあんたに対して戯言を抜かせるか確かめる…!」


さやか「相変わらず…、そう言う馬鹿なモノ言いは直らないんだね」



杏子「馬鹿はお前だ! さやか!

   何べん同じ事繰り返せば気が済むんだよ!」



さやか「…言ったでしょ」


さやかの表情が変わる。

その瞳は、アタシが一瞬怯むほどの強い意思を感じる。


58 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:19:57.10fAZZxolc0 (52/112)

さやか「あたしはあたしのやり方で戦うって。

    あの時は迷って堕ちたけど、今度はもう迷わない」


さやか「そんな生き方が、あの人が称えてくれて、あたし自身が望んだ魔法少女の形だから」



杏子「理想論だけじゃ生きていけないって、まだわからないのか!

   現にこっちの世界に魔女は居ないかもしれないんだぞ?

   グリーフシードがなきゃ、どうなるかは身に染みてわかったはずだ!

   なのに、なんで…」





杏子「お前はまた『誰かの為』なんだよ!!!!」






さやか「……………ごめん」


59 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:21:12.37fAZZxolc0 (53/112)

アタシは全力で嘆いた。

でも、さやかはそれに謝った。

二人の間に決定的な亀裂が入った瞬間だった。




杏子「……構えろ」


さやか「………杏子?」


杏子「力尽くでも『それ』をやめさせる!」


60 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:22:44.93fAZZxolc0 (54/112)

結局アタシ達二人は互いに魔法少女になり、ぶつかりあった。


あいつを心配してきた筈なのに…。

弱ってる筈のあいつに無理させたくないのに…。

魔翌力やグリーフシードの無駄遣いはまずいってのに…。

「一緒に帰る方法を探そう」って言おうと思ってたのに…。



結局、最後はこうなっちまう…。

馬鹿はアタシだ…。


61 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:24:23.86fAZZxolc0 (55/112)

前の戦いでアタシの技を多少は覚えたんだろうか、それともこいつにも譲れない何かがあったのか…。

さやかは善戦した。

それでもアタシとの力の差は歴然だった。



杏子「……『それ』、やめる気になったか?」


さやか「……絶対やめない」


杏子「今度こそ死ぬぞ!」


さやか「構わない。……別に死んでやる気もないけどね」


62 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:25:48.58fAZZxolc0 (56/112)

杏子「……………馬鹿野郎がッ!」




あちこちボロボロなのに、あいつの目は輝きを増していた。

あいつを圧倒した筈のアタシが逆に気押されるほどに。


こいつは、また『誰かの為』に戦う事を選んじまったんだ…。

自分自身がどうなるとしても…。


さやかをそんなにした例の奴を心の中で罵倒しながら、これ以上続けてもどうにもならないであろう事を悟り、

さやかに背を向けると同時に黒い宝石を数個落とした。


63 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:27:24.53fAZZxolc0 (57/112)

杏子「………使え」


さやか「グリーフシード?

    でも、あたしは…」


杏子「いらねーから捨てただけさ。

   それなら、拾って使っても借りにはなんないだろ…」


さやか「杏子……」


64 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:30:54.26fAZZxolc0 (58/112)

魔法少女の命たるソウルジェム。それが壊れない限りアタシらは不死身だ。

だが体を回復したり、魔法を使って戦った際にソウルジェムは穢れを溜める。

他にも精神に過度のストレスを溜めた際にも溜まり、

濁りきればよくは知らないが、死に近い状態になったり、呪いを生み出したりと良くない事になると言う噂を聞いた。

実際、あのさやかの様子を見ればそれがどれだけまずいかは想像に難くない。



その穢れを浄化する為の黒い宝石。それこそがグリーフシード。

あいつはそれの手持ちがなくて、ソウルジェムが濁りきってた筈なのに無理させちまったから…。


歩き始めたアタシは、あいつが後ろで何か言っていたが聞こえなかった。



そして、考え事をしていたアタシはこのやり取りを見ていた何者かの存在にも気付かなかった…。


65 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:36:09.36fAZZxolc0 (59/112)

────────

────

──


黄昏ながら海岸を歩くあたしに、絵描きらしき青年が話しかける。

夕陽を描こうと今やってきたのか、スケッチはほぼ真っ白だ。


???「情熱的な瞳、髪、立ち振る舞い…。全身から情熱が溢れ出るようだよ…。

    君の絵を描かせてくれないかい?」


杏子「興味ないね」





???「美樹さやかと一緒に元の世界へ帰りたくは無いかい…?」


通り過ぎようとした時、絵描きはその尻尾を見せ始めた。

どこか胡散臭い奴だとは思ってたが、アタシ達の昼間のやり取りを見てやがったのか…?


66 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:38:13.06fAZZxolc0 (60/112)

杏子「あんた、何者…?

   なんでアタシ達の事情を知ってんのさ…?」


アタシはソウルジェムから魔翌力でできた手槍を出して、相手の喉元に向ける。

だが、その男は意にも介さずにそのまま口を動かす。





???「そう身構えないでくれ。

    今の君や美樹さやかに対して直接事を起こすつもりなら、こうして話し合いに来たりはしない…」


杏子「聞きたい答えと違うんですけど~?」


回りくどい絵描きに苛立ったアタシは、槍をほんの僅かに伸ばし、絵描きの首元にかすらせる。

しかし、こいつは臆するどころか溜息を吐くだけで平然と話を続ける。


67 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:39:55.95fAZZxolc0 (61/112)

???「ハァ…、やれやれ。好戦的だなぁ…」


???「話すよ…。

    率直に言えば我々と美樹さやかは敵対関係にあり、手に余る彼女の内情を探っていた」


杏子「………」



やっぱりな。

キナ臭いとは思ったが、さやかの敵さんが自ら出向いてきたってわけか。

本当ならこいつを脅すなり泳がせるなりして、敵陣に乗り込んで一網打尽にしてやるのが、さやかの負担が一番減るんだろうが…。



『元の世界へ帰りたくは無いかい…?』

こいつはそう言った。

その条件はアタシに取っても、さやかに取っても最優先すべきであろうことだ。


68 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:41:41.65fAZZxolc0 (62/112)

杏子「方法があるのか…?」


???「サイバディ」



杏子「………?」


???「彼女や我々が用いている古代の異文明の遺産の事さ。

    どうも君や美樹さやかをこの世界に飛ばした原因でもあるようだ。

    我々の目的は『それ』を封印から解放し、活用したり、より深く研究したりする事にある」


杏子「そのとんでもないモノなら、アタシらを元の世界に戻せるってのかい…?」


???「君が手探りで探せば一生かかってもできないであろう事を、圧倒的に短縮できるのは間違いない。

    我々はアレにそんな機能があるとは知らなかったが、来れた以上戻ることは可能な筈だ。

    問題は…」


杏子「……さやかの、存在か」


69 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:43:03.92fAZZxolc0 (63/112)

???「正しくは、彼女ともう一人…だけどね」


???「サイバディの研究をより深く行う為にも早い所その封印を解きたいんだが、彼女達はそれを許してくれなくてね…。

    なにせそれのような強大な力を手にするという事は、世界を支配するのと同じ事でもあるからね…」


な~るほどね。

さやかの置かれている現状と敵対勢力の目的がだいぶ見えてきた。

こんな話になってるなら、あいつはこの状況を放っておいたりはしないだろう。

色々と頷ける状況だ。


70 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:44:34.79fAZZxolc0 (64/112)

???「ともかくだ。

    彼女のしている事は、元の世界へ帰る可能性を摘む行為に等しい…」


杏子「だから、アタシがあんたらの仲間になってさやかを止めろ…と?」


???「そうだ。元の世界に戻れなければ君達も色々と困るんだろう…?」


本来なら、アタシはこんな胡散臭い奴の面倒な取引には応じない。

言ってる事も嘘くさいし、そもそもリスクが大きい。

まして自分らが世界を手にする為に、小娘一人つけ狙おうなんて言う腐った考えの連中なら尚更ね。


さらにアタシは慣れ合うのは嫌いで、集団ってのは従うにも抜けるにも色々面倒事が付きまとうモンだ。


ただ…。


71 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:46:36.26fAZZxolc0 (65/112)

杏子「あんたらの条件は、アタシらが元の世界に戻る為の技術提供。

   そしてアタシはあいつを止めて、サイバディとやらが世界に出る事で、より研究をしやすいようにする。

   それで良いんだな?」


???「あぁ」




杏子「その話………乗った」


アタシ自身の為にも、さやかの為にも、元の世界へ帰る必要はある。

そして、あいつを狙う胡散臭い連中の中に潜り込んだ上で、その『危険な事』自体はアタシ自ら行えるかもしれない。

色んな危険や注意すべき事は多くとも、とりあえず乗っておかない手は無い悪くない条件だ。


72 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:48:04.92fAZZxolc0 (66/112)

???「そうか……。それは助かる」


そして、絵描きはどこか棘と怪しさを含む笑みを浮かべて立ち上がり、そう言った。



???「歓迎するよ。

    ようこそ、綺羅星十字団へ」


杏子「綺羅星十字団…?」




綺羅星十字団。

胡散臭さが爆発したその秘密結社の一員として、アタシはさやかの『敵』になることを決めた。


73 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:51:28.03fAZZxolc0 (67/112)

────────

────

──


議長「これより綺羅星十字団、総会を始めます!」



一同「「「オォーーーーー!!!」」」



先ほどの話に乗った事をさっそく後悔している。

いや、諸々の条件とかさやかの敵になる事とかそう言うんじゃないけどさ…。

ただ…。



なんなんだ、このエキセントリックな連中は…?


74 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:53:29.64fAZZxolc0 (68/112)

綺羅星十字団。

胡散臭いのは名前だけじゃなかったらしい。


どいつもこいつも魔法少女や、それを通り越して魔女にでもなってそうな服装に、怪しげな仮面を付けた仮面舞踏会みたいなノリ。

アタシもそれに合わせ、魔法少女姿にその妙ちきりんな仮面を付けている。

いや、それはもう良い…。


それよりも…。



ヘッド「さっそくだが、今日は新しい我々の同士を紹介しよう…」


ヘッド「来たまえ、『デス・クリムゾン』」


75 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:55:28.76fAZZxolc0 (69/112)

『デス・クリムゾン』

アタシに付けられたコードネームだ。

これはアタシだけでなく、他の連中も全員似たようなコードネームを持っている。

仮面同様、どうにも私生活でその辺がバレ無いようにする為の措置らしい。

これで呼ばれると背中が痒くなるが、それすらもまだいい…。



呼ばれたアタシは、仮面を付けた大衆の見守る中、中央に円形の穴が開いたデコボコ卓にいる絵描き、もといヘッドの横に立った…。

問題はここからだ…。


76 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:57:12.88fAZZxolc0 (70/112)

ヘッド『会場が暗転し、スポットライトが君に当たったら大きな声でそう言いつつ、そのポーズを取れ』


杏子『おい、なんだそりゃ! そんなの聞いてねーぞ!?///』


ヘッド『なんだ? そんな事わざわざ事前説明はいらないだろう…?』


杏子『大勢の前で、ノリノリでそんな事やるのかよ…///』


ヘッド『それこそが我々の同士の証たる作法だ。

    何、すぐに慣れるさ』



慣れてたまるか…///

そんなどっかのアイドルの決めポーズみたいなの大勢の前でやるような組織に慣れてたまるか…///


つーかなんだそれ?///

キラ…!?///


77 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 02:59:41.16fAZZxolc0 (71/112)

考えている内に会場が暗転する。


何か対策は…?

今の内にダッシュで逃げるか…?

でも、そしたら元の世界に帰る為の手段はどうなる…?


とか考えてる内にカチっと音がしてアタシにスポットライトが当てられる…。



これでアタシはもう逃げられない…///

畜生…///

やるしか…、ないのかよ…///


えぇい!

こんちくしょーーーーーーーーー!!!!!!


78 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:02:37.37fAZZxolc0 (72/112)

きく息を吸い込み、覚悟を決める。

心臓の鼓動は止まらなかったが、もう無視してアタシは動き始める。



右手でVサインを描き親指も開く。

それを横にして、左耳の辺りにそれを持っていき、右側へ流す。

そして、人差し指と中指の先が右目を中央に捕らえたら、そこで止める…!



そして、叫ぶ。

高らかに…!




杏子「き、綺羅ぼちッ!」


79 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:03:39.35fAZZxolc0 (73/112)

一同「……………」



……やっちまった。

………一番大事な所で噛んじまった。

…………せっかくノリノリでやったのに、最後の最後に。




この場合どうなるのかな…?

テイク2やらせてもらえるのかな…?

それとも同士としては認められず、追い出されるのかな…?



つーか、なんか言えよ…。

沈黙でソウルジェムが濁りそうなんだけど…。

あぁ、アタシってほんとバ…


80 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:05:57.52fAZZxolc0 (74/112)

一同「「「綺羅星ッ!!!!」」」


噛んだ分対処に困ったのか、アタシの体感時間が遅く感じられたのかはわからないが、連中もようやくノリノリで返してきた…。



確かに相手のノリは想像以上によかった。

この訳のわからない挨拶がこいつらの作法ってのは間違いでもないらしい。


しかし、この挨拶はアタシは一生好きになれそうにないな…。

ただ、羞恥で潤んだ目と頬を隠してくれるこの仮面の方はまぁ…、少しありがたく思ったけど。




何にしてもこれでもう、アタシは後戻りはできなくなった訳だ。


81 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:08:10.02fAZZxolc0 (75/112)

落ち着いた所で辺りを見回してみる。

会場のど真ん中にある、中央に円形の穴が開いたでこぼこした卓。

その傍らの椅子に着いてるのは、分隊かなんかのリーダーのようだが、どうも女が多い。

欠席者が一人いるのか六席中五人が、ヘッドを除くと女、女、女、女…。


そんな中、どこかで見た事のあるヤツを発見した。





杏子(あいつ…、カナコじゃねーのか?)


先に会った気品を感じる私服と打って変わり、色気と攻撃性を伴った服装に警帽みたいなのを被り、手に鞭を伴っている。

だが、明るい緑の髪とその体の放つ色気、金持ち故の上品さみたいなモノは消し切れていない。


82 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:11:37.19fAZZxolc0 (76/112)


どうせなら、カナコの下で行動したいよなぁ…。

ふと、そんな事がよぎる。


アタシは状況的にはあの油断ならないヘッドとか言う奴を見張るべきなんだが、

聞いた話じゃ奴は立場が強く独自行動も思うままらしく、ちょっと張り付いたくらいじゃ尻尾を出すとは思えない。

そもそも腹の探り合いみたいなのはあまり得意じゃないから、先にアタシの方にボロが出るかもわからない。

あいつの後ろにいるなんたらエージとか言う分隊の連中もどこか一癖ありそうな連中ばかり。


正直あの男に近づきすぎるのは、リスクの方が大きいと断言できる。




ヘッド「彼女は、我々『バニシングエージ』のメンバーとし…」


杏子「ちょっと待った」


得意げに語ろうとするヘッドの口を遮るように、アタシは割って入った。


83 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:13:11.36fAZZxolc0 (77/112)

杏子「アタシは確かに綺羅星十字団への参加は決めたが、

   あんたの傘下になるとは一言も言ってないんだけど…?」


ヘッド「何…?」


ヘッドの不服そうな声を聞きつつ、視線をカナコらしき奴へ送る。




頭取(……あの子、こっちを見ている?)

頭取(まさか、あんこちゃん…!?)



こっちの視線に気づいたカナコらしき女が口を開く。

その口調は服装同様、やや攻撃的であるように思える。



頭取「あまり好かれていないようだな、ヘッド?

   そちらさえ良ければ、我々『おとな銀行』で彼女を引き取ろうか…?」


84 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:15:16.15fAZZxolc0 (78/112)

ヘッド「いや、彼女はこちらで責任を持っ…」

スカーレットキス「待ちな…!」




スカーレットキス「なかなか面白そうな事になってきたじゃん。私も混ぜろよ。

         あんたら二人が取り合うほどの新人なら、是非とも私達『フィラメント』も希望させてもらいたいね」



ピンクの髪をツインテールにし、カナコとは反対に色気を感じない平べったい胸の女が立ちあがる。



しかし、なんかややこしい事になってきちまったなぁ…。

あのヘッドが見るからに面白くなさそうな雰囲気を出してるのは、なかなかにオツだけどな。


85 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:16:41.71fAZZxolc0 (79/112)

ヘッド「チッ…」

ヘッド「では、公平にクジでも引くか…?」


頭取「異論ない」


スカーレットキス「お前らはどうする…?」




イヴローニュ「そんな得体の知れない奴は『ブーゲンビリア』には必要ない」


プロフェッサー・グリーン「こちらは言うまでもないだろう。

             『科学ギルド』にサイバディの専門知識の無い者が来てもどうにもならない」


白黒しましまレオタードの女と、黒いサラシみたいなのの上に上着を来た茶髪の女が興味なさげに言う。

卓の周辺にいるリーダー格は今上げた五人だけなんで、ヘッドとカナコらしき奴とピンク髪の三人でアタシを取り合うらしい。


86 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:18:02.88fAZZxolc0 (80/112)

ヘッド「…………」

頭取「…………」

スカーレットキス「……………」




イヴローニュ「決まりだな」


長い沈黙の中、引いた当り紙を高らかに振り上げて、ピンク髪の口元は満面の笑みを浮かべる。








スカーレットキス「では、約束通り『デス・クリムゾン』は、我々『フィラメント』の所属とさせて貰う!」


一同「「「オォーーーーーー!!!!」」」


アタシの上司はこのピンク髪のねーちゃんに決まったらしい。

カナコじゃないのは残念だが、まぁヘッドの下じゃないだけ幾らかマシだろう。


87 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 03:21:09.75fAZZxolc0 (81/112)

っし。
今日はここまで。
誰も居ないかもしれないけど、乙星!

明日はどうにか来れそうだから、適当な時間(夕方?)に再開予定。


あと作者は言うまでもなく、ティロフィナSSのファンです
アレ読まなかったら、きっとSSなんか書かなかった。


88VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/07(火) 04:13:57.90CDfBP22Yo (1/1)

綺羅星っ!


89VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/06/07(火) 04:46:42.15wVqP3nYAO (2/2)

乙星、さてはて搭乗サイバディ含めどうなることやら

タカシはやっぱりラブコメやエロゲとかの無個性主人公だよね姿形
まさか最終的にマドカの危険性やシモーヌとダレトスの繋がりを分かり易くする物差し君になるとは


90VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/07(火) 12:46:18.25ydjQnp2IO (1/1)

乙乙
綺羅星もノリノリにこなせるようになるアンコちゃんwktk




91VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/07(火) 15:31:27.41CXLKhljV0 (1/1)


綺羅星で噛んだのはベタなのにキュンと来た


92 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:19:23.40fAZZxolc0 (82/112)

乙星☆
遅れてスマソ
ぼちぼち投下します

最終章の構想が浮かんだから、来るのそっちのけで書いてた。
こう言う時どっち優先すべきかは迷う…。
熱い展開はビビっと来るとまとめて書ける反面、間繋ぐのがきつい。


>>89
タカシはちゃんと活躍するから、タカシ好きはじっくり待って欲しい
ポジがポジなんで終盤まで動かせなんだ

>>90
>>91
あんこちゃんマジあんこ



>>1の補足。
QBさんが得意の「聞かれなかったからね」してくれたんで、一応。

前作SS見た人はわかってるかもですが…。
スタドラは16話終了時とあるけど、ウインドウスターとニードルスターは既に南十字島へ来てる設定になってる。

名前遊び、強さレベルが程良い、二人組、戦闘狂、等丁度いい位置だったんで…。


93 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:25:33.11fAZZxolc0 (83/112)

イヴローニュ「それにしても、ドライバーを連れてきた所で機体はどうするつもりだったんだ?」


ヘッド「彼女は『アインゴット』のドライバーとして登録する予定だった。

    前ドライバーの所属の都合でアレは我々の預かりとなっているが、ドライバーごと『フィラメント』の登録にすると良い」


頭取「アインゴットだと…?

   あんな物にまた人を乗せるつもりだったのか…!?」


ヘッド「これから話すが、状況は君達が思うよりずっと切迫している。

    藁にもすがりたいほどにな」



アインゴット。

それを聞いたカナコらしき女がやけに苛立っている。

あの口ぶりからすると、どうもアタシはとんでもないモンに乗らされる所だったってとこかな…?


あいつの下へいかなかったのは、まずは正解だな…。


94 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:30:56.65fAZZxolc0 (84/112)

処遇の決まったアタシは、その『フィラメント』とやらの先輩らしき男二人に連れられ、周囲の仮面の中に混じった。

怪しげな連中に混じり、怪しげな五人の会議を見守る…。






ヘッド「では、『デス・クリムゾン』の所属もはっきりした所で本日の本題に移ろうか…。

    我々、綺羅星十字団は未曽有の危機を迎えている」



スカーレットキス「さっきも言ってたが…、なんで私達が知らない所で未曽有の危機が始まるんだよ?」



ヘッド「予期せぬ事態が発生した…」


95 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:34:36.77fAZZxolc0 (85/112)

頭取「…?」


ヘッド「サイバディ『レシュバル』が敵に奪取された」


スカーレットキス「…なんだそりゃ?」


ヘッド「語るよりも見て貰った方が早い。

    プロフェッサー・シルバー、映像を頼む」



ヘッドの指示で灰髪の仮面が何か装置を動かし、卓の上に立体映像が映る。


96 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:44:15.27fAZZxolc0 (86/112)

杏子(さやか…!?)



映像に映ったのは、青いショートヘアに青いコスチューム、白いマント、そして剣を持った魔法少女のさやか。

そこらの魔女じゃ比較にならない程デカくて、いかつい巨人の顔に向かって斬りかかっている。

だが、さやかの攻撃は虚しく弾かれ、いかつい巨人が地上へ放ったレーザーの爆風で吹き飛ばされてしまった。







ヘッド「彼女は『美樹さやか』。新たに敵となったもう一人の『銀河美少年』だ。

    そして、どうやったかはわからないが、俺からレシュバルのシルシを奪取した…」


議長(奪取…? 違うな…)


97 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:48:12.53fAZZxolc0 (87/112)

議長(あの日、俺はヘッド…、いやトキオに以前与えたレシュのシルシを返してもらう筈だった)



人型ロボット『サイバディ』。

それを呼び出し、乗り込む為の資格である『シルシ』は持ち主の意思で他者へ譲渡できる…。


だが、レシュのシルシはトキオの意志に反して俺の元へは現れなかった。

そして、数分後に黒いオーラを纏ったレシュバルがゼロ時間に現れ、トキオを襲った…

暴走したレシュバルは、我々の敵であるツナシ・タクトが撃破した。

そこまでは良い…。


98 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:52:55.03fAZZxolc0 (88/112)

その中にいた少女。

美樹さやかは何故かレシュのシルシを持っていた…。


理屈としては説明できないが、心情としては安易に想像が付く。



恐らくはレシュバル自身が不甲斐ない俺を…、拒んだんだ…。

そして美樹さやか、彼女に救いを求めた…。



そして、その結果は…。


99 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 21:58:27.90fAZZxolc0 (89/112)

スカーレットキス「この女、ツナシ・タクトを助けようとしてるのか…?」


ヘッド「映像が無くて申し訳ないが、この娘はこの前に暴走したレシュバルに取りこまれ、ツナシ・タクトに救出されている…」


頭取「この娘の相手はウインドウスターか…。

   やはり彼女は危険すぎる…」





アタシは映像に見入っていた。

映像のさやかは地上へ倒れ、いかつい巨人に見下ろされる。

そして、中にいるウインドウスターとか言う奴が挑発を仕掛ける。


100 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:02:57.52fAZZxolc0 (90/112)

ウインドウスター『逃げてるだけじゃない分マシだけど…。結局は腰ぬけなのね』


さやか『何…?』


ウインドウスター『だってそうでしょ…? 

         復活時にリビドーを吸い取られるリスクが怖いか、暴走して見境なく暴れるのを恐れてるのか知らないけど、

         自分のサイバディを使わずに人任せにしてる…』


ウインドウスター『結局は怖いんでしょう…? アプリボワゼするのが』


ウインドウスター『この、腰ぬけ銀河美少年…!』



さやか『え…!?』


タクト『よせっ! その子は…』



さやかを助けようとする白と赤の貴公子のような巨人が向かおうとするも阻まれる。

これに乗ってるのが例のさやかに戯言吐いてるって言う馬鹿か…?


101VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)2011/06/07(火) 22:05:26.95wj7eK7Vd0 (1/1)

メル欄にsagaって打てば殺すとか魔力とか表示されるはず


102 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:08:12.07fAZZxolc0 (91/112)

ウインドウスター『煩いわね…。あと少しなのに…!

         とりあえずあっちのサイバディ、一度壊して黙らせておこうかしらッ!』


さやか『やめてッ!』


ウインドウスター『そこで黙って見てなさい!』


いかつい巨人が白と赤の巨人の方向を向き、さやかを攻撃したレーザーを放とうとした瞬間だった。







さやか『アプリボワゼェェェェェェ!!!!!!」』


103 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:14:25.23fAZZxolc0 (92/112)

>>101
サンクス
気になってたから助かる

コロスとかもできるのかね?
杏子の台詞的に必要なんだよなぁ…


104 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:16:00.94fAZZxolc0 (93/112)

叫んださやかを中心にエネルギーの奔流が発生する。

それは、あの日駅のホームでさやかが発したエネルギーと全く同じモノだった。



発生したあのエネルギーはさやかを取り囲むようにして巨大化していき、

最終的にその黒いオーラを纏った巨人が出来上がった。


その姿は、いかつい巨人の狙う白と赤の貴公子によく似ているが、それとは比べモノにならない禍々しさを放つ。

その性質は、あの不快感で出来上がったような魔女どもによく似ていた…。


だが、出来上がった巨人は見た目の禍々しさとは裏腹に一切の行動をしない。


105VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/07(火) 22:16:33.21zLVqsoSIo (3/3)

大丈夫大丈夫、表示出来るはず。

スタドラといったら日常パートも期待




106 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:21:13.78fAZZxolc0 (94/112)

>>105
サンクス

日常、銀河美少年、綺羅星の三拍子だもんね…
めっちゃ苦労させてくれたよ…

綺羅星さん達は結構動くんだけど、さやか側のタクトさん達がマジで難しい…


107 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:24:02.33fAZZxolc0 (95/112)

頭取「動かない? 壊れているのか…?」


プロフェッサー・グリーン「いや、見る限り復元は完全に成功している。

              我々のような復元用の設備抜きで、ここまでの復元をやってのけるとは…」


イヴローニュ「そんなことができる物なのか…?」


プロフェッサー・グリーン「整備用の設備を持たない筈のタウバーンが、常にベストコンディションで現れる事からもわかると思うが、

              シルシ持ちのサイバディはドライバーのリビドーを元にある程度の自己修復が行えるようだ」


プロフェッサー・グリーン「もっとも、これはあくまでもダメージ修復や破損パーツの補完程度の話であって、
 
              壊れたサイバディの復元なんて大事を設備抜きで行うなど、かかる負担を考えれば非現実的すぎるがな…」


108 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:28:43.83fAZZxolc0 (96/112)

やがて、さやかの乗る黒の巨人はいかつい巨人に吹き飛ばされて地面を転がる。

そして、天から降って来た謎の光の柱を浴びて、その逆光で黒の巨人は見えなくなる。



スカーレットキス「王の、柱か…」


プロフェッサー・グリーン「ツナシ・タクトの親友であるシンドウ・スガタが持つ、強力な威力を誇る第一フェーズの特殊能力だが…。

             先日二人目の巫女を破り、第三フェーズに突入したサイバディには通用しない筈では…?」


ヘッド「その通り。その行動の意図は俺にもわからん。

    だが、実際にこれが最悪の結果を招いた」


109 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:32:51.28fAZZxolc0 (97/112)

光の柱が晴れる。

その中からは、その光の柱が浄化したのか禍々しい黒いオーラが消えた、白と赤の貴公子そっくりな白と青の巨人が現れる。

そしてその胸の中央にある球体の中に、さやかはいた…。




さやか『颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!』


さやかが乗ったレシュバルと言うらしい白と青の巨人は、いかつい巨人と戦っている。

確かに初めてにしては善戦しているが、手に余るほどの強さとは思えない。


110 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:49:51.34fAZZxolc0 (98/112)

スカーレットキス「これが何だってのよ? そもそもレシュバル一機奪られたから何…?」


頭取「確かに敵勢サイバディが増えたのは問題だが、ツナシ・タクト程の圧倒的強さとも思えないが…」


ヘッド「怖いのはここからだ…」




さやか『スターソード! スィトリンヌ!!!』


映像の中のさやかの乗る『レシュバル』は、胸から強い黄色を帯びた金色の光の剣を引き抜く。


その色は、何の因果か偶然か…。

たびたびアタシに突っかかって来た大馬鹿野郎にして、さやかの尊敬する先輩『巴マミ』の髪の色そっくりだった…。


111 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:54:31.47fAZZxolc0 (99/112)

イヴローニュ「スィトリンヌ…。行方不明になっていた10本目のスターソード…?」


スカーレットキス「だから何…? こいつ剣技だって力任せで出鱈目じゃない!」


頭取「いや、これは…!?」



アタシには何が起きてるかわからなかったが、それはここにいる全員が同じだったらしい。

レシュバルが剣を振るう度に、それをいかつい巨人は防御したり、回避したりしていた。

だが、防御や回避に成功した筈のいかつい巨人の動きは見る見る悪くなっていく…。

そして…。


112 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 22:57:44.18fAZZxolc0 (100/112)

さやか『動きが遅い! 貰ったッ!』


まるでスロー再生か何かのように動きが悪くなった、いかつい巨人の両手をレシュバルの剣は切り落とす。

そして、なぜかいかつい巨人は両目から輝きを失い、そのまま機能停止してしまった。




プロフェッサー・グリーン「スターソードの輝きによるサイバディの強制停止だと…。

             話には聞いていたが、実際にそんな事をやってのける者がいるとは…」


スカーレットキス「ど、ドライバーが弱すぎたんじゃないのか…?」


頭取「いや、ウインドウスターは実力も、サイバディを動かすリビドーの強さも、危険なほど高いレベルで纏っているドライバーだ。

   敵のリビドーが強すぎる、あるいはあのスターソードが何かおかしいのか…」


113 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:01:53.81fAZZxolc0 (101/112)

ヘッド「これでわかっていただけただろう。

    我々はあのツナシ・タクトだけでなく、剣を振るうだけでこちらのサイバディを強制停止しかねない相手も敵になった」


スカーレットキス「人事のように言うな。

         レシュバルを奪られるヘマをやらかしたのはお前だろう」


ヘッド「それをわかっているから、それに対抗できる可能性のある優秀な人材をスカウトしてきたんだが…。

    もっともその人材は君に取りあげられてしまったが…」


頭取「責任の一端を持つ『バニシングエージ』にも一層活動してもらうのは勿論だが、

   これは我々全体の問題として大きく取り上げるべきだろうな…」


プロフェッサー・グリーン「『科学ギルド』でも調査や対抗策の開発は進めておく。

             だが、他の隊でもあの銀河美少年への対策は各自進めておいてくれ」


114 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:13:28.45fAZZxolc0 (102/112)

ヘッド「とりあえずは閉会と言う事で良いかな…?

