1VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/26(土) 18:17:10.020Wfq2DaSo (1/2)

■前スレ
俺の妹がこんなに可愛いわけがないSSスレ Part.8
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1298976928/

■関連SSスレ
○京介「桐乃…お前に人生相談があるだが…」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1297644807/
○俺の妹が身長180cmなわけはない
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294927055/
○桐乃「デレノート……?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1295702504/
○【俺の妹】高坂京介は落ち着かない
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1296372251/
○グラハム「私の妹がこんなに可愛いわけがないっ!!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1297087278/

■まとめwiki
http://www43.atwiki.jp/vip_oreimo/

・鬱、エロ、NTR、オリキャラ、クロス作品の場合は、投下前に断り書きをしましょう
・完結させてからの投下が望ましいです。3回以上中断する場合は別スレを検討しましょう
・やむを得ず中断させた場合は、再開時に前回のものをアンカーで知らせてください
・前の作者の投稿から3時間程度の間隔をあけるのが望ましいです。無理な場合は一言断りましょう
・被り、苦情防止のために事前に投下時刻とカップリングを宣言しておくのもオススメ
・SS作家さんには惜しみない賞賛を
・>>980 を踏んだ人が次スレを立てましょう

感想や雑談などご自由に


2VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/26(土) 18:26:57.104VMu2sJ5o (1/1)

スレ立て乙っす!


3VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/26(土) 18:47:28.420Wfq2DaSo (2/2)

■関連SSスレ
○【俺妹SS】俺と妹が夫婦なわけがない!
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1300627984/

追加です


4VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/26(土) 19:20:59.16geH58BxIO (1/1)

>>1乙


5VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/26(土) 20:17:36.75v/3esz+F0 (1/1)

>>1
乙です


6VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/26(土) 21:30:34.88XGi0RBdl0 (1/1)

>>1乙だなぁ!


7VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/26(土) 22:35:14.21PLKw+aO4o (1/1)

                            _____
                         ´: : : : : : : : : : : `丶、
                        / : : : : : : : : : : : : : : : : : : : \
                   /⌒ : : / : : : : : : : : : : : : : : : : : : : ヽ
                      /: : /: :/_{/): : : : : : |: : : : : ヽ: : :、 : : ',
                  i : : { ´/ イ: : : : j : 人 : :\: : : : :ト、 : :i
                 jレ'´ / /-八: : :八/─\ {‐\| :│゙\|
                   ´    ノ─-\\{  /-─-、 │: |\_}}-―- 、
              _/      /〃⌒\\   / 〃⌒\ヽ | :│ : 八'⌒  \
           /く    _. イY {{ (⌒ヽ  }=={ {{ (⌒ヽ }=: jーy′  ̄ ̄ ̄
.         /⌒(    `<}   |人 \_/ /  \ \_/ /│: |^iハ
        /    \.   /   i| 介ー‐一 ´ '     ー一 ´ | : jノリ´\   >>1さん乙でござる
       /     / \_/    i :!///            /// /: 厶イ/: : : :ヽ
      /      /     ⌒〉   | :│ゝ.    ー ―一'   /: / _∨: : : : : :}
.     /  \__厶   -‐/   八: :|/ : : : 、         イ: :/'´: : : : : : : ノ
    /      /   /ノ    _  )、| : : : />、__ 厂 ̄/|/ : : :   -‐'´
   ノ     ′   广Y⌒く`ー{ : : : :⌒f∧ | │∧/_;斗-―<
.  {     { /   /     \人 : : : : /  } 」 _/  {/ -‐‐< \
   \   / ー―-   リ    }\\: :/ /「o (⌒7  /   \  ヽ
     `'<        /ー ─ ┼ハ/: ノ 〈.  |´  ∨          丶  、
       `  ー=<    \ / 厶イ  ∧_ノ   /  /         }
                ー=ニ二\ _,∨__/__[__厶-='¬        j八
                   ̄/ /  ノC厂 /  \       /  }
                     /  / ノ   (      \   /彡イ
                  / /  //   ノ      ヽ/_ノ-‐{
                  { {  /    /        /´   |  |
                   V八 /              /      |
                        \∨_∠     _ イ       j  /




8VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/03/27(日) 00:07:40.96v/6AOpUB0 (1/1)

>>1乙
今スレも多くの良SSが投下されることを願います


9VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/27(日) 02:50:33.62dTxPAG2DO (1/1)

>>1乙


>>7
ぶち殺されるかと思ったらまったくそんな事はなかったでゴザル




10VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/27(日) 11:29:41.57J3bR2qESO (1/1)

さて,最初のSSは誰のかな?


11VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/27(日) 12:36:24.41+qPxcHMco (1/1)

黒猫派が力を溜める期間だからあと2.3日は投下ないかもしれんな


12VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/27(日) 13:05:06.17kTMAhB12o (1/2)

ならその2、3日の間は幼女天下だな


13 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:15:28.524SRjOM3Xo (1/20)

まさか前回の話に続きがあるなんて……知らなかった。
桜の季節ということもあり、わけの分からん題名でスンマセン。
これ以上この話は続きません。

題名:『桜が咲く頃に』

投下:16時30分から 投下します(19レス)
カプ:京介×あやせ
展開:いつもの展開


14VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/27(日) 16:25:22.64nwELR0n1o (1/1)

ピザ頼んだからそれを食べながら見るわ


15VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/03/27(日) 16:27:49.97CNUtWNBAO (1/3)

>>13
>まさか前回の話に続きがあるなんて……知らなかった。

これどういう意味?


16 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:30:31.974SRjOM3Xo (2/20)


悪夢のような今年のホワイトデーから数日後の土曜日。
俺とあやせは、地元の千葉中央駅からも程近い、県民の森公園に来ていた。

「お兄さん、ここどこなんですか? ディズニーシーじゃなかったんですか?」
「だから昨日も電話で謝ったじゃねえか。
 ディズニーシーは、また別の機会にしようってことでさぁ、な。
 それに、今年は桜の開花も早いみてえだから、今回はこれで勘弁してくれよ」

不機嫌極まりないあやせに、俺は朝っぱらから両手を合わせて謝る羽目になった。
そもそも、何でこの俺があやせをディズニーシーへご招待しなきゃいけねえんだよ。
言っちゃ悪いけど、ホワイトデーにお返しを用意出来なかったくらいでさぁ。
バレンタインのお返しは通常三倍返しとか世間じゃ勝手なこと言ってるけど、
ディズニーシーつったら、一体何倍返しになるんですかっての。

俺だって、何も金が惜しいわけじゃねえよ。
せっかくのあやせイベントを、そう簡単に無駄にしたくはなかったしな。
僅かばかりの預金も含めて、俺の有り金を全部掻き集めても足んなくて、
リビングの絨毯の下とかテレビの後ろとか、金が落ちてないか家中捜したんだけど無駄だった。
日払いで金がもらえるアルバイトも、今みたいな不況じゃ早々見つかんなくてな。
最後の手段として、恥を忍んでお袋に小遣いの前借りを頼んだら、あっさり拒否されちまった。

「あやせとの約束を守れなかったのは俺だから、何言われても仕方ねえと思ってるよ。
 でも、これだけは言わせてくれ。あやせの持ってる手提げ袋って、中に何が入ってるんだ?」
「……お弁当と、レジャーシートですけど……それが何か」
「おまえはディズニーシーで、レジャーシート広げて弁当食うつもりだったのかよっ」
「お兄さんこそ何を言ってるんですか。あそこは、お弁当とか持ち込み禁止なんですよ」

いつもながらの俺とあやせの噛み合わない会話から、本日のあやせイベントは開幕した。
公園へ来てからまだ五分と経ってねえけど、俺は心の中で既に帰り支度を始めていた。


17 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:31:04.494SRjOM3Xo (3/20)


今年は暖冬の影響からか、桜の開花も例年に比べてかなり早かった。
そうは言っても、まだ朝夕冷え込むこの時期では、ここの桜も三分咲きがいいところだ。
この様子じゃ満開になるのは、月末近くか四月早々だろう。
それでも今日は朝から天候にも恵まれ、春の穏やか日差しに誘われたのか、
家族連れやカップルが何組も見受けられた。

「あやせ、すまねえなぁ。思ってたほど咲いてねえなぁ」
「そうですねぇ。……三分咲き、といったところですか。
 でも、全く咲いてないわけでもないですし、満開になったらまた来ればいいじゃないですか」
「また来るって、あやせと一緒に来るのか?」
「当然じゃないですか。……あと、ディズニーシーの方もお忘れなく」
「……何だか俺、あやせに借りが溜まってゆくみてえだな」
「そう思うのならお兄さん、少しでも早めに返してくださいね」

会話の内容はともかく、あやせの顔が何となく微笑んでいるようにも見えた。
桜の花は期待したほど咲いてはいなかったが、どうやら機嫌は直してくれたらしい。
俺の心の帰り支度も、しばらくは取りやめってことだろうな。

俺たちがいる公園は、県民の憩いの場所でもあり、千葉県民なら知らない者はいないだろう。
地元じゃちょっとした桜の名所で、俺のお気に入りの場所でもある。
あやせだって子供の頃から何度も来たことがあるだろうに、
さっきは『ここどこなんですか?』なんて、わざとらしく言いやがって。
それでも弁当まで用意して来てくれたんだから、満更いやだったわけでもあるまい。

「あやせ、せっかく来たんだから、桜でも眺めながら少し歩くか?」
「そうですね。何のアトラクションもないですし、歩くくらいしかやることないですものね。
 ……それに、そうでもしてもらわないと、お兄さんのお腹が減らないじゃないですか」

あやせのヤツ、ボソボソと呟くように言うもんだから、後の方はよく聞き取れなかったけど、
どうやら俺は有難いことに、今日はあやせの手作り弁当にありつけるようだった。


18 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:31:45.684SRjOM3Xo (4/20)


あやせから弁当だのレジャーシートだのが入った手提げ袋を受け取り、
俺たちは桜並木の続く遊歩道をのんびりとした歩調で歩いた。
桜の花は三分咲きでも、園内では今を盛りと、色取り取りの花が咲き乱れている。

「わぁー、きれいなお花。……何ていう花だろう、凄く小さくて可愛いですよね」

遠目から見ても鮮やかな濃いピンク色や、真っ白い色をしたその小さな花々は、
遊歩道からかなり外れたところで地面を覆い尽くすように群生していた。
桜を見ていただけでは、気付かずに通り過ぎてしまってもおかしくはない。
あやせは小さく感嘆の声を漏らしながら、その花の咲くところへと駆け寄った。
仕方なく俺もあやせの後を追った。

「とってもきれいで可愛いんですけど、何という花か、お兄さん知っていますか?」
「芝桜っていうんだよ、それ」
「……随分あっさりと言うんですね。何で知っているんですか?
 以前から不思議だったんですが、お兄さんって、どうでもいい事をよく知っていますよね」
「ほっとけっ!」

花の名前に少しくらい詳しいからって、あやせのヤツ、さも不思議そうな顔しやがって。
人間なんだから取り柄のひとつくらいあったっていいじゃねえか。
お袋はガーデニングが趣味で、庭なんか小さいくせにやたらと花を植えるもんだから、
俺も手伝わされる内にいつのまにか詳しくなっちまっただけだよ。

「お兄さん、もしかして“お華”とかやってないですよね?」
「あやせの言う“お華”ってのは、いわゆる華道ってヤツか? 俺がやってるわけねえだろっ!」

俺が畳の上でかしこまって花を活けてるなんて、想像もしたくないわっ。
一体どういう神経をしていたら、そういう発想が出て来るんだか。
もしそんなことになったら、桐乃のオタク趣味なんてまともに見えるぜ。


19 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:32:20.154SRjOM3Xo (5/20)


俺とあやせは遊歩道を並んで歩きながら、あやせが指差した花の名前を俺が答えるといった、
どうでもいいような会話を延々と続けていた。

「このピンク色の花は?」
「それは、かたくりの花だよ」
「……もしかしたら、片栗粉ってこの花から作るんですか?」
「昔はそうだったらしい。でも、今はじゃがいもから作ってんだろ」

あやせは俺が花の名前を答えると、その都度感心したり、答えに詰まると嬉々として喜んだ。
ついにはタンポポまで指差して、俺に名前を聞いてくる。
タンポポを知らん人間なんていねえだろと思いいつつ、それでも答えてやった。

「あやせ、その花がタンポポ以外の何に見える?」
「あっ、そうですよね。……でも、花の名前に詳しい男の人って、なんか素敵ですよね。
 きっと、将来何かの役に立ちますよ」
「なわけねえだろ。おまえ、俺のことからかってんだろ」

俺があやせの頭を軽くコツンと叩くと、あやせは肩をすくめて舌を出した。
花の名前に少しくらい詳しくたって、将来役に立つことは多分ねえだろうけど、
あやせの機嫌を直すことには役立ったようだ。

その後も俺たちが、学校のことなど他愛もない会話を続けながら遊歩道を歩いていると、
前から保育園児たちが二人ずつ手を繋ぎながら、列を作って歩いて来た。
保育士らしき女性が二人、園児の列を前後に挟むようにして引率している。
園児の列が俺たちの横を通り過ぎる時、園児の一人があやせに向かって手を振った。
あやせは満面の笑顔で、手を振ってそれに応える。
園児たちが全員通り過ぎてしまってから、俺はあやせに声を掛けた。

「あやせって、見るからに小さい子供が好きみたいだもんな。
 やっぱ、将来は保育士とか幼稚園の先生が夢か?」
「うーん、まだそこまでは考えてないんですが、でも、子供は大好きですよ。
 お兄さんは、将来結婚したら子供は何人くらい欲しいんですか?」

返答に詰まるような質問をしてくるんじゃねえよ。


20 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:33:09.094SRjOM3Xo (6/20)


時計を確認すると、そろそろ昼時分になっていた。
俺はどこか日当たりの良さそうな所で昼飯にしようかと思って、あやせに聞いた。

「そろそろ昼だけど、芝生広場にでも行くか? あそこなら日当たりも良いしよ」
「芝生広場でもいいですけど……わたしは、出来れば桜の木のある所の方がいいです」
「そっか、じゃあ、あそこがいいかな」

俺は飯を食う場所にこだわらない。
あやせの手作り弁当が食えるんなら、どこだっていいんだよ。
桜の木があって、そこそこに当たりも良い場所へ俺はあやせを案内した。
県民の森公園のことなら俺に聞けって程じゃねえけど、
それくらいのこと、遊歩道を歩いている時から目処は付けてあるさ。

「お兄さん、お弁当か何か買って来なくていいんですか?」
「……あやせ、その冗談は笑えねえよ」

デートでよく有りがちなのが、彼女が作ってくれた弁当がスッゲー不味いってやつ。
それなのに彼氏の方が無理して、さも美味そうに食うってのがあるだろ。
俺なんか彼女がいないもんだから、そんな話しを聞くとアホかって思うんだよ。
不味いモンは不味いって、はっきり言ってやりゃあいいじゃねえか。
その方が彼女だって、次こそは頑張ろうって思うんじゃねえのか。


21 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:34:02.464SRjOM3Xo (7/20)


あやせの作ってくれた弁当を食わせてもらうまでは、俺は確かにそう思っていた。
だけど、そんなくだらない考えは、あやせの弁当を食わせてもらってすべて消し飛んだ。
弁当が美味いとか、不味いとかそういう問題じゃない。
ただ、あやせの左手の親指と人差し指に巻かれた、小さな絆創膏を見ちまったら、俺。

「お兄さん? どうかしたんですか?」
「なっ、なんでもねえよ。……ちっと、目にゴミが入っちまったみてぇでよ」

こんなの卑怯じゃねえか。
俺はあやせに気付かれないように、手の甲で涙を拭った。
あやせがどんな想いで今日の弁当を作ってくれたのか、それを想像しちまったら……

「本当に大丈夫ですか?」
「……あ、ああ、大丈夫だ。……俺、ちょっとトイレ行って、目ぇ洗ってくっから」

もし、自分の彼女が作ってくれた弁当を貶すヤツがこの世にいるなら、
俺はそいつを片っ端から張り倒してやりたいね。
彼氏でもない俺なんかのために、あやせはきっと早起きして弁当を作ってくれたんだろう。
コンビニ弁当だって、俺は一言も文句なんか言わねえのによ。
次から次へと涙が溢れ出てきやがる。
あやせが心配して俺の背後から声を掛けてきたんだけど、
そんなあやせの声を無視して、俺は一気にトイレに向かって駆け出した。


22 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:34:37.774SRjOM3Xo (8/20)


トイレで顔を洗って急いで戻ると、相変わらずあやせは心配そうな顔で俺を見ていた。
まさか、あやせの作ってくれた弁当に感激して泣いたなんて、言えるわけねえもんな。
俺はあやせに少しでも感謝の気持ちを伝えたくて仕方がないのに、
それを素直に言葉に出来ないことがもどかしくて歯痒かった。

「お兄さん、ゴミ、取れましたか?」
「あ、ああ、水道で洗い流したら取れたよ。心配掛けてすまねえな」

俺がそう言うと、やっとあやせも安心したらしく、いつもの笑顔に戻った。
それにしても、女の子の作ってくれる弁当なんて凶器と一緒だろ。
男の胸に容赦なく突き刺さるじゃねえか。
誰だかは知らねえけど、あやせの彼氏になるヤツは最高だね。
見てくれよあやせを、この輝くような笑顔、この優しさ、そして絆創膏付き手作り弁当。
突然おかしくなる性格さえ克服出来れば、その野郎はきっと世界一の幸せモンさ。
あやせが指を怪我してまで、俺のために作ってくれた弁当だもんな。
感謝して食わなきゃ、罰が当たっちまうよ。

「あやせ、この厚焼き玉子、すっげー美味いじゃん。俺のお袋とは大違いだよ」
「そうですか? その厚焼き玉子は、お母さんに作ってもらいました」
「……そ、そうなんだ。……じゃ、じゃあ、このから揚げは?」
「から揚げは冷凍食品です。レンジでチンすればいいんですよ」
「これが冷凍食品? それなら、えーっと……このホウレンソウの――」
「ああ、それはホウレンソウとベーコンのソテーで、それもお母さんです」

弁当のオカズのタッパーには、他にカニクリームコロッケとブロッコリーのサラダが入っていた。
カニクリームコロッケは冷凍食品だろうし、ブロッコリーは多分茹でただけだよな。

「あやせ、気に障ったらごめんな。さっきから気になってたんだけど、その指の絆創膏は?」
「これですか? これは、リンゴでウサギさんを作ろうと思ったんですが、
 失敗してしまって、ちょっとだけ切ってしまったんです。うふっ」

何が『うふっ』だよっ、笑って誤魔化すんじゃねえよっ! 俺の涙を返してくれよ。
大体どこにウサギがいるんだよ。
リンゴの先っちょに赤い皮が少しだけ残ってるヤツがウサギだってか?
頭のてっぺんだけ赤い丹頂鶴かと思ってたぜ。どんだけ不器用なんだよ、あやせって。


23 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:35:24.304SRjOM3Xo (9/20)


結局のところ今日の弁当は、あやせのお袋さんが作ってくれたってわけか。
玉子焼きといい、ホウレンソウのソテーといい、あやせのお袋さんって料理上手なんだろうな。
あやせも、いつかはお袋さんのように料理上手になるんだろうけど……。
それにしても、あやせも黙っていれば分からねえのに。
いつだったかあやせが、嘘を吐かれるのが大嫌いだって言っていたのを俺は思い出した。
嘘を吐かれるのと同じくらい、自分も嘘を吐きたくないんだろう。

お袋さんに作ってもらったなんて臆面もなく言いながら、
もくもくと弁当のオニギリを食べるあやせを見ていて、俺はふと疑問が湧いた。
料理上手のあやせのお袋さんにしては、あやせが今食っているオニギリって、
何となく形が不恰好じゃねえか?
さっき俺が食った時は、全く気が付かなかった。って言うか、普通の三角形だった。
俺はあやせが自分用だと言っていた、まだラップに包まれたままのオニギリをひとつ掴むと、
そのラップを取り去った。

「あっ、お兄さんっ、そっ、それはダメなんです」
「………………」

ラップを取ったオニギリは、三角形と言うには少しだけ形が崩れていた。
あやせは慌てふためき、顔が見る間に赤くなってゆく。

「……そっちは……失敗作なんです」

いくら鈍感な俺だって、どういうことか理解出来るよ。
オニギリだけはあやせが作ったんだろ? 料理は苦手な筈なのに。
いくつもいくつもオニギリを握って、上手く握れたやつだけを俺にくれて、
自分は失敗したやつを食ってるんだろ。
あやせのヤツ、どんだけ俺を泣かせりゃ気が済むんだよ。


24 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:35:54.874SRjOM3Xo (10/20)

あやせは顔を真っ赤にしながら、俺の手からオニギリを取り上げようとした。
俺はそんなあやせには構わず、形の崩れたオニギリを口へ運んだ。
さっきまで俺が食っていた三角形のオニギリと、何ら味に変わりはないはずなのに……
何十倍も美味く感じるのは何でだろうな。

「お兄さん、無理しないでください。……そんな形が崩れたのなんて……」

胸がいっぱいで、噛んでも噛んでも、なかなか飲み込むことが出来なかった。
もう目にゴミが入ったなんて誤魔化すことは出来ない。
いや、少なくともあやせには、そんな誤魔化しはしたくねえ。

「なあ、あやせ……」
「何でしょうか? ……もしかして、まだ目にゴミが残ってるんじゃないんですか?」
「いや、そうじゃないんだ。……なあ、俺にあんまり気を使わないでくんねえか。
 あやせが作ってくれたもんなら、俺は何だって喜んで食わせてもらうから、な。
 それにさぁ、以前のあやせだったら、俺にこんなに気を使わなかったじゃねえか。
 気のせいかも知れんけど、何か最近のあやせって、おかしくねえか?」

最近俺があやせに感じていた疑問を、思わずストレートにぶつけちまった。
だってそうだろ。今日だって、先日のホワイトデーにバレンタインのお返しを
あやせに渡せなかった代わりっていうのが発端だったはずだ。
それも約束したディズニーシーなんかじゃなくて、地元の県民の森公園だってのに。
それにもかかわらず、あやせは俺のために弁当まで作って来てくれた。
俺は聞かずに置こうと思っていた最大の疑問を、ついに口にした。

「おまえ、俺のこと、好きなの?」
「好きですよ」

突然の俺の問い掛けにも、あやせはそれを予想していたかのように平然として答えた。
しばらく逡巡するかのように、膝の上で絡めた指先を弄んでいたあやせは、
俺の視線を避けて遠くを見つめながら訥々と話し始めた。


25 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:36:24.294SRjOM3Xo (11/20)


「初めてお兄さんと出会った時、優しそうな人で何となくいいなぁと思ったんです。
 その後しばらくして桐乃のことがあって、ほんの少しだけ嫌いになりかけました。
 わたしはまだ子供だから、あの時は、お兄さんの本心がわからなかったんです。
 でも、家に帰ってから、冷静になってゆっくりと考えてみたんです。
 もしお兄さんが、あのようないかがわしい――ごめんなさい。あのような趣味を
 本当に持っているのなら、わざわざ人前に晒すようなことをするだろうかって」

そこで一旦言葉を切ると、小さく溜息をついた。

「よく考えてみれば、答えは簡単に見つかるんですよね。
 ……桐乃を守るため、桐乃とわたしを仲直りさせるため、ですよね?」

俺がもし、あの時のことは今あやせが言った通りだと言えば、どうなる?
たしかに俺の汚名は返上出来るだろうな。
しかし、そうなると桐乃は――

「今あやせが言ったこと、俺は肯定することも否定することも出来ねえ。
 あやせなら、何でだか分かってくれるよな」
「はい、わかっています。
 このことは今日を限りに、わたしの胸の内にしまって置こうと思います。
 ……お兄さん……わたしの顔、きっと真っ赤ですよね。
 さっきから心臓がドキドキして、自分でもわかるくらいですから。
 でも、いつかお兄さんに伝えないと、きっと後悔する。……そう思っていたんです」

あの出来事から数日後、あやせからもらったメールで分かってはいた。
しかし、誤解されたままでも、別にいいと思っていたのもたしかだ。
今日だってこうして、傍からみればまるで恋人同士のように過ごしているわけで、
俺に取っちゃ何の実害もないわけだからな。
でも、あやせから直接聞くと、また違った思いが湧いてくる。
何事も曖昧にして置きたくはないというあやせの性格かとも思ったんだが、
長い沈黙の後、次にあやせが口を開いた時、それは急展開を迎えた。


26 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:36:59.794SRjOM3Xo (12/20)


「わたし男の人って、何だか苦手だったんです。
 同級生の男の子から、付き合ってくれって告白されたこともあります。
 でも、わたしが断ると、陰で悪口を言われたり、良くないうわさを流されたり……。
 ……学校ではわたし、男子からあまり好かれてないんです。
 モデルだからお高くとまってるとか、あいつは男より女に興味があるんだとか言われて。
 そんなことないのに、わたしにだって好きな人くらいいるのに……」

あやせは両手の拳を強く握り締め、悔しそうに下唇を噛み締めると、
頬を伝わる涙を隠そうともせず、想いの丈を一気に吐き出した。

「わたしは、お兄さんのことが好きです。大好きなんです」

何ら飾ることのないストレートな言葉で、あやせは俺に想いを伝えてきた。
あやせが俺のことをどう想っているかなんて、薄々気付いてはいた。
まさか今日この場で告白されるとは、夢にも思っていなかったけどな。
でも、残念だけど今の俺には、あやせの想いを受け止めることは出来ねえ。

「さっきの男子から嫌われてるかもって話だけどさぁ、あやせの思い過ごしだと思うぜ。
 あやせはグリム童話の『すっぱい葡萄』って話し、知ってるか?
 その話ってのは…………何だっけかな……」
「お兄さん、それを言うなら『きつねとぶどう』じゃないですか?
 それに、その話はグリム童話ではなくて、イソップ物語です」

手の甲で涙を拭いながら、あやせは俺を睨み付けながら言った。

「えっ!? そっ、そうだったっけ? まっ、まぁ何にしても……
 俺が言いたいのは、それはあやせに振られた男どもの“負け惜しみ”だってこと、
 決してあやせが嫌われているわけじゃねえよ」


27 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:37:34.064SRjOM3Xo (13/20)


「あやせ、ちょっと聞いてもいいか? もし言いたくなけりゃ、それでも構わんから」
「何でしょうか、聞きたいことって」
「あやせは初恋っていくつの時だった? さっきも言ったけど、答えなくてもいいけどさ」
「別に恥ずかしいことじゃありませんし……
 たしか、小学校四年生の時、同じクラスの男の子でしたけど、
 何となくカッコいいなぁと思いました。……でも、それがどうかしたんですか?」

俺にも同じような経験がある。
そのくらいの年齢になると、誰にも同じような想い出があるんじゃないだろうか。
ちょうど第二次性徴が始まる時期に、男子も女子もお互いに異性を意識し始めることが。
でも、それと初恋は違うものだと俺は思っていた。

「あやせがどう思うか分かんねえけど、それは初恋とはちょっとだけ違うと思うんだ。
 別にあやせの言ったことを否定する気はねえから、でも、気に障ったらごめんな」
「気に障ったりはしません。小学生の時の話ですから。
 ただ、お兄さんが何を言いたいのか、わたしには分からなくて……」
「そっか、俺の言い方が足りなかったよな。……怒らないで聞いてくれるか?」
「……はい」

いつの間にあやせと恋の話になっちまったのか、分かんねえけどな。
穏やかな春の日差しと、桜の木の下というシチュエーションが、俺をそんな気にさせた。
あやせに、いや、あやせだからこそ聞いて欲しいと思ったのかも知れない。
しかし、あやせとこの手の話をする時には、言葉は慎重に選らばねえとな。

「俺が思うに、あやせの初恋って、今なんじゃねえか?」
「……どういう意味ですか? 今って」
「上手く説明する自信がねえけど、とにかく怒らないで最後まで聞いてくれ、な」

あまりにも突拍子もないことを俺が言うもんだから、
当のあやせは、きょとんとした顔で俺を見つめるだけだった。


28 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:38:09.544SRjOM3Xo (14/20)


「今、あやせは恋をしているんじゃねえかな。
 それはあやせにとっての初恋なんだと思う。初めて誰かに恋をしたってことさ。
 なにも四六時中とは言わねえけど、そいつのことが頭に浮かぶんだろ?」

あやせは見る間に顔を真っ赤に染め、恥じらいと怒りの入り混じった表情で俺を睨みつけた。
俺がどう言えば、あやせがどう反応するかなんて、十分承知していたさ。
それでも敢えて言わざるを得なかった。

「だから怒るなって言ったろ、最後まで聞いてくれよ。
 でもな、初恋って、多くは一過性のもんなんだよ。
 俺に言わせれば、そういうのって、大抵時間と共に目が覚めちまうんだ」
「お兄さんは、わたしもいずれそうなると、そう言いたいんですか?」

あやせの質問に、肯定をする意味で俺は頷いた。
崩していた膝を抱え、その膝の上にあごを乗せながら、
あやせは俺の言った言葉の意味を考え込むようにして押し黙った。
俺はそんなあやせの仕草を楽しむように、彼女の横顔を見つめていた。
時間が止まってしまったような、でも、幸せなひと時だった。

「わたしも、お兄さんに聞いてもいいですか?」
「何を?」
「お兄さんは初恋って、いつでしたか?」
「俺か? 俺は中一の時かな。……ちなみに、相手は妹の桐乃だ」

俺は言うと同時に地面にひれ伏すと、頭を抱えてあやせからの攻撃に備えた。

「勘違いすんなよっ。別に桐乃とどうこうしたいなんて思っちゃいなかったさ。
 あやせだから、俺は正直に話すんだけどな。
 俺は、あいつが実の妹でなけりゃどんなにいいかと思ったこともあるよ。
 兄貴の俺が言うのもなんだけどさ、桐乃ってけっこう可愛いだろ?
 今じゃ性格はアレだけど、昔は素直で本当にいいやつだったんだよっ」


29 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:38:37.904SRjOM3Xo (15/20)


いつまで経ってもあやせからの攻撃が無いことを訝しく思い、
頭を抱え込んだまま、俺は恐る恐るあやせの様子を窺った。
不思議なことに、あやせは何が可笑しいのか穏やかに微笑みながら俺に言った。

「お兄さん、頭を上げてください。わたし、殴ったりしませんから。
 それに、お兄さんの気持ちも分からなくはないです。
 女のわたしから見ても、桐乃ってとっても可愛いですし。
 もし、桐乃がお兄さんの妹でなければ、好きになってもしょうがないと思います」

あやせから殴られる恐れがないと分かって、俺はゆっくりと姿勢を元に戻した。
以前ならとっくに殴られてもおかしくない情況だろうに、
今日のあやせはいつまでも顔に笑みを湛えて、俺を見つめている。
まさしく、ラブリーマイエンジェルあやせたん! ってところかな。
それに気を良くした俺は、思いもかけない方向へ話を持っていっちまった。

「俺は思うんだけどさ、初恋なんて、ちょっと風邪を引いたみたいなモンでな。
 気が付くといつの間にか直っちまってて、あの時の気持ちって一体何だったんだ、ってな」
「それじゃあ、お兄さんは、わたしがお兄さんを好きな気持ちもいづれは消えてしまうと?
 お兄さんのように、初恋の相手は実妹だって堂々と言い切れる人の言葉を、
 わたしは素直に受け止めていいのかどうかわかりませんけどね」

俺に対する痛烈な皮肉と、取れないこともない。
あやせの顔を見つめながら、今のあやせになら、俺は誰にも話したことのない、
妹を好きになった当時の心境を話してもいいかと思い始めていた。

「あやせ、少しだけ俺の話をしてもいいか?」

俺がどんな話をするのかも知らないくせに、あやせは優しく微笑んで小さく頷いた。


30 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:39:21.524SRjOM3Xo (16/20)


桐乃のことを異性として意識し始めたのは、俺が中学生になったばかりの頃だ。
クラスにも可愛い子や、中学生にしては美人な子も中にはいることはいた。
しかし、当時の俺にとって、妹の桐乃ほど心がときめくヤツはいなかった。
それまで兄貴が実の妹に恋するなんて、エロ小説かエロ漫画の世界だけだと思っていたから、
まさか、この俺がそうなるとは夢にも思わなくて、マジでその当時は悩んだもんさ。
“兄妹愛”なんて陳腐な言葉じゃ説明しきれねえし、そもそも“兄妹愛”って何だよって、
悩めば悩むほどドツボに嵌まる思いだった。

妹を好きになっちまった罪悪感と、俺自身に対する嫌悪感に苛まれる日々が続いた。
そんな苦しみから逃れるために俺が出した結論は、桐乃を“無視”することだった。
徹底的に無視することによって、俺の心の中から桐乃を追い払う。
それまで仲の良かった俺たち兄妹の間に溝が出来始めたのも、思い起こせばその頃だ。
桐乃も当初は急に冷たくなった俺に戸惑い、時には泣いて抗議したこともあったけどな。
しばらくする内にあいつも諦めたのか、俺に話し掛けて来ることもなくなった。

俺たちは同じ家で暮らし、同じ食卓に着きながらも、お互いいないものとして振舞った。
会話を交わすことなんて滅多になく、すればしたで桐乃は俺に必ず悪態を吐いた。
当然と言えば当然だよな。桐乃は何で自分が兄貴から無視されてんだか知らねえんだから。
そんな日常を何年も重ねる内に、俺自身なぜ桐乃を無視するようになったかさえ忘れちまった。

俺と桐乃の修復不能とも思えた冷え切った関係に、変化の切っ掛けを作ってくれたのが、
玄関先に落ちていた、たった一枚のDVDケース。
それが、俺と桐乃の錆び付いた歯車を再び噛み合わせ、最初はぎこちなくともゆっくりと、
そして日を追うごとに急速に回し始めた。
俺たちの間の溝を埋めるように。そして、失った時間を取り戻すように。

失った時間は大きかったが、決して無駄じゃなかった。
その間に俺は精神的にも成長し、桐乃を本来の妹として見ることが出来るようになった。
俺にとって、妹に恋したことは疚しいことでも恥ずかしいことでもない。
初めて恋をした女の子が、たまたま妹だったというだけだ。
それに、何といっても妹の親友のあやせに出会えたじゃねえか。
今、隣りで黙って俺の話を聞いてくれている、あやせに。


31 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:40:14.744SRjOM3Xo (17/20)


長い間、心の奥底に封印していたことをあやせに話し終えて、
俺は肩の荷を降ろしたような気分だった。
そんな俺をあやせは、慈愛に満ちた優しい眼差しで見つめてくれていた。

「お兄さん、何故その話をわたしにしてくれたんですか?」
「何でだろうな。……誰かに聞いて欲しかったのかもな。
 ……いや、そうじゃねえ。俺はあやせに聞いて欲しかったのかもな」
「お兄さんが正直に話してくれて、わたし、何だかとても嬉しいです」

俺が妹のことを好きだと人前で言ったのは、これで二度目だ。
よりにもよって、その二度ともがあやせだとはな。
兄貴として妹の桐乃には、誰よりも幸せになって欲しいと心から思う。
それと同じくらい、あやせにも幸せになって欲しいと願っている。

「ところでお兄さん、わたし、さっきからずっと気になっていることがあるんです」
「気になっていることって?」
「なんだか、話をはぐらかされているような気がして仕方がないんですが?」
「俺が話をはぐらかしたって、何が?」
「わたし、さっきお兄さんに好きだと、何気なく告白したつもりなんですが……。
 気のせいかも知れませんけど、わたしのこと何気なく振ったんじゃないんですか?」
「分かっちまったか?」
「………………」

あやせは一瞬固まったように見えたが、すぐに顔を真っ赤にしてオニギリを包んでいた
ラップだの空のペットボトルだのを俺に投げつけ、口を尖らせながら怒った。

「それって、あんまりじゃないですか?
 わたしがお兄さんを振るならともかく、何でわたしが振られなくちゃいけないんですか。
 信じられませんよ。大体お兄さんに、わたしを振る資格なんてあるんですか?
 今まで散々セクハラみたいなことをして置きながら、どうなんですか?」

手近に投げ付ける物がなくなったあやせは、弁当のおかずのタッパーに手を掛けた。
ラップや空のペットボトルくらいなら我慢できるけど、タッパーはねえよ。
当たり所が悪かったら、いくらなんでも俺だって泣いちまうよ。


32 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:40:44.914SRjOM3Xo (18/20)


あやせから告白されても、彼女を傷付けねえように上手くかわしたつもりだった。
それなのに、これじゃあ振り出しに戻っちまったじゃねえか。
何もあやせが言うように、俺があやせを振るつもりなんて微塵もねえって。
ただ、今の俺には、あやせの気持ちを受け止めてやるだけの自信がねえんだ。

「俺はあやせが思っているほど、大した男でもねえし、何の取り柄もねえだろ。
 強いてあげれば、花の名前に詳しいくらいじゃねえか」
「お兄さんはそういうことを言って、また、わたしをはぐらかすんですか?」
「はぐらかすつもりなんてねえって。さっき俺があやせに話した初恋の話、覚えてるだろ。
 ……俺は、そんなことであやせを失いたくねえんだよ」

初恋なんて風邪を引いたみたいなモンで、時が経てば想い出に変わっちまう。
俺はあやせを、いつの日か想い出の中だけに住む彼女にはしたくなかった。
あやせが俺の妹なら、仲違いしたとしても、桐乃の時のように何かの切っ掛けがあれば、
再び仲が良かった元の状態に戻れるかも知れん。
しかし恋人ってのは、お互いに好きだという気持ちだけで結ばれているもんだから、
一度その関係が壊れちまうと、元の他人同士よりも遠い存在になっちまうものなんだ。
恋人同士にはなれなくても、今日のように一緒に出掛けたり、時には怒られたりしながら、
いつまでもあやせには、俺の近いところにいてくれることを願った。

「お兄さん、もしかしたら、今も桐乃のことを……」
「それはねえよ。それだけはあやせに誓ってもいい」
「そうですか。……それを聞いて、少しだけ安心しました」
「もう俺のことなんか、嫌いになっちまったんじゃねえのか?」

あやせは抱えた自分の膝の上にあごを乗せると、可笑しそうに笑いながら俺に言った。

「そうですね。嫌いになったかもしれませんよ。
 ……取りあえず、今日わたしが、お兄さんのことを好きだと言ったことは忘れてください。
 わたしがお兄さんに振られたなんて、納得がいきませんから」

俺はあやせに投げ付けられたラップだの、空のペットボトルだのを片付けてから、
頭上に咲いている桜の木を見上げた。


33 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:41:11.134SRjOM3Xo (19/20)

 
「この公園の桜も、もうしばらく経たなきゃ見頃になんねえなぁ。
 ……本当に、今日はごめんな。もうちっと咲いててくれてもいいじゃんかなぁ」
「わたしは、このくらい咲いている方が好きですよ。
 だって、桜って満開になるとすぐに散ってしまうじゃないですか。
 桜が散る時って、とてもきれいなんですけど、何だか寂しい気もします」

桜の花が嫌いだという人を俺は知らない。
花が散って、道路に散乱している様子はあまり見られたもんじゃないが、
一気に花開いて潔く散る桜は、人々の心の琴線に触れる不思議な力を秘めている。

「お兄さん、桜の花を一輪だけ摘んでもらえますか?」

あやせがふと何かを思い付いたように、桜の木を見上げながら言った。
咲いているとは言っても、やっと今週辺りから咲き始めたばかりだ。
決して満開の桜から受けるような、誰をも魅了する華やかさなんて感じられない。
むしろ、弱々しく儚げな印象すら感じられた。

「まだ咲き始めたばっかだし、もう少し待てばもっときれいに咲くぜ」
「わたしも、今摘んでしまうのは可愛そうだって思っています。
 でも、わたしには、今この場に咲いている桜じゃないと意味がないんです」

何かを思い詰めたようなあやせに気圧されて俺は立ち上がると、
手近な枝から、ようやく咲き掛けた桜の花を摘み、あやせの手のひらに載せてやった。
もう一日待っていれば、翌朝には完全に開花したであろうその花びらを見て、
可愛そうなことをしちまったかなと、少しだけ後悔した。
でも、今のあやせには満開の桜よりも、この方が似合っているのかも知れん。

「わたし、この桜の花で押し花を作ろうと思います。
 押し花にすれば、ずっとこのまま、いつまでも変わらない姿で残せるから。
 ……お兄さんは初恋なんて、いつか想い出に変わってしまうって言いますけど、
 この桜の花を見るたびに、わたしは今日のことを想い出します」


34 ◆Neko./AmS62011/03/27(日) 16:41:49.514SRjOM3Xo (20/20)


手のひらに載せた一輪の桜をじっと見つめていたあやせは、
ゆっくりと俺に視線を向けると、俺の眼をしっかりと見据えてから言った。

「来年の桜が咲く頃に、今日お兄さんに摘んでもらったこの桜の花を見た時……
 わたしのお兄さんへの想いが、今と変わらずたしかなものなら……」
「あやせが俺に、改めて告白するって言うのか?」
「……違いますよ。来年の春になれば、わたしは高校生ですよ。
 今よりも、もっといい女になっているに決まっているじゃないですか。
 だから、その時はお兄さんが、わたしに告白をするんです」

あやせの自信に満ち溢れ、そして勝ち誇ったような笑顔を見て、俺は頭を掻いた。
その言い方からすっと、俺があやせに告白することが既定路線ってことか。
俺もあやせもお互いの顔を見合わせて、笑うしかなかったよ。

「じゃあ、その時俺があやせに告白したら、あやせは俺と付き合ってくれるってか?」
「いいえ、一度目は丁重にお断りします。……今日わたしに、意地悪をしたお返しに。
 だからお兄さん、もう一度わたしに告白してください。
 そうしてくれたら、わたしも真剣に考えてあげてもいいですよ」

今こうして俺の顔を見ながら無邪気に笑い掛けてくれるあやせも、
一年後には遥かに美人で可愛くなっているに違いねえ。
その時まで、あやせが俺への想いを持ち続けてくれるかは、誰にも分からねえけどな。

「お兄さん、桜が満開になったら、また連れて来てもらいますから」

それが当然とでも言いたげなあやせを見ていたら、思わず吹き出しちまった。
だけど、あやせは無邪気に笑ってっけど知らねえだろ?
俺の手のひらの中にも、一輪の桜がそっと握られていることを。


(完)


35VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/27(日) 16:58:58.81qtLUR+lyo (1/1)

乙。ヤンでないあやせは天使だなぁ…


36VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/03/27(日) 17:14:48.94CNUtWNBAO (2/3)

乙です


37VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/03/27(日) 17:17:28.41BKZhDtp+o (1/2)

乙。なんと綺麗なあやせ

あやせの弁当の中身が、昔おかんに作ってもらってた弁当とそっくりでワロタ


38VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/27(日) 18:20:45.87FTmE1b9DO (1/1)

なんだか切ないぜ


39VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/27(日) 18:45:31.77DTOw2s7/o (1/1)

乙です

ヤンでるか、暴走してることが多いけど
ノーマルならあやせたんマジ天使だな



>>37
お前のカーチャン実はあやせじゃね?


40VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(三重県)2011/03/27(日) 19:01:45.51KMeItoUx0 (1/1)

乙!
相変わらず素晴らしい

『すっぱい葡萄』には笑ったww


41VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/03/27(日) 19:34:28.34+zESCf1AO (1/1)

乙!

これこそまさしくラブリーマイエンジェルあやせたんだな
いや暴走気味のあやせたんもかわいいけどね


42VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/27(日) 20:15:00.43Vnul95tAo (1/1)

個人的には、これ俺妹である必要なくね?と思ってしまった
あやせらしいあやせも読みたいな


43VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/27(日) 20:21:38.27kTMAhB12o (2/2)


なかなか読みごたえのある大作だった


44VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/03/27(日) 20:51:38.99lKJLs5aQo (1/1)

乙。
文章上手いだけに、誤字脱字が気になった。
そういや花見なんて相当してないなぁ……。


45VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2011/03/27(日) 21:10:37.21AfhQTaQAO (1/3)

>>13
乙!
なんとなく、やるドラ思い出してしまった…
あと心当たりがあるかないかわからないけど、題材や描写が普遍的なぶんインスピレーション刺激されてgood

ほうれん草のソテーは定番と思われ。



46VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/27(日) 21:24:42.61bR35bxe/0 (1/1)

>>34
乙。しかし、ネズミの王国はあとでエージェントが怖いぞw

>>45
俺も、ダブルキャスト(だったか?)を思い出したわ


47VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 21:41:21.58VzcOF4WKo (1/16)

乙だぜぃ!

何このあやせ、俺の知ってるあやせより可愛いんですけど。
そしてこのキュンキュンする胸の高鳴り、どうしてくれる。

一番槍は持っていかれたが、二番手は私が頂く!

投下:22時から
カプ:京介×加奈子
展開:マネージャー奮闘記 Part2


48VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/27(日) 21:47:25.38F90hhYFg0 (1/2)

>>34
乙です!
相変わらず文上手いなぁ…

>>47
かなかなちゃんの続きだ!期待してます!


49VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2011/03/27(日) 21:58:59.24AfhQTaQAO (2/3)

前々から思ってたけど、(福井県)はやっ!?
三倍ってレベルじゃない…
これはもう半裸待機しないと

(北海道)といい、(兵庫県)といい、賑わってきて何より。



50VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:01:10.51VzcOF4WKo (2/16)

刻限となったな。
今回はちょっと長めだ、引き締めろよフラッグファイター。

以下、投下。


51VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:01:59.41VzcOF4WKo (3/16)

春と訪れと共に始まった俺のマネージャー生活も、早いもので五ヶ月が経った。
俺の担当である来栖加奈子は順調に知名度を上げ、タレントとして着実に成果を上げている。
そう、何もかも順風満帆。誰もがそう思っていた。……俺を除いては。

「……またか」

俺はたった今まで読んでいた紙束をデスクの上に投げ捨て、天井を仰いで目頭を揉んだ。
ここ最近、同じような内容の文書ばかり読んでいたため、正直辟易している。
デスクの上にブチ撒けられたものもそうだ。その内容は――――。

「ブリジットとセットでオファー……これで何件目だ?」

二ヶ月前に出演したバラエティ番組をきっかけに、加奈子たちへの取材や出演オファーが激増した。
芸能事務所としては、そのことについて何かを言うつもりは無い。
だが、俺は不安だった。
一時の人気で、加奈子たちが食い潰されるかもしれない。
仮に人気が続いても、ずっとブリジットとセットで扱われるかもしれない。
それでは駄目なのだ。それでは、加奈子の夢を「本当の形」で実現できないと思った。
加奈子は努力してきた。アイドルになるために、何年も努力し続けてきたんだ。それが無駄に終わるなんて、俺には耐えられない。
努力しても、才能があっても、それが必ずしも報われるなどという保証は無い。そんなことはわかってる。
高校時代、俺はそういう連中を何人か見た。
黒猫やフェイトさんにとっての桐乃、桐乃にとってのリアがそうだった。
だからって、このまま手をこまねいているだけなんて耐えられない。
俺は加奈子のマネージャーなんだ。アイツの才能を、努力を生かしてやらなければならない場所に立っているんだ。
なんとか、なんとかしてやりたい。……けど、

「俺に……何ができるんだろう……」

有効な打開策は思いつかなかった。まったく、自分の無能さに嫌気が差すぜ。

「一息、入れるか……」

淹れてから全く手をつけていなかったため、コーヒーはすでに冷めてしまっている。俺はコーヒーカップを手に取り、喫煙所へ向かった。


52VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:02:45.75VzcOF4WKo (4/16)

ーーーーーーーーーーーー


ファッション誌のモデルほど、季節感が狂う職業は無い。俺はそう思っている。
まだ夏も終わりきっていないというのに、冬物の衣装を纏って、撮影を行うんだからな。
今日の仕事はそういうものだ。スタジオで、秋に出版する雑誌に載せる写真の撮影。衣装は冬物だ。
世間でいくら猛暑だの暖冬だのと声高に叫ぼうが、日本から四季が消えてしまわない限り、この不可思議現象は無くならないだろう。
カメラを見つめる彼女達の姿は華々しく、慣れていない者にとっては眩しく見える。
けれど、俺の目はそこには向かず、心はここに無く、思考は別のことに使われていた。

「高坂さん?」
「うおっ!?」

突然掛けられた声に、思わず大きな声をあげてしまった。
目の前には美しく着飾った加奈子の姿があり、俺を驚いた表情で見上げていた。

「す、すみません!大きな声を出して……」
「い、いえ。私の方こそごめんなさい……」

お互いに謝り、そのまま沈黙。……むぅ、気まずい。
と、とりあえず!この空気を何とかしなければ!

「「あの……」」

ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ……。気まずさアップ!
もうやめて!俺のライフは0よ!

「あの、どうかしましたか……?」

気まずさの海からなんとか生還し、俺は言葉を発した。

「いえ、休憩に入ったんで声を掛けただけなんですが……」
「あ!す、すみません!ボーっとしちゃってて!」

休憩に入ったことすら気付かないとは、業務中に何をやってるんだろうね。
俺は慌てて、先程コンビニに行って買ってきたものを取り出そうと、袋の中をまさぐった。
あれ?無い、無いッ、無いッッ!いつも買っている加奈子のお気に入りが入ってないッ!
いくら中を検めても、いつものカフェスイーツは見つからなかった。代わりに俺のお気に入りである、チルドカップに入ったエスプレッソが二つ。
まさか……買い忘れた、のか?本当に、俺は何をやっているんだ……。

「すみません!いつもの買い忘れたんで、急いで買ってきます!」
「あ、待って!」

スタジオを出ようと走り出した俺の腕を、加奈子は少し強引に掴まえた。

「そんなに気にしなくても大丈夫ですから……」


53VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:03:22.37VzcOF4WKo (5/16)





俺たちは今、スタジオの脇に設けられた休憩スペースで、並んでエスプレッソを飲んでいる。
撮影の方は、どうやら機材関係でトラブルがあったらしく、今はスタッフが全力で復旧作業中。その間、モデルたちは長めの休憩となった。

「本当にすみませんでした」
「あの、そんなに謝らないでください。それにコレ、美味しいですよ。私もこういうの、色々試してみようかなぁ」

仕事中に別のことを考えて、いつも出来ていることでミスをして、その上慰められている。
はは……、本当に、今日の俺はダメダメだなぁ……。ここまで来ると、自己嫌悪を通り越して笑いが出てくるぜ。
今日はいつもより苦く感じるなぁ、このエスプレッソ。

「高坂さん、どうかされたんですか?」
「へ?」
「その、元気が無さそうに見えたので。私の思い違いなら良いんですけど……」

どうやら、顔や態度に出てしまっていたらしい。いや、女の勘というヤツか?
どちらにせよ、加奈子に話すべきことではない。ここは誤魔化さないと……。

「ええ。プライベートなことで少し悩んでまして。すみません、変に心配させてしまったみたいですね」
「そうですか。私で良ければ、相談に乗りますけど……」
「大丈夫です。大したことじゃないですから」

心配そうに見つめる加奈子に、俺は笑顔で答えた。
嘘を吐いたことは心苦しいが、これは俺の仕事なのだ。俺が四苦八苦する場面であり、彼女に要らぬ心配をかけてはいけない。
ごめんな、加奈子。
俺は心の中で、加奈子に詫びた。

「お待たせしましたー!五分後に撮影を再開しますので、モデルの皆さんは準備をお願いしまーす!」

機材のトラブルが解決したらしく、スタッフがスタジオ全体に聞こえるよう声を張り上げた。
俺はエスプレッソを飲み干し、席を立つ。

「高坂さん」

そこで、俺の背後から加奈子が声を掛けてきたので、首だけ動かして振り向いた。

「あの、あまり無理をしないでくださいね」

加奈子は、未だに心配そうな表情で俺を見ていた。まるで、俺の悩みを知っているかのようだ。
つくづく思う。女というのは、どうして誰も彼も勘がいいのだろうか、と。

「ありがとうございます。でも、大丈夫ですから」

けれど、今の俺に言えるのはそれだけだった。


54VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:03:52.48VzcOF4WKo (6/16)

ーーーーーーーーーーーー


それから俺は、時間の合間を見つけてはテレビ局の人間を中心に直接会い、加奈子やブリジットの単独出演について交渉した。
どうしても会いに行けない時は、電話やメールでその旨を伝えた。
営業の人間や、事務所内で対外交渉を行う後輩たちにも協力を仰いだ。もちろん、加奈子には秘密にするよう言い聞かせてな。
休日も潰し、残業時間も増やして、俺は色んな人間と交渉を繰り返した。その結果は……、

「はい。はい。そうですか。いえ、無理を言って申し訳ありませんでした。はい。今後とも、よろしくお願いいたします」

とあるテレビ局の番組制作ディレクターとの電話を終え、俺は大きく息を吐いた。

「また駄目だったな……」

衰退の激しいこの業界は、勢いのあるモノについては積極的に利用する。これは、いつの時代でも同じことだった。
この場合、「加奈子とブリジット」という二人が当てはまるが、個人についてはそうではないようだ。
商業価値の低い、もしくは無いモノに関しては、その扱いは手厳しい。道理である。
出演を断られたのは、先の電話を含めると、もう三十件を超えていた。これだけ断られると、妹様の無理を散々叶えてきた俺も気が滅入ってくる。
首を回し、凝り固まった筋肉をほぐす。首の骨がゴキゴキと鳴った。

「無理があるのか……?加奈子には価値が無いとでも言うのかよ、ちくしょう……」

もちろん、そんなことは無い事などわかっている。
加奈子は女性に人気のあるファッション雑誌で、モデルを務めている娘だ。彼女単体の人気も、その雑誌の読者である女性からは当然高い。
けど、それはテレビ局の人間には通じなかった。
このままブリジットと共に知名度を上げていけば、二人でアイドルデビューも出来るかもしれない。
だがそれは、本当に加奈子の望んだ結果なのだろうか?
時流に乗り、一時の金儲けに付き合わされ、価値が無くなればそれまで。それを前提でやる仕事など、俺は彼女にさせたくなかった。
実力もあり、努力もしてきた彼女に、そんな刹那的なことはさせたくなかった。
だが、現実はいつでも厳しいものだ。俺のような凡庸極まりない人間には、時代の流れを変えることなどできはしない。

「まだだ。諦めるには、まだ早い……」

俺は自身を鼓舞する意味も込めて、そう口にした。
スクリーンセーバーが起動しているディスプレイを切り替え、息抜きがてらネットの海に潜る。
一応言っておくが、サボってるわけじゃないぞ。これも立派な仕事だ。最新のトレンドを把握するためのな。
ニュースサイトを巡回していると、一つの記事が目に入った。俺はその記事をクリックし、詳細を読み始めた。

「これは……」

それは、俺にとって天啓だったのかも知れない。


55VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:04:20.64VzcOF4WKo (7/16)

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「オーディション……ですか?」

翌日、俺は事務所の会議室を借りて、加奈子と一対一の打ち合わせを行った。
前日に作った資料を加奈子に手渡し、内容を説明する。

「ええ。アマチュアの人たちを対象としたものが多いですが、芸能プロや事務所に所属している人でも受けられるものって、結構あるんですよ」

そう、俺が考えた策は「オーディションを受ける」ことだった。
芸能プロ主催のタレントオーディションなどは、一般人でも知るところだろう。
今回加奈子に出場を提案したのは、すでに芸暦のある人間でも受けられる、歌手のオーディションだ。
合格すれば、著名な音楽プロデューサーの支援を受けてCDデビューも果たせる。加奈子の夢である「アイドル」の第一歩を踏み出せる可能性があった。

「うまくいけばCDデビューも出来ますし、審査員に実力を示せば、そこからアイドル活動を始めるきっかけにもなると思いまして……」

俺の説明を聞きながら、加奈子は資料に目を通していた。
オーディションへの出場は、本人の了解が無いと出来ないことだが……。感触は上々と言えよう。

「ここで来栖さんに新たな価値を付加すれば、今後の活動にもプラスになります。どうですか?」
「そう、ですね。良いと思います。元々、私はアイドルを目指していましたから……」

資料に目を通し終えた加奈子は、俺の顔を真っ直ぐ見つめてきた。

「最近お忙しそうだったのは、これを調べるために?」
「そうですね。来栖さんの実力は理解してますし、これを機に単独でのテレビ出演も出来るようになるのではと思いまして……」
「あの……。それ、どういう意味ですか?」
「え?」

加奈子の質問の意味が理解できず、俺は間抜けな声を上げてしまった。
その加奈子はと言うと、席を立ち、俺を見つめていた。だが、その瞳の色は冷たい。

「オーディションのお話はわかりました。けれど、単独出演というのは、どういう意図を持っておっしゃったんですか?」
「いや……あの……」
「はっきり言いなさいっ!!」
「はいぃぃぃっ!」

加奈子の剣幕に圧され、俺は今回の話を持ってきた経緯を全て話した。三つも年下の女の子に負ける俺、マジカッコワルイ。
加奈子はその話を黙って聞き、全てを話し終えた後、ふぅ、と息を吐いた。

「高坂さんが元気が無かった理由って、こういうことだったんですね」
「黙っていたことは謝ります。ですが、これは俺の仕事です。来栖さんにお話して、無用な心配をかけるのは……」

パァンッ!

会議室に、乾いた音が響いた。
左の頬が熱い。口の中に鉄の味が広がる。
唇を指でなぞると、ヌルッとした赤い液体が付着した。そこで俺は、加奈子に頬を叩かれたのだと理解した。

「……けんな……」

左頬を押さえ、加奈子の顔を見た。
彼女は歯を食いしばり、憤怒の形相をしていた。こんなに怒っている加奈子の姿見たのは初めてだ。
そして目には、大粒の涙が浮かんでいた。

「っざけんなっ!なにが心配かけたくねえだっ!加奈子のこと馬鹿にすんのも大概にしろっ!!」

加奈子は昔の口調で、声を荒げて、俺を罵倒した。
俺はただ黙って、それを見ていることしか出来なかった。

「糞マネ、言ってたよな。加奈子たちはパートナーだってよ。そのパートナーに黙って、一人で勝手に動いてよぉ。それで上手くいって、加奈子が喜ぶとでも思ったのかよ?」
「お、俺は……」
「っせえ、しゃべんな!」

目から涙が溢れ、メイクが流れ落ちる。
美しく飾った顔のことなど気にせず、加奈子は続けた。

「パートナーってのは、お互いに信頼してないといけないんじゃねえのかよ。それとも何か?そう思ってたのは加奈子だけで、お前は加奈子のこと信頼してなかったのかよ!」
「違う!俺は……!」
「違わねえだろうがっ!加奈子に隠れてコソコソして、心配しても気にも留めねえ!これで『信頼してる』なんて言われても、信じられるわきゃねえだろうがっ!!」

加奈子はハンカチを取り出し、涙を拭いた。
白いハンカチは、マスケラごと目元を拭ってしまったので、黒く汚れてしまった。

「……少し、外します」

加奈子はそれだけ告げると、顔を隠しながら会議室を出て行った。


56VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:04:52.99VzcOF4WKo (8/16)




十数分後、加奈子は会議室に戻ってきた。
崩れてしまったメイクは直され、可愛らしい顔立ちを大人っぽく演出している。ただ、目は赤いままだった。

「すみません。急に大きな声を出して……」
「いえ、俺も配慮が足りませんでした。申し訳ありません」
「高坂さんが私のことを思って、いろいろしてくれたのはわかってます。それなのに、私……」

お互いに自分の非を詫び、黙り込んでしまった。
こんなにつらい沈黙は、親父と向き合ったとき以来だ。この空気をなんとかしたいが、今の俺が何を言っても、すべて嘘に聞こえるような気がした。
五秒……十秒……。実際にはそれほど経っていないのだろうが、俺にはずいぶんと長く感じられた。
その沈黙を破ったのは、俯いたままこちらを見ない加奈子だった。

「私、受けようと思います。オーディション」
「え?」

意外だった。断られると思っていた。
加奈子のことを無視して進めた事だ。彼女が拒否しても、おかしくないと思っていた。
加奈子は顔を上げ、俺の顔をまっすぐ見つめる。瞳に怒りの色は無く、穏やかな笑顔を浮かべていた。

「アイドルは私の夢です。そのための努力もしてきました。だから、受けようと思います。いえ、受けたいんです」
「そう……ですか」
「だから、高坂さん……」

そこで加奈子は、歯を見せて笑った。普段はあまり見せない、イヒヒと笑うあの顔だ。

「サポート、しっかり頼むぜ」


57VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:05:23.05VzcOF4WKo (9/16)

ーーーーーーーーーーーー


俺は今、とある会場の喫煙スペースで煙草を吹かしている。
あれから俺たちは、オーディションに向けて動き出した。日程を調整し、普段の芸能活動に支障を来たさないようにした。
ボイトレのトレーナーに頼み込み、送付用の歌唱データを録音した。
一次審査を通過し、全国七箇所で行われた予選大会を勝ち抜き、そして今日、最終審査を兼ねた決勝大会の日を迎えた。
6,000組を超える応募者の中から勝ち抜いた10組が、6人の審査員と2,500人の観客が身守る中、今日この場で雌雄を決する。
俺に出来ることはもう無い。あとは加奈子が、決勝ステージで自分の力をフルに発揮してくれることを祈るばかりだ。
そろそろ決勝が行われるホールに戻ろうとした矢先、胸ポケットに仕舞っているケータイが震えた。
ディスプレイには『メール着信 1件』と表示されていた。送信者は、今はファイナリスト用の控え室にいるはずの加奈子だ。

『今すぐ、控え室前に来てください』

本文にはそれだけしか書かれていなかった。
何かあったのだろうか?俺はケータイを仕舞うと、急いで加奈子のところに向かった。




「すみません。突然、お呼び立てして」
「いえ。それより、なにかあったんですか?」

スタッフに無理を言って裏に通してもらい、俺は控え室前までやってきた。
加奈子はすでにそこにいて、壁に寄りかかって俺を待っていた。

「高坂さん。あの、少しの間だけ……目を瞑っててくれませんか?」
「はい?」

なにか火急の用があるのかと思いきや、いきなりこれである。はっきり言おう。ワケわからん。
加奈子はそれだけ言うと、俯いてしまった。なにやらもじもじしているが、緊張しているのだろうか。意図はわからんが、俺は素直に従った。

「これでいいですか?」
「はい。まだ開けちゃ駄目ですよ。ちゃんと目を瞑っててくださいね」

俺の視界は、未だ暗闇の中だ。いや、何かチカチカしてるな。ああ、瞼の裏かコレ。
さて、ここからどうするのだろうか。そんなことを考えていると、甘いコロンの香りと、温かく柔らかな感触を感じた。

「あの、来栖さん?」
「まだ!まだ開けちゃ駄目です!」

加奈子が大きな声で俺の動きを制す。
俺の胸から、温かさが伝わってくる。柔らかな感触は、俺の脇を伝い、背中にも感じられた。
甘い香りと心地よい圧迫感。目を瞑っていても、加奈子が何をしているのかはわかった。
自分の心臓の音がはっきり聞こえた。うるさいくらいだ。
どのくらいそうしていただろう。おそらく十数秒ほどだ。衣が擦れる音と共に、俺の体を支配していた感触が消えた。

「も、もういいですよ」

目を開けると、加奈子が立っていた。さっきよりも、俺との距離が近い……気がする。
加奈子は頬を赤らめ、俺を見上げていた。お互い声が出せず、しばらく見つめ合う。
すると、加奈子がイヒヒと笑った。

「もう大丈夫。大丈夫です」

口調はいつもの丁寧なものだ。表情だけが昔のまま。
何のためにあんなことをしたのかはわからない。けど、加奈子の表情を見て、俺は安心できた。
さあ、もうすぐ時間だ。俺はホールに戻るため、加奈子から離れた。

「おーい、糞マネ」

背後から声を掛けられ、首だけで後ろを振り返る。
加奈子はまだイヒヒと笑って、こちらを見つめていた。

「煙草、少しは控えろよ」

昔の口調で放った言葉は、およそ今の状況とは関係ないものだった。


58VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:06:03.43VzcOF4WKo (10/16)

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ホールでは今、四組目のファイナリストの講評が行われていた。
ここで、この決勝大会の流れを説明しておこう。
出場者の出演順は、事前に行われたくじ引きですでに決められている。
決勝大会では歌を二曲披露する時間と、三分のアピールタイムが与えられ、その総合点が最も高い者が優勝となる。
アピールタイムとは、要は歌以外で何が出来るのかを審査員に示すのだ。
楽器でも、モノマネでも、ガンプラ組立でも何でもいい。ちなみに今言った諸々は、これまでの出場者がアピールしていった特技だ。
加奈子はダンスを披露することになっている。
これまでの出場者を見ていると、歌に関しては特徴が異なるものの、歌唱力に関しては拮抗しているように思う。つまり、みんな上手いのだ。
こうなってくると、アピールタイムでどれだけ審査員の心を掴めるかが、勝負のカギとなるだろう。さて、どうなることやら。
そんなことを考えている間に、講評が終わった。次は加奈子の出番だ。

「エントリーナンバー3,018番、来栖加奈子さんです。どうぞー!」

女性司会者の快活な紹介を受け、加奈子がステージ上に現れた。
ここで見る限り、過度に緊張しているということはなさそうだった。これなら彼女は、自分の実力を遺憾なく発揮できるだろう。

「来栖加奈子です。よろしくお願いします」

簡単な自己紹介を終え、お辞儀をする加奈子に拍手が送られた。最初は歌の披露だ。

一曲目は、某人気ガールズバンドの曲。ノリの良いロックナンバーだ。
加奈子は、その可愛らしい容貌からは想像できない、陳腐な表現をすれば「カッコ良い」声で、その曲を見事に歌い上げた。
観客からは拍手と共に指笛などが、ステージ上の加奈子に送られた。

二曲目は雰囲気をがらりと変え、女性シンガーのラブソング。少しマイナーな曲のようで、俺はアーティスト名を聞いてもピンと来なかった。
静かなピアノ伴奏が流れ始め、加奈子の声がそれに乗った。
女性視点で書かれた独白のような歌詞が、切ないメロディとマッチしていた。
その歌詞の中のあるフレーズが、なぜか引っ掛かった。

『貴方がいる それだけで もう世界が変ってしまう
 モノトーンの景色が ほら 鮮やかに映る』

なぜこのフレーズが気になったのか、それはわからない。
わからないが、言葉が、メロディが、加奈子の歌が胸に沁みる。気付けば、俺の目から涙が流れていた。

「ははっ。すげえな、加奈子」

お前の歌、俺の心に響いたぜ。思わず涙が出るくらいにな。
大丈夫だ。お前の歌のスゴさ、きっと審査員連中にも伝わるよ。
二曲目を歌い終わると、会場がシンと静まった。
その中、俺の拍手だけが響き渡る。それに触発され、あちこちから拍手が鳴り、それは大きなうねりとなった。
さあ、今度はダンスアピールだな。


59VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:06:31.67VzcOF4WKo (11/16)

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「惜しかったですね」

決勝大会が終わり、俺と加奈子は駅に向かって歩いていた。
時刻は夜の7:00。街灯やビルの明かりが、闇夜に抗い、街を照らしている。
素晴らしいパフォーマンスをした加奈子だったが、残念ながら優勝は逃してしまった。優勝したのは、どこの事務所にも所属していないアマチュアの女の子だった。
彼女の歌は、他の参加者と比べても頭ひとつ抜けており、アピールタイムで見せた新体操の技も圧巻だった。
でもさ、俺は加奈子の方が劣っていたとは思ってないぜ。加奈子は凄かった。ただ、今回はあのアマチュアの娘の方が審査員の心を掴んだ。それだけだと思う。
優勝は逃したものの、加奈子は審査員特別賞を受賞した。加奈子のパフォーマンスは、俺以外の心にも響いたということだ。

「そうですね。でも、こんなことで諦めません。また挑戦します」
「その意気ですよ。来栖さんなら大丈夫です」

加奈子も、優勝できなかったことは悔しかっただろうが、表情は晴れやかだった。すでに次の機会を見据えている。
目算は外れたが、この調子なら、加奈子自身が注目される日もそう遠くないだろう。今はそれで満足だ。
さて、次はどうしようか。そんなことを考えていると、胸ポケットに入っているケータイが震えた。表示されているナンバーは、事務所の電話番号だ。

「はい、高坂です。はい。はい。え、本当ですか!?はい、はい!本人も隣にいます!はい、ちゃんと伝えておきます!ありがとうございます!」

通話を終え、ケータイをポケットに仕舞い、隣にいる加奈子に向き直った。
何があったのか把握出来ていない加奈子は、不思議そうな顔で俺を見上げていた。

「来栖さん、喜んでください。今日、審査員の一人だった方から連絡があって……」
「は、はあ?」
「来栖さんさえ良ければ、プロデュースさせてほしいとの事です!」
「え!?」

流石の加奈子も、これには驚いたらしい。
俺がガッツポーズ全開で喜んでいる間、呆然と突っ立ってたからな。周囲の歩行者から奇異の視線を送られたが、構うもんか。
だってよ!俺は今、最高に「ハイ!」ってやつだァァァァからなッ!!

「あの……本当ですか?」
「はいっ!詳しい話は、後日事務所で行うようです。もちろん、来栖さんにも同席してもらいますから!」

俺がガキみたいに喜んでいる中、加奈子はうなだれ、静かに涙を流した。


60VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:07:11.89VzcOF4WKo (12/16)

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あれから一ヶ月が経った。
事務所に連絡してきたのは、大手レコード会社に勤めるA&R(アーティスト・アンド・レパートリー)担当の男性だ。
その方の話では、いきなりCDデビューというわけではなく、まずは一曲だけ着うたなどでネット配信し、そこで好評を得れば正式に契約、ということだった。
利益を生み出さなければならない立場にいる人なので、これは仕方ないと思った。だが、チャンスをもらえたことは事実である。
次へと繋げるためには、俺や、宣伝・広報の人間が尽力しなければならない。これについては、望むところだと言わせてもらおう。
そして今日は、レコーディング初日だ。
予定通りにいけば、三週間後には加奈子の歌が配信される。少々密なスケジュールだが、加奈子から文句は出てこなかった。


本日のレコーディングは無事終了、時刻は夜の8:30。
スタジオを後にした俺たちは、車で事務所に戻っていた。時間も時間なので、残っている人間は数えるほどしかいない。

「今日はお疲れ様でした」
「はい、お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」

明日も午後からレコーディングだ。明日の予定を確認し終え、これで本当に本日の業務は終了である。
帰り支度をしている加奈子に、俺は包みを持って近付く。

「来栖さん」
「はい?」

ショルダーバッグを担いだ状態で、加奈子は俺に向き直った。
その加奈子に、俺は手に持った小さな包みを差し出す。俺の行動の意味がわかってないのだろう。加奈子は小首をかしげている。

「遅くなりましたが、アーティスト・来栖加奈子誕生のお祝いです。受け取ってください」
「え?あ、あの……」
「受け取ってもらえないと、俺が困るんですが……」
「す、すみません。ありがとうございます」

加奈子は戸惑いながらも、俺からのプレゼントを受け取った。
しばらく包みを見ていたが、そのあと上目遣いで俺を見つめてくる。「開けてもいいですか?」と目で訴えていた。
俺は笑顔で頷く。それを見た加奈子は、綺麗に包装を剥がし始めた。黒色の細長いケースの蓋を開ける。

「綺麗……。ブレスレット、ですか?」
「ええ。お気に召すかどうかはわからないですけど」

俺がプレゼントしたのは、とあるブランドのプラチナブレスレットだ。二連チェーンのシンプルなもので、加奈子ぐらいの年齢の娘じゃ、少し物足りないかもしれない。
けど、加奈子に似合うと思うんだよな。派手じゃないけどエレガントさがあるし、こういうのも良いと思うんだ。
結構なお値段だったが、今回はお祝いだ。小さいことは言わないでおこう。
加奈子は早速ブレスレットを手首に巻き、色んな角度からそれを眺めている。

「似合ってますよ」
「そ、そうですか?私には少し、大人っぽ過ぎるんじゃないかなぁ」
「そんなことないですよ。普段の来栖さんに比べると少しクールに見えますけど、俺は良いと思います」
「あ、ありがとうございます。……その、大切にしますね」

うしっ!気に入ってもらえたようで何よりだ。俺のセンスも、この業界に入ったことで少しは磨かれたのかも知れんな。
さて、帰るか。俺が自分の鞄を手に持つと、目の前に細長い包みがあった。


61VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:07:40.39VzcOF4WKo (13/16)


「あの、私も高坂さんにプレゼントを。その、いつもお世話になっているお礼です」
「え?いや、そんなに気を使わなくても……」
「わ、私も!受け取ってもらえないと困ります!」
「ありがとうございます!!」

ここまで言われたら、受け取らんわけにはいかんでしょうよ!け、決して加奈子の剣幕に圧されたわけじゃないんだからねっ!ホントだよ?
俺は受け取った包みを眺める。なんか、さっきとは逆だな。
加奈子は俺の様子をまじまじと見つめている。声には出さないが、「早く開けてください」という念がひしひしと伝わってくる。ぐっ……!なんだこれ?
俺は丁寧に包装を剥がし、中に入っていた箱を開けた。

「ネクタイ、ですか」
「はい。その、気に入らなかったですか……?」
「い、いえ!決してそのようなことは!スッゲー嬉しいっす!ありがとうございます!!」

加奈子さん、そんな捨てられた子犬のような目で俺を見ないでください。
けど、嬉しかったのは本当だ。加奈子から送られたネクタイは、華美なものではない。青を基調としたシンプルなものだ。これなら、普段使いにも適しているだろう。

「本当にありがとうございます。早速、明日着けてみますね」
「はい!」

ネクタイを鞄に仕舞い、俺たちは揃って事務所を出た。駅までは一緒なので、二人並んで歩いていく。
いや、これは「並んで歩く」と言っていいのかね?だって加奈子のヤツ、スゲー自然に腕を絡めてきたんだよ。

「あの、来栖さん?」
「いいだろー、別に」

あ、こりゃ駄目だ。だって昔の口調なんだもん。
こういうときの加奈子って、普段と違ってスッゲー我侭なんだ。俺が「離してくれ」って言っても聞かないね、うん。

「あのさ……」
「ん?」

俺が心の中だけで溜息を吐いてると、加奈子が声を掛けてきた。さて、次はどんな我侭が来るのかね。

「その……、これからもよろしくな」
「え?いや、その……」
「きょ、京介は加奈子のマネージャーなんだからよぉ!これからも加奈子さまのために働けよ!」

な、なんて理不尽なんだ……。我が家の妹もかくやと言うレベルの理不尽さ。パートナー云々に関して説教したかなかなちゃんは、一体どこに行ったんでしょうか?
そして、何故呼び捨てなんでしょうか?
でも、なんだ。そんなことはさ、今さら言われるまでも無えっての。だって、俺は加奈子のマネージャーなんだからよ。
仕事モードの加奈子なら、我侭を聞いてやらんでもない。

「当たり前だろ。今さらだな、それ」
「うっせー。オメーは加奈子さまの言う事聞いてりゃいいんだよ」

返事をしたら、なぜかそっぽを向かれてしまったでござる。何が悪かった?口調か?口調なのか?お前に合わせたのにそりゃ無えよ……。
ま、何を言われても、俺はこいつのために働くけどな。やれやれ、我侭なタレントの担当はつらいねぇ。おまけに有望なタレントだから始末が悪いぜ。
こりゃ、これからも忙しくなりそうだな。だからと言って、辞める気は無いけどよ。
俺のマネージャー生活は、まだまだ波乱が起きそうだ。そう思ったよ。


おわり


62VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 22:09:58.21VzcOF4WKo (14/16)

以上。

マネージャー話は、これで一旦終了です。
ここに投下することはもう無いでしょう。
話が膨らんだり、書きたくなったら今度はスレ立てます。
回を重ねるごとにクオリティが下がるこのSSに、長々と付き合ってくれた諸君には感謝し切れん。
次回は、別カプで投下しますぜ。

ありがとうございました。


63VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/03/27(日) 22:13:00.05CNUtWNBAO (3/3)

毎度乙です
トリップは付けないのかな?


64VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)2011/03/27(日) 22:20:13.90szRi9gvQo (1/1)


楽しみにしてるぜ


65VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/27(日) 22:37:18.91F90hhYFg0 (2/2)

乙です!
大人かなかなちゃん可愛い…


66VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/03/27(日) 22:42:47.82xB+hK/Qp0 (1/1)

乙です

次回の投下、楽しみにしてます


67VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/03/27(日) 23:27:16.414SRjOM3X0 (1/1)

乙です。
大人っぽい加奈子って、なんかいいね。
原作でも身を呈してブリジットを守ったりとか、
根はけっこう性格いいんだよね。
シリーズ化に期待。

マスケラ? 黒いことは黒いんだろうケド……


68VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 23:30:37.92VzcOF4WKo (15/16)

>>67
ああ、マスカラだったね……orz
ちくしょう、なんて紛らわしい。刈り上げとから揚げくらい紛らわしい。


69VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/27(日) 23:34:38.74BKZhDtp+o (2/2)



読む側としては、トリップがあれば便利かなとは思いました
あの人の続きか、と簡単に思い出せるので。(福井県)氏とかでもいいっちゃいいんだけども

俺の記憶力が心もとないだけかも知れないが



70VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2011/03/27(日) 23:55:49.38AfhQTaQAO (3/3)

乙~
加奈子は燃えが似合うって点じゃヒロイン随一かもしれぬ

うん、近未来ものもいいなぁ…


71VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/27(日) 23:58:55.20VzcOF4WKo (16/16)

トリップは次で20個目になるんで、その時つけます。
名前欄に#~で良かったっけ?


72VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/03/27(日) 23:59:38.50wB7/iXIA0 (1/1)

乙としか言いようがねぇ!


ぜひ続けてくれっ


73VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/28(月) 00:01:16.173KkWQfh4o (1/1)

>>71
それで、おk
#は半角だから注意ね


74VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/28(月) 00:03:40.13kMRFj7fmo (1/1)

>>73
レス、ありがとう。


75VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)2011/03/28(月) 00:48:04.22WA/y1DO70 (1/5)

真剣な兄貴がこんなにかっこいいわけがない!





………私の前で今…兄貴は顎の下に手を置き、前にある机を真剣に見ていた
なにか大事な事を考えているのだろう、その目から放たれる眼光は何時もとは違い、本気で相手を見たら殺せるのでは、と思うほど鋭い

ゴクリ……

私は生唾を飲み込むと何を考えてるのか聞こうと歩き出し、口を開こうとした、その時だ

グゥウウウウゥウウウゥ

そんな音が兄貴のお腹から聞こえてきたのは
私はまるで昭和のアニメのようにガクッとその場でずっこけた

ちょ、兄貴!!、それは無いって!!
私がそんな事を考えながら苦笑いしてもう一度兄貴を見ると、その表情は一切変わっていなく、逆にもっと真剣さが増しているように見えた
額には先程よりももっと深い皺が刻まれていて、机に向けられていた瞳は憎憎しげに窓の外へと向けられていた

それから何分経っただろうか、兄貴はふとため息をつくと勢いよく立ち上がり私が隠れているドアに向かって歩いてきた

ちょ、なんでいきなり移動!?、やばい、やばいって!!
そんな事を私が小声で言い、慌てながら隠れ場所を探していると、間に合わなかったのだろう、兄貴が扉を開く音がこの場に響いた
その時から私の頭は隠れ場所を探すモードから、言い訳をするモードにシフトチェンジした

さあ、かかってこい!!、といわんばかりに兄貴を見る私
だが兄貴はそんな私をチラッと見ただけで何も無かったように階段を上っていった

何か困ったような、後悔しているような目をしながら。


な、な、な、何よ!!、なにも無視しなくていいじゃない!!

私は文句を言おうと勢いよく階段を上って兄貴の扉の前まで行く。道中何回かこけそうになったけど、動揺してたからなんかじゃ絶対ないからね!?

とにかく、私が兄貴の部屋の前まで行き、何を言ってやろうか、と考えながらドアノブを掴み
正に開けようとしたその時だ、その呟きが聞こえてきたのは

「もう………食っちまおうか、見るたびに我慢できなくなってきてるしな……」

その言葉を聞いた瞬間、私の頭はフリーズして、再び動き出した時はさっきのフリーズが嘘のように勢いよく働き出した

え!?、ちょ、なに!?、何を食っちまう気なの!?、まさか私!?私なの!?

