592時を廻って 102011/01/16(日) 00:23:01.34j+FU2ysS0 (12/45)


かなた「もうすっかり落ち着いた、ありがとう」
つかさ「はい」
かなたは椅子からゆっくり立ち上がった。しかしフラフラしている。バランスを崩して倒れそうになった。つかさは自分の体を盾にしてかなたを支えた。
つかさ「家まで送ります」
かなた「……すみません、こうなったら最後まで甘えさせてもうらおうかな、お願いします」
つかさはかなたを支えながら家の方に向かった。つかさは思った。本来こうするのはこなたじゃないといけなかったじゃないかと。
こなたはこの時代にセットをした。きっとかなたに会いたかったに違いない。興味本位で来てしまったつかさは後悔をしていた。

つかさ「家に着きました」
かなた「……不思議ね、私は道を教えていないのに……一回も間違わないで誘導してくれた……もしかして私を知ってるのかしら?」
つかさはそこまで気が回らなかった。なんて言っていいのか分からない、ただ黙っているしかなかった。かなたはそんなつかさに微笑みかけた。
かなた「よかったら上がっていって、お茶でもどうぞ」
かなたは玄関の扉を開けてつかさを招く。つかさはこのまま帰りたかった。でもこのまま帰るのもなにか気が引ける。つかさはただ黙って泉家に入っていった。

 つかさは居間に通された。今の状態と全く同じ配置にテーブルや家具が配置されている。つかさが居間の椅子に座るとかなたは台所で作業を始めた。
なにか落ち着かない。つかさはキョロキョロと辺りを見回していた。
かなた「そんなにこの部屋珍しい?」
笑いながらお茶を持ってきた。つかさの目の前ににお茶とお茶菓子を置くとかなたも席に着いた。何か言わないと。つかさは焦った。
つかさ「えっと、お子さんは、何処にいるのですか……」
かなたはつかさが落ち着きがないのはそのせいかと思った。
かなた「あ、赤ちゃんの気配がないから落ち着かないかったみたいね……そう君……夫が不規則な仕事をしているし、今の私もこんな状態だから親戚に預けているの」
その親戚はきっとゆたかの実家だとつかさは思った。
つかさ「そうですか……すみません家庭の事を聞いちゃって」
かなた「いいのよ、話したいから話しただけ、それよりお茶とお菓子食べちゃって」
つかさはお茶を飲み始めた。かなたはそんなつかさを見つめていた。つかさは少し恥ずかしくなった。
かなた「さっきお茶にお砂糖を入れる時、何の迷いもなくその瓶を選んだでしょ……つかさちゃん」
つかさ「えっ、だっていつも……」
つかさはドキっとした。色違いの同じ形の瓶に砂糖と塩が入っている。つかさは無意識に砂糖の入っている瓶を取っていた。
つかさはかなたを見て目を潤ませてしまった。なぜか無性に悲しくなった。こんないい人にもう会えなくなってしまうなんて。
かなた「この家をを知ってるみたいと言うのかな、つかさちゃんを見ているとなんか他人のような気がしない」
何も言えなかった。つかさは俯いて涙を隠した。かなたはその涙に気付いたみたいだった。
かなた「家出でもしたの、きっと家族の方が心配してると思う」
これはチャンスだった。かなたが勘違いをしている。と言っても未来から来たなんて思わないだろう。つかさはそれに便乗することにした。この場を早く離れたかった。
つかさ「うん……そうかもしれない、私、帰った方がいいかな」
かなたは席を立つと引き出しから財布を取り出した。
かなた「これは少しだけどお礼、交通費の足しにでもして」
かなたはつかさの手を掴み持ち上げた。手の上にお金を置いた。
つかさ「こんなに、受け取れません……」
かなた「私の命の恩人ですものね」
かなたはにっこり微笑んだ。その笑顔に思わずつかさはそのお金をポケットにしまった。そしてそのまま玄関へと歩いてった。かなたもつかさの後を付いて見送ろうとした。
つかさ「あ、あとは私一人でいいので、休んでて下さい」
かなたは立ち止まり笑顔で手を振った。つかさはドアを開けた。


593時を廻って 112011/01/16(日) 00:25:05.57j+FU2ysS0 (13/45)


 
 外に出たはずだった。しかしそこは自分の部屋の中だった。現代に戻ってきた。その目の前にかがみが居た。
かがみ「……つかさ、どうしたのその格好……まさかコスプレやってるんじゃないでしょうね……」
かがみは呆れた顔でつかさを見ていいた。
つかさ「これは……へへへ」
苦笑いをした。
かがみ「まったく呼んでもこないから何をしていると思ったら……今頃になってこなたの趣味が感染するなんて……趣味の世界だから干渉はしないけど土足は止めにしないか」
つかさは慌てて靴を脱いだ。
かがみ「もうすぐご飯よ、着替えてからおりてきて」
つかさはポケットからお金を出した。かなたの笑顔が脳裏に浮かんだ。また涙が出てきた。しばらく下に降りることができなかった。

 休日の日が来た。午前中からこなたは柊家に訪れていた。つかさはこなたに謝らなければならなかった。
つかさ「早速だけど私はこなちゃんに謝らないといけないの」
こなた「なぜ、何も悪い事なんかしてないじゃん」
きょとんとしてつかさを見た。
つかさ「この前こなちゃん来たとき私のパソコンでゲームの設定したでしょ……時間と場所」
こなた「……したけど、それがどうかしたの?」
少し間を置いてから話した。言い難かったからだ。
つかさ「私……行っちゃったの、こなちゃんのやり直したいって言ってた時代に……」
こなたは俯いてしまった。つかさは思った。これでこなたと友達で居られないかもしれないと。きっと怒ってくる。覚悟した。
こなた「ふふふ、家出の少女ってつかさだったのか……やっぱり、何となくだけど試しに入れてみた時間と場所……これは本物だよ、つかさ」
つかさ「え、どうゆうこと?」
つかさは聞き返した。
こなた「あの日はお母さんが入院する日だった、お父さんが聞いた話だよお母さんからね、その日、家出してきた陸桜の生徒に助けられたってね……その子の特徴が
    つかさに似てるんだよ、名前も聞いたらしいけどお父さんは忘れちゃった、だけどもうこれで分かったよ……」
つかさ「こなちゃん、もしかして私が行くと思ってたの?」
こなた「多分本当の事を行ってたら行かなかったでしょ、だから失恋っぽく演出したんだよ……もしかして制服着て行ったの?」
つかさ「設定した場所が学校だと思って……」
こなた「ふふふ、ははは、傑作だよかがみに見せたいくらいだ」
つかさ「見られちゃったよ……こなちゃんの趣味が感染したって言われた」
こなたは大笑いを始めた。しかしつかさはあまり悪い気にはならなかった。こなたは暫く笑い続けた。
こなた「……つかさ、お母さんってどんな人だった?」
唐突だった。つかさは驚いた。
つかさ「え、なんで今更、おじさんとか、成実さんから聞いてないの?」
こなた「聞いてるさ、聞いてるけど……お父さんは妻としてしか聞いてない、ゆい姉さんはその時はまだ子供だった……つかさの思ったとおり教えて」
つかさは天井をみて少し考えてから話した。
つかさ「……とっても優しかった、あの時おばさんを助けたけどなんだかか私が助けられたみたいだったよ、それにね、お金までくれるなんて、受け取っちゃけど返したいな」
こなた「そう、つかさのお母さんと比べてどう?」
つかさ「……こなちゃん、お母さんって比べるものじゃないと思うけど……」
こなた「そうだよね、そうだった……ごめん……でも比べないとイメージが湧かないんだよ」
また俯いてしまった。今度は本当に悲しいみたいだった。血の繋がっていない他人のつかさが悲しくなるくらいだ。こなたが悲しくなるのはつかさにも痛いほど分かった。
つかさ「それだったら会いにいく?」
こなたは俯いたまま動かない。つかさは質問を変えた。
つかさ「こなちゃん、やり直すって何をしたいの、おばさんって病気だったんでしょ、だったらもうどうしようもないよ……」
こなた「どうすることもできるよ」


594時を廻って 122011/01/16(日) 00:26:41.43j+FU2ysS0 (14/45)

こなたは鞄から小さい瓶を取り出しつかさの机の上に置いた。
つかさ「なに?」
こなた「バイトで稼いだお金で昨日買った薬だよ、あの時は不治の病でも今ではこの薬で完治できるのさ……三年前実用になった」
つかさ「もしかして、この薬を?」
こなた「……そう、この薬を持って行ってお母さんに飲んでもらう……それだけでいい」
やり直すと言ってた意味が分かった。でも何故かつかさはあまり喜べなかった。
つかさ「それって歴史を変えちゃうってことだよね?」
こなた「変えるんじゃない、やり直すんだよ」
つかさ「でも、それはやってはいけない事じゃないかと思うんだけど」
こなた「出来ないならやらないしやれない、でも救う方法がある、あるなら助ける、当たり前だよね」
つかさ「でも……過ぎ去った事実を変えるなんて……」
こなたは顔を上げてつかさを見た。
こなた「つかさもかがみと同じ事言うんだね……つかさだって倒れていたお母さんを助けたでしょ、あのまま素通りすればよかったじゃないか、助けられるなら助ける、
     つかさだって同じじゃないか、つかさはお母さんが居るからそんな事が言えるんだよ」
こなたの目には涙が溢れていた。説得力があった。こなたの言う通りかもしれない。しかしつかさの言いたいのはそれではなかった。
かなたが生きていたとして、その世界でこなたが陸桜学園に進学しているのか疑問に思った。もし別の高校を選んだとしたら友達として一生会えない気がした。
それがつかさが過去を変えたくない理由だった。でも助けられるなら助けたい。自分の思いとこなたの言葉がつかさの頭の中で響いていた。
つかさ「こなちゃん、もしかしてお姉ちゃんにパソコンの話したの、私がお姉ちゃんと同じ事言ったって……」
整理がつかないのでつかさは話を変えた。こなたは直ぐに頭を切り替えた。
こなた「いや言ってないよ、以前タイムとラベル物の映画の話題をしてて論争になったんだ、歴史を変えるのっていいのかってね、かがみは変えちゃダメだってさ……」
つかさ「そうなんだ……」
こなたはまた直ぐに話を元に戻した。
こなた「つかさ……パソコン貸してくれるよね……」
つかさは返事が出来なかった。こなたはそんなつかさを見てもどかしくなった。
こなた「つかさ……つかさはもう二度も過去に行ってるよね、でも今ここに居て何が変わった……変っていないよね、つかさが過去に行ってなかったらその日が
    お母さんの命日だったかもしれないんだよ、そう言う意味じゃもうつかさは過去を変えちゃったんだよ……それでも私のしようとしてる事は間違ってるのかな……」
こなたはつかさを説得した。つかさは頭を抱えた。
つかさ「分からない……分からないよ……」
こなたは一回ため息をついた。このまま無理押ししても貸してくれそうにない。
こなた「それじゃ分かるまで待つよ……それからこの薬をつかさに預けるよ」
こなたは薬の瓶をつかさの手に置いた。
つかさ「なんで私が?」
こなた「つかさが居ない時パソコンを使うかもしれないでしょ……私はかがみを訪ねれば家にもつかさの部屋にも入れるからね」
つかさは驚いた。思わずこなたの目を見た。
こなた「もしかしたらやっちゃうかもしれいから……やっぱり快く貸してくれないとね、人の命がかかってるから」
こなたは微笑んだ。つかさにはその笑顔がかなたと重なって見えた。
こなた「あまり時間がないから期限を決めるよ……その薬の効力は一週間しか持たないんだって……三日後、三日後の夜また来るよ、それで決めて」
つかさは自分の手にもっている瓶を見つめた。こなたは部屋を出て帰った。


595時を廻って 132011/01/16(日) 00:28:29.12j+FU2ysS0 (15/45)



 家に帰ったこなたは考えた。なぜつかさはかなたの病気を治すのに反対したのか。過ぎ去った事実を変える。確かに自然の摂理に反しているかもしれない。
しかしつかさはかがみとは違う。そこまで難い考えはしないと思った。もっと別の何かがつかさを止めさせているに違いない。しかしこなたはそれが何かは分からなかった。
ゆたか「こんにちは」
高校を卒業したゆたかは実家に戻った。それから度々こなたの家に遊びに来るようになった。ゆいと同じように。
こなた「いらっしゃい、今日ゆい姉さんは一緒じゃないの?」
ゆたか「今日は遅番だから来れないって、お姉ちゃんによろしくって」
特に何をする訳でもない。ゆたかはこなたとの会話を楽しみにしていた。今日は話が弾む。
こなた「しかしゆーちゃんもしょっちゅう家に来てるけど、ゆい姉さんと同じだね」
ゆたか「やっぱり高校時代が楽しかったから……かも」
こなた「そもそも実家を離れてまでなぜ陸桜なんか選んだの」
ゆたかは少し意外そうな顔をした。
ゆたか「前に言わなかったかな……お姉ちゃんが通っていたから……」
こなた「そうだったっけ……そういえばみゆきさんもおばさんが通っていたからって言ってたっけな……」
そう考えると何かを決める動機なんてそんなものなのかもしれないとこなたは思った。
ゆたか「意外とかがみ先輩とつかさ先輩も同じかもね、どっちが先に決めたかは分からないけど……」
こなた「ふふふ、いや、どう考えてもかがみが先でしょ……つかさは一人で決定なんか出来ないよ」
こなたは笑いながら話した。
ゆたか「笑ってるけどお姉ちゃんは何で選んだの?」
こなた「私、私は……お父さんと賭けをしたんだ、高校のランクで賞品を決めて……えっ?」
ゆたか「えっ?」
ゆたかは聞き返したがこなたの話が止まった。そうじろうと賭けをして決めた高校。もし、かなたが生きていたらそんな賭けをしただろうか。もしかしたら違う高校に行っていた。
つかさはそれを心配して躊躇しているのではないか。つかさはこなたと出会えなくなるのが嫌だった。そう思うとこなたもすんなり薬をかなたに渡せなくなった。
こなた「……ばかだよつかさは……そんなの考えたら何も出来ないよ……」
この時こなたの心が揺らいだ。
ゆたか「どうしたの、お姉ちゃん」
こなたの顔を覗き込むように心配した。
こなた「……な、何でもないよ……話の続きしようか……」




596時を廻って 142011/01/16(日) 00:30:15.69j+FU2ysS0 (16/45)


 同時刻つかさはみゆきに電話をしていた。
つかさ「……って薬なんだけど、これってどんな薬かなって」
みゆき『……聞かない名前ですね、おそらく数年以内に開発された新薬だと思います、つかささんパソコンの前に移動できますか?』
つかさ「ちょっと待って……携帯電話にかけなおすから」
つかさは電話を切ると自分の部屋に戻った。パソコンを起動してみゆきに携帯電話をかけた。
つかさ「……あ、ゆきちゃん、ごめんね、いきなりこんな電話しちゃって」
みゆき『いいえ、お構いなく……私もパソコンの前に居ますので一緒に操作しましょう』
つかさはみゆきの言うようにパソコンにキー入力をした。すると薬の一覧表が表示された。
みゆき『これは……この薬は三年前に認可された薬ですね、特定の病気に開発された特効薬ですね、副作用も少なく他の幾つかの病気にも有効なので去年からは
     処方箋無しで購入でるようですね、つかささん、この薬を使うのですか?』
つかさは慌てた。なんて言っていいのか少し考えた。嘘を付いてもしょうがない。
つかさ「え、うんん、こなちゃんのお母さんの病気について調べてたの」
みゆき『それを聞いて安心しました……泉さんのお母さんがこの病気に……もし、この薬がその時代にあったなら泉さんのお母さんもきっと良くなったと思いますよ』
つかさは迷った。タイムトラベルの話をみゆきにするかどうか。みゆきなら信じる信じないは別ににして一緒に考えてくれそうな気がしたからだ。
つかさ「こなちゃんもおばさんの病気の話をゆきちゃんに聞いたんだよね?」
みゆき『いいえ、伺っていませんが……』
つかさは驚いた。こなたは自分一人でこの薬を調べたみたいだった。もっともこなたが先に聞いていればみゆきも薬の名前くらいは覚えていただろう。
無闇に話すのは控えたほうがよさそうだ。
つかさ「そ、そうなんだ、すごい薬なんだね……調べてくれてありがとう」
こなたを疑ったわけではなかった。しかしこの薬は本物だ。調べる必要はなかった。つかさはそのまま携帯を切ろうとした。
みゆき『ちょっと待ってください、余計な事かもしれませんがその薬は使用期限がとても短いですね……もっと詳しく知りたいのでしたらパソコンの画面を読んで下さい』
つかさ「……うん、分かった、ありがとう……」
つかさは携帯を切った。そのままパソコンの電源を切ろうとした。ふと薬の一覧表を見た。その薬の値段を見て驚いた。
三年前の十分の一の値段まで下がっている。他の病気にも使われたので一気に値が下がったようだ。それでも学生が簡単に購入できる金額ではなかった。
こなたの想いの強さはこれを見ただけでも充分理解できた。そして薬の使用期限、あまりのんびりはしていられない。
それでもつかさは決め兼ねていた。パソコンから離れた。自分の部屋を出る。そしてつかさは自然とかがみの部屋の前に立っていた。



597時を廻って 152011/01/16(日) 00:31:52.90j+FU2ysS0 (17/45)


『コンコン』
ドアをノックしてつかさはかがみの部屋に入った。かがみは机に向かって勉強をしていたようだった。
つかさ「勉強中だったみたいだね、また後で来るよ……」
かがみ「構わないわよ、もうそろそろ止めようかと思ってたところ、何か用なの?」
かがみは椅子を回転させてつかさの正面に向いた。
つかさ「例えなんだけど……例えばこなちゃんのお母さんを過去に行って助けたらどうなるかなって……」
かがみ「……いきなり唐突だな……つかさ、出来もしない事を考えるよりこれからの事を考えた方がいいわよ」
かがみらしい答えだった。でもこれで引き下がるわけにはいかなかった。
つかさ「だから例え話、タイムマシンがあったとして」
かがみはすぐにこなたとつかさで何かあったと思った。
かがみ「こなたと何かあったのか、そいえば今日来てたわよね、そういえば珍しく私には何も言って来なかったけど……」
そして以前に似たような話をこなたとしたのを思い出した。
かがみ「ああ、あの時の話をこなたとしてたのか、つかさもその手の物語に興味を持つようになったみたいね」
つかさはとりあえず頷いた。
かがみ「つかさの例えは『親殺しのパラドックス』の逆を言ってるのよ」
つかさ「親……殺しって……穏やかじゃないね、何それ?」
かがみ「簡単よ、つかさがタイムマシンに乗ってて三十年前のお母さんを殺すのよ、どうなると思う?」
つかさ「三十年前って私達生まれてないよね……私が生まれる前にお母さんが死んじゃったら今の私はどうなるの?」
かがみ「分からないが正解、この手の物語はそれがテーマになるのよ、だから想像でしか答えられない」
つかさ「お姉ちゃんは歴史を変えるのってダメだってこなちゃんに言ったんだよね?」
かがみ「……やっぱりあの時の話をこなたとしてたのね……あれはダメって言うようり出来ないって言ったのよ」
つかさ「出来ないって?」
かがみ「良く考えてみて、タイムマシンがもし在ったとしたら人間は絶対に過去の誤りを正そうとする、私だってやり直したい事なら山ほど在るわよ……
     でも現実は変えられないのよ、過去にどんな事したとしてもその結果は変えられない、私はそう思う、そう言う意味でこなたに言ったつもりよ」
つかさ「それじゃタイムマシンが在ったらお姉ちゃんは何かする?」
それはあった。もうそれはつかさに見られている。今更隠してもしょうがない。それにつかさになら話しても茶化されたりされない。
かがみ「在ったら真っ先に卒業式の日に行くわ……そしてあの時の私の背中を思いっきり押してやる……それだけよ……例え変えられなくても……それが人情ってもの」
つかさはかなたを助けたい感情が高まった。その結果が変らないとしても、こなたと会えなくなったとしても今より幸せになれるのなら良いと思った。
その時つかさは決意した。今ならかがみの願いが叶えられると。そしてつかさ本人の願いも同時に。
つかさ「お姉ちゃん、行ってみる、卒業式の日」
かがみ「はぁ、何言ってるのよ」
かがみは呆れ顔になった。
つかさ「お姉ちゃんに渡した手紙の破片……どうやって私が手に入れたと思う?」
かがみは慌てて机の引き出しを開けて手紙の破片を見た。手紙を持つ手が震えている。
かがみ「まさか……どうやったと思ってた……出来るはずがないと思ってた……」
かがみは放心状態だった。
つかさ「もし行きたかったら、制服に着替えて靴を持って私の部屋に来て」


598時を廻って 162011/01/16(日) 00:33:34.82j+FU2ysS0 (18/45)



 つかさは玄関に自分の靴を取りに行きそのまま自分の部屋に戻った。
つかさが制服に着替えているとノックの音が聞こえた。
つかさ「はーい」
扉が開くと靴を持ち制服姿のかがみが居た。
かがみ「まさかまたこの服を着るとは思わなかったわよ、そろそろ処分しようと思ってた……何か違和感があるわね」
つかさ「それは太ったからだよ」
かがみ「バカ……そんなにはっきり言うな」
その時かがみは思い出した。
かがみ「そういえばあんた以前制服着てたわね」
つかさ「……これで三回目になるよ」
かがみは黙ってつかさの行動を見守った。つかさはパソコンに向かい画面を起動した。そしていつものように地図と時計をセットした。
『ブブー』
パソコンから操作禁止の警告音が出た。つかさはまた同じ作業をする。
『ブブー』
警告音と共にカレンダーと時計が現在の時間に戻ってしまった。つかさは何度も設定しようとするが戻ってしまう。壊れてしまったのだろうか。
良く見ると設定しようとした日時が黄色く点滅している。故障ではないこのソフトがそうなっているみたいだった。つまり一度行った時代には行けないようになっていた様だ。
つかさは後ろから冷たい氷のような軽蔑の視線、いや、燃えるような怒りを感じた。
かがみ「つ、か、さ……」
重い低い声だった。つかさは後ろを振り向けなかった。
かがみ「謀ったわね……」
つかさ「……違う、違うの、この前行っちゃったから……行けないのかも、ちょっと待って、もう一回設定するから……」
かがみ「……何を設定するのよ!それはゲームの画面じゃない……つかさ、あんたって人はそれほど人の失恋が面白いのか………人の気持ちを弄ぶなんて見損なった」
誤解だ。これは完全に誤解。どうやって説明する。つかさは一所懸命に考えた。とりあえず振り向きかがみの顔をみた。かがみの顔は怒りに満ちていた。
かがみは手に持っていた手紙の破片をつかさに叩き付けた。
かがみ「何がタイムとラベルよ、あの時見ていただけじゃない、その時これを拾ったな、今日まで隠して、それでさっきあんな話を持ち出して、私にこんな格好までさせて
     さぞかし楽しかったでしょうね……つかさ一人じゃこんなの思いつかないわね、こなたの入れ知恵か」
つかさはまずいと思った。あらぬ疑いがこなたにかかった。いまこなたはかなたの事で頭がいっぱいのはず。何とかしないと。
つかさ「こなちゃんには何も言ってない、こなちゃんは手紙の話は知らないよ……」
かがみ「……呆れた、単独犯か、あんたの顔なんかもう見たくない」
かがみの目からは涙が出ていた。かがみを完全に怒らせてしまった。かがみは飛び出すようにつかさの部屋を出た。つかさはかがみを追い掛けた。
かがみは自分の部屋に入るとドアを閉めた。つかさはドアをノックする。
つかさ「開けて、話を聞いて……」
何度もノックするが反応がない。部屋の中からかがみのすすり泣く音がかすかに聞こえる。つかさはノックするのを止めた。説明を諦めて自分の部屋に戻った。
かがみの心に大きな傷をつけてしまった。つけたのではない、傷を広げてしまった。つかさの足元に手紙の破片が落ちていた。つかさは手紙の破片を拾った。
もうあの時には戻れない。急につかさも悲しくなり目から涙が出てきた。つかさもあの時自分の背中を押したかった。そして気が付いた。つかさもかがみと同じだった。
まだ未練があったのだと。タイムマシーンを使って結局何もしなかった自分が情けなくなった。もうその時間すら取り戻せない。かがみの誤解も解けそうにない。
つかさはその場に倒れこんで泣きじゃくった。


599時を廻って 172011/01/16(日) 00:35:40.30j+FU2ysS0 (19/45)



 こなたはつかさに呼ばれた。約束より一日早い連絡だった。まさかつかさの方から連絡がくるとは思いもしなかった。 こなたは未だに悩んでいた。まだ結論が出ていない。
この際だからつかさと直接話して決めようと思った。こなたは柊家の門の前で呼び鈴を押した。出てきたのはかがみだった。
かがみ「いらっしゃい、今日は何の用なの?」
ぶっきらぼうな話し方だった。こなたは少し身を引いた。
こなた「や、やっふーかがみ、今日はつかさに呼ばれてきたんだよ、居るかな?」
かがみは無言でドアを全開にしてこなたを通した。
こなた「えっとつかさは何処に?」
かがみ「部屋にいる」
また同じ調子だ。
こなた「かがみどうしたのさ、つかさと何かあったの?」
かがみ「その名前も聞きたくない、用があるならさっさと行ってよね」
今度は怒り出した。こなたはかがみに追い出されるようにつかさの部屋へ向かった。
こなた「つかさ入るよ」
ノックをして部屋に入ると元気のないつかさが椅子に座っていた。こなたは扉を閉めると部屋の奥へと進んだ。
こなた「つかさ、かがみと喧嘩でもしたの、かがみのやつ凄い権幕だったよ」
つかさは事情を話したかったけど話せなかった。話すにはこなたにかがみの失恋の話をしなければならかったからだ。かがみと話すなと約束をした訳ではない。
秘密にしておくのがつかさがかがみに対する精一杯の償いだった。
つかさ「私が悪いの……」
こなたはそれ以上聞かなかった。つかさとかがみの仲の良さはこなたが一番良く知っている。そんな二人が喧嘩をするのはよほどの事情があると思ったからだ。
こなた「ところで今日は何の用なの、もしかしてお母さんの話?」
つかさは頷いた。
つかさ「うん、あまり時間がないんでしょ、少しでも早い方がいいと思って連絡したの」
この言い方でこなたはつかさの答えを分かってしまった。
こなた「ちょっと待って、この前反対したじゃない、どうゆう心境の変化をしたの」
つかさ「私ね、おばさんは生き続けて欲しい、それが一番だと思ったから、ちょっとだけ会ったけど、優しさに包まれるような感じだった」
遠い目をしてつかさは答えた。
こなた「私の答えになっていよ、つかさはお母さんが生き続けて歴史が変って私と会えなくなると思ったんじゃないの?」
つかさはこなたの目を見ながら答えた。
つかさ「そうだよ、この前はそう思った。だけど、こなちゃんはおばさんと一緒に居た方が幸せだよ、少なくとも成人するまでは両親とも居た方がいいからね、
     こなちゃんなら大丈夫、そのくらいで進路を変えないよ、例え違う高校に行ってもきっと出会って友達になれる、そんな気がする」
こなた「……つかさ、本当に良いんだね」
こなたは念を押した。
つかさ「うん、あの薬も調べてみたよ、すごい高価なんだよね……おじさんにも頼らずに凄いと思うよ、私なら途中で音を上げちゃうよ……それにこの薬……
     私が卒業式の時代に戻ったって言った……言っただけなのに信じて薬を買った……私を信じてくれた」
もし、かがみが聞いていたらつかさ達は家には居られなかっただろう。これはかがみに対する皮肉ではない。純粋にそう思っただけである。
こなたはつかさの卒業式の話だけで信じた訳ではなかった。そうじろうから聞いたかなたを助けた人の話と照合して確信を得たのだ。
つかさの人を疑わない性格の成せる業か……つかさ自身はそれを自覚していない。
こなた「つかさ、ありがとう、ありがとう」
この時こなたも迷いが消えた。こなたは何度もつかさにお礼を言った。


600時を廻って 182011/01/16(日) 00:37:30.48j+FU2ysS0 (20/45)



 あれからもう一時間も経っている。しかしこなたとつかさはまだかなたに会いに行っていない。二人は悩んでいた。
こなた「問題はお母さんにこの薬をどうやって飲んでもらうか、見知らぬ人がいきなり『この薬を飲んでください』なんて言ったって飲んでくれないよね、
     食事に混ぜるか、飲み物に混ぜちゃってもいいかも……いっその事、羽交い絞めにして強引に押し込んじゃうかな……病人にそれはないよね……」
こなたは腕を組んで考え込んだ。つかさはかなたに会った時を思い出していた。
つかさ「おばさんは嘘とか策略とかは要らないと思うんだけど、逆に何かすると怪しまれるよ」
こなた「どうしてそんなのが分かるんだい」
つかさは一度かなたに会っているから何かのヒントになるかもしれない。こなたは思った。
つかさ「おばさんを家まで送った時とか、お茶をくれた時とか……ちょっとした仕草で私を見抜いたの、さすがに私が未来から来たとは思わなかったけど、
     付焼き刃みたいな作戦をしても見抜かれちゃうよ」
こなたは驚いた。かなたではなくつかさにだった。つかさはかなたの性格を的確に見抜いている。そうじろうもこなたに同じような事を言っていたのを思い出した。
こなた「それじゃどうすればいい……やっぱり歴史を変えるのは無理なのかな……」
こなたは項垂れた。
つかさ「だったら正直に話せばいいんだよ、私達が誰で、目的もちゃんと話すの、おばさんなら本当かどうかは分かると思うよ、そうすればきっと薬を飲んでくれる」
こなた「正攻法だね、それがいいかな、初めて会うのに嘘は付きたくない……つかさの通りやってみよう」
つかさはパソコンを起動させこなたに席を譲った。
つかさ「靴を持ってくるね」


601時を廻って 192011/01/16(日) 00:39:23.78j+FU2ysS0 (21/45)



 つかさは部屋を出て玄関に向かった。そこにトイレに向かうかがみとばったり会った。かがみはつかさを睨み付けた。
かがみ「……こなたと楽しい雑談か、いい気なもんだな、私の話をネタにして盛り上がってたんだろう」
かがみの怒りは昨日と少しも変っていなかった。つかさは思った。何を言ったところでかがみの怒りは治まらないだろうと。ならば真実を話すまで。
つかさ「植え込みに隠れていたお姉ちゃんを見た、男子生徒が来ても隠れたままのお姉ちゃん、去っていった男子生徒、手紙を破る姿……
     みんな見ちゃった、でもそれはほんの少し前に見てきた出来事」
かがみ「言ってる意味が分からない……まだタイムとラベルの話をしてるのか、いい加減にしろ」
かがみは睨んだままだった。だがかがみの心の奥底には心に引っかかる物があった。それはあの手紙の破片だった。
つかさ「でも信じて、悪戯や面白半分であんなのはしない……本当は、本当はお姉ちゃんにも一緒に来て欲しかった、一緒に考えて欲しかった」
つかさの目が潤んだ。心の底から訴えるような目だった。さすがのかがみも少し怯んだ。
かがみ「なにマジになってるのよ……あんた達いったい何をしようとしてるの……」
つかさ「こなちゃんのお母さんを助けるの」
かがみは絶句した。荒唐無稽もはなはだしい。
つかさ「昨日はありがとう、おかげで決心がついたんだよ、成功を祈ってね」
つかさは玄関に歩き出した。かがみはつかさから感謝されるような話はしていない。ただ呆然とつかさを見送った。



602時を廻って 202011/01/16(日) 00:41:20.78j+FU2ysS0 (22/45)


 つかさが部屋に戻るとこなたが首を傾げていた。
つかさ「どうしたの?」
こなた「どうしても時計が設定できないんだよ」
もしかしたら自分と同じかもしれない。つかさは思った。
つかさ「もしかして前に設定した日時とおなじじゃない?」
こなた「……そう、お母さんが入院する日にしたんだけど……」
つかさ「設定すると黄色く点滅してない?」
こなた「……してるよ」
つかさ「何故か分からないけど一度行った日時には行けないようになってるみたいだよ……こなちゃん分かる?」
こなたは腕を組んで考えた。
こなた「良くは分からないけど、同じ時間帯に何人も同一人物がいたら色々と不都合がおきるんじゃないかな……で、つかさなんで黄色く点滅するのしってるのさ」
つかさは昨日のかがみを思い出した。しかしそれは言えない。
つかさ「昨日私、もう一回行きたかったから、卒業式の日……自分の背中を押してあげれば告白できるかなって……」
こなた「恋多き乙女だね……ある意味羨ましいよ」
こなたはこれ以上つかさに言わなかった。はやしたてたり、弄ったりはしなかった。
その日に行けないのが分かったこなたは、鞄から手帳を取り出してパラパラと捲り始めた。
つかさ「それは?」
こなた「これ、これはお母さんが入院してから亡くなるまでのお母さんの行動を書いた手帳だよ」
つかさ「いつの間にそんなのを……」
こなた「お父さん、ゆーちゃんのおばさんとかから聞いたのをまとめただけだよ、高校卒業してから作っおいたんだ、まさかこんな所で役に立つとは思わなかった」
つかさはこなたのかなたへの思いの強さをまた目の当たりにした。
こなた「うーん、この日がいいかな、お母さんは一度退院してるだよね、たった三日間だけどね……丁度亡くなる一ヶ月前、薬を飲む時期ももベストかもしれない」
更にこなたは手帳を見ている。つかさはこなたを見守った。
こなた「この日は日曜日だよ、この日にしよう、休日ならお父さんは居ないかもしれないし、話をし易いかも」
つかさ「日曜日だとおじさん家にいるんじゃないの?」
こなた「お父さんはサラリーマンじゃないからね不規則なんだよ、居たら居たで一緒に話を聞いてもらうのもいいかもしれない」
こなたは画面に向かい設定した。
こなた「『YES』『NO』って聞いてきたよ」
つかさ「ちょっと待って、こなちゃん薬忘れないで」
つかさは薬を取りこなたに渡そうとしたがこなたは手を前に出した。
こなた「薬はつかさが預かって、私だと落としたり無くしたりしそう」
つかさ「……そんなの言ったら私だって……」
こなたは笑った。
こなた「そんなの気にしてたら最初から大事な薬をつかさに預けないよ、それに二人とも過去に行けるとは限らないじゃん、二回も行ってるつかさの方が可能性が高いと思って」
つかさは黙って薬を鞄の中にしまった。
こなた「準備はいい?」
つかさは頷いた。こなたは『YES』のボタンをクリックした。こなたは周りをキョロキョロと見回した。
こなた「……何も起きないよ……失敗した?」
こなたはがっかりとうな垂れた。
つかさ「うんん、靴を履いて、扉を開ければ行けると思うよ、二人同時に開ければ二人とも行けるかも……」
こなた「よし、やってみよう」
こなたとつかさは靴を履き部屋の扉の前に並んだ。二人の手が扉の取っ手にかけられた。
こなた・つかさ「せーの」
息を合わせて扉が開かれた。


603時を廻って 212011/01/16(日) 00:43:23.11j+FU2ysS0 (23/45)



 つかさの身体に大きな衝撃が走った。つかさは転んでしまった。
「……済まない、私の不注意だった」
男性の声がした。男性はつかさの腕を掴んでつかさを起こした。
「ごめんね、ちょっと急いでいたので……」
男性はハンカチをつかさに渡した。顔を見上げて男性の顔を見た。それはそうじろうだった。若いせいか声だけでは分からなかった。
つかさ「いえ、私もボーとしちゃって」
つかさは渡されたハンカチで服に付いた埃を落とした。
つかさ「どうもありがとう」
つかさはそうじろうにハンカチを返した。
そうじろう「今度はぶつからないように気をつけるよ」
そう言うとそうじろうは走って行った。つかさは辺りを見回した。鞄を見つけた。つかさは慌てて鞄の中身を確認した。薬の瓶は割れていなかった。ほっと胸を撫で下ろした。
ふと正面をみると泉家の門の目の前だった。そうじろうが出かけるタイミングに来てしまったらしい。
つかさ「そうだ、こなちゃん、こなちゃーん」
つかさは辺りを探したがこなたの姿はなかった。やはり二人同時にタイムとラベルは無理だったようだ。つかさに重い重圧がかかった。一人で実行するしかない。
つかさは一回大きく深呼吸をした。つかさは呼び鈴を押そうと手を伸ばした。
こなた「おーい、つかさ」
つかさの手が止まった。声のする方を向いた。こなたが走ってきた。二人同時は成功した。
こなた「設定した場所から少し外れてた……場所を把握するのにちょっと手間取っちゃって……つかさ、来たんだね、本当だったんだね」
こなたは今にも泣き出しそうだった。
つかさ「こなちゃん、泣くのはまだ早いよ、薬を渡すまでは……ね」
つかさはこなたを優しく諭した。
こなた「そうだった、まだ目的も達していないね……」
こなたは自分の家を見上げた。
つかさ「さっきおじさんが出かけて行ったよ、おばさん一人で大丈夫なのかな」
こなた「お母さんに車椅子が必要になるのはこの時代から半月先だよ、まだ一人で行動できると思う」
つかさはまた深呼吸をした。
つかさ「……呼び鈴押すね」
こなたは頷いた。つかさが呼び鈴を押す。


604時を廻って 222011/01/16(日) 00:45:34.45j+FU2ysS0 (24/45)

 しばらくするとドアが開いた。
かなた「……あら、つかさちゃん……」
すぐにつかさの名前を言った。覚えていた。つかさは嬉しかったがすぐに気持ちを切り替えた。
つかさ「こんにちは、先日はありがとうございました、実は大事なお話があるのですが、お時間はありますか」
深々とお辞儀をした。
かなた「……大事な話ならどうぞ中に」
かなたはドアを全開にした。つかさはこなたの方を向いた。こなたはただかなたを見つめていた。つかさはこなたの手を引いてかなたの前に出した。かなたがこなたに気付いた。
かなた「そちらの方は?」
こなたは放心状態に近かった。自己紹介できそうにない。
つかさ「えっと、こちらは泉こなた……私の友達です」
かなた「泉……こなた」
自分の娘と同じ名前の女性が立っている。かなたはこなたの姿を上から下まで何度も見回した。こなたはもじもじして動きそうにない。
つかさ「お邪魔します」
つかさはこなたの手を引いて家の中に入った。



605時を廻って 232011/01/16(日) 00:47:54.59j+FU2ysS0 (25/45)



 静かな居間だった。かなたはこなたをじっと見たままだった。こなたも普段の元気がない。つかさもいつ話を切り出すか決めあぐねていた。時間だけが過ぎていく。
居間の置時計、正時の時報が鳴った。かなたは一回大きく息を吐いた。かなたはつかさの方を見て少しし間を空けてから話し出した。
かなた「つかさちゃん、私服だと随分大人びて見えるね」
つかさ「えっ、えっと、実は私はもう二十歳です」
つかさはどう返答するか困ったが事実を言と話し合いで決まったのでその通り話した。
かなた「あの制服はどうして着てたの?」
つかさ「えっと、こなちゃんがあの日に設定しちゃって……私はてっきり学校だと思ったから……」
かなた「設定……学校……言ってる意味が分からない」
中途半端に話しても分かってもらえない。つかさは覚悟を決めた。
つかさ「信じてもらえないかもしれませんけど、私達未来から来ました、今から二十年後の時代から……」
かなたは驚かなかった。それどころか笑顔で返した。
かなた「やっぱりね、そんな気がした……」
そう言うとかなたはこなた方を見た。
かなた「すると私の目の前に恥ずかしそうに黙って座ってる人は私の娘……でいいのかな」
かなたはこなたに微笑みかけた。しかしこなたは返事をしない。
つかさ「はい、そうです……どうしたのこなちゃんさっきから黙っちゃって、挨拶もしてないよ」
慌ててつかさはこなたにを励ました。こなたは黙ったままだった。何も言えなかった。なんて言っていいのか分からなかった。
かなた「……娘とその友達がわざわざ未来から私に大事な用事……私の命に関わるお話しかしら」
これでこなた達の話の九割はかなたが話してしまった。つかさもそこまでかなたが自分達の事を理解していたとは思わなかった。
かなた「私はあとどのくらい生きられるのか……せめてこなたにお母さんと呼ばれるまでは生きたい」
感極まってしまった。つかさもこれ以上話せそうにない。短く済ませる為、鞄から薬を取り出してかなたの目の前に置いた。かなたはその瓶を見た。
かなた「これは?」
つかさは直ぐに答えた。
つかさ「……薬です、私たちの時代では不治の病ではありません、おばさん……かなたさんの病気はそれで治ります……」
自分とあまり年齢が変らなく見えた。おばさんとは言えなかったので名前で呼んだ。そんなつかさを尻目にかなたは瓶を手に取った。
かなた「これを飲むだけでいいの?」
つかさは頷いた。
かなた「……しかし、こなたは本当に私を助けたいのかしら、さっきから黙っちゃって」
つかさとかなたはこなたに注目した。
こなた「……お、お母さん……」
俯いて呟くように小さな声だった。
かなた「なんて言ったの、もう一回」
こなたは顔を見上げてかなたの目をしっかり見た。
こなた「お母さん、薬を飲んで……下さい」
かなた「はい」
かなたは瓶の蓋を開けて口に付けると一気に飲み干した。こなたは席から立ち上がりそのままかなたに抱きついて泣いた。
つかさは見ていた。信じられなかった。何故としか言い様がなかった。今すぐにでも聞きたかった。でも聞けない。たまらなくなりつかさはトイレに走って行った。
つかさは二人を直視できなかった。つかさもトイレで泣いた。


