1 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 16:24:04.48csuMSGf70 (1/1)



この作品は理想郷のその他板にて投稿している『とある世界達の反逆戦争』と全く同じ物です。

この作品はスレタイ通り、

『とある魔術の禁書目録』
『灼眼のシャナ』
『東方Project』
『魔法先生ネギま!』

の四作品による多重クロス作品となっています。




前スレ↓
【電波】とある×シャナ×東方×ネギま【作品】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1291793711/




簡素なあらすじ
『神』と呼ばれる存在が居た。
余りにも異質なその存在は、とある四つの世界を舞台に戦いをけしかける。
身勝手な暇つぶしという理由で産み出された、本来なら無かった戦いにアレイスター・クロウリーと八雲紫が手を組み、戦いに挑むこととなった。
其々の世界の戦士達は"希望の世界"を中心に集い、運命に振り回されながらも戦って行く──


学園都市では上条当麻、一方通行、浜面仕上の三人を中心とした者達が、異世界の者との出会いをきっかけに戦いへと巻き込まれる。
負けたら世界が終わる──否応が無しに、彼等は世界に振り回されながらも戦うこととなった。
敵の集団、第三勢力、暗部。
複雑に絡み合い、科学の都市で戦いが動き出す。

一方。幻想郷ではこの戦いを知り、戦う準備を整えるために動く者達が居た。
比那名居天子もその一人で、唯我独尊な彼女は地底へと向かい、協力を要請する。
協力は取り付けれたものの、現れた異世界の敵。そして裏切り。
『完全なる世界』を認められない彼女は、緋想を身に纏って突き進む。
二人の少女も登場し、物語は『異変』へと変わってゆく。




世界と人々が交差する時、物語は始まる──






2 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:12:26.69OQ0OwW470 (1/32)



Q&Aコーナー




Q.ちょっとあらすじ適当過ぎじゃないか?
A.すみません!


Q.更新速度はどれくらいなのかな?
A.三日から一週間ぐらい。基本的には不定期えす。
(諸事情により、一か月に一週間くらい、執筆行為自体が出来ない時があります。ご了承ください)


Q.多重クロスって何?
A.多重クロスオーバー作品、つまりは二つ以上の作品を組み合わせた作品のことを言います。


Q.文書が下手過ぎて萎えンだよ三下。
A.いや、本当もうすみません……ガンガン指摘(特に地の文について)を下さると嬉しいです。


Q.ストーリーは大体どれくらいの長さになりそうなのかしら?
A.かなりの長編になると思います。このスレでは多分終わりません。


Q.雑談や議論はOKなのか?
A.勿論OKです。むしろやっちゃってください。本作とクロス元の四作品に関することであれば何でもOKです。


Q.設定改変とかはあるの?
A.本作品には大量の自己解釈設定が登場しますので、実力などに違和感を抱くかもしれません。注意してください。


Q.キャラの性格とかが違う気がするんだけど!?
A.特に東方キャラが変かもしれません。申し訳ない……


Q.オリジナルキャラは出るのですか?
A.出ません!……と言いたいですが、既に名前なし雑魚が出てきてます。


Q.生存報告はどんなケースでだ?
A.一週間以上遅れた場合は基本的にします。


Q.このコーナーって何か意味があるんでしょか?
A.……まぁ、全部のキャラが分かった人は凄いということでここは一つ。




3 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:15:32.59OQ0OwW470 (2/32)



パソコンに切り替えました。
なんか自分の文章が自分の文章として見えない……媒体が違うと、こうも見方が変わるのか。
それでは、投下


4 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:16:11.87OQ0OwW470 (3/32)






第七学区のとある場所にて。
会話が行われていた。
いや、会話というよりは一方的な愚痴に近かった。

「……なぁ、一つ聞いていいか」
「なんでしょう?あっ!やった、取れました!」
「なんでテメェはついて来てんだよ!?」

少年、垣根帝督の絶叫が疑問の感情を込めて響く。
対し、叫びを受けた側である少女、初春飾利は膨れっ面をしつつこう答えた。

「もう、垣根さん!周りの人に迷惑じゃないですか。せめてそれくらいの常識は持って下さいよ」
「……お嬢さん?本当に何がしたいんだ?それとも本当にただの馬鹿なのか?」
「何がしたいって……決まってるじゃないですか」

周りを見渡して、彼女は一言。




「ゲーセンに来たら、ゲーム以外にする物なんかないでしょう?」
「そういうことじゃねぇって言ってんだろうがよぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!」




彼にしては珍しいコメディな叫び声とともに、苛立ちを晴らすべく拳がUFOキャッチャーの機械に叩きつけられた。
直後に異常を知らせる甲高い警報が鳴ったのは、言うまでも無い。










5 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:17:15.40OQ0OwW470 (4/32)





「はぁ……」
「垣根さん。何も自分は一つも取れなかったからって其処まで落ち込まなくても……」
「原因が笑える程違うぞ」

ため息がまた一つ、垣根の口から吐き出される。
原因は勿論、自分の隣を並んで歩く花飾りの少女。
UFOキャッチャーで取ったぬいぐるみがそれ程嬉しかったのだろうか。
ニコニコと、見る者を明るくするような笑顔を垣根に見せて来る。

(……はぁ)

心中で更にため息を一つか二つ付き、だだ下がりのテンションを感じ取る。
つい数分前、垣根がゲーム機の警報を鳴らしてしまうまで二人は第七学区のとあるゲームセンターに訪れていた。
当然のこととして、垣根自身が来たくて来た訳では無い。
ただ単に、ファミレスから出ててからずっと初春が付いて来ているだけだ。
そして現在。何故か付き纏われている筈の垣根が彼女に先導されるという摩訶不思議な現象が起こっている。

「すみません。態々付き合って貰って」
「無理矢理引っ張って行った奴の言葉じゃねぇだろ」

ジロリ、と剣呑な視線を受けても、初春は戦利品である鳥のぬいぐるみを抱いたまま笑っているだけだ。

「そういう垣根さんだって、格ゲーとかはノリノリだったじゃないですか」
「うるせぇな。久しぶりだったからやりたくなっただけだ」
「……格ゲーする相手が居ない、友達居ない、要するにぼっちなんですね。可哀想に……」
「テメェは本当に発言の一つ一つが黒ぇな」
「そんなことないですよ~」

飴玉を転がすような可愛らしい声だが、いかんせん馴れ馴れしくなってからの彼女の言葉はグサッと来たりイラッと来たりするものが多過ぎる。
自分を怒らせて死にたいのかと自殺願望を疑うが、これが素のようだから質が悪い。
多少額に青筋を浮かべつつ、垣根は頭脳を働かせて、もっとも効果的な反論を口から紡ぎ出す。

「そういえばテメェいいのかよ?周りから注目の的だぜ?ぬいぐるみを抱えた彼氏持ちジャッジメントととして」
「ふぇ!?」




6 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:17:55.83OQ0OwW470 (5/32)


反論で突かれた点が予想外だったのか。
驚きました、という感情を全身を飛び上がらせながら示し、彼女は辺りを見渡す。
二人は白いガードレールで車道と歩道を区切られた対して広く無い通りに居る訳だが、それでもそれなりの人達が路面を踏みしめ音を立てながら歩いている。
その内の何人かは鳥の人形を抱きしめ隣にイケメンの男を立たせたジャッジメント少女として初春に注目しており、ひそひそと話題の種に使う通行人も何人か。

「そ、そんな……」
「はっ。仕事中の癖してゲーセンなんか行きやがるから──」
「垣根さんが彼氏だなんて……何故そんな最悪な勘違いをされているんですか!」
「そっちかよ」

仰け反る初春へと、呆れたように呟きでツッコミを入れる垣根。
大声で突っ込んでいたらただでさえ予想外の展開で削られている体力・精神力が大幅に削られてしまう。
そんな悪循環はごめん被りたい。

「お前さぁ……少しは口を閉めるってこと覚えたらどうだ?思ったことポンポン言わねぇでよ」
「素直は美徳なり、ですよ」
「真っ黒な言葉の数々がどう変換されたら美徳になるんだつーの」

なんだかんだ言って適当に辺りへと目をやりつつ、二人は並んで歩いている。
垣根は気が付いていなかった。
自分が無意識の内に、彼女に歩幅を合わせていることに。

「………………本当に……」
「あぁ?何か言ったか?」
「なんでもありませんよ。第一なんで喧嘩腰なんですか。私何かしました?」
「今日俺に会ってからの言動を一つ一つ振り返れ。よっぽどの馬鹿じゃない限りは直ぐ分かる」
「……ふふっ」




7 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:18:37.08OQ0OwW470 (6/32)


けっ、とチンピラのように吐き捨てる彼へと、初春はまるで素直じゃない子供を見るような母親にも似た笑みを向けていた。
むずかゆくて苛立つ、しかし何処か心安らぐ笑顔。
何度も自分に向けられているそれに、垣根は未だ慣れない。
自分に、その笑顔を向けられる資格は無いからだ。

「……クソったれ」

気を晴らすように路面を一際強く蹴り飛ばし、初春よりも数歩分前に出る。
そのままズンズン、今までのスローペースが嘘のような早さで前へ前へと進んでいた。

「あっ、待って下さい!早い、早いです!」

離れて行く背中を、初春は慌てて追いかける。
お世辞にも運動神経が良いとは言えない彼女の動きは遅い。
垣根が本気で振り切ろうと思えば、何時でも振り切れる。

「……チッ」

だが。
彼は背後から迫る足音を聞きつつ、歩くペースを静かに、尚且つさり気なく下げてゆく。
まるで、少女に追いつかれるのを望んでいるかのように。
振り切ろうと、振り払おうとすれば何時でも出来た筈だ。
なにせ相手は戦闘力零の少女。
ジャッジメントの腕章を付けていることから、なんらかの力はあるのだろう。
だからといって垣根帝督と渡り会えるかと言えば、それは否。
彼にとって初春は塵に等しい。その気になれば、一瞬で終わる。
この大変ウザったらしい、年下の少女と街を回るなどというデート紛いの行為から。


しかし、彼は"その気"になることが出来ない。


一度殺しかけた少女。
彼女と離れること、彼女を殺すこと、そんな彼にとっては当たり前で簡単だった選択肢を取ることが出来ない。
何故か。その答えが、垣根には分からない。
分からないのに、その答えに彼は無意識の内に動かされている。

「もしかして、嫌われたくねぇとか思ってんじゃねぇだろうな」




8 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:19:06.58OQ0OwW470 (7/32)


第三者にでは無く、自分に対して呟く。
もしそうだとすればお気楽にも程がある。空前絶後の爆笑ものだ。
初春飾利との繋がりはなんだ?向こうが被害者、此方が加害者。
しかも人を自分のために何人も殺して来た殺人者だ。
立場も違う。
向こうは明るく楽しい普通の表の住人。
此方は絶望と死で塗り固められた裏の住人。
何気ない会話で誤魔化せるレベルじゃない。

(忘れてんじゃねぇよ。自分が何モンで、どんな人間かを)

光へと歩み寄ろうとする自分へ、言い聞かせる。
大体彼女だって言っていたではないか。
自分を"見極める"ために、ついて来ているのだと。
垣根帝督からの恐怖は、初春飾利の中にしっかりと根付いている。
それを、忘れてはいけない。

