281VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/13(土) 16:22:12.64/R3EcI.0 (1/1)

そんなに気にしなくていいよう
sage方針ならそれに従うまでです。


282LX2010/11/13(土) 18:44:43.50K5qD1Ho0 (1/60)

先ほど帰宅しました。

お読み下さっている皆様、こんばんは。>>1です。

それでは投稿を開始致します。
少しの間、sage進行を止めてやってみることにします。

ラスまであと2割というところでして一気にゆく予定です。
それではどうぞ宜しくお願い致します。



283LX2010/11/13(土) 18:47:10.58K5qD1Ho0 (2/60)


「風紀委員<ジャッジメント>の特別ポストなんだけどなぁ? 綺麗事だけじゃなくて、裏のウラまで知り尽くした麦野さん

じゃないと勤まりそうもない、し・ご・と、なんだけど?」

(風紀委員<ジャッジメント>だぁ????? 何を言ってるんだ、コイツ? 暗部の人間に表をやらすってのか?)

「気でも狂ったの? 暗部の人間を表に出すってどういうことだかわかってんの?」

「なかなか面白いでしょ? でも、これはあなただから可能な事。他のひとでは無理なのよ。それに、表といっても半分は裏方なのよ。

だからこそ、あなたでないと勤まらないの。わかってくれるかな?」

(けっ、何のことはない、やっぱりウラじゃん。あー、一瞬でもどきっとしたあたしがバカだったわ。はぁ)

「言っとくけど、表の世界なのは間違いないからね、裏方って言葉に反応したみたいだけど?」

「で、最後の仕事ってなんなのよ?」

「気になる?」

「どうでもいいけど、聞き始めちゃったからね、最後まで聞くわよ」

「女であるあなたしか出来ない仕事。子供を産んで欲しいの」

「ふっざけるなぁああああああああああ!!!!!!!!」 



思わず麦野は携帯を吹き飛ばしてしまった。

もちろんそれだけでは済まず、壁に大穴が開いてしまったが……



284LX2010/11/13(土) 18:54:13.89K5qD1Ho0 (3/60)


1週間後、新しい麦野の携帯に仕事の話が入った。よくある危険分子の排除だった。

(そんなことをあたしにやらすのか?)

と思ったが、能力者(レベル3)で危険なので是非あたしに、と言うことだった。

気乗りしないまま行って驚いた。どう見ても相手はまだ子供、小学生だったからだ。

「子供を、小学生をあたしに始末しろ、というのか?」

麦野はほっぽって帰ってきた。特に何も、文句は来なかった。


翌日、再び仕事の話が舞い込んだ。

「また子供じゃないだろうな?」  「行けばわかるわ」

果たせるかな、前回の小学生ではなかったが、中学生。生意気盛りの女子中学生だった。

(あいつら……、あたしに嫌がらせで子供の始末をさせるつもりか?)

麦野は耐えた。


その翌日。依頼はまた来た。今度は依頼そのものを、無視した。

するとその翌日、買い物に出かけた麦野にスキルアウトの連中が襲いかかった。

異例なのは、通常スキルアウトの集団には能力者はそう多くはなく、いてもせいぜいレベル3がいいところで、通常はレベル1もしくは2

程度というのが相場だった。もちろん圧倒的多数はレベルゼロである。

しかし、今回麦野を襲ったのは軒並みレベル3であった。

さしもの麦野もレベル3が束になって来られると簡単には撃退できない。

そのうち、1人の発火能力者が麦野のお気に入りの服に焼けこげを3つ作ったので、さすがの麦野もこれにはキレた。

「この野郎ォ!」   

手加減はしたものの、原子崩し<メルトダウナー>の電子線はその発火能力者の左腕をすっぱり切り落とした。

「いてぇよう、いてぇよう、かぁちゃん!!!」  泣き叫ぶその発火能力者はどう見ても中学1年生程度であった。

「わぁっ!?」 「逃げろ!!」

腕を切り落とされるところを見た他のスキルアウトは一斉にクモの子を散らすように逃げたが、麦野もまた逃げたのであった。

(クソ、子供の手を切り落としてしまうなんて!)


285LX2010/11/13(土) 18:57:33.08K5qD1Ho0 (4/60)


そしてその次の日も、次の日も電話がかかってくる。

無視を続けたある日には、部屋に催涙弾が投げ込まれた。

逃げて行くのは子供であった。



2ヶ月が過ぎた。

麦野は陥落した。さすがに70日近く、連日の子供たちによる攻撃にはもう精神が耐えられなかった。

「で、誰と寝ろっていうのさ」

半ばやけくそ、自暴自棄になっていた麦野はどうとでもなれ、と言う調子で訊く。

「そんな必要はありませんよ?」

相方は極めて冷静に言う。

「一度、指定病院で検診を受けて下さい。そして休養を取って頂きます」

精神的に参っている状態ではダメ、と言うことなのだろうか、麦野は指定された病院へ行くと直ちに入院手続きが取られ、

丸1ヶ月精神のリハビリを受けた。

そしてある日。

「あなたの卵子を使った、人工受精による妊娠・出産を行います。同意頂けますね? 宜しくお願いします」と告げられた。

「誰の精子さ?」

麦野は訊いてみたが

「規則により、お教えできません」

ということだった。



286LX2010/11/13(土) 19:01:14.57K5qD1Ho0 (5/60)


およそ1年後。すなわち16年前。


麦野沈利は女の子を出産した。父親は不明。

自分(だけ)の子供だから、と言うことで、麦野は自分の「利」をとって、彼女は「麦野利子」(むぎの りこ)と命名された。

約束通り、麦野にはもはや仕事の電話が来ることは無くなった。

退職金ということなのだろうか、銀行口座にはある日大金が振り込まれていた。

一生喰うには困らない金額であった。

もっとも、彼女の実家自体が既に裕福であったし、彼女のレベル5時代の奨学金やら、暗部時代からの報酬も相当な金額が残っていたので、

仮に退職金?が無くても問題はなかった。



麦野は学園都市を出て(許可は簡単に下りた)、気候が穏やかな海に面した、とある小さな街の1軒の家を借り、生活を始めた。

温暖な気候と、新鮮な海の幸と山の幸が豊富な、風呂は近くの温泉から引いているという実に恵まれた環境である。

考えてみれば、小学生で学園都市に転入して以来、初めての穏やかな日々だったなと、麦野は今でも懐かしく思う時がある。

あの時が一番幸せなときだったと。



287LX2010/11/13(土) 19:04:17.01K5qD1Ho0 (6/60)


「どこそこの家に、スゴイ美人の若奥様と玉のように可愛い赤ちゃんがいる一家が来た」

と言う話が街であっという間に広まった。

麦野も最初は面食らったが、特に下心があると言う訳ではなく、新しく街の一員になった若い奥様と、未来を担う可愛い赤ちゃん

に心からお祝いをしているだけ、ということがわかったので、不要な警戒心は解け、ゆったりとした時を過ごせるようになった。

利子(りこ)は人なつこく、良く笑ったので、たちまち街の人気者になった。

「将来が楽しみだねぇ」という声もあった。

生まれを思い出すとちょっとブルーになる麦野ではあったが、利子の笑った顔はそれを忘れさせるに十分であった。

麦野もよく笑うようになった。

学園都市にいたひとが見たら驚くだろう、あの原子崩し<メルトダウナー>が大笑いをするだなんて、と。



それから1年が過ぎようとしていた。すなわち15年前。


1歳の誕生日の1週間前に、利子が「ママ」と言い始めた。初語である。

麦野は感動した。自分の子供が、自分を「ママ」と呼んだのだ。

まん丸な目で、麦野を見てニッコリ笑って、ちっちゃな手をふりふりして「まんま、まんま」と。

嬉しくてボロボロ涙が出た。

「利子ちゃん、かわいいわ、ママはあなたが大好きなのよ、いい子ね」

と訳のわからないことを言いながら、麦野は利子をずっと抱きしめていた。



288LX2010/11/13(土) 19:07:29.16K5qD1Ho0 (7/60)


1歳の誕生日を少し過ぎたところで利子(りこ)は歩き始めた。麦野が気が付かないうちに利子が台所に立っていた、というのが正しいが。

ハイハイするだけでも結構神経を使うのに、歩き始めたことから麦野はさらに気を配らねばならなくなった。

ちょっと目を離すと利子はとんでもないところに行ってしまうのだ。

またいたずらも激しくなった。

手が入るところには必ず手を突っ込んでみる。トイレの便器に手を突っ込んでいたこともある。

飛び出ているものはつかんでひねる、ぐるぐるまわしてみる、かじってみる。

開いている扉は必ず閉めてみる。閉まっているドアは必ず開けてみる。

水たまりには必ず入ってどろんこにならないと気が済まない、そして泣く。

麦野は毎日へとへとだった。

それでも夜、自分の腕の中で安心しきってすやすやと眠る利子の顔を見ていると、疲れも吹き飛ぶのであった。

麦野は幸せだった。そう、本当に幸せだった。






そうして、あと少しすると利子が2歳の誕生日を迎えるというある日。

麦野は台所で夕飯の支度をしていた。



289LX2010/11/13(土) 19:10:13.63K5qD1Ho0 (8/60)


ふと麦野は久しく感じたことのなかった悪寒を感じた。嫌な感じがふくれあがる。庭で利子が遊んでいたはずだった。

台所を駆け抜け、居間を突っ切り裸足で庭へ飛び出した。

「利子? リコ!? リコ!!」

利子がいない。いない? い・な・い!!


麦野の第六感は異変を感じ取っていた。

(あいつらだ、学園都市だ!)

久しくかけていなかった番号を選択してコールする。

「あら、珍しいひと」   二度と聞きたくなかった人間の声が返ってきた。

「きさま、娘をどこへやった!?」   久しく出したことがなかった口調が、声が出た。

「そろそろ、こちらへ返して頂こうかな? と思いまして」   と相方はごく当たり前の事のように回答してきた。

「ふっざけるなぁぁぁぁぁ! あたしの娘をなんだと思ってるんだ、きさまはぁ!?」

「あら、あたくしは『子供を産んで欲しい』と依頼しただけですけれど。育てて欲しいなんて言ってないでしょう?

誤解なさらないでちょうだいね? あなたもこれで肩の荷が下りたでしょう? そろそろ次の」



    ―――― グシャ ――――  



麦野は携帯を握りつぶした。




その日以降、街から麦野親娘の姿は消え、街ではあの親娘はどこへ行ったのだろうかとひとしきり噂になった。




290LX2010/11/13(土) 19:12:19.34K5qD1Ho0 (9/60)


麦野は学園都市へ戻っていた。

ピーンと張りつめた空気は廻りにひとを寄せ付けず、人々は彼女をよけて通っていった。

麦野はまず、自分が入院した病院へ行ってみた……が。


   ―――― 病院がなかった ―――― 


そこは鉄索で囲われ、大型トラックやダンプ車、クレーン車などが入り乱れていた。

近くのひとの話では、昨年に病院は取り壊されたということで、しかも移転ではなく廃業ということだった。

建築予定表をみると商業ビルが建つ予定になっていた。

近くのネットカフェに入って検索をかけてみる。ものの見事に何も出てこなかった。 

「クソ、あいつら存在自体を消しやがったか」

昔使っていたパシリの小僧に電話をかけてみた。

「おかけになった電話番号は現在使われておりません。もう一度」 

無機質なお知らせ回答が流れた。

(くっ……!)

麦野はギリギリと歯をくいしばる。名前も顔も知らない学園都市の人間が、麦野をあざ笑っているようだった。

(あたしは、あたしは利子を取り返す。絶対に諦めない! あの子はあたしの娘なんだから!)



291LX2010/11/13(土) 19:14:20.62K5qD1Ho0 (10/60)


ふっと麦野はあるひとを思い出した。

「あの子なら出来る!」

麦野は決断した。

正直言って本当なら電話したくない相手。だがもう他に考えられる手段はない。

麦野は15学区へ移動した。少しでも目立ちにくい場所を選びたかったのだ。そしてレンタカーを借りた。

足が付くがこの際かまってはいられない。クルマを走らせ、多摩川べりに出る。

河川敷のゴルフ場へ向かう道の途中でクルマを止めた。

この場所は少し開けており、接近するクルマその他がよく見える場所であった。

もちろん麦野の方も相手から見える、のであるが、強大な戦闘能力を持つ麦野は頓着しない。

麦野は運転席に座ったまま新しい携帯を取りだし、電話をかけた。

コール2回で相手が出た。

「もしもし?」  麦野がまず聞いた。

「もしかして、むぎの?」  相手はすぐさま答えてきた。懐かしい声。

滝壺理后だった。



292LX2010/11/13(土) 19:18:03.47K5qD1Ho0 (11/60)

「あんた、元気なようね」

「うん。もうすっかり大丈夫だよ? むぎのも元気?」

<解説>

一時期、滝壺は「体晶」と呼ばれる能力増幅剤を用いて自らの能力をフルに利用していたが、その副作用により廃人一歩手前まで

追いつめられたことがあった。

そしてその状態に追い込んだのは他ならぬ麦野自身であった。

その結果、暗部「アイテム」のパシリであった浜面仕上と滝壺理后はアイテムから脱走し、2人を追った麦野と浜面は戦うこととなり、

麦野は右目をその戦いで失ったのであった。(麦野の右目は現在人造眼球でもちろん見える)

その後、滝壺は体晶の毒をとある療法で排出することに成功し、現在は健康を取り戻した。

また、治療後のリハビリで、彼女は「体晶」を使用せずともAIM拡散力場を識別できるようになっている。

さらにもう一段上の能力も実はその結果発揮できるようになっているのだが、これを公にすることは彼女の立場を極めて危険なもの

にしてしまうために、いつもは使用することを自ら封印しているのであった。

<解説終>

「ああ。それで、実はあんたに頼みたい事があるんだけど?」

「?」

理后のとまどう様子が感じられる。



293LX2010/11/13(土) 19:23:33.50K5qD1Ho0 (12/60)


「あたしのAIM拡散力場、まだ把握できるよね?」

「うん、むぎののはとってもよくわかるよ?」

「あたしと同じようなソレを持っている人を捜してるの。御願い、滝壺。あんただけが頼り。御願いだから探して、いいえ、探して下さい。

御願いします! 助けて下さい!!」

「むぎの……?」

途中から麦野の声はそれまでとは違った悲痛な声に変わっていた。理后は返事を返せない。

「あたしの娘なのよ!」

麦野が叫ぶ。

「あたしの宝物! 学園都市に連れ去られてどこかで実験動物にされるかもしれないの! 絶対にそんなこと、許さない。

あたしの娘を助けて……、御願い、お願い助けてよ!」

今まで、耐えに耐えてきたものが一度に堰を切ったようにあふれ出た。麦野は泣いた。

理后は、電話の向こうで号泣し、嗚咽する麦野の声をじっと黙って聞いていた。

(あのむぎのが、あのプライドの高いむぎのが、わたしに……、わたしに……)

麦野の嗚咽が少し収まってきた。

理后はとても優しい声で

「むぎの、ママになってたんだね? おめでとう。よかったね。あたしはそんなむぎのを応援する。ちょっと待ってて?」

麦野はあわてて叫んだ。

「切ったらダメ!!!」

「ふぇ?」

あまりの剣幕に理后がびくっとする。



294LX2010/11/13(土) 19:28:26.82K5qD1Ho0 (13/60)


「切ったら次は繋がらなくなるかもしれない。あたしのいた病院は影も形もないの。存在自体が消されてるの。だから切らないで! 

待ってるから、このまま」

「うん、わかった。むぎの。やってみる」

しばらく沈黙が支配する。

理后は、まず麦野のAIM拡散力場を捉えた。強大な「原子崩し<メルトダウナー>」のパワー。

かつて学園都市の闇に君臨したレベル5の一人。

「むぎのの位置は把握出来たよ? 昔と変わらないね」

理后は優しい声で麦野に声をかける。

「そう?有り難う」

少し落ち着いた麦野。

「むぎの? お嬢ちゃんはいくつなの? 名前はなんていうの?」

「リコ。あたしの利に子供で利子にしたの。もうすぐ、2歳になるわ。なるはず、だったのに……」

麦野の声は、娘を思い出したのだろう、再び涙声になる。

「むぎの? 泣いたらだめ。むぎのは強いんだから、これから子供を取り戻しに行くんだから、強い精神力が必要だよ?」

(まさかあの子に言われるとはね……)

麦野は心を奮い立たせた。(ありがと、滝壺)

「むぎの……?」

理后の声に麦野は携帯を握りしめる。

「似た人は……むぎのと同じようなAIM拡散力場を持ったひとは……いないわ」

(まさか、利子には能力がない? それならそれであの子にとっては良かったかもしれないけれど……、いいや、だったら学園都市が

誘拐するはずがないわ!)



295LX2010/11/13(土) 19:31:46.05K5qD1Ho0 (14/60)


「有り難う、少し違うタイプで探せないかな?」

「だよね? ちょっと違うパターンを見てみるから……はぁ」

理后の苦しそうなため息を麦野は聞き逃さなかった。

「滝壺? 大丈夫なの?」

まさか、また体晶なんか使ったの??

「うん、もうアレは使わないでも、能力は使えるようになってるの。でも、体力を、つかうん、だよ。

でも、むぎのの娘さん、探すから、待ってて?」

苦しそうにとぎれとぎれに話す理后。麦野は携帯を握りしめたまま祈る思いで理后の答えを待つ。


「かなり違う、けど、これ、かな?」

数分ののちに理后が口を開いた。思わず麦野は息を吐いた。

「むぎの、の位置、から、西北西、4318m、に、同じ、ような、反応が、2人いる。その、近く、東北東17mに少し、違う、反応が1人」

「待って、GPSで確認するわ……自分の位置……ここ。ここから、半径4318m 、位置は西北西……鮎原リサーチセンター? 

でも、どうして3人も同じようなAIM拡散力場が?? 最初の2人は同じタイプなの?」

どうして3人もいるのか? 1人は利子だとしても、残りの2人は? 

「最初の二人は同じ波、 でも、むぎのとは違うよ? でも、同じ、むぎの、と、同じ、色、が見えるの」

(色? いろ? わからないわ。でも、いいわ)

「離れている1人は?」

麦野が聞く。

「この、ひと、は、全然、違うの。 でも、むぎの、と、同じ、精神波。波が、すごく、似て、いるの。だから」

(よくわからないけど、2人と1人か。1人が利子かもしれない。残り2人って、まさかクローン? いや、それならもっとそっくりなはず。

どういうことだ?)

麦野の頭脳はめまぐるしく回転を始める。

「理后、ありがとう。もういいわ。休んで。他にはあたしと似たAIM拡散力場は観測されていないのね?」

「うん。娘さんの能力がゼロだったらあたしでは無理だけど?」



296LX2010/11/13(土) 19:35:27.53K5qD1Ho0 (15/60)


(その可能性もあるけれど、ならば学園都市は誘拐なぞするわけがない。あの子はおそらく能力者になるのだろう)

麦野はあのあどけない利子が、自分のような戦闘型能力者になった姿を想像しかけて思わず震えてしまった。そんなことは!

「ううん? 理后、ありがとう。今更だけど、あのときはつらく当たってごめんなさい。許してちょうだい」

「むぎの……」

理后は一瞬言葉を失った。よもや「あの」麦野が自分から謝ってくるとは予想もしなかったからである。

思わず、理后の頬を涙が伝って落ちた。

(むぎのが、『ごめんなさい』と謝ってくれた! あたしに謝ってくれた……)

「もういいの。あの時は……仕方が無かったんだよ? それより早く、子供のところへ! 着いたら電話して!

それから、むぎの、こんど子供と一緒に遊びに来て? 待ってるから………… はまづらも、待ってるから、ね?」



最後に言うべきかどうしようか迷っていたひと、夫の名前を滝壺は出した。

「そうね、無事取り返したら、きっとね。じゃぁ行ってくるわ」

電話は切れた。思い切って浜面の名前を出してみたが、特に麦野の声に変化はなかった。

(本当に言って良かったかな?)

浜面理后と名を変えた滝壺は満天の星空を見ながら、遠く離れた学園都市にいる麦野とその子のことを考えていた。



「……ったく、最後にアイツの名前出して! あー、一番聞きたくなかった名前だっつーのに! 

……けど、仕方ないか。あの子の愛するダンナだもんね!」

思いの外、冷静にその名を聞くことが出来た自分に、麦野は少し驚いていた。我ながらずいぶん大人になったもんだ、と思う。


「利子、待ってなさい。ママが必ず助けてあげる!」麦野は思い出を捨て、レンタカーを走らせる。



297LX2010/11/13(土) 19:36:30.44K5qD1Ho0 (16/60)


「しかし、あの子カワイイねぇ」

「あんた、何父親やってるのよ? 情が移ると仕事に差し支えるわよ」

「へ、そこはプロだから任せろ。と言ってもなぁ、あの子のアタマかき回すのは俺はちとやだな」

「ほら、もうおかしくなってるw」

「お前ら!無駄なおしゃべりしてるんじゃない! DNAチェックはどうなっている?」

「現在チェック中だよ。あと2時間くらいかかるんじゃねぇの?」

「こっちの抗体検査は終わった。やっぱり自然の子は違うね。研究室の無菌培養じゃ太刀打ち出来ねぇよ」

「いや、あいつらはウチで生き残ったエースだからな、これでうまく行かなかったら悲惨だよ」

「しかし、やっぱり男はダメだな。結局生き残ったのは女の子だし」

「そりゃお前、もともとの遺伝子からすれば男は傷入りのイレギュラーなんだからな、自然の掟の通りになっただけだろ」

「いやいや、そもそもうちのチームが大体だな」

「そこ! くっだらないこと言ってるんじゃないわよ!!」

「ほらな、自然の掟の通りだよなアハハハハ」

「全くだ、アハハハハ」「ハハハハ、異議なし!」

「お前ら全員給料カットするーぅ!」

――― しーん ―――

「静かに出来るじゃないか」



298LX2010/11/13(土) 19:39:06.61K5qD1Ho0 (17/60)


ここは鮎原リサーチセンターのリラックスルーム。

笹岡梢(ささおか こずえ)をリーダーとする第3チームのメンバーが休憩を取っていた。

麦野利子(むぎの りこ)は、浜面(滝壺)理后のAIMストーカーによる探知の結果の通り、鮎原リサーチセンターに運び込まれていた。

彼女の無垢の笑顔はここでもその力を発揮し、第3チームのメンバーを虜にしていた。リーダーの笹岡梢を除いて。

「今日はどうします?」

「今日はもうこれで止めよう。急ぐ話でもないからな。各人の帰宅を認める」

笹岡は今日の仕事の終了を宣言した。

「あー、終わったか」 とメンバーの1人が椅子から立ち上がった


       ――― その瞬間 ――― 


グワッシャーンという轟音が響き、リラックスルームの壁を貫いたエネルギー電子線が横なぐりに部屋をなぎ払った。

立ち上がったメンバーはその電子線に水平にまっぷたつにされ、上半身がすとん、と床に落ちた。

「え?」とその男はどうして急に背が低くなったのかわからずにまわりを見渡し、

――― 上半身のない下半身が臓物をぶちまけながら自分に倒れてくるのを見て ――― 

「うわぁーっ!!」と叫んでショック死した。

他にも、伸びをしたところで発光線に手首を切断され、手首から血を振りまきながらのたうちまわる男。

頭の皿を飛ばされ、脳みそをぶちまけて倒れた男。

腰が抜けて立てない男。

リーダーの笹岡は死体を見てげぇげぇと吐いている。

        ――― ボォン ――― 

2人が無惨な死に方をしたリラックスルームの扉が破壊された。



299LX2010/11/13(土) 19:42:27.05K5qD1Ho0 (18/60)


笹岡が振り返ると、そこには体中が青白く輝き、目をつり上げた若い女が立っていた。

「!!」   笹岡の目が大きく見開かれる。

「利子を取り返しに来たわ」   女がドスのきいた声で言う。

笹岡は恐怖で答えることが出来ない。

「どこにいるの?」   女が聞く。

「警告! 警告! 攻撃エネルギー探知、攻撃エネルギー探知!」

そこへ警備ロボットが3台突っ込んでくる。

「うるせぇ邪魔だ!!」   女が喚き、右手から電子線を乱射する。

 ――― ボンボンボン ――― 

あっけなく3台の警備ロボットが溶けて小爆発するのを笹岡は見た。

「わぁーっ!」「助けてくれーっ!」

2人の男が逃げ出す。

「逃がすか!」   再び右手から発光線が飛び、2人の男は肉片と化して飛び散った。

「ぐげぇっ!」   その光景を見てしまった笹岡は、もはや吐くものもなく今度は胃液を吐いた。

「そこのあんた、もう一度聞く。子供はどこにいる?」   女は吐いている笹岡の髪を左手でひっつかんで顔を引きずり上げて聞く。

「し、知らない」   笹岡は視線をそらせて答える。



300LX2010/11/13(土) 19:48:15.26K5qD1Ho0 (19/60)


「ふ」   女は髪をつかんでいる左手に力を込め髪を焼き切った。タンパク質が焼ける臭いが新たにあたりを包む。

「ぐ」   笹岡が頭から崩れ落ちる。

「なら思い出させてあげるわ」   女は躊躇せず、笹岡の左手を発光線で切り落とした。

「ギャーッ!」   笹岡は悲鳴を上げて床を転げ回る。

「時間の無駄。死にたい? 死にたくない? どっち?」   

女はのたうち回る笹岡を蹴り飛ばし、仰向けにしてヒールを思い切り腹に突き刺して聞く。

「知らない、あたしは、何も!」   笹岡は同じ答えを返す。

「そう。残念ね」   女は笹岡の頭を吹き飛ばした。

女は、今度はうめき声を上げている両手首を失った男へ近づく。

「く、来るな! あっちへ行け!、こ、この悪魔!」   男が叫ぶ。

「あたしを悪魔にしたのは、あんたたちよ!」   女はその男のあたまを蹴り飛ばす。

「あんたも、あいつのように頭吹っ飛ばされたい?」   右手をバチバチさせながら質問をする女。

「こ、子供『たち』なら、地下2階に、いるよ!」

「階段?エレベーター?」

「ど、どっちでも行ける」

「そう? ありがとう」   言うなり女はその男の頭を吹き飛ばした。

女、修羅と化した麦野沈利はリラックスルームを出て、振り返ることもなく事務所棟を歩いて行く。



301LX2010/11/13(土) 19:51:14.60K5qD1Ho0 (20/60)


途中にあるセンサー類は、義眼である右目のマルチセンサーがギミックを全て見破っていた。

もっとも、その殆どを破壊しながら進んで行くので、ある意味ではどう動いているか丸見えでもあったが。

地下2階。

思っていたよりこの区画は細かく広かった。

ある部屋に入ると、そこは更に細かく区分けされた、半個室がかたまっていると言うべき部屋だった。

「おねえちゃん、どうしてここに?」

不意に男の子が目の前に現れた。青いパジャマを着ている。

「テレポーター?」   麦野はその子に聞いてみた。

「うん。まだレベル2だけどね。もっと練習してレベル5になってえらくなるんだ!」

胸を張った、まだ10歳にもなっていないであろうその子に麦野はちょっと心惹かれた。

「どうして偉くなりたいの?」   彼女はそう尋ねてみた。

「え? だって、レベル5になればテレビにも映るしさ。そうしたらお母さんかお父さんか、誰かが僕を見つけてくれると思うんだ。

そうすれば、僕がどこの誰だかわかるはずだし、家に帰ることも出来るからね!」

(置き去り<チャイルド・エラー>か……かわいそうに)   心にズキっと走るものがあった。

麦野は思わず微笑んで、

「そうか、だからなのね。さすが男の子ね、おねえさん応援したげる」と答え、

「おねえさん、君に聞きたいことがあるんだけど、昨日か今日、ここに2歳くらいの女の子が来たはずなんだけど、知らないかな?」

とその男の子に聞いてみた。



302LX2010/11/13(土) 19:59:31.99K5qD1Ho0 (21/60)


「うーん、僕知らない。この部屋には新しいこは来てないし。ちょっと待ってて?」

そう言うと、男の子はある部屋の扉を叩いて「ねぇ、18番、ちょっと起きてよ? 子供探してるひとがいるんだ?」



しばらくして扉が開き、ピンクのパジャマを着た女の子が出てきた。

「こんばんは。どちらさま?」

少し年上らしい。見たところ5年生か6年生あたりだろうか。

「こんばんは。あたし、むぎの しずりって言うんだけど」

麦野は携帯を出して、その中の待ち受け写真を18番と呼ばれた彼女に見せた。

「この子を探しているの。あたしの娘。間違って、ここに送られて来ちゃったらしいんだけど、地下2階にいるとは言われたんだけど、

あなたご存じない?」

女の子は写真を見て、そして麦野を見て、

「いいな……おかあさんが来てくれて」   と本当に小さな声でつぶやいた。

そしてその子は「あたし、過去の形跡を見ることが出来るの。AIM拡散力場の流れを逆に読めるかららしいけど」

それを聞いて、麦野は青ざめた。上での戦闘を見られてしまうからだ。

「もう知ってるわ。おばさんのAIM拡散力場はものすごく強力だもの。あの人たち、心底悪い人たちじゃなかったけど、でも嫌いだった」

そう言って再びその子は目を閉じて精神集中に入った。

(く、おばさんと呼ばれた)と麦野は一瞬カチンときたが、(子供のいる女は、この子からすればおばさん、だわね)と思い直した。

そんなことで怒っていては身が持たない。

気が付くと、いつの間にか他の部屋からも子供たちが出てきていて、そこには6人の子供が集まっていた。

「この部屋を出て、左、直進して。突き当たりを右に行き、正面の部屋に運び込まれていたわ。前野さんていう先生がたぶんいるはず」

目を開いて女の子が答えた。



303LX2010/11/13(土) 20:02:51.94K5qD1Ho0 (22/60)


「ありがとう。ところであなたの名前は?」

麦野はその子に尋ねてみた。

「18番よ」

女の子はちょっと寂しげに笑った。

「ここにいる子には名前がないの。番号で呼ばれるだけ」

「僕は37番」

さっきテレポートしてきた子が答えた。

「あたしは136番」

髪の長い女の子。

「55番さ」
「99番」
「174番だよ!」

男の子3人が一斉に名前、いや番号を答えた。

「全部で6人いるのね」

麦野は緊張した声で子供たちに確認を取った。

「ううん、あと3人いるよ」

と37番の子が言う。男の子では最年長のようだ。

「外に出れない子が2人。それからおねえちゃんが1人」

「おねえちゃん?」

どういうこと?と麦野が尋ねる。置き去り<チャイルド・エラー>の中・高校生ということだろうか?

「おねえちゃんとおなじくらいのひとだよ? 風使い<エアロ・マスター>だけど、暴走するとすごいんだよ?」

「わかった。じゃあとでその3人にも会ってみるね」

と麦野は答えてくれた37番の男の子に返事をした。

すると、「2人とは、あなたは直ぐ会えると思う」

と18番の女の子が無表情で言う。

「あなたの子供と同じ部屋にいるから」



304LX2010/11/13(土) 20:06:28.17K5qD1Ho0 (23/60)


18番と一緒に麦野は自分の娘がいるはずの部屋に入った。

「18番、そのひとは誰かな?」   前野という研究者はこちらを一瞬だけ見て再びモニターに視線を戻した。

「その子供のおかあさんだそうです」   と18番が答えた。

「ほう、それはそれは、よくここへ。さすがレベル5は違うねえ」   と前野は軽く答えた。

18番の女の子は「え?」と言う顔で麦野の顔を見上げる。



「利子(りこ)を返してもらうわよ」   麦野は憤怒を押さえ、努めて冷静な声を出した。

「いやいや、それは困ったな。ようやく実験が始められると思ったのにな」   前野が困った声を上げる。

「ひとの子供を勝手に誘拐しておいてなんていう言いぐさよ!」   麦野の声が大きくなる。

「いやいや、麦野くん、それは違うぞ? あの子は、我々が頼んだ子供だ。

我々の依頼による、キミの意志ではない妊娠によりこの世に生まれてきた子供だったはずだよ? 

キミの妊娠は依頼された仕事だったはずだ。違うかね?」

「く」   麦野が詰まる。

「キミにはそれなりの報酬も渡ったはずだ。すくなくとも突き返されなかったと聞いているが? 慰謝料だな」

(しまった、突き返しておけばよかったのか……)   あの時に来たカネにはまだ一切手を触れていない。

自分のカネで十分生きてこれたからだ。ただ、そんなことを今更言ったところでなんの効果もないこともわかっていた。麦野は唇をかむ。

「慰謝料には違う意味もあったんだがね? そこに2人の女の子がいるんだが」

前野が手元を弄ると、暗くて見えにくかった奥に、4つのカプセルが立っており、そのうち2つに子供が入っていた。

「あの子たちもきみの子供だ」



305LX2010/11/13(土) 20:10:57.42K5qD1Ho0 (24/60)


カプセルの中に、まだ小さな女の子が2人いた。

(滝壺の、言っていた2人はこれか!)   麦野は驚愕した。

「クローン?」   麦野が震える声で聞く。18番の子は黙って聞いている。ひとことも聞き漏らすまいとして。

「違う」   前野が即座に否定した。

「クローンでは、既に結論が出ている。オリジナルに遠く及ばないと。第三位の話ぐらい聞いているだろう?」

第三位、レベル5の第三位すなわち御坂美琴。超電磁砲<エレクトロ・マスター>のクローンによるレベル5量産化計画は大失敗

に終わったことは麦野も知っていたし、御坂美琴本人とも戦ったことすらある。

「ならば、高位者同士のカップリングによる自然交配ではどうか、ということで、生まれたのがキミの子供たちさ」

麦野の顔が引きつった。高位者、ということはレベル5に決まっている。まさか……?

18番が麦野の顔をじっと見つめている。

「第二位、垣根帝督と第四位のキミ、すなわち麦野沈利の組み合わせが選ばれた。本来なら第一位と第二位だろうが、

第一位は生殖能力が低く実験には不適当だった。第二位と第三位の組み合わせは統括理事会で明確に否定されたのでボツになった」

麦野がこぶしを握りしめている。ツメが手のひらに食い込み血がにじんでいる。

「もちろん、第二位はもはや人間の形をとどめていない。だが彼の肉体であったものは残っている。精液も冷凍保存されてね?」

「キミに人工授精を施す際に、キミの卵子も実は排卵誘発剤を用いて複数個取りだした。残念ながら未成熟な卵子は受精後に死んで

しまったりして、結局生き残った個体は4体だった」



306LX2010/11/13(土) 20:15:23.51K5qD1Ho0 (25/60)


麦野が顔を上げて前野をまっすぐに見すえる。

(こいつら、ひとの命を……なんだと思っているのか)

「更に、保育器のメンテなどで外に出した際に病原菌に冒されて死んでしまったものが2体。2年後の今、生き残ったのはその2体。

どっちも女性だ。キミのところも女の子だが、やはり女の方が生き残る確率は高いのだな」

「自然に生まれでた個体と、人為的に誕生し生育を受けたものとで、どのような違いが出るのか、今から思えば、キミに依頼した方も

双子にしておけば、ウチの子たちと良い比較データが取れたかもしれない、と思っているのだが」

「……すると、そこの2人は、一卵性双生児、ということ?」   麦野が目を伏せて言う。

「その通りだ」   と前野が言う。

「もう一つ。父母がともに能力者だった場合、どちらの影響がより強く現れるのか?という観点がある。学園都市の年齢層は現在上の方は

結婚適齢期を迎えており、第二世代が今後増えることが予想される。どのような結果になるのか知りたいとは思わないかな?」

「話はわかったわ」   麦野が前野を見すえて言う。

「利子だけじゃない、その双子も取り返すわ。あたしの娘だもの」

「それは、無理な話だ」   前野は即座に否定した。周りがそんなことは許さないだろうと。

「わたしが死んでも」

前野は続ける。

「キミの娘は、レベル5を両親に持つエリートだ。これは動かしがたい事実なのだ。

ここにいる生き残った2体もまた、育った環境こそ違え、同じレベル5から生まれた子供だ。これは学園都市にとって歓迎すべきことなのだよ。

この3人の娘たちは私たちが消えても、必ず誰かが注目することになろう」



307LX2010/11/13(土) 20:25:20.11K5qD1Ho0 (26/60)


「ふふ」   麦野は冷たい笑いを浮かべた。

「18番さん、目をつぶりなさい?」   と言い、「ハッ?」と彼女が一瞬の躊躇のあと目をつぶったのを見届けた麦野は、

「あなた、考え違いをしているようね」  と冷たく言い放ち。

――― 「ダーッ!!」―――

気合いと共に放たれた電子線は4つのカプセルと前野を粉々に吹き飛ばした。


「取り返したわ。あんたたちの汚い手からね」

麦野は18番という名の女の子に「目を開けていいわ」と言おうと振り返った。

しかし、彼女の目は既に見開かれていた。その目には明らかな敵意があった。

(やっぱり見ていたか、子供には見せたくなかったけど……)

「どうして?」   最初の言葉だった。敵意を持ったままの彼女の目からぽろりと涙がこぼれた。

「どうして、殺したの? なんの罪もない子供2人を? かわいかったのに。よく笑う子だったのに?」

麦野は答えない。

「あんたも、ここの連中と一緒だわ! 人殺し! 卑怯者! ばけもの! あんたなんか消えちゃえ!」

18番の子は泣きながら麦野に向かって呪いの言葉を吐く。

「やかましい、クソガキ!」   麦野は18番の子を張り飛ばす。

「あたしは、アンタの言うとおり、人殺しさ。ああ、何十人、何百人と殺してきたさ」

麦野は彼女のパジャマの襟を握りしめてささやく。

「アンタも自分の子を持ったときに、自分の子供を手にかけた、あたしの無念がわかる時がくるだろうよ」

18番は、目をぎらつかせ殺気に満ちた麦野の頬に、涙の跡を見た。

麦野は、18番の襟を離すと、自分の娘、利子を捜し始めた。



308LX2010/11/13(土) 20:28:52.75K5qD1Ho0 (27/60)


何も知らぬ麦野利子は、カプセルの中で、いつもと変わらないあどけない顔ですやすやと眠っていた。

笑う利子、泣いた利子。私を「ママ」と呼んだ利子。私の、私の利子!

