1以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:35:11.02YSJcebw0 (1/14)





この作品は理想郷にて投稿している『とある世界達の反逆戦争』と全く同じ物です。
自分を追い込むため、ここにも投稿しようと思いました。
ここは、簡単に削除して逃げれませんから。
大体更新速度は三日から一週間ぐらいだと思います。
最初は、連日投稿するつもりです。

この作品はスレタイ通り、

『とある魔術の禁書目録』
『灼眼のシャナ』
『東方Project』
『魔法先生ネギま!』

の四作品による多重クロス作品となっています。
設定やら実力やら、自己解釈が結構入ると思います(特に東方)。
他の詳しい舞台設定については、作品内で説明していけたらな、と。

最後に一つ。


『この作品にはオリジナルキャラは出ません』


……影薄い(レールガンアニメオリジナルキャラとか)キャラが出る可能性は、ありますけど……







2以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:35:55.43YSJcebw0 (2/14)






「さて、アレイスター・クロウリー」

学園都市に存在する、窓の無いビル。
その中の空間は漆黒の闇。
機械の光が星の如く点滅し、闇を照らす。
ぼやけた視界の中、中心にそびえ立つ巨大な培養機の中に居る人間は、"ソレ"を見る。
逆さまの瞳が映す"ソレ"は、一言で述べるなら蜃気楼。
金の色を放つ、光の歪み。
決まった形を持たず、ユラユラと、ただそこに不安定に存在しつ続ける、何か。

「今回の"戦場"はここに決まった訳だが……私は楽しみでたまらない」
「……」

歪みがある空間から、空気の振動では絶対に発することの出来ない、そう思わせる言葉が放たれる。
培養機の中で逆さまに浮かぶ、緑色の手術着を着た彼は無言で返した。
彼のそんな友好が欠片も感じられない態度に、歪みが左右に首を振ったように動く。

「つれないな。何か喋ってくれればいいのに」
「貴方を喜ばせて、私に何の利益がある?」
「やれやれ……君は少し無駄な行動が持つ、楽しさという物を理解すべきだね」

何処までも上から目線の言動。
ほんの少し苛つきながら、アレイスターは言葉を返した。




3以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:36:29.66YSJcebw0 (3/14)



「もう用は済んだのだろう?早く帰ればどうだ?」
「帰れとは……酷いな。私は一応『神』なのに」
「世界を生み出して起きながら、遊びのために使い潰す存在が『神』か。どうしようも無いな、この世界は」
「ふむ。確かにそうだな」

声の主は否定しなかった。

「そういえば、こんなセリフがあったな。『世界はいつだってこんな筈じゃないことばかりだ』と」
「その言葉に私は全力で同意しよう」
「おぉ、ひどいひどい……」

歪みは、光を失い、闇へと溶けてゆく。

「ではアレイスター。また会おう……『戦い』の後、君が生きていたならば」
「出来れば会いたくは無いな。貴方の存在は、私を酷く不愉快にさせる」
「ふふっ……ならば尚更会いたくなるな」

声がプツリと、突然切れた。
歪みも消え、まるでそこには、最初から何も無かったかのようだった。




4以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:37:07.32YSJcebw0 (4/14)



「……」

声が消えてから、彼は暫しの間沈黙を守る。
やがて、
空間が横一閃に"開かれ"た。
何も無い、ほのかな光が満たす空間なのに、まるで"隙間(スキマ)"の如く、それは切れ目を広げてゆく。
縦に二メートル程裂け、暗いぽっかりとした扉のような空間。
暗闇の奥に、何かの目が光った。
ギョロリと、単眼の眼は百を超え、暗闇からアレイスターを見る。

「は~い♡お久しぶり」

ニョキリと、空間から誰かが顔を出した。
気楽そうな声を発したのは、美女。
黄金を伸ばしたような金色の髪に、紫の結晶を思い浮かばせる瞳。
貴婦人のドレスを着て、部屋の中なのに日傘をさすその姿は美しい。
こんな意味不明の出現さえしなければ、だが。
女性の出現の仕方は特に気にしてないのか、アレイスターは彼女に普通に話しかける。

「八雲紫、そちらはどうだ?」
「まぁまぁ、って所かしら?こちらの神やら幽霊やらの力を使ってある程度は世界も安定してるわね」
「そうか。ならば余り強力な者達は出せないか」
「そうねぇ……いざとなったら幻想郷に無理矢理何人か叩き込むわ」




5以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:37:44.13YSJcebw0 (5/14)



彼等の会話は、第三者から見れば訳の分からないものだ。
だが、彼等以外に居る人間も居ないため、第三者に分かるように会話する必要は無い。

「手は?」
「結構揃ったわね。『贄殿遮那』に『零時迷子』。『黄昏の姫御子』に『闇の魔法』。そして私の所の『博麗の巫女』に」
「こちらの『幻想殺し』だ」

彼女の言葉を引き継ぐように、最後の手の名前を述べた。
日傘をさした女性……八雲紫は美貌を呆れで歪めながら、

「……普通の神々なら十回は殺せそうな戦力ね」
「相手が普通ならば、な」

即答。
彼等は他にも大量の戦力を持っている。
だが、だがそれでも、あの『神』に勝てるかと言われると、首を傾げざるを得ない。

「頼りになるのは貴方の所の『幻想殺し』かしら?むしろ彼が居たからこそ、貴方は『反逆』などする気になったのでしょうけど」
「否定はしない。が」
「?」
「いい加減、『終わらせる』べきだろう?」
「……クスッ。その通りね」




6以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:38:19.61YSJcebw0 (6/14)



そう同意してから、


紫の纏う雰囲気が、変わった。


まるで、今すぐに火がつきそうな油を瞬時に身に纏ったかのような、緊迫感というのを肌が焼けるかのように放ってくる。
その姿に、先程までの淑やかな美女の姿は無い。

「じゃあ、踊りましょうか。まずは私を従えなければお話しになりませんわ」
「君は賛同してくれているだろう」
「何も無しに女性を陥そうだなんて、男性としてどうなのでしょうね?」

芝居がかかった敬語。
紫は口元を怪しく歪め、日傘を畳んだ。
心無しか、隙間から覗く目が光を増す。

「全く、他にも説得しなければならない者達がいるというのに……」
「そういうのは若い者達に任せましょう。面倒ですし」
「……まぁ、いい。プランに問題は無い」

声が、紫の"後ろから"聞こえた。
紫は其方を向かない。
ただ"目の前の"培養機に入ったアレイスターを見る。
彼女の背後に出現した"二人目"の彼は、手を前に差し出し、何かを掴み取る。

「……では」
「踊りましょう」


瞬間、二人の姿は掻き消え、




窓の無いビルを揺るがす程の震動が、『外』から伝わった。







7以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:38:55.86YSJcebw0 (7/14)







夜の街、"何故か誰も居無い"大通りのど真ん中で、二人は対峙していた。

「なるほど、術式を設置することで莫大な力を出すタイプの魔法か……相手に不足は無いぜ」

少女の声は、"空中から"響く。
月を背景に、箒に跨り浮く姿は、魔女。
黒い三角帽子を抑え、浮かぶ金髪の少女は"男口調"で告げる。

「……やれやれ。何でこんなことになっているのやら……まさか学園都市で魔術師と会うなんてね」

宙に浮く少女を見上げるのは、身長二メートルの男だった。
"黒い親父服"に身を包んではいるが、親父さんというには余りにも姿が無気味過ぎる。
指輪や香水、紅く染めた髪が目立つ彼は、面倒そうに、

「まぁ、"焼き尽くす"だけなんだけど」
「へへっ、そう簡単に行くかな?」

箒の上で少女は、歯を見せて笑いつつ、

「私に勝ったら、色々教えてやるぜ?"普通の魔法使い"たる私のこととか、何でこんなことになっているのかとかな」
「あぁ、じゃあ無理だね」
「んっ?」




8以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:39:32.84YSJcebw0 (8/14)



少女は不信気に男を見下ろす。
何時の間にか取り出したタバコを咥えつつ、彼は、

「だって、灰とどうやって会話すればいいんだい?」

そう、タバコの先端に火を灯しながら言った。
暫くぽかんとしていた少女だが、言葉の意味を理解してとびっきり凶悪な笑みを浮かべる。

「言ってくれるなオッサン神父……!」
「僕は十四歳なんだけどね、時代遅れの魔女」

"太陽のような閃光"が、少女の手元から漏れ出す。
それを大して気にかけず、男はタバコを横合いに投げ捨てた。

「後悔しても遅いぜっ!?」
「生憎と、後悔するような行動はしていない」

少女の手から光が放たれ、男の手に"炎剣"が生まれた。


そして、衝突。








9以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:40:08.98YSJcebw0 (9/14)







ギィィィィンッ!!
と、甲高い金属音が鳴り響く。
音源は打ち合わされた二本の"刀"からだった。
ただし、刀は長い。刀身二メートルはある。
それらを軽々振るうのは、二人の"剣士"。

「若いのに中々、やりますね……」
「それはどう、も!」

"サイドポニーの少女"の刀から、雷撃が迸った。
金色に光るそれを瞬時に察知し、白い腹出しTシャツに片側を限界まで切り裂いたジーンズを履いた女性が飛び退く。

「"魔術"では無い……?」

衝撃波が襲いくる中、彼女は呟き、今は考える時では無いと思考を変える。

「すみません……ですが、切らせてもらいます」
「そう言われて簡単に切られる程、馬鹿ではありませんよ?」
「はい、分かってます……今のは、私の自己満足のためです」

サイドポニー少女からの言葉に、彼女は少しだけこの少女と仲良くなれるような気がした。
だがしかし、今は戦う時だ。

「"神鳴流"──」
「……」

少女が言葉を紡ぎながら、大地を蹴って迫る。
対抗するため、彼女は刀を鞘に納め、

「雷光、剣!」
「フッ!」

己の力を込め、一閃。


そして、衝突。







10以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:40:51.98YSJcebw0 (10/14)







「チッ……」
「なる程、君は完璧に無敵じゃないんだな」
「うっせェンだよ。"蛇"なンぞに跨りやがって」

ビルの上で、白い髪に紅い目の彼は文句をかます。
文句を言われた当の本人は苦笑して、

「仕方が無い。何せ余は"祭礼の蛇"なのだから」

口調が変わっている。
遠くから響いてくるような、男の声。
見た目高校生の彼には全くもって合わない声だが、彼が立つ足場の蛇は答えるように甲高い音を上げる。

「はっ、随分と趣味が悪ィな」
「そう?結構気にいってるけどね」

自分のセンスが否定されたのが悲しかったのか、彼は右手に持つ大剣を肩に担ぐ。
片手持ちのそれは、ビルの屋上に居る彼を傷付けたものだ。

「時間もねェ。とっと終わらすぞ」
「そうだね。時は金なり、だ」

血を流しながらも、彼はその歪んだ敵意の表情を緩めない。
彼等は、戦いの最後の会話を終わらせる。

「行くぞ、"悪党"」
「行くよ、"超能力者"」


そして、衝突。








11以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:41:31.01YSJcebw0 (11/14)








「あーあ、面倒くさいことに……」
「大丈夫?」
「誰に言ってんのよ」

突然、建物が崩壊したにもかかわらず、"三人"が居る場所は無事だった。
まるで、見えない壁に阻まれたかのように瓦礫が周辺に落ちている。

「"れいむ"ちゃん、助かったわぁー」
「ちゃん言うな。第一あんた、馬鹿みたいな量の"魔力"があるんだから自分で防ぎなさいよ」
「え、えへへ……」
「笑って。誤魔化した」
「ウチ、そういう戦い関係の"魔法"は苦手なんよぉ……」

苦笑いする少女に、巫女服を着た黒髪の少女が突っ込む。
二人共黒髪のロングで、綺麗な髪だった。
そんな二人を横目に見つつ、何故か"脇の露出した"巫女服を着た少女は、

「……仕方無い。サービスよ」
「えっ?」

バラバラと、"札"が突然現れ、少女の周囲をクルクルと舞い始める。

「情報代と、ご飯代。感謝しなさいよ。普段ならツケにするんだから」
「借金は。余り褒められないと思う」
「借金じゃない、ツケ」
「同じことじゃ……」

札は宙で"霊力"による力を放出してゆく。
そんな中で、彼女は後ろの二人の言葉を無視しつつ、

「さ、てと。私に喧嘩売ろうってのは何処のどいつ?」

"巫女"とは思えない、交戦的な笑みを浮かべた。








12以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:42:08.09YSJcebw0 (12/14)








「ぐ、がぁぁっ!?」

ビルの壁面に叩きつけられ、彼は壁を突き破り、ゴミのように吹き飛ぶ。
吹き飛びながら、なんとか体勢を立て直す。

「なんで、"雷化"が……?」
「信じられねぇって顔だな」
「!」

彼が吹き飛んで来た穴から現れたのは、"赤い学生服"に身を包んだ"ホスト風"の若者。
茶髪をかき揚げつつ、彼は"赤い髪"の少年に教えてやった。

「雷になっての移動……理論は分からねぇけど、雷として動くってことはだ。充分科学の力で抵抗出来るよなぁ?」
「あ、なたは……」
「一つ、教えてやる」

"木製の杖"を強く握り締めている少年を、立って見下ろしながら、

「俺の"未元物質"に常識は通用しねぇ」

白く、巨大な"翼"を広げた。










13以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:42:45.96YSJcebw0 (13/14)







「ふーん。あんた等使えそうね。ちょっと力貸しなさい」
「ふぇぇぇっ!?ま、待って下さい!わ、私"ネギせんせー"を探さないと……」
「ミ、"ミサカ"もあの人を探さなきゃって"ミサカはミサカ"は~!?」
「我が非情なる拉致人、"マージョリー・ドー"、もうちっと優しくしてやればいいんじゃねぇか?」


「テメェなんだ!?なんで私の"原子崩し"が防がれる!?」
「悪いわね。私、普通じゃないの」
「チッ!化け物が!」
「……"黄昏の姫御子"だったときから、知ってるわよ。そんなこと」


「小僧……何処に"隠れて"いた?」
「へへっ、敵にんなこと教える訳無いやろオッサン」
「ちょ、"小太郎"君!」
「……なるほど、その"女の力"か。ならば其方から片付けるとしよう」
「やらせるか!"夏美姉ちゃん"には触れさせんわ!」
「"千変"を舐めるなよ、小僧」


「"悠二"と、戦う」
「……それで、いいのかよ」
「うん。戦って、私は一緒に進む」
「そっか。んじゃ、俺も手貸すよ」
「……貴様は女子を見たら助けずにいられないのか?」
「えっ?いや、だって……」
「「…………ハァ」」
「何故に息ピッタシのため息!?」







誰もが戦い、誰もが思う。
真実を知り、彼等は前を向く。
とある小さな世界で、大きな戦いが起こる。


とある世界達の反逆戦争






14以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 16:44:04.12YSJcebw0 (14/14)


以上です。
修正しながらなので、すみません。
今日の夜か、明日の朝にでも修正した続きを投稿します。




15以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 18:48:25.99ViU3wUAO (1/1)

待てぃ。
あそこは多重投稿は駄目なんだぞ。
削除なさい。


16 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:03:18.72obMV8ik0 (1/16)


>>15

・二重投稿はご自分のサイトか二重投稿先が許可している場合に限ります

上記の通り、二重投稿先が許可している場合に限って二重投稿を許可します。
また、これまでに、他サイト様との二重投稿で何度かトラブルが起きていますので、二重投稿のサイには、「必ず」Arcadiaにも投稿している旨を「他の投稿先の作品に明記」してください。
明記されていない場合には、作者以外の人間が投稿している可能性があるとして、削除する可能性があります。


とのことなので、二重投稿はOKみたいです。

続き、行きます。




17 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:04:47.49obMV8ik0 (2/16)





「……」

学園都市第七学区。
昼間のそこにて、一人の少女が驚愕に足を止めていた。
黒い鉄のイメージを与えてくるコートを纏う、十二、三歳の少女。長い黒髪が優雅になびく。

彼女は棒立ちになって震えていた。

恐怖では無く、動揺で。

「アラ、ストール……"これ"なに?」
「我にも、分からん。いや、ありえん……!」

少女に答えたのは、胸元で光る黒のペンダント。
"コキュートス"と呼ばれるその金色の輪が二つ付いた宝石は、動揺を隠しきれない。
原因は周囲にあった。
かといって少女と石……正確には違い、"二人"が動揺するような原因は分からない。
何故ならば周りといっても、ただ普通の学生やスーツ姿の人々が歩いている、当たり前の光景が広がっているだけだ。


ただし、彼女達にとってはそうではない。
震える唇を、なんとか動かした。




「"存在の力"が、無い……!?」




この世には"存在の力"という物がある。
人が、物が持つその力は文字通りこの世に存在するために必要な力。
"紅世の徒"と呼ばれる者達は人間の存在の力を奪い、それを使って様々な現象を引き起こす。
そんな無茶な行為が"紅世"とのバランスを崩すのではないか……そう考えた"紅世の王"達は人間に力を与え、同胞らを狩る決意をした。

そして少女もまた、"天壌の劫火"アラストールをその身に秘めた "フレイムヘイズ"だ。




18 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:05:38.79obMV8ik0 (3/16)




なのだが。


「なんなの、これ……」

返答が返って来ないと知りながらも、彼女は震えながら呟く。
黒い瞳に映る光景は、違っていた。
"存在の力"の証たる炎が、誰一人として見えない。
その身を構成している"存在の力"を、欠片たりとも感じられない。

(どういう、こと)

彼女の全身を悪寒が駆け巡る。
知らない外国に放り込まれた、などというレベルでは無かった。
もうこれは、"異世界"に放り込まれたかのような──

「っ!?」

思考から、仮説を生み出す。
しかし、余りにも馬鹿げた仮説。

「でも」

それ以外に、答えが思いつかない。
胸元のアラストールも、黙っていることから恐らく同じ考えか。
第一、彼女は"少年"に負けた筈だった。
負けて、気を失って、気が付いたらここに立っていた。
"自在法"か"宝具"でも使われたのか。
仮説を立ててから周りを見ると、改めて別の異常が目に入る。
立ち並ぶ風力発電のプロペラ。
ドラム缶みたいな道を走行する機械。
宙を大画面テレビを映しつつ飛ぶ飛行船。

ハッキリ言おう。


ここは、絶対に少女が知る"世界"では無い。





19 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:09:02.27obMV8ik0 (4/16)



「……とにかく」

ザッ、と。
彼女は漸く一歩を踏み出す。
まずは、動いて情報を集めなければ。
知らなければならないことが、多過ぎる。

ドンッ!!

「あうっ!?」
「おわっ!?」

が、動揺は大きかった。
気がつかずに誰かと真正面からぶつかり、弾かれて尻もちを付く。
両手が、舗装された地面に触れた。

(くっ……!)

思わず彼女は心中で呻いた。
なんたる、無様な姿か。
普段の自分ならよろめくぐらいで、重心のバランスをとって倒れない筈なのに。
フレイムヘイズたる自分を、彼女は叱責した。
そして勢いよく立ち上がり、

「……むっ?」
「どうしっ…………?」

疑念の唸りに反応し、彼女は尋ねようとして気がついた。

「"夜笠"が……?」

着ていた黒衣……彼女だからこそ使える防具、"夜笠"の左胸部分が、
消失していた。
勿論、彼女は何もしていない。
"存在の力"を込めても無いし、そもそも、こんなに急にぽっかり消えるのなどあり得無い。
だが、現に、消えている。

(一体、何がーー)

先程から驚愕の連続で少女の感覚は麻痺してしまいそうだった。
混乱が新たな混乱を呼び、グラグラと思考が不安定に揺れる。
そんな思考を、



20 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:09:43.71obMV8ik0 (5/16)




「痛たた……っ」


誰かの声が断ち切った。
彼女はハッ、となって目を前にやる。
そこには、彼女と同じように尻もちを付き、立ち上がろうとしている少年が居た。
高校生くらいの、黒髪の少年。
髪はウニを連想させる程、刺々しい。
目も黒で、至って普通の少年だった。
彼は呻きながら起き上がろうと足を地面につこうとして、


何故か下にあった空き缶を踏み付けた。


「あぼっ!?」
「…………」

少年はツルン、と氷の上のように滑り、頭を地面に打つ。
ゴンッ!と音を立てる彼を尻目に、踏み付けられて吹っ飛んだ空き缶は雑踏に紛れて、どこかに行ってしまった。
ぽかーんと、余りにも間抜けな姿に少女は口を開いて固まる。
少女は今まで生きて来て、今みたいな間抜けを起こした人間を他に見たことが無い。

「うぐ、ぐぐぐ……!?」

で、その呆れられた当人は、ウニ頭を抑えてゴロゴロ転がっていた。




21 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:11:22.29obMV8ik0 (6/16)



「い、痛い……!余りにも痛いです……!」
「……なんなの、こいつ?」
「何時の時代、何時の世界にだろうと、こういう者(不幸な人間)は居るものだ」
「不幸っていうか、ただ間抜けなだけじゃないの?」

アラストールに言葉を返し、ふと少女は思う。
何時の間にか、混乱は収まっていた。
理由を考える前に、転がっていた少年が痛みを乗り越え、気がつく。

「……あっ!そ、そういえば"上条"さんは人とぶつかって……」
「今頃?」

彼はガバッと起き上がろうとし、


再度何故か下にあった空き缶を思いっきり踏み付け、すっ転んだ。


「ぐほっ!?」
「……馬鹿っぽい」

"夜笠"を一瞬で修繕しつつ、彼女はため息を一つ。




22 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:12:29.03obMV8ik0 (7/16)








これが、二人の出会い。


少年の名前は"上条当麻"。

とある"不思議な右手"を持つ、この物語の"鍵(キー)"。

主人公であって、主人公で無い者。

全ての"幻想"を、殺し尽くす者。




少女の名前は"シャナ"。

『炎髪灼眼の討ち手』"天壌の劫火"アラストールのフレイムヘイズ。




少女の名前は"シャナ"。




とある一人の少年から貰った、大切な、とても大切な、名前。








23 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:14:05.21obMV8ik0 (8/16)








「納得してくれたか、土御門元春」
「……信じざるを得ないだろ……」

窓の無いビル。
その中で、土御門元春はサングラスを光によって輝かせつつ呻いた。
彼の右手には、一つの折り紙があった。
鶴の形に折られたそれは、"魔術"の媒介。
学園都市の"能力者"である土御門は、特別な授業(開発)を受け、脳の"回路"が常人とは変わってしまっている。
なので、"才能の無い者が才能の有る者の真似をするために作り出した魔術"を使えば、彼の回路は負担によって弾け、全身から血を吹き出し、場合によっては、死ぬ。


彼は今、鶴の折り紙によって光を生み出している。
それは、魔術。
なのに、土御門元春の体には、傷一つありはしなかった。





24 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:15:24.10obMV8ik0 (9/16)




「こんなあり得無いことを、現実にしてしまうヤツか……」
「既に"他世界の理"も入り混じり、新たな"世界の理(ルール)"が生まれている。能力者なのに魔術を無傷で使えるのも、その一つだ」

彼と会話するのは、培養機の中の人物、アレイスター・クロウリー。
表情には、心無しか疲労の色が見えるが、アレイスターは気にせず会話を続ける。

「"封絶"も、君が望めば直ぐに使えるようになる筈だ……全く、あの『神』もやってくれる」
「遊びに全力を費やす、か。はたからは迷惑この上無いな」

珍しく、土御門は目の前の人間の言葉に同意した。
それくらい、彼等の敵は馬鹿げていた。
土御門の価値観を、粉々に打ち砕いてしまうくらいには。

「やっぱり"封絶"の理もかなり弄くられてるわね。もうこれ、"封絶"じゃなくて別の何かでいいんじゃない?」

にょき、と女性の上半身が、何も無い空間から急に飛び出して来た。
"協力者"の一人らしい。
最初は驚いた土御門だが、もう驚かない。
感覚が麻痺していた。今なら何だって受け入れられるだろう。
女性はそんな土御門のことを気にかけず、自分の世界で調べたことを話す。




25 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:16:27.78obMV8ik0 (10/16)



「選ばれた者……異世界の住人と、ある一定以上の強さを持つ者だけが動ける空間を作り出す……解除した瞬間、何もしなくても自然に建物などを修復する」

分かったのはここまでよ、と胡散臭い笑みで言う女性、八雲紫の服は所々破れていた。
穴から豊満なボディの姿がチラチラ覗くが、彼女は全く気にしていない。
そして続けるように言葉を放った。

「で、後は一人早速"送り込んだ"わ」
「そうか」
「送り込んだ……?」

一つの言葉に訝み、彼は言葉を繰り返して尋ねる。
尋ねられた紫は何が楽しいのか、扇を口に当てて笑いながら言う。

「えぇ。神や一部の実力者達は動かせないけど……動かせるのもちゃーんと居るのよ。……それに」

パラッ、と彼女は扇を華麗に美しく開く。


「あの"二人"にとって、『神』は無関係では無いですし……とっっっても、珍しいことに」










26 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:17:17.23obMV8ik0 (11/16)






「……チッ」

とあるマンションの扉の前で、一人の少年が舌打ちした。
髪をガシガシ掻きたくなる衝動がこみ上げてくる。
彼は"紅い目"を苛つきで細めつつ、茶色のドアを忌々し気に見る。
彼の右手には"白い現代風の杖"が付いてあり、指には白いビニール製の袋を持っている。
袋は、中からの圧迫で大きく、カチカチに膨らんでいた。

「クソったれが」

彼は自分の左手を見た。
そこにある銀色の鍵は、ポッキリ真ん中でへし折られている。
ついさっき落とした際、折れてしまったのだ。
科学の最先端を行く学園都市の鍵なのに、落ちただけで折れるとは……

「チッ」

面倒そうに、もう一度舌打ち。
彼は左手を首元にやり、"黒いチョーカー"のスイッチを入れる。
そしてすぐさま、白く細い指を鍵穴に突き込み、
ベキリ、と。
捻って、無理矢理鍵を開けていた。
開けてから直ぐにチョーカーのスイッチを切る。
後に残ったのは、壊れた鍵だけ。

(まァ、別に鍵くれェどォだっていい)




27 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:18:08.56obMV8ik0 (12/16)



そう無理矢理自分を納得させ、彼はドアノブを捻る。
どうせここは彼の部屋では無く、"暗部の隠れ家"の一つに過ぎない。
破壊したところで、とくに困る訳でも無い。

「……」

無言のまま、彼は玄関に踏み込み、靴を履いたまま上がる。
脱いだままだと、いざという時危険だからだ。
彼はブラブラと重たいビニール袋を揺らしながら、リビングという名の無法地帯へと歩く。

「お帰りなさい」
「あァ、ただいまァァああああああああああああああああああッ!!?」

思わず返事を返し、驚愕。
即座に彼は飛び上がり、チョーカーのスイッチを入れ直して後方へと飛ぶ。
ちなみにここに住んでいるのは彼一人であり、他に人など居ない。
必然的に、お帰りなさいなんていう人間は居ないのだ。
殺意も敵意も気配も、何一つ感じて無かったため、油断していた。

「一体なにも……ン……」
「……?どうしたのかしら?」

固まった。
圧倒的な敵意を込め、前方を見たが見事に思考が固まった。
それは、僅か十メートル先に居る人物の姿のせい。
輝く"銀色の髪"に、"夕日を思わせる紅い瞳"。白い肌によって象られる表情は、まるで水晶のような美しさを放っている。
ここまではいい。少年だって髪が若いのに"真っ白"だから。




28 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:19:20.63obMV8ik0 (13/16)




だが、格好がメイド服。


メイド服。メイド服、だ。
肘よりも袖は短く、膝よりもスカートは短い。
白と黒を中心とし、清潔さを感じさせる飾りが少なめの格好。白いスカートと、黒の下布が一際目立つ。
髪を緑色のリボンで二つ、三つ編みを作って耳の前に垂らしている。

彼に細かい服装は分からないが、間違い無くメイドさんだった。テレビやら漫画で見る、あの。
暫し放心していたが、やがて彼はなんとか口を動かし、質問。

「……オマエ、誰だ?」

彼女はクスッ、と可憐に笑って、

「人に名前を聞く時は、まず自分から名乗るものじゃないかしら?」
「不法進入者に言われる筋合いはねェ」
「不法進入者じゃなくて、不法進入メイドよ」
「意味分かンねェよボケ」








29 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:24:52.04obMV8ik0 (14/16)







これが、二人の出会い。


彼は"一方通行(アクセラレータ)"。

この学園都市、"最強の能力者"であり、"悪党"。

過去に大きな過ちを冒し、それでも前に進もうとする者。

"天使の力"を、得ることが出来る者。

不動の"第一位"。




彼女は"十六夜咲夜"。

"紅魔館"にて、メイドの仕事をする者。

"時"を操り、その力故、人生が変わった"元普通人"。

その力は、従者として主人のために使われる。

人呼んで、"完全で瀟洒な従者"。






この二人の出会いは仕組まれたもの。


そして一つ、この二人には絶対的な共通点がある。







過去を越えるために、"名前を捨てた"ことだ。




30 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:26:56.51obMV8ik0 (15/16)







新たな出会いの中で、物語は動き出す。
一つ一つの物語を非情に眺めながら、
世界は、揺らがず騒がず動き続ける。








31 ◆roIrLHsw.22010/12/08(水) 21:28:17.20obMV8ik0 (16/16)



続きは明日です。
修正って、面倒だなぁ……



32以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 22:54:43.22IDsTskDO (1/1)

東方、シャナ、ネギまのことよく知らんが期待


33以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 23:47:47.687p1eYcYo (1/1)

ネギまは美琴とネギ先生の中の人が同じってこくらいしかわからんな
シャナもよく知らんが上条さんが触ったらシャナ消えるんじゃないの?


34以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/08(水) 23:58:55.07iJyNJoSO (1/1)

>>33
それは上条さんが触ったらステイルが消えるって言ってるようなもんだと思う
多分ね


35 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:25:18.99htYAh9I0 (1/25)



>>33
作中でいつか出て来ますよ。
ただ、シャナは最初"右手"に対して警戒心がかなり薄いかもです……

続き、行きます。




36 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:26:35.67htYAh9I0 (2/25)










「お前……何?」




皆さん。上条当麻です。
学園都市在住、運の悪い高校生こと、上条当麻です。
黒いウニ頭が特徴と言われて、少し悲しい上条当麻です。

えー、実は現在、









出会ったばっかりの女の子に、刀を突きつけられています。




不幸だぁぁああああああああああああっ!!と上条当麻は渾身の力で叫びたくなった。
叫んだ瞬間、首元に当てられた刃が突き刺さりそうなので、叫べなかったが。


話は数分前に戻る。




37以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/09(木) 12:27:20.86htYAh9I0 (3/25)








「う、うぅ……不幸だ……」
「ハァ……」
「初対面の女の子にも呆れられてるし……」

痛みを堪えつつ(空き缶を警戒しながら)、ようやっと上条は地面に足を付け、立ち上がった。
少し潰れてしまった髪型を整え、首を振って意識をハッキリさせる。
少女……シャナはそんな彼の姿を見て、

「ねぇ、アラストール。"こいつ"に聞く?」
「うむ……少々不安だが、この際目を瞑るとしよう」
「うん……?」

その遣り取りに、上条は首を傾げた。
今、自分の気のせいで無ければ、声が"二つ"聞こえた気がする。
片方は少女の声だったが、もう片方は深く、重く響いてくる遠雷のような男の声。
腹話術?と、極めて現実的な仮説を彼は立てた。

「聞きたいんだけど、いい?」
「えっ?あ、あぁ。なんだ?」
「"ここ"、どこ?」
「へっ?」

意外な質問に、上条は面食らう。
少女を観察する。
よく見れば、毅然とした態度と言動に似合わず、子供だった。
中学生かどうかすら怪しい。
『外』から来て、親と逸れたのかな?と上条は考えて、

「ここは"第七学区の"……第一駅近く──」
「待って。第七学区?」
「そうだけど?」
「どこの地域の学区なの?」




38 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:28:12.44htYAh9I0 (4/25)



ハァ?と声が口から出かける。
どこと言われても、上条にとっては至極当たり前の答えしか返せなかった。

「何処のって……"学園都市"のだけど?」
「学園、都市……?"それ"は何処にあるの?ここは日本なのよね?」
「いや、当たり前だろ?正確には東京西部を切り開いて作られた場所だけど」
「……アラストール」
「間違いないな。"そんな場所"は我も知らん」

と、ここで。
上条当麻は漸く、目の前の少女が"普通では無い事"に気がつき始めていた。

まず一つ。
今の男の声は、明らかに少女からでは無く、その胸に垂らしたペンダントからだった。
特別な意匠をこしらえたそのペンダント……"コキュートス"からの声。
そしてもう一つは、この世界に住む誰もが知っているであろう、学園都市を知らないこと。

後者は世間知らずだと納得出来る。理由を"こじつける"ことが出来る。

しかしながら、前者の部分。
これだけは、彼女が普通では無いと分かる。分かってしまう。
スピーカーを入れている?だとしたらこんな風にするよりも、直接耳に付けるイヤホンタイプのほうが、遥かに効率がいい筈だ。
"普通では無い"彼は、こんな科学とは思えない不可思議な現象を納得させる、一つの"力"を知っている。
世界に人知れず存在する、異能の力。
つまりは、魔術。

(魔術、師……?)

だとすれば、あのペンダントは"通信用霊装"だとでもいうのか。




39 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:29:07.43htYAh9I0 (5/25)



そんな"見当違い"の思考を上条が働かせている間に、シャナは状況を静かに吟味していた。

(別世界なのは、間違いないけど……ダメ。やっぱり情報が少な過ぎる)

まず、別世界に来たという時点で問題だ。
歩いて行けない隣、"紅世"ならともかく、人の姿や地域名は同じな瓜二つの世界など、聞いたことが無い。
聞いたことが無いだけで、実は"誰も帰ってこれない"から知らなかったのかもしれないが。
とにかく、それは置いておく。
肝心の材料は、もう一つあった。

("存在の力"が、使える)

先程、"夜笠"を修繕したさいに使った"存在の力"……己の中の力を、彼女は少しだが、使っていた。
何故か、自分には"存在の力"がきっちりと有って、しかしどこか"おかしい"。

(とにかく、もっと情報を)

彼女は思考を一旦閉ざし、出会ったばかりの少年に尋ねていく。

「この街──」
「待ってくれ」
「っ?」

言葉を、遮られる。
上条当麻は、逆に尋ね返していた。



40 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:29:58.11htYAh9I0 (6/25)



「アンタは、一体なんなんだ?さっきから聞こえる、男の声はなんだ?アンタ、"もしかして"……」

そこで、口を紡ぐ。
シャナの脳内で、今の言葉が反復する。

("もしかして"?)

それは、何らかの情報を彼が持っていることを示していた。
全く見当違いのことかもしれない(事実、そうである)。
でも、彼は普通じゃない自分を見て違和感を覚え、その違和感を解消出来る"何か"を知っている。

それだけで、追及するのには充分だ。

「お前は──」

人混みの中で、周りの人間を気にせず、彼を逃がさないように右手を掴もうとシャナは前に出る。
そして、左手が上条の右手を掴む。


瞬間、黒衣の袖口が、"消滅"した。


「「────っ!」」


程度や理由は違えど、両者は驚きに息を呑む。
片方はあり得ない、理解ができない異常な現象に。
片方は消滅の現象の理由を知り、予想が当たったことに。




41 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:30:45.65htYAh9I0 (7/25)



そして、素早く動いたのはシャナだった。
彼女は、虫を振り払うように右手から手を離し、一歩バックステップを踏み、

「"封絶"!」

珍しく叫んで、それを"張った"。
彼等を中心に"紅蓮の炎"が展開され、陽炎の壁で一定の空間を囲う。
地面には火線が走り、奇怪な、紋章を描いている。

「っ!?」

上条は数瞬遅れて、思考を回復させた。
慌てて、不思議な空間と"何故か止まった"人々を見る間も無く、

「──ふっ!」

空からまるで流星の如く、紅い髪を靡かせながら此方に向かってくる少女を見ていた。
火の粉を周囲に散らつかせ、背に紅蓮の翼を生やし、彼女は地面に周囲の人間を薙ぎ飛ばしながら、着地。
巻き起こる衝撃波と、路面へのダメージを気にせず、彼女は勢いよく、白銀の刃を彼の首元に突きつけた。

そして、尋ねる。
この世界のことでは無く、ひたすら"得体の知れない"この少年のことを。


「お前……何?」






42 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:31:25.45htYAh9I0 (8/25)






日常から、僅か十分。
今、上条当麻は絶対絶命といえた。
死へ、ほんの一歩、いや一ミリ以下の距離。
足を踏み出すどころか、指を動かした瞬間、喉を凶器が貫き、"右手"を除いて普通の人間である上条は死ぬだろう。

「……っ!」

冷や汗が垂れ、死への恐怖に蒼白になった頬を通過する。

(どうする……どうする……!?)

