1VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:37:30.78UgE6kMXJo (1/29)


――――勘違いと過大評価が交差する時、物語は始まる


注)今更ながらゼロ魔のSSです。
  作品をカテゴリーとして表すなら、ゼロ魔・勘違い系・最強系になります。
  もうかなり二番煎じ溢れる物となっておりますが
  それでも構わないと言う方は、どうかお付き合い頂けますと光栄です。
  初の投下となりますので、至らない点はあると思いますが、どうか楽しんで頂けますように……


▼以下本編▼

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「アンタ……誰?」

轟音と共に視界へ広がる真っ白な世界
その鮮烈な輝きを抜けた先
眼前に現れた桃色の髪の少女

これから先、様々な伝説を刻む
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールとの初めての出会いだった


――――――――――――――――――――――――――――――――――――




2VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:40:22.20UgE6kMXJo (2/29)


(注※オリキャラ混入の記述を忘れてました)

話は、少し前に遡る
パソコンの前でモニターと向かい合い
本を片手にうなり声を上げている少年
火上 篤(ヒカミ アツシ) 18歳

運動神経は平均で、友達づきあいも野郎ばかり
打ち込める事はゲームばかりで
特筆して語れるような特技はない

母子家庭の家で、妹と三人暮らしのため
日々、バイトと家事と趣味に費やされる
昔から極度の口下手に加え、超絶人見知り
一番問題なのは、亡きお父上に似てしまったこの目つきだ
数少ない友人からは「お前の目付きは快楽殺人者だ」とまで言わせしめた
何も言わずに街中で、誰かを2秒ほど見つめただけで全力ダッシュされる
そんな自分を変えたくて、オタクの友人に誘われて始めた趣味がコスプレだったが
その為に染めた白髪は、家族からは大不評を食らい
妹からは「余計に危ない人に見える」とまで言われる始末

「……そんなにダメか……」

バイト先への言い訳は楽器をにぎった事もない『バンド』と言う事で片付け
そのせいで、無用なギターの知識を詰め込まないといけないと言うマヌケな始末
考えるよりも先に行動、が基本な彼には日常茶飯事な光景だった

悩むのも束の間、パソコンの右下に表示された時計を見ると
時刻は昼を示していた
その日は土曜日、うだうだやっている間に妹が学校から帰ってきてしまう
そう判断した彼は、調理場に立ち、フライパンを持つと
得意料理のチャーハンを作ろうと、冷蔵庫へ向かった
しかし、彼は気づいていなかったのだ
冷蔵庫を開いた瞬間に楕円形の鏡のような物が浮いていた事に……

――――――――――――――――――――――――――――――――――――




3VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:42:05.14UgE6kMXJo (3/29)


次に気がついた瞬間
オレの視界には光が満ち溢れていた
フライパン片手に座り込んでいるのは先程まで自分がいた空間とは全く違う
明らかな違和感を感じ、地面を確認してみると、そこにあるはずのフローリングは存在せず
一面、草が生えていた
……なんだコリャ?

聞こえてきたのは、よくわからない言葉で講義をしているように見える
桃色の髪をした女の子と、頭頂部の寂しい、大人の男性だった
オレは以前として、意味がわからないまま、フライパンと少女を交互に見ていた
いや、待てよ?
確かオレ……どっかであの子見たことあるような……?

「……わかりました……」

何かに納得したような、それでもまだ納得できていないような面持ちで
一言そう告げてこちらへ視線を向け直す少女
……日本語じゃない、けど何故か言葉はわかる、なんだこれ……?

「アンタ、感謝しなさいよね
 貴族にこんなことされるなんて……ひっ……」
「……?」

オレだって流石に気がつけばこの情景だと驚きを隠せない
フライパンで顔を隠しながら今までのやり取りをわずかに聞いてはいたものの
此方へ向かってくる彼女が見えると、このままは失礼だろうと思い
フライパンを顔から下げ、彼女をジッと見つめてみた
……やはり気のせいではないんだ、どこかで見た事があった
それよりも彼女のオレを見る眼が今までと変わったと同時
周囲の空気が明らかにざわめいたのが理解できた
ああ……基本は今までと同じなのか
しかし、今まで出会ってきた幾人もの人たちとは違い
確かに心なしか怯えているような表情を見せてはいるものの
彼女は決してオレから目を反らさなかった
……なんていい子なんだ、嬉しいぞこのっ☆
きっと人を見掛けで判断しない子に違いない
思わず顔が緩み、口元を釣り上げて笑顔を浮かべてしまった
そのオレの笑顔を見てか、周囲にざわめきが起こったのは気のせいだと思いたい




4VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:43:42.48UgE6kMXJo (4/29)


「……っ!」
「!?」

彼女は何を思ったのか、突然自分の頬をパチンと両側から叩くと
大きく呼吸を整え、再度オレに視線を巡らせた
恐らく顔には出ていないと思うが、かなりビックリしたのは確かだった
初めて出会ってオレから視線を反らさないでいてくれる女の子なんて凄く稀だったから
そして彼女はわずかに気合を入れたように呟くと、大きく息を吸い込み始めた

「わ、我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!
 五つの力を司るペンタゴン。 こ、こここの者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」

言うや否や、瞳を硬く閉じた彼女の唇がツン、と突き出され
こちらへ徐々に迫ってきた
いや、知っている……オレの中で疑問となっていた答えが
彼女の名前を聞いてようやく理解できたのだ
そしてこれから起る事だって容易に想像できた
ダメだ、それはマズイ
オレは言葉に出す前に身体が先に反応していた

「……!」
「…………ぷぇっ?」

咄嗟の行動により、間の抜けた声を上げたのは
誰でもない、正面で今まさにフライパンと鼻の頭をぶつけたルイズだった
だがそれ以上に驚いたのは、その光景を隣で見ていた頭頂部の切ない教師風の男だった
彼は手に持っていた棒のような物をわずかに手元で動かしたのが理解できた
タクト?
彼は指揮者なのだろうか
どんな音楽を指揮するのか凄く気になる……
いや、それよりもだ
オレが彼女の動きを拒んだのは幾つかの理由がある
まず、この子をオレは知っている
とは言っても、友人が嬉しそうに見ていたのを横から眺める程度でしかなかったが
そしてその友人が「はー……サイトいいなぁ」と言っていた事も
ここでオレがこれを受け入れてしまえば、本来呼ばれるはずだった少年が余りに不憫だ
そして最大の理由が……
ぶっちゃけ、この年になってまだ女の子と、キスどころか、手どころか、会話すらまともにした覚えがない
こんな衆人観衆のある最中、初めて出会った女の子とキスだなんて
考えるだけで頭が沸騰しちゃうよぉ……




5VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:44:57.26UgE6kMXJo (5/29)


「……キミは一体何を!?」

そう告げる男性教師らしき人は額に汗をびっしょりとかきながら
オレの方をジッと見つめてきた
だがそれもすぐに視線を反らせてしまう
……きっとオレ並みにウブな人なのだろう
確かに他人のキスシーンなんて物は恥ずかしくて見てられない気持ちは理解できる
しかし、彼の動きで忘れていたが
フライパンと鼻の頭でキスをしていた当のルイズは肩を震わせ
鬼のようなオーラを浮かべていた

「な……なに……するのよぉっ!!」

何故か涙ながらにそう訴えかける彼女ではあるが
オレは何を告げていい物かわからず思わず言いよどむ
ぶっちゃけオレは、当初に述べているようにすっげぇ人見知りである
オマケにすっげぇ口下手だ
そんなオレがこんな美少女とキス?
ありえない
しかし、18にもなろう男が「キスが恥ずかしい」なんて言えるわけもない
むしろ、それを口にする方が恥ずかしい
ただ、フライパンをぶつけてしまった事に関しては素直に謝るべきだろう
……言葉にできればな!
それが出来ない、だからこそ……オレがとった行動は

「……へ?」

ポン、と彼女の頭に手を置いて左右に動かした
それは一見してなんでも無い「なでなで」と言う物だったが
まるで女性に対しての免疫がないオレにとっては
かなり恥ずかしく、素直に口で謝ればよかったと思ったほどだった

「な、なに……ふぇ……なによぉ……」

目がとろん、としている彼女を見ていると、自然と妹の事を思い出した
そういえば……チャーハン作れなかったな
そんな事を考え空を見上げていた
すると、静寂を打ち破ったのは先ほどの指揮者……改め、男性教師だ

「……どうやら、彼には説明の時間が必要なようだ」
「ふぇ……え、いえ!契約は……!?」
「それを見届けたいのは私も山々ではあります……が
 ミス・ヴァリエール、貴方の失敗続きで時間が無いのも事実なのです
 ですから……あ、あなたも……それで宜しいかな……?」




6VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:46:11.85UgE6kMXJo (6/29)


男性教師はオレの方に向き直ると、同意を求めてきた
一瞬何の事だかわからなかったが、恐らく現状の説明に関する事を言っているのだろう
オレの様子を見て気にかけてくれたのだろうか
きっとこの人もいい人なのだろう
何せ、オレを2回も見て、2回も話しかけてくれたのだ
思わずこの人を見る眼がキラキラとした物になってしまう
もしかして、ここが天国と言う所なのだろうか?
ルイズは何故か「う……」と口を噤んでしまったが
男性教師に視線を戻し、肯定を示そうとする
やはり初めての人は緊張してしまう……
声が上手く出ないが、何とか搾り出した

「……ああ」
「……ミ、ミス・ヴァリエール、何かあれば言ってきなさい……」

その一言を火きりに、その場にいた他の面々は大空へ飛び立っていった
……大空?
なんで彼らは飛べているんだ……?
いや、確かこれは魔法の物語だと友人が言っていたような気がする
となると、ここは魔法の世界なのか
視線を再びルイズへと戻すと、彼女は涙ながらにグチを述べていた

「……なんなのよぉ……折角……魔法が成功したと思ったのに……!」
「…………」

果たしてオレは何て声をかければいいのか戸惑った
オレがここで彼女を受け入れたとしたら、恐らく『あの主人公』はこちらへ来れない
確か、友人の言葉を思い出すなら……
『こんとらくとさーばんと』と言う物だったはずだ
これを行わないと、彼女が落第だと言う話もあったような気がする
しかし……自分が行うのは……むぅ……




7VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:46:54.86UgE6kMXJo (7/29)


「…………スマン」
「……え」

何故かルイズは肩をビクリと震わせてこちらを見ていた
また見てくれた、どうやら彼女はオレを怖がってるわけではないらしい
ただどうしてか泣きそうな顔になっていってるのは何故だろうか
仕方が無い、オレは彼女の頭に再び手を乗せて撫でる事にした
妹が泣いた時も、こうやって宥めたのは記憶に懐かしい
しかしそれだけで納得してくれるとは思えない
頑張れオレ……振り絞って声を出すんだ!

「……突然だったから」
「……ぇ?」
「…………説明をお願いしたい」

その言葉を聴いた瞬間、ルイズの顔が先ほどより一段とくしゃりと歪むのがわかった
顔には決して出ていないだろうが、内心オレは大慌てだった
頼むー、これ以上泣くなー!
オレには頭に乗せた手をさすーりさすーりしてやる以外に方法がないんだー!!

