1LX2010/11/07(日) 21:03:03.84T9C4vLc0 (1/28)

初めて投稿致します。
皆様どうぞ宜しくお願い申し上げます。

*地の文あり、小説形式?というのでしょうか。
*基本的に主人公が語る方式ですが、場面によっては他の人の視点や、第三者
 視点で書かざるを得なかった部分があります。
*基本メンバーは科学サイドのみ、魔術サイドの人々は出ません。
*書いてみてわかりましたが、男性キャラが全く足りませんのでオリキャラで
 補充せざるを得ません。ご了承下さい。
*一応完結させたのですが、全ての伏線は回収できませんでしたし、種明かし
 をしたに過ぎない状態になっています。
 続きをどういう形にするか、まだ決まっておりませんが、まずは投稿して
 みようということでやってみました。

どうぞ宜しくお願い申し上げます。



2LX2010/11/07(日) 21:06:03.52T9C4vLc0 (2/28)

「行ってきま~す!」

「気を付けて行ってらっしゃい、利子」

どこにでもある、朝の風景。

あたしは佐天利子(さてん としこ)、中学2年生。東京のとある中学に通っている。

今日は珍しく母が見送ってくれた。というのは、母は学者で、ざっと月の半分はどこかに
出張してしまい家にいないからだ。

母の名前は佐天涙子(さてん るいこ)という。その筋ではかなり有名で、日本のみなら
ず海外にも知られており、年に数回は海外出張もある。

昔、小さい頃は母に連れられて一緒に講演に行った事もあったらしい。

らしいというのは、記憶がうろ覚えだからだ。

でも、小学生になった頃からあたしは知り合いに預けられるようになり、母は一人で出張
するようになった。

もちろん最初は、あたしは泣きわめき、床に転がり、うずくまって最大限に抵抗したが、
その日の母は強かった。

「お母さんの言う事が聞けないような子は、私の子じゃないよ!」

「そんなにいやなら、どこにでも行きなさい!」

こども心にも、本当に捨てられるかもしれない、という恐怖心がわきあがるくらい、その
ときの母はとても怖い顔をしていた事を覚えている。

あたしは恐ろしくなり、そして諦め、せめてもの抵抗として「なら早く帰ってきて」と泣
いたのだった。




3VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/07(日) 21:10:27.0307s1lJk0 (1/1)

佐天さんの夫が誰か、それが問題だよな……
期待する


4LX2010/11/07(日) 21:12:09.26T9C4vLc0 (3/28)


――――― 父はいない ――――

小さい頃は「遠いところにいるのよ」と言われ、小学校に上がったときに「あなたのお父様は、
あなたが生まれてまもなく事故で亡くなったの。とても立派な人だったわ」と教えられたのだ。

(そうか、あたしのおとうさんはいないんだ)とその時理解した。よそのうちにはおとうさん
がいるのに、どうしてうちにはいないんだろう?とずっと不思議だったのだけれど。

でも、直ぐに(おかしいな)と思うようになった。なぜなら、わが家には、父と母の結婚式の
写真がないのだ。

ある時、小学校に入って間もない頃、友達の家に遊びに行ったとき、「見て見て、あたしの
うちのアルバムなんだけど~♪」

と彼女の家のメモリアルアルバムを見せられたのだった。

あたしは初めて世の中にはそういうものがある事を知った。

あたしは自分の家に帰り、出張から戻っていた母に「あたし、パパとママの結婚式の写真見た
いな」と無邪気に聞いてみた。

すると、いつもならどんなにくたびれて帰ってきたときでもニッコリとほほえんでくれる母が
一瞬青ざめたのだった。

それは、こども心にも(え?まずいこと聞いちゃったかな?)と思わせるに十分だった。

でも、直ぐに母はにっこりと、でもどこかいつもと違うほほえみであたしにそっと答えてくれ
たのだ。

「ごめんね、としちゃん。写真、撮ってないの。もう少し大きくなったらちゃんと答えてあげ
るから」

(大きくなったら、っていくつになったら教えてくれるの?)………………と、もう一度聞こ
うとおそるおそる母の顔を見上げると、

そこには「お願い、聞かないで」と書いてあった。

(聞いちゃいけない事を聞いたんだ)と感じていたあたしは、気まずい空気を吹き飛ばすように

「ママ、おなか減ったよ~、今日のごはんは(なに)?」と大声を上げ、母は「はいはい、

今日はカレーライスよ」とホッとしたように答えてくれたことをあたしは今でもはっきりと

覚えている。


5VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/07(日) 21:18:39.89QWFG/EAO (1/1)

支援④ 神スレの予感

なんか俺と境遇が一緒で…orz


6LX2010/11/07(日) 21:19:57.40T9C4vLc0 (4/28)

学校はちょうど2学期の期末テストが終わったところ。自分の進路を絞りこまねばならない時
が来ていた。

自分はどちらかというと、理系は苦手で、文系に進みたいと思っている。母はあたしを医者に
したいようなのだけれど、そもそもあたしは血を見るのが嫌いなので、かなり早いうちから母には「医者にはなりたくないの」と話していた。

母は「まぁ、あなたの人生だから」と鷹揚に構えていたけれど……



7LX2010/11/07(日) 21:23:45.67T9C4vLc0 (5/28)

「リコちゃーん!! 待ってよー! 一緒に帰ろ!」

マコちゃんだ。いつも元気なあたしの大親友。

ちなみにあたしはみんなから”リコ”と呼ばれているのだ。

「ちょっと待った! ハイ、さっさとコレ触る!」あたしはとあるキーホルダーを取り出し、彼女の前に突き出す。

「アンタも神経質ねー、大丈夫だってばさー」とふくれっつらをしながらもマコはそのキー
ホルダーを左手で触る。彼女は左利きなのだ。

        ――― ピカッ ―――

静電気防止キーホルダーはその瞬間輝き、彼女が手を離した後もしばらくLEDライトは
光を放っていた。

「ほ~ら見なさいよ、しっかり光ってるじゃない。どこが大丈夫だって? ビリビリは勘弁
してよねー、全く。アンタ、まさか毛糸のセーターでも着て来たんじゃないの?」

と突っ込むと、

「そ、そ、そんなの着てないわよっ!」とマコが真っ赤になって言い返してくる。

「ほうほう、じゃぁもしかして?」とあたしは………

        ――― ファサァーッ ――― 

マコのスカートをまくり上げたのだった。

「あれ? 只の・・・ってゲコ太? ……って何よ、何なのぉ?? わー懐かしいわぁ!!」

一瞬、マコは呆然と立ちすくみ、

次に顔を真っ青にして

それから真っ赤になり

「リリリリリ、リコぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」と叫ぶや否や、あたしに飛びかかってきた。

もちろん対策は打ってある。あたしは、飛び込んできた彼女を抱え込む形を取り、鎖を長く
垂らしたキーホルダーを彼女のアタマにガシッと当ててやる。あたしの編み出した安全対策だ。

「かわいいねぇ、リコ!」

「ふにゃ~」あっけなく彼女は崩れ落ちてしまった。



8LX2010/11/07(日) 21:28:46.08T9C4vLc0 (6/28)


「まったく、只でさえマコは静電気貯め込みやすいんだから……もう冬なんだし自分でも
ちゃんと対策しなさいよ」

「だ、だからって、なななんでスカートまくるわけぇ?」うるうるしながらマコが見上げ
てくる。

か、かわいい。ものすごく可愛い。この姿が見たくて実はやっている、ということは絶対
にナイショだ。

「そりゃー、静電気が貯まってる、ということはマコが毛糸のセーターを着ているか、
さもなければ毛糸のパンツを履いているしかないでしょー? 

来年には3年生になろうという乙女が毛糸のパンツはマズイでしょ?

でさ、ゲコ太っていつの時代のキャラパン履いてるのよ??」

「そ、そんなもの履いてるわけないでしょー!! だいたい校庭の真ん中で言うことじゃ
ないわよ! は、恥ずかしいでしょっ!!」

あ、そうだったっけと、顔を上げ廻りを見ると……

「いやぁ眼福眼福」
「マンガのパンツw」
「中学でスカートめくりかよw」
「なんで女の子同士で……?」


――― やばい、ひじょーにやばい ――― 


「し、失礼しましたーっ! マコ、帰るわよーっ!!」右手で彼女の左手をひっつかみ、
脱兎の如くあたしはマコと共に校門を飛び出した。



9LX2010/11/07(日) 21:34:06.32T9C4vLc0 (7/28)

「酷いよー、リコったらぁ………」

「いやぁ、あんなに人が集まってるなんて思ってもみなかったんでねぇ、ごめんね、マコ」

あたしたちは家に向かって帰って行く。あたしたち二人の家は実は凄く近いのだ。

「うう、あたし、もうお嫁に行けない」

「そりゃまた大変だねぇ」

「誰のせいなのよ?」

「まさか……あたし?」

「他に誰がいるのよ」

ちと派手にやりすぎたのだろうか。さすがに少し反省する。

「かくなる上は……、やっぱり学園都市の高校に行くしかないかも……」

「なんで話がそうなるかなー ……はぁ」

来年は3年生。そう、受験の年になる。今まではずっと先だと思っていた「高校受験」が
なんとなく見えてきた気がするこの頃。

でも、あたしたちの「来年の受験」の話はちょっと違っているのだった。

「あたしのパパもママも学園都市出身じゃない、やっぱり行ってみたいもん」

「あたしはダメ。行けない」

「前もそう言ってたよね。なんで? リコのお母さんだって同じでしょ?」

「うーん、そうなんだけど……。母さんは絶対反対全否定、だからねー。自分はしょっちゅう
行ってるのにさぁ。ずるいよね。

まぁマコはさ、能力の片鱗が見えるじゃない。もちろんご両親とも”あの ”学園都市でスゴイ
しさー?
 
だから行った方がいいんじゃないかな。あたしは、母さん同様何もないからね。母さん、凄く
大変だったっていうのよ。

いじめられたってよく言ってた。無能力者が行くところじゃないって」

それでも、いじめを見返すために母は勉強で頑張った……らしい。あたしとは大違いだ。

「えー、リコが行かないんなら、あたしも行くのやだなぁ」

「なんであたしが行く行かないで、マコが悩むのよ?」

「だって、「あら、二人とも今帰り?」 ママ!?」


10LX2010/11/07(日) 21:40:00.33T9C4vLc0 (8/28)


交差点を渡ってやってきたのは、マコのお母さんだった。久しぶりだ。1年ぶり……だろうか?

相変わらす綺麗な人。マコも全体的には似ている。でも髪がマコは黒髪でおばさんは栗色。

マコはお父さんに似たのだろうか?

あたしは……父さんを知らないから似ているのかわからない。はー、いやな事を思い出して
しまった。おっと挨拶しなきゃ。

「こんにちは、おばさん。母がいつもお世話になってまーす」

「まぁ、ちょっと見ないウチに大きくなって。元気そうだわね」

「母も珍しく家にいますよ。よかったら寄っていきませんか?」

「あら、ほんと? あ、でも私もこれからウチに帰るところなの。私も久しぶりだからまずは
お義母様に挨拶しないと、ね?」

「ママ、今度はいつまでいるの?」ちょっと引いていたマコが心配そうな顔でお母さんの顔を
見ている。

あたし、おじゃま虫かも。少し歩くタイミングを遅らせてみた。



11LX2010/11/07(日) 21:41:57.73T9C4vLc0 (9/28)


「ごめんね。今回は3日だけ。そんなことより、勉強は進んでるの? 試験は出来た? 来年は高校受験なのよ?

 まぁアタシの娘だから大丈夫だとは思うけど、アイツの血も入ってるわけだから……」

「はいはい、ノロケ話のフラグ立ちました~w」

「なっ、なにを親をからかってるのよっ!」

どう見てもあたしは邪魔だ。親子水入らずだよね。ここはいったん引こう。

「それじゃぁ、私はここで。母におばさんが戻ってきてることは伝えてもいいですか?」

「あら、利子さん、随分他人行儀になったわね? 昔は…いやそんなことよりお母様いらっしゃる
のね。

だったら、佐天さん、じゃなかった、あなたのお母さまには私が直接電話するわ。

明日は土曜日だし、ウチでお昼にパーティやりましょって、どうかな?」

「わーい、パーティだぁ! ごちそうだぁ!」

マコがはしゃぎまわる。さっきの悪夢はもうすっかり忘れてくれたらしい。切り替えが早いのも
彼女の良いところだ。

「こらっ! もう子供じゃあるまいし、道の真ん中で跳ね回るんじゃないっ!!」

いいなぁ、こういう親子ってのも……

「じゃぁ、リコ~、明日またね~ 待ってるよ! ♪♪」

「利子さん、あなたからもお母様によろしくってね。明日はとっても良い日になりそうだわ」

「はい! こちらこそ宜しくお願いします!!」あたしは深々と二人にお辞儀をして別れた。



………… かくして、明日、パーティが急遽行われる事になった。

ウチの隣の隣、上条家(かみじょうけ)で。


12LX2010/11/07(日) 21:51:01.77T9C4vLc0 (10/28)


「え、こっちにいらしてるんですか? ………… 明日のお昼ですか? ハイ、もちろんOK
ですとも! 

