1VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/04/30(土) 00:27:29.19M6UJ5kd80 (1/2)

とりあえずこちらに移動。
おはよう、SS速報。低速更新だけど書いていくよ。

“魔法世界の軌跡を紡ぐ物語、まだここに――”

過去スレ
#1) http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1265212802/
#2) http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1272765618/


2VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/04/30(土) 00:29:28.34M6UJ5kd80 (2/2)

スレは立てたけど、五月に入るまで#2スレに投下していきます。


3VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/04/30(土) 00:40:19.95bOSfd34Fo (1/1)




4VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/30(土) 01:34:33.73zypfeRwSO (1/1)

了解


5VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/05/07(土) 21:35:10.97qgzHnjQAO (1/1)

待ってるぜぃ


6VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/05/15(日) 00:34:14.77uPM9Wnqb0 (1/1)

今読み終わってここまで来た。
面白かった。待ってます。


7VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/05/16(月) 19:20:02.63/Wt2Ujjy0 (1/6)

遅くなりしも、おはよう諸君。

風邪気味のなか自転車をこいでいると、何もない所で一人勝手に盛大に前のめりに転がって倒れた次第、暫く布団に潜り込んで不貞寝ていました。
まずは、そんな言い訳。


8VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/05/16(月) 19:42:28.30/Wt2Ujjy0 (2/6)

勇者「どういう事だ……? つまり……」

男「錬金兄弟子さんが、亡霊になって今でも“生きて”いると?」

錬金弟子「その通りです。全て兄さんが教えてくれました」

錬金弟子「兄さんが、魔の国へ赴くように師匠から言われた事」

錬金弟子「航海へ向かう途中、人気のない所で師匠に殺された事」

錬金弟子「兄さんを、ここへ埋めた事」

錬金弟子「そして、決して誰にも見つからないように、そして仮に亡霊化しても動けいないように」

錬金弟子「兄さんをこの地に封印した事」

錬金弟子「男さんを見たときは本当にびっくりしました。兄さんはここから動けないはずですから」

男「だから執拗に聞いてきたんだな。俺が錬金兄弟子さんかどうか」

錬金弟子「はい。最初は兄さんに試されてるんだと思いましたが」

勇者「聞いて良いかな?」

錬金弟子「何でしょう」

勇者「錬金師さんは何故、弟子である錬金兄弟子さんを殺さなければならなかったんだろうか」

錬金弟子「それは、はっきりとはわかりません……」

錬金弟子「でも兄さんは、多分自分の才能が師匠を上回るのが怖かったんだろうって言ってました」

勇者「……」

錬金弟子「何にせよ、兄さんは師匠を恨んでいます。殺されたのだから、無理はないでしょう?」

錬金弟子「私は、その復讐に協力したいだけです」


9VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/05/16(月) 20:09:44.74/Wt2Ujjy0 (3/6)

勇者「復讐、か」

勇者「もう一つ聞く。さっき『蘇生させる』って言ったけど、もう死んでるんだよね」

勇者「錬金弟子さんは蘇生魔法を使えるのか?」

錬金弟子「蘇生魔法は、残念ながら使えません……」

錬金弟子「『蘇生させる』と言うのも、言葉の綾かもしれません」

錬金弟子「兄さんが言うには、『亡霊となっても意思を持ち動くのは、生きると同じ。肉体があっても自由に動けなければ、死ぬと同じ』」

錬金弟子「つまり、この封印を解く事が兄さんにとっての『蘇生』なんだと思います」

勇者「成る程……」

錬金弟子「分かってくれましたか? 早く通して――」

男「俺からも良いか?」

錬金弟子「……どうぞ」

男「封印を解く方法はどのようにする? どこで知った?」

錬金弟子「六ヵ所に膨大な魔力を持つ魔法使いと簡単な詠唱をすれば封印は解けます。兄さんが言ってました」

錬金弟子「私は魔法使いの代わりに魔石を用意した方が良いって思ったからこうやったのですが」

男「幻覚魔法は錬金兄弟子さんから?」

錬金弟子「それ以外にいるはずありません。師匠は全然教えてくれませんから」

男「ふむ……」

錬金弟子「分かってくれましたか? では、通してくれます?」

勇者「いや、それは出来ないな」

男「俺も同意見だ。ここは通せない」


10VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/05/16(月) 20:45:02.02/Wt2Ujjy0 (4/6)

錬金弟子「どうしてですか! 分かってください。私にはこの賢者の石が必要なんです!」

錬金弟子「兄さんと一緒に師匠を倒したら、もう一つ作りますから! 私、近くで見てましたから作り方知ってますよ?」

勇者「確かに、俺自身賢者の石は必要だ。それも大陸連盟からの命令だ。その全権を任された俺が望めば、最優先にだって出来る」

勇者「でも、今はそれと関係ない」

勇者「賢者の石を使う事で結界は解けると分かったし、俺だって困ってる人は助けたいからね」

錬金弟子「じゃあ、どうして……っ!」

勇者「復讐は何も生まない。後に残るのは、ただの虚しさだよ」

勇者「それに、何か良くない気がしてならない」

錬金弟子「良くない……? 私と兄さん力合わせても、師匠に勝てないって事ですか?」

勇者「確かに、錬金師さんは強いだろうな。大魔法使いなんだから。でも、そんなのではない、何か……」

錬金弟子「……結局あれこれ理由をつけて、通したくないだけじゃないですか?」

勇者「違う! そうじゃない!」

錬金弟子「いいえ、そうに決まってます! こうやって足止めをして、師匠が来るのを待ってるんですよ! そうですよね!?」

勇者「だから、そうじゃな――」

錬金弟子「そうだ! 勇者さん達も兄さんに会って話すれば分かるはずです!」

錬金弟子「今呼びますから、二人ともついてきて――」

ガシッ

男「……」

錬金弟子「……離してください」


11VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/05/16(月) 20:47:40.39/Wt2Ujjy0 (5/6)

修正:
錬金弟子「……離してください」→錬金弟子「……放してください」

ホント些細な変換ミス。


12VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/05/16(月) 21:17:14.15/Wt2Ujjy0 (6/6)

男「だが断る」

錬金弟子「男さん、あなたも私と兄さんを邪魔するつもりですか?」

錬金弟子「見た目は兄さんなのに、それだけの偽物ですね」

男「俺は俺だ。錬金兄弟子さんの偽物でなく、男としてのオリジナルだな」

錬金弟子「そんなのどうでもいいです」

男「ああ、どうでもいい事だ。今重要なのはそれじゃない」

男「ただ言える事は、本当に錬金兄弟子さんが賢明な人なら、きっと今の俺と同じ事をしているはずだ」

錬金弟子「……兄さんを馬鹿にするつもりですか?」

男「いいや。俺は事実を言ったまでだ」

男「勇者さんも祠を中心とした六角形内には入らない方が良い」

勇者「分かってる」

男「それは、経験ってやつかな?」

勇者「そんなものだな。あそこは嫌な気がするんだ。男さんもよく気がついたな」

男「まぁ、論理と推理から導かれた……勘だ」


13VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/05/16(月) 21:24:47.33IlaqYP1/o (1/1)

キテターーーーー(゜∀゜)ーーーーー!!


14VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/05/16(月) 21:30:11.17SloY/r0SO (1/1)

やっときたか


15VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/06/04(土) 00:35:08.25y5Fe3S7AO (1/1)

キリン並に首を長くしてるぜい


16VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/06/11(土) 13:52:11.26uE5t2COAO (1/1)

起きろ


17VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/06/19(日) 23:58:49.95UYz4hk/AO (1/2)

目を覚ますのだ!!(。・_・。)ノ


18VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/06/19(日) 23:59:41.29UYz4hk/AO (2/2)

目を覚ますのだ!!(。・_・。)ノ


19VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/20(月) 00:29:58.49DjTDmNoSO (1/1)

>>18
俺のwwktkを返せ
ageんな


20VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/06/26(日) 00:44:59.41hpEL4tnAO (1/1)

パクリスレがなんかあるな
早く起きろ


21VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/26(日) 03:20:31.35YAvlMYuA0 (1/5)

また長い間放置しててごめんなっさいぃぃぃい!!

>>20
むしろこっちがパクリじゃね?


22VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/26(日) 03:31:40.19YAvlMYuA0 (2/5)

錬金弟子「そうですか。通してくれませんか……」

錬金弟子「“――”」ブツブツ

勇者「男さん! 離れるんだ!」

男「えっ――」

錬金弟子「“風撃”!」ゴォォオッ

男「くっ……うわぁぁあっ!?」

勇者「男さん、大丈夫か!?」

男「あ、あぁ……どうやら、飛ばされただけのようだ」

勇者「錬金弟子さん、どういうつもりだ!」

錬金弟子「何言ってるんですか。兄さんの願い……私の願いを邪魔する人は」

錬金弟子「みんな敵です!」

錬金弟子「私は、賢者の石を兄さんに届けて、復活させるんです!」

勇者「そうか……。そっちがその気なら、全力で阻止させてもらうよ」

錬金弟子「どうしても、退いてくれないんですね。次からは飛ばすだけなんて事しませんよ」

勇者「……」


23VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/26(日) 03:39:36.88YAvlMYuA0 (3/5)

男「……どうするつもりだ?」

勇者「どうするも何も、あの祠に埋められてる“錬金兄弟子”さんは復活させちゃいけない」

勇者「そんな気がする。だから――」

男「しかし、実証がないのは確かだ」

勇者「だからと言って、男さんも嫌な予感はするんだろ?」

男「……確かに。俺もあれは阻止すべきだと考えている」

勇者「だけど、錬金弟子さんは錬金師さんの弟子……魔法の威力は凄まじいはずだ」

勇者「俺達二人で勝てるかどうか……」

男「その事なんだが、良い作戦がある」

勇者「本当か?」

男「それはだな――」ボソボソ

錬金弟子「退いてくれる気にはなりましたか? 私も出来れば、戦いたくはないんですよ」

勇者「残念だけど、やっぱり蘇生はさせない」

男「ここでその野望は阻止させてもらう」

錬金弟子「そうですか……本当に、残念です」

錬金弟子「“――”」ブツブツ


24VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/26(日) 04:41:00.44YAvlMYuA0 (4/5)

錬金弟子「“――”――っ!?」ジュッ

錬金弟子「な、何ですか、今の……」

男「レーザーだ。人体ならば、簡単に貫通する威力は持つから気を付けろ」

錬金弟子「詠唱もなしに……! それが、科学者の力ですか」

男「そんなものだ」

錬金弟子「でも、その筒の先が向けられてなければ、当たらないようですね」

錬金弟子「厄介ですが、避けながら詠唱すれば! “――”」ブツブツ

勇者「“雷撃”!」

錬金弟子「――っ!」

勇者「こっちは二人なんだ。それを忘れてもらったら困る」

錬金弟子「……でも、その程度の魔法では私は倒せませんよ」

錬金弟子「それに、狙いが外れているみたいじゃないですか。かの勇者様の実力なんてこんなもの――」

勇者「でも……」

錬金弟子「?」

勇者「詠唱は阻止できる」

錬金弟子「――っ!」


25VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/26(日) 04:56:57.43YAvlMYuA0 (5/5)

~  ~

勇者「錬金師さんの弟子であることを逆手に取る?」

男「その通り」

男「重要なのは、錬金師さんはどのように弟子を育てたかなんだ」

勇者「どういう事だ?」

男「錬金師さんは、恐らく短縮詠唱を教えていない」

男「短縮詠唱だと、通常の詩編詠唱よりも汎用性が低くなるからなんだ」

勇者「しかし……」

男「思い出してくれ。錬金弟子さんが短縮詠唱を使った所を、今まで見た事あるか?」

勇者「確かにないが、俺達と知り合ってからまだあまり経ってないぞ」

男「そうなんだが、それを仮定とせずに最初からまともに戦うのは効率が悪い気がする」

男「だから、まず様子を見よう。確定すれば、こっちは勝ったも同然だ」

~  ~

男「どうやら、俺の仮定は真であるようだ」

勇者「詩篇の詠唱中、詠唱者は集中しなければならない」

勇者「その中で、攻撃を掠らせたりギリギリを狙われたりすれば、集中力も途切れる」

勇者「つまり、詠唱も途切れさせざるを得ない」

男「俺も本で読んだことがある。詠唱中は始終集中しなければならないんだって?」

男「百戦錬磨の熟練者ならまだしも、戦闘経験の薄い人ならば簡単に集中力も途切れるだろうな」

錬金弟子「――くっ」

勇者「諦めるんだ、錬金弟子さん」


26VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/26(日) 07:21:34.23g5rlC9SSO (1/1)

ようやく起きたか

パクりのパクりとはこれいかに



27VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/29(水) 00:52:47.07LtVziXxDO (1/1)

なんでもいいから頑張って
楽しみにしてる


28VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/29(水) 00:56:07.16635HP48X0 (1/8)

錬金弟子「まだ……負けてません……! “――”」ブツブツ

勇者「“雷撃”!」

錬金弟子「うぅっ……“――”」ブツブツ

男「無駄だ」チュオンッ

錬金弟子「――っ」

錬金弟子「そんな……詠唱させてもらえないなんて……」

男「ちなみに言うと、だ。勇者さんはともかく、俺はあまり戦い慣れていない」

男「今まで“偶然にも”攻撃は外しているが、次も外せるかどうか」

錬金弟子「……脅すつもりですか?」

男「そんなつもりはない。俺だって傷つけるつもりはないんだ」

勇者「こっちとしては、やはり大人しく賢者の石を渡してもらえれば嬉しいんだけどね」

錬金弟子「私は……兄さん、どうすれば……」

勇者「錬金弟子さん、お願いだ」

錬金弟子「兄さん……」

「錬金弟子よ、頼む。早く……してくれ……」

勇者「何!?」
男「だ、誰だ!」


29VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/29(水) 01:05:56.10635HP48X0 (2/8)

錬金弟子「そ、その声は……兄さん?」

錬金兄弟子「ああ、そうだ。俺だ。錬金兄弟子だよ」

勇者「……嘘だろ?」

男「本当に俺とそっくりだな……と言う事は、まさか本物なのか……?」

錬金弟子「ほら、私の言った事は正しかったでしょ!? 早く兄さんを蘇生させないと……!」

勇者「し、しかし……」

錬金兄弟子「頼む……早く……! 結界の中は苦しい……!」

錬金弟子「もうすぐです! もうすぐの我慢ですよ、兄さん!」

錬金弟子「ほら、勇者さん男さん、早く通してくれませんか?」

男「……仕方ない。俺の勘が外れていたみたいだ」

男「まさか本当に錬金師さんが……そんなまさか……」ブツブツ

勇者「いや、待ってくれないか?」

錬金弟子「何ですか?」

錬金兄弟子「早くしてくれ! 錬金弟子、早く!」

錬金弟子「兄さんが苦しんでる! 早く通してください、勇者さん!」

勇者「だから、ちょっと待ってくれないかって言ってるんだ」


30VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/29(水) 01:15:03.81635HP48X0 (3/8)

勇者「そこの錬金兄弟子さん。あなたはどうして復活しようとしているのですか?」

錬金兄弟子「……決まってる。あいつに、錬金師に復讐をするためだ!」

錬金兄弟子「そんな事より早――!」

勇者「まだ質問は終わってない」

錬金兄弟子「……」

勇者「あなたの復讐のために、錬金弟子さんは盗みを働いている」

錬金兄弟子「それがどうした?」

勇者「……いえ、何も」

錬金弟子「こんな問答、無意味です。早く蘇生の儀式を行わないと」

勇者「いや、結論は出たよ」

勇者〔どう思う?〕

魔剣〔怪しい。嫌な予感しかせぬな〕

勇者〔同感だ〕

勇者「やはり錬金弟子さん、あなたに儀式はさせない!」


31VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/29(水) 01:32:18.81635HP48X0 (4/8)

錬金弟子「どうしてですか! 兄さんはそこにいるのに!」

錬金弟子「師匠の悪事が証明されたのに!」

勇者「俺はそうは思わない。男さんは?」

男「確かに物証がない限り、証明とは言えない。だが……」

勇者「俺には、それで十分だ」

勇者「まぁ仮に、本当に錬金師さんが錬金兄弟子さんを殺したとしても、俺はそこの錬金兄弟子さんを蘇生させるわけにはいかない」

錬金弟子「どうして……!」

勇者「妹弟子が自分のために罪を犯したのに、自分の復讐だけに執着している。妹弟子の事なんて、眼中にない」

勇者「今のあなたはそういう風に見える」

錬金弟子「そんな事はない!」

錬金兄弟子「そうだ。俺はいつだってお前を想っている」

勇者「言葉ではどうとでも言えるさ」

錬金兄弟子「言葉だけじゃない。本当の事だ」

魔剣〔――妙案がある〕

勇者「じゃあ、こうしよう」

勇者「俺はあくまであなたを疑っている」

勇者「仮にあなたの言う事が本当なら、蘇生は諦めるんだ。そうすれば、責任を持って錬金弟子さんを錬金師さんの魔の手から守ろう」

勇者「しかし、蘇生を諦めないならば、あくまで俺はそれを阻み、錬金弟子さんを殺す」


32VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/29(水) 01:48:04.97635HP48X0 (5/8)

男「……! その案、俺は乗った」

錬金弟子「そんなバカな話が通ると思うんですか? 兄さんを困らせないでくださ――」

錬金兄弟子「いや、もう良い」

錬金弟子「……兄さん?」

錬金兄弟子「それならば、蘇生は諦めるしかない。可愛い妹弟子に死なれては困るからな」

錬金弟子「そんなっ、でも兄さんは……!」

錬金兄弟子「良いんだ。これで……」

錬金兄弟子「ただ、責任は取ってもらうぞ。錬金弟子を死なせでもすれば、復讐の矛先がお前にも向けられると思え」

錬金兄弟子「俺はお前の顔を、よく覚えておくからな」

勇者「ああ、約束する」

錬金弟子「兄さん……必ずまた会いに来ますから……」

錬金兄弟子「ああ、いつでも――」

勇者「それは無理だよ。その時にまた蘇生を図るかもしれないからね。蘇生は諦める約束だ」

男「錬金弟子さん、俺らはひとまず氷の街に戻ろう」

錬金弟子「で、でも……」

男「錬金兄弟子さんは、復讐よりも錬金弟子さんの命を選んだ。その想いを無駄にしてはならない」


33VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/29(水) 02:00:09.24635HP48X0 (6/8)

勇者「じゃあ、行こうか」

男「ああ」

錬金弟子「は、はい……」

錬金兄弟子「……」

錬金弟子「兄さん……」

ザッザッザッザッザッ…

勇者〔本当にこれで良いのか?〕

魔剣〔ああ。順調だぞ〕

勇者〔だけど、これだと俺達が悪者みたいで……〕

魔剣〔男は我の策を理解しておると言うのに〕

ザッザッザッザッ…

ザッザッ…

ザッ…

錬金兄弟子「……待て」

魔剣〔掛かった!〕

勇者〔え? だからどういう……〕

魔剣〔キミは我の言葉を伝えれば良い〕


34VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/29(水) 02:12:44.74635HP48X0 (7/8)

勇者「どうした?」

錬金兄弟子「そのまま行くのか?」

勇者「どういう事だ?」

錬金兄弟子「そのまま、錬金弟子を連れて行くのか?」

勇者「そういう約束だからな」

勇者「大丈夫だ。錬金師さんには見つからないよう、まずはこのまま氷の街へ行き、白の国へ連れて行く」

錬金兄弟子「そうじゃなくてだな……あの流れだと、『やはりお前の想いは本物だ』と解放する所では……」

勇者「そんな約束は、ないぞ?」

錬金兄弟子「……そうか」

錬金弟子「兄さん……」

錬金兄弟子「まぁ、良い。錬金弟子が無事ならば……」

錬金兄弟子「ここがどれ程つらくても、苦しくても……! 悲願が遂げられなくともっ……!」グッ

錬金弟子「兄さん……手から血が……! そんなに私の事を……」

錬金弟子「勇者さん男さん、私決めましたよ」

錬金弟子「私の命がどうなっても、兄さんは必ず私が助けます!」


35VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/06/29(水) 02:30:46.81635HP48X0 (8/8)

錬金弟子「兄さん、すぐにこの賢者の石で……!」ザザッ

勇者〔えっ、ちょっ!?〕

男「っ!」ザザッ

魔剣〔よし、動くぞ〕

錬金弟子「男さん、すみませんが邪魔はさせませんよ。“――”」ブツブツ

魔剣〔呆けるな! 援護だ!〕

勇者〔ハッ!〕

魔剣〔早くするんだ! 彼女の詠唱が終わらないうちに!〕

勇者「ら、“雷撃”!」

錬金弟子「っ! また――っ!? うわわっ!」ドテッ

魔剣〔好機!〕

勇者「男さん、今だ!」

男「フォースランス放電モード。バッテリー残量確認。二回のフルパワーまで可能――」

錬金弟子「に、兄さ……今、助けに……!」

男「出力三十パーセント、放電!」

錬金弟子「あ゛、あ゛あ゛ぁぁぅあああっ!」バリバリバリバリバリッ!


36VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/29(水) 06:39:42.60MyN18/3SO (1/1)




37VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/06/29(水) 07:38:05.82sli5hxOAO (1/1)


おやすみ


38VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/07/02(土) 03:28:50.01/nfUMPAC0 (1/4)

寝る前にちょっとだけ書かせてもらう。

しかし、こんなに待たせても待ってくれる人はいるんだなぁ……。


39VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/07/02(土) 03:45:43.42/nfUMPAC0 (2/4)

男「はぁ……はぁ……」

錬金弟子「あ……ぅあ……」ピクッ…ピクッ…

勇者「まさか、殺したのか?」

男「まさか。失神しているだけだ」

勇者「そうか」ホッ

男「やっぱり……人にこういう事するのは嫌だな。魔物を殺すところを何度も見たから、少しは慣れたけど」

勇者「ところで……」

男「ああ、そうだ」

勇者「なぜ、助けなかった?」

錬金兄弟子「……無茶を言わないでくれ」

勇者「それもそうだ。そこに結界があるのだからな」

錬金兄弟子「なぜこんな事をした? ……そうか。俺を本当に信用して良いか確かめるためだな?」

勇者「……ああ」

錬金兄弟子「やり方に激怒は覚えるが……これで、信用してもらえただろうか」

勇者「いや、むしろ信用できなくなったね」

錬金兄弟子「……なぜ」

勇者「知っているか? 亡霊は血が出ない」


40VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/07/02(土) 04:01:02.52/nfUMPAC0 (3/4)

錬金兄弟子「……何を言い出すかと思えば」

勇者「あなたはわざわざ拳を強く握り、自分の爪を食い込ませて血を流した」

勇者「だけど、本当は流れるはずがないんだ。あなたが亡霊だからね」

錬金兄弟子「俺の手を見るか? しっかり流れているじゃないか!」

勇者「詰めが甘いな」

錬金兄弟子「……何?」

勇者「確かに手から血が流れているように見えるのに、どうして雪に血の跡がないのか」

勇者「答えは簡単。実際に血は流れていないからだ」

錬金兄弟子「……」

勇者「あなたは血を流す事で、錬金弟子さんが自分を助けに来るように煽った。そうじゃないか?」

錬金兄弟子「……なぜそんな事が分かる?」

勇者「この魔剣が教えてくれた。そして――」カチャッ

勇者「あなたの存在自体、もはや亡霊じゃない事も分かっている!」

錬金兄弟子「……」

男「あったぞ。賢者の石だ」ゴソゴソ

?「よくやった」


41VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/07/02(土) 04:18:58.70/nfUMPAC0 (4/4)

男「錬金師さん!」

錬金師「遅くなってすまない。急いだつもりなんだがな」

錬金師「とは言え、少し様子は見させてもらったぞ」

男「え?」

勇者「盗賊と剣士、それと狂人は?」

錬金師「小屋に残ってもらっている。俺が出た時は、狂人という娘は気を失ったままだったしな」

錬金弟子「……」

錬金師「錬金弟子を生かしてもらって、非常に嬉しい」

錬金師「最も、殺すつもりだったならその前にあなた達を殺していたけどな」

勇者「見ていたのですか。それならどうしてもっと早く姿を現してくれなかったのです」

錬金師「奴と錬金弟子の戯れ言に騙されたままだと、逆に混乱するだろう」

錬金師「最も、錬金弟子はそれが真実だと信じて疑っていなかったと思うが……」

錬金師「だがそれをはっきりと見抜いたようだな」

勇者「こいつのお陰です」

魔剣〔あはは……照れるな。それ程でもあるがな〕

錬金師「……成る程」

錬金師「さぁ、もう俺達の間に嘘はなしとして話そうじゃないか。なぁ、錬金兄弟子」

錬金師「いや、俺の弟子の名をかたり俺の弟子の姿をし、あまつさえ俺の弟子を騙すなど、これ程の侮辱はないぞ」

錬金師「なぁ、幻術師」


42VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/02(土) 07:40:43.36tkCaDtaSO (1/1)

遅いのはどうにかして欲しいけど読んでる

だって面白いんですもの


43VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/02(土) 08:57:51.67xaQ3ZDVXo (1/1)

レス挟むほど進んでなjかったり、話の途中だから黙ってみてる人も多いんじゃないかな
ちゃんと読んでるよ


44VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/07/02(土) 09:41:07.34tgZ5s+pAO (1/1)

あ、あんたのせいなんだからね!


45VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/04(月) 01:14:56.13PNuxkxCo0 (1/1)

さっさとかけや!


46VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/04(月) 12:02:33.562cLhDeuIO (1/1)

あんたのはマークしてる


47VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/04(月) 22:50:59.03qdZ/H2DDO (1/1)

投げないでくれればいいや


48VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/07/04(月) 23:05:13.26js66UrmAO (1/1)

いつでもいいから
寝るな寝るな


49VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/07/08(金) 01:22:13.56eKd3NeGE0 (1/5)

あれ? これ俺のスレか?
って思ったくらいレスがついてたw

おはようございます。またすぐ寝ますが。


50VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/07/08(金) 01:41:46.48eKd3NeGE0 (2/5)

錬金兄弟子「何を言ってるんだ? 俺はお前の弟子だった錬金兄弟子――」

錬金師「演技はやめておこうじゃないか。俺とお前の仲じゃないか」

錬金師「とは言え、一度会ったきりで随分久しぶりだな。ん? これでは仲も何もないな」

勇者「……どういう事ですか?」

錬金師「あぁ、奴は錬金兄弟子ではない。それはあなた達もわかっているだろう」

勇者「はあ」

錬金師「奴の本当の名は幻術師――最も、あれはただの幻覚でしかない」

男「幻覚? 俺は錬金兄弟子さんなんて知らなかったし、それにあんなに会話の成り立つ幻覚なんて……」

錬金師「祠を囲む六つの点がある。そのうち五つが魔石の置かれている場所だ」

錬金師「それらの点は幻術師を封じる特殊な結界を形作る陣詠唱の要なんだが、結界はその点を繋ぐようにして張られている」

錬金師「この結界は特殊と言ったが、その理由は詠唱者が封印対象を完全に指定出来る事だ。指定された対象は、結界が外から解かれない限り身動きする事すら出来ない」

錬金師「一方、対象以外は簡単に出入りできると言う欠点がある。幻術師はそこを利用したんだ」

錬金師「封印される寸前に詠唱したのだろう。結界内部に奴の幻覚魔法を最大限に飽和させた領域が発生している」

錬金師「その領域内では、身動き出来ないはずの幻術師が自由に幻覚を見せる事が可能であり、あれは錬金弟子の記憶から出た姿を領域内に投影しているに過ぎない」

勇者「でも、それでも封印されているはずでは……?」

錬金師「封印で身動きは出来ないとは言え、思考は可能なんだよ」


51VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/07/08(金) 01:59:49.70eKd3NeGE0 (3/5)

錬金師「つまり、あの姿は幻覚であるが、幻術師自身と話していると言って過言でない」

錬金師「戦乱期の大魔法使い幻術師である事に、変わりないんだ」

勇者「大……魔法使い……!?」

男「そんな昔の人が……まさか封印されているから生きたままであると言うのか?」

錬金兄弟子「……そうだな。実に久しぶりだ」スゥ…

幻術師「三十五年ぶりか、錬金師よ」スゥ…

錬金師「三十六年ぶりだ」

幻術師「一年の違いなど、悠久の時を生きた私には一秒と同じようなもの」

幻術師「だが私の幻覚から逃げた者はお前のみ。また会えて嬉しいぞ」

錬金師「俺の弟子を誑かして何を言うか」

幻術師「誑かしたなどと人聞きの悪い。心の隙間を埋めてやったと言ってくれないか」

錬金師「錬金兄弟子を偽り錬金弟子を騙す事をそういうのか? 違うな」

幻術師「しかし、お前の弟子は素晴らしかった。まさか大魔法使いの代用として魔石をあてようとは。お前の教えか?」

錬金師「問われている所悪いが、俺はお前と喋りに来たわけではない」

幻術師「……はぁ、そのくらい知っている。その小娘を取り戻しに来たのだろう」

幻術師「だが、その小娘はすでに私の手中にある。殺さない限り、私の解放の機会はあるのだ」

錬金師「承知の上だ」

錬金師「だから、俺は殺すと決めてここに来た」


52VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/07/08(金) 02:10:08.14eKd3NeGE0 (4/5)

幻術師「ほう」ニヤニヤ

錬金師「随分楽しそうだな」

幻術師「それはそうだ。私の手を逃れたお前が、自らの意思で自分の弟子を殺すのだからな」ニヤニヤ

勇者「ちょっと待って下さい! 錬金師さん、本気ですか!?」

錬金師「無論だ」

勇者「そんな……! 錬金弟子さんはあなたの弟子なのに」

錬金師「男さん、賢者の石を貸してくれないか」

男「……何に使うつもりですか」

錬金師「大丈夫だ。いくら使っても魔石は魔石のままだ。ただの石には戻らない」

男「だから――っ!」

バシッ

錬金師「遅い! 貸せと言っているだろう!」

錬金師「……すぐに返す」

男「くっ……」

幻術師「それが賢者の石というものか。凄まじい魔力を感じるぞ……!」

幻術師「さぁ、それでどうするつもりだ?」ニヤニヤ

錬金師「……」ポイッ

幻術師「……?」

錬金師「“――”」ブツブツ

幻術師「――! お前まさか――!」


53VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/07/08(金) 02:21:17.76eKd3NeGE0 (5/5)

シュウウウウ…

勇者「錬金師さん、なぜ……!」

男「これは……どうして……」

魔剣〔何故、奴の封印を解いた! 邪な気配を感じるぞ……!〕

錬金師「……」

シュウウウウウウウ…

幻術師「……まさか、お前が私の封印を解いてくれようとは」

幻術師「どういう風の吹き回しだ?」

錬金師「……」

幻術師「まぁ、良い。これで私が大陸を統べる時が来たのだ! 錬金師、お前ならば側近にもしてやろうぞ」

錬金師「まさか。そんな地位はいらないな」

幻術師「私もそれ程悪ではない。私を自由にしたお前に、礼を与えると言っているのだ」

錬金師「では……その命をもらおうか」

幻術師「……何と言った?」

錬金師「『殺すと決めて来た』と言っただろう。始めから、お前を殺すつもりでいた」

錬金師「さぁ、その命をもらおうか」


54VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/07/08(金) 07:14:09.42Gs7q4bLAO (1/1)


最近はよく起きるよな


55VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/08(金) 12:18:43.07yTaIkFpSO (1/1)

ROMってたやつが顔を出したんだろ


56VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(山陽)2011/07/09(土) 02:56:13.68wYiCmaMAO (1/1)

そういや最初の方で出てきた戦士の正体がまだ明らかになってないな……すっかり忘れてた


57VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/27(水) 20:17:28.20L9oNSLY70 (1/1)

続き待ってます。


58VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/07/31(日) 23:19:28.01kTcmVr6AO (1/1)

>>1「はあ~~ん!!サキュバスちゃんペロペロ!!!」


59VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/05(金) 03:51:20.664QjqDbFDO (1/1)

期待してるよ


60VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/08/09(火) 23:48:26.92rxAw1l++0 (1/1)

左&フィリップ「さぁ、お前の罪を数えろ!」


61VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 00:47:27.162FSGK+/b0 (1/14)

おはようございます!
また長い間空けてしまいましたが、懲りずに書いていきますよ。


62VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 01:06:08.822FSGK+/b0 (2/14)

勇者「……」
男「……」

幻術師「……私の命をもらうだと?」

錬金師「ああ、そうだ」

錬金師「俺は俺の弟子を殺すつもりなど、さらさら無い。道を外せば俺が正し、俺を殺すつもりならば軽くあしらってやる」

錬金師「それが師としての務めではないか」

幻術師「私を殺す事で、お前の弟子の道を正す。そう言いたいのだな?」

錬金師「他に何があると言うんだ?」

幻術師「ふふ……ふはははっはははっ! 若造如きが私を倒せると思うてか!」

錬金師「……」

幻術師「確かにお前は私が封じられて以来ただ一人、私の幻覚から逃げ果せた。しかし、それまでだ」

幻術師「封印された状態では、私の力は半分も出していないのだ」

錬金師「知っている。広範囲系幻覚魔法は、範囲の広さだけ効果が薄れる事もな」

幻術師「ほう。三十五年も経っていれば、幾分か勉強は出来たみたいだな」


63VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 01:25:00.592FSGK+/b0 (3/14)

錬金師「そう、幾分か勉強して来たんだ」

幻術師「……ほう」

幻術師「だが、そこの二人はどうかな?」

錬金師「! まさかっ!」

幻術師「“――”」ブツブツ

錬金師「勇者さん、男さん!」

勇者「錬金師さん、一体何が――!」

男「どういう事だ!? 周りの景色が急に歪み始めて――」

幻術師「“――”」ブツブツ

錬金師「でき――は――くへ――!」

勇者「――て――えな――!」

男「――ふむ」

錬金師「――そっ! ――たな――“イ――」

ガガ―ドガッ―ガガガ――

――――――

ブロロロロロッ

男「……!? ここは……?」

男「……」

男「やべぇ! まさか居眠り運転してたのか? 危なかった……」


64VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 01:38:10.532FSGK+/b0 (4/14)

男「今までそういう事なかったんだがな……日頃の疲れか」

男「給料は良くなったんだが、大学教授ってのも面倒な仕事だよな」

男「って、もうこんな時間か! まだまだ新任だってのに講義に遅れたら評判も悪くなるってのに」

男「……」

ブロロロロロッ

男「……」ゴシゴシ

男「……」

「あっこら! 待ちなさ――!!」

男「!? あぶ――!!」

キキイィィィッッ!
  ――ドンッ!

