◆YwuD4TmTPM さんの作品一覧
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1:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:16:14.11:8GUEOo26o (1/48)
杏子「画面の前のアンタ。ちょっと、顔貸してくれる?」
杏子「このスレは魔法少女まどか☆マギカの二次創作スレだ」
杏子「といっても、既存の多作品とのクロスSSや変態ほむら等が出てくる百合SSのスレじゃない。一応エロ描写は最後の方にあるらしいが」
杏子「作者曰く、明るいまどか☆マギカだそうだ」
杏子「正直、原作レイプなんじゃないかとあたしは思う」
杏子「だから、今ならまだ引き返せる。そういうのが気に入らないなら今すぐブラウザを閉じるんだね」
杏子「誰も死なない、ハッピーエンドを目指す。愛と希望の物語だそうだ」
杏子「……これから始まるSSには原作に登場しない男のオリジナルキャラクターが出てくる」
杏子「作者曰く、今この解説を読んでるアンタや、まどか☆マギカの各スレ住人、双葉のとしあきや「」といった連中がモデルなんだと」
杏子「何でも、アンタ達の書き込みを見てて、アンタ達をまどか☆マギカ世界に放り込んだら面白そうだと思ったらしい」
杏子「あたしの出番は中盤からだから、そいつとの面識はないんだが、かなりの馬鹿野郎らしい」
杏子「一応、そいつの存在理由だとかもその内説明されるらしい。広げた風呂敷は畳まないとな。二次創作だったら特に」
杏子「ん? ああ、アンタ達が心配するのは良くわかってるつもりさ」
杏子「一歩間違えば作者の分身自己投影スーパーキャラが、原作設定をぶち壊してハーレムを作るだけの糞作品になるからな」
杏子「このSSの作者はそういうの嫌いだから、幻想殺しだとか、超能力だとか、異能の力だとかそういったまどか☆マギカの設定を破壊するような反則技は出さないそうだ」
杏子「それから大した事もしてないのに、出てくる女全員にやたら好かれてハーレムを作ったりとか、そういうのは絶対にない」
杏子「まあ、ぶっちゃけエロゲーやギャルゲーみたいなもんだね。こつこつとお目当ての女一人に好かれるように頑張って惚れさせるみたいな」
杏子「ギャラクシーエンジェルとか、舞-HiMEとか、サクラ大戦とか、これらのゲーム版みたいなもんだと思ってくれ。仲良くなることはあってもハーレムは絶対にない」
杏子「結構長いしまだ4話までしか出来てないけど、一応完結させるつもりはあるらしいよ。おそらく12話前後のはず」
杏子「まあ、タダで暇つぶしできるんだから別にいいよね。気に入らきゃブラウザ閉じればいいだけだし」
杏子「さてと、これで説明は終わりかな。ああ、そうそう。主人公は原作同様、鹿目まどかだそうだ。描写がそんな風に見えなくても、あくまで主役はまどかだ」
杏子「大事な事だから、2回言わせてもらうよ。アンタ達をモデルにしてる奴は良い言い方をすれば準主役、悪く言えばあたし達が幸せになる為の道具なんだとさ」
杏子「これで本当に説明は終わり。それじゃ始まるよ。こんな話に付き合ってくれる物好きなアンタは、また中盤であたしと会おうぜ」
杏子「画面の前のアンタ。ちょっと、顔貸してくれる?」
杏子「このスレは魔法少女まどか☆マギカの二次創作スレだ」
杏子「といっても、既存の多作品とのクロスSSや変態ほむら等が出てくる百合SSのスレじゃない。一応エロ描写は最後の方にあるらしいが」
杏子「作者曰く、明るいまどか☆マギカだそうだ」
杏子「正直、原作レイプなんじゃないかとあたしは思う」
杏子「だから、今ならまだ引き返せる。そういうのが気に入らないなら今すぐブラウザを閉じるんだね」
杏子「誰も死なない、ハッピーエンドを目指す。愛と希望の物語だそうだ」
杏子「……これから始まるSSには原作に登場しない男のオリジナルキャラクターが出てくる」
杏子「作者曰く、今この解説を読んでるアンタや、まどか☆マギカの各スレ住人、双葉のとしあきや「」といった連中がモデルなんだと」
杏子「何でも、アンタ達の書き込みを見てて、アンタ達をまどか☆マギカ世界に放り込んだら面白そうだと思ったらしい」
杏子「あたしの出番は中盤からだから、そいつとの面識はないんだが、かなりの馬鹿野郎らしい」
杏子「一応、そいつの存在理由だとかもその内説明されるらしい。広げた風呂敷は畳まないとな。二次創作だったら特に」
杏子「ん? ああ、アンタ達が心配するのは良くわかってるつもりさ」
杏子「一歩間違えば作者の分身自己投影スーパーキャラが、原作設定をぶち壊してハーレムを作るだけの糞作品になるからな」
杏子「このSSの作者はそういうの嫌いだから、幻想殺しだとか、超能力だとか、異能の力だとかそういったまどか☆マギカの設定を破壊するような反則技は出さないそうだ」
杏子「それから大した事もしてないのに、出てくる女全員にやたら好かれてハーレムを作ったりとか、そういうのは絶対にない」
杏子「まあ、ぶっちゃけエロゲーやギャルゲーみたいなもんだね。こつこつとお目当ての女一人に好かれるように頑張って惚れさせるみたいな」
杏子「ギャラクシーエンジェルとか、舞-HiMEとか、サクラ大戦とか、これらのゲーム版みたいなもんだと思ってくれ。仲良くなることはあってもハーレムは絶対にない」
杏子「結構長いしまだ4話までしか出来てないけど、一応完結させるつもりはあるらしいよ。おそらく12話前後のはず」
杏子「まあ、タダで暇つぶしできるんだから別にいいよね。気に入らきゃブラウザ閉じればいいだけだし」
杏子「さてと、これで説明は終わりかな。ああ、そうそう。主人公は原作同様、鹿目まどかだそうだ。描写がそんな風に見えなくても、あくまで主役はまどかだ」
杏子「大事な事だから、2回言わせてもらうよ。アンタ達をモデルにしてる奴は良い言い方をすれば準主役、悪く言えばあたし達が幸せになる為の道具なんだとさ」
杏子「これで本当に説明は終わり。それじゃ始まるよ。こんな話に付き合ってくれる物好きなアンタは、また中盤であたしと会おうぜ」
モバP「泰葉からチョコもらった時の話?」
絵里「なんとかストロガノフ!」穂乃果「そう、カレーです」
タマ「ニャー」タラオ「タマ口臭いですぅ!」タマ「!!!!!!!」
玲音「風邪を引いてしまったようだ…」
苗木「霧切さん、この蝶ネクタイつけてみてよ」
2:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:19:54.39:8GUEOo26o (2/48)
「――ありがとう」
――何もかもが壊れた世界。
――そして、たった二人だけ世界に残された少女達。
「全部忘れて幸せになってね。後は私がやるから」
「待って!!」
「さよなら、ほむらちゃん」
別れを告げる少女の胸から放たれた眩い光が、ほむらと呼ばれた少女を飲み込む。
「どうしてぇぇぇぇっ!!」
暖かい光の中で木霊する、悲しみに満ちた叫びが、少女と共にこの世界から掻き消されていく。
「――元気でね。私の友達」
魔法少女まどか☆マギカ ~私の大切な人~
――透き通るような青空の下、今日もまた、人々のいつもどうりの生活が始まる。
近年、開発が進み徐々に人口の増えてきている地方都市、見滝原市。
小さな子供達は親に連れられて幼稚園へ、大人達はそれぞれの勤める会社へと忙しなく、そして学生達は気の合う友人達と、他愛もない会話を楽しみながら学校へと赴く。
日本中どこでも見る事の出来るありふれた光景。平和な街の平凡で、かけがえのない一日が今日もまた始まろうとしていた。そんないつもの風景の中、市立見滝原中学校へと向かう生徒達。
「おっす社(やしろ)」
見滝原中学の制服を着た眼鏡をかけた少年が、学校へと続く遊歩道で前を歩いている少年に声をかける。
少年の名は社芳文(やしろ よしふみ)。見滝原中学に在籍する3年生だ。
「ああ、おはよう天瀬」
声をかけられ芳文は振り返り、友人に返事を返す。
「なあなあ、昨日のひだまり三期見たか?」
「ああ、お前がハマってる深夜アニメだっけ?」
「そうそう、やっぱ宮ちゃんかわいーよな」
「いや、内容知らんから説明されても」
「宮ちゃんのかわいさがわからないなんてもったいねぇなぁ」
「その宮ちゃんってキャラがどれくらいかわいいのか知らんが、俺は現実の女の子のほうがいいぞ」
「何言ってんの? 俺とおまえは彼女いない歴15年のモテないコンビだろ。いい加減現実を見ようぜ。現実は残酷だが二次元は裏切らないんだから」
「あのな、この年で恋愛諦めるってどんだけだよ」
「さっきも言ったじゃんか。現実は残酷だって。どうせ俺らにゃゲームや漫画みたいな出会いなんてないんだからよ」
「……あほらしい。俺は先に行くぞ」
「あ、おい。待てよ社ぉ」
二次元の良さについて熱く語ろうとする友人に呆れて、芳文は歩みを進める。
「――ありがとう」
――何もかもが壊れた世界。
――そして、たった二人だけ世界に残された少女達。
「全部忘れて幸せになってね。後は私がやるから」
「待って!!」
「さよなら、ほむらちゃん」
別れを告げる少女の胸から放たれた眩い光が、ほむらと呼ばれた少女を飲み込む。
「どうしてぇぇぇぇっ!!」
暖かい光の中で木霊する、悲しみに満ちた叫びが、少女と共にこの世界から掻き消されていく。
「――元気でね。私の友達」
魔法少女まどか☆マギカ ~私の大切な人~
――透き通るような青空の下、今日もまた、人々のいつもどうりの生活が始まる。
近年、開発が進み徐々に人口の増えてきている地方都市、見滝原市。
小さな子供達は親に連れられて幼稚園へ、大人達はそれぞれの勤める会社へと忙しなく、そして学生達は気の合う友人達と、他愛もない会話を楽しみながら学校へと赴く。
日本中どこでも見る事の出来るありふれた光景。平和な街の平凡で、かけがえのない一日が今日もまた始まろうとしていた。そんないつもの風景の中、市立見滝原中学校へと向かう生徒達。
「おっす社(やしろ)」
見滝原中学の制服を着た眼鏡をかけた少年が、学校へと続く遊歩道で前を歩いている少年に声をかける。
少年の名は社芳文(やしろ よしふみ)。見滝原中学に在籍する3年生だ。
「ああ、おはよう天瀬」
声をかけられ芳文は振り返り、友人に返事を返す。
「なあなあ、昨日のひだまり三期見たか?」
「ああ、お前がハマってる深夜アニメだっけ?」
「そうそう、やっぱ宮ちゃんかわいーよな」
「いや、内容知らんから説明されても」
「宮ちゃんのかわいさがわからないなんてもったいねぇなぁ」
「その宮ちゃんってキャラがどれくらいかわいいのか知らんが、俺は現実の女の子のほうがいいぞ」
「何言ってんの? 俺とおまえは彼女いない歴15年のモテないコンビだろ。いい加減現実を見ようぜ。現実は残酷だが二次元は裏切らないんだから」
「あのな、この年で恋愛諦めるってどんだけだよ」
「さっきも言ったじゃんか。現実は残酷だって。どうせ俺らにゃゲームや漫画みたいな出会いなんてないんだからよ」
「……あほらしい。俺は先に行くぞ」
「あ、おい。待てよ社ぉ」
二次元の良さについて熱く語ろうとする友人に呆れて、芳文は歩みを進める。
3:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:20:25.78:8GUEOo26o (3/48)
「あははは、まどかのママは相変わらずだなぁ。あんなママがいて羨ましいよ」
「親子で恋のお話とか出来るのって素敵ですよね」
「そ、そうかなぁ」
「あ!? まどか前!!」
「……え? きゃ……!?」
「うおっ!?」
遊歩道の横道からお喋りに夢中になっていた三人組の少女の一人が、背後で騒いでいる友人を尻目に歩いていた少年の胸に、おでこをぶつけて後ろに弾かれるように転んでしまう。
「いたっ!!」
「あ!? ごめん!! 大丈夫かい?」
尻もちを付いた少女に慌てて手を差し出す芳文。
「は、はい、大丈夫です……」
申し訳なさそうな表情で尋ねてくる黒髪の少年の顔と、少年から差し出されたその手を2度ほど交互に見て、おずおずと差し出された手を取る少女。
「本当にごめん。ちょっとよそ見してて……」
「いえ、私も友達とのお話に夢中になって、前を良く見ていませんでしたから……」
そう言って、少年に謝る赤いリボンのショートツインテールの小柄な少女。
(……かわいい子だな。下級生かな)
「……ああ、うん。それじゃお互い様って事でいいかな」
「……あ、はい。すいませんでした」
少年の言葉にぺこりと頭を下げる少女。
「まどか!! 大丈夫!? ケガとかしてない!?」
「うん、大丈夫だよ、さやかちゃん」
「よかった……。鹿目さんにケガがないようで良かったです」
「ごめんね仁美ちゃん、心配させちゃって」
少女の友人二人が心配そうに声をかけるのを見ながら、少年は小さく呟く。
「――鹿目まどか、か……」
今日初めて出会った年下のかわいらしい少女は「それじゃあ、私達はこれで」ともう一度ぺこりと頭を下げると二人の友人と共に去って行った。
「おい社、あの子達と知り合いなのか?」
後ろで様子を見ていた友人の問いかけに首を振って答える。
「いや、知らない子達だ。多分2年生だろう。3年生の中では見た事がない」
「登校途中で女の子とぶつかるなんて、漫画みたいな体験しやがって!! ちくしょー!! 羨ましいぞ!!」
友人がふざけながら少年の首にヘッドロックをかける。
「バーカ、一歩間違えば女の子にケガさせてたかもしれないんだぞ。そんな事を羨ましがるな」
力任せに友人のヘッドロックから抜け出しながら、芳文はきっぱりと言う。
「そう言われりゃそだな。まあ、確かにかわいい子達ではあったが、学年も違うみたいだし、もう関わる事もないだろうし、別に羨むほどでもないか」
「そういう事だ。ほら、さっさと学校行こうぜ。遅刻しちまう」
「あ、待ってくれよ!!」
2人はそんなやり取りをしながら、学校へと向かったのだった。
「あははは、まどかのママは相変わらずだなぁ。あんなママがいて羨ましいよ」
「親子で恋のお話とか出来るのって素敵ですよね」
「そ、そうかなぁ」
「あ!? まどか前!!」
「……え? きゃ……!?」
「うおっ!?」
遊歩道の横道からお喋りに夢中になっていた三人組の少女の一人が、背後で騒いでいる友人を尻目に歩いていた少年の胸に、おでこをぶつけて後ろに弾かれるように転んでしまう。
「いたっ!!」
「あ!? ごめん!! 大丈夫かい?」
尻もちを付いた少女に慌てて手を差し出す芳文。
「は、はい、大丈夫です……」
申し訳なさそうな表情で尋ねてくる黒髪の少年の顔と、少年から差し出されたその手を2度ほど交互に見て、おずおずと差し出された手を取る少女。
「本当にごめん。ちょっとよそ見してて……」
「いえ、私も友達とのお話に夢中になって、前を良く見ていませんでしたから……」
そう言って、少年に謝る赤いリボンのショートツインテールの小柄な少女。
(……かわいい子だな。下級生かな)
「……ああ、うん。それじゃお互い様って事でいいかな」
「……あ、はい。すいませんでした」
少年の言葉にぺこりと頭を下げる少女。
「まどか!! 大丈夫!? ケガとかしてない!?」
「うん、大丈夫だよ、さやかちゃん」
「よかった……。鹿目さんにケガがないようで良かったです」
「ごめんね仁美ちゃん、心配させちゃって」
少女の友人二人が心配そうに声をかけるのを見ながら、少年は小さく呟く。
「――鹿目まどか、か……」
今日初めて出会った年下のかわいらしい少女は「それじゃあ、私達はこれで」ともう一度ぺこりと頭を下げると二人の友人と共に去って行った。
「おい社、あの子達と知り合いなのか?」
後ろで様子を見ていた友人の問いかけに首を振って答える。
「いや、知らない子達だ。多分2年生だろう。3年生の中では見た事がない」
「登校途中で女の子とぶつかるなんて、漫画みたいな体験しやがって!! ちくしょー!! 羨ましいぞ!!」
友人がふざけながら少年の首にヘッドロックをかける。
「バーカ、一歩間違えば女の子にケガさせてたかもしれないんだぞ。そんな事を羨ましがるな」
力任せに友人のヘッドロックから抜け出しながら、芳文はきっぱりと言う。
「そう言われりゃそだな。まあ、確かにかわいい子達ではあったが、学年も違うみたいだし、もう関わる事もないだろうし、別に羨むほどでもないか」
「そういう事だ。ほら、さっさと学校行こうぜ。遅刻しちまう」
「あ、待ってくれよ!!」
2人はそんなやり取りをしながら、学校へと向かったのだった。
4:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:21:51.00:8GUEOo26o (4/48)
☆
キーンコーンカーンコーン……。
一日の授業の終わりを告げるチャイムの音と共に、クラス中が活気づく。
男子生徒達と女子生徒達は、それぞれ気の合う友人たちと共に、これからどこに寄ろうかなどとと相談しながら次々に教室を出ていく。
「おい、社。帰りにちょっと駅前寄ってかね?」
「別にいいけど」
友人の誘いに芳文は頷いて席を立つ。席を立った芳文の視線の先に一人の女生徒がいた。
「ん? どうかしたのか?」
「……ああ、あの子、いつも一人だなって思ってな」
「ああ、巴マミか。彼女、美人だけど人付き合い悪りぃらしいぞ」
そんな会話をする芳文達の視線の先には、一人黙々と帰り支度をしている同級生の巴マミの姿があった。
教科書を鞄に詰め終わり、巴マミは席を立つと教室を出て行こうとする。
「巴さん」
芳文が声をかけると、彼女はきょとんとした顔で立ち止まる。
「さよなら」
芳文がそう挨拶をすると、彼女は少し驚いた顔をしてから、柔らかい微笑を浮かべて「さよなら」と答え教室を出て行った。
「なんだ、社。巴に気があるのか?」
「ちがう。別にクラスメイトに別れの挨拶をするくらい普通だろ」
「普通、ねえ……」
「さてと、俺たちも帰ろうぜ」
「そうだな」
芳文は天瀬にそう促すと鞄を手にして席を立った。
☆
「じゃーな」
「ああ、また明日」
オタク趣味の友人に付き合って、アニメイトやゲームセンターで放課後の一時を過ごした芳文は友人と別れ、帰路へと付く。
「ちょっと遅くなったな。夕飯はコンビニ弁当あたりで済ませるか」
芳文は誰もいない自宅への帰り道を急ぎながらそう呟く。既に日が落ちて辺りは夜の闇に包まれている。
「……少し近道するか」
早く家に帰ろうと、普段通らない人気のない道を進んでいく。人っ子一人いない寂れた公園を歩いていると、不意に制服のポケットの中から携帯電話の着信音が鳴った。
「はい。もしもし……ああ、父さん。大丈夫。何も問題ないよ」
海外に単身赴任中の父親からかかってきた電話に対応しながら、公園の中を歩いていると、今朝ぶつかった女の子――鹿目まどか――と、まどかがさやかちゃんと呼んでいた少女の二人が寄り添うように立っていた。
(……こんな時間に女の子だけで危ないな)
こんな人気のない公園に女子中学生二人だけで何をしているのだろうか。電話先の父親に相槌を打ちながら少女達の方へと歩みを進めていくと、二人の少女の視線の先に見知った顔を見つけた。
(……あれは、巴さん?)
クラスメイトの巴マミ。彼女は何かを掌の上に載せて目の前に差し出す。
――すると、不意に周囲の景色が変わり始める。
「――え?」
芳文が戸惑いの声を上げるとほぼ同時に、定期的な間隔で街灯の立っている公園の遊歩道が、見た事もない、口で説明するのも憚られる様な奇妙な空間に変わっていた。
プツッ、ツーツー……。
先ほどまで繋がっていた携帯電話の通話が突然途切れる。慌てて携帯の液晶を覗き込むと、電波状況を知らせるアンテナマークが圏外へと切り替わっていた。
☆
キーンコーンカーンコーン……。
一日の授業の終わりを告げるチャイムの音と共に、クラス中が活気づく。
男子生徒達と女子生徒達は、それぞれ気の合う友人たちと共に、これからどこに寄ろうかなどとと相談しながら次々に教室を出ていく。
「おい、社。帰りにちょっと駅前寄ってかね?」
「別にいいけど」
友人の誘いに芳文は頷いて席を立つ。席を立った芳文の視線の先に一人の女生徒がいた。
「ん? どうかしたのか?」
「……ああ、あの子、いつも一人だなって思ってな」
「ああ、巴マミか。彼女、美人だけど人付き合い悪りぃらしいぞ」
そんな会話をする芳文達の視線の先には、一人黙々と帰り支度をしている同級生の巴マミの姿があった。
教科書を鞄に詰め終わり、巴マミは席を立つと教室を出て行こうとする。
「巴さん」
芳文が声をかけると、彼女はきょとんとした顔で立ち止まる。
「さよなら」
芳文がそう挨拶をすると、彼女は少し驚いた顔をしてから、柔らかい微笑を浮かべて「さよなら」と答え教室を出て行った。
「なんだ、社。巴に気があるのか?」
「ちがう。別にクラスメイトに別れの挨拶をするくらい普通だろ」
「普通、ねえ……」
「さてと、俺たちも帰ろうぜ」
「そうだな」
芳文は天瀬にそう促すと鞄を手にして席を立った。
☆
「じゃーな」
「ああ、また明日」
オタク趣味の友人に付き合って、アニメイトやゲームセンターで放課後の一時を過ごした芳文は友人と別れ、帰路へと付く。
「ちょっと遅くなったな。夕飯はコンビニ弁当あたりで済ませるか」
芳文は誰もいない自宅への帰り道を急ぎながらそう呟く。既に日が落ちて辺りは夜の闇に包まれている。
「……少し近道するか」
早く家に帰ろうと、普段通らない人気のない道を進んでいく。人っ子一人いない寂れた公園を歩いていると、不意に制服のポケットの中から携帯電話の着信音が鳴った。
「はい。もしもし……ああ、父さん。大丈夫。何も問題ないよ」
海外に単身赴任中の父親からかかってきた電話に対応しながら、公園の中を歩いていると、今朝ぶつかった女の子――鹿目まどか――と、まどかがさやかちゃんと呼んでいた少女の二人が寄り添うように立っていた。
(……こんな時間に女の子だけで危ないな)
こんな人気のない公園に女子中学生二人だけで何をしているのだろうか。電話先の父親に相槌を打ちながら少女達の方へと歩みを進めていくと、二人の少女の視線の先に見知った顔を見つけた。
(……あれは、巴さん?)
クラスメイトの巴マミ。彼女は何かを掌の上に載せて目の前に差し出す。
――すると、不意に周囲の景色が変わり始める。
「――え?」
芳文が戸惑いの声を上げるとほぼ同時に、定期的な間隔で街灯の立っている公園の遊歩道が、見た事もない、口で説明するのも憚られる様な奇妙な空間に変わっていた。
プツッ、ツーツー……。
先ほどまで繋がっていた携帯電話の通話が突然途切れる。慌てて携帯の液晶を覗き込むと、電波状況を知らせるアンテナマークが圏外へと切り替わっていた。
5:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:22:37.26:8GUEOo26o (5/48)
「な、なんなんだ? ここは一体?」
余りに突然の状況の変化に戸惑っていると、巴マミがまどかとさやかの二人を連れて異空間を進み始める。
「あ!? とにかく追いかけてみるか……」
芳文は慌てて女の子達の後を追う。
(こんな訳のわからない状況であの子達は何をしようとしているんだ? ……それとも、俺みたいに巻き込まれたんだろうか?)
とにかく状況がわからない上、女の子達を放っておくわけにもいかない。芳文は急いで少女達の下へと走っていく。
「うわっ!?」
あと少しでまどか達に追いつくという所で、突然足場が崩れ、大きな穴へと変わる。芳文は咄嗟に崩れていく地面を思い切り蹴って横に飛び、そのまま地面をごろごろと転がる。
「あれ?」
「どうしたの、まどか?」
「今、男の人の声がしたような……」
「気のせいよ。鹿目さん、基本的に魔女の結界の中へ入れるのは魔法少女だけなの」
「気のせい……なのかな……」
まどかは背後をちらっと振り返りながらそう呟くと、マミとさやかの後に続いて結界の中を進んで行った。
「あ、危なかった……。なんなんだここは……」
こんな危ない場所に女の子達だけでいさせる訳には行かない。芳文はそう思い立ち上がると、周囲に気を配りながら、急いで少女達の姿が消えた先に向かって進んでいった。
まどか達にどれくらい遅れて到着したのだろうか。
やがて迷路のような狭い通路を抜けた先にある、広大なドーム状の空間に辿り着くと、何発もの銃声が鳴り響いた。
「なんだ!? 銃声!?」
慌てて駆け出した芳文の眼前に、まるで得体の知れない不気味に蠢く、ドス黒い肉塊のような怪物を宙に浮いた複数のマスケット銃が狙撃している。
「なんだ、あれ……」
あまりの光景に絶句して立ち尽くす芳文。怪物が黒い炎の塊を吐き出す。その黒い炎を軽やかなステップで躱す少女。
「!? あれは……巴マミ……!?」
怪物と戦っている人物は芳文のクラスメイトの巴マミだった。
先ほどまでの見滝原中学の制服ではない、魔法少女服姿の巴マミの姿に芳文は困惑する。
「な……なんなんだ……。これは……」
怪物はマミを殺そうとでたらめに炎を吐くが、マミはことごとく躱してマスケット銃を次々と顕現させ、怪物に弾丸を撃ち込んでいく。
「マミさーん!! がんばれー!!」
「マミさーん!! がんばってください!!」
声のした方へ芳文が視線を向けると、芳文の出てきた通路とは別の通路の先、光り輝く壁によって、マミと怪物の戦っているドームと遮断された通路から、さやかとまどかがマミを応援していた。
よく見るとまどかの腕の中には、白いぬいぐるみのような物が抱かれている。
マミはまどか達に微笑んでみせると、マスケット銃を次々と顕現させて怪物に弾丸の雨を浴びせる。
このまま行けばマミの勝利は確実だ。さやかとまどかがマミの勝利を確信して、笑顔でマミの戦いを見守っていたその時、肉塊から鋭く伸びた触手がまどか達を守る光の壁に叩きつけられた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「鹿目さん!! 美樹さん!! この!! あなたの相手は私よ!!」
マミは大量のマスケット銃を顕現させて怪物に撃ち込むが、怪物は銃弾を受けて尚、マミを無視してまどか達を守る光の壁を触手で殴り続ける。
ガシンガシンガシンガシン……!! パリーンっ……!!
「!? しまった!!」
触手による連続攻撃により、光の壁が遂に粉砕されてしまった。マミは慌ててまどか達の元へと駆け出すが、別の触手に足を絡め取られて、そのまま宙づりにされてしまう。
「二人とも逃げて!!」
マミが叫ぶとほぼ同時に、壁から、地面から、天井から、小型の怪物が湧き出てきて、まどかとさやかの二人を取り囲もうとする。
「あ、あぁぁ……」
まどかが怯えた表情でぬいぐるみを抱えたまま、後ずさるのを庇うようにさやかがバットを構えて立つ。
「このおぉぉぉぉぉぉっ!!」
バットで小型の怪物に殴り掛かり、何とか一匹を殴り飛ばすが別の一匹がさやかに襲い掛かる。
「くっそっ!! こっちくんな!!」
さやかが必死にバットを振り回すが、多勢に無勢。それにただの女子中学生に複数の怪物を倒す事など出来ない。じりじりと怪物達に囲まれていく。
「さやかちゃん!!」
まどかが叫んだその時だった。
「――え?」
バシュッ!!
マミを宙づりにして拘束していた怪物から、何の前触れもなく、先端が鋭利に尖った肉の槍がまどか目掛けて撃ち出された。突然の出来事にまどかは呆気にとられた顔で立ち尽くす。
「鹿目さん!!」
マミの悲痛な叫び声が結界内に木霊する。
(……私、ここで死んじゃうのかな)
高速で飛来する肉の槍を呆然と見つめながら、まどかはそんな事を考える。
「な、なんなんだ? ここは一体?」
余りに突然の状況の変化に戸惑っていると、巴マミがまどかとさやかの二人を連れて異空間を進み始める。
「あ!? とにかく追いかけてみるか……」
芳文は慌てて女の子達の後を追う。
(こんな訳のわからない状況であの子達は何をしようとしているんだ? ……それとも、俺みたいに巻き込まれたんだろうか?)
とにかく状況がわからない上、女の子達を放っておくわけにもいかない。芳文は急いで少女達の下へと走っていく。
「うわっ!?」
あと少しでまどか達に追いつくという所で、突然足場が崩れ、大きな穴へと変わる。芳文は咄嗟に崩れていく地面を思い切り蹴って横に飛び、そのまま地面をごろごろと転がる。
「あれ?」
「どうしたの、まどか?」
「今、男の人の声がしたような……」
「気のせいよ。鹿目さん、基本的に魔女の結界の中へ入れるのは魔法少女だけなの」
「気のせい……なのかな……」
まどかは背後をちらっと振り返りながらそう呟くと、マミとさやかの後に続いて結界の中を進んで行った。
「あ、危なかった……。なんなんだここは……」
こんな危ない場所に女の子達だけでいさせる訳には行かない。芳文はそう思い立ち上がると、周囲に気を配りながら、急いで少女達の姿が消えた先に向かって進んでいった。
まどか達にどれくらい遅れて到着したのだろうか。
やがて迷路のような狭い通路を抜けた先にある、広大なドーム状の空間に辿り着くと、何発もの銃声が鳴り響いた。
「なんだ!? 銃声!?」
慌てて駆け出した芳文の眼前に、まるで得体の知れない不気味に蠢く、ドス黒い肉塊のような怪物を宙に浮いた複数のマスケット銃が狙撃している。
「なんだ、あれ……」
あまりの光景に絶句して立ち尽くす芳文。怪物が黒い炎の塊を吐き出す。その黒い炎を軽やかなステップで躱す少女。
「!? あれは……巴マミ……!?」
怪物と戦っている人物は芳文のクラスメイトの巴マミだった。
先ほどまでの見滝原中学の制服ではない、魔法少女服姿の巴マミの姿に芳文は困惑する。
「な……なんなんだ……。これは……」
怪物はマミを殺そうとでたらめに炎を吐くが、マミはことごとく躱してマスケット銃を次々と顕現させ、怪物に弾丸を撃ち込んでいく。
「マミさーん!! がんばれー!!」
「マミさーん!! がんばってください!!」
声のした方へ芳文が視線を向けると、芳文の出てきた通路とは別の通路の先、光り輝く壁によって、マミと怪物の戦っているドームと遮断された通路から、さやかとまどかがマミを応援していた。
よく見るとまどかの腕の中には、白いぬいぐるみのような物が抱かれている。
マミはまどか達に微笑んでみせると、マスケット銃を次々と顕現させて怪物に弾丸の雨を浴びせる。
このまま行けばマミの勝利は確実だ。さやかとまどかがマミの勝利を確信して、笑顔でマミの戦いを見守っていたその時、肉塊から鋭く伸びた触手がまどか達を守る光の壁に叩きつけられた。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「わあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「鹿目さん!! 美樹さん!! この!! あなたの相手は私よ!!」
マミは大量のマスケット銃を顕現させて怪物に撃ち込むが、怪物は銃弾を受けて尚、マミを無視してまどか達を守る光の壁を触手で殴り続ける。
ガシンガシンガシンガシン……!! パリーンっ……!!
「!? しまった!!」
触手による連続攻撃により、光の壁が遂に粉砕されてしまった。マミは慌ててまどか達の元へと駆け出すが、別の触手に足を絡め取られて、そのまま宙づりにされてしまう。
「二人とも逃げて!!」
マミが叫ぶとほぼ同時に、壁から、地面から、天井から、小型の怪物が湧き出てきて、まどかとさやかの二人を取り囲もうとする。
「あ、あぁぁ……」
まどかが怯えた表情でぬいぐるみを抱えたまま、後ずさるのを庇うようにさやかがバットを構えて立つ。
「このおぉぉぉぉぉぉっ!!」
バットで小型の怪物に殴り掛かり、何とか一匹を殴り飛ばすが別の一匹がさやかに襲い掛かる。
「くっそっ!! こっちくんな!!」
さやかが必死にバットを振り回すが、多勢に無勢。それにただの女子中学生に複数の怪物を倒す事など出来ない。じりじりと怪物達に囲まれていく。
「さやかちゃん!!」
まどかが叫んだその時だった。
「――え?」
バシュッ!!
マミを宙づりにして拘束していた怪物から、何の前触れもなく、先端が鋭利に尖った肉の槍がまどか目掛けて撃ち出された。突然の出来事にまどかは呆気にとられた顔で立ち尽くす。
「鹿目さん!!」
マミの悲痛な叫び声が結界内に木霊する。
(……私、ここで死んじゃうのかな)
高速で飛来する肉の槍を呆然と見つめながら、まどかはそんな事を考える。
6:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:23:29.22:8GUEOo26o (6/48)
「くっそおぉぉぉぉっ!! 間に合えぇぇぇぇっ!!」
不意にガシッと肩を掴まれて、宙を舞うまどか。
バスッ!! 壁に突き刺さった肉の槍が壁を一瞬でドロドロに溶かして、そのまま地面へと落ちて地面を溶かしながら沈んでいく。
ズザザザ……。
「大丈夫!?」
「――え?」
地面の上にまどかを抱きしめながら横たわった少年が、腕の中の少女に声をかける。
「ケガとかしてないね!?」
まどかを抱き起しながら、芳文は尋ねる。
「――え……は、はい」
何が起こったのか、理解出来てないまどかが頷くのを確認すると、芳文は立ち上がり、さやかに群がる怪物に駆け寄り殴り飛ばす。
「え!? 誰!?」
「それ貸して!! 早く!!」
突然の乱入者に驚いて、硬直するさやかの手の中からバットをひったくると、芳文は竹刀を構えるようにしてバットを構え、次々と怪物を殴り飛ばしていく。
「ふんっ!!」
マミの魔翌力が込められたバットで殴り飛ばされるたびに、怪物達は体の半分以上を陥没させて破裂し、霧散して消滅していく。
「あ、あなたいったい……!?」
宙づりにされたマミが驚愕の表情で突然の乱入者に問いかける。
「そんなの後だ!! こっちは何とかしてみせるから、そっちのでかい方を早く!!」
ろくに話をした事もないクラスメートに叱咤され、マミは慌てて気持ちを切り替えると魔翌力を両手に集中させる。
「卑怯な手を使って!! 許さないわよ!! ティロ・フィナーレ!!」
巨大なマスケット銃を顕現させて、マミは自分を宙づりにしたままの巨大な怪物を跡形もなく消し飛ばす。
怪物の本体が消滅すると同時に、マミを拘束していた触手も霧散し、マミは空中で一回転して優雅に着地する。
そして、ぐにゃりと空間が歪み、元いた公園へと風景が切り替わっていった。
☆
「はあ……はあ……」
複数の怪物を殴り倒し、芳文は荒い息を付きながら、バットを杖代わりにして呼吸を整える。
「鹿目さん!! 美樹さん!! 大丈夫!?」
制服姿に戻ったマミが、へなへなとへたりこんだまどかとさやかの元に駆け寄る。
「あ……マミさん……」
「な、何とか……」
「ごめんなさい!! まさか、私を無視してあなた達に攻撃してくるなんて……」
マミはへたりこんでいる2人を抱き寄せて謝罪する。
「あなた達が、無事で本当に良かった……」
マミは心の底からの思いを込めて2人を抱きしめるのだった。
「巴さん」
呼吸を整えた社は事情を聞こうとマミに話しかける。
「あなた……たしか、社君?」
「ああ、君のクラスメイトの社芳文だよ」
「……あなた、何なの?」
「……は?」
まどかとさやかを自分の背後に、庇うようにしながら立たせてから、マミは芳文を問い詰める。
「なぜあなたが魔女の結界の中にいたの? あの中には魔法少女か素質のある人間しか入れないはずなのに!!」
「……はい? ちょっと待って。説明を聞きたいのはこっちなんだけど……」
自分の知らない、出来ないはずの事をやってのけたイレギュラーな存在にマミは警戒しながら、キっと芳文を睨みつける。
「ちょ……まいったな……」
マミの視線に困惑しながら、芳文がぽりぽりと頬を書いていると、マミの背後からまどかが前に出てくる。
「鹿目さん!? 私の前に出てきちゃ駄目よ!!」
「……でも、この人は私とさやかちゃんを助けてくれました」
そう言ってまどかはぺこりと頭を下げる。
「あの……助けていただいてありがとうございました。こうしてみんな無事なのはあなたのおかげです。本当にありがとうございました」
「……」
「あの……?」
礼を言ったのに、じっとまどかを見つめたまま黙っている芳文に、まどかがおずおずと問いかけると、芳文は涙目になって答えた。
「どういたしまして!! ああ、まどかちゃんはいい子だなぁ……。がんばった甲斐があったよ!!」
突然の芳文の言動にまどか達はぎょっとする。
「な……何なのあなたは……」
「なんか訳のわからん事が起きて解決したと思ったら、今度はクラスメイトに親の仇みたいな目で見られるし……。今の言葉は嬉しいよ!! 傷ついた心が癒されたよ!!」
「な……それじゃ、まるで私が悪役みたいじゃない……」
マミはばつが悪そうにそう呟く。だが、すぐに気を取り直して芳文に食って掛かる。
「というか、なんであなたが鹿目さんの名前を知っているの!?」
「なんでって言われても。今朝初めて会った時も、さっきまでも、さんざんそっちの青い子がまどか、まどかーってこの子の名前呼んでたし」
「青い子って言うな!! あたしの名前は美樹さやかだ!!」
青い子呼ばわりされてさやかが憤慨する。
「ああ、さやかちゃんて言うのか。俺は社芳文。よろしく」
そう言ってナチュラルに差し出された、芳文の手を思わず取って握手してしまうさやか。
「あ、こりゃどうもって……そうじゃなくて!!」
「うん?」
不思議そうな顔で首を傾げる芳文に、さやかはため息をついて手を放す。
「……はあ、なんか、もう、どうでもいいや」
「マミさん……」
まどかがおずおずとマミを上目遣いに見つめる。
「はあ……。とりあえず、お互いの事情を話しましょうか」
「くっそおぉぉぉぉっ!! 間に合えぇぇぇぇっ!!」
不意にガシッと肩を掴まれて、宙を舞うまどか。
バスッ!! 壁に突き刺さった肉の槍が壁を一瞬でドロドロに溶かして、そのまま地面へと落ちて地面を溶かしながら沈んでいく。
ズザザザ……。
「大丈夫!?」
「――え?」
地面の上にまどかを抱きしめながら横たわった少年が、腕の中の少女に声をかける。
「ケガとかしてないね!?」
まどかを抱き起しながら、芳文は尋ねる。
「――え……は、はい」
何が起こったのか、理解出来てないまどかが頷くのを確認すると、芳文は立ち上がり、さやかに群がる怪物に駆け寄り殴り飛ばす。
「え!? 誰!?」
「それ貸して!! 早く!!」
突然の乱入者に驚いて、硬直するさやかの手の中からバットをひったくると、芳文は竹刀を構えるようにしてバットを構え、次々と怪物を殴り飛ばしていく。
「ふんっ!!」
マミの魔翌力が込められたバットで殴り飛ばされるたびに、怪物達は体の半分以上を陥没させて破裂し、霧散して消滅していく。
「あ、あなたいったい……!?」
宙づりにされたマミが驚愕の表情で突然の乱入者に問いかける。
「そんなの後だ!! こっちは何とかしてみせるから、そっちのでかい方を早く!!」
ろくに話をした事もないクラスメートに叱咤され、マミは慌てて気持ちを切り替えると魔翌力を両手に集中させる。
「卑怯な手を使って!! 許さないわよ!! ティロ・フィナーレ!!」
巨大なマスケット銃を顕現させて、マミは自分を宙づりにしたままの巨大な怪物を跡形もなく消し飛ばす。
怪物の本体が消滅すると同時に、マミを拘束していた触手も霧散し、マミは空中で一回転して優雅に着地する。
そして、ぐにゃりと空間が歪み、元いた公園へと風景が切り替わっていった。
☆
「はあ……はあ……」
複数の怪物を殴り倒し、芳文は荒い息を付きながら、バットを杖代わりにして呼吸を整える。
「鹿目さん!! 美樹さん!! 大丈夫!?」
制服姿に戻ったマミが、へなへなとへたりこんだまどかとさやかの元に駆け寄る。
「あ……マミさん……」
「な、何とか……」
「ごめんなさい!! まさか、私を無視してあなた達に攻撃してくるなんて……」
マミはへたりこんでいる2人を抱き寄せて謝罪する。
「あなた達が、無事で本当に良かった……」
マミは心の底からの思いを込めて2人を抱きしめるのだった。
「巴さん」
呼吸を整えた社は事情を聞こうとマミに話しかける。
「あなた……たしか、社君?」
「ああ、君のクラスメイトの社芳文だよ」
「……あなた、何なの?」
「……は?」
まどかとさやかを自分の背後に、庇うようにしながら立たせてから、マミは芳文を問い詰める。
「なぜあなたが魔女の結界の中にいたの? あの中には魔法少女か素質のある人間しか入れないはずなのに!!」
「……はい? ちょっと待って。説明を聞きたいのはこっちなんだけど……」
自分の知らない、出来ないはずの事をやってのけたイレギュラーな存在にマミは警戒しながら、キっと芳文を睨みつける。
「ちょ……まいったな……」
マミの視線に困惑しながら、芳文がぽりぽりと頬を書いていると、マミの背後からまどかが前に出てくる。
「鹿目さん!? 私の前に出てきちゃ駄目よ!!」
「……でも、この人は私とさやかちゃんを助けてくれました」
そう言ってまどかはぺこりと頭を下げる。
「あの……助けていただいてありがとうございました。こうしてみんな無事なのはあなたのおかげです。本当にありがとうございました」
「……」
「あの……?」
礼を言ったのに、じっとまどかを見つめたまま黙っている芳文に、まどかがおずおずと問いかけると、芳文は涙目になって答えた。
「どういたしまして!! ああ、まどかちゃんはいい子だなぁ……。がんばった甲斐があったよ!!」
突然の芳文の言動にまどか達はぎょっとする。
「な……何なのあなたは……」
「なんか訳のわからん事が起きて解決したと思ったら、今度はクラスメイトに親の仇みたいな目で見られるし……。今の言葉は嬉しいよ!! 傷ついた心が癒されたよ!!」
「な……それじゃ、まるで私が悪役みたいじゃない……」
マミはばつが悪そうにそう呟く。だが、すぐに気を取り直して芳文に食って掛かる。
「というか、なんであなたが鹿目さんの名前を知っているの!?」
「なんでって言われても。今朝初めて会った時も、さっきまでも、さんざんそっちの青い子がまどか、まどかーってこの子の名前呼んでたし」
「青い子って言うな!! あたしの名前は美樹さやかだ!!」
青い子呼ばわりされてさやかが憤慨する。
「ああ、さやかちゃんて言うのか。俺は社芳文。よろしく」
そう言ってナチュラルに差し出された、芳文の手を思わず取って握手してしまうさやか。
「あ、こりゃどうもって……そうじゃなくて!!」
「うん?」
不思議そうな顔で首を傾げる芳文に、さやかはため息をついて手を放す。
「……はあ、なんか、もう、どうでもいいや」
「マミさん……」
まどかがおずおずとマミを上目遣いに見つめる。
「はあ……。とりあえず、お互いの事情を話しましょうか」
7:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋):2011/04/03(日) 01:23:30.16:cjhrjZcso (1/1)
ふぁいと
ふぁいと
8:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:24:24.68:8GUEOo26o (7/48)
☆
「……ふーむ。魔女と戦う魔法少女、か」
マミから事情を聞いた芳文は腕を組みながらそう呟く。
「つまり、巴さんが今までずっとこの街を守ってきた魔法少女で、まどかちゃんとさやかちゃんは魔法少女になれる素質がある女の子で、現在は魔法少女の研修中って所かな」
「ええ。そうよ」
「巴さん」
「何かしら」
「今までずっと一人でこの街の人達を守っててくれたんだね。本当にありがとう」
芳文は深々とマミに頭を下げて心の底からの礼を言う。
「ちょ、なんであなたがお礼を言うの?」
「なんでって、当然だと思うよ。みんなが笑って暮らせる街なのは君のおかげなんだから。何度でも礼を言うよ。ありがとう、巴さん」
「……」
マミはくるっと背を見せると目元を擦りながら言う。
「べ、別に、お礼を言われる事じゃないわ。それが私の使命なんだから……」
涙声でそう芳文に返すマミを、まどかとさやかは微笑みながら見ていた。
「そ、それであなたはどうして魔女の結界の中にいたの?」
初めて他人に感謝された事で思わず出てきた嬉し涙を拭いて、マミが尋ねる。
「ああ、帰りが遅くなって近道しようとしたら、今朝ぶつかった女の子達が二人だけで人気のない公園にいたんだ」
「暗いし危ないから、おせっかいかなと思ったけど、人気のある所まででも近くで見守っといたほうがいいかなって近づいたら、君がいて急にあの結界だっけ? あの中に巻き込まれたって訳」
「おかしいわね。普通の人間は結界の中に入れないはずなんだけど……」
「うーん。……実は俺、霊感が強い方なんだ。子供の頃から良くない物が見えたりとかあったから、多分それでじゃないかな」
「霊感って……そんな訳が……」
「いや、でも実際それくらいしか思い当たる節がないし……。ところでずっと気になってたんだけど、まどかちゃんが抱いてるそのぬいぐるみ、なんか動いてない?」
芳文の言葉に3人は顔を見合わせて驚いた表情をする。
「あなた、キュゥべえが見えるの?」
「キュゥべえってそのぬいぐるみの事? 結界の中でもまどかちゃんがずっと抱いてたから大事な物なのかなって思ってたけど……。なんかさっきからしっぽがぴこぴこ動いてるし。……まさか、それ生き物なの?」
「これは驚いた。男で僕が見える人間なんて、君が初めてだよ」
「うおっ!! ぬいぐるみが喋った!! っていうか口元動いてないし!! 何この不思議生物!!」
「僕はぬいぐるみじゃないよ。魔法少女に魔女と戦う力を与える魔法の使者さ」
「おお……。なるほどなるほど。……つまり、巴さん達の淫獣って事か!!」
「……いんじゅう?」
まどかが、聞いた事のない言葉に首を傾げて?マークを浮かべる。
「漢字で淫らな獣と書いて淫獣。魔法少女や魔女っ娘のお供のマスコットは全部、そういう通称なんだとアニメ好きの友人が言ってた」
「僕は淫獣なんかじゃないよ」
「女の子と一緒に寝たりとか、一緒にお風呂に入ったりとか、着替えを見たりとか、そういったハッピータイムを体験した事が一度もないってんなら、お前さんは立派な魔法の使者だ」
「ハッピータイムって……」
「な、なんだかなぁ……」
「あ、あははは……」
マミとさやかが呆れて、まどかが困った顔で苦笑いする中、キュゥべえと芳文は無言で互いの顔を見つめあう。
「……」
「……」
どれくらいの間、無言で見つめあっただろう。芳文が沈黙を破った。
「……あるのか。じゃあ、やっぱり淫獣だな」
「……まどか、僕この子嫌い」
「あ、あははは……」
そんな芳文とキュゥべえのやりとりに、キュゥべえを抱いているまどかはただ困った顔で苦笑いするだけだった。
「ところで、君は本当に何なんだい? 魔法少女かその素質のある子にしか僕は見えないはずなんだけど」
「さっきも言ったろ。ただ霊感が強いだけの人間だって」
「本当に? 実は女の子とか……」
そう言ってキュゥべえは、芳文の頭からつま先までをじろっと見る。
「あははは、キュゥべえ、いくらなんでもそれは無理があるって」
芳文の顔を見ながらさやかがけらけらと笑う。身長170センチくらいある男子中学生のどこをどう見たら女の子に見えるのか。黙ってさえいれば、結構整った顔立ちをしているけどとさやかは心の中で呟く。
「……謝れ」
「謝れ!! 淫獣!!」
「ちょ!? 社先輩!?」
突然激昂した芳文がまどかの腕の中から、キュゥべえの頭を鷲掴みにして奪い取り、宙づりにする。
「君を女の子かもと言った事に怒ってるのかい? それなら謝るよ」
「俺が怒ってるのはそんな事じゃない!! 大体こんなむさくるしい女の子がいてたまるか!!」
「社君落ち着いて!!」
マミが慌てて止めようとするが、芳文は激しい口調で言い切る。
「いいか!! 女の子ってのはな、柔らかくて、暖かくて、いい匂いがして、汗臭い男なんかとは全然違う存在なんだよ!! 俺みたいなむさくるしい男を例え話でも同列の存在にするんじゃないっ!!」
「謝れ!! 世界中の女の子に謝れ!! とりあえず、まどかちゃん達に謝れ!!」
「……え、えーと、ごめん、まどか、さやか、マミ」
芳文の言動に圧倒されたキュゥべえが素直にまどか達に謝ると、芳文はうむと頷いてキュゥべえを地面に降ろす。
「え、えーと……」
困惑するマミ達の足元にそそくさと駆け寄り隠れるキュゥべえ。
「とりあえず、こっちの事情はさっき話した通りだよ」
芳文は困惑するマミ達にさわやかな笑顔で話しかける。
(……な、なんなの、この人)
マミ達はただただ困惑するだけだった……。
☆
「……ふーむ。魔女と戦う魔法少女、か」
マミから事情を聞いた芳文は腕を組みながらそう呟く。
「つまり、巴さんが今までずっとこの街を守ってきた魔法少女で、まどかちゃんとさやかちゃんは魔法少女になれる素質がある女の子で、現在は魔法少女の研修中って所かな」
「ええ。そうよ」
「巴さん」
「何かしら」
「今までずっと一人でこの街の人達を守っててくれたんだね。本当にありがとう」
芳文は深々とマミに頭を下げて心の底からの礼を言う。
「ちょ、なんであなたがお礼を言うの?」
「なんでって、当然だと思うよ。みんなが笑って暮らせる街なのは君のおかげなんだから。何度でも礼を言うよ。ありがとう、巴さん」
「……」
マミはくるっと背を見せると目元を擦りながら言う。
「べ、別に、お礼を言われる事じゃないわ。それが私の使命なんだから……」
涙声でそう芳文に返すマミを、まどかとさやかは微笑みながら見ていた。
「そ、それであなたはどうして魔女の結界の中にいたの?」
初めて他人に感謝された事で思わず出てきた嬉し涙を拭いて、マミが尋ねる。
「ああ、帰りが遅くなって近道しようとしたら、今朝ぶつかった女の子達が二人だけで人気のない公園にいたんだ」
「暗いし危ないから、おせっかいかなと思ったけど、人気のある所まででも近くで見守っといたほうがいいかなって近づいたら、君がいて急にあの結界だっけ? あの中に巻き込まれたって訳」
「おかしいわね。普通の人間は結界の中に入れないはずなんだけど……」
「うーん。……実は俺、霊感が強い方なんだ。子供の頃から良くない物が見えたりとかあったから、多分それでじゃないかな」
「霊感って……そんな訳が……」
「いや、でも実際それくらいしか思い当たる節がないし……。ところでずっと気になってたんだけど、まどかちゃんが抱いてるそのぬいぐるみ、なんか動いてない?」
芳文の言葉に3人は顔を見合わせて驚いた表情をする。
「あなた、キュゥべえが見えるの?」
「キュゥべえってそのぬいぐるみの事? 結界の中でもまどかちゃんがずっと抱いてたから大事な物なのかなって思ってたけど……。なんかさっきからしっぽがぴこぴこ動いてるし。……まさか、それ生き物なの?」
「これは驚いた。男で僕が見える人間なんて、君が初めてだよ」
「うおっ!! ぬいぐるみが喋った!! っていうか口元動いてないし!! 何この不思議生物!!」
「僕はぬいぐるみじゃないよ。魔法少女に魔女と戦う力を与える魔法の使者さ」
「おお……。なるほどなるほど。……つまり、巴さん達の淫獣って事か!!」
「……いんじゅう?」
まどかが、聞いた事のない言葉に首を傾げて?マークを浮かべる。
「漢字で淫らな獣と書いて淫獣。魔法少女や魔女っ娘のお供のマスコットは全部、そういう通称なんだとアニメ好きの友人が言ってた」
「僕は淫獣なんかじゃないよ」
「女の子と一緒に寝たりとか、一緒にお風呂に入ったりとか、着替えを見たりとか、そういったハッピータイムを体験した事が一度もないってんなら、お前さんは立派な魔法の使者だ」
「ハッピータイムって……」
「な、なんだかなぁ……」
「あ、あははは……」
マミとさやかが呆れて、まどかが困った顔で苦笑いする中、キュゥべえと芳文は無言で互いの顔を見つめあう。
「……」
「……」
どれくらいの間、無言で見つめあっただろう。芳文が沈黙を破った。
「……あるのか。じゃあ、やっぱり淫獣だな」
「……まどか、僕この子嫌い」
「あ、あははは……」
そんな芳文とキュゥべえのやりとりに、キュゥべえを抱いているまどかはただ困った顔で苦笑いするだけだった。
「ところで、君は本当に何なんだい? 魔法少女かその素質のある子にしか僕は見えないはずなんだけど」
「さっきも言ったろ。ただ霊感が強いだけの人間だって」
「本当に? 実は女の子とか……」
そう言ってキュゥべえは、芳文の頭からつま先までをじろっと見る。
「あははは、キュゥべえ、いくらなんでもそれは無理があるって」
芳文の顔を見ながらさやかがけらけらと笑う。身長170センチくらいある男子中学生のどこをどう見たら女の子に見えるのか。黙ってさえいれば、結構整った顔立ちをしているけどとさやかは心の中で呟く。
「……謝れ」
「謝れ!! 淫獣!!」
「ちょ!? 社先輩!?」
突然激昂した芳文がまどかの腕の中から、キュゥべえの頭を鷲掴みにして奪い取り、宙づりにする。
「君を女の子かもと言った事に怒ってるのかい? それなら謝るよ」
「俺が怒ってるのはそんな事じゃない!! 大体こんなむさくるしい女の子がいてたまるか!!」
「社君落ち着いて!!」
マミが慌てて止めようとするが、芳文は激しい口調で言い切る。
「いいか!! 女の子ってのはな、柔らかくて、暖かくて、いい匂いがして、汗臭い男なんかとは全然違う存在なんだよ!! 俺みたいなむさくるしい男を例え話でも同列の存在にするんじゃないっ!!」
「謝れ!! 世界中の女の子に謝れ!! とりあえず、まどかちゃん達に謝れ!!」
「……え、えーと、ごめん、まどか、さやか、マミ」
芳文の言動に圧倒されたキュゥべえが素直にまどか達に謝ると、芳文はうむと頷いてキュゥべえを地面に降ろす。
「え、えーと……」
困惑するマミ達の足元にそそくさと駆け寄り隠れるキュゥべえ。
「とりあえず、こっちの事情はさっき話した通りだよ」
芳文は困惑するマミ達にさわやかな笑顔で話しかける。
(……な、なんなの、この人)
マミ達はただただ困惑するだけだった……。
9:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:25:11.11:8GUEOo26o (8/48)
☆
「……それで、君達は毎日人々に仇なす魔女や使い魔を探して、倒して回ってるって訳か」
「ええ、そうよ」
「誰にも知られる事なく、感謝されることもなくずっと?」
「ええ」
「これからも?」
「そうよ」
芳文の問いにマミは淡々と答える。
「そうか……。君は本当に正義の味方なんだな」
「そんな大層な物じゃないわ」
マミの返事に、芳文は一瞬だけ何かを考え込む仕草を取ると、マミに真剣な顔で切り出した。
「……俺にも何か手伝える事はないかな」
芳文は真剣な眼差しでマミに問いかける。
「え?」
「役に立つかわからないけど、俺も君達の役に立ちたいんだ。俺も、誰かの役に立ちたい」
芳文のその言葉に、マミは複雑な表情をして目を伏せると、真剣な表情で目を開いて低い声で返答する。
「あなたじゃ無理よ」
マミは淡々とそう答えると、魔法少女の姿になり、首元のリボンをほどき、芳文目掛けて放つ。咄嗟に横に飛んで芳文は躱す。
「何をするんだ!!」
「マミさん!? 何を!?」
まどかが突然のマミの行為に驚いて叫ぶ。
「あなたを拘束して、魔法で記憶を消すわ」
銃弾並みの高速で蛇のように迫るリボンを次々と紙一重で芳文は躱す。
「うわっ!!」
「……へえ。あなたすごいわほね。まさか今のを避けるとは思わなかった」
「確かに、普通の人間にしてはやるね。さっきの戦闘の時もそうだけど、元々の身体能力や反射神経、戦闘センスがずば抜けて高いんだろうね。もし女の子だったら是非魔法少女になってもらいたいくらいだよ」
マミの賞賛の言葉にキュゥべえが同意する。
「――でも、それだけ。いくら身体能力が高くても、普通の人間が魔女に関わろうとするなんて自殺行為よ!!」
避けたはずのリボンが複数の魔法のロープに変わり、芳文を拘束しようと再び襲い掛かる。
「くっ!!」
右手、左手、右足、左足、胴と次々に飛んでくるのを躱し続ける。
「すごい……。あんな速いのを躱し続けられるなんて……」
さやかが思わず感嘆の声を漏らす。
「……」
無言で芳文を睨みつけるマミの右手にマスケット銃が顕現し、芳文に向けられる。
「っ!? マミさん駄目ぇ!!」
まどかの悲鳴を掻き消すようにマスケット銃のトリガーが引かれる。
「……うわあぁぁっ!?」
――だが、マスケット銃から放たれた弾丸は芳文の眼前で光り輝く広範囲ネットに姿を変える。
魔法のネットを被せられた芳文は、その場にもんどりうって倒れこむ。
「あなたは何も見ていないの。何も知らないの。その方がいいから……」
マミは芳文の頭に魔法の光をかざそうとする。
「……そうやって、全部自分達だけで抱え込むのか?」
「そうよ。世の中には知らない方が良い事もあるの」
「……わかったよ。そこまで言うなら忘れる。もう関わらない。その代わり、記憶は消さないでくれ」
「……」
「一人くらい、いたっていいだろ? みんなの為にがんばってる女の子がいる事を、知ってる奴がいたって」
「……」
芳文の真剣な表情にマミはため息をひとつ付くと、拘束魔法を解除して背を向ける。
「……絶対にもう、私達に関わろうとしない事。――もし、また関わろうとしたら命の保証は出来ないわ」
背を向けてマミはまどか達の方へ歩いて行く。
「……あの子達を助けてくれた事には感謝してる。ありがとう」
それだけ言うと、立ち上がった芳文に振り返る事無く、まどか達を連れてマミは去って行った。
芳文はその場に立ちすくんだまま、マミ達の去って行った夜の闇をいつまでも見続けていた……。
☆
「……それで、君達は毎日人々に仇なす魔女や使い魔を探して、倒して回ってるって訳か」
「ええ、そうよ」
「誰にも知られる事なく、感謝されることもなくずっと?」
「ええ」
「これからも?」
「そうよ」
芳文の問いにマミは淡々と答える。
「そうか……。君は本当に正義の味方なんだな」
「そんな大層な物じゃないわ」
マミの返事に、芳文は一瞬だけ何かを考え込む仕草を取ると、マミに真剣な顔で切り出した。
「……俺にも何か手伝える事はないかな」
芳文は真剣な眼差しでマミに問いかける。
「え?」
「役に立つかわからないけど、俺も君達の役に立ちたいんだ。俺も、誰かの役に立ちたい」
芳文のその言葉に、マミは複雑な表情をして目を伏せると、真剣な表情で目を開いて低い声で返答する。
「あなたじゃ無理よ」
マミは淡々とそう答えると、魔法少女の姿になり、首元のリボンをほどき、芳文目掛けて放つ。咄嗟に横に飛んで芳文は躱す。
「何をするんだ!!」
「マミさん!? 何を!?」
まどかが突然のマミの行為に驚いて叫ぶ。
「あなたを拘束して、魔法で記憶を消すわ」
銃弾並みの高速で蛇のように迫るリボンを次々と紙一重で芳文は躱す。
「うわっ!!」
「……へえ。あなたすごいわほね。まさか今のを避けるとは思わなかった」
「確かに、普通の人間にしてはやるね。さっきの戦闘の時もそうだけど、元々の身体能力や反射神経、戦闘センスがずば抜けて高いんだろうね。もし女の子だったら是非魔法少女になってもらいたいくらいだよ」
マミの賞賛の言葉にキュゥべえが同意する。
「――でも、それだけ。いくら身体能力が高くても、普通の人間が魔女に関わろうとするなんて自殺行為よ!!」
避けたはずのリボンが複数の魔法のロープに変わり、芳文を拘束しようと再び襲い掛かる。
「くっ!!」
右手、左手、右足、左足、胴と次々に飛んでくるのを躱し続ける。
「すごい……。あんな速いのを躱し続けられるなんて……」
さやかが思わず感嘆の声を漏らす。
「……」
無言で芳文を睨みつけるマミの右手にマスケット銃が顕現し、芳文に向けられる。
「っ!? マミさん駄目ぇ!!」
まどかの悲鳴を掻き消すようにマスケット銃のトリガーが引かれる。
「……うわあぁぁっ!?」
――だが、マスケット銃から放たれた弾丸は芳文の眼前で光り輝く広範囲ネットに姿を変える。
魔法のネットを被せられた芳文は、その場にもんどりうって倒れこむ。
「あなたは何も見ていないの。何も知らないの。その方がいいから……」
マミは芳文の頭に魔法の光をかざそうとする。
「……そうやって、全部自分達だけで抱え込むのか?」
「そうよ。世の中には知らない方が良い事もあるの」
「……わかったよ。そこまで言うなら忘れる。もう関わらない。その代わり、記憶は消さないでくれ」
「……」
「一人くらい、いたっていいだろ? みんなの為にがんばってる女の子がいる事を、知ってる奴がいたって」
「……」
芳文の真剣な表情にマミはため息をひとつ付くと、拘束魔法を解除して背を向ける。
「……絶対にもう、私達に関わろうとしない事。――もし、また関わろうとしたら命の保証は出来ないわ」
背を向けてマミはまどか達の方へ歩いて行く。
「……あの子達を助けてくれた事には感謝してる。ありがとう」
それだけ言うと、立ち上がった芳文に振り返る事無く、まどか達を連れてマミは去って行った。
芳文はその場に立ちすくんだまま、マミ達の去って行った夜の闇をいつまでも見続けていた……。
10:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:25:43.63:8GUEOo26o (9/48)
☆
――魔法少女と魔女との戦いを目撃してから数日後。
夕焼けの中、芳文は一人街中を当てもなくふらふらと歩いていた。
(……今日も、あの子達は魔女退治をしているんだろうか)
いくら魔法少女とはいえ、女の子だけをあんな化け物と戦わせ、事情を知った男の自分が見て見ぬふりをする。芳文は無性に自分自身が情けなくなった。
(……本当に、俺には何も出来ないのか)
無力な自分が情けない。不意に芳文の脳裏に幼い少女の泣き顔がよぎる。
(あの時と同じか……。我ながら情けないな)
無力感に苛まされながら、歩いていると横から小さくて暖かい何かがぶつかってきた。
「っ!? まどかちゃん!?」
芳文にぶつかってきたのはまどかだった。泣きそうな顔で、息を切らせている。
「どうしたの!?」
まどかの尋常じゃない様子に、芳文は思わずまどかの両肩を掴んで問い質す。
「び、病院に魔女が……っ!! マミさんに早く知らせないと!! さやかちゃんとキュゥべえが!!」
今にも泣き出しそうなまどかを、芳文は優しく諭す。
「落ち着いて。役に立つかわからないけど、病院の方はとりあえず俺が行くから。君は巴さんに急いで連絡するんだ」
「で、でも……」
マミと芳文の公園でのやりとりを見ていたまどかは、芳文の申し出に何と答えたものかと戸惑う。
「ほら、急いで。女の子が危ないっていうのに、男の俺が見て見ぬふりなんて出来ない。君の友達は巴さんが来るまで守ってみせるから!!」
「わ、わかりました!! さやかちゃんの事、お願いします!!」
「ああ、わかった!!」
まどかが駆け出すのを確認すると、まどかが来た方向に向かって芳文は走り出した。
「いた!!」
芳文が病院の敷地内で、キュゥべえを抱いたさやかを見つけて駆け寄った瞬間、魔女の結界が展開し、芳文達を飲み込んだ。
「あ、あれ? 先輩、なんでここに!?」
結界の中で芳文の姿を見つけたさやかが驚く。
「さっき、まどかちゃんに会って事情を聞いたんだ。君だけを放っておくわけにいかないだろ」
「君、マミの忠告を聞いたんじゃなかったのかい? いざとなったらさやかは魔法少女になれるんだよ」
キュゥべえの呆れたような言葉に臆することなくきっぱりと芳文は言い返す。
「それでも、放っておけない」
「君もお人よしだね。何のメリットもないだろうに」
「……でも誰かが側にいてくれるのは嬉しいよ。やっぱりキュゥべえと二人だけじゃ怖かったし……」
キュゥべえの言葉を遮るようにさやかがそう口を挟む。
「俺がどれだけ役に立つかわからないけど、巴さんが来るまでは守ってみせるから」
「あはは、なんか騎士様のおでましって感じかな」
「そういう風に思ってもらえるように頑張る。それで、これからどうする?」
「とりあえず、魔女が孵化するかもしれないから、それを見張ろうと思うんだけど……」
「近づいても大丈夫なのかい?」
「僕がいれば、テレパシーでマミは迷わずに僕達の所に来れるから、今のうちに魔女の居場所を僕等で探しておくんだよ」
「なるほど。それじゃ行こうか」
キュゥべえの言葉に頷いて、芳文とさやか達は結界の中を慎重に進み始めた。
☆
――数十分後。
「バ、バカっ……こんな事してる場合じゃ……」
「帰りに解放してあげる。そこで大人しくしてて」
芳文達に遅れて結界に突入したマミとまどか。
マミは何を考えて行動しているのかわからない、謎の魔法少女暁美ほむらを魔法で拘束して、まどかと共にキュゥべえからのテレパシーを頼りに結界の中を進んでいく。
結界の中を進む途中、まどかはマミに魔法少女になるという決意、夢、思いを語る。
マミはまどかの言葉に今まで寂しかった、怖かったと本音を語り、まどかもそれを受け止め二人の間に確かな友情が芽生える。
(体が軽い……。こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて……。もう、何も怖くない!!)
魔法少女になってずっと孤独だった少女は、これまでにない幸せな気持ちで、次々と使い魔達を打ち倒し、結界の中を突き進んでいく。
やがて、扉を開いた先にはさやかとキュゥべえ、そして魔法少女の存在を知ったイレギュラーの少年がいた。
「――どうして、あなたがこんな所にいるの!?」
二度と関わらないと言ったはずなのに、何故? マミが芳文を問い詰めようとするとまどかがマミの腕を掴んで言う。
「ごめんなさいマミさん。私がお願いしたんです。さやかちゃんとキュゥべえだけじゃ心配だったから……」
「……はあ」
まどかの言葉にマミはため息をひとつ付くと、まどかのおでこに人差し指を当てて微笑む。
「しょうがない子ね。お説教はあとでたっぷりするから覚悟してね」
「は、はい!!」
「社君、関わるなって言っておいてなんだけど、今回だけこの子達をお願いしてもいいかしら?」
「ああ。なるべく役に立ってみせるよ」
「お願いね。出来るだけ早く済ませるから」
そう言って、マミが孵化しかけの魔女の元へ駆け出そうとするのを、芳文は声をかけて押し止める。
「巴さん、悪いんだけど、何か武器をひとつ魔法で出してくれないかな。一応、もしもの事があった時の為に」
前回の戦闘時、マミは無数のマスケット銃を出現させていた。おそらく武器をひとつくらい作り出す事など造作もないだろう。芳文はそう考え、マミに武器の製造を頼む。
「……そうね。何かリクエストはあるかしら?」
「出来れば剣を。昔、剣道やってたから」
「了解。剣ね」
マミが両腕を広げて意識と魔翌力を集中させると、マミの両腕の間に両刃の剣が一振り出現する。
「うん。ありがとう」
芳文が確かな重量を持ち、刀身をキラリと輝かせている剣を受け取って、礼を言うと同時に魔女が孵化した。
☆
――魔法少女と魔女との戦いを目撃してから数日後。
夕焼けの中、芳文は一人街中を当てもなくふらふらと歩いていた。
(……今日も、あの子達は魔女退治をしているんだろうか)
いくら魔法少女とはいえ、女の子だけをあんな化け物と戦わせ、事情を知った男の自分が見て見ぬふりをする。芳文は無性に自分自身が情けなくなった。
(……本当に、俺には何も出来ないのか)
無力な自分が情けない。不意に芳文の脳裏に幼い少女の泣き顔がよぎる。
(あの時と同じか……。我ながら情けないな)
無力感に苛まされながら、歩いていると横から小さくて暖かい何かがぶつかってきた。
「っ!? まどかちゃん!?」
芳文にぶつかってきたのはまどかだった。泣きそうな顔で、息を切らせている。
「どうしたの!?」
まどかの尋常じゃない様子に、芳文は思わずまどかの両肩を掴んで問い質す。
「び、病院に魔女が……っ!! マミさんに早く知らせないと!! さやかちゃんとキュゥべえが!!」
今にも泣き出しそうなまどかを、芳文は優しく諭す。
「落ち着いて。役に立つかわからないけど、病院の方はとりあえず俺が行くから。君は巴さんに急いで連絡するんだ」
「で、でも……」
マミと芳文の公園でのやりとりを見ていたまどかは、芳文の申し出に何と答えたものかと戸惑う。
「ほら、急いで。女の子が危ないっていうのに、男の俺が見て見ぬふりなんて出来ない。君の友達は巴さんが来るまで守ってみせるから!!」
「わ、わかりました!! さやかちゃんの事、お願いします!!」
「ああ、わかった!!」
まどかが駆け出すのを確認すると、まどかが来た方向に向かって芳文は走り出した。
「いた!!」
芳文が病院の敷地内で、キュゥべえを抱いたさやかを見つけて駆け寄った瞬間、魔女の結界が展開し、芳文達を飲み込んだ。
「あ、あれ? 先輩、なんでここに!?」
結界の中で芳文の姿を見つけたさやかが驚く。
「さっき、まどかちゃんに会って事情を聞いたんだ。君だけを放っておくわけにいかないだろ」
「君、マミの忠告を聞いたんじゃなかったのかい? いざとなったらさやかは魔法少女になれるんだよ」
キュゥべえの呆れたような言葉に臆することなくきっぱりと芳文は言い返す。
「それでも、放っておけない」
「君もお人よしだね。何のメリットもないだろうに」
「……でも誰かが側にいてくれるのは嬉しいよ。やっぱりキュゥべえと二人だけじゃ怖かったし……」
キュゥべえの言葉を遮るようにさやかがそう口を挟む。
「俺がどれだけ役に立つかわからないけど、巴さんが来るまでは守ってみせるから」
「あはは、なんか騎士様のおでましって感じかな」
「そういう風に思ってもらえるように頑張る。それで、これからどうする?」
「とりあえず、魔女が孵化するかもしれないから、それを見張ろうと思うんだけど……」
「近づいても大丈夫なのかい?」
「僕がいれば、テレパシーでマミは迷わずに僕達の所に来れるから、今のうちに魔女の居場所を僕等で探しておくんだよ」
「なるほど。それじゃ行こうか」
キュゥべえの言葉に頷いて、芳文とさやか達は結界の中を慎重に進み始めた。
☆
――数十分後。
「バ、バカっ……こんな事してる場合じゃ……」
「帰りに解放してあげる。そこで大人しくしてて」
芳文達に遅れて結界に突入したマミとまどか。
マミは何を考えて行動しているのかわからない、謎の魔法少女暁美ほむらを魔法で拘束して、まどかと共にキュゥべえからのテレパシーを頼りに結界の中を進んでいく。
結界の中を進む途中、まどかはマミに魔法少女になるという決意、夢、思いを語る。
マミはまどかの言葉に今まで寂しかった、怖かったと本音を語り、まどかもそれを受け止め二人の間に確かな友情が芽生える。
(体が軽い……。こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて……。もう、何も怖くない!!)
魔法少女になってずっと孤独だった少女は、これまでにない幸せな気持ちで、次々と使い魔達を打ち倒し、結界の中を突き進んでいく。
やがて、扉を開いた先にはさやかとキュゥべえ、そして魔法少女の存在を知ったイレギュラーの少年がいた。
「――どうして、あなたがこんな所にいるの!?」
二度と関わらないと言ったはずなのに、何故? マミが芳文を問い詰めようとするとまどかがマミの腕を掴んで言う。
「ごめんなさいマミさん。私がお願いしたんです。さやかちゃんとキュゥべえだけじゃ心配だったから……」
「……はあ」
まどかの言葉にマミはため息をひとつ付くと、まどかのおでこに人差し指を当てて微笑む。
「しょうがない子ね。お説教はあとでたっぷりするから覚悟してね」
「は、はい!!」
「社君、関わるなって言っておいてなんだけど、今回だけこの子達をお願いしてもいいかしら?」
「ああ。なるべく役に立ってみせるよ」
「お願いね。出来るだけ早く済ませるから」
そう言って、マミが孵化しかけの魔女の元へ駆け出そうとするのを、芳文は声をかけて押し止める。
「巴さん、悪いんだけど、何か武器をひとつ魔法で出してくれないかな。一応、もしもの事があった時の為に」
前回の戦闘時、マミは無数のマスケット銃を出現させていた。おそらく武器をひとつくらい作り出す事など造作もないだろう。芳文はそう考え、マミに武器の製造を頼む。
「……そうね。何かリクエストはあるかしら?」
「出来れば剣を。昔、剣道やってたから」
「了解。剣ね」
マミが両腕を広げて意識と魔翌力を集中させると、マミの両腕の間に両刃の剣が一振り出現する。
「うん。ありがとう」
芳文が確かな重量を持ち、刀身をキラリと輝かせている剣を受け取って、礼を言うと同時に魔女が孵化した。
11:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:26:49.09:8GUEOo26o (10/48)
「マミ!! 魔女が孵化したよ!!」
「オッケー!! 今日は速攻で片づけるわよ!!」
孵化して足の長いイスの上に、ちょこんと乗った愛らしいぬいぐるみのような姿の魔女。
マミはイスの足を顕現させたマスケット銃で叩き折り、魔女を落下させると、落ちてきた魔女を銃で殴り飛ばす。
壁にぶつかって足元に転がった魔女を踏みつけ銃弾を叩きこみ、撃ち込んだ銃弾から伸ばした魔法の糸で魔女を天高く拘束し、マミは巨大なマスケット銃を顕現させる。
「ティロ・フィナーレ!!」
必殺の閃光が魔女の胴体に大きな風穴を開ける。
「やったぁ!!」
さやかが歓喜の声を上げ、まどかが笑顔になる。勝利を確信したマミが笑顔になる。
「――っ!? まだだ!!」
芳文は天高く拘束されて撃ち抜かれた魔女の口内から、別の何かが姿を現すのを見た。その瞬間、芳文はマミの元へと全力で駆け出した。
ぬいぐるみのような魔女の口の中から、巨大な蛇のような体に大きなピエロの顔が付いている魔女が飛び出して、ものすごい速さでマミへと迫る。
「――え?」
あまりに突然の予期せぬ不意打ちに、勝利を確信していたマミの動きが止まる。マミの眼前へと迫った魔女の口が大きく開かれ、そのままマミを噛み砕こうとする。
今、正にマミが噛み砕かれる瞬間――。
「このおぉぉぉぉぉぉっ!!」
ヒュンッ!!
マミの元へと駆け寄りながら芳文は、魔女目掛けて思い切り剣を投げつけた。
ドスッ!!
マミの頭に今にも噛みつこうとしていた魔女の左目に深々と剣が突き刺さった。
いきなり乱入してきた第三者に左目を潰された魔女が、上空へと上昇しながら空中でじたばたと痛みにのた打ち回る。
カラーン……。
魔女の左目に突き刺さった剣が、血の涙で抜け落ちて地面に落ちる。芳文は落ちた剣を走りながら拾うと、まだ呆けたままのマミの元に駆け寄る。
「巴さん!! しっかりしろ!!」
「っ!!」
肩を掴まれ揺さぶられ、マミは我に返る。
グオォォォォォォォォォォォッ!!
目を潰されて怒り狂った魔女が、大口を空けてマミと芳文に喰いつこうと猛スピードで迫る。
――その速さはとても避けきれない。
「っ!!」
芳文は咄嗟にマミを突き飛ばす。
「社君っ!?」
間一髪、マミは助かったが、芳文は抉り取られた地面ごと、魔女の口内に飲み込まれてしまった。
「あ、ああ……社君……」
「そんな……先輩が……」
「ひっ……や、やだ……こんなの、嘘……」
――芳文が魔女に喰われた。
目の前で起きた惨状に、マミもさやかもまどかも激しいショックを受ける。
マミとさやかはあまりの光景に呆然と立ち尽くす。
嬉しそうにもぐもぐと咀嚼する魔女の顔を見て、まどかは恐怖に顔を引きつらせてへなへなとその場にへたり込む。
「マミ!! 魔女が孵化したよ!!」
「オッケー!! 今日は速攻で片づけるわよ!!」
孵化して足の長いイスの上に、ちょこんと乗った愛らしいぬいぐるみのような姿の魔女。
マミはイスの足を顕現させたマスケット銃で叩き折り、魔女を落下させると、落ちてきた魔女を銃で殴り飛ばす。
壁にぶつかって足元に転がった魔女を踏みつけ銃弾を叩きこみ、撃ち込んだ銃弾から伸ばした魔法の糸で魔女を天高く拘束し、マミは巨大なマスケット銃を顕現させる。
「ティロ・フィナーレ!!」
必殺の閃光が魔女の胴体に大きな風穴を開ける。
「やったぁ!!」
さやかが歓喜の声を上げ、まどかが笑顔になる。勝利を確信したマミが笑顔になる。
「――っ!? まだだ!!」
芳文は天高く拘束されて撃ち抜かれた魔女の口内から、別の何かが姿を現すのを見た。その瞬間、芳文はマミの元へと全力で駆け出した。
ぬいぐるみのような魔女の口の中から、巨大な蛇のような体に大きなピエロの顔が付いている魔女が飛び出して、ものすごい速さでマミへと迫る。
「――え?」
あまりに突然の予期せぬ不意打ちに、勝利を確信していたマミの動きが止まる。マミの眼前へと迫った魔女の口が大きく開かれ、そのままマミを噛み砕こうとする。
今、正にマミが噛み砕かれる瞬間――。
「このおぉぉぉぉぉぉっ!!」
ヒュンッ!!
マミの元へと駆け寄りながら芳文は、魔女目掛けて思い切り剣を投げつけた。
ドスッ!!
マミの頭に今にも噛みつこうとしていた魔女の左目に深々と剣が突き刺さった。
いきなり乱入してきた第三者に左目を潰された魔女が、上空へと上昇しながら空中でじたばたと痛みにのた打ち回る。
カラーン……。
魔女の左目に突き刺さった剣が、血の涙で抜け落ちて地面に落ちる。芳文は落ちた剣を走りながら拾うと、まだ呆けたままのマミの元に駆け寄る。
「巴さん!! しっかりしろ!!」
「っ!!」
肩を掴まれ揺さぶられ、マミは我に返る。
グオォォォォォォォォォォォッ!!
目を潰されて怒り狂った魔女が、大口を空けてマミと芳文に喰いつこうと猛スピードで迫る。
――その速さはとても避けきれない。
「っ!!」
芳文は咄嗟にマミを突き飛ばす。
「社君っ!?」
間一髪、マミは助かったが、芳文は抉り取られた地面ごと、魔女の口内に飲み込まれてしまった。
「あ、ああ……社君……」
「そんな……先輩が……」
「ひっ……や、やだ……こんなの、嘘……」
――芳文が魔女に喰われた。
目の前で起きた惨状に、マミもさやかもまどかも激しいショックを受ける。
マミとさやかはあまりの光景に呆然と立ち尽くす。
嬉しそうにもぐもぐと咀嚼する魔女の顔を見て、まどかは恐怖に顔を引きつらせてへなへなとその場にへたり込む。
12:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:27:21.28:8GUEOo26o (11/48)
グオォォォォォォォォォォォォォォォン!!
突然、芳文を喰った魔女が苦しそうな顔をして、ぺっと何かを吐き出す。
「ってぇー!! や、やばかった……」
地面に背中から叩きつけられ、芳文は痛みに顔をしかめながら立ち上がる。
「社君!?」
「先輩!?」
「よ、良かった……」
芳文を吐き出した魔女は、口の中を血だらけにして、空中を大口を開けたままのた打ち回る。魔女の口内は、芳文によって剣で滅茶苦茶に切り裂かれ、突かれ、青い舌には深々と剣が突き立てられていた。
「巴さん!! あいつの口の中をもう一度狙うんだ!! さっきあいつは最初の奴の口の中から出てきた!! 口の中からケツの先まで貫いてやれ!!」
「わかったわ!! ……ティロ・フィナーレ!!」
マミが顕現させた巨大マスケット銃から放たれた凶暴な閃光が、魔女の口内から体の先端まで内部を焼き尽くしながら、もう一つの椅子の上に乗っている人形ごと貫いた。
ティロ・フィナーレによる内部からの破壊に、魔女が跡形もなく爆散する。
シュゥゥゥゥゥン……。
結界が消え去り、周囲の風景が病院の敷地内へと戻る。
「社君!! 大丈夫!?」
変身を解いたマミとさやか達が慌てて駆け寄る。
「あ、ああ、大丈夫だよ。ちょっとばかりやばかったけどね……」
「無事で良かった……」
「ん? 心配してくれるのかい?」
芳文の軽口にマミは目に涙を浮かべて叫ぶ。
「当たり前でしょ!!」
「……そっか。うん。ありがとう」
「お礼を言うのはこっちよ。あなたがいてくれなかったら今頃私……」
あの魔女に噛み砕かれて、そして……。
今になって背筋が凍る。がたがたと震えが止まらない。
「……少しは役に立てたかな?」
「ありがとう……社君」
マミは心からの礼を言う。
「それにしても、先輩よく助かったよね。それにあのでかい魔女が、最初のぬいぐるみの魔女から出てきたのにもすぐ気付いたし」
さやかの問いかけに、芳文はああ、と言って答える。
「俺、視力良いんだよ。あの魔女の口からなんか出てくるのが見えたから、慌てて巴さんの方へ走ったんだ。喰われなかったのは単に運が良かったんだと思う」
「あいつの片目を潰してやったから、遠近感が狂ったんだろうな。もし地面ごと喰われなかったら、今頃俺はミンチだよ」
「丁度魔女の舌の上に飲み込まれたから、巴さんに作ってもらった剣で、滅茶苦茶に斬って突き刺してやったら、吐き出された。ただそれだけだよ」
芳文のミンチという言葉にマミ達は震え上がる。本当に自分達は恐ろしい、危険な目にあっていたのだと……。
「……さてと、巴さん。ちょっと相談があるんだけど」
「……何?」
「あのさ、巴さんとの約束だけど……破ってもいいかな?」
「え?」
「やっぱり無理だ。一度知ってしまったのを見て見ぬふりなんて出来ない。だって俺は……」
芳文はそこで一旦止めて、マミ達の顔を見回して口を開く。
「――バカだから」
「バカだから、女の子だけを戦わせて見て見ぬふりなんて、出来ない。だから、俺も一緒に戦う。俺に何が出来るかなんて判らないし、何も出来ないかもしれない。それでも……俺は、君達と一緒に戦いたい」
芳文の宣言。マミ達はその言葉に押し黙る。そして……。
「……本当に……いいの?」
おずおずとマミが尋ねる。
「うん」
「今回みたいな事がこれからもあるのよ?」
「大丈夫。みんなで力を合わせれば乗り越えられる。それに、正義は勝つって言うだろ?」
そう言ってウインクをして見せる。
「……馬鹿ね」
「ホント、先輩ってバカだよね」
「おいおい……。まあ、バカなのは否定しないけどさ」
マミとさやかの言葉にそう返すと、マミとさやかは笑顔を見せる。
「とりあえず、これからよろしくでいいかな?」
芳文がそう言って手を差し出すと、マミは少し戸惑いつつ、両手で芳文の手を取る。
「……ありがとう」
「よっしゃー、仲間が増えたよ!! やったねマミさん!!」
「ええ!!」
さやかの言葉に、マミは飛び切りの笑顔で頷いた。
マミにとって、今日という日は最高の1日だった。
キュゥべえはさやかの足元で、マミが死を覚悟した時に解けたマミの魔法から逃れたほむらは遠く離れた場所から、それぞれ無表情のまま3人を見つめる。
魔法の使者と黒の魔法少女が何を思っているのか――それは、当人達にしかわからない。
「……」
まどかはひとり、笑顔のマミ達から離れた場所で、じっとマミ達を見つめる。
「――マミさんもさやかちゃんも先輩も、怖くないのかな……」
マミと共に魔法少女になると約束した。もしも何かあっても強くてかっこいいマミが守ってくれる。マミと二人でならきっと頑張れる。
――そう、思った。
しかし、現実は厳しかった。無敵のヒロインだと思い込んでいたあのマミですら、もしかしたら死んでいたかもしれないほどに熾烈だった。
「私、怖いよ……。あんなのと、これからずっと戦い続けるなんて無理……」
マミとさやかは仲間が増えた事を喜んでいる。
だが、まどかはただ、怯えて震えるだけだった。
――魔女への恐怖に怯える少女はまだ、己の過酷な運命を知らない。
「怖いよ……嫌だよぅ……」
つづく
グオォォォォォォォォォォォォォォォン!!