「とりあえず……あ、アンタ……名前は……?」
「……アッしぃゅ」

自分の名前を告げるだけなのに、思いっきり噛んでしまった
やはりこれだけ可愛い女の子を前にすると仕方ない
当のルイズ本人はぽかん、とした様子のままオレを見ていた
……睫毛なげぇー

「……アッシュ?アッシュって言うのね」

……何故そうなったし
頑張って搾り出そうとした否定の言葉の前に、彼女の確定によって
オレのこの地での名前が決定されてしまった
始まりました、第二の人生
オレはこれからどうなるんでしょう


8VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:48:00.76UgE6kMXJo (8/29)


―――SIDE コルベール

彼女、ミス・ヴァリエールが呼び出したのは人間だった
その事に関して驚きはしたものの、その少年を見る限り
何の力も無い平民だと言うのは見て理解した
手に持たれたのは恐らくフライパンであろうが、それで顔が隠れている為
彼の様子がわからなかったのもある

ミス・ヴァリエールによるサモン・サーヴァントのやり直しの要求
これに関しては下せるはずもなかった
もとより神聖な儀式である事も確かならば
彼女が呼び出すまでにかけた時間も相当な物だ
流石にこれ以上続けるとなると、次の授業への影響も出てくるだろう

その訴えを受け入れてか、渋々と言った表情で
彼女は少年の元へ歩んでいく
その様子を私は教師として見守っていた
だが、私は愚かだったのだ
彼が呼び出されてから一度も、何の挙動すら見せない点を見落としていたのだから
彼がフライパンを降ろした途端、私は得も知れぬ恐怖を覚えた
目の前に何気もなく座っている少年の瞳からは
かつて私が過ちを犯した時以上の『狂気』が感じ取れた

しばし金縛りにあったように動かなかった身体が突き動かしたのは
少年の表情が変わった瞬間だった
それまでがまるで戯れである程の狂気……いや、狂喜だ
唇の端を釣り上げた少年の表情からはありありとその様子が立ち上る
私は、自分でも知らないうちにメイジとしての武器をその手に持っていた

ミス・ヴァリエールはそんな自分を叱咤したのか
一度頬を叩き、渇を入れると
彼へと接近していく
誰もが声を上げる事すらままならず、その光景に目を奪われていた
彼女の詠唱が響いた
以前として彼女以外の声は風音以外に聞こえてこない




9VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:48:56.09UgE6kMXJo (9/29)


だが……
彼女がフライパンにより制された時
私は反射的に動いていた
彼のその動作はただフライパンを正面に向かって押し出した物
ただその動きが、私の反応を遥か凌駕していた
思わず私は声を上げた

「……キミは一体何を!?」

すかさずディテクトマジックを彼に見えないよう
手元に隠した杖で行使する
しかし、少年の瞳はまるで私が魔法を行使した事を理解しているかのように
ただ杖を凝視していたのだ
彼に魔力の反応はゼロ……だが、彼は私の杖から目を離さない
私はつくづく戦慄に身が震えた
その様子から察するに、まさかこの白金の髪をした少年はメイジ殺しなのではと

次に彼の手が動くのが見えた
もはやこの杖を隠しはしない
私の推測が正しければ、彼女が……ミス・ヴァリエールが危ない!
だが、少年の手は彼女の頭の上で左右に動いているだけだった
ディテクトマジックにも何の反応も見られない
そこで私は今まで抱いていた思いを全て放り投げた

……勘違いなのか?
しかし彼の瞳に宿っている狂気はどう見ても本物だった
いずれにせよ、彼女達には時間が必要なようだ
互いを理解しあう時間……

彼にその意思を確認すると
彼から漏れる声は低く、どこまでも闇を帯びたような声だった
……やはり、この少年は危険だ
私に向けられた瞳はまるで何かを期待するかのようにギラギラとしている
だが、少年の様子から察するに
彼女だけは気に入っているのか
先ほど頭を撫でていたのも、恐らく気に入られたからなのだろうと自分を納得させた

「……ミ、ミス・ヴァリエール、何かあれば言ってきなさい……」

いずれにせよ、この事は確実にオールド・オスマンに報告せねばなるまい……


10VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:49:54.60UgE6kMXJo (10/29)


―――SIDE ルイズ

呼び出したのはどう見ても普通の平民
頭が白金な所と、何故かフライパンを持ってる所を除けば
どっからどう見ても単なる平民だった
私は思わず抗議の声を上げた

だがしかし、それは受け入れては貰えなかった
使い魔召喚の儀式、それは神聖な物
私だってそれは理解していた
コイツが目の前に現れるまでは……
どう抗議した所で受け入れられるわけがないって事も
それでも……また皆にバカにされるから……

仕方ないのよ、ルイズ
私は自分を納得させた
よくよく考えれば、人間の方が便利よ
意思の疎通も楽だし
何より、魔法が成功したじゃない
私はゼロじゃなくなったんだから

「アンタ、感謝しなさいよね
 貴族にこんなことされるなんて……ひっ……」

そう自分に言い聞かせて、目の前の平民に向かい合うと
そこで平民がフライパンを降ろして私を見ていた
私は思わず声を上げてしまう
その2つの瞳は、おおよそ人の持てる色をしていなかったのだ
黒よりも深い、闇……
それよりも暗く、恐ろしい色をしていた
戦慄が私を駆け巡った
こんな目を持った人間を私は知らない
笑みを浮かべられただけで、恐怖の中に身を投じる程だった




11VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:50:52.25UgE6kMXJo (11/29)


パァン!!
呑まれそうになった所で私は気合を入れなおす
ビビっていてどうするのよルイズ!!
コイツは私の呼び出した使い魔なのよ!
私は……コイツのご主人様になるんだから!!
その様子を見て、今まで囃し立てていた周囲が黙り込んだ
丁度いいわ、バカにしていた連中が黙っていい気味よ

「わ、我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!
 五つの力を司るペンタゴン。 こ、こここの者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」

私は硬く、硬く瞼を閉じた
彼に近づくに当たって、あの瞳を見てしまえば決心がきっと鈍ってしまう
そんな悲しみの色と狂気を兼ね備えていた
しかし、私の唇が到達するよりもさきに
鼻の先に何か冷えた物が押し当たった
ま、まさか……間違えて鼻から突っ込んじゃった?
間の抜けた声を上げてしまった事を恥じるより先に
私は意を決して瞳を開いた
目の前いっぱいに鉄の板が広がっていた

……なにこれ
気づいた頃には私は怒りを露にしていた
折角覚悟したってのに、なんでコイツは鉄板押し当ててくれてんのよ!
怒りを向けた瞬間に、彼の手が上へあがった
――やられるっ!
私は恐怖に身がすくみ、瞳をギュッとつぶると身を固めた
しかし、思っていた衝撃は一切こず
代わりに頭へ温かなぬくもりが左へ右へと動いていた

「な、なに……ふぇ……なによぉ……」

こんな冷徹な瞳をしているのに
とても手は温かく、実家のお姉さまを思い出してしまう
もしかして、これは彼なりの謝罪のつもりなのだろうか?
そう思っていた矢先、ミスタ・コルベールから衝撃の一言を聞いてしまう

「……どうやら、彼には説明の時間が必要なようだ」
「ふぇ……え、いえ!契約は……!?」

何度も失敗して、折角成功した召喚だと言うのに
コントラクト・サーヴァントも出来ないまま終わるなんてあり得ない
むしろ、本当に退学させられてしまう
しかし、ミスタ・コルベールの言う話を聞いて
私は思わず口を噤んでしまった
原因の一端は私のせいなのだから……

その時、初めて目の前にいる平民の声を聞いた
どこまでも深く、闇を帯びたような声だった
その声に私は多少なりとも身じろいだ
しかし、その答えを聞き届けると、私を残して皆は去っていく



12VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:51:46.48UgE6kMXJo (12/29)


「……なんなのよぉ……折角……魔法が成功したと思ったのに……!」
「…………」

溢れ出す涙は止まらなかった
召喚を成功させ、あまつさえ出てきた平民にビビり
やっとの思いで、成功できると思えば、契約を拒否された
誰がこのあふれ出る涙を咎められると言うのか
そんな最中、彼から聞こえたのは一言の謝罪
先ほどの拒否を見た限り
恐らく「お前とは契約できない」と言われるのだろうか
またしても私は涙で視界がいっぱいになった
しかし、彼はまた私の頭に手を乗せてくる

「……突然だったから」
「……ぇ?」
「…………説明をお願いしたい」

彼の言葉で自分がたまらなく安堵させられた事が理解できた
平民の前で泣きじゃくるその姿は、とても貴族として胸を張れない
頭を撫でられる温かさと
彼の気遣いに初めて、人間味を感じて私はただ泣き続けた
しかし、呼び出したはいい物の名前すら聞いていない事に気づいた
契約とは昔から、互いの名前を理解してこそだと私は思う

「とりあえず……あ、アンタ……名前は……?」
「……アッしぃゅ」

不思議な発音と共に告げられた名前は
恐らく私達とは別の大陸から来た事を理解させる
でも、その言葉は確かに「アッシュ」と聞こえた

「……アッシュ?アッシュって言うのね」

私はこの平民を無事使い魔に出来るのだろうか……



13VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 13:53:18.30UgE6kMXJo (13/29)


※ひとまずここまでです
  続きは少し時間を置いてから投下していきたいと思います。


14VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 16:13:28.31SExfFqOAO (1/1)

オリ主使った二次創作なんて荒れやすい題材を使って、しかも明らかに厨二臭さを感じる設定を用いた勇気だけは評価する
でもとりあえず見守る


15VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:37:31.38UgE6kMXJo (14/29)

>>14

正直ビクビクしてるのが本音です……



それでは、続き投下していきます
コントラクト・サーヴァントまでです。


16VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:38:37.88UgE6kMXJo (15/29)


―――SIDE アッシュ

ハルケギニア、トリステイン魔法学院
春の使い魔召喚の儀式
それに伴う学年の進級
彼女達は魔法使いであり、その一生を決める使い魔
これがルイズの部屋に来てから、受けた説明であった
へぇー、魔女っ娘かぁー☆
ルイズってば夢見がちな乙女なんだねっ♪
考えが少し顔に出ていたのか、ルイズが椅子の上でビクッとしたので
思考を元へ戻して表情を戻した

「……アッシュには損はないと思うんだけど
 衣食住も私が面倒見るし……」
「…………」

そう言われてオレは思わず頭を抱えたくなった
ルイズが幾つの娘さんかは知らないが
失礼ながらどう見ても年下なのは眼に見えている
しかし、話を聞く限りではオレを召喚した時点で
他の召喚を行うのは不可能と言う事らしい
なんだそれ、つまり呼ばれた時点で使い魔になる事確定ではないか
オマケに返す方法もわからないときている
もうそうなってしまったら、こっちで暮らすには
彼女に厄介になるしか方法はないと言う事だ
それにしても、問題は『使い魔』と言うくくりについてだ
一体なにをすればいいのかがわからない
頑張れオレ


17VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:39:48.16UgE6kMXJo (16/29)


「……一つ……聞きたい」
「な、なにかしら……?」
「……何をすればいい」

惜しいよ、ルイズも(゚д゚)ポカーンとなってるよ
言葉足らずで伝わると昔から面倒な事にしかならないと言うのは
身をもって体験してきているはずなのだが
中々直そうと思って直る物でもなく
自分でも悪いと思っているクセの一つだ

「……使い魔として……って事?」
「……ああ」
「…………えっと」

そう告げると、ルイズは何かを考え込むように押し黙った
もしや、ルイズ本人も具体的に使い魔が何をすればいいのかわからないのではないか?
なにせ、これが初めての事なのだし
そう考えれば、使い魔と言うと「魔女○宅急便」を思い出した
あれをイメージの基点とするのであれば
恐らくは、伝達や話し相手、と言う辺りなのだろう
人間のオレを呼んだ時点で恐らく友達が欲しかったのだろうし




18VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:41:01.07UgE6kMXJo (17/29)


「……オレが住んでいた場所にも、使い魔の認識はある」
「え……?どんな感じ?」
「……情報の伝達や……並び立つ者」
「……うん、それでいいわ」

意外にもルイズはその条件で納得してくれたらしい
最初の出会いの発言を聞く限り、結構クセのある性格かと思っていたけど
やはり自分が思った通り、凄くいい子のようだ
幾許かの静寂が流れた後、口を先に開いたのはルイズだった

「……所で……アッシュは……料理人なの?」
「……いや」

ルイズの向けられた視線は、オレの持っていたフライパンに集中している
確かに初めましてでフライパン持ってたらそう思われるのも無理はない
オレだって目の前にコック服着た奴が出てきたら、そう思うだろうし
実際オレが着ているのは、パジャマ代わりに使ってた上下黒のスウェットなんだが
冷静になってみれば、パジャマで女の子の部屋にいるってのはなんだか恥ずかしいな
それより、ルイズに聞かれたのは料理人か?だったな
料理人ではないが、よくよく考えれば家での家事担当はオレだったわけだし
そう言う意味で言うなら確かに料理人なのかも知れない
なんかそう考えたら情けなくて笑えてしまう




19VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:42:26.69UgE6kMXJo (18/29)


「……厳密には違うが
 ……ある意味……料理人だな……」
「そう……」

しかしこんなに女の子と話をするのは初めてではないだろうか
指折り数えてみたが、少なくとも最後の記憶が小学生くらいの頃だったと記憶している
そこから先は父が他界し、そのまま家事三昧で
母は仕事に出ていたし、妹がいた為もあってか
ほぼ全ての家事を開始したのがその頃だった
そこからは毎日料理、洗濯、掃除……
日々が忙しい母に教わる事も出来ず、独学で上り詰めていく様は大変だった
幸い、綺麗好きな自分の性格も幸いしてか、家事はそんなに嫌いではなかった
そんな事を考えている最中、ルイズがおずおず、と言った様子で口を開く

「……アッシュは……その……
 戦いの中を生き抜いてきたって事?」
「…………ああ、毎日が戦いだった」

洗濯機の反乱に始まり(洗剤の量を間違えた)
フライパンの暴走(油の量が多すぎて火をふいた)
黒き主の大行進(スキマにスプレーふきかけたらGが大量に)
どれも過酷な戦いだったと言える
その結果、今の自分がいるんだから
全てが無駄だったとは思えない



20VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:44:00.51UgE6kMXJo (19/29)