    それでは…、我らに栄光を、そして銀河美少年に破滅を…」


ヘッド「綺羅星!」



一同「「「綺羅星!!!!」」」


杏子「え……?」



杏子(考え事してたから出遅れた…)







セクレタリー「よろしかったのですか、奥様…」


頭取「えぇ…。『フィラメント』ならそう問題もないでしょう。

   案外こちらに来るよりも良かったかもしれない…」


115 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:16:23.85fAZZxolc0 (103/112)

胡散臭い集会が終わり、人が散り始める。

カナコらしき奴の所にでも行くかと考えた矢先、横にいた自分の先輩らしき二人の男に自己紹介を受ける。



レイジングブル「どうせ同じ隊だ。本名も一緒に紹介してやるよ。

         俺は『レイジングブル』。本名はホンダ・ジョージって言うんだ」


スピードキッド「俺は『スピードキッド』。本名はゴウダ・テツヤ。

         我儘なリーダーの下に来ちまって苦労するとは思うが…、仲良くやろうぜ」
 


どっちもなんとなく粗暴なイメージだったが、実際はなかなか気さくなあんちゃん達みたいだ。


116 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:21:37.67fAZZxolc0 (104/112)

杏子「アタシは佐倉杏子。 コードネームは『デス・クリムゾン』…って付けられた」


スピードキッド「付けられたぁ…? 誰に?」


杏子「………ヘッド」


レイジングブル「なかなかイカスじゃねぇか、『デス・クリムゾン』とは! さすがだなぁ、あの人のセンスは…」





そうかなぁ?と思いつつも一応その場に合わせて首を縦に振る。


同時にカナコらしき奴の姿を追ってみると、アタシの上司になるピンク髪と何やら話している。

ガヤが多く、残念ながら会話は聞き取れない。


117 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:25:09.88fAZZxolc0 (105/112)

そうこうしてる内に二人の会話が終わり、ピンク髪はこっちへ、カナコらしき奴は反対側へ去っていく。

横にシモーヌっぽい奴もいるし、挨拶くらいはしておきたかったんだが…。






スカーレットキス「よぉ、新入り。私は『スカーレットキス』。

          綺羅星十字団第五隊『フィラメント』の代表をやってる」


スカーレットキス「これからお前も『フィラメント』の一員として活躍できるよう、

          ビシビシ鍛えてやるから、覚悟するようにな?」



ピンク髪の自己紹介を受けている間に、カナコとシモーヌらしき奴の姿は雑踏に消えた。

まぁあいつらの居場所はわかってるし、後々お礼も兼ねて会いに行くか…。

そう考えつつ、アタシはピンクの上司や先輩に連れられ、会場を出た…。


118 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:27:40.35fAZZxolc0 (106/112)

綺羅星十字団アジトの外にある森の中、ヘッドと呼ばれた仮面の青年が一人空を眺める。

その近くの闇の中に、音もたてる事無く一人の仮面の少年が立った。





ヘッド「よりにもよって『フィラメント』とはな…。

    『バニシングエージ』なら俺が直接、『おとな銀行』なら君に監視を頼めたんだが…」



バンカー「……よかったんですか?」



ヘッド「まぁ、最悪の場合に備えて準備はしてあるよ。

     いざという時は『バニシングエージ』だけで独立できるように準備は進めている」


119 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:33:52.70fAZZxolc0 (107/112)

バンカー「そうではなく、彼女の方はシルシもありませんし、無理に戦力に加えるほどでは…。

     美樹さやかへ執着している以上、いつ裏切ってもおかしくない相手です。リスクが大きすぎる」




ヘッド「君の報告通りの圧倒的な身体能力と妙な力を持つのなら、十分戦力に加えるに値する。

    そして彼女同様イレギュラーな存在なのは間違いないのだから、その相手はやはりイレギュラーにやらせるのが良い」


ヘッド「どちらにしても生半可な者では、あの剣の輝きの前に沈むしかない。

    賭けてみる価値くらいはあるだろう…」








ヘッド(俺個人としてはアレが手に入っている以上、無理して倒す事を考える必要はないがな…)


ヘッド(だが、できるだけ不確定な因子は取り除くに限る…。ツナシ・タクトも含めて、な…)


ヘッド(どうせもうすぐ終わる世界だ。もう暫くは好きにさせてやるさ…)


120 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:37:45.27fAZZxolc0 (108/112)

────────

────

──



翌日。

アタシは南十字学園って所のボクシング部のリング上にいる。






ベニオ「まずは、お前の実力を見せて貰おうか?」


この人は『スカーレットキス』ことシナダ・ベニオ。

アタシの直属の上司様にあたり、さっそくお手並み拝見といきたいらしい。

住む所がないアタシを結局部屋に泊めてくれるあたり、悪い奴じゃないみたいだが、

焦ってるのか、苛立ってるのか、妙に気が荒い。


だが、そのギラギラした闘志を持つ目はどうも嫌いになれない。


121 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:41:38.58fAZZxolc0 (109/112)

ジョージ「悪いな…。あいつは昔から言いだすと聞かねーんだ。

     手加減はするからよ…」


こっちのホンダ・ジョージはボクシング部で、そのベニオとしては戦わせてアタシの力を見たいらしい。

で、現ボクシング部員のジョージは中学生の女子相手に本気で殴るのは気が引けてるって訳だ。


まぁ年頃の女の子として扱ってくれるのはありがたいが、今回はベニオの判断が正解って事になるな。





杏子「手加減はいらないさ。こっちもあんまりうまくないしな…」


ジョージ「言ってくれるじゃねぇかよ…! んな口が叩けりゃ大丈夫だな…」


122 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:44:31.67fAZZxolc0 (110/112)

30秒後。


その場にいる誰もが予想しなかったろう。

アタシ以外が目を疑うような結果がリング上にはあった。




ジョージ「あへ…へ…」


ベニオ「馬鹿な…」


テツヤ「あ~あ…、こりゃまたまた自室引きこもり特訓コースだな…」


決着は僅か二発で着いた。

こっちはリミッター付とは言え身体能力を引き上げた魔法少女だ。

悪いけど、負けようがないのさ。


123VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/07(火) 23:52:03.43t2gapp/no (1/1)

サンドバック先輩は健在かwww


124 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:54:15.19fAZZxolc0 (111/112)

ベニオ「化け物…か…?」


杏子「その通り、化け物みたいなモンさ。

   その化け物相手に、よく一発耐えたって先輩に伝えてやってくれるかい?」



もっとも、んな事言っても伝わる訳もないだろうが。


ノびたジョージをおぶったテツヤもやっぱり横に首を振っている。

それとなく「そんな事言っても気休めにもならねーよ」と言っているような顔だ…。





ベニオ「…次行くぞ」


テツヤ「先行ってろ、ジョージ運び終えたら俺もすぐ行く」


杏子「?」


125 ◆.2t9RlrHa22011/06/07(火) 23:57:57.98fAZZxolc0 (112/112)

杏子「今度は何をさせたいんだ?」


ベニオ「来ればわかる」


ベニオに連れられ、鍵付きの扉を潜り、ひたすら地下に降りていく…。

やがて辿り着いた小部屋には、人が入れる程度の大きさ黒く大きな箱のような物体があるのみ。

それが向かい合う形で二つ並んでいる。


中を覗きこめば、モニターと操作盤、椅子がある。

見覚えのあるそれを見て、アタシのテンションは一気に向上した。





杏子「格ゲーか? いいねぇ! こう言うのは大好きだ♪」


ベニオ「シュミレーターだ! 試しにサイバディに乗ってみてもらう。

    実はサイバディの操作にそこまでの専門知識はいらないからな」


ベニオ(適正さえあれば、な…)


126 ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:01:57.77PtlJHBud0 (1/10)

どうもこの格ゲーは、昨日からさんざん見て聞いたサイバディとやらの戦闘を再現してるらしい。


アタシはさやかの乗ったレシュバルとか言うのを宛がわれる。

どうにも奪取されたその機体が高スペックかつ、もっともバランスの良い機体だったって言う皮肉な話だ。

相手はジョージを運んでからやってきたテツヤの乗る、テトリオートとか言う紺色にピンクのラインの入った機体。

ベニオの意向で、ざっと操作方法だけ聞き、そのまま模擬戦をさせられる。



テツヤ「ベニオのヤツが煩いんでな…。

    さっそくだが本気で…?」


丸わかりなモーションで繰り出したパンチを平然と受け、それを取ってそのまま投げ飛ばす。





テツヤ「へ…?」


杏子「………手加減なしだぜ、先輩?」


ベニオ(へぇ…、適正は十分なようだ)


127 ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:04:40.74PtlJHBud0 (2/10)

テトリオートが立ちあがるのを待ち、仕切りなおす。

実戦なら、迷わず顔を潰して終わらしてるけどな。





テツヤ「なら、もっと本気を出させてもらうぜ…!」


杏子「なんじゃそりゃ…」


テトリオートがバイクのような形態に変形し、空を駆け始める。

いろんな魔女や魔法少女を相手にしてきたアタシだが、さすがにバイクに変形するのは見た事がない。

物珍しさに暫くぼんやりと見とれる。





テツヤ「おらおらっ!」


やがてテトリオートは変形を解いて、光輪型の飛び道具を放ってくる。

なるほど、高機動で距離置いて射撃で潰すタイプね。


128 ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:07:55.17PtlJHBud0 (3/10)

テツヤ「当たらねぇ…?」


バイク状態の動きは大したものだが、光輪自体はありきたりな飛び道具だ。

どこぞの大馬鹿野郎の嫌らしい射撃を散々避けたアタシには屁でもない。


ただ、避け続けるのは問題ないが、こっちも決め手がなくお互いに詰んでしまった。

何か無いと埒が明かない。





杏子「……あいつの使ってた光の剣とかは出せねぇのか?」


ベニオ「出せないならその適正はないんだろう。 アレはドライバーの固有技能だ」


129 ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:11:50.35PtlJHBud0 (4/10)

杏子(それじゃこっちはどうすりゃ良いんだよ…。詰みゲーか、これ…?)



そう言えば…。

このサイバディってのは、ほとんど自分の体のように動かせる物らしく、操作に苦労は無い。

ただ、機械越しであるからか多少のラグはあるが…。


じゃあ『魔法少女の動き』をしたら一体どうなんのかな…?

ちゃんと反映されるのか…?





杏子「…………先輩」


ベニオ「なんだ?」


杏子「無茶な動きやって、この格ゲー壊したら怒られるのか…?」


130 ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:16:22.48PtlJHBud0 (5/10)

ベニオ「だから…、これはゲームじゃなくてシミュレーターだ。

    実際の電気棺を使ったサイバディの戦闘を完全に再現している。

    お前がやった行動くらいで、破損するような玩具ではないから安心しろ」


杏子「それ聞いて安心した」



確認が済んだアタシは、腰の後ろに浮いた四つの使い道のわからないパーツを一つだけ掴む。

そして、相手の変形に合わせて、投げつける。





テツヤ「飛び道具か…?」


予想通り、反応したテツヤがそれに光輪をぶつけ、爆散させる。

どんなパーツか知らんが、ちゃんと目論見通り煙捲いて爆発してくれた。

後は簡単…。


131 ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:18:14.13PtlJHBud0 (6/10)

テツヤ「な…!?」


杏子「悪いな、先輩…!」


あちらから見れば驚きだろう。

爆風と煙で曇った視界を裂き、来る筈のない距離にいた敵が迫ってるのだから。



手近な物を目暗ましにして、相手を襲う単純な戦法。

シモーヌの時と違うのは、相手との距離だけだ。


状況が飲み込めてない様子のテツヤのテトリオートの顔面を思い切り殴りつける。

テトリオートは空中から地面に叩き付けられ、受け身も取れずに大きくバウンドした後、爆発した。


132 ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:23:15.77PtlJHBud0 (7/10)

ベニオ「何をやった…?」


杏子「何って…? 爆発の目暗ましの間に『ちょいと本気』で走ったり飛んだりしただけさ」



試しと言わんばかりに魔法少女時の身体能力リミッターを外してみたんだが、どうも反映しきれていないみたいだな。

それが反映できてたら、テツヤはアタシを捕捉する事無く勝負はつく筈だったから…。


やっぱり常人が到達できるレベルの身体能力が反映の限界…か?

リビドーがどうたらって言ってたから、そのリビドーとやらがリミッターになってるのかもしれないが…。




しかし、この格ゲーが実戦のそれと同じとなると、この機械越しで動かしてるが故に感じるタイムラグが問題だな…。

肝心な時にこの差が響かなきゃ良いけど…。


133 ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:25:43.98PtlJHBud0 (8/10)

箱が開き、上司様がそのギラギラした目をさらに輝かせながら、アタシを見ている。

その目はさっき嫌いではないと言ったが、こうもなるとさすがにちょっと引く…。


ベニオ(当りクジどころか即戦力…)

ベニオ(いや、それどころかコイツがいれば『フィラメント』が綺羅星十字団を手にする事だって可能だ…!)

ベニオ(ついに私達の時代がやってきたんだ…!)




ベニオ「佐倉杏子…!」

杏子(顔ちけーよ…)



ベニオ「お前ならやれる…!」

杏子(何をだよ…? つーか鼻息荒いし…)


134 ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:27:05.45PtlJHBud0 (9/10)

ベニオ「テツヤ!」


テツヤ「ったく人使い荒いぜ…。今度は何だ!」


ベニオ「予定は大幅に繰り上げだ! イヴローニュに連絡を取っておけ…!」


テツヤ「また人任せにするのか…? まぁ俺やお前の教え方はわかりづらいって評判だが…」




さらに目を輝かせてやがる…。

何にしても歓迎はしてくれたって捉えていいのかな…?


135 ◆.2t9RlrHa22011/06/08(水) 00:33:52.67PtlJHBud0 (10/10)

っし。
今日はここまで。

明日は仕事。
宿直ある職種だから、まるっきり来れない。
落ちない…っぽいから大丈夫かな、ここなら。

明後日は来れるけど、シナリオ追加や最終章の案が出まくりだから、書き溜め作るの優先しちゃうかも…。
日常パートのアンコールあったし…。


それでは本日は一応閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆


136VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/08(水) 00:38:06.37yHoqV7xlo (1/1)

乙です。綺羅星☆‼


137VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)2011/06/08(水) 00:54:54.73fA5bgmSH0 (1/1)

乙っちまどまど
綺羅星☆


138VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/06/08(水) 04:04:47.323aZQGv7AO (1/2)

綺羅星☆!

杏子はアインゴッドをあてがわれたか、ファンブック結局完全体ダレトスやゾンビ化以前のアインゴッド載ってないんだよな
色々期待して買ったのに


139VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/06/08(水) 04:05:21.133aZQGv7AO (2/2)

綺羅星☆!

杏子はアインゴッドをあてがわれたか、ファンブック結局完全体ダレトスやゾンビ化以前のアインゴッド載ってないんだよな
色々期待して買ったのに


140VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/08(水) 06:35:25.740JCNyxCvo (1/1)

乙綺羅星☆

さすがサンドバッグ先輩とその友人、輝いてるな


141VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2011/06/09(木) 09:54:36.22nxJY9zka0 (1/1)

>カナコ「それは人命よりも優先すべき事? 止めなさい!」

奥様らしすぎる台詞に濡れた


142VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/09(木) 19:08:44.40NAm1iNGSO (1/1)

乙綺羅星☆!。最近俺得SSが多すぎて困る…。



143 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:13:33.784Q03frKG0 (1/35)

綺羅星☆
ぼちぼち落とすよ~
腹痛いから突然消えるかもしれないけど、落とすよ~

>>136
>>137
綺羅星☆
応援ありがとう

>>138
一応、他のサイバディは全員原作通りのドライバーの物だから、実はヘッドさんの判断も仕方なかったり
マンティコールいなくなったアインしか今空いてない

>>141
奥さまはスタドラの影の主人公だからね…
キャラ付けはさやか、杏子の次に気を使ってる……つもり
ベニオやタクトが読み切れずに時折困ったり困らなかったり

>>142
ども~。長いから覚悟しててね~
杏子×綺羅星、さやか×タクト達三人を絡めたら無茶苦茶長くなりそうだから
一応全体の大筋は決まってるけど、書く時間がない。これがな


144 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:17:07.684Q03frKG0 (2/35)

とと。
>>140
先輩はサンドバる前は、再戦で超強くなってタクト倒すんだぜ?って妄想してた俺がいる
このSSの役付けは、後輩思いのいいあんちゃん

と、次レスから落とします


145 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:19:49.894Q03frKG0 (3/35)

────────

────

──


杏子「………」


イヴローニュ「…………」


杏子(きまずい…)



アタシは先ほどと打って変わって、今度は教室めいた所にいる。


と言っても綺羅星関係の施設のようで、あちこち仮面がうろうろしている。

バイクでアタシをここに連れてきたテツヤはそうそうに立ち去ってしまい、

他の仮面に連れられて来たのが、昨日の白黒しましまレオタード女のいるこの部屋って訳だ。


146 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:21:07.244Q03frKG0 (4/35)

イヴローニュ「あなた、ここに何の為に連れて来られたかわかる…?」


杏子「いや…」


イヴローニュ「全く…、あいつらは…」


ハァと聞えよがしな溜息をして、しましま女はアタシが聞かされていない状況を語り始めた。





イヴローニュ「スカーレットキスに頼まれ、

       もとい押しつけられ、あなたに綺羅星関連の基礎知識を教える事になった」


どうにもあの二人、いやジョージも含めた『フィラメント』の三人は隊のトップであるにも関わらず、こう言った事を教えるのが異常に下手らしい。

そんなこんなを続け、いつしか『フィラメント』配属の新人達は基礎知識に疎いままで困り果ててしまい、

誠実かつ有能なイヴローニュに泣きつき、結局根負けしたイヴローニュが補講のような形を取って、ようやく知識不足が解消されたと言う。


147 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:22:24.854Q03frKG0 (5/35)

で、その後にあの三人が反省すりゃよかったんだが、以後もそれは解消されず、

イヴローニュが『フィラメント』新人の基礎知識教練をやっている、もといやらされている…と言うことらしい。




イヴローニュ「お前に言っても仕方がないが、私も暇ではない。

       今後こう言った事は控えるように、スカーレットキスに伝えてくれ…」


イヴローニュ「穴の空いたバケツに水を汲もうとするのは、無意味な行為だとは思うが、な…」


げんなりしている様子だが、こうして仕事にはきちんと来る。

嫌がっている仕事でもきっちりこなす誠実さが他隊にも伝わり、結果ベニオ達に利用される羽目になってる訳か…。


148 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:24:19.424Q03frKG0 (6/35)

イヴローニュによる講義が始まる。


イヴローニュ「まずは我々、綺羅星十字団についだ」


『サイバディ』を『ゼロ時間』から解放する≪旅立ちの日≫とやらを迎える事を目的とした集団で、

サイバディの運用や調査を前提としている為、将来有望な若者や最先端の科学技術を数多く保持しているとかなんとか。

『バニシングエージ』『ブーゲンビリア』『おとな銀行』『フィラメント』『科学ギルド』と事実上存在しない『エンペラー』の全六隊の構成。




杏子「隊同士の仲はあまりよくないんだよな…?」


イヴローニュ「際立って悪いと言う訳でもないが…。

       ツナシ・タクトを倒した者が、現在保留となっている綺羅星十字団全体の指揮権を得ると言う提案がなされているからな…」


杏子「なるほどね…。それで上司様が躍起になってる訳だ」


イヴローニュ「銀河美少年が二人になって状況が混乱する今、それもどうなるやら…」


149 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:29:52.134Q03frKG0 (7/35)

お次は散々聞いたサイバディについてらしい。

これについては逆にこっちから聞きたいぐらいだ。



イヴローニュ「サイバディとは、南十字島に落ちた異文明の遺産に当たるらしいが、詳細はよくわかっていない。

       ロボットとしての性能も確かに脅威ではあるが、アプリボワゼして第一フェーズへ進んだ者に様々な特殊能力を授けるのも特徴だ」


綺羅星で確認してる数は22体。

シルシってのがあれば好きな時に呼び出して乗り込めるが、綺羅星十字団が持つ電気棺って装置に仮面を取り付けて起動する事もできる。

破壊されても修復が可能だが、その際にはドライバーのリビドー(欲望や野望みたいなモノ)を食い、耐えれない者は死に至る…と。




イヴローニュ「『シルシ』と言うのはサイバディとの契約の証で体に刻まれている。

       そして、それを持つ者の呼称を『銀河美少年』と言う。ただしくは…」


杏子「女でも美少女にはならないのか…。

   さやかも美少年とはこりゃ笑えるねww」


イヴローニュ「………? あぁ、あのもう一人の青髪の少女の事か…」


150 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:31:33.464Q03frKG0 (8/35)

イヴローニュの講義は続いていく…。



イヴローニュ「そして、そのサイバディを封じているのが『ゼロ時間』。

       サイバディを起動すると自動的に発動し、封じ込める役割を持つ異文明人の作った閉じた世界の事だ。

       発動時に時間停止を伴うのが特徴で、その後『シルシ』持ちと綺羅星十字団特製の仮面を持った者は自動的にこの世界へ飛ばされる。

       この世界を巫女が守っており、それを倒すとフェーズが上がる。今は第三フェーズと言う事になるな」


杏子「……いい加減、疲れてきたんだが」


イヴローニュ「耐えろ。あと少しだ。

       我々の標的はサイバディを封じる『四方の巫女』であり、残りは後二人…」


151 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:33:05.534Q03frKG0 (9/35)

イヴローニュの講義もようやく最後の項目らしい…。


そのお題は、最強のサイバディ『ザメク』。

他のサイバディは『戦士のサイバディ』ないし『巫女のサイバディ』と呼ばれるのに対し、こっちは『王のサイバディ』。

凄まじい力を持ってるって噂で、さらにツナシ・タクトの親友であるシンドウ・スガタがこいつのシルシを持ってるらしいが、

起動のリスクが大きいらしく、どうにも起動する気は無い…とか?



しかし、この『ザメク』ってのを話す時だけ、妙に声が暗いなコイツ…。


152 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:36:29.784Q03frKG0 (10/35)

イヴローニュ「これで終わりだ」



さすがに疲れたが、このアタシもだいたいの知識がわかった。

そもそも『フィラメント』関係無いのに、こうして講義に来てくれたこの女にアタシは感謝すべきだろう。

堅苦しく近寄りがたい雰囲気が好きになれそうにない奴だが、これは前言撤回すべきかもしれない。


そう思ったアタシはズボンのポケットにあるガムの入った細長い箱を取り出すと、自分が食べる分を後回しにして差し出した。






杏子「食うかい…?」


イヴローニュ「ここは飲食禁止だ。それは没収させてもらう」


前言撤回を前言撤回…。


153 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:38:03.554Q03frKG0 (11/35)

杏子「あ~、頭使った後は甘い物に限るな~」



手持ちの菓子類がイヴローニュに没収された為、やむなく安直な理由で買った木の枝状のチョコレート菓子を頬張る。

講義の後、テツヤの連絡先がわからない為、徒歩で来た道をちんたら戻っている。


アタシは諸事情から長い事学校と呼ばれる所へ行っていない。

故にそれが終わった後の独特の解放感を味わうのは久々で、ちょいと距離はあるがそれを含めれば悪い散歩でもない。






杏子「しっかし、あぁ言う授業みたいなのは久々だったな…」


???「いけないんだ。学校にはちゃんといかないと…」


154 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:41:27.944Q03frKG0 (12/35)

後ろからやってきた高級車が止まる。

開いている窓の中に居るのは…。





杏子「カナコ…?」


昨日挨拶出来なかった恩人の令嬢の姿がある。

だが、彼女は恩人の令嬢としてアタシに会いに来た訳ではないようで、ポーズを伴う組織の作法で挨拶を行う。




カナコ「綺羅星!」

杏子「…………!

   …綺羅ぼひッ!?」


団員が外部で会った時に正体を確認する為にも使う…とは聞いていたのだが、菓子を咥えてたのもあってやはり噛んでしまった。


155 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:42:09.484Q03frKG0 (13/35)

カナコ「可愛い」


杏子「うっぜぇ!///」


アタシをからかうようにくすくすと笑いながら、カナコはようやく要件を告げる。





カナコ「緊急の招集があったのよ。乗っていかない?」


断る理由も特にない。

と言うより緊急の招集があったなら、渡りに船と言える状況だ。

誘われるまま、カナコの高級車へ乗り込んだ。


156 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:45:20.634Q03frKG0 (14/35)

杏子「食うかい…?」


お礼も兼ねて、持っていたチョコ菓子の箱を差し出す。

だが、どうもこのお嬢はこう言うのには疎いらしく、不思議そうに眺めている。





杏子「チョコレートだよ。食えるんだ」


カナコ「………面白いのね」


相変わらず不思議そうな顔のまま、一つ抓んで食べるカナコの様子がおかしくて、

今度はこっちがくすくすと笑いを殺せなくなる。

そのまま笑いが止まるまで、なんとなくガラス越しの外の風景を眺めた。


157 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:47:20.544Q03frKG0 (15/35)

アタシの笑いが止まり、妙な沈黙が流れる。

そんな中、ガラス越しに映るカナコが重そうに口を開く。




カナコ「何故、綺羅星十字団に…?」


杏子「………」


アタシは話すべきか迷った。

綺羅星を騒がすさやかとの関係に、サイバディを有する綺羅星でさえ眉唾物であろう諸事情。

言って信じて貰えるか…?


158 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:50:39.394Q03frKG0 (16/35)

そうこうしてる内に、何かに勘付いたカナコが口を開く…。





カナコ「例の探していた子の為…?」



杏子「………自分の為さ」


あいつの主張は、アタシの知らない『誰かの為』に死ぬまで戦う事。

アタシはあいつの主張を認めないから、力尽くでも連れ帰る道を選んだ。

ようするに自分の都合を優先したんだ。


159 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 21:54:26.044Q03frKG0 (17/35)

『自分の為』

そう言うのがが正しいだろう。

そう言った筈なのに何故かカナコは微笑み…。






カナコ「妬けちゃうわね」


こう返した。

わかってるのか、わかってないのか…。

このお嬢と居ると、ほんと調子狂うよな…。


160 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:02:28.774Q03frKG0 (18/35)

────────

────

──


ヘッド「急な招集で大変申し訳ない。早速だが、我々『バニシングエージ』は銀河美少年攻略作戦を開始しようと思う。

    ドライバー達のサイバディ復元の了承も得たので、ソードスターとスティックスターのエンブレムの再発行許可を貰いたい」


スカーレットキス「………チッ!」


プロフェッサー・グリーン「了承しよう」


イヴローニュ「それは構わないし、責任を考えれば当然の処置だが…、策はあるのか?」


ヘッド「緊急招集した事自体が策の内だ。敵の準備が整いきる前に叩く」


頭取「単純な発想だが、この場合は愚策と言う訳でもないか…。

   良いだろう。再発行を許可する」


ヘッド「それでは…、銀河美少年攻略作戦を開始する!」




ヘッドの指示の元、『バニシングエージ』所属の三人が動く。

同時にこの世界の時が停止した。


161 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:03:38.594Q03frKG0 (19/35)

杏子「これがゼロ時間、ね…」


周囲に居たのも綺羅星メンバーだったので時が止まった感覚はあまりないが、この世界の異様さはよくわかる。

魔女の結界のようだと言えばそうである気もするし、あの独特の不快感が無い為かそうでも無い気もする。

ここで特徴的なのは、中に居る人間がそれぞれ泡のような物に浮かんで居る事だろうか…。







杏子「おっと…、このまま浮かびあがったらまずいよな…」


アタシは綺羅星用の衣装を手抜きで魔法少女姿にしてしまった為、このまま泡が浮かびあがってさやかの目に着くと立場がバレる危険性がある。

それを防ぐ為に魔法を使って全身を覆う黒マントを作り、魔法少女の衣装を隠す。


162 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:07:55.264Q03frKG0 (20/35)

ソードスター「行くぞ! ザイナス!」

スティックスター「ラメドス……!」

キャメルスター「やらせてもらおうか。ギメロック!」


『バニシングエージ』所属の三体のサイバディが姿を現す。

そして、その三体の視線の先には美樹さやかと共闘関係にあるツナシ・タクトらしき姿がある。





さやか&タクト「アプリボワゼェェェェェェェ!!!!!」


二人の叫びに反応し、青い貴公子と赤い貴公子が次元の壁?を割って現れる。

二人はそれぞれの機体へ吸い込まれるように乗り込むと、戦闘態勢を整える。


163 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:14:07.214Q03frKG0 (21/35)

さやか「颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!」


タクト「颯爽登場! 銀河美少年ッ、タウッ!バーン!!!」



二人のサイバディの戦闘態勢が整うと、今かとばかりにザイナスが動き出し、目の前に赤い球体を浮かべる。






ソードスター「ようはあの剣を抜かせなきゃ良いんだろ!

