404VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/02(木) 21:43:17.223b+YOD0Qo (14/16)


「……い、インデックス、さん?」

普段は繊細な音色の楽器を思わせる少女の声が、極限までの怒気を孕んでいる。

「いつになったら帰ってくるのかな!? 私もう支度してずーっとずーっと待ってるんだよ!」

「あ!」

「なっ!? 今のは「思い出したぁ!」って声だよね!? これはちょっとひどすぎるかも!」

「すまん! 本当すまんインデックス! 今帰るから!」

「あ、待って欲しいかも。まずはこのデンワーでのお話をどうやったら中止できるかを教えt」

ブツ、とインデックスの声が途切れる。
電源ボタンから指を離し、彼女は最後に何か言いかけていたのか? と思考を巡らした。

「っと、悪い、二人とも。今日は一緒に百合子の見舞いに行きたいって言う奴がいるから
 一旦迎えに行ってくるよ。先に病院行っててくれ」

「だ、れか、くるの。」

「ああ。お前の嫌いそうなやつじゃないから、安心しろよ」

一瞬不安そうな顔を見せた百合子に、へらりと笑いかけてやる。

「百合子の体調も思わしくありませんので、私達は……もう少し休んでから、帰ります
 と、ミサカ19090号は慎重な対応をすべきだと主張しました……」

「そうか。もうすぐ夕方だし、気をつけていけよ? 本当に大丈夫か?」

「ええ。どうも昨晩はいつにも増して不眠症の症状が酷かったようで……
 寝不足でしょうか、とミサカは推測します」

上条当麻が心配そうに振り返りつつも、自宅の方向に駆けていくのを見送って
19090号は細い溜息をもらした。

「やはりあの高校まで歩くのはまだ時期が早かったでしょうか?
 天気のせいもあるでしょうが、とミサカは考察します」

「ごめン、なさい。」

「具合が悪い時は早めに言うこと。夜眠れなかったなら朝そう伝えること。
 いいですか? 百合子、とミサカは念を押しました」

「、、、はィ。」


405VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/02(木) 21:43:51.623b+YOD0Qo (15/16)


起き上がろうとした百合子の額を指先3本でくいと押し戻し、19090号は膝の上に白い頭を
半ば無理やり横たえさせた。

「わ。」

「少し眼を瞑っていてください。眠っても、眠らなくても良いですから。休憩が必要ですよ
 とミサカは百合子の髪のさらさら具合を羨ましく思いながら述べます」

「でも、おもくない。」

「大丈夫です。15分したら声をかけますから、それまで。魘されたら起こしてあげますから
 と、ミサカ19090号は約束しました。指切りげんまんです」

一瞬申し訳なさそうな頬笑みを浮かべた後、百合子は大人しく瞼を閉じた。
木漏れ日が眩しくないように、先ほど公園の蛇口で湿らせてきたタオル生地のハンカチを
両目を覆うように乗せてやる。

「ン、きもちい、、。」

「おやすみなさい」

ざわり、と頭上の梢が風に吹かれた。そういえば、今晩から明日の夜まで雨模様だそうだ。
そう思うと急に、嵐の前の、という単語を思いつく。
ミサカ19090号は自分の大げさな考えに少しだけ苦笑した。嵐だなんて。

自分は怖がりだ。
だからといって、自分から怖いものを増やすのはやめよう。

自分よりもっと怖がりな少年が、こんなに近くにいるのだから。

血の気が失せて、いつもより更に白い肌。ちらちらと木漏れ日がその上を撫でた。
拒食期の時の酷いやつれ具合がほんの少し隠れてきたが、痛々しい程に細く折れそうだ。

ただ海泡石の彫刻のように、ビスク焼きの人形のように、存在感が曖昧だった。

そう、曖昧。

どちらでもないのだ。人間のような、何か別の生き物のような。
男のような女のような、子供のような大人のような、異質の存在がそこに内包されている。
今にも壊れそうなほどに脆くて、存在しているだけでどこか貴重なもののように感じさせる。

では、もしその曖昧が「反対側」に傾いたら。
彼女には、鈴科百合子が何か別の生き物になってしまいそうな気がしていた。

さて。このような考えを他の者に対して抱いたことは一度もないのに、何故この生き物は
そんな不思議な気持ちを呼び覚ますのだろう。

答えは出ない。
ただ、少しの水気を含んだ風が頭上の梢と彼女の軽い髪を揺らした。

もうすぐ、雨が降る。


406VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/02(木) 21:44:53.583b+YOD0Qo (16/16)


今日はここまで。

ところで一方さんの虐待シーンを書いているあたりからなのですが>>1のおにんにんが
職能放棄でストライキなうです。以前VIPのスレ乗っ取って一方さん(♂)をガチレイプな
SS書いた時は吐き気を催した程度でこんなことなかったのに、おかしいですね。一体
何してるんでしょう。やっぱり虐待はよくないんだなぁーバチがあたったんだなぁーとか
思っています。あ、いや勿論レイプもだめですけども。完結するころには機能が戻っている
ことを望みますが、もしかしたらより酷くなっているかもしれませんがね。色々あるので。
何が言いたいかって言うとむらむらするのに発散できなくてしくしくと言うことです。
みんなも気を付けてね。

それでは。


407VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/02(木) 21:57:39.82K3QsRNM1o (1/1)

乙うううううう!!!
青ピが流石青ピだった!
白白コンビの再開を楽しみにまってます!!


408VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/02(木) 21:59:43.51z1ruLqT1o (1/1)


躁状態の中編って事は次回は後編、そして鬱状態なのか……それとも次回が鬱状態?
とにかく不安で胸の辺りがぎゅうっと痛む
そんな中で青ピの存在は一種の清涼剤だったww

>>406
つまりエロエロなSSで>>1をおっきさせろって事ですね分かります
誰かHKB


409VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/02(木) 22:07:11.687LfYkaVQ0 (1/1)

乙、超待ってた。
この後の展開が相変わらず気になる…!
そして>>1大丈夫かwwwwからだはだいじにしてね


410VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/06/02(木) 22:19:56.19UpW1L6vAO (1/1)

乙!待ってて良かった
そしてお大事に…


411VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄)2011/06/02(木) 22:23:35.38i2b/1HpAO (1/1)

>>1 乙
作品も書き手も繊細なんだな…良くなるよう祈ってるよ。
あとその過去作kwsk

この百合子は不思議だな。癒されるけど悲しい気持ちにさせられる。
昔観た海外の百合映画とか、エコールを思い出す雰囲気だわ。
『ずっと大好きだよ』とか小学生だかの頃教科書で読んで泣きに泣いて吐いたの思い出したわ。


412VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2011/06/02(木) 23:34:01.97OQe9YVsAO (1/1)

乙なんだよ
切ないけど不思議と癒されるssだ
次も楽しみにしてる



413VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/03(金) 00:11:22.07Sz7A5q60o (1/1)

乙!続き読めて嬉しいいいい
青ピさんマジ青ピ、素敵
あと林檎刺す刃さんが意味深だなぁ……嵐が来ないと良いけど
あ、インデックスさんが突撃翌隣の病室的な嵐ならどんとこいです
白白コンビ超楽しみ

百合子の描写でこどちゃの人形病思い出したよ
あんな感じに生気がないのかな……心配
>>1も身体大事にしてねwwwwww
そして過去作kwwsk


414VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/06/03(金) 00:26:45.87d2Juo8Roo (1/1)



もういい…! >>1…!
休めっ…!


415VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/03(金) 00:58:37.52KCkrmRxCo (1/1)

待ってたーーーーー!!!!!超乙!!
青ピに和んだけど、
この百合子は本当に胸を締め付けられるな…

>>1もお大事にね…ww


416VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/03(金) 02:30:25.95UzDuXdea0 (1/1)



もしかして >>1は
上条「御坂とヤったけど、正直気持ちよくなかった」を一部濃厚なホモスレにした人?


417VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/03(金) 14:06:10.35xJ9Hslixo (1/1)

乙!
体調気を付けろよー
そして過去作kwsk

>>416
アレはガチレイプだったな


418VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/03(金) 19:54:18.093UVNb21+0 (1/1)

乙!
とりあえず過去作について聞かせてもらいたいんだが

青ピが程よく変態だった
インデックスが百合子と会ってどんな反応するんだろう


419VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/06(月) 02:10:29.45Q0FgMN9DO (1/1)

>1
乙ー

百合子を守り隊

これからの展開に超期待ー


>416
それかもね

あれはいいレイプ





420VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:36:59.81FaE/tL0to (1/24)


こんばんは。

青ピさんが人気すぎてshit。

>>408
5 双極性障害(うつ状態) >>177-192
こっちが鬱かな! 次回はまた別になりますので、お楽しみにということで。
エロSSでもおっきしないのでそろそろ常時賢者モードです。

過去作については>>416さんが大正解です。といっても書いたの一方さんの所だけですが。
エロへのwktkを裏切られてむしゃくしゃしてやりました。今は反省と後悔でいっぱいです。
読んでしまった方には申し訳なかったと思っています。ふぇぇえええん! ごめんなさい!
素直に打ち止めのぺろぺろシーンを情感たっぷりの地の文で書いておけばよかったです。

では続きです。
今回ある意味閲覧注意。


421VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:37:47.30FaE/tL0to (2/24)


葉擦れの音が聞こえた。

黄泉川愛穂の長い髪がふわりと風に流され、一瞬肩の荷が下りたように感じた。

髪というのは意外と重いものである。
膝に届くのではないかと思う程に長いつややかな黒髪と、持ち重りのしそうな体型。
この為に酷い肩こりに悩まされている黄泉川が、ふ、とため息をつく。

「うわ、オマエ肩ガチガチじゃねェか。ちょっとこっち来やがれ」

耳の奥に同居人の少年の声が聞こえた気がした。

いや、同居人だったのだ。
しかし彼女はそれを認めようとは思わない。
どれだけ長く彼女の元を離れようとも、あの淋しい眼をした少年は彼女の家族なのだ。

淋しいのはどっちだ。

黄泉川は自嘲するようにそんな考えを巡らす。

良い歳して都市中駆け回るからこんなに凝るんだ、などとその少年が言う。
自分がそれに憤慨して、うるさい居候、と小突く。

少年は制限付きの能力を使って、彼女の生体電流だか血流だかを弄くる。
まるで石が積まれているように重かったのが、魔法のように治ってしまう。

「何を口開けてボサッとしてやがる。突っ込まれてェのかクソ野郎が」

「先生にそういうことを言うのは感心しないじゃん……」

そんないつかのやりとりを思い出すのは、彼のことが心配だからだ。

口は悪い。その癖に、馬鹿に優しい。
守ってやらなければならないほどの、小さくて弱い、ただの子供だ。

そして彼は今、原因不明の記憶障害で入院しているのだと聞いた。

風が止まる。
長い髪が彼女の首筋に纏わる。酷く重い。
彼女の重たい気分を更にずぶずぶと沈めてしまおうとしているように、全身が重い。

こんな邪魔な髪など、早く切ってしまいたかった。

それでも、彼女の髪はまだこんなに長く、この都市はまだ、こんなに暗い。

青空の向こうに、黒っぽい雨雲が迫っている。


422VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:38:23.05FaE/tL0to (3/24)






             7 双極性障害(躁状態) 後編







423VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:38:50.25FaE/tL0to (4/24)


少年が入院していると聞いた、というのは黄泉川愛穂が直接確かめたわけではなかった。

その情報をもたらしたのは、かつて彼と同じように居候していた少女だ。
今も彼女の自宅のソファーの上に居るちぐはぐな姉妹。
未だに見舞いにすら行けないのは、大きな妹と、小さな姉の2人組があの夜伝えた
彼の奇妙な症状の所為だった。

「お医者サンとお姉サンが怖いんだって☆ わくわくしちゃうよねぇ?」

きゃはっ、と今までに見たことのない程満面の笑みを浮かべる番外個体がフラッシュバック。
記憶を無くし、大変に衰弱して精神を摩耗した少年の様子がいたく気に行ったらしく
あの日以来彼女ときたら、暇さえあれば病院に駆けつける。

まるで恋する乙女状態だ。だがそんなことを言ってしまうとどんな反撃を食らったものか。
口は災いの元である。黄泉川は最近ドアを開ける度に人為的な静電気に見舞われる
芳川の姿を見てそれを痛感していた。腐ってもこの末っ子、レベル4である。

しかし、何のトラウマか。因果なことだ。
彼と一緒に住んでいた者の内、現在の彼を怯えさせずにすむのは打ち止めだけだ。
例外として、番外個体だけは怯えられているのを楽しみに通っているので性質が悪い。

そもそも、あの少年が怯えている。それだけがずっと引っかかっていた。

いくら記憶を無くしても、あの強がりな彼がそんな風になるものなのか。
それとも昔の彼はそんな子供だったのだろうか。
だとしたら何があれほどに頑なな少年を作ってしまったのだろう。

この数週間、取りついたようにこの考えが黄泉川の頭の中を食い荒らしている。

警備員の制服や装備に凝り固まった腕をぐるりと回した。
まだ見回りが残っているのに。
風紀委員だけに任せておくべきではない、と警備員による学区の見回りを推奨したのは
他ならない自分のはずなのに。

たるんでいる。
何もかも。

甘いのは同居している友人だけでいいだろう。
自分は強くならなければ。強くなければならない、大人なのだから。

だから、少年の心配をしているのも仕事中は控えるべきだ。

拒食は治ったのだろうか。
杖の使い方は思い出せただろうか。
昨日打ち止めに持って行かせたハンバーグは食べてくれたのだろうか。


424VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:39:17.27FaE/tL0to (5/24)


何度教えても治らなかった箸の持ち方は変わってしまったのだろうか。
初めておかわりしてくれたハンバーグも忘れてしまったのだろうか。
もう、思い出さないのだろうか。

「……だめじゃん。私」

ため息が出る。

いっそ殴り飛ばしてやりたい。

なんてことだ。仕事をしろ、黄泉川愛穂。
そんなことでは何時まで経っても、この髪は重くなるばかりだ。

見回りもこれで最後だ、と。
故障したり警報が作動したりと問題のある自販機のある公園へ向かった。

「異常なし、か」

ふと視界に違和感がある。

ベンチに座る小さな人影。その膝に頭を乗せて横たわる人影を見た。

それだけなら微笑ましい学生カップルなのだろうが、座っている女生徒がキャップで
横になった学生を扇いで風を送っているのが少し妙だった。

気分が悪いのだろうか?

踵を返し、ベンチに駆け寄る。

「こんにちは、警備員じゃん。具合が悪いのか?」

驚いたように顔を上げるのは、何時だか幻想御手事件の時に大暴れした常盤台の第三位。
いや、打ち止め、番外個体?
同じような顔が思考を高速でよぎっていく。

「あんたは……」

「あ、み、……いえ、あの。大丈夫です」

おたおたと慌てる。こんな態度を取りそうな子じゃなかったはずだ。
やはり人違いか、姉妹、あるいは親戚、あるいは……そうかもしれない。

「そっちの子は貧血?」

「は……ええと。この子は人見知りが激しいので、あの、申し訳ありませんが」

膝の上で、顔の上半分にタオルを掛けられた頭がほんの少し呻き、身じろいだ。

制服のスカートの上に純白の髪がさらりと零れる。
とうとう見間違いを始めたのかと、一瞬眼を疑った。


425VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:39:51.56FaE/tL0to (6/24)


「一方、通行……?」

ほろりと唇から零れた言葉に、ぴくんと人物は反応を示した。

額にかかる布を、白く折れそうな指がゆるゆる退ける。
眠たそうに蕩ける真っ赤な瞳が、彼女の硬直した表情を映していた。

そうだ。
見たことがある。
覚醒した直後、何が起きているか判断しかねている彼の眼。

そして、決まってこう言うのだ。

「何の用だ。寝かせろ。あと5分」

そして、以前よりも余計に酷く痩せた少年が口を開く。

「だ、れ。」

地面が割れたかと思った。
鼻の奥がずくんと酷く痛んだ。

それでも、きっと酷い顔をしているだろう自分より、怯えている目の前の子供のほうが。

無理やりな笑顔を作って、しゃがみこんで視線を合わせる。
ビクリと体を起こし、横の少女のベストをそっと摘まむ。

2人の動作はそのどちらも、彼らの初対面にはありえなかったものだった。

「私は警備員の黄泉川愛穂じゃん。具合が悪いなら病院まで車出してあげるから」

「黄泉川愛穂……貴女が、」

横に居た少女の方が信じられないというような顔をする。
打ち止めの関係か。
一応安心しろと微笑みかける。

少年は怯えている。呼吸が早い。過呼吸寸前だ。
大人が怖いのは本当だったのか。
現実を目の前に突き付けられたような気になった。

「ゆ、」

「うん?」

「すずしな、ゆりこ、です。」


426VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:40:18.83FaE/tL0to (7/24)


反応が一拍遅れた。

「な、なまえ。」

「あ、あ……そうか。名前。百合子くん、か。」

縋っていた少女の服をそっと離して、懸命に首を縦に振る。

ああ、そうだ。
この子は今、「一方通行」とは違うんだ。

私のことが、怖いんだ。

おずおずと、その少年が指先を伸ばしてくる。
咄嗟に身を引きそうになった。
何故か彼が異質なものに感じられてしまう。

それを必死にこらえて、どういうわけか留まることに成功した。

実際彼のこうした唐突な接触に悲鳴を上げなかったのは、彼女が殆ど初めてだった。

冷たい指が、右頬をそっと撫でた。

「あいほ。」

声の質は同じだ。トーンだけが違う。呼び方も。

「黄泉川ァ」

耳の奥の幻聴が打ち消された。
少年の困ったような小さなかすれ声が、やけにはっきり耳に届いた。

「な、、、あァ、。」

「?」

「なか、ないで。」

言葉の意味を理解した瞬間。
何か熱い液体が黄泉川愛穂の顔をとろりと伝って、頬に触れる少年の指先に溜まった。

どうして。

ぽろぽろと出ていく液体が止められなかった。
少女が驚いた顔で見つめて来るのが分かる。
当たり前だ。大人の女が、しかも警備員の制服を着たままでみっともなく泣き始めるなんて。


427VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:42:25.92FaE/tL0to (8/24)


「なかないで。」

細い指が髪を撫でる。
重くてたまらない、陰鬱な色の髪を。

「あいほ。ごめンなさい。だからなかないで。」

まつ毛に溜まった涙をそっと拭う。
熱く火照る頬を冷たい掌が包む。

「う、ぅあ……」

「あいほ。」

ゆるゆると緩慢な仕草で、黄泉川は少年を抱きしめた。

「あいほ。ごめン、なさい。つらかったね。」

耳のすぐ後で、やけに静かな声が響く。

それが体の中に取り込まれてゆく。

数週間、いや、もっと長くかかって出来た彼女の中のわだかまりを
ゆるゆると、ただゆるゆると緩慢に溶かして薄めていった。

「ばか、だなぁ。なんで、そんな……あんたがそんな、ことを……」

「あいほ。」

薄い掌が優しく背中を叩く。

「ハンバーグ、おいしかった、よ。」

「――、」

髪を撫でられて、黄泉川愛穂は声を上げて子供のように泣きだした。

学園都市の子供全員を救えるように、と願掛けた、重い髪を。
まだ切ることの許されない、思いを。

薄手のパーカー越しに、百合子の右肩にとても熱い液体が染み込んでいった。

折れそうに細い少年の体躯を抱きつぶしてしまわないように。
黄泉川愛穂は恐々と彼の存在を確かめていた。

生きている。

微かに暖かく、呼吸し、鼓動している。

ただそれが嬉しくて、目玉が溶けるかと思う程に涙が流れていった。
背中に流れる髪を梳く手が、また少し優しくなったような気がした。


428VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:43:14.24FaE/tL0to (9/24)


19090号の心臓はいつもの倍ほどの速度でトクトク鼓動しているようだった。

何が起きたのだろう。
黄泉川愛穂。警備員のやり手である高校の体育教師。
一方通行と打ち止めと芳川を家に匿ってやり、ある程度学園都市の暗部を垣間見た女。

そして、彼らの家族だ。

百合子が黄泉川の前で過呼吸を起こさずに済んだ理由を、細々ながら探しだす。
昨日の夕方頃に上位個体と末の妹が持ってきた一つのタッパーが脳裏に浮かんだ。

こっくりした色合いのデミグラスソースを大目にかけたハンバーグ。
野菜を好んで食べることを耳にしたのか、付け合わせらしい温野菜が大目に添えてあった。

本来なら病院の入院患者への食事の差し入れは、あまり歓迎されない。
だが、食の細い百合子には少しでも多く食べさせるべきだと判断された。

冥土帰しはむしろ喜んで彼女の差し入れを温めるためにレンジを利用することを許可し
百合子はチープな病院食以外の家庭的な味付けが気に行ったのか、綺麗に食べきった。

19090号はあえて、途中で末の妹が大口開けながら「ひとくち、ひとくち」と
ねだっていたのを勘定に入れないことにした。
一方通行と百合子の違いの分だけ、番外個体の彼への態度は変質してきている。

食事の間中彼女たちの話す「家」の様子は、百合子に多大な好奇心を抱かせたらしい。

結果、その家の主である黄泉川愛穂という人間が気になっていたのだろう。
百合子の好奇心は、いっそ危険なほどに強い。

成人女性を怖がるのは、何らかの被害を彼女たちが与えるものだと思い込んでいるからだ。
しかし、その恐怖を押さえ込んでまで、彼は黄泉川に興味を持っている。

黄泉川愛穂は善良だ。
だが、そんな人物ばかりではない。
彼に中途半端に教育を与えたことを、一瞬19090号は後悔した。

知識を得ることの全能感、脳を動かし、物事を理解することへの貪欲な執着心の欠片が
小さく、しかし確実に百合子の中に存在している。

本来、そういった知識欲が安全でありたいという欲求よりも上位であることは、ありえない。
だが、生理的欲求があまりに薄い百合子の場合、その順序が逆になっている。

知識を得ることの快感を摂取できず、抑制されていたのだろうか。
睡眠も殆どとらずに本を読み漁る姿は、まるで砂漠の中心で湖を見つけた旅人だ。

過剰な餓えと渇きを癒す代償に、彼の細い体に疲労が蓄積されているのが感じられた。

与えられる情報量と学習時間を制限し、強制的に脳の興奮状態を抑える治療が必要だ。
彼女の中の医学知識がそう弾きだす。

百合子は、まだ、未完成すぎる。


429VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:43:45.87FaE/tL0to (10/24)


「ごめンなさい。だいじょうぶです。ごめンなさい。あいほ。」

どこか虚ろな口調で、普段の会話より奇妙に流暢な慰めを捲し立てる百合子。
いつもとは全く違う言動に、19090号は気付けなかった。

(19090号へ、10032号より)

ネットワークからの通信にふと顔を上げる。

(は、はい……何でしょう? 10032号、とミサカ19090号は問いかけます)

10032号、発信点は病院だ。
早く帰って来いということだろうか、と19090号は呑気に考える。

(今上位個体と番外個体、それにお姉様に連絡してこちらに向かってきて戴いています。
 百合子を連れて今すぐ帰ってきてください、とミサカ10032号は速やかな行動を求めます)

妙に淡々と事務的だ。
何かが起きている?

(何故ですか……!? それに、今百合子は体調が悪く……)

(症状は)

(過労、睡眠不足かと。少々脳貧血気味です、とミサ)

(なるほど、そういう体調不良なのですね。しかし、止むを得ません。
 タクシーなりなんなり、利用できませんか? とミサカ10032号は切り捨てます)

何が起きている?

(お金はありませんが……あの、今黄泉川愛穂と接触していて、)

(何故黄泉川愛穂が? 百合子の体調不良は成人女性との接触によるものですか?)

(い、いええっ! あ、あ、わ、ミサカの、記憶を……)

(はい、埒が明きません。共有してください、とミサカ10032号は回線の接続を確認しました)

(19090号から10032号へ、一部記憶のどっ、同期を完了しました。と、ミサ)

(なるほど、それでは黄泉川愛穂に送ってもらって……いえ、彼女も話を聞くべきですね。
 ちなみに上条当麻には連絡済みです。此方に向かっているでしょう)

(――っ、何が起きているのかいい加減に説明し……)

(10032号から19090号へ、一部記憶の同期を完了しました。
 と、ミサカ10032号は時間のロスを考え通信を終了します)


430VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:44:12.41FaE/tL0to (11/24)


10032号の見た記憶が脳に流れ込んでくる。
一瞬がゆるゆる引き延ばされ、その100京分の1秒が19090号の思考を呑んだ。

どこだ?

冥土帰しの診察室に10032号が立っていた。

机の上に真白い封筒、医師の手には数枚の便せんが握られ、表情は失われている。

「これを、どこで見つけたんだい?」

ほんの少しかすれた声だ。

「先日、百合子の病室のクローゼットです、とミサカ10032号は答えました」

短い回想。ダイジェストのように印象だけを切り取った記憶が流れ込む。

百合子の外出訓練に初めて出かけた日の回想だ。

薄暗いクローゼットの中に、ぞんざいに突きこまれたクリアな書類ケース。
運び込まれた日に「一方通行が」所持していたものだ。

そのケースを、10032号の指がためらいも無く開き、探った。

やめるべきだ、と記憶に向かって叫ぶ。

指先はもちろん止まらない。
何かを見つける。
摘まみ出す。

手紙?

表の但し書きはこうだ。
『鈴科百合子を見つけた人間へ、可能なら冥土帰しに渡すこと』

「……そしてここへ持ってきました、とミサカ10032号は続けます」

「それはプライバシーの侵害かな。マナー違反だよ?」

「外からその但し書きが透けて見えたのです。とミサカは言い訳しました。
 ミサカは鈴科百合子を見つけていましたし、その但し書きに沿って行動しただけですよ」

「まあ、今回ばかりは君の功績はとても大きいね?」

閉じかけてあった便せんを、またハラリと開く。中身は見えない。
ただ機械的なまでに整った字がきちきちと神経質に敷き詰められていることが分かった。


431VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:44:45.73FaE/tL0to (12/24)


「……僕は、いや、木原数多もだが……とんでもない勘違いをしていたようだ」

「勘違い……ですか? とミサカは訝しみます」

「誤診だね。医師失格だ」

このままでは、と言葉が続く。

「一方通行の記憶は、二度と元には戻らなくなってしまうだろう。
 それどころか、鈴科百合子は近いうちに」

「……?」

「死ぬ」

ブツン。
耐えきれなくなり、同期した記憶を脳から叩きだす。

ベンチを急に蹴って立ちあがった19090号を、真っ赤な瞳が不思議そうに見上げていた。

「19090ごう、どうか、した、の。」

「百合子……病院にもどりましょう、と、ミサカは帰宅を急かします」

立てかけてあった杖と日傘を取り、百合子に向かって右手を差し出す。
訳もわからぬ様子でそろそろと手を取る百合子。
その傍らで、とっくに理性を取り戻した黄泉川が心配そうな面持ちでこちらを見つめていた。

「何かあったじゃん?」

「黄泉川愛穂、すみませんが、貴女も病院に来ていただけませんか……
 できれば車で、とミサカはお願いします」

「一……百合子、の具合も悪そうだし、それは構わないけれど」

「医師から説明があります。他の関係者はもう集まっていますので、急ぎましょう」

「わかった」

警備員らしく、無駄を省いた簡潔な返事をする頃には、何かを悟った様子が見える。
車を回すから、ときびきび去っていく彼女の指示通り公園の出口へ百合子を連れていく。

「19090ごう、あの、ぼくなにか、、、いけなかっ」

「百合子は!」

「うァ、」


432VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:45:11.80FaE/tL0to (13/24)


「……悪く、ありません、っ!」

絞り出すように、それだけ言った。

いけない。このままでは。
泣きだしそうだ。

何が起きているか分からず、困惑した表情のままの少年。
それでも何か言おうと、はくはく口を動かした。

「あ、りが、、、」

「ごめんなさい、大きな声を出して。百合子は疲れているみたいです。早く帰りましょう。
 もっと早くこのミサカが気付いて……」

意識できないまま、意味のないような言葉が口からさらさらになって出て来る。

ただ百合子の唇から洩れる言葉を遮るためだけに、19090号は離し続けた。
聞きたくない、と思うのは初めてのことだった。

歯の根が合わずに言葉が震える。
脚ががくがくと揺れた。

「だから、早く病院に、帰りましょう。と、ミサカは懇願します」

「う、ン、。あの、ぼく、、、だいじょうぶ、だから、ね。」

「……は、い」

『鈴科百合子は近いうちに死ぬ』

死んでしまいそうに怖かった。

今すぐこの目の前の少年を抱きしめて、黄泉川愛穂のように泣きじゃくりたかった。

そんなの嫌だ、と小さな子供のように喚いてやりたかった。

誰かこんなことを引き起こした奴を殴りつけてやりたい気持ちになった。

実験動物としてボタン一つで製造された乱造品。
その中で最も粗悪な作りで生まれた19090体目の御坂美琴。

彼女はまるで意識することも無く、そんな感情を抱き、かつ殺していた。

涙を必死に押しとどめるのをあざ笑うように、急速に近づいてきた雨雲から、最初の1滴が
彼女の蒼白になった頬にポツリと当たって、流れていった。


433VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:46:03.10FaE/tL0to (14/24)


小一時間ほどが経っただろうか。

病院内に設けられた小会議室といったような部屋。
冥土帰しは窓に当たる大粒の雨を眺めていた。

円状に並べられた机には、御坂美琴、上条当麻、打ち止め、番外個体、黄泉川愛穂。
10032号と19090号は席につかず、扉の前に少しの間を開けて立っていた。

明るい室内とは裏腹に、先ほどまで気持ちよさそうに晴れていた室外は土砂降りだった。
横殴りに降る雨が、窓ガラスに当たり、流れ、鱗のような影を作り出す。

沈黙を最初に破ったのは、上条当麻だった。

「……あの、何かあった、のか?」

ゆっくりと、冥土帰しが振り返った。
疲れたような、悲しそうな表情だ。

「すまない。全て僕の責任だ」

19090号がひゅくりと息を呑んだ。

「鈴科百合子は記憶を失っていないんだ。
 彼の病状が記憶喪失でないことは、少し前に分かっていたんだけれどね?」

冥土帰しが机の上に、抱えていたファイルをどさりと投げ出した。
黄泉川愛穂が眉をしかめる。

「それは……?」

「これは一方通行に関する一番詳しい資料だね。
 彼の友人が苦労して手に入れてくれたものだよ?」

その表面を、冥土帰しの手が優しく撫でた。

「この中に書かれたいくつもの研究結果、日誌、考察を鑑みた。
 信じられないかもしれないが、彼の病名は記憶喪失でも何でもない」

ざあざあと降りしきる雨音がノイズのように響く。

「一度は聞いたことがあるだろう? 多重人格、DID……解離性同一性障害。
 それが彼のかかっている病気、いや、障害だ。外傷や病ではなく、ね」

「た、」

ガタ、とパイプ椅子を蹴って御坂美琴が立ちあがった。

「多重人格、って、百合子が作られた人格だってこと!?
 確かに知能は一方通行よりも劣ったけれど、あの子は……!」

「いいや」


434VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:46:37.56FaE/tL0to (15/24)


冥土帰しがやんわりとそれを遮った。

「鈴科百合子ではないんだよ」

「え?」

「作られたのは、一方通行の人格だ」

「――」

「あえてはっきり言おう。一方通行は鈴科百合子の作りだした精神疾患だ」

全員が言葉を失った。

先ほどの冥土帰しの言葉を聞いて、全員がこう思っていたのだ。
作られたのは鈴科百合子の方である、と。

「僕も、一方通行が主人格だと思っていたんだよ。とんでもない間違いだった。
 もう少しで取り返しのつかないことになってしまう所だったんだ」

「っざけんなよ!」

上条当麻が拳で机を叩いた。
19090号がびくりと体を縮める。

「一方通行が疾患!? そんな、人を病原菌みたいな言い方ないだろ!
 それに、どうしてそんなことが言えるんだよ!? たしかあれって診断が困難な……」

「彼を病原菌のように扱うなんて、僕がする訳ないだろう?」

妙に優しい声が、続けようとした上条の声を遮った。

「すまないね、疾患というのは診断上のことだ。個人的な解釈をするなら、彼は良性で
 むしろ必要な存在なんだよ。鈴科百合子には、一方通行が、ね」

長いようで短い沈黙が流れた。
溜め込んだ息を吐ききってから、上条当麻の拳が緩む。

「……ねぇ、診断の基準は? どうして解離性同一性障害って診断したの?
 っていうか、このミサカには話が上手く見えてこないんだけど?」

番外個体がゆらゆらとパイプ椅子を揺らしながら問いかける。
ほんの少しの動揺が透けていた。

そして、冥土帰しの指が、ファイルから封筒を摘まみ出した。


435VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:47:53.45FaE/tL0to (16/24)


「一方通行の書いた手紙、いや、告白文と言った方が正しいかな?」

封筒を開き、冥土帰しがその一部を読み上げた。

「……多分、この手紙が発見されている時、俺はもう居ないはずだ」

御坂美琴が静かに着席した。
手紙は続く。


鈴科百合子がもし俺の体に戻ってきたら、彼はきっと酷い状態だと思う。
俺が最後に話をした時に、彼が酷い状況だったからだ。

頼みがある。3つ。まず、白衣を見せないでほしい。それと、女に合わせるな。
それから、できるだけ怖い目に合わせないでやってほしい。

あれだけのことをした俺がこんなことを言うのはおかしい。
ただあれをやったのは俺で、鈴科百合子には何の関係も無いことだけは分かってほしい。

鈴科百合子はもう十分に罰を受けた。これ以上酷い目に合わせないでほしい。

そして、もし酷いことになるくらいだったら。
例えば、研究材料として刻まれたり、拷問を受けたりすることになるのだったら
その前にどうか安楽死でも施してやってほしい。