突然、芳文を喰った魔女が苦しそうな顔をして、ぺっと何かを吐き出す。
「ってぇー!! や、やばかった……」
地面に背中から叩きつけられ、芳文は痛みに顔をしかめながら立ち上がる。
「社君!?」
「先輩!?」
「よ、良かった……」
芳文を吐き出した魔女は、口の中を血だらけにして、空中を大口を開けたままのた打ち回る。魔女の口内は、芳文によって剣で滅茶苦茶に切り裂かれ、突かれ、青い舌には深々と剣が突き立てられていた。
「巴さん!! あいつの口の中をもう一度狙うんだ!! さっきあいつは最初の奴の口の中から出てきた!! 口の中からケツの先まで貫いてやれ!!」
「わかったわ!! ……ティロ・フィナーレ!!」
マミが顕現させた巨大マスケット銃から放たれた凶暴な閃光が、魔女の口内から体の先端まで内部を焼き尽くしながら、もう一つの椅子の上に乗っている人形ごと貫いた。
ティロ・フィナーレによる内部からの破壊に、魔女が跡形もなく爆散する。
シュゥゥゥゥゥン……。
結界が消え去り、周囲の風景が病院の敷地内へと戻る。
「社君!! 大丈夫!?」
変身を解いたマミとさやか達が慌てて駆け寄る。
「あ、ああ、大丈夫だよ。ちょっとばかりやばかったけどね……」
「無事で良かった……」
「ん? 心配してくれるのかい?」
芳文の軽口にマミは目に涙を浮かべて叫ぶ。
「当たり前でしょ!!」
「……そっか。うん。ありがとう」
「お礼を言うのはこっちよ。あなたがいてくれなかったら今頃私……」
あの魔女に噛み砕かれて、そして……。
今になって背筋が凍る。がたがたと震えが止まらない。
「……少しは役に立てたかな?」
「ありがとう……社君」
マミは心からの礼を言う。
「それにしても、先輩よく助かったよね。それにあのでかい魔女が、最初のぬいぐるみの魔女から出てきたのにもすぐ気付いたし」
さやかの問いかけに、芳文はああ、と言って答える。
「俺、視力良いんだよ。あの魔女の口からなんか出てくるのが見えたから、慌てて巴さんの方へ走ったんだ。喰われなかったのは単に運が良かったんだと思う」
「あいつの片目を潰してやったから、遠近感が狂ったんだろうな。もし地面ごと喰われなかったら、今頃俺はミンチだよ」
「丁度魔女の舌の上に飲み込まれたから、巴さんに作ってもらった剣で、滅茶苦茶に斬って突き刺してやったら、吐き出された。ただそれだけだよ」
芳文のミンチという言葉にマミ達は震え上がる。本当に自分達は恐ろしい、危険な目にあっていたのだと……。
「……さてと、巴さん。ちょっと相談があるんだけど」
「……何?」
「あのさ、巴さんとの約束だけど……破ってもいいかな?」
「え?」
「やっぱり無理だ。一度知ってしまったのを見て見ぬふりなんて出来ない。だって俺は……」
芳文はそこで一旦止めて、マミ達の顔を見回して口を開く。
「――バカだから」
「バカだから、女の子だけを戦わせて見て見ぬふりなんて、出来ない。だから、俺も一緒に戦う。俺に何が出来るかなんて判らないし、何も出来ないかもしれない。それでも……俺は、君達と一緒に戦いたい」
芳文の宣言。マミ達はその言葉に押し黙る。そして……。
「……本当に……いいの?」
おずおずとマミが尋ねる。
「うん」
「今回みたいな事がこれからもあるのよ?」
「大丈夫。みんなで力を合わせれば乗り越えられる。それに、正義は勝つって言うだろ?」
そう言ってウインクをして見せる。
「……馬鹿ね」
「ホント、先輩ってバカだよね」
「おいおい……。まあ、バカなのは否定しないけどさ」
マミとさやかの言葉にそう返すと、マミとさやかは笑顔を見せる。
「とりあえず、これからよろしくでいいかな?」
芳文がそう言って手を差し出すと、マミは少し戸惑いつつ、両手で芳文の手を取る。
「……ありがとう」
「よっしゃー、仲間が増えたよ!! やったねマミさん!!」
「ええ!!」
さやかの言葉に、マミは飛び切りの笑顔で頷いた。
マミにとって、今日という日は最高の1日だった。
キュゥべえはさやかの足元で、マミが死を覚悟した時に解けたマミの魔法から逃れたほむらは遠く離れた場所から、それぞれ無表情のまま3人を見つめる。
魔法の使者と黒の魔法少女が何を思っているのか――それは、当人達にしかわからない。
「……」
まどかはひとり、笑顔のマミ達から離れた場所で、じっとマミ達を見つめる。
「――マミさんもさやかちゃんも先輩も、怖くないのかな……」
マミと共に魔法少女になると約束した。もしも何かあっても強くてかっこいいマミが守ってくれる。マミと二人でならきっと頑張れる。
――そう、思った。
しかし、現実は厳しかった。無敵のヒロインだと思い込んでいたあのマミですら、もしかしたら死んでいたかもしれないほどに熾烈だった。
「私、怖いよ……。あんなのと、これからずっと戦い続けるなんて無理……」
マミとさやかは仲間が増えた事を喜んでいる。
だが、まどかはただ、怯えて震えるだけだった。
――魔女への恐怖に怯える少女はまだ、己の過酷な運命を知らない。
「怖いよ……嫌だよぅ……」
つづく
13:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:29:02.31:8GUEOo26o (12/48)
第1話 「……本当に……いいの?」
おわり
第1話 「……本当に……いいの?」
おわり
14:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:29:55.84:8GUEOo26o (13/48)
第2話 「私、死にたくない……」
――どこまでも続く闇の中を疾走するひとつの人影。
まるで、見る者すべてを吸い込んでしまいそうな、深くて暗い闇の中を疾走する影。
――黒衣の少女は深淵の闇の奥で、異形の影と対峙する。
不意に異形の影から小さな影が複数生まれ、おぞましい金切り声を上げながら少女へと襲い掛かる。
異形の影達は少女を蹂躙しようと、少女の前後左右上空から、少女を取り囲むようにして襲い掛かる――が。
小さな影達が少女の華奢な体を引き裂こうとしたその瞬間、少女の姿はまるで幻のように消え去り、影達は連続して発生した爆発に巻き込まれ跡形もなく霧散する。
そして次の瞬間、自らの生み出した影達の後を追うように、異形の影も連続して発生する爆発に飲み込まれ、跡形もなく木端微塵に粉砕されて消滅した。
深い闇は消え失せ、街明かりが深夜の世界を照らす。
いつの間に移動したのか。
黒衣の少女は、小さな廃工場前にある道路に立てられた明滅する街灯の上に立って呟いた。
「――おかしい。こんな魔女、私は知らない」
☆
「ティロ・フィナーレ!!」
マミの放った必殺の一撃がぬいぐるみの姿をした魔女の胴体を貫いた。
「やったぁ!!」
さやかが歓喜の声を上げたその瞬間。
魔女の口から飛び出したピエロの顔をした、巨大な蛇のような魔女がマミの頭を首から喰いちぎる。
一瞬で頭を噛み砕かれ、絶命したマミの体を貪り喰う魔女。
肉片一つ残さず、マミの体を喰らいつくした魔女はにやりと笑い、ものすごい速度でさやかとまどかへ迫ってくる。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
――チュンチュン……。
「……夢」
窓の外からスズメの囀りが聞こえる。カーテン越しに朝日に照らされたまどかの額と体は、寝汗でぐっしょりと濡れていた。
「まどか、朝からシャワーなんて珍しいじゃん」
「……うん、ちょっと寝苦しかったからかな」
母親と洗面台の前でそんな会話をしながら、まどかは別の事を考える。
(――どうしよう。マミさんと会うの……嫌だな……)
昨日、マミと魔法少女になって一緒に戦うと約束した。あの時のマミの嬉しそうな顔がまどかの脳裏によぎる。
(……でも怖いよ。私、さっきの夢みたいな死に方嫌だ……)
魔女の触手に貫かれる自分。魔女に生きたまま噛み砕かれて絶命する自分。そんな悲惨な最期がどうしても脳裏によぎってしまう。
(何年も魔法少女をしてたマミさんだって、あんな簡単に殺されそうになったのに……。私なんかじゃ魔法少女になってもすぐ殺されちゃうよ……)
「まどか、どうかしたのかい?」
朝食の席で、元気のないまどかを心配して父親が声をかける。
「……え。うん、大丈夫……」
「ねーちゃ、だいじょぶ?」
「まどか、本当に大丈夫か?」
幼い弟と母親もまどかの様子を心配する。
俯いたまま、ちらっと家族を見る。
――もし自分を変えようとすれば、すべてを失うことになる。転校生の暁美ほむらに言われた言葉が脳裏によぎる。
魔法少女になって、魔女に殺される無残な最期。こうして自分の身を案じてくれる優しい家族達との別れ。恐ろしい魔女への恐怖といった感情がどうしてもまどかの心を蝕む。
(……嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だっ!! もう怖いのは嫌だよ!! 私、死にたくない!!)
「まどか、もし具合が悪いなら、今日は学校を休みなさい」
まどかの様子を心配した父親の言葉に、まどかは力なく頷くのだった……。
第2話 「私、死にたくない……」
――どこまでも続く闇の中を疾走するひとつの人影。
まるで、見る者すべてを吸い込んでしまいそうな、深くて暗い闇の中を疾走する影。
――黒衣の少女は深淵の闇の奥で、異形の影と対峙する。
不意に異形の影から小さな影が複数生まれ、おぞましい金切り声を上げながら少女へと襲い掛かる。
異形の影達は少女を蹂躙しようと、少女の前後左右上空から、少女を取り囲むようにして襲い掛かる――が。
小さな影達が少女の華奢な体を引き裂こうとしたその瞬間、少女の姿はまるで幻のように消え去り、影達は連続して発生した爆発に巻き込まれ跡形もなく霧散する。
そして次の瞬間、自らの生み出した影達の後を追うように、異形の影も連続して発生する爆発に飲み込まれ、跡形もなく木端微塵に粉砕されて消滅した。
深い闇は消え失せ、街明かりが深夜の世界を照らす。
いつの間に移動したのか。
黒衣の少女は、小さな廃工場前にある道路に立てられた明滅する街灯の上に立って呟いた。
「――おかしい。こんな魔女、私は知らない」
☆
「ティロ・フィナーレ!!」
マミの放った必殺の一撃がぬいぐるみの姿をした魔女の胴体を貫いた。
「やったぁ!!」
さやかが歓喜の声を上げたその瞬間。
魔女の口から飛び出したピエロの顔をした、巨大な蛇のような魔女がマミの頭を首から喰いちぎる。
一瞬で頭を噛み砕かれ、絶命したマミの体を貪り喰う魔女。
肉片一つ残さず、マミの体を喰らいつくした魔女はにやりと笑い、ものすごい速度でさやかとまどかへ迫ってくる。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
――チュンチュン……。
「……夢」
窓の外からスズメの囀りが聞こえる。カーテン越しに朝日に照らされたまどかの額と体は、寝汗でぐっしょりと濡れていた。
「まどか、朝からシャワーなんて珍しいじゃん」
「……うん、ちょっと寝苦しかったからかな」
母親と洗面台の前でそんな会話をしながら、まどかは別の事を考える。
(――どうしよう。マミさんと会うの……嫌だな……)
昨日、マミと魔法少女になって一緒に戦うと約束した。あの時のマミの嬉しそうな顔がまどかの脳裏によぎる。
(……でも怖いよ。私、さっきの夢みたいな死に方嫌だ……)
魔女の触手に貫かれる自分。魔女に生きたまま噛み砕かれて絶命する自分。そんな悲惨な最期がどうしても脳裏によぎってしまう。
(何年も魔法少女をしてたマミさんだって、あんな簡単に殺されそうになったのに……。私なんかじゃ魔法少女になってもすぐ殺されちゃうよ……)
「まどか、どうかしたのかい?」
朝食の席で、元気のないまどかを心配して父親が声をかける。
「……え。うん、大丈夫……」
「ねーちゃ、だいじょぶ?」
「まどか、本当に大丈夫か?」
幼い弟と母親もまどかの様子を心配する。
俯いたまま、ちらっと家族を見る。
――もし自分を変えようとすれば、すべてを失うことになる。転校生の暁美ほむらに言われた言葉が脳裏によぎる。
魔法少女になって、魔女に殺される無残な最期。こうして自分の身を案じてくれる優しい家族達との別れ。恐ろしい魔女への恐怖といった感情がどうしてもまどかの心を蝕む。
(……嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だっ!! もう怖いのは嫌だよ!! 私、死にたくない!!)
「まどか、もし具合が悪いなら、今日は学校を休みなさい」
まどかの様子を心配した父親の言葉に、まどかは力なく頷くのだった……。
15:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:30:34.67:8GUEOo26o (14/48)
☆
ギッギッ……。
「……社君?」
「なんでしょうか、早乙女先生」
「君は私の授業中に何をしてるのかしら」
「はい。鍛えてます!!」
「授業中にする事ですか!!鍛えるなら放課後にしなさい!!」
まどか達の担任で、マミと芳文のクラスの英語の担当教諭でもある早乙女和子先生が、ハンドグリップで握力を鍛えながら、手首に括り付けた鉄アレイを上下させている芳文を叱る。
「大丈夫です先生。先生の授業はちゃんと聞いています!! それに、時間がないんです。一刻も早く少しでも強くならないといけないんです!!」
「何を言ってるんですか君は!!」
ギッギッ……。
「見ててください!! 先生!! 僕は絶対に強くなってみんなを守ってみせます!!」
「守るって誰からですか!!」
「それは言えません!! ただひとつ言えるのは先生、教え子の事を信じてください!!」
ギッギッ……。
「……先生、あなたの事がわからないわ」
「先生、人は言葉と言葉で分かり合える素晴らしい生き物だと思います」
「だったら、鍛えるのをやめなさい!!」
「すみません!! できません!!」
「あ、あなたねぇ……!!」
芳文に対して早乙女先生が怒りを爆発させようとしたその時、芳文は真剣な表情で先生の顔を見つめて真摯な声で言う。
「先生、僕は先生の授業大好きです!!」
「な、突然何を言い出すの社君」
「先生の授業はとても為になります。だから一分一秒でも無駄にするべきではないと思うんです!!」
「社君……」
「先生がしてくださる授業、最高だと思っています。先生がつまらない男に引っかかった時の体験談……それを話してもらえて僕は幸せだと思ってます!!」
「……え?」
「先生がつまらない男に引っかかるたびに、その事を話していただく度にちょっとだけ、いい男になれた気がするんです!!」
「……」
「なあみんな!! そう思うだろう!!」
芳文は席から立つと、ハンドグリップと鉄アレイの運動を休めることなく、クラスを見回して言う。
「先生の授業を聞く度に、みんな少しずついい男といい女に成長しているんです!! 先生、これからもずっと、僕らに人生の道しるべを示してください!! 僕らの反面教師として!!」
(うわあ……)
ざわざわ……。芳文の言葉にマミを含めたクラス全員が、顔を引きつらせて同じセリフを胸に抱く。
「さあ!! 先生!! 授業の続きをどうぞ!! それで、コーヒーに入れる砂糖の量くらいで、ごちゃごちゃ言ってくるつまらない男にひっかかって、先生はどうしたんですか!? さあ!! さあ!!」
「……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
ぼろぼろと涙を流し、涙をキラキラと振り撒きながら、早乙女先生は教室を飛び出していく。
「ああっ!? 早乙女先生っ!? どこへ行くんですか!? 授業を!! 授業をしてください!! 早乙女先生ーっ!! カムバーック!!」
「よっしゃぁぁぁっ!! 自習だぁぁぁっ!!」
呆然と成り行きを見持っていたクラスメイト達の中から、芳文の友人の天瀬が叫ぶ。
ワイワイガヤガヤ……。
それに釣られて数人の男子生徒と女子生徒達が騒ぎ出す。
「何を言うんだ!! みんなも静かにしろよ!! まだ授業の時間だぞ!! 早乙女先生ーカムバーック!!」
『おまえが言うな!!』
クラス全員のツッコミが入る。
「え?」
『そこで首を傾げるな!!』
「……えーと、これは噂に聞く学級崩壊ってやつか。うん。俺、15年間生きてきて初めてだよ。学級崩壊だなんて。早乙女先生も大変だな。うん。いくら公務員でも教職なんて就くもんじゃあないな」
『……』
「なあみんな。俺達もう中学3年生じゃないか。もうちょっと大人になろうぜ。この年で学級崩壊なんて、親が聞いたら泣くと思うんだ」
『おまえが言うか!!』
クラス全員のツッコミが入る。
「おお、みんな息ぴったりだなあ。うん。これは体育祭や文化祭の時いい結果が出せるに違いない。いいクラスだ」
ビッとクラス全員に親指を立てて見せる芳文。
『……』
「うん? みんなどうしたんだ?」
首を傾げる芳文。
(バ、バカだ!! こいつ、本物のバカだーっ!!)
クラス全員が芳文への共通認識を抱いた瞬間だった。
☆
ギッギッ……。
「……社君?」
「なんでしょうか、早乙女先生」
「君は私の授業中に何をしてるのかしら」
「はい。鍛えてます!!」
「授業中にする事ですか!!鍛えるなら放課後にしなさい!!」
まどか達の担任で、マミと芳文のクラスの英語の担当教諭でもある早乙女和子先生が、ハンドグリップで握力を鍛えながら、手首に括り付けた鉄アレイを上下させている芳文を叱る。
「大丈夫です先生。先生の授業はちゃんと聞いています!! それに、時間がないんです。一刻も早く少しでも強くならないといけないんです!!」
「何を言ってるんですか君は!!」
ギッギッ……。
「見ててください!! 先生!! 僕は絶対に強くなってみんなを守ってみせます!!」
「守るって誰からですか!!」
「それは言えません!! ただひとつ言えるのは先生、教え子の事を信じてください!!」
ギッギッ……。
「……先生、あなたの事がわからないわ」
「先生、人は言葉と言葉で分かり合える素晴らしい生き物だと思います」
「だったら、鍛えるのをやめなさい!!」
「すみません!! できません!!」
「あ、あなたねぇ……!!」
芳文に対して早乙女先生が怒りを爆発させようとしたその時、芳文は真剣な表情で先生の顔を見つめて真摯な声で言う。
「先生、僕は先生の授業大好きです!!」
「な、突然何を言い出すの社君」
「先生の授業はとても為になります。だから一分一秒でも無駄にするべきではないと思うんです!!」
「社君……」
「先生がしてくださる授業、最高だと思っています。先生がつまらない男に引っかかった時の体験談……それを話してもらえて僕は幸せだと思ってます!!」
「……え?」
「先生がつまらない男に引っかかるたびに、その事を話していただく度にちょっとだけ、いい男になれた気がするんです!!」
「……」
「なあみんな!! そう思うだろう!!」
芳文は席から立つと、ハンドグリップと鉄アレイの運動を休めることなく、クラスを見回して言う。
「先生の授業を聞く度に、みんな少しずついい男といい女に成長しているんです!! 先生、これからもずっと、僕らに人生の道しるべを示してください!! 僕らの反面教師として!!」
(うわあ……)
ざわざわ……。芳文の言葉にマミを含めたクラス全員が、顔を引きつらせて同じセリフを胸に抱く。
「さあ!! 先生!! 授業の続きをどうぞ!! それで、コーヒーに入れる砂糖の量くらいで、ごちゃごちゃ言ってくるつまらない男にひっかかって、先生はどうしたんですか!? さあ!! さあ!!」
「……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
ぼろぼろと涙を流し、涙をキラキラと振り撒きながら、早乙女先生は教室を飛び出していく。
「ああっ!? 早乙女先生っ!? どこへ行くんですか!? 授業を!! 授業をしてください!! 早乙女先生ーっ!! カムバーック!!」
「よっしゃぁぁぁっ!! 自習だぁぁぁっ!!」
呆然と成り行きを見持っていたクラスメイト達の中から、芳文の友人の天瀬が叫ぶ。
ワイワイガヤガヤ……。
それに釣られて数人の男子生徒と女子生徒達が騒ぎ出す。
「何を言うんだ!! みんなも静かにしろよ!! まだ授業の時間だぞ!! 早乙女先生ーカムバーック!!」
『おまえが言うな!!』
クラス全員のツッコミが入る。
「え?」
『そこで首を傾げるな!!』
「……えーと、これは噂に聞く学級崩壊ってやつか。うん。俺、15年間生きてきて初めてだよ。学級崩壊だなんて。早乙女先生も大変だな。うん。いくら公務員でも教職なんて就くもんじゃあないな」
『……』
「なあみんな。俺達もう中学3年生じゃないか。もうちょっと大人になろうぜ。この年で学級崩壊なんて、親が聞いたら泣くと思うんだ」
『おまえが言うか!!』
クラス全員のツッコミが入る。
「おお、みんな息ぴったりだなあ。うん。これは体育祭や文化祭の時いい結果が出せるに違いない。いいクラスだ」
ビッとクラス全員に親指を立てて見せる芳文。
『……』
「うん? みんなどうしたんだ?」
首を傾げる芳文。
(バ、バカだ!! こいつ、本物のバカだーっ!!)
クラス全員が芳文への共通認識を抱いた瞬間だった。
16:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:31:51.28:8GUEOo26o (15/48)
☆
「……それで、社先輩はさっきまで職員室に連行されたってわけですか」
「そうなんだよ。俺、別に悪い事してないのに」
「いや、あなた十分酷い事してるから」
「えー」
「何故そこで、不思議そうに首を傾げられるのかしら、あなたは」
放課後。早乙女先生を泣かせた件で担任教諭に呼び出しを喰らった芳文が合流してから、マミとさやかと芳文は3人で街中を歩く。
「まあ、確かに授業中に鍛えてたのは、悪い事だったかな」
「……社君。その事じゃなくて、早乙女先生につまらない男にひっかかったとか、反面教師とか言った事の方が問題なのよ」
「えええっ!? そうなの!?」
「……はあ」
マミが呆れた顔でため息をつく。
「なんてこった……。俺が原因で学級崩壊が起きのか……」
「いや、考えるまでもなくあなたが原因だから」
「……よし、明日気が済むまで、早乙女先生に殴ってもらおう」
「やめなさい。今のご時世に体罰なんて先生が振るえるわけないでしょ」
「あははは……。早乙女先生がホームルームの時元気がなかったのって、先輩のせいだったんだ」
さやかが乾いた笑みを浮かべて言う。
「……はあ、いい男への道は遠いなあ。そういや、まどかちゃんはどうしたの?」
「なんか体調が悪くて休むってメールが……」
「……ああ、女の子、ひでぶっ!!」
『それ以上言ったら殴るわよ』
声をハモらせて放たれたマミの平手打ちと、さやかのボディブローを喰らって芳文の言葉が途切れる。
「……痛いよ、二人とも」
「デリカシーのない男子は嫌われるわよ」
「先輩の変態」
「ひでぇ……。女の子女の子してるまどかちゃんの事だから、昨日の事でショックでも受けて寝込んでるのかなって言おうとしたのに……」
『え?』
「いや、ずっと戦ってきた巴さんや気の強いさやかちゃんと違って、あんなに優しくて女の子女の子してるまどかちゃんなら、ひどいショックとか受けててもしょうがないかなって……」
『……』
「えーと、よくわからないけど君達二人を怒らせるような誤解を招いたのかな、俺って」
「……さあ、次の場所に行きましょうか」
「そうですね」
芳文を殴った事について、何もなかった事にするのを決め込んだ二人はさっさと歩いていく。
「あ、ちょっと。……俺、なんで殴られたんだろう?」
首を傾げながら、芳文は慌てて二人の後を追うのだった。
☆
「……それで、社先輩はさっきまで職員室に連行されたってわけですか」
「そうなんだよ。俺、別に悪い事してないのに」
「いや、あなた十分酷い事してるから」
「えー」
「何故そこで、不思議そうに首を傾げられるのかしら、あなたは」
放課後。早乙女先生を泣かせた件で担任教諭に呼び出しを喰らった芳文が合流してから、マミとさやかと芳文は3人で街中を歩く。
「まあ、確かに授業中に鍛えてたのは、悪い事だったかな」
「……社君。その事じゃなくて、早乙女先生につまらない男にひっかかったとか、反面教師とか言った事の方が問題なのよ」
「えええっ!? そうなの!?」
「……はあ」
マミが呆れた顔でため息をつく。
「なんてこった……。俺が原因で学級崩壊が起きのか……」
「いや、考えるまでもなくあなたが原因だから」
「……よし、明日気が済むまで、早乙女先生に殴ってもらおう」
「やめなさい。今のご時世に体罰なんて先生が振るえるわけないでしょ」
「あははは……。早乙女先生がホームルームの時元気がなかったのって、先輩のせいだったんだ」
さやかが乾いた笑みを浮かべて言う。
「……はあ、いい男への道は遠いなあ。そういや、まどかちゃんはどうしたの?」
「なんか体調が悪くて休むってメールが……」
「……ああ、女の子、ひでぶっ!!」
『それ以上言ったら殴るわよ』
声をハモらせて放たれたマミの平手打ちと、さやかのボディブローを喰らって芳文の言葉が途切れる。
「……痛いよ、二人とも」
「デリカシーのない男子は嫌われるわよ」
「先輩の変態」
「ひでぇ……。女の子女の子してるまどかちゃんの事だから、昨日の事でショックでも受けて寝込んでるのかなって言おうとしたのに……」
『え?』
「いや、ずっと戦ってきた巴さんや気の強いさやかちゃんと違って、あんなに優しくて女の子女の子してるまどかちゃんなら、ひどいショックとか受けててもしょうがないかなって……」
『……』
「えーと、よくわからないけど君達二人を怒らせるような誤解を招いたのかな、俺って」
「……さあ、次の場所に行きましょうか」
「そうですね」
芳文を殴った事について、何もなかった事にするのを決め込んだ二人はさっさと歩いていく。
「あ、ちょっと。……俺、なんで殴られたんだろう?」
首を傾げながら、芳文は慌てて二人の後を追うのだった。
17:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:33:22.87:8GUEOo26o (16/48)
☆
――街中を歩き続けて一時間ほど経った頃、繁華街の路地裏にて。
「!? ソウルジェムに反応が出たわ!!
マミの左手に載せられたソウルジェムが明滅している。
「行くわよ、二人とも」
マミが先導して進むのを後についていく二人。
マミが足を止めると周囲の風景が異世界へと変化していく。
「巴さん、あれは魔女なのかい?」
マミ達の視線の先で、まるでイタチのような姿をしたカラフルな色の使い魔が一体、ふよふよと宙に浮いている。
芳文の言葉にマミは魔法少女の姿に変身して答える。
「いいえ。あれは使い魔よ」
「なるほど。あいつはグリーフシードだっけ? 倒しても落とさないんだよね」
「そうよ。でも放置したら人を襲って、元になった魔女と同じ姿になって、また新しい使い魔を産むから倒さないと」
「オーケー。それじゃ、あいつは俺が相手するよ」
「社君?」
「俺の役目は巴さんの魔翌力を無駄に使わせない事。使い魔は俺が何とかする。巴さんは魔女を倒す時に全力全開。もちろん、魔女戦の時は囮でも何でもして出来うる限りサポートする」
「大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。魔女相手だったら勝てないだろうけど、使い魔なら勝てると思う。とりあえず巴さん。剣一本出して。流石に素手じゃ倒せないから」
「社君、無理はしないで」
「了解」
マミが剣を一本顕現させて、芳文に渡す。
「一応聞いとくけど、これ出すのって魔翌力沢山使ったりする?」
「大丈夫よ。剣一本作るくらいの魔翌力なら、普段使ってる銃を一丁出すのとたいして変わらないから」
「それ聞いて安心した。んじゃ、行ってくる」
芳文はそう言って剣を構えて使い魔へと向かって走り出す。
芳文に気付いた使い魔は、前足をまるで刀の刀身のように変形させると、ぐるぐると全身を回転させながら、猛スピードで芳文目掛けて突っ込んでくる。それはまるで小型の竜巻だった。
「危ない!!」
さやかが叫ぶと同時に、芳文は紙一重で使い魔の突進をかわして、横なぎに剣で斬りつける。
ギギギギッ!!
使い魔の回転する刃と芳文の剣が金属の削られる音を鳴り響かせる。
「ちっ!!」
背後にバックステップで飛ぶと、使い魔は芳文の足元目掛けて突っ込んでくる。
「社君!!」
マミが叫ぶのと同時に、芳文はその場で思い切りジャンプして、先ほどまで立っていた場所へ突っ込んできた竜巻の中心部へと剣を突き刺した。
中心部を剣で串刺しにされた竜巻が回転を徐々に緩めていくと、頭頂部から股間までを串刺しにされた使い魔がその無様な姿を晒して、ビクンと一度震えるとそのまま霧散して消滅する。
「やったあ!!」
さやかが歓喜の声を上げる。
「社君!! 大丈夫!?」
マミとさやかが芳文の元へ駆け寄ると同時に周囲の風景が元の風景へと戻る。
「ああ、大丈夫だよ。流石ベテラン魔法少女の作った剣だ。鈍い音がしてたけど刃こぼれひとつしてやしない」
芳文が手にした剣を掲げて見せるとマミは引き締めていた表情を緩めて変身を解く。マミの変身が解けると同時に剣も消滅する。
「……ふう。それで俺は役に立てたかな?」
「ええ。あなた普通の人間のはずなのに、まさかこんなに強いなんて思わなかったわ」
「先輩よくあんな速い攻撃避けられたよね。あたしだったら、あんなの避けられないよ」
「いやいや、そんなに褒めないでくれよ。俺なんてまだまださ。……それにしても使い魔であれなんだから、あれの元になった魔女とやりあう時は気を付けないといけないな」
「そうね。さっきの使い魔と昨日の魔女もそうだけど、いつも現れる物よりも強い魔女と使い魔がこの街に現れてるみたいだから、気を引き締めないとね」
「ああ」
「……なんか、あたしやまどかがキュゥべえと契約しても、マミさんの役に立てるか不安になってきちゃったよ」
さやかが不安げに呟く。
「大丈夫さ。もし魔法少女になったとしても、君やまどかちゃんが一人で戦わないといけないわけじゃないし、一人だけで戦うなんて事は巴さんと俺がさせない」
芳文はそう言ってさやかの頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「社君の言うとうりよ。美樹さん」
そう言ってマミは優しい顔で微笑んでみせる。
「……はい」
さやかは笑顔でマミに返事を返す。
☆
――街中を歩き続けて一時間ほど経った頃、繁華街の路地裏にて。
「!? ソウルジェムに反応が出たわ!!
マミの左手に載せられたソウルジェムが明滅している。
「行くわよ、二人とも」
マミが先導して進むのを後についていく二人。
マミが足を止めると周囲の風景が異世界へと変化していく。
「巴さん、あれは魔女なのかい?」
マミ達の視線の先で、まるでイタチのような姿をしたカラフルな色の使い魔が一体、ふよふよと宙に浮いている。
芳文の言葉にマミは魔法少女の姿に変身して答える。
「いいえ。あれは使い魔よ」
「なるほど。あいつはグリーフシードだっけ? 倒しても落とさないんだよね」
「そうよ。でも放置したら人を襲って、元になった魔女と同じ姿になって、また新しい使い魔を産むから倒さないと」
「オーケー。それじゃ、あいつは俺が相手するよ」
「社君?」
「俺の役目は巴さんの魔翌力を無駄に使わせない事。使い魔は俺が何とかする。巴さんは魔女を倒す時に全力全開。もちろん、魔女戦の時は囮でも何でもして出来うる限りサポートする」
「大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。魔女相手だったら勝てないだろうけど、使い魔なら勝てると思う。とりあえず巴さん。剣一本出して。流石に素手じゃ倒せないから」
「社君、無理はしないで」
「了解」
マミが剣を一本顕現させて、芳文に渡す。
「一応聞いとくけど、これ出すのって魔翌力沢山使ったりする?」
「大丈夫よ。剣一本作るくらいの魔翌力なら、普段使ってる銃を一丁出すのとたいして変わらないから」
「それ聞いて安心した。んじゃ、行ってくる」
芳文はそう言って剣を構えて使い魔へと向かって走り出す。
芳文に気付いた使い魔は、前足をまるで刀の刀身のように変形させると、ぐるぐると全身を回転させながら、猛スピードで芳文目掛けて突っ込んでくる。それはまるで小型の竜巻だった。
「危ない!!」
さやかが叫ぶと同時に、芳文は紙一重で使い魔の突進をかわして、横なぎに剣で斬りつける。
ギギギギッ!!
使い魔の回転する刃と芳文の剣が金属の削られる音を鳴り響かせる。
「ちっ!!」
背後にバックステップで飛ぶと、使い魔は芳文の足元目掛けて突っ込んでくる。
「社君!!」
マミが叫ぶのと同時に、芳文はその場で思い切りジャンプして、先ほどまで立っていた場所へ突っ込んできた竜巻の中心部へと剣を突き刺した。
中心部を剣で串刺しにされた竜巻が回転を徐々に緩めていくと、頭頂部から股間までを串刺しにされた使い魔がその無様な姿を晒して、ビクンと一度震えるとそのまま霧散して消滅する。
「やったあ!!」
さやかが歓喜の声を上げる。
「社君!! 大丈夫!?」
マミとさやかが芳文の元へ駆け寄ると同時に周囲の風景が元の風景へと戻る。
「ああ、大丈夫だよ。流石ベテラン魔法少女の作った剣だ。鈍い音がしてたけど刃こぼれひとつしてやしない」
芳文が手にした剣を掲げて見せるとマミは引き締めていた表情を緩めて変身を解く。マミの変身が解けると同時に剣も消滅する。
「……ふう。それで俺は役に立てたかな?」
「ええ。あなた普通の人間のはずなのに、まさかこんなに強いなんて思わなかったわ」
「先輩よくあんな速い攻撃避けられたよね。あたしだったら、あんなの避けられないよ」
「いやいや、そんなに褒めないでくれよ。俺なんてまだまださ。……それにしても使い魔であれなんだから、あれの元になった魔女とやりあう時は気を付けないといけないな」
「そうね。さっきの使い魔と昨日の魔女もそうだけど、いつも現れる物よりも強い魔女と使い魔がこの街に現れてるみたいだから、気を引き締めないとね」
「ああ」
「……なんか、あたしやまどかがキュゥべえと契約しても、マミさんの役に立てるか不安になってきちゃったよ」
さやかが不安げに呟く。
「大丈夫さ。もし魔法少女になったとしても、君やまどかちゃんが一人で戦わないといけないわけじゃないし、一人だけで戦うなんて事は巴さんと俺がさせない」
芳文はそう言ってさやかの頭をくしゃくしゃと撫でてやる。
「社君の言うとうりよ。美樹さん」
そう言ってマミは優しい顔で微笑んでみせる。
「……はい」
さやかは笑顔でマミに返事を返す。
18:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:34:50.11:8GUEOo26o (17/48)
「うん。やっぱり女の子は笑顔が一番だ」
「で、先輩はいつまであたしの頭を撫でてるのかな」
「……ああ、ごめん。気を悪くしたなら謝るよ」
芳文は慌ててさやかの頭から手をどかして謝る。
「いや、別にいいんだけど。なんていうか、子供扱いされてるみたいでさ」
「中学生なんてまだまだ子供だと思うけどな。図体ばっかでかくなっても親に頼らなきゃ生活出来ないし。俺も君達も」
「そりゃそうかもしれないけど……って、いや、そうじゃなくて!!」
「社君、あんまり美樹さんをからかったら駄目よ」
「別にからかったわけじゃないんだけどな……」
「所で先輩ってさ、女の子の頭撫でるの慣れてるの? 随分自然に撫でてくれたけど」
「……ああ、妹がいたんだよ」
「先輩って、妹がいるんだ」
「ああ。性格がちょっとさやかちゃんに似てるかな」
「へえー。ちょっと会ってみたいかも」
「……それは無理だな。悪いけど」
「……え?」
「社君、いた、って……」
「うん。もういないんだ。この世界のどこにも」
「あ……」
マミとさやかがばつが悪そうにするのを見て、芳文は明るく声をかける。
「さあ、まだパトロールするんだろう? 行こう、二人共」
「……そうね。行きましょう美樹さん」
「……はい」
三人は再び街中の探索に戻るのだった。
☆
翌日もマミとさやかと芳文は放課後、三人で魔女や使い魔を探して街を探索していた。
「今日もまどかちゃんは休みか。大丈夫かな?」
「一応メールは打っておいたけど、返信がないんだよね。ホント、まどか大丈夫かな」
「美樹さん、鹿目さんってもしかして体が弱いとか?」
「いえ、まどかは別に体が弱いとかそういうのないですけど」
「……そう」
さやかの返答にマミは俯く。
「まあここ数日で色々あったし、しょうがないさ」
「……そうね」
「そういや、淫獣は? 昨日今日と見かけてないけど」
「僕は淫獣じゃないよ」
「あ、キュゥべえ」
建物の影から出てきたキュゥべえが、さやかの肩の上に駆け登る。
「丁度良かった。ねえ、キュゥべえはまどかの所にいたんでしょ。まどかの体調どうなの?」
「まどかなら、肉体的には健康そのものだよ」
さやかの問いかけに、いつものポーカーフェイスで答えるキュゥべえにマミが尋ねる。
「……キュゥべえ、それはどういう意味なの?」
「そのままの意味だよ。まどかは精神的に参ってるって事」
「それはこの前の魔女戦のせいか?」
「おそらくそうだろうね。マミや君があの魔女に喰い殺されそうになったのが、相当ショックだったんだろうね。あの日の夜も随分うなされていたし」
「……それで、おまえさんはどうしてたんだ?」
「とりあえずまどかが落ち着くのを待ってから、契約するかどうか聞いたんだけど、怖いから嫌だって泣きながら拒否されたよ」
「おい!! 慰めるてあげるとか他に出来る事あるだろうが!! まどかちゃんがそんな状態の時に契約を持ちかけるってお前に人の心はないのか!!」
芳文がキュゥべえの態度に怒って、鷲掴みにしようとするのをマミが腕を掴んで制止する。
「社君、キュゥべえに当たってもしょうがないわ。それに元々、彼女には命を懸けてまで叶えたい願いも魔女と戦わないといけない理由もないんだから……」
マミはどこか寂しそうにそう言うと、さやかに向き直りさやかの目をじっと見つめながら語りかける。
「美樹さん。あなたも契約をするかどうかは慎重に考えてね。あなたの願いが本当に命をかけてまで叶えたい願いなのかどうかを」
「あなたは人の為に願いを使おうとしているみたいだけど、それでもし、あなた自身が報われなかった時の事もしっかり考えて。その場の感情だけで契約しては絶対に駄目よ」
「……わかりました」
マミの言葉にさやかはしっかりと頷いて答える。
「僕としては契約してくれるならどんな願いでもいいんだけどね」
「てめえは少し黙ってろ淫獣」
空気の読めないキュゥべえの頭にぎりぎりとアイアンクローを芳文はかましてやる。
「痛いよ」
「だったら余計な事を言うな」
「……そうね。キュゥべえはもう少しデリカシーと言う物を持った方が良いわ。さあ、今日はここまでにして解散しましょう」
「そっか。それじゃ二人とも家まで送ってくよ」
「大丈夫よ。まだそんなに遅い時間じゃないから」
「あたしも大丈夫。ここからなら家近いから」
「そう? まあ無理にとは言わないけど」
「ありがとう、社君」
「それじゃ、マミさん、先輩、また明日」
「うん、また明日」
キュゥべえを肩に載せたまま、さやかが手を振って去っていく。
「じゃあ、私もここで」
「ああ、また明日」
「ええ」
マミも踵を返して去っていく。マミの背中が少し寂しそうに見えたが、芳文はマミとまどかに何があったのか知らないので、マミにかける言葉が見つからなかった……。
「うん。やっぱり女の子は笑顔が一番だ」
「で、先輩はいつまであたしの頭を撫でてるのかな」
「……ああ、ごめん。気を悪くしたなら謝るよ」
芳文は慌ててさやかの頭から手をどかして謝る。
「いや、別にいいんだけど。なんていうか、子供扱いされてるみたいでさ」
「中学生なんてまだまだ子供だと思うけどな。図体ばっかでかくなっても親に頼らなきゃ生活出来ないし。俺も君達も」
「そりゃそうかもしれないけど……って、いや、そうじゃなくて!!」
「社君、あんまり美樹さんをからかったら駄目よ」
「別にからかったわけじゃないんだけどな……」
「所で先輩ってさ、女の子の頭撫でるの慣れてるの? 随分自然に撫でてくれたけど」
「……ああ、妹がいたんだよ」
「先輩って、妹がいるんだ」
「ああ。性格がちょっとさやかちゃんに似てるかな」
「へえー。ちょっと会ってみたいかも」
「……それは無理だな。悪いけど」
「……え?」
「社君、いた、って……」
「うん。もういないんだ。この世界のどこにも」
「あ……」
マミとさやかがばつが悪そうにするのを見て、芳文は明るく声をかける。
「さあ、まだパトロールするんだろう? 行こう、二人共」
「……そうね。行きましょう美樹さん」
「……はい」
三人は再び街中の探索に戻るのだった。
☆
翌日もマミとさやかと芳文は放課後、三人で魔女や使い魔を探して街を探索していた。
「今日もまどかちゃんは休みか。大丈夫かな?」
「一応メールは打っておいたけど、返信がないんだよね。ホント、まどか大丈夫かな」
「美樹さん、鹿目さんってもしかして体が弱いとか?」
「いえ、まどかは別に体が弱いとかそういうのないですけど」
「……そう」
さやかの返答にマミは俯く。
「まあここ数日で色々あったし、しょうがないさ」
「……そうね」
「そういや、淫獣は? 昨日今日と見かけてないけど」
「僕は淫獣じゃないよ」
「あ、キュゥべえ」
建物の影から出てきたキュゥべえが、さやかの肩の上に駆け登る。
「丁度良かった。ねえ、キュゥべえはまどかの所にいたんでしょ。まどかの体調どうなの?」
「まどかなら、肉体的には健康そのものだよ」
さやかの問いかけに、いつものポーカーフェイスで答えるキュゥべえにマミが尋ねる。
「……キュゥべえ、それはどういう意味なの?」
「そのままの意味だよ。まどかは精神的に参ってるって事」
「それはこの前の魔女戦のせいか?」
「おそらくそうだろうね。マミや君があの魔女に喰い殺されそうになったのが、相当ショックだったんだろうね。あの日の夜も随分うなされていたし」
「……それで、おまえさんはどうしてたんだ?」
「とりあえずまどかが落ち着くのを待ってから、契約するかどうか聞いたんだけど、怖いから嫌だって泣きながら拒否されたよ」
「おい!! 慰めるてあげるとか他に出来る事あるだろうが!! まどかちゃんがそんな状態の時に契約を持ちかけるってお前に人の心はないのか!!」
芳文がキュゥべえの態度に怒って、鷲掴みにしようとするのをマミが腕を掴んで制止する。
「社君、キュゥべえに当たってもしょうがないわ。それに元々、彼女には命を懸けてまで叶えたい願いも魔女と戦わないといけない理由もないんだから……」
マミはどこか寂しそうにそう言うと、さやかに向き直りさやかの目をじっと見つめながら語りかける。
「美樹さん。あなたも契約をするかどうかは慎重に考えてね。あなたの願いが本当に命をかけてまで叶えたい願いなのかどうかを」
「あなたは人の為に願いを使おうとしているみたいだけど、それでもし、あなた自身が報われなかった時の事もしっかり考えて。その場の感情だけで契約しては絶対に駄目よ」
「……わかりました」
マミの言葉にさやかはしっかりと頷いて答える。
「僕としては契約してくれるならどんな願いでもいいんだけどね」
「てめえは少し黙ってろ淫獣」
空気の読めないキュゥべえの頭にぎりぎりとアイアンクローを芳文はかましてやる。
「痛いよ」
「だったら余計な事を言うな」
「……そうね。キュゥべえはもう少しデリカシーと言う物を持った方が良いわ。さあ、今日はここまでにして解散しましょう」
「そっか。それじゃ二人とも家まで送ってくよ」
「大丈夫よ。まだそんなに遅い時間じゃないから」
「あたしも大丈夫。ここからなら家近いから」
「そう? まあ無理にとは言わないけど」
「ありがとう、社君」
「それじゃ、マミさん、先輩、また明日」
「うん、また明日」
キュゥべえを肩に載せたまま、さやかが手を振って去っていく。
「じゃあ、私もここで」
「ああ、また明日」
「ええ」
マミも踵を返して去っていく。マミの背中が少し寂しそうに見えたが、芳文はマミとまどかに何があったのか知らないので、マミにかける言葉が見つからなかった……。
19:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:36:02.21:8GUEOo26o (18/48)
☆
「……帰るか」
マミとさやかの姿が見えなくなった頃、残された芳文はそう呟いて歩き出す。
(……巴さん、まどかちゃんの事を淫獣に聞いた時、寂しそうな顔してたな)
マミの寂しそうな顔を見て、まどかとの間に何かあったのかなと、考えながら歩いているその時だった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
通りかかった公園の中から、女の子の悲鳴が聞こえた。
「悲鳴!?」
芳文は悲鳴が聞こえた方角へと走り出す。
「どこだ!?」
公園の中に飛び込んだ芳文の目の前で、ナイフを持った30代くらいの小太りの男が、地面にへたりこんでじりじりと後ずさる女の子を襲おうとしていた。
「てめえ!! 何してやがる!!」
芳文は男を怒鳴りつけながら、男の顔面に渾身のパンチを叩きこむ。男は前歯を数本へし折られ、電灯に叩きつけられるとそのままずるずると地面に倒れ伏す。
男が完全に失神してピクリとも動かなくなったのを確認すると、芳文は襲われていた女の子に振り向いて優しく声をかける。
「もう大丈夫だよ……って、まどかちゃん?」
芳文が助けた女の子は見滝原中学の制服を着たまどかだった。よほど怖かったのだろう。目に涙を浮かべてがたがたと震えている。
「今日学校休んだって、さやかちゃんに聞いてたんだけど……。立てる?」
芳文が手を差し出すと、まどかはおずおずと手を掴んでくる。
「よっと……?」
まどかの手を取って立たせてやると、足取りがおぼつかないのか、よろよろと芳文の方へと倒れこんでくる。
「大丈夫? ケガとかしてない?」
まどかの小さな体を優しく受け止めて尋ねると、まどかは涙をぽろぽろと零して嗚咽を漏らす。
「怖かった……。怖かったよう……」
「大丈夫。もう大丈夫だから」
芳文はぽんぽんと優しく肩を叩いてやる。
「う、うえぇぇぇぇぇぇぇんっ……」
よほど怖かったのか、まどかはしばらく泣き続けた。
「……ぐす」
「もう、大丈夫かな」
「ぐす……はい」
「どうしてこんな所に一人でいたのか、聞いてもいいいかな?」
まどかが落ち着くのを待って芳文は疑問を切り出す。
「さやかちゃんからは、今日も学校を休んだって聞いてたけど……」
「……」
「言いたくないなら、言わなくてもいいよ。それじゃ、家まで送ってあげるから」
「……先輩は、マミさん達と魔女退治してたんですか?」
「うん。今日は見つからなかったけど、昨日は使い魔を一匹倒した」
「……先輩は怖くないんですか?」
「まどかちゃん?」
「……私、マミさんに会うのが怖かったんです。一昨日、先輩がさやかちゃんを助けに行ってくれた日、マミさんと約束したんです」
「魔法少女になってマミさんと一緒に魔女をやっつけるって。マミさんの側にいるって。なのに……」
まどかの瞳にまた涙が溜まる。
「あの時、マミさん達が殺されそうになったのを見て私、怖くなって……っ」
「マミさんみたいに誰かの役に立ちたいって、マミさんと一緒なら、何にも出来ない今の自分と違う自分になれるって……っ。それなのに、怖くって……っ!!」
ぽろぽろと涙を流しながら、まどかは苦しい胸の内を吐き出す。
「マミさんはあんなに喜んでくれたのにっ……!! マミさんみたいになりたいのに……っ!! どうしても恐怖の方が強くて、契約なんて出来なくて……っ!!」
「マミさんに会わせる顔がないよ……っ!! 怖いのは嫌だぁ……。私、死にたくない……。嫌だ、嫌だよぉ……」
「まどかちゃん。泣かないで」
芳文は優しくまどかの頭を撫でてやる。
「怖いなら、それでいいじゃないか。無理に魔法少女になる必要なんかない」
「でも!! でも私!!」
「上手く言えないけどさ、別に一緒に戦うだけがすべてじゃないと俺は思うんだ」
「……え?」
「俺は君達と知り合って日も浅いから、間違ってる所もあるかも知れないけど……言わせてもらうよ。君はひとりぼっちだった巴さんの側にいるって約束したんだろう?」
「……はい」
「側にいるのは何も戦場でなくてもいいんじゃないかな。普段の日常生活では友達として側にいてあげればいい。巴さんが戦いに行くなら、彼女の無事を願って帰りを待っててあげればいい」
「それで、彼女が帰ってきたらおかえりなさいって言ってあげればいい。それでいいじゃないか」
「……」
「どこまでやれるかわからないけど、俺が君の代わりに巴さんと一緒に戦うから。だから君はそのままの君でいればいい」
「でも……」
「それとも、君の知ってる巴さんは、戦う意思のない他人を無理やり戦いに巻き込むような人なのかな?」
芳文の言葉にまどかはきっぱりと言い切る。
「マミさんはそんな事しません!!」
「うん。知ってる。だから、謝ろう。彼女もきっとわかってくれるはずだから」
「でも……」
「このままじゃ、君も巴さんも苦しい思いをするだけだよ。一人で言う勇気が出なければ俺も一緒に謝ってあげるから」
「……マミさん、許してくれるでしょうか?」
「大丈夫だよ。彼女は優しい人だから」
「……はい」
涙をぬぐってまどかはようやく笑顔を見せる。
☆
「……帰るか」
マミとさやかの姿が見えなくなった頃、残された芳文はそう呟いて歩き出す。
(……巴さん、まどかちゃんの事を淫獣に聞いた時、寂しそうな顔してたな)
マミの寂しそうな顔を見て、まどかとの間に何かあったのかなと、考えながら歩いているその時だった。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
通りかかった公園の中から、女の子の悲鳴が聞こえた。
「悲鳴!?」
芳文は悲鳴が聞こえた方角へと走り出す。
「どこだ!?」
公園の中に飛び込んだ芳文の目の前で、ナイフを持った30代くらいの小太りの男が、地面にへたりこんでじりじりと後ずさる女の子を襲おうとしていた。
「てめえ!! 何してやがる!!」
芳文は男を怒鳴りつけながら、男の顔面に渾身のパンチを叩きこむ。男は前歯を数本へし折られ、電灯に叩きつけられるとそのままずるずると地面に倒れ伏す。
男が完全に失神してピクリとも動かなくなったのを確認すると、芳文は襲われていた女の子に振り向いて優しく声をかける。
「もう大丈夫だよ……って、まどかちゃん?」
芳文が助けた女の子は見滝原中学の制服を着たまどかだった。よほど怖かったのだろう。目に涙を浮かべてがたがたと震えている。
「今日学校休んだって、さやかちゃんに聞いてたんだけど……。立てる?」
芳文が手を差し出すと、まどかはおずおずと手を掴んでくる。
「よっと……?」
まどかの手を取って立たせてやると、足取りがおぼつかないのか、よろよろと芳文の方へと倒れこんでくる。
「大丈夫? ケガとかしてない?」
まどかの小さな体を優しく受け止めて尋ねると、まどかは涙をぽろぽろと零して嗚咽を漏らす。
「怖かった……。怖かったよう……」
「大丈夫。もう大丈夫だから」
芳文はぽんぽんと優しく肩を叩いてやる。
「う、うえぇぇぇぇぇぇぇんっ……」
よほど怖かったのか、まどかはしばらく泣き続けた。
「……ぐす」
「もう、大丈夫かな」
「ぐす……はい」
「どうしてこんな所に一人でいたのか、聞いてもいいいかな?」
まどかが落ち着くのを待って芳文は疑問を切り出す。
「さやかちゃんからは、今日も学校を休んだって聞いてたけど……」
「……」
「言いたくないなら、言わなくてもいいよ。それじゃ、家まで送ってあげるから」
「……先輩は、マミさん達と魔女退治してたんですか?」
「うん。今日は見つからなかったけど、昨日は使い魔を一匹倒した」
「……先輩は怖くないんですか?」
「まどかちゃん?」
「……私、マミさんに会うのが怖かったんです。一昨日、先輩がさやかちゃんを助けに行ってくれた日、マミさんと約束したんです」
「魔法少女になってマミさんと一緒に魔女をやっつけるって。マミさんの側にいるって。なのに……」
まどかの瞳にまた涙が溜まる。
「あの時、マミさん達が殺されそうになったのを見て私、怖くなって……っ」
「マミさんみたいに誰かの役に立ちたいって、マミさんと一緒なら、何にも出来ない今の自分と違う自分になれるって……っ。それなのに、怖くって……っ!!」
ぽろぽろと涙を流しながら、まどかは苦しい胸の内を吐き出す。
「マミさんはあんなに喜んでくれたのにっ……!! マミさんみたいになりたいのに……っ!! どうしても恐怖の方が強くて、契約なんて出来なくて……っ!!」
「マミさんに会わせる顔がないよ……っ!! 怖いのは嫌だぁ……。私、死にたくない……。嫌だ、嫌だよぉ……」
「まどかちゃん。泣かないで」
芳文は優しくまどかの頭を撫でてやる。
「怖いなら、それでいいじゃないか。無理に魔法少女になる必要なんかない」
「でも!! でも私!!」
「上手く言えないけどさ、別に一緒に戦うだけがすべてじゃないと俺は思うんだ」
「……え?」
「俺は君達と知り合って日も浅いから、間違ってる所もあるかも知れないけど……言わせてもらうよ。君はひとりぼっちだった巴さんの側にいるって約束したんだろう?」
「……はい」
「側にいるのは何も戦場でなくてもいいんじゃないかな。普段の日常生活では友達として側にいてあげればいい。巴さんが戦いに行くなら、彼女の無事を願って帰りを待っててあげればいい」
「それで、彼女が帰ってきたらおかえりなさいって言ってあげればいい。それでいいじゃないか」
「……」
「どこまでやれるかわからないけど、俺が君の代わりに巴さんと一緒に戦うから。だから君はそのままの君でいればいい」
「でも……」
「それとも、君の知ってる巴さんは、戦う意思のない他人を無理やり戦いに巻き込むような人なのかな?」
芳文の言葉にまどかはきっぱりと言い切る。
「マミさんはそんな事しません!!」
「うん。知ってる。だから、謝ろう。彼女もきっとわかってくれるはずだから」
「でも……」
「このままじゃ、君も巴さんも苦しい思いをするだけだよ。一人で言う勇気が出なければ俺も一緒に謝ってあげるから」
「……マミさん、許してくれるでしょうか?」
「大丈夫だよ。彼女は優しい人だから」
「……はい」
涙をぬぐってまどかはようやく笑顔を見せる。
20:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:38:16.42:8GUEOo26o (19/48)
「やっと笑ってくれたね」
「え?」
「女の子は泣いてる顔よりも笑顔の方がかわいいよ」
「……」
かっとまどかの顔が赤くなる。
「さ、帰ろう。家まで送ってあげるから」
「……はい。……あ、でも」
「どうしたの?」
「その、実は今日、学校ずる休みしちゃって……」
「……ああ、それで今日はずっと外で時間潰してたって事か。制服姿なのも納得がいったよ」
「あぅ……はい……」
ばつが悪そうにもじもじするまどか。
「うーん、流石にご両親に怒られるのはしょうがないね。学校から連絡の一つくらい行ってるだろうし」
「……どうしよう」
「そうだなあ……。とりあえず、帰り道で一緒に言い訳を考えてあげるよ」
「すみません……」
「気にしなくていいよ。……あ、あいつどうしよう。とりあえず警察に連絡した方が良いかな」
芳文はそう言って、倒れている男を見る。
「!?」
先ほどまで失神していた男が、いつの間にか立ち上がって、まるで幽鬼のようにふらふらとナイフを片手に芳文達の元へ歩いてくる。
「ひ……」
怯えるまどかを背後に庇いつつ芳文が優しく語りかける。
「大丈夫だから安心して。もう一度ぶっとばして警察に突き出してやるから」
芳文が男をもう一度殴り飛ばそうとしたその時だった。
茂みの中から、公園の出入り口から、ナイフや割れたビール瓶、ドライバー、バットといった、凶器を持った男達がふらふらと目の前の男と同じように、芳文達の元へと向かってくる。
「なんだこいつらは!?」
「先輩!! あの人達の首元に!!」
震えながらまどかが指差すその先に芳文が視線を向けると、ふらふらと歩いてくる男達の首筋に奇妙なタトゥーが街灯で照らされて確認出来た。
「あれは……!? たしか魔女の口づけとか言う……」
街の探索中にマミから聞いた情報と一致する。
「まずい!! 魔女の口づけを受けた人間が集まるって事は、この公園のどこかに魔女の結界があるって事か!!」
「そんな……」
芳文の言葉にまどかが顔面蒼白になる。
「くそ、巴さんなら気付いたんだろうけど……!!」
魔法少女ではない芳文とまどかには魔女の気配はわからない。せめて最初の男に付けられた魔女の口づけにもっと早く気付いていたら、すぐにこの場を離れられたのに。
「まどかちゃん、この場は逃げて巴さんを呼ぶよ!!」
「は、はい!!」
芳文は襲い掛かってきた男を殴り飛ばすと、まどかの手を掴んで走り出す。
公園をあと少しで出られるというその時――。
「っ!? しまった!!」
ぐにゃりと公園の風景が変わり出す。
「くそっ!!」
芳文は慌てて、携帯を取り出してマミに電話をかける。
「はい、巴です」
運良くマミが電話にすぐに出た。
「魔女だ!! 3丁目の運動公園」
ブッ、ツーツー……。
結界が出来上がり、携帯の通話が遮断される。芳文とまどかは完全に閉じ込められてしまった。
「やっと笑ってくれたね」
「え?」
「女の子は泣いてる顔よりも笑顔の方がかわいいよ」
「……」
かっとまどかの顔が赤くなる。
「さ、帰ろう。家まで送ってあげるから」
「……はい。……あ、でも」
「どうしたの?」
「その、実は今日、学校ずる休みしちゃって……」
「……ああ、それで今日はずっと外で時間潰してたって事か。制服姿なのも納得がいったよ」
「あぅ……はい……」
ばつが悪そうにもじもじするまどか。
「うーん、流石にご両親に怒られるのはしょうがないね。学校から連絡の一つくらい行ってるだろうし」
「……どうしよう」
「そうだなあ……。とりあえず、帰り道で一緒に言い訳を考えてあげるよ」
「すみません……」
「気にしなくていいよ。……あ、あいつどうしよう。とりあえず警察に連絡した方が良いかな」
芳文はそう言って、倒れている男を見る。
「!?」
先ほどまで失神していた男が、いつの間にか立ち上がって、まるで幽鬼のようにふらふらとナイフを片手に芳文達の元へ歩いてくる。
「ひ……」
怯えるまどかを背後に庇いつつ芳文が優しく語りかける。
「大丈夫だから安心して。もう一度ぶっとばして警察に突き出してやるから」
芳文が男をもう一度殴り飛ばそうとしたその時だった。
茂みの中から、公園の出入り口から、ナイフや割れたビール瓶、ドライバー、バットといった、凶器を持った男達がふらふらと目の前の男と同じように、芳文達の元へと向かってくる。
「なんだこいつらは!?」
「先輩!! あの人達の首元に!!」
震えながらまどかが指差すその先に芳文が視線を向けると、ふらふらと歩いてくる男達の首筋に奇妙なタトゥーが街灯で照らされて確認出来た。
「あれは……!? たしか魔女の口づけとか言う……」
街の探索中にマミから聞いた情報と一致する。
「まずい!! 魔女の口づけを受けた人間が集まるって事は、この公園のどこかに魔女の結界があるって事か!!」
「そんな……」
芳文の言葉にまどかが顔面蒼白になる。
「くそ、巴さんなら気付いたんだろうけど……!!」
魔法少女ではない芳文とまどかには魔女の気配はわからない。せめて最初の男に付けられた魔女の口づけにもっと早く気付いていたら、すぐにこの場を離れられたのに。
「まどかちゃん、この場は逃げて巴さんを呼ぶよ!!」
「は、はい!!」
芳文は襲い掛かってきた男を殴り飛ばすと、まどかの手を掴んで走り出す。
公園をあと少しで出られるというその時――。
「っ!? しまった!!」
ぐにゃりと公園の風景が変わり出す。
「くそっ!!」
芳文は慌てて、携帯を取り出してマミに電話をかける。
「はい、巴です」
運良くマミが電話にすぐに出た。
「魔女だ!! 3丁目の運動公園」
ブッ、ツーツー……。
結界が出来上がり、携帯の通話が遮断される。芳文とまどかは完全に閉じ込められてしまった。
21:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:39:05.76:8GUEOo26o (20/48)
「あ、あああ……」
まどかががたがたと震えだす。先日の恐怖がまだ抜けていないのか、まどかは顔面蒼白になっている。
「大丈夫。何とか俺達の居場所は巴さんに伝えたから。すぐに巴さんが来るからね」
怯えるまどかを安心させようと、優しく話しかけたその時、周囲の物陰から黄緑色の毛玉が複数現れた。
「使い魔か!! くそ!! こんな時に!!」
毛玉の中心に一本の切れ目が入りぐぱあっと上下に開くと、不規則に並んだ鋭く尖った歯が生えているのが確認出来る。毛玉はブルブルと震えると、芳文達目掛けて噛みつこうと飛んでくる。
「ちっ!!」
芳文は毛玉の側面を裏拳で殴りつける。殴り飛ばされた毛玉はぽよんぽよんと地面を跳ねて転がると、何事もなかったかのようにまたブルブルと震えて飛んできた。
「くそっ!! せめて何か武器があれば!!」
再び飛んできた毛玉を、先ほどの一撃と同じように裏拳で叩き落とすと、まどかの手を掴んで走り出す。
「巴さんが来るまでの辛抱だから!!」
「は、はいっ!!」
囲まれる前に別の場所に逃げようと走り続ける二人。
「あっ!?」
だが使い魔から逃げる途中で、まどかがでこぼこした地面につまずいて、転びそうになる。
「まどかちゃん!?」
慌てて、まどかの体を支えると使い魔がまどか目掛けて飛んでくる。
「くっ!!」
バシュッ!!
まどかを庇った芳文の左肩が使い魔の歯で切り裂かれ、血が噴き出す。
「まどかちゃん行くよ!!」
自分を庇ってケガをした芳文に対して、言葉が出ないまどかの手を掴むと、再び走り出す。
結界の中を進んで行くと途中大きな斜面に出くわした。背後からは使い魔が迫る。
「道がない……。ど、どうしよう……」
「……まどかちゃん、目を閉じて、しっかり歯を食いしばるんだ」
「え?」
「早く!!」
「は、はい!!」
芳文に叱咤され、まどかは慌てて指示に従う。芳文はまどかを抱き寄せお姫様だっこの体勢にして、まどかが怪我を出来るだけしないように抱きしめながら、大きな斜面に飛び込んだ。
ズザザザザザザザザザザザ……。
背中を斜面で削られながら、芳文はまどかにケガをさせないよう力を込めて抱きしめたまま、斜面を滑り落ちていくのだった……。
つづく
「あ、あああ……」
まどかががたがたと震えだす。先日の恐怖がまだ抜けていないのか、まどかは顔面蒼白になっている。
「大丈夫。何とか俺達の居場所は巴さんに伝えたから。すぐに巴さんが来るからね」
怯えるまどかを安心させようと、優しく話しかけたその時、周囲の物陰から黄緑色の毛玉が複数現れた。
「使い魔か!! くそ!! こんな時に!!」
毛玉の中心に一本の切れ目が入りぐぱあっと上下に開くと、不規則に並んだ鋭く尖った歯が生えているのが確認出来る。毛玉はブルブルと震えると、芳文達目掛けて噛みつこうと飛んでくる。
「ちっ!!」
芳文は毛玉の側面を裏拳で殴りつける。殴り飛ばされた毛玉はぽよんぽよんと地面を跳ねて転がると、何事もなかったかのようにまたブルブルと震えて飛んできた。
「くそっ!! せめて何か武器があれば!!」
再び飛んできた毛玉を、先ほどの一撃と同じように裏拳で叩き落とすと、まどかの手を掴んで走り出す。
「巴さんが来るまでの辛抱だから!!」
「は、はいっ!!」
囲まれる前に別の場所に逃げようと走り続ける二人。
「あっ!?」
だが使い魔から逃げる途中で、まどかがでこぼこした地面につまずいて、転びそうになる。
「まどかちゃん!?」
慌てて、まどかの体を支えると使い魔がまどか目掛けて飛んでくる。
「くっ!!」
バシュッ!!
まどかを庇った芳文の左肩が使い魔の歯で切り裂かれ、血が噴き出す。
「まどかちゃん行くよ!!」
自分を庇ってケガをした芳文に対して、言葉が出ないまどかの手を掴むと、再び走り出す。
結界の中を進んで行くと途中大きな斜面に出くわした。背後からは使い魔が迫る。
「道がない……。ど、どうしよう……」
「……まどかちゃん、目を閉じて、しっかり歯を食いしばるんだ」
「え?」
「早く!!」
「は、はい!!」
芳文に叱咤され、まどかは慌てて指示に従う。芳文はまどかを抱き寄せお姫様だっこの体勢にして、まどかが怪我を出来るだけしないように抱きしめながら、大きな斜面に飛び込んだ。
ズザザザザザザザザザザザ……。
背中を斜面で削られながら、芳文はまどかにケガをさせないよう力を込めて抱きしめたまま、斜面を滑り落ちていくのだった……。
つづく
22:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:40:13.01:8GUEOo26o (21/48)
第3話 「……本当に、一緒に戦ってくれるんですか?」
「……まどかちゃん、もう目を開けていいよ」
斜面の底で、芳文はまどかに話しかける。
「……ここは?」
「さっきの斜面の底。どうやらここには使い魔はいないみたいだ」
「先輩、背中が……」
「……ああ、滑り落ちる途中で引っかけたかな。それよりまどかちゃんはケガしてない?」
芳文の背中は制服がボロボロに破れて、肌が露出して擦り傷や切り傷だらけだった。
「わ、私は大丈夫です」
「そうか、良かった」
「せ、先輩、血が……」
「大丈夫。見た目ほどダメージないから。後で巴さんに治してもらうから気にしないで」
「……っ」
まどかはハンカチを取り出すと、芳文の出血部を押さえる。
「ごめんなさい……。私のせいで……」
「君のせいなんかじゃない。気にしないでいいから」
「……きっと、私が嘘吐きで弱虫だから、罰が当たったんです。先輩まで巻き込んで、こんな……」
まどかはぽろぽろと涙を流して芳文に謝る。
「泣かないで。君のせいなんかじゃないから……」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
芳文の言葉にまどかは泣きながら、謝り続けるのだった。
☆
「……先輩、聞いてもいいですか?」
「何かな?」
「先輩はどうして、マミさんのお手伝いをしようと思ったんですか?」
斜面の底で使い魔達から身を隠しながら、まどかと芳文はマミの到着を待っていた。
まどかは芳文にずっと疑問に思っていた事を尋ねる。
「ああ。そんな事か。巴さん達だけに全部押し付けて、見て見ぬふりをしたくなかったから」
「先輩は願いをキュゥべえに叶えてもらったわけでもないのに、そんなケガをしてまでどうして……」
「……願いか。……俺にはそんなものないな。あえて言うならただ、誰かの役に立ちたい。それだけかな。君は願いがあるのかい?」
「……私は、何の取り柄も特技もないし、このまま色んな人に迷惑ばかりかけて生きていくのが嫌で、そんな自分を変えたくて……」
「……それで、一度は魔法少女になろうと思ったのかい?」
「だけど、やっぱり怖くなって……。私は弱虫で嘘吐きで……」
「だったら、これからがんばって自分を変えればいいさ。わざわざ危険と隣り合わせの魔法少女になる必要なんかない。それに、君の身にもし何かあったらご両親が悲しむだろう?」
「……はい」
優しい家族の顔を思い出して、まどかは芳文に頷く。
「大丈夫。すぐに巴さんが来る。絶対無事に家に帰してあげるから」
芳文はそう言ってまどかを安心させようと微笑んでみせる。
「……どうして、先輩はそんなに優しいんですか?」
「……俺が?」
「はい」
「……俺は優しくなんかない」
まどかの言葉に、芳文はつい自嘲気味に返してしまう。
「……え?」
「……俺は、たった一人の妹を見殺しにしたんだ」
「せ、先輩……」
異常な状況下の中で恐怖に怯えるまどかの手前強がってはいたものの、所詮芳文も一五歳の少年でしかなかった。
今まで誰にも吐いた事のない呪詛を思わず吐き出してしまう。
「俺はさ、いらない人間なんだよ。……俺さ、小さい頃に実の母親に捨てられてたんだ」
自嘲気味に笑いながら芳文は幼い頃の事を思い出す。優しかった母親が、ある日突然冷たくなった日の事を。
魔女の結界の中に成す術もなく閉じ込められ、どうする事も出来ない状況下の中で辛い思い出を思い出した芳文は、まるで吐き出すように言葉を繋ぐ。
「何でも母親が記憶喪失になって倒れてた所を、親父が拾って面倒を見てるうちにお互い情が湧いて結婚して生まれたのが俺なんだってさ。いくつの時だったかな……」
「ある日突然母親が冷たくなった。ふとしたきっかけで記憶が戻ったんだと。それで俺と親父ははい、さようならさ。こっちは記憶があろうがなかろうが母親だから、慕ってる訳。けど母親はなんて言ったと思う?」
芳文は苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる。今までずっと隠して生きてきた暗い感情が、異常な状況下に置かれた事で次々と口から湧いて出る。
第3話 「……本当に、一緒に戦ってくれるんですか?」
「……まどかちゃん、もう目を開けていいよ」
斜面の底で、芳文はまどかに話しかける。
「……ここは?」
「さっきの斜面の底。どうやらここには使い魔はいないみたいだ」
「先輩、背中が……」
「……ああ、滑り落ちる途中で引っかけたかな。それよりまどかちゃんはケガしてない?」
芳文の背中は制服がボロボロに破れて、肌が露出して擦り傷や切り傷だらけだった。
「わ、私は大丈夫です」
「そうか、良かった」
「せ、先輩、血が……」
「大丈夫。見た目ほどダメージないから。後で巴さんに治してもらうから気にしないで」
「……っ」
まどかはハンカチを取り出すと、芳文の出血部を押さえる。
「ごめんなさい……。私のせいで……」
「君のせいなんかじゃない。気にしないでいいから」
「……きっと、私が嘘吐きで弱虫だから、罰が当たったんです。先輩まで巻き込んで、こんな……」
まどかはぽろぽろと涙を流して芳文に謝る。
「泣かないで。君のせいなんかじゃないから……」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
芳文の言葉にまどかは泣きながら、謝り続けるのだった。
☆
「……先輩、聞いてもいいですか?」
「何かな?」
「先輩はどうして、マミさんのお手伝いをしようと思ったんですか?」
斜面の底で使い魔達から身を隠しながら、まどかと芳文はマミの到着を待っていた。
まどかは芳文にずっと疑問に思っていた事を尋ねる。
「ああ。そんな事か。巴さん達だけに全部押し付けて、見て見ぬふりをしたくなかったから」
「先輩は願いをキュゥべえに叶えてもらったわけでもないのに、そんなケガをしてまでどうして……」
「……願いか。……俺にはそんなものないな。あえて言うならただ、誰かの役に立ちたい。それだけかな。君は願いがあるのかい?」
「……私は、何の取り柄も特技もないし、このまま色んな人に迷惑ばかりかけて生きていくのが嫌で、そんな自分を変えたくて……」
「……それで、一度は魔法少女になろうと思ったのかい?」
「だけど、やっぱり怖くなって……。私は弱虫で嘘吐きで……」
「だったら、これからがんばって自分を変えればいいさ。わざわざ危険と隣り合わせの魔法少女になる必要なんかない。それに、君の身にもし何かあったらご両親が悲しむだろう?」
「……はい」
優しい家族の顔を思い出して、まどかは芳文に頷く。
「大丈夫。すぐに巴さんが来る。絶対無事に家に帰してあげるから」
芳文はそう言ってまどかを安心させようと微笑んでみせる。
「……どうして、先輩はそんなに優しいんですか?」
「……俺が?」
「はい」
「……俺は優しくなんかない」
まどかの言葉に、芳文はつい自嘲気味に返してしまう。
「……え?」
「……俺は、たった一人の妹を見殺しにしたんだ」
「せ、先輩……」
異常な状況下の中で恐怖に怯えるまどかの手前強がってはいたものの、所詮芳文も一五歳の少年でしかなかった。
今まで誰にも吐いた事のない呪詛を思わず吐き出してしまう。
「俺はさ、いらない人間なんだよ。……俺さ、小さい頃に実の母親に捨てられてたんだ」
自嘲気味に笑いながら芳文は幼い頃の事を思い出す。優しかった母親が、ある日突然冷たくなった日の事を。
魔女の結界の中に成す術もなく閉じ込められ、どうする事も出来ない状況下の中で辛い思い出を思い出した芳文は、まるで吐き出すように言葉を繋ぐ。
「何でも母親が記憶喪失になって倒れてた所を、親父が拾って面倒を見てるうちにお互い情が湧いて結婚して生まれたのが俺なんだってさ。いくつの時だったかな……」
「ある日突然母親が冷たくなった。ふとしたきっかけで記憶が戻ったんだと。それで俺と親父ははい、さようならさ。こっちは記憶があろうがなかろうが母親だから、慕ってる訳。けど母親はなんて言ったと思う?」
芳文は苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てる。今までずっと隠して生きてきた暗い感情が、異常な状況下に置かれた事で次々と口から湧いて出る。
23:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:41:50.53:8GUEOo26o (22/48)
「近寄るな、汚らわしい、お前なんて産まなきゃよかった、だってさ。当然親父が怒って母親とは大喧嘩。母親はいなくなった。母親がいないのを不憫に思ったんだろうな。その後親父が新しい母親と再婚したんだ」
「新しい母親には娘がいてさ、俺と妹……実の娘を分け隔てなく実の子として可愛がってくれた。その後親父が病気で死んだ後も、お袋は俺を引き取って育ててくれたんだ」
「その後、死んだ親父の親友だった今の親父とお袋が再婚して、俺は社芳文になった。親父もお袋も妹も血の繋がりはないけれど、三人共俺を家族として扱ってくれた。妹とはケンカばかりだったけど、幸せだったよ」
「社の実家のじいさんが剣術の道場やっててさ、そこで家族で暮らしてたんだけど、ある日、じいさんに破門された弟子が道場と家に放火したんだ」
「じいさんと母親はそいつに刺殺されて、妹は燃えて崩れる家の下敷きになって……。泣きながら叫ぶんだよ。助けてって。それなのに、俺は助けようとしなかったんだ」
「燃え盛る炎の中で熱い、痛いって泣き叫ぶ妹を見殺しにして逃げたんだよ。もう助けられないからって勝手に諦めてさ。出張中だった親父が戻ってきた時には生きてるのは俺だけだった……」
「……今でも夢に見るんだ。あの時、どうして逃げたりしたんだろうって。あそこで死ぬべきだったのは俺だったのにって。妹が生きてれば君と同じ年齢だったのに」
「生きてさえいれば、いつか人生を共にするパートナーと巡り合って、子供を産んで、幸せになれるはずだったのに」
「結局の所、俺が誰かを助けたいって思うのは只の自己満足なんだ。見殺しにした妹の姿を勝手に他の誰かに重ねて、守ろうとしてるだけなんだよ。だから、俺は優しくなんかない」
「勝手に傷ついて勝手に死んでいけばいい。誰にも必要とされない、いらない人間だから。助けを求めてる妹を見殺しにして逃げるような最低の人間だから」
「だから、傷つくのは俺だけでいい」
「……」
「……つまらない話をしてしまったね……ごめん。ちょっと異常な状況が続いてたせいでどうかしてた。こんな時だからこそ、俺がしっかりしないといけないのに。我ながら本当に情けないよな……」
今まで抱え込んでいた実の母親と自分自身への黒い感情を、異常な状況下で気が滅入っていたとはいえ、知り合って間もない女の子に全部ぶちまけてしまった事を後悔しながら、芳文はまどかに謝った。
「……っ」
「……どうして、君が泣くの?」
「だって、先輩が悲しい事言うから……。いらない人間だからとか、そんな悲しい事、言わないでください……」
「……」
「先輩が怪我をしたり、死んだりしたら、先輩のお父さんやお友達だって、悲しむのに……」
「……俺はもう、親父の重荷でしかないし、ダチも只の腐れ縁で付き合ってくれてるだけだから。俺がいなくなっても誰も悲しんだりしないよ」
(……何を言ってるんだ俺は。この子にこんな事を言ってもしょうがないのに。俺は本当に最悪のクズだ……)
「そんなのってないよ……。そんなの、絶対おかしいよ……」
まどかは泣きながら芳文の顔を見つめて言う。
「私、そんな事考えてる先輩に守ってもらっても嬉しくない……。それでもし先輩が死んじゃったりしたら……」
「……」
ズズズズズズン……。
まどかの言葉を遮るかのように、突然地響きが鳴り響く。
「……何だ!?」
ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!
斜面を突き破って、巨大な黒い球根のような姿をした魔女が、芳文とまどかの目の前とその巨体を現す。
「魔女か!! くそ!!」
ヒュンッ!!
球根の形をした魔女の上面と下部から黒い触手が何十本も伸びて、その内の一本がまどか目掛けて飛んでくる。
「っ!!」
ドスッ!!
先端が鋭利に尖った触手が、咄嗟にまどかの前に立ちふさがった芳文の右肩を貫く。芳文の肩を貫いた血まみれの触手の先端がまるで蕾から花が咲くように開き、中からギロリと目玉が現れまどかの顔を見つめる。
「ひぃっ!!」
血まみれの触手から覗く目玉に見つめられ、あまりの恐怖にまどかはへなへなと腰を抜かして座り込んでしまう。
ズルッ!! 芳文の右肩から触手が引き抜かれると、別の触手が飛んでくる。
ヒュンッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!! バスッ!! バスッ!! バスッ!!
「くっ!!」
芳文は腰が抜けて立てないまどかを庇って、左下腕、右の太もも、左わき腹を突き刺される。今度はどの部位も貫通しなかった。
「ぐ……」
ヒュンッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!! バスッ!! バスッ!! バスッ!!
「くそ……っ!! こいつ、遊んでやがる……っ!!」
その気になれば、心臓を一突きにして芳文をすぐ殺せるのに、この魔女はまるでまどかを怯えさせる為に、芳文を嬲り殺しにしようとしてるようだった。
ヒュンッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!! バスッ!! バスッ!! バスッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!! バスッ!! バスッ!! バスッ!!
「近寄るな、汚らわしい、お前なんて産まなきゃよかった、だってさ。当然親父が怒って母親とは大喧嘩。母親はいなくなった。母親がいないのを不憫に思ったんだろうな。その後親父が新しい母親と再婚したんだ」
「新しい母親には娘がいてさ、俺と妹……実の娘を分け隔てなく実の子として可愛がってくれた。その後親父が病気で死んだ後も、お袋は俺を引き取って育ててくれたんだ」
「その後、死んだ親父の親友だった今の親父とお袋が再婚して、俺は社芳文になった。親父もお袋も妹も血の繋がりはないけれど、三人共俺を家族として扱ってくれた。妹とはケンカばかりだったけど、幸せだったよ」
「社の実家のじいさんが剣術の道場やっててさ、そこで家族で暮らしてたんだけど、ある日、じいさんに破門された弟子が道場と家に放火したんだ」
「じいさんと母親はそいつに刺殺されて、妹は燃えて崩れる家の下敷きになって……。泣きながら叫ぶんだよ。助けてって。それなのに、俺は助けようとしなかったんだ」
「燃え盛る炎の中で熱い、痛いって泣き叫ぶ妹を見殺しにして逃げたんだよ。もう助けられないからって勝手に諦めてさ。出張中だった親父が戻ってきた時には生きてるのは俺だけだった……」
「……今でも夢に見るんだ。あの時、どうして逃げたりしたんだろうって。あそこで死ぬべきだったのは俺だったのにって。妹が生きてれば君と同じ年齢だったのに」
「生きてさえいれば、いつか人生を共にするパートナーと巡り合って、子供を産んで、幸せになれるはずだったのに」
「結局の所、俺が誰かを助けたいって思うのは只の自己満足なんだ。見殺しにした妹の姿を勝手に他の誰かに重ねて、守ろうとしてるだけなんだよ。だから、俺は優しくなんかない」
「勝手に傷ついて勝手に死んでいけばいい。誰にも必要とされない、いらない人間だから。助けを求めてる妹を見殺しにして逃げるような最低の人間だから」
「だから、傷つくのは俺だけでいい」
「……」
「……つまらない話をしてしまったね……ごめん。ちょっと異常な状況が続いてたせいでどうかしてた。こんな時だからこそ、俺がしっかりしないといけないのに。我ながら本当に情けないよな……」
今まで抱え込んでいた実の母親と自分自身への黒い感情を、異常な状況下で気が滅入っていたとはいえ、知り合って間もない女の子に全部ぶちまけてしまった事を後悔しながら、芳文はまどかに謝った。
「……っ」
「……どうして、君が泣くの?」
「だって、先輩が悲しい事言うから……。いらない人間だからとか、そんな悲しい事、言わないでください……」
「……」
「先輩が怪我をしたり、死んだりしたら、先輩のお父さんやお友達だって、悲しむのに……」
「……俺はもう、親父の重荷でしかないし、ダチも只の腐れ縁で付き合ってくれてるだけだから。俺がいなくなっても誰も悲しんだりしないよ」
(……何を言ってるんだ俺は。この子にこんな事を言ってもしょうがないのに。俺は本当に最悪のクズだ……)
「そんなのってないよ……。そんなの、絶対おかしいよ……」
まどかは泣きながら芳文の顔を見つめて言う。
「私、そんな事考えてる先輩に守ってもらっても嬉しくない……。それでもし先輩が死んじゃったりしたら……」
「……」
ズズズズズズン……。
まどかの言葉を遮るかのように、突然地響きが鳴り響く。
「……何だ!?」
ズガアァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!
斜面を突き破って、巨大な黒い球根のような姿をした魔女が、芳文とまどかの目の前とその巨体を現す。
「魔女か!! くそ!!」
ヒュンッ!!
球根の形をした魔女の上面と下部から黒い触手が何十本も伸びて、その内の一本がまどか目掛けて飛んでくる。
「っ!!」
ドスッ!!
先端が鋭利に尖った触手が、咄嗟にまどかの前に立ちふさがった芳文の右肩を貫く。芳文の肩を貫いた血まみれの触手の先端がまるで蕾から花が咲くように開き、中からギロリと目玉が現れまどかの顔を見つめる。
「ひぃっ!!」
血まみれの触手から覗く目玉に見つめられ、あまりの恐怖にまどかはへなへなと腰を抜かして座り込んでしまう。
ズルッ!! 芳文の右肩から触手が引き抜かれると、別の触手が飛んでくる。
ヒュンッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!! バスッ!! バスッ!! バスッ!!
「くっ!!」
芳文は腰が抜けて立てないまどかを庇って、左下腕、右の太もも、左わき腹を突き刺される。今度はどの部位も貫通しなかった。
「ぐ……」
ヒュンッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!! バスッ!! バスッ!! バスッ!!
「くそ……っ!! こいつ、遊んでやがる……っ!!」
その気になれば、心臓を一突きにして芳文をすぐ殺せるのに、この魔女はまるでまどかを怯えさせる為に、芳文を嬲り殺しにしようとしてるようだった。
ヒュンッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!! バスッ!! バスッ!! バスッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!! バスッ!! バスッ!! バスッ!!
24:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:43:43.45:8GUEOo26o (23/48)
「あ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」
芳文はその場から一歩も動く事無く、まどかを庇って全身を触手に撃ち貫かれ続ける。まどかは目の前の凄惨な光景に涙を流しながら怯える事しか出来ない。
「……泣かないで。巴さんがもうすぐ来るはずだから」
ヒュンッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!! バスッ!! バスッ!! バスッ!!
怯える少女に優しく語りかけながら、芳文は耐え続ける。
ヒュンッ!! バスッ!!ブンっ!! ズガァァァァンッ!!