       いけ! ザインスフィア!」


赤い球体がさやかの乗るレシュバルへ飛んでいき、途中で4つに分裂。

球体は生き物のように飛び交い、レシュバルを襲う。


164 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:17:33.314Q03frKG0 (22/35)

タクト「手助け…いる?」


さやか「大丈夫。なんとかしますって!」





杏子「…………」


そうだよな…。

何とかして見せろ…。


本来ならさやかのピンチに苛立つべき立場なんだろうが、

レシュバルに乗り込む前のさやかの活き活きとした表情を見て、考えるのが馬鹿らしくなり、

アタシは他の仮面同様に傍観者に徹し、横で隠し持っていたポテトチップスの袋を開けた。


イヴローニュがなんか睨んでるような気がしたが、無視…。


165 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:20:28.744Q03frKG0 (23/35)

呑気に菓子食ってる場合か?

と思うだろうが、アタシが長い間培った魔法少女としての勘みたいな物がさやかに敗北は無いと告げている。

そして、その勘は天気予報よりもよく当る。




ソードスター「剣を抜けなきゃ、お前なんか!」


さやか「剣なら抜かなくたって、使えるのがあるよ…!」


今日もやはり例外ではないらしい。

球体の離れた一瞬の隙をつき、レシュバルが両手を交差させ、何か行動を起こす。


166 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:21:21.354Q03frKG0 (24/35)

さやか「パイル・ソード!」


叫ぶさやかに反応し、レシュバルの腰の後ろに浮かぶ4つのパーツが手に持って馴染むだろう程度に細くなり、

レシュバルを取り囲むように配置される。

さらに4つのパーツは先端から、それぞれ黄色いエネルギー刃を作り出した。





杏子「な~るほどね」


無数の剣を作り出しての投擲。

魔法少女時のさやかの得意技だ。

それをどうにかしてサイバディに反映した、と言う事だろう。



適当にそれを投げつけたアタシと違って、ちゃんと研究してんのな…。


167 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:27:53.914Q03frKG0 (25/35)

さやかは冷静で、その投擲は正確無比だった。

両手に握った剣をそれぞれ、ちょろちょろ動き回る球体に見事に命中させる。

剣自体にブースターがあって加速するってのもあるだろうが、魔女の使い魔一匹を仕留めるのに手こずってた腕の悪さが嘘のようだ。






ソードスター「まずい! 隙を許せば…!」


ソードスターとしては、焦って残りの球体を攻めに出したのが失敗だった。

ふらふら飛んで、うまくかわして、レシュバルに当てれたのは最初だけ。

数の減った球体は見切られ、レシュバルの残った二本の剣に切り払われた。


168 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:33:06.604Q03frKG0 (26/35)

そして、レシュバルはそのまま二本の剣をザイナス目掛けて投擲する。

ザイナスの方も、急ぎ光の剣を作り出して切り払うも、さやかにはその隙があれば十分だった。




さやか「スターソード! スィトリンヌ!!!」


金色の剣を抜くなりそれを右手に持ちつつ、陸上競技のクラウチングスタートのような構えを取る。

ちなみに、この姿勢もさやかの魔法少女の時のそれである。


あいつはここで一気に勝負を決める気だろう。

と思いながらもポテチを口へ運ぶのはやめない。

パリっとポテチが口で弾けると同時にレシュバルが飛びだす。


169 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:35:27.284Q03frKG0 (27/35)

ソードスター「速いッ!?」


魔法少女の時のそれと同じ。

クラチングスタートから恐るべき加速で敵に迫る技…。

そして、間合いを見計らい居合のような構えから斬撃を繰り出す。








さやか「豪快!銀河!一文字斬りィィィィィィ!!!!!」


低い体勢で繰り出された横一閃、それはザイナスの両足を切断する。

レシュバルは前のめりに倒れる敵の左側をするりと回りながら抜けると、頭の上で剣を横に構えてポーズを取る。

どっちにしても斬られたのが足では戦えるかはわからないが、その後ろでザイナスが完全に機能を止めた。


170 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:36:45.774Q03frKG0 (28/35)

タクト「豪快!銀河!十文字斬りィィィィィィ!!!!!」


スティックスター「………!」


もう片方の銀河美少年はさやかが霞むほど戦い慣れしていた。

敵は二人がかりにも関わらず、早々に二刀剣による大技を繰り出し、獲物のリーチを武器とするラメドスの下半身を潰した。







杏子「あの機体…、面白そうだと思ったけど駄目か…」


獲物の槍はありがたいんだが、機体自体が重そうでアタシの戦闘スタイルとイマイチ合いそうにない。

もっとも、あのヘッドの仕切る『バニシングエージ』所属機を使う事は万に一つもないだろうが。


171 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:39:01.574Q03frKG0 (29/35)

タクト「炸裂・タウ・銀河ビィィィィィム!!!」


ラメドスに対し、慎重な動きで時間を稼いだギメロックもタウバーンの技の餌食になる。

胸部から放つビームがギメロックの頭部に直撃…。

と思いきや、ギメロックの胸辺りが分離して飛行、ビームを回避する。


さらに、地上に残った体も独立行動が可能なのか動き始める。

この期に及んで数で圧倒するつもりだったんだろうが…。


突如、地上に残ったギメロックの体の上半身と下半身が真っ二つになり、爆散する。


172 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:41:04.794Q03frKG0 (30/35)

さやか「さやかちゃん参上!」


キャメルスター「チッ! ソードスターもしくじったのか…!」



泣き面に蜂。

仲間と半身を失い、戦力半減以上のギメロックにさやかの乗るレシュバルも襲いかかる。





タクト「随分早いね」


さやか「タクトさんとスガタ師匠の特訓の賜物です♪」


タクト「それは何より」


綺羅星側で戦える敵は飛行したギメロックの半身のみ。

対して二人並んだ赤と青のサイバディ。

勝敗はほぼ決した、と言っていいだろう。


173 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:42:09.554Q03frKG0 (31/35)

タクト「練習も兼ねて、アレやっておこうか!」


さやか「いぇ~す! やっちゃいましょうか!」


レシュバルが右で、タウバーンを左にしたフォーメーションが組まれる。

二機はエネルギーを溜めるような動作を行い…。









タクト「銀河の光よ!この身に集え!」


さやか「猛る流星! ブルーティッシュ・タウ・ミサイルッッッッ!!!」


174 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:43:07.464Q03frKG0 (32/35)

叫びと共に撃ちだされたのはレシュバル。

黄色い弾丸のようになったレシュバルは飛行するギメロックに突撃し、コクピットを抉りだす。


こう言う技なのかと思いきや、タウバーンが纏う青いエネルギーが溜まったまま引かない所を見るとどうも失敗のようだ。







さやか「あはは…。失敗しちゃいました…」


タクト「まぁ最初だしね。それに失敗しても攻撃ができない訳じゃないし」


足を失ったラメドスの眼前に金色の剣を刺して停止させ、『バニシングエージ』所属の三体のサイバディは全て戦闘不能となる。

勝利を分かち合う二人を前に、ゼロ時間はゆっくりと解けていく。

アタシは苦笑いしつつ、手に持っていた大きめのポテチを思わず握りつぶした…。


175 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:44:21.424Q03frKG0 (33/35)

────────

────

──


大荒れの仮面の観衆をヘッドが宥め、綺羅星の総会がそのまま行われる…。



議長「これより綺羅星十字団、総会を始めます!」


一同「「「オォーーーーー!!!」」」





ヘッド「敵の力は想像以上だった。こちらとしても最大の戦力を投入したのだが…」


イヴローニュ「シルシ持ち三人が返り討ち、か…」


ヘッド「申し訳ないが、復元のリスクから当面はこちらの隊の人員は動かせそうもない…」


176 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:45:55.754Q03frKG0 (34/35)

頭取「先日のウインドウスターとニードルスターも含めるとシルシ持ちは事実上、全滅か…」


スカーレットキス「こちらは『科学ギルド』に依頼し、三基の電気棺を同時に動かせる状態にしてはもらってはいるが…」


プロフェッサー・グリーン「『科学ギルド』では四基目も同時稼働できるよう調整は進めているが…。

              何時それが可能になるかは見目もつかないな…」


ヘッド「しかし、時間が経てば経つほど向こうの準備も整う危険性もある。

    ツナシ・タクト同様、あの少女の成長の早さは危険だ」


イヴローニュ「どちらにしてもシルシ持ちがやられた以上、普通の策では厳しいだろうな。

       もっとも『フィラメント』に限っては未知数の要素もあるが…」


スカーレットキス「………………」


ヘッド「どちらにしても今後は隊の所属を超えた連携が重要になるだろう…。

    それでは、本日の総会は終了とする。我らに栄光を、そして銀河美少年に破滅を…」

ヘッド「綺羅星!」


177 ◆.2t9RlrHa22011/06/09(木) 22:46:51.784Q03frKG0 (35/35)

いったん休憩。
後でもうちょい落とすかも。


178VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/09(木) 23:51:36.78kDEmI+gOo (1/1)

一旦乙? さやかちゃんもう特訓してたのね


179 ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:10:35.84D8xEXJp60 (1/12)

>>178
杏子行動までに四日ある。
対してさやかは来た翌日にはスガタ達に事情話してる(前作SS参照)から、
綺羅星の行動の早さやゼロ時間の有無を言わさない性質知ってるタクトやスガタは、
その時点で狙われる危険性あるさやかの為に即座に行動起こすだろう
おまけに後々わかるけど、休日も含んでる

ヘッドとしてはこの時点で後手に回ってるんだけど、三馬鹿特に復元いる剣と棒を丸めこむのに時間かかった

…と踏まえて妄想してくださると



ではでは、もうちょい落としまっす


180 ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:15:45.78D8xEXJp60 (2/12)

────────

────

──

綺羅星十字団を震撼させた先日の戦闘。

そして、それはアタシの上司様も例外じゃないらしい…。

敵が先抜けした『バニシングエージ』の連中を退けたまではいい。

しかし、さやかは想像以上に実戦慣れしていた…。


スカーレットキスことシナダ・ベニオは翌日の早朝からアタシを叩き起こすと、自分の所属する剣道部に連れ込み、

アタシをしごいて…。




ベニオ「まだ…だぁ…、もう…、一本行くぞぉ!」


杏子「だ~からさ! これじゃあんたの稽古になっちまってるっての!」


もといアタシにしごかれていた…。


181 ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:17:40.35D8xEXJp60 (3/12)

あちらも学生、いや人間の範疇で考えれば十二分に規格外の実力なんだろう。

剣道でも相当な成績を収めてるらしく、実際にアタシも初見ではその剣を見切れず、一本取られちまった。



だが、こっちは人間じゃなくて魔法少女だ。

戦う為にあちこちの身体能力を魔翌力で強化してる。

普段はリミッターを付けてるとは言え、学生相手に負けるほど軟じゃない。


そして出鱈目な訓練を繰り返した為、案の定技のキレが悪くなった上司様は、

アタシをしごく筈が、しごかれる羽目になったわけだ…。


182 ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:19:34.83D8xEXJp60 (4/12)

いくら鍛えてようが、息の上がった人間なんか敵じゃない。

左手にポッキーの箱、口には煙草のようにポッキーを咥え、右手だけで相手する不真面目なアタシが気に入らないらしい上司様だが、

悲しいかな、その目だけをギラギラ輝かせて打ちこんでも、咥えたポッキーさえ折る事ができない状態だ。




杏子「あんたさ~、最初から思ってたんだけど、なんでそんないっぱいっぱいなんだよ?」


ベニオ「ハァハァハァハァ…」


杏子「そんなに中坊に勝てないのが気に入らないわけ…?」




テツヤ「俺ら『フィラメント』の為さ」


横で成り行きを見ていたテツヤが、息が上がって喋れないベニオに代わって語りだした。


183 ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:23:21.79D8xEXJp60 (5/12)

テツヤ「俺達三人の家はな、本来シルシを受け継ぐ名家の家系だったんだ。

    ところがな、それを受け継げるような力の強い子供が生まれず、結果シルシは途中でなくなっちまったんだ」


杏子「没落名家って訳ね~」


少し本気になったのか、例の技を使おうとするシナダ・ベニオを軽くいなしながらテツヤの話を聞く。




テツヤ「そ。そして、そんな没落名家の末裔が電気棺の発明と共に結成したのが俺達『フィラメント』。

    そんな落ちこぼれに求められてるのって何だと思う?」


杏子「結果…だな」


184 ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:24:25.23D8xEXJp60 (6/12)

テツヤ「そうだ。だが俺達は勿論、ベニオ自身もあの『銀河美少年』タウバーンに勝つ事はできなかった。

    そうこうしている内に『フィラメント』はどんどん立場が危うくなっていってる」


杏子「………」


テツヤ「『バニシングエージ』は実力の高いドライバーが揃う綺羅星十字団の主力部隊。あのヘッドがいるから発言力も強い。

    『おとな銀行』は資金、『科学ギルド』は技術面で必要不可欠。

     ドライバーの少ない『ブーゲンビリア』は元々他隊を支援する役割が強い」


杏子「今にも取り潰し寸前…そんなヤバイ時にやってきたのが、アタシって訳だ」


テツヤ「そうだ。他所者に結果を出してもらうってのもまた違う気はするが、猫の手も借りたいヤバイ状況ってわけさ」


185 ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:25:57.15D8xEXJp60 (7/12)

まだ煩く向かってくるベニオの竹刀を跳ね飛ばす。

そして、上司様のツラに向かって竹刀を突きつける。





杏子「あんたは『フィラメント』、没落していく仲間の為に戦ってる。

   それで間違いないか…?」


仲間の為?

恐らくは違う。

この女が見せるギラギラした目…。

アレはよく知ってる…。


186 ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:27:21.36D8xEXJp60 (8/12)

ベニオ「違うな…」


ベニオ「私は綺羅星十字団を手にする『自分の為』に戦う…!

    そして、それは『フィラメント』としてやり遂げるからこそ意味がある…、それだけだ」



やっぱりな…。

あの目は『自分の為』に戦う奴の目だ。


天涯孤独になって、一人生きたアタシ自身が持っていたあの目…。

だからこそ、アタシはこの女が嫌いになれなかった。


『誰かの為』なんて甘い戯言を捨て、かと言って誰かに頼るでもなく、自分の力で這いあがる。


『自分の為』に生きる。

そんな奴の目。


187 ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:28:48.56D8xEXJp60 (9/12)

杏子「ふ~ん………」



ベニオ「負け犬の遠吠えと笑うか…?」



杏子「いいや。アタシはあんたが好きになれそうだよ」


ベニオ「…ふん」



恐らくはあちらも向こうを認めてくれたのだと思う。

だけど、決して口には出さない。


僅かに鼻で笑ってそれで終わり。

だが、アタシ達の関係はそれで十分だった。


188 ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:30:34.91D8xEXJp60 (10/12)

慣れ合いはしない。

だけど、同類故にその気持ちはよくわかった。


口にはしないが、左手を前に出してアタシなりの友好の証を差し出す。




杏子「先輩…、あんたも食うかい…?」


ベニオ「…………いただこうか」


箱からポッキーを引き抜いた上司様は、そこで朝のしごきをようやく終えた。


189 ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:35:43.52D8xEXJp60 (11/12)

っし。
今日はここまで。

問題はストックが切れそうなんだよ。だよ
書きたいのに当直あけは頭がボケてあんまり書けないんだよ。だよ
構想は決まってるのに…

小出しにすればもう少し持つかもだけど、区切り良い所までは常々落としたいからなぁ…
と、愚痴ってみたり



それでは本日は一応閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆


190VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/10(金) 00:38:30.42RXXadW3Po (1/1)

乙綺羅星☆

詰まったら本編とは関係のない日常パートを書いてみては? 展開とかオチを考えなくて済む分楽に筆休み出来るかと。
俺得でもありますし(ボソッ


191 ◆.2t9RlrHa22011/06/10(金) 00:44:15.74D8xEXJp60 (12/12)

>>190
既に書いているんだけど…
当直あけの死んだ頭は文章自体が満足に書けなくなる罠が…

しかも日常も結構楽じゃないのよ~
展開とオチ、そしてやるからには何かしらの意味は必要だし…

とどめに、どっちかと言うとテンション上げのまま書ける戦闘パートの方が筆の進み速かったり…
こっちは構図と展開が固まってるからもあるんだろうけど…


192VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/06/10(金) 03:30:27.16UWlXt4eAO (1/1)




193 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:30:15.58YMqNv3890 (1/37)

ストック切れが怖いけど、ぼちぼち落とします
今から少し落として、夜にまた落とします
毎日来れれば良いんだけど…


現在、日常パートに苦戦中
勢いで書けないからやっぱり難易度高いなぁ…

希望ある以上挑んでみるけどなっ
日常ないとスタドラの魅力の1/3は死んじゃうし


>>192
応援ありがと~


194 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:32:09.88YMqNv3890 (2/37)

杏子「さ~て、アタシは帰って寝るわ。朝から疲れたし」


ベニオ「何言ってんだ。今日から学校だろ?」


杏子「あ…? アタシはここに来たばっかで…。

   そもそも、その前から学校なんて行ってねーし…」


テツヤ「ベニオ、お前な~。さては説明してないだろ…。

    杏子、お前は今日から南十字学園の中等部、二年二組に編入だとさ」


杏子「は? なんだそりゃ?

   金は…? 諸々の手続きは…? そもそもアタシ住所不定だぞ?」


195 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:34:45.05YMqNv3890 (3/37)

ベニオ「『おとな銀行』の頭取が全部やっといてくれたそうだ。

    金は余るほど持ってるだろうし、そんなこんなでコネもあるんだろ…?」


『おとな銀行』頭取…?

カナコだな…?

そういや…。





―いけないんだ。学校にはちゃんといかないと―



そんな事言ってたが、まさか本気でやって退けるとは…。

見ず知らずのアタシの為にそこまでするって、いったいあいつどうなってんだよ…。


せっかくの好意を無にもできないので、テツヤに手渡された荷物一式を持ち、とりあえずアタシは学校へ向かってみた…。


196 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:38:25.24YMqNv3890 (4/37)

────────

────

──

杏子「どうして、こうなった…」


さやか「それはあたしの台詞よ…」



南十字学園中等部二年二組。

知り合いなんざいる筈もない(綺羅星すれば、何人かはいぶりだせるのかな…?)教室にこいつはいた。

ただでさえ授業なんてかったるいモン勘弁なのに、今一番ぶちのめしたいツラがお隣にいる始末。


あ~あ~、うぜぇ。

超うぜぇー。


197 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:40:07.58YMqNv3890 (5/37)

とりあえず色々気に食わないもとい、解せないので隣にいる馬鹿から話を聞いてみる。



杏子(なんで、てめーがここにいるんだよ)


さやか(あたしのこっちでの知り合いが結構な名家で顔が利くんだって。断ったんだけど学生はちゃんと授業に出た方が良いって…)


杏子(どっかで聞いた話だな…)


さやか(その辺はアンタの方が色々と摩訶不思議だと思うんだけど…? どうみても非行少女そのものだし…)


杏子(こっちにも物好きがいたんだよ…。 つーか誰が非行少女だコラ!)


さやか(学力は大丈夫~? 小学生レベルで止まってんじゃないの~?)


杏子「うぜぇ、超うぜぇー! 上等だ! やんのかオイ!」


198 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:41:34.66YMqNv3890 (6/37)

教師「誰がウザくて、誰が上等で、誰と何をやるのかね…?」


杏子「あ………………」


さやか(くくくくくくく………wwwwww)





教師「佐倉! 美樹! 廊下に立っとれ」


杏子「ぐぬぬ…」


さやか(ざまーみろww ってあたしも?)


杏子(くくくくくくく………wwwwww)


199 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:43:40.45YMqNv3890 (7/37)

非行少女二人は教室から仲良く追い出され、今時の学校じゃしないような廊下で反省タイムを迎えていた。

まったく、カナコの奴も余計な事してくれやがって…。




杏子「ったく調子狂っちゃうよな、もう…」


さやか「こっちの台詞だっての…」


杏子「まぁ…」


さやか「うん…?」


杏子「元気そうで良かったよ…」


200 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:44:50.21YMqNv3890 (8/37)

さやか「杏子……」


杏子「お、お前が元気じゃないと、ぶちのめし甲斐がないからな~///」


急に真顔になってこっちを見るさやかに何故か照れくさくなり、憎まれ口を叩く。





さやか「………言ってろ」


さやかは少しだけ笑いながら、そう言いつつ前を向いた。

友人とも敵とも何とも言えない二人の沈黙の時間。

アタシはそう悪くない気がしたけれど、あいつがどう思ってたかわからない…。


そんな時間は、教師が反省タイムの終了を申し渡すまで続いた…。


201 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:46:08.72YMqNv3890 (9/37)

────────

────

──

昼休み。




杏子「燃え、尽きた…」


さやか「だらしないなぁ…」


無茶言うなっての…。

こっちは毎日通い慣れたお前と違ってブランクがあるんだ…。

って威張る所ではないよな…。




クラスメートA「さやかはお昼どうする~?」

クラスメートB「また例のカッコいい先輩達のとこぉ…?」


202 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:49:22.68YMqNv3890 (10/37)

さやか「ん~、ごめんね。今度改めて紹介するからさ」


クラスメートA「良いけどさ~。たまにはこっちにも付き合ってよ~?」


こりゃ驚いた。

社交性はある方だろうとは思ったが、編入されてほとんど時間も経ってないだろう状況で、

もう下の名前で呼んでくれるお友達までできてんのかい…。




さやか「さて…、あんたも来る?」


杏子「あ…?」


さやか「暴れたりしないって約束するなら、『例の人』に合わせてあげる」


203 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 11:51:30.88YMqNv3890 (11/37)

とりあえず、ここまで。
夜にまた来ます

スタドラキャラがロクに出てきてないのが申し訳ないな…


204VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)2011/06/11(土) 17:26:14.68spFZcTZY0 (1/1)

乙綺羅星☆
さやかはムードメーカーっぽい雰囲気してるからなぁ
ドラマCDでもいいアホの子っぷり見せてたし
平和な本編だったら見られたかもしれない光景あってちょっと涙がでそう


205VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/11(土) 18:02:02.85QlCEXtJIO (1/1)

乙綺羅星☆

書くの苦労するかもしれませんが、その分ちゃんと楽しんで読ませてもらってますよー



206VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/11(土) 22:25:03.84YMqNv3890 (12/37)

じゃあ、ぼちぼち落とします
今日はどこで切っても気になる所で終わりそうなのがちと申し訳ない

しかも状況的にスタドラキャラ登場が少なめ
世界観スタドラで、主人公がさや杏な時点で仕方ないんだけど…

日常はやっぱ綺羅星さん組むと早そうなんだけど、さやか関連で苦戦中
タクトスガタワコのあの感じを出すのは、よく動く綺羅星さんの何倍も難しい…
奥様、フィラメント、委員長辺りは出すだけである程度勝手に動くからなぁ…
保健医も結構その気があり


>>204
ありがと乙
ムードメーカーって大事だよね

>>205
ありがと~
それを励みに頑張ります


207 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:30:04.27YMqNv3890 (13/37)

思いがけない例の奴との接触機会。

どっちにしてもそいつはアタシの敵になるのだから、見ておいても損は無いだろう。

アタシはさやかの誘いに乗り、一緒に中庭に出た。


そこには周囲にやけに注目されている気がする男二人と女一人がいた。





さやか「紹介するね。この人がアゲマキ・ワコさん。

    あたしは今ワコさんのお家の神社に泊めてもらってる。

    歌が上手で、凄くよく食べるんだよ」


ワコ「あはは…。さやかちゃん…。

   さらっと恥ずかしい事まで紹介しないで…///」


アゲマキ・ワコ。

例のゼロ時間を守る皆水の巫女。

四人の巫女の内の二人は倒し、一人は行方不明だがヘッドが所在を知ってるって言う噂を聞いた。

と、なると実質サイバディを表に出さない為の最終防衛ラインと言える存在とも言えるだろうか。



外見の割に、さやかの言う通りやけに食の進みが早い。


208 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:32:25.55YMqNv3890 (14/37)

さやか「で、この人はシンドウ・スガタ師匠。

    この島の名家シンドウ家の後継者で、文武両道で勉強も剣も教えてくれるから、師匠って呼ばせてもらってる。

    あたしが学校へ行けるよう手配してくれたのもこの人。見た目通り、凄いモテるんだよ~」


スガタ「色々事情があるのは聞いているけど、中学生が学校をサボってるのを見過ごすわけにはいかないからね。

    代わりと言っては何だけど、それらの情報収集はこちらでやらせてもらってるよ」



シンドウ・スガタ。

イヴローニュの話に出てきた『ザメク』のシルシを持っている男で、

強力な第一フェーズ『王の柱』を持ち、それを使っての援護攻撃も行う、と。


さやかから諸事情を聞いて、元の世界への帰り方も探してくれてるみたいだが、まぁ徒労に終わるだろうな…。


209 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:34:03.77YMqNv3890 (15/37)

さやか「そして、この人があたしの恩人、ツナシ・タクトさん!

    妙な状況にあったあたしを助け出して、精神的に参ってたあたしの話を聞いてくれた人…。

    すっごく優しくて、すっごく強い人だから、スガタさん同様競争率も高いんだって!」


タクト「競争率…? とにかくよろしくっ!」



そして、こいつが『例の奴』ツナシ・タクトか…。

綺羅星十字団と敵対し、巫女のアゲマキ・ワコ。

ひいてはこの世界を守る存在、ね。



な~るほどね。

良い目をしてるよ。

さやかと同じ目。


アタシが一番気に入らない目だ…。


210 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:36:44.70YMqNv3890 (16/37)

さやか「で、この人はえ~と、誰でしょう?」


ルリ「私はマキナ・ルリ! タクト君達とはクラスメイトで~っす。

   君が例のさやかちゃんだね~? なかなか可愛い子だね…。だから余計に夜道には気をつけるんだよ~?」


さやか「あはは…。気をつけま~っす…」


タクト「夜道…?」


スガタ「夜道に出る変質者には気をつけろって意味さ。

    まぁ彼女に限って大丈夫だろう…」


いつの間にか湧いた小動物詐欺師を思い出す声のこのクラスメイトは置いとくとしても、

他三人の面見れたのは来たかいはあった、かな…?


211 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:38:55.58YMqNv3890 (17/37)

連中をアタシに紹介する時間は終わり、今度はアタシが紹介される番となる。

もっとも、こいつらに好かれたい訳でもないアタシは「佐倉杏子だ、よろしく」とだけ返して終える。




さやか「ちょ、真面目にやりなさいよ…!」


杏子「あ~? これ以上何教える事あんだよ…?

   そっち(魔法少女)関連の話も、あのクラスメイトのねえちゃんにはしてないんだろ…?」


さやか「いや、だからってさ…!

    もうちょっとなんかあるでしょ? 趣味とか好物とかさ…?」


杏子「趣味なんてあるわけねーし、好物なんて贅沢できる御身分になって初めて得られる感覚だっての…」


212 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:39:59.61YMqNv3890 (18/37)

さやか「あ~もう…。

    見ての通りの馬鹿丸出しで捻くれ者の非行少女ですけど、根は悪い奴じゃないんでどうか仲良くしてやってください」


杏子「誰が馬鹿だ!?

   周り見えてないで、暴走しまくるお前の方がよっぽど馬鹿じゃねーか! この馬鹿!」


さやか「うるっさいわね…。あんたが国語の時間に読んだ漢字の恥ずかしい読み方を語ってあげようか…?」


杏子「あ、あれは寝ぼけて…、う、うっせー馬鹿!」




ワコ「仲良いんだね」

スガタ「そうだな…」

タクト「………」


213 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:41:59.70YMqNv3890 (19/37)

タクト「杏子ちゃん」


杏子「あぁ?」


さやか「あぁ?じゃないっつーの!

    何ですか、タクト先輩様~☆でしょ、この馬鹿!」


タクト「良いから良いから…。って先輩様☆って何…?」



調子に乗りすぎて顔を赤くするさやかを置いておき、こいつは改めてアタシに話をしようとする。

もっともロクに聞く気のないアタシはそっぽを向いたままだが。


214 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:43:05.75YMqNv3890 (20/37)

タクト「さやかから色々あったって聞いたけどさ…」



色々…?