「……?」

其処まで自分を戒めてから。
ふと、背後からの足音が聞こえなくなっていたのに気が付いた。
周囲の雑踏による騒音だけが、彼の鼓膜を叩く。

「……オイ、どうした」




9 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:20:19.81OQ0OwW470 (8/32)


らしくないと思いつつ、立ち止まって背後へと振り返った。
其処には後五歩といった所で立ち止まる初春が居た。
彼女は垣根の方を見ておらず、真横へと顔ごと視線を向けている。
釣られるように、垣根の目も初春の瞳が見る先を見た。
其処には、入り口。
二つの建物に挟まれた所為で日光が入り込まなくなった、薄暗い空間。
『闇』を感じさせる路地裏。
学園都市では有り触れた物で、抜け道として利用する学生も多い。
だが、垣根にとっては正直良い場所ではない。
周囲から隔絶された空間は、暗部の仕事で良く使われた空間に似ていた。

「なんだよ、一一一(ひとついはじめ)でも居やがるのか?」

五歩の間を自分から垣根は詰め、睨むように目を細めつつ顔を近付ける。
至近距離で声をかけられても初春は微動だにしなかった。
ただ真剣な表情で、路地裏の先を見ているだけだ。

「……垣根さん。これ持って待っていて下さい」
「オイ!?」




10 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:20:56.02OQ0OwW470 (9/32)


唐突に、初春は持っていた人形を彼に押し付けて駆け出した。
胸元にデフォルトされた白い鳥ぬいぐるみを押し込まれ、思わず受け止めてしまう。
そうこうしている内に彼女は路地裏へと飛び込み、白と青の制服姿を垣根の視界から消した。

「……」

暫しの間、手にぬいぐるみを持ったまま垣根は無言で立ち続ける。
男には壊滅的なまでに似合わないぬいぐるみを持つイケメン、というのはそれなりに噂となっておかしくないレベルの奇妙さだが、周囲の反応など無視して垣根は路地裏を見ていた。

「……」

口を閉じたまま、彼は薄暗い入り口から先の空間を睨む。
当然、透視系能力者では無い垣根には闇の先に居るであろう初春の姿を見ることは出来ない。

「……クソが」

苛立ち気に茶色の髪を乱雑に掻いて、垣根は足を踏み出す。
向かうのは──








11 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:21:33.05OQ0OwW470 (10/32)





「ジャッジメントです!」
「あぁ?」
「……えっ!?」

路地裏。
暗闇の光が差さない世界で、初春は自分の制服に付けられた腕章を示しながら叫んだ。
二つの瞳が捉えた物。
それは今まさに暴行をしようとしている不良らしき男と、その暴行を受けようとしている少女。
壁に張り付いている少女が、癖が強そうな赤髪にそばかすが可愛らしく浮かんでいる、女子中学生らしい私服を身に纏った少女であるのに対し。絡んでいる男の方は全身の所々にシルバーアクセサリーを付けた、正直何処にでも居そうな不良である。
その右手には大振りのナイフが握られているため、大方刃物で直接脅していたのだろう。
狙いは金か、強姦か。
何方にせよ、唾を吐きたくなるようなクズであるのは間違いない。

「おいおい、ジャッジメント?こんなガキがか?はっ、どれだけ人手不足なんだぁ?」
「……っ」

不良は少女から意識を外し、突然の乱入者である初春へと嘲りを見せながら体を向ける。
これで少女が何かされる危険性は低くなった、と考えると同時、自分自身への危険によって恐怖が小さいながらも背中を走った。
しかしそれをおくびにも出さず、ジャッジメントとして彼女は唇を動かす。




12 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:22:10.85OQ0OwW470 (11/32)


不良は少女から意識を外し、突然の乱入者である初春へと嘲りを見せながら体を向ける。
これで少女が何かされる危険性は低くなった、と考えると同時、自分自身への危険によって恐怖が小さいながらも背中を走った。
しかしそれをおくびにも出さず、ジャッジメントとして彼女は唇を動かす。

「窃盗、及び暴行未遂の現行犯で拘束します。大人しく──」

そして、当然のことながら、

「はぁー?それマジで言ってんのかぁ?」

刃物という絶対優位な凶器を持つ不良が、そんな言葉に従う筈が無い。
しかも相手が自分よりも小さく弱い存在であれば尚更だ。
ナイフを脅すように散らつかせながら、初春との距離をゆっくり詰めてくる。
其処に怯えはない。
当然だろう。
ジャッジメントというのは確かに学園都市での治安維持部隊の一つだが、初春は余りにも見た目が悪過ぎた。
小さな体に中学生らしい幼い表情。
更に、見た目通り初春は弱い。




13 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:22:59.34OQ0OwW470 (12/32)


(あー、やっぱり先に白井さんか近くの支部へ連絡するべきでした……)

今更後悔しても、時間は戻らない。
初春はジャッジメントにおいても基本的に後方支援で、現場に出ることは殆ど無い。それは、彼女自身の戦闘力が0といってもいいからだ。

「私のことはいいから早く逃げて下さい!」

せめてもの救いは、不良の意識が完全に生意気な(不良からはそう見える)ジャッジメントである初春の方へと完全に移ったことだろうか。
隅へと追いやられていた少女は言葉を受け、戸惑いつつも足を反対側の道へと踏み出すが、

「おっと、逃げんじゃねぇぞガキぃ」
「……っ」

その言葉に赤毛の少女の肩が跳ね、動きが止まる。

「オマエが逃げたら俺はこいつを殺す。言っとくがぁ?嘘じゃねぇぞ。明日の朝刊でジャッジメントの斬殺死体を見たくなけりゃ、何もせずにジッとしてろ。そうすりゃあ命は取らねぇ」

分かりやすい脅し。
だが、情が強い人間に対してこういう類いの脅しによる効果は大きい。




14 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:23:30.37OQ0OwW470 (13/32)


「うっ……」

動こうにも動けず、少女は視線を出口と初春へ交互に彷徨わせる。
恐らくはどうすべきなのか迷っているのだろう。
優柔不断というには余りにも酷な選択を突きつけられた彼女へと、初春は叫ぶ。

「いいから!早く行って下さっ!?」

言い終えることは出来なかった。
目と鼻の先に、銀色に煌く凶器を突きつけられたからだ。
尖った鋭そうな先端が鼻先に触れ、彼女の生存本能を震わせる。

「なぁ、オマエ状況分かってる?あんまし生意気言ってると、マジで刺しっちまうぞ?」

目蓋を大きく開いて、鋼の凶器を凝視。
後数センチ前に出されたら確実に皮膚が裂ける。
鼻なので直ぐに絶命する危険性などは低いが、それなりの痛みが襲うだろう。

(……どうしましょう)




15 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:24:14.06OQ0OwW470 (14/32)


選択肢は限りなく少ない。
逃げるか、脅しに屈するか。
脅しに屈するのはジャッジメントとして問題だが、一番簡単に物事が収まりそうだ。
逃げるのはタイミングさえ被害者の少女とあえば、もっともデメリットのない選択だろう。
ただし、リスクが大き過ぎるのを除けば。

「なぁに、俺だって人を殺してぇとかんな無駄なこたぁ考えてねぇ。ただなぁ、ちっとばっかし金が欲しいんだよ。遊べる金が、な」
「……だったらバイトでもすればいいでしょう」
「あー、そうだなぁ。確かにそうだなぁ。でもよぉ、もっと簡単に金を手に入れる方法があんだよ」
「それが女子からの恐喝ですか。終わってますね、主に脳が」
「…………あ?」
「うえええっ!?ちょ、なんで……」

ツッコミの悲鳴を上げる少女。
それも仕方がない。
人を殺せる凶器を突きつけられた状態で、罵倒を放つ同い年らしき人が居るのだ。
一方で不良はたっぷり三秒、初春が言った言葉の意味が理解出来なかった。
間抜け面を晒す不良へと、初春は口を更に動かす。




16 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:24:39.46OQ0OwW470 (15/32)


「意味が分かりませんか?終わってると言ったんですよ、貴方の脳が。いや、というより全部ですかね。なんですかそのチャラチャラチャラしたアクセサリーは。格好付けてるつもりですか?だとしたらダサいですね、センスも終わってますよ」
「ひぃぃぃぃっ!?」
「て、てめぇぇぇぇぇぇっ……」

容赦なく口から毒が飛び出す初春を見て今度はその罵倒っぷりに悲鳴を上げる少女。
対して、罵倒を放たれた男はナイフを持つ手をプルプルと怒りで震わせている。
が、初春自身の表情に揺らぎは無かった。
何故なら、彼女には絶対の確信があったから。

「……で?刺さないんですか?」
「っ……」

挑発的な言動に対し、不良は動かない。
いや、正確にはナイフを突き出せない。突き出すことが出来ない。
何故か?


突き出すだけの"覚悟"が無いからだ。





17 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:25:20.70OQ0OwW470 (16/32)


「どうもおかしいと思いました。やけに脅しばかりで、実際に刺したりはしないっていうのが特に。本当に喧嘩にナイフを持ち出すような不良なら、実際に肩に刺したりして脅しますよ。金銭関係なら特に」
「っ……!」

不良の息が詰まったのを、その場に居る二人は確かに見た。
学園都市というのは確かに治安が悪い部分も多い。
故に凶悪な能力を使ったり、刃物や銃器などの武器を使う者達も当然居る。
それらを使う者の共通点として、相手への危害を考えていないというのがある。
大概が自分勝手かつ横暴で、平気で他人を傷つけれるような奴らばかりだ。
しかし、初春にナイフを突きつける不良は絶対的優位に立っているにも関わらず冷や汗を浮かべていた。
持っているナイフの先端が小さく揺れ、鈍い輝きを揺らがせる。

「ちゃらい格好にガンつけに脅しに凶器。それで小遣い稼ぎでもしてたんでしょうけど……本当、しょうもないですね。人を殺せる物を持っておきながら、躊躇うなんて」

刺さらないと分かっている凶器など怖くない。
そう不敵な笑みを見せて言ってやったが、




18 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:25:54.50OQ0OwW470 (17/32)


「……るせぇ、」
「っ?」

険悪な雰囲気が、不良から発せられた。
若干俯き加減になり、ブツブツと小さく何かを呟いている。
初春はこの雰囲気を何度か味わったことがある。
人が『変わる』寸前の、圧倒的なまでに切り替わる感触。

「……うるせぇんだよこのクソガキがァァァァァァァァァァァッッ!!」

怒鳴り声が爆発した。
不良の表情が怒りで歪み、口から獣のような咆哮が迸る。
目は血走っていて、どう見ても錯乱していた。
初春は知るよしも無いが、この不良は『ビビり』と言われて仲間から外れて行き、孤立したタイプの人間だった。
それを期に、不良から足を洗ってしまえば良かったのだがそこは腐ったしょうもないプライドが邪魔したのだろう。
自分の弱い所を突かれ、逆上した男の取る行動は勿論、初春への攻撃。




19 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:26:23.16OQ0OwW470 (18/32)


(まずっ──)

やり過ぎたと気がつくが、初春の運動神経は悪かった。
思考で次に何が来るか分かっていても、体は直ぐには動かない。
姿をぶれさせながら、勢い良く突きつけられていたナイフが引かれた。