「……使い魔は……ご主人様を守る為にもいるし……
 ご主人様の言う事はぜ、ぜ、絶対なんだから……」
「当然だろう?」
「へ?」

その言葉のどこか可笑しかったのか、彼女は妙な声を上げていた
これから先、衣食住を面倒見てもらう人相手に
異論の声があがるわけもなかった
ついでに言うなら、オレは元々女性家庭であり
女性陣の方が権力が上だった
そんな事もあってか、今更女の子に付き従う事に特に違和感はない

「……ルイズ……いや
 ご主人……よろしく頼む」
「え、じゃ、じゃあ?」
「……契約だ」

最早オレには拒む理由はなかった
オレが呼び出された時点で、他の手段はなく
これから先の暮らしを面倒みてくれる相手がいて
その相手が、オレを恐れず話をしてくれた女の子
家族以外とこんなに会話が出来た事はない
ルイズは微妙な笑顔を浮かべながら此方へ向かってきた
……彼女はあんまりオレの事を好いてないのかも知れないが……



21VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:44:59.17UgE6kMXJo (20/29)


「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!
 五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」

先ほど聞いた一文と共に、彼女は瞳を閉じて此方へ唇を寄せる
まだ随分と早い段階で目を瞑ってしまったのか、本当にゆっくり
ビクビクしながら近づいてきていた
正直、本気で恥ずかしい
今からオレは初めてのキスをするわけだが
彼女がこんなにも初々しい反応をしてくれると、オレがリードせねば
と言う気持ちになってしまった

……よし、気合は十分だ
少しずつ近づいている彼女の頬に手を添えると
彼女がビクンッと動いたのがわかる
怖がらなくてもいい、と言う意味を込めて頬を軽く撫でると
そのままスッと唇を近づけてきた
吐息が触れ合い、鼓動が高まる
唇が重なり、本当わずかに触れたはずの感触だったのに
自分でも眩暈が起ってしまいそうな、長く、甘い時間だった

だが、それも一瞬の事だ
彼女が離れれば、凄く恥ずかしそうに俯いたのがわかる
こちらは頭が爆発して真っ白で何も考えられそうになかった
しかし、次の瞬間にその認識は吹っ飛んだ
身体を熱が走り始め、左腕に向かい疾駆する
左手の甲に刻まれていく、解読出来ない文字を痛みと共に確認する



22VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:46:36.42UgE6kMXJo (21/29)


「……使い魔のルーンが刻まれてるだけよ」

彼女はそう告げた
なるほど、これが魔法と言う物なのか
しかし平然といってのけはしたものの
オレは恐らく顔に出ていないのかも知れないが
めっちゃいてぇ
ぶっちゃけ転がりまわりたくなるほどの痛みだった
熱と痛みはまず左手を駆け抜けた
その熱は止まらず、右手を蹂躙し
額を蹂躙し、胸の中心で熱が渦巻いているのがわかる
オレは両腕に顕現したそのルーンとやらをマジマジと見つめてみた
やっぱり何て書いてあるかはわからないが……

「……え……?
 ルーンが……三つ!?」
「……?」

オレはこの時まだ知らなかった
自分が何に巻き込まれていたのかを……


23VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:48:23.42UgE6kMXJo (22/29)


―――SIDE ルイズ

ハルケギニア、トリステイン魔法学院
春の使い魔召喚の儀式
それに伴う学年の進級
彼女達は魔法使いであり、その一生を決める使い魔
これらが私の部屋に来てから、アッシュにした説明だった
その説明の後、何故かアッシュがあの笑みを浮かべていて
私は思わず身じろいでしまう
……ダメよルイズ
彼を説得しないと……!

「……アッシュには損はないと思うんだけど
 衣食住も私が面倒見るし……」
「…………」

しかしその言葉は凄く弱々しい語りかけだった
だって仕方ないじゃない、彼何考えてるのかわからないんだもの!
べ、別に怖いわけじゃないわよ!?
しかし、本当に考えがまるで読めないのは確かだったのだ
アッシュの瞳は本当に何か深い悲しみと得も知れぬ恐怖が潜んでいる
だけど彼は、私の頭を撫でながら気遣うような素振りを見せたのだ
どちらが本当のアッシュなの?



24VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:49:27.18UgE6kMXJo (23/29)


「……一つ……聞きたい」
「な、なにかしら……?」
「……何をすればいい」

突拍子もない言葉に思わず顔が(゚д゚)ポカーンとなってしまう
貴族たるもの、こんな表情人様にそうそう見せてはダメよ
そう一喝して考えを改め直す
しかし、会話の流れから察するに、恐らくは使い魔としての事なのだろうか?

「……使い魔として……って事?」
「……ああ」
「…………えっと」

問われて私は困惑した
最初は、使い魔にどんな物が召喚されるのかわかっていなかっただけに
既に手元のメモ帳には「使い魔が来たらさせること」を作っている
しかし、まさかこの正体不明の相手を前にして
“こんな事”を言える自信がなかった
さてどうしたものかと思考を巡らせていると
今度はアッシュの方から口を開いてきた



25VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:50:56.70UgE6kMXJo (24/29)


「……オレが住んでいた場所にも、使い魔の認識はある」

その言葉には素直に驚いた
彼の纏う特有の雰囲気からして
とてもメイジなどとは程遠い世界の住人だと思ったのだ

「え……?どんな感じ?」
「……情報の伝達や……並び立つ者」

並び立つ者
それは恐らく、メイジに寄り添い戦い抜く相手……と言う意味も込められているのだろう
彼の瞳を見て、その意思が込められている事は容易に理解できた
だからこそ、私も少し考えたものの、あっさりと判断を下すことができる

「……うん、それでいいわ」

しかし、ふと思い出した事があった
それは召喚を行った時の事だ
彼は確か、サモンサーヴァントでこちらへ来た際に
フライパンを所持したまま現れたではなかったかと
私は思い浮かんだ言葉をそのまま彼へぶつけてみる事にした

「……所で……アッシュは……料理人なの?」
「……いや」

一瞬の間はあったものの、ほぼ即答と呼べる反応だった
確かに彼が料理人として立っている姿はまるで想像が出来ない
なんだか失礼な話ではあるが
その姿を想像してみると、思わず笑ってしまった
恐らく、昼でも作ろうと思っていたのだろうか?



26VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:51:58.89UgE6kMXJo (25/29)


「……厳密には違うが
 ……ある意味……料理人だな……」
「そう……」

ニヤリと笑いながらそう言い放つ彼には
やはりまた狂気が宿っていた
料理……それは平たく言えば……殺戮
そのワードが何より当てはまってしまう事に私は身が震えた
今のは彼なりのジョークと受けるべきなのだろうか?
だがしかし、彼はその話をしながら指を折り何かを数え始めた
まさか、殺してきた人数を……?
戦慄が走る……
あの目はやはり、闇の世界に生きる者の目なのだ
信じたくはない
私はその思いだけを信じて、次の言葉を投げかけた

「……アッシュは……その……
 戦いの中を生き抜いてきたって事?」
「…………ああ、毎日が戦いだった」

その言葉を聴いて、何故だか私は胸が締め付けられた
彼のあの悲しみに満ちた目は
戦いの中を駆け回って生きてきたからなのだろう
先ほどまで歪に浮かべていた笑顔は消え
真剣ながら、瞳の奥は揺れていた
……私はもしかすると、とんでもない相手を使い魔にしようとしてるのではないか?
そんな疑問が浮かび、その想いは不安に変わった



27VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:53:19.73UgE6kMXJo (26/29)


「……使い魔は……ご主人様を守る為にもいるし……
 ご主人様の言う事はぜ、ぜ、絶対なんだから……」
「当然だろう?」
「へ?」

予想外の反応だった
彼の事だから、てっきり怒り出すのではないかと不安になっていたのに
今までの彼からは想像も出来ないほどあっさりと
そして、それが本当に当然かのように口から出てきたのだ

「……ルイズ……いや
 ご主人……よろしく頼む」
「え、じゃ、じゃあ?」
「……契約だ」

私は思わず歓喜してしまう
でも、これは呼び出した以上普通の流れであり
本来ならばこんなに時間をかけずとも行われるはずだった契約なのだ
こんな事なら、ビクビクする事なく、さっさとやっておけばよかった
そう思うと、素直に喜びを露にするのが躊躇われる
彼は相変わらず表情が変わらず、不思議そうに私を見ているように見えた



28VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:54:38.89UgE6kMXJo (27/29)


「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!
 五つの力を司るペンタゴン。 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」

私は唱えた
本日二度目となるこの言葉を
問題はここからである、先ほどは何とか納得させたとは言え
改めて考えてみれば私にとってファーストキスとなるのだ
勝手もわからないし、何より恥ずかしい
その想いが先立って、予想以上に早く瞼を閉じてしまったため
距離が全くわからない
唇をツンと突き出しながら恐る恐る近づいてはいるものの
勢いよくいって思いっきり唇を押し当てるなんてとてもじゃないが考えられない
一度瞼を開いて確認してみるべきだろうか?
そう思った矢先、頬に触れられた温かさによって私は身構える
唇が触れ合い、鼓動が弾けるように音を上げた瞬間
私は恥ずかしさから、彼との距離を勢いよく引き離した

アッシュを見てみると、特に何も言わず
左手をジッと見ていた
……何よ、私がキスしたって言うのに……
しかし考えてみれば、ルーンが刻まれるのは身を切るような痛みが伴うと聞いた事がある
それならば確かに彼が何も言わないのは理解できるが……
目の前の平民は眉の一つすら動かさず
ただ、その現象が起るのをジッと見つめていたのだ
……きっと、戦い続けてきたアッシュには、この程度の痛みは何てことないのね



29VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:55:38.98UgE6kMXJo (28/29)


「……使い魔のルーンが刻まれてるだけよ」

私がそう告げると、彼が頷いた
もしや何が起っているかまで知っていたのかも知れない
ただの平民……だけど
目の前の彼が放つ雰囲気は、明らかに人間が放つそれとは違っていた
しばし時間が流れ、ルーンが刻まれていく
そこで私は違和感に気づく
使い魔の儀式を行っていた他の生徒達と比べ
明らかに時間が長いのだ
私は異常に気づいた

「……え……?
 ルーンが……三つ!?」
「……?」

不思議そうに此方を見る少年
その闇を秘めた瞳の上には、3つ目のルーンが浮かんでいた



30VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 17:59:18.62UgE6kMXJo (29/29)


※ひとまずここまでです
 ここまで御覧頂いた方々、ありがとうございました。


31VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 00:01:10.94C8kPjKzQo (1/14)

……ちまちま更新してきます


32VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 00:01:36.99C8kPjKzQo (2/14)

彼女はオレの額を見るなり声を上げた
どうやら、先ほどの熱によりルーンとか言う物は頭にまで出ているらしい
額を擦りながらふと思う
確かに己は彼女の使い魔となる事を選びはしたが
「オレがルイズの使い魔だぜー!ほれほれ!」
とまでに両腕と頭から宣伝しつつ歩くのは流石に恥ずかしい

「……布を」
「え?」
「……何か……不要な布が欲しい」

そう告げると、彼女は少々困惑しながらも
黒い布地を持ってきてくれた
頭に巻くには丁度いいサイズだ
額に布地を巻きつけ、後ろで括ると
いい感じに隠れてくれたと思う
両手に到っては、現状パジャマ代わりに使っていた
ダボダボのスウェットだったので、手元が隠れて問題はないだろう

「…………見られるとマズいの?」
「……少しな」

だって恥ずかしいじゃない
流石にそんな事は言えるはずもないのだが
ルイズは納得してくれたようだった
使い魔となった事で、彼女への意思疎通もしやすくなったようだ
口下手な自分としては、これはありがたいかも知れない
そんな時、部屋を見渡していると窓が気にかかった
部屋の全体は小奇麗になっているのに
窓の所にだけ、くもの巣がかかっているのが、陽の光に反射して見えた
放っておいてもいいのだが、基本オレは綺麗好きである
お節介かとも思ったが、つい立ち上がり窓の方へ手を向けた



33VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 00:02:18.82C8kPjKzQo (3/14)


「な、何?」
「…………静かに」

くもの巣の除去くらいなら問題ないが
声を上げてクモが出てこられると、なんだか巣を取り壊しているのが不憫に思える
口元に指を立てながら彼女に一言告げると、再度窓へ手を伸ばし一歩歩み進めた
ただ、窓にばかり集中していた為か、ベッドの淵に足を引っ掛けて
窓枠の少し下に手をついてしまったのだが、何か違和感があった
手元へと視線を辿れば、オレの手の中に少々大きなネズミがいたのだった
ネズミはチューチュー涙ながらにオレへ訴えてくる気がする
……いや、別にキミをどうにかするつもりはないよ