男「はぁ……はぁ……」バクバク

男「! 今の、まさかっ!」バッ

男「……あ、ああっ……!」

「マモルー! うぅ、マモル……!」

男「おい……冗談きついぞ……。何で……何で、子供轢いてしまってるんだよ……」


65VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 01:51:33.282FSGK+/b0 (5/14)

ザワザワ ガヤガヤ
 ザワザワ ガヤガヤ

「おい、あれ見て見ろよ」
「げぇ、グロいな。事故現場なんて始めて見たよ」
「子供轢いたんだって? かわいそーに」
「おいおい、何事故ってんだよ。後ろがつっかえてんだよ」
「ありゃあ死んでるぜ」
「親御さんもつらいだろうに」
「へぇ、これが事故かぁ」パシャッ パシャッ

「うっ、うぅっ、マモル……」

男「わ、悪いのは俺じゃない。そう! 子供が勝手に飛び出してきたんだ!」

男「俺は……俺は普通に運転してただけなんだ」

「何言ってるんですか! 私のマモルを轢いておいて!」

男「でもあなただってお子さんをしっかりと見てないから……!」

男「いや、それよりも早く救急車を――あっ、来てくれたんですか。早いですね。こっちですよ」

「いえ、もう手遅れです」

男「何を言ってるんですか? まだ見てないじゃないですか」

「即死ですよ。ほら、当人だって言ってるじゃないですか」

男「言ってるって、そんな事誰が……当人?」

「そうだよ、ぼくだよ。おじさんがころしたんだよね。いたかったよお」

男「まさか……そんな……」

「いたかったよおお、おおお、おおおおおお!」

――――――

勇者「――金師さ……あれ?」

勇者「ここは……どこだ?」


66VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 02:05:24.812FSGK+/b0 (6/14)

ピチャッ… ピチャッ…

勇者「ここは……どこかで見た事があるな」

勇者「洞窟の中か。しかし不思議だな。灯りがないのに明るい」

勇者「……! まさかここは……!」

「気付いたかい? そう。ここにはあまり良い思い出はないだろうね」

勇者「誰だ!」

「誰だとは酷いね。もしかして、俺を忘れたって言うんじゃないだろうな」

勇者「……友、か?」

友「正解!」

勇者「そんなはずはない! 友は……友は……!」

友「俺がどうした? 死んだはずだって言うのか?」

勇者「……ああ、そうだ」

友「その言葉は、少し間違ってるね、勇者」

友「あの時だって、俺を殺したのは勇者、君だよ」


67VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 02:13:24.592FSGK+/b0 (7/14)

勇者「あの時俺が殺したのは、“魔物の王”だ。俺は――」

友「俺を解放してやった、とでも言いたいのかい?」

勇者「勿論だ」

友「ふざけるな!」

勇者「……」

友「俺は、あの時生きていたんだ」

勇者「いいや、生かされていたんだ。奴はお前の脳を必要としていただけだ」

友「物は言い様だね。俺は生かしてもらってたんだ。俺の脳を必要としてくれるから」

勇者「友!」

友「ほら、見てみればわかるよ」

ズリュ… ズリュ…

勇者「おい、それ……」

友「今だってそうだ。ご主人様は、俺を必要としているだけなんだ。わかるかい、勇者」

勇者「っ!」

――――――

男「うああああぁぁぁぁあぁあああっ!」サッ

――――――

勇者「友を返せええぇぇえええええっ!!」チャキッ

――――――

「――“カイ”!」


68VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 02:26:58.942FSGK+/b0 (8/14)

男「!」ピタッ
勇者「!」ピタッ

錬金師「……」

男「これはどういう事だ……」

勇者「何で俺が錬金師さんに剣を……」

錬金師「良いから、二人とも武器を下ろしてくれないか」

男「あ、はい」

勇者「すみません」

幻術師「惜しいところまでいったのだがな。このくらいの幻覚は容易に解けるようになったか」

錬金師「三十六年も経つんだ。そのくらい出来なくて何が大魔法使いだ」

幻術師「成る程。私は少しお前を見くびりすぎていたようだ」

男「さっきのが、幻覚だと?」

錬金師「ああ。何を奴が何を見せたかは知らないが、二人が俺を殺すようにし向けた幻覚だ」

男「こっちの記憶が夢みたいに思えたくらいだったぞ……」

勇者「友の事を知っているとでも言うのか……!?」

錬金師「単純な幻覚だ。記憶のどこかにある恐怖を見せたのだろう。奴が知らない事も幻覚で見せる事が出来る」

錬金師「それがさっきの幻覚魔法だ」


69VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 02:40:49.002FSGK+/b0 (9/14)

幻術師「よくわかっているな」

錬金師「二度も見せられて理解出来ない方がおかしい」

幻術師「お前が見た恐怖とは、一体何だったのだ?」

錬金師「言うと思うか?」

幻術師「いや、言わないだろうな」

勇者「錬金師さんは、あんな強力な魔法に対抗する術があるのですか?」

錬金師「……ない事もない」

錬金師「しかし、これは諸刃の剣なんだ。出来れば使いたくはなかったが……奴の幻覚を解くのに時間が掛かった。やむを得まい」

錬金師「二人に、これを持っておいて欲しいんだ」

男「……これは?」

錬金師「解毒剤だ。今から出来るだけ遠く――この祠の広場が見えなくなるくらいで良い。遠くまで離れてくれ」

錬金師「その間に、俺は奴を倒す。暫くは俺の魔法で辺りに轟音が響くだろうから、それが鳴り終わったらもう一度ここへ来てくれ」

錬金師「ここに来たら、俺にその解毒剤を素早く飲ませるんだ。良いな?」

勇者「俺達も手伝います!」

男「あれ程危険な相手に一人じゃ厳しいですよ」

錬金師「率直に言う。足手纏いだ。わかったら、早く言う通りにしてくれ」

勇者「……そうですか。では男さん、錬金師さんを信じるとしようじゃないか」

男「……」

男「ああ、わかった」


70VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 04:08:52.732FSGK+/b0 (10/14)

幻術師「良いのか? 三対一なら私にも勝てるかもしれないだろうに」

錬金師「足手纏いと言うのは本音だ。先程のように操られるのがオチだ」

幻術師「では先程のように解いてやればいいではないか」

錬金師「あれは小手調べであるのは知っている」

幻術師「利口だな。それでもお前はやっとの思いで解いたようにも思えたが? えー……あれは何だったか。最近の魔法使いがよくやる……」

錬金師「短縮詠唱」

幻術師「そう、その劣化詠唱で精一杯だったな。それを理解した上でこの状況を作ったのだろうな」

幻術師「お前は本当に賢いのか阿呆なのか」

錬金師「劣化かどうかは使い手による」

幻術師「お前ならば、上手く使えるとでも? 弟子には教えていなかったはずだが」

錬金師「やってみればわかる」

錬金師「さて、始めるとしようか」キュポッ ゴクゴク…

幻術師「魔力を高める液薬か何かか? そのようなもの、私の幻覚の前では無意味だ」

錬金師「それもやってみればわかる。四十秒で終わらせるがな」


71VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 04:24:33.962FSGK+/b0 (11/14)

錬金師「“セクタ”! “ブレフィ”! “ブレフィ”!」

幻術師「っ!」

幻術師「……ハッ、どうやら何も起こっていないようだが」

錬金師「強化魔法というものくらい知っているだろう。教えてやる。今のは索敵魔法、そしてそれを二重に強化した」

幻術師「自らの感覚を鋭くしたわけだな」

錬金師「良いハンデではないか?」

幻術師「姑息な真似を……良いだろう。自ら枷を付けた事を後悔させてくれる!」


男「はぁ……はぁ……このくらいで良いか?」

勇者「ああ、多分。しかし解毒剤って、何のだろうか」

男「それよりも、本当に大丈夫だろうか」

ズガババドドガッガガガッ!!!!

男「何の音だ!?」

勇者「始まったんだ。錬金師さんと幻術師の戦いが」

勇者「色んな魔法の音が混ざり合ってる……錬金師さんは本気だ」

男「だが、二人分の魔法でここまで複雑な騒音なんて……」

勇者「錬金師さんが大魔法使いの称号を得た理由は何だと思う?」

男「膨大な魔力じゃないのか?」

勇者「それもある。しかし、要となったのは短縮詠唱の才とも言われてるんだ」

男「……何?」


72VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 04:42:12.962FSGK+/b0 (12/14)

男「でも、錬金師さんは錬金弟子さんに短縮詠唱を教えてないじゃないか」

勇者「そこは少し疑問に思った。もしかしたら、短縮詠唱を知り尽くした故の方針かもしれない」

勇者「それでも確かに、錬金師さんの短縮詠唱は普通じゃないんだ」

男「と、言うと?」

勇者「普通短縮詠唱の短縮詩篇を決める際に、詩篇を想起しやすい言葉を詩篇から抜粋するか分かりやすい――例えば魔法名を使うんだ」

勇者「そしてそれは日常で頻繁に使わない言葉でなければならない。でなければ、うっかりその言葉を言った時に魔法が発動するかもしれないからな」

男「つまり……短縮詠唱のキーワードはその言葉を口に出すだけで、勝手に頭の中で詩篇を思い出してしまうようになってるって事だな」

勇者「そうだ。だが、錬金師さんはそうじゃないんだ。無意味な言葉の羅列、一音、二音だけの詠唱詩篇を用いて多くの魔法を短縮詠唱出来んだ」

勇者「それでも、日常でその言葉を使っても魔法は発動しない。日常的に、凄まじい精神力を使っているんだよ」


錬金師「“カ”“ライ”“ミ”“カラ”“サ”“ザ”“ナ”“ミ”!」ドンガラガガガガドドバーンッ!

幻術師「“――”!」ブツブツ ザザザッ

錬金師「!? “カイ”!」

幻術師「はぁ……はぁ……」

錬金師「がふっ……ぜぇ……」

幻術師「随分な連撃をしてくるようだが、私の詠唱は止められんぞ。瀕死の状態でも詠唱くらい出来るからな」

錬金師「がはっ……はぁ……」

幻術師「私は幻覚魔法を当てているだけなのに、お前が何故か瀕死ではないか。無理もない。私の幻覚は痛覚まで支配する」


73VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 05:02:46.182FSGK+/b0 (13/14)

錬金師「何を、勘違いしている」

幻術師「ここに来てまだ強がるか! 見上げたものだ」

錬金師「有頂天になっている所悪いが、もはやお前の魔法など解くのも容易くなってきたんだ」

錬金師「暖房薬を飲んでいるにもかかわらず、身体は騙せないようだ。寒さで薬の効き目が悪い。もうすぐ四十秒経ってしまうな。残念だ」

幻術師「薬、だと?」

錬金師「もはや俺の勝利が見えた。だから教えてやろう。俺が飲んだのは強力な毒薬だ」

幻術師「気でも違えたか。負けて私に従うよりも、死を選ぶというのか」

錬金師「どちらも違うな。この毒薬はお前を倒すために特別に調合したもので、飲むと徐々に全身の感覚が麻痺していくんだ。勿論、感覚は麻痺しているが、身体の機能は暫く動くようにしてある」

錬金師「さっきから幻覚を解く早さが上がっているのに気付かなかったか?」

幻術師「まさか……!」

錬金師「そうだ。もはや手足の感覚はない。今、味覚もなくなった。おや? 腹に服が擦れる感覚が失せたな」

幻術師「……は、ははっ、成る程! 考えたものだ。幻覚を知るための感覚をなくすとは!」

幻術師「だが、やはりそれは自殺行為でしかないのはわからぬのか」

錬金師「どうしてだ?」

幻術師「何も感じなければ結局動けまい。私が何もしなくとも死ぬ。わざわざ私が殺す場合も、あまりにも容易だ。目も見えないし、耳も聞こえないのだからな!」

錬金師「では耳の聞こえない今、どうしてお前と会話出来てると思う?」

幻術師「……何だと?」

錬金師「感覚に障害を負った人は別の感覚が鋭くなっている例は多々ある。俺もそれに習って、感覚をなくす事によりある感覚を鋭くしているんだ」

幻術師「では最初の索敵魔法は……」

錬金師「そうだ。全ては感覚を鋭くするためだ。そして最後の感覚――目が見えなくなった今、幻覚を催す感覚は全て消えた」

錬金師「これで俺が頼りに出来る感覚は一つだけとなった。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のいずれでもない感覚……直感だ」


74VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/20(土) 05:06:49.752FSGK+/b0 (14/14)

一気にこの章を終わらせるつもりだったけど、眠くなってきたので寝ます。
べ、別に書いてくれって土下座されても寝るんだからねっ!

まぁ、起きたらまた書く。と思う。


75VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/20(土) 06:28:36.30cgpLc+9SO (1/1)

書いてくれorz


76VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/20(土) 07:16:05.45VgE0z7oDO (1/1)

リハビリだと渡された携帯に偶然残ってた。
こうなる前には読んでいたのかな?
記憶も無くなったし全く覚えていないわ


77VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/23(火) 05:10:31.96dcZnJChP0 (1/1)

>>1です。起きたら書くと言ったけど、また暫く書けそうにありません。
すみませんすみません!
サークル誌の〆切が迫っているもので……そちらを先に終わらせなくては。
出来るだけ早く終わらせて、こちらの更新に向かいますから!


78VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/08/24(水) 23:44:43.91UnLZ2QqAO (1/1)

睡魔仕事すんな


79VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/09/12(月) 00:17:01.39ZQBQSdxyo (1/1)

まだかね


80VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/09/30(金) 03:05:21.07w3/t4txA0 (1/3)

お、はよ……ござま、す……!

皆さん、お久しぶり。
サークル誌の〆切から一ヶ月。漸く自由に書ける時間が出来ました。
この場を借りて編集係である代表様に謝罪とお礼を。
すみませんでした。そして、待ってくれてありがとうございます。

編集係「何で一ヶ月も遅れるの? そんなに書くの遅いはずないよね?」
俺「勿論です。睡眠時間削っていれば二十日は早く書けたはずです」
編集係「じゃあ削れば」
俺「いや、無理」

とか言うやり取りで苛立たせたりしましたが、
とりあえず、漸くこちらを進められます。


81VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/09/30(金) 03:22:22.29w3/t4txA0 (2/3)

チュババーンッ!!!!

男「……」

勇者「……音が、止んだ?」

男「終わった、のか? 勇者さん、行ってみよう」


男「何だ!? 何も見えないじゃないか」ザッザッザッ

勇者「男さん、ちょっと待て」ザザッ

男「?」

勇者「あそこに人影が……」

シュゥゥゥウウウ…
   ゥゥウゥウウ…

勇者「……あれは」

男「錬金師さんだ!」

錬金師「……」

勇者「錬金師さん! 勝ったのですね!」

錬金師「勇者さんと男さんか……! 早く、解毒剤を!」

男「分かりました。今、解毒ざ……!」

勇者「錬金師さん……その姿は……、身体中から血を流して……!?」

錬金師「早く!」

男「は、はい!」


82VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/09/30(金) 03:49:35.53w3/t4txA0 (3/3)

錬金師「……はぁ、間に合ったか」

勇者「れ、錬金師さん、幻術師は?」

錬金師「大丈夫だ。あいつの気配は完全に消えた。もう現れる事もないだろう」

男「錬金師さんでさえこれ程苦戦する相手だったとは……」

錬金師「そうでもない。幻覚魔法を封じた後は、かなり呆気なかった」

男「でも、その血は?」

錬金師「これは俺が飲んだ毒の副作用みたいなものだ」

錬金師「いや、本来の効果と言うべきか」

男「毒、ですか?」

錬金師「ああ。幻術師に勝つには幻覚魔法を封じる必要があったんだ」

錬金師「そのために、自身の感覚を完全に麻痺させ、幻覚を通らなくする手段を俺は選んだ」

錬金師「あらゆる感覚に麻痺させ、全身を破壊する。俺が飲んだのは、そういう猛毒なんだ」

錬金師「無論、解毒剤を飲まなければ死に至る」

勇者「大丈夫なのですか?」

錬金師「解毒剤を飲めばすぐに毒の進行は止まるが、すぐには回復しない。暫くは麻痺したままだ」

錬金師「麻痺が解けていけば身体中のあまりの痛みに死に至るとも聞くが……俺ならば大丈夫だろう。はっはっは!」


83VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/30(金) 07:55:38.25+HqfC7MSO (1/1)



二つの意味で


84VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/30(金) 15:08:00.05WR28H8Rto (1/1)

ひさしぶりおつ
スレ落ちが3ヶ月から2ヶ月に変わるみたいだから覚えといてね



85VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/02(日) 00:34:35.824y+ZRMgi0 (1/5)

おはよう。眠くなるまで書くよ!

>>84
まじで!?
まあ俺が頑張れば良いだけなんだろ?

ぜ、善処……しまひゅ……


86VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/02(日) 00:55:06.494y+ZRMgi0 (2/5)

勇者「視界が、晴れてきたな……」

錬金師「ところで」

勇者「何ですか?」

錬金師「錬金弟子を置いていっただろう」

勇者「あ……」
男「そういえば……」

錬金師「少しは気を利かせてもらいたかったな。幻覚の犠牲にならないから、問題ではないのだが」

勇者「すみません」
男「すいません……」

錬金師「まぁ、その事はもう良い。この祠の下の方、見えるか?」

勇者「祠の下、ですか?」

男「……これは!」

勇者「幻術師……いや、さっき死んだような姿じゃない……」

錬金師「大魔法使いは亡霊となって祟る、とはよく言ったものだ。こいつがまさしくそうなんだ」

男「しかし、さっきまで戦っていたじゃないですか!」

錬金師「封印されたからと言って、人の身体が悠久の時を過ごせるはずがない。そもそも食糧がないから餓死するのが当然だ」

錬金師「いや、この場所では凍死が早いか?」

錬金師「何にせよ、幻術師の身体がとっくの昔に死んでいたんだ。本当は、奴自身死んだ事に気付いていなかったのかもしれないな」


87VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/02(日) 01:07:31.264y+ZRMgi0 (3/5)

錬金師「さて、全ては終わった。帰るぞ」

錬金師「勇者さんは賢者の石と月の雫、それと氷の結晶を拾ってくれ」

勇者「え、でも幻術師復活に使ってしまったのでは……」

錬金師「何を言っている。魔石の魔力は半永久的だ。でなければ、魔法使いはみんな自分の魔石を変えなくてはならないだろ?」

勇者「あぁ、成る程」

錬金師「男さんは錬金弟子を運んでくれ」

男「わかりました」

勇者「! 男さん、その役割変わるぞ」

男「だが――」

勇者「大丈夫だ。これでも力には自信があってだな」

錬金師「悪いが、男さんがやってくれ。俺の直感が、男さんに運ばせた方が安心だと言っている」

男「?」

勇者「わ、わかりました……」


88VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/02(日) 01:27:07.934y+ZRMgi0 (4/5)

(半日後)

勇者「はぁ……はぁ……」ザッザッザッ

男「ぜぇ……ぜぇ……」ザッザッザッ

勇者「苦しそうだな。変わろうか」

錬金師「邪念を感じるぞ」

勇者「ぐっ……」

男「ははっ……まだ大丈夫だ。今どのくらい歩いた?」

勇者「どうだろう。辺り一面森だからよくわからないな」

錬金師「大体半分くらいだろう。もう一踏ん張りだ」

男「後半分って……」

勇者「そう言えば、錬金弟子さん、中々目が覚めないが大丈夫なのか?」

男「命の危険はない、はずだ」

勇者「はずって……」

錬金師「息をしているから大丈夫だ。心臓も……ぐふっ!?」ドサッ

男「!」

勇者「錬金師さん!」


89VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/02(日) 01:46:14.194y+ZRMgi0 (5/5)

男「大丈夫ですか!?」

錬金師「うっ……ぐぐ……くあぁっ……」

勇者「錬金師さん! しっかりしてください!」

錬金師「だ、大丈夫……くふっ……だ。解毒剤の効果……がはっ……ようや……出てき……」

男「解毒剤の効果……まさか!」

勇者「麻痺していた全身の感覚が戻ってきたって事か!」

錬金師「ふっ……ぐふっ……」コクリ

男「全身の細胞が破壊されていたのだったら、痛みは凄まじいはず」

勇者「ど、どうすれば……!」オロオロ

錬金師「俺の……っ……体も運んで……く……」ヨロッ

ドサッ

勇者「錬金師さん!」

錬金師「っ……ふっ……」

男「息はしている。大丈夫みたいだ」

勇者「そうか。よし、行けるところまで行くぞ」

男「ああ」


90VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/05(水) 02:02:41.12gO7dlzjto (1/1)

ふと思ったがホットドリンクを飲まないで行ったら凍えて感覚無くなって
毒なんか飲まないでもなんとか・・・・・・寒いと幻覚見えてくるし無理か


91VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/10/05(水) 03:53:20.51XIp1GTeyo (1/1)

そんなレベルじゃないだろ


92VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/10/07(金) 17:43:42.30fsfDEoRHo (1/1)

乙です


93VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/14(金) 04:14:28.61UQmNXrH40 (1/4)

(数時間後)

錬金弟子「……ん」

ザッザッザ…

錬金弟子「ここ……は……?」

ザッザッザ
  ザッザッザッザッ…

男「はっ、はっ、はっ、はっ」ザッザッザッ

錬金弟子「兄さ……? いえ、男さん?」

男「ああ、やっと起きたのか」

錬金弟子「ここは、どこですか?」

男「まだ凍結の森の中だ。勇者さん、錬金弟子さんが起きたぞ!」

勇者「本当か!?」

錬金弟子「勇者さんもいるん……っ!?」

錬金師「……」

錬金弟子「し、師匠まで! 降ろしてください! 兄さんは、兄さんはどうしたんですか!?」

男「ちなみに言っておくが――」

錬金弟子「まさか……また兄さんを殺したんですね……!」

男「ちょっ、話をちゃんと聞いてくべはっ!?」ゲシッ

勇者「男さん!」

錬金弟子「男さんも勇者さんも、師匠の味方をするんですね……。もう何も信じられません!」ザザッ

勇者「止まれ!」


94VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/14(金) 04:29:48.18UQmNXrH40 (2/4)

錬金弟子「!?」ピタ

勇者「そうだ。変な動きをしたら、電撃魔法を食らわせるからな」

勇者「とりあえず、こっちを向いてくれるかな?」

錬金弟子「……」クルッ

勇者「確かに、俺達は錬金師さんを味方している」

錬金弟子「やっぱ――!」

勇者「黙って聞け!」

錬金弟子「っ」ビクッ

勇者「でもな、錬金弟子さん、この錬金師さんの姿を見てくれ」

錬金師「……」

錬金弟子「それがどうし……えっ、なんでそんなに傷だらけで……」

勇者「意識を失う前に、錬金師さんから聞いた話なんだけど」

勇者「戦う時に、猛毒を飲んだらしいんだ。身体中を傷だらけにして、感覚全てを殺して。そうでなければ、勝てない相手だったと言うんだ」

勇者「一歩間違えていれば死んでいたはずだ。それ程までに守りたかったものは、何だったと思う?」

錬金弟子「それは……兄さんの存在を消したかったからで……」

勇者「違うな。俺も戦場に立った事のある人間だから、理解出来る。と思う」

勇者「死の可能性が高いなら、勝利よりも命を守るんだ。それでも戦うと言う事は、命よりも守りたいものがあるって事なんだよ」

錬金弟子「……」

勇者「それは誇りだったり、金だったり。時にはスリルを求める人だっている。でも、錬金師さんの場合は――」

勇者「あなただよ。他でもない、あなたと言う愛弟子を守るために戦ったんだ」


95VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/14(金) 04:43:12.05UQmNXrH40 (3/4)

錬金弟子「で、でも……」

勇者「俺達だって、全てがわかっているわけじゃない」

勇者「分かる事と言えば――」

勇者「錬金弟子さんは幻術師と言う幻の祠に封印されていた魔法使いによって幻覚を見せられて洗脳させられた事」

勇者「幻術師が自分を錬金兄弟子だと錬金弟子さんに幻覚を見せ、誤認させていた事。そしてそれを利用した事」

勇者「あなたに関する事で言えば、このくらいだ」

錬金弟子「……」

勇者「勿論、納得しろなんて言わない。でも、信用してくれればそれで良いんだ」

勇者「俺と男さんと、そして何より錬金師さんを」

錬金弟子「……」

錬金弟子「……分かりました。今回の件は、ゆっくりと整理付けた方が良いかもしれませんね」

錬金弟子「師匠が目覚めた後で」

勇者「ああ、それが良い」ニッ

男「勇者さん……」

勇者「ん? どうした?」

男「人に説教するなんて勇者らしい事を……!」

勇者「いや、俺勇者なんだけど!?」

男「え」
錬金弟子「え」

勇者「錬金弟子さんまで……」

男「そう言えば勇者さんを見ていて、勇者って何だったかな、とかたまに思ってたから」

勇者「まぁ、何もなければボランティア同然だけどさ……」

男「ところで、錬金弟子さんは歩けるか? それとももう一度背負うべきか?」

錬金弟子「いえ、歩けますが……」

男「?」

錬金弟子「何だか、寒いです」


96VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/14(金) 04:57:27.95UQmNXrH40 (4/4)

男「寒い? 常に雪が降って常に雪が積もってるようなこの場所だぞ。当たり前なんじゃないか?」

勇者「いや、おかしい」

男「どうしてだ? 俺だって寒いが」

勇者「今までは寒かったか?」

男「いや、別にそういうわけではなかった……あっ、そうか!」

勇者「俺達は暖房薬を飲んで外に出た。それから一日と数時は過ぎている。長続きした方だ」

男「そうか。効果が切れてきたのか。確か予備も持ってきていたよな?」

勇者「ああ。俺と男さんの分は持ってきてある。錬金師さんのポケットの中にも一つあった」

男「じゃあ、それを飲んでおくか。勇者さんは錬金師さんにも飲ませておいてくれ」

男「錬金弟子さんも暖房薬を飲んでおくんだ」

錬金弟子「あー……そのー……」

男「?」

錬金弟子「予備持ってくるの忘れてしまいまして……」テヘヘ

勇者「えっ」

錬金弟子「ほら、研究小屋を出る時急いでましたから」

男「『ほら』で済みそうもない話だけどな。勇者さん、どうする?」

勇者「……」

男「後どのくらいだろうか」

勇者「早く着いたとしても、四時は……」

勇者「……」ブツブツ…

男「仕方ないか……。ここは――」

勇者「俺の分を錬金弟子さんにあげてくれ」


97VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/14(金) 07:47:51.13JJV+5Q2SO (1/1)

勇者マジイケメン


98VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/14(金) 19:51:19.37rGw0Kig7o (1/1)

空気嫁


99VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/10/21(金) 18:25:29.60HnF2GUgAO (1/1)

サキュバス「こっちへおいでなさいな」


100VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/23(日) 17:27:27.95MqvfT+XN0 (1/1)

素晴らしい
楽しみにしています。
体調には気をつけてほしいが更新がんばれ!
最後まで見るよ!


101VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/24(月) 23:29:58.67t4Owd23W0 (1/2)

おはよう皆様方。遅筆で有名な>>1だお。

体調は悪くありません。強いて言うなら人より少し寝過ぎてるだけで。
ただ、前々からツンツンしていたパソコンちゃんが、とうとう不良になってしまいました。
と言う事で、漸くパソコン専門店の開店時間に起きれたので、修理に出しています。
なので、今日は久しぶりにもしもしからもしもしするよー。


102VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/24(月) 23:46:38.02STOZXR6SO (1/1)

おれももしもしからもしもしするお


103VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/24(月) 23:50:08.37t4Owd23W0 (2/2)

男「!? 勇者さん、ここは俺が……!」

勇者「はぁ……そんな華奢な体をしてよく言うよ」

男「なっ」

勇者「俺の方が確実に体力はある」

男「だが、いくら体力があっても、この寒さには……」

錬金弟子「そうですよ。私が悪いんですから、私が」

勇者「二人とも──」

勇者「ここは勇者である俺を立ててくれないか?」

錬金弟子「勇者さん……」

男「……俺らが何を言っても聞く気はないみたいだな」

勇者「勿論だ。例え、言い争ってこのまま凍死してもね」

男「それじゃあ意味ないだろ、はははっ」

男「なら、お言葉に甘えようか。錬金弟子さん、早く暖房薬を飲んで行こう」

錬金弟子「で、でも……」

男「勇者さんがああ言っているんだ。良いんだよ。だがな、勇者さん」

勇者「何だ?」

男「錬金師さんは俺が背負って行く。お前は前を進む事だけを考えろ。良いな?」

勇者「……」

勇者「ああ、わかった」


104VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/25(火) 00:12:09.658Q7Qr+eZ0 (1/4)

勇者「……なんて息巻いたは良いが」

勇者「痛い……」

男「寒いじゃないのか?」

勇者「何と言うか、寒いとか通り越して冷たくて痛いんだ」

錬金弟子「すみません……」

男「確かに吹雪いてきたからかなり寒そうだが、それ程とは」

男「暖房薬の効果もそうだが、凄いのはこの森だ。この寒さでよく立っていられるものだな」

錬金弟子「実はこの森の木々はみんな死んでるんですよ」

勇者「そうなのか? こんな青々としてるのに」

錬金弟子「生きていた当時の姿で凍っているだけなんです。腐る暇さえ、この場所にはありませんから」

勇者「それは……凄まじいな……」

男「穴を掘って進めば、腐るくらいには温度が上がるかもしれないな」

錬金弟子「男さん、それ、冗談になってません」

男「あ……いや、すまん」

勇者「しかし凄いよな。錬金弟子さん達はこんな所ですんでるんだろ?」

錬金弟子「研究小屋のお陰ですね。普通、ここは生き物が住める所ではありませんから」


105VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/25(火) 00:29:25.648Q7Qr+eZ0 (2/4)

男「確かに、ずっと生き物らしいものは見かけないな。熊くらいいても良いと思ってたんだが」

勇者「暖房薬があったから気付かなかったんだ」

男「ああ」

勇者〔ところで〕

魔剣〔?〕

勇者〔あれから何時くらい歩いたかな?〕

魔剣〔一時程度だが。どうして我に聞くのだ?〕

勇者〔そうか。そんなに歩いたのか〕

勇者〔いやさ、何と言うか……もう無理かもしれない〕ドサッ

男「!!」
錬金弟子「勇者さん!!」

魔剣〔……〕

魔剣〔成る程、そう言う事か〕

魔剣〔いや、初めからこうなる事を予想していたのかもしれんな〕

魔剣〔全く……勇者、キミは本当に仕方のない奴だ〕


106VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/25(火) 00:51:17.668Q7Qr+eZ0 (3/4)

錬金弟子「勇者さん! しっかりしてください、勇者さん!」

男「寝るな! おい、寝たら死ぬぞ!」ゲシゲシ

錬金弟子「ちょっ、いくならんでも蹴るのは……」

男「腕が塞がれているんだ。勇者さんも許してくれるだろう」ゲシゲシ

錬金弟子「でも……このままだと勇者さんは……」

勇者「……!」ムクリ

錬金弟子「勇者さん、大丈夫ですか!?」

男「まだ歩けそうか?」

勇者「……寒っ」

男「は?」
錬金弟子「えっ」

勇者「勇者の身体は我が引き受けた」

錬金弟子「え? えっ?」

男「まさか、英雄王さんか?」

勇者「いかにも。勇者が軟弱なあまり任されて来た」

男「成る程」

錬金弟子「ちょっ、待ってください! 私は置いてけぼりですか!?」


107VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2011/10/25(火) 01:02:05.288Q7Qr+eZ0 (4/4)

すみません……やっぱりもしもしで書くのつらいです。

半角仮名が何故か出ないし“ダッシュ(なぜか変換できない)” だし。
前作で使ってたもしもしと変えたのが間違いだったんだな、うん。

そういうわけだから、勝手ながら寝るよ。


108VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/25(火) 01:05:05.07/VYe/ySSO (1/1)




109VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/10/25(火) 13:35:31.18wGCM0nsQo (1/1)

この森は何時生きていたんだろう?


110VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/10/28(金) 00:35:44.51hnajcerWo (1/1)

いつの間にかすんげえ更新されとる


111VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(高知県)2011/11/05(土) 03:14:47.22d8lg0Foc0 (1/6)

さて皆様、おはようごzzz...


112VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(大阪府)2011/11/05(土) 03:17:39.422vraPBXlo (1/1)

サキュバス「>>1ならわたしの横で寝てるわよ」


113VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(高知県)2011/11/05(土) 03:24:40.80d8lg0Foc0 (2/6)

錬金弟子「へぇ、勇者さんには別の人格があるんですか」ザッザッザッ

勇者「いかにも。正確には私が普段この剣に宿っているだけなのだがな」ザッザッ

錬金弟子「これが亜法の力なんですね。驚きです」

男「俺もいずれはじっくり触らせてもらいたいものだな」

勇者「キミは変態か?」

男「どうしてそうなる!?」

勇者「剣をなで回す事は、もはや我が身体をなで回すと同様だ」

男「残念ながらそんな性癖はないぞ、英雄王さん」

勇者「ほう。まぁ良いがな」

勇者「我としては、人になで回されるなぞ気持ち悪くてかなわん。勇者には後々死ぬまで手放さぬよう言い聞かせておこう」

男「……それは残念だ」

錬金弟子「フられちゃいましたねー」クスクス

男「剣にフられようと悔しくないな」

勇者「そう言ってやるな。なれば、我に振り回されている勇者など極めて悲しき存在ではないか?」

男「いや、羨ましいね」

錬金弟子「同感です」

勇者「……あれ?」


114VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(高知県)2011/11/05(土) 03:58:20.92d8lg0Foc0 (3/6)

男「それにしても」

勇者「?」

男「英雄王さんがいると勇者さんも心強そうだな」

勇者「どうしてだ?」

男「勇者さんがすぐ倒れたこの寒さにもかかわらず、あなたは平然としている」

男「もしかしたら、あなたがいれば無敵なのではないか、とか思ったりもしてるんだ」

錬金弟子「そう言えば、全然寒くなさそうですね。魔法か何か使っているんですか?」

勇者「いや、魔法など使っておらん。人よりも少し精神を鍛えているだけだ」

勇者「でなければ、この身――いや、生前の身を柱に大陸を統一できはしなかったからな」

勇者「事実、この勇者の身体は限界に近い」

錬金弟子「えっ!? でも今だって平然と歩いているじゃないですか」

勇者「我のような者でこそなせる業、なのかもしれんな」

勇者「自慢ではないが、我が生きていた頃は、槍の五本や六本貫いていようとも平然と戦って見せた事さえあるのだ」

錬金弟子「え……」

男「化け物だろ、それ……」

勇者「ふっ、よく言われた」

勇者「だが、身体の状態がわからぬ程愚かではない」

勇者「こやつ、小屋に着くまでに何とかせねば、確実に凍傷を起こすぞ」


115VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(高知県)2011/11/05(土) 04:13:59.61d8lg0Foc0 (4/6)

男「なんだって!?」

錬金弟子「じゃ、じゃあ、早く急がなければ……!」

男「錬金弟子さん落ち着いて!」

勇者「ちなみに、今からずっと走って行った事を想定しても凍傷になる」

勇者「精々数十分と言ったところであろうな」

男「魔法では治せないのか?」

勇者「我の時代では不可能ではあったが……」

錬金弟子「治癒魔法の類いであれば、教会の高僧なら」

錬金弟子「でも、凍傷まで治せるかどうかは……大陸では極めて少ない事例ですし」

勇者「火炎魔法の類いでは、下手をすると燃える可能性もあるが、あるいは」

錬金弟子「私の魔法精度があればどうにかなる、と思いますが……」

男「火炎魔法……そうだ!」

勇者「どうした?」

男「フィーレは元々熱を操るものだ。錬金弟子さん、火ではなく熱だけを出すことは出来ますか?」

錬金弟子「不可能ですね。そのような魔法の詩篇は存在しませんので」

男「そうか……」


116VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(高知県)2011/11/05(土) 04:24:13.86d8lg0Foc0 (5/6)

勇者「ふむ……」

勇者「では、やってくれ」

錬金弟子「火炎魔法、ですか?」

勇者「うむ。だが、注文がある」

錬金弟子「何です?」

勇者「炎で包まれれば瞬時に空気がなくなるだろう。かと言って小さき炎であれば火の当たらぬ場所で凍傷を起こす」

勇者「ある程度の大きさを持つ炎を全身に熱が回るよう移動もさせてほしい」

錬金弟子「……はい?」

勇者「だから――」

錬金弟子「いえ、意味は理解しています。ただ、そのような事を歩きながらしろと言うのは……」

勇者「無理な注文だったか?」

錬金弟子「何とか……やってみましょう」

錬金弟子「“――”」ブツブツ

ガササッ

勇者「何者っ!」ザッ

錬金弟子「あっ、動かないでください!」ゴォッ

勇者「熱っ!?」ジュッ


117VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(高知県)2011/11/05(土) 04:40:12.15d8lg0Foc0 (6/6)

錬金弟子「大丈夫ですか!? 腕、火傷とかしてませんか?」

勇者「幸い衣服が一部燃えただけだ。問題はない」

勇者「だが、先程の物音――」

男「あれ、盗賊じゃないか」

盗賊「おう。迎えに来たぜ。どうやら無事に事は済んだみてぇだな」

盗賊「で、何やってたんだてめぇらは?」

錬金弟子「い、いえ、魔法で身体を暖めようとしたら」

盗賊「じゃあ勇者が暖房薬切れか。ほらよ」ポイッ

勇者「これは、暖房薬か?」

盗賊「ああ。凍傷にはなってねぇか?」

勇者「まだ大丈夫だ。助かった」

盗賊「じゃあ間に合ったってぇわけか」

男「準備が良いな」

盗賊「まぁな。予想以上にボロボロになってるそこの錬金師に頼まれてたんだ」

盗賊「『錬金弟子は暖房薬の予備を持って行かなかった。だとすれば、帰路では寒さに凍える人は一人は出るはずだ』ってな」

錬金弟子「師匠……」

男「ところで盗賊」

盗賊「何だ?」

男「なんで木の上にいるんだ?」

盗賊「枝伝いの方が足が雪に埋もれなくて済むだろうが」


118VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/05(土) 07:37:39.72kdtc8VZSO (1/1)