まぁ色々あったわな…。

つーか、お前もさりげなくさやかって呼び捨てか…。




タクト「仲良くしてあげてね。

    さやかの事情を一番わかるのは君だろうから…」


杏子「ふん……」


さやか「タクトさん…///」



何でそこでお前が顔を赤らめるんだよ…。

気を使って貰って嬉しいってか…?

はいはい、御馳走様御馳走様…。


215 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:44:31.71YMqNv3890 (21/37)

しかし、まぁ…。


あ~あ、嬉しそうな顔しちゃってさ…。

そういや、今日のさやかは活き活きしてたよな…。

特にこいつらといるさやかは楽しそうで何よりだ…。



あの死にそうな程辛そうな顔したさやかを、こいつらが救ってくれたんだよな…。

アタシにだって、わかってるさ…。

それでもさやかを捨てた男と重ねずにはいられなかったんだ…。



でも…。

こいつらの事を認めても…。

それでも、さやかのやり方を認める訳にはいかない…。


216 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:45:15.32YMqNv3890 (22/37)

以前の世界にだって、こいつには守りたい人がいて、大切なモノがあって…。

それを守る為に戦って…。

なのに…。






『あたしってほんとバカ』

あいつに待っていた結末は残酷なものだった。




『誰かの為』

それを理由に戦う奴の末路はいっつもそうだ…。

マミも、さやかも、そして…。


217 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:47:00.25YMqNv3890 (23/37)

こいつはまた繰り返そうとしてる。

綺麗な理想に酔って、手に入れた新しい居場所に目が眩んで…。

また、同じ道を進んでる…。




だから、アタシはあんたを止めるよ…。

今度はアタシがあんたの夢をぶっ潰す事になっても…。

力尽くで…。



それしかあんたを救う術を思いつかないから…。


218 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:49:42.52YMqNv3890 (24/37)

────────

────

──


杏子「開け、電気棺!!!」


金属性の大きな箱が、アタシの声に従って開く。



『電気棺』

シルシを持たない綺羅星十字団員が、サイバディを動かす為に開発した装置。



その中にアタシは入り込む。


219 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:50:51.80YMqNv3890 (25/37)

中にある椅子に座り込み、扉が閉じると、箱はサイバディとの接続の為の装置の下へと運ばれる。

箱が装置と接続されると同時に、箱の中の各所からサイバディと人間とをリンクさせる為の拘束具のようなパーツが現れ、アタシに装着される。

それの装着を確認したアタシは、一度だけ深呼吸をした。


サイバディ復元にはリスクを伴う。

滅多な物には負けないつもりのアタシだが、そのリビドーの徴収とやらは初体験となる。

多少なりとも心構えをした訳だ。



付けていた仮面を外すと、

目の前に降りてきた黒いマネキンの頭部のような装置に向かい、思い切り仮面を取りつけて、叫ぶ。


220 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:53:19.03YMqNv3890 (26/37)

杏子「アプリボワゼェェェェェェ!!!!」


その言葉はサイバディを召喚する際に使われるモノ。

仮面の装備がきっかけか、その言葉がきっかけかはわからないが、首元の拘束具が赤い電撃を放ち始める。







杏子「ぐぅ…ぅぅ…ぅ…」


シルシを持たないドライバーに強制的にシルシを発現させる措置なのだが、

対象となるサイバディが破損している場合は復元の為のリビドーの徴収が始まる為、その電撃はより強い物となるそうだ。


負けないように意識を保っている筈なのに、幻が見えてくる…。


221 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:56:09.20YMqNv3890 (27/37)

マミ『いい加減…、諦めたら…、どうかしら…?』


杏子『そりゃ…、こっちの…、台詞だ…!』




幻?

いいや、これは夢だ。

それも昔懐かしい、大馬鹿野郎と毎日縄張り争いをしていた頃の…。




『魔女も使い魔も関係ない』

『人に害をなす存在を倒す』

『それが私たち魔法少女の使命の筈よ?』


それがあいつの口癖だった。

いつの間にかアタシの縄張りである見滝原に現れた他所者の癖に、アタシが魔女になるまで放っておいた使い魔を勝手に狩り始める。


222 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 22:57:32.82YMqNv3890 (28/37)

使い魔ってのは魔女になる前の幼虫みたいな奴で、人を襲えばやがて魔女になるが、それまでは肝心なグリーフシードを落とさない。

グリーフシードが魔法少女にとってどれだけ大切かは先日言った通りだ。

なのに、あいつは率先して使い魔を狩る。


いい加減目障りになったアタシは、とうとうあいつと揉め始めた。




マミ『グリーフシード欲しさに、魔法を好き勝手使いたいが為に、魔法少女であり続けるの?

   あなたのような醜い人は、さっさと魔女に食われたらどうかしら?』


杏子『人様の縄張りに勝手に上がって好き勝手やってさ、言いたい放題よくも言ってくれるよねぇ?

   その首跳ね飛ばして、魔女にくれてやろうか!?』


223 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:00:39.66YMqNv3890 (29/37)

主義主張が合わないアタシ達は、使い魔が、魔女が現れるたびに争った。


アタシも魔法少女になって長い。それなりに腕には自信がある。

けど、あいつは強かった。



相性の悪い遠距離型である上に、鬱陶しい小細工を得意とする面倒な相手。

その上、アタシが大嫌いな絵空事を当然のように並べる。

アタシの天敵みたいな奴だった…。




最初は大嫌いだった。

いや、今でも大嫌いだ…。

だけど…。


224 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:03:08.86YMqNv3890 (30/37)

杏子『アタシはこの街を出ていくよ』


マミ『そう。せいせいするわね…』


杏子『一つだけ忠告してやる…』


マミ『何よ…』


杏子『お前、その戦い方やめろ…』


マミ『この期に及んで…』


杏子『使い魔は強さはともかく、その数は魔女の比じゃない…!

   いちいち相手してたらグリーフシードの数が持たないって言ってんだよ…!』


225 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:06:12.76YMqNv3890 (31/37)

また、どうせ突っぱねるのだろうと思った。

でも違った。

あいつはどこか寂しそうに笑うと、全く違う答えを返した…。




マミ『みんなの為に戦う正義の味方…。

   そんな生き様だけが私の全てなのよ…』


マミ『だから…』








――ごめん――


226 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:07:01.51YMqNv3890 (32/37)

あぁ…。

『誰かの為』に戦う大馬鹿野郎はいつもこうだ。


自分を省みないで…。

そんな奴を想う誰かの事なんて、気にもしないで…。





結局マミは死んじまった。

『悪い所だけを継いだ後継者』を残して。


227 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:07:57.18YMqNv3890 (33/37)

美樹さやか。

あいつはあのマミと同じ瞳をして…。

マミと同じようにやれ人助けだの、やれ正義だの、大層な事をやりたがっていた。


気に入らなかった。

あのマミにできないのに、お前みたいな雑魚に出来る訳ないだろ…って。



何もかもが気に入らなかった。

本気で潰してやろうと思った。

でも…。


228 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:11:25.38YMqNv3890 (34/37)

あいつの滑り落ちていく様は、マミよりもアタシによく似ていた。

いつしか、その酷い落ちざまを見て、放っておけなくなった。

マミにしなかった昔話までした。

けど、結果は言うまでもない。




『あたしは、あたしのやり方で…、戦い続けるよ』


そう言ったあいつに待っていた結果はマミよりも無残な物だった。

信じていたモノに裏切られ、守って来たモノに絶望した…。


229 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:14:20.67YMqNv3890 (35/37)

こいつはまた繰り返そうとしてる。

今度のこいつに待っているのは、戦いに疲れたマミの最期か、自分の理想や世界に疲れたあの時のさやかかは知らない。

だけど、その結果は同じ『破滅』だ。



そして、アタシは…。

それを認める訳にはいかない…!


230 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:19:18.18YMqNv3890 (36/37)

幻が消えていく。

眩んだ視界が元に戻る。

気付けば、アタシはサイバディに乗り込んでいた。








杏子「………力を借りるぜ。ページェント!」


先輩から貸し与えられた深紅の機体が、アタシに合わせてゼロ時間の地面を歩んだ…。


231 ◆.2t9RlrHa22011/06/11(土) 23:25:21.21YMqNv3890 (37/37)

っし。
さりげに明日も仕事な不規則さなので、今日はここまでです。
気になる所で止めちゃうのは申し訳ないけど、こっからまた長いので…。



それでは本日は一応閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆


232VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2011/06/11(土) 23:29:45.09/PaoAZMAO (1/2)

超乙!


233VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2011/06/11(土) 23:35:52.60/PaoAZMAO (2/2)

超乙!


234VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/11(土) 23:58:23.51ddTR+MXWo (1/1)

君の銀河はきっと輝く!


235VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/06/12(日) 00:04:28.55EMX6KLIAO (1/1)

乙星☆


236VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/12(日) 01:27:44.23NYU5TK+Go (1/1)

乙☆
もうあんこちゃんの出番か、思いのほか早く決着が付くのかな


237 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:12:20.09C7Uzbqac0 (1/61)

綺羅星☆
昼寝もして、ストックもバッチリだ
明日は休みだから多めに落とせるがどうしよう…?

ストックはきっと平気
明日の午前とかで溜めるさ


>>232
乙星☆
どうもありがとう

>>234
君の銀河はもう輝いている☆

>>235
乙星☆
応援ありがとう

>>236
応援ありがとう
まさか自分からバレする訳にも行くまいが…
ただ、まだまだ先は長いっす…


238 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:14:20.67C7Uzbqac0 (2/61)

現れたゼロ時間に、前と同じく見物人の仮面達を包んだ泡が浮かぶ。

その中には勿論、よく知った顔もいた…。




イヴローニュ「良かったのか…?」


スカーレットキス「アインゴットのような欠陥機を貴重な人材に与えて潰すなど、もっての外だ。

         それに…」

スカーレットキス「防御よりも機動力に重きを置いたページェントは、あいつの戦闘スタイルに合っている」




今アタシの乗っているページェントは、上司様『スカーレットキス』の機体だ。

それを『科学ギルド』に無茶を言って、アタシが乗れるように調整してくれたらしい。


239 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:17:29.12C7Uzbqac0 (3/61)

杏子「あんたらも復元に成功したんだな…」


レイジングブル「任せろ!」


スピードキッド「後輩に後れを取る訳にはいかねぇからな!」




作戦は簡単。

こないだの『バニシングエージ』の連中と同じ。

アタシが、さやかに光の剣を抜かせないように倒す。

その間あっちの二人が、タウバーン相手に持ちこたえる。


頭脳派のいない『フィラメント』にそう言うのは期待できないからな。

作戦も単純明快だ。


240VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/13(月) 21:18:01.90MD69oUZ1o (1/3)

おぉ、そう来たか


241VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/13(月) 21:19:00.18347kpL8IO (1/1)

サンドバッ(ryボクシング先輩キターーー!


242 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:19:22.36C7Uzbqac0 (4/61)

さやか「颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!」


タクト「颯爽登場! 銀河美少年ッ、タウッ!バーン!!!」



敵の二人のサイバディが現れ、その戦闘態勢が整う。

それを見るや否や、アタシはさやかの乗るレシュバルに向かった。


アタシの見る限りじゃ、あっちの二人は長くは持たない。

この勝負、アタシがどれだけ早く決着を付けるかが鍵を握る。


おまけにこっちは、相手を[ピーーー]訳にもいかない。

まぁ色々と厳しい条件だ事で…。


243 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:20:33.78C7Uzbqac0 (5/61)

さやか「颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!」


タクト「颯爽登場! 銀河美少年ッ、タウッ!バーン!!!」



敵の二人のサイバディが現れ、その戦闘態勢が整う。

それを見るや否や、アタシはさやかの乗るレシュバルに向かった。


アタシの見る限りじゃ、あっちの二人は長くは持たない。

この勝負、アタシがどれだけ早く決着を付けるかが鍵を握る。


おまけにこっちは、相手を[ピーーー]訳にもいかない。

まぁ色々と厳しい条件だ事で…。


244 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:21:53.53C7Uzbqac0 (6/61)

ん…?
下げたけど駄目だな…?
ちょいと修正かけても一回落とします


245VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/13(月) 21:22:00.34MD69oUZ1o (2/3)

×sage
○saga

いや、二つとも書けば間違いは無いが


246 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:23:05.58C7Uzbqac0 (7/61)

>>245
なんと…
了解
修正落としつつ続行します

色々とサンクス


247 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:24:29.95C7Uzbqac0 (8/61)

さやか「颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!」


タクト「颯爽登場! 銀河美少年ッ、タウッ!バーン!!!」



敵の二人のサイバディが現れ、その戦闘態勢が整う。

それを見るや否や、アタシはさやかの乗るレシュバルに向かった。


アタシの見る限りじゃ、あっちの二人は長くは持たない。

この勝負、アタシがどれだけ早く決着を付けるかが鍵を握る。


おまけにこっちは、相手を殺す訳にもいかない。

まぁ色々と厳しい条件だ事で…。


248 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:25:26.77C7Uzbqac0 (9/61)

スガタ「あれは彼女か…? いや、違う!」


タクト「来るよ、さやか!」


さやか「わかってますって!」



わかっていない。

アタシは途中でページェントを加速させ、その姿を追い切れないようにする。






さやか「え? え…!?」


杏子「甘いんだよッ!」


249 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:27:55.31C7Uzbqac0 (10/61)

途中で上げた加速を追い切れなかったレシュバルは、こちらの繰り出した掌底を顔面に受け、吹き飛ぶ。


シミュレーターで使ったあいつのレシュバルよりもさらに加速が乗りやすい。

相変わらずの操作のタイムラグが鬱陶しいが、それでも機体性能が合っていて戦いやすい。





タクト「このッ!」


杏子「……!」


奇襲して敵陣に入った為、真横にいたタウバーンに襲われる。

こいつの相手は予定にないが、連中を分断しきるまでは仕方がない。


こちらが奇襲をしかけた為か相手の攻撃は打撃がメイン。

しかし、やがてノーモーションで出せる腰の小型兵器のパイルが飛んでくる。




だけど、アタシだって一人で戦ってる訳じゃない。


250 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:29:25.44C7Uzbqac0 (11/61)

スピードキッド「やらせるかよッ」


バイクになって宙を走るテツヤのサイバディ、テトリオートが人型に戻り、光輪を空中から飛ばす。

それはパイルに当る事は無かったが、パイルが行おうとした射撃を行わせなかった。





レイジングブル「バッファロー・クラッシュ!!!」


タクト「ぐっ…」


牛のような角を持つジョージのアレフィストが、タウバーンに体当たりを仕掛ける。

これでようやく、アタシは本命と対峙できるって訳だ。


251 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:32:25.42C7Uzbqac0 (12/61)

飛ばされたレシュバルもさすがに持ち直しており、パイルで作った剣を手に取っている。




さやか「こんのッ…!」


持った剣を投げつけてくる。

顔元に来た一つ目の狙いは甘く、顔を左に傾けるだけで当らない。

続く二つ目は右肩の辺りに飛んでくる…。

右肩を後ろへ素早く下げ、体を反身にして刀身をかわす。

同時に左手をかわした剣へ差し向けておき、柄を握る。



後は簡単だった。

頂いた刀剣を使って続く三撃目を流しつつ前進。

そのまま相手に迫る…。


252 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:34:20.86C7Uzbqac0 (13/61)

さやか「ぐっ…!」


三本の投剣を見切られ、するりと眼前に入ったアタシのページェントの斬撃を受けるレシュバル。

恐らくは投げようとしていた四本目の剣を咄嗟に防御に使ったんだろう。







杏子「はッ!」


握りが浅い。

思い切り力を入れてやれば、受けていたレシュバルの刀剣は宙を舞っていた。


253 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:36:08.05C7Uzbqac0 (14/61)

さやかのその後の反応は悪くない。

こちらよりも早く動き、蹴りを入れようとする。


だが、そこにアタシはいない。

後方へ回ったページェントは、レシュバルのその首筋に向かって手刀を入れる。

相手が人間であればここで終わるかもしれないが、サイバディじゃそうはいかないらしい。

うつ伏せにみっともなく倒れるも、また立ち上がろうとする。





さやか「負け…ない…」


杏子「………」


254 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:42:29.42C7Uzbqac0 (15/61)

イヴローニュ「ほぅ…、大したものだな」


スカーレットキス「やれる! やれるぞっ…!」


頭取「あなたは…、それでいいの…?」




聞こえてるよ、カナコ…。

これで良いんだ。

これしか無いんだ…。


サイバディがこの世に出て、この世界を騒がしてもこいつの居場所が無くなる訳じゃない。

綺羅星の連中が必要以上にあいつらを狙う真似はアタシがさせない。

だから、その上で元の世界へ戻るまであそこで傷を癒せば良い。



いい加減わかれよ、さやか…。

夢物語はもう終わりにするんだ…。


255 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:47:40.52C7Uzbqac0 (16/61)

青白い閃光が遠目に輝く。

だが、お坊ちゃんの言葉を信じるにスカして終わったらしい…。




スガタ「王の柱をかわした…?」
    

ワコ「あの敵、第二フェーズなのに…。

   今までの奴とは何かが違う…!」


スガタ「妙に戦い慣れしている…!

    タクト、お前が行かなければまずいかもしれないぞ…!」


タクト「………わかった!」





レイジングブル「だぁから、いかせねぇっていってんだろうがッ!」



タウバーンの後ろでお坊ちゃんと皆水の巫女が好き勝手言ってやがる…。

ここで行かせたら、俺は…。

俺はな…。


256 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:49:45.11C7Uzbqac0 (17/61)

タクト「どけッ!」


パイルとか言ううっさいのは、テツヤが引き受けてくれている。

俺の役目はこのタウバーン一体なんだが…。




正直それでも荷が重い。


一撃、二撃と入れられる打撃が重い。

最初に戦った時に感じた通りだ…。


こいつは強い…。

俺たちみたいな三下とは違う『本物』なんだって…。


257 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:53:12.49C7Uzbqac0 (18/61)

スカーレットキス「ジョージ……」


プロフェッサー・グリーン「あの機体、もう持つ筈がないのに…」


頭取「これもリビドーの力…?」





また一撃、さらに一撃食らい、アレフィストが悲鳴を上げている。

あちこちから煙を上げて、火花出して、装甲が禿げて中身がむき出しになってる所もあちこちにある。



へへ…。

悪いなぁ、アレフィスト…。

俺みたいなドライバーが乗っちまったばっかりによ…。


だが…、付き合って貰うぜ…。


258 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:56:35.97C7Uzbqac0 (19/61)

コイツに負けてからの俺の毎日はよ…。

惨めなモンだったよ…。


挙句の果てには女にノされて…。

しかも二回もだ…。



それでもよ…。

そんな俺でもよ…。

今頑張らなきゃ本当の負け犬になっちまうだろうが…!




だから、やってやろうぜ! アレフィスト…!

杏子が…、後輩が立ってる内は絶対に倒れねぇ…!


259 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 21:58:30.39C7Uzbqac0 (20/61)

あいつの…。

あいつの足を引っ張る真似だけは…!

そんな真似だけは絶対にできねぇよなぁ…!






タクト「こいつ…! まだ立つのか…!?」


レイジングブル「当たり前だ…。こっちはな、もっと重いパンチを4発も貰ってんだよッ!

        お前の屁みたいなパンチが効くかッ!」



レイジングブル「それにな…、喧嘩とボクシングは違うんだぜ…?」



レイジングブル「喧嘩じゃなぁ…。何回倒されても負けを認めるまで、負けじゃねぇんだよォォォォォ!!!!」


260 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:00:53.34C7Uzbqac0 (21/61)

横目で確認する。

テツヤはともかく、ジョージの方は動いてるのが不思議なくらいだ。

状況は相当にまずい。


これ以上時間をかけると…。




さやか「スター…、ソー…」


少し離れた位置にいるさやかのレシュバルは、膝を着いたままの態勢で悪あがきを続ける。

胸に手を当て、例の光の剣を抜こうとする…。


261 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:02:13.03C7Uzbqac0 (22/61)

苦し紛れにも程がある悪あがきに苛立ち、アタシは舌を打つ。

これ以上はこっちもまずいってのに…。




さやか「スィトリ………ヌ…」


杏子「無駄だっつってんだよッ!」


勿論、そんな物を使わせはしない。

抜かれた光の剣に対し、持っていた刀剣を投げつける。

自分の武器に弾き飛ばされたさやかの切り札は、音を立てて遥か遠方へ転がった


262 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:04:54.52C7Uzbqac0 (23/61)

杏子「これで…、終わりだ」


さやか「終わ…り…?」


膝を着き、項垂れたままレシュバルは動かない。


このまま負けを認めろ…。

そうすればお前に来る負担はまだ…。







さやか「終わりじゃ…ないよ…!」


レシュバルの頭部がゆっくりと上を向き始める…。


263 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:06:12.83C7Uzbqac0 (24/61)

止せ、さやか…。

お前はもう万策尽きてる筈だ…。

これ以上お前を…。






さやか「あたしはまだ、諦めて………ない!」


レシュバルが鋭い眼光を再び放つ。

同時にページェントは後方へ殴り飛ばされていた。


264 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:08:05.19C7Uzbqac0 (25/61)

杏子「何…!?」


さやか「今度こそ後悔だけはしないって決めたんだ…!

    だから死ぬまで前に進む…!」



見切れないほどの正拳を顔面にくらい、思い切り後退している…。

あの、終わった筈の状況から…。

そもそも、あの距離をどうやって詰めた…?



持ち直した…?

それだけじゃない…。

動きがさっきよりも良い…。

なんなんだ、これは…?


265 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:09:13.59C7Uzbqac0 (26/61)

さっきまでのトロい動きが嘘のような一撃が来る。

腹に、次に顔面に正拳が入り、まだ追撃は続く…。


少なくないダメージが入る…。

持ち直した相手に驚きつつも、速度で勝るページェントの特性を活かし、一旦距離を取る。





相手は構えすら取れていない…。

やれる…!


相手に一気に近づき、さらに加速をかけ、すれ違いざまに攻撃を仕掛ける。


266 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:10:45.60C7Uzbqac0 (27/61)

杏子「な…?」


相手は繰り出したこちらの右の手刀をしっかりと受け止めており、そのままこちらの加速の勢いを利用して投げ飛ばす。






杏子「…ッ!」


地面に引きずられるページェントを持ち直すも、既に相手は眼前にいる…。

捌こうとするも捌ききれない打撃が繰り出される。

距離を取ろうにも、連撃が激しく、逃げられない…。


見切れる範囲だけでも捌き、反撃を入れる。

だけど、ここに来てサイバディの反応の鈍さが邪魔をする。

見えても避けれない攻撃の数が増え、こちらの反撃は減り、ダメージは確実に蓄積していく…。


267 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:12:16.78C7Uzbqac0 (28/61)

杏子「お前は何の為にここまでする…!?」


さやか「大切な人達の為…!」



形勢は逆転していた。

ページェントの拳は繰り出すも捌かれ、また反撃をもらう。





杏子「大切な人…? そう思ってるのはお前だけかもしれない…!

   万一そいつらに裏切られたらお前はどうする…? 耐えられるのか!?」


さやか「何を…」


僅かな隙を付いた膝蹴りがレシュバルに入る。

続けて、組んだ両手を相手の頭部に思い切り叩きつける。


268 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:13:59.45C7Uzbqac0 (29/61)

杏子「お前は理想に酔ってるだけだ! 優しく見えるそいつに寄りかかって…!

   だから、それが破れたらお前は…」


さやか「…その心配はいらないよ。

    あの人達はあたしを裏切らないし、例え裏切られてもあたしの戦う理由は変わらない」



怯んだレシュバルの腹に、思い切りもう一撃食らわせる。

仰け反りながらも繰り出してきた敵の左拳を避け、右側から横顔に向かって正拳を入れる。

レシュバルは僅かに後ずさるもその構えを崩さない…。


269 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:15:20.26C7Uzbqac0 (30/61)

さやか「前にね…」


杏子「…?」


さやか「あたしの先輩が言ったんだ…。

    あなたはその人に夢を叶えて欲しいの? それともその人の夢を叶えた恩人になりたいの…?って」


先輩…?

マミの事か…?

こんな時にあの大馬鹿野郎の事なんか、これ以上思い出させるな…!


270 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:17:52.90C7Uzbqac0 (31/61)

さやか「それがわからずに進めば後悔する…そう言われてたのに、あたしは状況に流されて突き進んだ。

    結果、マミさんの言う通りになったよ…」



そうさ…。

そして、お前はまた同じ事をやってる…。

だから、アタシは…。





さやか「でも、今度ははっきり言える!」


271 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:18:57.05C7Uzbqac0 (32/61)

さやか「あたしはタクトさんに夢を叶えて貰いたい。その為に戦う…!

    だから…!」




レシュバルのその目は輝きを増す。

同時にさやかの乗るコクピットの球体からも強い光が発せられる。

あのさやかがこんな輝きを放ってるのか…?



その輝きに魅せられたアタシを他所に、

レシュバルはその左手を前に、右の拳を大きく後ろへ引いて大技の構えをとる…。


272 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:21:28.71C7Uzbqac0 (33/61)

さやか「もう後悔だけはしないよ!!!!」


さやかの叫びに反応し、あちこちに転がっていたレシュバルのパイルが、元の形と大きさに戻り、引いた右手に集まっていく。

細めの先端を前へ向け、ロの字に右手を囲んだパイルはドリルのように高速回転を始める…。



これはまずい…。

そう思った…。

だけど…。


273 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:23:07.86C7Uzbqac0 (34/61)

杏子(ッ…! 動けよ…! なんで…)



わかっていても、ページェントの動きが…。

追い付かない…。



動いてはくれている…。

でも遅い…。

遅すぎるんだ…。



杏子(まだ、アタシだって…、さやかを…)


274 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:24:50.23C7Uzbqac0 (35/61)

さやか「パイル・クラッシャァァァァァァァッ!!!!!!」



高速回転するパイルを纏った右の拳が繰り出される。

アタシは言う事を聞いてくれないページェントを、それでも後方へ飛ばす。



…が、無駄だった。

ドリルのように回転するパイルの拳は、そのまま空を裂きながら前へと突き進み、

後方へ飛んだページェントへ迫る…。



前方へ迫ってくる…。

やがて眼前へ…。

そして…。




ページェントの腹から上は抉られて腕と首だけを残し、やがて爆散した…。


275 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 22:29:24.21C7Uzbqac0 (36/61)

っし。
キリが良いので小休憩します
11時頃に再開予定

>>240
そう来ちゃいました
設定殺しはなるだけやりたくはないけど、展開的に必要な時もあったり…

>>241
サンドバ先輩
ちょっと張りきってもらいました


276VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/13(月) 22:38:35.56MD69oUZ1o (3/3)

フィランメント組は本編でもっと活躍するべきだと思っていた、俺得展開だな。素晴らしい。


277 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:11:27.59C7Uzbqac0 (37/61)

では、再開します

>>276
フィラメントとおとな銀行活躍させるための杏子編だからね…
あの人達はキャラ濃いからスピンオフとかも行けると思うんだけどなぁ…
フィラメント組のはサイバディもお気にだし


278 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:14:05.77C7Uzbqac0 (38/61)

金属製の箱が開き、その中に光が差す。

そこまでの状態になって、アタシは初めて自分の状態を理解した。





杏子「アタシは…負けたのか?」


スカーレットキス「あぁ…」


電気棺からサイバディを遠隔起動した際の最大のメリットとして、

敗北しても搭乗者の身体や精神には一切の跡を残さない…と言うのがある。


実際、アタシにもダメージはない。

だけど…。


279 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:18:38.32C7Uzbqac0 (39/61)

レイジングブル「よっ」


疲れているもどこか満足そうなジョージがぽんとアタシの頭に手を置く。




レイジングブル「惜しかったじゃねぇかよ。あと少しの所だったのにな」


杏子「ごめん…。アタシは自分の役割を果たせなかった…」


レイジングブル「な~に言ってんだ。

        俺達に実力があるなら、俺達のどっちかがお前と戦った奴を担当するのが定石だろうが」


スピードキッド「その通りだ。

        あっちの青いのだって『バニシングエージ』のドライバーを倒すほどの実力者だ。

        本来なら先輩の俺らが相手をしなければいけない相手なんだぜ…?」


280 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:21:01.53C7Uzbqac0 (40/61)

二人を横目に上司様がゆっくりと歩んで来る。

笑いながら声をかける二人と違い、こちらはいつもと変わらない様子で話しかけてくる。

だけど、その様子には棘は見えない。

正直、今きつい事言われないのはありがたかった…。




スカーレットキス「やはり、他人のサイバディを使うのは無理があったか?」


杏子「それも無い事もないが、それ以上にあいつの強さがアタシにはわからない…。

   たぶん今のままじゃ何回やっても…」


その先を言わせないように、だろう。

「とりあえず」と、上司様がアタシからエンブレムを回収する。

とりあえず帰って休む事を勧められたアタシは、そのままふらふらと外へ出ると、

仮面を外し、魔法少女の服装だけ解いて、ぼんやりと施設を離れた。


281 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:26:23.13C7Uzbqac0 (41/61)

アタシはさやかの強さを測り損ねていた。


あいつがまた同じ事を繰り返している。

マミのようにそんな自分に陶酔しているか、以前のさやかのように周囲が見えていないか、それとも単に意地と投げ槍か…。

いずれかだろうと思った。


いや、薄らとどこか違うとは思いながらもそれ以上追及しなかった。



違う…。

できなかったんだ。

『誰かの為』なんて戯言を、あそこまで本気で言ってる奴なんて初めて見たから…。


282 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:27:22.28C7Uzbqac0 (42/61)

あいつは本気だった。

サイバディを動かすのがリビドーだって言うのなら、それはそのままあいつの強さになっている筈だ。


そう…。

あいつは以前同じ事で苦しんだのに『今度こそ惚れた男の夢を叶えたい』と、そう言った。





アタシにはわからない…。


ツナシ・タクト。


あいつはさやかに何をした?