「ママを許して、ごめんね、リコ……」

麦野は利子が寝ているカプセルにすがりつき、思い切り泣いた。18番はじっと号泣する麦野を見つめていた。



「カエルの子はカエル、か……」   泣きはらした麦野はふらっと立ち上がり、小さくつぶやいた。

「あんたに、あたしの人生は歩ませないわ」

麦野は自分の、血に染まった半生を思った。

なんでこんな能力を持ってしまったのだろうと考えたときもあった。

悩み続けた結果、「考えない」という結論に達した。持ってしまった事実は消せない。人を殺してしまった事実も消えない。

あたしは闇の掃除人。学園都市の暗部の1人。光あるところ影がある。影なら、影らしく生きて死のう、と。

「利子……」

産まれてきた利子は、そんなあたしに、再び「人間」としての意味を考えさせてくれた。この子とともに生きようと。

でも、神様はあたしを許さなかった。ひとの命を奪い続けた女に、人並みの幸せを与える訳にはいかなかったのだろう。

「あたしの娘として産まれてきたのが、あなたの不運。ごめんなさいね、利子」

あたしは人並みの幸せを望んではならなかった。死神ともいうべきあたしに、そんなことはあってはならなかったのだと。

「利子、ママと一緒に、遠いところに行こうね。誰にも邪魔されないところに。

なんか、あなたに姉妹もいるらしいし、みんなで楽しく暮らそうね」

麦野はきっ、と利子の寝るカプセルを睨み、右手をあげた……



309LX2010/11/13(土) 20:38:57.58K5qD1Ho0 (28/60)


「がっ!?」

いきなり目の前が真っ暗になり、麦野は床にたたきつけられた。

「うはー、ひでぇよー、でも、成功だぜ~」    37番の男の子が麦野にテレポートアタックを敢行したのだった。

「こ、このクソガキがぁ! ……てててて、痛っ?」 

麦野は悪態を付き、反射的に電子線を放とうとしたが、打った場所がよくなかったのか、演算がうまくできない。

「うわぁ、可愛い子だ~? ハイハイ、おねーちゃんが守ってあげるからね~、もう心配ないでちゅよぉ~?」

どこからか、子供ではない、女の声がカプセルのところからした。

「リコ!? リコ!!」 

麦野はついさっき、自分が利子を殺して自分も死のうとしたことも忘れ、利子に近づいた女を見ようと立ち上がった。

「その子に触るなぁっ!!」   麦野が怒鳴りつける。

「なーに言ってるんですか? 貴女は殺そうとしてたじゃないですか、こんな可愛い子を? 絶対ダメです。渡しません!」

見ればまだ若い女だ。20歳くらいだろう。

長い黒髪。意志の強そうな目。その女は利子をしっかりと抱きかかえ、麦野に渡すまいと全身で防護しようとしている。

「おねーちゃん、だめだよ!」

「止めて、ください」

「そんなことしちゃ、いけないんだよ!」

子供たちが利子を守る女の前に集まってかたまる。

その姿は2年前の、あの相方が送り込ん出来た子供たちを麦野に思い出させた。

「てめぇらぁーっ! どこまであたしをバカにしやがるんだぁーっ!!!!」

思わず麦野は電子線をなぎ払う、



………… 子供たちの頭の遙か上を…………





310LX2010/11/13(土) 20:41:25.45K5qD1Ho0 (29/60)


はぁはぁと麦野は荒い息をつきながら悪態をついた。

「クソったれが……」

子供たちは一瞬茫然としていたが、麦野のその言葉で我に返り、

「うわぁぁぁーん!!!」と一斉に泣き出したのだった。

「怖かったよー」

「死にたくないよー」

「ごめんなさい、もうしませんから、ごめんなさい!!」

その、いかにも子供らしい泣き声に、麦野の緊張はぷっつりと切れた。

「あー、もう止めだ、止め!! てめーら泣くんじゃねぇ、泣きたいのはあたしの方なんだよ!!」




そのとき、利子をかばっていた若い女が小さい声で言った。

「あ、あの、2年ほど前に、あなたは、わたしを助けてくれませんでしたか?」



311LX2010/11/13(土) 20:55:51.85K5qD1Ho0 (30/60)


「あん? なんだって? 2年前って、どこで?」   そう言いながら、麦野は思い出した。

不良能力者の始末を依頼された麦野は、予定通りに任務完了して帰ろうとした途中で、異様な空気を感じ取ったのだった。

果たせるかな、そこには3人がかりで若い女性に襲いかかっているスキルアウトを見つけ、まだ仕事の興奮の余韻が残っていた麦野は

その3人を一撃で粉砕したのだった。

襲われていた女はパーティの帰りだったらしく、着飾った服が破られ、無惨な状態だった。

野が気づいたのは、その女の口と下腹部から血がにじんでいたことだった。服をめくると、下腹部にはどす黒い内出血の跡が見える。

「ちっ、面倒なことになったわね」   

そう思いつつも、麦野は後始末専門の部隊長を呼ぶ。

気を失っている女をワゴンに乗せ、病院へ搬送したのだった。


――― あの時の? ――― 

麦野は、利子(りこ)を守る女の顔をもう一度見た。

「そういえば、そんなこともあったかもね……」麦野はつぶやいた。

「やっぱり!? 今の光線見て、もしかしたら、あたしの命の恩人なんじゃないかっておもったんですよぅ!!

あ、あたし、佐天涙子(さてん るいこ)って言うんです!! そ、その節は、本当に、本当に有り難うございました!」

佐天はペコペコと頭を何度も下げる。

彼女の周りにいた子供たちは、新しい話の流れに耳を傾け、じっと聞いている。泣いている子はもういない。



312LX2010/11/13(土) 20:59:08.40K5qD1Ho0 (31/60)


「もし、あのとき、来てくれなかったら、あたし、きっと強姦されて、そして殺されてました! 貴女は、わたしの命の恩人ですっ! 

もう、何でも言うこと聞きますから! そ、そう言えば、貴女のお名前はなんと仰るんですか?」

(あー、もううざいな、コイツ)   と思うが、命の恩人、と持ち上げられて悪い気はしない。

「麦野沈利(むぎの しずり)だよ。あたしは」   麦野は名乗った。

「むぎのさん、なんですね? じゃ改めて、麦野沈利さん、本当に命を助けて頂きまして有り難うございました!」

もう一度佐天は麦野に深々と頭を下げて御礼を言った。

「もういいわよ、過ぎたことよ。それよりね、あなた、いい加減に娘を返して欲しいんだけど」

うんざりした感じで麦野が佐天に言う。

「え、この子、貴女のお嬢さんなんですか? えええ? 娘を殺そうとしたんですかっ!? 一体どうして??」

「うっさいわね、誰だって好きこのんで自分の子供を手にかけるわけがないでしょ!? どこに、どこに自分の子供を殺す……

親がいる……わけが……ないじゃない」麦野はうつむいてしまった。

「何があったか知らないですけど、一人で悩んだらダメですよぅ。一人だと、かならず結果を悪い方向へ想像するんです。

あたしも昔幻想御手<レベルアッパー>で酷い目にあってますし」   

佐天が熱弁をふるう。(この子供の命がかかっているんだから! 母親が娘を殺すなんて絶対させないから!)

「難しい話は人の意見を聞くべきです! それで、たとえ最後の結論が変わらなかったとしても! かならずいい方法があるはずですから、

ね、ちょっと時間を取りましょう!」



313LX2010/11/13(土) 21:05:36.27K5qD1Ho0 (32/60)


麦野は下を向いたままだった。少し落ち着いた彼女の頭の中では、激しい葛藤が渦巻いていた。



よりによって、あの第2位、メルヘン野郎の子供……、 人為的な「原石」の創造を狙ったのか……、

父親の能力を受け継いだとすればこの子には未現物質<ダークマター>が、私の能力を受け継いだら原子崩し<メルトダウナー>が。

どっちもろくな能力ではない。どちらかといえば戦闘能力。学園都市の科学者が押し寄せるだろう。

いや、外界のあらゆる国も欲しがるのは確実。この子を巡って争いが起きるのは自明の理。実際のところ既に起きているのだし。

どうする……? 殺してしまうのが一番早い。あの子たちのように。つらすぎるけれど。

殺さないで済む方法は? 能力を消す。

そんなことが出来るのか? 

キャパシティダウナーは、昔から見れば小型化されたが、まだ持ち運びできるところまでには至っていない。

AIMジャマーは小型化されてきているとはいえ、慣れの問題でジャマーの機能が無効化される例もある。完全ではない。

どうすれば、どうすればこの子が生きて行けるか……?

「あのー、もしもし、麦野さん? 聞こえてますかー? 」   ふと気が付くと、目の前に佐天の顔があった。

「わ!」   思わず麦野が後へ飛び退く。

「す、すみません、ちょっと遠いところに行ってらしたみたいなもので……」   佐天が頭をかきながら謝る。

「それで、とりあえず一旦ここから出た方がいいんじゃないでしょうか? あたしは少なくとも今行方不明になっているはずなので、

連絡取りたいですし、この子たちの行く先も相談したい人がいますので……」

ふと、麦野は思った。この子、誰に相談するつもりだろうか? アンチスキルでは危険だし、おそらく上の手がまわっているはずだから、

逆効果になる可能性も高い。



314LX2010/11/13(土) 21:09:05.33K5qD1Ho0 (33/60)


「そうね、ここにいてもしょうがないし。おちびさんたち! ここから出るよ!」 

麦野が声をかける。

「えー、どこ行くの?」
「そとは寒いんじゃないかな?」
「夜はこどもは出ちゃいけないって昔おかあさんに言われた」

「おまえら、もう変な薬飲まなくて済むんだからすこしは喜べよな!」

「……一難去ってまた一難……かも?」

「く、こいつら……」

麦野は子供たちがもう少し喜ぶと思っていたので、予想外の反応にとまどいを隠しきれなかった。

(住めば都ってことか? あのままいたら研究材料として死んでいっただろうに。その方が良いとでもいうのか?)

「いやならここにいろ! あたしにゃ関係ないことだからな。アタマ弄くられて、実験のモルモットになって、捨てられてもいいのなら、

ここにそのまま残ってるんだね!」

麦野はそう突き放した調子で子供たちに宣言し、部屋から出た。



1階へ上がると、夜の冷気が襲ってきた。麦野が入ってくる時にぶちこわした正面玄関から冷たい風が入ってくるのだった。

既に11月。夜は冷える。

「さむーい!」   付いてきた子供たちが震え上がる。

「こりゃ、このままじゃダメですね……」   佐天が残念そうに言う。

「あんたたち、下へ降りてなさい。あたしの友達に来てもらうから!」

佐天がいうと、子供たちは

「うん、この服じゃ耐えられないもん!」
「明日の昼でもいいよぅ……」

と適当なことを良いながら下へ降りていった。



315LX2010/11/13(土) 21:13:42.26K5qD1Ho0 (34/60)


「すみません、もし良かったら電話貸して頂けませんか?」   と佐天は麦野に尋ねてきた。

「どこに連絡するつもり? アンチスキルは当てにならないよ?」   麦野が質問しながら佐天に携帯を渡した。

「あ、あたしの中学時代からの友達で、初春飾利ってのがいまして、エヘヘヘヘ……」

いやぁすいませんねぇ、という調子で佐天は受け取った携帯で電話をかける。

「その子、大丈夫なの?」   麦野はまだ警戒を解いていない。

「ええ、バッチリですよん……………もしもし、初春? あたし。 ……ごめん、捕まってた。うん、…………、そうなのよ!

なんとかね。…… それでね、チャイルドエラーの子供たちもいるのよ、全部で6人。…………そう、出来ればね。…………場所はわかる?

これ、あたしのケータイじゃないのよ。……むぎのさんってひとの…………そう、むぎの しずりさんてひと。……ええっ? 

ホントに!?…………マジでレベル5なの? 道理でスゴイわけだ……」

佐天は話しながら、麦野を驚きと尊敬のまなざしで見る。

「すいません、ここ、なんていうところだかご存じですか? すみません、あたし昨日一昨日くらいに連れてこられたもんで知らないんです」

佐天が聞いてくる。

「鮎原リサーチセンターよ」   と麦野が教えてやる。

「鮎原リサーチセンターだって…………オッケー?……うん、じゃ待ってるから、ありがとね、初春!」

佐天は電話を切ると、「どうも有り難うございました」と麦野に携帯を返した。

「ちゃんと連絡できたの?」   麦野は佐天に尋ねる。

「ええ、もう大丈夫だと思いますよ」   とニッコリ佐天が微笑む。



―――――― 佐天が続きを言おうとしたとき ――――――




「風紀委員<ジャッジメント>ですの!」

いきなり現れたのは白井黒子だった。



316LX2010/11/13(土) 21:26:58.31K5qD1Ho0 (35/60)


「いやいや、僕はただの医者だからね? あまり患者個人の事情には立ち入りすべきじゃないと考えてるんだが?」

カエル顔の医者がちょっと面食らった顔をする。

そう、ここは冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院であり、彼の個室である。

「いえ、先生には大人の男性としての意見を述べて頂くだけですから」

赤ん坊を抱くのは御坂美琴改め上条美琴。

彼女は昨年に上条当麻と結婚式を挙げ、先月初めに女の子を出産していた。

名前は当麻の「麻」と美琴の「琴」を取って「上条麻琴(かみじょう まこと)」と名付けられていた。


(よりによって第三位が出てくる、とはどういうことなのよ……)

麦野は会いたくない相手の一人である上条(御坂)美琴の出現に混乱していた。

学園都市に7人しかいなかったレベル5の二人。片や学園都市のヒロイン。しかし、元はレベル1からのたたき上げという努力のひとであった。

その努力は実を結び、彼女は美貌と知性・教養と、そして学園都市ならではの超能力者<レベル5>という3つを備えたスーパーヒロイン

として、揺るぎない地位を確立していた。まさに「光」のヒロイン。

片や、麦野沈利。彼女は天才であった。とある資産家のお嬢様として産まれ、持って産まれた美貌と知性、優秀な頭脳は小学生時代で既に

折り紙付きであった。

しかし、中学生時代に起きたある不幸な事故以来、彼女は表の世界から姿を消した。

彼女が表の世界から消えて数年後。

「裏」の世界で、たぐいまれな美貌を持つ「暗殺者」が話題に上り始める。

圧倒的パワーで邪魔なものを排除してゆく、「原子崩し<メルトダウナー>」、それが「麦野沈利」すなわち「影」のヒロインであった。



317LX2010/11/13(土) 21:43:39.94K5qD1Ho0 (36/60)


「許せないわ、そんなこと! 絶対に許さない。女をなんだと思ってるのよ?」

美琴が麻琴を横抱きしながら怒っている。

妊娠して以来、彼女は極力電撃を飛ばさないように首、腕、手首、足首にAIMジャマーを内蔵したリングを着けていた。

まだ試作品であり、それぞれは結構大柄でフルに装着した姿はやや異様であった。しかも、これとて美琴のレベル5のパワー

を全ては受け止めきれないレベルでしかなかった。とはいえ、無いよりはましで、麻琴がぐずることが大幅に減ったのもまた事実であった。

「お姉様、言うは易く行うは難し、ですわ? 24時間じゅう起きて守っているわけには参りませんのよ? しかも相手は学園都市だけ

ではない可能性もありえますの。学園都市から出てもまた同じ事が起きるとなれば気の休まるときはありませんわ。

いかに学園都市レベル5の第4位のパワーを持っていたとしても……」

白井黒子が麦野をちらちら見ながら上条美琴を諫める。

「そう、ですよね……、だからいっそのこと、って考えちゃったわけですよね、ここからいなくなればって……」

初春飾利が言う。

「ひとつ、良いかな?」

黙って話を聞いていたカエル顔の医者が言う。

皆が一斉に彼を見つめる。

「いなくなってしまえば、死んでしまえば追跡は消える、んだね? 初春くん?」

カエル医者が初春に尋ねる。

「えっと、それは100%保証できませんけれど、通常死亡届が出ると、もちろん戸籍から『抹消』され、他に書庫<バンク>からも

データは『抹消』されます。但し、普通は死亡ということで通常の検索からは外されますけれど、あくまでも記録データそのものは残って

いる事が多いのです。ただ、中には完全に消えてしまっている例があります。どういう場合にそうなるのか、私にはわかりませんが……

私の小学校のお友だちがそういう目にあっています。……『最初からそんな人はいなかった』ということになっているんです。

あたしと、一緒に遊んだ……う、ううっ、…………有希、ちゃんが……」

初春は今は亡き幼なじみを思い出したのか、涙声になる。

「おいおい泣くな、初春、ね?」   佐天がハンカチを出して初春に渡す。

「す、すびばせ~ん」   初春が鼻をかむ。



318LX2010/11/13(土) 21:46:44.29K5qD1Ho0 (37/60)


「おやおや、ちょっと初春くんにつらい思い出を思い出させてしまったみたいだね、ごめんね。そう言うつもりじゃなかったんだけれど。

さて、母である麦野沈利くんのやってしまったこと、やろうとしたことは、追跡者の手を逃れる、と言う面から見れば正解だったと言える

んじゃないかな? 誤解しないでくれるといいけれど?」   カエル医者が言う。

「先生、つまり、死んだことにすればいいと?」   佐天が言う。

「でも、そうしたら麦野利子さん本人はどうしますの? 幽霊になってしまいますわよ?」   白井が否定する。

「それですよ! 新しく産まれたことにすればいいんですよ!」   佐天が目を輝かせて言う。

しかし、白井はため息をついて、

「あなた、この子が赤ちゃんなら良いですわよ? お姉様の麻琴ちゃんのように。ですが、こちらのリコちゃんはもう2歳になろうかという

もう立派なお嬢様ですのよ? それを今更どうしろと?」

白井が重ねて否定する。

「うーん、良い方法だと思ったんだけどなぁ……」   と佐天が言う。

「記憶は学習装置<テスタメント>を使えば修正可能ですよね、先生?」   今まで黙っていた上条美琴が口を開いた。

「可能、だよ」   カエル医者が答える。

「あたしは、麦野さんに残酷なことをあえて言うけど、『死ぬ』ことしか追跡を終わらせる方法はないと思うわ」   

美琴がいう。



319LX2010/11/13(土) 21:52:13.04K5qD1Ho0 (38/60)

 
「なんですって!! ひとの娘だと思ってなんて事を! そんなことならここへ来る必要なんかなかったわよ!!

そんな結論聞きたくもないわ!」   黙っていた麦野が激高する。

「最後まで聞きなさいよ、麦野さん? それから大声出さないでよ、麻琴が起きちゃうから」   美琴がやんわりと言い聞かせる。

「『麦野利子』という人間は死んで消える。そして新しい子供が生まれる、ならいいのよ? 全然関係ないひとのところで」

「でも、この方法では、麦野さんと利子ちゃんの縁は永久に消さなければならないの。新しく産まれてきた子が麦野さんの娘と言うこと

になれば、話は振り出しに戻ってしまう。あと、2歳年をサバ読みするから、子供の時にすごく苦労すると思うわ。

まぁあたしたちくらいになれば、良くやってることだから問題ないわよ(笑)」

最後で美琴は固くなっている雰囲気を和らげるように冗談を言った。残念ながら皆マジメに聞いていて、笑うものはいなかったが。

「……」

麦野は黙って美琴の話を聞いていた。

(麦野利子という存在は消える。あたしが殺しても同じ事。あの双子と同じように。でも、利子自身は生きて行く。どこかの誰かの娘として。

あたしからすれば同じ事だ)

「あたしは、その条件のむわ」   麦野は美琴の目を見て宣言した。

「あの子が生きていけるなら、あたしは親娘の縁がなくなってもかまわないわ」   彼女は言い切った。

「麦野さん……」

「……」

「……」

白井、佐天、初春は黙って麦野の決断を聞いていた。

「あの時に、麦野利子は死んだのよ。あたしが殺したのよ。あいつらが勝手に育てていた双子と一緒に、親のあたしが」

麦野は両手で顔を覆った。その隙間から涙が伝って落ちていった。



320LX2010/11/13(土) 21:56:31.59K5qD1Ho0 (39/60)


「で、里親というか、新しい親をどうやって見つけようか?」

美琴がしばらくして、重苦しい雰囲気を振り払うべく新たに問題を提起した。

「あの、御坂さんの寮監さんの行ってたところ、なんて言いましたっけ、あそこに預けるというのは?」

初春が合わせるように明るい声で尋ねる。

「あすなろ園、ですわね?」   

白井が答える。

「ですが、あそこはもともと置き去り<チャイルド・エラー>の子供がいる場所ですのよ? 真っ先に手が伸びますわ。

あまりに危険すぎますわよ」

「ダメか……」   

初春はしゅんとしてしまう。

「困りましたわね、内容が内容だけに、広くオープンに聞けることではありませんし……」

白井がため息をつく。

しばし、沈黙が支配する。


―――――――――――― そのとき ――――――――――――


「あ、あたしがなりますっ!」

佐天涙子が手を挙げたのだった。

「佐天さん?」
「あなた……?」
「ほ、本気ですか?」

一斉に皆が佐天に訊く。


321LX2010/11/13(土) 22:00:17.34K5qD1Ho0 (40/60)


「あー、もう、あたしは聖徳太子じゃないんで、一斉に訊かれても答えられません!」

佐天がどうどう、となだめにかかる。

「佐天さん、あなた、確か……」

白井が言いにくそうに途中で言葉を切る。

「えへ、そうです。あたしはあの事件で実は子供を産めなくなってます」

重大な発言なのだが、佐天はしれっとして言い放った。

麦野は「えっ?」という顔で佐天の顔を見つめる。

カエル顔の医者は「むう」と唸った。

「実は、スキルアウトに乱暴されていたあたしを助けてくれたのが、この麦野さんでした!!」

佐天はジャジャーンというオープニングをつけて麦野を改めて紹介した。唖然とする他の仲間。

「もし麦野さんがあの場にいなかったら、あたしは今、ここでみんなとお話していなかったでしょう。私の命の恩人なんです。

しかも今回で2回目です」

「残念ながらもうあたしは自分の子供を持てません。だから、というわけじゃないですけれど、でも命の恩人のお役に立てるのなら、

その人のお嬢さんを育てられるのなら、あたしは喜んで親になります!」


少し間をおいて、

「佐天さん、あなた、シングルマザーになるのよ? 世の中冷たいわよ? 犬猫飼うのとはわけが違うのよ? 

ひとさまの娘さんを育てるのよ? あなたの人生、大きく変わるのよ? 覚悟は良いの?」

上条美琴がかんで含めるように訊く。

「あたしは、二度死にかかった女ですよ? それを思えば」

佐天はいつもとは違う真剣な顔で言う。



322LX2010/11/13(土) 22:02:29.83K5qD1Ho0 (41/60)


「あなた、研修生でしょ? 生活費は? 子供いてやっていけるの? 片手間じゃ出来ないのよ?」

「生活費はあたしが出す」    

いきなり麦野が発言した。

「あたしの、昔、あたしの娘だった子のために」

みな声を出さなかった。

「す、すみません。でも正直有り難いです。最初はお世話になりたいと思います。でもいつの日か、お返ししますから」

佐天が頭を下げた。

「いいわよ。でももらいっぱなしがいや、というのならわかった。期待しないで待ってるわ」

麦野が答える。


「佐天さん、もう一度訊くけど、本当にいいのね?」

美琴がもう一度訊く。

「決めました。麦野さん?」

佐天は麦野を見て言う。

「私があなたのお嬢さんの母親になります。安心して下さい。あたしの娘として、どこに出しても恥ずかしくない子に育てます!」

麦野は混乱していた。

こんなことでいいのだろうか、と。

こんな簡単に、3人の人生が決まってしまってもいいのだろうかと。

そして、本当に、あの子が、利子が自分のところからいなくなってしまうのだ、という事が今や彼女の頭を占めていた。



323LX2010/11/13(土) 22:05:46.62K5qD1Ho0 (42/60)


物事は決まるとトントン拍子に進むものである。

その日のうちに、やることは決まり、翌日朝から全員が行動を開始した。



上条美琴は、鮎原リサーチセンターの事件の内容確認である。親船元理事長のコネを使ってもみ消しに入ったものの、そう簡単にはいかない。

しばらく時間がかかりそうで、一刻も早く麦野親娘を舞台裏に隠す必要があることが判明した。

そして佐天が預けることになる保育園の打診。これは夫の上条当麻の高校の担任だった月詠小萌先生の紹介でなんとかなりそうだった。

白井黒子は、鮎原リサーチセンターから脱出してきた子供たち6人の落ち着き先を決めること、これはあっさりとあすなろ園の園長先生が

引き受けてくれたので簡単に済んだ。

問題は戸籍及び学籍の再調査であった。なんせ記憶を消されていたので自分の名前を覚えておらず、難航が予想された。

初春飾利は、データハッキングの準備である。普段とは逆の作業をすることになる。

カエル顔の医者は、学習装置<テスタメント>の下準備、そして自分の開発した新型AIMジャマーの最終チェックであった。

彼としては万全の準備と言うことで、大脳生理学の木山春生教授に来てもらっての事前打ち合わせまで行った。

これといってやることがなかったのが中心人物の麦野親娘と佐天涙子の3人だった。



324LX2010/11/13(土) 22:07:51.95K5qD1Ho0 (43/60)


3人は病院から出ることなく特別室で一緒の時を過ごしていた。

佐天は麦野から、娘利子の癖や好み、過去にあったこと等、聞けること全てをメモっていった。

麦野もまた、覚えていること全てを佐天に話した。話し始めると、麦野は饒舌になった。

佐天は話をしている麦野の顔がとても穏やかであることに気が付いていた。

(このひとから、あの子を取り上げてしまって、本当にいいんだろうか?)  ちくちくと佐天は良心が痛むのを感じていた。

一方の麦野は麦野で、

(この子、本当にあの子をちゃんと育ててくれるのかしら? しっかりしてるようで、大ざっぱだし……利子、お母さんを許して、

あなたをもう危険な目に遭わせることはさせないからね、あなたを捨てるわけじゃないのよ、わかってね)

自分の娘を手放す事に、良心の呵責と未練が心をさいなむのであった。

そんな二人を和ませるのは、あどけない利子の仕草であった。二人は利子のかわいらしい動きを見て声を上げて笑った……






そして、そのときがやってきた。

麦野は忘れたことがない。

忘れることが出来ようか?

今でも夢にみることがある。

ひともいなくなった、面会時間を1時間過ぎた夜。病院のある部屋。



325LX2010/11/13(土) 22:09:31.52K5qD1Ho0 (44/60)


まだ2歳なのに、なにか感じ取ったのだろうか?

いつもの、ニコニコとした見る人に安らぎをもたらす笑みもなく、利子が、不安そうに自分を見つめている。

「ママ?」

麦野は一瞬手を伸ばしかけた。

が。

麦野はくるりと、わが娘に背を向けると、そのまま部屋を出た。

「ママ? マぁマ!? マぁマ!!??」

背中に利子の声が突き刺さる。麦野は耳をふさいで階段を駆け下り、走って、走って、走った。

病院を出て、街の中を走った。

とめどもなく涙を流しながら。

(ごめんなさい、悪いママを、許して。お願い、生きて、さよなら利子!)

どれくらい走ったのだろうか。麦野は走るのを止め、息をついた。



そして、恐る恐る振り返った。

もしかしたら、もしかしたら利子がニコニコ笑ってそこに立っているのではないかと。






そこには、誰もいなかった。

ただ、静かに眠る学園都市の夜の姿があっただけであった。

麦野はぺたっと座り込んでしまった。

「リコ! あたしの、あたしのリコ!!!!」 

麦野の脳裏に、幸せだった海辺の家での生活が浮かんで、消えた。



326LX2010/11/13(土) 22:12:26.66K5qD1Ho0 (45/60)













翌日、麦野は、娘・麦野利子(むぎの りこ)の死亡届を出した。

立会人は、カエル顔の医者と、学園都市風紀委員<ジャッジメント>第7学区委員長白井黒子、学園都市教育大・大学院生上条美琴の3人。



そして、1週間後。

佐天涙子はカエル医者の病院で女児を出産し、女児は「佐天利子」(さてん としこ)と名付けられた。

立会人は学園都市風紀委員<ジャッジメント>情報部第2チーム・チームリーダー初春飾利であった。



……という言うデータが書庫<バンク>に作成されたのであった。もちろんこの作業の主役は初春飾利であった。



327LX2010/11/13(土) 22:16:14.04K5qD1Ho0 (46/60)


初春は1週間、佐天涙子の病歴記録を総当たりして、彼女の子宮頸管破裂事故に関するデータを全て消して廻ったのであった。

さらにそこから彼女に乱暴したスキルアウトのデータ内容についても確認を行うなど、1件のデータを改ざんするのにどれだけの

労力を要するか、またとない経験を積むことになったのだった。

麦野利子の死亡について、初春はデータロガーをひそかに仕掛けておいたが、最初の1週間は恐ろしくなるくらいのアクセスが

あり、一部はデータ履歴の詳細までチェックしようとした形跡が数度あったが、これは全て撃退されていた。

1ヶ月を過ぎると大幅に減少し、1年を過ぎるとほとんどアクセスは消えた。しかし、用心深い初春は今でもまだロガーを撤収

していない。

同じように佐天涙子についてもデータロガーを仕掛けていたが、こちらは数回アクセスがあっただけで、しかもいずれも役所関係

からのもので通常よく見られるデータ検索であったことから、こちらもロガーは残してあるが年に1回見る程度になっている。



鮎原リサーチセンターにおいて研究員が全員死亡した件は、漏れていたガスによる爆発事故によるもの、として処理された。

センターに拉致されていた子供たちは、結局追跡が出来ず、置き去り<チャイルド・エラー>ということで、全員に名前と学籍が

新たに付与された。



328LX2010/11/13(土) 22:22:20.95K5qD1Ho0 (47/60)


佐天涙子は1年間の休職を取った。規則上は問題はないものの、研修生の身分でシングルマザー、という内容は水面下ではかなり問題となった。

この苦境は上条美琴が圧力をかけて、佐天涙子の地位は確保された。もちろん、彼女自身の成績の優秀さによる部分もあったのは事実である。

「麦野利子(むぎの りこ)」はその後カエル医者の病院で、木山春生教授の指導の下で学習装置<テスタメント>により記憶を完全消去され、

「佐天利子(さてん としこ)」として、ゼロからのスタートを切ることになった。



とはいえ、元々は2歳児であった佐天利子がゼロ歳児というのは実際上はかなり無理があり、佐天親娘は大変な苦労をすることになった。

誰がどう見ても彼女はゼロ歳児には見えなかったからである。

それが明らかになったのは休職期間が終わるほぼ1年後、保育園でのことである。

彼女は名目では1歳であるが、外観はどう見ても3歳ぐらいだったからである。

上条美琴から紹介を受けた保育園にしても、園長先生や保育士まではなんとかごまかせても、他の子供の親の目をごまかすのは不可能であった。

その結果、彼女ら親娘は保育園を転々とすることになり、そして直ぐにそれすら出来ない状態になった。

「異様に育ちがよい、とっても可愛い女の子」の話が広がり始めたからである。

非常に危険だった。研究者たちの興味を引く可能性が出てきたからである。万一調査され、その結果能力が発見されたのでは、なんのために

麦野親娘の縁を切り、データを捏造してまで追跡を振り切ろうとしたのか意味が無くなってしまうからである。

佐天はいつものメンバーに相談を持ちかけた。



329LX2010/11/13(土) 22:25:18.00K5qD1Ho0 (48/60)


もはや学園都市にいることは難しい、というのが佐天の実感であった。しかし実家に戻る選択は既に無くなっていた。

麦野から利子を譲り受けたその日に、既に佐天涙子は実家に連絡をしてみたのだった。

彼女の父親は激怒し、「そんなふしだらな娘は二度とウチの敷居をまたぐな」と勘当されてしまったのである。

まさに、美琴が言った「世の中はシングルマザーに冷たい」という事実を、身にしみて実感した佐天であった。

よもや、自分の実の親に否定されるとは彼女も予想だにしなかったのである。



相談を受けたなかで、まず上条美琴は自分の母親、御坂美鈴に、佐天利子の里親になってもらえるかどうかを確認してみた。

美鈴は二つ返事で受けたので、割と簡単に片づくと思われたこの件は思いもかけないところで躓いた。

学園都市が許可を出さなかったのである。原因は明らかにしてもらえなかった。

後に親船ルートで確かめたところ、昔、彼女の母御坂美鈴が「帰還事業」の首謀者として危険人物として登録されていたことに原因があった。

学園都市にとっての危険人物たる人間に、学園都市で産まれた子供を寄宿させるなどもってのほか、ということなのであった。

御坂美鈴・美琴親娘は大いに落胆した。その晩、愚痴をこぼした美琴に夫となっている上条当麻が助け船を出した。

すなわち、彼の母、美琴の義理の母である上条詩菜に白羽の矢が立った。



330LX2010/11/13(土) 22:27:23.85K5qD1Ho0 (49/60)


上条詩菜もまた、二つ返事で引き受けた。どれくらい気に入ったかというと、翌日に学園都市に単身乗り込み、どの子がうちに来るのか

教えて欲しいと言ってきたくらいである。

そして再び、今度は上条詩菜を里親という形で学園都市に申請を出したのであるが、今回は違った。許可が下りないのである。

御坂美鈴の時は、「不許可」という回答があった。しかし今回は回答そのものが出ないのである。

ここにいたって、佐天涙子は決心した。方法は、二人揃っての学園都市からの「退去」であった。

佐天涙子は既に「無能力者」として書庫<バンク>に登録されていた他、娘の「佐天」利子は、カエル顔の医者の試作品である

マイクロAIMジャマーのおかげで無能力者扱いされていたためか、不思議に許可が下りたのであった。

「どうして、子供だけでは不可で、親子ならOKなんでしょうね?」

佐天はそう言って美琴にぼやいた。

佐天母娘が住む場所は、上条当麻の家、すなわち上条詩菜のところであった。これは詩菜自身が強く望んだからであった。

そして、佐天涙子は気象科学研究所の研修生を辞め、東京の気象大学大学院に再入学した。彼女の頭脳・才能・頑張りのおかげで、

彼女はめきめきと頭角を現し、2年後には逆に学園都市気象研究所から再招請を受けるほどになっていた。

彼女は再招請を受ける際に条件を出した。

「東京に住んで学園都市に通勤すること、出張の際には子供が小学校に入るまでは同伴する場合がある」というものだった。

実際には毎日行く必要はないので、気象研究所は許可を出し、再び佐天涙子の姿を学園都市で見ることが出来るようになった。



331LX2010/11/13(土) 22:33:18.80K5qD1Ho0 (50/60)


そして、それから十年ほどが経過した今……

麦野沈利、佐天涙子、上条(御坂)美琴の3人は再び冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院で対決した。

「そうね、あんた、あんたはまるで、昔のあたし」   麦野は荒い息をしながら答えた。

「あの子と一緒に死のうとしてた、あたしそのものよ……」   佐天を見すえながら麦野は続ける。

「あたしになんて言ったっけ? え? 子供に罪はない、子供を守るのが親の務め? 一人で悩むと悪い方を考える?

全部あんたに、いま返してやるさ!」

佐天は14年前を思い出したのだろうか、大きく目を開き、そして麦野から目をそらした。

「あんたはよく頑張ったよ。正直、大丈夫かと思ったこともあったけど、あの子を見てよくわかった。

あの子が良い子に育っていて、本当に良かった。本当に有り難う。感謝してもしきれないくらいよ。

あんたは間違いなくあの子の母親よ。だから、最後まで、あんたは死ぬまであの子の親をやり遂げるのよ。御願い」

麦野はゆっくりと喋る。

「あの子はまだ中学生。でも、今の年頃で自分の一生を決めてしまうひともゼロではないわ。今は、最初の巣立ちの時期。

たぶんあの子は揺れ動くと思う。あの子が今飛び立つか、飛び立てるかどうかはわからない。でも、もしあの子がそうしようとしたら、

あんたはそれを止めちゃいけない」



332LX2010/11/13(土) 22:34:47.18K5qD1Ho0 (51/60)


佐天はじっと立っている。アタマの中では沢山のことが渦巻いているのだろう。

「佐天さん?」

美琴が佐天に近寄って、優しく言う。

「あなた自身、お母様の願いを振り切って学園都市にやってきたのではなくて?」

佐天がびくっとすくむ。

「お母様は、あなたの強い意志を知って、せめてとあなたに神社のお守りをお渡しになったのではなかったの?

お母様はあなたを止めることだって出来たはず、でもお守りをお渡ししただけなのでしょう?」

美琴は言葉を切った。麦野は黙って佐天を見つめている。

「おかあさん……」

ぽつりと佐天は言ったまま、下を向き、身じろぎもしなかった。

しばらく3人は黙って立ちつくしていた。

「佐天さん、行こう? ここでの立ち話は邪魔だし、どこで誰が何を聞いてるかわからないし。とりあえず部屋に戻ろうよ?」

美琴は優しく佐天の肩を抱き、歩き出した。佐天涙子も落ち着いたのか、美琴に抱かれるまま歩き出した。

「あたしは、オフィスに戻るわ」

麦野は僅かにほほえみを浮かべて「報告書がどうなってるか、ちょっと見ておかなきゃいけないからね」と言った。

佐天ははっという顔で麦野を見つめた。

麦野は無言のまま、ぽんと佐天の肩を優しく叩き、そのまま右手を軽く上げて挨拶をすると、廊下を歩いて去っていった。



333LX2010/11/13(土) 22:38:32.01K5qD1Ho0 (52/60)


            ヤバ~い!!!!!!!!!!!!


              大変なことに気が付いた!


               「宿題やってない!!」


あたしは飛び起きた。


あれ? 母がいる。美琴おばさん、それに何故か麻琴もいる。みんなびっくりしてる。

「はい?」

あたしは麻琴がなんでここにいるのかちょっとわからなかった。

麻琴がぶっと吹き出し、「リコ~! 起きたのね!! よかった!! 良かった~!!!」と顔をくしゃくしゃにして飛びついてきた。

「ちょ、ちょっと、何よ、どうしたのよ、なんでアンタが?」

あたしはまだわかっていなかった。

「利子、おはよう。よく寝てたわね? ちょっと寝過ぎよ」

お母さんが、怒ったような、泣き笑いのような何とも言えない顔であたしに声をかけてきた。

ここ、いったいどこ?



334LX2010/11/13(土) 22:42:47.81K5qD1Ho0 (53/60)


「リコちゃん、おはよう。ここは学園都市なんだけど、覚えてるかな?」

美琴おばさんがニッコリ笑って言う。

はいっ?

「ええっ? どうして? なんであたしが学園都市に? あれ? 3月に学園都市に行きましたけど、えっと? 今日はいつですか?」

あたしのアタマがおかしいんだろうか? なんか未だにピンとこない。

「今日は5月26日よ、あなた4日間もずっと寝てたのよ?」

お母さんが優しい声で教えてくれる。う、この優しい声はちょっと怖いかも、って

「5月? 4日間も!!?? どうして誰も起こしてくれなかったのよ?」

なんでみんなしらけた顔するの?

「ゴメンね、ちょっとあたし、よくわかんないから、順追って話すね? いい?」

あたしのアタマはものすごく混乱している。なんなんだろう?

「無理しなくて良いからね? まだ起きたばかりだしー?」 

麻琴が心配そうにあたしの顔をのぞき込む。

「うん。ありがと。えーと、じゃぁ、ラブレターもらったとこからね。」



―――「「「 えええええええええええええええええ???????????????」」」 ―――




               あたし、





               バカだ。 orz




335LX2010/11/13(土) 22:46:05.33K5qD1Ho0 (54/60)












結局その日一日、あたしは3人からおもちゃにされた。

麻琴はふくれるわ、お母さんと美琴おばさんは目を輝かせて、

「誰よ誰、どこの誰から? どんな男の子なの? 何が書いてあったの?」



思い出した。あれはあたしの机のなかにしまいこんだままだった。何が書いてあるか、あたしだって知らないのだ。

だから答えられる訳がない。あー、よかった、初めは記憶無くしたのかと思ってしまった。

もうお願いだから聞かないで、と言っても聞く耳持たず状態だったりで、さんざんいじりまわされて悲惨な目にあった。

もともとはあたしのおバカな発言からなんだけど。自業自得か……


            「不幸だ」



336LX2010/11/13(土) 22:50:47.75K5qD1Ho0 (55/60)


少しずつ思い出してきた。

学園都市に拉致されてきたこと、お母さんが誘拐されて、あたしも拉致されて、倉庫で銃撃戦があって、あたしは撃たれてけがをして

入院し、4日間寝ていたというわけだ。

麻琴のお父さん、上条さんの「不幸」が伝染したみたい。

「不幸だ」あたしはまたつぶやいてみた。

明日はリハビリらしい。わずか4日寝込んでいただけだけど、筋肉はもう弱ってしまっているらしい。

確かになんかちょっと違和感がある。陸上選手のはしくれとしてはこれはちょっと問題だわね。

そして髪の毛。伸びて来てはいるけれど、まだまだ坊主刈り状態でとてもこのままでは外へ出られない。事のきっかけになった

麻琴の「カツラ」も、明日また麻琴が持ってくるらしい。情けないけれど、髪型の研究だと思えば少しは気が……休まらない。



夕方、美琴おばさんの携帯を借りて、詩菜大おばさまと電話で話をした。

最初、大おばさまはあたしの声を聞くなり泣き出してしまって話にならなかった。

ごめんね、心配かけちゃって。

あたしも早くうちに帰りたいよぅ。はー、お家でみんなでご飯食べたいなぁ……




337LX2010/11/13(土) 22:52:50.73K5qD1Ho0 (56/60)


それからひろぴぃとケイちゃんにも電話した。

二人とも最初びっくりして(あたしは幽霊かい!)、そして二人ともズルズル涙声になって、更にお見舞いに行くからと言いだして

しまって往生した。とりあえずみんなに宜しく、と言っておいたけど、どうやらあっちでは結構な騒ぎだったらしい。

なんだか、話が少し違っていて、いつの間にか「学園都市」そのものに拉致されたことになっているらしい。

美琴おばさまから、「それ以上しゃべると帰れなくなるかも!」と注意されてしまった。

母も実は1日ここで一緒に入院していたらしいことも知った。

あたしたち、無事に東京へ帰れるのかなぁ……




3日後、あたしは退院した。

栗色の髪は伸びているけれど、まだまだ、とてもとても人前には出られない。

仕方ないので麻琴が持ってきたカツラをつけている。いろいろ選べるのはある意味楽しかったけれど、自分の頭を見ると泣きたくなるやら

恥ずかしいやら。

結局無難な、黒髪のストレートをベースに緩くウェーブをかけたものにした。まぁ今までのものに近い、かな。



338LX2010/11/13(土) 22:56:09.99K5qD1Ho0 (57/60)


カエル顔の先生は、

「としこちゃん、元気でね。僕のところにくるのは、これが最後になるといいんだけれど、でもそれはちょっと寂しいかな?」

なんて言っていた。

ミサカ麻美さん(10032号)がそれを聞いて

「ぶっ、ミサカはいまの発言が信じられませんと思わずネットワークのメモリーを呼び返してみます」なんていってた。

母と美琴おばさんは、「その通りですよ」「ホント、ウチのアイツだけで十分よ」と言って笑っていた。

麻琴は「リコ、来年は一緒の高校に行こうね!」と顔を輝かせていたけれど、あたしは曖昧に頷くしかなかった。

学園都市には、出来るならもう来たくはない。あたしには刺激が強すぎる。



(でもさ、結局戻ってくることになりそうだよ)

もう一人のあたしは、ずっとはっきりとものを言うようになっていた。

(美琴さんみたいに、ちゃんと超能力を使いこなせるようにならないとだめだろ? 人間凶器になるのはいやだろ?お母さん守るんだろ?