ああ超万能盗賊か
忘れてた


119VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/05(土) 09:40:18.67LTYcKIIIO (1/1)

便利キャラ盗賊
大人の都合キャラ盗賊

あとあと実はどっかの末裔とか混血とか同じく異世界人とか魔法や超能力など使えたりとかしないよな


120VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/05(土) 21:52:44.75YzyDbFuYo (1/1)

盗賊が一番魅力的


121VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(高知県)2011/11/10(木) 05:39:56.85MpMKe0J20 (1/4)

>>119
どうしてわかっtt



なんて展開はないよ。便利キャラは否定できないけど、スペック以上の事は出来ないし。


122VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(高知県)2011/11/10(木) 05:58:52.37MpMKe0J20 (2/4)

(数時間後)
――錬金師の研究小屋

男「やっと戻ってきたか」

盗賊「一日くらいしか経ってねぇんだがな」

男「いや、随分長い感じがしたよ。一年くらいはあった気分だ」

盗賊「はははっ、そりゃ大袈裟だ!」

錬金弟子「……本当にすいませんでした。みなさんにも迷惑をかけてしまって」

勇者「全くだ」

男「まぁ、俺らがあの亜法具を持ってきたのが運の尽きだったな」

盗賊「いいじゃねぇか、英雄王。賢者の石は貰えるんだからよ」

男「それにどうやら量産も出来るみたいだからな。するかどうかは錬金師さんの判断に任せるつもりだが」

男「ところで、錬金師さんを早く安静にさせたいんだが」

錬金弟子「わかりました。寝室へ案内します」

勇者「出来れば勇者が目覚めるまでこの身体も休めさせておきたいのだが」

盗賊「今剣士と狂人とで客間を使わせてもらってるが、暫く使って良いか?」

錬金弟子「あ、はい。構いませんよ」

盗賊「じゃあ英雄王は俺が連れて行く」

盗賊「後、てめぇもしっかり休んでおけ。見るからに疲労してるじゃねえか。俺達がいる間の食事は任せてもらおう」

錬金弟子「えっ、でも……」

盗賊「大丈夫だ。食料庫の場所も教えてもらってるからな」


123VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(高知県)2011/11/10(木) 06:16:28.73MpMKe0J20 (3/4)

剣士「で、何とか見つけて帰ってこれたようだな」

狂人「うぶふぁはぁっ」キシシシ

盗賊「ああ。気味悪ぃくらいだ。錬金師の野郎の筋書き通りみてぇに」

剣士「彼は転ばぬ先の杖を用意したに過ぎない。念入りにな」

剣士「錬金弟子さんが暖房薬の予備を持っていない事に対して自分で用意しなかったのも、戦いの激化を危惧したものだと言っていたし」

盗賊「自分の予備が壊れてねぇ分、案外楽勝だったみてぇだがな」

剣士「全身ボロボロの状態で男さんに背負われていたと言ったじゃないか」

盗賊「毒を使わなければ惨敗、使えば圧勝。だろ?」

剣士「私に聞くな」

剣士「……英雄王、聞いているか?」

勇者「……」

剣士「聞いていないのか」

勇者「……なんだ」

剣士「特に用はない」

勇者「ふざけているのか?」

剣士「いや、そういうわけではないのだが」

勇者「?」

剣士「あなたがいてくれたから勇者様は助かったのかもしれない」

勇者「どのみち盗賊が来ていたから助かっただろう」

剣士「そういう事ではない。私は勇者様の仲間として礼を言いたいんだ。あなたの行動に」

剣士「そして、これからも勇者様を守って欲しい。私はあなたを信用する」

勇者「……」

勇者「……我も疲れた。意識を剣に戻させてもらう」


124VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)(高知県)2011/11/10(木) 06:43:13.16MpMKe0J20 (4/4)

男「……こんなもので良いか?」

錬金弟子「不器用ですね」

男「何を言うか。俺は科学者だ。精密機械をごまんと扱っている」

錬金弟子「精密機械……ですか?」

錬金弟子「それがどのようなものかはわかりませんが、私が言ってるのは包帯ですよ」

男「……わかってるよ」

錬金弟子「まぁ、そんなもので良いでしょう」

錬金弟子「では男さんも休んでください。客間に案内しますので」

男「ああ」

男「……ちょっと良いかな?」

錬金弟子「なんです?」

男「錬金兄弟子さんの事なんだけど」

錬金弟子「……」

男「俺が……いや、誰から見ても錬金弟子さんの執着はただ事ならないものだった」

男「どうしてか、聞いても良いかな?」

錬金弟子「そんな事を聞いてどうするつもりですか?」

男「ちょっとした好奇心だよ。別に答えなくても――」

錬金弟子「大した事じゃないんです」

錬金弟子「私達はこんな辺鄙なところで過ごしてきました。だから、関わりと言えば師匠と兄さんくらいのものだったんです」

錬金弟子「ただ、家族みたいなものなんですよ。私にとっては。それに――」

男「……」

錬金弟子「兄さんは私にとても優しく接してくれたんです。いつでも。私はそんな兄さんが大好きだった」

錬金弟子「本当に、それだけなんですよ」ニコリ


125VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(仮鯖です)2011/11/11(金) 00:24:11.052tQdrb9SO (1/1)

おやすみ


126VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/12(土) 21:50:44.57dprHzoZ1o (1/1)

そろそろ冬眠の時期か?
まだ早いよな?
起きて来るの待ってるぜ


127VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/11/16(水) 23:18:18.42wY1/f/OSO (1/1)

おつ!おやすみ


128VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(新潟・東北)2011/12/02(金) 23:19:12.54s8AGK0gAO (1/1)

目覚めよ…


129VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(高知県)2011/12/03(土) 01:56:46.50bTsHBmw00 (1/8)

>>126
少しその兆しはあるかも。毎日マジ眠い。
食事とノルマ分の仕事時間しか見つからない。

>>128
我が眠りを妨げるのは貴様か……?


起きたついでにちょっと書くよ!


130VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/12/03(土) 02:02:24.96YDxJUr2SO (1/2)

きたか


131VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(高知県)2011/12/03(土) 02:07:49.72bTsHBmw00 (2/8)

(二日後)
――錬金師の研究小屋、客間

剣士「この数字は?」

狂人「うにゃむいー」ゴロゴロ

剣士「狂人、この数字は何か言ってみろ」

狂人「べばあ」ダラダラ

盗賊「うおっ!? ……ったく、危ねぇな。ズボンによだれが付きそうだったじゃねぇか」

剣士「……おかしいな」

勇者「剣士もそろそろ諦めたらどうだ?」

剣士「勇者様も見ただろう!?」

勇者「それは昨日も聞いた。と言うか今朝も聞いた」

剣士「狂人は本当は賢い子なんだ、きっと!」

盗賊「何度も言うけどよ、それは魔力が開放された衝撃でおかしくなっただけなんだよ」

盗賊「おかしい奴がおかしくなると普通になるだろ?」

男「それもまたおかしな話だろうがな。何にせよ……ふんっ!」ゲシッ

狂人「あうぅっ!」

剣士「いきなり何をする!」

男「俺の国では、昔から壊れたものは斜め四十五度で殴れば直るんだよ」

狂人「うひゃっ! ぬしししっ」ヘラヘラ

男「それで直らないのだから、何をしても無駄だ」

勇者「男さん、その方法は本当なのか?」

男「俗説だよ」


132VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(高知県)2011/12/03(土) 02:23:15.00bTsHBmw00 (3/8)

狂人「~♪」ヘラヘラ ダバー

魔剣〔しかし、気がかりであるのも確かではあるな〕

勇者〔そりゃそうだ。そもそも何者かさえも知らない〕

勇者〔漏れ出ている膨大な魔力、モーネの遺跡に住み着いていた事……〕

勇者〔見ている分にはそうは思えないが、ただ者じゃない事は確かだ〕

魔剣〔先日の事もあろう。並の魔法使いでは出来ん芸当だ〕

勇者〔俺だって無理だよ〕

魔剣〔キミが並の魔法使いとでも?〕

勇者〔……〕

男「小腹が空いたな……」

盗賊「何か作るか? 幸いここにはまだ食料はあるみてぇだし」

男「んー……」

コンコン

錬金弟子「皆さん、いらっしゃいますか? 開けますね-」ガチャ

勇者「何か用ですか、錬金弟子さ――!」

男「あ……!」

剣士「もう動いても良かったのですか、錬金師さん?」

錬金師「ああ。漸く意識が戻った。あれから二日も経ったらしいな」


133VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(高知県)2011/12/03(土) 02:43:01.25bTsHBmw00 (4/8)

盗賊「全く、二度と起きねぇかと思ったぜ」

錬金師「盗賊さん、先日はよく俺達をここへ誘導してくれた。礼を言う」

錬金師「勿論、勇者さんと男さんにも感謝する。お陰で錬金弟子もこうして戻ってきてくれた」

勇者「錬金弟子さんとはしっかりと仲直り出来たのですか?」

錬金師「まだだ」

勇者「えっ」
剣士「えっ」
男「えっ」
盗賊「は?」

錬金師「勇者さん達がまだ残ってくれていると聞いてね。まずはこちらの要件を済ます事にした」

錬金師「その点は錬金弟子と意見が一致している。俺達の事は、その後で話し合うつもりだ」

錬金弟子「それでも納得出来なかったら、一人でも戦いますからね」

錬金師「それで、錬金弟子から聞いたのだが、賢者の石をどうすべきか相談したいのだったな」

勇者「はい。本当にこのまま持って行って良いのだろうかとも考えて」

錬金師「別にそのまま持って行ってもらっても構わなかったのだが……そうだな……」

錬金師「今付けているフィーレとエレックスのように、そのガントレットにはまるよう加工してやろう。代わりに付けると良い」

勇者「良いのですか?」

錬金師「そんな無骨な形の魔石を持ち歩くのは面倒だろう」

勇者「ありがとうございます」

錬金師「では今すぐ取りかかる。そうだな……夕食後までには終わるだろう。もう暫くくつろいでくれ」


134VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(高知県)2011/12/03(土) 02:53:21.55bTsHBmw00 (5/8)

勇者「……って、それだけなのか?」

錬金弟子「あはは……すみません。ああいう性格なんで」

男「時間があれば仕事か。研究者の鑑だな」

盗賊「だが、大丈夫なのか? 目覚めたところなんだぜ?」

剣士「それもそうだな。頼んでおいて言うのもおかしいが」

錬金弟子「大丈夫ですよ。さっきも一人で食事が出来てましたし」

錬金弟子「男さんならわかるんじゃないですか?」

男「わからないでもない」

剣士「はっきりしないな」

盗賊「とりあえず、俺達は何の心配もしなくて良いって事だな」

錬金弟子「その通りです。お客さんはくつろぐのが仕事ですよ」ニコニコ

盗賊「じゃあ俺は厨房に行ってくるぜ。今晩は回復祝いだ」ガチャ

狂人「たははは~」トテテ

盗賊「……剣士、狂人には来ないように言い聞かせておけ」バタン

狂人「たははぶっ!?」バンッ

錬金弟子「だ、大丈夫なんですか!?」

剣士「はは……まあな」

剣士「言い聞かせても無駄な事くらいわかっているだろうに」


135VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(高知県)2011/12/03(土) 03:09:16.34bTsHBmw00 (6/8)

勇者「そう言えば」

錬金弟子「?」

勇者「錬金弟子さん、これから錬金師さんとどうするつもりなんだ?」

錬金弟子「……」

勇者「戦う、なんて本気で思ってないよね?」

剣士「錬金弟子さんはまだ心を決めかねているはずだ、勇者様。つい数日前までの話なのだからな」

勇者「いや、俺はこの数日の錬金弟子さんを見ていて、そうは思わなかった」

男「どういう事だ?」

勇者「……」

錬金弟子「……」

勇者「本当は戦うなんて選択肢は捨ててるんじゃないか?」

錬金弟子「まぁ、そうですね。でも、なんでそう思ったんです?」

勇者「表情が柔らかいんですよ。まるで何もかも吹っ切れたかのような」

錬金弟子「そうですね。そうかもしれません」

錬金弟子「でも、困惑してるのも事実ですよ。今まで信じてきた事を平然とひっくり返されるのが目に見えるようで……いえ、目に見えて……」

錬金弟子「結構、怖いんですよ」

勇者「成る程……」

勇者「さて、俺は剣の鍛錬でもしに出るか」

剣士「聞きっぱなしか!?」

勇者「俺が何をしても空回りするだけだからな」ガチャ

勇者「でも、今持っている考えがきっと正しいものだと俺は思ってる」バタン

錬金弟子「……ありがとうございます」


136VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(高知県)2011/12/03(土) 03:18:18.45bTsHBmw00 (7/8)

錬金弟子「では、私もそろそろ失礼しますね」

剣士「ああ。こちらこそ色々とすまなかったな」

錬金弟子「いえいえ。では」ニコリ

ガチャ… バタン

剣士「……」
男「……」
狂人「くるぁぁあああ~」ゴーロゴロゴロゴロ

剣士「男さんはどうするつもりだ?」

男「そうだな……」

狂人「あああぁぁぁああ~」ゴロゴロコツンッ

男「……」

狂人「ひゃう?」キョトン

男「……」グ…ゲシッ

狂人「ぅぅううう~」ゴーロゴロゴロゴロ

剣士「狂人で遊ぶな」

男「いや、つい」

男「特にやる事もないから、書庫で本でも漁るとするよ」

剣士「そうか。私も狂人がいなければ剣の腕を磨きたいものだが」

男「はっはっはっ、それは残念だ。まぁ、剣士さんが面倒を見るって言ったんだから仕方ないな」

ガチャ… バタンッ

剣士「さて……」

剣士「今日も室内で素振りだな」


137VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)(高知県)2011/12/03(土) 03:21:39.72bTsHBmw00 (8/8)

今日はこのくらいで活動限界かな。
この先の話のプロットも整理しきれてないから、その辺りしっかり考えておく。

あーもう、うるさいな。今布団の中に行くから。


138VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)2011/12/03(土) 09:01:47.69YDxJUr2SO (2/2)

布団になにが……





139SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/13(火) 00:06:53.83jXJb5x8/o (1/1)

サキュバスたんもふもふ!


140SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/23(金) 22:39:30.794+RnKH3co (1/1)

クリスマスは起きてるだろさすがに


141SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/27(火) 02:38:45.274EKsXBOm0 (1/6)

メリークリスマス!

サンタ「このスレの読者に起きている>>1をプレゼントじゃ」

サンタ「数時間しか起きてられないから気をつけるのだぞ」


と言うか、残り改行回数が表示されてる!? なんて便利な!


142SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/27(火) 02:59:46.844EKsXBOm0 (2/6)

(夕食後)

勇者「では、俺達はそろそろ……」

勇者「錬金師さん錬金弟子さん、暫くの間色々とお世話になりました」

錬金弟子「いえいえ、私達の方がすごい迷惑かけてしまいましたし」

錬金師「その通りだ。もし俺達に借りを感じているならば、全て錬金弟子がかけた迷惑に対する詫びと思ってくれ」

錬金師「ところで、賢者の石の具合はどうだ?」

勇者「どうだと言われても……」グッパ グッパ

魔剣〔実に素晴らしい。このような調和のある魔力を感じた事があろうか〕

勇者〔……真面目に言ってるのか?〕

魔剣〔何!? 我が感性を愚弄する気か?〕

勇者「とても具合が良いそうです」

錬金師「そうか。伝聞調なのが気にかかるが、良しとしよう」

錬金師「男さん、あなたとはまた話をしたいと思っている」

男「俺もです。この数日間、本当に充実した情報が得られました」

男「俺の師匠と同じ感性でありながら、持っている土台の知識は違う。それだけで考え方も大きく違ってくる」

男「その点に関しても、個人的な面白味がありましたね」

錬金師「同感だ。男さんと錬金兄弟子も同様に」

男「また訪ねてきます」

男「……」

男「機会があれば」

錬金師「ああ……無理に来いとは言えない立地ではあるからな」


143SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/27(火) 03:14:41.694EKsXBOm0 (3/6)

錬金師「剣士さん」

剣士「……」

錬金師「……には特に言う事はないな。機会があればまた訪ねて来い。暇なら丁重にもてなす」

剣士「なんだこの差は……」

錬金師「つい先程までただの子守役と思い込んでいたくらいだ」

剣士「その認識は……あまりに酷いと思うのだが……」

錬金師「そう言うな。とりあえず耳を貸せ」

剣士「?」

錬金師「勇者さんはまだ若く大きな力を秘めている。これからも大きく成長するだろう」ボソボソ

錬金師「が、その若さ故に危うい。賢者の石を手にしてからはどうなるか俺とてわからん」コソコソ

錬金師「そんな彼を支える役目は、古くから彼を知るあなたより他にいない。しっかりと助けてやってくれ」モソモソ

剣士「承知した!」パァァッ

錬金師「まぁ、あなたも若いがな。はっはっはっ」

剣士「それもそうだな。だが任せろ!」ニコニコ

勇者「?」

錬金師「次に盗賊さん」

盗賊「お、おう」

錬金師「食事、美味かったぞ。錬金弟子とは比べものにならん」

錬金弟子「上には上がいるんですねー」

錬金師「職に困ればここにくると良い。家事雑用として雇ってやる」

盗賊「ハッ、余計なお世話だ」


144SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/27(火) 03:39:06.364EKsXBOm0 (4/6)

錬金師「さて……これからどうするつもりだ?」

勇者「白の国へ帰り、白国王様に結界の解除法を発見したと報告するつもりです」

錬金師「魔力を高精度で出力する事は出来たか?」

勇者「……いえ」

錬金師「そうか。残念ながら、俺からは何も助言出来ない。こればかりは鍛錬を積むしかないんだ」

勇者「錬金師さんが解除する事は出来ないんでしょうか」

錬金師「俺は先代魔王と繋がりを持っていた事は以前言っただろう」

錬金師「……あくまで中立的な立場なのだよ」

勇者「そうですか」

錬金師「落胆はしてないようだが」

勇者「予想は出来ていたので。賢者の石を俺に渡している事自体も、あなたの答えと思っています」

錬金弟子「氷の街に荷物とか置いてるんじゃないんですか?」

勇者「それは先に取りに帰るつもりです」

剣士「荷物は良いとして……」

勇者「?」

剣士「馬車はどうするつもりだ?」

盗賊「そういえばそんなものあったな……」

勇者「預けっぱなしはもったいないからな。二回連続の転移魔法になるけど、取りに行くか」

男「一回白の街に行ってから、勇者さんが取りに行けば良いんじゃないかな」

盗賊「俺も思った。二回連続とか俺達を殺す気か」

剣士「一度だけでもつらいと言うのに……」

勇者「そうか。その手があったか」


145SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/27(火) 03:55:27.364EKsXBOm0 (5/6)

勇者「では、そろそろ行きますよ。早くしないと今日中に報告出来ませんし」

錬金師「そうだな。これ以上引き留めるのも野暮だな」

錬金弟子「じゃあ皆さん、円の中に入ってください」

盗賊「ほう。この粉でやると詠唱者が円の外にいても使えるのか」

錬金弟子「転移粉の良いところですね。簡略な陣詠唱ですから」

錬金弟子「良いですね? では行きますよ」

狂人「ぶへへへ」キャッキャッ

剣士「危ないから暴れるな、狂人」

錬金師「勇者さん、最後に」

勇者「はい」

錬金師「魔王を――大陸の未来を頼んだぞ」

勇者「……はい!」ニコッ

錬金弟子「“転移”!」

シュンッ

錬金師「……」

錬金弟子「……」

錬金師「……本当にこれで良かったのか?」ボソリ

錬金弟子「何か言いましたか?」

錬金師「いや、重要な事ではない」

錬金師「ところで錬金弟子、客人も行ったところで全ての真相を話しておこう」

錬金弟子「真相? 兄さんの事ですか?」

錬金師「ああ。だがそれを話すには、まずは俺の一番弟子の話からしておかなければならない」

錬金弟子「一番弟子?」

錬金師「そうだ。錬金兄弟子の兄弟子にあたる俺の一番弟子、魔王の話を――」


146SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/27(火) 03:58:36.744EKsXBOm0 (6/6)

少ないけど、そろそろ寝る。
かなりキリも良いところだしね。
次は正月くらいに起きてくるよ!

……最近本当に時間が取れない。


147SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/27(火) 04:09:26.9133kg+C9Wo (1/1)

乙でした


148SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/27(火) 07:18:53.10vKeGtAZSO (1/1)

魔王が……一番弟子……だと?


149SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/31(土) 00:36:16.16BVcEJYPJ0 (1/10)

あけまして!


150SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/31(土) 00:45:26.89BVcEJYPJ0 (2/10)

(翌日)
――白の国、白の街、宿屋

男「……」カタタタタ…

男「……」カタタタタタ…

盗賊「……なぁ」

男「……どうした?」カタ…カタタ…

盗賊「何してんだ?」

男「錬金師さんの所で得た情報を整理してるんだよ」

盗賊「そうか……。それ、女のだろ?」

男「ああ。女さんが帰ってきた時に役立つだろ」

盗賊「そうか……」

男「……」カタカタカタタ

盗賊「ところで」

男「……どうした?」

盗賊「飯は食わねぇのか? もう昼食時だろう」

男「腹が減ったのか」

盗賊「俺の話じゃねぇよ。いや、確かに腹は減ってるが、食ったら吐く」グダァ

男「そのようだな。俺はまだ腹減ってないし」

盗賊「そうか……」

男「うむ」カタタタ…


151SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/31(土) 01:01:55.22BVcEJYPJ0 (3/10)

コンコン

男「? どうぞ」カタ…

ガチャッ

勇者「こんにちは、男さん盗賊さん……あぁ、こっちもまだ治ってないのか」

盗賊「見ての通りだ」ウダー

男「転移酔いする人は悲惨だよな。あんな便利な魔法が不便だなんて」

盗賊「うるせぇ。これからの時代は転移粉なんだよ。転移粉を広めるべきだ」

勇者「剣士も同じような事を昨日から言ってるよ」

男「ところで、今日は何の用だ?」

勇者「あぁ。昨日帰ってきてから、俺が白国王様に謁見しに行ったのは知っているな?」

男「ああ」

勇者「その時に下された決定を一応伝えておこうと思ってな」

男「それは――」

盗賊「また手伝えって事なのか?」

勇者「別にそうは言っていないさ」

男「俺は別に良いんだがな」

勇者「こっちとしても遠出をする場合は一緒に来てくれた方がありがたい」

勇者「それは置いておいたとしても、この少しの間一緒に行動した仲間なのは確かだ。とりあえず伝えるべきだと思ってな」

盗賊「成る程、一理あるな」

勇者「……なぁ」

男「?」

勇者「こいつよく喋るけど、本当に酔ってるのか?」

男「みたいだね」

盗賊「ヘッ、余計なお世話だ」


152SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/31(土) 01:20:09.48BVcEJYPJ0 (4/10)

男「まぁ、説明頼むよ」

勇者「ん? ああ、そうだった」

勇者「報告した内容は至って簡単だ。神――サナンから教えてもらった事と錬金師さんから教えてもらった事。勿論、魔の国の結界を破る方法についてだ」

勇者「まず一つ、賢者の石について。これは王様に俺のガントレットを見ていただいて、入手済みである事を確認してもらった」

勇者「そして賢者の石がある事を前提に可能となる二つの方法」

男「精度の高い武器強化魔法か英雄王とシンクロする事か、だな」

勇者「勿論、俺はどちらも修得出来ていない」

盗賊「じゃあ結界を破れねぇって事だよな」

勇者「そうなんだが、それについて猶予期間をもらう事が出来たんだ」

男「へぇ。どのくらい?」

勇者「兵が集まり次第だ」

男「えっと、それは……長いのか? 短いのか?」

勇者「長いと思うぞ」

勇者「大陸連盟各国に魔の国との冷戦を破り攻め入る事を伝え、採決を取り、賛同国で兵を募り、雪の国の港へ集める。勿論それまでに必要な分だけ船や物資なども集めなければならない」

勇者「それに今、白の国の精鋭部隊・白蛇騎士隊を筆頭に龍の国では“決着戦争”を行っている」

勇者「とまぁ、これらが全部終わってからだと思うけどな」

男「じゃあ、随分時間があると見て良いのか」

勇者「多分な」

盗賊「で、俺達はどうすりゃ良いんだ?」

勇者「それまでのんびりしててくれて良い、って聞いたぞ」

男「えっ」
盗賊「は?」


153SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/31(土) 01:38:41.08BVcEJYPJ0 (5/10)

勇者「いや、だって精進しなきゃいけないのは俺だけみたいだから」

盗賊「そうは言うけどよ、そこは戦いに備えて訓練を怠るな、とかじゃねぇのか?」

勇者「多分そういう意味も含んでいるんだろうな」

勇者「でも、さっきも言ったように二人が手伝うかどうかはそっちが決める事だと俺は思ってるから」

男「だが、女さんが魔王に捕まったままなんだ。ただじっと待つって言うのも……」

勇者「……わかってる」

勇者「女さんに関しての情報は、俺がよく世話になってる情報屋にも探ってもらってる」

勇者「ただ、これだけは理解してもらいたいと思う。女さんの件はあくまで私事だから、それだけでは国も連盟も動かせない」

男「勿論、理解している」

盗賊「……チッ」

勇者「それともう一つ」

勇者「俺達――俺と剣士は、男さん達の味方だ。もし女さんの情報を掴んだ時、二人だけで動かずに俺達に相談してもらえると嬉しい。力も貸す」

男「そうか。それは助かる」

男「俺らだけだとどうみても頼りないしな」

盗賊「どうだか。俺一人でも魔王の一人や二人楽勝に勝ってやるぜ」

勇者「なら俺がいれば十人二十人は楽勝だな」


154SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/31(土) 03:33:42.81BVcEJYPJ0 (6/10)

勇者「ああ、そうだ。盗賊さん」ゴソゴソ

盗賊「なんだ?」

勇者「ここに来る前に剣士の所に寄ったんだけど、その途中で……」ポイッ

盗賊「っとと。ん? なんだこれ?」

勇者「薬師って言うある筋では有名な薬剤師と会って、試作品をもらったんだよ」

盗賊「薬師って、子爵家に使えてるジジイか?」

勇者「あれ、知り合いなのか?」

男「まぁ、学者さんと同様黒の国での一件でな」

男「それで、試作品って事はそれも薬なのか。何の薬なんだ?」

勇者「酔い止めらしい。転移酔いにもしっかり効くはずだって言ってた」

盗賊「ほう……」ゴクリ

盗賊「……効かねぇじゃねーか」

勇者「すぐ効くわけないだろ」

男「しかし、試作品なんてものをよく通りすがりの人に渡すよな。やっぱり勇者だからか?」

勇者「丁度良い人間の検体を探してたって言うのもあったみたいだけど、通りすがりなりにも一応面識はあるからな」

男「流石、世界中を旅をしていると顔が広くなるもんなんだな」

勇者「いや、会った事があるのは子供の頃だぞ。俺のとこの屋敷で開いたパーティーでな」

盗賊「ちょっと待て。パーティーだって? てめぇそんなに金持ちの出なのか?」

勇者「あれ、言ってなかったっけ? 俺は侯爵家の三男なんだけど」


155SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/31(土) 03:49:29.37BVcEJYPJ0 (7/10)

男「……」

盗賊「……は?」

勇者「あぁ、考えてみれば言ってなかったな。そう言えば」

盗賊「いや、もう一回言ってみろ」

勇者「侯爵家の三男」

盗賊「クソボンボンじゃねぇか……」

男「貴族出身だったのか。てっきり平民上がりの兵士から勇者になったものかと……」

勇者「勇者の証を持つって言う事は、あらゆるところで大きな権限を持つって言う事だからな。そのリーダーにはそれなりの信頼がいるんだよ」

男「それもそうか。納得した」

盗賊「貴族ってだけで信頼が最初からある世の中だから嫌いなんだよ……」ブツブツ

男「ところで、勇者さんはこれからどうするつもりなんだ?」

勇者「街の南の外れに農耕地があるんだけど、最近魔物の群れがよく荒らしにくるって言う苦情があるんだ」

勇者「本当は自衛隊や兵士が対応するんだけど、動かないもの相手に特訓ばかりも暇だから変わってもらったんだ」

勇者「まぁ、『特訓代わり』とか言うと聞こえはあまり良くないが、勇者らしい事はしておかないとってのもあるし」

男「働き者だな」

勇者「そういう男さんもな」

男「これは、生き甲斐みたいなもんだ。やってて楽しいからな」

勇者「俺も同じだよ。人の役に立って喜んでもらえるなら、それ以上に楽しい事はない」


156SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/31(土) 04:07:48.47BVcEJYPJ0 (8/10)

――南門

勇者「さて、伝えたい事は伝えたし、人助けと行こうか」

魔剣〔ただの人助けとして行わないよう気をつけるのだぞ〕

勇者〔わかってる。あくまで特訓と兼ねてやらないと意味がない〕

魔剣〔何も魔法の精度を上げるだけが特訓ではない事を忘れるでないぞ〕

勇者〔それもわかってる。賢者の石がまだ馴染んでいないって事だろ〕

勇者〔魔法は使えるんだけどな……〕

魔剣〔賢者の石は我が生きた時代でも噂はあった〕

魔剣〔誰もが使えるが、誰もが極められるわけではない。極めるには全ての適正を賢者の石を扱う中で得よ〕

ザッザッザッザッ

勇者「?」

?「ったく……お前が道草食うから遠回りになったじゃないか」

??「本当にすまねぇと思ってますから」

?「お前、晩飯は野草でも食ってろ」

??「そんなに怒ってるんすか!?」

???「その辺に……してやれ……」

?「やれやれ、冗談だっつーの」

勇者「旅行者か? それにしても凄い人数だな」

魔剣〔傭兵団かもしれんな〕

勇者〔そんな感じはするな。顔はフードでみんな見えないのがかなり怪しいけど〕

?「ん? おい、あんた!」

勇者「俺か?」

?「そうそう。あんただよ、お兄さん」


157SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/31(土) 04:25:01.39BVcEJYPJ0 (9/10)

?「これから街に入るんだけどさ」

勇者「そうみたいだね」

?「安くて良い宿屋、知ってたりしないかな?」

勇者「いくつかは知ってるけど、この人数だとどうだろうなぁ」

?「じゃあ全部教えてよ。入らなかったら分けて止まるから」

勇者「わかった。えっと、まずはこの通りをまっすぐ行った所にある――」

勇者「――で、後は広場に面してる宿屋。広場って言うのは六角時計のあるところだな」

?「ありがとう、お兄さん。恩に着るよ」

「兄ちゃんありがとうな!」
「助かったぜ。ここ最近野宿だったから早く休みてぇし」

???「……」

勇者「!?」ゾクッ

勇者〔な、何だ?〕

魔剣〔あやつだ、勇者。ローブから鎧がはみ出している奴だ〕

???「……」ジ…

???「……良い石……填めてるな……」

魔剣〔こやつ……賢者の石を……〕

勇者〔ただ者じゃなさそうだな〕

?「おい戦士、何をしてるの! 早く行くよ!」

戦士「ああ……」ドスドス

?「ああ、そうだ! お兄さん、名前は?」

勇者「えっ? ああ、勇者だ」

?「勇者って……へぇ、あんたがあの勇者なんだ」

少女「あたしは少女って言うの。またどこかで会ったら宜しくね」ニッ


158SS寄稿募集中 SS速報でコミケ本が出るよ(三日土曜東R24b)2011/12/31(土) 04:27:04.92BVcEJYPJ0 (10/10)

キリも良いところでそろそろ寝ます。

今年もこの物語の応援を宜しくお願いします。


159SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2011/12/31(土) 05:16:40.96z0V+NVTSO (1/1)

今年……つまり後数時間か


160SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2012/01/01(日) 01:34:49.16XSRctTIoo (1/1)

年越えたぞ
サキュバスの呪いは解けたはずや


161SS速報でコミケ本が出るよ[BBS規制解除垢配布等々](本日土曜東R24b)2012/01/01(日) 04:31:27.59/54JYdCIO (1/1)

これで安心して寝れるな


162以下、あけまして2012/01/04(水) 01:50:37.37W6U5Fbu20 (1/1)

あけましておめでとう

面白いからいつまでもまつわー

作者頑張れ?