この佐天涙子、命に代えても!」

いつもはむつかしい事を考えている母も、昨日家に帰るとものすごくゴキゲンだった。

ここ最近見た事がないくらいのハイテンションぶりだった。あんな楽しそうに電話している姿
はいつ以来だろうか?



そして今は日が変わってその土曜日の朝10時過ぎ。

「うかつなもの持っていけないしなぁ……とりあえずお花は持っていこうか……

みんなでつまめるものは? と…… それよりか、いっそお肉と野菜持っていって、ちゃちゃっ
と借りてやっちゃおうか……」

あれこれ悩んでいるようだけど、とっても楽しそう。

「あ、利子、そのお花と、ウーロン茶とオレンジジュースの袋持っていって。アタシちょっと
電話してみるから」

「はーい」

そこへピロピロと電話がかかって来た。マコからだ。

「おはよー、リコ。いつ来る? 出来ればさー、直ぐ来て欲しいんだけどさー」

「なに? どうしたん??」

「ママよ、ママ。ちょっとテンパっちゃって……」

「母さーん、おばちゃんテンパってるみたいよー」

「ほーぉ? この佐天さんにおまかせあれ!っていっといて。さぁ行くわよ! 佐天一家のお通りだぁーっ!」

……なんなのかしら、このテンション。あたしら一家っていったって二人だし。まぁいいか、ふふ♪


13LX2010/11/07(日) 21:54:38.39T9C4vLc0 (11/28)


なんせ隣の隣なので、あたしたち親娘は直ぐに現場に到着した。

上条家。あたしの第2のふるさと、と言ったら大げさかな。

「お待ちしてましたっ!」と門を開けるマコの顔は、救世主を迎えるかのように輝いていた。

「お久しぶりです、佐天おばちゃん!」

「ホント、こちらこそご無沙汰。おととい帰ってきたんだけど挨拶できなくてごめんなさいね。
いろいろあって。

(しげしげとマコの顔を見て)いつも利子の面倒見て頂いてありがとうね、マコちゃん。
でもホントお母さんに似てきたわね」

「いえいえ、そんなぁ/// ……。 リコちゃんだって…………そ、そっくりですよぉ!」

……本当にマコは正直。あたしと母さんは実は全然似ていないのだ。女の子は父親に、男の子は
母親に似る、と言うけどあたしはきっと父親に似たんだろう。

……どんな顔だか知らないんだけど、あたしに似てたんだろうな。

「で、そんなことよりどうしちゃったの? 何があったの?」

「そ、そうでしたっ! ととととにかく、現場の方へ! こ、こっちですっ!」

おいおい、マコ。アンタまでテンパってどうするんだい?って…………おーい、なんじゃこりゃ??




綺麗に飾り付けられていた「らしい」ダイニングルーム。

         
             そこには。


ぐちゃぐちゃになっている食器と料理、それになんか焦げくさい。


 「ふにゃ~」

その中に呆然と座り込む―――― 上条美琴(かみじょう みこと)―――(マコの母)と、

「あらあら、まぁどうしましょう、ちょっと美琴さん、どうしちゃったの?」

あまりの事におろおろする―――― 上条詩菜(かみじょう しいな)――― (美琴の義母/マコの祖母)

「ちょっと、ママったらぁ、なんで電撃しちゃうのよー! しっかりしてよ、もう!」

と美琴をピタピタと叩くマコ―――― 上条麻琴(かみじょう まこと)―――― がいた。


14LX2010/11/07(日) 22:03:56.76T9C4vLc0 (12/28)


「いやぁー、安心しましたよ、御坂さ…もとい、上条さんらしいなって、変わってないなーって♪
あはははははっ!」 

母がとても快活に笑っている。

むすー、としていた美琴おばさんは母の笑いに釣られかけて、とっても変な顔になっていた。

「ちょおっとー、そんなに笑う事ないでしょー? そ、そりゃぁさぁ、ちょっとお粗末だったけどさ……」

「いやいや、ご謙遜を。十分お粗末ですよー、これ」


――― あたしたちが受けた説明によれば ―――

料理を並べ始めた時に、壁のすみっこからついーっと滑るように「ボク呼びました?」と物体Gが高速で
足下に接近するのを捉えた美琴おばさんは、反射的に「ぎゃぁーっ」と叫びバランスを崩した後に電撃が
暴発し、TVのギャグそのままに部屋の中のものを吹き飛ばしたらしい。

ご丁寧に最後は金たらいが壊れた天井から落ち、おばさんのアタマを直撃……ということは幸いなかったという。

「あらあら、わたしそれ好きなのよー、今度是非お願いね♪」と詩菜大おばさまが発言して、美琴おばさんが

「お、お義母さま……」

と落ち込む嫁姑コントが、収まりかかった母をまた笑わせた。

「利子、マコちゃん、あんたたちは部屋をちゃっちゃっと掃除しちゃって。アタシその間に料理やっちゃうから」

と、いきなり腕まくりをした母はどこから出したのかエプロンをさっと着て、キッチンにずいっと入り込み、

持ち込んだ材料をそこへ並べるや否や「ふんふんふーん」と鼻歌を歌いながら、あっという間に3品の料理を

作り上げた。やっぱりスゴイ。

「あらあら、佐天さん、すごいわぁ。やっぱり貴女のそのお料理テク、とっても役にたつわねぇ?」と無邪気に

母を褒める詩菜大おばさまのむこうで「ちょっ、そ、それ、お義母さま、きついですわ」と美琴おばさんがまた
落ち込む。

うーむ、こうして見ていると、麻琴のところ、ちゃんと嫁姑の戦いがあるんだな………。



15VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/07(日) 22:04:38.71CeGoJqQo (1/1)

齢77になる俺の婆さんも、名を利子と言ってだな


16VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/07(日) 22:08:31.77ZduK2sAo (1/1)

>>15
まさか俺達は第五世代?


17LX2010/11/07(日) 22:14:22.36T9C4vLc0 (13/28)


なんやかんやでお昼もまわった頃。

涙「それじゃぁ、かんぱーい!」
美「かんぱーい」
詩「はいはい、かんぱいね、おほほほ」
麻「いっただきまーす!」
利「いただきまーす!」

ということで、ようやく上条家でのホームパーティが始まったのだった。

「もう、ママったら、どうしてジャマー外しちゃったのよ!ダメじゃないの~」 

麻琴が文句を言っている。

(おいおい寝た子を起こすか、いや寝ようとしていた母を起こす、かね)とあたしは心の中で
つっこんでみる。

――― 美琴おばさんは、実はただ者ではない。あたしたち親娘からすると別世界のひと、と
言っても良い。

いわゆる「超能力者」の一人なのだ。私と同じ年の頃、既におばさんはあの学園都市で
「超電磁砲<レールガン>」というちょっと物騒な、しかしまさしくドンピシャの
「利子さん、どうかしたかしら?」

(おっと、美琴おばさまのいきなりの攻撃! 読心術か?? 多重能力者に進化したのかっ?)

脳内で絶賛つっこみ中だったわたしは、「は、はいっ??」不意打ちに声がうわずってしまった。

「んー、何かあたしに言いたそうな顔してたからさ」 

「ママ、話をはぐらかさないの!」 ナイスフォローだよ、マコ。さすがあたしの妹分。
 
麻琴が指摘した「ジャマー」、正式には「AIMジャマー」とか言うらしい。超能力を押さえ

込む、文字通り「邪魔」をする機械で学園都市以外では能力を使う事が厳しく禁じられている事

から常時着用しているのだそうだ。

昔はそれこそトラックにでも積まなければならなかったくらい巨大なものだったそうだが、今では

非常に小型化されて普段着用していても差し障りがないくらいになっているらしい。

で、料理に奮闘していた美琴おばさんは、装着していた腕輪、すなわちAIMジャマーを外して、

おばさまの十八番のひとつセルフIHクッキングに取りかかったのだそうだ。キャンプで無敵の能力

だよねぇ、といつも感心している力だ。

そして何もなければ良かったのだが……って、これ、違反なんじゃないの?


18LX2010/11/07(日) 22:19:34.65T9C4vLc0 (14/28)


「あらあら、そう言えば利子ちゃんもウチ来るの、ちょっと久しぶりじゃないのかな?」

今日はゴキゲンな詩菜大おばさまがにこにこしながらあたしに話を振ってくる。

(あのう、わずか2日ですけれど……?)と、大おばさまに脳内で軽くツッコミを入れておいて、

「そう「すみません、おばさま、本当にご迷惑ばかりおかけしてしまって。

この佐天涙子、ほんとーに感謝致しておりますっ!」」

と私が返事をしようとした途中に母が割り込み、へへーっと平伏する。

「あらあら、いいのよ、止めてちょうだい。私はね、本当に良い子に恵まれて、私の方こそお礼
言わなくちゃ。

ウチは男の子だったでしょ? それで当麻が学園都市に行った後は、本当に寂しかったのよ。

刀夜はろくすっぽ家にいないし。

でも、あの子が美琴さんと結婚して麻琴が生まれて、ウチで預かる事になった時は、ああ、

ようやく私にも女の子が出来たわぁってホント嬉しかったのよ。さぁこれから……」と遠い目を
して頬に手を当てて昔に思いをはせている大おばさま。

ふと美琴おばさんの方を見てみると、おばさんは少しプルプルふるえて……え? まさか? 

「ええ、ええ、どうせ私はろくに子供の面倒も見れない嫁失格、母親失格人間ですよ……」

ぶつぶつつぶやいてる。美琴おばさま、暗黒面に入りかけてる。まずいです、これは。

麻琴は既に警戒信号(黄色のパトランプ)を出してるし。今はちゃんとジャマー付いてる、よね?

大おばさまは気が付かないのか、話を続けてる。これはちょっとあたしが割り込んだ方がいいかもね。

「詩菜おばちゃん、育ててくれてありがとうね。あたし、おばちゃん大好きだよ」

「あらあら、どうしたの今日は。でも嬉しいわ、そう言ってくれると。うふふ、おばちゃんもね、

としこちゃんが大好きよ。本当によかったわ、あなたがウチに来てくれて」

そう、詩菜大おばさまは、あたしの育ての親、というのは言い過ぎかもしれないけれど、それに近い
存在なのだ。

正確にいえば、麻琴もまた……。


19LX2010/11/07(日) 22:22:46.45T9C4vLc0 (15/28)




ちなみに、話に出てきた”刀夜 ”というのは、上条 刀夜(かみじょう とうや)さんで、

詩菜大おばさまのご主人、美琴おばさんのお義父さん、麻琴のおじいちゃんにあたるひと。

あたしもたまに顔を合わせるのだけれど、すごく格好いい。若い頃はもてたそうだ。

詩菜大おばさまもその点では結構苦労したらしい。ただ、この話を出す事は自殺行為なので、

今回もあえて触れない。

せっかくのパーティがお通夜になってしまう。華麗にスルーが鉄則なのだ。




20LX2010/11/07(日) 22:30:28.35T9C4vLc0 (16/28)

入籍する前に亡くなってしまったあたしの父。シングルマザーとなったあたしの母は、
実家から勘当されたと聞いている。

覚悟はしていたらしいが、実際にそう言う状況に置かれて、母は途方に暮れたらしい。

詳しい事情はまだ教えてくれないが、母を救ってくれたのはこの上条美琴おばさん。

お友達のつてであたしを保育施設に入れてくれたそうだ。

母はあたしを学園都市の学校には絶対行かせたくなかったので、小学校に入る前に親娘
とも学園都市を退去することにしたそうだが、その際のごたごたを全部引き受けてくれ
たのも美琴おばさんだったそうだ。

更に母の仕事が急激に忙しくなり、今までのように子連れ出勤することが出来なくなり
そうになったとき、再び手をさしのべてくれたのもやはり美琴おばさん。

実家は問題があって預かれないので、当麻おじさん経由でお義母さまに相談してみたら
二つ返事で引き受けてくれたのだそうだ。

実際にはその時には既に麻琴は、美琴おばさんが学園都市ではなく普通の学校に通わせ
たいからという理由で詩菜大おばさまのところにいたんだけれど。

母はなるべく近くに住みたいからと家を探したら、出来すぎた話だけれど上条家の隣の
隣が売りに出たので速攻で購入した。

ちなみにローンはまだ終わっていない(笑

その際の保証人も美琴おばさんがなってくれたそうだ。

何から何まで美琴おばさん頼み。もうウチは美琴おばさんに一生アタマが上がらないん
じゃないだろうか。



21LX2010/11/07(日) 22:37:04.53T9C4vLc0 (17/28)


それで話を戻すと、普段はあたしたちは母娘で暮らし、母は出張に出るときにはあたしを
上条家に預けてゆく、という形を取ったのだった。

あたしからすると、家が2軒あるのと同じことだったし、逆に「上条のおば(あ)ちゃんち」

(最初、「あ」を入れて呼んだところ、『あらあら、そんな年に見えるのかしら、ショック
だわ~。もう今日はご飯作る元気ないわ~』とご飯抜きの刑をくらってしまったので、
命に関わる禁句のひとつとなった)