「……それって、オールド・オスマンの使い魔だわ!」
「…………?」
「あ……学院長の名前よ」

なるほど、少し納得すると
手の中でジタバタしている使い魔くんから手を離してやる
そのまま本来の目的のくもの巣を除去すると
使い魔はどこかへ消えていた
恐らく道に迷ってここへ来たのだろう
そんな事を考えていると、ベッドの隅に何かが包まっていた
恐らく衣服なのだろう、少々積み重なっているようだ
これからお世話になる身だし
使い魔として洗濯くらいした方がいいだろう

「……ご主人、洗濯へ」
「へ……?……行ってくれるの?」
「……ああ」

手を伸ばし告げると、目を丸くしたルイズから丸まっていた衣服を受け取る
入り口へ向かい、扉を押し開けると
オレの心が躍っているのがわかった
さあ、洗濯だ♪




34VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 00:02:49.65C8kPjKzQo (4/14)


―――SIDE ルイズ

彼女は本日幾度目となるであろう困惑に頭が揺れていた
3つものルーンを有する使い魔など見た事がなかったからだ
少なくとも、彼女が今日見てきた限りでは、そんな使い魔はいなかった
それが何を意味するのかまではわからないが
目の前にいる少年、アッシュの一言により益々困惑していく

「……布を」
「え?」
「……何か……不要な布が欲しい」

彼女は普段より魔法を振るうたび、爆発が発生する
その為、衣服が幾つもダメになってきた
それならば縫合しようと思い立ち、それ様に持っていた布地があった事を思い出す
結論から言うなら、彼女に裁縫のスキルが備わっていなかった為
無用となった布地である
何に使用するのかはわからなかったが、彼にそれを手渡した
彼には理解が及ばない事が多くあった
もしや、この3つのルーンについて何か知っているのではないのか?
そんな考えがルイズの頭の中に浮かんで思わず問いかけずにはいられなかった

「…………見られるとマズいの?」
「……少しな」

それが何について、何を指し示しての事なのかはわからない
だが、少年は自分に知らない事を知っているようだった
不安ばかりが募っていく
初めての使い魔
彼を使い魔にしても大丈夫だったのだろうか?
そんな考えに頭を悩ませていると、突然少年が周囲を伺い始める
何か必要な物でもあるのだろうか
だが、アッシュの瞳にはそう言った色が見えない
すると、突然立ち上がり窓際へと歩みだしたのだ




35VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 00:03:18.41C8kPjKzQo (5/14)


「な、何?」
「…………静かに」

低い声でそう告げられ、思わずルイズは口を噤む
そのまま窓の方へゆっくり動いていたアッシュの動作が機敏な物になったかと思うと
彼の手の中から鳴き声が聞こえてきたのだ
まさか、この広い室内で生き物の存在を見つけたなんて
彼女は身が震える
やはり彼は、どこか違う存在なのだ
アッシュの手の中で鳴き声を上げる動物には見覚えがあった

「……それって、オールド・オスマンの使い魔だわ!」
「…………?」
「あ……学院長の名前よ」

モートソグニル、学院長の使い魔である
恐らく、自分だけがコントラクト・サーヴァントを行っていなかった為に
報告を受けたオールドオスマンが様子を見せる為に遣わせたのだろう
彼女はそう判断する
アッシュも、ルイズの言葉を聴き警戒が解けたのか
思ったよりアッサリと手の中の使い魔を逃がした
ふと、彼が何かをしたように見えたが
続く言葉に彼女は驚き、問うヒマもなかった

「……ご主人、洗濯へ」
「へ……?……行ってくれるの?」
「……ああ」

使い魔が出来たら彼女が任せようとしていた事の一つだった
予想外の出来事に何を言うでもなく、自然に洗濯物を手渡してしまった
しかし、彼女は見てしまったのだ
扉を押し開けながら、何かを企んでいるかのように笑みを浮かべた彼の姿を……



36VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 00:03:52.26C8kPjKzQo (6/14)



―――SIDE オールド・オスマン

机の上で書類を片付けていた彼の元へ、一匹のネズミが戻ってきた
彼はそれに気がつき、報告を受けると
ほう……と一言呟き、眉間にシワを寄せる

「……気づかれたか……」

その報告を聞いたオスマンは顎から長く伸びた髭を指で触りながら顔を綻ばせた
まるでそれがわかっていたかのように

「……彼から聞いていた通り、中々油断ならない相手のようじゃのぉ……」

オスマンはそう呟くと
溜息を一つつきながら、窓の外を見た

「……やれやれ……また賑やかになりそうじゃ……」




37VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 20:11:27.68C8kPjKzQo (7/14)

読んでる方は居なさそうですが



ひっそりと本日分の投下参ります。


38VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 20:12:13.86C8kPjKzQo (8/14)

夕刻、タライの中に手を突っ込み
ジャブジャブと少女の衣服を笑顔で洗う一人の妖しい男
オレだった
変態と間違われていないだろうか
不安に駆られながらも、洗濯しているだけなら大丈夫だろうと言う思いが勝った
目だった汚れは無い物の、ただ生活しているだけで衣服なんて汚れる物だ
凍えるほどの冷たさじゃない事を有難く思いながら
洗濯物を一枚一枚片付けていった
ただ、洗っている最中でふと靴下の片方がない事に気づく
しまった、どこかで落としてしまったのだろうか?
そう思い立ち上がると、歩いてきた方に向かって視線を向けてみた

そこでふと、見知らぬ少女がいるのに気づく
眼鏡をかけ、小さな少女はそのナリにそぐわない大きな杖を持ってこちらを見ていた
見るからに何に使うのかわからないその杖はオレの興味をそそる
そう言えば、先ほど出会った男性教師がタクトを所持していた事を思い出した
もしかすると、彼女の持っているのは楽器なのだろうか?
何故こんな人気のない所に女の子が一人……?
ははーん、自分だけ上手く演奏できないから、こっそり練習しにきたに違いない
きっと誰もいないと思ったのに、自分がいたから出るに出られなかったのだろう
オレはそこまで考え、思わず笑みを浮かべてしまった
だがしかし、時刻は夕刻である
戻ってきている生徒達もいるに違いない
窓から下を見下ろせばすぐに見えるような位置であるのは確かだ
ここで練習をした所で、結局バレてしまうではないか



39VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 20:12:58.88C8kPjKzQo (9/14)


「……やめておけ」
「……!」

親切丁寧なオレの意見を告げたにも関わらず、彼女は手元の楽器を構えたように見える
変わった演奏スタイルのようだ
それを見ていると、モンスター○ンターの笛を思い出した
なるほど、あれは振るって音色を奏でるのだろう
しかし見知らぬ少女よ、心意気は立派だが
練習している様を見て野次馬がニヤニヤするのは目に見えるじゃないか
そんな事を考えていると、彼女の足元に黒い布が落ちているのに気がついた
ああ、あんな所にあったのか靴下
やはり落としてきてしまったらしい
初めて出会った演奏少女にそんな事を頼むのは気が引けたが
この程度の頼みくらいはしてもバチは当たらない……よな?

「……それ」
「……?
 ……!?」

持ってきて欲しいと言う思いを言葉に込めたいが
オレの舌はそこまで上手く回らない
そうなったら、水の冷たさで関節の上手く機能しない指先を頑張って伸ばし
顔の前でお願い。と言う風にジェスチャーで伝えてみた
流石に仏頂面でそんな事を頼むのも悪い気がしたので、頑張って笑顔を作ってみる
そんな仕草を彼女は何を思ったのか、先ほどよりも硬い表情で自分を見ていた
もしや、彼女も自分同様に人見知りなのではないだろうか?
そうとなれば話は別だ、初見の相手にどうすればいいのかわからないのはオレも同じである
ただ洗濯物を拾うだけの動作だって彼女にとってみれば緊張して出来ないのかも知れない
そう判断したオレは素直に彼女を脅かさない程度の緩い足並みで靴下の回収に向かった
しかし気になるのはあの楽器だ
どんな音色を出すのだろう
別にオレは音楽に対しての知識は前記してある通りからっきしだが
好奇心が無いわけじゃない
そんな事を考えながら歩んでいると、靴下までの距離はもう2歩ほどに迫っていた
少女を見ると、何か呟いているようで、楽器をギュッと握り締めているのがわかる
何かを言おうとしているのだろうが言葉を口の中で整理しているのだろう
オレもよくやるからその気持ちは痛いほどにわかる
ただ、歩きながら別に意識を反らしてしまうと言うのは先ほど失敗したばかりで
足元に迫っていた何かに気づかず、オレは思わず蹴つまづいた
女の子の前でなんて格好悪いんだ
前のめりに転びはしたが、何とか膝をつけたおかげで腹ばいにならずに済んだが
少女に視線を巡らせてみると、やはり驚いたような顔をしていた
……マヌケな大人もいるものだと呆れられてたらイヤだなぁ……



40VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 20:14:09.49C8kPjKzQo (10/14)


「……失敗は誰にでもある」
「…………」

恥ずかしさに口に出したのはそんな言葉だった
よりによって自分を正当化してしまった
どんだけ大人気ないよオレ!
しかし、訂正したくとも「うわ、なにこの人必死じゃん!」と思われるのもシャクだった
それに、初対面の相手と上手く喋れないのは記述した通りである
お目当ての物はゲット出来たのだし、これ以上かっこ悪い所を見せる前に洗濯へ戻ろう
オレは立ち上がり、踵を返すとそそくさとタライへ引き返した
しかし、そこで背後から声がかけられた

「……貴方は……何者?」

そこでオレは完全に思い違いをしていた事に気づいた
見も知らぬ相手が学校内に侵入していた為に彼女は驚いたのだろう
そういえばそれを言うのを忘れていた
問われ後ろを見てみると、少女の表情は明らかに疑念に満ちているように見えた
違うんです、変態じゃないんです
しかし、何て言えばいいのだろうか
万が一彼女がルイズの事を知らなかった場合、説明が大変だが
むしろ、説明と言う手段がオレには難しい
迷った挙句、オレが口にしたのはかなり簡単な一言だった

「……使い魔だ」
「…………そう」

なんとか納得してくれたであろう少女は頷くと尚もこちらを見ていた
どうしようか少々迷ったが、特に会話も続くわけでもないし
オレは素直に洗濯へと戻った



41VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 20:15:17.77C8kPjKzQo (11/14)


―――SIDE タバサ

少女は本を読みながら陽が暮れかかる中を歩んでいた
普段他の生徒達が寄り付くことのない場所を目指していた
少女の名はタバサ、トリステイン魔法学院の生徒でありながら
『シュバリエ』の称号を持つ、トライアングルメイジである
彼女には他にも色々な秘密が隠されているのだが
その記述はまたの機会にさせていただく
彼女は一人、魔法の鍛錬の為に人気のない場所へと向かっていた
普段なら誰もいないような場所
本から視線を外し、目を向けると
そんな場所には不釣合いな程、鮮やかな白金を彩りを放つ少年が水場にかがんでいるのが見えた
彼女は思案する
少なくとも、自分の知り合いに思い当たる節はない
数メイル離れている距離ながら、彼女がそう判断したのには
単純に彼女の知り合いが少ないと言う理由が存在していた
格好を見る限りでも、学院の生徒でない事が伺える
しかし、彼女は特に気にするでもなく、そのまま通り過ぎようとした時
揺らぎの無い動きで此方へ視線を向けてきた相手が居た
少女は驚く
本に気を取られていたとしても、彼女の足音はほぼ皆無だったと言える
その為の足運びが身についているのだから、気配を辿られるなの在り得ない事だと判断したのだ
しかし、眼前に見据えられた白金の男はそれを実行してみせた
ただの気のせいだと自分に言い聞かせようとした刹那
男の双目からは禍々しい程の色合いが見えた
その瞳を見据えた瞬間、彼女は確信に変わる
この男は、こちら側の人間だと
少女は杖に意識を集中させ過ぎずに構えを取る
だが相手は杖を持ってはいない
その答えが出なかった為、はっきりとした構えを取れずにいたのだ



42VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 20:16:02.72C8kPjKzQo (12/14)


「……やめておけ」
「……!」

まるで少女の心情を見透かしたかのような男の言葉に
彼女は抱いていた疑念を全て捨て去り、杖を構えた
例えメイジであろうと、杖を所持していない時点で
自分の方に分があると少女は悟る
それでも目の前の男は感情をまるで露にしない
怖れも、憂いも篭らない瞳は未だ少女を捕らえていた
イヤ、違う
少女は男の視線の先にある物が自分の杖である事に気づいた
まさか、杖を奪うと言うのだろうか
確かに、メイジが魔法を発動するのに必要なのは杖だ
つまり杖を奪われた時点でメイジは無力化させられる
揺るぐこと無く見据えられた男の瞳に身体が強張った
しかし彼女もまた、数多の戦場を乗り越えてきた実力者である
そんな事をまかり通らせる程甘くはない
何を仕掛けてくるのか
少女は様子を伺っていると、男の指先が自分の足元へ向けられた




43VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 20:17:06.74C8kPjKzQo (13/14)


「……それ」
「……?
 ……!?」

一瞬生まれた疑問は一撃で粉砕された
少女の足元に落ちていたのは一枚の靴下
そう、たかが靴下だった
しかし、話はそうではない
いつ仕掛けられた?
彼女は戦々恐々とした、これがもしトラップであったなら?
少女がそれに気づけなかったのは、目の前の男が放つ異常なまでの闇に視線を反らせなかったからに相違ない
そんな向けられた指先は男の口元へと持っていかれ
何かを少女へ伝える仕草となった
だが、凶悪なまでの笑顔と共に伸ばされた人差し指を見て少女はさらに恐怖する
まるで「これで一回死んだぞ」とでも言いたげな風で……
少女の身体が強張る
しかし頭だけは冷静にいられるよう自分を言い聞かせた
そんな男が、武器も持たず自分にまるで気軽に散歩でもするかのようにゆるりと歩んでいく
そのままただやられるだけではいかない
そう判断した少女は口の中で呪文の詠唱を開始した
目の前の男はまるで素性がわからない
ならば十分ひきつける必要があった
もし、相手の攻撃射程内に入られたなら……
不可視の攻撃をぶつけてやればいい
男との距離は3歩ほどとなった
呪文の詠唱は完了している
少女は相手に気取られない程度の小声で
空気を固めて放つ風のスペル『エア・ハンマー』を発動させた
しかし、突如として男の動きが機敏になったかと思うと
自分の視界内から男が消え去り、空気の塊はわずかに男の頭の上を突き抜けた
在り得ない事が目の前で起きたのだ
相手に聞こえない呪文の詠唱、タイミングの読めないはずの呪文の発動、見えないはずの魔法
それを潜り抜けてもはや相手の間合いに入られた
少女は背筋が凍るように身構える
だが、待てども相手の攻撃はこない



44VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 20:18:14.80C8kPjKzQo (14/14)


「……失敗は誰にでもある」
「…………」

屈んでいた男はそれだけを告げると少女に背を向け歩んでいく
少女はその一言で在り得ない事を、偶然ではなく狙ってやって除けたのだと確信した
しかし何故男がそれを告げただけで背を向け去っていくのかがわからなかった
もしや、自分は試されたのだろうか?
普段本以外の物に興味が持てない少女に、初めて意識をさせた相手

「……貴方は……何者?」

少女は思わず口を開いていた
無手で自分を2度も翻弄した相手を
敵ならば自分に背を向ける事は在り得ない
相変わらず少女と同じく表情の変わらない相手が、こちらを見て一言だけ言い放った


「……使い魔だ」
「…………そう」

興味を無くし、儀式の途中で本を読んでいた少女だったが
後々彼女の友人から聞かされた噂話を思い出した
そして大きく頷くと
ただ、自分の敵とならない事を少女は願った




45VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 15:25:25.76vJmuPo7SO (1/1)

俺大好きこういうのwwww


46VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 08:30:47.90oeU34v6SO (1/1)

気付くの遅かったか…


47VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 12:07:23.78cgqUCgDAO (1/1)

嫌いじゃない


48VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 12:29:45.35QGmkR5WDO (1/1)

見てるぜ(゚д゚)


49VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/03(木) 07:49:44.80O6fEr1lh0 (1/4)

>>45-48
ありがとうございます
とても励みになりました……!

少々遅くなりましたが、今回分の更新に参ります。
相変わらず進みは遅ぇです……


50VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/03(木) 07:50:33.47O6fEr1lh0 (2/4)


桃色の髪の少女、ルイズは焦っていた
己の召喚した白金髪の使い魔が、何かを起こさないかとその一部始終を見ていたのだ
彼女が確認した時、彼は確かにただ洗濯をしているように見えた
だが、その後のやり取りはどうだ
ルイズが知る限り、タバサと言う少女との接点など精々「あの女のツレ」と言う認識でしかなかった
普段物静かで、ヒマさえあれば本ばかり読んでいるような根暗な相手
それがルイズの認識だったのは間違いない
しかし、白金髪の使い魔と対峙した少女の見せたスペル
不可視ではあるが、それが何をしたのか等、勉強熱心なルイズには理解できた
地面に生えている草の歪な動き、そして少女の動作から
「エアハンマー」が放たれたのだと言う事を理解する
だが、問題はそこではなかった

タバサから放たれたスペルの練度は一介の生徒としては少々出来すぎていた
練成速度、到達速度、そして周囲の草の動きから察した威力
余程の実力がない限り、あの魔法は成り立たない
しかし……それを、ルイズの呼び出した平民であろう男は、いとも簡単に避けたのだ
ルイズもそれを見て、彼の実力をはっきりと心に焼き付けてしまった
メイジであろうが、彼には勝てないのだと……
自分は貴族であり、そして実際には使えないが、魔法が使えると言う事をアドバンテージにしていた
もし、自分が魔法を使えないと知れば、あの使い魔はどうするのだろう?
それを考えた瞬間、身を凍らせるような悪寒が背筋を駆けた

出て行く前に見せていた歪んだ笑みは
彼の実力がメイジに通用するかどうかを試したかったのではないか?
ルイズは恐怖する
廊下を駆け、部屋に戻ると、着ている服などお構いなしにベッドへと飛び込んだ
毛布を被り、中々訪れる事のない眠気を待ちながら、彼女の意識は悪夢の中へ溶けていった




51VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/03(木) 07:51:44.94O6fEr1lh0 (3/4)



時は少し後へ歩む
かの少年、アツシことアッシュは悩んでいた
演奏少女への心遣い溢れるやり取りを終え、洗濯が終わった後、部屋へ戻ろうとしていたのだが
この建物はいわゆる「寮」である
廊下の概観はほぼ全体的に変らない為、階層こそ覚えていたものの、部屋がどれかわからないと言う問題に立ち会っていた

「……どうしよう」

適当な部屋をノックして他の人に主の部屋を聞けばいいのだろうが
生来口下手な彼にはその行為そのもののハードルが高すぎる
幾度も廊下を行き来しては悩み抜いていた
おかげで頭に巻いていた布が少しずれて周囲が見づらくなるくらいに
そんな折だった
彼の前方に『サラマンダー』と呼ばれる種族が目についたのは
勿論の事ながら、彼の世界にこのような生き物が存在している事はない
それを見て、彼なりに本気で驚いていたようだが
残念、表情にはまるで変化がなかった
だが、次いで聞こえた声に彼は更に驚く事となった

“桃色の髪のお嬢さんの部屋ならそこだよ”

そんな声が彼には届いたのである
恐る恐る周囲を伺ってみるが、その場には彼とサラマンダーしか存在していない
そしてその言葉を肯定するかのようにサラマンダーは部屋の扉に鼻先を向けていた

“……理解できないだろうか”
「……いや、助かる」

その言葉に驚いたのはサラマンダーだ
まさか自分の言葉を理解し、そして返事が返ってくるなどとは思っていなかったのである
主従契約を結んだ主でさえわからない己の言葉を、まさか他人が理解できるなど
予想をはるかに超えていた
ちなみにこの時、彼は
『流石魔法の世界だなぁ』なんて暢気な事を考えていた
彼はサラマンダーに一礼すると、ルイズの待つであろう部屋へと戻っていく
残されたサラマンダーだけが、不思議な喜びに包まれていた




52VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/03(木) 07:54:49.04O6fEr1lh0 (4/4)



アッシュは部屋へ戻ると、己の帰りを待つであろう少女の姿を探してみた
だが少女の姿は見つからず、ベッドの上で規則正しい上下運動を繰り返している毛布だけが目に入る
彼には魔法と言う概念は理解しかねたが、恐らく自分の知らぬ程の疲労が訪れるのだろうと考えた
彼女が眠りに付いている事を確認すると、己も壁に背を預けながら眠りにつく事にする
流石に同じベッドで寝れるほどの根性は存在せず、かといってレンガの上で寝るのも辛い
申し訳程度にベッドの近くで藁が敷いてあったのだが、眠っている女の子の近くで寝るなんて
とてもではないが、彼にはレベルが高すぎた
悩んだ結果、ベッドから少しでも遠い位置での座り寝だった
普通ならかなり寝づらい体勢のはずであるが
ネトゲの寝落ちで鍛えた座り寝スキルのおかげで、すんなりと眠りに入る事が出来た
一つ不満を上げるとすれば、昼食すら取れていないおかげで、空腹との戦いになった事くらいだったが……



翌朝、自分の召喚した使い魔に襲われると言う最悪の悪夢から目覚めた少女は
着替えぬまま眠りについた己を呪いたくなるほど、ブラウスは汗を吸い込んでいた
その気持ち悪さに体を起こし、着替えをしようとした所で
寝息すら立てずに壁に背を預けて目を閉じている使い魔に視線があった
先ほどまで夢で見ていたおぞましい内容は、彼女のプライバシーの為に伏せさせていただくが
少なくとも、夢に見た物というのは現実へ引っ張ってしまう物である
一瞬にして彼女の表情を曇らせたが、それも直ぐに思い直し
目の前で静かに眠る少年へ視線を再度巡らせた

「……寝顔はキレイなのに」

それは彼女の確かな意見だった
あの瞳が見えなければ、まるで彼はどこかの人形のように美しい髪色をしていた
しかしそんな思いさえ、彼の姿を見て考え直される
やはりこの使い魔は戦いの世界の住人なのだ
わざわざ藁を敷いておいたにも関わらず、その上どころか
入り口に近い位置で座って眠るとは、何が起きても対処出来るように、と言う事なのだろう
ルイズはそう分析した
召喚から始まった彼の勘違いの伝説は、まだ序章を迎えたばかりである―――――

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

注釈)といった感じのプロローグとなりました。
進みが遅くて申し訳ない限りです。
これから本編の方へと進んでいきます。
またチマチマと更新させて頂くと思いますので、宜しくお願いします。




53VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/03(木) 11:09:44.499gCgAQMSO (1/1)




54VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/03(木) 18:44:23.23IMIBD9QAO (1/1)

まだか


55VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 10:58:39.37bD4L16050 (1/15)

ざっくり本編の方へ参りたいと思います。


56VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 10:59:08.00bD4L16050 (2/15)

時を同じくして、ルイズが目覚めて着替えを済ませた頃
かの少年アッシュは静かに瞳を開いた
視界にまず入ってくるのは自分の部屋とは似ても似つかない西洋な部屋を現すレンガ
遅れて脳裏に蘇るのは、ここに自分がいる経緯だった
その様子に気がついたルイズが僅かながら驚きを見せていた
“いつ目覚めていたのか”と
勿論彼が目覚めたのは今の事だが、音も無く眠っている少年に
ルイズが気付けるはずもなく、もしや自分より先に目覚めていたのではないかと考えた

「お、おはよう、アッシュ」
「……おはよう、ご主人」

無論先日の事もあり、それを聞けるほどルイズに余裕はなかった
だがそんな彼女とは対極に彼は少し困っていた
本来ならば使い魔が先に起きて主を起こすべきなのだろうが
目覚ましに使用していた携帯すら手元にないのだから、どうにも起きる手段がない
更に考えるべきは、衣類であった
彼が身に纏っているのは、この世界では存在しない材質だったが
部屋着を兼ねてパジャマとして使用していた物だ
世界が違うのだから気にされる事はないかも知れないが、流石に寝巻きでうろつくのは頂けない
ルイズに尋ねてみたい所ではあったが、どう考えても男物の衣服など持ち合わせていないだろう
となると、やはり買わなければいけないのだろうが
手持ちがないので、彼より明らかに年が下の少女に頼まねばならない、と言う事に気が引けていた
単にその程度の悩みを考えていたのだが
ルイズには、何か重大な事を考えているように見えて、迂闊に口が出せなかったらしい
しかし、意を決してパジャマと決別するべく、彼は口を開いた



57VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:00:09.18bD4L16050 (3/15)