606時を廻って 242011/01/16(日) 00:50:14.49j+FU2ysS0 (26/45)


 涙も収まりつかさが居間に戻るとかなた一人だけが椅子に座っていた。
つかさ「すみません、二人だけにしたかったので……嘘です、私こうゆうの苦手なんです、逃げちゃいました」
かなたは微笑んだ。
かなた「ありがとう、おかげで少しだけどお話ができた……こなたは良い友達をもちましたね」
つかさ「こなちゃんは……」
かなた「ついさっき、私の腕の中から霧のように消えていった……」
現代に戻ったに違いない。つかさは思った。
つかさ「それじゃ私も……」



607時を廻って 252011/01/16(日) 00:52:28.21j+FU2ysS0 (27/45)


 気が付くとつかさは自分の部屋に戻っていた。目の前にこなたが座っている。
つかさ「こなちゃん、靴持って来たよ……」
こなたは座ったまま動かない。
こなた「つかさ……何か変わった……かな」
つかさ「変ったって、何が?」
こなたは潤んだ目でつかさを見た。この涙は喜びの涙ではない。
こなた「私の記憶にはお母さんの記憶がないんだよ……手帳の日付も内容も全く変わってない……つかさの記憶はどうなってる、高校時代からの記憶……」
つかさ「……かなたさん、おばさんの記憶……」
つかさも同じであった。何一つ変っていない。かなたの記憶は無かった。
こなた「どうゆう事なの、確かにお母さんは薬を飲んだ……つかさも見てたでしょ、それなのに……薬の期限が切れてた、飲み方が違ってた、そもそも違う病気だったのか、
     分からない……結局かがみの言う通りになった……過去は変らない」
つかさ「こなちゃん……」
なにやら焦げた臭いがする。二人はそれに気が付いた。周りを見回すとパソコンから煙が吹いていた。つかさは慌ててパソコンに近づいたが何をいていいのか分からない。
こなたは素早くコンセントのコードを抜いた。パソコンの煙は次第に消えていった。
つかさ「……新品のパソコンだったのに……どうして」
こなた「きっと二人同時に過去に行ったからだよ……負荷がかかったんだ……もうこれで時間旅行は出来ない」
つかさ「また過去に行きたかったの?」
こなたは答えなかった。ただつかさを見ていただけだった。つかさは思ったとおりに言った。
つかさ「……私は卒業式の日に行って何もしなかった、私はそれでもう一回行きたかった、でもこなちゃんはおばさんに薬を飲ませた……私はこなちゃんが羨ましいよ」
こなたはそんなつかさの言葉に反応した。
こなたは涙を拭った。
こなた「……そうだね、お母さんって言って、返事をしてもらえた……お母さんに触れられた……」
こなたは笑った。それと同時に。つかさの肩の力が抜けた。
つかさ「パソコンどうしよう……折角買ってもらったのに……怒られちゃうかな」
こなた「保険があるから大丈夫だよ……さてと私は帰るよ」
こなたは帰り支度をしだした。
つかさ「どうせならお茶でも飲んでいかない?」
こなた「そうしたいけどお父さんが待ってるし」
つかさ「こなちゃん、おじさんに話すの……今回の出来事」
しばらくこなたは考えた。
こなた「……いや、話さない、まず信じてくれない、それに話したら話したらで『何でお父さんも連れて行ってくれなかったんだ』って僻むからね」
二人はまた笑った。
こなた「それじゃ帰るよ、またね」
つかさはこなたに靴を渡した。
つかさ「ねぇ、こなちゃん」
こなた「ん?」
つかさはこなたを止めた。
つかさ「私のお母さんとこなちゃんのお母さん、比べてどう思う?」
こなた「……つかさは比べるものじゃないって言ったじゃん、意外とつかさは意地悪だね」
こなたは即答した。もっと突っ込んで聞きたかったがつかさはそれ以上聞くのが怖いような気がした。
つかさ「それじゃまた」
こなた「それじゃね、かがみによろしく」
こなたが帰った後、つかさは部屋で泣いた。今までの出来事を整理するために。



608時を廻って 262011/01/16(日) 00:54:53.69j+FU2ysS0 (28/45)


 こなたが帰って一時間くらい経った時だった。
『コンコン』
ノックするとかがみがつかさの部屋に入ってきた。先程のように怒っている感じはなかった。
かがみ「なにか焦げ臭いわね」
つかさ「……パソコンが壊れちゃって、今修理の手続きをしてる所だよ」
つかさはパソコンを梱包していた。
かがみ「こなたは?」
つかさ「もう帰ったよ……そういえばお姉ちゃん出かけてたみたいだけど何処に行ってたの?」
かがみは少し赤い顔をして答えた。
かがみ「ちょっと神社にね……つかさが言ったでしょ……だから祈っていたのよ……こなたのお母さんが助かりますように」
つかさは少し悲しいかをした。
かがみ「……私の記憶の中にこなたのお母さんは出てこない……どうやって過去に行ったかは知らないけど私の言った通りだったでしょ」
かがみも悲しい顔をした。
つかさ「お姉ちゃん、信じてくれたんだね」
かがみはつかさの机の上に置いてある手紙の破片を拾った。そして手紙を自分の鼻に近づけた。もう何も臭わない。
かがみ「もしつかさが卒業式の時拾ったのならこの紙からインクの臭いはしない、まるで昨日書いた時のようだった、新しすぎるのよ、信じるしかない……」
つかさ「ごめんなさい、私がもっと知ってれば……」
かがみは手紙の破片をつかさの机の上に戻した。
かがみ「モタモタしてたから思わず頭に血がのぼったのよ、短気は損気ってほんとね……ところで私を過去に連れて行くと言った時、つかさも制服を着てたけど、
     つかさも行くつもりだったのか、何故?」
つかさは苦笑いしながら答えた。
つかさ「お姉ちゃんと同じ、私もあの日、ある男子生徒に告白しようとしてた、お姉ちゃんみたいに文章なんか書けないから直接アタックするつもりだった、
     だけど出来なかった、だから自分の背中を押そうと思って……」
かがみは驚いた。高校時代のつかさに片思いにしろ恋人が居たなんて。つかさは隠し事は出来ないとかがみは思っていた。しかもこなたにも見破れない程奥に秘めた恋。
かがみ「ある男子生徒って……誰なの?」
つかさ「お姉ちゃんと同じクラスの……」
かがみは慌ててつかさの口を両手で塞いだ。言ったら自分も言わなければいけなくなる。つかさは見ているから知っている筈だがかがみは言いたくなかった。それだけだった。
かがみ「名前は言わなくていい……私のクラスメイトだって……そんなの全く感じさせないなんて」
かがみは全て理解した。つかさが何故かがみを誘った理由。
かがみ「……私と同じだった、だから私の気持ちが分かったのか……そんなつかさを私は……ごめん、ごめんなさい」
頭を下げて謝った。つかさはもうそんなのはどうでも良かった。
つかさ「もういいよ、分かってくれれば」
その言葉にかがみは救われた。
かがみ「ありがとう……良かったら話してくれない、こなたとおばさんの話」
つかさは頷いた。



609時を廻って 272011/01/16(日) 00:57:35.48j+FU2ysS0 (29/45)




 話が終わった。かがみは目を閉じて聞いてた。
かがみ「こなたがそこまで一度も会っていない母を慕っていたなんて、いや、一度も会っていないからかもしれない、両親とも健在の私には理解できないわ」
つかさ「そうだね」
つかさは短く答えた。
かがみ「しかし何故薬が効かなかった、おかしいだろう……科学の力を持ってしても歴史を変ええられないなんて……所詮人の考えた物はその程度なのか、
     まさか薬の期限が切れてた……いくらこなたでもそんな失敗はしないだろう」
両手を握り締め悔しがるかがみ。
つかさ「お姉ちゃん、私の話はまだ終わっていないよ……私は忘れっぽいから今はお姉ちゃんにだけに話すよ、私が忘れたらお姉ちゃんが話して」
つかさは思った。かがみには話しておきたかった。とても一人でこの事実を受け止められなかった。
かがみ「何を話すつもりなのよ」
つかさ「こなちゃんが先に戻った後の話だよ」
まだ話の続きがある。かがみは薬効かなかった訳を知っているのかと思った。失敗は単純なミスから起こる……期限を間違えた。不安がかがみの頭を過ぎった。
そんなかがみの心配を余所につかさの回想が始まった。
つかさ「私がトイレから戻ったらもうこなちゃんは居なかった……」



610時を廻って 282011/01/16(日) 00:59:52.66j+FU2ysS0 (30/45)



かなた「ついさっき、私の腕の中から霧のように消えていった……」
現代に戻ったに違いない。つかさは思った。
つかさ「それじゃ私も……」
しかしつかさはどうしてもかなたに聞きたかった。聞かずには帰れない。戻る足を止めた。
つかさ「おばさ……かなたさん、なんでなの、どうして嘘をついたの、こなちゃんは初めて会うかなたさんに嘘をつきたくなって言ったんだよ」
かなたはすこし怒り気味のつかさに少し驚いた。
かなた「嘘……そうかもね、そうゆう意味では私はこなたの母親失格ね」
かなたは静かに立ち上がった。
かなた「付いてきて」
隣りの部屋にかなたは移った、そうじろうの書斎だった。そこには赤ちゃんが静かに寝ていた。
つかさ「もしかして、こなちゃん?」
かなたは赤ちゃんの側に腰を下ろしてあやし始めた。
かなた「そう、こなた、この赤ちゃんが二十年後にはあんなに大きくなるなんて、不思議ね……」
つかさは何故ここに自分を連れてきたのか理解できなかった。つかさはもう一度同じ質問をしようとした。
かなた「こなたは私と同じ病気なの」
かなたは手に薬の瓶を持っていた。瓶の内蓋を取るとゆっくりと幼いこなたの口に瓶をつけて飲ませた。つかさはかなたを止めなかった。止められなかった。
かなたは外蓋だけを外しこなたに薬を飲んでいるように見せたのだった。つかさはこなたとは違う角度からそれを見てしまったのだった。
つかさ「うそ……そんなの嘘だよ、こなちゃんは自分が病気だったなんて一言も言ってない」
かなた「それは多分私が話さないように言ったから、こなたは知らないはずね」
幼いこなたに薬を全て飲ませると瓶をこなたの枕元に置き、こなたを寝かせた。
つかさ「どうして、知っていればもう一つ薬を持っていけたんだよ、そんな嘘をつかなくてもいいんだよ、今からでも戻ってもう一個薬を取ってくるよ」
熱く語るつかさに対してかなたはいたって冷静だった。
かなた「もう一つの薬は持って来れない気がする、それに持ってきてもらっても私は飲まない」
つかさ「こなちゃんはかなたさんに飲んでもらうために持ってきたんだよ」
かなた「そう、飲んでもらうために……私が亡くなったらその様にこなたは考えた、私が生きていたら薬の存在すら気が付かない……分かるでしょ、こなたが存在するには私は
     生きていてはいけない、私はこなたに生きてもらう方を選んだの、分かってくれるかな」
やさしく諭すような口調だった。
つかさ「分かんないよ、そんなの分からない、こなちゃんは……自分だけ助かろうなんて思わないよ」
つかさは必死にかなたを説得した。
かなた「こなたは最初からつかさちゃんに頼りっきりだった、きっとつかさちゃんには兄妹がいるのね……こなたが帰って、それでもこなたの代弁してくれるなんて、
     つかさちゃんの言ってる言葉が一言、一言、恰もこなたが言ってるように私の胸に響いてくる……あの時私が飲まないと言ったら、こなたが私と同じ病気だと知ったら、
     こなたは私に抱きついてこなった、そのまま帰ってもう一つの薬を取りに行こうとする、つかさちゃんと同じようにね、せっかく会えたのにそれは嫌、
     それが嘘を付いた理由」
つかさ「抱きついて欲しかった……それだけのために」
かなたはまた幼いこなたをあやし始めた。
かなた「親は子供よりも先に死んでいく……この当たり前に戻したい、それが私の願い、私が亡くなってこなたにいろいろ辛い思いもさせるかもしれない、
     それでもこなたには生きてもらいたい」



611時を廻って 292011/01/16(日) 01:06:38.47j+FU2ysS0 (31/45)

 かなたはこなたの為にその命を捧げる。そしてその決意は岩のように固い。つかさはそう思った。
かなた「病気が治ったこなたはきっとわたにお母さんって言ってくれるわね」
つかさ「でも、間に合わないよ後一ヶ月しかないんだよ」
かなたは幼いこなたを見ながら言った。
かなた「……一ヶ月か、あと数年と思ったけど、これだとこなたが私を呼ぶようになるまでは間に合わないね」
しまった。そう思った時は遅かった。
つかさ「ごめんなさい……」
謝罪の言葉が空しい。
かなた「……でもこなたは私に言ったね、お母さんって……しかも成人したこなたが」
かなたは微笑んだ。つかさはそんな笑顔が眩しすぎた。
つかさ「私、帰ったらどうすればいいの?」
かなた「そうね、内緒にしてもらいたい、だけど……秘密にはできそうにない……いずれ分かってしまう」
つかさ「私が秘密を守るのが苦手だから?」
かなたは首を横に振った。しかしその理由を言わなかった。
かなた「……私の命日に、その時はこなたと夫、そう君も一緒に話してもらいたい……彼はこなたの病気を知らない、教えていないの、
     先生と私の秘密にしている……だからその時教えてあげて、そう君なら分かってくれる、こうするしかなかったって。そう伝えて」
かなたの目に涙が光った。こなたにすら見せなかった涙。もうつかさはかなたの決意をただ見送るしかできない。
つかさ「……私にそんな大事な話をなんて……出来そうにない……自信ない……それに帰ったらこなちゃんに嘘を付かないといけない」
俯いて肩の力を落とした。そんなつかさにかなたは優しく語りかけた。
かなた「さっき私にこなたの代弁をしたじゃない、あの要領ですればいい……私の代弁だから嘘は全て私の責任、これならいいでしょ」
かなたは祈るようにつかさに頼んだ。つかさは断りきれなかった。
つかさ「うん、やってみる」
短く返事をした。かなたはこなたを抱きかかえた。
かなた「つかさちゃんが余命を言ってくれたおかげで迷いが取れた、もうこれからはこう君とこなたの側に居る、それだけを考えていられる」
つかさはお礼を言われるとは思わなかった。
つかさ「おじさんは何処へ?」
かなた「そう君は出版社に行った、なんでも連載が決まったって……喜んで飛び出して行った」
かなたは涙を出しながらもその顔は笑顔だった。
つかさ「やっぱり好きな人と一緒に居るのが一番ですよね」
そんなつかさをかなたはじっと見た。
かなた「つかさちゃんは、恋をしたか、しているね……そうゆう風に言えるなんて」
つかさは照れて顔が赤くなった。
つかさ「すみません、お邪魔をしました、残りの人生をお幸せに……」
つかさはお辞儀をした。
かなた「つかさちゃん、貴女もね……こなたをよろしくお願いします」



612時を廻って 302011/01/16(日) 01:08:16.15j+FU2ysS0 (32/45)




つかさ「それで玄関でこなちゃんの靴を持ってドアを開けたら……自分の部屋に戻ってた」
つかさの回想は終わった。かがみは目を閉じながら聞いていた。
かがみ「つかさ、私の言った言葉取り消すわ、歴史は変えられる、おばさんは歴史を変えた……つかさはその他に二度過去に行ってるわよね、
     つかさも歴史を変えてるわ、良かったのか悪かったのかは別にして……私達はそれに気付かないだけ……だからつかさのした事をとやかく言えない……」
一人重要な人物を忘れている。
つかさ「お姉ちゃん、こなちゃんは?」
かがみ「こなたには敬服するしかないわね、薬もみゆきに頼らず自分で調べたのか……資金も自分で調達、それに比べて私なんかつかさに八つ当たりなんて、恥ずかしい」
つかさ「お姉ちゃん、もうそれは終わった話だよ……自分を責めちゃだめだよ」
かがみ「そうね……終わった話……しかしこなたが時より見せる鋭い感性はおばさん譲りみたいね、こなたに恋人を見破られた時は焦ったわ」
つかさ「そうかもね、こなちゃん、おばさんと似てるところあるかも」
話が落ち着くとつかささ思い出した。
つかさ「しまった、おばさんに貰ったお金返すの忘れちゃった……」
かがみ「お金って?……ああ、家出娘と間違えられた時の話ね、まあ、あんな状況じゃそこまで気は回らないわ、おばさんとの約束の日に返したら」
つかさ「そうするよ」
かがみは腕を組んで考えた。
かがみ「もしかしたらおばさんは、もうその時にすでにこなたが来るのを知っていたかもしれない……そんな気がする……」
そんなかがみの話とは別につかさは急に怖くなった。
つかさ「……ねぇ、お姉ちゃん……」
つかさは聞きたかった。つかさはこなたともう会えなくなると思ったからだ。
つかさ「私、こなちゃんに嘘を言っちゃった……」
かがみ「嘘?」
かがみは聞き返した。つかさがどんな嘘を言ったか検討が付かなかった。
つかさ「私が帰ってすぐ、こなちゃんにおばさんが薬を飲んだって言っちゃった……おばさんの約束の日、きっとこなちゃんは怒るよね……
     もしかしたら、それが原因で絶交なんて……」


613時を廻って 312011/01/16(日) 01:10:13.91j+FU2ysS0 (33/45)

 つかさは涙目になった。
かがみ「それはその時になってみないと分からない……だけど考えられる、いや、きっと怒るわね、私がつかさを怒ったようにね」
つかさは少し震えだした。
つかさ「やっぱり嘘つくんじゃなかった……」
かがみにはその時のこなたの感情は想像できた。
かがみ「つかさ、あの時言っても、約束の日に言っても同じよ、こなたはつかさに怒りをぶつけて来る、こなたはそうするしかないからよ……八つ当たりするしかないのよ……
     その時の怒りは恐らく私のそれを遥かに上回る……」
つかさ「お姉ちゃん、私……おばさんの約束守れそうにない…話せないよ……私、そんなに怒ったこなちゃんを見たくない……」
かがみはつかさを脅かすつもりはなかった。そうなるであろうとあえて言ったのだった。かがみはかなたの意図が分ったからだ。
かがみ「私は何故秘密がバレてしまうのか何となく分かるのよ、それはつかさや私の意思とは関係ないの、だからつかさが言わなくてもこなたは分かってしまう」
つかさ「それじゃ何で約束なんかしたの?」
それなら約束した意味がないと思った。かなたの意図が分からない。
かがみ「おばさんは幼いこなたに薬を飲ませた話をしてもらいたいんじゃない、おばさんの気持ちを伝えてもらいたいのよ、側にいたつかさなら解るでしょ」
つかさは目を閉じて思い出した。まだそんなに時間が経っていない。あの時の光景ははっきりと脳裏に浮かぶ。自然と涙が出てきた。
かがみ「つかさは私と同じ様な失恋を経験した、その気持ちが、想いが、私にタイムトラベルを信じさせた、手紙の破片はその切欠にすぎない……帰って居なくなった
     こなたの気持ちをおばさんに伝えた……今度は、その涙の出ている気持ちをそのままこなたとおじさんに言えばいいのよ、こなたはその瞬間は怒るかもしれない、
     でもきっと分ってくれるわ、私の様にね」
目を閉じながらかがみの話を聞いたつかさ、目を開けるとかがみの目を見ながら言った。
つかさ「おばさんの命日の日、お姉ちゃんも立ち会ってもらいたいんだけど……」
かがみ「……その為に話したんでしょ、聞かれなくても私の方から頼んだわ……私も関わりたかったから」
短気を起こさなければこなたとつかさと一緒に行ってあげられた。もっと別の何が出来たのではないかとかがみは思った。でもそれは自信過剰か。
自分がつかさの立場だったら、つかさのような振る舞いができたか、かなたを説得できたかどうか分からなかった。
そんな自分にできる事、せめてつかさがこなたとそうじろうの前で語る姿を見守りたい。かがみはそんな気持ちだった。


614時を廻って 322011/01/16(日) 01:11:33.47j+FU2ysS0 (34/45)


 かがみはつかさの梱包を手伝い始めた。その直後だった。
『バン』
突然部屋の外から何かが当たる音がした。
まつり「やったな!!」
いのり「なに、その態度、今度と言う今度は許さないよ!!」
まつり「私だって許さない、許さないよ!!」
部屋の中にも聞こえる怒号、いのりとまつりが喧嘩を始めたようだ。ここ最近では珍しいかもしれないがこうなると収まりガ付かなくなるのが二人の喧嘩だ。
かがみとつかさは聞き耳を立てた。
みき「いのり!まつり!、あんた達いくつになったの、そんな下らない事で喧嘩して!!!」
みきの一喝が入った。その瞬間怒号が治まり静けさが戻った。
かがみ「凄い……私とつかさ、二人掛りでも姉さん達の喧嘩なんて止められない、お母さんか……私達四姉妹をここまで育ててくれた、私はお母さんのようなお母さんになりたい」
そう言うとかがみは立ち上がりつかさの部屋を出た。
この時つかさは自分が言った『比べるものじゃない』の意味を真に理解した。
つかさもパソコンの梱包を終えると部屋を出でみきの居る居間に向かった。



615時を廻って 332011/01/16(日) 01:13:07.20j+FU2ysS0 (35/45)




こなた「ただいま」
こなたが帰るとそうじろうが食事の支度をしていた。
そうじろう「どうしたこなた、鼻歌なんぞして……良い事でもあったのか」 
こなたは居間や台所の周りを見回した。何も変っていない。家具の配置。照明器具。台所の風景。変ったのは少し壁や柱が古くなったくらいか。きっとかなたのセンスで
家具が配置され、照明器具が付けられた。ここはまだかなたが生きている。こなたはそう思った。
こなた「まあね……ところでお母さんはお父さんには勿体無いね、つくづくそう思ったよ」
そうじろう「なんだって、何を言ってるんだやぶから棒に」
そうじろうは少し怒り気味だった。
そしてそうじろうもそう思ったから部屋のレイアウトを変えなかった。
こなた「……だけど、そんなお父さんだから良かったのかも……おかあさんを選んでありがとう……着替えてくるよ」
こなたは自分の部屋に向かった。
そうじろうは首を傾げた。

 自分の部屋に入ったこなたは真っ先に棚から一枚のソフトを取り出した。それはつかさにインストールしたゲームソフトだった。こなたはパソコンを起動した。
つかさの時と同じ様にインストールすればもしかしたら自分のパソコンがタイムマシンになるかもしれない。ボタンを押しトレイを開けた。
ソフトをケースから取り出しトレイにセットしようとした。
自然と手が止まった。
こなた「……もう出来ることは全部したかな……そうだよねお母さん」
こなたはソフトをカッターで半分に割りごみ箱に捨てた。



616時を廻って 332011/01/16(日) 01:14:27.41j+FU2ysS0 (36/45)


 数ヶ月後、それはかなたの命日。
この日こなたはつかさと会う約束をしていた。そうじろうも一緒にとの条件だった。内容はかなたの話をしたいとつかさは言った。
こなたはそれで理解した。つかさはかなたの話をしにくるに違いないと。こなたはそうじろうに話をしないと言ったから、そうに違いない。
こなた「お父さん、今日はお母さんを助けた人が訪ねてくるよ」
そうじろう「家出した陸桜の学生だった人だね、お父さんも一度お礼が言いたかった……しかしなんで今頃、もう二十年も前の話だ」
つかさが会う約束をする時言っていたのを思い出した。
こなた「お母さんからもらったお金を返す為だって」
こなたは思った。自分よりつかさの方が上手く話すに違いない。後は全てつかさに任すしかないと。今まで話さなかったのは、
自分だとそうじろうにちゃんと話せたどうか自信がなかったからだ。
そうじろう「そうか、実はあの話をかなたから聞いて二人で話したんだ、こなたを進学させるなら陸桜がいいってね……
       ん、こなた、今日はかがみちゃんとつかさちゃんが来るんじゃなかったのか、そもそもその人が来るのを何故知ってるんだ?」
困惑を深めるだけのそうじろうだった。
かなたが生きていても自分は陸桜学園の生徒になったと。そしてその原因を作ったのはつかさだった。こなたは確信した。
こなたはわくわくしてきた。家出少女とつかさが同一人物であるとそうじろうが分かったらどんな反応をするのか、いろいろ想像して楽しんでいた。

 そこに突然みゆきが訪れた。全くのアポ無しだった。みゆきはある人から手紙を託されていた。みゆきはそうじろうに手紙を渡した。

そうじろう「おい、こっ……これはどうゆうことなんだ……こなたがかなたと同じ病気だったなんて……何故、何故黙っていたんだ!!」
こなた「えっ?」
封筒の中の手紙を読み始めたそうじろうは驚愕した……封筒送り主はかなたの主治医だった人からだった。

 かなた様の御遺言により今日まで感謝状を贈るのを控えていました。遅ればせながら感謝の意を表します。その間に薬が完成しました。
そんな件(くだり)で手紙の文は始まった。
それは、かなたと幼いこなたが特効薬の開発に協力してくれたと言う感謝状だった。かなた自身が懸命に辛い研究や苦しい検査に協力してくれた事、
こなたの病気が急に回復したのを切欠に血液サンプルを分析して薬の完成が数十年以上早まった等、切々と感謝の文が綴られていた。
感謝状はかなたの生前に贈られるはずだった。薬の完成は後に書き加えられた。こなたがこの文を理解できる頃までとの希望によりかなの指定でこの日になった。

 主治医は薬の開発の功績で大学の名誉教授になった。それはみゆきの通っている大学だった。つかさが薬の質問を電話したのを切欠にみゆきは薬について調べた。
その薬が自分の大学で開発されたのを知った。あとは導かれるように教授と知り合いになり感謝状を贈る役を引き受けたのだった。

 感謝状をそうじろうとこなたが読み終わる頃、つかさとかがみが泉家を訪れる。その時そうじろうはかなたとこなたの愛をしるだろう。
そして話を終えてこなたの表情を見て知るだろう。かなたはつかさの嘘の責任を取ったと。

 終



617VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 01:16:16.66j+FU2ysS0 (37/45)

以上です。
>>384の『時計』のお題、パソコンの時計を見ていたら浮かんだSSです。
楽しんでもらえれば幸いです。




618VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 01:17:46.25j+FU2ysS0 (38/45)

>>615 は34レス目ですね 加算し忘れました。


619VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 01:22:38.20j+FU2ysS0 (39/45)

>>616 は34レスです。また間違えました。
すみません間違えしやすいので……誤字脱字も目立つかもしれません。謝ります。


620VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 03:54:47.29+XP8UbSAO (1/1)

結局リレーSSはどうなったの?中途半端なまま終了?


621VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 08:56:16.66j+FU2ysS0 (40/45)

リレーss主催者です。


>>620
>>581を参照してください。
7レス目のみ受け付けます。期間は1月31日(月)まで。
それまでに終わらなければ未完成のまま終了です。



622VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 09:09:33.97j+FU2ysS0 (41/45)

>>621

リレーSS主催者です。
過去のリレーssを見てみました。未完で終わっているのもあるので終了とします。
但し、続きを書きたければご自由にどうぞ。


623VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 10:29:21.80j+FU2ysS0 (42/45)

-----------------------------------------------------------------------------

ここまでまとめた

-----------------------------------------------------------------------------

リレーssを纏めたけど文の初めが枠で囲まれてしまいました。編集しても元に戻せません。分かる方がいましたら修正お願いできますか?




624VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 11:04:16.57j+FU2ysS0 (43/45)

>>623
直ったようです。


625VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 11:33:10.74OBLEnE/DO (1/1)

リレーで思い出したのですが「こなた分裂」も未完ですよね?あれの続きとかリメイクとか書く場合誰に許可取ればいいのでしょうか?


626VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 12:31:11.53OU3kfY/SO (1/1)

終わっているものなら特に許可はいらないかと
俺も『刃』は勝手に書きましたし


627VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 15:35:43.89j+FU2ysS0 (44/45)

 リレーの場合は皆で参加して作ったものだからこのスレ、まとめサイトの作品になりますね。
だから特に許可は要らないと思います。でも続きにしろリメイクにしろスレに投下して下さいね。



628VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/16(日) 17:00:18.60j+FU2ysS0 (45/45)

話は変りますけど このスレの掲示板にリンク依頼ができるみたいだけど
ここのまとめサイト載せてもらいます? 宣伝になるかな?
反応がなければしませんのでよろしくです。


629VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/17(月) 12:49:56.42SoSG5DNDO (1/1)

>>626-627
どうも。
>>628
むしろいきなりスレは取っ付きにくいかもしれないし、まとめサイト「を」載せてもらった方が良いのでは?


630VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/17(月) 19:25:06.80Ay4jntvSO (1/1)

-理想-

いずみ「田村さん、何見てるの?」
ひより「こんど描く同人誌のネタになるかなって、先輩方に結婚したい理想の男性像ってのをちょっと書いてもらったんだけど…」
いずみ「ふーん、どれどれ…『金銭面で養ってくれる人』『とくに無いけど、とりあえず浮気しない人』『お料理をちゃんと食べてくれる人』『わたしより年上に見える人』…なんか大雑把というか」
ひより「みんなあんまりそういう事考えないのかなあ」
いずみ「田村さんはどうなの?」
ひより「へ、わたし?…や、やっぱ金銭面で楽させてもらえたらなあ…なんて」
いずみ「………」
ひより「そ、そんな冷めた目で見ないで…そ、そういう若瀬はどうなの」
いずみ「お兄ちゃん」
ひより「へ?…ああ、お兄さんみたいな人ね。そういや仲いいんだっけ」
いずみ「ううん。みたいじゃなくてお兄ちゃん」
ひより「………え?」
いずみ「なんかこう、血が繋がってない証拠とかポロッとでてこないかな、と…」
ひより「…そういうこと真顔で言っちゃ駄目っス」


631VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/17(月) 22:10:42.03LvL2k6NP0 (1/2)

>>629
>>628の言いたかったのは>>629と同じです『を』を入れるのを忘れただけです。

>>630
誰の理想か分かってしまうねw





632VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/17(月) 22:19:30.01LvL2k6NP0 (2/2)

-----------------------------------------------------------------------------

ここまでまとめた

-----------------------------------------------------------------------------



633VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/18(火) 20:22:25.939Kbh7VT30 (1/1)

そろそろコンクールでもやりたい所だけど。いかがでしょうか?
投票フォームを作ってくれる人がいれば私が主催やってもいいですよ。


634VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/19(水) 01:11:43.93q9/CxOeAO (1/2)

お題とかは?


635VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/19(水) 13:37:09.09c0WwEfHDO (1/1)

お題決めるのにも投票フォーム要るのでは?


636VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/19(水) 18:48:41.46q9/CxOeAO (2/2)

もしやるなら参加したいな


637VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/19(水) 20:12:33.82TSvJsxqH0 (1/1)

まとめサイトの『テストページ』が設置されたけど。
もう少し説明を入れてくれると分かりやすいと思う。
と言うか自分が理解できてない。


638VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/19(水) 22:15:51.427V2tf+op0 (1/1)

テストページはかなり前からあったみたいだね


639VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/21(金) 16:41:31.19AjiK271h0 (1/1)

お題案は避難所に書けばいいんですよね?


640VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/21(金) 17:33:35.65RsVQwJpc0 (1/1)


お題案はこのサイトでいいと思います。
ただし自分は投票フォームの作成ができません。
だから出来る人を募っているのです。


641VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 00:04:15.94Z0jtSaQM0 (1/5)

学生は試験。社会人は年度末で大忙し。
コンクールは4月頃がいいのかな。と思い始めた。


642VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 00:23:18.65rgHRxALDO (1/1)

>>641
なら投票なしでプチ祭りみたいにするのは?その人たちにも息抜きは要るだろうし。

ちなみに俺のお題案は
「∞」or「無限」or「infinity」


643VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 00:30:19.581J9Kt+jSO (1/1)

>>642
こなた「いんふぃにってぃ~♪」
みさお「げ、メイト切れた!ちびっこ分けてくれ!」
あやの「みさちゃん、電車の中であんまり大声だしちゃダメだよ」



真っ先にインフィニティ級のRPGなアレが浮かんだ


644VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 09:14:25.04Z0jtSaQM0 (2/5)

>>642なるほど
それではお題『寒い』


645VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 14:45:16.97Z0jtSaQM0 (3/5)

投票フォームテストです。

長編感動から自分の作品だけ抜粋しました(苦情防止の為)
テストなので気楽に参加して下さい。

http://vote3.ziyu.net/html/to1048.html


646VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 19:21:14.62L+6/CV0Vo (1/1)

>>643
俺もだww

こなたがやってるらしき描写本編にあったよねー


647VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 20:42:22.16Z0jtSaQM0 (4/5)

ここで質問するのはスレ違いかもしれませんがそんなに頻繁にレスがないのでここで質問します。

まとめサイトで今回のテスト投票フォームの結果を張り付けたい場合(コンクールの参加作品画面のように)
画像をどうやって登録するのか。その方法が分かる方教えて下さい。




648VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 21:58:47.28dZfYFbDG0 (1/1)

>>647
vistaと7ならOS標準でついてるSnipping Toolがある。
それ以外のwindowsならAlt押したままキーボードのPrint Screen(自分のキーボードではPrt Scと略されてた)
を押すと今開いているウィンドウが画像としてクリップボードに行くから
慣れてる画像編集ソフト(慣れてなければペイント)ひらいて貼り付けると出てくるので
それで編集して保存すればおk
他のOSの場合は知らん


649VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 23:52:51.74Z0jtSaQM0 (5/5)

>>648
ありがとうございます。
実はそこまでなら出来ます。その続きです。まとめサイトで
@ウィキのどこかに画像を記録させる方法です。

http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/1543.html

例えば上の画面の『投票結果スクリーンショット』のようにする方法です。


650VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/23(日) 00:30:50.31Got0V5Yro (1/1)

>>649
1.画像を載せたいページに行く(その例なら第17回コンクールのページ)
2.ページの上の【編集】タブから【このページにファイルをアップロード】を選ぶ
3.【「指定したページ名」へのファイルアップロード】で、作成した画像を選択する
4.右の【アップロード】を選択すると【「指定したページ名」にアップロードされたファイル一覧】に画像のページ名(ファイル名)が表示される
5.画像のページ名を範囲選択&コピーして、載せたいページに貼り付ける

知ってると思うけど一応
0.載せたいページ内での表示をファイル名じゃなく「投票結果」等にしたいなら
 「投票結果」の文字列に画像のページURLを挿入すればOK


651VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/23(日) 00:59:58.60m4TkG7Tt0 (1/2)

>>649
分かりました。丁寧な説明ありがとうございます


652命の輪をわたしに2011/01/23(日) 02:41:30.91PRNf0TFj0 (1/5)

投下行きます。

命の輪のシリーズです。


653命の輪をわたしに2011/01/23(日) 02:42:01.52PRNf0TFj0 (2/5)

 駅前の時計台。待ち合わせでよく使われるその場所で、柊つかさは時計を見ながらため息をついた。
「…早く来すぎちゃった」
 待ち合わせの時間までまだ三十分もある。つかさはしかたなく手近にあったベンチの端に腰掛けた。そして、空を見上げながら、待ち合わせの相手のことを思う。
 知り合いから頼まれたからと父に言われ、お見合いをした男性。お互い照れるばかりで、その日は特に何も話すことはできなかった。それでも、何度か会ううちに自然に話せるようになり、今ではすっかり彼氏彼女だ。
「…大事な話があるって言ってたよね」
 話の内容にどうしても期待してしまう。付き合ってる男女の大事な話といえば、やはり…と、そこまで考えたところで、つかさは肩を軽く叩かれながら、声をかけられた。
「待ったかい?」
「う、ううん!い、今来たところだから!全然まってないよ!」
 つかさは慌てて立ち上がり、声のした方を向いた。そして、声をかけてきた人物の方を見て…そのまま固まった。
「さすがつかさ。反応がいいねえ」
 そこにはニヤついてる友人の泉こなたと、その夫が並んで立っていた。



― 命の輪をわたしに ―



「…よく考えたらあと三十分あるんだった」
 ベンチに座りなおして、勢い良く立ち上がったために少し乱れた髪を手鏡を見ながら整えながら、つかさはそうつぶやいた。
「そこでよく考えないのが、つかさのつかさたる所以だよ」
 隣に座ったこなたが、ニヤついた表情を変えないままそう言った。
「そんな所以イヤだよ…」
 心底嫌そうに呟くつかさに、こなたは苦笑して見せた。
「今日は彼氏とデート?やっぱおっちょこちょいなところは見せたくないかー」
「…分かってるんだったら悪戯しないでよー」
 少し頬を膨らませながらそっぽを向くつかさ。しかし、すぐに何かに気がついたようにこなたのほうに向き直った。
「そういえば旦那さんは?」
「ダーリンならその辺ぶらついてもらってるよ。わたしがいいって言うまでね」
 こなたはそう言いながら、ポケットから携帯取り出してそれを指差した。
「い、いいのかな…こなちゃんだってデートだったんでしょ?」
「うん、まあそうなんだけど、なんていうかな…つかさとこうやって二人で話すのって久しぶりだなって思ったら、なんとなくね」
 言葉を濁すようにそう言うこなたを見て、つかさはクスッと笑った。
「そうだね。高校卒業してから、こういうの少なくなったかなあ」
 こなたにそう答えながら、つかさは空を見上げた。
「あの頃は、休み時間とか帰り道とか、ちょっとした時間にくだらないこと駄弁ってたねえ」
 こなたも、つかさと同じように空を見上げながらそう呟いた。
「今は、まとまった時間取らないとなかなか会えないから…やっぱり、ちゃんと話しときたいこと話さないとって思っちゃうよね」
「んだねー」
 こなたはつかさの言葉にうなずきながら、手に持った携帯をもてあそんだ。
「ま、その分くだらないメールは送りまくってるけどね」
 言いながらこなたはつかさの方を向き、その表情が不機嫌そのものになってることに冷や汗を垂らした。
「ど、どったの、つかさ?」
「…昨日のメール。いくらなんでも、あれは無いよ」
 抑揚のない声でそういうつかさに、こなたは申し訳なさそうに頬をかいて見せた。
「あー…やっぱまずかった?…いや、つかさも怒るんだね」
「そりゃ、わたしだって怒るときは怒るよ。もう、あんなのやめてよ?」
「…はい、すいませんでした…ってかかがみが本気で怒ってる並に怖いし。この辺は双子って感じだなあ」
 呟くこなたに、つかさがため息をつく。こなたはつかさから少し視線を逸らし、少し考えるような仕草をした後、再びつかさのほうを向いた。


654命の輪をわたしに2011/01/23(日) 02:43:17.49PRNf0TFj0 (3/5)

