935VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(愛知県)2011/09/12(月) 22:14:27.037+oMbPP50 (1/1)

待ってます


936VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(千葉県)2011/09/12(月) 23:15:04.25uEmkVl8Oo (1/1)

待ってるよ~


937VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(長屋)2011/09/19(月) 09:43:37.80VS08C9Ie0 (1/1)

待ってる


938VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/09/19(月) 13:01:25.438op1WER40 (1/1)

全裸で


939 ◆v2TDmACLlM2011/09/19(月) 18:48:51.28JmtHzFa+0 (1/1)

なんとか今日にはこれそうな。
期間が空きすぎて申し訳ない。このスレももう終わりです。
順調に来れれば日付が変わる頃に


940VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/19(月) 18:51:36.13xZ1zTGNio (1/1)

マテイル


941VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(チベット自治区)2011/09/19(月) 19:19:49.804ik3xqGJo (1/1)

マツヌス


942 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 04:58:47.75xWIJga+F0 (1/50)






・信念と齟齬







943 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 04:59:14.84xWIJga+F0 (2/50)



しんねん [信念]〔名〕
正しいと信じ、堅固に守る自分の考え。
自信の念。


そご [齟齬]〔名・自サ変〕
物事がうまくかみあわないこと。
食い違ってうまく進まないこと。
ゆきちがい




944 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 04:59:59.74xWIJga+F0 (3/50)


やたらと人がひしめき合ってる病院の待合場はざわざわと騒がしく、今なら外の方が静かな気がした。

初春「…………」

一際目を引く花飾りを頭に乗せた少女、初春飾利。
は、やはり別の場所へ行こうかとも考えたが、結局はその場所から動く事はしなかった。

どこへ行こうと、現状は何も変わらない。

先ほどから腰掛けている沢山並ぶ長椅子の一つに背を預け、険しい表情でなにかを考える様に天井を見上げる。

初春「…………」

その脳内で高速に構築されているのは、計算式。
例えるならば、それは幻想御手という巨大なモンスターに立ち向かう為の式だ。

小さな少女に備わる莫大な演算能力が、一つの事柄に注がれる。

初春「……っ」

しかし、それは音を立てず瓦解した。

再度、式を構築する。どうすれば倒せるか、どうすれば、

初春「…………」

どうすれば、親友を助けられるか。

初春「……ッ」

また、失敗。

幾度となく初春飾利の試みは無駄に終わる。

初春「…………」

上を向いていた少女は、やがてその表情から覇気が消えうせると同時にうなだれる。
どうしても突破口が見つからなかった。情報が足りなかった。味方がいなかった。

初春「…………」

しかし、少女は諦めない。歯を噛み締め、再度頭の中で構築する。どうすれば、どうすれば、と。

そう、心の中で唱えて。

初春「…………」

また、失敗。

初春「……ッ」

結局は低能力者に過ぎない自分がこの事件を解決する為に出来る事。
それは考える事だった。情報処理で培った巨大な演算能力を駆使し、
一つ一つの情報を繋ぎ合わせ、解を導く。

しかし、どうしても辿り着けない。



945 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:00:38.80xWIJga+F0 (4/50)


初春「…………」

圧倒的なまでに情報が足りなかった。
10の情報のうち半分以下の数字しか持ち合わせていない状態で、答えをはじき出せるか。

出せるわけが無い。

初春「…………」

思考を打ち切る。これ以上は無駄だと本能的に察知した。
ならば次はどうするか。

初春「…………」

たった一人で、どうするか。
全貌すら見えないこの事件の情報を何の設備も無く、誰の力を借りず、たった一人で集める事は出来るのか。

初春「違う。やるしか……ないんだ」

呟きはざわめきに飲まれ、静かに少女は立ち上がる。その足取りはどこか重くて――

初春「………ねこ?」

すり寄る猫に、立ち上がるまで気付かなかった。
一瞬だけ頭が真っ白になる。どうしてこんなところに動物が、

初春「…………」

いるのだろう。と考え、吐き出した言葉は、

初春「……何か、御用ですか」

少女の目の前に立つ少年に向けられていた。

浜面「……ああ」

初春が向かい合うその少年と目を合わせる。そこにいたのは、浜面仕上。
その姿は先ほど会った時よりなぜかボロボロで、

浜面「頼みがあるんだ」

なぜかその目は先ほど会った時とは別人の様に輝いて見えた。

初春「……すいません。今は、」

浜面「幻想御手について知っている事を全部話す」

初春「っ!?」

ズガンと、金槌で頭を打たれたような衝撃が走る。
突如飛び込んで来た言葉は、初春にしてみればまさに今必要としているもの。

初春「……それって、」

しかし、少女の心を動かしたのは次の瞬間、浜面仕上から放たれた言葉。

浜面「俺達にも、助けたい奴がいるんだ」

浜面「だから……協力して欲しい」





946 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:01:15.41xWIJga+F0 (5/50)




――――――――――





上条「三十分後……病院の入り口前、ね」

パタンと携帯を閉じる。
アドレスを交換して初めて送られきた浜面からのメールはそんな
連絡事項だった。どうやら屋上で言っていた『同じ境遇の奴』は協力してくれるらしい。

上条「さーてっと、あとは水を拭くだけだな……雑巾は」

きょろきょろと辺りを見回す。いま上条がいるのは小さな個室。
吹寄制理の眠る病室だった。あまり話した事の無かったクラスメイト、
浜面仕上が倒してしまった花瓶を片付ける為に再び戻ってきたのだが、

上条「……ないな。不幸だ」

上条「とりあえず看護婦さんに借りてっくっかなー」

そう言って病室を出る。沢山の病室が並ぶ長い廊下にはなぜかいつもより人の姿が多い様に感じて、

上条「……あれ?」

上条はその中に見覚えがある人物を発見する。
見覚えがある、というか病院内でメイド姿のその少女はひたすら目立つ。

上条「よう、舞夏」

舞夏「ん? おー、上条当麻」

廊下に置かれた椅子に腰掛けていたのは土御門舞夏。
名前を呼ぶと少女はいつもより控えめな声でその手を振る。

上条「丁度よかった。何か拭くもの持ってないか?」

舞夏「うーい、メイドさん見習いには愚問なのだー。ほれ」

投げられたのは布巾、のような布。メイドたる者こういう日用品は常に持ち歩いているらしい。






947 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:01:58.96xWIJga+F0 (6/50)