触手が左肩を貫通する。魔女はそのまま芳文の体を軽々と持ち上げると、まどかの目の前で思い切り、背中から地面へと叩きつけた。
「ガハッ!!」
芳文が吐血する。
「先輩!!」
「に、逃げるんだ……」
ヒュンッ!! 触手がまるでムチのようにまどか目掛けて叩きつけられる。
バシィッ!! バキベキ……。
まどかを庇って立ち上がった芳文の右肩が触手の一撃で砕ける。
「ぐ……」
「やめて……。もうやめて……!!」
まどかの弱弱しい悲痛な叫びが結界内に木霊する。
「誰か、誰か助けて……。先輩が死んじゃう……」
魔女の触手が芳文とまどかをまとめて貫こうと撃ち出される。
「誰か……」
撃ち出された触手を見つめながら、まどかが悲痛な声を上げたその時だった。
魔女の結界の中ですべての時間が止まった。
「……まどか!!」
魔女もまどかもなにもかもが動きを止めた世界。その中を暁美ほむらが駆け寄ってくる。
「まどか!! 良かった、無事で……」
制止した時間の中でまどかに外傷がないのを確認して、ほむらは安堵する。
「……君は、魔法少女、か?」
「!?」
自分以外の何物も動く事の出来ないはずの世界で、突然声をかけられてほむらは驚いて振り返る。
「良かった……。その子を頼むよ……」
全身を触手で貫かれ、右肩を砕かれ、あばらも数本折られて、気力だけで立っていた芳文は片膝を地面に着きながら、ほむらにまどかの事を懇願する。
「あなたは……。何故、私の時間停止を受け付けないの!?」
自分以外すべての時間を止める魔術を使うほむらは、目の前のイレギュラーな存在に驚く。
「……さあ? それより早く、その子を安全な場所へ……」
「……」
「早く……」
「……あなた、まだ動けるかしら」
「……なんとか」
「そう。それならこの場は一旦引くわ。付いてきて」
ほむらはそう言うと、まどかを抱き上げて走り出す。
「……」
芳文は激痛に耐えながら、ほむらの後を追う。
「時間停止が切れる……」
ほむらは魔女から50メートルほど離れた場所で、まどかを地面に降ろすと芳文の元へ跳躍して、芳文の元へと着地する。
「じっとしてて」
ほむらは芳文に肩を貸すと、再び跳躍してまどかの元へ着地する。
「あの魔女は私が片づける。あなたはその子と一緒にそこでじっとしていて」
ほむらがそう言って、芳文の腕を自分の肩から下して背中を向けると同時に、時間停止の魔術が解除される。
(……あの子、前にどこかであったか? さっき肩を借りた時、なんだか懐かしい感じがしたような……)
(――いや、気のせいだ。あんな子俺は知らない。……もしかして、このダメージのせいで感覚や精神がおかしくなってるのか? もしそうだったら、俺ももう終わりかな……)
芳文はそんな事を考えながら、その場に片膝を付いてはあはあと荒い呼吸を繰り返す。
「……ほむらちゃん?」
まどかがほむらに気付いて声をかけたその時には、すでにほむらは魔女の元へと跳躍していた。
「!? 先輩しっかりしてください!!」
ほむらが魔女の元へ向かってすぐ、自分のすぐ側で全身血まみれで片膝をついている芳文に気付いて駆け寄る。
「……大丈夫だから。気にしないで」
「そんな!! こんなにひどいケガをしてるのに!!」
「……俺の事なんていいんだよ。君が怪我をしてなければそれで」
「そんな事言わないでください!! せめて止血を!!」
まどかが制服の袖を引きちぎって、芳文の止血をしようとする。
「……俺の事なんて気にしなくていいから、魔女が倒されるまで隠れてるんだ」
「でも!!」
「……大丈夫だから。もしここで死ぬ事になっても、絶対君だけは家に帰してあげるから」
芳文のその言葉にまどかは怒って叫ぶ。
「先輩のばかっ!! ここで先輩が死んだりしたら、悲しむ人達がいるのに!!」
「……君を庇ったのは俺の身勝手だ。君が気に病む必要はない」
「っ!! 本気で怒りますよ!! 先輩が死んで悲しまない人がいないなんてないよっ!! 私だって、先輩に死んでほしくないっ!!」
「……」
「お願いだから、いらない人間だからとか、そんな悲しい事を言わないでください……」
まどかは泣きながら芳文に懇願する。
「……ごめん」
芳文はまどかに素直に謝った。まどかは泣きながら制服の上着を破いて、芳文の止血を試みる。
「あ、あああぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」
芳文はその場から一歩も動く事無く、まどかを庇って全身を触手に撃ち貫かれ続ける。まどかは目の前の凄惨な光景に涙を流しながら怯える事しか出来ない。
「……泣かないで。巴さんがもうすぐ来るはずだから」
ヒュンッ!! ヒュンッ!! ヒュンッ!! バスッ!! バスッ!! バスッ!!
怯える少女に優しく語りかけながら、芳文は耐え続ける。
ヒュンッ!! バスッ!!ブンっ!! ズガァァァァンッ!!
触手が左肩を貫通する。魔女はそのまま芳文の体を軽々と持ち上げると、まどかの目の前で思い切り、背中から地面へと叩きつけた。
「ガハッ!!」
芳文が吐血する。
「先輩!!」
「に、逃げるんだ……」
ヒュンッ!! 触手がまるでムチのようにまどか目掛けて叩きつけられる。
バシィッ!! バキベキ……。
まどかを庇って立ち上がった芳文の右肩が触手の一撃で砕ける。
「ぐ……」
「やめて……。もうやめて……!!」
まどかの弱弱しい悲痛な叫びが結界内に木霊する。
「誰か、誰か助けて……。先輩が死んじゃう……」
魔女の触手が芳文とまどかをまとめて貫こうと撃ち出される。
「誰か……」
撃ち出された触手を見つめながら、まどかが悲痛な声を上げたその時だった。
魔女の結界の中ですべての時間が止まった。
「……まどか!!」
魔女もまどかもなにもかもが動きを止めた世界。その中を暁美ほむらが駆け寄ってくる。
「まどか!! 良かった、無事で……」
制止した時間の中でまどかに外傷がないのを確認して、ほむらは安堵する。
「……君は、魔法少女、か?」
「!?」
自分以外の何物も動く事の出来ないはずの世界で、突然声をかけられてほむらは驚いて振り返る。
「良かった……。その子を頼むよ……」
全身を触手で貫かれ、右肩を砕かれ、あばらも数本折られて、気力だけで立っていた芳文は片膝を地面に着きながら、ほむらにまどかの事を懇願する。
「あなたは……。何故、私の時間停止を受け付けないの!?」
自分以外すべての時間を止める魔術を使うほむらは、目の前のイレギュラーな存在に驚く。
「……さあ? それより早く、その子を安全な場所へ……」
「……」
「早く……」
「……あなた、まだ動けるかしら」
「……なんとか」
「そう。それならこの場は一旦引くわ。付いてきて」
ほむらはそう言うと、まどかを抱き上げて走り出す。
「……」
芳文は激痛に耐えながら、ほむらの後を追う。
「時間停止が切れる……」
ほむらは魔女から50メートルほど離れた場所で、まどかを地面に降ろすと芳文の元へ跳躍して、芳文の元へと着地する。
「じっとしてて」
ほむらは芳文に肩を貸すと、再び跳躍してまどかの元へ着地する。
「あの魔女は私が片づける。あなたはその子と一緒にそこでじっとしていて」
ほむらがそう言って、芳文の腕を自分の肩から下して背中を向けると同時に、時間停止の魔術が解除される。
(……あの子、前にどこかであったか? さっき肩を借りた時、なんだか懐かしい感じがしたような……)
(――いや、気のせいだ。あんな子俺は知らない。……もしかして、このダメージのせいで感覚や精神がおかしくなってるのか? もしそうだったら、俺ももう終わりかな……)
芳文はそんな事を考えながら、その場に片膝を付いてはあはあと荒い呼吸を繰り返す。
「……ほむらちゃん?」
まどかがほむらに気付いて声をかけたその時には、すでにほむらは魔女の元へと跳躍していた。
「!? 先輩しっかりしてください!!」
ほむらが魔女の元へ向かってすぐ、自分のすぐ側で全身血まみれで片膝をついている芳文に気付いて駆け寄る。
「……大丈夫だから。気にしないで」
「そんな!! こんなにひどいケガをしてるのに!!」
「……俺の事なんていいんだよ。君が怪我をしてなければそれで」
「そんな事言わないでください!! せめて止血を!!」
まどかが制服の袖を引きちぎって、芳文の止血をしようとする。
「……俺の事なんて気にしなくていいから、魔女が倒されるまで隠れてるんだ」
「でも!!」
「……大丈夫だから。もしここで死ぬ事になっても、絶対君だけは家に帰してあげるから」
芳文のその言葉にまどかは怒って叫ぶ。
「先輩のばかっ!! ここで先輩が死んだりしたら、悲しむ人達がいるのに!!」
「……君を庇ったのは俺の身勝手だ。君が気に病む必要はない」
「っ!! 本気で怒りますよ!! 先輩が死んで悲しまない人がいないなんてないよっ!! 私だって、先輩に死んでほしくないっ!!」
「……」
「お願いだから、いらない人間だからとか、そんな悲しい事を言わないでください……」
まどかは泣きながら芳文に懇願する。
「……ごめん」
芳文はまどかに素直に謝った。まどかは泣きながら制服の上着を破いて、芳文の止血を試みる。
25:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:45:59.20:8GUEOo26o (24/48)
ズガガガガガッ!! ドカーンッ!!
ほむらと魔女の戦闘の音が結界内に鳴り響く。
「社君!! 鹿目さん!!」
魔法少女の姿になったマミとキュゥべえが、狂った結界の中でやっと見つけたまどかと芳文の元へ駆け寄ってくる。
「マミさん!!」
「社君!? ひどいケガ……!!」
「マミさんお願いです!! 先輩を助けてください!! さっきから血が止まらなくて!!」
「わかってる!! 社君、じっとしてて!!」
マミは芳文に両手を翳して、治癒魔法を行使する。マミの魔法で止まらない血が徐々に止まっていく。
ドカアァァァァァン!!
「ぐっ!!」
ほむらが触手に捕まって壁に叩きつけられる。
「なんなの、この魔女は!? 私はこんな魔女知らないっ!!」
戦闘を開始してから、ほむらはマシンガンと爆弾を併用して速攻で片づけようとしたが、この魔女はすぐに再生してしまう。
この魔女を倒すには手持ちの武器では火力が足りない。どんどんほむらの表情に焦りの色が色濃くなっていく。
「まだこんな所で!! 力を無駄遣いするわけにはいかないのに……っ!!」
左腕の盾から手榴弾を取り出して、口で安全ピンを引き抜き投げつける。爆発と共に魔女の触手が数本と本体の一部が消し飛ぶが、すぐに再生してしまう。
(……どうする? ここは引くしかないか)
右足に絡みついた触手の切れ端を左足で蹴落として、脱出のプロセスを考える。だが、考えをまとめる間もなく、複数の触手が再び襲い掛かってくる。
「くっ!!」
ほむらはシールドを展開しつつ、攻撃を躱す。相手を完全に消し去る火力がない現状、逃げる以外の選択肢はない。
だが、まどかとあのイレギュラーの少年を連れてどうやって逃げるか。ほむらはどんどん追い詰められていく。
「ほむらちゃんっ!!」
魔女に追い詰められたほむらが、魔法で張ったシールド越しとはいえ壁に叩きつけられる姿を見て、まどかが悲痛な叫びを上げる。
「……巴さん。俺の治療はもういいから、あの子に加勢してあげて」
ようやく止血だけは終わった芳文が、マミにほむらへの加勢を頼む。
「何言ってるの!? 血が止まっただけで、まだ治癒は終わってないのよ!! あなた自分の状態をわかって言ってるの!!」
こんな状態で生きてるだけでも不思議なくらいなのに、と言いかけてマミは言葉を飲み込む。まどかが今にも崩れ落ちて泣き出しそうな顔で芳文とマミのやりとりを見ていたから。
「……大丈夫。俺はこんな所で死ぬ気はないから」
そう言って、マミとまどかの顔を交互に見て言う。
「命を粗末にするつもりはないから。今は、あの子と協力して一刻も早く魔女を倒すんだ。あの魔女は一人じゃ勝てない」
「……でも」
「あの魔女は複数の人間を操って通り魔をさせてる。一刻も早く倒さないと駄目だ。だから!!」
「……わかったわ。彼女と協力してあの魔女を倒す。鹿目さん、社君の事お願い。無茶しないように見張ってて」
「わかりました」
まどかの返事を聞いて、マミは魔女の元へと高く跳躍した。
マミは空中で自分の周囲に大量のマスケット銃を顕現させ、魔女に向けて一斉斉射する。
魔女の触手が複数千切れ飛び、魔女本体にも複数の銃痕が出来上がる。
「まだ生きているかしら。暁美ほむらさん」
マミは壁際に追い詰められていたほむらの前に着地して、魔女から目を逸らすことなく問いかける。
「……巴マミ」
「やっかいな相手ね。あれだけの銃撃を浴びせたのにもう再生してるなんて」
「……あれを倒すには一撃で跡形もなく消し飛ばすか、再生する間を与えないように連続で攻撃して潰すしかないわ」
「そのようね。社君の頼みだから今回は手を貸してあげるけど、あなたは私に協力する気はあるかしら?」
「……この状況では嫌でも共闘するしかないわ」
「なら、速攻で片づけるわよ」
「……」
マミの言葉に返事をする事もなく、ほむらはマシンガンを取り出して、魔女を銃撃しながら走り出す。
「行くわよ!!」
マミはベレー帽を手に持って振ると、複数のマスケット銃を地面に突き立った状態で顕現させて、魔女の周囲の地面に一発ずつ撃ち込んでいく。
地面に撃ち込まれた弾丸から光り輝く魔法の糸が伸びて、触手ごと魔女を絡め取り雁字搦めにして拘束する。
「暁美さん!! いくわよ!! ティロ・フィナーレ!!」
ほむらに叫ぶと同時に、マミは巨大なマスケット銃を顕現させて魔女に向けて発射する。
「――っ!!」
――カチリ。
ほむらの盾のギミックが作動し時間停止の魔法が発動して、すべての時間が停止する。ほむらは停止した時間の中で、魔女の周囲に複数の爆弾を設置して、安全圏へと離脱する。
――カチン。盾のギミックが停止し、再び時が動き出す。
バシュン!! ティロ・フィナーレによる砲撃で魔女の巨体に大きな風穴が開いた瞬間、ほむらの設置した爆弾が次々と連鎖爆発を起こし、魔女は完全に灼熱の炎に飲み込まれていく。
「――終わったわね」
マミがまどか達の元へ戻ろうとしたその時だった。
ヒュンッ!!
「――え?」
爆炎の中から一本の触手が飛んできて、マミの背中を横なぎに殴り飛ばした。
ズガアアアアアンッ!!
背中から強烈な不意打ちを喰らい、マミは壁に叩きつけられそのまま気を失ってしまう。
「そんな……」
ズガガガガガッ!! ドカーンッ!!
ほむらと魔女の戦闘の音が結界内に鳴り響く。
「社君!! 鹿目さん!!」
魔法少女の姿になったマミとキュゥべえが、狂った結界の中でやっと見つけたまどかと芳文の元へ駆け寄ってくる。
「マミさん!!」
「社君!? ひどいケガ……!!」
「マミさんお願いです!! 先輩を助けてください!! さっきから血が止まらなくて!!」
「わかってる!! 社君、じっとしてて!!」
マミは芳文に両手を翳して、治癒魔法を行使する。マミの魔法で止まらない血が徐々に止まっていく。
ドカアァァァァァン!!
「ぐっ!!」
ほむらが触手に捕まって壁に叩きつけられる。
「なんなの、この魔女は!? 私はこんな魔女知らないっ!!」
戦闘を開始してから、ほむらはマシンガンと爆弾を併用して速攻で片づけようとしたが、この魔女はすぐに再生してしまう。
この魔女を倒すには手持ちの武器では火力が足りない。どんどんほむらの表情に焦りの色が色濃くなっていく。
「まだこんな所で!! 力を無駄遣いするわけにはいかないのに……っ!!」
左腕の盾から手榴弾を取り出して、口で安全ピンを引き抜き投げつける。爆発と共に魔女の触手が数本と本体の一部が消し飛ぶが、すぐに再生してしまう。
(……どうする? ここは引くしかないか)
右足に絡みついた触手の切れ端を左足で蹴落として、脱出のプロセスを考える。だが、考えをまとめる間もなく、複数の触手が再び襲い掛かってくる。
「くっ!!」
ほむらはシールドを展開しつつ、攻撃を躱す。相手を完全に消し去る火力がない現状、逃げる以外の選択肢はない。
だが、まどかとあのイレギュラーの少年を連れてどうやって逃げるか。ほむらはどんどん追い詰められていく。
「ほむらちゃんっ!!」
魔女に追い詰められたほむらが、魔法で張ったシールド越しとはいえ壁に叩きつけられる姿を見て、まどかが悲痛な叫びを上げる。
「……巴さん。俺の治療はもういいから、あの子に加勢してあげて」
ようやく止血だけは終わった芳文が、マミにほむらへの加勢を頼む。
「何言ってるの!? 血が止まっただけで、まだ治癒は終わってないのよ!! あなた自分の状態をわかって言ってるの!!」
こんな状態で生きてるだけでも不思議なくらいなのに、と言いかけてマミは言葉を飲み込む。まどかが今にも崩れ落ちて泣き出しそうな顔で芳文とマミのやりとりを見ていたから。
「……大丈夫。俺はこんな所で死ぬ気はないから」
そう言って、マミとまどかの顔を交互に見て言う。
「命を粗末にするつもりはないから。今は、あの子と協力して一刻も早く魔女を倒すんだ。あの魔女は一人じゃ勝てない」
「……でも」
「あの魔女は複数の人間を操って通り魔をさせてる。一刻も早く倒さないと駄目だ。だから!!」
「……わかったわ。彼女と協力してあの魔女を倒す。鹿目さん、社君の事お願い。無茶しないように見張ってて」
「わかりました」
まどかの返事を聞いて、マミは魔女の元へと高く跳躍した。
マミは空中で自分の周囲に大量のマスケット銃を顕現させ、魔女に向けて一斉斉射する。
魔女の触手が複数千切れ飛び、魔女本体にも複数の銃痕が出来上がる。
「まだ生きているかしら。暁美ほむらさん」
マミは壁際に追い詰められていたほむらの前に着地して、魔女から目を逸らすことなく問いかける。
「……巴マミ」
「やっかいな相手ね。あれだけの銃撃を浴びせたのにもう再生してるなんて」
「……あれを倒すには一撃で跡形もなく消し飛ばすか、再生する間を与えないように連続で攻撃して潰すしかないわ」
「そのようね。社君の頼みだから今回は手を貸してあげるけど、あなたは私に協力する気はあるかしら?」
「……この状況では嫌でも共闘するしかないわ」
「なら、速攻で片づけるわよ」
「……」
マミの言葉に返事をする事もなく、ほむらはマシンガンを取り出して、魔女を銃撃しながら走り出す。
「行くわよ!!」
マミはベレー帽を手に持って振ると、複数のマスケット銃を地面に突き立った状態で顕現させて、魔女の周囲の地面に一発ずつ撃ち込んでいく。
地面に撃ち込まれた弾丸から光り輝く魔法の糸が伸びて、触手ごと魔女を絡め取り雁字搦めにして拘束する。
「暁美さん!! いくわよ!! ティロ・フィナーレ!!」
ほむらに叫ぶと同時に、マミは巨大なマスケット銃を顕現させて魔女に向けて発射する。
「――っ!!」
――カチリ。
ほむらの盾のギミックが作動し時間停止の魔法が発動して、すべての時間が停止する。ほむらは停止した時間の中で、魔女の周囲に複数の爆弾を設置して、安全圏へと離脱する。
――カチン。盾のギミックが停止し、再び時が動き出す。
バシュン!! ティロ・フィナーレによる砲撃で魔女の巨体に大きな風穴が開いた瞬間、ほむらの設置した爆弾が次々と連鎖爆発を起こし、魔女は完全に灼熱の炎に飲み込まれていく。
「――終わったわね」
マミがまどか達の元へ戻ろうとしたその時だった。
ヒュンッ!!
「――え?」
爆炎の中から一本の触手が飛んできて、マミの背中を横なぎに殴り飛ばした。
ズガアアアアアンッ!!
背中から強烈な不意打ちを喰らい、マミは壁に叩きつけられそのまま気を失ってしまう。
「そんな……」
26:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:48:10.30:8GUEOo26o (25/48)
あれだけの攻撃をしたのに魔女はまだ生きていた。半分に割れたサッカーボールサイズの欠片から、マミを襲った触手をうねうねと伸ばしている。
ボコボコと音を立てて、サッカーボールサイズのこぶがどんどん出来あがり、やがて最初の姿へと再生を終える。
ヒュンッ!!
信じられない光景に呆然となるほむらを触手が絡め取り、ギリギリと締め付ける。もう一本の触手が気絶しているマミを絡め取り、ギリギリと締め付ける。
ブンブンと触手がマミとほむらを振り回して、マミとほむらの体をそれぞれに叩きつける。
「がはっ!!」
ほむらが吐血する。触手がほむらとマミを思い切り上空に持ち上げ、そのまま思い切り地面に叩きつけた。
ズガアァァァァァァァァァンッ!!
地面に叩きつけられたマミとほむらの変身が、魔女の触手で作られたクレーターの中で解ける。二人とも完全に戦闘不能だ。
「マミさん!! ほむらちゃん!!」
マミとほむらが敗北する瞬間を見せつけられ、まどかは悲痛な声で叫ぶ。
ヒュンッ!!
まどかの叫び声に気付いた魔女の触手が、まどか目掛けて撃ち出される。
恐ろししい速度で迫り来る死への恐怖に、まどかが目を閉じた一瞬の後。
……ドスッ!!
鈍い音がした。
「が……ぁ……」
恐る恐るまどかが目を開くと、まどかの目前に立ちふさがった、芳文の左胸が触手に貫かれていた。心臓への直撃は免れたものの、明らかに致命傷だ。
ズルッ……。
触手が引き抜かれると、芳文は前のめりになって倒れる。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 先輩!! 先輩!! 死なないでぇっ!!」
まどかは目の前で自分を庇って、致命傷を受けた芳文の半身を抱きかかえて半狂乱で泣き叫ぶ。
「がは……ごめ……ん。守って……あげ、られなくて……」
「死なないで!! お願い!! 死なないで!!」
「逃げ……る……ん、だ……」
それだけ言い残して、芳文の意識が途絶える。もう長くない。
「あ、あああ……」
――ほむらとマミが負けた。今はまだ生きているが、このままでは二人とも殺される。
そして、芳文はまどかを庇って致命傷を負い、直に絶命する。
絶望的な状況に追い込まれて、まどかは泣きながらがたがたと震える事しか出来ない……。
あれだけの攻撃をしたのに魔女はまだ生きていた。半分に割れたサッカーボールサイズの欠片から、マミを襲った触手をうねうねと伸ばしている。
ボコボコと音を立てて、サッカーボールサイズのこぶがどんどん出来あがり、やがて最初の姿へと再生を終える。
ヒュンッ!!
信じられない光景に呆然となるほむらを触手が絡め取り、ギリギリと締め付ける。もう一本の触手が気絶しているマミを絡め取り、ギリギリと締め付ける。
ブンブンと触手がマミとほむらを振り回して、マミとほむらの体をそれぞれに叩きつける。
「がはっ!!」
ほむらが吐血する。触手がほむらとマミを思い切り上空に持ち上げ、そのまま思い切り地面に叩きつけた。
ズガアァァァァァァァァァンッ!!
地面に叩きつけられたマミとほむらの変身が、魔女の触手で作られたクレーターの中で解ける。二人とも完全に戦闘不能だ。
「マミさん!! ほむらちゃん!!」
マミとほむらが敗北する瞬間を見せつけられ、まどかは悲痛な声で叫ぶ。
ヒュンッ!!
まどかの叫び声に気付いた魔女の触手が、まどか目掛けて撃ち出される。
恐ろししい速度で迫り来る死への恐怖に、まどかが目を閉じた一瞬の後。
……ドスッ!!
鈍い音がした。
「が……ぁ……」
恐る恐るまどかが目を開くと、まどかの目前に立ちふさがった、芳文の左胸が触手に貫かれていた。心臓への直撃は免れたものの、明らかに致命傷だ。
ズルッ……。
触手が引き抜かれると、芳文は前のめりになって倒れる。
「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 先輩!! 先輩!! 死なないでぇっ!!」
まどかは目の前で自分を庇って、致命傷を受けた芳文の半身を抱きかかえて半狂乱で泣き叫ぶ。
「がは……ごめ……ん。守って……あげ、られなくて……」
「死なないで!! お願い!! 死なないで!!」
「逃げ……る……ん、だ……」
それだけ言い残して、芳文の意識が途絶える。もう長くない。
「あ、あああ……」
――ほむらとマミが負けた。今はまだ生きているが、このままでは二人とも殺される。
そして、芳文はまどかを庇って致命傷を負い、直に絶命する。
絶望的な状況に追い込まれて、まどかは泣きながらがたがたと震える事しか出来ない……。
27:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:49:06.90:8GUEOo26o (26/48)
「……まどか」
それまでずっと沈黙を保って、事の経緯を見守っていたキュゥべえが、まどかに語りかける。
「状況は絶望的だ。だけど、君ならこの状況を打破することが出来る」
「……キュゥ……べえ」
「嘆きも悲しみも、全部君が覆せばいい。君にはそれだけの力が宿っているのだから。君が望めば、万能の神にだってなれるはずだよ」
キュゥべえはまどかにニコリと笑顔を見せて語りかける。
「さあ、言ってごらん。君はどんな願いでソウルジェムを輝かせるんだい?」
「わ、私は……」
まどかは倒れているマミとほむら、そして芳文を見て目を閉じる。誰かを助けたいという願い。マミ達を守りたいという気持ち。そして魔女への恐怖。それらの感情がまどかの心の中で渦巻く。
「っ!? 先輩!?」
まどかの腕の中で、芳文の体が一瞬だけ弱弱しくびくんと震え、そして……。
「お願い!! この人を死なせないで!!」
――それは、咄嗟に出た言葉だった。
「それが君の願いかい?」
キュゥべえの問いにまどかは頷く。
「……私、魔法少女になる。マミさんもほむらちゃんも絶対死なせない」
「……わかった。契約は成立した。君の願いはエントロピーを凌駕した。さあ、受け取るといい」
キュゥべえの言葉と共にまどかの胸から、ピンク色に光り輝く、まどかの掌の上にすっぽりと収まるほどの大きなソウルジェムが生み出される。
まどかの体がふわりと宙に浮く。
ソウルジェムから放たれる光が芳文の体を包み、致命傷を受けた体の損傷をどんどん修復していく。
そして光り輝くソウルジェムは形を変えて、まどかの胸元にチョーカーの飾りとして装着された。
まどかの全身が淡い光に包まれ、先日マミとさやかに喫茶店で披露した、魔法少女の衣装へとまどかを変身させる。
やがて変身を完了したまどかはふわりと地面に着地した。
――今、ここに最強の魔法少女が誕生した瞬間だった。
「……まどか」
それまでずっと沈黙を保って、事の経緯を見守っていたキュゥべえが、まどかに語りかける。
「状況は絶望的だ。だけど、君ならこの状況を打破することが出来る」
「……キュゥ……べえ」
「嘆きも悲しみも、全部君が覆せばいい。君にはそれだけの力が宿っているのだから。君が望めば、万能の神にだってなれるはずだよ」
キュゥべえはまどかにニコリと笑顔を見せて語りかける。
「さあ、言ってごらん。君はどんな願いでソウルジェムを輝かせるんだい?」
「わ、私は……」
まどかは倒れているマミとほむら、そして芳文を見て目を閉じる。誰かを助けたいという願い。マミ達を守りたいという気持ち。そして魔女への恐怖。それらの感情がまどかの心の中で渦巻く。
「っ!? 先輩!?」
まどかの腕の中で、芳文の体が一瞬だけ弱弱しくびくんと震え、そして……。
「お願い!! この人を死なせないで!!」
――それは、咄嗟に出た言葉だった。
「それが君の願いかい?」
キュゥべえの問いにまどかは頷く。
「……私、魔法少女になる。マミさんもほむらちゃんも絶対死なせない」
「……わかった。契約は成立した。君の願いはエントロピーを凌駕した。さあ、受け取るといい」
キュゥべえの言葉と共にまどかの胸から、ピンク色に光り輝く、まどかの掌の上にすっぽりと収まるほどの大きなソウルジェムが生み出される。
まどかの体がふわりと宙に浮く。
ソウルジェムから放たれる光が芳文の体を包み、致命傷を受けた体の損傷をどんどん修復していく。
そして光り輝くソウルジェムは形を変えて、まどかの胸元にチョーカーの飾りとして装着された。
まどかの全身が淡い光に包まれ、先日マミとさやかに喫茶店で披露した、魔法少女の衣装へとまどかを変身させる。
やがて変身を完了したまどかはふわりと地面に着地した。
――今、ここに最強の魔法少女が誕生した瞬間だった。
28:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:50:02.92:8GUEOo26o (27/48)
ヒュンッ!!
魔女の触手がまどかに向かって飛んでくる。
「っ!!」
咄嗟に左手を前に出した瞬間、まどかの前方に淡いピンク色に輝く光の壁が一瞬で展開されて、触手を跳ね返した。光の壁に跳ね返された触手は一瞬でボロボロになって消滅する。
「……うぅ。俺は……一体?」
「先輩!?」
意識を取り戻した芳文が起き上がる。
「……まどかちゃん? ……その、姿は?」
「まどかに感謝するんだね。願いで君の命を救ったのはまどかなんだから」
キュゥべえが芳文に経緯を簡単に説明する。
「君、魔法少女に……」
「……なっちゃいました」
そう言って、まどかは芳文に複雑な胸中で微笑んでみせる。
「まどか!! また攻撃が来るよ!!」
キュゥべえの声と同時に新しい触手が飛んでくる。
「っ!!」
芳文がまどかを庇おうと動く。
「駄目えっ!!」
まどかが叫ぶと同時に再び光の壁が展開し、芳文とまどかを触手の攻撃から守る。光の壁に触れた触手はボロボロと崩れ落ちていく。
「すごい……」
芳文が感嘆の声を上げると、キュゥべえがいつものポーカーフェイスで淡々と説明する。
「まどかは他者の命を救う事を願って魔法少女になったからね。誰かを守る為の力は元々の素質も相まって人一倍だよ。おそらく何者もまどかの張るシールドを突破することは出来ないだろう。そして……」
魔女はしつこく新しい触手を生やして攻撃するが、そのどれもがまどかの作り出した光の壁を破る事はおろか、ヒビひとつ入れる事さえ出来ずにボロボロと崩れ落ちていく。
すべての触手を自滅に近い形で失った魔女が、新たな触手を作り出そうとする。
その期を逃さず、まどかは数日前に想像していた自分の武器を作り出す。
――それは、すべての魔を滅する為に、必殺の一撃を放つ為の弓。
ギリギリギリ……。
弓を引き絞り、魔翌力で作り出した矢を放つ。
ゴウッ!!
まどかの放った矢がすさまじい勢いで魔女の頭頂部に命中した瞬間、凶暴なまでの破壊力を秘めた光の矢は巨大な円球を作り出し、魔女の体の三分の一を飲み込んで消滅させた。
魔女は失った肉体を再生しようとするが、まどかに破壊された部位はいくらやっても再生出来ない。
「願いの関係で魔法少女としての能力が守護に特化してるとはいえ、最強の魔法少女であるまどかの攻撃はどんな魔女も打ち砕く」
「もしも願いで魔女の殲滅を願っていたなら、あの一撃で魔女は跡形も残さずに消し飛んでいただろうね」
「……これが、まどかちゃんの力」
キュゥべえの解説と、目の前の光景に芳文は驚き言葉を失う。
魔法少女になったまどかの力は圧倒的だった。
まどかは魔女にとどめを刺すべく、弓に魔翌力の矢を番える。
ギリギリギリ……。
まどかが弓を引き絞り、再び矢を放とうとしたその時だった。
魔女の下部から触手が二本伸び、気絶しているマミとほむらを拘束して、まるで見せつけるように宙づりにする。
「あれじゃ、まどかちゃんが攻撃したら二人とも巻き込まれる!!」
ボコボコボコっと音を立てて、魔女の全身から触手が生え、まどか達に向かって一斉に襲い掛かってくる。
「っ!!」
まどかは番えていた矢を消すと、咄嗟に右手を翳してシールドを張る。当然、まどかのシールドは魔女の触手を全く寄せ付けない。
だが、魔女は何度も何度もしつこく攻撃を繰り返してくる。
「っ!!」
シールドが破られる事はないが、片手でシールドを張っているまどかは弓を使う事も出来ない。
「まずいね。流石のまどかもシールドを張りながらの攻撃は出来ないようだ。このままだといずれ魔翌力切れに追い込まれるだろう」
キュゥべえのその言葉に、芳文は決意を固めてまどかに叫ぶ。
「……まどかちゃん、俺が二人を助けに行く!!」
「そんな!? 無茶です!!」
「無茶なんかしない。……もう絶対に命を無駄にしたりしない!!」
「先輩!?」
「俺は君に救われたんだ!! この命も、自分自身をどうでもいいと思ってた心も!! だから俺はもう絶対に死なない!! 君と共に戦う!! 君を絶対に守る!! そして、全員で帰るんだ!!」
まどかは芳文の目を見つめる。まどかの瞳に映る芳文の目は、もう、自分の命を粗末に扱おうとしていた時の目ではなくなっていた。
「……本当に、一緒に戦ってくれるんですか?」
「ああ」
芳文の力強い返事にまどかは一瞬目を伏せた後、芳文の顔を見つめてはっきりと言いきった。
「……わかりました。私と一緒に戦ってください!!」
「ああ!! わかった!!」
芳文は力強く頷いてみせる。
ヒュンッ!!
魔女の触手がまどかに向かって飛んでくる。
「っ!!」
咄嗟に左手を前に出した瞬間、まどかの前方に淡いピンク色に輝く光の壁が一瞬で展開されて、触手を跳ね返した。光の壁に跳ね返された触手は一瞬でボロボロになって消滅する。
「……うぅ。俺は……一体?」
「先輩!?」
意識を取り戻した芳文が起き上がる。
「……まどかちゃん? ……その、姿は?」
「まどかに感謝するんだね。願いで君の命を救ったのはまどかなんだから」
キュゥべえが芳文に経緯を簡単に説明する。
「君、魔法少女に……」
「……なっちゃいました」
そう言って、まどかは芳文に複雑な胸中で微笑んでみせる。
「まどか!! また攻撃が来るよ!!」
キュゥべえの声と同時に新しい触手が飛んでくる。
「っ!!」
芳文がまどかを庇おうと動く。
「駄目えっ!!」
まどかが叫ぶと同時に再び光の壁が展開し、芳文とまどかを触手の攻撃から守る。光の壁に触れた触手はボロボロと崩れ落ちていく。
「すごい……」
芳文が感嘆の声を上げると、キュゥべえがいつものポーカーフェイスで淡々と説明する。
「まどかは他者の命を救う事を願って魔法少女になったからね。誰かを守る為の力は元々の素質も相まって人一倍だよ。おそらく何者もまどかの張るシールドを突破することは出来ないだろう。そして……」
魔女はしつこく新しい触手を生やして攻撃するが、そのどれもがまどかの作り出した光の壁を破る事はおろか、ヒビひとつ入れる事さえ出来ずにボロボロと崩れ落ちていく。
すべての触手を自滅に近い形で失った魔女が、新たな触手を作り出そうとする。
その期を逃さず、まどかは数日前に想像していた自分の武器を作り出す。
――それは、すべての魔を滅する為に、必殺の一撃を放つ為の弓。
ギリギリギリ……。
弓を引き絞り、魔翌力で作り出した矢を放つ。
ゴウッ!!
まどかの放った矢がすさまじい勢いで魔女の頭頂部に命中した瞬間、凶暴なまでの破壊力を秘めた光の矢は巨大な円球を作り出し、魔女の体の三分の一を飲み込んで消滅させた。
魔女は失った肉体を再生しようとするが、まどかに破壊された部位はいくらやっても再生出来ない。
「願いの関係で魔法少女としての能力が守護に特化してるとはいえ、最強の魔法少女であるまどかの攻撃はどんな魔女も打ち砕く」
「もしも願いで魔女の殲滅を願っていたなら、あの一撃で魔女は跡形も残さずに消し飛んでいただろうね」
「……これが、まどかちゃんの力」
キュゥべえの解説と、目の前の光景に芳文は驚き言葉を失う。
魔法少女になったまどかの力は圧倒的だった。
まどかは魔女にとどめを刺すべく、弓に魔翌力の矢を番える。
ギリギリギリ……。
まどかが弓を引き絞り、再び矢を放とうとしたその時だった。
魔女の下部から触手が二本伸び、気絶しているマミとほむらを拘束して、まるで見せつけるように宙づりにする。
「あれじゃ、まどかちゃんが攻撃したら二人とも巻き込まれる!!」
ボコボコボコっと音を立てて、魔女の全身から触手が生え、まどか達に向かって一斉に襲い掛かってくる。
「っ!!」
まどかは番えていた矢を消すと、咄嗟に右手を翳してシールドを張る。当然、まどかのシールドは魔女の触手を全く寄せ付けない。
だが、魔女は何度も何度もしつこく攻撃を繰り返してくる。
「っ!!」
シールドが破られる事はないが、片手でシールドを張っているまどかは弓を使う事も出来ない。
「まずいね。流石のまどかもシールドを張りながらの攻撃は出来ないようだ。このままだといずれ魔翌力切れに追い込まれるだろう」
キュゥべえのその言葉に、芳文は決意を固めてまどかに叫ぶ。
「……まどかちゃん、俺が二人を助けに行く!!」
「そんな!? 無茶です!!」
「無茶なんかしない。……もう絶対に命を無駄にしたりしない!!」
「先輩!?」
「俺は君に救われたんだ!! この命も、自分自身をどうでもいいと思ってた心も!! だから俺はもう絶対に死なない!! 君と共に戦う!! 君を絶対に守る!! そして、全員で帰るんだ!!」
まどかは芳文の目を見つめる。まどかの瞳に映る芳文の目は、もう、自分の命を粗末に扱おうとしていた時の目ではなくなっていた。
「……本当に、一緒に戦ってくれるんですか?」
「ああ」
芳文の力強い返事にまどかは一瞬目を伏せた後、芳文の顔を見つめてはっきりと言いきった。
「……わかりました。私と一緒に戦ってください!!」
「ああ!! わかった!!」
芳文は力強く頷いてみせる。
29:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:51:36.69:8GUEOo26o (28/48)
「でもいったいどうする気なんだい? 君自身にはあれと戦う為の魔翌力はないはずだよ」
キュゥべえのその言葉に、芳文は真剣な表情でまどかの顔を見つめて頼む。
「……まどかちゃん。剣を作ってくれないか。君の皆を救いたいという願いを込めた最強の剣を。――それさえあれば、俺がどんな相手も切り伏せて、君の前に道を作ってみせる」
いつの間にか、すべての触手をまどかのシールドで失った魔女は攻撃が止めていた。新しい触手を作り出して攻撃を再開しようと、ぶるぶると小刻みに揺れている。
まどかは魔女の様子を確認するとシールドを解除して、魔女が再び触手を作り出して攻撃をしかけてくるまでの短い時間に、芳文の為の剣の作成に取り掛かる事を決める。
「……はじめてだから、上手くいくかどうかわからないけれど、やってみます!!」
まどかはマミがやっていたように両手を広げると、意識を両手の間に集中させる。
(――大丈夫。絶対に出来るはず。皆を守れる力を、願いを、この一振りに込めて作り上げるんだ!!)
まどかは強く強く願いと魔翌力を込める。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ……。
やがて、まどかの願いが込められた最強の剣が顕現する。
――それは、淡いピンク色に光り輝く、クリスタルのように透き通った美しい刀身を持つ、長大な一振りの剣。
――最強の魔法少女の、決して誰一人命を失わせないという祈りと、全員で魔への勝利と共に帰還するという願いが込められた最強の剣。
――後に、芳文とまどかによって名づけられる、この最強の剣の名前は――マギカ・ブレード――。
「……出来た。出来ました!!」
「ありがとう。それじゃ、行ってくる」
芳文はまどかが祈りと願いを込めて作り出した最強の魔法の剣――マギカ・ブレード――を受け取り、両手で構えると、魔女に向かって走り出す。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ヒュンヒュンヒュンッ!!
芳文に気付いた魔女が複数の触手を飛ばしてくる。
ザンザンザンッ!! パアァァァァァァァンッ!!
芳文が振るう剣に斬り落とされた瞬間、触手は光の粒子になって跡形もなく消滅する。
「すごい威力だ!! さすが、最強の魔法少女が作ってくれた剣!!」
芳文の剣を握る手には、まるで紙を切るような手ごたえしかしない。
ザンザンザンザンッ!!
芳文は飛んでくる触手をすべて斬り飛ばす。
ヒュンッ!!
芳文が斬撃を終えた瞬間を狙って、一本の触手が飛んでくる。
「チィっ!!」
振り下ろした剣をそのまま地面に突き立てて、剣を支点にして触手を蹴り飛ばす。
ドパアァァァンッ!!
芳文が蹴りつけた触手が空中で爆ぜる。
「!? なんだ!?」
咄嗟に放ったただの蹴りに異常な破壊力があったのに芳文は驚く。
「……いや、さっきまでのみんなの攻撃でこいつが弱ってただけか」
地面が光の粒子になって飛び散り、剣がフリーの状態に戻る。芳文は気持ちを切り替え、魔女の胴を横薙ぎに斬りつけると、続けてマミの捕まっている触手を斬り落とす。
胴体の前半分が斬撃と刀身から発生する破壊エネルギーで消し飛ばされ、魔女があまりのダメージにのた打ち回る。
「巴さん、しっかり!!」
芳文は落下するマミを片腕でキャッチして、揺さぶり起こす。
「う……社君?」
「後方にまどかちゃんがいる!! そっちに退避して!! 早く!!」
「え、ええ」
マミは一瞬で魔法少女の姿になると、芳文の指示に従う。
「……あとはあの子を!!」
魔女が複数の細い棘のような触手を銃弾のように発射する。
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
芳文の目には機関銃並みの速さで飛んでくる棘触手が、まるでスローモーションのように遅く見えた。飛んでくる物をすべて切り払い、ほむらが捕まっている触手を切断する。
落ちてくるほむらを片腕でマミと同じようにキャッチすると、魔女目掛けて剣を思い切り投げつける。
ヒュッ!! ドスッ!!
胴に深々と剣を突き立てられた魔女が、刀身から流れ込んでくる破壊エネルギーで内部崩壊を起こし始める。
芳文はほむらを抱きかかえ、まどか達の方へと走り出す。
「今だ!! とどめを!!」
「はい!!」
ギリギリギリ……。バシュッ!!
まどかは限界まで弓を振り絞って魔翌力の矢を放つ。
まどかの放った矢が魔女に命中した瞬間、ゴゥッと音を立てて矢が炸裂して、魔女の全身をピンク色に輝く円球状の破壊エネルギーの中へと飲み込んでいく。
やがて光り輝く円球が消え去ると、そこにはもう何も残っておらず、魔女のいた地面は巨大なクレーターになっていた。
シュウゥゥゥゥゥゥゥゥン。
結界が消え去り元の公園に戻ると、地面にはグリーフシードが転がっていた。周囲には魔女に操られていた男たちが倒れている。
「でもいったいどうする気なんだい? 君自身にはあれと戦う為の魔翌力はないはずだよ」
キュゥべえのその言葉に、芳文は真剣な表情でまどかの顔を見つめて頼む。
「……まどかちゃん。剣を作ってくれないか。君の皆を救いたいという願いを込めた最強の剣を。――それさえあれば、俺がどんな相手も切り伏せて、君の前に道を作ってみせる」
いつの間にか、すべての触手をまどかのシールドで失った魔女は攻撃が止めていた。新しい触手を作り出して攻撃を再開しようと、ぶるぶると小刻みに揺れている。
まどかは魔女の様子を確認するとシールドを解除して、魔女が再び触手を作り出して攻撃をしかけてくるまでの短い時間に、芳文の為の剣の作成に取り掛かる事を決める。
「……はじめてだから、上手くいくかどうかわからないけれど、やってみます!!」
まどかはマミがやっていたように両手を広げると、意識を両手の間に集中させる。
(――大丈夫。絶対に出来るはず。皆を守れる力を、願いを、この一振りに込めて作り上げるんだ!!)
まどかは強く強く願いと魔翌力を込める。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ……。
やがて、まどかの願いが込められた最強の剣が顕現する。
――それは、淡いピンク色に光り輝く、クリスタルのように透き通った美しい刀身を持つ、長大な一振りの剣。
――最強の魔法少女の、決して誰一人命を失わせないという祈りと、全員で魔への勝利と共に帰還するという願いが込められた最強の剣。
――後に、芳文とまどかによって名づけられる、この最強の剣の名前は――マギカ・ブレード――。
「……出来た。出来ました!!」
「ありがとう。それじゃ、行ってくる」
芳文はまどかが祈りと願いを込めて作り出した最強の魔法の剣――マギカ・ブレード――を受け取り、両手で構えると、魔女に向かって走り出す。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ヒュンヒュンヒュンッ!!
芳文に気付いた魔女が複数の触手を飛ばしてくる。
ザンザンザンッ!! パアァァァァァァァンッ!!
芳文が振るう剣に斬り落とされた瞬間、触手は光の粒子になって跡形もなく消滅する。
「すごい威力だ!! さすが、最強の魔法少女が作ってくれた剣!!」
芳文の剣を握る手には、まるで紙を切るような手ごたえしかしない。
ザンザンザンザンッ!!
芳文は飛んでくる触手をすべて斬り飛ばす。
ヒュンッ!!
芳文が斬撃を終えた瞬間を狙って、一本の触手が飛んでくる。
「チィっ!!」
振り下ろした剣をそのまま地面に突き立てて、剣を支点にして触手を蹴り飛ばす。
ドパアァァァンッ!!
芳文が蹴りつけた触手が空中で爆ぜる。
「!? なんだ!?」
咄嗟に放ったただの蹴りに異常な破壊力があったのに芳文は驚く。
「……いや、さっきまでのみんなの攻撃でこいつが弱ってただけか」
地面が光の粒子になって飛び散り、剣がフリーの状態に戻る。芳文は気持ちを切り替え、魔女の胴を横薙ぎに斬りつけると、続けてマミの捕まっている触手を斬り落とす。
胴体の前半分が斬撃と刀身から発生する破壊エネルギーで消し飛ばされ、魔女があまりのダメージにのた打ち回る。
「巴さん、しっかり!!」
芳文は落下するマミを片腕でキャッチして、揺さぶり起こす。
「う……社君?」
「後方にまどかちゃんがいる!! そっちに退避して!! 早く!!」
「え、ええ」
マミは一瞬で魔法少女の姿になると、芳文の指示に従う。
「……あとはあの子を!!」
魔女が複数の細い棘のような触手を銃弾のように発射する。
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
芳文の目には機関銃並みの速さで飛んでくる棘触手が、まるでスローモーションのように遅く見えた。飛んでくる物をすべて切り払い、ほむらが捕まっている触手を切断する。
落ちてくるほむらを片腕でマミと同じようにキャッチすると、魔女目掛けて剣を思い切り投げつける。
ヒュッ!! ドスッ!!
胴に深々と剣を突き立てられた魔女が、刀身から流れ込んでくる破壊エネルギーで内部崩壊を起こし始める。
芳文はほむらを抱きかかえ、まどか達の方へと走り出す。
「今だ!! とどめを!!」
「はい!!」
ギリギリギリ……。バシュッ!!
まどかは限界まで弓を振り絞って魔翌力の矢を放つ。
まどかの放った矢が魔女に命中した瞬間、ゴゥッと音を立てて矢が炸裂して、魔女の全身をピンク色に輝く円球状の破壊エネルギーの中へと飲み込んでいく。
やがて光り輝く円球が消え去ると、そこにはもう何も残っておらず、魔女のいた地面は巨大なクレーターになっていた。
シュウゥゥゥゥゥゥゥゥン。
結界が消え去り元の公園に戻ると、地面にはグリーフシードが転がっていた。周囲には魔女に操られていた男たちが倒れている。
30:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:54:27.78:8GUEOo26o (29/48)
「終わった……」
気を失ったほむらを抱きかかえたまま、芳文は呟く。
「……まどかちゃんと巴さんは?」
芳文が周囲を見回すと、すぐ近くに二人とも立っていた。芳文は二人の元へと向かう。
「まどかちゃん」
芳文が声をかけた瞬間、まどかはその場に力なくぺたんと座り込む。
「あ、あはは……。安心したら、腰が……」
腰が抜けたまどかは力なく笑う。
「まどか!!」
魔女の結界の外で、マミ達の無事を祈って待っていたさやかが、まどかの元へと駆け寄ってくる。
「まどか、あんた魔法少女に……」
「……なっちゃった」
魔法少女の姿のまどかに驚いたさやかの問いに、あはは……と笑って答えるまどか。
芳文は座り込んでいるまどかの側に辿り着くと、まどかに心からの礼を込めて言葉をかける。
「……良く頑張ったね。ありがとう、まどかちゃん」
芳文がそう声をかけると、まどかの瞳から涙がつうっと流れ落ちる。
「あ、あれ? なんで、涙が……」
まどかは慌てて、涙を拭うが涙は止めどなく流れてくる。
「……あれ? あれ?」
「……鹿目さん」
それまで黙ってさやかや芳文とのまどかのやりとりを見ていたマミが、まどかに声をかけるとまどかはびくん、と一度震えて恐る恐るマミの顔を見る。
「あなた、とうとう……魔法少女になったのね……」
マミはどこか複雑そうな顔で言う。
「……はい」
「……ごめんなさい。私がもっと強かったら、あなたを契約せさずに済んだのに」
マミはまどかの側へしゃがんで、まどかの涙を指で拭いながら謝罪する。
「そんな……。謝るのは私の方です。私、マミさんと約束してたのに……」
「……いいの。もう……いいのよ」
マミのその言葉に、まどかはマミに抱きついて泣き出す。
「……ごめんなさい、マミさんごめんなさい!! 私がもっと早く勇気を出してたら、みんなケガをしなくて済んだのに!!」
「……でも、最後はがんばってくれたじゃないか。おかげでみんな生きて帰ってこられた」
芳文の言葉に、まどかは顔を上げて芳文を見る。
「君は臆病なんかじゃない。誰よりも勇気がある女の子だよ」
まどかは芳文のその言葉を聞いて、顔をくしゃくしゃにしてマミの胸で泣き出す。
「怖かった……。怖かったよう……。うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ……」
泣きじゃくるまどかをマミは黙って、優しく抱き続けてやるのだった……。
☆
「……うぅっ」
まどかが泣き止んで落ち着いてきた頃、ベンチに寝かされていたほむらが目覚めた。
「っ!? 魔女は!?」
慌てて跳ね上がると、キュゥべえがマミとまどかの足元からほむらに話しかける。
「魔女ならまどかが倒したよ。暁美ほむら」
「!?」
ほむらが視線を向けた先には、泣き腫らした顔でマミに寄り添っているまどかがいた。
マミもまどかも、まだ魔法少女の姿のままだ。
「まどか!! あなたなんで!? 私言ったわよね!! あなたは鹿目まどかのままでいればいいって!!」
ほむらはまどかの姿を見て感情を露わにし、まどかに駆け寄るとまどかの両肩を掴んで叫ぶ。
「どうして契約なんてしたの!! どうして!!」
「ほ、ほむらちゃ……」
「やめなさい!! 鹿目さんが契約してくれなかったら、全員死んでいたのよ!!」
「口を出さないで!!」
マミが止めに入るが、ほむらはマミを睨みつける。
「わかっているの!! 魔法少女になるって事は、いつ死んでもおかしくない事なのに!! どうして!!」
「い、痛いよ、ほむらちゃん……」
半狂乱のほむらに対して、マミもさやかもまどかも驚いて硬直していると、間に芳文が割って入る。
「落ち着いて。なってしまった物はもう、どうしようもないだろ」
「っ!!」
芳文が肩を掴んだ瞬間、ほむらはそれを振り払い、まどか達から距離を取る。
「何も知らないくせに口を挟まないで!!」
「……じゃあ教えてくれないか。なんでそんなに必死なのかを」
「それは……」
(言えない。言えるわけがない)
芳文の問いかけにほむらは俯いて言葉を濁す。
「……まどか、あなたは私の忠告を聞かなかった事をきっと後悔する。いつか、あなたは家族も友人も自分自身の未来も失うことになる」
「……それって、どういう……意味……なの?」
「……いずれわかるわ」
(……その時は、私がこの手で楽にしてあげる)
ほむらが心の中で最悪の結末への覚悟を決めたその時だった。
「終わった……」
気を失ったほむらを抱きかかえたまま、芳文は呟く。
「……まどかちゃんと巴さんは?」
芳文が周囲を見回すと、すぐ近くに二人とも立っていた。芳文は二人の元へと向かう。
「まどかちゃん」
芳文が声をかけた瞬間、まどかはその場に力なくぺたんと座り込む。
「あ、あはは……。安心したら、腰が……」
腰が抜けたまどかは力なく笑う。
「まどか!!」
魔女の結界の外で、マミ達の無事を祈って待っていたさやかが、まどかの元へと駆け寄ってくる。
「まどか、あんた魔法少女に……」
「……なっちゃった」
魔法少女の姿のまどかに驚いたさやかの問いに、あはは……と笑って答えるまどか。
芳文は座り込んでいるまどかの側に辿り着くと、まどかに心からの礼を込めて言葉をかける。
「……良く頑張ったね。ありがとう、まどかちゃん」
芳文がそう声をかけると、まどかの瞳から涙がつうっと流れ落ちる。
「あ、あれ? なんで、涙が……」
まどかは慌てて、涙を拭うが涙は止めどなく流れてくる。
「……あれ? あれ?」
「……鹿目さん」
それまで黙ってさやかや芳文とのまどかのやりとりを見ていたマミが、まどかに声をかけるとまどかはびくん、と一度震えて恐る恐るマミの顔を見る。
「あなた、とうとう……魔法少女になったのね……」
マミはどこか複雑そうな顔で言う。
「……はい」
「……ごめんなさい。私がもっと強かったら、あなたを契約せさずに済んだのに」
マミはまどかの側へしゃがんで、まどかの涙を指で拭いながら謝罪する。
「そんな……。謝るのは私の方です。私、マミさんと約束してたのに……」
「……いいの。もう……いいのよ」
マミのその言葉に、まどかはマミに抱きついて泣き出す。
「……ごめんなさい、マミさんごめんなさい!! 私がもっと早く勇気を出してたら、みんなケガをしなくて済んだのに!!」
「……でも、最後はがんばってくれたじゃないか。おかげでみんな生きて帰ってこられた」
芳文の言葉に、まどかは顔を上げて芳文を見る。
「君は臆病なんかじゃない。誰よりも勇気がある女の子だよ」
まどかは芳文のその言葉を聞いて、顔をくしゃくしゃにしてマミの胸で泣き出す。
「怖かった……。怖かったよう……。うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ……」
泣きじゃくるまどかをマミは黙って、優しく抱き続けてやるのだった……。
☆
「……うぅっ」
まどかが泣き止んで落ち着いてきた頃、ベンチに寝かされていたほむらが目覚めた。
「っ!? 魔女は!?」
慌てて跳ね上がると、キュゥべえがマミとまどかの足元からほむらに話しかける。
「魔女ならまどかが倒したよ。暁美ほむら」
「!?」
ほむらが視線を向けた先には、泣き腫らした顔でマミに寄り添っているまどかがいた。
マミもまどかも、まだ魔法少女の姿のままだ。
「まどか!! あなたなんで!? 私言ったわよね!! あなたは鹿目まどかのままでいればいいって!!」
ほむらはまどかの姿を見て感情を露わにし、まどかに駆け寄るとまどかの両肩を掴んで叫ぶ。
「どうして契約なんてしたの!! どうして!!」
「ほ、ほむらちゃ……」
「やめなさい!! 鹿目さんが契約してくれなかったら、全員死んでいたのよ!!」
「口を出さないで!!」
マミが止めに入るが、ほむらはマミを睨みつける。
「わかっているの!! 魔法少女になるって事は、いつ死んでもおかしくない事なのに!! どうして!!」
「い、痛いよ、ほむらちゃん……」
半狂乱のほむらに対して、マミもさやかもまどかも驚いて硬直していると、間に芳文が割って入る。
「落ち着いて。なってしまった物はもう、どうしようもないだろ」
「っ!!」
芳文が肩を掴んだ瞬間、ほむらはそれを振り払い、まどか達から距離を取る。
「何も知らないくせに口を挟まないで!!」
「……じゃあ教えてくれないか。なんでそんなに必死なのかを」
「それは……」
(言えない。言えるわけがない)
芳文の問いかけにほむらは俯いて言葉を濁す。
「……まどか、あなたは私の忠告を聞かなかった事をきっと後悔する。いつか、あなたは家族も友人も自分自身の未来も失うことになる」
「……それって、どういう……意味……なの?」
「……いずれわかるわ」
(……その時は、私がこの手で楽にしてあげる)
ほむらが心の中で最悪の結末への覚悟を決めたその時だった。
31:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:56:06.12:8GUEOo26o (30/48)
「……そんな時はこないね」
「……?」
芳文がほむらのに言葉を否定して言い切る。
「まどかちゃんは何も失ったりしない。俺と巴さんとさやかちゃんが付いてるから」
「……馬鹿馬鹿しい。あなた達に何が出来ると言うの」
「出来る出来ないじゃない。するんだ。何もなくさせたりしない。この子を傷つける奴は俺が許さない」
「……勝手にすればいい。どうせあなたには何も出来ないし、そんな力もないのだから」
ほむらはそう言い放つと、くるりと背を向け去っていく。
(……守れなかった。また、守れなかった)
ほむらは一人、涙を流しながら去っていく。
(……結局、私にはまどかを守る事は出来ないの? 私はただ、まどかを守りたかっただけなのに)
ほむらは涙する。ただ一人、救いたい少女の事を想いながら……。
(力が欲しい……。まどかを守れる、救える力が欲しい……)
☆
ほむらが去った後、芳文達はマミのマンションに寄って、芳文の止血の為に破いたまどかの制服を処分し、マミのお下がりの制服をまどかに着せて、芳文とマミとさやかはまどかを自宅まで送って行った。
その後、さやかとマミも自宅まで送っていった芳文は、自宅近くにある深夜の公園で一人佇んでいた。
その公園に捨てられている一台の放置車両。芳文はそれに近づくと思い切り蹴り上げる。
ズガアァァァァァァンッ!!
車体裏から内部メカとボンネットまで含めて、容易く芳文の蹴りが貫通した。
「……」
ズドンッ!!
芳文が車体前部に無造作に放ったパンチが、簡単に内部メカごと車体を貫通する。
「……」
貫通した穴に手をかけて、力を入れる。
簡単に車体が頭より上に持ち上がった。
――ガシャアァァァァァァンッ!!
芳文が無造作に投げ捨てた放置車両がぐしぐしゃにつぶれる。
「……なんだこれ。……俺の体、どうなってるんだ?」
一人呟く芳文の疑問に答える者は誰もいない。
ただ静かに、夜は更けていくのだった……。
つづく
「……そんな時はこないね」
「……?」
芳文がほむらのに言葉を否定して言い切る。
「まどかちゃんは何も失ったりしない。俺と巴さんとさやかちゃんが付いてるから」
「……馬鹿馬鹿しい。あなた達に何が出来ると言うの」
「出来る出来ないじゃない。するんだ。何もなくさせたりしない。この子を傷つける奴は俺が許さない」
「……勝手にすればいい。どうせあなたには何も出来ないし、そんな力もないのだから」
ほむらはそう言い放つと、くるりと背を向け去っていく。
(……守れなかった。また、守れなかった)
ほむらは一人、涙を流しながら去っていく。
(……結局、私にはまどかを守る事は出来ないの? 私はただ、まどかを守りたかっただけなのに)
ほむらは涙する。ただ一人、救いたい少女の事を想いながら……。
(力が欲しい……。まどかを守れる、救える力が欲しい……)
☆
ほむらが去った後、芳文達はマミのマンションに寄って、芳文の止血の為に破いたまどかの制服を処分し、マミのお下がりの制服をまどかに着せて、芳文とマミとさやかはまどかを自宅まで送って行った。
その後、さやかとマミも自宅まで送っていった芳文は、自宅近くにある深夜の公園で一人佇んでいた。
その公園に捨てられている一台の放置車両。芳文はそれに近づくと思い切り蹴り上げる。
ズガアァァァァァァンッ!!
車体裏から内部メカとボンネットまで含めて、容易く芳文の蹴りが貫通した。
「……」
ズドンッ!!
芳文が車体前部に無造作に放ったパンチが、簡単に内部メカごと車体を貫通する。
「……」
貫通した穴に手をかけて、力を入れる。
簡単に車体が頭より上に持ち上がった。
――ガシャアァァァァァァンッ!!
芳文が無造作に投げ捨てた放置車両がぐしぐしゃにつぶれる。
「……なんだこれ。……俺の体、どうなってるんだ?」
一人呟く芳文の疑問に答える者は誰もいない。
ただ静かに、夜は更けていくのだった……。
つづく
32:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 01:58:49.47:8GUEOo26o (31/48)
第4話 「……あなたは何者なの?」
――まどかが魔法少女になってから、あっという間に数日が過ぎた。
狂った結界の中で、まるで巨大な大砲のような姿をした魔女が、ぐるぐると上下左右に回転しながら、滅茶苦茶に紅く燃え盛る炎の玉を発射する。
「このぉっ!!」
マミは飛んでくる炎の玉を躱しながら、手にした二丁のマスケット銃を放つ。マスケット銃から放たれ地面に着弾した弾痕から、魔法の糸が伸び魔女を拘束する。
ドカンッ!!
拘束された魔女の銃口から、強引に放たれた炎の玉が魔法の糸を引き裂いて、マミに迫る。
「マミさん!!」
後方でキュゥべえを抱いて戦いを見ているさやかを庇うようにして、弓を片手に成り行きを見守っていたまどかが叫ぶと同時に、マミの前方にまどかのシールドが展開され炎の玉を受け止め消滅させる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
魔女がでたらめに放ち続ける炎の玉を、まどかが作り出した剣で斬り払いながら、芳文が魔女へと突っ込んでいく。
ドスゥッ!!
剣を魔女の砲口へと思い切り突き立て、芳文は剣から手を放すとバックステップで離脱する。
「巴さん!! いまだ!!」
「ティロ・フィナーレ!!」
一瞬で巨大なマスケット銃を顕現させたマミが、マギカ・ブレードを突き立てられ内部崩壊を起こしている魔女を跡形もなく消し飛ばした。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥン……。
結界が消え去り、グリーフシードがコツンと音を立てて地面に落下する。
「やったあ!!」
さやかが歓喜の声を上げる。
「お疲れ様、巴さん」
芳文はそう声をかけて、グリーフシードを拾いマミへと放る。
マミはそれを受け取り、芳文に返事を返す。
「社君もお疲れ様」
「マミさん、先輩、大丈夫ですか?」
まどかが駆け寄って尋ねる。
「鹿目さん、お疲れ様。私は平気よ。鹿目さんのシールドのおかげでね」
「まどかちゃん、お疲れ様。俺も平気だよ。流石、最強の魔法少女の剣だ。あれさえあればどんな相手だって斬り伏せられるよ」
「そんな……。私なんてまだまだですよ。さっきだって、せっかくマミさんと先輩が隙を作ってくれたのに、矢を炎の玉で阻まれて魔女に当てられなかったし……」
マミと芳文の賞賛の言葉にまどかは照れながら返す。
「大丈夫だよ。まどかがもっと経験を積めば、相手の攻撃を貫通する矢にしたり、任意の場所へ誘導して当てられるように撃つ事も出来るようになるはずだよ」
さやかの腕の中から、するりと地面に降り立ってキュゥべえがまどかにアドバイスする。
――まどかの放つ矢は、当たった瞬間に巨大な魔翌力の円球へと変化し、あらゆる物を飲み込み破壊、消滅させる。
だが、裏を返せばどんな小さな物にでも当たった瞬間に発動してしまうので、先ほどの魔女のように大量の火球を撃ってくる相手は相性が悪かった。
いくら破壊力があっても、現時点で貫通能力がないまどかの矢は、今回の相手には相性が悪すぎた。
第4話 「……あなたは何者なの?」
――まどかが魔法少女になってから、あっという間に数日が過ぎた。
狂った結界の中で、まるで巨大な大砲のような姿をした魔女が、ぐるぐると上下左右に回転しながら、滅茶苦茶に紅く燃え盛る炎の玉を発射する。
「このぉっ!!」
マミは飛んでくる炎の玉を躱しながら、手にした二丁のマスケット銃を放つ。マスケット銃から放たれ地面に着弾した弾痕から、魔法の糸が伸び魔女を拘束する。
ドカンッ!!
拘束された魔女の銃口から、強引に放たれた炎の玉が魔法の糸を引き裂いて、マミに迫る。
「マミさん!!」
後方でキュゥべえを抱いて戦いを見ているさやかを庇うようにして、弓を片手に成り行きを見守っていたまどかが叫ぶと同時に、マミの前方にまどかのシールドが展開され炎の玉を受け止め消滅させる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
魔女がでたらめに放ち続ける炎の玉を、まどかが作り出した剣で斬り払いながら、芳文が魔女へと突っ込んでいく。
ドスゥッ!!
剣を魔女の砲口へと思い切り突き立て、芳文は剣から手を放すとバックステップで離脱する。
「巴さん!! いまだ!!」
「ティロ・フィナーレ!!」
一瞬で巨大なマスケット銃を顕現させたマミが、マギカ・ブレードを突き立てられ内部崩壊を起こしている魔女を跡形もなく消し飛ばした。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥン……。
結界が消え去り、グリーフシードがコツンと音を立てて地面に落下する。
「やったあ!!」
さやかが歓喜の声を上げる。
「お疲れ様、巴さん」
芳文はそう声をかけて、グリーフシードを拾いマミへと放る。
マミはそれを受け取り、芳文に返事を返す。
「社君もお疲れ様」
「マミさん、先輩、大丈夫ですか?」
まどかが駆け寄って尋ねる。
「鹿目さん、お疲れ様。私は平気よ。鹿目さんのシールドのおかげでね」
「まどかちゃん、お疲れ様。俺も平気だよ。流石、最強の魔法少女の剣だ。あれさえあればどんな相手だって斬り伏せられるよ」
「そんな……。私なんてまだまだですよ。さっきだって、せっかくマミさんと先輩が隙を作ってくれたのに、矢を炎の玉で阻まれて魔女に当てられなかったし……」
マミと芳文の賞賛の言葉にまどかは照れながら返す。
「大丈夫だよ。まどかがもっと経験を積めば、相手の攻撃を貫通する矢にしたり、任意の場所へ誘導して当てられるように撃つ事も出来るようになるはずだよ」
さやかの腕の中から、するりと地面に降り立ってキュゥべえがまどかにアドバイスする。
――まどかの放つ矢は、当たった瞬間に巨大な魔翌力の円球へと変化し、あらゆる物を飲み込み破壊、消滅させる。
だが、裏を返せばどんな小さな物にでも当たった瞬間に発動してしまうので、先ほどの魔女のように大量の火球を撃ってくる相手は相性が悪かった。
いくら破壊力があっても、現時点で貫通能力がないまどかの矢は、今回の相手には相性が悪すぎた。
33:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:01:06.74:8GUEOo26o (32/48)
「いやいや、それ言ったら俺なんかもっとまだまだだよ。せっかくまどかちゃんが作ってくれた剣なのに、いまだに全然使いこなせてないし」
「そうね。あの剣は本当にすごい威力があるものね。社君がもっと強くなれば、あれを使って一人で魔女を倒せるかもね」
「手厳しいなあ、巴さんは」
「そうかしら? これでもあなたの事は認めてるつもりよ」
「そう?」
「ええ」
「……そっか。それはとっても嬉しいなって」
「先輩、それ私のセリフ……」
そんな三人のやりとりにさやかが口を挟む。
「でもさあ、先輩ってホント、ただの人間なの? なんていうかさ、強すぎてとてもあたしと同じ人類だとは思えないよ。よく魔法少女のマミさんやまどかの動きについていけるよね」
「……。はっはっは。お兄さんは毎日鍛えてるからねぇ!!」
さやかの悪気のない、何気ない言葉に芳文は一瞬複雑な表情になるが、すぐに笑いながらさやかの頭をくしゃくしゃと撫でて答える。
「もう!! また子ども扱いして!!」
「いやいや、そんなつもりはないんだよ。何ていうか、撫でやすい位置にあるからつい」
「つい、で女の子の頭撫でるって!!」
「ごめんごめん。本当に嫌ならもうしないよ」
「まあ、別にいいけどさ」
「そう?」
「でもまどかにまでしたら駄目だかんね!! この子は男子に免疫ないんだから!!」
「さ、さやかちゃん……苦しいよぉ」
さやかがまどかに抱きついて芳文に釘を刺す。
「あー。ごめん、こないだつい、まどかちゃんの頭撫でちゃった」
「何ぃーっ!? まどかそれ本当!?」
「う……うん」
まどかは先日の公園での事を思い出して、赤面しながらさやかにこくんと頷く。
「何て事……。あたしの嫁が先輩の魔の手に落ちてたなんて……」
さやかが激しくショックを受けた顔でよろよろと崩れ落ちる。
「……なんてこった。こんなにかわいいまどかちゃんがさやかちゃんとそんな深い仲だったなんて……。お兄さんちょっとショックだよ」
さやかの態度に、よろよろと後ずさりながら、芳文はショックを受ける。
「……巴さん」
「何かしら」
「百合も同性愛もあるんだね。……俺、初めて本物を見たよ」
「私にそんな事言われても……。こういう時、何て返せばいいのかしら?」
「ちょ!? 違いますから!! さやかちゃんは大切な親友ですけど、そういうんじゃありませんから!!」
「いいのよ、鹿目さん。愛の形は人それぞれだから」
「巴さんの言う通りだよ。お兄さん応援するよ」
「だから違うのにぃ……。それにさやかちゃんには他に好きな男の子がいるし……」
半泣きでまどかが呟く。
(……うわあ。何この子。かわいすぎる)
マミと芳文が同じ感想を抱く。
「ちょっと、まどか!!」
まどかに片思いをばらされて、さやかが慌ててまどかをがくんがくんと揺さぶる。
「さ、さやかちゃん落ち着いて……」
「……へぇー。さやかちゃんには好きな奴がいたのか」
「……」
芳文の言葉にさやかの顔が赤くなる。
「へえ……。美樹さんも隅に置けないわね」
マミがそう言うと、さやかはますます赤くなる。
「そうかそうか。さやかちゃんもやっぱり女の子なんだなあ。その相手と上手く行くといいね」
芳文がそう言うと、さやかはますます真っ赤になって黙り込んでしまう。
「……ああっ!! もう!!」
真っ赤になって俯いていたさやかが、キっと顔を上げて早口でまくしたてる。
「先輩もマミさんも意地悪だ!! 大体あたしをいじるよりまどかをいじくったほうが楽しいでしょ!!」
「ええっ!?」
さやかの叫びにまどかはびっくりする。
「いやいや、それ言ったら俺なんかもっとまだまだだよ。せっかくまどかちゃんが作ってくれた剣なのに、いまだに全然使いこなせてないし」
「そうね。あの剣は本当にすごい威力があるものね。社君がもっと強くなれば、あれを使って一人で魔女を倒せるかもね」
「手厳しいなあ、巴さんは」
「そうかしら? これでもあなたの事は認めてるつもりよ」
「そう?」
「ええ」
「……そっか。それはとっても嬉しいなって」
「先輩、それ私のセリフ……」
そんな三人のやりとりにさやかが口を挟む。
「でもさあ、先輩ってホント、ただの人間なの? なんていうかさ、強すぎてとてもあたしと同じ人類だとは思えないよ。よく魔法少女のマミさんやまどかの動きについていけるよね」
「……。はっはっは。お兄さんは毎日鍛えてるからねぇ!!」
さやかの悪気のない、何気ない言葉に芳文は一瞬複雑な表情になるが、すぐに笑いながらさやかの頭をくしゃくしゃと撫でて答える。
「もう!! また子ども扱いして!!」
「いやいや、そんなつもりはないんだよ。何ていうか、撫でやすい位置にあるからつい」
「つい、で女の子の頭撫でるって!!」
「ごめんごめん。本当に嫌ならもうしないよ」
「まあ、別にいいけどさ」
「そう?」
「でもまどかにまでしたら駄目だかんね!! この子は男子に免疫ないんだから!!」
「さ、さやかちゃん……苦しいよぉ」
さやかがまどかに抱きついて芳文に釘を刺す。
「あー。ごめん、こないだつい、まどかちゃんの頭撫でちゃった」
「何ぃーっ!? まどかそれ本当!?」
「う……うん」
まどかは先日の公園での事を思い出して、赤面しながらさやかにこくんと頷く。
「何て事……。あたしの嫁が先輩の魔の手に落ちてたなんて……」
さやかが激しくショックを受けた顔でよろよろと崩れ落ちる。
「……なんてこった。こんなにかわいいまどかちゃんがさやかちゃんとそんな深い仲だったなんて……。お兄さんちょっとショックだよ」
さやかの態度に、よろよろと後ずさりながら、芳文はショックを受ける。
「……巴さん」
「何かしら」
「百合も同性愛もあるんだね。……俺、初めて本物を見たよ」
「私にそんな事言われても……。こういう時、何て返せばいいのかしら?」
「ちょ!? 違いますから!! さやかちゃんは大切な親友ですけど、そういうんじゃありませんから!!」
「いいのよ、鹿目さん。愛の形は人それぞれだから」
「巴さんの言う通りだよ。お兄さん応援するよ」
「だから違うのにぃ……。それにさやかちゃんには他に好きな男の子がいるし……」
半泣きでまどかが呟く。
(……うわあ。何この子。かわいすぎる)
マミと芳文が同じ感想を抱く。
「ちょっと、まどか!!」
まどかに片思いをばらされて、さやかが慌ててまどかをがくんがくんと揺さぶる。
「さ、さやかちゃん落ち着いて……」
「……へぇー。さやかちゃんには好きな奴がいたのか」
「……」
芳文の言葉にさやかの顔が赤くなる。
「へえ……。美樹さんも隅に置けないわね」
マミがそう言うと、さやかはますます赤くなる。
「そうかそうか。さやかちゃんもやっぱり女の子なんだなあ。その相手と上手く行くといいね」
芳文がそう言うと、さやかはますます真っ赤になって黙り込んでしまう。
「……ああっ!! もう!!」
真っ赤になって俯いていたさやかが、キっと顔を上げて早口でまくしたてる。
「先輩もマミさんも意地悪だ!! 大体あたしをいじるよりまどかをいじくったほうが楽しいでしょ!!」
「ええっ!?」
さやかの叫びにまどかはびっくりする。
34:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:02:35.59:8GUEOo26o (33/48)
「何て事を言うんだ。こんなにかわいいまどかちゃんを弄ぶなんて、お兄さんそんなひどい事出来ないよ」
芳文はまどかの頭を良い子良い子と撫でながら、さやかにそう言い返す。
まどかは赤面して俯いてしまう。
「だったらあたしならいいって言うの!?」
「うん」
「即答!?」
「だってさあ、まどかちゃんいぢめたりしたら泣いちゃうよ。ねえ巴さん」
「そうね」
「マミさんまで!!」
さやかが憤慨する。
「おお、よしよし。兄ちゃんが良い子良い子してあげるから落ち着こうな、さやちー」
「さやちー言うなっ!! 子供扱いすんなーっ!!」
「うふふ。何ていうか、社君と美樹さんってまるで兄妹みたいね」
「えーっ!? こんな意地の悪い兄貴嫌ですって!!」
マミの言葉にさやかが嫌そうに返す。
「ひどいなあ。俺はいつだって紳士なのに」
「どこが!?」
「あ、あはははは……」
まどかはそんなやり取りを苦笑いしながら見ていた。
「さやかちゃんもいいけどさ、どうせならまどかちゃんが妹の方が良いな」
「……え?」
いきなり話を振られて、まどかがびっくりする。
「お兄さん的にはさやかちゃんが妹でもいいんだけど、どうせならまどかちゃんみたいな大人しい妹が欲しい」
「えぇぇぇぇっ!?」
「大人しくなくて悪うございましたね」
「まあまあ、美樹さん」
さやかがむくれるのをマミが宥める。
「という訳でまどかちゃん。一度でいいからお兄ちゃんと呼んでくれないか」
芳文が真剣な表情でまどかを見つめる。
「え、えーと……」
「じー」
「あ、あぅ……」
「じー」
「そ、その……おにい……ちゃん……」
芳文に期待に満ちた目でじっと見つめられ、まどかは仕方なく恥ずかしそうにモジモジしながら、顔を真っ赤にして上目づかいで小さく芳文をおにいちゃんと呼ぶ。
「ぐはぁっ!!」
芳文が両手で頭を抱えて思い切り仰け反る。
「ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ!! 巴さんこれはヤバイよ!!」
ぐるんと姿勢を正して芳文は興奮した表情でマミに同意を求める。
「これが……!! これが!! 妹萌えって奴なんだね!!」
「いや、あなたのおかしな性癖に同意を求められても」
「いや!! 巴さん、君ならきっとわかってくれるハズなんだ!! まどかちゃん!!」
芳文はマミの背後に回り、マミの両肩に手をかけてまどかに向き直らせ、まどかに頼む。
「今度は巴さんにお姉ちゃんって言ってあげて!!」
「えぇぇぇっ!?」
「ちょっと社君!?」
困惑するマミとまどかを気にする事無く、芳文は叫ぶ。
「さあ、まどかちゃん!!」
「え、えっと……」
「さあ!!」
「あ、あぅ……」
「さあ!!」
「えっと……お、おねえ……ちゃん……」
芳文の時と同じく、まどかは真っ赤になってもじもじしながら、上目使いでマミの事をおねえちゃんと呼ぶ。
「はうっ!?」
ズキューン!!
マミの心に今までに感じた事のなかった衝撃が走った。
マミはふらふらとまどかの側に歩いていくと、ギュウっとまどかを抱きしめる。
「マ、マミさん、苦しい……」
「鹿目さん、あなた、家の子になりなさい」
「ええええっ!?」
「うむ。巴さんにもわかってもらえたようで何より!!」
芳文はうんうんと腕を組んで頷く。
(だ、だめだこいつら……。早く何とかしないと……)
「何て事を言うんだ。こんなにかわいいまどかちゃんを弄ぶなんて、お兄さんそんなひどい事出来ないよ」
芳文はまどかの頭を良い子良い子と撫でながら、さやかにそう言い返す。
まどかは赤面して俯いてしまう。
「だったらあたしならいいって言うの!?」
「うん」
「即答!?」
「だってさあ、まどかちゃんいぢめたりしたら泣いちゃうよ。ねえ巴さん」
「そうね」
「マミさんまで!!」
さやかが憤慨する。
「おお、よしよし。兄ちゃんが良い子良い子してあげるから落ち着こうな、さやちー」
「さやちー言うなっ!! 子供扱いすんなーっ!!」
「うふふ。何ていうか、社君と美樹さんってまるで兄妹みたいね」
「えーっ!? こんな意地の悪い兄貴嫌ですって!!」
マミの言葉にさやかが嫌そうに返す。
「ひどいなあ。俺はいつだって紳士なのに」
「どこが!?」
「あ、あはははは……」
まどかはそんなやり取りを苦笑いしながら見ていた。
「さやかちゃんもいいけどさ、どうせならまどかちゃんが妹の方が良いな」
「……え?」
いきなり話を振られて、まどかがびっくりする。
「お兄さん的にはさやかちゃんが妹でもいいんだけど、どうせならまどかちゃんみたいな大人しい妹が欲しい」
「えぇぇぇぇっ!?」
「大人しくなくて悪うございましたね」
「まあまあ、美樹さん」
さやかがむくれるのをマミが宥める。
「という訳でまどかちゃん。一度でいいからお兄ちゃんと呼んでくれないか」
芳文が真剣な表情でまどかを見つめる。
「え、えーと……」
「じー」
「あ、あぅ……」
「じー」
「そ、その……おにい……ちゃん……」
芳文に期待に満ちた目でじっと見つめられ、まどかは仕方なく恥ずかしそうにモジモジしながら、顔を真っ赤にして上目づかいで小さく芳文をおにいちゃんと呼ぶ。
「ぐはぁっ!!」
芳文が両手で頭を抱えて思い切り仰け反る。
「ヤバイ。ヤバイヤバイヤバイ!! 巴さんこれはヤバイよ!!」
ぐるんと姿勢を正して芳文は興奮した表情でマミに同意を求める。
「これが……!! これが!! 妹萌えって奴なんだね!!」
「いや、あなたのおかしな性癖に同意を求められても」
「いや!! 巴さん、君ならきっとわかってくれるハズなんだ!! まどかちゃん!!」
芳文はマミの背後に回り、マミの両肩に手をかけてまどかに向き直らせ、まどかに頼む。
「今度は巴さんにお姉ちゃんって言ってあげて!!」
「えぇぇぇっ!?」
「ちょっと社君!?」
困惑するマミとまどかを気にする事無く、芳文は叫ぶ。
「さあ、まどかちゃん!!」
「え、えっと……」
「さあ!!」
「あ、あぅ……」
「さあ!!」
「えっと……お、おねえ……ちゃん……」
芳文の時と同じく、まどかは真っ赤になってもじもじしながら、上目使いでマミの事をおねえちゃんと呼ぶ。
「はうっ!?」
ズキューン!!
マミの心に今までに感じた事のなかった衝撃が走った。
マミはふらふらとまどかの側に歩いていくと、ギュウっとまどかを抱きしめる。
「マ、マミさん、苦しい……」
「鹿目さん、あなた、家の子になりなさい」
「ええええっ!?」
「うむ。巴さんにもわかってもらえたようで何より!!」
芳文はうんうんと腕を組んで頷く。
(だ、だめだこいつら……。早く何とかしないと……)
35:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:04:02.61:8GUEOo26o (34/48)
マミに抱きしめられて、マミの豊かな胸で窒息しかけているまどか。その様子を見て満足そうにうんうん、と頷いている芳文を見てさやかは心底呆れ果てる。
「ん? どうしたんだい?」
呆れているさやかに気付いた芳文がはさやかに声をかける。
「べ、別に……」
「そうか!! まどかちゃんばっかり可愛がられるのにやきもち焼いてたんだね!!」
「いや、別にあたしは」
「ごめんなぁ。気付いてあげられなくて。巴さん!!」
「……何? 社君」
「いくらまどかちゃんがかわいいからって、まどかちゃんばっかり構ってちゃ駄目だよ。さやかちゃんがやきもち焼いてる」
「だから別に焼いてないってーの!!」
「あら……。そうだったの? ごめんなさいね」
「ごめんなあ、寂しかったよなあ。さあ、君もまどかちゃんみたいに俺と巴さんの事、お兄ちゃん、お姉ちゃんと呼んで甘えてもいいのよ!!」
両手を広げて笑顔で叫んだ芳文の言葉に、マミも頷いて笑顔でさやかを見る。
「……」
笑顔の芳文とマミをじっと見つめていると、二人ともぷるぷると震えているのがわかる。明らかに笑いを堪えているようにしか見えない。
(二人してあたしをからかって……。このままからかわれてやるのもシャクだし……)
さやかは一度静かに深呼吸して気分を落ち着かせると、クールな対応をする事に決めた。
「はいはい。そろそろ他行くよ、馬鹿兄貴。マミ姉もいいかげんまどかを解放してやらないと、まどか窒息しちゃうからね」
「ば、馬鹿兄貴……」
「マミ姉……」
芳文とマミがずーんという擬音を立てて俯く。
(あれ……。ちょっと言い方が悪かったかな……)
さやかが自分の言動をちょっと後悔し始めたその時、芳文とマミがお互いに顔を見合わせて言う。
「これはこれで!!」
「いいかもしれないわね!!」
「……」
(……なんかあたし、良い様に遊ばれてる!?)
結局、芳文とマミのほうがさやかよりも一枚上手だった……。
「マミまで社芳文にわざわざ付き合って、一体何をやってるんだか。訳がわからないよ」
「……きゅぅ」
そんなやりとりをキュべえは不思議そうに見つめながら首を傾げ、まどかはマミの胸に抱きしめられたまま、マミの豊かな胸で窒息死しかけているのだった……。
マミに抱きしめられて、マミの豊かな胸で窒息しかけているまどか。その様子を見て満足そうにうんうん、と頷いている芳文を見てさやかは心底呆れ果てる。
「ん? どうしたんだい?」
呆れているさやかに気付いた芳文がはさやかに声をかける。
「べ、別に……」
「そうか!! まどかちゃんばっかり可愛がられるのにやきもち焼いてたんだね!!」
「いや、別にあたしは」
「ごめんなぁ。気付いてあげられなくて。巴さん!!」
「……何? 社君」
「いくらまどかちゃんがかわいいからって、まどかちゃんばっかり構ってちゃ駄目だよ。さやかちゃんがやきもち焼いてる」
「だから別に焼いてないってーの!!」
「あら……。そうだったの? ごめんなさいね」
「ごめんなあ、寂しかったよなあ。さあ、君もまどかちゃんみたいに俺と巴さんの事、お兄ちゃん、お姉ちゃんと呼んで甘えてもいいのよ!!」
両手を広げて笑顔で叫んだ芳文の言葉に、マミも頷いて笑顔でさやかを見る。
「……」
笑顔の芳文とマミをじっと見つめていると、二人ともぷるぷると震えているのがわかる。明らかに笑いを堪えているようにしか見えない。
(二人してあたしをからかって……。このままからかわれてやるのもシャクだし……)
さやかは一度静かに深呼吸して気分を落ち着かせると、クールな対応をする事に決めた。
「はいはい。そろそろ他行くよ、馬鹿兄貴。マミ姉もいいかげんまどかを解放してやらないと、まどか窒息しちゃうからね」
「ば、馬鹿兄貴……」
「マミ姉……」
芳文とマミがずーんという擬音を立てて俯く。
(あれ……。ちょっと言い方が悪かったかな……)
さやかが自分の言動をちょっと後悔し始めたその時、芳文とマミがお互いに顔を見合わせて言う。
「これはこれで!!」
「いいかもしれないわね!!」
「……」
(……なんかあたし、良い様に遊ばれてる!?)