ここで、上条が恐怖によってパニックに陥らなかったのは、ひとえに彼が今まで数々の修羅場を潜り抜けて来たからだ。
命の危険に慣れた……とまではいかなくても、対処の方法を考えるくらいには、頭を働かせれる。

「答えなさい。お前は、何?」
「一体何者だ?」

念を押すように"二人分"の問いが放たれ、刃が少しだけ前に進む。
刃は柔らかい皮膚に阻まれ、張力によってまだ堪えている。
しかしいつ、限界を超えて食い込むか分からない。

「……こ、んなとこで、何のつもりだ……っ!?」

絶望的な状況に対して、上条は質問に"答えない"。
それは、賭け。
自分が彼女の服(?)を消してしまった原因が分からない限り、彼女は不用意に動かない、そんな直感、理屈。
強者というのは、得体の知れない物が相手の場合、慎重に行動しようとすることが多い。

「……他人の心配してる場合?」




43 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:32:05.30htYAh9I0 (9/25)



そして、それはシャナも同じだった。
ただし、警戒のレベルはとんでも無いが。達人……生と死の境界を、常人には想像もつかない程、乗り越えて来ているのだから。

「あ、たりまえだろ……!街中だぞ……!?」
「"封絶"を張ってあるから大丈夫よ」
「……フー、ゼツ?」

思わず、聞きなれない言葉をオウムのように返した。

「……"封絶"も、無い。当たり前か。"存在の力"が無いんだから」
「存、在……?」

シャナが、自分の予想から更にかけ離れた存在であることを、彼は周りに視線をやって、理解させられた。

全てが、"止まって"いる。

雑踏も、風力発電のプロペラも、ドラム缶のような清掃ロボットも、誰かが蹴った空き缶も。
全てが、どんなに不自然な形……足を地面に付けていなくても、止まっている。

「!?」

上条は周りを見て、今少女が地面に突っ込んで来た際、周りにどれだけの被害が及んだか認識した。
衝撃波によって人々が薙ぎ倒され、地面が砕け散り、礫がいくつか撒き散らされている。

マネキンのように固まっていた人々は、砕けているのもあれば千切れ飛んだり、血を流しているのもあった。
人間ということを、必死に訴えかけるように。




44 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:32:44.33htYAh9I0 (10/25)



「テ、メェ……!」

怒りの呻きを、上条当麻は上げる。

「……?あぁ、周りの人間のこと?お前が心配しなくても、"封絶"の中なんだから後でちゃんと"修復"できるわよ」
「な、に、言って……」

刃はピクリとも動かさず、シャナは説明を始めた。
ここで下手に無視して話を進めても、話が進まないだろうから。

「この陽炎の壁に囲まれた空間は、"封絶"って言って、周りの因果や時から隔離された空間なの。で、ここでいくら暴れていくら物を壊しても、外からは何も気付かれ無い。そして、解除する際に外の因果と紡ぎ合わせれば、全てを修復することが出来る」

実際の所、この説明には足りない点がいくつかある。
治せない物があるということや、修復に"存在の力"を使うこと。
しかし、今ここでは必要無いだろう。

「理解出来た?」

当然、少しだけ雑学やら異能の知識があるだけの学生、上条当麻は、半分以上も理解出来なかった。
ただ、半分は理解出来た。
つまり、

「そんな、こと。信じられっかよ……それって、ようするに"この空間の中で死んだとしても生き返れる"ってことじゃねぇか……!」
「……頭の回転は悪くないみたいね」

シャナに変わるように、アラストールが"コキュートス"を通して語る。

「生き返る、という訳では無い。"修復"だ。ようするに、"封絶"内で静止した人間は物として扱われるのだ。生き物を生き返さすことは出来なくても、人間の形をした物を直すことはできるだろう?」
「……分かった?」
「……っ」



45 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:33:26.42htYAh9I0 (11/25)



僅かに、刃が喉を貫こうと目に見えないくらいの距離を、進む。
上条は少し足を引きつつ、拳を握り締めて、

「……あんた等の話が正しかったとして、俺は静止してないってことは、人間として扱われてんだよな?」
「そう。あり得ないことにね。だから、それも込みで聞いてるのよ。お前は、何?」
「……っ!」

プツリ、と。
刃が皮膚の張力限界を超えた。
ほんの僅か、食い込み、血を垂らす。
白銀の刃に、赤がひと雫流れる。

「"封絶"の中で何の"自在法"も無しに動け、"夜笠"を消し去る。お前は、何?」
「っ、そ、れは……」

迫る刃に、上条が観念して答えようと口を開く。











46 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:34:09.42htYAh9I0 (12/25)






「少しばかり待ってくれないか、異界の者よ」


言葉は、紡げなかった。
その声に、対峙していた二人は其方に視線を向けた。
刃は下ろされなかったため、上条は懸命に目を寄せなければならなかったが。

そこに居たのは、不思議な人間。

男にも、女にも、子供にも、聖人にも、罪人にも見える、言語では、表しきれない存在。
銀色の髪に、緑色の手術着を身に纏っていた。
足は裸足で、まるで病院から逃げ出して来たような姿。

だが、彼が放つ圧迫感が、ただの人間では無いということを語っている。

「……っ!」

バッ!と、黒衣を翻し、シャナは後方へ跳んだ。
十メートルの距離を一っ飛びし、紅蓮の火の粉を周囲に散らしながら、着地する。

「アラストール……」
「うむ。接近されるまで、全く気配が無かった」

突然去った、命の危機。
上条は薄く切られ、血が垂れる首元を抑えながら、

「あ、あんたは……?」




47 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:34:45.66htYAh9I0 (13/25)



その言葉に、シャナは目の前に存在する人間が、上条の仲間で無いことを知る。

「ふむ、そうだな。まずは自己紹介をしよう」

それは、上条の疑問に答える。




「学園都市統括理事長、アレイスターだ。"これから"よろしくお願いさせてもらうよ、異界の者に"幻想殺し(イマジンブレイカー)"」




上条当麻は少ししてから思った。
俺ジュース買いに部屋から出ただけなのに、どうしてこんな状況になったの?と。

で、その場に居た人の答えは、


「不幸だから」


単純明快、簡単なことだった。











48 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:35:29.40htYAh9I0 (14/25)








「……」

ジー……と、白髪紅眼、失礼な言い方をすると悪人顏の一方通行は、ソファーに寝転がり、ある一方を見ていた。
細められた、人によっては見ただけで尻尾まいて逃げ出すその視線を受けた"彼女"は、

「そんなに見つめないでくれるかしら?少し照れちゃうわ」
「だったら出て行けよクソメイドォ」
「嫌」

サラッと拒否してくる。
ビキビキッ!と、嫌な音を立てながら、一方通行のこめかみに青筋が浮かんだ。
彼が見ているのは、対面、ガラステーブルを挟んであるソファーに座る女性である。
彼と同種、いや、美しさを感じさせる紅い眼から、柔らかい余裕を見せている。
彼女は"十六夜咲夜"などと言うらしい。
突然の招かざる客に、一方通行がとった行動は首元ふん捕まえて、外に放り出す、という強硬策。
とてもでは無いが"暗部"の刺客などには見えなかったし、ずっと視界に入れていると頭痛がし始めるので(精神的ダメージによって)、彼にしては珍しく無傷で解放してやった。
が、
ドアを閉めて(中からロックもかけて)リビングに戻ると、何故かメイドがソファーに居座っていた。
訳が分からない。
警戒しながらも、彼は無防備な"フリ"をする。
それが分かっているのかいないのか、咲夜は動かなかった。

一方通行が見る限り、隙や油断など一片も見当たらないが。




49 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:36:07.98htYAh9I0 (15/25)



「オマエ……一体どうやって中に入りやがった?空間移動か?」
「いや、"普通に歩いて"だけれど?」
「ドアを閉めてた俺の近くを通り抜けて、かァ?馬鹿か」

罵倒されても、彼女はさほど答えた様子は無い。
彼の言うことはもっともだった。
ドアを閉めている間(能力を使ったので僅か0.1秒)に、その間をすり抜けリビングに侵入する。
バレるとかいう問題では無く、まず現実的に無理な行為だ。

「第一、女性を外に放り出すなんて酷くないかしら?」
「不法侵入クソメイドだろうがよ、オマエはァ……」
「しょうがないじゃない。ここには、あのスキマBBA(ババア)に叩き込まれたんだし」
「あン?BBA?」

咲夜が、本心からのため息をついて言った言葉に、一方通行は嘘を感じられず犯人のことを尋ね返した。

瞬間、


ゴガンッ!!

「あだっ!?」
「ぐばっ!?」


二人の頭上から金属タライが降ってきて直撃した。

薄くて軽い金属特有の低い音を余韻に響かせ、タライは床を転がる。
不意の攻撃によるダメージは大きく、特に一方通行は横になっていたため、顔面に直撃していた。




50 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:36:45.46htYAh9I0 (16/25)



「いたた……」
「ぐっ、がっ……いつからここはお笑い屋敷になったンですかァ!?」

後頭部を抑えながら頭を上げる咲夜を無視して、彼は天井に吠える。

そして、

「なっ……!?」

息を呑んだ。
天井に、一方通行と咲夜の頭上だけにぽっかりと黒い何かが開いていた。
例えるならば、"隙間"。
空間が裂け、生まれた真っ黒な隙間。
その奥からは、単眼の瞳が幾つも幾つも蠢いていた。

「…………」

パクパクと、空気を噛むように口を閉開している一方通行。
怒りなど、どこかに消し飛んだ。

「あ、相変わらず地獄耳ね……」
「….…オイ、これなンだ?」
「さっき言ったスキマbゲフンゲフン……"スキマ妖怪"の力よ」
「…………」

聞きなれないフレーズがあったが、彼は無視した。
ようするに、これは彼女をここに叩き込んだBBAとやらの力らしい。
咲夜が言ったことが、全て正しければだが。

「……一体どういう原理ばァっ!?」

ゴシャッ!!と、見上げていた彼の顔面に新たなタライが直撃。
痛みに声にならない呻き声を放ち、鼻を抑える。
ゴロゴロ転がって行くタライが、最っ高に苛つかせる。




51 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:37:27.91htYAh9I0 (17/25)



「ク、クソったれが……っ!」

チョーカーのスイッチを入れ、能力全開で天井ごとぶち壊そうとして、
ヒラヒラと、頭上から紙が一枚降ってきて、机の上に落着する。
計算されたようにそれは表で、文字が見えるようになっていた。
内容は短く、一言。

『次、言ったり思ったりしたら弾幕結界』

何を、とは書かれていないが、咲夜の咳払いでなんとなく分かった。

「……」

紙を一瞥してから、上に視線をうつす。
予想通り、天井には何も無く、床を転がっていた筈のタライも消え失せていた。

「……一体、なンだってンだ……」
「だから言ったじゃない、スキマ"妖怪"の仕業よ」
「オカルトのこと聞いてンじゃねェよ。何が妖怪だ。ンなモン居る訳「居るわ」

言葉に、割り込まれる。
短く、強く、真っ直ぐに放たれた言葉は、しっかりと彼の耳に届いていた。
立ち上がったままの状態で、一方通行は発言者たる十六夜咲夜を見下ろした。
彼女の表情に笑みは無く、ただ事実を残酷に告げる、大人の顔だけが存在した。
一方通行は、知っている。
こんな表情をしてきた人間を、何人も何人も知っている。




52 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:38:05.36htYAh9I0 (18/25)



「……チッ」

舌打ちを、一つ。
ドカッと乱暴にソファーへ座り直した。
そして、命令口調で言う。

「詳しく話せ」
「命令?まぁ私も、この状況から早く逃れたいから、それくらい良いけど……」

呆れ顔をしながらも、咲夜は渋々といった風に説明を始めた。

「私が居たのは"幻想郷"っていう場所よ」
「聞いたことねェな。別世界です、とでも言うつもりか?」
「半分当たりで半分外れ」

何時の間にか取り出した、銀のナイフを手の内で弄び、彼女は続ける。

「"幻想郷"は厳密的にはこの世界に存在する……けど、結界が張ってあるから、普通の人は入ってこれないし、出て行くことも出来ない。ただ、結界の効力の一つに"世界において幻想(忘却)となった物"を取り込む、っていうのがあるから、物や人が時折入ってくるわ。これがこの世界でいう"神隠し"よ。妖怪とかも、この性質のせいで居るらしいわ。結界だけじゃなくて、例外も結構あるけど」
「オマエもその例外の内の一つか?」
「そうなるわね。というか、あのバ……妖怪が規格外なのよ」

忌々し気に彼女は語って、ナイフを宙に放り上げる。
クルクルと、ナイフが銀の軌跡を描き、落下して行くが、
フッ、と。
消える。




53 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:38:42.22htYAh9I0 (19/25)



「人や妖怪の中には能力を持っている者が居る。一人に一つ、その存在に沿った、特別な能力」
「……人も?オマエも持ってるのか?」
「えぇ。で、あのスキマ妖怪が持っているのが『あらゆる境界を操る程度の能力』」
「….…」
「私も詳しくは知らない……というより、本人以外にアレをはっきり説明出来る人間は居ないでしょうね。とにかく、空間と空間の"境界"を操作して、あんなスキマを生み出せるのよ、八雲紫は」
「八雲紫……」
「周りからはスキマ妖怪って言われることが多いわね。私はさっきまで"紅魔館"に居たんだけど、スキマに飲み込まれて…
…外の世界のここにドスン、よ。まったく、何考えてるのやら……」
「……」

一方通行は、黙って考えていた。
勿論、彼は彼女の言っている夢物語を"全ては"信じていない。
当たり前と言えば当たり前だった。
科学が進んだこの世界で、誰が妖怪やら別世界やら信じるというのか。
だが、断片的に信じられる情報もある。

何故なら、一方通行は既に"スキマ"を見ている。

(……あれは、どォ考えても俺の知ってる『能力』の類いじゃねェ。だとすると、此奴の話もあながち、嘘だらけでもねェか)

可能性としては、"原石"ということもある。
とにかく、一方通行は彼女の言葉を全て鵜呑みにせず、かといってあり得ないと反論することも無く、ただ情報を喋らさせる。

(作り話なら、どっかに歪みがある……)

思考しながら、しかし、同時に思う。
頭の片隅で、表には出さず。


自分は、このメイドの言葉を真実だとほぼ確信している、と。
理由は、よく分からないが。





54 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:39:24.29htYAh9I0 (20/25)



咲夜は、そんな彼の思考などいず知らず、ナイフを次々と生み出し、弄ぶ。
ナイフが窓から射す太陽光を受け、キラリと瞬いた。

「……誰か来たみたいね」

そして突然、ナイフを瞬時に仕舞う。
何処に仕舞ったのか分からないが、一方通行は言及しない。
彼女の言う通り、誰かの気配が感じられたからだ。
コツ、コツと、コンクリートを踏む足音が耳に届く。
その誰かは、ドアの前で立ち止まり、ガチャガチャとドアノブをいじり始めた。

「ありゃ?鍵はぶっ壊れてるのにロックはかかってるのかにゃー?」

軽そうな、男の声が耳に入る。
巫山戯た調子が言葉の端々から感じられる声に、一方通行は不愉快そうに眉を寄せた。

「こンなときにかよ……」
「知り合い?」
「シスコン義妹フェチのな」
「危険人物じゃない。警察にでも通報したほうがいいんじゃないの?」
「オマエも十分危険人物だがなァ不法侵入ナイフメイド」

つーか警察とか知ってンのかテメェ。だって私元々外の世界の住人だし。聞いてねェぞ。言ってないもの。
なんて会話を続ける内に、ベキンッ!とロックを破壊される金属音がリビングにまで届く。
足音を大きく立てて、その不法侵入(二人目)はリビングに入って来た。




55 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:40:08.52htYAh9I0 (21/25)



「にゃーにゃー。一方通行、元気にして、た、か、に……ゃ……」

入って来たのは、金髪に青いサングラスをかけた、アロハシャツの男。
かなり図体も大きく、身のこなしも常人とは違うが、年は高校生くらいだろう。
見た目はまるっきり不審者で、横目にその姿を見た咲夜は、

「……変態?」

と、なんとも酷い事をサラッと言ってのけた。
外面的にも内面的にも間違っていないと思う一方通行は、特に訂正をせずに本日二人目の"お客様"に呼びかけた。

「鍵ぶち壊してまで何のようだ、土御門」

本当の鍵を壊したのは本人なのだが。
呼びかけられた男、土御門は黙って固まっている。

ソファーに座っている十六夜咲夜を見て。

「…………」
「……オイ何か喋ったら──」
「……一方通行」

小さく唇が動き、言葉が放たれる。
一方通行はその声に、巫山戯が消えているのを感じ、真剣さを理解した。
目を細め、土御門が視線を集中させている、彼女を見る。
咲夜はさほど答えた風もなく、自分の手元に視線をやっていた。




56 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:40:46.61htYAh9I0 (22/25)



「…………」
「…………」

無言のまま、スタスタと彼は一方通行の元へと向かって来て、
胸倉を掴み、ひねり上げた。
無理矢理立たされても、一方通行は冷然とした態度で土御門を睨む。
彼が何故こんなことをしているのかは分からないが、真剣な目をしているため、少しだけ好きにさせてやろうと考えたのだ。
もっとも、殺されそうになったら、隠し持つ銃でぶち抜く準備をしている。
油断は、していない。

「お前──」
「……」

銃に意識を集中。
言葉を、待つ。
土御門は、サングラスの奥の瞳を獰猛に光らせ、勢い良く口を開いた。









「お前なんでこんな美人のメイドさんと同居してたこと言わなかった!?クソったれ羨ましいぞこんちくしょう俺と代わブバッ!?」




取り合えず思いっきり右ストレートで殴り飛ばした、一方通行だった。

……殺さなかったのは、彼なりの成長なのかもしれない。






57 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:42:08.97htYAh9I0 (23/25)




「"盟主"殿の行方はまだ分からないか?」
「……はい」
「全く、少しは用心して欲しい物だ。まだ敵の勢力も未知数だというのに」
「戦力が少ないですね」
「"ババア"がいたら、いい策でも提示してくれそうなんだがな」
「……その呼び方は、本人に止めるよう言われてた筈ですが」
「いいじゃないか。本人がいないのだから」
「……」

「おー、二人共ここに居た"アル"か?」

「……一体どこに居たんだ、お前は」
「ちょっと厨房を借りて肉まんを作てたネ」
「……お前は馬鹿か」
「エヘヘ……」
「照れる所じゃないぞ」
「あっ、二人も食べてみるカ?味は保障するアル!」
「だ、か、ら。話を聞けと──」
「……頂きます」
「なに?おい、ちょ……」
「ほい」
「……あむっ。もふもふ……」
「どうアルか?」
「……美味しいです」

「…………」

「あむ、うむ……」
「まだまだあるから、ゆっくり食べるネ」
「…………一つ、貰おう」
「ハイヨー!」

「……ところで、頭の上のそれはなんですか?」

「なに?」
「?」

ゴガンッ!!

「ぐおぉっ!?」
「だ、大丈夫アルか!?」
「……これは、なんですか?」
「……タライ、みたいアル」
「…………何故?」
「さぁ……?」



58 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:43:08.83htYAh9I0 (24/25)










脆き現実と、硬き幻想。
当たり前の矛盾を無視して、
受け入れる世界は、常に動き続ける。











59 ◆roIrLHsw.22010/12/09(木) 12:44:08.15htYAh9I0 (25/25)



以上っす。
最近調子が精神的にも肉体的にもダウン気味なので、頑張りたいところ。




60以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/09(木) 12:50:39.11slFAVhoo (1/1)


今後にも期待wwktk


61以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/09(木) 13:30:40.44XuDWdVwo (1/1)

東方はわかるからいいけどネギまもそうとうキャラ多いよね
それぞれの作品からどれくらいのキャラが出るの?
クロス物で登場人物増やしすぎるとgdgdになるよ。ソースは俺


62以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/09(木) 17:52:57.84dZ3b06DO (1/2)

インスクライブレッドソウルさんだかインペリシャブルシューティングさんだかもペンデックスモードになりゃ戦えるな


63以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/09(木) 18:08:08.58AJuN3ESO (1/1)

>>62
ちょっと何を言ってんのかわかんないです


64以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/09(木) 19:45:41.66dZ3b06DO (2/2)

そういや姫神さんいればスカーレット姉妹とエヴァンジェリンは楽勝だな


65以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/09(木) 20:37:18.64ASTUPxE0 (1/1)

>>64
妹の方は血の吸い方が判らず相手を木っ端微塵に爆砕してしまうような奴だぞ
むしろ姫神がヤバイ


66 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:37:39.83/8MrQGE0 (1/26)


>>61
なるべく厳選したり、戦闘不能にさせて離脱させたりする予定です。
ただ、最初はネギまキャラ達の影が薄くなると思います。色々あって……というか、そこまで行けるか……

>>62
そうですね。多分いつか戦うと思います。
そしてインデックスさんはメイド長のナイフ斬撃でも不死鳥の燃え盛る炎でも無いので悪しからず。

>>64-65
それについては、まず吸血鬼組が出て来るか不明です。後、姫神の封印が解けるかどうかも。
フランと遭遇した場合、姫神は殺されますがフランも血を浴びて死ぬ可能性が高いです。


では、修正が終わったので投稿です。




67 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:38:26.52/8MrQGE0 (2/26)









「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

テーブルを囲んで座る者達。
沈黙が、場を包み、飲み込んでいた。
戦場を連想させる、張り詰めた糸のような沈黙。
ここ第七学区にある、上条当麻の部屋は、勿論戦場などでは無い。
しかし、今、この時。
この部屋は何かのキッカケで、戦場になる可能性を秘めていた。
先程の出会いからは既に二十分が経っている。
彼等は、上条宅へと移動していた。
ごく普通の学生寮の一室。

部屋で、沈黙を作り出しているのは"四人に見える五人"。

一人は黒いツンツン頭の少年、部屋の主である上条当麻。
彼は部屋の空気に鳥肌を立て、五人の内の一人を警戒している。

居候たる、簡単には語れない"事情"を多々に渡って持つ、インデックスという、ティーカップのような金色の装飾がなされた、"白い修道服"を着た、銀髪碧眼の幼い少女。
彼女は、いつもは笑顔で緩んでいる頬を引き締め、真剣そのものだ。
原因は、上条と同じ人物。

もう一人、インデックスと同い年くらいに見える少女が居た。
腰までよりも長い、癖の無い黒髪に、黒曜石の輝きを垣間見せる瞳。
名前はシャナ。彼女と、胸元の神器"コキュートス"に意識を顕現させる"紅世の王"アラストールは、孤立して睨み合いを眺める形になっている。

そして、最後の一人。
この人物が問題だった。
正確には、この人間の、立場が。




68 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:39:02.45/8MrQGE0 (3/26)




「ふむ……少しは敵意を納めて欲しいのだが」

ぬけぬけと(少なくともインデックスと上条にとっては)したその言葉に、インデックスと上条は更に敵意を増幅させた。

まずはインデックスが、"イギリス清教のシスター"、魔術サイドの人間として唇を動かす。


「アレイスター・クロウリー……まさかこんなアジアの島国に逃げてたなんてね」


普段の彼女からは信じられないくらい、軽蔑の感情が篭った声。
だが、そう言わせるだけの理由がある。

この世界には現在、"魔術サイド"と"科学サイド"という、二つの勢力が存在する。
文字通りの二つは、基本的には仲が悪い。

魔術と科学は相入れない。

誰が定義した訳でも無いが、科学は魔術の存在を危ぶませ、魔術は科学の存在を危ぶませる。
表裏。故に、この二つはデリケートな間柄ながらも、なんとか共存していた。

が、かつて、この両サイドの関係は危ぶまれることになる。

魔術サイドのリーダー……つまり、最強の魔術師と言って過言では無い、"魔神"の称号を持つ者が、科学に頭を垂れたのだ。
例えで言うなら、軍の代表が誰の意見も聞かずに、勝手に敵に降伏したようなもの。
当然、その"魔神"は世界中のありとあらゆる魔術師の敵となり、殺された、


"筈"だった。





69 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:39:43.95/8MrQGE0 (4/26)



そう、つまりはインデックスの目の前、ガラステーブルの対面に、正座で座る人間が最強の魔術師。
アレイスター・クロウリー。
彼は今、"科学サイド"のトップとして、彼等の前に居る。
今まで誰にも気づかれず、ひっそりと、それでいて堂々と存在していたというのに。
彼は表情を全く変えず、機械のようで人間のような、不思議な声を紡ぐ。

「"禁書目録"。君の態度の理由はよく分かっている。だが、事態はかなり深刻なのだ。どうか、分かって欲しい」
「……」

インデックスはフンッと鼻を鳴らして、それ以上何も言わなかった。
ここで追及したとしても、"魔力"を練れない自分には、アレイスターを捕まえたり倒すことは出来ないだろうし、もう一人、上条が連れて来た少女のことも気になっていたから。

しかし、彼女が一先ず矛を引いたというのに、

「……」

上条は、敵意の視線を注ぎ続ける。

「……"幻想殺し"」
「俺は」

アレイスターの呟きに声を被せ、上条当麻は、腹の底から声を発した。怒りが凝縮された、爆発寸前の、声。

彼は、色んなことを考えていた。
普通の高校生である筈の上条当麻は、今まで、学園都市の汚い部分に関わり、様々な闇を垣間見て来た。
非人道な、"二万人のクローン"を殺す実験。"人工の天使"を作り、暴走させたこと。
中には、ここに居る内、"記憶にある中"で一番付き合いが長いインデックスも知らない、この都市の隠れた部分に触れた彼は、感情のままに吐露する。

「アンタ、なんであんなことが出来んだよ。科学のトップってことは、知ってたんだろ?」
「?」

隣のインデックスが頭にクエスチョンマークを浮かべるのにも構わず、彼は断片的な言葉で問い詰める。
問い詰められたアレイスターは、やはり感情がさっぱり読めない顔で、

「あぁ。私がやらせたからな」
「──っ!」

ガラステーブルに手を叩きつけつつ、彼は猛然と立ち上がった。
口を開き、吠える。




70 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:40:23.25/8MrQGE0 (5/26)



「アンタ……!「必要だから、私はやった。ただ、それだけだ」……っ」

しかし、今度はアレイスターが言葉を被せた。
流れるように被せられ、上条は無意識の内に口を閉じてしまう。
上条の動揺など歯牙にもかけず、アレイスターは語る。

「全ては、この『戦い』のため。理由はそれ以上でもそれ以下でも無い」
「……"妹達"を殺したり、"風斬"を不幸な目に合わせたりしたことが、それで許されるって思ってんのか?」
「許してもらうつもりなどない。ただ、必要だということを理解してもらいだけだ」

言葉が終わっても、一方的な炎の如き敵意は収まらなかった。
彼も分かっているのか、もう特に何を言うようにも見えない。

「……話は終わった?」
「終わったのならば、そろそろ此方の話に移らせてもらう」

と、重い空気を刃で切り裂くように、それまで傍観していたシャナとアラストールの言葉が発せられる。
彼女達が今まで何も言わなかったのは、彼等の話が自分達の全く知らない異世界の事情によるものであり、個人の小さな揉め事一つ一つに構うようなお人好しではないからだろう。
本当は、お人好しじゃないのではなく、そこまで子供でもないということなのだが、彼女達にとっては対して意味はない。

彼女達は、"フレイムヘイズ"なのだから。

「すまない、話を始めよう。いいかね?」

一言、断りを入れるアレイスター。
その感情が篭って無い言葉に、上条とインデックスの二人は無言で、シャナは軽く頷いて返した。




71 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:41:07.48/8MrQGE0 (6/26)



「まずは、貴方達のことだが、異世界。それも"紅の世界(クレナイノセカイ)"からの住人で間違い無いか?」
「"紅の世界"?"紅世"のこと?」
「正確には、"紅世"というものがある世界のことを、私と八雲紫はそう呼んでいる」
「"紅の世界"……?」

インデックスは首を傾げた。
彼女の脳内には、"完全記憶能力"によって刻まれた、"十万三千冊の魔導書"の知識が存在する。
つまり彼女は"超能力"や一部の例外を除く異能の力、"魔術"に関して、この世界でトップクラス……三本の指に入る知識を持っているのだ。
しかし、それでも分からない。
"異世界"なんてぶっ飛んだ話から入ったため、魔術側関係だと思ったのだが、"紅の世界"なんてモノの知識はカケラも存在しない。
さっぱり見当も付かないインデックスは、横に座る上条を少し下から覗き見る。
見られている彼は、インデックスの瞳に困惑の表情を写しながら手をわたわたと振って、

「はっ?ちょ?えっ?い、異世界?」

……どうやら、彼女達が異常だというのは分かっていたが、異世界から来たとは思っていなかったらしい。

「……お前、今更そんなことを言うの?」
「そこの修道女はともかく、貴様は既に我々の異常さを把握しておろうが、うつけ者め」

二人から呆れのみの言葉を投げかけられ、上条は何故かいたたまれなくなって小さく呻く。

「いや……普通異世界からとか、漫画でも無い限りそう簡単に考えられないって」

彼の言うことももっともだった。
漫画やアニメの世界でも無い限り、簡単に異世界などという異常を思いつくことは出来ないだろう。
何故ならば、人というのは自分自身が住む世界を生きていて"他がある"と考えている者は比較的少数だからだ(インデックスは少数派だと言える)。
ただ、シャナ達の場合、彼女達の世界自体にもう一つ異世界が、"紅世"が存在したため、異世界というものにある程度なじみが深かった。
そのため、すぐさま異世界に来たと断定出来たのである。




72 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:41:45.07/8MrQGE0 (7/26)



「鈍いわね。"悠二"なら直ぐに気がついて…………っ」
「……どうした?」
「……うるさいうるさいうるさい。何でも無い」
「……」

シャナは問いかけて来た上条に文句を言い、アラストールが何か言いたそうにしているのを感じながらも、上条を指差して"誤魔化すように"アレイスターに尋ねる。

「異世界とかの話の前に、こいつ何?幾ら何でも異常よ」
「とうまが……?た、確かにとうまは女の子と異常なぐらい関わってるけど……って!よく考えてみれば今回もそうかもとうまのバカァァァァッ!!」
「うおいっ!?ちょいっとお待ちよインデックスさん!?今回上条さんは問答無用で殺されかけてギャァァアアアアアアアアッ!?」
「……珍妙だな」

アラストールから簡素に纏められ、頭部をがぶがぶと猛獣のごとく、噛み砕かれないぐらいの力でインデックスに噛まれている上条は泣きたくなった。
取り合えず、噛まれながらも説明を始める。

「インデックス痛い痛い!!煎餅食べていいから!……えーっとだな、俺の力はなんか、超能力(PSI)でも魔術(オカルト)でも無いらしいんだけど」

そこで区切り、シャナ達(胸元のペンダントは分からないが)が続きを促していることを確認し、




「俺の右手は、それが異能の力であるなら戦略兵器クラスの超電磁砲だろうがビルを倒壊させる攻撃だろうが、"神様の奇跡"であろうと触れただけで打ち消せます。はい」







73 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:42:57.45/8MrQGE0 (8/26)




場に訪れたのは、沈黙。

「あむっ」
「ふむ。むぐむぐ……」

予め知っていたインデックス(何時の間にか座り直していた)とアレイスターはさして反応せず、テーブルの上に置かれた煎餅に手を伸ばし、食べていた。
最強の魔術師だろうと科学サイドのトップだろうと煎餅食うんかい、などと何気なく上条は思い、


「──なんですってっ!?」
「──馬鹿なっ!?」


驚愕の怒鳴り声に、勢い余って横倒しになった。
ドゴシャッ!とフローリングの床に叩きつけられる形となり、上条は奇妙な悲鳴をあげる。

「ぐべっ!?」

這い蹲る上条に、睨むと形容できるレベルの熱視線を浴びせながらシャナは大声で続けた。
信じられないという気持ちを、多大に込めながら。

「神様の奇跡もって……そんな力、あったら世界のバランスが崩れるわよ!"存在の力"をあんなに簡単に……」
「とうまの『幻想殺し』のこと?んー、それなら問題ないんだよ。とうまの力は"破壊"というよりは"循環"に近いから。世界に与える影響なんて全然無い筈。でも、とうま自身は不幸になりまくりだけどね、はむっ」
「……インデックスさん。煎餅食べながら普通に言わないで下さいよ……」
「……」

インデックスの言葉を聞いて、シャナは口を閉ざす。
異世界の法則など彼女には分からない。
ただ、今も肩にかかっている"存在の力"によって構成された防御の黒衣、"夜笠"が消されたのは確かなのだ。
削り取るとか、焼き尽くすとか、そんな曖昧な消滅では無く。
空気を薙ぐように、あの右手に触れた部分が消えた。

(……こいつの右手には、要注意ね)

誰ともなしに思い、警戒する。
いざとなれば、異能の力じゃない、純粋な力で殺せばいい。
先程の戦闘で体術自体は一般人となんら代わり無いと把握していることだし。

(……今思えばこいつ、さっき殺しかけられたのに、私を部屋に入れるなんて。全然警戒もしてないし、どれだけお人好しなの……?)

と、改めて上条当麻という人物の異常さに、今度は呆れていると、煎餅を一枚バリバリと食べ終わったアレイスターが、

「そろそろ話を戻していいか?」
「その前に口についた煎餅の欠片取れよ」
「むっ」



74 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:43:48.80/8MrQGE0 (9/26)




上条の指摘に、彼は無表情のまま口元を拭う。
なんだか笑ってしまうくらい似合わないが、上条は必死に堪えた。

「……では、説明を始めよう」

そして、漸く語られ始める。
目的、理由、事実。三つ全てが。







「我々の目的、『神』への反逆に協力してもらいたい」














75以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 12:44:37.29/8MrQGE0 (10/26)












「いつつ……少しは手加減して貰いたいもんだぜい」
「手加減してなきゃ、今頃オマエはトマトみてェに潰れてるぜェ?」

暗にそうしてほしかったか?と尋ねつつ、一方通行はソファーにもたれ掛かり欠伸を噛み[ピーーー]。
先程、土御門元春が来てから二十分が経過。
壁に衝突して気絶した彼を一方通行は放置し、咲夜と適当に会話をしていた。
その際、缶コーヒーを勝手に飲まれ(口の部分をナイフで切って開けていた)「マズイ!」と言われて買って来たコーヒーを全て窓から投げ捨てられている。
なので土御門が目を覚めた直後に見たのは、


『こんなマズイコーヒーを飲めるなんて、貴方の舌おかしいんじゃないの!?』
『俺の勝手だろうがクソメイド!つーか勝手に飲ンどいてその言い草はなンだ!?』


などという、言い争いの場面だった。
冷静沈着に見えた咲夜が何故か本気で怒鳴っていることに、少し驚いたのも束の間。
用事を思い出し、ソファーに座ったのである。
対面に座る一方通行は良い顔をしなかったが。

「ンでェ?用はなンだよ。またメイドとか言い出したら本当に肉片にするぞ」
「あっははは……さっきは我を忘れちまったからにゃー」

頭を掻きながら弁明する土御門。
彼をじと目で見ながら、咲夜は一方通行の隣に座る。

「メイドを見た瞬間我を忘れるなんて、危険な人ね。人里にも偶に居たけど」
「オイ、オマエ何ナチュラルに俺の隣に座ってンだ」
「?」
「首傾げてンじゃねェ」



76 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:45:23.27/8MrQGE0 (11/26)



ハァ、とため息を混ぜながら息を吐く。
天然なのかと疑いたくなるが、それだと先程までのコーヒー(紅茶もらしい)への完璧主義はどうなんだ?と思う。

「隣に座るな前に座りやがれ」
「嫌よ。メイドに興奮する変人の隣に座れなんて、貴方デリカシー無いわね」
「だったら床に座るか立ってろよ。不法進入者なのに部屋に居れるだけ有難いと思えボケがァ」
「あはは……変人……」

憧れの超美人(ここだけは一方通行も渋々同意)メイドさんに汚物を見るような目での言葉に、割りとシャレにならない精神ダメージを受けるが、土御門は首を振って雑念を振り払う。

「さて……そろそろ真面目な話と行こうか」
「「さっさとしろ」」

口調と表情が真面目になった彼に、容赦無く言葉を放つ二人。
色々感情が混ざった苦笑をしながら、土御門は用件を語り始めた。

「俺が来たのはアレイスターと八雲紫の代理だからだ」
「アレイスター、だと?」
「あのバ……スキマ妖怪と会ったの?」

彼から出た意外な、そしてある意味想像出来た名前に、二人は同時に反応し、普段の口調のまま問い詰める。

「まぁな。所で、説明の前にこれを見てくれ」
「……?何ダラダラやって」

勿体ぶる彼の言動に、一方通行が疑念を抱き、文句を言おうとして、





77 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:46:19.62/8MrQGE0 (12/26)






「"封絶"」




瞬間、"世界が変わった"。

「っ!」

反射的にソファーを蹴り飛ばしながら、一方通行は後方へと飛び、土御門から距離を取った。
慣れた手付きでチョーカーのスイッチを入れ、一方通行は"能力"を得る。
能力によって常人には絶対あり得ない速さで着地し、フローリングの床がべキリッ、と悲鳴を上げた。
僅かに目を逸らしてみると、視界の隅で同じように咲夜も着地している。
その白銀と漆黒の姿に沿うように、幾つもの銀のナイフが漂っている。
数は数十を超え、全てをバターみたいに切り裂きそうな刃は、土御門へと真っ直ぐに向けられていた。
銀光煌く凶器が自分へと向けられているというのに、土御門はサングラスをギラギラと輝かせ、無言で佇んでいた。

「……」

臨戦態勢を崩さず、彼は周りに視線を走らせる。
周囲は、異世界の様相を顕にしていた。
地面には薄ぼんやりと白く光る線とも紋章とも取れる文字が浮かんでおり、空気は僅かにだが重く、物質全ての色が薄くなっていた。
窓から覗く外の風景の先に、何やら壁らしきものが存在している。
清々しい青い空は見当たらず、ただそこには、白い楊炎の壁だけが存在した。

「……オイ、なンだこれ?」

何も起こらないまま数秒経ち、一方通行はドスの聞いた、答えなければ殺されるということが本能的に分かる声で、現象を発生させたであろう超本人に尋ねた。
が、何故か答えたのは、同じく異常現象に臨戦態勢を整えていた、咲夜だった。

「ふぅん……これ、一種の結界ね。効果はよく分からないけど、防御とかじゃなくて隠蔽や隔離の類いかしら?」

彼女は、興味深げに視線を衝撃でひび割れた床に落とす。
そこに描かれた紋様は、彼女が見たことが無い物。
元々、彼女とてそんなに詳しい訳ではない。

「大方、私が知らない魔法や魔術ね。どうしてこんなものを張ったの?」
「待て」
「?」




78 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:48:08.45/8MrQGE0 (13/26)


一方通行の頭が、聞き逃してはならないワードを捉えた。

「"魔術"?ンなもンがあンのか?」
「そうだ。能力では無い」

答えたのは、土御門。
彼はポケットに両手を入れ、ぐるりと周囲の空間を見渡す。

「これは"封絶"。外との因果を切り離し、中を隔離する術だ」
「……意味分からねェな。もっとハッキリ説明出来ねェのか?」
「まぁ、詳しい仕組みは後からでいいだろう。今知って欲しいのは『これは誰でも使える』『ここで静止しているものは全て後で直せる』『ここは存分に暴れるための戦場である』ということだ。あぁ、"超能力"以外の異能の力があるという証拠でもあるな」
「……」

自分の常識を完膚なきまでに叩き壊され、だがしかし、彼は頭脳を高速で回転させる。
第一位としての、最強の頭脳を駆使して、思考する。

(魔術、封絶、魔法、超能力、結界、十六夜咲夜、境界を操る程度の能力、学園都市では無い、異世界、土御門元春、タイミング、幻想郷、八雲紫、アレイスター)


そして、足りない、と気がついた。


「……目的は、何だ?」

簡素な、実に簡素な問いかけ。
十六夜咲夜のこと、土御門元春のこと、八雲紫とやらのこと、アレイスターのこと。
全てを含めて、彼は問いかける。
こんなことをする、目的はなんだと。

「……俺もさっき聞いたばっかりなんだけどにゃー」

土御門は、またもやお巫山戯口調に戻って、











「どうやら、俺達で『神』とやらに喧嘩売れってことらしいぜい?」






79 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:48:44.39/8MrQGE0 (14/26)



「…………はっ?」
「へぇ」

前者が一方通行、後者が十六夜咲夜である。
彼は魂がすっぽり抜けた声で、彼女は特段動揺無しの声で、それぞれの感情を見事なまでに示していた。

「…………『神』?」
「『神』だぜい。白い紙でも黒い髪でもない、神様の『神』だにゃー」
「………………」

臨戦態勢さえも忘れて、棒立ちになる一方通行。
彼は反射だけは維持しつつ、

ポケットから黒い携帯電話を取り出した。
勿論かける場所は、

「……救急車は何番だったか」
「待て待て待て。"封絶"の中じゃ電波が無いから無理だぜい」

"封絶"、という"証拠"を思い出し、一方通行は携帯電話を耳に当てる途中で止める。
だが、まぁ、突然『神様に喧嘩を売りましょう』などと言われて『あぁ分かりました』なんて返せる人間は、当事者では無いか思考回路が逝かれてしまった人間だけだろう。
いくら"魔術"という異常を、目の前で見せつけられたとしてもだ。

しかし、そんな彼とうって変わって、彼女は、

「で?何処の神に喧嘩売ればいいの?」

『神』という存在を簡単に受け入れ、即座に動き出しそうな雰囲気を放っていた。

「……オマエ、頭おかしいのか?『神』だぞ?」
「あら、幻想郷にだって神は普通に居るのよ?あと幽霊とか、天人とかも。地獄の閻魔も居るし」
「…………」

ガラガラと現実が崩れて行く幻聴が聞こえた。
痛むこめかみを無意識の内に抑えながら、一方通行は自分の常識を全て捨て去ることにした。
そうしないと、この怒涛の展開について行けなくなってしまう。もしくは精神的に死ぬ。



80 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:49:19.00/8MrQGE0 (15/26)



「……説明」

無理矢理自分の学園都市最強の頭脳を納得させ、彼は土御門にぷらぷらと白い手を促すために振った。
咲夜がその手を見て「か、完璧な白い肌……っ!一体どんな手入れをっ……!?」などと戦慄していたのは無視。無視ったら無視。

「あいよー。といっても、俺から言えるのは大したことじゃないんだけどな」

尋ねられた彼は、ポケットから左手を出す。
手には白い紙が握られており、小さな黒い文字がいくつか書かれている。

「んじゃ──」














81 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:50:22.39/8MrQGE0 (16/26)








上条宅にて。

「これは『戦い』だ。異世界を幾つも巻き込んだ」
「『戦い』?」
「名前は無い。ただ一つの存在を満足させるための、巨大な『戦い』」
「……その存在が『神』って訳?」
「そうだ」

アレイスターの爆弾電波発言は一先ず置いておき、それに対しての理由を説明することとなった。
人間、アレイスターもさすがに性急過ぎたと思ったのか、一つ一つキチンと説明している。
上条は神妙に、この得体の知れない人間の言葉を聞いていた。
実際のところ、上条にはオカルトの知識が大して無いため、発言が出来なかったりする。

神や天使という存在に知識が深いインデックスが、顎に手を当てて、

「でも。その話が"本当に"正しかったとして」

まるっきり信じていない口調だった。
それは単に、アレイスター・クロウリーという魔術界の裏切り者への疑念からでは無い。
彼女自身の知識からの、反論。

「"神様"っていうのはそんな人間的な存在じゃないんだよ。人間とは、全く別種の存在なんだから。貴方も元魔術師なら分かるでしょ?」
「それはこの世界の理(ルール)でしか無い。他の世界には、神というものが人間のように存在していることもある」
「うむ……現に、我自身"天罰神"だ」
「て、天罰……」

会話の流れに乗って、自分の正体を明かす不思議なペンダント(上条はそう思っている)に、思わず上条は距離を取る。
彼は天罰とか、そういう不幸に関わるモノが大の苦手なのだ、



82 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:51:32.22/8MrQGE0 (17/26)



「ただ、我々が言う『神』というのはそれら"とも"違う。"アレ"は、存在、世界、理論、概念、境界、意思、常識、時空、次元、限界、現実、幻想……ありとあらゆる全てから"外れた"モノだ。名前も分からず、『神』というのは我々の当てつけに過ぎない」
「……???」

オカルトand説明が高度過ぎて、上条のミニマム脳みそでは全てを理解するのは不可能だった。
取り敢えずは『余りにもおかしすぎる存在』なので便宜的に『神』ということでいいのだろうか?

