862 ◆uQ8UYhhD6A2012/02/13(月) 20:50:32.65VVErNlmYo (4/12)


「……何ですか、とミサカは物言いたげな二人に言葉を促します」

「んー……、いや、まあそうは言うけど意外と感情が見えるなあと」

「ミサカにはそのようなものは備えられていませんが、とミサカは首を傾げます」

「クローンっつっても人間は人間だからな。完全に無感情無個性って訳にはいかねェだろ」

「…………?」

尚、少女は眉を顰めて首を傾げている。

「まーそれは置いといて、何はともあれお前の呼称が必要だな。他の二万人とは違う名前が無いと流石に呼びにくい」

「名前ですか。その必要性を感じませんが、とミサカは切り捨てます」

「必要だろ。お前はチビの世話係で、こいつはチビの護衛係なんだから」

「…………………………そォいえばそォいうことになってたな」

「チビじゃないもん! 打ち止めだもん! ってミサカはミサカは必死に自己主張してみる!!」

先程まで大人しくしていた筈の打ち止めが再び暴れはじめた。
話が脱線に脱線を続けているので忘れかけていたが、そもそも打ち止めが自己紹介をしていたのはその為だったのだ。
これからそう短くない期間を付き合って行かなければならないのだから、まずお互いのことを知らなければならない。

「ったく、勢いに任せて余計なこと言うンじゃなかった……」

「その割には意外と満更でも無さそうだが」



863 ◆uQ8UYhhD6A2012/02/13(月) 20:51:00.86VVErNlmYo (5/12)


「何か言ったか垣根くゥン?」

「いーえー何でも御座いませんよー」

「一番のとばっちりはこのミサカですがね、とミサカは溜め息をつきます」

「偶然その場にいたってだけで世話係を押し付けられたんだからね! ってミサカはミサカは下位個体の苦労を労ってみる!」

「というか下位個体、いつにもましてハイテンションですね、とミサカは早くも疲れてきました」

「そりゃーだってあの培養器生活から脱出できるんだからハイテンションにもなるってもんですよー、ってミサカはミサカはまだまだテンション上昇中!」

「これ以上上げてどォする」

「じゃねーよ、名前だよ名前。どうすんの?」

「一応識別番号は10032号ですが、とミサカは便宜上の名称を提示します」

「ホントに便宜上だね、ってミサカはミサカはもっと良い名称は無いものかと頭を悩ませてみたり~」

「変な名前を付けられるよりかは数倍はマシです、とミサカは反論します」

「あー……、確かに」

「何故俺を見る」

「だってお前センス……」

「オマエだって人のこと言えンのか」



864 ◆uQ8UYhhD6A2012/02/13(月) 20:51:46.13VVErNlmYo (6/12)


垣根の動きが停止する。
そして二人は数秒間互いに顔を見合わせると、同時に少女の方に向き直った。

「10032号で」

「俺らには名付け親なんて大役は果たせそうにないんで」

「了解しました、とミサカは頷きます」

「二人のセンスが気になるところだけどここは黙っておくのが賢い選択かも、ってミサカはミサカは口を噤んでみたり」

「賢明な判断だ」

一方通行がやけに真面目ぶった口調でそういうと、打ち止めはわざとらしく怖がって見せた。
そんな二人のやりとりを、垣根が意外そうに眺めている。

「打ち止めって意外と肝が据わってるよな」

「へ? 何で? ってミサカはミサカは首を傾げてみたり」

「ふっつー学園都市第一位っつったらもうちょっと恐れ戦くもんだぜ。こいつ見た目も怖いし」

「さらっと悪口挟みましたね、とミサカは気安すぎる第二位に呆れます」

「今更その程度気にしてらンねェけどな」

「んー、人の見た目で怖いとか怖くないってよく分からないかも。ミサカ、ちゃんと人の顔を見たのってあなたが初めてだったし。
 むしろそれくらい特徴があってくれると分かりやすくて助かるよー、ってミサカはミサカは素直に白状してみたり」