多分だが、本人がそれを望む。

鈴科百合子は主人格で、痛みに耐えるための人格だ。
耐えきれなくなった時は自殺してしまうだろうが、もう俺は現われないで済むはずだ。

手紙が読まれる頃にはもう俺は消えているだろうと思う。
妹達と、番外個体と、黄泉川と、芳川と、オリジナルと、三下と、グループの奴と
それから打ち止めに、よろしく伝えて欲しい。


「……省いた部分は障害に至る過程が書かれていいたよ。酷い内容だ。
 ここでは伏せさせてもらうが、いいね?」

誰も答えなかった。
全員が下を向いたいた。

いや。
ただ打ち止めだけが、感情を感じさせないような表情で冥土帰しを真直ぐに見つめていた。

「あの人は消えてしまったの? ってミサカはミサカは尋ねてみる」

「いや、人格が完全に消去されているかどうかは不明だね?
 現に鈴科百合子の人格は、約7年もの間眠っていた」


436VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:49:00.46FaE/tL0to (17/24)


「だったら」

打ち止めの顔に満面の笑みが戻った。

「あの人はまだ、元気だって、ミサカはミサカは断言してみたり」

「ぎゃは、」

番外個体が調子の外れたような笑い声を上げて打ち止めにしなだれかかる。

「さっすが上位個体サマ。でも、このミサカとしてはちょっぴり賛成かなぁ?
 あのクソみたいなお子ちゃま第一位がそんなアッサリ消えられる訳ないでしょ」

親御さん、未練たらたらだもん、とケラケラ笑う。

「言い方はちょっとアレだけど、一方通行が自殺みたいな真似はしないだろ。
 あいつはそんなに弱っちい奴じゃない」

上条当麻の声に、黄泉川が小さく頷いた。

「どこからだって帰ってくるのが取り柄みたいなもんじゃんよ。
 待っててやらなきゃ、可哀そうじゃん」

10032号と19090号は、ただ黙って立っていた。

同じようにずっと黙っていた御坂美琴が、ふいに視線を上げた。

「ねぇ、その手紙って書類ケースに入ってた奴よね?」

その言葉に10032号がゆっくりと答える。

「はい、とミサカは肯定しました」

「もう1通は?」

「は?」

美琴の視線が彼女を貫く。

「もう1通、あったわよ。手紙は2通。
 宛名は見えなかったけど、私の前で封筒に入れてたんだから」

「……ミサカは1通しか確認していません。
 書類ケースにも他の封筒は見当たりませんでした、とミサカ10032号は言い切ります」

「私が見たのはファミレスの座席でケースに2通の封筒をしまう所。
 出入り口で倒れて、私がケースをここまで運んだの。その時まだ2通あったはずよ」

10032号の顔に、僅かに迷いが見て取れた。

「それでは、2通目はどこに?」


437VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:49:33.50FaE/tL0to (18/24)


同時刻。

鈴科百合子の病室で、インデックスは物凄い速さで口と手を動かしていた。

「それでね、私も、その人たちのこと、を覚えてなかったんだけど、ね!
 今では、ものすごーく、仲良しなんだよ!」

文節ごとに区切っているのは、その合間に口にクッキーを放り込んでいるからだ。

百合子はそれをしげしげ眺めて感嘆していた。
病室のロッカーに隠してあったクッキーは、先週土御門が持ってきたものだ。

完食したと偽って、缶ごと病衣にくるんで隠蔽してあったのを奨めたところ、インデックスは
さも嬉しそうに抱え込んでサクサク食べ始めたのだ。

両手で大きめのビスケットを持って、一口ずつ齧りとり、緑色の大きな瞳を輝かせながら
一生懸命に話すその姿はどこかげっ歯目じみていた。

「それにしても、白い人だったんだね。私のこと覚えてないって変な感じなんだよ」

「ご、めンね。」

少しだけ悲しく顔が歪む。
記憶がないことの不安よりも、覚えていられなかった不甲斐なさが悲しい。

「ううん、いいんだよ。私もそうだったんだから。
 かおりやステイルもこんな感覚だったのかな? ちょっと変わった感覚かも」

「う、。」

にこにこ微笑みながら菓子を頬張る少女は、何でもないことのように言ってのけた。

「それにしても、私に美味しいものを食べさせてくれたのは2回目だね!
 最初はハンバーガーだったんだよ」

「はンばーぐ。」

「ハンバーガーだよ。食べたことない?」

こっくりと百合子は頷いた。

「人生を損してるかも……今度とうまに連れてってもらおうね!」

「でも、ぼく、あの、、、あンまり、たべられなくって。」

「もし食べ残したら私が食べてあげるかも!」


438VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:49:59.64FaE/tL0to (19/24)


にこにこと笑うインデックスが百合子には眩しかった。

彼女は自分を白い人、と呼ぶ。
が、彼女の方こそ真白く見えた。

自分は白い色で出来ているが、卵のように割ったら、中身はきっとどろどろ汚い黒色だ。
この子はきっと、もっと純粋に白い色なのだろうと思った。

「ありがと。」

「私の名前はインデックスっていうんだよ」

「インデックス。」

「そうだよ、ゆりこ」

献身的な笑顔につられて、百合子の頬が緩む。

「ゆりこ、眠れないんだって聞いたんだよ。本当なの?」

「ン、、、う、ン。」

「子守唄を歌ってあげようか? 私上手なんだよ」

膝からクッキーのくずを払い落し、缶を丁寧に閉じてから。
インデックスは百合子のベッドサイドにちょこんと腰掛けた。

クラシカルで、どこか神聖なメロディーが彼女の唇から零れおちる。

病院だということに配慮したのか、若干押さえ目の音量で、囁くように紡がれる聖歌が
窓の外に降りしきる雨音に混ざる。

緩やかな半覚醒状態で、百合子は虚ろな目をゆるゆる瞬いた。

「……眠れない?」

「ねたく、ない。」

今にも眠りそうな声で、百合子はそう呟いた。

「どうして?」

「ゆめ、みる。」

「夢?」


439VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:50:35.50FaE/tL0to (20/24)


これはある種の懺悔だ。

インデックスはそう考えていた。

彼女は本来、懺悔らしい懺悔は受け付けない宗派のシスターである。

だが、多種多様な宗教に通じる献身的な子羊は、修道女らしい自然な心で
百合子のそれを受け付けることにした。

「どんな夢を見るの? もしかして、怖い夢なのかな?」

ゆっくりと、白い髪を梳いた。

「わかンない。」

「覚えてないの?」

「ン、でも、いやなンだ。」

とろとろと微睡んではぱちりと開かれる瞼を、インデックスの小さな掌がそっと覆った。

「うァ。」

「だいじょうぶだよ、ゆりこ。私がいる間は絶対怖い夢なんか見せないから」

「そう、なの。」

「そうだよ。ゆりこ。私、実は」

魔法がつかえるんだよ。

禁書目録は優しい嘘を一つついた。

百合子は一瞬驚いたような顔をして、羨ましそうな声で、すごい、とだけ呟いた。

「だから、おやすみ、ゆりこ」

大人しく目を閉じた百合子の病室からは、ささやかな聖歌が
ゆるやかに、しかし、とめどなく流れ出した。

優しい空間の中で、鈴科百合子は束の間、夢も見ずに眠り続けた。


440VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:56:44.51FaE/tL0to (21/24)


『腕の中にくったりと横たわる真白い生き物が、くふ、と湿った吐息を漏らした。
「こっの……三下ァ、も、触ンな、ばか……っ」
 そう毒吐きながらも巻き付く腕を押し返す力は弱弱しい。力のまったく籠らない掌を押し
当てられた所で何とも思わない。ただ後ろから抱きすくめたせいで密着した背中がいつも
の低温とは裏腹に熱く火照っている。
 しゃらしゃらと雪色に眩しい長目の髪。それが覆う首すじに鼻先を埋める。霧を噴いたよ
うにしっとりと、いつもより濃い匂いがした。もっと匂いが欲しくて、舌をぺたりと押しつける。
「ひ、ァうっ!?」
「ん。味がしてる」
「やめ、ッ……は、っく!」
 びくびく魚のように跳ねる体を押さえつける。薄い耳をそっと噛むと、引きつるように脚を
伸ばした。意識してやったことではない。本人は気付いてもいないだろう。
「あ、あ、ア、あ゛――っ?」
 鼻にかかったような声があがる。音程が外れている。もう殆ど周りが見えていない状態
なのだろう。押しのけようとしていた腕も、すっかり縋りつくように変わってしまった。慣れ
ない人の肌に戸惑い、今まで跳ねのけてきた刺激に怯えている。そして、その触れかたの
丁寧さにどう反応したらいいのか分からないのだ。葡萄酒色の瞳がふらふら揺れる。
 ゆっくりとシャツをたくしあげる。指の腹で指紋をまぶすように、薄く浮かんだ肋骨を辿って
いく。ブルブルと震える背筋に、少年は今まで腰を引いて当てないようにしていた部分を
じわりと押しつけた。
「う、わ?」
 血が集まって堅く張りつめた部分が腰の中心にある骨に当たって、ごりごりと擦られる。
「何やって……っン!」
「あーあ、一方通行が、変な声出すから」
「く、ちが、ちがァ……っ?」
 体勢を変えて、床に長々と体を押し倒す。ゆるく伸びた脚を両足で捕まえ、絡めて、尻と
太股の隙間、その内側にぐっと腰を押しつけた。
「おい、当たって、るから……! も……やめっ、」
「無理。絶対無理」
 薄っぺらい大胸筋ごと胸板を掌で包み、女にするように揉みこむ。シャツがずれて露出
した肩があまりにも薄い。それを歯でなぞると、短く息を呑んだ。ゆっくりベルトを外し、
まだ生地の堅い細身のジーンズを引きはがすように脱がs|                 』


物凄い勢いで打ち込まれていく猥褻な文章に、キーボードが悲鳴を上げている。
もちろん二重の意味でだ。

テキストファイルの表示に微妙なラグが生じている。
だが決して使用しているマシンスペックが低い訳ではない。タイピングが早すぎるのだった。

鬼のようなインプットがぴたと止んだ。
画面の隅にと小さなポップアップが表示されたからである。

ポン、と可愛らしい軽快な音を立てて現われた、チャットを投げかけられたことを示す表示。
すぐさま画面は切り替えられる。

 Tei:いるか?


441VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:57:11.65FaE/tL0to (22/24)


簡潔な文章。返信ももちろん、簡潔、しかし手軽である。

 Kaz:はぁー? いますけどー?

 Tei:機嫌悪いだろ。仕事中とか? ゴメン

すぐに返事が返ってくる。下手な会話より早く、テンポが良い。

 Kaz:執筆中でした。まあいいですけどね( ゚д゚ )、ペッ

 Tei:おげぇー! 執筆ってアレ? マジいい加減にしろ!

 Kaz:黙れ処女童貞。ペットボトル突っ込みますよ

 Tei:できるもんなら

 Kaz:マジですか?\(*´∀`)/ じゃあ今から言う物をきちっと準備しておいてください

 Tei:ごめんなさい、やっぱやめて

 Kaz:まずワセリンとー

 Kaz:(´・ω・`)

 Tei:その顔やめろバカ

 Kaz:かわいいのに(´・ω・`)

 Kaz:ところで何か用事ですか? そっちから飛ばしてくるとか珍しいですよねー

 Tei:ちょっと頼みがある

 Kaz:面倒は嫌ですよ

 Tei:一方通行の最近の動向について調べてくれないか?

 Tei:ちょっと野暮用で。頼む。

 Kaz:会いましたよ

 Tei:誰に

 Kaz:あくせられーたん

 Tei:脳外科行け

 Kaz:本当ですって。ほれほれ!

  Kaz さんが ファイル accelerator_moe_moe_qun.png を送信しました


442VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:58:04.08FaE/tL0to (23/24)


 Tei:コラまで作れるようになったのかお前は。なんだこのパフェ喰ってるアホ面

 Kaz:いやいや、マジですってマジ

 Tei:嘘

 Kaz:マジ

 Tei:まj

 Tei:マジかよ…

 Kaz:何動揺してんですかwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww

 Tei:黙れ

 Tei:あー、なんかへこむ

 Kaz:えっなんですかその反応kwsk

 Tei:いや、もういい。つーか調べるのもいいわ

 Kaz:何ですかもー

 Tei:や、解決した

 Kaz:あっそーですかー

 Tei:すねんな

 Kaz:便利屋じゃないんですからね!

 Tei:分かってる。いつもサンキュ。じゃ、またなカザリ

  Tei さんが オフライン になりました

 Kaz:ばーかあーほ!

 Kaz:あっ遅かったか…

 Kaz:うーn

 Kaz:やっぱしばーか!

  Kaz さんが オフライン になりました

  チャットサービス を 終了しました


443VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 01:58:32.43FaE/tL0to (24/24)


今日はここまで。

精神的ブラクラ文すみません。これでもちゃんと色々勉強して書きました。某SSとかで。
今回はリベンジで男でも抜けるくらいのを書きたかったですが、正直抜く前に吐きそうです。
いや、ゲイの人が気持ち悪いとかじゃないんですけどね。めちゃくちゃ優しいしね、彼ら。
皆が「くそっ、こんなので!」って言いつつティッシュ片手でジッパーに手をかけるくらいの
艶やかな文が書けるようになりたいものですね。素直に女の子を脱がせという話だけど。
チキンレースはギリギリだから楽しいのです。たとえ下半身が拒否反応を示していてもな!

あと黄泉川先生の願掛けは捏造です。

それでは。


444VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/08(水) 02:15:10.016HIlcpk7o (1/1)

かざりェ…
         ,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
         (.___,,,... -ァァフ|          あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
          |i i|    }! }} //|
         |l、{   j} /,,ィ//|       『おれは今回の投下の序盤の展開に涙を流していたと
        i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ        思ったらいつのまにか濃厚なホモ展開を読んでいた…』
        |リ u' }  ,ノ _,!V,ハ |
       /´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人        な… 何を言ってるのか わからねーと思うが
     /'   ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ        おれも何がおきたのかわからなかった
    ,゙  / )ヽ iLレ  u' | | ヾlトハ〉
     |/_/  ハ !ニ⊇ '/:}  V:::::ヽ        頭がどうにかなりそうだった…
    // 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
   /'´r -―一ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐  \    超能力だとか魔術だとか
   / //   广¨´  /'   /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ    そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
  ノ ' /  ノ:::::`ー-、___/::::://       ヽ  }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::...       イ  もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…



445VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/08(水) 02:17:18.48TcRPpbxy0 (1/1)


泣いたと思ったら驚いて混乱して読み直してまた泣いた。
気になってた手紙が公開されたけどもう一通も気になる・・・
初春・・・ダメだ感想がありすぎて何書けばいいんだ。
とりあえずインデックスさんマジ天使


446VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/08(水) 02:49:06.01SdBT6Akj0 (1/1)

前半の俺の涙と中盤のシリアスでゴクッっとした俺の緊張感とラストの違う意味でゴクッとした俺の股間を返してくれw
>>1乙


447VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2011/06/08(水) 03:23:17.34HVidnQw4o (1/1)

一瞬どこの魔窟に放り込まれたのかと思った上に、もしかして何かの前置き的なアレか?とか思ってしっかり読んだら初春このやろう



448VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2011/06/08(水) 04:09:25.97tMMU6fhAO (1/1)

まさか嘘、そんな展開
こんなことってないよ!
って気持ちが初春のおかげで落ち着いた


449VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/08(水) 05:46:56.02X73A+l04o (1/1)

kazを風斬だと思い込んで
ネット弁慶な腐氷華さんに萌えたバカは俺だけでいい


450VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/08(水) 06:07:25.58z6Tv4b8/0 (1/1)

Teiをていとくんだと思い込んで
登場を期待しているのは俺だけでいい


451VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/08(水) 08:49:14.02nKk39MpDO (1/1)

ういはるさんのはふくせんですよねさすがういはるさんやー
妹達が良い味だしてるなぁteiは誰だ。ていとくんなのか


452VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/06/08(水) 09:36:33.54sko0Ac8m0 (1/1)

乙!泣いた…一方さん格好良すぎ…


453VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チリ)2011/06/08(水) 09:57:09.95a4vyt90K0 (1/1)

>>1乙
ビリー・ミリガンの小説で、アーサーが消えた時の事思い出した


454VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/08(水) 12:53:52.99N2yRC9QAO (1/1)

定理さん希望


455VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/08(水) 18:19:41.45SZ+vzhKb0 (1/1)


黄泉川先生のところで泣きそうになって、
一方さんの手紙でまた泣きそうになって、
インデックスさんマジ天使
とか思ったら初春さん…言いたいことありすぎて
Teiはていとくんだと思いたい


456VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/08(水) 20:23:19.44Q/9zn8zj0 (1/1)

teiはていとくんじゃねーの?



457VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/08(水) 21:01:43.15pf1uz+TO0 (1/1)


黄泉川に泣いた。そして初春に吹いた


458VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/08(水) 21:13:35.91UwqcRtVDO (1/1)


心が痛い
そして初春お前……

元ネタっていうか
コンセプトの一部にビリーの話があるのかな?


459VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)2011/06/08(水) 23:00:38.78W9skuGouo (1/1)

カエル「で、ワセリンと何を用意すればいいんだね?僕は姦者に必要なものなら何が何でも用意するからね?」


460VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/06/09(木) 00:03:35.29/AKCXnqDo (1/1)

>>459
スレ間違えてるぞ


461VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/09(木) 00:57:15.42MAfcmkAgo (1/1)


黄泉川のところでぶわってして
一通さんの手紙でぶわってして
インデックスにおおう…ってなって
初春で「?!!」って声にならない声が出た

1はむしゃくしゃして書いたみたいだけど
例の作品も好きだよ!だから後悔はしなくていいと思うんだぜ


462VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 02:07:47.70uz55ZyS7o (1/1)

1乙!
早く書き上げて救いを見せればきっと>>1のおにンにンも頑張れるはずだ!


463VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/09(木) 04:30:03.44sgmtjX3DO (1/1)

>1乙あと息子さんをお大事に

今まで読んできたSSの中で一番好きだ

一方さん…からの初春ゥ…その小説を最後まで見せてくれ…

このドキドキ感たまんないね



464VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 04:36:09.74oKN6KgFIo (1/1)

やっぱり過去作はアレだったかww

初春め…一瞬スレを間違えたかとスレタイを見て
IDを確認して
何かの間違いかと思いながら続きを真剣に読んじまったよ…

でも抜きました>>1乙!


465VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 07:21:19.058ai681+s0 (1/1)

びびらせやがって……>>1乙

とりあえずインデックスの子守唄は妄想にドストライクだったんでマジgj
黄泉川のとことかからの流れでいい感じに感動していたというのに
初春ェ……


466VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/09(木) 11:45:35.75WYd7PFDco (1/1)

>>1の過去作って何?


467VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 13:02:14.52tgvTwipto (1/1)

一瞬百合子の過去の夢かと思ったらお花畑だったとは
今回は一方通行が百合子を守るための人格だったからあんなに攻撃的だったとか
いろいろ考えられて辻褄が合っちゃう回だったな


468VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/09(木) 15:27:22.23ENULwnJCo (1/1)

多重人格自体は最初の頃から容易に想像できたけどそうか一方通行を諦めない展開になるのね


469VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/06/09(木) 17:39:00.73qzdRpuhAO (1/1)

Teiって誰だ
本当にていとくんなの?
本当ならどうやってそのパイプ作ったんだww


470VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/09(木) 22:05:51.65vl9MKR2IO (1/1)

作られた人格が一方さんだとは
どちらが消えてしまうのも嫌だなぁ
手紙の内容も気になる

そして初春さんの本一冊くれ

まじでBL小説っぽい雰囲気だったぜ
1はよく頑張った


471VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)2011/06/09(木) 22:34:34.887/bx9tZ00 (1/1)

花畑とていとくん仲良いなwwww
あとあげないで


472VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/09(木) 22:35:20.35VEq0TzUE0 (1/1)

一気に読んだ
とりあえず>>2-6の辺りで一方さんが多重人格で第二人格なのは薄々気付いてたが
色んな意味でドキドキしている。小説読むのにこんなに緊張するのは久々
一方通行と鈴科百合子のシアワセな未来は果たして両立出来るのか期待乙

つーか初春ェ…


473VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/09(木) 23:29:08.46MQh9DA/DO (1/1)

チクショウ!
俺もこんなSS書きたかったっつゥの!


474VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 23:35:54.29ud7oDU7Co (1/12)


おこんばんは。
書き終わった所でタイミング良く上がってたので投下します。


皆さん二重の意味で阿鼻叫喚地獄ですね。
ありがとうございます。冥利に尽きます。


ビリー・ミリガンの話が上がってますが、まあ色々なものを参考にしてますので
書き終ったら参考書籍一覧上げますね。


過去作に関しましては
・一方通行「助けろ三下ァ……」
・鈴科百合子「お兄様、とユリコは呼びかけます」 一方通行「はァ!?」(未完)
・上条「御坂とヤったけど、正直気持ちよくなかった」 の一方さんガチレイプパート

あと連載中のが
・上条「福引で一方通行が当たった」

となってます。連載中のは2本だけです! ギャグ(コメディ?)ばっかり。
でもこの話みたいに地の文ありのSSは始めて書いたので、他のは雰囲気違うかと。

>>473
書いちゃえよ! 設定かぶりとか良くあることですし。これも忘却の空とかと被ってます。
むしろこの話のスピンオフ書いてもいいです。禁書漫画のネタにしてもいいです。
夏コミで売ったっていいです。支部に上げてもいいです。百合・BLネタにしてもいいです。
SS自体二次創作なので、このSSに限っては好きに書いたり描いたりしていいです。
むしろ喜びます。でもこのSSのルールだから他の人のはやって良いか確認取ってね。


今日は最初のあたりが携帯さんに優しくないですが、ご容赦ください。
というか>>3が既に優しくなかった。ごめんください。

それでは続き。


475VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 23:36:21.56ud7oDU7Co (2/12)


ばちっ、と。                                      バチッ、と。
おおきなおとがした。                    いつも通り大きな音が聞こえた。

でんきのスイッチをきったときの。         俺のスイッチが入る、入れ換わる時の。
そンなような、おとだった。                      そンなような、音だった。

めをあける。                                     目を開ける。

ぼンやり、くもっている。                        ぼンやりと曇っている。

また、いたい。                                いつも通り、痛い。

そう、おきた。                               ゆっくり体を起こした。
めがさめた。ここは。                       自分はどこにいるンだろう?

ここは、うすぐらい。そとだ。                     薄暗い。夕方? 外だ。

こうえン、のような。                               公園だろうか。


                        「?」


あくせられいた。                                    百合子?

おかしいな。                                     おかしいな。


                     「どこにいるの?」


こわい。                            大切なものを失くした気がする。

いたい。                             体中が今までにない程痛い。

なにか、よくない、そんなきがする。         何か嫌な感覚が纏わりついている。


                        「ァ、」


だれか。                                           誰か。

あくせられいた。                                     百合子。


                    ひどく、こころぼそい。

              それなのに、こンなところに、たったひとりだ。

                    なンとかしなくては。

                   このひとが、しンでしまう。


476VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 23:36:59.19ud7oDU7Co (3/12)






                 -7 もンだいない







477VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 23:37:42.91ud7oDU7Co (4/12)


段々に意識が鮮明になってくる。

ここは? 公園だ。いつもの児童公園の遊具の中。
入り込めるのは装飾じみた小さな穴だけで、大人は絶対に入って来れないだろう場所。

隠れる時はいつだってここに来た。
だが、これほど広く、冷たく感じたのは初めてだ。

意識がはっきりしてくると共に、痛みが体を覆い始める。

痛い。痛い、痛い。
何だ、これは。

今までに味わったことのない程の痛み。

何があったんだ。
さっき交代した時はまだ……

脳裏に蒸気を上げるアイロンがちらりとかすめる。

……何故交代したんだろうか。

我慢ができなくなったから、俺が出ていったのに。
いつのまに交代したんだろう。何故、交代したのに傷が増えているんだろう。

ゆっくりと体を起こす。
随分長い間こうしていたらしい。
体の下になっていた部分が鈍く痺れた。

痛い。

そっと掌を地面につく。
泥がぬるりと滑った。
雨は降っていない。

泥?

片足が薄闇に浮かびあがる。

奇妙な方向にねじれ、太股から黒い水たまりがじわじわ、じわじわ、じわじわと。

「う、ァ゛――、ァ、あああああああああァあッ!?」

ズグン、と。

意識した瞬間、体中のありとあらゆるところが脈動した。

脚の血管の中を巨大な蟲が鍵針だらけの脚で這いまわっているような。
なんだろうか、胸が痛い。脇腹が。何か飛び出して来そうに。焼ける。中から。
目はちゃんと付いているか? 左。そう、左の目だ。なんだ、これは。酷く熱い。


478VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 23:38:20.51ud7oDU7Co (5/12)


「ア、っぐ、フ……う、うェ゛、」

突きあげる吐き気に任せて、胃液を吐き出す。
しばらく食べていないから色のついていない酸だけが……

どす黒い内容物が唇からぼたりと滴った。
鉄錆と強い酸の、酷い悪臭。

「あ、あ?」

すぐに次の液塊が食道を駆けあがってくる。

「げ、っゥ……え゛! え、けゥ……ッ!」

壊れた水道管から汚い水が逆流するような音。

醜い。
そう思った。

泥まみれで地面に転がり、顔の脇に血液と胃液の混じった吐瀉物を散らす。
全身を震わせて、のたうつ。蟲だ。

ただの、寄生虫だ。

は、は、は、と呼吸が早くなっていた。
生理的に浮き上がった涙を追い出す。

寄生虫は、宿主の生き物ができるだけ長生きするように努めなければならない。

何故だろうか?
それは、食物を得るためだ。心地よい住処を。

宿主を早々食いつぶすのは、成長の早い毒蟲のすることだ。
ゆっくりと時間をかけて育つのならば、宿主の体をより良い状態に保つ必要がある。

だから、自分もそうしなければならない。

起き上がろうと力を込めていた腕を元に戻す。

地面に胎児のように丸まり、目を閉じた。
気休めにすぎなくても、そう思い込むしかない。

傷が治る。
血が止まる。
痛くなくなる。

歩けるようになる。
ここから逃げる。
もう、誰にも傷つけられないように、なる。

そう、強く、強く思いこむ。
それが本当になるように。


479VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 23:38:47.58ud7oDU7Co (6/12)


痛みがなくなる。
きっと治る。
もう一本の傷も付かないように、なるのだ。
全部、「跳ね返して」しまうように、なったのだ。

痛くない。
痛くない、痛くない、痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない痛くない。

ざら、と、何かが溶けていくような音が聞こえる。
何だろう? まあ何でも構わない。

大丈夫。絶対に、大丈夫。死なない。これは治る怪我だ。
痛くない。大丈夫、大丈夫。

何十分言い聞かせ続けただろう。
気がつけば、痛みがほんの少し、和らいだような気がした。

これなら、大丈夫だ。

脚をちらりと見る。
未だに奇妙な方向を向いてはいるが、血は止まっていた。

よし、大丈夫。
もう痛くない。

また痛みが引いた気がした。

心臓がどくどくと鼓動した。
何だかよくわからない。
けれど、何か不思議な力が体を突き動かしていた。

ゆっくりと、深呼吸をする。

ちくりと胸が痛んだ。
大丈夫、痛くない。
痛みがゆるゆる溶ける。

良い。
これなら、いける。生きていけそうだ。

あとは怪我を治して……

ぱたりと思考が停止した。

怪我を治す?
ここで?


480VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 23:39:36.85ud7oDU7Co (7/12)


どれだけ自分が物知らずでも、それくらいは判断できた。

無理だ。

血が流れ過ぎている。
それに、今はましになったとしても先ほどの痛み方は尋常じゃなかった。

これは憶測だが、先ほど自分が目覚める前は気を失っていたのだ。そう思う。
治す方法は一つしかない。

あの男の所へ行くこと。

そしてあの怖気で死んでしまいたくなるような時間を過ごすこと。
それくらいしか、馬鹿で弱弱しい自分には思いつかなかった。

力が欲しかった。
こんな自分ではなく、もっと攻撃的な人物でありたかった。

こんなものになりたくなかった。
自分を生み出したこの体のあるじが、酷く憎かった。
その優しさが疎ましかった。

守らせてほしかった。
頼ってほしかった。
守らないでほしかった。

だから。

この体は俺が守ろう。
そう決めるのだ。

寄生虫は、宿主の体を守るものだ。
だから、彼が帰ってくるまで体を保たなくてはならない。

今一瞬体を二つに裂くような出来事が起ころうとも。
命を守れるならそれでいい。

口の中に溜まった血液と胃液を、唾液で洗い流した。
ベッと唾を吐き捨てる。黒い。
まるで自分の心のように。

あそこへ行くのにどれくらいの時間がかかるか考える。
歩きで行ったことはない。

だが方角は分かる。
距離も大体計算できた。
何故そんなことができるかは知らなかった。

どうでも良かった。
できないことより、ずっと嬉しかった。


481VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 23:40:51.22ud7oDU7Co (8/12)


自分の脚では1晩よりもっと長い時間かかる。
ましてこの怪我した脚では。

いや、だめだ。

2時間だ。
それ以上は持たない。
大人に見つかってもだめだ。

走ろう。

どうなってもいいから、走っていこう。
そうすればきっと、間に合う。きっと。きっと。

どれだけ痛くても構わない。
どれだけ酷くなっても構わない。

到着したなら、どんな扱いを受けても良い。
この体が治るなら。

大体そこに行けば自分がどんなに扱われるかは分かっている。
それでもあの女の所に戻るより万倍ましだろう。
たとえ慰み物になってもだ。

自分が痛みを受けよう。

自分が裂かれよう。

ただ、ただ彼のために。

もう、誰か助けてなんて願わない。
幸運が起きろなんて願わない。

誰かなんていないから、自分が誰かになる。
幸運なんて起きないから、それは自分で起こす。

この期に及んで、もう存在しない救いなんて、求めない。

次にそれをする時は、きっと自分が要らなくなる時だ。

だから、その時までは。

自分が全部、引き受けよう。


482VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 23:42:00.90ud7oDU7Co (9/12)






だから、

その日、俺は犯されることを知っていながら、先生と呼ばれる男の家を目指していた。







483VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 23:42:33.54ud7oDU7Co (10/12)


雷鳴の音が鈴科百合子の病室にまで聞こえた。

ベッドの上で、シーツを掛けた薄い肉体がビクンと撥ねる。

「。」

インデックスは居なかった。
出ていったことに気付かないほどに眠っていたのだろうか。

そして気付いた。
出ていったから、夢を見たのだ。

夢の中の、


誰だ。

もやもやと何かが渦巻いている。

違う、忘れてなんかいない。
思い出したくないだけで。

シーツを握り締める。
駄目だ。耐えろ。
耐えなければいけないのだ。

自分が耐えなければ、あの子が、

あの、

ざ、ざ、と思考にノイズが混じる。
何かの音が聞こえる。

水溜まりを踏む。雨音? 外からだろうか。

安っぽい鉄製の階段を上る音。

電車。踏切。

鍵。ドアが軋みながら開く。閉まる。

痛い。

痛い。

酷く、頭が痛い。


484VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 23:42:58.20ud7oDU7Co (11/12)


重くなった頭を、枕の上にばさりと乗せる。
白い髪が散った。
モノクロの陰影。

ぶるぶると震える指で、彼はベッドマットの下を探った。
程なくして、何かをそっと摘まみ出す。

そんなところに隠しているせいで、少しだけ皺のよってしまった、封筒だ。

くるりと返す。

雨の晩に窓から射すごくごく弱い光。

文字が奇妙に浮かび上がって見える。
きっと自分が何度も何度も見つめ直してきたからだ。

綺麗な、神経質なまでに整った字。

『すずしな ゆりこ さま へ』

漢字は読めなかった。

その上に丁寧に振られたふりがな。
それだけが、その封筒を自分宛てのものだと明らかにしている。

ゆりこ、の文字が読めなければ、この手紙を見つけられなかっただろう。
2週間前の自分がそれを読めたことに、鈴科百合子は感謝した。

未だに堅く閉じられた封は開けられていない。

だが、もしこのまま夢を見続ければ、おそらく、きっと。
鈴科百合子はもうすぐこれを読まないではいられなくなるだろう。

ここに居る人は、誰ひとり自分のことを知らなかった。

それなのに、ここに自分を知っている人が居る。

この部屋に手紙を置いて行ってくれたのは誰だろうか。

「すずしな、ゆりこ、さま、へ。」

小さく読み上げた宛て名書きは、酷く優しかった。

ゆっくりとその差出人の名前をなぞる。

「あくせられいた、より。」

何故だろう。

ずっとこの人に、逢いたかった。そんな気がした。


485VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/09(木) 23:43:25.69ud7oDU7Co (12/12)


今日はここまで。

次辺りからそろそろラストスパート的なものに入っていきます。


486VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/06/09(木) 23:45:09.94VnvcAUR30 (1/1)

更新乙!せつない…どうか二人に救いを…


487VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(滋賀県)2011/06/09(木) 23:46:14.36lFrNhDgY0 (1/1)

乙乙
一方さん久々ー

>・一方通行「助けろ三下ァ……」
>・鈴科百合子「お兄様、とユリコは呼びかけます」 一方通行「はァ!?」(未完)
>・上条「福引で一方通行が当たった」
! 同一人物だったのか!!