「……ご主人」
「な、なぁに!?」
「……代えの服は……ないだろうか」
「服は……!
 買わないとないわ、マントくらいなら貸せるけど……」
「……それで頼む」

今までルイズは彼の衣服について特に疑問に感じた事はなかった
それが彼のフォーマルな姿だと思っていたからだ
しかし、少年の言葉に改めて格好を見てみたがそこで気が付いたのだ
とても手縫いなどで施される裁縫のレベルではない事に
アッシュが着ていたのは、ユニ○ロで購入したただのスウェットなのだが
この世界に置いて、ミシンなんて物は存在しない
細かく、寸分違う事なく縫い付けられた服など、一介の平民にしては出来すぎていると判断した
だからこそ、ルイズは黒と白、2種類のマントを差し出す
姉達から譲り受けたのはいい物の、彼女の体には少々大きすぎたマント
彼女にとって大事な物であるのは間違いなかったのだが、あの衣服に見劣る物など差し出しては、彼女のプライドに関わるとか
2種あるうち、男は迷うことなく黒を選んだ
間髪いれずに選んだ理由を、ただの好奇心でルイズが問いかけてみると
“汚れが目立たない”と言う実にシンプルな意見だったのだが
少女の中で、既に“戦場の住人”の印象を与えてしまっているが故に、それは「血の汚れ」と言う勘違いが
また更に一つ、彼を危ない男へと昇華させた
迂闊に衣服選びも出来ない、哀れな男であった


互いに準備が整い、廊下へ出て食堂へ向かおうとした矢先
隣の部屋の扉が開くと、ルイズがあからさまに嫌な表情を浮かべていた
扉を開いた主は、2人に気がつくとやや大げさに炎のような髪を揺らし現れた



58VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:01:14.56bD4L16050 (4/15)

「あら、ルイズおはよう」
「……おはようキュルケ」
「なによ朝からその仏頂面は、気が滅入るじゃない」
「何で私がアンタの為に笑顔作らないといけないのよ」

見えないはずの火花が少女二人の間で飛び交っていた
キュルケと呼ばれた少女は、とてもルイズと同学年とは呼べないスタイルでルイズの前で挑発的な態度を取り続ける
無論、ルイズに置いても負けじとばかりに食い下がっているようだが、口はあちらの方が上手のようだった
それから幾度かのやり取りが交わされた後、突然気が付いたようにアッシュに視線を向けたのである
突然向けられた彼女特有の熱っぽい視線に思わず息を呑むが、残念ながら表情の乏しい彼にはまるで意味がない

「あ、貴方が噂の使い魔さんね?」
「……噂?」

少年は首を軽く傾けた
噂になるような事をした覚えはないらしいのだが
人間が召喚されている時点で、かなりそれは無理と言うモンだ
ただ、そんな事とは知らない少年は暢気に『ルイズって有名なんだなぁ』と桃髪の少女を見て笑みを浮かべた
その笑みを受けたルイズは若干ビクつく
彼女から見ればその笑みは『お前何余計な事言ってんだ』と見えてしまったのだ
そのやり取りを見ていたキュルケは、思わずここでルイズに助け舟を出した

「ま、まあ……人間の使い魔なんて珍しいから仕方ないわよ……」
「……」




59VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:01:56.70bD4L16050 (5/15)


彼はそうなのか、と言いたげにキュルケへ視線を巡らせる
今まで数多の男を虜にしてきた彼女だったが、どうやら白金髪の少年はその部類に入らないらしい
漆黒の双目を向けられたキュルケは、思わず視線を外してしまったのだ
キュルケは先日、絡みに行った友人“タバサ”の様子が少しおかしい事に気付き問いただした
それによると『平民の使い魔に負けた』と言うではないか
シュバリエの称号を持ち、あまつさえ杖を持たない平民にトライアングルメイジであるタバサが負けたなど
彼女には到底理解できなかった
しかし、それは先日までの話で
今、眼前にいる少年と真っ向から対峙した瞬間、キュルケの中に彼女の言葉を確信づける物がある事を悟ってしまった

「しかしゼロのルイズがねぇ……」

しかしアッシュはそんな事など知るはずもなく
ルイズ以外の女性に声をかけられた事を、純粋に喜ぶ反面
目の前に立ちはだかるように行く手を遮るキュルケのその格好に頭が沸騰しかけていた
それもそのはず、眼前に君臨した魅惑的な相手は、ブラウスの前を大きくはだけさせ
零れ落ちんばかりに大きく見せ付けられた胸元は男であれば誰でも陥落させられてしまうだろう
アッシュ自身、未だかつてここまで積極的な女性を見た事などないのだから、刺激が強すぎたようだ
“女の子がこんなはしたない格好はいかんだろ……”とガンコ親父並みの頭を回転させながら
彼女の肩に申し訳程度にかけられたマントへゆるりと手を伸ばす
異性に触れるなど、普段の彼ならば有り得ない事だったのだろうが
頭が茹った状態で冷静もクソもなく、慌てながらも彼女へ注意を促すつもりのようだった




60VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:03:17.97bD4L16050 (6/15)


「……ダメだ」
「へ?」

その格好はいけない、慎みを持ちなさい。なんて親父臭い事を伝えようと思ったのに
相変わらず彼の口はそこまで饒舌に動いてはくれなかった
当のキュルケは不思議そうな顔を浮かべている、やはり正しく伝わるわけもない
そしてゆっくりと伸ばされた手はキュルケの肩へと向かっていく

「だ、ダメェ!!!」

突如大きく響き渡る音が廊下に木霊していた
驚いたのは声を上げていた当の本人ルイズである
その言葉を聞き、我に返ったキュルケも
少年の雰囲気に飲まれていたのか、自分の寸前まで伸ばされていた腕にようやく気づくと
背筋を凍らせ、後ずさるキュルケの顔は真っ青になっていた

「ち、違うの!キュルケはいいの!」
「……そうか」

その言葉を聞いてキュルケは理解した
己が漏らした発言により、この使い魔は主の名誉を守る為に動いたのだと言う事が
そして同時に理解した
必死に少年へ説いている少女が呼び出したその異質な使い魔の存在を
ただ、そのアッシュ本人は
『オレみたいなのが女性のファッションに口出すのは確かになぁ』なんて事を考えているなどとは周りは思わないだろうが

ルイズはそそくさとアッシュの手を引いて食堂への道を進みだす
当のキュルケは、やはり共に行く事が躊躇われたのか呆然とその場に立ち尽くしている
ただ、それを見る限りでは自分の使い魔に手を出される事はないだろうと言う安堵をルイズは感じていた
しかし、一人残される事になったキュルケは大きく肩を揺らしながら乱れた呼吸を整えると

「……私の『微熱』を凍らせるなんて……
 いいわ……障害が在るほど、燃え上がるってものだわ!」

なんて一人納得していたようだった




61VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:04:28.61bD4L16050 (7/15)



―――SIDE アッシュ

おはようございます皆様
私は今最悪の状況に立ち会っております……

それは数分ほど前
待ちに待った食事の瞬間がやってきた
思えば先日の朝食べたっきりで昼食前に此方へ喚ばれたのだから仕方ない
……と思っていたオレが浅はかでございました
食堂へ到着したルイズは、何かを思い出したかのように酷く慌てていた
それを見ている限りてっきり忘れ物でもしたのだろうか?と考えたのだが
どうやらそうではないらしく
唸り声も完売したのではないかと言う程出しつくした時、ルイズから告げられたのは衝撃しかなかった
何でも、この食堂は貴族しか立ち入る事が出来ないとの事で
どうか外で待っていて欲しいと言う、今のオレには残酷極まりない言葉だった
しかし、どう考えてもご主人である相手の手前、世話まで見てもらうのだから文句など言えようもない
ましてやこの世界の事など知らないオレではあるが、それが普通なのであればごねたりも出来ない
仕方なくオレは頷くと、待てを食らった犬のように外を歩んでいたのである

まあでも、いつまでも入り口の近くで立ち呆けているなど
彼女がもし此方を見てしまえば、単なる嫌がらせにしかならないだろう
そんなわけで渋々ではあるが、恐らく中庭であろう場所を歩んでいた
改めて周囲を見渡してみるがレンガと言い、建てられている石像などといい
自分の知っている世界では理解の及ばない物ばかりだった
そのお陰もあってか、不思議と退屈なはずの時間はいい感じに潰れてくれていた
その瞬間までは
ライオンのような生き物が彫られた一つの石像を眺めていた
感嘆の声を漏らしながら、後ろがどうなっているのか気になり
回り込もうと思った瞬間
ドン、と肩に軽い衝撃が当たったのであった
正直イヤな予感しかしない
未だかつてオレの住んでいた街中でこの出来事があった時は
絡まれるか、逃げ出されるかの2パターンだった
出来れば素直に謝らせて欲しい
そんなオレには過ぎた幻想を抱きながら視界を当たった方へ向けてみると
恐らくルイズと同じようにこちらの生徒なのだろう
ローブを羽織った一人の少年と、驚いた顔をしたメイドさんがそこにいた
当の当たってしまった本人は、盛大に尻餅をついて現在進行形でこちらを睨み付けている
OK、前者のパターンだ



62VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:05:41.13bD4L16050 (8/15)


「クッ……き、貴様……何をするっ!!」
「…………」

ど、どうしよう
オレの経験上このタイプは確実に絡んでくるぞ
オレは焦ってしまって言葉を出す事が出来ずにいた
そうこうしているうちに、転んでいた相手は起き上がり
仲間になりたそう……ではない、値踏みするようにジロジロと見てきていた
その動作を見てオレは先日の演奏少女の事を思い出した
オレは不審者じゃないんですよ……
何を言えばいいのかわからず思案している最中も怒声は続いていた
ただ、考えすぎてて全く聞こえていなかったのだが……

「……っ……そのマント……!
 貴様か、噂のルイズが召喚した『平民』の使い魔と言うのは」

そう言われてオレは少し驚いた
噂が出回っているにしても、顔までわからんだろうに
でも確か彼は『マント』って言ったわけだから、これが何かの証明になるのだろう
そんな事はこの際どうでもいい
とりあえずぶつかった事を謝らないと……今までそれで済んだ試しは皆無だけどさ
そうこう思っている間に突然メイドさんが凄い勢いで頭を下げるのが目に入った

「申し訳ございません!
 私がこの様な所で足を止めてしまったのが悪いのです!」

え、なんでそこで貴方が謝っちゃうんですか?
おかげさまでオレの謝るタイミング完璧になくなってしまったよ
でも、代わりに謝ってくれるなんてどんだけいい人なんだ
それを聞いた少年はまだ怒りが収まらないようでイライラしていた

しかし、なんでまたここにまだ生徒がいるんだ?
それを考えた時、オレの脳内はかなり冴えていたに違いない
なるほど、彼は遅刻して飯を食いっぱぐれそうなのか
だからきっとメイドさんに頼んで自分の分を確保していて貰おうとしたに違いない
それを考えると何とも微笑ましい光景のようで、思わず温かな笑みが溢れてしまった




63VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:06:29.76bD4L16050 (9/15)


「な、何がおかしいんだ!」

そう吼える少年も先ほどまでのような怖さは全くない
きっとその光景を知られて恥ずかしいのだろう、ちょっと声が上ずっているし
だけど安心したまえ少年、さっき食堂を見た限りでは
まだ入った所で朝食はちゃんとあると思うよ
まあ、少し急がないとダメだろうが

「フン!余程礼儀を知らない平民のようだな……
 流石は『ゼロ』のルイズが召喚した使い魔、程度が知れる!」
「…………」

少年はそう言い放つと、何かを手に取ったように見えた
しかし巻いている布が落ちかかってきているのか、どうにも見づらくなってきていた
迷わずオレは布を少し上へとずらすと、再び少年を見据えた
だが、なぜかそれを見る少年は驚いているように見える

「ひっひぃっ……!?
 お……な、なにを……何をした……っ!?」

もしかして凄い近眼なのか?
その上結構口では言うが、相当臆病に違いない
わずかながら親近感を感じるじゃないか、仲良く慣れそうな気がするが

「……気にしている余裕があるのか……?」

今はそれどころじゃない、急がないとキミのメシがなくなるぞ
これほどの近眼なら単なる遅刻ではなくて通路がわからなくなったのかも知れない
そう考えたオレは彼を誘導してあげようと肩に手を伸ばした
しかし、それは叶う事なく、再び彼が後ろへと素っ転ぶ形になってしまった
え?何が起こったし



64VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:07:09.30bD4L16050 (10/15)


「……どうした……?」

倒れた少年に手を差し出そうとするが、それは何故かメイドさんによって阻まれてしまう
オレの身体をしっかりと抱え、まるで離れるつもりがないようだ
いや、ちょ!何してんのこの娘さん!?