それには訓練しないとだめじゃないのか?)



あたしの首には新しい特注のネックレスが、両腕には小型のアームレットが収まっている。AIMジャマーだ。

半年前の麻琴と同じ状態。 

昨日、あたしは能力開発テストを受けたのだ。

母の希望もむなしく、あたし自身も願っていたのだけれど、あたしの能力は消えていなかった。

しかも、その能力はおぞましいものだった。思い出したくもない。どうせならもっと平和な能力であって欲しかったのに。

それでも判定はレベル3<強能力者>。麻琴に追いついてしまった。無意識下で演算を行っているらしい。

基本的な開発教育を受けていないのにこのレベルにあるのは珍しいらしい。

木山という女の先生も「珍しい、良い素質を持っているから訓練と勉強をして、レベル5<超能力者>を目指しなさい」と言っていた。

あたし的には、まだ全然力を出していない感じがするのだけれど、何をどうやったらいいのかわからないし。

(だから、ちゃんと訓練がいるんだよ)とまたぞろ、もう一人のあたしが割り込んでくる。



339LX2010/11/13(土) 22:58:40.30K5qD1Ho0 (58/60)


母があたしを心配そうな目で見ている。

「不幸だ……」

あたしは小さくつぶやいた。

(何言ってるんだ、ついこないだまで無能力者だと思いこんでいたくせに)   あー、あんたちょっと静かにして! 挨拶!

「本当に今回も前回もいろいろとお世話になりました。おかげさまで無事健康体を取り戻して東京へ帰れます。どうも有り難うございました!」

あたしはニッコリと笑顔で、皆さんに挨拶をして、母と美琴おばさまと一緒に、美琴おばさまのリモに乗り込んだ。



「さようなら」

「有り難うございました」

「お世話になりました」

あたしたちを乗せたリモが病院を出て行く……










「良かったんですか? 挨拶しないままで? だって」 

「黙ってて!!!」



病院のバス停に立つ二人は、走り去るリモを黙って見つめていた。 



                                                         
                                                    (第1部 完)


340LX2010/11/13(土) 23:02:06.55K5qD1Ho0 (59/60)

お読み頂きました皆様、こんばんは。
>>1です。

とりあえず、投稿完了致しました。
最後までお読み頂きまして、本当に有り難うございました。

まずは取り急ぎ、皆様に御礼申し上げます。



341VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/13(土) 23:11:46.11mJsj7Ogo (2/3)

乙です
面白かったよ第一部
第二部が楽しみだ


342VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/13(土) 23:29:23.38XHTzUtso (1/1)


第2部はいつぐらいになりそうですか?


343LX2010/11/13(土) 23:32:45.25K5qD1Ho0 (60/60)

>>1です。

*いくつか、初期に佐天利子が説明する内容と、終わりの頃の第三者視点での内容に食い違いがあることに気づかれた方がいらっしゃる

かと思いますが、それは意図的なものがありまして、佐天涙子または上条美琴や上条詩菜などの大人が、佐天利子にそう説明していた、

というように解釈して頂けると助かります。

*基本線ですが、最後まで悩んだのが「佐天利子」に能力を与えるのか、無くすのか、という事でした。今回の終わり方は、本来「無くす」

方向でのもので、「ただのひと」になって東京へ帰るのであれば問題ない終わり方なのです。

しかし、ややもすると「負け犬」的印象を与えかねないこと、アタマ打ったぐらいで能力って消えるのか?(笑)、という問題が出てきま

して、急遽「能力発現」に切り替えたのでした。

*しかし、そうなると、「じゃこのSSは結局なにが言いたいの?」ということになりました。

「第一部」としたのはそれに対する「逃げ」でありましたが、つまり今回投稿した話全部がプロローグにしかなっていません。

 最初の>>1に書いてあります通り、「佐天利子」の御紹介で終わってしまっています。

*タイトルもそうですが、「佐天利子の大冒険」であればこれで「完結」で済んだのですけれど、悩んだ末に付けた名前が「学園都市

第二世代物語」、これはでかく出過ぎました。

正直悩んでいます。佐天利子物語を続けるのか、あらたに上条麻琴物語を始めるのか、はたまた漣孝太郎物語か、あるいは他のオリキャラ

物語か?

*今回の物語の主人公である佐天利子は、結局最後まで結論を出さずに東京に帰ります。

それは、作者である当方が結論を出せなかったからです。いや~難しい。


344VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/13(土) 23:35:40.22mJsj7Ogo (3/3)

まずは佐天利子物語の続きをお願いします


345VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/13(土) 23:41:06.14IjGwu6DO (1/1)

最初から一気に読んじゃった。面白かったよ!


346LX2010/11/14(日) 00:08:41.47yKXpnRs0 (1/2)

引き続きの>>1です。

コメントお寄せ頂きましてありがとうございます。投稿者冥利につきます。感謝感激です。


*このSSは投稿開始までおよそ2ヶ月かかりました。

「書きためろ」とよく書かれていますが、実際にやってみると、書きためていないとならない理由がよくわかりました。

まず、最初に書いた話と後半に書いた話との中に食い違いが出てしまうことがあります。

面白い例では、途中から登場人物が勝手に動き出してしまうことがありました。当初の筋書きと全く違うことをやり始めたのでした。

仕方ないので、オリジナル路線と勝手な動きのスジとを二本立てで進めましたが、片方は結局つじつまがあわなくなりボツ原稿に

なってしまいました。(そちらも、登場人物のキャラが良く出ていて面白いのですが、最後に致命的なエラーが出てしまいボツと

しました)

書きためてあれば、書き直す(最悪です)、スジを考え直す等の対策が取れますが、投稿してしまっているとお手上げです。

次に、書きためていると最初に書いた文章を推敲するチャンスが何度もありますが、投稿してしまっているとアウトです。

それこそ、コピペしている時にも見直しをしています。これが直打ちでは出来ません。

書いたエピソードを当初の位置から全然違うところに移動して飛び込ませた箇所もあったと記憶しますが、そういう大仕事も書きため

あればこそ、ですね。



ということで、どういう形になるにせよ、続きはちょっとお時間を頂く形になりそうです。







347VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/14(日) 02:49:26.59wNmH2CAo (1/1)

とりあえずの区切りはついてるし、じっくり書き溜めて貰っても充分待てると思うよ

しかし本当に面白い・・・オリジナルとはいえ、親となるキャラはいるわけだし、
その親子関係やらを上手くからめてどのキャラも魅力的でイイ
ゆっくりと第二部を楽しみにしてます!


348以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/14(日) 22:18:13.19QwDWSAAO (1/1)

オリキャラに色をつける―つまり詳細な設定を作る二次SSはクソになりがちだが上手くバランスが取れていたように思う
>>1乙


個人的には第二部やるならオリジナル能力出してもいい気がするなあ
無論世界観やバランスを揺らがさないレベルで
第二世代だからって同じ能力しかないのはちょっと寂しい
まあいいんだけどね


349LX2010/11/14(日) 22:30:56.30yKXpnRs0 (2/2)

皆様こんばんは。

>>1です。

いろいろアドバイスのコメントを頂き、感謝感激であります。

さて、第2部をつたない足取りですが書き始めました。

なんせ原作にない時代設定を書こうとしてますので、固有名称に困ってしまいます。
小学校、高校、大学、全然足りません。名無し大学というわけにも(苦笑

まぁ常盤台に囲い込み政策で大学まで出来ている、と言う設定もおかしくないですが、
それでは身動きが取れませんし、男性はどうしろと(笑

第2部は、新たにスレを立ち上げるべきなのでしょうか、
(まだずっと先の話ですけれど、このスレが生きているうちにお聞きしたかったので)
それとも、まだ300台なのでこのスレを生かした方がよいのか……?
ルール上はどうなんでしょうか?




350以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/14(日) 23:25:02.520oWt88so (1/1)

第一部が終わっただけだからこのスレで続けて良いんじゃないかな?
期待して待ってる


351以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/15(月) 19:44:53.66KkGoJ.DO (1/1)

同じくこのスレでいいかと

1~2週間に1回でも>>1の生存報告があれば消える事もないだろうし
充電期間が長くなりそうなら酉つけとくといいかも


352以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/15(月) 19:56:21.583zeOe2oo (1/1)

このスレでいいと思うよ
一方さんとか他のキャラがどうしてるか気になるな


353LX2010/11/17(水) 21:49:00.92Qv5EFV60 (1/1)

こんばんは、>>1です。

第二部もこのスレで、という皆様の声ですので、ここにて追加発表をすることに致します。
現在書いてますが、落としどころも山場もまだ何もない状態です。
スミマセンがいましばらくお時間を頂戴します。では。


354以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/17(水) 22:42:40.21ikP7U52o (1/1)

待ってるよ


355以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/18(木) 12:03:45.26xjfUKQMo (1/1)

きたいして待ってる!


356以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/19(金) 21:46:34.76jiTmmjc0 (1/1)

セリフの前に名前入れて欲しいな
オリジナルが多いから誰が何言ってるかわからない


357LX2010/11/29(月) 00:28:38.147NVBSu60 (1/1)

こんばんは。>>1です。
取り急ぎ生存報告です。

一応オチらしいものは考えました。あとはどうやってそこまで持ってゆくか、です。
いろいろなエピソードの部分を思いつき、それをどうふくらませ、それぞれどう繋げる
かで苦労しています。

もうしばらくお待ち頂きたく、すみません。


358以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/29(月) 00:31:06.91kLdM0hIo (1/1)

やった!
つまり続きが出来つつあるって事ですね
ゆっくりでいいから待ってる!


359以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/11/29(月) 07:50:27.13PxrvrWko (1/1)

待ってます


360以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 00:24:42.53wiC9wk2o (1/1)

まーだっかな


361LX2010/12/10(金) 20:41:41.56RFSLr420 (1/1)

こんばんは。>>1です。

100レスぐらいは書いたか、というところでふん詰まりました(泣
途中から分離してエピソードを2つぐらい入れてからまた戻そうかと考えていますが
結局同じところでふん詰まるような……

出だしは固まりましたので、発表しても問題はないと思うのですが、どうしましょう?
多分、50レスも進まないと思いますが……


能力開発シーンって難しいです。原作には殆ど出てきませんし、既発表の方のSS話は
素晴らしく、絶対どこかにあった話に似てしまうようで。

麦野沈利がゲームに出て来るそうで声優さんも発表されてますが、ちょっとイメージ
違うような気もします。



362以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 22:14:37.16NG7YOBwo (1/1)

気にしたら負けだろ
SSなんだからオリ設定でも構わないと思う


363以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/10(金) 22:30:37.61jn2.ZiMo (1/1)

>>361
できたら でいいけど、オリキャラ祭りでちょっと こんがらがって きたから簡単な人物紹介書いてくれると嬉しい


364LX2010/12/11(土) 08:57:40.12nEIb/ac0 (1/7)

皆様おはようございます。>>1です。

ご要望がありました、登場人物の紹介編を投稿致します。
纏めを作った結果、自分自身も改めてキャラの位置づけを確認できましたので
おかげさまで助かりました。
>>363さん、有り難うございました。

ちょっと下まで落ちていますので、今回はage進行で参ります。



365LX2010/12/11(土) 09:02:14.72nEIb/ac0 (2/7)

第1部 キャラ説明

1)主人公のまわり

主人公 佐天利子(さてん としこ) 東京都に住む中学生。第1部では中学2年生3学期から3年生の1学期途中。
                  年齢は戸籍上は14~15歳。愛称リコ
                  母親は佐天涙子(さてん るいこ)、父親不明。
 
母   佐天涙子(さてん るいこ) 東京都在住、世界的にも著名な気象学者。現在36~37歳。
                  シングルマザーとなって佐天利子を育ててきた。
                  風使い(エアロマスター)系の能力者であったが捨てたことになっている。詳細不明。                          実家とは音信途絶状態。

詩菜大おばさま
  上条詩菜(かみじょう しいな) 東京都に住む。現在59~60歳。夫は上条刀夜(かみじょう とうや)で、
                  息子が上条当麻(かみじょう とうま)、嫁が上条美琴(かみじょう みこと)
                  息子当麻の依頼で、佐天涙子・利子親娘を一時期預かる。
                  後に自身の孫娘、上条麻琴(かみじょう まこと)も預かることになる。
                  その後、佐天涙子は1軒隣の家を購入し離れるが、出張の際は佐天利子を預かり、
                  彼女の幼年期は事実上母親役であった。
                  待望の女の子ということで実の孫である上条麻琴と分け隔て無く育ててきた。            

美琴おばさん
  上条美琴(かみじょう みこと) 学園都市第八学区在住。旧姓御坂、御坂美琴(みさか みこと)。現在37~38歳。
                  大学卒業後、22歳で上条当麻と結婚。学園都市教育大大学院生2年生、23歳で女児出産、
                  上条麻琴(かみじょう まこと)と名付ける。
                  現在、学園都市理事会広報担当委員。
                  レベル5 通称 超電磁砲<レールガン>
      


366LX2010/12/11(土) 09:05:42.90nEIb/ac0 (3/7)

上条のおじさま
  上条当麻(かみじょう とうま) 学園都市第八学区在住。24歳で御坂美琴(みさか みこと)と結婚。 
                  現在学園都市理事会メンバー(詳細不明)
                  幻想殺し<イマジン・ブレイカー>

親友のマコ 
  上条麻琴(かみじょう まこと) 第1部前半では東京在住で、物語中盤に中学三年生に進級の際、学園都市に転出し、
                  柵川中学校に転校した。現在風紀委員<ジャッジメント>、117支部所属。
                    
                    *本文では114支部になっていますが、これだと多分第4学区になってしまいます。
                    柵川中学校がどこにあるか、原作では明確に書かれてませんが、多分第7学区でしょう。
                    ということで訂正しました。

                  主人公佐天利子(さてん としこ)と同い年14~15歳。
                  上条当麻(かみじょう とうま)と上条美琴(かみじょう みこと)との間に産まれた一人娘。
                  左利き、母の能力を受け継ぎ、電撃使い<エレクトロマスター>として能力発現、
                  まだ静電気までしか扱えていないらしいが第1部終盤ではレベル3まで到達。 

上条家の主
  上条刀夜(かみじょう とうや) 東京都に住む。妻は上条詩菜(かみじょう しいな)、
                  息子が上条当麻(かみじょう とうま)
                  今なお、世界中を旅しており、いつの間にかいなくなり、いつのまにか帰ってくる。
                  いい加減詩菜からは愛想を尽かされつつある……。



367LX2010/12/11(土) 09:09:13.29nEIb/ac0 (4/7)

2)中学校のクラスメート(全員オリキャラ)

ケイちゃん
    三田桂子(みた けいこ)  中学三年生になって佐天利子と同じクラスになった。陸上部・走り高跳びの選手。スリム。
                    
ひろぴぃ
    加藤裕美(かとう ひろみ) 中学三年生になって佐天利子と同じクラスになった。陸上部・短距離の選手で都大会出場経験もある。
                  小柄でグラマー。ストーカー被害経験あり。  
                                            
    佐々木剛士(ささき たけし)男子生徒。三年生になって隣のクラスに行った長坂弘(ながさか ひろし)の友人でもある。
                  長坂が佐天利子にラブレターを渡すのをずっとつきあっていた模様。

*隣のクラス
    長坂 弘(ながさか ひろし)佐天・三田・加藤の「陸上かしまし娘」の隣のクラスにいる。二年生の時は三田桂子と同じクラス
                  だった。佐天利子にラブレターを渡す。



368LX2010/12/11(土) 09:15:24.30nEIb/ac0 (5/7)

3)学園都市

*カエル顔の医者  (カエル医者)  基本的に原作のまま。年齢は上昇しましたが、今なお現役、と言うところでしょう。                           冥土返し<ヘヴンキャンセラー> 

*妹達<シスターズ>
     ミサカ麻美(検体番号10032号) 御坂妹。現在も冥土返し<ヘヴンキャンセラー>の病院に勤める看護師。
                       言葉遣いは基本的には普通になっている。

     ミサカ美子(検体番号10039号) 現在、上条美琴の秘書。美琴が休暇を取る場合や出張する場合の代打ちを
                       勤めることが多い。言葉遣いはノーマルを基本。
                       上条当麻派で、言葉ではストレートに欲望を出すが、実際の行動は?

     ミサカ琴江(検体番号13577号) 現在、ミサカ麻美と同じく冥土返し<ヘブンキャンセラー>の病院に勤める
                       看護師。言葉遣いは昔のままで、今となっては珍しい?    
 
     ミサカ琴子(検体番号19090号) 上条美琴の第2秘書。美琴が出張や外出した場合、美子が代打ちになるため、
                       秘書が必要になるので、その役をやることが多い。

     *なお、4名全員が今でも戦闘態勢を取ることは可能である。妹達<シスターズ>同士は昔のまま、検体番号で呼び合っており、
      戸籍名で呼ぶことはない。


*白井黒子 (しらい くろこ) 現在、学園都市在住。36~37歳。学園都市風紀委員会<ジャッジメントステーツ>統括総合本部勤務。                   1級看護師免状所持。                                                       弱冠20歳で、漣健介(さざなみ けんすけ)と結婚、漣黒子(さざなみ くろこ)となる。
                翌年21歳で長男の漣孝太郎(さざなみ こうたろう)出産。
                但し23歳で夫婦生活は破綻し別居、27歳で離婚、旧姓の白井黒子に戻る(設定です)
                テレポーター レベル4。 
                                 

*花園飾利 (はなぞの かざり)学園都市第三学区在住。36~37歳。旧姓初春、初春飾利(ういはる かざり)
                学園都市風紀委員<ジャッジメント>情報部勤務。
                1級看護師免状所持。
                35歳でようやく結婚。まだ新婚さんです。(設定です) 
                               
                *<ゴールキーパー>は不滅です。


*麦野沈利 (むぎの しずり) 現在、学園都市在住。41~42歳。学園都市風紀委員会<ジャッジメントステーツ>特殊任務委員長。
                1級看護師免状所持。(設定です)
                学園都市理事会メンバーの命令で、人工授精の結果、25歳で長女麦野利子(むぎの りこ)
                を出産するが、利子が2歳になる直前に学園都市に連れ去られる。
                娘を拉致した鮎原リサーチセンターの前野研究員から、自分の相手、麦野利子(むぎの りこ)の
                父親がレベル5の垣根帝督であることを教えられる。
                レベル5 原子崩し<メルトダウナー>


369LX2010/12/11(土) 09:19:51.24nEIb/ac0 (6/7)

第1中央能力開発センター編)

*湾内絹保 (わんない きぬほ)現在、学園都市在住。36-37歳。学園都市第1中央能力開発センター勤務。
                レベル3 水流操作<ハイドロオペレータ>(設定です)

*館川夢乃 (たてかわ ゆめの)学園都市の先行体験・見学講習会に参加していた中学生。
オリキャラ           能力判定簡易検査で無能力と判定され悔しがって泣いた。


*湯川宏美 (ゆかわ ひろみ) 学園都市の先行体験・見学講習会に参加していた中学生。
オリキャラ           能力判定簡易検査では判断できず、精密検査を受けることになった。

キリヤマ医科学研究所編)  (全員オリキャラ) 

*大川孝弘 (おおかわ たかひろ)キリヤマ研究所 課長研究員。黒田主任研究員の上司。

*黒田明  (くろだ あきら) キリヤマ研究所 主任研究員。
                学園都市新入生のリストから佐天利子を発見。暗部下部組織に依頼し、彼女を東京から拉致してくる。

インターナショナル(株)第6倉庫編)(全員オリキャラ)

*漣孝太郎 (さざなみ こうたろう)現在高校1年生。16歳。風紀委員<ジャッジメント>特殊任務委員会メンバー。
                  漣健介(さざなみ けんすけ)と黒子との間に産まれた。
                  2歳の時に両親である健介・黒子は別居、父健介に引き取られ、6歳の時に寮に
                  入ったため、両親と過ごした時間は少ない。
                  母、白井黒子の能力を受け継ぎ、テレポーター レベル4の能力を持つ。

鮎原リサーチセンター編)

*浜面理后 (はまづら りこう) 旧姓滝壺。滝壺理后(たきつぼ りこう)
                 瀬戸内海の小豆島に住む。現在39歳。夫は浜面仕上(はまづら しあげ)子供は2人。
                 レベル4 能力追跡<AIMストーカー>
*登場させた後に22巻読んで引きつりました(苦笑)

*笹岡梢 (ささおか こずえ) 鮎原リサーチセンター第3チームリーダー。

*前野保 (まえの たもつ)  鮎原リサーチセンター 部長研究員。レベル5同士の人工授精による第二世代育成計画責任担当者。 

*チャイルド・エラー 18番  当時11~12歳の女の子。AIM拡散力場の流れを逆に読み、過去の事象を捉えることが可能。
                当時はレベル3 過去探索<リバースド イベント>

*チャイルド・エラー 37番  当時8~9歳の男の子。テレポーター。レベル2。

*チャイルド・エラー 55番  当時5~6歳の男の子。能力不明。

*チャイルド・エラー 99番  当時5~6歳の男の子。能力不明。

*チャイルド・エラー136番  当時10歳くらいの髪の長い女の子。能力不明。

*チャイルド・エラー174番  当時5~6歳の男の子。能力不明。



370LX2010/12/11(土) 09:23:35.46nEIb/ac0 (7/7)

>>1です。

再びsage進行に戻しました。
登場人物の御紹介は以上です。
一部、改行に失敗して読みづらい部分が出来てしまいました。
申し訳ありませんでした。

では第2部作成に戻ります<(_ _)>


371以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/11(土) 09:40:29.58iA5g50co (1/1)


続き待ってる


372以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/21(火) 21:17:38.06WvmzahAo (1/1)

イッキ読みしてしまった。
他のメンツの現状も気になる。



373LX2010/12/25(クリスマス) 19:26:29.08A8JqrPw0 (1/29)

皆様、こんばんは。>>1です。

長らくお待たせ致しました。

第二部、投稿開始致します。完成しておりませんので、途中で止まりますがご勘弁下さいませ。
しばらくはageで参ります。ご了承下さいませ。




374LX2010/12/25(クリスマス) 19:34:42.00A8JqrPw0 (2/29)

<第二部>


「行ってきま~す」

「ごはんまだ~?」



「ぶっ!?」

あたしはあやうくフローリングの床で滑って転ぶところだった。

「いいから静かにしてなさい!! あたしは学校行ってくるんだから!」


あたしの名前は佐天利子(さてん としこ)、学園都市教育大付属高校に通う高校1年生。

あたしは、高校1年からここ学園都市に来た。だから、学園都市デビューは遅いグループに属している。



「おはようございま~す、佐天で~す」  あたしは隣の部屋のインタホンに向かって挨拶する。

お隣は湯川宏美(ゆかわ ひろみ)さん。

そう、あたしと上条麻琴が初めて二人で学園都市に入ったとき、第一中央能力開発センターで一緒のグループになったうちの1人だ。

世の中は思ったより狭い、なんてね。彼女はあたしより1つ年上の2年生だ。

少しして、ドアが開いた。

「おはようございます。お待たせ。じゃ、行きましょ!」

湯川さんが玄関を開けて、扉を閉めた。殆ど音がしない、重厚な扉。

ここはオートロック、まるでホテルかと思うような、贅沢な作りの教育大付属高校の女子寮の廊下。

もう慣れたけれど、最初に来たときは正直あたしは少しびびった。



分厚いカーペットの上をあたしと湯川さんは並んで歩いて行く。

「佐天さん? つまんない話だけれど」  湯川さんがいたずらっぽい顔であたしを見る。

「昨日から、誰か、お部屋にいるの、かな?」



375LX2010/12/25(クリスマス) 19:37:40.17A8JqrPw0 (3/29)


「わっ!?」

     ――― ドスン ―――  

あたしは今度こそ転けた。カーペットの継ぎ目に靴先をひっかけて。

「ちょ、ちょっと! 佐天さん大丈夫!?」

「ててて……、だ、大丈夫です。スイマセン」  あたしは湯川さんに掴まって立ち上がった。

「危ないわねぇ、気をつけないと……。 で、マンガ的にこのタイミングで転けるというのは、図星、ってわけ、なのかな?」

湯川さんが(ほーら、はよ言え)という顔であたしを見てくる。

「ち、違いますよぅ、そんな期待してるようなことじゃないんですよぅ! 誤解しないで下さいよ!」

あたしはあたふたと手をふりまわして、湯川さんの誤解を解こうとする。

「ふ~ん、そうなの?」

「あ~、先輩が今晩うちに来ればわかりますから!」

「あら、そう。行って良いのかな?」 

湯川さんは、(会わせてくれるってことは、カレシとかじゃないのか~)とでも思っているのか、明らかにちょっと落胆した感じで

返事を返してきた。

「せんぱ~い、まさか、おかしな事考えてたんじゃないでしょうね~? だいたい、ここに外部の人は簡単に入れませんよぅ?」

「こらっ! 先輩を冷やかしちゃだめっ!」

あたしたちはエレベーターホールでエレベーターを待つ。



376LX2010/12/25(クリスマス) 19:46:02.13A8JqrPw0 (4/29)

(夕方・完全下校時刻を少し過ぎた頃)

「あ~、自分で取っておいてナニだけど、月曜から補習って失敗したかなぁ~…… 花の女子高生だってのに……」

あたしはブツブツ文句を言いながら連絡バスを降りた。

「高校受験より酷いかも……」 クラスメイトの大里香織(おおさと かおり)ちゃんがあたしのつぶやきに合わせてため息をついた。

「こんなに補習があるだなんて、詐欺だよねー」

「……うん」 あたしも同感だ。

高校から入ったクラスの人間は、学園都市育ちの人とのカリキュラムレベルを合わせるために補習に次ぐ補習があるのだった。

(解説)

学園都市のカリキュラムは、普通の学校で行う勉強の他に、「超能力」についての開発が入っていることに非常に特徴がある。

どっちかというと、この「超能力開発」にスポットライトが当たることが多いのだけれど、実は「普通の学校で行う勉強」についても、

実際のところは違うのである。

簡単に言うと、幼稚園の段階で、既に小学校低学年でやるような事を教えてしまっているのだ。

従って、小学校に入学すれば4年生のレベルの勉強が、そして高学年では中学校の、中学校では高校生の、と言うような感じだ。

しかし、当然ながらそれぞれの段階で外から入ってくる児童・生徒・学生がいる。いきなり、下から上がってきているひとたちと同じ

レベルのクラスに入れると問題が起きるので、どこの学校もレベルによって区分けを行っている。

もちろん、逆に素晴らしく優秀なひともまれに存在するわけで、そう言う人たちは飛び級で進学できるようにもなっている。

だから中学校3年生のレベルのクラスに何故か小学生程度の子供がいたりする。

ちなみに、あたしのいるクラスは全員が高校入学からの転入組だった。


377LX2010/12/25(クリスマス) 19:48:12.60A8JqrPw0 (5/29)


ちなみに、あたしのいるクラスは全員が高校入学からの転入組だった。

補習は3時限あり、最後は完全下校時刻の18:30直前の18:15まで行われていて、連絡バスはその18:30に終バスが出る。

これに乗りはぐれると歩いて帰ってくるか、タクシーを使うしかなくなるのだ。

東京より圧倒的に不便だ。時代の最先端を行く学園都市なのに、なんという田舎かとあたしは今でも思う。

連絡バスはタダだし、座れれば快適ではあるが、当たり前の事ながら、学校と寮との往復しかなく、途中下車は出来ない。

途中で買い食いとか本を買う、という場合には全く使えない。

「朝は仕方ないから乗るけど、帰りはね……」と言った湯川さんの言葉の意味が今よくわかる。

でも、朝にはメリットもある。これに乗ってさえいれば、たとえ途中で渋滞等によりそのバスが遅れた場合でも遅刻扱いにならないのである。

そのため、たいてい朝の最後の連絡バスはすし詰めだし、雨の日はもちろん沢山の人が乗る。

一度寝坊して、危なく最終バスに乗り損なうところだった。

(解説終)

あたしは寮の玄関前に立ち、左手をチェック機にに当て、「だるまさんがころんだ!」と話しかける。

「声紋チェック、さてん としこ と確認」

「静脈シルエット・指紋チェック 完了 さてん としこ 確認」

無機質な機械音声が流れてゲートが開いた。

正直、セキュリティはスゴイと思う。でも、すっごくトロいし、実際に一度にバスから30人も出てきたら、この6つしかないゲートは

行列になってしまう。これじゃぁ、連絡バスで帰りたがらない人が出てくるわけだよねー。


378LX2010/12/25(クリスマス) 19:50:33.63A8JqrPw0 (6/29)

>>1です。

すみません、>>377の1行目、ダブりました。大変失礼致しました。

<(_ _)>


379LX2010/12/25(クリスマス) 19:53:47.58A8JqrPw0 (7/29)


「月に代わって、おしおきよ!」

隣のゲートでは、カオリん(大里香織)がセーラームーンの決めぜりふで声紋チェックをやっていた。

最初の頃はみんなマジメに自分の名前を言っていたけれど、いまでは誰もマジメに言っていない。

ただ、まずい言葉はあるらしくて、あるとき誰かが「痴漢~!」と叫んだところ、いきなりサイレンが鳴って警備ロボがすっ飛んで

きた事があって、その子は後で寮監からこっぴどく怒られていた。


ふかふかの絨毯を踏んで、あたしたちは食堂に入った。

ブッフェスタイルなので、この時間になると残りは少なくなっていた。

プチトマト完売。キュウリのスライス完売。水菜完売。スイートコーン残り僅か。レタス少し、千切りキャベツ少し。

セロリ 沢山(笑)、きんぴらゴボウ 少し、ほうれん草おひたし完売……

ベーコン少々、ソーセージ完売、生ハム完売、ハンバーグ完売、チキンカツ完売、メンチカツ完売、スモークサーモン残、ゆで卵残、

生卵残、ええええ? 結局、ごはんとみそ汁、スープ以外、何が残ってるんだろう??

そして、あたしたちの最大の楽しみ、デザートは「んなもの、あるわけねーだろ」状態だった。

猫がなめたように綺麗さっぱり消えていた。

「はぁ……、補習だとやっぱり無理だよね……」  あたしはため息をつく。

「あたし、今日はご飯ぬいちゃおうかな、疲れたし」  カオリんもため息をついた。

「そう言って、チョコ食べると太るよ?」   あたしはカオリんのウエストをおおげさに見ながら釘を刺した。

「どこ見てるのよ? やめてよ~、気にしてるんだから!」   カオリんが笑いながらあたしの肩をパンと叩く。

「ま、少しでも良いから食べよう?」   

「うん、リコちゃんと一緒ならいいよ?」   

ニコッと笑ったカオリんと一緒に、あたしは夕飯を食べた。お互いに少しは気晴らしになっただろうか。



380LX2010/12/25(クリスマス) 19:56:41.67A8JqrPw0 (8/29)


ふと、あたしは思った。

詩菜大おばさまは、あの家で、一人でご飯を食べているのだろうか……、寂しいだろうなぁ……





「上条さん、どうしましたぁ?」    御坂美鈴がほんのり赤い顔で言う。

「はいはい? いえね、あの子たち、ちゃんとご飯食べてるかな?ってふと思っちゃったりして……」

上条詩菜がこれまた少し赤い顔で答える。

「ふーん、寂しいんだ?」    美鈴がからむ感じで突っ込む。

「そうね、ちょっと寂しいかもね。だーから、美鈴さんを呼んだんでしょー! ほらほら、かんぱーい!」

「いぇーい!」


キャハハハハという二人の笑い声が玄関から漏れ聞こえている。


「どうした?」

「今、凄く入りづらい……」

「なんで?」

「かなり出来上がってるらしいんだよ」

「じゃぁちょうど良いんじゃないか?」

「どうやら、きみのかみさんも一緒みたいなんだが?」

「え?…………あの、上条さん、場所を変え……ないかな?」


上条刀夜と御坂旅掛の二人は玄関先で立ちすくんでいた。



381LX2010/12/25(クリスマス) 20:00:11.71A8JqrPw0 (9/29)


「じゃ、おやすみ~」

「おやすみなさ~い」

カオリんは4階で降りた。あたしはそのまま8階まで上がってゆく。 自分の部屋の前まで来て「あ」とあたしは思い出した。

あたしはカバンをドアノブにぶら下げておき、隣の湯川さんの部屋のインタホンに向かって喋る。

「こんばんはー、佐天です。先輩いらっしゃいますか?」

しばらくして湯川さんが出てきた。

「遅かったのね、今日も?」

お疲れ様、と言う感じで声をかけてくれた。

「はい、月曜からってのは勘弁して欲しいですねー」とあたしも合わせて答える。

「もしかして、朝の話の続き、なのかな?」

「そうですよー」

「ホントにいいの、かな?」

「いいですよ、やましいことないし」

あたしはカバンをノブから外して、オートロックチェッカーに自分の左手を当て、ロックを解除した。ドアを開けると玄関に電気が点く。

「おなかすいた、おなかすいた、おなかすいた!」

いきなり叫ぶものがいた。

「佐天さん、だれっ??!!」

湯川さんがバッとあたしの後に隠れる。

「大丈夫ですよ、安心して下さいな」

あたしは湯川さんの肩をぽんぽんと叩いて、靴を脱いで部屋に上がる。

湯川さんもサンダルを脱いでおそるおそる、と言う感じでうしろについてくる。

「あ」



「ごはんまだ~ ごはんまだ~」

九官鳥だった。


382LX2010/12/25(クリスマス) 20:03:25.41A8JqrPw0 (10/29)


「いや、昨日のことなんですけどね」

あたしは湯川さんに話し始めた。



*ふとんを干そうとベランダに出ると、何か黒いものがそこにいた。

「あら?」

「おなかへった、おなかへった、おなかへった」

いきなり呼びかけられて、あたしは思わずふとんを落としてしまった。

九官鳥がそこにいたのだった。

あたしが、そーっと後ずさりすると、九官鳥は「おなかへった、おなかへった」と言ってあたしについてくる。

とうとう部屋の中にまで入ってきた。

「アンタ、人に慣れてるねぇ?」

あたしは何か食べるものなかったかな?と考える。

ものは試しでピーナツをあげてみた。

トリはいきなり丸飲みして「クー」と鳴き、また「ごはんまだ? ごはんまだ? おなかへった」と言う。

あたしは3つあげた。3つともすぐさま丸飲みした。

「あたし、あんた飼うこと出来ないから、ほら、バイバイ?」

あたしは九官鳥を外へ追い出して、ふとんを干した。



383LX2010/12/25(クリスマス) 20:07:21.00A8JqrPw0 (11/29)


2時間ほどして、ふとんをひっくり返そうとしてベランダに出ようとしたら、


―――― そこに、ヤツはいた ――――


つぶらな瞳でそいつはあたしを見て、

「ごはんまだ? ごはんまだ? ごはんまだ?」と鳴いたんですよ。



「アンタねぇ、あたしは飼えないって言っただろー?」と言ってしっしっと追い払おうとすると

あの野郎、いきなりあたしのアタマに止まって、

「おなかへった、おなかへった、おなかへった」と鳴きやがったんですよ。


「佐天さん、ちょっとだんだん言葉が乱暴になってきてるわよ?」 湯川さんがたしなめる。

「あはは、そうですね。でも本当にあのときはコイツをマジで締めようかと思いましたよ、あー、思い出しても腹立つ!

だってですよ、トリの爪がアタマに食い込んで、そりゃ凄く痛いんですよ。病気持ってるかもしれないし。

ヒチコックの『鳥』を思い出しちゃいましたよ。まぁそれでコイツをつかんで外へ放り出したんですが……」

九官鳥は飛んでいった。

あたしはホッとして、やがてそのことを忘れた。

そして夕方。洗濯物を取り込もうとしてカーテンを開けると


―――― ベランダの手すりに、ヤツは留まっていた ――――



384LX2010/12/25(クリスマス) 20:10:10.17A8JqrPw0 (12/29)


あたしは意を決して、ガラとサッシを開けると、そいつはニコッとして(そういうように見えた)

「ごはんまだ?」といいやがりましたよ。

あたしが「不幸だ」とため息をつくと、そいつはひょいと飛んでよく知った家のごとく中に入って「おなかへった」と

いいやがったんですよ。

あたし、とうとう根負けして、でも鳥かごがないので、とりあえず段ボール箱に入れてあるんですが……


「おもしろいわぁ! アハハハハハハハハ、あなた、すっかり九官鳥に気に入られたのね、おなかへった、ごはんまだ?

ってすごいわぁ、アハハハハ」

湯川さんが腹を抱えて笑う。

「でも誰が教えたんだろうね? よりによって、『おなかへった』と『ごはんまだ』って、何よ? ……… 子供かな? 

よっぽどおなか空かせてるんだわね、かわいそうに……え?」 

ふと、湯川さんがまじめな顔になった。

あたしも気が付いた。

まさか、……虐待?

「ちょっと気になるわね。他に言葉は出てこないのかな?」   湯川さんが聞く。

「うーん、まだ1日しか経ってませんから……。もう少し時間が経つと他に喋るかもしれませんが」

「よし、明日、風紀委員<ジャッジメント>のみんなに相談に行くわよ!」

「……マジですか? あたし、明日も補習なんですけど」

「あら残念ね。じゃ、あたしがこの子借りるわ。あたしは通常授業だから結構時間はあるから。まかせてよ」

湯川さんはそう言って、あたしのところから九官鳥の入った段ボールを持って部屋に帰っていった。


385LX2010/12/25(クリスマス) 20:20:28.58A8JqrPw0 (13/29)

>>1です。 

10レスほど続けましたので、再びsage進行と致します。

佐天利子シリーズ、高校編に入りました。
自分で書いていて、先般の「キャラ一覧表」を作成しておりまして、
まぁ随分と(『とある科学の超電磁砲』のオリジナルメンバーたちが)歳食った
時代の話を書いてるもんだ、と自分で驚いてしまいました。

当然ながら、当SSオリキャラだらけになりますのでまたどこかで一覧表を作る必要が
あるな、と思っております。

では投稿を再開致します。




386LX2010/12/25(クリスマス) 20:23:33.60A8JqrPw0 (14/29)


火曜日。

今日も補習。でも昨日より1限少ないので、昨日よりずっと早く帰ることが出来た。

今日はカオリん(大里香織)の他にもう2人クラスメイトがいた。青木桜子(あおき さくらこ)ちゃんと、

前島ゆかり(まえしま ゆかり)ちゃんだ。

寮のゲート声紋チェックで、

あたしは「ひらけー、ゴマっ!」とベタな呪文を、

カオリん(大里香織)は「助さん、角さん、やっておしまいなさい」と何かのせりふを、

さくら(青木桜子)は「主であるイエス・キリストは、全てをお見通しでいらっしゃいます」と。 へー、クリスチャンだったんだ……

ゆかりん(前島ゆかり)は「お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許し下さい」 

ええええええーっ????? それはまずいんじゃないの??