舞夏「今日は兄貴の見舞いかー? というか上条が入院していないなんて珍しいなー」

上条「いやいや、上条さんも常に入院してるわけじゃねーっ、て……え?」

そこまで言って、上条の表情が崩れた。
感じた違和感を辿り、唇を動かす。

上条「土御門……入院してるのか?」

呟いた名は目の前の少女ではなく。少女の兄。
自分のクラスメートで、三馬鹿扱いされてる親友。

舞夏「ん? 知らなかったのかー」

上条「……なんで」

手が、震える。胸中には嫌な予感があった。

そう、知らない。

上条当麻は、浜面仕上は、初春飾利は、決定的な事を知らなかった。

様々な出来事が同時に頻発しているその水面下で、自分たちの挑む闇がどれだけふくれあがっているのかを、
真に理解できていなかった。

上条が今感じているの違和感ですら、ほんの一端に過ぎない。

舞夏「うちのバカ兄貴、なんか幻想御手っていうのを使っちゃったみたいなんだなー」

人が生み出すそのどす黒い闇は、静かにこの学園都市を喰い進んできていた。





948 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:02:40.46xWIJga+F0 (7/50)


――――――――



浜面「…………」

抱える猫を腕に、そのドアの前に経つのは今日で二度目だった。
ドアのすぐそばにあるネームプレートには、何も書かれていない。

ドアに伸ばした腕、躊躇いでもあるかの様に震えていた。

浜面「……ふぅ」

大きく、ため息。大丈夫だと自分に言い聞かせる。

浜面「……っ」

ガラッ、という音と共に開いたドアの先には、自分が引き起こしてしまった現実があった。

神裂「……数時間前に、消えてくださいと言ったはずですが」

今も眠るインデックスのそばには、振り向く事無くそう言い放った神裂が座っていた。

浜面「話があって、ここに来た」

ステイル「まだなにか用があるのかい」

窓を背に、苦々しそうにステイル=マグヌスが言葉を吐き出す。
視線にこもるのは、確かめるまでも無い殺意。

神裂「……聞く気はありません」

浜面「幻想御手、この言葉に聞き覚えはあるか」

ピクリと、肩が小さく跳ねたのを浜面は見逃さない。
相手の言葉を無視し一方的に、詰める様に言葉を放つ。

浜面「インデックスを看た医者からはそう聞いた。違うか」

神裂「それが……どうかしましたか」

浜面「助ける事が出来るかもしれない」

ステイル「ッ」





949 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:03:14.95xWIJga+F0 (8/50)



先に動いたのはステイルだった。怒りを露にし、浜面仕上の胸ぐらを掴み上げる。

ステイル「ふざけるなよ無能力者。誰のせいでこうなったと思ってる。
     かもしれないだと? 僕たちをコケにするのもいい加減にしろッ!」

小さな病室で、響く怒号。

ステイル「この子を救えなかった貴様に今更何が出来る。そんな曖昧な言葉を盾に、
     またこの子を傷付けるのかッ!! そんな言葉を、信用できると思っているのか!!」

浜面「……ッ」

降り掛かる言葉はどれも正確に浜面を貫く。この男の言葉に、間違いはない。
インデックスはこうして目覚める事の無い状態になってしまったのは、まぎれも無く自分のせいだ。
あれだけ助けると言っておきながらも、救えなかったのは自分だ。

浜面「……俺は、」

今なら、魔術師達の気持ちがよくわかる様な気がした。
コイツらは記憶を消す事になっても生きていて欲しいと願い。
自分は能力者にしてでも生きていて欲しいと願った。

前者では記憶を失い、後者では目覚めなくなってしまった。
根本的なところで、違いなんて無い。

本当に救いようが無いのなら。もう諦めていたかもしれない。けど、

浜面「俺はインデックスを助けたい。お前らも、そうだったんだろ」

ステイル「……っ」

浜面の視線が、ステイルへとぶつかる。
そこにあるのは、先ほどは無かった輝き、かつて対峙した時には確かにあった決意。



950 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:03:51.13xWIJga+F0 (9/50)






ステイル「…………」

パッ、と無意識に手を離していた。

ステイル「…………」

浜面「今から俺はインデックスを助ける為に動くつもりだ。
   その間、お前らはインデックスを守って欲しい」

話したのは、垣根帝督の存在。
学園都市の第二位がインデックスを狙っていると言う事実。
その言葉に、微かに神裂が眉を潜ませ、ステイルが苦い顔をした。

神裂「もし……どうしようもなくなった時はどうする気ですか」

そんな言葉がかけられたのは、
言うべき事は全て言って病室から出ていこうとしたその瞬間。

ぽつりと浮かんできたのは、先ほどまで忘れていた、

浜面「……あの最後の瞬間、約束したんだ」

大事な約束。








951 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:04:25.70xWIJga+F0 (10/50)






――助けてやるから。

――――絶対に、何をしてでも。何を捨ててでも、何を拾おうが、誰を犠牲にしようが、誰を利用しようが、きっと、

――――――きっとお前を助けるから。

――――――――――死の運命からも、10万3000冊なんて魔導書も、何もかも、全部、一つ残らずぶっ潰して救ってみせる。









952 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:04:56.88xWIJga+F0 (11/50)


浜面「足掻いてやるよ。何をしてでも」

その言葉に諦めは無かった。
その言葉には決意があった。

  「にゃうー」

彼女がかわいがっていた猫が少年の腕で鳴く。

少年は一歩を踏み出す。
一人、地獄の底に置き去りにしてしまった少女の為に。
やっとの思いで這い出した地獄へと戻って行く。

しかし、浜面仕上は知らない。

少女の元へ辿り着いた先に、そこで待つもはやどうしようもない絶望と現実を、


浜面はまだ知らない。






953 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:05:24.43xWIJga+F0 (12/50)



――――――――――


ステイル「……イギリスの方から、連絡はあったかい」

炎髪の少年がぽつりとそう呟いたのは、浜面仕上の二度目の来訪が終わり、少し経った後だった。
相変わらず病室には沈黙、流れるのは機械的な電子音。

神裂「いいえ……必要悪の教会の方も大わらわでしょう。
   返事にはもう二、三日かかるそうです」

ステイル「ふん。あの女狐も慌てている、か。見てみたい気もするね」

壁にもたれ、ステイルが自嘲気味に笑みを浮かべる。
言葉は続かず、またも沈黙。

ステイル「……よかったのかい」

再び言葉を発したのは、ステイル。
問いかけるようなその言葉に神裂はゆっくりと答える

神裂「……止めても無駄でしょう。私たちが何を、」

ステイル「神裂」

ステイルの言葉が割って入った。
名前を呼んだだけのその言葉は、神裂にはどこか責めるような声に聞こえ、

ステイル「まどろっこしい話はよそう。僕はそんな事を言いたいんじゃない」

すうっと、ステイルが息を吐く。それは何かの宣告の様に。






954 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:05:52.63xWIJga+F0 (13/50)