「あー、確かに分かりやすくはあるな」

「背が低くとも遠目でも一目で分かりますね、とミサカは白髪赤眼の有用性に感心します」

「……遠回しに馬鹿にしてねェか?」

「そんなことはありません、と言いつつミサカはさり気なく目を逸らします」

「お前も大した肝の据わりようだよ……」

言って、呆れたような瞳を向けてくる垣根と憮然とした一方通行を見て、ミサカ10032号は何だか不思議に心が揺れ動いた、気がした。
斯くして、奇妙な『最終信号護衛隊』は結成されたのであった。





865 ◆uQ8UYhhD6A2012/02/13(月) 20:52:12.07VVErNlmYo (7/12)


―――――



……と、一息ついたのも束の間。
その三日後に、さっそく打ち止めが大騒ぎを始めた。

「外に行ってみたい! ってミサカはミサカは駄々を捏ねてみる!!」

そんな彼女の正面に立っているミサカ10032号は、ぐいぐい引っ張られるスカートを抑えながら小さく溜め息をついた。
下位個体である妹達ならいざ知らず、上位個体である打ち止めにはそのような調整はなされていない。
よって、打ち止めの要求はとてもではないが通る筈の無いものなのだ。

「あなたも理解しているでしょう。
 あなたはそのようなことができる身体ではありませんし、ミサカにそのような権限はありません、とミサカはばっさり切り捨てます」

「でもでもでも! 他のミサカたちは研修って言って外に出てるのにー! ミサカネットワークで色々流してくるのに!
 なんでミサカだけ外に出ちゃ駄目なのー! ってミサカはミサカは我儘を言ってみる!」

「そんなことをミサカに言われても困ります。研究員の方々に仰ってください、とミサカは突き放します」

「そんなの聞いてくれるわけないじゃん! ってミサカはミサカは既に実行して失敗した記憶を苦く思い返してみたり!」

「本当にやったんですか、流石の行動力ですね……とミサカは呆れを通り越して感心するしかありません」

「……何騒いでンだ?」

研究所の廊下のど真ん中で大騒ぎしている二人を見て、何処からか歩いて来た一方通行が不審者でも見るような視線を向けてきた。
すると一方通行に気付いた打ち止めが、期待に満ちた瞳を輝かせながら駆け寄ってくる。

「そうだ、あなたがいたら大丈夫だよ! 護衛だもん! ねっ10032号! ってミサカはミサカは一縷の希望に賭けてみる!」

「だからそもそもあなたにはそのような調整がされていないんですよ……、とミサカは諦めの悪い上位個体に辟易します」

「……何の話だ?」

「ミサカ外に出てみたいの! ってミサカはミサカは主張してみたり!」

打ち止めの言葉に、一方通行は眉を顰める。
そして彼女から僅かに目を逸らしながら、気まずそうに口を開いた。

「あァ……、そりゃ無理だ」

「なっ、何で? ってミサカはミサカはショックを受けつつも食い下がってみる」

「俺が外に出れねェからだ」



866 ◆uQ8UYhhD6A2012/02/13(月) 20:52:40.86VVErNlmYo (8/12)


予想外の返答に、打ち止めはきょとんとした。
鉄面皮のミサカ10032号ですら、少し驚いたような顔をしている。

「あなたが? 出れないの? ってミサカはミサカは目を丸くしてみたり」

「あァ。なンでも機密保持の為だとか何とか」

「……機密保持、ですか、とミサカは繰り返します」

打ち止めに引っ張られてしわくちゃになったスカートの裾を整えながら、ミサカ10032号もこちらに歩いてくる。
一方通行は軽く頷くと、言葉を続けた。

「面倒臭ェことに、学園都市第一位ってのは学園都市の技術の結晶みてェなモンだからな。
 俺一人のデータをほンの少しでも持ち出されて解析されるだけで、学園都市にとっては大打撃なンだそォだ」