163以下、あけまして2012/01/04(水) 09:56:29.61X7bNfYTbo (1/1)

半年ROMれ新参糞ぼっち


164VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2012/01/24(火) 09:44:24.73dZS4g37AO (1/1)

年々睡魔の力が増している


165VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/06(月) 20:44:30.313B14MUNZ0 (1/5)

こっそり


166VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/06(月) 21:05:15.583B14MUNZ0 (2/5)

(夕時)
――白の街繁華街

盗賊「いやー、勇者様々だな」

盗賊「それとも薬師様々か? まぁ、どっちでもいいか」

盗賊「まさかこうも早く転移酔いが治るとは……。近い将来は転移魔法代行が儲かるだろうなぁ」

盗賊「ん……。『用心棒募集! 日給銅貨五十』。へぇ、都会だってぇのにこんな安日給で働かせる所もあるってのか」

盗賊「短期の良い職場ねぇな……。仕方ねぇから前の食堂で手を打つか……」ブツブツ

ドンッ

少女「うわっ!?」ドサッ

盗賊「おっと」

少女「痛ったぁ~……! どこ見て歩いてんのよ!」

盗賊「あー……すまん」

少女「!」

盗賊「どうした?」

少女「……なんでも。ってか全然反省してないでしょ、あんた」

盗賊「だから、すまねぇって」

少女「それ、睨みながら言う台詞じゃない」

盗賊「人の人相にケチつけるんじゃねぇよ」

少女「あぁ……そう言う顔なんだ」

盗賊「うるせぇ」


167VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/06(月) 21:32:15.313B14MUNZ0 (3/5)

盗賊「大体そっちこそふらふら歩いてたんじゃねぇのか? 避けて通りやがれ」

少女「やっぱり反省してないでしょ」

盗賊「……ったく、付き合いきれねぇ」ボソッ

少女「なんか言った?」

盗賊「で、どうしたら許してもらえるんだ?」

少女「そうだね……。あっ、こういうのはどう?」

少女「あたしにこの街を案内する」

盗賊「……は?」

少女「もしかして急ぎの用とかあった?」

盗賊「いや、特にないが」

少女「じゃあバイト代に銀貨三枚つけるから」

盗賊「ちょっと待て。てめぇみてぇな子供がなんでそんな大金持ってんだ」

少女「失礼な。これでも自立してるんだよ」

盗賊「あぁ、そうなのか。それにしても案内料にしては高くねぇか?」

少女「相場わからないから」

盗賊「成る程な。まぁ、案内くらいならしてやる。これも何かの縁だろうしな」

盗賊「但し、金はいらねぇ」

少女「えっ、良いの?」

盗賊「ああ。ただ、一つ約束してもらう。厄介事には巻き込むな」

少女「大丈夫。それともこんな小さい女の子が厄介事起こすように見えるんだ?」

盗賊「さぁな」


168VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/06(月) 23:18:42.263B14MUNZ0 (4/5)

盗賊「で、いつにするんだ? 明日か? 明後日か?」

少女「今から」

盗賊「……てめぇ自分で何言ってるのかわかってんのか?」

少女「もちろんだよ」

盗賊「もう夕暮れだ。今からだと朝になっちまうぞ」

少女「大丈夫大丈夫。今日はこの街についてからずっと見て回ってるんだ。だから蔵書館の方とか博物館の方とか結構見てるの」

盗賊「一人で行けるんならどうして俺を巻き込む……」

少女「良いの良いの。さっ、早く行こう!」グイグイ

盗賊「おい! こっちの事情は……!」

少女「何かあるの?」

盗賊「……いや、あいつなら飯食わなくても大丈夫か。一日くらいなら」

少女「?」

盗賊「はぁ、仕方ねぇ。付き合ってやるか」

盗賊「ところで闘技場の方は回ったのか?」

少女「あ、あそこは行ってないけど、賭け事する所の周りって治安悪いって言うし」

少女「とりあえず、中央広場と王宮あたり案内してよ。それで満足するから」

盗賊「やれやれ……」


剣士「……む。あれは盗賊では……」

狂人「かっかー! くあっかー!」ブチャッ グチュイッ

店員「ちょ、ちょっとお嬢ちゃん……商品で遊んじゃ……」

剣士「あっ、すまない。私が保護者だ。詫びとしてそこの饅頭を全て買い取らせてもらう」


169VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/06(月) 23:25:23.51zcm1CyFSO (1/2)

きたか


170VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/06(月) 23:42:09.553B14MUNZ0 (5/5)

――宿屋

剣士「――と言う事があったんだ」

男「盗賊が女の子となぁ」

男「晩飯がないと思ったらそう言う事だったのか」

剣士「いや、一瞬見ただけだから見間違いかもしれないが」

男「剣士さんくらいの動体視力なら見間違いじゃないだろう」

男「それに肉まんを持って来てくれて助かる。よくこんなに買えたな」モグモグ

剣士「勇者一行としての資金だ。普通に生活するくらいは四等分でも遊んで暮らせるだろうな」

男「勇者一行が国の金庫を空にするんじゃないかと心配するな」

剣士「そうならないはずと言う信頼も含めた上で決められた人だ、勇者様は」

男「で、盗賊がデートしてた話をしにきたわけでもないだろう」

剣士「とは言え、特に用事もないのだが」

男「じゃあ、なんで来たんだ?」

剣士「勇者様から今後の事は聞いただろう?」

男「まぁ」

剣士「元々は皆何をしているだろうかと見に来ただけだ」

男「俺は案の定魔石の研究をしているし、盗賊は酔いも治ってデートしてたってわけだ」

剣士「うむ」

男「あなたは何するつもりなんだ?」

剣士「狂人がいるからな。世話くらいしか出来ないだろう」

男「そうか」

剣士「ああ」


171VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/06(月) 23:44:31.37zcm1CyFSO (2/2)

時々女と魔法使い?の存在を忘れそうになるな


172VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/07(火) 00:10:08.28DwoewK8S0 (1/4)

男「……」

剣士「……」

男「それ、本心じゃないだろ」

剣士「……かもしれないな。だが、なぜわかる?」

男「俺が教授をしているって言ったっけ? 教授って言うのは、学院の教員みたいなものだ」

男「剣士さんの剣の腕は相当なものだけど、年齢で言えば俺の受け持つ学生くらいか、それ以下だな。多分」

男「世界が違うだけで人間の考え方とか大きく違ってこないならば、俺が察する事が出来て当たり前」

剣士「学院には行った事ないからよくわからないが、師匠みたいなものか?」

男「師匠か……。まぁ、そんなところか」

剣士「成る程。納得した」

剣士「……実を言うと、私は勇者様の役に立っていないのではと思っている」

男「どうしてだ? 神の宮殿では活躍していたじゃないか」

剣士「あれは勇者様……いや、英雄王の力を借りたからだ」

男「それはそうだが……」

剣士「私はこの剣二本で生きる一人の兵士だ。だが、あまりにも非力だ。騎士様のような怪力もなければ、勇者様のような器用さもない」

男「あぁ……騎士さんは比べてはならない対象だな……」

男「だが、あなたには素早さがあるのでは?」

剣士「素早かろうと、まだ遅い。これから相手をしていくのは魔物ではなく魔族だ。魔法を相手にするとなると、私の剣技は無意味だろうな」

男「……」

剣士「今までも、強い相手となると勇者様や魔法師に頼ってた節もあった。自分の非力さと比較して、怖くなっていたんだ」

剣士「さらには前の件で勇者様は賢者の石を手に入れた。さらに強くなったんだ」

剣士「一方、私はずっと同じままだ」

男「……強くなりたいのか」

剣士「その通りだ」


173VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/07(火) 00:24:52.54DwoewK8S0 (2/4)

男「当てはあるのか? 猶予はあるとはいえ、地道に訓練を積める期間はないぞ」

剣士「渦の国には特殊な剣技があるという。それは極限にまで素早さを高め、風のように移動できるものだとか」

男「風のように……。神の宮殿で見せたような動きか?」

剣士「それが魔法もなしに出来るだろうと解釈している」

男「情報が曖昧だな」

剣士「渦の国とは、島の周りが渦で囲まれているせいで国交がない。私も蔵書館で偶然見つけた古い資料から知った事だ」

剣士「それに賭けてみようかと思っている」

男「そうか。頑張ってくれ」

男「としか俺には言えないな。何も協力出来ないだろうし」

剣士「……だろうな」

男「ああ、狂人を連れて行くなら閉じ込めてる間気絶する檻でも作るくらいは出来るぞ」

剣士「どうして狂人にはそう厳しいんだ」

男「子供が嫌いなだけなんでね。特にそのくらいの小さい子供は」

剣士「狂人を暫く預かってくれるところはないだろうか」

男「並の人に任せるとその人に迷惑かけるからな」

男「まぁ、俺も探しておこう」

剣士「助かる。……ところで」

狂人「ばうあうぶ~! うぶぶ!」ジタバタ

剣士「そろそろ狂人の縄、ほどいてやっていいか?」

男「部屋を出るまで駄目だ。今は精密な機材が山程あるからな」


174VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/07(火) 00:26:03.30DwoewK8S0 (3/4)

>>171
かなり進行遅いですからね……。
俺もそのまま忘れそうで心配です。


175VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/07(火) 01:03:02.18DwoewK8S0 (4/4)

――中央広場

少女「この六角時計、他の街のと比べても大きいね」

盗賊「流石は大陸の首都ってところか」

盗賊「そう言えば少女、どこの国の出身だ?」

少女「針の国。と言っても、父さんの仕事柄色んな所行ったし、本当の出身地はわからないんだけど」

少女「でも、針の国にいる事が一番多かったから、そこが故郷かな」

盗賊「行った事はねぇが、そこじゃこんなに大きな時計は見られねぇだろうな」

少女「本当に」

少女「それにしても人気がないね」

盗賊「当たり前だ。普通の子供は暗くなったら家に帰るだろうが」

少女「それもそっか」

少女「ところでこれ、中に入れそうだよね」

盗賊「入れるぞ」

少女「えっそうなの?」

盗賊「嘘だ。入れるようにしても意味ねぇよ。ただの日時計だぞ?」

少女「……そんな事だろうと思った。じゃあ次、王宮にでも――」

盗賊「まぁ、待て。そろそろ腹も減っただろ?」

少女「え? そこまでしてくれなくて良いのに」

盗賊「子供は素直に奢られておけ。人生損しないための生き方だ」

少女「じゃあ……一杯奢ってもらうね」


176VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/02/07(火) 01:30:33.02gnjBO4G/o (1/1)

起きたか
おはよう


177VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/07(火) 08:52:29.78Dil4Rv1IO (1/1)




178VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/09(木) 00:18:51.20jwdCCwlT0 (1/12)

――酒場

少女「酒場じゃないの、ここ」

盗賊「それがどうしたってんだ? 飯の美味いとこは美味いんだよ」

少女「そうだけど」

盗賊「あ? 不服か?」

少女「女の子をこんなとこに連れてくるのはどうかと思っただけだよ」

盗賊「男も女もいずれはここに来るんだ。慣れておけ」

少女「まぁ、慣れてるんだけど」

盗賊「ほう。とりあえずここ空いてるみたいだから座ろうぜ」

少女「……」チョコン

盗賊「……早いな」

少女「店主! ここのオススメは?」

店主「酒か? 飯か?」

少女「んー、両方言って」

店主「酒なら土地ものの麦酒だな」

店主「飯なら白銀村辺り特産のスルブシープのステーキが自慢だ」

少女「じゃあそのステーキ。それと肉料理とサラダを適当にお願い。あと黒パン四切れくらい」

店主「嬢ちゃん、黒パンとはまた変わったもの頼むね。殆どの連中が白パンだって時世に」

店主「というか、お前もしかしなくても盗賊だよな?」

盗賊「今更気付いたのか」

店主「この嬢ちゃんは何だい。ええ?」

盗賊「何でもねぇよ。街案内してやってるだけだ」

店主「なんだ、つまらん。で?」

盗賊「麦酒とボイルミートパスタ」

店主「いつものだな。よし、ちょっと待っとけ」


179VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/09(木) 00:32:49.17jwdCCwlT0 (2/12)

少女「……」モグモグ

少女「……」ガフガフガツガツ

少女「……」ングング

盗賊「そんな慌てて食わねぇでも誰もとりゃしねぇよ」

少女「ふぉんなのふぃにんも――」バフバフ

盗賊「飲み込んでから喋りやがれ」

少女「……そんなの微塵も思ってないよ」

盗賊「じゃあなんだ。腹減ってたのか」

少女「まぁね。旅をするにもお金を使う。非常時お金がない事もあるから貯めとかなきゃいけない」

少女「あたしは簡単にお金使えないの」

盗賊「子供らしい考え方じゃねぇな」

少女「父さんが生きてた時だって生活は一人だったし」

盗賊「しかし、なんで白の街まで来たんだ? 遠かっただろうに」

少女「野暮用ってやつだね」

盗賊「言えない用なのか」

少女「それは……仮にも今日会ったばかりだし」

盗賊「それもそうだな」

盗賊「だが……なんだろうな。どこかで会った気がするんだよな」

少女「……まさか」

盗賊「俺がおかしいんだろうな。既視感ってやつか」


180VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/09(木) 00:43:31.33jwdCCwlT0 (3/12)

少女「……実はさ」

盗賊「?」

少女「驚いてるんだ。こんなによくしてもらってるのに」

盗賊「本当、図々しいくらいだな」

少女「何言ってんの。全部あんたの“善意”じゃないの?」

盗賊「“善意”ってとこに皮肉が感じられるんだが」

盗賊「……それもそうか。初対面で飯まで奢るやつなんざ、そういないだろうしな」

少女「何か、裏があるの?」

盗賊「あるわけねぇだろ。俺が根っからの善人だからだ」

少女「その台詞、睨んで言う事じゃない」

盗賊「睨んでねぇ」

少女「『ギロッ』って言う効果音つけられそうな感じだったよ」

少女「善人だからだ! ギロッ!」キリッ

盗賊「『ギロッ!』じゃねぇよ! あと睨めてねぇし」

少女「嘘!? 完璧だと思ったのに」

盗賊「残念だったな」

少女「ふん。……ごちそうさま」

盗賊「早ぇな」

少女「まぁね。でもあんたの方が早かったじゃない」

盗賊「量が違うだろうが。本当にいっぱい食いやがって」

少女「いいのいいの。じゃあ、王宮の方案内してよ」


181VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/09(木) 01:55:53.03jwdCCwlT0 (4/12)

――王宮周辺

少女「ここが王宮かぁ~」

盗賊「ああ。中々大きなものだろ」

少女「塀がね」

盗賊「近いと塀が邪魔して見れない。当たり前の事だろう」

少女「イメージと違うんだけど」

盗賊「って言われてもなぁ」

盗賊「あそこが正門だ。観光客なら衛兵の姿を見ただけで満足するもんだ」

少女「あたし別に観光に来てるわけじゃないし」

盗賊「じゃあなんで王宮なんて見に来るんだ?」

少女「観光」

盗賊「……どっちだよ」

少女「とにかく、見たいのは城で、衛兵なんかじゃないの!」

盗賊「そんな事言ったって、俺みたいな平民が頼んで入れるわけねぇからな」

少女「じゃあどうするの」

盗賊「見たけりゃ遠くから眺めるこった」

少女「えー……」

盗賊「……」ボリボリ

盗賊「何してでもこの中を見てぇか?」

少女「えっ、いけるの? 塀を上るくらいどうって事ないよ」

盗賊「黙ってるってなら案内してやる」


182VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/09(木) 02:10:47.15jwdCCwlT0 (5/12)

盗賊「ここだ」

少女「ここって……随分王宮から離れたんだけど」

盗賊「ここがどこかわかるか?」

少女「橋?」

盗賊「当たりだ」

少女「橋がどうしたっていうの?」

盗賊「橋の下には?」

少女「川」

盗賊「その通り」

少女「?」

盗賊「この川は北西にある山から流れてきてるんだが、その他に何種類かの生活排水が流されているんだ」

少女「洗濯とか?」

盗賊「ああ。風呂とかもな」

盗賊「橋の下を見てみろ」

少女「……穴があるね。これ、下水道ってやつ?」

盗賊「そうだ。白の国では下水道がある街だと、大体橋の下に排水口がある。景観を損なわないためなんだと」

少女「へぇ。よく知ってるね」

盗賊「まぁな。白の街の殆どは俺の庭のようなもんだ」

少女「でもこれ、王宮と関係ある?」

盗賊「王宮の中でも水は使うだろうが」

少女「成る程。で、どうやって降りるの?」

盗賊「そこに煉瓦の出っ張りがあるだろ」

少女「これで降りろって事なんだ……」

盗賊「清掃屋はいつもそうやってんだ。行くぞ」


183VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/09(木) 02:39:03.63jwdCCwlT0 (6/12)

少女「げっ……暗い……」

パッ

盗賊「これで大丈夫だろ?」

少女「眩し……。何それ!」

盗賊「携帯松明だ。明るいだろう」

少女「明るいなんてものじゃないよ! 熱くないし……えっ、魔法使えたの!?」

盗賊「いや、これはツレから拝借してきたもんだしな。どうなってるかはよくわかんねぇ」

少女「その人は魔法使い?」

盗賊「奴が学者って言ってたな。魔法は使えねぇみたいだが」

盗賊「まぁ、よくわからんが凄ぇ奴だ。俺に言わせるとただの引きこもりだがな」

少女「引きこもりなのに凄い人なんだ」

盗賊「ああ」

少女「ところでその人とはどういう関係なの?」

盗賊「特別なもんじゃねぇよ。少しばかり手伝ってるだけだ」

少女「でも何やってるかわからないんだ」

盗賊「手伝いって言っても資金集めに俺が働いたり、あとは家事全般だからな」

少女「っぷ。似合わない」クスクス

盗賊「これでも料理には自信あるんだぜ」

少女「だから……ぷふっ……似合わないって」クスクス

盗賊「酷ぇ言われようだな、おい」


184VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/09(木) 02:56:24.37jwdCCwlT0 (7/12)

少女「ねぇ、本当にこっちであってるの?」

盗賊「間違いねぇよ」

少女「どこからそんな自信が沸いてくるのよ……」

盗賊「直感だな」

少女「ちょっと、そんな怖い事言わないで!」

盗賊「経験も直感の一つってこった」

少女「な、なんだ……そういう意味……」

盗賊「とは言っても、そろそろだと思うんだが……あぁ、あった」

少女「鉄格子?」

盗賊「ああ。ここから先は普通の清掃屋じゃあ通れねぇんだ」

少女「じゃあ、この向こうは王宮に繋がってるんだ」

盗賊「物わかりがよくなってきたじゃねぇか」

少女「でも鉄格子が――」

スポッ

少女「――あ」

盗賊「見ての通り、十分人が通れるくれぇに抜けるんだ、この格子」スポッ スポッ

少女「なんで?」

盗賊「清掃屋は鉄格子に触れねぇし……。まぁ、なんでこうなってるのかって言うのもよくわかんねぇが」

少女「なんで知ってるの?」

盗賊「ああ。ちょっと噂で聞いただけだな。普通ならこんな場所に来る人もいねぇだろうし」

少女「……こんなに簡単に入れて、ここの王宮大丈夫なの?」

盗賊「こまけぇこたぁいいんだよ」

少女「はぁ……そうだね。先に進もう」


185VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/09(木) 03:09:00.68jwdCCwlT0 (8/12)

少女「それにしても、下水道の中って洞窟みたいだね」

盗賊「まぁな。明かりが入らないって言う意味では同じだろうな」

少女「洞窟って魔物とか動物とか住んでるじゃない?」

盗賊「ここにはいねぇよ。しっかり整備されてるからな。出たとしてもネズミかゴキブリかクモみてぇなもんだ」

少女「ゴキッ……!?」

盗賊「なんだ、怖ぇのか?」

少女「怖くないけど、汚いっていうか……」

盗賊「赤の国ではゴキブリを揚げて食ってるって話だ。思ってるよりは汚くねぇんじゃねぇか?」

少女「あんな僻地と一緒にしないで」

盗賊「……そろそろ声を小さくしておけ」

少女「どうしたの?」

盗賊「その角の向こう、見てみろ」

少女「……光が見える。夜でも外の方が明るいんだ」

盗賊「清掃屋の出入り口だ。ここからは松明を消して慎重にいくぞ」

少女「わかった」

盗賊「物わかりが良いじゃねぇか」

少女「そりゃあね。もう敷地内なんでしょ」


186VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/09(木) 03:29:21.72jwdCCwlT0 (9/12)

――王宮内

少女「……すごい」

盗賊「どうだ。これが王宮の中だ。見えてるのは庭園だがな。その向こうに建ってるのが離れだ」

少女「離れでこの大きさ……?」

盗賊「その向こうに塔だけ見えてるのが王城だな」

少女「さすが王族、って感じだね」

盗賊「そうだな。だが、ここには王族だけいるわけじゃねぇぞ」

少女「そりゃそうだよ。衛兵とか、メイドとか」

盗賊「その通り。だが城ってのは別に王族の住居ってわけでもねぇ」

盗賊「城ってのは言うなれば政治をする場所だ。ここで王族以外に何人も政治家が働いてる」

盗賊「まぁ、その殆どが貴族ってのは気に食わねぇが……だがそう考えてやると連中にとっては狭いくらいだろうな」

少女「そう……なのかな」

盗賊「当たり前だ。貴族ってのは贅を尽くして有り余る屋敷に住むもんだ」

少女「針の国ではそんな事はなかった」

盗賊「まぁ、ここは安全なところだしな」

盗賊「それに針の国が特別ってのもある。普通は貴族が苦しくなった分、同じくらい平民も苦しくなるもんだ」

少女「そういうものなんだ……」

盗賊「なんか重い話になったが……どうだ。満足か?」

少女「……」

盗賊「建物の中までとかは無理な相談だぜ?」

少女「ううん。満足したから。ちょっと文化の違いに驚いてるだけ」

少女「じゃ、戻ろっか。夜って言っても見つかっちゃまずいし」


187VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/09(木) 03:38:52.09jwdCCwlT0 (10/12)

――橋の上

少女「ふぅ~、疲れた疲れた」

盗賊「もう終わりか?」

少女「うん。もう十分」

盗賊「そうか。そりゃあ良かった」

少女「思いがけず王宮の中も見れたしね」

盗賊「てめぇがぐずったからだろうが」

少女「無理にとは言ってないし」

盗賊「態度がそう言ってたんだが」

少女「口には出してないし」

盗賊「んー……」ボリボリ

盗賊「まぁ、これで俺はお役ご免ってわけだ」

少女「……そっか」

少女「本当は一人で回るつもりだったから、本当に助かったよ。ありがとう」

少女「楽しかったし」

盗賊「苦労しがいもあったって事だな」

少女「あたし達、良い友達になれるんじゃない?」

盗賊「馬鹿言え。歳が違いすぎるだろうが」

少女「年齢なんて関係ないし。あたしはまた話しながら散歩したいけどね」

少女「……じゃあ、そろそろ宿に帰るよ。本当に今日はありがとう」

盗賊「おう。気をつけて帰れ」

盗賊「……さて、俺も」


188VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/09(木) 03:46:37.66jwdCCwlT0 (11/12)

――宿屋

盗賊「……おい」

男「ああ盗賊、帰ったのか」

盗賊「ああ」

男「デートはどうだったんだ?」

盗賊「……は?」

男「デートはどうだったんだ?」

盗賊「何の事だ?」

男「剣士さんからお前が女と歩いてるって聞いたから」

盗賊「見られてたのか」

男「事実なんだな。やはり剣士さんは目が良い」

盗賊「だが、てめぇらは勘違いしてるぞ」

盗賊「俺は街角でぶつかった成り行きで街案内をしてただけだ」

男「それはまた出来すぎた設定だな」

盗賊「設定じゃねぇ。事実だ」

盗賊「いや、俺が言いたいのはそうじゃなくて」

男「じゃあ何なんだ?」

盗賊「この饅頭の山は何なんだ?」

男「剣士さんからもらったんだ。狂人が散らかしてしまったらしくてな」

盗賊「食い切れないだろ、これ」

男「明後日までは食事に困らないぞ。喜ぶべき事じゃないか」


189VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/09(木) 03:58:27.06jwdCCwlT0 (12/12)

――(別の)宿屋

ガチャッ

??「あっ、やっと帰ってきましたか。遅かったっすね」

少女「すまん。ちょっと散歩しててね」

??「散歩? あれ、そう言えば頼んでたものは……」

少女「あ……」

??「まさか忘れたんすか!?」

少女「……」

??「聞いてます!?」

少女「聞いてないね」

??「聞こえてるじゃないすか!」

少女「それはそれ、これはこれ」

少女「ああ、そうそう。他のみんなにも伝えておいてくれない?」

??「何をですか?」

少女「作戦決行は明日の夜。人数分松明を用意する事」

??「思ったよりも早いんですね」

少女「まぁね」

戦士「策は……あるのか……?」

??「俺、今日王宮の方見に行ったんですが、ありゃ大変っすよ」

少女「大丈夫大丈夫。思いがけない方法があったから」


190VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/09(木) 08:02:04.663m72TCkSO (1/1)

ま、そうなるわな


191VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/09(木) 09:27:09.37tff6s0hIO (1/1)


そりゃそうだ


192VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/02/09(木) 22:24:39.86LCGsFDIao (1/1)

ああそうさ


193VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/11(土) 04:04:25.94vCrfKuJS0 (1/5)

(翌晩)
――侯爵家屋敷

勇者「……」スタスタ

「お帰りなさいませ、勇者様」
「お帰りなさいませ」
「お帰りなさいませ」

勇者「ああ」

勇者「……」ハッ

勇者父「……」

勇者「ただいま戻りました」

勇者父「どこへ行っていた」

勇者「農場が荒らされていると言う噂がありましたので、魔物の退治に」

勇者父「どこだ?」

勇者「南方の郊外です」

勇者父「……そのような下級市民の手助けなど」

勇者「何人であろうとも、人に救いの手を差し伸べる。それが勇者の役割です」

勇者「これは父上が常日頃おっしゃっている、貴族たる義務でもあります」

勇者父「勘違いするな。無償で民を助ける義理などないのだ」

勇者「ですが――」

勇者父「薄汚れた姿をしているな。およそ依然変わらぬ醜い戦い方をしたのだろう」

勇者「父上!」

勇者父「湯浴みでもしてくるがよい。なりくらいは貴族らしくせよ」

勇者母「確かにみすぼらしい姿になってるわね」

勇者「母上……」

勇者母「そろそろ帰ってくる頃だと思ってたわ。疲れたでしょう。ここは言う通り、湯浴みしてきなさいな」

勇者母「食堂に食事も用意させておくわ。とりあえずしっかり休みなさい」


194VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/11(土) 04:18:00.76vCrfKuJS0 (2/5)

勇者「わかりました、母上。では」

スタスタ…

勇者母「……」キッ

勇者父「な、なんだ……!」

勇者母「全く、あなたはあのような言い方しか出来ないのですか」

勇者母「一昨日あの子が帰ってきた時だって……」グチグチ

勇者父「……あいつは正義感が強すぎるのだ」

勇者父「全ての人間を救う事は不可能だ。手に届くだけで良いというものを」

勇者父「先程のあいつを見ただろう。全身を返り血で汚して」

勇者父「農場荒らしなんぞの低級の魔物相手に上手く立ち回れていない証拠ではないか」

勇者母「……はぁ。心配ならそういってやれば良いですのに」

勇者父「そんな事はっ……!」

勇者母「なんですか?」

勇者父「いや、その……恥ずかしくて言えんだろうが」ボソボソ

勇者母「……」ジッ

勇者父「な、なんだその目は!」

勇者母「そのような女々しい姿だけはあの子に見せないでくださいね」

勇者父「めっ……!?」

勇者母「違いますか?」

勇者父「ふん。私は父として、貴族として威厳を保たねばならんのだ」

勇者父「女々しい態度など、あるわけがないだろう」

勇者母「どの口がそれを言いますか……」


195VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/11(土) 04:34:59.73vCrfKuJS0 (3/5)

――屋敷内の食堂

勇者「風呂っていうのは本当に気分が落ち着くな」

魔剣〔湯浴みは実に良い。我も身体があるならば浸かりたいものだ〕

勇者「お前も風呂はわかるのか」

魔剣〔無論だ。我が時代にも湯浴みの文化はあった〕

魔剣〔最も、今のような広い風呂はなく、それこそ沸かしたぬるま湯をかぶるだけではあったが〕

勇者「はははっ、それじゃあ寒いだろ」

魔剣〔そうでもない。水浴みが主流だった我が時代には贅沢な事であったからな〕

魔剣〔しかし美味そうな料理ではないか。今の時代の貴族とはこのようなものばかり食べているのか〕

勇者「まぁ、そうだね。基本的に素材から良いものばかりだし」

魔剣〔キミは幸せだな。家族はいるし、家に帰れば美味い料理に風呂がある〕

勇者「昔は、そうだったかな」

魔剣〔今はそうではないのか?〕

勇者「少し、苦痛なんだ。勇者になって、色んな所を旅してからは」

魔剣〔ほう〕

勇者「昔は凄く幸せだった。この幸せが当たり前だと思っていたよ」

勇者「ただ……例えば俺がこのような食事じゃなく、街の食堂で食べるような食事をするだけで、今まで見てきた貧しい街はどれ程救われるだろう」

勇者「そのように考えてしまうんだ」

勇者「俺にこの生活は贅沢すぎる」

魔剣〔確かにそのように考える事も出来るであろうな〕

魔剣〔だが、キミはこの贅沢を甘受すべきなのだ〕


196VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/11(土) 04:44:13.41vCrfKuJS0 (4/5)

勇者「どういう事だ?」

魔剣〔もし、ならば……そのような事はいくらでも考えられる〕

魔剣〔それでも、キミの前には確かに贅沢な料理が存在する〕

魔剣〔贅沢すぎる。そう思ってこれらの料理を食わなければ、どうなると思うのだ?〕

勇者「俺なら、貧しい人に分ける」

魔剣〔本当にそれで良いのか?〕

勇者「その方が良いだろう。飢えてる人にあげれば、その人の飢えは一時的にだが凌げる」

魔剣〔だが、そやつにくれてやったものは勇者が残した食事だ。言わば、ゴミであろう〕

魔剣〔キミは人にゴミを与えて満足か?〕

勇者「それは……いや、そもそもどうしてゴミなんて事になる!」

魔剣〔等しいと言う事だ〕

魔剣〔キミに出されたものをキミが受け取らない。これはそれがキミにとってゴミ同然なのだ〕

魔剣〔例え、飢えた人にとっては宝であってもな〕

勇者「……何が言いたい」

魔剣〔それは――〕

長男「何の事だ?」

勇者「うおあっ!?」

長男「な、なんだ!? 急に、失礼なやつだな」

勇者「なんだ……長男兄上か……」

長男「なんだ、とはこれまた失礼なやつだな」


197VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/11(土) 05:00:05.00vCrfKuJS0 (5/5)

長男「まぁ良い。帰ってきたと聞いてな。少し様子見に来たんだ」

勇者「えっ。でも、仕事は……」

長男「副隊長に任せてきた。まぁ、ほんの数日だ」

長男「ここだけの話、近衛騎士団ってのも暇でな!」

勇者「そんな事言ってると白国王様に怒鳴られるぞ……」

長男「クビにならないなら大丈夫だ」

勇者「そう言えば、次男兄上は?」

長男「ああ。あいつは仕事で忙しいらしくてな」

勇者「あぁ……やっぱり長男兄上と違って兵士は厳しいんだ」

次男「騎士だから優秀ってわけではない。兵士もまた優秀だ」

勇者「えっ!? あれ、仕事じゃ……!?」

長男「最後まで話を聞かないからだろ」

次男「有給をもらって帰ってきたんだ」

勇者「そうなんだ……」

次男「不出来な弟を持つと心配でたまらないからな」

長男「それが大陸の命運を握る勇者ときては尚更心配だからな」

勇者「兄上達より実力上だったよな!?」

次男「魔法が出来るくらいでいい気になってもらっては困るな」

長男「全くだ」

勇者「長男兄上、それ俺の台詞。剣の腕だけでも俺の方が上だから」


198VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/11(土) 08:00:52.76HwGdH3tSO (1/1)

最近はよく動くな



199VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/02/11(土) 15:29:12.909IUKz7/8o (1/1)

いい動きだ


200VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/13(月) 23:35:58.52oAUYJv+J0 (1/2)

長男「で?」

勇者「何が?」

長男「いつまでこっちにいるんだって聞いているんだ」

勇者「どうだろう」

次男「どうせ開戦まで時間がある。それまでこいつは無職だ」

勇者「無職とは失礼だな」

次男「だが間違ってはいないはずだ」

勇者「あのな……いや、まぁそうだけど」

長男「そう言ってやるな、次男。何もなくても魔物退治の依頼とかは受けるんだろう?」

勇者「そうだね。最近は魔物増えてきているらしいし、また新種のものが送られてきてる可能性だってあるし」

長男「俺達兄弟の中だと一番下だって言うのに、全く、頭が下がる」

次男「そう言えば、勇者」

勇者「何?」

次男「魔物もそうだが、人にも気をつけた方が良い」

長男「ああ、そうだな」

勇者「近くに盗賊でも出るとか?」

次男「似たようなものだ」

長男「最近になって存在が明らかになってきているが……“月の使徒”という秘密結社があるらしい」

勇者「へぇ。それってどんな集団なんだ?」

長男「白羽教会の過激派ってとこだな。魔の国聖地説を信じる集団と聞いている」

勇者「と言う事は……大陸人でありながら魔族の味方って事か」

長男「そう思って良いと思う。とは言え、まだ噂程度のもので、本当にあるかどうかも疑わしい」


201VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/13(月) 23:56:29.40oAUYJv+J0 (2/2)

次男「月の使徒が存在するなら、魔の国と戦争を始めようとしているこれからが活発になってくるだろう」

次男「だが、目下の問題はそれじゃない」

勇者「えっ? 他に何かあるのか?」

次男「現在、竜の国と“最終戦争”をしているのは耳に入っているか?」

勇者「ああ。騎士の白蛇騎士団を筆頭に戦ってるあれの事だろ」

次男「そうだ。勿論、死傷者は出ているはずだ」

勇者「戦争だからな。悲しい事だけど」

次男「その通り。悲しいが、仕方ない事だ」

次男「だが、その“仕方ない事”に憤慨し、見当違いにも敵討ちをしようとこの国に攻め入る傭兵団がいるらしい」

次男「――いや、傭兵崩れか」

勇者「だけど、どうして白の国なんかに来るんだ? 竜の国は全く違う場所だろう」

長男「大陸連盟、とは言うが、実際その連盟会議で決定権を持ってるのは白の国だ」

長男「それはもはや周知の事実。白の国が肯けば他の国も肯く。それが常識だ」

勇者「成る程。だから白の国ってわけか」

次男「まぁ、狙われているのは白の国だけじゃないがな」

次男「傭兵団が雇われていた針の国から始まり、馬の国、火の国と戦争に関わる国の城を荒らしながらこちらに来ている」

長男「と言っても、今のところただ荒らし回っているだけらしいけどな。死者は一人もいないらしい」

勇者「何が目的なんだ……」

次男「それはわからないな。だが、情報が正しいならばそろそろここにも来る。理由はその時にでも聞けば良いだろう」


202VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/14(火) 00:20:16.19FjcpvMSt0 (1/5)

勇者「死者がないって言っても、国が三つも攻められてるんだよな?」

長男「そうだ。これは非常に厄介でな」

次男「とりあえず、北門と東門、西門の警備兵には怪しい者が入ってこないかしっかりと見張らせている」

次男「勇者、お前も街の外に魔物退治へ行くなら警戒しておいてくれ」

勇者「ああ、わかった」

勇者「……あ」

長男「どうした?」

勇者「怪しい集団、昨日見たかもしれない」

勇者「と言うか、あれは傭兵団だな。確実に」

次男「何!? どこで見た!」

勇者「南門の近く。魔物退治に出掛ける前だったかな」

次男「南門だと……!」

長男「見事に裏を読まれたな、兵士長殿」

次男「くっ……やかましい」

次男「休暇は終わりだ。早く城の守りを固めなければ!」

長男「俺も折角有給取ったのに、残念だな」

長男「じゃあ勇者、また後でな」

勇者「ちょっと待ってくれ!」

長男「どうした。俺達は急いでいるのだぞ」

勇者「俺も行く。自分の街も守れない奴が勇者じゃ駄目だろう」

勇者「それに……本当に兄上達の言ってる傭兵団がそれならかなり手強いかもしれない。明らかに桁違いな強さの奴がいた」

長男「そうか。助かる」

次男「足手まといにならないようにな」

勇者「さっきも言ったけど、俺の方が実力は上だからな」


203VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/14(火) 00:35:21.14FjcpvMSt0 (2/5)

――王宮近辺、女兵寮

剣士「いちっ! にっ!」ブォン ブォン

狂人「でゃー、でゃー」ゴロゴロ

剣士「いちっ! にっ!」ブン ブン

狂人「きゅあひゃひゃ」キャッキャッ

バンッ!