>・上条「御坂とヤったけど、正直気持ちよくなかった」 の一方さんガチレイプパート
!?

お前だったのかという気持ちと半ば納得出来るようなこの感じ……


488VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/06/09(木) 23:52:31.74BgmaOYnAO (1/1)


福引きも見てるぜ


489VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/09(木) 23:54:36.68vDuUj13DO (1/1)



追い付きました!
切なくてもうほんとなみだが……!!
幸せになればいいのに……。


490VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/09(木) 23:55:56.759fvyVDpL0 (1/1)


最初のところすごかった
なんか泣きそうだ

福引の人だなんて気づいてなかった
福引のほうも気になるけど
こっちも気になって仕方ない

続きがすごい気になる
happy ENDで終わることを祈る
この二人には本当に救いがほしい


491VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/09(木) 23:56:33.03ws36PJNc0 (1/1)

乙!
一方さんの能力の発現理由が…切なすぎて目頭があつくなってきた。
寄生虫なんかじゃないよ、あんた百合子のヒーローだよ…!!


492VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/10(金) 00:06:26.09trPNarWio (1/1)

乙!
百合子…そして一方さん……

副引きすれも>>1だったのか。父御門好きだぜ。
どっちも続き待ってる


493VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/10(金) 00:16:28.569m7CTnlDO (1/1)

>>1乙

一方通行……百合子……

(´;ω;`)ぶわっ

てか>>1が書いたSS全部読んだことあるよ。色々な話書けるのすごい。


494VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/10(金) 01:07:56.99Si7mSSd1o (1/1)

更新早くて嬉しい 乙!
福引の人だったのか?!どの作品も好きだよ

続きが気になるけど出来る限り終わらないで欲しい…
ゆりこにも一方さんにも幸せになって欲しいよ…。


495VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/10(金) 01:35:14.27A5TfA5pSO (1/1)

>>1乙…
ここまでの話を読んで泣いて、伏線とかを知ってから読み返して、原作にこの話を重ねたらまた泣いてしまった…。
能力の理由も、そこからの一方通行(百合子)の扱われ方も思うと胸が締め付けられる様に痛いよ…どうか二人を幸せにしてあげて下さい…。


>>1の作品全部ブクマ済みだったぜ。ほのぼのからぬとぬと過ぎて原典並の魔窟、そしてこの話までも書ける>>1に改めて乙!


496VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/10(金) 03:44:55.47wF9SqQE/o (1/1)

福引きの人だったか
すげー、>>1すげー


497VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)2011/06/10(金) 16:17:18.04Eg1U/PTJ0 (1/1)

福引、貴方様でしたか!!!


498VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2011/06/10(金) 17:58:53.11unPYZgJAO (1/1)

普段作者気にせず色々読んでたけど、全部読んだよ読んでるよ!

>>1がスゴくてスゴいしか言えない><


499VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)2011/06/10(金) 18:49:42.84S222Yl7l0 (1/1)

このスレ見てから涙が止まらない(´;ω;`)
続きを待つ


500VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/06/10(金) 21:18:54.32iGn4UWexo (1/1)

福引の方も読んでるよー
どっちも超期待してる!


501VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/10(金) 22:55:05.435JGC516ao (1/1)

全部読んでるww
連載大変でしょうにすごいですね。どれも楽しみにしてます


502VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/11(土) 06:34:08.64pANOoPQDO (1/1)

読み返してて思ったんだが、百合子は句点読点しか使えないんだな
?も!も無しにこの表現力か…胸熱…


503VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2011/06/11(土) 10:05:15.668V8qv4mB0 (1/1)

乙乙!

まさか>>1だったとはな……
全部読んだことある作品だぜ
そんな俺的良作ばっか生み出してくれる>>1を応援してる


504VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西・北陸)2011/06/11(土) 14:56:52.805F2udkBAO (1/1)

一気読みしちまったぜ……てか福引の人なんかw予想外過ぎるわww

これゆりこちゃんもとい一方さんは原石なのか?
防衛本能が産み出した能力を学園都市が研磨して第一位が生まれたのか……。


505VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/11(土) 22:06:07.159cuIoHw20 (1/1)

おお福引きの人か
意外なんだけどなんか納得する
一方さんも百合子も何とかなって欲しいなあ


506VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/12(日) 01:56:08.29e+cWUlIP0 (1/3)


全部読んだぜ。応援してるからこれからも無理せず頑張ってな!


507VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/12(日) 03:39:28.09e+cWUlIP0 (2/3)


全部読んだぜ。応援してるからこれからも無理せず頑張ってな!


508VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/12(日) 03:44:10.53e+cWUlIP0 (3/3)

>>507

間違えたあああps3慣れてないから勘弁してくれえええええええ


509VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/13(月) 19:42:57.62e1wlu5MDO (1/1)

また支部に投下されてたよ。一方さんの女装可愛いー!!


510VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/13(月) 21:14:17.371ix7vCBc0 (1/1)

一気に読めた。>>1乙!
切なくて時に楽しい…とても大好きなSSです
続きすっごく気になるけど>>1が来るまで大人しく待ってるよ!


511VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/14(火) 02:00:04.710kutfenDO (1/1)

支部の絵みて俺はどうにかなっちまいそうだった……いいぞもっとやれ……


512VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄)2011/06/15(水) 04:11:48.80/kk1CHvAO (1/1)

鈴科百合子「お兄様、とユリコは呼びかけます」 一方通行「はァ!?」
の人だったんか……あれ凄く好きで続きに期待し続けてた
いつか書いてくれたら鼻血流しながら喜ぶよ

1も1の書く一方通行さんも大好きだわ


513VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:08:02.51YZioYUbTo (1/20)


こんばんは。
>>500超えありがとうございます。ここ1スレで完結できそう、かな?

支部の漫画、多分このスレで一番早く気付いた自信あります。
本当ありがとうございます! 番外個体可愛い! 可愛いよ!
てか百合子くんもこんなに可愛かったんですね……キッスしちゃうわけだよ。
前にも書いていただいてる方だしで、もう死ぬほど嬉しかったです。
目の前に居たら抱きしめてベッドに押し倒し、ぐりぐり頬ずりした後で耳元で「すき……」
って囁いて抱きしめたまま眠りに就きたいくらいのレベルです!

>>512
実はユリコ妹達ネタは、書いている当時SS速報を知らなかったのです。
投下中に予感がして、「百合子 一方通行 お兄様」で検索したら、この板の
百合子おにいさまスレが引っかかりまして、「これでいいじゃん! もうあったじゃん!」
っと夢中で読んでいたらスレが落ちました。ごめんなさい。
なので、むしろ百合子おにいさまスレを読めばいいです。というか読め。絶対ニダ。
最近ちび百合子ちゃんがめちゃくちゃ可愛いです。


というか前回1レス投下できてなかったみたい。
ですが、内容をどうやっても再現できないし、つじつま合っているのでまあいいか。
投下しなおすと雰囲気が違ってくるのでこのまま。
言うならこの時一方通行のアルビノ化が始まったということくらいです。

福引読んでくださってる方多くてびっくりでした。
しばらくは精神疾患強化期間なので、もう少し間があくかもです。ごめん。

ではつづき!


514VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:08:28.84YZioYUbTo (2/20)


数日が経った。

鈴科百合子はあれきり、外に出ようとはしなかった。
ただ、以前のように食事を拒否し、シーツの上に丸くなってドロドロ眠り続けていた。

大雨の降った翌日から晴れ間が続いている。
雲が切れ切れに浮く、蒸し暑いような天気だ。

19090号はすっかり意気消沈していた。

悲しかった。
何故か、百合子が唐突に自分から遠い存在になったような気がした。

どれだけ話しかけても、上の空で、遠くを見つめるような目をしている。
あれだけ眠っているというのに、両目の下にうっすらと影が出来ていた。

「百合子……」

「ン、。」

「本、借りてきました、と、ミサカ19090号は、両手一杯の本を見せます」

「、、、ありがと。」

ため息が零れた。

一昨日同じように持ってきた本は、置いた形そのままにデスクの上に積んであった。
ワークノートの上に置いてある鉛筆も、数日前から全く移動していない。

「百合子?」

「うン。」

「ご飯、一緒に食べませんか?」

「やだ。」

「百合子……」

今日何も食べなかったら、また点滴で栄養を流し込むことになるだろう。

水分だけは取っているようだった。
ミネラルウォーターのボトルの中身は様子を見に行く度にちびちび減っていた。

「林檎、剥いてあげましょうか?
 練習したんですよ。と、ミサカは成果を報告しようと意気込みます……」

「いい。」

「……そうですか! 残念です!
 次に食べたくなったら、このミサカが剥いてあげますからね、とミサカは断言しました!」

無理に声を張ってみたものの、帰ってきたのはいつも通りの気の無い返事だった。


515VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:08:57.25YZioYUbTo (3/20)


「、、、あのね。」

小さな声に、19090号はぱっと顔を上げた。

百合子が自分から何か言おうとしている。
やけに久しぶりな気がした。

「はい! はい! 何でしょうか!」

「、。な、」

「?」

「ン、でも、ない。ごめンなさい。」

「……そう、ですか。と、ミサカは……」

ああ。自分は何の役にも立てないのだ。

19090号は下唇を強く噛んだ。

おざなりな言葉をかけて、廊下に出た。扉を背にしてずるずる座りこむ。
奇しくも、あの日の御坂美琴と同じように。

このままはだめだ。そんなこと分かっている。

しばしばと記憶の中の言葉が瞬いた。

「こうなってしまっては、鈴科百合子は学園都市のイレギュラーだ。
 いつ無かったことにされるかも知れたことではないんだよ?」

あの日、冥土帰しが懸念したことが本当になってしまうかもしれない。
鈴科百合子をこのまま放っておいてはいけないのだ。

制服のポケットから、小さく小さく折りたたまれた紙を取り出す。
パソコンからプリンターで出力したコピー用紙。明朝体でプリントされたその一番上。

『第一位 一方通行 改め 鈴科百合子 処分案件草稿』

ごっそりと感情を持っていかれたような気分になった。

背後でぱたぱた響くスリッパ音に気付き、慌てて紙をくしゃりと丸める。
同時に背後のスライドドアが開いた。

「、、ど、うした、の。」

ビクンと心臓が跳ねる。


516VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:11:20.58YZioYUbTo (4/20)


「あ、ッ百……! 何でもありません!」

座りこんだ19090号の上を虚ろな緋色の視線が通り過ぎた。

危ない。
こんな所で広げていい用紙じゃなかった。
なんて迂闊なんだろう。

こっくりと首を傾けて、百合子はぽそぽそ声を出す。

「あの、やっぱり、おねがい、いい。」

はにかんだ笑みを見るのが久しぶりな気がして、19090号は幾分元気を取り戻した。

「い、いいです! 何が何でもいいです! とミサカは立ち上がります!」

「あの、ありが、と。それで、ね。」

それに気押されながらも、百合子は今度こそ最後まで言ってしまおうと口を開く。

片手では支えきれず、両手で杖を支えながら立っているのが辛そうだ。
19090号がその手を取って、廊下のベンチに座らせた。

「あの、あのね」

「はい!」

何だろうか。

何か欲しいのだろうか。
出かけたいのだろうか。

19090号は言葉を待つ。

その言葉が少しでも我儘で、手間のかかることであるのを祈る。
そして、それについて鈴科百合子と会話が出来ることを。

中音の答えは、申し訳ないような、寂しいような、少し、嬉しいような声色だった。

「はさみ。」

「え? 何ですか? と、ミサカ19090号は訊き返します」

「はさみ。もってない、かな。」

言い切れたことにほっとしたのか、少し柔らかくなった表情で。
鈴科百合子は人差し指と中指を立てて見せた。


517VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:11:50.81YZioYUbTo (5/20)






              8 被虐待児症候群 前編







518VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:12:21.82YZioYUbTo (6/20)


芳川桔梗はため息をついた。

手元にある膨大なデータは被検体がもはや完全に健康体であることを示している。
もはや必要のなくなった測定器を止める。

ベッドの上の被検体が引きちぎるように体についた電極をむしりとった。

「ちょっと、それ精密機械なのよ? もう少し丁寧に扱ってもらえないかしら」

努めて冷静な声を出す。
この動揺を気取られたくなかった。

「あー、悪かったな。つい」

ラップトップのディスプレイから目を話すこともせずに被検体が答える。
パチパチ、と軽いタイピング音。

「また彼女とお喋り?」

「彼女じゃねえよ。うるせえな!」

殆ど真っ暗に近い室内で、ディスプレイの光に照らされた被検体の頬に薄く朱が差した。
ブツブツいいながらも指を動かし続けるところからして、図星なのだろう。

また一つため息が零れた。

ここでこんなことをしている自分を、同居人たちにはあまり知られたくなかった。

「ねぇ、貴方、本当にやるつもりなの?」

「ああ」

短い答え。迷いがない。

「俺はその為にこうやって生き延びたんだしな。
 元に戻してもらった手前、協力くらいはしてやらねえと」

予想に反して、大分明るい声。

以前の彼に会ったことはないが、暗部の人間がここまで優しげな顔をするのを
芳川はたいそう不思議に思った。

「それで、今度は死んでしまうかもしれないのに?」

「死ぬかよ」


519VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:12:48.34YZioYUbTo (7/20)


けらけらと笑いながら被検体はようやくこちらに目を向けた。

「俺だってただぶっ倒れてた訳じゃねえ。
 それに、今の状態じゃ、逆にどうやって死ねばいいんだ?」

「……」

「死なねえよ」

ゆっくりと、被検体の少年はラップトップをデスクに戻す。。

「これで色々チャラって約束だろ。
 まあさっさとブチのめして、退院したら学校にでも通ってやるよ。普通の学生らしくな」

芳川がはっと息を呑んだ。
パチリと口元を覆う。

「これが、死亡フラグなのね……」

「現実でそんなもんがあってたまるかよ!」

それでも研究者か、と被検体はため息をつく。

「そろそろ着替えるから、出ていってくれねえか?」

「本当に、やる気なのね」

「随分引き留めるな。やめて欲しいのか? それとも、俺に死んでほしい?」

「まさか」

芳川が少年の目を真直ぐに見つめた。

「私は死んでほしいなんて思っていないわ。無事でいて欲しいの。
 あの子にも、貴方にもね」

「はっ、俺もかよ」

「甘いのよ。私」

「優しくはねえらしい」

荷物から適当な服を見つくろう少年に、芳川は下げていた小さな紙袋を手渡した。

「これを」


520VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:13:14.82YZioYUbTo (8/20)


訝しげな様子で取り出してみる。

「……白衣か」

「聞いているでしょう?」

芳川の表情を探る。
何を考えているのだろうか。ただ茫洋と笑みを浮かべているだけに見える。

「酷え女だな」

「死んでほしくないのよ」

「俺が?」

「あの子も、ね」

「どっちか死ぬとしたら?」

「その時は……」

実験室から出ていく一瞬、先ほどとはまた違った角度で、芳川の頬がつり上がった。

「両方、半殺しになってもらおうかしら」

バタン。

スライド式のドアが数回バウンドして閉じていく。

「怖えなあ。女ってのは本当」

手早く衣服を換えて、少し躊躇った末に、白衣を羽織る。

「なあ? カザリ」

デスク上のラップトップに、「いってきます」とだけ打ち込んだ。


 Kaz:終わったら、パフェでも食べに行きましょうね!

 Tei:いってきます

 Kaz:いってらっしゃーい(*^ω^ *)ノシ


「死んでたまるかっつうの」

以前より大分短くなった髪と白衣の裾を翻し、被検体、垣根帝督は実験室を後にした。

無人の部屋で、ディスプレイがひらめく。


 Kaz:死んだら、許しませんからね。ばーか

  Kaz さんが オフライン になりました。

  チャットサービス を 終了しました


521VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:13:52.41YZioYUbTo (9/20)


病室の床に、白色の便せんがはらりと落ちた。

鈴科百合子の病室には、たった一人の人物しかいなかった。
はさみを持ってきた19090号が退室するまで待ったのだ。

真白く堅い紙の上を刃がすべる。
間から、厚い紙の束が舞い落ちた。

同じほど白いのではないかと思われる指がそれを拾い上げる。

手紙の始まりは、あの封筒の宛て名と同じものだった。

「すずしなゆりこ、さま、へ。」

手書きのくせに、いちいち振り仮名が振ってあった。

百合子はその気づかいに感謝し、また、自分に平仮名と片仮名を教えてくれた
19090号に何かお礼をしなければならないと思いつく。

丁寧な手紙は、こう続けてあった。

「突然こんな手紙を貰って、驚くか怖がるか、していないことを願っている。」

優しい人だ。

百合子はそう直感する。

「ただ、この名前にも覚えはないだろう。」

あくせられいた。

そうだろうか?
どこかで聞いている。

そう、見まいに来た者は大抵、百合子をその名前で呼ぶ。
間違えているのだ。百合子とあくせられいたを。

この人はぼくに似ているのだろうか。

「それに、自分のことはもう、忘れてしまっているかもしれない。多分、きっと。」

どくんと心臓が跳ねた。

忘れている。
自分が忘れていることを知っている。予感している。

その内容も、あるいは、この人物のことなのだろうか。


522VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:14:18.88YZioYUbTo (10/20)


「まずは謝りたい。何と言っていいのか分からないが、悪かったと思っている。」

何を?

「最初から話そう。百合子が産まれたところから。そして、自分が産まれたところからだ。」

産まれたところ。
どういうことだろう。

百合子の指が、便せんの上をのろのろと辿る。
震える指が上質な紙をめくる。

内容がよくわからない。
理解できない。
何度も何度も、指は同じ文章の上をなぞった。

「鈴科百合子は、」

ざりざりと思考にノイズがかかる。

まず、匂いだった。

湿気た畳。古くて、かさかさと毛羽が立っている、色あせた藺草の埃っぽい匂い。

そして、焦げ。生臭さ。鉄錆のような血液。水回りのぬるぬるとした黴。
建物の下の階に入っている蕎麦屋のダクト、使い古しの油の胸の悪くなるようなそれ。


                「あ、あ、、、あ、、、、、、、、、」


夕暮れ。光。オレンジ色。狭い、出窓のようなベランダから見える、ごちゃごちゃした町。
電線、烏、トタン屋根。線路と踏切。通り過ぎる電車。煙草の煙。隣の部屋。男の人。
ガムテープで張り合わせた擦りガラスの窓。剥がれた網戸。塀の上を野良猫が歩く。


               「い、、、、、、、、、、、や、だ、、、、」


                   無音の世界が回る。

           不意に、錆びた金属の階段を上る足音が聞こえた。


                        「あ」




523VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:15:30.25YZioYUbTo (11/20)






               「百合子、いい子にしていたの?」





            耳元で囁かれたそれが記憶をすりつぶした。
                   閃光。痛み。記憶。

                そして、あの音達が蘇った。





             どん→
        ピ↑      ↓              バタン↓
ザ――→         どん→      きぃ、             ふァん♪
    ガガッ  ガチャン↓    ↓
                どん→  ガリッ ――――→カン↑カン↑カン↑カン↑カン↑カン↑カン↑
                   ↓  ↑        
       痛          ザァアアアアアアアアアアアァアアアアアァァァアアアアァアァア↑
                                        ぱしゃ。



「あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああ、、」




                                苦
    じゃり↓   うわああ!ぁぁ! ァ→           ごぼ↑ごぼ→ごぼ↓
  トン♪              キ――――――――――z_____    バシャ
トン♪   ガチャ                                 ↓ 
 トン♪  ズキ↓ズキ↓ズキ↓ズキ↓ズキ↓ズキ↓ズキ↓
        ギィィィィィィィイィイイイイイィィィイィイイイィイィイイィ    げほっ! ごほ、ガガガガガガ↑





      病室の床、白い紙が、何枚も、何枚も、ひらひらと舞落ちていった。







524VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:15:56.91YZioYUbTo (12/20)


垣根提督は足音を忍ばせもせず、堂々と病院の廊下を歩いていた。

すれ違う患者たちが時折振り返って首を傾げる。
きっと白衣を身につけているからだ。

白いシャツのボタンを2つ開け、添えてあったネクタイは締めていない。
スラックスに裾をしまうこともしないが、クールビズだと言われればそれまでだ。

その上に飾り気のない白衣。

この街では白衣を着た人間などそう珍しくも無い。
ただ、彼はどう見たって医師にしては若すぎる。

それに、IDカードやペンや聴診器などの医療器具もなく、ただぱりっとノリの効いた白衣
白と黒の衣服だけを着せられた青年は、どこか浮世離れしている。

見かけない青年に、新しい研修医かしら、と当て推量されている。
それが手に取るように分かった。

「うぜぇなぁ。もっと目立たない服にすべきだったか?」

例えば、ここに居る大ぜいがそうであるように、寝巻か病衣。

「……締まらねえな」

これから始まる仕事を思い、垣根は首のあたりに手をやった。
体を戻す処置を受けた際に髪を刈ったのは数か月も前だが、やっとのことで
ベリーショートに生えそろった程度だ。

以前より少し柔らかい。それに、癖が出てしまっている。
何だか自分の髪ではないような気がした。

体に対してアレだけの負荷をかけたのだ。
様々なことが変化となって出ているが、ここが一番顕著な気がする。
知識としては分かる。その理屈も。

ただ、首の後ろを冷たい風が通った時、あの最後の一閃を思い出すのは、いただけない。

髪の伸びるのは早い方だが、それにしても、もっと早く伸びるべきだ。
いっそのこと、何とか能力を使って促進するなり継ぎ足すなり……

そんなくだらないことを大真面目になって考えている最中だった。

目の前を、今にもスキップしそうな様子の少女が通り過ぎたのは。


525VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:16:23.29YZioYUbTo (13/20)


19090号は浮かれていた。

百合子が笑っていた。
きっともう、大丈夫だ。

多分だが、何か体調が悪かったのだろう。
夕食は取ってくれるかもしれない。

そうだ、出かけて行って、林檎でも買ってこよう。
この前お姉様に飲食費を出していただいたのだから、少しは財布に余裕がある。
いつもよりいいものを買ってこよう。それで、自分が剥いてあげよう。

うきうきと弾む心に穴を開けたのは、廊下の真ん中をのんびりと歩く一人の男の姿だった。

「なんで、」

「あ……?」

男の茶色の瞳が何でもないような調子でこちらを向く。

胃が縮み上がって、喉に張り付いたような気になる。

「何故、貴方がここにいるのですか……? と、ミサカは率直に問いかけます……」

男がつまらなそうに肩をすくめた。

「何故って、そりゃあ」

「何故あれほど反対された計画の実行犯がそんな格好をしているのかと聞いています!
 と、ミサカは目の前の垣根提督を問い詰め」

「聞けよ、病院で、迷惑な奴」

ぐ、と言葉に詰まる。

「そりゃあ、さ。もちろん」

「っ、」

「計画がこれから実行されるから、に、決まってんだろ?」

何か考えたり、口に出したりする前に、体が動き出していた。

死角から斜めに打ち上げた体重の乗った拳を、垣根は表情も変えず
体軸を揺らしもせずに、片手一つで受け止める。

「危ねえな。ま、病院で電撃しなかっただけ上等か」


526VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:16:49.93YZioYUbTo (14/20)


掌に薄く張った未元物質の緩衝材を消滅させながら、垣根は首を傾ける。

「何でつっかかる? てめえの姉妹をあれだけ虐殺した、一方通行だぞ?」

「鈴科百合子は、このミサカの友人です。それを……」

体から漏れだす微弱な電流で、全身の毛がざわざわと逆立った。
動物が敵を威嚇するように、19090号ははぁっと息をつく。

廊下の向こうで、事態を見守っていた患者やナース達がさわさわとざわめいた。
能力者同士の喧嘩か?

「そんな、目の色変えて怒ること、ねえんじゃねえか?」

ギリギリと歯噛みの音が頭骨の内側に響いた。

「絶、対、に……許しません、と、19090号は第二位垣根帝督を、敵性と判断しました」

軍用に調整された妹達は、常に冷静であること。

あらゆる状況下で適切な判断をできるよう、脳内の興奮を抑えるように作られている。

だが例外がある。
実践登用されない予定だった上位個体の打ち止め。
憎悪から作戦遂行を確実に、とプログラムを書き変えた番外個体。

それでもそういった特殊な個体と彼女は違う。
最初からそう、と決められた訳ではない。

妹達としての機能を欠いているから、そうなのだ。

19090号は、初めて相手をこれほど憎悪した。

殴りつけてやりたい相手を、見つけてしまった。

「俺、病み上がりなんだけど」

「だったらミサカに大人しく倒されてください」

「違えよ」

言葉の途中で、19090号は下方に身を引いた。

膝を曲げ、堅い関節部の骨を相手の顎に向かって垂直に跳ね上げる。

「ならっ!」


527VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:17:31.36YZioYUbTo (15/20)


当たれば脳を揺らして昏倒するほどの衝撃になる。

「おっと、怖ー」

が、それも横に一歩分動かれて、空振り。

「く、」

流れるような動作で腰をひねり、遠心力を乗せた腕がしなる。
精いっぱいの速度で裏拳を米神に叩きつけようとするが、腕を取られて捻りあげられた。

「痛っ!」

「すげえな、軍用クローンてのは。急所しか狙ってこねえ……」

競技だったらどの種目でも反則とみなされるような、人体で人を殺せるような攻撃。
護身や演武ではない、殺人のための体術だ。

人体の最も堅い部位で、相手の急所を、いや、急所「しか」狙わない、えげつない動作。

ふーっと歯の間から熱い息を漏らしながら、未だに捻りあげられる左腕を引き抜く。

「おい、無茶するなよ。脱臼するぞ」

「余計な、お世話です」

肩の筋が伸ばされすぎてじんじんと痛んだ。
後で腫れるだろう。

「病み上がりなら、もう少しベッドでゆっくりできるように、してあげましょうか」

中指だけを飛び出させた右拳を左肩の上に振りかぶる。
一歩半で距離を詰め、垣根の左目に向かって拳を打ち出す。

「うおっ! っと、」

やっと体勢を崩したところに、脚の間を狙って左膝を跳ねあげた。

「てめ、!」

瞬間、白いものが視界をよぎる。

垣根の背後に溢れる翼が崩れたバランスを立て直す。
あと30cmだけ余計にバックステップを許してしまう。


528VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:17:57.38YZioYUbTo (16/20)


膝が局部を捉えきれず、垣根の太股に強かに当たった。

「いッ!?」

「ち、」

返した手刀で頸動脈を狙う。翼に弾かれた。

左手の指を立てる。
肋骨の下の肝臓に向かって正確に突きだした抜手は、僅かに脇腹をかすめた。

「てっめ、指、何してんだ!?」

「残念ながら、生身です!」

掠った脇腹から、僅かに服の繊維の焦げた匂い。

優れた体術に加え、出力の低いながらも安定した電流を纏い
指先を即席の電気メスとして振るっている。

「くそ、危険なことしやがるな」

「これでも欠陥電気の能力者ですので、生身だけというほどサービス精神はありません
 とミサカ19090号は吐き捨てました」

能力は状況次第でその質や量を変化させることもある。

例えば、非常なまでの興奮状態。それに誘発される集中力。高揚感。全能感。

だが、それが大切なことを見失わせることさえ、ある。

「ああッ!」

「っと、やべ」

例えば、垣根帝督が一度も攻撃らしい攻撃をしてこないことなどだ。

「だから、」

ぱし、と両腕を取られる。
手首に違和感。

「な?」

細い糸状の物質が両手の親指同士をくくりつけている。

「あ、ぐっ!?」

無理に離そうとして激痛が走った。
目に見えないほどの細さの糸が、皮膚に食い込み、真っ赤な液体が流れ出す。

「絹糸以下の細さで、カミソリ並みの切れ味。動くなよ。指が落ちる」


529VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:18:38.58YZioYUbTo (17/20)


垣根の指が頸動脈の脇を抑える。
身動きしたら血流をせき止められるだろう。

19090号はぴたりと静止し、殺意の籠った瞳で男を見上げた。

「ッ、畜生……っ!」

「女の子だろ? そういうこと言うな。可愛くねえ」

眉を寄せた表情。
単なる世間話でもしているような物腰。

気にいらない。
憎い。

殺したい。

19090号はぎりぎりと歯を食いしばった。

「酷えな……つーか、見境なさすぎだ。仮にもレベル5の能力者に向かって」

垣根の手が、血液を流し続ける19090号の指に触れた。

「痛ぁっ!?」

「動くな。大体、考えないのか?」

諭すような口調。

「あ!?」

19090号の脳裏に、焼きつけたような映像がフラッシュバックした。

病室。ベッド。百合子。


「19090ごう。ずーっと、だいすきだよ。」


がり、と掌に爪を立てる。
駄目だ。そんなこと、思いだすな。

目の前の垣根の唇から、こんな言葉が零れおちた。

「例えば、自分の血液から、1滴で致死に至る未元物質を生成されることとか、な」


530VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:19:04.83YZioYUbTo (18/20)


病院のリノリウム床に、真っ赤な鮮血が滴っていく。
そこに数滴、どす黒く変色した液体が落ち、混ざった。

どさ、と重たいものの落ちる音が聞こえる。
とっくに逃げ出した患者達の雑踏が遠くで被さった。

「だからさ、やめとけって」

短くなった髪をかりかりと掻きまわして、垣根はため息を一つつく。

明るい琥珀色の髪が、床にまばらに散っていた。

不自然に手足を投げ出して。
人形のように。

それをほんの少し哀れに思いながら、垣根はそんな自分を揶揄する。

そんなに甘ったれな人間じゃ、ねえだろう。

そして、それを通路の脇に蹴って寄せておく。
邪魔だ。
俺は、進む。

息を深く吸った。

消毒臭さに混じって、微かに、血の匂いがした。

もう一度、ため息が零れる。

ある少女の笑顔を思い出す。

彼女は笑う。

「……やっぱ女って、怖え生物だよ」

それでも少しだけ口角は上がっていた。
優しい角度で。

倒れた軍用クローンのことはもう頭になかった。

ただ、先に進むことだ。

かつ、と。

革靴が血液を踏んで歩く。

変色した錆色の足跡は、真直ぐ鈴科百合子の病室へと向かって行った。


531VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:19:49.27YZioYUbTo (19/20)


今回はここまで。
やっぱりていとくんでした。
てーりさんは、多分出せないと思いますが!

ていとくんの復活までの道のりもいつか書きたいところです。

では。


532VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 16:43:54.58/aohJVXno (1/1)

>>1乙!!
まさかこんな時間に投下されるとは。
何もかもが気になるけど、とりあえずちょっとした荒療治である事を願う。


533VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 17:46:26.07Wicw2g8Qo (1/1)

てーりさんってなんぞ?


534VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2011/06/15(水) 18:05:50.04TqxfcfWBo (1/3)

心理定規のことか?
>>1が間違えてるのかどうかは知らんが「じょうぎ」な
メジャーハートが本来の読み方だからどうでもいい事なんだが


535VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/15(水) 18:58:31.533ysUlNWvo (1/1)

>>534
ネタにマジレスかよ…


536VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2011/06/15(水) 19:03:45.06TqxfcfWBo (2/3)

常用漢字の読み間違いとか笑えないネタだったからつい……


537VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/15(水) 19:04:03.53YZioYUbTo (20/20)

あ、てーりさんは
初春「むしろ、すっごく感謝してます!」という完結済み帝春SS内のキャラ呼称です!
まぎらわしくてすみませんでした!


538VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(富山県)2011/06/15(水) 19:15:19.81TqxfcfWBo (3/3)

あいあい
読んでみるか


539VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/06/15(水) 19:53:22.74vTwRU5P80 (1/1)

19090号に泣いた……!!


540VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/15(水) 20:52:27.64weu1lwvDO (1/1)

1>>おーつ

また百合子が可哀想なめに……19090号乙




541VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/15(水) 22:29:52.49iHZL6oDDO (1/1)

乙乙ー

とりあえず垣根氏ね


542VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/16(木) 01:30:32.84ZKD68vIao (1/1)

おつおつ
最初に出てきた音とか色々謎がわかりそうで…わからないな
ていとくンは何をするつもりなんだろうか


543VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/16(木) 17:06:49.49k8LNPhvt0 (1/1)

おつおつー
垣根のこれからの行動が気になるなぁ


544VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/16(木) 18:37:13.91/VnkIpbDO (1/2)

一方通行も百合子も打ち止めも妹達も黄泉川も芳川も上条さんもインデックスさんもていとくんもみんな幸せにしてくれよおおおおおおお


545VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/16(木) 18:51:14.48KtIaur+So (1/1)

つまり美琴だけは不幸になるって事か・・・


546VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/16(木) 21:07:04.11/VnkIpbDO (2/2)

ごめん素で忘れてた>美琴


547VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/17(金) 10:47:51.43ESRxbr9Go (1/12)


こんにちは。

某百合子スレの>>1さんがなんか反応して下さって死ぬほど嬉しくって小躍り。
あああああファンなんですううう! ちび百合子ちゃんにポカポカされるとかご褒美。
似たようなことはこれから何かの拍子に書くと思いますので、どうかよしなに!
お互い頑張りましょう! ちゅっちゅぺろぺろ!