ステイル「自動書記<ヨハネのペン>の事を、彼に言わなくてもよかったのかと聞いたんだ」








955 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:06:29.24xWIJga+F0 (14/50)





神裂「…………」

その瞬間、沈黙の質が変化した。
まるで戦場にでもいるかのような緊迫感が小さな病室に広がって行く。

神裂「……言ったところで、どうしようもないでしょう。それに、まだ確定は――」

ステイル「神裂」

また、だ。今日はよく言葉を遮られるな、とどこか可笑しく感じる。

ステイル「君も、あぁ……僕も、とことん意地が悪いね」

ステイル「どうして去り際にあんな質問をしたんだい?」

分かりきっているじゃないか。そうステイルは言う。
そして次の言葉を、言い切った。

ステイル「彼にインデックスを救える可能性なんて『無い』という事を僕たちは知っている」






956 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:07:06.47xWIJga+F0 (15/50)




神裂「……そうですね」

神裂がゆっくりと顔を伏せる。インデックスの姿をまともに直視できなかった。

神裂「もはや、彼にはどうしようもない域まで来てしまった」

神裂「例え――魔術師を倒しても、聖人に勝ち得ても、彼に世界を救う程の力があるとは私は思いません」

ステイル「なんの特別も無い人間には、せいぜいそこらが限界だろう。
     ……聖人に打ち勝った時点で相当常識から逸脱した存在だけどね」

神裂「しかし、もう抗う事さえ許されない」

ステイル「…………」

ゆっくりと、ステイルがインデックスの眠るベッドに近づき、その頬に触れる。
いつも着ていた修道服は今は棚の上。彼女を包むのは簡素な入院着だ。
さらさらとした銀髪は、昔触った時と同じで、その感触が懐かしさを甦らせる。

同時に甦るのは、少年の言葉。

  『俺はインデックスを助けたい。お前らも、そうだったんだろ』

少年の、眼。

ステイル「…………」



957 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:07:50.34xWIJga+F0 (16/50)




インデックスの頬の熱が、じんわりとステイルの手を温める。
少女が静かに眠るその姿は、どこか心が洗われるようで、

神裂「……どこへ?」

気付けば足は動いていた。

ステイル「……確かに、ただの無能力者に世界を救う力なんて無い。分かりきった事さ
     せいぜい救えるのは、小さな小さな自分の世界だけだろうね」

神裂に背を向け、彼もまた病室の外へと向かう。

ステイル「だからこそ分かる気がするよ。彼はインデックスを助けるだろう。
     この世界がどうなろうと、どうでもいいのさ。彼も、僕もね」

ステイル「君は見たかい? 彼の目をさ、まるで昔の自分を見ているようだったよ」

なんてバカな事を言っているんだろうと考え、思わず笑う。
しかし、あの何かを吹っ切ったような目の輝きは、今現在のステイル=マグヌスに無いものが宿っていた。

ステイル「僕は僕で足掻くさ。神裂、君はインデックスを守ってやってくれ。
     彼は彼なりの誓いを立てたようだけど……僕は、何年も前に誓ったんだ」

振り向いたステイルの目に映っていたのは、今も眠るインデックス。
多分、それは遠い昔の初恋だったのだろう。

ステイル「その子の為に、生きて死ぬ。ってね」

どこか照れくさそうに、ステイルはそう言った。







958 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:08:34.41xWIJga+F0 (17/50)



――――――――――




初春「……佐天さん」

白を基調としたその部屋で、場違いな程に色の鮮やかな少女がぽつりと呟いた。

側に寄り添い見つめるのは、ベッドに眠り意識の失った親友。

目を覚まさない親友。

今も、苦しんでいる親友。

初春「…………」

そんな少女を見つめるのは、何も出来ない自分だ。

初春「……ッ」

ぎゅうっ、と膝におく手を握る。
ぽつりぽつりと、意識をどこかに逸らすように言葉をかける

初春「佐天さん……今ね、学園都市はすんごく大変なんですよ」

佐天「…………」

初春「大変すぎて、今は佐天さん達の為に動けないって言うんです……」

佐天「…………」

初春「その判断が正しいっていうのは、私にもわかります……けど、おかしいですよね」

佐天「…………」

初春「だから、――」

悲痛なまでの少女の言葉は、ぽつりと浮かんで霧散する。

初春「…………」

どれ程そうしていただろう。数十秒か、はたまた数時間か。
親友が眠り、規則的な機械音しか聞こえてこないその空白の空間は、
少女の中で燻り続けていたそれを決断させる。

その言葉は、どこか優しさが感じられるような声色で

初春「……だから、待っていてください」

少女はにっこり笑ってそう言った。





959 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:09:01.13xWIJga+F0 (18/50)




椅子から立ち上がり、踵を返し力強く少女は歩む。

そろそろ三十分。浜面仕上、あの少年との約束の時間だ。
信用していいのかは、正直なところ未だに決心がつかないでいた。
彼の話によれば、いまのこの学園都市の状況を招いた一端を背負っているのはあの少年だ。
本来ならば、勾留するべきなのだが、

初春「…………」

彼は助けたい人がいると言った。
嘘はつかれたが、あの言葉に嘘は無いと、直感的にそう感じた。

そして何より、風紀委員として動けない今は人手が欲しい。

初春「…………」

と、そこまで考え、初春は携帯電話を取り出しアドレス帳からある人物の番号を引き出す。

何度目かのコールで、

白井『初春? 今どこにおりますの?』

声が繋がった。





960 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:09:32.56xWIJga+F0 (19/50)




初春「白井さん……その、昨日はすいませんでした」

白井『あぁ……いえ、別に気にしてないですの。わたくしも少し配慮が足りなかったようですし……』

電話越しだというのに、不自然な沈黙が流れる。

初春「白井さん」

白井『……なんですの』

初春「昔、まだ私たちが小学生の頃、白井さんは教えてくれましたよね」

白井『…………』

初春「己の信念に従い、正しいと感じた行動をとるべし」

それは、白井黒子がまだ未熟で、初春飾利が風紀委員で無い頃の、小さな思い出。

白井『結局アナタ、腕立てできる様になりましたの?』

初春「ちょ、ちょっとはできますよ! 私だって成長してるんですよ!?」

白井『そう言えば頭の花が増えましたわね』

初春「し、白井さん~……!!」

くすくすと、小さな笑いが漏れる。
軽く思い出に耽る中、初春のその言葉は唐突に放たれる。

初春「私、佐天さんを助けます」




961 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:10:18.91xWIJga+F0 (20/50)