「くだらない繋がりって言っちゃあなんだけど、ちょっと変な質問していい?」
「変な?…内容にもよるかなあ」
「いや、内容とか言わなきゃ分からないし…まあ、答えたくないならノーコメントでもいいよ」
「そうだね、わかったよ。じゃ、どうぞ」
「ずっと、疑問だったんだけど…つかさ、なんでお見合い受けたのかなって」
「なんでって…変だったかな?」
「いや、なんていうか…つかさってそう言うの最初の段階で断りそうだったからさ。変っていうか意外だったんだ」
「…そーだねー」
 つかさは先ほどのこなたのように、一度視線をこなたから逸らし、再度こなたの方に向き直った。
「それはきっと、こなちゃんのせい」
 そして、そう言いながらピッとこなたを指差した。こなたは二、三度瞬きをして、ゆっくりと自分を指差した。
「…え、わたし?」
「そ、こなちゃん」
 つかさは柔らかく微笑むと、こなたから視線を外して空を見上げた。
「わたしね、こなちゃんが羨ましかったんだ…大学入ってすぐに彼氏さん作って、卒業するまでに結婚までしてさ…わたしにはちょっと無理だなって」
「…いやまあ、改めて言われると、運が良かっただけっていうか、後先考えて無かったって言うか…」
 照れくさそうに頬をかくこなたに、つかさは微笑みかけた。
「運も実力のうちだよ…それで、こなちゃんが羨ましくて、わたしお見合い受けようって思ったんだ。きっかけってのがあるなら、ちゃんと踏み込んでみようって…わたし、きっかけとかあっても、失敗するの怖くてしり込みしてたから…」
「きっかけ?…あったの?」
「うん、専門学校行ってたときに何回か…ね」
「そっか…やっぱつかさがもてなかったのは、かがみがにらみ効かせてたからか」
「え、えっと、それは関係ないかな…」
 こなたの言葉につかさは少し困った顔をし、すぐに真剣な表情をしてこなたを見た。
「お姉ちゃんで思い出したけど…こなちゃん、お姉ちゃんの今の彼氏さんの事、なにか聞いてる?」
「一応はね…かがみははっきり言わないけど、うまくはいって無いみたい」
「そっか…お姉ちゃん、わたしにはそう言うこと、全然話してくれないんだよね」
「かがみのことだから、つかさにそういう事話すのかっこ悪いと思ってるんだろうねー」
「そうかも…話を聞くことくらいしか出来ないかもしれないけど、少しは話して欲しいんだけどね」
「やっぱ、心配?一人目の彼氏があんなだったから」
「え…あ、うん…」
「アレは酷かったからねー」
 こなたは眉間にしわを寄せて、そのことを思い出していた。
 かがみが生まれて初めて付き合った男性…その男が実はかがみの他に二人の女性と付き合っていたことが分かり、かがみが怒って一方的に別れを切り出したのだ。
 しかも、その別れ話の時の相手の態度が悪かったらしく、かがみは思い切り相手の顔面を殴りつけたのだという。
 相手が後ろめたい事をしていたからか、大事にはならなかったが、確実に鼻は折れてたと、こなたはかがみから聞いていた。


655命の輪をわたしに2011/01/23(日) 02:44:01.33PRNf0TFj0 (4/5)

「今度の人は今度の人で、かがみに気後れしてるみたいだし、かがみも前の事があるからなんか慎重だし、なんかうまくかみ合ってないみたいだねー」
「そうなんだ…」
 こなたの言葉を聞いて、つかさはため息をついた。それにつられるように、こなたもため息をつく。
「かがみはなんか焦ってるんだよね…あんな無理して付き合わなくてもいいのに」
 そう言いながらこなたがつかさの方を向くと、つかさはこなたを指差していた。
「え?なに、つかさ?」
「それも、こなちゃんのせい」
「…かがみもわたしを羨ましいと思ってるってこと?」
 こなたがそう言うと、つかさははっきりとうなずいた。
「お姉ちゃん、こなちゃんにさき越されたの、すごくショックだったみたいだから」
「う、うーん…」
「そうは全然見えないけど、ゆきちゃんもそうだと思うよ」
「え、みゆきさんまで…?」
「うん。だから、同窓会で告白されたとき、あっさりOKしたんだと思うんだ」
 こなたは腕を組んで目をつぶった。
「…みんなつられすぎだよ。わたしなんかに…」
 そう呟くこなたに、つかさは柔らかく微笑んだ。
「なんかに、じゃないよ…こなちゃん頑張ってるもん」
「頑張ってる、ねえ…まあ、そう言われてみれば、そうなのかな」
「うん、きっとそうだよ」
 つかさはそう言いながら、こなたのお腹の辺りを見た。
「この子も、きっとこなちゃんのことそう思ってくれるよ」
 こなたは自分のお腹をさすり、複雑な表情をした。
「…まだあんまり実感無いんだけどね。ここに赤ちゃんがいるなんて…わたしが子供の目標になるような母親になれるとは思えないし」
「なれるよ…こなちゃんだもん」
「はっきり言うねえ…どっからそんな自信が出てくるのやら」
 真っ直ぐな笑顔を見せるつあkさに、こなたは苦笑を返した。



 こなたが去った後、つかさはベンチから立ち上がり大きく伸びをした。そして、空に向かってため息をつく。
「…もっと誇ってもいいと思うんだけどな」
 呟きながら、つかさは目をつぶった。こういう時に思い出すのは、いつも高校時代の自分たちだ。
「…あの頃にこなちゃんがわたしにくれたものが、わたしを歩かせてくれてるんだもの」
 少し恥ずかしい独り言に、つかさは慌てて周りを見た。幸いにも聞いていた人間はいなかったようで、つかさはほっと胸をなでおろした。
 そして、ふと時間が気になって時計を見ると、待ち合わせの時間は五分ほど過ぎていた。
 つかさがもう一度周りを見回すと、遠くから一人の男性が慌てて走ってくるのが見えた。
 その様子がおかしくて、つかさはクスッと笑ってしまった。そして、その男性を迎えるために、身だしなみを軽く整えた。
 男性がつかさの前に辿り着き、呼吸を整える。
「…ご、ごめん。待ったよね?」
「ううん、全然待ってないよ」
 そう答えながら、つかさは柔らかく微笑んだ。



― おしまい ― 


656命の輪をわたしに2011/01/23(日) 02:49:47.71PRNf0TFj0 (5/5)

以上です。

命の輪のシリーズで、なぜかメインをはった事が無いつかさの話です。
どうも俺が書くとつかさにはいい役が振られて、その分かがみが割りを食ってるような気がします。
この辺りのエピソードは書かないと思うので補足しとくと、話に出てきたかがみの二人目の彼氏は、こなたの出産時のゴタゴタで関係が自然消滅しちゃってます。


657VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/23(日) 09:34:02.91m4TkG7Tt0 (2/2)

-----------------------------------------------------------------------------

ここまでまとめた

-----------------------------------------------------------------------------
>>656乙です。
つかさは意識して書かないと他のキャラ(特にこなたとかがみ)に食われてしまうのは確かですね。




658VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/23(日) 19:49:44.03kTnr3J390 (1/4)

>>656
 乙です。
 なるほど、恋愛に縁遠そうなこなたがさっさと結婚したから、みんな焦ったのか。
 そういうことなら、みさおがさっさと結婚した方が、みんなを焦らす効果はもっと高そうな気がする。

 投下行きます。3レスほど。



659VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/23(日) 19:50:39.75kTnr3J390 (2/4)

とある家出娘


 あれは、絶対お父さんが悪いんだ。私は悪くない。
 心の中で何度もそうつぶやきながら、私は、おばさんの家の前までやって来た。
 お父さんと喧嘩して家を飛び出してきた私に、とりあえず頼れるところといえばそう多くはなく、なんとなくここに来てしまった。
 インターフォンを鳴らす。
 おばさんが玄関の扉をあけた。
「あら、いらっしゃい。どうしたの?」
 実年齢よりはるかに若く(というか幼く)見えるおばさんは、いつもどおりのほわほわした雰囲気でそういった。
「家出してきた」
 私がそういうと、おばさんは大きく目を見開いた。
 とりあえず、居間に通されて、おばさんの手作りお菓子とお茶を出された。
 おばさんはプロの調理師免許をもつという無駄にハイスペックな専業主婦で、その手作りのお菓子や料理は、お母さんのそれよりもはるかにおいしい。
 私の従姉妹にあたる双子は、今日は友達の家に泊まりで遊びに出ていて不在。おばさんの旦那さんは、仕事で今日は帰ってこないとのことだった。
 とりあえず、家出してきた事情──お父さんとの喧嘩について話す。
「そうなんだぁ。でも、家出してくる前に、お母さんに相談した方がよかったと思うよ?」
「……」
 おばさんにそういわれて、私は黙り込むしかなかった。


 そのとき、インターフォンが鳴った。
「はーい」
 おばさんが玄関まで走っていく。
 玄関の扉を開けると、
「あっ、お姉さん、いらっしゃい」
「うちの家出娘、こっち来てない?」
「来てるよ」
 早い。あまりにも早すぎる。私がどこに行ったかなんてすぐに分かるはずないのに……。




660VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/23(日) 19:51:49.96kTnr3J390 (3/4)

 おばさんと同じく実年齢よりはるかに若く見える(ただし、こっちは幼くは見えないけど)お母さんが、居間に入ってきた。
 おばさんは、お母さんにもお菓子とお茶を出すと、気を利かせたのか、どこか別の部屋に行った。
「どうしてここだって分かったの?」
 私は、お母さんに訊いた。
「水鏡の占いでこの家が映ったからね」
 そうだった。お母さんのこの『力』をもってすれば、私がどこに行こうと行き先なんてすぐに分かってしまうんだ。
「お父さんには、ちゃんと言い含めておいたから。あなたが自分の意思できちんと選択ができる大人になるまで待つようにって。だから、もう帰りましょ」
 お父さんとの喧嘩の原因は、家業を継ぐとか継がないとか、まあそんな話。
 私は、神社の家の一人娘だから、どうしても避けられない話ではあるけど。でも、お父さんの押し付けるような言い方にカチンと来ちゃったから。
 だから、私はお母さんに質問した。
「お母さんは、どうして神社を継ごうと思ったの?」
 お母さん──柊いのりは、神社の家の四姉妹の長女だ。お父さんを婿さんに迎えて、家業を継いだ。
 私のように、おじいちゃんに反発したことはあったんだろうか?
「別にたいした理由はないわよ。私にとって、それが一番楽な選択肢だったっていうだけ」
 お母さんは、拍子抜けするほどあっさりそう答えた。
 お菓子をつまんで、お茶をすすってから、さらにこう続けた。
「なんだかんだいっても、日本じゃOLを定年まで続けられる女なんてそうはいないし。家を出て普通に専業主婦しても、まつりみたいに離婚なんてこともあるかもしれない」
 離婚して実家に戻ってきたまつりおばさん。言っちゃ悪いけど、あらゆる意味において反面教師だ。
「そうでなくても、旦那さんがこければ、路頭に迷うはめになるし。つかさみたいに調理師免許でももってれば、そんなときでも大丈夫なんでしょうけど、私にはそんな特技もないしね」
 そうか。つかさおばさんは、こうして専業主婦なんてしてるけど、いざとなれば自分で家族を養うことだってできるんだ。
「かがみみたいに自分の腕一本で生きてけるだけの才覚もなければ、それだけの努力ができるわけでもない」
 かがみおばさんは、敏腕の弁護士さんだ。いつも忙しそうで、実家に帰ってくることなんてめったにない。
 年に一回、正月三が日にすぎたあたりにうちにくるけど。そのときもずっとパソコンに向かってたり、英語だかドイツ語だかフランス語だかで書かれた論文みたいなのを読んでたりしてる。
「結局、婿さんとって家業を継ぐのが一番楽だったのよ。神社の方は普段は婿さんに任せておけばいいんだし」
 神社の神主は、あくまでお父さんだ。
 お母さんは、神職の資格はもってるけど、神職の装束を着ることはあまりない。神職として振舞うのは、定期的にお守りを作るときと、年に数回しかない『特殊な依頼』をこなすときだけ。そのときだけは、柊家が受け継いできた『力』が必要だから。
 それ以外は、お祭りや正月のときに巫女服を着て巫女頭みたいなことをしてるだけで、普段は専業主婦と変わらない。その主婦業だって、まつりおばさんと家事を分担してるんだから楽なものだ。
 だから、お母さんにとっては、それが一番楽な選択肢だったというのは嘘ではないのだろう。
 でも……。
「まあ、柊家直系の看板を背負うんだから、いろいろと面倒なことはあるけどさ。私はそういうのは苦にはなんないから」


661VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/23(日) 19:52:50.67kTnr3J390 (4/4)

 問題はそこだ。
 柊家開祖の『力』を受け継ぐのは、直系の女だけ。
 それを脇においとくとしても、ずっと続いてきた伝統というのは、それだけで重荷だった。
「なんにしても、あんたは、普通の子より選択肢が多いってことは確かよ。だから、大人になるまでゆっくり考えて、自分のしたいことをすればいいわ」
「私が神社を継がないっていったら、どうするの?」
「よく考えた上での結論がそれなら、お母さんは全力で応援するわよ。お父さんの説得も私がやる。なんだったら、かがみの力を借りたっていい」
 お母さんははっきりとそういった。
 かがみおばさんは、身内の依頼でも弁護料をきちんととるシビアな人だけど、仕事として受けた以上はきっちりやってくれる人だ。
 そのかがみおばさんが味方についてくれるなら、こんなに心強いことはないけれども……。
「でも、そしたら神社の方は……?」
「神主が世襲や婿養子じゃなきゃ駄目なんて決まりはどこにもないの。神職保持者の中から誰かを昇格させて神主さんにしちゃえばいいわ。柊家の名前にこだわるなら、養子縁組しちゃえばいいんだしね」
 世襲じゃなくても、伝統を受け継いでく方法はいくらでもある。お母さんのいいたいことはそういうことなんだろう。


「ごめんね、つかさ。迷惑かけちゃって」
「迷惑なんてことないよ。せっかくだから、夕飯食べていかない?」
「せっかくだけど、もううちも夕飯の準備終わってるから。ほれ、あんたも、お礼をいいなさい」
「ありがとうございます」
 私は、つかさおばさんに頭を下げた。
「私、なんにもしてないよ」


 そんな感じで、つかさおばさんの家を出て、お母さんの車に乗って家路についた。
 家についたら、まずはお父さんと仲直りして、それから……ああ、そうだ。高校に出す進路希望調書を書かなきゃ駄目だった。
 なんて書こうかなぁ……。


終わり



662VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/23(日) 23:14:11.73KArbTTlSO (1/1)

>>661

いい話だと思うけど力云々ですごく胡散臭く感じるな


663VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/24(月) 00:47:02.28/98jzETY0 (1/3)

>>661 乙です
SFやオカルト要素を取り入れると現実離れしてしまうのでその辺りをどうするかが難しい。
しかし2レスでここまで表現できたならGJですね。



664VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/24(月) 19:17:55.66B8sZ2PIN0 (1/1)


>>661です。

>>662 >>663
 感想ありがとうございます。
 力の設定は余計だったですかね。
 いのりが事前連絡なしでつかさ家に奇襲できた理由づけと、家業の重荷の重みを増すのと、それにもかかわらずいのりはそれをたいしたことだとは考えてないというギャップ感を出すといったところだったのですが。
 確かに、ほかにもやりようはありましたね。


>>641
 4月は4月で、年度初めなんで、みんな忙しいとは思いますが。


コンクールお題案
 「ゲーム」
 なんか、こなたと黒井先生の独壇場になりそうですが。



665VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/24(月) 20:17:45.4964Do+x4SO (1/1)

母親なら無関心でないかぎり娘の行動パターンはある程度分かるんじゃないかなあ
あと力云々で現実味が薄くなって、家業の重みは逆に軽くなってると思う

というのが、俺の極個人的な意見


666VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/24(月) 20:23:29.09/98jzETY0 (2/3)

>>664
確かに何時にしても忙しい時は忙しいか。
もう少しで投票フォームのテストが終わるのでそれから考えます。
フォームの操作が分かればまとめから投票まですべて出来ようになる。進行が止まってしまわないようにしたいので。

投票テストの方の投票もドシドシお願いします。
好きな作品がなければそれまでですが……。

↓投票テスト(感動系から抜粋、全て同じ作者の作品なので偏ってます)〆切1/26日、0:00です。

http://vote3.ziyu.net/html/to1048.html



667VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/24(月) 21:08:44.96/98jzETY0 (3/3)

-----------------------------------------------------------------------------

ここまでまとめた

-----------------------------------------------------------------------------



668VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/25(火) 14:59:41.34YACYS/JW0 (1/1)

>>667 まとめ乙
>>661 論点違うかもしれんが「力」無しの場合みきさんのあの若さはどこからくるんだろう・・・
いくらなんでもあれはチート


669VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/25(火) 15:04:32.10HCNNjf/SO (1/4)

漫画ですし


670VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/25(火) 15:09:46.21HCNNjf/SO (2/4)

と言うと身も蓋も無いんで

ヒント:由美かおる


671VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/25(火) 19:54:36.28HCNNjf/SO (3/4)

七巻八巻読み直してると、環境変わったせいか結構キャラ同士の呼称が変化してるなあ
ざっと見た感じだと


こなた
峰岸さん→あーや

つかさ
峰岸さん→あやちゃん

みゆき
みなみさん→みなみ

みさお
柊の妹→つかさ

あやの
妹ちゃん→ひーちゃん

ゆたか
田村さん→ひよりちゃん

みなみ
田村さん→ひより
みゆきさん→お姉ちゃん

ひより
小早川さん→ゆーちゃん
岩崎さん→みなみちゃん


あと変わったのか元からなのか、みゆきはゆたかの事を「ゆたかさん」と呼んでたり
ここまでくると「泉さん」のままなのがなんか特別な意味があるような気が…
それにしてもかがみは見事に呼称を変えないなあ

…ってなこと考えてたら思いついた小ネタ↓


672VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/25(火) 19:56:02.65HCNNjf/SO (4/4)

-呼称変更-

みさお「なー、柊。そろそろあたしらも名前で呼びあわね?」
かがみ「…なんだ薮から棒に」
みさお「いやほら、名字だとさ、結婚して変わったらややこしくなんじゃん」
かがみ「まあねー…日下部が結婚出来るとは思えないから、余計な心配だと思うけど」
みさお「ひでえな!あたしだってなにかの間違いで結婚するかもしんねえじゃん!」
かがみ「自分で間違いとか言うな」
みさお「じゃあ、あやのだ!あやのは確率たけえぞ!」
あやの「え、わ、わたし…?」
みさお「相手はあたしのアニキだから、同じ日下部になってややこしいぞ!」
あやの「ちょ、ちょっとみさちゃん…」
かがみ「あー、それはあるわね…じゃあ日下部のほうは『バカな方の日下部』略して『バカカベ』って呼ぶわ」
みさお「ひどくねっ!?」
あやの「柊ちゃん、それはちょっと…」
みさお「…じゃあ、あやのの方を日下部って呼ぶのかよ」
かがみ「『バカじゃない方の日下部』略して『バカカベ』」
あやの「えええーっ!?」
みさお「それ、ぜんっぜん意味ねえよなあっ!!」


673VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/25(火) 23:12:09.60b4Ef1CGd0 (1/1)

>>672乙

バカカベってwあだ名をつけるのはつかさの方。しかし『ばか』は付けないかとw


かがみは呼称にあまりこだわりはないみたいだ。
親しくなると名前で呼び捨てになっていく傾向かな。
そう言う意味で言うとみさおとあやのは中学時代からの友人としてはこなたやみゆきより友人としては距離があるのだろうか。


674VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/25(火) 23:38:53.77PJcp8W0DO (1/1)

>>672

バカじゃない方の日下部→非バカの日下部→ひばかべ
とか


675VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/26(水) 00:10:48.357I6Wf6490 (1/2)

投票テストの結果が出ましたので一応ご報告します。

http://vote3.ziyu.net/html/to1048.html

一票もこなかったらどうしようかと思った。
協力してくれた方ありがとうございました。

投票が二作に分かれたようです。一番はコメントが一番多い『卒業』かと思ったら意外な結果だった。


676VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/26(水) 00:15:45.027I6Wf6490 (2/2)

これでコンクールの準備ができました。

改めて第二十回のコンクールのお題を募集します。1/29日の0時まで受け付けます。
よろしくお願いします。



677VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/26(水) 02:57:04.11Lax3yclAO (1/1)

じゃあお題
ポリエステル

とか?


678VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/27(木) 02:19:41.667Zprgr+H0 (1/2)

お題 『誤解』
前回いい所までいったけど不採用だった。


679VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/27(木) 08:35:40.68qoQ6rUP+0 (1/1)

募集期間を短縮します。

第二十回のコンクールのお題を募集します。1/28日の0時まで受け付けます。
よろしくお願いします。




680VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/27(木) 11:25:37.27siNW2iFDO (1/1)

コンクールお題『記念日』

20回というキリ番なので、お題もこう区切りのある感じのやつがいいんじゃないかなと


681VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/27(木) 12:31:32.996/jOfdiSO (1/1)

似たようなのだけど
『記念品』
なんてのもいいかも


682VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/27(木) 19:14:37.82dfa1C0aSo (1/1)

お題 「蜜」


683VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/27(木) 20:06:43.817Zprgr+H0 (2/2)

-----------------------------------------------------------------------------

ここまでまとめた

-----------------------------------------------------------------------------



684VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/27(木) 21:45:57.972OWJY4UAO (1/1)

お題 『絆』


685VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 00:01:57.65NtcaRK8m0 (1/7)

二十回コンクールの主催者です。

お題が出揃ったようなので投票に移りたいと思います。
〆切は2/4の0:00時です。


http://vote3.ziyu.net/html/to111.html


686VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 00:28:57.45NtcaRK8m0 (2/7)

お題の単語の意味を調べてみました。参考にして下さい。


「∞」or「無限」or「infinity」
  名・形動]《 infinity 》数量や程度に限度がないこと。また、そのさま。インフィニティー。「―な(の)空間」「―に続く」⇔有限。

ポリエステル
  エステル結合-CO-O-をもつ高分子化合物の総称。エチレングリコールとテレフタル酸との縮重合によって得られるエチレンテレフタラートが  代表的で、合成繊維テトロンなどが作られる。合成樹脂には、不飽和ポリエステル樹脂・アルキド樹脂などがある。てかペットボトルの材料。


寒い
  [形][文]さむ・し[ク]
  1 温度の低さを不快に感じる。また、そう感じるほど温度が低い。「セーターを着ないと―・い」「冬の―・い朝」《季 冬》「塩鯛の歯ぐきも―・し魚の店/芭蕉」⇔暑い。
  2 恐ろしさなどで震え上がる。「心胆を―・からしめる」「背筋が―・くなる」
  3 むなしくて寂しい気持ちになる。「冷酷な言葉を聞いて心が―・くなった」
  4 内容や中味が貧弱である。貧しい。みすぼらしい。現在では多く「おさむい」の形で使われる。「報告書というにはお―・い内容だ」→お寒い
  5 まったく面白くない。「―・いジョーク」
  6 金銭が不足している。「懐(ふところ)が―・い」⇔暖かい。

記念日
  記念すべき出来事のあった日。「結婚―」

記念品
  〔名〕ある出来事を記念する品物。記念物。

誤解
  [名](スル)ある事実について、まちがった理解や解釈をすること。相手の言葉などの意味を取り違えること。思い違い。「―を招く」「―を解く」「人から―されるような行動」


  蜜汁(みつじゅう) 糖蜜 砂糖蜜 花蜜 蜂蜜(ほうみつ・はちみつ) 生蜜(きみつ) 白蜜 


  1 人と人との断つことのできないつながり。離れがたい結びつき。「夫婦の―」
  2 馬などの動物をつないでおく綱。



  




687VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 00:34:32.28NtcaRK8m0 (3/7)

>>686
こうやって単語を並べると意味の幅が広いのが『寒い』でしょうか。

ポリエステルがお題に決まったらちょっと悩むかもしれないw


688VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 01:08:49.486b7FU7/SO (1/1)

悩むというかぶっちゃけ不可能


689VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 01:22:23.91NtcaRK8m0 (4/7)

主催者です。
お題投票期間は長すぎるかな?
いつもどのくらいしたっけ?


690VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 01:51:09.20y8kbZBjDO (1/2)

>>688
不可能ではないと思うよ。例えばペットボトルリサイクルから話を膨らませるとからき☆すた化学の有機化学編みたいにするとか化学反応を人間関係に置き換えるとかできそう。


691VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 01:54:20.22y8kbZBjDO (2/2)

>>689
どのくらいかは忘れたけどとりあえず土日が入っていればいいかと


692VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 02:10:12.10NtcaRK8m0 (5/7)

>>691
とりあえずこのまま続けます。


693VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 03:20:53.50jxzd2w6AO (1/2)

俺は2月1日まででいいと思うけどなー

ポリエステルになったら是非参加してみないねwww


694VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 16:00:42.20OM9IvjRro (1/2)

お題投票は、基本的に土日挟んで3日間だね


695VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 20:36:29.21NtcaRK8m0 (6/7)

コンクール主催者です。

>>694
そうだったか それでは期間を変更します。しかし投稿期間等はそのままでいきます。
今回は作成時間が充分にとれると思います。


お題が出揃ったようなので投票に移りたいと思います。
〆切は1/31の0:00時です。

お題投票サイト

http://vote3.ziyu.net/html/to111.html



696VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 21:01:25.40NtcaRK8m0 (7/7)

主催者ってコンクールに参加してもいいんですよね?


697VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 23:18:02.71jxzd2w6AO (2/2)

ポリエステルならいいよw


今まで普通に参加してたんじゃない?


698VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/28(金) 23:28:47.10OM9IvjRro (2/2)

参加して大丈夫だよー


699VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/29(土) 01:23:10.72c5LnM9Pk0 (1/2)

>>697
参加はしていたけど主催はやっていない。
投票も管理しているので何かと疑われるかなと思って聞いてみた。



700VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/29(土) 02:28:27.60Zwju3d1SO (1/2)

>>699
今までの主催がって意味かと



701VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/29(土) 03:16:53.99+YL/fk5Po (1/2)

>>699
>>700の言うとおり今までの主催、投票所係も普通に参加してたってこと

疑える余地があるのはたしかだが、そんなことをする理由もないし意味もないからね


702VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/29(土) 17:14:46.88EC/wzBJO0 (1/1)

>>700-701
過去の人を疑っているわけではないですよ。
でも細工しても意味の無いのは確かだ。大賞とったり賞を取るのはその時の流れもあるしね。
作品を読んでどう感じたか。そんなのは人によって千差万別。
余計なことを考えないで決まったお題に全力で取り組むのみです。


703VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/29(土) 18:49:03.30+YL/fk5Po (2/2)

>>702
ああいや、わかってる
やる意味がないんだから疑う必要もないってことね

とりあえず、運営側でも参加は問題ない


704VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/29(土) 18:51:56.80Zwju3d1SO (2/2)

なんか微妙に話しがずれるな


705VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/29(土) 19:08:47.72c5LnM9Pk0 (2/2)

>>699です。
もう二十回になるのにこんな話をしてすみませんでした。
問題になっていればとっくに問題になっていますね。
この話はもうなしでお願いします。


706VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/30(日) 00:03:09.129oDbBG9L0 (1/2)

☆☆☆☆☆☆第二十回コンクール開催のおしらせ☆☆☆☆☆




コンクールお題投票が一日を切りました。
こんなお題でssを作ってみたいと思う方はどうぞ投票して下さい。

〆切は1/31の0:00時です。

お題投票はこちらへ↓

http://vote3.ziyu.net/html/to111.html


707VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/30(日) 10:37:24.96bWOYnLc50 (1/8)

投下します。



708柊かがみ法律事務所──仮想現実規制法2011/01/30(日) 10:38:45.58bWOYnLc50 (2/8)

 かがみは、飛翔魔法の呪文を唱えると、上空50mほどに急上昇した。見下ろせば、凶悪なモンスターたちが群れをなしている。
 現時点でマスターしている火炎系魔法の最強呪文を唱えた。あたり一面が、地獄の業火に包まれる。
 モンスターを一掃して、かがみは再び地上に降り立った。周囲の空気には、まだ熱気が残っている。
「かがみん! 私もいっしょに燃やすなんてひどいよ!」
 マンガやアニメのごとく髪の毛が燃えてボサボサになったこなたが、かがみに抗議した。
「あんたには、たいしたダメージじゃないでしょ」
 ショック死防止のため、仮想空間(ヴァーチャルスペース)における苦痛の再現度には上限が設けられている。全身火達磨になったところで、たいして熱くはない。
 ステータス的にも、これぐらいのダメージはたいしたことないはずだ。
 かがみは、視覚をステータスアイモードに切り替えて、こなたのHPを確認したが、実際たいしたダメージは受けてなかった。冷熱系に対して防御力が高い防具を身につけているということもある。
 かがみは、回復魔法の呪文を唱えた。こなたのHPが回復し、髪が元通りに戻っていく。

 チャララ、ラッラッラー♪
 聞きなれたファンファーレが鳴り響き、二人の前に黒い半透明ボードが現れた。白い文字が流れていく。

"かがみんは、レベルが上がった。賢者レベル117。最大HPが3上がった。最大MPが6上がった。賢さが7上がった。力が2上がった。身の守りが1上がった。すばやさが5上がった"

"こなこなは、レベルが上がった。勇者レベル124。最大HPが7上がった。最大MPが3上がった。賢さが4上がった。力が7上がった。身の守りが6上がった。すばやさが3上がった"

 文字を流し終えると、ボードは自動的に消滅した。


 ここは、VRMMORPG(Virtual Reality Massively Multiplayer Online Role Playing Game; 仮想現実多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)の『ドラゴンク○ストVR』の仮想空間。
 そして、こなたとかがみは、このゲームではレベルランキングトップ20に名を連ねる熟練プレイヤーであった。




709柊かがみ法律事務所──仮想現実規制法2011/01/30(日) 10:39:41.62bWOYnLc50 (3/8)

「今回は、ステータスアップだけかぁ。そろそろ新しい特技でも覚えたいとこだよね」
「レベルも100を超えたら、新しい特技ってのもなかなか難しいわよ。ゲームバランスもあるんだし」
 二人の前方に城壁に囲まれた町が見えてきた。
 陽は地平線の下に没しようとしている。
「今日は、あの町で時間切れってとこね」
 仮想現実規制法施行規則で、仮想空間の滞在時間には上限が定められている。仮想体験型ゲームの場合は、1日あたり6時間、1ヶ月あたり60時間が上限だ。
 これは、仮想現実依存症や現実感覚失調症を防止するための規制であった。
 ただし、仮想空間における体感時間は調整が可能である。これも規制があって仮想体験型ゲームの場合は2倍が上限。仮想空間で12時間をすごしても、現実空間(リアルスペース)では6時間しかたってないというわけだ。
 つまり、体感時間的には、この仮想空間には1日あたり12時間滞在できるということになる。



「ここは、ゲレゲレ城下町だよ」
 町に入って最初に話しかけた町人が、町名を教えてくれた。まあ、お約束というやつである。
 町人たちの額には、薄く"NPC"と刻印されている。こうでもしないと、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)とプレイヤーのアバターとの区別がつかない。
「ゲレゲレって、明らかに狙ってる名前だよな」
「ここのプレイヤーはオールドファンも多いからね」
 宿に入って料金を前払いしたあと、食堂で夕食をとる。二人がたのんだのは、『ブラックドラゴンもも肉の香草焼き』だ。
「レッドドラゴンよりクセがなくておいしいわね」
 かがみは、そういいながらガツガツと食っていた。
「かがみん。そんなにがっつくと太るよ」
「リアルスペースの身体に影響はないわよ」
 仮想空間でいくら食べようと、現実空間の自分にとっては脳内だけの体験であり、太ることはない。
「一応、ここでも、食えばアバターが太るんだけどね」
「魔法はカロリー消費するから問題なし」
 かがみはそう言い切り、またモグモグと肉を咀嚼し始めた。
 そこに、
「おお、おまえらも来とったか」
 二人が視線を上げると、ななこが立っていた。彼女は、ここでは、戦士レベル136といったところだ。
「黒井先生、しばらくでしたね」


710柊かがみ法律事務所──仮想現実規制法2011/01/30(日) 10:40:42.22bWOYnLc50 (4/8)

「そうやな。新大陸一番乗りは、うちらがもらったで」
「次は負けませんよ。ところで、ほかのパーティメンバーは?」
「ちょっとバラけて情報収集してるとこや」
「何かめぼしい情報はありました?」
「きな臭い話はちらほら聞こえてきとるな。大規模イベントがありそうやで」
「例によって、プレイヤーズカウントスイッチですかね。トップ20プレイヤーが集まるまで待ちってところで」
 プレイヤーズカウントスイッチとは、ある場所に到達したプレイヤーが一定人数を超えないとイベントが発動しない仕組みを指す。
 一番乗りのパーティがイベントを独占してしまわないようにするための仕組みだった。
「たぶんな。まあ、遅れてるやつもそのうち来るやろ」
「それまでは、小イベント探しで暇つぶしってとこですね」
 かがみは、黙々と肉を食っていた。
「そうそう、先生。かがみんったらひどいんですよ。今日の戦闘なんか、私をモンスターごと焼き尽くそうとしたんですから」
「泉のレベルなら、大丈夫やろ」
「先生までそういいますか。もう、なんか嫁にDV受けてる気分ですよ」
「誰が嫁だ」
 かがみのパンチが、こなたの顔面に入った。
 こなたに1ポイントのダメージ。
「私のアバターは男だよ。ついてるものもついてるんだからね。ヤることはヤれるのだよ、かがみん」
「ヴァーチャルセックスは仮想現実規制法違反だ」
「それっておかしくない? 愛があれば、ヤっちゃったっていいじゃん」
「少なくても、私の方に愛(そんなもの)はない」
「ひどいなぁ。私はかがみんへの愛でいっぱいだというのに」
 かがみは、背筋がぞわっとした。
 こなたのその言葉の、どこまでが冗談でどこからが本気なのか。
 リアルとヴァーチャルをすっぱり切り分けて考えられるこなただけに、リアルでは同姓趣味はないにしても、ヴァーチャルではどうだか分からない。
 いや、ここ(ヴァーチャル)では、こなたは男なのだから、同姓ですらないわけで。
 少なくても、ここに滞在している間は、自らの貞操を守ることについて常に気を配らねばなるまい。
「相変わらず仲ええな、おまえら。しかし、なんでいかんのやろな? ここに来れるのは大人だけなんやし、別にいいやろって気もするけどな」
 未成年者は、仮想現実規制法によって、原則として仮想空間への潜入(ダイブイン)が禁止されている。例外は、総務省の認可を受けた教育目的仮想空間だけだ。
「政府は善良な性道徳の確保が目的だと表明してますけど、事情通の間では本当の目的は少子化対策だってもっぱらの噂ですね。どっちにしても、最高裁で合憲判決が出ちゃいましたから、法改正する以外にはどうしようもないですよ」
 国を被告にしたその訴訟で最高裁まで原告弁護人を務めたのは、かがみにほかならないのだが。
「まあ、確かに、ここでいくらヤっても、リアルのガキはできんわな」


711柊かがみ法律事務所──仮想現実規制法2011/01/30(日) 10:41:47.36bWOYnLc50 (5/8)



 ななこも席につき、ビール片手に二人と近況を語り合った。
 食堂の壁に取り付けられたテレビをふと見ると、ニュース番組が始まっていた。
 ニュースキャスターNPC『DQローズ』(設定は女性)が、ニュースを読み上げ始める。


"ドラ○エワールド、夜のニュースをお送りします"

"まずは、お祭り開催のニュースです。
毎年恒例となっているプレイヤー有志による『リア充爆発しろ クリスマス廃止大決起祭り』が、12月24日、アリエナイ大陸ホゲゲ村北東草原において行なわれます。
今年も、数多くの屋台が立ち並び、6時間にわたる花火の打ち上げや、カスタムNPCアイドル萌実ちゃんによるコンサートなど、数多くの催し物が行なわれる予定です。
当日は会場周辺のモンスターエンカウント率を0にするなど、運営も全面的に協力します。
なお、運営はこの祭りによるヴァーチャル経済効果を1億6270万ゴールドと発表しています"


 カスタムNPCとは、NPCをカスタムメイドできる有料オプションまたはそのオプションで作成されたNPCを指す。
 リアルでの恋人や友人がいないプレイヤーが、ヴァーチャルでのそれを求めてカスタムメイドに手を出すという事例も結構多い。
 一時期は、アニメキャラなどを模したカスタムNPCが大量に作られたため、著作権侵害で訴えられる事例が多発し、かがみも弁護士として大忙しだったことがある。
「ほほぉ。今年は、萌実ちゃんのコンサートがあるのか。これは是非とも行かないとね」
「私は行かんからな」
「かがみんも行こうよ。萌実ちゃんの歌はいいの多いよ」


"続いて、アカウント剥奪のニュースです。
プレイヤー名『RMMAN』は、常習的にリアルマネートレードを行なったため、運営によりアカウントを剥奪されました。
なお、運営は『RMMAN』をリアルスペース警察に告発しています。
リアルマネートレードは違法行為です。絶対にやめましょう"




712柊かがみ法律事務所──仮想現実規制法2011/01/30(日) 10:42:32.68bWOYnLc50 (6/8)

「懲りんやっちゃなぁ。ゲーマーの風上にもおけへんで」
 ななこは、ビールのツマミの『謎の豆類の塩茹で』を口に放り込んだ。
「需要があれば供給があるのが世の常ですからね」
 仮想現実規制法によるリアルマネートレード規制の範囲は広い。
 まず、ヴァーチャルアイテムをリアルマネーで買うという本来の意味での『リアルマネートレード』。
 リアルな財貨・サービスを、ヴァーチャルマネーで買う『ヴァーチャルマネートレード』。
 ヴァーチャルアイテムとリアルな財貨を交換する『リアル・ヴァーチャル間物々交換』。
 リアルマネーとヴァーチャルマネーを取引する『リアル・ヴァーチャル間為替行為』。
 これらはいずれも違法行為とされている。
 仮想空間経済(ヴァーチャルエコノミー)を隔離して、現実空間経済(リアルエコノミー)に影響が出ないようにするための規制で、これも最高裁で合憲判決が出ていた。


 この後、ななこのパーティメンバーが来たので、ななこは席をたっていった。
 こなたとかがみも、それぞれ宿の部屋で眠りについた。
 やがて、総務省仮想空間滞在監視プログラムが規制上限時間超過を検知し、二人を仮想空間から強制離脱させた。

   ・
   ・
   ・
   ・
   ・



713柊かがみ法律事務所──仮想現実規制法2011/01/30(日) 10:43:47.62bWOYnLc50 (7/8)

 かがみは、目を開けた。
「柊かがみ、50歳」
 そんなことをつぶやいてみる。リアルとヴァーチャルをきちんと意識して区別するための儀式のようなものだ。
 仮想空間では18歳当時の自分の姿をアバターとして使っているだけに、この辺の意識をきっちりしておかないと、ギャップの激しさで感覚が狂うことがある。
 電極がついた帽子のようなものを取り外し、仮想空間接続端末の電源を落とす。
 時計を見ると18時。予定どおりの時間だ。
 作りおきしておいた料理を冷蔵庫から取り出し、電子レンジで暖めて夕食とする。

 明日は月曜日。最高裁大法廷での口頭弁論がある。
 事案は、規約違反を理由としてアカウントを剥奪されたVRMMORPGプレイヤーが運営を被告として損害賠償を請求している訴訟で、かがみは原告弁護人を務めていた。
 正直、勝ち目は薄い。
 それでも、「仮想空間におけるアバターはプレイヤーの人格的権利の一部を構成するから、それを消去するアカウント剥奪措置は、正当な理由がなければ認められない」という主張が受け入れられて判決の中で言及されれば、今後の同種の訴訟に影響するところは大だ。
 このほかにもヴァーチャルがらみで担当している事件はいくつかあった。
 その中には、『ヴァーチャルスペースにおけるヴァーチャルな紛争に対して下されたヴァーチャル裁判所のヴァーチャル判決は、リアルな仲裁判断としての法的効力を有するか』といった頭を抱えそうな事案もある(現在、東京高裁で係争中)。

 かがみは、夕食を食べ終わると、明日に備えて早めに眠りについた。



714VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/30(日) 10:45:22.29bWOYnLc50 (8/8)

以上です。



715VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/30(日) 13:19:18.799oDbBG9L0 (2/2)

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ここまでまとめた

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716VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/31(月) 00:06:08.800Ch1KRqD0 (1/3)

☆☆☆☆☆☆第二十回コンクール開催のおしらせ☆☆☆☆☆

投票の結果お題は 『記念日』となりました。

投票結果↓
http://vote3.ziyu.net/html/to111.html

予想はしていたけど全く物語がうかびません。
お互いがんばりましょう。この機会に書いてみようと思う方も大歓迎です。

投稿期間:2月7日(月)~ 2月20日(日)24:00
投票期間:2月22日(火)~ 2月27日(月)24:00

となりますのでよろしくです。


717VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/31(月) 00:14:10.22gxjnotvAO (1/1)