こんなこと言ってますが内容が至ってアレです。
一応R-18Gパート。
ご注意くださいね。

あとエンディングはスレ立て前から決定事項なので、ご安心ください。

出来たての続きです。熱いうちにどうぞ。


548VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/17(金) 10:48:23.84ESRxbr9Go (2/12)


『第一位 一方通行 改め 鈴科百合子 処分案件草稿』


本案件は、何らかの事故により昏睡に陥ったのち、一度も能力を発現させていない
第一位の超能力者、一方通行の今後の処遇についてまとめたものである。

およそ1カ月の間、チョーカーの能力使用モードを経由しての
MNWへのアクセス信号が確認できていないこと。

また一方通行の病状報告を見るに、記憶障害に伴い
能力の使用方法や演算式の著しい欠損が確認される。

これは回復の兆しが見られないものと判断する。

以上から、これ以上の一方通行の能力の進化
並びに今後の工業的発展を見込めないものとする。

またこの状態での能力使用は危険だという常任理事会の判断に則り
学園都市の第一位、及びレベル5の認定をここに取り消すものである。

ひいては所在の確認された第二位、未元物質を繰り上げで第一位とし
現状能力の暴走状態に陥ることが懸念される一方通行の処分をこれに命ずる。

尚第一位の肉体は、処分後に相応の研究機関で検体として引き取りが決定している。

なるべく損傷の少ない状態での収拾が望ましい。

特に脳の欠損があった場合は研究価値を大いに損ねる。

処分の担当にあたる垣根帝督には厳重に注意されたし。


19090号のポケットから、畳まれた紙が、ぽとりと床に転がっていた。




549VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/17(金) 10:48:56.51ESRxbr9Go (3/12)


つま先に引っかけていたスリッパが、床にパタリと落ちた。

鈴科百合子はその音でようやく我に返る。

「、あ。」

床の上には、手の中から零れた白い便せんがばらばらと落ちていた。

慌てて膝をつき、それを集める。
手がうまく動かない。

目が、その手紙の中の単語を拾っていくばかりだ。

7年前、色素欠乏、打ち止め、義母、能力、古傷、実験、手術、虐待、研究、性暴力、
交代人格、先生、脚、ホルモンの減退、寄生虫、成長、木原数多、絶対能力進化。

「あ、あ、、、。」

かさ、かさ、と拾い集める度に零れていく。

落ちつこう。
深く深呼吸をした。

だめだ。

そのためには、絶対にこの手紙の内容を避けてはいけないんだ。

そう、強く思う。

「、、、かがみ。」

そう、それが必要だった。

今まで無意識がマスキングしていた、自分自身の姿が、今の彼には必要だった。

杖の握り手にぐっと力を込めて、鈴科百合子は病室から離れた洗面所へ向かう。
そこに鏡があったはずだ。

逸るのを抑えて、震える手をスライドドアのバーに乗せた途端。
それは勝手に開いた。

目の前に、白衣を着た男性の体があった。

「よお。久しぶり」

「あ、、、。」

優しそうに笑う、垣根帝督が、そこにいた。


550VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/17(金) 10:49:23.49ESRxbr9Go (4/12)






              8 被虐待児症候群 後編







551VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/17(金) 10:49:56.16ESRxbr9Go (5/12)


一見飄々と振る舞いながらも、垣根は内心動揺していた。

まさか、本当の本当にあの写真が本物だったとは。

突然目の前に現れた白衣の男に怯え、はくはくと唇を動かすだけ。
そんな、どこか白痴じみた少年に、俺はあんな風に潰されたのか。
一瞬の苛立ちが脳の下端を舐める。

はっ、はっ、と急いた呼吸が蒼白な唇から漏れていた。
かろうじて杖にすがる右手。病衣の襟を掻き合せ、胸を抑える左手。

すべてが、無防備すぎる。

「少し、話そうぜ」

「っ、あ、、、。」

手首を掴んでベッドに放り出してやる。
自分はその間に簡素なパイプ椅子を広げ、腰かけた。

「なあ、俺を覚えてるか?」

今にも泣きだしそうに顔を歪め、白い少年が困惑気味に垣根を眺めた。

白衣からむりやり視線を引きはがし、のろのろと、真っ赤な瞳が彼の顔を認識する。

「だ、れ。」

「垣根だ。垣根、帝督」

ぶつぶつと名前を口の中で転がしている。
本気で思いだそうとしている。

「ていとく、、、あの、ぼく、は。」

「お前は誰だ?」

「ぼくは、、、。」

声の出さないままに、唇が何度も形を変える。

垣根はその答えを静かに待った。

「す、ずしな、ゆりこ。」

「そうか……」

その答えに、垣根はため息をつく。

「……残念、だぜ」


552VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/17(金) 10:50:22.64ESRxbr9Go (6/12)


ずちゅ、と熟れ過ぎた果物にナイフでも入れたような音がした。

「あ、、。」

百合子がそっと下に視線を移動する。

「、、、あ。」

病衣の裾が赤く染まっていた。
右下腹から、きらきらと輝く白いものが飛び出していた。

「っ、え、」

じりじりと熱く焼けるような鈍痛が百合子の体内を満たしていく。

「俺はこれから、お前をなるべく丁寧に殺すから。お前は出来る限り、さ」

「い、っゥ、、、。」

「もがき苦しんで、死ね」

ぐり、と腹に差し込んだ羽を奥にねじ込みながら、垣根は言った。

「……上がくたばったからって、繰り上がりの第一位か。
 ナメてんじゃねえぞ……この、三下が……ッ!!」

これまで腹の底にぐつぐつと煮詰めてきた憎悪が、垣根の中で爆発した。

軽そうな白い少年の体を、未元物質製の両翼が勢いよく跳ね飛ばす。

「う、あ゛っ、。」

窓の枠に強かに背中をぶつける。
片翼が勢い余ってガラスを突き破り、引き抜いた拍子に大小のガラス片が床に散った。

「てめえ、俺を何度絶望させたら、気が済むんだ?」

大きなガラスを踏み砕きながらベッドを迂回して、転がる少年の顔を覗いた。

「う、、、ァ。」

怯えた瞳。
痛みの所為で、生理的な涙がぼろぼろと零れている。

「――っ! てめえ!」


553VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/17(金) 10:52:45.09ESRxbr9Go (7/12)


ごつ、と顎を蹴り飛ばす。

悲鳴をこらえているのだろうか。小さな呻きが上がった。

「てめえは誰だ? 学園都市の第一位じゃねえのかよ?」

「だ、い、、いちい。」

「一方通行じゃねえのか? あ?
 その辺のガキだって、ここまでされりゃもうちっとマシな顔するんだよ!」

先ほど裂いた腹の傷に向かって革靴のつま先をねじこむ。

「あ、っぐ、ァ、あああああ、、、。」

「よし。それでいい。もっと歪め。腑抜けた顔すんじゃねえ」

鋭い翼の先が、先ほどの傷のすぐ横を刺した。

「っぎ、あ。」

「痛みを感じろ。もっと睨め」

百合子は垣根の顔を僅かに見上げる。
視界にもやがかかっているようだ。

この人は、何をこんなに、

百合子は思う。

「聞いてんのかよ! もっと、「一方通行」らしい顔してみろっつってんだ!」

もう片羽が太股を貫く。

「あ゛っ、。」

何を、こんなに、悲しそうな顔、してるんだろう。

涙を溜めた膜が、一杯に膨れ上がる。

「だ、」

「あ?」

破れた腹に力を入れる。
切れかけた腹直筋がびくびく痙攣する。

「だい、じょうぶ、だよ、、。ていとく、ぼく、こわく、なァ、、。」

「……もう、喋るな」

ずるりと羽が引き抜かれた。

「殺す」


554VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/17(金) 10:53:11.64ESRxbr9Go (8/12)


「ひ、ィ、っが、、、ッ。」

引き抜く。
突き刺す。
突き刺す。
捻る。
一度に引き抜く。

1センチずらしてもう一度。
同じ穴にもう一度。
ちょっと離してもう一度。
角度を変えてもう一度。
太股のあたりにもう一度。

脚、手首、腹、耳。

まるで挽き肉でも作っているのかという程に、執拗で陰湿。

ずちゃずちゃと泥を捏ねるような音がするたびに、指先から少しずつ体温が奪われていく。

死ぬんだ。

死んでしまうんだ。

ぼくも、

かさ、と指先に何かが触れた。
先ほど落としたままで、拾いきれずベッドの下に潜ってしまった便せんだった。

「すずしな ゆりこ さま へ」

「あ゛、く、ェら、れいた、ァ、、、。」

伸ばしかけた手の甲を、薄い羽がいとも容易く貫通し、床につなぎとめた。

「、、、ッ、か、ァっ。」

病衣の胸倉をつかんで揺り起こされる。

「思い出せ。反射があるだろ? なあ、せめて、一度くらい反撃してから死ねよ」

その掌に、乾ききった血液がこびりついている。

「あ、、、け、が、、して。」

「あ? これは俺のじゃねえよ」

「え、。」

「えーと、190……90、っつったか」

ゆるゆると真っ赤な双眸が見開かれた。


555VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/17(金) 10:53:39.94ESRxbr9Go (9/12)


「馬鹿なクローンだよなあ」

「、え、、う、。」

「自分の姉を10031回も殺した男のために」

「、ゥ、そ、でしょ。」


「命がけで超能力者に向かってくるなんて」


世界中の音がすべて消え去ったような気がした。

垣根がゆっくりと掴んでいた手を離す。
床にずりずり倒れ込みながら、百合子は全身をのろのろ巡る血液の流れを聞いていた。

波のような血流の生み出すノイズの奥に、彼女の恥ずかしそうな声が混じる。


「その、ミサカもずーっと大好きですよ、とミサカは約束しました」


ざざざざざ、ざざざざざ、ざざざざ、ざざざ、ざざ、ざ。

病室の白い天井。点滴ポール。サイドボードとクローゼット。緑の病衣。血。赤い。寒い。
林檎。修道服。杖。常盤台の制服。冷たいシーツ。沢山の、ぼくの大好きな人たち。


倒れた床に散らばる沢山のガラスの欠片。

一つ一つに、百合子のことを見つめ返す少年が映って見えた。

髪は白い。
目が真っ赤だ。

変な色。

ぼくに、少し、似てる?

違う。

ざざ。

あくせられいたに、似てるんだ。

ざ。

どこかで鉄錆みたいな臭いがする。

ばちっ、と、スイッチの切り替わるような大きな音が聞こえた気がした。


556VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/17(金) 10:54:16.45ESRxbr9Go (10/12)











                     ちいさいころは


           じぶンには、とうめいにンげンのきょうだいがいるンだ


                 って、ずうっとしンじていた。












557VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/17(金) 10:54:47.52ESRxbr9Go (11/12)


動かなくなった鈴科百合子の脇腹を踏みつけて、垣根帝督は深い悲しみを感じていた。

これで、俺がメインプランだ。
そして、全部終わりだ。

だから。

足の下でビクンと彼が痙攣したのに気付くのも、遅れた。

彼がまるで、長い眠りから目覚めた人のように目を瞬かせ、周囲を見回したのも。

床に広がる血液を見て息をゆるりと飲んだのにも。

明確な意識を持って、チョーカーのスイッチを切り替えるのにも。

反応が、少しずつ遅れてしまった。

ずるずると流れ出した血液の池が縮んでいく。

逆再生のように血液を吸いこんで、白い髪の長めな頭が床を離れる。

「……オマエ、」

「あ?」

その間から、真っ赤な瞳が、煮えたぎるような殺意を持って垣根を睨みつけていた。

「……何、てことを、しやがったンだ。この……」

体を氷水につけられたような悪寒を感じながらも、垣根の唇がつり上がった。

「よお、久しぶりだな」

いっそ、このまま殺してしまおうと思った。
それを引き留められた自分を垣根は褒めてやりたかった。





                      「一方通行」

                   「クソ野郎がァ……ッ!」





                学園都市最強が、目を覚ました。


558VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/17(金) 10:55:13.99ESRxbr9Go (12/12)


ここまで。
あっさり仕立てです。

それでは!


559VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/17(金) 11:20:04.77iBpUv2wDO (1/1)


一方さんが出てきたのに救われる気がしない
百合子が消えそうで怖い…


560VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2011/06/17(金) 12:22:20.95PaJAkzZAO (1/1)

>>1乙!!
垣根ぇぇぇえ!!!!俺の百合子に何してくれとんじゃああああ!!!!!!
と思ってたら俺の代わりに一方さんが出てきてくれた。



561VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/06/17(金) 12:36:22.97Qy8lradAO (1/1)


おかえり一方さん


562VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/17(金) 13:57:24.17cTofXCWDO (1/1)

乙です
被虐待児童症候群をちょっと調べたら、なんか泣きそうになったよ…



563VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/17(金) 15:26:53.81j5zBN39DO (1/1)

>>560
>俺の百合子
一方通行「そげぶゥ!」


564VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/17(金) 16:14:51.754ILmN1BDO (1/1)

>>556でなんか泣いた


565VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2011/06/17(金) 16:51:06.71cFtKN4qn0 (1/2)

来たああああああああああ!

乙乙!


566VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/17(金) 17:26:36.90wesYEY2w0 (1/1)


なんつーか・・・この後の展開がすごい楽しみである


567VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/17(金) 17:32:58.16hPdYcigXo (1/1)

乙ううう!!
一方さんキタ━━━( ゚∀ ゚)━━━!!のに安易に喜べねええええええ
なんか垣根も可哀想だな……


568VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/17(金) 17:36:09.93quX7YNpIO (1/1)

喜んでいいのかどうかわかんねー!!
次も気になるよーー!




569VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2011/06/17(金) 22:24:37.71cFtKN4qn0 (2/2)

今更だけど今まで携帯で読んでたから
PCで読みなおしてたら>>475に感動した


570VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/17(金) 23:25:00.10acQiwytao (1/1)




571VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/18(土) 01:45:38.97Y3k4qZbDO (1/1)

キィィィャァァァァァァァァア!!!!アックセラレイタァァアスワァァァァァアン!!!!!!

1>>乙
このSS好きすぎてどうにかなりそう




572VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/06/18(土) 10:51:31.13Ky9xdNOAO (1/2)

垣根が頑張りすぎな件
まぁこれで一方通行出てこなかったら処分確定だったんだろうなぁ


573VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(空)2011/06/18(土) 21:58:53.40q8TRkg3B0 (1/1)

待ってたぜ一方通行ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!


574VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/06/18(土) 22:08:56.01YwH8rjei0 (1/1)

一方さんきたあああああああああああ!!
>>1乙!


575VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/18(土) 22:18:32.34o38URXXSO (1/1)

一方さん出てきたのは嬉しいけど、これで「一方通行を引きずり出すなら、百合子を痛めつければいい」って前例が出来ちゃったんだよな……


576VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/18(土) 22:52:16.45/UCwQMLu0 (1/1)

>>575!!


577VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/18(土) 23:16:16.19/SDRfjyr0 (1/1)

>>575
なんてことに気づいてしまったんだお前は…!!


578VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/06/18(土) 23:19:32.80Zx0hZGqAO (1/1)

>>575
シーツ掴んで苦しそうに喘いでいた百合子ちゃんが、突如一方さんに代わっちゃったりする訳か…


579VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/18(土) 23:20:16.90epkzEDGSO (1/1)

>>577
下げろ[ピーーー]


580VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/18(土) 23:23:58.96cUeLF4t6o (1/1)

>>578
一方さん大混乱で俺大歓喜だわ。一粒で二度おいしいとはこの事。


581VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/18(土) 23:26:49.25SX4dhmR+o (1/1)

>>575
それを知った者を皆殺しにしても良いのよ?


582VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/06/18(土) 23:27:35.441MHvvFLG0 (1/1)

>>575
痛めつけられたから出てきたのではなく
19090号のことを聞いて出てきたんだとおも
ああ、でも傍目から見たら百合子を痛めつければってことになるのかな


583VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/06/18(土) 23:37:57.86Ky9xdNOAO (2/2)

てか、そもそも今後も百合子と一方通行が共存するとは限らないんじゃね?


584VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/19(日) 02:31:00.1193Bbbfl8o (1/1)

ゆりこたん…
一方たん…
ペロペロしながら幸せになることを祈っているからね!


585VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/19(日) 12:46:52.71lWw20+aDO (1/1)

20000号はお帰りください><


586VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/06/19(日) 21:36:11.16RETiF51mo (1/1)

そもそも一方さんは出てきたいと思ってるんだろうか・・
一方さんからしたら有難迷惑なのかもなー


587VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/20(月) 00:47:38.87IYSdb7eX0 (1/1)

1乙です
このSSが好きすぎて生きるのが辛い
百合子も一通さんも消えたらあかんで…
http://wktk.vip2ch.com/vipper9305.jpg


588VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/20(月) 01:51:59.93Dm9FH0vKo (1/1)

垣根は協力者なのかそれともただの噛ませなのか…


589VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/20(月) 02:24:45.21GA14+kiDO (1/1)

>>587
おおー上手いもんだ
乙です。赤かっこいいな


590VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/20(月) 13:29:32.61zR1Yx/PDO (1/1)

>>587
すげえ…しばらく見とれた
ネタが細かいな
読み込んでる感じだ



ところで>>1ツイッター始めた?あれ本人?


591VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/20(月) 13:52:24.48Yujkycv+0 (1/1)

>>587が支部に>>556も投稿してて見てたらなんか泣けてきた


592VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/22(水) 14:56:44.45CTa7VNXOo (1/1)

>痛みの所為で、生理的な涙がぼろぼろと零れている。

の後に一方さんになったんなら
垣根は泣き顔一方さんを見れたのか…くそっ


593VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/22(水) 19:14:31.82Exxv8AISo (1/1)

>>592
そりゃぁこのまま殺されてもいいと思っても仕方ないな


594VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/22(水) 22:11:52.39RXv0lnKq0 (1/1)

許すまじていとくん…
俺らの百合子たんになんてことを…


595VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 18:17:53.86acoi21DOo (1/12)


こんにちは。暑いですね!
垣根くん、いいですよね。下の名前が一発変換できたらもっと好きになれる気がします。

>>587
うわあああ! ありがとうございます! むしろいつもありがとうございます!
やばい、かっこいい……そして既に言われてますが仕込んでいるネタが細かくて、もう!
ニヤニヤしながら長時間眺めています。あとこちらに貼られていない方も眺めています。
ご馳走様でした。本当、すきです。ありがとうございます。

>>590
ついったー始めました。
と言っても、禁書SS書きさんがやってるのを見てフォローしたくなっちゃっただけです。
一応投下報告くらいはpostしようかなっと思っている感じです。それ以外は駄postです。

>>592
そこに気付くとは……やはり天才か……

ではつづき。


596VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 18:18:20.25acoi21DOo (2/12)


朝。
ゆっくりと冷たい色の光に満たされていく街並み。

まだひたひたと水中のような冷やかさが漂う時間だ。
大抵の人は寝静まっている。新聞配達のバイクの音が、時たま聞こえる。

軋みそうな二階建てのアパート。
擦りガラスで部屋から隔離された、まるで出窓のように狭苦しいベランダ。

小さな白い足がひたひたと足踏みをくり替えした。

「ねェ、さむい、ね」

小さく小さく虚空に話しかけるのは、ほんの幼い少年だ。

見た所は5、6歳の少女。しかし、実際は9歳の少年である。

この年頃の3歳差は相当なものだが、彼はどうみても他の9歳と同年齢とは見えない。
最も、彼が他の9歳児と並ぶことなどなかったので、その点心配はいらなかった。

「どうしよう」

ひたひたひた。

音を立てないようにしながら、足踏みがせわしなくなる。
不ぞろいな薄い栗色の髪に、少し透けるような飴色の瞳。色素が少しばかり薄い。

身につけているのは、寒空の中、大人用のTシャツ一枚だ。
それがワンピースのように膝上まで覆って、すそを流してあった。

ささくれた、今にも腐り落ちそうなベランダを踏む足は少しばかり擦り切れている。
もちろん素足だ。寒さに色を失っていた。

ひたひた、と足踏みする少年の耳元に、囁くような声が聞こえた。

「俺が変わってやってもいいけど。我慢できねェンなら」

うーん、とむずかるような声を上げて、それに応える。

「だめ、かわるとき、ちからぬけると、でちゃう、から」

「じゃ、ダメだ」

足踏みは止まらない。

下腹部が重い。
いくら少年が飲食物を与えられていないと言っても、昨晩からうすら寒い室外に
一晩中追い立てられていたために、限界まで尿意をこらえて立っている。

「おこられる、ね」


597VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 18:18:46.38acoi21DOo (3/12)


恐々、といった様子の少年に対して、耳元の声は淡々と答えていく。

「ああ、殺されるな」

「い、やァ、だな、」

「俺が変わってやるっつゥの」

「やだっ、そンな、ひどいのできない」

「何のための俺ですかァ? ったく、甘ちゃン百合子ちゃン……!」

「それやだっ、いうの、いじわる、い」

たしたしたし、と足踏みが少し早くなる。
細すぎる両腕が腹部をぎゅうと抱きしめて、ぶるりと震えた。

「……オマエ、結構限界?」

「、、、ン」

「マズイ。非常にマズイぞ」

「う、う、ァ、まずい、、、」

2人の声に深刻そうな調子が混じる。
事態は急を要するのだった。

まさに、死活問題なのだ。彼らにとっては。

「風邪ひく可能性がある。というか確実だマジで。あの女しばらく帰ってこねェだろォし」

「やだやだやだ、あれ、たいへン、だもン」

「ああ。いただけねェ」

2人は以前風邪をひいた時のことを思い出す。

体調はひどいもので、熱が出てふらふらと傾いで歩く少年に、同居している女性は
「とろとろ歩くんじゃありません」と足の甲に煙草を押しつけたものだ。

「窓外せねェ?」

「むり、」

「飛び降りて下に逃げる」

「む、りっ、」


598VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 18:19:12.71acoi21DOo (4/12)


ごにょごにょ。ぶつぶつ。

2人の会話は、一見すると小さな少女が独り言を呟いているようだ。

どこか異常な光景。
ただし、2人にとっては、唯一のコミュニケーション。いつものパターン。

少年の瞳は自分の目の前の中空を愛おしそうに捉える。
まるでそこにもう1人の瞳があるかのように。

「寒いなァ」

「さむいっ、」

「怒られる、よなァ」

「おこられるっ、」

「まァ落ちつけよ? な? まだ勝機はある。諦めンじゃねェ。ガンバレガンバレ」

「う、く、ゥ、ううう、、、」

もはや走っているように高速で足踏みしながら、少年は応える。

その時だった。

ギシギシ軋むような音を立てて、低い鉄柵を挟んだ隣家の擦りガラスが開いたのは。

「あっ、」

ベランダに薄白い煙がすっと横切った。
煙草の濃い匂いが少年を取り巻く。

そして、銜え煙草でぎょっとしたように少年を見据える隣家の住人と目があった。

「……ああ、うわ、サイアク」

露骨に顔をしかめる。
無精ひげに、伸び放題の黒髪。日焼けした体に実用的な筋肉がついている。
どんより落ちくぼんだ下まぶたと頬に泥が撥ねて、首には汚いタオルが巻いてあった。

少年の姿を見て嫌悪感をあらわにし、窓を閉めようとする隣家の住人。
しかし、今日の彼は必死で食らいついた。


599VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 18:19:38.84acoi21DOo (5/12)


「た、たすけてっ」

「うるせえガキ! 毎朝毎晩ギャーギャー喚いて俺の身にもなれ! 壁薄いんだ!」

「いいから、といれっ、かしてっ」

「あぁあ?」

男は一瞬ポカンと口を半開きにしてから、慌てて窓の外に転がり出てきた。

「おい待てマジで待てガキこらウチのベランダと繋がってんだ漏らすなオイ」

まるで教養のなさそうな早口がとりとめもなく漏れる。

「といれ、かして、」

区切って繰り返す少年の顔はとっくに紅潮しており
足踏みも止めることができないために、ひどく息が上がっていた。

「お前中入れよ!」

「あかないっ」

「中に誰かいねえのかよ! 窓叩いてみろ!」

「いないし、そんなのできないっ」

「何で!」

「ぶたれるのやだっ」

「知るかッ!」

「むり、でちゃううっ」

「あーもう! こっちこい!」

言われる前に、少年は既にベランダを隔てる鉄柵の傍に寄っていた。

男の汗臭い両腕が脇の下を乱暴にすくい上げ、担いで室内に放り込んだ。

「あっ」

「そこそこ! 玄関脇! 急げバカ!」

自分の家とは左右対称の部屋の作りに混乱しながらも
少年は全速力で古びた汚いユニットバスに飛び込んだ。


600VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 18:20:08.45acoi21DOo (6/12)






                -8 しかたない 窓編







601VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 18:20:43.35acoi21DOo (7/12)


「……ン?」

突然の隣家の住人に、慌てて姿を隠したはずだが。
気付いてみれば汚いユニットバスの中だ。

一応、下腹部に重みが無いこと、足元が無事であること
目の前にある便座の中をざぁざぁと水が流れていることを鑑みて考える。
どうやら最悪の事態は免れたらしかった。

しかし、ここはどこだ?

いつも見ている風呂場と対称に配置された浴室に、黴と安い石鹸。
それに、薄いアンモニア臭。覆い隠すように冷たいライムの匂いが漂っている。
洗面台の上のシェービングクリームの匂いだろうか?

ともかく蛇口を捻ってぞんざいに手をすすぎ、浴室から抜け出した。

「おい、汚してねえだろぉな」

「うわ」

仁王立ちで見下ろしてくるのは、先ほどベランダで見かけた隣の部屋に住んでいる男だ。

詳しくは知らないが、見た目からして、土木系の作業員でもしているのだろう。
土埃と汗の臭いがした。

なるほど、こっちの部屋に潜りこんだか。上出来と言える。

「ああ……うン。大丈夫」

男は一応背後のドアを開け、浴室内に変わりがないか見まわしてから
ふん、と一つため息をついた。

「よし、んじゃ帰れ、ガキ」

何てことだ。冷たい奴。

しかし、こんな条件の悪い住宅に住んでいるのだ。
どの道大した倫理観の持ち主ではない。

せめてもう少しくらい慮ってくれてもいいだろうに、と思いながらも
まあ仕方ないか、とも思ってしまう。

自分だって、隣に時間構わずギャンギャン喚くガキがいたら、たまらない。
むしろ一度しこたま蹴飛ばしてやらないと気が済まないだろう。

つまり、蹴飛ばされないだけマシか。


602VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 18:21:19.43acoi21DOo (8/12)


「あのさァ」

「んだよ」

「水飲ましてくンねェ? もう半日飲ンでねェンだよ」

口の中の唾液が粘度を増しているような気がして、気分が悪かった。
余程、さっき洗面所の蛇口から啜ろうなどと思った。
が、蛇口まわりの埃と黴の密集地帯に流石に閉口したのだ。

百合子なら飲んだだろう。
先のことに希望を持つ方ではない。

だが、まだそこまでは、できない。
くだらない期待をして、チャンスを逃してしまう。
悪い癖だ。けれど、百合子にない考え方を持っていることは、自分にとって必要だ。

男は面倒そうに舌打ちをして、台所とは名ばかりのシンクを指差した。

「飲んで来い」

「やった!」

話せるじゃないか。

すぐさまシンクに乗り出して、細く蛇口をひねる。
首を傾けて流れる水をぴちゃぴちゃと啜り始めた途端、襟首をガシリと捕まれた。

「うァ!? な、何しやが」

「何してんだこのバカ!」

「はァ?」

「コップ! 使え!」

口の周りをびっしょりと濡らして、首を傾げる。
男はそれを見て奇妙な違和感を感じた。見た目と、言動の、小さな齟齬。

「なンで?」

「そういうモンなんだよ! あと蛇口の水は生水だからやめろ」

ここのアパート、水道管古ぃんだからよ、などといいながら、男は冷蔵庫を開ける。

シンクの洗いかごにあった大ぶりの湯飲みに、作り置きらしい麦茶をたっぷりと汲んで
目の前の子供に持たせてやった。

「ほら」

「……これ、飲ンでいいの?」

「飲めよ」


603VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 18:22:25.05acoi21DOo (9/12)


両手でそっと受け取る。
恐る恐る唇をつけて、一口、二口、とちびちび啜りこむ。

こくこく喉を鳴らしているが、飲み方がひどい。下手だ。
湯飲みを傾け過ぎるから、口を付けた両端からびたびたとこぼしている。

男は顔をしかめたが、何も言わずに小さな子供が喉を鳴らしてそれを飲み干すのを待った。

「ぷァっ、はあ……!」

「……あ、もっといるか?」

「ン、あの、あとちょこっと」

シャツの胸の部分をちょっと持ち上げて口元を拭う。

元から汚らしかったシャツにできた染みはとくに目立つ。
広がった襟ぐりが肉の薄い胸に張り付いた。

「汚ぇなあ。服もっとまともなのねえのか」

「ない。というか、これがあるだけマシなンだよ」

ごしごし、とぬぐうために、裾が持ち上がる。
棒のように細い二本の脚が太股まで露出した。

「……おい、まさかてめえ下」

「ない」

「うっげええ! 変態じゃねえかあの女! 廊下で合うときゃすました顔して!」

「うるせえ、おっさン」

飲み終わった湯飲みをそっとシンクに戻しておく。

「おい」

「はァ?」

「飯は食ってんのか」

「……食ってねェよ? ここ2、3日」

男は背筋に何かつめたいものを感じた。
自分は3日絶食していてここまで生意気に振る舞えるだろうか。
ほんの少しの異常の臭いを、そこに嗅ぎ取った。


604VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 18:23:34.86acoi21DOo (10/12)


「……おい」

「ン」

がさがさ、と軽いビニールのなる音がして、目の前にずいと突きだされる。

「……何、これ」

「ハンバーグ弁当。廃棄の」

元から訝しげだった表情のまま、かっくり首を傾げる。
ようやく、年相応の仕草に見える。

「ハイキ?」

「コンビニの、賞味期限切れのだよ。タダでくれんだ、これ」

「食えンの?」

「バカ、数時間しかオーバーしてねえんだから」

「ふーン」

「反応薄いな。食らいつくかと思った」

「?」

「やる」

「え!」

ぱぁっと表情を明るくする。

男は一瞬安心する。ああ、ただのガキだ。普通の。その辺に居る。

「くれンの! 食っていい?」

「ああ。暖めてやる」

なんだ?

男はまるで自嘲気味に考える。
俺は、このガキを憐れんでいるのか?

「おっさン、食べ物あンの?」

「ある。3つ貰って来たからな。昔馴染みで、くれる所なんだよ」

「ふゥン? 俺も行ったらただでもらえンの?」

「俺だけ」

「何だァ、けち」


605VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 18:24:53.59acoi21DOo (11/12)


結局弁当を綺麗に完食し、麦茶を1杯催促し。
男は隣の家のベランダに子どもをそっと戻してやった。

「俺が寝てるときにギャンギャン泣き喚くんじゃねえぞ」

「そンなのわかンねェもン」

「わかんなくてもだ」

「?」

「うるせえから。泣くな」

「? あー、ごめン」

「ふん……」

ベランダの隅に腰を下ろし、満腹のためか瞼を重そうにする。
そんな少年を見ずにすむように、男は擦りガラスのサッシを勢いよく閉めた。

また追い出されていたら、茶くらいなら飲ませてやってもいいだろう。
警察とか、児童館? などはよくわからない。そこまでするほど、男は善人ではない。

誰だってそういうものだ。

偶然会った野良猫に、弁当のおかかご飯を一口食わせてやることがあるかもしれない。
しかし、その誰もが野良猫を片っ端から保護して飼ってやることはない。

一時の慰め。
ひとかけらの、自尊心を回復させたいがための行為だ。

しかし、それは責められるべき態度ではない。
誰だって野良猫を引き取る財力はない。
この男もまた、そこまでしてやる筋合いはない。この少年の母親に憎まれたくない。

まっとうだった。

そして、この少年自身がそれをまっとうだと理解していた。

それでもいつか、誰か素晴らしく優しいヒーローが現われることを期待していた。
まだ、この時は。

救いを望み、幸運が起きることを祈っている少年は、1人。
寒々しいベランダで膝を抱えて丸まっている。

「百合子、食いもン、食えたぜ。俺が食っちゃって、ごめンなァ……」

ただ、少年にとっては、そこにいるのは1人ではない。
もう1人の片割れと、よくわからないがもっと多くの人の気配が、彼の中に渦巻いていた。


606VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 18:25:20.63acoi21DOo (12/12)


今日はここまでで。
短めですみません。今回の-8話は少し長めになるかもです!

それでは。


607VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/06/23(木) 18:32:37.90cI5tSwzAO (1/1)

乙!
ショタセラ百合子さんの破壊力すげえ


608VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/23(木) 19:07:23.20euLz7AGDO (1/1)

隣のおっちゃんは私だ


609VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海・関東)2011/06/23(木) 19:12:55.516KhlCnKAO (1/1)

>>608 いや 俺だ


610VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/06/23(木) 19:58:12.77afrWQ/MYo (1/1)

俺が、俺達がおっさんだ!


611VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 20:19:12.61JfB51iAgo (1/1)

乙!!
おっさんの競争率が高ぇな



612VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/23(木) 21:25:03.73ru5EwX9c0 (1/1)

乙乙
おっさん大人気だな。俺も立候補しておこう

百合子と一方さんの2人だけじゃないんだな… まぁ伏線ぽい部分もあるにはあったか
もしや他の人格も「一方通行」なのかな、とか思ってみたり


613VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/23(木) 21:27:45.32+zcEyHqDO (1/1)

ならば俺は百合子の着てるぶかぶかシャツになろう


614VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/23(木) 21:36:15.03wb1TUkXco (1/1)


昨日から読み始めたがおもしれー
心臓キリキリなりながら読むわ


615VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県)2011/06/23(木) 21:40:09.05tW7o9ROH0 (1/1)

では、自分はベランダになります。


616VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/06/23(木) 21:43:57.9790Ewna/AO (1/1)

おっさん、木原君かと思った

>>612
あれ、一方さんじゃないの?