白井『…………』

返ってくるのは、沈黙。

初春「すいません。私は……この事件を解決します。
   命令に背くのは、あるまじき行為かもしれません。けど、」

初春「……っ」

言葉が詰まる。電話の向こうにいる同僚はどんな顔をしているだろうか。
こんな事を言ってしまって、失望されるだろうか。ショックを受けているだろうか。
それを考えると、どこか胸が締め付けられる。けど、


初春「それでも、私は風紀委員<ジャッジメント>です。目の前で泣いている人や、苦しんでいる
   人がいるなら、例えその人がどんな悪人だろうと私は迷わず手を差し伸べてみせます」

初春「それが、私の信念です」





962 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:11:13.71xWIJga+F0 (21/50)



初春「…………」

静かな沈黙が続いた。

白井『……はぁ』

続いて、深いため息が聞こえた。

白井『がんばりなさいな、初春』

初春「白井さん……」

白井『その思いを貫き通す意思があるのなら、結果は後からついてくる……そうでしたわよね?』

初春「はいっ!」

白井『た だ し 今まで書いた事の無いほどの始末書を書かされるのは覚悟の上ですの?』

初春「はいっ!」

白井『はぁ……もう止まりませんのね。くれぐれもお気をつけなさいな。
   何か分かったら絶対に連絡をする事。わかりました?』

初春「はいっ!」

その言葉を最後に、通話は終わった。
少女は少しだけ駆け足で廊下を歩く。


待合場の先、病院の入り口前には二人の少年が既に自分を待っていた。





963 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:11:43.31xWIJga+F0 (22/50)



――――――――――


外の方が静かかもしれないと言う初春の予想は当たっていた。
通る道には人が疎らで、いつも感じる人の熱を感じない。

風が一切吹かないせいで、空から照る太陽の熱は、
感じたくなくなるほどに自分たちを照らしているのだが。

上条「で、今どこに向かってるんだ?」

初春「風紀委員の詰め所です。そこに私のパソコンが置いてあって、
   支部の施設は一切使えませんが、私個人のとなるとまた別です」

浜面「部外者の俺たちが入って大丈夫なのか……?」

初春「平気ですよ。今は出払っていて誰もいません……けど」

ひょい、と初春の視線が下を向く。
その戸惑うような目は浜面の足下を歩く猫に向けられていた。

  「にゃー?」

初春「その猫さんは……?」

浜面「ついてくるんだ、見ない振りしてくれ」

上条「名前とかあるのか?」

浜面「……名前、なぁ」

名前、それはこの猫について度々振りかけられる質問だ。
結局、この猫の名前は決まっていなかった。候補は二つ。
スフィンクスといぬ。どっちもどっちだとしか言いようが無い。
少なくとも、インデックスが目を覚ますまでこの猫の名前は保留だろう。

だから、一刻も早く、

浜面「いや、そんな事より。俺たちは何から調べるべきなんだ?」

その一言で、場が静まり返る。





964 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:12:10.58xWIJga+F0 (23/50)



初春「私たちが今ある情報を一度整理しましょう」

・幻想御手の正体は音楽。
・ファイルはネットからダウンロード可能。
・聴くとレベルが上がる。
・被害者は数日前の時点で数千人を超えている。

初春「これくらい、でしょうか?」

上条「まず聴くとレベルがあがるってのが嘘臭いんだよな……どういう仕組みなんだ?」

浜面「能力に影響するってことは直接脳に作用してるんじゃないか?」

初春「それは間違いないと思いますけど……
   細かい仕組みは専門家でないとわかりませんよ」

  「にゃー!!」

炎天下の中、三者と一匹が見解を述べて行く。
情報はやはり少なく、簡単に答えには辿り着けない。

初春「まず、一つの情報を更に踏み込んで調べてみようと思います」

初春の言葉に、二人が頭をひねる。
立ち止まった少女はにっこりと笑った。

初春「着きました。どうぞ、ここが風紀委員支部です」








965 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:13:08.06xWIJga+F0 (24/50)



――――――――――


カリカリカリと立ち上げたパソコンから小気味よい音が漏れる。
書類やら何やらが散らばった風紀委員詰め所の一角で、
少女の肩越しに上条と浜面がパソコンの画面を眺めていた。

初春「浜面さん、幻想御手をどのサイトからダウンロードしたか覚えてますか?」

浜面「ん? ……あぁ」

席を代わり、ぽちぽちと検索をかけて行く。画面に映し出されたのは、

上条「……都市伝説?」

初春「佐天さんが見ていたのとはまた別の掲示板ですね……」

開いたのは、学園都市にはびこる都市伝説を集めたサイト。
かつて、インデックスと一緒に見たホームページ。

浜面「…………」

書かれていたのはキャパシティダウンや幻想御手、学園都市の裏の世界、何万体も量産されたレベル5のクローン人間。

胡散臭いと思っていたそのうわさ話は、ほぼ事実で構成されていた事を今になって知る。
少し住む世界が変わっただけで。こんなにも違って見えるものなのか。

あとは――

浜面「……な」

適当にマウスを操作し、飛び込んできた文字に思わず声が漏れた。






966 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:13:47.90xWIJga+F0 (25/50)



浜面「……ごめん、少しの間いいか」

初春「え?……」

カチッ、カチ、とゆっくりマウスを操作し、その文字をカーソルで追う。
なんども、なんども。

浜面「……ははっ」

思わず声が漏れた。可笑しくて、可笑しくて、これはなんの悪戯だろうと。

浜面「なんだよ、これ」

浜面が見て笑ってしまったのは埋もれてしまった一つのレス。
それは掲示板にいる住人達に向けられたものではないし改行も変なところでされていて、文章は脈絡が無い。

その名前欄には『インデッくす』と打ち込まれていた。

浜面「……あのバカ」

思い返せば確かにあの日、インデックスはパソコンに向かって文字を打ち、何かを書き込んでいた。

書き込み画面から戻れなくてパソコン相手に噛み付いていた。

浜面「バカっだよなぁ……もう」

そこには、




967インデッくす2011/09/20(火) 05:15:15.48xWIJga+F0 (26/50)







この街にきてはじめてせっした人はすごくやさしい人でなんども何度も私をたすけてくれた。その人は特別な力も無いのに、魔術師からわたしを助けてくれたんだよ。

でもしあげはほんとにあぶないことばっかりsうるから、わたしはすごく心配かも。きのうだってボロボロになりながら返ってきて本当に本当になきそうになった

だから、しあげはわたしがまもるんだ。そう言ったらしあげはわらって、すごくうれしかったんだよ。

・・・けど、今回は少しこわいかも。しあげはだいじょうぶだって行ってくれたけど、ほんとに助かるかなんて、わからないから。でも、やっぱりわたしはしあげの事を忘れたくない。覚えていたい。