「危ない!」

赤毛の少女からの切迫した叫びが鼓膜を打つが、その時には既に、銀色の凶器が突き出されている。
相手の体格通りの早さで放たれた突きは、動こうとしてまだ動けていない初春の顔面へと、寸分の狂いなく突き進み、彼女の視界が目前に迫った銀色に塗り潰されて、






20 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:26:54.92OQ0OwW470 (19/32)





「オイ、三下」




ガシィ!と、止められていた。

「「「──っ!?」」」

驚きの度合いは違えど、その場に居た三人は突然現れた誰かに目を見張る。
その誰かはたやすく不良の右腕を右手のみで掴み、それ以上前へと進もうとするのを阻んでいる。
誰かの正体は、一人の青年。
初春は呼んでいた。

「垣根さん!?」
「……」




21 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:27:24.61OQ0OwW470 (20/32)


名前を呼ばれても垣根は反応しない。
ただ髪をそよ風で僅かに揺らしつつ、驚愕の表情を見せる不良を睨んでいた。

「な、なんだてめぇは……」

不良は震えながらも、なんとか言葉を吐き出す。
彼は恐怖していた。
ナイフを突き出そうと腕に力を込めているのに、まるでコンクリートに固められたようにピクリとも腕が動かないからだ。
そんな不良へ、垣根帝督は一言。

「失せろ」

ゾッ、とするような声音だった。
聞く者を否応無く震わせそうな、格が違う脅しの言葉。




22 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:27:51.72OQ0OwW470 (21/32)


「ひっ……」

自分がなんの変哲もないただの三下に過ぎないことを強制的に自覚させられる声を聞き、不良は小さく後ずさる。
一秒一秒が経つたびに、まるで垣根の背中から何かが出て来る感覚さえ、三人は感じ取っていた。
圧倒的な、対峙するのが馬鹿馬鹿しくなる程の力量差。
それを思い知らせる何かが、空間に満たされて行く。

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!」

そして、不良は逃げ出した。
生存本能に従い、身を守るために後先考えず全力で走る。
腕を振り払った際にナイフを落としたが、拾おうなどとは考えなかった。
ただ人知を超えた化け物から逃げるために、不良は逃げる。
垣根の反対側に位置する出口へと。




23 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:28:42.05OQ0OwW470 (22/32)


「どけぇっ!」
「きゃっ!?」

その際。
ドンッ!と、出口付近に立っていた赤毛の少女が乱暴に突き飛ばされた。
不良に突き飛ばされた彼女は体格差に負け、固いコンクリートに尻餅をつき、小さな悲鳴を上げた。
その姿に、不良の背中へ声をかけようとしていた初春が慌てつつ尋ねる。

「だ、大丈夫ですか!?」
「う、うん……痛たた……」
「……逃げっぷりも対した三下だ」

少女に駆け寄る初春を視界の隅に入れつつ、垣根は感想を漏らした。
不良の姿はもう路地裏の闇に紛れて見えなかった。
態々追う必要も無いだろう。




24 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:29:15.91OQ0OwW470 (23/32)


少女に駆け寄る初春を視界の隅に入れつつ、垣根は感想を漏らした。
不良の姿はもう路地裏の闇に紛れて見えなかった。
態々追う必要も無いだろう。

「……チッ」

またもや前の自分とは違う思考に、舌打ちを一つ。
足を軽く振り上げて、不良の落し物たるナイフを踏みつける。
人体的にあり得ない力を持って振り下ろされた靴底は、ナイフの金属部分、強化ゴムの部分関係無しに全てを粉々に粉砕する。
ビキッ!!と、コンクリートにもヒビが入り、それを聞いた少女二人を反応させた。

「……垣根さん……?」
「……」




25 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:29:44.35OQ0OwW470 (24/32)


言葉は返さなかった。
ただ、踵を返し、自分が来た道を引き返す。
まるで、何事も無かったかのように。

「垣根さん!」

遠ざかって行く赤い制服の背中を追いかけようとするが、今は被害者を保護するという、ジャッジメントととしての仕事がある。
自分の意思を優先させる訳にはいかないという、仕事に対する思いに初春は屈んだ状態から立ち上がろうとするのを止めた。
しかし、

「えーと、事情は良くわかんないけど、私は大丈夫だから。助けももう呼んでるし」

意外なことに、赤毛の少女からそんな言葉が発せられた。
苦笑いを浮かべながら行っちゃってとばかりに手を振る彼女を見て、初春は言葉の意味を考える。




26 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:30:11.76OQ0OwW470 (25/32)


(もう呼んでいる?もしかして、念話系の能力者なんでしょうか……いや、でも……)
「ほら、いいから早く早く!あの人、追いかけれなくなっちゃうよ?」
「……っ」

その言葉に、初春の中で釣り合っていた心の天秤が傾いた。

「すみません!何かあったら、近くの風紀委員支部までお願いします!」

最後にそう叫んでから、初春は走り出す。
垣根が去った方向へと足を動かし、路面を踏みしめながら。
彼女の姿もまた路地裏の闇に紛れ、見えなくなる。


初春飾利は知らない。




「あっ、"小太郎君"!」
「"夏美姉ちゃん"!全く、心配させんなや」
「ううっ……ゴメン」




自分の背後で、そんな会話が行われていたことを。








27 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:30:45.17OQ0OwW470 (26/32)




「垣根さん!」

遠ざかっていた背中は、その声で止まった。
路地裏の入り口近く、彼が路地裏という空間から出る前に、初春は彼に追いついていた。

「はぁ、はぁっ……げほっ」

呼吸が乱れ、頭は急激に上がった体温のせいで上手く働かない。
ぼやけた視界の中で、何故か彼の後ろ姿だけははっきりと見える。

「……」
(よかった……間に合って)

黙ったままの彼を見て、初春は無理をした自分の行動が正しかったと実感した。
なにせその後ろ姿は、今にも闇に溶けてしまいそうな程、頼りなかった。
目を離したら、今にも消えてしまいそうな、夢幻のような姿。

その姿から、声が聞こえた。




28 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:31:17.30OQ0OwW470 (27/32)


「一緒だ……」
「えっ……?」

掠れるような、もし雑踏の中だったならば聞こえなかったかもしれないくらいの、小さな小さな声。

「あの屑みてぇな三下野郎と、俺は一緒だ……」

小さな声は、何故か初春の耳に届く。
彼が何かしているのか、それともただ単純に耳に意識を集中しているためか。

「人を殺して置きながら、どっぷり闇に浸かって置きながら、今更善人ぶってやがる……本当、笑えるぜ……」

ギチッ、と。
彼の右手が強く強く、握り込まれた。
彼がどんな表情をしているのか、彼女からは分からない。
彼がどんな葛藤をしているのか、彼女からは分からない。
ただ、

「……私は──」




29 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:31:52.89OQ0OwW470 (28/32)


初春飾利は、これだけは彼に言いたかった。


「私は、今日垣根さんがしてくれたこと、守ってくれたこと……それだけは絶対に、悪いことではないと……そう思っています」


初春には彼のことなど分からない。
彼が善人なのか悪人なのか、一年前までランドセルをかるっていたような少女に、こんなことを考えるのは難しい。

だけど、彼が守ってくれたこと。
それだけは決して、悪いことでは無い筈だ。

「……はっ、お喜楽な思考だな」

その言葉を受けて、
垣根帝督は、笑った気がした。







30 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:32:19.68OQ0OwW470 (29/32)



おまけスキット




スキット23「女子」


黒子「そういえば……何故分かったんですの?」

青髪「へっ?何がや?」

黒子「いえ、貴方あの龍モドキに攻撃する際、『女の子を傷つけるのは趣味じゃない』などと言ってたではありませんの」

青髪「あー、なるほど……」

黒子「確か貴方はあれの変身前を見ていない筈ですのに……」

青髪「ふふふ、えぇ質問やな。ズバリ、答えは!」

黒子「答えは?」

青髪「男の勘や!」ビシッ!

黒子「…………真面目に聞いたわたくしが馬鹿でしたの」






31 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:33:47.04OQ0OwW470 (30/32)

最近絶賛スランプ中……なんとか乗り越えたいです。
では、用事があるので。



32 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:34:34.78OQ0OwW470 (31/32)

忘れてましたすみません……



スキット24「花の真実」


垣根「しっかし、前見た時も思ったけどよぉ……無駄に豪華な花飾りだな、それ」

初春「?」

垣根「俺も人のことは言えねぇが、幾らなんでもそれはやり過ぎだろ。メルヘンの住人かテメェは」

初春「なんの事ですか?」

垣根「なんの……って、テメェのその、花──」


初春「な・ん・の・こ・と・で・す・か?」


垣根「っ!?」ビクゥ!

初春「垣根さぁん?」

垣根「な、なんでもねぇ……」







33 ◆roIrLHsw.22011/05/08(日) 19:35:19.20OQ0OwW470 (32/32)

今度こそ終わりです


34 ◆roIrLHsw.22011/05/12(木) 19:57:38.48mpXh/gR00 (1/1)

諸事情により、明日の朝投稿します。



35VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)2011/05/13(金) 01:13:49.21JV/C1GTG0 (1/4)

おつ
帝+春をありがとう


36VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東北)2011/05/13(金) 01:15:10.29JV/C1GTG0 (2/4)

すいません
ageてしまいました


37VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東北)2011/05/13(金) 01:16:41.91JV/C1GTG0 (3/4)

連投とageすいません



38 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:27:34.769rW/t74N0 (1/46)

>>37
いえ、お気にならさず。

投下します!



39 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:28:11.929rW/t74N0 (2/46)





「もう、勝手に行くからびっくりしたんですよ」
「そうか。そりゃ悪かったな」
「あっ、反省してませんねー?」
「別に。する必要も無ぇだろ」
「…………あいたたた……なんだか急に右肩が痛くなって来ました。主に~酷い暴言のせいで」
「……本当にテメェは度胸があるな」

不良に絡まれていた少女を助けてから、約一時間後。
垣根と初春の二人は先程までと同じように、ちょっと不思議な会話をしつつ街を歩いていた。
彼等が居るのは第十学区。
学園都市において唯一墓地があり、学区の中でも治安が悪いことで有名な学区だ。
そのため先のような不良モドキでは無く、本物の不良というべき人間がうようよ居る。
が、幸いと言うべきか(襲撃するであろう者達の方が)、二人に絡んで来るような者達はまだ一人として居ない。

というより、まず周囲を歩いている人が数える程しか居ない。

「で、こんなとこに連れて来といてなんだよ。てっきりテメェの担当は第七学区だとばかり思ってたんだがな」

垣根の気怠そうな言葉は尤もだ。
そもそも、風紀委員というのは本来は所属学校の校内における治安維持を想定された組織である。
なので実際の所、校外に置ける活動は本来管轄外なのだ。
といっても、街中で警邏するジャッジメントも少なくはない(寧ろ多い)し、事件に駆り出されることもしばしばある。
だが基本は校内プラスその学校がある学区ぐらいだ。
普通なら、こんな大出張などする訳が無い。




40 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:28:45.039rW/t74N0 (3/46)