「も、もう結構ですから……!!
 これ以上はもう……っ!!」

そこまで告げられてオレは今までの事が全て勘違いだったのでは無いかと言う事態に陥る
もしかしてこのメイドさんは彼の専属ヘルパーなんじゃないだろうか?
だとすると素人のオレが迂闊に手を出そうとしてたなんて
いや、それよりも今までの全ての勘違いが何より恥ずかしい
オレはあくまで冷静を装いながら、メイドさんから距離をとると
崩れ落ちている少年を見て、心の中でガンバレと告げ
デジャヴを覚えながらもそそくさとその場を退散した

「……恥ずかしすぎる」

慣れるまでご主人のそばを離れないようにしよう……




65VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:07:55.21bD4L16050 (11/15)


―――SIDE シエスタ

それは突然の事だった……




シエスタは食事の配膳を終えて息つく間もなく
次の仕事へ取り掛かるべく足早に宿舎へ向かって歩いていた
彼女の仕事は一つ終わったからと言って休んでいる暇などない
だがそんな最中、少女の向かいから歩いてくる影が見えた

「おい、お前」
「は、はい?」

突然声をかけられ、駆け出していた足を止めそちらへ視線を向けると
貴族の少年が一人、苛立った様子で立っていた
ああ……またか……とシエスタは半ば諦めた様子で少年の元へ向かう
貴族の少年が言うには自分がこんなに遅刻したのは
もっと早めにシーツの回収に来なかったメイドが悪いと言うのである
この様なことは過去に何度もあった
しかし、配膳の数を考えればどう急ごうにもそんな時間に間に合うはずはない
シエスタも最初の頃こそ理由を説明していたのだが
貴族達にとってそんな事はどうでもいい
いわばこれは、単なる憂さ晴らしと言う物だった
当然平民である彼女が貴族に逆らえるはずもなく、いつもの事と頭を垂れ下げていた




66VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:09:12.15bD4L16050 (12/15)


「ぅゎっ!」

それは突然の事だった
今まで愚痴を零していた少年は、ふと気がつくと自分の隣で尻餅をついていたのである
目の前にいたにも関わらずあまりに突飛な出来事に頭がついていかなかった
ふと視線を貴族の倒れた逆側に向けてみると
見た事もない鮮やかな髪色を放つ少年が佇んでいた
シエスタは息を呑む
見も知らぬ相手がそこに呆然と立ち尽くしている
マントを見る限り彼もまた貴族だと言う事が伺えたのだが
貴族と少年の立ち位置を見る限り、彼が突き飛ばしたのだと言う事は流石の彼女でも理解できた
でも、なぜ?
当然ながら貴族が平民の娘を助けるだなんて彼女の頭の中には無かったのである

「クッ……き、貴様……何をするっ!!」

荒い声を上げながら自分を突き飛ばした相手を睨む貴族の少年
その言葉に対する少年の反応は無い
もしやぶつかってしまっただけなのでは?
彼女は脳裏に浮かんだ意見をすぐに却下させた
それもそのはず、場所は中庭から続く石畳の上なのだ
気づかずぶつかるには見通しが良すぎた
だからこそ彼女は更に頭を悩ませた
『ならばなぜ?』と

「貴様……ボクを突き飛ばしておいて何の謝罪もないのか!?」

激高した貴族は起き上がりながらも言葉は矢継ぎ早に飛んでいく
しかしそんな言葉を受けても白金髪の少年はまるで表情が変わらなかった
額に巻かれた布は少々ずり下がっており、目がしっかりと見えないと言う理由もあったのだが
それを贔屓にしても言葉は愚か、口元さえ動かなかったのだ

「……っ……そのマント……!
 貴様か、噂のルイズが召喚した『平民』の使い魔と言うのは」
「え……!」

召喚された人間
そこも彼女にとっての驚きではあったが、問題はそれではない
貴族は確かに告げたのだ『平民』だと
そんな彼が貴族を突き飛ばしてしまった
これは自分のせいでこの少年が巻き込まれてしまう
シエスタはただそう思い、また貴族に向かって頭を勢いよく下げた



67VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:10:26.30bD4L16050 (13/15)


「申し訳ございません!
 私がこの様な所で足を止めてしまったのが悪いのです!」

シエスタは何も知らない使い魔の少年が巻き込まれる事を恐れた
単純に少年への気遣いが大半を占めていたが
激昂している貴族の少年は『使い魔』だとも告げていた
つまり、この見知らぬ使い魔の少年に何かあれば当然その主である本人からも何を言われるかわかったものではない
この場を鎮めなくてはいけないのは自分なのだと彼女は自分に言い聞かせた
だが、彼女は直後に信じられない事を耳にする

「…………ククッ」
「!?」

シエスタは驚きのあまり言葉を失い
それと同時に身体が凍りついたように動かなくなった
笑ったのだ、彼女と同じ平民の少年が
この状況を前にしてまさかの行動だった
しかしそこでシエスタの身体を襲った緊張は、単に貴族の少年の反論を恐れた物だけではなかった
それ以上に聞こえた笑い声が、獣の唸り声を彷彿させる程の重低音に身体が反応したのだった
不可思議な現象を襲ったのはシエスタだけではなかったようで……

「な、何がおかしいんだ!!」

溜まらず貴族の少年は怒声を張り上げる
しかしその声はわずかに震えているのがシエスタにも理解できた
獲物を値踏みするように愉悦の笑みを浮かべる『平民』の少年に『貴族』の少年が怖れを抱いたのだ
シエスタは困惑する、この少年は彼ら貴族が『メイジ』だと言う事を知っているのか?と
貴族の少年は思い出したかのように自らの武器である杖を取り出す
シエスタは思わず息を殺した
彼らの行使する力を前に、一介の人間が歯向かえるなど在り得ない事だ
こうなってしまっては自分では止められないのだと
武器を手にした少年は、目の前の平民が何も所持していない事を目視で確認すると
先ほどまでの振るえは消え、勝利を確信した笑みを浮かべていた

「フン!余程礼儀を知らない平民のようだな……
 流石は『ゼロ』のルイズが召喚した使い魔、程度が知れる!」
「…………」



68VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:11:01.39bD4L16050 (14/15)


シエスタには、その言葉にわずかながら、使い魔の少年が反応したように見えた
使い魔の少年は一礼すると、何事も無いかのように額に巻かれた布を上へとずらす
今まで額に巻かれていた布がわずかに下がり
目元に暗い影が落ちて、まるで瞳が見えなかったのだ
顕現されるは闇を秘めた双眸
杖を手にした事により芽生えていた安心は一瞬にして崩壊させられた
それによりまるで金縛りにかかったように動けなくなる2人

「ひっひぃっ……!?
 お……な、なにを……何をした……っ!?」
「……気にしている余裕があるのか……?」

闇を秘めた少年の手がゆっくりと貴族の少年に向かって伸ばされてくる
杖を握り締めたまま、ただ一言……ただ一言の詠唱を唱えるだけが出来なかった
どんな術を使ったのか理解できず、手から逃れる為に再び素っ転んだ
カチカチと歯を鳴らし今まで自分が居た場所を見ると、既にそこには使い魔の手が伸びている

「……どうした……?」
「ぁ……ぁ……!」

再び伸ばされる手
しかしそれは届くことがなく……
シエスタにしっかりと身体ごと抱きかかえられていた

「も、もう結構ですから……!!
 これ以上はもう……っ!!」

無我夢中で少年にしがみつき、抑止しようと頑張るシエスタ
何より後々で彼女自身がよく動けたものだと自分で思ったそうだが
その声を聞いて興味がなくなったのか、使い魔の少年は一度だけ頷くと、シエスタとの距離をとる
怯えて蹲ったままの少年を一瞥すると、現れた時と同じ無表情でその場を後にした

「…………いきてる」

シエスタはその日
権力などとは全く種類の違う、初めて体験した恐怖に身を震わせ、膝から崩れ落ちた――――



69VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 11:11:51.74bD4L16050 (15/15)

今回分は以上となります。
ご閲覧ありがとうございました。


70VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 19:27:02.581fq1VZJAO (1/1)



アッシュの容姿は竜児に置きかえて見てる


71VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/05(土) 19:43:13.73aaMwJu+AO (1/1)

最初はage進行の方がいいんじゃないか?


72VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/06(日) 16:47:32.05a9Eyr0RHo (1/2)

チマチマ引っ張ってないで
さっさとかけよ糞ヤロウ

タラタラ書いて人集まるのを待ってるわけ?
>>1乙!次回更新待ってるよ!とか言われたいの?

こっちゃ続きが気になってしゃーねんだよ!

早く書いて下さいお願いします!


73VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/06(日) 18:10:27.80Zp7hlVgAO (1/1)

一週間以上連絡が無いスレもあるってのに何言ってんの

沸点低すぎだろ


74VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/06(日) 19:18:48.26a9Eyr0RHo (2/2)

  __,冖__ ,、  __冖__                     /彡
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75VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/09(水) 23:21:32.79p87GDNgAO (1/1)

まだなの


76VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 10:12:17.96QUHRO4ISO (1/1)

あーあ変なの湧いたから


77VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:44:38.057Qz62qT10 (1/13)

>>70
その判断はかなり正しいと思われますw

>>71
では、しばらくageで行かせていただきます
(正直ガクブルではございますが……)

>>72
お待たせして誠に申し訳ありません……
仕事の兼ね合いもあり、中々自由な時間を取れるタイミングが難しく
今後もかなり時間に長い短いがあるとは思いますが
どうかお付き合い頂ければ幸いでございます。



※それでは、大変遅くなりましたが本日の投下へと参ります。


78VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:45:50.067Qz62qT10 (2/13)
















             「どうしてこうなった」

                   それは誰にも聞こえない呟きだった――――
















79VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:47:10.007Qz62qT10 (3/13)





■第二話■



ヴェストリ広場とか言う場所でオレと向かい合うのは

バラの花を持った、漫画に出てきそうな貴族の少年

そして周りを取り巻くギャラリー達が、今か今かと囃し立てていた

おかしいな……なんでこんな事になってるんだ?



話は遡り、食堂でルイズと合流を果たしたオレは

ほぼ1日ぶりの食物を、待ちわびた犬のように食らった

差し出されたのはパンに様々な物が挟まれた、いわゆるサンドイッチだったが

日本にいた頃には口に出来ないほどの本格的な海外風の味わいに、思わず泣きそうになった

そんな感動を終えた後、教室へと案内されたのだが

どういったわけか、教師がオレを見たまま固まってしまったので

渋々オレは外で待つ事となった

きっと食堂と同じく、貴族以外の人間が居たため

傷つけない言葉を捜していたに違いない




80VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:48:46.817Qz62qT10 (4/13)



そんな外を呆然と眺める時間も終わりを迎え

何故かぐしゃぐしゃになっていた教室の手伝いをさせられ

少々落ち込んでいるように見えるルイズの頭をまた撫でると

よくわからない表情のまま、そそくさと帰っていった

結局、教室の掃除はオレ一人でするハメになったので

気が付けば日が暮れる一歩手前だった



やっとの思いで掃除を乗り越えて食堂に向かうと

朝方見かけたメイドの娘さんが、貴族っぽい少年と会話をしているのが見て取れる

何を話しているのか多少の興味は沸いたものの

掃除でいい感じに疲れていたオレは関与しないよう回り込んで

借りていた掃除用具を返そうと思ったのだ

しかし疲労により覚束ない足取りは、石畳のでっぱりに阻害され

横へつんのめりかけるが、何とか体勢を立て直す



「な、なんだねキミは!?」



はい?

頑張ってこらえた身体を、声のした方へ向けると

なんてこったい

メイドさんとその少年の間に入り込む形になっていた

いや、違うんですよ?