助かるかな、わたしはしあげと一緒にいれるかな?いれたらいいな。助からなかったら、いやだよ。忘れちゃうのはもういやだ。覚えていられるかな、生きていられるかな。たすかるのかな

ううう。やっぱりこのぱそこんnはあまりなれないかも。スフィンクすにもきいてもらうんだよう









968 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:15:53.99xWIJga+F0 (27/50)




浜面「…………」

そこには、浜面が聞けなかったインデックスの胸中が書かれていた。
あの日、魔術師であるインデックスに能力者になる道を示したあの日。
彼女に襲いかかっていた不安を書き連ねた言葉が、そこにあった。
これも、一端に過ぎないのだろう。全てを知っているのは多分、

  「にゃうー?」

この猫だけだ。

浜面「…………」

カタカタとキーボードを打ち、その書き込みに返事を返す。
本人が見る事になるのはまださきだろうから、これは浜面なりの決意表明だ。

浜面「……迎えにいくからな、すぐに」

言葉を書き込み、呟いたのはこの場にはいない少女へと向けた言葉。
今も地獄の底で、一人取り残されてしまっている白い少女。

浜面は向かう。ゆっくりと、だが確実に一歩ずつ彼女の元へ





969 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:16:28.22xWIJga+F0 (28/50)



初春「あの……?」

少女がおそるおそると浜面へ声をかける。

浜面「あぁ、悪い。もう用はすんだよ。ダウンロードページだよな」

カチカチと適当にマウスを操作し、何も無いそこをクリックすると、別のページが開いた。

初春「隠しリンク……? でもこれって……すいません、変わってもらえますか」

再び初春がパソコンに向かう。
瞬時に複数のウインドウが展開され、キーボードを叩く音は途切れる事無く連続して続いた。

既に上条や浜面には理解できない作業を繰り返され、そして数分。

初春「……やっぱり」

ぽつりと、少女が呟いた。

上条「……上条さんにはなにがやっぱりなのかさっぱりなんだけど」

浜面「俺もだ」

初春「えー、とですね」






970 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:17:08.97xWIJga+F0 (29/50)





簡単に言うと、今初春はダウンロードページから幻想御手をアップロードした人物を辿ったらしい。

初春「以前、佐天さんが使っていた掲示板から飛んだダウンロードページからは
   ギリギリ特定できなかったんです。分かったのは、アップロードに携帯端末が使われた事ぐらいなんですけど」

初春「この掲示板から飛べるダウンロードページから辿ると、痕跡は何も残っていません。処理は完璧です」

上条「…………」

上条がつまりどういう事だと目で訴えてくる。

浜面「あー、つまり身元が割れない様に幻想御手のファイルをアップロードしているかと思えば、
   足がつきやすい携帯端末でのアップロードもしている。それが不自然だってことだろ」

初春「もう少し、調べてみます……他の場所で隠しリンクも探してみましょう」

カタカタとキーボードが弾かれる。

上条「幻想御手をダウンロードした奴がアップロードした可能性は?」

初春「あり得ない話じゃないかもしれませんが……メリットがありません。
   数十万で取引されるようなものですし」

浜面「わざわざ隠しリンクを張るってのもなぁ……しかも痕跡は特定されない様に
   消してるんだろ? わざわざそんなめんどくさい事するか?」






971 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:17:47.51xWIJga+F0 (30/50)


初春「やっぱり……いくつか調べてみましたが完璧に痕跡を消している方と
   ギリギリ特定されないレベルまで残っている方。どのアップローダーを調べても、
   この二種類しかありません。」

上条「あのさ……そもそもこのレベルアッパーって何のメリットがあるんだ?」

上条のその言葉に、初春が振り向く。

初春「メリットって……簡単にレベルが上がる事、じゃないんですか?」

上条「それは使用者のメリットだろ?」

浜面「ばらまいている側の……メリット」

その言葉に引き寄せられるかの様に、思考の海に飛び込む。
そもそもこの幻想御手というものを使って、犯人はどんな得をするのか。

浜面「……愉快犯じゃねぇの?」

初春「それは思考放棄だとおもいます……」

浜面「…………」

上条「…………」

初春「…………」

結論は保留。特定するには、まだ決定的な何かが足りない。

浜面「分かったのは……これだけか」

軽く、ため息。同時にソファーに転がっている猫も鳴いた。

初春「それだけでも成果です、多分。わたし一人じゃ分かりませんでした」

振り向く事無くキーボードを鳴らし続ける彼女がそう呟く。

初春「それに、まだまだ分かる事はたくさんありますよ」

浜面「……あぁ」





972 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:18:50.52xWIJga+F0 (31/50)


なにか気にいらなかったのだろうか、にゃー、と猫が駆け回った。

上条「うおっと」

浜面「あ、ぶなっ」

駆け回った跡に書類が舞い散る。上条と手分けをして拾う中、浜面がふと手にしたものは、

浜面「……これ」

それは、小型の携帯端末。
画面にはさっきも目にした英字が映し出されていた。


TITLE  : Level Upper
ARTIST  : UNKNOWN
     : 1

初春「あ……はい。佐天さんの携帯端末です」

浜面「そう……か。この数字は?」

上条「再生回数じゃないのか? 吹寄のにも表示されてたしけど」

浜面「……ふうん」

再生回数。浜面の想像が正しければ、多分それはとんでもない回数になっているはずだ。
日中音楽プレイヤーを片手に何かを聴いていた少女の姿を思い出し、手に持つ携帯端末を
初春へと手渡す。

もし、あそこで止めていればこうはならなかったのだろうか。

浜面「次は、何を調べる」

そんな意味の無い想像をかき消す。
今は、インデックスを助ける事だけに集中しよう。






973 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:19:49.66xWIJga+F0 (32/50)





上条「共通点、とかはどうだ?」

不意にそう言った上条の言葉に、再び少女が耳を傾ける。

浜面「共通点、ていうと……それ調べる意味あるのか?」

多分、上条が言ったのはレベルアッパーを使用した者に共通する事は無いか、という事だろう。
それなら答えは簡単だ、低能力、もしくは無能力者の人間が圧倒的に多いに決まっている。

上条「いや……分かりきってる事でも調べてみりゃ何か分かるかもしれないだろ?」

浜面「調べるのは俺らじゃないだろ……」

ちらり、と横目で少女を見る。
花飾りの少女は既に真剣そうな表情でパソコンに向かっていた。

初春「調べましょう。共通点。考えてみれば被害データは数日前に止まっていて、
   正確な数は私も把握できてはいません」

上条「数千……超えてるんだったか? でもどうやって」

初春「あまりしたくはありませんが、学園都市中の医療機関にアクセスして、
   幻想御手被害者のデータだけを抜き取って照らし合わせます」

それは俗にいうハッキングという奴ではないのだろうか。という疑問は少女の前では口に出さない。
そんな事はこの少女も分かりきっている事だろう。

初春「多分、かなり時間がかかると思います。
   上条さん達もなにか自分たちに出来る事をしてもらえますか?」

切り詰めた口調で初春は言う。その目はもはや自分たちには向いていなかった。








974 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:20:53.15xWIJga+F0 (33/50)