あいつの何がさやかにあそこまでの決意を抱かせる…?


嫉妬や憎しみじゃない。

知らなければならないと言う感情が、奴の元へアタシを運んでいく…。


283 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:29:21.92C7Uzbqac0 (43/61)

────────

────

──


タクト「やぁ…、こんばんは」


杏子「先輩…、あんたに話があるんだけど」


タクト「さやかの事だね…?」



薄暗い林の中に月明かりが射す。

それは、待ち伏せしたアタシに動じないこの男の口元を静かに照らす。

穏やかな笑顔で、こいつはさやかとの出会いを語り始めた…。


284 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:30:44.25C7Uzbqac0 (44/61)

タクト「彼女はね…、暴走した…。

    そうだな、魔女みたいだけど、もっと違う別のモノの中にいたんだ」



最初はその中に人がいるかもわからなかった。

完全に取りこまれてて、怒りや悲しみや憎しみみたいな物だけを撒き散らすあの中から人らしきモノは感じられなかったから…。

今にして思えば、アレがさやか自身の穢れ…、

いや、さやかが本当の魔女になった時に放つモノだったんだと思う。



やがて、状況が切迫したスガタが手助けしてくれて、ようやくその存在を感じ取った。


強い感情に包まれたそれとは違って、

中にいる人は弱弱しくて、そんな自分を悔いているのか、助けすら呼ばなかった。


勿論放っておけなくて助け出した。


285 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:32:14.68C7Uzbqac0 (45/61)

対面した僕らは特殊な状況にあって少し驚いたけど、すぐに打ち解けた。

彼女は良い子だったからね。

でも、それ以上にどこか親近感が湧いた。


その理由はすぐにわかった。

彼女から魔法少女の話を聞いたからじゃない。

彼女の生き方を聞いたから…。




タクト「僕と彼女は似ていると思った」


杏子「似ている…? 何が…?」


タクト「似てると言うと少し違うな…。

    正確に言えば、彼女の『選択は僕と同じ物』だった」


286 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:33:30.01C7Uzbqac0 (46/61)

彼女も僕も一人の人を想って…。

その人の為に、何かと戦う道を選んで…。

そこまでは同じだった。


だけど、そこからは違った。

僕はその人とも、その人を想う他の人間とも解り合えた。

後はただ前に進むだけで良かった。


でも、彼女は違った。

色んな事情でその人への想いを伏せなければならなくなって…。

その人を想う他の人間を責める事もできなくて…。

間違った選択はしていない筈なのに、悪い結果だけが重なって追い詰められていって…。


287 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:35:20.08C7Uzbqac0 (47/61)

同じ選択をした。

なのにここまで違う…。


悲しいもう一人の自分に、同情よりも哀れみよりもある感情が先に湧いてきたんだ…。

そして、その言葉は自然と口から漏れていた。




―よく、頑張ったね―


その言葉を聞いた後の彼女は、色々と吹っ切れたんだと思う。

それまでの自分を取り戻すかのように、それを遥かに越えるように…。





タクト「絶望の淵を知って、そこから帰って来た彼女はたぶん誰よりも強い」


杏子「あんたよりもか…?」


タクト「僕よりも…ずっと」


288 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:36:54.15C7Uzbqac0 (48/61)

杏子「…よく、わかった。ありがとう、先輩」




タクト「…………待って」


引きとめられ、振りかえったアタシに真剣な表情を向けるツナシ・タクトの顔が見える。

月明かりは、いつしか奴の全身を映していた…。






タクト「君は、どうするの…?」



アタシは…?

言葉に詰まったアタシは、長い沈黙の後、奴に背を向けて逃げるようにその場を去った…。


289 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:38:59.36C7Uzbqac0 (49/61)

────────

────

──


さやか「おい、杏子~~!」


杏子「…………」


さやか「杏子ってば!」


杏子「…………」


さやか「この馬鹿、うすらトンカチ、へちゃむくれ!」


杏子「…………」


290 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:40:14.55C7Uzbqac0 (50/61)

アタシはどうする…?



昨日からそれが引っ掛かっている。



どうする…?

さやかの為に戦う…?



それは『自分の為』だ。

事実、あいつの感情は無視してでも連れていくつもりだった。


だが、今のさやかから『それ』を取りあげれば、今度こそさやかは間違いなく堕ちる。

それ以前に、あいつの『本気』にアタシはとても太刀打ちできない…。


291 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:41:35.04C7Uzbqac0 (51/61)

さやか「杏子、杏子ってば!!」


杏子「うっさいな、何だよ!」


さやか「呼んでるよ…?」


廊下には金髪碧眼の美少女が立っている。

アタシの恩人が一人、シモーヌ・アラゴンだ。

さんざん待っていたらしく、痺れを切らしたのか一礼した後、教室へ入って来る。




シモーヌ「こんにちは。あんこさん」


さやか「あん…www」


杏子「………なんか用か?」


292 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:42:54.83C7Uzbqac0 (52/61)

横で笑う馬鹿を捨て置き、シモーヌへの応対を優先する。




シモーヌ「奥様がお呼びです」


杏子「もうすぐ授業なんだけど?」


シモーヌ「次の講義の内容は私が後で責任を持って教えますので、黙って付いて来てください」


杏子「ちょ、おい…!」




さやか「……愛の告白?」


アタシの手を取ると、無理やり引っ張って外へ連れ出そうとする。

シモーヌらしからぬ強引な手段だ。


つーか告白じゃねぇよ。

聞こえたクラスの連中がちょっと引いてんじぇねぇか…!

あの馬鹿、後で潰す。


293 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:45:22.68C7Uzbqac0 (53/61)

恩人なのに一度散々な目に合わせてる手前もあって、アタシはシモーヌには強引に出れない。

結局、引きずられるままにカナコのいる屋上へ連れられてしまった。





杏子「…………」


カナコ「たまには、こうやって屋上で授業をサボるのも青春よね?」


シモーヌ「優雅にお茶会をしながらサボると言うのは聞いた事がありません。奥様」



日焼け防止の為のパラソルの下にどこから持ってきたのか、白いテーブルと白い椅子。

テーブルの上に置いたお茶とお茶菓子のクッキーを嗜みながら、青春を楽しんでいるつもりのお嬢は言う。


無理やり着席させられたアタシに、シモーヌがお茶を淹れる…。


294 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:46:51.16C7Uzbqac0 (54/61)

杏子「何の用だよ…」


カナコ「その前に…、綺羅星ッ!」

杏子「き、綺羅星!?」



シモーヌ「語尾が怪しいですが、言えていますね…。面白くありません…」


カナコ「今度はちゃんと言えたのね…w」


杏子「……からかう為に連れてきたなら帰るぞ!///」



和やかな表情をしていたカナコが一辺に真面目な表情に変わる。

綺羅星十字団第四隊『おとな銀行』頭取…の目とでも言えば良いのか?


295 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:48:19.50C7Uzbqac0 (55/61)

カナコ「もう一度聞くわね…」


杏子「………」


カナコ「あなたは何故、綺羅星十字団に…?

    そして、何のために戦うの…?」


アタシは溜息を吐きながら、カナコに語った。

真剣に話を聞いてはいたが、その大半を既に知っているようにも見える。

そして…。




杏子「アタシは『自分の為に』戦う。

   さやかも『自分の為に』連れて帰る……つもりだった」


296 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:50:32.80C7Uzbqac0 (56/61)

杏子「できなかったよ。あいつ、この上ないほど真剣で…。そうするだけの理由があって…」


カナコ「…………」


そこから先も全部カナコに話した。

アタシはあいつに勝てないし、万一勝てばあいつは終わってしまう。

そう考えたらもうどうしようもなかったから。

こう言うのには慣れているつもりだったが、少しでも楽になりたくてブチ捲けた…。




カナコ「あなたは…強い子なのね。そして、それ以上に優しい子」


杏子「そうかな…?」


297 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:51:35.64C7Uzbqac0 (57/61)

カナコ「自分を否定する現実が訪れても、涙一つ流そうとしていない…」


いつも笑顔を絶やさないワタナベ・カナコでも、大胆不敵で強気な『おとな銀行』頭取でもない、

どこか悲しそうな表情で、カナコは言う。



だけど、それは買い被りだよカナコ…。


アタシの涙はとうに枯れているだけなんだ…。

泣きたくてももう出ないだけなんだよ…。


298 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:53:24.27C7Uzbqac0 (58/61)

カナコやシモーヌの表情を見るのが居た堪れなくなったアタシは、話題を変える。

それは、ずっと気になっていて聞けなかった事でもあり、話題反らしの割にはすんなり出てきてくれた。




杏子「なぁカナコ…?」


カナコ「…?」


杏子「あんたは何の為に綺羅星十字団に入って、何の為に戦うんだよ?」


カナコ「恐怖の大魔王になりたいの」


杏子「……は?」


重い空気が軽くなり、カナコからも笑顔が戻る。

後ろで呆れ顔をしたシモーヌが一礼してから、カナコの代わりに語り始める。


299 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:55:36.91C7Uzbqac0 (59/61)

シモーヌ「奥様はサイバディの所有権が『おとな銀行』にある事を主張する為に戦っています」


杏子「…?」


シモーヌ「全てのサイバディは『おとな銀行』の資金の元で発掘、調査、調整、運用されているのですから本来は当然の権利なのですが…」


杏子「いや、それは良い。そうじゃなくて、それを主張してどうしたいんだよ? 世界を乗っ取りたいのか?」



ふぅと一息いれてから、またシモーヌが切り出す。

その表情はどこかいつもより柔らかく見える。





シモーヌ「逆です。奥様はサイバディの所有権を全て手に入れる事で、それを平和的に運用していきたい。

     そうお考えなのですよ」


カナコ「凄い力を一人占めする大魔王…と言うのは違いないけれどね」


横でカナコが悪戯っぽく笑う。

その表情は大魔王のそれと言うよりは、まったく真逆の存在に見える…。


300 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:57:57.12C7Uzbqac0 (60/61)

だけど、それは理想論だ。

そんな事は出来はしない。

実際、『おとな銀行』は連中にとってはただのパトロンでしかない。

カナコの実力や手腕は認めても、夢物語にしか見えない…。





杏子「理想論だな…。実際はそううまくはいかない。

   綺羅星内でもあんたらの計画はうまく行ってないし、万一綺羅星をどうにかしてもその後に必ず馬鹿が出てくる…」



カナコ「そうね…」

カナコ「でも、だからと言って諦める訳にはいかない。それがどんなに無謀でも…、私は諦めはしない…」


大嫌いな筈の理想論もこいつが語ると嘘に聞こえない。



それはそうだ。

こいつはそれを『建前』や『理想』でなく、『本気』で成し遂げるべく行動しているんだ…


301 ◆.2t9RlrHa22011/06/13(月) 23:59:07.32C7Uzbqac0 (61/61)

こいつもさやかと同じだった。

話のスケールだけで言えば、さやかのそれを遥かに上回るスケールの大きさだ。

そんな事を『叶えたい』でなく、『叶える』前提のもとで話し、努力し、戦っている…。



覚悟。

それが違うんだ。

さやかやカナコと今のアタシでは…。



いつかのアタシにもあった『誰かの為』の覚悟。

やがてそれは粉々に砕けて、『自分の為』に生きる事にすり替わった…。


そんなアタシが今更『誰かの為』を謳っても、それは『建前』や『理想』にしかならなくて…。

でも、それを『自分の為』と言い聞かせてみても結局は変わらなかった…。



アタシに出来たのは『自分の為』に生きる事だけだった…。

そんなアタシは『誰かの為』に戦いたくても、戦えない…。

まして、それを本気で叶えようとしてる奴らには…。


302 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 00:00:29.40m2YsxvEH0 (1/46)

────────

────

──



シモーヌ「奥様のお話を聞いて萎縮されてしまいましたか?」


杏子「…いや」


シモーヌ「無理もないです…。あの人はとんでもない人ですから…。

     ただ…」


杏子「…?」


シモーヌ「だからと言って、あなた自身を否定しないでください」


杏子「え…?」


303 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 00:02:47.50m2YsxvEH0 (2/46)

シモーヌ「私も…、最初は『自分の為』だけに生きていました」


シモーヌ「最初は私はあの奥様が嫌いでした。

     いや、嫌いと言うだけなら今でも同じですね…」



杏子「………」


この一言でわかった。

こいつは落ち着いてるんでも、冷静なんでもない。

不器用なんだ、と思った。

カナコを嫌いと言いつつも顔が緩んでちゃ、逆ですって言ってるようなモンだろ…。





シモーヌ「私はあの人を憎んでいました。

     私の母を捨てさせ、父に当たる男を奪ったあの女を…」


シモーヌの母親はカナコの夫、レオン・ワタナベの愛人だったそうだ。

自分を、母を捨てたその男と、その男が選んだ女への復讐の為にカナコに近づいた…。


304 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 00:05:04.76m2YsxvEH0 (3/46)

シモーヌ「でも、全ては誤解でした。

     実際は私の母が優秀なあの人をレオン・ワタナベに紹介し、身を引いた…」


シモーヌ「そして、あの人はそんな私の事情を知りながら引きいれた。

     ロマンチックだからと言う理由だけで私には何も語らずそのまま接して…」


シモーヌ「それだけじゃない…。

     あの人は交通事故にあった私を助ける為にサイバディを密かに私的利用までしていた。

     それが公になれば自分が不利になるにも関わらず…」



杏子「………」


シモーヌ「一人で生きてきた、と思った私は結局あの人に生かされてきた。お笑い草でしょう…?」


305 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 00:07:27.81m2YsxvEH0 (4/46)

笑うでもなく、嘆くでもなく、どこか穏やかな顔で語るシモーヌ。

その青い目は閉じてしまっているけど、だからと言って自分自身を哀れんでいるようにも見えない…。




シモーヌ「それでも、私は今までの自分を否定はしない…。

     あの人を憎んだ私も、それを経て未だあの人の元にいる私も…」


杏子「………何が言いたいんだよ?」


シモーヌ「簡単です。なるようにしかならないんです」


シモーヌ「足掻こうか喚こうが、駄目な時は駄目で…。

     逆に頑張れば頑張っただけ突き進む時もあれば、全く違う何かに足を取られる事もある…。

     よくも悪くも…」


306 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 00:09:23.03m2YsxvEH0 (5/46)

杏子「………」


シモーヌ「だけど、一つだけ言えます」


シモーヌ「正しい事も間違えた事も、善行も悪行も積み重なって自分がいるんです。

     一つ一つの行為を悔いる事があっても、『あなた自身』と、そのあなたの作り出す『これから』を否定しないで…」



シモーヌ「大丈夫です…。私達はまだなれます…。

     ワタナベ・カナコや美樹さやかに負けない何かにも、もっと違う何かにも…」


杏子「傲慢だな…」


シモーヌ「そこは仕えている方に似てきたのでしょう」


その口調は熱が入っているが、それでもどこかしれっと言うのでアタシは知らずに吹き出していた。

さんざん迷惑をかけたのに、未だに手を焼いてくれる…。

こいつもカナコも本当に物好きだ…。


307 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 00:13:49.05m2YsxvEH0 (6/46)

何もかも失ったあの日…。

アタシは一人になった。

今思えば何故あのまま壊れなかったのか不思議なくらいだ。


善行を重ねたつもりでも救われなかった。



そこからはそれまでの自分を笑うように悪い事をたくさんやった。

食う為、グリーフシードの為なら何でも。

人から金品や食い物を騙し取り、奪い取るのは日常茶飯事。

グリーフシード欲しさに魔法少女を半殺しにした事も幾度もある。


特に全部失くした日から暫くの荒れっぷりは酷かった。

すぐ黒くなるソウルジェムを見ているのが気持ち悪くて、

魔女を所構わず潰して回って、奴らが絶滅するんじゃないかと心配した事さえあった。


308 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 00:16:23.53m2YsxvEH0 (7/46)

『自分の為』に生きる事に手を染めたあの時に諦めたのさ…。

『誰かの為』に戦う事を…。



だから、それを望む奴が鬱陶しかった。

だけど、そんな奴が堕ちていく様を見るのは何故か心が痛んだ。

そして、さやかに至ってはもう見ていられなかった。


自分が成せなかった道を行く奴を否定したり憎んだりしがらも、そいつらが行き着く結末の悲惨さに同情する…。



アタシ自身すら今日まで気付けなかった。

いや、戸惑い、認める事の出来なかった歪な心はこうして出来上がった…。


309 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 00:23:28.47m2YsxvEH0 (8/46)

気付いた所で変わりはしない。

アタシが今更『誰かの為』だの『世界の為』だの謡ってもそれは、薄っぺらな建前にしかならないから…。


かと言ってシモーヌの言うように自分を否定する気もない。

全部自分が生きる為にした事だ。

後悔なんてない。


だけど、そんな『自分自身』の『これから』を信じれる程おめでたくも出来てない…。



でも、もし…。

もしもさ…。

シモーヌの言う通り、『アタシ自身』が何か価値ある『これから』を作り出せるのなら…。





その『これから』は…。


310 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 00:33:40.15m2YsxvEH0 (9/46)

っし。

杏子編1はこれで完結。
ただし、話は続いていく…。
スレの変更はしませんので、飽くまで一区切りとお考えください

キリは良いんだけど、もっと投下すべきか…?
調子に乗るとストックに完全に追い付きそうだけど…


311VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/14(火) 00:37:21.08c+q4BoL1o (1/1)

乙乙
区切りが良いのなら今回はここまでで良いのでは? 書き溜めはある方が精神衛生的に良いですし。

戦闘パートの先輩方カッコ良かったなー



312VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/06/14(火) 00:44:45.12uAUpguwX0 (1/1)

なにが綺羅星だよばかばかしいwwwwwwwwwwwwwwww


313VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/14(火) 00:49:42.26cMyK2gfIO (1/1)

綺羅星☆
次回はさやかのターンかなwktk


           _>三>、_
      >>312<:.ー:.〈:.:.:.∧_r―――┐
             ヽ:.r:∧:.{ y   |__/  l
           ノ:.:.〉_ Vし__/   |  l ヘッドさんチィーース!
          r厂Τ\∧_>V  .ィ , ィレ7   |
        /    ヽ   |/]i.vィ/ ′ _≦_  ̄\   _,, -―-- .._
    /yへ  /     | | ′       >\  `ー''"   __   /ー‐-、
    (_// /―――f 三ミ| / /    7 /     /    ̄ ヽ r_ノ
     `┴ー――‐^ー-^| フ´ ̄  _≦/__∧__   \
          V  \_| 、`ー-≦、ノ  `ーキ-≠、   />x
            |      |、_\             ヽ//イ ∧
            |    _」ヽヽ_>           )>′⊥_}、
             └r''"´ ヽ }ノ  \          / /   / \
               ヽ   ヽ |'´    \     / /  .、へ   \
            |    | \     \  / /  /   \\   \
            |   |  \    / /  /       \\   \


314 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 00:56:28.02m2YsxvEH0 (10/46)

>>311
了解っす
今日はここまでにしまっす

>>313
その通りっす
ただ、勢いに乗って書けた杏子編に比べるとなかなか難しい感じ
でも、さやか側も掘り下げないと最終章の時に描写不足が目立っちゃうから…




本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆


315VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/14(火) 01:04:44.66zEzzpOuRo (1/1)

綺羅星っ!

と虚淵っ!って語感似てるよね


316VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/06/14(火) 01:38:12.1559J9GWXAO (1/1)

乙星☆
シモーヌ輝いてるね


317VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)2011/06/14(火) 02:00:55.28+f8qFnNBo (1/1)

あいかわらずの高クオリティ

おおつ


318 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 22:53:52.64m2YsxvEH0 (11/46)

綺羅星☆
遅くなりましたが、ぼちぼち落とします。
続編作るとなると、さやか編はなかなか難しい事に気付く…



>>315
虚淵脚本で鬱展開になったら「何が虚淵だよ(ry)」って言うんですね? わかります

>>316
乙星☆
シモーヌさんは戦闘での活躍が難しいので、サポート的な役割に徹して貰ってます

>>317
応援ありがとう
そのクオリティを保てるよう頑張ります…


319 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 22:56:37.95m2YsxvEH0 (12/46)

ゼロ時間。

青と白のサイバディ、その両脇に黒い三機のサイバディが尽き従っている。

それを見下げる形で浮かぶ銀色のサイバディ。

両者は睨み合う。

いや、浮かんでいるそれは敵意の類を持たない。

ただ浮かび、見上げるそれらを眺めるだけである。




????『お前のサイバディは危険だ。

     俺達の計画を根本から破壊する可能性を秘めている…!』


???『だから、壊す…?』


????『そうだ。抵抗は無駄だ!』


???『…………いつもこうだ』


????『…?』


320 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 22:58:31.98m2YsxvEH0 (13/46)

銀色のサイバディのドライバーは嘆くように言う。



???『いつもそう。僕は世界の邪魔者。誰も僕を受け入れてはくれないんだ…。

    あの人も…。トキオって人もそうなのかな?』


????『何をぶつぶつ言っている!』


黒いサイバディのドライバー『もういい! やるぞ! 行くぞ、ラメドス、ザイナス!』


????『待て…! 俺がやる!』


青と白のサイバディは宙に浮かぶそれに飛びかかろうと大地を蹴る。

だが…。



???『………アプリボワゼ』


321 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:00:10.74m2YsxvEH0 (14/46)

銀色のサイバディが放った何かは青と白のサイバディ、そして下に居た黒いサイバディ達をも包みこむ。

それはすぐに消えたが、サイバディの胸のコクピットの球体だけはそのサイバディと同じ銀色に染まっていた。





???『僕は争いはしたくないんだ…』


????『く、これは…、まさか…!』


黒いサイバディ達は同士討ちを始める。

青と白のサイバディも勿論、例外ではない…。


だが、それは壊しあうと言うよりは踊りを踊るようなそれに近い。

争いをしたくない、と言う銀色のサイバディのドライバーが敵同士のそれすら拒んだのか…。


ゼロ時間に怪しげな時間が流れる…。


322 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:02:13.41m2YsxvEH0 (15/46)

???『嫌いなサイバディも踊っていれば、綺麗に見えるかと思ったんだけど…。

    思ったよりもつまらない…。もう帰ってくれ』


やがて、サイバディは一機、また一機とゼロ時間から消えていく。

何をしているのか…。

それは銀色のサイバディのドライバーにしかわからない…。


そこには青と白のサイバディだけが残った。




???『……帰ってくれと言ったのに』


????『こんな馬鹿な…』


???『君だけは……、消すしかないのかな?

    嫌だな。そう言うの………』


????『くっ…』


323 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:04:09.91m2YsxvEH0 (16/46)

だが、銀色のサイバディは動こうとしない。

代わりに何かを見つけたようだ。


???『君は…面白いモノを貰ったんだね?』


????『何…?』


???『その左目の見せる日々、それを一緒に見ようか…』


????『やめろ…、それだけは…』


???『可愛そうな人…。僕と一緒…。何にもないんだ…』


????『やめろ、それを俺に見せるな…!』


???『凄いなぁ…、トキオは…。こんな強い人すら出し抜いて…』


????『やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!』



青と白のサイバディが左目を抑えて苦しむ中、銀色のサイバディが両手を大きく広げ、怪しく輝いて浮かぶ…。

そして、ゼロ時間は晴れていく…。


324 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:05:45.84m2YsxvEH0 (17/46)

カタシロ「夢、か…」


左目が見せた光景。

それは愛した人が他の誰かと愛し合う日々。

彼の見たくない、苦しい未来。

その終着駅を見たく無くて、目を背ける為に左目を潰した…。


だが、『結末』を見る事は無くとも、見なかったからと言ってそれが起こらなかった訳ではない…。





カタシロ「あの時、アレには戦意はなかった…。

     だから、あの程度で済んだ…」


カタシロ「だが、今アレを持っているのは…。恐らく…」


325 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:08:18.00m2YsxvEH0 (18/46)

やめよう。

そんなあいつに賭けて、シルシを渡したのは他でもない自分自身だ…。

それに、仮にあいつが何か企んでいようと俺にはどうする事もできない…。




レシュのシルシは…。

あの少女が受け継いだのだから…。


全てを諦めた俺は、ただ見ている事しかできない…。

今も昔も…。



『これから』も…。


326 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:10:08.00m2YsxvEH0 (19/46)

とあるホテルの一室。


全裸のままの椅子に座った金髪ロールの美少女が上機嫌そうに外を眺めている。

その傍らには薄い緑色の髪をショートカットにしたボーイッシュな美少女が、やはり全裸でワインにしか見えない飲料を飲んでいる。





???「ウフフ…、やっぱりあの子面白い」


??「あっちの男の子が目的で私達は来た訳だけど…。

   君が気に入ったのはそっちかい?」


???「だって…、サイバディが止まるのよ!?

    そんな真似、今まで誰にもできなかったのに…!!!」


??「前例は無い訳ではないらしいけど…、極めて稀なケースみたいだね」


???「美樹さやか…。あの子良いわぁ…。ここまで興奮するのは初めてよぉ!!!」


??「何にしても君が楽しそうで何よりだよ…。『マドカ』」



マドカ。

そう呼ばれた金髪ロールの美少女は、棘のある笑みを満面に浮かべた…。


327 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:12:18.24m2YsxvEH0 (20/46)

タクト「パイルの遠隔操作のコツ…?」


さやか「はいっ」



今日は食堂に集まり、みんなで取る昼食の最中にタクトさんに聞いてみる。



あたし、美樹さやかは『魔法少女』にして、『銀河美少年』…らしい。

そこ、女なのに『美少年』とか言って笑うな。

あたしだって気にしてるし…。



さておき、大層な肩書なのにどっちも未熟者…ってのがちょっと情けない。

『魔法少女』として本格的に生きる事はもう無いだろうから、こっちはもう意識しなくていいんだけど、

現在進行形の『銀河美少年』として未熟者なのは結構深刻。


328 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:13:54.30m2YsxvEH0 (21/46)

あたしがしたいのは、命の恩人であり、『よく、頑張ったね』って称えてくれたタクトさんの夢を叶える事にある。


タクトさんは目の前にいるワコさんを守る為に戦っていて、最終的には敵の全サイバディを破壊する事を考えてる。

物騒に聞こえるかもしれないけど、あのサイバディが世間に出たらどんな悪用をされるかわからない。

それをさせない為にワコさんは封印を守っており、それが原因でワコさんはこの島の外に出れない。


そう。タクトさんの夢はそのワコさんにある。

全てのサイバディを倒してしまって、『ワコさんを自由にする事』。


そして、あたしは何の間違いかタクトさんと同じ銀河美少年になった。

それなら、あたしだってその夢を手伝える。

だから、頑張ってはいるんだけど…


329 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:15:57.27m2YsxvEH0 (22/46)

スガタ「もしかして、この間の敵との戦闘、気にしてる?」



この間の敵。

赤いサイバディ。

あたしはそれに撃墜されかけた。

それまでの戦闘と違って無我夢中だったから、どうやって勝ったかもイマイチわからない。


未熟者なりに頑張る。ではもう済まされない強敵が現れた。

おまけに敵もこっちを意識してか、連携を前提に複数体現れてる。

あたしが倒されれば、タクトさんまで一緒に倒されかねない。

夢を叶えるどころか、足引っ張りだなんて…イヤだ。


330 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:17:44.02m2YsxvEH0 (23/46)

ワコ「勝てたんだし、あんまり根詰めない方が良いよ?

   スガタ君の所で稽古はきちんとしてるんだし…」


さやか「でも、その稽古だって、やっぱり二人には付いていけないし…」


タクト「スガタは女の子には優しいからね」


スガタ「女性に優しくするのは当然の事だ」



そんなこんなで何時ものやり取りをしている最中、突然遠い目をしたタクトさんが言い放つ。

それは話の流れを変えるには十分な一言…。


331 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:19:10.01m2YsxvEH0 (24/46)

タクト「……ともかく、敵は敵で必死だったんだよ」




さやか「え…?」


スガタ「タクト…?」

ワコ「タクト君…?」


綺羅星十字団には基本的に良感情を持っていない筈のタクトさんが、敵を立てるような事を言う。

こう言うものなのかな、と思ったけどスガタ師匠もワコさんも意外な顔をしてる。


驚きはしたけど、なんとなくわかる。

あの敵は何か様子が違った…。

あれはまるで…。


332 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:19:46.98m2YsxvEH0 (25/46)

タクト「……敵だって人間が乗ってるんだ。

    色々譲れない事情を持ってる奴だっている。でしょ?」




ワコ「だから、相手は殺さない…?」


タクト「その為のタウ・ミサイルであり、さやかのスターソードだからね」


さやか「タウ・ミサイルは失敗するとお持ち帰りになりますけどね?」


タクト「さやか…。それは言わないお約束///」



タウ・ミサイルは相手のコクピットのみ抉りだして、人的被害を出さずに勝利する技。

最初にあたしを助けた時に失敗して、あたしはタクトさんの部屋へ行く事になった。

それをからかって、困った顔をするタクトさんをみんなで笑う。


和やかな時間が…。

じゃない、本題から反れてる、反れてる。


333 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:22:22.34m2YsxvEH0 (26/46)

さやか「じゃなくって、パイルの扱い方を教えて欲しいんです!」


タクト「パイルねぇ…」


ワコ「ソードじゃダメなの?