「そう言わればそう何ですけど……」

折りたたみ式の比較的ノーマルな携帯を取り出しつつ、真面目な顔で初春はこの大出張の説明を始めた。

「実は今学園都市ではちょっとしたことが起きていて、ジャッジメントも各地へと駆り出されているんです。私も、学校が休校になりましたから」

ほうほう、と垣根は相槌をうってから、

「で、テメェはゲーセンで取ったぬいぐるみ片手に見回ってる訳だ。不真面目そのものだな」
「ちょ!私は垣根さんに会うまでちゃんと警邏してましたよ!」
「その言い方だとゲーセンに行くハメになったのは俺の所為って聞こえんだが……?」
「……?違うんですか?」
「笑顔で言い切りやがったよこいつ」

にっこりとした自分の言葉に間違いはない!などと思ってそうな笑みに、自然と青筋が浮かんだ。
テメェがゲーセンに連れ込みやがったんだろうがつかテメェ格ゲー強過ぎんだよ一体どれだけやりこんでやがる……などという本音を必死に抑える垣根の内心などいず知らず、右腕と胴の間にぬいぐるみを挟んだ初春は携帯の画面を見やりつつ、流れるように説明を続ける。

「──表向きは書庫(バンク)のサーバーの故障、という風にしてますが、実は学園都市の監視システムが"根こそぎ"やられまして……衛星映像が映らなかったり、ダミー映像を流されたり、監視カメラの映像に細工がされたり……メインシステム自体がやられちゃってるんです」
「はぁ?なんだそりゃ?」




41 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:29:25.279rW/t74N0 (4/46)


突拍子も無い話に彼は髪を掻きつつ呆れ返った。
今初春がサラリと言った内容は、学園都市という科学の街においてかなり異常、というかあり得ない物だ。
垣根帝督という、学園都市で二番目の頭脳を持つ彼だからこそ、その突拍子無さがリアリティを持ってして感じ取れる。
まず学園都市のコンピュータにハッキング、よりにもよって一番厳重であろう監視装置のサーバーにハッキングを仕掛けるなどまず"無理"だ。
例えあのクソったれな第一位であろうと、学園都市統括理事長が居る限り、直接手を出せる筈が無い。

「ジャッジメントやアンチスキルに通達された情報では、監視システムの一部という話ですが……完全に全部掌握されてます。絶対に必要な部分……例えば学園都市の上空や外周、重要研究所の周辺などは"ワザと"スルーされてますから」
「……」

暫し、垣根は顎に手を当て考える。
なるほど。ダミー映像などを流せるだけの技術と余裕があるのなら、監視システム関係を全て乗っ取れるに違い無い。
しかし、だとすると、

「何がしてぇんだそいつ等は?」

分からない、とばかりに両手を上に向け、首を傾げる。
何故学園都市の監視システムを乗っ取っておいて、"何もしていない"のかが気になる。
監視装置を全て遮断して学園都市にテロリストを送り込む、監視装置のハッキングを学園都市中に広めて混乱させるなど、そのハッキングした奴はその気になれば学園都市を地獄に落とし込める筈だ。




42 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:29:51.599rW/t74N0 (5/46)


「それとも、学園都市統括理事長に脅しでもかけてるつもりか……?」

だとすればその人物はよっぽどの馬鹿か、もしくは異常者か。

「目的も相手も分からないので、ハッキリ断言は出来ませんが……なんだか違うような気がします」

垣根のその言葉を、初春は歩きつつ否定する。
かといって、なんらかの確証があっての否定ではない。
ただ、ジャッジメントをやって来て身についた現場の勘とでも言うべきものだ。
それが垣根にも伝わったのか、彼は何でと尋ねることはしない。
代わりに、

「出張の理由は分かった。が、んなことを俺みたいなただの部外者野郎に言って良かったのかよ?」
「…………もしかして、心配してくれてます?」
「うるせぇな。どうなんだ」

そっぽを向く彼を見て、初春は素直じゃないなぁという至極当然の思考を抱いた。
なんともまぁ、下手な感情表現だ。
しかしツッコミを入れると照れ隠しに怒鳴られそうなので、彼女は二パッと笑いながら言う。




43 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:30:40.969rW/t74N0 (6/46)


「大丈夫ですよ~。既にネットで情報が僅かですが漏れてますし、垣根さんが知ったからといってどうこうなることもありません」
「……そうか」

小さく答える垣根に、初春はクスッと小さく苦笑。
笑われたのが男として気にいらなかったのか。
垣根は軽く舌打ちをすると、歩くスピードを早めて先へ先へと進み出す。

「あっ、また!もう、待って下さい!第一次は左です!左!」
「あぁ?」

ピタッ、と。
その言葉に、彼は足を止めた。
待って下さいだけなら止まらなかったが、初春の言葉に続きがあったからだ。
自然と右の方へと向けていた足を止め、振り返りながらも訝しむ。
今二人が居るのは片道一車線の通り、その突き当たりだ。
Tの字を形をした通りで、目の前には巨大な壁に囲まれた何かの研究所が存在している。
研究所自体はどうでもいいが、問題は右の道と左の道。
右の道はだんだんと細くなっている、人気の少ない道。
反対の左の道はそれなりに人が居る通り。
当たり前のこととして右に行くであろうと考えていた垣根は、疑問を早歩きで近付いて来た初春へと投げかけた。




44 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:31:09.479rW/t74N0 (7/46)


「どういうことだ?見回りなら、人が居ない方を行くのは常識だろ」

疑問に対し、漸く追いついた初春は呼吸を整えつつ、

「ふっ、はふっ……えっ、えっとですね。私の考えとかそういうのじゃなくて、メールにそう書かれてるんです」
「メール?」

オウムのように単語を聞き合う返す垣根。
そうです、と返しながら彼女は携帯の画面を垣根の方へと見せた。
彼女の所属する支部からの連絡だろう。
其処には簡素な文章が白い背景をバックに羅列されており、確かに巡回ルートを指定されていた。
なる程、確かに普通の文面だ。横に巡回する理由も一つ一つ書かれていて、かなりの長さになっているが。

「多分、警邏を効率良く行うための処置なんでしょうね。監視装置の穴をカバーするために、相当回らなきゃならないらしいですから」
「……」

垣根は黙って初春の言葉を聞いていた。
そして、




45 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:31:50.629rW/t74N0 (8/46)


「貸せ」
「わっ!?」

差し出していた初春の手を掴み取り、携帯を取り上げた。
そのまま右手で携帯を持ち、カチカチと操作して行く。その姿はこの上なく真剣で、周りが声をかけるのを躊躇わせる程。
しかし、

「何するんですかぁぁぁっ!?返し、返して下さいぃぃっ!」

個人情報満載の自分の携帯を見られている初春にはたまったものではない。
必死に背伸びして携帯を取ろうとするのだが、残念ながら垣根は携帯を持つ手を自分の頭よりも上に上げているため、取り返すことが出来ない。
せめてもの抵抗として垣根の体を揺らすが、彼はビクともしなかった。

「……ほらよ」
「うぅっ……もうお嫁に行けません……」

結局、それから携帯が返されたのは五分後。
軽く放られた携帯を危なげな手つきで受け取り、初春はへなへなと崩れ落ちる。
周りに人が居なかったのが幸いか。
居たらイケメン男にすがりつくジャッジメント女という末代まで語り継がれそうな光景が見られていただろう。そんなところを誰かに見られたら、本当に部屋から出れなくなっていた所だ。
想像しつつ、恨みがましそうに涙目になりながら初春は上目遣いで犯人を見る。

「酷いです!最低です!女の子の携帯を、勝手に使うなんてぇ……」
「……」
「……垣根さん?」




46 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:32:19.519rW/t74N0 (9/46)


しかし。
垣根は初春の言葉を全く聞いていなかった。
黙って宙を眺め、目を細めている。
なんらかの思考を働かせているのが分かる考え顔。
てっきり憎まれ口を叩くと思った初春は、恐る恐るといった風に口を開く。

「えーと……どうしました?」
「……おい、そのメールが来たのは二~三十分前だよな?」
「え?えぇ、そうですけど……」
「おかしい」
「はい?」

キョトン、と。いきなりの発言に戸惑う初春に対し垣根は飽くまで分かりやすく、自分の考えを纏めるように言葉を紡ぎ出し始めた。

「いいか、この第十学区は学園都市の最南端にある。だから本当に其処に行くべきなら、かなり前に連絡を入れていた筈だ。なにせ、隣り合った学区で何か乗り物を使わない限り、二十分そこらでここに来れる筈がないからな。もしお前が真反対の学区にでも居たらどうするよ?」
「で、でも、時間指定はされてませんよ?それに、第七学区は第十学区と隣り合ってますから、第七学区に所属する私をここに派遣するのはそう対して……」
「あぁ、そうだな。けど二つ目。『文面が余りにも普通過ぎる』」

?、と初春はいよいよ本格的に首を傾げるが、垣根は構わなかった。
少し暗く青い、ムカつくくらい晴れている空を眺め、彼は言葉を続けて行く。




47 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:32:47.679rW/t74N0 (10/46)


?、と初春はいよいよ本格的に首を傾げるが、垣根は構わなかった。
少し暗く青い、ムカつくくらい晴れている空を眺め、彼は言葉を続けて行く。

「確かに普通の文章だ。面接用紙で出してもおかしくねぇくらいの文章だ。だけど、逆に普通過ぎて気味が悪い」
「それはあくまで垣根さんの勘じゃ……」
「そうか?今までお前の所には、こんなメールは来てないんじゃねぇのか?少なくとも、俺が確認した限りではそうだろ」
「あっ……」

漸く、初春は納得が行く。
携帯を見たのは別に彼女のプライバシーが見たいなどという理由ではない。
今までの彼女のメールを見て、内容を照らし合わせていたのだ。
あのメールと、他のメールに何か"違い"が無いか。

「僅かだが、打つ文字の違う部分があった。例え同じ敬語だろうと、人によって接続詞やら文体が変わるのはよくあることだからな。日本語さまさまだ」
「……まさか、このメールは支部からのじゃ……」
「だろうな。何せ学園都市の監視システムにハッキング出来る野郎だ。支部のパソコンに侵入して偽造メールを出させるくらい、簡単だろうよ」
「──えっ?」

彼の口から飛び出た言葉。
それを聞こうとするが、垣根はそこは深く話さない。
表情を変えず、ただ続ける。




48 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:33:15.909rW/t74N0 (11/46)


「それにだ。変だとは思わねぇか?」
「へっ?」
「周りをよく見ろ」

言われた初春は、導かれるように指示に従って辺りへと視線を走らせた。
何の変哲も無い、強いていえば其処まで大きな通りではない、平日の午後、第十学区の寂れた雰囲気が重なって人の気配が全くしないことぐらいだろうか。
後は誰のためにあるのか分からない信号機に、辺りに並び立つ研究所、その研究所よりも高い場所に位置する風力発電の風車。
ソレ以外には特に何も無い。音すらも殆ど。
かなり寂れた、可哀想な風景だ。

「ばーか、まだ気がつかねぇのか」

呆れたように言ってくる彼に、自然と怒りが募る。
分からないのだから仕方ないでしょうという雰囲気を込めて、初春は尋ね返した。

「何がです?」
「あのなぁ……ここは監視システムによる穴なんだろ?だからこそテメェはここをパトロールしている訳だ」




49 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:33:55.429rW/t74N0 (12/46)