別にあなたがたの邪魔をするわけではないんですよ

メイドさんの方を見ると、明らかに嫌そうな顔を浮かべているように見える



「……気にするな……悪いのは……アイツだ」



そう、ちゃんと平面にきっちり埋まっていなかった石畳が悪いのだ





81VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:49:49.007Qz62qT10 (5/13)




―――SIDE シエスタ



それはまた突然の出来事だった

薔薇の杖を手にした少年のポケットから落ちた小瓶を

メイドの少女、シエスタが気付き差し出したのだ

彼が「知らない」の一点張りをするものの

少女は落ちた瞬間を見ていたのだから、不思議に思いながらも差し出した手はそのままである

だが、周りが囃し立て

会話の内容が理解できない少女の目の前で起こったのは

2人の女性に平手打ちを食らう、貴族の少年であった

どうやら二股をかけていた事が、聞いていた二人にバレたらしい

流れるような光景を見ていたシエスタは、自分が余計な事をした事に気がつく

しかしそれは後の祭りで

額に青筋を立て、両頬に真っ赤なビンタの後を残した少年は

シエスタを糾弾し始めた

傍から事態を見ていた限り、彼女に落ち度は一つとしてなかったが

平民の娘が貴族に叱咤されている様子をみて、わざわざ止めに入る者などいるわけがないのだ

……一人を除いて





82VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:51:39.117Qz62qT10 (6/13)



「―――ぇ!?」



シエスタは本日二度目となる驚きを体感していた

突如として彼女の視界には黒ずくめの男が立ち塞がっていたのだ

その姿は、彼女が忘れたくても忘れられない相手である

何の予備動作も見せず、一瞬にして少年とメイドの前に颯爽と現れた男を見て

周りで囃し立てていた連中も目を丸くした



「な、なんだねキミは!?」



シエスタを責めていた少年、ギーシュも突然現れた少年へ驚きの声を隠せなかった

しかし現れた少年はまるで自分になど興味がないかのように、一瞬彼を一瞥したかと思えば

すぐさま目の前のメイドへと身体を向けていた

その態度にわずかながら彼の内で秘めていた驚きも、苛立ちへと変わっていく

それまで上から悪態をつくため、机へ座っていたギーシュだったが

現れた男の態度が気に食わなかったために、地面へ降り立ち腰に手を当てた



「……気にするな……悪いのは……アイツだ」



黒服の男はマントを揺らしながらシエスタにそう告げると、今まさにその場へ降り立ったギーシュへ視線を巡らせた

その様子に、ただ憂さ晴らしの相手を取られただけではなく

自分をコケにするような態度を取り続ける男に対し、流石のギーシュも怒りを覚えることとなる



「……き、キミは……ルイズの使い魔だったか……
 平民のクセに貴族に対する態度がなっていないようだね……」

「……」



ギーシュも紳士を自負する端くれである

平民相手に突然怒り出すような事があっては、彼の沽券に関わると思ったのだろう

言葉を告げた後、目の前の相手が謝ってくるのであれば穏便に済ますつもりでもあった

しかし相手の態度は変わらずの無言

こうなれば2度もコケにされたギーシュは黙っていなかった



「よかろう……平民に正しきを持って接するのも貴族の務め……
 主人に代わってこのボクが貴族に対する態度という物を教えてやろう……」



周囲で見ていた野次馬も声を上げた

貴族のギーシュがここまで言ってのけたのだ、それは正に

これから始まる物が何であるかを期待に満ちた目で見ていた



「決闘だ!!」


83VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:53:00.317Qz62qT10 (7/13)




―――SIDE アッシュ



驚いていたメイドさんを置き去りにしたまま、オレは広場に立っていた

弁解の言葉すら口に出せぬまま、その場にいた少年達に連行されてしまった

確かに目の前の少年は『決闘』と言う言葉を吐いていたのだから

今回ばかりは事実を素直に認める他ないのだろう

辺りを見渡す限り、この光景を楽しみにしているのか少年少女達が野次を飛ばしているのがわかる

つまりここで殴り合いを始めなければいけないって事だよな?

無理無理、未だかつて喧嘩なんかした事すらないんだよオレ

目の前にいる少年がいかにひ弱そうでも、向こうから言い出した以上かなり腕に自信があるに違いない



「逃げずにきたことは褒めてあげようじゃないか」

「……何を言っている……」



問答無用で連れてこられただけだってば

もうどこから突っ込めばいいのかわからないが、どうにもやる気満々のようだ

ここは即座に誤解を解くため、謝ってしまった方がいいだろう

しかし、こちらの気持ちなど知る由もない少年は

バラの花を散らし、その場に一体の人形を作り上げた

……おお、スゲェ……これが魔法か





84VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:54:08.577Qz62qT10 (8/13)




「ボクの二つ名は「青銅」……「青銅」のギーシュ。
 僕はメイジだ、だから魔法を使う、よもや卑怯とは言うまいね?」

「……いいや」



そこは素直に認めよう、ぶっちゃけ魔法のある世界と言う知識はあるが

実際自分の前で、自分に向けて行使される魔法は初めてなのだ

純粋に興味がわき、純粋に凄いと思えた

ただ、その純粋な好奇心を一撃で粉砕する音色が耳元で聞こえていた

向けられていた興味はそちらから一瞬にして離れ、鼓膜を超振動させる羽音に思わず手で払おうとする

ハチでもハエでもなんでもいいが、虫はかなり苦手なのだ

どうかオレの周りを飛ばないでください、鬱陶しいから!



「……失せろ」



次の瞬間、周囲で歓声が巻き起こる

何が起きたのか理解できなかったオレは正面を見てみると

どうやら先ほどの一体を消し、合計七体の人形を作り出している所であった

七体も作れるのかよー!!

でも、何があったのか知らないけどギーシュと名乗った少年の顔色が青いように見える



「……どうした?」

「っ!き、キミは今何をしたんだ!?」

「……五月蝿い羽虫を一匹……追い払った」



その言葉に再び外野から声が上がったが、何の興奮なのか残念ながら理解はできなかった





85VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:55:12.597Qz62qT10 (9/13)




―――■■■



ヴェストリの広場、その場にて無口な少女タバサは光景を見守っていた

普段の彼女ならば生徒同士の揉め事などと言う程度の低いモノに興味を示す事はなかった

しかし聞こえてきた試合内容は、自分を看破したあの『使い魔』だと言うことに

自然と彼女の足をここへ向かわせていた

無手にて彼女を追い込んだ正体のわからない使い魔

彼女は先日の戦いにおいて、白金髪の少年の実力が本物である事はその身を持って理解していた

だが、あまりに鮮やか過ぎた手並みの連続に、もしやあれは偶然なのでは?と言う思いも同時に持っていた

それが彼女の足をここへ向けた一つの理由になっている

相対するのは、お世辞にも強いとは言えないドットメイジ

それでもかの少年の実力を客観的に見れるのであれば、そう思っていた……その瞬間までは――――



ドットメイジの少年ギーシュ、彼が誇る魔法は錬金によって生み出す青銅の人形『ワルキューレ』

魔法の質こそ高くはないがメイジが戦闘を行う際、必要となるのは強力な魔法を生み出すために必要な詠唱の時間を稼ぐこと

それを補うために青銅の人形を前線にて戦わせて、後ろで魔法を練ると言うのは中々理に適った戦い方であった

ましてや相手は魔法も使えぬ平民の少年

もはやこれが決闘などと言う彩られた物なのではない事を誰もが理解していた……いや、確信していたのだ

生み出されたワルキューレが平民の少年目掛けて拳を突き出した時、アッシュは軽く手を動かし

速度が乗りきる前の拳を叩いて横へいなす、その程度ならば多少戦い慣れている傭兵にだって出来るのだろう

だが……



86VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:56:31.187Qz62qT10 (10/13)




「失せろ」



その言葉と共に次の攻撃へ移ろうとしていたワルキューレは、崩れるように土へと還った

誰もが一様に息を飲んだのがわかる

なにより、貴族でもない平民の少年が杖すら用いずにメイジの魔法を消し去ったのだ

そう、ただの平民であれば。



ギーシュは勝利を確信していた

いや、むしろ戦いなどではなく、これは粛清なのだと考えていた

全力を出す必要などないと考え、ワルキューレを自動で敵を追撃するようにし、高みの見物を決め込んでいたのだ

その目論見が間違っていた

生み出す際に使用したのは魔法、そして相対する少年へ自動での攻撃を判断した瞬間

ワルキューレはギーシュの制御下を離れている

この間、ワルキューレは魔法から、魔法道具へと切り替わった

それこそ『ミョズニトニルン』彼の額に浮かび上がった神の頭脳が侵入する最大の隙だった

ワルキューレの制御に侵入し、浮かびあげられた言葉を文字通り体現し、土へ『失せた』

ギーシュは驚き

野次馬は声を上げ

タバサは頷いた





87VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:57:27.607Qz62qT10 (11/13)




己の理解を大きく離れた技を駆使したアッシュに対し、ギーシュの油断は消えていた

だが、最大の攻撃である瞳は未だ布に封じられたままとなっている

そんな時……一人の叫びが辺りに響き渡った



「やめて!!」



アッシュの主、ルイズが人の波を掻き分け、今まさに列の最前線へ飛び出してきた所だった

これを見たギーシュは何を今更、と思った事であろう



「アッシュ!やめて!」



周囲で観戦していた連中も、同様にそう思った

既に匙は投げられ、平民はギーシュの攻撃を叩き壊している

ギーシュが平民に攻撃するのは仕方ないのだと



「アッシュ……殺さないで!!」



その言葉を聞くまでは。

アッシュの放った一撃に驚いていたのも束の間、次にルイズの言葉に驚かされた一同

メイジと平民が対峙し、よりにもよってその主は平民がメイジを殺す事を心配したのだ

誰もが頭の中にあった常識を疑わずにはいられず、我慢を通り越して噴出していた

貴族の意地をコケにされたギーシュは怒りを抑えられず、すぐさま7体のワルキューレをけしかけた

目の前で起こった事象を理解していないギーシュであったが、先ほどのような油断は消えている

それにより、制御を自らの手で行っているワルキューレにミョズニトニルンの介入はもう出来ない

ルイズとタバサはこれから起こるであろう平民の快挙に息を飲む

野次馬はこれから起こるであろう平民の哀れな運命に口元を歪に歪ませていた





88VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:58:23.597Qz62qT10 (12/13)




―――SIDE 学院長室



「……それで、先日お話した使い魔の件ですが……」

「ああ、どうやら契約は問題なく進んだようじゃよ」

「そうですか……それならいいのですが……」



春の使い魔召喚の儀式に付き添っていたコルベールと、学院長のオールドオスマン

2人の会話はルイズの召喚した使い魔の事であった

アッシュの異常性に気づいたコルベールは、すぐさま学院長に指示を仰ぎ

学院長の使い魔を監視に向かわせる事を決めた

ただ、その際すぐに監視している事がバレてしまった事をコルベールには話していなかった



「コルベールくん、確かにあの少年は少々特殊のようじゃが、主を思っている気持ちは確かじゃよ」

「……ですが……」

「契約が終わった後、甲斐甲斐しく主人の衣服を洗濯までしていたようじゃしな」

「せ、洗濯……ですか?」



その光景を想像し、思わずコルベールは頭を抱えた

あまりに似つかわしくないその様子は、最初に抱いていた彼への認識が一瞬で変わってしまうほどだった

それと同時にコルベールは安堵の息を漏らす

あれほどの殺気を振りまく相手でも、主への思いは確かなのだと

だが、その思いも扉の向こうから聞こえたオスマンの秘書、ミス・ロングビルの言葉によって一瞬にして消えてしまうのだが





89VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/10(木) 23:59:23.357Qz62qT10 (13/13)




「お話中失礼します、オールド・オスマン」

「何かあったかの?」

「ヴェストリ広場にて決闘騒ぎが起こっているようです
 事態を収拾する為に教師が向かっているようですが、興奮した生徒によって邪魔され止められないと」

「……やれやれ、そのバカをやってる者の名は?」

「1人はギーシュ・ド・グラモンです」

「グラモン家の女好きのバカ息子か……親子そろって厄介ごと好きじゃの……、して相手は?」

「……ミス・ヴァリエールの呼び寄せた使い魔です」



その言葉にコルベールは顔を青くした

先ほど一瞬でも迎える事の出来た安堵は大きな溜め息と共に消えていく



「か、彼は危険です!止めないと!!」

「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めております」

「……アホか、子供の喧嘩を止める為に秘法をいちいち使ってられんわ、放っておきなさい」

「で、ですが!!」

「ミスターコッパゲールくん」

「コルベールですっ!!」

「おお、失礼……まあ大丈夫じゃろうて、ひとまず様子を見てみんか?
 その普通ではないと言っておる使い魔くんをのぉ」



オスマンはそれを告げると渋々納得したコルベールの背後にある鏡へヴェストリ広場を映し出す

食い入るように見つめるコルベールを尻目に、オスマンはまた一つ溜め息を吐き出すのであった……





90VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/11(金) 00:00:57.97JYS64P5m0 (1/1)

※今回分はひとまず終わりとなります
 展開の進みも遅く、投下も遅くなっておりますが
 何卒お付き合い頂ければ幸いでございます。
 それでは……ここまで読んで頂きまして本当にありがとうございました。


91VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/11(金) 14:42:26.09wUriBlASO (1/1)




92VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/11(金) 21:17:44.21zSvDd2xAO (1/1)

おつー地震情報:http://ex14.vip2ch.com/earthquake/


93VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/15(火) 23:28:54.42q2eAa6lSO (1/1)

おい>>1まさか…


94VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)2011/03/18(金) 08:05:16.44l4yCzxmAO (1/1)

待ってる


95VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)2011/03/30(水) 21:33:57.27UMbNYflAO (1/1)

まだか・・・


96VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)2011/04/04(月) 18:39:31.47Tkr2cV7AO (1/1)

もうすぐ1ヶ月か・・・


97VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/04/07(木) 23:55:07.19kKhNVtOSO (1/1)

>>1マジで大丈夫かな…


98VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)2011/04/16(土) 22:43:26.86cyFUto5AO (1/1)

終わったな
1ヶ月だ


99VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(九州)2011/04/23(土) 17:05:56.68OFdXs7kAO (1/1)

依頼だしとくー?


100VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(中国地方)2011/05/10(火) 04:26:41.176CPYNWEN0 (1/1)

>>100記念


101VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/06/01(水) 16:08:57.44m+GOjkwSO (1/1)

死んだのか