   あれならパイルも無駄にならないし、魔法少女の時に得意としてた技なんでしょ?」


スガタ「あれはタクトの発案だったな」


タクト「さやかは魔法少女の時の経験があった筈だからね。

    それを活かすなら、イッツアイージー!…だと思ったんだけど」


さやか「まぁイメージはしやすかったですけど…。

    あの赤い奴には、見切られちゃったしなぁ…」


334 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:25:27.68m2YsxvEH0 (27/46)

ワコ「教えてあげたら、タクトさん?」


タクト「と、言われてもなぁ…」

タクト「あれは、完全にイメージで使ってる感じが強いんだよなぁ…」


さやか「結局はイメージ…か」



サイバディ戦闘の訓練は難しい。

実際にサイバディを動かすと敵の綺羅星も呼んじゃうから、結構苦戦してたりする。

タクトさんも普段から鍛えているのが半分、あと半分は「負けない」「できる」って思いこみやイメージだって言う。

そんなタクトさんがもっともイメージしやすいであろう戦い方として、魔法少女の時のそれを意識するのはどうか…?って言ってくれて、

その提案で生まれたのが『パイル・ソード』。


だけど、あの技は先日の赤い敵に見切られてしまった。

それだけならまだしも遠隔操作が未熟だから、そのまま敵の武器として猛威を振るった始末…。


335 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:27:30.45m2YsxvEH0 (28/46)

さやか「タクトさんのパイルまで…とは行かなくても、せめて手元に戻してもう一回使う…とかはしたいんですよ…。

    そうすればあの赤い奴みたいに手に取って、そのまま使ってくる真似をする奴にも対抗できるし…」


タクト「それなら先日はできてたけど…、無我夢中でやり方はわからなかったんだよね…?」


さやか「はい…」



そうなんだよなぁ…。

できたんだよなぁ…。

その上なんか凄い技まで出たのにさぁ…。


その時の感覚がわからないから、イメージのしようがないんだよなぁ…。


336 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:29:13.33m2YsxvEH0 (29/46)

スガタ「まぁタクトだって実戦の行き当たりばったりで技を編み出してる訳だし…、考えても始まらないさ」


タクト「なんか軽く馬鹿にされた気がするのは気のせいかな? スガタ君?」


美少年二人のやり取りはどこか面白いけれど、結局問題は解決しない。

タクトさんやスガタ師匠の言う事もわかるけど、やっぱり焦るのが人間ってものな訳でして…。

焦りに焦ったあたしは、いよいよ勢い任せに出る。




さやか「イメージってどんな感じなんですか?

    グァァァァァァァッって行って、ドカァァァァァァンとかそんな感じですか?」


タクト「どちらかと言うと、ピキーン!って感じから、ヒュンヒュンヒュンって感じかな~?」


大げさに立ち上がり、身振り手振りするあたしは周りから注目された事にまだ気づかない。

背後から響いた上品そうな声を聞いて、ようやく自分の状況に気づく。


337 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:32:02.01m2YsxvEH0 (30/46)

???「人目を気にしない大胆な子…。可愛いわね」

??「そうだね」



さやか「あ……///」


背後を通り過ぎ、横に立った女性の一言で、あたしはようやく我に帰る。

注目されていた事実に気付き、羞恥で顔が赤くなってるのがわかる。

今さら遅いけど、あたしはそそくさと席に座り、目立たないように縮こまる…。





???「ご一緒してもよろしいかしら?」


薄い緑色の髪をショートにしたボーイッシュな美少女を御供に連れた、いかにもお嬢様と言った金髪ロールの美少女が言う。

よく見れば周囲は大分混んできている。

あたしたちが座ってるのは六人席だから、相席を頼まれてもおかしくない状況だったり…。


338 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:34:57.92m2YsxvEH0 (31/46)

スガタ「見ない顔ですね…?」


コウ「転入生なんです。私はアタリ・コウ」


マドカ「私はケイ・マドカ」



さやか「ま…どか…?」




まどか。

その名前を忘れた事は無い。

あたしの大事な親友。

可愛くて、優しい大事な大事な親友の名前…。


339 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:36:24.41m2YsxvEH0 (32/46)

マドカ「どうしたの…? ひょっとして、マドカに夢中になっちゃったのかしら!?」


さやか「夢中…? いえ、違うんです。

    親友と同じ名前だったのでちょっとびっくりしちゃって…」


何故か嬉しそうにする金髪ロールの美少女に、急いで返す。

つーか、夢中って何?

確かにスタイル良いし、美人だし、見惚れちゃうけどさ…。




マドカ「な~んだ。残念。てっきりマドカに一目惚れしてくれたかと思ったのに!」


さやか「一目惚れ!? 女の子同士で!? 違います違います…!」



女の子同士、か。

そういや、あたしもまどかにそんな事やってたなぁ……。


340 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:37:50.99m2YsxvEH0 (33/46)

さやか『まどか~。愛してるぞ~♪』


まどか『ちょ、さやかちゃん/// 私達女の子同士だよ…?///』




さやか『可愛い奴め! でも、男子にモテようなんて許さんぞー!

    まどかは私の嫁になるのだー!』


まどか『え、ちょっと…/// やめて…や…め…///』



ちっちゃくて可愛い子で…。

凄い優しい子だった…。

女の子でもそれこそ夢中になっちゃうような子で…。


あの子が赤くなるのが面白くて…。

あの子と触れあうのが楽しくて…。

あの子と過ごす日々は…。


341 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:40:05.71m2YsxvEH0 (34/46)

マドカ「またボーっとしてる。良いわよ? マドカのお嫁さんにしてあげる♪」


さやか「ふえぇ!?/// 違います、違いますって///」


コウ「マドカ…。この子本気で困ってる。

   またさっきのオーバーリアクションしてるし…w」


マドカ「可愛い」


さやか「うぅ…///」



またも立ち上がり、思いっきりリアクションを取ったあたしは周囲の注目を浴び、そそくさと席に戻る。

まさか、ここに来てからかわれるまどかの気持ちがわかるとは…。



マドカさん…?

名前は同じだけど、あのまどかとは正反対の人みたい…。


342 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:41:33.74m2YsxvEH0 (35/46)

マドカ「ねぇねぇ、この子持ち帰っちゃダメかしら?」



赤面して目を伏せたこっちを気にすることなく、今度はタクトさん達に妙な提案をしてる…。



ちょっと! 本気でそっち系の人!?

つーか、仮にそうとしてもそっちのボーイッシュな人いるじゃん…!

そもそも、なんでそっちの人も面白そうに眺めてるの…!?

二股だよ、二股…!?


343 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:43:44.83m2YsxvEH0 (36/46)

タクト「大事な子なんで、お持ち帰りは勘弁してもらえます…?」


マドカ「あら…?」


大事…?

大事な子…って言ってくれたの?///

たたたたたタタタ…タクトさん!?///




スガタ「そうだな」


ワコ「そうだね」


スガタ師匠とワコさんまで…。

ま、参っちゃうな~///

さやかちゃんモテモテ…?


344 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:44:31.29m2YsxvEH0 (37/46)

スガタ「僕の弟子で…」


ワコ「私の妹分で…」


タクト「僕達のマスコットガールなんだ。だから、悪いけど…」




マ、マスコット…。


まぁいっか…。

マスコットだろうと、タクトさん達が気にかけてくれてるのは間違いないしねっ。


プラス思考はサイバディ戦闘にも重要!

…と、タクトさん言ってたし。


345 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:45:40.07m2YsxvEH0 (38/46)

マドカ「そう。ざ~んねん。マドカもマスコットガールちゃんが欲しかったのに…!」

コウ「とりあえず諦めよう。もうじき時間だしね」



時間…。

昼休み終わりそう…。

そう言えば、パイルの扱い方…。



マドカ「ねぇ、コウちゃん?」

コウ「なんだい、マドカ?」


マドカ「マドカってとっても我儘なの…」

コウ「知ってる。だけど、今はダメだよ…。

   チャンスを見計らって…」


食事を終え、去っていく二人。

どうも、あの様子じゃ諦めた訳じゃなさそう…。

悪い人って訳じゃないと思うけど、変わりモノ過ぎてちょっと今後付き合ってくとなると苦労しそうだなぁ…。


346 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:48:07.55m2YsxvEH0 (39/46)

タクト「じゃあ、僕らも行きますかっ」


さやか「タクトさん…」


このままじゃまずい…。

そう思ったあたしは思わずタクトさんの袖を掴んで引き止めていた。




ワコ「ほ~ら、真面目に答えなかったから困った顔してるぞ?」


スガタ「重罪だな、タクトさん…?」


困った顔をしながら頭を掻くタクトさん。

ワコさんとスガタ師匠からの援護攻撃も入って、いよいよ逃げ場を失う。



ごめん、タクトさんっ。

でも、このままじゃ…。


タクトさんが急に落ち着いた表情に戻る。

元気印のタクトさんから、真面目モードのタクトさんに変わった瞬間…。


347 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:49:27.29m2YsxvEH0 (40/46)

タクト「じゃあ、一つ良い事を教えてあげる」


さやか「はい…」


そう言うと、タクトさんはあたしに近寄って…。





さやか「タクトさん…?///」

タクト「耳貸して」


そして、タクトさんは耳元で囁く。


し、心臓が…、し、静まれッ…!

あ、あたたたあたしのししし心臓…っ。




タクト「……………………………」ボソッ


さやか「…?」


348 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:51:01.47m2YsxvEH0 (41/46)

さやか「え…と?」


タクト「困ったら、そう思いっきり叫んでごらん。

    絶対にうまく行くから…!」


親指を立てて、眩しい笑顔でタクトさんがそう言うと嘘じゃない気がしてくる。

なんか不安も吹っ飛んだあたしは、時間なのもあってそのままタクトさん達と別れた。




ワコ「じゃあね、さやかちゃん!

   授業終わったら今日は部室で待ってるから!」


さやか「はいっ!」





スガタ「何を教えたんだ?」

タクト「魔法の言葉、かな?」

スガタ「…?」


349 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:52:41.00m2YsxvEH0 (42/46)

さやか達のクラスの教室。


杏子「また、あいつらの所か…?」



コイツの顔を見ると先日の戦闘を思い出す。



―お前は何の為にここまでする?―

―万一そいつらに裏切られたらお前はどうする?―

―お前は理想に酔ってるだけだ。優しく見えるそいつに寄りかかって―



敵の赤い奴の言葉。

それは、いつも突っかかって来るコイツの主張によく似ていた。


乱暴者だから先に手が出るけど、結局は遠まわしにあたしに『それ』をやめさせたい…。

不器用なコイツの言葉や声にそっくりで…。


350 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:53:53.67m2YsxvEH0 (43/46)

さやか「杏子。そういや、アンタはどこで昼ごはん食べたの? 誘ったのに来ないし…」


杏子「先約があったんだよ…」


さやか「マジ…? 杏子さんって結構おモテになります?」


杏子「なんで、突然敬語になってるんだよ。この馬鹿…。

   あいつらだ、あいつら」



クラスメートA「いぇ~いっ」

クラスメートB「やっほぉ」


351 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:55:17.85m2YsxvEH0 (44/46)

さやか「どう言う事…?」


クラスメートA「べっつに~。さやかがツナシ先輩に夢中で相手してくれないから寂しいわけじゃないっすよ~」

クラスメートB「っすよぉ」



さやか「いや、そりゃ悪い気もしてるけどさ…」


クラスメートA「冗談はさておき、佐倉さんはさやかとしか話すの見てないから気になってた訳よっ」

クラスメートB「で、お誘いついでにお弁当作ってあげるって言ったら喜んでくれたわけよぉ」




さやか「………弁当に釣られた?」


杏子「うっせぇ!!!」


352 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:57:16.14m2YsxvEH0 (45/46)

いつもみたいに返す杏子。

どこか元気が無いようにも見えるけど、あたしが何か言うといつも通りに返してくる。


あの赤い奴の正体はコイツなんじゃないかとも思った事もあるけど、いつもの漫才をやってると馬鹿馬鹿しくなってきて、やめた。



それにしても、杏子がねぇ…。

悪い奴じゃないけど、どっかに壁作ってるし、さっきも言った乱暴者の気があるから心配だったんだけど…。

それなりにうまくはやってるのか…。

本当なら、あたしが構ったり間繋いだりするべきなんだけど、すぐ噛みついてくるから喧嘩か漫才になっちゃうんだよなぁ…。


まぁうまく行ってるなら、よきかなよきかな。

面倒見の良いコイツらには、その内なんか奢ってやるかな…?



さやか「さ~んきゅ」


クラスメートA「な~にがっ?」

クラスメートB「それよりさ、さやちんにはぁ…」


353 ◆.2t9RlrHa22011/06/14(火) 23:59:31.32m2YsxvEH0 (46/46)

屋上。

金髪ロールの美少女と、薄い緑色の髪のボーイッシュな美少女の二人…。

ボーイッシュな美少女は下を向き、金髪の美少女は退屈そうに空を眺める。





マドカ「ねぇねぇ、コウちゃん。もう放課後になっちゃったわよ?」


コウ「慌てない。慌てない。そろそろ来るよ…」


針を持ち、その針の穴越しに下を眺めるボーイッシュな美少女。

屋上の床しか見えない筈のその先には何が見えるのか…。




コウ「来た…。チャンス到来だ。マドカも一緒にできるから…」


マドカ「この針の穴越しに相手を見つめれば良いの?」


コウ「ほら、私と手を繋がないと…」


354 ◆.2t9RlrHa22011/06/15(水) 00:01:26.23Clj/Jse70 (1/10)

マドカ「へぇ、透視能力って面白い!」


コウ「で、どっちにする? って聞くまでもないかな?」


コウ「じゃあ、行くよ! 『コフライト』第一フェーズ! 『針の穴』!!!」




二人は針から出た眩い光に包まれた後、まるで糸の切れた人形のように動きを失う。


『針の穴』

それが意味するのは…。


355 ◆.2t9RlrHa22011/06/15(水) 00:03:18.34Clj/Jse70 (2/10)

演劇部部室。



タクト「こんちは~。スガタは委員長に呼ばれたから、もう暫くかかると…」



さやか「………」

ワコ「………」


いつも元気な二人が、特に何も喋らずにこっちを見ている。

この二人は仲が良くて、副部長の話やらケーキ屋の話やらしているのが通例なんだけど…。





ワコ「ねぇ、タクト君…?」


その表情はいつもの明るいワコのものじゃない。

どこか違和感を感じる…。


356 ◆.2t9RlrHa22011/06/15(水) 00:05:26.26Clj/Jse70 (3/10)

ワコ「タクト君にとっての一番は、スガタ君じゃないんだよね…?」


タクト「なんの話…?」


ワコ「うぅん。良いの…。それが確認できれば…」



違和感を感じながらも会話はやめない。

外見はさやかとワコには違いないから…。

だが、相手はまだ違和感だらけの会話を続けようとする。





さやか「じゃあ、わたしが立候補しちゃっても良いんですよね…?」


タクト「なんの…?」



さやか「勿論、タクトさんの一番になることで~~す♪」


357 ◆.2t9RlrHa22011/06/15(水) 00:06:53.88Clj/Jse70 (4/10)

動かない僕に対して駆け寄り、やがて抱きついてくるさやか。

いや…。



さやか「ね? タクトさん…?」


ワコ「それとも、やっぱり私が『一番』なのかな…?」


タクト「…………」




それを聞いたさやかは僕から離れ、演劇用の小道具のナイフを両手で持って自分の首に当てる。

所詮はお芝居用…。

その行動には意味がない…。

だけど…。


358 ◆.2t9RlrHa22011/06/15(水) 00:08:04.02Clj/Jse70 (5/10)

さやか「わたしは…タクトさんの為に頑張ってるのに…。

    それでもワコさんなんですか…?」


さやか「こんなにタクトさんを想って…」


タクト「やめろ…!」


感じていた違和感は不快感に変わった…。

度が過ぎた言葉。度が過ぎた演技。

彼女を演じる『誰か』はとうとう彼女の心を遊び始めた…。


相手のしてきた事がわからない以上、聞き流すつもりだった。

だけど…。




タクト「アンタは誰だ…?」


359 ◆.2t9RlrHa22011/06/15(水) 00:09:29.43Clj/Jse70 (6/10)

さやか「誰って…、わたしは…」


タクト「本当に『彼女』なら、そんな事は言わない。

    自分の気持ちだけを優先して、人の気持ちを無視する真似なんかできない…。

    そんな子だから僕は…!」


さやか「…………」


さやかを演じる『誰か』は舌を打つ。

そして、同時にナイフを投げ捨てつつ、再度近寄って来て僕の顎を右手に取り、

『彼女』なら絶対に見せない冷めきった目つきで、冷たく言う…。



さやか「思ってたよりも見てるのね…。この子の事…」

タクト「……………」


360 ◆.2t9RlrHa22011/06/15(水) 00:12:02.49Clj/Jse70 (7/10)

さやか「他人になり済ますのって案外難しい…」


その言葉を最後にして、さやかもワコも意識を失う。

相手のした事がわからない以上、まずい事をしたか?とも思ったけど、それでも許せなかった…。


そして、もっと許せないのは…。






タクト「この子に甘える僕自身、か…」


さやか「ん…?」


僕の嘆くような一言に反応するように、彼女が目を覚ます。

この時に迂闊な態勢に気付けばよかったんだけど…。


361 ◆.2t9RlrHa22011/06/15(水) 00:13:34.71Clj/Jse70 (8/10)

さやか「タたたたたた、た、タクトさん…?///」

タクト「へ…? ご、ごめん///」



ワコ「………ほ~う。隅に置けませんな。タクト君」




『誰か』が消えた際に僕に倒れかかったさやかを抱くような形になっている…。

さやかが照れて、ワコが膨れ面をした演劇部室はまた違う修羅場に変わってしまいました…。


せめて、ここに部長やスガタが居なかったのが救いでしょうか…。


362 ◆.2t9RlrHa22011/06/15(水) 00:15:02.23Clj/Jse70 (9/10)

屋上。


コウ「失敗したね」


マドカ「コウちゃん…」


コウ「私達は巫女のシルシも、レシュのシルシも好きに出来た訳だけど…」


マドカ「良いのよ…。こう言う風なやり方で欲しい物を手に入れるのって、むしろつまらない…!」



コウ「そうだね…」

コウ「サイバディのゲームは正攻法じゃないと楽しめないよ」



屋上で抱き合う形になっていた金髪ロールの美少女とボーイッシュな美少女は針をしまいながら、不敵に笑う。



『人形遊び』よりも『殺し合い』。

彼女達の狂ったリビドーが次に向かうのは…。


363 ◆.2t9RlrHa22011/06/15(水) 00:21:00.56Clj/Jse70 (10/10)

っし。
今日はここまで。

いよいよ始まったさやか編だけど、いざやってみると杏子や綺羅星さん達に比べると動かす難度が高め…
アニメ本編でも賛否両論あった所みたいだし…
ただクロスる以上、正反対キャラのまどかとマドカの対比はやってみたかったネタだったり



それでは、本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆


364VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/15(水) 00:28:39.49qCBb5pmLo (1/1)

乙!
綺羅星☆!

そういや、毎回ゆかな呼びだったからあの2人の名前とかすっかり忘れてたw


365VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/15(水) 00:32:40.67NXklgr5qo (1/1)

乙羅星☆

やはりタクトでこの三人は外せないなぁ、TVと同じ雰囲気出ててニマニマさせてもらいました。


366VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/15(水) 00:50:09.42Q9l/RuLCo (1/1)

乙星☆
いやあ、頭で脳内再生されてくるわ…
とりあえずお疲れ様です。


367VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/06/15(水) 02:00:18.30jx/rSUKAO (1/1)

乙星☆


368VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/15(水) 02:00:22.48Jkd9IAVqo (1/1)

綺羅星っ!
サイバティ戦BGMはMagiaでいいの?


369VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/16(木) 00:07:08.48OQg32fsho (1/1)

乙!
綺羅星☆

まさかこんな俺得スレがあるとはwww


370 ◆.2t9RlrHa22011/06/16(木) 23:36:55.09IEdTRlEV0 (1/11)

綺羅星☆
ぼちぼち始めます。
今日たくさん落としてキリ良い所まで進めるけど、そうすると今書いてる所に完全に追い付いてしまう…
今が一番難しい所だから、そこさえ終わればその先はちょっぴりストックもあるし、勢い任せでも書けるんだけど…


>>364
乙星☆
俺はコウの声聞く度にリバイバル大尉が出てくる…

>>365
楽しんでもらえて何よりです
あの三人は本編描写多いが故に、逆に慎重になっちゃって…
かえって難しかったりするけど、その一言に救われます…

>>366
そう言ってもらえると何よりです
頑張ります

>>367
どうもありがとう

>>368
乙星☆
BGMの指定はしてないので、各々のイメージ沸いた曲流してくれると
ちなみに自分はShining Star聞きながら書いてる事が多い

>>369
乙星☆
期待に添えるよう、頑張ります


371 ◆.2t9RlrHa22011/06/16(木) 23:39:05.36IEdTRlEV0 (2/11)

皆水の神社。



さやか「はぁ…」


あたしは迷っている。

進むべきか退くべきか。

それが問題だ…。


手に握っているのは南十字島に新しくオープンしたらしい『らいおんランド』とやらのチケットが二枚…。

実はこれ、友人からある事をする為に貰ったモノだったりする…。





クラスメートB『はい。これ。さやちんにあげるよぉ』


さやか『遊園地のチケット…?』


372 ◆.2t9RlrHa22011/06/16(木) 23:41:52.99IEdTRlEV0 (3/11)

クラスメートA『噂のツナシ先輩と楽しんできなよっ?』


さやか『ふぇ!?』

さやか『いやね、確かにタクトさんはカッコいいけど、そう言うのではなく、ね…?』


クラスメートB『いいから、いいからぁ』


クラスメートA『ライバルは手強いぞ~』


さやか『だから、違うんだって…』




ライバル…になるんだろうか?


今下宿させてもらってる神社に住んでるアゲマキ・ワコさん。

タクトさんの想い人で、ワコさん自身も満更でもないみたい。

ただ、ワコさんは許嫁のスガタ師匠とも仲が良い。

なかなか複雑な恋愛模様だ。


373 ◆.2t9RlrHa22011/06/16(木) 23:43:30.50IEdTRlEV0 (4/11)

ここで凄いと思うのが、そのワコさんを取り合う関係の筈のタクトさんとスガタ師匠が親友同士って事。

あたしも似たような状況になったけど、あのまま親友と解り合うなんて出来なかったろう。

いや、そもそもそれが出来なかったから、あたしは今ここに居る。


それは良い。

もう過ぎた事だから…。




それよりも、あたしはそんなタクトさん達の間に入って、邪魔するような真似だけはしたくなかったりする。

あたしが万一タクトさんを盗っても、ワコさんにはスガタ師匠って素敵な人がいるから良いでしょ?

とか言う状況なのかもしれないけど、それは絶対に違う。


タクトさんの気持ちも、ワコさんの気持ちも無視する行為だ。

当然スガタ師匠を侮辱する行為にもなる。


374 ◆.2t9RlrHa22011/06/16(木) 23:45:39.45IEdTRlEV0 (5/11)

そんな真似は絶対にしたくない。

あたしはあの三人が大好きだから…。


だから、あたしはその辺の事情の分を考えて一歩だけ引いてあの三人と付き合ってる…つもり。

それでもお邪魔虫なのでは?と思う事も無くは無いけど、あの三人の恋愛模様を一番近くで見ているだけ…と思う事にして割り切ってる。




しかし、周りはそうは見てくれない。

まして、あたしがタクトさんに好意を持って、慕ってる事自体は事実だから性質が悪い。

別に一番になりたい訳じゃないけど、好かれたいし、褒められたいし、傍にいたいし、優しくされたい。

この感情自体は嘘じゃないから…。



それ以上踏み込んで恋愛をしたい…と言うつもりはないんだけど、

その辺りの一線はやっぱり他人には見えづらいし、口で言ってわかるモノでもない。


375 ◆.2t9RlrHa22011/06/16(木) 23:48:45.07IEdTRlEV0 (6/11)

ようするにチケットをくれた事自体は好意なんだ。

あいつらには感謝してる。

だけど、それを以てアクションを起こすのは、やっぱりまずい訳で…。

好意で貰っただけにそれを踏みにじる行為はしたくないけど、やっぱりこれを使うのは…。


考えても考えても答えは出ない…。

とりあえず一枚だけでも使う為にあたし一人で行くべきか…?

でも、このチケットは二枚あるんだよなぁ…。

一枚は捨てるしかないのかなぁ…。


376 ◆.2t9RlrHa22011/06/16(木) 23:50:56.84IEdTRlEV0 (7/11)

さやか「む~~~~」


ワコ「あ、それ新しくオープンしたばかりの『らいおんランド』のチケット? いいなぁ~」


チケットを持ったまま唸るあたしの後ろにワコさんが現れる。

良いなぁ、と言うのはタクトさんかスガタ師匠と行きたいって意味かな?



なら、これあげます。

って言いたい所なんだけど、チケットは二枚。

本当は三人で仲良く行って欲しいけど、チケットは二枚。

これを渡したとしたら選ぶのはワコさんだけど、間接的に三人の恋愛のお邪魔をする形になっちゃうわけで…。


377 ◆.2t9RlrHa22011/06/16(木) 23:53:11.73IEdTRlEV0 (8/11)

ワコ「ここの売店で売ってるジェラートがおいしそうなんだよ~。

   さっきもCMでやっててさ~」


さやか「じぇら~と?」


まったく、この人らしいなと思った。

どっちがどうとか、小難しい事考えたあたしが馬鹿みたいだ…。



頭の中でジェラートがトロけているんだろう。

幸せそうな表情をするワコさんに思わず吹き出してしまう。



………決めた!


378 ◆.2t9RlrHa22011/06/16(木) 23:53:45.03IEdTRlEV0 (9/11)

さやか「これ二枚ありますし、一緒に行きます?」


ワコ「いいの?」



嬉しそうにするワコさん。



ワコさんとデート。

恋愛模様には変化なしっ!

これならなんの問題もないでしょ?


さやかちゃん、冴えてるっ!


379 ◆.2t9RlrHa22011/06/16(木) 23:55:17.78IEdTRlEV0 (10/11)

ワコ「これが…、遊園地…」


さやか「…………」



混まないようにと、早朝から寝ぼけるワコさんを起こして出かけていく。

眠そうにしてたワコさんだけど、徐々にそのテンションは上がっていく。


そして…。

辿り着いた遊園地の入り口に立ち、喜び…とも少し違う表情をするワコさんを見てようやく気付く。



よく考えてみれば、ワコさんはゼロ時間を守る『四方の巫女』である為、この島を出る事を禁じられている。

そして、離れ小島とはいえ大概のモノの揃うこの南十字島にもさすがに遊園地は存在しなかった…。


だから、『遊園地』へ行く事自体がワコさんに取っては初めての体験なんだ…。



思ってたよりも責任重大。

………頑張ってエスコートしないとねっ


380 ◆.2t9RlrHa22011/06/16(木) 23:58:05.02IEdTRlEV0 (11/11)

あたしが知ってるモノよりは規模は小さいけれど、そこは紛れもなく夢の世界。

ゲートを潜って、その光景を見たワコさんの表情が眩しいほどの笑顔に変わる。




ワコ「さやかちゃん! アレがジェットコースターだよね…?