だが、と垣根は一旦言葉を区切ってから、

「街中にある全ての監視装置がダメになった訳じゃねぇだろ。衛星、街頭カメラ、他にも一つあるじゃねぇか、学園都市特有のモンが」
「……あっ」

そして、彼は気がついた初春に向かって確認するようにこう言った。




「学園都市製、単価二百五十万円の"警備ロボット"は一体何処にあるんだよ」




ゴッ!!と。
空気を裂く鈍い音が、沈黙を叩き潰しながら響く。

「っ!」

初春が自分達に向かって飛来する何かを見た時、既にそれは轟音と共に吹き飛ばされていた。
吹き飛ばしたのは、白くて巨大な何か。
動きが余りにも早過ぎる所為で、初春にはそれが何なのかは分からない。
ただ気がつけば、何かは路面へと真っ直ぐ一直線に振り下ろされていた。
轟音が、空間を震わせるように轟く。
路面が莫大な衝撃を受けたことにより割れ、破片を衝撃波によって巻き上げる。
辺り一帯の地面が地震でも起きたかのように揺れ動き、思わず初春は足を踏み外していた。




50 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:34:38.019rW/t74N0 (13/46)


「きゃっ!?」

どてっ、と細かなヒビが入った路面へと尻餅をつくが、飛んで来る筈の破片は何故か一つも無い。
頬を撫でる僅かな風と、その風に運ばれる砂埃。
それ等のみが、彼女の周りを流れて行く。
舞い上がった白い砂煙も一瞬で晴れ、視界が一気に開けた。
視界にまず見えたのは、自分の二十メートル前方に出来たクレーター。
中心には巨大な金属の塊が、プレス機に潰されたように路面へとめり込んでいる。
そして、

「……で、どいつだ?こんな巫山戯たマネしやがったのは」

そこに天使が居た。

天使。

六枚の純白たる翼を背中に生やし、周囲に畏怖と違和感と圧力を与える存在。
神話のような神々さと、現実で感じる恐怖を併せ持った翼を生やしているのは、言わずと知れた一人の少年。
彼──垣根帝督は不敵な笑みを浮かべ、翼を更に大きく広げる。
全長十メートルはありそうな翼が展開される光景は、正に神話の絵画。
ただし。これは想像ではなく、現実だ。

「……」

余りにも神秘かつ常識外れな光景に、ただのジャッジメントでしかない初春は呆然と垣根の背中を見ることしか出来なかった。





51 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:35:22.589rW/t74N0 (14/46)





「分かってたことだがよ、一体どんな奴等を送って来るのかと思えば……」

実の所。
垣根には一連の主謀者が誰なのか分かっていた。
学園都市の監視システムにハッキングを仕掛けれ、学園都市統括理事長アレイスターに直接喧嘩を売れるような輩。
そして、風紀委員支部から偽のメールを送り、初春を利用して垣根をおびき寄せた輩。
そんなことをしそうな輩に、彼は心当たりがあった、

自分を生き返らせたという巫山戯た存在、『神』。

砂煙を適当に翼で払いつつ、彼は周囲へと視線を走らせ敵の姿を捉える。
自分が叩き潰した、飛来して来た何か──多分、警備ロボット──の中心から、僅か十メートルの距離を開けていた男が居た。
街中で居そうな、学生にしか見えない特徴無しの男だ。
あえて言うのならば、額などに傷跡があることくらいか。

(……あの野郎が攻撃して来やがったのか)

しかし。
ザッ、という着地するような足音がしたかと思うと、背後に初春以外の人の気配が唐突に撒き散らされ始めた。
垣根の勘違いなどではない。気配は、一瞬にして前兆無く現れた。

「えっ?」
「……」




52 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:35:55.219rW/t74N0 (15/46)


静かに目だけで背後の光景を眺め、確認。
まず最初に見えたのは、背後に出現した者によって驚きの声を上げる初春の姿。
そしてそれよりも更に奥。
そこに、"集団"が居た。
一人や二人ではない。
背後だけで三十近い人間が其々の表情を浮かべつつ、ゆったりと散歩するかのように歩いて来ている。

「……」

更に目を動かす。
彼の黒い双眸は、辺りに居る全ての者達を正確に捉え切った。
前方には、先頭に立つ襲撃者の男を先頭に二十人程。
後は建物の屋根にバラバラに散って居る十人。
全員合わせて六十人といった所。
彼が何かする前に、二十メートル程の間合いを置いて包囲されていた。

「テレポートか。面倒な奴等だな」
「流石は第二位、こんな状況でも冷静だとはな」

気配を全く感じさせず現れたからくりを呟くと、先頭の男が反応し、言葉を放って来る。
周りの人間が三下丸出しの余裕を浮かべているのに対し、この男だけは冷静かつ油断が無い。




53 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:36:35.809rW/t74N0 (16/46)


(……注意するのはこいつと、後はどっかにいるテレポート系の何かが使える奴か。他は雑魚ばっかだな)

思考を浮かべ自分の中での優先順位を指定しつつ、垣根は余裕を見せながら言い返してやった。
それは会話を行うことで敵から情報を引っ張り出そうとする、彼なりの癖。

「はっ、当たり前だろ。アリに囲まれてビビる象が何処にいる?」
「世界ではアリに殺される象も居るぞ」
「そんなのは極一部だ。群がったら勝てるとか思ってるテメェ等格下野郎共に、俺がぶち殺されるとでも?大した妄想だな」
「んだとテメェ!?」

嘲るような言葉を聞き、低い沸点のせいにより怒りが一瞬で湧き上がったのか。
男の背後に立っていた一人が前へと踏み出し、垣根へと殺意が込もった目で睨む。
隣に立つ男は何も言わなかった。
どうやら男はリーダーなどという訳ではないらしく、ただの代表者らしい。

「調子に乗りやがってこのクソったれが!こっちはテメェに殺されて生き返」
「うるせぇな」

言葉の途中で、三下の口上を垣根はバッサリ切り捨てた。
飄々とした普段の姿の筈なのだが、何故か怖気を走らせる雰囲気がそこにはある。

「テメェ等が『神』に生き返らせて貰ったってのはよく分かった。俺に殺された奴等ばっかだつーのもな。だからな、ちと黙っとけ。折角拾った命なんだ、長生きはしてぇだろ?」
「……っ!」

ユラリ、と揺れる翼を見て、垣根を睨んでいた男の表情に恐怖が浮かぶ。
恐らく殺された時のことを思い出しているのだろう。
あの不可思議、非常識な翼に叩き潰され、ミンチにされた時のことを。




54 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:37:05.109rW/t74N0 (17/46)


「事情は理解しているようだな」

黙っていた男が頃合いと思ったのか口を開く。
確認の意味合いを込めた問いかけに垣根は表情を崩さないまま、

「ここまでヒントを与えられて分からねぇ訳ねぇだろ。たっく、よくもまぁ警備ロボを全部破壊するなんつー馬鹿げたマネするもんだ」

彼の言葉に嘘はない。
警備ロボットは壊されたり非常事態になると、管理システムへと信号を送る。
何処で壊れたのか、何時壊れたのか、どんな壊れ方をしたのか、どんな状況なのか、などという情報を出来る限り、だ。
当然一つの学区に居る警備ロボットを全て破壊するなどという行為は、とんでもないことこの上ない。
まだアンチスキルが気がついていないのが、一種の奇跡だった。

「『神』か。あの野郎、どんな情報操作をしてやがる」
「さぁ、な。知らんよ。俺達の仕事は何もしないお前を始末することだからな」
「おいおい、俺はただ自由にやれって言われたから自由にやってるだけだぜ?」
「此方の知ったことではない。第一、これは第二位垣根帝督に殺された者達全員への復讐でもある」

垣根と男の会話の最中、

「第二位、カミ、生き返らせ、殺され……?」

状況について行けない、という初春の声が彼の耳に背中越しで響く。
ただの一般人に過ぎず、垣根をおびき寄せるためだけに利用された彼女には、こんな巫山戯るにも程がある状況にすぐさま対応するだけの力はなかった。
茫然自失していないだけマシだな。と、少女が必死に状況を理解しようとしているのを感じつつ、垣根は口を開き、告げる。




55 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:37:42.839rW/t74N0 (18/46)


「そうかい、もう一度地獄に送って欲しいって訳か。いいぜ、仕事じゃねぇけどサービスだ。一瞬で送り返してやる」
「出来るのか、足手纏いがいるその状態で」
「……!」

周りの者達の笑みが強まると同時に、初春は息を飲む。
足手纏いが誰のことをさしているのか、直ぐに分かったからだ。
他でもない、自分のことだと。

「……ハッ。なるほどな。それも見越してこいつを利用したって訳か」
「ここまで上手く行くとは思わなかったが。随分と第二位も日よったな」
「……心配するな。自覚はある」

そう。自覚ぐらいある。
今さっきだって、己の翼による一撃の余波を初春に当たらないように気を使ったのだから。
前までの、今垣根を殺そうと包囲している者達を殺した時にはそんなことはしなかった。
気まぐれで格下を見逃したり一般人に気を使うことはあったが、それらは所詮ただの気まぐれだ。
誰か一人の身を、こんな状況で庇うようなお人好しでは無かった。
それくらいの自覚は、垣根にだってある。
しかしだ、

「で、たかだか足手纏い一人居るだけで俺がテメェ等に負けるとでも思ってんのか?だとしたら甘ぇな。全く持って甘過ぎる」

翼を一層強く広げ、輝かせる。自分の異常を、辺りに撒き散らすように。
彼の言うことは尤もだった。
垣根が丸くなろうが日よろうが、足手纏い一人分という重荷如きで詰めれない程、垣根と彼等の間には絶望的な力の差というものがある。
広げた翼に攻撃を行わせる。それだけで、能力の本質などお構い無しに人を地形ごとゴミのように薙ぎ払えれる。
その異常の恐怖は、一度殺された彼等だからこそよく分かっている筈だ。
しかし、




56 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:38:09.379rW/t74N0 (19/46)


「第二位。逆に一つ聞き返そうか」
「あ?」

男達に、恐怖は見られなかった。
まるで"自分達の勝利を信じて疑わない"とでも言いたげな表情を見せている。
疑問に思う垣根だったが。

「一度お前に負けた我々が、何の対策もせずにお前の前に現れると思うか?」

直後、




鼓膜が張り裂けんばかりの"音"が辺りを駆け抜けた。




「ぐ、がああああああああああああっ!?」
「きゃあああああああああああああっ!?」

絶叫と悲鳴が、垣根と初春の口から飛び出る。
垣根の背中に展開されていた翼は一瞬で掻き消え、彼は苦痛の顔のまま膝をついた。
初春もまた、耳に手を当てたまま頭を抱えて痛みを堪えていた。
空気が休む間もなく震え、二人の声は掻き消えて行く。
キィィィィィィィィンッ!!という、そこらの爆弾の爆音よりも遥かに大きな音が、辺りから一斉に放射されているのだ。当然、二人の叫びはどんどん塗り潰される。
ただし、二人は音の大きさに耳をやられたから叫んでいるのではない。
その音による脳への激痛に、二人は悲鳴を上げているのだ。




57 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:38:42.029rW/t74N0 (20/46)


「キャパシティダウン……こんな小さな箱に収まってしまってはいるが、六十も集まれば例えレベル5といえど封じられるだろう」

男の一人が片手に木箱のような物を持ちつつ言った。
手に収まっている木箱は十センチ程の正方体で、いかにも古くさそうな雰囲気を醸し出している。
しかし、これが、正確には周りの者達全員が持っているこの箱が、学園都市第二位に膝をつかせる程の力を放っているのだ。
『キャパシティダウン』。
本来ならばもっと巨大な物なのだが、どんな理論及び力でか超コンパクトに纏められた物で、数が多ければ多い程、力も増す。
能力者の脳へ音波による激痛を与え、演算行為を阻害する音波兵器。
とある『木原一族』の一人が率先して開発した代物の一つ。
無能力者にはただの五月蝿い音に過ぎないが、能力を持っている者にとっては最悪といってもいい物。

(クソ、ったれ……演算が、能力が、使えねぇ……!)