寮長「おい、ごるぁっ!」

剣士「あぁ、寮長か。何用だ?」

寮長「『何用だ?』じゃないよ! お前が帰ってきてから苦情が絶えないんだよ!」

剣士「狂人の事か? それはすまないと思っているが、暫くの事だからあなたも了承しただろう」

寮長「限度ってもんがあるよ!」

寮長「それになんだい。剣の稽古も室内でやって……ここを何階だと思っているんだよ!」

剣士「? 三階だが?」

寮長「隣室だけじゃない。響くんだよ、下の部屋にっ!」

剣士「狂人がいるのだから外で稽古するわけにはいかないからな……どうしようもない」

寮長「大体お前、帰ってから――」

剣士「……む」チラッ

剣士「勇者様とその兄上様ではないか! そんなに急いでどうした?」

寮長「人の話聞けぇ!」


204VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/14(火) 00:44:44.24FjcpvMSt0 (3/5)

勇者「ああ、剣士か!」

長男「勇者、何をしてる」

次男「急げ!」

勇者「ちょっと待って」

勇者「王宮を攻めてくる連中が街中に入ってしまったらしい! これから王宮の警備を固めるつもりだ!」

勇者「出来る限り守りを固めたい。寮にいる兵士にも言って回ってくれ!」

剣士「承知した! 私もすぐに向かう!」

勇者「すまない」

長男「大丈夫だ、多分。味方は多い方が良い」

次男「何をしている。急ぐぞ」

勇者「わかってる」ダダダッ

剣士「んー……」

寮長「聞こえていた」

剣士「なら話は早いな」

寮長「寮中の兵士に声を掛けて回りな。これも兵士の仕事だろ」

剣士「ああ。ついでに狂人の世話も頼む」

寮長「わかっ……らん! なんでそうなる!?」

剣士「私は不在なんだ。当たり前だろう。では」

バタンッ

寮長「おいっ、ちょっ待っ……!」

狂人「ぶえ~ぶえ~」ジュバジュバ

寮長「……どうしろと」


205VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/02/14(火) 01:11:15.07YubeDPvXo (1/1)

剣士には嫁属性があっていいな


206VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/14(火) 02:14:35.03FjcpvMSt0 (4/5)

――王宮

長男「……間に合ったか」

衛兵A「おや、団長殿。どうしたんですか? 有給だったはずでは」

衛兵B「それに兵士長様や勇者様まで」

次男「お前達は傭兵崩れの件については聞いているな?」

衛兵A「勿論です」

次男「勇者から、既に街に入り込んでいるかもしれないと言う報告があった」

衛兵B「なんですと!? しかし、まだ変わりはありませんが……」

長男「変わってからでは遅いのだ! 門を開けてくれ。今から守りを徹底的に固めていく」

長男「例え、情報が誤りであったとしてもだ」

衛兵A「はっ!」
衛兵B「了解であります!」

ギギギギーッ…

勇者「!?」

衛兵A「何が……どうなっている……」

次男「……本当に、変わりはなかったのだな?」

衛兵B「え、ええ! 勿論です!」

次男「ではこの有様はなんだ!」

次男「なぜ中では人が倒れているんだ!」

衛兵B「そ、それはその……どうしてかわかり、かねましてっ……」

勇者「その人は本当に何も知らないと思う。説教は後にしてくれ、兄上」

勇者「それよりも、この異変を抑えるのが先決だ」

長男「勇者の言う通りだな。衛兵に気付かれず、宮内を制圧されては……いや、既にされているかもしれない」

長男「俺達が優先すべきは、国王の身を守る事。急ぐぞ、次男!」

次男「ああ!」


207VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/14(火) 02:25:14.55FjcpvMSt0 (5/5)

剣士「勇者様、追いつい――なんだこれは!?」

勇者「剣士か。先手を打たれたらしい」

剣士「衛兵は何をしていた!」

衛兵B「それが……なにもせず……いえ、なにもなく……」

勇者「衛兵を責めるのはよそう。これは確実な奇襲だ」

勇者「女性兵士のみんなもよく来てくれた!」

勇者「王宮内には既に敵が潜伏している。どこにいるかも不明だが、見つけ次第討伐にあたってくれ!」

「「了解しました!」」

勇者「お、おう……息がぴったりだな……」

剣士「兄上様達は?」

勇者「先に、恐らく玉座の間に向かっているはずだ」

剣士「そうか。寮の男性兵士は他の者に呼ばせに行っている。じきに来るだろう」

勇者「流石だな。ところで、剣士には頼みたい事がある」

剣士「何だ?」

勇者「攻められているにも関わらず警鐘が鳴っていないのはおかしい。恐らく警鐘塔は制圧されているのだろう」

勇者「こっちの手に取り戻して、鳴らしてきてくれ。まだ無事な人がいる場合、報せなくては」

剣士「私一人でか?」

勇者「お前なら出来るだろ?」

剣士「……承知した!」

勇者「よし、任せた!」


208VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/14(火) 12:00:09.44gS+8TS+SO (1/1)




209VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/15(水) 16:14:21.73I6FXJVWIO (1/1)




210VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/16(木) 23:16:32.06as8VCWs5o (1/1)

ああ・・・・・・布団に・・・・・・布団に……テケリテケリ


211VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/02/16(木) 23:19:34.77a2bgBFMCo (1/1)

     ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
   /:::|  ___|       ∧∧    ∧∧
  /::::_|___|_    ( 。_。).  ( 。_。)
  ||:::::::( ・∀・)     /<▽>  /<▽>
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212VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/02/16(木) 23:30:55.42VepF8qWlo (1/1)

なんという賑やかさ


213VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/20(月) 01:36:31.29ULy4qr3x0 (1/4)

おはようございまし。
近々、一ヶ月程度パソコンのない場所に身を置くので、その間更新は確実に停滞すると思います。
一応携帯は持って行くけど、やる気上の問題で云々。

まぁ、それまでは少し更新しますよ!


214VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/20(月) 01:49:23.92ULy4qr3x0 (2/4)

剣士「何という事だ……」カツカツ

剣士「白の国王宮がこれほど容易く攻め入られるとは」

剣士「しかし、目的がわからないな。下僕や小間使いだけでなく、兵士さえも気絶にとどめて放っておくとは」

剣士「他にわからない事もある。なぜ誰もその侵入を知らなかったのか」

剣士「気絶した連中を見ても、争った形跡など一つもない。知られずに侵入をした事を物語っているようではないか」

剣士「……」カツカツ

剣士「ふむ」

剣士「警鐘の部屋も例外ではないようだな」

剣士「……」ペチペチ

警備兵「(返事がない。気絶しているようだ)」

剣士「ここまでくると、こちらが怠けていたから悪い感じではあるな」

剣士「さて、部屋の中の敵はどれ程の強者なのか」

剣士「願わくは、忍び足だけが得意な雑魚であってほしいな」

ガチャッ キィッ…

剣士「……」

剣士「……」

剣士「……?」

剣士「いない?」


215VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/20(月) 02:18:18.53ULy4qr3x0 (3/4)

剣士「まぁ良い。それならそれで好都合だ」

剣士「警鐘の部屋に来るのは案外初めてかもしれないな。中々大きな鐘ではないか」

剣士「あの大槌で鐘を打てば良いのだな」

剣士「……」カツカツ

剣士「どうなる事かと思ったが、楽なものだ。こんなに早く任務が終わってしまうとは――」

ガキンッ!

剣士「――などと思う程、私は甘くないぞ。残念だったな」

??「何!?」ザザッ

剣士「なんだ。お前一人か?」

??「……それはどうかな。俺が掛け声一つかければぞろぞr――」

剣士「一人だけみたいだな」

??「最後まで言わせろ!」

剣士「ハッタリなんて聞く必要はないだろう」

??「チッ」

剣士「で、お前は誰だ。名を名乗ってもらおうか」

??「なに、しがない傭兵団の副団長さ」

剣士「……名乗ってもらおうか」

??「……冗談の通じねぇ奴だな」

剣士「通じる時ではないからな」

副長「俺の名は副長。しがない傭兵団の副団長さ」

副長「さぁ、俺は名乗った。そっちも名乗るのが礼儀じゃねぇのか?」

剣士「奇襲を掛けた奴に礼儀を教わるとは思わなかったな」

剣士「私は剣士。白の国の騎士であり、勇者一行の一人だ」


216VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/20(月) 03:40:08.21ULy4qr3x0 (4/4)

剣士「それにしても、不思議なものだな」

剣士「楽々とこの王宮に侵入した輩はどんな奴かと思えば、このような若い副団長を持つ傭兵団とは」

剣士「それに考えも足りないときている。どうしてこのような者に侵入されたのか」

副長「お前はよく俺が扉の後ろに隠れていると見破ったな」

剣士「警鐘の部屋は見通しが良い。正門などは見えて当たり前だ。私達が駆けつけたのをお前が見ていたのは予想できる」

剣士「それに気付かないふりをしていれば案の定早く出てきてくれた」

剣士「子供騙しには子供騙し。上手く隠れていると思い込んで、早く姿を現してくれて手間が省けたぞ」

副長「うぬぬ……」

剣士「とは言え、早く任務を終わらせたいのは本音だ。今すぐ出て行けば見逃してやる」

副長「見逃してやる、だと?」

副長「まだわかってないようだな。こっちが優勢だ」

剣士「優劣なんてものは時に従い変わるもの。今この時も、私達に勝機が傾いている」

副長「……自信満々じゃねぇか」

剣士「これでも多くの魔族や魔物と戦ってきた一人だ。その辺の傭兵に負けるつもりは毛頭ない」

副長「はっ、それはやってみなけりゃわかんねぇぜ!」ダダッ

ブォンッ

剣士「粗いな」サッ

副長「だろうよ。ふっ!」シュッ

剣士「!?」

キュインッ

副長「……やっぱ一筋縄じゃいかないか」

剣士「くっ」ザザッ

剣士「短剣もあるとは。油断した……っ」

副長「相手のモノが一つならこれで仕留められるんだけどなぁ……」

副長「俺も言ってみれば二刀流って奴だ。お前と同じだな」


217VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/02/20(月) 09:33:26.31hi7t0V8vo (1/1)

元々遅スレなんだから
別に余裕だぜ!


218VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/20(月) 09:41:24.34h3BkvimIO (1/1)




219VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/02/24(金) 02:02:23.99QfOpZ6Yio (1/1)

     ...| ̄ ̄ | < 続きはまだかね?
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220VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/25(土) 06:09:06.24iubBdJwP0 (1/9)

後々忙しい時期が入るとわかっている直前に限って、急用的に忙しくなったりするんだよな……。
今月の更新は多分これが最後。

>>217
その言葉が痛いですwww


221VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/25(土) 06:17:55.71iubBdJwP0 (2/9)

剣士「……」

副長「な、なんだその目は!」

剣士「あぁ、すまない。そうやって二刀流を自慢する輩には多くてな」

剣士「格好いいからとか言う理由だけでやっているのが」

副長「格好だけと思ってもらったら困るな」

剣士「謝っただろう。仮にも副隊長らしいからな」

剣士「さぁ、来い」チャキッ

副長「……」スゥ

副長「……」ハァァァ

副長「行くぞ!」キッ

剣士「来い!」

副長「……行くぞ!」

剣士「早く来い」イラッ

副長「――つぁあ!」ブォン

キンッ

副長「っ、っ、っつぁい!」ガンッ ガンッ ガンッ

カンッ カンッ カンッ

剣士「くっ……」

副長「どうした? 守ってばかりじゃねーか」

剣士「そうだな。だが、お前も決定打を打てない」


222VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/25(土) 06:29:07.01iubBdJwP0 (3/9)

剣士「そうだろう?」

副長「それはどうかな」

剣士「お前の先方は既にわかっている」

剣士「片方の剣で陽動を行い隙を作り、もう片方で攻撃する。三流がよくする手だ」

副長「……」

剣士「手はわかった。次はこちらから攻めさせてもらおう」ダッ

剣士「ふっ!」ヒュンッ

副長「っ」キンッ

剣士「!?」

副長「つぁいやっ!」ガキンッ

剣士「っ!」ザザッ

カラン…カラン…

剣士「け、剣が……!」

副長「……俺は実力主義の中で副隊長まで上り詰めた男だ」

副長「そんな基本手だけの二刀流じゃねーんだよ!」

剣士「くっ」

副長「確かに基本手だけでも勝てる奴は多い」

副長「だが短剣で受け止め、長剣で剣を払い落とすくらいはできるんだよ。今みたいにな」

剣士「……まだもう一本ある」

副長「やってみるがいいさ」


223VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/25(土) 06:47:40.94iubBdJwP0 (4/9)

カラン…カランカラン…

副長「これでそっちの獲物はなくなった」

剣士「……くぅっ」

副長「あんたの敗因は奢りだ」

副長「そもそも二刀流に慣れきった奴が今更剣一本でまともな戦いができるわけねーだろ」

剣士「……」

副長「……逃げないのか?」

剣士「逃げる理由はない。敗れる時も潔くあるのが騎士だ」

副長「見上げた根性だ」

剣士「それに、逃げたところで逃がすつもりもないだろう」

副長「その通り。とりあえず、騎士道精神に則って大人しく眠ってもらおうか」

副長「つぁぁああ――」ブォン

剣士「……ふっ」ガシッ

副長「――あああ?」

剣士「はぁぁあっ!」グイッ

ゴォォォオオオオンッ!
 ゴォオオン
  ゴーン…

副長「あ……え……?」バタッ

剣士「……お前の敗因は奢りだな」

剣士「騎士は負ければ潔いが、戦いの最後まで諦めないものだ」

剣士「最も、最初から負けるつもりはなかったのだがな」

剣士「剣を出した手前収めるのも侮辱に当たると思っていたから、落とされてやっただけだ」

剣士「……って、聞こえてないか」

剣士「警鐘も鳴らしたし、縛った後で勇者様のところへ急ごうか」


224VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/25(土) 08:01:55.05nPMaoMHSO (1/1)




225VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/25(土) 08:12:50.82iubBdJwP0 (5/9)

勇者「警鐘だ……。上手くやったみたいだな、剣士」

長男「今更だけどな」

勇者「まぁ、そうなんだけど……鳴らさないよりはマシだろう?」

次男「この分だと、宮内は全て占拠されているはずだが……ぐっ」

長男「大丈夫か? さっきの戦闘でかなり負傷してるみたいだが」

次男「このくらい……何ともない」

長男「さて、玉座の間の前までついたわけだが」

勇者「この様子だと、既に占拠されているよな」

次男「本当にどうしてこうなってしまったのか……」

「お主ら、国王様を放せ!」

勇者「大臣の声!」

長男「白国王様はどうやら無事のようだな」

長男「相手は強い。心して行くぞ」

勇者「わかってる」

次男「勿論だ」


226VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/25(土) 08:46:15.53iubBdJwP0 (6/9)

長男「白国王様、無事ですか!」

大臣「おお、長男殿、次男殿、それに勇者殿まで……!」

戦士「……」

少女「思ったより早かったね、救援」

戦士「うむ……」

白国王「ゆ、勇者っ……!」

少女「ちょっと黙ってて」チャキッ

白国王「ぐっ……」

長男「まさかこんな子供が……」

長男「大臣、何があったんですか!」

大臣「私にもわからん……! 気がつけば既に攻め込まれていて……」

次男「奇襲とは卑怯な……」

少女「卑怯だから奇襲って言うの」

勇者「やっぱりお前達だったのか」

少女「久しぶり、勇者のお兄さん。こんなところでまた会うなんてね」

勇者「全くだ。だがなんでこんな事を……」

少女「復讐……みたいな?」

長男「復讐だと?」

少女「そう。あたしは“最終戦争”で不毛に命を落とした傭兵、傭兵長の娘」

少女「戦争の決定を下した無責任な王族を懲らしめて回ってるんだ」


227VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/02/25(土) 08:47:23.14HXHYWJ4yo (1/1)

サキュバスがまた誘惑しにくるよ


228VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/25(土) 08:55:34.45iubBdJwP0 (7/9)

白国王「傭兵長だと……お主がその娘か!」

少女「流石に知ってるみたいだね」

長男「傭兵長なら俺も知っている。傭兵としてなら、大陸一の強者と聞いている」

次男「噂は本当だったというわけか」

次男「だが彼は傭兵だ。いつ死んでもおかしくなかっただろう」

次男「それを各国の王族に責任を問うのは逆恨みというものだ」

少女「そうかもしれないね。でも、あの戦争では本当に命が無意味に散っていったと聞いている」

少女「そのような状況になったのは、早く竜の国を片付ける決定をしなかった王族にあるんだ」

少女「だから――!」ヒュンッ

白国王「……」

少女「あたしはこいつに罰を与える。白の国が最後だ」

長男「そうさせるわけにはいかないな」

次男「その通りだ」

少女「あたしだって簡単にいくとは思ってないよ」

少女「戦士、先にこいつらを片付けるぞ」

戦士「……承知」


229VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/25(土) 09:38:54.43iubBdJwP0 (8/9)

勇者「兄上達は女の子の方を頼む」

長男「おい、俺達に女で子供と戦えって言うのか? しかも二人がかりで?」

勇者「周りを見てくれ。何十人と近衛兵がいるのに、皆倒されている」

勇者「子供だからといって侮ってはいけないと思う」

勇者「それに……」

戦士「……」

勇者「あの鎧で着固めている奴、多分別格に強い」

次男「それなら尚更そっちに加勢すべきじゃないか?」

勇者「兄上達なら二十人いても意味ないよ」

次男「言ってくれるな」

長男「勇者、大丈夫なのか?」

勇者「……自信ないな」

長男「まぁ……良いだろう。そっちは任せた」

少女「みんなで来ないみたいだから、役割決めてるんでしょ。決まった?」

長男「とりあえずはな」

戦士「俺……勇者と……」

勇者「安心しろ。お前の相手は俺一人だ」

少女「そっか。じゃあ、あたしはこっち片付ければいいのか」

長男「手加減なしだ」

次男「女子供でも容赦はしない」


230VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/02/25(土) 09:43:16.91iubBdJwP0 (9/9)

とりあえずこの辺りで。
書きたいとこまで書けなかったけど、そろそろ出立しなきゃなので。


231VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/25(土) 13:25:23.10X3EyjSyIO (1/1)




232VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2012/02/25(土) 13:31:28.06yyTpNM3AO (1/1)

乙、良い夢の旅を


233VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/02/26(日) 01:47:43.511vh2surSO (1/1)




234VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/03/24(土) 09:48:41.91Gf96OedUo (1/1)

サキュバス「手加減なしだ。男大人でも容赦はしない」


235VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/03/30(金) 10:13:52.82kqCF85U20 (1/4)

ただいま。
長い間起きてなきゃいけないだけでも苦痛なのに、コンピュータで気軽に文章書けないのもつらいね。

長い間一日八時間くらいしか睡眠とれてなかったから、次寝たら少し長い眠りにつきそうです。
でもそのまえに少し書かせてもらいましょう。


236VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/03/30(金) 10:20:35.25kqCF85U20 (2/4)

勇者「さて……」

戦士「……」

勇者「お前の目的は、何だ?」

戦士「……」

勇者「見たところただの傭兵じゃない。気配もあまりに奇妙だ」

戦士「勇者……」

勇者「……?」

戦士「勇者……自ら……信じるか……」

勇者「何が言いたい」

戦士「これ……正義だ」

戦士「手合わせ願おう」

勇者「!?」バッ

ガキィンッ!

戦士「……」ググ

勇者「ぐっ……なんて重い剣だ……!」

戦士「油断……するな……」

勇者「なんだと?」

戦士「……“爆炎”」

勇者「な――!?」

ドゴォォォンッ!!


237VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/03/30(金) 10:35:49.17kqCF85U20 (3/4)

長男「勇者!」

少女「よそ見は……禁物だよ!」バッ

長男「っ!」サッ

ガィンッ

少女「ちっ。はずしちゃったか」

少女「!?」バッ

キィンッ

少女「……危なかった」ホッ

次男「油断禁物。そっちにも言える事だ」

少女「でも、女の後ろから斬りかかるなんて騎士のする事じゃないね、おじさん」

次男「俺はただの兵士だ。騎士ではない」

長男「次男、お前“おじさん”って呼ばれたぞ」

次男「それは心外だ。まだ二十五だと言うのに」

次男「だが兄上もまた“おじさん”になるのではないか」

長男「俺は良いんだよ。三十過ぎれば立派なおじ様だ」

次男「右から行く」ボソリ

長男「では正面で止めよう」ボソッ

長男「さぁ、来い」

少女「全く、余裕なんだから……」ダッ

ガキィンッ


238VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/03/30(金) 10:50:13.18kqCF85U20 (4/4)

戦士「……防いだか」

勇者「危なかったけどな」

勇者「だけど、まさかこの大陸に剣と魔法両方使う奴が俺以外にいるとは思わなかった」

勇者「お前、何者だ?」

戦士「……」

勇者「答えるつもりはない、という事か」

勇者「なら、無理にでもその鎧をはがして、顔を拝んでやろうじゃないか」

魔剣〔勇者、試してみるか?〕

勇者〔あの鎧がどれ程のものかはわからないけど、やってみよう。修行の成果を、実践で〕

勇者〔ひびくらいはいれたいものだけどな〕

勇者「“――”」ブツブツ

戦士「……?」

勇者「さぁ、ここからが本番だ」

勇者「剣と魔法、共に駆使して戦おうではないか」

戦士「いい……だろう……」

勇者「“火炎壁”!」

戦士「“爆風塵”」

ズアァァァアッ

勇者「ふっ」ダダッ ヒュン

戦士「……」ダッ ブォンッ

ガキィンッ!


239VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/03/30(金) 18:19:27.39StI2/CKMo (1/1)




240VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/03/31(土) 00:28:14.45UKitoxBHo (1/1)

ネテロネテル
ばああああああん


241VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/03/31(土) 03:13:31.80XJANixSSO (1/1)

一日8時間って十分じゃね?


242VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/04/02(月) 09:42:48.78fETheIvZo (1/1)

寝すぎる病気もあったよな
日常生活に支障がないならいいが、検査受けた方がいいかも


243VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/04/03(火) 00:15:52.86x9aTg1Spo (1/1)

マジレスしちゃう子ですか?
ここは危ないインターネッツですよ
早く逃げなさい


244VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/04/03(火) 10:53:24.66WcrFWXQX0 (1/6)

>>242
寝るのは好きだから日常生活は良いんだが、社会生活に支障きたしまくり。
ちなみに睡眠専門の医者じゃないけど、目立った睡眠障害じゃなくて性格の問題らしい。
もらった薬と共に睡魔を気長に撃退中であります。


245VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/04/03(火) 11:14:24.49WcrFWXQX0 (2/6)

大臣「侯爵家三兄弟が来たからにはもう安心ですな。歩けますか?」

白国王「うむ」

大臣「見ての通り、奴らも苦戦しております」

白国王「いや……恐ろしいのは彼らが勇者達と対等に戦っていると言う事だ」

白国王「対等、ではないかもしれん。あの二人、顔に余裕が見える」

大臣「まさか! 勇者は元より、長男、次男は騎士兵士の長を務める身ですぞ」

白国王「戦士とやらの力は底知れぬ。にもかかわらず、既に勇者は苦戦を強いられているようだ」

白国王「少女は傭兵長の娘らしく、その槍術も確かに傭兵長のものだ。だが、完璧ではない。わしが以前見たものの片鱗でしかないのだ」

大臣「考えすぎでは……」

大臣「しかし、そうですね。万が一という事もあります。早急に逃げた方がよろしいでしょう」

白国王「うむ」

少女「ちっ。待て!」

ガキィンッ

長男「よそ見は良くないな」ググ

少女「ああ、もう。二人相手はつらいなぁ」ググ

戦士「……“大火炎弾”」

大臣「!? 白国王様!」

ドガァァァアアアン!!
  ガラガラガラ…

白国王「くっ……」

大臣「ご無事ですか!?」

白国王「問題ない。だが出口が……ふさがってしまったな」

ガキィイインッ

勇者「よそ見とは余裕じゃないか」

戦士「安心しろ……片手間、だ……」グワキンッ

白国王「あやつ、何というやつだ」


246VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/04/03(火) 11:44:36.13WcrFWXQX0 (3/6)

少女「戦士、よくやった」

戦士「……時間」

少女「そうだね。警鐘が鳴ってからもう結構経つし、急がないと」

次男「知っているのか」

少女「魔法部隊でしょ?」

少女「あんなの来られたら、戦士はともかくあたしは厳しいだろうね」

少女「来る前に終わらせるけど」

長男「確かに君は強い。子供にしてはじゃなく、一人の戦士として、十分に強い」

長男「だが、せめて足止めくらいはさせてもらう」

少女「無理だよ」

次男「勝てると思っているのか」

少女「当然。あたしの槍は、父さんの槍だから」ダッ

シュッ

長男「焦ったか。さっきより突きが雑になって――!?」

ガィンッ

長男「ぐっ……まさか薙ぐとは」ググ

ドスッ

次男「うぐふっ」ドサッ

長男「次男!」

少女「今までの二人の連携、槍の死角をついてもう一人が攻撃してくるのは凄かった」

少女「でも、父さんの槍術に死角はないんだ」シュッ

長男「っ!」キィンッ

少女「突きの必殺、薙ぎの必殺、そして……」シュヒュヒュッ ブォンッ

ドカッ

長男「ぐ……あ……」ドサッ

少女「殴りの必殺。柄も武器なんだよ」


247VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/04/03(火) 12:01:43.16WcrFWXQX0 (4/6)

大臣「長男殿、次男殿!」

白国王「やはりそうか……。傭兵長の槍術をほぼ使いこなしている」

少女「大丈夫。二人とも気絶してるだけだよ」

少女「あたしは白国王に聞きたい事があるだけだからね」

勇者「白国王様!」

戦士「“火炎弾”」

勇者「!」

ドゥゥウンッ

戦士「……よそ見の……暇、ない」

勇者「くそっ……!」

少女「あたしはね。父さんがわざわざあんな戦争で死ななくても良かったと思ってる」スタスタ

少女「遅れに遅れた戦争の結果、父さんは死んだ」スタスタ

少女「父さんだけじゃない。傭兵団のみんなも死んでいった」チャキッ

少女「この責任、どう取るつもりなの?」

白国王「……っ」

大臣「や……」

少女「?」

大臣「やめるのだ、傭兵長の娘。白国王様も苦心したのだ。我が国の騎士や兵士も多く失っている」

少女「……それで?」

大臣「お主のやっている事は、八つ当たりというものだ。冷静に考えなされ」

少女「かもしれないね。でも、あたしの気持ちが収まらないと意味ないよ」

少女「全然、納得出来ない」

大臣「っ」


248VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/04/03(火) 12:25:02.29WcrFWXQX0 (5/6)

白国王「大臣、もうよい」

大臣「!? で、ですが……」

白国王「もうよいのだ、大臣。その子の言っている事に間違いはない」

白国王「少女、傭兵長の娘よ。お主がわしを罰するというならば受け入れよう」

白国王「さぁ、殺すならばそうするが良い」

大臣「白国王様!?」

勇者「国王、早まらないで下さい!」ググ

白国王「大臣、そして勇者。わしは長い間白の国の王として生きてきた。恨むものも多い」

白国王「恨みで死ぬならば、このような純粋な想いの恨みならば、嬉しい限りではないか」

大臣「例えそうだとしても、これからこの国をどうするおつもりですか!」

白国王「死は常に覚悟しておった。わしの死後、娘を呼び戻して即位させるのだ」

大臣「っ」

少女「覚悟は、出来てるの?」

白国王「無論だ。この首を落としても良い。胸を一突きにしても良い。さぁ、やれ」

少女「そう。せめてもの情けに、すぐ楽にさせてあげる」ス…

勇者「白国王!」ダッ

戦士「行かせない……」ブォンッ

勇者「っ!」キッ

勇者「あぁぁあああっ!!」ズアァッ!

戦士「!?」

ピキッ…

戦士「む……」

魔剣〔今、何をやった? 剣が触れてないにもかかわらず鎧にひびを――〕

勇者「“雷撃”!」ババッ


249VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/04/03(火) 12:36:26.53WcrFWXQX0 (6/6)

戦士「む……うぅ……」

魔剣〔勇者……聞こえてないのか?〕

魔剣〔先程の攻撃も、必死のあまり偶然出たものか……〕

勇者「白国王様!」ダダッ

大臣「白国王様を殺すならば、まず私を殺して――」

白国王「ならん。お主はわしの死後もこの国を支えていくんだ」

白国王「やるなら早くやる事だ、少女」

少女「……」

勇者「“火炎――”!」

パリーンッ!

少女「!?」

大臣「何事だ!」

クルクルクルクル タンッ

盗賊「……」ギロッ

少女「あんた……!」

勇者「盗賊!」

盗賊「……てめぇか」

少女「……」

盗賊「こんな所で何してやがる」


250VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/04/03(火) 13:23:01.13AJyriZ0IO (1/1)




251VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/04/04(水) 11:41:57.2859/JE5MTo (1/1)

サキュバスは実在した!?


252VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/04/06(金) 15:29:27.19AbxEqr7So (1/1)

まだ残ってた!
最初からずっと読んでるよー


253VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/04/14(土) 21:58:05.97qB898tYAo (1/1)

ちょっと遅れたがちゃんとチェックしてるぜ(キラン


254VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/04/16(月) 21:22:52.30LJTcW69t0 (1/4)

こっそりとやってきて

そのうちふらりと布団に戻る


255VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/04/16(月) 21:41:12.78LJTcW69t0 (2/4)

白国王「お主は……」

大臣「確か、黒の国の一件で活躍した一組の用心棒ではないか」

白国王「先日氷の国での件で、勇者と共に旅をした者でもある」

大臣「では、彼が……盗賊ですか」

白国王「……あれ程高い窓から入ってくるとは。元盗賊だけあって型破りな」

勇者「盗賊、どうしてここに!?」

盗賊「警鐘を聞きつけてな。あれはとんでもねぇ時に鳴らすって言うじゃねぇか」

盗賊「悪い予感がしたと思えば」

少女「……っ」

盗賊「どういうつもりだ、てめぇ……!」

勇者「あれ? お前、そいつと知り合いなのか――」

魔剣〔後ろだ!〕

勇者「っ!?」

ギィンッ

戦士「……」グググッ

勇者「くっ……!」グィッ

勇者〔助かった〕

魔剣〔戦いの最中だと忘れていただろう〕

勇者〔あ、あのな……そんなわけ……〕

魔剣〔図星だな〕

勇者〔ぐっ……!〕


256VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/04/16(月) 22:03:21.31LJTcW69t0 (3/4)

盗賊「……ったく、危なっかしいな、あいつ」

少女「他人の心配をしてる暇あるんだ」

盗賊「一対一だろ。隙が出来る程気は散らねぇよ」

少女「戦うつもり?」

盗賊「当たり前だ。責任取っててめぇを止めなけりゃ、気が収まらねぇ」

少女「何の事かよくわからないんだけど」

盗賊「とぼけるつもりか?」

少女「……」

盗賊「……一つ聞く。始めから利用するつもりだったのか?」

大臣「ど、どういう事だ?」

盗賊「すまねぇな。来る途中ここの様子を見たが、これ奇襲されてるんだろ?」

盗賊「多分、俺がこいつに抜け道を教え――」

少女「初対面に!」

少女「何言ってるのかよくわからないけど、あんたは大人しくそこをどいてくれないんだよね」

少女「大体初対面なんだから、あんたに利用価値があるかどうかもわからないでしょ。初対面なんだから」

盗賊「……それもそうだな」

少女「わかった?」

盗賊「元々利用するつもりじゃねぇってのはわかった」

盗賊「だが俺に責任はあるわけだし、王様に刃先を向けるのは感心しねぇな」

少女「……やっぱり戦うんだ」

少女「じゃあ、障害を取り除かないとね」


257VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/04/16(月) 22:28:40.53LJTcW69t0 (4/4)

盗賊「……」サッ

大臣「短剣で槍に勝てるわけがない……!」

少女「っ」ヒュンッ

白国王「いや」

大臣「?」

白国王「勝機がなければ戦いは挑むまい」

少女「っ! っ!」ヒュンッ ヒュンッ

盗賊「……」サッ ザザッ

少女「どうしたの? 避けてばかりみたいだけど」ヒュンッ

盗賊「さぁな」

少女「……」ブォンッ

盗賊「!」ダッ

少女「……」ニヤ

盗賊「!?」ザザッ

ヒュオンッ

盗賊「……危ねぇ」

少女「……素早いね。しっかりと懐に入ってきたと思ったんだけど」

盗賊「入ってた。が、一瞬早く気付いただけだ」

盗賊「ずっと気になってたが、今の槍を棒にも鉾にもする扱い方でやっと思い出せた」

盗賊「てめぇだったんだな。ハリネズミ」


258VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/04/17(火) 00:20:04.2671CD+gcBo (1/1)

フラクタルというパンドラ


259VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/04/17(火) 08:47:12.70yWpIfOdfo (1/1)




260VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/05/24(木) 21:13:10.79v8pi691c0 (1/5)

少女「……」

盗賊「どうなんだ」

少女「……よくわかったね、ミスター・シーフ」

盗賊「まぁ、あんなやり方は並の所じゃ教えてねぇだろうし、俺も初めてだったんでな」

盗賊「全く、何が初対面だ。嘘言いやがって」

少女「別に良いでしょ。闘技場でも今日この場でも――」

盗賊「敵同士だからな」

少女「よくわかってるね」

盗賊「わかりやすいってのは良いもんだ」

少女「……今日も勝たせてもらうよ」ザッ

盗賊「生憎だが――」シュッ

ザクッ

少女「っ!?」

盗賊「ほう。傷を負っても声一つ上げねぇのか。凄ぇな」

少女「……ナイフを投げてくるなんて、油断したよ。でも一発で仕留めるべきだったね。あたしはまだ十分に動けるよ」

少女「今、あんたは武器を持ってない。あたしの勝ちだね」

盗賊「流石俺の認めた女だ。そうでなけりゃ困る」

少女「……え? な、何を言って……!」

盗賊「だが――」

ジャラ…

少女「な……」

盗賊「短剣ならいくらでもあるんでな。俺の勝ちだ」

盗賊「闘技場では本調子じゃなかったんだよ。武器が限られてたからな。だが今は違う。そして――」

盗賊「てめぇの弱点は遠距離だ。そうだろ?」


261VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/24(木) 21:22:19.81mnGKyR5SO (1/1)

やっと起きたか


262VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/05/24(木) 21:31:17.35v8pi691c0 (2/5)

少女「……はっ、当たらなけりゃ良いだけ――」

カツンッ

少女「っ」

盗賊「それ以上前に進むか、降参か。選ばせてやる」

少女「選ぶ? 何でそんな事しなけりゃならないの」カツ…

盗賊「……」シュッ

カツンッ

少女「……ほ、ほら、また外した」

盗賊「言い忘れてたが、俺が十回投げたら九回は必ず命中するぜ」シュッ

カツンッ

盗賊「それでも“外した”と言えるか?」

少女「くっ……そんな……嘘には……」

盗賊「……」

少女「……」

少女「……っはぁ。負けたよ。あたしはまだ死にたくないしね」

盗賊「良い判断だ。まぁ、俺も殺したくはなかったからな。折角の良い敵だ」

少女「敵に良いも悪いもないでしょ」

盗賊「そんな事はない。……ああ、そうだ。ちなみにさっきのは嘘だからな」

少女「なっ!?」

盗賊「俺は十回……いや、百回投げても百回当てる自信があるぜ」


263VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/05/24(木) 21:43:23.78v8pi691c0 (3/5)

大臣「終わ……ったのか?」

白国王「そのようだ」

大臣「でも、何故殺さない。早く殺さねば――」

白国王「その必要はない」

大臣「しかし……!」

白国王「彼女の目を見ろ。もはや殺気はない」

白国王「……問題は、勇者の方だな」

大臣「勇者ですか?」

勇者「はぁあああっ!!」ヒュンッ ヒュンッ

戦士「……っ」カキンッ カンッ

大臣「大丈夫でしょう。勇者が優勢のようです」

白国王「だと良いのだが……。嫌な予感しかしないのだ」

大臣「?」

魔剣〔もっと、もっと精度を高めろ!〕

勇者「集中だ……集中しろ……」ブツブツ

カキンッ ガチンッ

  ……ピシッ

戦士「!? ……まずい。剣……折れ――」

勇者「うおぉぉお!!」ブォンッ

戦士「“氷壁”!」パシッ


264VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/05/24(木) 21:58:44.58v8pi691c0 (4/5)

…パキンッ

勇者「はぁ……はぁ……」

戦士「……」

魔剣〔勝ったか。剣が折れては相手も戦意は沸くまい〕

盗賊「あっちも終わったか」

少女「はぁ。奇襲までしたのに失敗するなんて」

ピシッ

魔剣〔まさか……鎧まで……〕

魔剣〔そうか。先程入れたひびが耐えきれなくなったか〕

ミシ…ミシ… ピキッ
   ガラガラガラガラ…

勇者「なっ!」

盗賊「!?」

少女「へぇ、結構美形だったんだね。あたしもあいつの素顔は見た事なくてさ」

盗賊「……本当にあいつの正体知らなかったのか。仲間じゃねぇのか?」

少女「戦士は助っ人だよ。珍しい奴もいるんだなって思ったけど。……どうしたの?」

大臣「白国王様、あやつは確か……」

白国王「ああ、間違いない」

勇者「……魔王」

魔王「……」


265VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/05/24(木) 22:03:14.85v8pi691c0 (5/5)

戦闘シーンとかに入ると停滞する傾向があるらしい。
それはともかく、今日はここまで。早いけど。


266VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/05/24(木) 22:36:04.002JRW9NVw0 (1/1)

まさかの魔王




267VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/05/25(金) 00:30:28.58Wlkmwb4po (1/1)

魔王がザオリクしてたなんて新しいな


268VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/05/25(金) 08:44:57.96bRDPiRwqo (1/1)




269VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/05/25(金) 10:57:34.98rDSUyXlQo (1/1)

乙ー!


270VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/06/01(金) 05:11:45.87RpoJwGQa0 (1/3)

少女「……なんだって?」

大臣「そんな馬鹿な……何故、あやつが……」

少女「ちょっと待って。さっき勇者はなんて言ったの?」

盗賊「聞き間違えじゃねぇ。確かに魔王だ」

盗賊「だがどうして奴が……戦士って言えば、木炭村では人を生き返らせてまで……」ブツブツ

盗賊「くそっ! 何がどうなってやがる!」

勇者「どうして魔王がここに……!」

魔王「……ばれたか」ボソリ

魔王「勇者よ!」

勇者「っ」ビクッ

魔王「強くなったではないか。我が鎧を砕くまでに至るとは」

魔王「まこと、嬉しいぞ」

勇者「魔王っ……どうして、ここに……!」

魔王「少しばかり野暮用でな」チラッ

白国王「っ!」ゾクッ

勇者「まさか、白国王様の命が目的か!」

魔王「……だったら、どうすると言うのだ」

勇者「俺が、止める!」シュバッ

魔王「ほう」

勇者「――っ!?」


271VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/06/01(金) 05:30:05.33RpoJwGQa0 (2/3)

ドンッ

勇者「ぐはっ――!」

大臣「今、何が起こったのだ!?」

盗賊「馬鹿な! さっきまで互角には戦っていたってぇのに!」

魔王「先程までは小手調べだ。我が鎧を砕くまでに至ったが、言うなれば未だそれまで」

魔王「鎧には我が力を十二分に抑える制御魔法が掛けられておったのだ」

勇者「何……っ」

魔王「今の勇者など、鎧を脱いだ我には折れた剣であろうと十分に勝てる」

魔王「それを証明したまでだ」

魔王「もし万全の状態で戦われては、多少苦戦はしたかもしれぬがな」

勇者「く、そ……!」

魔王「では、白国王よ。次はお主の――ん?」

少女「……今更あんたがあたし達を騙したとは思ってないけどさ」

少女「最後の最後までただの駒でいるつもりはないんだよね」

魔王「駒だと? 笑わせるな。我の方がお主達に手を貸してやったのだ」

少女「あんた、何て言って誘ってきたか憶えてる?」

魔王「『人の本性は死を覚悟した時に現れる』だったか」

少女「そう。でもあたし達は本当に命を奪うわけじゃない。根っからの悪人じゃない限りね」

大臣「なんと! 今まで死人がなかったのも、そういう事であったのか……!」

少女「それで、戦士。あんたは何をしようとしてる? 人を殺そうとしてるよね」

少女「あたしはそれが気に食わないんだよ!」チャキッ


272VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/06/01(金) 05:47:47.13RpoJwGQa0 (3/3)

魔王「我に刃を向けるか」

少女「そうなるね」

魔王「その足で、勝てるとでも?」

少女「どうだろうね。でも――」

少女「一矢報いれば良いと思ってるよ」ダダッ

魔王「愚かな……。お主の弱点はわかっておるのだぞ」

魔王「“雷撃”!」バリバリバリ

少女「――っ!」

ドギャンッ!

少女「きゃっ!? ……あれ?」

魔王「何!?」

少女「! 何で、あんた……!」

盗賊「無謀な奴とは思ってたが、ここまでとは思わなかったぜ」シュゥゥウ…

少女「あんたもでしょ。それより、大丈夫なの、それ?」

盗賊「初級魔法の一つや二つ、ナイフ一本ありゃあ殆ど防げる。それが盗賊ってもんだ」

盗賊「本職の傭兵もそのくらいしねぇと、すぐに死ぬんじゃねぇのか?」

少女「……言ってくれるね」

魔王「どうやら雑魚と甘くみておったようだ。非礼を詫びるべきか」

盗賊「ここから去ってくれりゃ一番嬉しいんだが」

魔王「否。それ相応の威力をもって持てなすべきか」ゴゴゴゴゴ

少女「あ、これやばいかも」

盗賊「同感だ。気が合うな」

ドドーンッ!!


273VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/06/01(金) 08:15:24.98Rn19KCT3o (1/1)




274VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/02(土) 23:11:19.32Pkh4IsPAo (1/1)

ちょっと目を放した隙に物語が加速しとる


275VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/05(火) 18:18:51.518ZpjgRqSO (1/1)

神出鬼没だからな


276VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/06/30(土) 01:53:37.16fq+Iw96F0 (1/7)

シュゥゥゥウ…

魔王「……」

盗賊「ぐ……ぅ……!」

少女「く……っそ……。何て威力……!」

大臣「だ……丈夫で……か、王様……」

白国王「……むぅ」

勇者「痛ぇ……何が起こった、んだ……」

魔王「ほう。驚いた」

魔王「手加減をしたとは言え、皆意識があるのか」スタスタ

魔王「だが――」ガシッ

白国王「うぐぅっ!」

大臣「白国王……!」

魔王「もはや、動けまい」

勇者「やめっ……。ちくしょう……白国王様……!」

少女「まだ戦えるっ……戦えるのに……!」

魔王「人には過ぎた痛みであろう。無駄はやめ、大人しくするが良い。さて――」

白国王「……わしを殺すか」

魔王「無論だ」

白国王「……」
魔王「……」

白国王「良いだろう」

大臣「白国王様……!?」


277VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/06/30(土) 02:03:22.43fq+Iw96F0 (2/7)

白国王「だが一つ、頼みがある」

魔王「……聞き入れよう」

白国王「感謝する。頼みと言えども、ただの問答なのだが」

魔王「長くなるか?」

白国王「……いいや」

魔王「ならば、問うが良い」

白国王「何故、わしを殺すのか」

魔王「我が計略の妨げとなり得るからだ」

白国王「……わしは、長生きしすぎたのか」

魔王「……人を治めるには、あまりにも長い」

白国王「そうか……」

魔王「……問答は終わりか」

白国王「最後に一つ、大臣にある」

大臣「!?」

魔王「問うが良い」

白国王「娘を、頼めるか」

大臣「な、何を……っ」

大臣「……はい!」

白国王「そうか」

白国王「それは……安心した」


278VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/06/30(土) 02:24:26.01fq+Iw96F0 (3/7)

魔王「……」

白国王「……何をしている。問答は終わった。殺すが、良い」

魔王「白国王よ」

白国王「?」

魔王「我は一国の王であるが、お主もまた王である」

魔王「王に敬意を表し、望みの死に様で死ぬが良い」

白国王「死に様か……。はっはっは……この状況では限られると言うのに……」

白国王「胸を突くが良い。首をはねられては、まるで罪人の晒し首である故。わしを王として殺すならば、胸を突くが良い」

魔王「承った」スッ

大臣「白国王……!」

勇者「白国王様……。やめてくれ、魔王……!」

白国王「――思えば」

白国王「遠い昔に、こうなる事は決まっていたのかも知れぬな……」

~ ??年前 ~

白国王「誰だ、そこにおるのは」

魔王「声を掛ける前にばれてしまったか」

白国王「……何者だ」

魔王「申し遅れた。我が名は魔王。魔の国の新しい王である」

白国王「魔の国の王だと!?」ガタッ

魔王「警戒しないでいただきたい。ただ話をしにきただけなのだ」

白国王「……何だ。聞こう」

魔王「お主を大陸の統率者と見込んで聞く。我と組み、世界を手に入れる気はないか」

白国王「何を言うかと思えば……。断る」

白国王「お主が何を期待したかはわからぬが、白の国の王たる、お主の言葉を借りれば大陸の統率者たるわしには、責任がある」

白国王「何の脅しか惑わしかは知らぬが、その言葉、聞き入れる事は出来ん」

魔王「気持ちは変わらぬか」

白国王「無論だ」

魔王「ふむ……」サッ

魔王「ならば、お主の敵たる我から助言しよう」

魔王「大陸の中でも強く特異な力を持つ者を我に仕向けよ。その者が我らの戦いを終わらせるだろう」

~    ~

魔王「さぁ、死ね」

ザクッ


279VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/06/30(土) 02:38:52.74fq+Iw96F0 (4/7)

ポタッ…ポタッ…

勇者「あ……あぁ……っ」

盗賊「っ」

少女「なんて事を……」

大臣「王……様……。うぅ……」

ズルッ… ドサッ

白国王「 」

魔王「……」

少女「……盗賊、ごめん」

盗賊「何がだよ」

少女「こんな事に巻き込んで」

盗賊「……今言う事じゃねぇな」グッ

魔王「!? お主、もう立てるのか」

盗賊「何とかな」

勇者「ハッ! 俺も立てるぞ」ググッ

魔王「ほう」

魔王「とは言え、共に立つのが精一杯と言ったところか」

盗賊「な……にがだよ!」シュッ

魔王「強がっても無駄だ」スカッ

魔王「短剣の狙いが先程と比べて甘すぎる」

勇者「余裕だな。俺達を殺すのは稚児の手を捻るようなものと言う事か?」

魔王「殺すだと? そのようなつもりなどない」

盗賊「へっ、俺達は殺す価値もねぇってか?」

魔王「お主達は弱い。故に、強くなってもらわなければならぬのだ」

勇者「何を言って……」

魔王「それに、見込み通りならばそろそろ用を済ませた頃合いだろう」


280VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/06/30(土) 02:57:17.40fq+Iw96F0 (5/7)

剣士「しかし、まさか男さんが来ているとは思わなかった」タッタッタッ

男「俺は盗賊を追ってきただけだ」タッタッタッ

剣士「盗賊? あいつも来ているのか?」

男「多分だが」

男「部屋で研究してたんだが、あいつが急に『……この鐘は!』とか言って王宮の方に飛び出して行って」

男「ただ事じゃなさそうだったから、準備して追ってきたというわけだ」

剣士「それにしては姿が見えないが」

男「勇者さん達と一緒にいるんじゃないかな。身軽さはもの凄いからな」

剣士「鼻も良いしな」

男「ああ」

剣士「さぁ、玉座の間はもうすぐだ。そこを曲がってまっすぐ行けば良い」

男「わかった。――!?」ドタドタッ

剣士「……どうした」ササッ

男「誰かいる」

剣士「何? ……あれは、玉座の間の前だな」

?「――」ブツブツ
?「――」ブツブツ

男「何か言っているみたいだけど、聞きずらいな」

剣士「……」

男「どうした?」

剣士「あの姿、どこかで……」

男「ああ。俺も思ってた――」

?「――」キョロキョロ

男「――あっ!」

?「”――”」ブツブツ

ドカーンッ!


281VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/06/30(土) 03:09:59.40fq+Iw96F0 (6/7)

ガラ…ガラ…

魔王「……来たか」

盗賊「な、何だ?」

勇者「塞がってた出入り口が開いたのは良いが、まさかまだ敵が……!?」

?「ありがとうございます。助かりました」ブツブツ

?「ああ、すみません。でも声出してる方が喋ってるって感じがして」ブツブツ

少女「くっ……誰が来ても戦うだけさ」フラフラ

盗賊「お前、もう大丈夫なのか?」

少女「無理でも、大丈夫」

勇者「だが、この声どこかで……」

大臣「ごほっ……煙が……」

魔王「少し遅かったではないか」

?「すみません。思ったよりも時間が掛かって」ザッザッ

?「でも、あれを私一人に任せるのは結構酷いと思うんですが」

魔王「お主を信頼しての事だ」

盗賊「お、おい……あいつ……」

勇者「……間違いない」

?「でも魔王様も手こずったようですね。鎧が剥がれてるじゃないですか。」

?「流石勇者さんと言ったところ――」

ズザザーッ

男「女さん!」

女「……教授」


282VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/06/30(土) 03:12:30.83fq+Iw96F0 (7/7)

今回はこの辺りで寝させてもらいます。

今年は抱えてた仕事が一つ終わったので、そろそろ話を加速させたいな、とか。
もう本当「本気出す」と何回言ってるんだよ俺……。


283VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/06/30(土) 08:04:44.86cB0lokVUo (1/1)

まあ年10レスでも俺達は見るさ


284VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/06/30(土) 08:13:20.97p7YPKdjSO (1/1)


このSSも長生きだな


285VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/06/30(土) 09:56:45.36PHZc2OO+o (1/1)




286VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(石川県)2012/06/30(土) 19:23:59.11ojHuT73wo (1/1)


ちゃんと完結させてくれれば言うことはないな


287VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2012/06/30(土) 22:08:40.30E1juviNxo (1/1)

数年ぶりに女登場wwww


288VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/01(日) 01:12:43.27XrTYFZM20 (1/5)

>>283
折角こういった形で公開させてもらってるのだから、そうしてもらえると気力が沸く。

>>284
心がえぐられる言葉だようwww

>>287
順調に書いていれば、再登場なんて一ヶ月も経たないで出来たのになwww……すまない、女。


289VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/01(日) 01:25:55.77XrTYFZM20 (2/5)

男「女さん、どうしてこんな所に……」

女「……」

剣士「……そうか。やはり女さんだったか」

剣士「!? な、なんだ。この状況は!」

勇者「剣士か……すまないな」

剣士「勇者様まで……」

剣士「魔王がここにいる以上、なぜこうなったのかは察しが付く」

剣士「そっちの意見を聞こうか、魔王」

魔王「現勇者一行が出揃ったか」

魔王「剣士よ。もしここで皆殺しにすると我が答えれば、お主はどうする?」

剣士「私では明らかに力不足だろうな」

魔王「ならば、逃げるか」

剣士「いや。私ならば、負けるとわかっていてもせめて一矢報いるつもりだ」

魔王「……」
剣士「……」

魔王「良い答えだ。だが安心するが良い。今は王以外の命は取るつもりはない」

女「さぁ、早く帰りましょう、魔王様」

魔王「うむ」

男「……待ってくれ」


290VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/01(日) 01:45:54.16XrTYFZM20 (3/5)

男「女さん、帰ってくるんだ」

女「……」

男「また一緒に研究しよう。それに――」

男「俺らの世界は、ここじゃないだろう?」

女「……そうですね。いずれは自分の世界に帰らないといけませんから」

女「でも、断ります」

男「何?」

女「私は、暫く魔王様と一緒にいますので」

勇者「ばっ……そんな馬鹿な!」

男「勇者さん、落ち着いて!」

勇者「これが落ち着いていられる――!」

男「俺に質問させてくれ」

勇者「……わかった」

男「女さん、何か理由があるのか? それとも魔王に何かされたのか?」

魔王「我は何もしておらん。こやつは自らの意思で我についたのだ」

女「そうですね」

勇者「そんな……」

女「理由もしっかりとありますが……今はどうでも良いですね」

男「どうでも良くないが、まぁ良い」

盗賊「てめぇら、どういうやり取りしてやがる……」

盗賊「俺も一つ聞きたい事がある。影将軍は今どこにいやがる!」

女「いますよ。私の中に」

女「そう言えば盗賊さんの仲間の敵でしたっけ。殺せますよ。私を殺せば」


291VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/01(日) 01:58:43.20XrTYFZM20 (4/5)

盗賊「! てめぇ……!」

男「以前の女さんなら、そんな事を言えるはずも……」

男「あるか」

盗賊「納得するのが癇に障るぜ」

盗賊「だが魔王の下にいる限り、命は狙われるだろうな。影将軍が居座り続けるってぇなら、俺も本気でてめぇを殺す」

男「おい、本気か!?」

盗賊「ああ、本気だ」

女「本気ですか?」

盗賊「ああ、本気だ」

男「本気なんだな?」

盗賊「てめぇら……」

女「……でも、覚悟出来ています。盗賊さんが私を殺そうとしても」

盗賊「……そうかよ」

魔王「男よ」

男「?」

魔王「お主が望むならば、我が傘下に加えてやっても良いのだぞ」

魔王「そうすれば、女と共に行動も出来よう」

男「どういう事だ?」

魔王「優秀な学者が欲しいのだ」

男「成る程。断る」

魔王「……」

男「女さんはすぐにでもこっちに連れ戻す。帰るためにもな」



292VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/01(日) 02:17:43.47XrTYFZM20 (5/5)

魔王「……残念だ」

魔王「女、目的のものは持っているな」

女「これですね?」

勇者「……本?」

魔王「……それであっているのか?」

女「多分」

魔王「……」

魔王「勇者一行よ! 最後に一つ、試練を与えよう!」

勇者「何?」

盗賊「この後に及んで何をするつもりだ!」

魔王「“――”」ブツブツ

魔王「“召還・機械獣”」カッ

ズズ… ズズズズ…

機械獣「グギ……ギギ……」ウィーン

剣士「何だ、あの魔物は!?」

男「ロボット、ではなさそうだな」

女「この魔物は、私が作りました」

男「!?」
勇者「何!?」

女「と言っても、ここにいるのは不可制御のプロトタイプ。野性ばかり高い所為か、大体暴走しています」

魔王「それに中々力もある。勇者よ、お主ならばどう乗り越える」

勇者「この体で戦えと言うのか。結構でかいぞ」

女「っと。早くしないと私達も巻き込まれますよ」

魔王「そうであったな」

魔王「では、また相見えようぞ、勇者達よ!」

女「あっ。教授、私のパソ――」

魔王「“転移”!」

ヒュンッ

男「……え?」
勇者「……」
盗賊「……」
剣士「……」

機械獣「ギギ……ギギャーン!」グウィーン!


293VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/07/01(日) 03:50:10.86QKVKdAOQo (1/1)




294VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/07/01(日) 10:34:20.34GGskfNuSO (1/1)




295VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2012/07/06(金) 01:06:50.84aCTdGYCk0 (1/1)

乙乙乙


296VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/22(日) 23:45:00.76wl2T4a/70 (1/2)

カィンッ

剣士「……くっ!」ギリッ

機械獣「グギ……ギギ……」ググッ

勇者「剣士!」

剣士「大臣は早く退去願う! ここは危険だ! ――のわっ!?」グイッ

機械獣「ギィ……」ブォンッ

大臣「剣士殿!」

勇者「はぁっ!」ガキン

剣士「くっ……早く行ってくれ。出来れば、白国王の遺体も連れて」

大臣「わ、わかった」

大臣「少女とやら、処罰は追って伝える! 逃げるでないぞ!」ズズッ

少女「ったく……逃げないっての」

盗賊「どうするつもりだ。ここは危険だぜ」

少女「あたしも戦うさ。罪滅ぼし、ってのには軽いけどね」

少女「大丈夫。罰は受けるよ。利用されてたとは言っても、ここまで来たのはあたしの意思だし、結果王様も死んでしまった」

少女「ま、どのみちここが最後だったし、良いんだけど」

盗賊「そうか――」

剣士「良い心構えだ。当座は私達は味方らしいな」

盗賊「てめぇ、しっかり戦えよ」

剣士「勇者様が足止めしてくれている。だが……」

勇者「はぁっ! “火炎弾”!」ガンッ ゴォッ

機械獣「ガガ……ギギ……」ヴィーン


297VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/22(日) 23:58:35.65wl2T4a/70 (2/2)

盗賊「全然効いてる感じはしねぇな」

剣士「どうすれば倒せるか、考えなければならない」

剣士「さっき私があいつの攻撃を止めた時……いや、止めようと思った時」

剣士「こっちの力はお構いなしに押し返してきた」

男「恐らく、痛覚もない」

盗賊「おい、どういう事だ?」

男「あれは女さんが作ったと言っただろう。なら、あの外装も納得出来る」

男「多分、あれはロボット――からくり――ここでは何か当てはまる言葉がないな。鉄のゾンビと言ったところか。鉄の生ける死骸だ」

少女「ちょっと待って。死体が生きてるわけないし、鉄なわけないじゃない」

男「例えだって」

男「でもまぁ、見た感じ生体っぽいところもあるから、アンドロイド的な感じだろう」

剣士「いつも思うのだが、私達にわかるようにだな……」

男「すまん。要は、機械――鉄と魔物の融合体だ。並の攻撃じゃ効かないし、怯まない。力も相当なものだろう」

少女「じゃあ、どうすれば……」

男「セオリー通りなら口の中とか内蔵とか……」

盗賊「そんなもんねぇぞ?」

男「抜かりないな……流石、女さんだ」ボリボリ

男「まぁ、考えておくから、適当に攻撃しておいてくれ」

盗賊「はぁ?」

剣士「まぁ、仕方あるまい」ダッ

少女「無駄に戦わせる気?」

男「そこの二人は剣士さんを見習って欲しかったんだが」

男「大丈夫。基本的に間接は弱点になり得るから、そこを重点的に狙ってみてくれ」

盗賊「仕方ねぇ」ダダッ

少女「あんたは?」

男「俺は弱いからな。頭使うのと――」

男「遠距離攻撃専門だな」ウィーン カシャッ


298VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/23(月) 00:21:10.51FkmKItpP0 (1/4)

機械獣「グギ……グギギ」ガスンッ ガスンッ

勇者「でかいし力は強いし」

盗賊「厄介だな。隙だらけなんだが」

機械獣「ガガ……ガガグゲ……」キュイーン…

男「!? 奴の“目”の直線上から避けろ!」

少女「えっ、何?」

機械獣「ゲゲゲゲ!」

チュイーンッ!

剣士「!」

勇者「少女さん!」


盗賊「……ったく、危ねぇ」

少女「た、助かった……」

盗賊「礼は後だ。体勢立て直せ」

少女「わかってるよ」スッ


剣士「……大丈夫か」

機械獣「ギギャギャギャッ」ガィンガィン

勇者「男さん、まだわからないのか!」

男「……いや、確証はないが」

勇者「それでも良いから!」

男「多分、さっきビームが出たところ。“目”が弱点だ」

盗賊「間接じゃねぇのか?」

男「あぁ、そこは意味ないってわかったし」

盗賊「はぁ!?」

男「冗長系って知ってるか? 一部壊れても全体は動くように――」

剣士「つまり、足とか切っても意味はないんだな。“目”をどうすれば良いんだ!」


299VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/23(月) 00:33:09.98FkmKItpP0 (2/4)

男「少女さん、って言うんだっけ?」

少女「……何?」

男「その槍、投げれるかな?」

少女「?」

少女「あー、大丈夫だけど。安物だし」

少女「まさかあそこに向かって投げろって事じゃないよね? そんな命中ないよ」

男「大丈夫だ。盗賊が修正してくれる」

盗賊「はぁ? 無茶言うな!」

男「出来るよな」

盗賊「いや、そんなの――」

男「よし、次」

盗賊「おい!」

男「次は剣士さんだが、持ち前の速さであれを上って――」

剣士「ちょっと待て」

男「――槍をしっかり打ち込んで欲しい」

剣士「ちょっと待て。それは無茶と言うもので――」

男「で、次だが」

盗賊「おい」
剣士「話を聞け」

男「なんだ。これしか思いつかないんだが」

少女「ま、まぁ、やってみようよ」

盗賊「……失敗しても文句言うなよ」

剣士「危険なら離脱するが良いだろうな」

男「勿論だ」


300VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/23(月) 00:55:26.72FkmKItpP0 (3/4)

男「では、やってみようか」

勇者「……本当にやるのか?」

男「出来なければ、何とかぶっ壊すだけだ」

少女「じゃあ、やってみるけど……ふっ!」ヒュンッ

機械獣「ギギギ……!」ガシンッ ガシンッ

盗賊「動いてる相手のあんな小せぇ所に当てるとか、無理な事を……」ヒュッ ヒュッ

カツンッ カツンッ

男「そう言ってる割には上手い軌道修正じゃないか」

盗賊「てめぇ、人の苦労も知らねぇで……!」ヒュッ

勇者「だが、思った以上の成果だと思うけどな。剣士!」ガキンッ

カツンッ

機械獣「グギギギ……」

剣士「承知した! はぁああっ!」カカカカカカンッ

少女「凄い……槍がどんどん打ち込まれてる……」

盗賊「あれで身じろぎしねぇこの魔物もおかしいもんだがな」

剣士「このくらいで良いか?」シュバッ

男「十分だろう。勇者さん!」

勇者「ああ、任せろ。……“雷撃”っ!!」

バババババッ

機械獣「ギギッ……グギギ……」


301VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/23(月) 01:39:17.01FkmKItpP0 (4/4)

勇者「……」

機械獣「ギギ……キュイッ」

剣士「大丈夫……なのか……?」

盗賊「さっきとは違う変な音なったぜ?」

機械獣「キュイッ……キュルルル……」

男「大丈夫だ。多分」

少女「多分って……」

機械獣「キュルルル……キュイィィィイ……」

機械獣「」ドスンッ

勇者「……動かなくなった、のか?」

男「……そのようだ」


魔法兵「こ、これは……!」

剣士「警鐘を鳴らして随分経ったはずなのだが、遅かったな」

魔法兵「勇者様に剣士様!? も、申し訳ありません。これには……」

勇者「いや、もう大丈夫だ。見ての通り終わった」

魔法兵「それは良かった。大臣様も既に安全な場所に……しかし……」

勇者「わかっている。喪式の日程は大臣が決めるだろう。じゃあ、後処理は頼んだ」

魔法兵「わかり――」

勇者「ああ、それと」

魔法兵「?」

勇者「そこにいる槍使いの……少女って言うんだが、牢に入れておいてくれ。王宮中に倒れている仲間と一緒に」

盗賊「おい、それは今やる事じゃ……」

勇者「形式的なものだよ。今とかそういうのじゃない」

少女「……あたしは大丈夫。むしろ、死刑になっても納得出来るよ」

盗賊「てめっ……!」

少女「さて、あたしは誰が連れて行ってくれるの?」

魔法兵A「では私が……」

勇者「頼んだ。さて、俺達は撤退しようか」


302VIPにかわりましてNIPPERがお送りします ◆QTgLSjqNKs2012/07/23(月) 02:36:04.05NElvK0Rp0 (1/1)

男の指示が柏葉英二郎のようw


303VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/07/23(月) 09:11:16.76HmaPeldIO (1/1)




304VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/23(月) 12:49:46.33nZUDo4OOo (1/1)

>>302
ヘイヘイ
1ヘイゼルはいくらだい?


305VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/07/24(火) 15:25:29.10hrRAuVZB0 (1/1)

>>302
トリップつけたままでした、失礼しました


306VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/25(水) 02:17:01.11E5XK1pOQ0 (1/8)

(数日後、白国王の喪式の日)
――白の街、中央広場

「――であり、彼の方は天よりいつ何時も我らを――」

グスッ ヒック

「白国王様……」
「我らは良き王を亡くしたのか……」
「……これから」
「どうなるんだ……」

グスン グスッ


勇者「……」

盗賊「おう。やっぱり来てたか」

勇者「お前も来たのか。どういう領分だ?」

盗賊「おいおい。来ちゃいけないってのか? 王様ってのはそれだけで万人に尊ばれる存在なんだぜ」

勇者「言ってろ。別に咎めはしないし、白国王様もお喜びだろう」

盗賊「盗賊が葬式に来て喜ぶ王か」

勇者「お前はあの日、警鐘を聞いてすぐに駆けつけただろう。それだけで、王にとっては勇者の一人だよ、きっと」

盗賊「……本物に言われちゃ敵わねぇな」

盗賊「しっかし、葬式だってのに祭りみたい……ってわけじゃねぇか。雰囲気はしっかり葬式してやがるしな」

勇者「なんで中央広場でやるのか、って言いたいんだろ」

盗賊「俺はそこらの廃れた盗人とは違ぇんだよ。そのくらい知ってるぜ」

勇者「ほう」

盗賊「あの棺桶が前に置いてある六角時計――まぁ、街の連中は口に出すのもためらうみてぇだし、禁忌みたいなもんだが」

盗賊「あれ、王族の墓なんだろ」

勇者「本当に知ってたんだな。だが、禁忌って言うか、声にわざわざ出して言うのは罰当たり、って言うのかな」

盗賊「なんて言うか、俺が言いたかったのはな」

勇者「……」

盗賊「この国の王族ってのは、国民から慕われてるだけじゃなく、連中を心から信頼してんだな。って事だ」

勇者「……ああ。この国は、そうやって成り立ってるんだ」


307VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/25(水) 02:34:09.74E5XK1pOQ0 (2/8)

勇者「ところで、男さんはどうしてる?」

盗賊「あいつらの言う、数学ってやつなのかな。暗号みたいな文字並べて、紙を無駄にしてる」

盗賊「端から見ればいつも通りなんだがな」

勇者「少しショックを受けていると言う事か」

盗賊「だが女は生きているし、今は魔王に預けているみてぇなもんだ」

盗賊「死んでるわけじゃねぇし、戻ってこないわけでもねぇ」

盗賊「で、剣士の奴こそどうしたんだ。こういう所には率先して顔を出すと思ったんだが」

勇者「あー……狂人のお守りしてる」

盗賊「連れてこねぇのか?」

勇者「狂人を連れてきたら、喪式の雰囲気を壊すかもしれないから。そういう配慮だ」

盗賊「あぁ……」

勇者「剣士も最後の挨拶に来れなくて残念そうだったんだけどな」

盗賊「その姿勢は男にも見習って欲しいもんだ」

勇者「彼は、いかにも物ぐさって感じだから」

大臣「おやおや、そこにいらっしゃるのは勇者殿と……」

勇者「ああ、大臣。そう言えばしっかり紹介してなかった気がしますね。腐れ縁で仲間になった盗賊です」

盗賊「どうも」

大臣「盗賊。ああ、そうでしたな。先日は助けに来て下さり、感謝申し上げる」

盗賊「困ってるなら助ける。当たり前の事をしただけだ」

大臣「勇者殿、勇者殿」チョイチョイ

勇者「?」

大臣「顔と言っている事が違う気がしてならないのですが」ヒソヒソ

勇者「実は前は盗人をしていた奴だが、そういうのは気にしないでやってくれ」ヒソヒソ

盗賊「おい、なんか失礼な事話してねぇか?」


308VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/25(水) 02:48:41.06E5XK1pOQ0 (3/8)

勇者「ところで大臣、こう言う場で話す事じゃないと思いますが」

大臣「何でしょう」

勇者「次の王位は誰が?」

大臣「姫様になるでしょうな。現王族はあの方しかおりませんし、白国王の遺言でもある故」

勇者「やはりそうなるのか……。でも大丈夫なのか?」

大臣「どうでしょうね……あの方はいつどこに放ろ――もとい、巡礼されてるは良く掴めてないですし」

勇者「だろうな」

大臣「従者からは常々報告の頼りを送らせてありますので、ひとまずは最後にいた所へ使いを行かせましたが」

勇者「そうか。今日とは言わないでも、継承式までには間に合うか」

大臣「かと思います。何事も恙なく進められるよう手配しておりますので」

大臣「ところで、勇者殿方も花を添えてはいただけませぬか。白国王様もその方が喜ぶかと」

勇者「なら、そうさせてもらおうかな」

盗賊「俺も良いのか? そういうのは王に近い連中か上流貴族くらいだろ」

大臣「私が許しましょう。王様もその方が喜ばれると思って」

盗賊「……そうかよ」


309VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/25(水) 03:08:05.78E5XK1pOQ0 (4/8)

「おい、あれは……」
「勇者様だ」
「勇者様……」
「王を追悼する勇者……これは絵になる」
「まさかこんな事になるとは、勇者様も思わなかっただろうな」

勇者「……白国王」

白国王「」

勇者「安心して眠って下さい。あなたの命は、この命を落とそうと必ず遂げてみせます」サッ

勇者「……」

「……悲しんでおられる」
「でも泣いてないぞ」
「馬鹿。我慢してるんだよ」
「そうだな。簡単に涙は見せられねぇ」
「絵になるなぁ……」
「――ってやつか」

勇者「……あれ? 教皇様、少し宜しいですか」

陽翔教皇「何ですかな」

勇者「白国王様がまだ王冠を被ってますが、もしや」

陽翔教皇「いえいえ、それは装飾です。最後まで王は王たるべきですから」

白羽教皇「無論、埋葬する前に外し、継承式で使えるように致します」

勇者「そうですか。些細な事を聞いて申し訳ない」

白羽教皇「いえ」

光夜教皇「彼の御霊が共にありますよう」

「おい、勇者様の次の奴、誰だよ」
「見るからにヤバそうな奴だぜぇ」
「いや、あれ悪人だろ」
「知らないのか。あの人いい人だよ」
「そうなの? ってか知ってるの?」

盗賊「……」

白国王「」

盗賊「俺から言えるべき事は特にねぇが……」

盗賊「守れなくてすまなかった。じゃあな」ポイッ

「おい、あいつ花を投げやがった!」
「なんて奴だ!」
「これは絵にならない」
「お前らうるさい。気持ちはわかるけどよ」


310VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/25(水) 03:20:11.83E5XK1pOQ0 (5/8)

盗賊「こんなもんで良かったか?」

勇者「ああ、上出来だ。最後のはもっと丁寧にすべきだったけどな」

盗賊「出来るかよ」

勇者「何でだ?」

盗賊「……恥ずかしいんだよ」ボソッ

勇者「ほう」ニヤニヤ

盗賊「で、棺桶の脇にいた三人の坊主って」

勇者「察しが良いな。三大教会の教皇達だ」

盗賊「大変だな」

勇者「仕事だし、俺としてあの方達も悔やんでくれている事と願いたい」

ザワ…ザワザワ…

盗賊「?」

勇者「どうした?」

盗賊「いや、何か騒がしくなったと思ってな」

ガヤガヤ…ガヤ…

勇者「本当だ。……こっちだ」

?「ほら、ほら! さっさとどいて! 前、開けて!」

??「ちょっと待って下さい! 強引すぎます!」

?「はぁ? 今そんな事言ってる場合じゃないでしょ。わかる?」

??「え、えぇ、承知してますが……」

盗賊「な、なんだ……?」

勇者「人混みが割れていってるな。見に行かなくてもそろそろ見えるかもしれない」

盗賊「そういう問題なのか?」


311VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/25(水) 03:33:54.77E5XK1pOQ0 (6/8)

「な、なんだよ……」

??「すみません。道を開けて下さい」

「どういう事なんだ?」
「あんた達なんだよ」
「仮にも葬式だぞ。汚ぇ服しやがって……」

?「服とかどうでもいいの。旅の帰りなんだから」

?「ほら、それより早く開ける! 早く動く!」パンパンッ

勇者「……あ」

盗賊「どうした? あの連中を知ってるのか?」

勇者「いや、最後に会った時とは随分違うが、面影が十分ある」

勇者「多分、白姫だ、あれ」

白姫「ん? 誰か呼んだ?」キョロキョロ

白姫「――あ」

勇者「あ……」

盗賊「こっち見てるぞ。どうするんだ?」

勇者「どうするも何も……」

白姫「従者、時計までの道の確保任せたわ」

従者「えぇ!?」

白姫「四の五の言わずやって。私、少し寄り道するから」

従者「寄り道って……あぁ、もしかして。はい、わかりました」

従者「皆さん、道を開けて通して下さい。すみません、通して下さい!」

白姫「……」スタスタ

「あそこにいるの、勇者様じゃないか?」
「一人が勇者様に近付いていってる? なんで?」

白姫「……勇者ね?」

勇者「まさかとは思うが、白姫だな」

白姫「ええ。久しぶりね」

勇者「何年ぶりだ? 十年? 二十年?」

白姫「そんなに経ってないわよ。精々、八年ってとこ?」

勇者「まぁ、久しぶりには変わりないか。いや、ここは『お帰り』と言う所か」

白姫「帰ってくるのも久しぶりだしね。ええ、ただいま」


312VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/25(水) 03:41:58.94E5XK1pOQ0 (7/8)

シーン…

「あれ? 今、勇者様はなんて言ったんだ?」
「“白姫”って……」
「もしかして、姫様……?」

勇者「しかし、なんて格好してるんだ」

白姫「前は虫酸が走るくらい嫌だったけど、慣れたわ」

勇者「あのな……そういう問題じゃなくてだな……」

白姫「ぷっ。困った時にする口癖、治ってないわね」

勇者「うるせぇよ」

白姫「急いで戻ってきたから、着替えてる暇なかったの。わかる?」

勇者「わからないでもないが」

白姫「勇者、あなたとは色々話したい事が他にもあるんだけど……」

勇者「ああ、わかってる。ほら、もう通れるようになったみたいだし」

白姫「じゃ、また今度ね」クルッ

勇者「ああ」

スタスタスタ…

盗賊「あれが、この国の姫様か?」

勇者「まぁ、そうだな」

盗賊「旅って、今まで何してたんだ?」

勇者「特に何も。ただふらついてただけ」

盗賊「はぁ?」

勇者「……そういう奴なんだ」


313VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/25(水) 04:02:18.74E5XK1pOQ0 (8/8)

大臣「お帰りなさいませ、姫様」

白姫「ただいま、大臣。アレは、そこの棺の中?」

大臣「ひ、姫様。白国王様を“アレ”などと……」

白姫「良いの良いの。私にも無様な死に顔を見せてもらおうじゃない」

大臣「姫様、民衆の前ですぞ!」

白姫「良いの良いの」ヒラヒラ

「あれが……姫様?」
「昔はもっと可愛らしかったのにのぉ」
「罰当たりな……!」

白姫「さて……」

白国王「」

白姫「……」

大臣「……」

「「……」」ゴクリ

白姫「はぁ……バカみたい」

大臣「なっ……!」

陽翔教皇「……」

白姫「ああ父上、こんな事で死んでしまうとは情けない」

大臣「いくら姫様でも言葉が――!」

白姫「あら? この王冠って一緒に埋めるの?」

光夜教皇「いえ、継承式にて受け継いでいただくため、埋葬の際にはこちらに残しておきます」

白姫「そう。なら、別にいっか」ヒョイッ

白羽教皇「な、何をなさいますか!?」
大臣「姫様!?」

白姫「何って、どうせ私がもらうものでしょ? 今もらっても問題ないでしょ」

大臣「しかs――」

白姫「白の国国民及びその他の者も良く聞け! 本日をもって私、白姫が、父上白国王に代わり白の国国王に継承する!」

「「……!」」

白姫「これからは私の言葉が全てだ! 父上のように甘くはない。覚悟しておけ!」

白姫「……こほん。以上! 従者、行くぞ」スタスタ

従者「え、あ……え? あ、はい」トタタタッ

大臣「ま、待って下され姫様! 今のはあまりにも――」

勇者「今回は許してやりましょう、大臣」スッ

大臣「ゆ、勇者様……しかし……!」

勇者「大臣は見えなかったかもしれないけど……」

勇者「白姫が棺桶の前に立った時、一瞬、泣いてました」


314VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/25(水) 07:51:38.15t/skAz4Jo (1/1)

なんか元気だな最近
一体どうしたんだ!?何かあったのか!?


315VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/07/25(水) 10:50:47.52MXxNrWXIO (1/1)




316VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/28(土) 22:11:36.277du+LkNm0 (1/4)

>>314
元気で良いじゃないか……。

まぁ、何かあったといえば大した事もなくあったとも言えるけど。


317VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/28(土) 22:27:35.897du+LkNm0 (2/4)

――魔の国、魔王城

女「....happy birthday to me. happy birthday to me♪」

女「happy birthday dear 私♪」

女「はぁ……」

ヒュオォォ…

女「....happy birthday to me」ポツリ

影将軍(その歌は?)

女(誕生日の歌。こっちでは祝わないんでしたっけ、誕生日)

影将軍(うむ。毎年のように祝っておったらキリがないからな)

影将軍(して、今日がお主の誕生日なのか。習慣がないとは言え、ここは祝うべきか?)

女(……いえ)

影将軍(?)

女(今日は、推定誕生日なんですよ。だから祝わなくても大丈夫です)

影将軍(推定、とな?)

女(私がいた所と時間の進み方が違うかもしれませんし、わかってるだけでも数え方は違います)

女(だから、私の世界の時間のままなら、今日が誕生日)

影将軍(ふむ……。数え方はともかく、時間の進み方が違うとはいまいち理解し難いものだな)

影将軍(見張りの夜が眠りの夜より長く感じるようなものか?)

女(違いますけど……それでも良いです)

影将軍(お主、まさか馬鹿にしてはおらぬだろうな?)

女(まさか)


318VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/28(土) 22:49:18.587du+LkNm0 (3/4)

影将軍(はぁ……私もどうしてこのような小娘に憑いてしまったのか……)

女(魔力を持ってないからですか?)

影将軍(訳のわからん戯れ言に良く付き合わされるからだ)

女(戯れ言とは酷い事を言いますね。実のある事ない事を楽しく話しているつもりですけど)

影将軍(それを戯れ言と言わずして何と言うか)

女(あはは、本人が思ってなければ違うんですよ)

女(まぁ、でも……実はですね、私は感謝してるんですよ。あなたは迷惑してるかもしれませんが)

影将軍(お主も迷惑しているのではなかったのか?)

女(最初はしていましたし、何か憑いてるなんて気付いた時は本当に怖かったです。でもですね)

女(あなたが憑いてくれなかったら、亜法を調べる事が出来なかったかもしれませんし)

女(何より、魔王さんを、他の魔族の皆さんも先入観で悪者と思い込んでいたはずです)

女(こうやって話してみたら、影将軍さんも忠誠心がおかしいくらい高いくらいで、ただのいい人じゃないですか)

影将軍(よくもそのような恥ずかしい事を言えるな)

女(言ってるんじゃなくて、“思っている”んですけど)

影将軍(また揚げ足を取りおる……)

女(本当は……教授や勇者さんにも見せてあげたいですよ。ここから見える、平和な街の営みを)

影将軍(……)

カツカツカツカツ…

側近「ここにいらっしゃいましたか、女様」

女「……側近さん、何の用ですか?」

側近「それはこっちの台詞です。何故、このような場所に?」

女「このテラスは、城内で一番良い風が当たりますから」

側近「そのような事を聞いているのではありません。あなたの仕事お忘れですか?」

女「休憩も大事ですよ。研究所の皆さんにも、いつもそう言ってます」

側近「……やはり、あなたの仕業でしたか」ゴゴゴゴ


319VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/28(土) 23:12:52.297du+LkNm0 (4/4)

女「落ち着いてもらえませんか?」

側近「これが落ち着いていられるとでも?」

側近「だから部外者を信用してはいけないと言ったのです。最近の彼らは目に見えてたるんでいます」

側近「内部崩壊を目論んでいますね」

女「いえ、そんなつもりは――」

側近「問答無用! “雷そ――!」

ガシッ

側近「!?」

魔王「よさぬか。何を仲間割れしておる」

側近「魔王様……」
女「……」ホッ

側近「何故、このような部外者を信用するのですか」

魔王「以前も言ったであろう。女の中には影将軍もいる。抵抗も出来まい」

側近「しかし、現に……」

魔王「研究所の体制が変わったようだな。だが、どうだ。確かにより多くの休養が与えられたが、滞りなどあるまい」

女「むしろ、前にも増して気分良く仕事が出来ると好評ですよ」

魔王「……だそうだ」

側近「……そうですか。それでは私の思い違いのようでした」

側近「ですが、あなたはすぐに戻るべきです。何せ、今の所長はあなたですから」

女「あー、そうですね。では戻りましょうか」

魔王「いや、その事なんだが、我は女を呼びに来たのだ。用事があってな」

女「じゃあ、そちらを優先した方が良いですか?」

魔王「そうしてくれるとありがたい」

側近「私も手伝いましょうか」

魔王「お主は自分の仕事に専念せよ」

側近「しかし……」

魔王「期待しておるぞ」

魔王「では、行くぞ」スタスタ

女「はい」スタスタ


320VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/07/29(日) 06:55:35.73QO6ArlvSO (1/1)

最近投下が多くて嬉しい


321VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/07/29(日) 07:35:55.56ARfr4dfmo (1/1)




322VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/29(日) 17:32:42.57nYVdiYJY0 (1/2)

女「それで、用事は何でしょうか、魔王様」

魔王「もう側近はおらん。呼び方を戻しても良いのではないか?」

女「こういうのは癖を付けておいた方が丁度良いんですよ。それにいつどこで誰が聞き耳を立てているかもわかりませんし」

魔王「うむ……そう言うなら致し方ない」

魔王「それで、頼みたい事なのだがな。本の翻訳を頼みたいのだ」

女「もしかして、先日白の国の王宮で盗んだあれですか?」

魔王「うむ」

女「帰ってから意気込んで『この程度我に掛かればどうという事はない!』と言ってそのまま自室に持って行った、あれですか?」

魔王「……う、む」

女「はぁ、仕方ないですね。でも期待はしないで下さい」

女「私だってあの古代語を習得出来ている自信がありません。こういうのは公爵さんの方が適任じゃないですか?」

魔王「白公か……。いや、あやつとの接触は出来るだけ避けるべきだと思うてな」

女「そんなの魔王様にかかれば揉み消せるでしょう。今までみたいに」

魔王「やり過ぎるのは、上手い手とは言えぬ。だろう?」

女「そうですね。白国王様を殺した事も、そうです」

魔王「……時には、手際を考える余裕もないのだ」

女「そう言えば、白の国の時期王様が決まったそうですね。白国王の娘さんの、白姫って言う人」

女「望み通りの結果ですか?」

魔王「まぁな」


323VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/07/29(日) 18:00:24.66nYVdiYJY0 (2/2)

――白の国、白の街、王宮

騎士「――今、何と?」

白姫「父は死んだ。どうやら魔王に殺されたらしい」

騎士「らしいって……」

白姫「七日前くらいだったかな。私が帰ってくる五日前くらい?」

大臣「正確には、九日前でございます」

白姫「ああ、そう」

騎士「姫様は、悲しくないのですか?」

白姫「全然」

大臣「ひ、姫様!?」

騎士「……」

白姫「あと、さっきから言ってるけど、“姫様”なんて固く呼ばなくてもいいのよ」

白姫「どうせ、今は大臣以外に臣下がいないんだし」

騎士「では、白姫。私から一つ申し上げます」

白姫「どうぞどうぞ」

騎士「……強くなりましたね」

白姫「……」ピクッ

騎士「君の耳たぶをいじる癖、治ってない」

白姫「あー……はは……。これは痛いとこを。勇者の事言えないなぁ」

騎士「勇者にも会ったのですか?」

白姫「ええ。父の葬式の日に」

白姫「二人とも元気で何よりよ」

騎士「そちらこそ」

白姫「そうそう。魔王に荷担した人達は地下牢に閉じ込めてあるんだけど、会っていく?」

騎士「そんな簡単に良いのですか?」

白姫「信頼してるから」

騎士「そうですか。では、面会させてもらいます」

白姫「じゃあ、また明日ね。報告ご苦労様」


324VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2012/07/30(月) 09:51:34.40oozvP7bco (1/1)

おつ


325VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/07/30(月) 14:44:17.69NQAHaJ5do (1/1)




326VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)2012/07/30(月) 15:17:49.39Gx/r2Pmh0 (1/1)

うん、これって……最初の設定が……干渉し過ぎでは……ま、いっか……


おつ!


327VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/08/02(木) 01:23:24.58jbGWgad/0 (1/5)

>>326
な、何……? また何かやらかしたか?


328VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/08/02(木) 01:39:53.02jbGWgad/0 (2/5)

牢番「つかぬ事をお聞きしますが」

騎士「何だ?」

牢番「罪人達と会ってどうなさるつもりですか」

騎士「どうだろうな。流れで殴るかもしれないな」

牢番「ご冗談を! 彼らは牢に入っているのですよ」

騎士「牢ぐらい壊すさ」

牢番「……こ、困ります」

騎士「冗談だ。大した事はしない。ただ、話をしようと言うだけだ」

牢番「そ、そうですか。では」

騎士「ああ」


カツン… カツン…

少女「……?」

副長「誰か、来ましたね」

「どうせ見回りだろ」

「ああ、飯はまだだろうからな」

カツン カツン

騎士「君が少女かな?」

少女「……何の用? 牢番の人じゃないみたいだけど」

騎士「私は騎士という。白蛇騎士団の長を任されてる身だ」

少女「白へ――!?」

副長「そんな精鋭部隊の隊長さんがなんで……!」

少女「そんな事より、なんであんたみたいなのがここにいるの? だって……!」

騎士「竜の国で戦争をしてたはずなのに、か?」

少女「っ……」

騎士「あの戦争は終わった。思いも寄らない形で、だったがな」

少女「終わっ……た? 勝ったの、負けたの?」

騎士「……その前に、謝らせてくれないか」


329VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/08/02(木) 01:52:22.38jbGWgad/0 (3/5)

少女「どういう、事?」

少女「ま、まさか負けたんじゃ……!」

騎士「そう焦るな。姫様と大臣様から、君の事は聞いている」

騎士「傭兵長の娘、だそうだな」

少女「そうだけど……何?」

騎士「あの戦争――巷で言う“最終戦争”は失うものが多すぎた」

騎士「私も多くの大切な人達を失った。傭兵長も、その一人だ」

騎士「ただ、私はこの戦争で、彼ら死んでいった者達に報いる事が出来なくてな。だから、まずここにいる君に謝りたい」

騎士「君の父上の死を、無駄にしてしまった。すまない」

少女「……で?」

騎士「?」

少女「勝ったの? 負けたの?」

騎士「……どちらでもない。強いて言うならば、どちらも負けたのだろう」

少女「どういう事?」

騎士「……いずれわかる事だ。先に君達に話しても良いだろう」

少女「話して」

騎士「君の父上の死因、知っているかな?」

少女「勿論よ。魔族が送り込んだ鉄の魔物が出す光線に焼かれたって……」

少女「多分、あたしが勇者達と戦ったあの魔物と同じやつね」

騎士「そう。竜の国はその魔物を主戦力にしていた。私達も必死で戦ったが、それでも被害はあまりにも多かった」

騎士「だが、十分に勝機のある戦いだった。だから私達は戦い続けていた」

少女「……知ってる」

騎士「だが、ある日突然、戦いは終わった」

少女「え?」

騎士「竜が来たんだ」


330VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/08/02(木) 02:05:57.46jbGWgad/0 (4/5)

少女「竜って、あの竜?」

騎士「そうだ」

少女「でも伝説上の生き物なんじゃ……」

騎士「どうやらそうではなかったらしい」

騎士「まず竜が一匹やって来て、戦場で暴れ始めたんだ」

騎士「青い竜だった。その美しさに思わず一瞬見とれてしまったが」

騎士「奴は、敵味方構わず暴れ、敵兵を薙ぎ、魔物達を踏みつぶし、味方の兵達を噛み殺した」

少女「……」

騎士「その後、黒い竜が来て、青い竜を追い払って去って行った」

騎士「だが、気付けば全てが終わっていた。我々の兵も多少生き残った程度で、相手も壊滅状態」

騎士「戦場は、それ以上に地獄と化して、終わった」

少女「……」

騎士「……」

少女「……それは、仕方ない、か」

騎士「何がだ?」

少女「うーん……なんて言うか、父さんが無駄死にとかどうとか。だって、竜がいきなり暴れてどっか行ったんでしょ?」

少女「天災みたいなものだし、仕方ないよ」

騎士「だが……」

少女「それよりあんた、そんな罪人に情けかけて良いの? この国の王様殺しに来てたんだけど」

騎士「それまでの経緯も聞いている。元々、殺すつもりはなかったのだろう」

少女「それは、ちょっと違うかな」


331VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/08/02(木) 02:20:05.11jbGWgad/0 (5/5)

騎士「では、白国王様だけ殺すつもりだったのか?」

少女「違う」

少女「あたしは、この計画を自己満足するためだけにやってたの」

少女「そのために、他のみんなに迷惑かけたけどね」

騎士「ふむ……」

副長「そんな……俺達は……」

少女「父さんが死んだのは鉄の魔物が現れたから。その前に、魔の国と決着をつけてれば良かったのに」

少女「だからそんな事をしなかった人達に『自分は間違っていた』『この決定は苦痛だった』って言ってもらうために」

少女「それだけ言ってもらえれば、十分だった」

騎士「もし、そうでなければ――君の父上やそのような人達の事を駒としか思っていなければ、殺していた、と」

少女「……」コクッ

騎士「そうか。だが、そのような事は、君の父上も望んでいないはず。それは――」

少女「わかってる。さっきも言ったけど、これは自己満足だから。父さんに関係なく、あたしのケジメだから」

騎士「……」

少女「よく、復讐なんて虚しいだけだからやらない方が良い、なんて言うでしょ」

少女「あれは死んだ人のためにやるから虚しくなるんだ。あたしみたいに全部自分のためにすれば、すっきりするのに。でも――」

少女「今は、ちょっとわからないかな……」

騎士「仕方ないさ。まさか魔王の手の上にいたとは思うまい」

騎士「君もそう思うだろ?」

少女「……どっち向いて言ってるの」

騎士「気付いてないのか? そこに盗み聞きをしている奴がいるんだ」


332VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/08/02(木) 07:41:24.57PhgHPBzgo (1/1)




333VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2012/08/02(木) 08:29:09.82nnq0WfhNo (1/1)

おっつっつー


334VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/08/05(日) 06:43:17.16E3oSeG9Zo (1/1)

暑くて寝苦しいからか!!


335VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/08/29(水) 01:18:18.86pD8F2EEI0 (1/2)

少女「盗み聞き?」

盗賊「……ったく。いつから気付いてやがった」

騎士「ずっとだ。私が入った時からいただろう」

少女「……来てたんだ」

騎士「? その口振りでは今までも何度か来ているようだな」

副長「ここ毎日来てるな。で、頼んでたもの持ってきてくれたか?」

盗賊「何言ってんだ、てめぇ。酒なんて持ってくるわけねぇだろ。バレたらどうする」

副長「バレてるから……」

騎士「酷く悪人面だが――」

盗賊「ほっとけ」

騎士「悪さをしようと言うわけではなさそうだ。しかし、どうやって入った? 外には牢屋番がいるのに。何者だ?」

少女「このおじさんは盗賊って言うの。住んでる周辺は調べないと気が済まないんだって」

盗賊「裏道の一つや二つくらいは知ってるぜ」

騎士「盗賊……あぁ、見覚えのある顔と思っていたら、やはりそうか。黒の国の件では世話になったな」

騎士「で、今回は裏道の手引きをした罪があったが、一般人の身で警鐘を聞き駆けつけた事で大臣様から免罪されたと言う強運者だな」

盗賊「一件の事はもう聞いていたのか。早いな」

騎士「主が亡くなってのうのうと生きていけるはずもあるまい」

騎士「で、君はここに来て何をしているんだ。脱獄させようと言うようには見えん。自分も牢に入ろうとしているようには見えるけど」

少女「あ、わかるんだ。こいつ見た目と違って小心者なんだよ」

少女「『一番悪いのは俺だ。俺が裏道を教えてなけりゃ……』って」

騎士「そんな事を言ってたのか? そんな柄には見えないが」

少女「そうそう。あたしもびっくり!」

盗賊「う、うるせぇ!」

少女「……ま、冗談はおいといて。あたし達が昔の仲間と重なったんだって。雰囲気が」

騎士「ふむ」

盗賊「てめっ……!」

少女「良いでしょ。減るものじゃないんだし」

副長「そうだぞ。とまぁ意味のわからん理由で親しまれてな。いつも外の噂話とか話してもらってんだ」

少女「ここは娯楽もないし、正直助かってるよ」

盗賊「……熱でもあるのか?」

少女「はぁ? 正直に感謝してやってんのに何なの!?」


336VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/08/29(水) 01:46:32.33pD8F2EEI0 (2/2)

騎士「仲良くやっているなら良い。抜け道で入って来てるくらい、問題にならなければ私は許す」

盗賊「話がわかる奴で良かったぜ」

騎士「だが、またその抜け道を誰かに漏らさないよう気を付けろ。何処を使ったかは知らないがな」

盗賊「わかってる。何なら王宮に続く裏道全部教えてやっても良い」

騎士「ふむ……いや、私は遠慮しておこう。しかしまたの機会にでも大臣様くらいには教えておいても良いだろう」

盗賊「白姫には?」

騎士「あまり姫様を呼び捨てにしては……。必要とあれば大臣様からお教えになるだろう」

盗賊「納得した」

騎士「……ああ、そうだ。君は勇者と関わりがあるのだったな」

盗賊「あいつがどうかしたのか?」

騎士「ああ。姫様から特別に任務が与えられるから、明日にでも謁見しに来るように伝えてくれ。今日でも良い」

盗賊「特別、ねぇ。突然って事はさっきの話と関係があるのか?」

騎士「そうだな。君も行くか?」

盗賊「……いいや、勇者に頼まれても遠慮するな。今回は、用事が出来たんだ」

騎士「ふむ。そうか。黒の国で活躍してくれた君達がいれば心強いと思ったのだが」

盗賊「そりゃ残念だったな。ここに来たのも暫く顔を出せねぇって伝えるためだったんだ」

少女「えっ」

盗賊「後で詳しく話す」

盗賊「勇者には今日中に伝えておくから、心配すんな」

騎士「ああ、頼んだ」


337VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/08/29(水) 10:43:16.80mJ7sdv60o (1/1)

乙ー!


338VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/08/29(水) 12:05:02.60qo9cPmyIO (1/1)




339VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/14(金) 21:56:48.074UVQz4Kf0 (1/6)

(翌日)
――侯爵家屋敷

勇者「朝早くから誰かと思えば……」

盗賊「おう」

男「……おはよう」

勇者「二人揃って何の用かな。まだ日も上ってきたところなのに」

盗賊「昨日話しただろ。そろそろ行こうと思ってな」

勇者「あぁ、男さんも行くんだ」

男「ちょっと煮詰まっててな。息抜きも必要だ」

勇者「蓮花の町に行くんだっけ」

男「らしいね」

勇者「俺は行った事がないんだけど、まぁ国自体は良いところだよ」

男「良いところでも魔物はいるみたいだがな。本当、どこにでもいる」

勇者「人が住む所に被害がなければ殆ど黙認されてるけどな」

勇者「実際は見えるよりも多くいる。今までの旅で俺はそれを見てきた」

勇者「そういうのは街中から外れた所で無防備になっている少人数の隙を見て襲ってくる。向こうも結構賢いよ」

勇者「まぁ、何が言いたいかって言うとだな……気を付けて行ってきてくれ」

男「わかってる。それはお互い様だろうしな」

盗賊「そっちは、結局一人なのか」

勇者「どうだろうな。他に兵士の何人かくらいはつけて欲しいものだけど」

男「剣士さんは?」

勇者「一人で行きたい所があるって昨日出て行った」

男「……あー」

勇者「何でも女兵寮の寮長さんのツテに良い養児施設があるらしくて、そこへ一時的に預けるらしい」

盗賊「気になったんだが、施設に預けるんなら最初からそうすれば良いと思うんだが」

勇者「剣士は狂人をかなり気に入ってるからな」

勇者「『寮長の紹介なら安心出来る』って凄い笑顔で言ってたし。一人旅に行くにも一番狂人の処遇が心配だったんだろう」


340VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/14(金) 21:57:29.584UVQz4Kf0 (2/6)

勇者「しかし、あなた達も律儀だな」

盗賊「へ?」
男「何が?」

勇者「出発の前に挨拶に来るなんて」

盗賊「あぁ、違うんだ」

勇者「?」

盗賊「馬を借りてぇんだよ」

勇者「は?」

盗賊「俺達は転移魔法が使えねぇからな。あれ、どこにやった?」

勇者「あ、あぁ……一応屋敷の馬倉にいるけど……」

勇者「えっ、もしかしてそのために来たのか?」

盗賊「それ以外に何がある」

男「大丈夫。俺はしっかり挨拶に来ただけだ。馬を借りに来るって言う“ついで”があったからな」

勇者「借りに来る必要がなかったら来ないんだな」

男「まぁ、そうだな。盗賊が昨日の中に要件は伝えてあるし、何より朝早くは迷惑だろ」

勇者「あれ……おかしいな。内容は同じなのに男さんの方が常識的に聞こえる」

男「酷いな。まるで俺が非常識に聞こえるんだが」

勇者「そうは言ってない。確かにまだ文化の違いとかたまに見え隠れするけど」

盗賊「そう言う意味で非常識ってのも言えるな」

男「こっちにも慣れたつもりなんだけどな……」

勇者「いや、そういう事じゃなくて、多分、あれだよ」

勇者「最近盗賊の方が常識人ぶってる」

男「成る程」

盗賊「それは喧嘩売ってんだよな。間違いねぇよな?」


341VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/14(金) 21:58:03.294UVQz4Kf0 (3/6)

ヒヒーン

勇者「あまり体調管理はしてないけど、手入れはしっかりしているから大丈夫だろう」

盗賊「十分だ。助かる」

勇者「男さんは馬の管理とか経験ないんだっけ」

男「そうだな。移動手段に馬はあまり主流じゃないんだ」

盗賊「自動車ってやつだっけ?」

勇者「男さん達はどんなものを使ってるのか興味はあるんだけどね」

男「バイクとか作ってみてやっても良いけど、街中は危ないからな。今度暇な時に自転車でも作ってみよう」

勇者「楽しみにしてるよ」

盗賊「まぁ、馬の管理は俺がしてやるから安心しな」

勇者「そういう事にしておこうか」

男「そう言えばこいつ以外に馬っているんだよな」

勇者「ああ。これより良い馬ばかりだぞ」

勇者「と言っても全部侯爵家のものだからな。俺の一存で貸せない」

男「借りようとしたわけじゃないけど……何と言うか、流石だな」

盗賊「何匹いるんだ?」

勇者「そうだな……十五頭くらいか?」

男「そんなに必要なのか?」

勇者「いや、体調によって使い分けてる事もあるけど、財力誇示って意味もあるからな」

勇者「そう言う意味では、他の貴族と比べれば控えめな方かもしれない」

勇者「白国公爵とかは例外で、必要最低限しか持ってないらしいけどな」

盗賊「こうやって話してると、やっぱりてめぇも貴族なんだな」

勇者「あれ、そんな大層な事話してたか?」

盗賊「そうじゃねぇが……雰囲気がな」

勇者「そういうものかな? あぁ、そうだ。荷車も必要だな。持ってこよう」


342VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/14(金) 21:58:41.374UVQz4Kf0 (4/6)

盗賊「……よし、こんなもんか。いやいや悪いな。馬も荷車も貸してもらって」

勇者「お前が借りに来たんだろうが」

男「図々しくて申し訳ない。歩いて行っても良かったんだが……」

勇者「いや、別に良いよ。あなた達なら多少の無茶も聞いて良いと思ってるから」

勇者「盗賊も悪い奴ではないってもう知っているからな」

男「人は見た目じゃない。その一例だ」

勇者「全くだ。ははは」

男「HAHAHA!」

盗賊「……釈然としねぇ」

勇者「まぁ、なんだ。大丈夫だろうが、気を付けて」

男「そちらも」
盗賊「てめぇもな」

ヒヒーン ガラガラガラ…

勇者「……はぁ」

勇者「さて、出発までもう一眠りするか。……ん?」

「あら、勇者様。おはようございます」

勇者「あぁ、使用人の。おはよう」

「いつもお早いですが、今日はいつもよりお早いですね。さっきの方達と何か?」

勇者「馬を借りに来たんだ。この前の旅から持って帰ったやつだ」

「ああ」

勇者「あなたはこんな朝早くに来てたのだな。確か家族がいたはず。大変だろうに」

「いえいえ。長男様、次男様、勇者様のご成長を見守るのも私の楽しみでございますから」

「……それはそうと、少し勇者様にお話ししようか迷ったのですが」

勇者「何かあったのか?」

「いえ。そう言えば今日からまた大きな仕事があるらしいですね。今はそれ以外で煩わせるわけには」

勇者「気になるだろう。言ってくれ」

「……わかりました。実は昨日の晩、帰り際に聞いた話なんですが、いつも利用している肉屋があるのですが――」


343VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/14(金) 22:53:51.574UVQz4Kf0 (5/6)

(数時間後)
――王宮、玉座の間

白姫「――と言うわけで……ん?」

白姫「勇者、勇者!」

勇者「はい?」

白姫「聞いてなかったよね?」

勇者「いえ」

白姫「ね?」

勇者「あの……すみません。寝不足で」

白姫「嘘ね。まぁ、良いけど。もう一回話すからちゃんと聞いてね」

勇者「はい」コク

白姫「あなたには竜の国へ行ってもらうわ。もう知っての通り、決着戦争は終了した」

白姫「大陸連盟も軍隊を退いて、竜の国には最低限の兵のみを置く事になってる」

白姫「処遇については連名で検討の元決定されるけど、国全体の調査が済んでからになるかな」

大臣「姫様、前置きは省いても……」

白姫「まぁ、調査は近隣の国々に任せるとして――後、大臣うるさい」

大臣「しかし姫さ――」

白姫「勇者にやってもらうのは他の調査」キッ

大臣「 」ビクッ

白姫「騎士から聞いているかもしれないけど、決着戦争が終わった原因に、竜があるのよ」

白姫「正直私は竜なんてお話の中の生き物って思ってたから、どう対処すればいいかわからないけど」

白姫「帰ってきた騎士兵士全員見てるから何かしらの竜がいるらしい」

白姫「と言うわけで、勇者には竜の調査をやってもらおうって事」

白姫「目撃者だし気も知れてるからって言うので騎士もつけるけど」

白姫「今回のはあくまで調査。危なくなる前に撤退するように。わかった?」

勇者「わかりました」

白姫「向こうでの行動については騎士に聞いて。転移法陣の準備は完了しているから、良ければすぐに出発してね」


344VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/14(金) 23:01:57.18y4A7vTeo0 (1/1)

おお各個で移動か


345VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/14(金) 23:14:16.844UVQz4Kf0 (6/6)

白姫「じゃあ騎士、後はよろしくね」

騎士「了解した」

騎士「装備は整っているようだな。では勇者、行こうか」

勇者「……」

騎士「……どうした、さっきから?」

白姫「何か考え事かしら」

白姫「もしかして魔の国との事? その事なら今各国と話し合ってるから――」

勇者「いえ、それではなく……」

白姫「そうなの?」

勇者「すみません。どうにも放っておけない事がありまして。出発を少し遅らせても良いですか?」

騎士「これは仮にも王命だぞ。勇者の証を持つ君なら尚更――」

白姫「良いのよ。それで、どのくらい遅れるの?」

勇者「半時もかからないかと。恐らく」

白姫「なら先にそっちを終わらせてきなさい。転移師はそれまで待機させておくから」

勇者「ありがとうございます。では」スタスタスタ

騎士「ちょっと待て。どこへ行くかだけでも教えてくれないか?」

勇者「……」

騎士「……」

勇者「……南東にある、あの山だ」

騎士「えっ」
白姫「そこって……」

勇者「“転移”」ヒュンッ

白姫「……騎士」

騎士「わかってる」

白姫「あそこに今更何しに行くかわからないけど、一応見に行っておいて」


346VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/16(日) 14:24:28.188SIkVUbf0 (1/1)




347VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/16(日) 20:57:51.42hyBXK1vs0 (1/5)

そう言えば最近全然書けてない事もあって、用語説明とかも全くしてないので一つ。

“六角時計”
基本的に各町村の広場に一つある。六角柱のただの日時計。
白の街ではかなりの大きさだが、小さい村なら六角の木の棒だけと言う事もしばしば。
この世界の時間は一日六時(とき)で、なので、各角が時間を表してくれている。
ちなみに二時間=半時であり、一時間は半々時、三時間は半時半と、日本語訳出来るらしい。

分秒の観念はよくわからん。


348VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/16(日) 21:18:41.38hyBXK1vs0 (2/5)

~   ~

「いつも利用している肉屋があるのですが、昨日の夜に前を通りがかった時に何かおかしな雰囲気だったのです」

「どうしたのだろうと尋ねてみたら、そこの主人は息子が南東の山に出掛けたきり帰ってこないと言うのです」

勇者「南東の山……? なんでそんなところに」

「あの事件以来、動物達も表立って住めるようになりましたからね。随分平和になりました」

勇者「……そうか。それで? いや、何となくわかるが……」

勇者「その息子さんは何歳だ?」

「確か、十二くらいだと」

「主人も三ヶ月前までは一緒についていっていたらしいのですが、もう慣れたと言う事で一人で行かせたようです」

勇者「ふむ」

「その時は、何かちょっとしたアクシデントがあって帰るのが遅れているだけでしょう、と宥めたのですが、今朝も寄ってみると……」

勇者「やはり帰っていなかった、か」

「はい」

勇者「肉屋も早起きだな」

「不謹慎ですよ。クマが出来ていました」

勇者「まぁ、それもそうか。しかし……あの山か」

「ええ。私もそれがどうにも気になって」

「何かの事故としても、悪い予感が当たらなければ良いのですが」

勇者「……」

~   ~

――南東の山

勇者「……あまり変わらないな、ここは」

魔剣〔やはり気になっていたのだな。あの使用人の話を〕

魔剣〔転移魔法ですぐさま来れる所という事は、余程思い入れがあるのか〕

魔剣〔この山……否、この洞窟と言うべきか〕

勇者「まぁ、そうだな。わざわざ記憶する程便利な所ではないし、憶えるのも難しいくらい特徴がない」

魔剣〔普通は、だな〕

勇者「ああ」

魔剣〔ここで何があった? それとも、何かあるのか?〕

勇者「何かあっては欲しくないな。それはあまり考えたくない。そうだな。ここでは何かあったんだ」

勇者「知りたいか?」

魔剣〔……〕

勇者「調べながらなら話しても良いかな。後で聞かれても面倒だし、良い機会だ」

勇者「少し昔の話になる。ここはな、俺が勇者になった場所だ」


349VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/16(日) 21:35:49.50hyBXK1vs0 (3/5)

~八年前~
――白の街、訓練所

騎士「はあぁぁぁっ!」

勇者「ちょっ、まっ!?」

ドゴォ

騎士「また素早くなったな、勇者」

勇者「そっちは怪力に拍車がかかったんじゃないか? 地面少しへこんでるぞ」ヒク…ヒク…

騎士「全力で叩き込んだからな」

勇者「殺す気か!?」

騎士「死ぬ気はないだろう?」

勇者「あぁ、わかった……そっちがその気なら」

勇者「こっちもその気で行くからな! “雷撃”!」バババッ

騎士「そうでなくては練習にならない!」ササッ

剣士「ひ、姫様、お二人を止めた方が……」オロオロ

白姫「大丈夫よ。あの二人、結構頑丈だから」

白姫「それと、しっかり二人の戦いを見ておいた方が良いわよ?」

剣士「へ?」

騎士「たあぁぁ!」

勇者「うおぉぉぉ!」

白姫「あの二人、自分達の練習だけじゃなくてあなたに見本を見せているつもりだから」

白姫「ねぇ――」

勇者「――あっ」コツッ グラッ

騎士「!? 危な――」ブォン

グワァン ドスンッ

白姫「友もそう思うでしょう?」

友「そうだとしたら、もっとまともな戦い方をして欲しいかな」


350VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/16(日) 21:50:09.83hyBXK1vs0 (4/5)

勇者「あ、あぁ、友来てたのか。助かった」

友「勇者は基礎が疎かになってるから躓くんだ。この前の任務でもドジっただろ」

友「その調子だとやっぱり魔法使いになった方が良かったんじゃないか?」

勇者「馬鹿言うな。男なら剣だって言ってるだろう」

白姫「一人くらい魔法使いがいても良いんじゃない? 家系にこだわらなくても……」

勇者「白姫まで!?」

剣士「勇者様は強いから大丈夫……」

勇者「……ありがとう。慰めてくれるのは剣士だけだ」

騎士「これだから勇者は――」

友「騎士もだよ」

騎士「何!?」

勇者「そうかそうか、騎士もか」ニヤニヤ

騎士「勇者……後で再戦だ」

勇者「望むところだ」

友「騎士は何でこう……身の丈にあった剣を使おうとしないんだ」

騎士「何度も言うようだが、剣術には力が全てで――」

友「いや、言いたい事はわかる」

友「でも模造剣とは言え、重さに負けて寸止めも出来ないようじゃな……」

騎士「本物なら出来る。これは重く作らせた特別製だ」

友「そんなでかいのが普通に売られてたまるか」


351VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/16(日) 22:20:20.26hyBXK1vs0 (5/5)

友「剣士ちゃんはこの二人みたいになっては駄目だぞー」ポンポン

剣士「なんで? 強いのに」

友「確かに歳にしては強いけどな。でもミスが多い。何でかわかる?」

剣士「ううん……」

友「勇者は無闇に魔法と一緒に使う。騎士は無駄に大きな剣を使う。二人とも基礎よりも派手さが表に出てる」

友「やっぱり剣術は堅実さだよ」

剣士「わかった!」

白姫「確かに友は目立ちませんが強いですしね」

友「目立たないは余計。あの規格外二人についていってるのを褒めて欲しいね」

白姫「素晴らしいです」

友「言ってから褒められるのは、何とも微妙だな」

勇者「まぁ、友もやっと来た事だし、早速調査に行くか」

騎士「そうだな。勝負はまた後だ」

剣士「また調査?」

勇者「そうだな。何事も小さな積み重ね。兵卒には兵卒に出来る事をやれば良いんだ」

勇者「隊を組まなくても良いだけで気楽だ」

白姫「平和の証拠よ。お父様に感謝しなさい」

友「全く、白国王様には頭が上がらないな」

騎士「では行こうか。その前に注意点を再確認だ」

騎士「山には入らないように」
勇者「山には入らないように」
友「山には入らないように」
剣士「山には入らないように」
白姫「山には入らないように」

友「いや、白姫は別に言わなくても……えっ、まさか」

白姫「私も行くわよ」

勇者「すまんな。何度止めても聞かないんだ」

騎士「まぁ、それは友もよくわかっているだろう」

友「幼馴染みって、荷の重い仕事なんだな」

勇者「言うな……」

騎士「気軽に考えるしかない。あれは姫じゃなくただの幼馴染みなんだ……ああ、そうだ」


352VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/17(月) 09:11:22.73/68iZf1c0 (1/1)




353VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/25(火) 23:50:15.35L3ZHjJk/0 (1/1)

騎士「今日はこの道か」

勇者「ああ。今日は半時程で復路につこうと思うのだけど……」

勇者「誰かさんがまた先行しなければ良いのだが」ギロ

白姫「き、気を付けるってば……」

友「しかし、また山に近付いたな」

勇者「近付いたって言うか、もう山の麓を通る道だな」

友「おぉ、危ない危ない」

勇者「入らなけりゃ良い話だ。問題ない」

騎士「だがな……白の国の精鋭を集めれば退治も出来るだろうに」

友「それは、誰もが思う事だけどな」

白姫「あの山の魔物はとても強大とは聞きますが、こちらが何もしなければ向こうも何もしてこないし」

白姫「父上も大臣も言ってるわ。アレは手を出さない限り無害だって」

友「焚き火の薪を拾うなかれ。無駄に犠牲は出せないよ」

騎士「わかっているさ。腑に落ちないだけでな」

ガラガラガラ…

剣士「ねぇ、勇者様、あれ」

勇者「行商人か。どうした、剣士?」

剣士「今までの調査でもいっぱい魔物倒したのに、商人の人達はどうやって色んなところ行き来してるの?」

勇者「あぁ、それか。魔物の多くは遭遇した時の敵愾性が高いだけで、基本的に普通の動物と変わらない」

勇者「だから鈴や大きな音の鳴るものを身に付けていれば向こうから近付かない、ってのは前に話したな」

剣士「うん」

勇者「行商人にとって荷馬車自体がそれに当たる」

剣士「そうなんだ。でも寄ってくる魔物もいるよね? 音に怯まないのとか、馬の臭いに寄ってくるのとか」

勇者「そういう時は行商人は逃げるか戦う」

剣士「戦うの? 兵士じゃないのに?」

勇者「行商人はリスクの大きい仕事なんだ。だから商会で戦い方を教わっている。らしい」

友「準備は良いか、勇者?」

勇者「ああ。剣士、話は歩きながらしようか」

剣士「うん」


354VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/26(水) 00:11:44.740ZBYMWoJ0 (1/7)

魔物「グルルァッ」

友「よし、今だ!」ガキンッ

騎士「たあぁぁっ!」ブォンッ

ズドン!