617VIPにかわりましてNIPPERがお送りしまう2011/06/23(木) 22:13:44.90S2n1Wu1b0 (1/1)

おっさんGJ


618VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/23(木) 22:15:34.89j4hatf5ko (1/1)

俺がおっさんだったら絶対に保護するわ
こんな可愛い子を保護しないわけがない
ペロペロペロペロ

>>1乙!
楽しみにしてる


619VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/06/23(木) 22:30:26.46TOEgRtJa0 (1/1)

なんだこの隣のおっさん大量発生スレは…
俺も立候補しよう

1乙


620VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/06/23(木) 22:53:50.976v5nXr360 (1/1)


自分もおっちゃんになるー

>>612
もしかしたらその中に女の子に百合子ちゃんが…
考えすぎか


621VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/24(金) 08:52:34.84Qf1c5zh5o (1/1)

俺が!俺たちが!一方通行だ!


622VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/24(金) 23:46:54.95cXGO0fhJo (1/1)

おつおつ
ちょっと俺もおっさん立候補するわ


623VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/06/25(土) 21:03:39.91/tuOOCSe0 (1/1)

じゃあ私はおっさん家のトイレで


624VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/06/25(土) 22:13:01.70gE0i3RkCo (1/1)

じゃあ私はハンバーグ弁当として百合子の空腹を満たそう


625VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/25(土) 22:37:03.502JWGE8xM0 (1/1)

では私は麦茶となろう


626VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/25(土) 23:39:27.72L0KA+z310 (1/1)

>>616 >>620
すみません>>612書いた奴ですが

>>5 そろそろ「この」自分も、潮時なのだということを。
>>9 「アンタ、本当に「あの」一方通行?」
辺りその他諸々から、何と言うかこう、色んな違う何人もの「一方通行」が消えたり出て来たりしてたのかな、って思ってた

でも >>605 よくわからないがもっと多くの人の気配が、彼の中に渦巻いていた って事なんで、
じゃあ消えては新しく生み出されてるって形じゃなくて、元々「在る」のが入れ替わってるのかな、と思ったんだ

んん、まだ何か語弊がある感じ…日本語表現難しい
結局何が言いたいかって、>>621って事なんです。巧い事を


…あれ、こういうのって書いて良い物やら如何? 失礼しました…


627VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/26(日) 06:56:02.83jr3GTn3Yo (1/1)

>>626
はいはいすごい読解力(笑)ですね長文自重しろ


628VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/26(日) 13:46:36.31KdaKHsfi0 (1/1)

おっさん立候補の最後尾はここですか


629VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/26(日) 15:52:52.38BmdjFSBi0 (1/1)

>>627
そうですね、すみませんでした。ご覧の皆様にもご迷惑お掛けして申し訳ありません
以後、書き込みは一切しない事にします。失礼致しました



630VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/06/26(日) 16:40:10.49l4W6/GuO0 (1/1)

俺もおっさん立候補するわ


631VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/28(火) 23:50:59.39FE/luo2DO (1/1)

なんか、このスレ加齢臭クセェな


632VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 03:16:10.74RBWcoHe00 (1/1)

そしてそんな君もここにきたからにはまもなくおっさんになるんだよ


633VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/07/01(金) 03:44:07.49Rql6aMhno (1/1)

オッサンニナレーター


634VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:43:09.36ST8qUYgyo (1/13)


こんにちは。
なんかこのスレおっさ……いえ何でもないです。

大体人格形成などについては、この先も色々書いていくつもりです。
その過程で書きたいことは答えない感じにしてますが、一応。
「一方通行」と名乗って7年暮らしてきたのは一方通行1人だけです。
ややこしいですが、まあもうちょっとだけ続くんじゃ。

ではつづき!


635VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:43:36.13ST8qUYgyo (2/13)


軋みながらサッシを勢いよく引く音で、鈴科百合子は目を覚ました。

体中が痛い。強張っているのだ。

幅の無いベランダでうずくまるようにしている体勢を変えないまま、息をつめた。
その状況を断片的に呑んでいく。

眠っていた?
どのくらい長くだろう。外は既に明るく、太陽が真上を過ぎている。

刺すような空腹感が消えている。喉の渇きもそれほどではない。
遠くのほうで誰かが言っていた、食事をとった、というのは自分のことだったのだろうか?

そして、自分を見下ろしている人影に気づいた。

全身の温度が無くなり、胃が重くなる。冷や汗がどっと出ているのが分かった。

「百合子」

「、あ、」

「お返事は? 百合子」

「はい、」

同じ部屋で暮らす女性は、ベランダのガラス戸をひいて、こちらを静かに見つめていた。

何かがおかしい。
いつもならば、とっくに髪を握られて部屋に引きずりこまれているはずだ。
殴るか、蹴るか、煙草を押しつけるか、首を絞めるか、風呂に沈めるかしているはずだ

もちろん、帰ってくるまでそこで立っていなさい、と言いつけられたのだから。
これは自分の落ち度だ。彼はそう考える。

そもそも、今ここにいるのは、全て自分が悪いのだ。

髪を長くのばしておくように、とかたくかたく、言われていた。
そのはずなのに、キッチンのはさみを盗んで勝手に短く切ってしまったのは自分だ。

風呂に入れてもらえないために、砂埃や汗などで痛み、ごわごわになって絡んだ部分。
それをなくそうとはさみを入れる度に、髪はどんどん短くなり、元は腰まであったのが
肩につくかどうかという短さになった。

鬱陶しい重さは無くなったが、その髪を見た途端、女は逆上して百合子の首を絞めた。
切った髪が部屋に散らばり、はさみはベタベタに汚れ、使いものにならなくなっていた。


636VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:44:03.69ST8qUYgyo (3/13)


すぐに風呂場に連れていかれ、水に顔をつけられた。
必死に謝ると、今度はずぶ濡れのまま、まだうっすら寒い夜のベランダに追い出され。

立っていろと言われたのが、うずくまって惰眠をむさぼっていたのだから仕方がない。
どんな罰を受けろと言われても、はいと頷くしか許されない。

がたがたと震えるのを必死に押さえる。
しかし、かけられたのは今まで聞いた中で一番と言っていいほどの優しげな声だった。

「お部屋の中にいらっしゃい」

「え、」

「おいで。あら、ほっぺたに痕がついちゃってるじゃない。可哀そうに」

細い親指で頬をなすられる。
ひっ、と息を詰めたが、それは抓ることも爪を立てることもなかった。

「百合子」

「あ、、、」

いつ元の状態に戻って痛みを受けるか、と怯えながら、百合子はサッシをまたいだ。

温くなったベランダとは違い、室内はひんやりと冷えている。
そんなことを思った途端、目の前の女が膝をつき、視線を合わせた。

「やっ、」

両腕を上げて頭をかばう。

しかし、殴打はこない。
そろりと腕の隙間を覗くと、女は泣いていた。

「ごめんね。ごめんね百合子」

「う、、、」

しゃくりあげながら女はただ泣く。
百合子には、それがどうして泣いているのかわからない。

だからいつものように、その長い髪を撫でて、抱きしめた。

「お、かァさン、は、、、あの、、、なンにも、わるくない、よ、」

「百合子……ごめんね。ごめんなさいね」


637VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:44:30.11ST8qUYgyo (4/13)






                -8 しかたない 偽編







638VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:45:03.47ST8qUYgyo (5/13)


変だ。

今まで弱った姿など数えきれないくらい見てきた。
泣いて、癇癪をおこすのだって、珍しいことじゃない。でもこんな風に謝るのは初めてだ。

「なかないで、ごめンなさい、ぼくが、わるいから、おかァさンは、わるくない」

昔から何度も何度も、教えられた通りに、鈴科百合子は台詞を繰り返す。

「つらかったね、ごめンなさい、わるいこでごめンなさい」

「百合子、ありがとう。愛してるわ」

「あい、」

「大好きよ」

「、」

わからない。

あいしてる?

だいすき?

それは、ぼくのことが嫌いではないということなんだろうか?
そんなことを、百合子は考える。

この人が、ぼくを大好き? 本当に?
でも泣いている。泣いているときは、この人は大抵、本当のことしか言わない。

じゃあ本当に?

百合子の視界にもやがかかる。

「ほ、ほンとに、、、」

「本当よ」

「ぼく、ぼくのこと、きらいじゃない」

「大好きよ。愛してるわ」

「ふ、」

ぎゅう、と抱きしめられた。
今まで泣いて縋られたときの、どんなときより優しかった。


639VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:45:36.61ST8qUYgyo (6/13)


涙がぼろぼろと零れていくのが分かる。

自分の意志とは関係なしに、喉がしゃくりあげるように動く。

苦しい。でも、嬉しい。

「お母さんのこと嫌い?」

「きらいじゃないっ」

慌てて首を振る。
そんな風に思うわけがなかった。そういう風にできているのだ。

鈴科百合子はこの女なしでは生きていけない。そう育てられている。

「じゃあ大好き?」

「はい」

甘い香水の匂いがした。
女が出かける時に吹き付ける、花を煮詰めたような香りだ。

部屋は6畳に、申し訳程度のキッチン、ユニットバスの古びて汚らしい安普請なのに
この女はいつも身綺麗で、華やかな装いをしていた。

埃まみれの玄関には、まるで似つかわしくない白革と金の金具のついたミュール。
フリルのたっぷりとついた少女趣味な薄いブラウス、ベージュのスーツ。
薄いストッキングが脚を覆っている。拒食症のように全身が細い。

そして、ピンク色に光る唇を尖らせて、百合子の名前を呼ぶ。

「お母さんのこと許してくれる? 今まで沢山いじめたこと、なかったことにしてくれる?」

「うン」

躊躇いもせず、少年は頷く。
女の顔に薄い笑みが浮かんだ。

「誰にも言わないでくれるのね?」

「いわ、ない」

ああ、と感極まったような声を上げて、女は鈴科百合子を抱きしめた。

「いい子ね。とってもいい子」

「いいこ、、、」


640VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:46:04.01ST8qUYgyo (7/13)


かっと頬が熱くなる。
そんな風に言われたのは、もしかしなくても初めてかもしれなかった。
嬉しい。

殴る代わりに頬を撫で、首を絞める代わりに抱きしめられて、罵る代わりに褒められる。
そんな、ただ当たり前のことだけで、頭の芯がぼうっとして、涙が止まらなくなった。

この時間が永遠に続けばいいのに。

そう少年は思う。

そして、そのあまりの幸福感が、目隠しをする。
彼の中の目には見えない片割れを眠らせたままにしたことが、全ての間違いだった。

きっと、その片割れがこのことを知っていたら、烈火のごとく怒っただろう。

何を企んでいるのだ、と。
今更何を言っている、と。

そして服を脱いで、全身に浮きだした醜い痣を見せるだろう。
これをつけたのはオマエだ、と言うだろう。

何故ならこの片割れには、そういう教育がされていない。
絶対的に女を慕うように出来ていないのだ。

だから、7年経っても眠っていた方はそれを悔やんで苦しみ続けることになる。

女は少年の頬を白い両手で挟み、恋人にするように口づけた。

「私の可愛い百合子。愛してるわ」

「、」

ぎゅっと抱きしめ、頬を摺り寄せる。

「あらあら、ずっと外に居たのね。砂埃でざらざらよ」

自分がそうしていろ、と言いつけたのに、まるで関係のないことのように女は言う。

百合子はびくりと体を強張らせて、身を引いた。
砂で汚れた自分がくっついていたら、女の服まで汚れてしまう。

「あ、ご、ごめンなさ、、、」

「いいのよ。おいで、お風呂に入りましょうね」

「はい、、、」


641VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:46:30.61ST8qUYgyo (8/13)


湯は温かかった。

冷たくも、熱すぎもしなかった。
タオルを泡立てて、女は百合子の全身を手早く洗い流してくれた。

その間中、ずっと好きとか、愛しているとか、囁いた。

不思議に思いながらも、百合子はこれが夢なのではないかと不安になる。
もし何かあったら目が覚めて、この優しい人は消えてしまうんだ。

だからシャンプーをするときに目を瞑るのを、ほんの少しだけ嫌がった。
女は一瞬困ったような顔をしたが、大丈夫、と優しく笑って、髪をすすいでくれた。

いつもだったらタイル壁に叩きつけられてもおかしくない筈なのに、と思いながら
爪も立てず、優しく髪を掻きまわす指にとろとろに溶けた眠気を感じていた。

「さあ、綺麗になったわ。出ましょうね」

「ン、、、」

うつうつと船を漕ぎながら、百合子は瞼をこじ開けて応える。

洗剤と日の匂いのするバスタオルに包まれ、ドライヤーで髪を乾かされた。
部屋の大きな姿見を見て、百合子は眠気を吹き飛ばした。

知らない子だ。

バスタオルに包まってこっちを驚いたように覗いているのは、栗色の髪の子どもだ。

まるで爆発に巻き込まれたかのようにぐしゃぐしゃと絡んでいた髪は3回も洗い流され
小児特有の細っこく、癖のない頭上につやが浮かんでいた。
ドライヤーで丁寧に乾かされたために、くるりと内側に向かってカーブを描いている。

先の方がギザギザと不ぞろいなのは、きっとキッチンはさみで無理に切ったからだ。

血も砂も埃も付いていない頬が白く、最近は顔を殴られていなかったので痣も傷もない。

「百合子、こっちにおいで。お洋服着るのよ」

慌てて洗濯機から先ほどまで着ていた汚らしい大人用のTシャツを引っ張り出す。

「違うのよ。やだ、これ本当に汚いわ……」

そう言って、女はシャツをゴミ箱に入れる。

「あ、」


642VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:47:16.37ST8qUYgyo (9/13)


「今日はこっち」

そう言いながら女が紙袋から取り出したのはブランド品らしい子供服だった。

「はい」

「、でも、」

「いいのよ。今日はこれでいいの。ね?」

「、、、は、い」

有無を言わさない様子に、百合子は大人しく頷いた。
今更特にそれを嫌だとも思わない。
ないよりマシだ。

服なんて着られればいい。そう彼は思っている。
だから気にしない。それがどんなデザインだろうが、サイズが少々あってなかろうが。

まして、今日女に差し出されたものはサイズだけならぴったりだった。

濃い灰色のハイネックシャツに、黒と茶のタータンチェック柄ジャンパースカート。
シックで大人しく、まるでどこかのお嬢さんのような出で立ちだ。

「これ、あの、おンなのこ、、、」

スカートの裾をつまむ。

流石にそれくらいは知っていた。

「嫌?」

首を左右に振る。

この程度で、嫌だ、とか不快だなどとは思わない。
Tシャツ一枚より全然まともな服装だ。あれよりずっといい。

だから、ただ不思議なだけだ。

女の子の服を自分が着てもいいんだろうか?
きれいな服だけどやっぱり汚したら不味いんだろうか?
いつも通り部屋の隅に丸くなったら、埃がつくのだろうか?

「そう。それじゃここに座って」

女は床に古新聞を敷いて、百合子を座らせる。
首元にタオルを巻き付け、はさみを取りだした。


643VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:47:43.07ST8qUYgyo (10/13)


「あっ、ごめ、ごめンなさ、、、」

銀色に光る刃物を見た途端、百合子の全身が震えだした。

立ちあがって逃げることはしない。
だがひどく青ざめて、ぶるぶると震える。

刺されるか、どこか切りつけられるかもしれない。
咄嗟に、一番切り落とされそうな耳を押さえる。

が、慌てたのは後ろの女も同じだったようだ

「いいのよ! 百合子、大丈夫。絶対に痛くしないから、ね?」

「ァ、う、うァ」

「大丈夫よ。座って。髪を揃えてあげるから」

「は、ゥ、ああ、う、、、」

恐る恐る耳から手を離す。
しかし、痛みだけはいつ襲いかかってもいいように、堅く目を閉じて待ち構えた。

「いい子」

軽い櫛が、癖のない髪をさっと梳いた。
さくさくさく、とはさみの動く軽い音がする。

何度も、何度も、すくっては整える。

襟足のあたりで斜めのギザギザになっていた毛先が、半円を描いて揃えられていく。

「お、かァさ、、、」

百合子は震える声を無理に上げる。

「うん? 何かしら」

「あ、りがと、ございます」

さくん。

はさみの音が止まる。

「……そうね」

「、」


644VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:48:10.11ST8qUYgyo (11/13)


「さ、できた」

タオルを外され、髪を掻きまわされる。
細かい毛が散って、見違えるように清潔にされた百合子を、女はじっと見つめた。

「百合子」

「はい」

「お母さんのお願いなら、聞いてくれるわよね」

「、はい、だれに、も、いわない、、、」

「それもあるけれど、あのね……」

「、」

女は悲しそうな顔を無理やり作り変え、百合子の細い体を抱きしめた。

「お父さんのようになってはだめ。これ以上そっくりになってはだめよ」

「お、とォ、さン」

百合子は首を傾げる。

たまに聞く、その人間はいったい何をやらかしてしまったのだろう。
違う。その人が何をしたか、話は聞いている。そらで言えるくらいに聞いた。

でも意味がわからない。
それが何のことだか、百合子には理解することができない。それだけだ。

「そう。その薄い色も、顔立ちも、同じよ。だから、だめ。ああなっては、だめよ」

「はい、」

「ね、お母さんがそうしてあげるから。ね。百合子も頑張るの。いいわね」

「はい」

「間違えたら治してあげるから、一緒に頑張るのよ」

「はい」

「……いい子」

もう一度だけ、女は少年を抱きしめた。
まるで、恋人にするように。頬に口づけてから、初めてその手を引いて部屋を出た。


645VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:48:36.38ST8qUYgyo (12/13)


金属製の階段を下りる時に、買い物帰りらしい、隣の家の男とすれ違った。

百合子はそれに手を振った。
お礼を言いたかったが、女が歩き続けるので、やめておく。

男は百合子の姿を見て、少し考えるような素振りをした。
それでも手をひく母親の姿を見ると、顔をしかめて早足ですれ違っていってしまう。

少しだけ悲しかった。

「どこ、いくの」

「いいのよ。歩けるでしょう?」

本当は足が痛い。靴を履くなんていつぶりだろうか。
少し歩いただけで膝がギシギシ言った。

「はい、」

百合子は従順だ。

そう出来ている。

少し歩いた先にある通りで、女はタクシーを拾った。
物珍しそうに窓の外を眺める百合子を窘めて、自分は煙草に火を付ける。

信号に引っかかって停車した隙に、彼女は、ふ、と煙を吐きだした。

「明日は、雨かしらね」

遠くに見える雲を眺めて、女は吐きだすように言った。

百合子はただ、雨の日にベランダに出されるのは嫌だ、とだけ考えている。

そして、彼の片割れの透明人間は、まだ、眠っている。

信号が青に変わる。
運転手がアクセルを踏み込む。

この日から、鈴科百合子の悲劇はさらに加速していく。


646VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 11:49:11.70ST8qUYgyo (13/13)


今日はここまでで。
というか女装注意入れるの忘れましたごめんなさい。
どんどんアレになっていきますが、ごめんなさい。それでは。


647VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/01(金) 12:06:59.98SgcNfvQDO (1/1)


こう、嫌な予感がひしひしと


648VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)2011/07/01(金) 12:58:52.38IdYqZ3pS0 (1/1)


嫌な予想しか出てこない悲しい
百合子も一方さんも幸せになりますように


649VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/01(金) 13:10:17.62E9uwaIpwo (1/1)

すごくいやな予感がするけど見ちゃう
>>1乙


650VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/01(金) 13:23:03.14TtPzhoaxo (1/1)

アレ切り落とされるのかとヒヤヒヤしながら見てたわ…


651VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/01(金) 13:25:34.09nnVnhngDO (1/1)

乙乙
読む手が止められない…
ぞくぞくするし胸がもやもやするのに…
でも続きが気になる!


652VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/07/01(金) 14:12:14.949kEMeWMto (1/1)

乙、だけど怖すぎる…
悪い予感しかしないし


653VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/07/01(金) 16:05:15.55sp1sXyqAO (1/1)

ちょっと百合子を保護しに行ってくる
悪いなオッサンども


654VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中部地方)2011/07/01(金) 17:45:23.00I3BTGkgi0 (1/1)

>>653
甘いな、もうとっくに俺が保護した


655VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/01(金) 18:30:03.72Gs3s4eKD0 (1/1)

じゃあ俺は>>654ごと保護する


656VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/01(金) 20:21:24.14s2MUhVNY0 (1/1)

じゃあ俺は百合子も>>1もお前らも全員保護するわ。


657VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/02(土) 01:28:10.51koz38vGzo (1/1)

じゃあ俺は>>656に保護してもらう


658VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/07/02(土) 01:38:19.53V4VR7Yryo (1/1)

じゃあ俺も>>656に保護してもらって快適ニートライフを満喫する


659VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2011/07/02(土) 08:03:29.774tWqwL9v0 (1/1)

そして俺はこの集団に上条さんを投下してそげぶしてもらう


660VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/02(土) 08:38:18.69G9qS4tGX0 (1/1)

そうして俺達は百合子を援助しながら働き出したのだった


661VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/02(土) 10:28:01.58SsmHhrm3o (1/1)

なんという脱ニートスレ
しかし読んでてハラハラするわ


662VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/02(土) 23:12:44.19RHajjlVDO (1/1)

そして半月後…
そこには元気になった百合子と
社会復帰した俺たちの姿が!!



みたいな単純な話じゃねーもんな…


663VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/03(日) 21:40:02.02ooMpxY9P0 (1/1)

まだペド白衣男が出てきてないんだよな・・・
昇り続けるジェットコースターみたいな怖さ
もうやめてぇ!みたいな



664VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/04(月) 18:28:48.41SXnxgJxFo (1/1)

でもやめないで


665VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/04(月) 23:38:46.22ypgfUMbB0 (1/1)

そしてスタート地点より更に低い所へと下がるって言うか落ちるって言うか堕ちる訳ですね解り………怖っ
続きが滅茶苦茶気になるけど話が進んで行くのが怖ぇ…


666VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/07/06(水) 21:05:11.44c20jysAi0 (1/1)


うお何これ怖い
だが読まずにはいられん・・・


667VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県)2011/07/12(火) 18:11:03.5976MFrK550 (1/3)

おもしろい


668VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県)2011/07/12(火) 18:11:43.2776MFrK550 (2/3)

おもしろい


669VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(鹿児島県)2011/07/12(火) 18:12:26.2376MFrK550 (3/3)

おもしろい
読み入ってしまう


670VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/07/12(火) 18:33:23.648jo9TGVx0 (1/1)

あがってると思ったら…!
>>669メル欄に「sage」って入れといて


671VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/12(火) 22:53:43.78a5cu8+IDO (1/1)

期待した自分涙目
ぐぬぬ…


672VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/12(火) 22:54:02.02ZfKvvB8e0 (1/1)

止まってる?



673VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 18:56:04.14I+vBpSWNo (1/19)


こんばんは。遅くってすみません。やっと鯖落ち解除されましたね!

>>656
あの、不束ですが、どうか末永くよろしくお願いいたします///


今日の投下分はちょっとグロいです。いつものよりもう少し増しくらいの感覚です。
人に寄っては「うぷっ」「おげぇえ」となるかもしれませんので、先に注意。
読み終ってから「大したことねーじゃん!」って言われるかもしれないですが、一応ね。
特に差別とか馬鹿にしているといった意図はありません。

それじゃ投下します。


674VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 18:56:40.61I+vBpSWNo (2/19)


タクシーが一台、細い道の手前で止まっている。

ガラス製のドア越しに1人の男がそれを眺めていた。

男のいる建物は古びていた。
一見、廃墟になった診療所にも見える。看板はない。

白い外壁、擦りガラスの窓がある一階と、その後ろに西洋建築風の3階建があった。

真横から見たら綺麗なL字型。横の線が診療所、縦の線は自宅だろう。

大通りから入って、すぐ路地を折れる。
それしかこの「病院」を尋ねる手段はない。

看板も掲げていないため、ここに訪れるものなどほとんどいないと言っていい。
近くに総合病院があるのも理由だ。ここは人目を外れている。

男は眠たそうに目を擦る。

久々の来院者かとタクシーの乗客を待ち構えている。

建物は昔風だが、少しばかり間口が大きい。
ガラスの重いドアとやや広めの出入口は、昔は患者がすれ違ったのだろう。

今は薄暗く、誰もいない。
寒そうだ。そう見える。

先ほどからぽつぽつ降り始めた雨の匂いが染み込んでくる。
消毒液の匂いに混ざり、無機質だ。

男の周りだけ、白いカップに入った紅茶の香りが漂っている。

一口啜りこむ。
熱い液体がじりじり舌を焼いた。

車から人が降りる。

女だ。
長い黒髪をゆったりカールさせて、趣味のいいスーツを着ている。
地味すぎない華やかさを持った女。金の使い方を知っている。

タクシーの支払いを済ませながら、道路に斜めにピンヒールを下ろす。

いい。優雅だ。
だがさほどそそられない。

ただ金払いが良さそうだ。そうであってほしい。
男はそれほど成人した女の体に興味は持たない。


675VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 18:57:23.18I+vBpSWNo (3/19)


女の後から小さな影が車を降りた。
さほど背の高く見えない女だが、その胸に届かないくらいの子どもだ。

母親と娘に見える。

先を行く母の後ろに、娘は遅れないように必死についていく。

歩き方がおかしい。足が悪いのだろうか。
よく訓練された犬のように、ひっきりなしに母親の顔を伺う。

なるほど。

客らしい。

男は立ちあがって、隣の椅子の背にかけてあった白衣を取る。
アイロンをきちんとかけたシャツの上からそれを羽織り、ネクタイを正した。

紅茶のカップを給湯室に下げて、かつての受付カウンターを回りこむ。

来院者の母娘のために入り口の重いガラス戸を開けてやりながら、男は笑みを作った。

和やか、人当たりのいい、と言われてきた笑顔で唇を開く。

「お入りになられますか?」

「あ……」

女は一瞬ひるんだようだ。

そこそこ大きい診療所だ。
白衣を着た男は、場所も手伝ってどこからどう見ても医師に見えた。

わざわざそれが玄関で出迎えるのだから、どこか奇妙な齟齬がある。

少し躊躇い、斜め後ろについてくる子どもを振り返る。

「、」

振り返られた方は、きょとんと母親を見つめ返す。
何のことか分かっていない。

女はほんの少し堅い笑みを返す。

「はい、お願いいたします」

看板の無い病院に、3日振りの来院者がやってきた。


676VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 18:58:07.09I+vBpSWNo (4/19)






                -8 しかたない 診察編







677VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 18:59:29.49I+vBpSWNo (5/19)


「どうぞ」

「ありがとうございます」

診察室とは名ばかりの、豪華な絨毯敷きの部屋だ。

ビーンズ型というのか。歪な楕円型のテーブルにティーセットが並べられている。
それを挟んで母娘と男は向かい合った。

淹れなおした紅茶を一口分口に含んで、男はまっさらなカルテを一枚用意した。

「それで」

女が僅かに肩を揺らす。緊張しているのだろうか?
それも、無理な話ではない。

くるりとペンを弄ぶ。特にカルテに熱心になるつもりはない。

「当院のことはどなたからお聞きになりましたか?」

単に癖のようなものだ。

以前勤めていた職場では、何もかも記録する決まりになっていた。
医務室での処置や、檻に入った実験体の治療に使用した薬品の量も。

ペンをコトンとテーブルに落とすと、女は観念したように口を開いた。

「こちらの方からお話を」

差し出された名刺は、先日確かに男の所へやってきた1人の女性の物だ。
たしかその女性は妊娠29週目の胎児を堕胎するためにここへ来たのだったか。

薬物で弛緩させた彼女の子宮口から胎児を掻きだす手ごたえを思い出す。
取り出しやすくするために内部で3つに切り分けた体は、すでに人間らしい形をしていた。

胎児の遺体は廃棄した、とその女性には説明した。
実際は切り取ったパーツをつなぎ合わせてアルコールを満たした瓶に詰めておいた。

海外の死体マニアに二束三文で売り飛ばしたその標本は
パーツに分解して取り出したために学術的な価値はあまりない。

だが、ちょっとした思いつきで手を入れれば愛好家にとっての価値は跳ね上がる。

手術用の糸でなく、刺繍用の赤い糸でつなぎ合わせてやったのを
アーティスティックだとか何とか絶賛されて、長々としたメールを受け取っていたはずだ。
半分も読まずに削除してしまった。


678VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:00:03.79I+vBpSWNo (6/19)


ああいう変態の考えることはわからない、と男は思う。

送料や代金の他にチップを含めてたっぷり入金されていたのを記憶していた。
だからその母親の女性の名前は覚えていた。

稼いでくれた名前の次に、顔よりも健康そうな肉色の粘膜を鮮明に覚えている。
何もその女性に性欲を覚えたからではない。
ただ好きなのだ。人間の中身を感じることが。

「ああ……この方ですか。術後、お元気ですか? 定期健診に来ないもので」

「え? ええ。元気そうでしたが」

「そうですか」

女は目の前に出されたティーカップを手にするが、口元には運ばない。
しばらく掌を温めるようにカップを包んだ後、ソーサーの上にかたりと戻した。

「紅茶はお嫌いでしたか?」

「……いえ」

「何も入っていませんよ」

男は自分の目の前のカップを取る。

何も、この男は人殺しではない。
むしろ逆だ。医師として沢山の命を救っている。

ただ、事情があって病院に行けない人間に治療を施すのが仕事なだけだ。

車に撥ねられ、引きずられた患者を治療する。
様々な薬物のカクテルを呑んだオーバードーズ患者に胃洗浄や心肺蘇生を施す。

健康な人間の小指を切断することもあるし、小さな鉛の塊を肉を抉って探すこともある。
かと思えば、平凡な女の腹から胎児を掻き落したりもする。

糖尿で要介護の老人に「うっかり」インスリンを大量投与したこともあった。
借金の溜まった人間から、肝臓や腎臓や、角膜や骨髄や血液を抜くことさえある。

助けを必要をしているものに手を差し伸べているだけだ。
そして、その結果ただ困るものもいるというだけ。
だから別にこの女を殺すつもりはない。紅茶を不味くするつもりも。

ゆっくりと抽出されたウバの、少しオレンジに似た香りが湯気に乗って顔に当たる。
ティーカップの内側で揺れる同心円状の揺らめきを眺めた後で、そっと告げる。

「おいしいですよ」

「あ、ええ……」


679VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:00:42.09I+vBpSWNo (7/19)


誤魔化すように唇を付けた女の横で、小柄な少女がぼんやりとカップ眺めていた。
微笑みを張りつけて声をかけてやる。

「ミルク、入っていたほうがいい?」

「あ、」

子どもは嫌いじゃない。

男は薄く微笑んで牛乳の入ったポットをとってやる。
それに気付いて、女が思い出したように少女を振りかえり、ぎょっとしたような顔をした。

まるで今まで全く忘れていたかのようで、まるで一瞬誰だか分からなかったようだった。

男がほんの少しだけ眉を顰める頃には、女は元の澄まし顔を取り戻している。

「百合子、どうなの? ミルクいただく?」

自分の子供に話しかけるには、随分と緊張を孕んだ猫なで声だ。

百合子と呼ばれた少女は困ったようにカップと男の顔、そして母親らしい女を見比べた。

「え、ゥ、あの、」

「そうね、入れてもらいましょうか。熱いと飲めないわね。ね?」

「はい、」

「お砂糖も?」

「、」

何のことだかよくわからない。

幼い表情は明らかにそう告げている。

女はそれを無視して、各砂糖とミルクをボチャボチャとカップに落とした。
男の表情が少し険しくなる。

飲食物を無碍に扱ったり、何もしていない子どもを乱暴に扱うことを、彼は好まない。

粗雑に混ぜられたミルクティーのカップを握らされて、少女はおろおろと辺りを見回した。
母親をそっと見上げ、男の顔色をちらちらと伺う。
どうぞ、というように軽く頷いてやると、緊張した面持ちで華奢なカップに唇を付けた。

こく、こく、と、細い喉が滑らかに動く。


680VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:01:14.80I+vBpSWNo (8/19)


「は、」

一気に三分の一ほどを飲み終えて、しげしげとアンティークのカップを眺める。

「……紅茶が好きなの?」

「あ、えっと、あの、」

優しく問いかけたつもりだった。
少しだけびくついてから、小さな手がカップをもたもたと握り直す。

「こうちゃ、」

「うん? ミルクティーが好きなの?」

少女が母親を見上げた。女は頷く。

「、はい」

「……そう」

会話を打ち切ると、少女は小さく息を吐いた。

す、とカップの縁から香を吸いこんで、残った紅茶をちびちび舐めている。
細い指は職人が手描きで入れたカップの模様をなぞる。
磁器を物珍しそうに眺めているのを見て、男は大分機嫌を持ちなおした。

母親よりまともそうだ。
来客用にしてある気に入りのティーセットを出してよかった。

「それで、今日はお願いが」

女は少し尖った声を出す。
面倒くさいが仕方がない。そちらを向くと、やや緊張した視線とぶつかった。

「どんなご相談でしょう?」

この建物に来る者の8割が、無理な注文をつける。
だから、きちんとビジネスを成立させられるのは全体の7割以下。

できることならまともな相談を受けたい。
女の唇にじっと視線をそそぐと、それが一瞬震えて、こうつぶやいた。



「この子を女の子にしていただけませんか」





681VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:01:45.43I+vBpSWNo (9/19)