果たせるかな、

「言動に問題があります」  

と警告が出て、警備ロボが2台飛び出てきて、

寮監さんが飛んできた。

「誰だ? なんだ、まえしま、またお前か!? ちょっと来なさい!!」

「えー、なんでよぅ??」

……ずるずると彼女は引きずられていった。

以前「チカン!」と叫んだのは、どうやらゆかりんだったらしい。

これで前科2犯になってしまった。もう少し当たり障りのない言葉にすればいいのに……



387LX2010/12/25(クリスマス) 20:27:07.53A8JqrPw0 (15/29)


早く帰って来れたので、ブッフェは今日はかなり余裕があった。サラダバーもバッチリだ。

「リコはちゃんとお通じ来てる?」   カオリんが皿にグリーンリーフとカイワレ大根を載せながら聞く。

「んー、あたしは今朝、ちゃんと太いの出たよぅ?」  あたしは、紫キャベツみじん切り+キュウリ+プチトマト+スイートコーンの

サラダにドレッシングをかけながら、どんなもんだい、と胸を張って言う。

あ、さくらが皿を落とした……。あー、もったいない、フランクソーセージが2本も……。


席に着くと

「ちょっと、カオリん、こういう場所で何てことを聞くのよ?」   さくらが言う。

「いいなぁ、リコは。あたしこれで3日めだよ?」    カオリんがさくらを無視する形で、ため息混じりに言う。

「く……、あ、あんたたちは……場所も考えずに~!」   さくらがブルブルと、あ、火花が出た!

「あ、さくら、ごめんごめん、押さえて、ね? お願い!」   カオリんが必死でさくらを押さえにかかる。

「いいから! ちょっとカバン取ってくれる? 早く早く!!」   さくらが赤い顔で焦り気味に言う。

「ほい、これ!?」    あたしはさくらのカバンを渡す。

彼女はカバンの脇から釣り竿のようなものを取り出し、ひょいと先っちょを天井に向けて投げ、スプリンクラーにその先を巻き付けた。

「?」
「?」



388LX2010/12/25(クリスマス) 20:32:13.54A8JqrPw0 (16/29)


「でぇーいい!!!」 

 
―――― イオンの臭いがあたりに漂った ―――― 


さくらがかけ声と共に放電したらしい。ハァハァとちょっと荒い息を吐く。

「ま、間に合った……」

「青木さんて電撃使い<エレクトロマスター>だったの?」   あたしはさくらに聞く。

「う、うん。マスターってレベルじゃないけど……レベル2なの。まだ感情の起伏が……、そのまま、能力発動しちゃうの。

だから、気をつけてるんだけど……って、食堂で変な話出さないでよ、もう」

そこへ、ゆかりんがふらふらと歩いてきた。

「ゆかりん! こっち~、こっちだよ!」 あたしは彼女を呼んだ。



「ふぇ~っ、あたし、死んだわ~」   ゆかりんはぐだーっとテーブルに突っ伏してしまう。

「怒られた?」   と、あたし。

「叩かれた?」   と、カオリん。

「ううん、反省文書けって言われた。でさ、あたしってほら、自動書記<オートセクレタリー>だから、楽勝だと思ったんだよねー」

「それで?」    と、さくら。

「そしたらさー、アタマにジャマーつけられちゃってー、そしてさ、反省文を紙に書けって。ジャマーついてるからホントに文章を

考えて書くの、大変だったのよ……」   机に突っ伏したまま、カオリんがぼやく。

「だから、何もわざわざ変なこと言わなければいいじゃない?」   さくらが言う。

「えー、だって自分の名前いうのは、個人情報を自分でさらけ出しちゃうようなものだから、アウトでしょ?

でさぁ、同じパスワードを使い続けちゃいけない訳でしょ? あたしのおつむじゃもうネタ切れなのよねー」



389LX2010/12/25(クリスマス) 20:36:21.41A8JqrPw0 (17/29)


「だからって、何もわざわざ物議を醸すようなネタを言わなくてもいいじゃないの?」   カオリんが突っ込む。

「そうかなー? わりとありふれたフレーズだと思うけどな?」

「いや、ありふれた物議を醸すネタは沢山あるわよ?」   あたしが今度はゆかりんに突っ込んでみる。

「どんなの?」

「アンタの『チカ~ン』の類なら、『ドロボー』とかさ、『火事だぁ』とか」

「ふんふん」

「それから、『先立つ不幸』だったら、『もう探さないで下さい』とか『人生に疲れました』とか」

「おお、いいねぇ」

「ちょっと、ゆかりん、まさかアンタ、あたしが言ったネタ、使おうなんて考えてないわよね?」

あたしは念のため、ゆかりんに釘を力一杯打ち込んでみたが、果たせるかな返ってきた言葉は

「え? まずいの、今のヤツ?」    あのねぇ、ゆかりん?

「だ・か・ら、物議を醸すネタと言ってるでしょーが……」    あたしは脱力してしまった。

「アハハ、大丈夫だよ、リコ。あたし、良い方法思いついたから」

「何?」
「何よ?」
「言ってみなさいよ」

あたしら3人はゆかりんに迫る。

「手に取った教科書の1フレーズを読むことにした!」

「……」
「……」
「……」   

あたしら3人沈黙。 まぁ、それなら、問題は起きないと思うけど……

「みんな、それでご飯は?」    ゆかりんが尋ねる。

「ううん、これから」    さくらが答える。

「今までお通じの話してたの」  こら~ぁ、おおさと~!!! はっきり言うな~!

「うんこのこと?」    

あたしら3人はずっこけた。


390LX2010/12/25(クリスマス) 20:42:57.32A8JqrPw0 (18/29)


4人であーだこーだとおしゃべりしつつ、夕飯を食べているとあたしの携帯がブルブル震えた。

ちなみにこれは学園都市で買った携帯だ。

開くと湯川さんの顔が映った。

あたしはちょっと席を外して電話に出る。

「はい、お待たせしてすみません! 佐天です」

「もしかして、ご飯食べてた、かな?」   さすが湯川さん、鋭いのは耳だけじゃないな……

「ええ、もうすぐ終わるところですけれど。今、どちらですか?」

あたしが今度は尋ねた。このへんではなさそうな場所に湯川さんはいるみたいだ。

「そうそう、あなた、お手柄よ、あなたと、あの九官鳥! 置き去り<チャイルドエラー>を虐待していた養護施設が見つかって、

摘発されたの。今、わたしもそこにいるんだけど、ここ十三学区なんで、帰るのは少し遅くなりそうなの。

まだアンチスキルとの引き継ぎやら何やら終わってないし。

すまないけれど、寮監に門限に遅れる可能性があるからって伝えておいてくれると嬉しい、かな?」

ひゃー、やっぱりそうだったのか……、絞め殺さないで良かった……

「わかりました。じゃ寮監さんには、その旨伝えますね! よかったら後で来て下さい」

「ありがと、先に寝てていいわよ。寝坊されても困るし。その代わり明日の朝、早く起きてくれるかな? 朝食の時に話すわ。

朝7時に食堂。よろしくて?」

「はい、わかりました。それでは気をつけて、お仕事頑張って下さい!」

「じゃね!」

あの九官鳥がねぇ……。



391LX2010/12/25(クリスマス) 20:47:18.14A8JqrPw0 (19/29)


でも、「ごはんまだ?」「おなかへった」で子供の悲痛なつぶやきじゃないのか? 

とアタマが回るところが、さすが風紀委員<ジャッジメント>だよねぇ……

「リコ? 誰からだったの? どしたん?」    カオリんが聞いてくる。

「湯川先輩から。あたしの隣の部屋のひと。風紀委員<ジャッジメント>なんだけど、仕事で遅くなるから寮監にあらかじめ伝えて

おいて、って」   あたしが説明する。

「かっこいいねー」   ゆかりんが遠い目をする。 「あたしも風紀委員<ジャッジメント>になりたいな~」

「へぇ、それ、どうして?」   さくらが問いただす。「結構大変らしいよ? あんた大丈夫?」

「うん。あたしの自動書記<オートセクレタリ>には最もあってると思うから。書類作成ならお茶の子さいさいってもんよ!」

「あー、な~るほどねぇ~」   カオリんがすごく納得している。

「ね? あたしは世界一のOLになれるわよ、はっはっはっはっ!」

(いや、それはちょっと違うと思うぞ、ゆかりん)  

あたしは心の中で前島ゆかりちゃんに目一杯突っ込んでみた。

(でも、そういう実用的な、人の役に立ちそうな能力っていいな……)    ふとあたしはそう考えた。

(あたしの能力なんかより、どれだけ役に立つか)  

あたしはそう思って、彼女の能力がとても羨ましかった。



392LX2010/12/25(クリスマス) 20:52:31.59A8JqrPw0 (20/29)


水曜日、朝7時。

「おはようございま~す」

湯川さんは既にテーブルでスタンバっていた。

テーブルにはクロワッサン2つ、プチサラダとコーヒー、フルーツヨーグルトがあった。

「おはようございます。ごめんね、早起きさせちゃって」

「いえいえ、いつもとそれほど変わらないですよ」 

あたしはフルフルと首をふるが……

「ふふ、ウソばっかり。あなたの目覚ましは7時に鳴ってるじゃない? 地獄耳<ロンガウレス>は伊達じゃないのよ?」

そう、だった。湯川さんの能力は、恐るべき聴力だった。この寮全部の音を聞くなど朝飯前らしい。でも全部を理解して聞く事のは

さすがに演算が追いつかなくなるらしく、いつもは単に聞き流しているそうだけれど……。

正直、プライバシーの侵害にもなりかねない能力なので彼女が入寮して来てから、この寮の各部屋には対能力者用の防護装置が

もうひとつ追加されたのだそうだ。追加、とはなんのことかというと、今は卒業してしまった透視能力者のひとがいて、

本人にはそういう意思はないのだが周りがやはり落ち着かないから、と言うことで彼女に合わせた防護装置が設置されていたから

だそうだ。

………ちょっと待て、じゃどうしてあたしの部屋の目覚ましの時間が湯川さんにバレてるわけ? おかしくない?

「あなたの部屋の前の人は電磁波使いだったから、もしかしたら防護装置は壊しちゃったままなんじゃないかな?」


         ―――― え? ――――


あたしは茫然として、次にあることに気が付き真っ赤になった。あたしの部屋の音、全部筒抜けってこと?



393LX2010/12/25(クリスマス) 20:57:09.15A8JqrPw0 (21/29)


「あああああの、今までずっと、聞こえてたんですか?」    小さな声であたしは聞いた。

「聞いてなかったけど、聞こえてたわよ、いろんな音やら、そのくらいの声とかでも」

あたしはぐわぁーっと恥ずかしさの感情が……

「いたたたたたた!」

AIMジャマーが作動したのだった。

「ちょっと、佐天さん、どうしたの? 大丈夫?」

「……だ、大丈夫です……」

さすがに中三の一時期のように、AIMジャマーが動作する度に気を失うような情けないことはもう無くなっていたが、

それでも演算を強制中断させるこのジャマーには文字通り頭が痛い。

一刻も早く自分の能力をコントロール出来るようにしないといけないな、と思う。

「もしかして、寮監に言ってなかったのかな?」   湯川さんがあたしに聞く。

「……知らなかったです……」

あたし、恥ずかしすぎる。




394LX2010/12/25(クリスマス) 20:58:05.74A8JqrPw0 (22/29)


「あ、あの……」

「気にしなくて良いわよ」 湯川さんが少し笑って、でもまじめな顔で

「みんな同じ世代なんだし、ここには異性がいない女子寮だから、多かれ少なかれ、いろいろあるのが普通。

健康な子なら誰だってそう。あたしだって(笑)

でも、そんなことよりトイレのほうが大変だったわよ。全部そういうのはスルーしてたけど、ほんとたまらなかったわよ。

防護装置のおかげで実際あたしはものすごく助かってるのよ?」



えええええ!? トイレの音までぇぇええええええ??????



だめだ。もうあたし、生きて行けない!




久しぶりに、

強烈な、

頭痛が、

あたしを襲った。

「ちょっと!? 佐天さん、しっかりして? 起きて!」




………バスには間に合ったけど、朝ご飯は食べられなかった…… 

………学校の食堂が開く3時限の休みまで辛かった……



395LX2010/12/25(クリスマス) 21:02:24.95A8JqrPw0 (23/29)


こういうときに限って補習は長い。今日もびっしり最終下校時刻まで目一杯補習だった。

「はらへった……」

「声紋チェック、さてん としこ と確認」

「静脈シルエット・指紋チェック 完了 さてん としこ 確認」

「はい?」

思わずつぶやいた言葉に声紋チェック機が反応したらしい。あたしはゲートから押し出された。

ふらふらしながら、そのままあたしは食堂に向かった。

「あ、リコ帰ってきた!」    さくらが手を振っている。

いいなぁ、さくらは早く帰って来れて……

「リコ、早くこっちこっち、来て来て!」    さくらがやたらテンション高い。どうしたんだろ?

「ちょっと待ってよ、牛乳くらい飲ませて?」

あたしは先にドリンクコーナーに行き、冷蔵庫からムサシノ牛乳を1本取りだし、その場でぐびぐびっと開けた。

「ふーぃ、一息ついた……」

あたしはいつものメンバーがいる場所に向かう。

「ただいま……」

「リコ、あの飲み方、おじさん臭いよ? もう少し淑やかに飲んだ方が」 ありがと、カオリん。 

「お疲れ、待ってたよーん? でさ、リコは、そんなに胸あるのにまだ牛乳飲むんだ?」

さくらが羨ましそうにつぶやいた。


396LX2010/12/25(クリスマス) 21:05:16.51A8JqrPw0 (24/29)


「胸と牛乳は関係なーい」    あたしは速攻回答全否定!

「そうなの? じゃぁ都市伝説なのかなー、ムサシノ牛乳飲むと胸が大きくなるってのは?」

さくらはまだ追及の手を緩めない。なるほど、500mlパックが転がってるのはそれか。

「関係ないと思うよ、あたしのウチでとってたのは霜印のだったし」   あたしがとどめを刺す。

「ふーん」   さくら、納得してないね?

「そうそう、リコはどうしてそんなに補習多いの?」   ゆかりんが聞く。

「んー、週の前半に固めてるから、かな? だから明日は4時には終わるし、金曜はないもん♪」

「おお」というどよめきが。

「さっすが、考えてるねぇ」    カオリんが感心したように言う。

「みんな、ところでごはん食べたの?」    あたしが聞く。

「「「待ってたよ!」」」     3人がハモって答える。

「えー?待って無くても良いのに、おなか空いたでしょ?」

「「「ふふふふふふふ♪」」」     なに、この不気味三重奏?

気が付いた。お皿とフォーク。そこここに転がるケーキの破片。

「なに? なに? カオリん、今日のはなんだったの???」

「今日のデザートはシンプルな苺のショートケーキだったよーん♪」

あたしはくらっとめまいがした。「う……ふ、不幸だ……」

「大丈夫だよ、リコの分ちゃんと取ってあるからさ!」

あ、ありがとう、持つべきものは良いお友だちだね! カオリん!

「手間賃として、苺は頂きましたけど?」



あたしは突っ伏して泣いた。



397LX2010/12/25(クリスマス) 21:08:35.30A8JqrPw0 (25/29)


「もう、ホントに苺だけ食べちゃうわけないじゃん? 信用してないの?」    カオリんが笑いながら怒る。

「……」   あたしはむすーっとしながら鳥からを食べていた。

「なんか怒ってるよ?」    ゆかりんがあたしの顔を見ながらカオリんにいう。

「ふーん、あんまりいつまでも拗ねてると、ホントに苺食べちゃおうかなー?」   彼女が言う。

「負けた! あたしが悪かったから、お願い、ケーキ出して!」    あたしは平身低頭する。

「よろしい、ではケーキを出して進ぜよう」    そう言って、カオリんはカパッと逆さにおいてあったどんぶりを開けた。

かわいらしい苺のショートケーキがそこにあった。

「うれしい!有り難う!!」
 
あたしは素早くその皿を引き寄せ、脱兎の如く残っていたごはんを一気に平らげた。

「はやっ!」

「スゴ……」

「執念がコワイわぁ……」    3人がドン引きしていた。



398LX2010/12/25(クリスマス) 21:10:51.70A8JqrPw0 (26/29)


「あ~ しあわせ~♪」

あたしは幸せ一杯で、紅茶を飲みつつショートケーキを少しずつ少しずつ、ちまちまと削って食べていた。


「だってさー、ここのところ、毎日寮と学校の往復だけじゃない? 楽しみっていったら食べることぐらいじゃないのよ?

部屋に帰ったらテレビ見る……あーっ!??? そうだった!!」

あたしは気が付いた。防音設備は直ってるかしらん?

学校に着いてから、あたしは寮に電話を掛けて、寮監さんにあたしの部屋の防音設備の状態を確認してもらい、壊れていたら

直してもらうよう頼んでいたのだけど?

あたしはケーキの残りを口に放り込み、紅茶で流し込んだ後、パタパタと走って行き館内電話に飛びついた。



「なんか、今日のリコはせわしないよねぇ?」    大里香織(カオリん)が二人に同意を求める。

「うん、ちょっとヘンかも」            青木桜子(さくら)が答える。

「ちょっと情緒不安定かも? あの日かな」     前島ゆかり(ゆかりん)がストレートに発言する。

 
大里香織(カオリん)が「ぶっ」とお茶をふいた。



399LX2010/12/25(クリスマス) 21:13:49.71A8JqrPw0 (27/29)


「保護装置が働いて、ブレーカーが落ちていただけだったから、リセットしてブレーカーを戻した。

テストの結果問題なく動作している、と業者から報告を受けた」という寮監の話を聞いたあたしは、ものすごくホッとした。

とりあえず今後は大丈夫だと。

精神的な重圧が消えたあたしは、気分もぐっと戻って、足取りも軽くみんなのところへ戻った。

「どうしたの? 何かあったの?」       カオリんが尋ねる。

「リコ、ちょっとヘンだよ? あの日なの?」  ゆかりん、アンタなんてことを……

「ななななななにを??? ち、違うわよ! あと1週間先! って、何を言わせるのよ?」

「いや、ちょっとリコのお天気がころころ変わるもんで……」    ゆかりんがぼそぼそという。

「はぁ……、部屋の電気の具合がおかしかったので、点検して下さいって頼んでいたの。単に電球の問題だけだったみたい」

「なあんだ……よかった。何か大変なことでもあったのかと思っちゃったわ」    さくらが明るい声で話を続ける。

「それでね、リコ、ちょっと見て欲しいものがあるんだけど?」

「ん? なーに、さくら? 」

「ジャーン! これなんだけど!」

さくらはカバンから雑誌を取り出した。

それは見覚えがある雑誌。

あたしの顔色が変わった。



400LX2010/12/25(クリスマス) 21:17:43.17A8JqrPw0 (28/29)

お読み下さいました皆様、有り難うございました。
>>1です。

本日の投稿はここまでです。

明日は用事がありますので、投稿は遅い時間になると思います。
まだ投稿可能なパートですので、明日の投稿は大丈夫だと思います。
それではおやすみなさいませ。



401以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/25(クリスマス) 21:21:46.33NmvQ.6Mo (1/1)

>>400



402LX2010/12/25(クリスマス) 21:34:14.20A8JqrPw0 (29/29)

>>1です。

情けないですが、ミス見つけました。

>>388

X→ 考えて書くの、大変だったのよ……」   机に突っ伏したまま、カオリんがぼやく。

○→ 考えて書くの、大変だったのよ……」   机に突っ伏したまま、ゆかりんがぼやく。

ごめんなさいです。



403以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/25(クリスマス) 23:23:45.37dMilIMAO (1/1)

久々に来てた乙


404以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/26(日) 13:18:46.51xyTs5J2o (1/1)

乙です


405LX2010/12/26(日) 21:08:06.33DjGQxDw0 (1/22)

皆様こんばんは。
>>1です。

それでは本日の投稿を始めます。
*あっという間にテキストが進んでいきます。
年内どころか、御用納めまですらストックは保たないかもしれません。



406LX2010/12/26(日) 21:09:30.02DjGQxDw0 (2/22)


「リコ?」 カオリんはあたしの顔色が変わったのに気が付いたらしい。

「これって、もしかして、リコよね?」さくらはあたしの顔色に気が付いていない。

彼女が手に持っている写真週刊誌。それは1年くらい前のもの。

あたしはその雑誌を絶対に忘れないだろう。




さくらが開いているべージには、3人の女性が写っていた。

それは、あの日、羽田空港でヘリから降りてタクシーに乗ろうとして3人で歩いていたときにパパラッチされた写真。

あたしの頭が黒髪のカツラだったときのもの。

粒子が粗いけど、あたしを見ながらその写真を見れば、十中八九「本人だ!」と思うレベルのもの。

あたしも母も美琴おばさんも撮られたことに気が付かなかった写真。


「……」

「おおおお、スゴ~い、これ、ホントにリコだねぇ?」 カオリんが、

「このひと、超電磁砲<レールガン>の上条美琴さんでしょ?」 さくらが、

「そうなんだ? じゃこっちのひとが、リコのお母さん?」 ゆかりんが、

三人が興奮して雑誌を食い入るように見ている。

あたしは観念した。

「そう、それ、あたし。隠し撮りされたヤツ」



407LX2010/12/26(日) 21:15:00.30DjGQxDw0 (3/22)


「でも、リコは、あんな目にあったのに、どうしてここにきたの?」 さくらが聞く。

「あの事件の被害者って、リコだったんだ……。 ここにも詳しい事書いてないんだけど、結局あの事件て何だったの? 

あたしの学校でも、先生がみんなに『おまえらも注意しろ』って随分言ってたし~」  ゆかりんが突っ込んでくる。

あたしは答えられない……いや、答えたくない。

「……、ちょっと、かわいそうだよ。止めなさいよ、あんたたち。 リコ、いい思い出じゃないんでしょ? 

つらいこと思い出させるような事聞いて、リコをいじめちゃかわいそうだよ」  カオリんが二人を押さえるように言ってくれた。

「ありがと、カオリん。確かに、あんまり良い思い出じゃないの……」  あたしは小さい声で答えた。 



あんまりどころではない。

正直、思い出したくない悪夢。

忘れたいけど、忘れることができない、それは事実。

「リコ、ごめんなさい。ほんとにごめんね。そんなつもりじゃなかったの、忘れて」

さくらが顔色を変えてあたしに謝ってきた。

彼女は決してあたしをいじめるつもりで雑誌を持ってきたわけではないことは、もちろんわかっている。

わかってる……けど。



408LX2010/12/26(日) 21:16:39.28DjGQxDw0 (4/22)


「……そう、だよね…… 思い出したくないよね、やっぱり」 ゆかりんも気が付いたらしい。

あたしも言うべきだろう。あたしは口を開いた。

「みんな、わかってくれてありがと。もう忘れた、なんてとても言えないし、ちっとも良い思い出じゃないから、

できればもう、ソレは話に出して欲しくないネタなの……」

あたしは話を続けた。

「さくら? 悪気があったとは思わないから安心して。持ってても良いけれど、あんまり見せびら

かさないで欲しいんだけれど…… ちょっと?あんた!」

「ご、ごめんなさい、これ、こうしちゃうから、ほんとに、ごめんなさい!」

さくらが雑誌をバリバリと引きちぎり、破いて、破いて、破いて粉々にして行く。

「あたしが、バカだったの。リコ、ごめんね。許してね」

そう言って、ポロっとさくらが涙をこぼした。

なにも泣かなくても良いのに……

「そうね、あんた、バカよ」

あたしはそういって、小柄なさくらを抱きしめて、軽くデコピンした。

「いったーい!」

「あはは、これでお終いよ! さ、あたしは部屋に戻ってあしたの予習やって風呂入って寝るぞー!」

あたしは明るい声を出して、湿っぽい雰囲気を吹き飛ばした。



409LX2010/12/26(日) 21:18:45.99DjGQxDw0 (5/22)


「り、リコ?、あ、あ、あのね、ちょっと教えて欲しいところがあるから、後でお部屋行って良い?」

さくらが赤い顔であたしに聞いてきた。なに赤くなってるの? かわいい♪

「ん? じゃこのままおいでよ。さっさと終わらせよぅ?」

「うん! ありがと! じゃねー、カオリんもゆかりんもお先に~」



佐天利子と、彼女に付き従うかのように、青木桜子がくっついて食堂を出て行く。

残された大里香織と、前島ゆかりはぽかーんとしている。

「な、なにあれ……あ、あの子たち、ゴミそのままにしていった……!」

「結局あたしらがやるのか……ってなんであたしたちがやるのよ、ムカつく~ぅ! こりゃ明日のさくらはパシリ決定だねー!」

大里香織と前島ゆかりは、二人が出ていった後に散らばっていた雑誌の残骸を集めてゴミ箱に捨てた。


紙片がひらひらと舞い落ち、ゴミ箱からこぼれた。

大里香織はその紙片を拾い上げた。

切れ端に躍る二文字。

「拉致」


大里香織がつぶやく。

「そりゃ普通思い出したくないよねー」

「うん、誘拐なんてまっぴらよ……」 

前島ゆかりも小さく答えた。





410LX2010/12/26(日) 21:21:25.87DjGQxDw0 (6/22)


さくらが帰ったあと。

あたしは思い出していた。


それはおよそ1年半前。

あたしが中学二年生終わりの時。

大親友の上条麻琴と一緒に軽い気持ちでここ学園都市に来たのが運命の大転換。

能力チェックで飲んだ能力発現促進剤のおかげで、あたしには無かったはずの能力がAIMジャマーと葛藤したことから、

あたしは能力者であることを認識した。

そして、三年生になって迎えた5月中旬のあの日。あたしは下校途中に拉致され、ここ学園都市のとある研究所に運び込まれたが、

その研究所は謎の爆発により吹き飛んだ。あたしは無事にそこから救出されたが、病院に入院したあたしを見舞うべく学園都市に

戻ってきた母をあるグループが誘拐、あたしもろとも海外へ売り飛ばそうとした。

しかし、そこに麻琴のお母さんである上条美琴おばさんや、謎の殺人ビーム女やらのおかげであたしと母は救出されたのだが、

最後の最後であたしは銃撃を受け、重傷のあたしは再び病院へ送られ手術を受けた。

そのときの頭のケガがもとで、あたしの能力は開発を受ける前に一気に開花してしまい、現在レベル3にあることが確認された。

ノーコンの能力者となったあたしは、そのまま東京にいるわけにはいかなくなったのだった。



あたしは学園都市から東京に戻った時の大騒ぎを思い出していた……




411LX2010/12/26(日) 21:23:49.68DjGQxDw0 (7/22)


あたしたちを乗せたリモは、前に通った入出国ゲートに向かわずに、ドンドン街から離れて行く。

最初は美琴おばさんや母がいるから、と思っていたあたしもさすがに車が高速に入るとさすがに不安になった。

まさか、この二人は変装した暗黒組織の手下、とか??

「なーに心配してるのよ?」

美琴おばさんがニヤニヤしながらあたしを見る。

「空港、ですか?」

母が訊く。

「ええ、いつものところからはとても無理で」

美琴おばさんがため息をつきながら答えた。

「利子ちゃん、覚悟してなさいね、しばらくあなた、時の人だから」

あたしはなんのことだか理解出来なかった。

「ほら、これ、今の様子よ」

美琴おばさんは、バックから携帯データ端末を取り出し画面を見せてくれた。

前に出入りしたことがある入出国ゲートの東京側はひとで溢れていた。殆ど空も見えないくらい。

「これって……」

あたしは絶句した。


412LX2010/12/26(日) 21:25:41.36DjGQxDw0 (8/22)



「どれどれ?」

隣に座っている母が端末を手にとって画面を見る。

「いやぁ、どこの大スターが来るんですかねぇ、ってこれ? ちょっとすごすぎですね……これじゃ、確かに出れませんね、

ここからは……」

最初は笑っていた母も、しまいには言葉を失っていた。

「どっちにしても、あたしたちは東京に黙って戻れないのよ。佐天さん、利子ちゃん、記者会見をやらないとダメみたいよ」

「えー、そんなのイヤですよー!!」

あたしは車の中で叫んだ。

その瞬間、あたしのアタマはギリギリと締め付けられるように痛んだ。

「くうっ」

あたしは両手で頭を抱えて下を向いた。

「あ、ジャマーが動作したかな?」

美琴おばさんが言う。

「利子、大丈夫?」

母があたしを抱きかかえるようにして優しくなでてくれた。

「かわいそうに……」

あたしのおでこに母は優しくキスをしてくれた。

「おまじない、よ」

「お母さん……」

あたしは甘えるように母に抱きつき、美琴おばさんは、そんなあたしたちを優しい目で見てくれていた。



413LX2010/12/26(日) 21:30:30.27DjGQxDw0 (9/22)


結局あたしたちは国際空港からヘリで学園都市を後にして、羽田空港ヘリポートに着き、東京に戻ってきた。

「あー、やっと戻ってきたー! …… 痛たたた!」

あたしは思わず大きく伸びをしたが、背中にちょっと軽い痛みを覚えた。

「ほら、けが人なんだからもっと注意深くしてないとダメよ」

母があたしをたしなめた。

「利子ちゃん、これからが本番だからね、覚悟しててね」

美琴おばさんが恐ろしいことを言う。

「大丈夫よ、利子。殆どはあたしたちがしゃべるから。大体あなた、意識失ってたんだから質問の大半には答えられる訳がないでしょ?」

母があたしの不安を押さえるように言う。

「そ、質問の大半は、学園都市側のあたしに来るはずだから、あなたは黙ってなさいな。

そうそう、あなたは未成年で18歳未満だから、顔出しはないし、声も変換されるから今日は大丈夫よ」

あたしたちはヘリの乗降場カウンターからタクシーに乗り込んだ。

「けが人を歩かせてごめんね、さすがに横付けはちょっと出来なかったわ」美琴おばさんがすまなそうに謝る。

「いえいえ、リハビリみたいなもんですから、これくらいなら大丈夫ですよ」

あたしは東京に戻ってきたことがとっても嬉しくて、その後に来る大騒ぎを軽く考えていた。

でも、それが甘かったことは、その週に出た写真週刊誌であっけなく打ち砕かれるのだけれど……



414LX2010/12/26(日) 21:36:17.42DjGQxDw0 (10/22)


あたしたちを乗せたタクシーは品川のあるホテルに入った。

そこに泊まるのか?と思ったらそこから地下駐車場に下りた。

「まるでアクション映画みたいだね?」

あたしはまだ自分に起きていることが現実だとは思えなかった。あたしはひたすら美琴おばさんに付いて歩いた。

それは母も同じだったようだけれど。

あたしたちは地下の駐車場に待っていた1BOXリムジンに乗り込み、品川のホテルを出た。

1BOXのリムジンはスモークガラスで、あたしたちからは外が見えるのだけれど、外からは中が見えないようになっているの、

と美琴おばさんが教えてくれた。

しばらく車は町中を走っていた。心地よい振動であたしは眠くなってうとうとしていた。

車が止まった。あたしは目を覚ました。

「着いたわよ」美琴おばさんは厳しい顔になっている。あ、色つきメガネかけてる?

「佐天さん、始まるわよ、しっかりしてね!」

「はい。利子、あんたもしっかりするのよ」母はサングラスをかけていた。

あたしは二人の雰囲気が全く違う事にちょっと驚き、一気に緊張した。



415LX2010/12/26(日) 21:37:58.57DjGQxDw0 (11/22)


「さ、利子ちゃん、このパーカー被って? 顔を撮られないように深く被るのよ!」

あたしは訳もわからずに美琴おばさんに言われた通りにパーカーを被った。

「もっと深く、こう、ね?」

お母さんがフードを直す。あごのところで紐を縛る。

「それから、このサングラス付けて!」

美琴おばさんからあたしはサングラスを受け取る。

車の外のざわめきが聞こえてくる。ガードマンのひとがこちらを見ている。

ものすごい数の人たちがこの車を取り囲んでいる事にあたしは気が付いた。

ひとだけじゃない。ものすごい数のレンズがあたしたちに向いている。

「す、すごい……」

あたしは思わずつぶやいた。通路の両側は、ひととカメラで一杯だ。

「麻琴を連れて帰ったときよりはましよ、こっちの方が場所が広いし、統制取れてるし」

美琴おばさんが皮肉っぽく片目をつぶってあたしに言う。

麻琴がパニックになって電撃を飛ばした話をあたしは思い出した。麻琴の気持ちがよくわかる。すごく、怖い。

まずい、このままだとAIMジャマーが動作しちゃう!



416LX2010/12/26(日) 21:44:09.87DjGQxDw0 (12/22)


「大丈夫、ここ、あなたの中学校の体育館だから、安心してね?」   美琴おばさんが思いも掛けない事を言った。

「へ?」

一瞬あたしは力が抜けた。

「利子、大丈夫よ、母さんがいるんだから、安心してなさい」    お母さんがあたしをしっかり抱きしめてくれた。

そうだ、母さんと美琴おばさんがいるんだっけ。

あたしは気持ちが落ち着いたのを感じた。


「さぁ、佐天さん、利子ちゃん? 行くわよ!」


美琴おばさんが、あたしをポンと叩く。あたしは現実に戻った。



美琴おばさんが車のドアを開けた。


「開いたぞ!」「出てくるぞー!!」「押さないで下さい!!」「前に出ないで下さい!!! 前に!!!」


すさまじい喧噪が襲ってきた。 


どよめきが、津波のように押し寄せてくる。


ものすごい数のストロボの閃光と


バシャバシャバシャバシャバシャという無数のカメラのシャッター音と


いろんな人の声が


突き出される無数のマイクが


向けられるTVカメラが


あたしたちを押し包んだ。




417LX2010/12/26(日) 21:48:51.25DjGQxDw0 (13/22)










記者会見が終わった。

やっと終わった、というのがあたしの感想だ。 二度とこんな騒ぎに巻き込まれたくない。



あたしは曇りガラスで上半身は隠されていたし、しゃべる声はまるで子供アニメのようなおかしな声になっていたので、

自分が喋っているとは到底思えず、最初はまともにしゃべる事すら出来なかった。

そのうちに慣れたのだけれど、その頃にはあたしがしゃべることはもう殆ど無く、あたしは黙って座っているだけだった。

自分が喋ることはもうないな、と思ったあたしはそれ以後、第三者の立場で冷静に会見を見ていることが出来た。


殆どが美琴おばさん、いや学園都市に向けられた疑惑、疑問、質問、悪意、誤解、そういったものから来るものすごい数の質問に、

美琴おばさんは凛々しく、

ある時は微笑みながら、

ある時は厳しい顔で、

ある時は怖い顔で、

ある時は困った顔で、

次々と答えていった……。

美琴おばさんや母はずっと慣れていた。よくあんな場所でしゃべることが出来るなー、とあたしは素直に感嘆していた。



418LX2010/12/26(日) 21:54:03.06DjGQxDw0 (14/22)





学校からあたしたちを乗せた1BOXワゴンはあたしたちの家の方ではなく、都心に向かって走っていることに途中で気が付いた。

「どこへ行くんですか?」

心配になったあたしは美琴おばさんに訊いてみた。

「XXホテルよ」

美琴おばさんもしかめっ面で答えてきた。

「このクルマもつけられてるしね」

美琴おばさんがため息をつく。

「ワイドショーなんかで見てましたけど、追っかけられる側に立ってみると、ちょっとたまりませんね」

母もうんざりした調子で言う。

記者会見会場を出るとき、押し寄せるマイクとカメラの放列の中を下を向いたまま歩くというのは、なかなか難しいものである

ことをあたしは理解した。美琴おばさんが手を握って引っ張っていってくれなかったら、あたしは絶対クルマにたどり着けなかっただろう。

「ここが学園都市ならね、電撃お見舞いしてひるませることも出来るんだけど……」

み、美琴おばさん、そんなことしてたんですか? あたしは思わずおばさんの顔を見てしまった。



419LX2010/12/26(日) 21:59:18.94DjGQxDw0 (15/22)


「あたしたちは、まだ当事者だから仕方ない、って気もするんだけど」

美琴おばさんが吐き捨てるように話を続ける。

「上条の家もあなたの家もマスコミだらけで大変なのよ。上条のお義母様なんか、家からジャイロコプターでもないと出られないわぁ、

って仰ってるくらいなんだから」

「そう、なんですか……」

あたしはちょっと悲しかった。




せっかく自分の家に帰れると思っていたのに。

詩菜大おばさまと、母と、美琴おばさんと、みんなでごはんを食べられると思って楽しみにしていたのに。

ケイちゃんとひろぴぃと一杯お話したかったのに。


「不幸だ」


思わずつぶやいたあたしに、

「バカ言ってるんじゃないの! 命が助かった事に感謝しなさいよ! あなたの命を救おうとして、いったい、どれだけのひとが

動いたと思ってるの!?」

母があたしを怒鳴りつけた。

「……ごめんなさい……」

あたしは悲しくなった。 あたしは、あたしは、ただ。

「まぁね、利子ちゃんは自分の部屋で寝たかったんだよね、自分の家でごはん食べたかったわけだよね?」

目を赤くしたあたしは、うん、と黙って頷いた。



420LX2010/12/26(日) 22:03:59.00DjGQxDw0 (16/22)


「あとひとつ、大事なこともしたかったんだよね?」

「え? なんですか?」

あたしは顔を上げて美琴おばさんを見つめた。

「お手紙」

美琴おばさんがにやりと笑いながら言った。

あたしは最初何のことだか………… あ!

「なななななな何を言ってるんですか~!!」

「正解だったみたいね」

意味がわかった母もニヤニヤしている。

「ひとつ、言っておくわ」

美琴おばさんがちょっと笑いながら言った。

「上条のお義母さまから、捜査の際に、いろんなものを調べられて、あなたの机に隠してあった手紙も資料として押収されてるって

話があったの。だから、その出した相手も、関係者ということでまちがいなく事情を聞かれてると思うな」

「やっぱり不幸だ~!」



421LX2010/12/26(日) 22:19:35.32DjGQxDw0 (17/22)


ホテルに着いたけれど、正面入り口は警備上問題があるからと言うことで、あたしたちのクルマはそのまま地下駐車場へ誘導された。

エレベーター前まで護衛のガードマンが作った人垣の中を抜ける形でエレベーターに乗り込んだ。

あとから追っかけてきたマスコミの人とガードマンの人との間でちょっと小競り合いしているのが聞こえた。

記者会見だってやったんだし、もういいじゃないの? 仕事なのかもしれないけど、しつこい。

あたしたちは高層階に直行し、エグゼクティブクラス専用ラウンジでチェックインした。

ここには報道陣はおらず、あたしたちはようやくホッと一息つくことが出来た。



案内されたのは角部屋のスイートルームだった。

「「すご~い」」母とあたしはおもわず感嘆した。

100平米以上あるらしい。洗面所2つ。トイレも2つあって、どっちも専用スペースになっている。

お風呂はジャクジー付きで、外が見える。シャワールームは別にあって、ミストシャワーも出来る。

アメニティは超一流ブランドの限定品で、あたしと母はきゃぁきゃぁ言ってはしゃいでしまった。

「あたし、このまま持って帰りたい!」

「こら、うちの生活レベルがわかるようなこと言わないの! そういうのは黙って持ってくの」

  
  ……あのね、母さん……




422LX2010/12/26(日) 22:36:40.54DjGQxDw0 (18/22)


ハンドタオルもバスタオルも、そしてバスローブも分厚くて重い上等なもの。

どれも「別途販売しておりますので、御用の節はアシスタント・マネージャーまでお申し付け下さい」とある。

すごい、おもうしつけください、なんて言葉、聞いたこと無いような気がする。

販売している、ということは持って帰れないってことだよね?