「……そんな存在が居るなんて、信じられないんだけど」
「"アレ"とて、普段から"外れて"いる訳では無いだろう。なにせ元は……」

何故か、途中で口を閉じる。
暫く、迷うそぶりを見せて、

「いや、このことはまだいいな。確証も無い」

結局、何を言おうとしたのかは分からない。
追及せずに、シャナは黒い髪を少しだけ揺らし黙り込んだ。
黙り込んだ彼女を横目に、彼は口を動かす。




「その『神』は、"暇つぶし"に異世界の幾つかの理を混じり合わせ、戦いをすることにした」




気のせい、だろうか。
今、とんでもない"理由"を言った気が、する。




83以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 12:52:15.75/8MrQGE0 (18/26)



「……暇、つぶし?異世界の人間を、この世界に連れて来ておいて?そんな滅茶苦茶なことしといて、ただの"暇つぶし"?」
「そうだ。後は、不幸を見て楽しんでもいるだろうな」
「…………」

唖然。
アレイスターを除く全員が、理解不能の理由に、唖然となった。
特に、実際に異世界から連れて来られたシャナとアラストールに至っては唖然と同時にふつふつと、明確な怒りが湧き上がっている。
当然だろう。
いきなり訳の分からない場所に放り出された理由が、そんな自分勝手で小さな理由だったら、誰だって怒る。

「……それが、理由……」
「そうだ」
「……なんて、ムカつく奴」
「世界を繋ぐ程の、巨大な力を持っていながら……いや、"だからこそ"なのか?」
「むぅ……それが、本当だとしたら……いやでも……」

上条達は、それぞれの言葉で感情を示す。

彼等は、気がついているのだろうか?


自分達が、驚く程自然にアレイスターの話を受け入れていることに。


それだけ、それだけアレイスターの言葉からは嘘など感じられず、ハッキリと鮮明だった。
いや、違う。"それだけ"では無い。
もっと、確かだと色付けるだけの雰囲気を、彼は放っている。

「『神』はこの『戦い』をゲームだと語っている。世界を盤に、自分を相手に見たてた、ルール無用のチェスや将棋のようなものだと。"アレ"にはそう言えるだけの、力がある」
「俺たちが、その駒ってか?」
「異世界から来た者達もだ。殆どが"此方側の"だが大概が"第三勢力"になってしまう」
「?」

どういう意味なんだろうか?と、上条は首を傾げる。

「考えてみるがいい。異世界に急に放り込まれて、異世界の者達皆が共闘できると思うか?」
「あっ……」




84 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:52:58.03/8MrQGE0 (19/26)



比喩では無く、右も左も分からない。
そんな状況に放り込まれた者達同士が共同で戦えるのか?
『神』なんてものに?相手がどれだけ強いのかも分からないのに?もしかしたら、悪人も送り込んでくるかもしれないのに?性格も、戦い方もバラバラの可能性が高いというのに?

「『前回』は、悪人達を生き返らせてまで参入させ、偽情報を流し、更には人質をとってまで"仲間割れ"をさせた。向こうは、駒を動かして無いというのに」

ハァ、と。
どこまでも透明な、ため息を一つ。

「同じ目的を持つ者同士で殺し合い……最後には、『神』直々に一人づつ殺された」
「……『前回』と、言ったな」

シャナの胸元の魔神から、何かに気がついた遠雷のような声が響く。

「『前回』は今お主からの言葉からすると、敗北を喫したらしいな。ならば、その後はどうなったのだ?お主以外の生き残りは?世界は?」
「…………私は、参加はしていない。ただ、魔術によって眺めていただけだ」

じゃあ、と、上条は身を乗り出す。
戦いの後、どうなったのか。

彼は、滑らか過ぎて、残酷な音色で、言った。






「"世界ごと破壊された"からな。生きた者はまず居ないだろう」










85 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:53:48.00/8MrQGE0 (20/26)









「と、いう訳だ」
「……」
「……ハッ、どォしたメイド。こればっかは自分の常識範囲外でした、ってかァ?」
「……そういう、ことになるわね。正直、信じたく無いところもあるけど、こんな夢物語を嘯く理由が無いし……」

"封絶"が解かれ、元の世界となった暗部の隠れ家。
ソファーに改めて座り直した三人(やはり咲夜は一方通行の隣に座った)。
土御門の説明が終わり、一方通行は始めてこの完全さを感じさせるメイドの動揺を見た。
自分の常識を打ち破られれば動揺もする、ちゃんと人間らしい。

「"世界"ごと破壊……だとしたら、私達が勝てる確率なんて無いんじゃないの?」
「そうだな、俺もそう思う。ただ単純に、俺達が生きているのも『神』とやらの"気まぐれ"に過ぎない訳だからな」

だけど、と土御門は情報からの現実を認識させてから、

「"この世界は違う"。アレイスターの奴は他にも手があるのかもしれないが、少なくとも俺は一つ、『神』を殺せそうな"手"を持つ奴を知っている」
「何?」

世界を、地球なんて"惑星単位ではなく"、『宇宙レベルでの概念的な世界を破壊してしまう程の力』に対抗する術などあるのか、と疑いたくなる(後に話を聞いたところ、世界クラスの破壊にはそれなりに時間がいるらしい)。




86 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:54:34.80/8MrQGE0 (21/26)


「一方通行、お前は知っている筈だけどな」
「……?」
「いや、分からないならいい。いつか分かる」
「……」

思考を展開しかけて、止める。
どのみち、"本当に彼の言う通り"これから戦いが起こるとするならば、いつかその"誰か"とも出会う筈だ。

なにせ、"封絶"は、ある一定以上の実力を持つ者を動けるようにしているのだから。

「……『神』とやらの目的もムカつくし、ルールとやらも適当で苛つくが、まァいい。一応信じてはやる」

隣に証拠の異世界人もいることだし、と一方通行は声を出さず、口を動かすだけに止めた。

「……所でだにゃー。一つ問題が……」
「……なンだ?」
「……なに?」
「一度に異世界人がぱぁーと現れるわけじゃないのは分かるにゃー?」
「…………分かるけどなンだよ?」

何処か致命的な"嫌な"予感がしつつ、彼は土御門に尋ね返す。
土御門は苦笑なのか微笑なのか、判断に困る笑いを浮かべながら、

「ってことは、必然的に長期戦になってくるわけなんだけど……」

長期戦の"長期"の部分が、一方通行の揉め事察知能力を反応させる。
そして土御門は、今度は誰から見ても分かる爽やか笑顔で、言葉という名前の爆弾投下。







「すまんけど、メイドさんと一緒に『戦い』の間生活して欲しいんだぜい♪」







87 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:55:27.44/8MrQGE0 (22/26)



キラーン☆と、白い健康的な歯が光る。
突き出された右手の親指はビシッ!と綺麗に天を向いてそそり立っていた。
一方通行の返答は、

「いいわよ」
「却下……ってオイイイイイイイイイイイイっ!?」

勝手に答えられ、絶叫。
隣にて澄ました顔で問題を増やしてくれたメイドに、一方通行は睨みをきかせながら交渉(脅迫)を迫る。

「オイオイ、十六夜咲夜さァァァンンンっ?オマエ舐めてンですかァ?ここは俺の空間なンだよ。オマエは下の公園でホームレスみたいに寝てろ」
「いいじゃない。女性の私がいいって言ってるんだから、居候くらい」
「それ立場が逆の時に言うセリフだってのが分かってか?クソメイド」

ビキビキと、青筋を浮かばせる彼に、やれやれと首を振って彼女はその淡いピンクの唇を動かす。

「貴方の家はここじゃない、そうでしょ?生活しているにしては、余りにも新品の物とか多いし、物を破壊することに対する躊躇も全く見えない」
「……」
「加えて、貴方はこの部屋の中で警戒をある程度失っている。理由としては……そうね。"監視が無い"、"外からの攻撃に対し視覚的に強い"かしら?大方、この部屋は貴方の中で選び抜かれた空間じゃなくて?」
「……」

"全て当てられ"た彼は、吐き捨てるように一言。



88 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:56:03.38/8MrQGE0 (23/26)



「……オマエに本格的に興味が出て来たぞ、クソったれ」

不機嫌さを全く隠さないその言葉に、彼女は瀟酒にクスッ、と笑う。

「あら、それは女性として嬉しいわね」

傍目からは、ツンデレと天然の会話。
ただ、"裏は"そうかと言われると……

「……話は決まったかにゃー?」

土御門からの言葉に、軽く頷く。

咲夜と彼が何か──恐らくお金や服など生活必需品のこと──で話しているのを片耳で捉えつつ、一方通行は天井を見上げた。

(……クソったれ。面倒なことになりやがった)

紅い瞳が見た天井は、一面灰色で、黒など一点も無い。




彼は知らない。




土御門元春が言った、"彼"のことを。




彼が現在、自分に似た立場に居ることを。












89 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:56:50.08/8MrQGE0 (24/26)








何処か、遠く、近く、速く、遅く、そして暗い空間。
通常、人間の科学の領域では絶対にあり得ない空間。
そこにあるのは、白く、丸いテーブル。二つの白い椅子。
大理石から削り出されて作られたそれに、二人の"人間では無い者"が腰掛け、対峙していた。

「……あぁ、してやられた、と言おうか。八雲紫」
「そう言ってくれると、とてつもなくすかっとするわ」

金髪を揺らし、紫色の瞳を煌めかせながら八雲紫は笑う。

「まさか、幻想郷の戦力を投入するために"世界と世界の境界"を繋げるだけじゃなく、"現実と幻想の境界"を曖昧にするとは……いやいや、予想はしなかった訳では無いが、まさか実現させるとはな」
「"本来はやって来る筈の無かった"闖入者はお嫌い?」
「好きだよ。何が起こるか分からないからね」

彼女の目の前に居る筈の存在だが、姿が紫からはよく分からない。
光も無い空間だからか。
紫は妖怪なので、夜でもよく見える目を持っているのに。

「確かに、幻想郷に居る殆どの者は外の"現実"に出ると弱ってしまう。干渉しても、だったな。幻想郷の神や実力者達の力を……?それに君の力を合わせても、難しいが……なるほど」

恐らく、笑ったのだろう。
伝わって来る極わずかな雰囲気から、彼女はそう判断した。

「"AIM拡散力場"を利用したか。擬似的な"界"の力で、境界を曖昧にしやすくする。だがしかし、それでも君という巨大な戦力を失う上、余り強い幻想の存在は来れな……いや、まだ"何か"あるのか。今欲しいのは、"慣れるための時間"だな」
「黙秘させて頂きますわ」




90 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:57:40.66/8MrQGE0 (25/26)


扇が、パラリと開かれた。
空間には音が全く響かない。

「ふふふっ……やはり君は面白いよ、八雲紫」

紫の頬を、"冷や汗"が一筋垂れた。
それは、僅かな恐怖が作り出した、感情の結晶。






「──殺したくなる程にね」






その声は、地獄の亡者の声よりも呪われていた。












何がどうあっても、時は過ぎる。
戻すことは出来ず、ただ進むのみの一方通行。
それでも構わず、世界は進み続ける。












91 ◆roIrLHsw.22010/12/10(金) 12:58:27.33/8MrQGE0 (26/26)


以上です。

説明回程つまらないものは無いな……



92以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 15:33:02.09xURNQgDO (1/2)

一方さんが魔術知らない、ていと君も生きてるってことは15巻前なのかな?
上条さんの正体や右手に関しては原作でもまだ不明の状態だし、神の奇跡は消せても神様自体は消せないしあまり戦力にならなそう
つか封絶とか霊夢の結界壊せそうだよね


93以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 17:17:55.40bRXvFm.o (1/1)



>>92
博麗大結界ぶっこわしたらゆかりんブチ切れそう


94以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 18:34:32.05xURNQgDO (2/2)

そういや咲夜さんの時止めとか上条さんどうなるんだろ
テレポートとか右手含んだ能力は効かないから同じ理屈なら上条さんが存在する世界じゃ時間止められないのかな?



95以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 21:22:34.56ycRVepoo (1/2)

封絶で隔離すりゃいいんじゃないの?別空間なら使えるだろ
てゆうか東方の公式設定なんてあってないようなものだから解釈自由だろ


96以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 22:23:18.86cQxNEHM0 (1/1)

東方とか名前が聞いたことあることやSTGがあるってことくらいしか
シャナとか主人公がツンデレってことくらいしか知らない俺はどうしたらいいんだ


97以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 22:40:37.91Qx9vwIAO (1/1)

シャナとネギまは原作、とあるはアニメで把握してるけど、似た設定だよね


幻想殺し……右手に触れたありとあらゆる異能の力を打ち消す。

贄殿遮那……ありとあらゆる自在法の影響を受けない野太刀。

ハマノツルギ……召喚した者を一撃で送り返す大剣

魔法無力化能力……文字通り。魔法以外も可



98以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 23:21:27.40Rjfc40o0 (1/1)

>>66
姫神の血って浴びただけで発動するようなモンだっけ?
まぁ「吸血殺し」だからそのくらいの効力あっても不思議じゃないが……
ちなみにフランは「手加減ができず、相手を一滴の血も残さず吹き飛ばしてしまう」んですぜ
血を浴びるなんてことはまずない。

>>92、94
その理論だとそもそもエンゼルフォールは発動しない。
上条さんは規模のでかいものに対しては自分への効果を打ち消すに留まる。
ちなみに時間停止はエンゼルフォールの対象が「人類」だったのに対して
あくまで対象:時間なので動くことすらできないかも。全身能力無効化なら話は別だが


99以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 23:35:34.11ycRVepoo (2/2)

姫神さんの能力は匂いで吸血鬼をおびき寄せて吸わせなきゃ効果なかったはず

明日菜の能力無効化は空間系の能力は無効化できないんだっけ?
そうなると時止めは無理だな。


100以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/11(土) 00:19:40.52ku6k0iw0 (1/2)

>>99
空間系は明日菜自身を対象とする力じゃないから無効かできないとかなんとか
転移系も無効化できないらしいから
「自分を対象としない攻撃」か「空間系」のどちらが無効化できないカテゴリーかわからんな
まぁどちらにしても時間操作を無効化は無理だと思う。

てか明日菜って魔法以外も無効化できたっけ?


101以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/11(土) 00:44:40.578.mmbUAO (1/2)

>>100「気」
精霊砲は魔法なのかな?よく知らない



102以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/11(土) 00:48:38.20UEmrxNEo (1/1)

一応禁書世界の超能力は魔法や魔術ではないんだよな。今のところ。
てかネギまの世界でいう魔法と禁書世界でいう魔術はなんか別物なきがする


103以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/11(土) 01:03:08.29ku6k0iw0 (2/2)

>>101
うーん、正直魔翌力とか気は同一もしくは同じカテゴリーのものとして捉えてるからな…
超能力は無効化してないの?てか超能力って出てきた?


104以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/11(土) 01:32:16.64BhXMBIAO (1/2)

期待してなかったけど意外と面白い
まだまだ導入部みたいだから様子見状態

でも原作で特に美人と言われてないキャラに対して美人、美人書かれるのが目につくのと
シリアス路線らしいのにBBAなんてネタは本気で止めろ
目につくどころではない


105以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/11(土) 04:56:33.54Xb.Pn9Uo (1/1)

俺もシリアスにネタを、ってのはやめたほうがいいと思う

後、こういう多重クロス系は大長編になることが前提。短くまとめたらそれはそれで淡泊なものになっちまう。関係ないけど咲夜は俺の嫁。オリキャラ・オリ設定・独自解釈は結構だが、キャラ崩壊があると、割と簡単に話が面白くなくなる。

まぁ何が言いたいかってーと、ハードルが高い過ぎる上に何十個とあるから気をつけろって事だ。ちなみに>>1と俺はいい酒が飲めそうだ。好きなものが全く一緒だからな! 後なのはも入れたら完璧に俺と一緒だわ


106以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/11(土) 19:52:54.54Nn9mdUDO (1/1)

咲夜さんって美人じゃないの?つか東方キャラの公式設定なんて結構適当だろ


107以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/11(土) 20:22:36.83BhXMBIAO (2/2)

人形のようと言われるアリスと前提の輝夜くらいしかない
他キャラには特に容姿についてなし

因みに、咲夜さんは垢抜けてると書かれてる
垢抜けてると書かれてるのは他にも数人いるな

シャナは知らんが他二つに大きな逸脱は見られないから頑張れ


108以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/11(土) 22:08:28.058.mmbUAO (2/2)

>>103
まぁ確かに気も魔翌力も似たようなモンだしなぁ

それ以外となると、さよのポルターガイストや憑依くらいかな?

ってかとある魔術みたいな超能力は魔法で代替出来るから無いかも。作品的に



109以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/12(日) 20:42:35.4883N0R3Uo (1/1)

まあ、他作品同士の能力比較なんてできるもんじゃないし、書き手に任せようぜ

てか、東方クロスは珍しいなあ、幻想郷住人は書きにくいしね
まあ、逆にどうとでも動かせるっちゃあそうだけど
4作品ものクロスは書き手の力が問われるぞ



110以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/12(日) 23:39:45.25.R9i14A0 (1/1)

まぁ東方キャラの完全再現は無理だろ。特に妖夢とかは口調が一定してないからなおさら。
ZUNが適当な分キャラの改変はしやすいかもしれんが、反面原作再現となると難易度が一気に跳ね上がる。

そそわの方でも「東方っぽい雰囲気」の作品書ければそれだけで拍手喝采の嵐ってくらいだし


111以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/15(水) 23:44:10.80rzg9kIAO (1/1)

>>107
忘れてた
木花咲耶姫(富士山に住む神さん)が超美人

まだかな~


112 ◆roIrLHsw.22010/12/16(木) 08:39:08.14lZJY9vg0 (1/1)

すみません!現在進行形で色々大変忙しいです!
暫くしたら嘘のように暇になると思いますので、もう何日か待っていてください!
本当にすみません・・・


113以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/17(金) 01:00:27.26IPrAmkDO (1/1)

まあおとなしく待ってるよ


114以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/19(日) 20:04:10.07fstu7sAO (1/1)

書かなくても
週一位定期的に生存報告は欲しいな


115 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:35:56.40/sjCyXA0 (1/36)


すみませんが、設定に関しての質問は作品内で。
いや、『幻想殺し』や『魔法無効化』の違いってのはかなり物語的に重要なんで。

フランや姫神関係は咲夜さんと一方さんに説明して貰おうと思ったんですが……急遽変更。
理由はいつか。


>>92
十五巻後のパラレルを想定しています

>>96
……(汗

>>104-105
すみません……でも、実はオバさんってのも、いつかとあるセリフに関係しそうなんです。
助言、ありがとうございます!

>>105
咲夜さんは俺の嫁……と言いたい所ですがナイフが飛んで来そうなので無理です。
なのはも大好きですよ!というか、最初はなのはもクロスする予定だったので。ユーノVS浜面とか……ここだけの話、裏設定になのは達が関わってたり……

>>107
ありがとうございます。咲夜さんの性格が特に心配だったので……

>>109
ですよねー……まぁ、ショボい奴はショボい奴なりに頑張ります。

>>114
了解しました。


行きます。




116 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:37:59.67/sjCyXA0 (2/36)









「……」

夜、無言で佇む影がある。
漆黒の夜を下から人工の光が、上からは天然の光が照らすその世界に、小さな影。
影の正体は、人。
黒い布のような物を全身に巻き、寒さかもしくはもっと別の何かから身を守っている。

長い黒髪が、夜風にそよがれて宙に揺れた。

「……アラストール」
「なんだ?」

自然に、誰かの声を求めるように、呼びかけていた。
暫しの間、話題を探すために無言となる。

「ここ、凄いね」

出て来たのは、今更ながらの言葉。
既に、先に渡された資料で確認したこと。
問いかけを間違えたかなと思う彼女に、心優しき"紅世"の魔神が返す。

「そうだな。人間の科学力というものは、凄まじい」
「うん」

改めて、彼女は街を見下ろす。
八階のマンション屋上は、周りの建物に比べて低いが、それでもかなり一望出来る。
風力発電のプロペラが立ち並び、街の明かりは彼女が居た御崎市などとは比べ物にならない。

「……」

彼女は、夜の闇に手を伸ばす。
伸ばした白い手のひらは、屋上に張られたフェンスの金網に阻まれ、止まる。
キシッ、と。針金が軋んだ。



117 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:38:40.99/sjCyXA0 (3/36)



「……」

彼女は、また、無意識のうちに言葉を発していた。




「──悠二」




「シャナ、ここに居たのか」
「……」

突然かけられる、声。
されど、予め誰かが近付いていることを知っていた、彼女は驚かない。
ゆっくりと、後ろへ首を回す。
そこに居たのは"彼女が望んだ少年"では無く、ツンツン頭の少年。
上条当麻。
そういう名前らしい。

「……?名前、あんまり気軽に呼ばない方がいいか?なんか顔怖いんですが……」
「別に。どうでもいい」

新たに現れた人間に、彼女は素っ気なく返す。

「お前、なんでここに?」
「なんでって……そりゃ、何時まで経っても部屋に戻って来ないから」

上条は何を当たり前のことを、というニュアンスを多分に含めながら言葉を放つ。
心配とも忠告とも取れる言動。

先程……三時間前、アレイスターとの話し合いにより、共同で戦うこととなった。
ただ、まだ異世界の者達も少ないとのことで方針は『匹敵必中』という簡単な物だ。
団体として縛られることも無いため、シャナはその申し出に頷いた。
ただ、問題が一つ。
上条宅に泊まってほしいという条件。
どうやら"封絶"の理が改変されており、ある一定以上の強者なら動けるため(しかもある一定の、という曖昧な基準)、誰かを巻き込む危険性がある。
よって、現地人で特別な力を持つ上条と共同で戦ってほしい……
普段から近くにいるように、とのことだった。




118 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:39:08.79/sjCyXA0 (4/36)



「……」

彼女は、また、無意識のうちに言葉を発していた。




「──悠二」




「シャナ、ここに居たのか」
「……」

突然かけられる、声。
されど、予め誰かが近付いていることを知っていた、彼女は驚かない。
ゆっくりと、後ろへ首を回す。
そこに居たのは"彼女が望んだ少年"では無く、ツンツン頭の少年。
上条当麻。
そういう名前らしい。

「……?名前、あんまり気軽に呼ばない方がいいか?なんか顔怖いんですが……」
「別に。どうでもいい」

新たに現れた人間に、彼女は素っ気なく返す。

「お前、なんでここに?」
「なんでって……そりゃ、何時まで経っても部屋に戻って来ないから」

上条は何を当たり前のことを、というニュアンスを多分に含めながら言葉を放つ。
心配とも忠告とも取れる言動。

先程……三時間前、アレイスターとの話し合いにより、共同で戦うこととなった。
ただ、まだ異世界の者達も少ないとのことで方針は『匹敵必中』という簡単な物だ。
団体として縛られることも無いため、シャナはその申し出に頷いた。
ただ、問題が一つ。
上条宅に泊まってほしいという条件。
どうやら"封絶"の理が改変されており、ある一定以上の強者なら動けるため(しかもある一定の、という曖昧な基準)、誰かを巻き込む危険性がある。
よって、現地人で特別な力を持つ上条と共同で戦ってほしい……
普段から近くにいるように、とのことだった。



119 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:39:57.01/sjCyXA0 (5/36)



上条の指摘に、シャナは、

「いい。今日はここで寝る」
「いやいや、何言ってるんですか?」
「お前の部屋に監視や罠が無いとも限らない」
「貴様達を完全に信頼してはい無いからな」

無言になる、上条。
確かに出会ったばかりで信用も無いのは分かるが、それではアレイスターの話通り、前の戦いのように最悪な内輪もめが起こるではないか。
ゾクッと、背中に悪寒が走る。
先程の刃の感覚が、今更ながら戻って来た。

「ひとまず、資金と資料をくれた事には感謝してる」

そんな上条の心中を察したかのように、シャナは体に巻いていた黒衣を解き放ち、はためかせた。
黒衣、"夜笠"には様々物が大量に収納でき(そのことを上条に説明したら「四次元ポ◯ットか!」と言われた)、彼女の名前の由来ともなった『贄殿遮那』という大太刀も収納されている。

「なんつーか……人をあんま信用しないのな」

頭を掻きながらの上条の言葉に、シャナでは無くアラストールが答える。

「むしろ貴様の様なお人好しの方がおかしいのだ。少しは警戒心というものを持つがいい」
「でもなぁ……というか、頼むから部屋に入ってくれよ。こんな夜空の下に小さな女の子ほっぽり出すとか良心的に無理だって」
「慣れてるから大丈夫」
「慣れてる……?」

シャナはその態度に、あからさまに大きなため息をつく。
どうやら上条は、彼女のことを見た目から判断しているらしい。
もしかしたら、人外だということもハッキリ分かって無いのだろうか。



120 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:40:47.91/sjCyXA0 (6/36)



(……面倒臭い)

もう一度ため息。
そして上条に体全体で向き直る。

「……分かった。部屋の中で説明してあげる」
「説明?まぁとにかく、部屋に来てくれればいいや。インデックスも待ってるし、速く行こうぜ」

そう言って彼は屋上出口へと歩いて行く。
面倒なお人好しに、自分のことを、元いた世界の説明をすればまた何か言い出すかも、と嫌な予感がした。
と同時に、彼等のこともこれからのために聞きたくなった。

先行きを思いつつ、彼女はもう一度振り返る。

夜景は変わらず存在し、青白い月が夜闇を地上の光に負けないくらい、照らしていた。
幻視するのは、"水銀のような銀の炎"と、"全てを塗り潰す黒い炎"。


(──悠二)


今度は、声に出さなかった。













121 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:41:25.90/sjCyXA0 (7/36)









場所は変わって、一方通行の部屋。
部屋の中心で、メイド服のスカートをフワリと浮かせながら周りを見渡し、彼女は頷く。
彼女こと十六夜咲夜は、自分が生活することになったこの部屋をまず綺麗にすることにしたのだ。
というか、元来からして彼女は掃除好きなので、色んな物が散乱したこの状況は結構許せなかったりする。

「これでよし、と」
「……」

そして、ズキズキと精神的に痛む頭を、一方通行はソファーの上で抑えていた。
『じゃあ俺は"魔術側"へのこともあるから退散させてもらうぜい!』と言いながら土御門が出て行ったのが三時間前。
携帯電話に『PSメイドさんと同居とか羨まし過ぎるからちょっと写真撮って送ってくれ』というメールが来たのが二時間五十五分前。
勿論メールは無視し、一方通行は目の前の現実を見ていた。


部屋が"広く"なっている。


いや、ただ単に掃除をして広くなっただけならよかった。
新聞紙や電池一つ、冷蔵庫の中身まで整理整頓してしまった、その手際には正直な所関心していた。
それだけなら、よかった。

メイド服姿のまま、部屋の中心に位置するガラステーブルの近くで、彼女が目を閉じた瞬間、




部屋の広さが"単純に二倍"になった。






122 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:42:13.49/sjCyXA0 (8/36)




「……」

ポカン、と。口を開いたまま固まる。
比喩でも何でも無く、本当に部屋が広くなったのだ。壁や天井が遠ざかって。
遠くへと行ってしまわれた、部屋の窓。カーペットで覆えなくなったフロアの床。ポツンと取り残されたソファー二つにガラステーブル。
その光景を見て、一方通行は改めて頭を抑えたのだった。

(……どこぞの"メルヘン野郎"じゃねェがよォ……常識が通用しねェな)

取り合えず、尋ねた。

「オマエの力は空間を操作出来ンのか?」
「いえ、正確には『時を操る程度の能力』で、空間操作はオマケね」
「……あァ、そう……」

……さすがにもう驚かない。
時を操るなど、非常識にもほどがあるが、そういうものだと納得させた(自分もよくよく考えると非常識だったからかもしれない)。
非常識な現実を受け止め、推測する。

(時間を操る?だとしたら、四次元やら五次元の話になるが……だから三次元を操作出来るってか?)

そんな思考を展開する彼に、

「ほら」
「?」

近付いて来た咲夜に、ポンッと何かを手渡された。
手渡された物を見てみる。

「……オイ、なンだこりゃ?」
「買い物袋だけど?」




123 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:42:49.97/sjCyXA0 (9/36)



布では無く、麻で作られた頑丈な手提げ袋だった。
エコを感じさせる、古めかしい布袋を手に持ったまま、一方通行は怪訝な顔で問う。

「……だから?」
「買い物に付き合って」
「…………ハァ」

ため息に込められたのは、彼女への呆れでは無く、彼女の超マイペースな言動行動に慣れてしまった、自分への呆れ。

「何買うってンだよ」
「主に食材、紅茶やコーヒー豆ね。後調理器具も」

マイペースに、彼女は告げて行く。
確かに、ここには調理器具やら食材などは無い。
一方通行は、普段の食事を全て外食及びコンビニで済ませていたからだ。
不健康極まるが、当人は全く気にしていないのだった。

「金はさっき札束で貰ってたろォが。一人で行ってきやが……」

ふと。一方通行は彼女の姿を見て、脳内シュミレートを始めた。
内容は外に出た場合どうなるか。
彼女は今だにメイド服だ。
メイド服、というのは別に問題無い。学園都市にはもっと奇抜な服装の人間もいる。
しかしだ、


スカートのポケットに札束を直接ねじ込んでいるのはどうなんだろうか?