   あっちは、観覧車…? どれから乗ればいいんだろう…!?」



さやか「ワコさん…、ここはこの『遊園地のプロ』であるさやかちゃんにお任せ願えないかな…?」


わざとらしく、いかにもジェントルマーンな口調と仕草をしてみる。


381 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:00:07.55dXUpGEId0 (1/34)

ワコ「ぷっ…何それ?w」


吹き出したワコさんが、その笑いを堪えながら言う。

その様子に調子に乗ったあたしが返す。




さやか「ワコさんの三人目の王子様。な~んちゃって」


ワコ「よろしくね、王子様!」


さやか「了解でっす! さて…、こう言う時は、まず大概の遊園地で目玉になってるであろうジェットコースターに行きますっ」


ワコ「なんで…?」


さやか「単純に混むんですよ~。ここはどうかわからないけど、午後になったら二時間待ち…なんて遊園地もあります。

    だから人気のアトラクションは早め、早めに回って一度は楽しんでおくんですよ~」


ワコ「さすが、『遊園地のプロ』だねっ」


382 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:02:17.76dXUpGEId0 (2/34)

今日のあたしは一味違うぜっ。

開園からそう時間の立ってないこの時間だから、目論見通り目玉のジェットコースターはまだ人が疎ら。

十五分も待ったら、すぐにあたし達の番がやってくる。




ワコ「うわぁぁぁぁぁ」


さやか「ひゃっほぉぉぉぉぉ」


高速で動きまわるそれは、サイバディに乗った時とは大きく違う爽快感みたいなモノがある。

やっぱり良いな、ジェットコースター。

とか、考えてたら横でワコさんが目を回している。



ワコ「これ…、凄いね…? 私、くらくらだよ…」


思い切り絶叫して、アトラクションが終わった後にくらくらしながら近くの椅子に座る。

そんな飾らない所がこの人の魅力。


だけど、その姿は何か懐かしい事を思い出させた…。


383 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:03:54.85dXUpGEId0 (3/34)

『あ、あれぇ…? くらくらして真っすぐ歩けないよぉ…?』


懐かしくて優しい声。

子供っぽくて可愛らしい声。


そう。

大好きな親友『まどか』との思い出…。





ワコ「っと。もう大丈夫だよ、さやかちゃん。次はどこ行くの…?」


さやか「え? あ、はい。次はですね…」


ワコさんの声で、現実に引き戻される。

いけない、いけない。

今日のあたしはワコさんの王子様なんだから、しっかりしなくちゃ…。


384 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:06:49.05dXUpGEId0 (4/34)

ワコ「おぉ…///」


さやか「本当は昼食の前にアイスとかは、あんまり気が進まない性分なんですけどね…。

    でも、CMしてるくらいならここも順当に混みそうだから…」


ワコ「美味しい…///」


さやか「幸せそうだから、いっか…」


幸せそうにアイスを食べる顔…。

あの子もそうだったなぁ…。





『えへへっ。これ美味しいね、さやかちゃん♪』


笑い方がちょっと独特で…。

でもその笑顔は、やっぱり格別に可愛くて…。

飾り気のないその笑顔は…。


385 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:08:33.36dXUpGEId0 (5/34)

ワコ「さやかちゃん…。アイス溶けてるよ…?」


さやか「ん…? あわわ…ほんとだ」




駄目駄目。

言ってる傍からこれだ。

あの子の事は後。

今はワコさんとのデートを楽しむ…じゃなくて、エスコートしよう。



溶けて落ちてしまい、その半分以上が無駄になったジェラートを眺めながら、改めて気を入れ直す。


386 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:10:39.21dXUpGEId0 (6/34)

そこから先のデートは呆ける事無く、しっかりとエスコートした…つもり。

ワコさんも嬉しそうにしてくれたから、たぶん大丈夫だと思う。


平和な時間を楽しむ。

それを壊す事を望む者が迫っている事をしらずに…。





ワコ「最後はアレに乗ろっか」


さやか「観覧車…ですか? 良いですけど…」


どっちかと言うと観覧車は、カップル向きのそれだと思ってた。

だから、敢えて選ばなかったんだけど…。

ワコ姫のご要望とあっちゃ答えない訳にはいかないでしょっ。


387 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:13:18.23dXUpGEId0 (7/34)

そろそろ暗くなって雰囲気の出る時間になってたから、観覧車の待ち時間はそれなりに長かった。

だけど、その間もあたしとワコさんはお喋りをしていたから、あまり長くは感じなかった。




ワコ「へ~。高いね~」


さやか「…………」


観覧車へ乗り、外を眺めていたワコさんがこっちを向く。

その表情は、とても優しくて、とても嬉しそうで、だけど…。



ワコ「今日はありがと。誘って貰ったばかりか、一生懸命エスコートまでしてくれて…」


さやか「そ、そんな…、気にしないでください。

    あたしとワコさんの仲じゃないですか~」


ワコ「そうだよね~。私達の仲だもんね~」


目を瞑ったワコさんは、いつもの明るいそれと少し様子が違う…。


388 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:15:22.23dXUpGEId0 (8/34)

あたし達を乗せた観覧車のゴンドラが少しづつ高い位置へ上がっていく…。

ワコさんの顔はいつのまにか真剣な表情に変わっていた…。




ワコ「じゃあさ、今度はワコさんの番」


さやか「え…?」


ワコ「寂しい時、苦しい時、辛い時…。もっと頼ってくれないかな…?」


さやか「ワコ…さん…?」


ワコ「今日寂しそうな顔、してた…」


参ったなぁ…。

あれからは出さないようにしてたつもりなんだけど、一度意識しちゃうと出続けるものなのかなぁ…。

バツが悪くなったあたしは頭を掻いて、ワコさんの視線を反らす…。


389 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:18:51.44dXUpGEId0 (9/34)

観覧車のゴンドラは、だいたい半分くらいの高さの位置まで上がって来ている…。

ワコさんの表情は真剣だけど、どこか優しさと寂しさが見え隠れしているようにも思う…。



さやか「でも、あたしは…」


ワコ「迷わないって決めた?

   でも、そうやって溜めこんで、最後にはどうなった…?」


さやか「………」


ワコ「さやかはさ、我慢しすぎなんだよ…。

   今日のチケットだってタクト君を誘う為の物だったんでしょ?

   でも、私に気を遣った…」


さやか「………」


ワコ「……それに関してはさやかにも考えがあるみたいだから、これ以上は言わない。

   でも、それも含めて遠慮はしないで…?」


390 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:20:59.34dXUpGEId0 (10/34)

観覧車のゴンドラはかなり高い位置へ来ていた…。



ワコ「一人で全部決めて、突き進もうとする強いあなたを私は尊敬してる…。

   だけど、やっぱり見てる側としては辛そうだな、と感じる時もあるから…」


さやか「でも…」


ワコ「うん。わかってる…。私はその子にはなれない。

   けど、その子の代わりに悩みを聞いてあげる事くらいはできるからさ…」


さやか「ワコさん…」


ワコ「だから…」


真剣だけど、優しい表情をしたワコさん…。

そして、そんなワコさんに心を許そうとした思った…。

あたし達の乗った観覧車のゴンドラが他のゴンドラと比べ、最も高い位置へ来たその時だった…。


391 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:24:12.48dXUpGEId0 (11/34)

周囲の景色の動きが止まる。

それが意味するのは…。





さやか「ゼロ時間…!」


ワコ「…………綺羅星十字団」


やがて、あたしとワコさんはその独特な雰囲気を持つ閉じた世界、ゼロ時間へ飛ばされる…。

そして、そこに居るのはタクトさんと、スガタ師匠…。

そして、綺羅星十字団とそのサイバディ…。




ウインドウスター「絢爛登場! 銀河美少年、ヘーゲント!!」


ニードルスター「貴介公子、一刀両断! 銀河美少年、コフライト!!」


392 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:26:05.54dXUpGEId0 (12/34)

さやか「アイツら…!」


ゼロ時間に現れたのはいつか倒した二機…。

ゴーレムのような外見をし、全身から出るレーザーを武器とする『へーゲント』と、

飛行形態へ変形する事で、空中から一方的に攻撃を仕掛ける事が出来る『コフライト』。


倒してからさほど間も無い筈の両機が再度此処に現れる…。

それは、タクトさんの戦いの終わりが遠く見えない事を意味していた…。

それでも、あたしは…。




さやか「アプリボワゼェェェェェェ!!!!!!」


次元の壁を割り、現れたレシュバル。

あたしはその中に乗り込み、戦闘準備を整える。


393 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:28:40.72dXUpGEId0 (13/34)

さやか「颯爽登場! 銀河美少年!! レシュバル!!!」



青と白を基調としたあたしのサイバディ『レシュバル』の戦闘準備が整う。

そして、少し離れた所でタクトさんのサイバディ『タウバーン』も準備を整えたみたいだ。






ワコ「さやかちゃん…」


わかってるよ、ワコさん…。

でも、話はこの空気の読めない連中をぶっ飛ばしてからだ。


394 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:32:18.42dXUpGEId0 (14/34)

タクト「さやか! あっちの飛行できる奴は僕が相手を…!」


ウインドウスター「ざ~んねんッ! あなたの相手はこの私よッ!!!」



タクトさんのタウバーンがヘーゲントに襲われる。

最初から打ち合わせしてあったんだろう。

ヘーゲントがタウバーンを抑えている間に、コフライトの方がこちらに向かって突進してくる。





ニードルスター「スターソード! オパール!!」

突進しながら朱色の光の剣を引き抜く…。

だが、向こうが剣を抜けると言う事はこちらにも十分な時間があったと言う事になる。


395 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:34:03.10dXUpGEId0 (15/34)

さやか「スターソード! スィトリンヌ!!!」


相手の剣がこちらに届く前にこちらも剣を引き抜き、鍔迫り合いを始める。

距離が十分にあったのが幸いし、前回や前々回のようにスターソードを抜く前に奇襲される事態だけは避けれた。




ニードルスター「先日は失礼した…!」


さやか「何…?」


タクト「…!」


先日、と言えば演劇部室の事しか思いつかない。

タクトさんの話だと、あたしとワコさんが敵に操られる事件が起きたって聞いた。

最もあたし自身にその時の記憶は無いんだけど…。


396 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:36:12.81dXUpGEId0 (16/34)

ニードルスター「体を勝手に使われて頭に来たかな…?」


さやか「そうだね。頭には来てる…!」


ニードルスター「ほぅ…!」


さやか「体を使われた事もそうだけど、それ以上にあたしが頭に来てるのはッ…!」


ニードルスター「なっ!!!」


先日の赤い敵。

あいつがやった時のそれを思い出すような…。

鍔迫り合いの果てに力を入れ、相手の剣を弾き、その剣が宙を舞う。


ただ、今度その剣を失ったのはあたしじゃない。

朱色の剣が宙を高く舞い、やがて地面に落ちて転がる。


397 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:38:26.08dXUpGEId0 (17/34)

さやか「ワコさんの初めての遊園地を邪魔した事だ!!!」


朱色の剣が飛んだのを確認し、あたしは一気に敵に切り込む。

だが…。



ニードルスター「甘いな!」


さやか「しまった!」


一瞬の隙を突いて変形したコフライトは、あたしの繰り出した縦斬りの横を素早く抜ける。

そのまま暫く進んでから大きく旋回し、こちらへ向かいつつ機体下部にある大型の針状の武装からマシンガンを連射する。


398 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:41:38.63dXUpGEId0 (18/34)

さやか「くっ…!」


ニードルスター「今の私は蜂だ…! 私の針をかわせるかな…?」


最も気を付けなければならない、相手の飛行形態への変形を許してしまった。

パイル・ソードを使おうかとも思ったけど、相手の速度と牽制の巧さで当てられる気がしない…。




スガタ「戦いでは上を取った方が圧倒的に有利になる…」


ワコ「さやか…」




ニードルスター「どうした? 頼みの綱の剣技が届かねば君は狩られる一方か…?」


こっちのスターソードを警戒してか、相手の動きも慎重だ。

空中からの射撃をメインにし、地上付近にはほとんど近寄って来ない。

タクトさんと違い、パイルを使ってのバリアや飛行も行えないあたしは一方的に追い詰められていく…。


399 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:44:44.56dXUpGEId0 (19/34)

ウインドウスター「今度は助けに行ってあげないのぉ…?」


タクト「必要無いさ…! 彼女は強い…。それより…!」


ウインドウスター「!?」




タクトの剣技は華麗で、それでいて圧倒的だった。


まず、右手に持ったスターソード・エムロードによる華麗な剣撃で、ヘーゲントの左腕を切り落とす。

切れたヘーゲントの左手はスターソードを握ったままだが、もうそれは意味を成していない。

続けて、左手に持ったスターソード・サフィールでの一撃で、剣での防御を行ったヘーゲントごと弾き飛ばす…。

さらに、回転しつつ再度エムロードによる連撃を行う。

それも咄嗟に防御したヘーゲントだが、その一撃は重く、切り落とされた左腕の分のダメージが右腕に重く圧し掛かる…。


400 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:47:39.57dXUpGEId0 (20/34)

タクト「人を弄ぶ昨日の奴が許せないのは僕の方だ…!」


ウインドウスター「コイツ…!?」


サフィールによる重い連撃の止め。

それは、二度の防御により痺れ切ったヘーゲントの右腕をさらに刺激し、スターソードを弾き飛ばす。


だが、ヘーゲントはこのまま終わる機体ではない。

各部にあるレンズカバーが開く。





ウインドウスター「御立腹のようね、タウバーン? あんなのただのお遊びじゃないッ!!!」


不敵に笑うウインドウスターに反応し、レンズからレーザーを一斉に放つヘーゲント。

しかし、その攻撃すらタクトは見切っていた。


401 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:48:24.00dXUpGEId0 (21/34)

ウインドウスター「何っ!?」


タウバーンは後方へ大きく飛びつつ両手の剣を構えると、足、そして眼前及び胸元に来たレーザーをまとめて切り払う。

スターソードに弾かれた三発のレーザーは、一つは地面に落ち、もう二つはヘーゲントの左肩と脇腹に命中。

ヘーゲントの威圧感あるボディを焼き払った。

さらに…。






タクト「なら…、その遊びは終わりだ!」


ウインドウスター「この武装は…!? レーザーの間を掻い潜って…!?」


各部から放たれるレーザーの間を縫うように飛ぶ四基のパイルが、ヘーゲントのレンズやボディに光線を撃ちこみ、追い打ちをかける。

コクピットだけを避け、次々に光線を撃ちこむパイル。

やがて、ヘーゲントは体の部分と右腕のみを残した無残な姿になって転がる。


402 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:50:50.74dXUpGEId0 (22/34)

ウインドウスター「やって…くれる!!!」



タウ・ミサイルもスターソードも使わない。

ダメージ過多によるサイバディの損傷による敗北。

人を弄ぶ敵に対するタクトの怒りの形がそこにあった。


それでも、彼は戦い方を曲げない。

コクピットだけは無傷で、相手のドライバーに対する殺傷は避けたまま…。




ウインドウスター「あくまで、相手への気遣いは忘れないつもりかしらッ…!?」


タクト「それだけは曲げない…。例え何を目指そうと…、例え相手が誰であっても…。

    僕も、彼女も…」




ウインドウスター「チッ…!」


ウインドウスターの舌打ちの音だけが、その場には虚しく響いた…。


403 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:54:20.37dXUpGEId0 (23/34)

コフライトの射撃に耐え続けるレシュバル。

反撃の意図を掴めないあたしは、当然相手の攻撃を避け続ける事も出来ずに、どんどん追い込まれていく…。




スガタ「さやかとは相性が悪すぎるな…」


ワコ「…………」



参ったなぁ…。

また、ワコさんが心配そうな顔してる…。

今日のあたしはワコさんの王子様~とか言った筈なのになぁ…。



ついに避けきれなかった弾丸がレシュバルの足に直撃する…。

当り所が悪かったのか、右足の調子がおかしい…。

万事、休すかな…?




その様子を見ていた遠目に見えたワコさんの表情が変わる。

そして、あたしに向かって…。


404 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 00:57:27.48dXUpGEId0 (24/34)

ワコ「さやかーーーーーッ!!! 頑張れ~~~ッ!!!!!」






さやか「ワコ………さん」


そうだよね…。

あたしは一人で戦ってる訳じゃないんだ…。

昔も、今も…。


辛い時は、支えてくれる人を頼っても良いんだ…。

ワコさんに、スガタ師匠に、タクトさんに…。


405 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 01:01:30.73dXUpGEId0 (25/34)

ニードルスター「足を痛めれば動けまい…! そろそろ終幕と行こうかッ!」


さやか「………………ンセ」


ニードルスター「何…?」


さやか「カタミ・ワカチタ・ヤガダンセ…」


ニードルスター「自分の念仏でも唱えているつもりか…?」




スガタ「いや、あれは…」

ワコ「うん…!」



さやか「カタミ・ワカチタ・ヤガダンセぇぇぇぇぇッ!!!!!」


406 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 01:03:06.10dXUpGEId0 (26/34)

タクトさんが教えてくれた『大丈夫の呪文』。

信じて使わなきゃ効果が無いって言ってた…。

だから、さっきまではわかってても使えなかった…。


でも、今なら…。

タクトさんがいて、スガタ師匠がいて、ワコさんがいて…。

それが見える、それを感じられる今なら、『信じる』事が出来る…!





ニードルスター「止めの一刺しだッ!!!」


コフライトが急速接近し、その大型の針状の武装を以て、文字通りレシュバルに止めを刺そうとする…。

だけど、そこにレシュバルの姿は無い…。


407 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 01:06:16.92dXUpGEId0 (27/34)

ニードルスター「馬鹿な…!? 奴の足は確かに潰した筈だ…!」

ニードルスター「そもそも奴はどこへ…?」




さやか「上だよッ!」


完全に状況が見えていないコフライトの背部を、思い切り左足で蹴り飛ばす。

地面に叩きつけられてバウンドしたコフライトは、変形して着地し、強引に勢いを殺す…。




ニードルスター「何故、お前が上にいる…?」


ニードルスター「まさか…?」


コフライトは地面に、レシュバルは空へ…。

そう。

レシュバルは大型化したパイルを伴い、飛行していた。


408 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 01:07:08.19dXUpGEId0 (28/34)

ニードルスター「パイル・ジェット…。タウバーンの技を君も使えた…。

        いや、会得したと言う事か…!?」


さやか「そ。最もイメージの対象は、好き勝手飛びまわるアンタ自身とジェットコースターの掛け合わせだけどね…?」



ワコさんと…。

まどかと、乗ったジェットコースター。

アレで飛んでいる時のイメージを、後は飛んでいる姿を煩く飛び回る敵のコフライトからイメージする。

ドライバーにイメージさえできるなら、タウバーンと同型のレシュバルだって飛べる筈…。

タクトさん流のイメージパワーアップ手法、見事に成功っ!




ワコ「そんなモノをヒントにしちゃうなんて…。あの子、本当に凄いなぁ…」


スガタ「タクトと言い、本番に強くて頼もしい限りだな」


409 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 01:10:49.03dXUpGEId0 (29/34)

ニードルスター「さすがだよ、君はッ…!」


さやか「お褒めに預かり、ど~もッ!」


再び変形し、空を飛びまわるコフライト。

その速度は相変わらず速い…。




ニードルスター「だが、忘れてもらっては困るな…!

        空での狩りは私の方が手慣れていると言う事を…!」


相手の言う通り、空中戦に持ち込んでも相手の優位は変わらない。

速度は負けていないが、魔法少女の時も含めて、初めての空中戦となるあたしの動きはどこかぎごちない。

さらに相手には距離を問わずに使える射撃武装が付いている。


対してこちらは、今度こそパイル・ソードを使う事も出来ない。

相変わらず、相手に対する牽制の手段がない…。


410 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 01:13:24.76dXUpGEId0 (30/34)

牽制の手段がない…?

本当に…?

さっきのようにやろうとしなかっただけなんじゃないの…?


そう思ったあたしは、相手の射撃を避けつつ、左の掌を前方へ構える。

そして、「やれる」「できる」とイメージする…。




さやか「いっけぇぇぇぇぇッ!」


ニードルスター「なんだ、それは…!?」


あたしが念じた瞬間、レシュバルは左の掌から星型のエネルギー弾を放つ。

一つ、二つと放たれたそれは、射撃武装を意識していなかったコフライトの背部に直撃する。


ダメージはそう大きくないようだが、相手の速度を殺すには十分だった。


411 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 01:14:36.88dXUpGEId0 (31/34)

さやか「これで、とどめだぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


右腕に持ったスターソードで繰り出した大振りの斬り降ろし。

それは、コフライトの後部のブースターから左のウイングの辺りを切断。

態勢の崩れたコフライトは強引に変形。

地上へ叩きつけられるように両手両足を突いて着陸するも、そのまま動きを止める。





ニードルスター「予想以上にやるな……。彼女が気にかけるだけはある…」


強引な着陸で傷みきったコフライトの中で、ニードルスターが呟く。


タクトさんも敵を撃破していたんだろう…。

ゼロ時間が解除され、あたし達は元の観覧車のゴンドラへ戻されていく…。


412 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 01:15:53.16dXUpGEId0 (32/34)

止まっていた筈の時間。

だけど、あたしたちはその間も別の空間に居て…。

止まる前から再開したこの時間と違い、停止していなかったあたし達の時間は気まずさを以て始まる。



ワコ「…………」


さやか「…………」


直前に凄い良い話をしていたのに、ぶち壊しにされたこの感覚をどこに向ければ良いんだろう。

毎度毎度思うけれど、このゼロ時間ってのもいい加減勘弁してほしいよなぁ…。

そんな事を考えながら、あたしはゆっくりと口を開く。



さやか「応援してくれてありがとう、ワコ姉。

    これからはきつい時は頼りにするから、その時はよろしくね…?」


ワコ「うん。ワコ姉にど~んと任せなさい! さやか!」


今はまだ慣れない互いの新しい呼び名。

だけど、それは互いの信頼が大きく進んだ何よりの証…。


413 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 01:19:24.23dXUpGEId0 (33/34)

っし。
今日はここまで。
現在苦戦中なので、次来るのは早ければ明日、遅ければ日曜になると思う

日常ってか非戦闘パートの方がやっぱり難しいね
よりキャラクターの人間性を把握できてなきゃいけないから…



それでは、本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆


414VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/17(金) 01:21:44.45rghSXTfio (1/1)

綺羅星☆

まさかのOP限定レシュバルビームwww

読みながらスタドラって『不確かなものでも信じる』ことが力を持つアニメだったなあ、と本編を思い出した
大丈夫の呪文とか、見えているとか、やれそうな時はやれる!もか
希望を信じて裏切られ絶望する構造のまどマギ世界とは対照的な世界なのか


415 ◆.2t9RlrHa22011/06/17(金) 01:27:21.36dXUpGEId0 (34/34)

>>414
乙ありがとう
レシュビームを使わずにレシュバルを捨てたヘッドを私は絶対に許さない、絶対にだ!

その辺はこのSSのテーマにもなってる
ネガになって落ちてくのがまどかで、プラスになって上がってくのがスタドラ
クロスとしての相性はこの上なく良い


416VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/06/17(金) 01:51:17.44+4tGCElao (1/1)

綺羅乙星☆

遊園地のくだりでワコを選んだ時はおっ? と思ったけど、終わりまで見ると胸にストンと落ちる感じでこれで良かったと納得。

これでスガタ×タクト、ワコ×さやか、頭取×あんこちゃんが(ボソッ


417VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/06/17(金) 02:28:44.72kTPMDPsAO (1/1)

乙星☆
暗黒リビドー流星弾(笑)来たか
あのビームOP作画担当の人がレシュの戦闘シーン見ず書いた創作なんだよね、スパロボ辺りで採用してほしいわ


418VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/17(金) 09:26:50.55pHNPCbtIo (1/1)

綺羅星☆!
まさかのビームwww
日常描写がホントに見ててニヤニヤする

OPのコンテはエヴァの鶴巻さんだっけ?


419 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:10:21.96f3V9Sjjz0 (1/14)

綺羅星☆
遅くなったけど投下するよ~。
もうちょいで苦戦してる所が終わりそう…。

やっぱり間繋ぐのが一番難しいな…。


>>416
乙星☆
待て、頭取はセクレタリーともありだ

>>417
乙星☆
アレは再戦で使ってくれると信じてただけに…
シンパ超格好良かったからあれはあれでよかったんだけどさ。だけどさ…

>>418
乙星☆
日常描写は結構難産だけど、楽しんでくれてるようで何よりです
今戦闘描写書いてるけど、難産気味だけどね…
ようするにスラn(ry


420 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:12:25.55f3V9Sjjz0 (2/14)

現在の時刻は夜7時。

そして、遊園地の閉園時間は夜9時。


それなのに、「最後に~」と言ったのは勿論訳がある。




さやか「海上パーティ?」


ワコ「うん…。ウチのクラスに変わり者が一人いてね…」



そう。その人はある意味でクラス一の問題児。

勉強ができないとか不良だとかそういうのでは無いらしいんだけど…。

タクトさんの後ろの席に座っているその人は、爆弾発言を繰り出し続けているらしい…。


ワタナベ・カナコ。

人妻女子高生とか言う怪しげな響きを持つ、その人が起こした最新型の爆弾発言。


これはワコ姉に聞いたその時の一部始終…。


421 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:14:13.71f3V9Sjjz0 (3/14)

授業中。

勿論、彼女はそんなものお構いなしに自分の世界を展開し始める。



カナコ『ねぇ、タクト君?』

タクト『……………』



イシノ先生(キターーーーーーーーー)


ワコ(また始まったよ、あの人は…)





カナコ『少し相談に乗ってくださらないかしら…?』

タクト『……………』





カナコ『私ね…、今好きな子がいるの。でも、あの子最近元気がないみたいで…』

タクト『ひ、人妻なのに好きな子って…(小声)』


ワコ(まさかまさか…)


422 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:15:45.65f3V9Sjjz0 (4/14)

カナコ『タクト君は私の好きな子が気になる…?』

タクト『そりゃ…、聞かないと相談にも乗れませんし(小声)』





カナコ『そうね…。タクト君が退屈な授業の時間を紛らわしてくれるお星様なら、

    その子は仕事の時間の私を照らしてくれる太陽なの…』

タクト『』


ワコ(抽象的すぎてワカリマセン…)



バキッ!ボリボリボリッ!

イシノ先生『退屈で悪かったな…。毎度毎度…』イライライライライライラ


ワコ(先生、またチョーク折ってる…。気持ちはわかるけどさ…)





カナコ『ねぇタクト君? 私の太陽が光を取り戻すお手伝いをしてくださらない…?』

タクト『……………』


423 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:17:12.15f3V9Sjjz0 (5/14)

ケイト『ワタナベさん、静かにしてください。授業中です』


カナコ『いつもお堅いわね、委員長? 好きな人の一大事は授業よりも大切なの…。

    あなたにはわからないかしら…?』


ケイト『…………』イラッ




カナコ『と、言う訳で明日の晩、サンダーガール号でパーティを主催します。

    皆さん、振るって参加してね?』


ワコ(どう言う訳だ…?)





タクト『それで、僕は何を手伝えば良いの…?』


カナコ『それはね…』


424 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:24:03.56f3V9Sjjz0 (6/14)

さやか「その人のタクトさんへのお願いが、あたしをそのパーティーへ出席させる事?」


ワコ「うん…。それならタクト君に頼むまでもないって私が引き受けたんだけど…」



あたしはそのワタナベって人に面識はない。

じゃあ、なんでパーティーにわざわざ呼ばれるんだろう?

タクトさん達絡み…なんだろうか?


まぁわざわざそんな高級パーティーへご招待願えるなら喜んで行くんだけど…。

普通、見ず知らずの人間をわざわざ招いたりするんだろうか…?

お金持ちの感覚ってわからない…。



さておき、せっかくのご招待を受ける為に、あたしとワコさんはその人の待つ船へと向かった…。


425 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:30:08.45f3V9Sjjz0 (7/14)

途中の道。

なんて事の無い田舎道を歩く明らかに浮ききった外見。

一度しか出会っていないのに鮮明に残るあの金髪ロールの少女を見かける…。




さやか「ねぇ、あの人…」


ワコ「間違いない…」



???「あら、マスコットガールちゃんじゃない?

    こんな所で会えるなんてっ!」


さやか「やっぱり、マドカさん…」




マドカ「ちょっと、そんなに身構えなくても大丈夫よ…」


426 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:32:50.74f3V9Sjjz0 (8/14)

ワコ「先日も言いましたよね…?」


マドカ「何を?」


ワコ「大事な子だから、持ち帰り禁止って…」




さやか「あの…、マドカさん…」

マドカ「えぇ~、つまんないの」


さりげな~く腕を組み、人を持ち帰ろうとするマドカさんをワコ姉が制止する。

何が身構えなくても、ですか…。




さやか「何が大丈夫なんですか…?」

マドカ「え? マドカが持ち帰ってあげるから大丈夫よって…」


ワコ「もう! 油断も隙もないな~。この人…!」


ワコ姉が頭を抱えつつ、近寄ってマドカさんをあたしから引き剥がす…。


427 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:39:57.11f3V9Sjjz0 (9/14)

マドカ「お姉さん気どりなのね」

ワコ「気どりじゃなくて、お姉さん代わりなんですっ」





マドカ「……可愛いお姉さんねw」


最初は一生懸命なワコ姉が可愛いのかと思ったけど、目線がおかしい。

マドカさんの目線の先は…。




ワコ「きーーーーーーー! 今どこ見て言いましたっ!?」



???「イッツアストーップ!」

???「落ち着いて、ワコ…」


428 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:44:02.09f3V9Sjjz0 (10/14)

聞き覚えのある声が後ろから響く。

怒り爆発寸前のワコ姉を止めたのは…。



ワコ「タクト君、スガタ君…」


タクト「元気なのも良いけど、張り切りすぎじゃない?」

スガタ「冷静に、冷静に…」


頭を掻いて「困ったな」って表情のタクトさんと、少しだけ呆れ気味だけど優しく微笑むスガタ師匠の二人…。

困った時はやっぱりこの二人…、頼りになるよね。






マドカ「多勢に無勢ね。つまらないけど、今日は諦めてあげる」


タクト「いやいや、多勢に無勢って…。

    僕ら喧嘩しに来た訳でもないんですケド…」


いかにもつまらなさそうな顔をして、マドカさんが去っていく…。

何しに出てきたんだ、あの人…。


429 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:47:48.67f3V9Sjjz0 (11/14)

スガタ「しかし、彼女も諦めが悪いね…」


ワコ「わざわざ、さやかを襲いにやってきたのかなぁ?」


さやか「ワコ姉、その冗談笑えない…」



げんなりしながらも、少し状況がおかしい事に気づく。

そう。マドカさんは先日と違って一人だった。

あんなに仲良さそうにしていたボーイッシュな人がいない…。


まさか、あたしを巡って揉め事になって、結果マドカさんはあたしを…?