「としこ、それは持って帰っちゃダメだからね」

ちょっと母さんてば……、よっぽどあたしが気に入ってるように見えたのだろうか?

「なーに、要るなら買ってあげてもいいわよー?」  美琴おばさんが声を掛けてきた。

「いえいえいえ、結構ですから、大丈夫です、もったいないです」 とあたしはあわてて打ち消した。

使い捨てスリッパもペタペタではなくて起毛のもの。

あたしは、このスリッパを使わないで黙って持って帰ることに決めたw

これで十分だもん♪



寝室にあるベットは大きいし、低反発マットは柔らかく包んでくれる。まくらはそれぞれ3つも用意されている。

ベッドは電動で半分ほどが起きあがるのでそのままテレビは見れるし、その気になればここでごはんも食べられそうだ。

別にマッサージチェアまで置いてある。

信じられない。すごすぎる。

ふと、あたしは心配になった。

「この部屋、いくらするの? お金大丈夫?」

「いいから、子供がお金の心配しないの!」    美琴おばさんが笑いながらぴしゃりと締める。

(あたし、もう子供じゃないもん) ちょっとあたしはおばさんに心の中で反発してみた。



423LX2010/12/26(日) 22:40:54.56DjGQxDw0 (19/22)




「ラーメンが2500円もするの!?」

あたしはお風呂を使った後、何気なく手に取ったルームサービスの価格表を見て死ぬほど驚いた。

どんなラーメンがでてくるのか、あたしには想像が付かなかった。なぜなら学校の近くの中華そばは280円なのだ。

ざっと10倍もするラーメン、ってそれは本当にラーメンと言って良い食べ物なのだろうか?

だいたいにおいて、1000円以下のものがない。

あったのは、ごはん単品が500円、みそ汁単品300円、お新香セットは980円だった。

単純にこれだけ頼んでも2000円近くになる。信じられない……

「あら、利子ちゃん、おなか空いた?」    美琴おばさんがあたしに聞いてきた。 

「はい、おなかと背中がくっつきそうです」

「大変率直なご意見、承ったわ」    美琴おばさんは笑いながらシャワールームに歩いて行き、中にいる母に尋ねた。

「佐天さんもおなか減ってるかしら?」

「あー、いいですね、頂きましょうか」    母が答えたのが聞こえた。

「おっしゃー、じゃぁどうせだし、豪華に行こうか!」    美琴おばさんが気勢を上げて宣言した。

「さて、言い出しっぺの利子ちゃんは、何が食べたいのかな?」   戻ってきた美琴おばさんがあたしに聞いてくる。

あたしは本当はラーメンが食べたかったんだけれど、こうなるとちょっと言い出しにくくなる。



424LX2010/12/26(日) 22:43:39.66DjGQxDw0 (20/22)


「ラーメン頼んでも良いわよ?」とおばさんが片目をつぶってニコッとする。

「でもね、ここに来るまで時間がかかるから、のびちゃってる事が多いんだな。だからルームサービスでは、どっちかというと

麺類はあたしはお勧めしないんだけど、トライしてみてもいいわよ?」

おばさんにそう言われるとあたしも考えてしまう。2500円もするのびたラーメンって、それはちょっと勘弁だ。

「お寿司なんか、どう?」    おばさんが助け船を出してくれる。いいな、それ。廻らないお寿司♪

あたしはニッコリ笑って「お寿司食べます」と答えた。

「利子ちゃん、お寿司で良いって言ってるけど、佐天さんはそれでいいかな?」 

美琴おばさんはまた母のいるシャワールームに行った。

「あ、その選択、良いですね」と母が答えている。

「生ビールもらう? つまみは刺身盛り合わせでいいかな?」

「それ、行きましょう。海鮮サラダ入れといて下さい。食事代はあたし払いますから」 母が答えている。

え、じゃ部屋代はおばさんが払うの? えー、それはちょっと……それでいいの?


425LX2010/12/26(日) 22:46:02.37DjGQxDw0 (21/22)


「何を言ってるのよ、ここはウチが年契でキープしてるところだから、そんなことされるとかえって後で精算がややこしくなる

から止めて。気にしないで良いからね」

美琴おばさんはそう言って、部屋の電話でルームサービスをオーダーした。

(ということは……、部屋代は前払いされてるってことか……でも食事代は別勘定なんじゃないのかな……)

あたしはなんとなく、それ以上突っ込まない方がいいような、大人の世界を見たような気がした。

「じゃ、あたしもお風呂入るわ。ルームサービスくるまで1時間くらいかかるから。ガマンできなければ、そこにカップラーメン

あるから食べて良いわよ?」

そう言って美琴おばさんはバスルームに消えた。

あたしはガマンした。値段表みると、このカップラーメン、450円もする。あほらしい。

でも、実際のところは

「利子ちゃんは育ち盛りだからねー、寿司も2人前ぐらい楽勝よねー?」そう言って、美琴おばさんは特上にぎりを

4人前、太巻きを2本も頼んだからだ。

(さてんとしこ、期待に応えて頑張りますっ!) 

あたしは、それから1時間弱、クウクウ泣き叫ぶおなかを押さえ、必死で、耐えた。

お寿司のために。




426LX2010/12/26(日) 23:10:32.78DjGQxDw0 (22/22)

>>1です。
お読み頂きました皆様、誠に有り難うございました。

ちょっと短いですが、本日の投稿はここで止めたいと思います。
明日、また夜に投稿再開と致したく存じます。

それではお先に失礼させて頂きます。




427以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/26(日) 23:21:39.800vK1F2go (1/1)




428以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/27(月) 14:21:30.50E9MkUowo (1/1)

乙です


429LX2010/12/27(月) 21:21:09.72.iiDkFo0 (1/23)

皆様こんばんは。
>>1です。

昨日は中途半端なところで止めてしまいまして失礼致しました。
ちょっと内容に不満が残る部分がありまして、修正した上で投稿したかったものですから
やむなく失礼せざるを得ませんでした。

それでは本日分の投稿を開始します。



430LX2010/12/27(月) 21:25:13.32.iiDkFo0 (2/23)


「食った~、もう入りません~ あ~シアワセ♪♪」 

あたしは満足した。ホントに食べた。もういい。苦しい。動きたくない。

「さすが、十代だね~。ウチの麻琴もよく食べるもの……」

「すみません、なんかいつも満足に食べさせてないみたいで、みっともないところお見せしちゃって……」

「あ~ら、大吟醸握りしめてゴキゲンなひとが何言ってるんだか、佐天さんたら……ふーぃ」

母と美琴おばさんとは、日本酒大吟醸を3本空けて相当ご機嫌だった。

あたしは、もちろん冷蔵庫のウーロン茶でした。念のため!

「それで、明日なんだけど」     

美琴おばさんが赤い顔であたしたち母娘に言う。

「朝早く3時過ぎにここを出て、おうちには早朝に入るわ。今回は正面突破よ」

すごいな、美琴おばさん。お酒飲んでても忘れてないんだ……。

「明け方の3時半から4時頃は夜詰めの人だけで、一番きつい時間帯だからチャンス。あたしと囮がお義母さまの家に入るから、

かなりの人間はこっちに引きつけられると思うの。その隙に佐天さんたちは家に入って。良いわね?」

美琴おばさん、何からなにまで、本当にありがとう。

「御坂さん、すみません、今回は本当にご厄介になってしまって……本当に有り難うございます」

母が涙ぐんでいる。あれれ、また旧姓で呼んじゃってるよ……



431LX2010/12/27(月) 21:30:34.16.iiDkFo0 (3/23)


「あはは、止めてよ佐天さんたら……。あなたにそんな湿っぽいこと似合わないわよ? ほら、利子ちゃんに笑われるぞー?

ふーい……  それに、あのね、今回のことはね、個人的なことだけじゃなくて、学園都市としての責任問題でもあるのよ?

公にはならないことなんだけれど、学園都市の人間が東京から中学生を拉致した、またその母親も学園都市を訪問中に同じく拉致された、

なんてことはね、とんでもないことなのよ。そしてこともあろうにその子が銃撃されるなんて、もうね、そんな事実が存在することすら

いけないことなんだな、要は。

だ・か・ら、今回あたしがここまで世話を焼いているのは、半分は仕事、とも言えるのよ。仕事の費用なんかいくらかかってもいいの。

だからさー、いっちばん高い大吟醸頼んじゃったのー、あははは」

正直、あたしはこの美琴おばさんの最後のところにちょっとカチンときた、というかムカッとしたというか。

そして、ちょっと悲しかった。

「仕事」だったんですか? あたしたちを監視してたんですか? 余計なことを喋らないように?

そんな、そんな……美琴おばさん……ひどいよ……

「御坂さんはねー、学園都市に貸しがあるのよ、とっても大きい貸しが」 

母さんはあたしの顔に不満の色を見て取ったのだろう、謎かけのようなことをゆっくりと言いだした。

おっと、美琴おばさん睨んでる? 目がちょっと怖いかも。



432LX2010/12/27(月) 21:39:28.89.iiDkFo0 (4/23)


「御坂さんはねー、学園都市のスターなのね。でもスター故に、学園都市から離れられないんだなー、離してくれないんだなー。

それがわかってるから、麻琴ちゃんを詩菜おばさまに預けたのよね、可愛い盛りの娘をね。自分のようになることを恐れたんだよねー。

……学園都市に縛られるのは、あたしだけでたくさんだって」

そ、それでマコを? 仕事で忙しいから、っていうのは口実だったの……?

美琴おばちゃん、目が……赤い? 泣いてるの?

「御坂さんはねぇ、利子、よくお聞き。あたしたちを見張ってるのは間違いないの、仕事でね。でも同じことが学園都市にも言えるのよ。

御坂美琴、超電磁砲<レールガン>が見てるんだから、あんたら、へんな手出しするんじゃないよ! ってことなのよ。わかった?」

は……そう、なのか。

あたしたちを見張ることで、あたしたちを守ってくれていたんだ……疑ってごめんなさい、おとなの世界って、単純じゃないんだね……。

「もうひとつあるんだけどねぇ、御坂さんてねぇ、照れ屋なんだけど素直じゃないんだなぁ…… 

としこー、このひとはなー、好きなオトコに毎日ケンカふっかけてたおんななんだよー? 

相手をして欲しくてさぁ、毎日電撃飛ばしてたんだよぅー」

「ちょぉっと、さ、さ、佐天さんなんと言うことをいうのよ!」 ふーん、やっぱり美琴おばさんってちょっと危ないタイプなんだ……

「へへ、素直に『好きですぅ、つきあって下さーい』、なんてついに言えなかったひとだからねー、あたしも初春もほんと

大変だったんだからねー、でさー、上条さんを追いかけてさぁ、同じ高校へわざわざ……むぐ?」

「すと――――っぷ!! そこまで! ごめん! 佐天さん、あたしが悪かったわ、そこまでにして、お願い!!」

美琴おばさんが母さんの口を押さえた。母がばたばたしてる。

おばさん同士の酔っぱらいのからみなんて初めて見た……酷いもんだ。 



433LX2010/12/27(月) 21:42:03.98.iiDkFo0 (5/23)


「ぷふぁー、何するんですか御坂さんたら?」  美琴おばさんが離れるや母が大げさにため息をつく。

「もうおしまい! 明日早いんだから、ほら、佐天さんもさっさと寝る!」

「うー、まぁそうですねぇ? あと少しですから、お互いガンバりましょーねー! じゃ朝早いから、これでお開きにして

寝ましょーねぇ……zzzzz」    いきなり母さんが落ちた。 マジ?

「ちょっと、佐天さんたら、って、ホント?」   美琴おばさんがピタピタと母さんを叩くが、全く反応がない。 

「早いわぁ……。利子ちゃん、お母さんってお酒飲むと絡んで寝るタイプだった?」  美琴おばさんがあたしに聞いてくる。

「いや~、家で飲むことは殆どないですから……、あたしもちょっと驚いてます……母さんってこういうひとだったんだ……」

「あ~あ、佐天さん、利子ちゃんにバレちゃったわよ~、知~らないっと。……じゃ、お母さんをベッドに運ぶから、

かけぶとんめくっておいてくれるかな?」

美琴おばさんは、あたしは力をいれると傷口が開く可能性がある、ということで母を一人で引きずってベッドに寝かしつけた。

あたしは、その間、力がいらない宴会の後かたづけをして、歯を磨いて、ベッドに潜り込んだ。

美琴おばさんは、お肌のお手入れをしてくると行って洗面所に行った。

時計を見ると、え、まだ夜の9時前? すっごい早いわ!

と思うまもなく睡魔にあたしは取り込まれた……おなか一杯。しあわせ……zzzzzzzzz



434LX2010/12/27(月) 21:49:45.55.iiDkFo0 (6/23)


早朝、朝3時半過ぎ。

あたしたちはホテルをチェックアウトした。

地下に降りるのか、と思ったらそのまま正面玄関に出た。

「ふふ、地下には昨日の1BOXを横付けしてるから、張ってる連中の半分以上はそっちへ行ったはずよ」

荷物はあらかじめベルキャプテンに頼んでおいたので、あたしたちは身一つという気軽な格好で、車寄せに来た1BOXに楽々乗り込んだ。

すると中には、

「おはようございます、とミサカ麻美は眠い目を擦りながらあいさつします」

「同じくおはようございます、とミサカはあいさつします」

ミサカ麻美さん(元10032号)……とミサカさん……誰だろう? 琴江さんじゃないようだし…… 

二人とも黒髪で、麻美さんはあたしと同じような服を、もう一人のミサカさんは母と似たような感じになっている。

「申し遅れました。このミサカは三重県にいます検体番号13874号のミサカです。名前はまだありませんので、この機会に是非名前を

付けてもらえたら嬉しいとミサカは20年溜まっていた思いを吐露します」



名前がないって? 意味がわからない。それより、ミサカさんって一体何人いるの?



435LX2010/12/27(月) 21:52:44.59.iiDkFo0 (7/23)


助手席に座ったその親玉、上条美琴おばさんがこっちに身を乗り出して、新たなミサカさんに言いだした。

「ちょっと、アンタ、そんなこと決めるためにアンタ呼び出したわけじゃないんだからね? アンタ、今日自分がやることちゃんと

わかってるわね?」

「はい、でも10032号や10039号のように学園都市にいる個体だけ優遇されるのは同じミサカとしてはいささか悲しい気持ちがします、

とミサカは名前が欲しいという希望をひたすら隠してお姉様<オリジナル>の命令に従います」

やっぱり、このひともウザいタイプなのだろうか……あれって琴江さんだったっけか……?

「あー、わかったわよ。三重県にいるから、まずミエ。ミはあたしの『美』を使いなさい。エは……と」

「ちなみにミエという名前をもつミサカは既に5人おり、うち2名が鬼籍に入っています。

美枝、美絵、美江、美恵、美栄で、美絵と美恵が鬼籍に入ったミサカです。

鬼籍入りした名前を付けられたりダブルブッキングすることを防ごうと、ミサカはしっかり予防線を張ります」

先手を打って、三重ミサカさんが回答する。

その光景を見ていたあたしは、今頃になって少し不気味なものを感じ始めた。これはただごとではない。

双子とか三つ子とかそういうものでは絶対無い。ありえない。こんなに殆ど同じ、といえる人が大勢いるなんて……



436LX2010/12/27(月) 21:56:16.27.iiDkFo0 (8/23)


(クローンなんだろう)ズバっと冷静なあたしが回答した。

こら、いきなり出てくるなっての!

でも、やっぱりそうだよね、とあたし自身は納得した。そんな馬鹿な、という気はしなかった。

あたしも学園都市に染まり始めているのだろうか……?

でも人間のクローンって、許されているの? それは神をも恐れぬ行為のはず。植物や昆虫の世界では単性生殖として存在し、

実験動物レベルでは実用化されているけれど……まさか、そんな???

あたしは美琴おばさんと、ミサカ麻美さんと、美英さんという名前に決まったらしいミサカさんを見比べていた……。



「はい、上条委員、この通りです。どうですか? 似ていますか? とミサカは女子高生になった気分で質問します」

「似ていますか? と美英も女子高生になりたかったという欲求を心の底に隠して質問します」

はい?

アタマの中で自問自答していたあたしはミサカさんたちの質問でいきなり現実に戻された。

「服は似せたし、美英の格好は良いと思うけど、麻美の女子高生というのは諦めなさいよ」美琴おばさんが苦笑していた。

じょしこーせー????  誰が?

それは、無理でしょ、いくらなんでも、ねぇ。 二人とも、成熟した女性の体型だもの……。

「やはり、無理ですか、残念です」と麻美さんが悲しそうに言った。

はい。無理ですって。



437LX2010/12/27(月) 21:58:19.45.iiDkFo0 (9/23)



「佐天さん、利子ちゃん、いい?」 

美琴おばさんが、あたしたちに聞こえるように大きな声でしゃべり始めた。

「まず、先導するガードマンの車が上条の家に着き、通路を造るの。そこにわたしと、この2人が上条の家に入る。

そうすると朝張り込んでいる人間の大半は上条の家に集結するから、あなたの家の方は減るはずよ。

その隙にこの車はあなた方の家の前に突入するから、あなたたちは家に入るのよ。

入ったらまず門を閉めるのよ、開けて入ろうとすれば不法侵入だからそこまで突っ込むバカは普通はいないはず。いいわね?」

あたしと母は緊張して顔を見合わせた。

「利子、あなたが門を開けなさい。あたしはあなたを守るから。鍵はこれ。右にひねるのよ、しっかりね!」

「わかった。頑張ろうね、お母さん」

あたしたちが「やるぜ!」と気勢を上げようとしたときに、美琴おばさんがまた言った。

「で、その前にね、あなたたち、家に食料あるの? 明日は家から出られない可能性もあるから、この先の深夜スーパーで

買い出ししておいた方が良いんじゃないかな? あたしも実は買っておこうと思うんだけど」

反対者ゼロ。クルマは深夜スーパーの前に止まった。



438LX2010/12/27(月) 22:04:26.30.iiDkFo0 (10/23)


前を似たような1BOXが走っている。

美琴おばさんが言った「ガードマン」が乗っているのだろう。

誰も歩いていない深夜早朝の街、こんな時間に走るのは初めてだった。

よく知っている風景になった。もうすぐあたしの家。

「もしもし、お義母様? 美琴です。まもなく付きますので受け入れ方宜しくお願いします………ええ、一緒ですけど、まずは

自分の家に入って頂くのが……はい、そうですね。では一旦切ります」

美琴おばさんが電話をした。詩菜大おばさまだそうだ。早く会いたいな……あれ?

あたしは気が付いた。こんな深夜なのに沢山クルマが止まっているのだ。見るとマスコミの会社のマークがついているものが多い。

テレビ局もいる。

「ちょっとまずいかも」      美琴おばさんがつぶやいた。

「ここまで多いとは思わなかったわ」

あたしはちょっと不安になった。家に入れるんだろうか?

「大丈夫よ、利子」      お母さんがあたしの手を握って来た。

延々と繋がるクルマの列。でもその中でぽっかりと空いているところがあった。

そこはあたしの家と詩菜大おばさまの家があるところ。

「佐天さん、利子ちゃん、伏せて! 見えるとまずいから! さて、行くわよ、麻美、美英、いいわね!」

「「了解です」」     ミサカさんたちが声を揃えて返事をする。

あたしと母さんは伏せた。

クルマが急ブレーキを掛けて止まった。


439LX2010/12/27(月) 22:08:43.95.iiDkFo0 (11/23)


前の1BOXからガードマンが6人降りて上条家の入り口についた。

「行くよ!」     美琴おばさんが助手席から降り、ミサカさんたちがドアを開けて家に走り込む。

「クルマ出して!」  美琴おばさんが叫ぶ。

扉を閉めないままあたしたちの1BOXは走り出し、あたしの家の前で止まった。

「降りて!」     初めてドライバーの人が声を出した。

あたしは反射的に買い物袋を1つ持ってクルマから飛び降りた。母さんも袋を2つ持って後に続く。

外へ出ると、上条家のところではライトが煌々と点き、怒号やストロボの閃光、カメラの音が響いている。

「こっちです、早く!」

ガードマンの人が2人、あたしたちをカバーするように門の前に立つ。

あたしは握りしめていた鍵を門の錠穴に差し込み、ひねる。開いた! 鍵を抜き取った!

「おい!こっちにもいるぞ! ホンモノはこっちだ!」     叫び声が直ぐそばで聞こえた。

「すみません!! XXテレビのレポーターの△△と申します! さてんさんですか? 恐縮ですが一言お願いします!!」

テレビカメラのライトがこっちに向かってくる。

あたしはそのレポーターを無視して叫んだ。

「お母さん!、こっち、早く!」

「としこ、先に入りなさい!いいから!」

ガードマンが母に迫ったカメラマン?を排除しようとして、母まで一緒に押さえてしまっているのだ。

あたしは門の中に入り、「お母さん、お母さん!」と叫んでいた。



440LX2010/12/27(月) 22:11:17.68.iiDkFo0 (12/23)


反射的にあたしは袋のなかのタマネギを手に取り、

「お母さんから離れてよ!!」

とガードマンの方に投げつけ、1コがまぐれでガードマンに当たった。

「わっ?」

アタマを押さえたガードマンのおかげで母はカメラマンのかげから脱出して、門に飛び込んできた。

あたしは母が入ったのを確認して門を閉めた。

「お母さん、大丈夫?」

あたしは息を切らしながら母に尋ねた。

「大丈夫、靴脱げちゃったけど……」

それでも買い物袋をしっかり握りしめているところは、さすが、だ。

門から顔を乗り出して

「すいません、週間レディースのXXですが、こんな時間にすみませんが、ひとこと、ひとことお願いします!」

という週刊誌のひとと、

「XXテレビです! すみません、ひとこと、ひとことでいいですから、お願いします!」

と、さっきのレポーターの人が叫んでいる。

そのうちにドドドという大勢の足音がこっちに来た。ミサカさんたちの偽装がばれたのだろうか。

「お母さん、家の鍵、早く開けて!」

「暗くて、よく見えないのよ!」

そこにTVカメラの煌々たる明かりがあたしたちを照らした。

「あら、ジャストタイミングね」

無事鍵を開けて、あたしたちは家の中に滑り込んだ。

「やっと、やっとお家に帰ってきた……」

「利子、ほんと、すごかったわねぇ……」 

あたしたちは玄関のたたきに腰をおろして顔を見合わせてお互いに笑った。

しかし、その直後。



441LX2010/12/27(月) 22:16:59.34.iiDkFo0 (13/23)


”ピン・ポーン ” 門塀の呼び出しボタンが押されているのだ。一回どころか、絶え間なくピンポンが鳴り続ける。

「あー、やかましい!」 

あたしは怒った。

「空気が湿っぽいわね。朝になったら空気入れ替えないと、でも開けられるかしら、この状態で……」

母はそう言いながら玄関の電気を点け、部屋の電気もつけてゆく。

ああ、久しぶりの我が家だ……。やっと、やっとあたしは帰ってきた。

わずか1週間程度だったけど、ものすごく長く離れていたように思う。

「全くもう、うるさい人たちだねぇ」

お母さんが鳴り続けるインターフォンを取った。

「すみません! お疲れのところ、すみません、週間『女性の友』の記者のXXと申します。5分ですみますので、なんとか出て

頂けませんでしょうか?」

インターフォンにどよめきと押しつけがましい男の声が響く。

「切っちゃおうね」

母があたしに確認するように言う。

「そうしよ、じゃなきゃ寝れないよ、お母さん?」

あたしは大きく頷いた。



442LX2010/12/27(月) 22:19:51.93.iiDkFo0 (14/23)


「切る前に言っとくわね」    と母は言って、インターフォンに向かってまくしたてた。

「夜明けの3時4時にひとのうちに押しかけて何を騒いでいるんですか!! 隣近所の迷惑です! お引き取り下さい!

このインターフォンも電源切りますから無駄です! おやすみなさい!」

その直後、また、ピンポーンと呼び出しが鳴り響く。しつこい。

母がインターフォンのスイッチを切るとピンポンも消え、外のどよめきだけが聞こえる。

時計を見ると、明け方の4時10分。

「あんた、ところでさっき何投げたの?」    母が聞く。

「え? ……なんだっけ?」     あたしはスーパーの袋から中のものを取りだしてゆく。

「タマネギ……だと思う」   あたしは答えた。

「あらあら、じゃぁ痛かったでしょうね、あの人、かわいそうに……」   母はそういいながら、冷蔵庫の中を確認している。

「これ、もうダメね……これも。これは……まだいいと」    主婦だ。さすがだ。


「あたし、今日学校行けるかな……」   あたしはダメになったものをゴミ袋に入れながらつぶやいた。

「今日はちょっと無理じゃないのかな? 明日で良いんじゃない? 」   

母はまぁまぁ、と言う感じで言うが、あたしは一日も早く学校に行きたかった。

ひろぴい、ケイちゃん、あたし、帰ってきたよ!



443LX2010/12/27(月) 22:24:31.77.iiDkFo0 (15/23)


「はい……はい、どうもご迷惑かけてすみません。……ええ…………本当に困りますわね……、はいどうも失礼致します……」

上条詩菜が電話口でぺこぺこと頭を下げていた。

「はぁ……」

電話が終わった詩菜が大きくため息をつく。

「どちらからの御電話でしたの?」

美琴が聞く。

「お隣の浦辺さんから。マスコミの人たちどうにかならないのかって、苦情よ。うちに言われても困るんだけど、お気持ちもわかるし……」

「そうですよね……間に挟まれてるから大変ですよね……」

美琴は考えた。

「アメ投げるしかないか……」


夜が明けた朝8時過ぎ。美琴が外へ出る。

どっと人が動く。カメラがうなりストロボが光る。

張っていたアナウンサーが走ってくる。

「はいはい、押さないで下さい、ちゃんとお話ししますから~」

美琴がマイクでしゃべる。



444LX2010/12/27(月) 22:29:35.95.iiDkFo0 (16/23)


「え~、皆様お仕事お疲れ様です。私は学園都市統括理事会広報部門責任者の上条美琴と申します。

最初に苦情を申し上げます。皆様のお仕事は理解致しますが、まわりにお住まいの方々や、中学生の彼女の通学その他に多大な影響を

与えており、はっきり言えば迷惑であるとまず断定させて頂きます。

尤も、皆様方は社の命令でやむなくこちらにきていらっしゃることと理解しておりますし、各個人個人をつるし上げるつもりは

ございません。


さて、当方よりご提案がございます。

今回ここに詰めていらっしゃる会社につきまして、ここを撤退して頂いた会社の方々は、2ヶ月後に当方より学園都市に御招待致します。

取材は機密部分には制限を付けさせて頂きますが、それ以外は基本的に自由に出来ることにしております。

学園都市では今まで外部のマスコミを入れたことがございません。今回を逃すと次の取材はちょっと難しいのではないかと考えます。

如何でしょうか?

皆様におかれましては、至急上司とご相談の上、ご希望の社の方はこちらへお名刺を置いてお帰り下さい。

受付時間は1時間とさせて頂きます」







1時間半後。あれだけいたマスコミ群は綺麗さっぱり姿を消していた。



445LX2010/12/27(月) 22:39:27.10.iiDkFo0 (17/23)


「まぁ、現金なものね……それだけ学園都市を取材したいのか……」

美琴はひとりつぶやいて、携帯を取りだした。

「もしもし、あたし。おはよ。……なんとかね。まぁどこも似たようなものよ。

…………うん、利子ちゃんは大丈夫だったわ……佐天さんもなんとかね。

……それはないわよ。AIMジャマーはちゃんと効いてたし……変なこと期待しないでよね。

……うん、お義母さまもへとへとだったわ。関係ないのに、ホント、バカじゃないのかしら、あいつら。それで、お隣やらお向かいやらに

相当迷惑かけてて……うん、

……そう、それでね、結局アレ使うことになっちゃったの。

……わかってるけど、仕方ないじゃない、ここであたしがブチ切れるわけにいかないでしょ? 

……そうよ、だからあとはどうするかだけよ。まさかそのまま……

そうね、うん。今日の夕方には戻ろうかって思ってる。麻琴はなんか言ってた?

……まぁね。でも、圧倒的大多数の子供たちは親から離れて暮らしてるんだから、甘ったれたこと言ってるんじゃないって

言っておいてよ! 

……はい……はい。じゃ、宜しくね、はい、どうもね!」 

美琴は電話を終えるとため息をついて、

「あー、アイツもこれから大変だわよ……」とひとりごちた。




446LX2010/12/27(月) 22:42:48.07.iiDkFo0 (18/23)


美琴はまた電話を掛ける。

「おはよう、佐天さん。連中帰ったわよ。もう出てきても大丈夫よ」

少し経って、家から佐天涙子が姿を見せた。

「ふぁ~、お疲れ様です~。だけど、あんなにいたマスコミの人、なんで帰ったんでしょうね?」 

佐天が首をひねる。

「さ、さあね、他にやることが見つかったんじゃない?」   

美琴が白々しく答える。

佐天はその様子を見て、おおよその状況がわかったようで、

「すみません、上条さん、何から何までお世話になりっぱなしで、本当にすみません……」

と深く頭を下げた。

「や、やめてよ。そんなことしないでったら。こっちも恥ずかしいでしょ?」

美琴は佐天を起こそうとするが

「いえ、あたし、今までずっと、偉そうなこと言ってきましたけど、結局は、実際には皆さんにご迷惑をかけっぱなしでした。

本当にすみませんでした」

佐天涙子はガンとして頭をあげようとはしなかった。

「さ、佐天さんたら……ねぇ……」

美琴はどう声をかけていいものやらとまどっていた。



447LX2010/12/27(月) 22:45:43.82.iiDkFo0 (19/23)


そこへ隣の浦辺さんが出てきたのだった。

「まぁまぁ、上条さんも佐天さんも、先ほどはごめんなさいね、でも本当に怖くて。誰に言えばいいのかわからなくて、お宅に電話

しちゃったの、ごめんなさいね」

「あらあら、浦辺さん、まぁまぁ今回は本当に済みませんでしたわ。うちはそんなこと気にしてませんわ。ほんと、災難でしたでしょ、

すみませんでした」

上条詩菜大おばさまも出てきて浦辺のおばさまと話を始める。

「いえいえ、こちらこそずいぶんとご迷惑かけてしまってすみませんでした。うちもずっといませんでしたので」

佐天涙子が浦辺おばさまと上条の大おばさまにまた頭を下げる。

「佐天さんのところも、とんでもないことでしたわね。利子ちゃんが無事帰ってきて、本当に良かったわね、よかったわ……」

浦辺おばさまは、さっきの電話の剣幕はどこへやら、すっかりいつもの穏やかな調子に戻っていた。



「さて、じゃあたしたちも戻りますか」

そうつぶやくと、美琴は上条家に入った。

中では美琴の妹達<シスターズ>の二人が美琴を待ちかまえていた。

「ミサカは銀座のスイーツを食べてみたいと」

「ミサカは銀座でアクセサリーを買いたいと」

美琴は少し考えて宣言した。

「おーし、じゃせっかくだし、ご褒美も含めて学園都市に帰る前に銀座に行くか!」

「きゃほーい!」

「さすがお姉様<オリジナル>ですね、とミサカは他のミサカに自慢げにこの喜びを自慢します!」



……その頃、主人公である佐天利子は、自宅にようやく帰ってきたという喜びで緊張が一気に解け、学校に行くどころか自分のベッドで

ぐっすりと眠っていたのだった。



448LX2010/12/27(月) 22:49:32.01.iiDkFo0 (20/23)


「利子、いい加減におきなさーい!!!」

母、佐天涙子がバサーッとふとんをまくり上げた。

「ひゃぁっ??」

あたしは不意をつかれて驚き、次の瞬間

「痛い!」 

頭を抱えてうずくまった。AIMジャマーが動作したのだった。

「ご、ごめんなさいね、利子。大丈夫? 驚かせちゃってごめん!」

母がおろおろしながらあたしをさすったり撫でたりしている。

「かあさん、驚かせないでよ……、あたし、まだ慣れてないんだから……」

「ごめんなさい、ってあんたいつまで寝てるのよ、もうお昼よ? まったくどこが『がっこうへ行きたいの~!』なのよ?

あんた、制服は一着無くなってるから買っておかないとダメでしょ? それから携帯。カバン。警察から当分戻ってこないことを考えたら、

学校に行く前に買ってくるもの、いっぱいあるわよ?」

はた、とあたしも気が付いた。そうだ。学校に行こうにもカバンすらないのだ。

「そっか、買い出しか……」

ぺたんとベッドに座り込んだあたしは頭の中で確認を始めた。

「さっさと着替えて、出かける準備しなさい!」

母さんはあたしをしかりつけると下へ降りていった。

だんだん、いつもの調子になってきた。嬉しいような、寂しいような。



449LX2010/12/27(月) 22:53:54.82.iiDkFo0 (21/23)


母と二人で家を出ようとした時、あたしたちは写真に撮られた。

「どちら様ですか? 肖像権侵害で訴えても宜しいのですか?」

母が穏やかに言う。

「どうして、芸能人でもないあたしを撮るんですか??」

あたしはちょっと甲高い声になる。

「やめなさい、利子。ビデオで撮られてネットに流れる可能性もあるんだから、あなたは黙ってなさい」

母があたしを押さえる。

その隙にパパラッチは逃げていた……。ちくしょう、あのバカ野郎、ヘンタイ、卑怯者~!

「まぁ、写真を持ち込んでも、学園都市の取材許可とを天秤に掛けられて終わりだと思うけど……」

仕方ないな、という顔でお母さんはつぶやいた。

「お母さん、早く買い物行こう?」

せっかくの気分を出だしでぶちこわされたあたしは、ちょっとブルーだった。



450LX2010/12/27(月) 22:56:39.13.iiDkFo0 (22/23)


制服は袖詰めやら何やらで3日かかるとのことだった。

出来上がってくるまで二着で使い回しするしかない。

ノートだバインダーだ、カバンだとなんだかんだと買っていたら、結構な金額と結構な量になった。

出がけのことがあるので、あたしたちは帰りは豪華にタクシーで家に帰ってきた。

美琴おばさんが機転を利かしてくれた奇策のおかげで、早朝に帰ってきたあの時のような大集団はいないものの、

それでもなんだかんだといるのがわかった。

予想外なのは、どう見てもあたしと同じくらい、あるいは大学生くらいの男の人がいることだった。

「あの子たちもそうなのかな? あんたモテそうね?」 

母がからかうようにあたしに言う。

「止めてよそんなの、あたし、気持ち悪い!」 

あたしは速攻で否定する。

「ふーん、もうあの彼一筋に決めたの? まだ早いと思うけどな?」

母は方向を変えて攻めてきた。

「な、なに言ってるのよ、娘をからかわないでよ! もう知らないから!」 

狼狽するあたしを母はニヤニヤしながら見ていた……。



451LX2010/12/27(月) 23:03:02.03.iiDkFo0 (23/23)

お読み頂きました皆様、どうも有り難うございます。
>>1です。

本日の投稿はここで止めたいと思います。

明日は打ち上げがありますので遅い時間になるか、もしかすると投稿できないかもしれません。
出来なかった場合はお許し下さいませ。

それではお先に失礼致します。



452以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/27(月) 23:07:00.5538NF1gco (1/1)



三重ミサカか…


453以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/27(月) 23:12:45.76iXcVBzgo (1/1)

一回の投下量とストーリーの動きが安定してるのがいいね
シーンや状況の移り変わりの描写が丁寧で分かりやすくそれでいて読んでてホント面白いわ
乙乙


454以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/28(火) 00:10:38.700TmdtjYo (1/1)


次回も楽しみにしてるよ


455以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/28(火) 00:25:02.46VaCXOm20 (1/1)

乙乙


456以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/28(火) 00:59:05.585nx3s6.0 (1/1)

製作速報禁書wikiに収録させていただきました
http://www35.atwiki.jp/seisoku-index/pages/13.html
>>1さんがんばってください!