内部からの激痛に堪えつつ、思考が出来る垣根はやはりレベル5なのだろう。
何せ今現在、彼には体を動かすのさえ難しいレベルの激痛が脳内を駆け巡っているのだ。
普通の人間ならばとっくに泡を吹いて気絶してしまっている。
頭の中身がシェイクされるような痛みに耐え、脳みそを働かせるものの、やはり普段と比べると思考速度は鈍かった。

(確か、これは対能力者用の、音波兵器……)

原因は分かるものの、対策方まで頭が回らない。
歯をギリギリと食いしばり、とにかく能力を維持するべく演算を無理矢理にでもしようとして、




58 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:39:27.049rW/t74N0 (21/46)


「うっ、あっ、あああああああああぁぁ……」

掠れた悲鳴が、高音の世界の中、耳に届いた。

(!)

咄嗟に視線を動かすと、初春が路面へと倒れそうになっているところだった。
体から完全に力が抜けて、足からゆっくりと倒れて行く。

(なんかの能力者だったのか……っ!クソったれ!)

無能力者と思っていたため、垣根にとっては本当に想定外の出来事。
例えレベル1だったとしても、この激痛を受けるのか。
能力者として普通に限りなく近い彼女では、この激痛には耐えきれなかったのか。
とにかく今、気絶した初春が倒れそうになっていることは、どんな理由を並べても変わりない。

「っ、がっ……!」

能力は使えない。体も満足には動かない。
結局の所、垣根帝督に出来たのは彼女が倒れる所を眺めるだけ。
不様だった。
これが第二位なのかと、突きつけられたようで。
お前に、あの第一位と同じことなど無理だと言われているようで。

「オラァ!」
「っ!?」




59 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:39:53.319rW/t74N0 (22/46)


感傷を感じる暇も無かった。
直感に任せて、地面を蹴って転がる。
刹那、間を置かずに巨大な炎の塊が、彼が居た場所へと直撃した。
ボンッ!!という爆風が、垣根の背中を一気になで上げ、彼の体を更に荒れた大地の上で転がして行く。

「……!」

そしてその時。
垣根帝督は、見た。
転がって反転した視界の先。
誰かが余波を受けた初春に触れ、一緒に消えたのを。
一瞬と言う間のあいだに、彼女の近くに現れ、彼女に触れ、彼女を連れ去った光景を。
ただ地面に転がったまま、無様な姿で。


「────」


その時。
垣根帝督の中で、無意識に抑えていた何かのストッパーが外れた。









60 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:40:30.829rW/t74N0 (23/46)






正気に戻った時、戦いは既に終わっていた。

「ごふっ……!」
「……」

目の前、視線を下げると、腹に裂傷を受けたリーダー格の男が崩れ落ちていた。
コンクリートの壁に寄りかかる形で、血の池を作る程の出血源からは白く大きな羽が突き刺さっている。
『未元物質(ダークマター)』と呼ばれる、この世の物ではない物質で作られた異常の羽。
一見柔らかな羽に見えるそれが、男の腹をやすやすと貫いていた。

「……」

黙ったまま、というよりも惚けた表情で、惨劇を生み出した犯人である垣根は辺りを見る。

あえて表現するのなら、地獄絵図だった。

周囲一帯の建物は根こそぎ倒壊しており、信号機は何故か逆さまに路面へとめり込んでいる。
そこかしこに建物や路面の瓦礫が散乱していて、其処に死体もあった。
首を切り落とされた者、外見が分からなくなるくらい黒焦げにされた者、内臓が吹き飛ばされた者、出血多量で死んだ者。
共通点があるとすれば、死体の近くに木箱のような砕け散った何かがあることだろうか。
とにかく、地獄というに相応しい光景が辺りに展開されている。
とてもではないが、ただの街中だった場所だとはとてもではないが思えない。
悲鳴や呻き声が全く無いのが、更に恐怖を掻き立てている。

「見通しが、甘かっ、たっ、な……まさか、半分暴走状態で、そこ、までの力が、出せるとは……」
「……」




61 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:42:20.829rW/t74N0 (24/46)


垣根は男による称讃の言葉に反応しなかった。
ただぼんやりと、自分がやったことを思い出している。
といっても思い出せることなど殆ど無く、ただ辛うじて思い出せるのは自分が何かを叫びながら、がむしゃらに暴走していたことくらいだ。
誰をどうやって殺したのか、そんなことを一つも思い出せない。
足の裏で男の持っていた木箱を踏み潰したというのが、唯一思い出せるくらいだ。
そんな風にぼんやりとした頭で考えていると、

「……どうし、た。第、二位。行か、ない、のか……」
「……何処にだよ」
「あの、少女の、所へ」

死にかけの男から、そんなことを言われた。
言われた垣根はハッ、と笑って、

「俺が何で行かなくちゃならねぇんだよ」

自嘲気味に、答えた。
そう。垣根帝督に初春飾利を態々助けに行く義理など欠片も無い。
さっきまでのは、ただ自由過ぎたが故の気まぐれだったのだ。
たかだか数時間過ごしただけの、そんな赤の他人にも近い相手を、何故助けに行かなければならないのか。
別に彼女がどうかなった所で、今更何かある訳でもない。
そんな物は何処かのお人好しなりアンチスキルなりに任せればいい。
垣根帝督にヒーローの役目など、絶対に似合わない。




62 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:44:38.509rW/t74N0 (25/46)


「……そう、か」

そして。
そう宣言した垣根の顔を見て、男は何故か笑っていた。

「全く、甘いやら、復讐やら、自覚が無いやら……馬鹿ばかりだ、な……」

小さく笑いながら、男は目を閉じる。
そのまま男の呼吸音がどんどん小さくなってゆき、消えた。
ぴくりとも動かなくなり、世界が本当の無音に包まれる。

「……」

垣根は、黙っていた。
それは彼なりの黙祷なのか、それともこの復讐者にしてはやけに冷静だった男に奇妙さを抱いているだけなのか。

「……確かに、馬鹿だな」

ただ一言だけそう言ってやる。
それは生き返らせて貰った命を復讐などで使い潰す彼等に対して、キャパシティダウンなどで第二位を倒せると思った浅はかな夢に対して、
そして、何よりも──

サラサラと、砂が崩れ落ちるような音を聞いた。

音に意識が引っ張られ、垣根は音源である死体へと目を向ける。
数秒前まで生きていた男の体に、変化があった。
指や足などの肉体の端から、次々と煙のように消えていっているのだ。
それこそ、砂細工が風に砂を削られて行くように、サラサラと音をたてながら。
地面に出来ていた血だまりまで、次々と消えて行く。




63 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:45:08.699rW/t74N0 (26/46)


「……アフターケアも万全です、ってか。笑えねぇ」

辺りを見渡すと、垣根が殺した他の者達も消えて行っている。
個人差があるようで、もう既に全身が消えてしまっているのもあれば、まだ足首辺りまでしか消えていない死体もあった。
ただ、例外なく全ての死体が消えて行く。

数十秒後には、空気に満ちていた血の匂いが消えていた。今や、血みどろの光景は何処にもない。

「……」

ただの瓦礫が散乱しただけになった光景を見つつ、垣根は視線を上げる。
ヒラヒラと、一枚のメモらしきものが風を受けて宙に舞っていた。

「……」

紙を眺めてから、用は済んだとばかりに彼は歩き出す。
地面に落ちている路面の破片を踏み砕き、無造作に隠蔽された風景の中を歩いて行く。
無言のまま、ずっと。

「……」

暴走の余韻なのか。
ズキンッ、と肉体に痛みが走ったが、無視した。





64 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:45:38.179rW/t74N0 (27/46)



『よ、よろしければ、そこの安っぽいファミレスで昼食を一緒にどうですか!?』


「……」

彼は無言のまま、ただただ歩き続ける。
街中の戦場から遠ざかり、北へと真っ直ぐ歩いて行く。


『逆ナンっ!?ちょ、違いますよっ!?私はそんなつもりなんかこれっぽちも』


「……」

彼は無言のまま、ただ歩き続ける。
第十学区と第七学区の境目に辿り着き、第七学区へと入った。


『あれ、忘れたんですか?最初に会った時自分から私に名乗りましたよ『垣根帝督』って』


「……」

彼は無言のまま、ただ歩き続ける。
第七学区の商店街を、躊躇無く通り抜けた。


『……垣根さんは、前はともかく、今はそんな人じゃないと思います』


「……」

彼は無言のまま、ただ歩き続ける。
何故か倒壊して封鎖されているビルが目に入ったが、無視した。


『だって、私が呼んだら立ち止まってくれたじゃないですか』


「……」

彼は無言のまま、ただ歩き続ける。
デパ地下で何かあったらしいが、それも無視した。


『そういう垣根さんだって、格ゲーとかはノリノリだったじゃないですか』


「……」

彼は無言のまま、ただ歩き続ける。
そのまま無造作に学区の境を越した。


『……垣根さん。これ持って待っていて下さい』


「……」

彼は無言のまま、ただ歩き続ける。
更にもう一つ、学区を超えた。


『……私は──』


「……」

彼は無言のまま、歩き続ける。
何やら騒がしかったが、一気に彼は通り抜けた。
学区を、超える。





65 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:46:12.259rW/t74N0 (28/46)





『私は、今日垣根さんがしてくれたこと、守ってくれたこと……それだけは絶対に、悪いことではないと……そう思っています』




そして。

彼は無言のまま、足を止める。

「……なんで来ちまったんだか……」

垣根の足は、とある建物の百メートル手前で止まっていた。
学園都市、第十九学区。
見た目は廃墟の、しかし中から人の気配がする廃墟ビル。
不良の溜まり場であろうそこは、あの男のであろうメモに書かれていた絶対座標と一致する。
つまりはあそこに男の仲間が、連れ去られた初春飾利が居るはずだ。

「……さて」

垣根は、足を踏み出す。
太陽は既に沈む寸前で、薄暗いオレンジ色が空を照らしていた。









66 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:46:42.699rW/t74N0 (29/46)





「チッ、全員やられっちまったのか?面倒だな……」
「どうする?」
「なぁに、ここで待ち伏せしてりゃいい。ここでなら、例えレベル5でも一般人と変わらねぇよ」
「……」

とある廃墟ビルの中。
初春飾利は監禁されていた。
安物のパイプ椅子に座らせられ、後ろ手に両手を縛られ、口には猿ぐつわをされ、動けず何も言葉を喋れない状態でだ。
時計が無いため、正確な時間は分からない。
ただそれなりの時間、体を拘束されているのは分かった。

(……)

視線を部屋に走らせる。
彼女が拘束されているのはビルの広い部屋の一つで、ちょっとしたスポーツなら楽々出来てしまいそうな部屋だった。
というよりも、最上階にある部屋はここのみで、後は屋上に繋がる階段が隅の方にあるだけ。
残りは全てこの部屋に面積を使われている。

(闇……)

浚われて目が覚めてから、冷静な思考で弾き出した仮定や結論を一つ一つ、思い出す。
まず、自分を浚ったのは明らかにただの不良やスキルアウトでは無かった。
動きが明らかに無駄が無い上、こういったことに異常に手馴れている。
現に見張りの三人とも、此方を見張りつつ会話し、更には窓から見える部分に誰一人として出ていない。

(第二位……垣根、帝督……)

そして結論として答えが一つ。
自分は巻き込まれた。
最初から、狙いはあの少年だったのだ。
自分は第二位に『復讐』するためのただの餌に過ぎなかった。
初春には想像もつかない。
垣根が第二位で、明らかに普通ではない彼等にどんな恨みを買っているのか。
いや、大体は会話から想像はついている。
しかし、理解出来ない部分が多過ぎた。




67 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:47:26.299rW/t74N0 (30/46)


(殺された……?)