いやいや、笑えない笑えない…。




タクト「それじゃ、いこっか」


スガタ「ワコも機嫌直して」


ワコ「む。別に私は最初から怒ってないしっ」


…ま、いっか。

今日は、たまたま一緒じゃなかっただけかもしれないしね。


430 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:51:14.87f3V9Sjjz0 (12/14)

そこからさして距離のない所に目的地はあった。

『サンダーガール号』。

噂のワタナベさんが、夫からプレゼントされたって言う豪華客船。


少し時間が過ぎていたからか、既に人が賑わってる様子が伝わってくる…。




シモーヌ「いらっしゃいませ」


タクト「こんばんは。シモーヌちゃん」


シモーヌ「は、はい…/// こんばんは」



この船のメイドさんであろう金髪碧眼の美少女…。

どうも、この人もタクトさんのクラスメイトらしい。


431 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:55:35.26f3V9Sjjz0 (13/14)

ワコ「やっぱりモテるんだなぁ、タクト君…」


さやか「そう…ですよね?」


ワコ「うん。さすがに彼女も好意寄せてるとは知らなかったよ…」


さやか「そうなんだ…」


ワコ姉と話している最中、タクトさんと話してた金髪青髪のシモーヌさん?がこちらに気付く…。

タクトさんへの話もそこそこに、こちらへやってきて丁寧にお辞儀をし、話を始める。





シモーヌ「あなたが美樹さやかさんですね…?」


さやか「はい。なんで知って…って、あなたは…」


シモーヌ「はい。以前、教室からあんこさんをお連れした者です」


思いだした。

どこかで見た事のある人だと思ったら、教室にやってきて授業前に杏子を連れてった人だ。

ワコ姉の話じゃタクトさんに好意もってるみたいだから、愛の告白…じゃなかったんだよね、やっぱ。



じゃあ、あたしを知ってるのも杏子絡み?

だけど、だからと言ってあたしが今日ここに呼ばれた理由はイマイチ見えてこない…。


432 ◆.2t9RlrHa22011/06/19(日) 23:57:12.76f3V9Sjjz0 (14/14)

ワコ「やっぱりモテるんだなぁ、タクト君…」


さやか「そう…ですよね?」


ワコ「うん。さすがに彼女も好意寄せてるとは知らなかったよ…」


さやか「そうなんだ…」


ワコ姉と話している最中、タクトさんと話してた金髪青髪のシモーヌさん?がこちらに気付く…。

タクトさんへの話もそこそこに、こちらへやってきて丁寧にお辞儀をし、話を始める。





シモーヌ「あなたが美樹さやかさんですね…?」


さやか「はい。なんで知って…って、あなたは…」


シモーヌ「はい。以前、教室からあんこさんをお連れした者です」


思いだした。

どこかで見た事のある人だと思ったら、教室にやってきて授業前に杏子を連れてった人だ。

ワコ姉の話じゃタクトさんに好意もってるみたいだから、愛の告白…じゃなかったんだよね、やっぱ。



じゃあ、あたしを知ってるのも杏子絡み?

だけど、だからと言ってあたしが今日ここに呼ばれた理由はイマイチ見えてこない…。


433 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:00:30.294mN8rUtH0 (1/37)

さやか「今日はなんで、あたしを招待してくれたんでしょうか…?」


シモーヌ「それは後々奥様からご説明があります。その際はお呼びしますので、まずは楽しんでください」


さやか「はぁ……」


奥様。

やっぱりここにあたしを呼んだのはこの人じゃなくて、その奥様らしい。

その奥様とは今度こそ面識がないんだけど…。





ワコ「なんか難しい事考えてるでしょ?」


スガタ「楽しめる時は楽しんだ方が良い。

    僕達も一緒だし、クラスメートが主催のパーティだ。そう警戒する事は無いよ」


そう…だよね。

ごちゃごちゃ考えても始まらない…か。

今は招かれたこのパーティを楽しもう。


434 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:02:53.794mN8rUtH0 (2/37)

会場は立食パーティのような形をとっており、テーブルにさまざまな料理が並べられている。


どこもかしも見知らぬ料理ばかりだけど、そんな中見知った料理を見つける…。

それは明らかにその場に浮くも確かにそこに存在していた…。





さやか「ホットドッグ…?」


なぜ、ここに…と言うのはさておき、手を出さずにはいられない…。

さりげな~く、さやかちゃんの好物の一つだったりするのだ。


一つ頂こうと思った瞬間、大量のホットドッグを乗せていた大皿が消える…。

…?



辺りを見回せば、ようやくその理由がわかる…。

赤い髪をポニーテールにし、八重歯が飛び出た小憎らしい顔がそこにあった…


435 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:04:37.884mN8rUtH0 (3/37)

杏子「これで良いのか、先輩?」


テツヤ「お前、なんで大皿ごと…。まぁ、いいや…。

    訳わからない高級料理ばっかで困ってたところだが、ようやく見慣れた物があって助かったぜ…」


杏子「食わず嫌いは良くないぜ…?」


テツヤ「良いんだよ。俺は庶民を貫くんだ…。

    つーか、お前も食うのかよ?」


杏子「ど~せ、これ全部は食わないだろ? 手伝ってやるよ」


テツヤ「いや、手伝っても全部は無理だろ…。

    大食い選手権じゃねぇんだから…」



杏子「ほら、先輩も食いな?」


ジョージ「あ、あぁ…………」




さやか「杏子!!!!」


大皿ごとホットドッグを持ち逃げしたあんの野郎と、その連れっぽいどこか不良なお兄さんが二人…。

不良なお兄さんに絡まれるのはちと怖いけど、どうせ杏子の連れだろうし、そもそもホットドッグ持ち逃げ犯を許す訳にはいかない!

対決覚悟で突っ込んでいく…。


436 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:06:28.884mN8rUtH0 (4/37)

杏子「なんだ、さやかか」


さやか「なんだ、じゃない。なんで大皿ごと持ってくのよ…!」


杏子「なんでだ、先輩?」


テツヤ「俺は大皿ごと持ってこいとは言ってねぇよ…」


杏子「でも、できるだけ持ってこいって言ったじゃん…?」


テツヤ「そう言われて、料理山積みの大皿を持ってくるのはお前だけだよ…」




さやか「どっちでもいいけど、勘弁してくださいよ…!」


テツヤ「怒られたじゃねぇか…」


杏子「こいつはいつもこんなもんだから、気にしなくていいよ」


さやか「なにぃ!」


437 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:09:13.604mN8rUtH0 (5/37)

良く見ると顔は結構いいけど、何故か杏子と妙なやり取りをする不良お兄さんごと杏子に苛立つ。

すると、あたしのやり取りを見ていたのだろうか、タクトさんが後ろから仲裁に入る。



タクト「はいはい。落ち着いて、二人とも…って先輩? 何故ここに…?」


テツヤ「おぉ。タクトか」


さやか「知り合いですか…?」


タクト「うん。学生寮の先輩だよ」



ゴウダ・テツヤ先輩。

と、何故か壁に寄りかかって俯いてるホンダ・ジョージ先輩。

タクトさんの住む学生寮の先輩で、なんだかんだで面倒見の良い兄貴分みたいな人達らしい。

杏子は最近学生寮にお邪魔になってるみたいだから、たぶんコイツの面倒も見てくれているんだろう…。


438 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:11:50.214mN8rUtH0 (6/37)

テツヤ「悪かったな…。見慣れた料理があったんで、ついな…」


さやか「気にしないでください。それに関してはこの世間知らずが全面的に悪いので…!」


杏子「うっせぇな…」




タクト「それで、なんでここに…?」


テツヤ「あぁ…、こいつの御守りだ。中学生をこんな時間にウロウロさせるには引率がいるかと思ってな」


杏子「それ言ったのカナコだから。先輩じゃねーし」


テツヤ「うっせぇな…」


杏子「鼻の下伸びてたぜ? 先輩…?」


テツヤ「言わせておけば、テメェは…」



なんだかんだで良いコンビみたい。

コイツはコイツで、こっちでの良い人間関係に恵まれた…のかな?

あたしが気にするまでもなかったみたい。


439 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:13:50.944mN8rUtH0 (7/37)

タクト「寮長も来てるんですか…?」


テツヤ「い~や。あいつはそんな堅苦しいモノ死んでも御免だって来なかったよ。

    来りゃ良かったのにな…。後々話したらさぞ面白い反応をしてくれるだろうよ」


スガタ「…?」



少し離れたスガタ師匠を見て、ゴウダさんは言う。

その寮長って人と何か関係があるのかな…?


と、話してたら気になる事が一つ…。

さっきから、この輪の中に居て一言も話していない人がいる…。




さやか「大丈夫ですか…?」

ジョージ「あ、あぁ……」


さっきから壁際に居て何も話さないと思ったら、なんか顔色が良くない…。

このホンダさんって人は、体調がよくないのかな…?


440 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:16:28.674mN8rUtH0 (8/37)

テツヤ「あぁ~、そいつは放っておいてやってくれ」


さやか「…?」


テツヤ「バイトで受けた傷がまだ癒えていない…」


さやか「…???」


タクト「………まさか、ワニにでも会ったの?」

さやか「ワニ…?」




テツヤ「覚えとけよ!中学生! アルバイトとは言え、実社会では想像を超えた驚きが待っている!」


さやか「そうですよね。善人面して近寄って来て、良さげな事言って人を騙す詐欺師とかもいますし…」

杏子「あぁ、知ってる。いきなり言いがかりつけて喧嘩売って来る奴もいるからな…。いつも用心してるよ」



タクト「二人とも……」

テツヤ「お前ら……。なんか苦労してそうだなぁ…」


441 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:18:41.024mN8rUtH0 (9/37)

タカシ「楽しそうですね。皆さん」


タクト「…………」


杏子「タカシか…」



黒髪のウェイターの格好をした男の人が音も無く突然現れる。

見た所、これと言って悪い人には見えない。

でも、杏子とタクトさんがやや妙な面持ちになってる…。

その人はこれと言って嫌な気配もないし、気のせいだとは思うんだけど…。




タカシ「奥様がお呼びです。少し来てもらえますか…?」


さやか「はい…」


442 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:20:07.934mN8rUtH0 (10/37)

その人が案内しようとした所、何故か杏子が割って入る。

タクトさんも何か動こうとしてたように見えるけど…気のせいかな?




杏子「それ、アタシも行って良いかな?」


タカシ「…………では、あんこさんに案内をお任せしましょう。

    奥様は最初に食事した時の部屋にいらっしゃいますので」


杏子「悪いな、仕事取っちまって…。

   じゃなくて、アタシはあんこじゃねぇ!!!」




テツヤ「行って来いよ、あ~んこ♪」

杏子「………この野郎、覚えてろよ」



ジョージ「……気を付けろよ? 奴は手強いぜ?」

杏子「いや、別に戦いに行く訳じゃねぇし…」


443 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:20:44.174mN8rUtH0 (11/37)

杏子に連れられて、その奥様の居る所を目指す。

そう言えば、なんでコイツがここの事知ってるんだろう…?



さやか「ねぇ杏子…。アンタここの事詳しいの…?

    なんか顔見知りもいるみたいだけど…」


杏子「あぁ…? 言ってなかったっけ?

   こっちに流れ着いた時にアタシは、ここの奥様のカナコやシモーヌに助けられたんだ」



さやか「そうだったんだ…」


こちら側の世界に飛ばされた杏子は、この船に住むワタナベさんやシモーヌさんに発見され、介抱されたらしい。

彼女達はその後も何かとコイツの世話を焼いてくれてるようで…。


444 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:21:37.694mN8rUtH0 (12/37)

杏子「ここの奴らは良い奴ばっかりだ…。

   倒れてたアタシを救ったばかりか世話まで焼くお嬢と付き人、なんだかんだで面倒見の良い先輩方、気さくなクラスメイト…」


さやか「………」


杏子「ずっと一人で生きてきた事さえ忘れちまいそうだよ…」


さやか「杏子…」



見滝原で初めて見た時のコイツからは考えられない穏やかな表情をする杏子。

だけど、コイツの生き方からだろう。

そんな自分に戸惑っているような表情が見て取れる…。


445 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:22:14.164mN8rUtH0 (13/37)

佐倉杏子。

馬鹿やってふざけ合う今のあたし達からは想像もできない筈だけど…。

出会った時のあたしとコイツは殺し合いをするほどの『敵』同士だった。


みんなを守る為にと、人知れず戦って、死んだあたしの魔法少女としての先輩『巴マミ』さん。


その人の意志を継いだあたしが、人を襲う魔女の使い魔を追っている最中、コイツと出会った。

グリーフシード欲しさに使い魔を逃がそうとする杏子とそんな事を認める訳にはいかないあたし。

主義主張の合わないあたしたちは殺し合いをした…。


その後もコイツはあたしを煽った。

『誰かの為』に生きるあたしを嘲笑うように…。


446 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:23:03.604mN8rUtH0 (14/37)

そんな関係が変わったのは、『ソウルジェムこそが魔法少女の本体』と言う真実を知った時だった。

絶望するあたしを哀れんだのか、同情したのかは知らない。

だけど、その時からコイツは打って変わってあたしに友好的に接し始めた。


そして、その時に語ってくれた。

『誰かの為』に願い、戦ったが為に全てを失った悲しい過去を…。



それからだ。

コイツの見方が変わったのは。

杏子の生き方や理屈は『共感』はできないけど『理解』はできた。

こっちに来て、心に余裕ができてからは尚の事そう思った。


447 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:24:45.784mN8rUtH0 (15/37)

だからこそ言えなかった。


『自分の為』に強く生きているコイツの邪魔をしたくないから。

あたしはここで『生きる』と決めたけど、魔法少女である以上コイツはそうはいかない。

だから、コイツが本気で心配して怒ってくれた時も意地でも口を割らなかった。


なんだかんだでお節介な奴だから…。

そう多くないだろう時間をあたしに感けて、無駄にしてほしくないから…。

コイツを道連れにするような事にしたくなかったから…。


448 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:27:07.204mN8rUtH0 (16/37)

でも、そんなコイツも学校で会ってからはさらに丸くなったように思えた。

友達が、仲間が、知らずに杏子を優しい頃に戻している…ってあたしは思ってる。

そして、コイツはそんな自分に戸惑ってるんじゃないかな…?




さやか「良いんじゃない?」


杏子「あぁ…?」


さやか「アンタももっと誰かを頼ってみても」


杏子「………………」


449 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:27:46.984mN8rUtH0 (17/37)

足を止め、不思議そうにあたしを見る杏子に笑いかけながら、あたしは続ける。



さやか「自分に構ってくれる人がいる時はさ、その人に寄りかかってもいいと思うんだ。

    あたしもそう教わった」


さやか「その代わり、その寄りかかった誰かが倒れそうな時はアンタが踏ん張って支えてあげなよ」


さやか「そう言うのがさ、アンタの忘れた『誰かの為』の根っこになってるんじゃないかな…?」





杏子「よく、わかんねぇよ…」


照れたような、拗ねたような、何とも言いにくい表情をした杏子はそっぽを向く。

よくわからない、か。

でもさ…。


きっとわかるよ。

今の優しいアンタになら…。


450 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:32:27.664mN8rUtH0 (18/37)

その後は杏子がだんまりしてしまった為、ただひたすら歩いた。

やがて、開いてる大きな扉の向こうにある広間のような部屋へ辿り着く。




杏子「よぅ…」


カナコ「ありがとう…。あなたが連れて来てくれたのね…?」


そこに居た女の人は少しだけ驚いてから杏子にお礼を言った。

間違いない、この人が…。




カナコ「ようこそ。私はこの船の持ち主で、今回のパーティーの主催者のワタナベ・カナコと言う者です。今後ともよろしくね…?」


さやか「は、はい。あたしは美樹さやかですっ。本日はお招きいただきどうもありがとうございますっ」


カナコ「元気の良い子ね」


451 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:33:51.254mN8rUtH0 (19/37)

その人の放つ優しい笑顔に、何故か緊張感だけが増してかちこちになる。

そんなあたしを横目に、ぶっきらぼうに出口を目指しながら杏子は言う。




杏子「じゃあ、アタシは行くよ」


カナコ「えぇ、楽しんでいってね」





杏子「………………………いつも色々ありがとな、カナコ」


後ろ姿だから顔は見えないけど、安易に想像がついた。

あいつの顔、今照れて真っ赤だろう。


うん。

やっぱりアイツ、変わり始めてる…。


452 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:34:22.514mN8rUtH0 (20/37)

―ずっとここに居られれば、あたしも、アイツも―



そう頭に浮かんで、すぐにやめた。

考えたって仕方ない事は考えない。

あたしはどっちに転んでも前に進むだけ。

終わる瞬間の事なんて、終わった時に考える。


未来が見えないからって、絶望するのはもうやめたんだ…。

終わった筈のあたしにこんな素晴らしい日々が待っていたように、明日はどうなるかなんてわかりはしないんだから…。





カナコ「良い目をしてるわね…」


さやか「え…?」


453 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:35:49.794mN8rUtH0 (21/37)

少しぼんやりとしていたあたしを現実に引き戻した優しい顔をしたお嬢様は、何を思いついたのか少しだけ表情が悪戯っぽく変わる。

座っていた椅子から立ち上がるとベランダの方へ向かい、ガラス戸を開き、再び微笑む。

ただ、風に煽られたその微笑みは、先ほどまでと違ってどことなく挑発的な匂いがする…。




カナコ「あなたはガラス越しありな人?」


さやか「ガラス越し…?」


カナコ「ガラス越しにキスをするの…。

    今あの学校で流行っているんだけど…知らない?」


454 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:36:31.114mN8rUtH0 (22/37)

さやか「キ………ス? キスですか!?///」


カナコ「イケナイ遊びだと…、あなたも思うかしら?」


さやか「そりゃ…、思いますよ…///」


照れるあたしを面白がるように続ける。

ガラス戸が開き、外から流れる風があたしと彼女の髪を揺らす…。

どこか優雅に歩いて元の席に戻りつつ、イケナイお嬢の会話は続いていく…。




カナコ「なんでイケナイと思うの…? 

    所詮はガラス越し。直接する訳じゃないわ」


さやか「…………だって、ガラス越しでも相手の顔は見えてるじゃないですか」



カナコ「純情ね。あなたも……」


455 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:39:27.984mN8rUtH0 (23/37)

揺れる髪を抑えながら、悪戯っぽく笑って言う。

やっぱり、授業中に平然とパ-ティ開催を宣言するようなお嬢は変わりモノでした…。

組んだ足を逆に変えながら続ける…。



カナコ「たまには女の子とするのも良いと思ったんだけどな…」


さやか「たまにはって…。

    杏子ともするんですか? その、ガラス越しの…」


カナコ「気になる…?」


さやか「…………少し」


456 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:40:29.534mN8rUtH0 (24/37)

奥様である証の結婚指輪らしきものを眺めるのをやめて、再びこちらに顔を向ける。

その顔を隠すように吹いた風に、髪が揺らされる。

髪を直した彼女の表情は優しかったけれど、どこか寂しげで…。




カナコ「してないわ。

    あの子は私のもう一つの宝物だから……、そう言う悪戯はしないの」


カナコ「でも、あなたがするなら良いんじゃないかしら…?」



さやか「え……!?」


カナコ「私がそんな事をしたら、あの子は混乱してしまうだろうけど、

    あなたとふざけ合うあの子は本当に楽しそうだから…」


ガラス越しがどうたらって言う冗談はともかく、この人はやっぱり凄くいい人で…。

そして、凄くアイツの事気にかけてくれてるんだ…。


そして、同時に何となくだけどわかった。

今日のパーティーにあたしが呼ばれた理由。

ううん、ひょっとしたらこのパーティーの理由自体が…。


457 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:41:14.914mN8rUtH0 (25/37)

カナコ「悪ふざけはおしまいにして…。

    今日のパーティなのだけれど…」


さやか「杏子の為、ですよね…?」



言おうとした事を遮って、あたしが答えを言う。

少しの沈黙の後、互いにくすっと小さく笑う。





カナコ「……………敵わないわね、あなたには」


さやか「パーティ開いちゃう人には負けますって」


不器用なアイツを思うあたし達もやっぱり同じ…。

あいつとふざけ合う事しかできないあたしと、パーティなんて開いちゃうこの人は、同じ事を考えて微笑んだ…。


458 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:41:56.354mN8rUtH0 (26/37)

話も終わり、大きな扉を抜けて、さっき来た長い廊下を戻っていく。

その廊下の向こうに見えるのは、遠目からでもわかる我儘ボディと派手な金髪ロール…。

この豪華客船に誰よりも似合う筈のその人だった。




さやか「げ、マドカさん…?」


マドカ「マスコットガールちゃん…」


見えたからと引き返す訳にも行かず、結局バッタリ。

だけど、マドカさんの様子はどこかおかしい。

いつも通りと言えばいつも通りなんだけど、少しだけ苛立っているように見える。




さやか「マスコット…、その呼び方やめてもらえません…?」


マドカ「残念ね…。あの女に呼ばれてなければ…」


実際、あたしの言葉には反応せず、そうとだけ言い放つと横を抜けてそのまま歩いていく。

その先にあるのは勿論…。


459 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:42:50.914mN8rUtH0 (27/37)

いけない事とわかっていても、こう言う事は気になったら最後。

頭を抱えて右往左往する…。




さやか「あ~~~~!もう! 気になる~~~!!!」


悪戯好きのワタナベさんと、破天荒なマドカさん。

どっちも相当なお嬢様ってのはわかる。

その二人が知り合いだった。


気にするなと言うのが無理でしょう…!


460 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:43:44.254mN8rUtH0 (28/37)

結局、密かに覗いてる。

あぁ、あたし悪い子だ…。

でも、毒を食らわば皿までッ…!


あの大きくて重そうな扉はほとんど閉まっている。

僅かに開いた隙間から覗きこむ…。




マドカ「何様のつもりですか~? こんな所まで人を呼び付けて…!」


カナコ「言われなければ、わからない…?」


マドカ「転属願いの事ですか~? 無駄ですよ。あなたが受理しようがしまいが…。

    ご存じのように私達はもう、あちらで楽しくやらせていただいてますので…!」


この上なく挑発的な態度を取るマドカさん。

対するワタナベさんもさっきとは打って変わって、険しい表情で相手を見ている。

それは宝物について語ったさっきとは真逆。

まるで敵でも見るような、睨みつけるような目つき…。


461 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:45:26.604mN8rUtH0 (29/37)

ワタナベさんが溜息を吐いて、その目つきが少し和らぐ。

だけど、そのピリピリとした雰囲気は変わらない。



カナコ「あなたにはずっと私の傍に居て欲しかったのだけれど…」


マドカ「あら~? 未練ですか~? 終わりにしたのはあなたの方なのに……!」


カナコ「………………そうね」



ずっと傍…?

未練…?

終わり…?


この二人って、やっぱり何かあったの…?

ううん…。

それより、終わりって…。


462 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:46:00.624mN8rUtH0 (30/37)

カナコ「待ちなさい! 話はまだ…!」


マドカ「御機嫌よう…! 元上司様…?」



ま、まずいまずい…!

こっちに来ちゃう…!


出来るだけ音を立てないようにせかせかとその場を去って物陰に隠れる。

が、勿論気配や足音はあった筈なのでそれはすぐにバレる…。




マドカ「イケナイ子ね…。覗き見なんて…」


さやか「……………すいません」


イケナイ子認定されたあたしはマドカさんに捕まり、一緒に会場に向かって戻っていく…。


463 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:46:55.374mN8rUtH0 (31/37)

マドカさんはあたしの前を歩く。

だけど、いつものマドカさんの調子ではない。

ただ、背中だけみても、彼女が怒ってるのか、寂しがってるのか、はたまたいつも通りなのかはわからない…。




さやか「マドカさん…。ワタナベさんと何か…」


マドカ「昔の話よ…」


さやか「仲直り、とかは………」


マドカ「仲直りと言うのは、仲がまだ良い人間が部分的に壊れた関係を修復する事。

    聞いたでしょ? 私達は『終わった』のよ」


二人とも変わってるけど、悪い人じゃない。

だから、出来る事ならと思ったんだけど…。


空気はさらに重くなる。

あたしが勝手に重く感じているだけなのかもしれないけど……。


464 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:49:56.164mN8rUtH0 (32/37)

長い長い沈黙。

その空気を破るように、静かにだけど聞き逃す事の出来ない言葉を彼女は言う。




マドカ「あなたは、その親友を大切になさい…」


さやか「え…?」


マドカ「人は自分が思っている程強くは無い。

    一人で良いと言い聞かせて突き進んでも、結局は理解してくれる誰かといなければ折れてしまう弱い生き物なのよ…」


マドカ「だから…、自分を理解してくれる人間は大切になさい。

    人間、何時どこでどうなるかもわからない事だし…ね」


さやか「マドカさん…」


マドカさんの言う事はよくわかる…。

さっき杏子に言った事のそれと根本的には同じ事だから…。

それは誰よりも理解してるつもり…。



だけど…。

あたしは…。


465 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:52:52.794mN8rUtH0 (33/37)

マドカ「それに、私と同じ名前の子なんて、良い子に決まってるのだから…!」



深刻な表情から一転して、いつものマドカさん節に戻る。


無茶苦茶な論理だ…。

自分と同じな名前だから『良い子』っておいおい…。

だけど、それはこの人なりの気遣いなんだろうか…。





さやか「ありがとうございます。マドカさん」


マドカ「それを私に言ってどうするの…。その子に言ってあげなさいって言ってるのよ」


わかってる。

でも…。


まどか。

あの子とはもう会えないかもしれないから…。

だから、せめて…。




代わりに言った、その『言葉』に力を込めた…。


466 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:53:34.144mN8rUtH0 (34/37)

さやか「ない………」



呼ばれてしまったので、なんだかんだで食べられなかったホットドッグ。

あたしはそれを食べるつもりで戻ってきたんだけど…。




テツヤ「……………ほら、俺の事情は知ってるだろ?」


ワコ「………………ごめんなさい。私も結構食べちゃいました」


タクト「『食うかい?』って勧められて美味しかったんでつい…」


スガタ「……………僕も、二つほど頂いた」


ジョージ「俺も…………」



みんな視線を反らしてバツが悪そうにしてる…。

だけど、こんな事をする奴は一人しかいない…。


467 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:54:45.744mN8rUtH0 (35/37)

さやか「あんたはッ…!」



杏子「あぁ? さやかの好物だったのかぁ?

   知らずにみんなに勧めちまったよ」


ニヤけた口元から八重歯が見える。

さっきの問答をしながら、コイツがあたしの事情を知らない訳もない…。

その小憎らしいニヤケ面は明らかにあたしに対する当てつけだ…。





前・言・撤・回!!!!


コ・イ・ツは~~~!!!

コイツだけはぁ~~~~~~!!!!!!


468 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:55:38.644mN8rUtH0 (36/37)

さやか「お前だけは絶対に許さないッ!!!!」


杏子「アハハハハハハ…って痛ッ! てめぇ本気で殴ったな!!」


スガタ「お、おい! さやかっ!」

ワコ「さやかッ! ダメッ!!!」



テツヤ「俺知~らね…」

タクト「いや、先輩の責任は結構重いでしょ…」


ジョージ「あの女に会う前に早く帰りたい…」ガクガクブルブル



賑やかな喧騒に包まれて…。

平和な夜は更けていく…。


469 ◆.2t9RlrHa22011/06/20(月) 00:58:52.444mN8rUtH0 (37/37)

っし。
今日はここまで。
次書いてる所が終わるとその先のストックはちょっぴりあったりするけど
基本追い付いちゃってるので、投下ペースは下がるかも…。
とりあえず、次回は明後日(正しくは明日だけど)の夜を予定


それでは、本日は閉会とする。

佐倉杏子に栄光を…!
美樹さやかに祝福を…!

綺羅星☆


470VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/20(月) 01:56:33.02J5gLLEe8o (1/1)

乙星☆


471VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/20(月) 07:58:13.37cN91negXo (1/1)

綺羅星☆

杏子もだいぶ馴染んでるなw
ところでタカシってこのころ、まだおとな銀行に所属してたっけ?
まだ17話じゃないからいるのか


472VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/06/20(月) 10:00:34.46MCBkSBBAO (1/1)

乙星☆
ヘッドがおとな銀行に行っても監視できるて言ってたからタカシまだ銀行に居んだろうね


473VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/20(月) 20:23:15.77TAviAu/SO (1/1)

乙。日常パートはいいな。何となく杏子にはゲームオリジナルサイバディを使って欲しい。


474 ◆.2t9RlrHa22011/06/21(火) 21:33:39.78zZAfz8MU0 (1/81)

綺羅星☆
ぼちぼち投下します
久々に調子よく書けてますので、今しばらくの更新は大丈夫そう
ちょうど今日落とす辺りがもっとも苦労した…


>>470
ありがと~

471
説明不足だから次に少し台詞足しておいたけど…
基本的に16話以後の事件で書いてない事は、起きてないと見てくれていいっす
ただ、正しくは16話終了後と言うよりは17話直前だからマドカやタカシもあっちよりと見てくれれば

>>472
乙星
その通りです。タカシは銀行にいます
ぼちぼち動き始めます

>>473
難産してるだけあって、褒められると励みになります

オリって青いタウだっけ?
知らない事には使いようがないが…
今からゲーム買ってきてやると更新がガタ落ちになりそうだし
スティックスターさせようにも、黄星剣もさやかにあげちゃったしなぁ…