結局、芳文とマミのほうがさやかよりも一枚上手だった……。
「マミまで社芳文にわざわざ付き合って、一体何をやってるんだか。訳がわからないよ」
「……きゅぅ」
そんなやりとりをキュべえは不思議そうに見つめながら首を傾げ、まどかはマミの胸に抱きしめられたまま、マミの豊かな胸で窒息死しかけているのだった……。
36:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:05:17.19:8GUEOo26o (35/48)
☆
「今日のお昼の事なんだけど、社君が友達と一緒に、いきなり教室でお好み焼きを作り始めたのには驚いたわ」
「ええー? 先輩、教室でお好み焼きって……」
パトロールを終え、四人は学校での出来事を話しながら、それぞれの自宅へ帰る為に歩いていた。
「本当は焼き肉にしたかったんだけどね。予算の都合でお好み焼きになったんだ」
「学校で焼き肉って……」
さやかが呆れた顔をする。
「まったく、あなたどうかしてるわ。教室にガスコンロを持ち込んで、昼休みにお好み焼き作り始める人なんて初めて見たわ」
「あ、あははは……」
まどかは苦笑いしながら会話に耳を傾ける。
「でもさ、作り立ては美味かったろ?」
「まあ、確かに美味しかったけれど」
「あれ? マミさんも食べたんですか? 先輩のお好み焼き」
さやかがマミに尋ねる。
「強引に押し付けられたのよ。教室にいた人達みんなに振る舞ってたみたいだし」
「みんなで食べたら美味しいよね」
「それで自分の分を無くしたら意味ないでしょ」
「うん。ちょっと分量の計算失敗したかな」
「……それじゃ先輩、お昼食べてないんですか?」
まどかの疑問に芳文は首を振って答える。
「ううん。巴さんが代わりに自分の弁当くれたんだ」
「仕方ないでしょ。何も食べさせずに魔女探しに連れて行くわけにもいかないし」
「女の子の作った弁当もらったのなんて、生まれて初めてだよ。美味しかった」
「……そう? 口に合ったのならいいのだけれど」
「良かったじゃん先輩。こんな事でもなきゃ、女の子の手作り弁当なんてきっと食べられなかったよ」
さやかが意地悪そうに笑いながら芳文に言う。
「ぐ……。事実なだけにお兄さん傷ついたよ。それにしても巴さんって料理上手だよね。将来巴さんと結婚出来る相手は幸せだろうな」
「お世辞を言っても何も出ないわよ」
「いやいや、俺はお世辞とかそういうの嫌いだから。これ全部本心」
「……そう。ありがとう。あなたのお好み焼きも美味しかったわよ」
「それは良かった」
「マミさん、先輩のお好み焼きって本当に美味しかったんですか?」
「ええ」
「へぇー意外。あたしも食べてみたいなー」
「それじゃ、今度さやかちゃんとまどかちゃんにも食べさせてあげるよ。まどかちゃんと一緒に俺達のクラスにおいで」
「先輩、それ本当?」
「嘘なんかつかないよ」
「期待してるからね先輩!!ねっ、まどか!!」
「……もう、さやかちゃんたら」
「……」
「……どうしたの、巴さん」
芳文は俯いて考え事をしているマミに声をかける。
「……うん。さっき、社君が言ってた事なんだけど……。今の生活が終わる未来なんて想像出来なくて……」
「あ……」
「マミさん……」
同じ魔法少女になったまどかは、何と言っていいのか戸惑い、まだキュゥべえ契約していないさやかも言葉が出ない。
「……終わるさ。巴さんもまどかちゃんも戦わなくて良くなる日々がきっと来る」
「先輩……」
「だってさ、魔法少女って言うくらいなんだからどんなに長くても、普通に考えて一九歳くらいが定年退職の時期だと思うんだ。二十歳過ぎてまで魔法少女とか、そんなの絶対おかしいよ!!」
「……年齢でやめられればいいんだけどね」
芳文の楽観的な言葉に、マミはため息をひとつついて返す。
「じゃあ、俺達が大人になるまでに魔女を全部滅ぼそう。もしそれが出来なければ、次世代の魔法少女にバトンタッチ出来るまで頑張ろう。大丈夫、君達が元の暮らしに戻れるその日まで俺も力になるから」
「……ありがとう。社君」
「ありがとうございます。先輩」
マミとまどかが芳文にお礼を言うと、芳文は自分の胸を叩いて言う。
「任せなさい。お兄さん、がんばっちゃうよ!!」
「先輩って、ホントお調子者」
「ひでえ!! せめてポジティブと言ってくれ」
さやかの言葉に傷ついた顔をしてみせる芳文を、マミとまどかはクスクスと笑いながら見ている。
☆
「今日のお昼の事なんだけど、社君が友達と一緒に、いきなり教室でお好み焼きを作り始めたのには驚いたわ」
「ええー? 先輩、教室でお好み焼きって……」
パトロールを終え、四人は学校での出来事を話しながら、それぞれの自宅へ帰る為に歩いていた。
「本当は焼き肉にしたかったんだけどね。予算の都合でお好み焼きになったんだ」
「学校で焼き肉って……」
さやかが呆れた顔をする。
「まったく、あなたどうかしてるわ。教室にガスコンロを持ち込んで、昼休みにお好み焼き作り始める人なんて初めて見たわ」
「あ、あははは……」
まどかは苦笑いしながら会話に耳を傾ける。
「でもさ、作り立ては美味かったろ?」
「まあ、確かに美味しかったけれど」
「あれ? マミさんも食べたんですか? 先輩のお好み焼き」
さやかがマミに尋ねる。
「強引に押し付けられたのよ。教室にいた人達みんなに振る舞ってたみたいだし」
「みんなで食べたら美味しいよね」
「それで自分の分を無くしたら意味ないでしょ」
「うん。ちょっと分量の計算失敗したかな」
「……それじゃ先輩、お昼食べてないんですか?」
まどかの疑問に芳文は首を振って答える。
「ううん。巴さんが代わりに自分の弁当くれたんだ」
「仕方ないでしょ。何も食べさせずに魔女探しに連れて行くわけにもいかないし」
「女の子の作った弁当もらったのなんて、生まれて初めてだよ。美味しかった」
「……そう? 口に合ったのならいいのだけれど」
「良かったじゃん先輩。こんな事でもなきゃ、女の子の手作り弁当なんてきっと食べられなかったよ」
さやかが意地悪そうに笑いながら芳文に言う。
「ぐ……。事実なだけにお兄さん傷ついたよ。それにしても巴さんって料理上手だよね。将来巴さんと結婚出来る相手は幸せだろうな」
「お世辞を言っても何も出ないわよ」
「いやいや、俺はお世辞とかそういうの嫌いだから。これ全部本心」
「……そう。ありがとう。あなたのお好み焼きも美味しかったわよ」
「それは良かった」
「マミさん、先輩のお好み焼きって本当に美味しかったんですか?」
「ええ」
「へぇー意外。あたしも食べてみたいなー」
「それじゃ、今度さやかちゃんとまどかちゃんにも食べさせてあげるよ。まどかちゃんと一緒に俺達のクラスにおいで」
「先輩、それ本当?」
「嘘なんかつかないよ」
「期待してるからね先輩!!ねっ、まどか!!」
「……もう、さやかちゃんたら」
「……」
「……どうしたの、巴さん」
芳文は俯いて考え事をしているマミに声をかける。
「……うん。さっき、社君が言ってた事なんだけど……。今の生活が終わる未来なんて想像出来なくて……」
「あ……」
「マミさん……」
同じ魔法少女になったまどかは、何と言っていいのか戸惑い、まだキュゥべえ契約していないさやかも言葉が出ない。
「……終わるさ。巴さんもまどかちゃんも戦わなくて良くなる日々がきっと来る」
「先輩……」
「だってさ、魔法少女って言うくらいなんだからどんなに長くても、普通に考えて一九歳くらいが定年退職の時期だと思うんだ。二十歳過ぎてまで魔法少女とか、そんなの絶対おかしいよ!!」
「……年齢でやめられればいいんだけどね」
芳文の楽観的な言葉に、マミはため息をひとつついて返す。
「じゃあ、俺達が大人になるまでに魔女を全部滅ぼそう。もしそれが出来なければ、次世代の魔法少女にバトンタッチ出来るまで頑張ろう。大丈夫、君達が元の暮らしに戻れるその日まで俺も力になるから」
「……ありがとう。社君」
「ありがとうございます。先輩」
マミとまどかが芳文にお礼を言うと、芳文は自分の胸を叩いて言う。
「任せなさい。お兄さん、がんばっちゃうよ!!」
「先輩って、ホントお調子者」
「ひでえ!! せめてポジティブと言ってくれ」
さやかの言葉に傷ついた顔をしてみせる芳文を、マミとまどかはクスクスと笑いながら見ている。
37:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:06:59.34:8GUEOo26o (36/48)
「君は本当に変わっているね。何のメリットもないだろうに」
まどかの肩の上に乗っているキュゥべえが、いつものポーカーフェイスで芳文に言う。
「見返りなんていらねえよ、淫獣。俺が好きでやってるんだから」
「本当に変な人間だね。君には願いとかないのかい?」
「なんだよいきなり。おまえさん俺の願い叶えてくれんの?」
「まさか。ただ単に聞いてみたくなっただけだよ」
「あっそう。俺の願いね……。そうだなぁ……。ああ、ひとつだけあったわ」
「先輩の願いって?」
興味津々といった感じでさやかが尋ねる。マミとまどかも興味があるのか、じっと芳文の答えを待っている。
「ハーレム」
『……は?』
あまりに予想外の返答に、さやか達はきれいに声をハモらせて固まる。
「だからハーレム。かわいい同世代や年下の女の子達やきれいな年上お姉さん達を大勢はべらせるのは男の夢だよね!!」
「……先輩、それ本気で言ってる? なんつーか、それってすごく男の欲望に忠実すぎる願いだよね!?」
さやかの問いかけに、芳文は自信満々の表情で答える。
「もちろん嘘だ!!」
「おい!!」
さやかがが突っ込むと、芳文は真剣な顔になって言う。
「だってさ、そんなの女の子達に失礼だろ。俺はたった一人の心から愛する相手と一緒になれれば、それが一番幸せだと思うし」
『……』
まどか達は黙って芳文の言葉に耳を傾ける。
「まあ……なんだ、俺の夢なんてそんなもんさ。誰かに叶えてもらうようなもんじゃない。自分で叶えるさ」
「随分小さな夢だね、社芳文」
「ほっといてくれ。いつか好きな相手と巡り合って、一緒になりたいって思うのがそんなにおかしいか?」
「いや、別におかしいとは思わないよ。君が言うように、人間はそうやって子孫を作って増えていくんだろう? だったらそれは生物として正しい事じゃないか」
「おまえに言われると、何だかひどく馬鹿にされてるような気がするよ」
そんなやりとりの後、まどかがおずおずと芳文に上目遣いに話しかける。
「あの……先輩」
「なんだい? まどかちゃん」
「その、私は先輩の夢、素敵だと思います」
「そっか。ありがとう」
「いえ……」
「意外。あなたってけっこうロマンチストだったのね」
マミが優しい顔で言う。
「……巴さんまで、そういう事言うのかい」
「いいえ、それは素敵な夢よ。羨ましいくらいに」
「……いつかきっと、巴さんとまどかちゃんには運命の出会いとかがあるさ。俺もその時を迎えられるように手助けするから」
「……ありがとう」
「お礼ならさっき聞いたよ。俺が好きでやってるんだから、気にしないで」
「本当に変な人間だね。社芳文」
「変変言うなよ淫獣。それじゃまるで、俺が異常者みたいじゃないか」
「マミとまどかの手助けをしても、君には何のメリットもないのに。僕にはそれが不思議でならないんだ」
「あのな淫獣。人間ってのはな、おまえさんみたいに損得勘定だけで動く奴ばっかじゃねえんだよ」
「本当にそうなのかな。今気付いたんだけど、もしかしたら、君はマミかまどかのどちらかに、特別な感情を持っているんじゃないのかい?」
「ちょ、キュゥべえ!?」
「何言ってるのよキュゥべえ!!」
キュゥべえの言葉にマミとまどかが顔を赤くして慌てる。
「……は? 何言ってんのおまえ。一緒に戦う仲間にそんな感情持つわけないだろ。第一、俺なんかが巴さんやまどかちゃんと釣り合う訳ないだろうが」
「……さりげなく卑屈だよね、先輩って」
さやかが小さく呟く。マミとまどかは赤くなったまま、複雑そうな表情でキュゥべえと芳文の様子を見ている。
「そうなのかい? 君くらいの少年はもっと異性に対して、色々な欲望を持って接するのが一般的だと思うんだけど」
「……何だよ、色々な欲望って」
「例えば君が、マミやまどかと交尾したいと思っていたりとか。君くらいの年齢の少年なら、大抵そういった欲望があるのが一般的だと思うんだ」
「……」
芳文が無言でまどかの肩に乗っているキュゥべえの頭を掴み、宙づりにしてぎりぎりと頭を締め付ける。
「今のは正しくなかったようだ。交尾というのは、人間以外の動物同士や昆虫同士の生殖行為を指す言葉だったね。すまなかった。訂正するよ」
キュゥべえはポーカーフェイスで宙づりにされたまま、先ほどのセリフを言い直した。
「例えば君が、マミやまどかを相手に、セックスやエッチと言われる生殖行為をしたいと思っていたりとか。君くらいの年齢の少年なら、大抵そういった欲望があるのが一般的だと思うんだ」
ビターンっ!!
芳文はキュゥべえを地面に叩きつける。
「痛いよ」
「殺されないだけありがたく思え淫獣」
芳文とキュゥべえのそんなやりとりを尻目に、キュゥべえの放った言葉にマミとまどかは更に真っ赤になっていた……。
「キュゥべえ最低」
顔を赤くしたさやかがキュゥべえを非難する。
「どうして君達はそんなに怒っているんだい? 訳がわからないよ」
マミとまどかからの無言の非難にもどこ吹く風。
キュゥべえは不思議そうにそう言うのだった……。
「君は本当に変わっているね。何のメリットもないだろうに」
まどかの肩の上に乗っているキュゥべえが、いつものポーカーフェイスで芳文に言う。
「見返りなんていらねえよ、淫獣。俺が好きでやってるんだから」
「本当に変な人間だね。君には願いとかないのかい?」
「なんだよいきなり。おまえさん俺の願い叶えてくれんの?」
「まさか。ただ単に聞いてみたくなっただけだよ」
「あっそう。俺の願いね……。そうだなぁ……。ああ、ひとつだけあったわ」
「先輩の願いって?」
興味津々といった感じでさやかが尋ねる。マミとまどかも興味があるのか、じっと芳文の答えを待っている。
「ハーレム」
『……は?』
あまりに予想外の返答に、さやか達はきれいに声をハモらせて固まる。
「だからハーレム。かわいい同世代や年下の女の子達やきれいな年上お姉さん達を大勢はべらせるのは男の夢だよね!!」
「……先輩、それ本気で言ってる? なんつーか、それってすごく男の欲望に忠実すぎる願いだよね!?」
さやかの問いかけに、芳文は自信満々の表情で答える。
「もちろん嘘だ!!」
「おい!!」
さやかがが突っ込むと、芳文は真剣な顔になって言う。
「だってさ、そんなの女の子達に失礼だろ。俺はたった一人の心から愛する相手と一緒になれれば、それが一番幸せだと思うし」
『……』
まどか達は黙って芳文の言葉に耳を傾ける。
「まあ……なんだ、俺の夢なんてそんなもんさ。誰かに叶えてもらうようなもんじゃない。自分で叶えるさ」
「随分小さな夢だね、社芳文」
「ほっといてくれ。いつか好きな相手と巡り合って、一緒になりたいって思うのがそんなにおかしいか?」
「いや、別におかしいとは思わないよ。君が言うように、人間はそうやって子孫を作って増えていくんだろう? だったらそれは生物として正しい事じゃないか」
「おまえに言われると、何だかひどく馬鹿にされてるような気がするよ」
そんなやりとりの後、まどかがおずおずと芳文に上目遣いに話しかける。
「あの……先輩」
「なんだい? まどかちゃん」
「その、私は先輩の夢、素敵だと思います」
「そっか。ありがとう」
「いえ……」
「意外。あなたってけっこうロマンチストだったのね」
マミが優しい顔で言う。
「……巴さんまで、そういう事言うのかい」
「いいえ、それは素敵な夢よ。羨ましいくらいに」
「……いつかきっと、巴さんとまどかちゃんには運命の出会いとかがあるさ。俺もその時を迎えられるように手助けするから」
「……ありがとう」
「お礼ならさっき聞いたよ。俺が好きでやってるんだから、気にしないで」
「本当に変な人間だね。社芳文」
「変変言うなよ淫獣。それじゃまるで、俺が異常者みたいじゃないか」
「マミとまどかの手助けをしても、君には何のメリットもないのに。僕にはそれが不思議でならないんだ」
「あのな淫獣。人間ってのはな、おまえさんみたいに損得勘定だけで動く奴ばっかじゃねえんだよ」
「本当にそうなのかな。今気付いたんだけど、もしかしたら、君はマミかまどかのどちらかに、特別な感情を持っているんじゃないのかい?」
「ちょ、キュゥべえ!?」
「何言ってるのよキュゥべえ!!」
キュゥべえの言葉にマミとまどかが顔を赤くして慌てる。
「……は? 何言ってんのおまえ。一緒に戦う仲間にそんな感情持つわけないだろ。第一、俺なんかが巴さんやまどかちゃんと釣り合う訳ないだろうが」
「……さりげなく卑屈だよね、先輩って」
さやかが小さく呟く。マミとまどかは赤くなったまま、複雑そうな表情でキュゥべえと芳文の様子を見ている。
「そうなのかい? 君くらいの少年はもっと異性に対して、色々な欲望を持って接するのが一般的だと思うんだけど」
「……何だよ、色々な欲望って」
「例えば君が、マミやまどかと交尾したいと思っていたりとか。君くらいの年齢の少年なら、大抵そういった欲望があるのが一般的だと思うんだ」
「……」
芳文が無言でまどかの肩に乗っているキュゥべえの頭を掴み、宙づりにしてぎりぎりと頭を締め付ける。
「今のは正しくなかったようだ。交尾というのは、人間以外の動物同士や昆虫同士の生殖行為を指す言葉だったね。すまなかった。訂正するよ」
キュゥべえはポーカーフェイスで宙づりにされたまま、先ほどのセリフを言い直した。
「例えば君が、マミやまどかを相手に、セックスやエッチと言われる生殖行為をしたいと思っていたりとか。君くらいの年齢の少年なら、大抵そういった欲望があるのが一般的だと思うんだ」
ビターンっ!!
芳文はキュゥべえを地面に叩きつける。
「痛いよ」
「殺されないだけありがたく思え淫獣」
芳文とキュゥべえのそんなやりとりを尻目に、キュゥべえの放った言葉にマミとまどかは更に真っ赤になっていた……。
「キュゥべえ最低」
顔を赤くしたさやかがキュゥべえを非難する。
「どうして君達はそんなに怒っているんだい? 訳がわからないよ」
マミとまどかからの無言の非難にもどこ吹く風。
キュゥべえは不思議そうにそう言うのだった……。
38:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:09:08.56:8GUEOo26o (37/48)
☆
「……あれ?」
帰り道の途中、とあるホテルの前でまどかが足を止める。
「鹿目さん、どうしたの?」
マミが足を止めたまどかに尋ねると、まどかは左手をホテルに向けて、中指に着けた指輪をソウルジェムに変化させる。
「あのホテルから、魔女か使い魔の反応がした気がして……」
まどかの掌の上に鎮座する大きなソウルジェムが微かに明滅して、まどかの言葉に信憑性を持たせる。
「確かあのホテルってかなり古くなって、客があんまり入らないからつぶれかけてるんだっけ」
さやかがそう言うと、芳文はマミに尋ねる。
「どうする巴さん。つぶれかけとは言ってもまだ従業員とかいるだろうし。ああいう場所にすぐ乗り込むのは俺達じゃ難しくない?」
「魔女がもう少し成長して、中の人間を操り出すタイミングで踏み込んだらいいんじゃないかな」
まどかの肩の上からキュゥべえが放った言葉をマミは即座に否定する。
「駄目よ。そんな悠長な事をしていて被害が出たらどうするの」
「マミさん、どうしましょう?」
まどかが困った顔で尋ねる。
「確かあのホテルって温水プールがあって、宿泊客以外にも有料で開放してたはずだよ。昔来た事があるし」
さやかがそう言って、マミの言葉を待つ。
「それじゃ、明日プールに来たお客として潜入調査してみましょうか」
「それがいいかもしれないな。もしかしたら、プールの方にグリーフシードがあるのかもしれないし」
芳文がそう答えると、マミは頷く。
「そうですね。多分、プールの方にグリーフシードがあると思います」
まどかはそう言うと、ソウルジェムを指輪に戻す。
「幸い、明日は休みだし午前中に水着を買いに行って、午後からここに来ましょう」
「わかりました、マミさん」
「じゃあさ、明日あたしとまどかとマミさんの3人で水着買いに行こうよ」
「そうね」
「うん」
「三人とも潜入捜査するのに、わざわざ水着買うの? もったいなくない?」
芳文の言葉に女子三人は驚いた顔で聞き返す。
「社君、プールに行くのに新しい水着を用意するのは当然でしょ」
「わざわざ買わなくても、学校指定の奴じゃ駄目なの?」
「学校以外の場所でスクール水着なんて、恥ずかしくて着れないよ!!」
さやかが憤慨する。まどかもこくこくとさやかの後ろで頷く。
「そんなもんかな。女の子って大変だなあ」
「社君、あなたはもう少し女心と言う物を知るべきね」
マミの言葉に芳文は首を傾げながら答える。
「そう言われても。自慢じゃないが俺は女の子にモテたためしがないし、女の子の友人なんて君達だけだからわからないよ」
「……と・に・か・く!! 明日の午後二時にここで待ち合わせするわよ。いいわね」
「了解。去年の水着まだ履けるかな……」
全然マミ達の心情が理解出来ていない芳文は、去年の水着をどこに仕舞ったか思い出しながら、マミに頷くのだった。
「こういう男の事を、この国じゃ唐変木と言うんだよね」
「黙れ淫獣」
☆
「……あれ?」
帰り道の途中、とあるホテルの前でまどかが足を止める。
「鹿目さん、どうしたの?」
マミが足を止めたまどかに尋ねると、まどかは左手をホテルに向けて、中指に着けた指輪をソウルジェムに変化させる。
「あのホテルから、魔女か使い魔の反応がした気がして……」
まどかの掌の上に鎮座する大きなソウルジェムが微かに明滅して、まどかの言葉に信憑性を持たせる。
「確かあのホテルってかなり古くなって、客があんまり入らないからつぶれかけてるんだっけ」
さやかがそう言うと、芳文はマミに尋ねる。
「どうする巴さん。つぶれかけとは言ってもまだ従業員とかいるだろうし。ああいう場所にすぐ乗り込むのは俺達じゃ難しくない?」
「魔女がもう少し成長して、中の人間を操り出すタイミングで踏み込んだらいいんじゃないかな」
まどかの肩の上からキュゥべえが放った言葉をマミは即座に否定する。
「駄目よ。そんな悠長な事をしていて被害が出たらどうするの」
「マミさん、どうしましょう?」
まどかが困った顔で尋ねる。
「確かあのホテルって温水プールがあって、宿泊客以外にも有料で開放してたはずだよ。昔来た事があるし」
さやかがそう言って、マミの言葉を待つ。
「それじゃ、明日プールに来たお客として潜入調査してみましょうか」
「それがいいかもしれないな。もしかしたら、プールの方にグリーフシードがあるのかもしれないし」
芳文がそう答えると、マミは頷く。
「そうですね。多分、プールの方にグリーフシードがあると思います」
まどかはそう言うと、ソウルジェムを指輪に戻す。
「幸い、明日は休みだし午前中に水着を買いに行って、午後からここに来ましょう」
「わかりました、マミさん」
「じゃあさ、明日あたしとまどかとマミさんの3人で水着買いに行こうよ」
「そうね」
「うん」
「三人とも潜入捜査するのに、わざわざ水着買うの? もったいなくない?」
芳文の言葉に女子三人は驚いた顔で聞き返す。
「社君、プールに行くのに新しい水着を用意するのは当然でしょ」
「わざわざ買わなくても、学校指定の奴じゃ駄目なの?」
「学校以外の場所でスクール水着なんて、恥ずかしくて着れないよ!!」
さやかが憤慨する。まどかもこくこくとさやかの後ろで頷く。
「そんなもんかな。女の子って大変だなあ」
「社君、あなたはもう少し女心と言う物を知るべきね」
マミの言葉に芳文は首を傾げながら答える。
「そう言われても。自慢じゃないが俺は女の子にモテたためしがないし、女の子の友人なんて君達だけだからわからないよ」
「……と・に・か・く!! 明日の午後二時にここで待ち合わせするわよ。いいわね」
「了解。去年の水着まだ履けるかな……」
全然マミ達の心情が理解出来ていない芳文は、去年の水着をどこに仕舞ったか思い出しながら、マミに頷くのだった。
「こういう男の事を、この国じゃ唐変木と言うんだよね」
「黙れ淫獣」
39:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:11:03.31:8GUEOo26o (38/48)
☆
「……うーむ。こりゃまた寂しい所だなぁ」
翌日の午後。新しい水着を買ってきたまどか達と合流し、ホテルの中に入ると開口一番芳文はそう言った。
「お客さん、全然いませんね……」
「なんかさ、働いてる人達もやる気なさそう……」
「いかにも魔女や使い魔に付け込まれそうな雰囲気ね……」
まどか達も芳文と同じ感想を思わず漏らす。
「見滝原は開発が進んでるからなぁ。どうしてもこういう、施設の古い所は寂れてしまうんだろうけど……。これはひどいな。よくもまあ営業してるもんだ。これじゃ赤字なんじゃないか?」
「とりあえず、中に入りましょうか」
マミがそう促すと、まどか達は頷く。
まどか達三人が女子更衣室へ歩いて行くと、後ろをキュゥべえがとことことついていく。
「まてや淫獣!!」
芳文がキュゥべえの頭を鷲掴みにして宙づりにする。
「いきなり何をするんだい、社芳文」
「それはこっちのセリフだ淫獣。何当たり前のようにまどかちゃん達の後についていくんだ」
「僕は魔法の使者だよ。彼女達魔法少女の側にいるのは当然じゃないか」
「ふざけるな!! 女子更衣室と言う男子禁制の魅惑空間に、巴さん、まどかちゃん、さやかちゃんという可愛い女の子が三人も入るんだぞ!! そんな素敵パラダイスにてめえだけ行かせてたまるか!!」
「い、いきなり何を言い出すのあなたは……」
「あ、あははは……」
「あぅ……」
かわいい女の子と言われた事に、マミ達は顔を赤くしながら、キュゥべえと芳文のやりとりを見守る。
「何か勘違いしていないかい、社芳文。僕は人間じゃないからね。彼女達の成長途中の未熟な裸体を見てもなんとも思わないよ」
キュゥべえのその言葉に、まどかとさやかが頬を膨らませてキュゥべえを睨む。
「ほう……そうかそうか。だったら俺と一緒に男子更衣室の方へ行こうか。もしかしたら、男子更衣室にグリーフシードがあるかもしれないしなあ」
「男子更衣室からはそんな気配を感じないよ」
「探してもないのにわかるものか。そら行くぞ淫獣」
「嫌だよ。彼女達の裸体に興味はないけど、わざわざ男の裸体なんて見たくないし」
「それが本音か淫獣!! なんだかんだ言ってまどかちゃん達の裸や着替えが見たいんじゃねえか!!」
「勘違いしないで欲しいんだが、どうせ着替えを見るのなら、君のよりもマミ達のほうがいいと言うだけだよ」
「無関心を装っても無駄だ淫獣!! まどかちゃん達の純潔は俺が守る!! 成敗!!」
ズボッ!!
芳文は胸元を広げるとキュゥべえを自分の服の中に突っ込んだ。
「汗くさいよ!!」
「汗臭くて当たり前だ!! 待ち合わせ時間まで鍛えてたからな!!」
「まどか、さやか、マミ!! 助けて!!」
「さあ、着替えましょう二人とも」
「はーいマミさん」
「それじゃ先輩、また後で」
「ああ。三人ともまた後で」
三人はキュゥべえの懇願を無視して、更衣室の中へと消える。
「見捨てるなんてひどいよ三人とも……。僕が一体何をしたというんだ」
「悪意がなければ、何を言ってもいいという訳じゃねえんだ淫獣。彼女達の前じゃなかったら、制裁として俺のパンツのなかに突っ込んでやったのに」
「それだけは嫌だ!!」
「だったら大人しく従え。いくら人がいなくてもいつまでもうだうだやってて、事情を知らない人間に見られたら俺は頭のおかしい人間じゃないか」
「どうしてこんな事に……。訳がわからないよ……」
力なく嘆くキュゥべえを服の中に入れたまま、芳文は男子更衣室の中へと入っていくのだった。
☆
「……うーむ。こりゃまた寂しい所だなぁ」
翌日の午後。新しい水着を買ってきたまどか達と合流し、ホテルの中に入ると開口一番芳文はそう言った。
「お客さん、全然いませんね……」
「なんかさ、働いてる人達もやる気なさそう……」
「いかにも魔女や使い魔に付け込まれそうな雰囲気ね……」
まどか達も芳文と同じ感想を思わず漏らす。
「見滝原は開発が進んでるからなぁ。どうしてもこういう、施設の古い所は寂れてしまうんだろうけど……。これはひどいな。よくもまあ営業してるもんだ。これじゃ赤字なんじゃないか?」
「とりあえず、中に入りましょうか」
マミがそう促すと、まどか達は頷く。
まどか達三人が女子更衣室へ歩いて行くと、後ろをキュゥべえがとことことついていく。
「まてや淫獣!!」
芳文がキュゥべえの頭を鷲掴みにして宙づりにする。
「いきなり何をするんだい、社芳文」
「それはこっちのセリフだ淫獣。何当たり前のようにまどかちゃん達の後についていくんだ」
「僕は魔法の使者だよ。彼女達魔法少女の側にいるのは当然じゃないか」
「ふざけるな!! 女子更衣室と言う男子禁制の魅惑空間に、巴さん、まどかちゃん、さやかちゃんという可愛い女の子が三人も入るんだぞ!! そんな素敵パラダイスにてめえだけ行かせてたまるか!!」
「い、いきなり何を言い出すのあなたは……」
「あ、あははは……」
「あぅ……」
かわいい女の子と言われた事に、マミ達は顔を赤くしながら、キュゥべえと芳文のやりとりを見守る。
「何か勘違いしていないかい、社芳文。僕は人間じゃないからね。彼女達の成長途中の未熟な裸体を見てもなんとも思わないよ」
キュゥべえのその言葉に、まどかとさやかが頬を膨らませてキュゥべえを睨む。
「ほう……そうかそうか。だったら俺と一緒に男子更衣室の方へ行こうか。もしかしたら、男子更衣室にグリーフシードがあるかもしれないしなあ」
「男子更衣室からはそんな気配を感じないよ」
「探してもないのにわかるものか。そら行くぞ淫獣」
「嫌だよ。彼女達の裸体に興味はないけど、わざわざ男の裸体なんて見たくないし」
「それが本音か淫獣!! なんだかんだ言ってまどかちゃん達の裸や着替えが見たいんじゃねえか!!」
「勘違いしないで欲しいんだが、どうせ着替えを見るのなら、君のよりもマミ達のほうがいいと言うだけだよ」
「無関心を装っても無駄だ淫獣!! まどかちゃん達の純潔は俺が守る!! 成敗!!」
ズボッ!!
芳文は胸元を広げるとキュゥべえを自分の服の中に突っ込んだ。
「汗くさいよ!!」
「汗臭くて当たり前だ!! 待ち合わせ時間まで鍛えてたからな!!」
「まどか、さやか、マミ!! 助けて!!」
「さあ、着替えましょう二人とも」
「はーいマミさん」
「それじゃ先輩、また後で」
「ああ。三人ともまた後で」
三人はキュゥべえの懇願を無視して、更衣室の中へと消える。
「見捨てるなんてひどいよ三人とも……。僕が一体何をしたというんだ」
「悪意がなければ、何を言ってもいいという訳じゃねえんだ淫獣。彼女達の前じゃなかったら、制裁として俺のパンツのなかに突っ込んでやったのに」
「それだけは嫌だ!!」
「だったら大人しく従え。いくら人がいなくてもいつまでもうだうだやってて、事情を知らない人間に見られたら俺は頭のおかしい人間じゃないか」
「どうしてこんな事に……。訳がわからないよ……」
力なく嘆くキュゥべえを服の中に入れたまま、芳文は男子更衣室の中へと入っていくのだった。
40:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:14:25.36:8GUEOo26o (39/48)
☆
「……遅いなあ、三人とも」
「……そうだね」
一応更衣室の中を調べてから、さっさと着替えを済ませた芳文はキュゥべえと共に、プールサイドで三人がやってくるのを待つ。
「やっぱりあれかなあ」
「……何がだい?」
疲れ果てた様子のキュゥべえが無表情のまま尋ねる。
「女の子が三人もいるんだから、色々あるんだろうな」
「……色々って?」
「例えば、さやかちゃんが『うわあ、マミさんってやっぱ胸おっきい☆ ほらまどか見てみて』とか」
「……」
「それで巴さんが『もう美樹さん、私の胸は見世物じゃないのよ』て返したりとか」
「……」
「んで、まどかちゃんが『いいなあ……。私もマミさんみたいにスタイル良くなりたいな……』とか」
「そういう女の同士ならではの、キャッキャッウフフ☆トークとかしてんのかな」
「……さあね」
「つれないな淫獣。せっかくおまえさんが好きそうな話題振ってやってるのに」
「何度も言うけど僕は淫獣じゃ」
「せんぱーい!! おまたせー!!」
そんなやり取りをしていると、水着に着替えたさやかが手を振って走ってきた。その後をマミが歩いてくる。まどかはマミの後ろに隠れるようにしながら歩いてくる。
「ジャーン!! どうよ先輩!?」
さやかが芳文に新しい水着を披露する。
年齢相応に成長した健康的なスタイルにブルーのビキニが良く似合っている。
「おっ。いいんじゃないかな。良く似合ってるよ」
「へへーん。ありがと先輩」
芳文の言葉にさやかは嬉しそうに笑顔を見せる。
「お待たせ社君」
さやかに遅れてやってきたマミが芳文に声をかけてきた。
中学三年生とは思えないほど豊かに育ったバストとくびれた腰つき。マミのグラマーな身体を白いビキニが引き立てる。
「……ああ。そんなに待ってないから気にしないで。巴さん、その水着良く似合ってるよ」
悲しい男の本能か、思わずマミの胸に目が行きそうになる。芳文は慌てて目を逸らしながらマミを褒める。
「そう? ありがとう」
(……しかし目のやり場に困るな。魔法少女の格好の時も大きいとは思っていたけど、水着だと特に際立ってるし)
「ほーらまどか。いつまで隠れてるのさ。人に見せる為に新しい水着買ったんだよ」
「さ、さやかちゃん……。だって恥ずかしいよ……」
マミの後ろに隠れているまどかの腕を掴んで、さやかが強引に芳文の前に引っ張り出す。
「ほら先輩。まどかの水着姿どうよ? かわいいっしょ?」
「さ、さやかちゃん……」
芳文の前に引っ張り出され、まどかは恥ずかしそうにもしもじしている。
つい先日まで男子と話す事などほとんどなかったまどかは、同年代の男子に水着姿を見られ、とても恥ずかしそうにモジモジしている。
「……」
白い水玉のピンク色のビキニを着たまどかの身体は、普段の制服姿と魔法少女の姿に比べ、出るべき所がしっかりと出ているのが確認出来た。
成長途中のまどかの身体は、小柄な体格にしては割と胸も大きい。どうやら着やせするタイプのようだった。
大人と子供の中間、大人の身体へと成長途中の少女の身体に芳文は思わず見入ってしまう。
「先輩、黙ってちゃわかんないよ。まどかは先輩的にどうなのさ?」
「あ、ああ……。その、すごく良く似合っててかわいいよ」
芳文が素直に本音をポロっとこぼすと、まどかは恥ずかしそうにますます顔を紅く染めるが、嬉しそうな顔もする。
「良かったわね、鹿目さん」
「あぅ……」
マミにそう言われ、ますますまどかは恥ずかしそうにしている。
「つーかさあ、先輩。なんかまどか一人だけ、あたしやマミさんに比べて特に褒めてない?」
さやかがいひひと意地悪そうに笑いながら芳文の脇腹を肘で突く。
「そ、そんな事はないよ。三人共新しい水着が良く似合っててかわいいよ」
芳文は慌ててフォローを入れる。
「なーんか取ってつけたような言い方だよねー」
普段からかわれるお返しとばかりに、さやかはここぞと芳文に畳み掛ける。
「いや、友人達の中から一人だけ贔屓なんてしないって。ただ、まどかちゃんって着痩せするんだなあって驚いたから」
「えぇっ!?」
芳文の言葉にまどかが真っ赤になる。
「まどかちゃんが着痩せするタイプだなんて、思わなかったから驚いちゃって。お兄さん思わずドキドキしちゃったよ」
「~~っ!!」
爽やかな笑顔で芳文が放った言葉に、まどかは沸騰しそうなくらい真っ赤になる。
☆
「……遅いなあ、三人とも」
「……そうだね」
一応更衣室の中を調べてから、さっさと着替えを済ませた芳文はキュゥべえと共に、プールサイドで三人がやってくるのを待つ。
「やっぱりあれかなあ」
「……何がだい?」
疲れ果てた様子のキュゥべえが無表情のまま尋ねる。
「女の子が三人もいるんだから、色々あるんだろうな」
「……色々って?」
「例えば、さやかちゃんが『うわあ、マミさんってやっぱ胸おっきい☆ ほらまどか見てみて』とか」
「……」
「それで巴さんが『もう美樹さん、私の胸は見世物じゃないのよ』て返したりとか」
「……」
「んで、まどかちゃんが『いいなあ……。私もマミさんみたいにスタイル良くなりたいな……』とか」
「そういう女の同士ならではの、キャッキャッウフフ☆トークとかしてんのかな」
「……さあね」
「つれないな淫獣。せっかくおまえさんが好きそうな話題振ってやってるのに」
「何度も言うけど僕は淫獣じゃ」
「せんぱーい!! おまたせー!!」
そんなやり取りをしていると、水着に着替えたさやかが手を振って走ってきた。その後をマミが歩いてくる。まどかはマミの後ろに隠れるようにしながら歩いてくる。
「ジャーン!! どうよ先輩!?」
さやかが芳文に新しい水着を披露する。
年齢相応に成長した健康的なスタイルにブルーのビキニが良く似合っている。
「おっ。いいんじゃないかな。良く似合ってるよ」
「へへーん。ありがと先輩」
芳文の言葉にさやかは嬉しそうに笑顔を見せる。
「お待たせ社君」
さやかに遅れてやってきたマミが芳文に声をかけてきた。
中学三年生とは思えないほど豊かに育ったバストとくびれた腰つき。マミのグラマーな身体を白いビキニが引き立てる。
「……ああ。そんなに待ってないから気にしないで。巴さん、その水着良く似合ってるよ」
悲しい男の本能か、思わずマミの胸に目が行きそうになる。芳文は慌てて目を逸らしながらマミを褒める。
「そう? ありがとう」
(……しかし目のやり場に困るな。魔法少女の格好の時も大きいとは思っていたけど、水着だと特に際立ってるし)
「ほーらまどか。いつまで隠れてるのさ。人に見せる為に新しい水着買ったんだよ」
「さ、さやかちゃん……。だって恥ずかしいよ……」
マミの後ろに隠れているまどかの腕を掴んで、さやかが強引に芳文の前に引っ張り出す。
「ほら先輩。まどかの水着姿どうよ? かわいいっしょ?」
「さ、さやかちゃん……」
芳文の前に引っ張り出され、まどかは恥ずかしそうにもしもじしている。
つい先日まで男子と話す事などほとんどなかったまどかは、同年代の男子に水着姿を見られ、とても恥ずかしそうにモジモジしている。
「……」
白い水玉のピンク色のビキニを着たまどかの身体は、普段の制服姿と魔法少女の姿に比べ、出るべき所がしっかりと出ているのが確認出来た。
成長途中のまどかの身体は、小柄な体格にしては割と胸も大きい。どうやら着やせするタイプのようだった。
大人と子供の中間、大人の身体へと成長途中の少女の身体に芳文は思わず見入ってしまう。
「先輩、黙ってちゃわかんないよ。まどかは先輩的にどうなのさ?」
「あ、ああ……。その、すごく良く似合っててかわいいよ」
芳文が素直に本音をポロっとこぼすと、まどかは恥ずかしそうにますます顔を紅く染めるが、嬉しそうな顔もする。
「良かったわね、鹿目さん」
「あぅ……」
マミにそう言われ、ますますまどかは恥ずかしそうにしている。
「つーかさあ、先輩。なんかまどか一人だけ、あたしやマミさんに比べて特に褒めてない?」
さやかがいひひと意地悪そうに笑いながら芳文の脇腹を肘で突く。
「そ、そんな事はないよ。三人共新しい水着が良く似合っててかわいいよ」
芳文は慌ててフォローを入れる。
「なーんか取ってつけたような言い方だよねー」
普段からかわれるお返しとばかりに、さやかはここぞと芳文に畳み掛ける。
「いや、友人達の中から一人だけ贔屓なんてしないって。ただ、まどかちゃんって着痩せするんだなあって驚いたから」
「えぇっ!?」
芳文の言葉にまどかが真っ赤になる。
「まどかちゃんが着痩せするタイプだなんて、思わなかったから驚いちゃって。お兄さん思わずドキドキしちゃったよ」
「~~っ!!」
爽やかな笑顔で芳文が放った言葉に、まどかは沸騰しそうなくらい真っ赤になる。
41:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:16:15.84:8GUEOo26o (40/48)
「爽やかな笑顔で堂々とセクハラすんな!!」
ドゴォッ!!
「ぐはあっ!!」
さやかのひじ打ちが芳文の脇腹にめり込む。
「社君、いやらしい事を言う男子は嫌われるわよ」
マミの追い討ちの言葉に、芳文は涙目になって反論する。
「誤解だよ!! 三人共!!」
「どこが誤解なのさ。どう聞いてもさっきのセリフはセクハラじゃん」
「そうね」
さやかとマミは聞く耳持たずと切り捨てる。
「俺にはまどかちゃんにセクハラしたなんて意識はないんだ!! 照れくさくなってつい、口に出ただけなんだ!!」
「……どう思います? マミさん」
「そうねぇ。自覚のないエロスは悪よね」
「エ、エロス……」
ガーンと擬音を立てて、芳文は崩れ落ちる。
「なんてこった……。俺の紳士としてのイメージが……。たった一言の失言で地の底に落ちてしまった……」
芳文は床に両手をついて、愚かな自分への悔し涙を流し先ほどの言動を悔やむ。
「……良く言うわ」
「先輩の一体どこに、紳士なんてイメージがあるの?」
「あああああああ……」
マミとさやかの追い討ちを喰らい、芳文は更にへこむ。
「あ、あの……先輩。私……その、もう気にしてませんから……」
己の行為に後悔し嘆く芳文にまどかが声をかける。
「あ、あああ……」
芳文は目の前に立つまどかの顔を見上げると、まどかの両手を握り泣きながら叫ぶ。
「……ありがとう。……ありがとう!! まどかちゃん!! やっぱり君は俺の天使だ!! 鬼のような巴さんとさやかちゃんとは大違いだよ!! まどっちマジ天使!!」
「あ、あははは……」
芳文の予想外の反応に、まどかはマンガのような大きな汗をかきながら、乾いた笑いを返す。
「……誰が鬼ですって?」
「……そもそも、まどっちて何さ?」
「まどかちゃんの略でまどっち。かわいい愛称だろう?」
まどかの言葉で立ち直った芳文は、マミとさやかにそう言って親指を立ててみせる。
キラリン。
さりげなく芳文の歯が光る。
「……鹿目さん。あまり社君に気を許したら駄目よ」
「そうだよまどか。こんなエロス大魔人に気を許したら最後、妊娠させられちゃうよ」
マミとさやかがまどかの肩にそれぞれ手を置いて忠告する。
「おーい二人とも!! いくらなんでもそこまで言われる覚えはないよ!! 俺から心のオアシスを奪わないでくれ!!」
「それにさっきから二人ともセクハラセクハラ言うけどさ、俺がもしこういう事言ったとしたなら、その時にセクハラと言ってくれ!!」
芳文はそこまで言い切ると、マミのつま先から頭までを見回してから口を開きまくしたてる。
「例えばこうだ!!」
「魔法少女姿を見た時から思っていたけど、巴さん色々育ちすぎ!! 一体どんな食生活してきたらこんなけしからんバディに育つんだ? 寒い日に抱っこして寝たら、ふかふかしてそうだし暖かそうだ、とか!!」
「……」
そこまで言うと、今度はさやかのつま先から頭の上まで見回してから口を開いてまくしたてる。
「年齢考えたら当たり前だし、むしろこれが普通なんだけど、さやかちゃんは巴さんに比べて色々残念だなぁ。巴さんとひとつしか年違わないのに。神という存在がいるのなら実に不公平だ」
「せめてあと少し、巴さんのボリュームをもらえたら、片思いの相手もイチコロだろうに。ああ、この世に神はいないんだな、とか!!」
「……」
「例えばこういう事を言ったなら、責められてもおかしくないけどさ!!」
「……言いたい事はそれだけかしら?」
「……それが先輩の本音って訳だね」
マミとさやかからゴゴゴゴ……という擬音が聞こえる。二人の顔は笑っているが目は笑っていなかった。
「ひっ……」
マミとさやかの様子にまどかが怯える。
「爽やかな笑顔で堂々とセクハラすんな!!」
ドゴォッ!!
「ぐはあっ!!」
さやかのひじ打ちが芳文の脇腹にめり込む。
「社君、いやらしい事を言う男子は嫌われるわよ」
マミの追い討ちの言葉に、芳文は涙目になって反論する。
「誤解だよ!! 三人共!!」
「どこが誤解なのさ。どう聞いてもさっきのセリフはセクハラじゃん」
「そうね」
さやかとマミは聞く耳持たずと切り捨てる。
「俺にはまどかちゃんにセクハラしたなんて意識はないんだ!! 照れくさくなってつい、口に出ただけなんだ!!」
「……どう思います? マミさん」
「そうねぇ。自覚のないエロスは悪よね」
「エ、エロス……」
ガーンと擬音を立てて、芳文は崩れ落ちる。
「なんてこった……。俺の紳士としてのイメージが……。たった一言の失言で地の底に落ちてしまった……」
芳文は床に両手をついて、愚かな自分への悔し涙を流し先ほどの言動を悔やむ。
「……良く言うわ」
「先輩の一体どこに、紳士なんてイメージがあるの?」
「あああああああ……」
マミとさやかの追い討ちを喰らい、芳文は更にへこむ。
「あ、あの……先輩。私……その、もう気にしてませんから……」
己の行為に後悔し嘆く芳文にまどかが声をかける。
「あ、あああ……」
芳文は目の前に立つまどかの顔を見上げると、まどかの両手を握り泣きながら叫ぶ。
「……ありがとう。……ありがとう!! まどかちゃん!! やっぱり君は俺の天使だ!! 鬼のような巴さんとさやかちゃんとは大違いだよ!! まどっちマジ天使!!」
「あ、あははは……」
芳文の予想外の反応に、まどかはマンガのような大きな汗をかきながら、乾いた笑いを返す。
「……誰が鬼ですって?」
「……そもそも、まどっちて何さ?」
「まどかちゃんの略でまどっち。かわいい愛称だろう?」
まどかの言葉で立ち直った芳文は、マミとさやかにそう言って親指を立ててみせる。
キラリン。
さりげなく芳文の歯が光る。
「……鹿目さん。あまり社君に気を許したら駄目よ」
「そうだよまどか。こんなエロス大魔人に気を許したら最後、妊娠させられちゃうよ」
マミとさやかがまどかの肩にそれぞれ手を置いて忠告する。
「おーい二人とも!! いくらなんでもそこまで言われる覚えはないよ!! 俺から心のオアシスを奪わないでくれ!!」
「それにさっきから二人ともセクハラセクハラ言うけどさ、俺がもしこういう事言ったとしたなら、その時にセクハラと言ってくれ!!」
芳文はそこまで言い切ると、マミのつま先から頭までを見回してから口を開きまくしたてる。
「例えばこうだ!!」
「魔法少女姿を見た時から思っていたけど、巴さん色々育ちすぎ!! 一体どんな食生活してきたらこんなけしからんバディに育つんだ? 寒い日に抱っこして寝たら、ふかふかしてそうだし暖かそうだ、とか!!」
「……」
そこまで言うと、今度はさやかのつま先から頭の上まで見回してから口を開いてまくしたてる。
「年齢考えたら当たり前だし、むしろこれが普通なんだけど、さやかちゃんは巴さんに比べて色々残念だなぁ。巴さんとひとつしか年違わないのに。神という存在がいるのなら実に不公平だ」
「せめてあと少し、巴さんのボリュームをもらえたら、片思いの相手もイチコロだろうに。ああ、この世に神はいないんだな、とか!!」
「……」
「例えばこういう事を言ったなら、責められてもおかしくないけどさ!!」
「……言いたい事はそれだけかしら?」
「……それが先輩の本音って訳だね」
マミとさやかからゴゴゴゴ……という擬音が聞こえる。二人の顔は笑っているが目は笑っていなかった。
「ひっ……」
マミとさやかの様子にまどかが怯える。
42:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:18:15.99:8GUEOo26o (41/48)
「ねえ、美樹さん」
「なんですかマミさん」
「このお馬鹿さんにね、どんな制裁加えたらいいと思う?」
「とりあえず、死刑で」
「気が合うわね。私もそれを考えていたところよ」
二人はお互いの顔を見合わせて頷くと、笑顔で芳文の側へと歩いてくる。
「え? 二人ともどうしたの? 今のは例え話だよ?」
二人はうろたえている芳文の言葉を無視して、芳文の左右に移動すると、芳文の耳をそれぞれひっぱりながら囁いた。
「とりあえず、向こうの物陰に行きましょうか。……久しぶりに」
「キレちゃったよ」
ぐいぐいっ!! ずるずる……。
「ひぎぃっ!! ちぎれる!! 耳がちぎれる!!」
「鹿目さん、ちょっとここでキュゥべえと待ってて」
「すぐ帰ってくるから」
笑顔でそう言うマミとさやかに、まどかはがたがたと震えながら、こくこくと頷いた。
「あ、あの……あまり乱暴な事は……」
芳文の耳を引っ張って、物陰へと引きずっていくマミとさやかに、まどかが恐る恐る声をかけると、二人は笑顔のまま言い切る。
『心配しないで、これはただの修正だから』
そう言って芳文を物陰に引きずり込む
「ひぎぃぃぃぃぃっ!!」
数十秒後、芳文の悲鳴が物陰から鳴り響いた……。
「悪意がなければ、何を言ってもいいという訳じゃないんだろ? 愚かだね、社芳文
澄ました顔でキュゥべえは呟くのだった。
「ねえ、美樹さん」
「なんですかマミさん」
「このお馬鹿さんにね、どんな制裁加えたらいいと思う?」
「とりあえず、死刑で」
「気が合うわね。私もそれを考えていたところよ」
二人はお互いの顔を見合わせて頷くと、笑顔で芳文の側へと歩いてくる。
「え? 二人ともどうしたの? 今のは例え話だよ?」
二人はうろたえている芳文の言葉を無視して、芳文の左右に移動すると、芳文の耳をそれぞれひっぱりながら囁いた。
「とりあえず、向こうの物陰に行きましょうか。……久しぶりに」
「キレちゃったよ」
ぐいぐいっ!! ずるずる……。
「ひぎぃっ!! ちぎれる!! 耳がちぎれる!!」
「鹿目さん、ちょっとここでキュゥべえと待ってて」
「すぐ帰ってくるから」
笑顔でそう言うマミとさやかに、まどかはがたがたと震えながら、こくこくと頷いた。
「あ、あの……あまり乱暴な事は……」
芳文の耳を引っ張って、物陰へと引きずっていくマミとさやかに、まどかが恐る恐る声をかけると、二人は笑顔のまま言い切る。
『心配しないで、これはただの修正だから』
そう言って芳文を物陰に引きずり込む
「ひぎぃぃぃぃぃっ!!」
数十秒後、芳文の悲鳴が物陰から鳴り響いた……。
「悪意がなければ、何を言ってもいいという訳じゃないんだろ? 愚かだね、社芳文
澄ました顔でキュゥべえは呟くのだった。
43:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:19:28.06:8GUEOo26o (42/48)
☆
「いてててて……。ひどい目に遭った……」
マミとさやかに修正された芳文は、ふらふらとまどかとキュゥべえの元へと戻ってくる。
「あの……。先輩、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だよ。ああ……君だけだよ、こんな俺に優しくしてくれる天使は」
「マミとさやかにシメられたばかりだというのに、君も口が減らないね」
「……やめてくれ、もう思い出したくない」
(……マミさんとさやかちゃん、先輩にいったい何をしたんだろう?)
まとかが芳文に乾いた笑いを返しながら、修正と言う名の罰としていったい何をされたのか疑問に思っていると、キュゥべえがとことことまどか達から離れていく。
「キュゥべえ、どうかしたの?」
「ちょっと用事を思い出したんだ。悪いんだけど後は君達だけで何とかしてくれるかい?」
「え? う、うん。わかった」
「すまないね。それじゃまどか、また後でね」
それだけ言うと、キュゥべえは去って行った。
「さてと、まどかちゃん。そろそろグリーフシード探そうか」
「はい。所でマミさんとさやかちゃんはどうしたんですか?」
いくら待っても戻ってこない二人の事をまどかは尋ねる。
「ああ、二組に別れて探すことになったんだ。彼女達は向こうを調べてるよ」
「そうですか」
「うん。とりあえず、俺達はこっちを調べよう」
「わかりました」
まどかと芳文はとりあえず、プールサイドの周辺などを探してみる。
「どうかな?」
「ソウルジェムに反応はありませんね」
「うーん。もしかしたらプールの中とか?」
「そうですね。それじゃ私中に入って調べてみます」
「うん。でも水の中に入る前に準備運動しておかないとね」
「そうですね」
芳文の言葉に頷いて準備運動をした後、まどかはプールの中へ入っていく。
「俺も行こうか?」
「大丈夫です。もしグリーフシードを見つけたら、すぐに呼びますから。先輩はまだ見てない所やプールの隅を探してください」
「了解。気を付けてね」
「はい」
まどかはプールの中に入ると中を歩きながらグリーフシードを探し始める。
「さてと、まだ見ていない所は、と……」
「社芳文。ちょっといいかしら」
芳文が振り返ると、黒い水着姿の暁美ほむらが立っていた。
「ああ、君か。この前はありがとう」
「別にあなたに礼を言われる覚えはないわ」
「いや、まどかちゃんを助けに来てくれたし、俺の事も助けようとしてくれたじゃないか」
「……」
芳文の言葉に、ほむらは何も言わず、じっと芳文を見ている。
「えーと、確か……ホームランちゃんだっけ? 名前」
「……ほむらよ。暁美ほむら」
「ああ、そうそう。言われてみれば確かに。そういやまどかちゃんがほむらちゃんって呼んでたっけ」
「……」
「それで、俺に何か用かな? 暁美さん」
「……あなたは何者なの?」
「うん? もしかして、俺の事が知りたいの?」
「そうね」
「そうか……。俺は社芳文!! 絶賛恋人募集中の一五歳!! 魔法少女巴マミさんのクラスメイトさ!!」
爽やかな笑顔でキラリンっと歯を光らせて親指を立ててみせる。
「そんな事に興味はないわ」
「そんな言い方びといや。君が俺の事知りたいって言ったくせに」
芳文はいじけて床にのの字を指先で書く。
☆
「いてててて……。ひどい目に遭った……」
マミとさやかに修正された芳文は、ふらふらとまどかとキュゥべえの元へと戻ってくる。
「あの……。先輩、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だよ。ああ……君だけだよ、こんな俺に優しくしてくれる天使は」
「マミとさやかにシメられたばかりだというのに、君も口が減らないね」
「……やめてくれ、もう思い出したくない」
(……マミさんとさやかちゃん、先輩にいったい何をしたんだろう?)
まとかが芳文に乾いた笑いを返しながら、修正と言う名の罰としていったい何をされたのか疑問に思っていると、キュゥべえがとことことまどか達から離れていく。
「キュゥべえ、どうかしたの?」
「ちょっと用事を思い出したんだ。悪いんだけど後は君達だけで何とかしてくれるかい?」
「え? う、うん。わかった」
「すまないね。それじゃまどか、また後でね」
それだけ言うと、キュゥべえは去って行った。
「さてと、まどかちゃん。そろそろグリーフシード探そうか」
「はい。所でマミさんとさやかちゃんはどうしたんですか?」
いくら待っても戻ってこない二人の事をまどかは尋ねる。
「ああ、二組に別れて探すことになったんだ。彼女達は向こうを調べてるよ」
「そうですか」
「うん。とりあえず、俺達はこっちを調べよう」
「わかりました」
まどかと芳文はとりあえず、プールサイドの周辺などを探してみる。
「どうかな?」
「ソウルジェムに反応はありませんね」
「うーん。もしかしたらプールの中とか?」
「そうですね。それじゃ私中に入って調べてみます」
「うん。でも水の中に入る前に準備運動しておかないとね」
「そうですね」
芳文の言葉に頷いて準備運動をした後、まどかはプールの中へ入っていく。
「俺も行こうか?」
「大丈夫です。もしグリーフシードを見つけたら、すぐに呼びますから。先輩はまだ見てない所やプールの隅を探してください」
「了解。気を付けてね」
「はい」
まどかはプールの中に入ると中を歩きながらグリーフシードを探し始める。
「さてと、まだ見ていない所は、と……」
「社芳文。ちょっといいかしら」
芳文が振り返ると、黒い水着姿の暁美ほむらが立っていた。
「ああ、君か。この前はありがとう」
「別にあなたに礼を言われる覚えはないわ」
「いや、まどかちゃんを助けに来てくれたし、俺の事も助けようとしてくれたじゃないか」
「……」
芳文の言葉に、ほむらは何も言わず、じっと芳文を見ている。
「えーと、確か……ホームランちゃんだっけ? 名前」
「……ほむらよ。暁美ほむら」
「ああ、そうそう。言われてみれば確かに。そういやまどかちゃんがほむらちゃんって呼んでたっけ」
「……」
「それで、俺に何か用かな? 暁美さん」
「……あなたは何者なの?」
「うん? もしかして、俺の事が知りたいの?」
「そうね」
「そうか……。俺は社芳文!! 絶賛恋人募集中の一五歳!! 魔法少女巴マミさんのクラスメイトさ!!」
爽やかな笑顔でキラリンっと歯を光らせて親指を立ててみせる。
「そんな事に興味はないわ」
「そんな言い方びといや。君が俺の事知りたいって言ったくせに」
芳文はいじけて床にのの字を指先で書く。
44:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:21:47.02:8GUEOo26o (43/48)
「私が知りたいのは、何故あなたが魔女や使い魔を視認する事が出来るのか。そして何故、私の時間停止を受け付けないのかよ」
「そんな事言われてもわからないよ。昔から良くない物が見えたから、霊感が強いせいじゃないかな」
「そんな事があるはずがない」
「そう言われても、見える物は見えるんだからしょうがないよ。それに君の魔法に対してだって、君にわからない物が俺にわかる訳がないし」
「……」
「質問はそれだけかな?」
「……そうね」
「それじゃ、今度はこっちから聞いてもいいよね。それじゃ質問します」
「……」
「その角度、好きなの?」
「……? 言ってる意味がわからないわ」
先ほどからほむらは首を傾げたままだったのを芳文は尋ねたのだが、質問の意図を理解してもらえなかった。
「うーん。うまく伝わらなかったか。もうちょっと女の子とのトークを修業せねば」
芳文は首を傾げながらぼやく。
「……」
「それじゃ、次の質問です」
「……せっかくプールに来たのにさ、そんなに長い髪してるんだから、まとめないと泳ぐ時邪魔じゃない?」
「余計なお世話よ」
「それもそうだね」
「……」
「それじゃ、次の質問です」
「……まだあるのかしら」
「君はまどかちゃんの友達なの? なんかすごく彼女の事を気にかけてるみたいだけど」
「……違うわ」
「そうなの? それじゃなんでまどかちゃんを気にかけてるのかな」
「あなたには関係ない」
「……そうか!! わかったぞ!!」
「……」
「君は確か転校生なんだよね。そこから導き出される答えはただひとつ!!」
ビシッとほむらを指差して芳文は自信満々で答えを告げる。
「かわいいまどかちゃんに一目ぼれした、真正のレズっ娘である君は、まどかちゃんを危ない事に巻き込みたくないんだ!!」
「……」
「そしてあわよくば、まどかちゃんと友達以上の関係になろうとストーキングしている!! これで合ってるかな?」
「……あなた、私にケンカを売っているのかしら」
ほむらは無表情のままだったが、その目は怒りに満ちていた。
「すみませんでした、会長!!」
芳文は背筋を正して頭を下げて謝る。
「……会長って何?」
「まどっち見守り隊会員ナンバー01の暁美ほむらさんの事。ちなみに会員ナンバー02が巴さんで、03が俺」
「そんなものになった覚えはないわ。それとまどっちって何」
「まどかちゃんの略でまどっち。かわいい愛称だろ? 俺が考えたんだよ」
「……」
「まどっち見守り隊の会長が嫌なら、俺が会長になってもいいかな?」
「……勝手にすればいいわ」
「よっしゃあ!!」
芳文がガッツポーズを取るのをほむらは冷めた目で見る。
「……」
「私が知りたいのは、何故あなたが魔女や使い魔を視認する事が出来るのか。そして何故、私の時間停止を受け付けないのかよ」
「そんな事言われてもわからないよ。昔から良くない物が見えたから、霊感が強いせいじゃないかな」
「そんな事があるはずがない」
「そう言われても、見える物は見えるんだからしょうがないよ。それに君の魔法に対してだって、君にわからない物が俺にわかる訳がないし」
「……」
「質問はそれだけかな?」
「……そうね」
「それじゃ、今度はこっちから聞いてもいいよね。それじゃ質問します」
「……」
「その角度、好きなの?」
「……? 言ってる意味がわからないわ」
先ほどからほむらは首を傾げたままだったのを芳文は尋ねたのだが、質問の意図を理解してもらえなかった。
「うーん。うまく伝わらなかったか。もうちょっと女の子とのトークを修業せねば」
芳文は首を傾げながらぼやく。
「……」
「それじゃ、次の質問です」
「……せっかくプールに来たのにさ、そんなに長い髪してるんだから、まとめないと泳ぐ時邪魔じゃない?」
「余計なお世話よ」
「それもそうだね」
「……」
「それじゃ、次の質問です」
「……まだあるのかしら」
「君はまどかちゃんの友達なの? なんかすごく彼女の事を気にかけてるみたいだけど」
「……違うわ」
「そうなの? それじゃなんでまどかちゃんを気にかけてるのかな」
「あなたには関係ない」
「……そうか!! わかったぞ!!」
「……」
「君は確か転校生なんだよね。そこから導き出される答えはただひとつ!!」
ビシッとほむらを指差して芳文は自信満々で答えを告げる。
「かわいいまどかちゃんに一目ぼれした、真正のレズっ娘である君は、まどかちゃんを危ない事に巻き込みたくないんだ!!」
「……」
「そしてあわよくば、まどかちゃんと友達以上の関係になろうとストーキングしている!! これで合ってるかな?」
「……あなた、私にケンカを売っているのかしら」
ほむらは無表情のままだったが、その目は怒りに満ちていた。
「すみませんでした、会長!!」
芳文は背筋を正して頭を下げて謝る。
「……会長って何?」
「まどっち見守り隊会員ナンバー01の暁美ほむらさんの事。ちなみに会員ナンバー02が巴さんで、03が俺」
「そんなものになった覚えはないわ。それとまどっちって何」
「まどかちゃんの略でまどっち。かわいい愛称だろ? 俺が考えたんだよ」
「……」
「まどっち見守り隊の会長が嫌なら、俺が会長になってもいいかな?」
「……勝手にすればいいわ」
「よっしゃあ!!」
芳文がガッツポーズを取るのをほむらは冷めた目で見る。
「……」
45:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:23:27.08:8GUEOo26o (44/48)
「うーん。ノリが悪い子だなあ。お兄さん困っちゃう」
「……もういいかしら?」
ほむらは背を向けて去ろうとするが、ほむらの背中に芳文は声をかけて引き止める。
「あれ? もう帰っちゃうの?」
「……」
「せっかく来たんだからまどかちゃんに会っていったら? すぐ近くにいるから呼ぶよ。ほら、あそこに」
「余計な事をしなくていいわ」
「だって、せっかくここまでストーキングしてきたのに」
「あなたはそんなに早く死にたいのかしら」
「ごめんなさい」
ほむらは呆れたようにひとつため息をつくと、芳文に問いかけた。
「あなたは普段からそんな風に振る舞っていて、疲れないのかしら?」
「……何の事かな」
「別にいいわ。私には関係ない」
「そっちこそ、クールなふりしてんの疲れない?」
「何の事かしら」
「別に。あっ!? まどかちゃんが溺れてる!!」
「!?」
バシャアアアアンッ!!
「なーんちゃって。別に泳いでるわけじゃないから溺れるわけないしね。やっぱなんだかんだでまどかちゃんが気になってるんじゃないか」
まどかを助けにプールに飛び込んだほむらに対して、芳文は苦笑いしながら呟く。
「さてと、あの子が戻ってきたら何て言って謝ろうか……。やっぱりビンタのひとつふたつ、甘んじて受けるべだよなぁ……」
天を仰ぎながら呟く。
バシャバシャバシャ……!!
視線を下してまどかの元へ向かったほむらの姿を探すと、まどかは一人でプールの中を歩いている。
「あれ? もうそろそろまどかちゃんの所に着いててもおかしくないだろうに」
バシャバシャバシャ……!!
「さっきからすごい音がしてるけど、なんだ?」
芳文がプールの中を確認すると、ほむらが溺れていた。
「っ!? おいおいっ!!」
バシャーン!!
芳文は慌てて飛び込むと、水の中でもがいてるほむらの側に速攻で辿り着き、ほむらのおなかに手をまわして、顔を水面に出してやる。
「ぷはっ!!」
バシャバシャバシャ……!!
「ちょ、暴れないで!! すぐ外に連れてくから!!」
暴れるほむらに殴られ、ひっかかれながら、芳文はほむらを抱きかかえてプールの隅までたどり着く。
「ごめん。まさか君が泳げないとは思わなくて」
「……」
プールから上がってから、ほむらは背を向けて座り込んだまま、黙り込む。
「でも、なんだかんだですぐに駆けつけようとする辺り、やっぱりまどかちゃんの事を大切に思ってるんだね」
「……」
「……その、本当にごめん。悪かったよ」
「……」
「……せめて何か言ってほしいな」
「……」
「そうだ、お詫びに泳ぎを教えてあげようか」
「……必要ない」
「そう? まあ無理にとは言わないけど、泳げた方が色々便利だよ」
「……人間は浮くように出来ていない」
「いやいや、浮くって。それに女の子なら、男にはない二つの浮き袋があるから浮くはず……」
そう言ってから、さっき正面から見たほむらの水着姿を思い出す。
――悲しいくらいに絶壁だった。
「暁美さん、元気出して」
「……あなたに言われたくないわ」
「俺の母親も小さかった」
「……あなたは何を言っているのかしら」
「そりゃあもう、悲しいくらいに小さかったけど、一応俺を産んで母乳で育てたんだ。だから小さくても大丈夫だよ」
「……」
プルプルとほむらの肩が振るえている。
「あれ? どうしたの震えたりして。 トイレなら早く行った方がいいよ」
「っ!!」
ほむらは立ち上がると芳文を睨みつけ、そして。
パアーンっ!!
とうとうキレたほむらは芳文を平手打ちした。
「……っ!?」
左の足首に痛みを感じ、体制を崩す。
「おっと」
芳文はほむらの身体を受け止める。
「大丈夫? 溺れた時に足がつったのかな」
「……放して」
「ん? ああ、ごめん」
芳文はほむらを座らせる。
「うーん。ノリが悪い子だなあ。お兄さん困っちゃう」
「……もういいかしら?」
ほむらは背を向けて去ろうとするが、ほむらの背中に芳文は声をかけて引き止める。
「あれ? もう帰っちゃうの?」
「……」
「せっかく来たんだからまどかちゃんに会っていったら? すぐ近くにいるから呼ぶよ。ほら、あそこに」
「余計な事をしなくていいわ」
「だって、せっかくここまでストーキングしてきたのに」
「あなたはそんなに早く死にたいのかしら」
「ごめんなさい」
ほむらは呆れたようにひとつため息をつくと、芳文に問いかけた。
「あなたは普段からそんな風に振る舞っていて、疲れないのかしら?」
「……何の事かな」
「別にいいわ。私には関係ない」
「そっちこそ、クールなふりしてんの疲れない?」
「何の事かしら」
「別に。あっ!? まどかちゃんが溺れてる!!」
「!?」
バシャアアアアンッ!!
「なーんちゃって。別に泳いでるわけじゃないから溺れるわけないしね。やっぱなんだかんだでまどかちゃんが気になってるんじゃないか」
まどかを助けにプールに飛び込んだほむらに対して、芳文は苦笑いしながら呟く。
「さてと、あの子が戻ってきたら何て言って謝ろうか……。やっぱりビンタのひとつふたつ、甘んじて受けるべだよなぁ……」
天を仰ぎながら呟く。
バシャバシャバシャ……!!
視線を下してまどかの元へ向かったほむらの姿を探すと、まどかは一人でプールの中を歩いている。
「あれ? もうそろそろまどかちゃんの所に着いててもおかしくないだろうに」
バシャバシャバシャ……!!
「さっきからすごい音がしてるけど、なんだ?」
芳文がプールの中を確認すると、ほむらが溺れていた。
「っ!? おいおいっ!!」
バシャーン!!
芳文は慌てて飛び込むと、水の中でもがいてるほむらの側に速攻で辿り着き、ほむらのおなかに手をまわして、顔を水面に出してやる。
「ぷはっ!!」
バシャバシャバシャ……!!
「ちょ、暴れないで!! すぐ外に連れてくから!!」
暴れるほむらに殴られ、ひっかかれながら、芳文はほむらを抱きかかえてプールの隅までたどり着く。
「ごめん。まさか君が泳げないとは思わなくて」
「……」
プールから上がってから、ほむらは背を向けて座り込んだまま、黙り込む。
「でも、なんだかんだですぐに駆けつけようとする辺り、やっぱりまどかちゃんの事を大切に思ってるんだね」
「……」
「……その、本当にごめん。悪かったよ」
「……」
「……せめて何か言ってほしいな」
「……」
「そうだ、お詫びに泳ぎを教えてあげようか」
「……必要ない」
「そう? まあ無理にとは言わないけど、泳げた方が色々便利だよ」
「……人間は浮くように出来ていない」
「いやいや、浮くって。それに女の子なら、男にはない二つの浮き袋があるから浮くはず……」
そう言ってから、さっき正面から見たほむらの水着姿を思い出す。
――悲しいくらいに絶壁だった。
「暁美さん、元気出して」
「……あなたに言われたくないわ」
「俺の母親も小さかった」
「……あなたは何を言っているのかしら」
「そりゃあもう、悲しいくらいに小さかったけど、一応俺を産んで母乳で育てたんだ。だから小さくても大丈夫だよ」
「……」
プルプルとほむらの肩が振るえている。
「あれ? どうしたの震えたりして。 トイレなら早く行った方がいいよ」
「っ!!」
ほむらは立ち上がると芳文を睨みつけ、そして。
パアーンっ!!
とうとうキレたほむらは芳文を平手打ちした。
「……っ!?」
左の足首に痛みを感じ、体制を崩す。
「おっと」
芳文はほむらの身体を受け止める。
「大丈夫? 溺れた時に足がつったのかな」
「……放して」
「ん? ああ、ごめん」
芳文はほむらを座らせる。
46:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:26:11.95:8GUEOo26o (45/48)
「……あのさあ」
「まだ何かあるの?」
「変な事聞くけど、怒らないでくれるかな。……俺、君とどこかであった事あるかな? なんていうか、最近とかじゃなくて、こう、ずっと前に」
「私はあなたの事なんて知らないわ」
「そっか、やっぱそうだよな」
「……何故そんな事を聞くの?」
「うん。先日、魔女の結界の中で肩を貸してもらった時と、さっき君に触れた時に感じたんだけどさ……なんていうか、懐かしいような、そんな感じがして」
「気のせいよ。私はあなたなんて知らない」
「やっぱそうだよなあ。なんでそんな風に感じたんだろう。こんな無愛想な子なら一度会えば絶対忘れないし」
「……悪かったわね、無愛想で」
ほむらが芳文を睨んだその時だった。
「あれ? ほむらちゃん?」
まどかが芳文の所へ戻ってきた。
「まどかちゃん、どうだった?」
「見つかりませんでした」
「そっか」
「ところでほむらちゃんと先輩は何をしてたんですか?」
「ああ。暁美さんもここのグリーフシードの気配に気づいて調査に来てたんだ。それでちょっと怪しい部分があったから調べてもらってたんだよ」
「そうだったんですか」
さらりとついた芳文の嘘をまどかはあっさりと信じて納得する。
「うん。でもちょっと無理させちゃったかな。暁美さんの足がつっちゃったみたいで、今は休んでもらってるんだよ」
「大変!! それなら救護室に行かないと!!」
「それには及ばないわ。少し休めば治る」
「駄目だよ!! そんなの!!」
「うん。無理は禁物だよね。まどかちゃん、肩を貸してあげて」
「はい。ほむらちゃん、行こ」
「……」
まどかはほむらに肩を貸して、後に続く芳文と救護室の方へと歩き出した。
「……あのさあ」
「まだ何かあるの?」
「変な事聞くけど、怒らないでくれるかな。……俺、君とどこかであった事あるかな? なんていうか、最近とかじゃなくて、こう、ずっと前に」
「私はあなたの事なんて知らないわ」
「そっか、やっぱそうだよな」
「……何故そんな事を聞くの?」
「うん。先日、魔女の結界の中で肩を貸してもらった時と、さっき君に触れた時に感じたんだけどさ……なんていうか、懐かしいような、そんな感じがして」
「気のせいよ。私はあなたなんて知らない」
「やっぱそうだよなあ。なんでそんな風に感じたんだろう。こんな無愛想な子なら一度会えば絶対忘れないし」
「……悪かったわね、無愛想で」
ほむらが芳文を睨んだその時だった。
「あれ? ほむらちゃん?」
まどかが芳文の所へ戻ってきた。
「まどかちゃん、どうだった?」
「見つかりませんでした」
「そっか」
「ところでほむらちゃんと先輩は何をしてたんですか?」
「ああ。暁美さんもここのグリーフシードの気配に気づいて調査に来てたんだ。それでちょっと怪しい部分があったから調べてもらってたんだよ」
「そうだったんですか」
さらりとついた芳文の嘘をまどかはあっさりと信じて納得する。
「うん。でもちょっと無理させちゃったかな。暁美さんの足がつっちゃったみたいで、今は休んでもらってるんだよ」
「大変!! それなら救護室に行かないと!!」
「それには及ばないわ。少し休めば治る」
「駄目だよ!! そんなの!!」
「うん。無理は禁物だよね。まどかちゃん、肩を貸してあげて」
「はい。ほむらちゃん、行こ」
「……」
まどかはほむらに肩を貸して、後に続く芳文と救護室の方へと歩き出した。
47:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:27:34.14:8GUEOo26o (46/48)
☆
「すみません。友達が足がつっちゃって……」
三人が救護室に着くと、中には誰もいなかった。
「誰もいないね。ホントここの従業員はやる気がないなあ」
「……」
「ほむらちゃん、とりあえず座って」
まどかはイスの上にほむらを座らせる。
「さてと、とりあえずマッサージするか」
そう言って芳文はほむらの足首にマッサージを開始する。
「触らないで」
「触らないとマッサージ出来ないよ。俺が嫌ならまどかちゃんにしてもらう?」
「鹿目まどかの手を煩わせる必要はないわ」
「それじゃ我慢して。俺の手が汚いと思うなら、後で消毒すればいい」
「そうさせてもらうわ」
「ひでえ!!」
そんなやりとりをしながら、マッサージを済ませるとほむらの足は歩けるようになった。
「……さてと。まどかちゃん。グリーフシード探しに戻ろうか」
「はい」
「暁美さん、その……色々とごめん」
「……もういいわ」
そう言ってほむらは去ろうとする。
「それじゃ行こうか」
「先輩、ここも一応調べた方が……」
「そうだね。まどかちゃん頼むよ」
「はい」
まどかが指輪をソウルジェムに変化させて周囲を調べる。
「!? 先輩、ほむらちゃん、私のソウルジェムに反応が!!」
ソウルジェムが微かに光っている。
「っ!!」
「ここにあるのか!!」
芳文は救護室の中を探しまわる。
「どこだ!?」
ベッドの下や、カーテンの裏などしらみつぶしに探し回る。
「見つけた!!」
やがて、壁に掛けられた時計が不自然に傾いて掛けられているのに気付き、時計を外すとグリーフシードがあった。
「どうしよう。まだ孵化しそうにはないけど……」
「下手に手を出さない方がいいわ。ショックで孵化しかねない」
まどかがどうしたものかと考えていると、ほむらがそう忠告する。
「まどかちゃん、剣出して」
「は、はい」
まどかは一瞬で変身すると、剣を作り出して芳文に渡す。
「……どうするつもり?」
ほむらの問いに、芳文は剣先をグリーフシードに向けて答える。
「壊す」
グサ。パアァァァァァァァンッ。
魔女さえ簡単に切り裂くまどかの剣を突き立てられ、グリーフシードはあっけなく木端微塵に砕けて消滅した。
「ミッションコンプリート」
剣を突き立てた姿勢のまま、まどかに芳文がそう告げると、まどかは安心した顔で変身を解いた。芳文の握っている剣も消滅する。
「さあ、巴さんとさやかちゃんの所に戻ろうか」
「はい」
「……社芳文」
「ん?」
「あなたの右脇のそれは?」
芳文がグリーフシードを刺した時に見えた、赤い切り傷のようにも見えるアザの事をほむらは尋ねる。
「ああ、生まれた時からあるアザだよ」
「……そう」
「これがどうかしたの?」
「ケガをしてるように見えたから聞いただけよ」
「ふーん。別に痛いとかないから心配しなくてもいいよ」
「私があなたの事を心配しないといけない理由なんてないのだけれど」
「あっそう。それじゃまたね、ホームランちゃん」
「私の名前はほむらよ」
「名前で呼んでもいいのかい?」
「お断りよ」
「それは残念だ。さ、まどかちゃん、巴さん達に報告に行こう」
「は、はい。ほむらちゃん、また学校でね」
「……ええ」
☆
「すみません。友達が足がつっちゃって……」
三人が救護室に着くと、中には誰もいなかった。
「誰もいないね。ホントここの従業員はやる気がないなあ」
「……」
「ほむらちゃん、とりあえず座って」
まどかはイスの上にほむらを座らせる。
「さてと、とりあえずマッサージするか」
そう言って芳文はほむらの足首にマッサージを開始する。
「触らないで」
「触らないとマッサージ出来ないよ。俺が嫌ならまどかちゃんにしてもらう?」
「鹿目まどかの手を煩わせる必要はないわ」
「それじゃ我慢して。俺の手が汚いと思うなら、後で消毒すればいい」
「そうさせてもらうわ」
「ひでえ!!」
そんなやりとりをしながら、マッサージを済ませるとほむらの足は歩けるようになった。
「……さてと。まどかちゃん。グリーフシード探しに戻ろうか」
「はい」
「暁美さん、その……色々とごめん」
「……もういいわ」
そう言ってほむらは去ろうとする。
「それじゃ行こうか」
「先輩、ここも一応調べた方が……」
「そうだね。まどかちゃん頼むよ」
「はい」
まどかが指輪をソウルジェムに変化させて周囲を調べる。
「!? 先輩、ほむらちゃん、私のソウルジェムに反応が!!」
ソウルジェムが微かに光っている。
「っ!!」
「ここにあるのか!!」
芳文は救護室の中を探しまわる。
「どこだ!?」
ベッドの下や、カーテンの裏などしらみつぶしに探し回る。
「見つけた!!」
やがて、壁に掛けられた時計が不自然に傾いて掛けられているのに気付き、時計を外すとグリーフシードがあった。
「どうしよう。まだ孵化しそうにはないけど……」
「下手に手を出さない方がいいわ。ショックで孵化しかねない」
まどかがどうしたものかと考えていると、ほむらがそう忠告する。
「まどかちゃん、剣出して」
「は、はい」
まどかは一瞬で変身すると、剣を作り出して芳文に渡す。
「……どうするつもり?」
ほむらの問いに、芳文は剣先をグリーフシードに向けて答える。
「壊す」
グサ。パアァァァァァァァンッ。
魔女さえ簡単に切り裂くまどかの剣を突き立てられ、グリーフシードはあっけなく木端微塵に砕けて消滅した。
「ミッションコンプリート」
剣を突き立てた姿勢のまま、まどかに芳文がそう告げると、まどかは安心した顔で変身を解いた。芳文の握っている剣も消滅する。
「さあ、巴さんとさやかちゃんの所に戻ろうか」
「はい」
「……社芳文」
「ん?」
「あなたの右脇のそれは?」
芳文がグリーフシードを刺した時に見えた、赤い切り傷のようにも見えるアザの事をほむらは尋ねる。
「ああ、生まれた時からあるアザだよ」
「……そう」
「これがどうかしたの?」
「ケガをしてるように見えたから聞いただけよ」
「ふーん。別に痛いとかないから心配しなくてもいいよ」
「私があなたの事を心配しないといけない理由なんてないのだけれど」
「あっそう。それじゃまたね、ホームランちゃん」
「私の名前はほむらよ」
「名前で呼んでもいいのかい?」
「お断りよ」
「それは残念だ。さ、まどかちゃん、巴さん達に報告に行こう」
「は、はい。ほむらちゃん、また学校でね」
「……ええ」
48:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:29:34.10:8GUEOo26o (47/48)
芳文とまどかが去っていくのをほむらは一人残って見送る。
「暁美ほむら」
一人残されたほむらにかけられた声の主に、ほむらは振り向く事も無く返答する。
「インキュベーター。何の用」
「君に一つ、尋ねたい事があってね」
夕焼けのカーテン越しにキュゥべえのシルエットが影となって映る。
「答えてやる義理はないわ」
ほむらはキュゥべえを無視して出て行こうとする。
「君のソウルジェムは、一体どこにあるんだい?」
「……」
ほむらはキュゥべえの問いに、一言も答える事無く去って行った……。
☆
「ほら、まどか。どんどん食べなきゃ」
「さやかちゃん、そんなに入らないよ……」
「このケーキ、紅茶に良くあうわね」
プールを出てから、まどか達はケーキと紅茶が美味しいと評判の店に芳文を引っ張ってきて、疲れた体を美味しいケーキと紅茶で労わっていた。
「とほほ……。しばらくパスタ生活だな……」
セクハラの罰の一環として、三人のケーキと紅茶代を奢らされる事になった芳文は一人だけ水を飲む。
「ところで社君。もし魔女が孵化したらどうするつもりだったの?」
「うん?」
マミに突然問い詰められて、芳文は思わず聞き返す。
「せっかくパーティを組んでるんだから、一人で突っ走らないでね」
「ごめん」
「今度からは、行動する前に連絡して」
「うん」
「良かったね先輩。マミさんに心配してもらえて」
「美樹さん!! べっ別にそういう訳じゃないわよ。もし目の前で社君に何かあったら、鹿目さんが悲しむでしょ!!」
「あーっ、ほらまどか。マミさん照れてる照れてる」
「もう、年上をからかわないの」
「はーい、ごめんなさーい」
芳文は目の前でじゃれあう少女達の姿を見て、絶対に最後まで、彼女達の力になる事を胸に誓うのだった。
つづく
芳文とまどかが去っていくのをほむらは一人残って見送る。
「暁美ほむら」
一人残されたほむらにかけられた声の主に、ほむらは振り向く事も無く返答する。
「インキュベーター。何の用」
「君に一つ、尋ねたい事があってね」
夕焼けのカーテン越しにキュゥべえのシルエットが影となって映る。
「答えてやる義理はないわ」
ほむらはキュゥべえを無視して出て行こうとする。
「君のソウルジェムは、一体どこにあるんだい?」
「……」
ほむらはキュゥべえの問いに、一言も答える事無く去って行った……。
☆
「ほら、まどか。どんどん食べなきゃ」
「さやかちゃん、そんなに入らないよ……」
「このケーキ、紅茶に良くあうわね」
プールを出てから、まどか達はケーキと紅茶が美味しいと評判の店に芳文を引っ張ってきて、疲れた体を美味しいケーキと紅茶で労わっていた。
「とほほ……。しばらくパスタ生活だな……」
セクハラの罰の一環として、三人のケーキと紅茶代を奢らされる事になった芳文は一人だけ水を飲む。
「ところで社君。もし魔女が孵化したらどうするつもりだったの?」
「うん?」
マミに突然問い詰められて、芳文は思わず聞き返す。
「せっかくパーティを組んでるんだから、一人で突っ走らないでね」
「ごめん」
「今度からは、行動する前に連絡して」
「うん」
「良かったね先輩。マミさんに心配してもらえて」
「美樹さん!! べっ別にそういう訳じゃないわよ。もし目の前で社君に何かあったら、鹿目さんが悲しむでしょ!!」
「あーっ、ほらまどか。マミさん照れてる照れてる」
「もう、年上をからかわないの」
「はーい、ごめんなさーい」
芳文は目の前でじゃれあう少女達の姿を見て、絶対に最後まで、彼女達の力になる事を胸に誓うのだった。
つづく
49:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/03(日) 02:33:05.52:8GUEOo26o (48/48)
杏子「とりあえずここまでだ」
杏子「まあ見てる奴がいるのか疑わしいけどな」
杏子「一応中坊だからテスト期間とか文化祭の話もやるらしい」
杏子「あたしはいつ出られるんだろう……」
杏子「とりあえずここまでだ」
杏子「まあ見てる奴がいるのか疑わしいけどな」
杏子「一応中坊だからテスト期間とか文化祭の話もやるらしい」
杏子「あたしはいつ出られるんだろう……」
50:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/04/03(日) 19:33:23.45:NIHxoI1/o (1/1)
まどかが契約しちゃったから最期がどうなるか気になるな
楽しみにしてるよ、頑張ってくれ
まどかが契約しちゃったから最期がどうなるか気になるな
楽しみにしてるよ、頑張ってくれ
51:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/03(日) 23:28:58.11:tx92YDuJo (1/1)
続き期待
続き期待
52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県):2011/04/04(月) 15:02:14.51:IMTIRSNno (1/1)
男オリ主で王道ギャルゲー展開だけど面白い
まどかが魔法少女になってるからこの先の展開に期待
男オリ主で王道ギャルゲー展開だけど面白い
まどかが魔法少女になってるからこの先の展開に期待
53:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/05(火) 02:54:12.51:ZHcMG8S7o (1/7)
杏子「果たして需要があるのかわからないが、5話目だ」
杏子「今回はさやかの話になる」
杏子「あたしはいつさやかに会えるんだろう……」
杏子「果たして需要があるのかわからないが、5話目だ」
杏子「今回はさやかの話になる」
杏子「あたしはいつさやかに会えるんだろう……」
54:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/05(火) 02:54:55.70:ZHcMG8S7o (2/7)
第5話 「何もしてあげられないなんて嫌だよ……」
ヒュンッ!!