―――――――――





外に出てみれば相変わらず太陽の光と熱が襲いかかってきた。
なかなか風が吹かないせいもあってか、蒸し暑い。一歩足を踏み出せば汗が流れる。

そんな中、浜面仕上と上条当麻(と猫)は、

浜面「――はぁッ、はぁッ!!」

上条「ふっ、ふッ!!」

  「まてやゴラァァアァァァァァ!!!」

全速力で走っていた。

追いかけられていた。という方が正しいか。

上条「ふ、不幸だぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

浜面「ふ、ふざけんな!! なんで外で出ていきなり十数人の怖いお兄さんに追いかけられなくちゃならねぇんだ!!!」

ビュン、と風の切る音と共に背後からおおよそ現実には存在しないであろう物体がいくつも飛んできた。

浜面「しかも能力者かよッ!!!」

最悪だ。と浜面は心の中で呟く。
思い返してみれば絡まれ方から既にどうにかしていた。
後ろにいる怖いお兄さん曰く、カモに出来るレベル0がすっかり減ってしまったから。らしい。
恐らく駒場が駆逐しようとしていた無能力者狩りの一派なのだろう。
まさか自分がカモにされる日が来るとは予想外だった。

浜面「あぁぁぁぁしつけぇぇぇぇぇ!! どうすんだよこれッ!!」

上条「か、上条さん的にはこのまま撒きたいでせう!!」

浜面「賛成だ!!」

二対十の時点で言葉を交わさずとも逃げると言う選択肢を瞬時に選んだ二人の意見が一致した。
喧嘩慣れしている互いの言葉に文句は無いし、共闘して倒そうとするほど血気が盛んなわけでもない。






975 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:21:41.54xWIJga+F0 (34/50)



上条「あ、あーちょっと待て浜面っ!!」

浜面「あぁッ!?」

全速力で走りながら上条が言葉を投げる。
返す言葉はどうにも乱暴になってしまいう。

上条「あ、あのさッ」

遮る様にバチィっとはじける音が後方から飛来する。
雷撃が上条を擦った。

上条「あぁくっそ、確かめたい事あったのに!!」

浜面「は、早く言え!!!」

上条「お、お前ッ! 吹寄以外の奴にレベルアッパー渡したりしてないよなぁ!!」

浜面「はぁッ!?」

上条「つ、土御門、とかに!!」

浜面「誰だよッ!!」

土御門、どこかで聞いた覚えのある名前だが、今は頭を回転させるような余裕も無い。
後ろからは絶えず屈強な能力者達が追いかけ回してくる。

上条「な、なら、いい! 後で詳しく説明する、からッ」

上条の視線が前を向く、そこにあったのは二股に分かれた道。
浜面は意図を素早く察知する。

浜面「なにか分かった事があったら、」

上条「連絡をよこす!」





976 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:22:35.43xWIJga+F0 (35/50)



その言葉だけで十分だった、瞬時に二人は左右へと別れ全速力で駆ける。

後ろの能力者達は、

上条「ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ほとんど上条の方へ向かって行った。

浜面「あーあ、大丈夫かアイツ」

息を切らし、足を緩める。後ろを追いかけてきてるのは二人。
この程度なら何とかなるだろう。

  「にゃうー」

浜面「……タフだな。お前。」

立ち止まったら汗が溢れてきた。
気持ちの悪い感触が体全体に伝わって行く。

浜面「さて……と、お?」

振り向いた先に待ち構えた能力者二人、はいなかった。

浜面「……は?」

その能力者達は既に地面に倒れ、気を失っていた。
誰か助けてくれたのかとも思ったが、周囲には人が全くおらずそこは静かな空間だ。

  「にゃー」

おそるおそる、近づいて行く。
這いつくばる能力者を見て、理由はすぐに理解できた。






977 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:23:26.52xWIJga+F0 (36/50)



浜面「幻想御手、か」

倒れている男のズボンから伸びているイヤホン。つまりそう言う事だろう。
浜面はそれを手に取り、軽く操作する。


TITLE  : Level Upper
ARTIST : UNKNOWN
     : 24

浜面「…………」

おそらくは、強化された能力を試したいとかそういう理由だったのだろう。
能力の優劣に人格は考慮されない。
この街の隠れた問題ともなっているそれは、解決される事は無いのかもしれない。

浜面「つーか二十四回も聴いてんのかよ……」

浜面が軽く一瞥した後、それを自分のポケットにねじ込む。
必要性は薄いかもしれないが、一応初春には渡しておこう。

浜面「コイツらは……あー、まぁいいか。死にやしないだろ」

そう言ってもう一人の男からも携帯端末を抜き取る。

浜面「…………」

ふと、気になったのは、先ほども思った事だ。

再生回数。

佐天涙子は一回しか聴いていなかった。
この男は二十四回聴いていた。

なら、インデックスは?






978 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:24:55.92xWIJga+F0 (37/50)



浜面「…………」

少し躊躇ったが、浜面は自分の音楽プレイヤーを取り出し軽く指で操作する。

浜面「え……はっ?」

目を疑った。

もう一度、操作する。

言葉を失った。

浜面「……なんだよ、これ」

そこに表示されていたのは、


TITLE  : Level Upper
ARTIST : UNKNOWN

浜面「……あ」

声が震える。手も、体も、

汗が一気に引いて、喉もからからで、唇を動かす。








浜面「……再生、されてない」








浜面仕上の音楽プレイヤーに入っていた幻想御手は、一度も再生されていなかった。







979 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:25:51.10xWIJga+F0 (38/50)



浜面「待てよ」

待て待て待て待て。

どういう事だ?一体何がどうなっている。
おかしい。あってはならない矛盾が存在している。
噛み合ない。何かが食い違っている。

なんだ?どういう事だ?

どうしてインデックスが聴いていたはずの幻想御手が一度も再生されてない。

おかしい。おかしい。

再生回数が表示されない機種?いや、違う。他の曲はちゃんと表示されている。

まさか、前提条件が間違っていたのか?
インデックスは本当は幻想御手の影響で眠りに落ちているのではないという事か?