ポリエステル健闘ww

記念日か…
こなかが的なのも有りかな


718VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/31(月) 00:22:41.980Ch1KRqD0 (2/3)

『記念日』か……コメントに結婚記念日的なのがいいって書いてあったな。
泉家、柊家、高良家の親を出すか。こなた達を結婚させるか……
そうゆう話は苦手だ。
もっと違ったのを出すかな。



719VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/31(月) 00:31:48.39jtrCkBpSO (1/2)

考えてる話しのがきて良かった。
結婚記念日じゃないですけど。


720VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/31(月) 12:39:19.61jtrCkBpSO (2/2)

-寒-

こなた「うぅーさーむーいー」
つかさ「うん…今年の冬はホントに寒いねー」
みゆき「そうですね…かがみさんは寒くないのですか?」
かがみ「寒いわよ。我慢してるだけ…寒い寒い言っても暖かくなるわけじゃないしね」
つかさ「なるかもしれないよ?」
かがみ「…どうして」
つかさ「ほら、声出してれば括約筋が動くから熱が…って、あれ?」
こなた「………」
かがみ「………」
みゆき「………」
つかさ「え、えっと…なんでこんな微妙な空気…」
こなた「…かがみさんや、訳してくだされ…」
かがみ「…多分、横隔膜とか言いたかったんだと…」
つかさ「え、え、じゃあ括約筋って…」
みゆき「せ、説明しづらいのですが、括約筋と言うのはですね…」



つかさ「………うぅ、恥ずかしいよー」
かがみ「い、一応暖かくはなったじゃない…かな…」


721VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/31(月) 22:02:53.360Ch1KRqD0 (3/3)

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ここまでまとめた

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>>720乙です
同姓なら別に恥ずかしい話ではないと思う。
でもこなたの勘違いは笑ったw。


722VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/01(火) 22:33:02.21Wp6R32Pl0 (1/1)

コンクール期間中は特に静かになってしまいます。

ちなみにコンクール期間中も一般作品を受け付けていますので遠慮なく投下してください。


723VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/03(木) 19:43:57.90CXEEXPZSO (1/1)

-コンクール作品-

こなた「かがみー、コンクール作品出来たよー」
かがみ「えっ、マジで?随分と早いじゃない」
こなた「ふっふっふ、本気をだせばこんなもんですよ」
かがみ「これなら一番で投下できるわね」
こなた「…いやまあ、一番狙いたい人もいるだろうし、わたしは一週間後くらいに…」
かがみ「…嘘でしょ」
こなた「な、なにがですかな…」
かがみ「いいから、こっち向け。出来たとか嘘ついたでしょ?」
こなた「…ごめんなさい、嘘です」
かがみ「なんでそんな嘘つくの」
こなた「ちょっと見栄張りたかった…」
かがみ「…はぁ…まったく」
こなた「…再来週から本気だす」
かがみ「いや、それ遅いからな」


724VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/04(金) 21:38:34.82JTUZ5+6R0 (1/1)

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ここまでまとめた

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725VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/05(土) 02:32:40.02xDKSwQN20 (1/9)


 こんな夜中ですが、作品を一つ投稿します。

コンクールの宣伝も含まれて……いるかも?あんまり偉そうなことは言えませんがorz
後、第1回~第19回のコンクールのネタにちょっとだけ触れているのでネタばれの可能性ありです。
 その点をご了承いただけると助かります。


72620個目のお話2011/02/05(土) 02:34:31.00xDKSwQN20 (2/9)

 

5月28日。


 1人の小さな女の子が5歳の誕生日を迎えました。女の子の誕生日を祝おうと、たくさんの人がお家に遊びに来ました。元気で頼れるお姉さんも、妹のような小さな女の子も、彼女に「おめでとう」と言いました。みんなに囲まれた女の子はとっても嬉しそうに、けれどもちょっと恥ずかしそうに、それでもやっぱり嬉しそうに、にっこりと笑いました。






【 20個目のお話 】








72720個目のお話(2)2011/02/05(土) 02:36:53.30xDKSwQN20 (3/9)

 みんなが帰った後、お父さんは自分の部屋からとっても大きな箱を持ってくると、女の子に渡しました。
「お誕生日プレゼントだよ」
 お父さんがくれた箱は真っ赤な包装紙と緑のリボンできれいに飾りつけてありました。みんなのよりもずっと大きなプレゼントだったので、女の子は今日一番嬉しくなりました。
「ありがとう、おとうさん!」
 女の子はお父さんに大きな声でお礼を言いました。そして「あけてもいいの?」と聞きました。お父さんが頷くと、女の子は大喜びで箱を開けました。
 大きな箱の中には大きな本が入っていました。きれいな箱に入っていましたが、本はあんまりきれいじゃありませんでした。とっても大きくて、そして重たい本だったので、女の子一人では持ちあげられませんでした。
「このほんはなあに?」
 少女はお父さんに尋ねました。
「この本はな、お父さんのお友達が書いたたくさんのお話が載ってるんだ。みんなお前の誕生日を祝ってあげたいって書いてくれたんだよ」
 お父さんはにっこり笑ってそう答えました。女の子は、今度はあんまり嬉しそうじゃありませんでした。こんな古そうな本なんかよりも、かわいいお人形や新しいゲームの方が欲しかったからです。
 けれどもお父さんはそんなことなんかお見通しでした。
「お前は嬉しくないかもしれないと思う。でもちょっとだけでいいからお話を読んで欲しいんだ。お父さんのお願い、聞いてくれないかな?」
 そしてこういえば、女の子はこの本を読んでみてくれる。お父さんはそこまで分かっていました。

 なぜなら、女の子はお父さんが大好きだったからです。

 思った通り、女の子は「しょうがないなぁ」と口をとがらせながらも最初のページを開きました。どうやらお願いを聞いてくれたようでした。



  1つ目のお話は、なんだか寂しそうなお話でした。
 真っ黒な空と、冷たく降る雨の中を歩く孤独な旅人。感じる寒さに身を震わせながら、旅人はひたすら足を進めて行く。道中をゆく旅人の表情は悲しそうで、けれどもちょっとだけ嬉しそう。なぜならこの道には、今はない大切な一と残した、大事な思い出がいくつも存在しているから。そんな思い出を一つ一つ拾い集めながら、孤独な旅人は"雨"に打たれて歩いて行くのでした。


 つまらなそうな女の子はもういませんでした。1つ目のお話を読み終えた女の子は、すぐに次のページを開きました。お話はまだありました。


  2つ目のお話は、ちょっと羨ましいお話でした。
 同じ日に生を受けた2人の女の子。1人は頼りなさそうな、かわいい笑顔の女の子。もう1人は人前で素直になれない、ちょっと不器用な女の子。そんな2人に仲間たちが渡したものは、小さい箱と大きな箱。小さい箱はびっくり箱で、大きな箱も……びっくり箱!!驚いた顔を見て大声で笑う仲間たちに囲まれながら、2人は最高の"誕生日"をくれたことをみんなに感謝するのでした。


 2つ目のお話を読み終えた女の子は、彼女たちが自分と同じ誕生日であることに嬉しくなりながら次のページを開きました。お話はまだありました。


72820個目のお話(3)2011/02/05(土) 02:39:03.02xDKSwQN20 (4/9)



  3つ目のお話は、少しドキドキなお話でした。
 いつも一緒の2人の女の子。1人は元気百万倍で、1人はおっとりおしとやか。けれども元気な女の子があんまり元気だから、もう1人の女の子の恋の行方まで振り回しちゃって。自分の犯した小さく大きな罪に落ち込んでしまう元気な女の子。けれども実は、その恋の行方は始めからずっと変わってなんかいなかったのです。おしとやかな女の子のドキドキな恋模様に、元気な女の子は甘くて"あつい"ものを感じるのでした。


 3つ目のお話を読み終えた女の子は、ドキドキしながら次のページを開きました。お話はまだありました。


  4つ目のお話は、甘くて酸っぱいお話でした。
 小学生みたいな振る舞いの男の子と、小学生みたいに小さい女の子。男の子がいっつもふざけていたので、女の子はいっつもしっかりしていました。だから私の方が大人だと、女の子はずっと思っていました。しかし実は、男の子の方が心もずっと大人だったのです。男の子は素敵なお話を書きあげ、みんなを巻き込んで行きました。その主人公を演じた女の子は、この最高の"文化祭"を男の子の胸の中で何時までも覚えていようと思うのでした。


 4つ目のお話を読み終えた女の子は、顔を赤くしたまま次のページを開きました。お話はまだありました。


  5つ目のお話は、なんだか安心するお話でした。
 月日は流れて、みんなは大きくなっていく。お医者さん、弁護士さん、作家さんにお嫁さん。大きくなると、やっぱりいつも一緒にいることなんてできないけれど。それでもきちんと顔を見ると、実はみんな全然変わってなくて。今いるここは、やっぱり終わりなんかじゃなくて、まだ途中なんだ。みんなが一つになった"旅行"の思い出と共に、一人の女の子はそう思うのでした。


 5つ目のお話を読み終えた女の子は、笑い終わらないうちに次のページを開きました。お話はまだありました。


  6つ目のお話は、ちょっぴり悲しいお話でした。
 おしとやかで賢い女の子。寒い雪に凍える中で、1人の男の子に恋心を抱いてしまって。けれどもそれは叶わぬ恋。まるで悪魔のいたずらのように、2人の間に存在する越えられない壁。それでもその壁は2人の"絆"までは阻むことはできません。冷たい終わりと、暖かい始まりは、雪上で熱い戦いを繰り広げる"ウィンタースポーツ"のようでした。


 6つ目のお話を読み終えた女の子は、なんだか悲しい気持ちで次のページを開きました。お話はまだありました。


  7つ目のお話は、とっても怖いお話でした。
 小さいけれど、元気一杯な女の子。友達と一緒の旅行中、迷った道で見た変なもの。それを見たせいなのか、一緒の友達もみんな変。なぜなら女の子がいたのは、女の子とは違う人たちの暮らす、変な世界だったから。だけど自分の世界のお友達は、自分が変なことに気づかない。不思議な経験が永遠に続いてしまう、"ホラー"な世界の中で、女の子は眠りにつくのでした。


 7つ目のお話を読み終えた女の子は、お父さんとおトイレに行った後、次のページを開きました。お話はまだありました。


  8つ目のお話は、びっくりするお話でした。
 お店で働く4人の女の子。真面目に働く中で、どんなお店も大繁盛させてしまう伝説の人物の存在を耳にして。4人は少ない手がかりでその人を探していくけど、やっぱり見つからない。そんな中、たまたまお店に来たお客さんは4人全員のお友達。しかし、そのお友達が実は伝説の人物であって。4人が気づいたころ、お友達は"こなた"にはもういませんでした。


 8つ目のお話を読み終えた女の子は、もし自分の周りの誰かが伝説の人だったら、と考えながら次のページを開きました。お話はまだありました。


72920個目のお話(4)2011/02/05(土) 02:41:15.07xDKSwQN20 (5/9)



  9つ目のお話は、なんだか素敵なお話でした。
 いつも仲良しの3人の女の子。そのうちの一人には同い年の妹がいて。だけどそんな3人……4人に、もうすぐそこに別れの時が迫っていて。それでも4人はとっても仲がいいから、やっぱりみんな一緒にいたい。そんな中起きた大事件は、1人の女の子の大作戦。でもそのおかげで、"柊姉妹"と女の子たちはずっと一緒にいることができたのでした。


 9つ目のお話を読み終えた女の子は、仲良しのお友達の顔を思い浮かべながら次のページを開きました。お話はまだありました。


  10個目のお話は、心が暖かくなるお話でした。
 もうすぐ大人になる1匹の蝉。だけどずっと地面の中にいたせいで、空が怖くて外に出れなくて。おかげでずーっと地面の底。でもそこにやってきたのはもう大人になった自分のお友達。みんながあんまり楽しいって言うもんだから、1匹の蝉は空に飛び立ちました。そしてその時、自分が怖いと思っていたのは"失敗"だったんだな、と感じたのでした。


 10個目のお話を読み終えた女の子は、次のページを開きました。お話はもう半分ほどありました。


  11個目のお話は、とってもかわいらしいお話でした。
 眼鏡が似合う真面目な女の子。とっても真面目なので、お友達と遊ぶ時も大真面目。でもそのお友達が、喧嘩を始めちゃったからさあ大変。なんとか仲直りしてほしい女の子は、ここでも真面目に不真面目に。その様子があんまり可笑しかったので、お友達は仲直り。みんなそれぞれの笑顔の中で、真面目な"みゆき"も笑顔になるのでした。


 11個目のお話を読み終えた女の子は、一緒に笑顔になりながら次のページを開きました。お話はまだありました。


  12個目のお話は、ユーモア溢れるお話でした。
 いつも笑顔の女の子。どんな時でも笑顔でいて、周りもみんな笑顔になる。どうしていつも笑顔なの?お友達がそう聞いたから、女の子は昔を思い出す。それは1人の魔法使いが、女の子に魔法をかけてくれたから。魔法使いとのお話は、悲しいけれど、やっぱり可笑しいお話で。とっても面白かったので、いつまでも"笑い"が絶えることはありませんでした。


 12個目のお話を読み終えた女の子は、声を出して笑いながら、次のページを開きました。お話はまだありました。


  13個目のお話は、不思議な不思議なお話でした。
 いっつも無口な女の子。大好きな友達に会いたくて、たくさんたくさん歩いてく。それでもあと1歩という所で、お友達とはどうしても会えない。どうして会わせてくれないの?女の子は悲しそう。でも実は、本当の女の子はもう遠くの世界に行ってしまっていたから。あと1歩なんかじゃなかったから。やがて女の子が歩くのをやめても、"死亡フラグ"は有り続けるのでした。


 13個目のお話を読み終えた女の子は、ちょっとだけ悩んだ後、次のページを開きました。お話はまだありました。


  14個目のお話は、今度も不思議なお話でした。
 とても仲良しな2人の女の子。小さくて可愛い女の子と、大きくてカッコいい女の子。ある朝目が覚めると、入れ替わってしまっているもんだから。あなたが私で私があなた。2人しか知らない大事件は、やがてみんなを巻き込む大事件に。不思議な不思議な大事件。けれども"みなみとゆたか"の二人の関係は、変わることなんてありませんでした。


 14個目のお話を読み終えた女の子は、近くにあった鏡を見た後、次のページを開きました。お話はまだありました。



73020個目のお話(5)2011/02/05(土) 02:42:42.83xDKSwQN20 (6/9)



  15個目のお話は、ほんのり暖かいお話でした。
 夜空に上る、2つの光。1つはとってもしっかり者の、頼れる一番星。もう1つはいっつも遅れて出てくる、頼りないお星様。頼りないお星様は、いっつも一番星を追いかけて。喧嘩したって、どうなったって一番星に近づきたいから。やがて真っ黒な夜の空には、二つの"星"が仲良く寄り添って光っているのでした。


 15個目のお話を読み終えた女の子は、窓の外にあるお星様を眺めながら次のページを開きました。お話はまだありました。


  16個目のお話は少し難しいお話でした。
 ずっと子どものままでいることのできる人なんていない。みんなしっかり前を見て、次に見える景色を目にしていく。自分はずっと子どもでいることができると思ったけれど、気づけばみんなは大人になってる。開けない夜が無いように私だって大人になるんだ。だから私も前を見なくちゃ。その先にある"夢"を見続けるために、女の子は目を開くのでした。


 16個目のお話を読み終えた女の子は、ふんと声を漏らした後、次のページを開きました。お話はまだありました。


  17個目のお話は、悲しくて奇妙なお話でした。
 いっつも頼りない女の子。どじばっかりで見ていて不安なくらいに。大きな銀杏の木に導かれて、目を覚ましたら300年前の世界。そこで起こった大事件は、辛くて悲しくて、それでもどうしようもなくて。それでも健気に頑張る女の子。不意に流れ落ちた一滴の雫は銀杏の樹雨に混ざって"水"となり、川を下っていくのでした。


 17個目のお話を読み終えた女の子は、ハンカチで目の周りをこすりながら次のページを開きました。お話はまだありました。


  18個目のお話は、幸せそうなお話でした。
 仲のいい夫婦が住んでるお家は、なんだかちょっと広すぎる。どうしてこんなに広いんだろう?どうして私と二人なんだろう?広いお風呂の中で、お嫁さんは考える。その答えを知った時、一人の女の子を残して、お嫁さんは遠い世界にいってしまって。お家はちょっと広いけど、女の子は"二人"でいることをちょっと嬉しく思うのでした。


 18個目のお話を読み終えた女の子は、お父さんの方をちょっとだけ見てから次のページを開きました。お話はまだありました。


  19番目のお話は、不思議で素敵なお話でした。
 1人の女の子のお友達は、きっと誰よりも遠い所。それでも2人は仲良しだから、今日も仲良くおしゃべりをする。こちらは少しずつ暖かくなってきます。そちらの様子はどうですか?他愛もないおしゃべりは音ではなくて、光となって飛んでいく。お友達からのお返事も光となって返ってくる。おしゃべりを続ける女の子は、小さな"月"に手を振り続けるのでした。


 19番目のお話を読み終えた女の子は、次のページを開きました。お話は―――


「あれ?」


  もう、ありませんでした。


73120個目のお話(6)2011/02/05(土) 02:44:30.14xDKSwQN20 (7/9)



「おとうさん、おとうさん」
 何も書いてない真っ白のページを指さしながら、女の子はお父さんに尋ねました。
「ここ、まっしろだよ?ほんはおわってないけどおはなしがないよ?」
「そうだな。ここにはお話がないな」
 でもお父さんはそんなことわかっていたように、しみじみと答えました。
「このお話は全部、みんながお前にくれたものだ」
「うん」
「でもな、それだけじゃこの本は完成、とは言えない」
「そうなの?」
「そうだとも、だから……」
 お父さんは少し、黙りこみました。そして、ちょっとだけ時間をおいた後、ゆっくりと口を開きました。
「今度は、お前が物語の続きを書いて欲しいんだ。お前がこの本を完成させて欲しい。そして、今度はお父さんと……後、お母さんに、お話をプレゼントして欲しいんだ」
 お父さんは優しくそう言いました。優しくそう言ってから、ちょっとだけ鼻をすすりました。女の子の返事は、お父さんにはもうお見通しでした。




 なぜなら―――




 それから何年も、何年も時間が過ぎて行きました。女の子はどんどん大きくなっていきました。身体はあんまり変わっていませんでした
が、心はどんどん大人になっていきました。そして―――


73220個目のお話(7 Final)2011/02/05(土) 02:46:28.43xDKSwQN20 (8/9)

 

  5月28日。


 「―――。あいつももう18になったぞ。本当に早いもんだな」
 すっかりおじさんになったお父さんは小さな仏壇の前で、優しく語りかけていました。この日は女の子の18歳の誕生日。だけどお家には誰も遊びには来ていませんでした。元気で頼れるお姉ちゃんも、妹のような小さな女の子も、お家にはいませんでした。そして、18歳になった女の子もお家にはいませんでした。
 ふと。お父さんは仏壇の近くになんだか古くて、大きい箱を見つけました。お父さんは少しハッとして、それからふふんと微笑みました。箱の中身なんてお父さんにはお見通しでした。
 


 なぜなら―――なぜなら、女の子はお父さんが大好きだったからです。



 大きな箱を開けると、やっぱり。大きな本が入っていました。入っていた箱と同じように、あんまりきれいではありませんでした。大きい本ではあったけれど、持てないことはありませんでした。
 お父さんは、最初のページを開きました。お話を読み終えると次のページを開きました。どんどん、どんどん開きました。そして、19番目のお話を読み終えたお父さんは、次のページを開きました。




「…………まったく、こなたのやつめ」


  お父さんはちょっと嬉しそうに、けれどもちょっと恥ずかしそうに、それでもやっぱり嬉しそうに、にっこりと笑いました。






 お話は、まだありました。






FIN


73320個目のお話2011/02/05(土) 02:54:21.72xDKSwQN20 (9/9)

 
 一応、終了です。


 恥ずかしながら、コンクールお題募集時に「記念日」をあげさせていただいた者です。
嬉しいことにそれがお題として採用されましたので、「じゃあ何か俺もコンクールの記念になるものが書きたい!!」と思い、迷惑招致でこの作品を書かせていただきました。
 内容上、さすがにこれをコンクール候補としてあげるわけにはいかないので一応、宣伝も兼ねて(笑)……すいません。


 長々と、失礼致しました。最後まで見てくださった方、ありがとうございました。そしてコンクール参加を意気込んでいる方、ぜひ頑張ってください。たくさんの「記念日」作品が見れることを期待しています。


734VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/05(土) 08:20:54.98g9Bb8PNE0 (1/2)

>>733乙です。
コンクール歴代の大賞作品を盛り込んだ作品ですね。
これはコンクール終了後にまとめさせて頂きます。

それから>>733はコンクールに参加しないの?文面から察するにそう感じたのだが。
これだけ書けるなら参加した方がいいですよ。



7357332011/02/05(土) 11:37:10.89kFxsUpO70 (1/1)

>>734
ありがとうございます。
参加したいなと思っているのですが、その……ネタがまだまったく浮かんでないんですよねorz
 「記念日」というお題はこれに関する作品が見たくて提案したので、自分が書くとなった時のことを全く考えていませんでしたorz


736VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/05(土) 16:04:35.95g9Bb8PNE0 (2/2)

>>735
記念日と言うお題は意外と難しいと思う。何か特別な日だからその日を設定しないといけない。
最初に出すのか最後にだすのか。それとも起承転結の転で出すのか。やり方はいろいろあるだろうけどね。
そのお題で書けないのなら別のお題で書けばいい。
自分は『誤解』と踏んでいてそれで物語を考えていた。決まったのは『記念日』
でもうまく操作すると『誤解』が『記念日』になってしまいます。

そのお題に執着すると結構書けないのです。だから書きたい物語を思い浮かべてそこからお題へと導いていくのです。

なんて参考にもならない事を書いてしまいました。





737VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/05(土) 16:17:41.34ylQUTiVFo (1/1)

>>733
GJっした!
丁寧な作りでそれぞれの作品へのリスペクトを感じました。



738忘れてたよ…2011/02/05(土) 19:48:38.29MdCKkKwAO (1/1)


こう「悪いね、ひよりん。おつかい頼んじゃって」
ひより「いくらなんでもこの時期にオーメダル買ってこいは酷すぎっス!」
たまき「やさこの誕生日忘れてたひよりんが悪いんじゃん。お題が『記念日』なのに誕生日を無視するから」
みく「私が言わなきゃアンタも忘れてたろうけどね…で、なんでオーメダル買いにいかせたの」
こう「いや、誰もOOOネタやらないから一応やっとこうかなぁと」
みく「明日のパンツとか女の子が言ったらまずいよ…ってやさここのコンボは」
たまき「ほいじゃスキャンしよっか」
みく「ちょっ山さん」

\シャチ/ \ウナギ/ \タコ/

\シャシャsy(ryみく「本気のネタバレはやめなって!!!怒り過ぎ!!」


…本当に八坂こうの誕生日忘れてた…orz


7397332011/02/05(土) 23:39:33.69eqVygmvF0 (1/1)

>>736
おお、ものすごく丁寧なアドバイスをありがとうございます。
これを参考にもう少しネタを練らせていただきます。



740VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/06(日) 15:38:45.29ZyaYkH1C0 (1/2)

-----------------------------------------------------------------------------

ここまでまとめた

-----------------------------------------------------------------------------
『20個目のお話』はコンクール作品のカテゴリーの中にコンクール関連作品と新設しました。ご確認して良ければこのままにします。

>>739
アドバイスが役に立てばいいのですが。


741VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/06(日) 19:19:40.02ZyaYkH1C0 (2/2)




☆☆☆☆☆☆第二十回コンクール開催のおしらせ☆☆☆☆☆

日が変わるとコンクールの投稿期間となります。
ドシドシ投下お願いします。

投稿期間:2月7日(月)~ 2月20日(日)24:00

最終日は言い換えると21日(月)の0:00時となります。ご注意下さい。


742VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/07(月) 00:15:42.553Bj/c4Iq0 (1/4)

 日が変わったので、コンクール作品投下します。





743片方だけの銀婚式2011/02/07(月) 00:17:06.603Bj/c4Iq0 (2/4)

 とある墓地。
 泉そうじろうは、小さな墓石の前にたたずんでいた。
 墓石には「泉かなた」と刻まれている。
「思えば、ずいぶんと時がすぎてしまったな……」
 あのときからずっと時が止まってしまった妻と、すっかり歳をとってしまった自分。
 変わらないものと変わってしまったもの。いろいろとある。


「せっかくの銀婚式だってのに、一人なんて寂しいね、兄さん」


 唐突に聞こえてきた声に振り向くと、そこには、
「ゆき……。なんでここに?」
 小早川ゆきが立っていた。
「銀婚式ぐらい、祝ってあげようと思ったのさ。うちじゃ、毎年結婚記念日は、ゆいやゆたかが盛大に祝ってくれるよ」
 小早川家ならばそうだろう。
 でも、泉家の場合は……。
「うちは、そういうもんでもないからな」
「こなたちゃんは、今日が兄さんとかなた義姉さんの結婚記念日だって知らないのかね?」
「ああ。訊いてこないから、話してもいない」
「それもまた、こなたちゃんの優しさかもしれないけどさ」
 ゆきは、墓の前までくると、
「かなた義姉さん、銀婚式おめでとう! あのときはいろいろとあったよね」
「そうだな。ゆきにはいろいろと世話になった」
「たいしたことはしてないけどね」
 そうじろうとかなたの結婚と埼玉県移住は、両方の親の反対にあって、駆け落ちも同然だった。
 当時は、ゆきにいろいろと世話になったものだ。
「でも、どうしてなんだ? うちの親だって反対してたのに……」
 そうじろうは、長年の疑問だったことを、口に出した。
 そのせいで、そうじろうやかなただけでなく、ゆきも、石川県の親戚一同との関係が致命的に悪化してしまったのだから。
「兄さんだけだったら、絶対に応援しなかったけどね。まっ、かなた義姉さんの熱意にほだされちゃった、ってところかな」


744片方だけの銀婚式2011/02/07(月) 00:18:33.323Bj/c4Iq0 (3/4)



 意外かもしれないが、二人での埼玉県移住に積極的だったのは、かなたの方だった。
 通信手段が貧弱だった当時、作家として名を上げるには、出版社が集中する首都圏に住むのが最低条件だった。だから、埼玉県に移住を試みたのは、そうじろうとしては当然の選択であった。
 ただ、そうじろうは、作家として充分な収入を得られるようになってから、かなたを呼び寄せて結婚しようと思っていたのだ。
 そうであったなら、親たちもあんなに反対はしなかっただろう。


「あのときのかなたは、すごく強引だったな。まるで、いつもと立場が逆になったような気分だった」
「かなた義姉さんは、優しい人だからね。兄さんを一人で送り出すのが心配だったんだよ」
「俺はそんなに頼りなく見えたかな?」
「駆け出しの作家なんて貧乏の代名詞でしょ。そんな貧乏暮らしで一人で無茶すれば、体も壊しただろうし。私は、かなた義姉さんが一緒に来てよかったと思うね」
「そうだな……」


 それは確かにそうなのだろう。
 かなたに感謝すべきことは、数え上げればきりがない。
 だからこそ、家を買い、こなたも生まれて、さあこれからだというときに、あんなことになってしまったのは……。
 生きてさえいれば、まだまだ幸せにしてやれる自信はいくらでもあったのに。


「夫婦水入らずを邪魔するのも悪いから、私はこれで退散するよ」
 ゆきは、そういって手を振ると、その場から立ち去っていった。


 そうじろうは、再び妻の墓石と向かい合った。
 二十五回目の結婚記念日。かなたに語りたいこと、語るべきことは、いくらでもある。
「なあ、かなた……」



745VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/07(月) 00:19:44.123Bj/c4Iq0 (4/4)

以上です。



746VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/07(月) 00:33:37.66ji4ReEcK0 (1/2)

片方だけの銀婚式
一番目エントリーしました。

ちなみにコメントフォームはコンクール終了後つけます。


747VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/07(月) 00:54:29.34ZqLmmIVX0 (1/1)

>>745
乙でした!!
オーソドックスに「結婚記念日」のSSですね。
よかったと思いますb


748VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/07(月) 20:03:19.63MGzPIWTSO (1/1)

-お小遣-

ゆたか「んー…」
こなた「おや、ゆーちゃん。何か悩み事かい?」
ゆたか「あ、うん。たいしたことじゃないんだけど、今月のお小遣がピンチで…」
こなた「ほほー、なにか無駄遣いでもしたかい?」
ゆたか「無駄遣いじゃないよー。みなみちゃんちに行く電車代だよー」
こなた「………」


こなた「お父さん…ちょっとゆーちゃんの事でお話が…」
そうじろう「あー、もしかして電車賃の…」
こなた「お父さんも聞いてたんだ」
そうじろう「うむ。んで、それくらい出そうかって言ったら『そういった分も含めてのお小遣ですから』って断られたよ」
こなた「…ゆーちゃん、無駄にいい子だね…」


こなた「…あー、もしもしみなみちゃん?ゆーちゃんと遊ぶ時にさ、うちに来てくれる回数を増やしてくれると嬉しいんだけど…」
みなみ『…わたしもその提案はしてみましたが、わたしがみなみちゃんの家に行きたいから、と断られまして…』
こなた「…ゆーちゃん…なんでそんな無駄に頑固…」



749VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/07(月) 21:54:47.32ji4ReEcK0 (2/2)

-----------------------------------------------------------------------------

ここまでまとめた

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750VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 01:15:53.66faX4+pVM0 (1/2)

質問です。まとめサイトのトップページ編集で
打ち消し斜線をを文字の上に書きたいのですがどうすればいいですか?

投稿期間が終わったら期間の文字に入れたいのです。


751VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 20:27:04.12uwxnclF6o (1/1)

HTMLタグ 打ち消し斜線 でググればいいだけのような


752VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 21:00:03.9740uAdXiyo (1/1)

>>750
1,消したい文章を範囲選択
2,編集フォーム上部のABCに打ち消し線が入ってるのをクリック


753VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/09(水) 21:57:24.86faX4+pVM0 (2/2)

>>751-252
>>750です。どうもです。エディターを高機能版にすればできますね。


754VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/11(金) 04:07:02.77q4HBFV9AO (1/1)

まだコンクール作品は一つか

とりあえず書いてるけどほのぼのエンドかヤンデレエンドか迷い中


755VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/11(金) 09:49:43.33tlb5KJRx0 (1/2)

コンクール作品はもう書き終わった。誤字脱字が多いとよく指摘されるので今回はそれを念入りに。

いつもコンクール投下は最終日に集中する傾向がある。エントリー漏れ作品が良く出ます。
今回は何も言わなかったけど今度からは投下時間が期限内であれOKにしてもいいと思ってるけど甘いかしら?


756VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/11(金) 09:59:24.279IWAYfOHo (1/1)

期間内に投下完了するのが一応ルールだからねぇ
そのための避難所だし


757VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/11(金) 13:29:49.04dTTXXCnSO (1/1)

-なんの日-

こなた「おはよー。今日も寒いねー」
ゆたか「おはよう、お姉ちゃん。やっと起きたんだ」
こなた「いいじゃん、祝日なんだし」
ゆたか「そういえば、今日はなんの日か知ってる?」
こなた「建国記念の日でしょ?それくらいは知ってるよ」
ゆたか「うん。それとニートの日でもあるんだって」
こなた「休日満喫してるだけでニート!?」
そうじろう「…ゆーちゃん、ニットの日だよ。しかもそれ昨日だし…」


758VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/11(金) 19:25:13.94tlb5KJRx0 (2/2)

>>757
乙です。2/10はなぜか『左利き』の日でもあるらしい。
らきすたのキャラの日だなw


759VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/12(土) 09:17:32.51F7ebqHGf0 (1/26)

やっぱり『記念日』は難しいお題かもしれない。
普通なら3~4作くらいは投下されているよね。

それではコンクール作品を投下します。21レスくらい使用します。


760遺書  12011/02/12(土) 09:19:14.01F7ebqHGf0 (2/26)

 七月六日、
かがみは引き出しから紙と筆記用具を取り出した。
かがみは自分の部屋で遺書を書こうとしていた。二十歳の誕生日前日になんて自殺でもするのだろうか。それは違う。
かがみは死ぬ為でも死期が近いわけでもない。なぜかがみは遺書を書くことになったのか。
それは一年以上遡らなければならない。


『遺書』


かがみはつかさの部屋に入ろうとしていた。
かがみ「つかさ」
しかし返事はなかった。
かがみ「入るわよ」
かがみはつかさが出かけているのをかがみは知らない。かがみは貸した本を返しにもらう為につかさの部屋に入った。
(おかしいわね、今日は出かけるって言ってなかったのに)
かがみが部屋を出ようとした時だった。ふとつかさの机の上を見た。手紙が置いてある。何気なく手紙を手にとって見た。つかさの字で書いてあった。

『お父さん、お母さん、いままで育ててくれてありがとう。先立つ親不孝を許してください』
手紙はこんな件で始まっていた。

(うそ、これって遺書じゃない、なぜつかさが遺書なんか)
かがみは手紙を読み続けた。両親への感謝の言葉が綴られている。いのり、まつりにも同じように書いてあった。こなたやみゆきをはじめとする親友にも
お別れの挨拶があった。
しかし手紙の中にかがみの名前は一回も載っていなかった。
かがみは動揺した。それはつかさが遺書を書いていた事ではない、かがみに対する言葉が全くなかった事に動揺したのだ。
つかさが遺書を書いた原因が自分なのかもしれないと思った。かがみは過去を振り返り思い当たる節を考えた。
子供の頃からずっと一緒にいた双子の妹。高校まで一緒の学校。他の兄弟姉妹と比べても仲の良さは誇れると言って良いと自負をしている。
最近になっても態度を変えた覚えはない。つかさもかがみに対して何か変わった行動もしていない。まったく身に覚えがない。
つかさ「ただいま」
玄関の方からつかさの声が聞こえた。かがみは慌てて手紙をつかさの机の上に戻し、素早くつかさの部屋から出て自分の部屋に入った。
慌てて戻る必要なんかなかった。普段なら部屋にかがみが居てもおそらくつかさは不振とは思わないだろう。でも今回は様子が違う。
かがみは自分の部屋でつかさの様子を見守った。


761遺書  22011/02/12(土) 09:21:41.28F7ebqHGf0 (3/26)

つかさはそのまま自分の部屋に入った。しかし一分もしない内につかさは部屋を出た。そして鏡の部屋をノックした。かがみは遺書を読んだのが分かってしまったのかと思った。
かがみ「居るわよ」
つかさは扉を開けた。
かがみ「おかえり、今日は何処に行ってたのよ、何も聞いてなかった」
つかさ「今日はこなちゃんとお買い物、って言ってなかったっけ?」
そういえばそんな事をいっていたような気がした。
かがみ「そうだったわね、忘れてたわ」
つかさ「そうだ、お姉ちゃんに返さなきゃいけないのが在ったんだったよね」
つかさは本をかがみに渡した。その本は返して欲しかった本だった。
かがみ「返すって、もう読んだの?」
つかさ「うんん、私にはちょっと難しいから」
つかさはそのまま部屋を出ようとした。
かがみ「ちょっと待って」
つかさ「?」
つかさは無言で立ち止まりかがみの顔を見た。
かがみ「いや、何でもない」
つかさは不思議そうに首を傾げてそのまま部屋を出て行った。
聞けなかった。遺書を何故書いたのか。そしてその文の中にかがみの名前が出ていないのか。答えを聞くのが怖かった。
何故黙って勝手に人の手紙を読んだのかと怒るに違いない。なにより『お姉ちゃんに別れの言葉なんかないよ』と言われるのが何より辛い。

 家族での夕食。食後の会話。普段どおりのつかさだった。かがみを避けるそぶりを見せない。演技なのだろうか。かがみの知っているつかさならそんな演技なんかできない。
つかさの遺書が頭から離れない。遺書を読まなければつかさは今までどおりのつかさと変わりはない。かがみはただ困惑をするだけだった。


762遺書  32011/02/12(土) 09:23:37.83F7ebqHGf0 (4/26)

 
 次の日の朝、かがみはいつもの時間に起きて洗面所に向かった。しかし珍しくその日はつかさが先に洗面所に居た。かがみは朝の挨拶をしようとした。しかしつかさの様子がおかしい。
つかさ「う、うえー」
気分が悪いのか戻しているようだった。かがみはつかさの背中をさすってあげた。
その時、かがみは何かピンと来るものを感じた。まさか。しかしこれが本当だったら大変な事態だ。
かがみ「つかさ、あんた最後に生理があったのはいつよ」
朝から聞くような話ではない。でもあえて聞いた。つかさはしばらく何も言わなかった。
つかさ「最近、ないかな」
かがみ「ちょ、つかさ、その意味分かってるんでしょうね」
かがみはつかさの肩を両手で掴んで問い質した。
つかさ「分かるって何が?」
キョトンとしているつかさを見てかがみは言わざるを得なかった。
かがみ「つかさの意思でそうなったのなら私は何も言わないわ、でもね、無理やり犯されたのなら病院に行かないと、性病も心配だわ」
真剣な眼で言うかがみにつかさもその意味が分かったようだった。
つかさ「お姉ちゃんには関係ない事だよ」
一言だった。そう言ってつかさはかがみの両手を跳ね除けると洗面器で口を洗い始めた。
かがみ「関係ないって、私は家族じゃない、姉妹じゃないの、そんな大事な事黙っているなんて、私じゃ相談相手にならないって言うの?」
つかさは黙ったまま口をタオルで拭った。
つかさ「学校に行かないと、それから今日は用事があって遅くなるからこなちゃんと会えないって言っておいて」
つかさは洗面所を出て行ってしまった。
かがみ「ちょっと待ちなさい」
つかさは身支度をしてそのまま家を出てしまった。話が唐突すぎたか。それにしてもあんな態度をとるつかさは初めてだった。
高校を卒業してからめっきりと一緒に出歩く機会がなくなった。それは確かだ。しかし環境が変わったとはいえこなたやみゆきと
毎週のように会っている。後輩のひよりやみなみ達ともそうだ。最近に至ってはみさおやあやのとも会っているようだ。そういう意味ではつかさは高校時代よりも社交的になった。
これもあの遺書と関係しているのだろうか。それに昨日の遺書を知らなければ戻しただけで妊娠したなんて思わなかっただろう。うだうだ考えてもしょうがない。
かがみも身支度をして大学に向かった。




763遺書  42011/02/12(土) 09:25:17.37F7ebqHGf0 (5/26)

 
 夕方。かがみはいつもの喫茶店でこなたを待っていた。
「こちらです」
こなた「やふー、かがみ」
ウエイトレスに案内されてこなたがやってきた。
みゆき「こんにちは」
かがみ「みゆきじゃない、今日は会う約束はしてなかったのにどうしたのよ」
こなた「駅でバッタリ遇っちゃってね」
みゆき「せっかくなのでご一緒させてもらいました」
こなたは店の周りをきょろきょろと見回した。
こなた「あれ、つかさはどうしたの、トイレ?」
かがみの脳裏に今朝の出来事が思い出された。この場はつかさの言うように伝えるしかないだろう
かがみ「今日は急用で来れないってさ」
こなた「へぇー、珍しいね、私達以外に誰か会う人でもいるのかな」
かがみ「さあね、それより早く座って」
こなた「って、かがみもうケーキなんか頼んじゃって、少なくとも私が来るまで待ってもらいたかったよ」
かがみ「どっちにしても遅刻よ、みゆきが来るならメール入れてくれれば待ってあげたわよ」
こなたとみゆきが席に着いた。二人はスィーツとコーヒーを頼んだ。こなたがいつのものように話を引っ張っていく。
これにつかさが加われば久しぶりに四人揃うはずだった。楽しい会話が弾んだがつかさが気になって会話に集中できない。
みゆき「かがみさん、先ほどからどうしたのですか、気分でも悪いのでしょうか?」
みゆきがかがみの異変に気づいた。
こなた「そうだよ、さっきから突っ込みが弱いよ、いつものかがみらしくない、気分が悪いなら早めに切り上げようか」
かがみ「ちがう、別に気分が悪いわけじゃない」
二人の目線がかがみに集中した。かがみは悩んだ。打ち明けるべきなのだろうか。
かがみ「こなた、みゆき、遺書なんて書いたことある?」
こなた・みゆき「遺書?」
こなたとみゆきは顔を見合わせて首を傾げた。
みゆき「遺書ですか、いきなり過ぎて話が見えませんが」
かがみは思い切って今までの事を話した。