「でもあなたがそんな簡単に襲われたりなんかするようには見えないけど、ってミサカはミサカは素直な感想を述べてみる」

「そりゃァな、ンなことすりゃ即刻スクラップだ。ただ、どォも俺がその場に残した毛髪や皮膚片だけでもアウトらしい。基本マークされてるらしいしな」

「ふおお、第一位って苦労してるのね……、ってミサカはミサカは驚愕してみる」

「……ですが、毛髪や皮膚片程度ならあなたの能力でどうとでもなるのでは? とミサカは疑問を差し挟みます」

「そォだが、そこまで気ィ使ってまで外に出てェとも思わねェし、他にいくらでもデータを取る方法はあるからな。流石に全部は対策できねェ。
 それに、機密レベルの高い学区内なら割かし自由に行き来できる。……オマエが行きたいと思ってるよォな、人の多い学区には行けねェが」

「若いのに苦労してるのねー、ってミサカはミサカは年寄めいたことを言ってみたり」

「……とにかく、俺には無理だから外に行くなら護衛は垣根辺りに頼め。アイツは自由だから」

「…………、……?」

ふと違和感を感じて、疑問を口にしようとミサカ10032号が口を開きかける。
しかしその時、ちょうど背後から掛かった声に彼女の疑問は掻き消されてしまった。

「よーう、そんなとこでなにしてんの?」

「カキネ! ってミサカはミサカは期待のこもった目を向けてみたり!」

ぐりんとこちらを振り向くなりキラッキラした瞳を向けてくる打ち止めに、流石の垣根も嫌な予感を察したらしい。
即座に回れ右して逃亡を図ったが、一番近い位置にいた10032号にあっさり捕まってしまった。



867 ◆uQ8UYhhD6A2012/02/13(月) 20:53:11.27VVErNlmYo (9/12)


「上位個体がいい加減五月蠅いので何とかしてください、とミサカは第二位に幼女の世話を押し付けます」

「外! 遊びに行きたい! ってミサカはミサカは再び主張してみる!」

「そ、外ぉ? そんな権限俺にねえって……」

「おーねーがーいー! ってミサカはミサカはー!」

体よく垣根に打ち止めを押し付けてきたミサカ10032号が、一仕事終えた顔で戻ってきた。
本人は無感情無個性を自称しているが、こうした感情の機微が伺えることから、やはり単に彼女たちが感情というものを理解していないだけのようだ。
一方通行はそんなことを適当に考えていたが、ふと先程の彼女の様子を思い出して口を開いた。

「そォいえばオマエ、さっき何か言い掛けてなかったか?」

「え? とミサカは先程の記憶を探ってみます」

「……その口癖面倒臭ェな」

「ミサカのアイデンティティです、とミサカは改める気が無いことを宣言します……というのは置いておきまして」

先程、確かに自分は何かを言い掛けていたような気がする。
が、垣根の登場と打ち止めの大騒ぎのお陰でそれが何なのかさっぱり分からなくなってしまったようだった。
彼女は傾げた首をまた反対方向に向け直すと、一方通行に向き直って眉根を寄せる。

「ミサカは何を言い掛けたのでしょう? とミサカは一方通行に問い掛けます」

「俺に訊くな」

「まあ忘れてしまったということは大したことのないことだったのでしょう、とミサカは結論付けます」

「それもそォか」

二人はそう考え直すと、再び垣根と打ち止めの大騒ぎに目を向ける。
騒がしいし鬱陶しいし面倒臭いが、こんな時間もそう悪くないものなのだということを、とミサカ10032号は初めて知った。





868 ◆uQ8UYhhD6A2012/02/13(月) 20:53:45.43VVErNlmYo (10/12)


―――――



結論から言うと。
打ち止めの外出は、認められなかった。

垣根とミサカ10032号が同伴することを条件に、流石に見兼ねた一方通行が研究員と交渉してくれたりもしたが、それでも駄目だった。
ここまでやって駄目となると流石に打ち止めも諦めざるを得ないことを悟ったのか、現在では先程の大騒ぎが嘘のように意気消沈している。
これにはミサカ10032号も同情を禁じ得なかったが、第一位でも駄目だったことをただの一クローンである彼女がどうこうできる筈がない。
彼女はしょんぼりしている打ち止めを適当に慰めながら、あちこち交渉しまわってぐったりしている二人組を眺めていた。