に行くと、詩菜おばちゃんはとても優しいし、麻琴と一緒に寝るまでおしゃべりできる事が

楽しくて、実際のところは母が考えたほど苦痛ではなかった。

あげく、一時期母が頻繁に出張を繰り返していた時、上条家にあたしを迎えに来た母に向かって

「ねー、お母さん、今度はいつ<来るの?>」と聞いてしまい、母がボロボロ泣き出して
しまった事があった。

笑い話にもなるくらい有名なネタだけれど、言われた母には相当のショックだったらしい。

しばらく出張を控えたらしく、確か1ヶ月以上家にいた。

詩菜おばさまから「麻琴が寂しがってるので、二人で是非うちにお泊まりに来て欲しい」

とお願いが来たのには参ったけれど、母は

「なら、今こそ普段の借りを返すときだぁ~!」

と逆に麻琴を拉致同然に連れてきて、その日は我が家でどんちゃん騒ぎだった。

麻琴が詩菜大おばさまにそれをしゃべったものだから(普通報告するわな)、

「あらあら、私、のけものにされちゃったのね。ああ、凄く寂しすぎるわぁ~」

とマリアナ海溝より深く沈み込んでしまい、引き上げるのに3日付きっきりでお世話するハメに

なり、母の休みが詩菜大おばさまのご機嫌をとる事で終わったのは暗黒の歴史の1ページだ。



22LX2010/11/07(日) 22:47:14.38T9C4vLc0 (18/28)


ふと気が付くと、

「もうね、楽しいわ。やっぱり子供の笑う声が聞こえる家って、幸せそのものじゃないかしら」

「男の子って、家を出てっちゃうから……。この娘たちは、わたし、私の娘にするんだから~。

うふふふふっ♪ 私に出来た女の子2人。あれもこれもしたいなぁって。」

詩菜大おばさま引き続き絶好調、独演会絶賛開催中。

……というわけで、大おばさまには遠大な、かつ危ない下心がかなりあったようだ。

預けておいてなんだ、と思うけれど、美琴おばさまも母もうすうすこの下心には気が付いていて、

あたしたちがおばあちゃんっ子にならないようにかなり気を付けていたらしい。

結果的に、あたしと麻琴は母さんたちからは厳しくしつけられることになったのは言うまでもない。

同性に厳しい、すなわち、母親は娘に厳しく、父親は娘に甘い、という話もあるけれど、あたしと

麻琴の場合は、母は厳しく、祖母(あたしの場合、小母)は甘い、という役割分担をしていたのだろう。

ふと気が付くと、

「もうね、楽しいわ。やっぱり子供の笑う声が聞こえる家って、幸せそのものじゃないかしら」

「男の子って、家を出てっちゃうから……。この娘たちは、わたし、私の娘にするんだから~。うふふふふっ

私に出来た女の子2人。あれもこれもしたいなぁって。」詩菜大おばさま引き続き絶好調、独演会絶賛開催中。


……というわけで、大おばさまには遠大な、かつ危ない下心がかなりあったようだ。預けておいてなんだ、と思うけれど、

美琴おばさまも母もうすうすこの下心には気が付いていて、あたしたちがおばあちゃんっ子にならないようにかなり気を付けて

いたらしい。

結果的に、あたしと麻琴は母さんたちからは厳しくしつけられることになったのは言うまでもない。

同性に厳しい、すなわち、母親は娘に厳しく、父親は娘に甘い、という話もあるけれど、あたしと麻琴の場合は、母は厳しく、

祖母(あたしの場合、小母)は甘い、という役割分担をしていたのだろう。

さて、ここまで考えてもう1人役者が足らない事に気が付いた。



23LX2010/11/07(日) 22:51:08.41T9C4vLc0 (19/28)

すみません、>>1です。

>>22でコピペをミスりました。

>ふと気が付くと
以降が重複してしまいました。申し訳ございません。

こういう場合は>>22を無視してもう一度作った方が良いのでしょうか?



24VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/07(日) 22:55:51.99RNyFwGAo (1/1)

大丈夫ですよ


25LX2010/11/07(日) 23:03:48.66T9C4vLc0 (20/28)

(*それでは、先へ進めたいと存じます)

そう、麻琴のお父さん。上条当麻(かみじょう とうま)さん。

美琴おばさんはと……ありゃー、黄昏れちゃってるわ……。

「おばさん、当麻おじさんは一緒じゃなかったんですか?」と美琴おばさまに話を振ってみる。

「えええ? あ、アイツは、じゃなかった、当麻はね、今ちょっと学園都市を離れられないの。

いろいろと難しい舵取りを要求されてるみたいでね。今回もホントに来たがってたのよ。

利子ちゃんと麻琴、アンタたちの顔を凄く見たがってたんだから。

時間があったら動画メールでも送ってあげてね。凄く喜ぶと思うの」

さすが、旦那さんのことになると別人ですね♪

「パパ、会いたいなぁ……、ね、ママ? あたし、学園都市の高校に行きたいんだけど、パパのところダメかな?」

おいおい、麻琴、ここでそういう話出すなよ、凄くマズイよ……あ、母さん気が付いた!

「利子、アンタは絶対だめだからねっ!」  


ほらみろ……


―――― 神様が通っていった ―――― (と英語では表現するらしい)


一瞬、その場が静まりかえった。 



26LX2010/11/07(日) 23:09:26.24T9C4vLc0 (21/28)


「行ってきます」

「寄り道しないで帰ってくるのよ!」

「うぃーす」

「こらっ、下品な言葉、女の子が使っちゃダメっ!」

月曜日の朝。

土曜日にちょっと母とやりあった余韻は日曜1日では消えず、週明けの今日もちょっと
ギクシャクしたスタートになった。

母とは一緒にいる時間が短いのだから、せめてその間は親娘仲むつまじく過ごしたいと
は思うのだけど、逆に不満憤懣やらの方が先に飛び出してきてしまう。

距離の取り方もちょっと難しい。母さん、どうしてああなるかな……。

はぁ、月曜からブルーだ。

上条家のベルを鳴らす。

「はいはい?」

「おはようございまーす、今日も元気な佐天でーす。マコちゃんお願いしまーす」

「はいはい♪ ちょっと待っててね」

詩菜大おばさまがインターホンに出てくるのもいつもの通り。そして……




27LX2010/11/07(日) 23:14:49.49T9C4vLc0 (22/28)


   ――― 「ひっへひまっふー!」 ―――

マコ、おまえアニメキャラか? パンくわえて飛び出してくるって、テンプレ通り過ぎないか? だけど……?

   ――― もきゅもきゅ ごっくん ―――

「え? マンガなら食パンにジャムでしょ? ざーんねん。これチョコレートロールパンなんだなっ!」

「そういうことじゃなーい!!」 

   ――― ぽか ―――

「いったーい」

「なわけないでしょ、触っただけなのに」

「うう、暴力はいけないんだよ、リコぉ……」

おー、来た来た、お約束のうるうる。あー癒されるなぁ、よし今日も頑張るぞっ!

「リコ、ちょっとダダ漏れなんだけど。アタシおもちゃにして楽しい?」

「そーだよぅ、マコはあたしの活力源だもん! 頼りにしてるんだからねー?」

「ひっどーい、そんなので頼られたくなーい! わたしの汚れなき青春を返してよ-!」

「まっかっせっなっさい! 10年後に利息なしで返してあげるから。楽しみにしてね♪」

「うう、24歳になるまで返してくれないの?……ってところでさぁ、あれからどうしたの? 

 アタシは母さんと御坂ばぁちゃん家に行ったんだけどさー」

………マコぉ、勝てないどころか逆転ホームランかい? アンタってひとは本当に寝た子を起こすのが得意なのねぇ。

せっかく忘れかかったのにまた思い出したろうが。

「……ご、ごめんね? 言っちゃいけなかったかな、そ、そんなつもりで「いいから!その話、またにして!」」

「ごめんなさい」

あー、ホントにもう、さ・い・あ・く・だぁー!



28LX2010/11/07(日) 23:17:55.69T9C4vLc0 (23/28)

土曜日のパーティ後半戦。

出だしでちょっとした騒ぎはあったものの、それをネタにしたりして女だけの姦しパーティは

だんだん盛り上がり、オトナ、すなわち母親2名+大おばさまの3名はワインの酔いも加わって、

ケンケンガクガクの話になっていた。

「だーから、無能力者にとって、学園都市は地獄以外の何ものでもないんですってば!」

いつもの母の持論だ。

「あの子には、私が味わった苦しみは、絶対に味わせたくない。親として自分の子、娘を守るのは当然です!」

美琴おばさまも思い当たるふしがあるのか、黙っている。

まぁ自分の娘も学園都市に置いていないわけだから、そう言う意味では、母と意見は同じなのだろう。

でも、大丈夫なんだろうか? 学園都市のエライひとであり、レベル5であり、超電磁砲<レールガン>こと

学園都市のスーパースター、と言えるひとが自分の娘を学園都市に置いていない、っていうのは。

絶対ワガママとしか思われないよねぇ……。まぁおかげであたしは麻琴という得難い友を得たんだけど。


――― 普段ならばこの辺で母の発言は終わり、無限ループ2周目に入る……のだが ―――


今回は違った。トンデモ爆弾が炸裂したのだ。



29LX2010/11/07(日) 23:22:26.19T9C4vLc0 (24/28)


「御坂さんはいいんです。レベル5だし、今は学園都市統括理事会メンバーだし。

麻琴ちゃんだってもう能力者の片鱗みえてるし」

あらら、旧姓で呼んじゃってるよ。って、何もマコを引き合いに出さなくてもいいのに。

「ちょ、ちょっと、佐天さん、ウチの麻琴が?」 

え? これにはちょっと驚いた。おばさん知らないの? そりゃホントに母親失格だよねー(棒読み

というか、麻琴、あんた自分の親に何も言ってなかったの? 

「ちょっと、麻琴、こっち来なさい。アンタ、そ、そ、そうなの?」

(見せてあげなよ)あたしは無言で静電気防止キーホルダーを麻琴に渡した。

麻琴は「エヘ」とばつの悪そうな顔をしつつ左手で受け取った 

      ―― その瞬間 ――

キーホルダーはカッと輝いたかと思うと 

   
   ――「パン」と乾いた音を立てて ――  

    
       ―― 壊れた ――


「マコ……」あたしもこれには驚いた。昨日の帰り道でも、せいぜいライトが長く光る程度だったのに……

言い出しっぺの母も絶句していた。

詩菜大おばさまは「あらあら……」といったまま二の句が継げず。


そして、本人が一番驚いていた。 黙って、そして……震えてる? 



30LX2010/11/07(日) 23:30:41.10T9C4vLc0 (25/28)


美琴おばさんはさすが「電撃使い<エレクトロマスター>」だけのことはあり、
瞬時に能力<レベル>を見て取ったようだ。

しばらく目をつぶってなにやら神経を集中していたようだけれど。

「よし、解った」おばさんが目を開いてにっこり笑った。

「麻琴の生体電磁波、記憶したわ。今までなんとなく感じていたけど、気に
してなかったからね。

ごめんね、麻琴。もう大丈夫。というかもう逃がさないからね、わかった?」

よくわからないけど、身近すぎて気に留めていなかったってこと?

というか、麻琴に能力があることはうすうす感じていたのだろうか? じゃぁなぜ驚いたんだろう?

「は、はい。ごめんなさい」麻琴も混乱してるみたい。怒られると思っていたのだろう。

そこであたしは別のことに気づいた。じゃぁ昨日のアレは、麻琴は本気じゃなかったのだろうか? 

あたしは麻琴に遊ばれていたのだろうか?

「ち、違うわ、リコ」さすがマコ。昨日の事を思い出したのか?

「怖い顔しないで、リコ。違うのよ。昨日は何ともなかったの」

あたしの顔に何か書いてあるってかい? それともつのが生えているとか、かしらん。

「今、初めてなの、こんなこと。ただちょっと、ママを驚かせてやろう、って思って
エイッと集中したら、壊れちゃったの。

ううっ、ご、ごめんなさぁーい!」とわんわん泣き始めてしまった。


え、これってあたしのせいですか? ちょっと母さん睨まないでってば。

元はと言えば、母さんが言い出しっぺじゃないの! なんであたしのせいなのよ……

当麻おじさんの叫び借りたいなぁ、ホント。



31LX2010/11/07(日) 23:34:21.39T9C4vLc0 (26/28)


「麻琴、びっくりしちゃったのね。そうよね、いきなりだもんね。怖かったよね。

大丈夫、大丈夫。あなたはママの娘だから。ママがちゃんと守ってあげる。おめでとう。

あなたも能力者なのね」

ああ、こういうのって親娘だなぁ……。

でも終わりのところで、母が一瞬苦い顔をしたのがわかった。あたしにもその訳がわかる。

図らずも、あたしたちもやっぱり親娘なんだなー、と改めて思ってしまった。

麻琴たちとは全く逆だったけれど。

「さてと、じゃぁ一度、あなたを学園都市に連れて行って、ジャマーを作らないとね」

「え、学園都市に行けるの?」麻琴が急にキラキラキュピーンになった。立ち直りはやっ!