……いや、違う。神裂はちゃんと幻想御手と言う言葉に反応した。
いくらアイツでもキャパシティダウンとレベルアッパーを聞き間違えたりしないだろう。

それに、吹寄とインデックスは全く同じ状態でベッドに寝かされていた。
だからインデックスは幻想御手の影響で目覚めない。それで間違いないはずだ。

浜面「……なら、なんで」

心臓を鷲掴みされたような嫌な感覚が襲いかかる。
気味の悪さに思わず投げ捨てたくなった。思考が定まらず、



ミサカ「こんにちわ。と通りすがりのミサカは挨拶をします」



定まらないまま、浜面はミサカと出会った。







980 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:26:33.65xWIJga+F0 (39/50)



浜面「ッ!?」

途端に、思考が切り離される。
フラッシュバックするのは昨日自らの目で見た映像。
死体、死体、死体。

浜面「う、っ」

本格的に胃から何かが押し寄せ、思わずその場で嘔吐く。
ミサカはそれを感情のこもらない目で見下ろしていた。

ミサカ「大丈夫ですか? とミサカは言葉をかけます」

浜面「お前……あのミサカ、か?」

口元を手で覆いながら、息も絶え絶えにミサカに言葉を投げた。
いや、これは単なる繋ぎだ。このミサカがあいつでは無い事ぐらい、見れば分かる。
その胸には昨日かけてやったはずの猫のマスコットが吊られていない。
それに『あの』ミサカなら真っ先に足下にいる猫に反応を示すだろう。アイツはそんな奴だ。

ミサカ「……あのミサカというのがどのミサカなのかは皆目分かりませんが、
    強いて言うならミサカとあなたは今日が三度目の邂逅です。とミサカはあなたに告げます」

浜面「…………」

浜面「……三、度?」





981 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:28:22.84xWIJga+F0 (40/50)


違和感が、また頭の中に引っかかる。三度。今この目の前のミサカはそう言ったのか?
二度目、ならばまだ分かる。昨日あの場に現れた大勢のミサカの中の一人なのだろう。

浜面「おい、ちょっと待て、三度ってどういう事だ……一度目はどこで会ったんだよ」

その言葉に、ミサカがぽかんとした表情を作る。数秒、どこか納得した様にソイツは言った。

ミサカ「あぁ……たしかあなたは意識を失っていましたね。とミサカは一人納得します」

浜面「はぁ?」

脈絡の無いその言葉は理解できず、しかし次の瞬間繋がった。



ミサカ「日数換算にしておよそ五日前の夜。瀕死の重傷を負ったアナタを

              一方通行    

     が治療している時、その場にミサカもいたんですよ。とミサカは事実を述べます」


浜面「――――」

声も失う。というのはまさしく今のような状況を差すのだろう。
吐き出す言葉が一つも見つからなかった。
五日前、それは多分、あの時、神裂火織と戦ったあの日の事だ。

しかし、重要なのはそこじゃない。

今目の前のコイツは、なんて言った? 何を言った?

浜面「アクセ、ラ……レータ」

一方通行。その名は、路地裏にいたのなら誰だって知っている悪魔の通り名。

学園都市序列一位。

最強の超能力者。

浜面「なん、で……そんな奴が」

確かに、傷は驚くまでに手当されていた。
まるで不自然なほどに意識を取り戻したのが早かった。

けど、そんな事はあり得ない。

浜面「なんで、なんで学園都市第一位がそんな場所にいたんだよ。なんだその都合の良さ!
   通りすがりに頼んだら治療してくれましたってか!?」

半ば自棄になりながら言葉を放つ。





982 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:29:38.93xWIJga+F0 (41/50)




ミサカ「いいえ。詳細は話せませんが妹達と一方通行の存在によってこの実験は成り立ちます。とミサカは、」

浜面「……っ、何が詳細だ。こっちは昨日ほとんど見てんだよ」

不明瞭だったその実験に、判明したワードをはめ込むと面白いぐらいに事実が見えてくる。
全貌は分からないが、第一位がミサカを殺して回る事で実験は進むのだろう。

悪魔にはお似合いの悪魔のような実験だ。

だからこそ、分からない。

なぜ、その悪魔が自分を助けたりなんかしたのか。

ミサカ「単に、妹達の一個体、あなたと最も会っている回数が多い検体番号10031号が
    脅しをかけただけですよ。とミサカはあの雨の日の夜を思い出します」

浜面「おど……し?」

言葉の意味が分からなかった。脅し?
誰も勝てないあの最強を脅した?どうやって?

ゆっくりと、目の前のミサカは言う。





ミサカ「この少年を助けなければ、ミサカはアナタに殺される前に自ら死にます、とそう言っただけです」





浜面「…………」




983 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:33:04.36xWIJga+F0 (42/50)



ミサカ「本実験に計算のミスやミサカの存在は欠かせません。
    まだ生きているミサカの存在を盾に取ってしまえば、一方通行は言う事を聞かざるを得ないんです」

その言葉を遠く聞き、思い出すのは昨日会った、ミサカの言葉だ。

  『……えぇ、助かるかは分かりませんでしたが。
   とミサカはあれが大きな賭け事であった事を伝えます』

自分の知らないところで、アイツは命を賭けていていた。

その事実に、思わず頭が真っ白になる。

ミサカ「あぁ、そう言えば、」

ミサカが忘れていたかの様に呟いた。

ミサカ「先日は猫の首飾りをありがとうございました」

浜面「……俺は、お前には何もやってねぇよ」

ミサカ「個体は違えど同じですよ。あのミサカも、今ここにいるミサカも」

浜面「……どういう事だ」

ミサカ「ミサカ達はお互いの脳波を能力によってミサカネットワークというものを形成しています。
    意識、視聴覚の共有や記憶のバックアップ。全てを共有する事によって、
    そこに個体差は生まれません。全てのミサカは、一人のミサカでもあるのです」

浜面「…………」

  『頂いたのはミサカですが、ミサカ自身が受け取った訳ではないので見せる事は叶いません』

浜面「…………」




984 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:35:05.70xWIJga+F0 (43/50)



ある女の言葉を思い出した。

浜面「……、が」

布束砥信。確かあの女は昨日こう言っていたはずだ。

  『彼女達は人間よ。少なくとも、私は彼女を造りものだなんて思えないわ』

そして、自分はこう言った。

  『俺にはわからねぇよ。クローンが人間かそうでないかなんて』

浜面「クソが」

溢れてくるこの感情は、多分後悔なのだろう。あの時の自分を殴りつけてやりたい。
あの女の手を、浜面はとるべきだった。何が何でも、あそこで手を握るべきだったのだ。

浜面「なら……答えてみろよ。どうしてお前はあの時、命を賭けてまで俺を助けた」

ミサカ「…………」

浜面「答えられないんなら、お前はあのミサカじゃねぇよ」

ミサカ「ミサカはミサカですよ。御坂美琴お姉様を元に作られた――」

浜面「人間だ」

ミサカ「!」

目の前の少女の表情が初めて揺らいだ。
戸惑いと言うものは、はじめてなのだろうか。





985 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:36:33.36xWIJga+F0 (44/50)