457LX2010/12/29(水) 11:08:09.33UypY7f.0 (1/21)

皆様こんにちは。>>1です。
昨日はべろべろになりまして、やはり投稿できませんでした。
本日はこのあと、投稿を開始致します。

>>452,>>453,>>454,>>455各位、
ご支援ありがとうございます。
>>456さん、
収録有り難うございました。頑張ります。
またリンク先も全部拝読致しました。紹介文どうも有り難うございました。
欲を言えば、場面が切り替わっているところなどを1行開けて頂けていたら読みやすくなったかも
なぁと思います。



458LX2010/12/29(水) 11:15:09.21UypY7f.0 (2/21)


「警察から電話なんだけど、あなたから事情を聞かないとこの事件の調査が終了出来ないんだって。

仕方ないけど、事件になっちゃってるし、受けざるを得ないわね。明日の夜に来てもらうことでいいかな?」

母が下からあたしに話しかけてきた。

どうもこうもなかった。あたしもいい加減疲れ果てていた。

「うん、お母さん、いいよ」

もう、どうでもよかった。

はやく終わって欲しかった。

ケイちゃんとひろぴぃに新しい携帯で電話してみた。

二人とも電話が来たことでものすごく喜んでくれた。

朝あたしの家に来てもいい、とまで言ってくれたけれど、盗撮される可能性があったから、あたしは必死になって二人に思いとどまる

よう説得して、なんとか納得してもらったけれどすっかりへとへとになった。

それでもあたしは、二人とお話し出来たことですごく満足したし、嬉しかった。

ふと気が付いた。

あたしは机の中を開けてみた。

やっぱり、なかった。

長坂くんからの、お手紙。

「ホントに持って行かれたんだ……どうしよう」

あたしは机に突っ伏した。



459LX2010/12/29(水) 11:20:24.57UypY7f.0 (3/21)



「佐天さん、連絡有り難う。でも、あたし、いない方が良いわね」 

上条美琴はきっぱりと答えた。

「いいんですか? いないといけないんじゃないですか?」 

役目上、居ないとマズイだろう、と考えていた佐天涙子は上条美琴の返事に逆に面食らった。

「佐天さんは、利子ちゃんのお母さんだから、彼女は未成年者だし、親権者として一緒にいることはなんの問題もないと思うの」

警察が事情聴取に来る、というので佐天涙子は上条美琴に電話をしたのだった。

「でも、あたしは違うわ。しかも問題の学園都市の人間。そんな人間が、いくらご近所づきあいをよくしているから、と言っても

話が通らないわ」

「そうですね」

「仮に、今回あたしが入ってOKだったとしても、改めてあたしがいない時を見計らって警察の人はもう一度調書を取りに来るわ。

そんなの、無意味でしょ? 何回も調書取られるのはいやでしょう?」

「確かにそうですね、上条さんがその席にいたら、あたしたちは本当のことを喋っていない、と警察の人は思うでしょうね」

「ね? だからあたしはいない方がいいのよ。あと1回。それで終わりにしたいでしょ?」



次の日の朝、あたしは家を出た。

こんな朝からパパラッチらしき人がいる。もういい加減にして欲しかった。

正直、能力使って追っ払ってやりたかった。ふっとばしてやりたかった。

でも、ソレは出来ないし、してはいけないこと。

あたしは走った。ケイちゃんとひろぴぃが待つ、いつもの場所へ。



460LX2010/12/29(水) 11:29:57.90UypY7f.0 (4/21)


「リコー!」 ケイちゃんが手を振っている。

「リコちゃーん!!」 ひろぴぃが振り向いて跳ねている。

「ケイちゃーん!!  ひろぴぃ! おはよー!」 

なんか、久しぶり。なかなか感動的なシーンだった……と思う。


「よかったね! リコ、無事だったんだね!! もう……」 

ケイちゃんの目が赤い。ぽろりと涙がこぼれた。

「心配したんだからね! あー、もう会えないのかと思っちゃったよー!!」 

ひろぴぃがグスグス言い始めた。

「ごめんね、本当にごめんね、心配掛けちゃって……」

二人がうるうるするのを見て、あたしもグシュグシュになってしまった。

朝だというのに、制服を着た女子中学生がズルズル泣いているのを見て、

(な、なんだ、こいつら?)という顔の人もいれば、

(あれ? あの子、もしかして!?)という顔で通り過ぎる人、

驚いたことにケータイ構える人もいた。

「ちょっと、見せ物じゃないわよ! 何勝手に撮ってんのよ!?」

気が付いたひろぴぃが声を上げる。泣いた顔じゃ迫力ないってばさ……でもありがと、ひろぴぃ。

「みんな、早く行こ?」

あたしは二人を誘って学校へと走った。



461LX2010/12/29(水) 11:32:34.47UypY7f.0 (5/21)


門を入ると「来たぞー」という声がした。

「さてんさぁ~ん!」「リコちゃーん!」と声がかかる。

「え?なに?」    あたしはちょっととまどった。

「えへへ、あたしが昨日の夜に先生やクラスのみんなにメールしておいたの。リコがあしたから登校しますって」

ケイちゃんがちょっとやりすぎたかなって顔をしている。

「あたしはね、黙っておいて、リコがいつも通りに来て、普通に席に座ってる方がインパクトあると思ってたんだけど」

ひろぴぃがニヤニヤしながら言う。

「でも、みんな喜んでるから、こっちの方がやっぱり正解だね!」



久しぶりに下駄箱にクツを入れる。

「リコ~おはよ~! 大変だったね?」

「良かったね~」

「お~い、さて~ん、良かったなぁ!! おめでとう!」

「もう良いのか?」

「テレビ見たぞ~」

クラスのみんなや1・2年生の時の同級生等が沢山待っていてくれた。

久しぶりの顔。もしかしたらもう会えなかったかもしれない、みんな。

担任の岡沢先生がいた。

「おはよう、佐天。無事で何より、よく学校に戻って来たな。とにかく良かった、本当に、良かったな……!」

先生がほんの少し涙ぐんでいたようだった。

「みなさん、おはようございます! さてんとしこ、今日から登校します! ご心配お掛け致しました!」

あたしは頭を下げた。また涙がこぼれてきた。

「おーっ!」

どよめきと万雷の拍手があたしを包み込んだ。


462LX2010/12/29(水) 11:37:32.73UypY7f.0 (6/21)


「疲れたよ~」

あたしたち3人は今帰宅途中。


玄関で拍手のあと、胴上げされるとは思わなかった。

校長室に呼ばれて、校長先生と教頭先生からいろいろと言われたけれど、舞い上がってて、正直あんまり覚えていない。

「怪しいヤツが今後も出ないとは限らないから、気をつけなさい」って言われたけれど、毎日緊張して通え、というのは正直難しいよねー、

と思った。でも実際に拉致されたあたしとしては、返す言葉がある訳がない。

教室に戻るとまた拍手。

黒板には「お帰りなさい!」と綺麗な絵文字が書いてある。

あたしは、思わず発端となったあの時のヘタな絵を反射的に思い出した……。



授業に来る先生みんながみんな、「良かった」「おめでとう」と言ってくるので、その都度その都度あたしが

「有り難うございますご心配お掛けしました」と返事するもんだから、最後の方ではみんながハモって

「「ご心配お掛け致しました」」

なんてしょうもないことをするまでになった。

でも、記者会見とは違って、プレッシャーは全くなかった。



463LX2010/12/29(水) 11:47:54.37UypY7f.0 (7/21)


ちょっと参ったのは、拉致されたときに持っていた鞄に入っていた教科書とノートが手元にないことだった。

鞄は丸ごと発見されていると詩菜大おばさまから聞いていたが、そっくり証拠品として警察が持ったままなので当分戻ってこないらしい。

事情が事情なので、先生に話をしたら、いくつかの教科書は予備分からもらえたけれど、2つの教科書は新たに買う必要があった。

今日はとりあえず席が隣の渡辺優花(わたなべ ゆうか)ちゃんにみせてもらったけど……。

ノートがないのも痛い。というか、あのなかにある落書きを見られるのはすごく恥ずかしい……



部活はさすがに走ることは出来ず、簡単な体操をしただけだった。力を入れると危険なので、ゆるゆるの体操だったけれど、

それでも身体を動かせたのは嬉しかった。

指導の都築先生は「最初から無理するな、身体が緩んでるから時間を掛けて戻すんだよ」と笑っていたけれど。

まさか銃で撃たれた傷が開いてしまうので、なんて言ったら大騒ぎになってしまう。

着替えの時は、傷口がちょっと心配だったけれど、昨日母さんに見てもらって「パッと見なら全くわからないわよ」ということだったので

まぁ大丈夫だろうと考えていたし、実際気が付かれずにすんだ。



「リコ、髪変わった……よね……?」ケイちゃんがおそるおそる、と言う感じで聞いてきた。

「マジ? ホントに?」 ひろぴぃが追いかけてくる。

早速2人があたしの頭、正確に言うとカツラをいじくり廻す。

「ホントだ、違う~」

自分でもわかっている。確かに髪質が違う。でもカツラだから仕方ないところだ。



464LX2010/12/29(水) 11:52:11.30UypY7f.0 (8/21)


「うん、実はね、連れ込まれた研究所で全部切り落とされちゃったの」

「ええええええええ? じゃ、これ、もしかしてカツラ?」   ひろぴぃが驚いてカバンを落とした。「キャ!」

「ほんと? じゃぁ頭はマルコメなの?」   ケイちゃんが真剣な目で訊く。

一瞬あたしは自分がマルコメ坊主になったところを想像して吹いてしまった。

「ひっどーい、あはははは、痛っ!」    また背中に響いた。はー、しばらくはまだダメですね。

ケイちゃんが「どしたの? どこかケガでもしてるの?」と聞いてくる。

「あ、頭がちょっとね」  たいしたこと無い、と言う感じで軽く流す。ナイショにしておかないと、ね。

「でも、ホント、髪を切り落とすなんてこと、女の子に対する重大な犯罪だわよ!」 ケイちゃんは見えない相手にパンチをくれていた。

「でさ、ソレ、風で飛ぶ、なんてことは?」   ひろぴぃが真剣に訊いてくる。

「あのねぇ、マンガじゃあるまいし、しかも学園都市製のものよ? その点は大丈夫よ」

「どうして切られたの?」

……来た。そりゃ来るわね、来るに決まってるわ……

「うーん、わかんないの。そのときはあたし気を失っていたから。気が付いたらあたしはベッドの上で、そして頭は既に包帯で

ぐるぐる巻き状態だったの……」

「ふーん、ツルツルアタマのリコかぁ~、ぷぷぷ、アハハハハ」   ひろぴぃがあたしの顔を見ながら笑い出す。

「ちょっとなによ、その笑い? 人ごとだと思って!」

「自分だって吹いてたじゃないの? でも、マルコメのリコって、そんな、キャハハハハハ」   ケイちゃんも笑い出す。

あたしはどうしたらよいか、道のど真ん中でおなかを押さえて大声で笑う二人に挟まれて、往生していた。

こいつら、涙まで流してる……




不幸、いや違う。

平和、だ。



465LX2010/12/29(水) 12:05:28.77UypY7f.0 (9/21)


でも平和な気分はそこまでだった。

夜、警察の人が2人来た。女性2名だった。

二人とも顔はほほえんでいるけれど、目が笑っていない。


「この度は無事にご帰宅されましたこと、お喜び申し上げます。

こちらも仕事上、つらいこともお聞きしなければなりませんが、何卒ご了解頂きたく、また捜査にご協力をお願い致します」

固い挨拶だけど、仕方ないよねー。

「まず、念の為ということでお名前と生年月日を確認致します」

事情聴取が始まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


約2時間ほどで事情聴取は終わった。

肝心な部分は、被害者のあたし自身に記憶がないので、どうしようもない。

ショックを受けたのは、どうやら美琴おばちゃんやマコちゃんに嫌疑がかかっていることだった。

つまり、麻琴が、あたしを学園都市に来させる為に母親である美琴おばちゃんに依頼して、美琴おばちゃんがあたしを拉致するように

部下に命じたのではないか、と。

どこをどうすると、そんな筋書きになるんだろう?

あたしは「そんな馬鹿なことがあるわけ無いじゃないですか」と笑い飛ばしたかったけれど、

目の前の女性刑事の顔を見ると、とてもそんなマネは出来なかった。

「でも、それって、何の証拠もないですよね?」あたしが言えたのはそれくらいだった。

「捜査中ですのでお答え出来ません」にべもなく片方の刑事さんが言った。



466LX2010/12/29(水) 12:11:18.82UypY7f.0 (10/21)


「ただ、非常にやりにくいのは事実です。形式上、学園都市は日本の一部でありますが、独自の条例や諸規則を設け、途中にゲートを

設けるなどあたかも一つの独立国家のような形をとっています。

こういう問題が起きたときに、矛盾点がはっきり表に現れるのですが、例えば我々が学園都市内に入ることが出来ない状態で、

事の真相解明・真相追及に多大なる支障をきたす等、影響は極めて大きいものがあります。

もちろん、逆も出来ないのですが、実際どうなっているかはあちら側の事であり、正直わからないのです」

もう一人の刑事さんが悔しそうな顔で淡々と述べる。

でも、それあたしに言われても……ねぇ。




刑事さんたちが帰った後、あたしはお母さんと話をした。

「心配しなくていいよ。あの人たちも仕事だから。でもわからないわよ。だってあたしたちを誘拐した人たちは、あの倉庫でみんな

『逮捕』されちゃったし、残念だけど、真相は警察では掴みようがないわ」

かあさん、『逮捕』じゃないでしょ?

あたし、わかってるんだから。

みんな、殺しちゃったんでしょ?

みんな、『むぎの』って人が吹き飛ばしたんでしょ?

さざなみさんが叫んでいたもの。

……「むぎのさ~ん、やりすぎですーっ! 僕らまで死んじゃいますーっ!」……



あたしは覚えている。

目は閉じていたから、その分聴覚と嗅覚は鋭敏になるのだ。

かすかに聞こえるうめき声、吐きそうになる漂う血の臭い…… ああ、いやだ!



467LX2010/12/29(水) 12:13:42.38UypY7f.0 (11/21)



「利子、聞いてる?」

「え、ええ」

あたしは現実に引き戻された。

「あの人たちも、理由を考えたんでしょうね……。でもまさか上条さんと麻琴ちゃんに狙いを持って行くとは思わなかったわね。

噴飯ものだけど、でもこれでこっちに来るのがちょっと面倒になるかもしれないわね」



あたしの、あたしのせいだ……

あたしが、あの時に学園都市に行かなければ、

あたしがあの時に、ちゃんと拒否していれば、

あたしが……


でも、もう遅い。

もう、後戻りは出来ない。

「お母さん、あたし、高校進学だけど、学園都市の高校に行く。そしてあたし、能力開発を受けて、ちゃんとコントロール出来るように

なって、あたし帰ってくるから! あたし、決めたから!」

あたしは一気に母にまくし立てた。

母は、しばらく黙っていた。

すごく長い時間が経ったような気がした。



468LX2010/12/29(水) 12:18:56.99UypY7f.0 (12/21)

お読み頂いてます皆様、>>1です。

お昼ですのでいったんここで投稿を打ち切ります。
また後ほど再開致します。



469以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/29(水) 18:35:37.70WbSDYrA0 (1/1)

>>457
wikiの管理人です。
改行の仕方を微修正しました。
メンバー登録不要で編集できますので、何か気に入らない点がありましたらご自由に
訂正して下さってかまいませんので、よろしくお願いします。


470LX2010/12/29(水) 21:24:49.60UypY7f.0 (13/21)

皆様こんばんは、>>1です。

後ほどの再開が夜になってしまいました。
どうしてもちょっと気に入らない部分がありましたので、書き直しておりましたら
佐天涙子が勝手にしゃべり始めてしまいました。
元々は1レスだったものがかなり増えてしまいました。
そろそろ変更がありうる部分に入ってきますので
一時停止する可能性もあります……

>>469さま
どうも有り難うございます。
のちほどちょっとやってみることに致します。<(_ _)>


471LX2010/12/29(水) 21:32:17.50UypY7f.0 (14/21)


母はあたしの顔を見て、ようやく口を開いた。

「あなたが、そう決めたのなら、行きなさい。もう母さん、何も言わない。その代わり、逃げ戻ってくることは許しません。

中途半端は許しません。

あなたに備わった能力は、母さんはよくわからないけれど、きちんと自分のものにしないと、自分でコントロール出来ないと、

とても恐ろしいことになるはずなの。

そのとき、あなたは、自らを制御出来ない、人間の形をした化け物になるかもしれない。

あなたがそんなことになるくらいなら、母さんは、あなたを今ここで殺して、自分も死ぬわ」

恐ろしいことを母はさらりと言った。

でも、あたしはそのときはちっとも不思議に思わなかった。

「それと、あなたに言っておくことがあるの」

母はゆっくりとしゃべり始めた。

「母さんが、今の利子より少し小さかった頃、中学1年生の時のことね。

あたしはずーっとレベル0<無能力者>と判定され続けて、とっても悔しかったし、寂しかったの。

その頃から上条さん、当時は御坂さんと言う名前だったけれど、彼女は既にレベル5<超能力者>の一人、第三位というとんでもない

地位にいたわ。白井さんもレベル4の大能力者で、第7学区の風紀委員<ジャッジメント>では有名だったしね。

あたしは羨ましかったわ……。そしてあたしは幻想御手<レベルアッパー>というものに手を出してしまったんだけれど、

そうしたら、生まれて初めて能力が発現したのね。

風使い<エアロマスター>の一種だったわ。とても可愛らしいものだったけれど、あたしはものすごく嬉しかった。

ああ、やっとあたしも能力者の一員になれたんだってね」



472LX2010/12/29(水) 21:39:27.55UypY7f.0 (15/21)


母の話が続く。あたしは黙ってじっと聞いていた。

「まぁ、その幻想御手<レベルアッパー>というものは、まやかしの一つで、騒ぎが終わった時には、また元通りのレベル0<無能力者>

に戻っちゃったんだけれど、人間の脳というのはすごいもので、一回覚えたことは忘れなかったのね。

2年かかったけれど、高校に入るときにはレベル1になったのよ。全然大したことはないんだけれど、でも今度のものは正真正銘、

自分の力で獲得したものだから、そりゃぁみんなでお祝いしてもらったものよ……」

母は若かりし頃を思い出しているのだろう、あたしと、同じくらいの歳の頃を。

「いったん、コツをつかんだら、なんとかなるものなのね。まぁ実際あたしも努力した訳だけれど、高校2年生でレベル2になって

高校を出るときにはレベル3にあと少し、と言うところまで来てたわ」

「でもね、人間てものは初心を忘れるのよ。ついつい奢っちゃうのね。

あたし自身はつい数年前まではレベル0<無能力者>だったのに、それなりに努力してレベル1に、そして2に、もうすぐ3だと

遅まきながら伸びてくるとね、やれば出来るんだ、あたしは出来るんだ、となんの根拠も無い自信を持ってしまったのね。

自信がなさ過ぎるのも問題だけれど、根拠のない自信というものは始末に負えないものなのよ。

困ったことにそれに気づかないのよね、本人は。とりわけ、若いうちはね……。今思い出しても、恥ずかしい、本当に穴に入りたい

気がするわ。若さゆえの過ち、って言葉があるけど、やり直しが出来る過ちならまだまし、取り返しのつかない過ちは悲惨よ……」

母はあたしの顔をじっと見つめていう。

「母さんはね、ひとを殺しちゃったのよ」

「え?」   

あたしは驚愕した。

そんな……そんな……



473LX2010/12/29(水) 21:58:11.01UypY7f.0 (16/21)


「母さんの高校最後の能力開発授業の時だったわ。新しい向精神薬を投与されたあたしは、能力をコントロール出来ず

そのまま気を失ったの。気が付いたら病院で寝てたわ。

1日で退院出来て、次の日学校に行ったら、あたしの試験場所だった運動場は立ち入り禁止になっててね、大穴が開いてたわ……。

その向精神薬を試作した製薬会社の人と試験器メーカーの人、そしてあたしの学校の先生、3人があたしの暴走竜巻<トルネードボム>

に吹き飛ばされて、大けがをしちゃったのね。

ずっとあとになって、試験器メーカーのひとが意識不明のまま亡くなったと言うことを知ったの」


「……」 

あたしは何も言えなかった。母さんにそんな過去があったなんて……。


「……薬のせいだから、涙子のせいじゃない、ってみんなから言われたし、その試験器メーカーの偉い人も言ってた。

でも、そんなの言い訳にもならないわ。あたしなら出来る、あたしはレベル3,そして次はレベル4になるんだ、って自信満々だったし、

その薬を飲むことを承諾したのはあたし自身だったんだからね……。

例え、事故発生時の誓約書に3人のひとがサインしてたからといっても、例え規則上問題なかったと言われたって、事故が起きて人が

死んだのは事実だしね。

あたしの能力が人に大けがをさせて、その一人を意識不明のまま死なせてしまったということは、取り返しのつかない事実なのよ……」




474LX2010/12/29(水) 22:05:00.52UypY7f.0 (17/21)


「それで、母さんは自分を責めてたのね……?」

「そうね。だって、あたしのせいで、あたしの能力が1つの家族の幸せをぶち壊しちゃったんだから……。

みんな、あたしが死ぬんじゃないかって、それはもう心配してくれてね……でもね、直ぐにそれどころじゃなくなったのよ。

死を選ぶ事も出来なくなるような事態がね。

その製薬会社はね、どうしたと思う? 喜んだのよ!? でかした、よくやったって。意味わかる、利子?」

あたしはあっけにとられてしまった。人が死んで、悲しむんじゃなくて喜ぶ? どうして? そんな馬鹿な?

「利子? 覚えておくのよ。世の中はいろんな事があるの。常識じゃありえないこともあるの。

……母さんの能力は、レベル3手前、というものなのは話したわね。でも、その暴走の結果は、レベル4(大能力者)を通り過ぎて

レベル5(超能力者)に匹敵する破壊力を生み出した、と判断されたらしいのね。喜んだ、と言う理由はそれ。

ところが、他の人にそれを投与しても、母さん並みの効果は全く出なかったらしいの。検証できなかったということで、その薬の

何があたしとマッチングして大幅な能力アップを引き起こしたのか調べなければならなくなったのよ」

「母さんはもちろん……?」

「する訳がないでしょう? もちろんお断りしたわ。でもしつこかった。

あちらの言い分は、ひとを大けがさせたんだから、その分、せめて協力するのが当然だ、とかいうものだったわ。

ものは言いようだわね。学校やら寮やらに、毎日やってきて大変だったの……。

さすがに学校が頭に来ちゃってね、アンチスキルに訴え出たのね。なんたって母さんはそのとき未成年者だったし。

正面切って持ち出されたらあちらも困ったんでしょうね。

それで話はおじゃんになり、その薬品のプロジェクトは解散になった、らしいのね」



475LX2010/12/29(水) 22:10:57.21UypY7f.0 (18/21)


「よかったね、母さん……」

「甘いわ、利子。それは表面上の話だったのよ。実はずーっとそれは休眠していてね、そしてあたしが大学を出るときに、実力行使に

出たのね、そこは」

「?」

「母さんを拉致したのよ」

あたしは母の話の、あまりの内容にもはや何も考えられなくなっていた。

「気の長い話よね。学校というあたしの保護が消える時まで待っていたわけだから。4年も経てばとっくに新しい方法が出来ているはず

だと思うんだけど、その薬に匹敵するものは結局出来なかったらしくて、なんとしてもあたしを使って謎を解き明かしてやるんだと

思ってたらしいわ」

「……」

「で、あたしは偶然ある人に助けられて、そこから脱出できたんだけれど、そこで母さんは決断したの。能力を捨てると」

ようやく全部話がわかった。母さんは「その後」完全無能力者になった。しかし、それ以前は能力者だった、遅咲きの。

「せっかく、血のにじむような思いをして開花した能力だったけど、あたしの場合は人に不幸を与えただけだったわ……

そう言うと身も蓋もないかしらね。確かに発現したときは天にも昇る心地だったから、その喜びを得ることが出来た、というのは

役にたった、のかな。

苦しんで努力して、それでも発現してこない昔のあたしのような人たちもいるから、その人たちからすれば、母さんは裏切り者

かもしれないわね。許せない存在だったかもしれないわ。

ま、なくなって何か変化があったか?っていうと、その製薬会社から1度だけ恨みがましい電話をもらったけど、それっきり

だったわ。あの人たちは無能力者に用はないのよ、ふふ」



476LX2010/12/29(水) 22:15:46.05UypY7f.0 (19/21)



………あまりに、あまりに凄絶な人生じゃなくて、お母さん?

このひとの、どこにそんな強い意志が隠れているんだろう?

以前に「あたしがお母さんを守ってあげる!」なんて口走っちゃったけれど、笑っちゃうわよね、とても敵わない。


「それで、利子、今度はあなたの番よ。……お母さんに誓いなさい、利子。

あなたは、正しい道を行き、自分の力を自分のものとして、そして正しい事にのみ使う事を。

でも、その何が正しいか、何が正しくないか、それはあなたが人生経験を積まなければならないわ。

子供の単純な正義感は、場合によっては正解じゃないの。

世の中は、正義と悪、白か黒か、という単純な二問選択で済むほど簡単じゃないのよ。

だから、自分の命の問題じゃない限り、少なくとも二十歳になるまでは使っちゃダメだと思いなさい」



あたしは、少し考えて、母の目をまっすぐに見て誓った。

「あたし、佐天利子は、正しい道を歩み、あたしの力を正しい事のみに使うことを、あたしは一刻も早く自分をコントロール出来る

ように。誓うわ。お母さん」

「それから、自分の命の問題以外は、二十歳になるまであたしの能力は使わないわ」

母はあたしの傍に来て座り、あたしの頬を優しくなで回し、あたしをぐいと抱きしめた。

「利子、あなた、後悔していない?」

とっても優しい声だった。

「何を?」

「能力者になっちゃったことを」

「……なくても良かったけど。ないほうが良かったのかもしれないけど。

でも、それがあたしなんだったら、仕方ないよ。そうでしょ? おかあさん」

「あなた、大人になったわね……立派よ」



477LX2010/12/29(水) 22:18:15.07UypY7f.0 (20/21)





目覚ましが鳴った。

「え?」

木曜日の朝7時、だ。

どうやらあたしは電気つけっぱなし、制服着たままの格好でそのまま寝てしまっていたらしい。

「うわー、制服しわだらけ~!」

あたしはバタバタしながら制服を脱いで、ブラウスと下着を洗濯機に放り込んだ。

裸のまま風呂場に飛び込み、シャワーを浴び、超特急で髪を洗い、髪を痛めるので普段は使わない速乾剤を使って髪を乾かした。

その後大急ぎで顔を洗い、予備の制服を取りだし、準備を整えたのは7時35分。

カバンの中身を確認して、部屋を出て湯川先輩の部屋の前に立つ。

「おはようございます、佐天です。すみません、先に食堂行きます!」  とインターホンに喋ると、ちょっと経って

「おはよう。ちょっとお話ししたいことがあるから、8時10分のバスに乗ってくれる?」  と湯川さんが答えてきた。

「わかりました。じゃ8時10分のバスで!」

あたしはそう答えると脱兎の如くエレベーターホールに走った。現在7時45分。



478LX2010/12/29(水) 22:50:22.55UypY7f.0 (21/21)

お読み下さいました皆様、こんばんは。
>>1です。

本当は>>476で切ろうと思っておりましたが、そうすると佐天涙子の話が続くように
受け取られる可能性がありましたので、>>477で、佐天利子が夢から覚める場面を入れました。

この後、およそ100レス分ほどは書きためてあるのですが、つい先ほどもエピソードを途中に
放り込みましたし、推敲も殆ど出来ておりませんので一旦投稿を休止したいと思います。

それでは本日はこの辺で、お先に失礼致します。



479以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/29(水) 23:01:24.99hXVi/PIo (1/1)




480以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします2010/12/30(木) 00:36:48.60SDxpum6o (1/1)

乙です


481LX2010/12/31(金) 15:01:20.48ywDTJFI0 (1/1)

皆様こんにちは。>>1です。

しこしこ修正したり、追加したり、引っこ抜いたりをしています。
先日投稿した佐天涙子のせりふですが、ちょっと口調が違うような気もします。
まぁ、オリジナルでは友人同士での語りしかないので、彼女が自分の娘に語りかけるときの
口調がその友人同士の時と同じではない、と考えればいいのかもしれませんが。

>>469のwiki管理人さま
教えて頂きまして有り難うございました。昨日自分なりにやってみましたけれど、果たして
あれで良かったのかわかりませんが……。


それではこれより帰省します。ネット環境がないところなのでご挨拶は3日になると思います。
皆様有り難うございました。
良いお年をお迎え下さいませ。



482あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/01(正月) 01:35:41.43rW9DscAO (1/1)

あけおめー!
待つぜ待つぜ


483LX2011/01/03(月) 20:56:36.67f94oVlk0 (1/7)

新年明けましておめでとうございます。
本年もどうぞ宜しく申し上げます。



皆様こんばんは。>>1でございます。
年初の御挨拶のみで終わるというのも芸がありませんので、この後、少しだけ投下致します。
ちびちび、いうのは正直気がひけますが何卒ご勘弁のほど……。



484LX2011/01/03(月) 20:59:18.81f94oVlk0 (2/7)


クリームクロワッサンをコーヒーにつけて柔らかくして一気に口の中に放り込み、フレンチトーストもちぎって同じように放り込む。

野菜ジュースをぐびぐびと飲み、最後にクロワッサンのかけらと油が浮くコーヒーを飲み干して8時ジャスト。

「ぷはぁー、ふぅー、間に合った……」

「リコ、あんたもう少し落ち着いて食べなさいよね……」

カオリんがあきれた顔であたしに注意する。

「あはは、そうだね。今朝ちょっとどたばたしちゃって……」

あたしは頭をかきながら答える。

「カオリん、ごめんね、今朝は湯川さんと一緒に8時10分のバスに乗るから」

そう言うと、「いいよ、じゃあたしもソレにするわ」

カオリんはやおらごはんを掻き込み、みそ汁を飲み干した。

「ごめんね、なんか急がせちゃって」

あたしが言うと、

「それより、うがいしていかない? みそ汁とコーヒーの臭いって結構きついからさ?」

とカオリんが言うので、あたしらは洗面スペースへ飛んでいった。



485LX2011/01/03(月) 21:02:16.71f94oVlk0 (3/7)


バス乗り場に行くと、結構な数の人がいた。

「佐天さん、ここよ!」 湯川さんが手を振る。

「すいません、遅れました~」 あたしとカオリんが挨拶する。

「あら、こちらの方は? 同級生、なのかな?」 湯川さんが訊いてくる。

「おはようございます。1年K組、大里香織(おおさと かおり)です。佐天さんと同じクラスで、埼玉出身です」

カオリんが自己紹介した。

「あら、こちらこそごめんなさいね。失礼しましたわ。私は2年D組、湯川宏美(ゆかわ ひろみ)です。静岡出身よ」

湯川さんも自己紹介をした。

「それでね、あなたに話があったというのは」 湯川さんがあたしに話を始めようとすると、

「あ、あの、あたしお邪魔でしょうか?」 カオリんがおずおずと湯川さんに聞いてきた。

「あら、そんな心配はご無用よ」 湯川さんはニッコリ微笑んで「いい話だし、なんの問題もないわ」とカオリんに答えた。

いい話って、なんだろう?

「この間の、九官鳥の件でね、あなたと私は表彰されることになったの」

は、はい???? ひょうしょう?

「あ、あたし何もしてませんけれど?」 あたしは仰天した。表彰ってまた大げさな。

「してるわよ、あなたは結果的にあの九官鳥を保護してたんだから」 湯川さんはちょっとまじめな表情になった。

「あなたが九官鳥を保護して、風紀委員<ジャッジメント>のあたしに相談した、あたしはあの鳥の言葉に疑いを持ったので

調査したところ、置き去り<チャイルドエラー>の虐待していた施設が発見された、ということなのね」

湯川さんが説明する。

カオリんが真剣な表情で、というか周りの子たちも興味を持って聞いてる……ような。



486LX2011/01/03(月) 21:04:18.52f94oVlk0 (4/7)


「残念ながら、学園都市にはそういう影の部分もあるの。あたしたちはそういうところを無くそうとはしてるけれど、まぁなくならない、

というのが正直なところね」

あたしにはわかる。あたしと母さんを売り飛ばそうとした人たち、あの人たちがそうだ。この街には、そう言う人たちがいる。

「でね、今回は、全く知られてなかったことが、この調査でわかった、表に出た、と言うことなの。ゼロからの発見ね。

だから表彰すべきだ、ってことになったの」

「すごいじゃない、リコ。で、表彰されると何か良いことあるんですか?」  カオリんが興味津々で湯川さんに尋ねる。

「表彰そのものは賞状1枚だからたいしたこと無いわ。でもね、確か学生の場合は奨学金が加算されるんじゃなかったかしら?

一時金よりは毎月の奨学金が増えた方が、無駄遣いしなくて済むから、あたしは賛成だけど、佐天さんはどうなのかな?」

「ええ、あたしも毎月もらう奨学金が増えたほうがいいですね、って500円くらいだとわかんないですけれど?

どれくらいなんでしょうか?」 

期待はしてないけれど、もらえるんだったらもらえた方が良いに決まってるし。

もう少しお洋服も欲しいし、欲しい本もあるし、ケーキも食べたいし……

「あはは、あたしも実は知らないの。あたしも初めてだから、ちょっと期待しちゃうんだけれどね」



バスが来た。5分遅れ。でも専用通学バスだから遅刻にはならずにすむ。女子高生を満載したバスが動き出す。

運転手はいない。リモートコントロールだそうだけれど、最初に見たときは本当にのけぞった。

まるで幽霊が運転してるとしか思えなかったから……。



487LX2011/01/03(月) 21:17:25.15f94oVlk0 (5/7)


6時限終了後、ページングであたしと湯川さんは風紀委員室<ジャッジメントルーム>に来るよう呼び出された。

「こんにちは。貴女が佐天さんで良いのよね? あたしは3年A組の馬場です。所属は77支部で、ここの高校の代表もやってるの」 

そういって、馬場夏美(ばば なつみ)さんは自己紹介をしてくれた。

「あなた、今日の補習は1時限で終わりで良かった、かな?」

湯川さんがあたしにスケジュールを聞いてきた。

「ハイ。えっとー、演算活性化訓練コース、ですね」

あたしが答えると、馬場さんと湯川さんはお互いに顔を見合わせて

「そりゃ今日はだめかも」
「やっても無意味、かな」

とヒソヒソ話をしている。

あたしは、とってもいや~な予感がした。

「あの……なんか大変なの選んじゃったんでしょうか……?」

恐る恐るあたしが二人の先輩に聞くと、二人は

「いやー、佐天さんなら、若さがあるから大丈夫だよ!」
「受けてみれば、きっといい思い出になる、かなと」

そう言うなり二人はあたしの肩をぽんぽんと叩き、

「明日、改めて話をしますから、今日は補習に頑張ってね!」
「土曜日、朝からお昼まで開けておいてね? 77支部で表彰式やるから、覚えておいてね」

とあたしをにこやかに送り出してくれた。

うーん、絶対にこれは、不幸の前触れ以外の何ものでも、ないな。

はぁ……



488LX2011/01/03(月) 21:25:50.36f94oVlk0 (6/7)


「パーソナル・リアリティ、ねぇ……要はあたしの思いこみ次第ってことなのよねー、……思いこみすぎるのかなぁ」

あたしは、ヘロヘロになった状態で校門を出た。思い切り頭の中身を絞り出された感じがする。

あたしの能力の場合、そのまま発現させるととんでもないことになってしまうので、補習授業中においてあたし自身のAIMジャマーは

アームレットもネックレスも外しているのだけれど、その代わりに部屋全体でのAIM拡散力場の流れをチェックしており、ある一定限度

を超えると危険と判断して、自動的にキャパシティダウン装置が作動するようになっている。

AIMジャマーを外すと、頭がすっきりしてシアワセな気分になるのだが、あたしの演算コントロールが未熟なせいか、

なかなかAIM拡散力場の微妙な流れを追うことが出来ず、いきなり臨界を超えてしまうので、そのたびにキャパシティダウン装置

の洗礼を浴びるハメになってしまう。

わずか10分でヘロヘロになってしまい、あとの30分が死ぬかと思うほどつらかった。

あまりに情けなくて、悔しい。歯がゆい。とてもじゃないが、寮にまっすぐ帰る気にならない。



「そう言えば、ずっと走ってないな……」

学園都市に来てからと言うもの、補習授業の嵐で全く運動していないのだ。

(ヤバイよねー、筋肉落ちちゃうよ……、せっかく鍛えたのに。……よし、これからジョギングシューズ見てこよっと!)

あたしはプラプラと街へ向かって早足で歩き始めた。



489LX2011/01/03(月) 21:40:02.10f94oVlk0 (7/7)


>>1でございます。

拙文をお読み下さいまして麻琴に有り難うございました。

大変短くて申し訳ございませんがここで一旦止めさせて頂きたく存じます。
とびとびでエピソードを書きなぐっております関係で辻褄が合わなくなったり、その結果
全面的に書き直し・抹消などがありますので、次回の発表まで少しお時間を頂きたく存じます。

明日から会社です。
ご出勤される方、新年頑張りましょう!



490あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/03(月) 21:42:45.33TqD/uTIo (1/1)



『麻琴に』これはわざとなんだろうか


491あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/03(月) 23:39:29.43zWyA1T6o (1/1)

乙です
『麻琴に』は俺らへのお年玉だろ


492あはっぴぃにゅうにゃぁ2011!2011/01/04(火) 03:36:24.55E82v86co (1/1)

社会人も頑張ってるねえ
2chにいた人じゃあ無さそうだが物語は非常に面白い


493LX2011/01/08(土) 22:13:33.99WDVJOro0 (1/20)

皆様こんばんは。>>1です。

今回もちょっと短いですが、投稿致します。
宜しくお願い致します。


494LX2011/01/08(土) 22:15:33.56WDVJOro0 (2/20)


あたしは携帯のGPSを見ながら歩いていた。かれこれ15分は歩いている。

(この公園を突っ切った方が早いか……)

子供たちが数人遊んでいる公園を大きく斜めに横切っていくあたしの目に、ふと飲料の自販機が目に留まった。

(そういえばちょっと何か甘いの欲しいな……って)「何よこれ?」

思わず声が出てしまった。

「まともな飲み物ないじゃん!!」

きなこ練乳、いちごおでん、ガラナ青汁、スープカレー、椰子の実サイダーって……バカにしてない、これ?

あたしは他に飲料の自動販売機がないか見渡してみた。どうでも良いときにはそこらじゅうに立っている(ように思える)

自動販売機が、不思議と探すと現れない。これ、なんとかの法則っていったよね……マーフィーだっけ?

諦めてしばらく歩けばあるだろう、という選択肢もあるが、一旦気になり始めると不思議と今飲みたくなる。

疲れ果てているあたしの脳は甘いものを欲している。意を決したあたしは100円を入れてボタンを押す。

「ピ」

―――― きなこ練乳がころがり出てきた ――――

あたしはそれを取りだし、プルタブを開けようとした。



495LX2011/01/08(土) 22:17:52.38WDVJOro0 (3/20)


「ピ」

―――― もう1本きなこ練乳が出てきた ――――

(あれ? くじでも当たったのかな?)

あたしはそれを取りだし、もう一度自販機を見てみた。

「ピ」

―――― また1本きなこ練乳が出てきた ――――

「え?ちょっと……」

「ピ」

―――― またもや1本きなこ練乳が出てきた ――――

「なんなのよ!」

「ピ」

―――― 引き続き、きなこ練乳が出てきた ――――

「まさか……この機械壊れた?」

「ピ」

―――― 引っかかって出てこない ――――

あたしは引っかかっている1本を抜き取った。ガラガラと、きなこ練乳が落ちてくる。

「ちょっとぉ~、誰か助けて~!!」

「ピ」

―――― こんどは熱いスープカレーが出てきた ――――

「お願い~!、誰か来てよ~!!」

機械が止まってくれない。あたしは落ちてくる缶をひたすらそばに置き続けた……



496LX2011/01/08(土) 22:22:31.85WDVJOro0 (4/20)


「アハハハハ、最初から見たかったなー、君が青くなって缶を並べてるところ」

「笑わないで下さい! もうどうしようか必死だったんですから!!」

「逃げちゃえば良かったのに、君のせいじゃないんだしさ?」

「風紀委員<ジャッジメント>がそんなこと言って良いんですか? ……不幸だ」

あたしはファミレスで思いもかけない人とお茶をしていた。

………

壊れた自動販売機の中の商品が次々に出てくるので、あたしは反射的にその缶をまわりに並べていた。

確かに言われるとおり、逃げてしまえばよかったのだが、そこまであたしのアタマは廻らなかった。

とにかく、転がり出てくる缶を取りだして並べるのが精一杯だった。

「どうしたの?」取りだしては並べるあたしの後から男の人の声がかかった。

「見ればわかるでしょ! 自動販売機が壊れてて、缶が出てきて止まらないのよぅ! 助けてよ!」

「おっけー、待ってろ!」その人の影が消えた。

不意に自販機の電気が消えた。

そして、

―――― ビィーとブザーが鳴る ――――

「えええええ?」これ、防犯ブザーじゃないの?? 

不意にさっきの人があたしの前に立つ。

「大丈夫、僕が証人だから……って君は、あの時の!?」その人が絶句した。



497LX2011/01/08(土) 22:27:19.97WDVJOro0 (5/20)


あたしもその人の顔を見て驚いた。

「さ……ざ……なみ、さん?」

漣さん。

あたしが倉庫に拉致されてきたとき、あたしを助けに来てくれた人。

あの殺人ビーム女がぶちこわす倉庫の破片からあたしをかばってくれていた人。

「やっぱり、ホントに、君だったんだ? 嬉しいな。直ぐここ終わるから」

そう言って漣さんはあたしの手を取り、


―――― あたしたちはファミレスの入り口にいた ――――


これって、テレポート……だよね?

「直ぐ戻るから、なにか頼んでおいてよ! 待っててよね!」

そう言って漣さんは再びテレポートして消えた。あの自販機のところに戻ったのだろうか?

あたしは初めてのテレポートに茫然としていた。



「いらっしゃいませ、お一人さまですか?」

ウエイトレスのおねえさんがポケーっとして立つあたしに聞く。

「はい、いえ、いや、あの、二人です。一人、後から来ます!」

心の準備が出来ていなかったあたしは、あたふたととっちらかった答えを返してしまった。

クスっと笑いをかみ殺したおねえさんはあたしを席に案内した。



498LX2011/01/08(土) 22:30:07.27WDVJOro0 (6/20)


20分くらい経って、入り口に漣さんの姿が見えた。

あたしは手を挙げて「ここです!」とやってしまったけれど、直ぐにちょっと恥ずかしくなりうつむいてしまった。

いきなり目の前に漣さんが来た。テレポートしてきたらしい。

「ごめんな、ちょっと時間かかっちゃったよ。あれ? もしかして何も頼んでないの?」

「すみません、あたしのやったことでご迷惑おかけしてるのに、先に飲み食いするわけに行きませんから……」

と、あたしが言い訳すると、

「そんなのいいのに。結構待ってたんじゃない? お店の人、睨んでなかった?」

と漣さんがまた訊いてくる。

「うーん、でもお水は何回も入れられましたから、結構水腹になってしまいました……」

「アハハ、それはね、『ご注文はおきまりですか』ってことなんだよ。いや、それは済みませんでしたね。

何か簡単に食べない? ここはね、チーズケーキ美味しいんだけど、どう?」

「あ、じゃそれにします」

あたしはもう何でも良かった。

「そう? よし、決まった。すいませーん!」

漣さんがお店の人を呼んだ。



499LX2011/01/08(土) 22:33:28.04WDVJOro0 (7/20)


(うそ……)

漣さんは、スペシャルフルーツサンデーを食べている。

(しまった、それならあたしもチョコパにすればよかった……)

「男がサンデー食べるのって、変?」 

どうやらあたしはサンデーを睨んでいたらしい。は、恥ずかしすぎる!!