「もちろんよ。そうしないと、あなた、こっちで能力暴発させたらおおごとよ」

あのーおばさま、数時間前に誰かさんがそれをやっちゃったような。お忘れでしょうか……?

「もちろんあっちでも違う意味で大変だけどね。早いほうが良いわよね」

バッグから小さなホルダを取り出すと、それをパタパタを開き、指を当てるとなにやら3次元ホログラムが出てきた。

さすが学園都市。見慣れないものが何気なく出てくるなぁ。ま、いつものことだけれど。

「うん、水曜日の午後がいいかな。お義母さま、水曜日一日、麻琴を休ませたいのですが、よろしいでしょうか?」



32LX2010/11/07(日) 23:36:55.83T9C4vLc0 (27/28)


テキパキと話を進める美琴おばさん。きっと仕事がデキるおんな、ってこういう感じなんだろうな。

ちょっとカッコいいな。

いきなり話を振られた詩菜大おばさま。でもさすが、あわてずにコクンとうなずいて、

「はいはい、ええ、良いわよ。でも……麻琴ちゃんはひとつオトナの階段を上ったのね。おめでとう、かしら。

ああ、でもちょっと寂しいわ。私もなんだか急に歳を取ったような気がするわ…… で、利子ちゃんはどうなの?」

「へっ? わ、わたしですか? と、ととんでもない。私はフツーですよ、フツー。佐天利子、中学2年ですっ」

と、あたしはあたふたとわけのわからない回答をしてしまった。

落ち着いて考えると、ちょっと失礼な答えだったのだが美琴おばさんはさすが、あたしの聞きようによってはきつい答えを

スルーしてくれた。

「じゃ、麻琴、火曜日学校終わったら、中央線に乗ってXX駅まで来てくれる? 私が迎えに行くから。

パスポートはまだ有効よね? 忘れないでね、入れなくなるから。申請はあとでやっておくから、月曜日の朝には入場許可が

下りてるわ。久しぶりに家族3人揃うわね」

「パパと一緒出来るの? やったー、ねぇどこで晩ご飯食べるの? あたし、中華がいいかな? パパ、私が能力出たって

言ったら泣いちゃうかな?」 さすが、色気より食い気の麻琴だわ。

「大丈夫。アンタの能力なんか、パパなら簡単に消せちゃうから」

「えー、せっかく出来たのに。そんなパパなら嫌いになるからいいもん!」

あたしたち親娘と詩菜大おばさま、完全に空気。お呼びでない。こりゃまた失礼致しましたって、化石ギャグをどうしてあたしは

知っているんだろ?



しかし、今から思えば、母のあの爆弾発言。まさに爆弾だった。

全てはあの発言から。

運命の歯車は、今までとうってかわって、突然違う方向に回り始めたのだった。



33LX2010/11/07(日) 23:51:37.24T9C4vLc0 (28/28)


お読み下さっていらっしゃる方、有り難うございます。
>>1でございます。

コピペミスったり、改行方法がバラバラだったりして申し訳ございません。

いくつか追加御報告致します。

*エロは殆どありません。
*バトルはありますが、そう長くはありません。書くだけの技術がないからです。
実際に書いてみて、ものすごく難しいことがよくわかりました。
想像力の問題もあるかもしれません。
残酷な場面も必要上あるのですが、さらっと流しています。
*自分では結構長くなるかな、と思っておりましたが、実際に投下して様子を見て
おりますと、この流れで行けば200位で終わるのではないかと思います。

*会社勤めですもので、あまり夜遅くまで投下出来ません。何卒ご了承下さいませ。



34VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 00:02:47.08ePfzBCwo (1/1)

超乙!

楽しみだ


35VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 00:43:37.34Ee2IYrAo (1/1)

乙でした


36VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 01:06:15.74HsbAroAO (1/1)

乙!!続きが気になるのよ!

あと、死亡男性で「利」の字っつーと某リーダ…げふん


37VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 01:08:49.37g1hhnygo (1/1)

なんにせよ、幸せになって欲しいものです。


38VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 01:08:51.45Khy2nwYo (1/2)



飾利
涙子

…まさか!?


39VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 06:48:44.34JQyNbfoo (1/1)

>>38
おっとそこまでだ


40LX2010/11/08(月) 07:08:20.78/33g0rA0 (1/10)

>>1です。皆様おはようございます。
ご支援有り難うございます。投下する側になってみると、ご支援頂けるのは
とっても励みになります。本当に有り難うございます。
出かける前に少しだけ投下致します。


41LX2010/11/08(月) 07:12:20.79/33g0rA0 (2/10)


月曜の午後。

授業が終わったあたしと麻琴は帰宅部なので、素直に帰る……はずだった。しかし。

「おい、今日はスカートまくりやらねーのかよ?」

「是非またお願いしますよ、ね?」

「俺、先週見てないんだよ。不公平じゃね?」

あまりガラのよくない、不良3年生に絡まれてしまったのだ。

うー、金曜日のツケがこんなところで出てくるとは。ブルーだ。

「すいませーん、今日は予定してなかったもんで、またの機会をお待ちくださ「うるせーんだよ!」キャッ!」

あたしは1人に突き飛ばされて、あっさりと地べたに転がった。ぶざまだ。恥ずかしい。それより結構痛い。

「ううう、痛たたたた……」

「リコ!? ちょ、ちょっとあんた達、何すんのよっ! 先生に言いつけてやるからっ!」

マコがくってかかる。

「おもしれぇじゃねーか。言ってみろよ。俺らにも言い分があるんだぜぇ?

女の子同士がスカートまくり合って、エッチなことをしようとしてたのを止めようとしたんですってさ。

オマエがエロ女って言われるようになっても俺らは知らねーからな?」

「やーい、エロおんなー」「すけべーおんな!」

廻りの男子生徒たちがはやし立てる。あーそう言うところホントにガキ臭い。こんちくしょー。ちょっとすりむいてる……。

「なぁ、おまえ、今日何色履いてんだ? ちょっと見せるだけでいいからさぁ……「さわるなぁぁぁぁぁぁっ!!」」

一番大柄なヤツが麻琴に近づき、彼女の肩に慣れ慣れしく手を掛けようとした瞬間、

麻琴が絶叫し同時に「ぎゃっ!」と声を上げてそいつが倒れたのだった。

(ちょっと、マコ……?)

「あたしとリコに近づくなーっ!!!」 

麻琴が左手を振り回し、さわられた男子生徒は「わぁっ!」「痛ぇっ!」と地面に伏してゆく。

あたしは呆然として、暴れ回る跳ね馬のような麻琴を見つめていた……。




42LX2010/11/08(月) 07:14:57.73/33g0rA0 (3/10)


火曜日、麻琴は学校を休んだ。

電話にもでないので、メールで

「助けてくれてありがとう。もし聞かれたら、護身用にスタンガンを持っていた、と

言っておくからマコも覚えておいてね」と打っておき、母のそれを(勝手に)借りて

学校に行った。

不思議な事に、先生から呼び出されるような事はなかった。

彼らは先生に何も言わなかったらしい。

そのかわり、「ビリビリ女」「歩く静電気」というあだ名が学校に静かに広がったのだった。



43LX2010/11/08(月) 07:17:45.85/33g0rA0 (4/10)


水曜日の夜遅く、麻琴は当麻おじさんと一緒に帰ってきた。

「リコ~、久しぶり~!」マコが門を開けて飛び込んでくる。 

ちょ、アンタ何よ、その脳天気ぶりは? あんなに心配してたあたし、ちょっとバカじゃない? 

むかっときたあたしは麻琴に冷たい声で、

「お帰り。マコ、あんた、明日学校へ行ったら”ビリビリ女 ”って言われるから覚悟しといた方
がいいよ」といきなりかました。

「へ?」

「そ、その名前、上条さんとしてはひじょーに気になるんですが、もしかしてウチの娘のことでせうか?」

え? え? あちゃー、お父さんが一緒だったのか……大失敗だ……。

「ちょっとー、リコ、帰ってきていきなりのそれはなによ……」麻琴がちょっと黄昏れる。

まぁ、あたしにも、あんたのビリビリおんなというあだ名の責任がないわけじゃぁないさねー。それよりも、

「こ、こんばんは、おじさま。ご無沙汰しています。いつも母がお世話になってます」まずは挨拶しなきゃね。

「あ? いえいえ、こちらこそ。麻琴から良く聞いてます。こいつがいつもご迷惑かけてるようで、ホントに
すみません」

と右手で麻琴のアタマをわしわしと撫でる。

「やーめてよ、パパ、子供じゃないんだからー。髪ぐちゃぐちゃになっちゃうでしょー、このー、うにアタマっ!」

「ちょっと、家の前で何騒いでるの、こんな夜に……あら、もしかして、上条さん?」おっと、母まで出てきてしまった。

もしかして、噂のフラグメイカーが見れるかも?



44LX2010/11/08(月) 07:21:37.66/33g0rA0 (5/10)


「え、あ? 佐天? おう、久しぶり。相変わらず綺麗だぞ、いやホント、昔から変わってないなー」

思わず、キタ━(゚∀゚)━!! がアタマに浮かんでしまった。

いやー、久しぶりの挨拶がいきなりコレですか? 

旧来の知人とはいえ、お互いの娘がいる前で、よその娘の母親にいう言葉じゃないよねー。ちょっとわざとらしいし。

美琴おばさんが気を抜けないわけだわ。

麻琴は……あはは睨んでるよ。娘とはいえ、そういうところは女だねー。

「いやー、なーにを言ってるんですかぁ? 何も出ませんよ? 上条さんこそ、昔から”ちっとも変わってません ”ねぇ。

美琴さん泣かしてたらあたし、怒りますからねー?」

「ななななんの事でしょうかー佐天さん、なんかトゲがあるようですけれど? わわわ私が美琴を泣かすことがあるわけが
ないのことよ?」

動転してる、動転してる。日本語ヘンだ。しかし、自分の発言に問題がある事に気づいてなさそう。重傷だなー。

「ちょっとマコ、上がって?」 

まぁ親同士は好きにやっててもらおう。あたしらにはあたしらの話があるんだっての。

「うん。じゃ、パパ、先に帰ってて。あたし、ちょっとリコと話してくるから」

「あら、あたしとしたことが。立ち話もなんですからお茶でも飲んでいきません? 上条さんにお聞きしたい事もありますし」

と母が麻琴パパを家に上げようとしている。

そういえば、ウチに男の人が来るのは、中学校に上がってからは初めてかも。

おじさん、上がる事にしたみたい。ちょっとしたイベントですねっ、これは! 

「リコ、早く上がってきてよー」 

おーい、ここはあたしんちだし、そこ、あたしの部屋なんですけどー?



45LX2010/11/08(月) 07:32:30.38/33g0rA0 (6/10)


「えー、それであたしがビリビリ女ってわけ?」

「職員室に呼ばれなかっただけ良しとしなさいよ。ヒヤヒヤしてたんだから、こっちは。

スタンガンを使ったことにすればいいじゃないか、という結論出すまですっごく考えたんだからねー?

アンタは学校さぼって、家族とおいしいもの食べて「ちがーう」」

「あたしだってすっごい大変だったのよ……」

「?」

 ―― 麻琴の説明によれば ―― 

1.「学園都市のスター、超電磁砲<レールガン>のお嬢様帰国!」とド派手に歓迎された。

   もちろん上条一家には知らされてはいなかった。麻琴自身は、あまりのことに気を失った。

   美琴おばさんがパパラッチに激怒して電撃をぶっ放したことが逆効果になり、さらに注目されることになった。

2.簡単な身体能力チェックを受けさせられた。得体の知れない薬を飲まされたのがいやだった。

  美琴おばさまは、これには反対しなかったので、それがまた麻琴にはちょっとしたショックだった。
  
3.簡易検査では「静電気」を「起こす・貯める・放出する」ことに対しての能力が認められ、通常電圧3千ボルト、最大電圧

  1万ボルトを確認した。判定は「レベル1」。全く開発を受けていないのにレベル1というのは母親からの遺伝にしても、

  将来は有望と見られる、というものだったそうな。

  コントロール能力がもう少しつけば電圧も上がり、直ぐ「レベル2」になる、と言われたそうな。

4.ということで、とりあえず左腕に美琴おばさまと似た感じのAIMジャマーリングを作ってもらい、はめて帰ってきた。

5.当麻おじさまがどうしても、ということで一緒について帰ってきた。美琴おばさまは仕事に戻ったとのこと。

6.学園都市は、実際に見てみると、こことは違う世界だった。確かに紹介ビデオやウェブサイトで知っていたものがあったけど、

  動く実物をみることで、よりそのすごさに圧倒された。また、日本以外のひともけっこう見かけたそうだ。

 ―― (説明終了) ―― 


46LX2010/11/08(月) 07:35:49.26/33g0rA0 (7/10)


「はーん、やっぱりマコは能力者だったんだね……」

わかってはいたけれど、仲の良い友人がなんか違う世界に行ってしまったような気がして、あたしは
ちょっと寂しい気がした。

やっぱり麻琴は学園都市に行ってしまうのかもしれない……。

「まぁね、でもパパはレベルゼロなんだよね。両親が能力者でも子供がレベルゼロだったという例は
沢山あるみたいだし。

あたしはたまたま、まぐれが少しかすっただけ。レベル1だし。やだ、そんな顔しないでよ、リコ」

無邪気な麻琴の話を聞いて行くうちに、なんとなく、母がその昔感じていた思いというものが解って
きたような気がした。

麻琴、レベル1とレベルゼロとでは天と地ほどの差があるんだよ……?