そんな風に私がパニクっていても兄貴の呟きが止まる事はなく、今もずっと続いていた

「もう、桐乃の部屋に行ってムリヤリ奪っちまうか……、日ごろの人生相談のお礼だと思えば安いもんだろ………」
何を奪う気ですかあーーーーぁぁああ!!!!

やばい、そんなの嫌だ!初めてはもっとムードのある時で兄貴と……、じゃなくて付き合っている人と…

「いや、今なら桐乃は下にいるしこっそりと行けるな、こっそり行って物を持ち出してくるか!!」
物って何!?、やっぱりパ○ツ!?パンツ○の事なの!?
落ち着け!!、落ち着くのよ桐乃!!、もはや○の意味が無くなっているから!!
私の頭はどうやらかなり動揺してるみたいだ

とにかく!!兄貴が出てくるまでひとまず逃げるのよ!
この場に居てはまずい、いつ兄貴が出てきてもおかしくない状況だ

私は物音をたてないように慎重、かつ敏速に階下へと移動したのだった


ギィイ


そんな音がやけに大きく響く
それにしても、兄貴の部屋はなんであんなにボロいんだろ、あんな音私の部屋じゃ絶対鳴らないんだけど


76VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)2011/03/28(月) 00:48:46.83WA/y1DO70 (2/5)


どうでもいいことを私が頭の片隅で考えていると目的の物を手に入れたんだろう、もう一度兄貴の部屋の扉の音がこの場に響く

……、さて、そろそろ行きますか

もういいだろ。そう私が考えてもう一度階段を上りだす
や、や、やっぱり今兄貴は私のパ、パ、パンツを使ってナニをやってるのかな?

そこまで考えたところで私は自分の顔が赤くなってきてるのを自覚してしまう
なに考えてんのよ!

自分を一喝すると改めて兄貴の部屋の前に立つ。

そしてドアノブを掴むと勢いよく引く
「あ、あ、兄貴!!、早く私の物を返しなさい!!」
上ずった声が出てしまったが何とか伝えたい事は伝える事ができた

言い切って数秒が経つと私はゴクッと生唾を飲み込み、そっと目を開ける

だが、そこには私が思っているような光景は無く、兄貴が私が買ってきていた低カロリーのカップラーメンを貪っている光景があった

「………は?」
思わずそんな声が漏れてしまう

兄貴も最初は目が点になっていたが正気に戻ったのだろう、凄い勢いで地面にオデコをぶつけ、わずか三秒で土下座の体勢になった
そして物凄い大きな声で謝ってきた
「すみません!!!、腹が減りすぎてたんだ!!!」
うわぁ、兄貴、汗で顔テカッてんなぁ

そんなくだらない事を無意識の内に考えていた私もやっと頭が現状に追いついてきた
え?、なに?、ってことは全部私の空回りだったって事?
どうしても結局はそこに戻ってしまう

その考えに至った瞬間、私の体と顔は光ってるんじゃないか?、という位に熱くなり、頭も上手く回らなくなってきた

私はとにかく恥ずかしくて、なんだか兄貴が無茶苦茶ムカついて
兄貴の顔面を思い切り蹴ると、お腹の底から声をだし、こう叫んだ



「期待させんな!!、バカ兄貴!!!!」




その後私は兄貴の顔とか脛とか鳩尾とかを殴り続け
兄貴が意識があるうちに今週の土日を私のために働かせる約束をしてから、とどめとして連続で鳩尾を十発ほどお見舞いして安らかに兄貴を眠らしてあげたのだった




終わり


77VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)2011/03/28(月) 00:50:03.39WA/y1DO70 (3/5)

オマケ、ていうかその後?




「……はっ」

俺が気絶から立ち直り、体を起こす
今は夕時なのだろう、オレンジ色の光が部屋を照らしていた

あれからそんなに経ったのか

今や俺が奪ったカップラーメンは麺がスープを全て吸い取り干上がったミーラみたいになっていた
今更そんな物体を食べたいと思えるはずもなく、俺はもう一度寝る事に決めてベッドの方向に顔を向けた

その瞬間に俺は目を奪われた

夕日に染まって真っ赤に見える髪と顔、光に当てられて作られた夢の様に薄い影
家に居るにしてはちょっとオシャレすぎる服装

そこには、眠り姫がいた

そう思った瞬間に思い出されるのはやはり王子さまのキス
やっぱりお前にもそんな奴が現れるのかねぇ

「面白くねぇな」

思わずそう呟いてしまう
そして顔を近づけるが、やっぱりそんな事が出来る筈もなく、わずかな距離、あとちょっと動けば触れてしまう様なところで進めなくなった

何やってんだか、こんな事やったって何にもなんねぇのによ

俺はその場から一刻も早く立ち去ろうと体を動かそうとした
その時、事件はおきた

桐乃のやつがいきなり身じろぎをしたのだ

チュッ

そんな音がするのかと思っていたが、実際は違った、俺の初めては何の音も無く、ただ柔らかい感触だけが俺の唇に残った

「な、な、な」

何も言えない、何も考えれない、ただ……

「なぁーーーーーー!!?」

俺は勢いよく部屋を飛び出た。

え?何?逃げたのかって?
うるせぇ、俺みたいに突発的事故でファーストキスを失ってみろ、誰だってこんな事になったまうんだよ!!
そんな言い訳を心の中で叫びながら俺は落ち着こうと近くのコンビ二に向かったのだった


その後、俺が気まずくて顔を一週間合わせれなくて桐乃と冷戦状態に逆戻りしたのはまた別のお話
俺がいなくなった部屋で「意気地なし」、と誰かが呟いたのもまた別のお話


78VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)2011/03/28(月) 00:55:50.76WA/y1DO70 (4/5)

突如投下してすまない

衝動的投下、共にグ~ダグダだが後悔はしていない、何故かって?
答えは簡単、俺は現実を直視しないニート野郎だからだ


79VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/28(月) 01:09:58.878tmG/viDO (1/1)

乙だぜぃ。

最近きりりん成分が不足してたから、よかったぜぃ。
それにしても、きりりんさん容赦なさすぎwwww


80VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)2011/03/28(月) 01:15:02.93Om/dJXKjo (1/1)

ヒューッ また書くんだな


81VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/28(月) 01:43:55.04vWhwk434o (1/1)

乙であります
こういう笑いの要素があるSSが俺妹っぽくて好きだな

ちなみに「ようそ」で変換しようとしたらヨウ素が出てきたぜ…


82VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/03/28(月) 02:43:33.23BvsHHOCgo (1/1)

>>62
 乙でした。大人な加奈子も良いけど、クソガキな加奈子もいいと思うんだ……。
 次の投下も楽しみにしています。

>>78
 乙でした。
 桐乃の容赦のなさは半端ないな。
 にしても、なんで京介の部屋で寝ていたんだ?
 あと、末尾に句点がつかないと地味に読みにくいな。

> 干上がったミーラみたい
 ミイラの間違いかな?


83VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/28(月) 08:06:27.60NWLZo+PDO (1/1)

桐乃久しぶりに見た気がする
また頼む


84VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(兵庫県)2011/03/28(月) 10:12:33.41WA/y1DO70 (5/5)

>>82

すまないミイラ○ミーラ×だった
これであってると思っていたが何か違和感があったので助かった、サンクス


85VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/28(月) 12:05:52.63EjfPL2hm0 (1/1)

へんな事きくけどこれって新作ですかい?



86VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/03/28(月) 13:49:37.75agqORXwAO (1/1)

乙です
面白かった


87VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/28(月) 15:30:51.42Kfa08V/IO (1/1)

>>85

いや、新作ではない
これはブログにのしてた物を転載した物だ
ま、オマケは書き足したがな


88VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 19:38:56.05gqKd6v2y0 (1/18)

京介×黒猫でありがちなお弁当ネタを書いてみました。
内容が薄いわりにはそこそこ長いので、今回は前編のみで投下させていただきます。


89VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 19:40:32.93gqKd6v2y0 (2/18)



『お昼休みは恋人と』


「ウチの教室の外にすげえ可愛い子がいたぞ!」


昼休みになってから少しして、購買から戻ってきた俺のクラスの男子が若干興奮気味にそんなことを言いながら入ってきた。
それを聞くと、他のヤツラも何かに理由を付けて教室から出て行く。
無論、テキトーな言い訳をつけて教室から出て、その子を一目でも見ようと企んでいるのである。

「マジだ!可愛い!」「誰かの彼女?」「いや、ウチのクラスにそんな甲斐性のあるヤツなんて…」
「ありゃ多分俺らの学年じゃねえな」「何年の子だろう…」

帰ってきた連中の間からこんな声が聞こえてくる。
そこまで言われちゃ俺も気になってきちゃうじゃないか。

どれどれ、そんなに可愛い子がいるなら、俺もちょっと拝ませてもらおうかね。

そう思って俺は『購買に行ってくるぜ宣言』を行った。
たとえ自分に彼女がいたとしても、「可愛い子がいるぞ!」と言われれば見たくなってしまうのが男の性だ。
それは俺も例外じゃない。

若干ドキドキしながら教室の戸を開ける。
すると、確かにそこには噂に違わぬ美少女が立っていた。


雪のように白い肌に清楚な顔立ち。
均整のとれた体型に艶のある長い黒髪。
これなら皆がドキッとしたのも頷ける。

しかしその子を見た瞬間、俺は皆とは違う意味でドキッとしてしまった。
いや、確かに可愛いが、コイツは――


「…く、黒猫!?」

そう。
皆さんのお目当ての可愛い後輩とは、他でもない俺の彼女だったのだ。
今日は何故か赤い巾着袋を両手で大事そうに持っている。

自分の彼女が友達から高く評価されていたことを考えると嬉しいやら気恥ずかしいやら。
だが、今はそんなことを気にしてる場合じゃない。
俺は慌てて周りの視線でガチガチに固まって俯いてしまっている黒猫に近付いた。

「や、やっと現れたわね…」
「おい!お前、こんなとこで何やってんだよ!?」
「何って……」


「なっ!?高坂が“あの子”と普通に話してるぞ!?」

この、驚きを全く隠しきれていない大声によって、俺たちの話は一時中断されてしまった。

気がつけば何かすごく注目を浴びてしまっている気がするんだが…。
まあ…そりゃそうか。話題の彼女が同じクラスの男子と話してりゃな。
それにしても、この空気は無理だろ!は、恥ずかしすぎる………

「と、とにかく、ここじゃマズいから移動するぞ!」
「ちょ、ちょっと!」

雰囲気に耐えられなくなった俺は急いで黒猫に小声でこう告げると、その手を引いて足早に教室を離れた。





90VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 19:43:17.46gqKd6v2y0 (3/18)


☆☆☆☆☆


「…随分と遅かったわね。待ちくたびれてしまったわ…。」
「遅かったって……教室の外で黙って待ってられてもわかるわけねえだろ!?」
「ふ、ふん!壁一枚挟んだくらいで主の気配すら察知出来ないなんて、使えない隷属…」
「ムチャクチャ言うな!」

たった今、俺たちは場所を“例の”校舎裏のベンチに移動したところだ。
まあその………俺たちにとっては、所謂『思い出の場所』だったりするわけだけど…。
暖かくて微風が吹いているようなとても麗らかな天気なのだが、周りにはまったく人影が見えない。
人がいないからこそココを選んだってのもあるんだが。

…それにしても、こいつの言い分聞いたか?何だって俺が責められなくちゃいけねえんだ!?
俺の言い分は間違ってないと思うぜ!?『気配を感じろ』って、そんな超能力者じゃあるまいしよ…。
しかも俺のことを隷属扱いしやがって!ここはハッキリ否定させてもらうぞ!?

心の中に変なプライドが発生してしまった俺は強い口調で言った。


「つか、俺はお前の隷属じゃねえ!俺はお前の――」

…ダメだ!この続きは恥ずかしくて面と向かっては言えねえ……………
ああそうだよ!どうせヘタレだよ!笑うなら思いっきり笑え!
しかも、赤面地獄に陥った俺が言わんとしていたことを察知したのか、黒猫も少し顔を赤らめて俯いちまってるし…。
これじゃ完全に自爆だよ。また居づらい雰囲気になっちまったな…。


「そ、それにしても、お前いつから教室の前にいたんだ?」

俺は何とか無理に平静を装って話題の転換を図った。
我ながら、声が上ずっていて無理矢理感が溢れ出ている。


「あ、貴方が教室から出てくる2,3分ほど前よ。」

でもこころなしか、向こうも無理に平静を装って返しているような気がするな…。
この調子で行けば何とか俺のペースを持ち直せるかも!?


「なんだ、たった2,3分か。よかった。ならそんなに待たせたわけじゃ…」
「思い上がらないで頂戴。」
「………は?」
「さっきも言ったはずよ。『待ちくたびれた』と。
 私は随分待たされたわ…。貴方のクラスメイトからの、まるで異世界の者を見るかのような視線に耐えながらね。
 今度私にあんな辱めを受けさせたら…塵として滅するわよ?」

どうやら回復能力は相手が上だったようだ。
先程までの動揺を感じさせない見事な厨二返しを食らっちまったぜ…。
そして俺には言い返す言葉が見当たらない…と。うん、見事に完敗だな。
いや、でもこれは仕方ないだろ!?
俺のことを馬鹿にするヤツは、『塵として滅するわよ』って言われた後の神懸かり的な返し方を是非教えてくれないか?

…とにかく、情けない話だが俺の実力じゃ調子を取り戻したコイツには勝てない。
こうなったら、おとなしく本題に入ろうかね。


「…それで?俺になんか用か?お前がわざわざ教室まで訪ねてくるんだから、そこそこ大事な話なんだろ?」

話題転換の下手さは仕様だ。誰が何と言おうと仕様なんだ!
しつこいようだが、『塵として滅するわよ』と脅された後に普通の話題を上手く切り出せるような文句があるなら………って、黒猫…?

「……………」
「ど、どうした?」

俺の問い掛けに黒猫は俯いて黙ってしまった。何か考え込んでいる様子にも見える。
こいつがこうなった時は、たいていこの後に意味深な一言を言うんだけど…。


そして黒猫はしばしの沈黙の後、小さな声で逆に俺に問い掛けてきた。





91VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 19:44:36.45gqKd6v2y0 (4/18)


「私は………何か用事がなくては、貴方に会いに来てはいけないのかしら?」
「えっ?いやっ、別にそんなことはないが…」

それはおよそ黒猫らしくない言葉で、口調もどこか寂しげだった。

でも、言われてみれば確かにその通りだよな。なんせ俺とこいつは…つ、付き合ってるわけだしよ?
本来であれば『どうしても貴方に会いたくて来てしまったのよ…』なんて言われてもおかしくない関係なのかもしれん。
でもそんなこと黒猫は絶対に………いや、一応聞くだけ聞いてみても……………

「も、もしかしてお前さ……ただ単に、俺に会いたかったから教室まで来てくれたのか?」
「なっ………勘違いしないで頂戴!だからといって、私が何の用事もなしに来たとは言っていないでしょう?
まったく、これだから人間風情は………」
「わかったよ!うん、俺の勘違いだった。わかったからそんなに興奮するなって!」


やはり、俺の彼女がそんなに可愛いわけが…なかったか………。
でもそんなにムキになることもないと思うんだけどな…。顔真っ赤にしちゃってさ。これ、絶対怒ってるよな?
…あれ?なんだろう?やけに読者諸君からの冷ややかな視線を感じるんだが……………



「…と、ところで先輩。先輩はもう昼食を済ませたのかしら?」

こりゃまた唐突な質問だ。しかも、この変に声が上ずった感じは…さっきの俺と全く同じじゃないか。
さては、こいつも無理に話題を変えようとしてるな?
まあ俺も言えた義理じゃないから心の声に留めておくけど…。黒猫よ、お前もなかなか話題作るのヘタクソだな…。


「いや、昼飯はまだだよ。誰かさんが急に訪ねて来たもんだから食いそびれちまってな」

俺はちょっとしたさっきの仕返しのつもりで軽い嫌味を入れてみた。
まあ実際のところ、一応購買でおにぎりは買ってあったから嘘をついたわけじゃないけど。
だが思いのほか、黒猫はなんだか安心したような素振りを見せている。
俺が飯を食いそびれたのがそんなに嬉しいんだろうか?


「そんな言い方………でも、それなら丁度いいわ。」

そう言って黒猫は、さっきから手に持っていた大きめの巾着袋に手を突っ込んだ。
教室の外で見かけた時からずっと持ってたから俺も地味に中身が気になってはいたんだよな。
おそらくこの巾着袋も手作りなんだろう。その証拠に、こいつお得意の黒い猫の刺繍がされている。

「これを…」
黒猫が取り出したのは、これまた大きめなサイズのプラスチックで出来た長方形の容器だった。
至ってシンプルなデザインだが、この箱の感じには何度も見覚えがある。
そしてこの流れからすると、これはもしかして…いや、間違いなく………

「…これって弁当箱………だよな?まさかお前、俺のために弁当を…」
「違うわ!」

俺がほのかに寄せた期待は即座に否定されてしまった。
が、ここはさすがに俺の見当違いじゃないはずだぜ?もう少しだけ粘ってみることにしよう。

「いや、でもこれどう見ても…」
「くどいわ、先輩。これは…魔道具の一種・“常闇の匣(ハコ)”よ。疑うのなら開けて御覧なさい。そうすれば手っ取り早いわ。」
「そんなにムッとした顔で言わなくてもいいじゃねえかよ!?
へいへい…それじゃ、開けさせてもらうぜ?」

これはどう考えても弁当だ。俺にとっては人生初の愛妻弁当どころか初めての彼女の手料理だ。
それはもちろん素直に嬉しいのだが、重大な疑問があることも確かである。

こいつの作る弁当には一体何が入っているんだ…?
変にキャラにこだわって黒魔術の食材みたいの入ってないだろうな?トカゲとか。
いや、そんなもの一般市場では手に入らないか…
うーむ、まったく予想できん…。


俺は期待半分・不安半分で箱を覆っていたゴムバンドを外し、蓋に手をかけた。





92VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 19:46:11.77gqKd6v2y0 (5/18)



「おお…」

だが、蓋を開ければ先程までの不安はどこへやら、俺は思わず感嘆の声を上げてしまった。
蓋を開けるとまず中心に梅干を据えた白米ゾーンが目を引き、その脇を焼き鮭や漬物や卵焼きや煮物などの和食ベースのおかずが固めている。
更にはやけに厚底だとは思っていたがこの弁当箱は二層式となっており、下層には唐翌揚げ等の肉類から大学芋まで、バラエティ豊富な料理が用意されていた。
黒魔術の食材なんてとんでもない。こりゃちょっとした花見用の弁当みたいだぜ。
香りもとても食欲をそそり、今すぐにでも食べてみたくなるような気持ちにさせる見事な出来だ。
しかもこれを黒猫が俺のために作ってくれたんだと思うととても嬉しかった。

俺が若干感動しながら弁当の中身を眺めていると、隣から強い視線を感じた。
どうやら黒猫が俺の顔をチラチラ覗き込みながら反応を気にしているようだ。
そんなに心配そうにしなくても……俺の第一印象は最高評価だぜ。

「これ…本当にお前が作ったのか?」

黒猫は返事の代わりに、恥ずかしそうに無言でコクンと頷いた。

「すごいよ………。
 もう見た目だけでもメチャクチャ美味そうだぜ!これ…作るの大変だったろ?
 それをわざわざ俺のために……………」

俺の賛辞の言葉を聞くと黒猫は安堵したような表情を見せ、機嫌も何だかさっきよりも良くなったような気がする。
いつもこんな感じだったら可愛げがあんのになぁ…。まっ、そうなったらそうなったで調子狂っちゃうかもしれないんだけどさ。

「ふふふ……。匣(ハコ)から溢れ出る闇のオーラに圧倒されているようね?」
「ああ、確かに予想以上にボリュームあったし美味そうだし圧倒されたけど……これはどう見ても弁当箱…だよな?
でもホント嬉しいよ。こんな美味そうな弁……」
「違うわ。夜の世界に古より伝わる魔道具・“常闇の匣(ハコ)”よ。」
「いや、まったく闇要素の欠片も感じられないんだが。むしろお前の温かな愛情を…」
「ま、まだ言うつもり?違うと言っているでしょう?
私と契りを結んだということは即ち、共に闇の眷属として生きるということに他ならないのよ?つ、つまり……」


ここで黒猫は言葉を詰まらせた。
なんか必死に言い訳を探してるように見えるのは俺だけか?設定が不完全のまま見切り発車するなんて、こいつにしては珍しいな。
いや、こいつがこうやって誤魔化してるのは照れ隠しだってことは薄々わかってるよ?
わかってはいるけど、少しからかってみたくなっちまったのさ。
それにしても、焦って厨二台詞を搾り出そうとしている黒猫は何だか新鮮で可愛くて、思わず応援したくなってくる。


…お?あの顔は、そろそろベストな暗黒理論が閃いたのか?
黒猫は勝ち誇ったかのように口元をニヤッとさせると、怒涛の反撃を開始した。


「つまり!貴方も…あ、貴方も、最低一日に一度は夜の住人に相応しい食事を摂る必要があるわ!
そうしなければ先輩の身体は日の光によって犯され、やがては消滅という末路を辿ってしまうでしょうね……。
この“常闇の匣(ハコ)”は私の魔翌力を凝縮して閉じ込めた魔道具。 これは私達の母なる暗闇空間であるあちら側の世界、つまり永遠に続く夜の世界のことなのだけれど――」

「お、おう」

「――そこに存在するありとあらゆる種の禁忌の果実を無尽蔵に供給し続けることが出来るわ。
よって、この匣(ハコ)の中身を食すと、こちら側の世界の昼間においても我々の種族の宵闇の力を増幅・貯蓄させることが可能になるの。
更には漆黒の結界を張って貴方の肉体を浄化の光から守護することも………これでこの魔道具の利便性が理解できたかしら?」

「へえ…そりゃ…すごいな………。」
「そして最も重要なことは…“常闇の匣(ハコ)”を食すのは夜の従者の義務である、ということよ。当事者の生存意欲に関わらずにね。
これを拒むということは即ち極刑に値するわ。
先輩もまだ、『磔にされた状態で蠢く獣影達に魂を貪り食われる』に不様な死に方はしたくないでしょう?
いいえ、“死”というよりは、『精神がなくなっても朽ち果てた肉体だけが残っている』という抜け殻に近い存在になってしまうと言った方が正しいわね…。」
「う、うん…」
「とにかく!これは我々の世界の絶対的な掟、ルシファーと夜魔の女王である私が定めた崇高なる規則なのよ!
だから細かいことは言わないで…だ、黙って“常闇の匣(ハコ)”を受け取りなさい!」





93VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 19:46:46.69gqKd6v2y0 (6/18)

うん、溜めただけあっていつもよりだいぶ長いな…。照れ隠しのためにここまで頑張るヤツなんてなかなかいないと思うぜ?
そして、抑え気味の声量だったとはいえこれだけの厨二台詞を一気に語ったせいか、さすがの女王様もゼエゼエと少し息切れしてしまっている。
そんなに必死にならなくても…。
まっ、いつも通り意味はよくわからないけどよ…。なんか俺が処刑されることになってた気がするが気のせいかな?
これは英文翻訳とはまた違った難しさがあって、何度聞いても一発で詳細は理解出来ない。
まあでもアレだろ、最後の部分から察するに…要約すると『とりあえず黙って食え!』ってことだよな?多分。


「ま、まあ、闇の世界の掟についてはイマイチわからんが………とにかく、お前が俺のために弁当作ってきてくれるなんて嬉しいよ。ありがたく頂くぜ。」

隣ですかさず黒猫が「だからそんなものではないと…」と呟いていた気がしたが聞かなかったことにした。
皆曰く俺は鈍感らしいから断定は出来んが、ここは多分深く突っ込んじゃいけないトコだろう。
また困らせてもかわいそうだし、意地になって更なる超暗黒理論が襲い掛かってきても厄介だしな。


「それじゃ、いただきます。」

そんなこんなでようやく実食タイムが訪れた。俺が黒猫をからかわなかったらもう少し早く食べられたのかもしれないが。
しかし、すでに見た目でかなり期待が持てるとはいえ、作った本人を前にして食べるのはなかなか緊張するものだ。
チラッと横目で隣を見ると、その作った本人である黒猫も、やや緊張気味に俺の箸の動きを目で追っている。

俺は最初に白ご飯を軽く口に含み、焼き鮭をかじった。


――うん。やっぱり美味しい。
しょっぱ過ぎず薄過ぎず、尚且つ鮭本来の旨みが感じられる絶妙な塩加減だ。ご飯にもちゃんと合う。
しかも鮭の大きい骨はちゃんと取り除いてくれていて食べやすい。
次は卵焼きに箸を伸ばしてみる。
これは……なんか甘い味がするな。砂糖で味付けしてるのかな?
ウチのとは違うけど、でもこれはこれで全然アリだ。普通にイケる。卵焼きもやはり見た目に違わない味だ。
どうやら黒猫の料理の腕は本物みたいだな。こんなに料理の上手い彼女を持てて俺は幸せ者だぜ!


俺は夢中になって生涯初の愛妻弁当を黙々と食べ続けた。いや実際、普通に美味しくて箸が止まらなかったんだよ。
だが黒猫は、感想すら一言も口にせずただひたすら食べ続ける俺に対してどうやらしびれを切らしたらしい。
俺の顔色を伺いながらいつもの調子でこう切り出してきた。

「どう?この匣(ハコ)に込められしは純粋な闇。漲るような魔翌力を感じるでしょう?…それと……………」

ここまでは完全に、いつもの愛すべき厨二病患者・“黒猫”モード。
だがこの続きは一気にトーンダウンして、素の“五更瑠璃”が見え隠れしていた。

「貴方の…口に合うかしら………」

この、期待と不安を兼ね備えた、思わず抱き締めたくなるような俺の彼女の表情といったら!不覚にも一瞬ときめいちゃったよ!
付き合ってる俺が言うのもなんだけどさ、“黒猫”からの“五更瑠璃”は反則だと思うんだよね。ギャップ萌えってヤツ?
…お前ら、そんな目で見なくてもいいじゃないか……。俺だってたまにはノロケたくなる時だってあるんだよ!

「うん。すげえ美味しいよ!味付けもなんか俺好みでどんどん食べたくなってくるっていうか…。
お前は手先が器用なだけじゃなくて料理も得意なんだな。その…なんか惚れ直したよ。」
「あ、貴方は何を言っているの!?ここは学校よ!?また莫迦なことを…。」

黒猫は俺を罵倒しながらも目に見えてホッとしていた。
きっと俺から『美味しい』って言われるのを、ずっとドキドキしながら待ってたんだろう。
いや~、可愛い。うん、可愛い。どうだ!こいつ、俺の彼女なんだぜ!?
薄々わかってはいたけど、こいつから厨二病を取ったら至って普通の乙女になるんだな…。


「ところで、このくらいの量で足りるかしら?今まで父以外の男性には作ったことがなかったものだから……」
「ああ、全然大丈夫だぜ。十分十分。」

むしろ少し多いくらいだ、と思ったが言わなかった。まあ食いきれない量じゃないし。
おそらく、量が足りなくて俺が空腹にならないように多目に入れてくれたんだろう。こういうところからも黒猫が持つ細やかな配慮が感じられた。
――こいつは、きっと将来いい嫁さんになるだろうな。




94VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 19:47:26.63gqKd6v2y0 (7/18)

さて、一通りのおかずに順番に手を付けたところで、俺は一旦箸を止めた。
…ん?お味はいかがでしたか、だと?愚問だな。もちろんどれも美味しかったさ。お世辞抜きでやみつきになっちまうレベルだぜ?
本来なら『お前らにも食わせてやりたい』と言いたいところだが、やっぱり食わせたくないな。なんせこれは俺専用の“常闇の匣(ハコ)”だからさ!

俺は一通り食べた感想と再度のお礼の言葉を言おうと隣を見た。
すると黒猫は相変わらずただひたすら俺の顔色を気にしている。
そんなに自分の料理食べてる俺の反応が気になるのか?こいつも素直で可愛いとこあるじゃねえか…。
でも…そんな黒猫の様子を見たら………俺的にはちょっと気になることが出てきたんだよな。

その結果、実際に俺の口から出てきたのは感想でもお礼でもなく、こんな疑問だった。

「そういえばさ………お前は、昼飯食わないのか?」
「!?」

黒猫はわかりやすくギクッとして動きを止めた。
その挙動からは、『イタいとこを突かれた!』って感じがありありと溢れ出ている。

「まさか、これ…本当はお前の分の弁当だったんじゃないだろうな?」
「そ、そんなわけないじゃない。それは貴方の分よ。」
「じゃあ、お前の分は?」
「もう…さっき食べてしまったのよ………」

何か様子がおかしい。こいつ絶対に嘘をついてるな?
それにさっきから何かを我慢してるような気がするんだよなぁ……………

俺が胡瓜の漬物を食べながらあれこれ思案していたその時、突如として校舎裏に、最近では聞き慣れない不協和音が響いた。


ぐぅ~きゅるるるるる………………………


…何だ?この漫画の効果音みたいなのは!?これは俺じゃないぞ!?
だが、今ここには俺たち二人しかいないはずだ。
ってことは……………


(続く)


95VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)2011/03/28(月) 19:51:59.60nsw98KrIo (1/1)


後半楽しみにしてます
黒猫まじかわええ


96VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)2011/03/28(月) 20:00:14.6752TgNTP0o (1/1)

黒にゃんぺろぺろ


97VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/03/28(月) 20:01:35.27k9ozv51jo (1/1)

厨二っぷりが微笑ましい
瑠璃ちゃんマジ堕天聖


98VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2011/03/28(月) 20:45:34.68DCpqs46AO (1/1)

乙~
食べ物ネタは良い。けれど
それだけじゃお腹が空くわ…的な

原作にもまま見られた京介のメタ語りが全開だなぁ。ウザいのに笑える、ふしぎ!

ヒロイン黒猫で書くときは[saga]しといたほうが無難かも。
無駄に変換されちゃうかんね>「魔翌力」



99VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 21:03:10.39BIKfZQyvo (1/1)

黒猫んちは母子家庭だと思ってたわ


100942011/03/28(月) 21:43:01.84gqKd6v2y0 (8/18)

>>98
ご指摘ありがとうございます。
言われてみれば過去作でも同じ間違いを繰り返していたような…orz
後編ではsaga忘れないようにしたいと思います。

>>99
母子家庭…でしたっけ?(汗)
まずい!もしかして自分は重大なミスを!?
…おとなしく原作見返してきます。ご指摘ありがとうございました。


101VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)2011/03/28(月) 21:48:33.06V+TEzYPZo (1/1)

>>100
大丈夫だ、母子家庭と断定できる情報はいまのところない…よな?w

乙!
続き楽しみにしてる!


102VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/28(月) 22:36:10.69Lu+ssMZfo (1/1)


なんか黒猫がこんなに男子にチヤホヤされてるのってさり気なく新鮮だな


103VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/03/28(月) 22:38:07.83YrS51+n4o (1/1)

乙でした。
なるほど、希に見る「魔翌翌翌力」ってのは変換されてたからなのか……。納得。
前々から変な言葉だとは思ってはいたのだけれど、自分が識らないだけでそういう言い回しがあるのかと思ってたわ。

個人的には、原作での黒猫はあんま厨二発言しても痛々しく感じないんだけど、二次創作なんかだと途端に特殊ルビが
必要な発言をしたりして、微妙に違和感を感じることがある。
むしろ、アニメの方が痛々しい言動をしているような印象。
まあ、可愛いから問題ないけどな!

続きも楽しみにしてます。


104VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/28(月) 22:46:12.042yLxFpXDO (1/2)

普段の邪気眼発言なきゃ美少女だもんなー
ゴスロリじゃなく制服だからなおさらか


105942011/03/28(月) 23:01:13.37gqKd6v2y0 (9/18)

前後編に分けた意味がまったくない気もするんですが、
案外早く書けちゃったんで続き投下させていただきます…


106VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 23:02:11.35gqKd6v2y0 (10/18)



ぐぅ~きゅるるるるる………………………


…何だ?この漫画の効果音みたいなのは!?これは俺じゃないぞ!?
だが、今ここには俺たち二人しかいないはずだ。
ってことは……………


俺がおそるおそる隣を見ると、案の定、黒猫が真っ赤な顔をして腹を押さえていた。
小学生でもわかりやすいようなジェスチャーしやがって…。
おそらく、今のこいつの状態を『顔から火が出ている』状態って言うんだろうな。

「お前さ、もしかして………自分の弁当を家に忘れてきたのか?」
「わ、私は…確かに朝のうちに鞄に入れておいたのよ!?ほ、本当よ!?きっと、私の力を恐れた天使どもが…」

黒猫の口調からは最早“夜魔の女王”の風格は全く感じられず、完全に焦りと恥ずかしさでテンパってしまっている。
鞄から弁当を抜き取る天使って…どんだけセコいんだよ!?……………とはあえてツッコまないけどさ。
さっきの厨二台詞もだけど、黒猫がこんなあからさまにミスするなんて珍しいな。今夜は沖縄に雪でも降るんじゃないだろうか?
でもなんにせよ、この状態のまま放ってはおけないだろ。


「そういうことなら……これ二人で分けようぜ。」
「要らないわ。だってそれは貴方の…」
「元はと言えばお前が作ってくれたもんだろ。それにな、いくら夜魔の女王といえども昼飯抜きじゃこの先の授業がツラいと思うぜ?」
「私はこのくらいで辛くなんか……でも、そこまで言うのなら……………」

黒猫は意外にも俺の説得であっさり折れた。
こいつはプライドが高いからもっと抵抗すると思ったんだが……もしかして、自分の空腹感に限界を感じたからだったりしてな?





107VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 23:03:23.46gqKd6v2y0 (11/18)



それにしても…『彼女が作ってきた弁当を二人で食べる』なんて、俺たちもいよいよ恋人らしくなってきたもんだ。
でもさ、ここまできたならさ。
せっかくここまできたなら…アレもやってみたいよなぁ………


『先輩。こっちを向いて。』
『?急にどうしたんだ、黒猫?』
『ほ、ほら、口を開けて頂戴。ア~ン♪してあげるわ………///』
『く、黒猫………///』


…みたいなね!?いや、だいぶ妄想入ってるけども。
まあ別に男のロマンとまでは言わないけどさ、男なら、その…ちょっとは憧れるだろ!?
人間という生き物は、少しでも幸せな気分に浸るとどんどん高望みをしてしまうものだ。
黒猫に『汚らわしい人間風情が』とも言われてしまいそうだが、この時の俺もまさにそんな感じだった。


…だが、現実というのは非情なものだ。皆様お察しの通り、あの恥ずかしがりやがそんな事するわけがない。
妄想中でボーっとしていた俺は、突然黒猫に箸を奪われてしまった。

「あっ!ちょっ、まだ食べてる途中…」
「…あら、貴方が言ったのよ?『二人で分けよう』とね。貴方が匣(ハコ)持っていたら、私が食べられないでしょう?」
「いやっ、そりゃそうだけどさ…」
「食い意地の張った雄ね。そんなに心配しなくても、私が一通り食べたらまた貴方に返してあげるわよ。」

更には動揺してる間に弁当箱まで奪われる始末だ。
この《弁当箱交換制》を崩さない限り、俺の妄想は絶対に叶わないだろう。
しかも、また“黒猫”モードに戻っちゃってるしさぁ…。
いやいや、別に“黒猫”成分が嫌いなわけじゃない。それもひっくるめて俺の大事な彼女だしな。
ただ、この場合は…“瑠璃”でいてくれた方が助かるんだけどなー……って話だ。そこは誤解しないでくれ。


まあしかし、こうなってしまったからには、例の半強制的手段に出るしかねーか…。
正直この方法は使いたくなかった。成功する可能性も限りなく低いかもしれない。
だが、このチャンスを逃してなるものか! 恋人との甘いひと時のためなら、俺は勝負に出てやるぜ!!

そう決意した俺は、さっきとは逆に黒猫の食事風景をじっと見ながら、来るべきチャンスを伺った。
…それにしても、黒猫の食べ方は綺麗だなぁ……。元々美味そうな弁当が更に美味そうに見えてくるよ。
なんつーか、箸さばきがイイな。きっと小さい頃から仕込まれてるんだろうね。
ちょ、ちょっとガツガツしてるような感じもするケド…お前、そんなに腹減ってたのか?

………ん?
なーんて言ってる間に、黒猫が一口サイズ(←ココ重要!)の唐揚げを箸でつまんだぞ!?今だ!




108VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 23:04:13.76gqKd6v2y0 (12/18)


「な、なあ黒猫。俺にもその唐揚げくれないか?さっき食べた時美味しかったからさ。もう一個だけ欲しいんだけど…ダメ?」
「ええ…。別に構わないわ。それじゃあ貴方の分を残しておいてあげ――」

黒猫はそこまで言いかけてようやくこっちを見た。
そして動きを止めた。
そう、横目で隣をチラ見しながら口をパクパクさせて待機している俺に気付いたのだ。


…ふっ。どうよ?これが俺の秘策だ!
我ながら、さっきの腹押さえた黒猫並にわかりやすいジェスチャーだろ?
俺だってまさか直球で『ア~ン♪してくれ!』とは言えんさ。
でも、これならさすがの黒猫も空気を読ん………で……………あれ?


「――な、何なの?その呆けた面構えは…?自分で鏡をよく見て御覧なさいな…。」

…って、こいつ明らかに不審がってるじゃねえかよ!!!ソッコー目逸らされたぞ!?
何でだ!?確かに100歩譲って怪しい行動なのは認めるが…こんなにもわかりやすいジェスチャーじゃないか!!!
何故俺の気持ちに気付いてくれないんだよ黒猫ォォォ!!!!!


その黒猫はいうと、どんよりと俯く俺の方をいかにも怪訝そうな目つきで見つめている。

「とにかく、見ているこっちが恥ずかしいわ。即刻その間抜け面を引っ込めて。」
「すいません……」
「ど、どうしてそんなに落ち込んでいるのよ!?」
「いや、別に…」

これにて作戦終了だな…。俺の小さな野望は儚く散ったというわけだ。
やっぱ無理だったか…。ちょっと高望みし過ぎちまったな…。
まあでもね!弁当作ってきてもらえただけでも大きな一歩だしね!続きはまた今度………

俺は気をとりなおして、弁当箱を受け取ろうとゆっくり顔を上げた。


しかし、“奇跡”というものは突然起こるものである。


俺は、黒猫がやけにそわそわしているのに気がついた。
今度はこいつが俺の方をチラチラ見ながら挙動不審になっている。明らかにこっちの様子を気にしている感じだ。
そして、意を決したように俺の方に箸でつまんだ唐揚げを向け……………

「…そ、そんなに落ち込んでいる暇があるんだったら………さっさと口を開いて頂戴っ。
…いつまで経っても………た、食べさせられないでしょう?」


こ、こいつ…もしかして、最初からア~ン♪してくれるつもりで………

俺の心は、驚きと感動のあまり思わず大爆発を起こした。

「く、く………くろねこォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」
「なっ…!?!ば、場所を考えて頂戴!!そんなに大声で叫んで……はっ、恥を知りなさい、恥を!!!」
「痛っ!」

唐揚げと一緒に、羞恥で紅に染まった夜魔の女王からそこそこ威力のあるビンタを食らってしまったが、この時の俺は心底幸せだった。





109VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 23:06:10.72gqKd6v2y0 (13/18)


☆☆☆☆☆


たった今、俺は愛妻弁当の最後に残っていたタコウインナーを飲み込んだところだ。

「――ごちそうさま。すげえ美味かったし、お前の手料理食べられて嬉しかったよ。ホントにありがとな。」
「大袈裟なんだから…。別に大したことではないわ。
でも………貴方をそんなに満足させられたのなら、こちらとしても用意した甲斐があったというものね。」

俺が心からの謝礼をすると、黒猫はフフッと笑って嬉しそうにこっちを見た。
その表情はとても穏やかで、さっきこの女の子にビンタされたなんて信じられないくらいだ。

ちなみにあの後は、真っ赤になって暴走する黒猫を何とかなだめ、《弁当箱交換制》を復活させて無難に弁当を二人で分けた。
それに伴い、さっきの逆バージョンである俺の幻の台詞・「黒猫。口…開けろよ。」はカットされてしまったわけだが。
ちょっと残念な気もしたけど、そうでもしねえとあの時の黒猫は弁当食うどころじゃなかったし…。
…とは言っても無言で食べてたわけじゃなく、今度はちゃんと料理を褒めるのも忘れなかったぜ!
黒猫には軽く受け流されたけど。
もっとも、俺はアイツの口元が緩んでいるのを見逃さなかったがな。いつも通り素直じゃないけど可愛いヤツだ。



「…そういえばさ、どうして今日は弁当作ってきてくれたんだ?今日は何かの記念日とかじゃない…よな?」
「ええ。今日は別に何の記念日でもないわ。」

その言葉を聞いて、俺はホッと溜息をついた。
実は密かに気になってたんだよ。“付き合ってから○日経った記念”とかだったらどうしよう、ってさ。
こっちからは何の贈り物も用意してないしな…。

「何なのかしら?そのいかにも安堵したような表情は…。…それと、“常闇の匣(ハコ)”を渡した理由ならさっきも言ったはずよ。
これは夜の住人となった貴方を光から守護するために――」
「いや、そうじゃなくてだな…俺たちの世界っつーか仮の世界っつーか……現世?人間界での理由?
え~と、とにかく、普通の理由を教えてくれないか?」
「それは………」

ここで黒猫は、またさっきみたいに言葉を詰まらせた。
嫌な予感がするぜ…。まさか、暗黒理論再来か?俺はちゃんと“普通の理由”って言ったはずなんだけど…。
しかし、今度の黒猫はどっちかというと、『考えている』というより『言おうかどうか迷っている』ようにも見える。
発表するのを拒むくらいの“普通の理由”って何なんだろうか………?