こなた「ふふ、はは、わはははははー」
みゆき「ふふふ……」
二人は同時に笑い出した。
かがみ「二人とも笑うなんて、こっちはこれでも真剣なんだぞ」
こなた「はは、だってかがみ、朝っぱらからそんな話したらつかさじゃなくても同じ態度を取ると思うよ、早とちりだな~」
笑いながら話すこなた。言われたとおりだ。確かにそうだったかもしれない。
かがみ「でも、遺書はどうなのよ、あれはどう説明すればいいのよ」
みゆき「遺書は私たちも書いていますよ」
かがみ「書いているって、こなたも書いたのか、どうして、書く理由が分からん」
驚き眼で二人を見るかがみ。みゆきはコーヒーを一口飲むとゆっくりと話し始めた。
みゆき「高校三年の時、私達のクラスでホームルームの時間を使って書きました、黒井先生の提案でしたね」
笑っていたこなたは笑いを止めた。
こなた「そうそう、卒業間近だったね、黒井先生が『自分が亡くなった時、大事な人に一言のこすもの』ってね、二十歳になる前に家族くらいには一言くらい残せって」
みゆき「そんな事をしたのはおそらく私達のクラスだけでしょう、今思えば大切な事だったのかもしれません」
かがみ「それじゃ、つかさの遺書も?」
こなた「その時書いたものだよ、つかさはいろいろ書きすぎるから肝心なかがみに一言書くのを忘れたんだよ」
かがみ「ふふ、ははは、そんな事だったの、はははは、なにマジになってたんだろ、私、はははは」
かがみは笑った。すっかりこれで謎が解けた。やっぱりつかさはつかさだった。帰ったら今朝のした事を謝れば良い。肩の荷が下りた気分だった。




764遺書  52011/02/12(土) 09:26:48.68F7ebqHGf0 (6/26)

 
 すっかり話し込んで遅くなってしまった。喫茶店を出るとかがみ達は駅で別れた。
みゆき「待ってください」
別れたはずのみゆきがかがみを呼び止めた。こなたはもう電車に乗ってしまったようだ。かがみは振り向いた。
みゆき「さきほどは笑ってしまってすみませんでした」
かがみ「別に気にしなくていいわよ、それより黒井先生も粋なことをするわね」
みゆきの顔が曇った。かがみもすぐにそれに気づいた。
みゆき「実は、つかささんの事でお話が、気になる点がありまして」
かがみ「どうしたのよ」
みゆき「かがみさんのお話ですと今朝のつかささんはかがみさんの話を否定しませんでしたね、つかささんが妊娠していないにしても何かを隠していると思うのですが考えすぎでしょうか」
かがみ「考えすぎよ、つかさは隠し事が苦手、それは私が一番知っている、きっと私の言い方が悪かったから怒っただけ、それは私も認識しているから大丈夫よ、ちゃんと謝るわ」
そんなかがみの言葉にみゆきはかがみに微笑みかけた。
みゆき「やはり考え過ぎのようでした、私はかがみさん、つかささんが羨ましい、お互いに姉妹であり親友でもある、そんな関係を生まれた時から……」
かがみ「そんな大げさなもんじゃないわ、普通の姉妹よ、あっ!電車が着たみたい、またね」
手を上げて去ろうとするかがみ。
みゆき「その普通が一番ですね、また会いましょう」
みゆきも手を上げた。

 帰り道、かがみは考えていた。つかさの書いた遺書。読んだだけであれだけ動揺してしまうなんて。洗面所で戻していただけで妊娠を疑ってしまった。確かにこなたの言うように
早とちりだ。遺書なんて死期を予感した時に書くものとばかり思っていた。それがかがみをここまで動揺させたのだった。
自分が死ぬ時、大切な人に一言。大切な人。家族、親友、恋人。いったいどんな言葉をかけるのか。死に際に誰かに何かを言うような気力が残っているとは限らない。
だからこそ今のうちに遺書を書いておく。
(さすが一番の優等生みゆきと一番の劣等生こなたの担任だけのことはあるわね)
心の中でそう呟いた。そして改めてつかさと同じクラスになりたかった感情が今頃になって激しく湧いてきてしまった。もう過ぎてしまった事なのに。




765遺書  62011/02/12(土) 09:28:16.26F7ebqHGf0 (7/26)


かがみ「ただいま」
家に帰るとみきが玄関まで来ていた。
みき「おかえり、遅かったわね、遅くなるときはメールしなさいって言ってるでしょ」
かがみ「あ、すっかり忘れてた」
みき「まったく、その様子だと夕食も要らないみたいね」
すこし怒り気味だった。しかし無事に帰ってきた安堵感が取って伺える。
かがみ「つかさは?」
みき「部屋に居るわよ」
かがみはつかさの部屋に向かった。そしてノックをする。
かがみ「入るわよ」
つかさはベッドを背もたれにして座っていた。
つかさ「入って良いって言ってないよ」
かがみを見るなりいきなりだった。思った通り怒っていた。かがみはつかさを刺激しないように話しかけた。
かがみ「今朝の発言は私の間違いだった、それを言いに来たのよ、ごめんなさい」
つかさ「お姉ちゃんって私を淫らな女って思ってたんだね」
つかさは透かさず言い返した。かがみは驚いた。しかもこんな皮肉を言われるとは思わなかった。
かがみ「そんなのは思っていないわ、ちょっと動揺しちゃって、本当よ」
つかさはかがみを睨み付けた。
つかさ「うそ」
かがみ「嘘じゃない、昨日、つかさの遺書をみてしまったから……はっ!!」
言うつもりは無かった。嘘と言われて弁解するつもりが思わず言ってしまった。つかさは立ち上がり机の引き出しから手紙を取り出した。
つかさ「見ちゃったんだ……」
かがみ「いや、その……」
言い訳が余計にかがみを苦しめる結果となった。
つかさ「泥棒みたいに黙って人の部屋に入って、勝手に読むなんて最低だよ」
かがみ「それは本を返してもらいたかったら入っただけよ、それに遺書も高校時代に黒井先生の提案で書いたものでしょ、隠す必要ないじゃない、こなたやみゆきは読んだんでしょ?」
つかさ「どうしてそれを」
かがみ「今日、こなたとみゆきから聞いたのよ、こなたとみゆきもつかさが来なくてがっかりしてたわよ」
つかさの顔が一瞬悲しい顔になったがすぐに怒った顔に戻った。
つかさ「そんなので誤魔化されないよ、お姉ちゃんのバカ!!」
(いいかげんにしろ!!)
つかさに向かって怒鳴ろうとした時だった。みゆきの言葉を思い出した。そう。何かおかしい。確かに目は本気になって怒っている。しかしつかさの言葉に感情が入っていない。
演技をしているようにも見える。わざとかがみを怒らせている感じがした。みゆきの言うように何かを隠しているのかもしれない。ここで問い質してもおそらく話さないだろう。
それならこの場は、つかさの挑発に乗っているように演技して様子を見るしかない。
かがみ「そんなに読まれたくなかったのか、そうだよね、私の事なんて何にも書いていない、つかさだって私をその程度にしか思ってないようね」
つかさの目が急に潤み始めた。つかさもその次に何かを言うつもりだったのか口がパクパクと動いているが言葉になっていない。そのうちにつかさの目からポロポロと涙が出てきた。
つかさ「……で…出て行って」
かがみ「なによ、つかさから言ってきたのよ」
つかさ「いいから、出てって言ってるでしょ!!」
両手を握り拳にして力いっぱいに怒鳴った。これは本気だ。かがみはつかさを本気に怒らせてしまったようだ。さすがこれ以上部屋にいるのはまずい。かがみは部屋を出た。
しかし危なかった。みゆきの助言がなければかがみは感情を露にしてつかさと喧嘩をしていたに違いない。いや、つかさはそれを望んでいたのかもしれない。
自分の部屋に戻ったかがみは考えた。つかさは何を隠しているのか。しかしいくら考えても答えは出なかった。




766遺書  72011/02/12(土) 09:29:50.63F7ebqHGf0 (8/26)


 一夜明けた。
顔を洗いに洗面所に向かおうと部屋の扉を開けるとちょうどつかさも部屋から出てきた。
かがみ「おはようつかさ」
つかさは何事も無かったように通り過ぎようとした。
かがみ「おはよう、つかさ」
もう一度かがみは挨拶をした。つかさは立ち止まった。しかし何の返事もしない。
かがみ「昨日は悪かったわね、一昨日の件も合わせて謝るわ、それでも私を許さない?」
つかさはただ立っているだけだった。
かがみ「つかさを妊娠したと間違えたのが悪かったのか、黙って遺書を読んだのが悪かったのか、その遺書を貶したのが悪かったのか、その全てが許せないのか、
    それとも私を嫌いになったのか、私には分からない、せめて理由を聞かせて、私が嫌いになったと言うなら家を出てもいいと思ってる、丁度一人暮らしもいいと思っていた」
つかさはそのまま階段を下りようとした。かがみは煮え切らないつかさの態度に痺れを切らせた。
かがみ「つかさ、あんた私に何を隠そうとしているの」
つかさの体が大きくビクついた。そして振り向いてかがみを見た。
かがみ「やっぱり、隠している物が私にとって都合の悪いものでないのを祈るばかりね」
かがみはそのまま階段を下りた。つかさは下りて来ない。そこにいのりが居間から出てきた。
かがみ「おはよういのり姉さん」
いのり「おはよう、今日は遅いね、間に合うの?」
かがみ「今日の講義じゃ午後から」
いのり「それなら問題ないね、つかさは?」
つかさが階段を下りてきた。つかさはもう出かける準備ができている。無言のまま家を出てしまった。かがみはため息をついた。
いのり「つかさ……」
かがみ「いのり姉さん、つかさを見ていたけど」
いのりはつかさを何時になく見つめているように見えた。
いのり「いやね、昨日、かがみがつかさの部屋で何か言い合っていたけど喧嘩でもした?」
かがみ「喧嘩の方がまだましだわ、つかさが何を考えているのか分からん」
いのり「そう……」




767遺書  82011/02/12(土) 09:31:13.58F7ebqHGf0 (9/26)

 一週間が過ぎた。

かがみ「つかさから誕生日プレゼントだって?」
こなた「かがみー、まさか昨日が私の誕生日だって忘れたの?」
かがみ「いや、忘れていたわけじゃない、だけど高校を卒業したら止めようって皆で約束したじゃない」
日曜日の午後、かがみはこなたと会っていた。久々にこなたの家を訪れていた。
こなた「そうだよね、私はもう十九歳、二ヶ月後にはかがみとつかさだって十九歳だよ、昨日つかさが突然私の家に来てさ、プレゼントだって置いていったんだよ」
かがみ「つかさに何か変わった所とかなかった?」
この一週間つかさはかがみを無視し続けていた。こなたを訪れたのはつかさについて聞くためだった。
こなた「変わったって、別に、つかさはつかさだよ、一時間くらい家でお話して帰ったよ」
かがみ「そう……」
こなたなら何か知っていそうな気がしたが期待はずれだった。土曜日はみゆきと会ったが結果は同じだった。
こなた「つかさは約束を二十歳だと勘違いしてたんじゃないの、なんでもこれが最後のプレゼントなんて言ってたし」
かがみ「つかさならあり得るわね」
こなた「あっ、ごめん、ちょっと待って」
こなたは慌てて居間を出て行った。数分すると戻ってきた。
こなた「ごめん、ごめん話の続きしようか」
かがみ「何か急ぎの用事でもあったのか?」
こなた「いや、ゆーちゃんが熱をだしちゃってね、様子を見に……」
かがみ「バカ!そう言うのは早く言いなさいよ、ごめん邪魔したわね、また今度にしましょ」
かがみは帰る準備をした。
こなた「悪いね、つかさにありがとうって言って、約束はしたけど、やっぱりプレゼントは貰うと嬉しいものだよね」
かがみ「そんな事言っても私はしないわよ」
こなた「ケチ!」




768遺書  92011/02/12(土) 09:33:01.27F7ebqHGf0 (10/26)


 お昼を少し過ぎた時間、予定よりだいぶ早い帰宅になった。かがみが家に着くと話し声が聞こえた。庭の方角からだ。かがみは裏庭の方に向かった。
つかさといのりが庭で何かを話している。かがみは気づかれないように近づいた。
いのり「いつまで黙っているつもりなの、もう知らないのはかがみだけ、つかさが自分で話すって言うから今まで黙っていたけど、あれじゃ話す状態じゃない
    あのままだとかがみは本当に家をでてしまう」
かがみだけが知らない。どう言う事なのだろうか、かがみはつかさを見た。俯いて悲しい顔をしている。
いのり「かがみが帰ってきたら私から話す、これでいいよね」
つかさ「ダメ、言っちゃダメ、絶対に、言ったら一生いのりお姉ちゃんを恨むよ」
必死にいのりを止めている。つかさが隠している事実がこれで分かるかもしれない。かがみは建物の陰に隠れて更に近づいた。
いのり「黙ってても何れ分かってしまうよ、この前だって薬の副作用苦しそうだったじゃない」
つかさ「そうだね、それでお姉ちゃん、私が悪阻だと思ったんだね」
いのり「その薬が効かなかったら、もう……骨髄移植しか助かる道はない、そうなったらかがみしか頼れない、それなのに何故、自分からかがみに嫌われるような真似なんか」
つかさは薬を飲んでいる。そして骨髄移植。かがみはこれを必要とする病気を知っている。つかさは白血病だ。
つかさ「私は、お姉ちゃんに助けてもらう資格なんかないから」
いのり「また同じ事言って、資格って何?」
つかさは黙ってしまった。
いのり「私がかがみだったらどんな理由があってもつかさを助ける、かがみだって同じだよ」
その通りだ。かがみはいのりに思わず相槌をした。
つかさ「うんん、お姉ちゃんの気持ちは関係ないの、このまま私を嫌いになってくれた方がいいよ」
いのり「なぜ」
つかさ「私が死んでも悲しまなくてすむから」
かがみの目が潤んだ。この場に居られないくらいだった。あの程度でかがみがつかさを嫌いになるはずもない。それどころか余計につかさを亡くしたくない。死なせたくない。
いのり「ばか!!つかさは私の、いや、お父さん、お母さん、まつりの気持ちはどうでも良いって言うの、私たちはもう知ってしまった、もう忘れることすらできない」
いのりの目にも涙が溜まっている。つかさがそれに気づいた。
つかさ「ごめんなさい、ほんとうは皆もお姉ちゃんと同じようにするはずだったけど無理だった」
いのり「友達には話したの、よく遊びに来た子がいるでしょ」
つかさ「話してない、でも、遺書も書いたし、それに私の病気は不治の病じゃないんでしょ、だから、話さない」
いのりは何も話さず黙ってしまった。
つかさ「話が終わりなら夕食の買い物行って来るよ」
いのり「部屋で休んでなさない、私が行く」
つかさ「大丈夫だよ、今日はとっても調子がいいの」
つかさは家の中に入っていった。いのりもかがみもその場に立ったまま動かなかった。




769遺書  102011/02/12(土) 09:35:23.77F7ebqHGf0 (11/26)


 表の玄関の扉が閉まる音が聞こえた。つかさが出かけたのが分かった。かがみは我に返り涙を拭った。そして表に回った。
かがみ「ただいま」
少し時間が経ってからいのりがやってきた。
いのり「おかえり、かがみ早いね、帰りは夜になるんじゃなかったの」
つかさは家にいない。聞くなら今しかないだろう。
かがみ「そう、そのはずだった、そのおかげかしら、裏庭でつかさといのり姉さんの会話を聞くことができた」
いのりは驚き一歩後退した。
いのり「ま、まさか、さっきの会話聞いてしまった?」
かがみ「聞いたわよ、それでもまだ解せない事がある、話して」
いのり「い、いや、それは……」
いのりは動揺を隠せなかった。
かがみ「安心して、つかさには私はまだ何も知らないように振舞うから、いのり姉さんだってつかさに一生恨まれたくないでしょ」
いのり「つかさが病気なんて夢であって欲しい……こんな事って、かがみ……ううぅ、かがみ」
いのりはまた泣き始めてしまった。かがみも泣きたかったがぐっと堪えた。
かがみ「早くしないとつかさが帰ってくるじゃない」
いのり「そうね」

 いのりは当時を思い出しながら話した。
いのり「発病したのは三ヶ月前、その日かがみは大学の行事で留守だった、食事中にいきなり倒れちゃってね、救急車で病院に搬送、その場で緊急入院のはずだった」
かがみ「はずだった?」
いのり「つかさの希望で自宅療養になった、なんでも皆と一緒に居たいって、薬で今の所落ち着いているけど悪化したら入院して骨髄移植を受けないと助からない」
かがみ「骨髄移植って血液型が合わないとできないんじゃ?」
いのり「そう、殆ど一致しないとできない、家族でも出来ない場合があるみたいね、柊家は調べたけど私を含めて全滅ね」
かがみ「……私、私が居るわ、双子なら問題ない、そうでしょ」
いのり「一卵性の双子ならね、あんたたちは二卵性、一緒に生まれただけで普通の姉妹と同じ、調べてみないと分からない」
かがみとつかさ、一緒に生まれただけで普通の姉妹と変わらない。しかもつかさを助けられないかもしれない。厳しい現実を突きつけられた。
かがみ「つかさの病気は分かった、もう一つ、つかさがあれだけ私を避けているのは病気だけの理由じゃないと思うけど知ってる?」
いのり「かがみが悲しまなくて良いって言っていたけど、それ以外知らない」
もしそれが理由ならこなたにやみゆき、その他の友人にも同じ事をするだろう。現にこなたは誕生プレゼントを貰っている。つかさがますます分からなくなった。
かがみ「……それじゃ私は喫茶店でも行って時間を潰してくるわ、夕食の時間ころ戻ってくる、これならつかさにも怪しまれない」
いのり「そこまでしなくても」
かがみ「つかさは必死になっている、私たちには理解できなくてもそれは伝わってくる、好きなようにさせてあげよう、それでつかさの気が済むなら」
いのりは頷いた。

 普段入ることの無いお店。そこでかがみは時間を潰した。いつもの喫茶店だとつかさが来る可能性があったからだ。
そこでコーヒーを一杯。一人なら本でも読んでいるがそんな気にはなれなかった。コーヒーを飲むたびにため息が出た。
『好きなように』とは言ったものの、つかさの考えを正そうと考えていた。できればつかさ自身の口から病気の事を話してもらいたい。どうすればいい。いろいろな案が浮かんでは消えた。
ふと、かがみにある考えが浮かんだ。これならうまくいきそうだ。早速今夜その考えを実行する決意をした。
それとは別につかさの病気を家族だけの秘密にすることは出来ない。しかしメールで教えるのはあまりにも薄情だ。かがみは明日の夕方、陸桜学園の校門前に来るように
かがみが知りうる全てのつかさの友達にメールをした。その時全てを話そう。




770遺書  112011/02/12(土) 09:36:55.19F7ebqHGf0 (12/26)


 かがみが家に帰ると既に家族全員帰っていた。
かがみ「ただいま」
「「「おかえり」」」
つかさを除いた全員が答えた。かがみは居間の机の上にこれ見ようがしにパンフレットを置いた。
まつり「なにそれ……アパートの見取り図じゃない」
かがみ「ちょっと不動産屋さんに行って物件を見てきた」
皆は顔を見合わせて驚いている。かがみはチラっとつかさを見た。俯いていて表情は分からないがきっと驚いているに違いない。
みき「不動産ってかがみ、まさか」
かがみ「大学までの通学が結構時間がかかっちゃってね、大学の近くに引っ越すことにしたわ、大学にも寮があるけどそれでもいいかな」
いのり「あんた、それ本気で言ってるの?」
もちろん本気ではない。つかさにしている事が下らないと分かってもらうための演技だ。いのりの質問の意味をかがみだけが理解した。
かがみ「もちろん本気よ、一人暮らしもいいかなって、それに若干一名私をウザいと思ってる人がいるしねー」
かがみはいのりを見ながら話した。いのりは目で合図をした。かがみの意図を理解したようだ。そして全員つかさに注目した。つかさは重い口を開いた。
つかさ「やっと居なくなるんだ、嬉しいな」
つかさは立ち上がり居間を出ようとした。
ただお「つかさ待ちなさい、かがみに何か言うことがあるだろう」
父、ただおがつかさを止めた。かがみはつかさの言葉に期待した。
つかさ「何もないよ、かがみの顔を見なくて済むから引越しは早くしてね、アパート探しなら手伝ってあげるよ」
演技とは言え呼び捨てにされた。それに演技力も上がっているような気がした。もし演技だと知らなかったら本気にするところだった。
まつり「つかさどうしたのさ、かがみを止めないのか、言っちゃいなよ、言うなら今しかない」
珍しく本気になってつかさを説得するまつりだった。
つかさ「何も知らないで、か、かがみのばか、引越し先で死んじゃえばいいんだ!!」
つかさは家を飛び出すように出て行ってしまった。
かがみ「死にそうなのはつかさの方じゃない、ばか」
みき「かがみ、つかさの病気を知っているの?」
母、みきはかがみの呟きに驚いた様子だった。
いのり「私とつかさの会話を偶然聞いちゃってね」
みき「かがみの引越しの話は?」
かがみ「作り話よ、つかさがあそこまで意固地になるとは思わなかったわ」
ただお「それよりつかさが心配だ、迎えに行って来る」
まつり「私も行く、つかさが行く場所に心当たりがあるから」
ただおとまつりはつかさを探しに家を出た。





771遺書  122011/02/12(土) 09:38:37.48F7ebqHGf0 (13/26)

みき「つかさが病気だって分かっているなら何故あんな嘘を、つかさは薬の影響でまともな考えが出来ない状態なの、たまに意味不明な事を言う、分かってあげて」
かがみ「意味不明だって、違う、つかさの行動は筋が通っている、だから知りたかった、私を避けている本当の理由を、あのまま死なれたら分からないじゃない、
    私が原因なら謝りたい、つかさが原因なら謝らせたい、このままじゃ別れられないよ、お母さん、私の気持ちは分からない?」
初めてかがみは自分の本音を口に出した。
みき・いのり「かがみ……」
かがみ「高校時代に書いたって言うつかさの遺書を見つけた、読んだけど私の名前は出てこなかった、私はつかさに何をしたんだろう、少なくとも嫌われるような
    事はしていないと思う、それとも私は知らない間につかさを傷つけていたのかしら、それすらも分からないなんて、私、つかさの姉失格ね」
いのり「まだつかさが死ぬって決まったわけじゃないよ、元気になったらきっと話してくれる、それを信じよう」
かがみ「話さないのはつかさの験担ぎって言いたいの?」
いのり「つかさはそうゆうのが好きじゃない、占いとか」
そう考えるのもいいか。かがみはそう思い始めた。
かがみ「もういい、つかさがそれを墓までもって行きたいのなら私はもう何も言わない、今は病気の回復だけを祈るわ」
みきがほっとため息をついた。もうこれ以上かがみとつかさの仲が悪化することはないだろう。
みき「それにしてもお父さん達遅いわね」

 もうあれから一時間を越えている。ただおとまつりは帰ってこない。
かがみ「ちょっといくらなんでも遅すぎる、私も探しに行ってくる、私もつかさが行く所に心当たりがあるから」
かがみは出かける支度をした。すると突然玄関の扉が開いた。ただおとまつりだった。
かがみ「おとうさん、まつり姉さん、つかさは?」
かがみ達は駆け寄った。まつりはただおの方を向いた。ただおの背中につかさが居た。ただおがつかさを背負ってきたようだ。
いのり「ちょっと、つかさ大丈夫なの?」
ただお「シー、眠っているだけだ、たぶん薬の影響だと思う、このまま部屋で寝かすよ」
ただおはそのまま二階に上がって行った。かがみ達は居間に戻った。
まつり「つかさは何処に居たと思う?」
かがみ「まさか神社隣の公園……」
まつり「当たり、あんた達が幼少の頃よく遊んだ公園、かがみもよく覚えているでしょ、つかさがあの公園に行ってかがみを思い出さないはずがない」
かがみ「つかさは私を嫌いになっていないって言いたいんでしょ、まつり姉さん、もうその話は終わったわ、私はもうつかさを追及しないことにしたから」
まつり「終わってなんかいない!!かがみは終わっても私は終わっていないんだよ」
まつりは叫んだ。
まつり「あの公園は私もかがみやつかさと遊んだ公園、私は二人がどこかに行かないように見張っててお母さんに言われてた、だけどよく公園を出て何処かに行こうとする
    子がいてね、何度も連れ戻しに行ったわよ、それがつかさ、思い出しちゃったじゃない」
みき「そういえばそんな事があったわね、小さい頃はつかさの方が活発に動き回っていた」
いのり「そういえばあの公園でつかさがブランコから落ちた時はビックリしたな、あれだけ派手に落ちたのにかすり傷だけで済んだ、怪我していたらお母さんに怒られるところだった」
ただおが二階から下りて来た。
ただお「あの公園で遊び疲れて眠ったつかさをよく家まで負ぶったものだ、さっきみたいにね」
あの公園は幼い頃のつかさの出来事がたくさんある。つかさも親や姉達の思い出が沢山あったのだろう。
ただお「つかさを見つけたとき、ブランコに乗っていた、こいでいるわけでもなく、ただ座っていた、帰ろうと言っても、もう少し居たいと言うだけだった」
かがみ「幼少の頃はあの公園でつかさと一緒に遊ばなかった、私は飯事的な遊びをしていた、つかさは元気に走り回っていたわ、あの公園でつかさに引っ張られて泣いた覚えがあるわね、
一緒に何かをするようになったのは小学生からよ、あの頃はつかさの方が姉だったかもしれない、何故今はあんなに大人しくなっちゃっただろうね」
そんな昔話をしているうちにみきが泣き始めてしまった。それに釣られるように次々に……。
暫く居間にすすり泣く声が響いていた。




772遺書  132011/02/12(土) 09:40:09.26F7ebqHGf0 (14/26)

 次の日の夕方、かがみは陸桜学園校門の前に居た。もう就業時間は過ぎている。学校の門は閉じていた。ゆたか、みなみ、ひよりは在校生だけあってかがみよりも先に居た。
しばらく待つと聞きなれた車の音が聞こえる。そこにはこなた、みゆき、みさお、あやのが乗っていた。運転席からこなたが降りた。
こなた「やふー、かがみ昨日ぶりだね」
かがみ「車で来るなんて思わなかった、駐車はどうするつもりよ」
こなた「大丈夫、この辺りは駐車違反でお巡りさんは来ないから、ゆい姉さんの極秘情報だよ」
かがみ「成美さんも相変わらずね」
平日、しかも月曜日にも関わらずかがみがメールを送った人は全員来た。かがみは嬉しかった。しかし喜ぶために呼んだのではない。かがみは心の中で気合を入れた。
かがみ「皆、来てくれてありがとう、ゆたかちゃん、熱は大丈夫なの?」
ゆたか「あ、昨日は家に来ていたのに御迷惑をかけました、お姉ちゃんの看病のおかげでもうすっかり元気です」
こなたが辺りをきょろきょろと見回している。
こなた「ところでつかさは? かがみからの誘いだからあえて連絡取らなかったけど」
かがみはつかさを誘った。しかしつかさは無言のまま専門学校に行ってしまった。この時間はもうバスもない。来ないだろう。
かがみ「そのつかさについて話すわ、みんな覚悟を決めて」
かがみは一拍置いてから話した。
かがみ「つかさは病気なの、それもかなりの難病よ」
周りがざわめき始めた。しかしこなたとみゆきは目を閉じてじっと動かなかった。かがみはそのまま今までの経緯を話した。




773遺書  142011/02/12(土) 09:41:54.12F7ebqHGf0 (15/26)


かがみ「これで私の話は終わりよ」
話が終わるとこなたがかがみに近づいてきた。かなり怒っているようだ。
こなた「今頃そんな話をして、遅い、遅いよかがみ、かがみはつかさの姉でしょ」
こなたはかがみに詰め寄った。
かがみ「それはつかさが黙っていたからよ、私は超能力者じゃないのよ、そこまで分かるはずもない」
こなた「つかさが妊娠しただって、それじゃつかさも怒るはずだよね」
かがみ「だから私は勘違いをしていて……ちょっと待って、遅いって言ったわよね、こなた、あんたつかさの病気を知っていたの?」
かがみはこなたの話し方で気が付いた。
みゆき「私も知っています、かがみさんならもう知っているものだと思いました、この前、駅で話した時にヒントを与えたのですが……あんな反応をされて失望しました」
かがみは慌ててみさおとあやの方を向いた。
みさお「わ、私は始めて聞いたぞ、つかさから少しもそんな感じは受けなかった」
あやの「そうね、私も始めて聞いた、今、ひーちゃんの具合はどうなの?」
続けてゆたか達の方を向いた。
ゆたか「私も知らなかったです、すみません」
みなみ「右に同じです、すみません」
ひより「面目ないっス」
改めてこなたとみゆきの方を向いた。
こなた「つかさはずっと待っていたんだ、かがみが気付くのを、なんで気づいてあげなかったんだよ、つかさが可愛そうだよ」
かがみ「こなた、みゆき、あんた達は何時どうやって知ったの?」
かがみは分からなかった。
こなた「一ヶ月前だよ、みゆきさんも同じ頃だと思う、つかさの行動を見てればすぐに分かる」
たったそれだけで分かるものなのか。かがみは愕然として動かなかった。
こなた「それにつかさに引越しの話をするなんて、かがみはバカだよ」
みゆき「つかささんの病気を知ってもかがみさんはつかささんを怒らせました、しかも故意に、それで何を知ろうというのですか、酷すぎます」
かがみ「そ、それは、つかさがあんな態度しているから、元にもどそうと思ったのよ、」
こんなに怒っているこなた、みゆきを見たのは初めてだった。
かがみ「みゆきがあの時ヒントをくれたのは確かに役にたった、あれがなければ私はつかさと本当の喧嘩をしてしまう所だった」
みゆき「喧嘩をするつもりだったのですか……病人に鞭を打つ行為に等しい、許せません」
かがみ「だ、だ、だから、わ、私は知らなかった」
こなた「知らないじゃないよ、知ろうとしなかったんだ」
かがみの目が潤んできた。必死に弁解をする。
かがみ「違う、う、うう、私だって……双子だからって……つかさの全てを……知らない、だってそうだろ、知らない所があるからこそ個々の人格として認めてるんだ」
みゆき「それは今回の話とは全く関係ありません」
かがみ「私にこれ以上何をさせたいのよ……」
とうとうかがみは座り込んでしまった。それでも執拗にこなたとみゆきはかがみを責めつづけた。目からは涙が出ている。もう言い返せない。
みなみが突然走り出しかがみとこなた達の間に割って入った。
みなみ「泉先輩、高良先輩、無知が罪なら私も責めて下さい、私もつかさ先輩が好きです、尊敬もしています、でも気付きませんでした」




774遺書  152011/02/12(土) 09:43:31.62F7ebqHGf0 (16/26)

みゆき「みなみ……」
二人は責めるのを止めた。みなみはかがみの方を向きハンカチを渡した。
かがみはハンカチを受け取って目に当てた。とても話せる状態ではない。みなみは二人の前で話した。
みなみ「家族だから、一番親しいからこそ最悪な状況は考えられない」
こなた「つかさは自分からかがみに病気の話なんか出来ない、だからかがみが先に気づくしかないんだよ、かがみはつかさの優しさに甘えてただけなんだ」
みなみ「つかさ先輩も本来は自分で話さなければならない事実をかがみ先輩に話せなかった、つまりつかさ先輩はかがみ先輩の優しさに甘えている」
こなた「みなみちゃんはどっちの見方なんだよ」
みなみ「どちらの見方でもない」
感情的なこなたと冷静なみなみしばらく言い合いが続いた。感情的だったみゆきも次第に冷静さを取り戻した。
みゆき「泉さん、みなみ、もう止めましょう、私達はかがみさんを責める権利などありませんでした」
こなた「みゆきさん、どうして」
みゆき「私はつかささんに病気の話はしないように頼まれていました、泉さんもそうだったのではないですか」
こなたは黙って頷いた。
こなた「かがみには教えてあげたかった、でもつかさとの約束、天秤にはかれないよね、話せばつかさからなんて言われるか分からない、
    だから誕生プレゼントを貰ったのを話したんだよ」
みゆき「私達もつかささんに甘えていました、話すなと言われてただ黙っているなんて。教えても良かったのです、いいえ教えるべきでした、それを全て気付かないかがみさんの
    責任として押付けた……ごめんなさい」
みゆきは深々とかがみに頭を下げた。こなたはみゆきの話に心を打たれた。謝るしかなさそうだ。
こなた「ごめんなさい」
こなたもかがみに頭を下げた。みなみはかがみのもとを離れゆたか達の近くに戻った。
ゆたか「かがみさんがつかささんの病気に気付いたのは昨日でしたよね、たった一日で私達に教える決意をしたのですね、凄いと思います」
かがみ「私はただ教えたかっただけ、あとはそれぞれが考えてくれればいい」
かがみは立ち上がりづきハンカチを返した。
かがみ「みなみちゃんありがとう、こなたとみゆきにあそこまで対等に言い合うなんて、普段無口なのに凄いわ」
みなみはまた普段のみなみに戻ったようだ、俯いたまま何も言わなかった。
みさお「それぞれが考えればいいって言うけど、私にはそんな重い事実、どうしていいか分からない」
かがみ「そうね、私もどうしていいか分からない、だから皆に話したのかもしれない」
しばらく重い雰囲気が続いた。
ゆたか「つかさ先輩の真意は分からないけど、病気を隠したい、その気持ち私は分かるような気がするよ、病気になると皆の態度が変わっちゃうから、
    それが苦痛になっちゃう、それが嫌だったんだよ、だから普段どおり、いつものように接してあげるのが一番かもしれない」
かがみ「確かにそれを望んでいるのは確かのようね、日下部、そして皆、それでいいかしら」
皆は頷いた。
かがみ「ありがとう、それから私は帰ったらつかさに言う、病気の事を、普段のつかさに戻ってもらう」





775遺書  162011/02/12(土) 09:45:12.72F7ebqHGf0 (17/26)

 もう外は日が落ちてすっかり暗くなった。街燈の明かりが灯った。
かがみ「今日はみんなありがとう、もうすぐ最終バスの時間ね、解散しましょう」
かがみの携帯電話が鳴った。皆はかがみに注目した。かがみは携帯電話を手に取った。まつりの名が示されている。かがみは悪い予感がした。
かがみ「もしもし……」
まつり『つかさが……つかさが』
声が震えている。かがみはどんな内容なのか分かった。でも確認しないといけない。
かがみ「姉さんしっかりして、ちゃんと話して!」
まつり『つかさが倒れた、専門学校から連絡があって……どうしようかがみ』
かがみ「病院はどこなの」
まつり『県内の〇〇総合病院……』
かがみ「私は直接病院に向かうからお父さん達にそう言って」
まつり『ばかだよ、なんで学校に行ったんだ』
かがみ「急ぐから一旦切るわよ」
かがみは携帯を切った。
かがみ「昨夜飛び出したせいかもしれない、つかさのやつ無理しやがって」
ふと周りを見るとかがみを囲むように皆が居た。
かがみ「みんな、帰ったんじゃないの?」
こなた「で、病院はどこなの」
かがみ「〇〇総合病院」
こなた「ここから直接行った方が早いね、かがみ送ってあげる、乗って」
こなたはポケットから車のキーを取り出した。
ゆたか「私達も行きたい……」
ゆたか達がこなたに駆け寄った。
こなた「っと言っても五人乗りだし、どうしようか」
みさお「それなら兄貴に頼んで車だしてもらうよ、柊達は先に行ってていいぞ」
みさおは携帯電話を取り出し電話をした。
かがみ「悪いわね、頼むわ」
こなたはかがみ、みゆき、ゆたか、みなみを乗せて先に出発した。

 病院に着くとかがみは駆け出した。受付を済ませ病室に向かう。病室の入り口に家族全員が居た。
かがみ「どうしたの、何故病室に入らない?」
かがみの脳裏に不安がよぎった。
ただお「感染してしまう可能性があるから一人しか入れない」
かがみはほっとした。
かがみ「容態はどうなの?」
みき「病気が進行していてもう薬では対処できないって、あとは骨髄移植しかないそうよ、それができなければあと一ヶ月持つかどうか……」
かがみ「誕生日まで間に合わない……そんな」
状況は最悪だった。それでもかがみにはしなければならない事がある。
かがみ「病室、誰も入らないなら私が入っていい?」
いのり「入ってもいいけど、まだ意識が戻っていない」
かがみ「構わない」




776遺書  172011/02/12(土) 09:46:51.06F7ebqHGf0 (18/26)

 
 病室にはマスクと白衣の着用を義務つけられた。つかさはベッドで静かに寝ていた。安らかな寝顔だった。とても病気とは思えない。周りで看護士が忙しなく動いている。
かがみ「お邪魔します」
言葉をかけたが忙しいのか看護士は無反応だった。しばらくかがみは遠くからつかさの様子を見ていた。
時よりつかさの眉が動いた。ただ立っているだけなんて。
かがみ「すみません、手を、手を握ってもいいですか」
看護士「ぞうぞ」
看護士はかがみを見ず作業をしながら答えた。かがみはつかさに近寄り布団から少しはみ出した右手を両手で握った。しかしつかさは無反応だった。
しばらくすると看護士の作業が終わった。
看護士「邪魔しちゃったわね」
かがみにそう語りかけた。マスクをしているがその目は笑顔だった。看護士はそのまま病室を出て行った。病室にはかがみとつかさ二人きりになった。
つかさの手が少し熱く感じる。薬のせいなのか、病気のせいなのか分からない。かがみはつかさの手を強く握った。
つかさ「お姉ちゃん」
つかさの顔をみるとつかさはかがみの目を見ていた。
かがみ「呼び捨てで呼ばないのか、少し安心したわよ」
つかさは周りを見回した。ここがどこなのか分かったようだ。つかさはかがみを見ようとはしなかった。かがみはつかさの手を強く握った。
かがみ「つかさ、こうなるまで黙っているつもりだったのか」
つかさは何も話さない。
かがみ「昨日、裏庭でつかさといのり姉さんの話を聞いた、それでする気も無い引越しの話をした……それでもつかさは話してくれなかった」
つかさは目を閉じてしまった。
かがみ「話さなければ病気が治るとでも思ったのか、私が心配しなくて済むとでも思ったのか、そんな訳ないだろう、もし、つかさが倒れるまで病気を知らなかったら
    一生つかさを恨むところだった、早く帰る切欠をつくってくれたゆたかちゃんに礼をいいなさい」
裏庭でつかさが言った台詞をそのまま返した。つかさの手がかがみの手を強く握り返してきた。つかさはゆっくり目を開いた。
つかさ「お姉ちゃん……私、悪いことしちゃったかな」
かがみ「そうね、そのおかげで私はこなたとみゆきに散々叱られたわよ、何も言い返せなかった、妹の病気を知らない姉なんて……そうでしょ?」
つかさ「……ごめんさない」
つかさの目が潤み始めた。そして泣いた。それは今までのつかさの涙とは違っていた。
ちょっと叱られただけで泣き出すつかさ、すぐに挫けて泣き出すつかさ、しかし倒れるまでかがみに隠し続けてきた。
病気の辛さや苦しさをかがみには一切感じさせなかった。つかさは自分の信念をとおしたのだ。かがみはつかさに一人の大人としての強さを感じた。




777遺書  182011/02/12(土) 09:48:24.40F7ebqHGf0 (19/26)