魔物「グェッ……!」

騎士「勇者!」

勇者「おう!」

ザシュッ

魔物「グ……グル……」バタン

勇者「ふー。やっぱり三人でやると楽だな」

騎士「当たり前だ。三対一だぞ。相手が人なら非難されている所だ」

勇者「またお前の騎士道ってのか。勝てば良いと思うんだけどな」

騎士「魔法なんて兵士にあるまじき狡いものを使う奴にはわかるまい」

勇者「何だと? 背後から切ってやろうか」

白姫「まぁまぁ、その辺にしておきなさいよ」

白姫「でも鮮やかな手際ね。そろそろ昇進かな?」

勇者「白姫から頼んでくれたら楽なんだけどな」

白姫「ダメ。兵士の階級は王族の仕事じゃないからね。出来ない事もないんだけど」

剣士「勇者様、サボったらダメ」

勇者「剣士にまで言われては仕方ないな……」

友「……」

騎士「どうした、友? 何を考えて込んでいる?」

友「いや、気のせいなら良いんだけどな」

勇者「何か気になる事でも?」

友「今日は魔物に会うのが少ないような気がしてな」

騎士「そうか? そこそこ戦っている気はするが」

友「いや、今日だけじゃない。調査の度に少なくなってる気がするんだ」


355VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/26(水) 00:26:34.850ZBYMWoJ0 (2/7)

勇者「ふむ。つまり、友はこう思ってるわけか」

勇者「この失踪事件と関係あるんじゃないか、と」

友「……まぁ」

勇者「考えすぎだ。多分な」

騎士「そうだ。今回の失踪事件は盗賊か人攫いかの仕業だろう」

友「でもな、お前達――いや、白姫も剣士も、薄々は気付いているんじゃないか?」

友「あの山に真相が隠されている」

勇者「……」
騎士「……」
剣士「……」

白姫「で、でも、あの山の魔物は無害だって……」

友「本来は、な」

友「……いや、勇者の言う通り考えすぎだ。すまない」

友「しかし、やはり用心に越した事はない。ここはもう山の麓だ。少し行けば山にも入る」

勇者「そうだな」

騎士「承知している」

…ガラガラガラ

騎士「あれは……」

剣士「……荷馬車の音がする。商人の人かな」

勇者「でも、何か様子がおかしい。みんな、警戒しろ」

友「剣士は白姫を頼む」

剣士「任せて!」

白姫「私には馬車が走ってるようにしか聞こえないんだけど……」

騎士「わからないか。まだ姿が見えていないのに音はしっかり聞こえる。しかも、かなり急ぎ足のようだ」

友「行商って言うのは品物の扱いも大変でね。普通あんなに急いだら並大抵の商品は傷物になるよ」

勇者「……見えた。みんな、少し道の脇に寄るぞ」

友「寄ってないのはお前だけだ。早くしろ」

騎士「危ないだろう。気を付けろ」

勇者「……すまん」


356VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/26(水) 00:46:19.990ZBYMWoJ0 (3/7)

ガラガラガラガラ

勇者「お、おい。何だあれ」

白姫「嘘でしょ……」

ガラガラガラガラ!

馬「ビィァーッ!」ウジャウジャ

「おい、あんたら兵士か! 良かった! は、早く馬を止めてくれぇ!」

友「あまりあれは触りたくないけど……はあぁっ!」

ザシュッ

馬「ビァァアアッ!!」

「うわぁあああっ!」

ガガガガガドシャーン

友「うわ……やばい」

騎士「全く……殺したらああなる事くらい想像出来ただろうに」

勇者「大丈夫ですか!?」

「ぐぅ……痛ぇ……。いや、助かりました」

友「すみません。咄嗟でしたので、馬を……」

「いえ、良いのです。どのみちこいつは……」

馬「」ウジャウジャ

騎士「うわ、首を切られたのにまだ動いているのか。何なんだこれは。寄生虫か?」

勇者「体の方にもいるな。全身をやられているのか? でもこんな生き物見た事がない」

剣士「……うぷっ」

白姫「剣士、あなたは見ない方が良いかもしれないわね」

剣士「ええ、そうかもしれない」

友「どうやら致命傷はないようですね。すみませんが、何があったか話していただけますか?」


357VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/26(水) 01:03:35.170ZBYMWoJ0 (4/7)

「え、えぇ……しかし申し上げにくい事ですが、私にも何が起こったのかよくわからないのです」

友「それでも見た事を、お願いします」

「わかりました」

「先程この馬に巣食っているこの触手みたいなものを寄生虫と言っていましたが」

騎士「ああ」

「実は少し前までこの馬に全く異常はなかったのです」

騎士「では、寄生虫じゃないのか?」

「いえ。しかし普通はゆっくりと侵食するはずですので……」

勇者「新手、か。だとすれば、対策を急がなくてはな」

「ただこのような状態になってしまう前に、茂みの方から何か伸びてきたのは憶えています」

「何かが伸びてきて、馬を刺してからこうなったのです」

騎士「何!?」

「最初は刺された痛みで暴れたのかと思っていましたが、次第にこいつの中で何かが蠢き始めて……」

友「こうなった、と」

「……ええ」

友「その茂みはどの方角のものですか?」

「右手ですね。えっと……」

勇者「山、か」

騎士「困ったな。案外友の心配は当たっているかもしれない」

友「となると……一旦退いて報告すべきだな」

騎士「行商人の方、あなたもしっかり送り届ける」

「面目な」

シュルルルッ

「い――」ガシッ

騎士「――なっ」
友「!?」

ズザザザザザ…

白姫「何、今の!?」

友「そんな事より、あの人が何かに引き込まれて――!」

勇者「“雷撃”!」バリバリッ

騎士「やめろ! あの人に当たったらどうするんだ!」

勇者「でもな……!」


358VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/26(水) 01:17:19.620ZBYMWoJ0 (5/7)

友「やめろ。もう遅い」

勇者「っ!」

騎士「くっ……」

友「だけど、今のではっきりしたんじゃないか」

友「今回の事件――白の街郊外での多発失踪事件、その原因はあの山で間違いない」

勇者「……見たか、あの人を」

騎士「……」
友「……」

勇者「何が起こったかもわかってなかった。わかってなかったけど、引き込まれる時に俺達を見てた」

勇者「助けてくれ。そう言っていた、あの目は」

騎士「……目が良いな」

勇者「やめてくれ。冗談を言っている場合じゃない」

騎士「ああ……」

友「あの人には申し訳ないが、ひとまず戻ろう。対策は上が練るはずだ」

勇者「わかっ――」

剣士「勇者様、危ない!」

馬「」シュル…シュルル…

勇者「――っ!」

ザシュッ

友「油断するな! さっきの見ただろう!」

勇者「す、すまん」

騎士「まさか、この馬の中のやつ、まだ生きていたのか」

勇者「剣士、白姫と一緒に急いで戻れ!」

剣士「で、でも……」

勇者「早く!」


359VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/26(水) 01:34:27.290ZBYMWoJ0 (6/7)

シュルルルルルッ

友「くそっ! 茂みの方からも次々と!」ザシュッ

騎士「うあぁああっ!」ブォンッ

剣士「あ、あ……」

白姫「剣士、心配なのはわかるけど今は――」

ウジャ…ウジャ…

友「やめろ! 離れろ!」グイグイ

白姫「友!」

勇者「友! 今助けてやる!」ブチッ ブチッ

友「勇者、やめろ! これに触るのは危険だ!」

勇者「何を言っている。早く一緒に逃げるぞ!」

友「いや、無理……だばはっ」ウジャウジャ

勇者「うっ……」

騎士「友……それは……!」

友「もう体が随分食われ――」グイッ

ズザザザザザッ

勇者「友!」

騎士「そんな……友まで……」

勇者「落ち込むのは後にしろ! 俺達も今は逃げるぞ!」

騎士「あ、ああ……」

シュルルルルッ

剣士「きゃあっ!」

勇者「白姫! 剣士!」

ザシュッ

剣士「はぁ……はぁ……」

勇者「……良かった。だが、こっちも一杯一杯か」

勇者「騎士、剣士、この触手達を牽制しながら退くぞ! どうか頑張ってくれ!」

騎士「ああ」
剣士「わかった!」


360VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/09/26(水) 01:48:42.220ZBYMWoJ0 (7/7)

白姫「で、でも……!」

勇者「わかってる。相手も中々隙を与えてくれないみたいだな」

剣士「防ぐだけで手一杯だよ!」

騎士「動けない……!」

勇者「くっ……どうするか……」

シュルルルルッ パシッ

剣士「ひゃっ!?」ドサッ

勇者「!?」
騎士「剣士!」

白姫「剣士、危ない!」

シュルッ シュルルルッ

剣士「っ!」

勇者「はぁっ!」ザシュッ

勇者「くそっ、間に合うか……!」ダッ

剣士「たぁっ!」ザシュッ

白姫「やった!」

シュルルッ

剣士「ひっ……まだ……!?」

勇者「間に合わない――!」

剣士「あ……あ、あ……」コツン

剣士「! これはっ……!」ギュッ ヒュンッ

…ザシュッ

勇者「あれは……!」

騎士「友の剣、か」

剣士「はぁ……はぁ……」

勇者「よし、みんな、俺の合図で全速力で逃げろ! 良いな!」

騎士「何をするつもりだ!」

勇者「憶えたばかりの魔法を試すだけだ。上手くいけば全員逃げれる!」

勇者「じゃあ行くぞ!」

剣士「うん」
騎士「ちょっと待て! まだ準備が――」

勇者「さん! に! いち!」

シュルルルッ

勇者「ぜろ! “火炎壁”!」ゴオォォォ


361VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2012/09/26(水) 09:16:54.79IEkaHBH/o (1/1)




362VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/26(水) 11:21:35.59/QtfBS8IO (1/1)




363VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/09/26(水) 20:10:09.920CgbNOCro (1/1)

不定期でもちゃんと続けてくれる安心感があるね


364VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/04(木) 22:23:03.3323tTgEDd0 (1/5)

剣士「はぁ……はぁ……」

騎士「やっと街に着いたか……。四人とも逃げ切れて良かった」

勇者「あ、ああ……」

白姫「……うぶっ」

騎士「し、白姫!?」

白姫「おろろろろろ……」ゲロォ

勇者「お、おい、大丈夫か!?」

白姫「だ、大丈夫……。安心したら急に……ね」

白姫「剣士は、大丈夫?」

剣士「えぇ。新米でも兵士だから……」

白姫「そう。強いわね」

白姫「……ごめん。私は先に帰る」

騎士「ああ……わかった。剣士、送ってやってくれないか」

剣士「……うん。白姫様、行こ」

白姫「本当に、ごめんね……」トボトボ

勇者「……どうせ俺達も城に戻るんだから、一緒に戻った方が」

騎士「その前に仕事があるだろう。門番に警戒するよう伝えておかなければ」

騎士「あの触手はどこまで伸びるかはわからない。ましてや友を捕らえた方は単独でも動くようだったしね」

勇者「馬に寄生してた方だな。あれは何だったんだ……」

騎士「わからない。だからな――怖いんだ」

勇者「男勝りの怪力が怖い、か」

騎士「私は……力しかないよ……」


365VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/04(木) 22:39:07.0223tTgEDd0 (2/5)

騎士「それにしても、君はまた腕を上げたな」

勇者「……」

騎士「いつの間にあんな魔法を憶えたんだ?」

勇者「……つい最近だよ」

騎士「お得意の火属性魔法だったな」

勇者「俺の適正だからな」

勇者「火炎の壁――魔法名はフィーレワル。壁のように広く火を出すんだ」

勇者「防御としては役者不足だけど、目くらましと距離を取るのにも使えるから勝手が良い」

騎士「便利なものを憶えたな」

勇者「まぁな」

騎士「早く使えば友も逃げられただろうけどな……あ」

勇者「……いや、その通りだ。俺の機転が利かなかった」

勇者「もしかしたら、俺達三人ならなんとか出来ると自惚れていたのかもしれない」

勇者「……どっちでもいいか。結果がこれだ。俺が不甲斐ないばかりに」

騎士「自分を責めるな、勇者。君はよくやった。凄い。君がいなければみんなどうなっていたか知れない」

勇者「すまない……」

騎士「とにかく番所へ向かおう。それから王宮だ。悔やむのは全ての報告を終えてからにしよう」

騎士「……私達、二人共な」

勇者「ああ」


366VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/04(木) 23:05:21.8323tTgEDd0 (3/5)

――城の街、王宮

勇者「……」
騎士「……」

白国王「ふむ……剣士から粗方聞いていたが、そういう事だったか」

白国王「どうりで娘も帰ってきてから閉じこもっているわけだ」

大臣「お主達、いかに幼馴染みとは言え姫様を連れ出すなど――!」

白国王「よい。これはわしにも責任はある」

大臣「しかしっ」

白国王「むしろ、よく白姫を無事戻らせた事を褒めてやるべきだと思わんか」

大臣「むむむ……」

白国王「まぁ、褒めてやるつもりはないがな」ギロッ

勇者「……」
騎士「……」

白国王「……褒められるつもりもない、か」

白国王「しかし、どうしたものか。今まで被害がなかったから良かったものの、これでは討伐するしかないが……」

大臣「山に住む魔物の主、ですね」

勇者「魔物の、主?」

大臣「南東の山には危険な魔物がいるから近付くな。それは子供の時から聞いているだろう」

大臣「我々王宮で働く者や兵士達はそやつを魔物の主と呼んで畏怖している」

白国王「お主達の報告にあった触手。恐らくこの主であろう」

白国王「いつから山に住み着いたかは知らん。だが過去に兵士や民間の手練れを向かわせたが、誰も帰って来なかった」

白国王「唯一、ある剣の達人を自称する男の付き添いが戻った時、証言として得られたのが――」

騎士「――触手」

勇者「相手の強さどころか全貌すら未知ってわけですか……」


367VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/04(木) 23:24:55.6523tTgEDd0 (4/5)

白国王「だからわしも困っておってな。いざ討伐、と乗り出すのは良いが」

大臣「赤鷲騎士団団長を筆頭に自団より数人精鋭を選ばせては?」

白国王「赤鷲? 白蛇ではないのか?」

大臣「白蛇の団長は策略家ですから。このような戦闘には赤鷲の団長のような前衛派がよろしいかと」

白国王「ふむ……ではそうしよう」

大臣「ですが、戦力的にも不安ではないかと……」

白国王「一個小隊くらいで良いか?」

大臣「それは多すぎでは!?」

白国王「騎士団長が指揮するならば大丈夫であろう。相手は魔物の主だ。戦力は多い方が良い」

白国王「十五人ずつ程、近接兵と魔法兵を用意しよう」

勇者「白国王様!」

大臣「おっと、すまぬな。お主達はもう帰っていいぞ」

勇者「私もその討伐に向かわせてもらえないでしょうか」

騎士「わ、私もお願いします!」

大臣「……ふむ、兵卒とは言え二人とも稀代の才をもってるからな。どうしましょう?」

白国王「却下」

勇者「どうしてですか!?」

白国王「確かに才はある。が、まだまだ未熟だ」

白国王「わかったなら、帰るのだ」

勇者「……」

白国王「お主の無念はわかる。だが、思い詰めるでない」

白国王「二人は暫く休んでおけ」


368VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/04(木) 23:44:51.2423tTgEDd0 (5/5)

勇者「――休んでおけ、か」ボソリ

騎士「何だ? まだ白国王様の言葉が気になってるのか?」

勇者「気になってると言うより、やっぱり腑に落ちないな」

騎士「そう言うな。言い換えれば『動くな』と言う命令だぞ」

勇者「しかしな……」

騎士「まぁ、討伐隊が編成されればすぐにでも敵をとってくれるさ」

騎士「もしかしたら、生きて帰ってくるかもしれない。私達はまだ死んだ所を見ていないからな」

勇者「そ……そう言えばそうだな! 討伐隊はいつ出発するんだ!」

騎士「一個小隊、しかも人員は各所から選抜されるみたいだから……」

騎士「早くて一週間くらいだろうな。とんでもなく早くても三日はするだろうし」

勇者「やっぱりそんなにかかるのか……」

勇者「もし友がまだ生きていたら、今頃どうしているか」

勇者「……友だけじゃない。あの行商人、その他にもいるかもしれない被害者達の安否も早く確かめるべきだと思うんだけどな」

勇者「――ってあれ? 騎士、どこだ?」

騎士「ああ、ここだ。すまんな。そこでパンを買っていた」

勇者「俺は一人で喋ってたのか。恥ずかしい目にあわせるなよ……」

騎士「大丈夫。ちゃんと聞いていたさ。それよりどうだ、君も。私の好きなビアンブリードだ」

勇者「豆入りのパン……ありがとう。借りはなしだぞ」

騎士「私達の仲だ。そんなものはない。ただな」モグモグ

勇者「何だ?」モグモグ

騎士「一応言っておく。私達は休めと言われてるんだ。一人でも友を助けに行かないようにな」

勇者「あのな、俺がそんな無謀な奴に見えるか?」

騎士「……そうか、それなら良い」


369VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/10/05(金) 10:06:52.44koMQEg8Uo (1/1)

乙ー


370VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/05(金) 13:39:44.41vA8S2v5IO (1/1)




371VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/05(金) 16:36:21.276A8+p2GIO (1/1)




372VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/09(火) 15:51:44.11YZ9FqTaL0 (1/2)

(その日の深夜)

勇者「……」ソロリソロリ

「――五と三のフルハウスだ」

「ははは、中々やるじゃねーか。次は俺だな」

勇者「……」サササッ

「おい、見ろ! 六のファイブダイスだぜ!」

「嘘だろ――!」

勇者「……ふう」

勇者「よし、待ってろよ、友」

騎士「やはりな」

勇者「!?」ビクッ

勇者「き、騎士……どうして……」

騎士「私には、君が無謀な奴に見えたからだ」

勇者「止めにきたのか?」

騎士「そうしたいが、どうせ聞かないだろうし、ここで暴れるのも後々面倒になりそうだ」

騎士「それに、私も友が心配だからな」

勇者「……そうか。助かる」

騎士「それにしても、ここの門番の怠慢は報告すべきだろうか」

勇者「気持ちはわからなくもないけどな」

剣士「わざわざ報告する必要はないかと」

勇者「!?」ビクッ
騎士「!?」ビククッ


373VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/09(火) 16:09:15.81YZ9FqTaL0 (2/2)

勇者「剣士……いつからいたんだ?」

剣士「さっきからだけど」

剣士「騎士様が外出される姿を見たからついてきたら、やっぱりこう言う事だったんだ」

勇者「つけられてたのか」

騎士「面目ない……」

剣士「門番二人の怠慢は私達が勝手に討伐へ向かう事で露呈するんじゃないかな」

騎士「確かに。だが、剣士……行くのは私と勇者だけだ」

勇者「俺達がやろうとしているのはただの無茶だ。それがわからない程の頭じゃないだろう」

剣士「私もその無茶をさせて下さい。私は三人の弟子だから」

勇者「弟子と言うなら、師匠の言う事を聞いてくれ。友もそう望んでいるはずだ」

剣士「弟子だからこそ行動しなくちゃいけないって思ってる。師匠の命令でも聞けない時はある」

剣士「お二人が何と言おうとも、私はついて行くつもりだからね!」

勇者「……騎士、どうする?」

騎士「この頑固さは、白姫譲りかな」

勇者「ははは、師匠の類は剣の師だけではなかったのか」

勇者「だが剣士は置いていく」

剣士「それでも――!」

勇者「と言いたいところだが、今は縛るものがないしな」

勇者「危なくなったらすぐ逃げろ。良いな」

剣士「! わかった!」

騎士「はぁ……やむなしだな」

勇者「さて、行こうか」

騎士「ああ」

剣士「おー!」


374VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/10/09(火) 17:19:22.411eD0abUro (1/1)

乙ー


375VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/09(火) 18:23:37.24RtoPZ46Yo (1/1)

この章は石川賢で再生すればいいですかね


376VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/17(水) 21:04:37.29QDYZe2q80 (1/8)

>>375
ゲッターマンの人だっけ?
自分は読書量が少ないのでよくわかりませんけど、イメージは各自好きにやって下さいな。
ただ後々の展開でイメージがずれても憤慨しないようお願いいたします。


377VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/17(水) 21:16:54.22QDYZe2q80 (2/8)

――南東の山

勇者「……」ザッザッ

騎士「……勇者」

勇者「わかってる」

勇者「まだ奴の居場所が掴めてないとは言っても、何も反応がないのは怪しい」

騎士「この山は主の国のようなものだからな」

剣士「それにしても不思議だよね」

剣士「山の主もそうだけど、出発してから動物も魔物も見ないって……」

騎士「確かにそれは不気味だな」

勇者「……もしかしたら」

騎士「何かあるのか?」

勇者「奴にとって、人間も動物も魔物も関係ないんじゃないかなって」

剣士「一理あるよね」

騎士「うむ。魔物はわからないが、馬に寄生したし、友と行商人を連れ去った」

騎士「いや、そもそもあの触手は本当に主のものかどうかも怪しいのだけど」

勇者「そうなんだよな。本体をしっかり見た人はいないらしいし」

剣士「と言うか、このまま手当たり次第探すつもりなの?」

勇者「……」
騎士「……」

剣士「どのくらい時間かけるつもりなの……」

勇者「仕方ないだろう。しかしどこかに手がかりが落ちてるはず」

剣士「勇者様……」

勇者「はず……」

ガサッ

騎士「しっ。二人とも静かに」

勇者「……」コク
剣士「……」コクリ


378VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/17(水) 21:34:37.81QDYZe2q80 (3/8)

ガサガサッ

勇者「……」

ガササッ!

剣士「……っ」ダッ シャキンッ

?「わわっ!?」

剣士「……」ピタッ

騎士「剣士!」

剣士「わかってる」

?「な、何なんですか……!」

騎士「……人か」

勇者「こんな時間にこんな所で何をしている? あなたは何者だ?」

?「それはこっちの台詞ですけど……」

剣士「先に答えて」チャキッ

?「ひっ! わわわ、わかりました!」

魔法師「こ、この山を調査しに来ました、魔導連合の魔法師と言いますっ」

勇者「魔導連合の?」

魔法師「とと、とりあえず剣を収めてくれませんか……」

剣士「……」

騎士「……」コクッ

剣士「……」ス…

魔法師「それで、あなた達は?」ホッ

勇者「無礼を失礼しました。俺は白の街で兵士をしている勇者と言います」

騎士「同じく、騎士だ」

剣士「……剣士」

魔法師「兵士さんでしたか……。よく見たらそんな感じも」

勇者「一応、これが身分証明」サッ

魔法師「確かに本物ですね。これでお互い身分はわかったわけですが……」

魔法師「兵士の方がどうしてこんな所に? しかも――」

勇者「――こんな時間で、ですね。私的な事情ですけど――」


379VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/17(水) 22:13:46.08QDYZe2q80 (4/8)

魔法師「――成る程。三人とも無謀な事をなさっている自覚はあるんですね」

騎士「そうですね。全部この勇者のせいですが」

魔法師「でも、その気持ちはわかります。私でもそうしてるでしょうし」

剣士「ところで、魔法師さんの調査って?」

魔法師「あなた達と大体同じですね。調査の方ですけど」

騎士「と言う事は、行方不明者の?」

魔法師「ええ。でも私達の方はそれだけじゃないんですよ」

勇者「?」

魔法師「もうお気付きかもしれませんが、この山の近辺に生き物が殆どいないんですよ」

魔法師「私が任されてるのはその原因を探る事ですね」

剣士「一人で?」

魔法師「少なくとも正体がしっかりわかるまでですね」

魔法師「こういうのは下っ端の役割ですし、私はその中でも優秀な方らしいので」

勇者「じゃあ、転移魔法とかは」

魔法師「勿論できますよ」

勇者「本当に優秀なのですね。あれはどうにも難しくて……」

魔法師「えっ!?」

騎士「こいつは変わり者でして、適正もあるし剣の腕も中々良い」

魔法師「へぇ、そんな人もいるんですね」

剣士「騎士様も変わってると思うけど」

勇者「ああ、こいつは人とは思えない怪力だな」

騎士「これ以上変に言うのだったら切り潰してもいいんだが」

剣士「……ごめん」

騎士「剣士は良いんだ」


380VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/17(水) 22:43:39.32QDYZe2q80 (5/8)

勇者「それにしても、そちらの話を聞いた感じでもここはかなり危ないらしいけど」

勇者「こんなに話していて大丈夫なのですか?」

騎士「今更だな……」

魔法師「本当、今更ですね。でも大丈夫ですよ」

剣士「わかるの?」

魔法師「こちらの調査は昨日今日だけじゃないですからね」

魔法師「夜は触手を見た事がないんです。寝てるんでしょうかね」

魔法師「私が深夜に調査する理由もそれなんです。魔物もこの山の何かのおかげでいませんし」

騎士「言われてみれば、詳しく調べてなかっただけで、失踪者も日中に消えているのが殆どだな」

魔法師「理由がなかったらこんな暗い状態嫌ですよ」

勇者「……ここに来て分かれ道か」

騎士「では右に行こうか」

魔法師「いえ、左で。右は下山ルートです」

剣士「そっか。魔法師さんはわかるんだ」

勇者「では俺達は未調査のとこまで案内してもらった方が良いな。お願いできますか?」

魔法師「これも何かの縁ですから、元からそのつもりです」


381VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/17(水) 23:00:16.75QDYZe2q80 (6/8)

勇者「それでさ――」

魔法師「そうなんですかー」アハハ

騎士「いくら触手が出ないからって……」

剣士「不用心すぎ」

騎士「魔法師さんが言ったから大丈夫なんだろうけど」

剣士「信じられるの?」

騎士「悪い人に見えないだろう?」

剣士「……うん」

魔法師「――っ!」ハッ

勇者「どうかしました?」

魔法師「ちょっと静かにして下さい。近くで魔力を感じます」

騎士「!」

勇者「……」コクリ

魔法師「……こっち」タタタッ

勇者「……」ザザッ
騎士「……」ザザザッ
剣士「……」サササッ

魔法師「……」

勇者「……あれか」

剣士「洞窟?」

魔法師「それも気になりますが、魔力はその前に座ってるローブ姿の……」

?「……」

騎士「よく見えないな」

勇者「闇に溶けやすい紺色だ。でも、何でこんな所に人が」

魔法師「私達と同じ……だったら良いですね」

騎士「用心に越した事はない」

勇者「ああ。剣士、行くぞ」

剣士「うん」コクッ


382VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/17(水) 23:27:21.15QDYZe2q80 (7/8)

ザッザッザッ…

?「……そこにいるのは誰?」

剣士「……」ザッザッ

?「こんな所に女の子? なんで――」

?「ただの女の子ってわけじゃないみたいかな。……何者ですか?」

剣士「それは……」

勇者「こっちの台詞ですね」チャキッ

?「!?」

勇者「俺達は街の兵士だ。何の目的で洞窟の前にいるのか、話してもらおうか」

?「い……」

勇者「?」

?「嫌だなぁ。別に怪しいものじゃありませんよ」

僧侶「僕は僧侶と言う名前でして、ここに来たのも教会から調査の使命をいただいたからです」

勇者「……どこの教会だ?」

僧侶「三神教の白羽教会ですよ。ご存じでしょう?」

僧侶「ここにいたのも、先輩方が洞窟を探索している間待たせてもらっているだけです」

勇者「……証明は?」

僧侶「この首飾りでどうでしょう」

勇者「……ふむ」

剣士「……」コクリ

魔法師「良かった。安全だったみたいですね」

騎士「しかし偶然とはあるものだな。山を調査に来た人が二人もいるなんて」

僧侶「これはこれは……まさかまだいるんじゃ……」

勇者「いや、俺達はこれだけです。脅かしてすみませんでした」

僧侶「いえいえ。でもこちらは納得いってないのは確かです。そちらの事も聞いても?」

勇者「良いですよ。まず俺からですが――」


383VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/10/17(水) 23:44:38.12QDYZe2q80 (8/8)

僧侶「ふむ。友人を魔物に連れ去られた方々と魔物の正体を調査しに来た方……」

僧侶「正直言いますと、前者は無謀としか」

魔法師「ですよね」

勇者「くっ……」

騎士「ところで白羽教会の使命とは?」

僧侶「調査ですね」

騎士「やはり魔物の?」

僧侶「ええ」

剣士「何で一人だけ待ってるの?」

僧侶「僕は予備人員だからね。何かあった時のために報告する役割もあるんだ」

騎士「何か、か」

僧侶「山の主を探しているのでしょう。それならこの中です。この奥が巣になっています」

魔法師「本当ですか!?」

勇者「……何で俺達に教えてくれるのですか?」

僧侶「さっきあなた達が言ったじゃないですか。探しているのでしょう?」

僧侶「それに、さっきから思ってる事があるんです」

僧侶「戻ってくるの、遅いなぁ、って」

騎士「いつから待ってるんですか?」

僧侶「随分前から。だから様子を見に行きたいけど、どうしようかって悩んでたんです」

僧侶「そこで丁度良いところに道連れが出てきたわけですね」

勇者「では、一緒に行くって事ですか?」

僧侶「ええ。ただ僕は危なくなったら逃げますので」

魔法師「危なくなったら私が脱出させますよ、みんな。気を引き締めて行きましょう」


384VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2012/10/18(木) 10:03:44.09Jno7UTVVo (1/1)

乙!


385VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2012/10/18(木) 13:49:11.01fe5tE75Zo (1/1)




386VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2012/10/18(木) 19:20:38.94GBJ/ICVIO (1/1)




387VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/11/20(火) 20:07:58.33US2xt2Oq0 (1/5)

また間があいてしまった。いい加減もっと暇を見つけたいな。


388VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/11/20(火) 20:24:27.99US2xt2Oq0 (2/5)

コツ…コツ…

騎士「本当に魔法は便利だな」

勇者「だろ? 憶えていて損はない。こうやって灯りもつけられるからな」

魔法師「そうですね。素質があるなら、ですけど」

僧侶「そうですね。素質がないと使えませんし」

騎士「羨ましい限りだ」

剣士「僧侶さんは灯りを点けないの?」

僧侶「ええ。修道士の使う魔法は特別ですからね。それに支障がないように他のは基本的に憶えないのです」

魔法師「祈祷、でしたっけ。詩篇が信仰心を読むって言うあれですよね」

僧侶「そうですね。他の詩篇を憶えるよりも信仰心を高める。僕達は一番それに時間をかけてますね」

勇者「漠然としているなぁ」

僧侶「あなたも入信するとわかるかもしれませんよ」

勇者「俺は信心深い方じゃないですし、厳しいかもしれませんね。そういう家系とも言えるけど」

騎士「そう言えば、僧侶や魔法使いって一応両方とも魔法の資質がありますよね」

魔法師「その違いって学院で習いますよ」

騎士「何だと!?」

勇者「兵士には魔法教育がないからな……」

魔法師「魔法使いは資質があれば誰でもなれるんですよ」

僧侶「僧侶は特別と言えば特別ですね。資質があるかどうか以前に僧侶ですから」

僧侶「だから祈祷を使えない僧だって――」

カツンッ

騎士「!」


389VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/11/20(火) 20:42:37.19US2xt2Oq0 (3/5)

剣士「……みんな止まって」

勇者「ああ。灯りを弱めるぞ」ボボッ

魔法師「いえ、強めて下さい」ゴオォッ!

僧侶「熱っ!」

魔法師「っとと、すみません」

勇者「強くすると見つかるだろ」

魔法師「相手は魔物ですよ。人間と同じと思わないで下さい」

魔法師「一方、私達は暗くなると動くにくくなります。明るくしないと、こっちが一方的に不利な状況になりますよ」

騎士「成る程。それは確かだ。見た感じ剣士くらいの歳だが、勇者よりは賢いようだ」

勇者「……文句は後で言うぞ」ゴォッ

僧侶「……っ!」

剣士「うっ……これは……」

騎士「休んでいる、ようには見えないな。僧侶さん、君の仲間ですか?」

僧侶「……そのようです」

魔法師「脈はないですね……」

勇者「僧侶さんの仲間は何人でしたっけ?」

僧侶「四人、です」

修道士A「……」
修道士B「……」
修道士C「……」

勇者「一人足りないな。もしかしたら、まだ生きているかもしれない」

僧侶「……」

剣士「……あれ? じゃあ、さっきの物音は?」

魔法師「生き残りの方でしょうか。いえ、でもそれだと……」

騎士「ああ。あの気配は近くにいるはずだ。仲間がいるとわかれば出てくるはず」

勇者「隠れられる場所もないし、足音もない。やはり魔物か!」

僧侶「……ん? 何だろう、これ」

…ウジャ


390VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(高知県)2012/11/20(火) 20:59:00.95US2xt2Oq0 (4/5)

僧侶「!? うわぁあっ!」

勇者「どうした!?」

僧侶「あ、あれ……」

修道士A「……」ウジャウジャ
修道士B「……」ウネウネ
修道士C「……」グジュグジュ

騎士「っ! 下がれ!」ザザッ

剣士「……うぷっ」ザッ

勇者「剣士、大丈夫か?」ザザッ

魔法師「うわっ、グロっ……」ザザッ

僧侶「あれは……」ズササッ

騎士「あれが多分“魔物の主”……の片割れだろう」

魔法師「片割れって……何匹いるんですか……」

ウジャウジャウジャ…

勇者「だが、物音の正体はこれだろうな」

剣士「どうするの? このままだと襲ってくるかも」

魔法師「襲ってくるの!?」

騎士「確証はありませんが。どのみち放っておくわけにもいかないでしょう」

勇者「ふむ……僧侶さん」

僧侶「な、何ですか?」

勇者「ここで火葬させてもらっても良いですか?」

魔法師「その手が! でも……」

僧侶「いえ、構いません。僕もあれを見るのはつらいですし」

勇者「ありがとう。骨は残すよ。じゃあ――」

魔法師「ええ」コクッ

勇者「“火炎弾”」ゴオッ!
魔法師「“火炎放射”」ゴオオォッ!