「第一位と第二位の二人掛かりでも機密レベルの壁は高かった……」

「……しつこいようですが、上位個体は外部の環境に適応する為の調整が行われていませんからね、とミサカは繰り返します。
 外出を許可するということは即ちその為の調整を行わなければならないという訳ですが、あの研究員たちがそのような手間を割くとは思えません」

「……芳川あたりならなンとかなると思ったンだが」

「無理だろ、あいつにそんな権限ねえし。そもそも上位個体の大幅調整なんて一人で出来るようなもんじゃねえ」

「大きな機材を複数使いますから、こっそりやるのも難しいですしね、とミサカは冷静に分析します」

言いながら、ミサカ10032号はちらりと打ち止めに目を向ける。
打ち止めは机にべったりと上半身をつけて項垂れながら、ぼけっと壁を見つめていた。

「ミサカは……ミサカは……」

「あちらはあちらで重傷なようですしね、とミサカは頭が痛くなってきました」



869 ◆uQ8UYhhD6A2012/02/13(月) 20:54:17.91VVErNlmYo (11/12)


「頑張れ世話係」

「護衛係もたまには働いてください、とミサカは不満を漏らします」

「まー研究所の中に引きこもってたんじゃ護衛っつってもやることないよな。基本安全だし」

「存外楽な仕事で助かってる」

「やることがないのでしたらミサカを手伝って下さい、とミサカは協力を要請します」

「つってもなァ」

一方通行も打ち止めを見やる。
打ち止めは机の上で上半身をごろごろと動かしながら拗ねていた。

「ガキの宥め方なンか知らねェぞ」

「ミサカだって知りません、とミサカは困り果てます」

「洗脳装置でそォいうのインストールされねェのかよ」

「実験に不要な知識ですので、とミサカは第一位の言葉を肯定します」

「詰まるところ、俺たちは誰一人としてガキ一人宥める方法も知らないってことだな」

三人はそれぞれ顔を見合わせると、はあっと盛大に溜め息をつく。
それが気になったのか、打ち止めが一瞬だけこちらに目をやったが、すぐに頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。





870 ◆uQ8UYhhD6A2012/02/13(月) 20:55:24.29VVErNlmYo (12/12)

中途半端ですが投下終了。
次回はここまで間が空かないようにしたいですが、あんまりあてにしないでください。
たぶん就活はここからが忙しいところだと思うので……

では、ここまでお付き合い下さってありがとうございました。



871VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/13(月) 21:05:37.45oCwG82EDO (1/1)

乙、来てくれると信じてた!
相変わらず掛け合いがすごく良い

就活か……頑張ってください
スレ落ちない位に生存報告だけはお願い


872VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/13(月) 21:11:03.72I4pdq/uo0 (1/1)

よっしゃ続きキタコレ
完結させてくれりゃなんだっていいぜ
ただ確かに生存報告は欲しいな



873VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/02/13(月) 21:30:37.259f1V2sgE0 (1/1)

就活ホントに大変ですよね。
がんばってください。



874VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2012/02/13(月) 21:35:21.33gj30POTf0 (1/1)

乙ですの

待ってたぜ!!
完結までがんばってください


875VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/13(月) 21:50:55.58sXkFTvuSO (1/1)


来てくれた、ただそれだけで嬉しいです


876VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2012/02/13(月) 23:43:27.38I5n2OoKJ0 (1/1)

乙!
週1くらいで一言生存報告してくれると嬉しい
それだけで俺たちは安心して>>1を待っていられるんだ…


877 ◆uQ8UYhhD6A2012/02/27(月) 20:40:41.790te+gZeQo (1/1)

忘れないうちに生存報告です。
もう二週間経っちゃいましたが。時間が経つのは早いものですね……。
忙しくてSSは殆ど書けていません、申し訳ないです。
ですが何とか完結まで頑張りたいと思っているので気長に待っていただけると嬉しいです……
それでは、短いですがこれにて。



878VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/28(火) 02:26:40.381l7YYapCo (1/1)

前スレから一気読みしちまった
>>1乙


879 ◆uQ8UYhhD6A2012/03/16(金) 23:36:26.86NnsujoF6o (1/1)

またしても間が空いてしまいましたがとりあえず生存報告。
日が経つのが早過ぎて怖いです。

それから、一気読みして下さった方はお疲れ様です。
このクソ長いのを読んで下さってありがとうございました。
では、失礼します。


880VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/03/19(月) 00:24:54.80MR0B+xhh0 (1/1)

生存報告乙
報告さえあれば待っていられる


881VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)2012/03/20(火) 22:44:29.34T8Qfp4Fro (1/1)

前スレから追いつきましたよっと
続き 楽しみにしてます


882VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(奈良県)2012/03/24(土) 11:10:32.03jAg4N76s0 (1/1)

乙です!
やっと追いつけた…。

続き楽しみに待ってます


883VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/04/21(土) 12:29:33.318N+/JVYR0 (1/1)

もう一か月か


884 ◆uQ8UYhhD6A2012/04/24(火) 00:35:40.43JsxnDwzjo (1/6)

またしても放置してしまって申し訳ありません!
面接ラッシュでした。落とされまくりました。挫けそうです。

ともあれ、そろそろ何も無いのも居た堪れないので本当に短くて申し訳ありませんが投下を。
いつもの三分の一くらいな上に暫らく書いていなかったので鈍っているかもしれませんが、どうぞ。



885 ◆uQ8UYhhD6A2012/04/24(火) 00:36:15.97JsxnDwzjo (2/6)


雨の降り続く、ある梅雨の夜。
その晩は一際雨脚が強く、うるさい雨音の所為でミサカ10032号がなかなか寝付くことができない程だった。
寝るタイミングを完全に逸してしまった彼女はがばりと布団から上体を起こすと、隣でぐっすりと寝入っている打ち止めを恨めしげに見つめる。

(このミサカが眠れずに苦しんでいるというのにこんなに気持ち良さそうに寝ているとは……、とミサカは上位個体に八つ当たりをします)

ミサカ10032号は打ち止めの傍まで寄ると、打ち止めのほっぺを突いたり抓ったりして遊び始める。
しかし打ち止めは本当に深い眠りに入ってしまっているのか、ちっとも目を覚ます気配が無かった。

(……目を覚ましたら覚ましたで五月蠅いので構いませんが、とミサカは自らの矛盾した行動を認めます)

一頻り打ち止めのほっぺで遊んで満足すると、彼女は再び立ち上がる。
すっかり眼が冴えてしまった。
このまま再び布団に入ったところで眠れはしないだろう。

(夜の散歩でもしてみましょう、とミサカは思い立ちました)

思い立ったが吉日、と言わんばかりに彼女は扉を開く。
真夜中であるにも関わらず昼間と変わらずに明るい廊下の光が目を刺したが、彼女は目を細めながらも外へと踏み出した。





886 ◆uQ8UYhhD6A2012/04/24(火) 00:36:43.73JsxnDwzjo (3/6)


―――――



(とは言え流石にこんな時間では誰もいませんね、とミサカは当然の結論を出します)

廊下に出て暫らくは目が眩んであまり周囲が見えていなかったが、暫らく歩いている内に目が慣れてきた。
しかし周りが見えるようになっても、歩いている人間など一人もいない。
廊下が明るいと言っても、こんな時間に起きているのは徹夜で研究室に籠っている研究者くらいのものだからだ。
ミサカ10032号には何の為に廊下の電気が付けっ放しになっているのか理解できなかったが、考えても無駄だと思いそんな疑問はすぐに忘れてしまった。

(この先の自販機で暖かいものでも飲めば少しは寝やすくなるでしょう、とミサカは就寝の算段を立てます……、?)