芳文の投げつけた剣が、腕の生えた犬小屋の姿をした魔女の胴体に突き刺さる。
「巴さん!! まどかちゃん!!」
「オッケー!! ティロ・フィナーレ!!」
「はい!! いっけえぇぇぇぇっ!!」
マミの顕現させた巨大マスケット銃による砲撃が魔女の胴体に風穴を開けた次の瞬間、まどかの放った一本の矢が十八本に分裂して雨のように降り注ぎ、魔女の腕や胴体に突き刺さる。
胴体に突き立てられたマギカ・ブレードと一本の矢が互いに触れた瞬間、巨大な光り輝く魔翌力の円球を生み出し、魔女を飲み込むと跡形もなく粉砕消滅させた。
シュゥゥゥゥゥゥン……。
カラーン……。
結界が消え去り、グリーフシードが地面に転がる。
芳文はグリーフシードを拾い上げるとまどかに手渡す。
「はい、まどかちゃん。お疲れ様」
「ありがとうございます。先輩もお疲れ様でした」
「社君、鹿目さん、お疲れ様」
「巴さん、お疲れ様」
「マミさんお疲れ様です」
互いにねぎらいの言葉をかけあう三人の姿を、さやかはきゅぅべえを抱いたままじっと見ている。
「さやか、なんだか今日は元気がないね。いつもなら真っ先にマミ達の勝利を喜ぶのに」
「……うん」
キュゥべえに生返事を返しつつ、さやかは交通事故に遭い入院している幼馴染の事を考えていた。
(……あたしがキュゥべえと契約すれば、恭介の手を治してあげられるんだよね。でも……)
まどかが魔法少女になってしまったあの日、マミに言われた言葉が胸によぎる。
(……あたし、どうしたらいいのかな)
第5話 「何もしてあげられないなんて嫌だよ……」
ヒュンッ!!
芳文の投げつけた剣が、腕の生えた犬小屋の姿をした魔女の胴体に突き刺さる。
「巴さん!! まどかちゃん!!」
「オッケー!! ティロ・フィナーレ!!」
「はい!! いっけえぇぇぇぇっ!!」
マミの顕現させた巨大マスケット銃による砲撃が魔女の胴体に風穴を開けた次の瞬間、まどかの放った一本の矢が十八本に分裂して雨のように降り注ぎ、魔女の腕や胴体に突き刺さる。
胴体に突き立てられたマギカ・ブレードと一本の矢が互いに触れた瞬間、巨大な光り輝く魔翌力の円球を生み出し、魔女を飲み込むと跡形もなく粉砕消滅させた。
シュゥゥゥゥゥゥン……。
カラーン……。
結界が消え去り、グリーフシードが地面に転がる。
芳文はグリーフシードを拾い上げるとまどかに手渡す。
「はい、まどかちゃん。お疲れ様」
「ありがとうございます。先輩もお疲れ様でした」
「社君、鹿目さん、お疲れ様」
「巴さん、お疲れ様」
「マミさんお疲れ様です」
互いにねぎらいの言葉をかけあう三人の姿を、さやかはきゅぅべえを抱いたままじっと見ている。
「さやか、なんだか今日は元気がないね。いつもなら真っ先にマミ達の勝利を喜ぶのに」
「……うん」
キュゥべえに生返事を返しつつ、さやかは交通事故に遭い入院している幼馴染の事を考えていた。
(……あたしがキュゥべえと契約すれば、恭介の手を治してあげられるんだよね。でも……)
まどかが魔法少女になってしまったあの日、マミに言われた言葉が胸によぎる。
(……あたし、どうしたらいいのかな)
55:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/05(火) 02:55:59.80:ZHcMG8S7o (3/7)
☆
「必殺技」
帰り道で唐突に芳文がマミ達に切り出す。
「社君、いきなりどうしたの?」
「いや、まどかちゃんは巴さんみたいに必殺技を作らないのかなって」
「え? えーと、私なんてマミさんに比べてまだまだだし、必殺技なんて夢の又夢かなって……」
「そうかな? まどかちゃんの放つ矢は必殺技みたいなもんだと思うけど。さっきの分裂する矢とか」
「そうね。確かに言われてみれば、鹿目さんの攻撃はは一撃一撃が必殺技みたいなものよね」
「そ、そうですか? でも、特に名前とか思いつかないし……」
「マジカルアローとかでいいんじゃない?」
「却下。そんな安直な名前はエレガントじゃないわ。ねえ美樹さん」
「……え? そうですよねっ!! ていうか適当過ぎるし!!」
「ひど!! まどかちゃんはどう思う?」
「え? え……と、ちょっと……恥ずかしいかなって……」
「ガーン」
まどかに苦笑いされながらやんわりと拒否されて、芳文は膝から崩れ落ちて地面に両手をついて落ち込む。
「……ところで先輩は必殺技とかないの? 何とか斬りとか何とか突きとか」
「ないよ、そんなもん」
さやかの問いにパンパンと膝を払いながら答える。
「社君、人に勧めておいて、自分の必殺技は考えないの?」
「……うーん。あ、そうだ。必殺技じゃなくて、剣の名前を考えるよ」
「剣の名前、ですか?」
「うん。現在、俺が作ってもらえる剣は巴さんの剣とまどかちゃんの剣の二本。これに名前を付けよう」
「そうだな……。まどかちゃんの剣は……。うーん。そうだなあ……。マギカ・ブレードってどうかな?」
「マギカ・ブレード?」
聞きなれない単語にまどかは頭の上に?マークを載せて首をひねる。
「先輩、マギカってどういう意味?」
さやかの問いに芳文は意味を説明してやる。
「ラテン語で魔法のって言う意味だよ。魔法の大剣だから、マギカ・ブレード」
「なかなかいい名前なんじゃないかしら」
「……マギカ・ブレード」
マミの感想を聞きながら、まどかは自らの祈りと願いを込めて作り出す剣の名前を呟く。
「どうかな? まどかちゃん」
「はい!! かっこいい名前だと思います!!」
よほどマギカ・ブレードと言う名前が気に入ったのか、まどかはぱあっと笑顔になって芳文に頷く。
「気に入ってくれたようで良かったよ。次からはマギカ・ブレードと呼ぼう。それじゃ今度は巴さんの剣の名前を付けよう」
「どんな名前をつけてくれるのかしら」
「よし。マミさんソードと名付けよう」
『……』
三人が絶句して固まる。
「……どうして、私の剣はそんな名前なのかしら」
こめかみを片手で押さえて呆れながらマミが尋ねる。
「だって、巴ソードとか、マミソードじゃ語感が良くないじゃないか」
「そんな理由?」
さやかが芳文のあんまりな答えに呆れる。
「……ねえ社君。もしかして、さっきのマギカ・ブレードって最初は……」
「うん、本当はまどか・ブレードって名づけようと思ったんだ。まどかちゃん・ブレードとか鹿目・ブレードだとなんか語感が悪いし。まどか・ブレードだと語感が良いよね」
『……』
「で、なんとなくマギカって言葉が思いついたから、マギカ・ブレードに改名したんだ」
「……まどか、あんた名前がまどかで良かったね」
「……あんまり嬉しくないよ、さやかちゃん」
「……社君。せめてもう少しマシな名前にしてくれるかしら。お願いだから」
「えー。いい名前だと思うんだけどなぁ」
「なんだか馬鹿にされてるみたいで嫌なのよ。もう少し真面目に考えて」
「うーん。刀身の長さとか厚さ的にブレードと言うよりはソードだしなあ。ソードの前に語呂のいい文字をつけるとして……。そうだなあ……」
「閃いた!! 魔法はマジカル!! 巴マミさんのマジカルで出来る剣!! 命名!! マミカルソード!!」
『……』
あんまりと言えばあんまりな命名とネーミングセンスに、さやかもまどかも開いた口が塞がらなかった。
「……もうそれでいいわ」
マミは軽い頭痛を感じながら、もうどうでもいいとばかりに芳文に言うのだった……。
☆
「必殺技」
帰り道で唐突に芳文がマミ達に切り出す。
「社君、いきなりどうしたの?」
「いや、まどかちゃんは巴さんみたいに必殺技を作らないのかなって」
「え? えーと、私なんてマミさんに比べてまだまだだし、必殺技なんて夢の又夢かなって……」
「そうかな? まどかちゃんの放つ矢は必殺技みたいなもんだと思うけど。さっきの分裂する矢とか」
「そうね。確かに言われてみれば、鹿目さんの攻撃はは一撃一撃が必殺技みたいなものよね」
「そ、そうですか? でも、特に名前とか思いつかないし……」
「マジカルアローとかでいいんじゃない?」
「却下。そんな安直な名前はエレガントじゃないわ。ねえ美樹さん」
「……え? そうですよねっ!! ていうか適当過ぎるし!!」
「ひど!! まどかちゃんはどう思う?」
「え? え……と、ちょっと……恥ずかしいかなって……」
「ガーン」
まどかに苦笑いされながらやんわりと拒否されて、芳文は膝から崩れ落ちて地面に両手をついて落ち込む。
「……ところで先輩は必殺技とかないの? 何とか斬りとか何とか突きとか」
「ないよ、そんなもん」
さやかの問いにパンパンと膝を払いながら答える。
「社君、人に勧めておいて、自分の必殺技は考えないの?」
「……うーん。あ、そうだ。必殺技じゃなくて、剣の名前を考えるよ」
「剣の名前、ですか?」
「うん。現在、俺が作ってもらえる剣は巴さんの剣とまどかちゃんの剣の二本。これに名前を付けよう」
「そうだな……。まどかちゃんの剣は……。うーん。そうだなあ……。マギカ・ブレードってどうかな?」
「マギカ・ブレード?」
聞きなれない単語にまどかは頭の上に?マークを載せて首をひねる。
「先輩、マギカってどういう意味?」
さやかの問いに芳文は意味を説明してやる。
「ラテン語で魔法のって言う意味だよ。魔法の大剣だから、マギカ・ブレード」
「なかなかいい名前なんじゃないかしら」
「……マギカ・ブレード」
マミの感想を聞きながら、まどかは自らの祈りと願いを込めて作り出す剣の名前を呟く。
「どうかな? まどかちゃん」
「はい!! かっこいい名前だと思います!!」
よほどマギカ・ブレードと言う名前が気に入ったのか、まどかはぱあっと笑顔になって芳文に頷く。
「気に入ってくれたようで良かったよ。次からはマギカ・ブレードと呼ぼう。それじゃ今度は巴さんの剣の名前を付けよう」
「どんな名前をつけてくれるのかしら」
「よし。マミさんソードと名付けよう」
『……』
三人が絶句して固まる。
「……どうして、私の剣はそんな名前なのかしら」
こめかみを片手で押さえて呆れながらマミが尋ねる。
「だって、巴ソードとか、マミソードじゃ語感が良くないじゃないか」
「そんな理由?」
さやかが芳文のあんまりな答えに呆れる。
「……ねえ社君。もしかして、さっきのマギカ・ブレードって最初は……」
「うん、本当はまどか・ブレードって名づけようと思ったんだ。まどかちゃん・ブレードとか鹿目・ブレードだとなんか語感が悪いし。まどか・ブレードだと語感が良いよね」
『……』
「で、なんとなくマギカって言葉が思いついたから、マギカ・ブレードに改名したんだ」
「……まどか、あんた名前がまどかで良かったね」
「……あんまり嬉しくないよ、さやかちゃん」
「……社君。せめてもう少しマシな名前にしてくれるかしら。お願いだから」
「えー。いい名前だと思うんだけどなぁ」
「なんだか馬鹿にされてるみたいで嫌なのよ。もう少し真面目に考えて」
「うーん。刀身の長さとか厚さ的にブレードと言うよりはソードだしなあ。ソードの前に語呂のいい文字をつけるとして……。そうだなあ……」
「閃いた!! 魔法はマジカル!! 巴マミさんのマジカルで出来る剣!! 命名!! マミカルソード!!」
『……』
あんまりと言えばあんまりな命名とネーミングセンスに、さやかもまどかも開いた口が塞がらなかった。
「……もうそれでいいわ」
マミは軽い頭痛を感じながら、もうどうでもいいとばかりに芳文に言うのだった……。
56:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/05(火) 02:56:53.53:ZHcMG8S7o (4/7)
☆
――爽やかな春の陽光の下で、今日もまた見滝原市に暮らす人々の一日が始まる。
学校や職場へと向かう人々の行き交う朝の風景の中、さやかはまどかを学校へ行く途中の道で待っていた。
「ふわあぁぁぁぁ……っ」
昨夜も魔女退治の為に夜遅くまで、まどか達と共に見滝原市内を歩いて回ったさやかは、帰宅後宿題を片づけるのに手間取り寝るのが遅くなってしまった。
大きく口を開けてあくびをしてると、不意に声をかけられる。
「おはよう、さやかちゃん」
「あ、先輩。おはよー」
さやかに朝の挨拶をしてきたのは芳文だった。
「なんか随分眠そうだけど、あれから夜更かしでもしたの?」
「いやー、ちょっと宿題片づけるのに手間取っちゃって。寝るのがいつもより遅くてね」
「そっか。明日からテスト週間だし、勉強は大事だよね」
「あー、そういやそうだっけ。すっかり忘れてた」
「まあ最近魔女退治で忙しかったから、忘れてもしょうがないね。でも学生の本分は勉強なんだから勉強も頑張らないとね」
芳文のその言葉にさやかは本気で心配そうな顔をして尋ねる。
「……先輩、何か変な物でも食べたの?」
「ひでえ!!」
「だってさあ、先輩が勉強なんて似合わない事言うんだもん」
「ぐぬぬ……。さやかちゃんの中では俺はどういう扱いなのか、すごく気になる」
「あたしの先輩へのイメージ? うーん。……バカ?」
「……むう。あながち間違いではないが、もう少しオブラートに包んだ言い方をしてくれてもいいと、お兄さんは思うぞ」
「今更先輩相手に遠慮もへったくれもないっしょ?」
「まあいいけどさ。まどかちゃんともう一人の友達の子はまだ来ないの?」
「今日、仁美は日直で先に学校に行ったから、あたしはまどかが来たら一緒に学校へ向かうよ。先輩こそ初めて会った日に一緒だった友達はどうしたの?」
「ああ天瀬の事か。あいつは毎日深夜アニメをリアルタイムで見てるみたいでさ、よく寝坊するんだ。登校途中で会えば一緒に学校行くけど、別に待ち合わせとかはしないかな」
「ふーん」
かわしたやーくそくーわすーれなーいよ♪
さやかの制服のポケットから携帯のメール着信音が鳴り響く。
「あ、まどかからのメールだ。……何々、忘れ物したから一度家に戻るね。悪いけど先に行っててだって」
「そっか。それじゃ学校行こうか」
「えー? 先輩と二人で一緒に登校して噂とかされたら恥ずかしいし」
「さらりとひどい事言うね。まあ無理にとは言わないよ。でもお兄さんちょっとショックだよ。俺はさやかちゃんの事友達だと思ってたのに、さやかちゃんはそうは思ってくれてなかったんだね……」
芳文はいじけてしゃがみこむと、地面にのの字を人差し指で書く。
「ちょっ、冗談だって冗談。本気にしないでよ先輩」
「……ホントに冗談?」
「冗談冗談。普段馬鹿ばっかりしてるくせに、こういう時だけいじけないでよ」
「……だってさあ、妹みたいに思ってる子に冷たくされたらへこむよ」
「あたし、先輩の妹なんだ?」
「迷惑かな? 俺にそんな風に思われてるの」
「……うーん。……別に嫌じゃないよ。先輩はバカだけどいい人だし」
「そっか。うん迷惑じゃないならいいんだ!!」
「バカは否定しないんだね……」
「妹にバカと言われたくらいで怒る兄貴はいません!!」
芳文はそう言って、くしゃくしゃとさやかの頭を撫でる。
「わ、また子ども扱いするし!!」
「子ども扱いじゃないよ。愛でてるだけ」
「一緒だって!! ったくもぅ……。ほら馬鹿兄貴、学校行くよ」
「あいよ、さやちー」
「さやちー言うな!!」
芳文とさやかは学校へ向かって歩き出した。
☆
――爽やかな春の陽光の下で、今日もまた見滝原市に暮らす人々の一日が始まる。
学校や職場へと向かう人々の行き交う朝の風景の中、さやかはまどかを学校へ行く途中の道で待っていた。
「ふわあぁぁぁぁ……っ」
昨夜も魔女退治の為に夜遅くまで、まどか達と共に見滝原市内を歩いて回ったさやかは、帰宅後宿題を片づけるのに手間取り寝るのが遅くなってしまった。
大きく口を開けてあくびをしてると、不意に声をかけられる。
「おはよう、さやかちゃん」
「あ、先輩。おはよー」
さやかに朝の挨拶をしてきたのは芳文だった。
「なんか随分眠そうだけど、あれから夜更かしでもしたの?」
「いやー、ちょっと宿題片づけるのに手間取っちゃって。寝るのがいつもより遅くてね」
「そっか。明日からテスト週間だし、勉強は大事だよね」
「あー、そういやそうだっけ。すっかり忘れてた」
「まあ最近魔女退治で忙しかったから、忘れてもしょうがないね。でも学生の本分は勉強なんだから勉強も頑張らないとね」
芳文のその言葉にさやかは本気で心配そうな顔をして尋ねる。
「……先輩、何か変な物でも食べたの?」
「ひでえ!!」
「だってさあ、先輩が勉強なんて似合わない事言うんだもん」
「ぐぬぬ……。さやかちゃんの中では俺はどういう扱いなのか、すごく気になる」
「あたしの先輩へのイメージ? うーん。……バカ?」
「……むう。あながち間違いではないが、もう少しオブラートに包んだ言い方をしてくれてもいいと、お兄さんは思うぞ」
「今更先輩相手に遠慮もへったくれもないっしょ?」
「まあいいけどさ。まどかちゃんともう一人の友達の子はまだ来ないの?」
「今日、仁美は日直で先に学校に行ったから、あたしはまどかが来たら一緒に学校へ向かうよ。先輩こそ初めて会った日に一緒だった友達はどうしたの?」
「ああ天瀬の事か。あいつは毎日深夜アニメをリアルタイムで見てるみたいでさ、よく寝坊するんだ。登校途中で会えば一緒に学校行くけど、別に待ち合わせとかはしないかな」
「ふーん」
かわしたやーくそくーわすーれなーいよ♪
さやかの制服のポケットから携帯のメール着信音が鳴り響く。
「あ、まどかからのメールだ。……何々、忘れ物したから一度家に戻るね。悪いけど先に行っててだって」
「そっか。それじゃ学校行こうか」
「えー? 先輩と二人で一緒に登校して噂とかされたら恥ずかしいし」
「さらりとひどい事言うね。まあ無理にとは言わないよ。でもお兄さんちょっとショックだよ。俺はさやかちゃんの事友達だと思ってたのに、さやかちゃんはそうは思ってくれてなかったんだね……」
芳文はいじけてしゃがみこむと、地面にのの字を人差し指で書く。
「ちょっ、冗談だって冗談。本気にしないでよ先輩」
「……ホントに冗談?」
「冗談冗談。普段馬鹿ばっかりしてるくせに、こういう時だけいじけないでよ」
「……だってさあ、妹みたいに思ってる子に冷たくされたらへこむよ」
「あたし、先輩の妹なんだ?」
「迷惑かな? 俺にそんな風に思われてるの」
「……うーん。……別に嫌じゃないよ。先輩はバカだけどいい人だし」
「そっか。うん迷惑じゃないならいいんだ!!」
「バカは否定しないんだね……」
「妹にバカと言われたくらいで怒る兄貴はいません!!」
芳文はそう言って、くしゃくしゃとさやかの頭を撫でる。
「わ、また子ども扱いするし!!」
「子ども扱いじゃないよ。愛でてるだけ」
「一緒だって!! ったくもぅ……。ほら馬鹿兄貴、学校行くよ」
「あいよ、さやちー」
「さやちー言うな!!」
芳文とさやかは学校へ向かって歩き出した。
57:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/05(火) 02:58:36.73:ZHcMG8S7o (5/7)
☆
「ところで先輩、ちょっと聞いてもいい?」
「何かな?」
学校へ向かいながら、さやかが隣を歩く芳文に尋ねる。
「先輩ってさ、マミさんとまどかの事どう思ってんの?」
「巴さんは見滝原魔法少女隊のリーダーでまどかちゃんは隊員1号。んでもって、さやかちゃんは隊員2号で俺は下っ端戦闘員」
「いや、そういう意味じゃなくて。女の子としてどう思ってるのかって事」
「……なんでそんな事聞きたいの?」
「だって本人達がいる所じゃ聞きにくいじゃん。あたしの事は妹って言ってたけど、あの二人の事はどう思ってるのかなって」
「意外だ。さやかちゃんなら本人達の前でも気にせず、ズバズバそういう事聞いてきそうだと思ってた」
「先輩の中であたしはそういうキャラだったんだ。これは一度じっくり話し合う必要があるかもしれないね」
「拳を鳴らしながら言わないで欲しいな。……ごめんなさい」
「よろしい。それで実際の所どうなの?」
「……そうだな。巴さんは高翌嶺の花ってとこかな。今までずっと一人で、みんなの為に戦ってくれてた彼女の事は人間として尊敬してる」
「まどかは?」
「超かわいい俺の天使」
「……」
「……」
一瞬の沈黙の後、さやかは真剣な顔で尋ねる。
「……先輩ってさ、まどかの事好きなの? まどかは大切な親友だから、ちゃんと答えてほしい」
「その好きがどういう意味かは置いておいて……。あの子の事は人間として好きだよ。とても優しい心を持っているいい子だと思う。ただここだけの話、正直に言うと魔法少女にしてしまった事をすまないと思ってる」
「……どういう意味?」
「そのまんまさ。戦いが怖いって泣いてたあの子を俺が弱かったから……。魔女から守りきれなくて契約させてしまった。だから俺はあの子に救われたこの命であの子の事を絶対に守る」
「……」
「もういいかな?」
「……うん。変な事聞いてごめんね先輩」
芳文の返答を聞いて、さやかは俯いてしまう。
「どうしたの? なんか元気ないみたいだけど」
「……あのさ、先輩。真剣に答えてほしいんだけど……」
不意にさやかが足を止めて、芳文の顔を見上げて真剣な顔で尋ねる。
「……何かな?」
「あのさ、先輩はたったひとつの奇跡を他人の為に使うのってどう思う?」
「……内容にもよるけど、やめておいた方がいいと思う」
「どうして?」
「君が魔法少女になって、いつ死ぬかもしれない戦いに命をかけて挑み続けるのをそいつは望むのかな?」
「……」
「もし君の身に何かあったら、君のご両親やまどかちゃんはどう思う? 君に奇跡を起こしてもらった奴はその事実をもし知ったとしたらどうすればいい?」
「……」
「少なくとも俺がそいつの立場だったら嫌だね。自分の事を想ってくれている相手に、自分の知らない所で危険な事に命をかけて挑み続けられるなんてごめんだ」
「でもまどかだって……。先輩の為に願いを……」
「まどかちゃんには本当に申し訳ない事をしたと思ってるよ。でも俺はあの子に命を助けられた事を知っている。あの子には本当に感謝している。あの子の為になる事ならなんだってしてやろうと思ってる」
「だけど君が奇跡を起こしてあげたい相手は、その事を知る機会があるのかい?」
「……だったら、あたしはどうすればいいの? あたしはただ、好きな人の動かない手を治してあげたいだけなのに」
「……」
「あたし、奇跡も魔法もあるのに、何もしてあげられないなんて嫌だよ……」
「……まどかちゃんに頼んでみようか」
「え?」
「まどかちゃんの魔法なら、そいつの手くらい治せるんじゃないかな」
「でも、あたしの個人的な願いの為にまどかに魔法を使わせるなんて……。それに魔法を使ったらまどかのソウルジェムが濁るし……。まどかにだけ戦わせて願いだけ叶えてもらうなんて虫が良すぎるよ……」
「優しい子だな、さやかちゃんは。大丈夫だよ。グリーフシードのストックなら溜まってきてるし」
「……でも」
「忘れたのかい? 俺の役目は彼女達の魔翌力を無駄に使わせない事だよ? まどかちゃんならそいつの手くらい簡単に治しちゃうさ。それに……」
「まどかちゃんなら、親友の君の為になるなら喜んで魔法を使ってくれるはずだよ。……ね、まどかちゃん」
芳文がさやかの背後の人物にウインクしてみせる。
「さやかちゃんの為ならいいよ。私で良ければ力になりたいな」
「……まどか」
さやかが振り返ると、そこにはまどかが立っていた。
「ごめんね。さやかちゃんと先輩のお話立ち聞きしちゃって。あれから急いで走ってきたんだけど、真剣なお話してたから声かけられなくて……」
家に忘れ物を取りに戻って急いで走ってきたまどかは、丁度さやかの「好きな人の動かない手を治してあげたいだけなのに」と話している所からこれまでの話を聞いていた。
「まどか……」
「まどかちゃん、さやかちゃんの為に魔法使ってあげて」
「はい!! もちろんです!!」
「ありがとう、まどか……」
笑顔で芳文に頷いて快諾するまどか。さやかは目に涙を浮かべてまどかに礼を言うのだった。
☆
「ところで先輩、ちょっと聞いてもいい?」
「何かな?」
学校へ向かいながら、さやかが隣を歩く芳文に尋ねる。
「先輩ってさ、マミさんとまどかの事どう思ってんの?」
「巴さんは見滝原魔法少女隊のリーダーでまどかちゃんは隊員1号。んでもって、さやかちゃんは隊員2号で俺は下っ端戦闘員」
「いや、そういう意味じゃなくて。女の子としてどう思ってるのかって事」
「……なんでそんな事聞きたいの?」
「だって本人達がいる所じゃ聞きにくいじゃん。あたしの事は妹って言ってたけど、あの二人の事はどう思ってるのかなって」
「意外だ。さやかちゃんなら本人達の前でも気にせず、ズバズバそういう事聞いてきそうだと思ってた」
「先輩の中であたしはそういうキャラだったんだ。これは一度じっくり話し合う必要があるかもしれないね」
「拳を鳴らしながら言わないで欲しいな。……ごめんなさい」
「よろしい。それで実際の所どうなの?」
「……そうだな。巴さんは高翌嶺の花ってとこかな。今までずっと一人で、みんなの為に戦ってくれてた彼女の事は人間として尊敬してる」
「まどかは?」
「超かわいい俺の天使」
「……」
「……」
一瞬の沈黙の後、さやかは真剣な顔で尋ねる。
「……先輩ってさ、まどかの事好きなの? まどかは大切な親友だから、ちゃんと答えてほしい」
「その好きがどういう意味かは置いておいて……。あの子の事は人間として好きだよ。とても優しい心を持っているいい子だと思う。ただここだけの話、正直に言うと魔法少女にしてしまった事をすまないと思ってる」
「……どういう意味?」
「そのまんまさ。戦いが怖いって泣いてたあの子を俺が弱かったから……。魔女から守りきれなくて契約させてしまった。だから俺はあの子に救われたこの命であの子の事を絶対に守る」
「……」
「もういいかな?」
「……うん。変な事聞いてごめんね先輩」
芳文の返答を聞いて、さやかは俯いてしまう。
「どうしたの? なんか元気ないみたいだけど」
「……あのさ、先輩。真剣に答えてほしいんだけど……」
不意にさやかが足を止めて、芳文の顔を見上げて真剣な顔で尋ねる。
「……何かな?」
「あのさ、先輩はたったひとつの奇跡を他人の為に使うのってどう思う?」
「……内容にもよるけど、やめておいた方がいいと思う」
「どうして?」
「君が魔法少女になって、いつ死ぬかもしれない戦いに命をかけて挑み続けるのをそいつは望むのかな?」
「……」
「もし君の身に何かあったら、君のご両親やまどかちゃんはどう思う? 君に奇跡を起こしてもらった奴はその事実をもし知ったとしたらどうすればいい?」
「……」
「少なくとも俺がそいつの立場だったら嫌だね。自分の事を想ってくれている相手に、自分の知らない所で危険な事に命をかけて挑み続けられるなんてごめんだ」
「でもまどかだって……。先輩の為に願いを……」
「まどかちゃんには本当に申し訳ない事をしたと思ってるよ。でも俺はあの子に命を助けられた事を知っている。あの子には本当に感謝している。あの子の為になる事ならなんだってしてやろうと思ってる」
「だけど君が奇跡を起こしてあげたい相手は、その事を知る機会があるのかい?」
「……だったら、あたしはどうすればいいの? あたしはただ、好きな人の動かない手を治してあげたいだけなのに」
「……」
「あたし、奇跡も魔法もあるのに、何もしてあげられないなんて嫌だよ……」
「……まどかちゃんに頼んでみようか」
「え?」
「まどかちゃんの魔法なら、そいつの手くらい治せるんじゃないかな」
「でも、あたしの個人的な願いの為にまどかに魔法を使わせるなんて……。それに魔法を使ったらまどかのソウルジェムが濁るし……。まどかにだけ戦わせて願いだけ叶えてもらうなんて虫が良すぎるよ……」
「優しい子だな、さやかちゃんは。大丈夫だよ。グリーフシードのストックなら溜まってきてるし」
「……でも」
「忘れたのかい? 俺の役目は彼女達の魔翌力を無駄に使わせない事だよ? まどかちゃんならそいつの手くらい簡単に治しちゃうさ。それに……」
「まどかちゃんなら、親友の君の為になるなら喜んで魔法を使ってくれるはずだよ。……ね、まどかちゃん」
芳文がさやかの背後の人物にウインクしてみせる。
「さやかちゃんの為ならいいよ。私で良ければ力になりたいな」
「……まどか」
さやかが振り返ると、そこにはまどかが立っていた。
「ごめんね。さやかちゃんと先輩のお話立ち聞きしちゃって。あれから急いで走ってきたんだけど、真剣なお話してたから声かけられなくて……」
家に忘れ物を取りに戻って急いで走ってきたまどかは、丁度さやかの「好きな人の動かない手を治してあげたいだけなのに」と話している所からこれまでの話を聞いていた。
「まどか……」
「まどかちゃん、さやかちゃんの為に魔法使ってあげて」
「はい!! もちろんです!!」
「ありがとう、まどか……」
笑顔で芳文に頷いて快諾するまどか。さやかは目に涙を浮かべてまどかに礼を言うのだった。
58:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/05(火) 03:01:21.67:ZHcMG8S7o (6/7)
☆
その日の放課後、パトロールに行く前にさやか達は上条恭介の入院している病院へとやってきた。
『……さやかちゃん、上条君は?』
『……大丈夫。寝てるよ』
病室の外で待っているまどかに、さやかは病室の中からテレパシーでそう答える。
(恭介……)
ベッドの上で眠っている恭介の顔には流した涙の跡があった。
『……まどか、お願い』
『うん』
まどかは病室の中に入ってくると、恭介の眠るベッドに歩み寄り、左右の掌の間に癒しの魔法を生成する。
淡いピンク色に輝く癒しの光を恭介の動かない腕に当てる。
ポウ……。
時間にしてわずか数秒。
『……さやかちゃん、終わったよ』
『ありがとう、まどか』
『ごめんね。本当は完治させてあげたかったんだけど』
『ううん。いいんだよ。いきなり完治なんて不自然だもん』
まどかは癒しの魔法の威力を押さえて恭介の腕を治した。それは今後のリハビリで元に戻せる程度にまでの治癒。それは芳文とマミからの意見を汲んだ結果でもある。
いきなり完治させるのは不自然だし、絶対に治らないケガを完治させるのはまどかにそれ相応の魔翌力を使わせる事になる。
必要最小限の魔翌力で恭介を治療させたのは、まどかとさやかにお互い必要以上の負い目を負わせない為の芳文達なりの気配りだった。
『それじゃ、先に下に行ってるね』
『うん。まどか、本当にありがとう』
まどかが病室を出ていくと、さやかは恭介の動かない手を両手でそっと包み込む。
「んん……。さやか……?」
恭介が動かない筈の、痛みも何も感じない筈のその手に暖かい感覚を感じて目を覚ます。
「恭介……」
「……おかしいな。もう僕の手は何も感じない筈なのに……。さやかの手の暖かさを感じるんだ……」
「……これは、夢、なのかな?」
恭介のその言葉にさやかは目に涙を浮かべて、微笑んでみせる。
「現実だよ……。奇跡も、魔法も、あるんだよ」
☆
「上手くいったみたいね」
「はい。もう大丈夫だと思います」
「そっか。良かった」
病院の外で待っていたマミと芳文にまどかは結果を報告する。
「マミさん、先輩。……私、魔法少女になって良かったって思います。……こんな私でも、さやかちゃんの笑顔を取り戻せたから」
そう言って微笑むまどかの笑顔は清々しい笑顔だった。
マミと芳文はそんなまどかに優しい顔で頷く。
「さあ、魔女退治に行きましょうか」
「ああ」
「はい」
三人は魔女退治に向かうべく病院を後にした。
☆
「おーい!! まどかー!! マミさーん!! せんぱーい!!」
病院を後にして、一五分くらい経った頃、さやかが三人の名前を呼びながら駆け寄ってくる。
「さやかちゃん? 上条君は?」
はあはあと肩を震わせているさやかにまどかが尋ねると、さやかは親指を立ててみせる。
「良かったね、さやかちゃん」
「まどかのおかげだよ!! ありがとう!!」
「きゃっ!!」
さやかがまどかに抱きついてお礼を言う。
「さやかちゃん、その上条君に付いててやらなくていいの?」
芳文の問いにさやかは頬を膨らませて言う。
「もう面会時間終了!! っていうか、なんで三人共あたしを置いていくかな!?」
「だってねえ、巴さん」
「美樹さんの願いは叶ったんだから、もうキュゥべえと契約する必要もないし……」
「確かにあたしの願いはまどかが叶えてくれたけどさ!! あたしまだ魔法少女になるのやめたなんて言ってないよ!!」
さやかの言葉に芳文とマミはお互いの顔を見合わせ困惑し、まどかは驚いてさやかの顔を見つめる。
「今はまだ、他の願いなんてないし、あたしなんかが契約してもマミさんやまどかの足元にも及ばないだろうけど……」
「あたしだって魔法少女の事を知ったあの日から、ずっとみんなと一緒だったんだよ。あたしも連れて行ってよ!! 役に立たないかもしれないけどまどかやマミさん、先輩が戦ってるの放っておけないから!!」
さやかのその言葉にマミとまどかは微笑んで頷く。
「やれやれ。さやかちゃんにも困ったもんだな。願いが叶ったのにわざわざ危ない事に首を突っ込もうなんて」
芳文の言葉にさやかは笑いながら言う。
「馬鹿兄貴の馬鹿が移ったのかもね。あたし先輩の妹なんでしょ?」
そう言ってさやかはウインクしてみせる。
「やれやれ。しょうがない子だな」
芳文はそんなさやかの頭を笑いながらくしゃくしゃと撫でてやる。
さやかはくすぐったそうに目を細め、とびっきりの笑顔でまどか達に笑ってみせるのだった。
つづく
☆
その日の放課後、パトロールに行く前にさやか達は上条恭介の入院している病院へとやってきた。
『……さやかちゃん、上条君は?』
『……大丈夫。寝てるよ』
病室の外で待っているまどかに、さやかは病室の中からテレパシーでそう答える。
(恭介……)
ベッドの上で眠っている恭介の顔には流した涙の跡があった。
『……まどか、お願い』
『うん』
まどかは病室の中に入ってくると、恭介の眠るベッドに歩み寄り、左右の掌の間に癒しの魔法を生成する。
淡いピンク色に輝く癒しの光を恭介の動かない腕に当てる。
ポウ……。
時間にしてわずか数秒。
『……さやかちゃん、終わったよ』
『ありがとう、まどか』
『ごめんね。本当は完治させてあげたかったんだけど』
『ううん。いいんだよ。いきなり完治なんて不自然だもん』
まどかは癒しの魔法の威力を押さえて恭介の腕を治した。それは今後のリハビリで元に戻せる程度にまでの治癒。それは芳文とマミからの意見を汲んだ結果でもある。
いきなり完治させるのは不自然だし、絶対に治らないケガを完治させるのはまどかにそれ相応の魔翌力を使わせる事になる。
必要最小限の魔翌力で恭介を治療させたのは、まどかとさやかにお互い必要以上の負い目を負わせない為の芳文達なりの気配りだった。
『それじゃ、先に下に行ってるね』
『うん。まどか、本当にありがとう』
まどかが病室を出ていくと、さやかは恭介の動かない手を両手でそっと包み込む。
「んん……。さやか……?」
恭介が動かない筈の、痛みも何も感じない筈のその手に暖かい感覚を感じて目を覚ます。
「恭介……」
「……おかしいな。もう僕の手は何も感じない筈なのに……。さやかの手の暖かさを感じるんだ……」
「……これは、夢、なのかな?」
恭介のその言葉にさやかは目に涙を浮かべて、微笑んでみせる。
「現実だよ……。奇跡も、魔法も、あるんだよ」
☆
「上手くいったみたいね」
「はい。もう大丈夫だと思います」
「そっか。良かった」
病院の外で待っていたマミと芳文にまどかは結果を報告する。
「マミさん、先輩。……私、魔法少女になって良かったって思います。……こんな私でも、さやかちゃんの笑顔を取り戻せたから」
そう言って微笑むまどかの笑顔は清々しい笑顔だった。
マミと芳文はそんなまどかに優しい顔で頷く。
「さあ、魔女退治に行きましょうか」
「ああ」
「はい」
三人は魔女退治に向かうべく病院を後にした。
☆
「おーい!! まどかー!! マミさーん!! せんぱーい!!」
病院を後にして、一五分くらい経った頃、さやかが三人の名前を呼びながら駆け寄ってくる。
「さやかちゃん? 上条君は?」
はあはあと肩を震わせているさやかにまどかが尋ねると、さやかは親指を立ててみせる。
「良かったね、さやかちゃん」
「まどかのおかげだよ!! ありがとう!!」
「きゃっ!!」
さやかがまどかに抱きついてお礼を言う。
「さやかちゃん、その上条君に付いててやらなくていいの?」
芳文の問いにさやかは頬を膨らませて言う。
「もう面会時間終了!! っていうか、なんで三人共あたしを置いていくかな!?」
「だってねえ、巴さん」
「美樹さんの願いは叶ったんだから、もうキュゥべえと契約する必要もないし……」
「確かにあたしの願いはまどかが叶えてくれたけどさ!! あたしまだ魔法少女になるのやめたなんて言ってないよ!!」
さやかの言葉に芳文とマミはお互いの顔を見合わせ困惑し、まどかは驚いてさやかの顔を見つめる。
「今はまだ、他の願いなんてないし、あたしなんかが契約してもマミさんやまどかの足元にも及ばないだろうけど……」
「あたしだって魔法少女の事を知ったあの日から、ずっとみんなと一緒だったんだよ。あたしも連れて行ってよ!! 役に立たないかもしれないけどまどかやマミさん、先輩が戦ってるの放っておけないから!!」
さやかのその言葉にマミとまどかは微笑んで頷く。
「やれやれ。さやかちゃんにも困ったもんだな。願いが叶ったのにわざわざ危ない事に首を突っ込もうなんて」
芳文の言葉にさやかは笑いながら言う。
「馬鹿兄貴の馬鹿が移ったのかもね。あたし先輩の妹なんでしょ?」
そう言ってさやかはウインクしてみせる。
「やれやれ。しょうがない子だな」
芳文はそんなさやかの頭を笑いながらくしゃくしゃと撫でてやる。
さやかはくすぐったそうに目を細め、とびっきりの笑顔でまどか達に笑ってみせるのだった。
つづく
59:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/05(火) 03:20:22.05:ZHcMG8S7o (7/7)
杏子「「とりあえず今回はこれまでだ」
杏子「まりょく たかねのはな この2つの言葉を漢字にして投稿すると勝手に誤植されるのは何故なんだ?」
杏子「まあ別にいいけどさ」
杏子「ついでだから武器の解説もしてあげるよ」
杏子「まずマミカルソード。…・…ひでえ名前だ。これは魔界村で例えるなら槍に相当する武器だ。もっともオーソドックスで扱いやすいが、魔女にダメージを与えることは出来てもトドメを刺しきれない」
杏子「次にマギカ・ブレード。こいつは劇中最強の武器だ。魔界村で例えるなら、サイコキャノンやプリンセスの腕輪に相当する。魔女だけでなく、結界、障害物、魔女の吐く弾、有機物無機物関係なくどんな物も存在も破壊する」
杏子「斬る、刺すのアクションの後、攻撃した対象物の切断面から破壊エネルギーを流し込み完全消滅させる。斬らなくても刀身に触れただけで対象物を破壊するので真剣白羽取りも出来ない」
杏子「まどかが振るえば更に威力が増すんだが、マギカ・ブレードは重い上に刀身が長く取り回しが悪い。まどか自身に剣を振るうスキルと保持するパワーがないので実質、社背芳文の専用武装だな」
杏子「形状のイメージとしてはGEAR戦士電童の暁の大太刀や熱血最強キングゴウザウラーのキングブレードだな」
杏子「ちなみに現時点で劇中未登場だが、あたしが作った剣やアニメ本編でさやかが使ってる剣もその内使われる」
杏子「さやかの剣はマミの物より細身で軽い為、連射が効くけど威力が弱い。魔界村で例えるならナイフだそうだ。当然魔女への決定打にはならない」
杏子「こんなとこかな。それじゃまたな」
杏子「「とりあえず今回はこれまでだ」
杏子「まりょく たかねのはな この2つの言葉を漢字にして投稿すると勝手に誤植されるのは何故なんだ?」
杏子「まあ別にいいけどさ」
杏子「ついでだから武器の解説もしてあげるよ」
杏子「まずマミカルソード。…・…ひでえ名前だ。これは魔界村で例えるなら槍に相当する武器だ。もっともオーソドックスで扱いやすいが、魔女にダメージを与えることは出来てもトドメを刺しきれない」
杏子「次にマギカ・ブレード。こいつは劇中最強の武器だ。魔界村で例えるなら、サイコキャノンやプリンセスの腕輪に相当する。魔女だけでなく、結界、障害物、魔女の吐く弾、有機物無機物関係なくどんな物も存在も破壊する」
杏子「斬る、刺すのアクションの後、攻撃した対象物の切断面から破壊エネルギーを流し込み完全消滅させる。斬らなくても刀身に触れただけで対象物を破壊するので真剣白羽取りも出来ない」
杏子「まどかが振るえば更に威力が増すんだが、マギカ・ブレードは重い上に刀身が長く取り回しが悪い。まどか自身に剣を振るうスキルと保持するパワーがないので実質、社背芳文の専用武装だな」
杏子「形状のイメージとしてはGEAR戦士電童の暁の大太刀や熱血最強キングゴウザウラーのキングブレードだな」
杏子「ちなみに現時点で劇中未登場だが、あたしが作った剣やアニメ本編でさやかが使ってる剣もその内使われる」
杏子「さやかの剣はマミの物より細身で軽い為、連射が効くけど威力が弱い。魔界村で例えるならナイフだそうだ。当然魔女への決定打にはならない」
杏子「こんなとこかな。それじゃまたな」
60:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県):2011/04/05(火) 21:18:24.38:BaFZFggSo (1/1)
>>59
さやかが魔法少女にならない展開は良かった
この調子で全員救ってあげて欲しい
続きも期待してるぜ
>>まりょく たかねのはな
メール蘭をsageじゃなくsagaにすれば誤変換や[ピー]が
普通に表示されるようになったと思う
>>59
さやかが魔法少女にならない展開は良かった
この調子で全員救ってあげて欲しい
続きも期待してるぜ
>>まりょく たかねのはな
メール蘭をsageじゃなくsagaにすれば誤変換や[ピー]が
普通に表示されるようになったと思う
61:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/05(火) 23:31:03.24:spe1RPu5o (1/1)
ageたくない場合は「sage saga」とか入れるといい
ageたくない場合は「sage saga」とか入れるといい
62:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/04/09(土) 14:49:35.32:fqKCGPw70 (1/1)
高翌嶺ってsaga推奨だったのか
なんかそこはかとなくメアリー・スーと厨二の香りがするが面白いので問題ない乙
高翌嶺ってsaga推奨だったのか
なんかそこはかとなくメアリー・スーと厨二の香りがするが面白いので問題ない乙
63:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:36:23.83:h1jZU67Oo (1/15)
杏子「ようやくあたしの出番だ」
杏子「今回はギャグ控え目。そろそろ物語もターニングポイントに差し掛かろうとしている」
杏子「果たしてどれだけ読んでる人間がいるのかわからないが、投下だ」
杏子「ようやくあたしの出番だ」
杏子「今回はギャグ控え目。そろそろ物語もターニングポイントに差し掛かろうとしている」
杏子「果たしてどれだけ読んでる人間がいるのかわからないが、投下だ」
64:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:37:09.69:h1jZU67Oo (2/15)
第6話 (……どっちが本当の先輩なのかな)
街外れにある、人気のない寂しい場所。
一人の少女が開発途中の鉄塔の上に座り、人々が生きている証である夜闇を照らす街の灯りを眺めながら、チョコレート菓子をほうばりつつ傍らに佇む契約の獣に問いかける。
「――なんであたしが、わざわざマミのテリトリーに行かなきゃなんないのさ」
「あの街は今、強力な魔女が大量発生しているんだ。正直言ってマミ達だけじゃ手が回らないんだよ。だから君にも手伝ってほしいんだ」
「……はっ。ごめんだね。なんであたしがマミの手伝いなんか……。おい、あんた今、マミ達って言ったか?」
「ああ。今あの街にはマミともう一人、最近僕と契約した新しい魔法少女がいる。それと、僕の知らない魔法少女ともう一人のイレギュラーもね」
「あんたが知らない魔法少女ねえ……。んで、もう一人のイレギュラーってのは?」
「マミの同級生の少年だよ」
「は? 今なんっつた? 男ぉ? なんで男が魔法少女に関わってくんのさ?」
「僕にもわからない。彼は何故か僕の姿を視認し、魔女や使い魔の姿も視認することが出来るんだ」
「そんな事があるもんなのかい?」
「いや、こんな事は初めてのケースだよ。その少年はマミ達に協力して魔女と使い魔を退治している」
「ふうん……。あんた、魔法少女になれる少女以外とも契約したんだ?」
「してないよ。彼は純粋に善意だけでマミ達の手伝いをしているようだ」
「はあ? そんなバカがいるのかよ」
「それがいるんだよね。何のメリットもないのに。訳がわからないよ」
「まったくだ。何の得があるんだか」
「それで杏子。手伝ってくれるかな?」
「……そうだね。この辺の魔女も粗方狩りつくしたし……」
キュゥべえに杏子と呼ばれた少女はすっと立ち上がると、キュゥべえに不敵な笑みを見せて言い放った。
「ここらでそろそろ、正義の味方ごっこしていい気になってるバカどもをぶちのめしてやるのも面白そうだ」
第6話 (……どっちが本当の先輩なのかな)
街外れにある、人気のない寂しい場所。
一人の少女が開発途中の鉄塔の上に座り、人々が生きている証である夜闇を照らす街の灯りを眺めながら、チョコレート菓子をほうばりつつ傍らに佇む契約の獣に問いかける。
「――なんであたしが、わざわざマミのテリトリーに行かなきゃなんないのさ」
「あの街は今、強力な魔女が大量発生しているんだ。正直言ってマミ達だけじゃ手が回らないんだよ。だから君にも手伝ってほしいんだ」
「……はっ。ごめんだね。なんであたしがマミの手伝いなんか……。おい、あんた今、マミ達って言ったか?」
「ああ。今あの街にはマミともう一人、最近僕と契約した新しい魔法少女がいる。それと、僕の知らない魔法少女ともう一人のイレギュラーもね」
「あんたが知らない魔法少女ねえ……。んで、もう一人のイレギュラーってのは?」
「マミの同級生の少年だよ」
「は? 今なんっつた? 男ぉ? なんで男が魔法少女に関わってくんのさ?」
「僕にもわからない。彼は何故か僕の姿を視認し、魔女や使い魔の姿も視認することが出来るんだ」
「そんな事があるもんなのかい?」
「いや、こんな事は初めてのケースだよ。その少年はマミ達に協力して魔女と使い魔を退治している」
「ふうん……。あんた、魔法少女になれる少女以外とも契約したんだ?」
「してないよ。彼は純粋に善意だけでマミ達の手伝いをしているようだ」
「はあ? そんなバカがいるのかよ」
「それがいるんだよね。何のメリットもないのに。訳がわからないよ」
「まったくだ。何の得があるんだか」
「それで杏子。手伝ってくれるかな?」
「……そうだね。この辺の魔女も粗方狩りつくしたし……」
キュゥべえに杏子と呼ばれた少女はすっと立ち上がると、キュゥべえに不敵な笑みを見せて言い放った。
「ここらでそろそろ、正義の味方ごっこしていい気になってるバカどもをぶちのめしてやるのも面白そうだ」
65:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:38:03.41:h1jZU67Oo (3/15)
☆
キーンコーンカーンコーン……。
午前中の授業がすべて終了した事を告げるチャイムの音が、校内に鳴り響く。
「それではテスト週間の為、本日の授業はこれで終了です」
まどか達の担任である早乙女先生が、続けて教師が日中は遊んでいる生徒がいないか街を見回りしているので、外で遊んでいて指導されたりしないよう、各自自宅等でしっかり勉強するようにと締めくくった。
「あー、やーっと終わったぁ。まどか、マミさん達のとこ行こ」
さやかが弁当を持って、まどかの所へやってくる。
「うん」
まどかがそう返事を返すと、仁美が二人に話しかけてくる。
「あら? テスト期間は午前中で授業が終わりますのに、おふたりともお弁当を持ってきたんですか?」
「これから3年の先輩達とお昼一緒に食べて、図書室で勉強見てもらうんだ」
「そうなんですの?」
「うん」
さやかの答えを聞いた仁美がまどかの方を見ると、まどかはこくんと頷いてさやかの言葉を肯定する。
「おふたりとも3年生にそんな仲の良い人達がいたんですね」
「んー、まあ最近知り合ったんだけどね」
「そうなんですか。また機会があれば私にも紹介してくださいね」
「うん。仁美ちゃんはこれから、家庭教師の先生が来るんだよね」
「そうなんですの。本当はまどかさんとさやかさんと一緒に勉強したいのですけれど」
「そうだね。仁美はその後も御稽古事があるんでしょ? 大変だね」
「仕方ありませんわ。それではまどかさん、さやかさん。また明日」
「うん。仁美また明日」
「仁美ちゃんばいばい」
仁美が教室を出ていくのを見送ると、まどか達は3年の教室へと向かった。
☆
キーンコーンカーンコーン……。
午前中の授業がすべて終了した事を告げるチャイムの音が、校内に鳴り響く。
「それではテスト週間の為、本日の授業はこれで終了です」
まどか達の担任である早乙女先生が、続けて教師が日中は遊んでいる生徒がいないか街を見回りしているので、外で遊んでいて指導されたりしないよう、各自自宅等でしっかり勉強するようにと締めくくった。
「あー、やーっと終わったぁ。まどか、マミさん達のとこ行こ」
さやかが弁当を持って、まどかの所へやってくる。
「うん」
まどかがそう返事を返すと、仁美が二人に話しかけてくる。
「あら? テスト期間は午前中で授業が終わりますのに、おふたりともお弁当を持ってきたんですか?」
「これから3年の先輩達とお昼一緒に食べて、図書室で勉強見てもらうんだ」
「そうなんですの?」
「うん」
さやかの答えを聞いた仁美がまどかの方を見ると、まどかはこくんと頷いてさやかの言葉を肯定する。
「おふたりとも3年生にそんな仲の良い人達がいたんですね」
「んー、まあ最近知り合ったんだけどね」
「そうなんですか。また機会があれば私にも紹介してくださいね」
「うん。仁美ちゃんはこれから、家庭教師の先生が来るんだよね」
「そうなんですの。本当はまどかさんとさやかさんと一緒に勉強したいのですけれど」
「そうだね。仁美はその後も御稽古事があるんでしょ? 大変だね」
「仕方ありませんわ。それではまどかさん、さやかさん。また明日」
「うん。仁美また明日」
「仁美ちゃんばいばい」
仁美が教室を出ていくのを見送ると、まどか達は3年の教室へと向かった。
66:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:38:32.25:h1jZU67Oo (4/15)
☆
「あれ? あそこにいるのって先輩じゃない?」
教室を出て3年の教室に向かう途中、さやかがまどかの袖を引いて歩みを止めさせて話しかける。
「ほんとだ。隣にいるのって、確か男子の体育の先生だよね」
「先輩、また何か馬鹿な事やって叱られてんのかな」
「さやかちゃん、そんな風に決めつけちゃ先輩に悪いよ」
まどか達の視線の先で、芳文が購買で買ってきたらしいパンとコーヒー牛乳を手に、体育教師に呼び止められていた。
まどか達が見ていると、体育教師が何か話しかけているのを、芳文がのらりくらりとかわしているようだった。
「あら? 鹿目さん、美樹さん、まだ残っていたの?」
不意にまどか達に声をかけてきた人物に、二人は思わずびくっと震えて振り返る。
「あ、先生」
「先生はどうしたんですか?」
「ちょっと教室に忘れ物をしちゃってね。あなた達は?」
「3年の先輩と一緒にお昼を食べてから、図書室で勉強を見てもらうんです」
「そうなの。図書室での勉強はいいけど、下校時間には家に帰りなさいね。……あら? また武田先生、社君を勧誘してる」
「……勧誘?」
「先生、あれって先輩がまた馬鹿やって怒られてるんじゃ?」
「違うわ。武田先生は剣道部の顧問をしてらっしゃるから、社君を部員にしたいのよ。……二人共、社君の事知ってるの?」
「まあ知ってるっていうか、あたしとまどかの友達だし」
「そうだったの。へえ……。鹿目さんに男の子の友達ねえ……。今度お母さんに教えてあげなきゃ」
先生はふふふと含み笑いしながら、まどかを見て言う。
「せ、先生!! 先輩はそういうんじゃありませんから!! ママに変な事吹き込まないでください!!」
「えー? どうしようかしら?」
「うぅー」
友人の娘をからかう女教師と真っ赤になって困った顔をしているまどか。さやかはまどかに助け舟を出しつつ疑問を先生に尋ねる。
「それで先生、先輩が剣道部って?」
「あら、社君の友達ならあなた達の方が詳しいんじゃないかしら」
「いやあ、最近友達になったんで、実はまだ知らない事の方が多いんですよ」
「まあ、社君の友達なら教えてもいいか。彼は昔ね、剣道の天才少年って言われてたの」
「そうなんですか?」
「ええ。小学4年の時に、大人の有段者に勝ったりとかしてたから結構な有名人だったのよ」
「それ初耳。それで先輩、あんな強かったんだ」
「でもね、その後……ちょっと良くない事があって、剣道やめちゃったらしいのよ。私も人から聞いた話だから詳しくはは知らないのだけれど」
「……」
『俺はいらない人間だから』
まどかは魔女の結界に芳文と一緒に閉じ込められた時、芳文の言っていた言葉を思い出す。
「……彼ね、1年の最後にこの学校に転校してくるまでは、すごく荒れていたらしいけれど。……今はそんな風に見えないしね。武田先生は彼をもう一度剣道の道に戻したいらしいわ」
「……先輩が荒れてたって?」
さやかの疑問に先生は頬に手を当てながら答える。
「とてもそんな風には見えないし、そんな悪い子に見えないからただの噂だと思うんだけどね。何でも1年の時に数人の高校生を半殺しにしたとか」
「先輩がそんな事……」
まどかは信じられないという顔で呟くが、魔女や使い魔との戦闘時の動きを見る限り、先生の言った事を実行できるだけの実力はありそうだとも思ってしまう。今の芳文からはとても想像出来ない行為だが。
「まあ私も人から聞いた話だし、本当かかどうかは知らないけどね。なんでもその高校生たちが公園でふざけてて、小さな女の子にケガをさせたのに謝りもしなかったからとか何とか」
『……』
「いやだ。こんな事まであなた達に言う事じゃなかったわ。ごめんなさい。私ったら教師失格ね……」
無言の二人に先生は慌てて謝罪する。
「ごめんなさい。別にあなた達の友人を悪く言ったつもりはないの。今言った事だって……」
「あれ? まどかちゃん、さやかちゃん。これから巴さんの所に行く所?」
いつの間にか芳文がまどか達の元へ向かってきながら話しかけてくる。
「あ……今のはただの噂だから、気にしないでね。それじゃ私行くわね」
ばつが悪そうに先生は歩いてきた芳文と二言ほど話し、去って行った。
☆
「あれ? あそこにいるのって先輩じゃない?」
教室を出て3年の教室に向かう途中、さやかがまどかの袖を引いて歩みを止めさせて話しかける。
「ほんとだ。隣にいるのって、確か男子の体育の先生だよね」
「先輩、また何か馬鹿な事やって叱られてんのかな」
「さやかちゃん、そんな風に決めつけちゃ先輩に悪いよ」
まどか達の視線の先で、芳文が購買で買ってきたらしいパンとコーヒー牛乳を手に、体育教師に呼び止められていた。
まどか達が見ていると、体育教師が何か話しかけているのを、芳文がのらりくらりとかわしているようだった。
「あら? 鹿目さん、美樹さん、まだ残っていたの?」
不意にまどか達に声をかけてきた人物に、二人は思わずびくっと震えて振り返る。
「あ、先生」
「先生はどうしたんですか?」
「ちょっと教室に忘れ物をしちゃってね。あなた達は?」
「3年の先輩と一緒にお昼を食べてから、図書室で勉強を見てもらうんです」
「そうなの。図書室での勉強はいいけど、下校時間には家に帰りなさいね。……あら? また武田先生、社君を勧誘してる」
「……勧誘?」
「先生、あれって先輩がまた馬鹿やって怒られてるんじゃ?」
「違うわ。武田先生は剣道部の顧問をしてらっしゃるから、社君を部員にしたいのよ。……二人共、社君の事知ってるの?」
「まあ知ってるっていうか、あたしとまどかの友達だし」
「そうだったの。へえ……。鹿目さんに男の子の友達ねえ……。今度お母さんに教えてあげなきゃ」
先生はふふふと含み笑いしながら、まどかを見て言う。
「せ、先生!! 先輩はそういうんじゃありませんから!! ママに変な事吹き込まないでください!!」
「えー? どうしようかしら?」
「うぅー」
友人の娘をからかう女教師と真っ赤になって困った顔をしているまどか。さやかはまどかに助け舟を出しつつ疑問を先生に尋ねる。
「それで先生、先輩が剣道部って?」
「あら、社君の友達ならあなた達の方が詳しいんじゃないかしら」
「いやあ、最近友達になったんで、実はまだ知らない事の方が多いんですよ」
「まあ、社君の友達なら教えてもいいか。彼は昔ね、剣道の天才少年って言われてたの」
「そうなんですか?」
「ええ。小学4年の時に、大人の有段者に勝ったりとかしてたから結構な有名人だったのよ」
「それ初耳。それで先輩、あんな強かったんだ」
「でもね、その後……ちょっと良くない事があって、剣道やめちゃったらしいのよ。私も人から聞いた話だから詳しくはは知らないのだけれど」
「……」
『俺はいらない人間だから』
まどかは魔女の結界に芳文と一緒に閉じ込められた時、芳文の言っていた言葉を思い出す。
「……彼ね、1年の最後にこの学校に転校してくるまでは、すごく荒れていたらしいけれど。……今はそんな風に見えないしね。武田先生は彼をもう一度剣道の道に戻したいらしいわ」
「……先輩が荒れてたって?」
さやかの疑問に先生は頬に手を当てながら答える。
「とてもそんな風には見えないし、そんな悪い子に見えないからただの噂だと思うんだけどね。何でも1年の時に数人の高校生を半殺しにしたとか」
「先輩がそんな事……」
まどかは信じられないという顔で呟くが、魔女や使い魔との戦闘時の動きを見る限り、先生の言った事を実行できるだけの実力はありそうだとも思ってしまう。今の芳文からはとても想像出来ない行為だが。
「まあ私も人から聞いた話だし、本当かかどうかは知らないけどね。なんでもその高校生たちが公園でふざけてて、小さな女の子にケガをさせたのに謝りもしなかったからとか何とか」
『……』
「いやだ。こんな事まであなた達に言う事じゃなかったわ。ごめんなさい。私ったら教師失格ね……」
無言の二人に先生は慌てて謝罪する。
「ごめんなさい。別にあなた達の友人を悪く言ったつもりはないの。今言った事だって……」
「あれ? まどかちゃん、さやかちゃん。これから巴さんの所に行く所?」
いつの間にか芳文がまどか達の元へ向かってきながら話しかけてくる。
「あ……今のはただの噂だから、気にしないでね。それじゃ私行くわね」
ばつが悪そうに先生は歩いてきた芳文と二言ほど話し、去って行った。
67:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:39:27.94:h1jZU67Oo (5/15)
☆
校舎の屋上に登り暖かい日差しの下、四人で昼食を済ませてから、マミが今後の予定を切り出した。
「昨日の夜に言ったように、昼間は見回りの先生達が街を見回っているから、テスト期間中の魔女探しは夕方からにしましょう」
「はい、マミさん」
「あー。テスト勉強なんてかったるいなぁ……」
「勉強は学生の本分。日中は勉強しないとね」
芳文のその言葉に、さやかは真剣な表情で言い切る。
「先輩が勉強なんて、すっごく似合わない」
「ひでえ!! お兄さんこれでも意外と勉強出来るんだよ!! 少なくとも、さやかちゃんやまどかちゃんに2年の勉強教えてあげられるくらいには!!」
「なーんか嘘くさいなあ。赤点ギリギリ回避とかなら、勉強が出来るとは言わないんだよ?」
「ひ、ひどい……。さやかちゃんの中で、俺はどこまで馬鹿扱いされてるんだろう……」
「だってねえ……。普段が普段だし」
さやかがちらりとマミを見ると、マミはさやかに頷いてさやかを肯定する。
「そうねぇ」
「巴さんまで!? 畜生……。誰からも期待されないなんて……。くそっ!! なんて時代だ!!」
勝手に溢れてくる涙を手で拭きながら、芳文は嘆く。
「あ、あの、先輩……」
誰にも期待されていない自分に涙している芳文に、まどかがおずおずと話しかける。
「……何かな」
「その……もし良かったら、私の勉強……見てもらえますか?」
「あ、あぁぁぁ……」
芳文にはまどかの姿が後光の射す天使に見えた。
「もちろんだよ!! お兄さんに任せなさい!!」
まどかの手を両手で優しく包み何度も頷く。
「駄目だよまどか!!」
さやかが慌ててまどかの肩を引いて、自分の方へ振り向かせる。
「まどか、あんたは優しすぎる!! あたしは親友として、あんたがわざわざ成績落とすのを見て見ぬふりなんて出来ないっ!!」
「さ、さやかちゃん……」
「同情じゃいい点取れないんだよ!? 今ならまだ間に合う!! あたしと一緒にマミさんに勉強教えてもらおう!!」
まどかの両肩をがっしりと掴みながら、さやかは真剣な表情でまどかを説得する。
「ふ……はははははは……っ!!」
突然、芳文が笑い出す。さやか達がぎょっとなって振り返ると、芳文が泣きながら叫んだ。
「そこまで言われて黙ってられるかあ!! 俺の本気を見せてやる!! 巴さん、勝負だ!!」
芳文はビシィっと、マミに人差し指を突き付けて宣言する。
「俺はまどかちゃんに勉強を教えて、全教科さやかちゃんよりいい点を取らせてみせる!!」
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
芳文の突然の宣言に巻き込まれ、まどかが素っ頓狂な声を上げる。
「一教科でもさやかちゃんがまどかちゃんよりいい点を取ったら、そっちの勝ち!! まどかちゃんが全教科さやかちゃんよりいい点を取ったらこっちの勝ちだ!!」
「……それだと、あなたと鹿目さんの方が不利なんじゃないかしら」
「ハンデだよ、ハンデ。まどかちゃんの方が生徒として優秀そうだしぃー♪」
マミの疑問に両手を頭の後ろで組みながら、芳文は口笛を吹きつつ答える。
「そんな……。私、得意科目とかほとんどないのに……」
「……なめんじゃないわよ!! 全教科総合得点とかならともかく、いくらなんでも1教科すら勝てないわけあるもんか!!」
「ほうほう、すごい自信だなー。それじゃ、もしこっちが負けたらこの前行った駅前の店で、君達に好きなだけケーキと紅茶を奢ってあげよう」
「そっちが勝ったら?」
「別に何もしなくていいよん。どうせまどかちゃんが勝つのは確定事項だしぃ。あ、まどかちゃんにはご褒美として何でも好きな物ご馳走しちゃうからね」
既に勝った気でいる芳文の態度にさやかがブチ切れる。
「上等じゃん!! ハンデなんて馬鹿な事言い出した事後悔させてやるから!!」
「ふふん。後で吠え面かかないようにね」
「ど、どうしてこうなるの……」
「はあ……。しょうがない人達ね……」
まどかの嘆きとマミのため息をよそに、さやかと芳文は互いに火花を散らせるのだった……。
☆
校舎の屋上に登り暖かい日差しの下、四人で昼食を済ませてから、マミが今後の予定を切り出した。
「昨日の夜に言ったように、昼間は見回りの先生達が街を見回っているから、テスト期間中の魔女探しは夕方からにしましょう」
「はい、マミさん」
「あー。テスト勉強なんてかったるいなぁ……」
「勉強は学生の本分。日中は勉強しないとね」
芳文のその言葉に、さやかは真剣な表情で言い切る。
「先輩が勉強なんて、すっごく似合わない」
「ひでえ!! お兄さんこれでも意外と勉強出来るんだよ!! 少なくとも、さやかちゃんやまどかちゃんに2年の勉強教えてあげられるくらいには!!」
「なーんか嘘くさいなあ。赤点ギリギリ回避とかなら、勉強が出来るとは言わないんだよ?」
「ひ、ひどい……。さやかちゃんの中で、俺はどこまで馬鹿扱いされてるんだろう……」
「だってねえ……。普段が普段だし」
さやかがちらりとマミを見ると、マミはさやかに頷いてさやかを肯定する。
「そうねぇ」
「巴さんまで!? 畜生……。誰からも期待されないなんて……。くそっ!! なんて時代だ!!」
勝手に溢れてくる涙を手で拭きながら、芳文は嘆く。
「あ、あの、先輩……」
誰にも期待されていない自分に涙している芳文に、まどかがおずおずと話しかける。
「……何かな」
「その……もし良かったら、私の勉強……見てもらえますか?」
「あ、あぁぁぁ……」
芳文にはまどかの姿が後光の射す天使に見えた。
「もちろんだよ!! お兄さんに任せなさい!!」
まどかの手を両手で優しく包み何度も頷く。
「駄目だよまどか!!」
さやかが慌ててまどかの肩を引いて、自分の方へ振り向かせる。
「まどか、あんたは優しすぎる!! あたしは親友として、あんたがわざわざ成績落とすのを見て見ぬふりなんて出来ないっ!!」
「さ、さやかちゃん……」
「同情じゃいい点取れないんだよ!? 今ならまだ間に合う!! あたしと一緒にマミさんに勉強教えてもらおう!!」
まどかの両肩をがっしりと掴みながら、さやかは真剣な表情でまどかを説得する。
「ふ……はははははは……っ!!」
突然、芳文が笑い出す。さやか達がぎょっとなって振り返ると、芳文が泣きながら叫んだ。
「そこまで言われて黙ってられるかあ!! 俺の本気を見せてやる!! 巴さん、勝負だ!!」
芳文はビシィっと、マミに人差し指を突き付けて宣言する。
「俺はまどかちゃんに勉強を教えて、全教科さやかちゃんよりいい点を取らせてみせる!!」
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
芳文の突然の宣言に巻き込まれ、まどかが素っ頓狂な声を上げる。
「一教科でもさやかちゃんがまどかちゃんよりいい点を取ったら、そっちの勝ち!! まどかちゃんが全教科さやかちゃんよりいい点を取ったらこっちの勝ちだ!!」
「……それだと、あなたと鹿目さんの方が不利なんじゃないかしら」
「ハンデだよ、ハンデ。まどかちゃんの方が生徒として優秀そうだしぃー♪」
マミの疑問に両手を頭の後ろで組みながら、芳文は口笛を吹きつつ答える。
「そんな……。私、得意科目とかほとんどないのに……」
「……なめんじゃないわよ!! 全教科総合得点とかならともかく、いくらなんでも1教科すら勝てないわけあるもんか!!」
「ほうほう、すごい自信だなー。それじゃ、もしこっちが負けたらこの前行った駅前の店で、君達に好きなだけケーキと紅茶を奢ってあげよう」
「そっちが勝ったら?」
「別に何もしなくていいよん。どうせまどかちゃんが勝つのは確定事項だしぃ。あ、まどかちゃんにはご褒美として何でも好きな物ご馳走しちゃうからね」
既に勝った気でいる芳文の態度にさやかがブチ切れる。
「上等じゃん!! ハンデなんて馬鹿な事言い出した事後悔させてやるから!!」
「ふふん。後で吠え面かかないようにね」
「ど、どうしてこうなるの……」
「はあ……。しょうがない人達ね……」
まどかの嘆きとマミのため息をよそに、さやかと芳文は互いに火花を散らせるのだった……。
68:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:39:55.75:h1jZU67Oo (6/15)
☆
四人が図書室にやってくると、既に何人かの生徒達が席を陣取って勉強していた。
「あそこが開いてるわね」
二人ずつ対面する格好で座れる席が丁度空いていた。
最初に座ったマミの隣にさやかが、さやかの前にまどかが、まどかの隣に芳文が座る。
「それじゃ、始めましょうか」
静かにマミがそう言うと、三人はこくんと頷いた。
「まどかちゃん、明日のテストは何をするの?」
「数学と科学と国語です」
「ふむ。範囲は?」
「ここからここまでです」
「なるほど。それじゃ、数学からやってみようか」
「はい」
芳文はまどかの説明を聞くと、真面目な顔で言う。
「わからない所があれば聞いてね」
「はい」
まどかが問題集を解き始めると、芳文は科学の教科書を出して自分の問題を解き始めた。
「うーん……」
どうしてもわからない問題にひっかかり、シャーペンをノートに走らせるのが止まる。
「どこ?」
ひょいと隣の席から身を乗り出して、芳文が尋ねる。
「あ……」
芳文の体が顔の近くにきて、まどかは思わず声を出してしまう。
「ああ、これか。ここはね……」
芳文が非常にわかりやすく丁寧にまどかに公式と解き方を解説する。
「わかったかな?」
「は、はい。大丈夫です」
「そっか。それじゃもう少し先の範囲もやってみよう」
いつもの馬鹿な態度と全然違う芳文に、まどかは思わずドキリとしてしまう。芳文はそんなまどかの様子に気づく事もなく、解説を続けるのだった。
「……じゃあ、答え合わせしてみようか」
それからもまどかが途中何度か詰まっていると、芳文はすかさず解き方を教えていく。驚くほど的確でわかりやすい教え方のおかげで、まどかは順調に問題集を解いていった。
「……うん。オーケーだ。それじゃ、おさらいしてみようか」
そう言って、芳文はまどかが問題集を解いてる間に、教科書の範囲の中からさらさらと問題を抜き出して、一枚のテスト用紙として作成しておいた物をまどかの前に置く。
「数学の先生は竹原先生だったよね。去年出された問題の大体の傾向から作ってみた。これ解いてみて」
「わかりました」
まどかは芳文の出した問題を驚くほどスムーズに解いていく。
「出来ました」
「ん……」
芳文は採点チェックを済ませると、まどかにアドバイスする。
「合格。これなら大丈夫。後は家で引っかかった所を復習して。次は科学をやろうか」
「はい。お願いします」
それからもまどかと芳文はどんどん問題集を進めていった。
『……』
そんな光景の中、信じられない物を見たという顔で、さやかとマミが絶句していた。
☆
四人が図書室にやってくると、既に何人かの生徒達が席を陣取って勉強していた。
「あそこが開いてるわね」
二人ずつ対面する格好で座れる席が丁度空いていた。
最初に座ったマミの隣にさやかが、さやかの前にまどかが、まどかの隣に芳文が座る。
「それじゃ、始めましょうか」
静かにマミがそう言うと、三人はこくんと頷いた。
「まどかちゃん、明日のテストは何をするの?」
「数学と科学と国語です」
「ふむ。範囲は?」
「ここからここまでです」
「なるほど。それじゃ、数学からやってみようか」
「はい」
芳文はまどかの説明を聞くと、真面目な顔で言う。
「わからない所があれば聞いてね」
「はい」
まどかが問題集を解き始めると、芳文は科学の教科書を出して自分の問題を解き始めた。
「うーん……」
どうしてもわからない問題にひっかかり、シャーペンをノートに走らせるのが止まる。
「どこ?」
ひょいと隣の席から身を乗り出して、芳文が尋ねる。
「あ……」
芳文の体が顔の近くにきて、まどかは思わず声を出してしまう。
「ああ、これか。ここはね……」
芳文が非常にわかりやすく丁寧にまどかに公式と解き方を解説する。
「わかったかな?」
「は、はい。大丈夫です」
「そっか。それじゃもう少し先の範囲もやってみよう」
いつもの馬鹿な態度と全然違う芳文に、まどかは思わずドキリとしてしまう。芳文はそんなまどかの様子に気づく事もなく、解説を続けるのだった。
「……じゃあ、答え合わせしてみようか」
それからもまどかが途中何度か詰まっていると、芳文はすかさず解き方を教えていく。驚くほど的確でわかりやすい教え方のおかげで、まどかは順調に問題集を解いていった。
「……うん。オーケーだ。それじゃ、おさらいしてみようか」
そう言って、芳文はまどかが問題集を解いてる間に、教科書の範囲の中からさらさらと問題を抜き出して、一枚のテスト用紙として作成しておいた物をまどかの前に置く。
「数学の先生は竹原先生だったよね。去年出された問題の大体の傾向から作ってみた。これ解いてみて」
「わかりました」
まどかは芳文の出した問題を驚くほどスムーズに解いていく。
「出来ました」
「ん……」
芳文は採点チェックを済ませると、まどかにアドバイスする。
「合格。これなら大丈夫。後は家で引っかかった所を復習して。次は科学をやろうか」
「はい。お願いします」
それからもまどかと芳文はどんどん問題集を進めていった。
『……』
そんな光景の中、信じられない物を見たという顔で、さやかとマミが絶句していた。
69:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:40:22.68:h1jZU67Oo (7/15)
☆
――その日の夜。
パトロール中に発見した、無人の駅構内にある魔女の結界の中へ、まどか達四人は突入していた。
そこは、セーラー服が吊るされたロープが複数張られた、青空の広がる世界だった。
「うわわわわっ!!」
ロープしか足場のない結界内で、魔法少女でないさやかは必死に落下しないようにロープにしがみついている。
「さやかちゃん、じっとしてて!!」
さやかのすぐ側で、ロープの上に立っているまどかが魔女の元へと走るマミと芳文をフォローすべく、弓を片手に成り行きを見守る。
「社君、落ちないように気を付けて!!」
「わかってる!!」
マスケット銃を二丁両手に持ったマミが、不安定なロープの上を走りながら、マギカ・ブレードを両手で構えながら隣のロープの上を走る芳文に叫ぶ。
芳文の靴にはマミのかけた魔法で、ロープにまるで磁石のように張り付くようになっている。
「巴さん来るぞ!!」
足の代わりにもう二本の両腕を生やした、首のない巨大なセーラー服姿の女子学生の姿をした魔女のスカートの中から、鋭利な刃の付いているスケート靴を履いた女子学生の下半身が大量にマミ達に向かってくる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
マミよりも数メートル上の位置にいる芳文が、マミの丁度上空で立ち止まり、次々と飛来してくる使い魔達をマミの元へ辿り着く前に斬り捨てていく。
芳文の攻撃をサポートすべく、マミはマスケット銃を撃っては捨てて新しい銃を顕現させを繰り返す。
「チッ!! キリがない!!」
芳文は使い魔を斬り捨てながら吐き捨てる。
魔女のスカートからは、何度芳文とマミが斬り捨てて、撃ち抜いても、無尽蔵に生み出されて襲い掛かってくる。
「これじゃ、ティロ・フィナーレを撃っても、魔女に届く前に威力が殺されてしまうわ!!」
マミも思わず愚痴を吐いてしまう。
このままではジリ貧だ。
「先輩!! マミさん!!」
まどかが分裂する矢を放って二人をサポートする。複数の矢が使い魔を消滅させて、その内一本の矢が魔女へと迫る。
だが、その矢も魔女に辿りつく前に、新たに生み出されて飛び出してきた使い魔に当たり、魔女へと届かない。
「あっ!? ……このぉっ!!」
まどかは再び分裂する矢を放つが、先ほどと同じように新しく生まれてくる使い魔に阻まれて、魔女へと矢が届かない。
☆
――その日の夜。
パトロール中に発見した、無人の駅構内にある魔女の結界の中へ、まどか達四人は突入していた。
そこは、セーラー服が吊るされたロープが複数張られた、青空の広がる世界だった。
「うわわわわっ!!」
ロープしか足場のない結界内で、魔法少女でないさやかは必死に落下しないようにロープにしがみついている。
「さやかちゃん、じっとしてて!!」
さやかのすぐ側で、ロープの上に立っているまどかが魔女の元へと走るマミと芳文をフォローすべく、弓を片手に成り行きを見守る。
「社君、落ちないように気を付けて!!」
「わかってる!!」
マスケット銃を二丁両手に持ったマミが、不安定なロープの上を走りながら、マギカ・ブレードを両手で構えながら隣のロープの上を走る芳文に叫ぶ。
芳文の靴にはマミのかけた魔法で、ロープにまるで磁石のように張り付くようになっている。
「巴さん来るぞ!!」
足の代わりにもう二本の両腕を生やした、首のない巨大なセーラー服姿の女子学生の姿をした魔女のスカートの中から、鋭利な刃の付いているスケート靴を履いた女子学生の下半身が大量にマミ達に向かってくる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
マミよりも数メートル上の位置にいる芳文が、マミの丁度上空で立ち止まり、次々と飛来してくる使い魔達をマミの元へ辿り着く前に斬り捨てていく。
芳文の攻撃をサポートすべく、マミはマスケット銃を撃っては捨てて新しい銃を顕現させを繰り返す。
「チッ!! キリがない!!」
芳文は使い魔を斬り捨てながら吐き捨てる。
魔女のスカートからは、何度芳文とマミが斬り捨てて、撃ち抜いても、無尽蔵に生み出されて襲い掛かってくる。
「これじゃ、ティロ・フィナーレを撃っても、魔女に届く前に威力が殺されてしまうわ!!」
マミも思わず愚痴を吐いてしまう。
このままではジリ貧だ。
「先輩!! マミさん!!」
まどかが分裂する矢を放って二人をサポートする。複数の矢が使い魔を消滅させて、その内一本の矢が魔女へと迫る。
だが、その矢も魔女に辿りつく前に、新たに生み出されて飛び出してきた使い魔に当たり、魔女へと届かない。
「あっ!? ……このぉっ!!」
まどかは再び分裂する矢を放つが、先ほどと同じように新しく生まれてくる使い魔に阻まれて、魔女へと矢が届かない。
70:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:41:04.24:h1jZU67Oo (8/15)
☆
「……おかしい。あの魔女はここまでの力はなかったはず」
結界の外から、ほむらはまどか達の戦いを見て一人呟く。
「……助けに行くしかないか。……こんな所で魔力を無駄遣いしたくはないけれど」
そう呟いて魔法少女の姿へと変身し、結界の中に突入しようとしたその時、不意に背後に現れた気配に気づきほむらは振り返った。
「……へえ。あたしの気配に気づくとはね」
「……佐倉杏子」
ほむらの振り返ったその先には、燃えるような赤い髪のポニーテールの少女が立っていた。
「あんた、どこかであったか? なぜあたしの名前を知っている?」
初対面のはずのほむらに自分の名前を呼ばれ、杏子は魔法少女の姿へと変身し、いつでも攻撃出来るように得物である槍を構える。
「あなたと争うつもりはないわ」
ほむらはそう言って変身を解く。
「……」
杏子はしばらく槍を構えていたが、はあと一息ついて変身を解く。
「あんたがキュゥべえが言っていたイレギュラーか。そして、あと一人は……あいつか」
結界の中を見て杏子がそう言うと、ほむらは踵を返す。
「なんだ。助けに行かないのかい?」
「向こうは魔法少女が二人いる。私の助けは必要ないわ」
「……ふん。あたしに手の内は見せないって訳か」
「……」
「まあいいや。あんたを片づけるのは後だ」
「……あなたは何をしにこの街にやってきたのかしら?」
「自分のテリトリーの魔女を狩りつくしたからに決まってるっしょ」
「……」
「ついでに、正義の味方ごっこをしていい気になってるいけ好かない馬鹿どもをぶっ潰す。ただそれだけさ」
「……そう」
ほむらは杏子の言葉にそう返すと、そのまま去っていく。
「待ちな」
杏子の言葉にほむらは振り返りもせず立ち止まる。
「あんたはあいつらの仲間じゃないのか?」
ほむらは髪をかき上げながら振り返り、杏子に言い放った。
「――違うわ。私は無駄な争いをしようとする馬鹿の敵。ただそれだけよ。あなたはどっちかしら」
感情の籠らない目で杏子を見つめながら、ほむらはそれだけ告げて去って行った。
「――ふん」
☆
「……おかしい。あの魔女はここまでの力はなかったはず」
結界の外から、ほむらはまどか達の戦いを見て一人呟く。
「……助けに行くしかないか。……こんな所で魔力を無駄遣いしたくはないけれど」
そう呟いて魔法少女の姿へと変身し、結界の中に突入しようとしたその時、不意に背後に現れた気配に気づきほむらは振り返った。
「……へえ。あたしの気配に気づくとはね」
「……佐倉杏子」
ほむらの振り返ったその先には、燃えるような赤い髪のポニーテールの少女が立っていた。
「あんた、どこかであったか? なぜあたしの名前を知っている?」
初対面のはずのほむらに自分の名前を呼ばれ、杏子は魔法少女の姿へと変身し、いつでも攻撃出来るように得物である槍を構える。
「あなたと争うつもりはないわ」
ほむらはそう言って変身を解く。
「……」
杏子はしばらく槍を構えていたが、はあと一息ついて変身を解く。
「あんたがキュゥべえが言っていたイレギュラーか。そして、あと一人は……あいつか」
結界の中を見て杏子がそう言うと、ほむらは踵を返す。
「なんだ。助けに行かないのかい?」
「向こうは魔法少女が二人いる。私の助けは必要ないわ」
「……ふん。あたしに手の内は見せないって訳か」
「……」
「まあいいや。あんたを片づけるのは後だ」
「……あなたは何をしにこの街にやってきたのかしら?」
「自分のテリトリーの魔女を狩りつくしたからに決まってるっしょ」
「……」
「ついでに、正義の味方ごっこをしていい気になってるいけ好かない馬鹿どもをぶっ潰す。ただそれだけさ」
「……そう」
ほむらは杏子の言葉にそう返すと、そのまま去っていく。
「待ちな」
杏子の言葉にほむらは振り返りもせず立ち止まる。
「あんたはあいつらの仲間じゃないのか?」
ほむらは髪をかき上げながら振り返り、杏子に言い放った。
「――違うわ。私は無駄な争いをしようとする馬鹿の敵。ただそれだけよ。あなたはどっちかしら」
感情の籠らない目で杏子を見つめながら、ほむらはそれだけ告げて去って行った。
「――ふん」
71:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:41:33.18:h1jZU67Oo (9/15)
☆
「先輩!! マミさん!!」
結界の外での出来事など知る由もないまどか達は、魔女に苦戦していた。
魔女の猛攻は止む事がなく、芳文とマミを襲う。
「くっ!!」
「このぉっ!!」
やがて、芳文の斬撃とマミの銃撃の隙を付いて、使い魔達の攻撃が二人に届き始める。
芳文とマミは肘打ちや蹴りを駆使しつつ、使い魔達の攻撃を捌くがどんどん追い詰められていく。
「先輩!! マミさん!!」
まどかは咄嗟に両手を魔女に向ける。
ガキィィィィィィィィンッ!!
