391VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/11/20(火) 21:09:11.83US2xt2Oq0 (5/5)

シュウゥ…

勇者「綺麗に燃えてくれたな」

魔法師「ええ。火に耐えられる触手がいてたまるものですか」

僧侶「……」ブツブツ

剣士「……僧侶さん?」

僧侶「……ちょっと祈りを済ませていただけです。では、奥に行きましょうか」

騎士「あぁ……」

僧侶「やっぱり洞窟の中は空気がこもりますね。焦げ臭いです」

勇者「お、おい」

僧侶「はい?」

勇者「その、なんだ。良いのか、骨を拾わなくて?」

僧侶「持って帰っても、教会としては少し困りますからね。形のある遺体じゃないですし」

僧侶「それに、死者は墓に眠るべきと言う教義はありませんから」

勇者「あ、あぁ、そうですか」

騎士「行くか」

魔法師「そ、そうですね」

剣士「ここから先は注意した方が良いよね」

騎士「ああ。ここからは確実に魔物がいる」

勇者「灯りもより一層明るくしていこう」

魔法師「ええ」


392VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/21(水) 00:12:36.19XtsP0pvWo (1/1)

キテタ!(゚∀゚)
乙!


393VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/11/21(水) 08:26:07.67YQl6CvlIO (1/1)





394VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/11/21(水) 09:11:45.66DC7sK+KUo (1/1)

乙ー!


395VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/14(金) 17:03:43.35H2Qqp/sDO (1/1)

完結してないだと…!


396VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/17(月) 20:21:15.11Owl3hwm70 (1/6)

コツコツ…

勇者「随分進んだつもりだけど、何もない。どういう事だ?」

魔法師「一本道ですからね。向こうも警戒しているのでしょう」

騎士「相手は魔物だぞ。そこまでの知性があるとは思えないが」

魔法師「魔物だからですよ。時として本能は理性を凌駕します」

僧侶「相手が本能だけと侮ってはいけませんよ。ここの魔物の行動は、少し意図的なものも感じます」

勇者「知性もしっかりあると?」

僧侶「僕達はそう結論付けてました」

騎士「剣士、疲れてないか?」

剣士「少し。でも大丈夫」

魔法師「でも、やっぱり何もないのは不気味ですね」

勇者「あぁ……。ん?」

騎士「どうかしたか?」

勇者「いや。何か違和感が……」

僧侶「人影でも見えましたか?」

勇者「そうじゃないと思いますが……」

魔法師「いつの間にか幻覚魔法をかけられたのでしょうか。気付かなかったのに……」

騎士「考えすぎだろう。……ああ、多分これだ」フミフミ

剣士「地面? ホント、少し柔らかくなってるみたい」

剣士「聞いた事があるよ。建物とかでわからないくらいに床が傾いたらめまいがするって」

魔法師「成る程。わかりにくい変化を違和感って思ったのですね」

騎士「地盤が緩くなっていると言う事は、それ程深くまで来ているのだろうな」


397VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/17(月) 20:32:57.20Owl3hwm70 (2/6)

勇者「地面だけじゃないぞ。壁も脆くなってる」

騎士「困ったな。運が悪ければ埋められてしまうではないか」

魔法師「怖い事言わないでくださいよ……」

僧侶「全く、不吉です」

騎士「ははは、すみません」

騎士「でも、この脆さがどのくらいかわかれば安心して進めるでしょう」

剣士「どうやってわかるの?」

騎士「私の剣は丁度長いからな。こうやって刺せば……」ズブブ…

ブチッ グシュッ

騎士「……」

勇者「……今の、何だよ」

騎士「け、結構浅い所でしっかりしてるみたい」

魔法師「そうではなく、何かおかしな音が」

僧侶「不吉ですね」

シュルルルッ

剣士「んぐぅっ!?」グイッ

勇者「剣士!」
騎士「剣士!」

魔法師「何てこと……柔らかかったのは地盤じゃなくて、触手が埋まって――」ガシッ

魔法師「きゃあああぁ!」グイッ

勇者「魔法師さん! くっ……騎士、二人を追うぞ!」

勇者「って、あれ。騎士!?」

僧侶「騎士さんならいち早く捕まって行きましたよ」

勇者「なっ……!」

僧侶「だ、大丈夫です。わざわざ追わなくても僕達もすぐに――」グイッ

勇者「僧り――」グイッ

ズザザザザザ


398VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/17(月) 20:58:41.92Owl3hwm70 (3/6)

ズザザザザ

勇者「ぐぅっ……容赦ないな。どこまで引きずられるんだ」

勇者「この地面の溝……騎士だな。あいつが抵抗しても止まらないのか」

勇者「ん……あそこは……」

勇者「よし。そろそろ放してもらおうか!」チャキン

ズバッ

勇者「うっ、ぐはっ」ドサッ ゴロゴロゴロ

魔法師「勇者さんも無事来れましたね」

騎士「君も機転が利いて助かった」

勇者「無事だったか! 剣士は!?」

剣士「ぐすっ……怖かった……」

騎士「腕も動かせないくらい巻かれてたからな。私が助けておいた」

魔法師「みんな剣士さんみたいになってると危なかったですよ」

勇者「僧侶さんは?」

魔法師「さっき来たとこですね。剣士さんと同じなら、向こうの方に……」

僧侶「んんーっ! んーっ!」ウネウネ

魔法師「僧侶さん!?」

勇者「早く助けないと!」

ズバッ ズシャッ

僧侶「た、助――んむーっ!」ウネウネ

勇者「触手がまたすぐに絡みつくなんて……」

魔法師「困りましたね。絡まってる以上燃やす事も出来ませんし……」

騎士「問題ない!」ブォンッ

ズバァンッ

騎士「次の触手が来る前に絡んでるやつごと離せ!」

勇者「ああ、わかった!」ガシッ

僧侶「んーっ」ドサッ

魔法師「待ってください。今、払いのけますから」

勇者「うわぁ……やっぱり触手の粘液は慣れないな……」

魔法師「そんなこと言ってる場合ですか……」

僧侶「ごほっごほっ……助かった。死ぬかと思った……」

騎士「無事で何よりだ」

剣士「……みんな、そうも言ってられないよ」

剣士「やっぱりここが魔物の住処みたい」


399VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/17(月) 21:49:20.67Owl3hwm70 (4/6)

「グルルルル……」
「ヴヴ……ヴヴォオォ……」

魔法師「ちょっと待ってよ! 相手は触手だけじゃないの!?」

騎士「犬に馬に豚型の魔物に……この種類の多さは何だ」

勇者「逃げるか?」

魔法師「ま、まだ大丈夫」

騎士「体力はまだあるさ」

剣士「動けるよ」

僧侶「汚名返上と行きましょう」

勇者「よし。来るぞ!」

「ガウゥッ!」ダダッ

勇者「はぁっ!」ズバッ

シュルルルッ

魔法師「触手には……“火炎放射”!」ゴォォオ

ウネウネ ウネウネ

剣士「たぁあっ」シュバッ シュバッ

「グウォオ!」ドスドス

騎士「うおぉおっ!」ブォンッ

僧侶「“――”」ブツブツ

騎士「お、おい、みんな。倒した動物と魔物の死体を見てくれ!」

勇者「ああ。これは……」

ウネウネウネウネ…

魔法師「寄生、されてるの? 全部?」

剣士「このっ! このっ!」ヒュンッ ヒュンッ

騎士「勇者! 剣士が小さいのに襲われてるぞ!」

勇者「くっ! “火炎弾”!」ゴォッ


400VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/17(月) 22:08:50.92Owl3hwm70 (5/6)

剣士「きゃあっ!」ジュッ

勇者「あっ!」

騎士「勇者! 君という奴は……!」

魔法師「“火炎放射”!」ゴォォッ

魔法師「仕方ないです。早くしなければ剣士さんも寄生されてたはずです」

魔法師「それよりここは何とかしないと――」

僧侶「“防御壁”!」キィンッ

「グォォオッ!」ガシガシ
「ヴヴ……ヴヴヴヴ……!」ガリガリ

勇者「……何だ?」

僧侶「白羽教会に伝わる聖なる壁を貼りました。これで暫くは外からは入って来れないでしょう」

魔法師「なら中にいるのは始末しなきゃね。“火炎放射”」ゴォォオッ

僧侶「ええ。助かります」

剣士「熱かった……でも、助かった。ありがとう勇者様」

勇者「いや、こっちこそすまなかった。しかし、これからどうしようか」

騎士「触手は切り落とすとしても、寄生されたものは切ると厄介だな」

勇者「ああ。中にいる小さい触手が新しい宿主を探し始めるみたいだ」

僧侶「と言うか、あれは触手ですか?」

剣士「蛇? みたいな? 長い蛭?」

騎士「今、それはどうでも良いだろう。火には弱いらしいが……」

勇者「魔法が使えるのは俺と魔法師さんだけか」

魔法師「流石にこの数は厳しいですね」

騎士「それだけじゃない。魔物や動物を任せるとしても、触手とわけて攻防を行うのは望ましくないでしょう」

僧侶「退いた方が良いのでは?」

魔法師「でも、魔物の本体も確かめられてないですし。ここまで来たのに……」

僧侶「そんな事言っていられる場合でしょうか? いや、確かに惜しいですけど」

「他に方法はある」


401VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/17(月) 23:50:56.78Owl3hwm70 (6/6)

魔法師「本当ですか? って、あれ、誰?」

勇者「この声、まさか……」

騎士「勇者、剣士、あそこにいるのは」

友「三人とも、わざわざ来てくれたのか」

剣士「……友様?」

勇者「友! 友か!」

騎士「生きていたのだな!」

友「ああ。見ての通りな」

僧侶「あの方が三人が探していた……でも、ちょっとおかしいと思いませんか」

魔法師「そうですね。喜ぶには早いでしょう。どうしてあの人は、結界の外でも大丈夫なのでしょう」

勇者「……それもそうだ。おい、友。どうしてだ」

友「それは、さっき言った実は他の方法と言うのに関係していてな」

友「そうすれば魔物の本体に近づけて、ここの触手や動物達に襲われなくなる」

騎士「本当にそんな方法があるのか!?」

友「ああ。簡単な事だ」

友「俺達の仲間になれば良い」

剣士「……」ゴクリ

騎士「……」

魔法師「……くっ」

僧侶「……」

勇者「……何だって?」


402VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/18(火) 00:21:15.23NKL6LmKG0 (1/6)

騎士「ちょ……ちょっとよくわからないのだが……」

友「俺達の仲間になれば良い。そう言ったんだ。全部楽になる」

勇者「友、お前自分の言っている事がわかっているのか?」

友「勿論だ。お前こそわかっていないんじゃないか?」

勇者「当たり前だ! 仲間って、どういう事だ」

友「まぁ、この腕を見ればわかるだろう」ウジャウジャウジャ

勇者「っ!?」
剣士「うっ……」
騎士「……っ!」

友「魔物の本体――俺達のご主人様からいただいた隷属の証だ」

友「三人共、聞いてくれ。俺はこうなってから、もの凄く気分が良いんだ」

勇者「友、お前……!」

友「ん? 剣士、それは俺の剣か? 持ってきてくれたのか」

剣士「……今の友様にこれは返せない」

友「どうしてだ? また仲良くしよう」

騎士「君の今の主人の下で、か」

友「ああ」

勇者「……」
騎士「……」
剣士「……」

勇者「……二人共、俺と一緒の気持ちみたいで何よりだ」

友「ついに決心してくれたか! 良かった!」

勇者「残念だ、友。俺達の気持ちもわからないなんて。もう知っている友じゃないんだな」

友「?」

勇者「……ごめん、魔法師さんと僧侶さん。俺達はここに残ります。逃げるなら二人だけ行ってくれて構わない」

魔法師「そうですか」

僧侶「では」

魔法師「何だか癪なので残ります。あながち勝算がないとも言えないですし」

僧侶「ええ。これは気分が悪いです。僕は攻撃はからっきしですが、危ない時に役に立ちますよ」


403VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/18(火) 00:37:38.54NKL6LmKG0 (2/6)

勇者「二人共……!」

騎士「感謝する」

剣士「勇者様、周りは私と騎士様に任せて。あなたは友様を」

勇者「……ああ」

魔法師「私達も周りの殲滅ですね。これは流石の私でも魔力が切れるかもね~」

僧侶「敵は防御壁周辺に密集しているから、そのまま出たらやられます」

僧侶「それよりは一旦解除して空間に隙間を作る方が良いでしょう。合図で解除します」

魔法師「わかりました」
騎士「了解した」
剣士「……」コク

勇者「友……」

僧侶「3、2、1……ゼロ!」

剣士「っ!」ダッ

騎士「うおおおおぉぉっ!」ブォンッ!

魔法師「最大火力……“火炎放射”!」ゴオオオォォゥ!

グゴゴゴオ… グエェ…
   ググ…グ… …ゲル

友「……」

勇者「……」

友「どういう事だ?」

勇者「こういう事だ」

友「……どういう事だと言ってるんだ! よくもよよよくもよくも俺の俺達の同胞をっ!」

勇者「すまないな、友。今、楽にしてやる」チャキッ

友「勇者、俺が改心させてやる」チャキッ

勇者「剣、持っているんだな」

友「ご主人様は何でも持っている。従者に全てを与えてくれる」

友「勇者、お前もいずれわかるさ」


404VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/18(火) 09:39:30.0629/9+jNyo (1/1)

乙ーー!


405VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/18(火) 22:54:07.29NKL6LmKG0 (3/6)

キンッ キンッキィンッ

勇者「く……っ」ズザザ

友「そう簡単にやられると思ったのか?」チャキ

勇者「今のお前なら……少しそう思っていた」

友「馬鹿言うな。お前が剣で一度でも勝った事があったか? はぁっ!」

勇者「っ!」サッ

勇者「“火炎壁”!」ゴォォォオッ

ウジャウジャウジャウジャ…

勇者「!? 小さい触手が、壁に……!」

友「……そうだな。魔法を使えば俺にも勝つな」

友「でも、忘れてもらっては困る。俺はご主人様と共に戦っているんだ」

勇者「……っ」

友「俺としても、親友を傷つけるのは悲しい。大人しく仲間になれ」

勇者「……俺は負けない」

友「……」

勇者「兵士としての信念を捨てたお前には、負ける気がしない」

友「そんな陳腐な信念……」

勇者「何だと!?」

友「今はもっと偉大な……ご主人様の従者としての信念がある」

友「ご主人様が、世界を統べるための手伝いをする。俺達の信念だ」

勇者「世界を……だと!?」

友「偉大だろ? 大丈夫だ。すぐにとどめをさしてやる。死なないようにな」ザッ

勇者「友ォっ!」ダダッ

ガキィンッ!


406VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/18(火) 23:13:41.51NKL6LmKG0 (4/6)

魔法師「あの二人……凄い……」ゴオォォ

騎士「二人とも有望な若手兵士ですからね。当たり前です」

騎士「いえ……一人は、『だった』ですね」

魔法師「しかし、どうしますか? 燃やしても燃やしても沸いてきますよ」

騎士「どこかにいる本体を何とかしなくてはならないのでしょうね、多分」

剣士「はっ! たぁっ!」ズバッ ズババッ

魔法師「剣士さんも凄いですね。“火炎放射”!」ゴォォ

騎士「あの子は、兵士だが扱いは訓練生でしてね。本当は危ない目に遭わせたくなかったのですが」

魔法師「あれで訓練生ですか……。白の国は粒揃いですね」

騎士「何。優秀なのが連んでいるだけです。私も含めて」

魔法師「あはは……」

剣士「魔法師さん、ここ一帯もお願いします」タタタッ

魔法師「はい! “火炎放射”!」ゴオォォッ

騎士「剣士、この辺りは任せた!」

剣士「えぇっ!?」

魔法師「どうするんですか?」

騎士「奥に行ってみようと思います」

剣士「でも、寄生されてるのが……」

騎士「そいつらは何とか避けながら行く。どうやらその方が生きていけそうだしな」

剣士「私も――!」

騎士「いや、君と魔法師さんは残ってもらう。勇者の邪魔を減らしてくれ」

騎士「友は本調子みたいだからな。一筋縄じゃいかない事くらい知っているだろう」

剣士「……わかった」コク

騎士「魔法師さん、剣士を頼みました」

魔法師「ええ。……お気を付けて」


407VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/18(火) 23:24:26.32NKL6LmKG0 (5/6)

僧侶「“――”」ブツブツ

ザッ ザッ

「あなたも来ていましたか」

僧侶「……」

僧侶「……修道士、先輩ですか」

修道士「迎えに来てくれたのですか?」

僧侶「まぁ、そんな所です。修道士A、修道士B、修道士C先輩は亡くなられました」

修道士「ええ、知っていますよ」

僧侶「……」

修道士「あの方達はご主人様の誘いに抗って、受け入れる前に死してしまいました」

修道士「可哀想な方達です」

僧侶「……そうですね」

修道士「僧侶、あなたは賢い。彼らとは違う」

僧侶「そう褒められると、照れますね」

修道士「ご主人様は何人も受け入れます。さぁ、こっちに来なさい」

僧侶「……」

修道士「迷っているのですか? 一緒に来た方達が心配ですか?」

僧侶「そうですね」

修道士「大丈夫。彼らにもすぐに改心していただけるでしょう」

修道士「さぁ、私とご主人様の元へ」スッ

僧侶「……そうですね」ギュッ

修道士「やはりあなたは賢い」

僧侶「本当に、あなたは最も犯してはならない罪を犯したらしい」


408VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/18(火) 23:37:12.44NKL6LmKG0 (6/6)

修道士「何をですか?」

僧侶「僕達の主はこのような所にはいない」

修道士「まだそんな間違いを言いますか。いいえ、それは間違いです」

修道士「我々が崇拝しなければならないものは、ご主人様です」

僧侶「それだから、こうも簡単に罰が下るのです」

修道士「罰?」

僧侶「寄生された動物や魔物、修道士A先輩達を見て思ったのです。あれだけ体の隅々まで侵されていれば――」

僧侶「――もしかして、痛みはないのではないですか?

修道士「ええ、その通りです。素晴らしい恩恵でしょう」

僧侶「だから、今のあなたは、僕が握った手から触手ごと腐っている事に気付かないのです」

修道士「……何ですって?」シュウゥウゥ

修道士「これは、まさか……」シュゥゥゥ

僧侶「あなたから教わった、腐食の祈りです」

僧侶「勇者さん達のご友人が出てきたのですから、他の人間や……あなたも出てくると思って唱えておいたのです」

修道士「やはり、あなたは賢い。もう少し警戒すべきでした」

僧侶「こうでもしなければ、あなたには勝てなかったでしょう」

修道士「ですが、憶えておいてください」

僧侶「……」

修道士「残るのはいつの世も、正しき者であるぁぇ……ぁ……」シュゥゥォオオ…

僧侶「喉と口が腐りました。残念ながら、全部聞けなかった――」

僧侶「――っ!? これは……!」


409VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/19(水) 06:08:26.96aUnRLmdgo (1/1)

薄い本マダー?


410VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/19(水) 12:09:54.08AL3o8Reno (1/1)

乙ーーー!!
まさか二日連続で読めるとは思わなかったです。


411VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/19(水) 13:29:17.48cnKNUm4IO (1/1)

ここももうすぐ3年か
思えば長いなwwwwww


412VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/19(水) 19:27:07.04wi0yODep0 (1/4)

時間があまりないけど、今日も書くよ!

と言うか、本当遅筆でごめんなさい。
三年か……。それだけ時間があったら、普通に書けてれば今頃終盤あたりかな……。


413VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/19(水) 19:44:18.29wi0yODep0 (2/4)

勇者「“火炎弾”!」

ウジャウジャウジャ
   ゴオォォォオ!

友「魔法は効かない!」シュバッ

勇者「くぅっ!」キンッ

勇者「……剣じゃ友には勝てない……」

勇者「かと言って魔法は……触手に邪魔されて届かない。どうすれば……!」

友「!?」

勇者「っ!」

友「くそっ!」ダッ

勇者「……逃げた? どうしたんだ?」

魔法師「周りも同じです。撤退でしょうか……」

勇者「そんなまさか」

僧侶「勇者さん、驚くべき事がわかりました!」ザザッ

勇者「どうしました?」

僧侶「被寄生者の事ですが、あるべきものがないんですよ」

勇者「?」

僧侶「脳です。頭の中が空っぽなんですよ」

勇者「そんな馬鹿な! だって……じゃあさっき戦っていた友は……!」

僧侶「そこまでは……わかりませんが……」

ズシャッ

剣士「……本当だ。見て、この猪の死体」

剣士「脳どころか、体の中が空っぽだよ」

魔法師「となると、これらを動かしていたのは、寄生してた小さな触手……?」

魔法師「……! 騎士さんが危ない!」

勇者「騎士がどうしたって?」

魔法師「本体を探しに先に奥へ! ここにいたのが退却したと言う事は――」

勇者「そういう事か! 急ぐぞ!」


414VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/19(水) 20:11:30.05wi0yODep0 (3/4)

「油断も隙もない……」
「ご主人様の所へ来るとは」
「大丈夫。痛みは」
「――下らないその姿の時だけ」
「すぐに気分が良くなる」
「ふふふ……」
「くくく……」

騎士「くっ、まさかまだこれ程人間がいるとは……!」

騎士「そことそこと、後そこ、見覚えがあるな。やはり行方不明者はここの仕業か」

騎士「……困ったな。人間だけでもこの数……触手の数も増えている」

騎士「だが、触手の根元は見つけた。あれが本体だろうな」

友「勘が良いな」

騎士「友!? 勇者はどうした!」ザッ

友「さぁな」チャキッ

騎士「……っ」

騎士「一つ聞く。なぜ勇者ばかりを狙った。一対一の勝負をする理由はないだろう」

友「ご主人様がそう望んだからだ」

騎士「なぜ君の主人は――」

友「油断は禁物だ、騎士」

シュルルルル
  パシッ パシッ

騎士「なっ!?」

友「……捕まえた」

「ふふ……つかまえたー……」
「仲良く、仲良く……」
「へへへへ……」

騎士「くっ……離れないっ……!」グッ グッ

友「勇者を先に狙ったのは、俺の記憶によるとご主人様の一番の敵となるからだ」

友「勇者は頼りになるけど、今の勇者は恐ろしい」

友「騎士にも手伝ってもらうよ」

グイッ

騎士「うああぁぁあっ!」


415VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/19(水) 20:18:33.41wi0yODep0 (4/4)

たった2レスしかできなかった……。
けどそろそろ時間なので!


416VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/20(木) 09:34:44.11/SzBYcWBo (1/1)

乙ーー!


417VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/12/21(金) 23:47:08.94WwBlG17AO (1/1)




418VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/15(火) 06:34:39.96mETx7ngSo (1/1)

待ってる


419VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/28(月) 22:02:49.28pOrN2pCz0 (1/3)

ごめんなさい。
また空けてしまいました。
反省は

しない。


420VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/28(月) 22:04:31.87EHouhBN4o (1/1)

     ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
   /:::|  ___|       ∧∧    ∧∧
  /::::_|___|_    ( 。_。).  ( 。_。)
  ||:::::::( ・∀・)     /<▽>  /<▽>
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  ||::|   <ヽ/>.- |  |:と),__」   |:と),__」
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\  \__(久)__/_\::::::|    |:::::::|
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.||ヽ .i\ _ __ ____ __ _.\   |::::::|
.|| ゙ヽ i    ハ i ハ i ハ i ハ |  し'_つ
.||   ゙|i~^~^~^~^~^~^~


421VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/28(月) 22:16:33.33pOrN2pCz0 (2/3)

ダダダダッ

勇者「騎士!」

「来た……」
「獲物……来た……」
「ふふ……仲間が……」

友「……早いね」

勇者「焦りすぎだ。バレバレなんだよ」

魔法師「どうやらあれが、本体みたいですね」

僧侶「……触手というのも頷けますね。枝葉こそないけど、木の幹みたいです」

魔法師「幹なんて単純なものなら良いのですが」

勇者「……騎士をどこへやった」

騎士「ああ、彼女ならあそこだ」

勇者「何!?」

触手の束「……」ウネウネウネウネ

勇者「っ!」

僧侶「そんな……!」

友「彼女もご主人様の側で改心する事だろう」

友「騎士も俺達の仲間だ。勇者達も――」

ズシャァッ!

友「――!?」

騎士「ああああああっ!!」ブォンッ

グシャァッ! ブチャァッ!

魔法師「騎士さん!」

勇者「無事なのは助かったが、怖いな……」

騎士「うああああっ!!」ブォンッ ドシャアァッ!

友「あ……あ……!」

僧侶「何か……様子がおかしいようです」

魔法師「よく見てください。騎士さんが斬っているところを」

僧侶「そうか。本体の幹を斬られてるから怒って――」

グチャッ ベチャッ

僧侶「――そうじゃない! 幹の中に、脳が詰まっている!?」


422VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/28(月) 22:37:37.98pOrN2pCz0 (3/3)

勇者「みんな、周りを見ろ!」

魔法師「!?」

「……っ」バタッ
「く……ぅ……」バタリ

僧侶「みんな倒れていく……」

友「わ……わた……ワタタ……!」
「タタ……ワタタタタ……!」
「シワ……タタタ……シシ……!」

友「ワタ……」
「……シヲ…」

友「怒らせたな……!」

魔法師「!」

魔法師「聞いて下さい! 多分、この人達はみんな生きてはいません!」

魔法師「体だけ操られ、意識はみんなこの幹に操られてるはずです!」

勇者「何! 騎士、もっと斬りつけろ! すぐ加勢する!」ダッ

友「……」ガシッ

勇者「くっ……邪魔するな、友!」

魔法師「駄目です! 今までと違って本気でかかってきてます!」

僧侶「うわわっ、無言で捕まえて来るんですが!」

魔法師「触手も次から次にんぐっ――!?」

勇者「騎士――!」シュルルルッ

騎士「ッ――!」シュルルルッ

ウネウネ…
 ウネウネ…
  ウネウネウネ…


423VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 00:51:34.66RxfrkKHwo (1/2)

>騎士「ああ、彼女ならあそこだ」
ここは友のセリフか?


424VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 08:24:23.447q47kNcGo (1/2)




425VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 09:52:34.32hpc+sw/uo (1/1)

おつおつ まってるよ


426VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 21:15:00.37XUV0ckKt0 (1/9)

>>423
うわわわ……その通りです……。
まさか俺がこんなミスをするとは……!

誤字はかなりしてるけど。


427VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 21:28:31.85XUV0ckKt0 (2/9)

~  ~

勇者「……」

魔剣〔……〕

魔剣〔……ん、続きはどうした?〕

勇者「いや、終わりだけど」

魔剣〔待て。今ので終わってはキミどうして生きているのだ?〕

勇者「生きている? 馬鹿を言ってはいけないな」

魔剣〔……質の悪い冗談に付き合う程器は大きくないぞ〕

勇者「やっぱりバレるのか」

魔剣〔我を何だと思っている。キミの体を何度も動かしたのだぞ〕

勇者「……そう言うとお前も相当危ないな」

魔剣〔キミを守っているだけのつもりだが?〕

勇者「……」

魔剣〔……何故黙る〕

勇者「で、さっきの続きだけど」

魔剣〔何故黙った!?〕

勇者「その話はまた別の時にしようか。それでな――」

勇者「実は俺もよく憶えてないんだ」

魔剣〔どういう事だ?〕

勇者「みんなが触手に飲まれた後、すぐに俺も触手に巻かれて何も見えなくなり身動きもできなくなった」

勇者「そこまでは話したな」

魔剣〔ああ〕

勇者「その後で、俺はどこかに運ばれる感じがしたんだ。多分、あの幹の近くに」

勇者「もう必死で何かしようとして、無我夢中だった」

勇者「触手を切り落とそうともがいた。勿論、腕なんて全く動かなかったけどな」

魔剣〔……〕

勇者「それで、口ならまだ少し動いたから、わけもわからずに詠唱した。多分、エレックス系――雷撃の魔法だったと思う」

勇者「そこで俺は意識を失ったらしい」


428VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 22:21:31.89XUV0ckKt0 (3/9)

魔剣〔意識を失った?〕

勇者「その辺りから記憶がないんだ」

魔剣〔恐怖で意識を飛ばしたのか? それとも――〕

勇者「気絶させられたのでもない、と思う」

勇者「俺が次に意識を取り戻した時には、全部終わっていたよ」

魔剣〔ふむ……〕

勇者「俺を起こしたのは、魔法師だった」

勇者「僧侶も無事に触手の残骸の上で待ってた」

勇者「騎士は、その時はまだ気を失っていたな。みんな外傷は少なからずあったけど、無事だったよ」

勇者「まぁ、友はあれだったが……」

魔剣〔魔物の本体は倒していたのか?〕

勇者「そうらしい。操られてた人達の脳も、魔物の幹と一緒に焦げてた」

魔剣〔何があったのかは――〕

勇者「魔法師と僧侶が一部始終見てた――と言うよりは感じていたようなものだな」

勇者「突然触手全体に大量の電撃が流れて、二人はその時に緩んだ隙に逃げたらしい」

勇者「触手から開放されると、どうやら俺がその電撃を魔法で起こしていたらしい。魔法師が言うには、一気に放出するにはおかしいくらいの魔力で」

魔剣〔ほう。それは勇者には潜在的に大きな魔力が眠っていたと言う事か?〕

勇者「そうじゃないな」

魔剣〔では?〕

勇者「これも魔法師の見解なんだけど」

魔剣〔ふむ〕

勇者「魔力って言うのは生命エネルギーに近いものだ、って言うのは知ってるよな」

魔剣〔うむ。なくなったからと言って死にはしないがな。激しく疲れる〕

勇者「だから魔法使いは自分の持ってる全魔力に合わせて、一回の魔法に使える魔力も大体決まっているのだそうだ」

勇者「魔法使いが決めるのではなく、体が自分の身を守るためにそう制限してるみたいに」


429VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 22:36:27.84XUV0ckKt0 (4/9)

魔剣〔そうだ。そうでなければ低級の魔法使いが高位魔法を使って身を滅ぼしただろう〕

魔剣〔我が時代にはそのような例はない。この時代までにもないのだろう?〕

勇者「ああ。だけどな」

勇者「俺がその第一号だ」

魔剣〔……何だと?〕

勇者「魔法師は昔から優秀だった。だから俺の魔力の減り方もすぐにわかったんだ」

勇者「エレックス系の初級魔法、電撃……。あの時の危機は俺の全魔力でそれを放った事で乗り越えられたらしいんだ」

勇者「俺に自覚はないんだけどな」

魔剣〔では、『勇者になった』と言うのは……〕

勇者「それは、元々魔法使えるのにわざわざ兵士になった変わり者だったけど」

勇者「決定的だったのはそれだな。俺の魔法には体からの制限がないんだ」

魔剣〔それは……我も気付かなかった……〕

勇者「それはもっともな話だよ。普段は必要以上の魔力は使わないように気を付けてるし、そうできるように訓練もした」

勇者「そうなれば、後は他の魔法使いと同じなんだ」

魔剣〔成る程な。……あぁ、そう言えば、キミがその魔法を使っている時、騎士の様子は言ってなかったが」

勇者「あー……聞いて話だとな」

魔剣〔うむ〕

勇者「直撃だったらしい。脱出できずに」

魔剣〔なんと頑丈な……〕

ザリ…ザリ…

勇者「!」

魔剣〔来たか……!〕

勇者〔ひとまず話はここまでだ〕

魔剣〔言わずとも理解しておる〕


430VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 22:49:36.39XUV0ckKt0 (5/9)

ザリ…ザリ…

勇者「……」ゴクリ

ザリ…ザリ…

魔剣〔大丈夫か? 昔のキミは必死で何とか勝てたらしいが〕

勇者〔正直……わからない〕

勇者〔これでも随分強くなったつもりだ。何とかなると思いたい〕

魔剣〔……もうすぐそこだな〕

ザリ…ザリ…

魔剣〔来るぞ!〕

「うああ……あー……」ズズズ…

勇者「……ん?」

魔剣〔どうした?〕

勇者「あぁ……この人は、肉屋の息子さんだ。聞いた容姿にそっくりだ」

肉屋の息子「あ……ぁー」ザリリ…

魔剣〔その肉屋の息子がどうしてこんな事になっている? 魔物に操られているにしても……〕

勇者「もしかして、別の魔物なのか?」

魔剣〔!? 気を――〕

勇者「いや――」シャキンッ ドス

ウネウネウネ…

魔剣〔――気付いていたか〕

勇者「この触手……同じような奴みたいだな。やけに細いけど」

勇者「これくらいの力なら何とかなりそうだ。触手を辿って行こう」

魔剣〔この人はどうするのだ?〕

勇者「残念ながら、もう手遅れだろうな……」


431VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 22:59:22.95XUV0ckKt0 (6/9)

勇者「……」

魔剣〔……なぁ、勇者〕

勇者「何だ?」

魔剣〔キミはしっかり捕まえた触手を辿って来たのだろうな?〕

勇者「そのつもりだけど」

魔剣〔キミが話した魔物の幹とは、これか?〕

勇者「……多分」

魔剣〔まさかこのようなのに死にかけていたのではあるまいな?〕

勇者「いや、前はこの広間の天井に届くくらいに大きかったはずだ」

魔剣〔いや、こちらも一応確認しただけだ〕

魔剣〔周りに動きの覚束ない他の魔物や動物がキミを狙っているから、これであってるのだろう〕

勇者「幹というか、瘤だな」

魔剣〔うむ。両手で抱えられそうだ。持ってみるか?〕

勇者「……」

魔剣〔……〕

勇者「……嫌だね。気持ち悪い」

ドス ザシュッ ザシュッ

 ドサドサドサ…

勇者「一件落着だな」

魔剣〔そのようだな〕


432VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 23:14:45.49XUV0ckKt0 (7/9)

勇者「あの後白の街に戻って白国王様に報告しに行った」

勇者「褒められる前に、まず怒鳴られたけどな」

魔剣〔……だろうな〕

勇者「魔法師や僧侶のお陰で随分軽くなったけど」

魔剣〔その後二人は?〕

勇者「あの二人は元々派遣元が違ったから、俺達の報告に付き合うと自分の所にさっさと帰ったよ」

勇者「後日、国の研究者が山に入って魔物を調べたらしい。その結論も俺達の耳に届いてる」

勇者「魔物の主、とか言われた魔物の正体は、やはり触手系の魔物の一種らしい」

勇者「ただ他の生き物を捕まえてその脳を自分のものにし、どんどん賢くなっていくのだとか」

魔剣〔そんな魔物までいるのか。考えるだけで恐ろしいな〕

勇者「まぁ、こいつくらいしか俺は知らないけどな」

勇者「それからの俺達はもう言わなくても大体想像つくだろう」

勇者「俺と騎士はこれを期により力をつけるよう励んだ。むしろそうしないと、友の事を思い出してつらかったんだけど」

魔剣〔……〕

勇者「そう言えば剣士もその頃から二刀流になったんだっけな」

勇者「今は自分の部屋に飾ってあるみたいだけど、友の形見の剣を暫く使い込んでたな」

勇者「で、白姫は友の事を知ると逃げるように国を出て行った」

勇者「……本当に、もう随分と昔の事みたいだよな」

魔剣〔……すまないな。つらい思い出を思い出させたようだ〕

勇者「別に良いよ。ここはどのみち思い出してしまう所だから」


433VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 23:34:19.17XUV0ckKt0 (8/9)

勇者「……さて、騎士も待っている事だし、戻るとしようか」

魔剣〔そうだな〕

勇者「無用に緊張したせいで何だか疲れたな……」

魔剣〔そう言っている場合ではないと思うのだが。これから竜退治なのだろう〕

勇者「調査」

魔剣〔そう変わるまい。竜退治になったとしても、我がいるから安心すれば良い〕

勇者「そう言えば英雄王って竜を倒した事があるんだっけ」

魔剣〔うむ。手強かったぞ〕

勇者「調査にしろ退治にしろ、出発前にやっておかなくてはいけない事はあるけどな」

魔剣〔?〕

勇者「肉屋の主人に息子の遺体を届ける事と、この魔物の対策を考えてもらうように報告もしないと」

魔剣〔また新しくこの場に生まれるかもしれない、か〕

勇者「その通り」

ザッ…ザッ…

勇者「!?」

魔剣〔まさか……まだいたのか!?〕

ザッ…ザッ…

騎士「ああ、勇者。やはりここにいたのか。大丈夫か」

勇者「……騎士か。脅かすなよ」

騎士「すまないな。倒したとは言え、ここはあの場所だからな」

騎士「ところで、道中遺体を見つけたのだが、何かあったのか?」

勇者「大丈夫だ。全部終わった。またあいつがいただけだよ」

騎士「また!? い、いや、その前に終わった、って、一人でか!?」

勇者「焦りすぎだ。かなり小さい状態だったから楽だったよ」

騎士「そ、そうか……」

勇者「そう言えば何で騎士がここに?」

騎士「私も白姫様もこの件は知っているからな。心配したんだ」

勇者「……そうか。ありがとうな」

騎士「……いや」

勇者「だが一応その件は終わったからな。行こうか、竜の国へ」


434VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 23:46:14.24XUV0ckKt0 (9/9)

ひとまず(珍しく本当の意味で)キリが良いので。
ちなみに回想編の途中からミスが発生しています。
ええ、うっかり忘れてたんですよ。すみません、剣士さん。
補足すると、四人がピンチの時、剣士は本体のいる広間までの通路に取り残されてました。
理由は各自脳内補完!