「疲れた時には甘いものが良いんだよ……あ、そうか。じゃあさ……こっち、手つけてないから大丈夫。

よかったら、持っていって良いよ?」

そう言って漣さんが、あたしの方にフルーツサンデーを押し出して来た。

正直、あたしは悩んだけれど、さすがに初めて(初めてじゃないけど)会った人のものにスプーンを突っ込む勇気はなかった。

「あ、い、いえ、すみません、遠慮しておきます!」

思わず力が入ってしまった。

「いや、そんなに全力で否定しないでくれるかな、悲しいから……そうか、君は教育大付属高校に行ったんだ……

あれ? でも、どうしてあの公園に? 寮と逆方向じゃないの?」 

漣さんが訊いてきた。



500LX2011/01/08(土) 22:36:40.90WDVJOro0 (8/20)


「はい。あたし、中学で陸上やってたんですけど、こっち来てからずっと出来なくて。で、そろそろ再開しようかと思って、

用具にどんなものあるかなぁって、アロースポーツに見に行こうとして」

「あぁ~それで、あの公園を通り抜けて」

そらで地図を描いたのだろう、漣さんがあたしの言葉を取って続けた。

「たまたま、あの自動販売機にお金を入れた、と」 

漣さんがおかしそうな顔になった。

「はい。そしたらあんなことになっちゃって……」

「アハハハハ、最初から見たかったなー、君が青くなって缶を並べてるところ」

「笑わないで下さい! もうどうしようか必死だったんですから!!」

「逃げちゃえば良かったのに、君のせいじゃないんだしさ?」

「風紀委員<ジャッジメント>がそんなこと言って良いんですか? ……不幸だ」

あたしはため息をついた。

「缶ならいいよ? 置けるし、別に壊れる訳じゃないしさ。俺は天ぷらそばの自動販売機で同じことあったもん」

漣さんが笑いながら言う。

「天ぷらそばで?」

あたしは面白そうだったので突っ込んであげた。



501LX2011/01/08(土) 22:39:32.23WDVJOro0 (9/20)


漣さんが話を続ける。

「うん。高校の食堂でね、去年あったんだよ。2時限めの休憩で、どうにも腹減って耐えられなくてさ、食堂行ったんだ」

「2時限めって、随分早くありませんか?」

「まぁね、でも普通そんなもんだよ? でさ、その時間だとまだおばちゃんが作るごはん類は出来てないからね、自動販売機の

天ぷらそばにしたんだけど。で、150円入れて、20秒くらいで最初の1杯が出来てきたんだよ」

「ふんふん」

「で、取りだしてさ、テーブルへ持っていこうとしたら、ピッピッピって機械が動いてるわけよ。

あれ?もしかしてもう1杯出来てくるのかな?なんて、そのときは『こりゃツイてるな』って思ったのさ」

「同じですねー」

「で、後に2人いたんで、『なんかタダでもう1杯出来てきそうですよ』って俺が話したら、その人も『え?ほんと?』

って言ったけど、ちょうどそこで1杯出来てきたんだよ」

「ラッキーですね」

「で、2番目の人はタダで天ぷらそばをゲットして喜んでたんだけれど、3番目のひとがお金入れようとしたら

『あれ?また出てくるぜ?』っていうのよ」

「ぷぷぷ」



502LX2011/01/08(土) 22:42:50.15WDVJOro0 (10/20)


当然ながら、あたしには既にもうこの後の展開が読めたけれど、面白いのでひたすら相づちに専念していた。

「で、時間がないから俺はもうそのとき食べ始めてたんだけど、ちょっと嫌な気がしたね。

『まさかずっと出てくるんじゃないか』ってね」

「ふふふふふふふふ」

「4杯めが出てきたところで俺はおばちゃんを呼びに行ったんだよ。そしたら、『その機械はウチのじゃないからほっといていいわよ』

て言うわけよ」

「そんな、無責任な……」

「いや、それはね、そのそばの機械はパン屋のものだったんだな。で、パン屋はいつも3時限の休みから来てるからまだいないんだよ。

ということでさ、戦いが始まったんだよね」

「アハハハハ」

「いや、ほんと、そばじゃん? 缶ならさ、転がっても良いし、積むことも出来るけど、天ぷらそばの熱々のどんぶりをどうしろって

いうのさ、てなわけだよ。3人で、出てくるどんぶりをテーブルに置くのが精一杯なんだよ」

「テレポートすれば良いんじゃないですか?」

「あんなアッチッチのどんぶり持ってるんじゃ演算に集中できないって(笑)

持っていった方が早いさ。結局、20杯以上出て止まったんだけどさ、授業は遅刻するわ、先生には信用してもらえないし、

肝心のそばは全然食べられなかったし。いや酷い目にあったよ」



503LX2011/01/08(土) 22:46:02.75WDVJOro0 (11/20)


あたしは、天ぷらそばのどんぶりを持って右往左往する男子高校生3人の姿を想像して笑った。

本当に笑った。

涙が出るまで笑った。

テーブルを叩いて笑った。

漣さんも釣られて笑った。

………

ふと気が付くと、お店の他のお客さんがあたしたちを、しろーい目で睨んでいた。

「で、出ませんか?」

「……その方が良さそうだね。あ、洗面所あっちだけど大丈夫?」

あたしは漣さんに感謝した。水腹に紅茶はかなり厳しいものだったから。ちょっと駆け足であたしはトイレへ駆け込んだ。

…………

あたしが戻ると精算は終わっていた。

「あ、あたし払いますから」とあたしが言うと、漣さんは「アハハ、こういうものは男が払うもんだよ。僕が連れてきた訳だしさ」

と言って払わせてくれなかった。あらら、おごられちゃったよ……。

「そうだ、運動具店行くんだったよね、アロースポーツだっけ? ゴメン、連れてくよ?」

とあたしの手を取ったので、反射的にあたしはその手を払ってしまった。

「え?」 漣さんは一瞬怪訝な顔をして、

「あ」  あたしは(しまった!!)と思い、


あたしたちはお互いにうつむいてしまった。



504LX2011/01/08(土) 22:49:16.51WDVJOro0 (12/20)


「す、すみません、思わず……」

あたしはドキドキしていた。なに意識しちゃったんだろ?

「い、いや、確かに、ごめん、失礼した」 

後から思えば、どうということでは無かったのだけれど。既に一度手を取られてテレポートしてもらってるのに、ねぇ。

あたしはホントにもう……。

「どうする? スポーツ店行きますか?」

漣さんが恐る恐る、と言う感じで改めて訊いてきた。

あたしはドキドキが止められず、

「きょ、今日は帰ります」って言ってしまった。

「そ、そうか。うん。もう遅いもんね。ゆっくり見たいよね、予定つぶしちゃってゴメン」

と漣さんが謝ってくる。

違う、あたしがドジっただけだもん。いや、やっぱり、今日、行こう!

「や、やっぱり行きます! 連れてって下さい。見るだけだから、どういうのがいくらぐらいするかだけですから!」

あたしは勢い込んでさっきと逆のことを言った。

「無理しないで、いいよ? 明日もあるし? ホントに行って良いの?」

漣さんはあたしの豹変に驚いている。

「お願いします」   

あたしはそう言って左手を出した。

「うん……じゃ、行こう!」


漣さんはあたしの左手を取って、


あたしたちはスポーツ用品専門店アロースポーツのショウウインドウの前に立っていた。



505LX2011/01/08(土) 22:53:56.86WDVJOro0 (13/20)


「着きましたよ!」

あたしは寮の近くまで漣さんにテレポートで送ってもらってしまった。

テレポートの中継で、ビルの上やら宙を飛んでたり、人の家の屋根とか、とんでもないところが一瞬目に入る。

おもしろーい! これはこれでやみつきになるかもしれないな……

「今日は本当にどうもお世話になりました」

あたしはとってもすっきりした感じになっていた。学校を出た時とは大違い。

「いや、楽しかったよ。久しぶりに笑ったし」

そう言いながら漣さんはまた少し笑う。

「あれは笑いすぎました……」

あたしは思わずしろーい視線を思い出してしまった。

「あ、あのさ、携帯番号とメルアド、交換してくれるかな?」

突然、漣さんが切り出してきた。

二人目、だ。 長坂くん……どうしてるだろう? あたしはふと思い出した。

「……はい」

あたしは自分の携帯を取りだし、データのやりとりをした。

「あの、つまんないことだけど、リコ、さん? トシコ、さん?どっちですか?」

漣さんが訊いてきた。

ええええええええ? あたしの名前知らないの? 今までずっと???

そう言えば、あたし、名前で呼ばれてなかった……よね?  ちょっとショックかも。



506LX2011/01/08(土) 22:54:44.48WDVJOro0 (14/20)


「着きましたよ!」

あたしは寮の近くまで漣さんにテレポートで送ってもらってしまった。

テレポートの中継で、ビルの上やら宙を飛んでたり、人の家の屋根とか、とんでもないところが一瞬目に入る。

おもしろーい! これはこれでやみつきになるかもしれないな……

「今日は本当にどうもお世話になりました」

あたしはとってもすっきりした感じになっていた。学校を出た時とは大違い。

「いや、楽しかったよ。久しぶりに笑ったし」

そう言いながら漣さんはまた少し笑う。

「あれは笑いすぎました……」

あたしは思わずしろーい視線を思い出してしまった。

「あ、あのさ、携帯番号とメルアド、交換してくれるかな?」

突然、漣さんが切り出してきた。

二人目、だ。 長坂くん……どうしてるだろう? あたしはふと思い出した。

「……はい」

あたしは自分の携帯を取りだし、データのやりとりをした。

「あの、つまんないことだけど、リコ、さん? トシコ、さん?どっちですか?」

漣さんが訊いてきた。

ええええええええ? あたしの名前知らないの? 今までずっと???

そう言えば、あたし、名前で呼ばれてなかった……よね?  ちょっとショックかも。



507LX2011/01/08(土) 22:56:30.51WDVJOro0 (15/20)

>>1でございます。

エラー表示で「もう一度投稿」と出たものでやってみたら、二重投稿になってしまいました。
>>506は無視して下さいませ。


508LX2011/01/08(土) 22:59:29.48WDVJOro0 (16/20)


「ち、ち、ちがうってば。僕は、君の顔写真しか見せてもらえてなかったんだから!! 

名前だって、あの時会話の中で初めて『さてん』という名前を聞いたんだよ! だから……ごめん」

そうだ、よね。そういやあたし、自己紹介してないもんね。あー、あたしの早とちり、だ。

「ごめんなさい、そういえば、わたし、自己紹介してなかったかも。私は、佐天利子です。教育大付属高校1年。リコは呼び名です」

「そ、そうだね。僕もだ。漣孝太郎、飛天昇龍学院高校3年生。風紀委員<ジャッジメント>です」

思わず、あたしはちょっと笑ってしまった。

「すごいですね、あたしたち名前もお互いによく知らないで、最後になって……」

「ま、まぁいいんじゃないの? 最初が最初だし……」

漣さんが答えたが、その答えは出来れば避けて欲しかった思い出。

黙ってしまったあたしを見て、

「あ、あの時の話は、もしかして、タブー?」

と漣さんが訊いてきた。

あたしは黙って頷いた。

「そっか……まぁな。明るい話じゃないもんな。わかった! じゃ、また今度! おやすみ!」

漣さんが手を振って門と反対側へ歩き出す。

「おやすみなさい!ありがとうございました!」

あたしは挨拶を返して手を振る。

漣さんがテレポートして姿を消した。あたしはその後をしばらく見送っていた……



509LX2011/01/08(土) 23:01:59.45WDVJOro0 (17/20)


あたし自身は気が付いていなかったが、端から見るとあたしは完全に舞い上がっていたらしい。

食堂に行く途中で湯川さんに会ったらしいのだが、あたしは全く気づいていなかった。

気づいていれば、まだ手の打ちようもあったかもしれないのだが、全ては後の祭りだった。



確かにあのときのあたしは、いろんなことを考えていたので心ここにあらず状態だったことは間違いない。

気が付くと自分の部屋にいたのだが、何故かサンドイッチと野菜ジュースパックはしっかり持って帰ってきていたところが

いじ汚いというか、あたしらしいというか……



ブブブと携帯が振動する。メールだ!

あたしは携帯をひっつかんで開ける。

うそ、一杯入ってる……けど。漣さんからのは、ない。

「なーんだ……」といいつつ、さくらからの最新メールを開く。

”リコ? 起きてる? 様子おかしかったんだけど、なんかあったの?”

「う」 まずい。絶対、ヤバイかも。

メールを開いて行く。



510LX2011/01/08(土) 23:05:00.04WDVJOro0 (18/20)


”オトコでもできたの?”  ぶはっ!! ゆかりん、鋭い! 

”このメール見たら下りてきて、待ってるから” あ~、カオリんゴメン、もう食堂閉まっちゃってるよね……。

”ごはん食べないの?” さくら……

”補習、きつかったらしいけど、なにかあったの?” カオリん、補習はきつかったよ~

”様子ヘンなんだけど、大丈夫?” ゆかりん、ゴメンね。

(………全員に打つか)あたしはメールをみんなに打った。

”ごめんなさい。アタマ使いすぎでぼーっとしてたみたいです。でももう元に戻ってます。ご心配かけて、ゴメンね!

じゃ、またあした! リコ”


あ、あと、仕方ない、あたしから打っちゃえ! えっと漣さんのメアドは……と。

”佐天です。今日は楽しかったです。有り難うございました。おやすみなさい!”



……しばらく待ったけど、漣さんからは返事は来なかった。

なによ、ケータイの番号とメルアド教えてくれ、なんて言って来たくせに、あーなんなのよ、これ?

あたし、恥ずかしいじゃない!



511LX2011/01/08(土) 23:07:46.73WDVJOro0 (19/20)


金曜日、朝の食堂。

あたしはクラスメートに取り囲まれていた。

「おはよ、リコ。はい、これ見て?」 さくらがあたしに携帯を見せる。

「ぶっ!?」 あたしはぶったまげた。 たしかにそこに写っているのはあたし……なのだが、どう見ても目が逝っている。

「な、な、な」 言葉が出てこない。

「何があったのかなー? こんなニヤケててさー?」 ゆかりんがニヤニヤしながらあたしをツンツンする。

「様子がヘンだってわかる? わかるよねー? 普通じゃなかったわよぉー?」 カオリん、貴女まで……?

そこへ、

「おはようございます、佐天さん? 今日は大丈夫かな? 昨日はヘロヘロだったみたいだけど?」 

湯川さんが割り込んできたのだった。

(ちぇっ! 邪魔が入ったか、命冥加なやつめ、覚えておくがよい!)というような感じで、残念そうな顔をしてみんなが

あたしから一歩離れた。あ、ありがとうございます、湯川先輩!

「で、昨日、門の近くでお話ししてた風紀委員<ジャッジメント>のひととは、どういう関係だったのかな? 

ケータイ番号とメルアドは交換したようだけど?」

し、しまった、地獄耳<ロンガウレス> ……

「えーっ????!!!!」
「何それぇー??」
「リコ、ちょっと? あたしにちゃんと最初から報告しなさい!」

離れていたやつら<クラスメート>がどどどど! とあたしの側に集結して四方から集中砲火を浴びせてくる。

お、鬼だ、悪魔だ、さ・い・あ・く・だー!!!!!!



512LX2011/01/08(土) 23:16:48.22WDVJOro0 (20/20)

お読み頂きました皆様、>>1です。

本日分の投稿は以上です。

この後、近い部分にエピソードを飛び込ませた結果、そこが現在も伸びており、確定しないと
投稿ができない状態です。
また間が空きますが何卒ご了承下さいませ。
それではお先に失礼致します。



513VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/09(日) 00:35:25.98U2psfDUo (1/1)

オリキャラ祭りで敬遠してたけど禁書SSまとめのあらすじみて読みにきますた
よくできてて面白いわ


514VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/10(月) 08:11:34.35fE+zTk7IO (1/1)

乙です
相変わらず面白い
次の投下待ってます


515VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/13(木) 23:02:16.09xGLODwywo (1/1)

板移転みたいだから依頼出したほうがいいぞ作者

■ 【必読】 SS・ノベル・やる夫板は移転しました 【案内処】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4gep/1294924033/
SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/




516VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2011/01/13(木) 23:46:36.125vde65KPo (1/1)

移転というか新設だなSS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/




517LX2011/01/14(金) 07:35:22.53d6dGAluo0 (1/1)

皆様おはようございます。
>>1です。
移転申請を提出しました。
新しい板へ無事移転できますように……SS・小説スレは移転しました
http://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/ Mobile http://ex14.vip2ch.com/test/mread.cgi/news4ssnip/




518真真真・スレッドムーバー移転 ()

この度この板に移転することになりますた。よろしくおながいします。ニヤリ・・・( ̄ー ̄)


519LX2011/01/14(金) 22:48:42.30z0T0SsyK0 (1/6)

皆様こんばんは。>>1でございます。

移転完了したようですが、
まだ完全ではないみたいですね。

ものは試しで、少量ですがageで投稿してみます。



520LX2011/01/14(金) 22:50:23.86z0T0SsyK0 (2/6)


お昼。



「不幸だ……」

「ちょっと、リコ、余計なことは言わないの! 自動書記<オートセクレタリ>動かしてるんだから!」

ゆかりん、NGワードに『不幸だ』って登録しといてよ……はぁ。

「いいから、早く続きを話しなさいよ?」

「ちょっと、なんで聴衆が増えてるわけ? 斉藤さんに遠藤さんまでなんなのよ!?」

「いや~今朝久しぶりに食堂に下りたら、あんたたちが騒いでるから何かなぁって。で、そこにいたひとに訊いたらさ、

なんか、あんたが昨日の夜にオトコと逢い引きしてたっていう話でさぁ、こりゃニュースだね本人に訊かなきゃねって♪」

「うん、あたしも朝食べないひとだからね? でもそういう面白いことがあるんだったら、今度から朝、食堂行こうかな?

入ってもいいよね?」

**

斉藤さんというのは斉藤美子(さいとう よしこ)、遠藤さんというのは遠藤冴子(えんどう さえこ)のことで、

やっぱりあたしたち同様、高校から学園都市に来たメンバーで、あたしたちと同じ寮にいる。

斉藤さんがこんなに喋るひとだとは知らなかった。いつも一人静かに本を読んでいるし、(あたしにかまわないで)という

オーラが出てるので、こちらから話しかけづらかったこともある……。

遠藤さんはとってもアタマが切れる。理屈っぽいところもあるので、直ぐに「さえちゃん先生」というあだ名が付いたくらいだ。

**


521LX2011/01/14(金) 22:53:21.69z0T0SsyK0 (3/6)


「ぜーんぜんかまわないよ? 多い方が楽しいもん、夕ご飯も時間あったらおいでよ?」

ゆかりんが笑ってOKサインを出す。

「そうそう、でね、早く帰ったひとは、みんなのデザートの確保をする、っていうのがいつの間にか出来たお約束だから、それはお願いね?」

さくらが言うが、え、そんなお約束あったかな?

「あはは、あたしがさくらと決めたの。まぁ早く帰れたら、と言う条件つきだから、あんまり気にしなくてもいいわよ」

カオリんが事情を説明する。

……あたしは、じっと息を殺して、話題があたしに戻ってこないように気配を殺していた。なんとか、なんとかあと20分保ってくれ!!



しかし、世の中は甘くなかった。

ブーンブーンとあたしの携帯が振動する。しめた!

「ご、ごめんね、電話入ったから!」 

あたしはこれ幸い、そこから脱出を図った……が。

がしっ、とあたしはカオリんとゆかりんに押さえつけられ、「遠慮しなくていいから、どうぞここでお話なさいな?」

とさくらが黒い笑顔で宣告した。

その間もブーンブーンと携帯が振動している。

あたしは観念して携帯を開くと………

  鬼

じゃなかった、湯川先輩だった。あたしはほっとため息をついた。

「はい、すみません、佐天です」

「今日、6時限が終わったら風紀委員室<ジャッジメントルーム>にまた来てもらえる、かな? 大丈夫よね?」

「は、ハイ、大丈夫です」

「あしたの土曜日の午前中も大丈夫よね?」

「ええ、伺ってましたから」

「じゃ、待ってるわ。そこにいるみんなによろしく、ね?」

……じ、地獄耳<ロンガウレス>……恐るべき、能力だ……
 


522LX2011/01/14(金) 22:56:32.68z0T0SsyK0 (4/6)


6時限終了後、あたしは風紀委員室<ジャッジメントルーム>にいた。

「これから77支部に行きます。奨学金増額もそこで教えてもらえるわ。表彰状はあした、第三学区の風紀委員会統括総合本部だそうです」

馬場さんがあたしと湯川さんにそう言うと、鞄を持って部屋を出た。

「あら、なにか御用かしら?」  

馬場さんの声がする。

「「いえ、失礼しました~!」」 

あの声は、ゆかりんとさくら、だ。

(あいつら、何やってんのよ?) 

あたしはおおよそ見当が付いていた。たぶん、ゆかりんが全部自動書記<オートセクレタリ>で記録していたのだろう。油断も隙もない。

「ちょっと、ストーカーじみてきた、かな?」 

湯川さんがつぶやいた。

「ごめんなさいね。あたしにも責任あるから、ちょっとどこかであの子たちにお話ししなきゃ、ね」

そう言って、湯川さんはあたしに謝った。

「いいえ。今、彼女たちは楽しいのかもしれません。ゲームをしてる気分なんでしょうね」

さくらは、話せばわかる子だ、とあたしは思っている。あの雑誌を引き裂いた子だもの。

ゆかりんがどう出るかわからない。結構つかみ所が難しい子だから……



523LX2011/01/14(金) 23:00:34.88z0T0SsyK0 (5/6)


77支部は学校から歩いて5分ほどのところにあった。目の前、といっても良いくらいの距離。

何回か前を通ったことのある雑居ビルに入っていた。

「ここにあったんですか……」

あたしは拍子抜けしていた。

「なぁに? もっとスゴイところ想像してた?」

馬場さんがちょっと笑って言う。

「ええ、もっと厳めしい、パトカーが並んでいるような……」

あたしが思っていたことを言うと

「それじゃ、『ここに風紀委員<ジャッジメント>の支部がありますよ!』って宣伝するようなものでしょ?

そういうことも場合によっては必要かもしれないけれど、あたしたちクラスの支部は逆に

『目立たずひっそりと、でも中身は充実バッチリ!』というようでなければ、ね? 

それに支部はどっちかというと数が必要だから、家賃にはあんまりお金がかけられないのよねー。

多分それが最大の理由だとはあたしも思ってるけれど」

あたしたちはエレベーターには乗らず、階段を使って2階に上がった。

「エレベーターは使わないの。中に閉じこめられる可能性もあるし、いきなり攻撃される可能性もあるから。

だからエレベータはここのフロアには停止しないようになってるわ」 

湯川さんが教えてくれた。

「馬場です」 

馬場さんが左手をチェックに当ててインターホンに話しかける。

「声紋チェック確認、ばば なつみ と 認識しました」
「指紋並びに静脈シルエット・データ確認、ばば なつみと認識しました」

無機質な声が流れて、扉が開いた。

「ようこそ、77支部へ!」 馬場さんと湯川さんが微笑んであたしを招き入れた。



524LX2011/01/14(金) 23:05:22.54z0T0SsyK0 (6/6)

>>1です。

テストをかねて極めて僅かですが投稿してみました。
次は、もう少しまとまった量を投稿したいと考えておりますので、もう少しお待ち下さいませ。

宜しくお願い申し上げます。



525VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/14(金) 23:45:56.07tb+5mYnIO (1/1)

移転と投下乙です
次回も楽しみにしてる


526VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/19(水) 22:30:43.92yqwGjoRAO (1/1)

むう、続きはまだかのう


527LX2011/01/21(金) 23:29:51.272JeOqfWg0 (1/10)

皆様こんばんは。>>1です。
ご支援頂きまして有り難うございます。

それではこれより投稿を再開致します。どうぞ宜しくお願い致します。



528LX2011/01/21(金) 23:32:05.922JeOqfWg0 (2/10)


「やぁ、初めまして。77支部の支部長代理をやってる打田疾風(うちだ はやて)です。断崖大学2年生です」

大学生か……あたしより、大人だなぁ、博士っぽいような感じだな、理系のひとかしらん?

「こんにちは。あたしは佐藤景子(さとう けいこ)、馬場さんと同じ3年生。寮がちがうけどね?」

ふうん、馬場さん、湯川さん以外にもうちの学校に風紀委員<ジャッジメント>がいるんだ……

「まいど。ジブンは高橋勇次(たかはし ゆうじ)言いますのん。よろしう頼んます」

おお、関西弁だ。そういえば、不思議とあんまり関西言葉聞かないなぁ。珍しいかも。

「 Good day !! Nice meet you! My name is Jack Clare, how are you ? 」

ええええええ、英語ぉぉぉぉ? ガ、ガ、ガ、ガイジンじゃないの???

「こら、脅かしたらダメでしょ? なにハッタリかましてんのよ?」

湯川さんがガイジンに日本語で怒ってる、って?

「アハハ、失礼しました。ボクも英語で答えられたらどうしようかと。ジャック=クレアです。これでもうボク、覚えたね?」

完璧な日本語だ。え、どういうことなの?

「ジャックはね、日本生まれなのよ。でもご両親ともニュージーランドのひとだから見た目は完璧な白人だけど、中身は日本人なのよ。

あたしも最初驚かされたわよ」   

湯川さんが説明した。

「いや、だから困るんです。ボク、日本人に見えないでしょ? ガイジンみんなボク見ると助かった、と言う顔で英語やフランス語、

果てはスペイン語でしゃべってくるんですよ、ボクは日本人だっての!」

はー、確かにガイジンっていう言葉、日本人以外使わない言葉だもんねぇ。

でもガイジンがガイジンをガイジンっていうの、すごくヘンだ。



529LX2011/01/21(金) 23:37:49.052JeOqfWg0 (3/10)


「他にまだ数人いるんですけれど、外を巡回してるので、今はこのメンバーで全員です。宜しくね?

………さて、今日来て頂いたのは、火曜日の件ですが、佐天さんが捕獲された九官鳥をウチの湯川委員がここへ持ち込みまして、

それで、ある方の協力を得まして九官鳥がどこから飛んできたのかを確認しましたところ、第十三学区にありました保育所、

ちょっとここも子供たちの将来がありますので名前を出せないところなんですが、まぁそこから飛んできたことがわかりまして、

そこをアンチスキル共々、抜き打ちの調査をしましたところ、まぁ出るわ出るわ、認可上では最大でも25名のはずが、

倍の50人もそこにいました」


打田さんが、九官鳥事件を説明してくれている。


「もちろん、先方にも言い分はありましてね、曰く、『認可数より多い子供を預かって、違反していることは承知している。

だけれど、彼らが捨てられたのは事実だし、放っておけば死ぬだけだ。それは避けたかった』と言うんですよね」


そう、そう言う話は残念ながら結構いろいろなところで、アングラな話ということであたしも知っている。
  

「それだけならまぁある意味では美談なんですけれど、実際には食事もまともに与えておらず、しかもその子供たちのランク付けを

してですね、あるものは非合法なことをするところへ売り飛ばしたり、能力が発現しているものは、そういう研究所へ売ったり

貸し出したりしてカネを稼がせていたわけですよ。とんでもない話ですよ。

科学は確かに東京より20年進んでいるかもしれない。でもそう言うところは逆に一気に50年以上元に戻ってしまった」


(確かに日本で児童労働なんて、手伝いはあるかもしれないけど、新聞配達だって今時、子供はいないはず)

あたしもそう思う。



530LX2011/01/21(金) 23:41:46.302JeOqfWg0 (4/10)


打田さんの熱弁が続く。

「児童労働、その中には性的なものも入ってます、そして人身売買。とんでもない話です。許せない犯罪です。

いかなる理由もこの二点については異論を認めません。この悲劇は無くさなければなりません。でもなかなか無くならないし、

表に見えにくいのです。だから、みんなに注目して欲しいし、気を配って欲しいし、なんかヘンだ、と思ったら我々に教えて欲しいわけです。

こういうことをやっている連中は大抵がダークサイドですから、一般人が入り込むのは危険すぎます。

でも、無関心になることは避けて欲しい、ですから通報をしてくれればいいのです、なにかおかしいと。

あとは我々や、アンチスキルが調査しますから。その良い例なのです。今回の件は」


打田さんの熱弁を引き取るかたちで佐藤さんが話を続ける。

「というわけでね、今回は他にも3件表彰があるんだけれど、ちょっと派手にやるみたいなの。おねがい、受けてほしいんだ」

「はい、わたしはかまいません」

湯川さんはきっぱりと宣言した。

「え……と、………私は、顔はちょっと出したくないなと、できれば名前も……」

あたしは、去年のあの大騒ぎの悪夢を思い出し、正直そこまで大きな催しになるなら出たくなかった。

というか、出たらまずいのではないかという疑念があった。

「さよか、なんぞ名前と顔がでたらマズイことあるんか?」

高橋さんが聞いてくる。

「はい、ちょっと似たようなことがありまして、すごく大騒ぎになってしまって、全く良いこと無かったもので……」

あたしは慎重に言葉を選んだ。

「ふーん、そら難儀やな……」

高橋さんは黙った。



531LX2011/01/21(金) 23:44:39.902JeOqfWg0 (5/10)


「オッケー、じゃ、名前は匿名にして、場所には来てもらうけど、表彰の時には湯川さんに代理でもらってもらえばいい。

湯川さん、どうだろう?」

打田さんが湯川さんに打診する。

「あ、あたしはかまいませんけれど、佐天さん、あなた、それでいいの? 名前出れば、あなた有名人よ?」

湯川さんがあたしに(このチャンス、のがしてもいいの?)という顔で訊いている。

「あたしは、……有名人にはなりたくないんです。ホントならここ<学園都市>だって、能力が発現さえしなければ、絶対来たくなかった、

来るつもりも無かったんですから……」

ちょっときつかったかもしれない。でも、あたしは、この能力を、コントロール出来るようにならないと、あたしは帰れないのだ。

そのために、あたしはここにいるんだ。


みんな黙ってしまった。


「すみません、えらそうなこと言って、ごめんなさい」

あたしは頭を下げた。

「いやいや、謝ることはないさ。わかりました。ひとにはひとの訳ってもんがありますからね、本人の希望は優先されなきゃ。

佐天さん、あなたの要望は守りますから、すみませんが会場まではお越し下さいね? 私があなたの要望を責任もって伝えますから、

大丈夫ですよ。

じゃ、湯川さん、あした、宜しくお願いしますよ?」

打田さんが最後を締めくくった。あれ? これで終わりですか?



532LX2011/01/21(金) 23:47:51.112JeOqfWg0 (6/10)


「それで、奨学金の増額なんですが」

佐藤さんがようやく待っていた話を切り出した。

「湯川さんは高校在学期間があと2年間なので4万5千円が、佐天さんは高校在学の3年間、毎月3万円があなたがたの口座に

振り込まれます」 

さ、さんまんえんも!!??

あたしは思わずいろいろなものがアタマの中を駆けめぐっていた。

ランニングシューズ、あの1万8千円もするヤツが楽勝で買えるし、

いや、あのラ・ベットラの750円のケーキが、毎日買っても250円おつり来るし……

いや、あのお店のスカート、1万2千円だったけど、バーゲン待たなくても買える……



「ちょっと、佐天さん、ちょっと!?」

湯川さんがあたしをつつく。

「は、はいっ!!」 

あたしは夢の世界から引き戻された。

「嬉しかった?」

打田さんがニコニコしながらあたしの顔を見ている。

「……は、はい……」

あたしは真っ赤になって小さな声で返事をした。

「いや、そうでないと困るんです。それくらいインパクトがあれば、みんな注目してくれるでしょうね。

中途半端では結局無駄なカネになってしまう。悪く言えば、懸賞金はそうでないと効果がない」


ちょっと引っかかるけれど、でもそうかもしれない。犯罪を防ぐには、みんなの目が必要なんだし。



533LX2011/01/21(金) 23:51:01.692JeOqfWg0 (7/10)


「いいですか?ではすみませんが、こちらの書類に必要事項を書き込んで頂けますか? そこのテーブルをお使い下さい」

クレアさんが書類を持ってきて、あたしと湯川さんに渡した。あたしたちはその書類に書き込み、サインした。

クレアさんはその書類を裏返したままスキャナーにかけ、しばらくしてからあたしたちを呼び、

「この画面に、あなたの書いた書類を読みとったデータが出てきますので、内容を確認して下さい」

と2台のモニターを湯川さんとあたしにそれぞれ見るように指示した。

間違いなし、と伝えると、クレアさんは先ほどの書類をシュレッダーして処分した。

「では画面のエンターキーに触れて下さい。触れて、申し込み終了の文字が出たら終わりです」

とクレアさんが説明する。

キーを触れると、画面に「申し込み終了」のサインが現れた。


「終わりました」 と答えると、

「良かったですね、これで終わりですよ」 とクレアさんがニッコリと笑った。


「お二人とも当支部へお忙しいところ来て頂き、どうも有り難う。湯川さんはもうわかっているだろうけれど、この街を造って行くのは

僕らなんだ、良くするのも悪くするのも結局は僕たち1人1人にかかってる。1人じゃまず何も出来ないけど5人、10人とまとまれば

それなりに力になるんだ。これからもよろしく、ね! 今日は有り難う」


最後まで、打田さんは熱弁だった。あたしは打田さんの熱意にすっかりうたれてしまっていた。

ふと、あたしは思った。

(あたしの、このしようもない能力も、もしかしたら、もしかしたら使い方さえわかれば、役にたつ、かもしれない)



(あのなぁ、おまえ、それよりまずはコントロールだろ? 昨日を思い出せよな)と久方ぶりに冷静なあたしがささやいた。

あんたは直ぐそうやってひとの感動をぶちこわすんだから、まったくもう!



534LX2011/01/21(金) 23:52:56.642JeOqfWg0 (8/10)



土曜日朝。

あたしと湯川さんは、玄関側の、面談ルームでお迎えを待っていた。

服装はどうしよう?と言う話になったのだけれど、困ったときの「制服」頼み、制服なら文句はないよねー?

ということで、二人とも制服になった。まぁ昨日の夜、一生懸命アイロン掛けしたんだけれど。



面談ルームのインターホンが鳴った。

「湯川さんと佐天さんに来客です。面談室にお通しします」

あたしたちは、

「クルマのお迎えが来る、のかな?」「じゃ、運転手さんが来るのかしら?」と他愛もない話をしていた。

あれ? あそこを歩いてくるひと、制服姿の、学生?

「あの人、誰、かな?」

女子高生の寮だから、男子の姿を見ることは普段は皆無だ。目ざとい子は早くも珍しい男子(高校生?)の姿を見つけて友達を

呼びに行ったのもいる。

「あ」

「リコちゃん、知ってるひと?」

「……あのひと、です……」

「誰?」

「この間、立ち話してた、漣さん、です……」

あたしは何故か顔が火照るのを覚えた。



535LX2011/01/21(金) 23:56:17.032JeOqfWg0 (9/10)


「おはようございます。風紀委員<ジャッジメント>、飛天昇龍学院高校3年、漣孝太郎(さざなみ こうたろう)です」

「おはようございます。初めまして、風紀委員<ジャッジメント>、学園都市教育大学付属高校2年、湯川宏美(ゆかわ ひろみ)です」

「おはようございます、今日は宜しくお願いします」



「あら、佐天さん、自己紹介なしで終わり、なのかな?」 

湯川さんがいたずらっぽくあたしを弄る。

「はい? え?、え、え、え、だ、だって」

あたしはどぎまぎして、あたふたしてしまう。

「あはは、冗談よ。あなた方、先日の夜、もう自己紹介しちゃってたものね? 朝の挨拶で十分だものね?」

湯川さんはあたしと漣さんを交互に見やってクスリと笑う。く、黒いです……湯川先輩……

「えっ? ……そ、そんなこと、なんで知ってるんですか? 佐天さん、そんなこと言ったの???」

漣さんが驚いて(まじですか?)と言う顔であたしを見る。

「もう、リコちゃんはねぇ、あれからもうすっかり舞い上がっててねぇ、もうノロケ話をあたしたちにするんですよぅ?

もう漣さんたらとっても素敵なのよぉ……って。あたし、どんなひとかと思ってましたの」

「ち、ち、ち、ちがーうぅ!!!」

あたしは立ち上がって叫んだ。

「あたし、あたし、そんなこと絶対言ってないから!! 何もしゃべってませんから!!」




536LX2011/01/21(金) 23:59:18.352JeOqfWg0 (10/10)


湯川さんが、顔を真っ赤にして否定するあたしを見て

「あら可愛いわねぇ、そんなにムキになって否定しなくてもいいのに」

そう言うと、湯川さんは立ち上がって音もなく動き、いきなり手前の扉を開けた。


「キャァ!!」
「痛い!」
「わ!」


どさどさどさっと女の子がマンガのように倒れ込んできた。ゆかりん、さくら、カオリんだった。


「ちょ……」 

あたしは絶句した。


「青木さん、この間の写真、あの人に見せてあげなさいな」 

湯川さんがニッコリ笑ってとんでもないことを言った。


あ、悪魔だぁー!


「そ、それだけは絶対にダメ~!!!!!!!!」



ぐわぁーっと来た感情の大波と、最大出力のAIMジャマーの一騎打ち!



あたしは、気を失った。



(今週2回目かよ。おまえ、情けないやっちゃなぁ………)

冷静なあたしは、気を失ったあたしをあきれて見ていたのだった。



537LX2011/01/22(土) 00:03:55.92ZlofLuEP0 (1/15)


「ごめんなさい、ちょっとやりすぎましたわ……」 

湯川さんが平謝りしている。

「いえ、僕の鍛錬が不十分なんです。申し訳ありません」

結局、あたしがAIMジャマーと能力発動とのバッティングで目を回し、更に漣さんが冷やかし話に動揺してテレポート出来なくなって

しまったことで、寮を出るのが大幅に遅れてしまい、タクシーを飛ばすことになってしまっていた。

「ぅぅ……きもち悪い……」

あたしはまだ回復出来ておらず、青い顔で後部シートで揺られていた。



どうにかこうにか、始まる時間5分前にあたしたちは第三学区にある風紀委員会統括総合本部の建物に到着した。

「はぁ……」あたしは単純に圧倒されていた。

昨日行った77支部の入っている雑居ビルとは比べものにならないビルがそこにあった。

「湯川さぁん、佐天さぁん?」  

遠くから声が聞こえる。

「はい、湯川です!」  

湯川さんが叫ぶ。



いきなり女性が目の前に立っていた。

「白井ですわ。遅かったですのね? 風紀委員<ジャッジメント>たるもの、開始時刻の15分前には到着しておりませんと?」

あたしには記憶があった。確か……あたしの母の友人、白井黒子さん、だ。



538LX2011/01/22(土) 00:09:42.49ZlofLuEP0 (2/15)


「あら、佐天さん、どうなさいましたの? そんな青い顔をして? 具合が宜しくないようですわね? クルマにでも酔われましたの? 