浜面「アイツにも、そのミサカネットワークって奴できっちり伝えとけ」



そうだ、どうしてこんな簡単な事に気付けなかったんだ。
分かりきっている事なのに。 


  「にゃー?」


そうさ、
猫に餌をやっていたあのミサカは、
必死に猫を探したあのミサカは、
猫を撫でて笑っていたあのミサカは、
どこか寂しそうな表情を見せたあのミサカは、

今、自分と話しているコイツは、


浜面「お前は、世界に一人しかいねぇじゃねぇか」






986 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:41:16.43xWIJga+F0 (45/50)





ピピピピピピピピ、ピピピピピピピ

その言葉を言ったのと、浜面の携帯端末のコールが鳴り響いたのは同時だった。
噛み締める様に浜面の言葉を受け止めたミサカの傍ら、何度も続く電話の音に浜面が携帯端末に手を伸ばす。
上条か、それとも初春辺りだろうか、その思いながら手に取った携帯端末のディスプレイに表示されていたのは、

絹旗最愛。

浜面「ッ!?」

その名を見て、反射的に通話ボタンを押していた。

浜面「絹旗ッ!? よかった、無事だ――」

繋がった声は、




  『はぁぁぁぁまづらぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』




浜面「ッ!!!」

麦野沈利。







987 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:42:55.62xWIJga+F0 (46/50)



麦野『どこうろついてんだてめぇは、あぁ?』

浜面「む、ぎの……」

声が震える。上手く言葉を紡げない。
急に、周りの大地がすっぽりとなくなったような錯覚に陥った。
少しでも間違えると……死ぬ。そう思わせるような、殺意。

麦野『さっさと戻ってこいよ浜面。テメェが生きている条件、
   忘れたわけじゃねぇよなぁ?』

浜面「……っ」

忘れてしまえるわけが無い。
絹旗の携帯を使いわざわざかけてきたのは、その為だろう。

ミサカ「…………」

目の前では、ミサカがぼんやりと浜面を眺めている。
その瞳は、どこか虚ろで、

麦野『あーそうだ、戻るついでに足用意しといて。新しい仕事がきたから』

浜面「仕事……?」

麦野『そう。コケにされっぱなしもムカつくから今度こそスクールを潰すって言いたいとこなんだけどね。
   体晶はあのクソメルヘンが踏み砕いたらしいし、残念ながらそれより優先しなきゃなんない仕事が入った』

聞き返したのは失敗だったか。その言葉を言うに連れ声が不機嫌に染まって行くのが分かった。

麦野『クソかったるい学園都市上層部からの命令だ』



988 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:44:22.28xWIJga+F0 (47/50)




浜面「……まさか、今朝言ってた」

麦野は近いうちに命令が下るかもしれないといっていた。
今現在学園都市に訪れている未曾有の危機。
暗部の崩壊を招くイレギュラーを潰せと言う命令が。

麦野『あぁ、違う。そいつじゃない』

しかし、麦野は浜面の言葉を否定する。ソイツじゃないと。
ならば、いったい誰なのか。

麦野『今回の仕事は昨日とは逆。ある施設の防衛と侵入者の殺害が目的。 
   上層部も散々引っ掻きまわされて、とうとうアレを本気で学園都市の敵と認めたらしいわ』

一転。愉快だとでも言わんばかりに麦野が笑った。
焦らす様に、言葉を紡ぐ。

麦野『あぁ、アンタにも一応言っとこうか。今回の仕事内容』

息を呑む。なぜだか、体がとても緊張していた。
思考だけが先へ先へと続いて、

ミサカ「…………」

目の前には変わらずミサカが立っていた。
その瞳は先ほどとは違って見えて、けど、



麦野『防衛施設は樹系図の設計者情報送受信センター』



やっぱりどこか虚ろだった。






989 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:44:52.72xWIJga+F0 (48/50)






麦野「ターゲットは学園都市序列第三位。御坂美琴」







990 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:45:20.16xWIJga+F0 (49/50)




                       【次回予告】


   「アハハ」

          超能力者・御坂美琴





991 ◆v2TDmACLlM2011/09/20(火) 05:50:21.80xWIJga+F0 (50/50)



ずっと止まってると思ったら動いてたんすねーてことでここまで。
やっとここまでこれたぁぁぁぁぁぁ!!
期間があいて本当に申し訳なかったです。
いつもの4倍ぐらいの量なので時間がかかりすぎた……つめつめで読みにくかったらすいません。
というわけで日常編は終わりです。こっから先が地獄だぜ!
なんせ次は二番目に書きたかったシーンです。楽しみです。

結局は幻想御手編にも絶対能力進化計画編にも入らず、施設防衛編に入るというのが正解でした。

ここで丁度折り返しでしょうか。とにかくこっから先は下りです。
一スレまるまるありがとうございました。

この先は次スレになります。

「――――心に、じゃないのかな?」2<br>
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1316465163/

残りは適当に埋めてくださると嬉しいです……ではでは!





992VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/20(火) 06:03:35.74Dg+0oyPc0 (1/1)



これからどうなるのか、楽しみでしょうがないな


993VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/20(火) 07:37:27.62neD124J40 (1/1)



このままだと浜面の精神が神上になるな


994VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/20(火) 09:03:01.878//CbZya0 (1/1)


浜面どんだけ大変なんだwwwwww



995VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/20(火) 09:06:47.052l6JTlDIO (1/1)

超乙

ここの浜面は少なくともインデックス、アイテム、幻想御手、妹達と4つ以上の問題を同時に抱えているわけだが、これらをどう収集つけるのか期待だな


996VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(北陸地方)2011/09/20(火) 09:43:43.30lpyu322AO (1/1)



抱えてるどの問題もキツすぎだな
肉体的にも精神的にもこれから更にやばくなりそう……


997VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/09/20(火) 09:45:31.76T9qJqatjo (1/1)

浜面がストレスで白髪になりそう


998VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(福井県)2011/09/20(火) 09:59:07.01g9E90rjRo (1/1)

乙。
浜面ったら、過労死しそう。


999VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(関西地方)2011/09/20(火) 10:58:53.43DU1doQ/R0 (1/1)

うめ乙
浜面マジ同情する…


1000VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(岡山県)2011/09/20(火) 11:26:42.75wuTL4aL+o (1/1)

さっと突然あらわれて

読んでもないのに1000げとずさー!!