で、次の話は三つに分岐するので、最初に何からするのか安価で多数決とります。
 1.男と盗賊 依頼編(野の国)
 2.剣士 修行編(渦の国)
 3.勇者と騎士 調査編(竜の国)
>>~+5 or 2月突入まで


435VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 23:51:57.93RxfrkKHwo (2/2)

1かな


436VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 23:55:36.506IDchxoHo (1/1)


3がいいな


437VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/29(火) 23:57:55.877q47kNcGo (2/2)


1から順番にがいい


438VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/30(水) 09:26:04.57ASeMm682o (1/1)

1かなー


439VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/30(水) 15:50:13.69xgmvJuURo (1/1)

乙!
2の人気の無さに・・・
まあ私も1を先に読みたいww


440VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/01/30(水) 22:59:13.39LHf9DjDko (1/1)

ストーリーの組み建て方的にそろそろメインストーリーが動くものをやって貰わないと


441VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/12(火) 17:49:00.761yk345bN0 (1/8)

二月に入ってすぐ書くと思ったか?
……俺もそう思ってました。
しかし、剣士修行編の不人気っぷりは凄いな。
それでは 1→2→3の順でやっていきたいと思います。
1の場所は野の国。少しは進行してくれるで、あろう。
http://sssssssssssssss.web.fc2.com/img/img_a004.jpg

>>440
正直なところ、もっと無駄な話もしておきたかったり。
でもこの遅筆だし早く進行もしたかったり。そんな葛藤があります。
まぁ、ここからは暫く進行すると思いますので。


442VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/12(火) 17:55:56.99RnuT1rd1o (1/1)

たらたら進むのもまた良し


443VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/12(火) 17:58:34.331yk345bN0 (2/8)

――野の国、蓮花の町

ガラガラガラ…

男「……やっと着いたか」

盗賊「ああ、蓮花の町だ」

男「遠くから見ても思ってたんだが」

盗賊「あ?」

男「村じゃないのか?」

盗賊「町だ。確かに町にしちゃあ田舎臭ぇがな」

盗賊「……相変わらず田舎臭ぇ。主力も変わらず大麦らしいしな」

男「周りの畑のあれか。小麦じゃなかったのか」

盗賊「大麦だ。そんな見分けもつかねぇのか」

男「生憎農業方面にはやや疎くてね」

男「で、相変わらずって言ったが」

盗賊「ちょいとばかり縁があってな」

男「盗賊稼業か」

盗賊「いや、そうじゃねぇが」

男「……ほう。興味があるな」

盗賊「いらねぇ所に関心持つんじゃねぇよ!」

男「……ほう」ニヤニヤ

盗賊「チッ。詮索はするなよ」

男「まぁ良いか。わざわざ来てるって事は、追々わかるって事だろうし」

盗賊「……さぁな」


444VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/12(火) 18:18:18.951yk345bN0 (3/8)

男「それで、待ち合わせ場所はどこだったっけ?」

盗賊「ほら。あの宿屋だな」

男「……古いな」

盗賊「寝れりゃいいんだよ。広さは俺達の借部屋より少し小さいくらいだったはずだ」

男「持ってきた機材がおければ良い」

盗賊「だろうな……。ふんっ!」パシンッ

ヒヒーン ガララ…

盗賊「しかしまだ来てねぇな。早く来ちまったか」

男「交通手段が馬車じゃな……。ん、あの人じゃないか?」

盗賊「どれだよ」

男「宿屋の中からこっち見てる」

盗賊「……ああ、あいつだな」フリフリ

男「知ってる顔なのか」

盗賊「当たり前だ。情報屋って言ってな、ここの首都を拠点にしてる奴だ」

男「ほう」

ギィ… バタン

情報屋「いやあ、盗賊、こうして顔を合わせるのは久しぶりだね」

盗賊「おう。元気そうじゃねぇか」ガシッ

情報屋「君も思ってより元気じゃないか」ガシッ

盗賊「思ってたより?」

情報屋「盗賊団がつぶれて陰気になっていると思っててね」

盗賊「まぁ、吹っ切れてはいねぇがな。あいつらの分もしっかりしねぇと」

情報屋「そうだねぇ。それで、そちらがお連れの学者さんで?」

盗賊「ああ。男って奴だ」

男「ツレって……いや、今はそうなるのか」ブツブツ

情報屋「よろしくおねがいします」

男「ええ、こちらこそ」


445VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/12(火) 18:32:32.191yk345bN0 (4/8)

情報屋「でも驚いたね。手紙での到着日が意外と早いから驚いていたんだけど、まさか馬車とは」

情報屋「これもお連れさんので?」

男「いえ、これは勇者さんから借りているものですよ」

情報屋「はぁ、勇者様のですか……!」

情報屋「半信半疑だったけど、凄いツテを持ったみたいだね」

盗賊「自分でも驚いてる」

情報屋「本当、偶然もあるものだねぇ」

情報屋「さて、まだ日が落ちるにも時間があるから、話だけでも進めようかな」

盗賊「ああ。だがその前に――」

情報屋「ええ。まずは荷物を部屋に置いてもらった方がいいかな。部屋は取ってあるよ」

盗賊「手配通りだな。助かる」

情報屋「この大荷物は予想外だったけど」

男「すみません」

情報屋「いえいえ。このくらいは入るでしょうし」

情報屋「後はこの馬車だね」

盗賊「この裏って荷台も置けたか?」

情報屋「ええ、大丈夫」

盗賊「って事だ。てめぇの荷物は自分で運べよ」

男「わかってる」


446VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/12(火) 18:52:23.691yk345bN0 (5/8)

――酒場

「麦酒、おまたせしましたー」

盗賊「――よし、依頼を聞かせてもらおうじゃねぇか」

情報屋「その前に、とりあえず飲もうよ。折角ここまで来たんだ」

盗賊「?」

情報屋「男さんもどうぞ。蓮花の地酒は絶品ですよ」

男「……うめぇ」

情報屋「でしょう、でしょう!」

盗賊「いや、俺もそのくらい知ってるけど……」ゴク…

情報屋「……」

盗賊「何か訳ありか?」

情報屋「今回の件、二つ驚き所があるんだよね」

情報屋「まぁその一つは白羽教会が関わってきてるって事」

盗賊「教会が?」

情報屋「ええ。何でかは不明。でもこのくらいじゃ盗賊は驚かないだろうね」

盗賊「いや、少し驚いてる。そんな重大なものと思ってなかったんでな」

情報屋「で、もう一つが、蓮花の町外れの館に住んでいる領主、麦主の御息女が関係している」

盗賊「……!?」ピクッ

男「?」

盗賊「……麦娘か」

情報屋「ええ」

男「麦娘?」

盗賊「ここら一帯の領主の一人娘だ」

男「いや、それはさっき聞いたが」

盗賊「だからわざわざ俺を呼んだんだな」

情報屋「他でも良かったんだけど、君が適任だろうし」

盗賊「……はぁ。聞く前に飲みきって置くんだったぜ」

男「……麦酒うめぇ」グビグビ


447VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/12(火) 19:48:03.361yk345bN0 (6/8)

盗賊「……はぁ」

情報屋「……」

男「……」ゴク…ゴク…

盗賊「とりあえず……詳しく聞かせろ」

情報屋「ええ」

情報屋「事の発端は、ある魔物の出現からなんだ」

情報屋「その魔物はいつからいたのかは知らないけど、麦主の御息女が関わってくるのは、大体半年前」

情報屋「ところで、この村の北側に草原が広がっているのはしっているかな?」

盗賊「ああ。遠くの山のてっぺんが地平線の上に見える、広いとこだな」

情報屋「その草原であってるよ。魔物はいつしかそこに住み着いていたんだ」

盗賊「あんなとこにか?」

情報屋「そう。しかも身の丈二人……いや、三人もある巨人だそうだよ」

盗賊「そりゃあ怖いな……。凶暴なのか?」

情報屋「いや、それがわからなくてねぇ」

盗賊「?」

情報屋「それで半年前くらいの話になるわけだよ」

盗賊「麦娘の話か」

情報屋「そう。それまでは特に害もなかったから、町の人は魔物を放っていたんだ」

盗賊「草原にもあまり行かねぇだろうしな」

情報屋「ところが、ある日御息女が姿を消して、暫く大騒ぎだ。町やその近郊を探しても見つからない。そこで草原にも捜索をあてたところ」

盗賊「見つかったわけか」

情報屋「御息女はその巨人と住んでいた」

盗賊「……は?」

情報屋「どこから材料を持ってきたのかわからないけど、大きな掘っ立て小屋を作ってね」

盗賊「……いや……は?」

情報屋「それを見つけた人は慌てて御息女を連れ戻そうとしたよ。そうすると巨人は暴れ出して、何人か重傷を負った」

情報屋「その報告を聞いた領主の麦主はどのように連れ戻すかずっと考えあぐねているんだ」

情報屋「それが、半年程前の話」


448VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/12(火) 20:03:24.041yk345bN0 (7/8)

盗賊「ちょっと待て……混乱してきた……」

情報屋「奇妙な話だよねぇ」

男「ちょっと良いですか?」

情報屋「何でしょう」

男「聞いている分には、町の人が一方的に悪い気がするんですが」

情報屋「そうとも取れるんですけどね……相手は魔物ですし、御息女の身に何をしているか」

情報屋「彼女の服装も相当乱れていたと聞きます」

男「それは暫く着替えてないだけじゃ……」

情報屋「どうでしょうねぇ」

盗賊「よし。続きを頼む」

情報屋「大丈夫?」

盗賊「いまいち理解できねぇが、埒があかねぇ」

情報屋「だね。それで御息女の方も帰るつもりはないらしく――本当に大丈夫?」

盗賊「……続けろ」

情報屋「そんな状態だから、やはり魔物が何かをしているに違いないって言う話が出回り始めたんですね」

情報屋「脅迫か、洗脳か、催眠術か。そんな類です」

盗賊「あぁ……」

情報屋「その時はまだ噂程度だったんだけどねぇ。一ヶ月程前の事ですね、彼らが来たのは」

盗賊「教会の連中か」

情報屋「ええ。彼らは魔物の噂を聞いて来たらしく、すぐに殺さなければならないと説いたのです」

情報屋「そんな彼らでしたが、魔物の元に向かって、それから随分とボロボロになって戻ってきました」

盗賊「巨人はそんなに強ぇのか」

情報屋「いえ、御息女のせいだよ」

盗賊「~~っ!」

情報屋「大丈――」
盗賊「続けろ」
情報屋「――ええ」


449VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/12(火) 20:20:52.211yk345bN0 (8/8)

情報屋「戻ってきた修道者達の話では、彼女は殺そうとしてきたそうだ」

男「なんでまた」

情報屋「さぁ? それ以上の話は伺ってませんので」

情報屋「最も、それからその魔物が御息女を手籠めにしている噂は、町の中でも信憑性の高い話になりました」

盗賊「で、結局俺達にどうしてもらいたいんだ? 巨人を倒せってか?」

情報屋「いやいや、依頼としては無事御息女を領主の館に戻っていただければ良いだけだよ」

盗賊「ぬるい依頼主だな」

情報屋「魔物の生死は問われてないけど」

情報屋「最も君に期待するのは、それ以上だけどね」

情報屋「事の真相を知り、物事を円滑に処理してほしい」

盗賊「無茶言いやがる」

情報屋「かもね」

男「そこまでして、あなたに得でもあるんですか?」

情報屋「あるにはありますね」

盗賊「一種のプライドみてぇなものだろうが」

情報屋「いや。常に正しい情報を得なければならない。これは信用問題にかかわるからね」

情報屋「情報屋は信用が第一」

盗賊「嘘でも稼げる奴は稼いでるさ」

情報屋「でも正しければ贔屓もしてくれる。君みたいにね」

盗賊「はっ、その通りだな」

盗賊「まぁ、やれるだけの事はやってやるぜ」

情報屋「期待してるよ」

盗賊「それに、今回は良い頭脳もあるからな」

情報屋「成る程、それで学者さんがついてきてるわけだ」

男「……」ゴクゴク…


450VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/13(水) 20:18:33.88qUW5KkKvo (1/1)

この話の主人公はほぼ盗賊と男だよね


451VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/15(金) 15:47:14.17byZelnlSo (1/1)

乙ー!


452VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/17(日) 15:21:21.552MuIeZADo (1/1)




453VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/21(木) 18:15:07.54Vems40oM0 (1/6)

――宿屋

男「ふー」ドサッ

盗賊「疲れてるみてぇだな」

男「長旅だったからな。酒のお陰で随分紛れたが」

盗賊「そりゃあ良かった」

男「それで、明日からの話だが」

盗賊「疲れてるんじゃねぇのか?」

男「いや、寝る前に少し話して置いた方が良いと思ってな」

盗賊「えらくやる気じゃねぇか」

男「いつも世話になってるからな。何か助けにはなれると良いが」

盗賊「……は? 何だ気持ち悪ぃ」

男「いやな、この辺りで一度日頃の家事手伝いの借りを返しても良いのではと思って」

盗賊「ありがてぇが、何か複雑な気分だぜ……」

男「で、明日は領主の麦主って人と会わずに草原に行くんだな」

盗賊「ああ。その分成功報酬のうち紹介料と仲介料は情報屋に引かれるがな」

男「お前が昔何かしなけりゃ紹介料だけで済んだだろうに」

盗賊「良いんだよ。今回は金のためじゃねぇんだ」

男「ほう。意味深だな」

盗賊「意味深も何もねぇよ。情報屋とは旧知の仲だしな」

男「麦娘という人のことは?」

盗賊「追々、少しずつ話せばいいか?」

男「仕方ない。それで手を打とう」


454VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/21(木) 18:34:04.70Vems40oM0 (2/6)

男「それでだな」ゴソゴソ

盗賊「ん?」

男「少し興味を持って蔵書館で借りてきたものがあるんだ」ドサ

盗賊「本――図鑑だな。『魔物大概説』?」

男「旅に出る時は道中に魔物が良く出るだろ?」

盗賊「ああ」

男「だから役に立つかと思って持って来てたんだ」

男「で、今回はどうやら魔物が関わりがあるらしいから、そういう意味でも役に立つんじゃないか?」

盗賊「確かに良いかもな」パラパラ

盗賊「ああ、確かにこんなんいたな!」

男「はは、面白そうだな」

盗賊「改めて見るとな」

盗賊「こんなもんあったんだな。結構な種類があるぜ?」

男「最近発行されたものらしい」

盗賊「でもやっぱり竜の国とか魔の国とかの魔物はないな」

男「当たり前だろう」

盗賊「麦娘のとこのは巨人だから……ヒトガタ種だな」

男「今調べても外見知らないんだからわからないだろう」

盗賊「こういうのは大体絞り込んでおいてだな……」

男「まぁ、そうだな。ヒトガタでも巨人はそれ程多くなかったはずだし」


455VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/21(木) 18:49:15.40Vems40oM0 (3/6)

盗賊「野の国に出るのは、こいつとか」

男「樹木の巨人、か。でもこれは北部地域だしな」

盗賊「違うのか?」

男「いや、そうは言わないが……ん? これは?」

盗賊「醜面の巨人? おいおい、冗談はよせよ」

盗賊「こいつには俺も対面した事はあるが、小屋を作るくれぇの知恵なんてねぇぞ」

男「そうなのか? あぁ、本当だ。書いてある」

盗賊「こいつかもしれねぇな。穴潜りの巨人」

男「葉の国が主な出没地域……野の国にも目撃例……」

男「可能性は少ないな」

盗賊「ない事はねぇな」

盗賊「それにしても、お前が急に魔物に興味を持つとはな」

男「あぁ……」

男「前に女さんと会った時あるだろ?」

盗賊「……魔王が攻めてきたときか」

男「ああ。あの時に置いていった鉄の魔物。あれに対して女さんが言った事が離れなくてな」

盗賊「……」

男「『この魔物は、私が作りました』って」

男「この世界の歴史を聞いたときも疑問に思ったが、あの一言でほぼ確信した」

男「魔物は人工物なんじゃないか?」

盗賊「俺達は魔王が呼び出した魔界の獣と聞いているがな」

盗賊「確かに女がそう言ったなら……いや、あの魔物だけの可能性もあるじゃねぇか」

男「そうだな。それを知りたくなった。そんな感じだ」

男「まぁ、この話はこのくらいにしておこう。もう少し図鑑を見ておこうか」


456VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/21(木) 20:30:30.89Vems40oM0 (4/6)

(翌朝)
――蓮花の町郊外

男「……」コクリコクリ

盗賊「……」ウトウト

男「……まさかこんなに眠くなるとは」

盗賊「……まさかあんなに話が弾むとは」

男「元はと言えば、お前が悪い。巨人でもないヒトガタの話をし始めて」

盗賊「食いついたてめぇも悪いだろうが」

男「その後にヒトガタ以外のページをめくったお前の方が悪い」

盗賊「それを言うなら動物との相関なんとかの話をし始めたてめぇも酷ぇぞ」

男「相関性だな」

盗賊「そんな事はどうでもいい」

男「全くだ」

盗賊「……」フラフラ

男「……」ウトウト

盗賊「……あそこだな」

男「ん?」

盗賊「あの麦畑の向こうに塀があるのはわかるか? あの向こう側から草原って言われてる」

男「石造りの塀か。あまり高くないが、意味はあるのか?」

盗賊「獣、魔物除けだが、大物がくりゃあ駄目だろうな」

男「こういう所、土地安そうだな」

盗賊「何考えてやがる」

男「最近、本当に俺らは帰れるのか不安になってきてな。それならいっそ大きい研究所でも構えようかと」

盗賊「……っは」


457VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/21(木) 20:47:42.24Vems40oM0 (5/6)

男「ところで、ここから掘っ立て小屋までどのくらいあるって言ってたっけ?」

盗賊「……しまった。聞いてねぇ」

男「だろうな。俺も今気付いた」

男「北にまっすぐ向かえば良いらしいが」

盗賊「北と言やぁ、野中山が見えるはずだ。そっちに向かえば良い」

男「目印があるのか。それは助かるな」

盗賊「草原に入ると目印が少ねぇから、気を付けねぇと――煙?」

男「煙? 火事か?」

盗賊「あの大きさは、多分焚き火だな。なんでこんな所に」

男「誰かいるのか?」

盗賊「どうだか。まぁそろそろ景色も開けるからな」

「何だろ……誰かいr――!?」ザッ バッ

盗賊「誰かいたな」

男「俺らの姿見てすぐに隠れたけどな。何か傷つく」

男「おっ、本当に焚き火だ。よくわかったな」

盗賊「経験の差ってやつだ。テントも張ってあるな。野宿でもしてたのか?」

「――?」
「――っ!」
「――」

男「二人はいるな。まぁ、ずっと前にいるのも野暮だし、行こうか」

盗賊「とは言ってもな、見られてるんだが」

男「え?」

「……あの、何か用でしょうか」


458VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/21(木) 21:01:26.43Vems40oM0 (6/6)

男「いえいえ、用と言うほどでもありません」

盗賊「なんかすまねぇな。これから草原を探索に行こうとしてただけだ」

「草原……?」ピクッ

「草原には近寄らない方が良いですよ」

盗賊「そうは言ってもな。用があるんだ」

「……そうですか。何やら既にご存じのようですね」ゴソゴソ

盗賊「!? てめっ、その服装……!」

修験者B「申し遅れました。私は白羽教会の修験者Bと言います」

修験者B「そして……」

修験者B「……」シーン

男「?」
盗賊「?」

修験者B「そして……」

修験者B「……」シーン

修験者B「こちらが、修験者A先輩です」グイッ

修験者A「なっ何を……!」

男「どうも」
盗賊「……」

修験者A「……」コクリ

男「人見知りなのかな? 外套も目深に被って、顔も見えない」ヒソヒソ

盗賊「俺に聞くな」ヒソヒソ

修験者B「草原に用という事は、巨人の魔物と領主様のお嬢様の事でしょう」

男「そうだと言ったらどうします?」

修験者B「やめておきなさい。並みの人達には手に負えないものです。私達に任せてください」


459VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/02/22(金) 09:21:02.973bzHMqlro (1/1)

乙ー!


460VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/24(日) 19:39:40.10x76ntUOd0 (1/4)

さて


461VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/24(日) 21:27:54.94x76ntUOd0 (2/4)

盗賊「あぁ?」

修験者B「件の魔物の事は既にご存じと思いますが」

男「ええ。麦娘さんという方と一緒にいるのだとか」

修験者B「相手は魔物ですよ。そんな生易しいものじゃありません」

修験者B「何かしらの魔法か何か……を使って手籠めにしているのです」

男「何かしらの、ですか。あなた達もよくわかってないようですが」

修験者B「だから危険なのですよ」

盗賊「その前にだな、何でてめぇら教会の連中が出しゃばってきているんだ?」

修験者B「……民の生活を守るのも私達の役目ですので」

盗賊「ほう、殊勝なこった。だがな」

修験者B「?」

盗賊「麦娘には少し縁があってな。放っておくわけにはいかねぇんだ」

修験者B「しかしですね」

盗賊「ああ!?」

男「駄目だな。話が平行線だ」

盗賊「全くだ」

修験者B「私はあなた達に危険が及ばないように言っているだけです」

男「心配はありがたいのですが、俺らは行きますよ」

修験者B「……わかりました。では私達もすぐに準備しますので、ご一緒に――」

盗賊「断る」

男「えっ」

修験者B「……なぜですか?」


462VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/24(日) 21:37:00.61sEj0S1k7o (1/1)

きたか


463VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/24(日) 21:41:00.93x76ntUOd0 (3/4)

男「ついてきてくれるんだったら良いじゃないか。確かにその方が安全だ」

盗賊「気に食わねぇんだよ」

男「そんな根拠のない……」

修験者A「……」コクリ

修験者B「……はぁ、あなたがそう言うなら」

修験者B「良いですよ。もう私達は止めません」

男「なんかすみませんね」

修験者B「いえ……」

盗賊「おい、男。早く行くぞ」

男「ああ」

修験者B「……行きましたね。どうしたんですか、ずっと黙って?」

修験者A「ちょっとね」

修験者B「はぁ」

修験者A「それに、あまり強く引き留めるのも引き留める原因になるから」

修験者B「そうですか。信用は大切ですからね」

修験者A「その通り。僕達はあくまで神の使いだからね」


464VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/24(日) 21:53:25.03x76ntUOd0 (4/4)

男「全く、あんなに食ってかかる事はないだろうに」

盗賊「良いんだよ。坊主は好きじゃねぇんだ。特にああ言う善人ぶった野郎は」

男「やめてくれ。イタいから」

盗賊「何だと!?」

男「でもまぁ、そう無下にしなくても良いのに」

盗賊「おかしいとは思わないのか?」

男「何が」

盗賊「魔物退治は兵士や魔法使いの仕事だ。教会が率先してやってるって話は聞いたことがねぇ」

男「でも……僧侶さんとかは勇者さん達について行ってただろ」

盗賊「ああ言う場合は教会に依頼が来るのが普通だ。だから教会の連中だけって言うのはない」

男「が、さっきのはそうだからって言うのか?」

盗賊「そうだな。ただそれだけでもない」

盗賊「例外ってのは確かにあるかもしれねぇ。だがな、今回のは魔物だけでも例外なんだ」

盗賊「魔物の例外さがどれくらいかってのはまだわからねぇが……」

男「例外に例外が重なる、か」

盗賊「怪しいだろ?」

男「確かに奇妙だが、そんなにお前が気にするとはな」

盗賊「うるせぇ。俺の鼻を信じやがれ。嫌な臭いがするってんだよ」

男「臭い、か」

盗賊「ああ」

男「さて、これからどのくらい歩くことになるのか」

盗賊「さぁな」


465VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/25(月) 00:25:05.70bS7DyOnT0 (1/4)

男「最近恐ろしい事によく気が付くんだ」スチャ

盗賊「何だ、唐突に」

男「俺もこの世界に慣れてきたんだな、と」

盗賊「慣れてきただ?」

男「ああ。魔物を倒すのも普通になってきたな」

魔物の死骸群「  」ズラア

盗賊「そういやそうだな。俺と会った時なんか吐いてた癖に」

盗賊「だけど、てめぇの方が凶悪だ。ボタン一つで殺せるんだからな」

男「一説には、こう言う発明は何かを殺すには最適らしい」

盗賊「ほう。そりゃあ遠い所から攻撃できるしな。魔法使いでもないくせに」

男「詠唱もいらないからな。でもそうじゃない」

男「素人でも簡単に使える。こんなに軽いボタン一つで殺せるんだ」

男「命の重さなんて無に等しい」

盗賊「次は俺の短剣でやってみるか? その命の重さってのがわかるぜ」

男「馬鹿言わないでくれ。俺の運動神経を知っているだろう」

男「それとな、盗賊」

盗賊「ん?」

男「やっぱり命の重さはないと思うな」

盗賊「俺の短剣でもてめぇの武器でも、死ぬのなら一緒ってことか?」

男「いや、結局は人の思い込みだと思うんだ」


466VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/25(月) 00:33:27.99bS7DyOnT0 (2/4)

盗賊「……そろそろ昼だな」

男「そのようだな。太陽の傾きから、そろそろ三時か」

男「本当に結構広いな、この草原は」

盗賊「とは言えまだまだ入り口だがな。全体はもっと広い」

盗賊「野中山もあまり大きくなってねぇだろ?」

男「……広いな」

盗賊「だがそろそろ見えても良いはずなんだがな、魔物の掘っ立て小屋」

男「……掘っ立て小屋は見つかってないけど」

男「あれ」

盗賊「あ? どれだ?」

男「左側に見える、あれ」

盗賊「……人陰?」

男「見た感じ結構遠いが、それにしては大きくないか?」

盗賊「確かに。って事は」

男「ああ、噂の巨人だろう」

盗賊「よし、行ってみるか。できるだけ気付かれないようにな」

男「気付かれないようにだと? 隠れる場所もないだろ」

盗賊「あまり大きな音を立てるなってこった。目視で見つかるなら仕方ねぇ」

男「了解」


467VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/25(月) 00:52:07.87bS7DyOnT0 (3/4)

巨人「……」ノシ…ノシ…

盗賊「よし、幸いこっち向きじゃねぇみてぇだな」ボソボソ

男「振り返ったら気付かれるけどな」

盗賊「……その時はその時だ」

男「しかし……あれは何だ?」

盗賊「巨人、だな」

男「そんな事はわかってるが――」

盗賊「ああ。言いたい事はわかってる」

盗賊「あんな巨人は図鑑に載ってなかったな」

男「一番近いのは醜面の巨人か。だがそれより高い」

盗賊「明らかに三イグ以上はあるな……」

男「遠くから見ても三メートル……四イグ以上はある。何だ、あれは」

盗賊「俺に聞くな」

巨人「……」ノシ…ノシ…

盗賊「さっきから何をしてるんだ?」

男「……多分、あれだ」

盗賊「野牛の群れか。あの図体で狩りでもするつもりか?」

男「そうじゃないのか?」

巨人「……」…ズンッ ドドドッ

男「!?」
盗賊「行ったか……!」

ブォー! ブモォーッ!

巨人「……っ!」ズン…ッ

ギュイィィ…


468VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/25(月) 01:05:09.92bS7DyOnT0 (4/4)

男「……」
盗賊「……」

巨人「……」ムンズッ

盗賊「……なんてこった」

男「あれ、相手にするのか? 牛一匹、あっという間におかしな姿勢になったぞ」

盗賊「姿勢どころじゃねぇな。あの拳で血が破裂して出てきたぜ」

男「……どうするか」

巨人「……!」ギョロッ

盗賊「考えている場合じゃねぇみたいだぞ」チャキン

男「お、おい! 戦うのか!?」

巨人「……」

盗賊「……」

巨人「……!?」ジロッ

巨人「ウオォォォオオッ!」ズンッ

盗賊「くそっ! 男は離れてろ!」ダダッ

男「わかった!」

巨人「ンンンッ!」グッ ブォンッ!

盗賊「――っ!」ザシュッ

巨人「!?」

男「よし、手に傷を!」

巨人「ン、ングアアアアッ!」ブンッ

盗賊「なっ……速――!」ドスッ

盗賊「う……が、ぁ……!」…ドサッ

男「盗賊! 今助け――!」スチャ

?「はい、終わり。動いたら刺すよ」


469VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/03/25(月) 10:06:20.67SQmZYpU5o (1/1)

乙―!


470VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/04/04(木) 17:54:40.97AsvOXYFso (1/1)

凄腕っぽいけど隙だらけなのが盗賊の良い所


471VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/04/21(日) 23:03:25.22j1tghXB70 (1/4)

今年度は過去にもまして忙しくなりそうな。
書ける時にしっかり書いておけば、とか後悔してたり。


472VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/04/21(日) 23:13:47.98j1tghXB70 (2/4)

男「――!」

?「そうそう。わかってたら良いのよ」

男「女の声……もしかしてあなたが麦娘さん?」

麦娘「えっ、私の事を知ってるの? 初めて見る顔なのに」

男「まぁね」

麦娘「……そう。わかったわ。あなた達、巨人を始末しに来たんでしょ」

男「いや――」

麦娘「お父様かあの白羽のか知らないけど」

男「ちょっt――」

麦娘「私達は一緒に……何?」

男「別に始末しにきたわけじゃないんですが」

麦娘「それは嘘ね。巨人を襲ったのがその証拠じゃない」

男「それは誤解だ。向こうが先に襲ってきた」

麦娘「馬鹿なこと言わないで。あの子はおとなしい子よ」

男「それこそ嘘じゃないか?」

麦娘「本当よ」

男「……」

麦娘「……」

麦娘「……いいわ。信じちゃいないけど、変に疑うのもやめてあげる」

男「それはどっちなんだ……」

麦娘「巨人!」

巨人「……ウゥ?」ギョロッ

麦娘「そこに倒れてる男を慎重に持ってきてちょうだい」

巨人「……」コクリ

男「驚いた。あなたは魔物と会話ができるのか」

麦娘「あの子が特別なのよ。信じないだろうけど」

麦娘「残念ながら治療はできないけど、あの男と一緒にすぐに帰ってね」


473VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/04/21(日) 23:37:28.24j1tghXB70 (3/4)

巨人「……」ノシ…ノシ…

男「ところで」

麦娘「何?」

男「その槍、下ろしてくれないか。落ち着かないんだ」

麦娘「鋤よ」

男「え?」

麦娘「私が持ってるの。槍じゃなくて鋤。何で槍なんて思ったの?」

男「刃が複数背に当たってるからね」

麦娘「三つ叉の槍と思ったわけ?」

男「ああ」

麦娘「でもどっちみち下ろす気はないわ。あなたも武器を持っているから」

男「そうか。しかし、あの魔物も強いな」

麦娘「あの男が弱いだけじゃないの? 遠目で見てたけど、すぐに決着ついたじゃない」

男「油断はしてたかもな。盗賊も相当手練れだと思うから」

麦娘「……えっ、今なんて?」

男「油断してたから」

麦娘「あの男の名前よ!」

男「盗賊だ。……そう言えば、知り合いらしいこと言ってたな」

麦娘「まさか……!」ダッ

男「……本当なのか」

麦娘「巨人、その男の顔、見せて!」

巨人「……?」

麦娘「! 本当にあなたなのね……」

麦娘「予定変更よ。この男を小屋に連れて行くわ」

巨人「……」コクリ

男「待て! 帰してくれるんじゃなかったのか!」

麦娘「小屋の方が近いわ。十分じゃないけど、実は薬草もあるの」

麦娘「あなたの言ったこと信じるわ。さぁ、巨人の肩に乗って」


474VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/04/21(日) 23:57:37.24j1tghXB70 (4/4)

――草原の小屋

盗賊「……ん。……んあ?」

盗賊「ここは、どこだ? くそっ、体中痛ぇ……」

麦娘「あら、起きたみたいね」

盗賊「……麦娘か?」

麦娘「そうよ。久しぶり」

盗賊「それより、ここは?」

麦娘「私達の小屋よ。巨人が作ったからすごく大きいけど」

盗賊「巨人?」

麦娘「あなたが戦った魔物よ」

盗賊「!! てめぇ、男はどうした!」

麦娘「外で畑仕事手伝ってもらってるけど?」

盗賊「……あぁ、そうか」

麦娘「男さんから大体話は聞いたわ。駄目よ、あの子を脅かしちゃ」

麦娘「元々大人しいんだけど、あなたが短剣を見せたから怖がって暴れたの。わかる?」

麦娘「それに最近はあの子を殺そうとする人も多いから、神経過敏で」

盗賊「えらく奴の肩を持つな」

麦娘「そりゃそうよ。家族みたいなものなんだから」

盗賊「ほう。魔物が家族か。変わった趣味じゃねぇか」

麦娘「私もそう思うけどね。あの事は特別よ」

盗賊「あの家で娘がなぁ……。どうせ今回の騒動も家出が発端なんだろ?」

麦娘「うっ……」

盗賊「まぁ、だが……」

盗賊「良いツラしてるじゃねぇか。昔と違ってな。安心したぜ」


475VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/04/22(月) 13:24:36.99kMYhs0vSo (1/1)

乙ー!


476VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/04/22(月) 13:28:11.39piT0MxNso (1/1)




477VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/04/22(月) 20:38:41.557eYPNlTio (1/1)

良いヅラに見えた


478VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/05/11(土) 15:43:46.51UKDyKLcXO (1/1)

このスレ無関係でいられないから運営からのコピペするな

2013年6月8日から1ヶ月間誰の書き込みもないスレッドは自動的にHTML化されます。
詳しくは以下のURL先をご確認ください。
【運営から】 6/8から1ヶ月間書き込みのないスレッドは自動的にHTML化されます
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368247350/


479VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/05/27(月) 21:08:00.87yNdoUsHe0 (1/5)

>>477
お前のせいでヅラにしか見えなくなったどうしてくれる

>>478
ありがとうございます。
今回は一ヶ月空いてますから、このままだとやばいですね。気を付けます。
別の所でひっそりやった方が良いのかな(ブツブツ


480VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/05/27(月) 21:15:05.96s+UPyGBfo (1/1)

移るなら誘導頼む


481VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/05/27(月) 21:23:19.71yNdoUsHe0 (2/5)

麦娘「そりゃあ、いつまでも無知な小娘ではいられないわ」

盗賊「だから、家出してる奴が言える台詞じゃねぇだろ」

麦娘「そうだけど……」

麦娘「ここで暮らし初めて、色々と考えも変わったの」

盗賊「……そうか。よいせっと」

麦娘「だ、駄目! まだ安静にしてなきゃ!」

盗賊「おいおい、心配のしすぎじゃねぇか? あのくらいの打ち身、寝たきりになるには軽すぎるぞ」

麦娘「腕、痣できてたけど」

盗賊「はっ、痣くれぇ」

盗賊「男は外にいるんだったな。あの扉で良いな?」

麦娘「ええ。ここには扉は一つしかないから」

盗賊「そうかそうか」

麦娘「……ねぇ、盗賊」

盗賊「あぁ?」

麦娘「何で、来たの?」

盗賊「てめぇを放っとけねぇからだ」

麦娘「え? それって――」

盗賊「仮にも領主の娘ってぇのに、無知で気まぐれで危なっかしい。最初に会った時もそう思ったぜ」

盗賊「昔の腐れ縁って奴かな。一度助けたら二度くらいどうってことねぇよ」

ギィ バタンッ

麦娘「……はぁ」


482VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/05/27(月) 21:37:04.40yNdoUsHe0 (3/5)

男「はー……肉体労働はやはり性に合わないな……」

盗賊「おう、いたいた」

男「ん? あぁ、盗賊か。具合はどうだ?」

盗賊「気を失ってただけだ。何てことねぇ」

男「凄い痣だったが」

盗賊「てめぇもか……。あのくれぇ何てことねぇよ」

盗賊「しかし、すげぇなここ」

男「ああ。俺も連れてこられた時は驚いた」

盗賊「草原の中なんだよな。ここまで畑が作れるとはな」

男「殆ど巨人が作ったらしいんだ」

盗賊「疑いたくもなるが……畑仕事してるのを見せられると信じないわけにはいかねぇな」

巨人「……」ザッザッ

盗賊「あいつは何してんだ?」

男「害虫の駆除。あの巨体でかなり繊細な指使いをするんだぞ」

盗賊「ほう」

男「女さんなら助手に欲しいとか言い出しそうだな」

盗賊「珍しいものには目がねぇからな」

男「向こうに井戸があるんだが、それも巨人が掘ったらしい」

男「あっち側に牛も放し飼いにされてるんだが、その管理も殆ど巨人がしてるらしいぞ」

盗賊「おい。ってことはあれか? 麦娘はあいつに養われてるってわけか?」

男「ははっ、そうとも言えるな」


483VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/05/27(月) 21:49:19.99yNdoUsHe0 (4/5)

男「だが不思議なのは、魔物がこうして人間と暮らしているということだ」

盗賊「あぁ」

男「それに、さっき話した」

盗賊「はぁ?」

男「農作業を教わったんだ。あれは知性もあるし言葉も喋れる」

男「少し思ったんだが、あれは人間か魔族の奇形種なんじゃないか?」

盗賊「奇形でもあれが人間であってたまるか。魔族がこれまでの姿を捨てたってんなら別だが」

男「だよな」

男「となると、俺らは認識から間違っていたのかもしれない」

盗賊「?」

男「まぁ、折角目を覚ましたんだ。巨人と話してみるといい。巨人!」

巨人「……? ナン……ダ……?」

盗賊「お、おお、言葉がわかるだと……」

男「改めて紹介する。盗賊だ」

盗賊「さっきは驚かせてすまなかったな」

巨人「コォチラコソ、ゴメン。麦娘ノ知リ合イト、ワカッテレバ」

盗賊「ちょっと待て」

巨人「?」

盗賊「誰だこの紳士は」ヒソヒソ

男「これが巨人という奴らしい」


484VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/05/27(月) 22:12:35.84yNdoUsHe0 (5/5)

巨人「デ、男」ギョロッ

男「な、何だ?」

巨人「手、動イテナイ。足、動イテナイ。働ク」

男「……わかったわかった」

巨人「盗賊ハ……」

盗賊「俺も手伝うか? 何でもやるぜ」

巨人「モウ少シ休ンデクレ」

盗賊「……てめぇもか。調子狂うな」

巨人「今日ハ泊マッテイクト、イイ。飯、フルマウ」

巨人「麦娘ガ信ジル人、初メテダカラ」ノシ…ノシ…

盗賊「あ、あぁ……。何だかな……」

男「今日のところは言葉に甘えようじゃないか」

盗賊「まぁ、そうするか」

男「さて、仕事に戻るか」

盗賊「なぁ、男」

男「何だ?」

盗賊「この件、どうするべきだと思う?」

男「そうだな。麦娘さんを領主の元に戻すのは確定だろう」

盗賊「だが――」

男「が、ただ依頼を遂行するのは惜しい状況なのも確か。だろう?」

男「認識的にも、学術的にも」

盗賊「てめぇは、これからどうするか決めているのか?」

男「いや。それはまだ。だから盗賊も考えてくれよ」


485VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/05/28(火) 10:30:21.17spvn+o5Ho (1/1)

乙ー!


486VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/05/28(火) 15:58:01.42uGyrFavgo (1/1)




487VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/05/28(火) 17:51:54.20AIpTICsdO (1/1)




488VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/05/28(火) 20:31:26.22GYvSdzoxo (1/1)

開墾、防衛、収穫
攻めてくる冒険者を倒して農奴を増やそう
ファンタジー開拓SLG
ここが異世界


489VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/22(土) 19:40:29.36hQNObH1lo (1/1)




490VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/27(木) 01:06:48.959ZBUy9Ep0 (1/5)

やばい! 一ヶ月!!

>>480
移るにしても地文付き化が追いついてないs……げふんげふん。
まぁ移る場所も考えられてないから、とりあえず居座り続ける。


491VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/27(木) 01:24:03.589ZBUy9Ep0 (2/5)

麦娘「えー、わざわざ来てくれた二人を歓迎して、乾杯したいと思います」

男「おー!」パチパチ
巨人「ウオー!」バヂンバヂン
盗賊「……」

麦娘「何よ。ノリ悪いわね」

盗賊「いや、急に何を始めるかと思えば。しかも酒じゃねぇし」

麦娘「この草原にお酒はないの。水だって井戸から以外出ないんだから」

麦娘「じゃあ盗賊は放っておいて、乾杯!」

男「乾杯!」
巨人「カンパイ!」
盗賊「……乾杯」

麦娘「……」

盗賊「……どうした?」

麦娘「まぁ、食事は普通にしましょう」

巨人「騒グ必要、ナイ」

麦娘「そういうこと」

盗賊「はぁ」

男「良いじゃないか。こういう食事は静かに味わうものだ」

麦娘「おお、男さんはわかってるね」

盗賊「宴会には向かねぇような質素なもんってだけじゃねぇか」

麦娘「何か言った?」

盗賊「だが巨人の育てた野菜は美味いな」

巨人「光栄ダ」

男「気になるんだが、巨人はこんな料理で大丈夫なのか? 量も俺らより少ないんだが」

麦娘「彼は小食なの。体に似合わずね」


492VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/27(木) 01:41:58.919ZBUy9Ep0 (3/5)

男「まぁ俺らは明日にでも一度宿に帰るつもりだが」

麦娘「ええ」

男「その前に色々聞いておきたい」

盗賊「そうだな。解決する手がかりがあるかもしれねぇし」

男「まずは盗賊と知り合った経緯でも」

盗賊「おいちょっと待て」

麦娘「ふふふ、それはね――」

盗賊「待て」

巨人「オィモ興味アル」

盗賊「おい」

麦娘「何よ、うるさいわね。今更恥ずかしがることもないでしょ」

男「それで?」

盗賊「はぁ、好きにしやがれ」モグモグ

麦娘「当時の私はまだ年端もいかない女の子で――」

盗賊「今も年端もいってねぇだろうが」

麦娘「話を折らないでよ。で、盗賊もまだ一人で盗みをしてた頃」

麦娘「家出をしてた私は、そんな隙をつかれて誘拐されてしまったの。家出の理由は割愛させてもらうけど」

麦娘「その犯人は当時父の領地を中心に荒らし回っていたならず者の集団」

麦娘「暴行、略奪、人売りなんてこともやってる結構大きなところで、警兵達も手こずってたらしいわ」

麦娘「きっと私も、身代金が手に入ったら売られてたかもしれないわね」


493VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/27(木) 02:30:11.099ZBUy9Ep0 (4/5)

男「ほう。これは……」

麦娘「読めた? その通り、その時に助けにきてくれたのが盗賊なの」

盗賊「助けたわけじゃねぇよ」

麦娘「そうね。でも結果的に助けてもらってるの」

麦娘「連れ去られたその日に、盗賊は私の閉じ込められてた牢の前に現れて」

麦娘「『なんだこのガキ』って」

男「ははっ、一言目がそれか」

盗賊「仕方ねぇだろ。てかよく憶えてるな」

麦娘「そりゃあ、私の王子様だもの」

盗賊「てめっ……!」

男「お前結構モテるよな」

盗賊「からかうんじゃねぇよ……」

麦娘「それで、盗賊は誘拐犯達のアジトから持てる限りの金品と私を抱えて出て行ったわけ」

盗賊「途中見つかって死にかけたな」

麦娘「ええ、あの時は本当にダメかと思ったわ」

巨人「ドウヤッテ生キ延ビタ?」

麦娘「いつの間にか、何とか、って感じだったかな。一晩隠れてたから、町に戻ったのも次の日だったっけ」


494VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/27(木) 03:38:16.379ZBUy9Ep0 (5/5)

麦娘「まぁ、それだけってことでもないんだけどね」

男「と言うと?」

麦娘「こいつ、それから暫くの間、私を心配して私の部屋にこっそり話にきてくれたのよ」

盗賊「わ、若気の至りって奴でだな」

男「ほおう」ニヤニヤ

盗賊「くっ……」

麦娘「あっ、このことは町の人には内緒よ。勿論、私の家の人にも」

男「しかし、いやはや面白い話があったものだな。なぁ、盗賊」

盗賊「う、うるせぇ。それよりも他に聞くべきことがあっただろうが」

男「あー。あぁ、そうだな。忘れてはいない」

麦娘「この子――巨人のことね」

盗賊「ああ」

麦娘「二人にはもう簡単に話したけど、この子と出会ったのは半年前、私が家出した時」

麦娘「その時のことを詳しく話すわ」

盗賊「頼む」

麦娘「正直、私もこのままこの生活を送るのはダメだと思っているの」

麦娘「それだけこの子は有名になってしまったから。その分、この子が危険に巻き込まれると思うから」

麦娘「だから盗賊、そして盗賊が信用してる男さんは何とか出来ると思って話すから、真面目に聞いてね」

麦娘「私の話から何か分かるかは知らないけど、ね」


495VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/06/27(木) 09:54:49.67XNDM495Jo (1/1)

乙ー!
しっかしこの子はよく家出する子だなww


496VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/08(月) 02:39:21.018bnonW/50 (1/4)

麦娘「半年前の家出は、いつもみたいに変わり映えのない日々から逃げるためのものだったわ」

麦娘「だからこの草原をどこまで行けるか試してたの。もちろん非常食は持ってきてね」

盗賊「……」
男「……」

麦娘「呆れた顔しないで。私だって反省はするんだから」

麦娘「それで、丁度脚の限界がきはじめた頃だったかな。辺りも暗くなってきて、どうしようって思ったわ」

麦娘「草原にだって魔物はいるし、野獣も凶暴なのがいないわけじゃないから」

麦娘「そんな時、大きな人影を見たの。遠くからでもわかる、普通よりも大きな影。そう、この子の影よ」

麦娘「思い出してたのは、噂話ね。この草原、北からの行商人が通ることがあるのよ」

麦娘「『多分危険はないような、ただ草原の真ん中でぼうっとしてる巨人』の噂」

麦娘「ただこの噂話には派生もあってね。近付いたら食べられるとか、町を滅ぼす期を伺ってるとか」

巨人「ソンナコト……ナイ」

麦娘「うん。もう、わかってる。でもその時はそんなこともあって、実は怖かったのよ」

麦娘「だからその時も、根負けしてどうにかして帰り道に戻ろうとしてたわ」


497VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/08(月) 03:00:29.868bnonW/50 (2/4)

麦娘「話がこれで終わってたらこの子とはそれっきりで、私も噂話を鵜呑みにしてたかもしれない」

麦娘「でも、そうならなかったのは、その時に草原牛の群れが走ってきたの。私に向かってね」

麦娘「後で巨人に教えてもらったけど、そこは丁度月に一回牛が縄張りを移動する道だったらしいの」

麦娘「脚が疲れ切ってる私は逃げることもできずに、悲鳴を上げながら近付いてくる牛を見て、終わりかなって思ってた」

麦娘「でもそんな時、声がしたの。『危ない!』ってね。そう、巨人の声」

麦娘「その時は巨人の声かは気にもしなかったけど。ただ誰かにそう言われて、すっと持ち上げられて、群れから助けてもらった」

麦娘「とりあえず、それだけしか理解できなかったわ」

麦娘「だけどそれから改めて巨人を見ても、恐怖はすっかり消えてたの。色々驚いてたけどね」

麦娘「それから巨人とは色々話したわ。危険な魔物から私を守ってくれるって言うから、安心してね」

麦娘「そうやって過ごしてたら、いつの間にか今みたいな状況になってしまったの」

盗賊「……あ?」

麦娘「ん?」

盗賊「それだけか? 最後省略しすぎだろうが」

麦娘「本当に色々あったからその辺りしっかり憶えてないのよ」

麦娘「憶えてるのは、その数日後に父の命で町の警兵が探しに来たこと。あの時は警兵達が威嚇したせいで巨人が暴れてしまったわね」

麦娘「後はそれから暫くして、白羽教団の修道士二人が巨人を殺そうとしに何度か来てることかな。私を殺すつもりはないみたいだから、しっかり追っ払ってるけどね」


498VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/08(月) 03:23:45.668bnonW/50 (3/4)

盗賊「……てめぇはなんで巨人にそこまで入れ込むんだ」

麦娘「さぁ、なんでだろうね」

盗賊「その教団の二人も、いつ麦娘を殺しにかかるかわからねぇんだぞ」

麦娘「多分、巨人は私にとって、二人目の盗賊だから」

盗賊「は? 二人目の俺? 俺とこいつを一緒にするんじゃ――」

麦娘「あはは、深い意味はないよ。そうね……家出中の命の恩人ってとこ?」

麦娘「ただ、一人でも生きていけるような強そうな盗賊じゃなくて」

麦娘「巨人は一人にしてるとどこか危なっかしい、そんな放っておけない子だったから」

男「……一つ、疑問がある」

麦娘「何?」

男「噂話にあったけど、巨人はどうして一人で草原にいたんだ?」

男「群れない魔物でも、同じ種は近くにいるはずだ」

麦娘「あぁ、それは――」

巨人「仲間ニ見捨テラレタカラダ」

麦娘「巨人、あなた……」

巨人「今、麦娘イルカラ寂シクナイ。大丈夫」

男「……続けてくれ」

巨人「オィ、生マレツキ変ワリ者ダッタ。姿モミンナト違ウ。考エ方モ違ウ」

巨人「親モ仲間モ、考エズニ生キテタ。ダカラ、考エテルオィハ変ワリ者」

巨人「ソンナオィヲ仲間トセズ、親モ仲間モオィヲ殺ソウトシタ。オィハ逃ゲテキタ」

巨人「逃ゲテ、人間見ツケタ。優シソウダッタ。言葉必死ニオボエタ」

巨人「デモ、姿見セルト、殺ソウトシテキタ。ダカラ人間モ仲間モイナイ草原ニ逃ゲタ」


499VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/08(月) 03:39:40.748bnonW/50 (4/4)

男「そうか。よくわかった」

男「蝙蝠みたいな奴なんだな」

麦娘「蝙蝠? あの洞窟とかに住んでるっていう?」

男「そう。俺の国の話で、空を飛べるのに鳥からは仲間はずれにされ、子を産むのに哺乳類から仲間はずれにされって奴だ」

男「巨人のは確実にその一方から生まれているから、質が悪いがな。醜いアヒルの子の方がぴったりだな」

盗賊「それもてめぇの国の話か?」

男「まぁな。アヒルが醜い子供を生んで、あまりにも醜いから見捨てたんだ。それで、その子が育ったら白鳥になったって話」

盗賊「そんな馬鹿な話が……」

巨人「……」

盗賊「成る程な」

麦娘「それで、何か役に立ちそうなことはある?」

盗賊「どうなんだろうな。男はどうだ?」

男「難しいところだな。考えてはみるけど」

男「この問題は、正直面倒なものなんだ」

麦娘「確かにそうよね。巨人を無事なままで、私のことも父の納得のいくようにするなんて」

盗賊「そうじゃねぇよ」

麦娘「?」

盗賊「結果そうなるようにしなけりゃならねぇってのは確かだが、問題の本質はそこじゃねぇ」

男「盗賊もわかってるか。そうだ。この問題には二つ中身がある」

男「一つは人の認識。もう一つは、二人の修道士の狙い」


500VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/07/08(月) 07:05:46.73boXA45xEo (1/1)




501VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 02:52:49.31KHNS9WBY0 (1/4)

(翌朝)

盗賊「世話になったな。蓮花の町にはこの方角で良いんだっけか?」

麦娘「ええ。まっすぐ行けば大丈夫よ」

男「対策が立てられたらまた来る。それまでは何とか凌いで欲しい」

麦娘「そうね。父の警兵なら大丈夫だけど、修道士の人達が来るとどうなるか……」

麦娘「できれば、四日後くらいまでには何とかできない?」

盗賊「四日後だぁ? 早すぎねぇか?」

麦娘「前に来たとき、次はそのくらいに来るって言ってたのよ」

男「その時に連中がどう出るか、か……」

麦娘「でも、その日に殺されるってわけじゃないんだから、きっと大丈夫。何とかするわ」

盗賊「俺達もできるだけ早く動く。安心しな」

麦娘「盗賊」

盗賊「あ?」

麦娘「本当に頼んだからね」

盗賊「おう。任せとけ」

男「作戦の大半は俺が考えるんだろうけどな」

盗賊「てめぇだけじゃなく俺も考えてるだろうが」

男「そういう事にしておこう。では、麦娘さん、巨人、また」

盗賊「じゃあな」

巨人「……」ズン…


502VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 03:09:14.08KHNS9WBY0 (2/4)

麦娘「? どうしたの、巨人?」

巨人「少シ」ズン…ズン…

巨人「男、盗賊」

男「ん?」

盗賊「どうした。まだ何かあるってぇのか?」

巨人「特ニ大事ナ事ジャナイケド……」チラッ

麦娘「?」

巨人「モシ、難シカタラ、オィハドウナッテモイイ」

巨人「麦娘ダケ元ノ生活ニ戻シテアゲテ欲シイ」

盗賊「はぁ!? そんな事あいつが許すわけねぇだろ」

巨人「分カッテル。ダカラ、言ッテル。コッソリ」

盗賊「だがな――」

男「良いか、巨人」

巨人「ナンダ」

男「俺らは最善を尽くすつもりだ。勿論、理想は巨人が蓮花の町に受け入れられることだ」

男「だが、本当にそれが無理だった場合、俺らは二人を隠すのが最善と思っている」

巨人「デモ、ソンナ事シタラ麦娘ガ独リニナッテ……」

男「俺らは一日だけだが、お前達二人の暮らしを見た。そこにあったのは、何かわかるか?」

男「人並みに幸せな暮らしだ」

巨人「人並ミ? ソンナハズ……」

男「確かに麦娘さんにとって、同居人は人間じゃないし、町の生活と違って自給自足」

男「だが、人並みな幸せというのは、周りと同じことで手に入るものじゃない。麦娘さんにとってもね」

盗賊「昔の麦娘を知っている俺から言わせてもらうとな」

盗賊「半年も不満もなく一箇所に居座ってるあいつを俺は知らないぜ」

巨人「……」

盗賊「さっきも言ったが、安心しな。あいつはてめぇを見捨てねぇ、って意味でもな」


503VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 03:43:56.02KHNS9WBY0 (3/4)

――蓮花の町郊外

盗賊「やっと戻って来れたぜ。一日で行けるって言っても長ぇな」

男「でも草原の奥の方じゃなくてまだ良かった。馬でも二日はかかりそうだ」

盗賊「違いねぇ」

盗賊「……っと。テントが近付いて来たぜ」

男「ああ」

修験者A「……!」コソコソ

修験者B「どうしたんですか、先輩。……あぁ、彼らですか」

修験者B「ご無事で何より。今お戻りですか?」

盗賊「ああ。おかげさまでな」

修験者B「どうでした?」

男「それが、見つかりませんでした。そのせいで余計に進んでしまって、戻るのがこんな時間になってしまったんですよ」

修験者B「そうでしたか。しかしそれは運が良い。巨人の魔物は凶暴ですから」

盗賊「草原の雑魚くらいは何とかなったんだがな」

修験者B「ほう」

男「折角なので、町でまた少し情報を整理しようかと。それから再び探しに行こうかと思っています」

修験者B「やはり、行くのですね」

男「縁もある仕事ですから」

修験者B「私達は四日後に彼女を訪ねるつもりです。そろそろ何とかしないといけないですしね」

修験者B「もし良ければ、その時に同行してはどうでしょう」

男「そうですね。……考えておきましょう」


504VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 04:09:34.50KHNS9WBY0 (4/4)

盗賊「で、気になってたんだが、てめぇらはずっとここで何してんだ?」

修験者B「詳しい事はお話しできません」

盗賊「ほう」

修験者B「そうですね……。対巨人の作戦をじっくり練っているってところでしょうか。後は休養ですね」

盗賊「作戦には興味あるな。教えてくれねぇのか?」

修験者B「秘密ですので」

修験者B「……もし話した場合、それを先に行われて死なれてしまうと、私達の責任ですから」

盗賊「固いな」

男「良いじゃないか。彼らには彼らなりのやり方がある。俺らが曲げられないのと同じようにな」

男「すみません。変な事まで聞いてしまって」

修験者B「いえいえ」

男「では、我々は少し疲れが出てきましたので」

修験者B「あなた達にルナンの祝福があらんことを」

盗賊「……」ザッザッ

男「……もう大丈夫か?」ザッザッ

盗賊「ああ」

男「四日後に行くって言うのは本当らしい。しかも、状況は相当悪い」

盗賊「何とかしねぇとな」

男「情報屋さんの居場所はわかるか?」

盗賊「ああ。これから会いに行くか?」

男「勿論だ。宿に戻る前にな」


505VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 07:58:51.79FALTZ6yoO (1/1)




506VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 10:12:25.49v/dj2Bh6o (1/1)




507VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/06(火) 12:26:34.92JXIlDlbgo (1/1)




508VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 19:43:03.312iXmHLbj0 (1/5)

――蓮花の町

情報屋「それで、御息女の様子はどうだった?」

盗賊「どうもこうもねぇよ。元気すぎるくらいだ」

情報屋「と言うことは、やっぱり操られてはいなかったわけか」

男「やっぱり?」

情報屋「噂を鵜呑みにするほど素人ではありませんよ。本来は領主の世間体というものからのはずです」

盗賊「娘が魔物と暮らしてるってのが許せるわけがねぇってわけだな」

情報屋「そうだね。例えそれが野生の犬でも面目が立たない」

情報屋「巨人の魔物の方も聞いて良いかな?」

男「ああ。あれには驚きましたよ。そこらの人間より余程紳士です」

盗賊「人の言葉も喋りやがるしな」

情報屋「喋る魔物、か。成る程ね」

盗賊「ん? 驚かないんだな」

情報屋「こっちも調べ物はしているからね。喋るのには驚いたけど、納得する理由があるんだよ」

盗賊「何だそれは?」

情報屋「……“月の使徒”って知ってる?」

盗賊「名前くらいはな」

男「俺は聞いたこともない」

情報屋「では掻い摘んで説明しましょう」

情報屋「月の使徒は、白羽教会の派閥の一つです」

情報屋「元々は小さくかつ秘密裏に結成された裏の派閥でしたが、最近ではその活動も目立ってきていますね」

情報屋「と言っても、こうして情報を集めている人でない限り存在も知り得ない程度ですが」


509VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 19:58:48.702iXmHLbj0 (2/5)

盗賊「それで、その月の使徒がどうしたってんだ?」

情報屋「まぁ、待ちなよ。まだ説明終わってないんだから」

情報屋「で、この月の使徒というのは、第二月の神ルナンを信奉する集団――というのは白羽教会全体と変わらないんだけど」

情報屋「彼らは魔の国を聖地としている。つまり、魔王が神の使いと考えている危ない集団なんですよ」

男「『月の神様』の一節、『海の彼方に落ちた』ルナン、か」

情報屋「よく知っていますね」

情報屋「それで、彼らの活動内容ですが……ここからは多分、盗賊も知らないと思うけど」

盗賊「ああ」

情報屋「突然変異の魔物を駆除すること。それが主な活動になっているようです」

男「突然変異か……。成る程。確かにあの巨人が突然変異なら、人の言葉が喋れる魔物が巨人だけというのも納得がいく」

盗賊「ちょっと待て。なんで魔王を進行している連中が魔物を倒すって言うんだ」

男「確かにそれは引っ掛かるところだが……」

情報屋「おや、男さんは思い当たりがありますか?」

男「なくもない。程度のものですが」

男「恐らく、魔物は自然発生のものじゃない。盗賊、王宮での件で女さんが言った言葉を覚えてるか?」

盗賊「どれのことを言ってるんだよ」

男「あの魔物、自分が作った。って言ってただろ?」

盗賊「あぁ」

男「あの時の魔物は一部機械のようなものだったけど……もしこう考えれば、彼女の言った言葉も、その月の使徒の活動も合点がいくんだ」

男「魔物は魔の国で製造された――人工的に作られたものなんじゃないか」


510VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 20:13:57.362iXmHLbj0 (3/5)

盗賊「何だと!?」

情報屋「……それは考えてなかったですね」

男「あれ?」

情報屋「でも、間違ってないと思います」

情報屋「魔物は魔の国から送られています。てっきり向こうで養殖したものが送られているのだと思っていましたが」

情報屋「ただ、作られているとなると、違う種が増えたりするのも納得できます」

情報屋「それに、大陸全土に住み着いた種々の魔物が全部魔の国の生き物、と考えるより現実的ですしね」

盗賊「確かにそうだが……そうなると向こうはより強い魔物を送り込むかもしれねぇってことだろ」

男「そうなる、のかな」

情報屋「いえ。そうなっていますね。決着戦争の一件が物語っています」

情報屋「……話が逸れましたね」

盗賊「おお、そうだな」

情報屋「魔物は、作られているにしろ養殖されているにしろ、そうやって計画的に送り込まれているわけです」

情報屋「そこで突然変異種が現れたとなると、それは魔王の意に反する、とも取れますね」

男「そうなんですか?」

情報屋「ええ。魔王がそう言っているのか月の使徒がそう決め付けているのか。そこまでは明らかにはなってませんが」

盗賊「とにかく、そこでその突然変異種を消すってわけか」

男「となると、もしかしてあの二人も……」

情報屋「もう気付きましたね。この町に来ている白羽教会の僧侶二人。あの二人が月の使徒です」


511VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 20:31:12.032iXmHLbj0 (4/5)

情報屋「彼らが月の使徒なら、あの一件も納得がいくんだ」

盗賊「あの一件って言うと……」

情報屋「魔物が御息女を操っていることに信憑性を持たせたきっかけ」

情報屋「御息女が教会の二人を追い返した一件だね」

男「麦娘さん達から聞いた話だと、出会ってからわりとすぐに信頼関係を持っていたな」

情報屋「その通り。だから魔物を殺しに来た彼らから守ったんじゃないかな」

情報屋「そしてひとまず退散した彼らは、町の噂を確固たるものにして町を味方につけた」

盗賊「この件の全貌はそんなところか」

情報屋「ええ。さて、どうする?」

盗賊「時間があれば、てめぇに情報操作をしてもらうところだが、あと四日しかねぇ」

情報屋「四日?」

盗賊「教会の連中が動く」

情報屋「何だって? じゃあ御息女をどうするかも決まったということか」

盗賊「あいつを巨人から引っ剥がして連れて帰るのは簡単だがよ……」

情報屋「丸くは収まらないだろうね」

情報屋「どうせなら、月の使徒の二人が巨人を倒すところを町の人に見せるとか」

盗賊「はぁ? 馬鹿言ってるんじゃねぇ」

情報屋「『経験は説法に勝る』。どちらが正しかったか見ればわかると思ってね」

情報屋「何よりインパクトがある。深い信頼を築いている御息女と魔物の別れを見れば……」

盗賊「てめぇ、それで麦娘が納得すると思うのか?」

情報屋「でも丸く収めるには」

男「……インパクトか」


512VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 20:43:45.922iXmHLbj0 (5/5)

男「妙案がある」

盗賊「本当か!」
情報屋「本当ですか!?」

男「……かもしれない」

盗賊「はっきりしやがれ……」

男「自信があるかと言えば、ないんだ」

情報屋「まぁ、聞いてみようじゃないか」

盗賊「お、おう」

男「さっき情報屋さんが言ったけど、『経験は説法に勝る』」

男「幸い、町の人の大半は巨人を見ていない」

男「領主やその私兵達も巨人本来の姿を見ているとは言い難い。そこで――」

情報屋「そこで?」

男「巨人を町に連れてくるんだ。教会の二人と入れ替わりにね」

情報屋「入れ替わりなら町で討伐される危険性もなく、さらに時間稼ぎもできる。成る程」

盗賊「おいおい、待て。いきなり連れてきたら町中パニックだぜ」

男「そのパニックが更に印象を強くする……はず」

盗賊「だがよ、そんなので巨人が危険視されるのが消えるとは思えねぇな」

男「勿論、こんなおざなりの手で巨人を安全と証明するとは、俺も思えない」

男「かといって、四日間なんて短期間にその下地も作れる自信がない」

男「そこで、発想の転換をしてみたんだ。町の人に、彼が危険だと思われたままでいいんじゃないか、ってな」

男「その代わりに、こう印象づける」

男「巨人は、便利なんだ」


513VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/08/19(月) 21:26:29.76KFZoMGfUo (1/1)

来たか


514VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/09/01(日) 18:14:15.536+k/GzMKo (1/1)




515以下、新鯖からお送りいたします2013/09/12(木) 08:53:32.11yq1BuckR0 (1/5)

情報屋「あの魔物が、便利?」

男「ええ。俺達は巨人が農作業をしているのを見たし、草原の小屋を建てたのも彼だ」

男「その力と器用さは十分評価に値すると思っています」

情報屋「ふむ……」

盗賊「ちょ、ちょっと待て。俺はまだ納得できてねぇぞ」

情報屋「そうですね。例えそれを力説したとしても、信用に足るとは思えません」

男「そりゃあ、力説だけしても何ともなりませんよ。だから実演するんです」

情報屋「実演、ですか?」

男「丁度ここにはその土台は揃っています」

男「俺はこの大陸に住んでみて、不思議なことを知った。それがその土台」

盗賊「何が不思議って言うんだ」

男「魔法があるからなんだろうな。文化レベルはそこそこあるにも関わらず、俺のいた世界よりも科学の発展が遅い」

男「そこに付け入る隙があると思っている」

情報屋「何をするつもりかわからないですが、住民の心を掴むくらいのインパクトに長けたものがあるのですね」


516以下、新鯖からお送りいたします2013/09/12(木) 09:12:58.12yq1BuckR0 (2/5)

男「それだけじゃなく、説得もスムーズにできると思う。これには麦主さんの許可が必要だと思いますし」

男「ただ問題が一つだけある」

盗賊「問題?」

男「材料の仕入れだ。これを作るとしたら、四日後までに相当な量の材木が必要になるはず」

情報屋「……どのくらいですか?」

男「そうですね……。多く見積もって、安宿が一つ建てれるくらいの」

情報屋「木の種類は?」

男「この際、柔くないものなら何でも。建築材として使えるものなら」

情報屋「……こちらで何とかしましょう」

男「正直な所、そう言ってもらえるのを期待してました。代金は後払いで大丈夫ですか?」

情報屋「はい」

男「では、少し時間もらえますか? 急ぎですからね。今から大まかな仕様を考えますから」

男「そうですね……半時くらいで」

情報屋「仕方ないですね。でも、半時で大丈夫なんですか?」

男「やりますよ」

盗賊「それで、何を作ろうってんだ?」

男「これ」

盗賊「……パン?」

男「後、盗賊にもやってもらいたい事があるからな」

男「一つは、明日麦主の屋敷に行くから、一応護衛に付いてきて欲しい」

盗賊「そのくれぇなら」

男「その後が大変だぞ。俺は設計で宿に篭もるつもりだから」

男「盗賊には色々やってもらいたい」


517以下、新鯖からお送りいたします2013/09/12(木) 09:30:49.54yq1BuckR0 (3/5)

(翌日)
――麦主の屋敷

盗賊「護衛なんて必要なかったんじゃねぇのか?」

男「案外すんなり通してもらえたな。でも、念には念を、と言うことで」

男「それに、護衛がいた方が“らしい”からね」

盗賊「そうか? ずっと使用人に怪しまれてたみたいだが」

男「それはお前の顔が悪人面だからだろう」

盗賊「うるせぇ」

ガチャ

麦主「お待たせしました。領主の麦主です」

男「初めまして。男です。こちらは護衛の盗賊」

盗賊「……」

麦主「ええ。使用人から聞いております。何でも、学者様とか」

男「ええ」

麦主「しかし、聞き憶えのない名前ですね」

男「誰かに仕えているわけではありませんので」

麦主「成る程。ところで、最近草原の巨人について嗅ぎ回っている二人の男がいるらしいですが」

麦主「まさかあなた達では?」

男「多分、俺達ですね」

盗賊「……」チラッ

男「……」

麦主「ではあの件を知っているのですね」

男「ええ。ですが残念ながら今回は娘さんの話ではありません」

男「巨人の魔物については、噂に聞いて好奇心に駆られただけですので」

麦主「そうでしたか」

男「今回は本来の目的のために来たのです」


518以下、新鯖からお送りいたします2013/09/12(木) 09:56:19.47yq1BuckR0 (4/5)

麦主「ほう。それはどのようなものですかな」

男「実証のために、この建築を許可願いたく」ガサリ

麦主「この絵の建物は?」

男「風車と言います」

麦主「風車?」

男「この四枚の羽が風を受けて回るようになっているんです」

麦主「中々大仕掛けな見世物ですな」

男「見世物ですか? それだけなら地味すぎますよ」ガサリ

麦主「……これは?」

男「風車の中身の簡易図です」

男「風で回す事により力を得て、この風車小屋の中にある装置を動かすのです」

麦主「この装置は?」

男「臼です」

麦主「臼? 麦を挽くあれか?」

男「ええ」

麦主「ではこの風車というのは……」

男「麦を挽く装置ですね。今まで人の手でやってきた事を、この風車が代わってやってくれるはずです」

麦主「ですが、この町の特産は麦酒です。大麦を粉にする必要はありませんよ」

男「酒はそうでもパンや菓子は、そうはいきませんから」

麦主「成る程。この町周辺では大麦のパンが主流」

男「風車を入れれば、生産効率が上がりますよ」


519以下、新鯖からお送りいたします2013/09/12(木) 10:18:39.76yq1BuckR0 (5/5)

麦主「それで、どこに建てるつもりですか?」

男「まだ決めていないですね。場所によっては許可をいただけないと思いまして」

麦主「ほう。地図は持っていますか」

男「ええ」ガサリ

麦主「風車の建築を許可しましょう。但し、この辺りとこの辺り、この辺りはやめていただきたい。まだまだ貸せる土地ですから」

男「わかりました」

麦主「場所が決まれば、改めて連絡もらえますか?」

男「勿論です。三日後に建て始めるつもりですから、それまでに」

麦主「急ですね。しかし、三日後ですか……」

男「何か?」

麦主「白羽教会の方々がこの町に来ていましてね。彼らが娘を取り戻してくれるのもその日なのですよ」

男「……そう言えば」

男「先日、俺達も誘われてましたね」

麦主「そうなのですか?」

男「また会うような事があれば、行けなくなったと伝えてもらえますか?」

麦主「良いですよ。そのくらいなら」

麦主「ところで」

男「?」

麦主「大工は何人必要でしょうか。雇っておきましょう」

男「いえ、その必要はありません」

男「既にこちらで準備してますから」


520以下、新鯖からお送りいたします2013/09/12(木) 15:35:04.61ppjJ8GETo (1/1)

乙ー!


521以下、新鯖からお送りいたします2013/09/12(木) 16:02:38.3575zHzbiJo (1/1)

ふむ風者か


522以下、新鯖からお送りいたします2013/09/14(土) 15:51:56.08ACVOW0/K0 (1/6)

前回の更新で男・盗賊ルート終わらせるつもりだったのに寝落ちしてしまった……。


523以下、新鯖からお送りいたします2013/09/14(土) 16:16:02.17ACVOW0/K0 (2/6)

(三日後、建築日)
――蓮花の町郊外

ドス… ドス…
 ドス… ドス…

男「……来たか」

麦娘「おーい!」フリフリ

巨人「……」ドス…ドス…

麦娘「お待たせ」

男「二人とも無事で何より。とりあえず計画は順調というところか」

巨人「アア」

麦娘「そりゃあ、ここまではね。無事じゃないと困るわ」

男「相手が相当な索敵範囲を持っていたり、もしくはこの事が既に知られていたら。そう考えてしまうとね」

麦娘「大丈夫よ。十分迂回してきたんだから」

男「盗賊に伝えた通りだな」

麦娘「洒落た事をしてくれたわ」

麦娘「教会の二人が張っている北側を避けて、この時間に着くように私達は西側のこの入り口から入る」

麦娘「教会の二人、今頃行き違いになってるなんて知らずに私達の小屋に向かってるはずよ」

男「町に入るならこれが一番簡単だからな。苦労するのはここからだ」

麦娘「それもしっかり聞いてるわよ。巨人が風車と言うものをあなたの指示で建てるんでしょ」

男「そして麦娘さんが時々仲介に入る。あたかも、あなたが巨人を飼い慣らしているようにね」

麦娘「……本当にこれで大丈夫なの?」

男「それは町民次第、としか良いようがないな。だがやらなければ町に受け入れられる活路はない」

巨人「麦娘、心配スルナ。オィハ使ワレテモ構ワナイ」

麦娘「うん……。もう少し我慢してね」


524以下、新鯖からお送りいたします2013/09/14(土) 16:40:09.06ACVOW0/K0 (3/6)

麦娘「それで? 風車は東側に建てるって聞いてるのだけれど」

男「ここから町中を通って移動する」

麦娘「正気!? そんなんじゃ町の人に叩いてくれって言ってるようなものじゃない!」

男「大丈夫。今日に備えて盗賊には噂を流してもらっていたからな」

麦娘「噂?」

男「今日この時間から東側で風車を建てること。これが一つ」

巨人「男、モシカシテ、ソレガ関係アルノカ」

男「勘が良いな。そう、もう一つはこれ」

麦娘「私もさっきから気になってたけど……その大きな岩は?」

男「これは風車小屋の中に取付ける臼の石材だ」

男「巨人には、これから東側までこの石材をこのソリで引いてもらう」

麦娘「何でそんな事を……?」

男「一緒に流したもう一つの噂は、臼の石材を引いて強力な助っ人が町を横断する、というものだ」

男「恐らく何人か見物に来る人もいるだろう。これにはそこに狙いがある」

麦娘「どういう事?」

男「使役されている者が重い物を運ぶ。これが一種の奴隷像となっているからだ」

麦娘「どれっ……!? 何言ってるかわかっているの!?」

男「落ち着け。これはあくまで巨人が“使える”と印象づけさせるためのものなんだ」

麦娘「だからって!!」

巨人「ワカッタ。ヤル」

麦娘「巨人!?」

男「町を通る時、麦娘さんは巨人に対して決して優しくしてはいけない。多少厳しく当たるくらいが良い」

麦娘「でも、そんなこと……」

男「どんな形であっても、まず町の人に受け入れられること。これが重要なんだ」


525以下、新鯖からお送りいたします2013/09/14(土) 17:36:17.68ACVOW0/K0 (4/6)

ザワザワ
  ザワザワ

「そろそろじゃねぇのか?」
「何か知らねぇ学者さんがよくわからねぇ小屋建てるってやつだろ」
「そういや、資材が運ばれてたな」
「てことは、あの本当なのか」
「でもこの通りを臼の材料が通るって本当なのか?」

ズッ… ズッ…

「しっ、静かに」
「何だ、この音?」

ズッ…
ワーワー! ギャー!
 ズッ…
ウワー!