124 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:43:27.45/sjCyXA0 (10/36)


目立つ。間違い無く目立つ。ポケットから万札の束が飛び出しているのだから。
多分、彼女は盗まれるつもりが無いのだろう。
現に一方通行の視線にきょとん、としている。
彼女は"幻想郷"とか言う異世界からの住人だ。この世界の常識を分かっているんだろうか?
しかも、"幻想郷"では一部を除き、文明レベルがそれなりに低いらしい。
彼女は元外の住人だと言っていたが、もし問題を起こして目立ったら……

「……ハァ」
「じゃ、行きましょう」

ため息を了承と取ったのか、咲夜は小さく笑ってドアへと歩いて行った。
その後ろ姿に、彼は改めてもう一度、ため息を吐く。

「……面倒だな、クソったれ」

面倒、というのは彼女の買い物に付き合うこと"では無い"。


"明るい善人でも、暗い悪人でも無い"彼女に接することが、最凶最悪を自称する彼にとっては何よりも難しく、面倒で、大変だった。
彼女が光の住人なら、あからさまな拒絶で対応出来るのに。
彼女が闇の住人なら、あからさまな敵意で対応出来るのに。






そして、なにより。
それを、"悪く無いと思っている"自分こそが──









125 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:44:03.21/sjCyXA0 (11/36)



「杖?」
「ンだよ」

先に部屋から出た咲夜が、部屋から出て来た一方通行を見ての言葉に、当人は不機嫌そうに言い返す。
彼女の言葉通り、彼は白い現代風の杖を右腕につけ、コツコツと先端をコンクリートに付いていた。

「杖がねェと歩き難ィンだよ」
「でもさっきは普通に、明らかに人外のスピードを出してたわよね?」
「色々あンだ」

素っ気なく言い終わらせる。
一々説明する義理など無いし、弱点を"偶々利益の一致"で戦っている相手に言うつもりは無かった。

「……その首に付けた物、ね」
「……」

彼女も『時を操る程度の力』とやらについて余り説明しないことから、どうやら弱点というものがどれだけ重要なのかはよく分かっているようだ。
気になっても、それ以上追及して来ないのが、何よりの証拠。

「ほら、先頭歩いて」

ただ、杖を付いてるからといって労わるつもりは毛ほども無いらしい。
急かされ、一方通行は無言で咲夜を追い越しつつ、マンション外の景色を見た。


ビルの隙間に覗く世界は、ただ黒い。













126 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:44:46.09/sjCyXA0 (12/36)









「……ふぅ」

八雲紫は、息を吐く。
息という気体に込められたのは、安堵か、期待か、絶望か、恐怖か、もしくはそれら全てなのか。
概念というものさえ無い、黒い空間の中、大理石の椅子の上に彼女は居る。
彼女の視線の先、テーブルには巨大なチェス板があった。
白と黒に分かれた、オーソドックスなモノクロ。
ただし、普通のチェス板にしてはマスが多過ぎるし、駒は逆に少ない。
近くに並べられた、自陣の白い駒を見て、紫は忌々しそうに独り言。

「同時に動けるというのは、いいことばかりでは無いのよね……マスの取り合いを、味方でやるとは……」

自分達で自分達の首を絞める。なんという愚かな行為であろうか。
それが、仕組まれたものだとしても。

「だから、此方も手は選ばない」

無造作に、何処からともなく駒を一つ取り出し、板に勝手に乗せた。
明らかなルール違反。
しかし、咎める者は居ない。
なにせ、相手プレイヤー自身が──




127 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:45:19.96/sjCyXA0 (13/36)



「……さて、次の面子の抜き出しと、メイド服を送って差し上げないとね。後は、あの"吸血鬼"に菓子折りでも持って行きますか」

思考を誤魔化すように、彼女は立ち上がる。


彼女の予想が正しければ、いや、"彼女達の確信"が合っていれば、






目の前に居た『神』の正体は──












128 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:45:59.23/sjCyXA0 (14/36)








学園都市、第七学区の大通り。
現在時刻は八時だが、それでも大量の人間が歩いていた。
学園都市は基本、学生の街だとはいえ、研究やら補習やらで遅くなる生徒も多い。
単純に、遊びに出る生徒も多いだろう。
その人混みの中に、二人は居た。
白い現代風の杖を付く少年と、メイド服を着てヘッドドレスを装着した少女。

「これが、今の外……」

付いて来てよかった、と一方通行は自分の判断に心から感謝していた。
なにせ隣に立つメイド少女は、サンタの正体を知ってしまった小学生の如く震えながら、棒立ちしている。
かといって恐怖一色では無く、僅かな興奮の色も見て取れた。
ちなみに札束は一方通行の持つ買い物袋にぶち込まれている。

「賑やか……こんなに大量の人間が歩いているのを見るの、初めて……」

呟きを聞きつつ、前から歩いて来たスーツ姿の男を躱す。
完全瀟酒という言葉が似合う、彼女の意外な好奇心に少し驚きながら、彼は歩きつつ問いかけた。

「最初は外に居たンじゃなかったのかよ」
「私が居たのは田舎だったから。それからは"ずっと一人旅だった"し」

フーン、と一方通行は適当に納得しつつ、背後を付いて来る少女の気配を背中で感じる。

「あそこか」




129 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:46:34.98/sjCyXA0 (15/36)



やがて、紅い双眸が目的の建物を捉えた。
立ち止まった彼につられるように、咲夜も足を止める。
彼等の前にそびえ立つのはデパート。
周りでも一際目立つ建物で、高さはビル十階分はある。

「オラ、さっさと行くぞ」

その言葉をキッカケに、入り口付近で止まっていた二人は漸く入り口の強化ガラス製ドアを潜り抜けた。
照明の光が強まり、フロア全体が照らされている。

「……」

なんだか驚く表情を見るのが(といっても、普通の人からは分からないくらい小さい)楽しくなって来た一方通行。

(……馬鹿か)

と、心中で自分に罵倒を投げかけ、馬鹿馬鹿しい考えを無視する。
今回来たこのデパートの一階部分は、食料品コーナーとなっていて、一方通行にとっては当たり前の、咲夜にとっては驚きの光景がそこにある。
光るクーラーケースに納められた、野菜や果物。
パック詰めにされた、肉や魚。
加工されている、様々な食品。
瓶詰及びボトルに入れられた、飲み物と調味料。

「……凄いわね。私の時も、都会はこんな感じだったのかしら」

隣や前を人が通り過ぎて行くのを無視して、彼女は呟く。
今度は驚愕の言葉に返事を返さず、彼は傍らにあった紫色でプラスチック製の籠を掴み取った。

「それに入れればいいの?」
「あァ。好きなだけ入れてここに戻って来い」
「分かったわ」

短く返し、咲夜は籠を奪うように掴み取り、駆け出して行く。
人に紛れて、その姿は直ぐに見えなくなった。
メイド服を着ているのに人混みに紛れるのは、学園都市だからだろう。
普通なら、とんでもなく浮く。




130 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:47:20.41/sjCyXA0 (16/36)



「……本当に『時を操る程度の能力』なンざ、持ってンのかねェ……」

近くの壁に寄りかかって、一方通行はボソッと"心にも無いこと"を呟く。
能力を普通に使っていては、一方通行への無用な警戒心や弱点を晒す可能性がある。
第一、ナイフを出したり消したりした時点で、能力の有無は証明されていた。

(……喰ねェ野郎だ)

これが敵なら、どれだけ楽なことか。
第三者だとしても、利用するなり拒絶するなりやりようがある。

しかしながら、彼女は"味方"なのだった。
そして、一方通行が嫌いな種類の人間でも無い。

「……面倒、だな」

本日何度目か分からない呟き。
上に視線をやると、デパートの天井が目に入る。
風力発電によって産まれた電気によって、煌びやかな蛍光灯が光っていた。

「ふむ、面白い。大事にしたまえよ」
「…………他人に、言われる筋合いはねェよ」








一瞬。








天井から視線を前に戻し、瞬きもしていないのに、"ソレ"はそこに居た。
普通に返事を返せたのは、奇跡に近い。
性格やら生き方のせいで、彼は普段からかなりの警戒心を周囲に放っている。
ある程度の実力があるものだけが分かる、その力は十六夜咲夜などの一部を除き、かなりの高確率で一方通行に人や物、場の気配を教えてくれる。



131 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:47:58.70/sjCyXA0 (17/36)



だが、だがしかし。

その類いの力なら、学園都市においてトップクラスな筈の彼が、




目の前に"現れる"まで、存在に気がつけなかった。




「……っ」

一方通行は何故か本能的に、空間転移(テレポート)の類いでないことが分かった。
"同僚"にテレポーターが居るというのも、理由の一つだろう。

だが、もう一つ理由がある。

彼の知り合いに、海原光希という男が居る。
仕事上、時々会う彼だが、何故か近付けば近づく程、一方通行の胸に圧迫感が襲い掛かってくるのだ。
今思えば、十六夜咲夜や"今日の"土御門元春とあった時も、僅かな呼吸のペースが変わるくらいの圧迫感を、時々感じていた。


その圧迫感を、現在一方通行は胸が痛むくらい感じている。


「──」


汗が顔を伝い、胸がキリキリと悲鳴を上げる。
"ソレ"の姿は、至って普通の青年だった。
黒い、"ある三下"を連想させる、ボサボサの鳥頭な頭髪。
黒い長袖の硬そうな上着に、黒色のTシャツ。
ズボンも黒いジーンズと、見事なまでに黒一色だ。
よく見ると、靴まで黒のスニーカー。


ただ、その瞳。
黒いその瞳には、一切の光が見受けられなかった。





132 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:48:40.36/sjCyXA0 (18/36)




まるで、死んだ魚のような、もしくはビーカーの不気味な薬品のような、"人間として"してはいけない類いの瞳。
一方通行はその険悪なまでの違和感から、この姿は"ソレ"の本当の姿、声で無いことを確信する。

「……随分趣味が悪ィ格好してンな」

彼は内心の動揺を表に出さず、軽口を飛ばす。
軽口を受けた"ソレ"は口元を歪めて苦笑しつつ、

「仕方が無いだろう。そもそもこれは、私の趣味では無い」

上着の裾を揺らしながら、弁解して来た。
一方通行としては服装では無く、姿のことを言ったのだが。

「違ェよ。顔とか口調のこと言ってンのが分かンねェのか」
「……やはりこの姿に、この口調は似合わない、か」

ブンッ!と、突如"ソレ"の手元に何かが出現する。
翡翠色の、円状の光。
クルクルとゆっくり回っている光は、一方通行には理解出来ない何かを描いている。

(……"魔術"、か)

極めて冷静に、現象を推測した。
周囲の人々は、二人を避けるように歩いて行く。
不思議な光に驚く者は居なかった。
ただ一瞥して、それだけ。
ここは超能力の街、"学園都市"。
この程度の現象は簡単に受け入れられる。

例え、それが"魔術"という超能力とは全く違う異能の力だったとしても。




133 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:49:17.86/sjCyXA0 (19/36)



"ソレ"は、光を回しながら言葉を紡ぐ。


「……コード3069508869744495発動」


(……?)

ふと、一方通行は訝る。
今のは、なんだ?
ファンタジーな魔術とやらの詠唱にしては、かなり味気ない。




まるで、一種の"プログラムコード"のような言葉だった。




そんな一方通行の疑問をよそに、光は数度点滅し、消えた。
僅かに周囲に影響を与えていた光が消え、照らされていた服の色が元に戻る。
"ソレ"は満足そうに笑って、口を動かした。

「と。これでいいか?生憎と、この術式はあやふやな所も多いんでな」
「……」

口調が一瞬で変わったことに、一方通行は驚かない。
そもそも、声を変化させることなど超能力や科学の力でも出来るのだ。
それに、口調を変えても、

「……オマエにその姿は似合わねェよ」
「ははっ。初対面なのに、ひでぇな」
「気色悪ィ。見た目同じでも中身が違い過ぎンだよ、三下」
「……」




134 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:50:11.12/sjCyXA0 (20/36)



スッ、と。
目が細められた。
ハッ、と一方通行はこの存在が感情を持っていたという事実に、安堵と驚愕が混じった空気を吐き出す。
口調、外見、見た目の全てが、この存在に合っていないと一方通行は思う。
外見というのは、心という本当の姿を閉じ込めている器だ。
だが、中に入っている物の影響だって受ける。

恐らく、この声の持ち主はもっと明るい性格だった筈だ。
こんな声の裏側に殺意を秘めたような言葉を口にしないだろう。

恐らく、この姿の持ち主はこんな暗殺者めいた歩き方をしない筈だ。
そんな物騒なことを、本気で行なうような最悪人間ではないだろう。

恐らく、この顔の持ち主はちゃんとした人間だった筈だ。
こんな光を失った、災厄の瞳は彼の表情とは合わない。


"外見の『人間』"と、"中身の『存在』"が余りにも違いすぎる。


"ソレ"は、天使の皮を被った悪魔のような、この世の外道畜生の悪人達が馬鹿らしく思えるくらいの存在だ。

「……なる程、やっぱりただの人間じゃない、か」
「ただの人間に見えたのか?だったら眼科に行くのをオススメするぜ、『神』さまよォ?」
「しかももう余裕が出て来たか。面白くないなぁ……」

顎に手を当て、笑っている、その姿。これよりも禍々しい物を、彼は見たことが無い。
一方通行は左手をチョーカーに当て、何時でも戦闘が出来る態勢を取っている。
デパートの一角に満ちる、不穏な空気。
客達はただ少し遠巻きに、二人を見ては歩き去る。




135 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:51:38.06/sjCyXA0 (21/36)



何秒、経っただろうか。

「あっ、そうだ」

"ソレ"はポンッ、と手を打つ。
傍目からは明るい青年の行動にしか見えない、その行為。

一方通行は本気で、一瞬、






「周りの生物殺そっか」






恐怖という感情を、抱いた。

「──っ!?!?」

その姿は、余りにも異常。その言葉は、余りにも異常。
その姿は、余りにも異端。その言葉は、余りにも異端。
地面を踏むのと同じ感覚で、"ソレ"は言ったのだ。

周りの人間を殺すと。

子供の喧嘩のような、脅しでは無い。
狂人が叫ぶ、宣言でも無い。
言葉は軽く、されど本気だと嫌でも思わされる、そんな言動。
しかも、今の言葉には彼が今まで聞いて来た『殺す』とは、決定的に違っている部分がある。


(──生物──)


人間では無く、生物。
そう、言ったのだ。
ゾッ、とした。
"ソレ"にとっては、人間もその他も大して違いなど無いのか。



136 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:52:06.84/sjCyXA0 (22/36)



「おっ?少しは動揺したか?」
「……っっ!」

音も無く、"ソレ"は眼前に迫る。
彼は思わず後ろに下がろうとして、壁に背中を預けていたことを思い出す。

(なンだこいつは……!?)

認識が甘かった。
『神』などと、咲夜や土御門が軽く言うから、無意識の内に甘く見ていた。

(──クソったれ!)

どれだけ頭脳をフル回転させても、この状況の打開策が見つからない。
この存在から、周りの人間を守りきるのは不可能だと、一方通行の全てが訴え掛けている。


そして。例え、周りの存在全てを見捨てたとしても、勝てないということも。


「──」

そして、『神』は何かを彼に言おうと口を開いて息を吸い込み、












銀色の閃光が走った。













137 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:52:42.77/sjCyXA0 (23/36)







「……どうしよう……」

十六夜咲夜は、白い肌を考え事で歪ませながら呟いた。
彼女が居るのは野菜コーナー。
ぐるりと、食品棚に囲まれ、彼女は悩む。
問題ごとは、その手にあった。

「もう入り切らないわ……」

右手にぶら下げられたのは、文字通り山積みの野菜が入ったカゴ。
その中は野菜だけで埋められており、ぎゅうぎゅう詰めプラス零れ落ちるギリギリまで積まれていた。

「……それもこれも、ここの品揃えがいけないのよ」

自行自得なのだが、本人気がつかず。
ただ、彼女のために弁解しておくと、彼女とて自重するつもりではいたのだ。
好きなだけと言われたが、必要最低限で済ませ、後日御買い物ライフを楽しむ予定だった。

だけどメイド及び家事好き少女としては、好奇心を抑えきれなかった。

なにせ"幻想郷"とは比較にならない量、及び種類がある。
いや、彼女が経験した"外"よりも凄い。
季節関係無しで様々な食材が並び、しかも商品の値札についた解説によると(ビタミンだの熱現象だの、専門用語が多くて分からないのも多かったが)料理によって使う種類も豊富に分けられているようだった。




138 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:53:26.21/sjCyXA0 (24/36)



「……やり、過ぎたかしら」

結果が、大量の野菜。
完全瀟酒を自負しているとはいえ、メイド長の立場やら金銭問題やらストッパーが無い状態での誘惑には負けた。
うーんと唸る彼女の姿は、普段の彼女を知る人間からすれば驚いたかもしれない。

(……どうしよう)

で、結局最初に戻る訳だ。
彼女の中では『カゴに入れた物は買わなければならない』という間違った認識があるため、商品を棚に戻すという選択肢が思いつかない。
……まぁ、本当は新たなカゴを使うか、カートを使えば済むことなのだが、彼女には分からないし、悩むメイド長に教えてくれる親切な人も周りには居なかった。

「……しょうがない、戻りましょう」

結局、外のことは外の住人に頼るのが早いと結論が出た。
あの少年なら、面倒そうにしながらも教えてくれるに違い無い。

「……ふふっ。私らしく無いわね」




139 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:54:10.22/sjCyXA0 (25/36)



重いカゴを片手に、軽やかに彼女は来た道を戻る。
肩にかかるくらいの銀髪が揺れ動き、爽やかな雰囲気を周りに醸し出す。

(……でも、まぁいいかしら。彼、私に似ているし)

そう、彼女は自分でもビックリするくらい彼──一方通行のことを信用していた。
恐らく、自分との共通点が多かったからだろう。
色素の抜けた髪に、紅い月のような目。
他人を警戒する性格、明らかな偽名。
人間としてはだいぶ違うだろう。
しかし、表面上はソックリと言っても問題ない。

「……」

黙りこくり、静かに歩を進める。
そう、似ている。
彼と自分は、余りにも似ている。

だからこそ、彼は自分を敵視し、自分は彼を認めるのだろう。

方や同属嫌悪、方や同属厚意で。

「まぁ、だからといって」

彼女の行動が、変わるわけでは無い。
他人の事で一々揺らぐような生き方はしていないのである。

「──?」

だからこそ、だろう。

「っ!?」

すぐさま、行動に移れたのは。


彼女の姿は掻き消え、持ち手を失い、重力に束縛されたカゴが床に墜落した。












140 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:54:53.95/sjCyXA0 (26/36)









空気を裂き、銀は翔(かけ)る。

「っ!」

一方通行は体の硬直が溶け、猫のように飛びのく。
行動に一拍置かず、銀色の閃光が走った。

「へぇ……」

ぱしっ、と。
己の顔面に殺意を持って向かって来た、銀色の閃光を指に挟み、"ソレ"は笑う。
面白い、という笑顔には、一片の恐怖も浮かんでいない。

指に挟まっているのは、銀製のナイフだった。

「──お邪魔だったかしら?」
「……男とイチャつくような変態なったつもりはねェぞ」

音も無く目の前、"ソレ"と自分の間にメイド服をはためかせ、十六夜咲夜が軽やかに現れる。
ナイフを構え、佇む彼女に一方通行は彼なりの感謝の言葉を放った。
素直じゃない彼の言葉に、咲夜は少しだけ頬を緩め、直ぐに引き締める。

「時間停止移動……やっぱり、個人が持つにしては馬鹿げた力だな」
「あら?貴方の方が私は馬鹿げていると思うのだけど」
「そりゃ、手厳しい」

一方的な、睨み合い。
世界有数の最強クラス二人に睨まれても、"ソレ"は笑顔。
なのに、見ているだけで本能的な悪寒が走り、冷や汗が吹き出す。
分かる者には分かる、圧倒的なまでの力。




141 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:55:31.88/sjCyXA0 (27/36)



(……どうする……どうする……)
(……『神』……想像以上ね)

二人が、この状況を切り抜けるありとあらゆる対処法を考えていると、

「おい、あれなんだ?」
「さぁ?喧嘩じゃね?」
「映画の撮影か?」
「メイドにナイフ……監督分かってる!」
「あの子突然現れなかったか?」
「空間移動だろ」
「警備員(アンチスキル)呼ぶか?」

ザワザワと、周囲の人々が騒ぎ始めた。
どうやら、ただ事では無いというのが咲夜のナイフでばれてしまったらしい。

(……っ!)

一方通行は即座にチョーカーのスイッチを振り切る。
相手は、先程周りの人間を殺すと言った。
ならば、今直ぐにでも殺し始めておかしくはない。
何せ、"ソレ"は誰から見ても世界最強の狂人だから。

「あー……もう今日はいっか」

しかし、一方通行の懸念を他所に、"ソレ"はあっさり引くと宣言した。
余りにも軽過ぎたからだろう。
咲夜は更にナイフに力を込める。警戒心の、表れ。
鋭い眼光で、彼女は睨む。




142 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:56:57.13/sjCyXA0 (28/36)



「随分、簡単に引き下がるのね」
「ははっ、引き下がる、じゃなくてただ帰るんだよ。今回会いに来たのだって、『戦い』の前の視察だったし」
「……」
「こうして、直接赴いた方が面白いからな。今みたいに」

ナイフを突きつけられている状況を、本当に"ソレ"は楽しんでいた。
二人は言葉を紡ぐのを止め、ただただ警戒する。




「──じゃあ、さようなら」




そして、あっけなく、本当にあっけなく"ソレ"──『神』は消えた。
何の音も、力の発現も感じさせずに。
ブレも、残像も、残照も、何もなく消えた。


「……」

本当に消えたと分かった一方通行は、チョーカーのスイッチを通常モードに切り替える。
見れば、咲夜もナイフをしまっていた。

「……アレ、なんなの?」
「知るか」

乱暴に言葉を返す。
事態は思ったより深刻で、絶望的だ。
デパートの床に苛立ちをぶつけ、杖が音を上げる。

「取り合えず、帰るぞ。このままここに居たら面倒だ」

周囲が面倒臭いことになってるのもあってか、一方通行はとっとと帰ろうとした。
帰ってから、改めて考えようと思ったから。


が、


「まだ買ってないわ」
「………………」

確実に死にかけたというのに、この言動。
今度は呆れのため息すら、出なかった。



143 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:57:42.85/sjCyXA0 (29/36)













「……」
「すぅ……」

夜中の十時。
シャナは口をへの字にして、不機嫌さを示していた。
横になった彼女の視界には、インデックスの安らかな寝顔がどアップで映っている。
すこやな寝息を立てる彼女に、勝手な怒りが湧き出る。

(……こいつら、絶対おかしい)

人間では無い、子供では無いと一時間以上かけて説明したのに、少女と現在風呂場で寝ている上条の態度が変わる事は無かった。
というか、上条は半分も理解出来ていない気がする。




144 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 16:59:33.60/sjCyXA0 (30/36)



「……はぁ」

一緒のベットに寝る、なんてお人好し行為を断るべきだったと、今更後悔。
床に避難しようとしても、服の端をしっかり握られていた。
その小さな指を振りほどくのは、僅かに躊躇われる。

(──変わった)

ふと、そう思った。
なんで今、そう思ったのか。
でも確かにフレイムヘイズとしての自分なら、こんなことはしない筈だ。

そう、『炎髪灼眼の討ち手』なら。


今は──?


今は違うのか──?


(分かってる)


何で今は違うのか──?


(何回も考えたから)




そう、それは────




「……」

彼女は、"フレイムヘイズであろうとする"少女は、考えを無くす様に目を閉じる。


意識が、深い深い、闇の底へと落ちて行く。



"もう一人の自分"を、押さえ込むように。



145 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 17:00:31.36/sjCyXA0 (31/36)








「スキマァァァァァァァッ!!」
「……"レミィ"、何やってるの?今忙しいのだけれど」
「あのスキマババア、咲夜を勝手に連れて行ったのよ!?お陰で"紅魔館"の環境が最悪になったわ!」
「落ち着きなさいってば。あっ、その術式に触れないでね。ソレ、粉雪よりも脆いから」
「おっと……しかしあのババア、"人の従者"を勝手に使って後でどう八つ裂きに……」
「カリスマが崩壊しかけてるわよ……あれ?」
「どうした"パチェ"?」
「いえ……"禁句"を貴方が何回も言っているのに、何も起こらないから」
「はぁ?あぁ。アイツだって、いつもいつも暇な訳じゃ……」
「そうかしら?……もしかしたら」
「?」

「ふざけるだけの、余裕が無いんじゃない?」

「……"あの"、スキマ妖怪がか?」
「えぇ……もしそうだとしたら、相手は私達の想像を遥かに超えてるのかもしれない」
「……面白いじゃないか」
「……カリスマ復活」
「ふふっ、あのスキマ妖怪の余裕が無くなる程の相手……是非お目にかかりたいわ」










146 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 17:01:28.04/sjCyXA0 (32/36)












其々の思いと立場が重なり、物語は紡がれる。
まだ何もかもが、あやふやだとしても、
不安定な世界は、周り続ける。















147 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 17:03:30.38/sjCyXA0 (33/36)



以上。
そろそろ戦わせたいところ。



クロスメモ
シャナand上条、咲夜and一方、??and???



148 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 17:04:38.36/sjCyXA0 (34/36)



おまけスキット




スキット1「心配」


咲夜「……寝れない」

一方通行「オマエはベットだろォが。俺はソファーだぞ」

咲夜「いや、違うのよ。ベットとかの問題じゃなくて」

一方通行「何がだ?男が居たら眠れませンてかァ?」

咲夜「心配なのよ、お嬢様達が」

一方通行「……」

咲夜「"幻想郷"に居るから、私は何も出来ないから」

一方通行「……」

咲夜「紅魔館の掃除は大丈夫かしら?妹様はジグソーパズル出来なくて壊したりしてないかしら?お嬢様ベットの上でお菓子食べてないかしら?中国は仕事中に寝てないかしら?」

一方通行「随分庶民的な心配だなァ!?」






149 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 17:05:25.46/sjCyXA0 (35/36)




スキット2「着替え中のフレイムヘイズ」


シャナ「よいしょ」ドスン!

インデックス「わぁっ!そのコートって、収納用霊装だったんだね!」

シャナ「霊装、っていうのじゃないわ。別にそういう解釈でもいいけど」

インデックス「……でもなんで箱ごとなの?」

シャナ「……面倒だから」

インデックス「……女の子として、どうかと思うんだよ」

シャナ「うるさいうるさいうるさい、私はフレイムヘイズなんだから。アンタも早くあの修道服に着替えなさ──」

ガチャ

上条「ふぁ……おは、よう……」

インデックス「……」

シャナ「……」

上条「………………」ダラダラ

シャナ「……」ゴゴゴッ

上条「いや、その、シャナさん?上条さんもですね、決して見たくて見た訳では無くていや見たく無かったといことではむしろ見たかったといやいやただ自分は幸せって違う違うワタクシは」

アラストール「峰だぞ」フガフガ

シャナ「ふんっ!」

ドバカッ!!

上条「げぼっ!?」





150 ◆roIrLHsw.22010/12/21(火) 18:00:28.65/sjCyXA0 (36/36)


※今度から偶にスキットも出現します。

ではまた次回


151以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/21(火) 18:15:40.00zq/u5460 (1/1)

これ面白い…次回も楽しみにしてます



152以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/22(水) 15:40:51.98XtMitMDO (1/1)

神って誰だ?クロス対象作品の登場人物?
シャナは知らないが他の作品にこんなチート神いたっけ?


153以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/23(木) 01:52:44.82g3qvSAAO (1/1)


ネギの出番はまだみたいだな

>>152
一つ思い浮かぶのは名によって分けられる前の神かな
多分そんなのではなくオリジナルだろうけど
シャナは全然、とあるは半分程しか知らんけど

>>107
咲夜の性格は抜けてたり瀟洒だったり色々だから大丈夫


154以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/23(木) 02:15:01.96R9VuQVoo (1/1)

禁書における十字教の神様は現実世界の神様とほぼ同じ。作中の最強は今のところエイワスであろうとのこと。
東方で神様って言ったら加奈子と諏訪子。でも東方的には最強クラスは月人だろ。
ネギまは作中でラカンが強さ表みたいなの出してたけどイージス艦とか戦車とか入ってたからワケワカメ
シャナは全く知らん

あと全く関係ないけど前にヘルシングと禁書のクロスみたがアーカードの旦那は姫神の能力を
「私とセラスにとっては何の脅威にもならん」みたいなこと言ってたな




155以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/23(木) 23:41:09.441uxGWcE0 (1/1)

>>154
月人も神様だぞ。
全員がそうとは限らんが、少なくとも月の王は月読
てか東方で神と言ったら森羅万象を創造した龍神でしょ。
あと無限の面積を持つ魔界を作りだす創造神の神綺とかな。
かなすわも確かに神だが日本神話における神。GODではない


156以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/24(金) 00:13:16.38.nW.qYAo (1/1)

月の王ってか月を神格化したのがツクヨミでツクヨミも日本神話の神だわな
東方は風からやってないけど龍神ってまだ出てきてないのか?設定だけは結構昔からあるよな。

つか日本神話の神様だってそのGODとやらには違いないだろ。そこらへんは宗教によって変わるってだけだ。
キリスト教とかの一神教か日本の神道みたいな多神教かの違い。


157Are you enjoying the time of eve?2010/12/24(クリスマスイブ) 18:02:39.7069chGIDO (1/1)

東方での月の王って意味じゃないの?ツクヨミって
東方は格ゲーしかやったことないなぁ。


158MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)2010/12/25(クリスマス) 04:44:44.743ZfH86AO (1/1)

>>153に書いたのは東方のことなんだがなー


159 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 11:57:21.380.BFUBQ0 (1/34)


>>152
現在完璧にオリキャラとなっていますが、何時かはオリ設定全開の原作キャラになる筈です。


『神』っていってもモノホンの神様じゃなかったりしますよ~
ただ強過ぎて、他に表す言葉が無いだけで……


投下します。



160 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 11:59:08.480.BFUBQ0 (2/34)









「スキマ!私の言いたい事、分かるわよね……!?」

"幻想郷"──そこはあらゆる幻想達の、最後に辿り着きし場所。

「あら、そんなに菓子折りがお望み?はい、どうぞ」

"博麗大結界"と呼ばれる結界で囲まれた、一つ分の"世界"。

「ちがーうっ!!勝手に人の従者を連れて行ったことを言ってるのよ!」

人間、妖怪、妖精、亡霊、神。"幻想"と呼ばれる者達の、"楽園"。

「で、八雲紫。咲夜の次に誰を"向こう"に行かせるの?」
「パチェ!貴方も何か言ってやりなさい!」
「まぁまぁ、お嬢様……」

広いその世界に、"紅魔館"と呼ばれる建物が一つ。

「そこの門番の言う通り、落ち着いて下さいな。今は小さな事情に構っていられないでしょう?」
「小さく無い!」
「……駄々っ子になってますよ、お嬢様」

霧の湖の中心あたりに位置するその館は、紅い。





161 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 11:59:56.770.BFUBQ0 (3/34)



「次は誰にしましょう……霊夢と魔理沙はまだ使えないわよねぇ……"結界"と"術式"で其々忙しいでしょうし。ある程度信用出来て、外見に問題無く、それでいて強いのは……」
「咲夜だって忙し──」

窓が少なく、太陽が嫌いな"吸血鬼"の、悪魔の領域。

「失礼します」
「?」

そこで──

「"神奈子様"と"諏訪子様"が紫様に用事があると──」
「……」
「……」
「……」
「……」
「な、なんですかその『あっ!』みたいな目は……」


「……貴方に決めた!」


「………………ええっ!?」

次なる尖兵が、送り込まれようとしていた。













162 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:00:58.680.BFUBQ0 (4/34)







ダンッ!と、小さな拳がガラステーブルに叩きつけられる。

「とうまは何時もああなんだよ!全くもう!」
「変態ってこと?」
「というより、運が悪いというか良いというか……」

学園都市の男子寮。
男子寮の名の通り、本来は男性のみの筈だが、何故かとある一室にて女子の声が響いていた。
それも一人ではない。
二人分だ。
一人は長い銀髪に、紅茶のカップのような金と銀の修道服を着た少女。
もう一人は腰より長い黒髪に、漆黒の錆びたコートを羽織った少女。
インデックスに、シャナ。
男子高校生たる上条の部屋に居る理由は、今更語ることは無いだろう。ちなみに上条は学校へと全力疾走中だ。
現在二人は、朝の覗き事件(本人は事故だと言い張った)について話し合っていた。
事件の状況の説明は、意図的に省かせて頂く。

シャナの場合、上条を思いっきり制裁しまくったため、幾らか気が晴れたのだが、シスター少女はまだ言い足りないようだった。




163 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:01:41.520.BFUBQ0 (5/34)



「──しかも、しかもだよ!?とうまったら周りに女の子が居るのに『もてたい~』とか、『どっかに上条さんを好きになってくれる女性は居ませんかねー』とか言い出すんだよ!?」
「ふーん……」

 話がドンドンずれて行っている気もするが。
適当に返事を返し、シャナは窓の外に視線をやる。
ベランダからの景色は直ぐ対面のマンションに遮られ、見えない。
ただ、太陽の光が余り入り込んでこないのは、薄暗さで分かる。
インデックスの文句をBGMに、彼女は目を閉じた。

(──『シャナ』──)

無論、最低限の警戒は何時ものようにしている。

(──『僕と一緒に来て欲しいんだ』──)

何故ならば、フレイムヘイズだから。
世界のバランスを守るため、戦い続ける戦士だから。




(──『君を守るための戦いを始める』──)




だけど。
"彼"は、そんな自分を変えてしまった。
別に、変わりたくなかった訳では無い……と、思う。
今、確信を持つことが出来ない。



164 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:02:29.380.BFUBQ0 (6/34)



(だって)

変わった。変わってしまったのだ。
幾ら否定を重ねても、幾ら抗っても、もう、変わってしまったのだ。

変わって、生まれた『もう一人の自分』。

その自分は、不安定だった。
時に暴走し、時に突き動かし、時に傷つけ、時に傷つき、時に落ち込む。
フレイムヘイズとは全く違う、もう一人の自分。
恐らく、自分は迷っている。

(──よかった。ここが、異世界で)

"フレイムヘイズらしくない"ことを考える少女。
異世界だから、"紅世の徒"がいないこの世界だから、"敵になった彼"が居ない世界だから、彼女には"迷うだけの余裕と権利"が存在する。

すなわち、




『贄殿遮那』のフレイムヘイズとしての自分と、


『シャナ』という見た目通りの少女としての自分、




二つを、見つめ直すだけの時間が。

「……馬鹿馬鹿しい」

口に出す。
当たり前だ。
答えは既に、決まりきっていた。
百回この選択を迫られれば百回同じ選択をとる。
それくらい、少女にとって答えは当たり前過ぎた。




165 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:03:17.550.BFUBQ0 (7/34)



だけど、だとしたら、なんで、どうして、なぜ、




(こんなに、胸が痛いの)




「どうした?」
「……ううん。なんでも」

恐らく、声だけでなく顔にも出ていたのだろう。
胸に揺れる"コキュートス"に意識を表出させるアラストールの言葉。
シャナは父親のような存在の彼に、普段通りに返す。

「……?」

ふと視線を感じる。
勿論、この部屋にはシャナとアラストールを除けば一人しか居ないため、視線の主は決まりきっている。

「なに?」

シャナは俯いていた顔を上げ、インデックスの顔を真正面から見た。

「──っ」

瞬間、何故か唇が痺れ、声を出せなくなってしまう。
彼女が見たインデックスの表情は、笑顔。
だが普通の笑顔では無く、まるで優しく包み込むような、聖母のような笑顔だった。
翡翠の双眼が、優しく少女を見つめる。



166 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:04:13.290.BFUBQ0 (8/34)



「……多分、シャナは迷ってるんだよね?」
「っ!?」

いきなり、思考の中核に触れられた。
心でも読まれたのかと、無駄に勘繰ってしまう。

(ほう……?この少女……)

まるで人が変わったようなインデックスの姿に、アラストールは声に出さずに感嘆していた。
どうやら、彼女は明るさだけでは無く、その内側に何かを秘めているらしい。
"紅世の王"の評価にも気がつかず、インデックスはゆっくりと、悟らせるように言葉を紡いで行く。

「私はあなたのことよく知ってる訳じゃない。けど、何かに迷っていることはよく分かるんだよ」
「……シスター、だから?」
「そう!」

えっへん!と、その薄い胸を張るインデックス。
子供っぽいのに、何処か子供扱い出来ない。

「シスターは迷える子羊達を導くのが仕事だから」
「私は宗教に興味無いわよ」
「うん。異世界からだしね」

でも、と続ける。

「宗教とかシスターとか関係無しに、私はシャナの力になりたいんだよ」
「……なんで?」

疑問を、何処までも率直にシャナはぶつける。
素直で正直なその問に、インデックスはにっこりと、花のように可憐に笑って言った。






「だって、"ともだち"でしょ?」









167 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:04:49.930.BFUBQ0 (9/34)



「…………はっ?」

思いがけない、そう、0.1%たりとも想像してなかった答えに、シャナは思わず面喰らう。
いや、友達という言葉の意味は分かるが、いやだからこそ余計に訳が分からない。
グルグルと思考の渦にはまり、悩むシャナ。
インデックスはそんなシャナに笑顔のまま、

「だから、何か頼りたいことがあったら遠慮なく言ってね?」
「……」

暫しの沈黙。
プイッ、とシャナは素早く顔を背ける。

「……本当、馬鹿みたいにお人好しね」

馬鹿にされたのに、何故かインデックスは、クスッと小さく笑った。


だって、背けた彼女の耳が、真っ赤に染まっているのが見えたから。




太陽が、世界を照らし出す。
眩しく、揺らぎ無いその姿。
しかし、炎髪灼眼の炎(思い)は揺らめき続けていた。










168 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:05:45.640.BFUBQ0 (10/34)








とある、学園都市においてかなり低レベルに位置する学校。
そこの教室の一つ。

「ううっ……」
「カ、カミやんどうしたんや!?むっちゃボロボロやないか!」
「どうせあれだぜい。誰かの着替えを覗いちまって殴られたとかだにゃー」

ギクッ!と、机の上に体を這いつくばらせながら、高校一年生上条当麻は心中で震えた。
友人の土御門の言葉が正に正解だったためだ。
……実際は殴られたのではなく、日本刀で殴打されまくったのだが。

(……つーか早過ぎ。見えなかったぞ……)

フレイムヘイズの仕組みについては実の所半分も理解していないが、とにかく"聖人"並に強いということはハッキリ分かった、いや思い知らされた。
文字通り体に刻み込まれた。刀の殴打という形で。

「な、なんやとぉぉおおおおおおおっ!?」
「うおあっ!?」

突如、青髪にピアスが目立つ大男が叫んだ。
エセ関西弁による咆哮で、上条は自然に背筋がピンッと張ってしまう。




169 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:07:08.810.BFUBQ0 (11/34)



「朝から女子の着替えを見るなんて、それなんてギャルゲーや!?妬ましい、あぁ妬ましい!!」
「うるせー!その代わり上条さんは生死の境界を彷徨う制裁を受けたんですよ!?」
「分かっとらん!カミやんあんたは全然分かっとらん!」

ビシィィッ!!と、額に手を当て叫び続ける青髪ピアス。
正直、身長百八十センチ台の男がクネクネ動きながら叫ぶ情景は、キモイ以外の何モノでも無い。
彼は、叫んだ。

「着替えを見てしまっての制裁!?殴られる!?そ・れ・が!いいんやないか~!」
「ツッコミパンチィィイイイイイイイッ!!」
「ぶげらっ!?」

迷わず上条は気持ち悪い変態Xを殴り飛ばす。
ありとあらゆる変態を濃縮した存在(青髪ピアス)は渾身の一撃を受け、椅子と机を蹴散らしながらノーバウンドで壁に激突。
そのままズルズルと床へ沈んだ。
上条ははぁはぁと息を荒げながら叫ぶ。

「この変態!黙れ変態!んなことされて喜ぶのはお前くらいだ!」
「ぐっカミやんに罵られるなんて……悔しい、でも感じちゃ「感じなくていいわぁぁぁっ!!」
「あっはっはっ、今日は二人共テンション高いにゃー」

コントのようなやりとりを、土御門は椅子に座って見ていた。
カラカラと笑い、青いサングラスのレンズを光らせる。
そんな第三者を気取る土御門の軽い調子で紡がれた言葉に、上条はガクン、と肩を落とした。

「……そりゃそうだろ、土御門。テンション上げなきゃやってられねぇよ」

はぁ、とため息を吐き、彼は椅子に座り直す。
気がつけば、青髪ピアスも椅子に座っていた。




170 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:07:45.150.BFUBQ0 (12/34)



「なんでカミやんため息吐くん?」
「いや、だって……」
「カミやん、青ピに普通の感性を求めるのは無駄だぜい?」

あぁ、そうだなと返事を返し、彼は改めて教室を見渡す。
茶色の机に椅子、教壇に黒板。
うん、普通の光景だな、と上条は思った。




「俺等三人"だけ"じゃなけりゃな……」




教室に居るのは、上条、土御門、青髪ピアスの三人のみ。
何故この三人なのか?
理由はとても簡単。

ガララッと、教室前方の扉が開いた。
そして、

「さぁ、楽しい楽しい"補習"の始まりですよ~」
「いよ!待ってましたぁ!」
「にゃー」

"子供のような声"で語られた事実に、上条は本日何度目かのため息を吐いて、毎度お馴染みのあのセリフを一言。


「不幸だへくしゅっ!?」


くしゃみのせいで、最後まで言い切れなかった。









171 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:08:29.690.BFUBQ0 (13/34)










学園都市の大通りというのは、意外と渋滞がない。
何故なら最新の交通制御システムにより、信号の赤と青の間隔を操作しているからだ。
しかしながら、人はそう簡単に行かない。
故に、風力発電のプロペラが立ち並ぶこの大通りも、人が溢れ返っていた。

「朝でも結構人が居るのね」
「今日は休日だからな。暇人どもがうようよしてンだろ」

一方通行と十六夜咲夜は並んで歩いていた。
傍目からは一方通行も咲夜もそれなりに目立つ容姿なので、朝の人混みの中でかなりの視線を受けている。
好奇、興味、疑念、嫌悪、様々な視線が集中するが、彼等に気にする様子は無い。

「で、なんなのこんな朝早くから」
「分かってンだろォが」

彼女からの問いを、一方通行はバッサリ切り捨てた。
とりつくしまも無いその姿に、咲夜は心中がもやもやする。
ただ歩くだけ、目的地も分からない、などという精神的に意外と苦痛な行為を柔らげるため、彼女は他の疑問をぶつけた。

「ここは寺子屋……じゃなかった。大きな学校みたいな所なのよね?普通今の時間、学校に行ってるんじゃないの?」
「休日って言ってンの聞いて無かったかァ?今日学校なンざ行ってンのは、教師共と変態研究者と補習受ける馬鹿な奴らだけだ」

饒舌に説明され、咲夜はへぇと返す。
要するに、休日とは一部を除き殆どの人間が休む日らしい。
周りをすれ違う若者達を横目に、彼女は自己解釈した。
ちなみにこの時、とある教室でとある少年がくしゃみをしていたりする。

「貴方は学校に行ってないの?」
「行ってると思うか?」
「思わないわ」




172 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:09:38.500.BFUBQ0 (14/34)