「で、あっちの高校にマコは行くの?」

「わかんない。怖いことされるのはいや。普通でいたいし。でもあの世界でもっと自分の力を試して
みたい、と言う気もする」

そうよね、あるものは使ってみたい、それも当然の思いだよね……「ある」ものならね……。
 
「リコも、行く行かないは別として、一度測定してもらったら? もしかしたらあたしより上かも
しれないよ?」

おいおい、そんな馬鹿な事を言うもんじゃないって。あり得ない。無能力者の娘に向かってなんと
言うことを……

「だってさ、リコは測ってもらったことがないわけでしょ? 佐天おばさんが無能力だった、と
いうだけじゃない。

もしかしたら、お父さん ―――― あ」 

麻琴の言葉が詰まった。あれ、もしかして泣き出した? なんであんたが?

「ご、ごめんなさい、失礼なこと……う、ぐすっ、……うわぁぁーん」 

あーあー、全くもう。よしよし泣くな、麻琴。

可愛いやつめ。ホント、アンタが心配だよあたしは。こんな不安定な状態で学園都市へ行けるんかね?



47LX2010/11/08(月) 07:38:48.44/33g0rA0 (8/10)

「まぁ、気にしないでよ。ありがと、マコ。ところで、もう一度言っておくよ、いいかな? 

1つめ。あんたが電撃を放った男子生徒は、火曜日には全員学校に来てた。

で、職員室に私は呼ばれなかったから、たぶん騒ぎは漏れていないと思う。

2つめ。そいつらの誰かが、おもしろおかしく話を作ったみたいで、マコにさわるとビリビリくるぞ、って。

で、あんたにビリビリ女という名前がついた。そこから歩く静電気という名前も出来てる。

3つめ。たぶん、明日にはまた違う名前が出来てるかもしれない」

「うわーん、やっぱりあたし、もうお嫁にいけない、学校行くのいやぁぁぁぁ!」 

げっ! やばい! またやっちゃう!

「ちょっちょっと、待ったぁ、ここで電撃放つなー!」

と私は昨日買ってきたウレタンゴム製のマットをバッと彼女に押し当てた……が、何も起きない。

「ちょっとー、リコ、止めてよ。もう大丈夫なんだからさぁ?」

ウレタンの向こうから麻琴がごにょごにょ言っている。

「え?」 あたしはウレタンマットをのけた。

「ぷふぁー、あぁよかった……ちゃんと効いてるわ、コレ」 

麻琴が左腕をまくると、二の腕のところに薄いけれど幅のあるリングが嵌っていた。



48LX2010/11/08(月) 07:41:48.29/33g0rA0 (9/10)


「利子ちゃんも大きくなったんだな」遠くを見るように上条がつぶやく。

「そりゃそーですよ。あなたのとこと同じなんだから。

でも、あたしに似て、マコちゃんを引きずり回してるみたいでごめんなさいね。」

「いえいえ、麻琴の話には必ず利子ちゃんが出てきますからね。

頼れるお姉さん、という感じみたいで上条さんも安心しているんですよ」

下では、佐天涙子と上条当麻との話が続いていた。



「初春は元気してますか?」佐天の親友、初春飾利(ういはる かざり)のことである。

現在の名前は、正確には花園飾利(はなぞの かざり)。結婚して姓が変わっているが、佐天は相変わらず「初春」と呼んでいた。

彼女は天才SEとして「その世界」で名を馳せているのだ。

「うーん、美琴は何回か会ってるらしいけれど、俺は会ってないな、ここしばらく。佐天さんこそ会ってないの?

いつも二人一緒だったんじゃなかったっけ?」

「いやぁ、ちょっと最近はご無沙汰なんですよ。結婚してからちょっとね。やりとりはたまにしますけど。

初春がここへ来れるような仕事をしてたらよかったんですけれどねー。どっちかというと、なか専門ですからね。

学園都市内ではホログラムメールのやりとりが出来ますけど、アレは外へ出ちゃうと使えないじゃないですか。

だからあたしが行った時じゃないと会える可能性はゼロですもん。でもここのところ、呼ばれる回数も減ったし。

やっぱり目つけられちゃったかなぁ……まぁいいけど」

「考えすぎだと思うぞ。あまり言えないけど、中は今も大変なんだ。そんなところを外部に見せたくないんじゃないかな。

最近は子供は別だけど、外からの見学者とか観光客も積極的には誘致してないような話も聞くぞ?」

「そうそう、麻琴ちゃん、無事に入れたんですか? というか戻ってこなかったらどうしようかと思ってましたけど♪」

冗談めかして軽く聞く佐天。

しかし、返ってきた上条の言葉は衝撃的なものだった。

「ちょっとな……俺も美琴も失敗したと思ってる。いや本当に大失敗だった」



49LX2010/11/08(月) 07:44:09.01/33g0rA0 (10/10)

>>1です。

それでは出勤致しますので、次の投下は夜になります。

すみませんがご了承下さいませ。


50VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 16:37:07.233bSsmaUo (1/1)

乙です
面白いんで楽しみに次回待ってますよー


51LX2010/11/08(月) 18:55:12.4909lw7FI0 (1/43)


こんばんは、>>1です。

それでは投下を始めたいと思います。
よろしくお願い致します。


52LX2010/11/08(月) 18:57:08.5409lw7FI0 (2/43)

上条当麻は下を向き、苦しげな顔で話をしている。

「美琴と麻琴が一緒に帰ってきた時のことなんだが、報道陣が100人くらい詰めかけたんだよ。

いかに歓迎してるか、ってのを見せつけたかったんだろう。もちろん俺たちはそんなこと知らされ

てなかったから唖然呆然ってところ。あの通路に報道の人間だけで100人だぜ? 佐天ならわかるだろ?」

「すごいですね……」びっしりとカメラやライト、マイクを持った人間、それに警備員やらアンチスキルやら、

風紀委員(ジャッジメント)やらを入れたらもっと多い数になったろう。

(そう言えば白井さんはどうしているだろう?)と一瞬佐天の脳裏に懐かしいひとの面影がよぎった。

「やっぱり美琴、御坂美琴っていう存在は学園都市の華、なんだな。俺と結婚して上条美琴になって、

一児の母になってもそれは変わらない、いや更にステータスが上がっていたのかもしれない。俺たちは甘かった」

上条当麻の話は続く。

「そういうところに、新たに外の世界からスターの娘が帰ってきたと?」

「まさにそうなったわけだ。親娘二代の花形スターに仕立て上げようとしたのさ。実際、俺はあいつらのところにたどり

着けなかったんだぞ?」

「あら、感動の対面が出来なかった?」

「ある意味、感動の対面、だったね」 上条はそこで大きくため息をついて、茶を飲み干した。

「まぁぐちゃぐちゃで、参った。思わず上条さんは叫んじゃいましたよ、不幸だーって。まぁ俺のことはいいさ。

で、冗談はともかく、美琴も途中から恐怖を感じたって言ってた。麻琴は本当に怖がって震えてたらしい。

そんなところで……」  




53LX2010/11/08(月) 19:02:02.5909lw7FI0 (3/43)



     ――― バン! ――― 


上条当麻がテーブルを叩いた。湯飲みがひっくり返る。

「ひっ」佐天がパッとひく。

「す、すまん。驚かしたか?」上条当麻が謝る。

「ごめん。ちょっと年甲斐もなく興奮しちまった……」

佐天が上条の湯飲みにもう一杯、お茶を入れる。

「まぁ無礼なレポーターが、何人もつきまといながらしょうもない質問をしつこく繰り返して、あげくに

1人か2人が麻琴をひっぱったらしいんだな」

「そりゃ美琴さんがキレますよねー」

「いや、違うんだ。……麻琴が電撃食らわしたんだよ」

「えーっ???」

そう、佐天は、麻琴がその前日に中学校で男子生徒数人を電撃で打ち倒していたことをまだ知らない。

「もちろん、美琴とは比べものにならない、可愛いレベルだったらしいんだけど、パニックになったものだからまぁ暴走状態に

なっちまったんだよ。

美琴が電撃使い<エレクトロマスター>なのは有名だけど、今は立派な大人だからな、アイツが電撃食らわすわけないって

みんな考えてるから電撃防止対策が緩かったんだな。自業自得だと思うが、まぁけっこう伸びちゃったひとが出たのよ」

「……」

「俺がそばにいたら、止められたんだろうけどな」上条は右手を見ながらぼそりと言う。



54LX2010/11/08(月) 19:07:56.1909lw7FI0 (4/43)


「美琴がAIMジャマーを外していなかったのも運が悪かった。外して、麻琴にコンタクトして暴走を押さえ込むまで時間がかかった。

俺が二人のところに駆け寄れたのは邪魔者が全員ぶっ倒れたから、と言えばわかってくれるかな。

そしてまたこれがスクープになっちまってな。もちろん上層部が押さえこんだんだが、ウェブやTVの生放送は流れちゃったからな。

見たヤツの口はふさげねーよ」

上条は少し線が細くなったツンツン頭をぐしゃぐしゃとかき回した。

「よく帰って来れましたね」

「まぁな。で、覚えといて欲しいんだけど、」と上条は一旦話を切り、佐天を見据えて低い声で話し始めた。

「麻琴は騒ぎをよく覚えていない。学園都市は美琴が電撃を放ってまわりを蹴散らしたことにした。もちろん美琴も納得した」

「次に、麻琴は直ちに身体測定に掛けられた。能力開発を受けていないにもかかわらず、パワーは最大10万ボルトが出せて既に

レベル3にほど近いんだが、ノーコン状態。従って形の上ではレベル1だ。麻琴にはパワーとレベルを1段下げて教えてある。

要は、麻琴は今、非常に危険な状態なんだ。急激に能力が発現しつつあるノーコンの能力者、と言えばわかるだろう?

とりあえずAIMジャマーで暴発を防ぐことにしたが、今付けているのは実は美琴と同じレベル5用の最新型なんだ」

「それじゃ……麻琴ちゃんは……」

「だから、一時帰国みたいなもんなんだ。最悪、3学期から学園都市に編入させなければならないかもしれない」




下ではそれぞれの親が深刻な話をしているとは知らず、二階の私の部屋ではあたしと麻琴が他愛もない話で盛り上がっていたのだった。
  


55VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 19:12:09.33XsEPVMso (1/1)

コントロールを覚えなきゃいけないものね…


56LX2010/11/08(月) 19:28:18.4709lw7FI0 (5/43)


3学期。

クリスマスもお正月も、いつものように過ぎていった。

マコ、すなわち上条麻琴は引き続き、あたしと一緒に学校へ行っていた。

AIMジャマーの威力は確かで、あれ以降麻琴が電撃を放つことは全くなくなった。

「電撃が出そうになると、アタマが痛くなるの」と言っていたけど。条件反射でそのうち出せなくなったりしてね。

「ひとの噂も75日」とはよく言ったもので、「ビリビリ女」などのあだ名はだいぶ影を潜めてきた。



バルセロナで会合がある、ということで母が2週間の出張に出ていたある日。

あたしは第2の我が家である上条家で夕食を共にしていた。

「あたし、こんど自炊してみようと思ってます」とあたしは詩菜大おばさまに話しかけた。

「あらあら、自立心が芽生えてきたのかな、利子さん? すごいわ。麻琴、あなたも見習わないとね、女の子なんだから。

でも、利子さん、まさかおばちゃんのご飯がもういやだとか、そういうことではないわよね?」

大おばさまが悲しそうな顔をする。

「とととと、とんでもない、違います、全くの勘違いです」

また飯抜きの刑を受けるのは絶対勘弁してほしい。

「もう春には15歳ですし、いっぺんどこまで自分で出来るかな、って試してみたくなっちゃったもんで……」

「そうね、今ちょうどお母様も出かけてらっしゃるし。巣立つ練習するのにはちょうど良いかもしれないわね。

 でも、いやだわ、お願いだからうちで練習してくれるかな。おばちゃん1人でご飯食べるのは寂しいわ」

え? 最後の言葉にひっかかった。1人って? なに?

「ちょっと、母さん、ワシがおるじゃないか」 口を挟んだのは上条家の主、上条刀夜さん。久しぶりに帰ってきているのだった。



57LX2010/11/08(月) 19:49:39.9509lw7FI0 (6/43)


「何言ってるんですか刀夜さん? 

自分は好きなようにほっつき歩いてて、ろくすっぽ連絡もなしのくせに、いきなりクリスマスにサンタの格好で帰ってきて。

何がワシ自身がクリスマスプレゼントー! ですか、ばかばかしい。

そうやって何人の女をくどいてきたのかしらねー。…………ちょっと、聞いてるの、刀夜さん?