「……はぁ」

男の口から、らしからぬ声が漏れ出た。慌てて掌で顔の下半分を覆う。

女は不安げな表情で男を見上げるようにした。

「無理、でしょうか」

「いえ、いや……そうですか……」

未だにカップを膝の上に抱える子どもを眺める。
不思議そうにかくりと首を傾げる様は、あどけない。

男の子だったのか。

少しの落胆を覚える。
しかし、そうやって眺めても、ジャンパースカートの裾から伸びる白い脚は細く。
その折れそうな首の上に乗った頭蓋がきれいな卵型を描いている。

少女らしいということはない。単に服装が女物というだけだ。
この年頃で性差を決めるのは、服装と髪型。そして言葉遣いだ。

ただ少女、もとい少年は、無口な子どもというより、動く人形と言った方がしっくりくる。
元から喋るための機能を十分備えていない。そういう印象だった。

「あの、先生?」

女が遠慮がちに声をかけた。

我に返った男は、慌てたそぶりも見せずに短い唸り声を上げた。

「それは、今すぐに性別の転換を望むということでしょうか?
 それとも将来的に女性体に近づけるよう、長く「治療」をしていくといった……」

「いえ、今です」

「なるほど。仰ることはよくわかります」

こっそりとため息を漏らす。

この女は多分それほど賢くない。
説明が面倒だった。

「まず確認しますが、人間の体というものは……
 人形のパーツように取り換えたり修理したりできるものではないのですよ」

「それは」

解っています、と動き出しそうな唇を掌を立てて遮って
男はゆっくり椅子の背もたれに体重を預けた。


682VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:02:13.40I+vBpSWNo (10/19)


「性別の転換は、可能です。しかし、不可能だとも言えます」

「?」

「前提として、男性を女性に、女性を男性にすることはできないのです」

女が怪訝そうに眉を寄せた。

昨今のテレビメディアに取り上げられた性同一性障害のドキュメンタリーでも
半端にかじって鵜呑みにしたのだろう。

男は手元に白い紙を一枚用意し、すっと横一本の線を引いた。

線の左端に「男性」、右端に「女性」、と書きいれる。

「手術で外性器や骨格を変えることは出来ます。
 これは専ら切除することが中心ですが……作ることもある程度は可能です」

「つくる?」

男の持ったペンが、線の一番右、「女性」の字を指し示す。

「例えば、男性体に近づけるため、女性の乳房や子宮卵巣を切除する。膣を閉じる。
 これは切除の方面で、」

目の前の女の瞳が目いっぱい見開かれた。

ペン先はゆっくりと線の上を滑り、左端の「男性」に近づいていく。

「作ると言うのは、ホルモン治療で肥大させた陰核に延長させた尿道を通して
 擬似的に男性器を形成する手術を行う、といったような……聞いていますか?」

女の顔色が悪くなった。

こういった性に関連する手術は、健康な肉体にあえてメスを入れる行為だ。
性別の不一致で悩み続けた人間にとっては、大変画期的な方法だと思えるかもしれない。

だが、一般に女性の体を持ち、女性として暮らし、それに疑問を抱かない。

そんなような人間からすれば、健康な肉体を抉るなど想像もつかない。
ピアスの穴を開ける話をするだけで貧血を起こすものまでいるのだ。想像に難くない。

「……はい、」

「だから、それだけの手術をしても」

紙の上の線を辿るペン先は、「男性」の文字の手前でピタリと静止した。


683VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:02:42.40I+vBpSWNo (11/19)


「その女性は完全な男性にはなれないでしょう」

「はぁ、それは、元が女性なんですから……」

「そう。細胞は女性のものです。性染色体が。
 ……中には外性器と性染色体の合致しない方もいますが。それは今は無視します」

女が理解しがたい、といった表情を見せる。

こういった問題を手早くまとめるのは難しい。
どうしても誤解や認識のズレを埋めることができない。

「簡単に言うと、男性として子どもを残せないと言うことになります。
 もちろん子宮や卵巣も切除しましたから、女性としても妊娠は望めません」

つまり、どれだけ体の外観を弄っても、生殖機能ばかりは持たせられないと言うことだ。

将来的に体細胞からヒトクローン胚を作ることができれば話は変わる。
自分のDNAを持つES細胞を卵母細胞として人工授精を行うことは理論上は可能だ。
ただ、それはあくまでも理論であり、繊細な技術はまだあの都市ですら不可能だろう。

説明はしない。
そこまで言っても仕方がないからだ。

話を続けるために一呼吸置き、またペン先を「女性」に戻す。

「では、ホルモン投与による治療だけを受けて、生殖器に手を入れない場合です」

「どうなるのですか?」

ペンが線の中央からやや左、「男性」の側に寄る。
しかし、「男性」の文字からは大分距離があった。もちろん「女性」からもだ。

「外見は男性寄りでしょう。ただ胸部、腰部のシルエットはまだ女性に近い」

ペンの先が、「男性」と線の真ん中をほんの少し行き来する。

「男性ホルモンの影響で縮小はするでしょう。が、女性ホルモンは分泌を促せば……
 月経は起こります。当然妊娠も不可能ではありません」

「外見が男性でも、ですか」

「そうです」

なんとか理解は示したらしく、女は軽く頷いた。

男は目を上げずに、ペンを揺らす。


684VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:03:10.99I+vBpSWNo (12/19)


「次に、子宮や卵巣など生殖器と乳房を切除。
 ただし男性ホルモンの投与、陰茎などの外性器形成手術は行わない場合」

「ええと、切るだけで、作らないと?」

「そうです。その場合は」

ペンが線の中間からやや「女性」寄りをふらふらと彷徨う。

「これは、乱暴な言い方をすれば、不妊症の女性と変わりません。
 妊娠は出来ませんが、見た目は少々中性的な女性です」

とん、と紙の上にペンが転がった。

「ホルモンが大変減少しますので若干体調を崩す場合がありますが。
 同じようなことは男性にも言えます。性別を逆にしていただければ結構です」

「はぁ……あの、今のお話は何が?」

「ですから……」

男は軽い苛立ちを覚えた。
この女は話の前提すら覚えていないというのか。

「今お子さんはまだ小さい。性別を決定しているのは外性器くらいでしょう」

「え、ええ……」

苛立ちを僅かに含んだ声に、女がほんの少しひるむ。

「その外性器すら、生殖活動を行えるとは言えません。それとも、もう精通が?」

「せ……」

女が舌をのどに詰まらせたような音を発した。

「お子さんはおいくつですか?」

「はち……いえ、9歳、かと」

男が顔を上げる。「かと」だと?

退屈だったのか、眠たげに瞳を蕩かしている少年をちらりと見やる。
この少年の母親ではないのか?

「い、え。9歳です」

「……まあ結構です。私はそういったことには深く立ち入るつもりはありません」

慌てて言い直す女に向かって冷たく言ってのける。
悔しそうに唇を引き結ぶのを無視して、男は話を続けた。


685VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:03:37.63I+vBpSWNo (13/19)


「精通は?」

「……ありません」

当たり前といえば当たり前だ。

9歳で精通のある子どもは少ないだろう。
その上この少年は9歳児相当にすら見えない。
彼に言わせれば未発達極まりなかった。

「まだですね。つまり、今この子は中性よりの男性ということになります」

再度取られたペンが、線の中間、やや左の「男性」側を指す。

「この時期から少量ずつ女性ホルモンを投与すれば……」

「注射を?」

「思春期ごろには、かなり女性らしい体つきになります。
 場合によっては豊胸手術を施さなくても乳房ができますし」

「胸が大きくなるんですか?」

「まあ、可能です。乳房に関しては男女の性差はあまりないのですよ。
 男性に女性ホルモンを投与すれば、母乳だって分泌できますからね」

何事か考え込み始めた客を余所に、道徳心に欠ける医師は冷めた紅茶を一口啜った。

子どもは好きだ。
だが、ビジネスを優先しなければいつか飢えて死んでしまう。

だから止めない。

当の本人は、浅く腰かけた体勢のままでうつらうつらとまどろんでいる。

「ホルモン治療は、結構です」

女の言葉に視線を戻す。

「そうですか。では手術は何年後に」

「え? 今してください」

「今?」

ため息をついた。


686VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:04:30.87I+vBpSWNo (14/19)


「あの……聞いていませんでしたか?
 精通の無いうちに生殖器を除去すると子どもが出来なくなるんですよ?」

「結構です」

「いえ、その、精通が来てから、一旦精液を採取して保存しておくべきです。
 将来的に子どもを授かりたい時に人工授精を」

「結構です! この子は子どもなんてつくりません!」

静かな院内に女の声はヒステリックに響いた。

「……そうですか」

「ええ……」

「いえ、しかし問題はそれだけではありませんから」

女は面倒そうに顔を顰める。

こっちだって面倒だ。
男は出会ったばかりの依頼人に嫌悪感を抱き始めていた。

「男性から女性型に転換する場合は……
 精巣を切除した後の陰嚢の皮膚で外陰唇を形成するんです」

陰嚢に詰まっている精巣をこそげ落とす。
その後で、その包んでいた皮膚を切除、縫合して外陰部を作る。

性感を得る部分は敏感な神経が通っているべき場所だ。
だから、元からその部分にあたる組織から形成しなければならない。

同じように、陰核形成は陰茎の亀頭部を切除、縫合して形成しなければならない。

「それに、この体格ですと造膣できません。
 腸の粘膜を使うのですが体格的にそのスペースもなく、そもそも腸粘膜を採取できるか」

「ぞうちつ……お、女の性器を付けるということですか?」

「そういうご相談では?」

「違います! そういう、「付ける」手術はしないでください!
 ホルモン治療もいりません!」

「あぁ……そうですか」

いらいらと組んだ指を組み換え、ぎゅうと力を込める。
勝手な母親だ。


687VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:04:57.25I+vBpSWNo (15/19)


「では精巣を無くすということですか? パイプカットではなく?」

「パイプ……何ですか?」

「人間の男性に行う去勢手術ですよ。傷も少なくて済みます。
 精巣を除くのではなく、輸精管……ええと、精巣から精子を運ぶ管を切るのです」

これなら手術は簡単だ。
もちろんこの年齢の子どもに施すことは法で禁じられている手術だが。

「子どもは出来なくなりますか?」

「もちろん。精液に精子が混じらなくなりますから。
 精液は出ますから、人口の無精子症のようなものです」

「管を切って……出るんですか」

「あの、精液の主成分は前立腺分泌液なんですよ?
 精巣に直接精液が詰まっている訳でもない。色も見た目も術前とは変わりません」

「それは困ります!」

「……」

この女の言いたいことが段々と輪郭を持ち始める。

彼女の脳内のビジョンが方法に可否を示す度に、その不定形なものが外殻をつける。

「つまり、こういうことですか?」

男はトン、と机にペン先を下ろした。

線の中央。
「男性」とも「女性」とも離れた、まったくの中間点。

「男性でなくすこと。子どものできないようにすること。精液の出ないようにすること。
 女性器は付けず、つまり、性感を無くして、セックスのできない体にしたい、と」

「そ、そうです」

ほっとしたような笑顔を、女は見せた。

「まあ、可能です。陰茎、精巣、陰嚢を取ってしまえば……しかし」

今すぐには無理でしょう。

その言葉に女は息を呑む。


688VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:05:25.49I+vBpSWNo (16/19)


「9歳と言われましたが、この子は体格的には5、6歳程度。
 もう少ししないと、まだ器官が完全に出来上がってもいませんから」

「そんな……でも、早くしないと」

「まあ、精通が来てしまいますからね」

目に見えて焦る依頼人に、男は少し機嫌を良くした。

「陰茎は、尿道が通っていますから、もう少ししてからの方がいいでしょう。
 ただ精巣は多分……」

「切れますか?」

「難しいですが、切除可能でしょう。ただ本当に子どもを作ることは出来なくなりますよ」

「はい! 結構です! お願いします!」

心底嬉しい、と言わんばかりの笑顔で、女は横に座っていた少年を振り返った。

そして、とろとろと転寝してしまっている姿を見つけ、たった1秒で部屋が凍りついた。

「百合子っ!」

女の怒声と共に、バチン、とやたらに大きな音が響いた。

頬を張られた小さな体が、もんどりうってテーブルの角に額をぶつける。
そのまま床に落ちて小さく悲鳴を上げた。

「あんたって子は、何でそうなの! 人があんたのために先生の話を聞いてるんでしょ?」

ふらふらと上体を起こした子どもの腹を、スリッパのつま先が容赦なく蹴り抉った。

「あ゛ゥっ、」

「お母さんがお話しているのに寝てていいの? ねえ、百合子! どうなの!」

「ご、ごめ、なさ……ア゛っ」

謝ろうと口を開いた頬に再度平手が飛んだ。

「口答えするんじゃありませんっ!
 お母さんは百合子がちゃんとした大人になってほしいから言ってあげてるのよ!」

「は、ィ、ありがとォ、ございます、ごめンなさ、、ぼくがわるいです」

「そうね。駄目よ、百合子。これからは勝手に寝ちゃだめ、いいわね?」

「はい、」


689VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:05:52.18I+vBpSWNo (17/19)


頬と額を押さえて、零れそうに膨れ上がる涙の粒を必死に押しとどめ、
少年は母親の足元で這いつくばるように頭を下げている。

男は絶句していた。

薄い色の瞳が、テーブルの下から男を見上げる。
その瞳は恐ろしく純粋だった。

「助けて欲しい」でも「かばって欲しい」でもなく、「この人にも謝るべきだろうか」と。

男の腰の裏辺りに冷たいしびれが走った。

「……落ちついてください。彼はもう、僕の患者ですから。怪我されると困るんです」

わざと冷静な声を出すと、母親はばつの悪そうな顔で椅子に戻った。

「すいません。この子、ちょっと頭が緩いものですから。
 厳しく躾けないと分かってくれないんです」

「知的障害が?」

「いえ。単にばかなんです。まともに喋れませんし、字も……」

女は何でもないことのように言う。
単に、ばかなんです。

男の内心で黒い淀みが溜まっていく。

「そういえば、手術の際はここに入院することになりますが、よろしいですか?」

「え? ええ、まあ」

「学校はどうしているんです? 長期的な入院を挟みますよ」

「学校?」

女が不思議なものを見る目で男を見上げた。
濁った瞳だった。

「ああ……そういうものには、通っていないんですよ。登校拒否なんです」

「……そうなの?」

床の上で茫洋と中空を見上げる少年に声をかける。
緩慢に振り向いた顔が、ほんの少しの笑顔に歪み、かくりと首を傾げた。

「はィ」


690VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:07:07.12I+vBpSWNo (18/19)


男はその後、時間をたっぷりと使って支払いの金額を決め、
2週間後から検査のために入院を始めることを決めた。

まず検査をし、その後で慎重に精巣切除手術の日程を決める。
陰茎の方の手術は数年後、と約束を取り付けた。

普段だったらここまで丁寧なことはしない。

ただ、女の払おうとした金額が相当なものだったこと。
それに、あの少年の眼が気にいった。それだけだった。

帰りにふらふらと立ち上がる少年を呼び止め、男は低い頭を見下ろした。

「お名前は?」

「百合子です」

母親が間髪いれずに答えた。
それを視線で黙らせて、見上げてくる濃い琥珀のような色の瞳を覗き込む。

「お名前は?」

「ぼ、くは、ゆりこ、です」

「そう。よろしくね」

「あの、あ、、、」

「うん? ああ……僕は先生でかまわないよ。百合子、くん」

「せンせェ、」

「……そうだよ」

くしゃりと髪を撫でる。
不思議そうに首を傾げる少年から無理に視線を引きはがす。
男は母親の女性に向き直り、そっと内ポケットの名刺を差し出した。

「そういえば、こちらの名刺をさし上げていませんでしたね。
 遅ればせながら、こういうものです」

「頂戴いたします」

女は名刺の名前を見て、少し言い淀んだ。

「ああ、変わった名でしょう? うちの家系は皆、そういう変わった名前を付けるんです」

「はぁ、何と読むのですか? きょ……」

「失礼しました。それは……「こくう」と読むのです。よろしくお願いします」

「はい、先生」

女の手の中の名刺には、くっきりした明朝体で、「木原虚空」と印字されていた。


691VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:07:41.39I+vBpSWNo (19/19)


ここまでです。

変態外科医登場編でした。
虚空は刹那よりもっと小さい数の単位です。

なんか説明ばっかりですが、今回は消化試合的な感じで?
次回からまた頑張ります。
それでは。


692VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/14(木) 19:11:01.01gfNuVAvA0 (1/1)

>>1乙!
なんかすごい展開になってきたな


693VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)2011/07/14(木) 19:21:39.07g7R0cHPAo (1/1)

>>1乙
母親が息子のアレをナニするオカルト話思い出したよ
胃が締め付けられるようだぜ…
百合子うちにおいでよご飯も甘いお菓子もふかふかの寝床も用意するから


694VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/14(木) 19:29:18.96r/AGM/Qg0 (1/1)

>>1乙
登り続けるジェットコースターは下手なホラーより断然怖い。
個人的には足もとが開く階段を自分はバンジーの紐をつけて登ってるんだが隣を歩いてる可愛い子は何の命綱の着けてないようなそんな感じ。なんとか手でもつかめればと思うのに届かないorz


695VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/14(木) 19:35:03.17McsssDFJ0 (1/1)

>>1乙
百合子はいつも通り天使でした。
…女にはどす黒い殺意を覚えましたが。


696VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 19:53:19.07G7yY1ifVo (1/1)

乙乙
胃がキリキリしてくる


697VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/14(木) 20:03:13.12eT1Hjd0D0 (1/1)

>>1乙
木原…だと…?
もしかして木原一族の一人か?
ワクワクとドキドキがとまらん


698VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/07/14(木) 20:16:14.27ED1hih+6o (1/2)


お母さん木原一族かよ…どうりで。


699VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/14(木) 20:21:29.49UaDu2yYN0 (1/1)

>>1乙です。
先生、まさかの木原一族か…?
それより百合子と色んなとこにお出かけしたい。遊園地とか連れていってあげたい…。


700VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/14(木) 20:27:29.68CgFvgNm7o (1/1)

乙です
覚悟はしていたものの、これはお袋さん、駄目かもわからんね
二重の意味で


701VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 21:06:23.86Z6O5FQ1So (1/1)

マジこの阿婆擦れには反吐が出るわ・・・
頭が悪い上に邪悪すぎる・・・

SSとしては面白!


702VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/07/14(木) 21:17:11.75Dm2QfFBAO (1/1)

医者の名前がどうみてもアレな件


703VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/07/14(木) 21:47:14.40ED1hih+6o (2/2)

あ、母親じゃなくて医者が木原なのか。
木原にしては内面がまともそうだな。


704VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/14(木) 23:45:30.59fSM3sgsIo (1/1)
705VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/07/15(金) 02:07:43.48QG0kh6zto (1/1)

待ってました!乙です
覚悟してたけど百合子が天使すぎるのに対して
母親がクズすぎてむかつくぜ…


706VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/15(金) 08:05:25.94jsnXmluDO (1/1)

こわいから百合子ペロペロ愛でてくる


707VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/07/15(金) 08:48:20.85MpRKMGaAO (1/1)

この展開にドキドキが止まらない俺は間違いなく下種
すまんな百合子ペロペロ


708VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/15(金) 14:29:09.404LMadK4Fo (1/1)


じわじわ気持ち悪いものが這い上がってくると思ってたら木原姓きちゃった……
リアルでうわああああって避けんじゃったよ
「うちの家系は~」ってきたときに「まさかな…」とは思ったんだが
百合子に甘いお菓子いっぱい食べさせてあげたい


709VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/07/15(金) 20:50:39.49j9eDdtKe0 (1/1)


いやまさかとは思ったが先生木原一族だったか・・・
百合子家に来いとことん幸せにしてやる


710VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/07/17(日) 03:53:36.69bwRvk9hDO (1/1)

1乙!
男でもないのに読んでたら股関が痛いんだぜ…
先が気になるな


711VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/07/20(水) 03:09:57.237/gZ0Qe7o (1/1)

グロ耐性はあるから描写は全く問題ないんだが
ただただ百合子が不憫(´;ω;`)


712VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/29(金) 02:48:52.94lBAhBUZC0 (1/1)

百合子を俺が守りたい。


713VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/07/29(金) 13:24:16.50Q+cUXAA50 (1/1)

madakana-


714VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福岡県)2011/07/30(土) 00:11:05.86B0H9hxJk0 (1/1)

更新来たかと思ったじゃないか…


715VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:03:39.39OqmhV86Xo (1/12)


お久しぶりです>>1です。いろいろあって、すみません。

予想に反して百合子を優遇したい方が多かったのでびっくりしました。
各家庭に配布するためには百合子の数が足りませんね。
四等分とかしなければならないことに気付きました。本末転倒って感じですね。

>>704
うおおあありがとうございます!こんな幻想的なシーンにしていただいて良かったのか!
もっと精進します。百合子くん美人! なんか儚い気分になりますね。
あ、あと婚姻届送っておきましたのでサインしといてください。

では続きです。ちょっと短いかも。


716VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:04:09.75OqmhV86Xo (2/12)


目を開けると、夕日が差し込んでいた。

不自然な律動。
煙草や消臭剤の臭い。
レースのカバーのかかったシート。

「タクシー? なンで外に……」

寝起きのように、一つ欠伸を漏れた。

「ン?」

体がだるい。
なるほど。極度の眠気を感じる。きっと限界だったのだろう。

そこで俺が替え玉になったというわけだ。

女の姿を目で探すと、助手席で運転手とぽつぽつ話をしていた。
振り向きもしない。

大方、百合子の隣に座るのも嫌だし、顔だってできるなら見たくない、という辺りか。

ふ、とため息をついて、シートに寄りかかる。
普段座らされる擦り切れた畳より数倍は質のいい空間だった。

ブラブラと足を揺らした途端、俺は叫び出しそうになった。

実際に叫ばなかっただけ褒めてくれてもいいと思う。
代わりに変な声が出て、女がきっと振り向いた。

「何?」

「あ、ううン、なンでもない……」

「ああ、そう」

咄嗟に百合子のぼやっとした口調を真似てやる。
これには慣れている。

女がさっさと前に向き直ってから、俺は改めて自分の、百合子の体を見下ろした。

肌触りのいい綿のハイネックシャツ。ウール地のトラッドなスカート。

女物じゃねェかよ……

顔が引きつる。
一体何があったと言うんだ。

唇を舐めると、僅かに甘かった。


717VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:04:36.82OqmhV86Xo (3/12)






                -8 しかたない 監獄編







718VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:05:03.67OqmhV86Xo (4/12)


「ぐずぐずしないの」

タクシーの支払いを早々と終えて、女は早足で先を歩いていく。
まったく足の短い百合子のことなど考えてもいないだろう。

クソアマ。

筋力不足のやわな両足を動かし、なんとか蹴飛ばされない範囲で女の後を追う。

「ねぇ、アンタ分かってるんでしょうね?」

「え? あ……な、なにが?」

声は冷たく苛立っている。
寸前で「百合子のふり」を取りつくろって、俺は僅かに女を見上げた。

びちん、と太いゴムが弾けるような音。
耳から頬にかけての皮膚がはぎ取られたようにひりつき出す。

「っ、ゥ……」

「生意気な目……やめなさい!」

「はい、ごめンなさい」

大人しく謝り視線を足元に落とす。
これがお望みの対応だ。

本当は掴みかかってやりたい。
白くやわい肌をつねり、蹴って、爪を突き立て、くじり、噛みついてやりたい。

そして、それがどんな気持ちか知らせてやれたら……

俺にはできない。

百合子の体を傷つけるチャンスをやることはできない。
それに、俺はそういうためのものではないのだから。

「そう、出がけに言ったでしょう。忘れたのかしら」

「ァ?」

「他の人に言わないってことよ。よくできたわね」

女はちょっと指を反らして、掌だけで俺の頭を撫でた。
ぞっとする。吐き気をぐっとこらえて、深く息をつく。


719VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:05:30.19OqmhV86Xo (5/12)


出がけ。

俺じゃない。
聞いたのは百合子か。そして、その約束を守って「よくできた」のも百合子だろう。

本来ならこのぞんざいな褒め方をされるのは百合子だったのだろう。

ほんの少し唇をかむ。
百合子なら喜んだだろう。

一杯に目を見開き、ボンヤリとした笑顔をうかべて、はい、なんて従順な返事を添えて。

奪ってしまった罪悪感がねっとりと全身を覆って行く。
たとえどうしようもない女でも、百合子は彼女を「あいしている」。

そういう風に作られた、関係があるのだから。

「ずっとよ。ずっと、誰にも言わないの。いいわね」

「? はい」

あとで百合子に聞く必要がある。

何があったのか。
何を約束したのか。

そして俺もそれを守らなければならないだろう。
今上機嫌な女は、きっと約束を破れば激怒する。

百合子の体を傷つけるのはいけない。
できることなら、次に褒められるのは百合子でなければならない。

全部聞いて、演じなければならないのだ。

俺が百合子で、でも、百合子は俺ではない。

俺は何の名前も持たず、無個性で、感情を与えられ、ただ、百合子の代わりに――

「早く来なさい」

ふと気付くと目の前には錆びた金属の階段。
女は数段上から面倒臭そうな顔で俺を見下ろしていた。

足を上げて階段をぎこちなく登っていく。

貧弱な筋肉がぎしぎしと軋んで、息があがった。


720VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:05:56.33OqmhV86Xo (6/12)


外に出ることなど週に1度あればいいほうだ。

大抵は、女が感情に任せて、出ていけ、などと叫んだ時だけで。
それは決まって深夜で。
俺も百合子も靴など穿かずに、這うようにして近所の児童公園まで逃げた。

遊具の中で震えながら一晩明かし、朝になって恐る恐る戻る。
女がどこに行っていたのと横面を張り飛ばす。

これがお決まりのパターンだった。

少なくとも俺も百合子もそんな夜が嫌いではなかった。

公園の蛇口から流れる水はいくら飲んでも叱られなかった。
清潔な水で傷口を洗ったり冷やしたりできた。

ゴミ箱から誰かの食べ終わって捨てた弁当の残りを漁ったり、
運が良ければ身の少し残ったフライドチキンなんかを拾うことが出来た。

どう見ても女物の服を汚さないよう気を付けながら、俺は階段を上った。
女はため息をつきながら部屋に先に入って行った。

生きていることは幸せだった。

俺も百合子も、理由は違った。

俺は百合子が好きだった。
まるで、ペットが飼い主を慕うように、俺は百合子に全て任せられた。
そのためなら何でもできた。何でも。

俺と話をして、大切にしてくれたからだ。
吐き出されたヘドロのような存在を同じ次元に引き上げたのは百合子だ。

寄生虫のように内側を食い荒らしても、その方が楽になる、と受け入れた。
もっとましな人間だったらこんなに苦労させないのに、と謝った。

だから、俺は死に物狂いで階段を上った。
女の不興をかわないようにそっとドアを開けた。

そして失敗した。

ドアの隙間にするりと滑り込んでドアを閉めた。
一歩後ずさった途端、とっくに部屋に上がっていると思った女に体ごとぶつかり、

俺は、そのことを十年先まで後悔するだろうと思った。


721VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:06:22.85OqmhV86Xo (7/12)


「いたっ?」

白いエナメルと金具の華奢なピンヒールを脱ごうと前かがみになっていたからだ。

女はぐらりとバランスを崩し、とっさに俺の肩のあたりを掴み、
2人して玄関のたたきに、もつれ合うようにして倒れ込んだ。

俺は段差のヘリに頬骨をいやというほどぶつけ、そこを押さえてうずくまった。

「いやだ……爪が……」

「あ……?」

左手の爪を悲痛な顔で眺めていた女が、こちらにぎっと睨んだ。
まるで親の仇でも見るような視線だった。

どうして俺は上手くできないのだろう。

どうして百合子がこんな目に合わなければならないのだろう。

俺が悪いわけじゃない。

知っている。何がいけなかったのか。
昔、俺が初めて生まれた時に――

「服を脱ぎなさい」

「え……」

「高かったのよ」

女は冷たく言い捨てた。

怒鳴り散らされる前に、俺は靴を脱ぎ、丁寧に揃え、服を脱いだ。
苦戦したが、きちんと畳み、部屋のあまり汚れていないあたりにそっと置いた。

「あの……お、ぼくの、シャツは」

アンダーシャツとして着ていた丈の長いハイネックのシャツを脱げずにいる。
女はゴミ箱を顎で指示した。

まさか。

ゴミ箱の中には、俺が今朝まで着ていた薄汚れた大人の男性用Tシャツがあった。
摘まみ出すと、上から捨てたらしい排水溝に絡んだ長い髪がべとりと付着していた。


722VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:06:49.46OqmhV86Xo (8/12)


ぞっとした。

女の物だと思うと、吐き気を催した。
こんなものに袖を通したくない。

何故か判らないが、せっかく清潔になっているのに。
ああ、百合子なら気にしない。なんでもハイハイと言うことを聞いただろう。

俺は、百合子に比べて潔癖症の気があった。
この生活には大変なデメリットだ。

「早くしなさい」

選択肢はない。

俺は息を止めてヘドロのような髪を引きはがし、清潔な子供用のシャツを脱いで
着ざらして薄くなった、雑巾よりも汚らしい布に頭を突っ込んだ。

「ここへ来て」

グラグラと思考が揺れた。

いかにも、劣った存在だと示されているように思えた。

不衛生で、醜く、教養もなく、何にも秀でず、力は弱い。
じめじめとした石の下にぐじゃぐじゃと蠢く気味の悪い虫のような。

頬が張られた。

先ほど道で打たれたのと反対の頬がじりじり痛んだ。
思わず床に座りこむと、肩の辺りを蹴られる。
堅いヒールが二の腕の肉を引っ掻いた。

「お母さん爪が欠けちゃったわ。あんたのせいで」

「ご、めンなさっ、あ゛!」

脇腹に尖ったつま先がめり込む。
ひっ、と妙な声が出て、俺は横ざまに倒れ込んだ。

背中の左半分をごつごつと堅いものが蹴り、踏む。

「さっきも先生の前で恥をかかせるし、あんたは本当に、だめ。いけない子。だめな子!」

「ごェンなざっ、す、ひませ……ぎゥっ!?」

腰のあたりに煙草をおしつけた火傷は一昨日つけられたばかりなのに、
まだじくじく疼くそこにピンヒールがもろにぶつかった。


723VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:07:15.90OqmhV86Xo (9/12)


「か、ふ……!」

「煩いわよ! お隣さんに迷惑じゃない! お母さんが怒られるのよ!」

「ごめ、な……ぶッ!?」

顎を蹴られる。
視界がブレて、二重に見えた。

「お母さんが怒られてもいいのねっ? お母さんが痛くてもいいのねっ? どうなの!」

「よくな、よくない……よくないです……」

一息ごとに背中を蹴られるので、満足に発声もできなかった。

がつ、がつ、としばらく肉を蹴る音が内側から響いて、

唐突にドアのチャイムが鳴る音がした。

「ひっ?」

母親の声が上ずり、俺の左肩甲骨の辺りを蹴っていた右足がずるりと滑った。

「ィ、あああああああァ――――‐っ!?」

「うるさいっ!」

びぃっと音がした。

母親は俺を掴みあげて、どこにそんな力があるのか分からないほどの渾身で
彼女が「部屋」と呼んでいる押入れの下段に俺を投げ込んだ。

ふすまを閉められた暗闇の中、俺は口元に手の平を押し当て、早くなる呼吸を押さえた。

は、は、は、という早い呼吸と、心臓がどくどく震える速度が一緒になる。
背中の左側が同じ速度で脈打った。

ドアの開く音が向こうで聞こえた。

「はい、どちらさまでしょう?」

あの女のあからさまな猫なで声だ。

「隣のもんですが……」

ぎゅっと瞑っていた眼を開け、少し顔を上げる。
少し隙間から光が入るだけで、目を閉じているのと変わらない。

それでも声の主は分かった。
今朝何か飲み物と食べ物をくれた、隣の男だった。


724VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:07:42.77OqmhV86Xo (10/12)


助けてくれ、と叫びたかった。
体中が痛い。

しかし、今少しでも音を立てたら、さっきの3倍ひどい目に合うことは分かりきっている。

気を抜いたら漏れそうになる悲鳴を押さえ、がちがちと震えるのを必死に宥めた。

「何だか子どもの泣き声みたいなのが聞こえたんで……あー、何か、あったか、と」

「あら! それは……多分テレビじゃないでしょうか?」

「テレビ」

男が部屋の中にあるブラウン管の真っ黒いままの画面を眺めているのが分かった。

「それか、ああ、私が子どもを叱っていたのがそっちまで聞こえてしまったのかしら」

「ああ、お子さん……」

「あの子、すぐいたずらをするんです。
 さっきも私を押して転ばせて、ほら、爪が……大したことではないのですが」

少しの間どちらも黙っていた。
俺も必死で口元を押さえた。息苦しかった。

「ああ、いたずらを」

「ええ!」

「まあ、その、それじゃ」

いかないで!