杖をつきながらも、前から来る人を上手く躱す一方通行に、正直に言った。
僅か一日の付き合いだが、彼がまともに勉学に励むシーンなど想像出来ない。
咲夜の脳内イメージでは、一方通行が先生(とある寺子屋の先生)に罵倒を浴びせる光景が浮かんでいる。
その後思いっきり頭突きを喰らい、気絶する一方通行というところまでイメージを進展させてから、彼女の視界に入った物があった。

「なに、あれ?」
「あァ?」

驚きの余り足が止まった咲夜を不機嫌そうに睨み、一方通行は彼女の白い指で差された物を眺める。
百メートル程先に、巨大な建物が見えた。
何やら柱のような鉄柱らしきものがそびえ立っており、グネグネと宙で蛇の如く曲がりくねっている。
他にも巨大な円状の輪っかや、森らしきものも見られた。

「……レジャーパークだよ」
「れじゃーぱーく?」
「簡単に言いやァ、"遊園地"だな」
「"遊園地"?あれが?」

咲夜の驚きに、本当に知識が無駄に片寄ってるなと呟く一方通行。
彼は遊園地に向けていた視線を近くに移し、

「どうせ俺等には関係ねェ場所だ」

釣られて彼女も視線の先を見る。
先にあったのは、バス停。
丁度着いたばかりなのだろう。
バスからわらわらと人が降り立っていた。

「よっしゃあっ!着いたぜ!」
「こらルーク!恥ずかしいから叫ばないで!」
「いいじゃんか。折角ガイからチケット貰ったんだぜ?楽しまなきゃ勿体ない!」
「そうだけど……あぁ、ちょっと最初にお化け屋敷はダメェェッ!」

「ほら早く行くわよ!」
「イ、イリア待ってよ……そんなに走らなくても、ジェットコースターは逃げないから……」
「はぁ?ばっかねぇアンタ。ジェットコースターは逃げなくても、時間には限りがあるでしょうが!」
「そ、それは……ってそんなに引っ張らないでぇぇぇぇ!」

「……なる程ね」

納得の声を上げる。
バスから出て来たのは男女二人ばかり……ようするに、カップルが殆どだ。
しかも様子からしてデート。
二人にとっては確かに縁が無いだろう。
なにせ、二人共そういった恋愛関係に一ミリグラムも関わったことが無いのだから。
そんな恋愛関係が生まれるような環境に、二人は存在していない。



173 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:10:58.010.BFUBQ0 (15/34)



「でもどうせなら、貴方と一緒に行くのもいいんじゃないかしら?」
「寝言は寝て言え」

咲夜の戯言に、一方通行は割と本気で返す。
見知らぬ女性と遊園地に行ってる所を、数少ない知り合いに見られでもしたらどうなることやら……

その何気ない会話の間にも、彼等はかなりの距離を歩いていた。
 
歩く度に一方通行の靴と杖の先端が、咲夜の靴が、音を立てて行く。
コツコツ、カツカツ、と。
やがて歩道の整備されたレンガを叩いていた足音が、徐々に砂が混じった、細かい音に変わって行く。


ジャリッ。


「……ここら辺でいいな」

辺りをぐるりと見渡し、一方通行は一人納得している。
彼の五メートル後方に立つ咲夜も立ち止まり、彼を視界に含めつつ周囲を見渡した。
巨大な金属性の箱らしき四角形の物体が山積みされ、地面は小石が大量にひかれている。
どうやら石をひいているのはワザとらしく、石の一つ一つが川原の石のように丸みを帯びていた。
砂利の海の中に、幾つ金属性の線路が見える。

咲夜の脳内には、この場所に関する知識は全く無い。

ただ一つ、分かるとすれば、


周囲一帯、この場に、"誰一人として居ない"ということか。





174 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:11:45.600.BFUBQ0 (16/34)




「ねぇ」
「なンだ」
「あえて、もう一度だけ聞くわね」

彼女は息を吸い込み、言葉を放つ。




「で、なんなのこんな朝早くから」
「分かってンだろォが」




返事とともに、一方通行の右足がトンッ、と驚く程軽く地面に叩きつけられる。
が、

ヒュボッ!!と、空気を切り裂いて砂利が跳ねた。

跳ねて、さながら天然のマシンガンになった砂利は、全てが正確に咲夜へと迫る。
常人がギリギリ視認出来るくらいの速度で放たれたそれは、彼女の眼前に迫り──


「──傷符「インスクライブレッドソウル」」


──音も無く、切り裂かれた。
超超超高速の連続斬撃。
常人には腕を振ったという感覚さえ感じさせない程の、超スピード。
砂利は宙でばらけ、勢いを失って彼女の後ろを舞う。
綺麗な灰色の断面から、とんでもない切れ味だということが分かった。
両手にいつの間にかナイフを持ち、咲夜は"白紙のカード"を切り捨てている。




175 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:12:38.830.BFUBQ0 (17/34)



「いきなりね」
「それがオマエの力か」
「まぁ、所詮これは使い捨てだけど」

暗に"自分の力はこんなものではない"と示しつつ、彼女はナイフを何処かへと仕舞う。
遅れて、漸く切り裂かれた砂利がバラバラと墜落した。
咲夜は、紅い眼を細め、一方通行の首本を見る。
スイッチの位置が、少し動いていた。

ソレだけで、目の前の"怪物"の力が増したと、彼女には手に取るように理解出来た。

「はぁ……どうせデートならさっきの遊園地に行きたかったわ」
「安心しろォ、これもある意味遊園地デートだ。スリル満点、ミスれば即地獄までの一方通行だがなァ」
「あら、私は一方通行と言われると逆走したくなるの。……"時を止めて"でも」
「迷惑だな。だから"向きを操作して"真っ直ぐ進ませて貰ォか」
「貴方にそれが出来るかしら、そんな細い腕で」
「腕どころか指一本で十分だ」

軽口の叩き合い。
二人共、理解している。
この会話がただ単純に相手の身のこなしを確認する作業であるということ。
相手の性格、言動から戦略を組み立てるための作業に過ぎないこと。

そして、同時に、






「じゃあ指が十本だったら?」
「十二分だ」






何処か、楽しいということも。

ニヤリ、と彼は凶悪な笑みを浮かべ、
クスリ、と彼女は瀟酒な笑みを浮かべた。





176 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:13:54.300.BFUBQ0 (18/34)






まず、戦場となった操車場に満ちたのは、爆風。
一方通行が大地を莫大な力で蹴り、宙へと舞った反動だった。
暴力的なまでの風だけでは無く、衝撃により舞い上がった砂利が豪雨のように、大地へと降り注いで行く。
轟音が連続して響き渡り、砂煙が凄まじい勢いで空間を浸食していた。
それら、巫山戯た光景を上空百メートルで彼は見る。

(……さっきの斬撃、あれは単純なスピードじゃねェ……"時間"を加速して大量の斬撃を放ちやがったのか)

咲夜の言葉(能力)が正しいとすれば、だが。
脳内で付け加えつつ、彼は重力の"ベクトル(向き)"を操作して宙に留まる。
一方通行は下の砂煙の壁を睨んで、

「っ!」

横に、重力と気流のベクトルを使って動いた。
移動した瞬間、一方通行が居た場所を"上から"ナイフの雪崩が襲う。
すぐ横を通過して行くナイフの谷を見つつ、彼は上空へと目をやった。

「……なるほど。時間操作が出来りゃ単純な速さなンか関係ねェよなァ!」
「褒めても何も出ないわよっ!」

何時の間にか十六夜咲夜はメイド服をはためかせ、一方通行より更に上空に存在していた。
一方通行はそれを見て重力によって浮くのを止める。
フッ、と体を浮かせる力が無くなり、気流操作によってゆっくりと彼の体は大地に引っ張られて行く。




177 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:18:16.290.BFUBQ0 (19/34)



「ふっ!」

彼が此方を見ながら落ちて行くのに構わず、咲夜は腕を振る。
瞬間、指に挟まれたナイフが物理法則上、あり得ない軌跡を描いて下方の一方通行へ殺到した。

「っ、はっ」

一方通行は冷静に、迫り来るナイフ達を見る。
数は合計十六本。
軌道は様々で、直線的に向かって来る二本を除けば、ジクザクに、直角に、緩やかに曲り、停止しながら、と本当に様々だ。
そして更に厄介なのはそれら全てが銃弾並みの速度であり、そして銃弾よりも遥かに威力があること。

だが、まぁ、

「ざァンねェン」

一方通行相手には、分が悪過ぎた。
ヒュウンッ、と。
彼の体に当たったナイフは、"自然に"何処とも知れぬ方向に飛んで行く。十六本全てが、一本の狂いも無く。
壁に当たって弾かれたというよりは、受け流されたという表現の方が見た目的にも理論的にも正しい。

「えっ?」
「あァ?」

両者疑問の声。
片方は自分の攻撃が防がれた、不可思議な現象へ。
片方は思った通り操作出来なかったという現象へ。




178 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:19:35.400.BFUBQ0 (20/34)



(弾かれた?いや、ナイフ"そのものを動かされた"って感じね。……最近、"弾幕ごっこ"ばかりだったから鈍ってないといいけど)
(どういうことだ?"反射"の設定をミスったか?いや、"異能の法則"に俺がついて行けてねェのか。……チッ、何が最強だクソったれ)

僅か0.01秒の間に、二人は雑念さえ交えながら、思考で答えを弾き出してしまう。
答えが出た瞬間、一方通行は勢いよく地面へと飛ぶ。
その姿を追うように、咲夜もナイフを構え、追いかけた。

(だったら、ナイフへの操作が追いつかないくらいの数を叩き込む!……死なないよう、柄の部分で)
(異能の法則を理解すンのは今は無理だ。なら、反射に頼らなければいい!……少しは手加減しねェとマズイか)

またもや同時に思考を終え、彼等は空を翔る。
一方通行は地面へと轟音を立てながら着地──

「らァっ!」

──した衝撃を操作し、前へと音速を超えて飛ぶ。
ぼやけるその姿を追うように、咲夜は自分の力をスムーズに発揮し、尚且つある程度ためて置ける、

「光速「C.リコシェ」!」

"弾幕ごっこ"の目玉、"スペルカード"を発動させた。
カードの絵柄が弾け、内に秘められた力を放出する。
紫色の光が辺りに散ったかと思うと、一斉に光が周囲の、咲夜が指定した広大な空間を翔る。
シュパァァァァッ!!と、空気を切り裂く紫色の光の正体は、ナイフ。
幾つものナイフが光の筋となり、空間をランダムに直線的に駆け巡る。
周囲に積まれたコンテナの山をも穴だらけにし、地面をえぐる。

「チッ!」




179 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:20:16.370.BFUBQ0 (21/34)



一方通行はその光景に舌打ちを一つ。
縦横斜め、360°全てから紫光のレーザーとなったナイフが襲って来る。
光の筋による、擬似的な檻。
その中を、

「──っ」

一方通行はなんと、正面から潜り抜けて行った。
身を翻し、重力を操作し、あり得ない動きで躱す。
感性の法則を明らかに無視した、異常な動き。
前へ前へと進み、コンテナの山と山の間の巨大な道、レールの上を飛び、地面を蹴る。
周囲の気流の流れなども利用しているのか、予めある程度予測して動いているようだった。

「おらァ!」

一方通行はある程度進んだ所で十メートル以上飛び上がり、一番上に積まれていたコンテナを蹴り飛ばす。
全ベクトルが集中され、グシャッ!と見事なまでに潰れながらも、コンテナは吹き飛んだ。
飛んだ行き先は、勿論、

「っ!」

宙に浮かぶ、咲夜の元。
音速の2~3倍の速度で放たれた金属の砲弾を、彼女は淀み無い、最低限の動きで躱す。
だがその際、集中が切れてスペルカードの効果が切れてしまう。
彼女にギリギリ掠るか掠らないといったコンテナはそのまま宙を飛び数秒後、空気摩擦で減速し墜落した。
ズズンッ!!という、隕石のような落着音が咲夜と一方通行の遥か遠くから響き、穴だらけになったコンテナが振動によって悲鳴を上げ、周囲に金属同士が擦れ合う嫌な音が響く。

「今更だけど、これだけ派手に暴れて大丈夫なの?」
「なンのために場所を選んだと思ってンだ」




180 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:21:02.980.BFUBQ0 (22/34)



だが、二人は全く気に止めなかった。
互いに示し合わせたかのように開けた空間へ降り立つ。
ギシギシギチギチギリギリッッ!!という、コンテナの悲鳴合唱の中、二人は確かに向かい合う。
この二人が間合いを詰めるのは、二秒あれば充分だ。
それを態々時間をかけて詰めたのは、

「で、どうかしら」
「まァまァだな。本気がどンなもンかは、大体予想出来る」
「私もそんな所。ただ、貴方の力を知らないから、分からない部分も多いけど」

第三者には訳が分からない、会話と呼んでいいのか躊躇われる内容。

実際の所、この戦闘は戦闘であって戦闘では無い。
互いの実力を戦いの中で見せる、組手とも儀式ともとれるもの。
第一、この二人が本気でぶつかり合っていたら、一分半後の現在、辺りは地獄の様相を見せていた筈だ。

「ただよォ」
「でもね」

だが、同時に、

「勿体無いよなァ?」
「勿体無いじゃない?」

この戦いを、楽しんでいるのだ。
お互い、手加減に手加減を重ねた状態。
しかし、それでもこの戦いを一方通行も十六夜咲夜も楽しんでいた。
別に、彼等がとびっきりに異常な戦闘狂という訳ではない(ただし、他の一般人よりは遥かに交戦的)。
ただの戦いでは無く、"似た者"同士の戦闘だからこそ、ここまで楽しめるのだ。

彼は、
彼女は、

お互いの目を見る。

「……」
「……」




181 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:21:48.770.BFUBQ0 (23/34)



紅い双眸による視線は互いの紅い双眸を捉える。
其処に映る本質の全てが、自分と瓜二つ。
戦いという、もっともお互いが触れ合ってきた状況だからこそ、こうやって通じあえる。

「次、一撃を当てた方の勝ちっていうのはどうかしら?」
「はっ、上等だ」

ルールを決め、二人は思い思いの構えを取った。
そして、棒立ち状態の一方通行が、ゆっくり口を動かして、

「……行くぞ、十六夜」
「……えぇ、一方通行」

始めて、お互いを名前で呼び合う。
咲夜はともかく、一方通行にしては異常だった。
彼はここまで本来、素直では無い。
出会って一日の者を、名前で呼ぶなど、明らかに異常だった。

でも、そんな細かいことはどうでもよかった。

戦いの今は、今のことだけを考える。


それが、この二人の共通認識。


「っ!」

一方通行は、両手を天に向かって上げる。
まるで、神の祝福を受け取る聖職者の如く。

しかし、その手に生まれるのは祝福などでは無い。

轟!!と、暴風が吹き荒れた。
風は一点──彼の上空へと収束して行き、一点に収束された気体は熱を持つ。
そして熱はどんどん高まり、閃光を発した。
思わず目をつぶり、手で目元を抑えながら見る。




182 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:22:31.330.BFUBQ0 (24/34)



「これは……」

咲夜は、その光景に圧倒されかけた。
一方通行の上空に生み出されたのは、白熱の塊。
火の粉のような白を散らし、太陽のような熱と光を周囲に撒き散らす。
丸い灼熱の球体は、当たれば人間など一瞬で消し去るだろう。
彼女は知らないが、この白い球体は世間一般でプラズマと呼ばれている。

「──!」

そして、一方通行は無言で両手を咲夜に向かって振り下ろす。
連なるように、プラズマも咲夜に向かって振り下ろされた。
灼熱の球体は、形を歪にしつつ彼女に迫り、






「そして、時は動き出す──」






次の瞬間、一方通行が見たのは自分が操るプラズマと、周囲に展開された大量の、空間を埋め尽くす程のナイフだった。










183 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:23:59.300.BFUBQ0 (25/34)








「幻世「ザ・ワールド」」

それが、彼女の発動したスペルカード。
彼女の言葉が紡がれると同時、世界は灰色に染まる。
モノクロの世界に熱は無く、ただダイヤモンドよりも硬い物質達が存在するのみ。
この世界で動けるのは咲夜ただ一人であり、彼女は止まったものを傷つけれない。
だから、あくまでこれは準備。
敵を完璧に始末するための。

彼女はゆっくりと、前へ歩く。
一歩踏み出せば十のナイフが。二歩踏み出せば百のナイフが。
三歩踏み出せば千のナイフが。
彼女が一方通行の隣を通り過ぎた頃には、空間を埋め尽くす程のナイフ包囲網が出来ていた。

「まっ、こんなところかしら」

魔力で作り出したナイフの調子を確かめ、彼女は解除のセリフを紡ぐ。

「そして、時は動き出す──」

瞬間、世界に色が戻り、全てが動き出す。
プラズマが大地に直撃して破壊では無く土を溶かし、ナイフも標的へ、一方通行へと衝突した。

耳を壊しかねない轟音が、轟く。

高熱の物体による、気体移動の暴風。
大量の物量衝突による、巨大な振動。
両者が生んだ破壊は凄まじく、コンテナの山が衝撃波によってなぎ倒される程。
積み木のように崩れて行くコンテナを横目に、

「……やり過ぎたかしら」

咲夜はタラリ、と冷や汗を一雫。
幾ら柄の部分とはいえ、やり過ぎた気もしなくは無い。
砂煙が衝撃波で吹き荒れて、着弾点がよく見えないので、無事かどうか確認出来ない。
少しばかり後悔する少女。




「オラ」
「えっ──」

ポコン


184 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:25:33.500.BFUBQ0 (26/34)


「あたっ」


そんな軽い音と共に、白い杖の棒が咲夜の頭へ叩きつけられた。
年相応の可愛らしい悲鳴を上げ、彼女は頭を抑えつつ恐る恐る犯人へと目をやる。


其処に居たのは、やはり全く無傷の一方通行だった。


「……一体どんな手品を使ったの?」

なるべく冷静に、彼女は尋ねた。
砂煙が晴れ、着弾点を見ると其処にあるのはただ巨大なクレーターのみ。
不思議がる彼女に、一方通行は杖を付きながら逆に尋ねる。

「蜃気楼って知ってるか?」

?、と頭にクエスチョンマークを浮かべつつ、咲夜は知識を引っ張り出した。

「確か……光の現象である物無い物が見える、"幻術"の元──って」
「そうだ。オマエがさっき、プラズマの閃光で目が眩んだ瞬間に"幻影"を作らせてもらったンだよ。プラズマを作ってから俺が喋らなかったのは、ただ単純に喋れなかったからだ」
「それで自分は応用で姿を消してたのね……」

はぁ、と咲夜はため息を一つ。

「手品でも負けるとは思わなかったわ」
「オマエの場合、ただのタネ無し手品モドキじゃねェのか?」

あら、失礼ね。と彼女は苦笑しつつ、

「帰ったら、能力について教えなさいよ?」
「そっちもな」

戦いの前とはどこか違う雰囲気で、ボロボロの戦場に背を向け、歩き出した。
一方通行も釣られて動き、砂利を踏む。




「あっ、そうそう。どうせなら十六夜じゃなくて咲夜って呼んでくれないかしら?」
「却下」




コンテナが、ギチギチと何時までも悲鳴を上げ続けていた。




185 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:26:08.350.BFUBQ0 (27/34)









後始末に働くのは、学園都市のトップ。


「やれやれ、かなり無茶なことをしてくれる……場所が場所だから、まだマシだが」

「ふむ、部隊を回して──」

「これでよし……」

「……しかし、『神』の"介入"が無ければ、私自身が動けるというのに」

「だが、最低限の役目は果たせる。よしとしよう」

「──遅いな」

「予定の時間より一時間オーバーしている」

「八雲紫、何があった……?」


窓の無いビルにて、統括理事長、アレイスター・クロウリーに嫌な予感が走った。











186 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:26:41.900.BFUBQ0 (28/34)






「クソ!」
「レミィ!落ち着きなさい!」
「落ち着いていられる訳が無いだろう!クソ!どうして、どうしてこんな最悪なタイミングで……っ!」
「紫様!スキマを此方から開けないんですか!?」

「『神』の馬鹿の"介入"が入ってる!本気でやってるけど、このままじゃ向こうに繋げれるのに三日もかかってしまうわ!」

「なんとか出来ないのかっ!?」
「なんとか出来たらもうやってるわよ!」
「お二人とも落ち着いて!私の力は使えませんか?」
「……『奇跡』。やってみる価値はあるわね。そこの門番も手伝いなさい!力仕事は得意分野でしょ!」
「任せて下さい!」
「スキマ!こっちで三日経ったら向こうでは何日経つんだ!?」

「……短くて、丸一日。長ければ、一週間ってとこよ。時間が、"介入"でずれたから……」

「っ──クソォォオオオオオオオッ!!!」


ガシャンッッ!!








187 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:27:26.460.BFUBQ0 (29/34)






「うー、寒々……」

学園都市に少なからず存在する、スキルアウトと呼ばれる者達。
言ってみれば、彼等は不良だ。
無能力者(レベル0)と呼ばれ、何の力も持たない学生に過ぎない。
そして、浜面仕上も多少普通では無いとはいえ、何の力も持たない無能力者だ。
無論、魔術なども使えない。

「やっぱ近道なんかするんじゃなかったか……?」

染めてボサボサの金髪頭に、ソレ程顔も良く無い。
ちゃらちゃら適当にアクセサリーを付けている所など、実に小物ぽかった。
そんな彼は今、薄暗い影の中を歩いている。
乱雑に建てられたビル。
半数以上が廃墟になっているその地帯を彼が歩いているのは、単に近道だから。
彼が今寝泊りしているビルの一室(廃墟だが、それなりに真新しいビル)と彼が"文字通り命をかけて守った"少女が入院している病院がこの廃墟ビル地帯を挟んでいるからだ。

「しっかし、やっぱ寒いなここ」

長袖の上着を揺らしつつ、彼はゆっくり進んで行く。
早く帰って、布団に入りたかった。

が。

キラリ、と。
何かの光が浜面の視界に飛び込んだ。




188 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:28:01.380.BFUBQ0 (30/34)



「……?」

光をよく見てみる。
ビルの灰色の壁、もたれかかるように、誰かが居た。
五メートルも離れていない地点に。
内心、何故こんなに近くまで気がつかなかったのかと思いつつ、彼は近付いていった。
小さな寝息が聞こえることから、どうやら寝ているらしい。

年の頃は十歳程度だろうか?
かなり幼い少女だ。
"金色の綺麗な髪"、それこそ浜面のとは比べ物にならない。
頭に"布製の赤いリボン"が括り付けられた帽子が乗っかっており、服は白と赤の全体的に柔らかな印象を与えてくるワンピースらしきもの。

ただ、一番目立つのは"背中の翼"だろう。

"宝石のような七色の石"が七つ、黒い縄のような部分から垂れ下がっており、翼のイメージを与える。
恐らく、先程の光の正体はこれだ。

「……なんだこりゃ?」

普通ならこんな危険にも程がある場所で寝ている、少女の心配をするべきだが、余りにも背中の翼の飾り?が気になり、心配出来ない。

いや、正直な話"ソレだけでは無い"。


この少女を目の前にしていると、浜面の本能がざわめくのだ。


まるで──





189 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:28:45.410.BFUBQ0 (31/34)



「う、う~ん……」

そうこうしている間に、少女が起きてしまった。
彼女は目を眠たげに擦り、欠伸を大きくする。
そして、その大きな"紅い目"で、目の前でどうすればいいのか迷っていた浜面を捉えた。

「……あれ、"人間"?」
「──っ」

可愛らしい、癒すような声。
だが、浜面には、その目を見た浜面には癒すことなどあり得ない。
目を見ただけで、分かった。分かってしまった。

「ってことは……やったー!"紅魔館"から出れたんだ!ねぇねぇ、ここ何処っ!?」
「が、学園都市だけど……?」
「へぇ、聞いたこと無いなぁ……もしかして"外"なのかな」

少女は、可愛らしく首を傾げて、




「でも、まぁいいや」







190 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:29:21.260.BFUBQ0 (32/34)



「っ!?」

今度こそ、浜面の本能が全力で警報を奏でた。
彼は、この少女と似た目をした女性を見たことがある、いや、覚えている。
多分、一生忘れられないだろう。
それは、忘れるには余りに強烈過ぎた。

「ねぇ」

轟!!と、空気が悲鳴を上げたかのように見えた。
突如出現した、"燃え盛る剣"に空気が反応に、轟風が起きたのだ。
魔剣と呼ぶにふさわしい、灼熱の紅き焔の剣を、彼女は右手に握っている。

「うっ、ぐっ……!」

肌をジリジリ焼く熱波と恐怖に、浜面は一歩下がる。
それに反応して、少女も一歩前に踏み出して、浜面を見上げながら言った。

"悪魔"の様な、何処か恐怖を湧き出される笑顔で。






「一緒に遊ぼ?」









これが、浜面仕上と、"悪魔の妹"フランドール・スカーレットの出会いだった。





191 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:30:02.350.BFUBQ0 (33/34)
















世界は内包し続ける。
友情、希望、愛情、狂気、ありとあらゆる全てを受け入れ、
今宵も世界は、残酷であり続ける。

















192 ◆roIrLHsw.22010/12/25(クリスマス) 12:31:54.130.BFUBQ0 (34/34)


※今回はおまけスキットはありません。


浜面君は生き残れるのか?
次回へ!



193MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)2010/12/25(クリスマス) 13:08:19.17.WgIK42o (1/1)

はーまづらェ……

尾中


194MerryChristmas!!(明石家サンタやってるよ!)2010/12/25(クリスマス) 13:08:42.145oi9fwDO (1/1)

浜面よりによって妹様かw


195以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/27(月) 04:43:32.210snBcYAO (1/1)

東方からは雑魚ばっかかと思ったら中堅キター

ただの人には荷が重いな


196以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/27(月) 15:01:34.23V1IQIPw0 (1/1)

ただの人ってか物質として存在してる相手には鬼門すぎねぇ?
てか咲夜さん時間停止中の物質に干渉できたはずだが。



197 ◆roIrLHsw.22010/12/27(月) 16:19:42.23VfhlOOU0 (1/1)


>>195
ただの人、ってかこの世の存在の殆どにとってキツイ気が…w

>>196
まぁ、フランですから……
あ、後咲夜さんの能力については「物体を動かす」ことは出来るけど、「物体を傷つける(破壊)」することは出来ないっていう自己解釈が入ってます……理論とかは抜きで。


現在、大急ぎで執筆中ですが、年内には無理かもしれません。
では皆さん、

浜面先生の来世……じゃなかった。次回にご期待下さい!




198以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/28(火) 19:58:07.80kPgbWcAO (1/1)

何だ彼んだと弱点てんこ盛りだから
水系能力や太陽系能力持ってれば封殺出来る


199以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/30(木) 01:01:26.65fqc1ddM0 (1/1)

ゲッショーのレミリア見る限りだとそれやってもすぐ死ぬわけじゃないからな、天照の攻撃食らっても気絶しただけだったし
手をぎゅっと握るだけの動作で発動する破壊能力で粉微塵にされる。
まぁそもそも何かする前に殺されてる可能性高いんだけどな。性格的にも
霊夢や魔翌理沙が殺されなかったのはゲーム補正なのか腹が減ってないだけなのか
霊夢はその気になれば夢想天生あたりで防げそうではあるが


200以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/30(木) 19:11:09.47PgEWEYAO (1/1)

>>199
折角の殺し合わない為の弾幕ごっこなのに
天照出して殺しましたじゃいかんだろ
直ぐに死ぬ訳ではないのは同意だが、致命的であるのは紅、儚あたりから間違いない

会話は意外と理性的ではあったな
気がふれてるのや人を粉々にしてるのは違わないが


201 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:09:49.43ge8.Nu20 (1/35)


>>196
以下、とある後書きコーナーより抜粋。


咲夜『で、時間停止最中に攻撃出来るか出来ないか?出来るわよ、本気出せば』

フラン「本気出せば?』

咲夜『本気を出すのは疲れるんです。時間に割り込みを入れようとしたらかなり。それよりも一瞬だけ時間を解除してダメージを与え、直ぐに離れるという戦法の方が現実的なのですが、それはそれで相当な体力を使うのです。時間停止は相当疲れるので』

浜面「つまり、やろうと思えば出来ないことは無いが、戦闘中は難しいと?」

咲夜『えぇ。でも物を移動するだけなら普通の時間停止でも出来るから、普段は問題無いわ。物を傷つけたり破壊することは出来ないけど』

浜面「……なんか異次元の会話過ぎて、ついて行くのが厳しいんだが」

フラン「こういうのは『ご都合主義』とか『自己妄想設定』とか言うんだよね!」

浜面「はははー、何処でそんな言葉を覚えて来たんだ?」


>>198-200
自己解釈設定で行きます。すみません。


では、見てる人も少ないとは思いますが、行きます。


202 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:11:11.24ge8.Nu20 (2/35)


















人間、誰しも過ちの一つ二つはあるものだ。
それは人によって異なり、小さい過ちもあればとても大きな、人生が終了してしまうような大きな過ちもある。
結果の大きさが違えば、過ちの原因の大きさだって違う。
とても小さな、日常的な過ちもあれば、人生一度っきりの大きな過ちの可能性もある。

だが、ここで決して忘れてはいけないことがある。




"過ちのレベル"と、それに対する"結果のレベル"は必ずしも釣り合うとは限らないことを。




さて、では彼はどうなのか?
彼は現在、一般人なら間違いなく人生最大級の死の危険に直面している。
原因は、ただ"通る道を間違えた"こと。
他の廃墟ビルの近くを通る、いやそもそも廃墟ビル地帯に入らなければよかった。
多少遠回りでも、素直に"日の当たる場所"を選ぶべきだった。

だけど、所詮は道を間違えただけ。
そんな、誰もがしてしまうような間違えの代償が彼の場合、死に直面すること。






ただ、ただ"それだけ"のことだった。





203 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:11:57.53ge8.Nu20 (3/35)





可愛らしい、しかし何処か狂った声がビル地帯に一つ。

「行くよ?」

例えるならば、"悪魔"。
金色の、宝石のような髪。
緋色の、血のような瞳。
小さな、天使のような体型。
背中に生えるは、七色の宝石の翼。

そして、振りかぶりしは、究極の禁忌。
燃え盛る、魔の剣。

名を、レーヴァテインと言う。

「う、おおおおおおっ!?」

浜面仕上は迷わず、自分の足を引っ掛けるように地面に倒れこんだ。
我ながら無様だと、地面に手と顔面を押し付けながら思ったが、その判断は正しかったと次の光景を見て理解する。


ヒュボッ!!と、空気が裂かれ、真上を炎の塊が通過した。


一直線に迷いなく真横に振り抜かれた魔剣。
空間にその姿を焼き付けながら、残照を散らす。
音すら立てずに、長大な刀身に周囲のビルの壁が"溶かされた"。
斬ったのでは無く、溶けた。
膨大な熱量が圧縮された剣の前に、ただのコンクリートや鉄の固まりなど意味を為さない。
煙を上げる、ビルの一直線に穴が開いた風景を見て浜面の顔に嫌でも冷や汗が伝う。
後少しで、"少し前まで生きていた知り合い"のように上半身と下半身が無惨に分かれる所だったと思うと、恐怖で筋肉に無駄な力が入ってしまった。




204 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:12:50.98ge8.Nu20 (4/35)


(な、なんだってんだ一体!?コイツ、なんなんだよっ!?)

なんとか躱した死への恐怖を無理矢理押さえつけ、彼は膝を付いて立ち上がる。
今までの経験がなせる力だった。
絶対的な強者の前に置いて、恐怖などで足を止めてしまったら待っているのは死のみだということを、彼はよく知っている。

(とにかく、コイツはヤバイ、ヤバ過ぎる。どう見ても普通じゃねぇ……!)

浜面が恐怖を押し殺し、必死に生きる道を探している中、

「あははははははははっ!!躱されちゃった!」

楽しそうに、愉快そうに、狂った笑みでソイツはワラっていた。
魔剣と同じ緋色の瞳は狂気に染まり、単純な殺意よりももっと怖気が走る狂気を放っていた。

「見た所普通の人間なのに、凄いんだね!じゃあ次!」
「まっ──クソ!」

停止の声を上げるが、無駄だと分かり、浜面は罵倒と共に駆け出す。
彼女から少しでも離れようと、彼が出せる全力のスピードで。

「禁忌「恋の迷路」!!」




205 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:13:19.43ge8.Nu20 (5/35)


そしてその行動は正しかった。
少女が何かを叫んだ瞬間、爆発するような効果音とともに、彼女を中心に光が生まれた。
光が地面に一瞬走ったかと思った、
瞬間、

「っ!」

浜面は本能のままに、曲がり角へ飛び込む。
ゴガガガガガガガガッ!!と、天が砕けたと思ってしまうような轟音が鳴って、近くのビルの壁が一斉に破壊された。
光る、青色の何かによって。
破壊した物をハッキリ視認する余裕は、彼には無かった。
ただ分かったのは少女を中心にして何かがばらまかれたということと、浜面の居る場所どころか辺りいっぺんに破壊が襲ったということだ。
息をつく間もなく、第二陣、第三陣が襲ってくる。
空気を裂く怖気が走る音と、一瞬で死にいたらしめるであろう何かが。

「うわぁっ!?」

悲鳴を上げながら、浜面は走る。
壁を貫通してくる何かを必死で躱し……いや、運がいいだけだった。
曲がったことで少女と浜面の間にはビルという障害物があるのと、距離が少しばかり開いたお陰だ。

走りながら少しだけほっとした彼──




ベキリッ




──の耳に、ただの破砕音では無い、不気味な音が響いた。




206 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:13:56.73ge8.Nu20 (6/35)



「!?」

さっきの、後方に居た筈の少女が何かしたのかと思ったが、違う。
上を見上げた。

「うげっ!?」

苦々しい驚愕の声が飛び出る。
だが無理も無いだろう。
相当な広範囲に放たれたのか、周囲のビル陣は浜面の身長よりも高い位置の壁まで破壊されていた。
降り注ぐコンクリートの破片は、余りにも破壊つくされたせいか小さい。

その代わり、ビルが徐々に傾き始めていた。
視認出来る程、ゆっくりと。

「や、やべぇっ!」

浜面が走る道の、両脇に建つビルが道へとゆっくり崩れて行く。
鉄筋が折れる、金属質な音が空間に連続で木霊した。
ビルがまだ倒壊していないというのが、浜面の運の良さを表している。
現在、浜面の両脇で倒れかけているビルは十階ぐらいのもの。
倒れた瞬間待っているのは、瓦礫の山に飲み込まれるか、衝撃波で打ち倒されるかのどちらかだ。
後者はともかく、前者は絶対に助からないだろう。
"人間"はトン単位の物体に押しつぶされて生きていられる程、頑丈に出来てはいない。

「クッ、ソォォオオオオオオオオッッ!!あのガキィィイイイイイイイイッ!!」

姿が見えぬ(見えたら困るが)少女に向かって罵倒を吐き、浜面は走る。
徐々に破損音が大きなっていくのを、彼の耳の鼓膜が嫌な程震えて繊細に教えてくれた。
地面を死に物狂いで叩き蹴り、速度を上げる。




207 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:14:37.18ge8.Nu20 (7/35)



「う、おおおおおおおおっ!!」

前方の視界が開けた。
オレンジ色の光が照らす空間に、浜面は全力で後先考えずに頭から飛び込む。

彼の足が丁度ビルの通路から出た時、ビルが限界を迎えた。


世界が、ひっくり返る。


莫大な、千の雷が降り注いだかのような轟音とともに浜面の全身を灰色の爆風が叩いた。
背後のビル陣が崩れたことにより、砂埃を多分に含んだ衝撃波が生まれたということを、浜面は宙を舞いながら漸く認識する。
五メートル近い距離を吹き飛び、彼はコンクリートの地面に投げ出される。
ゴシャッ!!と、背中側から大地に叩きつけられた。

「ガ、ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

獣の雄叫びのような咆哮を上げた。
そのまま浜面は肺の中の空気を強制的に吐き出されつつ、ゴロゴロと地面を転がる。
清掃ロボットによって綺麗になっていた筈の道は、今や灰色の煙によって廃墟の様相を表していた。
ボールのように転がっていた浜面は、対面のビルの壁にぶつかることで動きを止めた。

「ぐがっ!」

衝撃が体を駆け抜け、全身から力が抜ける。
打ち所が悪かったのか、痺れたように力が入らない。
爆風が吹き荒れる中、浜面は動かない体で視線を動かす。

「……マジ、かよ」

先程まで疾走していた廃墟ビル地帯は、もはや地獄だった。
ビルが幾つも同時に崩れて行き、噴煙と爆風を撒き散らす。
瓦礫が隕石のようにコンクリートの地面に落着し、破壊して、破壊される。
十数のビルが倒壊して行く様は、いっそ滑稽でもあった。



208 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:15:17.01ge8.Nu20 (8/35)



「ははは……」

思わず笑いが、彼の口から零れる。
余りにも破壊のスケールが大き過ぎて、現実味が無い。
まるで、出来の悪い映画のような。
しかもそれに自分が関わっているなど。
今だって、全身に走る痛みと、頭上を覆い太陽の光を遮る程の灰色の煙が無ければ、現実だと思っていなかったかもしれない。




だが、"悪魔"は彼に現実を突きつける。




浜面が通った道が有った場所。
瓦礫によって埋もれ、見えなくなったそこの瓦礫が"粉々に跡形もなく"破壊された。
ボンッ、という風船をわるような効果音。
その後には、塵も残らない。
突如、消えた瓦礫の山に、彼の思考は停滞する。

「……はっ?」

疑問の声が上がった時には、瓦礫の音の合間に聞こえる音があった。

足音。
コツ、コツ、コツ、と。

「……ねぇ?どうしたの?もうお終い?」

足音は、軽やかに、華麗に、それでいて残酷に、

「立たないの?そんな状態じゃ私すぐ"壊しちゃう"よ?」

砂埃の中で、響く。


コツ、コツ、コツ、と。





209 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:15:51.84ge8.Nu20 (9/35)



「あーあ、つまんない……」

砂埃を切り裂くように、彼女は現れた。
その姿には少しの汚れも無く、右手に持つ炎の魔剣と、背中の宝石の翼が異様だった。
絵にでもすれば、とてもその姿は綺麗で、

だが、目の前に居るこの状況では、この世の何よりも恐ろしい。

「──っ!」

上から見下ろしてくる彼女の瞳を見て、悪寒が全身を駆け巡る。
少女の緋色の瞳には、狂気と、おもちゃが壊れてしまった時の子供の虚しさが、ごちゃまぜになっていた。
それは、断じて人を見る際にしていいような瞳では無い。
いや、そもそもしてはいけない類いの、瞳。

(う、ごけ……っ!)