 
 もうこれでつかさはかがみに何も隠す理由はなくなったはず。かがみは聞きたかった。今なら聞けるかもしれない。いや、今しかない。
かがみ「私に黙っていた理由を聞かせて欲しい、嫌なら黙ったままでいいわ」
つかさは暫く目を閉じていた。
つかさ「遺書……私、遺書でお姉ちゃんに何も書けなかったから」
かがみ「それだけ、たったそれだけなのか」
つかさ「お姉ちゃんだけなんだよ、何も言葉が浮かばない、卒業してからも考えたけど何も書けないの……お姉ちゃんも言ったでしょ、遺書に何も書いてなかったって」
咄嗟に出た言葉だった。かがみを部屋から追い出した意味がやっと分かった。言うべきではなかった。
かがみ「あれはつかさが隠し事をしているから言ったのよ、本気で言った分けじゃない」
つかさ「でも何も書けなかった、私ってお姉ちゃんを何とも思ってないみたい」
かがみ「本当にそう思ってるのか、書ける、書けないは表現力の問題よ、つかさは文字では表現できない感情を私に持っている、それでいいじゃない」
つかさ「でも生きているうちに書きたかった、でももう時間がないみたいだね」
つかさはかがみが握っている手を引っ張って離してしまった。
かがみ「そうでもないわよ、私が居るじゃない、私の骨髄でも内臓でも心臓でも分けてあげる」
つかさ「こんな私でも助けてくれるの、私はお姉ちゃんに何もしてないよ」
これだけ一緒に過ごしてきてそんな言い方しかできないのか。
かがみ「こなたとみゆき、つかさが居なければ友達にはなれなかった、これでもつかさは私に何もしていないって言うの」
まだまだ言いたいことはだいっぱいあった。それは退院してから言おうとおもった。
つかさは寝返ってかがみに背を向けた。
つかさ「ありがとう……でも心臓だけは要らないよ、お姉ちゃん死んじゃうでしょ」
かがみ「そうだったわね……」
数分間沈黙が続いた。
つかさ「なんか眠くなっちゃった」
つかさはまた寝返りをしてかがみの方を向いた。
かがみ「それなら寝なさい、寝付くまで見ていてあげるから」
つかさ「寝たらもう二度と起きないような気がして……」
かがみ「そんな事はないわよ、安心しなさい」
そう言っている間につかさは眠りについてしまった。かがみはつかさの頭を優しく撫でた。そしてかがみはそっと部屋を出た。

 病室を出ると家族とこなた達が居た。皆、目から涙が出ていた。
かがみ「ちょっと、つかさと私の会話聞いていたんじゃないでしょうね」
皆は黙ったままだった。かがみは一回深呼吸をした。
かがみ「……お父さん、先生の所に連れて行って、私の骨髄が使えるかどうか調べて欲しい」
……
……
……



778遺書  192011/02/12(土) 09:49:44.81F7ebqHGf0 (20/26)

 七月六日
かがみは自分の部屋に居た。あの日からだいぶ落ち着きを取り戻した。忙しかった。いや、それすらも忘れるように時が過ぎたように感じた。
みき「かがみ、つかさの部屋の片付けは終わったの?」
かがみ「まだ、夕方までにはやっておくわよ」
みき「早く済ませなさいね」
みきは忙しそうに一階に下りて行った。正直あまりしたくなかった。ふと時計をみた。時間は午前十時を過ぎていた。時間が中途半端だ、片付けをするのは午後からに決めた。
しかしまだ二時間の時間がある。このままボーとしているのも勿体無い。なにをするか考えた。
大学のレポートはもう既に終わっている。読書をする気分にもなれない。どこかに出かけるにも時間が足りない。まったくもって中途半端な時間だった。
それなら予定を早めて部屋の片付けでもするか。かがみは立ち上がったが直ぐに座った。
明日は二十歳の誕生日。つかさの遺書を思い出した。黒井先生は二十歳になる前に書くように言っていた。
あの遺書は高校時代につかさのクラスメイト全員が書いたと言った。こなたやみゆきも書いたと言っていた。
つかさの異常を見抜いたのは家族以外ではこなたとみゆきだけだった。きっと死を見つめ、考えたから見抜けたのかもしれない。
それならこの時間を使って自分も書いてみようと思った。かがみは引き出しから紙と筆記用具を取り出した。

三十分が過ぎた。
かがみは愕然とした。手紙は真っ白のままだった。何故。かがみは心を落ち着かせて再び書き始めた。
更に三十分が過ぎた
『お父さん、お母さん、いままで育ててくれてありがとう。先立つ親不孝を許してください』
これだけだった。これは酷い。つかさと同じ書き出しだ。これを読まれたらこなたにも笑われるレベルだった。
更に三十分が過ぎた。
頭が真っ白だった。自分が死んだ時、何を伝えたいのか、たったそれだけのはず。難しく考えるな。そう自分に言い聞かせた。
一番書きやすいのは誰かと考えた。つかさが真っ先に浮かんだ。でも今更つかさに……
それでも他の人に書けそうもない。つかさ宛に書くことにした。

つかさは忘れん棒で、おっちょこちょい、失敗ばかりして世話がかかった。ちょっと待て。本当に世話がかかったのか。それは幼少の頃だ。
小中高学校では忘れ物以外は自分で全てやっていた。料理や裁縫の類ならかがみよりはるかに上手だ。つかさならかがみが居なくても充分一人で暮らしていける。
でもその忘れ物が大きな失敗を招く場合もある。その辺りを注意しようか。そんな話より楽しい日々を綴った方がいいか。一番楽しかったのはいつだったか。
まるで湧き水のように浮かんでくる。
気が付くと全く筆が進んでいなかった。もうお昼近い時間だ。何故書けない。レポートや論文ならすぐに書けると言うのに。
その時、つかさの遺書にかがみの項目がなかったのを思い出した。
かがみ「書けないってこれの事だったのか!!」
思わず叫んだ。




779遺書  202011/02/12(土) 09:51:07.34F7ebqHGf0 (21/26)


 好きとか嫌いではない、文字に表現出来なかったわけでもない、思い出や、想いが何重にも頭の中で回って書けなかった。それだけだった。
もっと早く書いていれば気付いたかもしれない。つかさにあんな態度を取らせなくても済んだ。
つかさは書けないからかがみに自分の病気を話さずに隠していた。そう自分で言っていた。病院のベッドで。
もし自分がつかさと同じ病気だったらどうしただろう。つかさと同じようにしただろうか。かがみは考えた。
きっとかがみは真っ先につかさに駆け寄り自分の病気を打ち明けるだろう。そして涙ながらに『死にたくない』と訴える。
つかさがその時何をする。たぶん何も出来ない。それは分かっている。かがみ自身も何も出来なかった。そう変わりはない。
でもつかさは一緒になって泣いてくれただろう。まるで自分の事のように思って。
それなら逆につかさがかがみに病気を打ち明けたらかがみは何をした。励ましの言葉をかける。でもそれが病人にとっては一番の苦痛なのだ。
かがみはそれに気が付かない。そうだった、みゆきに言われるまで気が付かなかった。つかさはただ耐えていた。何も言わずに。
かがみはいつの間にか泣いていた。紙に涙が落ちていく。目が涙でぼやけて焦点が定まらない。書けない。書けるわけがない。

 かがみはつかさ宛に遺書を書くのを止めた。
気を落ち着かせて考えた。一言でいい。もっと気楽に。語りかけるように。ふとある人物が頭の中に浮かんだ。
それなら……。

『こなたへ。相変わらずバカやっているのか。私が居なくなってもきっとこなたは変わらないわね。私と会う前ののうに、それでもいい。
自分のポリシーを変えないのは凄いことだと思う。こなたにもう突っ込みはできなくなるけどガンバレ!!』

今度はすんなりと書けた。こなたは親しいが会ってからまだ時間は短い。この調子かがみは遺書を書き続けた。
『つかさへ』
やはりつかさには書けない。それなら正直な気持ちだけ書くことにした。
『つかさへ。いままでありがとう』
たった一言。それがかがみの精一杯の気持ちだった。かがみは書き終えた遺書を封筒に入れた。時間を見るともう午後を越えていた。
(お昼を食べる前に終わらせるかな)
かがみは掃除道具を揃えるとつかさの部屋に入った。




780遺書  212011/02/12(土) 09:52:27.60F7ebqHGf0 (22/26)


 つかさの部屋に入るのは追い出された時以来か。つかさの『出て行って』と叫ぶ姿がまるで昨日のように感じた。
つかさが入院してからだれも部屋には入っていない。湿った粉くさい空気が部屋に充満している。
かがみはカーテンを開けて窓を全開にした。初夏の眩しい日差しが部屋一杯に入ってきた。空気は入れ替わり気持ちがいい。
周りをみると。家具や床、照明器具にうっすらと埃が積もっている。一年分溜まった埃。かがみは布団を干し、床を磨き、掃除機をかけて掃除した。
つかさの机を掃除しようとした。机の上に封筒が置いてあった。掃除の手を止め手紙を取ってみるとこの前見た遺書だった。入院前に置いたのだろうか。
封筒の中を取り出した。この前見たのと同じ内容の手紙が入っていた。
(まさかつかさは死を予感していた?)
かがみは手紙を封筒に戻そうとした。手が止まった。最後の頁に書き加えられた形跡がある。かがみは最後の頁を見た。
『かがみお姉ちゃん、いままでありがとう』
まったく同じだった。そこにはかがみと同じ一言が書いてあった。紙には涙の落ちた跡もある。つかさも考えた挙句にこの一言にたどり着いた。
かがみ「ふふふ、ははは、」
かがみは大笑いをした。笑いと涙が止まらない。やっぱりかがみとつかさは双子の姉妹だ。かがみはそう強く思った。
まつり「何してるんだ、一人で大笑いして」
まつりが部屋の入り口に立っていた。かがみは封筒をそっと机の中にしまった。
かがみ「なんでもないわよ、ちょっと思い出し笑いよ」
まつり「つかさの部屋……もう一年になるのか、辛かっただろうね」
かがみ「姉さん、もうそれは終わったわよ」
まつり「そうだった、そうそう、明日の事なんだけど、明日は姉さんと電車で行くからかがみはお父さんとお母さんを車でお願いね」
かがみ「分かってるわよ、初めからの予定通り」
まつり「明日は友達も来るんでしょ、きっとつかさも喜ぶと思う」
かがみ「黒井先生も来るってこなたが言っていた」
まつり「黒井先生?……ああ、つかさが三年だった時の担任ね……明日は忙しくなるよ」
まつりは階段を下りて行った。かがみはさっきしまった封筒を元の机の上に置いた。そして自分部屋からかがみ自身が書いた遺書を持ってきてつかさ遺書の隣に置いた。
かがみ「つかさ、あんたは入院した時、『何もしていない』って言った、これだけの人が集まってくれるなんて、もう私は何も言わない、つかさ自身で感じ取りなさい」

明日はつかさの退院の日。つかさが自分の部屋に戻ってかがみの遺書を見たとき何を思い、何を語るのか。

つかさにはかがみと同じ血が流れている。かがみとつかさの血は全く同じ型だった。骨髄移植から一年余りの闘病の末、つかさは完全に病気を克服した。
偶然にも二十歳の誕生日が退院の日と重なった。明日はかがみとつかさ、そして、つかさを慕う者達にとって忘れられない記念日となる。








781VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/12(土) 09:54:34.12F7ebqHGf0 (23/26)

以上です。やっぱりつかさとかがみが一番書きやすい。 遺書と記念日、あまりにもかけ離れすぎて違和感たっぷりだったかな。
忘れられない記念日を連想したらこれになった。


782VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/12(土) 10:11:54.45F7ebqHGf0 (24/26)

遺書 は2番目のエントリーです。

ちなみにこの作品の感想はコンクール終了後にお願いします。
感想するほどのものではないかもしれませんが一応お願いします。


783VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/12(土) 11:02:42.49F7ebqHGf0 (25/26)

-----------------------------------------------------------------------------

ここまでまとめた

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784VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/12(土) 11:16:26.00F7ebqHGf0 (26/26)




☆☆☆☆☆☆第二十回コンクール開催のおしらせ☆☆☆☆☆

残すところ10日を切りました。
ドシドシ投下お願いします。

投稿期間:2月7日(月)~ 2月20日(日)24:00

最終日は言い換えると21日(月)の0:00時となります。ご注意下さい。






785VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/13(日) 18:07:42.68LvYBjCT70 (1/1)

コンクール主催者より。


うーん。
三連休があるから結構投稿くると思ったのだがまだ2作品しか投下されていません。みなさん苦戦しているようですね。
それだけに期待も高鳴ります。

前回コンクールだったか投下作品が複数同時に来て大変だった覚えがあります。あの時は別の人にまとめてもらって助かりました。
自分はあのような作業が苦手です。今回も土日に投下集中するのはほぼ確実となりました。
エントリー漏れだけは無いようにそれだけを祈ります。

それではがんばって下さい。


786VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 12:36:06.70++oBBZjSO (1/1)

-チョコをあなたに-


つかさ「ハッピーバレンタイン!今年のはちょっと変わったのを作ってみたんだ。気に入ってもらえるといいんだけど…」

かがみ「…つかさの手伝ってね、材料が余ったからちょっとわたしもね…他意はないわよ」

みゆき「最近お菓子作りを始めまして…ご迷惑でなければ、食べてみて下さい」

みさお「あやのが作ってるの見てたら面白そうだったからさ、あたしもやってみたんだ…まあ、形はアレだけどな…余計なモンいれてねえから、味はちゃんとチョコだと思うぜ」

あやの「え、なんでって?…んーと、みさちゃんがいつもお世話になってるから…かな?」

パティ「このバレンタインにチョコはやってみたかったデス!…アー…おミセでかったものというのはカンベンしてくだサイナ」

ゆたか「うん、みなみちゃんと一緒に作ってみたんだ…うまく出来たと思うんだけど…どうかな?」



こなた「…お父さん、わたし実は男の娘ってことはないかな?」
そうじろう「いきなり何を言い出すんだお前は…」
こなた「いや、一昔前のギャルゲみたいなイベントラッシュが、なんかもったいないなって思って」
そうじろう「…俺がいうのもなんだが、ちょっと戻ってきなさい」


787VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/14(月) 20:44:36.22ETy4zOKG0 (1/1)

-----------------------------------------------------------------------------

ここまでまとめた

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>>786
乙です。バレンタインネタは自分も書いてみようかなって思ってたけど先手を取られたので今回は止めておきます。


788VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 00:30:55.77h+TxPtL10 (1/2)

まとめサイトに修正報告ページを設置しました。
大きな悪戯が起きる前に対策しました。

無断で設置したので要らないと言うコメントが多ければ消します。




789VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 22:09:32.54h+TxPtL10 (2/2)


☆☆☆☆☆☆第二十回コンクール開催のおしらせ☆☆☆☆☆

残すところ5日となりました。
ドシドシ投下お願いします。

投稿期間:2月7日(月)~ 2月20日(日)24:00

最終日は言い換えると21日(月)の0:00時となります。ご注意下さい。




790VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 01:56:59.11RqKuQ7jSO (1/1)

なんかSSの足しにならないかと設定資料集見直してみたけど
改めてそうじろうの異様なスペックの高さとかなたのスペックの低さにびびるな


791VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 11:11:07.42j5oByt+w0 (1/6)

10分間書き込みがなければ投稿します。


792VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 11:21:07.16j5oByt+w0 (2/6)

それでは投稿させていただきます。コンクール参加作品です。
タイトルは“こなたとつかさ、こなたとかがみ、こなたとみゆき”
3レスの予定です。



793こなたとつかさ、こなたとかがみ、こなたとみゆき①2011/02/16(水) 11:22:00.51j5oByt+w0 (3/6)

「泉さん、遅いですね。」
「どうしたのかな?」
「どうせ寝坊でもしたんでしょ。携帯も繋がらないし。」

 とある9月ごろ、かがみ、つかさ、みゆきはこなたと共に映画を見に行こうということになっていたのだが、こなたがなかなか来ず、かがみ達は映画館の前で待ちぼうけとなってしまった。ここまでならばいつものこと。しかし、この後の出来事はいつもとは少し違っていた。





                                 こなたとつかさ、こなたとかがみ、こなたとみゆき





「ごめ~ん、みんな。」
「遅い!どんだけ待たせんのよ!」
「だからごめんってば。途中で買い物してたら遅くなっちゃって。」
「買い物?こなちゃん何買ったの?」

 よく見てみると、こなたの手にはラッピングされた袋が握られていた。

「うん、まぁね。と、いうわけでみゆきさん、これ、プレゼント。」
「え?」

 こなたは握っていたそれをみゆきに手渡していた。

「いや、何の脈絡もないわよ、こなた。」
「ゆきちゃん、誕生日は・・・たしか来月だったよね?」
「はい、そうですが・・・」

 みゆきは受け取りはしたものの、なぜ渡されたのかは分かっていなかった。

「まぁまぁ、気にしないで。開けてみてよ、みゆきさん。」
「あ、はい。」

 言われるままに袋を開けてみるとそこに入っていたのは、

「リボン・・・ですか?」
「うん!」

 にっこりと笑うこなたによく分からないといった感じの3人。すると、つかさが何かを思い出したように言った。




794こなたとつかさ、こなたとかがみ、こなたとみゆき②2011/02/16(水) 11:22:47.24j5oByt+w0 (4/6)

「そういえばこなちゃん、5月くらい・・・だったかな?に家に来てプレゼントって言って渡してくれた後、授業あるからって言ってそのまま帰ちゃったことあったよね?プレゼント、防犯ブザーだったけど・・・」
「言われてみたら私もあったわね。私も5月の時に大学に押し掛けてきて渡していった後、バイトがあるからって言って帰ったけど。いきなりノート渡されても反応に困るんだけど・・・」

 三者三様よく分からない贈り物を受け取っていたという事実にクエスチョンマークを出すしかできなかった。

「こなた、あんた、何にもない日にプレゼント渡して何がしたいの?」
「何にもない日じゃないよ。私にとっては大切な日だから。」
「大切な日って何よ?」
「私がかがみやつかさやみゆきさんと出会った日。」

 言われてみれば、と3人は思った。つかさが外人さんに道を聞かれて困っていた所にハリ倒して助けたのが5月ごろ。その後、“うっかり”宿題を忘れてかがみに写させてもらったのがすぐ後だったから同じく5月ごろ。文化祭の準備の時高翌嶺の花だと思っていた委員長が実はいい人であると分かったのが9月ごろ。3人もどういうことか理解できた。だが、

「どうでもいいけど、なんで私にはノートでつかさは防犯ブザー、みゆきにはリボンなわけ?」
「ん?ああ、つかさはさ、なんかおっとりしてるから、なんかに巻き込まれちゃったりしちゃいそうじゃん。だから、気をつけてね、という意味を込めて。」
「わ、私ってそんなにおっとりしてる?」

 少々ガーンときたつかさがかがみとみゆきの方を見て聞いたが、2人とも視線をそらしていた。もはやそれが答えである。

「かがみには宿題見せてもらうのにノート借りることが多かったから、ノートを送ったわけ。」
「微妙どころかだいぶずれてるように思えるけど、まぁ、もらえるものはもらっておくわ。」
「みゆきさんは大人すぎるような感じがしてとっつきにくそうな人ってイメージしちゃうじゃん?」
「たしかに母にもバ・・・大人っぽいと言われたことがありますね。」

 ついでに“友達というより保護者みたい”とも言われた。

「だからさ、リボンとか付けてちょっとかわいらしい所見せればそんなイメージもなくなるんじゃないかなっと思って。」
「なるほどね。ちゃんと考えて送ってくれたことには感謝するけど、そもそもなんで出会った日にプレゼントを送ろうと思ったわけ?」
「まぁ、いままで迷惑をかけてきた迷惑料3年分」
「迷惑料ってあんた・・・」
「兼、これからかけるであろう迷惑にかかる迷惑料。」
「って、なんだ、その“これからかけるであろう迷惑にかかる迷惑料”って!」
「だって前にも言ったじゃん。その折にはよろしくお願いします、って。」
「おまえはほんっとに何かやらかす気満々か!?」

 キレかけ寸前(もうキレてる?)のかがみに、つかさとみゆきはオロオロしながら見ていた。

「えっと・・・あ、お、お姉ちゃん、もうすぐ映画、始まっちゃうよ。」
「そ、そうですよ、かがみさん、早くしないと席が無くなってしまいますよ。」
「そうだよ、かがみん、早くしないと。」
「あんたね・・・」
「ほら、早く早く。」
「助けない、なにがあってもぜっったい助けないからね!!」
「と言いつつ、しかたないわね、と言って助けてくれるかがみん萌え。」
「うるさい!だいたいあんたは・・・」

 口問答しながら歩き出した2人の後ろに付いて歩くつかさとみゆき。ふと、つかさとみゆきは視線を合わせて笑った。口ではうるさそうにしていても何かあった時、きっとかがみはこなたを助けるだろう。もちろん、自分達も。2人はお互いにそう考えているだろうと感じた。
 そして、仲の良さそうな4人組は映画館の中に入っていったのであった。



795こなたとつかさ、こなたとかがみ、こなたとみゆき③2011/02/16(水) 11:23:23.18j5oByt+w0 (5/6)
















(私にとってその日はとても大切な日。私のことを知っても離れないで一緒にいてくれる、そんな人たちと出会うことができた特別な日。かがみとつかさとみゆきさんに出会えた私の大切な記念日。こんな私と一緒にいてくれる感謝の思いとこれからも一緒にいてくれるであろう感謝の思いを込めて。ありがとう、これからもよろしくね。)

 ~おしまい~



796あとがき2011/02/16(水) 11:24:13.12j5oByt+w0 (6/6)

以上です。いかがでしたでしょうか?
なにやら無理やり記念日に結びつけてしまった感と文章構成に難がある感がします・・・。
ちなみに、作中の出会った月については想像で書いていますのであしからず。



797VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 21:24:18.342Ad5dMNo0 (1/2)

こなたとつかさ、こなたとかがみ、こなたとみゆき
は3番目のエントリーです。


798VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 22:08:53.432Ad5dMNo0 (2/2)

>>790
キャラのスペックは各々勝手に決めればいい。自ずと好きなキャラは高くなるはずです。
それが実際と違っていても、それ自体がSSを作る材料になるはずです。



799コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:09:08.637jZue2hu0 (1/13)

コンクール作品の投下行きます。

節目のコンクールと言うことで、王道コンビのお話です。


800コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:09:51.087jZue2hu0 (2/13)

 んーっと伸びをしてシャーペンを机の上に置く。時計を見ると、そろそろ夕ご飯が出来るころ。我ながらいい時間に終わらせることが出来たもんだと、自画自賛なんかしてみる。
 勉強用具を片付けていると、マナーモードにして机においていた携帯が震えた。開いてみると友人の泉こなたからのメールが一通届いていた。
『明日、何の日か覚えてる?』
 こなたにしては珍しい、なんの捻りもないシンプルなメール。わたしはその事に違和感を感じながらも、覚えていることを返信しておいた。
 そして、別の違和感に首を捻る。こんな風にこなたから確認のメールなんて初めてなんじゃないだろうか、と。
 少し考えて、あることに思い当たった。
「そっか…五年目なんだ」
 思わず口にしてしまう。節目だから、確認したくなったのだろうか。変に誤解を与えないように、シンプルな文面にしたのだろうか。それとも…自分から確認することが恥ずかしかったのだろうか…いや、あいつに限って恥ずかしいとかないわね…まあ、あの子の事だから、ほんの気まぐれなんだろうけど。
 机の前の壁にかけてあるコルクボードから、一枚の写真を外す。わたしとこなた、二人だけが写っている写真。一方的に抱きついてきているこなたと、それを離そうとしているわたし。でも、二人とも笑っている。なんだか嬉しそうに。
 写真の裏側には、日付と『ともだち記念日』という文字がこなたの酷い癖字で書いてある。
 その日は記念日。わたしとこなた、二人の記念日。

 忘れようにも忘れられない、わたし達の始まりの日。



― ともだち記念日 ―



 陵桜学園に無事入学でき、学校生活にも慣れてきたある日曜の事だった。
「ただいまー」
 何か飲み物を飲もうと台所に向かったわたしは、丁度帰って来た妹のつかさと鉢合わせた。
 いつもは休日にはお昼まで寝ているつかさが、珍しく朝から出かけていたのだ。
「おかえり、つかさ…あれ、その子は?見たことないけど、近所の小学生かしら?迷子か何かなの?」
 わたしはつかさの後ろに見慣れない、小学校高学年くらいの女の子が居るのを見て、そう聞いた。すると、つかさはなんだか困ったような顔をして頬をかいた。
「えっとね…昨日言ってた泉こなたさんだよ。わたしのクラスメイトの…」
 そして、何故か申し訳なさそうにそう言った。泉さん…思い出した。昨日なんかきっかけがあって友達になったとか、嬉しそうに言ってた人だ。
 わたしとつかさ、そして泉さんの間に何だか気まずい空気が流れる。
「…そ、そうなの…い、いらっしゃい」
 我ながら、何ともいえない間抜けな挨拶だ…っていうか謝罪しろよ、わたし。
 泉さんは何も言わずに軽く会釈をしてきた。わたしも何も言わず、そのまま台所に向かった。
「…今の、お姉さん?」
「そうだよ。かがみお姉ちゃん」
 後ろからそんな会話が聞こえてきた。うわー、第一印象最悪だわ…折角出来たつかさの友達だってのに…。


 台所でお茶を飲みながら、わたしはつかさの部屋がある辺りを見上げた。
 引っ込み思案で控えめで、多少人見知りもするつかさが友達になった次の日に家に招待するなんて、よっぽど気に入ったのか、泉さんが親しみやすい人物なのか。つかさが知り合う人に片っ端からつける『いい人』という評価は、今回は当たりだったようだ。
 で、その泉さんを初対面で小学生呼ばわりしたわたし…。
「…でも、アレはそう見えてもしょうがないわよね」
 いい訳じみたことを口にする。誰に向かって見栄を張ってるんだか。いいかげん、こういう性格直したいなあ…って言う事を何度思ったことやら。






801コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:11:37.657jZue2hu0 (3/13)

 次の日。学校のお昼休みに、一緒にお弁当を食べようとわたしはつかさのクラスに向かった。
 小学校のころから一貫してつかさと同じクラスになれないのは、なにかしら変な力でも働いているんだろうか。なんて、くだらないことを考えながらつかさのいる教室に入った。
「こんにちは。柊さん」
 入った直後に、つかさのクラスの委員長である高良みゆきさんに声をかけられた。委員会で何度か顔を合わせて、それなりに見知った仲だ。
「こんにちは…っと、出るところだった?ごめんね」
 わたしは挨拶を返しながら、自分が教室の出口をふさいでることに気がつき、すぐに場所を開けた。高良さんは微笑みながら軽く頭を下げて、教室を出て行った。
 うーん…動作に嫌味が無いと言うか、物腰が上品と言うか、良いとこのお嬢様って噂が本当っぽく見えるわね。美人だしスタイルもいいし、少し分けて欲しいわ…。
 そんな事を考えながら、わたしは教室を横切りつかさの席に向かった。
 つかさの席にはすでに先客…泉さんが居た。
「つかさ、きたわよー」
「あ、お姉ちゃん」
 つかさに声をかけ、手近な席から椅子を拝借してくる。いつもはつかさの正面に座るんだけど、今日はそこに泉さんがいるから側面に椅子を置いて座った。
「こんにちは、泉さん」
 昨日のことを引きずらないように、なるべく自然に挨拶をする。
「…ども」
 泉さんはこっちを向いたまま軽く会釈をし、ぼそっとそう言った。う、うーん…警戒されてるのかしら…。
「こなちゃん、なんでそんなに緊張してるの?」
 昨日のことを忘れたのか、空気を読んでないのか、なんの躊躇も無く泉さんにそう聞くつかさ。ってか、もうあだ名で呼んでるのね。凄いぞつかさ…いや、その辺は今はどうでもいいわね。
「だって、先輩でしょ?…少しは緊張するよ」
「…先輩?わたしが?」
 泉さんの言葉に思わずそう聞いてしまう。泉さんは目をパチクリさせて、つかさの方を見た。
「え、だってつかさのお姉さんだって…」
 泉さんのその言葉に、わたしは彼女が誤解してることと、その原因を理解した。
「つかさ…あんた、わたし達が双子だって言い忘れてたでしょ?」
 わたしがそう言うと、つかさは微妙に視線をそらした。
「そ、そうだったっけ…」
「もー、そう言うことはちゃんと言ってよ。びっくりしちゃったよ」
 泉さんがつかさに向かって文句を言う。友達になって日が浅いとは思えない気さくさだ。この二人は、だいぶ馬があうみたいね。つかさもいい友達見つけたもんだ。
「ご、ごめんね、こなちゃん」
「うん、まあいいけど…ってことは同い年なんだよね?」
 わたしにそう聞いてきた泉さんに頷いて見せると、彼女は人懐っこい笑みを浮かべた。
「んじゃ、よろしく」
 そう言いながら手をこちらにさし伸ばしてくる。わたしは急にフレンドリーになった彼女の態度に驚きながら、それを軽く握った。うわ、小さいなあ。
「よ、よろしく…えっと、昨日はごめんね」
 手を離しながら昨日のことをわたしが謝ると、泉さんは少し首をかしげた。
「昨日?…ああ、あれ」
 そして、何か思いついたように手を叩いた。
「ああいうの、いつものことだからね。時節の挨拶みたいなもんだよ」
 良かった。怒ってないみたいだし、気にしてもいない様だ。でも、時節の挨拶にたとえるのはどうかと思う。






802コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:12:56.957jZue2hu0 (4/13)

 泉さんと知り合って二週間ほどたった。
 つかさの友達だということで、わたしは少し距離を置いていたけど、泉さんと話すことは何故か心地よくて、次第に彼女のことをわたしも気に入り始めていた。

 そんなある日、わたしは一緒に帰ろうとつかさのクラスを訪れた。
 教室を覗き込んでみるとつかさの席にその姿は無く、前の席で帰り支度をしてるらしい泉さんの姿があった。
「こんにちは、泉さん。つかさ、いないみたいだけど、どうしたの?」
 泉さんに近づきそう声をかけると、彼女はわたしの方を見てため息をついた。
「先生に呼び出しくらってたよ。長くなるから先に帰ってって言われた」
「…なにしたの、あの子」
 わたしの呟きには答えずに、いずみさんは鞄のふたを閉めて立ち上がった。
「一緒に買い物に行こうって言ってたんだけどね、今日は止めとこうかな」
 そう言いながらため息をつく泉さん。ちょっと残念そうだ。ここは、姉として何かしておくべきかしらね。
「あ、それじゃわたしと帰る?なんだったら買い物にも付き合うし」
 わたしがそう言うと、泉さんは少し首をかしげた。
「いいの?つかさ待たなくて。用事があったんじゃ…」
「うん、まあ用事って言っても、今日委員会が無いから一緒に帰ろうかなって事だから…」
「ああ、そういうこと…」
 泉さんは少し考える仕草をした。もしかして悩んでる?泉さんと二人きりってのは初めてだしなー…それとも最初のアレ、やっぱり怒ってるのかしら。
「うん、じゃあ付き合ってもらっていいかな?」
 わたしが一人でヤキモキしてると、泉さんはあっさりとそう言った。やっぱり気にしてないみたい。うーん、わたし考えすぎなのかな…。
「オッケー、それじゃ行きましょうか」
 わたしがそう言うと、泉さんは頷いて教室の出口に向かって歩き出した。その後に続いて、わたしも歩き出す。
 それにしても、こうして見ると泉さんってホント小さいわね。なんて言うか、ちょっと可愛い…いやいや、何考えてるのわたし。



 泉さんに連れられてきたお店を、わたしはポカンと見上げていた。壁やら入口のドアやらに、アニメや漫画のポスターがたくさん張られている。
「えと…ここ、何のお店?」
 わたしが泉さんの方を見てそう聞くと、彼女は軽く微笑んだ。
「見ての通りの店だよ。さ、入ろっか」
 いや、見ての通りって言われても…わたしはさっさと店内に入っていく泉さんに置いていかれない様に、慌ててその後を追った。

 お店の中は、外側よりもさらに大変なことになっていた。アニメ関連の雑誌やDVD、多数の漫画やゲームに関連グッズっていうのかしら?そんなものが所狭しと並べてある。流れてる音楽も、いかにもそれっぽいアニメソングだ。
「…泉さんって、こういうとこに来る人だったのね」
 早速色々と物色を始めてる泉さんに、わたしはそう言った。
「うん、そうだよ」
 こっちを見もせずに、泉さんはあっさりと答えた。泉さんはアレか…いわゆるオタクという人らしい。しかも隠すつもりはまったく無いって感じだ。
 つかさは泉さんがオタクだということを知ってるのだろうか。知ってるとしたら、普段どういう会話をしてるんだろうか…何故かそんなことが気になった。

「…お、コレ探してたんだよねー」
 泉さんはあちらこちらをうろうろしながら、どことなく楽しそうに買うものを決めていく。わたしは、それについていくだけだ。こういうのにあまり興味がなくてよく分からないので、泉さんの買うものに何か言うこともできない。かと言って、泉さんから話を振られることも無いし、正直、一緒に買い物に来る意味があったんだろうかって考えてしまう。
 つかさとだったら違ったんだろうかって思ったけど、あの子もこういうのは分からないだろうし、変わらないだろうなって思い直した。
「これも入荷してたんだ。今日は大漁だねー」
 相変わらず、泉さんは楽しそうだ。さっきからわたしと何も喋ってないどころか、わたしが居ることすら忘れてるんじゃないかって思う。これなら一人で来ても変わらないんじゃないかな。
「…大丈夫?」
「え、な、何!?」
 急に泉さんに声をかけられ、驚いて上ずった声で返事をしてしまう。
「なんかボーっとしてたけど…」
「な、なんでもないわよ」
「そう?だったらいいんだけど…」
 一応気にはかけてくれてるのかしら…。
「あっと、こっちも見とかないとねー」
 と、思った矢先に違う場所に移動を始める泉さん。その後を慌てて追いながら、わたしは彼女が何を考えてるのかちょっと分からなくなってきていた。




803コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:14:55.227jZue2hu0 (5/13)

「さてっと、アレはあるかなー」
 着いた先は…なんだろう。なんて言えばいいんだろう…ゲーム…だと思うんだけど…。
「あの…ここなに…?」
 思わず不安そうに聞いてしまうわたし。どこを見ても、なんていうか…アニメ調の女の子ばかり目に飛び込んでくるんだけど…。
 いくつかのパッケージを手にとって、タイトルを確認してるらしい泉さんは、それらを棚に戻してこちらを向いた。
「なにってギャルゲ。今ね、特集コーナーが設置されてて、掘り出し物が見つかりそうなんだよ」
 そして、事も無げにそう言った。おかしい。なんかおかしい…っていうか…。
「…こういうのって、女の子のするものなの…?」
 呟くようにわたしが言うと、泉さんは頬をかきながら首をかしげた。
「別にいいんじゃないの?しちゃいけないなんて法律無いし」
「いや、そりゃ無いけど…」
 無いんだけどなー…なんだろう…入っちゃいけない領域のような気がするんだけど…、
 わたしはなんだかめまいにも似た感覚を覚え、また色々とあさり始めた泉さんを置いてその場を離れてしまった。

 店内を少し歩いたところで、とある棚が目に留まり、わたしは足を止めた。
 どうやら書籍のコーナーらしいんだけど、前に新聞の広告で見て気になっていたものの、地元の本屋では見つからなかったタイトルが置いてあった。こういうお店って、アニメやらなんやらばかりだと思ってたけど、こういうのも置いてるのね。
 わたしはその本を手にとって、軽く読み始めた。うん、予想通りなかなか面白い。
「柊さんは、そう言うのに興味あるんだね」
「うわぁっ!?」
 後ろからいきなり声をかけられ、わたしはびっくりして本を押し込むように棚に突っ込んだ。
「な、ななななに?お、驚かさないでよ…」
 わたしは鼓動が収まらない胸を押さえながら、声をかけてきた泉さんに文句を言った。泉さんは何か困った風に頭をかいた。
「いやー、そこまで驚くとは思わなくて…あと、本はそんな乱暴に扱わない方がいいんじゃないかな」
「…泉さんが驚かすからでしょ」
 わたしは気持ちを落ち着かせようと、数回深呼吸をした。その間に泉さんは、わたしが見ていた本が入っている棚を眺めていた。
「柊さん、ラノベに興味あるんだね」
 なんとなく言った…と思う泉さんのその言葉に、収まりかけていた鼓動がまた速くなってきた。
「…と、特に…無いわよ」
 答える言葉が、何故かどもってしまう。どうしてわたしは、こんなに動揺してるんだろう。
「え、でもコレ読んでた時、楽しそうだったよ?」
 泉さんはわたしが戻した本を手に取り、こちらに差し出してきた。頭の中に『違う』って言葉が浮かぶ。
「…違うわ」
 浮かんだ言葉が、そのまま口をついて出る。この本に興味があったのは違わないはずなのに、一体何が違うって言うのよ。
「んー、別に隠さなくてもいいと思うんだけどなー」
 泉さんは、また困ったように頭をかいた。ようにというか、本当に困ってるんだろう。わたしのおかしな態度に。
「それに、柊さんがこういうのに興味あるってのに安心したよ」
 なんでだろう。泉さんの気楽そうな声が癇に障る。さっきまでそんなこと無かったのに。
「わたしばっかり楽しんでるのもアレだしね…友達なんだし」
 違う。わたしの中で言葉が大きくなる。そうか…本に興味がある事を違うって思ったんじゃない。同じに思われたくなかったんだ。
「…いつから…」
 わたしの口が…まるで別の『わたし』がいるみたいに、勝手に言葉を吐き出す。やめてよ…その先は言わないで。
「いつから、わたしとアンタが友達になったのよ!?」
 予想外に大きな声が出た。騒がしかった店内の音が聞こえなくなる。陽気な声のアニメソングが酷く耳障りに感じて、わたしは顔をしかめて泉さんに背を向けた。
「…そっか…」
 背中から泉さんの声が聞こえる。
「わたし…勘違いしてたのかな…」
 その声は、震えていたような気がした。






804コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:16:02.297jZue2hu0 (6/13)

 自己嫌悪。
 家に帰る最中、わたしの中はその言葉で一杯だった。
 学校じゃ普通に話してたし、今日の買い物だって付き合うって言ったのわたしからだったじゃない。友達だって向こうが思うの当然じゃない。なのに…あんなことを…。
 オタクだと思われたくなかった。きっと、『わたし』はあの時そう思ってた。誰に向かってそんな見栄を張ってたんだろう。わたしの前に居た泉さん?それとも名前も知らない周りの人たち?
 くだらない…本気でそう思う。くだらない見栄のために、『わたし』は泉さんに理不尽な態度をとったんだ。
「…怒ってるかな…」
 ボソッと呟きが漏れる。最後の泉さんの声が震えていたのは、きっとわたしに対する怒りからだろう。泉さんからすれば、訳のわからないうちに怒鳴られて拒絶されたようなもんだから…そんな理不尽を突きつけられたら、わたしも怒るだろうな。
 ホント、最悪だ…せめてつかさとの仲だけはこじれないで欲しいと、わたしは心の底から思った。



「…ただいま」
 家の玄関をそっと開けながら、わたしは小さな声でそう言った。できれば誰にも合わずに部屋に戻りたかったからだ。
「おかえり、お姉ちゃん。遅かったんだね。どこか寄ってたの?」
 …よりにもよって、つかさと鉢合わせた。
「…ちょっとね」
 泉さんと買い物に行って、喧嘩別れみたいに置いてきた…とはとても言えずに、わたしは曖昧な答えを返してしまった。
「…もうすぐ、ご飯だよ」
 つかさは特に何も聞いてこないで、そう言って台所の方に歩いていった。
 わたしはその背中が見えなくなってから、自分の部屋に向かった。

 部屋に入ったわたしは、鞄を放り出してベッドにうつ伏せに寝転んだ。そして顔を枕に埋める。
 自己嫌悪の感情はちっとも消えてくれない。どころか、どんどん大きくなっていく。
 泉さんに学校で会ったら、わたしはどうすればいいんだろう。その場面を想像しただけで怖くなる。
 明日なんて来なければいいのに。そんな事を真剣に思ってしまう。



 わたしがどう思おうと、時間というものは止まらない。そんな当たり前なことにでも、今のわたしはため息をついてしまう。
 何時も通りに制服に着替え、何時も通りに朝食を食べる。何時もわたしより遅く起きてくるつかさは、今日は日直か何からしくすでに家を出ていた。
 台所においてある、つかさの作ったお弁当を取ることすらためらってしまう。
 今日、学校で泉さんはわたしの事をつかさにどう言うんだろうか。頭の中に浮かんだそんな考えに、わたしは顔をしかめた。
 こんな時にまで、わたしは体面を気にしてる…別の『わたし』が自分を保とうとしている。
 イヤになるな…こういうの。

 登校したわたしは、一日自分の教室で過ごすことにした。とりあえず、今日くらいは泉さんに会わずに間を置こうと思っていた。
 逃げているだけ…というのは分かっているのだけど。会ってもどうしていいかわからなくなるだけで、下手をするとまた別の『わたし』が余計なことを言うかもしれないから…いや、これも結局は逃げるための口実なのかもしれない。
 ダメだなあ…頭の中がもうグチャグチャだわ…。




805コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:17:17.247jZue2hu0 (7/13)


 お昼休み。つかさのクラスに行く気にまったくならなかったわたしは、自分の机でお弁当を広げた。
「お、柊。今日はこっちか?一緒に食べようぜ」
 同じクラスで、中学時代からの友人である日下部みさおが、なんだか嬉しそうに手近な席から椅子を引いてきてわたしの机に自分のお弁当を広げた。
「…峰岸は?」
 わたしは、もう一人の友人峰岸あやのの事を、日下部に聞いた。二人は幼馴染でいつも一緒に行動している。お昼もほとんど二人で食べてるし、わたしがこちらの教室で食べるときは三人で食べているのに、今日はその姿が見えなかったからだ。
「なんか部活の顧問に呼ばれてった。お昼もそっちで食うってさ」
「ふーん…峰岸は、茶道部だったっけ?顧問ってたしか…」
 ど忘れしているのか名前が多い浮かばず、わたしは少し考え込んでしまった。
「天原センセ。保健室の」
 そしてわたしが思い出すより先に、日下部が口にしていた。記憶で日下部に負けるなんて、今のわたしは相当ダメになっているみたいだ。
「この前ちょっと話したけどさ、あやののこと筋がいいって褒めてくれてたんだよな」
 峰岸のことを、我がことのように嬉しそうに話す日下部。この二人は友達としてホントいい関係だと思う。
 …友達か…今のわたしには、なんかきつい言葉よね…。
「…柊?どうしたんだ?」
 日下部にそう声をかけられ、わたしは慌てて顔を上げた。
「あ、うん。なんでもないわ…」
 危ない。思わずうつむいてしまってたみたい。
「そうか?んじゃ、いいんだけど…」
 なにか感づかれなかっただろうか。日下部に限っては、そういう心配はまったくないと思うんだけど。
「ねえ、日下部」
 黙って食事を勧めようかと思ってたはずなのに、わたしは日下部に声をかけていた。日下部は返事の代わりに、お弁当に向いていた視線を、わたしの方にチラッと向けた。
「わたし達は、友達よね?」
 …我ながら、なんていう間抜けな質問なんだろう。
「何だ?いきなり…」
 日下部は、心底訳が分からないと言った感じで瞬きをしている。
 そりゃそうだろう。わたしだって、いきなりこんな質問をされたら目が点になる。じゃあ、何でこんなこと聞いたんだろう…もう自分でも訳がわからなかった。単純な日下部から、なにか明確な答えが欲しかったんだろうか。
「…ごめん。何でもないわ。忘れて」
 わたしはなるべく平淡な感じでそう言い、お弁当の残りを食べ始めた。日下部も首を何度も捻りながらも、食事を再開していた。なんか悪いことしちゃったかな…。

「ちょっと、あやのの様子見てくる」
 お弁当を食べ終えた日下部は、そう言って席を立った。
「…うん」
 わたしはそう短く答えた。こっちの方は、まだ少しお弁当が残っている。
「…あのな、柊」
 少し歩いたところで、日下部は振り向いてわたしを呼んだ。
「友達じゃなかったら、一緒に飯食おうなんて言わないぞ…あたしはな」
 そして日下部は、わたしが箸を止めるより早くそう言い切り、そのまま逃げるように教室を出て行った。わたしはその後姿を唖然と見送ることしか出来なかった。
 …やっぱり何か感づかれてたんだろうか。だとすれば、今のは日下部の精一杯の言葉と照れ隠しだったんだろうか。
 ありがとう。少し軽くなった心の中で日下部に礼を言ったわたしは、日下部が弁当箱を持ったまま教室を出て行ったことに気がつき、小声で笑った。
 そして、一つの考えに思い至った。

 ああ、そうか。こんなにつらいのは…泉さんと友達になりかたかったからなんだ。






806コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:17:52.737jZue2hu0 (8/13)

 その日の放課後。わたしは委員会に出席するために会議室に向かっていた。
 正直気が乗らないと言うか、身が入らない状態なんだけど、委員長なんてものをやってる以上出ない訳にはいかない。こんなことなら引き受けるんじゃなかったわ…ってこんなことになるとか、その時に分かるはずないんだけど。
「こんにちは。柊さん」
 後ろから声をかけられ振り向くと、高良さんが微笑みながら軽く手を振っていた。
「こんにちは…高良さんも、今から?一緒に行く?」
「はい。よろしくお願いします」
 相変わらず丁寧な人よね…そんな他愛もないことを思いながら、わたしは歩く速度を落として高良さんと並んだ。
「…何かありましたか?」
 いきなりそう聞かれ、ドクンっと心臓が跳ね上がった。
「な、なに?急に…」
 どもってしまう。これじゃなにかあるって言ってるようなものだ。
「すいません。何か悩んでいるようなご様子でしたから…」
 一応、平静にしてるつもりだったんだけど…隠しきれてなかったみたいだ。
「…何に悩んでるように見える?」
 わたしは、話しを少しずつそらせないかと、高良さんを試すようにそう聞いた。
「そうですね…お友達と喧嘩をなされたとか」
 …何この人。それるどころか急接近なんだけど。
「…半分、正解ってとこかしら」
 わたしは素直にそう言った。なんか、高良さん相手には隠しきれない気がする。
「半分、ですか」
「そ、半分。わたしとあの子はまだ友達じゃなかったから…それに、喧嘩じゃなくてわたしが相手を一方的に怒らせただけよ」
 わたしがそう言うと、高良さんは人差し指を顎に当てて首をかしげた。
「それだと、半分どころか全然当たっていませんね」
「…あ」
 高良さんの言葉に、身体の力が抜けるような感覚を覚えた。完全に自爆だ。
「『まだ』ということは、お友達になるつもりだった…ということでしょうか?」
 続けて高良さんはそう聞いてきた。
「そう…かもしれないわね…自信ないけど」
 わたしはもう完全に諦めて、自分の事をぶちまけようとしていた。素直になりきれなくて、言葉を濁してるけど。
「…まだその方と、お友達になりたいとお考えですか?」
 それでも、次の質問には答えが浮かばなかった…まったく考えてもいなかったことだからだ。わたしは、どうしたいんだろう?
「もし、そうなら…まずはわたしと友達になりませんか?」
 そう言いながら、高良さんは左手をわたしの方へ差し出してきた。わたしは意味がわからず差し出された手と高良さんの顔を交互に見る。
 そして、少し考えて思いつく。この手を取るということ…それは、泉さんのことをまだ諦めていないと言うこと。まだ友達になりたいと思っているという意思表明。わたしの『どうしたい?』を解決するきっかけ。単純にして明快な意思表示だ。
 この人は…高良みゆきという人は、どこまでわたしの予想の先を行ってるんだろう。
 わたしはその手を…しっかりと握り締めた。あたたかくて頼りになりそうな感じがした。
「…ありがとうございます」
 高良さんは、何故か礼を言いながら微笑んだ。その意味を聞こうとしたけど、それは無粋だと感じ、わたしは微笑をかえすだけにした。たぶん、ぎこちないものになってるだろうけど。
「こんな形式ばった友達のなり方なんて初めてよ…高良さんはいつもこんなことしてるの?」
 握った手を離しながらわたしがそう聞くと、高良さんは首を横に振った。
「いいえ。わたしも初めてです」
 うーむ。なにか引っかかるんだけど…まあ、いいか。
「それと、友達になったのですから、わたしの事はお好きに呼んでいただいて結構ですよ」
「じゃあ、みゆきで」
 わたしはあまり考えずにそう答えた。つかさならなにかあだ名でも考えるんだろうけど、わたしはそういうの向いてないらしくろくなのを思いつかないからだ。
「わたしも好きに呼んでいいわよ」
「わかりました、柊さん」
 おい、そっちは変えないのかよ。思わず心の中で突っ込んでしまった。
「柊さんじゃ、つかさと被ってややこしいでしょ?…同じクラスだし、つかさ知ってるわよね?」
 わたしがそう言うと、高良さ…もといみゆきは少し顔をうつむかせた。
「わたしは、あの方には少し避けられているようでして…」
 …あー…なんかわかる気がする…。
「それ、たぶん怖がられてるのよ」
 わたしがそう言うと、みゆきは驚いたように目を見開いた。
「わ、わたし怖いですか?ど、どの辺りがでしょうか…?」
「いや、なんていうか…気後れしてるって言うのかな。話しかけにくい人だと思ってるのよ」
「そ、そうだったんですか…」
 うつむいてションボリするみゆき。こういう姿とか見せたら、つかさも親しみやすくなるんじゃないかな。
「…まあそれは、わたしの方でなんかできるか考えてみるわ。今日のお礼にね」
「お礼、ですか?」
 小首を傾げるみゆきに、わたしは微笑んで見せた。今度はちゃんとできてると思う。
「そ、お礼」
 決心するきっかけをくれたことの、ね。
「そうですか。お役に立てて幸いです」
 わたしの考えを察したのか、そう言って微笑むみゆき。ほんと、出切る人っているところにはいるものなのね。






807コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:18:47.707jZue2hu0 (9/13)

 次の日。わたしは教室で頭を抱えていた。
 もう一度きっかけを作って、泉さんと友達になろうと決心したはいいけど、そのきっかけをどうしようかまったく思いつかないのだ。
 お昼も、結局自分の教室で食べてしまった。二日連続でこっちの教室だったことで、日下部に妹との仲を心配されたが、とりあえず無視。
 そんなことをしているうちに、あっという間に放課後になってしまった。


「…なにやってるの、わたし」
 ため息と独り言が同時に漏れる。きっかけなんか考えずに真正面から行くことも考えたが、とてもじゃないが実行に移せる度胸は無かった。
「柊ちゃん。高良さんって人が呼んでるよ」
 今日の委員会で使う資料をファイルにまとめていると、峰岸にそう言われた。ドアの方を見てみると、みゆきが小さく手招きをしている。
 …なにをしてるの、あの子。わたしはファイルを持ったまま立ち上がり、みゆきの方に向かった。
「どうしたの?こんなところに」
「すいません。少し大事な用がありまして…今日の委員会で使う資料はどちらでしょうか?」
 妙な事を聞いてくる。資料を忘れたんだろうかと思ったけど、周りから浮くくらいに委員の仕事を完璧にこなしていたみゆきが忘れ物とか信じがたい。それに、そもそもこの資料は各クラスごとに違うものだから、写すとか意味が無い。
「これだけど」
 みゆきの意図はわからないけど、とりあえずわたしは持っているファイルを指差して見せた。
「少し、拝見させてもらってよろしいですか?」
「いいけど…」
 とりあえず、みゆきにファイルを手渡してみたが、この子が何を考えているのかさっぱりわからない。
 みゆきは書類をチェックし、納得したように何度か頷いた。
「なるほど…では、これはわたしがお預かりしますので、柊さんはすぐにお帰りください」
「…へ?」
 今のわたしは、たぶん目が点になっている。いきなり何を言い出すんだこの子は。
「ですから、このままお帰りください…あ、ちゃんと校門から出てくださいね。バス停に行ったり裏門から出たりとかはダメですよ?」
 なんか帰り方まで指定された。
「え?いや、な…ええ?」
「では、わたしはこれで…頑張ってくださいね」
 わたしのファイルを持ったまま、早足で立ち去るみゆき。これはなんていうか、委員会サボり決定?
 …いや、そう言う問題じゃないような…てかどこから突っ込めば…いや、突っ込みの対象がもういないし…。
 わたしはしょうがなく、教室に鞄を取りに戻った。次からの委員会、出にくくなるなあ。






808コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:19:50.007jZue2hu0 (10/13)

 わたしはみゆきに言われた通りに、校門から外に出た。我ながら律儀なことだと思うが、委員会をサボらせてまで何をさせようかを見てみようと言う気もあった。
 そして、少し歩いたところで立ち止まった。わたしの視線の先には…泉さんがいた。誰かを待ってるかのように、塀にもたれかかって周りを見回している。
 心臓が高鳴る。心の準備がなんにも出来てない。これは、偶然なの?
「…あ」
 泉さんがわたしに気がついた。なにか信じられないといった風に、目を見開いている。
「ホントにきた…凄いな委員長」
 泉さんの呟きに、わたしは耳を疑った。委員長?みゆきのこと?みゆきが何かしたっていうの?ってかそんなこと一言も言ってないのに、なんで相手が泉さんだってわかったの?ホントにあの子は人の心が読めるの?
 混乱するわたしの顔を、いつの間にか近づいてきていた泉さんが覗き込んできた。わたしは思わず一歩退いてしまう。
 その状態のまま、わたし達はしばらく固まっていた。通り過ぎていく他の生徒の目には、この状態は一体どう写ってるんだろう。いや、そんなこと気にしてる場合じゃない。なにか…何か言わないと。
「…帰ろっか?」
 わたしが何を言おうか迷っていると、泉さんはそう呟いて歩き出した。わたしはその背を慌てて追う羽目になった。うう…なんかかっこ悪い。


 しばらくの間、わたしは泉さんの背中を見ながら後ろを付いて歩いていた。何度か声をかけようとしたけど、どうしても口に出せない。彼女は、今何を考えてるんだろう。どういう表情をしているんだろう。
 彼女から声をかけてくれれば、まだ話せるかもしれないのに…いや、それはダメだ。わたしからじゃないとダメだ。そう決めたはずでしょ。もう一度きっかけを作るって。泉さんと友達になるって。今がそのときじゃないの。
 でも…と、わたしのなかを暗い影がよぎる。もし…もしここで拒絶されたら?わたしの言う事を、虫のいい話だと切り捨てられたら?…そんな明確に傷つくような事になるなら、このまま黙って別れてしまえば良いのでは?何も得られないけど何も失わない、『何も無い関係』に戻れるのでは?
 …黙ってなさい!…わたしは心の中で、いらない事を囁く『わたし』を力ずくでねじ伏せた。
 何が『何も無い関係』よ!泉さんを傷つけたのはわたしじゃない!それを無かったことにして、何も無いなんてそんな馬鹿な話があるものか!…ここは『わたし』が折れるところでしょ!
「い…泉さん!」
 声、裏返った。わたしかっこ悪い。でも、今はそんなの関係ない。わたしの声に泉さんが振り返る。言うんだ。わたしの思ってることを、ちゃんと。
「お、一昨日は…その…ごめんなさい…わたし、あんな店に行くの初めてで、なんか混乱してて…」
 違う。そんな言い訳なんかどうでもいい。
「…わたし、同じに思われるのがイヤだった…オタクって思われるのがイヤで…それで、あんなこと…」
 言った。というか言ってしまった、というか…泉さんは、何度か瞬きをした後…笑った。ニッコリと。
「そっか…そんなところだと思ってたよ」
 そして軽い口調でそう言った。まるでその事が何でもないことかのように。
「柊さん、いい人だね。そういうこと謝られたの、初めてだよ」
 嬉しそうにそう言いながら、泉さんはわたしの目の前まで近づいてきた。こうして並んでみると、ホント小さい。小さいのに…なんでか、大きく感じる。
「…怒ってないの?」
 思わず、そんな事を聞いてしまった。目の前の泉さんが、まったく変わらずに見えたから。
「怒る?…あー…それは、ないない」
 そう言いながら、泉さんは目の前で手を振ってみせる。言動も仕草もいちいち軽い。
「びっくりはしたけど、怒ってないよ…むしろ、柊さんが怒ってないことに驚いたくらいだよ」
 それこそ無いわ。あんな事しておいて怒るとか、ただの逆ギレじゃない。
「っていうか、ああいうところ連れてくの、いきなり過ぎたって感じだったかなあって、ちと反省してたんだ…柊さんの趣味とかわからなかったし、何か興味あるものに反応してくれたらなあって思ったんだけど…」
 そう言う意図があったんだ。それをわたしは…あれ?っていうか、それって泉さんの方もわたしを気にかけていたってこと?
「わたしの趣味だなんて…つかさにでも聞けばよかったじゃない」
 わたしは苦笑しながら、泉さんにそう言った。うん、なんだかいい調子に話せるようになったみたい。わたしの言葉に泉さんは、ポンッと手を打った。
「その手があった。全然気づかなかった」
「気づきなさいよ、それくらい!」
 やっちゃった。調子出すぎだわたし。なに全力で突っ込んでるの。
 しばらくの沈黙。わたし達はお互い顔を見合わせ…そして、二人同時に大声で笑い出した。

 うん。やっぱりこの子と話すのは、気持ちいいな。







809コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:20:48.067jZue2hu0 (11/13)

 あの後、なぜかデジカメを持っていたこなたに、無理矢理写真を撮られたんだっけ。
 なんか、懐かしいな。思い出したあの頃に、苦笑いみたいなのがこみ上げてくる。
 わたしは椅子の背もたれに身体を預け、写真を天井にかざした。裏に書いてある文字が透けて見える。
 この記念日も、こなたが無理矢理作ったものだ。この文字に気がついた時の、こなたの意地悪そうな笑顔は今でも思い出せる。
 恥ずかしいって言ったのに、全然聞かないんだもんなあ…律儀に毎年付き合ってるわたしが言っても、説得力無いけど。
 結局あれは、わたしが一人で思い悩んでただけだったのかも。こなたは最初からずっと…あんなことを言われた後も…わたしを友達と見てくれてて、軽い喧嘩のようなものだと思っていたんだろうな。だから、あんなにもあっさりとしてたんだろう。記念日は、わたしに合わせてくれたのかな…そう思うと、少し嬉しくなるから、我ながら現金なものだ。
 それでも、わたしは苦心してたのにって考えると、なんか悔しい気分になる。
「お姉ちゃん。ご飯できたよ」
「うわぁっ!?」
 ノックもせずに入ってきたつかさに驚いて、わたしはバランスを崩して椅子ごと真後ろに倒れた。
「…お、お姉ちゃん。大丈夫?」
 つかさが恐る恐る聞いてくる。わたしは冷静に立ち上がり倒れていた椅子を立てて、写真をコルクボードに戻した。
「ノックしなさい」
 そして、つかさにそう言い放つ。
「え、でもいつもしてない…」
「いいから、しなさい」
 炸裂する理不尽な姉。でも、いまのはつかさが悪い。きっとそう。
「うう…なんか納得いかない…」
 ここですんなり頷かないあたり、つかさも成長したものだと思う。
「そう言えばお姉ちゃん。今見てた写真…」
「ご飯できたんでしょ?行くわよ」
 何か言おうとしてたのを遮って、わたしはつかさを部屋から押し出した。とてもじゃないけど、つかさにあの写真のことは言えない。言えば家族や友人にあっという間に広がりそうだから。





810コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:21:44.067jZue2hu0 (12/13)

 わたしとつかさは黙々と食事を取っている。今日は家族がみんな出かけていて、食卓に居るのはわたしとつかさだけだ。
 こういうときは迂闊に話さない方がいい。なにからボロが出るか分からないからだ。
「さっきの写真、こなちゃんとのともだち記念日のだよね」
 ブフゥッと音を立てて、わたしの口からお米が噴出した。
「…お姉ちゃん、汚いよ」
「…ゴホッ、ケホッ…あ、あんたが…驚かす…っていうか、なんで知って…」
 むせながらそう聞くわたしに、つかさはニッコリと笑いかけてきた。
「こなちゃんから聞いたんだよ」
 …誰にも話すなって言ったのに…よりにもよってつかさに話すか…。
「…あの時ね。お姉ちゃんが帰ってくる前に、こなちゃんから電話があったんだよ」
 わたしは、つかさが何のことを言ってるのかわからなかった。
「すごくね、落ち込んでたんだ。『お姉さん、怒らせちゃったみたい』って泣きそうな声だった」
 そこまで聞いて、わたしはようやくこなたとアニメショップに行った、あの日のことだと気がついた。
「それ…ホントなの?」
 思わずそう聞いてしまう。つかさが、こんな事で嘘なんかつくはずないのに。
「うん、ホントだよ。次の日もね、学校でこなちゃん元気なかったんだ。わたしは、お姉ちゃんはきっと怒ってなんかないって言ったんだけど…」
 こなたも、悩んでいた。わたしとの事を、深刻に考えていた。あの時の軽い態度は、悩みぬいた末に辿り着いた結論だったんだ。
 あの時、同じ思いをしていた。褒められたことではないけど、少し心が和らぐ気がした。
 そしてわたしは、もう一つわからなかった事の答えが見えた気がした。
「…ねえ、つかさ。そのこと、みゆきは知ってるの?」
「ゆきちゃん?…どうだろ…同じクラスだから、こなちゃんの様子は見てたと思うけど…」
 もしそうだとしたら、放課後に会ったわたしの様子と照らし合わせて、こなたの友達であるつかさ、そしてその姉であるわたし、と繋げたのだろう。
 人の心を読んだのでもなんでもない、普通に考えてでた結論だったんだ。
 なんとも単純な答えに、笑い出しそうになる。こんな事を五年も経ってから…それもつかさの口から聞いて知るなんて。
 …ん、ちょっとまって…五年も経って?つかさの口から?
「つかさ…間違ってたらゴメンだけど。その事、こなたから口止めされてないの?絶対にわたしに話すなって」
 話は終わったとばかりに、煮っ転がしを口に運ぼうとしていたつかさの動きがビシッと止まった。
「え…えっと…あはは…」
 誤魔化すように笑いながら頭をかくつかさ。いや、あははじゃないっての。なんでこう、口止めされてることをポンポン喋るのこの子は…っていうか、口止めされてた事自体を忘れてたんじゃ…。
「こ、こなちゃんには、わたしが話しちゃったってこと言わないでね…?」
「いやです。ばらします」
 懇願してくるつかさに、冷淡に言い放つ。
「ま、待ってお姉ちゃん。こ、こなちゃんに怒られるよー」
「まちません。それと、これをネタにあしたこなたをからかいます」
「ええー!?そんなのダメだよー…っていうかその口調すごく怖いよ、お姉ちゃん…」
 自業自得、というやつだ。これで少しは口が堅くなってくれるといいんだけど…無理だろうなあ。
 まあでも、これで明日の過ごし方はなんとなく決まった気がする。
 からかうのはいいけど、その後、別のネタでからかわれると思うけど、それもまたいいかもしれない。

 なにせ明日は、二人の記念日。
 わたし達だけにしか、意味の無い記念日。
 その日がどういう日になるかは、二人の気分しだいなのだから。



― おわり ―



811コンクール作品「ともだち記念日」2011/02/17(木) 20:22:35.407jZue2hu0 (13/13)

以上です。

友情を書こうとしても、百合っぽくなるのはもはや仕様。


812VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 22:36:37.949PYa9QTA0 (1/7)

>>811
エントリーしようとしましたが、容量オーバーで分割しなければなりません。
ページの切れ目を指定して下さい。
返答がない場合は>>805で分割させて頂きます。


813VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 22:43:52.39b7G4IKmSO (1/3)

携帯からなんでID変わってますが>>811です。

出来れば>>806と>>807の間で区切っていただければと。
日にちが変わってきりがいいので。

っていうか、そんな長くなってるとは思わなかった。


814VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 23:02:22.72e4jb1s/zo (1/1)

アットウィキモードだと容量制限あるってこと?
だとしたらそれ何キロバイト?


815VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 23:11:00.309PYa9QTA0 (2/7)

ともだち記念日
は4番目のエントリーです。

>>813
アットウィキモード はそんなに容量が多くありません。文字の密度にもよりますが7~8レスくらいでオーバーします。



816VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 23:19:48.059PYa9QTA0 (3/7)

アットウィキモードは1ページあたり50Kバイトだそうです。
ただしPCに表示されてる容量と一致しないそうです(増減あり)
コメントフォームとか設置できるから少なめだね。



ちなみにワープロモードは200kバイト


817VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 23:20:21.349PYa9QTA0 (4/7)

アットウィキモードは1ページあたり50Kバイトだそうです。
ただしPCに表示されてる容量と一致しないそうです(増減あり)
コメントフォームとか設置できるから少なめだね。



ちなみにワープロモードは200kバイト


818VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 23:21:35.589PYa9QTA0 (5/7)

>>817 ミスです。


819VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 23:31:04.58b7G4IKmSO (2/3)

すいません。
ともだち記念日の1ページ目の行間が詰められてるのは、こうしないと入らなかったからでしょうか?


820VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 23:41:59.039PYa9QTA0 (6/7)

>>819
1ページ目の行間は2ページ目と合わせるためにあえて詰めました。
これは『遺書』と同じです。

モードが違うので同じ書体でも行間が違うのです。
ページを変えて読者に違和感を与えないためにしたのですがご希望があれば元に戻します。



821VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 23:47:42.19b7G4IKmSO (3/3)

出来れば原文のままでお願いします。

携帯などで見ると行間が完全に詰まりきって、かなり見にくくなってますので。


822VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/17(木) 23:54:20.659PYa9QTA0 (7/7)

>>821
変更しました確認して下さい。


823VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 01:46:16.48qrnniBiz0 (1/7)

夜分遅くに申し訳ないのですが、作品を一つ投稿させていただきます。
コンクール参加作品です。


824記念日カレンダー2011/02/18(金) 01:52:23.16qrnniBiz0 (2/7)



 インターネットで何気なくネットサーフィン。お気に入りのページを開いて、御用達の小説創作掲示板に移動する。こういうのを見ていると「かがみはやっぱりこっち側の人間じゃん~♪」とあいつにまた囃されそうだが、断じてそんなつもりはない。……と、自分に言い訳をしながら表示されたページを見ると、トップページに何やら見慣れない文章が記入されていた。
「第20回短編小説コンクール開催!テーマは……『記念日』、か……」
 なんとなしに声に出して読んだ後、意味もなく肺に溜まり込んでいた気分の悪い空気を吐き出す。モニターに映し出されている『記念日』という3文字をもう2、3回ほど反芻したあと、私はやっぱりモニターから顔を離した。




 記念日は嫌いだ。
 1年間は365日。そのうちの1日を記念日にしたとしたら、それを迎えることができるのは365回に1回だ。人間の寿命はおおよそ80年だから、だいたい30000回に80回しか迎えることができない。


 365分の1。
 約30000分の80。
 百分率にしたら、1%なんて簡単に切ってしまう。


 一生のうちで1%にも満たないその日を待ち続けるのはあまりに虚しい。たった1日を迎えるためだけに、長い長い日常を過ごしていくことになってしまう。持って生まれることが義務となる誕生日でさえそうなのに、そんな日をわざわざ自分達で作ろうだなんて、どうして思うのだろうか?




 すっかり興ざめした私はモニターの電源を乱雑に落とし、ベッドに飛びこんで枕元の文庫本に手を伸ばす。2、3ページほどめくっていき、段々と物語に意識が入り込んで来た所に、


「お姉ちゃん、ちょっといいかな」


 図ったかのように、つかさが私の部屋のドアを開けてきた。






【 記念日カレンダー 】








825記念日カレンダー(2)2011/02/18(金) 01:54:59.47qrnniBiz0 (3/7)

「お姉ちゃん今日なんかいいことあったかな~って……」
 気だるそうに私のところに来た目的を聞くと、つかさは対照的に機嫌良く答える。いいところに入ってきてそんなことかと一瞬考えたものの、何も知らないで入ってきたつかさを悪く言う筋合いもなかったので、すぐにそんな気の悪い感情は吹き飛んだ。吹き飛んだのだが、
「そんなこと聞いてどうするのよ?」
 つかさの質問の意図を私は全くといっていいほど読み取ることができていない。
「えーと……えへへ、とにかく今日なんかいいことなかった?」
 しかしつかさは意味ありげに笑顔になっただけで、私の質問には答えてくれなかった。確かに、質問の内容は理由に関係することではないのだけれど、やはり急にそんなことを聞かれるとどうしても意図が気になってしまう。なんとかして問いただしたかったのだが、1度質問をしてつかさが応えてくれなかったときは、どうしたって答えてくれないときである。その事を私は知っていたので、すんなり諦めることにした。

「いいことって言ったって……」
 だが"いいこと"なんて言うが、今日のように普段通りの生活をしている中でいきなり聞かれても、おいそれと答えられるものではない。朝起きて、普通に学校に行って、あいつなんかと話して、帰ってきて、適当に過ごして。確かに幸せなことではあるのだが、これが当たり前となってしまっている以上、"いいこと"とは言えないだろう。
「残念だけど、これといってないわよ。特別どこに出かけたわけでもないし、特別誰と会ったわけでもないから、探そうったって無理ね」
「そうなんだ、残念」
 ありのままに質問に答えると、つかさは眉の端をほんの少し下げた。しかし数秒後には気にもしないように笑顔に戻り、前もって準備していたことがわかるくらい、手際良くあるものを私の前に差し出した。
「実はね、この間こんなのを買ったの」


『記念日カレンダー』


 ポストカードが何枚か重なっているタイプの小さなカレンダー。その一番上のものには、控え目に洒落た字でそう書かれていた。 
 拝借して一枚めくってみると、カレンダーによくあるきれいな風景の写真などもなく、ただ簡単に1日から31日の欄がカレンダーの規則にそって並んでいるだけ。左上にこれまた洒落たフォントで何月かが記されており、それが1月から12月までの12枚分が重なって、このカレンダーはできているようだ。
 しかし普通のカレンダーとは違い、それぞれの日にちに、曜日が一切振られていない。これではカレンダーとして機能を全く果たしていない気がするが、きちんとした意図があるようだ。なんでも、
「曜日が振られていないから、このカレンダーに1度書きこんじゃえば何年経っても記念日を忘れなくなるんだよ~」
 ……と、いうことらしい。2月の欄にも、今年はないはずの2月29日の欄がご丁寧に準備をされている。抜かりはないということか。


 ポストカードをぱたんと閉じ、記念日カレンダーをつかさに返すと同時に納得する。なるほど。だったらつかさがここに来たのは、もし私に何かいいことがあればそれを記念日にしようと思ったから、ということだろう。自信ありげにそう言うと、
「すご~い、どうしてわかったの!?」
 果たしてそれは見事に正解だった。



「でもだいたい、記念日なんて作ったってどうするのよ?」


 


826記念日カレンダー(3)2011/02/18(金) 02:03:41.73qrnniBiz0 (4/7)

 だから。正解だったからこそ、私は問いかけた。

「そんな風に記念日を作ったって、来年には虚しくなるだけよ?だいたいあんたは飽きっぽいんだから、待ってるうちにいつの間にか忘れちゃうんじゃないの?」



 つかさが作ろうとしている記念日。
 それは365分の1。
 約30000分の80。
 百分率で1%にも満たない1日。



 作っている今は楽しいかもしれない。1年先が待ち遠しくなるかもしれない。でも残りの364日は、約29920日は、99%は、今思っているよりもずっとずっと長いものになるだろう。たった1日を待つために、そんなにも長い残りの日を過ごすのは、あまりにも虚しい。そんな空虚な日常を、つかさは今まさに作りだそうとしている。

 だから私は問いかけた。私にはそれが、そんなものを自ら作ろうとすることが、理解できなかったから。
 私は、記念日が嫌いだったから。






「そんなことないよ、お姉ちゃん」


 ところがつかさは、澄んだ声で、なおも笑顔で、私に言った。

「私は確かに飽きっぽいから、1日の記念日を待っているのって無理だと思う。お姉ちゃんの言うとおり、きっと忘れちゃうよ」
 自嘲気味に、また眉の端を下げるつかさ。しかしまた同じように、数秒後にはすぐに笑顔に戻った。そのまま、嬉しそうに手に持った記念日カレンダーに目をやる。
「だから、このカレンダーを買ったの。これがあれば1日の記念日を忘れることがないから。それで、1日の記念日を待つのに飽きないように―――」
 
 つかさの笑顔の、輝きが増していく。




「1日じゃなくて、毎日を記念日にできるでしょ?」






827記念日カレンダー(4)2011/02/18(金) 02:06:09.34qrnniBiz0 (5/7)

 カレンダーは3日前の欄から、すべて埋まっていた。『カレンダーを買った記念日』に『クッキーがいつもより美味しくできた記念日』、それから『朝ちゃんと早起きできた記念日』。これらはみんな"記念日"と呼ぶにはあまりに取るに足らないものだったが、つかさの書いたこれらのかわいらしい文字は、とっても生き生きとしていて。おかげで、こんなあまりに小さな1日を、立派な"記念日"に仕立てあげることができていた。



 残りの日が長いのなら、それも"記念日"にしてしまえばいい。
 365分の1が嫌なら、30000分の80が嫌なら、1%が嫌なら。
 365分の365にすればいい。
 30000分の30000にすればいい。
 100パーセントにすればいい。
 そうすれば、空虚な日常なんて、割って入ることもできなくなる。毎日が記念日なのだから、毎日が楽しくなる。



 だから、お姉ちゃんのところに来たんだよ。つかさは、私にそう言ってくれた。



 つかさの笑顔はあまりにまぶしくて、私にはもったいないくらいだった。自然に私も笑顔になると、つかさに一つだけお願いをした。




そして――――












828記念日カレンダー(5 Final)2011/02/18(金) 02:08:53.18qrnniBiz0 (6/7)

「おはよ~お姉ちゃ~ん」
「おはよう、ってまだ寝ボケたまんまじゃない!さっさと顔を洗っておいで」
「ふぁ~い……」
 いつもと変わらない朝。いつも通り早めの朝食をとっていると、いつも通り半分とじた目をこすりながら、つかさが起きてきた。いつも通りつかさにそう言うと、つかさもいつも通りにふらふらと洗面台に向かっていく。
「まったく……」
 そして、いつも通りに確認する。テーブルの中心に置かれている、小さなカレンダー。空欄のまったくない日付の欄を一つ一つ確認し、今日の欄を探す。





「お、なんだ……」
 『朝ちゃんと早起き出来た記念日』の右隣。ほとんどの欄を埋めているかわいらしい文字ではなく、あまり好きにはなれないけれど、一番見慣れてる不格好な文字。
 

『私が"記念日"を好きになった記念日』。その文字は、他のものに劣らずとっても生き生きとしていて、こんなあまりに小さな1日を、立派な"記念日"に仕立てあげることができていた。




「もうあれから1年が経ったのか……」
 



 こんなに早く来るんだから、やっぱり記念日は悪くない。




FIN 


829記念日カレンダー2011/02/18(金) 02:16:30.78qrnniBiz0 (7/7)


以上です。

 実際、書いてみると非常に難しいお題だな~、とつくづく思いました。
この作品も自分で見るとまとまってる感じがしなくて心配なくらいにorz
かがみ、つかさって今回初めて書いてみたのですが……こちらも難しいですねorz


 長々と失礼しました。最後まで読んで下さった方、ありがとうございました!
そしてアドバイスを下さった>>736さん、おかげでなんとか作品を一つ作り上げることができました。ありがとうございました!


830VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 20:43:31.074scn6Kw50 (1/2)

記念日カレンダー
は5番目のエントリーです。


831VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 21:02:22.464scn6Kw50 (2/2)

とうとう800レスを超えたか。
コンクール大賞発表は新スレかな


832VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 00:20:06.67p5DENCfM0 (1/3)


☆☆☆☆☆☆第二十回コンクール開催のおしらせ☆☆☆☆☆

残すところ1日となりました。

自分の予想だと全部で8~10作と言った所でしょうか

現在5作エントリー

投稿期間:2月7日(月)~ 2月20日(日)24:00

最終日は言い換えると21日(月)の0:00時となります。ご注意下さい。




833VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 09:48:53.20p5DENCfM0 (2/3)

『20個目のお話』を読んで思いつきました。
まとめサイトのテストページにて1~19回大賞作品の人気投票を設置しました。(20個目のお話には載っていないSSもあります)
期限はコンクール期間中です。

特に記録には残さないつもりです。余興ですので気楽に参加して下さい。

テストページ
http://www34.atwiki.jp/luckystar-ss/pages/150.html


834VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 21:12:39.47B7WcpdGF0 (1/1)

>>833
乙!面白いですね!
私の環境では作品への投票のみ行えなかったのですが、皆さんはどうだったのでしょう。
作品の得票のみ0なのは、私だけでしょうか?



835VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/19(土) 23:08:22.43p5DENCfM0 (3/3)

>>834
投票フォームの設定がおかしかったようです。直したので試してみて下さい。
編集者は誰かが投票しないと投票できないのでよろしくです。


836VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 00:04:45.88oREPBvnH0 (1/6)

☆☆☆☆☆☆第二十回コンクール開催のおしらせ☆☆☆☆☆

残すところ今日が最後となりました。泣いても笑っても最後です。

くれぐれもギリギリに投稿しようとは思わないように!!