ああもう、刀夜さんったらそんなに私を怒らせたいのかしら? あなた、もしかしてマゾなのかしら?」

真っ黒なオーラが巨大化し始めた大おばさまと、

ああもうどうしよう助けて下さい、という顔をしている刀夜おじさま、

そして「また始まったか、好きにしろ/好きにやってろ/してやがれ、の三段活用!」という顔で

ぱくぱくご飯を食べている麻琴。

ああ、これで台所デビューの話は消えたなーと、あたしは一人小さくため息をついた。

「ねぇ、リコ、ちょっと相談したいことがあるんだけど」と麻琴が小さい声で言う。

「なに?」

「部屋で」

「む(OK!)」

ぐちゃぐちゃのドロドロが始まってしまった刀夜・詩菜お二人からそーっと抜け出したあたし達は、そーっとまた麻琴の部屋に

上がっていったのであった。


58LX2010/11/08(月) 19:55:52.2409lw7FI0 (7/43)


「脱出成功!」「いぇっさー!」


「あー、しんどかったー」

あたしは床にごろんと転がって、ベッドに飛び込んだ麻琴の方を見る。

「リコ? 食べてすぐ寝るとウシになっちゃうんだよ? だからね、うしリコ? リコうし? うーん」

「ひねりが足りません! そのままじゃないの。ざぶとん取り上げだね。つーか、アンタだって同じじゃないの」

「えー、あたし寝転がってないもん。座ってるからウシじゃないよー」カエルのぬいぐるみを抱きしめている麻琴。

「でもホントにね、おじいちゃん、(帰ってきたとき)サンタのカッコした泥棒かと思ったのよー、くくく」

と思い出し笑いをひとしきりしたあと、あたしの方を見ずにカエルのぬいぐるみに向かって麻琴が言う。

「リコ、学園都市に行かない?」

「わかってるでしょ」とあたしはいつもの答えを返す。

でも、その瞬間、私はさっきの大おばさまの言葉の意味を理解した。

「え、あんた……」血の気がひいたのがわかった。

「……ごめんなさい……」ぬいぐるみに顔を突っこんだまま麻琴が泣き出した。「わたしだって、やだよ、でも」

「だめなの。行かなきゃだめなの。コントロール出来るようにならなきゃいけないの。今のままだと、あたし、化け物になっちゃう」

あたしは泣く麻琴にかける言葉を見つけられなかった。

「こんな能力いらないのに。サンタさんにだって頼んでないのに。どうして今になってこんなことになっちゃったの? 

私のせいなの? ねぇ、リコ、なんか言って!お願い」

あたしはあたしで突然のことに衝撃を受けていた。

マコが、かわいいマコが、あたしのマコが、あたしの妹分が、あっちに行ってしまう。きっと、もう会えない。

あたしの頭の中を、ぐぉーっといろいろな思い出が駆けめぐっていた。



しかし、その中で、(ああ、やっぱりその日がきたか)という冷静な自分がいることにも気が付いていた。

(仕方ないよ、麻琴は能力者なんだから)というそいつは、混乱するもう一人のあたしをじっと見ていたのだった。


59LX2010/11/08(月) 20:07:05.0109lw7FI0 (8/43)


「リコ、今度の週末、学園都市の見学ツアーがあるの。母も来るけど、途中からなの。だから代理という形で、

一緒に行って欲しいの。お願い」

「あたしが行っても「いいの。リコは、あたしの親代わりなんだから」……」

(あたしはアンタの母親かいっ!……まぁ姉ぐらいってとこかもね)

幸か不幸か、週末にはまだ母は日本に帰ってきていない。行こうと思えばいける状態にあった。

このチャンスを逃したら、次はいつ行けるかわかったものではないし、麻琴と一緒に行ける、ということもあたしの心を

揺り動かすに十分だった。

見学ツアーというのも社会科見学みたいなものだろう、とその時は考えていた。中学2年生の好奇心は不安より強かった。

しかし、(お嬢ちゃん、世の中はそんなに甘いもんじゃおまへんがー)ということをイヤと言うほど思わされることになるのだった。





そして運命の土曜日の朝。

新宿駅西口のホテルの前に学園都市行きの見学ツアーバスがざっと10台並んでいた。

驚いたことに日本人だけではなく、欧米や東南アジア、オーストラリア、中近東の各国から来た、という感じの親子も

かなりの数がいた。

圧倒的に子供が多いが、中にはあたしたちのような中学生、また高校生以上かな?というような大人っぽい学生もチラホラと。

「ちょ……、スゴイねぇー」あたしは少し雰囲気にのまれていた。



60LX2010/11/08(月) 20:11:07.7409lw7FI0 (9/43)


「ママに聞いたんだけど、少子化の日本だけじゃじり貧になるから、海外からも子供を呼んでるって言ってた。

こうやってみると世界にはいろんな人がいるんだねー」

すこし経って、

「本日は学園都市先行体験・見学講習会にご参加頂きまして有り難うございます。お忙しいところお集まり頂きまして

誠に恐れ入ります。つきましては、日本国籍の方の点呼を取りますのでこちらへお集まりくださーい」

という内容の案内が流れた。

その後、英語、スペイン語、中国語など各国の言葉での説明が続いていた。

「麻琴、先行体験ってなに? 何か変なことされるんじゃないよね?」

「ママは何も言ってなかったから大丈夫だと思うよ?」

「ちょっとアンタ、詳しいこと何も調べてないの?」

「いやー、『アンタは黙って、来れば良いだけだから』って言われたの……。まぁとって食われることはないと思うよ。

それより、この間みたいなことになったらどうしよう、ってそっちの方があたし少し心配」

「それ、マズイ。あたしが一緒に行ったこと母さんにバレちゃうよ。大変なことになっちゃうよー、やっぱり止めようかなぁ……」

「今更ここまで来て何言ってるのよ、リコはあたしの親代わりでしょ?」

不安になったあたしと、すっかり腹をくくった麻琴との間で真剣なんだか漫才なんだかわからない言い争いが始まったとき、

「上条さーん? かみじょう まことさぁん、いませんかぁ?」係員の女性が麻琴の名前を呼んでいる。

「呼ばれてるよ? アンタ」

「リコ、行くよ!」 

麻琴があたしの右手を左手でひっつかんだ。麻琴はあたしを引きずりながら係員さんの方へ走っていった。




61LX2010/11/08(月) 20:19:53.7709lw7FI0 (10/43)

>>1です。

お読み下さっていらっしゃる方々、どうも有り難うございます。

申し訳ございませんが、一旦ここでPCから離れる必要が生じました。
1時間ほどお時間を頂戴致しますが、用件済み次第、再度投稿を開始致しますので
何卒ご了承下さいませ。



62VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 20:30:06.01lz5c.0.o (1/1)

無理せずにゆっくりしてきてください


63LX2010/11/08(月) 21:41:59.0209lw7FI0 (11/43)

>>1です。

失礼致しました。
それでは、再び投稿を始めます。宜しくお願い致します。


64LX2010/11/08(月) 21:44:50.4209lw7FI0 (12/43)


――― 学園都市 入出国管理事務所 エントランス ――― 

あたしたちはバスの中にいた。

(どうしよう、ホントに来ちゃったよ……)7割の罪悪感と3割の好奇心があたしの心を占めていた。

ガイドさんが車内マイクで案内を始めた。

「それでは、ここで入国審査を行います。外へ出る必要はありませんが、申し込み時と本日変更されて違う方が

付き添われているような方はいらっしゃいませんか? 

すみませんが、その方は一旦事務所で確認作業を行いますので、お手数ですが一旦下りて頂きます」 

「すみません、母親の代わりで来てまして、私は父親なんですがそう言う場合も下りないとダメですか?」

「申し訳ございませんが、個人情報が異なりますので、お手数ですが再審査となりますので宜しくお願いします。

お時間はかかりません。他にはいらっしゃいませんか? 

ご本人である証明書、日本政府発行のパスポートまたは免許証などをお持ち下さい」

何人かの親御さんがガイドさんに連れられて事務所の方へ入っていった。と、入れ違いに2人の入国管理官?が入ってきた。

「えー、それではチェックを始めますので、身分証明書の提示をお願い致します。お子様は生徒証、学生証でもちろんOKです」

幼稚園児もいるんだけど、証明書なんてあるのかしらん、と思っていたらその子はパスポート出していた。杞憂だった。

「前もこうだったらよかったのにな……」と麻琴が一人ごちていた。



65LX2010/11/08(月) 21:47:29.4409lw7FI0 (13/43)

あたしはチェックが終わったので外をぼけっと見ていると、他のバスからはぞろぞろとひとが下りている。

どうやら外国人は全員一旦外へ出されているみたいだ。

「あたしらはいいのかな」とつぶやくと、隣の麻琴が小さい声で

「結構、身分証明書を偽造して入ろうとするひとが多いんですって。あたしが行ったときにも、あっ!?」

麻琴が小さく叫び声を上げたので、(なに?)と外を見ると……



男が子供を引っ張って走っていた。なにがあった?

――― 突然その前に高校生?ぐらいの男子生徒?が現れて、「あれ? あの人どこから?」 ――― 

次の瞬間、男は道路に倒れ込んでいた。というより何かで押さえつけられた、と言う感じだった。

子供はその男にしがみついていたところを、駆けつけた警備員風の女性にだっこされて事務所の方へ連れて行かれた。

残された男の方はもう1人の警備員に、こちらは屈強な男の人で、スタンガンかなにかで気絶させられたみたいで、

警備員に軽々と担ぎ上げられてこちらは警備車?の方へ運ばれていった。この間、たぶん2分も経っていないだろう。

「おお~」声にならないどよめきのようなものがバスの中に広がり、あたしは我に返った。

「マコ……」

「リコ……」

あたしたちは顔を見合わせたけれど、二人ともそれ以上言葉が出なかった。



66LX2010/11/08(月) 21:51:05.3809lw7FI0 (14/43)


少したって、先ほどの女性警備員?さんがトントントンとバスのステップを上がってきた。

「学園都市へようこそお越し下さいました。わたくしは学園都市アンチスキルに所属致します、入出国管理事務所警備担当の

内田(うちだ)と申します。ご覧になった方もいらっしゃると思いますが、先ほど偽造パスポートで不正入国を図った男性1名と

小児1名を拘束致しました。2名とも大きなけがはしておりません。お騒がせ致しまして誠に申し訳ありませんでした」

バス内がざわめく。

「なお、入国審査場から脱走を図った際に数人の一般の方が巻き込まれて、軽いけがをされた方がいらっしゃることから、

このバスの出発は少し遅れますのでなにとぞご了承頂きたく、宜しくお願いします」

よどみない説明を述べたアンチスキルの内田さんは、バス内を進み、奥でチェックをしている入国管理官と二言三言、

言葉を交わしてバスを降りようとバスの乗車口に戻って来た……

「すいません、あの」 あたしは反射的に声を上げた。

「なんでしょうか?」と内田さんは笑顔であたしの顔を見た。

「さっき、あの、突然男の学生さんが現れたような気がするんですけれど……?」


67LX2010/11/08(月) 21:53:51.7109lw7FI0 (15/43)


彼女は一瞬考えた後、またニッコリして答えてくれた。

「彼は風紀委員<ジャッジメント>でしてね、空間移動<テレポーター>の大能力者、つまりレベル4、の学生ですね。

テレポート能力を見るのは、あなたは初めて?」

まわりから「あのひと学生だったの?」「すげー、あれが超能力か…」「ホントなんだ……」というささやきやら何やらが

バスの後部へ向かって波紋を広げて行く。

「は、はい。一瞬見間違えた、というか、あれ? どこから来たんだろうって思っちゃいました」

あたしの声も少しうわずっていたんだろう、内田さんはくすっと少し笑って、

「最初に見るとびっくりしますよね。私もいきなり人が目の前に現れた時は、買い物袋落としちゃいましたから。心臓によくない

ですね、アレは。(というか、アレは越権行為なんだけど。ことと次第では後でしばいてやらないと!)」

と後半はブツブツ独り言? を言ってバスを降りていった。

(アレが超能力か!)とにかくいきなりレベル4の能力をナマで見ちゃったわけで、すっかりさっきまでの不安はどこへやら、

(あたし、ホントに来ちゃったんだー!!)という興奮の方が先に立ってしまった。

「ちょっとー、リコ、なにキラキラしてるの? おーい、帰ってこーい? リーコー?」

麻琴があたしをトントン叩いていたことは全く記憶にございません、でした。



68LX2010/11/08(月) 21:57:40.2509lw7FI0 (16/43)



smile for you and ~、とメールの着信アラートが耳元で小さく鳴った。

「あれ、なんだっけ、これ……と」

学園都市の守護神<ゴールキーパー> 花園飾利(旧姓初春)はスカウターのホログラムを開く。

<着信メール 1件>という表示が出ている。発信人は<学園都市入出国管理事務所情報センター>とある。

「?」と思いつつ、<開封>のところに視線を合わせる。

すると”さてん としこ 再入国 ”と文字だけが流れてきた。

(わぁ佐天さん……じゃないわ?、他に佐天って誰かいたっけ……?    