浜面は歯を食いしばり、全身に力を込める。
しかし、能力者に対抗するために鍛えた肉体は動かない。
"人外"の前に"人間"の力など無意味だと、宣告するかのように。
金の髪をなびかせつつ、少女は、

「じゃあ、バイバイ」
「……っ!!」



210 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:16:27.60ge8.Nu20 (10/35)



浜面の見上げる目が、ゆっくりと真上に振りかぶられる魔剣を映す。
動こうと、躱そうとする浜面の努力も虚しく、

(クソ、ったれ……っ!!)


あっけなく炎の魔剣が振り下ろされ、彼を絶命させた。















その、"筈"だった。


「キャァァァァァァァァァッッ!!?」
「!?」

耳に轟きしは、甲高い少女の悲鳴。
彼女手から離れた魔剣が、ザシュリッ、と"音を立てて"浜面の顔面直ぐ横に突き刺さる。
が、直ぐに火の粉の欠片となって姿を消した。

「……えっ?」




211 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:17:11.08ge8.Nu20 (11/35)



突然消えた死へ、呆然となる浜面。
漸く力が入り始めた体の指を地面に食い込ませ、立ち上がろうとする。

「……っ?」
「あ、ぐ、ぅぅぅ……っ!?」

そこで見たのは、浜面と同じように地面に倒れこみ、右肩を抑える少女の姿だった。
彼女は先程の余裕ある姿は何処へ行ったのか。
顔を青ざめさせ、冷や汗を流し、呻きながら痙攣している。

「い、一体何が……?」

辺りを、首を動かして見渡す。
特に、何が起きたということも無い。
周囲一帯は灰色に覆われていて、とてもでないが十メートル先すら見えなかった。
しかしながら、灰色の隙間から差した"夕焼けの光"が一閃、浜面の前に差して──

「……って、まさか?」

馬鹿らしいとは思うが、これしか考えられなかった。
狙撃などをされた形跡は無いし、第一、浜面なんていうそこら辺に幾らでもいそうな男を守る価値など、何処にも無い。
ならば、この予想が正しいのだ。


「"太陽の光"が……?」





212 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:17:50.41ge8.Nu20 (12/35)



今思えばビル地帯に直接日光は差して無かったし、ビルを崩してからは噴煙が日光を遮断するカーテン代わりになっていたのだろう。
彼女は、今まで日の元に出なかった。
だけど今、"超高熱の魔剣を上に振りかぶったことにより"、熱と空気の移動で気流が生まれ、砂埃のカーテンを一部消し飛ばしたのだ。
詰まる所、この結果は簡単に纏めると、

「運が、良かった……?」

いや、悪いからこんな目にあってんじゃねぇか、と彼は即座に意見を取り消した。
だが、運が良いというのもまた事実なのだ。

最初に太陽が目立たない薄暗いビル地帯から戦闘が始まったこと。
破壊の渦を上手く避けれたこと。
ビルの倒壊が遅れたこと。
灰色の砂埃で上手く太陽が隠れたこと。
彼女が魔剣で止めを刺そうとしたこと。
そして、夕暮れ時だったこと。

全てが、偶然。
誰の力による介入も無い状態で、彼が死に物狂いでつかみ取った『奇跡』だった。

「う、ううっ……」

呻き声に、意識を前にやる。
彼女はまだ肩を抑えていた。余程ダメージが大きいらしい。

(しっかし、なんでなんだ?)

少女を警戒しつつ、浜面は疑問を抱く。
何故、突然襲ってきたのかはもはや言動から大体予測出来る。




213 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:18:32.91ge8.Nu20 (13/35)



問題は太陽の光を浴びただけで倒れたことだ。

色素……つまり髪が黒とか金だとか、目が黒だということを決める成分が足りずに、日光を浴びただけで皮膚が焼け焦げたり、光が強過ぎて頭が痛む人間も世の中には居る。
しかし少女の場合は、明らかにおかしい。
肩を抑えていることから、皮膚に日光が当たったということは分かる、分かるがそれにしては様子がおかしい。
肉体の一部をえぐられたかのような悲鳴に、彼女が抑えている辺りから出ている煙のような何か。
焼け焦げるにしても、一瞬日光に当たっただけだ。
普通はもう少し日光に当たらないとそんなことは起こらないのではないか?

(……考えても、意味ねぇか)

浜面は医療の専門家では無い。
少女が日光を浴びて倒れた原因など、分かるはずが無いのだ。
そもそも、彼にとっては彼女が何者かなどどうでもいい。
いきなり襲われたが、もう二度と関わるつもりも無い。

「さてこれからどうするか……」

口を閉じたら、ジャリッと口内で砂の味がした。
灰色に染まる唾を汚らしく吐き出す。
体はまだ痺れており、上半身をようやく起こせた所だ。
ビルの倒壊は収まったのか、浜面の耳には倒壊独特の轟音は聞こえない。
代わりにガラガラと、瓦礫が瓦礫の山から転がり落ちる音だけが、いくつか聞こえた。

(ビルを十は潰したんだ。絶対後何分かで風紀委員(ジャッジメント)や警備員(アンチスキル)が来る……急いでここから離れねぇと……)



214 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:19:12.44ge8.Nu20 (14/35)



幾ら廃墟地帯といえど、そろそろ野次馬なども絶対に来る。
風紀委員や警備員に捕まるのが一番最悪。
そうなった場合、浜面は事情徴収され、下手すると冤罪をかけられる可能性もある。
いや、この場合浜面は明らかに被害者なのだが、彼は問題行為を幾つも起こしていて"前科"が山程あるのだ。
今回も、見知らぬ少女よりは浜面の方が疑われる可能性が高い。

「……まっ、どう見ても普通じゃねぇけど」

両手を地面に付き、プルプル震えながらも体を上げて行く。
ここから逃げるために。
一つは先に考えた風紀委員や警備員から。
もう一つは、少し離れた所で転がったままの少女から。
ふと、倒れた少女から視線を外し、

「……っ!?」

その時、浜面は気がついた。
上空を覆っていた噴煙が、徐々に流れていっていることに。
風が強く吹いているのか、そのスピードは凄まじく、浜面"達"を包んでいた天然の"カーテン"が姿を消して行く。
このままでは、ものの十数秒で砂煙は何処かへ消えるだろう。


そして、必然的に"日光"が差し始めた。


夕暮れのオレンジ色の光が、ゆっくりと。

「……」

ボロボロの体で、浜面は思う。
残り何秒かで、この煙は晴れるだろう。
そうすれば、夕焼けが辺り一面を覆うに違いない。
しかし彼にとって、それは問題でもなんでもなかった。
何故ならば彼は普通の人間であり、日光に当たった所で何の問題も無いからだ。
むしろ太陽の光は浜面の肉体を温め、力さえ与えてくれるだろう。


しかし、しかしながら"それは彼一人だった場合"だ。





215 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:19:50.83ge8.Nu20 (15/35)



「っ……」

地面に倒れ伏す、浜面を襲ってきた謎の少女は無事では済まない。
ただ、肩に当たった、掠っただけで痛みで動けない程のダメージを受けているのだ。
まともに全身に浴びてしまえば、どうなるかくらいは浜面にだって予想出来る。

「……」

浜面は、動かない。
当たり前だ。
彼女は、己を殺しかけた存在なのだ。
しかも何の繋がりも無い、赤の他人。
そんな彼女を助ける理由が、彼のいったい何処にある?

(……そうだ。後腐れは無い方がいい。後で逆恨みされてまた襲われるかもしれねぇ)

むしろ、見捨てるべき理由の方が大きい。
早くしなければ捕まる恐れがあるし、あの狂いようからするとここに来た人間全てを殺しかけない。

そうだ。誰がどう見ても、百人中百人は見捨てるべきだと言う筈だ。

「……っ」

だとすれば、この胸にあるモヤモヤはなんなのか。
何故自分は歯を食いしばっているのか。
何故自分は拳を握り締めているのか。
彼は自問自答を繰り返す。

(……つーか、第一体が動かねぇよ)

フッと、その思考で体の力が抜ける。
自分の体は今、痺れて上半身を起こすのが限界なのだ。
だから──






216 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:20:27.38ge8.Nu20 (16/35)







「お姉様……っ」






そんな呟きが、浜面の思考に滑り込む。
その声は今までの狂った、壊れた声と違い、見た目相応の、悲痛な呟きだった。

「──っ!」

またもや、拳に力がこもる。
ギチギチと音を立て、歯を食い張る。
浜面は、自分が何をしたいのか、抑えているのか分からなくなってきた。
理性は、彼女を見捨てろと叫んでいる。
本能も、彼女から一刻も早く離れろと叫んでいる。

だとすれば、


今、自分は何故、何を悔しがっている?


「……」

浜面仕上は、無言のまま動かない。
表情は硬く、




彼は動かず、後数秒で日光を浴びるであろう少女を見ていた。













217 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:21:09.68ge8.Nu20 (17/35)










今日、"幻想郷"の紅魔館に"幽閉"されていた吸血鬼、フランドール・スカーレットは"偶々"メイド妖精の警備を突き破り、地下からの脱出を果たしていた。
彼女にしてみれば久しぶりに外出したくなり、外に出ただけ。
一週間近く誰とも会話して無かったため、地下暮らしが飽きていたというのもある。
"とある紅い霧の異変"からは友達という名の遊び相手も何人か出来たし、知り合いも増えた。
精神が比較的安定していた時は、宴会にも連れて行って貰えた。
精神が安定している時の彼女は、至って普通の女の子。

しかしながら、今日は鬱憤が溜まり大分不安定であった。
だから、彼女は自分の知り合いの誰かに会い、"遊んで"貰おうと思っていたのだが、


広間で見た。
見て、しまった。


「さて、準備は出来た?」
「こちらはいつでもOKですわ」
「私の準備が出来てませーん!というか話を聞いて下さい!」
「早苗さん、もう諦めた方が……」
「だーれーかー!」

自分の知っている知り合い達が、何か"とても面白そうなこと"をしているのを。
門番の中国風の女性が、緑色が目立つ巫女を羽交い締めにし、紫色の魔女が何やら魔法陣を敷き、金髪で胡散くさいスキマの妖怪が何やら黒い割れ目を開き、それらを自分の姉が面倒臭げに見ている。

「私じゃなくてもいいじゃないですか!そもそも、私は風祝(かぜはふり)で色々問題が……」
「じゃあ美鈴、押し込んで」
「ちょっとー!?」

どうやら、あの割れ目は何処かに繋がっていて、現在巫女は放り込まれようとしているようだった。

そう考えた時には、彼女は動いていた。
楽しそうに、無邪気な子供そのものの姿で。



218 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:21:46.75ge8.Nu20 (18/35)



「っ!?」
「えっ」
「っあ!?」
「妹様っ!?」
「フラン!?」

彼女は、周りの知り合いにも構わず、スキマ妖怪を突き飛ばしてスキマに飛び込んだ。

それは、もしかしたら彼女なりの反抗だったのかもしれない。
勝手に、自分に何も教えてくれずに楽しそうなことをしていた知り合い達、姉に対しての。


子供っぽく、無邪気に、後先考えず。


だからだろうか。
こんな目にあったのは。

(痛い)

その単語一つが、地面に倒れ伏す彼女の脳内を埋め尽くしている。
とにかく、痛い。
体を切られた痛みとも違う。
弾幕に当たった時の痛みとも違う。
腕を爆砕してしまった時の痛みとも違う。
まるで、魂というものをガリガリ削られたかのような、痛み。

「あ、ぐ、ぅぅぅ……っ!?」

声にならない悲鳴が、小さな唇を震わせる。
そこに、先程までの狂気に染まった姿はない。
痛みとともに、狂気も吹き飛んでしまったかのように。
実の所、今日彼女は始めて日光を浴びた。
今まではずっと地下に居た上、外出の際は"とあるメイド"が日傘をさしてくれていた。

だから、吸血鬼の弱点である日光を浴びたのは、生きてきた"495年間"の中で始めてだった。




219 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:22:24.74ge8.Nu20 (19/35)



「う、ううっ……」

想像を絶する痛み。
肩に直撃しただけでこれだ。
もし、全身に浴びた場合、彼女は本当に魂ごと消滅するかもしれない。
肉体の再生はとても遅く、フランは今し方"壊しかけた"もののことを意識から吹き飛ばし、ただ呻く。

だが、

(──っ)

足元から僅かにだが漂って来る陽気に、彼女の全身が恐怖で震える。
それは、消滅への危機に震える少女の反応。

(……罰が、下ったのかな……)

フランは、痛みで朦朧とする頭でそんなことを考える。

彼女は、自分が"おかしい"ということを重々承知していた。
生まれた時から『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』などという、数ある力の中でも特段異常な力を持っていた彼女は、その能力で気がふれていた。
呼吸と同感覚で物を破壊でき、しかも破壊に快感を覚える。
破壊に快感を覚えるというのは、人間も妖怪も大して変わらないだろう。
しかし彼女の場合、破壊の力を持っていた。
簡単に幼少期から物を壊し、他人を壊し、全てを壊し。

壊した瞬間にあるのはただ狂おしいまでの快感と、壊した後に残るのは壊した物が無くなるという虚しさ。
まるで、麻薬のように、彼女は破壊に溺れていたのだ。

彼女の姉が自分を幽閉した時も、特に反抗はしなかった。
おかしいのは事実だったし、幽閉する以外に自分を止める手段が無いのも分かっていたから。
魔法と鋼鉄の壁に守られた地下の部屋に、彼女はずっと居た。
時々、館の住人と話すことはあったけど。


ずっと、ずっと、ずっと、一人で。





220 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:23:05.09ge8.Nu20 (20/35)




それはしょうがないことで、同時に認めたくないことでもあった。

自分の力で壊せない、つまりは自分よりも強い友人が出来てからは、破壊衝動も大分治まった。

しかし、彼女の破壊衝動が完璧に消えた訳ではない。

彼女は、破壊を続けていた。
ただただ、精神を安定させる快感のために。
妖怪にとって、何かを壊したり殺したりするのは全くおかしい事では無い。
何故なら、妖怪という生き物が人々に恐れられるべき幻想(存在)なのだから。
だから、妖怪にとって殺生は大した罪では無い。


だけどフランは、自分が違うと知っていた。


他の妖怪にとって"破壊"が食事なら、
フランにとって"破壊"は麻薬。


とてもとても、悪い事だということは、心の底で理解していた。


日光が、砂煙を貫いて空間を満たして行く。
後数秒で、まともに光を浴びることになるだろう。
彼女は、これが自分に対する罰だと思った。
罰なら受け入れようとも思った。




"だが"、


「お姉様……っ」


ここに居ない姉を、彼女は呼んでいた。
つまりは、助けを求めていた。
死にたく無かった。
吸血鬼というのは死ぬことが稀な存在であり、フランに死への覚悟などありはしない。

彼女は、幾つもの命を"破壊"して来たというのに。




221 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:24:05.30ge8.Nu20 (21/35)



(ば、かみたい……)

心でそう思っても、体は正直だ。
痛みで震える体は日光から遠ざかろうと必死にもがき、硬く瞑った瞼からは透明な涙が音もなく零れ落ちる。

頭の中を、様々な思い出が駆け巡って行く。


なんだかんだ言いつつ、自分や姉の我侭を苦笑しながらも受け入れてくれた門番の女性。

本を幾つか持って来てくれた図書館の司書の小悪魔。

小悪魔の主で、姉の親友の七曜の魔女は魔法関係の知識で様々なことを教えてくれた。

過ごした時間は短いけど、特別な力を持った完璧で、でも何処か天然なメイド長。

自分に、世界は広いということを教えてくれた黒白の魔法使いと、紅白の巫女。


そして。
何時も何時も、それこそ生まれた時から迷惑だっただろう。
影でこっそり『アイツ』と馬鹿にしたりもした。
関係無い、自業自得な怒りをぶつけたりもした。
時には、無茶なお願いもした。
だけど。
彼女は全てを受け入れ、怒り、笑い、悲しみ、隣に居てくれた。
ずっと変わらず、愛情を注いでくれた。
誰よりも、大切にしてくれた。
たった一人の、姉。


「ごめん、なさい……」

最後なのだからと、彼女は呟く。
届かないと分かっていながらも、呟く。
不幸を撒き散らす自分の存在を、謝るように。

そして、無情な太陽は光を強める。
砂煙が晴れ、




彼女を、包んだ。



222 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:24:42.08ge8.Nu20 (22/35)
















(……なんだろう)

闇の中、フランドール・スカーレットは考える。

(全然、痛くないや)

日光に包まれたというのに、欠片も痛く無かった。

(もしかして、痛みを感じなかっただけなのかな?)

だとしたら、運が良い。
恐らく、痛みを感じていたら地獄の劫火に勝る痛みだろう。

(ここ、何処なんだろ?)

真っ暗で、何も見えない。

(地獄じゃ、ないのかな)

"幻想郷"に存在する地獄では無いようだ。

(外で死んだから、地獄には行けなかった?)

適当に推論を述べる。

(でも、ここいいかも)

死んでいるのだからと、正直な気持ちを吐露した。




223 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:25:19.60ge8.Nu20 (23/35)



(だって、あったかいし)

体全体を包む、柔らかな温かみがとても気持ち良く、










「……えっ?」






"体全体"を包む、柔らかな温かみ?
死んだのに、何故?
いや、そもそもだ。


今、自分は声を出さなかったか?


そして、少女は"瞼を開く"。

まず最初に、多少涙目になった緋色の瞳に映ったのは、壁。
真っ黒な壁が、自分を包んでいた。
よく見ると、壁は布。

それは、"服"だ。

硬めのごわごわした上着が、彼女の体に押し付けられている。
全身を、似たように包んでいた。




224 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:26:18.91ge8.Nu20 (24/35)



「……」

フランは、恐る恐る視線を上に上げる。


そこには、


「あーちくしょー!」

自分で自分に文句を叫ぶ、彼女が先程"壊しかけた"少年の、何処か後悔するような、それでいてやり遂げたような、不思議な表情。




彼女にはその姿がまるで、都合の良い物語の王子様(ヒーロー)かのように見えた。





















(だー!畜生!何で体が動くんだよ!)

とことん自分の思い通りに動いてくれない己の肉体に、彼は心中で罵倒を放つ。
浜面仕上は結局、名も知らぬ少女を助けた。
覆い被さり、日光を遮ることで。
抱きしめるように彼女を包み込みながら、彼は早くも後悔していた。




225 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:27:06.89ge8.Nu20 (25/35)




が、同時に何処かスッキリしてもいた。


それは、彼を変えた人物と同じことが出来たからだろう。
彼は、少し前は自分でも馬鹿にしたくなる程の屑だった。
貧弱で、それもただ弱いという訳で無く、誰かのために戦える心の強さも無かった。
誰かに頼りながらも、自分のこと以外を考えてない。
そんな、どうしようも無い奴だ。

だけど、"とあるツンツン頭のヒーロー"が彼を変えた。

全くの赤の他人の癖に、完璧な部外者の癖に、一つの命を助けるために銃弾飛び交う戦場に踏み込んだヒーロー。
彼の姿に、浜面仕上は憧れたのだ。


だから、彼は助けた。


(……なんでか体は動くしなぁ)

心の強さなんてものは紛い物だと思っていたが、案外馬鹿に出来ないなと浜面は苦笑。
そして自分の顔をキョトンとした表情で見てくる少女に尋ねる。

「えっと、日光が駄目なんだな?」
「えっ、あっ、うん……」

少女はおどおどしながらも頷いた。
先程のことがことだったため、警戒されてるかと思えばそうでも無かった。
あの気持ち悪い狂気も、今は全く感じられない。

「普通の光は?」
「だ、大丈夫」

再度の質問に満足のいく答えを返されつつ、彼は上着の前を開け、なるべく日光を遮る範囲を広げる。
そしてそのまま、

「よいしょ!」
「ムグッ!?」

少女を上着で包み、抱え上げた。
あれだけの破壊を起こせたとは思えない程、その体は軽い。
子供なので、足を丸めてしまえば浜面の体と上着で日光を遮れたのだ。
後少しで太陽は沈むので、覆い被さったまま夜を待てば良かったのだが、そうもいかない。
風紀委員や警備員が来てしまう。



226 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:27:47.40ge8.Nu20 (26/35)



「悪いけど、このままここに居ると色々不味いから俺ん家に来てもらうけど……いいか?」
「う、うん……」

返事を聞き、浜面仕上は慎重に、それでいて速く走る。
太陽を背に、前に抱えている少女に日が当たらないよう。
少女の未発達な柔らかい感触が彼に触れるが幸か不幸か、

(検問とかしかれてるか?もし有ったらあの手で……いや、女の子をこんな誘拐みたいに抱えてる時点でアウトだよな!それよりも日が当たらない部分で隠れてた方が……)

思考の渦にはまり込んだ彼に、それを感じる余裕は無かった。


だから、きっと彼が"笑っていた"のは、






自分の手で、自分の理想(ヒーロー)に近付けたからなのだろう。














(……暖かい)

抱え上げられ、揺らされながらフランは思う。
服の上から伝わる、確かな温かみ。
今感じている人肌独特の温かみは、今まで彼女が感じて来た温かみと違っている。

(男の人、だからかな)




227 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:28:53.66ge8.Nu20 (27/35)



多少土臭い上着に包まれ、しかし微かに感じる汗の匂いが、何故か心地良い。
彼が走る度に体は揺れ動き、彼女の意識を和らげる。
このままだと、眠ってしまいそうだ。

「……ねぇ」
「っ、お、おぉ。なんだ?」

呼びかけたら、少し彼は動揺した。
やはり、自分のことが怖いらしい。
怖いのに、なんで助けたんだろうとフランは考えて、クスリと笑う。
答えは分からない。

けど、分からないことが無性に楽しい。

絶対にあり得ないと考えてすらいなかった展開が、これ程楽しいとは思わなかった。
突然笑った自分を、首を傾げて彼が見ている。

「フランドール・スカーレット」
「はぁ?」

名前を名乗ったら、彼は更に混乱していた。
フランはよくこんな思考速度で私の弾幕を躱せたなぁ、と心の中で呟き、

「名前。教えて」
「……そういうことか」

彼は、手が空いていたら頭でも掻きそうな、何とも言えない表情で、




「浜面。浜面仕上だ」






228 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:29:28.37ge8.Nu20 (28/35)





(浜面。浜面仕上)

復唱する。
温かみの中、揺らされて、匂いを吸い込みつつ。
彼の──浜面の名前を。


この時、フランドール・スカーレットの中で、




"壊す筈だった他人"は、"浜面仕上という一個人"に変わった。




白い肌は、ほんのり赤く染まっている。












229 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:30:24.81ge8.Nu20 (29/35)





「……」

アレイスター・クロウリーは珍しく、本当に彼にしては珍しく唖然としていた。
つい一時間前、此方に死に物狂いでやって来た八雲紫に事情を聞き、慌てて捜索を開始したのが五十五分前。
ビル地帯が崩れていたという報告が五十分前。
『神』のせいで"滞空回線(アンダーライン)"が使えないため、予想以上に見つけるのに時間を使ってしまった。


吸血鬼、フランドール・スカーレットについては前から認識していた。

彼女の能力は『神』に通用する可能性があるからだ。
しかし、精神的に危険なため、案は消えた。
敵の損害よりも味方の損害の方が高くなる可能性が高い。


そう、アレイスター・クロウリーですら御しきれないと判断したのだ。


なのに、


「へぇ~。で、その人はその時なんて言ったの?」
「長かったから全部は覚えてねぇけど、確か──って」

ビルの一室にて、フランドール・スカーレットと会話していたのは、アレイスターが少しばかり危険視していた存在、浜面仕上。
彼はとある超能力者(レベル5)を撃破しているのだ。
ただの、無能力者(レベル0)なのに。

そんな要注意人物二人は仲良く話しており、フランドールからは狂気を感じない。

予想外の、本当に予想外の状況に、アレイスターは頭を抱えた。

「……どういうことなんだ」

割りと本気で。









230 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:31:03.19ge8.Nu20 (30/35)











「それで?どうだったんだ?」

"幻想郷"──、紅魔館の一室にて、レミリア・スカーレットという吸血鬼の少女が尋ねる。
風貌は幼く、銀と青を混ぜ合わせたような髪と、背中に生えた一対の蝙蝠の様な翼が特徴的だ。
こう見えても500年を生きる、立派な吸血鬼である。
そんな椅子に座って紅茶を飲む彼女に尋ねられたのは、やっと戻って来た八雲紫。
やっと、といっても三時間しか経ってはいないのだが。
彼女の内心を表すかのように、カップを持つ手が震えている。
彼女は"妹"を心配する、それでいて素直で無い少女に少しだけ笑って、

「話を聞いた所、危なかったみたいだけど偶々居た"人間"に助けられたみたいね」
「ええっ!?よくその人妹様に殺されませんでしたね……」

反応したのはレミリアでは無く、隣に立つ紅美鈴。一応、妖怪。
彼女は紅い長髪とチャイナドレスを揺らしながら、本気で驚く。
あの精神が不安定な状態のフランに遭遇して、生きていたというのはもはや奇跡の域だ。
生き残れるとすれば、美鈴やレミリアのような人外、僅かな力のある人間だけだろう。
異世界というのは凄いんですねーと、彼女が関心していると紫はあぁと付け加える。




231 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:31:40.19ge8.Nu20 (31/35)



「それが"彼"、一度殺されかけたらしいのよ」
「……はい?」
「運良く太陽のおかげで助かったらしいんだけど、その太陽から庇ったのも彼らしいのよねー。あっ、ちなみに何の力も持ってない、普通の一般人だったわ」
「………………すみません、訳が分からないんですが……」

殺されかけた人を助けるって、その人馬鹿ですか?
と、会ってさえもいない見知らぬ人間に美鈴がツッコミを入れていると、

「……そう」

カチン、とレミリアはティーカップをソーサーに下ろした。
カップの中身はカラッポで、美鈴は慣れた手つきでテーブルの上のポットを掴んで注ぐ。
コポコポと、温かい湯気を放ちながら、紅い紅茶がカップに溜まって行った。
やがて入れ過ぎず、されど少な過ぎ無いというギリギリまで入れた所で、美鈴はポットをテーブルに置き直す。
レミリアは直ぐにカップを掴み、持ち上げながら、

「で?何でフランを連れて帰らなかった?」




232 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:32:14.16ge8.Nu20 (32/35)



ギロリと、視線だけで普通の人間なら殺してしまいそうな殺気を紫に飛ばす。
だが紫は慌てず騒がず、胡散臭い笑みを浮かべていた。

「そうですねぇ……理由の一つとして一人しか行き来出来なかったことと……」

彼女は、一旦言葉を切り、




「淑女は、"恋する乙女"の味方だからですわ」




…………………………………。

「「……はっ?」」

長き沈黙の後、幼き吸血鬼とその従者はそれだけ呟いた。
レミリアに至っては、カップから紅茶がドボドボテーブルに零れている。汚い。
白いテーブルが紅に染まって行く光景をあらまぁ、と見る爆弾発言者にレミリアはプルプル震えながら尋ねる。

「……だれ、が恋する乙女、なの?」
「決まってるじゃありませんか。フランドール・スカーレットですわよ」
「……誰に?」
「助けてもらった人間の男に」

そこで、漸くショックから復帰した美鈴が主人と同じように震えながら尋ねる。

「なんで、そんなことが……?」
「あら、私もそれなりに恋愛事には詳しいのよ?見れば彼女が恋する乙女だと、直ぐに分かりましたわ」




233 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:33:09.56ge8.Nu20 (33/35)



胡散臭い口調で言うのだが、何処か真剣味を感じる。
今までに無い彼女の言葉に、レミリア・スカーレットは顔の筋肉を痙攣させながら、再度の問いかけ。

「……冗談、じゃないんだろうな?」
「……はぁ」

ため息を吐いたスキマ妖怪は、帽子の隙間から零れた前髪を掻き上げ、


「マジよ」


何時に無い真剣な顔つきで、レミリアの言葉を否定した。
それは彼女が今言った内容全てが正しいという証拠であり、また彼女の愛する妹が自分の知らないうちに大人になったということでというか恋とか自分したこと無いんだけど何で自分はこんな意外な面で妹に負けるんだあぁどうしよう赤飯を炊くべきなのかいやここは姉として『認め無い!』とか言ったりいやまてまて自分はまだそのフランの好きな人を見てないではないかもしかしたらとんでもなく素敵な男性で姉も恋に落ちるなんていうドロドロ三角形に……

ぐるぐるぐるぐる…………

「……きゅう」

思考の負荷に耐えきれず、レミリア・スカーレットは目を回して崩れ落ちた。
カップかテーブルの上に放り出され、小さな体が崩れ落ちる。
その姿は見た目相応で、紅魔館の主としてのカリスマなど無い。
まぁ、色々限界だったようである。

「お嬢様!?お嬢様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

カリスマが破壊された主人に叫ぶ、美鈴の叫びが幻想郷に木霊した……かもしれない。




「さて……どうなることやら……」




ただ八雲紫はそんな光景を眺めつつ、『神』さえも予想して無かったであろうこの展開に、笑みを浮かべていた。

意地悪な、策士の笑みを。










234 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:33:45.71ge8.Nu20 (34/35)


















世界は奇跡で埋め尽くされている。
人々は各々の奇跡を選び取り、
世界はそれに答え、輝きながら周り続ける。




















235 ◆roIrLHsw.22011/01/02(日) 11:34:33.83ge8.Nu20 (35/35)







少し間が空きました。お久しぶりです。
そして明けましておめでとうございます。
ただの電波から始まったこの話も、ようやくプロローグあたりが終わりました。
次回の総集話によって各々の今までの状況まとめ、及びキャラ達が出て来ます。
まぁ、間話ということです。戦い前の。
今回最後らへんが短く、状況整理が無いのもそのため。

次回、『神』の正体が分かるかも……?

それでは、今年一年も頑張って行きます!




236あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/02(日) 12:36:58.67F/GN7CMo (1/1)


はまづらはやっぱりはまづらなんだな


237あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/02(日) 13:17:46.95HpSZckY0 (1/1)

東方は歌と弾幕と~程度の能力と影絵しかしらない俺に説明plz

一方さんの天使化は神の力以上だからなぁ……どうなるのか
しかし現在ねぎまが空気化しているが大丈夫か?

そして姫神の能力は吸血鬼(多分ある程度近い距離の)がいた場合、本能的にすわずにはいられなくするから。
フランが吸血鬼らしいから、多分ケルト十字はずした瞬間吸いに来て自滅する。
……姫神の命が残るかはわからんが


238あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/02(日) 15:44:20.18G0Nv4iw0 (1/2)

エイワス=永琳
アレイスター=月人
フィアンマ(全盛期)=紫
ガブリエル(天使状態)=萃香
禁書キャラの東方での位置づけはこんな感じかな?

>>237
能力の規模なら天体制御でどんな天体でも操れるガブリエルだけど、戦闘力ならユーラシア大陸破壊規模の攻撃を防げる天使化一方の方が上かもな;(てか禁書インフレし過ぎ)

フランは人間を襲うのがヘタで跡形も無く消し飛ばしてしまうみたいだし、姫神だけが死ぬんじゃないか?


239あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/02(日) 19:54:10.00HxR48kAO (1/2)


>>238
流石過大評価
プランク爆弾とか永遠を使わすなら月人はそんなレベルだと思うけど

吸わずにいられないからフランだけが死ぬ
いくら能力が高かろうが関係ない


240あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/02(日) 20:07:09.01HxR48kAO (2/2)

訂正
流石に過大評価


241あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/02(日) 21:05:21.37G0Nv4iw0 (2/2)

>>239
いや、フィアンマが紫に勝てるかとかそういうのじゃなくて、両作品のパワーバランス上での位置付けってだけの話。
いわば強さの序列を当てはめた感じだな。

プランク爆弾ってどれぐらいの威力?核よりは確実に威力は高いみたいだが。


242あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/02(日) 22:39:23.06YdQmoEDO (1/1)

>>237
一方天使が神の力以上はないな
ヒューズ風斬と共闘でしかもアッークアさんが力押さえてたからな


243あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/03(月) 00:07:35.57z3pgmw20 (1/1)

>>242
あそこは天使化どころか黒翼すらだしてないんだぜ?


244あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/03(月) 01:30:34.904MZb52so (1/1)

オーケー強さ議論は荒れるからそこまでだ


245あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/03(月) 03:22:22.99UHp1Vo6o (1/1)

禁書の強さ議論ほど不毛なもんってないと思う




246あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/03(月) 03:35:39.01TuBrWcAO (1/1)

>>241
プランクエネルギーは原子力エネルギーの約10^21倍
このエネルギーを超えると時空上に存在し得なくなる
エネルギーの限界量という設定

因みに超小型のプランク爆弾がある


247あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/04(火) 00:03:10.304y1GxSM0 (1/1)

>>239
上でも言われてるがフランは血を吸いたくても吸い方がわからず、相手を血の一滴残らず爆砕してしまうからな?
姫神にとっては最悪の相手。

あと東方は情報が少なすぎるから拡大解釈もクソもない。作者の匙加減だ。
紫の能力なら別にフィアンマ以上だろうと以下だろうと別に驚かん、「月人に勝てない」しか判ってないからな
せめてゲッショーでなんで勝てないのか書いてくれればよかったんだが


248あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/04(火) 12:56:28.72kM3am060 (1/1)

>>239
フランにとっては異能の力の塊で、何度破壊しても復活する天使連中の方がはるかにやっかいだと思う。
神の力なんて破壊したら周辺数十キロは灰になる規模の爆発を起こすし。

ただこの作品で神の力なんてまず出ないとは思うけど。


249あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/04(火) 16:18:34.12YDjZkoAO (1/1)

襲い方を知らず吹き飛ばしてしまう
確かに断定するのは言い過ぎた
吸いたくなくとも吸ってしまう程のものを前に、先ず破壊するかは疑問
まあ、作者の匙加減だわな

>>247
高度な科学力、強靭な生命力、妖怪の手に負えない未知の力


250あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/04(火) 22:12:22.61GOFK6Fk0 (1/1)



   待符「>>1マダー?」


251 ◆roIrLHsw.22011/01/05(水) 11:19:45.25fHVtzzw0 (1/1)

現在正直に言うとゲームで執筆停止中……
いや、本当にごめんなさい。
東方の"アレ"をやってスペルカードが弾幕とどう違うのか見たりしてるんですが……
"あの子"を出すためには必要なんです。"全人類の○○○"とか使わせるためには。


強さは基本的には決めてないです。
大体、弱・中・強で大まかには分けてるけど、やっぱり結局は相性です。
>>238の図で言うならば、フィアンマは永琳や萃香には勝てるけど、法則を完璧なまでに覆す紫には勝てません。
フィアンマはノーマルな敵に対してはほぼ無敵ですから。余程の特殊で無い限りまず負けません。
天使は正直東方やネギま実力キャラの三人分はあります。
エイワスに関しては……多分天使、月人、殆どが一人では勝てません。

でもあくまでガチで、真正面からぶつかった場合なので状況、時の運で絶対に変わります。


では、さっさとゲーム終わらせてスペルカード見て書きたいと思います。




252VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/05(水) 15:14:05.266PwSJNI0 (1/1)

エイワスはなぁ・・・
それこそ倒すには顕現したアラストールとか、
龍神だとか魔界神だとか天照あたりを連れて来なきゃ倒せないんじゃって気はするよね・・・


253VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/05(水) 17:18:37.311OofVqY0 (1/1)

魔界のアホ毛神は星蓮船の設定のおかげで一気に最強候補になったよな
まだ出てきてないけどな!

龍神とどっちが強いのやら


254VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/05(水) 18:18:51.45QjK425g0 (1/1)

作中ではフィアンマ>神の力だけど、東方勢と戦うなら明らかに神の力>フィアンマなんだよな・・。(幻想郷破壊は無しとして)
依姫なんかはフィアンマと相性最悪かもしれんが。

>>252
全盛期のフィアンマの時点で惑星を消せるんだから、たかが十字教程度って言ってられるアレイスターよりもはるかに強いエイワスって一体・・;
3月から新約になるみたいだけど、ドラゴンボール並みのインフレは覚悟した方が良いかもな。


255VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/06(木) 20:53:57.16RTR1P6AO (1/1)

>>251
紫にそんなこと出来たっけか?


256VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/11(火) 09:35:48.86MNvkCU7AO (1/1)

東方に偏ってるな


257 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:23:31.68rclQNgSM0 (1/77)




>>252
エイワスは正直なんなんでしょうね、正体。
天使の記号から外れた天使……?うーん

>>253
正直、星蓮船の設定余り知りません!
ですが、魔界のあの神は最強クラスだと想定しています。

>>254
依姫がジャンケンでグーチョキパー以外にも大量の手が使えるとしたら、フィアンマはジャンケンを行った時点で勝ちですからね。グーだろうがチョキだろうがパーだろうがそれ以外だろうが
あぁ、三月が楽しみ+怖い……

>>255
境界というのはあらゆるものに存在するので、解釈的には可能だと思います。

>>256
他も少しづつ出すつもりです、すみません……



なんか2ちゃんねるで大変な騒ぎがあったみたいですね。
詳しくは知らないけど。

では投稿します。





258 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:25:09.29rclQNgSM0 (2/77)









「あっはははははははははは!!」

高笑いが一つ、暗い暗い空間で響く。
笑っているのは、一人の青年。
おぞましい、邪悪な笑いは見た目と合わず、またそれが一種の怖気を走らせる。
悲鳴の如く震える大気。
本人は気にせず、ひとしきり笑っていた。

「はははははははっ!浜面仕上!面白い!全く持って面白いよ!」

空間に満ちるその言葉一つ一つが、重い。
言葉自体は軽い筈なのに、まるで怨念のような重さを持っている。

「まさかまさか、フランドールを懐柔するとはな!マジで予測不可能、本当の奇跡だ!実力でも、運でも、状況でも無い!そう、"偶然"!」

段々と、声がおかしくなってきた。
まるで一度に大量の人間が同じ言葉を喋っているような、そんな言葉。

「これだから、人間で遊ぶのは止められないというもの!あぁ、久しぶりね、こんなに笑ったのは何時振りだろうかなぁ!」

ビキ、と。

近くにあった何かに亀裂が入る。
だが、"ソレ"は気にしない。
ただただ、笑い続ける。

「"封絶"の有効人物に入れてあげたんだ!踊って楽しませろよ!?あはっ、はははははははははははははははははははははっ!!」

バキャンッ

何かが、弾けた。
だが、"ソレ"は毛程にも気を止めない。
ただただ、笑い続ける。




259 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:25:55.13rclQNgSM0 (3/77)





「さぁ、舞台は間も無く準備を終える!観戦者は私と八雲紫にアレイスター・クロウリー!舞台は飛び入り参加ありの大宴会!」

"ソレ"は、






「さぁて、どんな"劇"になる?どう登場人物達は踊ってくれる?ははっ、はははははっ、ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっっ!!!!!」






狂って、笑っていた。









世界において、十月十六日、深夜と称される時間の時のことである。













260 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:26:38.41rclQNgSM0 (4/77)










上条当麻は欠伸をしていた。

「ふぁ~……」

大きく、口に手を当てつつ彼は息を吸い込み、吐き出す。
暢気な、惚けた姿。
彼は現在、高校の教室に居る。
月曜日の今日なら二日ぶりの学校だー!と生徒の何人かはテンションが上がるだろうが、生憎と上条は昨日補習で学校に来ていたのでテンションなど上がらない。
むしろ下がっていた。
教室はザワザワとざわめき、朝のHR前独特の雰囲気を保っている。

「あー……」

窓際の席に一人、テンション最低の状態で陽気に浸る。
結局昨日自分が居ない間に何があったのか、シスター少女ことインデックスとフレイムなんとかのシャナは、仲が良くなっていた。
あくまで上条視点からの話であり、シャナ本人に聞けば否定されるだろう。
彼女が全くもって素直で無いことは、たった二日だが分かっている。
なにせ昨日、上条が帰って来てからの台詞が『別にここ以外に行く場所も無いし、行く場所が見つかるまでここに居るから』だ。
耳だけが赤かったのが、印象に強く残っている。

「……本当に何があったんだ」

同居人少女の偉業に、上条が冷や汗を垂らしながら感服していると、

「カミやんどうしたんや~?」
「本当、お前は何時も通りだな」

青髪ピアスの大男がヘラヘラ笑いながら上条の横の席に座っていた。
彼も昨日上条と同じ様に補習を受けた筈なのだが、元気が無いようには見えない。
むしろ元気良さそうだ。





261 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:27:30.91rclQNgSM0 (5/77)



「当たり前や!なんせ本来ならありえん休日の二日連続で小萌先生に会えるんやで?テンション上がらへん方がおかしいわ!」
「おかしいのはアナタです」

ビシッ、とツッコミを入れてもはははーと陽気に笑い続ける青髪ピアス。
再度、上条は重くため息を吐く。

「あっ、そういえばカミやん聞いた?」
「何をだよ?」
「"昨日の事件"」
「はっ?」

肩肘をついたまま、彼は首を傾げた。
昨日の事件、と言われても思い当たる出来事は無い。
精々、帰り道安いメロンパンを買って少女二人にあげたら『なんなのよこの科学調味料ばっかりのメロンパンは!馬鹿にしてるの!?』と投げつけ返されたことだろうか。
今思い出せば、かなり理不尽な気もする。

「廃墟ビル地帯があるやんか?あそこでビルが幾つか倒壊したそうや」
「ふん?」
「かといって重機を使われた様子も無いんで、高位能力者の仕業やないかって言われとるんやけどな」
「へぇ……」

頭の中で、もたらされた情報を反復した。
もしかしたら、あのいけすかない学園都市ナンバーワンが言っていた『戦い』に、関係があるのかもしれなかった。
上条はそう思い、しかし何処か自覚が薄い。

(……実際よく分かんねぇな)

世界の存亡をかけた闘い、などと言われてもさっぱり自覚が湧かない。
話のスケールが大き過ぎるのだ。
『戦い』と言われても、彼に起こった変化といえば異世界から来たという少女一人。
確かにその少女は明らかに普通では無かった。
人間離れした身体能力、普通ではあり得ない不思議な道具。





262 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:28:20.42rclQNgSM0 (6/77)




しかし実の所、"それだけ"なのだ。


彼は馬鹿みたいな身体能力を持つ人間を知っているし、とんでもない道具も見たこと聞いたこと、対峙したことすらある。
なので、上条には問題の大きさというのがいまいち分からない。
今まで数々の命をかけた事件に関わって来た、故に話のスケールをリアルに想像出来ない。
それは良いことでもあり、悪いことでもあった。

「あれ?そういや土御門は?」
「さぁ?あれや、通学路の途中で可愛い女の子でも見つけて追いかけて行ったんじゃ……」
「だからそれはてめぇだけだっつーの!この青髪変態星人EX!」

ギャーギャーと、何時もの如く騒ぐ二人。
もう既に日常の光景となっているため、周りの人間は特につっこまない。

のだが、

「貴様等……相も変わらず馬鹿騒ぎね。少しは"一端覧祭"に向けて頑張ろうって気は無いの?」

声をかける者が一人。
少女だった。
赤みがかかった黒い髪と、かきあげた前髪が特徴的。
……上条はもう一つ特徴を思い浮かべたが、思い浮かべた瞬間頭突きを喰らいそうなので忘れることにした。
彼女は吹寄制理。上条のクラスの委員長。

「でもさぁ、どうせ中学の時とあんま変わん無いだろ?」
「腑抜けてるわね」

ジロリ、と睨まれ、上条は意味も無くデコを抑える。
危険を本能が察知したからだ。




263 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:28:58.80rclQNgSM0 (7/77)



「そんな風だったら、またお得意の不幸で"あの事件"にも巻き込まれるんじゃない」
「いやいや吹寄さん。上条さんとてビルが倒壊するような不幸に巻き込まれることなんか殆ど無い……よ、な?」
「カミやん、疑問系になっとるで」

自分で自分の言葉になくなって来た上条当麻。
頭を抑え『いやいや上条当麻お前はそんな体験を二桁も行って無いはずだしっかりしろ』とブツブツブツブツ呟く彼を上から見て、吹寄は、

「ビルの倒壊事件もあるけど、それだけじゃないらしいのよ」
「へっ?」
「それは初耳や」
「私も小耳に挟んだだけなんだけどね、どっかの"操車場"でコンテナの山が崩れたらしいわ。しかも明らかに人為的な破壊の跡も結構あるみたい」
「っ」

彼女の口から出たとある単語に、思わず上条は息を飲む。
首の後ろを、一雫の冷や汗が伝う。

「どうしたのよ?」
「い、いや……」

何とか言葉を返す。
そう、本当に何でも無いのだ。
ただ操車場というのが、彼にとって余りいい思い出のある場所ではないということ。

(……まさか、な)
 
外へと視線をずらす。
そこは晴れ模様の大空が広がっていて、彼の悩みなどちっぽけに見えるくらい青かった。




彼は知らないが、今日は十月十七日。






本来の物語ならば、彼はイギリスに行くはずだった日だ。











264 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:29:38.10rclQNgSM0 (8/77)















物語の主人公(ヒーロー)は問題の大きさが分からず、
故にこの最初の、"灼熱"の話は、
彼が主人公(ヒーロー)では無い。






















265 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:30:22.96rclQNgSM0 (9/77)





「……」
「……」

カップラーメンという物をご存知だろうか?
人類が生み出した超高速調理食品だ。
調理方法はお湯を入れて三分待つ。
それだけ。

だが、世の中そんな簡単なことも出来ない子が居るのだ。

「う、うううううううううっ!」
「まだ一分よ」
「け、けどもう待てないんだよ!」

その調理方法の『三分待つ』が出来ない暴食シスターことインデックスは、昨日も同じベットで寝た新たな同居人少女、シャナにストップをかけられていた。
箸をグーで握ってよだれを垂らし、キラキラ光る瞳は小動物のよう。
だがしかし、シャナにかといって彼女を解放する義理は無い。
その無愛想さが、今になって痛くなるインデックスである。

「うー……シャナの意地悪……」
「いや、あんたがおかしいのよ」
「修道女がそこまで強欲でどうする」

突然、男の声が響く。
その余りにも的を射ている正論に、インデックスはうぐっ、と呻いた。
声の主はシャナの胸元にある宝石のペンダント、"コキュートス"に意思を表出させる"紅世の王"アラストール。
彼女の契約者でもある炎の魔神は、呆れた風に(声からしか感情を読み取れないが)、

「たかが三分。その程度の時間を待てぬ者が人を導く立場であって良いのか?」
「うっ……」

箸を握ったまま呻き続ける。
その年相応の姿に、つい昨日とは別人だなとシャナが思っていると、




266 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:31:01.95rclQNgSM0 (10/77)



ピピピッ!


「あっ、三分たっt「いただきます!」


……早かった。
とにかく早かった。
シャナはフレイムヘイズであり、故に彼女は銃弾を視認して躱す程の反射神経が存在する。
だが、そんな彼女の目でさえ霞んで見えるスピードで、インデックスはカップラーメンに食いついて行った。

「「…………」」

唖然とする彼女とその契約者を尻目に、インデックスは止まらない。
汁が飛び散り、かなり汚いが気にしていないようだ。

「ズルズルアムアムむしゃむしゃむしゃっ!御馳走様なんだよ!」

もう何処から突っ込めばいいのだろうか。
その異常な箸の早さか、食い付くまでの猛獣のごとき表情とか、完食までの僅かな時間へか。

「……屋上で食べて来る」
「分かったんだよ」
「我の見当違いだったか……?」

シャナはカップラーメンを持ち、玄関へすたすたと歩いて行く。
その小さな背中を、インデックスは手を振って見送った。

「……ふぅ。片付けないとね」

バタン、と玄関の扉が閉まる音を耳に入れつつ、彼女は修道服を揺らして立ち上がる。

「うーん、でも今日のかっぷらーめんは何時もより美味しかったんだよ」

何時もは三分待たなかったからだよ、とツッコミを入れる人間は居ない。
インデックスはカップを持って台所へ向かった。
とてとてと、柔らかな、可愛らしい足音が一人だけの部屋に響く。

「……」

が、突如笑顔は消え、表情は何処か影がさし、シスターとしての顔になった。
シャナが居ない、今だからこその表情だった。




267 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:31:48.32rclQNgSM0 (11/77)



「……『神』」

一体、それはどんな存在なのだろうか。
彼女は聖職者であり、『神』と呼ばれる程の者がどんな姿でどんな力を持っているのか、知りたかった。
神様を超えると言う『神』。
この世界だけでは無く、全ての世界の絶対強者。

「アレイスター・クロウリーは何を……」

答えを知っていて、しかし何も言わず、あれから姿の一つも見せない学園都市のトップに文句を言おうとした所へ、






「彼なら観戦者だから、過剰の干渉は出来ないのさ。まっ、八雲紫はその分動いてるようだけどな」






サラリと、その声は彼女の耳へ紛れ込んで来た。

始め、インデックスはそれが幻聴だと思った。
もしくは、何かの物音だと。
それだけその言動は自然過ぎ、そして尚且つ人の気配が全くしなかった。
気配、というのも様々だが、大概は人間の息遣いや極わずかな動きによる空気の流れ、振動。


しかし、インデックスは何も感じなかった。
息遣いどころか、物音一つ。


「──っつ!?」

意識を回復させ、彼女は声がしたと思われる場所、自分の後ろを見る。
そこに居たのは、黒い何かだった。
いや、何かという表現は正しく無い。
それは、人。
黒い髪に、黒い目。全身を黒の色調で包んだ日本人らしき青年。
少なくとも"表面上は"人間だ。




268 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:32:37.52rclQNgSM0 (12/77)



「っ」

その姿を見て、インデックスは息を飲む。
突然見知らぬ男性が居たからでは無く、この世の物とは思えない歪んだ笑みへでも無く、理由は一つ。






"影が無い"。






窓からさす、僅かな太陽光。
薄く床に広がる筈の影が、"ソレ"には無い。

人間として、いや、この世の万物として決してあってはならない現象が、今現在目の前で起こっている。

「……幽霊、もしくは、人間とは違う存在?」
「いや、俺は"人間"だよ。散々バケモノ扱いされてるけど」

"ソレ"はインデックスの呟きに、律儀に反応して来た。
何をぬけぬけと、と彼女は思わず心中で吐き捨てる。

(……なんなの……?)

ただ、同時に混乱してもいた。
彼女には、十万三千冊の魔導書が脳内にあり、魔術に関することならほぼ全てのことがインデックスには分かる。
例え神様や更に上にある"人には理解出来ないであろう存在"の話だったとしても、推測や憶測を立てることは出来るだろう。




しかし、分からない、







269 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:33:22.95rclQNgSM0 (13/77)



理解出来ない。不可能。不可解。
目の前の"ソレ"からは何も感じられない。
異世界の力だとしても、何かを感じておかしくは無い。
なのに、全く感じない。

目の前に居るというのに、まるで其処に居ないのではないか、そう思わせるくらい、"ソレ"からは"何も感じなかった"。

「あぁ、映像とかじゃないぞ?俺はちゃんとここに居る」
「……」

それは分かっていた。
映像や遠隔音声にしては、声が余りにも生々しい。

「実際の所、たいしたことじゃない。物質的、空間的に自分の体へ干渉出来ないようにしただけだ。空気も、電子も、光子も、魔力も、気も、妖力も、霊力も、神力も、法力も、存在の力も、天使の力も、全て」

まぁ、その代わり此方からも物理的干渉は不可能なんだけどな、と付け加えて"ソレ"は言葉を締めくくる。
言葉には少し理解できない部分があったが、インデックスにはこれだけは分かった。




これは、たかが一つの世界の法則しか知らない者が、理解できる存在では無い。




足を背後に一歩下げる。
しかし一体何処に逃げろというのだろう。
台所から外へ続く通路には"ソレ"が居る。
他に通路は無く、袋小路だ。




270 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:34:06.89rclQNgSM0 (14/77)



「安心しろ」
「っ!?」

距離を、一瞬で詰められる。
それは本当の一瞬だった。
世界における、時間の最小単位。
三メートルの距離をそんな速さで詰めたお陰で姿がブレる。
光以上のスピード。
例え、インデックスが地球の裏側に逃げたとしても、目の前の存在は一瞬で彼女に追いつけるだろう。

「言ったろ?今この体に残ってるのは光子と声の振動による干渉、それと"世界の束縛"だけだ」
「世界の、束縛?」

なんとか唾を飲み込み、震える声で尋ね返す。
"ソレ"は何が楽しいのか、ニヤリと笑いながら、

「セフィロトの樹は知っているだろ?本来は少し違うが……は要するに束縛だ。人間はここまで、神様はここまでっていうような、世界からの束縛。世界が定めた法。世界が、世界であるための」
「でもそれだと、貴方がここにいる理由が分からないかも」

セフィロトの樹というのは人間や神様などの位階級のことで、言ってしまえば確かに彼が言った通りの物だ。
だとすればおかしい。
世界において、人や神が居られる数は限られている筈だ。
世界とは常に満タンの袋のような物。
無理矢理に別の存在が入って来た場合、世界は──

「あ──」

其処まで考えて、インデックスは気がついた。
そうだ、世界には常に限界がある。
人間の数という、限界が。
限界を超えてしまった場合に待っているのは椅子取りゲームのような、体と精神の移動。
ならば、ならば何故、






あのシャナという"異世界から来た"少女が居るのに、そんな混乱が起きていない?









271 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:34:43.25rclQNgSM0 (15/77)



「なに、簡単なことだ。肉体にかかる世界の束縛を変えればいい」

彼女の考えを読んだかのようにゆったりと"ソレ"は続ける。

「といっても何ら難しい話じゃない。世界に自分を認識させるだけ。方法は千を越す。それこそ、ただ普通の人間なら世界の壁を超えるだけでいい。それだけで、世界は全てを受け入れる。異世界人も、転生者も、神様も、全てのイレギュラーな存在を」

つまりそれは、この世界において真の頂点とは、"世界"という一存在となる。
そして、一存在であるとすると、世界も人と同様。
数で数えることや、破壊さえ可能になる。

「世界は受け入れる。全てを」

もう一度、"ソレ"は呟く。
インデックスの恐怖に染まる表情へ、歪んだ顔を近づけ、










「世界は全てを受け入れる。絶望も、邪悪も、破壊も、破滅も、全て──」















272 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:36:16.21rclQNgSM0 (16/77)






「っ!」

ガバッ!と、インデックスは跳ね起きた。

「……あ、あれ?」

はぁはぁと息を荒げながら、彼女は周りを見渡す。
間違いない。普段通りの、自分が居候させてもらっている部屋だ。

「……夢?」

至極真っ当な答えを、彼女は小さな唇から零す。
しかし、テーブルの上に置かれたコップが、夢だという理由を否定した。

「……痛っ」

ズキンッと、頭に痛みが走る。
反射的に頭を抑えると、手が汗で湿っていた。
手だけでは無く、全身も。
お陰で修道服がベトつき、暑苦しい。

「世界の、法則」

頭を抑えながらも、インデックスは考える。
『神』が話していた内容は、正しくこの世界の限界を超えた、数字で表しきれない類いの話だった。
それこそ、言葉で説明するのさえも。
ただ一つ分かるのは、

「世界を変えられている」

今更ながら、はっきりと自覚が湧き上がる。
異世界からの存在、あれだけの異常な『神』がこの世界に平然と存在すること。
それが、この世界が変えられていることの証明となる。

「だとしたら……」

不味い、と彼女は思った。
そもそも世界はそんなに簡単に変えていい物では無い。
『神』様が作った、神聖で繊細な機構によってなりたつ物だなのだから。

「……その『神』が世界を……」

しかし、残念なことにその神様とやら自身が世界を破壊しようとしているのだ。
彫刻者が、自分の作った石像を叩き壊すが如く。




273 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:37:03.32rclQNgSM0 (17/77)





インデックスは今、この世界に数少ない真理に迫る者だった。
あの『神』にしか分からないであろう、世界という物の『本当の中の本当』。
そこに彼女は迫りつつあった。
世界というものの、本質を。
それはアレイスターや紫でも、異世界に存在する神や閻魔などでも、自論でしか理解できない物。

何故、世界によって神の立ち位置が違うのか?
何故、世界によって人間の持つ力が違うのか?
何故、世界によって異能の力の在り方が違うのか?
何故、世界によって物理法則や因果率さえ変わるのか?
何故、世界によってイレギュラーな転生者などの存在が居るのか?
何故、殆ど同じなのに結末が違う世界が存在するのか?




何故世界は、同じ素材、人、法則から、全く違う物へと変わって行くのか。




セフィロトの樹や数学では分からない、あらゆる世界の法則の中に存在する唯一の真実。




274 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:37:57.70rclQNgSM0 (18/77)



それこそ、『神』の余興とすら知らずに彼女は考えていたが、

「っ……」

再度、頭に痛みが走り、思考が強制的に中断されてしまった。
当たり前だ。
これは既に、人間が理解していい領域を超えてしまっている。
幾らその脳内に十万三千冊の法則を持っていたとしても、無限に存在する世界の真理に届くなど不可能。

「……喉が乾いたんだよ」

それを理解したインデックスは、のろのろとした動きでベットから下りる。
とにかく汗をかき過ぎて、喉が乾いていた。
水が欲しい。


「──あ、れ?」


だが、コップに伸ばされた手は宙で止まる。
傍目からは世界には何も起こっていない。
しかし、彼女には分かる。









「なんで、空気中に魔力が──!?」










275 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:38:34.91rclQNgSM0 (19/77)













彼女は気がつかない。
真理に近づき過ぎ、世界の異変に気がついたせいで。
自身のポケットに放り込まれた、"金色の鍵"に。
















276 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:40:27.43rclQNgSM0 (20/77)












「──これは確かに真実と判断しするべきね」
「あぁ、俺もこれは予想外だ。世界に魔力を振りまくなど」
「恐らく、世界において異世界の者が全力を震えるような配慮ね」

"イギリス"──
深夜の英国、とある場所にて、土御門元春と一人の女性が話し合っていた。

「普通、魔力というのは魔術師自身の生命力を変換して作られる物だが、こう空気中にばら撒かれると不味いことになる」

魔術とは、かなり繊細な物だ。
魔術師である土御門は、自分の肌から感じる魔力に表情を歪めつつ述べる。

「ふむ……まず考えれしは、魔術の暴発と言う所。次は"一般人による無意識の魔術発動"という所かしらね。何せ本来特別な技法で精製せし魔力が普通に存在しているのだから」
「……意外と冷静なんだな」
「ふふっ、色々ありけるのよ」

"上司"の軽い笑みに、影がさしたのを土御門は見逃さなかった。
どうやら、彼女にも『神』とやらが関わっているらしい。

「さて……しかし、混乱が"今から"世界にて起こてる今、よりにもよって学園都市に増援を送るのは難しい話よ」


277 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:41:07.44rclQNgSM0 (21/77)



空気を吹き飛ばすかのように、女性は問題を語る。
土御門は苦々しい笑みで頷き、

「一番良いのは"ステイル"か"神裂"なんだが、二人共仕事中とはな」
「かといって、放っておく訳にも行かぬわね。能力者が魔術を使えるようになっている以上、"能力者(PSI)が魔術(オカルト)の領域に踏み込む"、なんてことになりし可能性は無視できない」

そう。
今、土御門が一番危惧しているのがそれだ。
正直、『神』などどうなろうがしったこっちゃない。
大事なのは、科学サイドと魔術サイドの関係なのだ。
この二つが現在、綱渡りにも近い状態で均衡しているというのに、こんな境界をあやふやにするようなことをされたら。






待っているのは、世界を巻き込む大戦火だ。






何万、下手すると何億単位での命が消えるような。

「ふむ、取り敢えず身内を纏め上げないと話にならぬわね」

そんな、大変な状況に置いてもイギリス清教の"最大主教(アークビショップ)、ローラ=スチュアート"は笑っていた。






278 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:41:47.06rclQNgSM0 (22/77)
















世界の魔術師達を混乱に落とし込んだ、『魔力散布現象』。
十月十七日午前十時に起きたこれにより、実質殆どの魔術結社が活動を停止してしまう。
原因は空気中に存在する魔力による魔術の暴走、及び誤作動。
特にイギリスやフランス、ロシアによる混乱が酷く、"とあるクーデター"は起きなくなる。

しかし現時点において『神』に対抗出来る戦力が、魔力などのオカルトに関係無い科学サイド──




学園都市とそれに付属する幻想郷だけになったのは、確かだった。















279 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:42:23.92rclQNgSM0 (23/77)







──■■■■jptkhanyu■■─kahqimuxb─■■■──gptaknxymwagw■──

a──────────






『来るな"バケモノ"!』

『悪魔よ……あれは悪魔の子よ!』

『に、逃げろ!悪魔に喰われるぞ!』


勝手な拒絶から逃げて、向かったのは他人の居ない山奥。

自分の■■を使って獣を殺して、生のまま肉を食べる汚らしい感触。

何故か涙が止まらず、体を生臭い真紅に染め上げながら、嗚咽を零す。

何故、こんなことになったのだろう。

自分は、誰かを傷つけるつもりなど無かったのに。

ただ、自分の持つ■■を使っただけなのに。

当たり前のことでないと気がついた時には、既に遅かったのだ。

何が『■■■■■■■■■■』だ。

不幸なだけの、無様な力では無いか。


山に、村人達による討伐隊が踏み込んで来た。


自分を、殺すための。







280 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:43:45.42rclQNgSM0 (24/77)







場面は切り替わる。

何処かの古城へ。

古ぼけた、歴史と伝統を感じさせるそこには、血。

石の部屋は紅に染まって、闇夜からの月明かりに照らされる。

さながら、生き物の内臓の如く、無気味に照り出され。

這い蹲るのは、異端の生物。

この世に存在してはならぬ物。

"カインの末裔"。


またの名を、"吸血鬼"。


血みどろのそれに突き刺さるのは、銀の短剣。

一本二本では無く、それは数十単位で突き刺さっていた。

銀という魔術的力により、"バケモノ"は地に倒れ伏す。

次々生まれてくる血の池の中で、軽くステップを踏み、歩く。

己の身が血塗られるのにも関わらず、膝をついて吸血鬼の様子を見る。

まだ息があった。


ドスッ




281 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:44:23.75rclQNgSM0 (25/77)




止めの一撃に血が吹き出し、降り注ぐ。

吸血鬼の魂が見せる最後の芸術とも言える、神秘的で吐き気がする光景。

雨のように降り注ぐが、気にせず歩く。

目的を果たした今、この古城に居る意味は無い。

鮮血のシャワーの中で、無表情に歩くその姿。


自分。






我ながら、"バケモノ"と呼ばれる光景に相応しいと思った。
















「──」

パチリ、と。
瞼が開かれ、光を眼球に取り入れた。
カーテンの隙間からさす太陽光線が、自分の全身を照らす。
何処か暖かいその光を遮るように、十六夜咲夜は額に手をやる。
白い柔らかな寝着に包まれた腕と、それよりも更に白い自分の肌が見える。




282 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:45:01.85rclQNgSM0 (26/77)



「……久しぶりね、"アレ"を見るのは」

自嘲気味に彼女は呟き、ベットからガバッと身を起こす。
布団がはだけられた下に覗いたのは、此方に来て買った寝着だ。
メイド服を何着か置いて行った以外に、八雲紫からの接触は無い。
故に世界の間を渡る術を持たない彼女は、この部屋に居座り続けている。

「さて、ご飯の用意……」

ベットから出て立ち上がり、背伸び。
咲夜は居候の例として料理を作ることにしている。
料理だけでは無い。
日によっては掃除もするつもりだ。

「……」

チラッと視線を近くにやる。
リビングでもあるこの部屋には、もう一人住人が居る。
そもそも、この部屋は咲夜の物では無い。
ソファーに横になっている、彼のためにある部屋だ。
毛布の一つも身に纏わず、彼は普通の服(彼なりの寝着らしい)で横になって眠っている。

「全く」

時刻は現在朝の九時。
普通の人ならとっくに目を覚ましている時間帯だ。
特に彼女の場合、早寝早起きが普通の世界に居たため余計に遅く感じる。
問題の人物は咲夜のそんな呆れも知らず、健やかな寝息をたて眠っていた。
黒いソファーに全体的に白いイメージの彼が横になっているのは中々目立つ。
自分より白い肌を持つ彼を一瞥し、ふと咲夜は考える。




283 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:45:40.33rclQNgSM0 (27/77)



「……"ベクトル操作能力"……」

それが彼から聞いた、彼の力らしい。
あらゆる物のベクトルを操作出来る、と最初言われた際には意味が分からなかったが、説明を聞いて愕然とした。
ベクトルというのは、向き。
この世の物には全て向きが存在し、彼はその向きを自由に操作出来るのだ。
例えば、彼にナイフを飛ばしたとする。
その場合、ナイフの先に彼を突き刺そうとする『力の向き』が存在する訳だ。
彼は、皮膚にその向きが触れた瞬間、それを自由自在に操ることが出来る。
そらす事も、跳ね返す事も、自由自在。
この世の全てのベクトルを操作出来る。ありとあらゆる全てを。
彼女の世界風に言うならば、『あらゆる向きを操る程度の能力』。
この力を使えば、




彼は、例え"地面に立っているだけ"でも世界を敵にまわして勝つことが出来る。







284 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:46:20.79rclQNgSM0 (28/77)



ただ、今まで魔力などは操作したことが無かったため、完璧には操作出来ないようだ。
だがしかし、そうだとしても強い力には変わりない。
なにせその気になれば、地球という星の自転の向きすら変えれるのだから。

"世界を確実にかつ迅速に滅ぼせる力"。
幻想郷でも、滅多にお目にかかれないレベルの力だった。

「……」
「スゥ……」

自分と同じ、いや、自分以上に色素が抜けた髪を少し揺らしながら、彼は相変わらず寝息をたて続けている。
素直な寝顔からは、普段の彼がどれだけ警戒していたのかが分かるだろう。

しかし、その姿から一体全体何人が、彼が人類の歴史を一瞬で終わらせれる"バケモノ"などと思うだろうか。

いや、と咲夜は自分の考えを否定する。
バケモノなどと決めるのは、力の大きさでは無い。
そうだとすれば、"幻想郷"はバケモノしか居ないことになる。
バケモノというのは、


周りが、力ある存在をどう思うかによって決まるのだ。


そして、"人間"にとってバケモノは、バケモノと"呼ばれる"のは ──


「……馬鹿らしい」

今更、自分は何を考えているのだろう。
夢の影響でも受けたか。




285 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:47:04.71rclQNgSM0 (29/77)



コツン、と軽く自分の頭を小突いて、彼女は着替えを始める。
上着を脱ぎさり、ズボンも一気に脱いで下着姿へ。
下着の色は雪のような白で、肌と同化したかのように違和感が無い。
見ようによっては、裸にさえ見えるだろう。
純白のガターベルトを彼女はさくさく付け、違和感が無いよう布地を引っぱって整える。

「っ、うん……」

流石に朝から下着姿は少し寒い。
彼女は何時ものメイド服──ガラステーブルの上にあるそれを取ろうとして、




「っ……ァあ……?」
「──」




バッチリ、目があった。
起き上がって来た、彼と。

(し、しまぁぁ……っ!?)

情けない悲鳴を心中で上げる。
声に出さなかったのは、完全瀟酒を自負する故か。
もっとも、心中は完全瀟酒などとは結して言えない。

(あぁ……忘れてた、時間を止めるのを忘れてた……っ!)

固まった状態で、咲夜は悔やむ。
昨日は彼が居るから態々時間を止めて着替えたのだ。
しかし今日は考え事で紅魔館の自分の部屋で着替えるが如く、堂々と、惜しげもなく裸身を晒していた。




286 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:48:01.85rclQNgSM0 (30/77)



「ン……」

一方、彼は目をこすり、眠たそうな目をソファーの上から向けて来る。
固まったまま、声も出せずに咲夜は次の動きを待っていた。

そして、

「……ン、毛布毛布」
「はっ?」

彼は動く。寝ぼけた状態で。
フラつきながらも手を伸ばし、ガシッと掴んだ。




ガラステーブルの上に置かれた、メイド服を。




ビキリッ、と今度こそ本当に咲夜の全てが止まった。
思考とか呼吸とかも、全て。
さながら時を止められたかのように。
彼はそんな咲夜を無視し(というより寝ぼけて気がついてない)、再度ソファーに横たわる。
咲夜のメイド服を鷲掴みしたまま。

「ふがふが……」

しかも体に毛布のように巻付け、顔を埋めているではないか。
スースーとした布地越しの呼吸音が聞こえる。
つまりそれは、自分の服の匂いを嗅がれているというわけで──

「──ッッ!?!?」

その辺りが限界だった。
顔の色が驚愕の青から羞恥の赤に移り変わり、彼女の腕が勢い良く振り上げられ、


「この……変態ぃぃぃぃいいいいっ!!」
「がはっ!?」


パァーンッ!!と、マンションの部屋に、清々しいビンタの音が響いた。




287 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:48:35.99rclQNgSM0 (31/77)













彼女は後ろを見ない。
過去を見返してしまえば、唯一の自分が終わってしまうから。
彼女は、完全瀟酒であろうと今を見続ける。




















288 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:49:28.83rclQNgSM0 (32/77)








──■■■■jpkpytjhcu■■─kjtrynxb─■■■──kntpgbwuowagw■──

a──────────






『くっ、駄目だ!銃が効かない!』

『対能力者用の装備を至急準備するんだ!急げ!』

『戦車の砲弾が効かないだと……クソ、バケモノめ!』


とある所に、一人の少年が居た。

名字は二文字、名前は三文字。

それ程珍しい名前でも無かった筈だ。

彼は学園都市という場所で、■■を手に入れた。

それが、自分を不幸にする物だと、幼い彼は気がつけなかった。

少し、喧嘩に能力を使っただけ。

大して珍しくも無い、学園都市ならよくあること。

しかしその行為によって、彼は自分が世界を滅ぼしかねないバケモノだと知った。

自分を囲う、化学兵器の山と人の言葉によって。


その日、彼はそれまでの自分を捨て、


一方通行(アクセラレータ)と名乗るようになった。





289 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:50:11.05rclQNgSM0 (33/77)






場所は変わる。

何処かの研究所。

嫌な、人工的な匂いしかしないその場所へ、少年は居た。

白い、何処までも白いイメージしか与えない彼が見るのは、一枚の紙。

そこに書かれていたのは、二万人のクローンを殺すことによって成り立つ、最悪の実験。

彼を"最強"などという中途半端では無く、"無敵"にするための。

少年は、誰とも関わりたくなかった少年は、それを受け入れた。


そして、茶色の髪の少女を殺す毎日。


首を折り、四肢を叩き潰し、反射によって殺し、血管を破裂させる。

彼には一滴たりとも血が触れない。

それが、何者も寄せ付け無い彼の■■だからだ。

人の形をした物を殺す、異常な、壊れた日々。

崩れた操車場の風景の中、ゆっくりと呑気に歩く、無傷の自分。






我ながら、"バケモノ"と呼ばれる光景に相応しいと思った。












290 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:50:55.42rclQNgSM0 (34/77)






「っ~クソが……」

ヒリヒリする頬を抑え、一方通行は呻いた。
彼の頬には赤い紅葉のような跡が一つハッキリと残っており、様々な痛々しさを感じさせる。

「俺が何したってンだ」

一方通行としては、正に一方的な制裁だった。
目覚めのビンタなど何故されなければ無かったのか。
本気で怒り、文句を言おうとしたら向こうは殺気混じりの怒りをぶつけて来たので思わず「あ、あァ。すまねェ……」と理由も分からないまま謝ってしまった。
彼女は「今度から絶対に時間を止めて……」などとブツブツ呟きながら台所へと姿を消した。
スパスパ何かを切り裂く音が聞こえるので、大方料理を作っているのだろう。
彼としては食事が自動で出てくるので、悪いことでは無い。
誰かと一緒に食べるというのは慣れないが。

「あー……」

暇、である。
料理の手伝いなどを一方通行がやる訳が無いため、食事が出来るまで彼は暇だった。
彼女によると普段は時を止めたり加速することにより、かなり調理スピードを上げているらしいが、今は忙しく無いからそんなことはしないと言われたので、それなりに時間がかかるだろう。

「……」

ふとそこで、彼は視線を部屋の隅にやる。
二倍に広くなった部屋の片隅にポツンと、薄型テレビが置かれていた。
一方通行はこの部屋を一時的な隠れ家としてしか考えていなかったため、台所や備品などの細かい設備は調べていなかった。



291 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:51:55.65rclQNgSM0 (35/77)



暇を潰すのには持ってこいだろうと思い、テレビのスイッチを入れる。
パシュン、と軽快な音と共にテレビの画面に光が灯り、映像が流れ出す。

『では次のニュースです』

映ったのは何処にでもある普通のニュースだった。
無論、見たい番組など無いのでチャンネルを変えずそのままにしておく。

『第七学区にて廃墟ビルが倒壊した事件ですが──』
「……ふァ」

が、もう既に意識はニュースから離れていた。
ニュースキャスターが事件の詳細を説明しているのを朧げに感じつつ、一方通行は思考を夢へと飛ばす。
僅かにぼやけたその内容は、懐かしくもあり、馬鹿馬鹿しくもある内容。

(……どうせ、メイドのせいだろォな。カッ、有難迷惑だってンだ)

世界には自分に似ている人間が三人は居るという。
だとすれば、異世界には何人自分に似ている人間が居るのだろう。
少なくとも、一人は居た。

時を操る力──なるほど、応用性から見ても破格の力だ。
空間をも操作し、ありとあらゆる戦略を作り上げる。
しかも彼女はソレだけで無く、魔力や霊力と呼ばれる力によって人間を超えた動きに、空まで飛べる。
異世界人と呼ぶに相応しい力だった。

ただ、一つ。
彼女から他の『~程度の能力』について聞いたが、どうも此方の超能力に似たような力も多い。
具体的には『炎を操る程度の能力』や『風を操る程度の能力』などだ。
しかも能力というのは、人間は余り持っていない物らしい。




292 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:52:42.12rclQNgSM0 (36/77)




だから、憶測が一つ。




人間であって『時間を操る程度の能力』などという能力を持った彼女は、自分と似たような経験をしたのではないか?