「それは……………」

言いよどめば言いよどむほど、黒猫の声はどんどん小さくなっていく。そしてそれに比例して、顔もどんどん赤くなっていく。
そして最終的には、さっきのタコウインナーくらい赤くなって俯きながら、蚊の泣くような声で言った。

「…貴方に……会いに行くためよ………」

「…えっ?」


俺に……会いに行くため?どういう意味だ?


核の部分を口に出してしまって勢いがついたのか、黒猫は軽く赤面しながらも続けた。

「何よ?それが理由では不服だとでも!?」
「いやっ、別にそういうわけじゃないけど……それと弁当作ってきてくれたことに何の関係があるんだ?」
「相変わらず察しが悪いわね…。も、もし私が、貴方の昼食を作って持って行けば…こうして渡す時に会うことが出来るでしょう?」

『こんなことを私に言わせないで頂戴』とばかりに、黒猫はジト目でこっちを睨んだ。

鈍感で悪かったな!
でも、いきなりそんなこと言われたってよ……………




110VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 23:07:11.17gqKd6v2y0 (14/18)



確かに恋人らしいことは殆どしていないが、俺たちの仲は決して冷え切ってるわけじゃない。
一応毎日一緒に帰ったり、頻繁に遊んだりはしている。
『遊ぶ』とは言っても、いつも通り黒猫作のゲームを俺がデバックしたりするだけなんだけどさ…。
でも、言われてみれば付き合ってから一回も昼休みに会ったことはなかった。
俺がここんトコ課題に追われて昼休みにやってたってこともあるし、黒猫も最近は少しはクラスに馴染んできたみたいだし。
まあ…言ってみれば、『特に会う理由がなかった』ってことになるのかもしれない。


「要するに、俺に会う口実が欲しくて、それでわざわざ弁当を作って持ってきてくれたってこと…なんだよな?」

俺が再度確認すると黒猫は黙って控えめに頷いた。明らかに恥ずかしがっているのがわかる。
しかしその後すぐ、ハッとしたように顔を上げてこう続けた。

「で、でも!…だからと言って、一切手を抜いたりはしていないわ!
その…あ、貴方に喜んで貰いたかったということもあるし……。そこは、誤解しないで頂戴…」
「ああ、それはもちろんわかってるよ。」

そんなことくらい、いくら鈍感な俺でもあの弁当を食べればすぐにわかるさ。
あれは言い訳のためにテキトーに作ったもんじゃねえ、ちゃんと俺のこと考えて作ってくれたもんだってな。


「でもよ…そんなまわりくどいことしなくても、別に普通に会いに来てくれりゃよかったんじゃねえのか?
ウチの教室ってそんなに入りにくい雰囲気か?」
「だって…貴方は一応受験生の身だし……それに、ここ3,4日はずっと勉強していたでしょう?だから声をかけられなかったのよ…。
ほ、本当は今日だって、ただ渡して帰るつもりだったのよ?それを貴方が無理矢理連れ出すから…」

黒猫は相変わらず小さな声で恥ずかしそうに答えた。


なんだ。気を使ってくれてたのか。やっぱり、こういう気遣いが出来るところも黒猫の魅力だと思うね。
しかも3,4日の間、こそこそ俺の様子見に来てたんだぜ?実にいじらしいじゃないか。
でもごめんな…実は俺が最近課題に追われてたのは、深夜までエロゲやってたせいなんだ…。
いや、違うよ!?桐乃のヤツが強制的に……でも、ホントにごめんな…。

「そ、そうか!そりゃ悪いことしちまったな…。
でもな、別に俺だっていっつも勉強ばっかしてるわけじゃないぞ!?むしろ息抜きしてることの方が多いっていうか……。
と、とにかくさ!そんなに遠慮しなくてもいいじゃねえか。だって俺は――」

かなり間接的とはいえ、『エロゲのせいで彼女を気まずくさせた』という若干の後ろめたさを感じながらも、俺は決意を固めた。
さっきは言いそびれちまったが、俺はお前の隷属じゃねえんだぜ?
今度は恥ずかしくない。なんせ、こいつだって勇気出して本音言ってくれたんだしな!

「俺は――お前の彼氏だろ?彼氏に会いに行くのに、いちいち用事なんていらないじゃねえか。」
「あ、貴方という人はそんなことを平気で……。た、確かに、それは…そうなのだけれど……。
でも、貴方だって、今日私が来た時は真っ先に『何の用だ?』って確認したじゃない………」
「あっ、いや、それは…急に訪ねてきたからビックリしただけで……」

俺だって平気でこんなことを口にしたわけじゃない。でも、改めて考えてみても本当にその通りだと思ったんだ。
黒猫が俺に会いに来てくれた理由なんて、『恋人だから』で十分じゃないか。
わざわざ『何の用だ?』って訊くなんて、あの時の俺はやっぱり間違ってた。

しかし、黒猫は俺の言葉で動揺を露にしたものの、まだしぶとく完全にデレてはくれない。
更には思い切った様子で本音をぶっちゃけてきた。




111VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 23:09:41.57gqKd6v2y0 (15/18)



「それに、何の理由もなしに会うなんて…。
そんなの………ぞ、俗に“バカップル”と呼ばれる、あの恥知らずな男女と変わらないでしょう!?
陰で何を言われるか、わかったものじゃないわ…」

…こいつ、そんなこと気にしてたのかよ!?普段はコスプレしながら平気で街歩いてるくせに…。
まっ、黒猫らしいと言えばらしいけどさ。
でもバカップルってのは、なんかこう…人前でも平気でキスとかしてイチャつくようなやつらでさ、少なくとも俺らは違うと思うぞ?
それに――

「別にいいじゃねえか。バカップルで何が悪いんだよ?俺はお前とだったら、そういう噂がたっても嫌じゃないぜ?」
「わ、私は厭よ!少しは世間体というものを気にしたらどうなの!?」

嫌なのかよ!?せっかく俺がそこそこ勇気を出して言ってやったのに!
まあ…照れ隠しだってこたぁわかってるけどよ。でもな、それでもちょっとは傷付くんだぞ!?
だが、ここまで来たら俺も引かないからな。さっきみたいに奇跡を起こしてやるぜ!


「…なら、理由があればいいんだな?」
「…えっ?」

黒猫はさも意外そうな顔でこっちを見た。こころなしか少し期待しているような感じもする。
ただでさえこいつは素直じゃないんだから、こういう時くらいは俺から積極的に動かねえとな。
俺は話を続けた。

「だったらさ、暇な時だけでいいんだけど…昼休みは俺の勉強を見ててくれないか?
監視役みたいなノリで、『ちゃんとやってるか』ってさ。」
「私が……先輩の勉強の監視を?」
「場所は…図書室にでも行けばいいし。あそこは確か、飲食出来る場所もあったよな?」
「飲食場所もあったと思うけれど…。先輩は大丈夫なの?その……私がいたら、邪魔になったりしない?」
「大丈夫だよ。むしろ昼休み中ってなんかダラダラしちゃうことの方が多いしさ。お前が監視しててくれた方がはかどると思うんだ。
それにな…俺だって、お前と一緒に昼休み過ごしたくなったんだよ!…ダメか?」

実際、これは本当だ。所詮1時間足らずしかない昼休みってのは勉強しようと思っていてもなかなか身が入らないことが多かったりする。
側であの猫の如き鋭い眼光で見られていると思うとサボれないだろうし、俺もそろそろ更なる本気を出さなきゃならない時期だし…。
まあ、丁度いい機会だ。
桐乃には悪いが、二次元妹の攻略はしばらくお預けとしよう。

もちろん最後の一言も本当だ。これは別にリップサービスじゃなくて、紛れもない俺の本音だよ。
あれだけ自分の彼女のいじらしい一面を見せられたら、男ならこう思って当然だろ?
でも、どうやら相手にとってはこれが殺し文句になったらしく……………


「し、仕方がないわね!?そこまで言うなら…昼休みは『毎日』貴方の為に時間を割いてあげてもいいわ?
た、単なる使い魔である貴方ごときが夜の支配者である私の時間を拘束出来るなんて、身に余る幸福に感謝なさい!」


…ふう。俺の願いは、なんとか女王様に聞き入れてもらえたみたいだ。
黒猫の声はいかにも渋々感を装ってはいたが、その表情はどう見ても機嫌が良さそうだった。
ツンデレというか厨二デレというか…相変わらず素直じゃねえけど、これも黒猫だ。
俺はこいつの彼氏なんだぜ?こいつの言葉の裏側に隠されたデレメッセージくらい、余裕で解読出来るさ。
もっとも、まだ例の暗黒理論はよくわからんが……こっちは、これから徐々に慣れていけばいいよね!?


それとな…『黒猫は思いがけない幸福を運んでくる』って信じられてる地域もあるみたいだが、
俺の黒猫は時折、思いがけないデレを運んできてくれるんだぜ!?
さっきのア~ン♪もそうだっただろ?
あとは…そうだなぁ……………例えば、こんな風に。





112VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 23:11:25.31gqKd6v2y0 (16/18)


「あの…先輩?」
「ん?」
「先輩がもしよければ、の話なのだけれど…。
そういうことなら、昼食は……わ、私が毎日用意してあげてもいいのよ?」
「…えっ!?ホントか!?」

こういうのを『棚からぼた餅』っていうんだったっけ?まあいいか。
…これってアレだろ!?明日からは『毎日』“常闇の匣(ハコ)”が…じゃなくて、あの愛妻弁当が食えるってことだよな!?

俺が予想外の展開にポカーンとしていると、黒猫が心配そうな顔になった。
いけねえいけねえ。弁当の感想の時といい、こういう時はすぐに返事しないとダメなんだったぜ。

「どうしたの?べ、別に強制するつもりはないから…厭なんだったら………」
「いや、そんなことない!普通にすごく嬉しい!
お前の弁当が毎日食べられるなら、昼休みはもちろん、眠くなる午前中の授業も頑張れそうな気がしてきたぜ!
…でも、毎朝手間かけさせんのは何か悪いなぁ……。お前は大丈夫なのか。」
「それは問題ないわ。
どちらにせよ妹の分は毎朝作らなくてはならないし、いつも食材が中途半端に余ってしまうから私は構わないのだけれど…。
…ど、どうかしら?」

これでもう、遠慮はしなくていいんだよな?
よーし、そういうことなら……俺の言葉はこれで決まりだ。

「じゃあ遠慮なくお言葉に甘えさせてもらうぜ!黒猫、明日からよろしくな!今日みたいに美味いの頼むぞ!?」
「ふふふ…。当然でしょう?明日は先輩を更なる深淵の闇へと誘うことを約束するわ。」

…更なる深淵の闇、か。
よくわからんが、こんなに自信たっぷりに豪語してくれてんだから、こりゃかなり期待してよさそうだな。
明日が楽しみになってきたぜ!





113VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 23:12:20.28gqKd6v2y0 (17/18)


☆☆☆☆☆


腕時計を見ると、もうすぐ昼休み終了のチャイムが鳴る時間になっていた。

「…そろそろ、戻らねえとな。」
「そうね。」

黒猫の教室訪問サプライズから始まって………今日の昼休みは、俺たちにとってやけに充実してた気がする。
だがもうすぐ、俺と黒猫が初めて過ごした『恋人同士の昼休み』は終わるのだ。そう考えると少し惜しい感じもしてくる。
…まあ、明日からはずっとこんな感じだけどな!


「先輩。明日は、図書室の前で待つことにするわ。」
「了解だ。確か今日はゲー研ないよな?じゃあ、帰りはいつも通り校門の前で。」
「ええ。それじゃあ…」

俺たちは階段の前で何気ない会話を交わして、互いに背を向けて歩き出した。
――が、その直後に俺は黒猫に呼び止められた。

「先輩!」

その声は、昼休み終了間近に発生する独特な雑踏に混じっていてもよく聞こえた。
そして――

「帰りは…なるべく早く校門に来て頂戴。私も努力するから…。夜魔の女王を待たせたら、その代償は高くつくわよ?」


これはもう、こいつが何言いたいのかは黒猫初心者でもわかるよな?
というか、隠れてるかどうかも怪しいレベルだ。

…俺か?
俺はもちろん、自分の中では最高の笑顔で応えたつもりだよ。

「おう!びっくりするくらい速く行くから任しとけ!」ってさ。







これから教室に帰ったら、俺はクラスのヤツらに黒猫のことで尋問されるだろう。
「ホントにあれお前の彼女か?」なんてね。
でもその時は、逆に思いっきり自慢してやろうと思ってる。

見たかお前ら!俺の彼女は、あんなに可愛いんだぜ!

…ってな。

(終わり)



114VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/28(月) 23:16:33.56gqKd6v2y0 (18/18)

以上です。
なんか一人で長文書いてしまって申し訳ないです…。
アドバイスをくれた方々、ありがとうございました。
せめてwiki掲載分の「魔翌力」は、過去作含めて自力で直してみようと思います。


115VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/28(月) 23:28:51.382yLxFpXDO (2/2)

黒猫たんマジ堕天聖!


116VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/29(火) 00:06:48.42d0RfmdU0o (1/8)

乙だぜぃ。
この黒猫さんはデレ成分多めで良いですな。
次も期待してる!

料理ネタか……。いいな。


117VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/29(火) 01:34:42.67VaS1x3SSO (1/2)


デレ猫可愛い


118VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/03/29(火) 02:00:54.25ja2TVrIl0 (1/1)

一応黒猫の家は生活はまともにできてるんだよな?生活費の切り詰めで弁当を一人分しか用意できなかったとかだと中猫・末猫が哀れだな。


119VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)2011/03/29(火) 02:04:54.52uH4czZPg0 (1/8)

京介×桐乃 SF要素あり
初投稿です読んでいただけると嬉しいです

二時十分ごろからあげていきたいと思います


120VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)2011/03/29(火) 02:09:11.79uH4czZPg0 (2/8)


「俺の名前は高坂京介ごくごく平凡な高校生だった。だったというのはこの春俺は高校を卒業し、大学生となるからである。
 そして今日は幼馴染である田村麻奈美と大学で使う(予定)の電子辞書を買うために近所の電気屋へ向かう予定だ・・・・いかんいかんこんなこと話してる間に時刻は12:55約束の時間に遅れちまう。
俺は自室のベットから立ち上がり、下へ降りて行った。

「「なんであんたが出てくんのよ!?」」
電話でもしているのだろうか、リビングのほうから馬鹿でかい声が聞こえてくる。声の主は高坂桐乃、俺の妹である。この妹には何度も何度も困らされてだな・・・・いや、やめておこうこの話をすると文庫本7冊ぐらいはかかりそうだ。
関わるとまずいことになりそうな予感がする。ここは関わらぬのが得策っ!長年の経験がそう言っている!
「いってきます。」
俺はさっさと家を出た。


自宅から歩いて数分、田村屋へと到着し俺は押しなれたインターホンを押す。
ピンポーン
ドタドタと騒がしい足音が聞こえてきて扉があいた。
「ハイよっ!ってなんだアンちゃんか。」
「ようロック久しぶりだな。麻奈美はいるか?」
「オウいるぜ、ねぇちゃーん!!アンちゃんが来たぞぉい!!」
「今いくよぉ。」
今度はパタパタと足音が聞こえてきて俺の幼馴染でありお婆ちゃんでもある麻奈美が出てきた。
「少し早かったか?」
「そんなことないよぉ。」
「そうか、じゃあとっとと行っちまうか。」
「うん、そうしよっか」
俺たちは田村家を後にし電気屋へと向かった。



121VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)2011/03/29(火) 02:10:50.43uH4czZPg0 (3/8)

 
三十分ほど歩き電気屋についた。運がいいことに渡った信号はすべて青で、30分ほど早くつき時刻は2:00。
「電子辞書は2階に売ってるみてぇだな。」
俺は店内案内版を見て言った。まぁ秋葉の電気屋を散々見た俺は案内板など見なくてもどこに何があるのかなんて感覚でわかるけどなっ!・・・・なんか悲しくなってきた。
「どうしたの?京ちゃん。」
「なんでもねぇよ。」
電気屋のことを詳しく知りすぎてて、悲しくなってました。なんていえるか!!


「はぁ~電子辞書って言ってもいっぱい種類があるんだねぇ。」
「まぁどれ選んでも大した違いはねぇだろ。」
と言ったもののどれを選んだらいいものか全くわからず、結局店員のお世話になったのは内緒だ。
時刻は2:45俺は真っ黒の電子辞書、麻奈美は俺と同じ機種の真っ白の電子辞書を購入し本日の予定はこれで終了だ。
一階へ降りる途中さっきまで俺たちがいた電子辞書のコーナーに桐乃がいたような気がしたが。・・・まぁ気のせいだろう、あいつがこんな小さな電気屋に来る訳もないしな。



「キ・・・・ア・・・・キィ!!」
店を出て数分歩いたところで誰かが俺を呼んだ気がした。
 振り向く
→振り向かない
気のせいだろうと俺は再び歩き出そうとした瞬間
「うぉっ!?」
俺は後ろから誰かに突き飛ばされた、慌てて後ろを振り向くと・・・
ドン!!!
脳まで響き渡る鈍い音が聞こえ、喉が一瞬にしてカラカラになる、俺は目の前で起こった出来事を全く理解することができなかった。
「桐…乃?」
小さな声でゆっくりと呼びかけた。
なんだ?どういうことだ?目の前で妹が桐乃が車に轢かれた?
「桐乃!!」
俺は倒れている桐乃へ再び声をかける今度は強く大きく。
返事は返ってこなかった……………




122VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)2011/03/29(火) 02:12:34.19uH4czZPg0 (4/8)

 
俺の妹が死んで一週間がたった。死因は交通事故、酔っ払い運転。
・・・そう・・わかっているのに実感が湧かない、「妹」が死んだという実感が。いや分かりたくないだけなのかもしれない。
親父、お袋、麻奈美、黒猫、沙織、あやせみんな口をそろえてこう言う。
「お前は悪くない…悪いのは犯人だ」
「アンタは悪くないわ…」
「京ちゃんはわるくないよっ!」
「先輩…貴方は悪くないわ自分を責めないで?」
「京介氏!京介氏は決して悪くございませぬどうか自分を責めないでください。」
「お兄さんはっ悪くないですから…」
なんでだ?俺があの時「振り向いて」いれば桐乃は…助かったのかもしれないのに。
俺がまた深い深い自己嫌悪に陥りそうになったとき
Prrrrrr prrrrr prrrrrr
電話が鳴った・・・
「誰だよ…」
俺は誰から繋ってきたのかも来たのかも確認せず電話に出た。
「「あっもしもしあやせ?たしか今日暇だったよね?」」
聞き間違えか?いや聞き間違えるわけがねぇ!
「桐乃...なのか?」
「「なんであんたが出てくんのよ!?」」
「っ!?なんつー馬鹿でかい声をだしやがる!?鼓膜が破れるかと思ったわ!」
「「うっさい!!あやせの携帯からなんであんたが出てくんのよっ!!」」
落ちつけ俺が今電話している相手は死んだはずの桐乃。・・・どうなってやがる?
「「早く答えなさいよっ!」」
「ちょっと待てこれは俺の携帯だぞ?」
俺は現状に戸惑いながらも真面目な声で言った。
「今から俺の質問に答えてくれ。」
「「な、なんなの?」」
「お前は今生きているのか?」
・・・なんつーアホな質問だこれっ!?
「「はぁ?何言ってのアンタ頭大丈夫?」」
うぐっ、さすがに今回ばかりは否定できねぇぜ。
「じゃあ今日は何日だ?」
「「チッ...いい加減にしてよね?」」
「いいから。何日だ?」
「「・・・・3月の20日だけどそれがなに?」」
「まじかよ。」
俺は思わずそうつぶやいていた。だって信じられるか?今日は27日だぜ?すなわちこの電話は過去から繋ってきたことになるんだぞ?そんなのアニメやマンガの話だろ?
・・・だけどこれは違う現実だ。
「「で?なんなの?どういうことなのか説明してくれる?」」
「桐乃、黙って俺の話を聞いてくれないか?バカなこと言ってると思うだろうが嘘じゃない。」
「「・・・・言ってみなさいよ。」」
「俺の今日の日付けは27日なんだ、・・・たぶんこの電話は過去から未来へと繋がっている。」
「「アンタ自分が何言ってんのかわかってんの?」」
桐乃から呆れたような声が聞こえてくる。いや実際に呆れてるのだろう。俺だって今自分で言ったことが信じきれてねぇ。だけど
「ああわかっている、嘘じゃねえ頼む信じてくれ。」
「「そんなの信じれるわけn「20日にオメェが死んじまったんだよ!!俺は今死んだはずの奴と今電話してんだよ!」
「「何・・言ってんの?え?アタシが死んだ?」」
「・・・・・・」
「「ちょっと?え?」」
「交通事故で…俺をかばって………」
気づくと俺は泣いて桐乃に頼んでいた。
「頼むっ!今日1日家から出ないでくれ、そしたら未来が今が変わるかもしれねぇ。俺はお前に死んでほしくなんかねぇんだよ!」
ブツッザザーー
電話が切れた-----



123VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)2011/03/29(火) 02:15:07.20uH4czZPg0 (5/8)


「「もしもし桐乃?」」
「えっあ、あやせ?」
「「どうしたの?桐乃?」」
「えっとあっとや、やっぱ後で話すね!」
「「え?あ、うん」」

・・・夢だったのだろうか?未来の兄貴に電話がつながって?アタシが死んで????
冷静になり兄貴の言ったことを考える…アタシの兄貴は冗談であんなことを言う人間ではないましてや泣きながらなど。
つまり「あの」兄貴の言ったことは本当のことなの?考えたところで答えが見つかるはずもなかった。
兄貴曰くアタシは兄貴をかばって死んだらしい、そこで一つの疑問が頭の中に浮かび上がってきた。じゃあアタシが兄貴をかばわなかったら?
最悪の結末を考えてしまいアタシはリビングを飛び出し兄貴たちが行った電気屋へ走っていった。時刻は1:45分


アタシの脚なら走って15分あればつくはずだった。
「なんでこんな時に限って信号が赤ばっかなのよ!?

運が悪いことに渡った信号はすべて赤、30分ほど遅れて時刻は2:30ようやく電気屋へとついた。
兄貴たちが何を買いに来たのか知らないアタシはまずは一階をしらみつぶしに探すことにしたが全くみつからない。この階にはいないのだろうか、アタシは二階を探すことにした。時刻は2:45
エスカレーターに乗っている時間が惜しい、アタシはエスカレーターを一気に駆け上がり目についた電子辞書のコーナーへと向かった。しかしここにも兄貴たちの姿はない、だんだん不安と焦りが募り口から弱音がこぼれていた。

「だめだみつからないよぉ」
アタシは頭をぶんぶんと振り、泣いてしまいそうになった自分を奮い立たせ、再び兄貴を探し始めた。

「あっあれ!」
二階の窓からふと外を見ると兄貴らしき人物が地味子らしき人物と歩いている、まちがいないアタシがあの二人とほかの誰かと見間違えるわけがない。
今まで何度も見てきたあの二人の後ろ姿・・・絶対・・絶対見間違えるわけがない。
アタシは店を飛び出し二人のもとへ急いだ。

「はぁ・・・はぁ・・はぁはぁっ・・」
やっと…おい…ついたっ…
アタシはカラカラになった喉を振り絞り大声で叫んだ。
「アニキ・・アニキィイィィイイ」




124VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)2011/03/29(火) 02:17:40.17uH4czZPg0 (6/8)


桐乃が・・・俺を呼んだ気がした。
→振り向く
振り向かない
っ!?なんだあの車!?こっちに突っ込んで来てやがる!?俺は考えるよりも先に桐乃のもとへ向かい桐乃を抱え、ハリウッドもびっくりな動きを繰り出し突っ込んできた車から回避することに成功した。
「大丈夫か桐乃!?」
「だいじょぶだよ・・あんたは?」
「ああ大丈夫だ。」

少し腰をひねったけどなっ!慣れないことはするもんじゃねーな・・・だけどもし俺が「振り向かなかった」ら考えただけでぞっとするな。
だがこれもそうとうな事故だろう。あ~あ電子辞書がつぶれてやがる。

「京ちゃん、桐乃ちゃんだいじょうぶ!?」
「ああ俺も桐乃も怪我はねぇよ。お前は大丈夫か?」
「うん、だいじょうぶ」


この交通事故はどうやら運転手の酔っ払い運転が原因だったらしい。翌日の新聞に小さいながらも記事が載っていた。

事故の日の夜俺は桐乃からこんな話を聞かされた。
「実はね・・・・・・」
まったくアニメやマンガじゃねぇんだからそんな話があるわけねぇだろ
……しかし俺には桐乃が嘘を言っているようには不思議と聞こえなかった。


~end~


125VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)2011/03/29(火) 02:22:58.67uH4czZPg0 (7/8)

以上です
あらためて見てみるとこれはひどいww



126VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/29(火) 03:16:01.32prjWRUmeo (1/2)

乙!
鬱かと思ったらそういうSFかww
面白かったよ

空行あけるところとあけないところ、とか、そういう決まり(統一感)を作ると読みやすくなると思う。
細かいこと言うと他にも色々あるけど、まとめWikiとか読んで、他の人の書き方を参考にするといいかも。


127VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/29(火) 03:20:41.5434+99KxDO (1/2)

乙だぜぃ。
ジュブナイルっつうの?
こういう要素を含んだSSって、俺妹じゃ見たことなかったから新鮮だったぜ。
最初の文を見たときは、「きょうちゃん、ついに一人語りが声に出るようになっちゃったのね……」って思ったがwwww

ただ、麻奈実の名前を間違えたのは、麻奈実好きの俺としては許せねえ!


128VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(茨城県)2011/03/29(火) 03:28:04.11uH4czZPg0 (8/8)

>>126
たしかにめちゃくちゃ読みずらいですねww
またあげる機会があれば気を付けたいです

>>127
すんません
確かに麻奈美ってなってますねww気が付きませんでした


129VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2011/03/29(火) 03:47:07.456GvTPAvAO (1/3)

乙。
俺妹で多世界解釈とは珍しい……って自分も書いてたな、前

願わくば桐乃を喪った>>122の京介にも何らかの救済があってほしいが。
電話はまた繋がったりしないんだろうか。
それはそれで切ないか…

脳内BGM:Karmaで



130VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/29(火) 03:56:59.85prjWRUmeo (2/2)

>>128
おせっかいかもしれないが、wikiの方で気になった点を手直ししてみた
http://www43.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/333.html

話は面白かったので、また次回作を期待してます!


131VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/29(火) 04:52:48.89Y77bPy9o0 (1/1)

世にも奇妙な物語 「過去からの電話」


132VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/29(火) 04:59:01.59NvdvRlpDO (1/1)

>>114
厨二デレに悶絶させていただきました
かわいすぎだろww


133VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(京都府)2011/03/29(火) 07:24:36.25rh0aeKD3o (1/1)

>>114

黒猫ちゃんマジ堕天聖

>>125



134VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/29(火) 07:45:19.05k/+kPwVT0 (1/2)

>>125
乙です
こういうのは『結局過去は変えられない』ってのが王道だけど、安心のエンドでよかった!
次作も期待してます!


135VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/29(火) 10:32:10.44uAneUb2IO (1/1)

>>125
乙!次回作も期待
それと通話中の相手のセリフは「「」」よりは『』のが読みやすいかも


136VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/03/29(火) 11:53:25.79RFPt7PBco (1/1)

>>125
最初桐乃の台詞が二重にカギ括弧で括られているので、桐乃の存在が多重化しているのかと思った……。
場面毎に、肉声は普通のカギ括弧、電話からの音声は二重カギ括弧の方が見易いかな。
あと、・・・は…(三点リーダ)に変換した方が良いかも。


137VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/29(火) 12:18:33.61d0RfmdU0o (2/8)

ちぃ、間に合わなかったか。
13話配信前に投下しようと思ったのだが……まあいい。
京介×桐乃の短編でござる。ただし、イチャイチャは無い。

以下、投下。


138 ◆lI.F30NTlM2011/03/29(火) 12:19:51.72d0RfmdU0o (3/8)

「は?親父が入院?」
『そうなのよ。まあ、検査入院なんだけどね』

昼休み。
満腹感と午前中の疲労が睡魔を呼び寄せるこの魔の時間、俺の安眠を妨害したのはお袋からの電話だった。
なんでも、この間の健康診断で肝機能関係に異常が見られた親父の検査入院に付き添うから、今日は帰りが遅くなるとのことだ。
ウチの親父は結構酒を飲む。毎晩の晩酌も、酔ったところを見たことが無いから意識していないが、飲酒量は多いのだ。
こう言っちゃなんだが、来るべき時が来た、って感じだな。
親父のことも心配だが、今一番の心配事は……。

「メシまでには帰ってくるの?」
『う~ん、多分無理ね。だから、適当に食べておいてくれる?お金はいつものところに置いてあるから』
「あいよ。親父によろしく言っておいてくれ」

通話を終え、ケータイをポケットに仕舞った俺は、再び昼寝の体勢に入った。
だが運の悪いことに、そこで昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。


ーーーーーーーーーーーー


「ただいま~」

いつもの丁字路で麻奈実と別れ、家に帰宅した俺を迎える者はいない。お袋は病院だしな。
リビングの扉を開けて中に入ると、すでに定位置となっているソファの上で、桐乃は寝そべりながら電話をしていた。
話し方から察するに、学校の友達が相手のようだ。つうか、いるなら「おかえり」くらい言えよ。別にいいけどよ。
桐乃の脇を通り過ぎ、俺は冷蔵庫に向かった。
いつもなら冷蔵室の扉を開けるだけだが、今日は野菜室の中身も確認する。
残念なことに、ろくな食材が入っていなかった。これはお袋が怠慢なわけではなく、逆に毎日マメに買い物をしているので買い溜めがあまり無いだけだ。
俺は一度自室に戻り、鞄を置いて服を着替えると、再度リビングに向かった。
お袋が買い物の時にいつも使っている財布を持ち、出かける準備をする……と、その前に。

「スーパー行ってくるけど、欲しいものあるか?」

いつの間にか電話を終えた桐乃に一声かけた。
桐乃はファッション誌を読んでいて、こちらを一瞥もしない。

「じゃあ、アイス。ダッツのいちごね」
「あいよ」

何も言ってこないところを見ると、こいつにもお袋からの連絡は行っているようだ。
出来合いの惣菜を買ってくると思ってるんだろうが、今日はちょっと違うんだぜ、桐乃。
俺は心の中でだけそう呟き、家を出た。


139 ◆lI.F30NTlM2011/03/29(火) 12:20:47.96d0RfmdU0o (4/8)

ーーーーーーーーーーーー


「さて、はじめますかね」

スーパーで食材と妹様ご所望のアイスを買ってきた俺は、アイス以外のものをキッチンに広げて独り言ちた。
手も洗い、エプロンも付けて準備万端だ。
ここで、俺が何をしようとしてるか、一応説明しておこう。ずばり「料理」だ。
……気のせいか、やたら心配そうな視線を感じるな。
言っておくが、俺だって料理くらいできるぞ。そりゃ毎日やってるお袋や、料理を趣味としている麻奈実には負けるけどな。
俗に言う「男の料理」というヤツだけどな。……オイ、だからそんな目で見るなっての……はぁ。

気を取り直して、まずはサラダからだ。
レタスの葉を6~7枚、食べやすい大きさに手で千切り、水にさらしておく。
水洗いしたトマトはヘタを落とし、少し大きめに切る。6等分くらいでいいかな。
皮を剥いた人参は薄く細長くスライス。胡瓜もスライサーで薄くスライス。
レタスの水を切り、切った野菜を深めのボウルに全部入れる。その上からコーンを適量。俺はコーンが好きなんで少し多めに。
野菜にごま油をかけて混ぜ、その上から塩を少々。最後に、もう一度軽く混ぜる。
レタスを一枚つまんでみた。うん、美味いな。ごま油の香りが良い感じだ。
出来上がったコイツは冷蔵庫に入れておく。

次は味噌汁。今日の具は玉葱にするか。
皮を剥いた玉葱を丸ごとラップに包み、レンジで30秒ほど温める。これは、玉葱を煮込む時間を短縮するためだ。
温めた玉葱を半分に切り、そこからざく切りに。

……と、そこでリビングの扉が開いた。今、この家にいるのは俺以外に一人しかいない。

「アンタ、なにしてんの?」

もちろん桐乃だ。ここで桐乃以外のヤツが出てきたらめちゃめちゃ驚くけどな。
それにしても……「なにしてんの?」は無えだろう。キッチンに立って包丁を使ってたら、誰が見てもわかると思うんだがな。

「見りゃわかるだろ」
「……刃物を扱う練習?」
「間違っちゃいないけど、絶対ブラックな意味合いを込めて言ってるよね、それ!?」

まったく、失礼な野郎だぜ。女の子だけどよ。
あやせじゃねえんだから、んなワケあるか。おっと、こういう時にあやせを引き合いに出すのは良くねえな。
見た目だけなら天使だし、もしバレたら何されるかわかったもんじゃねえ。ふぅ~、くわばらくわばら。

「料理だよ、料理。晩飯作ってんだ」
「はぁ?アンタ、料理なんて出来んの?」
「簡単なモンならな」

失礼な桐乃はほっといて、さっさと作っちまおう。
鍋に水を入れて、火にかける。沸騰する前に微粒タイプのだしの素と味噌を用意。
水が沸騰したら、だしの素を適量。さっき切った玉葱を入れて、しばらく煮込む。頃合いを見て、味噌をゆっくり溶かしていって……、

「あんた、マジで本物?なんか妙に手慣れてるんですケド……」
「うっせーなぁ。味噌汁くらい、小学生でも作れるだろうが」
「頭を引っ張ったら皮が剥がれて別の顔が、なんてこと無いよね?」
「そんなに心配なら銭形のとっつぁんを呼んでこい」

ったく、本当に失礼だな。料理作ってるだけでルパン扱いしやがって……。あれ?ルパンって料理上手な設定ってあったか?
まあいい。そいつは重要じゃねえからな、今は。俺は味噌を溶かしながら、桐乃の顔を見ずに質問した。

「お前、俺が作ったメシは食いたくねえの?」
「当たり前じゃん。あんたの作った料理なんて、どんな暗黒物質が出てくるかわかったもんじゃないし」
「へーへー、さいですか」

そりゃ、今まで俺がキッチンに立った光景なんて見たことないだろうからな。そう言ってくる気持ちもわからんでもない。
でもさ、もう少しオブラートに包んで言ってもよくね?激しく傷付いたわ。
食いたくないんなら好きにすればいいさ。桐乃のことなんざ無視無視。
味噌を溶かし終え、フタを閉めて弱火でしばらく煮込む。その間に、桐乃は冷蔵庫を開けて飲み物を持ち、リビングから出ていった。


140 ◆lI.F30NTlM2011/03/29(火) 12:21:14.26d0RfmdU0o (5/8)

最後はメインだな。
軽く洗った茄子のヘタ部分と下のでっぱりを切り落とし、縦に半分に切る。そこから包丁を斜めにして細かく切った。厚さは6~7mmくらいか。
切った茄子はざるに入れ、しばらく水にさらす。
豚バラ肉を食べやすい大きさに切り、軽く湯にくぐらせる。余分な脂を落とすのと、調理時間短縮のためだ。
熱したフライパンにサラダ脂を少量入れ、豚肉を少し焦げ目が付くぐらいまで炒める。
そこに切った茄子を投入、少しくたっとなるくらいまで炒める。
その後、あらかじめ湯で溶かしといた味噌と少量の酒を入れて、具材とよく混ぜ合わせながらしばらく炒める。
……さっきから炒めてばかりだが、こうするんだからしょうがない。
味噌とよく絡まったら、塩・コショウで味を調える。ここは好みが別れるところだが、俺は薄味が好きなのであまり入れない。
最後に、香り付けのために醤油を数滴垂らして……と。あとは弱火でしばらく放置。味噌が焦げ付かないように注意な。


コンロの火を止め、エプロンを外す。時計を見ると、時間は6:50。いつもならまだメシの時間じゃない。ま、今日は二人だけだし、律儀に守ることもないだろう。
豚肉とナスの味噌炒めを皿に移し、サラダと一緒にテーブルに乗せて、俺はリビングを出た。
階段を上がり、桐乃の部屋の前まで移動して、ドアをノックする。

「メシ出来たぞー」

返事が無いが、まあいい。
俺は溜息を吐いて、その場を去った。


141 ◆lI.F30NTlM2011/03/29(火) 12:21:44.91d0RfmdU0o (6/8)

ーーーーーーーーーーーー


自分用のご飯と味噌汁をテーブルに置き、さあ食べるかと思ったところでリビングの扉が開いた。
桐乃はこちらを一瞥すると、すぐにそっぽを向いてしまった。何がしたいんだ?