          ……             

          ……

えぇぇぇぇぇぇぇぇっ??? まさか、あの子? ホントに?)


あたふたと花園はスカウターの<メール発信>に視線を合わせ、次に<思考入力>を選び、アドレスの欄に<佐天涙子>を想定し、

頭の中で発信内容を作り上げ、内容を確認して<送信>を念じた。

同時に部屋のブラインドを下ろし、スタンバイ中のPCを立ち上げてジャッジメントIDを入力して入出国管理事務所の

監視カメラ映像を確認し始めた。



69LX2010/11/08(月) 22:01:17.9509lw7FI0 (17/43)


しばらくして、

Go go ready ~ と違うアラートが鳴り、スカウターに ”佐天涙子 音声通話 ”の表示がでた。

<開始>を頭のなかで念じると、

「う・い・は・る~、ひさしぶり~。なに? どうしたのこんな時間に~?」

と懐かしい声が飛び込んで来た。

「いまは、は・な・ぞ・の、ですって! いい加減に覚えてくださ~い、佐天さんたら!」

「あー、そうだったねー、いやぁごめんごめん。でも、初春はいつまでも<ういはる>だからねー!」

「なに訳のわからないこと言ってるんですか? 昼間から飲んでるんですか?」

「今はもう深夜1時だっての。こっちの時間見えてない?」

なるほど、<発信場所検索>を想定すると、スカウターのホログラムには" Barcerona, Spain : Telefonica AM 1:17 "と

表示が現れた。

「はー、スペインにいるんですか……、いいなぁ」

「よかないわよ、初春。遊びならいいけどさー」

「そ、それどころじゃないですよっ、佐天さん!!」

またもや佐天に「ういはる」と呼ばれたのだが、もうそんなことはどうでもいい。肝心な話だ。花園飾利は叫んだ。

「お嬢さんって、”としこ ”って名前でしたよねっ?」

「としこがどうしたのっ!!???」 

それまでの<へろへろ・あはーん>というようなだらけた口調はすっ飛び、いきなり緊迫した声になった。

「学園都市に入ったというオートコールがありました!」

「あン の バカむすめがぁっ――!!!!!!!!」

ものすごい衝撃波が来た。



70LX2010/11/08(月) 22:06:55.1309lw7FI0 (18/43)


ボイスオートコントロールがあって助かった、と花園飾利はスカウターに感謝した。

それでもアタマが一瞬クラっときたくらいだったのだから。

「で、今どこ、どこにあのバカがいるのっ?」

「ちょっと押さえて下さい、佐天さん、怒鳴ったところで状況は変わりませんよ」

彼女はいつもの守護神らしさを取り戻していた。パタパタと検索をかけて行く。

「どうも、学園都市主催の先行体験・見学講習会に参加しているようですね」

「……」

「全体の参加メンバーを見てみますね。……ひゃー、ざっと13カ国ぐらいの多国籍研修会ですねー」

「もしかして、”かみじょう まこと ”って子がその中にいないかな?」

佐天も少し落ち着いたようだ。

「かみじょうさん? って、ええ? もしかして御坂さんのお嬢さんですか? この間の、もしかして超電磁砲二世とか噂されている?

キャー!すご~「いたの、いないの、どっちなのっ!?」」佐天がじれて怒鳴る。

「んもう、そんなに怒鳴らないで下さいよぅ……、あ、いました。参加してますね」

「あン のガキめらぁ……、わかった。ありがとね初春!」

「はなぞの、ですってば!」

「すまないけど、ちょっと見ててくれるかな、あたしもそっち行くから!」

「いいですよ……え? はい? ちょ、ちょっと、ちょっと佐天さん!?」




71LX2010/11/08(月) 22:11:34.3309lw7FI0 (19/43)


スカウターのホログラムに " 通話終了 リダイヤルしますか?" の文字が躍る。

花園飾利は、一瞬リダイヤルを思いかけたが、まぁいいかと<通話終了><思考入力 解除>を選択して一旦スカウターを解除した。

(さーて、どの子が佐天利子ちゃんなんだろう?)と先行体験・見学講習会のデータリストをチェックし、顔データをダウンロード

して監視カメラのプログラムに「捜査」を入力しチェックを開始した。

「ふーん、この子か……。やっぱり佐天さんとは似てないわね、ま、そりゃそうよね……。

あの子がねぇ……あたしがおばさんになるわけだわ」

花園飾利はぶつぶつ独り言を言いながらデータをチェックして行く。

「さーて、今はと……バスから降りてるのかー。ちょっと面倒かもしれないですね。どうしよう? 

そうだ、上条麻琴ちゃんを見つければ一緒にいるかもしれない」

ともう1台のモニターに上条麻琴の顔を映し出しておき、こちらでは「自動追尾」を指示した。




だが、この時まだ花園飾利は気が付いていなかった。バスが止まっているところがどこなのかを。


72LX2010/11/08(月) 22:14:52.9009lw7FI0 (20/43)


一方そのころ、佐天涙子は……

「わかったわ、佐天さん、任せておいて」

「すみません、あたしも直ぐ行きますから」

「いいわよ、あなた、今回発表なんでしょ?」

「いいんです。" Nature " に既に発表してますから、今回はそれの詳細を追加発表するつもりでしたけど、次の京都での

開催の時でも問題ないですから!」

「そんな、佐天さん……ごめんなさい。麻琴のせいで」

「あはは、気にしないで下さい。でも、言うこと聞かないで突進しちゃうの、ちょっとあたしに似てきたと思いません?」

「自慢にならないような気もするけど? 佐天さんも親ばかねぇ」

「そう言ってもらえると、親やってる甲斐があるってもんですよ……あたし。 じゃもう空港なんでまた連絡します」

「気を付けてね!」



(あの行動力はさすが佐天さんねー、あたしも見習わなくちゃ。ってそんなことより娘たちは今どこかしら?)

上条美琴は席に戻ると秘書に、

「申し訳ないけど、予定を変えるわよ。公式行事は今で終了。私はこれからプライベートタイムに入ります。

復帰は明日の午後。戻る1時間前に連絡します。やっかいそうなもの、残ってる?」と指示を下す。

「本日18時からの新入学予定者たちとの合同懇親パーティはどうされますか? お嬢様と御出席予定となっておりますが……。

これはやはり委員ご自身の方が宜しいかと判断致します。その他はとりあえず私でも大丈夫でしょう、とカミジョウは、

……コホン、失礼致しました」

「あなた、今、もしかしてウケ狙ったのかしら? 美子(よしこ・元10039号)?」


73LX2010/11/08(月) 22:19:06.9709lw7FI0 (21/43)


「いえ、とんでもありません、上条委員。委員の影を果たせるのは今やこの私だけです、とささやかな自負と共に私は宣言します」

「まぁね、それは認めてるわよ。しっかりね。じゃ18時のパーティには娘たちと戻ってきて参加します」

「了解致しました。ということで、プライベートに入ったお姉様<オリジナル>にミサカからお願いがあります」

「ちょっと、もう委員からお姉様<オリジナル>に切り替えたの? す早いわね」

「当然です。伊達にお姉様<オリジナル>と22年を共にしておりません、とミサカはちょっと自慢げに胸を張ります」

「申し訳ないけど、それは他の妹達<シスターズ>も同じなんだけれど?」

「いえ、内容の充実さにおいて、このミサカは他の個体に対し優位に「あー、もういいから。で、早くお願いをいいなさい!」」

「はい。ミサカはお姉様<オリジナル>のお嬢様にお会いしたいのです、とミサカはささやかな希望を述べてみます」

「ごめん、それはまだ早すぎるわ。もうちょっと時間が経ってからじゃないと、今は無理。で、いったいどうしたのよ、突然?」

「はい、このミサカと上条当麻さんとが結ばれて、出来た子供がどうなるのかを実例を見て考えてぐぷっ!?」

       ――― ごちん ――― 

「何考えとんじゃゴルァァァァァァァァァァァァァァ!」 

ミサカ美子(10039号)は美琴のチョップを食らってのびてしまった。



74LX2010/11/08(月) 22:22:06.3909lw7FI0 (22/43)


「いけない、いま麻琴がどこにいるのかわからなくなってしまったじゃない。あー失敗だぁ。……こら、起きなさいミサカ!」

「……てめぇでチョップ食らわしておいて、今度は起きろですか、勝手にしやがれとミサカは心の中でがさつなお姉様<オリジナル>

をののしってみます」

「もう一度吹っ飛ばされたいの、あ・な・た?」 美琴がニッコリと微笑む。

「そうだ、今日は琴子(ことこ・元19090号)に頼もうかしら?」

ぽーんとミサカ美子(10039号) ――― 上条美琴のクローンの1人 ――― は「なんでもありません、お姉様<オリジナル>」

と立ち上がって起立の姿勢をとった。彼女はスカウターをささっと走査し、5秒後に回答を出した。

「上条麻琴他、日本人の新入予定者を乗せたバスは現在、第1中央能力開発センターに到着しています。既に1時間が経過」

「何ですって?」

美琴の顔が厳しいものになった。

「そんな予定なかったわ。おかしい。というより佐天さんがまずいわ。普通に行ったのでは間に合わないわね。

……仕方ないけど、呼ぶしかないか」

美琴はブローチに触れてささやく。

「黒子? 聞こえる? こちら美琴です。悪いけど、抜けられたら第1学区の広報センターの2Fメインロビーまで来てくれるかな、

出来れば急ぎで。緊急事態発生よ!」

ささやいた後、美琴はミサカ美子(10039号)に向かって命令する。

「アイツにも伝えておいて。私はこれから第1中央能力開発センターに行きますから、と。それからあなた、私の影を頼んだわよ。

それから琴子(19090号)をあなたの影にしなさい。わかったわね」

「かしこまりました。それでは大切なことなので、私は直接当麻さんへ会ってお伝えして参ります、とミサカはあの人に

会う口実が出来たことを密かにほくそ笑みます」

「あなた、顔がニヤケてるわよ。鏡見てご覧なさい?」

と言い残して美琴は役員専用エレベーターへ乗り込んだ。


75LX2010/11/08(月) 22:28:09.2109lw7FI0 (23/43)




親たちがケンケンガクガクの大騒ぎになっているとも知らず、佐天利子と上条麻琴は他の見学者たちと一緒に

第1中央能力開発センターにいた。



「ちょっと、もしかして、ここで能力チェックするんじゃないの?」あたしはちょっと不安になった。そんな話じゃなかったからだ。

「ごめんねー、リコ。あたしも聞いてなかったのよ、こんなことがあるだなんて……。だって、スケジュールには書いてないのよ、これ」

ブツブツいいながら、どうしよう、怒られるかも、という顔をして麻琴があたしの顔を見る。

白衣を着た、いかにも研究者、という感じの男の人や女の人がニコニコしながらあたしたちを見ている。

一人の男の人がマイクを使って説明を始めた。

「それでは、今日は人数が多いので、いくつかのグループに別れて頂きます。よろしいですか?

まず大きく分けて、能力があると判定されたことのあるご家族がいらっしゃる方、こちらへどうぞ、左手へお集まり下さい!」

麻琴が左へ移動しようとして、麻琴の顔を見て立ち止まった。そしてニッコリ笑ってあたしに言った。

「あたし、リコに付いてあげる!」

「いいの? だって……」

「気にしない気にしない、バレたからってどうというモンじゃないし、あ、スイマセーンてなものよ、たぶん」

正直、ほっとした。あたし1人じゃとてもこの中にはいられない。ちょっと怖いから。



76LX2010/11/08(月) 22:31:09.9709lw7FI0 (24/43)

>>1です。

間違いがありました。

X 麻琴が左へ移動しようとして、麻琴の顔を見て立ち止まった。(ありえませんorz)

○ 麻琴が左へ移動しようとして、あたしの顔を見て立ち止まった。

原稿が間違ってました。申し訳ありません。






77LX2010/11/08(月) 22:35:03.2709lw7FI0 (25/43)


「それでは、それ以外の方はこちら、右手へお越し下さい!!」

だいたい四分の三くらいの人たちがあたしと同じ、家族に能力者がいない方に集まった。

背の高い、ちょっとカッコイイ研究者のような人が説明する。

「今日は簡易検査ですので、お時間はかかりません。注射とかそういうこともありません。ご安心下さい。学園都市に正式に

入られてからもう一度再検査を致しますので、気を楽にして下さいね」

「次に、年齢毎に別れて頂きます。小学校入学前のお子様並びに保護者の方は" A "の列に、現在小学生のお子様並びに保護者の方

は " B "の列に、現在中学生のお子様並びに保護者の方は" C "列に、高校生以上の方並びに保護者の方は" D "列にお並び下さい」

さらに4つのグループに別れたので、それぞれはだいぶ小さくなった。あたしたちC列のグループは、中学生本人がざっと10人、うち

男子が6人、女子が4人といったところだった。

「何されるんだろう?」「薬飲まされるんだって」「えー、なんか怖い」「だったら来るなよ」

みんな勝手に言いたい放題。

「まぁ、ここでいっぺん見てもらえば、リコもはっきりするかもね?」

麻琴がペロっと舌を出す。

「あのね、母さんにバレたらあたしどうなると思うのよ? 怒ったらそりゃスゴイんだからねっ!」

麻琴に文句を言ってみる。

「んー、もし家放り出されたら前のように詩菜おばちゃん家に居候すればいいよ。詩菜おばちゃま喜ぶよ?」

「そういう問題じゃないんだけど!」

「怖いの?」

「怖くなんか! (……やっぱり怖いよ)」

あたしたちC列のところに男の人と女の人がやってきた。

「それじゃぁ、Cグループの方、我々がご案内致します。私は垣内(かきうち)です」

「わたくしは湾内(わんない)と申します。どうぞ宜しくお願い致しますわ」

あたしたちは大ホールからエレベーターで上に昇っていった。



78LX2010/11/08(月) 22:37:32.1109lw7FI0 (26/43)


あたしたちは8階の待合室みたいなところに通された。

「どうもこういう病院という感じのところは好きになれないなー」

とあたしはため息をつく。

「病院が好きな子なんか普通いないわよ」

と麻琴がツッ込む。いつもと立場が逆だねー、どうもいかんな。

「あー、でもあたしのパパはしょっちゅう病院に入ってたから、とうとう専用の部屋が出来た、ってママが言ってた」

はいはい、アンタのお父さんは不幸の避雷針だもんねー。

「でも、お父さんがいるってのは心強いわよ」

と、何気なく言葉を返すと、(あ、やっちゃったかな?)