淡いピンク色に輝く光の壁が、魔女の上下前後左右に展開され、一瞬で魔女を囲む。
四角い箱状になった淡いピンク色のシールドが、魔女を閉じ込めてしまった。
まどかの箱状シールドは、マミ達に向かおうとする使い魔を消滅させ、逃げようと暴れてシールドに触れた魔女にダメージを与える。
「巴さん!! 今だ!!」
「ええ!! ティロ・フィナーレ!!」
マミの放った巨大マスケット銃による砲撃が魔女に迫る。
「やったあ!!」
さやかが勝利を確信して叫ぶ。
ガキイィィィィィィィンッ!!
だが、マミの砲撃はまどかのシールドに当たった瞬間、鈍い音を立てて霧散してしまう。
「あっ!! ご、ごめんなさい!!」
まどかは初めて使用した拘束シールドを消すタイミングを間違えてしまった。
「鹿目さん!! もう一度よ!!」
マミはまどかの失敗を咎める事無く、もう一度同じ攻撃をしようとまどかを叱咤する。
「は、はい!!」
(まどかちゃんのシールドは味方の攻撃も弾くのか。いや、待てよ……。この剣は、あのシールドと同じまどかちゃんの魔力で出来てるんだから……)
「二人とも待って!! まどかちゃんはそのまま魔女を拘束してて!!」
芳文はそう叫ぶとマギカ・ブレードを構えたまま、走り出し別のロープに飛び移っていく。そして魔女の側にまで辿り着くと、魔女目掛けてマギカ・ブレードを投げつけた。
ヒュンッ!!
投擲されたマギカ・ブレードはまどかのシールドをすり抜けて、使い魔を生み続けている魔女の腹部に深々と突き刺さる。
マギカ・ブレードの刀身から放出される破壊エネルギーが、魔女を体内から崩壊させ始める。
魔女は新しい使い魔を生みだせなくなり、シールドの中でのた打ち回りながら、マギカ・ブレードによる破壊エネルギーでじわじわと内部からその巨体を崩壊させていき遂に消滅した。
シュゥゥゥゥゥゥン……。
魔女の消滅と共に結界が消滅する。
☆
「先輩!! マミさん!!」
結界の外での出来事など知る由もないまどか達は、魔女に苦戦していた。
魔女の猛攻は止む事がなく、芳文とマミを襲う。
「くっ!!」
「このぉっ!!」
やがて、芳文の斬撃とマミの銃撃の隙を付いて、使い魔達の攻撃が二人に届き始める。
芳文とマミは肘打ちや蹴りを駆使しつつ、使い魔達の攻撃を捌くがどんどん追い詰められていく。
「先輩!! マミさん!!」
まどかは咄嗟に両手を魔女に向ける。
ガキィィィィィィィィンッ!!
淡いピンク色に輝く光の壁が、魔女の上下前後左右に展開され、一瞬で魔女を囲む。
四角い箱状になった淡いピンク色のシールドが、魔女を閉じ込めてしまった。
まどかの箱状シールドは、マミ達に向かおうとする使い魔を消滅させ、逃げようと暴れてシールドに触れた魔女にダメージを与える。
「巴さん!! 今だ!!」
「ええ!! ティロ・フィナーレ!!」
マミの放った巨大マスケット銃による砲撃が魔女に迫る。
「やったあ!!」
さやかが勝利を確信して叫ぶ。
ガキイィィィィィィィンッ!!
だが、マミの砲撃はまどかのシールドに当たった瞬間、鈍い音を立てて霧散してしまう。
「あっ!! ご、ごめんなさい!!」
まどかは初めて使用した拘束シールドを消すタイミングを間違えてしまった。
「鹿目さん!! もう一度よ!!」
マミはまどかの失敗を咎める事無く、もう一度同じ攻撃をしようとまどかを叱咤する。
「は、はい!!」
(まどかちゃんのシールドは味方の攻撃も弾くのか。いや、待てよ……。この剣は、あのシールドと同じまどかちゃんの魔力で出来てるんだから……)
「二人とも待って!! まどかちゃんはそのまま魔女を拘束してて!!」
芳文はそう叫ぶとマギカ・ブレードを構えたまま、走り出し別のロープに飛び移っていく。そして魔女の側にまで辿り着くと、魔女目掛けてマギカ・ブレードを投げつけた。
ヒュンッ!!
投擲されたマギカ・ブレードはまどかのシールドをすり抜けて、使い魔を生み続けている魔女の腹部に深々と突き刺さる。
マギカ・ブレードの刀身から放出される破壊エネルギーが、魔女を体内から崩壊させ始める。
魔女は新しい使い魔を生みだせなくなり、シールドの中でのた打ち回りながら、マギカ・ブレードによる破壊エネルギーでじわじわと内部からその巨体を崩壊させていき遂に消滅した。
シュゥゥゥゥゥゥン……。
魔女の消滅と共に結界が消滅する。
72:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:42:37.20:h1jZU67Oo (10/15)
「……やれやれ、どうにか終わったか」
しがみついていたロープが消え去り、地面に落ちそうになったさやかを、マミが魔法のリボンで助けるのを見ながら芳文はズンっと音を立てて着地しながら呟いた。
地面に落ちてきたグリーフシードを回収して、まどか達の元へと向かう。
「二人とも、お疲れ様。魔力を結構使ったみたいだけど大丈夫?」
芳文がマミにグリーフシードを手渡して尋ねると、マミとまどかは変身を解いてそれぞれのソウルジェムを見る。
「私のはもうそろそろ限界かもしれないわ」
「私のはまだ大丈夫そうです」
マミのソウルジェムはかなり濁っていた。まどかのソウルジェムは隅の方がほんの少しだけ濁っている。
「とりあえず、二人とも今手に入れたグリーフシードを使った方がいいんじゃない?」
「そうね。鹿目さん、二人で使いましょう」
「はい、マミさん」
マミとまどかはグリーフシードにそれぞれのソウルジェムの穢れを移す。
「このグリーフシードはもう使えないわね。これ以上穢れを吸わせると新しい魔女が孵化するかもしれないわ」
まどかが使い終わったグリーフシードを見て、マミがそう言うと芳文は慌ててまどかの手からグリーフシードをひったくる。
「大変だ!! まどかちゃんマギカ・ブレード出して!!」
「は、はい!!」
芳文の剣幕にまどかは慌てて変身するとマギカ・ブレードを生成し手渡す。
芳文がグリーフシードを放り投げて、マギカ・ブレードを一閃させると、パアアアアアアアンッという音を立て、空中で真っ二つに斬られたグリーフシードが粉々に砕け散って消滅した。
「別に壊さなくても、キュゥべえに渡せば始末してくれたのに」
芳文とまどかの慌てた様子に、クスクスと笑いながらマミがそう言うと、芳文は驚いた顔で聞き返す。
「え? いつも淫獣が始末するの?」
「ええ」
「……そっか。まどかちゃんに剣作ってもらった分無駄だったかな。ごめん、まどかちゃん。無駄な魔力使わせちゃって」
「大丈夫です。気にしないでください。いつも先輩が手伝ってくれるおかげで、私もマミさんも魔力の消費を抑えられるんですし」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「ところでさあ、さっきマミさんの攻撃はまどかのシールドに弾かれたのに、なんで先輩の攻撃は通じたの?」
三人の戦いをじっと見守っていたさやかが、疑問を口にする。
「簡単だよ。マギカ・ブレードはまどかちゃんが作った物だよ。そして魔女を拘束していたシールドもまどかちゃんの作った物。同じ力で出来てる物同士なら弾かれないかなって思って試してみたんだ」
「なるほど。それで魔女を倒せたって訳ね」
「そういう事になるかな。まあマギカ・ブレードがシールドを果たしてすり抜けるかどうか、それともシールドごと破壊するのかに賭けた……っていうか、実験だったけどね」
「結果は、マギカ・ブレードは私のシールドをすり抜けるって事だったんですね」
「そうなるね。それに、今後の戦いに有効に使えるかもしれないヒントが見つかったしね」
「え?」
「例えば、まどかちゃんが今回初めて使ったシールドを使ったあの拘束魔法……。いや、封印魔法かな。あれで魔女を完全に封印して俺がマギカ・ブレードで叩き斬るとか。まあ、俺とまどかちゃんの必殺技かな」
「私と先輩の必殺技……」
「まあ今回の相手みたいにでかすぎる相手とか、空中の相手とかに使うには何らかの改良を加えないといけないけど。戦略バリエーションの一環として使わない手はないと思うよ」
「そうね。後は私がティロ・フィナーレを撃つ瞬間に前方のシールドだけ解除するとか、色々使い方はありそうだし」
「……私、もっと頑張ってマミさんと先輩のサポートを出来るように、封印魔法を頑張って使いこなせるようになりますね」
「俺もまどかちゃんと巴さんの負担を少しでも減らせるように頑張るよ」
「はいっ」
芳文のその言葉にまどかは笑顔で頷くのだった。
「……やれやれ、どうにか終わったか」
しがみついていたロープが消え去り、地面に落ちそうになったさやかを、マミが魔法のリボンで助けるのを見ながら芳文はズンっと音を立てて着地しながら呟いた。
地面に落ちてきたグリーフシードを回収して、まどか達の元へと向かう。
「二人とも、お疲れ様。魔力を結構使ったみたいだけど大丈夫?」
芳文がマミにグリーフシードを手渡して尋ねると、マミとまどかは変身を解いてそれぞれのソウルジェムを見る。
「私のはもうそろそろ限界かもしれないわ」
「私のはまだ大丈夫そうです」
マミのソウルジェムはかなり濁っていた。まどかのソウルジェムは隅の方がほんの少しだけ濁っている。
「とりあえず、二人とも今手に入れたグリーフシードを使った方がいいんじゃない?」
「そうね。鹿目さん、二人で使いましょう」
「はい、マミさん」
マミとまどかはグリーフシードにそれぞれのソウルジェムの穢れを移す。
「このグリーフシードはもう使えないわね。これ以上穢れを吸わせると新しい魔女が孵化するかもしれないわ」
まどかが使い終わったグリーフシードを見て、マミがそう言うと芳文は慌ててまどかの手からグリーフシードをひったくる。
「大変だ!! まどかちゃんマギカ・ブレード出して!!」
「は、はい!!」
芳文の剣幕にまどかは慌てて変身するとマギカ・ブレードを生成し手渡す。
芳文がグリーフシードを放り投げて、マギカ・ブレードを一閃させると、パアアアアアアアンッという音を立て、空中で真っ二つに斬られたグリーフシードが粉々に砕け散って消滅した。
「別に壊さなくても、キュゥべえに渡せば始末してくれたのに」
芳文とまどかの慌てた様子に、クスクスと笑いながらマミがそう言うと、芳文は驚いた顔で聞き返す。
「え? いつも淫獣が始末するの?」
「ええ」
「……そっか。まどかちゃんに剣作ってもらった分無駄だったかな。ごめん、まどかちゃん。無駄な魔力使わせちゃって」
「大丈夫です。気にしないでください。いつも先輩が手伝ってくれるおかげで、私もマミさんも魔力の消費を抑えられるんですし」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「ところでさあ、さっきマミさんの攻撃はまどかのシールドに弾かれたのに、なんで先輩の攻撃は通じたの?」
三人の戦いをじっと見守っていたさやかが、疑問を口にする。
「簡単だよ。マギカ・ブレードはまどかちゃんが作った物だよ。そして魔女を拘束していたシールドもまどかちゃんの作った物。同じ力で出来てる物同士なら弾かれないかなって思って試してみたんだ」
「なるほど。それで魔女を倒せたって訳ね」
「そういう事になるかな。まあマギカ・ブレードがシールドを果たしてすり抜けるかどうか、それともシールドごと破壊するのかに賭けた……っていうか、実験だったけどね」
「結果は、マギカ・ブレードは私のシールドをすり抜けるって事だったんですね」
「そうなるね。それに、今後の戦いに有効に使えるかもしれないヒントが見つかったしね」
「え?」
「例えば、まどかちゃんが今回初めて使ったシールドを使ったあの拘束魔法……。いや、封印魔法かな。あれで魔女を完全に封印して俺がマギカ・ブレードで叩き斬るとか。まあ、俺とまどかちゃんの必殺技かな」
「私と先輩の必殺技……」
「まあ今回の相手みたいにでかすぎる相手とか、空中の相手とかに使うには何らかの改良を加えないといけないけど。戦略バリエーションの一環として使わない手はないと思うよ」
「そうね。後は私がティロ・フィナーレを撃つ瞬間に前方のシールドだけ解除するとか、色々使い方はありそうだし」
「……私、もっと頑張ってマミさんと先輩のサポートを出来るように、封印魔法を頑張って使いこなせるようになりますね」
「俺もまどかちゃんと巴さんの負担を少しでも減らせるように頑張るよ」
「はいっ」
芳文のその言葉にまどかは笑顔で頷くのだった。
73:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:43:41.83:h1jZU67Oo (11/15)
「さてと、みんな疲れたでしょ。今日はもう帰りましょうか」
「そうだね。それじゃ、三人共送っていくよ」
マミの言葉に芳文は頷くと、いつものように三人を家まで送っていく事を申し出る。
「今日はもう遅いし、美樹さんは私が送っていくわ。社君は鹿目さんを送ってあげて」
「それはいいけど、巴さんが帰りに一人になるんじゃ?」
「心配してくれるのは嬉しいけど、私は魔法少女よ?」
「まあ、変質者とかが出てきても巴さんのほうが強いから心配はないんだろうけどさ、女の子を夜道に一人で歩かせるのはちょっと」
「ありがとう。優しいのね」
「……」
マミのその言葉に芳文は無言で、どこか複雑そうな顔をする。まどかはそんな芳文の様子を見て結界の中に閉じ込められた時の事を思い出してしまう。
「あれ、どうしたの先輩。そんな顔して」
無言の芳文にさやかが声をかけると、芳文はいつもの調子で軽口を叩く。
「ああ、いつも厳しい巴さんに褒められたからびっくりしちやって。思わず固まっちゃったよ」
「私、そんなに厳しいかしら」
「うん。もう少し優しくしてくれると嬉しいなって」
「例えば?」
「殴るのはやめてほしいな」
「あなたが殴られるような事、言わなければ殴ったりしないわよ」
「俺はいつだって紳士なのに。どうしていつも誤解されてしまうんだろう」
「はあ……。良く言うよ。自覚がないってどうしようもないよね、マミさん」
「そうね」
呆れた表情でさやかが同意を求めると、マミも頷いて同意する。
「ひでえ!! ……まあいいや、それじゃ二人ともまた明日。行こう、まどかちゃん」
「はい。マミさん、さやかちゃん。また明日学校で」
「ええ。また明日」
「まどか、先輩に変な事されそうになったら大声上げるんだよ」
「俺の天使にそんな事しないよ!!」
「どうだか。男はみんな狼だって言うし」
「ひでえ!!」
「あ、あははは……」
そんなやりとりの後、芳文とまどかはマミ達と別れてまどかの家へ歩き出した。
「すみません、いつも送ってもらって」
「気にしないで。女の子を家まで送るのは男の役目だから」
まどかと芳文は夜道を歩きながら、そんな会話をする。
「……」
「……」
やがて話すことがなくなり、お互いに無言で夜道を歩きながら、まどかは隣を歩く少年の横顔をちらっと見上げる。
いつもマミやさやかの前では馬鹿な事ばかり言って、マミ達に修正される三枚目の少年。
まどかには今隣で歩いている少年の顔が、普段とは違って見えた。
普段、馬鹿な言動ばかりしてマミ達を呆れさせている芳文。
魔女との戦闘の時に、頼りになる芳文。自分が危ない時にかけつけてくれて、守ってくれた少年。
(……どっちが本当の先輩なのかな)
「……まどかちゃん、どうかした?」
不意に芳文がまどかに声をかける。
「え?」
「何か、言いたい事か聞きたい事でもあるのかな?」
「いえ……。別にそういう訳じゃ……」
「そう? それならいいけど」
そう言ってまどかを見る芳文の目は優しい目をしていた。
(……っ)
まどかは思わずどきっとしてしまう。
前にさやかと電話で話していた時、芳文の話題が出た事を思い出す。
黙ってさえいれば、それなりに整った顔をしているのに、馬鹿ばっかりやってるから台無しとさやかが言っていたのを思い出す。
まどかは芳文の顔を見て、なるほどと思った。今、こうしている芳文と誰かの為に戦っている時の芳文は確かにかっこいい。まどかはそう思った。
「まどかちゃん!!」
不意に芳文がまどかの手を引く。
「……え?」
まどかの小さな体が、芳文の腕の中にすっぽりと納まる。
ブロロロロロロ……。
一台の車が、芳文達の歩いている狭い道を制限速度をオーバーしながら通り過ぎていく。
「危ないな。こんな夜中にこんな狭い道をあんなスピードで」
芳文の腕の中で、まどかが真っ赤になる。
「まどかちゃん、ケガとかしてない?」
「は、はい……」
真っ赤になりながら、まどかが頷く。
「あ……ご、ごめん」
まどかを抱き寄せたような体勢に気づき、芳文も顔を赤くして謝る。
「い、いえ……」
その後、まどかと芳文はお互いに無言のまま、まどかの家まで歩いて別れたのだった。
「さてと、みんな疲れたでしょ。今日はもう帰りましょうか」
「そうだね。それじゃ、三人共送っていくよ」
マミの言葉に芳文は頷くと、いつものように三人を家まで送っていく事を申し出る。
「今日はもう遅いし、美樹さんは私が送っていくわ。社君は鹿目さんを送ってあげて」
「それはいいけど、巴さんが帰りに一人になるんじゃ?」
「心配してくれるのは嬉しいけど、私は魔法少女よ?」
「まあ、変質者とかが出てきても巴さんのほうが強いから心配はないんだろうけどさ、女の子を夜道に一人で歩かせるのはちょっと」
「ありがとう。優しいのね」
「……」
マミのその言葉に芳文は無言で、どこか複雑そうな顔をする。まどかはそんな芳文の様子を見て結界の中に閉じ込められた時の事を思い出してしまう。
「あれ、どうしたの先輩。そんな顔して」
無言の芳文にさやかが声をかけると、芳文はいつもの調子で軽口を叩く。
「ああ、いつも厳しい巴さんに褒められたからびっくりしちやって。思わず固まっちゃったよ」
「私、そんなに厳しいかしら」
「うん。もう少し優しくしてくれると嬉しいなって」
「例えば?」
「殴るのはやめてほしいな」
「あなたが殴られるような事、言わなければ殴ったりしないわよ」
「俺はいつだって紳士なのに。どうしていつも誤解されてしまうんだろう」
「はあ……。良く言うよ。自覚がないってどうしようもないよね、マミさん」
「そうね」
呆れた表情でさやかが同意を求めると、マミも頷いて同意する。
「ひでえ!! ……まあいいや、それじゃ二人ともまた明日。行こう、まどかちゃん」
「はい。マミさん、さやかちゃん。また明日学校で」
「ええ。また明日」
「まどか、先輩に変な事されそうになったら大声上げるんだよ」
「俺の天使にそんな事しないよ!!」
「どうだか。男はみんな狼だって言うし」
「ひでえ!!」
「あ、あははは……」
そんなやりとりの後、芳文とまどかはマミ達と別れてまどかの家へ歩き出した。
「すみません、いつも送ってもらって」
「気にしないで。女の子を家まで送るのは男の役目だから」
まどかと芳文は夜道を歩きながら、そんな会話をする。
「……」
「……」
やがて話すことがなくなり、お互いに無言で夜道を歩きながら、まどかは隣を歩く少年の横顔をちらっと見上げる。
いつもマミやさやかの前では馬鹿な事ばかり言って、マミ達に修正される三枚目の少年。
まどかには今隣で歩いている少年の顔が、普段とは違って見えた。
普段、馬鹿な言動ばかりしてマミ達を呆れさせている芳文。
魔女との戦闘の時に、頼りになる芳文。自分が危ない時にかけつけてくれて、守ってくれた少年。
(……どっちが本当の先輩なのかな)
「……まどかちゃん、どうかした?」
不意に芳文がまどかに声をかける。
「え?」
「何か、言いたい事か聞きたい事でもあるのかな?」
「いえ……。別にそういう訳じゃ……」
「そう? それならいいけど」
そう言ってまどかを見る芳文の目は優しい目をしていた。
(……っ)
まどかは思わずどきっとしてしまう。
前にさやかと電話で話していた時、芳文の話題が出た事を思い出す。
黙ってさえいれば、それなりに整った顔をしているのに、馬鹿ばっかりやってるから台無しとさやかが言っていたのを思い出す。
まどかは芳文の顔を見て、なるほどと思った。今、こうしている芳文と誰かの為に戦っている時の芳文は確かにかっこいい。まどかはそう思った。
「まどかちゃん!!」
不意に芳文がまどかの手を引く。
「……え?」
まどかの小さな体が、芳文の腕の中にすっぽりと納まる。
ブロロロロロロ……。
一台の車が、芳文達の歩いている狭い道を制限速度をオーバーしながら通り過ぎていく。
「危ないな。こんな夜中にこんな狭い道をあんなスピードで」
芳文の腕の中で、まどかが真っ赤になる。
「まどかちゃん、ケガとかしてない?」
「は、はい……」
真っ赤になりながら、まどかが頷く。
「あ……ご、ごめん」
まどかを抱き寄せたような体勢に気づき、芳文も顔を赤くして謝る。
「い、いえ……」
その後、まどかと芳文はお互いに無言のまま、まどかの家まで歩いて別れたのだった。
74:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:44:26.49:h1jZU67Oo (12/15)
☆
――次の日の午後も図書室に四人は集まってテスト勉強に励んでいた。
お互いに昨日の夜の事を記憶の片隅に追いやりながら、芳文とまどかはテスト勉強をする。
「ここでちょっとひっかかっちゃったか。でも、もう大丈夫だね。合格」
まどかのテストの問題用紙を自己採点して、まどかが間違えてしまった所を教えてやりながら、芳文が合格を告げる。
「ほっ……」
「さあ、明日のテスト範囲を進めようか」
驚くほど効率良く勉強がはかどる事にまどかは驚きながらも、いつの間にかわからない所があれば積極的に芳文に尋ねるようになっていた。
次の日のテスト本番も確かな手ごたえをまどかは感じつつ、勉強会は続いていった。
――そして、すべてのテストが終了し、テストの解答用紙が返却されてきたその日の午後。
「それじゃあ、テストの点数を見せあおうか」
「はいっ」
芳文の言葉にまどかはにこにこと上機嫌で、すべての解答用紙を机の上に出す。
どの解答用紙も90点以上だった。しかもまどかが苦手だったはずの数学は96点だった。
「……」
まどかの解答用紙を見て、さやかの顔が引きつる。
「さあ、さやかちゃんの解答を見せてごらん」
芳文の言葉にさやかは大きな汗をかいて無言で固まる。
さやかの点数も以前よりは上がっていたが、まどかほど良くなかった。
「……そ、それよりも魔女探ししなきゃ!! テスト期間の初日に一匹しか出なかったなんておかしいし!! 調査しなきゃ!!」
さやかの苦し紛れのその言葉に、芳文はにこりと笑って言う。
「そうだね。じゃあ俺とまどかちゃんの勝ちっと」
「……ああもうっ!! 本気で悔しい!!」
「ふふん。お兄さんとまどかちゃんが本気を出せばこんなもんさー♪」
両手を頭の後ろで組みながら、芳文はそう言って口笛を吹く。
「うー。すっごく悔しい……」
「……信じられない。まさか社君に負けるなんて……」
さやかだけでなく、自分自身の総合点数が芳文に負けた事にマミもショックを受けていた。
「先輩のおかげでこんなにいい点が取れました。ありがとうございました」
まどかが嬉しそうにお礼を言うと、芳文は優しく笑いながらまどかの頭を撫でて言う。
「まどかちゃんががんばったからだよ。俺はちょっと手助けしただけだから」
「えへへ……」
まどかは嬉しそうに笑う。
「……なんか二人とも前より仲良くなった?」
さやかがまとがと芳文に尋ねる。
『え?』
まとかと芳文が思わず声をハモらせる。
「あら、二人とも息ぴったりね」
マミがそう言ってからかうと、まどかがかあっと赤くなる。
「おいおい、二人ともからかわないでくれよ。まどかちゃんが困ってる」
芳文がさらりと受け流す。
「あーもう、まどかは一々可愛いなあ!!」
まどかにさやかが抱きついて言う。マミはクスクスと笑いながらじゃれてる二人を優しい顔で見守っている。
(あ……)
さやかに抱きつかれながら、まどかが芳文の方を見ると芳文の耳が赤くなっていた。
芳文もさやかにからかわれて、照れているのを顔に出さないようにしていたのに気付き、まどかはなんとなく嬉しく思ってしまうのだった。
☆
――次の日の午後も図書室に四人は集まってテスト勉強に励んでいた。
お互いに昨日の夜の事を記憶の片隅に追いやりながら、芳文とまどかはテスト勉強をする。
「ここでちょっとひっかかっちゃったか。でも、もう大丈夫だね。合格」
まどかのテストの問題用紙を自己採点して、まどかが間違えてしまった所を教えてやりながら、芳文が合格を告げる。
「ほっ……」
「さあ、明日のテスト範囲を進めようか」
驚くほど効率良く勉強がはかどる事にまどかは驚きながらも、いつの間にかわからない所があれば積極的に芳文に尋ねるようになっていた。
次の日のテスト本番も確かな手ごたえをまどかは感じつつ、勉強会は続いていった。
――そして、すべてのテストが終了し、テストの解答用紙が返却されてきたその日の午後。
「それじゃあ、テストの点数を見せあおうか」
「はいっ」
芳文の言葉にまどかはにこにこと上機嫌で、すべての解答用紙を机の上に出す。
どの解答用紙も90点以上だった。しかもまどかが苦手だったはずの数学は96点だった。
「……」
まどかの解答用紙を見て、さやかの顔が引きつる。
「さあ、さやかちゃんの解答を見せてごらん」
芳文の言葉にさやかは大きな汗をかいて無言で固まる。
さやかの点数も以前よりは上がっていたが、まどかほど良くなかった。
「……そ、それよりも魔女探ししなきゃ!! テスト期間の初日に一匹しか出なかったなんておかしいし!! 調査しなきゃ!!」
さやかの苦し紛れのその言葉に、芳文はにこりと笑って言う。
「そうだね。じゃあ俺とまどかちゃんの勝ちっと」
「……ああもうっ!! 本気で悔しい!!」
「ふふん。お兄さんとまどかちゃんが本気を出せばこんなもんさー♪」
両手を頭の後ろで組みながら、芳文はそう言って口笛を吹く。
「うー。すっごく悔しい……」
「……信じられない。まさか社君に負けるなんて……」
さやかだけでなく、自分自身の総合点数が芳文に負けた事にマミもショックを受けていた。
「先輩のおかげでこんなにいい点が取れました。ありがとうございました」
まどかが嬉しそうにお礼を言うと、芳文は優しく笑いながらまどかの頭を撫でて言う。
「まどかちゃんががんばったからだよ。俺はちょっと手助けしただけだから」
「えへへ……」
まどかは嬉しそうに笑う。
「……なんか二人とも前より仲良くなった?」
さやかがまとがと芳文に尋ねる。
『え?』
まとかと芳文が思わず声をハモらせる。
「あら、二人とも息ぴったりね」
マミがそう言ってからかうと、まどかがかあっと赤くなる。
「おいおい、二人ともからかわないでくれよ。まどかちゃんが困ってる」
芳文がさらりと受け流す。
「あーもう、まどかは一々可愛いなあ!!」
まどかにさやかが抱きついて言う。マミはクスクスと笑いながらじゃれてる二人を優しい顔で見守っている。
(あ……)
さやかに抱きつかれながら、まどかが芳文の方を見ると芳文の耳が赤くなっていた。
芳文もさやかにからかわれて、照れているのを顔に出さないようにしていたのに気付き、まどかはなんとなく嬉しく思ってしまうのだった。
75:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:46:38.94:h1jZU67Oo (13/15)
☆
その日の深夜。
魔女も使い魔も見つからなかったパトロールの帰り道。マミは芳文にまどかを家まで送らせて、自分はさやかと一緒に歩いていた。
「マミさん、マミさんは先輩の事どう思います?」
「どうって?」
「異性としてどう思ってるのかなーって」
「いい人だし、頼りにはしてるけどそういう目で見た事はないわ」
「あらら、先輩かわいそう。マミさん脈なしかあ」
「嫌いじゃあないけどね。それに彼、そういう目で私の事見てないわよ」
「そうかなあ」
「そうよ。彼が見てるのは鹿目さんだしね」
「あ、やっぱそう思います?」
「なんとなくだけどね」
そんな話をしながら歩いていたその時だった。
「!? 美樹さん、使い魔の反応があるわ!!」
脇道の方から、使い魔の移動する気配を感じたマミが、鋭い目つきでソウルジェムを手に載せて反応を確認しつつ、さやかを庇うように立つ。
「マミさん、先輩とまどかを呼びますか?」
「いえ。社君達を待ってる間に逃げられてしまう。私だけで倒すわ」
マミがそう答えて駆け出すのをさやかが追いかける。
脇道に入った瞬間、使い魔の結界が展開されて深夜の世界がカラフルな世界へ変化する。
「ぶうううん!! ぶううううん!!」
子供の落書きのような姿をした使い魔が楽しそうにふよふよと飛び回っている。
マミはマスケット銃を一丁顕現させると、容赦なく使い魔目掛けて発砲した。
バン!!
マスケット銃から放たれた弾丸が使い魔を貫くその瞬間。
キィィンっ!!
使い魔の目の前に突然飛んできた槍の刃先に、弾丸が弾かれてしまった。
「ぶううううん!? ぶううううううんっ!!」
使い魔は弾丸と槍の金属音に驚き、慌てていずこかへと逃げ去ってしまう。
「おいおい、相っ変わらず無駄な事してんだな」
「あなたは……っ」
「卵を孕む前の鶏締めてどうすんのさ。前にも言ったよね」
「佐倉杏子……っ」
マミとさやかの前に姿を現した赤の魔法少女は、不敵な笑みを浮かべながら、たい焼きを口にくわえて引きちぎった……。
つづく
☆
その日の深夜。
魔女も使い魔も見つからなかったパトロールの帰り道。マミは芳文にまどかを家まで送らせて、自分はさやかと一緒に歩いていた。
「マミさん、マミさんは先輩の事どう思います?」
「どうって?」
「異性としてどう思ってるのかなーって」
「いい人だし、頼りにはしてるけどそういう目で見た事はないわ」
「あらら、先輩かわいそう。マミさん脈なしかあ」
「嫌いじゃあないけどね。それに彼、そういう目で私の事見てないわよ」
「そうかなあ」
「そうよ。彼が見てるのは鹿目さんだしね」
「あ、やっぱそう思います?」
「なんとなくだけどね」
そんな話をしながら歩いていたその時だった。
「!? 美樹さん、使い魔の反応があるわ!!」
脇道の方から、使い魔の移動する気配を感じたマミが、鋭い目つきでソウルジェムを手に載せて反応を確認しつつ、さやかを庇うように立つ。
「マミさん、先輩とまどかを呼びますか?」
「いえ。社君達を待ってる間に逃げられてしまう。私だけで倒すわ」
マミがそう答えて駆け出すのをさやかが追いかける。
脇道に入った瞬間、使い魔の結界が展開されて深夜の世界がカラフルな世界へ変化する。
「ぶうううん!! ぶううううん!!」
子供の落書きのような姿をした使い魔が楽しそうにふよふよと飛び回っている。
マミはマスケット銃を一丁顕現させると、容赦なく使い魔目掛けて発砲した。
バン!!
マスケット銃から放たれた弾丸が使い魔を貫くその瞬間。
キィィンっ!!
使い魔の目の前に突然飛んできた槍の刃先に、弾丸が弾かれてしまった。
「ぶううううん!? ぶううううううんっ!!」
使い魔は弾丸と槍の金属音に驚き、慌てていずこかへと逃げ去ってしまう。
「おいおい、相っ変わらず無駄な事してんだな」
「あなたは……っ」
「卵を孕む前の鶏締めてどうすんのさ。前にも言ったよね」
「佐倉杏子……っ」
マミとさやかの前に姿を現した赤の魔法少女は、不敵な笑みを浮かべながら、たい焼きを口にくわえて引きちぎった……。
つづく
76:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 02:48:48.32:h1jZU67Oo (14/15)
杏子「あたしの出番少ないな……。つーか嫌な奴だな……」
杏子「次回こそあたしの活躍があるハズだ!!」
杏子「次回に続く!!」
杏子「あたしの出番少ないな……。つーか嫌な奴だな……」
杏子「次回こそあたしの活躍があるハズだ!!」
杏子「次回に続く!!」
77:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/10(日) 03:53:19.27:h1jZU67Oo (15/15)
杏子「大阪、NIPPER、徳島、チベット、反応ありがとよ」
杏子「大阪、NIPPER、徳島、チベット、反応ありがとよ」
78:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/11(月) 11:26:45.82:DLt5FvGDO (1/1)
支援。がんばれー
支援。がんばれー
79:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/14(木) 00:58:19.51:qUa664fYo (1/10)
杏子「地味に更新だ」
杏子「地味に更新だ」
80:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/14(木) 00:58:45.99:qUa664fYo (2/10)
第7話 「だって、同じ魔法少女だもん」
「魔女が人間を喰ってグリーフシードを孕み、それをあたしら魔法少女が喰う。前にも言ったよねぇ!!」
杏子はそう叫ぶと槍を多節棍へと変化させ、マミに目掛けて叩きつけた。
マミは一発限りの弾丸を撃ち終わったマスケット銃の銃身で、杏子の槍を払いのけていた。
「ふん。やるじゃないか」
杏子は不敵な笑みを浮かべながら、まるで蛇のようにうねうねと蠢く多節棍状の槍を自身の周囲に張り巡らせる。
「……あなたがなぜ、この街にいるのかしら?」
マミは新しいマスケット銃を顕現させて、構えながら杏子に問う。
「この街には今、大量の魔女が発生してるって聞いたからさ。狩場の獲物を狩りつくしたらよその狩場に来るのは当たり前っしょ」
馬鹿にするような杏子の言い草に、さやかが怒鳴る。
「あんた一体何なのよ!! 同じ魔法少女なのになんでマミさんに攻撃してくるのさ!!」
「……あ? マミの子分か? マミに聞いてないのかい。魔法少女ってのはな……」
杏子はさやかを小馬鹿にした態度でそう言うと、マミに再び攻撃を仕掛ける。
「アンタ達みたいに仲良しごっこしてる奴ばっかじゃないんだよっ!!」
マミは杏子の攻撃を躱しながら、マスケット銃を杏子に発砲する。
キィンッッ!!
多節棍の節で弾丸を弾き返して、杏子は槍を再び構える。
「……以前言ったわよね。もう二度と会いたくないって」
マミが撃ち終わった銃を投げ捨てて、新しい銃を二丁顕現させると両手に一丁ずつ構える。
「それはこっちのセリフさ。けど、アンタがいつまでも正義の味方ごっこしてんなら、いいかげん排除するしかないよね」
一触即発のマミと杏子。だがその間にさやかが割って入った。
「何言ってんの……。あんただって魔法少女なんでしょ!? なのになんでよ!! 魔法少女ってみんなを守って希望を振り撒く存在なんでしょ!!」
以前、マミとキュゥべえが言っていたその言葉を、さやかは杏子に向かって叫ぶ。だが杏子は心底呆れた顔で返した。
「馬鹿かアンタは。魔法ってのはね自分の為だけに使うもんだ」
「……だから、使い魔を放置して人を襲わせて、グリーフシードの為だけに自分の邪魔になるマミさんを襲うって事なの」
「そうさ」
「……最低」
さやかは侮蔑を込めた視線で杏子を睨みながら吐き捨てる。
「あんたは最低だ!! あたしはあんたみたいな魔法少女認めない!!」
「ただの人間のアンタに認めてもらう必要なんかないね。死にたくなければ引っ込んでな!!」
杏子がそうさやかに叫ぶと同時に、さやかを庇うように立つマミとの間に赤いフェンス状の結界を作り出し、マミとさやかを分断する。
第7話 「だって、同じ魔法少女だもん」
「魔女が人間を喰ってグリーフシードを孕み、それをあたしら魔法少女が喰う。前にも言ったよねぇ!!」
杏子はそう叫ぶと槍を多節棍へと変化させ、マミに目掛けて叩きつけた。
マミは一発限りの弾丸を撃ち終わったマスケット銃の銃身で、杏子の槍を払いのけていた。
「ふん。やるじゃないか」
杏子は不敵な笑みを浮かべながら、まるで蛇のようにうねうねと蠢く多節棍状の槍を自身の周囲に張り巡らせる。
「……あなたがなぜ、この街にいるのかしら?」
マミは新しいマスケット銃を顕現させて、構えながら杏子に問う。
「この街には今、大量の魔女が発生してるって聞いたからさ。狩場の獲物を狩りつくしたらよその狩場に来るのは当たり前っしょ」
馬鹿にするような杏子の言い草に、さやかが怒鳴る。
「あんた一体何なのよ!! 同じ魔法少女なのになんでマミさんに攻撃してくるのさ!!」
「……あ? マミの子分か? マミに聞いてないのかい。魔法少女ってのはな……」
杏子はさやかを小馬鹿にした態度でそう言うと、マミに再び攻撃を仕掛ける。
「アンタ達みたいに仲良しごっこしてる奴ばっかじゃないんだよっ!!」
マミは杏子の攻撃を躱しながら、マスケット銃を杏子に発砲する。
キィンッッ!!
多節棍の節で弾丸を弾き返して、杏子は槍を再び構える。
「……以前言ったわよね。もう二度と会いたくないって」
マミが撃ち終わった銃を投げ捨てて、新しい銃を二丁顕現させると両手に一丁ずつ構える。
「それはこっちのセリフさ。けど、アンタがいつまでも正義の味方ごっこしてんなら、いいかげん排除するしかないよね」
一触即発のマミと杏子。だがその間にさやかが割って入った。
「何言ってんの……。あんただって魔法少女なんでしょ!? なのになんでよ!! 魔法少女ってみんなを守って希望を振り撒く存在なんでしょ!!」
以前、マミとキュゥべえが言っていたその言葉を、さやかは杏子に向かって叫ぶ。だが杏子は心底呆れた顔で返した。
「馬鹿かアンタは。魔法ってのはね自分の為だけに使うもんだ」
「……だから、使い魔を放置して人を襲わせて、グリーフシードの為だけに自分の邪魔になるマミさんを襲うって事なの」
「そうさ」
「……最低」
さやかは侮蔑を込めた視線で杏子を睨みながら吐き捨てる。
「あんたは最低だ!! あたしはあんたみたいな魔法少女認めない!!」
「ただの人間のアンタに認めてもらう必要なんかないね。死にたくなければ引っ込んでな!!」
杏子がそうさやかに叫ぶと同時に、さやかを庇うように立つマミとの間に赤いフェンス状の結界を作り出し、マミとさやかを分断する。
81:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/14(木) 00:59:37.03:qUa664fYo (3/10)
「マミさん!!」
「大丈夫。あんな人に負けたりしないわ」
「ふん。以前のあたしと同じだと思うなよ!!」
マミと杏子が再び激突する。
杏子の槍がマミの弾丸を弾き、弾丸を撃ちきった銃身でマミが杏子の槍を捌く。
射撃に有利な間合いを取られまいと、接近戦に持ち込んでくる杏子の攻撃をマミは捌くので手一杯だった。
連続で撃ち出される突きをマミは片方のマスケット銃で払いのけ、もう片方の銃で殴りつける。
銃身による打撃を杏子は槍で巧みに捌く。
お互いに決定打を与えられぬまま、二人の戦いは膠着状態に陥った。
――どれくらいの時間にらみあっていただろうか。
二人はほぼ同時に動き、発砲と突きを繰り出す。
弾丸と槍の刃先がお互いの胸を貫こうとしたその瞬間。
――すべての時間が停止した。
「っ!?」
「なんだっ!?」
マミと杏子は自分たちの置かれた状況に驚き、周囲を見回す。
お互いの攻撃で相打ち寸前だったはずなのに、気付いた時には二人ともお互いに10メートルほど離れた場所に立っていた。
先ほどまで自分達が戦っていた場所には、黒の魔法少女が立っている。
「あなたは……!?」
「てめえ!! 今何をした!?」
マミと杏子がほむらに驚きと敵意を込めた視線を向ける。
「……巴マミ、佐倉杏子」
ほむらは長い髪をかき上げながら、静かに告げる。
「近い内に、この街にワルプルギスの夜が来る」
「な……!?」
「ワルプルギスの夜、だと?」
「そうよ。あなた達も魔法少女なら、ワルプルギスの夜がどういう物かわかるでしょう?」
「……どうしてあなたがそんな事を知っているのかしら?」
「……」
マミの問いにほむらは答えない。
「……あなた達が決着を付けたいというなら、私は止めない。だけどその決着を付けるのはワルブルギスの夜を倒してからにしてほしい」
「あんたにそんな指図される覚えはないね」
「指図じゃないわ。あなたもワルプルギスの夜には、一人だけでは到底勝てないという事くらい理解出来るでしょう?」
「……」
「……今は私の言う事が信じられないでしょうね。けれど、ワルプルギスの夜は必ずやってくる」
「……あなたは、私達に共闘しろと言いたいのかしら」
マミの問いにほむらは一度目を伏せると、マミを見つめて頷いた。
「……あなた達には、私と共にワルプルギスの夜と戦ってほしい」
「ごめんだね、あたしには関係ない」
「ワルプルギスの夜を倒さないと、他の街にも被害が出る。そうなったら、あなたのグリーフシード集めにも影響が出るはずよ」
「……」
「マミさん!!」
「大丈夫。あんな人に負けたりしないわ」
「ふん。以前のあたしと同じだと思うなよ!!」
マミと杏子が再び激突する。
杏子の槍がマミの弾丸を弾き、弾丸を撃ちきった銃身でマミが杏子の槍を捌く。
射撃に有利な間合いを取られまいと、接近戦に持ち込んでくる杏子の攻撃をマミは捌くので手一杯だった。
連続で撃ち出される突きをマミは片方のマスケット銃で払いのけ、もう片方の銃で殴りつける。
銃身による打撃を杏子は槍で巧みに捌く。
お互いに決定打を与えられぬまま、二人の戦いは膠着状態に陥った。
――どれくらいの時間にらみあっていただろうか。
二人はほぼ同時に動き、発砲と突きを繰り出す。
弾丸と槍の刃先がお互いの胸を貫こうとしたその瞬間。
――すべての時間が停止した。
「っ!?」
「なんだっ!?」
マミと杏子は自分たちの置かれた状況に驚き、周囲を見回す。
お互いの攻撃で相打ち寸前だったはずなのに、気付いた時には二人ともお互いに10メートルほど離れた場所に立っていた。
先ほどまで自分達が戦っていた場所には、黒の魔法少女が立っている。
「あなたは……!?」
「てめえ!! 今何をした!?」
マミと杏子がほむらに驚きと敵意を込めた視線を向ける。
「……巴マミ、佐倉杏子」
ほむらは長い髪をかき上げながら、静かに告げる。
「近い内に、この街にワルプルギスの夜が来る」
「な……!?」
「ワルプルギスの夜、だと?」
「そうよ。あなた達も魔法少女なら、ワルプルギスの夜がどういう物かわかるでしょう?」
「……どうしてあなたがそんな事を知っているのかしら?」
「……」
マミの問いにほむらは答えない。
「……あなた達が決着を付けたいというなら、私は止めない。だけどその決着を付けるのはワルブルギスの夜を倒してからにしてほしい」
「あんたにそんな指図される覚えはないね」
「指図じゃないわ。あなたもワルプルギスの夜には、一人だけでは到底勝てないという事くらい理解出来るでしょう?」
「……」
「……今は私の言う事が信じられないでしょうね。けれど、ワルプルギスの夜は必ずやってくる」
「……あなたは、私達に共闘しろと言いたいのかしら」
マミの問いにほむらは一度目を伏せると、マミを見つめて頷いた。
「……あなた達には、私と共にワルプルギスの夜と戦ってほしい」
「ごめんだね、あたしには関係ない」
「ワルプルギスの夜を倒さないと、他の街にも被害が出る。そうなったら、あなたのグリーフシード集めにも影響が出るはずよ」
「……」
82:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/14(木) 01:00:04.02:qUa664fYo (4/10)
「どうしても嫌だと言うなら、無理に協力しろとは言わない。けれど、ワルプルギスの夜と戦う為の戦力を潰されるのは困る」
「もしあたしがマミともう一人の魔法少女を潰すと言ったら?」
杏子が挑発的な口調で尋ねると、ほむらは感情のこもらない声で言い切る。
「私が初めて会った時の言葉を覚えているかしら」
「……ふん。しらけちまった。この決着は次に付けてやる」
杏子はそれだけ言うと、ビルとビルの間を交互に蹴って駆け上りながら、立ち去る。
「……巴マミ。ワルプルギスの夜がいつ来るのかまではわからない。気を抜かないで」
それだけ言うと、ほむらは踵を返し去っていった。
(……もうやり直しは効かない。どんな手を使ってでも、せめて魔女にだけはさせない)
「……マミさん、ワルプルギスの夜って? それにあの佐倉杏子って奴も」
「……美樹さん、鹿目さんと社君にはこの事はまだ言わないで。暁美ほむらの言葉が信頼に足りるのかまだわからないし……。それに佐倉杏子の事はあの二人には教えたくない」
「……わかりました」
残されたマミとさやかはそれだけ言葉を交わすと、夜の闇の中、これから起こる出来事に一抹の不安を感じながら立ち尽くすのだった……。
☆
翌日の放課後、まどかとさやかとマミの三人は喫茶店に集まっていた。
「ごめん、三人共お待たせ」
学校の掃除当番を終えて、遅れてやってきた芳文が合流する。
「あ、お姉さん、俺アメリカンコーヒーね」
ウェイトレスに飲み物を注文して、マミの隣の空いてる席に座る。
「お、淫獣。久しぶりじゃないか」
マミの膝の上でキュゥべえが、サンドイッチをもぐもぐと食べているのに気付いて、芳文は声をかける。
「僕は淫獣じゃないよ」
「そうかい。それで巴さん、今日はどの辺りをパトロールする?」
芳文はキュゥべえの否定の言葉をスルーしつつ、おしぼりで手を拭きながらマミに尋ねる。
「そうね、今日は大体この辺りかしら」
マミは地図を取り出して、テーブルの上に広げるとパトロールの範囲を指差しながら説明する。
「オーケー。それじゃ、コーヒー飲んだら出発しようか」
芳文がそう答えると、見計らったかのようにまどかが一冊のノートを出して、芳文に話しかけてきた。
「先輩、この前先輩が言っていた必殺技をちょっと考えてみたんですけど……」
まどかはそう言って、ノートを開いてテーブルの上に載せ、芳文に見せてくる。
必殺技と言う言葉に興味が湧いたのか、マミとキュゥべえとさやかもどれどれと覗き込んでくる。
まどかのノートには以前、マミとさやかに見せた魔法少女の衣装の時と同じ、可愛らしいイラストが描かれていた。
「……これ、俺?」
ノートの左側のページに、両手でマギカ・ブレードを持ち、丁度顔の隣に刀身が来るよう、上段に構えている芳文らしい人物がディルフォメされて描かれている。
「はい。まずこんな感じで先輩に剣を構えてもらって……」
まどかは芳文のイラストを指差し、右のページに指をずらす。右のページには弓矢を構えているまどかのディルフォメイラストが描かれていた。
「私が、後方から先輩が持ってる剣の柄と魔女に、三本に分裂する矢を撃ちます」
まどかがページをめくると、最初のページに描かれた芳文のイラストがノートの中央に描かれ、黒い怪獣のような姿をした魔女のイラストが左のページに描かれていた。
右のページに描かれたまどかのイラストは三本の矢を放ち、一本が芳文の持つ剣の柄に、残りの二本が魔女に向かって飛んでいく様が描かれている。
「この一本の矢で、マギカ・ブレードに更に魔力を与えつつ、推進力も与えます」
まどかは更にページをめくる。
「この時、残りの二本が先に魔女に着弾した後、マミさんの拘束魔法みたいに魔女の動きを止めます」
魔女が光り輝く光の結界に封印されているイラストを指差しながら、ノート中央のイラストに指をスライドさせる。
剣の柄からジェット噴射が発生し、それを構えた芳文が飛んでいるイラストが描かれていた。
「このまま、動けなくなった魔女を剣から発生する魔力の噴射で高速飛行しながら、先輩が斬り裂くんです」
そこまで説明して、まどかは芳文の顔を見て尋ねる。
「どうしても嫌だと言うなら、無理に協力しろとは言わない。けれど、ワルプルギスの夜と戦う為の戦力を潰されるのは困る」
「もしあたしがマミともう一人の魔法少女を潰すと言ったら?」
杏子が挑発的な口調で尋ねると、ほむらは感情のこもらない声で言い切る。
「私が初めて会った時の言葉を覚えているかしら」
「……ふん。しらけちまった。この決着は次に付けてやる」
杏子はそれだけ言うと、ビルとビルの間を交互に蹴って駆け上りながら、立ち去る。
「……巴マミ。ワルプルギスの夜がいつ来るのかまではわからない。気を抜かないで」
それだけ言うと、ほむらは踵を返し去っていった。
(……もうやり直しは効かない。どんな手を使ってでも、せめて魔女にだけはさせない)
「……マミさん、ワルプルギスの夜って? それにあの佐倉杏子って奴も」
「……美樹さん、鹿目さんと社君にはこの事はまだ言わないで。暁美ほむらの言葉が信頼に足りるのかまだわからないし……。それに佐倉杏子の事はあの二人には教えたくない」
「……わかりました」
残されたマミとさやかはそれだけ言葉を交わすと、夜の闇の中、これから起こる出来事に一抹の不安を感じながら立ち尽くすのだった……。
☆
翌日の放課後、まどかとさやかとマミの三人は喫茶店に集まっていた。
「ごめん、三人共お待たせ」
学校の掃除当番を終えて、遅れてやってきた芳文が合流する。
「あ、お姉さん、俺アメリカンコーヒーね」
ウェイトレスに飲み物を注文して、マミの隣の空いてる席に座る。
「お、淫獣。久しぶりじゃないか」
マミの膝の上でキュゥべえが、サンドイッチをもぐもぐと食べているのに気付いて、芳文は声をかける。
「僕は淫獣じゃないよ」
「そうかい。それで巴さん、今日はどの辺りをパトロールする?」
芳文はキュゥべえの否定の言葉をスルーしつつ、おしぼりで手を拭きながらマミに尋ねる。
「そうね、今日は大体この辺りかしら」
マミは地図を取り出して、テーブルの上に広げるとパトロールの範囲を指差しながら説明する。
「オーケー。それじゃ、コーヒー飲んだら出発しようか」
芳文がそう答えると、見計らったかのようにまどかが一冊のノートを出して、芳文に話しかけてきた。
「先輩、この前先輩が言っていた必殺技をちょっと考えてみたんですけど……」
まどかはそう言って、ノートを開いてテーブルの上に載せ、芳文に見せてくる。
必殺技と言う言葉に興味が湧いたのか、マミとキュゥべえとさやかもどれどれと覗き込んでくる。
まどかのノートには以前、マミとさやかに見せた魔法少女の衣装の時と同じ、可愛らしいイラストが描かれていた。
「……これ、俺?」
ノートの左側のページに、両手でマギカ・ブレードを持ち、丁度顔の隣に刀身が来るよう、上段に構えている芳文らしい人物がディルフォメされて描かれている。
「はい。まずこんな感じで先輩に剣を構えてもらって……」
まどかは芳文のイラストを指差し、右のページに指をずらす。右のページには弓矢を構えているまどかのディルフォメイラストが描かれていた。
「私が、後方から先輩が持ってる剣の柄と魔女に、三本に分裂する矢を撃ちます」
まどかがページをめくると、最初のページに描かれた芳文のイラストがノートの中央に描かれ、黒い怪獣のような姿をした魔女のイラストが左のページに描かれていた。
右のページに描かれたまどかのイラストは三本の矢を放ち、一本が芳文の持つ剣の柄に、残りの二本が魔女に向かって飛んでいく様が描かれている。
「この一本の矢で、マギカ・ブレードに更に魔力を与えつつ、推進力も与えます」
まどかは更にページをめくる。
「この時、残りの二本が先に魔女に着弾した後、マミさんの拘束魔法みたいに魔女の動きを止めます」
魔女が光り輝く光の結界に封印されているイラストを指差しながら、ノート中央のイラストに指をスライドさせる。
剣の柄からジェット噴射が発生し、それを構えた芳文が飛んでいるイラストが描かれていた。
「このまま、動けなくなった魔女を剣から発生する魔力の噴射で高速飛行しながら、先輩が斬り裂くんです」
そこまで説明して、まどかは芳文の顔を見て尋ねる。
83:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/14(木) 01:00:31.83:qUa664fYo (5/10)
「どうでしょうか?」
「うーん。封印魔法で動きを止めて俺が斬るのはいいんだけど、剣に推進力を与えて俺が飛ぶとかそんな事が出来るのかな? これでもし飛べるんなら、空中の敵も斬れるけど」
自信満々で提案された必殺技に、芳文は真剣に考えながら答える。
「まどかの魔法は願いや祈りを力として具現化する物だからね。まどかがその気になれば出来るはずだよ」
キュゥべえが口を挟む。
「ふむ。それなら一応出来るって事か。けど、そもそもどれくらいの時間飛べるのかとか、剣一本からの噴射で姿勢制御出来るのかとか、色々改善点もありそうだし……」
「……やっぱり、駄目でしょうか?」
しゅんと項垂れながらまどかが言う。
「いや、別に駄目じゃないけどさ、でもこれだと俺よりまどかちゃんに負担かかりすぎないかな?」
「当たらない攻撃を繰り返したり、ずっとシールドを張り続けるよりは、魔力の消費も少ないと思うんですけど……」
「ふむ……。まどかちゃんがそう言うなら、次の使い魔戦か魔女戦で試してみようか?」
「はい!!」
芳文の言葉にまどかは嬉しそうに頷く。
「……ねえ、まどか。これどこのロボットアニメ? 小さい頃にテレビで似たような技が出るアニメを見たような気がするんだけど」
それまで黙ってやり取りを見ていたさやかがまどかに尋ねる。
「ええっ!?」
「……私も昔、これに似たような必殺技が出てくる番組を、テレビで見た事があるような気がするわ」
マミもまどかにそう言うと、まどかはもじもじと恥ずかしそうに答える。
「その……。昨日、一度家に鞄を置きに帰った時に、弟が再放送のロボットアニメを見ててそれで……」
まどか達の住む地域では、昔から夕方に何度も再放送されているロボットアニメがあった。
丁度子供達が幼稚園や小学校から帰ってくる時間に、何度も何度もしつこいくらい再放送されているので、さやかとマミにも見覚えがあったのだった。
そのアニメのロボットは巨大な剣を取り出した後、敵をエネルギーフィールドで拘束し斬るのが必殺技だった。
ちなみに無駄に凝った作画といまだに別の番組で使われ続ける専用BGMのおかげで意外と有名だったりする。
「……俺、ロボット?」
芳文が思わず漏らすと、まどかは慌てて訂正する。
「違います!! どっちかと言うとヒーローです!! あ……」
自分の口走った台詞に、まどかはかあっと赤くなってしまう。
「……ヒーロー、か。んじゃ、これからもそんな風に頼ってもらえるように、頑張りますか」
芳文は明後日の方を向きながら、軽口を叩いてみせる。
顔を背けている芳文の耳が赤くなっているのに、マミとさやかは気付いてしまう。
そんな風に赤くなっているまどかと芳文の様子を、さやかとマミはにやにやと笑いながら見ていた。
「それにしても、まどかも懲りないねえ。こういう妄想ノートを先輩にまで見せちゃうなんてさ。そもそも先輩を飛ばそうなんて発想が出てくるあたりなんていうか、ねえ」
マミと知り合ったばかりの時の事を思い出しながら、さやかがまどかをからかう。
「……あぅ」
さやかにそう言われると、まどかは物凄く恥ずかしくい事をした気になってしまい、赤くなってしゅんと俯いてしまう。
「懲りないって、前にもあったの?」
「マミさんと知り合ったばかりの頃にね。この子ったらわざわざ魔法少女の衣装を描いてきて、あたし達に披露したんだよ」
芳文の疑問にさやかはあっさりと答える。
「さ、さやかちゃん!! ひどいよぉ、先輩にそんな事教えちゃうなんて……」
まどかが恥ずかしそうにさやかを非難する。
「そっか。かわいいなあ、まどかちゃんは」
芳文がそう言って笑うと、まどかは真っ赤になって俯いてしまう。
「あう……」
「まあ、他人が持ってない力を手に入れたら、必殺技とか考えたくなるのもしょうがないよね、巴さん」
「……え? そこでどうして私に振るのかしら?」
「いや、巴さんの動きとか、必殺技とか、どう考えても影でこっそり考えたり、練習したりしてたんだろうなって思って」
――ピシッ。
芳文の何気なく放ったその言葉で場の空気が一瞬で凍りついた。
(うわぁ……。あたしもまどかもなんとなく心の中で思ってても、あえて口にしなかった事を堂々と言うなんて……)
さやかは顔を引きつらせながら、マミと芳文の動向を見守る。
「どうでしょうか?」
「うーん。封印魔法で動きを止めて俺が斬るのはいいんだけど、剣に推進力を与えて俺が飛ぶとかそんな事が出来るのかな? これでもし飛べるんなら、空中の敵も斬れるけど」
自信満々で提案された必殺技に、芳文は真剣に考えながら答える。
「まどかの魔法は願いや祈りを力として具現化する物だからね。まどかがその気になれば出来るはずだよ」
キュゥべえが口を挟む。
「ふむ。それなら一応出来るって事か。けど、そもそもどれくらいの時間飛べるのかとか、剣一本からの噴射で姿勢制御出来るのかとか、色々改善点もありそうだし……」
「……やっぱり、駄目でしょうか?」
しゅんと項垂れながらまどかが言う。
「いや、別に駄目じゃないけどさ、でもこれだと俺よりまどかちゃんに負担かかりすぎないかな?」
「当たらない攻撃を繰り返したり、ずっとシールドを張り続けるよりは、魔力の消費も少ないと思うんですけど……」
「ふむ……。まどかちゃんがそう言うなら、次の使い魔戦か魔女戦で試してみようか?」
「はい!!」
芳文の言葉にまどかは嬉しそうに頷く。
「……ねえ、まどか。これどこのロボットアニメ? 小さい頃にテレビで似たような技が出るアニメを見たような気がするんだけど」
それまで黙ってやり取りを見ていたさやかがまどかに尋ねる。
「ええっ!?」
「……私も昔、これに似たような必殺技が出てくる番組を、テレビで見た事があるような気がするわ」
マミもまどかにそう言うと、まどかはもじもじと恥ずかしそうに答える。
「その……。昨日、一度家に鞄を置きに帰った時に、弟が再放送のロボットアニメを見ててそれで……」
まどか達の住む地域では、昔から夕方に何度も再放送されているロボットアニメがあった。
丁度子供達が幼稚園や小学校から帰ってくる時間に、何度も何度もしつこいくらい再放送されているので、さやかとマミにも見覚えがあったのだった。
そのアニメのロボットは巨大な剣を取り出した後、敵をエネルギーフィールドで拘束し斬るのが必殺技だった。
ちなみに無駄に凝った作画といまだに別の番組で使われ続ける専用BGMのおかげで意外と有名だったりする。
「……俺、ロボット?」
芳文が思わず漏らすと、まどかは慌てて訂正する。
「違います!! どっちかと言うとヒーローです!! あ……」
自分の口走った台詞に、まどかはかあっと赤くなってしまう。
「……ヒーロー、か。んじゃ、これからもそんな風に頼ってもらえるように、頑張りますか」
芳文は明後日の方を向きながら、軽口を叩いてみせる。
顔を背けている芳文の耳が赤くなっているのに、マミとさやかは気付いてしまう。
そんな風に赤くなっているまどかと芳文の様子を、さやかとマミはにやにやと笑いながら見ていた。
「それにしても、まどかも懲りないねえ。こういう妄想ノートを先輩にまで見せちゃうなんてさ。そもそも先輩を飛ばそうなんて発想が出てくるあたりなんていうか、ねえ」
マミと知り合ったばかりの時の事を思い出しながら、さやかがまどかをからかう。
「……あぅ」
さやかにそう言われると、まどかは物凄く恥ずかしくい事をした気になってしまい、赤くなってしゅんと俯いてしまう。
「懲りないって、前にもあったの?」
「マミさんと知り合ったばかりの頃にね。この子ったらわざわざ魔法少女の衣装を描いてきて、あたし達に披露したんだよ」
芳文の疑問にさやかはあっさりと答える。
「さ、さやかちゃん!! ひどいよぉ、先輩にそんな事教えちゃうなんて……」
まどかが恥ずかしそうにさやかを非難する。
「そっか。かわいいなあ、まどかちゃんは」
芳文がそう言って笑うと、まどかは真っ赤になって俯いてしまう。
「あう……」
「まあ、他人が持ってない力を手に入れたら、必殺技とか考えたくなるのもしょうがないよね、巴さん」
「……え? そこでどうして私に振るのかしら?」
「いや、巴さんの動きとか、必殺技とか、どう考えても影でこっそり考えたり、練習したりしてたんだろうなって思って」
――ピシッ。
芳文の何気なく放ったその言葉で場の空気が一瞬で凍りついた。
(うわぁ……。あたしもまどかもなんとなく心の中で思ってても、あえて口にしなかった事を堂々と言うなんて……)
さやかは顔を引きつらせながら、マミと芳文の動向を見守る。
84:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/14(木) 01:01:24.66:qUa664fYo (6/10)
「やっぱりアレだよね。巴さんにもノートに必殺技の名前や決めポーズ書いたりとか、鏡の前でスタイリッシュアクション決めてみたりとか、そういう時期もあったんだよね」
「あああ、あなたは、いいい、いったい、ななな、何をいいい言ってるの、かしら?」
マミが激しく動揺しながら、問い返す。
「え? もしかして練習もせずにあのアクションと必殺技が出来たの? やっぱりすごいな巴さんは」
――ピシッ。
芳文のその言葉で再び空気が凍りつく。
(もうやめて!! マミさんのライフはもうゼロよ!!)
さやかが心の中で叫ぶ。
「さっすが、見滝原魔法少女隊のリーダー!! マミさん素敵!! マミカルスタイリッシュ最強!!」
芳文の言葉に、プルプルと肩を震わせながらマミは叫ぶ。
「……あなた、私にケンカ売ってるの!?」
良く見ると、マミの目尻に涙が溜まっていた。
「え? どうして? そういう事してる巴さんを想像したら、かわいいなとは思ったけどね。別に巴さんの事を馬鹿になんてしてないよ」
「か、かわ……!?」
首を傾げながら芳文の放った言葉に、マミは思わず赤面してしまう。
「あれ? どうかしたの?」
顔を左右にぶんぶんっと振り、マミは気持ちを落ち着かせると芳文に疑問を問いかける。
「な、何でもないわ!! それから見滝原魔法少女隊って何なの!?」
「ああ、リーダーが巴さんで、隊員1号がまどかちゃんで、隊員2号がさやかちゃんのチームの事だよ」
「また勝手にそんな名前付けて……。まあいいわ。それで社君のポジションは何なの?」
「俺? 下っ端戦闘員かな」
「……はあ。あなた、変な所で卑屈よね……」
「じゃあ、巴さんの奴隷と言う事で」
「なんでそうなるのっ」
「ああ言えばこう言う。女の子って難しいなあ。わけがわからないよ」
キュゥべえの口調を真似て芳文は言う。
「わけがわからないのはあなたよっ」
「人間は言葉と言葉でわかりあえる生き物だよ。だからお互いにもう少しわかりあえるよう、トークしてみようか」
「あなたとはわかりあえる気がしないわ……」
「えー。する前から諦めるなんて、そんなのってないよ。そんなの、絶対おかしいよ」
「……どの口が言うのかしら」
「先輩、それ、私のセリフ……」
呆れた表情のマミとどこか腑に落ちない顔のまどか。そんな二人の様子に気付いてるのか気付かずか、芳文は話を続ける。
「あっ。今気付いたんだけど。する前って言葉、なんかいやらしい事をするみたいな響きだよね。でも俺にそんなつもりはないから勘違いしないでね。もうセクハラ扱いされて殴られるのは嫌だ」
「……もういいから、少し黙っててくれるかしら」
掌で顔を押さえながら、どうでも良さそうにマミはひらひらともう片方の手を振って見せる。
「……なんてこった。巴さんに呆れられてしまった……」
芳文はがっくりとうなだれて、テーブルの上に突っ伏す。
「あ、あははははは……」
マミと芳文のそんなやり取りに、まどかはマンガのような大きな汗をかきながら笑うしかなかった。
「こういうのを夫婦漫才っていうんだよね?」
キュゥべえが無表情のまま口にしたその言葉に、マミが真っ赤になって物凄い勢いで否定する。
「違うわよ!! 誰がこんな馬鹿な人と!!」
「そうだぞ淫獣。これは漫才などではない。女の子にモテない俺が唯一、貴重な異性の友人達と出来る貴重な会話なんだ」
キュゥべえにそう言うと、芳文はマミの方へ向き直り真剣な顔で口を開く。
「そういう訳なので、どうか見捨てないでください。女王様」
「誰が女王様よ!!」
「いや、なんとなくムチとかボンデージとか装備したら似合いそうだなと思って」
「……」
「……」
「一度本気で死んでみる?」
「ごめんなさい」
「……ねえ、さやかちゃん。ムチとかボンデージって、先輩は何の話してるのかな?」
まどかは頭の上に?マークを浮かべながらさやかに尋ねる。
「まどかは知らなくていい事だから」
「そうなの?」
「そうなの!!」
さやかは芳文の馬鹿さ加減に呆れつつ、純粋なまどかの疑問にそう答えるのだった……。
「やっぱりアレだよね。巴さんにもノートに必殺技の名前や決めポーズ書いたりとか、鏡の前でスタイリッシュアクション決めてみたりとか、そういう時期もあったんだよね」
「あああ、あなたは、いいい、いったい、ななな、何をいいい言ってるの、かしら?」
マミが激しく動揺しながら、問い返す。
「え? もしかして練習もせずにあのアクションと必殺技が出来たの? やっぱりすごいな巴さんは」
――ピシッ。
芳文のその言葉で再び空気が凍りつく。
(もうやめて!! マミさんのライフはもうゼロよ!!)
さやかが心の中で叫ぶ。
「さっすが、見滝原魔法少女隊のリーダー!! マミさん素敵!! マミカルスタイリッシュ最強!!」
芳文の言葉に、プルプルと肩を震わせながらマミは叫ぶ。
「……あなた、私にケンカ売ってるの!?」
良く見ると、マミの目尻に涙が溜まっていた。
「え? どうして? そういう事してる巴さんを想像したら、かわいいなとは思ったけどね。別に巴さんの事を馬鹿になんてしてないよ」
「か、かわ……!?」
首を傾げながら芳文の放った言葉に、マミは思わず赤面してしまう。
「あれ? どうかしたの?」
顔を左右にぶんぶんっと振り、マミは気持ちを落ち着かせると芳文に疑問を問いかける。
「な、何でもないわ!! それから見滝原魔法少女隊って何なの!?」
「ああ、リーダーが巴さんで、隊員1号がまどかちゃんで、隊員2号がさやかちゃんのチームの事だよ」
「また勝手にそんな名前付けて……。まあいいわ。それで社君のポジションは何なの?」
「俺? 下っ端戦闘員かな」
「……はあ。あなた、変な所で卑屈よね……」
「じゃあ、巴さんの奴隷と言う事で」
「なんでそうなるのっ」
「ああ言えばこう言う。女の子って難しいなあ。わけがわからないよ」
キュゥべえの口調を真似て芳文は言う。
「わけがわからないのはあなたよっ」
「人間は言葉と言葉でわかりあえる生き物だよ。だからお互いにもう少しわかりあえるよう、トークしてみようか」
「あなたとはわかりあえる気がしないわ……」
「えー。する前から諦めるなんて、そんなのってないよ。そんなの、絶対おかしいよ」
「……どの口が言うのかしら」
「先輩、それ、私のセリフ……」
呆れた表情のマミとどこか腑に落ちない顔のまどか。そんな二人の様子に気付いてるのか気付かずか、芳文は話を続ける。
「あっ。今気付いたんだけど。する前って言葉、なんかいやらしい事をするみたいな響きだよね。でも俺にそんなつもりはないから勘違いしないでね。もうセクハラ扱いされて殴られるのは嫌だ」
「……もういいから、少し黙っててくれるかしら」
掌で顔を押さえながら、どうでも良さそうにマミはひらひらともう片方の手を振って見せる。
「……なんてこった。巴さんに呆れられてしまった……」
芳文はがっくりとうなだれて、テーブルの上に突っ伏す。
「あ、あははははは……」
マミと芳文のそんなやり取りに、まどかはマンガのような大きな汗をかきながら笑うしかなかった。
「こういうのを夫婦漫才っていうんだよね?」
キュゥべえが無表情のまま口にしたその言葉に、マミが真っ赤になって物凄い勢いで否定する。
「違うわよ!! 誰がこんな馬鹿な人と!!」
「そうだぞ淫獣。これは漫才などではない。女の子にモテない俺が唯一、貴重な異性の友人達と出来る貴重な会話なんだ」
キュゥべえにそう言うと、芳文はマミの方へ向き直り真剣な顔で口を開く。
「そういう訳なので、どうか見捨てないでください。女王様」
「誰が女王様よ!!」
「いや、なんとなくムチとかボンデージとか装備したら似合いそうだなと思って」
「……」
「……」
「一度本気で死んでみる?」
「ごめんなさい」
「……ねえ、さやかちゃん。ムチとかボンデージって、先輩は何の話してるのかな?」
まどかは頭の上に?マークを浮かべながらさやかに尋ねる。
「まどかは知らなくていい事だから」
「そうなの?」
「そうなの!!」
さやかは芳文の馬鹿さ加減に呆れつつ、純粋なまどかの疑問にそう答えるのだった……。
85:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/14(木) 01:02:16.97:qUa664fYo (7/10)
☆
「魔女も使い魔も見つからなかったね。数が減ってきたのかな」
パトロールを終え、芳文は三人に意見を求めて話しかける。
「……たまたま今日は見つからなかっただけよ」
「やっぱそうかぁ。魔女根絶の日は遠いなぁ」
マミの返答に芳文は軽く返す。
「明日は違う範囲を調べた方がいいかもしれませんね」
まどかがマミにそう意見を述べる。
「そうね」
「それじゃ三人共家に送ってくよ。ここからだと誰の家が近いかな」
「私は美樹さんと帰るから、社君は鹿目さんを送ってあげて」
順番に家に送るという芳文の申し出にマミはそう答える。
「わかった。それじゃ巴さん、さやかちゃんまた明日。まどかちゃん、行こう」
「はい。マミさん、さやかちゃん。また明日学校で」
「ええ。社君、鹿目さん、また明日」
「先輩、まどかまた明日ね」
四人は二組に別れて帰路へと着く。
「マミさん、魔女が見つからなかったのってやっぱり」
「……多分、佐倉杏子が狩って回ってるんでしょうね」
まどか達と別れた帰り道、マミとさやかは赤の魔法少女の事を口にする。
「このままだと、いつかまた鉢合わせするんじゃ……」
「そうね。いくらこの街が広くても、追い求めてる物がお互いに同じなのだから、彼女との衝突は避けられないでしょうね」
「あいつと会ったら、まどかも先輩もなんて言うだろ……」
誰かの為に役に立ちたいと言って憚らない、お人よしのまどかと芳文にグリーフシードの為に人を襲わせるような、非情な魔法少女を会せたらどうなるのか。
マミとさやかの悩みは尽きなかった……。
☆
「今日は必殺技試せなくて残念だったね」
「ちょっと残念です」
まどかを家に送る帰り道。芳文とまどかはそんな話をしながら並んで歩く。
「そうだ。必殺技の名前は考えてあるの?」
「名前まではまだ……」
「そっか。まどかちゃんと一緒に出す技なんだから、名前か合言葉があると連携が取りやすいと思うんだ」
「言われてみればそうですね。でも名前や合言葉って言われてもすぐには……」
「シンプルなのでもいいんじゃないかな。例えばマギカ・ブレード・ファイナルアタックとかそういうのでも」
「うーん。それじゃあ、名前も考えてみます」
「うん。かっこいい名前を頼むよ。俺が考えるとまた巴さん達に呆れられそうだから」
「が、がんばります」
「うん」
まどかの返事に芳文は優しい顔で頷く。
(……そういえば先輩、いつも二人の時は私の歩幅に合わせて歩いてくれてるよね)
足の長さが違うので、当然まどかの方が歩くのが遅いのだが、芳文はいつもまどかの歩幅に合わせてゆっくり歩いていた。
穏やかな時間の流れる中、まどかは今更ながらその事に気づく。
「どうかした?」
「いえ、宿題が結構出てたの思い出しちゃって」
慌てて別の話題を振る。
「そっか。俺も帰ったらやらないとな」
「苦手な数学だからちょっと憂鬱です」
「まどかちゃんが良かったらまた勉強見てあげるよ」
「ありがとうございます」
「うん。まあ俺にはそれくらいしかしてあげられないしね」
(……そんな事ないのに。それに、いつも優しくしてくれるし……)
まどかはそう思ったが、恥ずかしくて口に出せなかった。
そんな風に二人が薄暗い夜道を歩いていたその時だった。
まどかと芳文はほぼ同時にぴたりと足を止める。
「……まどかちゃん」
何となく嫌な感じがしてまどかに尋ねる。
「……はい。魔女の結界が近くにあるのを感じます」
まどかは左手の中指に嵌めた指輪をソウルジェムに変化させて、魔女の反応を探す。
「こっちです!!」
まどかが路地裏に駆け出すのを芳文が追う。
そしてまどかと芳文が辿り着いたその先には、ボロボロの空家がありその庭に魔女の結界が出来上がっていた。
「先輩、誰かが中で魔女と戦っています!!」
まどかの言葉に芳文は頷き、まどかに言った。
「行こう」
「はい!!」
☆
「魔女も使い魔も見つからなかったね。数が減ってきたのかな」
パトロールを終え、芳文は三人に意見を求めて話しかける。
「……たまたま今日は見つからなかっただけよ」
「やっぱそうかぁ。魔女根絶の日は遠いなぁ」
マミの返答に芳文は軽く返す。
「明日は違う範囲を調べた方がいいかもしれませんね」
まどかがマミにそう意見を述べる。
「そうね」
「それじゃ三人共家に送ってくよ。ここからだと誰の家が近いかな」
「私は美樹さんと帰るから、社君は鹿目さんを送ってあげて」
順番に家に送るという芳文の申し出にマミはそう答える。
「わかった。それじゃ巴さん、さやかちゃんまた明日。まどかちゃん、行こう」
「はい。マミさん、さやかちゃん。また明日学校で」
「ええ。社君、鹿目さん、また明日」
「先輩、まどかまた明日ね」
四人は二組に別れて帰路へと着く。
「マミさん、魔女が見つからなかったのってやっぱり」
「……多分、佐倉杏子が狩って回ってるんでしょうね」
まどか達と別れた帰り道、マミとさやかは赤の魔法少女の事を口にする。
「このままだと、いつかまた鉢合わせするんじゃ……」
「そうね。いくらこの街が広くても、追い求めてる物がお互いに同じなのだから、彼女との衝突は避けられないでしょうね」
「あいつと会ったら、まどかも先輩もなんて言うだろ……」
誰かの為に役に立ちたいと言って憚らない、お人よしのまどかと芳文にグリーフシードの為に人を襲わせるような、非情な魔法少女を会せたらどうなるのか。
マミとさやかの悩みは尽きなかった……。
☆
「今日は必殺技試せなくて残念だったね」
「ちょっと残念です」
まどかを家に送る帰り道。芳文とまどかはそんな話をしながら並んで歩く。
「そうだ。必殺技の名前は考えてあるの?」
「名前まではまだ……」
「そっか。まどかちゃんと一緒に出す技なんだから、名前か合言葉があると連携が取りやすいと思うんだ」
「言われてみればそうですね。でも名前や合言葉って言われてもすぐには……」
「シンプルなのでもいいんじゃないかな。例えばマギカ・ブレード・ファイナルアタックとかそういうのでも」
「うーん。それじゃあ、名前も考えてみます」
「うん。かっこいい名前を頼むよ。俺が考えるとまた巴さん達に呆れられそうだから」
「が、がんばります」
「うん」
まどかの返事に芳文は優しい顔で頷く。
(……そういえば先輩、いつも二人の時は私の歩幅に合わせて歩いてくれてるよね)
足の長さが違うので、当然まどかの方が歩くのが遅いのだが、芳文はいつもまどかの歩幅に合わせてゆっくり歩いていた。
穏やかな時間の流れる中、まどかは今更ながらその事に気づく。
「どうかした?」
「いえ、宿題が結構出てたの思い出しちゃって」
慌てて別の話題を振る。
「そっか。俺も帰ったらやらないとな」
「苦手な数学だからちょっと憂鬱です」
「まどかちゃんが良かったらまた勉強見てあげるよ」
「ありがとうございます」
「うん。まあ俺にはそれくらいしかしてあげられないしね」
(……そんな事ないのに。それに、いつも優しくしてくれるし……)
まどかはそう思ったが、恥ずかしくて口に出せなかった。
そんな風に二人が薄暗い夜道を歩いていたその時だった。
まどかと芳文はほぼ同時にぴたりと足を止める。
「……まどかちゃん」
何となく嫌な感じがしてまどかに尋ねる。
「……はい。魔女の結界が近くにあるのを感じます」
まどかは左手の中指に嵌めた指輪をソウルジェムに変化させて、魔女の反応を探す。
「こっちです!!」
まどかが路地裏に駆け出すのを芳文が追う。
そしてまどかと芳文が辿り着いたその先には、ボロボロの空家がありその庭に魔女の結界が出来上がっていた。
「先輩、誰かが中で魔女と戦っています!!」
まどかの言葉に芳文は頷き、まどかに言った。
「行こう」
「はい!!」
86:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/14(木) 01:03:52.83:qUa664fYo (8/10)
☆
「くそっ!! なんなんだよこいつは!! 斬っても斬っても再生しやがる!!」
まどかと芳文が見つけた魔女の結界内では、杏子が一人で魔女と戦っていた。
その魔女はまるで大きな黒い球根のような姿で、上部と下部からおびただしい数の触手を生やし、触手で杏子を攻撃してくる。
「くそっ!! これでも喰らいやがれ!!」
杏子は奥の手である巨大な槍を顕現させる。
槍の柄は節々が別れて鎖で繋がっている。それはまるで巨大な蛇のようだった。
「くたばれ!!」
杏子の叫びと共に巨大な槍が球根の魔女を襲う。
ズガアアアアアンッ!!
魔女は中心から真っ二つに引き裂かれ、ぐちゃぐちゃに押し潰される。
「へっ、ざまあみやがれ!!」
杏子が勝利を確信した瞬間、ヒュッという風切り音と共に、魔女の分断された下部から生えた触手が飛んできて、杏子の右肩を撃ち貫いた。
「……え?」
一瞬、何が起こったのか理解出来ず、杏子が視線を自分の体に向けると触手が自分の肩を貫いているのが見えた。
「……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
自分の肩が貫かれているのを理解したその瞬間、耐え難い激痛が杏子を襲う。
ずるり、と触手が引き抜かれると別の触手が杏子の足に絡みつく。
杏子の足に絡みついた触手が杏子の身体を軽々と持ち上げ、そして。
ズガアアアアアアアンッ!!
触手は杏子を思い切り地面に叩きつけた。
「ガハッ!!」
激しい痛みを全身に感じながら、杏子は吐血する。
ズガアアアアアアアンッ!! ズガアアアアアアアンッ!! ズガアアアアアアアンッ!!
「が、あ……」
何度も何度も地面に叩きつけられ、杏子にはもう抵抗するする力は残っていなかった。
(体が動かねえ……。脊髄をやられたのか……)
何とか逃げようとするが、ぴくりとも体が動かない。すでに杏子の変身は解けていた。
(は、はは……。こんな所で死ぬのか……)
分断したはずの魔女がぼこぼこと音を立てながら、元の姿へと再生する。
(……おかしいな。魔女が人間を喰って、魔女をあたしが喰う。そういう物のはずなのに)
触手が杏子の首と両腕両足に絡みつき、宙づりにすると首を締めながらその体を引きちぎろうとする。
「が……」
(あたしはこんな殺され方して終わりなのか。これが、報いなのか……)
杏子の意識が途切れそうになったその時、風切り音と共に杏子の体を拘束していた触手が消滅した。
体を拘束していた触手が消えた事で、落下していく杏子を触手ではない物が優しく受け止めた。
「まどかちゃん!! この子の治療を早く!! 死にかけてる!!」
杏子を救ったのは芳文だった。マギカ・ブレードを片手に、瀕死の杏子を抱きかかえて後方のまどかの元へと戻る。
「ひどい!! すぐ治してあげるからがんばって!!」
芳文が地面に寝かせた杏子の傍らに膝立ちでしゃがみ込むと、まどかは両手で治癒魔法を発生させて、普通なら再起不能のはずのケガをじわじわと治していく。
「あ、あんた達は……」
「喋っちゃ駄目だよ!! じっとしてて!!」
まどかの治癒魔法を受けながら、杏子が視線を横に向けると芳文が一人で魔女と戦っているのが目に入った。
やがて、まどかの治癒魔法で杏子のケガが全快する。
「もうこれで大丈夫だよ。どこかまだ具合が悪い所あるかな?」
「あ、ああ……。大丈夫だ」
「良かった」
戸惑っている杏子ににっこりと微笑むまどか。
「っ!! それどころじゃない!! あんたの連れが一人であの魔女に!!」
「大丈夫だよ」
「何言ってんのさ!! あの魔女は強い!! 助けないとあいつ殺されるぞ!!」
「大丈夫。あの人は強いよ」
まどかは芳文を信頼しきった表情で言い切り、視線を杏子から魔女と戦う芳文へと向ける。
杏子も釣られるように魔女と戦う芳文へ視線を向けると、魔女が芳文に圧倒されていた。
連日の魔女退治と自己鍛錬、そして一度戦った相手。これらの要素に加え、芳文の手には最強の切り札が握られている。
☆
「くそっ!! なんなんだよこいつは!! 斬っても斬っても再生しやがる!!」
まどかと芳文が見つけた魔女の結界内では、杏子が一人で魔女と戦っていた。
その魔女はまるで大きな黒い球根のような姿で、上部と下部からおびただしい数の触手を生やし、触手で杏子を攻撃してくる。
「くそっ!! これでも喰らいやがれ!!」
杏子は奥の手である巨大な槍を顕現させる。
槍の柄は節々が別れて鎖で繋がっている。それはまるで巨大な蛇のようだった。
「くたばれ!!」
杏子の叫びと共に巨大な槍が球根の魔女を襲う。
ズガアアアアアンッ!!
魔女は中心から真っ二つに引き裂かれ、ぐちゃぐちゃに押し潰される。
「へっ、ざまあみやがれ!!」
杏子が勝利を確信した瞬間、ヒュッという風切り音と共に、魔女の分断された下部から生えた触手が飛んできて、杏子の右肩を撃ち貫いた。
「……え?」
一瞬、何が起こったのか理解出来ず、杏子が視線を自分の体に向けると触手が自分の肩を貫いているのが見えた。
「……ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
自分の肩が貫かれているのを理解したその瞬間、耐え難い激痛が杏子を襲う。
ずるり、と触手が引き抜かれると別の触手が杏子の足に絡みつく。
杏子の足に絡みついた触手が杏子の身体を軽々と持ち上げ、そして。
ズガアアアアアアアンッ!!