じわりと涙がにじんだ。

「すみません、以後気をつけますので……」

「ああ、あの」

「はい?」

「足を怪我してますよ」

「え?」

そんなわけがなかった。
俺はぐっとシャツを引き絞る。


725VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:08:13.03OqmhV86Xo (11/12)


「ほら、サンダルに血が付いて。金具のところ……」

「あら、いやだわ、本当! ありがとうございます」

ドアが閉じる音がした。

左の背中の辺りをきつく握り締めていた右手に、何か生ぬるいものがべとついた。

一晩。
俺はそのまま押入れの中で息を殺し続けた。

背中からはじわじわと何かがしみだしていた。
ひょっとするとそれは血液かもしれないが、暗い所では見えなかったし、
むしろ俺はそれについて何も考えないようにしていた。

女は風呂場でぶつぶつ文句を言いながら靴を洗い、テレビを眺めて
風呂にのんびりと浸かった後で早々眠った。

布団を出す時に押入れを開け、俺は寝巻姿の女の脚を見た。

押入れの上の段から布団を一組出した後で、まるで俺のいる下段には
衣装ケースしかなかったかのように、何事も無くふすまを閉ざした。

汚いシャツをたくしあげて、ぐっと傷口に押しあてながら、
俺はほとんど死体のようにじっと動かなかった。

大丈夫だ。
すぐに治る。
痛くないし、なにもおかしくない。

そう自分に言い聞かせた。

指先がかじかんで、だんだん眠くなってきても、俺はそれしか考えなかった。

いつのまにか、黴臭い板に囲まれた押し入れは溶けるように消え去り、
俺はいつもすごしている小さな部屋に戻っていた。

部屋の反対側で、何も知らないまま幸せそうに眠っている百合子の影が見えた。
胎児のように丸くなり、両腕を頭の下に敷いて眠っていた。

部屋の薄い壁の向こうで、やたらと沢山の人物がざわざわ話し合うような声が聞こえた。

俺はそれを無理に黙らせて、次第に冷たくなっていく痛みの中、ただ孤独に待ち続けた。

誰かに押しつけるくらいなら、自分だけが痛めつけられるほうがずっとましだった。

そこからしばらく、記憶が無い。


726VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:08:39.62OqmhV86Xo (12/12)


ここまでで。

一旦消えたので書き直したり云々してたら短いですね。
ではまた頑張ってきます。

それでは。


727VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/07/30(土) 16:14:15.805/BY3bZH0 (1/1)

>>1乙
お隣さん・・・


728VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/07/30(土) 16:19:48.09DL3s/6e20 (1/1)

おっさぁーんんん
アンタ、アンタって人はぁあああ!なんだかんだいって良い奴じゃないかぁ、後一息頑張ってくれよぉ
あっ!乙です


729VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)2011/07/30(土) 16:21:28.39xhF+3iAE0 (1/1)


お隣さんェ……


730VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/07/30(土) 16:32:05.09v3MuXOzwo (1/1)

百合子たん…
小さい頃怪我したら消毒だといって母さんが指舐めたりしたよね
ってことは百合子たんをペロペロすれば万事解決かもしれないぞ!

>>1乙です


731VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)2011/07/31(日) 09:29:57.59fZxupTeio (1/1)

百合子の隣に住みたい
駄目ならおっさんと一緒でもいいから百合子の隣に住みたい


732VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/02(火) 01:02:43.725TTobaWJ0 (1/1)

ちょっともう限界だわ
続きは気になるが百合子がかわいそうすぎて見てられん
最初の方は百合子萌えで持ってたがもうだめだ見ててつらい

ハッピーエンドを祈って待ってる


733VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/02(火) 07:59:23.58dxM8NE9Lo (1/1)

一方通行が百合子を思いやりすぎて愛おしい…
この話気が滅入りそうだが頑張ってくれ。楽しんでるぜ乙!


734VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/04(木) 11:49:08.29QZAKgx7Ro (1/10)


暑中お見舞い申し上げます!

続きです!


735VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/04(木) 11:49:38.53QZAKgx7Ro (2/10)


「百合子、いつまで寝てるの?」

がた、とふすまを開けると、忌々しく醜い肢体を丸めた子どもが横たわっている。

女は顔をしかめて、押入れの上段に畳んだ布団を突きこんだ。

「……百合子?」

いつもなら、はい、と返事をする。
居住まいを正したり、おずおず出てきたりするはずだった。

やっぱり、この子は頭がゆるい。

そう、女は考える。

何の反応も返さずに寝転がっている姿は、暗がりに隠れて足元しか見えなかった。
ちり、と苛立ちが背骨の端を焼く。

聞こえない訳はない。無視しているんだ。

そう思うと、ひどい扱いをされている気分になった。

この子は、私にそんな態度を取っちゃいけないんだ。
もっと大切に、大事に愛して敬って、ずっと――

「百合子! ちょっと、私がきいてるでしょ? お返事は?」

細い足首を掴んで、ずるりと畳の上に引きだした。

「……」

それでも、小さな体は何も反応しなかった。

掌の中に握りこんだ足首はひんやりと冷たく、いつもに増して全身は白かった。
血の気の失せた顔が、ゆるゆるとこちらを向いた。

虚ろな瞳がかさかさと瞬きする。
唇が、少しだけ動いた。

「……」

小さな子どもにしては骨ばった右手の指が、握りしめていたシャツを外れる。
板張りの押入れの床に落ちて、ごとりと音を立てて。

ようやく女は息をついた。

「なに、何よ、それ……」

汚らしい雑巾じみたシャツの半身は、赤黒い血液で染まっていた。


736VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/04(木) 11:50:29.13QZAKgx7Ro (3/10)






                -8 しかたない 看守編







737VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/04(木) 11:50:56.37QZAKgx7Ro (4/10)


古びた診療所には1人の男の気配がしんしん満ちていた。

鼻歌混じりの機嫌のいい歌声が奥のキッチンから漏れる。

現曲よりもさらにゆっくりと、聞き覚えのないような歌を口ずさんでいる。
あるいは、数年後のとある少女に聞けば憤慨するような、古びた聖歌だ。

しゅうしゅうとケトルの中で湯の沸く音。
ポットを温めていた湯を捨て、紅茶の葉を落とす。
そこに沸騰した湯を注いで、保温カバーをかけた。

「――……」

機嫌が良かった。

のんびりと盆の上にポットとカップを乗せる。

今日も男はカウンター前で、つまらない路地を眺めるつもりだった。
眺める価値すらないようなその場所に、誰か客が来るのを待っている。

だがそれは建前だ。

実際のところ、まだあと5カ月ほどは食べるのに困らない。
その間に何か仕事をすれば、もっと長く。

今は、ただその機嫌の良さに浸っていたかった。

「……また来ないかな」

組んだ両手の上に顎を乗せて、鼻歌の続きを歌いながら紅茶の抽出を待つ。

ぞっとするような乙女思考だ。
純粋に、それのためだけに彼は近年でもトップクラスの機嫌の良さを発揮している。

色の薄い、育ち切らない体躯を思い出す。

あのほやほやと頼りない笑顔や、スカートの下の薄青く陰になった太股の細さや。
おとがいから首にかけてのなめらかな曲線。体格に見合わない長めの細い指。
まるくカーブを描く髪は蜂蜜を溶かした紅茶のような、あまい色合いできらきら輝いて。

そろそろ良い具合な紅茶のために、少しだけポットを揺する。
飛び散らないように、しかし香り高くカップに注いだ。

だが、ポットを盆に戻そうとした途端、それはやってきた。

ひどく大きな衝突音の後、忙しない拳が何度もガラス戸を叩く。

「え……ッつ!」

慌てて眼をやった拍子にポットから零れた淹れたての紅茶が指にかかった。
何てことだ。

舌打ち交じりにガラス戸の外にいる忌々しい来客を睨みつけた。

昨日やってきたばかりの、あの大嫌いな女がそこに居た。


738VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/04(木) 11:51:22.48QZAKgx7Ro (5/10)


髪を振り乱して必死にガラス戸を叩く女は1人だった。

外が明るく、診療所内が暗いために、外からでは中の様子がほとんど分からないのだ。
女は近くにいる男に気付きもせずに内側を覗き込み、戸を叩いていた。

その背後で女が乗ってきたらしいタクシーが戻っていくのがちらりと見える。

何故気付かなかったのだろう。

呆然としていた男も、ようやく腰を上げる。
火傷した指先を濡れたタオルできっちり冷やしてから、せめてもの嫌がらせにと、
たっぷりの時間をかけてガラス戸を開けてやった。

「おはようございます。どうしたんでしょうか、こんなに早くに……」

わざとのんびりと声をかけてやる。

「ああ、良かった、いらして……私、もう、あの……分からないんです。こんな……」

いらいらと、トーンの高い声で喚く女は大分取り乱した様子だった。

「落ちついてください。何かあったのですか? 今日は……」

そこで、白衣の男はぴたりと言葉を切った。

「……ご旅行ですか?」

「え? ああ、これは」

女ががらがらと引いてきたのは、使い古しのスーツケースだった。

真っ黒い外面には傷がつき、優に三週間分は詰め込めそうに大きな
荷物を転がすキャスターがきゃらきゃらと不愉快な音を立てていた。

「ここまで来るのも大変だったんです、あの、私……もう、重くて。
 でも、他にどうしたらいいのか……だってあの子……あんなですもの」

「何があったんです……?」

「あの……」

女はそのケースを乱暴に横倒すと、ガタガタやかましい音を立てながらこじ開け始めた。

バックルをぱちり、ぱちり、と開きながら、女は幾分落ちついたような、
心底疲れたような口調で続けた。

「本当に、すごく重かったんです。いやになるわ。まったく……」

ざわざわと男の胸に興奮が押し寄せる。

あっけなく開かれたスーツケースの中には、黒いゴミ袋が入っていた。
辺りに生臭さが立ち込める。

ゴミ袋の口から、つい昨日見かけたのと同じ紅茶を透かしたような髪が零れていた。


739VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/04(木) 11:52:24.21QZAKgx7Ro (6/10)


「そ、……っ!」

男は慌ててそのゴミ袋を抱え上げた。

ずっくり重いゴミ袋をはぎ取ると、実に汚らしいシャツとそれだけ新品の下着だけの
昨日別れたばかりのあの子どもに寸分も間違いなかった。

抱き上げた体が腕のなかで、ぬる、と滑る。

「う、」

赤黒く染まった雑巾越しに、男の仕立ての良いシャツにも赤い斑点が染みついた。
慌てて腕を引き、ケースの中に横たわらせる。

冷や汗で額に細い髪が張り付き、ひどい顔色だった。
呼吸は浅く、全身は冷たい。

「ああ、本当にくたびれたわ。なんてことなのかしら、困ってるんです、私……」

「何をしたんです!? 僕の……っ、患者に!」

舌の先まで一瞬漏れかけた単語を、男はぎりぎり飲み下した。

女はねぎらいや慰めの言葉がなかったことに少々むっとした様子を見せた。

この女は、頭がおかしいのだろうか。
何故自分の子どもを荷物のように運べるのだろうか。

「この血は?」

「さぁ、気持ちが悪いから良く見てないのですけど、多分これです」

そう言って女がスーツケースの底から取り出したのは、白革のミュールだ。
ベルト風のストラップを金のバックルが留める華やかなデザイン。

記憶が正しければ、昨日この女が履いていたものだろう。

「この、金具で切ったんです。多分」

女が指差したのは、金メッキのバックルのピンだった。

「こんなもので?」

「玄関で転んで、どこか切ったようなんです」

「……転んで?」

「ええ」

女はにこりと笑った。


740VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/04(木) 11:52:50.63QZAKgx7Ro (7/10)


「……とにかく、奥に運びますから」

男は、少年をくるんでいた黒のゴミ袋ごと、そっと抱え上げた。

小柄とはいえ、ずしりと重い体躯だ。
日頃運動不足の男の腕が、筋肉がみしぴきと引きつった。

診察室の奥にある簡易ベッドに横たえて、
男ははさみで雑巾以下のシャツを躊躇いなく裂いていく。

「これは……」

くふくふと浅すぎる息を漏らす少年の骨ばった背に、一対肩甲骨が飛び出していた。
そして、左肩甲骨の下から左脇腹にかけて、赤のクレヨンで引いた線が横切っている。

実際はあまり切れないナイフで布でも裂いたような、世辞にも綺麗と言えない切り傷だ。
血にまみれた周囲の皮膚を消毒液を染みさせた綿球で拭うと、固まった血液で
くっ付きかけていた怪我がパクリと赤い口を開いた。

ひどく性的だ。

男はそう思う。

手の中の華奢なミュールを寄せてみる。
確かにそのピンが太さや傷の深さにぴたりと合っていた。

そして、男はちらりと露わになった肌に目を滑らせた。

右大腿に蹴ったような大きな痣。
治りかけた擦り傷のかさぶたが左肩に。
首の付け根にはまるで首輪のように赤黒い痣が輪になっている。

両足の甲には完治したもの。脚や腕の内側の柔らかい皮膚や、浮いた腰骨の上には
まだ付けたばかりの煙草の跡がいくつも散らしてある。

「その子不注意で、良く怪我をするんです」

「……そうですか」

血のにじむ傷口に仮でガーゼを当てながら、男はその見え透いた嘘に歯噛みした。

「この怪我は今朝?」

「さぁ、昨日の夕方だったと思うんですけど」

「時間がわからないのですか」

いらいらと男は続ける。

先ほどはさみで裂いたシャツの汚さに辟易する。
それを血まみれのゴミ袋に包んで医療用ゴミのボックスに落とした。


741VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/04(木) 11:53:17.19QZAKgx7Ro (8/10)


「多分夕方です」

「何故もっと早く医者に見せなかったのですか。真皮まで切れていますよ。
 細い血管がズタズタになって、戻らないんです」

そこまで言って、男は口をつぐんだ。

そもそもこの子どもは日頃食べ物をきちんと摂取しているのだろうか。
元から貧血気味だったとしたら……

「とにかく、傷を洗って縫合します。待合室でお待ちください」

この子どもを一生懸命運んできたというのに一言のねぎらいも無い。
それに腹を立てた様子の女は、返事もせずにぷいと行ってしまった。
20かそこらの娘でもないのに、ひどく幼稚な行動に見えた。

「これは洗浄しないと膿むな……」

部分麻酔の準備を始める。
奥の部屋に少年を運んで、念入りに手を洗って戻ってくると、台の上の生き物が
ほんの少しだけ、そっと瞼を開いているのが分かった。

「百合子くん……」

「……れ?」

掠れたような小さな声だった。

誰、と。

「先生だよ。僕だよ。可哀そうに……」

そっと薄い色の髪を撫でた。

母親のいるときは堅く閉じられていた瞳が彼を見上げる。
虚ろな視線がゆるゆるなぞる。

「さむ、ィ……」

震える小さな手を大きな白い手がぎゅうっと握りこむ。
熱を分けてやれば、向こうも弱弱しく温かい掌にすがった。

「大丈夫。僕が治してあげる。心配ないよ」

「……た、すけて……」

「あぁ……いいこだね」

自分の冷たくなった頬に触れて過ぎて行った暖かいものに、
朦朧とした子どもは気がつかないだろう。

もう一度手をくまなく洗いながら、男は晴れ晴れと笑顔を浮かべた。

「いいこだな……」

そして、昔から望んでいた最も不幸な思いつきをこの子どもに実行しようと心に決めた。


742VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/04(木) 11:54:34.14QZAKgx7Ro (9/10)


麻酔の針に悲鳴を上げさせて、消毒液を溺れるほど振りかけて傷を洗った。
丁寧に丁寧に、肉に針をぷちぷち通して、よく縫合してやった。

健康的な生活を送りさえすれば、ほとんど目立たない傷になるだろう。
とろとろ眠りだした髪を撫でて、そっと整えてやる。

点滴をセットして、病衣をかるく着せかけた小さな体をベッドにうつしてやってから、
男は計画をはじめることにした。

待合室で暇そうに爪を眺めていた女を診察室に通して、
ティーバッグの熱い紅茶を淹れてやり、馬鹿にもわかるように何度も説明をした。

「ですから、経過を見るためにも百合子くんを入院させましょう」

「でも……」

「どうせ抜糸までの10日です。それに、傷が不衛生だったこともあります。
 化膿しないか心配なんですよ。体力もあまりないようですしね」

くっと女が言葉に詰まった。

ことさらに優しげな声を出しながら、男は宥めるように女にねだる。

「僕が経過を見ますから、その点はご安心いただけると思いますが。
 それに、今ここから動かすのは大変ですよ? またケースで運ぶわけにも、ほら……」

ぐずぐず迷っている女に内心毒づきながらも、笑顔は優しげに。

「あの、」

「はい?」

「入院費を出せないんです」

男は成功を確信した。

「これから長くお付き合いさせていただきますし、ええ、検査入院ということで、
 先日いただいた代金にすでに含まれている分だけで結構ですよ」

「……でしたら、お願いいたします」

数か月ぶりに心から笑顔を浮かべた。

「はい、お預かりいたします」

女が軽いケースを引き摺って帰った後で、男は診療所のドアを施錠した。
インターホンは内線につながるように設定してある。

ケトルにたっぷり湯を沸かす。一番好きなセット。一番いい葉。
きちんと淹れた紅茶を持って、客間を改装しただけの薄暗い病室へと急いだ。

そうして青い顔で眠っている少年が起きるまで、じっと枕元で紅茶を飲んで待っていた。

本も読まず。音楽も聞かず。
ただ嬉しそうに、笑顔で寝顔を眺めていた。

10日間の計画が彼の中でゆっくりと練られていった。


743VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/08/04(木) 11:55:05.85QZAKgx7Ro (10/10)


ここまでです。
ねちっこい。

続きはしばらく間が開くと思いますので、短いながらも投下しました。
ではまた今度です。


744VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/08/04(木) 12:23:59.020QWEQ5Nno (1/1)

うおぉん。乙です。
一瞬、百合子が死んだかと思ったわ。


745VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/04(木) 15:09:43.116jYZ42Oyo (1/1)

乙です

百合子…百合子おおおおお


746VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/04(木) 17:53:01.45yfSSVVfFo (1/1)

乙です
そしてこの変態医者め!


747VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)2011/08/04(木) 17:59:58.85BfaLxKFK0 (1/1)

百合子が変態医者にあんなことやそんなことをされてしまう・・・


748VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/08/04(木) 19:49:34.50feyjgiiL0 (1/1)

乙です!

母親と変態医者どっちがマシなのか・・・


749VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/08/04(木) 21:27:59.16+9D8sMi20 (1/1)

乙です。

うわああ百合子に幸あれ!



750VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/05(金) 00:38:41.866j1mTNLx0 (1/1)

>>1乙です!
決めた。俺、医者になる。百合子専門の優しい先生になる…!


751VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄)2011/08/05(金) 18:58:07.67Hkh4/PWAO (1/1)

うわぁぁあああ
>>1乙!!!

>>750
だったらそこで看護師やる
それで百合子を目一杯甘やかしてやるんだ…!


752VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(沖縄県)2011/08/05(金) 20:50:53.58++uI6foDo (1/1)

妹達や上条さんたちの触れ合いって百合子にとって始めてのものだったんだな…


753VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/08/08(月) 17:24:38.53M9HE2vMk0 (1/1)

ぐぉおっ
>>750、>>751
それなら私は調理師の免許と栄養士の免許をとってそこに住み込みで百合子に甘くて美味しくて体にいい栄養のあるものを毎日作ってあげる…!

それと、>>1乙です!


754VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/09(火) 02:06:06.922ZXqgnBw0 (1/1)

読み返して気付いたんだけど、黄泉川を宥める百合子のしぐさは「お母さん」に対してのやり方を実践していたんだね。
と、いうことに気付いて最初の時とは違う涙が出たわ。
つーか、読み返すと「あぁ、こういう伏線だったのか…」と気付くことが多くてまた違う発見が出来る。
まだ読み返してない人は読み返してみた方がいいよ!


755VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/08/09(火) 10:53:49.92mGc9CU2O0 (1/1)

>>1乙!

>>750、>>751、>>753
じゃあ俺院長になって百合子を本気で愛せる人材を集める!



756VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/09(火) 22:16:13.13lDSJ5qSE0 (1/1)

涙と吐き気が止まらないよ…
読みたいのに読めなくてつらい…
百合子…


757VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/10(水) 14:14:42.86Cc/zaqUDO (1/1)

ここから医者の虐待に入るわけか


758VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/08/18(木) 08:31:18.428Bx+s+EAO (1/2)

ほむぅ…


759VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2011/08/18(木) 15:56:07.70aXzSoRg/0 (1/1)

あげるなカス


760VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/08/18(木) 23:56:28.588Bx+s+EAO (2/2)

ほむっ


761VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)2011/08/19(金) 09:20:34.964oUR7Co70 (1/1)

百合子ェ・・・


762VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/19(金) 14:59:17.88GhbHQZsz0 (1/1)




763VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)2011/08/20(土) 00:51:55.5689RC22qK0 (1/1)

乙です


764VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/08/20(土) 01:36:01.71pZDgZJ5AO (1/1)

ほむぅ?


765VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/20(土) 07:59:44.13qu1Dmspmo (1/1)

一方さんスレは大変だな……

乙!


766VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/20(土) 22:00:39.391v6IirBIO (1/1)

もう既に看護師資格あるから、今からその変態医者張り倒して、うちの病院にかもんしたい…


767VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州・沖縄)2011/08/21(日) 01:05:52.24kCfHb54AO (1/1)

>>766
百合子への熱い愛は伝わった
だがしかしsageてほしい


768VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/21(日) 03:07:28.27l8SqV0CDO (1/1)

久々にきたらナニコレと久々に全身の血が沸騰したような感覚に陥った


769VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/08/21(日) 04:44:09.80p9xf08xAO (1/1)

あげんな


770VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/08/21(日) 11:57:03.06uRiOGfDAO (1/1)

さてウナギの回収でもしながら1を待つことにしよう

ヌルヌル


771VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県)2011/08/21(日) 21:23:37.07qIKlIvaq0 (1/1)

百合子と一方さんの頭なでなでしながら1を待つ。
医者?知らん。


772VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海)2011/08/23(火) 01:08:26.19GJ/cPCfAO (1/1)

ホビャァァァ-----!


773VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)2011/08/24(水) 00:17:11.97TSpasInb0 (1/1)

ほむほむ好きな東海の人・・・sageようぜ


774VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/26(金) 23:55:55.26pGte/x+Yo (1/1)

>>1はまだか!


775VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/27(土) 16:57:24.21ceuLwIWDO (1/1)

見たけど意味わからんし
気持ち悪いな;
書いてるやつが病院いけば^^


776VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)2011/08/29(月) 00:24:42.23fEp0Pksn0 (1/2)

>>775
そう思うんだったら見なきゃいい
俺は好きだから見てるんだし


777VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/08/29(月) 00:40:43.69tRplS0jEo (1/1)

まさかとは思いますが、この「気持ち悪い」とは、あなたの存在ではないでしょうか。
もしそうだとすれば、あなた自身が統合失調症であることにほぼ間違いないと思います。


778VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/08/29(月) 08:40:14.62sAMede8v0 (1/1)

煽りはスルーしろよ


779VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/08/29(月) 19:26:30.23cybYHlHy0 (1/1)

>>775は作り手からしたら結構な褒め言葉だけどなー。
それだけ真に迫った描写ができてるってことだから。


780VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)2011/08/29(月) 23:48:33.54fEp0Pksn0 (2/2)

>>779
(自分は>>776です)そうだったかー・・・なら色々謝る。
あと今度からスルーすることにします



781VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/08/31(水) 17:27:09.73fl/9MVTlo (1/1)

まだかしら自治スレッドでローカルルール変更の話し合い中
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1314546216/


782VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/05(月) 22:57:21.302WgsWO7ao (1/1)

>>1!
>>1はまだか!


783VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/09/06(火) 14:36:35.64oIji2Lez0 (1/1)

>>1無事かー?
台風結構すごかったけど。


784VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)2011/09/07(水) 00:24:37.03jVtcmbB60 (1/1)

>>1
元気かー?



785VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/07(水) 14:49:58.155Y2gmbsIo (1/1)


>>1です。
なんかご心配おかけしているみたいで……すみません。

投下ですが、私情でもう少し遅れます。ごめんなさい。
書き溜めはちゃんとやってますので、逃亡はしないつもりです!


それと、やっぱり>>1の注意書きが不十分だったかな、と思いました。
何だかんだ言ってもちょっと特殊なネタですからね。

あんまり書くとネタバレかと思ったのでさっくりにしてしまったのですが、次気をつけます。
意味がわからないは、素直にごめんなさい!

多分同じことを思って黙ってこのスレを閉じた方は沢山いるんじゃないかな、と思います。
最後まで残ってくださる方が1人くらい居ることを信じて、そこそこのんびり書いていきます。
中々不定期な感じですが、よろしくお願いしますね。


台風には流されないで済みました。ご心配おかけしてすみません!ありがと!

では、時間見つけて頑張って書き溜めします!


786VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/07(水) 14:52:14.03oo1hLDtWo (1/1)

>>785
無事でよかった、俺はずっと舞ってるから最後までよろしく頼みますよ


787VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛媛県)2011/09/07(水) 19:52:18.74iLwq7SqMo (1/1)

>>785
おお、きてたのか
いつまでも待ってます
投下できそうな日がわかったら報告してくれると嬉しいです


788VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/07(水) 20:17:20.83ryDsA37o0 (1/1)

>>785
いつまでも待ってます
次が楽しみです

書き込むの初めてなので、sageられてなかったらごめんなさい


789VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/07(水) 21:09:55.60VBSDok6Xo (1/1)

大丈夫、スレ立てからずっと応援してる
>>1のペースで無理せずに


790VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/07(水) 23:52:07.39ALeldlVEo (1/1)

1さんが無事に戻ってきてくれてよかった
完結するまでずっと待ってますので、
落ち着いたら戻ってきてください


791VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)2011/09/08(木) 00:13:34.10ulX4/OJ10 (1/1)

>>785
舞ってるよ
頑張ってください。


792VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/09/09(金) 08:25:46.69KJZNImAv0 (1/1)

>>785
最後までぜったい見てるから
遅くなっても完結まで頑張ってくれ。


793VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/09/10(土) 08:30:09.28Qi7rp3hd0 (1/1)

>>785
待ってます。
ずっと続き楽しみにしてます。


794VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)2011/09/10(土) 17:27:42.69XlmDx0L70 (1/1)

>>785
いつまでも待ってます!


795VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/12(月) 13:17:48.68Tyncmt+e0 (1/1)

>>785
俺は最後まで見るぜ


796VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/18(日) 23:31:23.80ButW1gUdo (1/1)


>>1です!!!!

えっと、0時過ぎくらいに続き投下します。
頑張ります。


797VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/18(日) 23:32:19.160IjtQKiAo (1/1)

きたあああああああああ!
寝ないで待ってるよ!がんがれ


798VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:05:15.30MXZUyhuLo (1/13)


>>1です!
長いことアレでしたが、ようやく時間が取れたので投下です。

レス、励みになります!
ありがとうございます!!!

ではつづき!今日はアレですがすみません!


799VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:05:44.47MXZUyhuLo (2/13)


ふと、どこかでドアチャイムの鳴るのが聞こえた。
まぶたを持ち上げることでようやく、男は自分が眠っていたことに気づく。

白く波打つシーツが、真っ先に視界に飛び込んできた。

重い頭を持ち上げる。ベッドに突っ伏していたせいで全身が軋んだ。
首を曲げるときにぴりっとした痛みが走り、小さく声を立ててしまう。

「う……」

若く見られるが、実際はもう30より40の方が近くなりつつある歳だ。無理が堪えていた。

「ン、」

それに答えるように、細い吐息が聞こえる。

はっとして口元を押さえ、男は様子うかがった。

大丈夫、まだ、眠っている。

点滴の痕が内出血していないことを確認して、男は横にどけておいた椅子に腰掛ける。

つるつると蝋でもひいたように黒く光る床に、埃がつもる音まで聞こえてきそうだった。

しかし、その静寂を破るように、再びドアチャイムの音が鳴る。
男は舌打ちまじりにサイドボードに置いた旧型の電話の受話器を取る。
院の正面玄関にあるインターホンからの内線だった。

起きてしまったらどうするんだ。

怒りを深呼吸一つでなだめて、男は感じのいい声を出してみせる。

「はい? どちらさまですか?」

「木原先生ぇ!」

途端にどこかで聞き覚えのあるだみ声が大音響で鼓膜を突いた。

眉間に皺が刻み込まれる。

「……ええと?」

「いつもお世話になっております、早朝にすいません」

ちっともすまないと思っていない声だ。


800VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:07:46.39MXZUyhuLo (3/13)


来客はよくこの医院を利用している「有限会社」の名前を出した。
いわゆる裏の稼業の顧客だった。

それにしても、と男はため息をつく。

彼らは病院をコンビニエンスストアと勘違いしている節がある。

自分たちが怪我や病気で苦しんでいる時にはいつでも、
医者は快く治療をしてくれるものだと思っているのだ。そうとしか思えない。

そもそも医者が夜眠るものだと知らないのかもしれない。
電話のディスプレイに表示されている時刻は、午前4時をほんの少し回ったところだ。

教養のない人間は嫌いだ。

そう思いながらも、男は愛想のいい声を出した。

「どうされました? この間の処女膜再建手術に、何か問題でも?」

そんな訳がない。

彼がその手術を施したのはまだローティーンの4人だった。
行き先は推して知るべしと言うところだ。
もう彼らの手元にはいないだろう。

「違います、社長が病気で!」

「社長が?」

というと、あの腎不全で透析通いをしていた男だろうか。
病気など、元からだろう。

男はこめかみを押さえてうつむいた。
手持ちぶさたにコードをいじっていた指で、目の前の茶色の髪をそっとなでる。

「どういう症状です?」

「それが、」

今日だけは、ずっと一緒にいようと思ったのに。

「……わかりました。すぐ行きます」

長いまつ毛の目尻に溜まっていた涙を吸い上げてやると、少しだけ元気が出た。


801VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:08:28.17MXZUyhuLo (4/13)






                -8 しかたない 偏愛編







802VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:09:15.65MXZUyhuLo (5/13)


                          どろどろとした黒いものが部屋にたまっている。

                           よく来る場所だ。いつもはもっと清潔なのに。

                                   正方形な部屋。一辺は鉄格子。
               その向こうに何人かの人々がそわそわと動いている気配がする。

                        褪せた水色のタイル床の中央には排水溝がある。
              そこがごぼごぼと詰まって、赤黒い水をぼこぼこと吹き上げていた。
                                     このままでは、部屋が沈む。

                         壁に背中を預けて座ったままで視線を巡らした。

                     向かいの壁際に、まったく同じ背格好の子どもが居る。

                                             顔が見えない。

                                             「百合子……」

                               あの正体のない透明人間の声がした。

                                         「ごめン、な、俺……」

                                    声がだんだん遠くなっていく。

                                            「え、、、はッ、」

                                タイル貼りの床がばらばらと抜ける。


一瞬の浮遊感の後で、体はバチンという音と共に叩きつけられた。

「あ゙ゥ、」

真っ白い布。
古びた病室のベッドの上に、鈴科百合子は横たえられていた。

ここ、どこ、かな
あのおうちじゃ、ないかな

寝返りを打とうとして、左背中の皮膚が妙にひきつっているのに気づく。
そっとさわってみる。感覚がなかった。


803VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:09:57.08MXZUyhuLo (6/13)


「ン、あ、、、あー、」

声を出そうとして、喉がかさかさに乾いていることに気づく。
頭が、体中が重い。

やだ、なンで、こンな、どこ、だれ、やだ

くるくると思考が独楽のように回転する。
展開することのない、堂々巡りの思考だ。

ふと、左肘の内側にテープで留めつけられたチューブを見つけた。
天井近くにつり下げ垂れた透明な袋から、雫がぽとぽとと落ちている。
それが、ずるずると体の中に入ってきているらしかった。

ぞっとすうような恐怖が指を動かした。
やわやわと腕から延びる点滴チューブを握り、引きちぎろうとしたちょうどその時。

意識すらしていなかった古い木のドアが重たげに開き、
白く長い服を着た人物が顔をのぞかせた。

「ああ、ダメだよ、それは。取っちゃダメ」

歩み寄って、チューブを握ったままの手に触れてくる。
ひぃ、と悲鳴がこぼれた。

「ご、め、ンなさ、ッごめンなさいっ、これ、」

「うん、おいで」

緊張のあまりガチガチと硬直する体を、その男は自分の膝に乗せた。

「ひ、」

「疲れた……」

「あっ、あ、あゥ、、、」

正体の知れない恐怖のために、百合子の全身ががたがた震え出す。

「どうしたの? 寒い?」

「や、やだ、やだ、ごめンなさ」

「泣かないでいいんだよ……ごめんね。びっくりしたね」

過呼吸気味にしゃくりあげる喉を猫にするように指先でくすぐってから、
男は白衣を脱ぎ、目の前の小さな少年の肩に着せかけた。


804VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:10:59.08MXZUyhuLo (7/13)


「今、毛布洗ってるんだ。あんまりいい匂いじゃなかったから。干したら持ってきてあげる」

感覚のない左わき腹や、チューブの刺さった腕に触れないように、
男はそっと白衣の上から抱きしめ、髪を梳く。

「う、ぼく、なンで、あの、」

「ん? ここは病院だよ。怪我したから、ここにお泊まりするんだ」

「びょういン」

「そう」

おそるおそる顔を見上げると、そっと微笑まれる。

「せ、ンせい」

「あ……覚えていてくれたんだね?」

ぎゅうと苦しいほど抱きしめる腕の中から、少しの鉄錆と消毒液の臭いが鼻をついた。

「嬉しいなぁ。ありがとう」

「はあ、」

長々とため息をついて、男はぼすんとベッドに倒れ込んだ。
やんわりした振動。

「あのね、お手伝い頼んでいいかな?」

髪を撫でながら疲れたように言う男に、ぱちりと色の薄いまつげが瞬いた。

「おてつ、」

丸めた手が、小さな耳を掬うように持ち上げる。

「そう。あのね」

注ぎ込まれる内容に、こくり、こくりと頷いて、鈴科百合子はへら、と笑みを浮かべた。

「できる?」

「ン、あ、、、はい」


805VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:11:25.59MXZUyhuLo (8/13)


白衣に包まった少年の耳に遠くの方から車の音が聞こえたのは、数時間も後だった。

あの狭いアパートにいた時は、そんなものはひっきりなしだったのに。
すぐそばを走る線路。踏切。やかましい原付の走行音に、換気扇や、パチンコ店の音。

その音の正体を、少年は知らない。
ただ、音がしていることだけは知っていた。

車の音が聞こえた後で、ドアチャイムの音がした。
少年はその音の正体は知らない。しかし、どうすればいいのかは知っている。

「お手伝い」だった。

震える指をそっとベッドの隅に置かれた電話機に伸ばす。
膝の上に乗せられた男の頭を揺らさないように、起こさないように、そっと。

「ゥ、」

かちゃ、と白い受話器を持ち上げると、やかましいドアチャイムはぴたりとおさまった。
そっと、それを耳に当てる。

つるりとしたプラスチックは少し重くて、冷たかった。

「は、い、、、どちらさまですか、」

きちんと言えているかどうか自信がなかった。
向こうで人のたじろぐ気配。

「あ……えぇと、」

男性だ。
年齢は百合子の母親と同じくらいかと思われるが、彼にはそこまで分からなかった。

相手が子どもだというのに合わせてか、感じのいい声が続けた。

「木原先生の個人医院であっているかな?」

「う、あ、あの、きょ、、、」

「あー……先生は?いる?」

男の声がまた一段階優しくなった。
震えながら、少年は唇を開く。

「い、ます、、、けれど、でも、」

「え?」


806VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:11:51.86MXZUyhuLo (9/13)


乾いた唇を舐めて、百合子は受話器をしっかり握った。

「あの、の、、、せンせいは、つかれてる、ので、きょ、は、おしごと、、、できませン」

「……えーっと、おやすみなのかい?」

「は、は、、、、ァいっ」

声が上ずる。

チラリと下を見れば、膝の上にやや長めの髪を散らして、その「先生」は眠っていた。
ゆったりとした呼吸音が聞こえる。
時折、腰に回した腕がびくりと震える。

「う、、、ごめンなさ、、、」

「ああ、いいんだよ! あ、いや、ちょっと待ってね」

「、」

インターホンから少しだけ声が遠くなる。
向こうに誰かがいて、何か相談しているようだった。

「どうしようか、母さん」

「あらあら、せっかく来たのにお休みだったなんて……」

「しかし、今日でないとまたしばらくチャンスがないな」

夫婦らしいその会話に、少しとがった子どもの声が混じった。

「なー、もういいって! 病院とか、俺、別に病気じゃないじゃん!」

男の子?