「お前も食うか?」
「……うん」

桐乃はしばらく黙っていたが、頬を赤らめながらこちらを見て、小さな声でそう言った。
俺は席を立ち、桐乃の分のご飯と味噌汁を用意する。
いつもの位置に座り、二人揃って箸を持つ。

「「いただきます」」

俺はまず味噌汁に手を掛けた。
だしの味もしっかりしてるし、玉葱もいい感じにクタクタだ。俺一人だけなら、玉葱をごま油で軽く炒めてから味噌汁に入れるんだけどな。
ただ、そうすると香ばしさは出るんだが、油分が多くなる。天下の読者モデル様がいるんだから、油の多用は控えた方がいいだろう。
桐乃も味噌汁を飲んでいた。汁を飲み、玉葱を食べる。よく見てないとわからないレベルだが、どうやら少し驚いているようだ。

「どうだ?」
「へ?」
「美味いか、って聞いてるんだよ」
「え……あ、えと……。ま、まあ!悪くないじゃん!」

桐乃は頬赤らめながら、感想を述べた。褒め言葉として受け取っておこう。

次はサラダだな。ボウルから好みの量を小皿に移し変え、そのまま野菜をつまむ。
野菜の歯応えが心地よく、塩で味は調っており、ごま油の香りが鼻を抜ける。うん、我ながらいい出来だ。
桐乃はそれを見て、俺と同じように食べ始めた。口に入れて数秒後、今度はわかりやすい表情で驚きを示した。

「これ、何のドレッシング?」
「いや、ドレッシングは使ってねえよ。ごま油と塩だけだ」
「へぇ~」

油を使っているので、これはダメ出しされるかと思ったが……どうやら妹様もお気に召したようだ。

最後はメインのアイツ、豚肉とナスの味噌炒めだ。
これも小皿に移し変えて食べる。う~ん、もうちょっとコショウが利いてても良かったかもな。これはこれで美味いんだけど。
さて、桐乃の反応は……?
おし、表情を見る限りでは悪くないな。

「これ、味噌使ってるよね?」
「おう」
「味噌汁もあるのに味噌使うとか、ネタ被りもいいトコなんですケド」
「うっ……」

ご、ごもっともです……。
自分の好きなモンを作ったから考えてなかったが、言われてみれば確かにそうだな。
はぁ、次からは気をつけよう。次がいつになるかはわからないけどな。
俺が桐乃に凹まされていると、リビングの扉が開き、見知った姿が現れた。


142 ◆lI.F30NTlM2011/03/29(火) 12:22:12.67d0RfmdU0o (7/8)

「ただいま~」
「あれ?お母さん、もう帰ってこれたの?」
「ええ。お父さんに、『俺はいいから、早く帰りなさい』って言われちゃってねぇ~。まあ、動けないわけじゃないんだし、後は看護師さんに任せてきたわ」

スーパーの袋を提げて帰ってきたお袋は、少し呆れた感じでそう言った。
親父も、いきなりのことで俺たちを心配して言ったのかね。今は自分の心配しとけっての。
買ってきたものを冷蔵庫に入れようと動き出した……ところで、お袋はテーブルの料理に気付いたようだ。

「あら、晩御飯作ったのね」

そう言って、サラダをひとつまみ。お袋、行儀が悪いぞ。

「へぇ、なかなか美味しいじゃない。今度から桐乃に作ってもらおうかしら」
「え?あ、あの……それは……」
「何言ってんだよ。それ作ったの、俺だぞ?」
「え!?」

俺の言葉を聞いたお袋は、それはもうわかりやすすぎるくらい驚いてくれた。桐乃といい、ウチの女どもは失礼なのばっかだな。

「あんた、料理なんて出来たの?」
「多少はな。サラダくらい、別に難しくないだろ」
「へぇ~。じゃあ、こっちの炒め物は桐乃が作ったんだ?」
「それも俺だ」
「え!?」

お袋、わかりやすいリアクションをありがとう。だが、そろそろ控えてくれると嬉しい。
地味に傷付くからね、それ。

「じゃ、じゃあ!味噌汁ね!味噌汁は桐乃が作ったのよね!!」
「え……と……」
「それも俺」
「…………」

へんじがない。ただのおふくろのようだ。
しばらく呆然としていたお袋だが、意識が回復した途端、こう言いやがった。

「あんた、本当に京介?」
「親娘揃って失礼だな!?」

もうヤダこの家!田村さん家の子になりたい……。


ーーーーーーーーーーーー


それから二日が経ち、親父は家に帰ってきた。
とりあえず大丈夫なようだが、医者からは酒を控えるように言われたらしい。へへっ、ざまぁみやがれ。お大事にな。
お袋も入院初日しか病院には行かず、その後俺がキッチンに立つことはなかった。
家族四人で過ごす、いままでとなんら変わらない日常がまた訪れ、高坂家は至って平穏である。

ただ、一つだけ変わったことがある。
俺が晩飯を作った次の日から、桐乃がキッチンに立ってお袋を手伝い始めたことだ。
どういう心境の変化だろうね。
そんな桐乃に俺が苦しめられる事件が起こるわけだが、それはまた別の話だ。


おわり


143 ◆lI.F30NTlM2011/03/29(火) 12:23:38.83d0RfmdU0o (8/8)

以上。

黒猫さんの弁当話に触発されて書いた。反省はしていない。
今後はこのトリ付きで投下するっす。さあ、13話見よっと。

ありがとうございました。


144VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/29(火) 13:49:26.47VaS1x3SSO (2/2)


料理の出来る男子はカッコイイぜ


145VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/03/29(火) 14:58:24.42sOXPFpWs0 (1/1)


母親が知らないってことは田村さん家で覚えたとか?


146VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/29(火) 15:32:22.06sg13NJs9o (1/1)

おつ。ごま油+塩って美味いよな

原作ではかわいいと思えなかった瀬菜がアニメだとかわいいだと……
いったいどういうことだ


147VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/29(火) 18:49:22.94k/+kPwVT0 (2/2)

乙です
京介さんにこんな才能があったなんて…
見てたら腹が減ってきたので飯食ってくる


148VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2011/03/29(火) 21:58:03.806GvTPAvAO (2/3)

>>143

出来るオトコ京介△

全く同じく、弁当エピに刺激を受けて
「でもそのままじゃなぁ…いっそ京介が料理する側の話でも」
と思ったら完全に被っていて吹いた。失礼。

調理ネタは読後感がいいし、いっそ1つの企画みたいに広まると面白いかもしれんね


それはさておき。
122のその後がどうしても気になって朝から何度も空想に耽っていたものの、
一時期の韓流ドラマもかくやって悲壮な展開しか思い浮かばない件について

パンドラの箱に最後に残されたのは果たして希望なのか?的な重苦しい話が膨らみんぐ

いや、勝手言ってゴメンね>>125


149VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/29(火) 22:30:46.83j6M4zgJw0 (1/2)

>>148
書いてみた>>122の続き

prrrrrr・・・・・・
「はいもしもし?」
『あんたちょっとありえなくない!?』
「なんだよ、また俺が何かやったのか?」
『それ以外にアンタに電話かける理由なんて無いでしょ!』
「そんな寂しいこと言うなよ」
『うわ、シスコン!キモ!』
「ほっとけ、それで今回はなんなんだ?」
・・・・・・・・・・

今、俺が電話している相手は3ヶ月前に死んだ妹の桐乃だ。
俺がちょっとあいつのことを無視してしまったばかりに交通事故で亡くなってしまった。

それから七日後、俺の携帯に電話がかかってきた――相手は一週間前の桐乃。
何のいたずらか俺の携帯は過去と―いや、パラレルワールドと繋がるようになってしまった。
この世界の桐乃は死んでしまったけれど、電話の向こうの世界の桐乃は無事らしい。

それ以来何度も電話で妹と話をしている。
一度は妹を失ってしまった俺は、もう二度と離すまいと硬く決心したのだ。

まあ、電話の内容はほとんどが“あっちの俺”の愚痴なんだけどな?
しかしこうやって客観的に話を聞かされると俺って相当鈍いんだな~と実感する。
桐乃の気持ちになんでこうなるまで気付いてやれなかったんだろう?


「心配すんな、お前の事嫌ったりしてねーって」
『ほんとに?』
「本当さ、“俺”が言うんだから間違いない」

同じ世界の兄貴じゃないからか“俺”に対しては桐乃はけっこう素直だ。
その為か俺も素直になれる、もっと早くこうなれれば良かったのに・・・

「まあ、頑張れ」
『・・・うん、頑張る』

電話を切って一人ふと思案にふける。
俺がもっと早く気付いてやれれば・・・・・

「どうなんだろうな?」

もう一度携帯に手を伸ばす――
押した番号は、よく知っているのに、全くかけない番号だ――


「出てくれよ、“俺”!」

                    fin


150VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2011/03/29(火) 22:56:22.406GvTPAvAO (3/3)

なんという俺得
今ちょっとリアル涙出た。ありがたや……

だよなー、この設定なら京介同士の対話になるのは必然の流れ!

にわかにシスコン度を増した京介(lost)が電話バレして周りから失調・乱心を哀れまれる、まで幻視した。



151VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/29(火) 23:11:29.52hFWvvKnSO (1/1)

>>149
>>122の人?


152VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/29(火) 23:15:11.87j6M4zgJw0 (2/2)

>>151
いや全然別の人です
>>122さん、勝手に続き書いてごめんなさい


153VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/29(火) 23:46:40.3834+99KxDO (2/2)

沙織が可愛かったんで、13話はいい回です


154VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/03/30(水) 00:17:06.87ycJEhX4Oo (1/1)

面白いから続き書いて欲しい


155VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/30(水) 00:37:30.62LnY8xOLDO (1/3)

これ、続くとしてもどういう展開になるんだろ。
貧困な発想しか出来ない俺には、シュタゲ的な展開しか思い付かない。


156VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/30(水) 00:55:29.61fIBlJi1Vo (1/2)

他人のに勝手に書き足すのはマジでやめよう
ということで、元の作者の次回作に期待


157VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/03/30(水) 01:59:04.43sOBH+6s3o (1/1)

続きじゃなくて勝手にIF書いてみた、でいいんじゃなかろうか
あくまで最初の作者のものはちゃんと独自に展開するものとして
面倒だけどそういうのの可否も最初に書いとくとかすれば色々広がるかも知れない


1581222011/03/30(水) 02:36:00.81F1oaDrQW0 (1/4)

>>152
自分が書いたやつより、おもしろすぎて少し悔しいww
俺が言うのもなんだけど続き書いてほしい



159VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/30(水) 02:53:31.89LnY8xOLDO (2/3)

原案:>>122
著作:>>149

という流れ?


160VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/30(水) 02:55:43.962BmaPh3+o (1/11)

アイデア拝借の流れは以前もあったし原案者がおk出せばいいでしょ


161VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/30(水) 02:59:16.21fIBlJi1Vo (2/2)

OK出た後ならもちろんいいと思うよ
あくまで「勝手に」書くのはやめよってことで。嫌がる人もいるからね。


1621222011/03/30(水) 03:03:55.05F1oaDrQW0 (2/4)

>>159
>>149が続きを書いてくれるなら余裕でおkっす


163VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/30(水) 03:16:36.18LnY8xOLDO (3/3)

原案者様からお許しが出たけど、>>149がこの流れ見たら焦るな、きっとwwww


164VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/03/30(水) 03:20:08.49JNS3jnKAO (1/2)

13話配信で瀬菜ちゃんSS増える予感


1651222011/03/30(水) 03:20:09.85F1oaDrQW0 (3/4)

>>163
続きを書かざるを得ない流れになるとは思わなかっただろうなwwww


166 ◆5yGS6snSLSFg2011/03/30(水) 04:45:53.502BmaPh3+o (2/11)

こんな夜更けだけど投下させてもらおうかな

注意
プラモ成分が濃いです。プラモに全く興味がない人は全部読むのは少々面倒臭いかも知れません
一応、始め二つ+最後二つの部分だけ読んでも意味は繋がりますので、興味がない方も読んでって頂けると嬉しいです
ちなみに、プラモに関して偉そうに講釈たれてますが、自身の腕前は素人に毛が生えた程度なので「おい、そこはそうじゃねえよ」という突っ込みは大歓迎です

では、以下投下



167 ◆5yGS6snSLSFg2011/03/30(水) 04:46:43.112BmaPh3+o (3/11)

「みなさま方、先日連絡しておいたブツは用意していただけましたかな」
「おう、当然だ」
「あの時、あんだけ言われて引き下がれるわけないっしょ。あたしの本気見せてあげるから」
「ふっ、あれは自業自得でしょう。プラモをデコるなんて……流石ビッチの発想は違うわ」
「なんですって!」
「なによ」
「お~い。そこらへんでやめとけ」

とある休日の午後。俺たちはいつもの四人で俺の部屋に集まっていた。
この面子なら本来桐乃の部屋に集まるのが妥当な所なのだが、今回は違った。桐乃の「なんか部屋汚れそうだから嫌だ」の一言で俺の部屋に集まることになったのだ。
そう。俺たちはこれから沙織の指導の下、ガンプラの製作にチャレンジするのだ。
桐乃に関しては“再”チャレンジだがな。これは、以前桐乃がプレゼント用のガンプラをこれでもかとデコった挙句、パーツを余らせるという失態を演じたことがあるためだ。



沙織のガンプラ講座①
~~好きなキットを選ぼう~~

「では早速、各々が用意したブツを見せていただきとうござる」
「俺はこれな」
「おお、HG(ハイグレード)1/144マスラオですな! 以前頂いたスサノオといい、京介氏はどうやらその系統の機体がお気に入りのようで」
「いやあ……やっぱかっこいいよな、これ」
「続いて黒猫氏は――」
「私はこれよ」

黒猫が背後に置いてあった箱をドンと、自らの面前に置く。
さっきから思っていたが、改めて見るとやっぱりでけえ。箱の大きさだけで言えば、俺のやつの倍くらいあるんじゃないの、それ。

「これは……MG(マスターグレード)1/100デスサイズヘルカスタムでござるな。最新技術が用いられたいいキットです。それにしても……しょっぱなからMGとはまた豪儀な」
「あら、いけなかったかしら」
「いえいえ、そんなことはありませんぞ。MGはHGに比べパーツ数こそ多いですが、素のままでも非常に完成度が高いので初心者の方にも意外とおススメなのでござる」

黒猫が選んだガンプラは、その名の通りでかい鎌を持った、死神を連想させるガンダムのプラモだった。
だが……なるほどね。MGとやらはでかくて複雑でとても初心者には向いてないと思っていたが、そういう解釈もあるわけか。

「でも作るのはやっぱり大変なんだろ?」
「ええまあ、それなりには。ですがその分完成した時の喜びもひとしおでござるよ」

腕を組み、上を見上げしみじみと語る沙織。きっと彼女の脳内ではガンプラを完成させたときの感動が思い起こされていることだろう。

「トリはあたし! これを見よ!」

沙織の感動をぶった切って意気揚々とブツを取り出す桐乃。



168 ◆5yGS6snSLSFg2011/03/30(水) 04:47:50.162BmaPh3+o (4/11)

ででん! という効果音がこれ以上に似合う場面もそうそうあるまい。
桐乃が取り出したそれは黒猫の物よりさらにでかい――1.5倍くらいある代物だった。

「そ、それはっ!」

沙織は一瞬驚愕の表情を見せ、そしてどんどんと青ざめていく。
なんだ? そんなにやばい代物なのか? あれ。

「き、きりりん氏……よりにもよってそいつを選んでしまうとは」
「え……な、なんか駄目だった?」

沙織の異常なリアクションに選んだ桐乃自身も戸惑ってしまっている。

「MG1/100 Ex-Sガンダム。……初心者に最もおススメしてはいけないガンプラの一つでござる」
「あなた、さっきは『MGも実はおススメ』みたいなことを言っていたじゃない」
「そうではないのです……そうではないのですよ黒猫氏。こいつに関しては別なのでござる」
「というと?」

沙織の発言に対し、横から質問を入れる。俺だって、沙織の言葉の意味は気になるからな。
まあ、こいつはそんなことしなくてもきっと説明してくれるだろうが。

「圧倒的なパーツの多さ――これに尽きるでござる」
「……そ、そんなすごいの?」

桐乃が冷や汗を張り付けて沙織に尋ねる。若干、口元が引きつっているのが確認できた。
そりゃ、あんな大げさなリアクション取られたら誰だって心配になるよな。

「パーツ数でいえば、普通のMGの倍くらいあるでござる」
「あれ? そんだけ?」

素っ頓狂な声をあげる俺。
なんだ、あんな驚き方するからもっとすごいのかと思ったぜ。
これなら案外なんとかなるんじゃないの?

「京介氏、Ex-Sを甘く見てはいけません。熟練の者ほど箱を開けた瞬間、絶望のあまりそのままそっと箱を閉じてしまいたくなるほどのキットなのです。実際、拙者もこれを完成させるのに半年かかったでござる」
「「「半年!?」」」

沙織以外の、俺たち3人の声がハモる。
沙織ほどの奴が半年!? ……ごくり。いったいどんな中身してるんだあの箱の中は……。

「まあ、拙者の場合はぐだぐだしながらの上に塗装も行ったものですから。ただ組み上げるだけならもっと早く済むでしょう」
「そ、そうだとしてもとんでもねえな」

こりゃあ相当の覚悟をしねえと駄目みたいだぞ、桐乃。頑張れよ。

「……HGにしといてよかったぜ」



169 ◆5yGS6snSLSFg2011/03/30(水) 04:49:16.082BmaPh3+o (5/11)

沙織のガンプラ講座②
~~必要な道具を揃えよう~~

「まずは、必要な道具の確認でござる。ぶっちゃけ爪切りさえあればそれで作れちゃうのですが、今回はもうちょっと踏み込んでみましょう」

え……爪切りで作れちゃうの? なんか思ってたよりも敷居低いんだな。

「今回は拙者が用意した道具を使って下され」
「ありがとう。悪いな、沙織」
「お気になさらず。たくさん余っていますから」

自分の鞄をごそごそと漁り、いくつかの道具を並べだす沙織。
さりげなくスルーしかけたけど、道具が余ってるってどういう状況なんだろう。不思議だ。

「これがニッパー。パーツの切り出しはこれで。――続いてヤスリ。ゲート処理はこれを使います。ゲート処理については後程説明するでござる。以上が今回使用する道具となります」
「あれ? ヤスリなんて使うの?」

桐乃がきょとんとした顔で沙織に尋ねる。

「ええ。ほんのちょっとの工夫で見栄えががらりと変わるのですよ」

そう言ってにやりと不敵に笑う沙織。
彼女とすれば今この瞬間が楽しくて仕方がないのだろう。まるでメルルやエロゲによってオタクのスイッチが入った桐乃状態だ。
うちの妹や、黒猫に限らずオタクってのは自分のフィールドだと異常にハイになるらしい。
まあ、沙織に関しては普段から、なんというかヘブン状態なのでテンションの上下がわかりづらいんだけどさ。



170 ◆5yGS6snSLSFg2011/03/30(水) 04:49:59.822BmaPh3+o (6/11)

沙織のガンプラ講座③
~~実際に組み立ててみよう~~

「まずは説明書を隅から隅まで見てニヤニヤしましょう」

沙織先生の教えに従い、説明書を黙々と読みふける俺たち。

「……」
「…………」
「……これ、本当に必要なのかしら。甚だ疑問だわ」
「ふっふっふ、プロは作る前にこうやってモチべを高めるのですよ黒猫氏」

おまえは一体なんのプロだ、なんの。

「それでは実際に製作に入りましょう! まずはニッパーを使ってのパーツの切り出しでござる。この際、一つ注意事項が」
「お、講座っぽくなってきたな」
「ふふん、それほどではござらん。で、その注意事項でござるが、部品とランナーの繋がる部分――ここを少し残して切り取ることでござる」
「え~、めんどくさくない?」
「これをしないとパーツに変な力がかかって変色してしまう場合があるのですよ」

意外とデリケートなんだな。
誰かと同じで手間のかかるやつだ。

「……」
「…………」
「………………こんな感じか?」

説明書に書かれた番号に従って部品を切り出す。

「この少し残した部分はどうするのかしら」
「よくぞ聞いてくれました黒猫氏! それをどうにかするのがゲート処理と呼ばれる作業なのです!」
「ああ、これをさっきのヤスリで削るのか」
「ご明察でござる、ワトソン君」
「誰がワトソン君だ、誰が」

慎重にヤスリをかけ、切断面を目立たなくさせる。思った以上の手間だ。
ちらり、と桐乃の方を見やる。あいつは、この作業を、あの山のようにあるパーツ一つ一つに対して行わなければならないんだろう?
……地獄だな。

「あれ? 削った後が白くなって、思ったより目立つんだけど?」

ヤスリをかけ終わったパーツを見て少し驚いてしまった。俺、どこかでミスったかな。

「ご心配には及びませんぞ京介氏。それでいいのでござる」
「そうなのか?」
「ええ、最後にトップコートなる魔法のスプレーを吹きかけるとたちまち目立たなくなりますから」
「そんな便利なものがあるなら最初から使えばいいのではなくて?」
「実はこれは“細かい傷”しか隠せないのでござる。だから、切断面のような“大きな傷”はヤスリで削って細かい傷へと変えなくてはいけないのでござるよ」

へー。何事もそうそう上手い話はないってことか。

「実は“最初から余裕を残さずに切り取って切断面を爪でこすってやる”という裏技もあるのでござる。そちらでも切断面は結構目立たなくなるので、もしめんどくさくなったらこっちをおススメします」
「ちょっと、そんないい裏技あるなら最初っからそっち教えてよね」

教えてもらう立場にありながら、沙織に文句を垂れる桐乃。
まあ、自分がこれから進む苦行の道を考えたらそんな愚痴がでるのも当然だろうな。

「で、こうやって切り出したパーツを組み上げればいいんだな」
「はい。向きや組み込む順番に注意しなければならないパーツもありますからそれに気を付けてくだされ」
「あいよ」

切り出した複数のパーツを、パチリパチリと組み合わせていく。

「……げっ!?」
「きりりん氏、どうされました?」
「……これ挟み忘れた」
「ポリキャップのハメ忘れでござるな。なんというあるある。大丈夫、そんなときはパーツの隙間にカッターの刃なりを滑り込ませてぐりぐりとしてやれば――」
「あっ、外れた」
「このように割と簡単に外れますので慌てなくても大丈夫でござるよ」



171 ◆5yGS6snSLSFg2011/03/30(水) 04:50:45.702BmaPh3+o (7/11)

沙織のガンプラ講座④
~~最後の仕上げ・墨入れ。そしてトップコートへ~~

「できたー!」
「おお、京介氏は完成したようですな」
「おう。いやあ、これだけ作るのにえらい手間がかかっちまったぜ」
「いやいや、十分早い方ですよ。胸を張っていいでござる」
「そ、そうか?」 

へへ、そう言われると悪い気はしないな。

「……キモッ。デレデレすんなっての」
「沙織の本性を知った途端これだもの。嫌になるわね」
「だいたい、あんたのが一番簡単なんだから早く出来て当たり前じゃん」
「ぐっ……」

相変わらず言いたい放題言ってくれやがる。
だが、俺のが一番簡単なのは事実だから言い返せもしねえ。ちくしょう。

「まあまあ。プラモは早く作ればいいってものでもござらん。重要なのはいかに丁寧に作るかでござるよ」

この程度の仲裁は朝飯前と言わんばかりにするりと会話に入ってくる沙織。
この辺の上手さは、ほんと尊敬に値するよ。

「京介氏の物が完成したことですし、ここらで最後の仕上げについて説明しておこうと思いますがよろしいですか?」
「ああ、そうしてくれ。いいよな? 桐乃も黒猫も」

黒猫はともかく、桐乃は絶対に今日中には終わらねえもんな。
それならば、今のうちに最後の仕上げとやらについて説明してもらった方がいいだろう。
俺の言葉に対して無言で頷く二人。
いつもなら勝手に決めるなだのの文句が飛んできてもいいのだが、ゲート処理作業の繰り返しに桐乃も黒猫もどうやら精神的にキているらしい。眼がトロンとしてやがる。
この中断も休憩代わりとしてはちょうどいいだろう。

「墨入れとは、プラモに彫られた“溝”に沿って線を入れる作業でござる」
「ふーん。どんな効果があんの? それ」

疲労のせいか、桐乃の質問も心なしか投げやりだ。

「百聞は一見に如かずでござる。ここに取り出したるは二つの同じパーツ。このパーツの溝に沿ってこの墨入れペンをなぞらせて――そして後から拭き取ってやればあら不思議!」
「お、なんかシャキッとした感じになったな」

陰影のような黒い線が見えることによって、のっぺりとした質感から、より立体的に見えるようになっている。
例えるならこんな感じか。
(´・ω・`)ショボーン → (`・ω・´) シャキーン

……いや、我ながらこれはないな。忘れてくれ。

「その通り。まあ、墨入れの方法は一つではありませんので、試行錯誤して自分に合ったやり方を見つけるのがいいでござろう。ちなみに、この墨入れペンを用いたやり方は最も簡単な方法の一つですな」
「これが終わったら完成か?」
「それでも構いませんが、今回はトップコートを吹いてみましょう」
「ああ、さっき言っていた傷が隠れてくれる――というやつね」
「ええ。傷隠しというと語弊がありますが、この際その認識でも構いません。――今回は無難に缶スプレーの半つやでいこうと思います」

また知らない単語が出てきたな。半つや?

「半つやはつや有りとつや消しの中間にあたるものです。つや有りは文字通りつやつや、つや消しはマットな質感に仕上がるのでござるよ」
「へえ」
「ここでもまた注意事項が一つ。決して雨などの湿気が多い日に吹かないこと!」
「吹くとどうなるの?」
「真っ白くなってしまうのでござる! 所謂“かぶる”という状況に陥るのですよ。……丹精込めて作ったプラモの仕上げでこうなって心を折られたモデラーが何人いることか」

両掌を上に向け、「おおお」と狼狽する沙織。
やっと完成したプラモ。トップコートを吹き、わくわくしながら乾燥を待つ。
そして――
なんということでしょう。匠の悪戯心で丹精込めて作ったプラモが真っ白に。

「悲劇ね」
「まったくだ」



172 ◆5yGS6snSLSFg2011/03/30(水) 04:51:57.912BmaPh3+o (8/11)

沙織のガンプラ講座おまけ
~~プラモを楽しく作るコツ~~

「実はこれが一番大事なことなのですよ」
「だからそんなのあるなら初めから言っといてってば!」

もはや桐乃は投げやりを通り越してご立腹だ。
元はと言えばおまえがそんなごついプラモ買ってきたのが悪いんだろうが。
とはいえ、俺も気になるな。聞かせてもらおうか、そのコツとやらを。

「それはプラモ製作のモチベーションを維持し続けることです。疲れたらさっさと中断する! 気が載らない日は作らない! これに限ります」
「それ、なんかすごいだらしなくねえ?」

もはや、怠けたいがための言い訳にしか聞こえねえよ。

「はははは、プラモ製作者の大半はこんなものですよ。最初は違ってもその内こうなるでござる。趣味が苦行になっては元も子もありませんからな」

そう言って、いつものようにからからと快活に笑う沙織。
なるほど、そりゃそうだ。苦行を趣味にして喜ぶのは重度のマゾくらいなもんだろ。

「まあ、モチべを維持する方法は他にもなくはないでござる。これは人によって違うのですが……その機体が出て来るアニメを見ながら、あるいは好きな音楽を聴きながら――要は好きなことをしながらその片手間に作るのでござる」
「片手間って……初心者には無理だろ」
「そうでもありません。要はだらだらと、根を詰めずに作ればよいのです。深く考えたら負けでござる」
「そんなもんかね」
「そんなもんでござる」

ま、沙織がそういうならそうなんだろ。

「……好きなことか」
「ん? どうした桐乃」
「な、なんでもないっ!」
「?」



173 ◆5yGS6snSLSFg2011/03/30(水) 04:53:24.332BmaPh3+o (9/11)

――――――――――――――――――――――――――――――

「ごちそうさま」

夕食を終え、自室に戻る。
沙織達はすでに帰宅し、我が家もすっかりいつもの静けさを取り戻している。
結局、時間までに組み終えたのは俺一人で残りは各自の宿題となった。

「桐乃のやつ……あれ、終わんのか?」

ベッドに横になり、なんとはなしに壁越しに桐乃の部屋を見やる。

「ま、俺には関係ないか。精々頑張れよ」

と、独りごちた瞬間。
バン! と、俺の部屋のドアが勢いよく開かれた。一体何事かと目を丸くした俺が見たのは、とても不機嫌そうな妹様だった。
そのままズンズンと俺の室内に進入した桐乃は俺のベッドの隣でその歩みを止めた。

「お、おい、ノックぐらいしろって。いったいどうしたんだよ」

尋ねるが、桐乃は一向に口を開こうとしない。
その口はへの字になっていて、機嫌が悪いことを如実に語っていた。
だが、これは怒りからくる機嫌の悪さではない。なぜか、直感的にそう思えた。
拗ねている――いや、違うか。上手く表現できないが、ともかく違うんだ。こいつは怒ってるんじゃない。

「どうしたんだ?」

今度はなるべく優しく、諭すような口調で尋ねてやる。
こいつは昔からこういう言い方をしてやれば素直に口を開くのだ。

「……手伝って」
「あん?」
「手伝ってって言ってんの! プラモ!」
「俺がか!?」
「あんた以外に誰がいるってのよ!」

お、俺にあの苦行の道をともに歩めと――そうおっしゃるのですか?
ぐぬぬ、なんという展開。

「い、いやいや、落ち着け。なんで俺が手伝わなくちゃならんのだ。沙織だってだらだら作ればいいって言ってたじゃねえか」
「それじゃあ黒いのに先超されちゃうじゃん」

おおう、なんてこった。
どうやら桐乃はこんなところでも黒猫と張り合っているらしかった。
おまえらが仲がいいのはわかったから、俺を全力で振り回すのは止めてくれないかな?
とはいえ、かわいい妹様の頼みを断れるはずもなく。

「カリビア――」
「謹んでお受けさせて頂きます」



174 ◆5yGS6snSLSFg2011/03/30(水) 04:53:57.362BmaPh3+o (10/11)

――――――――――――――――――――――――――――――

「ただいま」
「いやー、あれから手が進んで進んでたった二日で完成させちゃった。あたしってほんと何やらせてもすごいよね~」

俺が学校から帰ると、桐乃はいつものようにリビングのソファで誰かと電話をしていた。

「沙織の言った通りだった。モチべ維持できるとすごい楽しいんだって」

どうやら電話の相手は黒猫か沙織のどちらかみたいだな。
そのまま冷蔵庫へと歩を進め、麦茶を取り出す。

「えっ? モチべ維持の方法? あははは、あんたに教えるわけないじゃ~ん」

この相手を小馬鹿にするような話し方……電話相手は黒猫の方だったか。

「うええっ!? ちっ、違う! 兄貴は関係ないって!」

俺は、麦茶をコップに注ぎ、それをぐいと飲み干した。

「し、しつこい! もう切るから!」

そう言って(多分)一方的に電話を切った桐乃。
直後、桐乃が俺の方を見たせいで視線が交差する。

「ば~~~か!」

俺に対して、いきなりすぎる暴言を吐き、そのままリビングを出ていく桐乃。

「なんだありゃ?」

わけもわからず立ち尽くす俺。
ただ、馬鹿にされたというのに不思議と気分は悪くなかった。



おわり



175 ◆5yGS6snSLSFg2011/03/30(水) 04:55:58.632BmaPh3+o (11/11)

>>166について訂正
×始め二つ+最後二つの部分だけ読んでも
○始め二つ+最後三つ~

バイクネタ書こうと思ってたんだけど先駆者がいらっしゃったので、もう一つの趣味ネタであるこっちに変更
もっと簡潔に書くつもりが書き始めると止まらなかった……。これがオタクスイッチか
もっとプラモ作る人が増えますように


176VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/30(水) 08:43:35.95lXKFgnLDO (1/1)

相変わらずプラモ愛溢れてんなww


177VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/30(水) 09:46:56.45UoM7opMn0 (1/1)

乙!参考になったぜぃ


178VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/30(水) 10:26:43.24Oq6PPv0Do (1/2)

乙だぜぃ。

プラモはマジで、ちょっとした一手間加えると見違えるほどカッコ良くなるからなぁ。
ゲート処理。合わせ目消し。スミ入れ。塗装。つや消しは個人の好みだけど。
最近のキットは完成度高いから、ぶっちゃけ素組みだけでもめちゃくちゃカッコイイから困る。
きょうちゃん次に作るとしたら、HGブレイヴかね。
あれは良いキットだし、塗装箇所もシール部分だけならスゲー少ないからオススメだ。
きりりん氏は、パーツ数が多く、キットとしてもクレームの多いPGストフリ持ってくると思ったのにwwww

勝手に妄想すると、他キャラがガンプラ選んだらこんな感じかね。

麻奈実:RGガンダム
あやせ:HGリボーンズガンダム
加奈子:HGアルケー
赤城:HGUCシナンジュ
瀬菜:MGインジャス
部長:HGUCクシャトリヤ
真壁:HGUCユニコーン(ユニコーン)

最近の機体ばかりなのはご容赦願いたい。
うん、欲望が体の端からにじみ出てしまったようだ。

いや、マジで乙。


179VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/03/30(水) 10:53:11.68JNS3jnKAO (2/2)

乙!
素組みしかしたことない俺にも楽しめましたw


180VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/30(水) 11:03:58.8617IsIjee0 (1/1)

乙です
相変わらず読ませるなぁ


181149 ◆NAZC84MvIo2011/03/30(水) 11:51:14.493FAuO/Vu0 (1/5)

んじゃ、続き書きます。かなり強引なハッピーエンドです
あわてて書いたので粗があるかもしれませんがご容赦を

―――――――――――――――――――――――――

あたしは今、兄貴の部屋にいる。
あたしの部屋と違ってこの部屋に鍵は無いから自由に出入りできるのだ。
特に何かをするわけでもなく椅子に座ってぼーっとしている。

「あれから3ヵ月かぁ・・・」
あの不思議な電話がかかってきてからそれくらい経つ――
長いのか短いのかよくわからない。あれ以来ほぼ毎日この部屋で過ごしていた。
そして今日も同じようにそこに居たら、突然携帯が鳴り出した。

―――――――――――――――――――――――――

「出てくれよ、“俺”」
祈るような気持ちで自分の携帯の番号に電話をかける――
機械的なコール音が鳴り響くので繋がっているのは間違いないはずだ。

プッ

「おお!繋がった!!びっくりしてるだろうがまず話を聞けよ!」
焦って相手が誰なのかなんて確認もせずまくし立てると、聞きなれた声が返ってきた―
『あ、兄貴!?ねぇ兄貴なの!?』

―――――――――――――――――――――――――

突然鳴り出した兄貴の携帯に出てみると、そこから聞こえてきたのは兄貴本人の声

『おお!繋がった!!びっくりしてるだろうがまず話を聞けよ!』
「あ、兄貴!?ねぇ兄貴なの!?」
『なんだ?桐乃か?人の携帯に勝手に出るなよ、そこに俺は居ないのか?』
3ヶ月ぶりに聞く兄貴の声は憎たらしいほど能天気で明るかった。

「い、居るわけ無いでしょ!?だってアンタは・・・!」

・・・・・・・・・・

3ヶ月前、“一週間後の兄貴”から電話がかかってきた。
内容は『交通事故にあってしまうから今日一日家から出るな』という頼み事

あの時のあたしは馬鹿だった。電話の兄貴は『俺をかばって死んだ』と言っていた。
ならば、あたしが兄貴をかばわなければ必然的に兄貴は・・・!
その事に思い至りさえすればあんな事にはならなかったのに、
いつに無く真剣な声で頼む兄貴の言う事を盲目的に聞いてしまった代償は

     ―兄貴の死―

その事を誰も責めない、あやせも黒いのもでかいのも、両親でさえ。
『悪いのは犯人』口をそろえてそう言った、でも違う。
あたしは事故が起きることを知っていたのだ。それなのに・・・

「な・ん・で!そんなに能天気な声で話しかけてくるのよ!このバカ!!」
この3ヶ月、兄貴を失った悲しみの中にいたのに、いざ兄貴の底抜けに明るい声を聞くと
なんだか無性に腹が立ってきて、散々兄貴を罵った。
こんな会話も、三ヶ月ぶりだ・・・・・



182149 ◆NAZC84MvIo2011/03/30(水) 11:52:23.993FAuO/Vu0 (2/5)

―――――――――――――――――――――――――

「そっか、そっちの俺はもう居ないのか・・・」
ひとしきり無神経だの能天気だの頭がお花畑とまで罵られた後事情を聞くと、
どうやらいつもの桐乃ではなく、また別の桐乃のようだ。
そういえばこっちから電話をかけたのは初めてだったし
まさかそんなところに繋がるとは思ってもいなかったが・・・

「でも良かった、そっちのお前も無事だったんだな!」
それだけで俺は本当に満足だった、桐乃が無事ならそれでいい。
桐乃が死んでしまう世界なんて、今俺がいるところだけでたくさんだ。

「なぁ、俺はお前さえよければそれでいいんだからさ、
 あんまり引きずらないで元気になってくれよ、頼むぜ」
一人の桐乃を出来るだけ励ました後、電話を切る―

それにしても、このことをあっちの桐乃に教えたらどう思うんだろうな?

―――――――――――――――――――――――――

『なぁ、俺はお前さえよければそれでいいんだからさ、
 あんまり引きずらないで元気になってくれよ、頼むぜ』

勝手にそんなことを言ったかと思うと、また勝手に電話を切る。
あたしがこの3ヶ月どんなに寂しかったか知らないで!!

prrrrrrr・・・・・・・

まだまだ話し足りないあたしは急いで着信履歴からリダイヤルする。

『・・・・・はいもしもし?』
またとぼけた声が聞こえてきて腹が立つ!
「あんたねぇ!!あたしが切るまで待ちなさいよ!何勝手に電話切ってるのよ!」
『・・・どういうことだよ?』
電話に出た兄貴の声は本当に混乱しているようだった――

―――――――――――――――――――――――――

「あんたちょっとありえなくない!?」
「それ以外にアンタに電話かける理由なんて無いでしょ!」
「うわ、シスコン!キモ!」

壁越しに聞こえてくる桐乃の声――
最近俺となにかするたびに誰かに電話をかけてるようだ。

猫かぶりの口調ではないから学校の友人と言うわけでもなさそうだが、
黒猫や沙織でもないらしい。一体誰だ?『シスコン』なんて呼ばれているのを聞くと
もしや赤城なのか?という疑問も湧く。正直なところ相手が気になって仕方ない――
一体誰にどういう用事で電話をしてるのか・・・

prrrrrrr・・・・・・・

なんとなく耳を澄ましていたら俺の携帯が鳴り出した。
誰だろうかと思ってディスプレイにうつる番号を見るとそれは自分の番号―

「ど、どういうことだ?」
携帯会社のシステムエラーか何かの間違いだろうか?
おそるおそる電話に出る――

「・・・・・はいもしもし?」
『あんたねぇ!!あたしが切るまで待ちなさいよ!何勝手に電話切ってるのよ!』
電話から聞こえてきたのは隣の部屋にいるはずの妹の声――

「・・・どういうことだよ?」


その日から俺と“桐乃”の電話相談という名の『女心説明指導』が始まった・・・


183149 ◆NAZC84MvIo2011/03/30(水) 11:53:31.823FAuO/Vu0 (3/5)

―――――――――――――――――――――――――

「もうすぐ一年だね」
「そうだな~、あいつらいつまで電話するつもりなんだろう?」
「“あっちのあたし”はなんて言ってたの?」
「『“あたし”にあんまり心配かけな!』だってさ」
「へー、もうそんなに心配してないのにね?」
「桐乃の方はどうなんだよ?“あっちの俺”は何て言ってるんだ?」
「『頼むから桐乃を幸せにしてやれ』ってさ」
「はっ!!今更言われる必要もねーな!」
「えへへ~、なんかあたし愛されてるね~///」
「・・・ふん、電話で話をすることしか出来ない奴に負けるかっての」

どうにも奇妙な自分への嫉妬をあらわにしながらこの一年間を振り返る。
平行世界の妹からの奇妙な電話――
その電話に後押しされながら俺はこっちの妹との関係を深めていった。
それはきっと桐乃も同じだろう。
平行世界の俺との電話に何度も励まされ慰めてもらった、と言っていた。
今の俺たち二人の幸せは、電話の向こうの俺たちによって支えられている。
でも、もうきっと大丈夫だ。
この先俺と桐乃が気持ちをすれ違わせて悲しむ事は無いだろう――

「やっぱさ、寂しいんじゃないかな?」
「そうだよな・・・」
俺たちの世界は俺たち二人が無事に一緒に生きている。でも“あいつら”は一人きりなのだ。
何かと俺たちの心配をしてくれる“俺たち”は、
大事にしたい兄や妹を失ってしまっている・・・

「そっちが心配だよ。“あっちのあたし達”にも幸せになってもらわないとさ」
「そうだよな、今度の電話でそう言ってみるか?」
「うん、そうだね。そんでしばらくは電話しないでさ、かかってきても出ないの。
 いつまでも“こっち”の心配させてるだけじゃ“あたし達”も前に進めないじゃん」
「そうだな、荒療治だけど“俺たち”なら大丈夫なはずだしな!」

だれか良い相手を見つけてくれればいい。心の底からそう思う。
平行世界の自分たちの幸せと、隣で笑う笑顔の桐乃を守る決意を新たにして、
澄み切った青空を見上げる―――

―――――――――――――――――――――――――

「もういいかな?」
「もういいだろ」
「そうだね、もういいよね」
「じゃ、かけるか」
「うん」

―――――――――――――――――――――――――

prrrrrr・・・・・・・

「お、桐乃からだ」

もはや定番になった“あっちの桐乃”からの電話―
目の前で妹を亡くした悲しみに耐える事が出来たのはこの電話のお陰だ。

ここに居なくても、別の世界で元気にしている桐乃が居る。
その事実だけで俺がどんなに慰められたかわからない。

「はいもしもし」
『あ、兄貴?元気してる?』
「当たり前だろ」
『うん、それはいいんだけどさ・・・』

―――――――――――――――――――――――――

prrrrrr・・・・・・・

「あ、兄貴からだ」

もはや定番になった“あっちの兄貴”からの電話―
あたしの想像力不足で兄貴を失ってしまった罪悪感を拭ってくれたのはこの電話のお陰だ。

あたしが身代わりになった世界の兄貴と、二人とも無事だった世界の兄貴が
『お前が無事ならそれでいい』って言ってくれた。

「はいもしもし」
『よ、桐乃。ちょっといいか?』
「当たり前じゃん」
『はは、それはそうとさ・・・』


184149 ◆NAZC84MvIo2011/03/30(水) 11:54:14.643FAuO/Vu0 (4/5)

―――――――――――――――――――――――――

「「もう心配しなくていいからさ」」
「「うん、だからお前/あんたもちゃんと幸せにならなきゃ」」
「「うん・・・うん・・・それじゃ、またな/またね」」

ふたり揃って電話を切った。
おそらくこれでこの奇妙な電話の中継も最後だろう。
隣の桐乃と目を合わせてふっと笑みをこぼす――

「さぁ!これからどうなるかな?」
「んー、どうにかなるっしょ」


一人きりの俺が電話をかければ、ここの桐乃が出て
ここの俺が一人きりの桐乃にかける

一人きりの桐乃がかければ、ここの俺が出て
ここの桐乃が二人いる所の俺にかける

そして二人いる所の桐乃がかければ、ここの俺が出て
ここの桐乃が一人きりの俺にかける

「二人揃ってる所のあんたは、結局一度も自分からかけなかったね」
「やっぱ目の前に本人が居たらからじゃねーの?」
「ふふっ、やっぱ筋金入りのシスコンじゃん」
「ほっとけ!」

ここは平行世界の狭間――?
いや、ここも俺たちが今眺めている3つの世界と同じく、無数にある世界の1つかもしれない。
あの事故以来、俺と桐乃はここでこの3つの世界を眺めていた。
―――この不思議な電話だけがある世界で


「もう、お役御免でいいんじゃない?あたし達もそろそろ次の行き先決めなきゃね」
「そうだよな、でもどこに行くんだ?」
「アンタは決まってるでしょ」
ビシッ!と桐乃が指したのは一人きりの桐乃のお腹――

「へっ!?マジかよ!?」
「そうよ!『またな』って言ったでしょ?会いに行かなくてどうすんの?」
「いや、しかしそれは・・・・・」
「多少のマザコンは大目に見てあげるからさ、アンタはあそこで決まり!これは決定!」
「ちょっ、なんかせこくね?なんでお前が決めるんだよ!!」
「だってあたしの行き先はあんたが決めるんだからこのくらい当然でしょ?」
「どういう意味だよ!?」
「黒いの?でかいの?あやせ?地味子?それともまさか加奈子?」
「・・・・・・・・・・」
「あんたが選んだ相手の中に行かなきゃ会えないじゃん」
「そういう意味かよ・・・」

でもまぁ、俺もそうしてくれた方が嬉しいしな。

「ファザコン娘になるぞ?」
「別にいいじゃん、それよりアンタは誰を選ぶの?」
「今の俺じゃお前以外の選択肢の可能性は平等だからな、正直全くわかんねー」
「はあ、あんまりぐずぐずしてられないのに・・・」
「ま、もう少し待っててくれよ」

二人して自分たちの行く末を見守る――
あの二人は出会うことは無いけれど、あの二人のもとに俺たちが行く事は出来る。
そうすればまた“俺たち”は会える。

「楽しみだね」
「楽しみだな」






二十数年後、仲良し兄妹のもとに生まれたマザコン一人息子とファザコン一人娘が
従兄弟同士でどたばたの恋愛劇を演じるのは、また1つ隣の世界のお話。―fin―


185149 ◆NAZC84MvIo2011/03/30(水) 12:08:00.043FAuO/Vu0 (5/5)

>>183に脱字があったorz 訂正
「『“あたし”にあんまり心配かけるな!』だってさ」
「へー、もうそんなに心配してないのにね?」
「桐乃の方はどうなんだよ?“あっちの俺”は何て言ってるんだ?」
「あんたに『頼むから桐乃を幸せにしてやれ』ってさ」

>>174
この桐乃のモチベーション維持法は萌える!!まさしく乙だ!