そう、誰かが言った。
ならば、垣根帝督は彼等を殺したのか。
なら何故、彼等は生きているのか。
そういった疑問は答えが出ないため保留にする。
今では、

(垣根さんは、どんな世界に居たんだろう)

そんなことを、のんびり拘束された状態で考えていた。
彼が路地裏で話てくれた言葉から、彼が今まで生きて来た世界がどれだけロクでも無い物かというのは、流石の初春といえど気がついている。
その世界が、一体どれだけ彼に悲劇と地獄を見せたのか。

「しっかし、お前も災難だな本当」
「……?」

突然。
そんなことを考えていた彼女へ、声がかけられた。
首を傾けると、其方ではぼさぼさの黒髪男が哀れむような目で見ていた。
向こうは此方が喋れないのを知っている、というか喋れなくした当人達なのだから、返事は期待していないのだろう。
黒髪男は、そのまま言葉を続ける。

「あの第二位に関わったばっかにこんな目にあっちまうたぁな。まっ、これに凝りたら次回から男には気をつけるこった」
「あれ?お前人質相手に何やってんの?」




68 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:48:40.049rW/t74N0 (31/46)


ふと、声をかけて来た男に、別の男が声をかける。
声には僅かだが、馬鹿にするような響きがあった。
確かに、黒髪男は喋れない者へと一方的に話しかけるだけの物好きかつ馬鹿な者にしか見えまい。
自覚はあったのか、ふん、と黒髪男は鼻を鳴らす。

「別に、ただの息抜きだ」

そしてそのまま、初春に興味を失ったように踵を返し、階段の方へと向かって行く。
どうやら下か屋上に行くらしい。

「けっ、なんだよアイツ。すかしやがって」
「ほっとけほっとけ。どうせ高位能力者だからって調子に乗ってんだろ。俺等と大して変わらねぇつーのになぁ」

そのキザな(少なくとも周りからはそう見える)後ろ姿に、見張りの男二人が好き勝手に言っていたが、初春は適当にスルーしておく。
どのみち「あなた達の方が調子乗ってますよ」と言いたくても言えないのだ。
今はただ、誰かが助けに来るのを待つしかない。

(……ふふっ)

内心、直ぐに思い浮かんだ姿に笑う。
真っ先に助けに来てくれる人物で思いついたのは、ジャッジメントの同僚でも、学校の親友でも、レベル5の友人でも無かった。
あの六十人に囲まれ、能力を封じられるという状況に放り込まれた男の姿が思い浮かんだ。
だから、笑ってしまった。




69 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:49:08.709rW/t74N0 (32/46)


それは、彼が助けに来ないと思ったから"ではない"。




「よぉ、こんばんわ三下共」




そんな当たり前のことを今更確認し直した自分に、彼女は笑ったのだ。

「がはっ!?」
「おぐっ!?」

声と同時に、男二人が初春の視界から吹き飛ぶ。
一人は空気による砲弾を顔面に受けて、もう一人はもっと大きな何かを叩きつけられてだ。
ドゴン!!と、壮絶な衝突音が鳴り響き、空気を震わした。
空気の砲弾を受けた男は漫画の如く背中側から縦回転し、バク転をしているかのように吹き飛び、轟音をたてて壁へと衝突する。
ゴキャッ、と。鈍い骨の折れる音とともに、男から絶叫が迸る。
対するもう一人はそのままぶつけられた個体ごとストレートに吹き飛ばされ、同じく壁へと激突。
轟音が鳴り響き、壁へ叩きつけられた男は白目を剥いて倒れた。
が、一人。

「ち、くしょう……」

気をしっかり持った男が居た。
ついさっき、下に行こうとしていた黒髪男だ。
どうやら見張りにぶつかった何かの正体は吹き飛ばされた彼だったようで、背中に見張りというクッションが生まれたことで被害が最小で済んだらしい。

「第二位……何時の間、に」
「何時とかより、もっと聞きてぇことがあるんじゃねぇのか?」

黒髪男の呻きに、答える者が一人。
バッ!と、初春は其方を見る。
其処にいたのは、一人の男。
茶色の髪に、赤い学生服。端正な顔に差す、黒い雰囲気。ホストと不良を足して二で割ったような外見。
所々服が裂けたり汚れていたりするが、間違いない。




70 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:49:47.669rW/t74N0 (33/46)


「むーっ!」

彼の名前を呼ぼうとしたが、猿ぐつわのせいで声にならなかった。
思わず顰め面になると、それを見た男──垣根帝督は階段からやって来つつ、苦笑いをしながら、

「ようお姫様、助けに来たぜ。まぁ助けに来たのは勇者でも王子でもねぇ、ただの悪魔だけどな」

巫山戯た調子で、しかし態度に一片たりとも油断を見せず彼は言う。
その背中に、三対の白い翼を生やしたまま。
部屋は太陽が沈んだ所為で暗くなっているというのに、垣根による翼だけは何故かくっきりと輝いて見える。
余りにも現実とは思えない、幻想的な姿。

(悪魔っていうより、天使?)

そう思っても現在進行系で言葉を出せないため、言ってやることが出来ない。
むぅー、とくぐもった呻き声を上げる初春だったが、

「ぉ、おおおおおおおおおおっ!!」
「「!」」

雰囲気を引き裂く怒声が、異常なボリュームで空間を覆った。
声の主を見るべく、二人の顔が同じ方向へと向かう。
壁に寄りかかりながらも立つ男が居た。
最初に空気の砲弾をくらい、縦回転で吹き飛んだ見張りの男だった。
男は右腕をだらりと垂らし、左手に何かを持ちながら二人を血走った目で見ている。
左手に持っているのは、なにやらリモコンのような遠くから機器のスイッチを入れる機械だった。
その感触を確かめる度に、男の表情に狂った狂笑の雰囲気が漂う。




71 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:50:18.969rW/t74N0 (34/46)


「殺す!絶対にテメェは殺してやるぜ垣根帝督ぅぅぅぅぅぅぅっ!!」
「三下がピーピーギャーギャー騒いでんじゃねぇよ。キャパシティダウンだっけか?使いたきゃとっと使え」

怒りを全力で叩きつけてくる男に対し、垣根は恐ろしい程に冷静だった。
テクテクとポケットに手を突っ込んだまま、彼は初春の方へと歩いて行く。
意識を男から外していて、その歩く姿はどう見ても隙だらけ。
相手にされていない。その事実が、男の怒りをぶちまけさせた。

「ああああああああああああっっ!!」

叫び、左手に力が込められる。
耳を塞げない初春はギョッとしたが、止める暇は無かった。

カチン!と、スイッチが押される。

直後に、廃墟ビルに放置されていたスピーカーを利用したキャパシティダウンが発動し、垣根と初春を激痛の地獄へと叩き落とす、


筈だった。


「〜〜〜〜っ…………ぁ、あ、あれ?」




72 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:50:48.289rW/t74N0 (35/46)


暫しの間。
また襲い掛かってくるであろう激痛に備えるように、歯を食いしばっていた初春だったが。
何時まで経っても、あの激痛を呼ぶ音が耳に入って来ない。
固く瞑っていた目を静かに、ゆっくりと開けて行く。
其処で目にしたのは呆然とした顔で垣根の顔を見る男と、初春と同じように音が聞こえず苦しんでいない垣根の姿。

「か、垣根さん?」
「成功、か。当然だがな」

何やら一人頷く垣根。
彼に何故音が聞こえないのか聞こうとして、猿ぐつわが何時の間にか切断されていることに気がついた。
それだけではない。
垣根の姿から自分の異常にも気がついたからだ。

「羽……?」

自分の耳に張り付く形で、大きなナイフぐらいはありそうな純白の羽がくっ付いていた。
ふわふわとしていて、何故か暖かく、しかも僅かにだが発光している。
初春は疑問の視線を垣根へと向けるが、

「がぁぁああああああああああっ!?」
「ひゃわっ!?」

突然の叫び声に、初春は思わず飛び上がる。
ガタン!とパイプ椅子が倒れた音が、しっかりと耳に届いた。

「あああああああ……!」
「ど、どうしたんですか、あの人……」
「音がちゃんと出ているのか確かめようとしたんだろ。お前も耳の羽とるなよ?それ取ったらあの地獄が待ってるから」

地面に這い蹲り、左耳を抑えて悲鳴を上げている男を見て唖然とする初春。
何時の間にか彼女の拘束を全て切断していた垣根は、男が転がる床を指差した。
彼の人差し指の先を、初春は見て、

「……耳栓?」




73 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:51:27.489rW/t74N0 (36/46)


そう呟いた。
小さな、黄色くて丸い物体。
プールなどで偶に付けている人を見かける、外見はいたって普通の耳栓だった。

「恐らくキャパシティダウンの音のみを遮断する耳栓なんだろ。特定の音波のみを遮断するから、普通に会話も出来る。だからあいつ等は能力者なのに全くダメージが無かったんだよ」
「……もしかして、この羽って」
「そうだ。その羽は俺の能力でキャパシティダウンの音のみを遮断するように、調整したもんだ。だから俺等にはあの音が聞こえない」

そんな会話をしている内にも、男は悲鳴を上げながらもがいていた。
やがて転がったままスイッチを強く握り締め、急にガクン!と動きが止まる。

「はぁ、はぁ、はぁ……!」
「おっ、スイッチを切ったか」
「あ、あぁ……!」

激痛から逃れられ、呼吸を整えていた彼の前に、垣根は一瞬で移動していた。
極僅かに浮かんだ安堵の感情を、粉々に打ち砕くように。
垣根はゆっくり腕を振りかぶる。
連なるように翼の一つが掲げられ、傍目から分かる変化を起こす。
だんだんと、翼が鋭利に、金属の凶器のような武器に変貌していっているのだ。
それは振り下ろされれば、人間など一刀両断間違いなしの翼の刃。

「あ……」

が。振り下ろされる前に。
プツン、とテレビのスイッチが切れるかの如く、男は白目を剥いて気絶した。
殺された時のことを思い出し、恐怖に押し潰されたのだ。

「……まっ、所詮は格下か」
「……格下といえど、下には高位能力者が万全の状態で居た筈なん、だがな……」




74 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:52:01.029rW/t74N0 (37/46)