間違い無く、そうだろう。
咲夜の自分に対する好意も、自分の咲夜に対する奇妙な対応も、原因はこれだ。


しかし、


「どうでもいいな」

そう、どうでもいい。
彼女がその内にどれだけの地獄を抱えて来たとしても、どうでもいい。
赤の他人の自分に気にすることなどないし、そもそも、自分みたいなバケモノが肉体的にならともかく、精神的に誰かの助けになるなど不可能だ。
一万三十一人の人間を殺したバケモノが、一体何をしようというのか。






自分は、"悪党"なのだから。








293 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:53:20.75rclQNgSM0 (37/77)




どちらにしろ、彼女が大して気にしていない以上、彼が気にすることは無い。

「はいっ」

一方通行が結論を出し終えた所で、テーブルにドンッと皿が置かれた。
皿の上に盛られているのはスパゲッティ。
赤いミートソースがタップリと盛られ、ほかほか湯気を立てるそれから目を離し、対面に座った少女を見る。
咲夜は顔を多少赤くしながら自分の分のスパゲッティにフォークを突き刺していた。
呆れた目で、一方通行は口を開く。

「何キレてンだよ朝っぱらからよォ」
「なんでもないわ」

興奮しながら短く切り捨てる彼女に一方通行は訝しげながらも、用意された自分のスパゲッティを見る。
毒の危険性などは考えていない。
今、彼女が自分を殺した所でデメリットしかないから。

「……」

黙ったまま、一方通行はクルクルとフォークを回して紅く染まったパスタを掬い取る。
本当は肉料理が食べたかったが、我慢した。
口へとフォークを運び、口内に放り込む。

「どう?」
「喰えなくはねェな」
「そう」

辛辣な一言に、咲夜は笑顔で返す。
彼女には分かったからだ。今の言葉が単なる素直になれないだけの言葉だと。
一方通行にそれに気がつき、顔をあからさまにしかめる。




294 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:54:14.50rclQNgSM0 (38/77)



(クソ、面倒臭ェ……)

やはり、一方通行は咲夜という少女をどう解釈しても苦手だった。

冷めない内にさっさと全部食べてしまおうと、フォークを動かす。

「……あら?」
「どうした」

だが、突然目の前の彼女が何かに気がついたかのように、フォークの動きを止めた。

「いや、何時の間にか空気中に魔力が存在しててね。この世界には魔力なんて無いと思ってたんだけど」
「分かるように説明しやがれ」
「つまりね……魔力っていうのは二パターンあって、自分の精神力や生命力を練って生み出す"自分の魔力"と、空気中にあって自分の魔力で従えれる"空気中の魔力"があるの」

ようするに火種とガソリンか、と一方通行は自分流に解釈しつつ、フォークの動きを止めない。
なんだかんだ言いつつ、彼女の料理を黙々と食べていることから、やはり美味しいようだ。

「で、空気中に満ちる魔力ってのは場所や地域によって変わるの。だから本来は空気中の魔力は自分の魔力で間に合わない時に使うんだけど……」
「だけどなンだ」
「元々、この世界には空気中の魔力なんて無いのよ。多分、"空気中に魔力が無いと過程しての魔術及び魔法"しか無いと思うの。もしくは"魔力以外の力を用いた魔術"とか」
「……」

段々、一方通行にも話が見えて来た。
つまり、




295 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:54:52.47rclQNgSM0 (39/77)




「この世界の魔術師達、今ちゃんと魔術を使えるのかしら?」

そういうことだ。
一方通行に実感は無いとはいえ、かなり不味いのだろうというのは想像がつく。
土御門は魔術サイドの増援を求めに行ったのだろうが、そういうことでは本人さえ戦力として期待出来ないかもしれない。

「"幻想郷"から来たオマエは大丈夫なンだな?」
「えぇ」
「なら問題はねェな」
「確かに」

短く会話を終え、二人は食事に戻る。
一方通行は魔力など関係無い(反射には関係あるが)し、咲夜は大丈夫だと言う。
ならば、二人にとって問題は無かった。






二人は、二人でさっさと問題(協力者集め)を解決しようとしていた。
力ずくで。


なんとも、二人らしい選択だった。










296 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:55:28.26rclQNgSM0 (40/77)













白い少年は、貫く。
自分の道、自分の業(カルマ)から逃げずに、
ただ一人ボロボロになりながら、それでも進む。


















297 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:56:13.37rclQNgSM0 (41/77)







「うー……眠いですの」
「"黒子"ー、どうしたのよアンタ」

とある朝。
ある少女は同居人の寝ぼけっぷりに首を傾げた。
呼びかけられた、黒子というらしい少女は茶色かかったツインテールの髪を揺らしながら答える。

「実は昨日、"風紀委員(ジャッジメント)"の仕事で余り寝てないんですの」
「なんか事件があったの?」
「えぇ。ニュースでもあったと思いますが、ビル倒壊事件」
「あぁ」

納得、という声を上げた。
黒子は更に言葉を続ける。

「重機の跡も見られないので高位能力者の仕業と考えられているのですが……」
「ビルを崩すって、結構凄い奴ってことよね」

通学路の道を歩き、少女はそう呟いた。
ビルを崩すとなると、とんでもない力が必要になる。
それこそ──

「しかもそれだけじゃありませんの」
「んっ?」

ふと、隣からの言葉に彼女は思考を中断した。
まだ続きがあるようだ。

「どうやら第七学区遊園地近くの"操車場"で、コンテナの山が崩れたり地面をえぐられたような破壊痕があったそうですの。恐らく、ビル倒壊と同じ犯人だと思われますわ。確証はありませんが」
「っ」
「"お姉様"?」

一瞬、息が詰まった少女へ、黒子は下から顔を覗き込みながら尋ねた。
少女は慌てて手を振り「なんでもないなんでもない」と返す。
そう、なんでもないのだ。
ただ、"操車場"というのが彼女にとって余り良い思い出のある場所では無いだけで。
そのため、胸につっかえるような違和感を覚える。




298 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:56:49.62rclQNgSM0 (42/77)



「しかも」

黒子はそれに気がつき、しかし特に踏み込まずに言葉を続ける。

「両方とも、少し上から圧力がかかりましたの」
「……」

その言葉に、無言となる。
彼女達は少々普通とは違い、普通の学生なら知らない、学園都市の闇に触れたことがある。
なので、上からというのに余りいい印象を抱いてない。

「ただ、様子がおかしくて」
「おかしい?」
「えぇ、今までは自分達の悪い所をもみ消すような悪意を感じる圧力だったのですけど、なんだか今回は"無用な混乱を避けたい"という意思を感じまして。勘ですが」
「ふぅーん……」
「だからお姉様?余り首を突っ込んだり、危険に飛び込んだりしないでくださいですの」
「わ、分かってるわよ……」

後輩の小言にしろどもになりながら返して、しかし、

(……ちょっと、調べてみるかな)

彼女は思考を終わらせ、後輩とともに学校へと向かう。
"茶色の前髪"から、時折"青い火花"を散らしながら。







299 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:57:25.37rclQNgSM0 (43/77)






彼女達が現在向かっているのは、常盤台中学。
学園都市でも名門の、お嬢様学校。






そんな学校へ向かう彼女の名は、"御坂美琴"。











学園都市に七人しか居ないと言われている、"超能力者(レベル5)"の一人。













300 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:58:07.63rclQNgSM0 (44/77)






「なんでこんなことになってんだろうな……」

浜面仕上はベッドの上でため息をつく。
ぼさぼさの染めた金髪を掻き、自分の前にある現実をもう一度見つめ直す。

「……んっ……」

現実が少し身じろぎした。
はぁ、ともう一度ため息。
しかし現実は全く変わらなかった。

彼が寝そべるフカフカのベット。
高級感溢れるそれは、どう見ても隠れ家のボロい布団では無い。
柔らかさといい、香りといい、正しく一級品の物だった。
それから分かるように、ここは浜面が寝泊りしていたビルでは無く、とある学園都市の高級ホテル。
ただ、悪趣味な大地に聳え立つ巨大ホテルでは無く、五階建ての"外観は"普通のホテルに過ぎない。
ここは"訳有りの人"のための、隠れホテルというべき場所なのだ。
さり気なく防弾ガラスをはめ込まれた窓を触り、浜面はふぅと、本日三度目のため息を吐く。
何時もの野暮ったい格好に着替え終わった彼は、改めて自分の状況のおかしさに参っていた。

「『神』だの吸血鬼だの……何時から世界はこんなオカルトちっくになりやがった」




301 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:58:56.81rclQNgSM0 (45/77)



そして世界において科学の最先端を行く、この学園都市のトップがオカルト話を言うのだからもう色々終わっているのかもしれない。
最初は突発的に湧いた怒りも、今では意気消沈していた。
怒った所で"死んだ奴等"は返って来ないし、話された内容もぶっ飛んでいたからだ。

「ホント、一体全体何が何やら……」

世界が終わる?異世界?
漫画で使い古されたような単語を使っての話に茫然となったのはつい昨日の夜だ。

「何で俺なんだよ、クソ」

フランの実際に吸血鬼たる証拠を見た浜面は、どうにかオカルトの存在を飲み込んでいた。
が、何で自分なのかと疑問に思う。
こういうのは、もっとヒーローっぽい奴の仕事では無いのか。


あの、ヒーローのような。


自分は、ただの無能力者だ。
超能力者(レベル5)を倒したりもしたが、運と状況が大きく関わった上での勝利だ。
フランから助かったのだって、ただの運だ。

「どうしろってんだよ」

しかし、浜面は逃げれない。
逃げることを、許されない。
何故なら、助けた少女がなんでかなついたからだ。
彼女はとんでもない戦力になるらしい。
だから、彼女を扱えそうな浜面は、必然的に協力しなければならないのだ。
協力の代償として、こんな隠れ家を利用させて貰っているし。




302 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 16:59:33.66rclQNgSM0 (46/77)



「……はぁ」

五度目のため息を吐きながら、しかし何処か仕方無いかと思う。
なにせ、自分はしっかり考えた筈だ。
フランを助けたことによって起こる、様々なデメリットや責任を。
そう、しっかり考えた。








そして、よかれと思う選択を、彼は自らの意思で選んだのだ。








ならばこそ、浜面は責任から逃げず、真正面から対峙しなければならない。

(あぁ、"滝壺"に何て説明しよう……)

割りと深刻な悩みに呻き、窓の外へと視線を飛ばす。

風力発電のプロペラがクルクルクルクル回っていた。










303 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:00:15.46rclQNgSM0 (47/77)















ただの少年は悩みながらも進む。
己の進むべき道を、ボロボロになりながら。
ヒーローとは、悩みながらも進む者だと知らずに。




















304 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:00:54.79rclQNgSM0 (48/77)





フランドール・スカーレットはベットに潜り込み、考えていた。

(お姉さまに叱られるかな……絶対叱られるよね)

少年と違い、割りと明るいことを。
無論、重大な内容を忘れた訳では無い。
『神』のこと、このままでは世界ごと消されるということ。
なる程、確かに重大な内容だろう。
だが、深刻だからといって何時までもうじうじ悩んでいても仕方が無い。

(……浜面は何してるんだろう)

ベットから出て行った少年がまだ部屋の中に居るのは分かる。
匂いや気配で簡単に。
ただ、何やら悩んでいるような呻きが聞こえてくる。

(あったかいな)

ベットの中には、彼の残り香と暖かさが残っていて、それを感じるだけでなんだか幸せな気分になれる。
彼はベットに自分が潜り込んだ時こそ驚いたものの、暫くすれば普通に寝ていた。




305 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:01:33.95rclQNgSM0 (49/77)



不思議だな、と思う。
死にかけてまだ怖い筈なのに普通に接せられる浜面も、




彼を■さない自分も、両方とも。




それは、自分の彼に対する気持ちのせいか。
それとももっと別の何かなのか。

(何をしよう……そうだ、浜面に街を見せて貰おうかな)

ただ一つ言えるのは、フランドール・スカーレットは恋していた。
何の力も無い、ただの人間を。
何故か?
分からない。誰にも分からないかもしれない。
本人でさえも。

推論を述べるとするなら、






始めて打算も何も無く赤の他人から差し伸べられた手(希望)が、彼女に始めて触れたからなのかもしれない。






だが、

(もふもふー、もふもふー)

当の本人は難しいことを考えず、ベットの中でゴロゴロ暴れていた。
普通の、子供らしく。








306 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:02:18.33rclQNgSM0 (50/77)














悪魔の妹は、気がつかない。
この先、降りかかってくる苦難を。
ただ今は、安らかな幸せに浸り続ける。

















307 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:03:00.54rclQNgSM0 (51/77)






窓の無いビルの中。
機械的な光のみが、場を照らし出す空間にて。
アレイスター・クロウリーは動かずに居た。
正確には、動かないようにさせられていた。
見た目にはなんら変化が無くとも、彼を縛る何かが、今窓の無いビルごと覆っている。
現在彼は、誰にも干渉することが出来ない。

(……やれることはやった、が。不確定要素が多過ぎる。特に"魔法の世界(マホウノセカイ)"からの増援が、全く期待出来ないのが……)

彼は、その気になれば誰かに干渉することは出来るだろう。
世界最高の魔術師とは、伊達では無い。








ただその場合、世界が消え去るが。
"ルール違反"ということで。











308 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:03:38.60rclQNgSM0 (52/77)





(結局の所、我々はこのゲームに付き合うしか無いのだな)

なにせ、相手はその気になればいつでも世界を滅ぼせるのだ。
だとすれば、相手の機嫌をそこねないようにしなければならない。
故に、アレイスターは待つ。
役目を終えた、彼は。

(…………)

巨大なビーカーの中で、解放の時を。






全てを、他の者へと託して、魔神は一時の眠りにつく。
目覚めた時に待っているのは、地獄か、それとも──















309 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:04:20.13rclQNgSM0 (53/77)








紅魔館──、"幻想郷"に位置するそこには、一匹の悪魔が居る。
正確には二匹だが、今は居ない。
その悪魔こと、レミリア・スカーレットは幼い顔を無機質な物へ変え、紅茶のカップを掴んでいた。
窓の無い、ランプで照らされただけの、締め切った暗い部屋。
テーブルに座ったままくるくるとスプーンを動かし、紅茶をかき混ぜる。
特に意味は無い。
ただの暇つぶしだ。
銀色のスプーンが揺れ動く度に、紅茶の紅い水が波紋を立てる。

「……」

暫し、無言。
くるくると機械的に回し続け、ボンヤリとしていた。
やがて、ピタッとスプーンが止まり、レミリアは口を開く。

「浜面、仕上」

それが、妹を助けた者の名前らしい。
先程の紫のセリフを、彼女は思い返していた。
咲夜はともかく、せめてフランを連れ戻せと言った時の、あの言葉。





310 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:05:08.38rclQNgSM0 (54/77)






「『本当の笑顔を教えてくれるかもしれない』ね……」




"本当の笑顔"。
それは確かに、紅魔館や幻想郷に居る全ての者が、彼女に教えられないことかもしれない。
495年間、ずっと幽閉し続けた彼女。
気がふれて、破壊に甘美を覚える狂った悪魔と言うべき存在。
もし、彼女が本気で迫った場合レミリアも勝つことは出来ないだろう。


しかし、異世界の男──浜面仕上は、フランに殺されていない。


あの圧倒的な力の前に、あの狂った精神の前に、ただの人間がだ。

「……"信じる"、ねぇ」

全く、簡単に言ってくれるとレミリアは吐き捨てる。
その言葉に頼るしかない、自分自身にも苛ついた。

「どうせフランも利用しようって魂胆なんでしょうけど……」

『神』とやらは、そこまで危険な存在なのか。
自分に世界を渡る術が無いのが、残念に他ならない。

「咲夜は居ないし、パチュリーは術式研究中だし、中国は門番やってるし……」

暇だー、と、レミリアはテーブルの上に体を押し付ける。
カチャン、とティーカップが音を立てた。

「……」

眠い。
そも、吸血鬼にとっては昼間の今は寝る時間だ。
別に寝て悪いことは無い。
どうせ風邪など引かないからと、彼女は眠気に身を任せる。
急速に、意識が落ちて行く。

「フラン……浜面仕上……」

異世界に居る妹と、それを助けた姿知らぬ男の名を呟きつつ、彼女は意識を闇に沈めた。





311 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:05:45.49rclQNgSM0 (55/77)







一方、レミリアがそんな風に妹とまだ見ぬ妹の思い人へ思いはせている頃、

「はぁー……」

紅魔館の門へ、ため息を吐きながら歩く少女が居た。
華やかな花壇の光景に、その落ち込みようはとんでもなく似合わない。

緑色の鮮やかな長髪にカエルと蛇の飾りを付け、身体に纏うのは青と白の巫女服。
赤では無く青であり、袖と体の部分が繋がっていない。
つまりは、脇の部分が露出している。
そんな改造巫女服を着た少女の名は、東風谷早苗。
"守矢神社"という"幻想郷"に存在する神社の風祝、ようするに巫女であり、本人自身も特別な力を持った"現人神"とまで呼ばれる存在である。
ただまぁ、この世界においては本物の神様を殴り飛ばしてしまうような力の持ち主が居るので、早苗も少し強いだけのただの人扱いだ。
別にその点に置いてはもう気にしていない。
ため息を吐いた問題はそこでは無く、

「やっぱり、私が行くべきだったんだろうなぁ……」

つい五時間前の騒動のことである。
彼女は立場的にも、性格的にも、経験的にも、実力的にも全てが異世界に放り込むにはばっちりだったらしい。
そのため、無理矢理にでも行かせようとしたそうな。
まぁ言われてみれば、個人の事情なんか世界の問題の前には些細なことだろう。

「でも理由を言ってくれるなり、考える時間とかくれれば良かったのに」

そうすれば……と、早苗はうって変わって今度は文句を呟き始めた。
ブツブツブツブツ……と、彼女にしては珍しく怨みを込めた呟き。

「大体、何で幻想郷で強い人達って大概身勝手なんでしょうか。いや、私もそうでしたし言える立場じゃないのは分かってますけど、でも──」
「あっ、お帰りですか?」
「わひゃあっ!?」



312 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:06:21.94rclQNgSM0 (56/77)



ふとそこで、突然声をかけられた。
分かりやすく飛び上がり、早苗は慌てて声の主を見る。

「め、美鈴さん」
「はい、そうですよ」

ニッコリ微笑みながら返され、自然と早苗も笑顔になる。
民族風……チャイナドレスと思われる物を着て、緑色の帽子を被った女性が、門の近くに立っていた。
三つ編み二つと、ストレートに伸ばしている紅い髪を揺らしながら、彼女はニコニコと何が嬉しいのかと言いたくなるくらい笑顔だ。
紅美鈴。それが、彼女の名前だ。

彼女はこう見えて妖怪だが下手な人間よりも人間らしく、紅魔館な中でも比較的常識人(妖怪?)なため、早苗としては数少ないまともな知り合いである。

「そうそう。先程はすみませんでした」
「い、いえ。レミリアさんに命令されたんじゃ、美鈴さんも断れないでしょうし……」

ぺこりと丁重に頭を下げられ、早苗も頭を下げ返す。
二人が言っているのは先程の騒動の際のこと。
早苗をスキマに放り込もうとしたのが、美鈴だったのだ。
まぁ、彼女はレミリアに仕える身なため、渋々といった感じでやっていたのだが、それでも良心が傷んでいたようだ。




313 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:06:59.41rclQNgSM0 (57/77)



「それに、私の方こそごめんなさい」
「何がです?」

きょとん、と。
本気で分からないのだろう。
美鈴からの純粋な疑問の声に、早苗は少し表情に影をさしつつ、謝罪する。

「だって、私が早く行ってればフランさんも"向こう"に行くことは無かったじゃないですか」

そう。
あの時早苗が下手にごねらず、さっさとスキマに飛び込んでいれば、フランが異世界に行くことは無かったのだ。
聞けば、向こうで彼女は太陽の光を浴びて死に掛けたらしい。
ただでさえ吸血鬼には弱点が多く、フランという少女自身も危険だというのに……
そう考えて更に落ち込む彼女へ、






「あれっ?"そんなこと"ですか?」






「──えっ?」

早苗は呆気に取られ、口を開けたまま思わず惚ける。
今、彼女は何を?
惚けた状態の早苗へと、美鈴は笑いながら、

「いやぁ、"心配しなくても大丈夫ですよ"」
「──」



314 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:07:41.51rclQNgSM0 (58/77)



声が、出ない。
それだけ呆気に取られていた。
一体全体、何が大丈夫なのか。
フランドール・スカーレットという吸血鬼を知る者なら、まず口に出せない言葉を、紅魔館の門番は口から放つ。

「妹様だけじゃない。咲夜さんもきっと大丈夫です」
「──あっ」

そこで漸く、彼女は気がついた。
美鈴の笑顔に込められた物に。


それは、"信頼"。


圧倒的なまでの、それこそ下手な"信仰"など相手にもならない程の。

「……美鈴さんは、皆さんを信じてるんですね」
「えぇ、勿論」

迷うこと無く、彼女は答えた。

「何せ、お嬢様や妹様とはまだ母乳を飲んでいた頃からの関係ですし。パチュリー様はそのお嬢様の友人、咲夜さんは仕事仲間となれば、信じれない人なんか居ませんよ」

ただ本当の意味で人と呼べるのは咲夜さんだけですけどねー、と彼女は笑顔で紡ぐ。
其処からは、単なる年月だけでは構築し得ない、硬い絆を感じた。

(──凄い)

早苗は始めて、本当の意味でこの妖怪を凄いと思った。
弾幕ごっこは自分の方が強い。
しかし、他人を信じる気持ちにおいては、きっと自分は彼女に叶わない。

「もしかして、美鈴さんって門番の仕事サボったりしてるのは、館の人を信じてるから……?」
「うーん、それもあるかもしれませんね。私が抜かれたとしても大丈夫!ってどこか安心はしてますけど」




315 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:08:18.47rclQNgSM0 (59/77)



はははっ、と美鈴は苦笑い。
実は彼女、度々門番の仕事中に立ったまま寝るという無駄な技能でサボっていることがあるのだ。

「でも今はちょっと大変だなぁ。咲夜さんが居ないから、昔みたいに私も館の中のことしないといけないし。"黒白"も来ないんで、結構暇だったからいいんですけど」
「……あれ?そういえば、咲夜さんって元から紅魔館に居たんじゃないんですか?」

ふと、疑問に思ったことを尋ねてみた。
今までの口振りからすると、あの完全瀟酒なパーフェクトメイドがこの紅い館に来たのは、そう昔のことではないようだが……

「あー……まぁ、色々あってですね……」

問いかけられた美鈴は、言葉を濁す。
やはり、余り触れられたくない部分だったようだ。

「す、すみません」
「いえいえ……言ってもいいんですけど、咲夜さんが嫌がるかもしれないんですよ。だから本人が居ない今はちょっと……」
「そうですね、本人が居ない所でそう言う話は……」

ごにょごにょと謝罪の言葉を言う、青い巫女。
そのある種の保護欲を感じさせる姿に、美鈴は苦笑しながら対応する。
一方で、

(……懐かしいなぁ)




316 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:09:03.13rclQNgSM0 (60/77)



昔を、少し思い返してもいた。
咲夜との出会い、そして付き合い。
そんなに時は経ってないのに、人間というのは成長がやはり早い。






『さて、今日はオシャレをしてみましょう!』
『……おしゃれ?』
『えぇ。主人に仕えし者。身だしなみをキチンと整えなければ!』
『どうするの?』
『んーと、そうですね。お化粧はまぁまだ咲夜さんには早いですし、髪型を変えてみましょうか?』
『髪型……』
『どんなのが良いですか?私が好きなようにカットして上げますよ~。こう見えて私、偶にお嬢様の髪を切ったりもしてるんです』


『……それ』
『それ?あぁ、"三つ編み"ですか?まぁ、私のこれも確かにオシャレと言えばオシャレですし……でもいいんですか?』
『……うん』


『分っかりました。じゃ、そうですね……この、緑のリボンでいいですか?』
『……うん』
『……咲夜さん、どうして私の服を見て……?』






(『美鈴の服の色だから』は、正直嬉しかったですねぇ……)

自分の顔の両脇に垂れ下がる三つ編みを撫でながら、彼女はフワリ、と微笑む。
その柔らかな笑みに、早苗も釣られて笑顔になっていた。







317 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:09:45.09rclQNgSM0 (61/77)









「"盟主"」

暗闇の中、声が一つ。
学園都市の、とある廃墟の一室。
部屋の光景は、暗く染まって人の眼力では捉えられない。
しかし、確かにそこに誰かが居る。

「あぁ、"分かる"」

暗闇の中、飛び交う言葉。

「むぅ?私には何が何やらサッパリアル」
「……何やら"別の力の塊"が、大気に満ちている」

声は四つ。
それぞれが違う音の振動を生み出し、会話を行う。
一つは青年の、まだ若さを感じ、しかし何処か遠くから響く声。
一つは男の低い、物騒気な声。
一つは少女の、特徴的な口調の声。
一つは更に若い、子供のような少女の声。

「そろそろ本格的に動くべきだろう」
「味方集めネ?」
「甘いことを……"手駒集め"だろう」
「はは……確かに、味方までは厳しいかな。せめて協力者だ」




318 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:10:25.81rclQNgSM0 (62/77)



口調が、変わる。
しかし、それを注意する者は誰もいない。
当たり前のことだからだ。

「じゃ、各自解散だ。手当り次第、しらみつぶしに捜して行こう」
「らじゃアル!」
「やれやれ、面倒なことだ……」
「……」

闇に、影が散る。


十月十七日。
深夜のこと。




『戦い』が、迫る。


















同時刻──

「……」

バタバタと、布が風によってはためく、存外大きな音が響く。
はためくのは、黒いマント。
学生寮の屋上。
古びたフェンスを軋ませ、彼女は淵にバランス良く立っていた。




319 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:12:20.17rclQNgSM0 (63/77)



「……」

彼女は黒い長髪を風に任せる。
癖の一つも無い柔らかな髪は、揺れて風の流れを浮かび上がらせた。

彼女は、肌で大気を感じ取る。
其処にある、明らかに感じたことの無い力を。

「魔力──」

そう、あの白いシスター少女が言っていたことが正しければ、これこそが一つの異世界での地から。
なる程。"存在の力"とは、質がかなり違う。

「……」
「行くか」
「……アラストール」
「なんだ?」

彼女は、己の契約者に呼びかけた。
魔神は言葉に答え、尋ね返す。

「今の私、戦えるかな?」
「それはお前の決めることだ」

彼の端的な言葉に、彼女は内心で頷く。
そうだ。
自分のことは、自分で決める。
そして、今は迷うべき時では無い。
戦いに、私情を持ち込まない。
それは、戦士として当然のこと。




「行く」
「うむ」




ボウッ!と、灼熱が弾けた。





320 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:12:58.54rclQNgSM0 (64/77)


瞬く間に髪が炎の赤に染まり、瞳も紅き灼眼へ。
体の周囲に、この世の物では無い火の粉が弾けて舞い散る。
周囲の空気は熱で震え、異常な現象だということを指し示した。

「すぅ……」

ギチッ、と、足に力を溜め込む。
そして、

「──ぁぁああああああああああっ!!」

吠えて、屋上から飛んだ。
一直線に、本来なら絶対にあり得ない直線を描いて、少女は飛ぶ。
その小さな背中には、炎の翼が広がっている。

目指すは、街中に突如張られた"封絶"。

夜中、突然現れた開戦の合図。
当然、彼女は気がつき、あの二人を置いて戦うことにしたのだ。
あの少年は、色々言っていたが。

少しだけの回想を振り切り、彼女は飛ぶ。








戦場へと、"フレイムヘイズ"シャナは飛び込んだ。








戦いが、始まる。











321 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:13:41.97rclQNgSM0 (65/77)
















炎髪灼眼は戦う。
戦いの先に、自分の絶望があるとも知らず、
異世界で刀を振るい、闘う。
















322 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:14:26.15rclQNgSM0 (66/77)







「……そろそろ『戦い』が始まってもおかしくは無いわね。ここまできたら、後は任せるしか無いか……」

場所は変わって、"幻想郷"。
昼の時間帯のため、八雲紫の手元にも日光がさしていた。日傘をさしているが、日光は強く紫を照らす。
只今彼女は"守矢神社"に居た。
其処にいる"神二柱"と更に話し合うため。
ただ、話し合いは終わったため、現在紫がここに居るのは──

「と、思ったら」

キィィィィィンッ、と甲高い音が神社の砂利の上に立つ、紫の鼓膜を揺らす。
音は、遥か上空から響いていた。
"幻想郷"に居る、大概の者が聞いたことがあるであろうこの音は、空を高速飛行している時の音だ。
そして紫の真上に一瞬影がさし、
ストンと、柔らかに誰かが着地した。
紫の後ろに着地したため、彼女は其方へ向こうと体を動かす。
フリルのついたドレスが、フワッと揺れた。

「あっ、"衣玖"が会うのってアンタだったの?」
「……あれ?」

が、そこに現れた意外な、いや、ある意味簡単に予想出来た人物にガクン、と肩を落とす。

黒くて丸い帽子に何故か桃を付け、白いドレスに虹色の文様をあしらっている。
髪は青くストレートに伸ばしており、イタズラっぽい子供のような光を含んだ瞳は、紅い。




323 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:15:04.21rclQNgSM0 (67/77)





知っている者は知っている、"天人"、非想非非想天の娘。
比那名居天子。


それが、現在紫の前で無い胸張っている少女の名だ。
普段は、"幻想郷"の天空に位置する世界、"天界"に居る筈だが……

「聞いたわよ。なんかとんでもなくヤバイ奴と戦うって話じゃない。何でこの私を呼ばないのよ!」

色々面倒だからよ、と言い返したくなったが、紫は大人の余裕でグッとこらえる。
正直、今かなり疲弊した紫ではそれなりの実力を持つ天子に勝てないだろう。
故に、柔らかな口調で、

「そう、貴方天界に居たのよね?天人達の様子はどうだった?」

他の話題へと移る。
本来ならば天界へスキマを開き、どうなっているのかを見ていただろうが、紫はついさっきまで全力で動いていたのだ。
そんな余裕など無い。
紫の問いかけに、天子は渋い顔になって首を振る。

「残念だけど、あの馬鹿達の助力は無いと思った方がいいわ。どーも『現実性が無い』だの『暫く考える猶予を』だの言ってるけど、あれただの言い訳ね」
「あら、そう」

何となく予想していた答えのため、紫は短く返す。
天人達の態度は今に始まったことでは無いため、特に気にしてもいなかった。
確かに戦力は欲しいが、実がない力など要らない。寧ろ邪魔だ。

「で、あなたは"緋想の剣"を持って一人やって来たと?」
「まぁね。別にいいでしょ?」
「そうね……」



324 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:15:44.13rclQNgSM0 (68/77)



"紅い剣"を肩に担ぎ、此方へ問いかけてくる天子のことを顎に手を当て、考える。
確かに、彼女は戦力としては申し分無い。
だから別に悪くは無いのだが。

「──ふぅ。総領娘様は早過ぎです」
「あら。漸く来たわね」

ヒラリ、と。
新たな人影が、紫の近くに着地した。
天子とは対象的な、柔らかな動きで着地したのは緋色の羽衣を身にまとう、一人の女性。
背は天子より高く、女性らしい体つきをしていた。
触角のような飾りが付いた帽子を被り、天子と同じ青い髪に紅い目。

彼女は永江衣玖。
竜宮の使い、妖怪だ。
一応、天界において、天子より下の立場の存在である。

「って衣玖~。私のことは天子でいいって言ったじゃん」
「善処します」

ちょっとー、という天子の文句を彼女は無視。
紫へと、彼女は"空気を読んで"言葉を告げる。

「"龍神"様からのお言葉です……『この世界のことはなんとかする。例え世界を犠牲にしてでも、"奴"を殺せ』と」
「有難う。これでかなりの無茶が決行出来そうね」
「礼なら私では無く、龍神様にお願いします。私はただ伝えただけですから」

そんな二人の会話に、首を傾げながら天子が入り込んだ。
彼女は純粋な疑問の声を上げる。




325 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:16:28.35rclQNgSM0 (69/77)



「龍神って、あれよね?幻想郷の最高神。確か万物の法則全てを生み出したっていう」
「えぇ。そして私は彼の使いです」
「これからは世界にかなり負担をかけるからね。龍神の協力を取り付けれたのは幸いだったわ」
「ふーん……他には何処に協力を求めるの?」

天子の疑問に答えるべく、紫は手を虚空へとさし伸ばした。
瞬間、小さなスキマが開き、紙が一枚彼女の手に握られる。
かなり異常な現象だが、天子は特に気にせず紙を自分で取って眺めた。

「えと、◯が付いてるのが協力を取り付けたのよね……へぇ、"太陽の畑"まで」
「上手く行くかはさて置いて、ね。一応候補に入れてるの」
「よし!」
「?」

と、急に気合いを入れる彼女に紫が首を傾げると、




「取り合えず私が行ってくるわ!」




いや、何故だ。
そう紫が突っ込む暇さえ無かった。
天子は紙を持ったまま駆け出し、地面を蹴って宙を飛ぶ。
そして二人を置いて、あっという間に飛び去っていた。
後に残るのは、空気を切り裂く高い音と取り残された紫と衣玖だけ。

「「………………はぁ」」

二人の口から揃ってため息が吐かれる。
呆れと呆れと呆れと、呆れしか篭ってないため息が。




326 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:18:03.54rclQNgSM0 (70/77)



「そもそもあの子って太陽の畑の場所知ってるの?」
「多分話でしか知らないかと……」
「「……はぁ」」

再度ため息を吐いてから、二人は気を取り直し、其々の行動を始めた。
紫はスキマを開き、衣玖は天子を追うべく宙に浮く。

「まぁ龍神様からも総領娘様に付いて行くよう言われてますから」
「お願いね」

空気を読んでくれた彼女に感謝して、紫は単眼が煌く闇へ飛び込もうと、

「一つ、聞きたいのですが」

した所で動きを止めた。
振り返り、羽衣を揺らす彼女を見る。
衣玖は少しばかり躊躇いを見せながら、しかし一度呼び止めたのだからと尋ねた。

「何故、龍神様は直接戦わないのでしょう?」
「……」

返るのは、ただの沈黙。
彼女は、尚も続けた。
ずっと抱いていた疑問を。

「龍神様は強い……それこそ、この世界全ての存在を束ねたよりも、です」

そう。
龍神とは、名がつく前の神。
万物に五行相関の法則も作り出した最高神。
自然の豊かさや恵みがあるのも、全ては龍神のおかげなのである。
天界、地獄、冥界、魔界、異世界、幻想郷、様々な世界を例外無く超えられる正に破壊と創造の神。
例え月の民や大天使、天罰神や創造神といえど、龍神の前では無に等しい。
それだけの実力がある。
その気になれば、世界を破壊出来る程の。




327 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:18:36.97rclQNgSM0 (71/77)




だからこそ、衣玖には分からない。


『神』というモノが危険なら、龍神自身で滅ぼしてしまえばいいものを、何故?
いや、その『神』が龍神よりも強いとしてもだ、"一緒に戦う"という選択をしなかったのは、何故なのか。

「まるで、龍神様は御自身が"絶対に勝てない"と悟っているかのようでした」
「……あってるわよ、それで」

彼女の問いかけに、紫は答える。
その声に含まれているのは、何なのか。

「細かい理由はまだ言えない。けど、そう、あえて言うのなら──」

スキマへと身を踊らせ、彼女は最後にたった一言だけ言った。

重い、暗い、闇に染まった声で。








328 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:19:33.23rclQNgSM0 (72/77)



































「人形は、人形師に逆らえない」














329 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:20:16.22rclQNgSM0 (73/77)










天界でも、冥界でも、地獄でも、魔界でも、異世界でも無い何処か。

「遊びが過ぎるのでは?」
「いや、寧ろこれくらい遊んだ方が丁度いい」

並んで歩く二人が居た。
宮殿のような廊下を、ただ歩く。

コツコツ、と。
硬い足音が連続して響く。
其処は、何処なのか。
本当に大地を踏みしめているのか。
あやふやな感覚を発する、不思議な空間。

「"ネギ・スプリングフィールド"達は?」
「依然、まだ抵抗してます」
「そうか。丁度良いな」

答えながら、"学生服"の少年は寒気が一瞬だけ走るのを感じた。
不思議な物だと思う。
"作られたただの人形に過ぎない"自分が、寒気などという人間らしい感情を抱くことに。

「もう既に手は打ってる。幻想郷にもな。後は観戦だ」
「……」
「まぁ、英雄の息子達はもう少し後でいい」




330 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:20:57.98rclQNgSM0 (74/77)



カツ、カツと。
"ソレ"は歩く。
人の姿を持ちながら、確実に人では無い。
そう嫌でも感じさせる、独特の雰囲気がそこにある。
彼等は高い場所に立っていた。塔の先端のような場所に。
周囲は気流が逆巻き、唸りをあげている。

「さて……じゃ、留守番は任せたぞ、"フェイト"」

次の瞬間には、"ソレ"は黒いローブを身に纏っていた。
体を覆い隠すどころか地面にまで届くボロボロのローブを。

「はっ」

フェイトと呼ばれた少年は跪き、返事を返した。
何処までも律儀なその態度に、"ソレ"は笑う。

「ははっ、"代行体"も面白い人形を作ったもんだ」
「……」

人間扱いされていないというのに、フェイトは何も言わない。
何故か。間違っていないから。

「しかし、あの世界は本当に面白い。まさかあれだけのヒントで真理に届こうとする者が居るとはな……"プレゼント"をやりに行って正解だった」

頂の上で遥か眼下を見下ろし、笑う。
笑みからは、見た者の魂を削るような悪意を放ち。

「……」

後ろでその姿を見るフェイトは、何も言わない。
当たり前だ。
人形は、人形師に逆らえない。
逆らおうとも思わない。
"人間"では無く"人形"なのだから。

「全ては、貴方の意のままに」

故に彼は、胸の中にドロリと漂う何かを出さずに、言葉を紡ぐ。





331 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:22:06.89rclQNgSM0 (75/77)




































「我が主『造物主(ライフメイカー)』」









その言葉に応えるように『始まりの魔法使い』は笑う。


それはまるで、紫色の毒の如き笑みだった。




332 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:22:46.93rclQNgSM0 (76/77)
















世界は、全てを飲み込む。
世界は、全てを受け入れる。
世界は、──────────


















333 ◆roIrLHsw.22011/01/12(水) 17:24:17.05rclQNgSM0 (77/77)










後書き
今回の話は短い話が連続して続く総集編でした。
その分、文量は過去最高……なのか、な?
様々な人物やらキーワードやらが続々と、それこそ作者ですら認識出来ない程(えっ?)てんこ盛りです。

特にインデックスの話は自分のちょっとした理屈が入ってます。自論ですので、超分かりにくいですが。

それと龍神の強さは勝手な自己設定です。
魔界神や、天照とかの神々の方が強いんじゃないの?と言われるかも知れませんが、この作品ではそれらを楽に上回る強さという設定です。御了承下さい。

更に『神』の正体ですが、実はまだ本当の姿ではありません。
本当の姿は、もっと別の存在です。


これからはとある魔術の世界と東方の世界、両方世界での戦いを書いていけたらなと思っています。

久しぶりの投稿のため、後書きも長くなってしまいました。

次回も遅れる可能性が高いですが、どうかよろしくお願いいたします。




次回は、シャナ大活躍!……の、筈です。





Psおまけスキットもあるのですが、それは明日……





334VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/12(水) 20:43:12.29fE9/frIH0 (1/1)

良いですね…良い厨二な面白さ
おまけも楽しみにしてます


335VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/12(水) 21:02:44.72Dh2Nrl/Mo (1/1)

キテター
ぶっちゃけネギま勢空気な気がしてならないけど今後どう動いてくのかwwktk


336VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/12(水) 22:30:49.89NmNgIvb0o (1/1)

もうちょっと改行減らしてくれ
演出のつもりなんだろうがはっき言って見づらい


337VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/13(木) 04:00:02.58Ceswu8f30 (1/1)

乙です。
なんか神が霊夢の夢想転生に近いことをやってるような・・・
星蓮船の設定は魔界神が作った魔界が無限の面積を持つとかいうのじゃなかったっけ?


338 ◆roIrLHsw.22011/01/13(木) 12:39:24.21AQOT3+v50 (1/20)



>>336
すみません……感覚が分からなくて……
以後、なるべく気をつけます

>>337
あぁ、その設定ですか!ありがとうございます!


では、少々オマケを……





339 ◆roIrLHsw.22011/01/13(木) 12:39:58.70AQOT3+v50 (2/20)






おまけスキット




スキット3「上条当麻の一日」



上条「寝惚けて教科書忘れて来ちまった……不幸だ」


上条「朝、通学途中で転けたせいで弁当の中身が……不幸だ」


上条「同居人達が何か騒いでる……不幸、だ?」


青髪「不幸な訳無いやろぉがぁああああああああああああっ!!ロリ二人の同居人?舐めとんかゴラァァァァァアアアアアッ!!」

上条「おわっ!?」






340 ◆roIrLHsw.22011/01/13(木) 12:40:30.13AQOT3+v50 (3/20)



スキット4「カップラーメン」


シャナ「……あれ、同じ銘柄なのに」

アラストール「どうした?」

シャナ「うん。御崎市で食べてたのと同じ物の筈なのに、こっちの方がやけに美味しくて」

アラストール「原材料名に『化学調味料』と書かれているが?」

シャナ「なっ!?化学調味料……」

アラストール「……何故ショックを受ける」