>>122>>150
期待に応えられてなかったらごめん、その場合は遠慮なく別の話を書いて下さい


1861222011/03/30(水) 12:58:38.08F1oaDrQW0 (4/4)

>>185
無理な願いを聞いてありがとうおもしろかった



187VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/03/30(水) 15:22:05.748qcI72bn0 (1/1)

偽9-2と9-5だっけ?あれを全裸待機で待ってたが、そろそろ冷えてきた。


188VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/30(水) 23:20:19.62Oq6PPv0Do (2/2)

>>185
乙。

何度か読み直してやっとわかったが、3つの世界線にそれぞれ兄妹が、
それを見守る高次存在的な兄妹もいて、計4人ずつってことでおk?

書きたいネタがあるのに、文字に興せない……。
SS作りもガンプラ作りに通ずるところがあるな。きっと今日は書けない日だ。


189 ◆NAZC84MvIo2011/03/31(木) 00:05:36.7237DQrt9DO (1/1)

>>188
ああ~やっぱり分かりにくいみたいですね
説明入れますorz

2人とも無事だった世界と最初に出てる桐乃が死んじゃった世界、今回追加した京介が死んじゃった世界の3つ
そして死んだ京介と桐乃が死後にたどり着いた電話だけがある世界
合計4つの世界と3組の兄妹です

実は異世界への電話が可能なのは死後の世界だけで、
残された方の桐乃と京介が立ち直れるように、死後の桐乃と京介が
2人とも無事な世界の兄妹と会話させていた(一度死後世界を通して)

んで立ち直った様子をみて転生先にお互の子供を選んでるってオチです



くぅ、改めてあらすじ説明するって恥ずかしい!
読んだ人に伝わるように書ける文章力が欲しいなぁ


190VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/03/31(木) 00:18:48.42sK5gxeuRo (1/1)

>>189
なるほど。読み直すと、確かに書かれてるな。
死んだ方にも救いのある話だったわけね。さんきゅ。
いや、わざわざすまんね。
気にしないでくれるとありがたい。


191VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/31(木) 00:21:48.99sfgvhI8ro (1/2)

次スレ立てたら併せて前スレのHTML化依頼もしておいてね
ここは過去ログ化が自動じゃないので。ちなみに依頼済みっす。

■ HTML化依頼スレッド Part1
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294929122/


192VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/31(木) 00:24:54.62V9g0hJGjo (1/2)

あれ? 1000に到達した場合は依頼必要ないんじゃなかったっけ?


193VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/03/31(木) 00:26:11.55G3BiAmdAO (1/1)

>>191
とりあえず依頼スレの>>2を見てみようか


194VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/03/31(木) 01:23:02.93sfgvhI8ro (2/2)

>>193
すまぬーすまぬー…

いつのまにか変わってたんだね(´・ω・`)
あっちでも訂正してきた


195VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/03/31(木) 01:42:12.776iRgaHmAO (1/1)

>>194
こ~のドジっ娘めっ☆


196 ◆rcTx115mSE2011/03/31(木) 03:46:12.175Xyh4cZ/0 (1/1)

testet


197VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/03/31(木) 03:46:51.052OwPi0hYo (1/1)

次スレ気づかんかった


198VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/31(木) 16:12:19.37V9g0hJGjo (2/2)

ブリジットな予感


199VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/31(木) 17:03:56.01DkvmCDJSP (1/1)

桐乃を連れ戻しにアメリカにきた京介が、友達に会いに来たという道に迷ったブリジットを発見
いつものおせっかい発動。何故自分を知っているか疑問に思うブリジットだが
優しいお兄さんモードの京介に事情説明
実はその友達とはリアであり、向かう目的地も一緒なので行動を共にすることに……


なんていう誰得ネタが思い浮かんだが、設定が特殊すぎて一文字も文が思いつかないという


200VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)2011/03/31(木) 19:09:17.39wzJPzbC5o (1/1)

桐乃を連れ戻しにアメリカにきた京介が、タクシーの運ちゃんと仲良くなり
人質取って立てこもってる強盗犯のいる銀行に突っ込み事件を解決したり
暴走列車に飛び乗ったりするネタを誰か形にしてください


201VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/03/31(木) 20:20:06.55wK5+vdWGo (1/1)

>>174
 乙でした。
 プラモ作りとかしたことないけど、楽しめました。

 しかし、原作でもそうだけど桐乃ってうかつだよね。口が軽いって言うか、うっかりしすぎというか……。
 電話で黒猫に自慢(?)なんてしたら、例えば学校なんかで京介に確認されたりしたらバレちゃうのになぁ。


>>184
 乙でした。
 なんかややこしい感じの関係性だけど、たまにはこういう、原作にそぐわないSF(少し不思議)ってのも面白いね。

 ああ、そういう意味だったのか……。ちょっと勘違いしてた。
 私の読解力もたいしたことないなぁ。>>189


202VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/31(木) 20:39:45.29UN5VUQiDO (1/1)

>>199やっぱ文字にするのムズいよな…
俺も受験後の京介がコンビニやファミレスでバイト始めていろんな人が冷やかしにくるってのを思いついたけど、掛け合いが難しくて諦めたorz

このネタ活用できる人だれか拾ってくれ


203VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/31(木) 22:15:24.43B0Zntmco0 (1/1)

>>200
それをするにはドレッドの黒人と、メガネをかけた白人(?)の手助けが必要だな。



204VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/03/31(木) 22:33:31.249K91hhIq0 (1/1)

>>175
乙です
ガンプラ講座とか見てるとなんか作りたくなってくるww

>>185
乙です
どこの世界でもハッピーエンド(だよね?)で安心した


205VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/31(木) 23:17:22.02HEiHkpFSO (1/1)

13話見たら無性に黒猫ものが読みたくなってしまいました


206VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/04/01(金) 00:31:31.48n0MrNcxV0 (1/1)

あされ


2071222011/04/01(金) 06:02:50.07Oj9UyXtR0 (1/10)

先日「桐乃からの電話」を書いたものです。
続編ではありませんが新作ができましたのであげていきたいと思います。

「高坂桐乃の消失」カプなし 六時十分ごろからあげていきます。


2081222011/04/01(金) 06:07:48.73Oj9UyXtR0 (2/10)


少し前までの暑苦しさが嘘のように消え去り、まるでど忘れしていた
かのを思い出したかのような勢いで寒くなってきた今日この頃、俺がベッ
トで寝転んでいるとだ、テロリストでも入ってきたんじゃねーかと思
うほど乱暴な勢いでドアがバンッと開いた。

「クリスマスパーティーをするわよ! 」

どこぞの団長様のごとく桐乃はこんなことを言いだした、…パーティか、
まぁ悪くはないよ?
だが俺はこいつにまず言うことがある。

「お前はいつもいつも………ノックをしろと何度言ったらわかるんよ!? 」

まぁいつもの切り返しだけどな……桐乃の性格は親父似だと思うが、
ノックをしないのは完全にお袋譲りだな、うん。

「はいはいわかったわかった、次は気を付けるからさ」
桐乃といいお袋といいこのセリフを言って”次”を気を付けたこと
など一度もねぇじゃねーか!?
これを言ったら話が変わっちまいそうだ、俺は喉まで出かかった
言葉を飲み込こみ別の言葉を口にした。

「いつ? どこで? だれと? 」
「そんなのクリスマスイブにきまってんじゃん?場所は沙織が
用意してくれるって 人はいっぱい来る予定!! 」

桐乃は実に楽しそうにそう答えた。

「だれがくるんだ? 」

あやせがくるのか!? なぁそうなのか!?

「えーとっ黒いのでしょ、あやせでしょ、せなちーにせなちーのお兄さん
あっあと加奈子とブリジットちゃん!……あんた目の色かわりすぎじゃない? 」

どうやら俺の目は今相当輝いているらしい。いやでも仕方なくね?
だってあやせとイブを過ごせるっておい
イブを共に過ごす=恋人 と見ても全く問題はないはずだ。
テンションが上がらないわけがないだろ?まぁそれはともかく

「俺から誰か誘っちゃまずいか? 」

さすがに男子が二人というのは俺にとっても赤城にとっても少し辛いだろう、
だから部長や真壁君を誘いたいところだ。

「あ~もしかして部活の人? 」
「まぁそれもあるし、麻奈実も誘いたいんだが駄目か? 」

麻奈実の性格なら桐乃や黒猫はともかく、ほかの奴らとはうまくやれるだろう。

「べつにぃ~いいんじゃないのぉ? ほかの人がいいっていえばさぁ」

桐乃さんマジUZEEEEEEEE!!話題に麻奈実が出た途端露骨に態度変わり過ぎだろっ!? 
いやまぁわかってたけどね………ハァなんでこいつはこんなに麻奈実のことが
嫌いなんだろ?まぁ人間だれしも馬が合わない奴はいるけどさぁ? もうちっとなんとかなんねぇもんかな?

「まぁクリスマスくらい大目に見てやるわよ、アンタのブス専にも」
「ぶっ飛ばすぞ!! てめぇっ! 」
「はいはい、後で沙織に聞いておくから感謝しなさいよねぇ? 」
「へーへー、要件はそれで全部か?」
「…………ッチ」

耳障りな音を残し桐乃は部屋から出て行った。

「フンッ…」

俺は泥を被るようにして、布団の中にもぐりこんだ。



2091222011/04/01(金) 06:12:05.71Oj9UyXtR0 (3/10)

………悪いことをした…かな? 明日謝るか、パーティーなんだから
…たの……しく…やらない…と…な。
俺は薄れていく意識の中でそう決めた。


ジリリリリンッ ジリリリリンッ ジリリリリンッ

……朝か、桐乃に謝ってから学校行くか。まずするべきことは1つ

ジリリrカチッ

目覚ましを止めることだ。
余談だがこの目覚まし時計は俺が小学校にあがる年のクリスマスに
もらったものなんだ。この目覚ましじゃないと何だかよく起きれなくてだな?
え?どうでもいい?まぁそれもそうだな。俺もこんな話を長々と続けるつもりはないけどよ。
………?
自分の部屋を見回し俺はなぜか違和感を感じた。その違和感の正体を
探ろうとしたが朝食の用意ができたようなので、俺はすばやく着替えをすませ、リビングへ向かった。

そこに桐乃はいなかった……特に珍しいことじゃない部活の朝練があったのだろう。
俺はあまり気にせず、黙々と飯をほうばった。
いつもなら、お袋が俺と桐乃を比べた嫌味の1つでも言ってくるのだが、
今日はそれがなく極めて爽快な朝を迎えることができた。

「いってきます」

俺は自宅を出て高校へと向かった。



「よっ、麻奈実」
「あっおはよう京ちゃん」

ああそうだ、ねぇとは思う一応確認しとくか。

「来週のクリスマスイブ空いてるか?」
「くりすます? もっもしかしてでで、でーとのお誘い!? 」

麻奈実は顔を真っ赤にしている。もしかして…………これは…風邪か?

「大丈夫か?顔赤いぞ熱でもあるんじゃないか? それとデートじゃなくて桐乃
やあやせ達とパーティーをしようって話になってな?お前もどうだ?」

なんだ?なんかものすごく不思議そうな目でこっちを見てやがる。どうしたんだ?

「京ちゃん、あやせちゃんと知り合いなの? 」
「へ?」

思わず間抜けな声をだしちまった。お婆ちゃーんボケるのはさすがにはやすぎるんじゃないかな?

「それと桐乃ちゃんって誰?」

おいおいマジで大丈夫かよ麻奈実?こりゃまちがいなく熱があるな。
「桐乃は桐乃俺の妹だろうが? その親友の新垣あやせは俺がお前に紹介してやったんだろ? 
お前まじで熱があるんじゃねーの? 」



2101222011/04/01(金) 06:16:21.67Oj9UyXtR0 (4/10)

麻奈実が一瞬とても驚いたように見えた、そして俺を心配するかの
ような目でこちらを見て言った。

「京ちゃんは一人っ子だよね? あとあやせちゃんは京ちゃんに紹介して
もらったんじゃなくて私が図書館で知り合ったんだよ? 京ちゃんこそ熱があるんじゃない? 」 

心配してくれているのだろうが俺にとってその言葉は、体のありとあらゆる場所に突き刺さる
ような鋭く冷たい言葉のように感じた。
俺はまさかと思いつつも声を荒げて叫んだ。

「はぁっ? 何言ってんだよ麻奈実? だから桐乃だって! お前には
 何度も桐乃に対する愚痴を言っただろ!?」

麻奈実は無言で首を横に振る。

「嘘だろ? 」

なぁそうなんだろ? 俺をからかってるんだろ?
首を再び横に振る。
………麻奈実はそんなことする奴じゃない、誰よりも俺がわかってるじゃないか。

嫌な予感しかしない。

「悪いが先に教室行っていいか?」

俺は麻奈実の返事を待たず学校へ走って行った。


俺はすばやく教室に入り、暇そうな顔して座っている赤城に叩きつけるような勢いで話しかけた。

「お前俺の妹をしってるよなっ!?」

麻奈実は熱があったんだ。だからあんなことを言ったんだ。お前は俺の求めている
セリフを言ってくれるよな!?

「お前に妹なんかいたっけか? つーかどうしたんだよ?そんな声荒げちまって?」

赤城は少し驚いているようだがいつものペースで聞いてきた。

「い、いやなんでも…ない」
「なんでもねぇってツラしてねぇぞww なんかあったら言えよな高坂」
「大丈夫だって」

きっと今の俺の顔はとてもぎこちないだろう。
どんな顔をしたらいいのかわかんねぇよ。チキショー。
くそっなんなんだよ……おい……これじゃまるで俺がおかしいみてぇじゃねぇか。
どっかの小説じゃねぇんだからよ、俺の周りには神様なんていねぇぞ?
ましてや宇宙人や、未来人、超能力者だっていやしねぇ、いるのはごくごく平凡な俺とちょっと変わった大事な友達だけだ。

「おーい高坂―?そろそろHRがはじまっぞー?」

赤城の声で我に返りふと周りを見ると、ほとんどの奴が席に座っていた。
その中で麻奈実が俺のことを心配しているように見えた。
……やめてくれよ。


もちろんこんな調子で授業など頭に入るわけもなく、俺は半日机に頭を突っ伏していた。
何度か麻奈実や赤城が話しかけてきた気がするが、どんな内容だったかは覚えていない。




2111222011/04/01(金) 06:20:44.91Oj9UyXtR0 (5/10)


放課後になり俺はユラリと立ち上がり、不完全な巨神兵のように
ユラユラと歩きある場所へ向かっていった。
向かった場所はゲー研の部室だ。もう正直俺は今絶望のどん底にいる、考えれば考えるほど
悪い方向にしか考えられなくなってやがる、だけど黒猫なら、黒猫ならきっと何とかしてくれる。
なんでもいい希望にすがりたい、俺は黒猫に頼みの綱を託し
部室のドアをノックした。だけどもし俺の考える最悪の展開だとしたら……

がらがらっとトビラがあいた。

「はいなんでしょうか?」

やめてくれよ真壁君、なんでそんな他人行事なんだよ?どうやら俺の想定していた最悪の展開らしい。

「えーと?なにかご用ですか?」

友達に取られる他人行事ほど胸にくるものはない。少なくとも俺はそう思ったね。

「あ~ここに俺の知り合いがいるはずなんだが、ちょっと覗かせてくれないか?」

泣き崩れちまいそうな自分に嘘をつき、あくまで平静を装った振りをして聞いた。

「はい、どうぞ」

真壁君はそういうとヒョイと体をどけた。
お前も知り合いの一人なんだけどな…俺は心の中で大きなため息をついた。
中を覗くと部長と瀬名、二人と目があったが何も反応しないところを見るといよいよ
まずくなってきたんじゃねーのと不安になる。
見ようとしなかった現実と向き合わなきゃまずそうだ。

「どいて頂戴」

俺がそんなことを考えていると、後ろから聞きなれた声が聞こえてくる。

「黒猫……いや五更か?」

たのむっ! 俺のことを覚えていてくれ。

「そんな魔翌力は抑えているはずなのに…貴方何者? 」

俺の望んだ答えは返ってはこなかった。

「その魔翌力、抑えておいたほうがいいぜ? 」

俺はやけになりこんなセリフを吐いてゲー研を後にした。


俺が肩を落としながら家路を歩いていると向こうから1人の女の子が、
俺と同じように肩を落とし歩いてきてるのが見える。

その女の子はあやせだった。まぁだからどーって事はないけどな。
ちょっと前だったら、話しかけることができたがあいにくだが今の俺が
あやせに挨拶したらとどめを刺されかねない。

ここはスルーするのが俺の精神力を削らなくて済む唯一の方法だろう。

とかそんなことを考えていると、あやせがこっちに走ってきてそして
俺に抱き着いて泣きながら訴えかけてきた。
「お兄さんっ!! 桐乃が桐乃がどこにもいなくてっ! クラスの人がっ誰も
桐乃の事をっおぼ…えて…な…くて…お兄さんはっ!! 」
いた------絶望しかなかったこの世界で桐乃がいなくなっちまったこの世界で
俺以外に桐乃の事を覚えてくれている奴が。

精神力が削られるどころか、限界突破しちまいそうだ。

「あやせ…俺のことがわかるのか? 桐乃事を覚えているのか?」
「はいっ!!」

あやせは涙を拭い笑顔でそう答えた。



2121222011/04/01(金) 06:24:07.78Oj9UyXtR0 (6/10)


俺たちは今例の公園にいる。
 あやせもどうやら俺と似たようなことになっていたらしい。

「何度も言いますけど本当に桐乃のこと覚えてるんですよね?」

まったくよく飽きないなこれで何回目だよ? まぁ気持ちはわからなくないけどさ。

「覚えてるって大体忘れるにも忘れらんねーだろ、あいつの事はよ」
「そうですよね」

あやせはふふっと笑った。←マジ天使

「そろそろ家に帰ろう、俺は家に帰ったら桐乃痕跡を探してみるよ」
「そうですね時間も時間ですし、お兄さん…ありがとうございます」
「礼を言いたいのはこっちも同じだよ、ありがとな桐乃の事を覚えていてくれて」
「親友ですから、忘れるわけ……ないじゃないですか」

あやせはそう言うと走っていった。
……さてと家に帰るか。


「ただいま」
「おかえりー」
リビングのほうからお袋の声が聞こえてきた。
まず自室に向かいバックを置いた。
「あっ!なんかたんねーと思ったらパソコンがねーんだ!」
どうやら朝の違和感はパソコンがないものによるものだったらしい。
これで沙織との関係もなしってことになるな……くそっ
俺はそれから桐乃の部屋へと向かった、そこが桐乃の部屋ではないと
知りながらも、少しだけ希望を持って。

部屋の前に立ったがドアからして全く違う、やはりここは桐乃の部屋ではないようだ。
ギィッ!と音を立て扉が開く、以前のような甘ったるい匂いはせず
そこは桐乃の部屋となる前の、ボロ和室であった。

「はぁぁああぁぁ」
深く大きなため息を1つついた。

「この小説ってこんな世界観だっけ?」

俺はわけのわからんことを呟いた。気がまいっているんだ許してくれ。
何かないものかと部屋をうろうろしあることに気が付く、あそには
もしかしてなにかあるんじゃねーのとおもい桐乃が趣味を隠していた襖に俺は手を伸ばし、そして一気にあける

タンッ! 

なんとそこには今の高坂家には合わない物………ノートパソコンがあった…
桐乃が使っていたものと同じ物だ……
俺はそのパソコンを自分の部屋へと運び込み電源をつける。
パソコンの画面にはこう記されていた。

「貴方にとってこの世界は大嫌いな“桐乃”がいない世界です。
 貴方が望んでいる普通に生きることができる世界です。
  Q 貴方は“普通”が好きなのでしょ?選ぶのは貴方。
  A                           」



2131222011/04/01(金) 06:28:20.80Oj9UyXtR0 (7/10)

なんだよこりゃ……………でも考えてみれば確かにそうだ。

俺はこんな世界を望んでいたんじゃねーのか? 
普通に生きていくことを望んでいたんじゃねーのか? 
大嫌いな桐乃に振り回されるそんな毎日が嫌だったんじゃねーのか?
平々凡々、目立たず騒がず穏やかに、のんびりまったり生きていくのが俺の夢だったはずだ。
だったら迷うことはねぇ俺はこの世界で生きていくだけだ。

だけど……俺は今まであいつが起こしてきためんどくさい人生相談の数々に対してどう思っていた?
めんどくせぇ。
勝手にしろ。
しるか。
そろそろ面倒みきれねぇぞ?

「………………」

心臓が強烈に痛む。
心ならずも兄貴だから仕方なく妹の面倒事にイヤイヤながらも奮闘していた
”普通“の高校生…それが俺だ、高坂京介だったはずだ。
そして今このパソコンは俺に対して聞いている。“普通”が好きだったはずだよな?おめーはよ?と
 
それでだ、俺。そう、お前だよ、俺は自分に訊いている。大切な質問だからよく聞けよ?
 そして答えろ。黙っているのは反則だ。前者か後者で答えるんだ。いいか?いくぞ?
 
-----お前はそんな大嫌いな桐乃の相談を受けてからの“普通じゃない”生活と、
   俺の好きな“普通”だった生活どっちの方が楽しかったんだ?

答えろ俺。考えろ。お前の考えを聞かせてくれよ。どうなんだ?

 桐乃の相談を受け秋葉を連れ回され、大事な友達が増え、そいつらにわけのわからん
アニメの話を聞かされ、桐乃の趣味を守るため親父にぶん殴られて、
親友との仲を取り持つために自ら泥を被ったり、友達と一緒にゲームをつくったり、
コスプレしたり、桐乃をアメリカから連れ戻したり……盗作された作品を取り返したこともあったな。

そんな普通じゃない生活が楽しくなかったのかよ。
  めんどくせぇ。
----こんな生活、疲れるだけだ。

お前はそう感じていたんだろ?だったらお前選ぶ答えは1つだけだ。
俺は“普通”だった生活の方が楽しかったそう言いたいんだよな。
  
----そろそろ素直になれよ。



2141222011/04/01(金) 06:31:34.97Oj9UyXtR0 (8/10)

じゃあなんでお前は大っ嫌いな桐乃を探したんだ? 
嫌いな妹の事なんて知らんふりしとけばよかったんじゃねーの?
あんな必死になって探す必要なんてどこにもなかったんじゃねーのかよ。

兄貴だからって逃げは今日は無しだ。

結局お前は“普通”じゃない生活を桐乃とのやり取りを楽しんでたんだよ。
いい加減認めて帰ろうぜ? 俺が大好きな“普通じゃない”生活へとさ。

Q 貴方は“普通”が好きなのでしょ?選ぶのは貴方。
A俺は前者……“普通じゃない”生活が好きだ。

打ち込んだ瞬間、世界がぐるりと回りだしたような感覚に襲われた。
瞬間俺は言葉では表すことができないような不思議な感覚、しいて言うならまるで
夢でも見ているような感覚に陥った。

「お兄ちゃん、メリークリスマスっ!!」
「ありがとうっ!! 兄ちゃん嬉しいぞ」

どこか遠い昔みたことあるような気がするやり取りが広がっている。
兄妹だろうか?
妹の頭をなでる小学生くらいの男の子と撫でられてうれしそうにしている女の子。
そしてその男の子がもらったものは…………

ジリリリリンッ ジリリリリンッ ジリリリリンッ
…………我ながらなんという夢だ。

枕の下に「涼宮の消失」なんて本を入れたのが間違いだったな。
まぁいいまずするべきことは1つ
ジリリrカチッ
目覚ましを止めることだ。
まだ完全に目が覚めてないのか俺はつい机の上にあるパソコンを確認してしまった。
………ったくそんなことあるわけねぇだろうがよ。
俺は苦笑し、着替えを済ませ下へ向かった。

あいつらの事だ、どーせ普通じゃないパーティーをするつもりだろう。
まぁその予定について話す前に俺は桐乃に言わなくてはいけないことがあるけどな。

   昨日はすまなかった、パーティ楽しみにしてるぜってな。



            

            ~end~


2151222011/04/01(金) 06:34:11.84Oj9UyXtR0 (9/10)

以上です。
夢落ちになってしまったことを許してください。



216VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(熊本県)2011/04/01(金) 08:04:32.46DwdSnyMKo (1/1)

おつ!


217VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/04/01(金) 11:08:52.59oaGIA95mo (1/1)

乙!
すごい時間に書いてるなww


218VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/04/01(金) 12:08:22.58BrfqCBUVo (1/1)

キリリリリンッ キリリリリンッ キリリリリンッ

というよく分からないものを幻視した


219VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/04/01(金) 14:18:13.0762TC9T550 (1/1)

乙です。

京介とあやせだけが覚えていたって所が、また良いね。
この後、二人の距離は相当縮まったんだろうなきっと。


220VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟県)2011/04/01(金) 17:13:36.12H2DfIQ3bo (1/1)

最後の選択で悩む京介に強烈な違和感


2211222011/04/01(金) 19:26:51.43Oj9UyXtR0 (10/10)

>>220
違和感を通り越してもはや別人だなぁ
原作読み直してくる


222VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/01(金) 19:28:50.93mzL6QeLXo (1/2)

おつ。まあ二次創作ですし


ところでブリジット√はまだかね?


223VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/04/01(金) 19:35:00.19uE+AydQAO (1/1)

乙!面白かったすよ


224VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/04/01(金) 19:35:43.67UmF5+ULzo (1/3)

乙。
SFパートはyouに任せた!

>>222
歪みねえなぁ


225VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(不明なsoftbank)2011/04/01(金) 20:05:05.32mt6jX6xvo (1/1)

>>200
このネタもらってもいいすか?
あんまり長いのは書けそうにもないけど。


226VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/04/01(金) 20:48:15.98UmF5+ULzo (2/3)

キャラ崩壊、死亡描写、残酷描写があるSSって、控えた方がいい?
注意書きすればおk?
一つ書き終えたんだが、そういう描写があるんで聞いてみたい。
ちなみに内容は厨二バトルものなんだが。


227VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/01(金) 20:58:49.00KG/DlPvzo (1/1)

注意書きさえ怠らなければ苦手な人はNGするしおkでしょ


228VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(奈良県)2011/04/01(金) 21:19:07.71ny2rejxUo (1/1)

もしきりりんやあやせが黒猫と同じ高校に入って
きりりん氏がゲー研に入部してあやせとカナカナも後を追ってきたら
ゲー研がリア充の象徴みたいになるな


229VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/01(金) 21:22:49.85UWm4BGDDO (1/2)

>>228
真壁君、ハーレムすなぁ
つか、ゲー研入部希望者多数で一気に部に昇格すか?


230VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/04/01(金) 21:32:58.48LGGqrY130 (1/1)

>>228
だが桐乃なら妹研究部略してイモ研を作るんじゃないか?周りからは芋を研究してるクラブだと勘違いされそうだが…。


231VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(神奈川県)2011/04/01(金) 21:45:10.51q6L4wWIBo (1/1)

ゲー研を隠れ蓑にした瀬菜ちーのよくわかる腐女子講座「如何にして私はスプーンとフォークでプリミティブな絡みを連想することができるか」が始まったり。


232VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/01(金) 21:45:31.59mzL6QeLXo (2/2)

>>226
注意書きあればおkでそ。投下待ってる


233VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/04/01(金) 21:48:57.86UmF5+ULzo (3/3)

プリミティブって聞くと、ぎっちょんを思い浮かべてしまうぜ。

んじゃま、推敲して投下しますかね。
投下時間は深夜を予定。


234VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/01(金) 22:58:56.08LeqwNng8o (1/2)

部長がゲー研のみんなからくさい言われるの何巻だっけ?


235VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/01(金) 23:08:04.45UWm4BGDDO (2/2)

>>234
7巻第2章 あやせに手錠をかけられた後


236VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/01(金) 23:11:13.51LeqwNng8o (2/2)

>>235
サンクス。ちょっと読み直してくる


237VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新潟・東北)2011/04/01(金) 23:53:07.22UmPjh4xAO (1/1)

>>215

冒頭の数行を読んだ時に涼宮来ると確信した
こういう世界観の話書けるの羨ましいです


238VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東)2011/04/02(土) 00:05:42.30nGJXjcnAO (1/1)

>>174
乙~
俺、いま書く予定のSS全部書ききったら
MGのEx-Sを買いに行くよ。

>>185
乙!!
第三世界とは。とんでもないアクロバティックな展開に心奪われた。
この気持ち、まさしく愛

>>202
今度試す。
既に書いてる人と被らないといいな。うぅ…

>>215
夢落ちにしては、すごく……SFです…
この京介はそれだけハルヒ派だったのか。
ところで122氏、自分も122設定を拝借したく候。宜しかろうか



2391222011/04/02(土) 00:40:37.06oO+SezhO0 (1/2)

>>238
どうぞどうぞ、こんな設定でよければww


240VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/04/02(土) 01:03:49.59i1LYuYF3o (1/20)

※キャラ崩壊、死亡描写、残酷描写注意

いい時間だし、推敲も終わったし、投下します。
改めて読み直したが、俺妹でやる必要性を全く感じない。

カプ:特に無し
展開:厨二バトル

以下、投下。


241 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:05:06.43i1LYuYF3o (2/20)

黒く、暗く、重い帳が世界を支配している。
月と星の光だけがそれに抗うが、この絶対的な闇の前ではそれも儚く、弱く、脆い。そんな夜だった。
とある洋館の一室。
この広大な空間は、常ならば華やかな社交の場として、多くの紳士淑女が集い、絢爛な舞踏会が催されていたのだろう。
だが、今は違った。煌びやかな照明も、豪華な食事も、美しいワルツも、何もない。
あるのは闇。月明かりすら入ってこないほどの闇だけだ。
その中に、光が浮かび上がる。この部屋の中央に、青白い炎がぼうっと。
吹けば消えそうな炎はふらふらと彷徨い、ゆらゆらと舞い上がり、天井付近でパンッと弾けた。
光が部屋全体に満ち、それを合図に全ての照明が点く。
そこには四人の少女がいた。

真紅のドレスを纏った、輝くようなライトブラウンの髪を持つ少女。
この夜を切り取ったかのような漆黒のドレスを着た、黒髪の小柄な少女。
真白いドレスとは対照的な、濡羽色の長髪を持つ少女。
茶色いドレスを着慣れていないのが丸分かりな、短髪の眼鏡を掛けた地味な少女。

少女達はお互いの姿を確認し、それぞれ違う表情をする。
ある者は、この場にいる人物に驚き、
ある者は、親の仇を見るような目をし、
ある者は、誰をも魅了する笑みを浮かべ、
ある者は、困惑の表情を浮かべていた。

そこに新たな登場者が現れ、少女達に声を掛ける。

「やぁやぁ、各々方。お揃いのようですな」

その声もまた、少女のそれであった。
大柄で均整の取れた肢体にタキシードを纏い、シルクハットとステッキを身に着けた、男装の少女。
一つだけ言うことがあれば、それだけ見事な格好をしているのに、その瓶底眼鏡はいかがなものかということだけだ。

「忌々しいピエロのお出ましね。わかってはいるけれど、一応、今回集められた理由を訊いておこうかしら」

漆黒のドレスを着た少女が、汚物でも見るような視線を男装の少女に向けながら訊ねた。
冷たい視線など意に介さず、男装の少女は答える。

「黒猫氏はせっかちですなぁ。いいでしょう、お答えします」

男装の少女は、ダンスホールに設けられた二階席の手摺に足を掛け、トンッと宙を舞い、ホール中央に着地した。
ステッキをくるくると回し、さながら舞台俳優のような大仰な仕草をしながら、少女は話し始める。


242 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:05:37.49i1LYuYF3o (3/20)

「今宵はワルプルギスの夜。神に叛く魔力的諸力が増大する日でござる。よって魔女の皆様には、この場にて雌雄を決してもらおうという所存」
「はぁ?なんであたし達がそんなことしなくちゃいけないワケ?意味わかんないんですケド」

抗議の声を上げたのは、真紅のドレスを纏う少女だった。
疑問と嫌味をない交ぜにした声を聞いても、男装の少女の飄々とした態度は変わらない。むしろ心地よさげですらある。

「ふっふー。嘘はいけませんな、きりりん氏。古来より、この地に棲む魔女達によって決められたしきたり。その末裔であるあなたが知らぬはずがない」
「チッ!」

真紅の少女は舌打ちをし、そっぽ向いてしまった。こんな場でなければ、年相応の可愛らしい仕草と言えるだろう。
代わって、真っ白なドレスを着た少女が訊ねる。

「高い魔力場を形成するこの地の支配権。それを決めるんですよね?」
「いかにも。あやせ氏の言う通りでござる。もっとも、支配権とは名ばかりで、
 この地に安定と安寧をもたらすよう魔力を操作する役を決める、と言った方が正しいですな」
「なら、わざわざ争う必要は無いんじゃないかな?」

疑問を呈したのは、眼鏡を掛けた地味な少女。
それを聞き、男装の少女は困ったように肩をすくめた。

「それがそういうわけにもいかぬのですよ、麻奈実氏。このしきたりには、この地の魔力に実力を示す意味合いもあるのです。
 つまり、相応しい者を戦いにて見極めなければならない」
「要は、弱い者になんか使われたくないのでしょ。御託はいいからさっさとはじめなさいな」

そう結論付けたのは、漆黒の少女。先程からずっと不機嫌な様子である。

「黒猫氏の意見もごもっとも。要は、最も強い魔女を決めるのですからな。そして監督役は、拙者、沙織・バジーナが務めさせていただきまする」

儀式の説明と自己紹介を終えた少女――――沙織・バジーナは、右足を引き、右手を体に添え、左手を横方向へ水平に差し出すというヨーロッパ式の礼をした。
その直後、沙織の頭上から黒い刃が幾十と降り注いだ。

ズガガガガガガッ!