「おい、悲鳴も聞こえないか?」
「もしかして、まずい状況なんじゃ……」
「み、見ろ、あれ!」

巨人「……」ズッ…ズッ…

「巨人の魔物!? そんな、何で町中に!」
「うわあぁぁあ! 逃げろ-!」
「ちょ、ちょっと待て。よく見ろよ」

男「……」

麦娘「……」

「近くに……人が……?」
「じゃあ、魔物を先導してるあの男が件の学者さんかね」
「と言うか、巨人の隣に歩いているの、領主様のお嬢さんじゃねぇか」
「あの魔物に操られてるって言う……」
「いや、本当に操られてるのか? 操られてるって言うより……」

麦娘「……」パシッ

巨人「ウゥ……」ズズッ

「ありゃあ、魔物ってより家畜みてぇだな。扱いが馬みたいだ」
「そ、そうか……?」

男「その調子だ。巨人も良い演技だぞ」ボソボソ

麦娘「……最悪」ボソボソ


526以下、新鯖からお送りいたします2013/09/14(土) 18:29:52.12ACVOW0/K0 (5/6)

ザワザワ
 ザワザワ

男「よし、着いたぞ」

麦娘「石を投げられずに済んだわ……」

男「思ったより上手くいったかもしれないな」

男「それに、馬が運べる程度の石材だと巨人はあまり疲れてないみたいだし」

巨人「……」

男「麦娘さん、周りの人に聞こえるよう巨人に指示しながら、石材をあの辺りに持って行ってくれ」

麦娘「人使い粗いんだから……。巨人、こっち! ついてきて!」

巨人「ヴゥ……」ズッ…

男「……巨人、想像以上に演技派だな」

情報屋「こんにちは、男さん。やっと来ましたね」

男「何とかなりましたね。そちらも今までお疲れ様でした」

情報屋「本当に疲れましたよ。材木に石材。休みなく馬を走らせていたんですから」

情報屋「情報屋をやっていて、こんな仕事初めてです」

男「盗賊のコネがなければ引き受けてくれなかったでしょうね」

情報屋「はははっ、本当ですよ。しかし、見返りはありますからね。コネがなくてもやってたでしょう」

情報屋「これが請求書です」

男「ありがたく頂戴します」


527以下、新鯖からお送りいたします2013/09/14(土) 18:47:02.16ACVOW0/K0 (6/6)

情報屋「ところで、あれが件の巨人ですか?」

男「ええ」

情報屋「凄いですね。演技には見えない」

男「正直な所、麦娘さんだけの演技なら不味かったでしょうね」

男「本来知能がないはずの魔物も演技に荷担する」

男「魔物が演技をするはずがない、と言う常識から、彼女らの演技が真実味を帯びてくる」

情報屋「成る程。彼だからこそできることですね」

男「彼?」

情報屋「えっ、“彼女”でしたか?」

男「いえ、“彼”で合ってます。……ん?」

麦主「見つけましたよ、学者さん。これはどういう事ですか!」

男「これは、領主様じゃないですか」

麦娘「あら、父様。久しぶり」

麦主「おぉ、麦娘、元気だったか!」

麦主「――じゃない! 確かに娘に帰ってきて欲しいが、魔物まで連れてくるなんて……!」

男「何を言いますか。むしろ巨人の魔物がメインです」

麦主「何だと!?」

男「俺が欲しいのは労働力。先日言ったはずですよ。こちらで準備をしていると」

麦主「それが、あれだというのですか!」

男「はい。力持ちですし、案外器用です」

麦主「それよりも、魔物がこちらにいるということは……教会の方々は?」

男「さぁ? 向こうで何とかしているんじゃないでしょうか」


528以下、新鯖からお送りいたします2013/09/15(日) 01:57:47.91+885HQUB0 (1/4)

――草原の小屋

修験者A「……何かおかしい」

修験者B「何がですか。もう小屋が目の前だって言うのに」

修験者A「気配がなさすぎる。そう思わない?」

修験者B「そう言われましても。向こうが殺気を放っているわけじゃないですし」

修験者A「そう言うのじゃないだろ。何て言えば良いのかな……」

修験者A「そう。昼間なのにどちらも外にいない」

修験者B「言われてみれば」

修験者B「昼食……というわけでもなさそうですね。生肉生野菜を食べてないなら」

修験者A「あり得るのは狩りに出てるくらいだけど……嫌な予感がするね」

修験者B「例えば?」

修験者A「僕達が来るのを知っている、とか」

修験者B「じゃあ逃げてますね」

修験者A「そうじゃない事を祈るだけかな。ひとまず小屋を覗いてみて、いなければ待ってみよう」

修験者B「そうですね」

ガチャッ

修験者A「……」

修験者B「……誰も、いないみたいですね」

盗賊「その通り。今は出払ってるぜ」


529以下、新鯖からお送りいたします2013/09/15(日) 02:12:17.29+885HQUB0 (2/4)

修験者A「!?」バッ

修験者B「何者!?」バッ

盗賊「俺か? ただの留守番だ」

修験者B「あなたは、確か……!」

修験者A「……もう一人はいないみたいだね」キョロキョロ

盗賊「おお? 普通に喋れるじゃねぇか」

修験者A「全く気配を読めなかった。思ったより、ただ者じゃないみたいだね」

盗賊「まぁ昔は裏の仕事をやってたからな。だが今じゃあただの――」

盗賊「学者助手兼家事手伝い兼しがない食堂のウェイター、ってとこだな」

修験者A「働き者ですね」

修験者B「一人でできる量なんでしょうか……」

修験者A「それで、ここにいるはずの魔物と囚われのお嬢さんの代わりにあなたがいる理由は?」

盗賊「今日はよく喋るな」

修験者A「答えろ。この場で殺しても良いんだ」

盗賊「僧侶が人殺しねぇ。世も末だぜ」

修験者A「僧も時に戦わなくてはいけない。特に、僕のような僧はね」

修験者A「僕は、“死呪の祈祷”を会得している」

修験者B「ちょっ、教えても良いんですか!?」

修験者A「不意打ちなんてするつもりはないよ」

盗賊「まさか……聞いた事はあったが、会得している人間に会ったのは初めてだな」

盗賊「狙った相手を即死にする呪い、か。厄介じゃねぇか」


530以下、新鯖からお送りいたします2013/09/15(日) 02:22:03.16+885HQUB0 (3/4)

修験者A「知っているなら話は早い。魔物をどこへやったんだ?」

盗賊「その前に、ちょっと良いか?」

修験者A「早く、答えろ」

盗賊「まぁ、そっちがどんな態度でも答える前に喋らせてもらうけどよ」

修験者A「……」

盗賊「仮に質問に答えたとしても、俺の命の保証はないわけだ」

修験者A「大丈夫。保証しよう」

盗賊「――ってぇ言われても、口約束じゃ信用できねぇ」

修験者A「……」

修験者B「そんな勝手な……」

盗賊「そう言うわけで、こっちもこれを用意してんだ。見えるか、このロープ」

修験者B「見えるますが、それが?」

修験者A「その紐、奇妙だね」

盗賊「そう。おかしな紐だ」

修験者B「何がですか?」

修験者A「わからないのか? 握っている所より上の方が張ってるんだ」

修験者B「!! そう言えばおかしい!」

盗賊「このロープの端には、ツレからもらった見えづらい糸がくくりつけてある。ロープはてめぇらにも見えやすいためのもんだ」

盗賊「そしてその糸を切ってやると――」スパッ

盗賊「勿論、ロープが離れて弛むって奴だ」

修験者A「……何をした」


531以下、新鯖からお送りいたします2013/09/15(日) 02:37:17.35+885HQUB0 (4/4)

盗賊「心配するな。小屋にいる限り安全だ」

修験者B「小屋の中にいる限り?」

盗賊「糸を切って発動するってのは粗方決まってんだよ」

盗賊「――この周囲に仕掛けた罠を発動させた」

修験者B「何ですって!?」

盗賊「自分の命は守らねぇとな」

盗賊「俺は罠を避けて通れる道を知っている。ここから生きて出てぇなら、俺を生かしておくことだな」

修験者A「甘いね、あなたは」

盗賊「あ?」

修験者A「僕は“治癒の祈祷”も会得している」

盗賊「……そうか」

修験者A「僕達が罠で傷つこうと、それは無意味なんだよ」

盗賊「甘いのはてめぇだ。死呪の祈祷には驚かされたが、治癒法ならまだ数は多い」

盗賊「想定して当たり前だ」

修験者A「……どういうこと?」

盗賊「仕掛けた罠は、掛かれば即死か餓死かの二択だ。すぐ死ななくても、脱出困難な落とし穴とかにしている」

盗賊「それを仕掛けるだけの時間はあったからな」

修験者A「……成る程ね」

修験者B「先輩、どうしましょう……」

盗賊「じゃあ、そろそろ質問に答えてやる」

盗賊「麦娘と巨人はある仕事に行っている。俺はその間の留守番」

盗賊「兼、てめぇらの足止めだ」


532以下、新鯖からお送りいたします2013/09/15(日) 03:28:00.207GZueDqNo (1/1)

あついな!


533VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/03(木) 23:44:37.37qb6q6c4C0 (1/1)

(三日後)
――蓮花の町郊外、風車建築場

男「……」ジジジッ ジジッ

麦娘「そこは、えっと……設計図では多分……」ガサガサ

巨人「ウム……」トンッカンッ

ザワザワ ザワザワ
 ザワザワ ザワザワ

情報屋「今日もやってますね。やはり、完成間近ですか?」

男「そうですね。予定より少し遅れ気味、と言ったら贅沢だけど」

情報屋「あの建物だけで、その辺の民家より大きいじゃないですか。それを三日でやって遅れていると?」

男「それだけ巨人の技量に期待していたんですよ」

情報屋「でも遅れているとなると」

男「早とちりしないでください。遅れていても一時くらいのものでしょう」

男「やっぱり巨人は期待通り力も器用さもずば抜けています」

情報屋「確かにそれは言えてますね。人間なら十人近くいてもまだ半分いっているか」

情報屋「そうそう。町では巨人の評判も上がってきてますよ」

男「それは良かった。人間が関わると得てして計画通りに行きづらいものですから」

情報屋「でもまだ排除派もいますけどね」

男「でしょうね。向こうで見ている麦主さんも納得できていない様子だし」

麦主「……」

情報屋「領主様の場合は、ご息女が魔物と一緒に働いているのを見ていて複雑な気持ちなのではないかと」


534VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/04(金) 00:11:15.97IzPgY/Rc0 (1/4)

男「まぁ、切り札は最後まで残しておくものです」

情報屋「切り札、ですか?」

男「そう。巨人が町に居座ることに対して、ここに見に来ている大衆に有無を言わせない取って置きがあるんですよ」

情報屋「ほう」

男「そのためには見物者は多い方が良い。だから飽きないよう、早めに終わらせるのが最善なんですよ」

男「盗賊なら、きっといつまでも足止めをできると思いますけどね」

情報屋「盗賊も前職の割に強く信頼されているようですね」

男「あれがどんな奴かは知っているつもりです。あなた程付き合いが長いわけではないですが」

情報屋「そうだ。あなたも町では話題になっているんですよ」

男「……俺が?」

情報屋「石を彫る魔法使い、と」

男「あー……」

男「説明しないとわからない人だらけですからね。魔法使いの存在に慣れていると」

男「自分でもまさかフォースランスをこんな風に使うとは考えてなかったけど」

情報屋「並みの魔法使いの炎では石は溶けませんよ。その点、あなたのその杖の方が優秀です」

男「壊れなければ良いけどなぁ……」ブツブツ

男「それはともかく、この臼もそろそろ完成だから、後は風車の外形が作れれば良いだけです」

麦娘「ちょっと良いかしら」

男「?」

麦娘「図のここなんだけど……」

男「あぁ、そこはスピンドルを通す部分だからこうして……」カリカリ

麦娘「ん、ありがとう」スタスタ

情報屋「彼女も変わりましたね」

男「どうなんでしょう。俺と会ってからは別に変わってはないと思いますよ」


535VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/04(金) 00:31:50.28IzPgY/Rc0 (2/4)

――草原の小屋

盗賊「よーし、昼飯にするぜ!」

修験者A「……いい加減に吐いてもらえないかな?」

盗賊「折角作った飯をいきなり吐けって言うのか?」

修験者A「そうじゃないよ。もう三日目。巨人もお嬢さんも帰ってこない」

盗賊「帰ってこれるはずねぇだろ。連中はまだ仕事をしているはずだ。終わったとしても、小屋の周りは罠だらけだ」

修験者B「そうですよ、先輩。私達も出られないんですから」

修験者A「向こうは罠の位置を知っているかもしれない」

盗賊「確かにな。少なくとも、てめぇらがここにいる事は知っているぜ」

修験者A「なら、戻ってこないか」

盗賊「わかったなら飯でも食っとけ」

修験者A「僕達はいつまでここにいれば良いのかな」

盗賊「何だ、俺の作った飯はまずいか?」

修験者A「美味しいよ!」バンッ

修験者B「ここの畑の野菜美味しいですよね」

修験者A「でもそうじゃない!」

盗賊「まず落ち着け。別に俺はてめぇらを殺すつもりはねぇんだ」

修験者B「前にも言ってましたね。『殺すつもりなら、罠を仕掛けたことを言わずに自分だけ町に戻ってる』って」

修験者A「あの時のあなたの殺気からは説得力の欠片もなかったけどね」

盗賊「てめぇらが信じずに町に戻ろうとしたからだろうが」

盗賊「だが、その通り。俺の役目はあくまで足止めで、てめぇらを殺すことじゃねぇ」

盗賊「だから折角飯も作って、快適な軟禁生活を送ってもらおうと思ったのによ」

修験者A「それにしても、早く解放して欲しいのだけど」

盗賊「だから昼飯を先に食えって言っているだろ。その後で話してやる」


536VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/04(金) 00:51:59.37IzPgY/Rc0 (3/4)

修験者B「それにしてもここに閉じ込められて最も不思議なのは、あなたの技術ですね」

修験者B「この腕なら危険なんて殆ど知らずに生きる道もあったのに」

盗賊「人生人それぞれってこった。てめぇらだってそうだろうが」

修験者A「我々はルナンの使徒。この道より他に幸福はない」

盗賊「これだから聖職者って奴は嫌なんだ」

修験者A「それで、僕達はこれからどうなるんだ? 後何日同じ生活しなければいけないのかな」

盗賊「んー、そうだな……」

盗賊「そろそろ解放するぞ」

修験者B「本当ですか!」

修験者A「……嘘じゃないだろうね」

盗賊「嘘じゃねぇ」

修験者A「じゃあ、罠のない道筋を案内してもらうよ」

盗賊「それもねぇな」

修験者A「何!?」

盗賊「俺は先に出る。ついてきたら、てめぇらの足にナイフを刺してやる」

修験者B「なら、どうしろと言うのですか! 殺さないと言うのは、嘘だったのですか?」

盗賊「殺すつもりがねぇのも本当だ」

盗賊「実は、この小屋のどこかに紙切れを隠しておいてある」

修験者A「紙?」

盗賊「察しの通り、紙には罠の配置を書いておいた」

修験者B「そんなのがあったんですね……」

盗賊「後はわかるな。それを探して、自力で脱出しやがれ」


537VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/04(金) 01:10:36.22IzPgY/Rc0 (4/4)

修験者B「と言ってましたけど」ガサガサ

修験者A「見つからないな。まさか罠の配置を記した紙はなくて、ずっと閉じ込めておく気では」ガサゴソ

修験者B「怖いこと言わないで下さいよ!」

修験者A「ごめん」

修験者A「でも、本当にあるのかな。あまり物もないのに、隠せる場所なんて……」

修験者B「そうですね。今まで私達が気付かなかったのもおかしいです」

修験者B「と言う事は、本当にないんじゃ……!」

修験者A「食えない男だな。何が本当で何が嘘かわからなかった」

修験者A「そのせいで、実際見てない罠も信じるしかなかったわけだけど」

修験者B「あの殺気は本物でしたからね……」

修験者B「でも、どうしましょう。このまま見つからなかったら」

修験者A「どちらかが死ぬ覚悟で罠地帯に進むしかないね」

修験者B「見つかると信じましょう!」

修験者B「物陰になくても、案外埋まってたりするんじゃないですか?」

修験者A「!」

修験者B「その場合、小屋の中全部掘り返すしかないですね」

修験者A「そうか。地面の中か。それなら僕達が今まで気付かなかったのも頷ける」

修験者B「えぇっ、まさか本当に全部掘り返すんですか?」

修験者A「その必要はないよ。よーく見れば……」

修験者A「あった! ここだけ土の質が微妙に違う。何かを埋めた証拠だよ」ザクザク

修験者B「ここは、彼の席ですね。座った時に足で隠しながら土を固めていたわけですか」

修験者A「本当、ただ者ではないね。……これが件の紙切れだな」ガサガサ

『罠なんて仕掛けてねぇよ』

修験者B「……」

修験者A「本当に、食えない男だよ」


538VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/04(金) 10:26:33.520DvC5iNMo (1/1)

乙ー


539VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/28(月) 21:43:17.11jJTnAS8Mo (1/1)




540VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/10/31(木) 22:51:23.71iJ0un1Qz0 (1/5)

――蓮花の町郊外、風車建築場

ザワザワ ザワザワ…

男「案外来たな。この町は暇人ばかりなのか?」

情報屋「農家が多いですからね。この時間帯は自由時間なのでしょう」

麦娘「情報屋さんの宣伝の賜物じゃないの?」

情報屋「私は裏方。噂を流しただけですよ。注文通り『そろそろ完成するらしい』と言うのをね」

麦娘「それでも噂の広がり方が尋常じゃないでしょ」

麦娘「情報操作をしてほしいことがあったら、今度から私も頼もうかしら」

情報屋「おやおや、地主様のご息女が裏の人間と仲良くしたいと?」

麦娘「私だって、裏の人間が表通りを堂々と歩いていることくらい知っているわ」

麦主「風車とやらが出来上がると言うのは本当ですかな」

麦娘「あら、父様」

麦主「……娘をこき使ってはいないでしょうな」

男「心配なく。巨人を動かしてもらっているだけですから」

麦主「魔物は?」

男「今あちらで休憩してます」

巨人「……」クター

男「なぜか人が集まってきているので、もう少ししたら建築記念に見世物でもやろうかと」

情報屋「“なぜか”ですって。白々しい」コソコソ

麦娘「本当に」コソコソ

麦主「見世物、ですと?」

男「ええ。後はそこにある臼を設置すれば風車は完成です」

男「それを据え付ける作業と、その後に麦を一袋挽く所を実演しようかと」


541VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/10/31(木) 23:03:38.05iJ0un1Qz0 (2/5)

麦主「成る程。それでこの風車とやらの必要性を証明しようと言うことですか」

男「ええ」

麦主「しかし大丈夫ですかな?」

男「何がですか?」

麦主「魔物の怪力を使って建てているとは言え、これ程の短期間で建てた建物」

麦主「立派なナリをしていますが、物置小屋よりも脆くては困りますよ」

男「設計通りに建てられています。大丈夫ですよ」

麦娘「男さん、巨人も回復したみたい」

男「そうか。なら――」

盗賊「しまったな。まだ出来てねぇのか?」

麦娘「盗賊! 帰ってきたのね」

盗賊「ああ。今さっきな。だがどうする、男。連中ももうすぐ来やがると思うぜ」

男「問題ない。即殺されない程度には指示を得ている」

男「だが巻いて進めようか。麦娘さん、頼みますよ」

麦娘「わかったわ。巨人、仕事に戻るよ!」

巨人「ンガ」ムクリ

男「麦主さん、見物ならどこでも構いませんので。ここでも大丈夫ですよ」

麦主「あ、ああ」

男「さて――」

男「“なぜかお集まりの”皆さん! これよりこの風車は完成に向かいます」

男「今より巨人がそこの臼を風車の中に置くと、風車は完成します」

男「建築作業最後の瞬間をご覧あれ!」


542VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/10/31(木) 23:18:08.46tjMK79Evo (1/1)

きたか


543VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/10/31(木) 23:22:30.91iJ0un1Qz0 (3/5)

ザワザワ ザワザワ…

麦娘「さぁ、巨人!」

「……」
「……」

麦娘「手順通りにやるのよ」

巨人「……ウム」コクリ

巨人「……」ガシッ ズシン

「……」

巨人「……」ズシンズシン

「……」

巨人「……」ドスン キュコッキュコッ

「……おい見えないぞ」ザワザワ
「中じゃなぁ……」ザワザワ

巨人「男、コッチ」クイクイ

男「どれ……」

「……」
「……」

巨人「……」

男「……良し!」

「おおー」ザワッ

男「完s――」

麦娘「できたー!」

「おおぉぉおおおー!」


544VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/10/31(木) 23:38:31.14iJ0un1Qz0 (4/5)

麦娘「……あ」

男「いや、何か、良いよ。誰が言っても」

盗賊「全く……」

ザワザワザワ
  ザワザワザワ

男「コホン。では気を取り直して……」

男「この風車の力を見せましょう! ここに用意した麦一袋をすぐさま全て粉にして見せます!」

「すぐってどのくらいだ?」
「今小屋に入れた臼、ありゃあ動かすのも一苦労だ」
「それをこの小屋で動かすって話だ」

ガヤガヤ ガヤガヤ

男「じゃあ……盗賊、麦を臼に入れてくれ」

盗賊「何で俺が。草原を走ってきて疲れてるんだぜ?」

男「仕方ない。俺が行くか……」

修験者B「その前に少し話を聞かせて貰えないですか」

修験者A「……」

盗賊「――てめぇっ!?」

男「……早いですね」

修験者B「町に帰ってきたら騒がしい所があったものですから。何事かと思ってみれば」

修験者B「魔物を前に不用心な……」スッ

麦娘「巨人の前に私を相手にしたらどう?」ザッ

修験者B「我々にも時間がないのです。もう身の安全は保証できませんよ」

修験者B「……あれ、どうしたんですか、先輩?」

修験者A「……」フルフル

修験者B「手を出すなと言うことですか? なぜ!?」

男「そちらは状況を理解しているようですね」


545VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/10/31(木) 23:53:44.85iJ0un1Qz0 (5/5)

麦主「これはこれは白羽教会の、来ておられたのですね」

修験者B「領主様、あれはどういうことですか」

麦主「魔物のことですかな?」

修験者B「ええ」

麦主「そこにいる学者の男さんと言う方の手伝いに小屋を作らせていたのですよ。男さんとは確か面識があるとか」

麦主「それで、これが滅法手際が良くてですな。あの大きな小屋を三日で――」

修験者B「わかりました。もう良いです」

男「巨人を退治するのは先送りですね。今の世間の目は、あの巨人のことを“使える家畜”と見ています。牛や馬みたいに」

男「そして、現在まで住民への危害は皆無」

男「これで殺せば、白羽教会の名を落とすことになりますよ」

修験者A「……」

修験者B「……あ、後で処理してやる」ボソリ

男「まぁ、折角ですから見物しておいてくださいよ」

麦主「そう言えば、風車とはあの羽が回るものだったはずでは? 今は回っていないですが」

男「使わない時は羽を風向きから逸らしているんですよ。四六時中風を受けていれば壊れますから」

麦主「そういうものなのか」

男「そういうものです」

男「じゃあ、麦を入れてくるから、盗賊は一応見張っておいてもらえるかな」

盗賊「任せとけ」

修験者A「……」


546VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/01(金) 00:05:36.70Yn2ljcTm0 (1/6)

ザワザワ ガヤガヤ

男「麦を臼に入れてきました。これから風車を動かそうと思いますが」

男「動かすためには風車の羽を風に向けなければなりません!」

「……どういうことだ?」
「羽って、あれか? 布を張ったハリボテの」

男「羽を動かす仕組みとして――」スタスタ

男「小屋から突きだしたこの棒を動かす必要があります」

男「かなり力が必要なので、力自慢の方は前に出て動かしてみてください」

力自慢1「おう! じゃあオイラが。で、どうやって動かすんだい?」

男「これがロックになっていて、これを外してから……そう。後はこっちから押してください」

力自慢1「良し、やってやるぞ!」

力自慢1「ふぬぅうううう!」

「……動いてねぇぞ」
「力抜くんじゃねぇぞ!」

力自慢1「ぬぅうううっ! っはぁ、はぁ……駄目だ。固ぇ」

男「じゃあ、もう一人!」

力自慢2「はっはっはっ! 手伝ってやるぜ!」

力自慢1「ふぬぅううう!」
力自慢2「ぬんっっ!」

力自慢3「動いてねぇよ。俺も加わってやろう」

力自慢1「ぬぅううううんっ!」
力自慢2「んぐぅっ!」
力自慢3「おぉぉぉおおおっ!」

「おぉっ! 動いた!」
「でも全然駄目だな……」

力自慢4「じゃあ俺も――」

男「いや、もう十分です」

力自慢4「えぇ……」

力自慢1「駄目だ。固すぎらぁ」

力自慢2「学者さん、こりゃ失敗作だぜ」

力自慢3「ぜぇ……ぜぇ……」


547VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/01(金) 00:19:39.02Yn2ljcTm0 (2/6)

麦主「動かないのでは駄目ですな。住む場所も作っていないようですし、ただの構造物になってしまいましたな」

男「……」

麦主「落ち込みなさるな。学者様でも人間。失敗はあるものです」

男「巨人、頼む」クイクイ

巨人「ワカッタ」

修験者A「……!」

麦主「何を……?」

男「それではみなさん、どうぞ小屋の中を自由に覗いてください」

男「これが自動製粉です!」

巨人「……」ギギ ギィーッ

「う、動いた!」
「見ろ、ハリボテが――」

修験者B「風を受けて、回ってる……」

情報屋「ほほう」

麦娘「これが風車……」

「おぉぉおおおっ! なんだこれ、なんだこれ!」
「どんどん麦粉が出てくるぞ!」
「おい、おい、早く見せろ。なんかもう終わりそうじゃねぇか!」

男「……どうですか、麦主さん」

麦主「確かに、凄い代物のようですな……」

麦主「ですが、力持ちの大人三人でも苦労して動かせるもの。これでは使い物になりませんぞ」

男「簡単に動かせる奴もいるじゃないですか。見たでしょう?」

麦主「まさか……」

男「巨人を風車守にすれば、この風車が町に貢献できるでしょう」


548VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/01(金) 00:36:47.40Yn2ljcTm0 (3/6)

修験者B「そ、そんな馬鹿な話がありますか!」

男「そうですか? 風車を簡単に動かせるのは巨人しかいないんですよ」

修験者B「で、ですが……!」

男「それに、住民の殆ども、巨人が結局危険な存在じゃないのを知っています」

男「さらに言えば、巨人を町に置く事だけで麦娘さんも戻ってくる」

麦主「!」

男「悪い条件じゃないと思いますが」

麦主「まさか、それを見越してこの風車を……?」

男「さぁ?」

麦主「いや……麦娘、本当に帰ってきてくれるのか?」

麦娘「……巨人と一緒なら、良いわ」

修験者B「ま、待ってください! 正気ですか。あれは魔物ですよ!」

麦主「正気だよ。明らかに利が大きいですからね」

修験者B「ですが……!」

男「魔物だろうと……いや、魔物だからこそ、本質を外れた友好的なものも現れる確率もある」

男「それが、突然変異って奴でしょう?」

修験者B「あ、あなた、どこまで――!」

修験者A「……どうやら僕達の出る幕ではないようです」

男「!?」
修験者B「先輩!?」

修験者A「ここは退きましょう。流石、男さんですね」

修験者A「行くよ、修験者B」

修験者B「ちょ、待っ」

盗賊「……とりあえず、上手くいったか?」

男「ああ。だけど……」

盗賊「?」

男「あの声……どこかで……」


549VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/01(金) 00:52:37.80Yn2ljcTm0 (4/6)

「よーし、もう一袋いくぞー!」
「次、回してくれ、巨人よ-!」
「どんだけ回すんだい。粉ばかりじゃ保存できないじゃないの!」

ガヤガヤ ガヤガヤ

麦娘「何だか、すごく馴染んでるね」

男「これは予想外だよ」

麦娘「本当に?」

男「嬉しい予想外ならどっちでも良いけどね」

盗賊「そうだな」

麦娘「うん」

麦娘「詳しく知らされてなかった私には、全部嬉しい予想外だよ」

麦娘「本当にありがとう。盗賊、男さん」

盗賊「何とかなって良かったぜ」

男「でも、これからは麦娘さん一人で巨人を守っていかなきゃいけない」

男「人間は心変わりが早いから」

麦娘「……そうだね」

男「ああ、後、麦主さんがいないうちにこれを渡しておくよ」

麦娘「何、これ?」

男「子供でも動かせる風車の設計図」

麦娘「えぇっ!?」

男「自分でずっと保管しても良い。公開しても良い」

男「ただ、公開する時は、巨人が“便利な家畜”じゃなく本当に町の一員になったと思った時だ」

麦娘「……わかった」

情報屋「これは私も聞いて大丈夫な話でしたか?」

盗賊「別に良いんじゃねぇか? タダでバラす質でもないだろ」


550VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/01(金) 01:18:09.08Yn2ljcTm0 (5/6)

情報屋「ところで盗賊、暫くはここにいるつもりかい?」

盗賊「それなんだがな……報酬はどうするか」

麦娘「え、何、お金動いてるの?」

盗賊「いや、このこんなもん建てたら、普通大赤字だろうが」

情報屋「では私が話を通しておきますね。私の取り分を引いたものをそちらの宿舎に送る形で良いですか?」

男「それは助かります」

情報屋「多めに戴いておきますので」

麦娘「あれ、ちょっと黒い……」

情報屋「麦娘様とも長い付き合いになりそうですね」

麦娘「ぜ、前言撤回できる?」

男「まぁ、後一泊して帰るかな」

盗賊「そうするか。ここは落ち着いたんだろ? 俺は宿に戻っておくぜ」

男「ああ。俺は麦娘さんや巨人と風車の管理について話しておかなくちゃならないから」

盗賊「わかった」

麦娘「と、盗賊!」

盗賊「……何だ?」

麦娘「えっと、あれよ。せ、折角蓮花の町に来たんだから……あれよ」

麦娘「もうちょっと――」

盗賊「麦娘、てめぇ……」ポンッ

盗賊「もう家出するんじゃねぇぞ。心配させるな」ガシガシ

麦娘「……うん」


551VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/01(金) 01:20:34.61Yn2ljcTm0 (6/6)

全然更新しないせいでかなりかかったけど、男・盗賊サイドは終了。
次回から剣士サイドに移りますぜ。

書く時間欲しい(ボソッ


552VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/01(金) 01:48:05.42fo1nTneKo (1/1)

おっつ!


553VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/01(金) 06:15:06.82aypF9Uejo (1/1)

全く……盗賊爆発しろ


554VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/08(金) 11:50:39.31taEBZ4yXo (1/1)

長かったけど、一区切りまで行くとやっぱり嬉しいな


555VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/20(水) 21:04:42.04ySXPg2Ni0 (1/4)

(時期同じくして――)
――渦の国、???

剣士「……ん、んん……?」

剣士「……はっ。ここは、どこだ?」キョロキョロ

剣士「見知らぬ部屋……人が住んでいる気配はあるな」

剣士「捕まっている、わけではなさそうだし。確か私は……」

ガチャッ

?「お、気が付いたか、ねーちゃん」

剣士「ああ。どうやら助けてもらったようだな。礼を言う」

剣士「白の国から来た、剣士という者だ」

?「白の国から? ははーん、成る程。君は悪運が強いな」

剣士「少し航路を間違えてしまったらしくてな。渦潮に巻き込まれてしまったのだ」

剣士「運が良いと言うことは、ここは渦の国か?」

?「そうだが、悪運ってのはそういう意味じゃないぞ」

漁師「そうそう、おいらは漁師ってんだ。浜によく網を投げてるんだけどな」

剣士「ほう」

漁師「君もおいら達がよく使う浜に打ち上げられててな」

漁師「大方、一緒に打ち上げられてた船に乗ってきたんだろうけど、ありゃあいけないね」

漁師「あれはちょっと沖に出るくらいが精々ってくらいだろ」

剣士「十分いけると思ったんだが」

漁師「大体、身なりを見てたら、兵士さんだろ? 素人がそんな小さな船でここに来るなんて無茶ってもんだ」

剣士「操船術は少し囓っていてな。いけると思った」


556VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/20(水) 21:23:27.89ySXPg2Ni0 (2/4)

剣士「そう言えば、船はどうなった?」

漁師「バラバラだよ。当たり前だって」

剣士「……そうか」シュン

漁師「まぁ、交易船に乗せてもらえば良いさ」

剣士「交易船?」

漁師「あぁ、そうか。知ってたらねーちゃん一人で来るわけねぇわな」

漁師「この渦の国は連盟にも入ってないし、交通手段も限られてっからな」

漁師「月に何回か、白の国、葉の国、野の国の一部の商人達と交易してるんだよ、ここは」

剣士「通りで。私が情報を得られたのもそういうことだったのか」

漁師「別に秘密にしてるってわけじゃないと思うけどね」

漁師「この舶道港の他は、まぁ伝統的な暮らしをしてるからかね。多分外の人らはあまり関わり合いにはなりたくないんだろうな」

剣士「では交易はここだけか」

漁師「ここしかできねぇんだよ。他の航路は潮の流れで渦ができてるからな」

漁師「それで? 兵士さんが仕事を放っぽってここにくるのはどういう理由か訊いてもいいかな?」

剣士「別に放棄したわけではないさ。訳あって、遊隊の配属でね。縛られた活動はないんだ」

漁師「へぇ」

剣士「今は休暇みたいなもので、私は修行に来たんだが……」

漁師「修行? こんな辺鄙な島にか?」

剣士「古い文献で読んだものだから、今はどうかは知らないが」

剣士「極限にまで速さを高めた剣技があるらしい。知っているか?」

漁師「速さを高めた剣技……うーん……」

漁師「もしかしたら、あれかもしれないな」


557VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/20(水) 21:41:55.82ySXPg2Ni0 (3/4)

剣士「知っているのか!」

漁師「もしかしたら、だ」

漁師「門外不出の秘伝、ってわけじゃないなら、武闘会で見てるしな」

剣士「武闘会?」

漁師「年に一回、渦の国の部族間でやる伝統行事だよ。争いの為替に、ってやつだけどな」

漁師「剣技を使う部族ってのはいくつかあるんだけどよ、素早さってんならヌ族が一番だな」

剣士「ヌ族……」

漁師「まぁ、速いってより無駄がないって言うのかな。武闘会でも毎年上位だ」

剣士「ではそこに行ってみるとしよう。違っていても、良い修行にはなりそうだ」

漁師「じゃあ、村までの地図は書いてあげよう」

剣士「ありがたい」

漁師「だけど、今日は泊まって行った方が良い」

剣士「……今すぐじゃダメか?」

漁師「駄目だね。拾った先から出て行かれると心配する」

剣士「……」

漁師「……ああ、そういうことか! そっちの心配か!」

漁師「今は出ているが、こう見えても娘がいる」

漁師「それでも心配なら、ねーちゃんは娘に任せて、おいらは愛人の所に行っておくぞ」

剣士「いや、そこまでしてもらう必要は。お言葉に甘えさせてもらおう」

漁師「そうかそうか。今日は飯に滋養のつくものを作ってやる。娘がな」

剣士「何と言うか……複雑な家庭なのだな」


558VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/20(水) 21:46:59.71ySXPg2Ni0 (4/4)

短いけど、とりあえず導入だけ。
放り投げていく。

一応今回使う地名が全部出たので、そっちも置いておくよ。
http://sssssssssssssss.web.fc2.com/img/img_a005.jpg


559VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/21(木) 17:35:04.66GMYgB92Ao (1/1)

乙ー


560VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/21(木) 22:12:17.60mQQtDgb1o (1/1)

おつんつん


561VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/26(火) 21:31:13.52EEPy7XQA0 (1/3)

『白鯨の街 三日目

貸船屋から連絡が来た。漸く船の用意ができたらしい。

渦の国までの船はない。

あの周りの渦潮が邪魔で国交があまりないだけなのだけれど。

だが、聞き込みをするうちに渦の国まで行ける航路を教えてもらえた。

白の街の食堂で小耳に挟んで、その時に尋ねたものだ。

信憑性はあまりない。

とは言え、貴重な情報だ。剣術の修練のために試す他はない。

操船術は少しだけ覚えがある。多分問題はないだろう。

出港前となって、いよいよ狂人が心配だ。

寮長の伝手で、一時だけ善良な施設に預けたけれど、どうなっているだろう。

他の子に迷惑はかけていまいか。

いや、それよりも、あの子自身は大丈夫だろうか。

あんな性格だから、いじめられているかもしれない。

そうでなくとも、退屈していないだろうか。

良い友達ができれば良いのだが。

早く修行を終えて、迎えに行こう』


562VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/26(火) 21:47:23.29EEPy7XQA0 (2/3)

『舶道港 一日目?