ポケットの中の小銭を確かめながら歩いていたミサカ10032号が、立ち止まる。
妙な音がしたからだ。

ずる、ずる、と。
何かを引き摺っているような、粘ついた液体が尾を引いているような、そんな音。
嫌な音だ、と彼女は思った。

(侵入者でしょうか、とミサカは推測を立てます)

ミサカ10032号は無論丸腰だが、相手がただの人間であるならそんなことはまるで問題にならない。
いや、強能力(レベル3)程度の能力者であったとしても彼女の前には手も足も出ないだろう。
超能力者の第一位、一方通行と戦闘を行う為に生産された軍用クローン。それが彼女たち妹達だからだ。

(この研究所のセキュリティは他の実験関連施設に比べて甘いですが、それでもセキュリティを破ったことには変わりない。
 警戒しておくのが賢明ですね、とミサカは慎重な行動を選択します)

ミサカ10032号は壁に背をぴったりとくっつけて、じりじりと廊下の三叉路へと近付いていく。
気取られないようにそろりそろりと身体を動かし、彼女はようやく廊下の向こう側を覗き見ることができた。
そこには。



887 ◆uQ8UYhhD6A2012/04/24(火) 00:37:24.75JsxnDwzjo (4/6)


(…………?)

ずるり、と音を立てて赤く染まった服の裾のようなものが、壁の向こうに消えて行った。
しかしその真っ赤な何かの中にかすかに残っていた白に、ミサカ10032号は見覚えがあるような気が、した。

(あれは……、)

「おい」

唐突に背後から掛けられた声に、ミサカ10032号は飛び上がりそうになるほど驚いた。
肩に置かれた手を咄嗟に払い除けて勢いよく振り返る。
と、そこには一方通行が立っていた。

「いてェ」

「も、申し訳ありません……、って『反射』はどうしたのですか、とミサカは疑問を差し挟みます」

「こォいうことがたまにあるから切ってンだよ。クソガキもタックルしてくるしな」

「それは……、お気遣いありがとうございますというか申し訳ありませんというか……、とミサカは言葉を選びます」

「別に、気にすンな。それよりオマエ、こンなとこで何してンだ?」

「あっ、とミサカは本来の目的を思い出します」

「もォその口調に突っ込まねェからな」

一方通行の言葉を無視して、ミサカ10032号は慌てて廊下の向こう側に駆け出した。
しかし、そこにはもう誰もいない。
ただ、先程『何か』が引き摺られていったと思われる床には、真っ赤な血が擦り付けられた痕がついていた。



888 ◆uQ8UYhhD6A2012/04/24(火) 00:38:05.82JsxnDwzjo (5/6)


「ミサカは最初、侵入者が現れたのだと考えました。ですがこれは、まさか……」

「あァ。垣根だな」

あまりにもあっさりと告げられた名前に、ミサカ10032号は一瞬茫然としてしまった。
だが彼女はすぐに我に帰ると、難しい顔をする。

「……怪我をしているのでしょうか、とミサカは推測します」

「いや、返り血だな。アイツはンなヘマ踏む真似しねェ」

「只ならぬ雰囲気のようでしたが、彼はああいうときはいつもこうなるのですか? とミサカは首を傾げます」

「あー……、まァ、怪我はしてないにしろ何かあったンだろォな」

それだけ言うと、一方通行はミサカ10032号の頭を軽く叩いて彼女の前を歩き始めた。
もしかして今のは頭を撫でられたのだろうか、とミサカ10032号は認識すると、前方を歩く一方通行に声を掛ける。

「今の彼はそっとしておいた方が良さそうでしたが、とミサカは判断を下します」

「良いンだよ、俺は。機嫌を損ねたところで天地が引っ繰り返ったって殺されやしねェよ」

「……そうですか、とミサカは取り敢えず納得しておきます」

それはつまり一歩間違えれば殺しに掛かられるくらいの状態であるということだが、ミサカ10032号は深くは追及しなかった。
一方通行は止めたって聞かないだろうし、その行動の動機も理解しようがなかったからだ。
洗脳装置で情報を強制入力され、研究所に軟禁されていると言っても過言ではない生活をしている彼女には、そうした機微を感じ取るだけの精神が発達していなかった。
意図的に、そうした成長をしないように調整されているのかもしれないが。