刃は大理石の床を砕き、ホールの一角を無残な姿に変えた。

「これはこれは、ずいぶんと嫌われましたなぁ」

いつの間に移動したのか、沙織は二階席の手摺の上に立っていた。
漆黒の少女は舌打ちをし、沙織に向き直る

「とっとと失せなさい、糞兎。ハンプティ・ダンプティになりたいのなら、別に止めないけれど」
「ふふ、怖い怖い。では拙者は、安全な場所にて行く末を見守りましょう。皆様、良い舞踏を……」

沙織はシルクハットを頭上に掲げ、手を離す。
シルクハットは重力に従い、床に落ちた。
そこにはハットだけが残るのみで、沙織の姿はなかった。

「相変わらず、憎たらしい兎ね。ずっと不思議の国に引きこもってればいいものを……」

漆黒の少女の悪態は、空しく響いた。


243 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:06:04.81i1LYuYF3o (4/20)

ーーーーーーーーーーーー


「目障りな兎もいなくなったことだし……」

黒猫は視線をホールに戻し、他の三人を見渡す。
両手を広げ、その体から黒い魔力の奔流が立ち上らせながら。

「はじめましょうか。楽しい楽しいダンスパーティーを、ねぇ!」

目を見開いた瞬間、体から立ち上る魔力が球体と化し、他の三人を攻め立てた。
その数、実に三十。一つ一つに必殺の威力が込められた魔力球が、十球ずつ降り注ぐ。
初撃を避けるも、魔力球は敵を追尾してくる。だが……。

「くっ!」

黒猫に攻撃を加える者がいた。その重い一撃を防御するため、黒猫は魔力球の制御を放棄し、両手で光の壁を形成する。
先程まで執拗に追ってきた魔力球は、全てあらぬ方向に飛んでいき、爆散した。

「もう。いきなりなんて危ないよ、黒猫さん」
「その危ない攻撃を掻い潜って、私自身を攻めるあなたは、もっと危ないんじゃないかしら」

光の壁を爆発させ、距離を取る黒猫。視線の先には、眼鏡を掛けた地味な少女――――麻奈実が立っていた。

「やはり、あなたが一番手強そうね。ベルフェゴール」
「べ、べるふぇ?何のこと?」
「ここに来てもとぼけるなんて、いい性格をしているわ」

黒猫は体全体に魔力を纏う。腕、足、頭、胴は黒い炎の鎧で覆われ、周囲に黒い刃が浮かんでいた。
遠距離攻撃の術式と、近接攻撃力・防御力アップの術式を同時に展開し、戦闘態勢を取る。

「知ってるのよ。あなたの力の根源のことを」
「……そっか。じゃ、隠すことも無いかな」

麻奈実は目を閉じ、胸の前で両手をパンッと合わせる。
すると、麻奈実周辺の床からコールタールのようなものが現れ、彼女を包み込んだ。
もごもごと蠢き、気色の悪い音を立て、何かを形作っている。
現れたのは、細身で豊満な体躯。腕と首周りは赤いレザーのような衣服と二股の帽子。
胸と股間は紐のようなもので隠され、足には派手なガーターベルト。扇情的だが、露出狂と思われてもおかしくない格好である。
それよりも目を引いたのは、背中から生えた蝙蝠のような翼だ。
『変身』を終えた麻奈実は、ふうっと息を吐き、目を開く。瞳は、血のように紅かった。

「流石は『怠惰』『好色』を司る悪魔、と言ったところかしら。破廉恥極まりない格好ね」
「わたしも、この格好は恥ずかしいんだよ!?ぷんぷん」
「知らないわよ、そんなこと。契約した悪魔のことくらい、事前に調べておきなさいな」
「うう~」

田村麻奈実。彼女は、他の魔女とは一線を画す存在であった。
多くの魔女が使う『魔術』は、内包する魔力を長大なプロセスを経て形成・行使するものであり、天使や悪魔の力を人間用にダウングレードしたもの。
だが、麻奈実は悪魔を、その中でも高名な存在と契約し、その力を取り込んだ。
故に、詠唱や儀式を伴わずとも強大な力を振るうことが出来るのだ。
麻奈実を相手にすること。それは、悪魔と戦うことを意味する。

「本物の悪魔の力。存分に見せてもらうわ」
「うう~。やっぱり、戦わないとだめ?」
「くどいわね。そもそもこの場にいるのだから、最初から戦うつもりだったのでしょ?」
「そ、そんなことないよっ!!」
「そう。じゃ、大人しく果てなさい!」

黒き鎧を纏った魔女は、悪魔の力を持つ少女を強襲した。


244 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:06:31.05i1LYuYF3o (5/20)

ーーーーーーーーーーーー


一方、他の二人は……。

「はじまっちゃったね……」
「そうだね……」

互いを見つめながら、そう呟く。
だが、互いに力を行使する素振りは見せない。

「ねえ、あやせ。やっぱり戦わなくちゃダメなの?」
「本当なら、わたしも桐乃と戦いたくなんてない。でも、この街を、家族を守りたいの。大事な親友が相手でもそれは変わらない」

あやせは目の前に手を掲げ、四尺はある黒太刀を顕現させた。
武器を出されながらも、桐乃はまだ迷っていた。本当に戦いは避けられないのか?親友を手に掛けなければならないのか?
そんな心情は、あやせにも伝わった。

「桐乃。戦いたくないなら、それでもいい」
「あやせ……」
「安心して。桐乃が負けても、わたしが勝つから。勝って、この街も、『あの人』も守るから」
「!!」

あの人――――。
その言葉が出た途端、桐乃は息を呑んだ。
あやせが言う『あの人』のことを、桐乃は知っている。それは、桐乃に取っても大事な人。
たとえ親友でも、大事な人を渡すことは出来ない。
桐乃は光り輝く魔力を放出し、体に纏って戦闘態勢を整えた。

「いくらあやせでも、『アイツ』は渡せない」
「そう……。それでいいんだよ、桐乃」
「行くよ……」

戦いを拒めば、二人は今でも笑い合えていたかもしれない。穏やかに過ごせていたかもしれない。
だが、二人は選んだ。拳を、刃を交えることを。
お互いの大事なものを、大事な人を守るため、少女は戦う。最愛の親友と。その命を奪うため。


245 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:08:39.23i1LYuYF3o (6/20)

ーーーーーーーーーーーー


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「はあああああああああああああああああっ!!」

白い拳撃が、黒い剣撃が交じり、弾け、砕き、斬り裂く。
幾合もの攻防が、床を、壁を、天井を瓦礫に変える。
逆袈裟を受け止め、左正拳突きを捌き、胴蹴りを受け止め、右下段蹴りを避ける。
右正拳突きを柄で受け止め、体を回転させて突きを返す。突きを拳で打ち上げ、空いた胴に突っ込む。
桐乃からタックルを喰らったあやせは、そのまま壁に激突した。

「はあっ……はあっ……」

桐乃は少し離れたところに降り立ち、息を整えている。
瓦礫と粉塵が舞う中、あやせが姿を現した。こちらも消耗が激しく、息が荒い。

「はあっ……流石だね、桐乃。刀一本じゃ……手数で敵わない……」
「あやせこそ……よく捌いてんじゃん……。正直……かなり手強いよ……」

戦況は拮抗しているように見えるが、そうではない。
あやせは大太刀の斬撃のみ、桐乃は体全体を使った徒手空拳の攻撃。手数で圧倒的に上回っている。そのため、体力の消耗が激しい。
だが、桐乃の言う通り、あやせはそれを捌いて、攻撃を加えていた。後の先を取る形であり、このまま行けば桐乃は負けるだろう。
だから桐乃は、戦法を変えることにした。構えを解き、身に纏う魔力を霧散させる。
桐乃の突然の行動に、あやせは訝しげな声を出す。

「どういうつもり?まさか、負けを認めるの?」
「違う。あたしは負ける気なんて無い」

桐乃の周囲から魔力が溢れる。それは先程よりも丁寧に練られ、金色に輝いていた。
それを足のみに纏う。さながら、鎧の足部分だけを身に着けたような姿。

「攻撃しても捌かれるなら……捌けない攻撃をするだけ」

瞬間、桐乃の姿が消えた。

「!」

あやせは驚き、桐乃の姿を探す。視線を上げた瞬間、下から強烈な攻撃を喰らった。

「ぐっ!」

体を打ち上げられながらも、あやせは懸命に桐乃の姿を探す。
今度は背中に攻撃を喰らい、床に叩きつけられ……る前に、横から攻撃を喰らって吹っ飛んだ。
刀を突き立て、なんとか激突は免れるもダメージは大きい。
あやせは黒太刀を消し、黒い小太刀を二刀出現させ、逆手に構えた。

(違う。消えたわけじゃない。速過ぎて見えないんだ)

桐乃が取った戦法。それは「超速移動からの攻撃」だった。
いくら攻撃しても捌かれるのなら、捌けないほどの速さで攻撃を繰り出す。後の先も取れないほどの先の先で相手を撃ち倒す。
確かに、相手が見えなければあやせも容易に攻撃を捌けない。

(焦るな。攻撃を繰り出す瞬間、確かに桐乃はそこにいる。そこを狙えば……)

目を閉じ、神経を研ぎ澄ます。
聞こえるのは遠くの戦闘音と、桐乃が移動するときに出す音。その音と気配だけに、意識を集中させる。
……………………………………。

(ここだっ!)

ガキィンッ!!

あやせは左手に握る小太刀を、自分の背後に突き出した。
あの速さから出した蹴りを受け止められ、桐乃は驚愕の表情を浮かべている。

「せえええええええええええええええええええええええいっ!!」

左手はそのまま、あやせは振り向き様に斬撃を放つ。
それは桐乃を捉え、真紅のドレスごと身を斬り裂いた。

(このチャンス!絶対に逃さない!!)

あやせは左右二刀を高速で振り回し、桐乃を攻撃する。
先程と違い、桐乃は全身に魔力を纏っていない。そのため、斬撃がダイレクトに桐乃を苦しめていた。
ドレスが、身が裂け、血が飛び散る。


246 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:09:06.47i1LYuYF3o (7/20)

「こっ……のおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

桐乃は捨て身覚悟の蹴りを放った。あやせはそれを一刀で受け止め、もう一刀で桐乃を狙う。
だが、桐乃は蹴りを受け止められた反動を利用し、あやせから距離を取った。
15mの間を空けて見つめ合う少女達。

「まさか……これも捌かれるなんてね」
「同じ手は、もう通用しないよ。桐乃」

あやせは二刀を構え、不敵に笑う。勝利を確信したように。
しかし桐乃の顔には、まだ諦めの色は浮かんでいなかった。

「獲物を前に舌なめずり。三流のすることね」
「なんですって……?」

あやせの顔から笑みが消えた。
この期に及んでも、まだ諦めない親友。一体、何をしようというのか。
あやせの心に疑念が広がる。

「あたしは負けない……絶対に!!」

瞬間、桐乃の姿が消えた。それは、つい先程の再現。
だが、あやせに焦りは無い。落ち着いて行動すれば、相手の攻撃を防げることは実証済みだ。

(桐乃……。ごめんね)

意識を集中させながら、あやせは心の中だけで詫びた。
自分の勝ちは揺るがないという絶対の自信と、親友をこの手に掛けてしまうことへの自責の念。それらをない交ぜにして。
だが、彼女にも譲れないモノがあるのだ。だから覚悟した。命を奪うことを。愛しいあの人の、大事な人の未来を奪うことを。
……音がする。桐乃の動く音が。
呼吸を整え、反撃の機会を待つ……。

「殺(と)った!!」

あやせは頭上に小太刀を掲げた。

ガキィンッ!!

金属がブチ当たるような音が響く。
あやせは勝利を確信し、もう一方の小太刀を振るった。

「!?」

だが、そこに桐乃の姿はなく、あやせの斬撃は空を斬るのみ。
無防備となったあやせの腹に、衝撃が走った。

「がっ!」

上空に吹っ飛ばされたあやせ。防御の構えを取る暇もなく、次の攻撃が飛んできた。
上、下、左、右、前、後ろ……。
全方位から衝撃が飛来し、あやせを容赦なく襲う。白いドレスは破け、血に染まり、無残な姿をさらした。

「これでえええええええええええええええええっ!!」

床に落ちることも許されず、空中に投げ出されたままのあやせの目の前に、桐乃が現れた。
縦に何回も回転し、必殺の踵をあやせの体に放つ。
桐乃の踵はあやせに直撃し、あやせはようやく、地面と再会を果たした。
十数秒前とは違い、その姿は見るに耐えないものとなってはいたが……。
あやせはなんとか立ち上がろうとするも、ダメージが大きく、足が言うことを聞かない。

「はぁっ……がはっ……。桐乃……あれが……全力じゃなかった……んだね……」

ヒューッ、ヒューッ。
あやせは呼吸すらままならないながらも、そう呟き、親友の姿を見る。
桐乃は、親友のそんな姿を悲しげな表情で見つめていた。

「今……楽にしてあげるね……」

桐乃は右足を前に出し、膝を曲げ、中腰になり、その足の上に右腕を置くという構えを取った。
右足に纏っている魔力鎧が、より一層輝く。
輝きはそのままに、桐乃は飛んだ。高く、高く。
空中で一回転すると、あやせに向けて流星の如き飛び蹴りを放った。

(あーあ、負けちゃった。やっぱり、桐乃には敵わないなぁ……)

あやせは、自身の敗北と死を覚悟した。


247 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:10:02.35i1LYuYF3o (8/20)

ーーーーーーーーーーーー


黒い拳と刃が飛び交う。
クロスレンジから右拳を突き出し、左足を蹴り上げる。
それを左手で掴み、右足で受ける。
右足で相手の体を蹴り、拘束を解く。距離が空いたところで刃を射出し、刃と共に相手に迫る。
飛来する刃を右手で振り払い、後ろにいた相手から放たれた前蹴りを避け、その足の上に乗る。

「!?」

繰り出した右足を軸に体を回転させ、左回し蹴りを放つ。
それも避けられ、再び距離が空く。

「さっきから攻撃をしてこない。やる気はあるのかしら?」
「体を慣らしてるところなの。そんなに焦らないで~」

戦う素振りを見せない相手に、黒猫の苛立ちは募る。
おまけにこの態度。莫迦にするにもほどがある。

「そう。じゃあ、ウォーミングアップで終わらせてあげるわ!!」

黒猫は空を疾り、麻奈実に攻撃を加える。
小柄な体から、高速の突き、蹴りが繰り出される。
麻奈実はそれを平手で捌き、受け止め、決定打を与えない。
首を狙った手刀の突きを、横から平手を加えて狙いを逸らし、胴を狙った膝蹴りを膝で受け止める。

「このっ!」

業を煮やした黒猫は、大振りの左パンチを麻奈実に放った。
麻奈実は、黒猫の手首を右手で掴んで止める。
その態勢のまま、体が開いて隙だらけの胸に平手を添えた。

ドンッ!

衝撃が、黒猫の体を襲う。
体の自由を失った黒猫の手を離し、顎に掌打を加えて吹き飛ばし、両掌打を黒猫の胴に放ち、床に叩き付けた。
黒猫を中心に、周囲の大理石が歪み、罅割れ、砕け、陥没した。
黒猫が起き上がるのと、麻奈実が降り立ったのはほぼ同時。
顎を撃ち抜かれた黒猫の口からは、ダラダラと血が流れている。
それを袖で拭い、口内の血をベッと吐き出す。

「悪魔の力も、大したことはないわね」
「そっかぁ~。黒猫さん、すごいねぇ~」

黒猫の言葉を受け、麻奈実は感心したように呟いた。
黒猫の眉間に皺が寄る。

(わかってて言ってるわね。忌々しい……)

黒猫は胸に手を当て、麻奈実を睨む。
悪魔の力が大したことはない。それは嘘だ。
現に、黒猫が受けたダメージは大きなものだった。魔力による鎧で防御力を上げていなければ、この胸に風穴が開いていただろう。
おまけに、顎への攻撃にいたっては手加減してくれている。本当なら、あの一撃で勝負は決まっていた。
この女、遊んでいる……。世にいる魔女の中でも有数の実力者である、この黒猫を相手に。
黒猫は魔力を練り、先程よりも強固な鎧を形成する。

(困ったわね。手立てはあるけれど、正直厳しいわ……)

黒猫は両手に魔力球を形成し、それを携えたまま麻奈実に迫る。
麻奈実の下に素早く移動して、足払いを繰り出すも、麻奈実は軽くジャンプして避ける。
相手が空中に移動した瞬間を狙って足技を放つ。前蹴り、膝蹴り、回し蹴り、両足蹴り、体を独楽のように回転させて繰り出す回転蹴り。
麻奈実は腕を組みながら、足だけで受け止め、捌く。

(まだ遊ぶつもり?本当、嘗められたものね……)

膝蹴りを膝で止められた瞬間、黒猫は空いた足を麻奈実の膝にかけ、ジャンプして頭上に躍り出る。
そこから両手の魔力球を超至近距離で放った。
麻奈実は腕組みを解き、それを両手で受け止め、黒猫に前蹴りを放つ。
蹴りを両手で受け止めながらも、黒猫は軽く吹き飛ばされた。そこを狙って、麻奈実は両手の魔力球を黒猫に放つ。
寸でのところで、黒猫は上体を後ろに大きく倒して避ける。

「!?」

そこで目を剥いた。
視線の先――――魔力球の行く先には、今まさに必殺の一撃を放とうとしている桐乃の姿があった。


248 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:10:30.79i1LYuYF3o (9/20)

ーーーーーーーーーーーー


あやせに止めを刺すべく、桐乃は必殺の蹴りを放つ。
それを瀕死の状態で見つめていたあやせ。だが、そこに強烈な殺気を感じた。
慈悲の一撃を繰り出すべく、空に舞い上がった桐乃のものではない。もっと別の、悪意に満ちたものを。
視線を横にスライドさせると、黒い魔力球が二つ、桐乃に迫っているのが見えた。
桐乃は……それに気付いていない。

「桐乃!?」

あやせの声で、桐乃ようやく自分に迫る魔力球に気付く。だが、迎撃も回避も間に合わない。

「ぐうっ……!」

あやせは体に力を入れ、なんとか立ち上がった。
体のあちこちから血が吹き出るも、そんなことは気にしない。気にしていられない。

(間に合え!!)

あやせは最後の力を振り絞り、足に力を込め、空に舞った。


ーーーーーーーーーーーー


「桐乃!?」

あやせの声が聞こえ、桐乃はそこであやせ以外のことに意識が向く。途端、強烈な殺気を右側から感じた。
視線を向けると、黒い魔力球が二つ、こちらに飛来してくるのが見えた。

(くっ……!攻撃モーション中じゃ、間に合わない……)

だが、気付くのが遅すぎた。あと数秒、数秒気付くのが早ければ、攻撃を中止して避けることもできただろう。
桐乃は攻撃をやめ、体を縮こまらせて目を瞑り、衝撃に備えた。
……………………………………。
しかし、いくら待ってもそれはやってこない。恐る恐る目を開けると、

「あ、あやせっ!?」

あやせが眼前にいた。両腕を広げ、桐乃を守るように。
その体勢のまま、あやせは落下していく。
桐乃は空を駆け、床に激突する前にあやせを抱きとめた。

「あやせ!あやせっ!!」

あやせの体を揺さぶり、大声で呼びかける。
桐乃の声が届いたのか、あやせはうっすらと目を開けた。

「き……りの……」
「あやせっ!」
「よか……った……。まに……あっ……た……」

そう呟くあやせの姿は、無残としか言いようがなかった。
美しいドレスはあちこちが破け、焼け焦げていた。
白くキメ細やかな肌は赤く腫れ、血が流れ出て、やはり焼け焦げていた。
これでは助からない。誰の目にも明らかだった。
桐乃は涙を流しながら、あやせに問いかける。

「なんで……。なんで、あたしを……」

あやせは笑みを浮かべ、答える。その声は、か細かった。

「決まってる……じゃない……。わたし……達……親友……だもん……」

この少女は、あれだけ痛めつけた自分を、まだ親友と呼ぶ。
本気で殺しあった今でも、まだ親友と呼ぶ。
桐乃は涙が止まらず、言葉も出せないほど泣きじゃくった。桐乃の頬に、あやせの手が添えられる。

「泣か……ない……で。どの道……死んでたん……だもん……わたし……」

あやせの手が、桐乃の頬を撫でる。その手は黒く煤けていたが、桐乃がそれを払うことはなかった。

「最後……に……大好き……な……桐乃……を……守れ……て……よかっ……た……」

それだけ言うと、あやせの手は力なく垂れた。笑みを浮かべたまま、最愛の親友は、その短い生涯を終えた。

「あやせ……あやせぇ……」

桐乃はあやせの手を握りながら、泣いた。ただただ、泣いた。


249 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:11:11.49i1LYuYF3o (10/20)

ーーーーーーーーーーーー


黒猫は桐乃の傍に降り立った。桐乃は、それを気にすることなく泣き続けている。
そこから20m離れた先に、麻奈実も降り立った。

「桐乃ちゃんを狙ったんだけどなぁ~。しっぱいしっぱい~」

軽い調子で、頭を掻きながら麻奈実は言い放つ。とても、人一人の命を奪い去った後とは思えない態度。
黒猫も、この態度には嫌悪感を通り過ぎて怒りを覚えた。

「流石、悪魔ね。虫唾が走るわ」

前に一歩踏み出そうとした瞬間、肩を掴まれた。振り返ると、桐乃が立っていた。
だが、その目はこちらを見ていない。その目は、怒りは、あの悪魔に向けられていた。

「アンタだけは……あたしがブチ殺す……」

地の底から響くような、暗く、重い声だった。呪詛を紡ぐよりも、呪いに満ち満ちた声だった。
黒猫を押しのけ、前に出ようとする桐乃。今度は、黒猫が肩を掴んで止めた。

「やめなさい。あなたの敵う相手じゃないわ」
「関係ない」
「無闇に突っ込んでも、あの娘の二の舞になると言っているの」
「カァンケイねェェんだよォォォ!!」

黒猫の手を払い除け、桐乃は吼えた。怒ったところは何度も見てきたが、今回は怒りの質が違っていた。
たとえ腕がもげ、足を潰され、臓器を抉り出され、首を引き千切られようとも殺す。言葉にすると、こんな感じだろうか。
黒猫は溜息を吐き、前に進もうとする桐乃の足を払い、転倒させた。
プギャッとみっともない声を出す桐乃。

「なにすん……!」

抗議しようと顔を上げた桐乃の頭を踏み、再び地面とキスさせた黒猫。マジ女王様。

「少し落ち着きなさい。無策で行っても、返り討ちにあうだけよ。あの娘の死を無駄にしたいのなら止めないわ」
「!?」

その言葉を聞いた桐乃は、頭に冷水をぶっ掛けられた感覚に襲われた。
黒猫は淡々と話を続ける。

「あれは、私でも簡単には殺せない。悪魔の力、伊達じゃないということね。そこで提案があるのだけれど……」

黒猫は足をどかさず、なおも続ける。


250 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:11:38.73i1LYuYF3o (11/20)

「実に、実に不本意なのだけれど……私と手を組まない?二人掛かりなら、あの悪魔を殺し尽くすことができるわ」

そこでやっと、黒猫は桐乃の頭から足をどかした。
鼻を赤くしながら、桐乃は黒猫を見上げる。

「勝算は?」
「私達の連携次第ね。成功すれば確実に殺せるけれど、そこに辿り着くまでが五分……と言ったところかしら」
「じゃあ、100パーじゃん」

桐乃は立ち上がり、ドレスに付いた土埃を払い落とす。

「あたしなら、確実にその状況に持ち込める」
「ずいぶんと自信があるのね?」
「当然でしょ。あたしを誰だと思ってんの?」
「真っ正直に向かっていくことしか出来ない莫迦」
「はぁ!?」

黒猫の皮肉に、素直に反応する桐乃。見慣れた光景に、黒猫の表情が和らぐ。

「そこまで言うなら、あなたに任せてあげるわ。感謝なさい」
「なんで上から目線なワケ?チョームカつくんですケド」
「当然でしょ。作戦立案者はこの私。あなたはそれを言われた通りにこなすだけの、ただの駒なのだから」
「あ~ハイハイ。勝手に言ってなさい。で、作戦は?」
「態度がなってないんじゃない?まあいいわ。耳を貸しなさい」

桐乃は少し身を屈め、黒猫の身長に高さを合わせる。
黒猫は桐乃の耳に手を添え、相手に聞こえない声量で作戦を伝えた。

「それだけ?」
「莫迦ね。それだけのことが、あの悪魔相手だと難しいのよ」
「ふ~ん。ま、いいけどね。んじゃ、任せなさい」
「せいぜい失敗しないことね。命が掛かってるんだから」
「わかってるって。あんたこそ、トチるんじゃないわよ」
「それこそ愚問ね。わざわざあなたに心配されることじゃないわ」

作戦会議も終わり、桐乃と黒猫は戦闘態勢を取る。

「内緒話は終わった~?」

二人の様子をただ黙って見ていた麻奈実は、相変わらずとぼけた様子で声を掛ける。

「わざわざ待っていてくれたのかしら。ずいぶんと余裕ね」
「そんなことないよ~。なにをしてくるのかどきどきだよ~」
「はン。そのクソムカつく態度、粉々にブチ砕いてやるんだから」

桐乃と黒猫。
共同戦線を張った二人の魔女は、同時に飛び出した。


251 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:12:33.18i1LYuYF3o (12/20)

ーーーーーーーーーーーー


先に仕掛けたのは桐乃。
あやせに見せた超速移動を開始する。今度は最初から全開、最高速だ。
瞬時に背後に回り、麻奈実の後頭部目掛けて蹴りを放つ。

(死ねェ!!)

超速移動からによる蹴り。防御も回避も、今からでは間に合わない。だが……。

「なっ!?」

麻奈実は振り返らないまま、左拳で蹴りを受け止めた。
驚く桐乃に、ゆるい声が掛けられる。

「桐乃ちゃん、速いねぇ~」
「このっ!」
「離れなさい!!」

追加攻撃を加えようとした瞬間、黒猫の怒号が飛んだ。
桐乃が麻奈実から離れるのを見届け、黒猫は黒い刃を数十本撃ち出す。
麻奈実は翼を羽撃かせて、刃を全て撃ち落とした。

(牽制とは言え、こうもあっさりと……)

大抵の魔女なら、桐乃の蹴りで即死。たとえそれを回避、もしくは防御出来ても、黒猫の刃で殺られていたはずだ。
それをあの悪魔は、ほとんど動くことなくどちらも無力化した。やはり手強い。
黒猫は魔力を練り、攻撃の威力を上げようとした。
その間、桐乃は全包囲攻撃を仕掛けた。
上、下、左、右、前、後ろ……。
そのどれもが、あやせに見せたものより速く、重い一撃だった。
しかし、麻奈実は全て、拳か膝で受け止める。激突の余波で、建物の壁や床が砕けていくような一撃を、難なく防御する。

(ならっ!)

桐乃は助走をつけ、天井を蹴り、床に立ったままの麻奈実に向けて飛び蹴りを放った。
あやせに止めを刺す際に使おうとした、桐乃の最大攻撃。今度は桐乃自身も加速し、先程のものより何倍も重い一撃だ。
流星など置いていくほどの速さ。右足を中心に、魔力の奔流が渦を巻く。人間相手ならば塵も残さないほどの苛烈な一撃。
試したことは無いが、たとえ悪魔だろうと確実に殺せる。
麻奈実は回避行動を見せず、両腕に黒い魔力を纏い、

「は!?」
「ふふっ。つ~かま~えた~」

桐乃の足を両腕で掴んだ。
桐乃を掴んだまま体を回転させ、黒猫目掛けて投擲。ジャイアントスイングだ。
黒猫は飛んできた桐乃をひらりと回避、桐乃は壁に激突した。
麻奈実から視線を外さない黒猫に、背後から怒りの声が投げ掛けられる。

「ちょっと!受け止めるなり何なりしなさいよ!!」
「嫌よ。当たったら痛いじゃない」
「アホかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

なんとも緊張感の無いシーンだが、黒猫は内心、冷や汗をかいていた。
桐乃の超速攻撃を難なく防御。防御できるのなら、回避など朝飯前だろう。
そして先程の飛び蹴りすら受け止めた。あれは、黒猫でも完全に防御できるかわからないほどの威力を持っている。
防御、回避は万全。おまけに隙が無い。「勝算は五分」と言ったが、それも怪しくなってきた。
壁から抜け出し、黒猫のところまでやってきた桐乃。
それを見届けた麻奈実は、笑顔を浮かべたまま口を開く。

「いくら速くても、あんなに殺る気を見せたら当たらないよ~。桐乃ちゃん」
「……ご忠告どーも」

余裕を崩さず、相手に忠告すらしてくるこの態度。気に入らない。ああ、気に入らない。

「どうすんのよ?」

苛立ちを隠そうともせず、桐乃は黒猫に問いかけた。
桐乃の攻撃で隙を見せた麻奈実に、黒猫が必殺の一撃をお見舞いする。という作戦で動いていたのだが、色々と誤算が出てきた。
こちらの攻撃をいとも簡単に捌くこと。隙を全く見せないこと。問題はこの二つだ。

「あなただけで駄目なら、私も加わるしかないわね。隙が無いなら作り出すまで」
「あっそ。じゃあ、せいぜい頑張ることね」
「あなたこそ、あっさり死ぬんじゃないわよ」
「あのクソ悪魔を殺すまでは、殺されても死なないわよ」
「なにそれ?いいわ。じゃ、よろしく!!」


252 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:13:05.42i1LYuYF3o (13/20)

桐乃は超速移動を開始し、黒猫は麻奈実に向かって駆け出した。
手を手刀の形に変え、急所目掛けて高速で突き出す。
麻奈実は体を揺らしてそれを避け、避けきれないものは手で払い除けた。
黒猫に集中しているところに、桐乃が攻撃を仕掛ける。それも拳のみで全て受け止める。

(二人掛かりだというのに……)
(全然当たらないどころか、かすりもしないなんて……!)

麻奈実の力は圧倒的だった。
人と悪魔、その差がこの結果だと言わんばかりに圧倒的だった。
こちらは全力なのに、相手はまだ力を隠している。その事実が、二人の心に重く圧し掛かる。
どれほど攻防を繰り広げただろうか。五分?十分?いや、もっと短いかもしれない。
だが、桐乃と黒猫の疲労の色は濃い。

「う~ん。やっぱり二人だと、ちょっと面倒だな~」

麻奈実は、まるで今夜の献立に悩んでいるような調子で言い、眉間に手刀を突き出してきた黒猫の腕を左手で掴んだ。

「ごめんね、もうおしまいだよ」

空いた右手を黒猫の胸に添え、零距離で掌打を放つ。

「がっ!」

黒猫は吐血しながら、遠方に吹き飛ばされた。
その時、麻奈実の頭上から桐乃が雷撃のような蹴りを放った。

「なっ!?」

その蹴りを、麻奈実はがっしりとキャッチ。
そのまま床に叩きつけた。

「がはっ!」

だが、麻奈実の攻撃はそこで終わらない。
桐乃の足を掴んだまま、何度も何度も床に叩きつける。床が凹む。歪む。罅割れる。砕ける。
それでも止まらない。まだまだ叩きつける。
一方的な暴力に晒された桐乃は、ボロ雑巾のようになっていった。
ようやく気が済んだのか、麻奈実は桐乃の足を掴んだまま持ち上げる。

「桐乃ちゃんも、げーむおーばーだね」

桐乃の首を掴み、ギリギリと力を込める。
首の骨を折らないよう加減し、時間をかけて窒息死させるつもりだ。

「が……あ……」

痛みと息苦しさで、桐乃の顔が歪む。必死に空気を求めて口をパクパクさせるが、息は出来ない。
その様子を、麻奈実は笑顔を浮かべながら見つめていた。

「ちょっと我慢してね~。あと何分かすれば、楽になれるから~」

麻奈実の腕を引き剥がそうと、必死にもがいていた桐乃だが、意識が途切れかかっているのか、ほとんど動かなくなった。
勝利を確信した麻奈実は、歯を見せてニイィっと笑った。


253 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:13:32.74i1LYuYF3o (14/20)

ドスッ。

音がした。
硬質な何かが、肉を突き破るような、そんな音が。
麻奈実が視線を下げると、自身の腹から赤黒い腕が生えていた。

「やっと……隙を見せたわね……ベルフェゴール」

首を回し、後ろを振り返る。
麻奈実の背中に、黒猫がぴったりと張り付いていた。
ドレスの胸部分は裂け、口からはダラダラと血を流しながら。
そんな状況でも、この悪魔は焦らない。

「残念だけど、その程度じゃわたしは殺せないよ~」
「ふっ。誰が『これで終わり』だと言ったのかしら?」

笑みを浮かべた黒猫の体が、黒く輝きだす。
終始笑顔を絶やさなかった麻奈実だが、ここに来て表情が変わった。

「いくら悪魔でも、体の内部から高純度の魔力攻撃を喰らえば、タダでは済まないはずよ」
「!? このっ……!」

麻奈実は空いた手で、黒猫を引き剥がそうとする。黒猫は腕を曲げ、麻奈実の体に爪を立て、意地でも離れようとしない。
いっそ首をもいでやろうか。麻奈実がそう思ったとき、彼女の右腕に痛みが走った。
まだ意識のあった桐乃が、その腕に爪を突き立てていたのだ。そして、彼女の体も白く光り輝いている。

「言ったじゃん……。あんたを殺すまでは……殺されても死なない……って……」
「や、やめてっ!」

麻奈実は狼狽した。
声を荒げ、攻撃をやめるよう頼んだ。それを聞き、唇を歪める桐乃と黒猫。
この悪魔がこれだけ困惑している。それは、今から自分達が放つ攻撃は『効果がある』という裏付けに他ならない。
二人の魔力の輝きは、さらに増した。

「「地獄に堕ちろ」」

その言葉を合図に、桐乃の、黒猫の練りに練り込んだ魔力が爆発した。


254 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:14:11.23i1LYuYF3o (15/20)

ーーーーーーーーーーーー


美しく、華やかなホールは、もう存在しなかった。
土煙が舞い、あちこちに瓦礫が転がり、名残すら残らないほど、このホールは破壊され尽くした。
天井もすでに無く、柔らかな月光がこの闇を払おうと懸命に光り続けている。
そんな瓦礫に埋もれた場所に、少女が二人。
ドレスはあちこちが破れ、体は傷だらけ、ところどころ出血している無残な姿の少女達。

「やった……の?」
「どうかしら……」

二人の少女――――桐乃と黒猫は、同じ場所を見ていた。先程まで、あの悪魔が立っていた場所だ。
今は土煙のせいで何も見えないが、もし生きていたときのために戦闘態勢だけは取っている。
だが、もし生きていたら彼女達に勝機は無い。
満身創痍、疲労困憊、おまけに魔力はほぼ使い切った。はっきり言えば、逃げる事だってままならない状態なのだ。
あの悪魔の死を祈りながら、二人は見つめ続ける。
不意に、夜風が吹いた。
土煙は払われ、視界がクリアになる。月光が、この場を照らす。
そして、二人は見た。あの悪魔の姿を。
いや、『悪魔』と呼ぶべきなのだろうか。
視線の先には、ボロボロの茶色いドレスを纏い、腹に大きな風穴を空け、その穴と口から大量に血を流している、眼鏡を掛けた地味な短髪の少女の姿しかなかったからだ。
その少女もまた、二人を見つめていた。
地味な少女――――麻奈実は、静かに笑った。

「っ!」

桐乃と黒猫が身構える。
だが、麻奈実は何もしてこない。ただ、笑っているだけだった。
……十数秒後、ようやく口を開く。

「負けちゃったか」

口の中をゴポゴポと鳴らしながら、そう呟いた。
そして、両手を広げて月を仰ぐ。月光を体全体に浴びせるかのような姿勢。
その麻奈実の体を、地面から伸びたコールタールの鞭が締め上げた。

「もうお迎えかぁ。せっかちだなぁ~」

異様な光景を前に、驚く桐乃と黒猫。
一方、麻奈実は驚いた素振りも無い。こうなることは知っていた、そんな態度であった。
コールタールで出来た鞭は麻奈実の体を引っ張る。地面の中へ、地面の中へと。

「桐乃ちゃん。黒猫さん。お別れ、だね」

体が半分まで埋まった麻奈実は、相変わらずとぼけた調子で言い放った。
笑みを浮かべて、いつものように、別れを告げる。

「それじゃ、『永遠』にさようなら」

それが、田村麻奈実の最後の言葉だった。
悪魔との契約。それには当然、リスクが伴う。
強大な力を得る代わりに、死後、その魂は悪魔に奪われ、永遠の闇を彷徨う。
あの光景は、麻奈実の魂が悪魔に奪われる場面だったのだろう。
脅威が去り、桐乃は大きく息を吐いた。


255 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:14:38.99i1LYuYF3o (16/20)

「はぁ~~~~~~~~~。これで終わりかぁ」
「寝惚けたことを言わないで頂戴」

体が汚れることも気にせず、大の字に寝転がった桐乃を、黒猫は冷たい目で見つめた。

「何言ってんのよ。あの悪魔もブチ殺したじゃん」
「あなたこそ、何を言っているのかしら?まだ、私達が残っているわ」

黒猫はそう言い、歩き出した。桐乃から10m離れたところで立ち止まり、振り返る。

「まだ、続ける気なの?」
「当然でしょ。このしきたりは、最後の一人になるまで続くのだから」
「そんなことしたって、意味なんかないじゃん!!」

桐乃は黒猫を睨みながら、声を張り上げた。
黒猫は、やはり冷たい目で桐乃を見つめ返す。

「なら大人しく死になさい。それでこの馬鹿げたしきたりも終わり。私が、この地の魔力も『あの人』も手に入れるだけよ」
「……それは……それだけは……認められない……」

『あの人』。
その言葉を聞いて、桐乃の意識が変わった。
大事な親友であろうと、『アイツ』は渡さない。それはあやせでも、黒猫でも同じだった。
桐乃は立ち上がり、黒猫と対峙する。
右拳を握り、白い魔力を纏わせて。

「そう。それでいいのよ」

黒猫も右手を手刀の形にし、黒い魔力を纏わせる。
お互いに、魔力はほとんど残っていない。これが最後の一撃。これで……終わりだ。
白いドレスの少女と、漆黒のドレスの少女。二人は、同時に駆け出した。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「はあああああああああああああああああっ!!」

疾駆、交錯、破壊音。
白い拳は、漆黒のドレスを破り、腹を撃ち抜いた。
黒い手刀は、白いドレスを裂き、胸を貫いた。
黒猫の表情が歪む。桐乃の口から血が溢れ出す。
勝負は決した。
心臓を破壊された桐乃は、糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。

「はぁ……はぁ……」

桐乃から腕を抜き、血を払う。
体に力が入らず、膝が折れた。
腹から流れ出る血が止まらない。体温が体の外に逃げていく。

「治癒魔術も……もう……無理……ね……」

起きていることすら出来ず、うつ伏せに倒れる。
血は止まらない。意識が遠退く。目すら、開けて、いられ、な、い。


256 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:15:05.38i1LYuYF3o (17/20)

ーーーーーーーーーーーー


かつては立派な洋館であったこの廃墟に、コツコツと音が響く。
闇の中から響く音は次第に大きくなり、音の主が姿を現した。
月光に照らされたその姿は、大柄で均整の取れた肢体にタキシードを纏い、シルクハットとステッキを身に着けた、男装の少女。
一つだけ言うことがあれば、その瓶底眼鏡はいかがなものかということだけだ。

「おやおや。今回は皆様、お亡くなりになられましたか」

少女――――沙織・バジーナは眉を顰め、少し残念な調子で呟いた。
それも一瞬。すぐにいつもの調子に戻り、ステッキを振るう。
三つの少女の体が光に包まれ、収縮し、野球ボールほどの大きさの光球となった。
再度ステッキを振るうと、光球は沙織のもとに集まる。

「おや?一つ足りませんね」

沙織は顎に手を添え、「はて?」といった感じで首を傾げた。
しばらくして、ポンと手を打つ。

「そうでした、そうでした。一つは『あちら側』に行ってしまっていたんでした」

ステッキを縦に大きく振るうと、空間が裂けた。
ステッキの先端を裂け目に向けて、くるくると回す。すると、空間の裂け目から光球が一つ出てきて、裂け目が閉じられた。

「さて、これで全てですな。では、『元の場所』へお帰りください」

ステッキを振るうと、沙織のもとに集まっていた光球は空高く浮かび上がり、ヒューっと飛んでいってしまった。
次に沙織は、ステッキで床をトントンと叩く。
すると、先程まで廃墟であった洋館が、元の立派な姿に戻った。

「今回は適格者無し。ということで、今まで通りに魔力を循環させることにいたしましょう」

シルクハットを手に取り、くるくると回しながら、沙織は独り言ちる。

「次回はどうなるでしょうか。いやぁ、実に楽しみですなぁ」

シルクハットを被り直し、ステッキで長方形を描く。
そこにドアが一つ現れた。
沙織はノブを回し、ドアを開ける。ドアの向こう側へ行く前に、『こちら』を振り返り、

「それでは、100年後までごきげんよう」

そう言い残して、ドアをくぐった。
ドアは閉まった途端に掻き消え、洋館の照明が落ちた。


――劇終――


257 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:15:32.15i1LYuYF3o (18/20)

ーーーーーーーーーーーー


「……………………」
「どうかしら?」

俺は今、自室で小説を読んでいた。隣には、小説の執筆者である黒猫がいる。
今回はオリジナルということらしいが……正直に言おう。黒猫らしくない。
かつてのマスケラの二次創作のように、膨大な設定は無く、分量も多くは無い。
内容はお粗末で、出来の悪い少年マンガを読まされているような気分だ。まるで、黒猫ではない誰かが戯れに書いたような……。

「なんつーか、お前らしくない内容だったな」
「やはり、そう思うかしら?」

やはり?やはりとは、どういう意味だ?
俺の表情からそれを感じ取った黒猫は、一応説明してくれた。

「ふと書き始めたものなのだけれど、書き終わって読み返したら、私らしさを全く感じなかったのよ」
「でもよ、お前が書いたんだろ、これ?」
「それはそうなのだけれど、不思議と『私が書いた』という実感が無いの」
「なんだそりゃ?」

黒猫は、自分のことなのにまるで他人のことを話すような口振りだった。
実に妙な話だが、俺はなぜか納得していた。

「そうかい。で、これどうすんの?」
「こんな駄作、残しておくことすら恥というものよ。データも完全に削除するわ」
「そっか。それなら、なんでそんな恥ずかしいものを、俺に見せてくれたんだ?」
「客観的な意見が欲しかったのよ」

黒猫はふぅと溜息を吐き、さらに続けた。

「私自身、『私らしくない』と感じたけれど、他の人から見たらそうでもないかもしれないじゃない」
「ふぅん。じゃあ、もし俺が『お前らしいな』って言ってたら、これをどうする気だったの?」
「これを参考に、私の悪い部分を洗い出そうと思ったのよ」
「なるほど」

これを反面教師にして、次を書こうとしてたのか。
相変わらず、好きなことには熱心なヤツだ。

「でも、その心配は無かったみたいね」

黒猫は俺に密着し、PCを操作し始めた。

「お、おい……」
「すぐ終わるわ」

ポインターを操作し、データファイルの一つをクリック。
そこでShift+Deleteキーを押す。『ファイルの削除と確認』というウィンドウが立ち上がり、黒猫は迷わず『はい』を選択した。
1秒も経たずに、問題の文書ファイルは削除された。



おわり


2581222011/04/02(土) 01:20:53.39oO+SezhO0 (2/2)


乙!
おもしろかったです!
麻奈実が黒すぎて泣いたww


259 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:21:14.61i1LYuYF3o (19/20)

以上。

なにこれ……。
無駄に長いし、ところどころ変だし、そもそも俺妹でやる必要ないし。
おまけに俺が投下したSSの中で一番の分量だし。
でもね、書いてる時はノリノリだったんすよ。それはもう生き生きと書いてました。
東方の「魔女達の舞踏会」って曲を聴いて、タイトルのイメージだけで突っ走りました。
この曲をヘビロテしながら書きました。はじめて一人称じゃない地の文を使いました。
ほんのちょこ~~~っとでも楽しんでいただけたら幸いです。

ここで、イメージしにくいところを軽く説明します。

麻奈実の服装:BADTARDのポルノ・ディアノの服です。まんまアレです。わからない人はGoogle先生で検索を。

桐乃の必殺技前のポーズ:仮面ライダー555のライダーキック前のポーズです。まんまアレです。わからn(ry


こんなんでよければ、今後ともお付き合いください。
ありがとうございました。


260 ◆lI.F30NTlM2011/04/02(土) 01:22:45.37i1LYuYF3o (20/20)

>>259
BADTARDじゃないよ。BASTARD!!だよ!


261VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(大阪府)2011/04/02(土) 05:35:50.247344hFeu0 (1/1)

>>259
乙。
最初、fateかとおもったがfortissimoか?


262VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北海道)2011/04/02(土) 13:56:13.59ewwpQxfl0 (1/1)

乙です
クリムゾンスマッシュも好きだがゴルドスマッシュも捨てがたい


263VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/03(日) 06:11:42.58SML/lmIzo (1/2)

おつ。
週末になると過疎るのはこのスレの大半がリア充である証なのだろうか。想像するだに恐ろしい


264VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/03(日) 14:59:30.43f/1U2MCOo (1/1)

この時期は進学やら転勤やらあるからな
それに関連して飲みとかあるだろう
リア充ばっかりってわけでもなかろう


265 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 17:50:07.68qUKwgnJSo (1/13)

>>200 さんの

>桐乃を連れ戻しにアメリカにきた京介が、タクシーの運ちゃんと仲良くなり
>人質取って立てこもってる強盗犯のいる銀行に突っ込み事件を解決したり
>暴走列車に飛び乗ったりするネタを誰か形にしてください

 ↑のネタを元にして書いてみた。(派手なアクションはありません)
  ……久しぶりにあやせの出番がない。

題名:適当な題名が思い付かんかった。

投下:18時00分から 投下します(12レス)
カプ:京介×???


266VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/03(日) 17:58:59.27vFlF16gWo (1/1)

wwktk


267 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 18:00:11.17qUKwgnJSo (2/13)


桐乃に会うために遥々アメリカまでやって来た俺は、飛行機を降りてからというもの、
かれこれ一時間もの間、ここロサンゼルス国際空港のイミグレーションで足止めを食っていた。
アメリカ人の入国審査官の英語はとにかく早口で、何言ってんだか俺にはさっぱり分からねえ。
仕方がないんでスーツケースの中身を全部広げて、俺は危険なもんなんか持っちゃいねえって
身振り手振りで示したんだが、目の前の白人の大男は首を横に振るだけで全く埒が明かない。
そんな俺に同情したのか、俺の後ろに並んでいた乗客が助け舟を出してくれた。

「オマエ ニッポンジンアルカ?」
「い、いえ~す。あいあむ、じゃぱに~ず」

俺に声を掛けてくれた、その親切な人はどうやら中国人のようだった。
どんなに聞き取りにくい片言の日本語でも、今の俺にとっちゃ地獄に仏とは正にこのことだ。
その人の話によれば、入国審査官は俺に入国の目的を聞いているらしかった。
だったら初めっからそう言ってくれればいいじゃねえか。
英語でベラベラと捲くし立てやがって……って、初めからそう言ってたのか。

「え、えーと……さ、さいと し~ん おーけい?」

修学旅行の時とは違い、初めて一人での海外旅行に初っ端から舞い上がっていた俺は、
あらかじめ親父が海外での注意事項を記してくれたメモのことなんかすっかりと忘れていた。
メモを見たら、イミグレーションでは必ず入国目的を聞かれるって書いてあるじゃねえか。
要は仕事で来たのか、それともなきゃ観光目的なのかを答えればいいだけだ。
何とか俺の拙い英語が通じたのか、大男は笑顔で俺のパスポートに入国スタンプを押してくれた。

「Have a nice trip」
「さ、さんきゅ~」

俺はカウンターに広げた着替えだの桐乃への土産だのをそそくさとスーツケースに押し込むと、
入国ゲートの外で先程俺に親切にしてくれた中国人を待った。
人から親切にしてもらって置いて、礼も言わずに行っちまうなんて出来るわけがねえだろ。
ましてや桐乃以外に知り合いもいねえ、日本語も全く通じねえ外国だったら尚更だ。
古いって言われるかも知れんけど、俺の親父ならきっと同じようにしたと思う。


268 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 18:00:45.98qUKwgnJSo (3/13)

しばらく待っていると、その人も入国手続きを終えてゲートから出て来るのが見えた。
俺はすぐさま駆け寄って礼を述べた。

「先程はどうも有り難うございました。本当に助かりました」
「シンパイナイアルネ。コマッタトキハ オタガイサマアルヨ」

何度もその人に礼を言ってから、俺はようやく空港のビルから外へと出た。
取りあえずここまでは、色々と右往左往することはあっても何とか無事に来られた。
ここから先は親父のメモに従って、タクシーで桐乃の滞在先へ向かうだけだ。

空港ビルを出ると、目の前のロータリーには客待ちの黄色いタクシーが数台停車していた。
映画やテレビで見たのと全く同じ、いわゆるイエローキャブってヤツだ。
しかし、日本で乗るタクシーならいざ知らず、アメリカで、それも一人で乗るとなると
どうしても足がすくんじまって踏ん切りがつかない。
だが、考えてみれば妹の桐乃は俺より三つも年下のくせに、こういったことも全て一人で
やり遂げて来たんだろうに。
それを思えば、兄貴の俺がこんなことでビビってるわけにはいかねえよな。
俺は意を決して、先頭で客待ちをしているタクシーに近付いた。

「…………? ドア、開けてくんねえじゃん。……乗車拒否ってか?
 あっ、そうか、外国のタクシーって自動ドアじゃなかったんだっけ」

つい日本にいる時の癖で、タクシーと言えば自動ドアかと思っちまった。
これだって良く見りゃ親父のメモに書いてあったじゃねえか。
俺はさり気なく右後ろのドアを開けタクシーに半身だけ入れると、運転手さんに桐乃の滞在先の
住所が書かれたメモを見せた。

「ここへ行きたいんすけど……分かりますか?」

俺の下手な英語が現地で通用しないことくらい、さっきの空港での一件で思い知らされた。
こうなったら俺は意地でも日本語で押し通すと心に誓ったんだ。


269 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 18:01:21.01qUKwgnJSo (4/13)


「オマエ ニッポンジンアルカ? ドコマデイクアルネ?」
「ですから、この住所の所へ行きたいんす」

運転手さんは俺が渡したメモを見てニヤリと笑い、親指を突き立てると大声で快諾してくれた。
後ろのトランクを開けてもらいスーツケースなどの荷物を入れると、俺は再びリアシートに座った。

「モンダイナイアルヨ。ソレジャ ワタシ イクヨ オマエ シッカリツカマッテルヨロシ」

車中で聞いたところ運転手さんは中国系アメリカ人で、タクシーの運転手は副業に過ぎず、
本業は地元ロサンゼルスの大学で日本文学を教える、れっきとした講師だそうだ。
学生時代には日本にも短期留学していたから、日本語には自信があるって言うんだが……

「オマエ アメリカ ナニシニキタ?」
「妹に会いに来たんす。こっちへはスポーツ留学しているモンで」
「イモウト カワイイアルカ? モウヤッタカ?」
「いや、これから会うつもりなんで……ほんと、妹に会うの久しぶりなんすよ」
「オマエ イモウトトヤルノ ヒサシブリカ? ガンバルヨロシ」

妹属性らしき運転手さんとの会話はイマイチ噛み合わなかったし、内容がそっち方面ばっかだから
俺の心は何度も折れそうになったが、人の良さそうな運転手さんで、俺は正直内心ほっとしていた。
それにしてもこの運転手、じゃなくて講師が教える日本文学って、一体どういう内容なんだよ。
源氏物語とかはその手の話が多いんだろうけどさぁ、この講師から講義を受ける学生のことを思うと、
俺は学生に同情せずにはいられなかった。

「オマエ ヒカルゲンジ シッテルカ?」
「ああ、やっぱそうすか」

タクシーは空港を離れると、程なくして高速道路へと進入して行った。
巨大な高層ビル群が林立するロサンゼルスの街を、タクシーは猛スピードで駆け抜けて行く。
俺は車窓を流れる風景に目を奪われながら、親父が娘の桐乃のことをどれ程心配していたのか、
そしてどれ程可愛がっていたのか改めて思い知らされた。
本当は親父自身が来たかったろうに、そう思うと、街の景色が滲んで見えた。


270 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 18:02:01.80qUKwgnJSo (5/13)


気が付くとタクシーはロサンゼルスの中心部を離れ、住宅の建ち並ぶ郊外へと入って来た。
桐乃もきっと俺と同じ風景を見ながらここまで来たんだろう。
幾らかの不安と、そして無限大の希望を、まだ幼さの残る心に抱きながら。
あいつは兄貴の俺が言うのも何だけど、たしかに凄いヤツだよ。
俺が今の桐乃と同じ歳だった時、海外で自分を試そうなんて想像も出来なかったしな。
そんな凄い妹に会って、俺はどうするつもりだ?
久しぶりじゃないか、元気にしていたかと挨拶して、それで帰るつもりなのか?
違うよな。俺は桐乃を……俺の可愛い妹を連れ――

「オマエ ツイタネ タブンココデイイアルヨ」
「あっ、ああ、すんません。……けっこう早かったっすね」

桐乃に会ってからのことを考えている内に、いつの間にやらタクシーは目的地に到着していたらしい。
そうは言っても、初めて来た俺には、ここが本当に桐乃のいる所なのかどうかなんて分かるわけがねえ。
取りあえず親父の書いてくれたメモもあるし、あとは適当に聞いて捜すしかねえか。

「どうもすんませんでした。じゃ、これで」

そう言って俺は財布から100ドル紙幣を一枚抜き取り、運転手さんに渡そうとした。
すると運転手さんは急に顔色を変え、これは受け取れないと言い出した。

「オマエ 10ドルカ 20ドルサツ モッテナイアルカ?
 ナケレバ アメックスカ トラベラーズチェックデモ イイアルヨ」
「いや、全部100ドル札と、あとは小銭しか持ってないっすけど。
 ……ところで、トラベラーズチェックってなんすか?」

運転手さんが説明してくれたんだが、アメリカじゃ100ドル札のような高額紙幣は敬遠されるらしい。
偽札の心配があるからってことらしいが、俺がそんな偽札なんて持ってるわけがねえだろっての。
しかし、いくら俺が頼み込んでも運転手さんはどうしても受け取れないって言うし、
辺りを見回しても両替してくれそうな所もなかった。
俺はここまで来ていながら、仕方なく銀行まで乗せてもらうことになったんだ。


271 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 18:02:43.94qUKwgnJSo (6/13)


アメリカで高額紙幣が敬遠されるなんて、親父の書いてくれたメモにもなかった。
大体100ドルなんて日本円にしたら一万円にも満たねえ額じゃねえか。
それでも相手が受け取らないって言ってんだから、仕方がねえけどな。
運転手さんは良い人みたいだし、何も俺に嫌がらせをしているわけでもなさそうだった。
その証拠に、銀行までの往復料金はサービスしてくれるって言うしな。

「ココ バンクアルヨ エクスチェンジ スルヨロシ。
 オマエ マヌケアルカラ オレ ツイテイクヨ」
「……何から何まですんませんね。あと、運転手さん、あんたどこで日本語覚えたんだよっ」

運転手さんに連れて来てもらった銀行は、俺が知っている日本の銀行とはかなり趣が違っていた。
銀行の行員と客との間にある衝立は天井に届くかと思われる程高く、
そのくせお金をやり取りする部分は必要最低限なんだろうか、極端に小さい。
幸いなことに客は少なく、カウンターには先客が一人しかいなかった。
俺は何の気なしに、その客の後ろに並ぼうとしたらいきなり運転手さんが叫んだ。

「オマエ ニゲルアルヨ! ソイツハ ゴトウアルヨ!」
「……後藤さん?」

運転手さんが後藤さんと呼んだ人は、後ろ姿を見ても明らかにアメリカ人なのにな。
俺が後藤さんの後ろに並ぶと、後藤さんは驚いた様子で振り返った。
驚愕の表情で俺を見据えながら、何やら早口の英語で捲くし立てる後藤さん。
全く聞き取れねえじゃねえか。

「後藤さん、すんません。英語だと何言ってんだか分かんないんすけど」

俺が頭を掻きながらそう言うと、後藤さんは俺の目の前に何かを突き付けた。
いきなり目の前に突き付けるもんだから、焦点が合わず一瞬何だか分かんなかった。
黒っぽい金属で出来たような……何だこれ?


272 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 18:03:18.41qUKwgnJSo (7/13)


「ああ、これ、沙織の持っていたS&W38口径リボルバーじゃんかっ。
 ゴルゴ13も愛用してるやつ。……後藤さんもファンなんすか?
 やっぱ、拳銃と言ったらリボルバーっすよね。
 ちょっとだけ触ってもいいすか? 本当にちょっとだけでいいっすから」

そう言いながら俺は、後藤さんの持っているS&W38口径リボルバーのシリンダー部分を掴んだ。
俺が拳銃のシリンダーを掴んだと同時に辺りが一気にざわめき、銀行の警備員が拳銃を手に飛んで来た。
ど、どうなってんだ? 俺はそんな異様な空気に気圧されて、
思わずシリンダーを掴んだ手を離そうとした途端、運転手さんが再び叫んだ。

「オッ オマエ! シンデモソノテ ハナシタライケナイアル!
 ゼッタイニ ハナシタラ イケナイアルヨ!」

運転手さんの緊迫した声に俺は何がなんだか分からず、思わず後藤さんの顔を見た。
後藤さんはと言えば、俺を見据えたまま固まっちまってるし……
その後、俺が見た光景は、後藤さんが警備員にフルボッコにされるところと、
運転手さんが俺に抱き付いて、早口の英語で捲くし立てながら泣いているところだった。
それから何故か行員の皆さんが俺を見て、『SAMURAI JAPAN!』と口々に言いながら
盛大な拍手をしてくれた。

一体何が起こっているんだか、英語の苦手な俺には良く分からんけど、
そもそも俺が銀行に来たのは100ドル紙幣を小額紙幣に両替してもらうためだ。
警備員にフルボッコにされ、床の上でのびている後藤さんを尻目にカウンターに近付くと、
大きく深呼吸をしてから行員へ告げた。

「ぷり~ず えくすちぇんじ……100ドル いんとぅ 10ドル おわぁ 20ドル」


273 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 18:03:55.74qUKwgnJSo (8/13)


無事に両替を済ませると、行員さんに礼を述べてから運転手さんと一緒に銀行を出ようとした。
すると、銀行のいかにもお偉いさんと言った感じの恰幅のいい紳士が俺に近付いて来て、
これまた早口の英語で何か言って来るじゃねえか。
その紳士は満面の笑顔で俺の手を取ると、千切れんばかりに握手をしてから、
一通の封筒を俺の胸元に押し付けた。

「オマエ ソノカタハ コノバンクノ トドリネ」
「……と鳥? なんのこっちゃ?」

受け取った封筒の中には小切手が入っていて、俺は額面を見て驚いた。

「いち、じゅう、ひゃく……一万円? じゃなくて、10,000ドル!?
 10,000ドルって言ったら、日本円に換算して八十数万円じゃねえかっ。
 わけも無くこんなのもらえないって。……えっ、えーと、の、の~さんきゅう~ぷり~ず」

俺は運転手さんに目顔で必死に助けを求めた。
そんな俺の慌てふためき振りを笑いながら見ていた運転手さんは、事の次第を説明してくれた。
俺が顔色一つ変えずに、平然と銀行強盗をやっつけたと。
そのお礼として銀行の頭取が、俺に10,000ドルの小切手をくれたらしい。
運転手さんの説明を聞いて、ようやく俺はさっきの後藤さんがゴトウさんではなくて、
強盗だったことや、持っていた拳銃が沙織の持っているようなモデルガンなんかじゃなくて、
本物の拳銃だったと分かった。

「まっ、マジっすか? 俺、本物の拳銃なんか見たこともねえし……
 てっきりモデルガンなんだと思ってたっすよ」

先程の強盗は通報で駆け付けた警察官によって逮捕され、ちょうど連れて行かれるところだった。
一歩間違えれば、俺は桐乃に一生会えなくなるところだったじゃねえか。
事の真相を知って今更ながら膝が震えて来やがった。
何にしても両替もしてもらったし、こんな物騒な所からは一刻も早く立ち去るのが懸命だ。
俺は運転手さんに通訳してもらって、謝礼金の件は丁重にお断りした。


274 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 18:04:34.21qUKwgnJSo (9/13)


銀行の頭取にも何とか納得してもらい、俺たちはやっとのことで銀行を後にした。
しかし、一難去ってまた一難とは良く言ったもので、それは運転手さんの叫び声から始まった。

「アイヤー クルマガナイアルヨ!」

どうやら銀行強盗騒ぎの間に、タクシーは駐車違反でレッカー移動されちまったようだ。
路上に残されているチラシのような紙片を見つめながら運転手さんは頭を抱えている。
やっぱ、俺のせい? 俺が銀行強盗になんか構わなけりゃ、いや、それよりも初めっから
日本を出国する時に小額紙幣に両替しとけば……。

「運転手さん……何て言ったらいいのか。……本当に、すんませんっ!」
「オマエ ワルクナイアルヨ ワルイノハ L.A.ノ ケイサツカンアルヨ」

俺は詫びるつもりで駐車違反の反則金とレッカー代を払うと言ったんだけど、
運転手さんは頑として受け取ろうとはしなかった。
それよりも、俺を妹の所まで送って行けなくなったと言って、何度も謝ってくれた。
たまたま乗せた俺のせいで、こんな災難に遭っているってのに……。

「モウシワケナイアル ココカラハ アレニノルヨロシ」

運転手さんが指差したのは、銀行のある通りから2ブロック離れた所に停車していたバスだった。
そのバスに乗れば、先程タクシーで行った桐乃の住んでいる寮の近くまで行けるとのことだ。
俺は何度も運転手さんにお礼を言ってから、そのバスが止まっている通りへと向かって歩き始めた。
きれいに区画されたロサンゼルスの街並みを、まさか徒歩で歩くなんて思いもしなかったよ。
大通りに面した建物はどれも近代的なのに、そんな建物に挟まれた路地を覗くと、
そこには古いレンガ造りのアパートなんかが今も残っている。
ロサンゼルスと言えば映画なんかの影響で近代的な街並みを想像しがちだが、俺が見たそれは、
新しいものと古いものが渾然と同居していて、いつかあやせと行った鎌倉の街並みを想い起こさせた。


275 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 18:05:15.19qUKwgnJSo (10/13)


銀行のあった通りとは違って、バスが停車しているこの通りは東西にずっと石畳が続き、
その真ん中に路面電車の軌道が敷設してあった。
バスに乗るにはこの通りを渡って、反対側に行く必要がある。
俺は歩行者用の信号が青になるのを待った。

「アメリカじゃあ歩行者用の信号って、青と赤が上下反対になってんだな。
 車も左右反対通行だし、日本と違うと分かってても、どうも違和感があんだよな」

信号が変わる間、俺がそんな独り言を言っていると、目の前をゆっくりとした速度で路面電車が
通り過ぎて行った。

「たしかに江ノ電とは大違いだわ。やっぱ、アメリカらしいっちゃ、らしいけどな」

目の前を通り過ぎて行く路面電車を何気なく見やると、最後尾のデッキで幼い女の子が手を振っていた。
辺りを見回しても、その女の子に気付いている人はいないようだった。
と言うことは、あの女の子は俺に手を振ってるってわけか?
俺も女の子に応えるように手を振り返した。
褐色の肌の黒髪の美少女とも言えるその女の子は、俺に気付いた様子で更に大きく手を振り、
続けて俺に向かって何か叫んだ。

「……なんか、様子が変じゃねえか?」

なんて言ってるんだか分かんねえけど、様子が只事じゃねえ。
大体、あんな幼い女の子が一人で路面電車に乗ってるわけがねえだろ。
目の前を通り過ぎる時、何の気なしに見ていただけだからはっきりとは言えねえけど、
あの女の子以外に他の乗客なんていたか?
それに、俺の記憶じゃ運転士がいたのかさえ定かじゃねえ。
俺は気付いた時には、全力で路面電車に向かって駆け出していた。


276 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 18:05:47.69qUKwgnJSo (11/13)


桐乃に会うためにロサンゼルスまで来たってのに、何をやってんだろうな、俺。
長い飛行時間で時差ボケはしてるし、思わぬ銀行強盗事件に巻き込まれて体力は限界に近かった。
それでもこうして路面電車を全力で追い掛けているのは、必死で助けを求めている女の子が、
桐乃の面影とどことなく重なったからかも知れん。
幼い時の桐乃が笑っている顔が脳裏に浮かぶと、疲れ切っている筈の俺の足は加速した。

なんとか路面電車に追い付きデッキにある手摺に手を掛けると、俺は一気に飛び乗った。
一息吐く暇も無く車内を見回すと、案の定乗客は女の子以外にはいない。
泣きながら俺にしがみ付いて来る女の子を俺はしっかりと抱き締め、そっと頭に手を置いた。
桐乃がまだ幼かった時、あいつが泣くといつも俺がしてやったことだ。
女の子が泣き止むのを待って、俺は声を掛けた。

「俺が必ず助けてやるから待ってな」

日本語が通じるとも思えねえけど、女の子は俺の眼を真っ直ぐに見つめて小さく頷いた。
取りあえず俺は女の子を車内の一番後ろのシートに座らせると、前方にある運転席に走った。
路面電車の運転なんて俺に出来るわけはねえけど、止めることくらいなら……。

「……これがマスター・コントローラー、だよな」

男だったら、小さい時に一度くらいは電車の運転士に憧れたことがあるだろ。
そんな時に必ずやることは誰しも一緒だ。
電車の運転席の後ろに張り付いて、運転してる様子を憧れの眼差しで見つめることだよ。
どうやって電車が動いてるかなんて知らなくても、運転席に付いているレバーを運転士さんが
前後や左右に動かすと、電車が加速したりブレーキが掛かったりするんだ。
こんなもんは大抵の場合、手前に引くか、時計回りに廻せばブレーキが掛かるようになってんだよ。
もしも違ってたら、そん時は逆にすればいいだけじゃねえか、だろ。
俺はゆっくりと時計回りの方向へレバーを廻した。


277 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 18:06:34.06qUKwgnJSo (12/13)


床下からブレーキが軋む音が聞こえる。
路面電車の速度が、僅かだが落ちて来たのも分かった。
これで一安心と思っていると、後ろのシートに座らせていた女の子がいつの間にやら俺の傍に来ていた。
女の子は俺の腰の辺りに抱き付くと、黙って前方を指差した。

「……マジかよ。この先は下り坂じゃねえか」

考えている暇も無く、路面電車は下り坂に差し掛かる。
俺は更にレバーを廻したが、これ以上速度は落ちなかった。
それどころか、先程よりも加速しているようにも感じる。
俺の腰に抱き付いている女の子の腕に、力が入るのがはっきりと分かった。

「心配すんなって。……おまえのことは、俺が必ず守ってやっから」

そうは言ったものの、車窓を流れる景色の早いことと言ったら、そりゃねえだろってくらいだ。
この速度なら、一か八か俺が女の子を抱きかかえたまま飛び降りれば、命だけは何とかなるかも知れん。
いや、それはだめだ。俺はともかく、女の子だって只じゃすまねえ。
こんな年端も行かねえ可愛い女の子に、怪我をさせるわけにはいかねえだろ。
ましてや、顔に傷でも付けちまったら一生謝っても謝りきれねえ。
それに俺たちが飛び降りたら、この路面電車は無人のまま下り坂を突っ走ることになって、
街中の大惨事になることは免れない。
せめて、この女の子だけでも助けてやりてえ。
俺は一縷の望みをかけて、女の子を包み込むようにして抱き締めた。

「すまねえな。……俺、おまえとの約束……守れねえかも……」

ほんの一瞬俺が弱音を吐き掛けた時、路面電車の真横で激しいクラクションの音がした。
見ると一台のイエローキャブが路面電車にぴったりと併走している。
どこか見覚えのあるイエローキャブだった。とは言っても、どれも同じに見えるんだけどな。
見覚えがあったのは車じゃなくて、運転手さんの方だった。

「オマエ ナニヤッテルアルカ! イモウトイナガラ ロリコンダッタアルカ!」
「ち、違うって、俺はロリコンなんかじゃないっすよ!
 ……それよりも運転手さんっ、なんでここにいるんすかっ!?」
「ワスレモノアルヨ! オマエ ニモツ トランクノナカネ!」


278 ◆Neko./AmS62011/04/03(日) 18:07:10.48qUKwgnJSo (13/13)


地獄に仏とは正に……そういや、空港でもそう思ったっけ。
たしかにここはロサンゼルスだもんな。
天使がいるくらいなんだから、仏様がいたっておかしくねえよ。
俺は路面電車のブレーキが利かねえってことを、運転手さんに有りっ丈の大声で伝えた。
すると運転手さんは何を思ったのか、開けっ放しの運転席の窓から左腕を出し、
親指を突き立て俺に向けたかと思うと、一気に路面電車の前に回り込みフルブレーキを踏んだ。
大音響と共に衝撃が伝わり、その後電車の車内にゴムの焼ける臭いが立ち込めた。

「げっ! あんた一体何者なんだよっ。まるで……だめだ、適当な人物が思い浮かばねえ」

ハリウッド映画だってこんな無謀なことやらねえだろっての。

盛大な火花を放ちながら、イエローキャブはその身を犠牲にして路面電車を止めようとしていた。
下り坂にも拘らず路面電車は確実に速度を落とし、そして、何事も無かったかのように停車した。
イエローキャブのタイヤは跡形も無く焼け落ち、今じゃホイールだけになっている。
運転手さんは見るも無残に変形したドアを蹴破るようにして出て来ると、
俺と女の子のいる路面電車の運転席に駆け寄った。

「オマエ ワスレモノダッテ イッテルアルヨ!」

俺はアメリカに来て、初めて泣いた。

大変だったのはその後だよ。
警察のパトカーを初めとして、消防車だの救急車だのがわんさと集まって来て、
一時は人だかりが出来て大騒ぎだった。
運転手さんが機転を利かせて警察に上手く説明してくれたお蔭で、俺にお咎めは無かった。
ただ、女の子の方は、なんで一人で無人の路面電車に乗っていたのかってことで、
これから警察でこってりと絞られるらしい。
でも、運転手さんの話だと警察は子供には優しいから心配ないってことだし、それを聞いて俺も安心した。
短い時間だったけど、アメリカに来て初めて知り合った女の子だろ。
俺は女の子との別れ際、無駄かも知れねえけど日本語で彼女に聞いたんだ。

「俺は、高坂京介。……おまえは?」
「……マイネームイズ、リア! ……リア・ハグリィ。
 おにいちゃん、超好きっ! ちゅっ、ちゅっ」


(完)


279VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関東・甲信越)2011/04/03(日) 18:47:53.34FGkYeRqX0 (1/1)

京介△


続きが気になる終わりかたしてくれんじゃねーかこらぁ


280VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(広島県)2011/04/03(日) 19:06:30.40+HsreOz4o (1/1)

イイヨー スゴクイイヨー


281VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)2011/04/03(日) 19:08:23.1804Y2itmdo (1/2)

ちゅっちゅしている最中に桐乃と出くわしてしまう展開が簡単に浮かぶ


282VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/04/03(日) 19:31:36.96PeSDTP/qo (1/1)

あんた・・・モテないからって遂に子供に


283VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(静岡県)2011/04/03(日) 20:18:28.7804Y2itmdo (2/2)

銀行強盗の撃退と路面電車の一連を聞いて
「ハァ?あんたなに寝ぼけたこと言ってんの? その顔でヒーロー願望だなんて夢見過ぎだって。ウザい」
と突き放すも、
「ねぇ、聞いてよ!兄貴ったらさ、銀行強盗を退治した上に、子供を救ったんだってさ! マジカッコよくない?」
と周りがドン引きしまくるくらい自慢しまくる桐乃さん


284VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(群馬県)2011/04/03(日) 20:23:44.84oSoByMQi0 (1/1)

>>283
「わかった。桐乃って病気なんだね」で片付けられるだろうww


285VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/04/03(日) 20:38:25.19oVwluHAso (1/1)

乙だぜぃ。
京介△
OOOの次のライダーは京介さんで決まりだ!

>>283
「とある兄貴の超電磁砲」ですね、わかります


286VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/03(日) 21:56:19.62gq5kpTUTo (1/1)

京介△すぎるwwwwww


287VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/03(日) 23:48:40.48hTJ9TYMDO (1/1)

ハリウッド期待の新人すぎるww


288VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/03(日) 23:50:38.95SML/lmIzo (2/2)

おつ。

>>283
デレた桐乃の破壊力は異常。デレなくてもかわいいんだけどね

桐乃やハルヒ、大河みたいなキャラを好きになれるかどうかって
どうしてそういう行動をとってしまったかを妄想できるかにかかってる気がする


289VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/04/04(月) 01:56:04.01GtLzWZWso (1/8)

※敬虔なキリスト教信者の方は、キリストに関する侮蔑表現が含まれていますので、お読みにならないでください。

アマガミをプレイしながら思いついたネタで一つ。
クオリティは超低いので、読み飛ばしていただいて結構です。
台本形式の小ネタでございます。
少々下品な言葉が出てきますんで、ご注意を。

以下、投下。


290 ◆lI.F30NTlM2011/04/04(月) 01:57:18.04GtLzWZWso (2/8)

京介さんは、某海賊マンガに多大な影響を受けているようです。



第1巻 第三章より

沙織「こちらのお二人は、きりりん氏と――特別ゲストで、その兄上様の京介氏です。そして、こちらは我がコミュニティのメンバーで――」

黒猫「……ハンドルネーム"黒猫"よ」

桐乃「えっと……きりりんです。よ、よろしくね」

京介「高坂京介だ。飛び入り参加ですまない」

京介(何だこれは? 俺はいつ、不思議の国に迷い込んだんだ? 『珍妙な格好の大女に付いていったら、ゴスロリ美少女と会わされた』なんて、
   ルイス・キャロルでも思い付くまいよ。大女は白ウサギで、ゴスロリはトランプ兵なら、次に出てくるのはマッドハッターか?)


ーーーーーーーーーーーー


第2巻 第二章より

京介「俺だって、眺めるならプレイメイトを希望するさ」

麻奈実「そうだよねー……うーん……やっぱり、わたしもがんばろっかなぁ……」

京介「……おまえはそのままでいいと思うぞ?」

麻奈実「……ほんとに?」

京介「ああ。おまえがイライザ・ドゥーリトル(※)になる必要は無え。そんなストーリーは、舞台の上だけで十分だ」

麻奈実「…………そ、そお? きょうちゃんは……そう思う?」


※ミュージカル『マイ・フェア・レディ』の主人公。
 同作品は下町の花売り娘であるイライザ・ドゥーリトルを舞踏会でも通用するレディ仕立て上げるというストーリー。


ーーーーーーーーーーーー


第2巻 第四章より

桐乃「黙れっ!さんざんほったらかしにしておいたくせに、いまさら兄貴面すんな!」バンッ!

京介「ちょ……待……痛……」

桐乃「うるさいっ!」バンッ!

桐乃「あたしが……っ! あたしがどんな気持ちで夏休みを過ごしたと思ってんの!」バンッ!

桐乃「このままでいいわけないなんて……! そんなのあたしが一番分かってる!」バンッ!

桐乃「でもどうしようもないの! あたしはあやせに嫌われるようなことをしてて、やめるつもりがないんだからっ!
   もうどうしていいか分かんないの……っ!」バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!

京介(神様ってのはとんでもねえことをしやがる。仔猫みたいな外面の中にロバート・パトリック(※)を詰め込むんだからな。
   イタズラにしちゃ、趣味が悪すぎるってモンだ)

※映画『ターミネーター2』でT-1000(液体金属ターミネーター)を演じた俳優。


291 ◆lI.F30NTlM2011/04/04(月) 01:58:12.36GtLzWZWso (3/8)

第4巻 第一章より

あやせ「……なるほど。分かりました。その言い草からすると、わたしに似ているキャラがいるんですね? ではうかがいましょう、お兄さん、
    わたしが着るべきコスチュームというのは?」

京介「うむ、これだ」ペラッ

京介「ダークウィッチ『タナトス・エロス』EXモード。ちなみにEXモードってのは、いわゆる大人形態で、十数歳分成長してパワーアップする魔法のことだ。
   タナトスってのはこのアニメのラスボスでな、女の胎児に寄生して操ってるから、十四歳の姿をして、」

あやせ「ほば全裸じゃないですか死ねェェエェェェエェェェェェェエェェ――!」ハイキックゥ!

京介「ぶべあっ!!」



京介「……信じられねえ。首がもげてねえ。信心深え甲斐もあるってもんだな。アーメン・ハレルヤ・ピーナツバターだ」


ーーーーーーーーーーーー


第4巻 第一章より

加奈子「あ゛~~~~やってらんねェ~~~~~~~ッ。んだよ、あのキモオタどもはよオ~~。なぁにが、かなかなちゃんカワイイよ、メルル萌えーだっての。
    付き合ってらんねーよジッサイ」

ブリジット「か、かなかなちゃん……あの……そんなことをいっちゃ……だめじゃない? みんな、せっかくおうえんしてくれたのに……」オドオド

加奈子「あァ? おまえ、ばっかじゃねぇぇ~~~~~~~~~~~~~~~~の?」ブハァー

ブリジット「けほっ、けほっ……ふ、ふぇ……」


京介(……こいつはたまげた。いつからジョージ・W・ブッシュ(※)が神様の職に就いたんだ? クソッタレめ)


※第43代アメリカ合衆国大統領(任期:1995年1月17日-2000年12月21日)


ーーーーーーーーーーーー


第5巻 第二章より

黒猫「……しかしまいったわね。こんな特殊な御趣味をお持ちのくせに、あんな偉そうな口を叩いていたなんて。きちんとしていない? 人のこと言えるのあなた?」

瀬菜「言えますゥ! あたしはあなたと違って、自分の趣味がおおっぴらにするようなものではないって分かってるんですから! えぇえぇぇそうですとも!
   どーせあたしはホモがスキですよ! 腐ってますよ! でもちゃんと隠して生きているんだからいいじゃないですか!」

黒猫「……あらそう。超腐っている赤城さんは、テニミュみたいな半生もいけるクチなのかしら」

瀬菜「余裕でいけます。自慢じゃないけど守備範囲超広いですよあたし。生モノだろうと二次元だろうと無機物だろうと、あたしの琴線に触れさえすれば、
   脳内補完して妄想が可能です。極端な話フォークとスプーンさえあればプリミティブな愛の形は表現できるのです」

黒猫「素晴らしい信念だわ。……じゃあ、もしかしてリアル男子でも妄想したりするの?」

瀬菜「ふッ、何を隠そう、昨夜は真壁先輩がゲー研の部員たちに輪姦される夢を見ました」


京介(……ッたく、ファッキン・クライスト様々だぜ。『エド・ゲイン(※)が隣に引っ越してきた』と言われても、ここまでは驚かねえ自信があるぞ)


※アメリカ合衆国に実在した墓荒らしで連続殺人者。死体を食器・家具に加工したり、殺した人間の肉を一部食用としたりしたことで有名。


292 ◆lI.F30NTlM2011/04/04(月) 01:58:53.03GtLzWZWso (4/8)

第6巻 第一章より

ブリジット「……あの……この漢字、なんと読むのでしょう?」

京介「これは、『屠(ほふ)る』って読むんだ。――ぶっそうな単語が出てくる台本だな、しかし」

ブリジット「……ありがとうございます、マネージャーさん」

京介「ああ。他に分からないところがあったら、遠慮なく聞いてくれ」

ブリジット「はい」ニコッ


京介(15年ほど前の日本ってのは、ひどい時代だったのかねぇ? ブリジットはこんなにいい娘なのに、
   桐乃やその友達連中は、揃って中身がシュワルツェネッガーみたいなヤツらばかりときたもんだ……)


ーーーーーーーーーーーー


第7巻 第三章より

京介「なんでここに? 出版社に就職して編集者になったんじゃ?」

桐乃「あ、もしかしてメディアスキー・ワークスのお仕事でいらしたんですか?」

フェイト「それがね……話せば長くなるのよ」

フェイト「熊谷さんの紹介でMAWの中途採用試験を受けに行って来たんだけど、コネで入社余裕かと思いきや超圧迫|面接《めんせつ》だったの」

桐乃「落ちちゃったんですか?」

フェイト「うう……『会社を辞めてからの期間は何をしていらっしゃったんですか?』って聞かれたから、『御社の新人賞に投稿するためにずっと小説書いてました』って
     面接で答えたの。そうしたら……もの凄い白けた空気になっちゃって……し、死ぬかと思ったわ」

桐乃「小説書くのは就活じゃないんだよバーカっていう意味の空気ですか?」

フェイト「しゅ、就活は就活だってばたぶん! でも、私がしていたのは、つぶしが利かないタイプの就活だったというだけ。
     せめてハロウに通っていれば、面接官の心証も変わったのかなあ……」

桐乃「ふうん、あれからずっと無職なんですね」

フェイト「おかげで借金が百万円を超えました。そろそろ現金の持ち合わせがなくなりそうよ」

桐乃「この前、貸してあげたお金はどうしたんですか?」

フェイト「えへ、FXで溶かしちゃった♪」

フェイト「ほ、ほら、この前ギリシャ問題とかその他諸々で豪ドルが一気に71円まで暴落したでしょ!? あれで私の88円Lがロスカットされてスカーンと大爆死よ!
     糞ポジになる暇さえなく御消滅されたわ畜生! アハッなによこの私をピンポイントで殺しに来たとしか思えない謎相場! ふざけてるの? 死ぬの? 
     1豪ドル100円を目指すって言ったのに! みんな言ってたのに! ウフフ……フフ……これもすべて面接で私を落とした正社員どものせいね。
     あれですべてが狂ったのだから……ククク……」


京介(ここまでひどい話は久しぶりに聞いたな。せめて、『隣の家の少女』(※)並のショッキングな人生にならないことを祈るばかりだ……)



※アメリカの小説家ジャック・ケッチャムの作品。ホラー小説家のスティーブン・キングが本作を高く評価していることで知られ、
 映画版についても「この20年で最も恐ろしく、ショッキングなアメリカ映画」と評されている。



おわり


293 ◆lI.F30NTlM2011/04/04(月) 02:01:31.13GtLzWZWso (5/8)

以上。

BLACK LAGOONの影響を受けたという小ネタでした。
広江さんやヒラコーみたいな台詞回しって難しい。
ブリジットのところの、京介の台詞回しなんて特にクオリティ低い。
もっと勉強しないとな。

ありがとうございます。


294VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/04(月) 02:01:44.18BXK7M17io (1/1)

おつ。そのうち京介が「俺は弾丸だ」とか言い出すんですねわかります


295VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(東京都)2011/04/04(月) 02:07:19.447OC/mVsZo (1/2)

ワロタww


296VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/04(月) 02:08:36.356u280NO0o (1/1)

教養無い俺にはよくわからん。
トリップ付けたのね。