百合子は受話器に耳をピタリとくっつけた。

「だけどなぁ。腕が良いお医者さんらしいし、見てもらったら何か変わるかもしれないぞ?
 父さん会社の人に無理言って紹介してもらったんだが」

「いーって言ったらいーんですっ!! そもそも、何だよっ、久しぶりに帰ってきたら病院って!
 それでも親かッ! 普通、家族だんらんとかそういう痒い感じじゃないんですかっての!?」


807VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:12:18.21MXZUyhuLo (10/13)


ざざ、と些細なブレスが入った。

「よっ!」

「ン、え、、、」

受話器から男の子の声が聞こえた。

自分に話しかけているんだろうか?

「お前ここんちの子なの?」

「ち、ちが、ちがゥ、よ、」

声がきりきりと上ずった。

「入院してんのか?」

「、、、わかンな、あ、、、ごめンな、さ、」

「ふーん。あ……えっと、そのー……元気出せよ! あ、ここに、のど飴おいとくからっ!」

「え、、、なに、」

後ろから、両親が子どもを呼ぶ声がする。

「おーい、もう行くぞ当麻」

「当麻さーん!」

受話器を握る手が、汗で滑る。

「あ……じゃあ、またな!」

「あ、あ、あ、、、ぼく、」

「ん?」

「ゆりこ、、、」

「お、おお! またな! そのー……ゆ、ゆりこ?」

「、、、う、ンっ、とーま」

ずるりと手の中の受話器が滑った。

「あ、」

ねろりとした声が耳を這った。

「お手伝いしてくれてたんだ? ありがとう。偉い子だね」

「せンせ、」


808VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:12:44.73MXZUyhuLo (11/13)


がじゃり。
受話器が戻される。

「せンせ、ェ」

「うん?」

何事か理解することもできていなかった。
ただされるがままに首筋を舐められながら、少年はのろりと振り返る。

「あの、げンかン、に、、、」

「玄関?」

「なにか、くれた、から、、、とりに、いきたい、、、です、、、」

「お届けもの? あ、だめだ。今日は安静だよ。待ってて」

ぎぃ、とドアが軋んだ。

ずり落ちた病衣の肩を直し、掛けられた重い白衣を引き上げる。

どうせ戻ってきたらまたはぎ取られるのだろうというのは、なんとはなしに理解していた。
脇腹にこびりついていた粘液が腹を横断して伝い落ちる。それを服の裾でぐしぐし拭う。

何か、ここに居てはいけない気がした。

「先生」は優しかった。
今まで、経験したことのない優しさだった。

彼の頭を撫で、優しく抱きしめて、いい子だ、偉い子だ、と口にしてくれた。

それでも、どこか本能的な部分が警鐘を鳴らしていた。

それは、彼の中に長年かけてゆっくりと育てられた、暴力の気配を感じる器官だ。
体の中に埋まりこんでいるその器官はちりちり警鐘を鳴らす。皮膚を逆立てる。

しかし、それでもいい。

「愛して」くれるなら。

ぱたぱたと足音が戻ってきた。

「お待たせ。これ?」

「あ、、、」

ぽい、と飴玉が放られる。

キャッチすることもできずに、それを額で受け止めながら、少年は先ほどの声を思い出す。


809VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:13:18.59MXZUyhuLo (12/13)


「飴なんかもらったの?」

「う、うンっ、、、」

恐る恐る見上げると、男がくすりと肩をすくめて見せた。

「とらないよ。食べなさい」

「あ、、、」

包み紙と悪戦苦闘していると、男はそれをそっとやめさせ、包みを剥いだ。

「うわぁ、人工甘味料の味だ……ひどいな!」

「あ、あ、あ、、、」

口元で飴玉をぱくりと含まれたことに抗議しようと口を開く。

「おいで……」

後頭部を大きな掌が包み込む。
髪を撫でる。耳をつまむ。

「ン、く、、、っ、」

ぬるりと侵入を許す。
溶けだした甘味料で甘く染まった唾液を大人しく飲み下す。

「う、ェ、」

「ああ……ごめん。絶対安静だったね」

すいと身を引かれて、ぼんやりと唾液を一筋零した。
ばれて、汚したと叱られる前に、それを袖口で拭う。

何がしたいのだろうか、この人は。

僕は、食べ物じゃない。

教育不足の脳がとろとろと無駄な思考を繰り返す。

「あまい、」

「うん、そうだねぇ」

「すっぱい、、、」

「酸味料の味だよ」

ころりと口の中で転がした飴玉は、何の因果か、レモンの味だった。


810VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 00:14:07.24MXZUyhuLo (13/13)





ラブラブ(棒)

ということで、ここまでで。
次回はもうちょっと早く来れるように頑張ります。では!


811VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/19(月) 00:15:08.14OBPDVGA3o (1/1)


上条さんとは一度会ってたのか…切ねぇ


812VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/19(月) 00:16:17.66H54ekEtao (1/1)

おつ、相変わらず百合子は可愛いし先生は気持ち悪い
忙しいだろうけど頑張ってくれ、期待して舞ってる!


813VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/09/19(月) 00:26:26.39xYKFAWDS0 (1/1)

乙です。当麻くんktkr!百合子くんかわいい。先生になりたい。


814VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/19(月) 00:31:46.97jdm3Ux5y0 (1/1)

乙。
俺も百合子くんに飴をあげたい。もちろんラブラブしながら。


815VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東日本)2011/09/19(月) 00:50:47.84Nx2+HeiR0 (1/1)

乙です。番外ちゃんにもらってた飴も黄色って事はレモンかな?


816VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/09/19(月) 01:44:13.56Tf9ITyPe0 (1/1)

きたー!乙乙
先生怖いな気持ち悪い
レモン味ってのがまた…

更新がんばってくれ楽しみにしてる


817VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/09/19(月) 07:46:59.64RIuU/mUAO (1/1)

乙乙
レモン・・・oh・・・


818VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/19(月) 08:15:12.51jWN3AXyVo (1/1)

乙です
久々に乙出来ることがうれしい

医者の変態行動を上書きしてくれたわァすちゃんマジ小悪魔天使


819VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/09/19(月) 10:33:05.79DtmbrxEDo (1/1)

変態だー!
乙。


820VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/09/19(月) 14:12:24.69dlD8NtAC0 (1/1)

乙です。
当麻と会ってたのか…
相変わらず先生変態すぎ、百合子マジ天使。


821VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/19(月) 16:54:24.83Sq/YGCpV0 (1/1)

先生キモいなww



822VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)2011/09/19(月) 18:50:25.61fg218R2j0 (1/1)

おお更新きてた!おつです
先生がすごくきもちわるいwwwwww


823VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉県)2011/09/19(月) 18:53:28.22cHmP6mUs0 (1/1)

乙です
先生気持ち悪いけど先生そこ替われ!


824VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)2011/09/20(火) 00:33:47.52etdDzVyk0 (1/1)

乙乙
百合子かわいいけど先生気持ち悪い早くそこかわれ
上条さんここにもいたのか、ぱねえ!


825VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/09/20(火) 02:16:17.12G1ZX4gJAO (1/1)

今一気に読んだ。
隣の家の少女で抜いた俺としては、凄く好きなジャンルだわ。
 
1乙!


826VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/20(火) 03:22:49.32D9E6pbtho (1/1)

乙です!!!!
先生本当に気持ち悪いワロタ
上条さんと会ってただなんて…せつねえ…


827VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/20(火) 11:07:02.54EBOw+DhKo (1/1)

>>1乙!
先生いい感じに気持ち悪いwwwwww
でも、この時点だとユリコたんは電話越しに会話したけど、
一方たんと上条ちゃんは出会ってないんだよな…
生存報告二週間に一回くらいはあると助かるなぁ


828VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/09/20(火) 23:44:18.25QuiCai4p0 (1/1)

乙です!
もし、ここで上条さん達が中に入ってきてたら、もし引き取ったりしれくれてたらって。色々考えると空しくなる。
無茶苦茶なのも無理なのもわかってるけど、ホント百合子にはできるだけ早く幸せに成って欲しい。


829VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/09/20(火) 23:48:20.57aiNTFmqAO (1/1)

乙です!
これもう泣きそうなんだけど…


830VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/21(水) 12:49:49.04Fx4Ny58v0 (1/3)

乙!
センセきもいな



831VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/21(水) 12:49:50.41Fx4Ny58v0 (2/3)

乙!
センセきもいな



832VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/21(水) 12:49:50.79Fx4Ny58v0 (3/3)

乙!
センセきもいな



833VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)2011/09/22(木) 01:30:31.981PDMDHSX0 (1/1)

>>830->>832
落ち着け


834VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)2011/09/25(日) 00:25:46.78QoIuUks40 (1/2)

せんせーのキモさが半端ない!!


835VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)2011/09/25(日) 00:26:31.26QoIuUks40 (2/2)

忘れてました
乙です!!


836VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/09/25(日) 01:09:40.32CW7gTQsco (1/1)

sageろ


837VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/09/25(日) 02:45:50.75fdG9SL3I0 (1/1)

ん?お母さんが木原で医者も木原一族なのか?


838VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:52:48.14XOfpCezRo (1/16)


>>1です。

>>837
分かりにくくてすみません。
木原姓は先生だけです。

先生=木原虚空
お母さんは名前出しません。

台詞の前に名前が無いと分かりにくいですね。
ご面倒おかけしております。



【注意】
今回はけっこうあれです。
対象年齢が、とは言いませんが、エロ、グロ、猟奇、異常性癖が強い回になります。

苦手な方は飛ばしてください。
「飛ばしても次回以降話が分からなくなるということは、多分ありません。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「あ、ダメだな!」と思ったら静かに飛ばしてください。

直接描写は控えましたが、一応ご参考までに。
このSSは虐待や児童への性接触を支援するSSではありません。


839VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:53:16.02XOfpCezRo (2/16)


小児性愛。

いわゆる、ペドフィリアは精神病だ。

日常語として用る「変態衝動」では、主に思春期未満の女児への性欲を指す。
もやもやとした概念は、つまり要約すればこういうことになる。
「ロリータ・コンプレックスをさらにこじらせ低年齢化させた性癖」。これは常用の場合だ。

精神医学で小児性愛という診断を下すためには、更に細かではっきりとした分類がある。

まず、一つ目に。
13歳以下の子どもにわいせつな接触をしたい。実際に行う。
またはその妄想をして著しい性的興奮を催す状態が半年以上も長く続いている。

二つ目。

実際に、13歳以下の子どもへのわいせつ行為を行う。
もしくは、そうしたいという衝動、空想のために、子どもに会うこと恐れたり、
誰かにその空想を見抜かれることに怯えて対人恐怖を起こす状態。

三つ目。

少なくとも、その人物が16歳以上で、性的な興味を持つ対象より5歳以上年上であること。

そして、この基準は成年との性的接触に関連しない。
要するに「大人も好きだからペドフィリアではない」といういいわけが通用しないのだ。

「下は何歳から、上は何歳まで」のストライクゾーンが13歳以下に適応されてしまうなら
それがペドフィリアという精神病である。

だから、ペドフィリアは「ロリータ・コンプレックス」を単に幼年化させただけではない。
対象となる子どもの性別も確定しないのである。

ペドフィリア嗜好者、ペドフィルは、女児のみでも、男児のみでも、その両方を対象としても。
等しく、「ペドフィリア」として扱われ、本人の性別にかかわりなく病名としてこれを記される。

もちろん、想像するべくもないことだが、
女性のペドフィルよりも男性のペドフィルの方が絶対数を多くしている。

また、このうち最も多いのが
「本人が男性で、13歳以下の男女両方に性的な衝動を覚える」タイプだ。

木原虚空も、これに該当する。

そう、彼もまた著しい「精神疾患」を抱えている。


840VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:53:58.23XOfpCezRo (3/16)






                -8 しかたない 原罪編







841VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:54:48.25XOfpCezRo (4/16)


木原虚空がペドフィリアを自覚したのは随分昔のことだ。
それこそ覚えていない頃。むしろ、その頃は精神分類上の「小児性愛」ではなかった。

つまり、16歳未満だったのだ。

長いことそれは空想の域を出ないものだった。
子どもとの接触も、また健全な部類に収めていた。

髪を撫でる。
抱き上げる。
膝の上に乗せる。

長いことかけて性欲をにじませないように細心の注意を払った振る舞いだ。
かえって丁寧なくらいで、周囲からの評価は損なわれなかった。

成績は優秀だった。
顔も醜くない。表情が柔らかい所為で、人からは好青年だとよく言われた。

「将来は教師になるんじゃないか」

今、知っている人が聞けば顔色を失くすようなことを、よく、言われた。

彼はそれをいつも通りのやんわりとした笑顔でいなした。

そして、ただ、ただ真摯に学習を続けた。

親類一同が次々に研究者を排する「木原」の一族の中で。
がむしゃらに医師という選択を選んだ。

彼が本当の意味で小児性愛という精神疾患を患ったのは、
研修の二文字がとれて医師として独り立ちした年だった。

わざわざ海外まで出向いて大学を飛び級した。22歳のことだった。

喘息で入院中の11歳の女児は死亡。
病院側は死因を隠ぺいし、木原虚空を解雇した。

女児の遺体は肋骨の半分が砕け、左脇腹に穿孔。内臓が複数破裂。
死因は直腸と膣粘膜からの大量出血と、外因性の肺気胸による呼吸困難だった。

彼はその時のことを全て覚えている。
行為を収めた記録媒体は擦り切れるほどに見返した。

腹部に穿孔して陰部を差し込んだときの異様な興奮と性感。
手術用の器具で肋骨を折り砕き、やわらかになった腹を撫でて、
血液が脈に沿って間欠泉のように湧きだす器官を擦りあげた。

それまでの22年間で一番幸福な3時間だった。


842VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:55:14.27XOfpCezRo (5/16)


彼も医師だ。

それが精神障害であることは自覚していた。

ただ、往々にして、悪い組み合わせというものが存在する。
小児性愛に加えて彼はナルシストの気があった。

つまり、自分の性癖を治療するなんて屈辱的なことはしたくない。
ばれなければいいじゃない、という利己心の塊。医者の不養生極まれり、というところだ。
ただし精神の不養生は彼自身によりも他人に牙を剥く分、悪辣だった。

なぜなら木原虚空がサディストだったからだ。
性癖としては誰もが知るサディズムというのもまた、性的倒錯を超えた病的なものになる。

加虐性愛。

よく耳にする、ソフトSMやら、性的なプレイとしてのものではない。
もっと純粋に、単純な暴力行為を加えることで性感を感じるタイプのものだ。

性行為に及ぶ時には、凶器を服数種類、そばに用意すること。

それは特に選ぶ訳でもない。

そこに椅子があればそれで頭部を殴りつければいいし、刃物があれば臀部の肉を抉った。
何もなければ首を締め上げて、舌骨を砕き、指で眼を抉る。

それが躊躇いなく行える。そういうタイプの人間だった。

病院を辞めさせられてからは、遠縁の老人が指揮をとる研究所に勤めた。

学園都市、という奇妙に殺伐とした街で、怪しげな研究を手伝うことは簡単だった。
いつもは医務室でぶらぶらと過ごし、実験のときには投薬や健診を手伝う。

実験体は子どもばかりだった。
超能力に関する研究をしているそうで、成熟した大人では実験体にできないらしかった。

彼にそういったマッドな研究は理解しがたかった。
が、子どもを被検体にすることが非常に使い勝手の良いことだというのは理解できた。

大人が被検体だと、被検体を育てるまでに20年を要するが、子どもなら半分以下だ。

短くて済めば、楽だ。
そう、研究所の老人は思っていた。

木原虚空にとっても、楽だった。

使いものにならなくなった被検体は「処分」してもいいことになっていた。
息絶え絶えで耳の穴から血液を滴らせるそれを、こっそりくすねることもできた。

十数年、そこに勤めた。


843VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:55:44.39XOfpCezRo (6/16)

途中何度か勤務する施設が変わったが、やることはさして変わらなかった。

セックスの回数が重なるにつれて、手にかけた子どもの数は増えていった。
終いには、実験にかける前の健常な児童すら犯し、殺した。

数は2ケタの後半にさしかかろうとしていた。

通常の殺人犯なら捕まった。
しかし、公然の秘密として人体実験を行う研究所の中だ。

気付く所員も見て見ぬふりをし、死体は施設内の焼却施設で焼かれる。

止める者もなかった。
遠縁の老人は、「仕方のない奴だな」と笑うばかりであった。
30を超えた時になって、ようやく別の研究機関に左遷された。

丁度10歳年下の、従弟の指揮する研究所だった。

「ご乱交ぶりは聞いてるけどよぉ、ここではもうちょい大人しくしてくれねーかな?」

そんなことをガシガシ髪を掻きながら言う従弟に、彼は眉をひそめた。

昔、彼が何度手を広げても膝に乗らなかったという難攻不落の少年は、
いつのまにか筋ばって育ちきった目つきの悪い青年になっていた。

日陰に籠りっぱなしの彼よりも背丈は掌一つ分高く、腕や胴周りも太く筋肉を付けていた。
生白い彼と違って、従弟はきちんと日に炙られた、人の肌らしい肌色だ。

「がっかりだ」

正直に言えば、この時彼は泣きだしてもおかしくないほどの落胆ぶりだった。

「何がだ」

「可愛くないにも程がある……」

「まさかテメェよぉ、俺が未だに、こーんなチミっこいガキだと思ってた訳じゃぁねーよな?」

従弟は自分の臍のあたりに手をかざした。

そう、昔彼と会ったときは、それくらいの背丈だったのだ。
無愛想で「不愉快だ」という表情をして見せるのがうまい、嫌な子どもだった。
が、子どもには違いなかった。

木原虚空にとってなによりも重要なのは、相手が自分より何もかも劣っていること。
人間として未熟な存在であることだった。

「そうだ、人間って生きてれば成長するんだよねぇ。数多くん、老いたなぁ」

「育ったと言え」


844VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:56:11.02XOfpCezRo (7/16)


従弟との交流は久しぶりに人間らしいものだった。

何も、大人が憎い訳ではない。
性欲の対象から外れるだけだ。

まともに人間らしい付き合いを、と思うならば、むしろ初めてとも言っていい程だった。

「数多くん、結婚しないの? 子ども作らないの?」

「作らねえよぉ。作ってもテメェには見せんわ」

「ケチ……ああ、僕もお嫁さんが欲しいな、そろそろ」

医務室の机に頬をぺっとりとくっつけながら言う彼は、そろそろ適齢期も過ぎていた。

「そーいう寝言ァ、16歳以上の女と寝てから言えよペドコン」

仮眠室代わりにベッドに転がった従弟はコーヒー党だと言って、
彼が何度紅茶を淹れても口すらつけず、見向きもせずに研究資料を漁っていた。

「子どもを孕ませるセックスはしたくないんだ」

子どもならば性別は問わない。だが大人とは性交したいとすら思わない。
やっかいなタイプだった。

「避妊しろ」

「月に一度血が流れてくるような穴に突っ込むなんて気が狂ってるよ。
 それに、胸が脂肪と乳腺で腫れてくるなんて……きもちわるいじゃない」

「バカ、それが良いんだろ!」

「えー。数多くんおっぱい好きなんだ……」

ガバリと身を起こした従弟は「信じがたい」という顔をしていた。
彼に言わせるなら従弟の方こそ正気の沙汰だ。

「……乳が嫌なら海外で同性婚でもしてこいっての。ペド卒業なら野郎でもマシだ」

「精液の臭い嫌いだから、精通した男の人はいやだなぁ」

「あぁそぉですか……我儘なオッサンとか存在価値ねえわ」

「ワガママっていうけど、うーん。数多くんは例えばさ、僕と結婚できるわけ?」

「しねえ。死んでもしねえ。俺が女でもしねえ。つーか死ね。苦しんで死ね。不愉快」

「でしょ。僕もやだよ。つまり僕は一生結婚できないってこと……」


845VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:57:01.01XOfpCezRo (8/16)


ため息をついた原因はそれだけではなかった。

端的に言えば、「溜まって」いたのだった。

初めてかもしれない友人に言われた「控えろ」の言葉通り、彼はこの研究所に来てから
一度もセックスをしていなかったし、つまり1人も殺していなかったのだ。

5カ月、耐えた。

それまで、少なくとも月に1度くらいは「愛していた」のだから、この禁欲生活は長かった。
ひとえに人間らしく口をきいてくれる従弟に嫌われたくないがためだった。

あれがいなければ、我慢する必要ないのに。

あれが「大人しく」とか「控えろ」なんて言わなければ。

例えば、ただのサディストならそんなことはしなかっただろう。
ただのナルシスとでも、ただの小児性愛者でも、そんな真似はしなかっただろう。

木原と名のつく家系に生まれた。
執着心が強く、頑固で、目的のためには寝食はおろか、一切をかなぐり捨てる家系。

本人の病的な執念もあった。
彼が研究者になれという無言の強制を無視し、がむしゃらに睡眠を削って勉強をしたのは
ただ、医者になりたかったから、という一言で片づけられた。

何故医者になりたかったのか、と言われれば、もちろん、
人間を思い通りに生かしたり殺したりしたかったからだった。
子どもに手を掛けやすく、信頼され、必要とされ、手段と道具が手に入る環境を。

それなのに、何故我慢しなければならない。頭の芯がじんと痺れる。

何で?

「数多くんのせいだ」

「は?」

従弟が資料から顔を上げると、木原虚空の顔は予想よりずっと近くで彼を見つめていた。

「何だよ、気色悪、」

彼は眉間にしわを寄せた。
腹の辺りに年上の男の握りこぶしが押し当てられた。ぷちゅ、と弾けるような音がする。


846VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:57:30.55XOfpCezRo (9/16)


「な、あ、」

資料を慌ててはね上げると、白衣の上から押し当てられた従兄の握りこぶしの間から
医療用のハサミの柄が覗いていた。

この野郎、やりやがった。

要観察、という老人の言葉を忘れたわけではなかった。
ただ、あまりに人間らしく振る舞うから、忘れていただけで。

イカレてやがる。気狂い。

そんな風に動く唇を掌で塞いで、木原虚空はへら、と中身の無い笑みを浮かべた。
愛想が良い、好青年だと言われてきた完璧な作り笑いではない。

「控えるよ。大人しくしてる。君の前では。それなら、仲良くしてくれるんだよね?」

引きぬいたハサミについた血を拭って、白衣のポケットに突っ込む。

痛み止めを静かにうってやる。
肘の内側に刺さる針に顔をしかめることもなく、震える手が白衣の襟を締め上げた。

「何の、つもり、だ」

「病院に行ってもらう」

「おれを、追いやって、何……する」

「なんにも? だから、おやすみ。元から睡眠不足だったんだ。眠いでしょ? 寝ていいよ」

重そうに瞬きをする感覚が、徐々に緩慢になる。
浅かった呼吸が静かになる。
舌が塞がないように献身的に首を傾けてやって、確かめるように彼も首を傾げた。

ドクドク緩やかに血が溢れる傷口をガーゼで押さえる。
男は受話器を持ち上げ、施設内の誰ともわからぬ研究員に向かって手早く声をかけた。

いつもと同じ、のんびりした調子の声を。

「もしもし? 数多くんが怪我をしちゃって。救急車呼んでくれない? 僕忙しいから」

軽い調子で「怪我」などと言うものだから、救急車を呼んだ者も軽い怪我だと思っていた。


847VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:58:03.49XOfpCezRo (10/16)


頭を打ったので一応病院で検査を、とか。
薬品がかかったからきちんとした洗浄を、とか。

木原虚空がそれをしないのも、本当に面倒がっているだけで。
もしかしたら仲のよい年下の従弟に過保護になりすぎているんじゃないか、と笑っていた。

だから、医務室のベッドで顔色をなくしている彼の腹に当てられたガーゼが、
たっぷり3枚も鮮血に染まっているとは思っていなかったのだった。

「何があったんですか!?」

「ちょっと不注意で事故を起こしたみたい。早く搬送して。一応痛み止めは打ってある」

入ってきた救急隊員が手早くシーツを抜き取って、ストレッチャーに怪我人を移していく。

医務室まで先導してきた研究員はただうろたえ、2人の親類同士の男を交互に眺めた。

ベッドサイドに置かれたソラマメ型をしたステンレスの膿盆に、
大判のガーゼが真っ赤に染まっていた。

立ち上がった虚空がその上に医療用の薄手ゴム手袋を外して投げ、
まとめて医療用のゴミ箱へ投げ込む頃には、彼の従弟は搬送されていくところだった。

「あの、先生これは……」

「薬で意識が朦朧としているかもしれないけど、出血はそこまでじゃない。
 心配ないよ。命に別状ない。静かにしてくれ」

「でも」

あんな怪我、何をしてできたのか。

「先生、あの」

白衣の背に声をかける。

何でこんなにいつも通りなんだろう。

他の研究所から回されたという医者は、医務室をまるで保健室のように変えていた。

仮眠場所を提供し、病院に行くほどでもないような相談にも乗り、薬を処方した。
女性職員のなかには、ただ紅茶を飲みにやってくるものもいるようで。

学生の時利用した、保健室のような、心地いい空間を提供してくれる。
穏やかで、丁寧な男で。


848VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:58:55.61XOfpCezRo (11/16)


「君、うるさいって言われない?」

「え、」

口元は笑っている。
目も優しげにほほえんでいる。

よくある、目が笑っていない、なんて、そんな分かりやすい感じじゃない。
彼は心底優しそうに笑っている。

ただ、気配だけが尖りきっているのだ。針のように。

「昼の食堂で数多くんの怪我の真相を話したいだけだろ?
 君、そういう人だね。情報がほしいだけ」

「あっ、ひ、私は……」

ぬるり、と長い腕が肩口に延びた。

「だめだなぁ、数多くんの怪我を噂話のネタにするなんて」

耳元でショキショキ音がする。
床の上に黒い髪の束いくつか、ぱらりぱらりと落ちた。

どうしてそんな穏やかな男が、こんな小さな研究所にまで回されてきたんだっけ。

「うひ、いいいっ!」

そうだ、この男は、

「行儀悪い」

バヂン。

「いひぃいいいいいいいいッ!!?」

右耳を押さえてうずくまった研究員に背を向けて、彼はハサミを蛍光灯に透かした。

その真下でぺろりと舌を出す。
ハサミを振って落とした滴がそこに乗る。

「……ダメだ。ぜんぜん興奮しないよ。ぜんぜん。ぜんぜん、ダメ」

「あ、ひぃ、みみ、耳、切っ?」

「取れちゃいないよ」

べっ、とうずくまる研究員の背中に血の混じった唾液を吐きつけた。


849VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:59:29.12XOfpCezRo (12/16)


「はい、手をどけて」

医者らしい物言いだった。それも小児科のそれのような優しい笑顔、物腰で。
何のためらいも感じさせない。

「ひぇ、い、やめ……」

「いい子だから。どけないと反対もやるよ」

ちょきりとハサミを鳴らしてやると、手はそろそろと開いていく。

チューブの薬品をべとりと塗り付けたガーゼで乱雑に耳を覆ってやって、
先ほどまで腹に穴のあいた従弟が横たわっていたベッドに追いやる。

「い、だい、耳、っ、ひ、」

ああ。

傷ついた耳がジンジン脈打つようだ、と研究員は浅い息をついた。
パニック。理不尽な傷害に対する恐怖。

そうだ。この人は、「木原」の人なんだ。

研究員は、先日うっかり実験体を植物状態にしてしまったときに、
先ほど搬送された「木原」に奥歯が折れるほど殴られたことを思い出した。

ぞっとするような恐怖。

なぜあの時、この研究所を辞めておかなかったんだろう。

見ていたかったから?
机上の空論と言われた案件が実験結果に結び目を解かれ露わになっていくその課程を?

好奇心で、救急隊の先導をかって出たことを後悔した。

「は……」

背後の濃い色のため息に身を堅くする。

殺される。かも、しれない。

研究員の下腹を恐怖が突き刺す。

「……数多くん。やっぱり、だめだ、僕。女の人も、男の人も」

違う。自分はお前みたいなバケモノの従弟じゃない。
さっきその人は運ばれていったじゃないか。狂ってる、こんなの……病気だ。

「ごめんね、数多くん」

分厚い本を優しく閉じたときのような音で、優しく医務室のドアが閉まった。

遠ざかる足音に、横たわったままの研究員が失禁せずにすんだのは、
単に15分前に偶然小用を済ませていたという、ただの幸運にすぎなかった。


850VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/10/04(火) 16:59:55.21XOfpCezRo (13/16)


しばらくして、責任者の従兄の医者はひっそり研究所を去った。
学園都市という区域からも逃げ出した。

優秀な医務室の勤務医がやめていった理由は、しばらくあれこれ噂された。
尾ヒレとしか思えないような、そんな内容ばかりだった。

従弟が突然怪我で入院したことに責任を感じているだとか。

あの顔の痣は、退院した従弟にリンチまがいの殴打を受けたせいだとか。

入院中に実験室から消えてしまった植物状態の少女を連れ去ったのだとか。

施設内高温焼却炉の中で発見された人骨が彼のものだとか。

事実はすべて、耳に傷がある7-c斑研究員が知っているらしいとか。

耳の傷は所内の機密を外部に売ってしまったことがばれて責任者にヤキを入れられたとか。

学園都市を出て、下町で診療所を始めたらしいとか。

やくざもの御用達の闇医者が儲かると聞いて転職したとか。

事情を知っている者は、その耳に傷のある研究員と、責任者である彼の従弟だけだった。
噂の全てが嘘で、全てが本当。

木原虚空はその年、とある町に転居した。
住人が一家そろって惨殺された、といういわゆる「事故物件」の旧診療所を安く買い取った。

内装に手を入れ、掃除業者にすみずみ磨かせた。

大通りから直接入れない引っ込んだ所にあるいわくつきの建物は、小さいながらも
しっかりとした造りだった。以前ここに住んでいた一家の血の沁み込んだ床は本物の木材。

狭い待合室、つくりつけの受付のカウンターはそのまま。
診察室と、その奥には処置室が2つ。ここを、彼は入院患者の病室に当てた。
地下室は何の変哲もない物置部屋だったが、そこを改装して手術室に作り替えた。

一階はそのまま診療所。母屋は2階と3階だったが、彼1人が暮らすには十分な広さ。
最も、そこに1人で暮らしていた期間など短いものだ。

案の定、「なんでもやる医者」というのは重宝されるもので、なかなかに儲かった。
やくざ者からの依頼は多く、借金の返済能力が無くなったものから「担保」を押収する。

体中ばらばらにされて、製剤会社から金持ちの臓器不全患者にまで手広く売りさばかれ
それでも借金のすべてを返すことのできない者すらいた。

その場合、配偶者か子どもを売ることになるのだが、木原虚空はこれを報酬に要求できた。