「それから、オマエは暫らく垣根に近付くなよ。他の研究員どもにも伝えておけ」

「何故ですか、とミサカは疑問を口にします」

「そこは気にすンな。触らぬ神に祟りなしって言うだろ、アレは天使だが」

「取り敢えず、了解しました。お気を付けて、とミサカは一方通行を見送ります」

「大きなお世話だ」

一方通行はそれだけ言うと、ミサカ10032号に背を向けて歩き出す。
ミサカ10032号は暫らくその背中を見つめていたが、研究員たちに一方通行の伝言を伝える、という任務を与えられたことを思い出してすぐに踵を返した。





889 ◆uQ8UYhhD6A2012/04/24(火) 00:39:25.24JsxnDwzjo (6/6)

投下してみると本当に短かったですね……、逆に居た堪れなくなってしまいました。
申し訳ありませんが、本日の投下は以上です。
もはや見捨てられてしまっても仕方ないレベルですが、次回の投下も気長に待っていて下さると嬉しいです……。
それでは、これにて。



890VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/04/24(火) 01:28:12.26ig0iyUJe0 (1/1)

乙 次もよろしくです


891VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/04/24(火) 06:47:03.53eACWKaOKo (1/1)




892VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)2012/04/24(火) 21:35:48.97die3iJIbo (1/1)

乙なノーネ


893VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2012/04/24(火) 23:41:57.22GXWu66n80 (1/1)




894VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/15(火) 19:22:45.64E/D9OMGl0 (1/1)

俺はいつまででもまっているぜ


895VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/15(火) 19:27:45.64PTEd6GOeo (1/1)




896VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/15(火) 22:45:33.97fgRXzsVo0 (1/1)




897VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/16(水) 19:57:47.19Nm374bCl0 (1/1)




898sage2012/05/16(水) 20:05:41.05WM2RDOiy0 (1/1)




899VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/16(水) 20:35:35.38Et2SGU0bo (1/1)

>>1乙


900VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/17(木) 08:12:40.13vS3JPAqy0 (1/1)




901VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/05/17(木) 08:20:00.26dcZgNB8E0 (1/2)

>>898>>900
あげんなksども!!
昨日今日と連続で(`・ω・´)wktk→(´・ω・`)ショボーンってなった俺の気持ちを考えてみろ(^言^)コンチクセウ


902VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2012/05/17(木) 08:25:47.06dcZgNB8E0 (2/2)

すまん>>898m(_ _)m
>>896>>897だった。半年romるわ。でもみんなマジでメ欄にsage入れてくれ頼むからorz


903VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/05/17(木) 09:07:20.50dCw86lKNo (1/1)

これだからsage厨は


904VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/17(木) 12:40:33.71ZUkqqQj/o (1/1)

あぁ


905VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/17(日) 15:51:04.98fb3kiW0qo (1/1)

>>902
くっせぇ

二ヶ月が目前ですね


906鹿児島2012/06/28(木) 17:58:01.02vD6bav9b0 (1/1)

せめて生存報告はしてほしいです……


907VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/30(土) 17:54:43.49dRv+7bo90 (1/1)

これ積んだな


908VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/07/04(水) 17:16:12.21+KszAdA20 (1/1)

おいマジかよ
待つのは良いけど落とさんでくれ


909VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/07/15(日) 09:56:24.67SyzOt7yg0 (1/1)

さすがにもう続きは書かれないだろうな
欝エンドしか思い浮かばんが、どうなる予定だったのかねえ・・・


910VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/07/15(日) 19:18:05.03ax3Ma6Uu0 (1/1)

諦めるなよ!
信じるんだ!!


911VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)2012/07/22(日) 01:49:15.2976tPi53ao (1/1)

ここまで期間が空くと絶望的か


912VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/07/24(火) 16:04:03.83aEnOy3gj0 (1/1)

待ってるよー