そんな中。
最初の黒髪男が、床にへたり込んだまま苦々し気に言った言葉に、垣根は平然と返す。

「十人程度で俺がやられる筈がねぇよ。俺を殺してぇならクソったれの第一位を連れて来い」
「そう、だな……次回があれ、ば……」

其処まで言ってから、男は目を閉じて意識を失う。
垣根の一撃を受けて死んでないことから、実際の彼は相当強かったのかもしれない。
それはさておき。そうすると、この廃墟ビルで意識があるのは垣根と初春だけになった。
垣根が能力を消すとその場にあった羽も全部消え、暗闇が一層強くなった。

「……」
「……」

太陽が沈み切った世界を月光が照らす中、二人はお互いを見つめ合う。
少し前なら巫山戯合う所だが、生憎と状況が状況。
重い沈黙が満ちる。
沈黙を破るべく先に口を開いたのは、垣根だった。

「悪かったな」
「えっ?」

飛び出て来た謝罪の言葉に、初春は思わず面食らう。
一体何が「悪かった」なのだろうか。
だが、その答えは次に続く言葉で簡単に分かった。

「巻き込んじまって」
「……第二位、だったんですね」
「そうだ」
「……」
「……」

再度、沈黙が場を支配する。
互いに言いたいことは山程ある筈なのだが、何故か口に出せない。

「……もう、お前には近付かねぇよ」
「……」

やっとのことで、垣根はそう言っていた。
それは迷惑をかけたくないという思いに見せかけた、逃げの言葉。
自分とは違い過ぎる彼女から離れようとする、彼なりの逃げ。




75 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:52:33.289rW/t74N0 (38/46)


「……じゃあな。後は、アンチスキルでも呼べ」

そして、さっさと彼は帰ろうとする。
帰る場所など、彼には何処にも無いと言うのに。
初春にはその背中が、やけに小さく見えた。
ちっぽけで小さな、自分より年上の男の背中。
だから、だろうか。

「……私は!」

彼女は、叫んでいた。
階段に向かっていた彼の足が、縄で縛られたようにストップする。
まだ背中を見せたままの彼に向かって、ただの大きな四角い窓から差す月光を背に、初春は叫ぶ。

「私は、ジャッジメントです!そりゃ白井さんみたいに強くないし、固法さんのように場数を踏んでいる訳でもありません!でも、それでも私はジャッジメントなんです!」
「……」

黙ったまま、垣根は彼女の独白を聞いていた。
それが分かっているから、初春は叫び続ける。

「他の人と同じように、ジャッジメントとして、私にだって譲れない正義があります!自分勝手と言われても、それだけは譲れません!だから……」

一旦言葉を切り、初春は一際大きく叫んだ。


「そんな寂しそうな顔で、私から逃げないで下さい!」





76 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:53:04.329rW/t74N0 (39/46)


初春飾利は、垣根帝督のことを詳しく知らない。
彼が自分への殺人未遂以外でどれだけの罪を犯して来たのか知らないし、多分知ることは一生出来ない。
そして、彼がその罪から許されることなど、一生無いのかもしれない。
だが、だからといって彼をそのまま行かせていい理由にはならないのではないか。
悲しそうに、一人孤独にしか見えない彼を、このまま知らんぷりして関わらなくなるのが正しい正義なのか?
初春は、そう思わない。
これが彼女なりの、垣根に対する答え。
だから、彼女は彼女の持つ正義に従って叫ぶのだ。

逃げないで、と。

罪、責任、光、一般人、夢、それらあらゆるものから、逃げないように。
それはある意味で救いの手だった。
強制的に見えて、だが光の満ちた優しい手。

「……本当、救いようのねぇお人好しだな、テメェは」

背中を向けていた彼の背中が、愉快気に揺れ動く。
きっと、表情には感情が見えない氷のような顔ではなく、呆れの笑みが浮かんでいるのだろう。
初春も馬鹿げた言動だとは思っていたのか、照れたように頬をかく。

「自分を殺しかけた殺人鬼に言うには、余りにも甘い言葉だぞそれは」
「い、いいじゃないですか。私が納得しているんですから」
「そりゃそうだ。そう意味じゃ、俺も人のこと言えねぇし」

漸く、背中を向けていた垣根は、初春の方へと顔を向ける。
その表情は、初春の予想通り笑っていた。
馬鹿にするような、だからといって嘲りは少しも含まれていない純粋な笑み。
年相応の、少年らしい笑みだった。
彼は此方を見て、笑いながら、





77 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:53:43.619rW/t74N0 (40/46)





「──っ!?」







78 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:54:19.929rW/t74N0 (41/46)


目を見開いた。
表情に浮かんでいた笑みは驚愕に変わり、驚愕が次は恐怖と焦りへと瞬時に移り変わって行く。
茶色の前髪の下にある黒い瞳が、初春の方を瞳孔が開き切る程凝視していた。

「……垣、根さん?」

突然の彼の豹変に、初春は口を開き、尋ねる。
だがその頃には彼は能力を発動し、自分の方へと一直線に飛んでいた。
ドンッ!!と、コンクリートが無惨に踏み抜かれ、垣根の体を前へと飛ばす。
その背中に天使のような翼を生やし、彼は叫んだ。

「逃げろ馬鹿!」

そしてそのまま、初春が何か言う前に彼女を右手で横合いへと突き飛ばす。
勿論、全力で突き飛ばした訳ではないのだろう。
初春の体は柔らかく、ゆっくりと宙を浮き、硬い床へと尻餅をついた。

「痛っ!?」

鈍い痛みに反射的な悲鳴が口から飛び出る。
突然の出来事に思考が追いつかない彼女だったが、






79 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:55:41.579rW/t74N0 (42/46)







ドスッ








80 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:56:17.519rW/t74N0 (43/46)



そんな、鈍い音が鼓膜を震わせた。

最初、それが何の音か初春には分からなかった。
何が起きたのかも、よく分かっていなかった。
目を開き、その場にある全てを脳内へと入れる。
廃墟ビルの、月光差す暗い空間。
瞳が捉えたのは、自分を突き飛ばした垣根。
そして窓際に立つ、一つの小さな人影。
無表情の、冷え切った表情を見せる少女が何時の間にかそこに居た。
そして、人影の隙間。窓からの月光が、彼の姿を初春へと映し出す。


彼の横腹から"氷が生えて"いた。


「……えっ、あっ……?」

長さ一メートル程の氷の槍が、垣根の横腹を深々と刺し貫き、貫通している。
そうにしか見えなかった。
見間違いと思いたかったが、現実は残酷さを初春へと突きつけてくる。




81 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:56:49.159rW/t74N0 (44/46)


「……?」

ポタリ、と。
何かが頬に当たった。
頬だけではなく、手にも。全身の所々へ、その雫は当たった。
そして初春は、手に当たったそれを目の前に持ってくる。
紅い、紅い、液体。
水とは思えない、何か。
初春飾利はその液体が何かを知っていた。

血だ。

「──」

ぐらり、と。
垣根の体が揺れる。
彼の背中に生えていた、能力の証たる翼が空気に溶けるように消えて行く。

「──いっ、」

初春が見ている中で。
彼の体が、床へと横倒しになった。
ドサッ、と。
力の抜けた、死体のような体が、床を紅く染め上げながら床に倒れていた。
余りにも何がどうなったのか分かりやす過ぎる光景。

「いやああああああああああああああああああああああっっ!?」

初春の絶叫が、月光の世界で悲しく大きく、響いた。









82 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:57:25.989rW/t74N0 (45/46)









翼が折れた鳥は、大地を這い蹲る。
その瞳に光はなく、
ただただ、世界を恨み続ける。












83 ◆roIrLHsw.22011/05/13(金) 08:59:11.419rW/t74N0 (46/46)



次回で垣根編は終了です。
初春や垣根のキャラに違和感を抱いた方は申し訳ございませんでした。
自分の中でこの二人はこんな感じなのです……

話は変わりますが諸事情により、一週間程執筆作業自体が出来なくなることとなりました。
なので、次回の更新は一週間以上先になります。
こんな良い所で切るのもアレだと思いますが、次回はその分自分でもかなり自信があるので、ゆっくりお待ち頂ければ幸いです。

では次回。




PSネギまの方の展開予想がまた当たってビックリだよ!



84VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/05/13(金) 12:36:16.73A/f0iMai0 (1/1)

一週間か…楽しみにして待ってるよ。
乙!


85VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東北)2011/05/13(金) 21:31:06.95JV/C1GTG0 (4/4)

乙なのよな
舞ってる!


86VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岐阜県)2011/05/14(土) 21:47:56.17s3oYixM5o (1/1)

自信有りか…期待してるぞ!


87VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)2011/05/27(金) 01:41:52.5512lOQS16o (1/1)

風見幽香VSビオランテ(初春)マダー


88VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/12(日) 08:59:13.86uVejCxv/0 (1/1)

かれこれ一週間以上経つけど、大丈夫?


89VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/12(日) 20:35:50.46Xp2EXB3l0 (1/1)

>>1 白兎コンビ(十六夜さんと一方さん)は読んでて楽しい。


90VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/24(金) 07:51:42.60Ftuqqc0I0 (1/1)

ゆうかりんと初春のサディスティックバトルは見てみたい
でもゆうかりんが初春の頭の花畑にときめきそう…


91VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/05(金) 00:01:39.73CLBSBjTBo (1/2)

マダー?


92VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/05(金) 22:20:27.72CLBSBjTBo (2/2)

あげ


93VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/06(土) 21:06:12.218m3V1mLNo (1/1)

期待上げ


94VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/07(日) 08:22:43.79GCsW7/Ilo (1/2)

あげる


95VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/07(日) 21:41:30.68GCsW7/Ilo (2/2)

あげー


96VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/09(火) 23:55:43.17Mpq90uJgo (1/1)

あげ


97VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/14(日) 21:58:57.43q75l8BcJo (1/2)

あげる
だれか人来い


98VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(栃木県)2011/08/14(日) 22:13:00.58qLRIz2aW0 (1/1)

>>1は来ないのか?三か月くらいたつし


99VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/14(日) 22:18:41.02q75l8BcJo (2/2)

一ヶ月以上書き込み0は酷いと思った


100VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/08/18(木) 20:49:38.58kYE5S/Wp0 (1/1)

>>100なら>>1帰ってきてくれ


101VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長野県)2011/08/26(金) 21:18:56.30frui8HxT0 (1/1)

>>1になにかあったんだろうか?


102VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/08/26(金) 22:48:01.85N0P/iZIV0 (1/1)

こんなに長い間来れないなんてどんな諸事情なんだろうか?


103VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/30(火) 06:07:17.73B5Biy6n7o (1/1)

誰もいなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


104VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/23(金) 21:25:03.10WMyIM6zP0 (1/1)

帰ってこーい


105VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/10/15(土) 07:00:34.64APfq1oaIo (1/1)

うわああああああ


106VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(宮城県)2011/10/21(金) 17:16:29.20HQIQpGKio (1/1)

ついにここも依頼出されたか・・・楽しみだっただけに残念


107VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/10/25(火) 23:38:29.79sbdCmNaV0 (1/1)

この流れなら言える、
実は俺が好きになったSSとかは
大抵作者が失踪する
俺って呪われてんのかな?