気が付いたら、ベッドに寝かされていた。

浜に打ち上げられたところを助けてもらったようだ。

恩人の名は、漁師さんと言った。

一応、渦の国に到着した。

乗ってきた船は大破してしまったらしい。

しかし、話を聞いてみると、白の国を含む三国が細々と交易を行っているという。

渦の国で唯一交易をしている所。それが今私がいる舶道港だ。

帰国には、不定期に往来する交易船に同乗させてもらう他ないだろう。

剣術修行の方も問題はなさそうだ。

ヌ族という種族が、文献にあった剣術らしきものを習得しているらしい。

漁師さんにそのヌ族が住むと言う村までの地図を書いてもらった。

ひとまず、一日泊めてもらうことになる。

彼には娘が一人いる。私より年上だ。

彼女の作る魚のごっちゃ煮スープは非常に美味しい。

盗賊の料理と違ってものすごく豪快なのに、不思議だ。

娘さんにもとても親切にしてもらった。

他国の兵というのは、平和になった今でもやはり敬遠されている感じはあるのに。

交流の少ない渦の国だからだろうか。

姉貴分は騎士様くらいのものだったから、優しくされるのは新鮮だった。』


563VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/26(火) 22:36:52.85EEPy7XQA0 (3/3)

――ヌ族の村

剣士「……ここか。思ったよりもかかったな」

剣士「いや、徒歩だとこんなものか」

剣士「しかし困ったな。どう見ても弓で狙われているな……」

剣士「これ以上門に近付かなければ大丈夫らしいが……どうするか」

ゴゴゴ…ゴゴゴ…

剣士「……」

「……」
「……」
「……」

村男「見ない顔だな。他族の者でもなさそうだが、何者だ」

剣士「私は剣士と言う。あなたが村の代表か?」

村男「代表ではないが、自警の長を任されている」

村男「見たところ兵士のようだが、何用だ」

剣士「素早い剣術がこの国にあると聞き及び、はるばる白の国から来た」

剣士「この村にそれらしい剣術が伝わっていると聞いたのだ。本当ならば教えていただきたい」

村男「剣の修行、か?」

剣士「そうだ」

村男「それだけか?」

剣士「そうだ」

村男「……」

剣士「……」

村男「弓を下ろせ!」バッ

村男「剣士と言ったな。お前を信じよう」

剣士「ありがたい」

村男「まず族長に挨拶しろ。案内する」


564VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/11/27(水) 00:53:56.79tbVB3E2w0 (1/1)

族長「……」

剣士「……」

村男「白の国から来たという、剣士という名の者です」

族長「外が騒がしいと思ったら……お前さんか。この村に来た目的は何かねぃ」

剣士「剣術の修行をさせてもらいたい。そのために、このヌ族の剣術を参考にできないかと」

族長「我々ヌ族の剣かぃ……」

族長「見たところお前さんは二刀流のようだぃが、我々は長刀一本のみを使う」

剣士「構わない。ここの剣術は無駄のない動きだと聞き及んでいる。それに一刀も二刀も関係はないだろう」

族長「うむぃ……」

族長「村男よ、お前さんはどう思う」

村男「信用に値する人物ではあると考えます。元より、この国の部族には女戦士などいません」

族長「うむぃ」

村男「偵察でもないように思いますが」

族長「お前さんがそう言うなら、そうなのだろうの」

族長「ようし。剣士よ、お前さんの滞在を許そう」

剣士「はっ」

族長「外国の兵装はここでは目立からの。特別な印は必要ないだろうねぃ」

族長「剣士には……とりあえず戦士達の修練場に案内せぃ」

村男「わかりました」

族長「剣士よ、お前さんにはひとまずヌ族の剣を見てもらうかねぃ」

族長「剣そのものは武闘会で見せているから、それを見て参考に止めるか習得するかを決めよ」

族長「参考のみならば、修練場の近くで修行の場を与えよう」

剣士「習得を選んだ場合は、どうなる?」

族長「我々の秘密だからねぃ。その時は内密の誓いを立てに再びここに参られよ」


565VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/11/27(水) 04:37:04.00oPuMZgaTo (1/1)

おつ


566VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/07(土) 01:13:14.54XUzXDQ/l0 (1/6)

カンッ カンカンッ
 カツーン カツーン

村男「ここが修練場だ。ヌの戦士達はここで毎日剣技に磨きをかけている」

剣士「……ふむ」

村男「何か?」

剣士「ある程度熟練した者なら誰でもわかる。これが、剣技か?」

村男「見たところ、かなり若いようだが……」

剣士「師が良くてな。国の兵の中ではそこそこ腕はあると自負している」

剣士「だから、私にもすぐにわかる。ここの戦士達は、我流にしても酷い太刀筋だ」

村男「成る程」

剣士「あなたは自警長だったな。長のあなたでもこんなものなのか?」

村男「俺は戦士ではない。剣技は知らない」

剣士「……何?」

村男「この村の風習でな。戦士と指導者は異なる」

村男「剣士、お前の言ったことは正しい。戦士達は剣を知らない。教えも何もなく、ただひたすら我流だ」

村男「だからこそ、日々剣技を磨いているとも言えるだろう」

剣士「冗談はやめてくれ。これが本当にヌ族の剣というものなのか?」

村男「しかし、これが本物だ」

村男「だがよく見ればそれがわかる。お前は正しい剣技を知っているからこそ、ヌの剣が見えてこないのだ」


567VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/07(土) 01:26:02.88XUzXDQ/l0 (2/6)

剣士「正しいことを知っているから、わからない……?」

村男「そうだな……、あそこで戦っている二人をじっくりと見ると良い」

剣士「……」

カンッ ザザザッ

カンッカンッ ズザッ

剣士「これは……」

村男「どうだ」

剣士「……いや、互いに素人のような動きだからだ」

村男「見えてはいるようだな。しかし、まだ信じ切れていない。そうだろう」

剣士「……」

村男「自分の腕で確かめたいか?」

剣士「良いのか?」

村男「もちろんだ。お前のような剣の道を求める者は嫌いではない」

村男「おい、ヌ戦士!」

ヌ戦士「……はい」

村男「この女と試合をしろ」

村男「そこそこのやり手らしいからな。お前くらい慣れた男じゃないとやられかねない」

ヌ戦士「わかりました」

村男「剣士、お前の相手はこいつだ」

村男「力で言えば、戦士の中で一番だろうな。見てわかるだろう」

剣士「ありがたい。ヌ族の剣、見極めさせてもらおう」


568VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/07(土) 01:36:26.91XUzXDQ/l0 (3/6)

村男「剣はこの木剣を使え」

剣士「……二本? 相手は一本だが、良いのか?」

村男「構わない。ヌ戦士の木剣も特別製だ」

剣士「そうなのか」

村男「戦士に合った練習が良いからな。ヌ戦士のものは、特別硬くて重い」

剣士「見たまま、腕力にものを言わせて戦う形か」

剣士「……ここの戦士達は剣こそ素人だが、真面目だな」

剣士「白の国の兵士なら、こんな決闘が始まろうものなら、誰もが見物をするところだ」

村男「まぁ、無関心とも言うな」

村男「そろそろ始めようか。ヌ戦士、準備は良いか?」

ヌ戦士「大丈夫です。いつでも戦えます」

村男「剣士はどうだ?」

剣士「問題ない」

村男「どちらか降参するか俺が止めるまで戦ってもらう」

剣士「……」

ヌ戦士「……」

村男「始め!」


569VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/07(土) 01:47:36.14XUzXDQ/l0 (4/6)

剣士「先手必勝っ!」ダッ

村男「……速いな」

剣士「はぁっ」スカッ

ヌ戦士「……」ブン

剣士「――っ!」サッ

剣士「今のは……。いや、考えるのは――後だ!」シュバッ

スババババババッ
 カカンッ スカッ カカカンッ

ヌ戦士「」カッ

ドスッ

剣士「っ……!」

村男「勝負あり! 止めい!」

剣士「おか、しい……」ガクッ

村男「……ヌ戦士の本気の突きを食らえば無理もないか。腑が壊れてなければ良いが」

村男「ヌ戦士、修練中悪いが、この女を運んでくれ」

ヌ戦士「わかりました」ガシッ

剣士「」


570VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/07(土) 02:00:26.96XUzXDQ/l0 (5/6)

剣士「――はっ!」

村男「目が覚めたか」

剣士「こ、ここは? 試合は!?」

村男「お前は試合に負けた。ここは族長の家の客間だ」

村男「お前は運が良い。あの一撃を受けて痣ができている程度で済んだのだからな」

剣士「そうか……。気絶するとは、不覚だ」

村男「ヌ戦士にはそのくらいの力がある。気に病むことはない」

村男「それで、どうだった。実際に剣を交えてみて」

剣士「……手も足も出なかった。実際数分と持たなかったのだからな」

剣士「素人剣と評しておいて、呆れただろう」

村男「そうでもない。お前の剣は確かに素早く、優れていた」

剣士「私は、ヌ族の剣は無駄がない聞いていたが……どうやら素早いこととは違うらしい」

剣士「実の所、相対して負けておきながら、素人の剣という言葉は撤回するつもりはない」

村男「ほう」

剣士「だが、おかしいんだ。動きが」

剣士「当てたと思えば直前で躱される」

剣士「騙したと思えば直前で防がれる」

剣士「死角を取ったと思えば直前で受けられる」

剣士「どれも、人間がするには無茶な動きでな」

村男「……」

剣士「あれは、どうなっているんだ?」


571VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/07(土) 02:27:35.16XUzXDQ/l0 (6/6)

族長「それこそが、ヌ族伝統の剣術」

族長「ヌ族の戦士は皆、その伝統の修練を終えた者達だぃ」

族長「それこそ、精練の儀」

村男「族長!」

剣士「精練の儀……」

族長「ヌの剣を見た今、お前さんはどうするかぃ」

族長「受けるか、止めるか」

剣士「……今一度問おう。こうも容易く秘密を教えて良いのか?」

族長「口外しなぃと約束さえあれば。秘密であって、門外不出ではないからねぃ」

村男「最も恐れているのは、この秘技が他の部族に伝わることだ」

族長「うむぃ」

剣士「では……受けさせてもらう」

族長「……後ろを向いてくれぃ」

剣士「? こうか?」

サクッ

剣士「な、何をやった」

族長「ホッホッホッ、少し髪をもらっただけぃだ」

族長「口約束だけでは不安だからねぃ。人に伝えられないように呪わせてもらうよ」

剣士「もし、破れば――」

族長「その腕で自らの首を貫くことになるだろう」

剣士「っ」ゾクッ

族長「村男、剣士に精練を受けさせてやってくれぃ」


572VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/08(日) 20:05:45.480OV1/gNO0 (1/5)

剣士「ここは族長の部屋ではないか」

村男「族長の家は精練の間と繋がっているのだ」スタスタ

村男「いつもは族長が座している後ろのタペストリーを捲ると……」バサッ

剣士「隠し部屋……!」

村男「後についてこい」カツカツ

剣士「下に続く階段か……。本当に精練の間とやらに続いているのだろうな?」

村男「もちろんだ。この階段まで来た以上、もはや引き返せんぞ」

剣士「そんなつもりは毛頭ない」

剣士「しかし、族長の言っていた呪いとは本当なのか?」

村男「さぁな。俺が生まれてから一度もこのようなことはなかった」

剣士「私達の国には、彼の言ったような魔法など……」

村男「気になるならば、ここを出た時に試してみると良いだろう」

剣士「本当ならば、死んでしまうな」

村男「呪いの真偽を知るために、お前は剣を知りに来たのではないだろう」

剣士「その通りだ」

剣士「……成る程。呪ったと言う言葉そのものが、呪いなのか」

村男「止まれ」

剣士「? まだ階段は続いているが、着いたのか?」

村男「精練の間はまだ先だ。ここで荷物を預かる。剣もな」


573VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/08(日) 20:15:24.640OV1/gNO0 (2/5)

――精練の間

村男「……ここが、精練の間だ」

剣士「ここが……? 冗談ではないのか?」

剣士「まるで牢獄ではないか……」

村男「兼用はしているが、俺が生まれてから牢として使われたことはない」

剣士「こんなところで剣の訓練ができるわけがないだろう!」

村男「ヌの剣はここから始まる」

村男「今は時期ないから、修練者はいない」

村男「ヌ族は成人した時に、一般住民になるか戦士になるか指導者になるかを決める」

村男「戦士の道を決めた者が最初に来るのがここだ」

剣士「では、修練場にいた者達は皆、ここに?」

村男「そうだ。お前と戦ったヌ戦士も、三十年くらい前にここを出ている」

剣士「あの男も……」

村男「そうだな……お前はこの部屋に入ると良い。まだ綺麗だ」

剣士「わかった」

村男「すまないな。本来客人が入ることもない上に、時期が外れているから掃除をしていないのだ」

剣士「いいや。こっちが頼んだのだ。そのくらい構わないさ」


574VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/08(日) 20:31:59.310OV1/gNO0 (3/5)

剣士「わざわざ剣を預けたのだから、修練用の武器でもあると思っていたが……」

剣士「このような小さな部屋ではあまり動けないな」

村男「動く必要はない」

剣士「戦士の最初の修練と言っていたな」

剣士「と言うことは、瞑想のようなものか?」

村男「瞑想、か」

村男「寝るときはここで寝ると良い」

剣士「筵か……。いよいよ牢屋だな」

村男「修行場だからな。綿の布団ではおかしいだろう」

剣士「もっともだ」

村男「それと糞尿はその角ですると良い。穴があるだろう」

剣士「……あ、あぁ」

村男「大丈夫だ。中には溜まらないようになっているから」

剣士「確かに、臭くはないな……」

村男「部屋についてはこんなものだろう。早速だが、精練の儀を始めよう」

剣士「ああ。いつでも良いぞ」



575VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/08(日) 20:40:22.260OV1/gNO0 (4/5)

村男「精練の儀は、本来成人になったばかりの戦士が半年掛けて行うものだ」

村男「お前は若いようだが……」

剣士「……」

村男「その体付き、成人していると見ても良いだろう」

剣士「ヌ族の成人は何歳からだ?」

村男「十二だ」

剣士「……そうか」

村男「しかし外国から来たのだから、何かしら事情もあるだろう」

村男「半年掛けても構わないか?」

剣士「できれば、早く終わるように頼む。多少の無茶は構わない」

村男「良いだろう」

村男「……とは言え、最初は慣らしていかなくてはな」ボソリ

剣士「?」

村男「覚悟ができたら、これを飲め」コトリ

剣士「……これは?」

村男「薬水だ。これを飲まなければ精練の儀は始まらない」

剣士「……」ゴクリ

剣士「良いだろう。受けて立つ」グイッ


576VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/08(日) 20:53:27.100OV1/gNO0 (5/5)

剣士「……」ゴク…ゴク…

村男「……」

剣士「……飲んだぞ。次はどうする」

村男「次は……」

ギィ… バタン

村男「そこにいろ」

剣士「どういうことだ?」

村男「すぐに薬水の効果が現れる」カチャカチャ

剣士「何をしている! なぜ鍵を掛ける!」

剣士「これでは閉じ込――ッ!」ドクンッ

村男「閉じ込めなければ、収拾がつかないからな」

剣士「……っ……っ」プルプル

村男「気持ちが――」

剣士「はぁっ……はぁっ……」プルプル

村男「――高ぶってくるだろう?」

剣士「――っ」プツンッ

剣士「フフ、フフフフ……何だ、これ……なーんだ、これぇ!」ドンッ

剣士「私に何をしたぁああ! あっはははっ!!!」ドンッドンッ

剣士「よくわからんがぁ……ここから出せええ! ぶっ殺ぉおおす!!」バンバンッ

ドンッ ドンッ
 ガンッガンッガンッ

村男「……本当に凄いな、この効果は。いつ見ても」


577VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/09(月) 11:05:58.43qZz9Slqvo (1/1)

乙ー


578VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/14(土) 17:09:26.02wtBpkhql0 (1/3)

剣士「はぁ……はぁ……」

剣士「何で……私は、あの、薬水は……」

カチャッ コト

剣士「……?」

村男「もう落ちついているだろう。飯にするといい」

剣士「はは……落ち着く、だと……?」

剣士「……そんなものじゃない。これは……無気力だ」

村男「……」

剣士「あれは、何だったのだ……?」

村男「薬水のことか?」

剣士「……」

村男「別に変なものではない。精練には必要なものなのは確かだ」

剣士「……」

村男「俺は飲んだわけではないが、気分が昂ぶるらしい。狂ってしまったように」

村男「体験しただろう?」

剣士「……ああ。今は……どうしてああなったのか……」

剣士「あれを抑えるのが、精練……なのか?」

剣士「私のあれは……未熟だから……なのか?」


579VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/14(土) 17:36:54.28wtBpkhql0 (2/3)

村男「どうだろうな」

剣士「……」

村男「俺は精練の儀を行っていないから、わからん」

村男「今回のように立ち会ったことは幾度もあるが、決まったものを戦士に与えるだけだ」

剣士「……」

剣士「……私は――」

村男「……」

剣士「私は、自分が怖くなった。あのような自棄になって……いや……」

剣士「叫んで……憎んで、壊そうとして……」

剣士「それが、とても楽しくて……心地よくて仕方がなかった」

村男「……」

剣士「……あなたを殺す、と言ったな」

村男「ああ」

剣士「本気で……そう思っていたんだ。理由もなく、憎くて……」

剣士「……違うな。そうするのが、気持ちよかったからだ」

村男「……」

剣士「私の心には……悪魔が住んでいるのかも……」

村男「……飯は食べておけ。食い終わる頃には、もう一度様子を見に来る」

剣士「……」


580VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/14(土) 17:49:00.86wtBpkhql0 (3/3)

コツ…コツ… コツ…コツ…

バサッ

族長「……どうだったぃ」

村男「精練の儀は、滞りなく始まりました」

族長「外国の兵士も、人であったということかねぃ」

族長「さて、どうなるものか」

村男「どうなる、とは?」

族長「ヌの剣とは、剣術のみに当てはまる言葉ではない」

族長「ヌの戦士もまたヌの剣だぃ」

村男「剣士もヌの戦士として迎えると?」

族長「それは剣士自身が決めることだねぃ。あくまで、そうなってくれれば、とな」

村男「女戦士など、前代未聞ですが」

族長「兵士だけあって、剣術はかなりのものだねぃ」

族長「それに加え、精練の儀を通過すれば、暫くは国で一番になれよう」

村男「武闘会、ですか」

族長「うむぃ」

族長「最も、精練の儀を通過した戦士は皆従順になりおるけどねぃ」

村男「では、精練を受けさせたのも企みですか?」

族長「……半分」

族長「精練の儀にてその心もヌの剣となるなら、それまでの者だというだけだ」


581VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/15(日) 05:51:26.99aSvyjtME0 (1/2)

コツ…コツ… コツ…コツ…

剣士「……」

村男「調子はどうだ?」

剣士「……良くはない」

村男「……ほう」

剣士「どうした?」

村男「飯は全て食べたようだな。精練の儀を受ける者の殆どは手さえつけられないこともあるのだが」

剣士「詰め込むだけだ……。最も、いつまで……気力が持つか……」

村男「外国の兵士は余程訓練をされているらしい」

剣士「……どうだか」

村男「外はもう夜になっている」

剣士「……」

村男「寝る前に、もう一度薬水を飲んでもらおう」

剣士「……」ピクッ

剣士「……あの調子で、寝ろと……?」

村男「食後、朝昼晩に飲む。精練の儀の決まりだ」

剣士「……」

村男「置いていくぞ。しっかり飲んでおけ」

剣士「……」


582VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2013/12/15(日) 05:57:59.46aSvyjtME0 (2/2)

剣士「……」

剣士「……これも、試練か?」

剣士「不思議だ……。飲んでしまった後の姿を想像して恐れているのに――」

剣士「この薬水を目の前にすると……欲しくてたまらなくなる」

剣士「先程まで、あれほど無気力だったのに……」

剣士「……私は」

剣士「私は、打ち勝たなければならない。この誘惑に」

剣士「あの男が飲むのを見届けずに行ったのは……」

剣士「薬水を捨てると考えなかったのか?」

剣士「目の前に――この手に持っていると、ダメだ」

剣士「捨てて、耐えなければ……」

剣士「……」

剣士「……」

剣士「……」

剣士「……」

ゴクッ


583VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2013/12/16(月) 12:43:07.24RVxXAZyzo (1/1)

乙ー!


584以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/03(金) 19:21:44.84dnEUcXvBo (1/1)

あけおめー
もう4年近くの付き合いか
ここはログ読めるしまとめにも載ってるから
しばらく来れなくて落ちてしまっても立て直して続けて欲しい


585以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/05(日) 19:11:34.04KI0SfNkI0 (1/6)

あお。
今年も多分中途半端に進めていくよ。

>>584
なんだかんだで誰かが読んでくれてるってのは嬉しい。
反応一つあるだけで水が美味いです。


586以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/05(日) 19:24:07.70KI0SfNkI0 (2/6)

(数日後)

剣士「……」ブツブツ

剣士「……」ブツブツブツ

コツ…コツ… コツ…コツ…

剣士「!」ハッ

村男「剣s――」

剣士「おいっ!」ガンッ

村男「……」

剣士「薬水だ! 薬水、薬水!」ガチャガチャ

村男「飯だ!」

剣士「……は?」ガチャ…

剣士「……」

剣士「……」

剣士「……」ブツブツ

村男「……入り口に置いておく。食っておけ」

剣士「……」ブツブツ

剣士「見るな……見るな……見るな……」ブツブツブツ

村男「うむ……この調子だと、一時後くらいにはまた来るか」

コツ…コツ… コツ…コツ…

剣士「……」ブツブツ


587以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/05(日) 19:38:22.75KI0SfNkI0 (3/6)

村男「……」コツコツ

族長「村男よ」

村男「これは族長。わざわざこんな所まで」

族長「様子が見たくてな。どうだぃ」

村男「予想より早く進んでいます」

族長「どれ……」チラ


剣士「……」ブツブツ


族長「……薬水はぃ?」

村男「一時半くらいに」

族長「それでも幻覚幻聴は続いている……かぃ」

村男「早めに儀を済ませるため、初め三日以外は濃くしているためでもあるのでしょうね」

族長「それにしてもぃ、あの馴染みは才でもあるだろうて」

村男「……そろそろ、“禊ぎ”を行おうかと」

族長「早過ぎるのではないかぃ?」

村男「しかし本来なら後十日は必要だったあの状態までいっているのです」

村男「差し障りはないかと」

族長「……よかろぃ」


588以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/05(日) 19:53:45.64KI0SfNkI0 (4/6)

(四時間後)


コツ…コツ… コツ…コツ…

剣士「……」

村男「落ち着いているな」

剣士「……すまなかった」

村男「ここ数日そう言ってばかりだ」

剣士「仕方ないだろう。本当に……本当にこれは何なんだ」

剣士「こんなので、剣は上手くなるのか」

村男「それはお前次第だ」

剣士「……ふふふっ」

村男「?」

剣士「真面目な顔をしているが、内心笑っているのだろう」

剣士「はっきり笑っても良いのだぞ」

村男「笑う必要があるのか?」

剣士「笑えぇっ!」

村男「……」

剣士「あんなに息巻いてた私がいつまでも薬水を絶てずにいるのだ……」

剣士「隠れて見えないが、私を嘲笑する視線と声はわかる」

剣士「そいつらを見返してやるつもりが、また薬水が欲しくなる」

村男「口は、饒舌だな」

剣士「……何?」

村男「隅で震えながらだと、より見窄らしく見えるぞ」


589以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/05(日) 20:07:51.72KI0SfNkI0 (5/6)

剣士「みす、ぼらしい……?」

剣士「私が、か?」

村男「ああ」

剣士「……そうか。そうかそうか、そうか」

剣士「私は、見窄らしいのか。遙々こんな所まで来て剣技を鍛えにきたというのに……」

剣士「さらに見窄らしく……」

村男「だが、精錬の儀は順調に進んでいる」

剣士「……そうなのか?」

村男「ヌの戦士なら誰もが通る道だ」

村男「そして、お前には一度目の禊ぎをしてもらう」

剣士「……禊ぎ?」

村男「そうだ。精錬の儀は禊ぎを三度行い、終了する」

剣士「何を、するんだ?」

村男「実は特に今までと変わりはない」

村男「薬水だ」

剣士「……」ゴクリ

村男「禊ぎ用の濃い薬水を飲むだけだ」


590以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/05(日) 21:53:40.02KI0SfNkI0 (6/6)

村男「禊ぎ用の薬水だ」コトリ

剣士「あ……あぁ……はぁっ……」

村男「これを飲めば、一度目の禊ぎが始まり、すぐに終わる」

村男「精錬の儀としては、折り返し地点と言っても良い」

剣士「はぁっ……んん……っ」ギュッ

村男「……どうした? 飲むんだ」

剣士「ここで……ここで自制しなければ……」

剣士「戻れない、気がするんだ……!」

村男「禊ぎを前にして儀を辞めるか? それでどこへ戻るつもりだ」

剣士「くっ……うぅ……」プルプル

村男「その、見窄らしいままで――」

剣士「あ、あ、うあああああっ!」ガッ

剣士「んぐっ、んぐっ」ゴクゴク

村男「……」

剣士「っはぁ。……はぁ、はぁ」

剣士「駄目だ……もう、私は……私は……!」

村男「……」

剣士「くる……くるぞ……! きた……キタ……キタア!」

剣士「アアアアアアアアアアアアッ!」

剣士「アアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッ!」

剣士「ア゛ッ――」

プツッ


591以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/06(月) 08:58:38.51LYWaKmyKo (1/1)

PCゲームだったら間違いなく調教BADENDルート


592以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/06(月) 11:47:54.34nqb5W9xF0 (1/1)

あけおめ乙

割と本気でこういうの経験してみたい
でも麻薬はやだ


593以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/09(木) 23:39:28.96GY5q8uut0 (1/2)

依存性があるのはメラトニンで十分。
私も毎日使ってる。


594以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/09(木) 23:47:58.77GY5q8uut0 (2/2)

~  ~

キラキラ…キラキラ…

剣士「……ここは何だ?」

剣士「私は……あれ、何をしていたんだったっけ?」

剣士「まぁ、良いか」

剣士「こんなに気持ちいいんだ」

剣士「勘繰るのは、やめた方が良い」

剣士「……それが良い」

キラキラ…キラキラ…

~  ~

剣士「……」ボー

剣士「……?」

剣士「えうー」

剣士「……」ボヘー

剣士「……うー」チラッ

剣士「……」ズリズリ

剣士「……」

剣士「あー……あああぁぁぁぁっ!」ゲシッ ガンガンッ

ガンッ ガンガンッ
  ガチャガチャ ガンッガンッ

剣士「ああああああああっ!」ガンガンガンッ


595以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 00:06:48.44YW+fgTkN0 (1/5)

剣士「……ん」

剣士「……ん?」

剣士「私は、どうなって――痛っ」ビクッ

剣士「なんで脚に鉄片なんかが刺さって……」

剣士「!?」

剣士「部屋の、牢の外ではないか。じゃあこの鉄片は、この鉄格子の穴の……」

剣士「……」

剣士「……思い出してきた。僅かなほころびがあったから、滅茶苦茶に蹴ったんだった」

剣士「あんな傷、今まで気にしたこともなかったのだが……」

剣士「しかし、これは好機だな」

剣士「剣技は惜しいが……逃げよう。私が先に壊されてしまう」

剣士「まずは装備だな。確か階段の途中の倉庫にあるはずだ」

剣士「丁度服も着替えたいから丁度良い。誰にも見られていなくて良かった」

剣士「……あの男がいたか」カァァ

剣士「……」

剣士「一瞬でもこれで喉を潤そうと思った自分が恥ずかしい」

剣士「早く脱出して、水を探そう」

剣士「喉が渇いたな……」スタスタ…


596以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 00:23:08.18YW+fgTkN0 (2/5)

族長「村男よ、もう夕餉の時間かぃ?」

村男「族長のじゃありませんよ」

族長「そうだろうてぃ。その粗末さは精練中の戦士用に決まっている」

村男「そろそろ目が覚めることだと」

族長「壊れておらんかな……」

村男「その時はそこまでの者。でしょう?」

族長「うむぃうむぃ。それが戦士のありようだねぃ」

村男「とは言っても、一回目の禊ぎは鬼門。戦士の三割は使い物にならなくなる儀式です」

村男「はたしてあの女は――」

バサァ

村男「――どう……か……?」

剣士「……あ」

族長「?」

村男「お前、どうやって――!」

剣士「――っ!!」チャキッ ザシュッ

族長「ぐぬいぃぃぃ!?」


597以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 00:38:35.25YW+fgTkN0 (3/5)

村男「族長!」

剣士「しまった!」

村男「抜け出したと思えば……!」

村男「誰か! 村中の戦士を集めろ!」

剣士「す、すまない……。つい、反射的に……」

村男「は、反射的に、だと!?」

剣士「と、とにかくだ。精練の儀はやめさせてもらう」

村男「な、な、な……!」

剣士「意図せずとは言え、族長には……すまないことをした」ダッ

村男「剣士、待て!」

族長「む、村男いぃぃぃ……追うのだぃぃぃ……っ」

村男「ですが……!」

族長「傷は浅いぃぃっ……他を呼ん、で、手当ぃ……させるぃぃ」

村男「……わかりました」

村男「集めた戦士は村中を探させろ! 不届き者はまだ村の中だ!」スタスタ

族長「ふぃ……ふぃ……」

族長「剣士……あの剣の速さ……まさしく……」


598以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 01:39:18.85YW+fgTkN0 (4/5)

「あっちだ! 向こうを探せ!」
「いたか? くそっ」

剣士「こうして見ると案外広い村だな」

剣士「と言っても、どうやらしっかりと塀で囲んでいるようだ。簡単には脱出できそうもないな」

剣士「やはり門から出るしかないか……?」

「向こうに不審な影が見えたぞ!」

「何!? おい、向こうだ!」

剣士「……まずいな」

剣士「! 暫くこの小屋に入ってやり過ごすか」

「こっちか?」

「多分こっちだ」

タッタッタッタッ…

剣士「……ひとまず過ぎたか」

剣士「戦士が二、三人に指揮が一人で一組か。非常時の兵としては使い勝手が悪そうだな」

剣士「……」キョロキョロ

剣士「倉庫、だろうか」

剣士「食料庫……にしては保存のことを考えてないな。同じような樽ばかり置いているし」

剣士「机もあるな。この上のものは……確か、薬研というものだったか」

剣士「……まさか」ハッ

剣士「この、樽の中身は……!」


599以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 01:58:19.40YW+fgTkN0 (5/5)

剣士「薬水が、入っている……のか……」パカッ

剣士「……」

剣士「はぁ……思い過ごしか」

剣士「薬水と思ったが、こんな乾燥キノコばかりか」

剣士「まさかここにあるものは全部キノコなのか?」

剣士「なんてな。そんなキノコばかりあっても……」

剣士「……」

剣士「いや、ちょっと待て」

剣士「このキノコ、乾燥していたから一瞬わからなかったが、知っているぞ」

剣士「幻覚作用のある、モウタイルムスロム……」

剣士「大陸でも有名な猛毒キノコじゃないか」

剣士「これが……薬水の材料、なのか……?」

剣士「……」

剣士「……はむ」バリボリ

剣士「!」ボリボリボリッ

剣士「――っはぁ……なんて美味しいんだ」

剣士「乾燥しているのに、喉が潤う……ふふっ」

剣士「わかったぞ。ふふふ、ヌ族の真意が……」

剣士「私を薬水漬けにして服従させるつもりだったのだろう」

剣士「そうは、ふくくくっ、そうはいかない。ふふふっ」ニタリ


600以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/10(金) 03:14:54.01eK1X4qmTo (1/1)

自ら薬漬けになる剣士さん


601以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/14(火) 22:17:54.55Fg4r171/0 (1/7)

「いたか!?」
「いや……こっちには」
「何があったの?」
「族長が斬られたらしいわ。怖いわねー」
「女は危ないから家に」

村男「まだ見つからないのか」イライラ

ヌ戦士「警備長、こちらにもいませんでした」

村男「あの女……どこへ……」

「ぐわぁぁっ」

村男「何だ、今の悲鳴は!」

「んばっ」
「うわぁぁあっ!」
「ぐふぉあ!」

「や、やめろっ……俺は戦士では……」

村男「!」

シュンッ

「ぐはぁあああっ!」ドガッシャーン

剣士「邪魔するからだ。斬らなかっただけありがたいと思え」スタスタ

剣士「……ん?」

ヌ戦士「……」

村男「……見つけたぞ、剣士」

剣士「待ってただけじゃないのか?」

剣士「ここ、正門だろう」


602以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/14(火) 22:28:41.61Fg4r171/0 (2/7)

村男「そうだ。他に出口はなかっただろう?」

剣士「全部見たわけじゃないのでな。知らない」

剣士「塀を越えていくとは考えなかったのか?」

村男「村の子供でもそんなことはしてないからな」

剣士「ほう。子供基準で考えるわけか」

村男「……」

剣士「……私は出て行く。どけ」

村男「ならん。族長を斬ったことを忘れたのか?」

剣士「手が滑ったんだ」

村男「……」

剣士「あそこにいたのが悪い」

村男「……その言葉が本気なら、しっかり償ってもらわねばならんな」

剣士「私だって悪いとは思っている。さっきのは、そうだな、言葉の綾というやつだ」

剣士「本当にすまない」

村男「……」

剣士「だが、それとこれとは別だろう。私は精練の儀をやめる」

剣士「いや、あんなのはもうやってられない」

剣士「もはやここにいつ必要はない。だから出て行くだけだ」

剣士「それを阻むのなら、お前達は私を監禁していることになるぞ」


603以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/14(火) 22:45:39.70Fg4r171/0 (3/7)

村男「監禁か。精練の儀も同じようなものだが……」

村男「これからは意味合いも違ってくる。お前は客人ではなく、罪人となった」

剣士「……なら、力尽くで通るしかないな」

ヌ戦士「出番、ですか?」

村男「ああ。もう罪人だ。本気で行け」

村男「生死は問わない」

ヌ戦士「わかりました」ガチャ

剣士「重そうな剣だな。本当に死にそうだ」

村男「死んでも構わないぞ」

剣士「それは嫌だな」

剣士「さっきの戦士は木剣だったから素手でいったが――」

剣士「今回は本気でいくぞ」スラァ

村男「やれ!」

ヌ戦士「っ!」ダッ

剣士「っ」シュバッ

村男「そんな剣がヌ戦士に通ると思っているのか! もらった!」

ヌ戦士「んぬぅっ!」グイ ブォオンッ

剣士「……」

カチャ キュルルルルッ キキンッ

剣士「……」スタッ

ヌ戦士「ぐふ……ぅ……」ドサッ


604以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/14(火) 22:58:40.04Fg4r171/0 (4/7)

村男「……」

村男「……!」ハッ

村男「な、何が……!」

剣士「これ以上邪魔をするなら、お前も斬るが……」

村男「……」ゴクッ

剣士「……その気はなさそうだな」スタスタ

剣士「簡単な話だ」

剣士「私の安易な剣筋をすんでの所で躱し、反撃の一撃を与えようとした」ガチャガチャ

剣士「そこから無理矢理体を捻って奴の剣を少し逸らし、さらに捻ってはね飛ばし――」

剣士「そのまま三回斬っただけのことだ」ゴトン

ゴゴゴ…ゴゴゴ…

剣士「これで一勝一敗一殺。私の勝ち越しだな」

村男「……お前には、女の身でありながら戦士の素質があったようだな」

村男「もう一度、精練の儀をやるつもりはないか?」

剣士「何だか調子が良くてな。そんな虫の良い話には乗れないな」

村男「罪人とは言え、惜しいな。ヌの戦士になればいいものを」

剣士「……」

村男「ここには、薬水があるぞ」

剣士「……やはりそういうことか」


605以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/14(火) 23:08:13.43Fg4r171/0 (5/7)

村男「やはり?」

剣士「既にお前達の魂胆はわかっている」

剣士「おかしいと思っていたんだ。あの薬水はな」

村男「何がおかしい」

剣士「飲めば飲む程、欲しくなる。精神を強く持とうとしても、依存するんだ」

剣士「だが、お前達はそれが目的だったのだろう」

剣士「薬水で縛り付け、従順な戦士を作る。それが精練の儀の正体だ」

村男「何を馬鹿な――」

剣士「ここの戦士達が皆従順に指導者に従っているのにも、合点がいく」

剣士「薬水で縛られているんだ」

村男「……そう思うならそれでも良い」

村男「今まで薬水を飲んできたお前は、欲しくはないのか?」

村男「ここならそれが――」

剣士「これのことだろう?」スッ

村男「それは、神聖キノコ! 薬倉に行ったのか」

剣士「神聖、キノコ……?」

剣士「あっはっはっはっ、これが神聖? 何を言っているんだ」

剣士「これはただの幻覚山キノコだ」

村男「ただの、だと?」

剣士「大陸にも山程生えている」

剣士「残念だったな。ここの戦士のような無知ではなくて」スタスタ

村男「……」

剣士「神聖……これが、神聖……くくく……」ボリボリ


606以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/14(火) 23:23:49.63Fg4r171/0 (6/7)

『舶道港 あれから何日後か

習慣は凄いものだ。

あのような目に遭っても、こうして書く気力があるのだから。

商船は二日後に来るらしい。

それに乗って(----



---紙が破損している---



----)くは、身を隠しているつもりだ。

白鯨の街まで持つだろうか。

白の町へ行く前に、やりたいこともある。

あの辺りの裏なら(----


---インクで滅茶苦茶にして文字が消えている---


----)

狂人はどうしているだろう。

勇者様は、こんな私をどう迎えてくれるだろうか。』


607以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/14(火) 23:36:13.56Fg4r171/0 (7/7)

(二日後)
――舶道港

ガヤガヤガヤ
 ガヤガヤガヤ

「これで積み荷は全部か-!」

「ああ! それで終いだ!」

「よし、後は……ん?」

剣士「……」

「お、おい、お嬢ちゃん……いや、兵士さんか? 酷い格好だな」

剣士「この船は、白鯨の街へ行くか?」

「あ、あぁ」

剣士「帰りに乗せてくれ」

「良いけどよ。……あんた、誰だい?」

剣士「大陸の兵士だ」

「なんでこんなところ――」

剣士「野暮用だ」

「あ、あぁ。まぁいいや」

「俺らはこれからこの国の商会と話があるんでな。出向は後に――」

剣士「大丈夫だ」

「お、おう」

剣士「……」

「まだ何かあるのか?」

剣士「先に中で休みたいのだが……」

「良いぞ。そうだな……甲板か船内のダイニングで頼む」

剣士「わかった」フラフラ

剣士「モウ……ムルロ……ない……」ブツブツ

「……なんなんだ、ありゃ」


608以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/15(水) 00:33:13.97AZSEATXy0 (1/2)

(時期同じくして――)
――竜の国

勇者「なぁ、煙の国を抜けてもう五日だぞ。まだなのか?」

騎士「急いても仕方ないだろ。もうすぐ調査団の陣営につくはずだ」

勇者「そう言って二日前、陣営が移動してただろうが」

騎士「仕方ないことだ」

勇者「そればかりじゃないか」

魔剣〔調査が進んでいる証拠だ。我はこうして異国に足を運ぶだけでも楽しいぞ〕

勇者〔そうか? こんなに荒れてるのに〕

魔剣〔昔を知っているからな。我の時代は、この辺りも栄えておった……〕

勇者「へぇ」

騎士「どうした?」

勇者「いや、何でもない」

騎士「ともあれ、こうして山の方に移るだけでもありがたいじゃないか」

騎士「前線だった方はまだ荒れ方も酷いはずだ。こうして馬車にも乗れないだろう」

勇者「そんなに酷かったのか、最終戦争は?」

騎士「酷いなんてものじゃなかったな。あちこちで地面が抉れるくらいだ」

騎士「それに竜が参戦して、もう何がなんだかわからなくなった」

勇者「……」

騎士「ん? 喜べ、勇者。陣営があったぞ」


609以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/15(水) 00:35:38.55AZSEATXy0 (2/2)

剣士編が思ったよりあっさり終わったところで、続きは次回に。

次は勇者・騎士編! 舞台は竜の国!