触手は杏子を思い切り地面に叩きつけた。
「ガハッ!!」
激しい痛みを全身に感じながら、杏子は吐血する。
ズガアアアアアアアンッ!! ズガアアアアアアアンッ!! ズガアアアアアアアンッ!!
「が、あ……」
何度も何度も地面に叩きつけられ、杏子にはもう抵抗するする力は残っていなかった。
(体が動かねえ……。脊髄をやられたのか……)
何とか逃げようとするが、ぴくりとも体が動かない。すでに杏子の変身は解けていた。
(は、はは……。こんな所で死ぬのか……)
分断したはずの魔女がぼこぼこと音を立てながら、元の姿へと再生する。
(……おかしいな。魔女が人間を喰って、魔女をあたしが喰う。そういう物のはずなのに)
触手が杏子の首と両腕両足に絡みつき、宙づりにすると首を締めながらその体を引きちぎろうとする。
「が……」
(あたしはこんな殺され方して終わりなのか。これが、報いなのか……)
杏子の意識が途切れそうになったその時、風切り音と共に杏子の体を拘束していた触手が消滅した。
体を拘束していた触手が消えた事で、落下していく杏子を触手ではない物が優しく受け止めた。
「まどかちゃん!! この子の治療を早く!! 死にかけてる!!」
杏子を救ったのは芳文だった。マギカ・ブレードを片手に、瀕死の杏子を抱きかかえて後方のまどかの元へと戻る。
「ひどい!! すぐ治してあげるからがんばって!!」
芳文が地面に寝かせた杏子の傍らに膝立ちでしゃがみ込むと、まどかは両手で治癒魔法を発生させて、普通なら再起不能のはずのケガをじわじわと治していく。
「あ、あんた達は……」
「喋っちゃ駄目だよ!! じっとしてて!!」
まどかの治癒魔法を受けながら、杏子が視線を横に向けると芳文が一人で魔女と戦っているのが目に入った。
やがて、まどかの治癒魔法で杏子のケガが全快する。
「もうこれで大丈夫だよ。どこかまだ具合が悪い所あるかな?」
「あ、ああ……。大丈夫だ」
「良かった」
戸惑っている杏子ににっこりと微笑むまどか。
「っ!! それどころじゃない!! あんたの連れが一人であの魔女に!!」
「大丈夫だよ」
「何言ってんのさ!! あの魔女は強い!! 助けないとあいつ殺されるぞ!!」
「大丈夫。あの人は強いよ」
まどかは芳文を信頼しきった表情で言い切り、視線を杏子から魔女と戦う芳文へと向ける。
杏子も釣られるように魔女と戦う芳文へ視線を向けると、魔女が芳文に圧倒されていた。
連日の魔女退治と自己鍛錬、そして一度戦った相手。これらの要素に加え、芳文の手には最強の切り札が握られている。
87:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/14(木) 01:04:21.79:qUa664fYo (9/10)
「再生怪人は弱いのがお約束だろ? じゃあな、バケモノ」
最強の魔法少女の祈りと願いが込められたすべての魔を消滅させる剣ですべての触手を断ち切られ、全身をバラバラに斬り裂かれ、魔女は跡形もなく光の粒子になって消滅していく。
かつて、まどかを魔法少女へと契約させるきっかけになった魔女と同じ姿をしたこの魔女を、芳文はたった一人で葬り去った。
シュゥゥゥゥゥゥゥン……。
結界が消滅し、グリーフシードがコツンと音を立てて地面に落ちてくる。
芳文はグリーフシードを拾い上げると、呆然としている杏子とまどかの元へと歩いてくる。
「良かった。ケガ治ったんだね。さ、ソウルジェム出して」
呆然自失の杏子は芳文の言葉につい、ソウルジェムを出してしまう。
コツン。
芳文がグリーフシードを杏子のソウルジェムに当てる。
シュゥゥゥゥゥンッ。
限界近くまで穢れが溜まってしまった杏子のソウルジェムが浄化される。
「お、おい!!」
「まどかちゃんも」
「はい」
芳文はまどかのソウルジェムも杏子と同じように浄化してやると、限界の近いグリーフシードを宙に放り投げ、マギカ・ブレードを一閃させクリーフシードを木端微塵に粉砕消滅させた。
「これでよしと」
「おい、あんた。何の真似だ?」
「何が?」
「とぼけるな!! なんであたしを助けた? なんであたしにグリーフシードを使った?」
信じられない行動を取る二人組に杏子は警戒しながら怒鳴る。
「なんでって、ねえ」
芳文と顔を見合わせお互いに少し困った顔をしてから、、まどかは杏子に向き直り微笑みながら言い切った。
「だって、同じ魔法少女だもん。助けるのは当たり前だよ」
「……は?」
「うん。まどかちゃんの言うとうりだよ。それに、目の前でちょっと頑張れば助けられる命があるのにさ、見て見ぬふりなんて出来ないよ」
「何言ってんのさ、あんた達……」
「何って、そういう物じゃないの? 魔女は呪いを振り撒く存在で、君達魔法少女は希望を振り撒く存在。みんなの命を守るために戦ってくれてる魔法少女は助けあうべきだよね。まあ、俺は見ての通り男だけど」
「……」
「あの……。良かったらあなたの名前、教えてほしいな。私、鹿目まどか」
「俺は社芳文」
まったく悪意も何もない顔で名前を名乗られ、杏子は毒気を抜かれてしまう。
「……っ!!」
居た堪れなくなって、杏子は魔法少女の姿へ変身すると、その場から物凄い勢いで近隣の建物の屋根を飛び越えながら去ってしまった。
「くそっ!! なんなんだあいつら!! あんな馬鹿達見た事ねえ!!」
夜の闇の中を飛びながら、杏子は誰にともなく叫んだ……。
つづく
「再生怪人は弱いのがお約束だろ? じゃあな、バケモノ」
最強の魔法少女の祈りと願いが込められたすべての魔を消滅させる剣ですべての触手を断ち切られ、全身をバラバラに斬り裂かれ、魔女は跡形もなく光の粒子になって消滅していく。
かつて、まどかを魔法少女へと契約させるきっかけになった魔女と同じ姿をしたこの魔女を、芳文はたった一人で葬り去った。
シュゥゥゥゥゥゥゥン……。
結界が消滅し、グリーフシードがコツンと音を立てて地面に落ちてくる。
芳文はグリーフシードを拾い上げると、呆然としている杏子とまどかの元へと歩いてくる。
「良かった。ケガ治ったんだね。さ、ソウルジェム出して」
呆然自失の杏子は芳文の言葉につい、ソウルジェムを出してしまう。
コツン。
芳文がグリーフシードを杏子のソウルジェムに当てる。
シュゥゥゥゥゥンッ。
限界近くまで穢れが溜まってしまった杏子のソウルジェムが浄化される。
「お、おい!!」
「まどかちゃんも」
「はい」
芳文はまどかのソウルジェムも杏子と同じように浄化してやると、限界の近いグリーフシードを宙に放り投げ、マギカ・ブレードを一閃させクリーフシードを木端微塵に粉砕消滅させた。
「これでよしと」
「おい、あんた。何の真似だ?」
「何が?」
「とぼけるな!! なんであたしを助けた? なんであたしにグリーフシードを使った?」
信じられない行動を取る二人組に杏子は警戒しながら怒鳴る。
「なんでって、ねえ」
芳文と顔を見合わせお互いに少し困った顔をしてから、、まどかは杏子に向き直り微笑みながら言い切った。
「だって、同じ魔法少女だもん。助けるのは当たり前だよ」
「……は?」
「うん。まどかちゃんの言うとうりだよ。それに、目の前でちょっと頑張れば助けられる命があるのにさ、見て見ぬふりなんて出来ないよ」
「何言ってんのさ、あんた達……」
「何って、そういう物じゃないの? 魔女は呪いを振り撒く存在で、君達魔法少女は希望を振り撒く存在。みんなの命を守るために戦ってくれてる魔法少女は助けあうべきだよね。まあ、俺は見ての通り男だけど」
「……」
「あの……。良かったらあなたの名前、教えてほしいな。私、鹿目まどか」
「俺は社芳文」
まったく悪意も何もない顔で名前を名乗られ、杏子は毒気を抜かれてしまう。
「……っ!!」
居た堪れなくなって、杏子は魔法少女の姿へ変身すると、その場から物凄い勢いで近隣の建物の屋根を飛び越えながら去ってしまった。
「くそっ!! なんなんだあいつら!! あんな馬鹿達見た事ねえ!!」
夜の闇の中を飛びながら、杏子は誰にともなく叫んだ……。
つづく
88:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/14(木) 01:05:40.46:qUa664fYo (10/10)
杏子「……終わり。言っとくけど、まどかの剣がすごいんだからな。勘違いするなよ!!」
杏子「……終わり。言っとくけど、まどかの剣がすごいんだからな。勘違いするなよ!!」
89:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(埼玉):2011/04/14(木) 01:59:15.92:5YtCkUZo0 (1/1)
更新乙。そして支援。
久々に食い入るように見られる作品を見つけられて嬉しいです^^
更新乙。そして支援。
久々に食い入るように見られる作品を見つけられて嬉しいです^^
90:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/04/14(木) 06:58:20.26:3dtD7A05o (1/1)
お疲れ様でした
お疲れ様でした
91:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州):2011/04/15(金) 00:37:47.47:GYhMt2RAO (1/1)
乙~
乙~
92:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/16(土) 12:49:55.30:LbZtiNzro (1/2)
杏子「続編制作の息抜きに裏設定投下」
杏子「マギカ・ブレードの製造コストは魔力の矢3本分だ」
杏子「マミカルソードの製造コストはマスケット銃1丁分」
杏子「続編制作の息抜きに裏設定投下」
杏子「マギカ・ブレードの製造コストは魔力の矢3本分だ」
杏子「マミカルソードの製造コストはマスケット銃1丁分」
93:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/16(土) 12:57:24.16:LbZtiNzro (2/2)
杏子「このSSの魔法少女まどかの攻撃力をパチンコ玉として例えると、アニメ本編のワルプルギスを一撃で倒した4週目まどかの攻撃力はバスケットボール」
杏子「アニメ本編のワルプルギスを一撃で倒した4週目まどかの防御力(バリア)をトレカ1枚として例えると、このSSの魔法少女まどかの防御力はあんたらが持ってるアニメのポスターと言ったところか」
杏子「同じ素質でも願いの関係で完全に防御特化してるのがこのSSのまどかだ。今後はこのまどかの力がカギになる」
杏子「じゃ、またな」
杏子「このSSの魔法少女まどかの攻撃力をパチンコ玉として例えると、アニメ本編のワルプルギスを一撃で倒した4週目まどかの攻撃力はバスケットボール」
杏子「アニメ本編のワルプルギスを一撃で倒した4週目まどかの防御力(バリア)をトレカ1枚として例えると、このSSの魔法少女まどかの防御力はあんたらが持ってるアニメのポスターと言ったところか」
杏子「同じ素質でも願いの関係で完全に防御特化してるのがこのSSのまどかだ。今後はこのまどかの力がカギになる」
杏子「じゃ、またな」
94:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/16(土) 18:24:47.67:R6yXKOwIO (1/1)
>>1見て読むの後回しにしてたけど、読み始めたら一気読みしてしまったぜ
俺みたいにオリキャラってだけで敬遠してる人が多そうでもったいない
>>1見て読むの後回しにしてたけど、読み始めたら一気読みしてしまったぜ
俺みたいにオリキャラってだけで敬遠してる人が多そうでもったいない
95:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/16(土) 19:34:23.10:kRjfucl3o (1/1)
俺もオリキャラだから敬遠してたけど
読んだら結構面白かったわ
でも何でこんなに感想少ないんだろう?
俺もオリキャラだから敬遠してたけど
読んだら結構面白かったわ
でも何でこんなに感想少ないんだろう?
96:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海):2011/04/17(日) 01:44:51.24:apTXli0AO (1/1)
単に需要がないからだろう
このスレ見てる奴なんてほとんどいないんじゃないか?
単に需要がないからだろう
このスレ見てる奴なんてほとんどいないんじゃないか?
97:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(徳島県):2011/04/17(日) 01:57:07.00:c7LYqZg4o (1/1)
>>96
毎日チェックしてる俺に謝れ
>>96
毎日チェックしてる俺に謝れ
98:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/17(日) 06:11:00.00:q5WP2SdIO (1/1)
需要ならあるでよ
ここよりアルカディアでやった方が受けそうなのは否めないが
NIPってオリキャラにはかなり厳しいよな
需要ならあるでよ
ここよりアルカディアでやった方が受けそうなのは否めないが
NIPってオリキャラにはかなり厳しいよな
99:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:34:41.75:EbqLFZ59o (1/13)
杏子「今から第8話を投下するよ」
杏子「需要があろうがなかろうが、物語は進む」
杏子「そういうもんだよね、SSなんてさ」
杏子「それじゃ始めるよ」
杏子「今から第8話を投下するよ」
杏子「需要があろうがなかろうが、物語は進む」
杏子「そういうもんだよね、SSなんてさ」
杏子「それじゃ始めるよ」
100:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:35:11.51:EbqLFZ59o (2/13)
第8話 「みんなが一緒ならどんな困難にも、きっと打ち勝てるはずだから」
『なんで……。なんで、こんな事に……』
血まみれで倒れている妹。
血まみれで倒れている母親。
――そして、首を吊っている父親。
かつて、少女はたったひとつの奇跡を願った。
けれど、手に入れたのは孤独。
誰にも頼らない。
誰にも頼れない。
自業自得の人生。
すべて諦めて、割り切って、受け入れて。
見知らぬ他人を糧にして、ただただ、生き続ける人生。
自分の邪魔をする相手は許さない。
自分が生きるのを邪魔する相手は絶対に許さない。
今までだってそうしてきた。
これからもそうするはずだった。
――そんな時だった。
少女がお人よしの魔法少女とイレギュラーの少年に出会ったのは。
少年の言った言葉が胸に突き刺さる。
『魔法少女は希望を振り撒く存在。みんなの命を守るために戦う魔法少女』
「……そんな訳、あるかよ」
少女は一人、この街で人々の生きる証である、夜の街を彩る灯をホテルの一室から見つめながら、誰にともなく呟いた。
第8話 「みんなが一緒ならどんな困難にも、きっと打ち勝てるはずだから」
『なんで……。なんで、こんな事に……』
血まみれで倒れている妹。
血まみれで倒れている母親。
――そして、首を吊っている父親。
かつて、少女はたったひとつの奇跡を願った。
けれど、手に入れたのは孤独。
誰にも頼らない。
誰にも頼れない。
自業自得の人生。
すべて諦めて、割り切って、受け入れて。
見知らぬ他人を糧にして、ただただ、生き続ける人生。
自分の邪魔をする相手は許さない。
自分が生きるのを邪魔する相手は絶対に許さない。
今までだってそうしてきた。
これからもそうするはずだった。
――そんな時だった。
少女がお人よしの魔法少女とイレギュラーの少年に出会ったのは。
少年の言った言葉が胸に突き刺さる。
『魔法少女は希望を振り撒く存在。みんなの命を守るために戦う魔法少女』
「……そんな訳、あるかよ」
少女は一人、この街で人々の生きる証である、夜の街を彩る灯をホテルの一室から見つめながら、誰にともなく呟いた。
101:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:35:38.02:EbqLFZ59o (3/13)
☆
「あれ? まどかちゃんは?」
放課後の見滝原中学校昇降口で、さやかと合流した芳文が尋ねる。
「まどかは保険委員の仕事でちょっと遅れるって」
「そっか。時間かかるのかな?」
「いや、そんなに時間かからないって言ってたから、ちょっと待ってれば来るよ」
「そっか」
「そっちこそ、マミさんは?」
「掃除当番だよ。先に言っててだって」
「それじゃ、まどかが来たらいつもの喫茶店でマミさん待とう」
「そうだね。そういえば昨日の夜、会った事のない魔法少女に会ったんだけど、さやかちゃんは会った事ある?」
芳文の言葉にさやかは佐倉杏子の事を思い出し、一瞬顔が強張る。
「……どんな子?」
「真っ赤な魔法少女の服で、髪型がポニーテールの子だった」
「っ!? その子と何かあったの!?」
今にも芳文に掴み掛りそうな勢いで、さやかが問い詰めてくる。
「いきなりどうしたの? 昨日の帰り道で魔女に苦戦してたのを見つけたから、まどかちゃんと俺で助太刀したんだけど……。その子、何も言わずにいなくなっちゃったんだ」
「……それだけ?」
「うん。それで休み時間の時に巴さんにも聞いたんだけど、何だか上手くはぐらかされちゃって。それでさやかちゃんにも聞いてみたんだけど」
「……あたしは知らないよ」
さやかは視線を逸らしながら、芳文に対して嘘を付いた。
「そっか。あの子、誰なんだろ」
「先輩はその子にまた会ったとして、どうする気なの?」
「とりあえず、仲間にならないか誘ってみようかなって」
「……何の為に?」
「何の為って、そりゃ、仲間が多い方が魔女退治は有利だし。それに、今後その子が強い魔女を見つけた時、その子一人だと危ないじゃない」
「……戦力がいるって言うならあたしが魔法少女になるよ。そんな子放っておけばいい」
「いきなりどうしたの? なんでそんな怒った顔してるの?」
「……だってさ、助けられたのにお礼も名前も言わずに立ち去るような子、仲間にしても不協和音にしかならないよ!!」
「そうかな。ただ単に恥ずかしがり屋なだけとかかも」
(あいつはそんなタマじゃない)
どこまでも好意的な芳文の言葉にさやかは心の中で毒づく。
「しかし、巴さんもさやかちゃんも知らないって言うなら、あの子は誰なんだろう。よその街から来たのかな?」
「通してくれるかしら」
芳文が赤の魔法少女の事を口にしたその時、ほむらがやってきて芳文とさやかの隣をすり抜けようとする。
「あ、ほむほむ。おひさー」
「……ほむほむって何」
「君の愛称」
「そんな呼び方される覚えはないわ」
「駄目?」
「当たり前よ」
芳文の軽口に対し、表情一つ変える事無く淡々と返すほむら。
「うーん、相変わらずだなあ。もう少しこう、なんていうか、皆と和気藹々と」
「馴れ合いは好きじゃない」
ほむらは芳文の言葉を遮り、ばっさりと切り捨てる。
「つれないなあ。そんな風にいつまでもコミュニケーション障害を患ってると、友達出来ないし結婚も出来ないよ?」
「余計なお世話よ」
「先輩、そんな奴ほっとけばいいよ」
「こら、同級生にそういう事言っちゃいけません。お兄さんはさやちーをそんな妹に育てた覚えはありません!!」
「育てられてないし、さやちー言うな!!」
「……」
芳文とさやかの漫才を無表情でスルーしながら、ほむらは下駄箱から外履きを取り出して上履きから履き替え、その場を立ち去ろうとする。
☆
「あれ? まどかちゃんは?」
放課後の見滝原中学校昇降口で、さやかと合流した芳文が尋ねる。
「まどかは保険委員の仕事でちょっと遅れるって」
「そっか。時間かかるのかな?」
「いや、そんなに時間かからないって言ってたから、ちょっと待ってれば来るよ」
「そっか」
「そっちこそ、マミさんは?」
「掃除当番だよ。先に言っててだって」
「それじゃ、まどかが来たらいつもの喫茶店でマミさん待とう」
「そうだね。そういえば昨日の夜、会った事のない魔法少女に会ったんだけど、さやかちゃんは会った事ある?」
芳文の言葉にさやかは佐倉杏子の事を思い出し、一瞬顔が強張る。
「……どんな子?」
「真っ赤な魔法少女の服で、髪型がポニーテールの子だった」
「っ!? その子と何かあったの!?」
今にも芳文に掴み掛りそうな勢いで、さやかが問い詰めてくる。
「いきなりどうしたの? 昨日の帰り道で魔女に苦戦してたのを見つけたから、まどかちゃんと俺で助太刀したんだけど……。その子、何も言わずにいなくなっちゃったんだ」
「……それだけ?」
「うん。それで休み時間の時に巴さんにも聞いたんだけど、何だか上手くはぐらかされちゃって。それでさやかちゃんにも聞いてみたんだけど」
「……あたしは知らないよ」
さやかは視線を逸らしながら、芳文に対して嘘を付いた。
「そっか。あの子、誰なんだろ」
「先輩はその子にまた会ったとして、どうする気なの?」
「とりあえず、仲間にならないか誘ってみようかなって」
「……何の為に?」
「何の為って、そりゃ、仲間が多い方が魔女退治は有利だし。それに、今後その子が強い魔女を見つけた時、その子一人だと危ないじゃない」
「……戦力がいるって言うならあたしが魔法少女になるよ。そんな子放っておけばいい」
「いきなりどうしたの? なんでそんな怒った顔してるの?」
「……だってさ、助けられたのにお礼も名前も言わずに立ち去るような子、仲間にしても不協和音にしかならないよ!!」
「そうかな。ただ単に恥ずかしがり屋なだけとかかも」
(あいつはそんなタマじゃない)
どこまでも好意的な芳文の言葉にさやかは心の中で毒づく。
「しかし、巴さんもさやかちゃんも知らないって言うなら、あの子は誰なんだろう。よその街から来たのかな?」
「通してくれるかしら」
芳文が赤の魔法少女の事を口にしたその時、ほむらがやってきて芳文とさやかの隣をすり抜けようとする。
「あ、ほむほむ。おひさー」
「……ほむほむって何」
「君の愛称」
「そんな呼び方される覚えはないわ」
「駄目?」
「当たり前よ」
芳文の軽口に対し、表情一つ変える事無く淡々と返すほむら。
「うーん、相変わらずだなあ。もう少しこう、なんていうか、皆と和気藹々と」
「馴れ合いは好きじゃない」
ほむらは芳文の言葉を遮り、ばっさりと切り捨てる。
「つれないなあ。そんな風にいつまでもコミュニケーション障害を患ってると、友達出来ないし結婚も出来ないよ?」
「余計なお世話よ」
「先輩、そんな奴ほっとけばいいよ」
「こら、同級生にそういう事言っちゃいけません。お兄さんはさやちーをそんな妹に育てた覚えはありません!!」
「育てられてないし、さやちー言うな!!」
「……」
芳文とさやかの漫才を無表情でスルーしながら、ほむらは下駄箱から外履きを取り出して上履きから履き替え、その場を立ち去ろうとする。
102:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:36:03.69:EbqLFZ59o (4/13)
「あっ。ちょっと待って」
「……まだ何かあるの?」
芳文に呼び止められて、ほむらは顔だけ振り返り尋ねる。
「へい彼女!! これから僕と喫茶店行って、素敵で有意義な午後の一時を過ごさないかい!?」
「嫌よ」
「即答で断られた!?」
「そんな誘い方でOKもらえると思ったんかい!!」
さやかが芳文にツッコミを入れる。
「くそう……。自信あったのに……。この俺の素敵トークで、どうしようもないコミュ障のほむほむを籠絡して、見滝原魔法少女隊の一員に勧誘しようと思ってたのに……。いきなり序盤で躓いてしまった!!」
『……』
ほむらとさやかは二人揃って無言のまま、かわいそうな子を見る目で芳文を見る。
「……美樹さやか」
「……何よ、転校生」
「あなた、この子と付き合ってて疲れない?」
「日常生活だと結構、いやかなり疲れるわ」
「……そう」
「ひでえ!! しかもこの子扱いかよ!! 俺の方が学年上なのに!!」
「……」
「畜生……。そりゃそっちの方が精神年齢上かもしれないけど!! 中二にしてはなんか妙に達観してるけど!! て言うかなんかそこはかとなくババ臭いけど!!」
「……あなた、そんなに早く死にたいのかしら」
「ごめんなさい」
ほむらはため息をひとつ付くと、踵を返して立ち去ろうとする……が、数歩歩いた所でくるりと振り返り、芳文に言い放つ。
「私はまだ若い。ババ臭いと言われるのは心外だわ」
「それじゃあ、もう少し年頃の少女らしく、優しくフレンドリーに接しておくれよ」
「お断りよ」
芳文の言葉に、冷たく返す。
「やめてくれないか!! その角度で見下すのは!!」
「……」
「……」
「……本当にバカな子」
ほむらはそう言うと、今度こそ本当に去って行った。
「……さやかちゃん」
「……何? 先輩」
「俺って、バカな子かな?」
「うん。ものすごく」
「……例えば、どういう所が?」
「とりあえず、さっきのやりとりだけでも、もうありえない。あんな誘い方でホイホイ付いてくる女の子なんていないし」
「……自信、あったんだけどなあ」
「……一体どこから、そんな自信が出てくるのか知りたいよ」
項垂れている芳文に呆れてさやかがため息をひとつ付くと、芳文は顔を上げて叫ぶ。
「……いや、俺は間違ってない筈なんだ。相手がコミュ障のほむほむだから通用しなかっただけで!!」
「……」
芳文のあまりの馬鹿さ加減に、さやかが無言で呆れていると、まどかがやってきた。
「さやかちゃん、お待たせー。あ、先輩。お待たせしちゃってすみません」
「待ってたよ!! 僕のマイエンジェル!!」
「え?」
呆気にとられて立ち止まったまどかの目前へ、芳文はマミのようなスタイリッシュな四回転を決めながら着地すると、床に片膝を突きながら、掌を上にして両腕を左斜め上にまどか目掛けて突き出しながら叫ぶ。
それはまるで、恋愛物の劇のワンシーンのような構図だった。
「ねえねえ、とってもキュートでプリティなマイエンジェル!! 僕と一緒に、喫茶店でプリンでも食べながら、素敵で有意義な午後の一時を過ごさないかい!?」
「……え? え? えと……。はい……」
目をパチクリとさせながら、まどかはつい頷いてしまう。
「よっしゃあ!! まどかちゃんがオーケーしてくれたよ!! 見たかいさやちー!! やっぱり俺の素敵トークは女の子に通用するんだ!!」
自信満々のドヤ顔でさやかを見ながら芳文は叫ぶ。
「んな訳あるかぁぁぁぁっ!! まどかもあっさりオーケーするんじゃないの!!」
「え? え? 何? 何なの?」
何が何だかわからないまどかはただ、困惑するだけだった……。
「あっ。ちょっと待って」
「……まだ何かあるの?」
芳文に呼び止められて、ほむらは顔だけ振り返り尋ねる。
「へい彼女!! これから僕と喫茶店行って、素敵で有意義な午後の一時を過ごさないかい!?」
「嫌よ」
「即答で断られた!?」
「そんな誘い方でOKもらえると思ったんかい!!」
さやかが芳文にツッコミを入れる。
「くそう……。自信あったのに……。この俺の素敵トークで、どうしようもないコミュ障のほむほむを籠絡して、見滝原魔法少女隊の一員に勧誘しようと思ってたのに……。いきなり序盤で躓いてしまった!!」
『……』
ほむらとさやかは二人揃って無言のまま、かわいそうな子を見る目で芳文を見る。
「……美樹さやか」
「……何よ、転校生」
「あなた、この子と付き合ってて疲れない?」
「日常生活だと結構、いやかなり疲れるわ」
「……そう」
「ひでえ!! しかもこの子扱いかよ!! 俺の方が学年上なのに!!」
「……」
「畜生……。そりゃそっちの方が精神年齢上かもしれないけど!! 中二にしてはなんか妙に達観してるけど!! て言うかなんかそこはかとなくババ臭いけど!!」
「……あなた、そんなに早く死にたいのかしら」
「ごめんなさい」
ほむらはため息をひとつ付くと、踵を返して立ち去ろうとする……が、数歩歩いた所でくるりと振り返り、芳文に言い放つ。
「私はまだ若い。ババ臭いと言われるのは心外だわ」
「それじゃあ、もう少し年頃の少女らしく、優しくフレンドリーに接しておくれよ」
「お断りよ」
芳文の言葉に、冷たく返す。
「やめてくれないか!! その角度で見下すのは!!」
「……」
「……」
「……本当にバカな子」
ほむらはそう言うと、今度こそ本当に去って行った。
「……さやかちゃん」
「……何? 先輩」
「俺って、バカな子かな?」
「うん。ものすごく」
「……例えば、どういう所が?」
「とりあえず、さっきのやりとりだけでも、もうありえない。あんな誘い方でホイホイ付いてくる女の子なんていないし」
「……自信、あったんだけどなあ」
「……一体どこから、そんな自信が出てくるのか知りたいよ」
項垂れている芳文に呆れてさやかがため息をひとつ付くと、芳文は顔を上げて叫ぶ。
「……いや、俺は間違ってない筈なんだ。相手がコミュ障のほむほむだから通用しなかっただけで!!」
「……」
芳文のあまりの馬鹿さ加減に、さやかが無言で呆れていると、まどかがやってきた。
「さやかちゃん、お待たせー。あ、先輩。お待たせしちゃってすみません」
「待ってたよ!! 僕のマイエンジェル!!」
「え?」
呆気にとられて立ち止まったまどかの目前へ、芳文はマミのようなスタイリッシュな四回転を決めながら着地すると、床に片膝を突きながら、掌を上にして両腕を左斜め上にまどか目掛けて突き出しながら叫ぶ。
それはまるで、恋愛物の劇のワンシーンのような構図だった。
「ねえねえ、とってもキュートでプリティなマイエンジェル!! 僕と一緒に、喫茶店でプリンでも食べながら、素敵で有意義な午後の一時を過ごさないかい!?」
「……え? え? えと……。はい……」
目をパチクリとさせながら、まどかはつい頷いてしまう。
「よっしゃあ!! まどかちゃんがオーケーしてくれたよ!! 見たかいさやちー!! やっぱり俺の素敵トークは女の子に通用するんだ!!」
自信満々のドヤ顔でさやかを見ながら芳文は叫ぶ。
「んな訳あるかぁぁぁぁっ!! まどかもあっさりオーケーするんじゃないの!!」
「え? え? 何? 何なの?」
何が何だかわからないまどかはただ、困惑するだけだった……。
103:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:36:45.11:EbqLFZ59o (5/13)
☆
「まどかもさあ、あんなふざけた誘われ方されて、オーケーするってどんだけなのさ」
「で、でも、せっかく先輩が誘ってくれたんだし……」
まどか達三人は喫茶店で遅れてやってきたマミと合流し、魔女と使い魔を探してパトロールをしていた。
マミがソウルジェムを手に歩くのに続いて芳文が、まどかとさやかは芳文の後ろに付いて学校を出る時の事を話しながら歩いていく。
「鹿目さん、美樹さん。おしゃべりは一旦そこまでよ。使い魔がいるわ」
路地裏へと続く薄暗い脇道に明滅するソウルジェムを向けながら、マミが注意する。
「行こう」
芳文の言葉に三人が頷き、四人は路地裏へと歩みを進める。
周囲の風景がぐにゃりと歪み、四人の前に使い魔がその姿を現す。
まるでイタチのような姿をしたカラフルな色の使い魔が三体。使い魔達は四人に気付くと、前足を刀の刀身のように変形させ、ぐるぐると全身を回転させながら、猛スピードで突っ込んでくる。
「あれは前に倒した奴と同じ奴か。……三匹いるな。巴さん、剣よろしく」
「オッケー。社君、お願い」
マミは一瞬で変身を済ませて、マミカルソードを一振り顕現させて芳文に渡す。
小型の竜巻がひとつ、芳文の正面から突っ込んでくる。
芳文は剣を正面に構え、一閃させた。
頭頂部から股間まで一撃で切断された使い魔が、左右に生き別れになり消滅する。
もう一つの竜巻が、地面を抉りながら突っ込んでくる。
芳文はそれを飛び越えてかわしながら、剣を使い魔の頭上から突き立て串刺しにすると、使い魔を串刺しにしたまま最後に突っ込んできた竜巻に叩きつける。
ガリガリガリガリ……バキン!!
マミカルソードで串刺しにされながら回転していた使い魔の刃と、最後に突っ込んできた使い魔の刃がぶつかり合い、双方の刃が砕け散る。
ズバッ。
そのまま剣を振り下ろし串刺しにしていた使い魔ごと、最後の使い魔を真っ二つに斬り裂いた。
シュゥゥゥゥゥゥン……。
「討伐完了」
芳文が三人にそう言うと、マミが変身を解きマミカルソードが消滅する。
「うわー。先輩強すぎ。なんかまた強くなった?」
あっさりと三匹の使い魔を倒した芳文にさやかが言う。
「まあ一度倒した奴と同じだしね」
「マギカ・ブレードでならともかく、まさか私の剣であの使い魔を唐竹割りにするなんて驚いたわ」
「そんなに驚いた? でもほぼ毎日戦ってるんだから、そりゃ強くもなるさ」
「それにしても、短期間の間に強くなり過ぎじゃないかしら」
「……鍛えてるからね」
マミとさやかの感想に、芳文はそう答えてまどかに視線を向ける。
「先輩、お疲れ様でした」
「うん」
まどかの労いの言葉に、芳文は優しく笑って頷くのだった。
☆
「まどかもさあ、あんなふざけた誘われ方されて、オーケーするってどんだけなのさ」
「で、でも、せっかく先輩が誘ってくれたんだし……」
まどか達三人は喫茶店で遅れてやってきたマミと合流し、魔女と使い魔を探してパトロールをしていた。
マミがソウルジェムを手に歩くのに続いて芳文が、まどかとさやかは芳文の後ろに付いて学校を出る時の事を話しながら歩いていく。
「鹿目さん、美樹さん。おしゃべりは一旦そこまでよ。使い魔がいるわ」
路地裏へと続く薄暗い脇道に明滅するソウルジェムを向けながら、マミが注意する。
「行こう」
芳文の言葉に三人が頷き、四人は路地裏へと歩みを進める。
周囲の風景がぐにゃりと歪み、四人の前に使い魔がその姿を現す。
まるでイタチのような姿をしたカラフルな色の使い魔が三体。使い魔達は四人に気付くと、前足を刀の刀身のように変形させ、ぐるぐると全身を回転させながら、猛スピードで突っ込んでくる。
「あれは前に倒した奴と同じ奴か。……三匹いるな。巴さん、剣よろしく」
「オッケー。社君、お願い」
マミは一瞬で変身を済ませて、マミカルソードを一振り顕現させて芳文に渡す。
小型の竜巻がひとつ、芳文の正面から突っ込んでくる。
芳文は剣を正面に構え、一閃させた。
頭頂部から股間まで一撃で切断された使い魔が、左右に生き別れになり消滅する。
もう一つの竜巻が、地面を抉りながら突っ込んでくる。
芳文はそれを飛び越えてかわしながら、剣を使い魔の頭上から突き立て串刺しにすると、使い魔を串刺しにしたまま最後に突っ込んできた竜巻に叩きつける。
ガリガリガリガリ……バキン!!
マミカルソードで串刺しにされながら回転していた使い魔の刃と、最後に突っ込んできた使い魔の刃がぶつかり合い、双方の刃が砕け散る。
ズバッ。
そのまま剣を振り下ろし串刺しにしていた使い魔ごと、最後の使い魔を真っ二つに斬り裂いた。
シュゥゥゥゥゥゥン……。
「討伐完了」
芳文が三人にそう言うと、マミが変身を解きマミカルソードが消滅する。
「うわー。先輩強すぎ。なんかまた強くなった?」
あっさりと三匹の使い魔を倒した芳文にさやかが言う。
「まあ一度倒した奴と同じだしね」
「マギカ・ブレードでならともかく、まさか私の剣であの使い魔を唐竹割りにするなんて驚いたわ」
「そんなに驚いた? でもほぼ毎日戦ってるんだから、そりゃ強くもなるさ」
「それにしても、短期間の間に強くなり過ぎじゃないかしら」
「……鍛えてるからね」
マミとさやかの感想に、芳文はそう答えてまどかに視線を向ける。
「先輩、お疲れ様でした」
「うん」
まどかの労いの言葉に、芳文は優しく笑って頷くのだった。
104:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:37:35.48:EbqLFZ59o (6/13)
☆
芳文が使い魔を葬り去ってからもしばらくパトロールを続けた後、ここ最近の習慣に従ってマミとさやか、まどかと芳文の二組に別れて四人は家へと帰って行った。
さやかはマミと、佐倉杏子の事を話しながら帰宅する。
結局、まどかと芳文にどう説明するかいい案が思い浮かばないまま、マミと別れてさやかは自宅マンションに帰ってきた。
「なんだ。二人ともまだ仕事から帰ってないんだ」
共働きの両親が帰宅していないのに気付き、さやかは一人遅い夕食を取ろうとする。
「って何も作ってないし」
夕食の代わりに、テーブルの上に置かれていた母親からの置手紙に目を通す。置手紙には急に出かけなければいけなくなり、夕食が作れなかったと書かれていた。
置手紙と一緒に二千円札が一枚置かれているのに気付き、さやかはそれをポケットの中の財布にしまうと、冷蔵庫の中を確認してから再び外出する事にした。
「……さてと、おなかすいたし早く帰って作ろう。んでお釣りはおこずかいとしてもらっちゃおっと」
夕食の材料を24時間スーパーで買ってきて、家にある材料と合わせて、何を作ろうかと考えながら歩いていたその時だった。
「え?」
脇道に入った次の瞬間、さやかは結界の中に取り込まれていた。
「う、うそでしょ? なんでこんなとこに!?」
先刻、パトロール中に芳文が倒した使い魔の同一種が一匹、ふよふよとさやかの目の前で浮いていた。
ギュルルルルルル……。
たまたま自分が移動していた所に、運悪く遭遇してしまった哀れな仔羊に気付いた使い魔が、小型の竜巻と化してさやかに迫る。
(嘘……。こんなとこであたし殺されるの?)
両目を見開いたまま、目前まで迫ってきた使い魔から逃げる事も出来ず、さやかは呆然と立ち尽くす。
死を覚悟してぎゅっと両目を閉じる。
ズガガガガガガッ……!!
鈍い音がさやかの耳に響いた。
竜巻がさやかの立っていた地面を抉りながら沈んでいく。
「……あ」
誰かに抱き寄せられている暖かい感覚を感じ、我に返ったさやかが目を開くとさやかの視線の先には、さやかが軽蔑して嫌っていた赤の魔法少女がいた。
視線を杏子から逸らすと、竜巻がさやかの立っていた地面を抉りながら沈んでいくのが見えた。
「な、なんであんたが……」
さやかの問いに答える事無く、杏子はさやかの身体を抱き寄せていた左腕をさやかから放して、使い魔の方へと振り返る。
「なんでよ!? なんであんた……!?」
背を向けて、槍を構えた杏子の左腕が赤く染まっているのに気付き、さやかは絶句する。
ギュイィィィィィィィィンッ!!
地面から飛び出してきた竜巻が、杏子目掛けて飛んでくる。
杏子は槍を思い切り打ちつけるが、高速回転する使い魔の刃に穂先を弾かれてダメージを与えられない。
ガキイィィィィィィィィィィンッ!!
「チッ!!」
杏子は力任せに穂先で使い魔を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた使い魔が再び突撃してくる。だが、使い魔が杏子に近づく事は出来なかった。
「喰らえ!!」
使い魔を弾き飛ばした後、杏子は巨大な槍を顕現させ使い魔目掛けて撃ちこむ。
自身のサイズを遥かに超える巨大な槍に、腕の刃を粉々に粉砕されながら、ぐちぐちゃに全身を貫き叩き潰され、使い魔は完全に消滅した。
シュゥゥゥゥゥゥゥン……。
使い魔が完全に滅びた事で、結界が消滅する。
(……なにやってんだ、あたしは)
変身を解いた杏子は、掌の上に載せた自身の濁ったソウルジェムを見ながら自問する。
「なんで、あたしの事助けてくれたの?」
背後からさやかに声をかけられ、杏子は振り返る。
「あんた、グリーフシードの為にしか戦わないって言ってたのに……。それ濁らせてまでして……。どうして?」
「……さあね」
杏子はそう答えると、ソウルジェムを指輪に戻して立ち去ろうとする。
「待ってよ」
さやかが杏子の右手を掴んで引き止める。
「なんだよ」
☆
芳文が使い魔を葬り去ってからもしばらくパトロールを続けた後、ここ最近の習慣に従ってマミとさやか、まどかと芳文の二組に別れて四人は家へと帰って行った。
さやかはマミと、佐倉杏子の事を話しながら帰宅する。
結局、まどかと芳文にどう説明するかいい案が思い浮かばないまま、マミと別れてさやかは自宅マンションに帰ってきた。
「なんだ。二人ともまだ仕事から帰ってないんだ」
共働きの両親が帰宅していないのに気付き、さやかは一人遅い夕食を取ろうとする。
「って何も作ってないし」
夕食の代わりに、テーブルの上に置かれていた母親からの置手紙に目を通す。置手紙には急に出かけなければいけなくなり、夕食が作れなかったと書かれていた。
置手紙と一緒に二千円札が一枚置かれているのに気付き、さやかはそれをポケットの中の財布にしまうと、冷蔵庫の中を確認してから再び外出する事にした。
「……さてと、おなかすいたし早く帰って作ろう。んでお釣りはおこずかいとしてもらっちゃおっと」
夕食の材料を24時間スーパーで買ってきて、家にある材料と合わせて、何を作ろうかと考えながら歩いていたその時だった。
「え?」
脇道に入った次の瞬間、さやかは結界の中に取り込まれていた。
「う、うそでしょ? なんでこんなとこに!?」
先刻、パトロール中に芳文が倒した使い魔の同一種が一匹、ふよふよとさやかの目の前で浮いていた。
ギュルルルルルル……。
たまたま自分が移動していた所に、運悪く遭遇してしまった哀れな仔羊に気付いた使い魔が、小型の竜巻と化してさやかに迫る。
(嘘……。こんなとこであたし殺されるの?)
両目を見開いたまま、目前まで迫ってきた使い魔から逃げる事も出来ず、さやかは呆然と立ち尽くす。
死を覚悟してぎゅっと両目を閉じる。
ズガガガガガガッ……!!
鈍い音がさやかの耳に響いた。
竜巻がさやかの立っていた地面を抉りながら沈んでいく。
「……あ」
誰かに抱き寄せられている暖かい感覚を感じ、我に返ったさやかが目を開くとさやかの視線の先には、さやかが軽蔑して嫌っていた赤の魔法少女がいた。
視線を杏子から逸らすと、竜巻がさやかの立っていた地面を抉りながら沈んでいくのが見えた。
「な、なんであんたが……」
さやかの問いに答える事無く、杏子はさやかの身体を抱き寄せていた左腕をさやかから放して、使い魔の方へと振り返る。
「なんでよ!? なんであんた……!?」
背を向けて、槍を構えた杏子の左腕が赤く染まっているのに気付き、さやかは絶句する。
ギュイィィィィィィィィンッ!!
地面から飛び出してきた竜巻が、杏子目掛けて飛んでくる。
杏子は槍を思い切り打ちつけるが、高速回転する使い魔の刃に穂先を弾かれてダメージを与えられない。
ガキイィィィィィィィィィィンッ!!
「チッ!!」
杏子は力任せに穂先で使い魔を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた使い魔が再び突撃してくる。だが、使い魔が杏子に近づく事は出来なかった。
「喰らえ!!」
使い魔を弾き飛ばした後、杏子は巨大な槍を顕現させ使い魔目掛けて撃ちこむ。
自身のサイズを遥かに超える巨大な槍に、腕の刃を粉々に粉砕されながら、ぐちぐちゃに全身を貫き叩き潰され、使い魔は完全に消滅した。
シュゥゥゥゥゥゥゥン……。
使い魔が完全に滅びた事で、結界が消滅する。
(……なにやってんだ、あたしは)
変身を解いた杏子は、掌の上に載せた自身の濁ったソウルジェムを見ながら自問する。
「なんで、あたしの事助けてくれたの?」
背後からさやかに声をかけられ、杏子は振り返る。
「あんた、グリーフシードの為にしか戦わないって言ってたのに……。それ濁らせてまでして……。どうして?」
「……さあね」
杏子はそう答えると、ソウルジェムを指輪に戻して立ち去ろうとする。
「待ってよ」
さやかが杏子の右手を掴んで引き止める。
「なんだよ」
105:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:38:22.52:EbqLFZ59o (7/13)
「その……。ごめん。あたし、あんたの事勘違いしてた。この前は酷い事言ってごめん。それと、助けてくれてありがとう」
杏子の手を掴んだまま、杏子の顔をしっかりと見つめ、さやかは謝罪と感謝の言葉を口にする。
「べっ別に。こんなのはただの気まぐれさ。あんたに礼を言われる筋合いはないよ」
杏子はさやかから視線を逸らしながら、気まずそうに答える。
「あたしは美樹さやか」
「……あたしは」
「杏子でしょ。佐倉杏子」
「……ああ」
「あっ。あんたの左手」
「ん? ああ、さっきのか」
杏子の着ているヨットパーカーの左袖が赤く血で染まっていた。
「ごめん、あたしを助けた時にケガしたんだよね」
「別にいいよ、こんくらい」
「あたしの家、すぐそこなんだ。寄って行ってよ」
「は? なんでだよ」
「それ、すぐ洗わないとシミになっちゃうし、ケガの手当てだってしないと」
「いいよ、そんなの」
「駄目。あたしまだちゃんとお礼してないし」
「強引な奴だな。別にいいって言ってんだろ」
杏子はさっさと立ち去ろうとするが、さやかが譲らない。
グー。キュルルルル……。
不意に杏子のおなかが空腹を訴える音を響かせる。
「あんた、おなかすいてんの?」
「悪いかよ。なんか食欲なくてあんまり食ってなかったんだよ。さっさと帰って腹ごしらえしたいんだから、いいかげんその手を放せよ」
「じゃあ、助けてくれたお礼にご飯作ってあげる」
「は?」
「ほら、行くよ」
「お、おい……」
面喰っている杏子をさやかは強引に、自宅へと引っ張って行った。
☆
「ほら、洗濯するからそれ脱いで」
「いいって言ってるだろ」
「駄目だってば、ほら!!」
自宅玄関で上がるのを拒否する杏子から、無理やりパーカーを脱がせて洗濯機の場所まで持って行き、洗濯機に放り込むとスイチを入れる。
「ほら、上がって上がって」
玄関で立ったままの杏子に促すと、観念したのか杏子は小さく「お邪魔します」と呟いてさやかの自宅に上がりこんだ。
「親は二人とも仕事でいないから、気を使わないでもいいから」
先ほど律儀に挨拶してから家に上がった杏子に、さやかは笑いかけながらそう言いい、救急箱を持ってくる。
「さ、ケガ見せて。あ……」
リビングのソファの上で、そっぽを向いている杏子の左手を取って見ると、血で汚れてはいたがすでに傷口は塞がっていた。
「……魔法少女はこれくらいのケガなら、魔法で簡単に治せる」
「そうなんだ。知らなかったよ。いつも社先輩がマミさんとまどかを守っててさ、二人にケガとかさせた事なかったから」
「……マミはともかく、あの二人は何なんだい? なんで他人の為に戦おうとするんだ?」
杏子の問いに、さやかは杏子の血をウエットティッシュで拭きながら答える。
「……まどかはさ、ずっと自分に自信がなくって誰かの為に立ちたいって言ってた。けど、以前マミさんが魔女に殺されそうになって、魔法少女になるのを一度は諦めたんだ」
「……」
「先輩は先輩で、どうしてかわからないけど魔女を見る事が出来てね。魔法少女の事を知って、マミさんだけに戦わせて見て見ぬふりなんて出来ないって、魔女退治を手伝ってくれるようになったんだ」
「だけど、ある日まどかが魔女に襲われて、助けに行ったマミさんともう一人の魔法少女が、魔女に負けて殺されそうになってさ。先輩もまどかを庇って致命傷を負って……」
「ずっと魔女と戦うのが怖いって泣いてたのに、まどかは先輩の命を助ける為にキュゥべえと契約して魔法少女になってさ。それから先輩はまどかの事を守る為と、マミさんの手助けの為にずっと戦ってくれてるんだ」
「まどかも本当は怖いはずなのに、いつも誰かの為に一生懸命戦ってるんだ。それに、あたしが契約しなくてもいいように、あたしが願いで治してあげたかった幼馴染の事故で動かなくなった腕も治してくれた」
「……馬鹿だ。他人の為に願いを使って他人の為に戦おうなんて、大馬鹿だ」
杏子は吐き捨てるように呟く。
「じゃあ、なんであんたはあたしを助けてくれたの?」
「……あたしは」
「最初会った時は気付かなかったけど、あんた嘘ついてるよね。わざと悪人ぶってる」
「……マミさんと戦ってた時も、わざわざ結界張ってあたしとマミさんを分断してたけどさ。あれだってただの人間のあたしに危害を加える気がなかったからでしょ」
「……」
「本当にあんたが悪人だったら、あそこでわざわざ結界張る必要なんてない。どうせあたしには何も出来ないんだから気にせずマミさんと戦ってりゃいいんだしさ」
「……勝手に決めつけないでくれ。もしあたしが、あんたの事をマミへの人質にするつもりで、さっき助けた事とかも全部演技だったとしたらどうする気なんだ」
「あんたはそんな事はしない。そもそもそこまで腐ってないし、さっきも言ったけど何か事情があって悪ぶってるだけに見える」
「その……。ごめん。あたし、あんたの事勘違いしてた。この前は酷い事言ってごめん。それと、助けてくれてありがとう」
杏子の手を掴んだまま、杏子の顔をしっかりと見つめ、さやかは謝罪と感謝の言葉を口にする。
「べっ別に。こんなのはただの気まぐれさ。あんたに礼を言われる筋合いはないよ」
杏子はさやかから視線を逸らしながら、気まずそうに答える。
「あたしは美樹さやか」
「……あたしは」
「杏子でしょ。佐倉杏子」
「……ああ」
「あっ。あんたの左手」
「ん? ああ、さっきのか」
杏子の着ているヨットパーカーの左袖が赤く血で染まっていた。
「ごめん、あたしを助けた時にケガしたんだよね」
「別にいいよ、こんくらい」
「あたしの家、すぐそこなんだ。寄って行ってよ」
「は? なんでだよ」
「それ、すぐ洗わないとシミになっちゃうし、ケガの手当てだってしないと」
「いいよ、そんなの」
「駄目。あたしまだちゃんとお礼してないし」
「強引な奴だな。別にいいって言ってんだろ」
杏子はさっさと立ち去ろうとするが、さやかが譲らない。
グー。キュルルルル……。
不意に杏子のおなかが空腹を訴える音を響かせる。
「あんた、おなかすいてんの?」
「悪いかよ。なんか食欲なくてあんまり食ってなかったんだよ。さっさと帰って腹ごしらえしたいんだから、いいかげんその手を放せよ」
「じゃあ、助けてくれたお礼にご飯作ってあげる」
「は?」
「ほら、行くよ」
「お、おい……」
面喰っている杏子をさやかは強引に、自宅へと引っ張って行った。
☆
「ほら、洗濯するからそれ脱いで」
「いいって言ってるだろ」
「駄目だってば、ほら!!」
自宅玄関で上がるのを拒否する杏子から、無理やりパーカーを脱がせて洗濯機の場所まで持って行き、洗濯機に放り込むとスイチを入れる。
「ほら、上がって上がって」
玄関で立ったままの杏子に促すと、観念したのか杏子は小さく「お邪魔します」と呟いてさやかの自宅に上がりこんだ。
「親は二人とも仕事でいないから、気を使わないでもいいから」
先ほど律儀に挨拶してから家に上がった杏子に、さやかは笑いかけながらそう言いい、救急箱を持ってくる。
「さ、ケガ見せて。あ……」
リビングのソファの上で、そっぽを向いている杏子の左手を取って見ると、血で汚れてはいたがすでに傷口は塞がっていた。
「……魔法少女はこれくらいのケガなら、魔法で簡単に治せる」
「そうなんだ。知らなかったよ。いつも社先輩がマミさんとまどかを守っててさ、二人にケガとかさせた事なかったから」
「……マミはともかく、あの二人は何なんだい? なんで他人の為に戦おうとするんだ?」
杏子の問いに、さやかは杏子の血をウエットティッシュで拭きながら答える。
「……まどかはさ、ずっと自分に自信がなくって誰かの為に立ちたいって言ってた。けど、以前マミさんが魔女に殺されそうになって、魔法少女になるのを一度は諦めたんだ」
「……」
「先輩は先輩で、どうしてかわからないけど魔女を見る事が出来てね。魔法少女の事を知って、マミさんだけに戦わせて見て見ぬふりなんて出来ないって、魔女退治を手伝ってくれるようになったんだ」
「だけど、ある日まどかが魔女に襲われて、助けに行ったマミさんともう一人の魔法少女が、魔女に負けて殺されそうになってさ。先輩もまどかを庇って致命傷を負って……」
「ずっと魔女と戦うのが怖いって泣いてたのに、まどかは先輩の命を助ける為にキュゥべえと契約して魔法少女になってさ。それから先輩はまどかの事を守る為と、マミさんの手助けの為にずっと戦ってくれてるんだ」
「まどかも本当は怖いはずなのに、いつも誰かの為に一生懸命戦ってるんだ。それに、あたしが契約しなくてもいいように、あたしが願いで治してあげたかった幼馴染の事故で動かなくなった腕も治してくれた」
「……馬鹿だ。他人の為に願いを使って他人の為に戦おうなんて、大馬鹿だ」
杏子は吐き捨てるように呟く。
「じゃあ、なんであんたはあたしを助けてくれたの?」
「……あたしは」
「最初会った時は気付かなかったけど、あんた嘘ついてるよね。わざと悪人ぶってる」
「……マミさんと戦ってた時も、わざわざ結界張ってあたしとマミさんを分断してたけどさ。あれだってただの人間のあたしに危害を加える気がなかったからでしょ」
「……」
「本当にあんたが悪人だったら、あそこでわざわざ結界張る必要なんてない。どうせあたしには何も出来ないんだから気にせずマミさんと戦ってりゃいいんだしさ」
「……勝手に決めつけないでくれ。もしあたしが、あんたの事をマミへの人質にするつもりで、さっき助けた事とかも全部演技だったとしたらどうする気なんだ」
「あんたはそんな事はしない。そもそもそこまで腐ってないし、さっきも言ったけど何か事情があって悪ぶってるだけに見える」
106:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:39:19.30:EbqLFZ59o (8/13)
「……あんたも、あの二人やマミの奴に負けない馬鹿だな。勝手にあたしの事理解した気になって。どんだけお人よしなんだよ……」
「これまで一緒に魔女退治に関わってきて、先輩の馬鹿やまどかのお人よしが移ったのかもしれない。けど、あたしは今の自分が嫌じゃないよ」
「……長い話になるよ。聞く気あるかい?」
「……うん」
「……わかった。そっちにばっかり一方的に話させるのはフェアじゃないからな。話してやるよ」
そう言って、杏子は悲しい過去をさやかに話して聞かせる。
かつて、人々を救おうと父が頑張っていた事を。
けれど、誰も耳を貸してくれず自分達家族はいつも貧しい暮らしをしていた事を。
そんなある日、キュゥべえと出会い父の話をみんなが聞いてくれるように願った事を。
父と魔法少女の自分とで、光と影のように人々を救おうと希望に満ちていた頃の事を。
そして、奇跡のからくりが父にばれ、魔女と呼ばれ家族を永遠に失い孤独になった日の事を。
「奇跡ってのはタダじゃない。希望を祈った分だけ、同等の絶望が撒き散らされるんだ。そうやって差し引きゼロにして世の中は成り立ってるんだよ」
「……だから、全部自業自得だって割り切ってる訳?」
「……そうさ」
そう言って、杏子は自嘲気味に笑う。
さやかはそんな杏子に向けて、今思っている事を素直に打ち明ける。
「……まどかが魔法少女になった時の事だけどさ、まどかがいつか魔法少女になった事を後悔して、何もかもなくしてしまうって暁美ほむらに言われた時にね、先輩がこう言ったんだ」
「何もなくしたりしない、何もなくさせたりしない、自分とマミさんとあたしが付いてるから。まどかの為に何も出来ないとしても、何かしてみせるんだって」
「あんたの言う希望と絶望が差し引きゼロって話のとうり、いつか本当にまどかもあんたみたいに絶望する時が来るのかもしれない」
「けど先輩の言葉が、存在が、あたしとマミさんの存在がきっと何とか出来るって思うんだ」
「……なに言ってんのさ」
「だから、あんたもあたし達の仲間になりなよ。先輩とまどかなら歓迎してくれるし、マミさんにはあたしから話してあげるから」
「……」
「……一人は寂しいよね。けどさ、みんなが一緒ならどんな困難にも、きっと打ち勝てるはずだから」
「……」
「すぐには無理でも、考えてみてよ。あ、ご飯作ってくるから待ってて」
そう言って、さやかは席を立つとキッチンの方へと向かう。
「あ、あんた何食べたい物ある?」
さやかが振り返って尋ねると、そこに杏子の姿はなかった……。
「……あんたも、あの二人やマミの奴に負けない馬鹿だな。勝手にあたしの事理解した気になって。どんだけお人よしなんだよ……」
「これまで一緒に魔女退治に関わってきて、先輩の馬鹿やまどかのお人よしが移ったのかもしれない。けど、あたしは今の自分が嫌じゃないよ」
「……長い話になるよ。聞く気あるかい?」
「……うん」
「……わかった。そっちにばっかり一方的に話させるのはフェアじゃないからな。話してやるよ」
そう言って、杏子は悲しい過去をさやかに話して聞かせる。
かつて、人々を救おうと父が頑張っていた事を。
けれど、誰も耳を貸してくれず自分達家族はいつも貧しい暮らしをしていた事を。
そんなある日、キュゥべえと出会い父の話をみんなが聞いてくれるように願った事を。
父と魔法少女の自分とで、光と影のように人々を救おうと希望に満ちていた頃の事を。
そして、奇跡のからくりが父にばれ、魔女と呼ばれ家族を永遠に失い孤独になった日の事を。
「奇跡ってのはタダじゃない。希望を祈った分だけ、同等の絶望が撒き散らされるんだ。そうやって差し引きゼロにして世の中は成り立ってるんだよ」
「……だから、全部自業自得だって割り切ってる訳?」
「……そうさ」
そう言って、杏子は自嘲気味に笑う。
さやかはそんな杏子に向けて、今思っている事を素直に打ち明ける。
「……まどかが魔法少女になった時の事だけどさ、まどかがいつか魔法少女になった事を後悔して、何もかもなくしてしまうって暁美ほむらに言われた時にね、先輩がこう言ったんだ」
「何もなくしたりしない、何もなくさせたりしない、自分とマミさんとあたしが付いてるから。まどかの為に何も出来ないとしても、何かしてみせるんだって」
「あんたの言う希望と絶望が差し引きゼロって話のとうり、いつか本当にまどかもあんたみたいに絶望する時が来るのかもしれない」
「けど先輩の言葉が、存在が、あたしとマミさんの存在がきっと何とか出来るって思うんだ」
「……なに言ってんのさ」
「だから、あんたもあたし達の仲間になりなよ。先輩とまどかなら歓迎してくれるし、マミさんにはあたしから話してあげるから」
「……」
「……一人は寂しいよね。けどさ、みんなが一緒ならどんな困難にも、きっと打ち勝てるはずだから」
「……」
「すぐには無理でも、考えてみてよ。あ、ご飯作ってくるから待ってて」
そう言って、さやかは席を立つとキッチンの方へと向かう。
「あ、あんた何食べたい物ある?」
さやかが振り返って尋ねると、そこに杏子の姿はなかった……。
107:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:40:30.56:EbqLFZ59o (9/13)
☆
「さやかちゃん、それ何?」
翌日の放課後。
パトロールの道中、芳文がさやかの持っている紙袋の事を尋ねる。
「人からの預かり物。どこかで会ったら返そうと思って」
「ふーん」
(……杏子、今も一人で戦ってるのかな)
さやかは紙袋に視線を向けながら、何も言わずいなくなった杏子の事を思う。
「先輩、向こうから魔女らしい反応があります!!」
まどかのソウルジェムが強く明滅している。
「行こう、みんな」
芳文の言葉にまどか達三人が頷く。
四人はソウルジェムの反応のある場所へ急ぎ、魔女の結界内へと突入する。
「くそっ!! こいつがあの使い魔の親か!!」
結界の中では杏子が一人、魔女と戦っていた。
その魔女は巨大なイタチにもキツネにも見える、四本の足のない胴体と首だけの白い獣の姿をしていた。
九本の尻尾のような物が、背中と腹部から生えており、魔女は尻尾のような物をぶわっと広げて胴体の周囲に張り巡らせる。
それは球状の網のように展開され、高速で回転を始める。
ギュイイイイイイイイインッ!!
巨大な白い円球が周囲に漂うね自らの使い魔達も結界内の構造物も何もかも巻き込んで、粉々に粉砕しながら杏子へと迫る。
「チッ!!」
自分目掛けて突撃してくる魔女の攻撃を躱すが、真空の刃が周囲に発生して、杏子の腕や太もも、頬に切り傷を付ける。
「喰らえ!!」
真空刃によるダメージに構わず、槍を突き立てる。
ギギギギキギギ……バキンッ!!
杏子の槍は穂先から粉々に砕け散る。
「何だと!?」
慌てて槍を手放して距離を取ろうとするが、魔女が杏子を粉々にしようと突っ込んでくる。
回避が間に合わない。
自慢の槍さえ打ち砕いた魔女の攻撃を、防御が苦手な杏子が魔力でシールドを張っても防ぎきる事は出来ない。
杏子が死を覚悟したその瞬間、淡いピンク色に輝く光の壁が杏子の眼前に現れ、魔女の突撃を阻止していた。
「よかった!! 間に合って!!」
まどかが安堵の言葉を漏らしながら、シールドを展開し続ける。
「杏子!!」
さやかが杏子に駆け寄る。
「大丈夫!?」
「……さやか」
「佐倉さん、あなた美樹さんを助けてくれたそうね」
本体を守る為と敵を排除する為の尻尾をまどかのシールドで失った魔女を殲滅するべく、大量のマスケット銃を自身の周囲に顕現させながらマミが隣に舞い降りて言う。
「私の後輩を助けてくれてありがとう」
まどかのシールドが消える。
マミが天に掲げた右腕を振り下ろすと同時に、大量のマスケット銃が一斉斉射され、魔女の本体に無数の風穴を開ける。
「三人共、そこを離れて!! まどかちゃん、やるよ!!」
「はい!!」
マミがさやかと杏子を両脇に抱きかかえて離脱する。
芳文がマギカ・ブレードを両手で上段に構える。
☆
「さやかちゃん、それ何?」
翌日の放課後。
パトロールの道中、芳文がさやかの持っている紙袋の事を尋ねる。
「人からの預かり物。どこかで会ったら返そうと思って」
「ふーん」
(……杏子、今も一人で戦ってるのかな)
さやかは紙袋に視線を向けながら、何も言わずいなくなった杏子の事を思う。
「先輩、向こうから魔女らしい反応があります!!」
まどかのソウルジェムが強く明滅している。
「行こう、みんな」
芳文の言葉にまどか達三人が頷く。
四人はソウルジェムの反応のある場所へ急ぎ、魔女の結界内へと突入する。
「くそっ!! こいつがあの使い魔の親か!!」
結界の中では杏子が一人、魔女と戦っていた。
その魔女は巨大なイタチにもキツネにも見える、四本の足のない胴体と首だけの白い獣の姿をしていた。
九本の尻尾のような物が、背中と腹部から生えており、魔女は尻尾のような物をぶわっと広げて胴体の周囲に張り巡らせる。
それは球状の網のように展開され、高速で回転を始める。
ギュイイイイイイイイインッ!!
巨大な白い円球が周囲に漂うね自らの使い魔達も結界内の構造物も何もかも巻き込んで、粉々に粉砕しながら杏子へと迫る。
「チッ!!」
自分目掛けて突撃してくる魔女の攻撃を躱すが、真空の刃が周囲に発生して、杏子の腕や太もも、頬に切り傷を付ける。
「喰らえ!!」
真空刃によるダメージに構わず、槍を突き立てる。
ギギギギキギギ……バキンッ!!
杏子の槍は穂先から粉々に砕け散る。
「何だと!?」
慌てて槍を手放して距離を取ろうとするが、魔女が杏子を粉々にしようと突っ込んでくる。
回避が間に合わない。
自慢の槍さえ打ち砕いた魔女の攻撃を、防御が苦手な杏子が魔力でシールドを張っても防ぎきる事は出来ない。
杏子が死を覚悟したその瞬間、淡いピンク色に輝く光の壁が杏子の眼前に現れ、魔女の突撃を阻止していた。
「よかった!! 間に合って!!」
まどかが安堵の言葉を漏らしながら、シールドを展開し続ける。
「杏子!!」
さやかが杏子に駆け寄る。
「大丈夫!?」
「……さやか」
「佐倉さん、あなた美樹さんを助けてくれたそうね」
本体を守る為と敵を排除する為の尻尾をまどかのシールドで失った魔女を殲滅するべく、大量のマスケット銃を自身の周囲に顕現させながらマミが隣に舞い降りて言う。
「私の後輩を助けてくれてありがとう」
まどかのシールドが消える。
マミが天に掲げた右腕を振り下ろすと同時に、大量のマスケット銃が一斉斉射され、魔女の本体に無数の風穴を開ける。
「三人共、そこを離れて!! まどかちゃん、やるよ!!」
「はい!!」
マミがさやかと杏子を両脇に抱きかかえて離脱する。
芳文がマギカ・ブレードを両手で上段に構える。
108:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:41:00.16:EbqLFZ59o (10/13)
「先輩、行きます!!」
まどかがそう叫んで手にした弓で三本の魔力の矢を放つ。
放たれた三本の矢の内、二本が魔女の左右にそれぞれ着弾し、封印魔法を展開する。
眩いピンク色に輝く円球に閉じ込められ、魔女は脱出しようともがくがまったく身動きが取れない。
魔女の封印が完了すると同時に、まどかの放った三本の矢の最後の一本がマギカ・ブレードの柄に着弾し、剣の中に吸い込まれるように消えていく。
キイィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!
マギカ・ブレードの魔力と撃ち込まれた矢の魔力が共鳴し、マギカブレードが眩い金色の光を放つ。
マギカ・ブレードから放たれる光で、芳文の全身が金色に輝いて見える。
マギカ・ブレードの柄からギュイィィィィンッと言う音と共に、強力な推進力が発生する。
たんっ。
芳文が軽く跳んで地面から両足が離れたその瞬間、ものすごい速度で芳文は飛んだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
マギカ・ブレードを構えたまま、一瞬で魔女の眼前に辿り着いた芳文は封印魔法で拘束された魔女を左斜め下から斬り裂き、そのまま右斜め上からも斬りさく。
一瞬で四分割された魔女にとどめの唐竹割りを叩き込み、芳文は魔女の上を飛び越えながら地面に着地しながら、そのままマギカ・ブレードの推進力の勢いで地面を削っていく。
ゴッ……!!
封印魔法が内部で細胞のひとかけら残すことなく崩壊消滅していく魔女を飲み込みながら、徐々に小さな円球へと縮んでいき、最後に花火のように光り輝く粒子を飛び散らせながら消滅した。
「やったあ!! 先輩!! 出来ました私達の必殺技!!」
魔女が消滅し、結界が消滅していくのを確認しまどかが嬉しそうにはしゃぐ。
「うわわわわわっ!!」
「え?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
マギカ・ブレードの推進力がまだ残っていたのか、芳文があちこち飛び回っている。
「ま、まどかちゃん!! 剣消して!! 早く!!」
周囲の建物に被害を出さないように剣を巧みに動かして、あちこちを飛び回る芳文が叫ぶ。
「は、はい!!」
慌ててまどかが変身を解くと同時に、芳文の手の中からマギカ・ブレードが消滅する。
地面に向けて飛んでる最中に剣が消えて、芳文はなすすべなく墜落する。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! どいて!! そこどいて!!」
目の前にさやかが立っているのに気付き芳文は叫ぶ。
「さやか!!」
咄嗟に杏子がさやかをマミのほうへ突き飛ばす。
突き飛ばされたさやかをマミが受け止めたのを、杏子が確認した次の瞬間。
芳文が杏子目掛けて突っ込んできた。
咄嗟にマミがリボンを芳文目掛けて放つ。
ドシイィィィィィィィィィィィィィィィンッ……。
「いてててて……」
「杏子!! 大丈夫!?」
土埃の巻き上がる中、さやかの心配する声に杏子は地面に座り込んだ状態で返事を返す。
「あ、ああ……」
咄嗟にマミが放ったリボンが芳文の突撃の威力を殺したおかげで、杏子は大したケガをせずに済んだようだった。
モニュ。
「ひゃんっ!!」
スーハー。
「ひゃわっ!!」
杏子が可愛らしい悲鳴を上げる。
『あっ』
さやかとマミとまどかが、土埃の晴れた杏子の様子を見て綺麗に声をハモらせ、絶句する。
「?」
杏子が視線を下に向けると、芳文が自分の股間に顔を突っ込みながら、両手で胸を揉んでいた。
「――!?」
一瞬で杏子の顔が真っ赤に染まり、そして。
「き、きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
杏子の絶叫が周囲に響いた。
「先輩、行きます!!」
まどかがそう叫んで手にした弓で三本の魔力の矢を放つ。
放たれた三本の矢の内、二本が魔女の左右にそれぞれ着弾し、封印魔法を展開する。
眩いピンク色に輝く円球に閉じ込められ、魔女は脱出しようともがくがまったく身動きが取れない。
魔女の封印が完了すると同時に、まどかの放った三本の矢の最後の一本がマギカ・ブレードの柄に着弾し、剣の中に吸い込まれるように消えていく。
キイィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!
マギカ・ブレードの魔力と撃ち込まれた矢の魔力が共鳴し、マギカブレードが眩い金色の光を放つ。
マギカ・ブレードから放たれる光で、芳文の全身が金色に輝いて見える。
マギカ・ブレードの柄からギュイィィィィンッと言う音と共に、強力な推進力が発生する。
たんっ。
芳文が軽く跳んで地面から両足が離れたその瞬間、ものすごい速度で芳文は飛んだ。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
マギカ・ブレードを構えたまま、一瞬で魔女の眼前に辿り着いた芳文は封印魔法で拘束された魔女を左斜め下から斬り裂き、そのまま右斜め上からも斬りさく。
一瞬で四分割された魔女にとどめの唐竹割りを叩き込み、芳文は魔女の上を飛び越えながら地面に着地しながら、そのままマギカ・ブレードの推進力の勢いで地面を削っていく。
ゴッ……!!
封印魔法が内部で細胞のひとかけら残すことなく崩壊消滅していく魔女を飲み込みながら、徐々に小さな円球へと縮んでいき、最後に花火のように光り輝く粒子を飛び散らせながら消滅した。
「やったあ!! 先輩!! 出来ました私達の必殺技!!」
魔女が消滅し、結界が消滅していくのを確認しまどかが嬉しそうにはしゃぐ。
「うわわわわわっ!!」
「え?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
マギカ・ブレードの推進力がまだ残っていたのか、芳文があちこち飛び回っている。
「ま、まどかちゃん!! 剣消して!! 早く!!」
周囲の建物に被害を出さないように剣を巧みに動かして、あちこちを飛び回る芳文が叫ぶ。
「は、はい!!」
慌ててまどかが変身を解くと同時に、芳文の手の中からマギカ・ブレードが消滅する。
地面に向けて飛んでる最中に剣が消えて、芳文はなすすべなく墜落する。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! どいて!! そこどいて!!」
目の前にさやかが立っているのに気付き芳文は叫ぶ。
「さやか!!」
咄嗟に杏子がさやかをマミのほうへ突き飛ばす。
突き飛ばされたさやかをマミが受け止めたのを、杏子が確認した次の瞬間。
芳文が杏子目掛けて突っ込んできた。
咄嗟にマミがリボンを芳文目掛けて放つ。
ドシイィィィィィィィィィィィィィィィンッ……。
「いてててて……」
「杏子!! 大丈夫!?」
土埃の巻き上がる中、さやかの心配する声に杏子は地面に座り込んだ状態で返事を返す。
「あ、ああ……」
咄嗟にマミが放ったリボンが芳文の突撃の威力を殺したおかげで、杏子は大したケガをせずに済んだようだった。
モニュ。
「ひゃんっ!!」
スーハー。
「ひゃわっ!!」
杏子が可愛らしい悲鳴を上げる。
『あっ』
さやかとマミとまどかが、土埃の晴れた杏子の様子を見て綺麗に声をハモらせ、絶句する。
「?」
杏子が視線を下に向けると、芳文が自分の股間に顔を突っ込みながら、両手で胸を揉んでいた。
「――!?」
一瞬で杏子の顔が真っ赤に染まり、そして。
「き、きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
杏子の絶叫が周囲に響いた。
109:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:41:36.20:EbqLFZ59o (11/13)
☆
「い、いたいよぅ……」
杏子にボコボコに殴られた芳文がぴくぴくと体を震わせながら、地面に横たわっている。
「せ、先輩、大丈夫ですか? ごめんなさい、私のせいで……」
「いたい……」
まどかが横たわる芳文の頭を両手で持って、自分の膝の上に載せて治癒魔法をかけてやろうとしたその時だった。
「あれは不可抗力なのに、ひどすぎる……。そりゃ、ちょっと嬉しかったけど……」
「……」
「へぶっ!!」
無言でまどかが芳文の頭から手を放した事で、芳文が後頭部を地面にぶつけてのた打ち回る。
「……先輩のえっち」
そう言って拗ねるまどかに、芳文は気付く事さえ無く痛みにのた打ち回るのだった。
「杏子、これ」
そんなまどか達を尻目に、さやかは杏子に紙袋を渡す。
「……これ、あたしの」
「生きてるあんたに返せてよかった」
さやかのその言葉に視線を逸らせながら、杏子は紙袋をぎゅっと抱きしめる。
「ふふ……」
「……なんだよ」
微笑ましそうに笑うマミを杏子は睨みながら尋ねる。
「いえ、あなたにもかわいい所があるんだなって」
「な!?」
「それに、いい所もあるんだってわかったから少し嬉しくてね」
「ふ、ふん!!」
マミから視線を逸らす杏子に、さやかが昨日の提案の答えを尋ねる。
「それで、杏子。昨日の話なんだけど」
「……無理だ。今更自分の生き方なんて変えられないよ」
「一人で変えられないなら、みんなと一緒に変えればいいじゃない」
いつの間にか起き上がった芳文が、後頭部を摩りながら杏子に言う。
「一人はみんなの為に、みんなは一人の為にってね。そういうもんじゃないの。仲間って」
「……仲間」
「そうだよ。杏子ちゃんも一緒に戦ってくれるんなら、それはとっても嬉しいなって。私、そう思うの」
まどかが杏子に微笑みながら言う。
「マミさん……」
さやかが不安そうにマミを見る。
「これから人々を守る為に力を貸してくれるのなら、私からはもう何も言う事はないわ」
マミがそう言うと、さやかはぱあっと表情を明るくする。
「……あたしは使い魔は狩らない」
「もちろん。それは俺の役目。俺の役目はただひとつ。魔女と戦う為に君達の魔力を無駄遣いさせない事だからね。使い魔は全部俺が倒す」
「……変な奴だな、あんた」
「良く言われるよ。俺はいつだって紳士なのに。いつも誤解されて巴さんやさやかちゃんに殴られるんだ」
「あなたが馬鹿な事しなければ殴らないわよ」
「人は言葉と言葉で心を通わせることが出来るんだよ。まず言葉でわかりあおうよ」
「はあ……。口ばっかり達者なんだから」
「それ以外も達者だよ」
☆
「い、いたいよぅ……」
杏子にボコボコに殴られた芳文がぴくぴくと体を震わせながら、地面に横たわっている。
「せ、先輩、大丈夫ですか? ごめんなさい、私のせいで……」
「いたい……」
まどかが横たわる芳文の頭を両手で持って、自分の膝の上に載せて治癒魔法をかけてやろうとしたその時だった。
「あれは不可抗力なのに、ひどすぎる……。そりゃ、ちょっと嬉しかったけど……」
「……」
「へぶっ!!」
無言でまどかが芳文の頭から手を放した事で、芳文が後頭部を地面にぶつけてのた打ち回る。
「……先輩のえっち」
そう言って拗ねるまどかに、芳文は気付く事さえ無く痛みにのた打ち回るのだった。
「杏子、これ」
そんなまどか達を尻目に、さやかは杏子に紙袋を渡す。
「……これ、あたしの」
「生きてるあんたに返せてよかった」
さやかのその言葉に視線を逸らせながら、杏子は紙袋をぎゅっと抱きしめる。
「ふふ……」
「……なんだよ」
微笑ましそうに笑うマミを杏子は睨みながら尋ねる。
「いえ、あなたにもかわいい所があるんだなって」
「な!?」
「それに、いい所もあるんだってわかったから少し嬉しくてね」
「ふ、ふん!!」
マミから視線を逸らす杏子に、さやかが昨日の提案の答えを尋ねる。
「それで、杏子。昨日の話なんだけど」
「……無理だ。今更自分の生き方なんて変えられないよ」
「一人で変えられないなら、みんなと一緒に変えればいいじゃない」
いつの間にか起き上がった芳文が、後頭部を摩りながら杏子に言う。
「一人はみんなの為に、みんなは一人の為にってね。そういうもんじゃないの。仲間って」
「……仲間」
「そうだよ。杏子ちゃんも一緒に戦ってくれるんなら、それはとっても嬉しいなって。私、そう思うの」
まどかが杏子に微笑みながら言う。
「マミさん……」
さやかが不安そうにマミを見る。
「これから人々を守る為に力を貸してくれるのなら、私からはもう何も言う事はないわ」
マミがそう言うと、さやかはぱあっと表情を明るくする。
「……あたしは使い魔は狩らない」
「もちろん。それは俺の役目。俺の役目はただひとつ。魔女と戦う為に君達の魔力を無駄遣いさせない事だからね。使い魔は全部俺が倒す」
「……変な奴だな、あんた」
「良く言われるよ。俺はいつだって紳士なのに。いつも誤解されて巴さんやさやかちゃんに殴られるんだ」
「あなたが馬鹿な事しなければ殴らないわよ」
「人は言葉と言葉で心を通わせることが出来るんだよ。まず言葉でわかりあおうよ」
「はあ……。口ばっかり達者なんだから」
「それ以外も達者だよ」
110:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:42:15.33:EbqLFZ59o (12/13)
「例えば?」
「最近新必殺技を考えたんだ。巴マミさんを崇拝する者だけが使用を許される必殺技。その名も!! ティロ・フィナーレ(斬撃)!!」
そう言って剣を連続で振る仕草をしてみせる。
「それただの斬撃!! あなた、私の事ばかにしてるでしょ!?」
「ええ!? そんな事ないのに。どうしていつも誤解されてしまうんだろう」
「もういいから、少し黙っててくれるかしら」
「はーいマミさん」
「……あんた、マミの尻に敷かれてんのか?」
マミと芳文の突然始まった漫才に、呆気にとられながら杏子が尋ねる。
「そんなご褒美もらった事ないよ!!」
「……は?」
「女の子に踏まれるのって男にとってご褒美なんだよ」
「……あんた、そういう趣味があるのかい?」
「ないよ!! 巴さんに乗っかられたら潰れてしまう!!」
「私はそんなに重くないわよ!!」
「じゃあ、試してみよう」
そう言って、マミの腰を掴んで持ち上げようとする芳文の脇腹に、さやかの肘打ちが入る。
「さりげなくセクハラをするな!!」
「ぐはあっ!!」
「……先輩のえっち」
まどかも不機嫌そうな顔で芳文に言う。
「!? 誤解だよまどかちゃん!!」
「知りません!!」
「あぁぁぁ……。とうとう俺の天使にまで愛想を尽かされてしまった……」
芳文は涙を流しながら地面に両手を付いて嘆く。
「……ぷ」
「杏子?」
ぷるぷると震えながら俯く杏子にさやかが声をかけると、杏子は顔を上げて大笑いする。
「あはははははははははっ!! 馬鹿だ!! 確かにさやかが言うとうりの馬鹿だ!!」
「な、なんてこった……。新しい仲間にまでこんな早く馬鹿として認識されてしまった……」
芳文はますます落ち込んでみせる。
「まあ、そんなに落ち込みなさんなって。食うかい?」
どこからか取り出したたい焼きを嘆く芳文に差し出す。これは杏子が気を許した相手への行為だった。
「いただきます」
「あ、おい!!」
ガツガツムシャムシャ……。
芳文は杏子が持ったままのたい焼きに、顔を近づけてそのまま平らげてしまうと、突然嗚咽を漏らし始めた。
「う、うぅぅぅ……」
「お、おい……。どうしたってんだよ」
「天国のお母さん、やりました!! 生まれて初めて、女の子に「はい、アーン」ってしてもらえました!!」
顔を上げて両手を組み、祈るような仕草をしながら芳文は叫ぶ。
「そんな事言ってねえ!!」
「え?」
「どうしてそこで不思議そうに首を傾げられるんだオメーは!!」
「……杏子、この人はこういう人だから。一々本気になっちゃ駄目だよ」
「そうよ。佐倉さんもすぐに慣れるから」
「あんたら、苦労してるんだな……」
さやかとマミの言葉に杏子は心底同情する。
「まあそうなるかな」
「そうね」
「ひでえ!!」
そんな芳文を尻目に、まどかが杏子の側へとやってくる。
「あの……」
おずおずと話しかけてきたまどかに、杏子は出来るだけ優しく聞き返す。
「なんだい?」
「これから、杏子ちゃんって呼んでいいかな?」
「……ああ」
「よろしくね、杏子ちゃん」
杏子の肯定の言葉に、そう言って嬉しそうに笑うまどか。
「ああ、よろしくね。まどか」
杏子はそんなまどかに優しく微笑み返すのだった。
つづく
「例えば?」
「最近新必殺技を考えたんだ。巴マミさんを崇拝する者だけが使用を許される必殺技。その名も!! ティロ・フィナーレ(斬撃)!!」
そう言って剣を連続で振る仕草をしてみせる。
「それただの斬撃!! あなた、私の事ばかにしてるでしょ!?」
「ええ!? そんな事ないのに。どうしていつも誤解されてしまうんだろう」
「もういいから、少し黙っててくれるかしら」
「はーいマミさん」
「……あんた、マミの尻に敷かれてんのか?」
マミと芳文の突然始まった漫才に、呆気にとられながら杏子が尋ねる。
「そんなご褒美もらった事ないよ!!」
「……は?」
「女の子に踏まれるのって男にとってご褒美なんだよ」
「……あんた、そういう趣味があるのかい?」
「ないよ!! 巴さんに乗っかられたら潰れてしまう!!」
「私はそんなに重くないわよ!!」
「じゃあ、試してみよう」
そう言って、マミの腰を掴んで持ち上げようとする芳文の脇腹に、さやかの肘打ちが入る。
「さりげなくセクハラをするな!!」
「ぐはあっ!!」
「……先輩のえっち」
まどかも不機嫌そうな顔で芳文に言う。
「!? 誤解だよまどかちゃん!!」
「知りません!!」
「あぁぁぁ……。とうとう俺の天使にまで愛想を尽かされてしまった……」
芳文は涙を流しながら地面に両手を付いて嘆く。
「……ぷ」
「杏子?」
ぷるぷると震えながら俯く杏子にさやかが声をかけると、杏子は顔を上げて大笑いする。
「あはははははははははっ!! 馬鹿だ!! 確かにさやかが言うとうりの馬鹿だ!!」
「な、なんてこった……。新しい仲間にまでこんな早く馬鹿として認識されてしまった……」
芳文はますます落ち込んでみせる。
「まあ、そんなに落ち込みなさんなって。食うかい?」
どこからか取り出したたい焼きを嘆く芳文に差し出す。これは杏子が気を許した相手への行為だった。
「いただきます」
「あ、おい!!」
ガツガツムシャムシャ……。
芳文は杏子が持ったままのたい焼きに、顔を近づけてそのまま平らげてしまうと、突然嗚咽を漏らし始めた。
「う、うぅぅぅ……」
「お、おい……。どうしたってんだよ」
「天国のお母さん、やりました!! 生まれて初めて、女の子に「はい、アーン」ってしてもらえました!!」
顔を上げて両手を組み、祈るような仕草をしながら芳文は叫ぶ。
「そんな事言ってねえ!!」
「え?」
「どうしてそこで不思議そうに首を傾げられるんだオメーは!!」
「……杏子、この人はこういう人だから。一々本気になっちゃ駄目だよ」
「そうよ。佐倉さんもすぐに慣れるから」
「あんたら、苦労してるんだな……」
さやかとマミの言葉に杏子は心底同情する。
「まあそうなるかな」
「そうね」
「ひでえ!!」
そんな芳文を尻目に、まどかが杏子の側へとやってくる。
「あの……」
おずおずと話しかけてきたまどかに、杏子は出来るだけ優しく聞き返す。
「なんだい?」
「これから、杏子ちゃんって呼んでいいかな?」
「……ああ」
「よろしくね、杏子ちゃん」
杏子の肯定の言葉に、そう言って嬉しそうに笑うまどか。
「ああ、よろしくね。まどか」
杏子はそんなまどかに優しく微笑み返すのだった。
つづく
111:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/17(日) 19:49:04.29:EbqLFZ59o (13/13)
杏子「つづく」
杏子「あ、まどかと社の必殺技の名前募集中だそうだ」
杏子「恥ずかしい名前、かっこいい名前大募集!!」
杏子「余談だが、社の名前は本当は○○とか二葉としあきとかにするつもりだったらしい」
杏子「話の都合上マヌケに見えるんで、アニメのスポンサーの名前をもじって社芳文にしたそうだ。あんたらの分身みたいなつもりで書いてるらしいから、脳内で自分の好きな名前に変換するのもありかもな」
杏子「ちなみに作者の脳内ではこの話はギャルゲー風なので、2話で寂しそうに去っていくマミをもし追いかけていたら、マミルートに突入してたらしい」
杏子「じゃ、またな」
杏子「つづく」
杏子「あ、まどかと社の必殺技の名前募集中だそうだ」
杏子「恥ずかしい名前、かっこいい名前大募集!!」
杏子「余談だが、社の名前は本当は○○とか二葉としあきとかにするつもりだったらしい」
杏子「話の都合上マヌケに見えるんで、アニメのスポンサーの名前をもじって社芳文にしたそうだ。あんたらの分身みたいなつもりで書いてるらしいから、脳内で自分の好きな名前に変換するのもありかもな」
杏子「ちなみに作者の脳内ではこの話はギャルゲー風なので、2話で寂しそうに去っていくマミをもし追いかけていたら、マミルートに突入してたらしい」
杏子「じゃ、またな」
112:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区):2011/04/17(日) 23:12:24.91:YVIWy/Gyo (1/1)
お疲れ様でした。
お疲れ様でした。
113:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/18(月) 03:28:53.21:Suym29puo (1/1)
馬鹿、鈍感、セクハラ魔人
見事にエロゲ主人公なオリキャラだな
でも面白いから許す
馬鹿、鈍感、セクハラ魔人
見事にエロゲ主人公なオリキャラだな
でも面白いから許す
114:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/19(火) 01:30:25.62:tpm/Iuxd0 (1/1)
大変だ、このギャルゲー面白いのに選択肢が表示されないバグがある…!