あら、そう言えば今日はタクシーで来る予定でしたかしら?」 

白井さんは矢継ぎ早にあたしたちに質問を投げてくる。

「すみません、あたしがちょっと悪戯、からかいすぎてしまって、佐天さんが気分を悪くしてしまいましたし、せっかく来て頂いた……

あら? どこへ行ったのかな?」

湯川さんが必死に言い訳をして、漣さんに言及しようとしたが、いつのまにか彼はいなくなっていた。

お母さんの前で恥ずかしかったのだろうか。

「時間がありませんの。これで止め。湯川さん、直ぐに参りましょう!」

そう言って白井さんは湯川さんの手を取り、テレポートした。



取り残されたあたしは、まだぼーっとしていた。気持ちが、悪い。

そこへまた、白井さんが飛来した。

「さぁ、佐天さん、あなたもですわよ。あなたは今日は観客席ですから、ね? 静かに見てらしてね」

白井さんはあたしの肩に手を置くと、



――― あたしはホールの入り口に白井さんと立っていた ――― 



「どこでもかまいませんが、後のグループの、演壇に向かって右側の席が化粧室に近いですわよ」

そう小声で白井さんはあたしにささやいて再びテレポートして消えた。

白井さん、優しいひと。




539LX2011/01/22(土) 00:12:11.32ZlofLuEP0 (3/15)




利子があたしをにらんでいる。

あたしは一瞬目をそらす。

利子の目にじんわりと涙が浮かび、つーと流れ落ちる。

あたしは耐えきれずにまた目をそらす。

「ママ?」 利子があたしを呼ぶ。

あたしは答えられない。

あたしは、下を向いたまま、利子を見ることが出来ない。

「ママ、あたしを見て」

あたしは顔を上げられない。どうしてもあげられない。

「ママ、どうしてあたしを捨てたの?」

ごめんなさい、と言おうとしても、声が出ない。

「ママ、あたしが嫌いになったの?」

(そんなことない!)あたしはようやく顔を上げる。

目の前は、誰もいない真夜中のどこかの道。




「許して、お願い、許して!!!」



目が覚めた。



540LX2011/01/22(土) 00:16:19.67ZlofLuEP0 (4/15)




「また、見たのね……?」

そこには、心配げにあたしを見つめる、泣き出しそうな志津恵(しずえ)の顔があった。

ち、見られたか……

あたしは起きあがって、志津恵の顔を見つめて、軽くウォーミングアップをする。

「志津恵、いつまでもひとの寝起き見てるもんじゃないわよ?」 

右手がほんのり青光りを放ち始める。

悲しそうな顔をしていた志津恵は、ホッとしたような表情になる。

でも顔にふっと影が差して「『母さん』、やっぱり苦しんでるのね……」と小さくつぶやいた。

「ふん、歳のせいってやつさ。あたしもヤキがまわったもんだ……あーぁ『娘』に心配されるってのも情けないねぇ」

あたしは志津恵にバレているだろう強がりを言って、ベッドから出る。

「今日は学校は?」 あたしは「娘」に尋ねてみる。

「今日はあたしは休みよ? 『母さん』は?」 志津恵が逆に聞いてくる。

「へっ、先生と違って風紀委員会<ジャッジメントステーツ>は年中無休ってね」 

あたしは見せてしまった弱みを覆い隠すように強がって言葉を返した。

「風呂入ってくるね。志津恵、今日出かける?」 

あたしはバスローブを持ってバスルームに向かいながらまた「娘」に今日の予定を聞いてみる。

「ううん? 特にない。それより、来週のカリキュラムの組み直しもしなければならないし、今度は高校で……」 

「あっそ」

あとの方の言葉は良く聞こえなかった。

あたしはバスルームに入った。

「ごめんね、心配掛けて、志津恵」 

あたしは小さい声で『娘』に謝った。



541LX2011/01/22(土) 00:19:46.53ZlofLuEP0 (5/15)

>>1です。

>>540に間違いがありました。すみません。

誤)志津恵(しずえ)

正)志津恵(しづえ)

大変失礼致しました。 <(_ _)>



542LX2011/01/22(土) 00:26:58.84ZlofLuEP0 (6/15)






「お母さん」はまたあの子の夢を見たらしい。

あれからもう15年も経つのに、やっぱり忘れられないんだろう。

でも、ここ最近、そう2年くらい前からちょっと雰囲気が変わっている。



昔は、それこそ私が来て間もない頃は、「お母さん」があの夢を見ると大変だった。

もう涙ボロボロ、汗びっしょり、起きたら起きたで最悪の御機嫌、ピリピリしていてとりつく島もない有様、そんな時に迂闊にも

ヘマでもしようものなら、ものすごい勢いでひっぱたかれるわ、はり倒されるわで、ものすごく怖かった。

もっとも、そのあとでちゃんと八つ当たりしたことを反省して、高そうなお菓子やおみやげを買ってきて、あたしの御機嫌を必死に取ろう

とするところが「お母さん」の憎めないところだったけれど、正直そんなことしないでいいから、最初からもう少し優しくして欲しいなー、

と私はずーっと思っていた。



ところが、最近はその夢を見ても、涙ボロボロまでは同じなのだけれど、起きてしまうとけろっとしているのだ。

あまりに昔と違いすぎるので、最初、私はものすごく恐ろしかったことを絶対忘れない。おかしい。絶対に、おかしい。

催眠療法か何かを受けたのだろうか……?





……15年も前なのに。

……わずか二歳の生涯だったのに。



543LX2011/01/22(土) 00:30:53.47ZlofLuEP0 (7/15)


私はものすごく羨ましい。

そりゃぁだって、彼女は「お母さん」のホントの子供なんだから、当たり前なんだけれど、私だって15年も「お母さん」と一緒なのに、

あの子の7倍もの時間を過ごしているのに、彼女に勝てないのはつらい。悔しい。



……でも、そんなことを考えちゃいけないだろう。

あのまま、あそこにいたら、私は学園都市に、いや、とっくにこの世には居なかったに違いない。

「お母さん」は、私を救ってくれて、私が持っていなかった全てを与えてくれたのだ。

私をここまで育ててくれたのだ。

ちょっと荒っぽかったけれど。



そう、例えそれが、あの子の代わり、だったとしても。



私は「お母さん」に感謝してる。



だって、

         ―――― 「お母さん」は ―――― 



  ―――― 「麦野志津恵(むぎの しづえ)」と言う名前を与えてくれたのだ ―――― 




――――   「18番」という番号で呼ばれていた実験動物、私<チャイルド・エラー>に ―――― 


…………


「じゃ行ってくるから。志津恵? あんた、たまには外に出てフラフラしてみたら? オトコッ気なさすぎるわよ?」


………う、う、う、う、うるさーい! 


          ”麦野沈利(むぎの しずり)・ 原子崩し<メルトダウナー> の娘 ”


だからオトコが寄ってこないのよ~!!
 

これだけは、私も予想だにしなかった……。

そりゃ子供のあたしにわかるはずも、ないよね ……orz



544LX2011/01/22(土) 00:35:50.63ZlofLuEP0 (8/15)



「すみません、またヘマしました」 

漣孝太郎は上司、麦野沈利の前で報告していた。

麦野は黙っている。

しばらく経って、麦野が口を開いた。

「ヘマはしていないでしょ? 5分前には着いてるんだから。遅刻したら問題だけど? 早めに行っておいて良かったわけでしょ?

不測の事態が起きたけれども、それに対応すべく計画を組んでおいたのが成功した訳だから。違うかな?」

「はい」 

漣はおとなしく答える。

「だから、今回のあなたの仕事に関しては、なんら問題はないの。わかった?」

「は、はい。有り難うございます」

「バカったれ! 有り難う、じゃないわよ! 何勘違いしてるの?」

一転して麦野は厳しい言葉をはき始めた。

「前にも言ったわ。テレポーターが戦場で演算を忘れたら死あるのみ、ってね。覚えてるわよね?」

「はい」

「よろしい。何故、忘れたの?」

「……」

「どうせ女の子の話でしょ?」

「……はい」



545LX2011/01/22(土) 00:38:20.70ZlofLuEP0 (9/15)


「ったく。あのね、男に女の話したら、女に男の話したら、普通は心が揺れて当然なのよ! 当たり前なの。

問題はね、一旦動いちゃった平常心を如何に早く取り戻すかが勝負なのよ! 

あんたみたいに1時間も2時間もかかったら生き残れないわよ、いい? 

動くのは仕方ないの、人間なんだから。動揺した心をいかに短時間で平常心に戻し、演算可能な状態に戻すかが勝負なのよ! 

わかった?」

「はい! わかりました」 

漣は顔を上げてはっきりと答えた。

「何がわかったのか、言ってごらん?」

「は、はい。自分は、とにかく心を平準化して、動揺しないように、動転しないように、と言うことばかり気にしてました。

ある程度は対応できるようになってましたが、予想していなかった事態が起きると、まったくその訓練は役に立ちませんでした。

訓練の方向を間違えてました。今度は、いかにして動揺を早く抑えるか、興奮を静めるか、と言う点を集中して訓練します。

以上です」

「よろしい。訓練の成果を期待します。今日はこのあと特に仕事もないから、帰りなさい」

「はい! 有り難うございました。漣孝太郎、帰ります!」

ふっと漣は消えた。

……



「そんなに簡単に動揺なんか抑えられないって……」麦野はつぶやいた。

「あの子は優しいから…そもそも戦闘には向いてないわよね」



しばらく書類を見ていた麦野はひとりごちた。

「さて、表彰式でもちょっと覗いてみるか。あの子もいるらしいし」



546LX2011/01/22(土) 00:41:53.96ZlofLuEP0 (10/15)




(なんで佐天さんが座ってないのよ?) 

上条美琴は壇上にいる4人の表彰者を見ながらやきもきしていた。

学園都市の広報委員として、来賓としての出席であった。

彼女は母・佐天涙子に娘・利子の表彰について連絡を取っていたが、

「残念ながら出張で今は日本にいないので、出席出来ません」という返事であった。

あまりの素っ気なさに言葉が出てこなかった美琴だったが、

「まぁ今まで2回とも、利子ちゃんが学園都市にいるときに佐天さんが来ると事件になってるからなぁ……気にしてるのかも……」

せっかくの娘の晴れ姿なのに惜しいな、と考えていた美琴であった。

しかし、



―――― 肝心の佐天利子がいない? ―――― 



式次第を読んでいた美琴は気が付いた。

(佐天さんの名前もないじゃない? どういうことよ? 外したの? なんで?)

むかーっときた美琴であったが、昔のようにいきなり雷を落とすようなことはもうない。

(なんでよ、どうしてよ?) とビリビリしていた美琴はふと、ある文字に気が付いた。

「他、匿名者 1名」 

(もしかして、これ、佐天さん? なんで……そうか、そうよね。そうだわ、彼女はおおっぴらに表にでたら危険だわよね)

彼女の生い立ちを考えれば、むしろ大々的に顔をさらけ出すことは絶対に避けねばならないことに気が付いたのだ。

(いや危なかったー、自爆するところだったわよ……、そうよね。これでいいんだわ。だけど誰が気が付いたんだろう?)

美琴は観客席をチェックし始めた。



547LX2011/01/22(土) 00:48:08.15ZlofLuEP0 (11/15)



(いたいた! あそこに……え? ……… 違う! あれは原子崩し<メルトダウナー>? 

え? なんであんたがそこにいるのよ? まさか知ってて?)

美琴は真っ青になった。佐天利子だと思ったのは産みの親、麦野沈利であったのだ。遠目で見間違えるほど似てきたのだ。

(ホンモノの利子ちゃんは……いない? ウソ、絶対いるはずよ……)



そのとき、ドアが開いて、一人の女子高生が入ってきた。

(あれだ!……って、なんてこと、最悪! こらぁ、あんたどこに行こうとしてるのよ、えええええ、そこに座るの? それまずい!)

 なんと佐天利子は、麦野沈利の3列前に座ったのだ。

(写真撮られたら、いやテレビにあの位置で映ったら、親娘だって思われても不思議じゃないわよ! 

だいたい麦野、あんた気が付きなさいよ? 自分の娘でしょうに!?)



そのとき、麦野が立ち上がり、通路を抜けて扉を開けて外へ出て行った。



美琴は見た。

佐天利子がゆっくりと振り返って、去りゆく麦野沈利をじっと見ていたことを。

(まさか、気が付いた? ……まさかね。一度、あの倉庫で顔見てるはずだけど、気づいてなかったし。……あとで探っておくか)



上条美琴は人知れず安堵の息を吐いた。






548LX2011/01/22(土) 00:54:41.19ZlofLuEP0 (12/15)




*上条美琴の周りに座っている人々は美琴の異変にとっくに気が付いていた。 

彼女がイライラして神経が逆立っていることに彼女の半径5m以内にいる全員が気づいており、

彼らは皆、毛が逆立つような負のオーラを浴びせられて恐怖に震えていた。



原因がどうやら観客席にいる誰かにある、ということは彼女の顔の向きで簡単にわかった。

ただ、ビリビリするその空気の中、顔をそちらに向け、その相手を捜す勇気は誰もなかった。



1人の女が出て行った直後、

彼女のとぎすまされていた神経が一気に緩んだのを感じた周りの出席者は一斉に「はー」とため息を吐き、テーブルに突っ伏した。



そして司会者が「みなさん、何かお疲れのようですが、大丈夫ですか?」と聞くハプニングが起きたのだった。





549LX2011/01/22(土) 00:57:23.65ZlofLuEP0 (13/15)


(麦野沈利 side)

驚いた。よもや、後から利子が入ってくるとは思わなかった。しかも、あたしの3列前に座るとは。

制服姿も良く決まっている。さすが、我が娘。あたしは殆ど着たことがなかったけれど。

去年の、あのときは頭は包帯姿だったけれど、今は豊かな綺麗な髪がある。こうしてみるとぐっと大人びて見える。

そうか、そりゃそうだ。もうあの子は18……。

あの子がゆっくりと左右を見渡した。その横顔は、もはや2歳の頃の面影は感じられない、1人の若い、未来ある女性のソレだった。

おもわず、あたしはあの子の一瞬の横顔に嫉妬した。

そのあと、あたしは、あの佐天という女に感謝した。

どうなることかと思ったけれど、

途中であたしと同じことをしようとしたけれど、

あのいい加減な女は、あの子をここまでしっかり育て上げてくれたのだ。

もう十分だ。

ここは危険だ。あの子と並んでしまう。見られたらまずい。

あたしは、泣きそうになるのを必死にこらえて、外へ出た。

よかったね、利子(りこ)。

ありがとう、佐天。



550LX2011/01/22(土) 01:00:30.35ZlofLuEP0 (14/15)


(佐天利子side)

あたしはまたトイレに行って吐いた。

今回のは結構つらい。回復しきる前にタクシーに乗ったからだろうか?

あたしはフラフラしながら自分の席に戻るべく、扉を開けた。

何か、気持ちの良い、不思議な感覚をあたしは感じ取った。



この感じ、どこかでこの感覚を味わったことがあるような……懐かしい? 心和ませる?



何かよくわからない、でもとても心地の良い感覚が、自分の席に近づくと、どんどんはっきりしてきた。

ヘロヘロにだったあたしはなんとか自分の席にたどり着き、腰を下ろした。

すると、その心地よい感覚がはっきりとあたしを包み込んだのをあたしは感じ取り、ぐらぐらしていた脳みそは急激に立ち直り始めた。

しばらくあたしはその感覚に身をゆだねていたが、突然その気持ちよい感覚が動き出した。

あたしが後を向くと、1人の女のひとが通路を後の出口に向かっていくところだった。

あたしはその後ろ姿に、どこか覚えがあるような気がした。

気持ちよい感覚は、その人と共に動いているようだった。

なぜなら、その人が扉を開けて出た瞬間、心地よい感覚は消滅したから。



あたしはよっぽどその人を追いかけようかと思った。でも何故か身体は動かなかった。

「みなさん、なにかお疲れのようですが、大丈夫ですか?」 

司会者が突然変なことを訊いたけれど、あたしにはわかった。

あたしは答えたかった。

(さっきまで死んでましたけど、もう大丈夫で~す!)と。




551LX2011/01/22(土) 01:06:21.84ZlofLuEP0 (15/15)

お読み下さいました皆様、御支援下さっていらっしゃる皆様、こんばんは。
>>1です。

本日の投稿はここで止めたいと思います。

少しですがまだ投稿できると思いますので、その分はこの土日で行いたいと思います。
それではお先に失礼致します。



552VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 01:17:11.25ij3fgAvqo (1/2)

乙乙
相変わらず物語世界に引き込まれる・・・
また面倒な事件に巻き込まれないといいなぁとかハラハラしながら見守ってしまったww


553VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 09:54:45.34hYE+HINIO (1/1)

乙!
相変わらず面白い
次の投下待ってるよ


554VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/01/22(土) 11:49:03.10IGsZfWYko (1/1)

あかん。定番と言えば定番なんだが、それでも母娘の再会(?)にドキドキしてしまう。


555LX2011/01/22(土) 19:53:15.06Tj18/Q2T0 (1/32)

皆様こんばんは。
>>1です。
御支援本当にありがとうございます。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

それではこれより本日の投稿を始めます。



556LX2011/01/22(土) 19:59:34.89Tj18/Q2T0 (2/32)


表彰式はつつがなく終了した。

あたしはロビーで湯川さんが出てくるのを待っていた。

「佐天さん、お疲れ様ですわ」

「は、はいっ!」

白井さんがあたしのそばに立っていた。テレポートしてきたのだろう。ちょっとびっくりだ。

「いえ、どうもありがとうございます!」

「どなたか、お待ちですの?」

「あ、湯川先輩を待ってます。今回表彰を受けてらっしゃいますので」

「あ~、そういえばチャイルドエラー虐待事件の第一通報者があなたともう一人、教育大付属高校の方でいらしたわね、その方ですわね」

「ええ、……そういえば、去年の春、第1中央能力センターで、あたしと同じグループに湯川先輩はいたんですよ? 

顔見れば思い出すんじゃないですか?」

「まぁ、それは奇遇ですわねぇ、世の中は狭いものですわね」

おしゃべりをしていたところに、その湯川さんがやってきた。

「せんぱーい、ここですよ~」

湯川さんは、手を振るあたしを見つけたらしい。

「あら、ずいぶん元気になったのね? もう具合はよくなったのかな?」

湯川さんは白井さんの顔を見て頭を下げた。

「昨年春に、第1中央能力開発センターでお目にかかっております、教育大付属高校二年生の湯川宏美です。

今回は表彰して頂きまして有り難うございました」



557LX2011/01/22(土) 20:04:48.47Tj18/Q2T0 (3/32)


「こちらこそ。風紀委員会<ジャッジメントステーツ>統括総合本部の白井黒子ですわ。

貴重な通報を有り難うございました。50人もの子供たちが救われましたの。これからも宜しく御願い致しますですの」



「いえ、元々は」

と湯川さんがあたしをぐいと前に出し、

「彼女が九官鳥を保護したからです。佐天さんも功労者ですし、あと1名、私は知らないのですが、その九官鳥から、子供たちを

虐待していた施設の場所を引き出した能力者がいるはずです。本当なら彼女もここで表彰されるべきなんです」



「鳥から情報を引き出した、ですって? それはまた珍しい能力をお持ちの方ですわね。むぅ……

と、それはともかく、その方、今回はどうして表彰されていないのかしらね」

「本人が強く拒否された、とだけわたしは聞いています。理由は存じませんが……」

「そうですの……人には色々な事情がありますから、とやかく詮索するのはいけませんわね。でも、どんな

能力でも、人の役に立つことがあるのだ、と言うことは御理解していただきたいものですわね」


最後の言葉はあたしにぐさっと来た。あたしに向かって言われたような気もした。




558LX2011/01/22(土) 20:10:20.49Tj18/Q2T0 (4/32)


「湯川さ~ん?」

あ、上条美琴おばさん?

そうだ、来賓で壇上に座っていたんだっけ。広報委員だものね、土曜日も仕事か……、大変だなぁ。

「失礼? 広報委員の上条ですけれども、えっと、あなたが湯川宏美さんでしたよね?」

後にはテレビカメラを構えたクルーが2人居る。

あたしは反射的に一歩引いた。

白井さんがめざとくあたしの動きを見て、あたしの手を取った。

次の瞬間、



 ――― あたしは白井さんと一緒に小綺麗なレストランの前にいた ――― 



テレポートされたのだ。

「そういえば、佐天さん、テレポートされても全然驚きませんのね? 朝もそうでしたし。テレポートされた経験がおありですの?」

 白井さんが不思議そうにあたしに訊いてきた。

「え? は……い、いえ、一瞬だったので驚くひまもなかったというか……」

なぜか、ここで漣さんの名前を出すのはマズイ、という気がしたあたしは、適当にごまかした。

「そうですの? まぁ、今日は近かったから1パスで済んだからかもしれませんわね。初めての方では目を回された方も

いらっしゃいますのよ、ふふふ♪」

いや、白井さん、それ、そんな嬉しそうに……ちょっと怖いです(ガクブル



559LX2011/01/22(土) 20:13:17.05Tj18/Q2T0 (5/32)


「佐天さんはマスコミの取材は苦手でしたわよね?」

白井さんが話を戻してあたしを見る。

「え……ええ、おかげさまで助かりました」

「では、あたくしは上条広報委員のところに一旦戻りますの。その前に」

白井さんはドアを開けた。ベルがチリリンと鳴る。

ウェイターさんがやってくる。

「予約しておりました白井ですの。わたくしはちょっと仕事が未だ残ってますので戻りますけれど、1名待ちますので御願いしますわ」

「お待ちしておりました。かまいませんですよ。あとどれくらいかかりそうですか?」

白井さんは時計を見て、

「そうですわね、10分~15分でしょうか?」

「そうですか、ではおなかも空くと思いますから、お嬢様には先にスターターを差し上げてもかまいませんでしょうか?」


(え? あたし、お嬢様じゃないですけれど)と言おうとしたけれど、別にどうでも良さそうなのであたしは黙っていた。



560LX2011/01/22(土) 20:25:05.29Tj18/Q2T0 (6/32)


「そうですわね、佐天さん? あなた、おなか減ってるでしょうから、スターターを先に召し上がってても宜しいかと思いますわ。

でも食べ過ぎますと、メインディッシュがおいしく召し上がれなくなりますわよ?」

と白井さんは、まるであたしの食いっぷりを見透かしたかのように釘をさした。


「は、はいありがとうございます」

そう言うや否や、あたしのおなかが「わっかりやした、親方!」と言うかのように、ぐうぅぅぅぅぅうと鳴いた。

 
   orz....



「あらまぁ……正直ですわねぇ。では、御願いしますわね」

そう言って白井さんは店を出て行った。

「それではガーリックトーストを大至急お持ちしますね」

ウェイターさんは笑いをこらえて戻っていった。




あたしはひとり、真っ赤になって固まっていた。



561LX2011/01/22(土) 20:32:04.19Tj18/Q2T0 (7/32)


「お待たせー、おなか空いたでしょー?」 

扉を開けて、美琴おばさんが開口一番あたしに向かって訊いてきた。

「おばさん、止めて下さいよ、ただでさえとっても恥ずかしい思いしたばっかりなんですから!」

あたしはまた顔を赤くして、わたわたと手を振る。

「佐天さんは、とっても正直なんですのよ?」 

うう、白井さん、止めて!

「スターターでおなかふくらますと、あとで悲しいことになるのよ? ……って、その様子だと、ちょっと食べ過ぎてない、かな?」

湯川先輩がじっとテーブルの上を見てズバッと指摘してきた。

確かにガーリックトーストを2切れ、すっごく美味しかったパンを1コ食べたけど、ナイフを使わないとうまく食べられない

固いパンだったので、随分粉が落ちてしまった。それを見たらしい。

「大丈夫、佐天さんならそんなもの、へっちゃらよね?」 

美琴おばさん、それは褒めてるんでしょうか、それとも……

「さぁさ、みんな座りましょ! って、あら? 二人足らないわね? なにやってるのかしら?」

「……ですわね。今日は朝の特命事項以外は何もスケジュールには無いはずですのに」

「ちょっと連絡してみるわ」

美琴おばさんがバックから携帯を取りだした瞬間、


「なーにうじうじしてんのよ? コーちゃん、早く入りなさいよ!」

え? その懐かしい声は……コーちゃんって?

「おまたせー! あーっ、リコ!! やっと会えたね!! やっと学園都市来たんだね! キャッホー!」

突き抜けてハイテンションの上条麻琴が、




ちょっと拗ねた感じの漣孝太郎をズルズルと引きずって入ってきたのだった。



562LX2011/01/22(土) 20:43:05.11Tj18/Q2T0 (8/32)


漣さんが麻琴に引っ張られるように入ってきたとき、あたしはどきっとした。

二人はあたしの向かい側に並ぶ形で座り、さっきの表彰式の話を始めた。

しかし、麻琴と漣さんの会話を聞いていると、この二人の関係が、只の風紀委員<ジャッジメント>同士、ではないことに気が付いた。

「あれ」「それ」

二人が同じ時を共有していないとわからない符丁。それらが飛び交う二人だけの会話が成立しているのだ。



(そうか……麻琴は漣さんとつきあってるんだ……)



そのとき、あたしは気が付いた。

(麻琴が、お化粧してる!)   



―――― 誰のために? 決まっている。漣さんのために、だ ―――― 



あたしの中に、ちょっともやもやしたものが産まれた。

(これ、なに?) 

あたしは、そのもやもやに戸惑いつつ、二人を凝視していたらしい。

湯川先輩ににツンツンとつつかれてあたしはふっと現世に戻ってきた。

(あのさ、あの二人、ここのメンバーとはどういう関係なの?)

あたしが答えようとしたとき、美琴おばさんが

「はーい、お待たせ! 始めましょう!」

とパンパンと手を叩きながら話し始めた。 



563LX2011/01/22(土) 20:46:45.29Tj18/Q2T0 (9/32)


「今日はせっかくのお休みのところ、お集まり頂きありがとうございます」

「初めての方もいらっしゃるので、まず、自己紹介から行きましょうか、言い出しっぺはわたしね。

わたしは上条美琴。学園都市の広報の仕事をしています。そこにいる、」

と、美琴おばさんは麻琴を指さして、

「常盤台学園高等部の服着た、やかましいのが娘で、上条麻琴といいます。いろいろとご迷惑おかけしていますが、

宜しくお願いします。ほら、じゃあんた、次、自己紹介しなさい」と御指名した。


「えー、御指名にあずかりました?」

といって麻琴が立ち上がって引き継ぐ。この呼吸、さすが親娘だねぇ。

「常盤台の超電磁砲<ビリビリおんな>が結婚して産んだ娘があたし、上条麻琴でございます。マコと呼んで下さいませ。

やかましいのは母譲りでございまして、あたしの責任ではございません。この母にしてこの娘あり、です。宜しくお願い致します」

ニヤニヤしながら麻琴がとんでもない自己紹介を終えた。笑いが起こるけれど……

「………」

あらら、美琴おばさん、黒いオーラが……

(なんて言ってるかわかりますか?)  あたしは隣の地獄耳<ロンガウレス>湯川さんに小声で聞いてみた。

(覚えてなさい、マコト、あとで思い切りとっちめてやるからね、だって。まぁ親娘漫才みたいなものじゃないの?)

さ、さすが地獄耳<ロンガウレス>……え? 今AIMジャマー止めてるんですか?

「僕は、漣孝太郎、飛天昇龍高校3年。僕には両親はいません。すいません、用があるので帰ります。ごめんなさい!」


えええええええええええええええ?????????? なにそれ?????



………… そ、ん、な …………



座が静まりかえった。



564LX2011/01/22(土) 20:49:07.72Tj18/Q2T0 (10/32)


漣さんがつかつかと店を出て行く。

「ちょ、ちょっとー? コーちゃんたらー、何バカ言ってるのよ? バカバカバカバカ!! ちょっと待ちなさーい!」

麻琴が漣さんを追いかけて飛び出していった。



あたしは反射的に白井さんを振り返った。

白井さんは………… じっとうつむいていた。



つーっと 涙がほほを…………


ど、どうしよう……… うかつに話しかけられない、よ。

湯川さんも息をのんでいる。




恐ろしい沈黙が席を支配した。




「おまたせしましたー、シーザーサラダですー!」

沈黙を破ったのは、お店の、明るい笑顔のウェイターさんだった。



565LX2011/01/22(土) 20:53:51.99Tj18/Q2T0 (11/32)




「あたくしが、いけなかったのですわ」 

白井さんがぽつりと言った。

「あたくしがいなければ、あの子はここで、皆さんとわいわい騒いでいたはず、ですわ。麻琴さんがいたのですもの。

あたしが、ぶちこわしたんですわ、せっかくのパーティを」

「やめなさいよ、黒子! あんたまでここ暗くしてどうするのよ?」

美琴おばさんが白井さんをなだめようと……

「わたしは、やっぱり、まだあの子に許してもらえないのですわね……」

白井さんはそう言って両手で顔を覆うと、


もう耐えきれなくなったのだろう、 


―――― 「ううっ」という嗚咽の声が漏れ ―――― 


ふっと姿を消した……。



「はぁー、どうしてこうなるのかしら……」

美琴おばさんが頭をかかえて突っ伏してしまう。




566LX2011/01/22(土) 20:56:53.59Tj18/Q2T0 (12/32)


(さっきの続きだけど、漣さんて、あの白井さんの?)

湯川さんが小さな声で訊いてきた。

(はい、息子さんだそうです。離婚されて、漣さんはお父様の方に行ったそうなんですが、でもそれも学園都市の小学校に入って

寮生活に入って離れてしまったようで、『両親はいない』というのはある意味正解かも……)

(それは漣さんは言い過ぎよ、本当にいなくなっていたらチャイルドエラーになっちゃうし。

ご両親だってどうしようもなくなって最後の手段で離婚されたんじゃないの? 捨てられたわけでもないのに。甘えてるわよ!)

(いや、そこらへんは、事情を知らない他人がどうこう言うのは止めた方が……)

(あら、佐天さん、随分とカレの肩を持つのね? んんん????)

(違います。あたしも父を知りませんから、なんとなくわかる気もする、っていうだけですよ)

(え?)



湯川さんも沈黙した。



そこへチリリンとベルが鳴って扉が開いた。

「あのバカ。あー、どうしてああ子供なんだろ?」 

麻琴が帰ってきたのだった。




567LX2011/01/22(土) 21:00:19.24Tj18/Q2T0 (13/32)


さんざんなパーティになってしまった。

美琴おばさんは黙ってワイン飲んでるし。

麻琴、あたし、湯川さんの3人も、どうも話が進まない。

料理も2人欠けて、

「リコ、全然食べないね?」
 
「うるさーい、こんな雰囲気でバクバク食べられるほど、あたしは鈍感じゃないわよー!」

……と言い返すこともなく、目一杯盛り下がったまま、パーティは終了した。

せっかくのお料理も、悲しいくらいおいしくなかった。



「ごめんなさいね、湯川さん、せっかくのおめでたい話をぶちこわしてしまって、本当にごめんなさい」

美琴おばさんが平謝りに謝っている。

「いえ、とんでもないです。呼んで頂いただけですごく嬉しかったですから」

湯川先輩、大人の対応だよねー。

第1中央能力開発センターの時といい、湯川さんにとっては絶対忘れられないイベントになってしまっただろうな。

「湯川さん、リコ、ごめんなさいね。アイツ、素直じゃないのよ。もう18にもなるのに何子供みたいに拗ねてるんだって

言ってやったんだけど、言えば言うほど意固地になっちゃって、情けないったら……もう」

麻琴が同じように謝っているんだけど……

「マコ、あのさ、つまんないこと聞くけど、あんたたち、いつからあんたたち、そういう関係なわけ? 

あんたたちの話、単なる同じ風紀委員<ジャッジメント>のメンバー同士じゃなくて、もっと親密な関係にしか聞こえないんだけど?」 

あたしはちょっと胸が痛むのを感じながら麻琴に突っ込んだ。



568LX2011/01/22(土) 21:05:57.40Tj18/Q2T0 (14/32)


「さすが利子ちゃんね……。そうよね、わが娘にしてはずいぶん積極的だけれど。麻琴? 

まさか、あんた、彼とおかしなことしてないでしょうね?」

うわ、美琴おばさんが参戦してきた。かすかに見えるのって、火花? まさか電撃??

「え、やだちょっと、二人ともなにそんなに真剣になってるのよぅ? あたしとコーちゃんはそんなことありません!」

「ちょっとあんたねぇ……」

前に出ようとする美琴おばさんを制して、あたしは麻琴をひっつかまえた。

「やだ、目がマジだよ、リコってば。 いや、ちょっと離してよ、あたし何もヘンなことしてないってばさー!」

あたしはじたばたする麻琴を左手でぐいっと抱き押さえ、がしっと抱きしめた。

「マコ、あたしの目を見なさいな」 

そう言いつつ、あたしは麻琴の目を見つめながら右手で麻琴をなで回す。

「どうなのよ? ホントのこと、リコねぇちゃんに言ってごらんなさい」

小さな声であたしは麻琴に話しかける。

「……」 

湯川先輩は目を丸くして、あたしたちの怪しげな雰囲気の会話を茫然として聞いている。



「ふにゃー……」

「ふにゃーじゃないでしょ? マコ? どうなのよ?」

「だからぁ、まだ何もしてないんだから……、ほっぺにキスしただけだよぅ、うふふふふ♪」

あたしの手が止まった。



569LX2011/01/22(土) 21:10:48.50Tj18/Q2T0 (15/32)


「マコがしたの?」

「うん……」 

ま、なんて幸せそうな顔しちゃって……

「いつ?」

「4月10日だよ? 高校入学おめでとうって、これ、ペンダントもらったの……。嬉しかったなぁ……

でね、御礼にね、ほっぺにしちゃったの。うふふふふふ」

麻琴がとろーんとした顔で、可愛らしいハートマークのソレをつまんであたしに見せる。

うわぁー、あほらしい!!!! あたし、まるでバカじゃん? 聞いてられないわぁ! あたし、泣きたい! 



ふと脇を見ると、湯川先輩が真っ赤になっている。

お母さんの美琴おばさんは……あれ?少し震えて……る?



「そしたらね、カレがね、あたしの唇にね、チューしてきちゃったのぉ……キャ、恥ずかしい!」


 !! こらぁ! したんじゃないかい!! ちゃんと何かしてるじゃないかぁ!! 偽証だ!


「有罪<ギルティ>」 湯川先輩が厳かに断言した。

「は……」

くたっと美琴おばさんがしゃがみこんでしまった。

「ママ!?」
「おばさん!?」
「上条さん!?」

あたしたち3人が駆け寄る。

「はは、今日は、すっごくいろんなことがあった日だわねぇ……悪酔いしたかな……ちょっと足にきちゃったかも」

美琴おばさんは、何とも言えない顔でつぶやいた。

「黒子と(あたしが)親戚に? いや、まだ(そうならない)可能性はあるわ、あるはずよ、あるに決まってる……」


あたしもちいさくつぶやいた。

「不幸だ」

湯山さんが「はい?」という顔をした。



570LX2011/01/22(土) 21:15:04.13Tj18/Q2T0 (16/32)


あたしは湯川先輩と一緒に寮に戻ってきた。

「お、帰ってきた!」
「リコー、もう具合はいいの?」
「カレはどうしたの?送ってもらったの?」

カオリん、さくら、ゆかりんの三羽がらす、がめざとく突撃してくる。

あー、うざったい! あたしは、今、最高に機嫌が悪いぞ~!!!!

「ごめん、あたし、気分わるいからちょっと寝る!」

「へ?」 
「え?」
「はい?」

予想していなかったのだろう、三人があっけにとられていた。



(はぁ、あの、麻琴が、ねぇ……)


あたしはベッドに寝転がって考えていた。

理由は随分違ったものになったけど、あたしは学園都市に来た。麻琴がそこにいたから、という理由も実はゼロじゃない。

(なのに、あんにゃろう、あたしに断りもなく、しかも漣さんとキスしちゃったですって、嬉しそうにノロケちゃって!

なーにがペンダントもらっちゃいましたよ、ムフフフフフですって? ばっかやろぅー!)



571LX2011/01/22(土) 21:19:24.18Tj18/Q2T0 (17/32)


「どう?」   大里香織が小声で訊く。

「かなり荒れてるみたい」   青木桜子が、前島ゆかりのノートを見ながら答える。

「あんたたち、ほんとストーカーだわよ?」

あきれつつも、湯川宏美は青木桜子と一緒に前島ゆかりのノートを食い入るように見ている。

「シッ!! 聞こえなくなるからしゃべっちゃダメ!」

ドアに張り付いた前島ゆかりは、自分のノートに自動書記<オートセクレタリ>で、佐天利子が中で喚いてる言葉を打ち出して行く。

「マコって誰よ?」   大里香織がつぶやく。

「たぶん友達でしょ?」   青木桜子が答える。

「か・な・り、危ない感じのね。姉と妹みたいだけど、ちょっと百合ッ気あるわよ、この二人の関係。

昔からの幼なじみです、とは言ってたけどね」

湯川宏美が、ついさっきの二人が絡んでいた場面を思い出してわずかに赤くなる。

「うそー、リコが? ちょっと想像できないかも……」   青木桜子の声が高くなる。

「ちょっと、さくら、声でかい!」   前島ゆかりが小声で注意する。

「さくらだってその気あるじゃん……」   大里香織が小さな声でつぶやいた。
 
「それでね、朝のカレ、そのマコって子とつきあってるらしいのよ」   湯川宏美が話を続ける。

「えー? 百合なのにぃ?」   前島ゆかりが思わず叫ぶ。

「声がでかーい!」   青木桜子がお返し、と言う感じでパシ、と軽く前島ゆかりをはたく。

「で、とりあえずキスまではしちゃったって」   湯川宏美が小さな声で言う。

「うそー!」
「あちゃー、それでか……」
「やるねー、その子」

三羽がらすが声を揃えて ”小さな声” で驚きを表現する。



572LX2011/01/22(土) 21:24:59.02Tj18/Q2T0 (18/32)


「そっかー、朝のあのひと、先に友達にツバつけられちゃってたんだ……?」   青木桜子が頷きながら言うと

「あるよねー、そう言う例ってさ」   大里香織が同調し、

「いやー、あたしも話には聞くけど、実際に現在進行形で見たのは初めてだわ」   湯川宏美が話を合わせる。

「そっか……リコはダブルショックなんだね」   前島ゆかりがぼそっと言う。

「「「?」」」   三人がはてな?と言う顔でゆかりの顔を見る。

「そうでしょ? かわいがってたお友だちはオトコとつきあってた、そして自分がちょっと気を引かれたオトコは自分のそのお友だちと

つきあってた、という訳だからさ……」

「おお、昼メロだねぇ」
「ドロドロだねぇ……」
「そうね、ダブルパンチだね……」



”バカーっ!!” 

部屋の中から、主である佐天利子の悲痛な叫びが聞こえてきた。


「うは」
「こりゃまたでかい波が来たねぇ」
「そろそろ、避難します?」
「そうね、もうだいたいわかったから撤収しましょ?」

佐天の部屋の前で集結していた4人はそそくさと引き上げていった。



……翌日、せっかくの日曜日なのに、寮監から4名は呼び出され、監視カメラの映像を見せられた上で「覗き」の現行犯として

こっぴどく怒られたのは言うまでもない。罰は食堂の大掃除であった。

とくに風紀委員<ジャッジメント>であり、表彰されたばかりの湯川宏美は残されて、こんこんと説教をされたうえで食堂の掃除

に放り込まれたのであった。



573LX2011/01/22(土) 21:32:40.64Tj18/Q2T0 (19/32)


日曜日。

本当なら昨日パーティのあとに買ってくるはずだったジョギングシューズだが、昨日は結局それどころではなかった。

今日買ってこないとまたしばらく買いに行けない。今日は意地でも買ってくるぞ~w

さて、出かけるか、と言うところに麻琴からメールが入ってきた。

「おはよー、リコ、今日ヒマ? 時間あったら遊びに行かない? おいしいケーキ屋さんまだ連れて行ってないからどうかな?」

うーん、とあたしはちょっと考えた。今日はジョギングシューズ買いに行きたいんだよなぁ……

先にアロースポーツ行ってから麻琴お勧めのケーキ屋さん、という手もあるか……



と考えていたときに今度は「アイツ」からメールが来た。

「昨日はとんでもないことをしてしまって、ごめんなさい。反省してます。麻琴さんに大変しかられました。

お詫びにお二人にケーキ奢ります。これからどうですか?」

   ――― かちーん ――― 

なによ、これ? あたしが行ったら、麻琴とアイツのカップルにくっつくってことじゃないの?

あんたら二人のお熱いところなんか見たいもんかー! 好きにしろ・好きにやってろ・してやがれだ…… 

あ~ぁ、せっかくの日曜日の朝から……不幸だ。

あ、バス来た。



あたしは乗り込んだバスの中から二人にメールを打った。

「おはようございます。お誘い嬉しいけれど、今日はどうしてもやらなきゃいけない用事があるので、ごめんなさい。

お二人でどうぞ!」

メールを打ったあと、あたしはケータイの電源を切った。へへ、知ーらないっと。

………