現在5作エントリー

投稿期間:2月7日(月)~ 2月20日(日)24:00






837VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 19:35:00.78MThDHAAAO (1/11)

なんとかできたので作品投下していきます

コンクール参加作品です


838こなたの命日2011/02/20(日) 19:37:19.66MThDHAAAO (2/11)

ある日の夕方


「うぇ~ん、遅くなっちゃったよぅ」
つかさは呼び出しをくらい一人残されていた。用が済んだ頃にはもうじき日も沈もうかという時間だった。遅くなると知っていたので他の三人は既に帰っている。


ゴトッ

「あれ?今変な音が…」
つかさは鞄を持つと物音がした隣のクラス―姉である柊かがみのクラスをひょいと外から覗いた。何か赤い塊のようなものが見えたがよく見えなかったのでドアを開け中に入った。その時は人の気配は感じていなかったが教室の後ろでその赤い塊を見つけたその瞬間叫び声をあげながら膝から崩れ落ちた。
「こ、こなちゃ…イヤァァァァァ!」
その赤い塊は制服は赤く、長く青い髪まで真っ赤に染まっていた泉こなただった。つかさは胸にナイフが刺さり仰向けになっているこなたの横で今だに叫び続けている。


839こなたの命日22011/02/20(日) 19:41:19.63MThDHAAAO (3/11)



次の日話題は昨日起きた事件で持ち切りだった。なにしろ自分の学校で事件が起きたのだから生徒の反応もそれなりに大きかった。
「なぁあやの…」
「みさちゃん」
何か言いかけた日下部みさおをいつものようにニコッと笑い峰岸あやのはみさおに答えた。ただその笑みにはいつもの優しさをみさおは感じていなかった。
「柊の奴相当ショックなはずだぜ。ちびっこがあんな」
「みさちゃん!」
さっきよりも強く別の感情が込められたように自分の名前を呼ばれ思わずみさおは続きを言おうとしていた口を閉じた。
「……あやの」
「わかってる。わかってるのよ。でも私は…!」
みさおは彼女が怒っている所はほとんど見たことがなかった。感情をあらわにして怒鳴るなんて尚更見たことがなかった。だが目の前のあやのはぷるぷると拳を握り締め、今にもその拳を机に振り落とさんばかりの剣幕で喋っている。
「………」
「私が怒ってるのは泉さんの事じゃないの。こんな時に友達に何も言えなかった自分が嫌なの!!」

みさおが事件の事を知ったのは昨日の夜あやのからの電話でだった。その時からあやのの様子がおかしいのは気付いていた。しかし改めて感情をぶつけられるとみさおはどうする事もできずにしばらく黙っていた。
「とりあえず今日の帰りにでも柊ん家寄ってみようぜ。今日は午前中だけだし。無駄かもしんないけど行かないよりマシだろ?」
「けど柊ちゃんもう携帯に出てくれないし家にかけても部屋に閉じこもったままだって…」
「だーもう!あやのらしくねぇな!そんなに嫌なのか?」
あやのは俯いたまま答えようとしなかった。
みさおはため息をつきながら昨日のこなたの血の跡らしき場所に被せられたビニールシートをちらっと視界に入れた。きっとこびりついた血の跡がとれなかったのだろうと推測しながら自分の席に戻った。
「大丈夫かな…アイツ」
その独り言は誰の耳にも届いていなかった。


840こなたの命日32011/02/20(日) 19:44:10.50MThDHAAAO (4/11)


今日は午前中に緊急集会があり今日の授業は午前で終わるという私の予想は当たっていたようです。昨日あんな姿の泉さんを発見してしまったつかささんや音信不通らしいかがみさんの様子が気になるのでまさに好都合です。先程つかささんに今日はこれから家に寄らせてもらうという筋のメールを送ったので後は黒井先生のホームルームが終わるのを待つだけです。

と、黒井先生を待っていると誰かが入ってきたようで教室のドアが開きました。そして私はそのドアから見えた人物を誰だか理解すると私その人の名前を呼びながらその人に駆け寄りました
「つかささん!!」



昨日の放課後の事はよく覚えてないや。確か…血だらけのこなちゃんを見つけた時の私の叫び声を聞いて偶然忘れ物を取りにきていたゆきちゃんが駆け付けてくれたんだよね。こなちゃんの様子を見たゆきちゃんは何か凄くテキパキとした動きでこなちゃんを触ってたね。病院で聞いた話だとゆきちゃんはあの時応急処置をしてたみたい。病院の先生も応急処置がなかったら確実に死んじゃって…ううん!こなちゃんは死んでないんだからこんな事考えちゃダメだよね!
まだこなちゃんは危ないみたいだけどきっとまたお話できるもん!でもそういえば私はそれからどうしたのか全く覚えてないな…病院から家に帰った所も覚えてないや。ふと自分に帰ったらもうすぐお昼の時間だった。携帯のメールを確認すると峰岸さんやゆきちゃんからたくさんメールが届いてて驚いちゃった。

『無理して学校に来なくていい』

っていう感じのメールもあったけど私は不安でじっとしていられなかった。とりあえず私は時間割も確認せずに鞄を掴んで学校に向かった。あっ、そういえば私制服から着替えてなかったんだ。着替える手間が省けかな…
そんな事を思ってると教室のドアがもう目の前にあった。


841こなたの命日42011/02/20(日) 19:48:12.76MThDHAAAO (5/11)


「こなた」
私は部屋のベッドの上に座りながら何もない所をじっと見つめながらずっと友人…いや、それ以上の関係であるアイツの名前を呼んでいる。
「こなた…」
昨日から電話やらメールがかかってきたけど私はそれに対応しなかった。お母さんや姉さん達も部屋の前でなにか言ってたみたいだけど私には聞こえなかった。聞こうともしなかった。

「こなた……」

私はアイツの名前を呼び続ける。



「で、なんだよ話って」
つかさ達のクラスにあやのとみさおはみゆきにホームルームが終わり次第来るように言われていた。
「本当は小早川さんやみなみさん達が来てから話した方がいいかと思いましたが、まずは皆さんにお話ししとこうかと思いまして」
「だからなにをだよ」
「泉さんのこと?」
あやのがそう言うとみゆきは頷いた。そしてなにか決断をしたような目で話し始めた。
「泉さんは昨日かがみさんのクラスで倒れていました。そして私とつかささんの証言から泉さんは…
自殺未遂を起こしたと警察の人は見ています。」
「それがどうしたっていうんだよ」
「私も最初はその…考えたくはありませんが泉さんがナイフで自殺をしたのだと思っていました。しかし今考えるとおかしな点がいくつかあったんです。」
するとみゆきは立ち上がり、着いて来て下さいと隣のクラスに向かった。
「まず泉さんを発見した時の状況です。つかささん、確か物音がしたからこの教室に入ってきたんですよね?」
「うん、そうだよ」
「ですが出血の状況から見て泉さんは随分前に意識はなかったものと思われます。」
「でも物音くらいしても普通じゃない?無意識に体のどこかが動いたりとか」
「峰岸さんの言う通りその可能性もあります。ですので私はあくまでも不自然な点をあげているだけです。」
「それが何になるっていうんだよ」
「みさちゃん…」
みゆきが話すにつれて機嫌が悪くなっていくみさおの事を知ってか知らずかみゆきは今はとりあえず話を聞いて下さい、と続きを話した
「次にですがナイフについてです。ナイフは右手で持っていましたがその点は気になる所はありませんでした。誰かにナイフを握らされたような不自然さもありません。しかし問題なのはナイフの鞘です」
「さや?」
「鞘というのは刀などを収める時に使うものですよ。あのタイプのナイフには鞘があるそうです」


842こなたの命日52011/02/20(日) 19:51:26.31MThDHAAAO (6/11)


「ちびっ子が持ってたんじゃないのか?」
「ええ、泉さんはナイフの鞘を持っていませんでした。こうなるとどういう事かわかりますか?」
「どういう……?」
つかさは首を傾げうーんと唸っている。あやのとみさおも答えはわかっていないようなそぶりを見せた。
「…鞘を紛失というのもありますが今回の場合は誰かが持ち去った、つまり泉さんは自殺ではなく誰かに刺されたと私は思うんです。」
「そんな!こなちゃんが?」
つかさは思わず大声をあげてしまったがそのことを気にせずみさおはみゆきを睨むような視線を送ったままだ
「そこまで言うっていうんなら何か確証があって言ってるんだよな?」
「はい、私の推測ですが犯人もある程度わかっています」
「高翌良さん、よかったら聞かせてくれない?」
「もちろんです。そのために皆さんに集まってもらいましたから」
みゆきの周りに集まった三人との間には不穏な空気が漂っていた。そんな中みゆきは

「犯人…というよりも一番の被害者と言った方がいいかもしれませんね…」
と悲しそうに独り言をポソっと吐いた


「ゆたか…大丈夫?」
私がそう言うとゆたかは笑顔でうん、と頷いた。
でもその笑顔は不自然で無理をしてるっていうのは多分私以外でもわかると思う。それくらいゆたかの様子はおかしい

泉先輩の事は昨日みゆきさんから聞いてその後すぐにゆたかに電話してみたらおじさんがゆたかが気を失って寝込んでるって教えてくれた。夜だったけどそんなのは気にならなくて必死にゆたかの家まで急いだ。おじさんは驚いてたけど私を部屋まで通してくれた。どうやら泉先輩の服とかを持っていく所だったみたいで留守番とゆたかを頼めるかい?と言われ私はその時から明け方までゆたかが目を覚ますまでずっと側にいてあげた。手を握っていたら突然ゆたかが目を覚まして泉先輩を虚ろな目で呼び出した。そして寝巻きのままフラフラと歩き出したゆたかを後ろから抱きしめた。私にはそれくらいしかできなかったけど
『ずっと私がいる、ここに私がいるから大丈夫だよ』
ってゆたかに言い続けてもゆたかはどこかのネジが飛んだように泉先輩を呼び続けてた。
どれくらいそうしてたのかわからなかったけど私は気付いたら泣いていた。あの時の涙はどんな涙なのか今考えてみてもわからない。…多分ゆたかがどこかに行っちゃう気がしたんだと思う。


843こなたの命日62011/02/20(日) 19:53:56.71MThDHAAAO (7/11)

それからゆたかは私が泣いてるのに気付いてからは段々と普段のゆたかに戻っていった。今日学校は休むつもりだったけどゆたかが行くって言いだしたから私も心配だからゆたかに付き添って学校まで来た。無理しなくても言いって言ったけどあのまま家に居たら泉先輩の事しか考えられなくなるのはなんとなくわかる。

まだ少し虚ろな目をしたゆたかを連れて私はみゆきさんのいる三年のクラスまで急いだ。


昨日は…よく覚えてないな。お姉ちゃんが血まみれで病院に運ばれてきた所から…
私は倒れちゃって気がついたらみなみちゃんが私を後ろから抱いてくれてた。
何故かみなみちゃんは泣いてた。何が悲しいんだろうって思ったけど多分私が関係してるんだろうね。そういえば朝から頭がよくボーっとするなぁ…
それから…私は家に居たら頭の中がおかしくなっちゃいそうだから学校に行こうと着替えたりしてたら私も行くってみなみちゃんが色々用意してくれたよね。でもどうやって学校に来て朝先生からどんな事を言われたのかは覚えてないや。今はみなみちゃんに手を引いてもらいながらどこかに向かっている。…なんだかまた頭がボーっとしてきた

みなみちゃんがいっしょならわたしは、あんしんだよ
おねえちゃん、はやくかえってきてほしいな



私のボケた頭を覚ましたのはお姉ちゃんのクラスから聞こえてきた怒鳴り声だった


844こなたの命日72011/02/20(日) 19:57:54.94MThDHAAAO (8/11)


「もう一回言ってみろ!」
「ちょっとみさちゃん!暴力はダメ!よ」
みなみとゆたかが教室に入ってくるのとほぼ同時にみゆきの話を聞いていたみさおがみゆきに平手打ちをし、さらに襲い掛かかろうとした所をあやのがなんとか抑えつけた。
「こうなるのは予想してましたが…わかっていても痛いですね」
「ゆきちゃん大丈夫?」
慌てて近寄ってきたつかさをよそにみゆきはみさおの方を改めて向き、再び話し始めた
「日下部さん認めたくないでしょうがほぼ私の思う通りです。状況的にもそれしか考えられません。」
「ふざけんな!私は認めないからな!なんで私達に相談もなしに死ななきゃならないんだ!」
「あっ、みさちゃん!」
みさおは抑えてられていたあやのを振りほどき再びみゆきの方に向かっていったが背後からみなみが近付き、みさおは腕を掴まれそのまま倒されてしまった
「先輩…すいません」
「みなみさん、そこまでしなくても私は日下部さんに殴られる覚悟はしてましたから。もう離してあげて下さい」
「はい…」
みなみは素直に腕を離しみさおから離れたが、みさおは床に伏せたまま立ち上がらなかった。どこかケガをさせたのかと心配になったみなみはみさおに近寄ったが様子がおかしい
「日下部先輩……どうしました?」
「なんであいつが…なんで……」
みさおは嗚咽を漏らしながら泣いていた。
泣き顔を見られたくないのか顔はそっぽを向いている
「そんなの…ッ、可哀相過ぎるッ…じゃねぇか……柊も…ちびっ子…もッ…」
「私も今までこんなに悲しいと思った事はありません…」
ふとみなみが周りを見回すとゆたかと自分以外は全員涙を流していた。
「みゆきさん、一体どんな話しを?」
「えぇ…まずは

かがみさんと泉さんが付き合っていたのは知ってますね?」



845こなたの命日82011/02/20(日) 20:01:57.34MThDHAAAO (9/11)



私はかがみ先輩と泉先輩が心中しようとしたんじゃないかっていうみゆきさんの話を全て聞いて何も言葉が出てこなかった。隣いるゆたかもそうだったみたい。
柊先輩と泉先輩が友達を越えた仲というのはなんとなく知っていた。二人で帰る時は手を繋いでいたしそれから…その…キ、キスをしたりしてるのも偶然だけど目撃してしまっていた。
でもそれはみゆきさん達にとってはもう普通の事になっていたみたいで女同士だから、とかはなかったみたい。でも親は…
私はゆたかが泣いているのに気がついてハンカチで涙を拭ってあげた。

今私達はかがみ先輩の家に向かっている。みゆきさんが連絡が取れないのを心配して様子を見に行きましょうって珍しくみゆきさんがみんなを引っ張って先輩の家に向かっている。…でも本当は最悪の事態を考えてるんじゃないかな。みゆきさんの表情は曇っていた



さっき立て続けにメールが届いたので流石に気になって携帯を見てみたら全てみゆきからだった。
少し驚いたけど一つ一つメールの内容を見ていくとどうやらみゆきは全て分かったみたい。流石にみゆきは騙せなかったか…
ナイフの鞘を右手で握りしめ残りのメールもチェックした。

…ん?最後のメールの内容が終わってもまだ下にスクロールが続いていた。何だろうと下にスクロールを続けていくと最後に一言
『かがみさんは生きて下さい』
とだけ書いてあった。

確かに私はこなたが死んだら自分も死ぬつもりだった。
放課後こなたに呼び出されて私の親達にこなたとの関係がバレたって言われた時は心臓が止まるかと思った。こなたは淡々と話を続けて私とこなたはもう会わないように言われたらしい。私はこなたと付き合った時から最後はハッピーエンドにならないのはわかってた。でもこなたが好きだった。私の甘さもあって今回みたいなことを引き起こしてしまったんだ。
話を終えたこなたは涙を流すでもなくスッと懐からナイフを取り出した。

あぁ…こう言うのなんて言うんだっけ…そうそうヤンデレだ。でもこなたに殺されるならいいかなと思っていたらこなたは私に殺して欲しいと言ってきた。


846こなたの命日92011/02/20(日) 20:06:21.58MThDHAAAO (10/11)

私はそんなのできないって言ったけど

「私を…『泉こなた』をここで殺して!」

と凄い剣幕で私に迫ってきたかと思うと、私の腕を強引に引っ張りこなたの上に被さるように倒れた。

そこからどうなって家に帰ったは正直覚えてない
最後にこなたが
「ありがとう…お願いだから……かがみは死なないで」
と言ってた気がする

みゆきのメールが届いた時間から推測するともうそろそろ家に着くころだと思う。
私信じてるからね…アンタは死ぬわけない…看病は私がしてあげるんだからね…こなた…………

私が天井を見上げてると玄関が開く音がしてバタバタと慌てて家に入ってくる足音が沢山聞こえた。そんなに焦らなくても自殺なんてしないわよ…
私はみゆき達を迎えに行こうと立ち上がった瞬間乱暴に部屋のドアが開け放たれ一番聞きたくない台詞を聞かされた
「お姉ちゃん!家に帰ってる途中おじさんから電話があってこなちゃんが!こなちゃんが…!」


私は今『泉こなた』の墓参りに来ている。墓といっても墓地にあるようなものじゃなくてその辺りに落ちていそうな木の棒を突き刺しただけの簡単な墓だ。ここからは『泉こなた』が倒れた教室がよく見える。言い忘れていたがここは墓地ではなく学校の校庭で、この墓も勝手に作ったものだ。
あの日から今日は私にとって特別な日になった。新しくスケジュール表を買えば友人の誕生日等と一緒に記念日として書き加えるし、毎年墓参りをしようと決めている。記念日といえばほとんどが楽しい日しかない。だからこんな日が一年に一度くらいあってもいいだろう。
私は合わせていた手を離しまた来年ね…と新発売の食玩を墓に置いてそこから離れた。



もうすぐアイツが来る
まぁ…この日を記念日にしてるって聞いたアイツと本当は一緒に来る予定だったけどまた夜中までゲームしてたみたいで寝坊したから置いてきた。

本当に憎たらしくて…人をおちょくるのが好きで…イタズラばっかするし………でも大好きなアイツが


「お~いかがみん。置いていくなんて酷いじゃん!」


847こなたの命日2011/02/20(日) 20:12:31.74MThDHAAAO (11/11)

長々と失礼しました、以上です。


最初は大穴狙いでポリエステルの作品を作っていたため期限ギリギリになってしまいました…
かなり粗い作品になりましたが読んでくれた方ありがとうございます

本当はエピローグ的な終わり方があったんですが間に合わなかったため割愛させてもらい、ああいう終わり方にさせてもらいました
それでは失礼します!


848VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 20:22:38.35oREPBvnH0 (2/6)

こなたの命日
は6番目のエントリーです。


849VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 20:24:21.10oREPBvnH0 (3/6)

これから0時近くまで入れませんのでまとめられないかもしれません。
出来る人がいればまとめてくれるとありがたいです。


850VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 22:24:05.720ml/YBN10 (1/13)

 コンクール作品投下します。
きっと10レスくらい


851家族の近景 12011/02/20(日) 22:25:40.530ml/YBN10 (2/13)


「…………はあ」

 ゆうに畳一枚分はあろうかという大きなダイニングテーブル、そこに柔らかそうな頬をぺったりとくっつけたまま、彼女は大きく溜息を吐き出した。目の前に置かれた小さな目覚まし時計の針をじいっと見つめているようで、その実、彼女の瞳ははるか遠くを見つめていた。
 彼女の名前は高翌良ゆかり。18歳にもなる娘を持つ一児の母とは思えないほどに彼女の外見は若々しいが、それもこの日は格別だった。いつも柔和な笑みを浮かべているはずの彼女の表情は曇り、眉を下げてはまた溜息を繰り返している。その様子はさながら初恋に悩む少女のようだ。彼女はそんな調子なので、当然後ろから自分を見つめる視線にもまるで気が付かない。
 彼女を見つめるのは、みゆき。まるでそうは見えないが、ゆかりの娘だ。彼女は母をじいっと見つめて、その真似をするように溜息をついた。
 みゆきは、母の憂鬱の理由を知っている。それを語るのは、カレンダーに記された手書きの文字。



852家族の近景 22011/02/20(日) 22:27:23.470ml/YBN10 (3/13)






   『家族の近景』







853家族の近景 32011/02/20(日) 22:28:22.180ml/YBN10 (4/13)


 今日という日ははみゆきの両親、つまりゆかりと彼女の夫との記念日なのだ。しかし、みゆきはそれが何の記念なのかを知らない。結婚記念日ではなく、二人の誕生日でもない。みゆきの誕生日は二ヶ月前に過ぎていた。一度みゆきが母に問うと、彼女は微笑みながらこう答えた。

『みゆきが大人になったら教えてあげる』

 みゆきは大人の定義についてあれこれと考えるつもりはなかった。ただ、自分がその日が何の記念日なのかを知ることは一生ないのではないかと思うばかりだった。
 そんな大切な日に、家の中にはゆかりとみゆきしかいない。日曜の、時刻は19時を回ろうとしているというのに、彼の姿がない。だからこそ、彼女たちは深く溜息をついているのだ。
 彼は、愛する妻と愛しの娘を養うために働いている。もちろん、毎年この日は必ず家に帰るようにしているのだが、今年は運が悪かった。有り体に言って、急な仕事が舞い込んだのだ。彼は電話口でそのことを何度も詫び、埋め合わせを約束した。ゆかりも(見た目はどうあれ)子供ではないので、そのことで我侭を言うつもりは毛頭ない。とびっきりの埋め合わせを約束して、この問題には決着をつけたはずだった。
 しかし、心はそれほどに利口にはなれなかった。今日という日に捉えられた彼女の、その心の内では少女がしくしくと泣いているのだった。

 みゆきは物音一つ立てずにただ母を見つめる。表情には隠しきれない不安の色が浮かんでいたが、同時にその瞳には決意の色が宿っていた。彼女は時計を一瞥すると、足を滑らせるようにゆかりに歩み寄った。



854家族の近景 42011/02/20(日) 22:30:07.400ml/YBN10 (5/13)


「お母さん、ちょっといいですか?」

 その声はつとめて平静に、少なくともそう聞こえるようにと意図して放たれた。

「なあにぃー……みゆき?」

 対照的にゆかりはまるで飾り気の無い、憂鬱さを繕おうともしない返事を渡した。

「ちょっと、お散歩に行きませんか?」

 みゆきはいつも母と話すように穏やかな言葉をかける。決して穏やかではない心中を見せないよう、懸命に笑顔を作りながら。

「お散歩?もう外まっくらよ?」

 ゆかりは渋面を浮かべる。日付が変わる前にはもう夢を見ている彼女の生活からすれば、その戸惑いは当然のものだろう。

「でも……ええと……今、一緒にお散歩したい気分なんです」

 みゆきの表情に一瞬の翳りが差す。それでも彼女はすぐに気持ちを奮わせて、平静を作り直した。

「……んー……そうねえ、じゃあそうしようかしら」

 ゆかりは、みゆきが嘘をついたり人をごまかしたりできないことを嬉しく思った。しかし同時に彼女の気遣いへの感謝と、娘に気を遣わせてしまった自分への嫌悪を感じていた。だからこそ、娘の思いやりに応えたのだった。



855家族の近景 52011/02/20(日) 22:31:08.150ml/YBN10 (6/13)


 そうして二人はそれぞれ軽く支度を済ませ、30分もせずに夜の内へと繰り出した。住宅街の夜は暗く静かで、空気は夏にも関わらずどこか冷たさを含んでいた。そんな内でぽつりぽつりと交わされる会話は自然と控え目な調子になってしまう。ゆかりは引け目を感じながら、みゆきに導かれるままに歩き続けた。
 そうして十数分は経った頃だろうか、ゆかりは辺りが次第に明るくなってきていることに気付いた。むしろこれまで分からなかったのが不思議な程なのだが、それほどに上の空だったのだろう。二人は街の中心へ、最寄の駅へと向かう道を歩いていた。

「ねえ、みゆき。どこに向かってるの?」

 ゆかりの質問は直球で、またみゆきの返球もシンプルだった。

「すぐにわかりますよ」

 ゆかりはそれ以上なにも聞かなかった。みゆきに負う部分があったから、というのも確かなのだが、それよりも期待が上回っていたのだ。もともと旺盛な彼女の好奇心は、現状の小さな非日常を楽しみ始めていた。この時点で、みゆきの目論見は半分成功していたと言えるのかもしれない。



856家族の近景 62011/02/20(日) 22:31:51.710ml/YBN10 (7/13)


 さらに十数分後、時刻は20時をとうに過ぎた頃、二人は駅周辺の眩しい照明に包まれ、散発的な人の流れに逆らうように歩いていた。ゆかりは気の抜けた格好で出発したことを少しだけ後悔し、みゆきの背後にぴったりと寄り添っている。みゆきは小さく辺りを見回すと、歩く速度を緩めた。その歩みは次第に遅くなり、そしてついにはあるビルの前で完全に停止した。
 ゆかりは恐る恐る顔を覗かせて建物入り口のネオンを確認すると、小さな口をいっぱいに開いて驚きの声を上げた。

「み、みゆき!まさか、ここに入るの?」

「ええ、そのまさかです」

「うそ、うそうそ!わたし、心の準備が……」

「じゃあ、行きましょうか」

 そうして二人は、煌々と照る看板をくぐり、入り口を抜け、その店へと足を踏み入れていったのだった。





857家族の近景 72011/02/20(日) 22:32:44.370ml/YBN10 (8/13)




 二時間後。

「あぁーーー、すっきりしたぁ!」

「ええ、本当に楽しかったですね」

「みゆきがねえ……ふふ、いきなり『地上の星』なんて、お母さんびっくりしちゃった」

「ええと、それは……みんな友達のアイディアで……ほら、見てください。手がまだこんなに震えてるんですよ」

 『カラオケの鉄人』から出てきた彼女たちの表情は晴れそのものだった。紅潮した頬はほころび、目からは憂鬱の影が消え失せていた。二人はまるで仲良しの友達同士のように嬌声を上げながら、来た道を辿って家路に着きはじめた。


858家族の近景 82011/02/20(日) 22:33:30.070ml/YBN10 (9/13)



「みゆき、ホントにごめんね」

 明るい街から離れ熱も次第に治まった頃、二人の会話は少しだけトーンを落としたものになる。

「お母さんみゆきにたくさん心配させちゃった……いけないってわかってたんだけど……私、もっとお母さんらしくしなきゃね」

 ゆかりが目を伏せて話すと、みゆきは殊更に顔を上げて、夜空に向かって話しかけているように応えた。

「いえ、お母さんはそのままでいてください……そんなお母さんだから、私……がんばれるんです」

 肩を並べた母娘の視線が、重なる。

「それじゃあ私、もっとみゆきちゃんに甘えちゃおっかな?」

「もう、そうじゃなくって……」

 爽やかな笑い声が、夏の夜に広がっていった。



859家族の近景 92011/02/20(日) 22:34:46.360ml/YBN10 (10/13)


「みゆき、明日はどうするの?」

「明日は……夕方から家庭教師ですけど、どうかしましたか?」

 それを聞いてゆかりは少女のような、悪戯な笑顔を浮かべた。いつもなら、みゆきはその表情に対して少しだけ身構えるのだが、今夜に限ってはそんな気持ちはまるで起きなかった。

「それじゃあ帰ったら私がおいしいごはん作るから、楽しみにしててね。それに、今日がなんの記念日かも教えてあげる」

「……いいんですか?」

「いいって、ごはんのこと?記念日のこと?」

「ええと、記念日のほうです」



860家族の近景 102011/02/20(日) 22:36:33.020ml/YBN10 (11/13)


 みゆきは戸惑う。きっと知ることはないと思っていた両親の記念日の秘密を、こんなにあっさりと聞かせてもらえるなんて、考えてもみなかったことだ。
 ゆかりはくすくすと微笑んで歩みを止める。そして、釣られて立ち止まったみゆきの頬を両掌で包み込み、あらためてみゆきの目を、瞳の奥を見つめた。

「だって、みゆきったらもう大人になっちゃったんだもの」

 みゆきの顔にさあっと喜びの色が広がり、彼女は反射的にそれを隠すようにうつむいた。ゆかりは柔和な笑顔のままみゆきの頭をなでて、再び歩き始める。彼女はもう頭の中では、今日のために用意した豪華な食材の調理に考えを向けていた。みゆきは四、五歩下がってゆかりについて歩く。彼女も既に頭の中では、ゆかりとキッチンに並んでいる画を描いていた。
 そのうちに二人はもう一度肩を並べ、今晩の献立についてあれやこれやと話し始めたのだった。

 繁華街は既に遠ざかり、二人は再び夜の住宅街を歩く影となっていた。しかしその足取りは軽く、華やいだ声が途切れることはない。点々と立つ街の灯に照らされる母娘の姿は、幸福を切り取った印画紙のようだった。

 二人は知らない。

 誰も居ないはずの家に明りが点っていることを。
彼が不安も露に二人を待ち続けていることを。
そして皆が笑顔になり、幸せに包まれることを。

 二人はまだ、知らない。


861VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 22:44:00.220ml/YBN10 (12/13)

 コンクール作品『家族の近景』投下終了です。
ギリギリの投下失礼しました!

専ブラから投下できなかったんで成型が残念なことに。
ブラウザで読み易い形にして読んでいただけたら幸いです。

お読みいただき、ありがとうございました。


862VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 22:44:19.86nZgdbqYeo (1/11)

コンクール参加作品投下します。7レス前後になると思います


863泉の里帰り 1/72011/02/20(日) 22:45:34.27nZgdbqYeo (2/11)


 湯気の立つ浴室に、クスッとわたしの口から漏れた思い出し笑いが反響する。

 ―――じゃあさ、おとうさんいつもわたしにぺたぺたしてくるけど、わたしが男子でもいまと同じように接してきた?

 おねえちゃんにそう尋ねられて、おじさんが「あたりまえじゃないか」と返すまでの、いっときの間。
 「よーくわかったよ」と軽く言い放つおねえちゃんと、そのときの空気を思い返すとおかしくなって、ほおがほころぶ。

 あの父娘のつくるほがらかな雰囲気はとても心地よくて、わたしもそのなかにいさせてくれることが、とてもうれしい。
 そう思うから、ときどき、私はぼんやりと好奇心をめぐらせることがある。あの父娘ふたりに、大きく関わったはずのひとのことへと空想が飛ぶ。
 おねえちゃんにうりふたつな写真の姿。おじさんの伴侶だったひと。泉かなたさん。
 私が知っているかなたさんのことは、ふたりの談笑のなかに出てくる情報から勝手に想像したものでしかなくて。
 かといって、死んだ家族について居候に過ぎないわたしが真正面から尋ねるのははばかられるから、これ以上の確たる情報を集めることは望まない。
 そんなふうにかたちづくられた、ぼんやりとしたままのかなたさんの像を、頭のなかでながめている。おじさんが体裁を整えるために話題を変えようとした結果の一番風呂のなかで。
 そういえば、いまはお盆の時期だと思い当たる。きっと、ここも、かなたさんが存在した空間なのだろうと感傷的になるのは、それが理由なんだろうか。そう思いながら、お風呂の熱のなかで息をついた。

 ―――物思いをしながらの入浴。わたしは時間を忘れた。どれくらい経ったのだろうか、まぶたが下がってくる。目に力を入れて、こらえる。
 眠気と倦怠感。まどろむ薄目で見る視界は、とても白かった。湯気のせいであればそれはそれでいいのだけれど、のぼせてしまって目がチカチカしているせいであれば、それはわたしの身体にちょっと都合がよろしくないもので。
 ああ、まずいな。もう、お風呂あがらなきゃ。そう思ってわたしは、浴槽の縁をつかんで―――


864泉の里帰り 2/72011/02/20(日) 22:46:16.30nZgdbqYeo (3/11)

 立ち眩み、床に倒れ込む感覚にハッとする。とっさにバランスをとろうと身体が勝手に反応する。「わっ」と声を漏らしながら、足裏を地面を踏みしめる。転ぶのをこらえて、ほっと息をついた。
 そうしてその床の感触に気づく。廊下。お風呂じゃないところに、わたしは立っている。

 廊下の床から顔を上げると、コタツや、テレビや、見覚えの物ばかりが視界に映る。居間の入り口に、わたしは立ちつくしている。
 肩の周りにクエスチョンマークをいくつも浮かべるような思いで首をかしげた。人の姿は、見あたらない。
 自分の身体を見ながらぱたぱたたたいて調べる。どこも濡れていなくて、ふつうに服を着ているこの状況に、わたしはしばらくぼうっとする。

 だれもいないこの部屋から、出て行こうとは思わなかった。ほかの部屋を調べて、ほかのだれかの存在を調べようとは思わなかった。
 意味が、ないと感じた。おねえちゃんやおじさんの生活の気配がまったくないのがここにいてもわかるから。見慣れたものばかりの視界に、現実感はまったく伴っていない。まるで、わたしひとりが夢のなかに立っているよう。

 そう。夢に、似ているんだ。現実じゃない場処に立っている。
 そう自覚すると、こころはさらに平静になって。わたしは居間へと平然と足を踏み入れる。夢の静寂に足音をたてる感触に、妙な味わい深さを感じながら、わたしはコタツの前まで歩を進めた。
 こんなふしぎな空気のなかで、コタツに入ろうとする動作が自然に出てくるのがこれまた現実感を薄くする。そんなことを頭の片隅で考えながら、わたしはコタツにもぐって卓に伏せる。
 思考をめぐらせる。わたしがここにいる意味について。わたしをここに招いたなにかの存在について。
 得てしてこういうものは、ひとりだけでじっと考えても答えなんて出るはずもないもので。
 得てしてこういうときは、こたえを知るだれかが、種を明かしにやってきてくれるもので……。


「こんばんは」

 その声におもてを上げる。コタツの対面にひとつの影。
 こなたおねえちゃんそのままの容姿で。でもそこから受ける印象はわたしの知るおねえちゃんのものとはぜんぜんちがっていて。
 だからこのひとは、おねえちゃんとはまったくの別人なのだと理解する。
 夢のなかだからこそこのひとと会うのだと、その存在が腑に落ちる。

 ちいさいひとだな。そのひとを眼前に見て、あらためてそう思った。
 こなたおねえちゃんとほとんど変わらない、そしてもちろんわたしよりは大きな体型のはずなのだけれど、こなたおねえちゃんの母である"大人"だとして見ると、ことさらちいさな印象を受けた。

 はじめまして。とわたしは頭を下げる。
「この春から、この家にお世話になっている小早川ゆたかです」

 泉かなたさんにむかって、わたしはそう、挨拶をする。


865泉の里帰り 3/72011/02/20(日) 22:46:58.65nZgdbqYeo (4/11)

 泉かなたです。と返して、彼女はわたしに尋ねかけた。「この家での生活は、どうですか」。
「ふたりとも、わたしに良くしてくれてます。おかげで、とても楽しい毎日を送らせてもらっていますよ」
「それなら、わたしもうれしいけれど」
 言いながら、ふたりの悪い趣味に悪影響を受けてたりしてない? と苦笑する。
「悪い趣味だなんて思わないですよ。パソコンのこととか、すごい助けてもらっていますし」
 何の話をしているのかついていけないことはたびたびありますけれど。と付け加えてわたしも苦笑する。

「かなたさんは、ふたりの趣味を気にしているんですか?」
「まあ、気にしてたらそう君と結婚はしてないわね」
 苦笑を続けながらひとつ間を空けて、彼女は続ける。
「ことさら嫌うわけではないけど、そう君ほど熱中するものではないかな。
 こなたが産まれて、どんなふうに育って欲しいか、なんて話をしたことがあるのだけれど、
 そのときだって背はわたしに似ず、性格はそう君に似ないように、なんて望んだものよ」
 「……望みは、ぜんぜん叶ってないみたいだけどね」。そう口元を緩めて、おもいでを懐かしむその表情は、とてもやさしい。

 疑問が口をついた。
「どうして、わたしに?」
 かなたさんが、わざわざこんな場を設けたのはなぜなのか。
 おねえちゃんやおじさんには、会いに行かないのか。

「ふたりのことが気になるから、あなたと話してみたいと思ったの」
 かすかに目を伏せて、そう言った。
「これから、こなたたちの側に行って、ふたりを見守ることはあるかもしれない」
 でもね? と彼女はわたしに目を合わせる。
「直接、ふたりと話したりするのは、よくないな、って思うんだ」
 わたしは尋ねる。それは、どうして?

「わたしのなかにそう君たちが生きているように、そう君たちのなかで、わたしは生きている。
 こう考えられる理由は、生者と死者の垣根がしっかりしてるからこそ、だと思うの。
 空の上から、こなたたちを見守っていたい気もち。わたしはそれを、だいじにしたい。
 もし、また、生きているときと同じように、そう君がつくるしあわせのなかに立ってしまったら。
 あなたとこなたの隣に、立つようなことがあったら……」

 そこに、立ってしまったら、とかなたさんはわたしを見つめる。

「ぜったいに、いつまでもいつまでもそこに居たがって、その垣根を台無しにしちゃう」


866泉の里帰り 4/72011/02/20(日) 22:47:43.99nZgdbqYeo (5/11)

 余計なことは、わたしは何も言えない。かなたさんのその気もちに、わたしなんかではどんな返事も軽く映ってしまいそうで。
「でも、せっかく帰ってきたんだし、ただふたりを見物するだけ、っていうのもったいないから」
 黙りこんだわたしの胸のうちを察してくれたのか、かなたさんは茶化すように言葉を続けた。
 だからせめてあなたと話そうと思ったんだ。と笑いかける。
「あなたからみた、そう君とこなたの話を聞きたい。そう、思ったの」
 それは、要は、自分の家族が他の人からもほめられる様子を見たがっているということで。
 かなたさんもそれを自覚しているのか、恥ずかしそうに、はにかんでいる。
 こんな話の流れに、すこし、呆けて。でも、一拍ののちにそれを理解すると、わたしもクスリと笑って、それに応えたいという意志が湧く。
「気もち、わかります」
 わたしがかなたさんと同じ立場だったら、きっと、同じことを聞きたがると思う。家族を、自慢したいと思う。

 ちいさく、すっと息を吸う。

 わたしは語る。

 頼りになるお姉ちゃんのことを。

 わたしを安らがせてくれる、仲の良い父娘の和のことを。

 わたしからみた、おじさんとおねえちゃんの現在を―――


867泉の里帰り 5/72011/02/20(日) 22:49:48.21nZgdbqYeo (6/11)

 別れぎわの対峙は、玄関にて。
「玄関をくぐれば、元に戻るよ」
 玄関をくぐれば、おわかれ。
 わたしは、伝えられただろうか。伝わっただろうか。
 いま、わたしがいちばんちかくにいるおねえちゃんとおじさんのことを。

 彼女は微笑んで、わたしの手をとる。
「……わたしよりちっちゃい……」
「……気にしてることを言わないでください」
「ごめんね。でも、あなたを子供あつかいしているわけじゃないのよ」
 沈んだわたしに取り繕うように、彼女は言う。
「人より小さいだけで、かわいく見えて得してるなんてことはないわよね」
「わかってくれますか」
「うん、わかるわ。あなたは子供じゃない。これからどんどん、すてきな大人になっていける。本心から、そう思う」

 ありがとう、と彼女は感謝を告げる。
 それを聞いて、わたしは思った。
 
 きっと、伝わった。きっと、伝えられた。ここに思い残すことは、もうない。

「じゃ、またね」

 ……思い残すことは、ひとつ、あった。

 ―――生者と死者の垣根。
 またね。きっと、ただの社交辞令。
 だけれど親しみのこもった、別れの挨拶。

 もう、逢うことはないことは、わかっているけれど。

「はい、また」

 わかっている、けれど―――


868泉の里帰り 6/72011/02/20(日) 22:50:28.18nZgdbqYeo (7/11)

 玄関をくぐった先は、脱衣所だった。後ろを振り返ると、そこには浴室がある。
 身体を確かめると、ぽたぽた水滴が垂れ落ちるお風呂上がりのすっぱだか。

「……」

 別れの余韻も何もかもが台無しになるような状況の変化に頭が追いつかなくて、そのままの姿勢で呆然と硬直する。
 しばらくして寒気が身体に走って、大きなくしゃみ。我に返って、あわてて身体を拭いて衣服を着ける。

 先ほどまでの、かなたさんとのひとときは、何だったのだろうと思う。
 居間へと進むと、家の主たちの騒がしいやりとりが聞こえる。
 先ほどわたしが入った静寂の居間は、ほんとうに起こったできごとなのか、なかば夢心地のままそこへと向かう。
 お風呂空きましたよ~……と中を伺うと、焦った様子のおねえちゃんとおじさんがデジタルカメラの映像をわたしに向けて差し出してくる。

「ゆ、ゆーちゃん見てこれ、こ、こここれ心霊写真!」
 
 あ、さっきまでのひとときは現実だ、と即座に納得した。 
 わたしは部屋をぐるりとみわたす。どこかにかなたさんはいるのだろうか。
 姿は、みえないけれど。
 消去しなきゃ、お炊きあげしなきゃ、とあわてるふたりを見せるのも忍びないので、なんとか、この場を収めようと声をあげる。

「け、消したりお炊きあげしたりしたら、逆に恨まれると思うんです!」
「ん? ん、んんん?」
 おじさんがうなる。こんなまったく逆の視点から意見を挟まれると、どっちが幽霊へのいい対処法なのか判断をつけかねてしまう。
 混乱を深めるふたりに、落ち着いてと促して、わたしは続ける。

「この写真は記念に、とっておきませんか?」
「き、記念!? ゆーちゃんこういうの好きだっけ!?」
 脈絡のないわたしの言葉に、ふたりの落ち着きはあっさり砕けた。狼狽するおねえちゃん。目を見開いてわたしを見るおじさん。

 自分で記念と口に出して、それがどれだけこの映像にふさわしいか、気がついた。親娘三人の、記念写真。
 記念は、紀年。過ぎ去った日の記憶を新たにすること。 

 こんにち、八月某日。――この日はとある魂が、家に帰ってきた日。
 この日は、魂が里帰りした記念の日。だから―――

「……と、とにかく、これは記念写真なんです!」

 ―――だから、もうなりふりかまわず、この映像データは現像するまで死守に努めようと思った。
 こんな混迷の様子を、かなたさんはどんな顔をしてみているのかは恥ずかしくて知りたくもないので、この場にいるであろう彼女のことは意識しないようにしながら……。


869泉の里帰り 7/72011/02/20(日) 22:51:06.33nZgdbqYeo (8/11)

 そうして、どうにかなった写真は、わたしのたからもののひとつとして引き出しにしまわれた。
 写真をとりだして、日付を見るたび、わたしはかなたさんとの邂逅のおもいでをあらためて意識する。
 いつか、ふたりに話したいと思う。この紀年日に、お風呂場で起きた、ふしぎなできごとを。

 わたしが大人になるころには、その夢のような記憶は、不確かな断片となっているだろうけれど。
 それでもその断片をかき集めて、わたしは物語を作りたいと思う。
 あの日起こったふしぎな出会いのできごとを、ふたりに伝えたいと思う。
 
 願わくばそのときは、あなたも聞いていてくれるとうれしいです。
 
 遠い空の垣根の向こうがわへむかって、わたしは笑いかけた。

 END.


870VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 22:55:12.06nZgdbqYeo (9/11)

以上です。
1レスごとの最後に空行を3つ入れていたのですが
反映されてないですね……

これから自分でwiki編集してみるつもりですが
そのときの文章修正は3行の空行だけになります
それ以外の誤字脱字や、投下後の文章修正は行わない旨だけ
宣言しておきます。


871VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 23:29:44.78oREPBvnH0 (4/6)

家族の近景
は7番目のエントリーです
まとめありがとうございます


872VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 23:31:56.71oREPBvnH0 (5/6)

泉の里帰り
は8番目のエントリーです。
今編集していますね。ありがとうございます。


873VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 23:38:56.43nZgdbqYeo (10/11)

・家族の近景
・泉の里帰り

を編集してみたのですが
ワープロモードの改行と行間隔の仕様が理解できず
いろいろヘンな成形になってしまっています。申し訳ありません。

テキストエディタに作品をコピー→レス番号や名前欄を削る
→wikiの「既存ページをコピーして新規ページ作成」(ページ元はともだち記念日)
→ワープロモードのテキストボックスに、ディストエディタからコピペ

という手順で作業を行いました。


874VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/20(日) 23:47:40.93oREPBvnH0 (6/6)

家族の近景
泉の里帰り
の二ページ目はアットウィキモードにしないとコメントフォームが付けられません。
またこの2作品は アットウィキモード1ページで済むかもしれません。
もしよろしければこちらで編集し直しますがよろしいでしょうか?