大変だ、このギャルゲー面白いのに選択肢が表示されないバグがある…!
115:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/19(火) 08:09:55.68:uB/jWTmIO (1/1)
マミさんルートの選択肢が出ないんだが
マミさんルートの選択肢が出ないんだが
116:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東海):2011/04/19(火) 17:25:33.37:CAXsyHKAO (1/1)
マミさんは初期の頃にフラグ立てないと駄目
しかもちょっとしたイベントで好感度上げるたびに、調子に乗って死亡フラグ立てる
もう何も怖くないとかひとりじゃないとか言いだしたら注意
あんこちゃんとちょっと仲良くしたら、いきなり射殺された上、魔女になったし
マミさんは初期の頃にフラグ立てないと駄目
しかもちょっとしたイベントで好感度上げるたびに、調子に乗って死亡フラグ立てる
もう何も怖くないとかひとりじゃないとか言いだしたら注意
あんこちゃんとちょっと仲良くしたら、いきなり射殺された上、魔女になったし
117:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/19(火) 19:23:16.86:m9STyt4Xo (1/1)
攻略の難易度は
超難:ほむら
難しい:マミ、さやか
普通:杏子
易しい:まどか
となっております
全員攻略すると隠しキャラが出ます
攻略の難易度は
超難:ほむら
難しい:マミ、さやか
普通:杏子
易しい:まどか
となっております
全員攻略すると隠しキャラが出ます
118:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/19(火) 20:12:08.30:9zmjKVEIO (1/1)
>>117
隠しキャラ……QBか
>>117
隠しキャラ……QBか
119:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府):2011/04/19(火) 22:46:25.05:Fw5eevYbo (1/1)
仁美ちゃんに決まってるだろ
ついでにさやかの魔女化も防げるしな
仁美ちゃんに決まってるだろ
ついでにさやかの魔女化も防げるしな
120:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/19(火) 23:36:10.71:jNkl+q0do (1/1)
ほむらルートに挑むも結局QBに
「僕たち友達だよね?」と言われるのは日常茶飯事なのである
ほむらルートに挑むも結局QBに
「僕たち友達だよね?」と言われるのは日常茶飯事なのである
121:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/22(金) 15:32:50.23:00SFTVVDO (1/1)
ここのまどか達は幸せになって欲しい。
ここのまどか達は幸せになって欲しい。
122:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/22(金) 16:25:32.52:xTRk7x+xo (1/1)
誰かが一人欠けたら
それはもうハッピーエンドじゃない
誰かが一人欠けたら
それはもうハッピーエンドじゃない
123: ◆YwuD4TmTPM:2011/04/22(金) 18:58:47.12:5DZaGWPw0 (1/2)
>>122
木更津キャッツアイの「野球は九人いなきゃできねえだろ」を思い出した。
>>122
木更津キャッツアイの「野球は九人いなきゃできねえだろ」を思い出した。
124:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/22(金) 18:59:14.31:5DZaGWPw0 (2/2)
oh…酉外し忘れ
oh…酉外し忘れ
125:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/23(土) 04:44:30.60:yNXDH6w/o (1/1)
必殺技の名前…某アニメ的に考えて
マギカサンダークラッシュ
マギカファイナルアタック
マギカ・キング・フィニッシュ
とか
上の3つが参戦した某ロボット大戦のオリジナルロボの技から
マギカ・シグヴァン
が良いと思うます!
必殺技の名前…某アニメ的に考えて
マギカサンダークラッシュ
マギカファイナルアタック
マギカ・キング・フィニッシュ
とか
上の3つが参戦した某ロボット大戦のオリジナルロボの技から
マギカ・シグヴァン
が良いと思うます!
126:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/24(日) 12:11:52.17:Rg/WcB7qo (1/1)
杏子「今夜で中部の放送も終わりか……」
杏子「あの終わり方は想定の範囲内だから、この世界での今後の展開は変わらないけどさ」
杏子「>120-121 何も心配しなくていいさ。最後に勝つのは愛と勇気だろ?」
杏子「>125 採用。この世界のまどかがかっこいい名前だって喜んでたぞ」
杏子「GW中には完結させたいそうだ」
次回予告
杏子「あたしとあんたとマミの三人だけで戦う?」
マミ「鹿目さんを戦わせない理由は?」
ほむら「ワルプルギスの夜は強い。常に誰かに守られながら戦ってきたあの子はこの戦いにはいらない」
ほむら「私達は一人でも戦う覚悟と痛みを知っている。けれど、今のあの子にはそれがない。ワルプルギスとの戦いで、戦いの痛みを知れば心が折れるかもしれない」
ほむら「率直に言うわ。あの子を守りながら戦う余裕のある相手じゃないの」
ほむら「あなたには、鹿目まどかと美樹さやかを連れて逃げて欲しい」
ほむら「いいから逃げなさい!! お願いだから私の言う事を聞いて!!」
第9話 「絶対、逃げたりしない」
杏子「今夜で中部の放送も終わりか……」
杏子「あの終わり方は想定の範囲内だから、この世界での今後の展開は変わらないけどさ」
杏子「>120-121 何も心配しなくていいさ。最後に勝つのは愛と勇気だろ?」
杏子「>125 採用。この世界のまどかがかっこいい名前だって喜んでたぞ」
杏子「GW中には完結させたいそうだ」
次回予告
杏子「あたしとあんたとマミの三人だけで戦う?」
マミ「鹿目さんを戦わせない理由は?」
ほむら「ワルプルギスの夜は強い。常に誰かに守られながら戦ってきたあの子はこの戦いにはいらない」
ほむら「私達は一人でも戦う覚悟と痛みを知っている。けれど、今のあの子にはそれがない。ワルプルギスとの戦いで、戦いの痛みを知れば心が折れるかもしれない」
ほむら「率直に言うわ。あの子を守りながら戦う余裕のある相手じゃないの」
ほむら「あなたには、鹿目まどかと美樹さやかを連れて逃げて欲しい」
ほむら「いいから逃げなさい!! お願いだから私の言う事を聞いて!!」
第9話 「絶対、逃げたりしない」
127:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/04/24(日) 13:38:28.35:f5KzyyHIo (1/1)
こんな名作を見逃していたとは・・・・!
完結期待してますぜ
こんな名作を見逃していたとは・・・・!
完結期待してますぜ
128:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/24(日) 14:15:48.87:2rpLYKF7o (1/1)
>>117
> 全員攻略すると隠しキャラが出ます
まどか様マジ女神
>>117
> 全員攻略すると隠しキャラが出ます
まどか様マジ女神
129:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/04/24(日) 16:34:36.43:BHJbg/UEo (1/1)
アニメも最終回を迎えたがいやはやこちらはどうなることやら…
あと>>111で言われるまで主人公の名前の元ネタが芳文社と気付かんかったww
アニメも最終回を迎えたがいやはやこちらはどうなることやら…
あと>>111で言われるまで主人公の名前の元ネタが芳文社と気付かんかったww
130:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県):2011/04/25(月) 01:18:00.09:lvdmj210o (1/1)
ぶっちゃけほむらさんだけだとバッド一直線だしな≫まどか
ぶっちゃけほむらさんだけだとバッド一直線だしな≫まどか
131:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都):2011/04/26(火) 15:23:07.60:BstANnloo (1/1)
期待
期待
132:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:20:06.46:MmxeS0iuo (1/13)
杏子「更新開始だ」
杏子「無駄に文章量が増えていく。予定の12話を超えそうらしい」
杏子「更新開始だ」
杏子「無駄に文章量が増えていく。予定の12話を超えそうらしい」
133:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:20:33.46:MmxeS0iuo (2/13)
第9話 「絶対、逃げたりしない」
狂った結界の中、まどか達五人は新たな魔女と対峙していた。
シルクハットを被ったヤギの頭蓋骨をした魔女。窪んだ眼球の穴からはクリスタル状の塊が複数飛び出しており、そこからクリスタルの内蔵を孕んだハトの骨の姿をした大量の使い魔が生まれ続ける。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
芳文がマギカ・ブレードを振るう度に、大量の使い魔達が消滅していく。
「先輩!!」
後方から、さやかを庇うように立つまどかが分裂矢を放ち、芳文のサポートをする。
「俺とまどかちゃんで使い魔を押さえる!! 二人は魔女を!!」
芳文の言葉にマミは頷くと、槍で使い魔を斬り伏せている杏子に叫ぶ。
「佐倉さん、行くわよ!!」
「しょうがねえな!! 合わせろよマミ!!」
左右に散開し、槍を構え、魔女目掛けて杏子が跳ぶ。
杏子と自分に向かって分散し襲い掛かってくる使い魔を、マミは大量のマスケット銃を顕現させて1匹も残さずにすべて撃ち落とす。
「終わりだよ!!」
全身に魔力の炎を纏った杏子が、魔女に突撃し真っ二つに斬りさいて着地する。
「危ない!!」
使い魔を殲滅した芳文が、着地して無防備な杏子の身体を掴んで、その場を離脱する。
杏子の立っていた場所に、巨大な人骨の掌が振り下ろされ巨大なクレーターが出来る。
「巴さん!! 後ろ!!」
「マミさん!!」
芳文が叫ぶと同時にまどかのシールドが展開され、マミを襲おうとしていたもう一つの掌が弾かれてバラバラになる。
「チッ!! なんだよコイツは!!」
杏子が毒づく。
真っ二つにされた筈の魔女が再び復元すると同時に、中から青白く光る光球が飛び出し、まどかのシールドでバラバラになった掌の残骸に吸い込まれる。
すると、瞬時にバラバラになった掌が復元される。
「あれが魔女の本体か!!」
芳文が叫ぶと同時に、掌から光球が飛び出し、物凄い速度で頭蓋骨と左右の掌の間を行ったり来たり繰り返す。
その間も使い魔が絶え間なく生み出され襲い掛かってくる。芳文とマミと杏子が使い魔をすべて倒した時には、骸骨と掌二つの三体が浮いていた。
第9話 「絶対、逃げたりしない」
狂った結界の中、まどか達五人は新たな魔女と対峙していた。
シルクハットを被ったヤギの頭蓋骨をした魔女。窪んだ眼球の穴からはクリスタル状の塊が複数飛び出しており、そこからクリスタルの内蔵を孕んだハトの骨の姿をした大量の使い魔が生まれ続ける。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
芳文がマギカ・ブレードを振るう度に、大量の使い魔達が消滅していく。
「先輩!!」
後方から、さやかを庇うように立つまどかが分裂矢を放ち、芳文のサポートをする。
「俺とまどかちゃんで使い魔を押さえる!! 二人は魔女を!!」
芳文の言葉にマミは頷くと、槍で使い魔を斬り伏せている杏子に叫ぶ。
「佐倉さん、行くわよ!!」
「しょうがねえな!! 合わせろよマミ!!」
左右に散開し、槍を構え、魔女目掛けて杏子が跳ぶ。
杏子と自分に向かって分散し襲い掛かってくる使い魔を、マミは大量のマスケット銃を顕現させて1匹も残さずにすべて撃ち落とす。
「終わりだよ!!」
全身に魔力の炎を纏った杏子が、魔女に突撃し真っ二つに斬りさいて着地する。
「危ない!!」
使い魔を殲滅した芳文が、着地して無防備な杏子の身体を掴んで、その場を離脱する。
杏子の立っていた場所に、巨大な人骨の掌が振り下ろされ巨大なクレーターが出来る。
「巴さん!! 後ろ!!」
「マミさん!!」
芳文が叫ぶと同時にまどかのシールドが展開され、マミを襲おうとしていたもう一つの掌が弾かれてバラバラになる。
「チッ!! なんだよコイツは!!」
杏子が毒づく。
真っ二つにされた筈の魔女が再び復元すると同時に、中から青白く光る光球が飛び出し、まどかのシールドでバラバラになった掌の残骸に吸い込まれる。
すると、瞬時にバラバラになった掌が復元される。
「あれが魔女の本体か!!」
芳文が叫ぶと同時に、掌から光球が飛び出し、物凄い速度で頭蓋骨と左右の掌の間を行ったり来たり繰り返す。
その間も使い魔が絶え間なく生み出され襲い掛かってくる。芳文とマミと杏子が使い魔をすべて倒した時には、骸骨と掌二つの三体が浮いていた。
134:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:21:11.00:MmxeS0iuo (3/13)
「あの中のどれかに、本体がいるのか。使い魔どものせいで見失っちまった」
「本体を潰さないとまた復元するわ。社君、どうする?」
槍とマスケット銃を構えながら、杏子とマミが芳文の左右に立ち芳文の意見を待つ。
「……このままだと消耗戦になる。相手は三体、こっちは三人。同時に必殺技で殲滅しよう。杏子ちゃん、君にもあるんだろ? 奥の手」
「……ああ。これ以上消耗させられるよりはマシだしな。やってやるよ」
「よし。じゃあ二人とも、俺に合わせて。まどかちゃん!! やるよ!!」
「はい!! 行きます!!」
芳文がマギカ・ブレードを構える。
後方からまどかが三本の矢を放つ。
高速で射出された二本の矢が骸骨の魔女の上下に着弾し、眩いピンク色に輝く円球状の拘束空間を展開し動きを完全に止める。
最後の一本がマギカ・ブレードの柄に吸い込まれ、マギカ・ブレードに込められた魔力と共鳴し、金色の光を発生させながら更なる破壊力と推進力を与える。
たんっ。
芳文が軽く跳ぶと同時に、一瞬で魔女の目前へとマギカ・ブレードによる高速飛行で、辿り着く。
「マギカ・シグヴァン!!」
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
まどかの叫びと芳文の気合いと共に、一瞬で骸骨の魔女が芳文の斬撃によって四分割される。
「ティロ・フィナーレ!!」
マミの巨大マスケット銃による砲撃で、左の掌が中心に大穴を開けて粉々に砕け散る。
「喰らえ!!」
杏子が顕現させた巨大槍が右の掌を木端微塵に粉砕する。
ズバアァァァァンッ!!
とどめの唐竹割りを叩き込みながら、魔女の上を一回転しながら飛び越え着地しながら、芳文は地面を削りつつ魔女へと向き直る。
ズザザザザザ……。
両足に力を込めて、地面を削るのを止めると、芳文は未だ柄から魔力の噴射を続けているマギカ・ブレードを両手でぶんぶんと頭上、右側面、正面、左側面へと移動させながら振り回す。
やがて噴射が消え、刀身の輝きが収まるのを確認して地面に剣を突き立てると同時に、封印魔法の内部で魔女が完全消滅し、光の粒子を撒き散らす。
「やったあ!!」
四人の勝利にさやかが右手を振り上げて歓喜の声を上げる。
シュウウウウウウウン……。
結界が消滅し、グリーフシードがコツンと音を立てて地面に落ちてくる。
「あの中のどれかに、本体がいるのか。使い魔どものせいで見失っちまった」
「本体を潰さないとまた復元するわ。社君、どうする?」
槍とマスケット銃を構えながら、杏子とマミが芳文の左右に立ち芳文の意見を待つ。
「……このままだと消耗戦になる。相手は三体、こっちは三人。同時に必殺技で殲滅しよう。杏子ちゃん、君にもあるんだろ? 奥の手」
「……ああ。これ以上消耗させられるよりはマシだしな。やってやるよ」
「よし。じゃあ二人とも、俺に合わせて。まどかちゃん!! やるよ!!」
「はい!! 行きます!!」
芳文がマギカ・ブレードを構える。
後方からまどかが三本の矢を放つ。
高速で射出された二本の矢が骸骨の魔女の上下に着弾し、眩いピンク色に輝く円球状の拘束空間を展開し動きを完全に止める。
最後の一本がマギカ・ブレードの柄に吸い込まれ、マギカ・ブレードに込められた魔力と共鳴し、金色の光を発生させながら更なる破壊力と推進力を与える。
たんっ。
芳文が軽く跳ぶと同時に、一瞬で魔女の目前へとマギカ・ブレードによる高速飛行で、辿り着く。
「マギカ・シグヴァン!!」
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
まどかの叫びと芳文の気合いと共に、一瞬で骸骨の魔女が芳文の斬撃によって四分割される。
「ティロ・フィナーレ!!」
マミの巨大マスケット銃による砲撃で、左の掌が中心に大穴を開けて粉々に砕け散る。
「喰らえ!!」
杏子が顕現させた巨大槍が右の掌を木端微塵に粉砕する。
ズバアァァァァンッ!!
とどめの唐竹割りを叩き込みながら、魔女の上を一回転しながら飛び越え着地しながら、芳文は地面を削りつつ魔女へと向き直る。
ズザザザザザ……。
両足に力を込めて、地面を削るのを止めると、芳文は未だ柄から魔力の噴射を続けているマギカ・ブレードを両手でぶんぶんと頭上、右側面、正面、左側面へと移動させながら振り回す。
やがて噴射が消え、刀身の輝きが収まるのを確認して地面に剣を突き立てると同時に、封印魔法の内部で魔女が完全消滅し、光の粒子を撒き散らす。
「やったあ!!」
四人の勝利にさやかが右手を振り上げて歓喜の声を上げる。
シュウウウウウウウン……。
結界が消滅し、グリーフシードがコツンと音を立てて地面に落ちてくる。
135:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:22:07.32:MmxeS0iuo (4/13)
「三人共、お疲れ様。さあ、ソウルジェム出して」
「ああ」
「お願い」
「はい」
芳文がグリーフシードを拾い上げ、杏子、マミ、まどかが差し出したソウルジェムの穢れをグリーフシードに移す。
三人分の穢れを吸って限界寸前のグリーフシードを放り投げると、マギカ・ブレードを一閃させ木端微塵に粉砕消滅させる。
「これでよし、と」
そう言って、手にしたマギカ・ブレードを下ろすと杏子が興味深そうな目でマギカ・ブレードを見る。
「しっかし、その剣とんでもない威力だよな」
「まあ、まどかちゃんが作ってくれた剣だしね」
「これさあ、あんただけじゃなくて、あたしとマミとまどかも持って戦えば無敵なんじゃないか?」
「杏子ちゃん、わたし剣なんて扱えないよ」
「私も剣術はちょっと」
「なんだよ。魔法少女の癖に情けないな。ちょっとそれ貸してくれる?」
「いいよ。もう刀身の魔力は消えてるみたいだけど気を付けて。はい」
「ああ、サンキュ?」
ズドン!!
芳文から手渡されたマギカ・ブレードの余りの重さに耐えきれず、杏子はマギカ・ブレードを落としてしまう。
「なんだよこれ!? 滅茶苦茶重いじゃねえか!!」
「そうかな?」
「あんた……よくこんなモン振り回せるな……」
「杏子、そんなに重いの?」
「とてもじゃないが、こんなモン扱えねえよ」
さやかの疑問に杏子は忌々しげに答える。
「どれどれ……」
さやかが地面に落ちたマギカ・ブレードに近づいて持ち上げようとする。
「んーっ!! ……駄目だ。ビクともしないわ」
「そんなに重いの?」
興味が湧いたのか、マミもマギカ・ブレードを持ち上げようとする。
「ん……!! 駄目ね。とても持ち上がりそうもないわ」
「ていうかまどか、アンタどういう作り方してのさ。こんなモンとても実戦で使えないって」
杏子が呆れながらまどかにそう言うと、まどかは地面に落ちているマギカ・ブレードに近づき、持ち上げようとする。
「そんな事言われても……。よいしょ……」
自らの祈りと願いを込めて作り出した剣を、まどかは両手で持ち上げようとするが、1ミリすら地面から離れない。
「……どうしよう。重くてちっとも持ち上がらないよ」
「そんなに重いかな」
ひょい。
「あ」
芳文はあっさりとマキカ・ブレードを持ち上げると、ひゅんひゅんと片手で振り回してみせる。
「おいおい……。なんでそんな重いモンを軽々と扱えるんだよ」
杏子が驚いた顔で尋ねる。
「君達が女の子で、俺が男だからじゃない?」
「んな訳あるかよ。あたしら魔法少女は魔力で身体能力上げてるんだから、普通の人間より力だって体力だって上なんだぞ」
「俺、いつも鍛えてるし」
「そんな理由でそんなモン、軽々と振り回せる訳ねえ。アンタ、本当に人間?」
杏子の言葉に一瞬、複雑そうな表情をするが、芳文はいつもの調子で軽口を叩く。
「……ひどいなあ。魔女こそ見えるけど一応人間だよ」
「まあいいけどさ。結局、それはアンタにしか使えないって事か」
「そうなるのかな。まあこれが重いなら、それだけまどかちゃんの祈りと願いが強いって事だし」
「そんなもんかね。ところでまどか、さっき叫んでたマギカなんとかって何さ?」
「え?」
「そう言われてみれば、さっき叫んでたよね。まどか、なんて言ってたの?」
「えっと……マギカ・シグヴァン」
杏子とさやかの問いに自信なさげに答えるまどか。そんなまどかに芳文は優しく声をかける。
「まどかちゃん、必殺技の名前決めてくれたんだね」
「はい。どうでしょうか?」
「俺はかっこいい名前だと思うよ」
「本当ですか?」
「うん」
「えへへ……。先輩が気に入ってくれたなら良かったです」
「三人共、お疲れ様。さあ、ソウルジェム出して」
「ああ」
「お願い」
「はい」
芳文がグリーフシードを拾い上げ、杏子、マミ、まどかが差し出したソウルジェムの穢れをグリーフシードに移す。
三人分の穢れを吸って限界寸前のグリーフシードを放り投げると、マギカ・ブレードを一閃させ木端微塵に粉砕消滅させる。
「これでよし、と」
そう言って、手にしたマギカ・ブレードを下ろすと杏子が興味深そうな目でマギカ・ブレードを見る。
「しっかし、その剣とんでもない威力だよな」
「まあ、まどかちゃんが作ってくれた剣だしね」
「これさあ、あんただけじゃなくて、あたしとマミとまどかも持って戦えば無敵なんじゃないか?」
「杏子ちゃん、わたし剣なんて扱えないよ」
「私も剣術はちょっと」
「なんだよ。魔法少女の癖に情けないな。ちょっとそれ貸してくれる?」
「いいよ。もう刀身の魔力は消えてるみたいだけど気を付けて。はい」
「ああ、サンキュ?」
ズドン!!
芳文から手渡されたマギカ・ブレードの余りの重さに耐えきれず、杏子はマギカ・ブレードを落としてしまう。
「なんだよこれ!? 滅茶苦茶重いじゃねえか!!」
「そうかな?」
「あんた……よくこんなモン振り回せるな……」
「杏子、そんなに重いの?」
「とてもじゃないが、こんなモン扱えねえよ」
さやかの疑問に杏子は忌々しげに答える。
「どれどれ……」
さやかが地面に落ちたマギカ・ブレードに近づいて持ち上げようとする。
「んーっ!! ……駄目だ。ビクともしないわ」
「そんなに重いの?」
興味が湧いたのか、マミもマギカ・ブレードを持ち上げようとする。
「ん……!! 駄目ね。とても持ち上がりそうもないわ」
「ていうかまどか、アンタどういう作り方してのさ。こんなモンとても実戦で使えないって」
杏子が呆れながらまどかにそう言うと、まどかは地面に落ちているマギカ・ブレードに近づき、持ち上げようとする。
「そんな事言われても……。よいしょ……」
自らの祈りと願いを込めて作り出した剣を、まどかは両手で持ち上げようとするが、1ミリすら地面から離れない。
「……どうしよう。重くてちっとも持ち上がらないよ」
「そんなに重いかな」
ひょい。
「あ」
芳文はあっさりとマキカ・ブレードを持ち上げると、ひゅんひゅんと片手で振り回してみせる。
「おいおい……。なんでそんな重いモンを軽々と扱えるんだよ」
杏子が驚いた顔で尋ねる。
「君達が女の子で、俺が男だからじゃない?」
「んな訳あるかよ。あたしら魔法少女は魔力で身体能力上げてるんだから、普通の人間より力だって体力だって上なんだぞ」
「俺、いつも鍛えてるし」
「そんな理由でそんなモン、軽々と振り回せる訳ねえ。アンタ、本当に人間?」
杏子の言葉に一瞬、複雑そうな表情をするが、芳文はいつもの調子で軽口を叩く。
「……ひどいなあ。魔女こそ見えるけど一応人間だよ」
「まあいいけどさ。結局、それはアンタにしか使えないって事か」
「そうなるのかな。まあこれが重いなら、それだけまどかちゃんの祈りと願いが強いって事だし」
「そんなもんかね。ところでまどか、さっき叫んでたマギカなんとかって何さ?」
「え?」
「そう言われてみれば、さっき叫んでたよね。まどか、なんて言ってたの?」
「えっと……マギカ・シグヴァン」
杏子とさやかの問いに自信なさげに答えるまどか。そんなまどかに芳文は優しく声をかける。
「まどかちゃん、必殺技の名前決めてくれたんだね」
「はい。どうでしょうか?」
「俺はかっこいい名前だと思うよ」
「本当ですか?」
「うん」
「えへへ……。先輩が気に入ってくれたなら良かったです」
136:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:24:08.39:MmxeS0iuo (5/13)
「……マミ2号かよ」
杏子が芳文に褒められて、嬉しそうにしているまどかを見ながらそう呟くと、マミがムッとした顔で尋ねる。
「佐倉さん、どういう意味かしら?」
「別に。一々必殺技の名前とか、緊張感がない奴らだなって思っただけさ」
杏子のその言葉に芳文が口を挟む。
「そんな事はないよ。それに連携取る時や作戦建てる時にさ、技の名前があると意思の疎通がしやすいし」
「そんなもんかね」
「そんなもんだよ、あんこちゃん」
「あたしの名前は杏子だ!!」
「駄目?」
「当たり前だ!!」
「えー。かわいい愛称だと思うんだけどなぁ」
「な!? からかうんじゃねえ!! 潰すぞ!!」
「別にからかってないのに。あんこちゃんは短気だなあ」
「てめえ!!」
「女の子がそんな乱暴な言葉遣いしちゃ駄目だよ。まあそういうとこも可愛いと思うけど」
「な!?」
芳文の言葉に顔を真っ赤にする杏子に、さやかがいひひと意地悪な笑みを浮かべながら言う。
「おやおやー? 杏子顔真っ赤だよ」
「うぜー!! ちょーうぜー!!」
顔を赤くして叫ぶ杏子の様子を見て、さやかはにひひと笑いマミもクスクスと笑う。
「……」
そんな四人のやりとりを無言で見つめながらまどかは思う。
(……先輩って誰にでもかわいいって言うんだ)
「……ん? まどかちゃん、どうかしたの?」
「……え? べ、別に何でもありません!!」
芳文にそう声をかけられ、まどかはそっぽを向きながら慌ててそう答えるのだった。
☆
魔女を倒した後、パトロールを再開した五人は神社の近くを通りかかるとざわざわと喧騒が聞こえてくる。
「あ、お祭りやってますね」
まどかが神社の方に夜店が開かれているのに気付き、傍らを歩いている芳文に言う。
「ほんとだ」
「なあ、せっかくだから何か食ってかないか」
杏子がさやかとマミに言う。
「あたしは別に寄ってもいいけど」
そう答えてマミの方に視線を向ける。
「……そうね。少しくらいなら」
「よっしゃ!! さやか行くぞ!!」
「あっ!? 待ってよ杏子!!」
夜店の方へ駆け出す杏子の後をさやかが慌てて追いかける。
「仲いいなあ、あの二人」
「そうですね」
「私達も行きましょうか」
「うん」
「はい」
まどか達三人も杏子とさやかの後を追いかけた。
「こういう場所で食う食い物ってなんで美味いんだろうな」
焼きそばを食べながら杏子がさやかに言う。
「そうだね。みんな一緒だから特に美味しく感じるのかも」
「……かもな」
神社の石段に腰掛けながら、杏子、さやか、まどか、マミの四人は屋台で買ってきた物に舌鼓を打つ。
「はい、まどかちゃん。巴さん」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
持ちきれないので、二回に分けて飲み物を買ってきた芳文が、まどかとマミに飲み物を手渡す。
「なんか、こういうのっていいわね」
マミがトロピカルドリンクを手にしみじみと言う。
「そうですね。ずっとこうやってみんな一緒だといいのに」
マミの言葉にまどかが微笑みながら同意する。
「……」
だが、芳文はそんな二人に背を向けて、無言で明後日の方へ鋭い視線を向けていた。
「……社君?」
「先輩、どうしたんですか?」
マミとまどかの問いかけに芳文は答えない。杏子とさやかも芳文の様子に気づき視線を向ける。
「……畜生」
『……え?』
芳文が漏らした呟きに、四人が思わず声を揃えて疑問を口にする。
「こんな所でいちゃつきやがって!! 魔女の口づけでも喰らって別れちまえばいいんだ!!」
四人が芳文の視線の先に目を向けると、一組のカップルがいちゃいちゃしていた。
『……』
四人が無言で視線を芳文に戻すと、芳文は血涙を流しながらギリギリを歯を噛みしめ、爪が掌にくい込むほど拳を固く握りしめていた。
「畜生……。俺ももっとイケメンに生まれたかった……!!」
『……』
「そうしたら、彼女の一人くらい出来たかもしれないのにっ……!!」
『……』
四人はそんな芳文に呆れながら、屋台で買った食べ物を食べる。
「……マミ2号かよ」
杏子が芳文に褒められて、嬉しそうにしているまどかを見ながらそう呟くと、マミがムッとした顔で尋ねる。
「佐倉さん、どういう意味かしら?」
「別に。一々必殺技の名前とか、緊張感がない奴らだなって思っただけさ」
杏子のその言葉に芳文が口を挟む。
「そんな事はないよ。それに連携取る時や作戦建てる時にさ、技の名前があると意思の疎通がしやすいし」
「そんなもんかね」
「そんなもんだよ、あんこちゃん」
「あたしの名前は杏子だ!!」
「駄目?」
「当たり前だ!!」
「えー。かわいい愛称だと思うんだけどなぁ」
「な!? からかうんじゃねえ!! 潰すぞ!!」
「別にからかってないのに。あんこちゃんは短気だなあ」
「てめえ!!」
「女の子がそんな乱暴な言葉遣いしちゃ駄目だよ。まあそういうとこも可愛いと思うけど」
「な!?」
芳文の言葉に顔を真っ赤にする杏子に、さやかがいひひと意地悪な笑みを浮かべながら言う。
「おやおやー? 杏子顔真っ赤だよ」
「うぜー!! ちょーうぜー!!」
顔を赤くして叫ぶ杏子の様子を見て、さやかはにひひと笑いマミもクスクスと笑う。
「……」
そんな四人のやりとりを無言で見つめながらまどかは思う。
(……先輩って誰にでもかわいいって言うんだ)
「……ん? まどかちゃん、どうかしたの?」
「……え? べ、別に何でもありません!!」
芳文にそう声をかけられ、まどかはそっぽを向きながら慌ててそう答えるのだった。
☆
魔女を倒した後、パトロールを再開した五人は神社の近くを通りかかるとざわざわと喧騒が聞こえてくる。
「あ、お祭りやってますね」
まどかが神社の方に夜店が開かれているのに気付き、傍らを歩いている芳文に言う。
「ほんとだ」
「なあ、せっかくだから何か食ってかないか」
杏子がさやかとマミに言う。
「あたしは別に寄ってもいいけど」
そう答えてマミの方に視線を向ける。
「……そうね。少しくらいなら」
「よっしゃ!! さやか行くぞ!!」
「あっ!? 待ってよ杏子!!」
夜店の方へ駆け出す杏子の後をさやかが慌てて追いかける。
「仲いいなあ、あの二人」
「そうですね」
「私達も行きましょうか」
「うん」
「はい」
まどか達三人も杏子とさやかの後を追いかけた。
「こういう場所で食う食い物ってなんで美味いんだろうな」
焼きそばを食べながら杏子がさやかに言う。
「そうだね。みんな一緒だから特に美味しく感じるのかも」
「……かもな」
神社の石段に腰掛けながら、杏子、さやか、まどか、マミの四人は屋台で買ってきた物に舌鼓を打つ。
「はい、まどかちゃん。巴さん」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
持ちきれないので、二回に分けて飲み物を買ってきた芳文が、まどかとマミに飲み物を手渡す。
「なんか、こういうのっていいわね」
マミがトロピカルドリンクを手にしみじみと言う。
「そうですね。ずっとこうやってみんな一緒だといいのに」
マミの言葉にまどかが微笑みながら同意する。
「……」
だが、芳文はそんな二人に背を向けて、無言で明後日の方へ鋭い視線を向けていた。
「……社君?」
「先輩、どうしたんですか?」
マミとまどかの問いかけに芳文は答えない。杏子とさやかも芳文の様子に気づき視線を向ける。
「……畜生」
『……え?』
芳文が漏らした呟きに、四人が思わず声を揃えて疑問を口にする。
「こんな所でいちゃつきやがって!! 魔女の口づけでも喰らって別れちまえばいいんだ!!」
四人が芳文の視線の先に目を向けると、一組のカップルがいちゃいちゃしていた。
『……』
四人が無言で視線を芳文に戻すと、芳文は血涙を流しながらギリギリを歯を噛みしめ、爪が掌にくい込むほど拳を固く握りしめていた。
「畜生……。俺ももっとイケメンに生まれたかった……!!」
『……』
「そうしたら、彼女の一人くらい出来たかもしれないのにっ……!!」
『……』
四人はそんな芳文に呆れながら、屋台で買った食べ物を食べる。
137:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:25:20.46:MmxeS0iuo (6/13)
「……社君、男の嫉妬は見苦しいわよ」
マミがたこ焼きに爪楊枝を刺しながら、芳文にそう声をかけると芳文はくるっと振り返り言う。
「それもそうだね!! ありがとう!! 少しだけいい男になれた気がするよ!!」
そう言って再びカップルの方へ向き直り叫ぶ。
「へんっ!! 別に羨ましくなんかないもんね!! そっちの彼女より、こっちが連れてる女の子達の方がかわいいからな!! ばーかばーか!!」
『……』
「誰一人脈なんかないけどな!! 畜生!! 羨ましくなんかないぞ!! ばーかばーか!!」
カップルは二人の世界に入ってて芳文の言葉に気づいていない。
『……』
四人は心底呆れつつ食べ物を口に運ぶのを再開する。
「社君、恥ずかしいからそういうのやめてね」
「うん。ごめんよマミさん。僕もっと大人になるよ」
マミに諭されている芳文を尻目に、杏子が隣に座るさやかとまどかに話しかける。
「……さやか、あいつと付き合ってて疲れないか?」
「最近は慣れてきたけど、結構疲れるかも」
「まどかも大変だな」
「え? わたし?」
「あんた、あいつと付き合ってんだろ?」
「ええ!? 誤解だよ杏子ちゃん!!」
「なんだ、違うのか」
「そ、そうだよ!!」
「まあ、あんな馬鹿じゃそんな気になるわけないか。わりいわりい」
そう言って笑いながら謝る杏子。
「黙ってさえいれば、それなりに整った顔してると思うんだけどね」
「そうだな。でもあの性格で全部台無しじゃん?」
「言えてる。なんであんな馬鹿なんだろあの人」
笑いながら芳文に対する意見を述べる杏子とさやかに、まどかが言う。
「……でも、先輩は優しいよ。戦いの時だってすごく頼りになるし。それに……」
ぼそっと小さく呟くように言葉を繋ぐ。
「かっこいいし」
「……は?」
「まどか、今なんて言ったの?」
「な、なんでもないよっ」
杏子とさやかに最後の言葉を聞き返され、まどかは慌ててごまかすのだった。
☆
いつものように二組に別れて、まどかを芳文に送らせ、さやかを家まで送っていった帰り道。
マミと杏子の二人は近すぎず遠すぎずという、微妙な距離を保ちながら、それぞれの帰路へ着こうとしていた。
「そう言えば佐倉さん、あなたは今どこに住んでいるの?」
「……ホテル暮らしさ」
「そのお金はどうしてるの?」
「……」
マミの問いに杏子は答えない。
「……あなたが良かったらだけど、私の家に来る?」
「……」
「私一人暮らしだから、あなたが寝泊まりする場所くらい提供出来るわよ」
「なんでそんな事が言えるんだよ。あたしとあんたはそんな関係じゃないだろ」
「そうね。でもそれはもう過去の事よ」
「……随分お人好しになったもんだな。社とまどかの影響か?」
「そうかもね。それにチームを組む以上、あなたの所在がはっきりしてた方が都合がいいでしょ?」
「言っとくけど、金ならないぞ」
「いらないわよ。お客様からお金なんか取る訳ないじゃない」
そう言ってマミは微笑む。杏子はぷいっと顔を逸らしながら、小さく呟くように言う。
「……明日」
「ん?」
「明日にはホテル引き払ってくる」
「ええ。あなたが寝る為の布団を用意しておくわ」
「……ふん」
杏子がそっぽを向きながらそう答えたその時。
「……社君、男の嫉妬は見苦しいわよ」
マミがたこ焼きに爪楊枝を刺しながら、芳文にそう声をかけると芳文はくるっと振り返り言う。
「それもそうだね!! ありがとう!! 少しだけいい男になれた気がするよ!!」
そう言って再びカップルの方へ向き直り叫ぶ。
「へんっ!! 別に羨ましくなんかないもんね!! そっちの彼女より、こっちが連れてる女の子達の方がかわいいからな!! ばーかばーか!!」
『……』
「誰一人脈なんかないけどな!! 畜生!! 羨ましくなんかないぞ!! ばーかばーか!!」
カップルは二人の世界に入ってて芳文の言葉に気づいていない。
『……』
四人は心底呆れつつ食べ物を口に運ぶのを再開する。
「社君、恥ずかしいからそういうのやめてね」
「うん。ごめんよマミさん。僕もっと大人になるよ」
マミに諭されている芳文を尻目に、杏子が隣に座るさやかとまどかに話しかける。
「……さやか、あいつと付き合ってて疲れないか?」
「最近は慣れてきたけど、結構疲れるかも」
「まどかも大変だな」
「え? わたし?」
「あんた、あいつと付き合ってんだろ?」
「ええ!? 誤解だよ杏子ちゃん!!」
「なんだ、違うのか」
「そ、そうだよ!!」
「まあ、あんな馬鹿じゃそんな気になるわけないか。わりいわりい」
そう言って笑いながら謝る杏子。
「黙ってさえいれば、それなりに整った顔してると思うんだけどね」
「そうだな。でもあの性格で全部台無しじゃん?」
「言えてる。なんであんな馬鹿なんだろあの人」
笑いながら芳文に対する意見を述べる杏子とさやかに、まどかが言う。
「……でも、先輩は優しいよ。戦いの時だってすごく頼りになるし。それに……」
ぼそっと小さく呟くように言葉を繋ぐ。
「かっこいいし」
「……は?」
「まどか、今なんて言ったの?」
「な、なんでもないよっ」
杏子とさやかに最後の言葉を聞き返され、まどかは慌ててごまかすのだった。
☆
いつものように二組に別れて、まどかを芳文に送らせ、さやかを家まで送っていった帰り道。
マミと杏子の二人は近すぎず遠すぎずという、微妙な距離を保ちながら、それぞれの帰路へ着こうとしていた。
「そう言えば佐倉さん、あなたは今どこに住んでいるの?」
「……ホテル暮らしさ」
「そのお金はどうしてるの?」
「……」
マミの問いに杏子は答えない。
「……あなたが良かったらだけど、私の家に来る?」
「……」
「私一人暮らしだから、あなたが寝泊まりする場所くらい提供出来るわよ」
「なんでそんな事が言えるんだよ。あたしとあんたはそんな関係じゃないだろ」
「そうね。でもそれはもう過去の事よ」
「……随分お人好しになったもんだな。社とまどかの影響か?」
「そうかもね。それにチームを組む以上、あなたの所在がはっきりしてた方が都合がいいでしょ?」
「言っとくけど、金ならないぞ」
「いらないわよ。お客様からお金なんか取る訳ないじゃない」
そう言ってマミは微笑む。杏子はぷいっと顔を逸らしながら、小さく呟くように言う。
「……明日」
「ん?」
「明日にはホテル引き払ってくる」
「ええ。あなたが寝る為の布団を用意しておくわ」
「……ふん」
杏子がそっぽを向きながらそう答えたその時。
138:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:26:20.74:MmxeS0iuo (7/13)
「巴マミ、佐倉杏子」
いつの間に近づいていたのか、二人の背後からほむらが声をかけてきた。
「あなたは!?」
「いつの間に!?」
まったく気配を感じさせる事無く、背後を取られた事に警戒しながら、マミと杏子はほむらに向き直る。
「もうすぐワルプルギスの夜がやってくる」
ほむらは表情を変える事無く、淡々と二人に告げる。
「暁美ほむらさん。どうしてあなたにそんな事がわかるのかしら?」
「そもそも、この街に以前にもワルプルギスが来たなんて、聞いた事ないぞ」
「……統計よ。今までの、ね」
「それで、あなたはどうしたいのかしら」
マミの言葉に、ほむらは二人の顔をじっと見つめながら言う。
「どうか、私と一緒にワルプルギスの夜と戦ってほしい。あれには私だけでは勝てない」
ほむらのその言葉に、マミと杏子はお互いの顔を見合わせる。
「……ワルプルギスの夜か。まああたしとあんた、マミとまどか、それに社も戦力に入れれば勝てるかもな」
「いいえ。ワルプルギスの夜との戦いに赴くのは私とあなた達の三人だけよ」
杏子の言葉を、長い髪の毛をかき上げながら、ほむらは否定する。
「あたしとあんたとマミの三人だけで戦う?」
「鹿目さんを戦わせない理由は?」
人間である芳文はともかく、最強の魔法少女であるまどかを除外する理由は何故なのか。
マミと杏子はほむらにその理由を問う。
「ワルプルギスの夜は強い。常に誰かに守られながら戦ってきたあの子は、この戦いにはいらない」
ほむらの言葉にマミは言葉を失う。確かにほむらの言うとうりだった。
まどかの契約時の状況による負い目から、確かにマミは必要以上にまどかの事を気にかけて戦ってきた。少なくとも一度も前線に立たせた事はない。
「私達は一人でも戦う覚悟と痛みを知っている。けれど、今のあの子にはそれがない。ワルプルギスとの戦いで、戦いの痛みを知れば心が折れるかもしれない」
ほむらの言葉に、マミと杏子は自分達がまだ駆け出しだった時の事を思い出す。たった一人で戦いに明け暮れた日の事を。
何度も危険な目に遭い、痛い思いをし、心が折れそうになったのは一度や二度ではない事を。
「率直に言うわ。あの子を守りながら戦う余裕のある相手じゃないの」
「……あたし達三人だけで、勝算はあるのか?」
「三人いれば何とかなるわ」
「……そうね。ベテランの魔法少女が三人もいれば何とかなるでしょうね。けれど、社君と鹿目さんが黙って私達だけに任せてくれるとは思えない」
「そちらは私が説得する。社芳文には鹿目まどかと美樹さやかの二人を連れて、この街から逃げてもらう」
マミの言葉に、ほむらは感情の籠らない言葉で、静かにそう答えるのだった……。
☆
マミと杏子がほむらに共闘を申し込まれた翌日の夜。
「土曜日なんだけどさ、用事があるからみんなに合流するの夕方からでいいかな」
パトロールの帰り道で、芳文がまどか達に言う。
「別に一日中魔女探しをする訳じゃないから、それはいいけど」
マミの返事に、芳文は申し訳なさそうに言う。
「助かるよ。どうしても外せない用事があるんだ。終わったらすぐ合流するから」
「なんだ、女にでも会いに行くのかい?」
杏子の軽口に軽口で返す。
「んー。まあそんなとこ」
「……え?」
杏子と芳文のそんなやりとりに、まどかが驚いた顔をする。
「ん? どうかした?」
「い、いえ、別に何でもありません」
「そう?」
結局、それ以上この話題が続く事は無く、この日はそのまま解散したのだった。
――そして土曜日の午後。
まどか達四人はなんとなく全員集まって、ファミレスで昼食を取り街をプラプラと歩いていた。
「おい、あれ社じゃないか」
杏子が人込みの中を歩く芳文を見つけて、まどか達に教える。
「ホントだ。これから誰かに会いに行くのかな」
「あら? 社君花束を持ってるわ」
「おいおい……。あいつ本当に女に会いに行くのかよ」
「……」
杏子達のやりとりを無言で聞きながら、まどかは芳文の背中を見つめる。
「なあなあ、どうせヒマだしさ、ちょっとあいつの後付けてみないか?」
「それはちょっと悪趣味じゃないかしら」
「あいつがどんな女に会いに行くのか、興味ないかい?」
「何、杏子。先輩の事気になるのー?」
「ばっか、何言ってんだよ。そんな訳あるかよ。まあ嫌いじゃあないけどさ、あの馬鹿をそんな目で見た事ねーよ」
「あーあ、先輩かわいそう。マミさんだけでなく杏子も脈なしかあ」
「そういうさやかはどうなんだよ?」
「あたしにとって先輩は兄貴みたいなもんだしね。向こうもあたしの事妹だって言ってるし」
「なんだ、そうなのか」
「そうだよ。あっ。追いかけないと先輩見失っちゃう。ほら、まどか行くよ!!」
「ちょっ!? さやかちゃん!?」
さやかが強引にまどかの手を引く。
四人は芳文に気づかれないようにこっそりと後を付けていく。
「巴マミ、佐倉杏子」
いつの間に近づいていたのか、二人の背後からほむらが声をかけてきた。
「あなたは!?」
「いつの間に!?」
まったく気配を感じさせる事無く、背後を取られた事に警戒しながら、マミと杏子はほむらに向き直る。
「もうすぐワルプルギスの夜がやってくる」
ほむらは表情を変える事無く、淡々と二人に告げる。
「暁美ほむらさん。どうしてあなたにそんな事がわかるのかしら?」
「そもそも、この街に以前にもワルプルギスが来たなんて、聞いた事ないぞ」
「……統計よ。今までの、ね」
「それで、あなたはどうしたいのかしら」
マミの言葉に、ほむらは二人の顔をじっと見つめながら言う。
「どうか、私と一緒にワルプルギスの夜と戦ってほしい。あれには私だけでは勝てない」
ほむらのその言葉に、マミと杏子はお互いの顔を見合わせる。
「……ワルプルギスの夜か。まああたしとあんた、マミとまどか、それに社も戦力に入れれば勝てるかもな」
「いいえ。ワルプルギスの夜との戦いに赴くのは私とあなた達の三人だけよ」
杏子の言葉を、長い髪の毛をかき上げながら、ほむらは否定する。
「あたしとあんたとマミの三人だけで戦う?」
「鹿目さんを戦わせない理由は?」
人間である芳文はともかく、最強の魔法少女であるまどかを除外する理由は何故なのか。
マミと杏子はほむらにその理由を問う。
「ワルプルギスの夜は強い。常に誰かに守られながら戦ってきたあの子は、この戦いにはいらない」
ほむらの言葉にマミは言葉を失う。確かにほむらの言うとうりだった。
まどかの契約時の状況による負い目から、確かにマミは必要以上にまどかの事を気にかけて戦ってきた。少なくとも一度も前線に立たせた事はない。
「私達は一人でも戦う覚悟と痛みを知っている。けれど、今のあの子にはそれがない。ワルプルギスとの戦いで、戦いの痛みを知れば心が折れるかもしれない」
ほむらの言葉に、マミと杏子は自分達がまだ駆け出しだった時の事を思い出す。たった一人で戦いに明け暮れた日の事を。
何度も危険な目に遭い、痛い思いをし、心が折れそうになったのは一度や二度ではない事を。
「率直に言うわ。あの子を守りながら戦う余裕のある相手じゃないの」
「……あたし達三人だけで、勝算はあるのか?」
「三人いれば何とかなるわ」
「……そうね。ベテランの魔法少女が三人もいれば何とかなるでしょうね。けれど、社君と鹿目さんが黙って私達だけに任せてくれるとは思えない」
「そちらは私が説得する。社芳文には鹿目まどかと美樹さやかの二人を連れて、この街から逃げてもらう」
マミの言葉に、ほむらは感情の籠らない言葉で、静かにそう答えるのだった……。
☆
マミと杏子がほむらに共闘を申し込まれた翌日の夜。
「土曜日なんだけどさ、用事があるからみんなに合流するの夕方からでいいかな」
パトロールの帰り道で、芳文がまどか達に言う。
「別に一日中魔女探しをする訳じゃないから、それはいいけど」
マミの返事に、芳文は申し訳なさそうに言う。
「助かるよ。どうしても外せない用事があるんだ。終わったらすぐ合流するから」
「なんだ、女にでも会いに行くのかい?」
杏子の軽口に軽口で返す。
「んー。まあそんなとこ」
「……え?」
杏子と芳文のそんなやりとりに、まどかが驚いた顔をする。
「ん? どうかした?」
「い、いえ、別に何でもありません」
「そう?」
結局、それ以上この話題が続く事は無く、この日はそのまま解散したのだった。
――そして土曜日の午後。
まどか達四人はなんとなく全員集まって、ファミレスで昼食を取り街をプラプラと歩いていた。
「おい、あれ社じゃないか」
杏子が人込みの中を歩く芳文を見つけて、まどか達に教える。
「ホントだ。これから誰かに会いに行くのかな」
「あら? 社君花束を持ってるわ」
「おいおい……。あいつ本当に女に会いに行くのかよ」
「……」
杏子達のやりとりを無言で聞きながら、まどかは芳文の背中を見つめる。
「なあなあ、どうせヒマだしさ、ちょっとあいつの後付けてみないか?」
「それはちょっと悪趣味じゃないかしら」
「あいつがどんな女に会いに行くのか、興味ないかい?」
「何、杏子。先輩の事気になるのー?」
「ばっか、何言ってんだよ。そんな訳あるかよ。まあ嫌いじゃあないけどさ、あの馬鹿をそんな目で見た事ねーよ」
「あーあ、先輩かわいそう。マミさんだけでなく杏子も脈なしかあ」
「そういうさやかはどうなんだよ?」
「あたしにとって先輩は兄貴みたいなもんだしね。向こうもあたしの事妹だって言ってるし」
「なんだ、そうなのか」
「そうだよ。あっ。追いかけないと先輩見失っちゃう。ほら、まどか行くよ!!」
「ちょっ!? さやかちゃん!?」
さやかが強引にまどかの手を引く。
四人は芳文に気づかれないようにこっそりと後を付けていく。
139:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:27:50.87:MmxeS0iuo (8/13)
「なんだかどんどん人気が少なくなってくね」
「あいつ、こんな人気のないとこで待ち合わせしてんのか?」
「ていうか、たしかこの先は……」
さやか達に、無理に引っ張りまわされる形で連れてこられたまどかは、困った顔で三人のやり取りを聞きながらどんどん歩いていく芳文の背中を見る。
そのまましばらく後を追っていくと、そこは霊園だった。
「あ……」
「……なんだ、墓参りかよ」
「……三人共、帰りましょう」
マミが三人にそう声をかけたその時だった。
背中を向けたままの芳文が、静かに良く聞こえる大きさでまどか達に言う。
「いつまで隠れてるのかな?」
「やべ!? 逃げるぞ!!」
慌てて杏子がさやかの手を引いて駆け出し、マミも咄嗟に後を追いかけてしまう。
「……え?」
まどかが気付いた時には三人は物陰に隠れてしまっていた。
「……まどかちゃん」
「あ……」
いつの間にかこちらに振り返っていた芳文に、まどかは見つかってしまった。
「……まどかちゃんだけ?」
「……は、はい」
まどかはさやか達を庇って力なく頷く。
「俺の後付けてきたの?」
「ごめんなさい……」
しゅんと俯いて弱弱しく謝る。
「……別に怒ってないから」
そう言って、芳文はまどかの頭を優しく撫でてやる。
「でも、こういう事はもうしないようにね」
「ごめんなさい……」
「さてと、それじゃ用事済ませてくるからちょっと待っててくれるかな。終わったら一緒に街の方へ戻ろう」
「あの……ここって……」
「ああ。妹と母さんが眠ってる場所なんだ」
以前、結界の中に閉じ込められた時に、芳文が言っていた義理の母親と妹の事をまどかは思い出す。
「あの……。私も先輩のお母さんと妹さんに、お参りしてもいいですか?」
「……うん」
芳文とまどかは芳文の妹と母親の眠る墓の掃除と、お参りを済ませると、二人並んで街へと歩いていく。
「墓の掃除手伝ってくれてありがとう」
「いえ……」
「家の親戚少ないから、まどかちゃんもお参りしてくれてきっと喜んでると思う」
「そんな……。わたし、いつも先輩にお世話になってるから……」
二人並んで歩きながら、芳文はまどかに事情を話す。
「……今日、二人の命日だったんだ」
「……」
「今まで、二人が死んだあの日からずっと、ここに来ることが出来なくてさ……」
「……どうして……ですか?」
「……前にも言ったけど、妹を見捨てた自分なんて、いつ死んでもいいって思ってたから。妹と母さんに合わせる顔がなかったんだ……」
「……」
「けど今は違う。今はもうそんな事思ってない。君と出会って、君に命と心を救われたあの時から」
「……」
「今はこの命が尽きるその日まで生きようと思ってる。この命で誰かを救えるのなら、その誰かの為に戦い続けようと思ってる。今日は二人にその事を報告に来たんだ」
「……」
「妹は俺の事を許してくれないかもしれないけど……。その事を伝えて謝りたかったんだ」
「……大丈夫です。きっと、妹さんは先輩の事を恨んだりしてないと思います」
「……」
「先輩はいつだって優しくて、私やマミさん、さやかちゃんと杏子ちゃんを助けてくれました。そんな先輩の事、天国の妹さんが嫌いになったりする筈ないじゃないですか」
「……ありがとう」
まどかの言葉に、芳文は静かにそう答える。
芳文の中の呪縛がまたひとつ消えた瞬間だった。
「なんだかどんどん人気が少なくなってくね」
「あいつ、こんな人気のないとこで待ち合わせしてんのか?」
「ていうか、たしかこの先は……」
さやか達に、無理に引っ張りまわされる形で連れてこられたまどかは、困った顔で三人のやり取りを聞きながらどんどん歩いていく芳文の背中を見る。
そのまましばらく後を追っていくと、そこは霊園だった。
「あ……」
「……なんだ、墓参りかよ」
「……三人共、帰りましょう」
マミが三人にそう声をかけたその時だった。
背中を向けたままの芳文が、静かに良く聞こえる大きさでまどか達に言う。
「いつまで隠れてるのかな?」
「やべ!? 逃げるぞ!!」
慌てて杏子がさやかの手を引いて駆け出し、マミも咄嗟に後を追いかけてしまう。
「……え?」
まどかが気付いた時には三人は物陰に隠れてしまっていた。
「……まどかちゃん」
「あ……」
いつの間にかこちらに振り返っていた芳文に、まどかは見つかってしまった。
「……まどかちゃんだけ?」
「……は、はい」
まどかはさやか達を庇って力なく頷く。
「俺の後付けてきたの?」
「ごめんなさい……」
しゅんと俯いて弱弱しく謝る。
「……別に怒ってないから」
そう言って、芳文はまどかの頭を優しく撫でてやる。
「でも、こういう事はもうしないようにね」
「ごめんなさい……」
「さてと、それじゃ用事済ませてくるからちょっと待っててくれるかな。終わったら一緒に街の方へ戻ろう」
「あの……ここって……」
「ああ。妹と母さんが眠ってる場所なんだ」
以前、結界の中に閉じ込められた時に、芳文が言っていた義理の母親と妹の事をまどかは思い出す。
「あの……。私も先輩のお母さんと妹さんに、お参りしてもいいですか?」
「……うん」
芳文とまどかは芳文の妹と母親の眠る墓の掃除と、お参りを済ませると、二人並んで街へと歩いていく。
「墓の掃除手伝ってくれてありがとう」
「いえ……」
「家の親戚少ないから、まどかちゃんもお参りしてくれてきっと喜んでると思う」
「そんな……。わたし、いつも先輩にお世話になってるから……」
二人並んで歩きながら、芳文はまどかに事情を話す。
「……今日、二人の命日だったんだ」
「……」
「今まで、二人が死んだあの日からずっと、ここに来ることが出来なくてさ……」
「……どうして……ですか?」
「……前にも言ったけど、妹を見捨てた自分なんて、いつ死んでもいいって思ってたから。妹と母さんに合わせる顔がなかったんだ……」
「……」
「けど今は違う。今はもうそんな事思ってない。君と出会って、君に命と心を救われたあの時から」
「……」
「今はこの命が尽きるその日まで生きようと思ってる。この命で誰かを救えるのなら、その誰かの為に戦い続けようと思ってる。今日は二人にその事を報告に来たんだ」
「……」
「妹は俺の事を許してくれないかもしれないけど……。その事を伝えて謝りたかったんだ」
「……大丈夫です。きっと、妹さんは先輩の事を恨んだりしてないと思います」
「……」
「先輩はいつだって優しくて、私やマミさん、さやかちゃんと杏子ちゃんを助けてくれました。そんな先輩の事、天国の妹さんが嫌いになったりする筈ないじゃないですか」
「……ありがとう」
まどかの言葉に、芳文は静かにそう答える。
芳文の中の呪縛がまたひとつ消えた瞬間だった。
140:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:30:29.97:MmxeS0iuo (9/13)
☆
――芳文とまどかが街中に戻ってきた頃、不意に強い雨が降り出した。
「まどかちゃん、こっち!!」
テレパシーでマミ達と会話していたまどかの手を引いて、芳文は近くの軒先に非難する。
「傘持って来ればよかったな、びちゃびちゃだ……」
そうぼやいてまどかの方へ振り返ると、まどかも濡れ鼠になっていた。
白いブラウスが雨で透けて、ブラの紐や肌が見える。
芳文が慌てて視線を逸らすと、まどかも自分の状態に気付いたのか、顔を赤く染めて恥ずかしそうに自らの肩を抱く。
「こりゃ当分やみそうもないな。まどかちゃん、ここからちょっと走れば俺の家だから、俺の家に来る?」
「え?」
「いや、変な意味はないんだ!! 家、乾燥機モあるしさ、それにこのままここにいると、まどかちゃん風邪引くかもしれないし!! まどかちゃんがシャワーとか使ってる間俺、家の外に出てるから!!」
そう言って、芳文はまどかの返答を待つ。
「先輩が良ければ……」
「うん。じゃ行こう」
芳文とまどかは雨の中走って、芳文の住むワンルームマンションへと急いだ。
「はい、タオル」
「ありがとうございます」
玄関先でタオルで雨水を拭きとると、芳文はまどかを自宅へ招き入れる。
「これ、まだ下ろしてないやつだから。ちょっと大きいかもしれないけど、服が乾くまで我慢して」
学校指定のジャージの新品をまどかに渡し、風呂場に案内する。
「洗濯機と乾燥機とシャワー、自由に使っていいから。まどかちゃんが風呂場使ってる間は俺、外に出てるから終わったら電話して」
それだけ矢継ぎ早に告げると芳文はさっさと、新しい服に着替えて自宅を出て行った。
まどかは内心申し訳なく感じながら、洗濯機に着ていた服を入れてスイッチを入れると、シャワーを浴びさせてもらう。
シャワーを済ませ、先に洗って乾燥機にかけた下着を着け、借りたジャージに袖を通して、風呂場から出てくる。
「……これが先輩のお家なんだ」
そう呟いてまどかは部屋の中を見回す。
ベッドとテレビと机とノートパソコン。教科書と参考書のみが収められた本棚と小さなタンスにいくつかの生活必需品。
マンガヤ小説、CDプレイヤーといった嗜好品の類が全くない部屋。
自分の部屋やマミの部屋と比べて、あまりに生活感のない部屋にまどかは戸惑う。
「あ、先輩に電話しないと」
まどかが携帯電話で芳文に電話をかけると、芳文は二人分のケーキと缶のホットレモンティーを買って戻ってきた。
「はい、どうぞ」
「いただきます」
戻ってきた芳文にケーキを進められ、まどかはケーキに口を付ける。
「俺、紅茶とか入れないから缶のだけどごめん」
「いえ、そんな……」
二人で無言のまま、ケーキを食べて紅茶を飲む。
「何にもなくて驚いた?」
「えと……ちょっとだけ」
「実は俺、趣味とかなくてさ。妹が死んでから、そういう楽しみ持つのってどうなんだろうって思ってて」
――ピンポーン。
不意にチャイムが鳴り、会話が中断される。
「誰だろう。ごめん、ちょっと待ってて」
そう言って席を立つ芳文。
まどかが待つ事数分後。四〇代くらいの男性と共に芳文が戻ってくる。
「はじめまして、芳文の父です」
男性がまどかにそう挨拶をしてぺこりとお辞儀する。
「は、はじめまして。わたし、社先輩の中学の後輩で鹿目まどかと言います」
まどかは芳文の父親に、慌てて姿勢を正して自己紹介をし、ぺこりと頭を下げる。
「芳文に、こんなに可愛らしいガールフレンドがいるとは、知らなかったよ」
そう言って人当たりの良さそうな笑顔でまどかに笑いかける。
「あぅ……」
まどかは顔を赤くして俯いてしまう。
「知ってのとうり、せがれは口数も少ないし無愛想だけど、これからも仲良くしてあげて」
「父さん、余計な事は言わなくていいよ」
「何を言う。かわいい息子の嫁さん候補に挨拶するのは父親の務めだろう?」
「彼女はそんなんじゃない。ごめん、まどかちゃん気にしないで」
「照れるなよ息子」
「照れてねーよ、糞親父」
顔を赤くしながら、まどかは上目遣いにそんな二人のやり取りを見るのだった。
☆
――芳文とまどかが街中に戻ってきた頃、不意に強い雨が降り出した。
「まどかちゃん、こっち!!」
テレパシーでマミ達と会話していたまどかの手を引いて、芳文は近くの軒先に非難する。
「傘持って来ればよかったな、びちゃびちゃだ……」
そうぼやいてまどかの方へ振り返ると、まどかも濡れ鼠になっていた。
白いブラウスが雨で透けて、ブラの紐や肌が見える。
芳文が慌てて視線を逸らすと、まどかも自分の状態に気付いたのか、顔を赤く染めて恥ずかしそうに自らの肩を抱く。
「こりゃ当分やみそうもないな。まどかちゃん、ここからちょっと走れば俺の家だから、俺の家に来る?」
「え?」
「いや、変な意味はないんだ!! 家、乾燥機モあるしさ、それにこのままここにいると、まどかちゃん風邪引くかもしれないし!! まどかちゃんがシャワーとか使ってる間俺、家の外に出てるから!!」
そう言って、芳文はまどかの返答を待つ。
「先輩が良ければ……」
「うん。じゃ行こう」
芳文とまどかは雨の中走って、芳文の住むワンルームマンションへと急いだ。
「はい、タオル」
「ありがとうございます」
玄関先でタオルで雨水を拭きとると、芳文はまどかを自宅へ招き入れる。
「これ、まだ下ろしてないやつだから。ちょっと大きいかもしれないけど、服が乾くまで我慢して」
学校指定のジャージの新品をまどかに渡し、風呂場に案内する。
「洗濯機と乾燥機とシャワー、自由に使っていいから。まどかちゃんが風呂場使ってる間は俺、外に出てるから終わったら電話して」
それだけ矢継ぎ早に告げると芳文はさっさと、新しい服に着替えて自宅を出て行った。
まどかは内心申し訳なく感じながら、洗濯機に着ていた服を入れてスイッチを入れると、シャワーを浴びさせてもらう。
シャワーを済ませ、先に洗って乾燥機にかけた下着を着け、借りたジャージに袖を通して、風呂場から出てくる。
「……これが先輩のお家なんだ」
そう呟いてまどかは部屋の中を見回す。
ベッドとテレビと机とノートパソコン。教科書と参考書のみが収められた本棚と小さなタンスにいくつかの生活必需品。
マンガヤ小説、CDプレイヤーといった嗜好品の類が全くない部屋。
自分の部屋やマミの部屋と比べて、あまりに生活感のない部屋にまどかは戸惑う。
「あ、先輩に電話しないと」
まどかが携帯電話で芳文に電話をかけると、芳文は二人分のケーキと缶のホットレモンティーを買って戻ってきた。
「はい、どうぞ」
「いただきます」
戻ってきた芳文にケーキを進められ、まどかはケーキに口を付ける。
「俺、紅茶とか入れないから缶のだけどごめん」
「いえ、そんな……」
二人で無言のまま、ケーキを食べて紅茶を飲む。
「何にもなくて驚いた?」
「えと……ちょっとだけ」
「実は俺、趣味とかなくてさ。妹が死んでから、そういう楽しみ持つのってどうなんだろうって思ってて」
――ピンポーン。
不意にチャイムが鳴り、会話が中断される。
「誰だろう。ごめん、ちょっと待ってて」
そう言って席を立つ芳文。
まどかが待つ事数分後。四〇代くらいの男性と共に芳文が戻ってくる。
「はじめまして、芳文の父です」
男性がまどかにそう挨拶をしてぺこりとお辞儀する。
「は、はじめまして。わたし、社先輩の中学の後輩で鹿目まどかと言います」
まどかは芳文の父親に、慌てて姿勢を正して自己紹介をし、ぺこりと頭を下げる。
「芳文に、こんなに可愛らしいガールフレンドがいるとは、知らなかったよ」
そう言って人当たりの良さそうな笑顔でまどかに笑いかける。
「あぅ……」
まどかは顔を赤くして俯いてしまう。
「知ってのとうり、せがれは口数も少ないし無愛想だけど、これからも仲良くしてあげて」
「父さん、余計な事は言わなくていいよ」
「何を言う。かわいい息子の嫁さん候補に挨拶するのは父親の務めだろう?」
「彼女はそんなんじゃない。ごめん、まどかちゃん気にしないで」
「照れるなよ息子」
「照れてねーよ、糞親父」
顔を赤くしながら、まどかは上目遣いにそんな二人のやり取りを見るのだった。
141:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:31:25.45:MmxeS0iuo (10/13)
☆
やがてまどかの服の洗濯と乾燥が終わり、芳文とまどかは芳文の家を出た。
芳文の父親は墓参りと芳文の様子を見る為に、仕事の合間を縫ってやって来た為、芳文達と一緒に家を出てそのまま帰って行った。
「まどかちゃんごめん。親父が変な事ばっか言って。気を悪くしたよね。嫁候補だとかさ。後でちゃんと誤解は解いておくから」
「そんなに気にしないでください。優しいお父さんですね」
「……うん。俺にとっては本当の親父も同然かな」
そんな会話をしながら、マミ達との合流場所へ向かう。
「……まどかちゃん。今だから白状するけど……。巴さん達の前の俺は本当の俺じゃない」
不意に芳文が立ち止まり、真剣な表情でまどかに告白する。
「……え?」
「親父が言ってたよね、無口で無愛想って。それが本当の俺なんだ」
「……」
まどかは無言で芳文の顔を見つめながら、芳文の言葉に耳を傾ける。
「俺さ、他人と触れ合うのが苦手なんだよ。素の自分を見せて嫌われるのが怖いんだ。だから全部計算ずくで馬鹿やってるんだよ」
「……」
「口数が少なくて無愛想なコミュ障。何の趣味もないつまらない人間。それが本当の俺なんだ」
「……わたし達を助けてくれる気持ちも嘘なんですか?」
「それは嘘じゃない!!」
まどかの問いに芳文はきっぱりと答える。
「まどかちゃんと二人だけの時に今まで言った言葉は全部本心だよ。誰かの為に役に立ちたいという気持ちも、巴さん達を仲間だと思う気持ちも、君を守りたいと思う気持ちも嘘じゃない!!」
「……知ってます」
芳文の言葉に、まどかは柔らかな笑みを浮かべて言う。
「先輩はいつだって優しくて、わたし達を助けてくれました。嘘だったらそんな事出来ません」
「……ごめん」
「謝らなくてもいいです。誰だって、相手によって態度変えるの当たり前ですし」
「そう言ってくれると助かるよ」
「本当の先輩を知ってる人って、他にもいるんですか?」
「親父と天瀬と君だけだよ。俺、友達少ないし」
「そうですか」
そう言って、まどかはふふっと笑う。
「俺、何かおかしな事言ったかな?」
「いえ。本当の先輩を知ってる女の子が私だけって、なんか嬉しいなって」
そう言って笑うまどかに、芳文は思わずドキッとして顔を赤くする。
「あれ? 先輩どうしたんですか?」
「な、なんでもない」
まどかに顔を覗き込まれそっぽを向いて答える。
「本当に?」
「……からかわないでくれよ」
「いつも先輩がしてる事なのに?」
「あれは……演技だし」
「じゃあ、これも演技ですよ」
そう言ってまどかはクスクスと笑う。
「参ったな……。まどかちゃんがこんな意地悪な子だと思わなかった」
「今までの先輩のおかげですよ。こういう事も出来るようになりました」
まどかはそう言ってぺろっと舌を出して笑う。
「やれやれ。これからはもう少し自重しないといけないな」
「そうですね」
芳文とまどかは顔を見合わせて笑いあう。
この日は今までまどかについていた嘘と、亡き家族への暗い感情が消えた、芳文にとって忘れられない一日になったのだった。
☆
やがてまどかの服の洗濯と乾燥が終わり、芳文とまどかは芳文の家を出た。
芳文の父親は墓参りと芳文の様子を見る為に、仕事の合間を縫ってやって来た為、芳文達と一緒に家を出てそのまま帰って行った。
「まどかちゃんごめん。親父が変な事ばっか言って。気を悪くしたよね。嫁候補だとかさ。後でちゃんと誤解は解いておくから」
「そんなに気にしないでください。優しいお父さんですね」
「……うん。俺にとっては本当の親父も同然かな」
そんな会話をしながら、マミ達との合流場所へ向かう。
「……まどかちゃん。今だから白状するけど……。巴さん達の前の俺は本当の俺じゃない」
不意に芳文が立ち止まり、真剣な表情でまどかに告白する。
「……え?」
「親父が言ってたよね、無口で無愛想って。それが本当の俺なんだ」
「……」
まどかは無言で芳文の顔を見つめながら、芳文の言葉に耳を傾ける。
「俺さ、他人と触れ合うのが苦手なんだよ。素の自分を見せて嫌われるのが怖いんだ。だから全部計算ずくで馬鹿やってるんだよ」
「……」
「口数が少なくて無愛想なコミュ障。何の趣味もないつまらない人間。それが本当の俺なんだ」
「……わたし達を助けてくれる気持ちも嘘なんですか?」
「それは嘘じゃない!!」
まどかの問いに芳文はきっぱりと答える。
「まどかちゃんと二人だけの時に今まで言った言葉は全部本心だよ。誰かの為に役に立ちたいという気持ちも、巴さん達を仲間だと思う気持ちも、君を守りたいと思う気持ちも嘘じゃない!!」
「……知ってます」
芳文の言葉に、まどかは柔らかな笑みを浮かべて言う。
「先輩はいつだって優しくて、わたし達を助けてくれました。嘘だったらそんな事出来ません」
「……ごめん」
「謝らなくてもいいです。誰だって、相手によって態度変えるの当たり前ですし」
「そう言ってくれると助かるよ」
「本当の先輩を知ってる人って、他にもいるんですか?」
「親父と天瀬と君だけだよ。俺、友達少ないし」
「そうですか」
そう言って、まどかはふふっと笑う。
「俺、何かおかしな事言ったかな?」
「いえ。本当の先輩を知ってる女の子が私だけって、なんか嬉しいなって」
そう言って笑うまどかに、芳文は思わずドキッとして顔を赤くする。
「あれ? 先輩どうしたんですか?」
「な、なんでもない」
まどかに顔を覗き込まれそっぽを向いて答える。
「本当に?」
「……からかわないでくれよ」
「いつも先輩がしてる事なのに?」
「あれは……演技だし」
「じゃあ、これも演技ですよ」
そう言ってまどかはクスクスと笑う。
「参ったな……。まどかちゃんがこんな意地悪な子だと思わなかった」
「今までの先輩のおかげですよ。こういう事も出来るようになりました」
まどかはそう言ってぺろっと舌を出して笑う。
「やれやれ。これからはもう少し自重しないといけないな」
「そうですね」
芳文とまどかは顔を見合わせて笑いあう。
この日は今までまどかについていた嘘と、亡き家族への暗い感情が消えた、芳文にとって忘れられない一日になったのだった。
142:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:32:58.09:MmxeS0iuo (11/13)
☆
その日の深夜。
まどかを自宅に送り届けた後、芳文は日課の自己鍛錬を始める。
片手で逆立ちして、腕立てをしていると背後に気配を感じて片手で跳びあがり、空中で姿勢を正して地面に手を付きながら着地する。
「俺に何か用かな?」
「……ええ」
月明かりに照らされたその人物は暁美ほむらだった。
「女の子がこんな時間にうろうろするのはお兄さん感心しないな」
「……」
「いくら魔法少女でも、女の子なんだから」
「~~芳文」
ほむらの言葉に芳文の顔から笑みが消える。
「……どうして俺の本当の名字を知っているんだ?」
「……」
「調べたのか?」
「……そうよ」
ほむらの言葉に、芳文は無表情でぶっきらぼうに返す。
「何の用だよ」
「それが本当のあなた?」
「人の触れられたくない部分に、土足で上がりこむ相手に演技とはいえ、優しくしてやる義理はないね」
「……そう」
芳文に無表情で冷たく言い放たれるが、ほむらも感情を見せる事無くそう呟く。
「で、何の用だよ」
「……」
「用がないなら俺は帰る」
「……あなたの本当の母親の名前は?」
「なんでそんな事教えてやらなきゃいけないんだよ」
「……確認よ」
「何を言ってるのか理解出来ないな。なんで赤の他人に教えてやらなきゃいけないんだ」
「いいから答えて」
「……チッ。マドカだ。円の華と書いて円華。言っておくがあの女が記憶喪失の時の名前だからな。実名じゃねえぞ」
「……」
「もういいだろ。気分が悪い。俺は帰る」
「何も聞かないのね」
「おまえあの女の親戚か何かか? 今更そんな事に興味なんかないね」
「……そう」
「じゃあな」
そう言って立ち去ろうとする芳文の背中に、ほむらは感情の籠らない言葉を投げかける。
「もうすぐ、この街にワルプルギスの夜と呼ばれる強力な魔女が現れる」
「何?」
「ワルプルギスの夜は一般人には天災として認識される。結界の中に潜む必要もなく、ただ破壊だけを撒き散らす」
「なんでそんな事を知ってるんだ?」
「……」
「まただんまりか。必要な情報を寄越さない相手を信じると思うか?」
「私を信じなくてもいい。あなたには、鹿目まどかと美樹さやかを連れて逃げて欲しい」
「何を言ってるんだ? そんなにやばい相手なら全員で協力して戦うべきだろうが」
芳文の言葉に、ほむらは初めて語気を荒げて叫ぶ。
「いいから逃げなさい!! お願いだから私の言う事を聞いて!!」
「嫌だね。俺は絶対、逃げたりしない。まどかちゃんだって、巴さん達の事を絶対に見捨てて逃げたりしない」
「あなたに、ワルプルギスの夜と戦わないといけない理由なんてない」
「理由ならある。まどかちゃんは絶対逃げないだろう。俺はあの子を守ると誓った。だからあの子が戦うなら俺も戦う。それが俺の運命だ」
☆
その日の深夜。
まどかを自宅に送り届けた後、芳文は日課の自己鍛錬を始める。
片手で逆立ちして、腕立てをしていると背後に気配を感じて片手で跳びあがり、空中で姿勢を正して地面に手を付きながら着地する。
「俺に何か用かな?」
「……ええ」
月明かりに照らされたその人物は暁美ほむらだった。
「女の子がこんな時間にうろうろするのはお兄さん感心しないな」
「……」
「いくら魔法少女でも、女の子なんだから」
「~~芳文」
ほむらの言葉に芳文の顔から笑みが消える。
「……どうして俺の本当の名字を知っているんだ?」
「……」
「調べたのか?」
「……そうよ」
ほむらの言葉に、芳文は無表情でぶっきらぼうに返す。
「何の用だよ」
「それが本当のあなた?」
「人の触れられたくない部分に、土足で上がりこむ相手に演技とはいえ、優しくしてやる義理はないね」
「……そう」
芳文に無表情で冷たく言い放たれるが、ほむらも感情を見せる事無くそう呟く。
「で、何の用だよ」
「……」
「用がないなら俺は帰る」
「……あなたの本当の母親の名前は?」
「なんでそんな事教えてやらなきゃいけないんだよ」
「……確認よ」
「何を言ってるのか理解出来ないな。なんで赤の他人に教えてやらなきゃいけないんだ」
「いいから答えて」
「……チッ。マドカだ。円の華と書いて円華。言っておくがあの女が記憶喪失の時の名前だからな。実名じゃねえぞ」
「……」
「もういいだろ。気分が悪い。俺は帰る」
「何も聞かないのね」
「おまえあの女の親戚か何かか? 今更そんな事に興味なんかないね」
「……そう」
「じゃあな」
そう言って立ち去ろうとする芳文の背中に、ほむらは感情の籠らない言葉を投げかける。
「もうすぐ、この街にワルプルギスの夜と呼ばれる強力な魔女が現れる」
「何?」
「ワルプルギスの夜は一般人には天災として認識される。結界の中に潜む必要もなく、ただ破壊だけを撒き散らす」
「なんでそんな事を知ってるんだ?」
「……」
「まただんまりか。必要な情報を寄越さない相手を信じると思うか?」
「私を信じなくてもいい。あなたには、鹿目まどかと美樹さやかを連れて逃げて欲しい」
「何を言ってるんだ? そんなにやばい相手なら全員で協力して戦うべきだろうが」
芳文の言葉に、ほむらは初めて語気を荒げて叫ぶ。
「いいから逃げなさい!! お願いだから私の言う事を聞いて!!」
「嫌だね。俺は絶対、逃げたりしない。まどかちゃんだって、巴さん達の事を絶対に見捨てて逃げたりしない」
「あなたに、ワルプルギスの夜と戦わないといけない理由なんてない」
「理由ならある。まどかちゃんは絶対逃げないだろう。俺はあの子を守ると誓った。だからあの子が戦うなら俺も戦う。それが俺の運命だ」
143:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:33:42.87:MmxeS0iuo (12/13)
「……違う」
「は?」
「以前も、その前も!! あなたはいなかった!! そんな運命なんてない!!」
いきなり感情的な言葉を投げつけられ、芳文は思わず面喰ってしまう。
「なんだよいきなり。俺があんたに心配される筋合いなんかないはずだが?」
「いいからまどかを連れて逃げなさい!!」
「断る。そんな事を命令される筋合いはない」
芳文の言葉を聞いて、ほむらは魔法少女の姿に変身すると、左腕の盾から銃を取り出して芳文に向けて構える。
「何の真似だ」
「どうしても言う事を聞かないというなら、ここであなたの手足を撃ち抜く」
「それでどうする気だ」
「殺しはしない。よその街の病院へ運んであげるわ」
「まどかちゃんにも同じ事するつもりじゃないだろうな」
「……あなたは知る必要はないわ」
ほむらの言葉を聞き、芳文はつかつかとほむらへ向かって近づいていく。
「撃てよ」
「近づかないで!! 本当に撃つわよ!!」
ほむらの目前に迫り、片手でほむらの銃を右手で掴むと自分の左胸に銃口を向ける。
「だから撃てっていってるだろ。こんな風に!!」
バアァァァァンッ!!
芳文がほむらのトリガーにかけた人差し指を自分の親指で押して発砲する。
「な!?」
芳文の心臓目掛けて発射された弾丸を芳文は左手で受け止めていた。
親指と人差し指で掴んだ弾丸を、ほむらの目の前でペシャンコに潰してみせる。
「見てろ」
目の前の光景に呆然とするほむらの目の前で、放置されたままの以前破壊した放置自動車を掴み宙に放り上げる。
ズドン!! ズトン!! ズドン!! ズドン!!
落ちてきた自動車のフロントに無造作にパンチを放ち、内部メカごと貫通させてみせる。
ズガアァァァァァァァァァンッ!!
穴だらけになった自動車が地面に落ちる寸前に、思い切り蹴り上げると車体が真っ二つに裂ける。
「……なによそれ」
信じられない身体能力を見せた芳文に、ほむらは呆然となる。
「あの日まどかちゃんに命を救われた時から、こういう事が出来るようになったんだ。なんでこんな事が出来るのか知らんが、俺はこの力であの子を守る」
芳文はそう言うとほむらに振り返りもせず去って行く。
「……うあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
背後から嗚咽が聞こえたような気がしたが、芳文は振り返らない。
「絶対に誰も死なせるものか」
芳文は自分自身に言い聞かせる様に呟いた。
――その日、AM4:00。
見滝原市上空にすさまじい雷雲が発生した。
つづく
「……違う」
「は?」
「以前も、その前も!! あなたはいなかった!! そんな運命なんてない!!」
いきなり感情的な言葉を投げつけられ、芳文は思わず面喰ってしまう。
「なんだよいきなり。俺があんたに心配される筋合いなんかないはずだが?」
「いいからまどかを連れて逃げなさい!!」
「断る。そんな事を命令される筋合いはない」
芳文の言葉を聞いて、ほむらは魔法少女の姿に変身すると、左腕の盾から銃を取り出して芳文に向けて構える。
「何の真似だ」
「どうしても言う事を聞かないというなら、ここであなたの手足を撃ち抜く」
「それでどうする気だ」
「殺しはしない。よその街の病院へ運んであげるわ」
「まどかちゃんにも同じ事するつもりじゃないだろうな」
「……あなたは知る必要はないわ」
ほむらの言葉を聞き、芳文はつかつかとほむらへ向かって近づいていく。
「撃てよ」
「近づかないで!! 本当に撃つわよ!!」
ほむらの目前に迫り、片手でほむらの銃を右手で掴むと自分の左胸に銃口を向ける。
「だから撃てっていってるだろ。こんな風に!!」
バアァァァァンッ!!
芳文がほむらのトリガーにかけた人差し指を自分の親指で押して発砲する。
「な!?」
芳文の心臓目掛けて発射された弾丸を芳文は左手で受け止めていた。
親指と人差し指で掴んだ弾丸を、ほむらの目の前でペシャンコに潰してみせる。
「見てろ」
目の前の光景に呆然とするほむらの目の前で、放置されたままの以前破壊した放置自動車を掴み宙に放り上げる。
ズドン!! ズトン!! ズドン!! ズドン!!
落ちてきた自動車のフロントに無造作にパンチを放ち、内部メカごと貫通させてみせる。
ズガアァァァァァァァァァンッ!!
穴だらけになった自動車が地面に落ちる寸前に、思い切り蹴り上げると車体が真っ二つに裂ける。
「……なによそれ」
信じられない身体能力を見せた芳文に、ほむらは呆然となる。
「あの日まどかちゃんに命を救われた時から、こういう事が出来るようになったんだ。なんでこんな事が出来るのか知らんが、俺はこの力であの子を守る」
芳文はそう言うとほむらに振り返りもせず去って行く。
「……うあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
背後から嗚咽が聞こえたような気がしたが、芳文は振り返らない。
「絶対に誰も死なせるものか」
芳文は自分自身に言い聞かせる様に呟いた。
――その日、AM4:00。
見滝原市上空にすさまじい雷雲が発生した。
つづく
144:ちり紙 ◆B/tbuP0Myc:2011/04/29(金) 01:36:52.26:MmxeS0iuo (13/13)
杏子「次回に続く」
杏子「ワルブルギスはラスボスじゃないから、まだ当分続くらしい」
杏子「文章量が勝手に増えくせいで終わりが見えないそうだ……」
杏子「あと、1で言ってるが社は主役じゃないぞ」
杏子「じゃーな」
杏子「次回に続く」
杏子「ワルブルギスはラスボスじゃないから、まだ当分続くらしい」
杏子「文章量が勝手に増えくせいで終わりが見えないそうだ……」
杏子「あと、1で言ってるが社は主役じゃないぞ」
杏子「じゃーな」
145:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県):2011/04/29(金) 01:42:49.63:g626MnAbo (1/1)
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