610以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/15(水) 10:57:42.99f3YUGN9oo (1/1)

乙、いよいよメインストーリーが進む感じか?


611以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/16(木) 22:12:35.85UjwvL4RY0 (1/1)

剣士さんただのヤクチューじゃないですかーやだー


612以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/01/18(土) 02:09:34.05ffMNlL8jo (1/1)

狂人が二人に増えたな


613以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/13(木) 18:57:31.49vix1xaRyo (1/1)

やべー


614以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/15(土) 14:24:00.71oNymL8Gao (1/1)
615以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/15(土) 17:10:47.81lt6lHhbL0 (1/4)

忙しさにかまけて一ヶ月もサボってしまった。不覚。

今更な感じですけど……。


616以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/15(土) 17:34:07.71lt6lHhbL0 (2/4)

「隊長、応援が到着しました」

調査兵「そうか。入ってもらえ」

バサッ

騎士「失礼するぞ」

勇者「……」

魔剣〔……〕

調査兵「待っていましたよ」

調査兵「白蛇騎士団団長の騎士殿、連合調査遊軍の勇者殿、ですね」

調査兵「俺がこの調査の責を任された、調査兵というものです」

騎士「手助けに来ておきながら、遅れて申し訳ない」

調査兵「いえ、こちらも移動していましたしね」

調査兵「移動魔法の後、間髪入れずに煙の国から馳せてきたことは耳にいれています」

勇者「こっちは馬車に揺られていただけだからな」

勇者「何かあるならすぐにでも動けるぞ」

調査兵「それはありがたい!」

調査兵「……と言いたいところですけど」

騎士「何か、問題が?」

調査兵「竜はあの出現後、幾度となく姿を見せているのです」

調査兵「故に黒竜の足取りからここまで辿り着いたわけですが……」

騎士「暴れたのは青い竜だと聞いたが」

調査兵「ええ。しかし青竜は姿を中々見せず、あれから一度目にしたのですが調査する暇もできないのです」


617以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/15(土) 17:44:14.76lt6lHhbL0 (3/4)

騎士「その時の様子は?」

調査兵「青竜が一頻り街を破壊した後、黒竜が来て戦闘に」

調査兵「我々人間からすれば、どちらも暴走竜ですよ」

騎士「ふむ……」

調査兵「それで、この近辺の住人に聞いたところ――」

勇者「竜の国の人達が協力してくれているのか?」

調査兵「ええ。勿論、気持ちよくとは行かない場合が多いですが」

勇者「そうか。話を止めてすまなかった」

調査兵「全くです」

勇者「えっ」

調査兵「失礼。住人によると、この近辺では言い伝えがあって、三日月山脈の三番目に高い山が竜の住処らしいのです」

勇者「……」

騎士「調査には?」

調査兵「まだ。この二日、行くべきか悩んでいて……」

調査兵「山の麓には森があるのですが」

騎士「樹海、か?」

調査兵「いえ。確かに大きな森ではあるらしいのですが、樹海とまでは」

調査兵「ただその森、山に行こうとすると元の道に戻るようで」


618以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/15(土) 17:56:03.07lt6lHhbL0 (4/4)

勇者「結界……」

調査兵「でしょうね」

騎士「さっきの話しぶり、君は言ってなかったのでは?」

調査兵「先遣を数人行かせたのですよ」

騎士「ふむ、成る程」

騎士「結界と言えば勇者だが、どう思う?」

勇者「聞く話だと、幻覚系だろうな」

勇者「旅の中で数回経験はあるけど、そういうのは俺じゃなく魔法師が解決してたから」

騎士「勇者は無理なのか?」

勇者「殴って壊せないものはちょっと」

調査兵「……はぁ」

勇者「!?」
騎士「!?」

調査兵「しかし経験豊富なお二方が行けば、何かわかるかもしれませんよ」

騎士「……ということは、私達がもう一度山に向かって行けば良いのだな」

調査兵「そうですね」

勇者「まぁ、調査は実地の方がよくわかるからな。俺としてもその方が良い」

調査兵「では最初の仕事はそういうことで」

調査兵「成果がなくても別に良いですからね」


619以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/02/16(日) 20:34:28.60KkWbywHSo (1/1)




620以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/04(火) 20:52:33.31dsv4YewS0 (1/1)

いちいち嫌味なやつだなwwwwww


621以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/08(土) 21:12:44.40B0T0rnvK0 (1/7)

復活してますね。
落ちてる間の書き溜めはありません。いつも通り。

なので、いつも通り超低速更新でいきますね。


622以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/08(土) 21:26:03.80B0T0rnvK0 (2/7)

バタバタバタッ

バサッ

「報告、報告!」

調査兵「何だ。重要か?」

「北西の空に飛行物を観測! 目測ではまだ遠いようですが」

調査兵「何?」

「報告者によると、かなり高速で飛んでいるようです」

調査兵「成る程……」

「恐らく――」

調査兵「鳥ならお笑い種だな」

調査兵「お二方、聞いての通りです。俺は数人連れて見に行きますが」

勇者「ついて行っても?」

調査兵「……まぁ、良いでしょう」

魔剣〔……〕

調査兵「その代わり、鳥でも怒らないように」

騎士「それはないさ」

「隊長、早くしないと」

調査兵「あぁ、うん」

調査兵「ではお二方、ついてきてください。馬はこちらですので」

調査兵「あぁ、それと……残る兵士には退却準備をしておくように、と」

「はっ」

勇者「退却……?」

調査兵「念のためですよ」バサッ

調査兵「そんなこともわからないんですかね」ブツブツ


623以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/08(土) 21:43:50.73B0T0rnvK0 (3/7)

騎士「この馬、相当疲弊しているじゃないか」

ブルヒヒーン…

調査兵「仕方ないですよ。そんなのでもいなければ、我々の足はなくなってしまいます」

勇者「あそこの三人が同行する兵士ですね」

調査兵「時間がないので、紹介はなしで行きますよ」

調査兵「これよりこの六人で臨時調査に向かう。発見者、今も対象は見えるか?」

「はっ、あちらに」ビシッ

勇者「……あれか」ジッ

騎士「……」ジッ

調査兵「……見えんな」

調査兵「まぁ良い。その方角だと、水袋の丘だな」

「そうですね。視界が開けていて退路確保も容易なのは先日の周辺調査で――」

調査兵「行くぞ。ハッ!」ダダッダダッ

騎士「勇者、見えるか?」

勇者「一応な。あの影は、鳥ではなさそうだ」

騎士「竜……」

勇者「かもしれないな。俺達も急ぐぞ。あの人、意外と速い」

騎士「何? なっ、いつの間にあんな所まで……!」

勇者「馬の方もタフだよな」

魔剣〔……この気配、昔から変わってはいないようだな〕

勇者〔?〕

魔剣〔来るぞ。西の空だ!〕


624以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/08(土) 21:54:44.20B0T0rnvK0 (4/7)

ビュオォォォオオオッ

騎士「くっ、いきなり何て風だ!」

勇者「……!」

騎士「どうした。空なんか見てたら危な――!?」

勇者「みんな、西だ! 西の空だ!」

「何だって?」

「空がどうしたって……」

調査兵「あれは……!」

騎士「あれが、竜か……?」

「黒い……竜……!」

騎士「これだけ離れているのに、なんという威圧感だ……!」

「隊長、どうします!?」

調査兵「……変更はない! このまま水袋の丘へ向かう!」

勇者「賛成だ。あの黒い竜は向こうの飛行物に向かっているようだ」

調査兵「向こうにいるのも竜だ! 青い竜だ!」

「何だって!?」

「ただじゃ済まなさそうだな……」

調査兵「急ぐぞ。黒い奴に遅れを取るな。ハッ!」ダダッダダッ


625以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/08(土) 23:00:10.06B0T0rnvK0 (5/7)

――水袋の丘

調査兵「少し遠かったか。まぁ良い。見張るぞ」

「遠いくらいが丁度良いと思います。巻き添えは困りますからね」

「そうだなぁ」

勇者「でも十分な距離だ。竜の輪郭が見える」

「えぇ」

…ゴゴォ ズドォ…オン

騎士「相当離れているはずなのに……戦闘音がここまで聞こえるとは」

調査兵「雑音がないですからね」

騎士「……」

勇者「でも、どうして竜同士が戦っているんだ?」

調査兵「それを調べるのが我々でしょうが」

勇者「そうだけどな……」

魔剣〔少なくとも、悪竜は青い方だ〕

勇者〔わかるのか?〕

魔剣〔少し考えればわかるであろうが。黒い竜は竜の住む山の方から飛んできたのだ〕

魔剣〔ならばその黒い竜は竜の仲間。その黒い竜に攻撃されている青い竜は敵だ〕

勇者〔まるで人間みたいじゃないか〕

魔剣〔うむ。竜には人同様、意志がある〕


626以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/08(土) 23:15:37.11B0T0rnvK0 (6/7)

魔剣〔そもそも、竜は神々による恩恵以前より魔法を使う唯一の種族と言う〕

魔剣〔その竜がその辺の野獣と同じなわけはあるまい〕

勇者「……」

勇者〔じゃあ、尚更どうして――〕

調査兵「伏せろ!」

勇者「!?」

騎士「危ない!」ガシッ

ゴォォォオオオオゥ…

勇者「……な、何だ?」

騎士「流れ矢だ。何をぼーっとしている」

勇者「あ、あぁ。すまない」

「相当やばい火力だぞ、これ……」

「こりゃあ、あの周辺はもう駄目だな」

勇者「今の、火炎魔法か? あの距離から?」

騎士「ああ。私達人間のレベルなら規格外だ」

勇者「今回の任務は、対峙する前から命の危険を感じるな」

騎士「これがたった二匹だと考えると、私でも手が震える」

勇者「……ん?」

調査兵「どうしました?」

勇者「いや、ちょっと……」

調査兵「はっきりしませんか?」


627以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/08(土) 23:24:55.82B0T0rnvK0 (7/7)

勇者「いや、自分でもはっきりしなくて……」

調査兵「なら黙って観察した方が賢明ですよ」

勇者「……」

勇者「今回の竜の発見者、誰だっけ?」

「はっ、私です」

調査兵「?」

勇者「多分目が良いと思うから確認したいんだけれど……」ゴニョゴニョ

「……ふむ」ジッ

「そう言われると……確かに」

調査兵「何がですか?」

勇者「黒い方の竜、何かおかしいなと思ってね」

騎士「おかしい?」

勇者「俺を含めて二人の証人だ」

勇者「黒い方の竜から二つの魔法が一気に出ているんだ」

騎士「何?」

調査兵「……確かに……そう見えなくもないが……」

調査兵「これまでの調査で竜の詠唱速度は著しく速いことがわかっています」

調査兵「錯覚で一気にでているように見えるのではないですか?」

勇者「そうかもしれない」

勇者「でも、多分二つ、魔法が出ているように見えるんだ」

調査兵「……一応憶えておきましょう」


628以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/10(月) 09:40:22.30zIjhxprmo (1/1)

乙ー


629以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします2014/03/12(水) 12:29:12.57m1+SCIN30 (1/1)




630VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/07(月) 10:01:20.90dloK6rCRo (1/1)




631VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/08(火) 21:56:29.44BnDmkzQB0 (1/2)

――調査陣営

調査兵「――以上が、今回の竜出現に関しての報告だ」

「うーむ……」
「青い竜が出ましたか。こんなに近いなんて……」

調査兵「……それで、だ」

勇者「……」
騎士「……」

調査兵「伍長達はこの状況をどう考える?」

「一度は決着戦争の戦場まで行った竜が戻ってきた、ということですね」

「これまでの黒竜の動きは、もしかしたら偵察の意味があったのかもしれない」

「ふむ……敵対関係にある、と」

「いや、そんなことは問題ではない。問題は青い竜がまたこの近辺で暴れるかもしれないということだろ」

調査兵「そうだ。そのような事態にもかかわらず、我々はまだ何も知らない」

調査兵「ついては――」

「……」ジッ

勇者「俺達の出番、ですか」

調査兵「そうです。事態は深刻かもしれず、早急に手を打たなければならなくなりました」

騎士「そうは言ってもだな。私達は何の手掛かりも掴んでいないのだぞ」

調査兵「ほう」

「その通りだ、隊長。いくら精鋭の隊長二人とは言え、お二方とも着いたばかりだ」

勇者「……いや、やってみよう」


632VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/08(火) 22:12:28.57BnDmkzQB0 (2/2)

騎士「勇者!? まさか意地になっているのではないな?」

勇者「そんなつもりはないよ。ちょっと思う所があるんだ」

調査兵「本当ですか? 先程は幻覚系結界は不得意だとおっしゃっていたではありませんか」

勇者「ああ、確かにそう言った」

勇者「だが、見に行く価値はあると思うんだ」

調査兵「……えらく自信がおありで」

勇者〔……大丈夫だよな?〕

魔剣〔昔と変わっていなければな〕

魔剣〔我とて竜を倒した一人だ。あの山にも入ったことがある。陣営に戻る時にそう言ったであろうが〕

騎士「大丈夫なのか?」

勇者「さあね。何にせよ、これが教えてくれるはず」カチャ

騎士「その剣が……?」

勇者「この剣は初代統一王が竜を斬った魔剣なんだ」

騎士「何!?」

調査兵「そんなもの凄い剣だったとは……!」

ザワ…ザワ…

魔剣〔この剣で我が竜を斬った!〕エッヘン

調査兵「しかし、それで?」

シーン…

勇者「この剣には、まだその魂が残っているんだ」

勇者〔で、良いのかな〕

魔剣〔我自身が残っているのだ〕

調査兵「何ですと?」

勇者「だから、きっとそれが正しい道を教えてくれるはずだよ」


633VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/09(水) 10:38:58.38m5zks23do (1/1)

乙ー!
>>630は誤爆です。
ageてしまいスミマセン


634VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/04/12(土) 20:31:40.24Y4v5v4Kko (1/1)

そこそこ強いはずなのに勇者が単なる称号持ちの凡人イメージ


635VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/13(日) 11:02:04.44dwDqLYNW0 (1/3)

>>633
私の遅い更新に保守してくれたのかと妄想してた

>>634
大陸の兵役従事の常識が「魔法適正が高い→魔法使い」「魔法適正が低い→兵士」に対して、
「魔法適正が高い→兵士」という理由で勇者の称号をもらった凡人の設定。
そこそこ強いのは、一族が騎士の血統とか、魔法の適正バランスの良さとか何とか。
剣術のみなら中の上くらい?


636VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/13(日) 11:13:56.07dwDqLYNW0 (2/3)

調査兵「……確証は、あるのですね?」

勇者「ある、と言えば嘘になるかと」

勇者「初代統一王は大昔の人間だからね。その時代から結界の方式が変わっていたらどうしようもないよ」

「確かに」
「一理ありますな」

調査兵「元より、あなた自身の力ではないのですが」

騎士「言葉が過ぎるな。剣の所持者は勇者だ」

調査兵「誤解しないでいただきたいです」

調査兵「ご自身の力でないということは、信じる確証もないということです」

勇者「まぁ……確かに」

「しかし、やってみる価値はあるかと」

調査兵「ほう」

調査兵「なら、お前がお二方を案内しろ、伍長。お前の部下五人全て連れて行っても構わん」

伍長「いえ、部下はここに預けるよ。周辺調査も楽じゃないんだろ」

調査兵「……じゃあ、頼んだぞ」

伍長「ええ」

調査兵「では、お二方にはこの伍長をつけ調査に行ってもらいます。良いですね?」

勇者「構わないよ」

騎士「ああ」

調査兵「では、臨時会議を終了する」


637VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/04/13(日) 11:37:28.08dwDqLYNW0 (3/3)

――麓の森

伍長「ここからが森になります」

勇者「また深そうな所だな」

騎士「この中の結界を抜けるのか。大丈夫か?」

勇者「はは……どうだろうな」

伍長「では行きましょうか。結界が発動する場所まで案内します」

魔剣〔まぁ、待て〕

勇者「ちょっと待って」

伍長「何か?」

勇者〔どういうことだ?〕

魔剣〔竜族の結界は入念だ。段階を経て進まねばならん〕

魔剣〔この森に踏み込んだ竜族以外全てが結界の対象だ〕

魔剣〔まずは森の裾を調べることだ。それで森に入る第一段階目の許可となろう〕

勇者〔ふむ……〕

伍長「勇者様、どこへ向かわれるのです!?」

勇者「結界を解く鍵の一つが森の周辺らしいんだ」

騎士「何? しかし、この広さ……とてもじゃないが見つけるのは困難ではないか?」

勇者「そう思うんだけどな」

勇者〔何か手掛かりはないのか?〕

魔剣〔ないな。もはや景色が違いすぎて、目印すら――〕

魔剣〔いや、あるぞ。木々との距離を平等に視界に入れたとき、その中央に一番高い山があった〕

勇者〔また大雑把な手掛かりだな〕

魔剣〔ないよりはマシであろうが〕

勇者「それもそうか」ボソリ


638VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/05/05(月) 16:36:03.3135m0gjiY0 (1/2)

騎士「どうかしたか?」

勇者「この辺り一帯の一番高い山って、あれのことか?」

伍長「ええ、そこに見える山がそうですね」

伍長「大陸大山脈の中でも三番目に高い山、通称〈竜の山〉」

騎士「竜の山……」

伍長「この調査の中でも、黒い竜が頂上付近を出入りしている様子を見ています」

勇者「と言う事は、そこが住処なのか」

伍長「ええ。目的地ですね」

勇者「そうだな……こんなものか?」ザッザッ

騎士「何をしているんだ?」

勇者「森の裾を真正面にするように距離をおいているんだ」

勇者「……うん。良かった。あまり移動はしなくても済みそうだ」

伍長「何かわかったのですか?」

勇者「二人とも、ちょっとこっちに来てみてくれないかな?」

勇者「ここから竜の山が見えるだろ?」

騎士「ああ」
伍長「そうですね」

勇者「こうやって正面を見た時に、あの山が真ん中にくるような場所に移動する」

騎士「となると……右だな」


639VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/05/05(月) 16:53:24.1435m0gjiY0 (2/2)

ザッザッ ザッザッ

伍長「……この辺り、ですかね?」

勇者「結構歩いたな……。近いと思ったのに」

騎士「山が遠いからな。見た目だけでも移動させるのには苦労する」

騎士「途中、森の裾が出っ張ったりして歩く方向も変わったからな」

伍長「とにかく、この辺りなんでしょう? 次はどうすれば?」

魔剣〔次は――〕

勇者「――森を少し入ったところに、石像があるはずだ」

勇者「それが第一の鍵らしい」

騎士「その石像とは、あれのことか?」

伍長「……森に入るどころか、少し離れたところにありますね」

魔剣〔我の時代では森の中だったのだがな……〕

伍長「この付近だと、少し離れた所に村があったはずですね」

伍長「廃村ですけどね」

騎士「そろそろ日も暮れるが、そこに身を寄せるか?」

勇者「それも悪くないが……」

勇者〔この結界を解いてから竜の住処に着くまで、どのくらい時間が必要なんだ?〕

魔剣〔一時半くらいだったか〕

魔剣〔道程が長いからな。中々に時間がかかるぞ〕

勇者「どうやら順調に結界をくぐっても一時半はかかるそうだ」

伍長「では、決まりですね」

勇者「村までの案内を頼む」


640VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/07(水) 02:20:30.67HynqvmhP0 (1/1)




641VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/18(日) 15:24:16.82PSN5XAUAO (1/1)

一昨年の暮れから読み始めてやっとおいついた



642VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/05/25(日) 14:53:03.31gmAFxYhB0 (1/2)

――廃村

勇者「……これも決着戦争の末路なのか?」

伍長「いえ。そうではないはずです」

伍長「いつまで人が住んでいたかまでは知りませんが、村としての形体を成していたのは百年以上前のこととか」

騎士「それも調査で知ったことなのか」

伍長「ええ。調査場所の周辺を調べるのも仕事ですので」

勇者「竜の国も一般国民がいるからな。これが戦争の結果だったらと思ってしまって……」

騎士「そんなことを言ってしまってはキリがないだろうが」

伍長「ははは、騎士様も手厳しいですね」

騎士「参加していた私が甘いことなど言ってられないさ」

伍長「村自体は随分前に廃れた所ですが……ほら、あそこを見てください」

伍長「あの地面の抉れ。あれは新しいものですよ。恐らく、竜の魔法がつけた傷跡かと」

勇者「あれは特に酷いな」

伍長「他の土地にあのような被害が出ないように、我々は動いているのですよ」

伍長「お忘れなきよう」

勇者「忘れないよ」

騎士「任務だ。忘れるはずもない」

勇者「さて、来てみたは良いけど、どこを寝床にしようかな」

勇者「家屋としての原型を留めてないのばかりだし……」

伍長「とりあえず探してみましょうか。結局野宿ということにもなりそうですけどね」


643VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/05/25(日) 15:12:12.91gmAFxYhB0 (2/2)

騎士「百年の廃村か……」

騎士「遠征の時に何度か廃村、廃墟は見てきたが、その時とは違う感覚ではあるな」

伍長「と言うと?」

騎士「これまで見てきたものは精々廃れて数十年の所だった」

騎士「そういう所は自然の強さに感心するんだ」

騎士「だがここのように長すぎると、どうだ」

騎士「むしろ家屋の跡が残ってる方に感心してしまう」

騎士「結局、どっちが強いのだろうな」

伍長「難しい問題ですね。元々、どちらが強いかなんて関係がないかもしれません」

騎士「自然には、関係ないのだろうな」

勇者「騎士の気持ちはわからなくはないな。旅をしていると似たような感じになることもあるよ」

勇者「……ん? この像はしっかりと立ってるな。傾いてもいないぞ」

魔剣〔この像は……〕

勇者〔何か憶えがあるのか?〕

騎士「今で言う六角時計みたいなものなら、ここが村の中心ということになるな」

伍長「もしそうなら、この規模の村にしては立派な石像ですね」

勇者「いや――」

魔剣〔――この石像は、あの時の村の――〕

勇者「――石像の……この面か?」

騎士「何かあるのか?」

勇者「この面に、魔力を集中させて――!」サワッ

キュイィィィイーンッ… ゴゴゴゴゴ

伍長「な、なんだ!?」


644VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/27(火) 18:49:19.16ozK68RnFo (1/1)

石像がロケットみたいに飛び立つAA作ったけどつまんなかった


645VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/28(水) 23:10:56.93hBPT/CVW0 (1/1)

まさか2010年のスレ見てて現行スレにたどり着くとは思わなかった。
長寿だなあ


646VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/05/28(水) 23:22:44.37uqIg3qDl0 (1/1)

>>644
それなんてゴシップストーン


647VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/15(日) 21:47:50.95EWPQnbrt0 (1/3)

ゴゴゴゴゴ… ガタンッ

勇者「」ポカーン

騎士「……驚いた。像が動いて地下への階段が現れるとは」

伍長「勇者様はこれを知っていたのですか?」

勇者「いや……やってみろと言われてやってみたら……」

騎士「初代統一王にか?」

勇者「ああ」

伍長「これはますます本物ですね」

勇者「疑ってたんだな」

伍長「正直な所」

騎士「無理もないだろう。私だって半信半疑だ。今でもな」

伍長「それで、どうします? 入ってみますか?」

騎士「少なくとも、屋根はあるな」

伍長「こちらとしても少し興味はあります」

勇者「良いと思うぞ。危険はないはずだから」

勇者〔だよな?〕

魔剣〔断言はできぬな。百年前まで使われていたとしても、うっかり何かが入り込んでいるやもしれん〕

勇者〔で、ここは何なんだ?〕

魔剣〔……〕

伍長「では、入りましょう」

騎士「そうだな」


648VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/15(日) 21:57:12.39EWPQnbrt0 (2/3)

騎士「木の扉か……それにしては頑丈だな」ガチャガチャ

勇者「騎士でも開かないのか?」

騎士「何が言いたい」

勇者「別に」

騎士「大方私を怪力だと言いたいのだろうが、普段からそんなに力は使わない」

勇者「怪力は認めるのか」

騎士「自分で鍛えた力だ。むしろ誇りだな」

伍長「素晴らしいですね。女性兵士の鑑です」

伍長「とは言え、噂はかねがね、騎士様は別格でしょうが」

騎士「そうでもないさ。鍛えれば誰でもできる」ガチャガチャ

騎士「特に女兵士の場合、女を捨てた覚悟の者がいるが、それ以上に――ふんっ!」ブチィッ

カラン… ギィ…

騎士「女の方が強いときもある」

伍長「……」

勇者「……いや、お前は別格だ」

騎士「この扉、中身は鉄じゃないか。通りで頑丈なわけだ」

勇者「本当だな。結構厚いし、内側から閂もかかっていたみたいだな。これも相当大きい」

伍長「……」


649VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/06/15(日) 22:14:29.17EWPQnbrt0 (3/3)

騎士「見えるのか? 結構暗いぞ」

勇者「昔から俺の方が夜目は利いたからな」

騎士「ああ、そうだな」

勇者「灯りがいるな。“火炎”」ボゥ

?「……」

騎士「!?」ビクッ

伍長「な、何ですか!?」

?「……」

勇者「よく見ろ。あれは、骨だ」

伍長「……本当ですね」

騎士「驚かしてくれるな」スッ

勇者「この天井が低いところでお前の大物を振り回そうとしてたのか」

騎士「野獣や魔物なら危ないだろう」

騎士「それにしても、この骨は人間だろう? 閂も内側からなら、ここは牢獄か?」

伍長「そうではないかと。この死体は地面に座っています」

伍長「古くから苦行僧の最も徳の高い修行である生き仏というものかと」

勇者「あぁ……聞いた事はあるな。白羽教会でも一派しかやらないとかいうあれか」

伍長「今や大きなところですから、教義の解も多岐にわかれていますからね」

騎士「ということは、ここは白羽教会の?」

魔剣〔いや、ここは全く関係ないな。こやつは恐らく、竜巫女と呼ばれた者だ〕

勇者〔竜巫女?〕

魔剣〔ああ。我の時代にはまだ人間と竜の交流はあったのだ。この村だけな〕

魔剣〔但し、交流を許された人間もごく少数。それが竜巫女と呼ばれる者達だ〕

魔剣〔ここはその社でな。我も一度は訪れたことがある〕


650VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/15(日) 23:22:46.91yQe5ehyA0 (1/1)

きたか


651VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/06/15(日) 23:48:30.53SU+MWxS6o (1/1)

実は俺も一度訪れたことがある


652VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/04(金) 22:16:32.19a9h/pjl2o (1/1)

こい


653VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/07(月) 21:50:24.06OluhZenf0 (1/2)

伍長「竜巫女、ですって?」

勇者「竜族が表舞台に出なくなってからというもの、大陸で国家を築いた人間とは交流はしなかったらしい。理由はわからないけどな」

勇者「ただ、この村を除いて」

騎士「巫女と言っても、尼僧のような聖職者ではないのか」

伍長「いえ、こうして特別扱いされていた以上、神聖なものとされてたはずです」

騎士「ふむ」

騎士「こういう所に来るのだったら、剣士も連れてきた方が良かったな」

勇者「あいつは歴史が好きだからな。英雄王の墓の文字も読めたくらいだ」

勇者「まぁ、今度は魔の国との決着がついてから一緒にくると良いだろうな」

騎士「その前に、ここも青い竜に壊される前に今の件を片付けることだな」

伍長「……お二方、これ」

勇者「何だ?」

騎士「これは、手記か?」

伍長「竜巫女という者達の記録ではないかと」

騎士「随分と劣化しているな」

伍長「これでも保存状態は良い方ですよ」

勇者「わかるのか?」

伍長「数える程ですが、遺跡の調査の仕事もしたことがあります」

伍長「最も、解読などは学者任せでしたけどね」

伍長「でも、わかることはありますよ。この文字が古代大陸文字ということくらいですが」


654VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/07(月) 23:00:23.80OluhZenf0 (2/2)

勇者「古代大陸文字……」

騎士「と言うことは、竜巫女という風習も統一期までのものか」

伍長「そうなりますね」

騎士「内容まではわからないのか?」

伍長「流石にそこまでは……」

勇者「ちょっと貸してくれないか」

騎士「読めるのか?」

伍長「……そうか! 勇者様には初代統一王がついている!」

勇者「その通り」

勇者〔で、読めそうか?〕

魔剣〔……これで保存状態が良いというのか。泥水に浸した本の方がまだ読めるではないか〕

勇者〔そこまでか〕

魔剣〔どれ……我も気になるところだ。読んでみてやろう〕

『かの英雄王が訪れて以来――であったのだが――

追放竜の事件以来、竜族の中でも人との交流を良く思わない者も多くなった。

既に、私の訪問を良い目で見ない者も少なくない。

もはや、潮時かもしれない。

竜の知識はとても貴重なものだ。

せめて私は、この身と共に――』

勇者「……他は、単語の一部が掠れてうまく読めないようだ」

騎士「英雄王が関わってるのか? それとも関係ないのか」

伍長「間が空いていて、その辺りは何とも言い難いですね。一要因ではありそうですが」

魔剣〔……〕

勇者「今では伝説上の生物とまで言われていた竜だけど、こうして表舞台に出てきたなら……」

騎士「理由は何にせよ、交流断絶のままというわけにはいかないな」


655VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/08(火) 11:26:46.87i6NG+5Ato (1/1)

乙ー


656VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/08(火) 22:34:45.18ZlLDmlgAO (1/1)

このスレも長いな



657VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/09(水) 20:20:43.202XzBpRjVo (1/1)

古代大陸文字がむこうに関わってくるのかと思ったら英雄王が読める文字か


658VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/29(火) 22:17:19.89KG3ZplC00 (1/2)

(翌朝)
――麓の森

騎士「第一の鍵……と言ったが、こうして見るとやはりそのような感じは見られないな」

伍長「意匠も特別凝らしたわけでもなさそうですね。精巧でもなく、宗教敵でもなく」

騎士「人が座っているようにしか見えないな」

騎士「……そもそも、人なのか? 人型の何かではなく」

勇者「昨晩、あれから記録の読める部分を探ってみてたんだ」

勇者「第一の鍵の像。『人間の像』というらしい」

伍長「人間の像、ですか? ではやはり、人間」

勇者「だろうね」

伍長「それで、これをどうするんだ?」

勇者「こうする」スタスタスタ

騎士「?」
伍長「?」

勇者「これで俺はもう結界の中に入ったらしい」ピタッ

伍長「像の周りを歩いただけのように見えましたが……」

勇者「それだけだよ」

騎士「ん、どういうことだ? 説明してくれないか」

勇者「英雄王が言うにはだな……」

勇者「結界の出入り口にはそれぞれ鍵となる像がある」

勇者「人間の村側には人間の像、竜の住処側には竜の像」

勇者「両方とも像のすぐ側を、入るときには正面から左周りで一周、出るときには背面から右回りで一周する」

勇者「それから少し止まること」

勇者「ちなみに、止まらず一周以上したり、逆回りだと反応しないらしい」


659VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/07/29(火) 22:38:51.43KG3ZplC00 (2/2)

騎士「……予想外だな。巫女がいたくらいだ。何か特別な方法で進むと考えていたのだが」

伍長「いえ……これは逆に入りづらいですよ」

伍長「知っていれば簡単にすぎる。ただ巨大な結界のあまり、進入方法も厳重だと邪推してしまう」

伍長「しかも条件を絞って、迷い込み防止をしっかりとしている」

伍長「これは人間の像を知っていても、我々調査隊が真面目にやっても解けるものじゃないです」

勇者「むしろ、真面目に考える方が解けない。そんな感じだな」

勇者「二人とも、早く行こう。順調に進めても向こう側に着く頃には昼も近いらしいから」

伍長「そうですね」スタスタスタ

騎士「……おい、これで入れているんだろうな?」ピタッ

伍長「確かに。幻覚系の結界を潜った時の微妙な感覚がありませんね」

勇者「大丈夫だと思うよ。俺も不安だけどな」

騎士「勇者もわからないのか……」

勇者「これから通る道は、結界の中――とかいう表現があってるけど、正しいのは結界の穴なんだ」

伍長「穴、ですか?」

勇者「竜族はこの結界の通り道として、わざと穴を作ったらしい。条件付きのね」

勇者「だから、その道を一歩でも間違えると、途中から結界が発動して森で迷うというもの」

勇者「らしい」

騎士「らしい、か」

伍長「ではその『らしい』を信用してみましょう」

伍長「ちなみに、この人間の像のような仕掛けは後いくつありますか?」

勇者「二つだな」

勇者「第二の鍵はここよりも簡単で、ここよりも気付きにくいぞ」


660VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/07/30(水) 09:37:49.848yUfWHTyO (1/1)

乙!


661VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/06(水) 20:04:49.805IRAVyxDo (1/1)

一話とまではいかなくても一場面くらい?
ある程度更新が無いとレス付けづらいけど執念深く見てるからなミテイルゾ


662VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/13(水) 21:48:03.00OJJMLyA70 (1/4)

>>661
すまぬ……すまぬ……


663VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/13(水) 22:05:03.78OJJMLyA70 (2/4)

勇者「……」スタスタ

騎士「次の石像か。右だな」スタスタ

勇者「ああ」

伍長「……この二つ目の鍵、聞いた時は、なんだそんなことか、と思いましたが」

伍長「想像以上につらいものがありますね」

騎士「そうだな。勇者、本当にこれであっているんだろうな?」

勇者「あってるさ」

魔剣〔我が記憶に間違いがなければな〕

勇者〔……怖いことを言うなよ〕

騎士「一直線に歩いて、見えた石碑の模様が右を指しているなら左を通り」

伍長「上を指しているなら右、ですね」

伍長「石像もそれほど大きくもないし、風化しているからか模様も微妙に見にくい」

騎士「戦場や訓練とは違う意味で疲れてくるな」

伍長「うっかり道をはずれてしまいそうです」

勇者「この面倒さは俺が旅をしてきた中でも一級品だと思うよ。断言していい」

勇者「……次も右だ」

騎士「おい、いつまで続くんだこれは」

勇者「知らないぞ」

伍長「手記にはどうだったんですか?」

勇者「読んだところには書いてなかったな」

騎士「それが最も疲れる原因だな……」


664VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/13(水) 22:36:41.58OJJMLyA70 (3/4)

ザッザッザッザッ…

勇者〔……なぁ〕

魔剣〔……何だ〕

勇者〔随分進んだんだはずだが、出口はまだなのか?〕

騎士「……」ザッザッ
伍長「……」ザッザッ

魔剣〔……〕

勇者〔第二の鍵だけ何でこんなに長いんだよ〕

魔剣〔そんなもの、我に訊くでない〕

伍長「次の石碑ですね」

騎士「……右か? 左か?」

伍長「あれは……どっちでしょう?」

勇者「ん、どうしたんだ? ……あぁ」

騎士「右に左指示の石碑、左に右指示の石碑……」

伍長「つまり、間を通れば良いんでしょうか」

魔剣〔うむ。その通りだ〕

魔剣〔喜べ。第二の鍵は突破したぞ〕

勇者「あれが第二の最後か……」

騎士「本当か!」

伍長「油断は禁物ですよ。まだ第三、第四の鍵が……」

勇者「……とりあえず、石碑の間を通ってからにしよう」


665VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/13(水) 22:40:20.99Q1S9v9Me0 (1/1)

うん


666VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/13(水) 23:42:27.20OJJMLyA70 (4/4)

伍長「おぉ……漸く森に切れ目が……!」

勇者「目的地はもう近そうだな」

騎士「……待て」

勇者「ああ、わかってる」

魔剣〔第三の鍵だ〕

騎士「今までと様子が違うな」

伍長「ええ。石像と石碑……しかしこれは、扉の形をしていますね」

騎士「これも右左どっちかを通れば良いのか?」

勇者「まさか。ここにきてそんな引っかけはないよ」

騎士「引っかけ? 今までそうしてきただろう」

伍長「……成る程。これは見た目そのままなのですね?」

騎士「どういうことだ?」

伍長「扉は開けて通るもの」

伍長「つまり、こういうことです。ふんっ」ググッ

騎士「あぁ、この石の扉は普通の扉なのか」

伍長「ぐぬ……開か、ない……!」

騎士「力が足りないのか? 私もやってみよう」ググッ

伍長「んぬうっ!」グググッ

騎士「くっ、想像以上に硬いな……!」ググググッ

勇者「……何やってんの?」


667VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/08/14(木) 00:08:05.07nA3dLfPx0 (1/1)

伍長「こうやって、扉を開けようとしているのではないですか!」ググッ

騎士「見てないでキミも手伝え」グググッ

勇者「んー……」

勇者「ちょっと二人とも、どいてくれるか?」

伍長「これを一人で開けるのですか!?」

騎士「私でも無理なのに、勇者一人でいけるのか?」

勇者「まぁ、見てなって」

勇者「……」カチャカチャ

伍長「えっ、何ですかそれは」

勇者「こんな感じだな」ガチャ

ギィー ゴゴゴゴゴ…

騎士「開いた……」

勇者「……ここには扉だけじゃない。そこに石碑があるだろ?」

騎士「あ、ああ」

勇者「あの裏の下の方に窪みがあって、そこに鍵があったんだよ」

勇者「鍵がないと扉は開かないだろ?」

騎士「鍵があるなんて言ってなかっただろう」

勇者「言う前に力業で開けようとしたんじゃないか……」

勇者「そもそも、この扉には魔法がかかっていて鍵なしじゃ開かないらしいんだ」

伍長「勇者様、扉の向こうに見えるのは……」

勇者「ああ」

魔剣〔竜の像だな〕

騎士「あれを右に一周すれば目的地か。どうやら日が昇りきる前に着けたようだ」


668VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/08/18(月) 11:02:54.115+2GOA7Zo (1/1)

乙ー


669VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:19:04.91i2IVTR040 (1/13)

伍長「……これで、森を抜けたんですか?」スタスタ ピタッ

騎士「ああ、間違いない」

騎士「間違いなく、結界を突破したようだ。見ろ、後ろを」

伍長「後ろ?」

騎士「そこからだと木々が邪魔だろう。もう少し上がってこい」

伍長「……おぉ、本当ですね。石碑を見るのに集中して気付きませんでしたが、こんなに山を登ってたなんて」

勇者「そこまで急な坂もなかったからな。さて、ここからが竜の住処――」

勇者「なのかな?」

騎士「勇者、それはキミの方が知っているだろう」

伍長「森を抜けたのは良いですが、こう崖と草むらだけだとわかりにくいですね」

伍長「ここからは地道な探索になるでしょうか」

勇者〔どうなんだ?〕

魔剣〔ここから少し登ったところに、洞窟がある。何の危険もない洞窟だ〕

魔剣〔そこが住処の入り口となっていたはずだ〕

勇者「成る程」

騎士「どうなんだ?」

勇者「もう少し先に洞窟があって、そこを進めばあるらしい」

騎士「洞窟?」

勇者「そうらしいけど」

伍長「ここからは見えませんね。どのくらい先でしょうか」

勇者「それはこれから足で確かめるだけだな」


670VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:19:43.41i2IVTR040 (2/13)

伍長「森を抜けた途端、傾斜がきつくなりましたね」

騎士「そうは言っても、疲れた様子はないな」

伍長「まぁ、兵士ですから」

勇者「……ここを通るのか」

騎士「どうした? ……あぁ、成る程」

ビュオォォオ…

伍長「崖沿いの道、ですね」

勇者「高い位置だから、風も強いな」

騎士「道は結構広いじゃないか。まさか、怖いのか?」

勇者「そういうわけじゃない。ただ、敵が出てきたらまずい地形だなと思って」

騎士「敵と言えば……ドラゴンか」

伍長「あの大きな身体で来られると、どこにいても回避不能ですね」

勇者「……ははっ、それもそうだな」

伍長「ん? ちょっと待ってください。誰か下りてきますよ」

勇者「何!?」

騎士「人……のように見えるが。何者だ?」

?「……」ザッザッ

勇者「一応、いつでも戦える準備をしておこう」

騎士「勿論だ」

伍長「仕方ないですね……」


671VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:20:15.04i2IVTR040 (3/13)

?「……」ザッザッ

勇者「何者だ!」

?「それは俺の台詞だが」

?「ここは竜の住まう土地。結界まで越え尋ねてきたお前達は何者だ」

勇者「……戦う意志は?」

?「俺にはないが……お前達によるとでも言っておく」

勇者「そうか」チラッ

騎士「……」コクッ
伍長「……」コクッ

勇者「俺は勇者。こちらにも戦う意志はない」

勇者「こっちは騎士。そして伍長。共に白の国の兵士だ」

?「ふむ……ではこちらも名乗らせていただく」

黒竜「黒竜と言う。今は人の姿をしているが、歴とした竜族だ」

勇者「あなたが……竜?」

黒竜「真の姿は大きすぎてな。人の形は便利で竜には人気ある」

黒竜「して、ここには何用だ。結界の通過方法は既に人には忘れられたと思っていたが」

伍長「その件は私からお話ししましょう」

黒竜「そこの勇者とやらが代表と思っていたのだが」

伍長「確かにこちらのお二方の方が階級は上ですが、我々調査隊の助力として来ていただいている身です」

伍長「ここに赴いた理由を話すとなると、この中で代表は私となります」


672VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:20:53.84i2IVTR040 (4/13)

黒竜「成る程。それで、調査隊と言ったな」

伍長「はい」

黒竜「俺達の住処を侵すならば、帰っていただく」

黒竜「無論、人族との交流も拒否している」

伍長「何故交流を拒むかはわかりませんが……今回はそう言った理由じゃありません」

黒竜「ほう」

伍長「最近、人間の住む土地で竜が暴れ、大きな被害が出ています。ご存じですか?」

黒竜「……あぁ、あの事か」

伍長「既に竜の国の街、二つが崩壊し、住民にも死傷者が」

黒竜「あれは異端竜と俺の戦闘の末だ」

伍長「……何ですって?」

黒竜「戦闘の目撃は?」

伍長「何度か」

黒竜「黒い竜と青い竜がいただろう。黒い方が俺だ。俺の本当の姿だ」

黒竜「人には迷惑をかけていると思っている。俺達の方から交流を絶っているというのにな」

黒竜「だが奴は早い内に処理せねばならない。でなければより大きな被害が生まれるだろう」

黒竜「都合の良い話なのは承知で、目を瞑っていただきたい」

伍長「事情は、説明してくれますか?」

黒竜「これは竜族の問題――」

勇者「こっちにも被害は出ている。それで済む問題じゃないと思わないか?」

伍長「ゆ、勇者様……」


673VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:21:26.73i2IVTR040 (5/13)

黒竜「……」

黒竜「……俺も話の通じない奴ではない」

黒竜「これは竜族の問題。しかし、そちらも自らここに訪れる程、緊迫しているのだろう」

黒竜「事情は伝える。現状も伝える。それからはそちらが決めると良い」

伍長「ありがとうございます。では――」

黒竜「待て。話は少し長くなる。立ち話はやめておこう」

騎士「では、どうするんだ?」

黒竜「俺達の住処へ案内する。そこで詳しく話そう」

黒竜「それに、この件に関わるならば合わせておきたい者もいる」

勇者「俺達に?」

騎士「どういうことだ?」

黒竜「事情を知るだけか、俺達に協力するかの指標にもなりえるだろうからな」

伍長「私はひとまず事情は聞いて、報告しに戻らなければなりませんが……」

騎士「私達は多少勝手に動いても構わないだろう」

伍長「はは……どうですかね」

騎士「確かに相手が竜となると考えなければな。強大すぎる」

勇者「ちょっと待て。俺達にとって指標になるとは……」

黒竜「実は、既に一人協力者がいる」

黒竜「人間のな」


674VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:21:56.84i2IVTR040 (6/13)

――竜の住処

伍長「あの崖の道から洞窟に入ったら、すぐに竜の住処だったなんて……」

騎士「意外だな。てっきり頂上付近だと思っていたのだが」

黒竜「山という地形上、下の方が広い」

黒竜「しかし俺達は確かに頂上近くから出ることもある。竜本来の姿となって飛ぶ時だ」

伍長「それは調査結果にもありましたね」

黒竜「理由の一つに、洞窟出入り口の道は狭いのだ」

黒竜「そして、この山の特別な地形だな。住処の中心に頂上付近まで通じている大きな穴がある」

黒竜「本来の姿で早急に出なければならない時、そこを使っている」

伍長「成る程……」

勇者「おかしいな。洞窟に入ってから他の竜に会ってないんだけど」

黒竜「既に数も減っているからな。全部で五十くらいの竜がここに住んでいる」

勇者「そんなにいるのか」

黒竜「そんなに? いいや、それだけ、だな」

黒竜「昔はここもかなりの賑わいを見せていた。この小さな住処から出て、人族に紛れて暮らす者もいたくらいだ」

勇者「どのくらい前の話だ?」

黒竜「さぁな……。百年を越えた辺りから数えていない」

黒竜「そうだな……英雄王、と言う者は知っているか?」

騎士「私達が初代統一王と呼んでいる人だな」

勇者「……あぁ、知ってる」

黒竜「少なくとも、その英雄王が来るまではそうだと聞いている」

魔剣〔……〕


675VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:22:34.77i2IVTR040 (7/13)

黒竜「俺が生まれる前だ。よくは知らないがな」

黒竜「俺が物心ついた時もそこそこ賑わっていると思っていた」

勇者「それは……人のせいで廃れたということか?」

黒竜「全面的に違うとは言えないが――」

黒竜「――いや、後でまとめて詳しく話そう。関係ない話とも言えないのでな」

勇者「……そうか」

伍長「……」

騎士「……」

黒竜「後は、そうだな。俺達は皆、ここにいる時はこうして姿を変えている」

黒竜「本来の姿では五十と言えども、この洞窟は狭すぎるのだ」

黒竜「そのせいで、数が少ないように感じるのかもしれないな」

伍長「あぁ、成る程。今までのイメージという奴ですね」

ブーン

勇者「何だ、蠅がいるのか?」

騎士「別にいてもおかしくないだろう」

?「黒竜、どうしたんだその客人は」

勇者「ど、どこから声がしたんだ!」

?「お前の肩の上さ!」

勇者「!?」

黒竜「そんなところに止まっていたか、蠅竜。その姿は見つけにくいといつも言っているだろう」

蠅竜「これが過ごしやすいといつも言っているだろう」

騎士「ちょっと待ってくれ。まさか勇者の肩に乗っているこの蠅も……?」

黒竜「竜族だ」

勇者「は!?」


676VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:23:03.28i2IVTR040 (8/13)

蠅竜「――成る程ねぇ。青竜の奴の件で、か」

黒竜「ところで、今日は……」

蠅竜「特に動きはないみたいだね」

黒竜「そうか」

蠅竜「ここに来て人間がやってくるなんて、これも何かの縁だろうね」

蠅竜「あの子のこともあるし」

騎士「あの子、とは?」

黒竜「先刻話した人間の協力者だ」

蠅竜「青竜の件より前に来た子だね。黒竜の家に住んでいるよ」

蠅竜「さて、俺は他にも青竜の動向を伝えに行かなけりゃ」

黒竜「動向なしなのだろう?」

蠅竜「報せなければ、あるのかないのかわからないからな」

蠅竜「客人、黒竜が連れてきたなら害はないのだろう」

蠅竜「ゆっくりしていくといいよ」ブゥーン

騎士「……行ったか」

勇者「あれが、竜、だって?」

黒竜「趣味の散策も手伝って、今回の件では偵察と伝達をしてもらっている」

黒竜「あの姿なら青竜にも簡単に見つからないしな」

伍長「竜にも色々いるんですね」

騎士「私は思ったよりものんびりしているのに驚きだな」

黒竜「時間を取らせたな。もうすぐ行くと俺の家がある」


677VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:23:33.92i2IVTR040 (9/13)

――黒竜の家

騎士「洞窟に家なんて……とは思っていたが、横穴を掘って見事な部屋になっているな」

伍長「世の中には人間でも洞窟の中に住んでいる人はいるんですよ。こういう風に」

騎士「そうなのか?」

勇者「騎士は軍事遠征でしかあまり遠出はしないからな」

騎士「そういうお前はどうなんだ。旅で見たのか?」

勇者「ああ。見たのは一回だけだけどな。赤の国で」

伍長「へぇ、そんな所まで行かれたんですね」

伍長「確かにあそこは洞窟で暮らす文化のある国です。我々も一度調査に行きました」

騎士「くっ、私だけ無知みたいじゃないか」

黒竜「そうでもない。今知ったのだからな」

黒竜「すまない。あやつは今出かけているようだ」

勇者「人間の協力者?」

黒竜「そうだ」

黒竜「どのみち事情を話すのに時間は必要だ。話して待つとしよう」

伍長「お願いします」

黒竜「茶でも飲みながら話すとしよう。口に合えば良いが」コトッ

騎士「……大丈夫なのか?」

勇者「意外といけるぞ」ズズズッ

騎士「竜の飲み物だぞ。もう少し用心しないか」

勇者「敵じゃないなら毒は入れないさ」

黒竜「信用して貰えて助かる」

黒竜「それに安心して欲しい。種族が違うとは言え、味覚にそれ程の違いはない」


678VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:24:09.75i2IVTR040 (10/13)

黒竜「では、何から話そうか」

伍長「青竜、でしたか? その竜との件を」

黒竜「それもそうなのだが、それには様々な前置きが必要だ……と思っている」

勇者「前置き?」

黒竜「今回の件は必ずしも今回だけのことではない」

黒竜「以前、俺達竜族の中で“異端”と呼ばれる者が現れたのが事の発端ではないか……竜族はそう考えている」

黒竜「と言うのも、以前の異端者は、青竜――今回の騒動の発端となった者の父親なのだ」

黒竜「異端者の息子は異端者だった、とな」

騎士「残り少ない仲間なのに、異端者か」

黒竜「訳がある」

黒竜「あとは、前置きを話す理由として……」

黒竜「単に俺が話し好きというのもあるな」

勇者「意外だな」

黒竜「あいつにも言われた」

黒竜「……では、事情を話そうと思うが、何よりも一つ、念頭に置いて欲しいことがある」

勇者「?」

黒竜「人族は俺達を神聖視しているらしいな」

黒竜「確かに本来の姿は巨大だ。確かにこの大陸では人族よりも前から魔法を使っていた」

黒竜「確かに、この数百年の間交流を絶ち、伝説上の生物と言われるまでとなってしまった」

黒竜「だが、俺達は特別賢いわけでもなく、特別偉大なわけではない」

黒竜「ただの野獣と変わらない、一種族だということを――」


679VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:24:40.27i2IVTR040 (11/13)

黒竜「そもそも、竜族の中で“異端”という言葉が生まれたのは、青竜の父親がきっかけだったと言う」

黒竜「俺達竜族は、この大陸で古来より知性ある生物として生きてきた」

黒竜「魔法を使い、巨大な身体と強大な力の使い方を正しく知り、そしてどの生物よりも寿命は長い」

黒竜「昔はそんな自分達を、他の種とは違う特別なものだと皆考えていたらしい」

騎士「らしい、か」

黒竜「俺の生まれる前だ。歴史として今生きている者全員に教えられているがな」

黒竜「話を戻そう。人族はそんな竜族を長い間、神聖なものとして、強大な力の象徴として接してきた」

黒竜「竜族もまんざらではなく、知性として下等と見なす人族との交流を許していた」

黒竜「竜族には、支配欲や明確な法がないのもそうしていた要因だろう」

勇者「今でも、人間を下等と思っているのか?」

黒竜「どうだろうな……。それには答えかねる」

黒竜「長い間交流を断絶してきたのだ。優劣をつける意味もない」

黒竜「俺は、下等とは思わないがな」

勇者「そうか。それだけで十分だよ」

黒竜「ただ、今の竜族でも人族の中で理解し難いものがある」

伍長「理解し難いもの?」

黒竜「恋愛感情だ。一部のな。――いや、性癖と置き換えた方が明確だ」

伍長「……どういうことですか?」

黒竜「種族の繁栄は生物の性。それは同じ種の間で行われて然るべきものだ」

黒竜「竜族はそうしてきたし、それ以外ありえなかった」

黒竜「しかし人族は、別の種にも恋愛感情を持ち、性行さえする」

騎士「ちょっと待て、それは――!」

黒竜「わかっている。それはそちらでも一部の所行」

黒竜「しかし竜族にとってはありえないことだった。その点のみにおいて、人族を見下していた」


680VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:25:08.72i2IVTR040 (12/13)

黒竜「しかしある時、竜族にも異種に恋をした竜がいた」

黒竜「それが、青竜の父親だ」

黒竜「彼は使節の一人だった。その折に目を付けた麓の国の王族の娘に惚れ込んだのだ」

伍長「だから“異端”ですか」

黒竜「ああ。竜が竜以外に恋愛感情を持つのは、それが初めてだった」

伍長「では、今回のその青竜という竜は、もしかして……」

黒竜「あやつは歴とした竜だ。王女に惚れた時には、既にその妻は身籠もっていたからな」

黒竜「異種に浮気……この二つが衝撃的で、彼を“異端”と称したそうだ」

勇者「竜が人間の姫に恋をするなんて童話みたいな話を聞かされるとは」

勇者「確かに俺達は竜をどこか神聖視している節があった」

勇者「そんな竜から、色恋沙汰の話なんて」

黒竜「これは殆どの人族が知らないだろうが、元来竜は生物の中で性欲が強い」

騎士「せ、性欲……」

黒竜「だが、その異端者が生まれるまで、それは全て同族の……一度番いになった者同士に向けられるものだった」

黒竜「もし、他種には強大な力を持つ竜族の性欲が、竜族以外に向けられるとすれば……」

伍長「まさかとは思いますが、その身体が耐えられないのでは……」ゴクッ

黒竜「そうだ。特に人族は竜族に比べれば身体の造りが脆い。それは、死を意味する」

黒竜「無論、異端者の彼もそれを知っていた。だがな――」

黒竜「抑えきれないまでの性の昂ぶりが、やがて彼を暴走竜へと変えたのだ」


681VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/04(木) 00:27:32.90i2IVTR040 (13/13)

どうにも一回一回の更新数が増やせないので、
試しに書きため方式に変えてみました。

するとどうだ! 書いただけで満足して更新し忘れそうになってたじゃないか!

とりあえず、溜めたうちのキリがいいこのくらいで。


682VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/09/04(木) 00:30:04.22aM6jF33i0 (1/1)




683VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/09/04(木) 08:57:10.95XI46RoTZo (1/1)

>竜族の性欲が、竜族以外に向けられるとすれば……
ドラゴン 車 で検索しちゃ駄目だぞ

おつかれ~
一気に進んだからwwktkしながら待てるよ


684VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/09/07(日) 20:46:26.79L3HIQ7kxo (1/1)

最高!
そういや睡眠時間どうなったんだろ


685VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/09/09(火) 12:14:59.98hGgQrupIO (1/1)



車で検索しちゃったじゃねーか…余計な知識が増えてしまった…


686VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/29(月) 00:57:10.05o+6PQEkx0 (1/12)

黒竜「まずは麓の村々を蹂躙した」

黒竜「逃げ場のない性欲が暴力と変化し、辺り一面を氷漬けにしたのだ」

黒竜「その事件を切っ掛けに、異端者として彼はこの住処を追放される」

黒竜「当時の竜族が何を思ったかはわからないが……」

勇者「……」

黒竜「それから暫く後、彼は再び現れた」

黒竜「王女の住む城下街へと向かい、破壊の限りを尽くした」

黒竜「その時、城の兵士によって王女は守り撃退したが、彼には大した深手はなく――」

黒竜「――街は惨状と化した」

伍長「そんなことが……」ゴクリ

黒竜「そして、暴走竜の噂を聞きつけ、駆けつけた者がいた」

黒竜「英雄王という――後に大陸の人族を統一した者だ」

魔剣〔……〕

黒竜「英雄王は仲間を連れ、彼を探し出した」

黒竜「ここより北にある、煙高山という所だ」

黒竜「その話は当時の竜族も聞き伝えられただけだが、そこで戦闘は始まった」

黒竜「……いや、戦闘が始まったことくらいは知っていたのだ」

黒竜「黙認していた。彼が厄介者だったからな」

黒竜「しかし、人族に荷担するわけでもなかった」

黒竜「その時になって、初めて竜族は理解したと言う」

黒竜「それまで当たり前のように同族で殺し合わなかったことだが、ただ本能的に拒んでいただけなのだと」

黒竜「自らの手を汚すことを恐怖する種族ということを」


687VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/29(月) 00:58:29.34o+6PQEkx0 (2/12)

黒竜「無論、いくら相手が大勢でも、竜族が人族に破れることはあり得ない」

黒竜「そのような慢心もあっただろう」

黒竜「だが結果として……人族が、英雄王の軍勢が勝った」

黒竜「多くの犠牲の末、英雄王が振るった剣が、竜族の強固な鱗と表皮を貫き、彼に大きな傷を負わせた」

黒竜「満身創痍となった彼はさらに北の方へ飛んで逃げたが、英雄王らはそれを追った」

黒竜「彼にはもはや逃げる力すら残っていなかった」

黒竜「一日と持たず、その身を降ろしたのが、当時は活火山だった針溶山」

黒竜「身を休ませようとしたその時、追ってきた英雄王が現れた」

黒竜「英雄王もその軍勢も、既に疲れ果てていたと聞く」

黒竜「だが、英雄王にはそれでも十分だったのだろう」

黒竜「その剣で倒すことはできなかったが、彼はいよいよ火口に追い詰められ――」

黒竜「――溶岩の中に落ちていった」

勇者「……」
騎士「……」
伍長「……」

黒竜「……これが、凡そ千と三百年程前の話だ」

黒竜「この“異端者”で厄介者の青竜父と、これまでただ一人竜を退治した人族である英雄王の戦い」

黒竜「俺達竜族の現状に至る最初の出来事だ」

魔剣〔……結局、人も竜も変わらないのやもしれぬな〕

勇者〔こうして他人の口からお前の話を聞くと、やっぱり凄い奴だったんだなって実感するな〕

魔剣〔確かに……我にとって竜を斬ったのは誇りではあるが〕

魔剣〔ここであの時の話を聞くとは。改めて知性の残念さを覚えずにはいられん〕


688VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/29(月) 00:59:01.25o+6PQEkx0 (3/12)

勇者〔何、どういうことだ?〕

魔剣〔所詮、人も竜も知性を持つ生き物ということだ〕

魔剣〔竜はあの青き竜のみが異種に恋をしたと言ったが〕

魔剣〔そんなものは犬とてしていることなのだ〕

魔剣〔それをおかしいとかありえないとか、理性を謳って異端視することは人も竜も同じことなのやもしれぬ〕

勇者〔へぇ、妙に恋愛には寛大なんだな〕

魔剣〔……忘れたことなどない〕

勇者〔?〕

魔剣〔火口へ落ちていく青き竜の、あの寂しげな瞳はな……〕

勇者〔英雄王、お前……〕

黒竜「――それ以来、竜族は人族との接触を極力避けるようにした」

黒竜「これ以上、彼のような竜が生まれないように」

黒竜「他の種族に迷惑がかからなぬように、と」

黒竜「この世界から消え行く、種として滅びの道を選んだのだ」

伍長「しかし、今もあなた達は生きているのでは?」

黒竜「恥ずかしながらな」

伍長「恥ずかしい?」

黒竜「全竜族の決定として、子孫をなるべく作らないようにしているが……」

黒竜「青竜父のような暴走竜を生まないためにも、義務づけられてはいない」

黒竜「だから、俺のような奴も数いるのだ」

黒竜「それに、こうして生きているのでさえも、自ら死ぬことを拒み続けているからだ」

黒竜「絶滅の道を選んだというのに、自らの命を絶つこともできない」

黒竜「そんな臆病な種族なんだ」


689VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/29(月) 00:59:38.14o+6PQEkx0 (4/12)

伍長「そんなことを言わないでください……」

伍長「竜は我々にとってどこまでも尊大な存在。例え事実がそうだとしても」

伍長「――それは、悲しすぎます」

騎士「それは些か身勝手な意見だな」

黒竜「気持ちはわからないでもない。だが、竜族に関わる以上知っておくべきだろう」

魔剣〔……〕

勇者「……違うな」

騎士「何がだ?」

勇者「確かに竜は臆病な選択をしたかもしれないが」

勇者「それは本当に臆病な選択じゃない」

黒竜「これが臆病じゃなくて何だと言うんだ」

勇者「俺は旅の中で色々見てきたからな。本当の臆病者はそんな選択をしないんだ」

勇者「特に、強大な力を持つ者の逃げ方はそうじゃない」

黒竜「何が言いたい?」

勇者「自分達を律する決定はなかなか出来るものじゃない」

勇者「そういう意味では、竜は尊敬すべき決定をしたと思うよ」

黒竜「……言葉では何とでも言えるがな」

勇者「少なくとも、俺はそう思ってる」

騎士「勇者……」

勇者「話を切って悪かった。続きを話してくれないか」

黒竜「……良いだろう」

黒竜「竜族の現状とそれに至るまでを話した」

黒竜「次は、今起きている青竜の件について話そう」


690VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/29(月) 01:00:32.85o+6PQEkx0 (5/12)

黒竜「青竜は父の死百年程後に孵化した」

黒竜「俺よりも随分と年上の竜だ」

騎士「五十年? 遅くはないか?」

黒竜「ああ、竜の生態もよく知らないんだったな」

黒竜「竜は妊娠後、五十年程かけて卵を形成し、さらに五十年程かけて誕生する」

黒竜「人間には気の長い話だろう」

勇者「長生きの人が一人一生を迎えるな」

黒竜「母親は心労で体調を崩していたとかで、青竜の卵を産んだと同時に死を迎えたという」

黒竜「竜族の皆は、色々と不遇に生まれてきた彼を、特に温かく迎え入れた」

伍長「父親は異端と呼ばれて暴走し、母親には先立たれて生まれたのか。つらいな」

黒竜「ああ。竜族はそれらの罪や不幸は子に関係なしと考えて接してきたが」

黒竜「青竜には、そうは思えなかったのだろう」

黒竜「昔から自分を責め続けていたという」

黒竜「それ故か、自分の力である程度生きていけるようになる頃には、あまり他の竜族とも接することが少なくなったらしい」

黒竜「俺が生まれた頃には、既にそうなった状態だった」

黒竜「彼は、竜族の歴史の中で、群れの中では最も孤独な竜だったと思う」

勇者「だろうな。俺には……その心境を知ることはできないけど」

伍長「しかし、そんな竜がどうして今のように暴れているのですか?」

騎士「いや、今の話だけでは、青竜とやらに原因があるかはまだわからん」

黒竜「結果を言えば、人族に迷惑をかけているのは、青竜と他の竜族どちらとも言えるのだろう」


691VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/29(月) 01:01:07.30o+6PQEkx0 (6/12)

黒竜「元々、青竜はそういった劣等感を持っている事以外は、とても優しい竜だった」

黒竜「俺が幼少の頃、優しかった頃の青竜に何度も会っている」

黒竜「最も、俺が生まれた頃には既に数もかなり減っていたからな」

黒竜「青竜のように他の竜を避けていても、殆ど顔見知りにはなるのだ」

黒竜「そんな彼が変わってしまったのは、十年も前の話だ」

勇者「十年前?」

黒竜「竜族の長である老竜が青竜に提案したのだ」

黒竜「一度竜から離れて暮らすのはどうか、とな」

伍長「交流はなくなったのでは?」

黒竜「竜族としては、だな」

黒竜「先程、人族に紛れて暮らす竜もいたという話はしたと思うが」

騎士「そんなことも言ってたな」

黒竜「そういう時は、人の姿に変えて、人として暮らすようにしているのだ」

黒竜「丁度、俺みたいな姿でな」

騎士「成る程な」

黒竜「青竜も老竜のその言葉に従った」

黒竜「竜の国の首都、力の街で、青竜は人として過ごすこととなった」

勇者「十年前か。それだけ近ければ、魔の国の属国となってる状態だな」

黒竜「国としてはそうだったが、実の所、竜族にとってはどちらでも良いことだ」

黒竜「魔の国は知っている。竜族も危険視はしていた」

黒竜「しかし竜の国は魔の国と条約を交わした後も、民衆の暮らし自体はそれ程変わりはしなかった」

勇者「そうなのか」

黒竜「……いや、本当の所はわからない」

黒竜「人が何を考え、どうして暮らしているのか。それは竜族には理解できないところかもしれない」


692VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/29(月) 01:01:34.49o+6PQEkx0 (7/12)

黒竜「そして実際、竜族の理解とは食い違う部分があったのかもしれないと今では思っている」

勇者「……」

黒竜「青竜が力の街へ出てから凡そ一年――」

黒竜「人族の土地の様子を見に行った竜から報せがあった」

黒竜「どうやら青竜が街で犯罪を行っているらしい、とな」

騎士「犯罪だと?」

黒竜「連合側の国には伝わっていないだろうが、当時の力の街では話題になっていたようだ」

黒竜「昼夜問わず、人が無残に殺された」

黒竜「決まった殺し方はなかったが、いずれも酷い姿だったという」

黒竜「腕利きの賞金稼ぎすら返り討ちに遭い、手に付けられない状態だった」

黒竜「人族の間では明確に誰が犯人かはわかっていなかったようだったが」

黒竜「一部は犯人の住処に見当をつけていたのかもしれない」

黒竜「でなければ、風の噂でも青竜が犯人だということを聞かないはずなのだから」

騎士「それで、やはり犯人だったのか」

黒竜「ああ」

黒竜「勿論、最初は決めつけたりはしなかった」

黒竜「誰もが考えたのだ。あの謙虚で静かな青竜が、と」

黒竜「だが、呼び戻された青竜はすっかり変わっていた」

黒竜「冷酷な心の持ち主になっていたのだ」

黒竜「力の国で行ってきた犯罪の数々も、すんなりと自白した」


693VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/29(月) 01:02:03.03o+6PQEkx0 (8/12)

伍長「自分から、ですか?」

黒竜「そうだ。聞いたら素直に答えた」

黒竜「何の悪びれもなく、当然の行為だと言わんばかりに」

黒竜「力のある竜族には当然そうする権利がある、と主張した」

勇者「……」

黒竜「それに加え、信じられない真相を話したのだ」

黒竜「殺された人族は、いずれも無残な姿だと言ったな」

伍長「ええ」

黒竜「言葉のまま、肉塊としか形容できない姿が大半だったらしい」

黒竜「だが、そうなる前に」

黒竜「実際に死ぬまで犯した女もいたという」

騎士「なっ……!? 竜は同種族間でしか、確か……」

黒竜「通常、そのはずだった」

勇者「だけど、青竜の父親が前例にいる。そして今回はその息子、か」

黒竜「遺伝……なのだろうか。俺はそう思いたくはないな」

黒竜「青竜が人族の女を犯したとき、何て言ったと思う」

黒竜「『父さんの気持ちがわかった』とにこやかに言ったのだ」

黒竜「しかし、その根本は違うのがはっきりわかった。それを聞いていたどの竜もな」

黒竜「青竜の父親は、異端であったが確かに愛はあった」

黒竜「一方で、青竜は……ただ性欲処理の道具としか見ていない」

黒竜「奴はいつの間にか、竜族が生まれ持つ強大な力に慢心する者になっていた」


694VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/29(月) 01:02:32.47o+6PQEkx0 (9/12)

黒竜「老竜もそれをすぐに悟り、青竜を軟禁した」

黒竜「青竜はそれに反抗したが、全竜族の決定であるためやむを得ず従った」

黒竜「軟禁中、二度とこのようなことがないよう、諭してきたつもりだ」

黒竜「それでも、青竜の心が変わることがなかった」

伍長「それなら、牢に閉じ込めてしまえば良かったのでは?」

黒竜「竜族を閉じ込めることのできるものはないのだ」

黒竜「あるとすれば、魔の国の結界くらいか。あれは竜族でも入れない」

伍長「そうですか……」

黒竜「そもそも、同じ竜族を閉じ込めることはしたくなかった」

黒竜「というのが本音だな」

黒竜「そんな中途半端な心が、青竜を逃がすこととなってしまったのだが」

伍長「どういうことですか?」

黒竜「先日までは確かに大人しくしていたのだ」

黒竜「だからだろうな。いくら異端者であっても、同じ竜族なのだと考えていた」

黒竜「遺伝的なレベルで、同族を傷つけないという意識を持った同じ生物だと考えていた」

騎士「……成る程。だから竜族は青竜を速やかに処分しなかったのか」

黒竜「古くは、人族のそういった風習も卑下していたのだがな……」

黒竜「ここに来て、少しだけ理解してしまうこととなろうとは」

勇者「一体、何が?」

黒竜「自らの主張が一向に通らないと悟ったのだろう」

黒竜「軟禁中の鬱憤もあってか、奴は強硬手段に出た」

黒竜「ただ逃げ出したのなら現在のような状況にならなかったのだがな……」

黒竜「奴は、俺達の長である老竜を殺して出て行ったのだ」


695VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/29(月) 01:03:06.46o+6PQEkx0 (10/12)

黒竜「俺達は決断が遅すぎた」

黒竜「自らの強さをどこかで過信し、意志の弱さを血の所為にし」

黒竜「実の所、竜族の中にはまだ青竜を始末することを快く思っていない者もいる」

黒竜「反対こそしてはいないがな」

騎士「同じ竜族だから、か」

黒竜「ああ」

黒竜「だが、俺はもう奴を同じ種族と思わず、心を鬼にして殺すことにした」

黒竜「そうしなければ、昔に竜族が決断したことが無駄になってしまう」

黒竜「青竜を野放しにする程、人族に大きな迷惑をかけてしまう」

勇者「……」

黒竜「……いや、違うな」

黒竜「俺は、俺達は、これから人族がどうなるかよりも、怖いのだ」

黒竜「青竜に感化される竜族が、他に出るのではないかと」

黒竜「異端者は血筋ではない。誰もが異端者たり得るのだからな」

勇者「黒竜さんの話はわかった」

黒竜「……」

勇者「一言、言って良いか?」

黒竜「何だ」

勇者「あなた達の決断は正しい」

黒竜「……」

勇者「俺はそう思うよ。勿論、人間が助かるからっていうのもあるけどね」

勇者「ただ、俺はこの大陸中を旅してきて、色々なことの良し悪しを――」

勇者「人間だけじゃなく、考えることのできる動物の良い決定と悪い決定は理解できるつもりだ」

勇者「そんな俺が言うんだ。あなた達は正しい」


696VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/29(月) 01:04:04.02o+6PQEkx0 (11/12)

黒竜「勇者……」

勇者「ここまで話を聞いたんだ。協力させてくれないかな」

騎士「勇者がそう言うなら、私も参加するしかないな」

黒竜「ふっ……ふはははっ」

黒竜「正しいだと? 自ら正しいと思わなければ、同族は殺せまい!」

黒竜「……ただ、少し迷いがあったのは確かだ。礼を――」

「戻ったよ! あれ、出かけてるのかな」

黒竜「……戻ってきたようだな」

騎士「協力者の人間か」

黒竜「ああ。紹介しよう。少しここで待っててくれ」スタスタ

伍長「勇者様、どうかしました?」

勇者「いや、なんか……聞き覚えが……」

「あっ、いるじゃん」

「えっ、人間の!? 珍しいね。私以外に来るなんて」

「協力してくれるんだ。……うん。わかった」

黒竜「待たせた。これが今協力してくれている人間だ」

魔法師「初めまして。私、魔法師ってあれぇ~!?」

勇者「やっぱり魔法師か! こんな所で何をやってるんだ」

騎士「……驚いたな。見つからないと聞いていたが、こんな所で会うとは」

魔法師「騎士さんも久しぶりですね!」

魔法師「そっちは……」

伍長「調査隊所属の伍長です。初めまして」

魔法師「よかった。知り合いだけだと全然『初めまして』じゃなかったし」

魔法師「元魔導連合所属の魔法師です」


697VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/09/29(月) 01:08:28.45o+6PQEkx0 (12/12)

やっとキリの良い所まで書けたので更新!
剣士編に続き、書きたいところがやっと書けた感。
正確には書き始められた感。

>>683
車にも穴はあるんだよな……。

>>684
割と日常生活に支障をきたしてるレベル?


698VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/09/29(月) 01:54:54.27WhsGrP0v0 (1/1)

魔法師って触手の時のか


699VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/09/29(月) 20:25:29.86eDIHyus9o (1/1)

誰かと思ったら二年前のやつかいな


700VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/09/30(火) 22:51:03.96DPu4kVtmo (1/1)

符法師マンダラ伝カラスを思い出してしまう


701VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/10/28(火) 22:31:51.89FSLj/o/U0 (1/11)

伍長「魔法師さん? どこかで聞き覚えが……」

魔法師「そ、その話は置いておいた方が……」

伍長「思い出した! 魔導連合に指名手配されている離反者の!」

騎士「有名だからな。私は顔馴染みだから素直に世間の言葉を受け止める気にはならないが」

騎士「事と次第によっては放ってはおけないだろう」

勇者「待て。魔法師は俺の仲間だぞ。後ろ暗いことをするはずがないだろう」

伍長「勇者様は何で彼女をそんなに庇えるのですか?」

伍長「彼女の裏切りで一度は死にかけたんじゃないんですか!」

魔法師「それはっ――」

勇者「違う。それは確実だ」

魔法師「……勇者」

伍長「どうしてそんなに……?」

勇者「実はな、俺達も疑いかけてたんだ。お前の手紙を読むまでは」

勇者「あれで確信したよ。俺達に不意打ちをかけたのは、やはり魔族だったってな」

魔法師「そっか……ん?」

勇者「どうした?」

魔法師「今、なんて? 手紙読んだの?」

勇者「ああ。魔導長さんに渡しただろ。勇者の証と一緒に」

魔法師「あー、そっか、そうなんだ。渡してくれたのね……」

勇者「?」

魔法師「ありがとう。何だか、一気に軽くなったよ」


702VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/10/28(火) 22:32:22.87FSLj/o/U0 (2/11)

騎士「どういうことだ。説明してくれるんだろうな」

魔法師「んー……」チラ

黒竜「今日は予定はないぞ」

魔法師「そっか。時間はあるんだね」

伍長「……ここは、勇者様達が信じるなら黙って見守ります」

魔法師「ありがとうね」

魔法師「えっとね。どこから話したら良いかわからないけど」

魔法師「まず、ここにいる理由から。簡単だから」

勇者「それは俺も気になっていた」

魔法師「勇者達から離れて修行を兼ねて旅をしてたんだよ」

魔法師「勿論、身を隠しながらだけどね」

騎士「だろうな。君の目撃は全くと言って良い程なかった。死んだものかと思っていたぞ」

魔法師「あはは、それは苦労した甲斐があったよ」

魔法師「で、旅をしてる間にここの結界を見つけたの」

騎士「と言う事は、魔法師も竜の国にいたのか?」

魔法師「竜の国? 違う違う。反対側だよ」

魔法師「その時私は、土の国を旅してたの」

勇者「えっ、だが結界は竜の国からしか開いてないはず……」

魔法師「らしいね。でも、なんでか通って来れたからここにいるんだよ」

魔法師「結界に気付いてさ、こう、燃えちゃって」

魔法師「ここを突破したらまた強くなるはずだ! ってね」


703VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/10/28(火) 22:32:49.66FSLj/o/U0 (3/11)

伍長「それで実際に突破してしまうのですか。正規じゃない方法で」

伍長「滅茶苦茶な……」

魔法師「勇者達との旅で鍛えられたからね!」

魔法師「ま、ここにいる経緯はこんな感じ?」

勇者「……大体わかったから良しとしよう」

魔法師「実はさ、一人旅の間はすっごく情報集めてたんだよ」

魔法師「勇者達のこと」

勇者「そうなのか?」

魔法師「だって、なかば理不尽に追い出されたし、未練凄くあったし」

魔法師「気になるじゃない」

勇者「すまないな……こっちは魔法師の情報を何も掴めなくて」

魔法師「いいんだって。追われてるんだし、わかったらまずいから」

魔法師「でさ、一緒にはいなかったけど、勇者達のことはよく知ってるよ」

魔法師「僧侶が死んじゃったこと」

魔法師「男さんと盗賊さんと一緒に旅をしてたこと」

魔法師「女さんが魔の国に行ったこと」

魔法師「魔の国の結界を解く方法がわかったこと」

魔法師「白国王様がお亡くなりになって、白姫様が即位したこと」

勇者「……」

魔法師「でも、私が一番気がかりだったのは、新しい魔法使いが一緒にいないことだったの」

騎士「それは……魔導連合の魔法使いが忙しいからと」

魔法師「そんなわけないじゃない」

魔法師「私が声かけられたときも忙しかったんだから」

魔法師「でも、そんなものは無視できるの。それが、魔導長の権限だから」


704VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/10/28(火) 22:33:32.63FSLj/o/U0 (4/11)

勇者「それって、どういう……」

魔法師「魔導長に勇者との旅をやめるよう言われたとき」

魔法師「凄く違和感があったのよ」

魔法師「ずっと引っかかってて、だからそっちも調べてた」

魔法師「すぐにわかったよ。魔導長が魔族と手を組んでること」

勇者「何!?」

騎士「……それは本当か?」

魔法師「沼の街で勇者達に不意打ちをかけた魔族、いたよね」

魔法師「あれが、その時の連絡役だったんだと思う」

魔法師「その魔族は、私が男さん達と倒したけど」

勇者「やはり、お前が……」

魔法師「私ね、魔導長が魔の国と繋がってるってわかったとき」

魔法師「本当に裏切られたと思ったよ」

魔法師「魔導連合の長になるくらいの人だし、何より私の恩師の一人だったから」

騎士「そうだとしたら、おかしい」

騎士「魔導長殿程の人がそのようなことになれば、噂だけでももっと騒がれているはずだ」

騎士「そうだろう?」

魔法師「……」

勇者「確かに」

魔法師「世間では、根も葉もない噂程度のものです」

魔法師「似たような人が、魔族らしい人と会っていた」

魔法師「っぽい」

魔法師「――とか、そんな感じのね。立ってもすぐに消えるような話題ね」

伍長「それだと、ただの勘違い……いや、八つ当たりや逆恨みでは」

魔法師「でも、私にはそれが本当に思えてしまうくらいの出来事だったの」

魔法師「沼の街での一件は」


705VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/10/28(火) 22:34:03.18FSLj/o/U0 (5/11)

勇者「……魔法師」

魔法師「でもね、勇者に別れの言葉を伝えてくれたのを聞いて、気付いたんだ」

魔法師「敵には回ったかもしれないけど」

魔法師「そうだとしても、裏切られたわけじゃないんだって」

勇者「どういうことだ? 本当に敵になったらな、裏切りだろう?」

魔法師「ううん。私もわからなくはないから。男さんや女さんと会ってから、特にね」

魔法師「魔導長は、研究者としての道を行っただけなんだって思ったから」

魔法師「本当に私を陥れようとしていたなら、勇者に本当の私の言葉を伝えていないはずだから」

勇者「??」

騎士「つまり、大陸を裏切ったとしても、魔法師や魔導連合を想っていると」

魔法師「今はそう思ってる」

魔法師「魔の国には亜法っていう、大陸の魔法とは違う形態の魔法があるの」

魔法師「愛国心とかそう言うのを抜きにすれば、私も調べてみたいと思わなくはないのよ」

魔法師「どっちが大きかったか。それだけの違いだと思う」

魔法師「魔導長と私……女さんと男さんもね」

騎士「そういうものなのか。私にはわからないな」

魔法師「あははっ、騎士さんは愛国心の塊みたいな人だからねぇ」

勇者「でもやはり、信憑性に欠けるな。魔導連合が大陸の敵になったなんて」

魔法師「魔導連合じゃなくて魔導長。この分だと、連合としては魔法使いの意思で戦闘に参加させるかもね」

魔法師「表向き高見の見物ってやつ? 魔導長の立場は、そのくらい中途半端だと思うよ」

魔法師「後ね、信憑性については……私の目で見たってのは駄目?」

勇者「見た?」

魔法師「確かめに行ったのよ。そうでもしないと今でも疑ってたままだって」


706VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/10/28(火) 22:34:29.31FSLj/o/U0 (6/11)

騎士「そうか……では魔導連合の力は借りれそうにないな」

騎士「魔の国との戦争の作戦は見直さなければ」

伍長「ちょ、ちょっと待ってください」

伍長「今まで話を聞いていて、悪い人のようには見えませんが」

伍長「昔馴染みというだけでそんなに信用して良いのですか?」

勇者「俺は信用する。“元”じゃない。俺の仲間だからな」

魔法師「……本当、勇者は変わらないね」

騎士「信用かは別としても、私は後の戦略にも一考の余地はあると考えている」

騎士「結局連合の力なしで戦うとなっても、早めに策を考えられるのは有利だ」

魔法師「私は勇者と騎士さんに認めてもらえるだけで十分だよ」

魔法師「だから、別に信用してもらわなくて良い」

勇者「魔法師、そういう言い方は……」

魔法師「信用出来ないって言ってるんだから仕方ないでしょ」

魔法師「でもね」

伍長「?」

魔法師「この件、協力してくれるんでしょ?」

伍長「この件って、青竜という竜のことですか?」

魔法師「そうそう。私と黒竜達は何としてでも倒しにいく」

魔法師「協力関係になるなら、少なくともその間は仲良くして欲しいな」

伍長「……」

伍長「……仕方ないですね。ひとまずこの件が片付くまでです」

伍長「但し、上には報告させてもらいますよ」

魔法師「それは駄目」


707VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/10/28(火) 22:34:55.93FSLj/o/U0 (7/11)

騎士「おや、そう言えば黒竜さんは……」

魔法師「あぁ~、別に気にしなくて良いのにね。気を遣って席を外したのよ」

騎士「ほう」

魔法師「こっちに来てそれなりだからね。多少のことはわかるよ」

魔法師「黒竜ー! 話終わったよー!」トタタタッ

騎士「勇者、思いがけない再開だが、良かったな」

勇者「……ああ。お前もそれなりの付き合いだろ」

騎士「そうだな。呼び捨てでないのが残念だがな」

勇者「呼び捨てじゃない人は尊敬してるんだよ。あいつは」

伍長「お二人とも深い付き合いなんですか?」

勇者「そりゃあな。特に俺とはここ三年程一緒に旅してきたし」

勇者「そうでなくとも、十年以上前から知り合いだから」

伍長「どうりで。あれ程信頼しているのも納得です」

勇者「ちなみに、騎士とは物心ついたときからの幼馴染みでな」

勇者「その時からこいつは怪力だった」

伍長「そうなんですか!?」

騎士「馬鹿言うな。これは訓練の賜物だ」

勇者「確かに大袈裟には言ったけど、少なくとも七歳の時には相当なものだったな」

勇者「これを努力というのは流石に……」

伍長「どんな環境で育ったらそんなに……?」

魔法師「なになに? 何の話?」

勇者「戻ったか。騎士の怪力の秘密について」

騎士「その話はもういいだろう!?」

黒竜「こうも賑やかになるのは久々だな。茶の替えを用意していた」

黒竜「これから人里に戻ると遅くなる。今日は泊まって行くと良い」


708VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/10/28(火) 22:35:25.46FSLj/o/U0 (8/11)

(夜)

伍長「……」サラサラサラ

魔法師「……?」ヒョコッ

魔法師「何やってるの?」

伍長「魔法師さんでしたか」

魔法師「まるで誰かがいたのはわかってた口振りだね」

伍長「人の気配くらいわかるつもりです」

魔法師「それで?」

伍長「少し今回の件を書き留めておこうと思いまして」

魔法師「報告書かぁ」

伍長「単なる覚え書きですよ」

魔法師「……私のことは?」

伍長「書いてないですって」

魔法師「……そっか。ありがとう」

伍長「今回はひとまず黙って『協力関係にある人間が一名』とだけ報告させてもらいますが」

伍長「その後、どうするつもりですか?」

魔法師「後、か。青竜の件が片付いた後だよね?」

魔法師「考えてないんだよね。また一人旅かなぁ」

魔法師「ここも居心地良いけど、事情が事情だしね。あっ、竜族の事情って聞いた?」

伍長「ええ」

伍長「無実を訴えることはしないんですね。既に白の国――いや、大陸連盟でも影響力のあるの二人が味方なのに」


709VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/10/28(火) 22:35:53.92FSLj/o/U0 (9/11)

魔法師「そうだね」

伍長「私はそこが釈然としません」

魔法師「ちなみにあの二人幼馴染みって言ってたよね」

伍長「そうですね」

魔法師「白姫様とも幼馴染みだから」

伍長「そうなん……えぇっ!?」

魔法師「だから頼み込めばいけるんじゃないかなぁ~……って思わなくはないんだけど」

魔法師「やっぱり、迷惑じゃない?」

伍長「……」

魔法師「二人が……ううん、他の人でも、迷惑じゃないって言ってくれたとしても」

魔法師「連合が私の指名手配を下げるまで、色々と動かなくちゃいけない」

魔法師「そんな手間を取らせたくないだけ……かな」

魔法師「そんな、私のわがままだよ」ニコッ

伍長「……成る程」

魔法師「一人旅もやってみて楽しんでる節もあったしね」

伍長「納得しました。さっきの言葉、嘘じゃないことを願います」

魔法師「あはは、嘘じゃないって」

伍長「それで、魔法師さんはどうしたのですか?」

魔法師「ああ、そうそう」

魔法師「特に理由はないんだけど、勇者と騎士さんはどこかなって」

伍長「夕食後、黒竜さんに剣を振れる広場はないか聞いてましたね」

伍長「鍛錬を欠かさないとは兵士の鑑です」

魔法師「そのアテは当たってそうだね」


710VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/10/28(火) 22:36:27.99FSLj/o/U0 (10/11)

カンッ ガンッキンッ

チュインッ

騎士「はぁっ!」ブォン

勇者「っ!」ダッ

ドゴンッ

騎士「素早くなったのではないか、勇者」

勇者「はぁ……はぁ……、そっちも怪力に磨きがかかったな」

騎士「次は本気で行くぞ! はぁっ!」ブォンッ

勇者「はっ! ならこっちも本気だ!」ヒュンッ

カンッガンカンッ

魔法師「おっ、やってるやってる」

黒竜「あの二人、人族の中でも相当な実力者だろう」

魔法師「見てるの?」

黒竜「洞窟が壊されないかと心配でな」

魔法師「あはは、冗談に聞こえないね」

魔法師「……実際、お互い五割くらいってところだね」

黒竜「だろうな。持っているのは真剣だ。本当に本気なら殺し合いになる」

魔法師「どう?」

黒竜「良い戦力になる。お前と同じくらいには役に立つはずだ」

黒竜「流石、お前の知り合いといったところか」

魔法師「私達三人いれば大丈夫そう?」

黒竜「……もう一人は戦力に数えないのだな」

魔法師「あの人は人として強そうだけど、竜には太刀打ちできるように見えないよ」

魔法師「階級も勇者と騎士さんより下だしね」

魔法師「数の力に期待、ってとこ」


711VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/10/28(火) 22:37:23.15FSLj/o/U0 (11/11)

黒竜「厳しいな」

黒竜「最も、そうでなければ命が足らないだろうが」

魔法師「だろうね。でも、いつになれば青竜の場所がわかるんだろ」

魔法師「今までみたいに、見つけたら出撃、っていうの繰り返しても逃げられるし」

黒竜「じきに来る」

魔法師「……そう?」

黒竜「この竜族の住処に人間が新たに三人も来たのだ」

黒竜「運命は回り始めている」

魔法師「……」

魔法師「そう上手くいくのかな」

黒竜「上手くはない。既に」

魔法師「そうだね」

勇者「おう、魔法師も来てたのか」

騎士「どうした、このような所まで」

魔法師「姿見ないから伍長さんに聞いたらここだって」

魔法師「どうせ剣でも合わせてるんだろうなぁって」

騎士「何か用だったか?」

魔法師「別に。久しぶりだから懐かしい話でもしようかなって思ってただけだから」

騎士「そうか。確かに久しいからな」

勇者「魔法師も一つ運動していくか?」

魔法師「遠慮しとくよ。旅で体力はついたけど、それでも頭を使うタイプだから」

黒竜「どちらにしろ、壁はあまり壊さないように」

黒竜「知っているか。派手に暴れ回っているから、見物者も集まってきているぞ」


712VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/10/29(水) 09:59:46.10LYn24B98o (1/1)


俺の保守が不甲斐なくて危なく1カ月経過する所だった


713VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/10/29(水) 14:48:09.95XZGs/LIrO (1/1)

このスレ2011年から続いてるのか
頭から読み返してみるかな


714VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/10/31(金) 19:20:31.7351fdtg9do (1/1)

進んでるのか進んで無いのかよく分からんがとりあえず読み続ける


715VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)2014/11/24(月) 06:30:58.61Z5AP8jfy0 (1/1)




716VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2014/11/28(金) 13:50:41.29B9PQ1ocHo (1/1)




717以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:32:20.47Esz6tqlF0 (1/14)

忙しさにかまけてサボってました。
干し蟻


718以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:33:10.38Esz6tqlF0 (2/14)

勇者「見物?」

コソ…コソ…

ニンゲンニシテハ…ウム…
イヤイヤ…ソレデモ…

勇者「確かに、微かに声が……」

騎士「気配もな」

勇者「ああ」

魔法師「ここに人間がいること自体珍しいの」

魔法師「私が来てすぐのときもそうだったし」

黒竜「別に危害を加えようというわけではなし。気にしないでくれ」

勇者「そう言うと、気になるのだが」

騎士「そうか? 勇者、もう一試合やるか」

勇者「根性も座ってるよな……」

魔法師「んー、あまり視線は向けないでね」

魔法師「人型に変身してるのだけでも、右の穴に三、左後ろに四」

魔法師「後はトカゲとコウモリで合わせて三人」

勇者「成る程。やっぱりこっちで認識してるのとしてないのとでは違うな」

魔法師「勇者はそういう所があるからね」

騎士「怖がりなだけだろう。さて、早くやるぞ」

勇者「ああ」

黒竜「……元気だな」

魔法師「そうだね。……あっ、もう一人いたんだね」

蠅竜「別に隠れるつもりはなかったさ」ブーン

黒竜「お前も見に来たのか」

蠅竜「それはついでだね。実はあれから、動きがあってさ」

黒竜「……」

魔法師「展開が早いんじゃない?」

蠅竜「……何の話?」

黒竜「いや、こっちの話だ。こうも人族が集まるということは、新しく進展がある兆しだ、とさっき話していた所でな」

蠅竜「ほうほう。それは確かかもしれないな」

蠅竜「……追い詰めるよ。いつにするかは、話を聞いた後に決めてくれ」


719以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:33:40.29Esz6tqlF0 (3/14)

(翌朝)

騎士「おはよう。なのか?」

伍長「どうやらそのようです。おはようございます」

黒竜「ああ。既に日は昇っているぞ」

騎士「洞穴の中だと時間がわからないのが困るな」

黒竜「体内時計がある。人族はそれぞれらしいが、竜族は特に優れていてな」

伍長「竜の新たな生態ですね」

黒竜「それより、朝食を用意してあるぞ。食べると良い」

騎士「何から何まで……ありがたい」

黒竜「客なんて滅多に見ないからな。いや、同じ竜族の顔馴染みはよく来るのだが」

黒竜「それこそ人族は、外ではいくらでも見るが、こちらに来るのは魔法師で初めてだ」

黒竜「……それに、しっかりと準備をしてもらわねば。魔法師が起きるまでな」

騎士「どういうことだ?」

伍長「昨晩、動きがあったらしいのですよ」

騎士「ふむ。すぐに話さなかったのは私達を休ませるためか?」

黒竜「どうだろうな」

騎士「だが、皆集まってからと言うのは同意だな」

伍長「個別に行ってどうにかなる相手でもないようですし」

伍長「勇者様は?」

騎士「朝に弱い奴ではないが……この暗さだからな」

騎士「知る限り、体内時計は眼に持つ者と腹に持つ者、全身に持つ者がいる」

騎士「勇者が眼に体内時計を持っているなら、もしかしたら――」

勇者「おお、みんな起きていたのか。暗いから途中で目が醒めたのかと思ったのだが」

伍長「ご心配なく。朝ですよ。おはようございます」

勇者「ああ、おはよう」

黒竜「朝食は用意できてるぞ」

勇者「ありがたい。丁度小腹が空いてきたところだったんだ」


720以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:34:21.60Esz6tqlF0 (4/14)

魔法師「ふわぁ……おはよー」

黒竜「集まったな」

魔法師「その前にご飯食べても良い?」

黒竜「……聞きながら食べてくれ」

魔法師「うん」

騎士「すまないな。起こしに行かせて」

勇者「いや。俺が一番慣れてるからな。本当は騎士が適任なんだけど」

騎士「そう言うな。私がやっても簡単には起きない」

勇者「命の危険がくれば起きるぞ」

魔法師「朝から物騒な話はやめてよ」

勇者「まぁ、コツは必要だな」

伍長「ここまで朝に弱い方だとは」

勇者「弱いというか……」

魔法師「一定時間は寝たいんだよね」

魔法師「ほら、私魔法使いだし。頭とか精神とか休ませないと」

黒竜「それもまた、一つの体内時計だろうな」コト

魔法師「ありがとう」モグ

黒竜「では、集まった所で話をさせてもらおう」

騎士「頼む」

黒竜「話と言うのは他でもない。青竜のことだ」

黒竜「三人にはまだ話していなかったが、昨日会った蠅竜という者がいただろう」

勇者「ああ」

黒竜「彼を中心に後二匹、青竜の居場所を探ってもらっていてな」

黒竜「昨晩にその新しい報告があった」

魔法師「勇者と騎士が試合している時ね」

黒竜「奴の居場所が判明したらしい。ひいては、俺達はそこへ向かう」

黒竜「首都、力の街だ」


721以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:34:52.01Esz6tqlF0 (5/14)

魔法師「力の街……」

伍長「竜の国の首都ですね」

騎士「確か、青竜は暫くそこで住んでいたとか」

黒竜「ああ。昨日話した通りだ」

騎士「どうしてまたそんなところに」

騎士「先の戦争が終わってから、あそこはかなり荒廃していると聞くぞ」

黒竜「あの街も戦場となっていたからな。青竜と俺が暴れたこともあるが」

黒竜「それ以前より、魔の国より支援されたという機械兵が壊してしまっていた」

騎士「私も何日か力の街で戦っていた」

騎士「総力戦のため、結果戦場にしてしまったことは悪いと思っている」

黒竜「人間同士ならまだましだった。機械兵は都市の機能を完全に奪うまでに至った最大の原因だ」

伍長「私もそう聞いています。戦場になった街、村は全ては殆ど廃墟と化していると」

勇者「そんな所に身を隠しているのか? どうして」

魔法師「大方想像はつくよ。廃れても住んでる人は何人もいるからね」

魔法師「元々中心都市だった力の街は、竜の国の中では未だに人口は多い」

魔法師「でも昔と違って無法地帯になってるから――」

勇者「人を殺しやすい、か」

黒竜「そういうこと、なのだろうな」

黒竜「人族を殺さないにしても、今のあそこは青竜にとって住みやすい場所のはずだ」

黒竜「隠れるにしてもな」

伍長「人型に変身していれば、現在あの場所でおかしな挙動をしていても怪しまれることはありませんね」

黒竜「行くとなれば蠅竜も同行する。詳細は案内してくれるだろう」

魔法師「問題は、それをいつにするかだね」


722以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:35:34.74Esz6tqlF0 (6/14)

勇者「ここから力の街まで……五、いや六日くらいか」

黒竜「一日あれば十分だ」

勇者「えっ?」

魔法師「そうだね。飛んでいけば早いし」

黒竜「俺が乗せていく」

黒竜「気付かれないように離れた所で降りるとしても、二日だな」

騎士「それならば、行動は早いほうが良いな」

騎士「これから準備をし、出来次第向かった方が良い」

勇者「それには賛成だな。二日あれば、その間に策を立てれる」

魔法師「作戦? 相手をよく知らないのに?」

勇者「荒廃したとは言え、街で戦うのは避けたいからな」

騎士「そうだな。どうやって外へおびき出すか考えねば」

黒竜「俺としても早めに青竜の動きを阻止したい」

魔法師「決定ね」

伍長「私は一度調査陣営に戻って報告しなければなりません」

伍長「近くに寄っていただけるとありがたいのですが」

黒竜「どうせ姿を見られているのだ。構わない。途中で降ろしていこう」

伍長「最終的には隊長の決定になりますが、後を追うようにかけあってみます」

黒竜「そうしてもらえるとありがたい」

騎士「今後の行動は決まったな。では、準備をしようか」

黒竜「そうしてくれ。その間、俺は蠅竜を呼んでこよう」

騎士「……まさかこんなに早く進むなんてな」

勇者「ああ。今から緊張してくるよ。竜を相手にするなんて初めてだからな」


723以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:36:08.36Esz6tqlF0 (7/14)

勇者「――で、この広場で良いのか?」

黒竜「ああ」

伍長「出口は逆方向では……この広場は洞窟の中心辺りなのでは?」

魔法師「よくわかったね~」

伍長「上にこんな大きな穴が開いていれば予想はつきます」

伍長「見たところ、穴の上が山頂近くらしいですし」

魔法師「へぇ、目が良いのね」

黒竜「この穴は竜族が飛び立つ時に使う出入り口として開けたものだ」

黒竜「実は、自然なものではない」

騎士「そうだったのか」

黒竜「では、離れていてくれ。竜族本来の姿に戻る」

魔法師「この辺りまで下がっておいて」

勇者「そんなにか?」

魔法師「うん」

騎士「ここは言う通りにしておこう」

勇者「俺は使えないけど、変身魔法は知っている」

勇者「魔法を解いたところでこんなに下がる必要はないのでは?」

ゴゴゴゴゴ…

伍長「……なんですか、この音は」

魔法師「勇者の言ってるのは人間の変身魔法だね」

魔法師「変身魔法は幻覚魔法の一種だから、見た目だけ変わって実際の大きさまでは誤魔化せない」

魔法師「人間がねずみに変身しても、ねずみがようやく入れるくらいの穴は通れない」

魔法師「本当は人間の大きさだから」

ゴゴゴゴゴ…

騎士「な、何と言う……!」

勇者「……!」

魔法師「竜の変身魔法は、そうじゃないんだよ」

魔法師「自分の身体の大きさとか性質とか、そういう根本から全部変化させる魔法」

魔法師「言うなれば、変化魔法!」


724以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:36:44.36Esz6tqlF0 (8/14)

ゴゴゴゴ…ズズン…

黒竜「……」

勇者「これが竜本来の姿……!」

騎士「大きいなんてものじゃない。規格外すぎる」

伍長「この大穴を辛うじて抜けられるくらいですね……本当にこの竜と戦うのですか」

蠅竜「そうだよ」

魔法師「蠅竜さん!」

蠅竜「姿形を本質から変える魔法」

蠅竜「進化の過程で巨大になりすぎた竜が、生きるために編み出した魔法なんだ」

勇者「生きるために……」

蠅竜「こんなに大きな身体では、食べるのにも苦労をするからね」

黒竜「来たか。これで全員揃ったな」グアァァン

騎士「~っ!」

勇者「うわっ!? 何だ?」

魔法師「あはは……」

蠅竜「その姿の時は声に気を付けろって。人型と同じように出すと喧しいだだろ」

黒竜「……すまない」

勇者「びっくりした……」

伍長「……あなたは元に戻らないのですか?」

蠅竜「この姿に慣れてしまったからね」

蠅竜「それに、この場所にはもう空きがないし」

伍長「それもそうですね」

黒竜「よし。では皆乗れ」

魔法師「ここに足をかけると乗りやすいんだよ!」

騎士「おぉ、本当だな」

伍長「……」オドオド

黒竜「乗れたら魔法師か蠅竜の言う通りにしろ。振り落とされたくなければな」


725以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:37:14.68Esz6tqlF0 (9/14)

ビュオォォォ!

騎士「速いな! 凄いな!」キャッキャッ

魔法師「騎士さんにあんな一面があったんだね」

勇者「怖いもの知らずというか、スリル好きというか」

勇者「確かにそんな性格でもあるんだよな。いつもの堅物さからはわからないが」

騎士「誰が堅物だって?」

勇者「傍から見たらの話だ」

蠅竜「お前も見習わないとな」

伍長「  」ガクブル

勇者「伍長さんには刺激が強すぎるみたいだな」

騎士「楽しいのに」

魔法師「もう慣れたけど、私も最初はかなり怖かったんだけどなぁ」

勇者「それにしても、あれだな」

勇者「人間もかなり魔法を研究してきて、色々な魔法が使えるようになったと思ったけど」

勇者「存在するのに人間が知らない魔法があったんだな」

魔法師「そりゃあ、あるよ、一杯」

魔法師「竜の変化魔法以外にも、例えば魔族の亜法とか」

勇者「でも、調べれば俺達にも使えるように――」

蠅竜「無理、だろうな。恐らく」

勇者「……何でだ」

魔法師「でも、私もそう思うよ」

蠅竜「あれは、俺達竜が進化の過程で生まれたものだ」

蠅竜「少なくとも、魔法の研究として調べても、人間は使えないだろう」

蠅竜「古くは、竜巫女に教えた事もあったそうだ。しかし、彼女は使えなかった」

蠅竜「根拠はと言えば、それだな。俺達の誇りというのもあるけどね」

蠅竜「俺は、変化魔法は竜の血で発動できるものだと思ってる」


726以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:37:42.46Esz6tqlF0 (10/14)

勇者「竜の血、か……」

魔法師「人間が魔法を使う前から魔法を知っていた種族だから。そういうのがないとは言い切れないね」

魔法師「魔法って、本当に説明出来ない。あの二人と会ってから、よくそう思うようになったの」

勇者「女さんと男さん?」

魔法師「うん」

魔法師「念じて、イメージして、魔石に伝えて、魔法が発動する」

魔法師「当たり前なんだよ。当たり前だった」

勇者「ああ」

魔法師「じゃあ何で当たり前にできるのかって考えると、わからなくなるのよ」

魔法師「それで思い通りになるなら、人の願いが全部叶うはずだから」

蠅竜「それは、難しい問題だね。何で俺達が生きているのかという問題くらいに」

勇者「魔法師は考えすぎだな。そういう時は、わかる時を待つのが一番だ」

魔法師「後ね」

勇者「?」

魔法師「魔族も特別な魔法を使うらしいんだよ」

勇者「亜法のことだろう?」

魔法師「違うみたい。旅の途中で聞いた話なんだけど」

勇者「そんな話、あったら大騒ぎになってるはずだ」

魔法師「どういう意図で噂が広まっていないのか知らないよ。嘘かもしれないし」

魔法師「でも、興味深いの。魔族の、それも一部の貴族の当主しか使えないっていう」

蠅竜「俺も知っているぞ。竜の国は魔の国の情報も入りやすいからな」

蠅竜「それぞれ違う種類の魔法。しかも他の魔法と違い、無詠唱で発動できる」

勇者「無詠唱で!? ……心当たりがあるな」


727以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:38:11.17Esz6tqlF0 (11/14)

魔法師「本当に?」

勇者「ああ。お前達の言っていることが本当なら……」

勇者「あの時魔王が使ったのがそれだ」

勇者「王宮を襲撃されたとき、俺はわけもわからず吹っ飛ばされた」

魔法師「……やっぱり本当なんだね」

蠅竜「かと言って、無詠唱を習得しているわけでもない」

蠅竜「奴らはそれら以外は確実に詠唱して魔法を使う」

魔法師「だから特別なんだよ。しかも、全く知らない魔法だし」

魔法師「確か、魔法特恵」

勇者「特別な恩恵か……。それにしても、よくそんなこと知っているな」

魔法師「あくまで噂。でも、一人旅の間で知り合った人から聞いた話」

魔法師「確かなスジだって信頼してるから、今後は注意した方がいいかも」

勇者「魔法師が言うなら、そうしよう」

騎士「おい、それよりも今は目の前の敵に集中することだ」

魔法師「それもそうだね」

勇者「目の前の敵? 敵影はなさそうだけど」

騎士「勇者、冗談を言っている場合では……」

勇者「わかってる」

騎士「……」

勇者「ただ、少し現実逃避をさせてくれ」

勇者「これから相手にするのは、あまりに大きすぎる」

魔法師「勇者……その気持ちはわかるけど……」

蠅竜「落ち着け。別に倒せとは言ってない」

蠅竜「言い方は悪いだろうけど、そもそも人間には期待してないんだ」

蠅竜「攪乱してくれるだけでも十分な働きだと考えてるよ」

騎士「ははは、これは容赦がないな」

勇者「だが――」

黒竜「一度降りるぞ。調査隊に到着する」


728以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:38:39.83Esz6tqlF0 (12/14)

――調査陣営

「ほ、報告、報告!」

調査兵「何だ、慌ただしいな」

「それが、竜が一匹こちらに向かってててっ!」

調査兵「少し落ち着……何!?」

ビュオオオオオッ

調査兵「この暴風、まさか既にここまで来ているのか!」ダッ

「そ、外は危険です!」

「竜が……竜がぁぁああ!」
「うわぁああああ!」
「駄目だぁ……もう終わりだぁ……」

調査兵「慌てるな! 冷静に対処を――」

黒竜「……」バサッバサッ

ズウゥゥゥン…

調査兵「――まじかよ」

黒竜「えっ、近い方が良いと思ったのだが」

伍長「だからって何で陣営の真ん中なんですか! みんな混乱してしまってるでしょう!」

黒竜「ううむ……」

調査兵「……ん?」

勇者「おっ、そこにいるのは調査兵さん!」

騎士「すまない。騒がせてしまったな」

調査兵「これはどういうことですか!」

調査兵「本当に厄介な」ボソッ

伍長「それは私から説明します」

調査兵「これが勇者様と騎士様の成果か?」

伍長「そうですね。それにつきまして、報告もありましたので寄らせていただきました」

調査兵「……どこかへ行く予定があったのか?」

伍長「力の街へ。勇者様達には先に向かっていただくつもりです」

調査兵「こいつは竜に乗ったのか」ボソッ

伍長「え?」

調査兵「いや、何でもない。……ところで、一人知らない人間がいるようだが」

魔法師「……目が合った」グッ

勇者「そうあからさまにフードで隠すと怪しいぞ」

伍長「竜側の協力者です」

調査兵「そうか。では報告を聞こう」

調査兵「勇者様達はどうやら決めている様子。先に行くと良いです!」

勇者「ああ、わかってくれてありがたい!」

黒竜「良い選択をしてくれることを期待している」

バサッバサッ ビュオォォォオオッ


729以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:39:45.02Esz6tqlF0 (13/14)

――力の街近郊の小村

黒竜「……」ズズズズ…

勇者「竜の変身魔法、俺達の知ってる変身魔法がゆっくり解ける時とは違う不気味さがあるよな」

魔法師「どっちも生き物の見た目が変わるからね。仕方ないよ」

黒竜「やはりこっちの姿の方が慣れた感じがするな」

騎士「ここはどの辺りになるんだ?」

黒竜「……力の街から少し離れた村だ。後は歩いて一日もいらない」

蠅竜「村と言っても、元々数十人程度の本当に小さい村さ」

蠅竜「見ての通り、例外なく戦争の影響でもう住人はいないけどな」

黒竜「お陰で俺達の足休めにも丁度良い。この辺りで降りると、力の街からはまだ俺の姿は見えないだろうからな」

勇者「じゃあ今日は空き家のどこかを借りて休養か」

黒竜「そうなる」

魔法師「どの家にしよっか」

騎士「どれも似たようなものだろう」

蠅竜「俺は先に力の街に行くよ」ブーン

黒竜「頼んだ」

勇者「彼は?」

黒竜「街に潜伏している同胞と合流に行った。朝には一緒に戻るだろう」

黒竜「小さい生物に慣れた蠅竜達なら青竜にも見つかりにくい」

勇者「適切な役割ってわけか」

黒竜「明日の朝に蠅竜が雀竜という者を連れてくるはずだ」

黒竜「その時に青竜の状況を聞く。作戦はそれから立てる」

黒竜「今日は身体を休め、明日に備える」


730以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:42:46.91oesJFAC7o (1/1)

久しぶりにキテたー!


731以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 03:47:23.76Esz6tqlF0 (14/14)

今回はこの辺りまで。
勇者が竜に勝てるイメージが浮かんでない。

簡易地図:竜の国編
http://sssssssssssssss.web.fc2.com/img/img_a006.jpg


732以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 13:09:26.72j65bpGlko (1/1)

待ってた
無理せず落ちないように続けてくれたら幸せです


733以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/25(木) 23:11:59.191ubl93Nm0 (1/1)




734以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします2014/12/28(日) 07:02:21.713uGFemSIo (1/1)

久しぶりに魔王の話題が出たな