「うう……、ごめんなさぁい、リコぉ、またあたし余計なことを……」

またグスグスが始まってしまった。

しかし、言われたあたしがわりと平然としてるのに、加害者のアンタがなんでいちいち泣くのかしら。はー、不幸だ。

「お待たせしました。それではここからは男女別になりますので宜しくお願いします。保護者の方はここでお待ち下さい。

男子の方……6人の方は私に付いてきて下さい」

垣内さんが男子6人を連れて行く。

「行ってくるねー」

と意気揚々と男子たちが部屋に吸い込まれて行く。


79LX2010/11/08(月) 22:39:57.9709lw7FI0 (27/43)


「それでは、女子の4名の方、わたくしに付いてきてくださいね。保護者の方はこちらでお待ち下さいませ。

あら? あなたはどうして残っていらっしゃるの? それに、あなた(あたし)とあなた(麻琴)のご家族の方はどうなさいましたの?」

と湾内さんがあたしたちに尋ねる。そりゃそうだよね。中学生の女の子2人だけ、とは思わないよね。

「あ、あたしは実はこの子の親代わりなんでーす」とあたしがちょっとおどけて答える。

「まぁ! 本当に? かわいらしいお母様ね、ほほほ。じゃあ、あなたたち2人だけで今日は学園都市に来たの? 偉いわね」

「ええ、でも私の母は、あとから来るはずなので」と麻琴が会話に割り込む。

「あら? ではあなた、お母様はこちらにいらっしゃるの?」と湾内さんが麻琴に聞く。まずい、麻琴のウソがばれる!

「あのー、早く行った方がいいんじゃないかと……」とあたしは話をそらせようと必死。

「あらいけない、ちょっとおしゃべりしちゃったわね、ごめんなさいね。直ぐに行きましょう」 よっしゃ、作戦成功!

「ところで、その前に、あなたは検査受けなくても良いのかしら? どうなの?」おっと、意表をついた質問が来た! 

「いえ、あたしは付き添いですか「受けなよ、リコ!」……」 麻琴!この小悪魔!

「あらそうよ。大丈夫、怖いことは絶対無いから。おねえさんが保証してあげる。受けていきなさいな」

かくして遂にあたしも能力検査を受けることになってしまったのだった。

尤も、あたし自身、どこかに「もしかしたら」なんていう、かすかな期待みたいなものがあったのは事実だったから……。



80LX2010/11/08(月) 22:46:36.4109lw7FI0 (28/43)


「はい、それでは確認致します。かみじょう まこと、さん」

「ハイ」

「あなたは、さてん としこ、さんね」

「はい」

「たてかわ ゆめの、さん」

「ハイ」

「ゆかわ ひろみ、さん」

「ハイ」

「それではお一人ずつ入って頂きます。服はそのままで大丈夫ですから。それではかみじょうさん、入って下さいね」

「じゃ、行ってくるね、リコ」「ハイハイ、あたし知らないからね、マコ」「だいじょぶだってー♪」

相変わらず脳天気なヤツだ。アンタ、大物になるよ、ホント。


――― ものの30秒で麻琴は出てきた ―――  (マコ、早い、早すぎるよ!)

「どうしたの?」あたしは当然ながら聞いてみた。残りの2人も寄ってきた。「何をされました?」「どうでした?」

「パパとママの名前を答えたら」麻琴がちょっとむくれて言う。

「あなたは今日ここで測る必要はないです、お母様に尋ねてご覧なさい?、と笑って言われちゃったわよ。

湾内さんって、ママの学校の後輩なんですって」

「へーっ」「なーんだ」「え、じゃあなたはもしかして能力者なの?」「え、そうなの?」「すごーい!」

「ねぇ、空飛べるの?」「火の玉出せるとか?」 2人の女の子から矢継ぎ早に質問される麻琴。

「ちょ、ちょっと、何よ、知らないわよっ、リコ助けて!」

「知ーらないってば」あたしは冷たく麻琴をあしらった……ふりをした。

「さてんさーん、入って下さいね~」  湾内さんが私の名前を呼んだ。来てしまった。

「じゃ、あたし行ってくる」  ちょっと緊張して私は麻琴に言った。

「大丈夫、なんかあったらあたし助けに行くから」  麻琴が言う。

「ハイハイ、あてにしないで待ってるわ」

私は扉を開けて中に入った……


81LX2010/11/08(月) 22:50:32.4709lw7FI0 (29/43)


「もう、御坂さんのお嬢さんだったなんて。どこかで見たような気がするなぁ、と思ってましたのよ」

と湾内さんは机の3次元ホログラムモニターからあたしの方を見て軽く睨んだ。

「すみません、あたしが不安だったので、彼女が気を利かせてあたしと同じグループに入ってきてくれたんです」

「なるほど、優しいのね。……大丈夫よ。じゃ、まずお父さんとお母さんの名前を仰って下さいね」

「父は……わかりません。あたしが生まれて直ぐに事故で死んだと聞いています」

「まぁ、それは……お気の毒でしたわね。ごめんなさいね、これも規則なので。それではお母様のお名前を」

「さてん るいこ、です。るいこは" なみだ "のるいに、" こども "のこ、です」

「佐天涙子……ね。ごめんなさいね、チェックかけているので………なるほど、お父様はわからないのね……。

あら、あなた、ここで生まれてるのね? 生年月日はXX年X月X日で正しいのかしら?」

「はい、間違いないです。記録が残っているんですか?」

「ええ、あなたがいつどこで生まれたのか、あなたのお母様がいつ学園都市に来られたかもわかりますよ……あら?」

湾内さんのデータ入力を操作している手が止まった。そして驚くべき質問が来た。

「あなた、お母様が能力をお持ちだったことは聞いてらっしゃらなかった?」



82LX2010/11/08(月) 22:52:15.4709lw7FI0 (30/43)





――― かあさん、そんな話、本当なの? ――― 



「母がですか!? そんなことは聞いてません!……母は無能力者だったと常日頃言ってますし、だから、あたしが

学園都市に行くことはもちろん、今日のこの見学のことも大反対でした。無能力者には厳しいところだからって」

湾内さんはちょっとまずかったかな、という顔してあたしに答えた。

「記録によれば、あなたのお母様は、あなたの年の頃、正確には中学1年生の時に、ある病院に入院されたことがありますわ。

とある事件の被害者だったようですね。

うーん、詳しくは申し上げられませんけれど、この事件で入院された方は、いずれの方も能力を持っていらした方ばかりでしたの。

ですから、もしお母様が本当に無能力者であったならば、被害者になることはなかったはずですわ。

ただ、書庫<バンク>の記録にはお母様の能力の記載がなかったので、たぶん能力が発現したばっかりで公式に確認される前に

発病して入院されてしまったのではないかと思いますわ」

(母さんは完全無能力者ではなかった……)(母さんがウソを言ってた……)(あたしは無能力者ですからねー……)

私のアタマのなかでは、母さんの顔が、言葉が渦を巻いていた。

「ごめんなさいね、ちょっと混乱させてしまったようね。ちょっと落ち着きましょうか。とりあえず次の項目に、……あら?」

またもや湾内さんが不審な声をあげた。くるりと椅子を回してじっとあたしの目をみつめて言った。

「あなた、もしかして、AIMジャマーをつけていらっしゃる?」



83LX2010/11/08(月) 22:56:04.9109lw7FI0 (31/43)


本当に今日は驚かされっぱなしだ。

「はい? アタシが、ですか? ととととんでもない、そんなもの付けたこともないです。

マコなら、いやあの上条麻琴さんが付けてるのは知ってますけど?」

「ええ、わたくしも知っておりますわ。さきほどね。」と湾内さんがあたしの顔をまっすぐに見つめて言う。

「彼女のジャマーの影響はこの部屋には及びません。ですが、今、この部屋の中にAIMジャマーが存在すると言う反応が

明確に出ておりますのよ? ほら」と湾内さんがモニターをこちらに向けるとそこには警告表示が出ていた。


       ――― ホントだ ――― どこに? どうしてあたしに? ―――    


「あなた、お母様からはやっぱり何も?」

「……はい。もう、なにがなんだかわからなくなってきました。母さんは無能力者じゃなくて、実は少しだけど能力があった。

そして、今度はわたしにAIMジャマーがくっついてる、なんなんですか? 私、いったいどうなってるんですか?

そんなこと、聞いたこともないです。母さんも何も言ってないです。もうわからないです!」

もうあたしのアタマの中はぐしゃぐしゃだった。



84LX2010/11/08(月) 22:58:09.9409lw7FI0 (32/43)


「ねぇ、一旦休みましょうか」と湾内さんが優しくあたしに言った。

「感情が乱れると、テストにならないし、危険なこともあるの。大丈夫よ、いま無理することはありませんわ。

ちょっと何か飲んで落ち着いた方が良いですわ。コーヒーでも如何?」と優しい言葉をあたしにかけてくれた。

「ぐすっ、は、はい。コーヒー頂きますぅ……」

あーあ、麻琴を笑えないわ、あたし。グジュグジュのボロボロ。しっかりしろ、佐天利子! みっともないぞ!

「ミルクとお砂糖はどうしましょうか?」

「ミルクは普通で、お砂糖は少なめでお願いします、すみません、みっともないところお見せして」

「気にしないで大丈夫よ。コーヒーには鎮静効果がありますから、もう少ししたらだいぶ楽になりますわ。

そうね、あと2人だから先に彼女たちを測定してみましょうか。時間ももったいないし。あなたは最後にもう一度やってみましょう。

そのころにはもう落ち着いているわよね?」

「すみません、ご迷惑おかけしました……」

「いいえ、大丈夫よ。こちらのことは気にしないで下さいな」



(さて、彼女のジャマーのデータは取れたと……。これを打ち消すようにデータを作れば良い……)

……湾内は、佐天のAIMジャマーを無効化するアンチジャマーのデータを作成にかかった。



85LX2010/11/08(月) 23:02:20.0809lw7FI0 (33/43)


あたしはコーヒーの入ったカップを持って外へ出た。

「どうしたの、リコ!?」 

ぐちゃぐちゃのあたしの顔を見て麻琴がすっ飛んできた。

麻琴の顔を見たあたしは緊張が一気に緩んで、

「マコぉぉぉぉ! うわぁぁぁぁぁぁーん!!」  

と恥も外聞もなく泣き出してしまったのだった。

「リコ、リコったら、何よ、どうしたのよ、泣いてちゃわかんないよ、しっかりして!」

たてかわゆめの(館川夢乃)さんと、ゆかわひろみ(湯川宏美)さんもちょっと不安そうにあたしを見ている。

「たてかわさん、お入り下さいな」

ちょっと困った顔をしながら湾内さんが出てきて次の館川さんを呼んだ。

「はい」

とちょっと不安げな顔をしながら館川さんが入っていった。

「ねぇ、リコったら、しっかりして。何があったの? 一体どうしたの?」

麻琴があたしに問いかける。

湯川さんもすごく心配そうな顔をこちらに向けている。

「うっ、うっ、あ、あたしに、AIM、ジャマーが、取り付けられてるって、湾内せんせいが、言うの。

で、か、母さんも、能力者だ、能力を持ってた、ってあたしに教えたの。

かあさんの、今までの話、じゃぁみんなウソだったって、そういうことなの? もうわかんないよ!」

「そ、そんな……」

麻琴が絶句してしまった。



86LX2010/11/08(月) 23:05:03.7509lw7FI0 (34/43)


「ジャマーって、あの、能力者が付ける機械のことです、よね?」

湯川さんが恐る恐る訊いてくる。

「うん、こういうヤツだよ? ママもうちに帰ってくるときはしてるよ」

と麻琴が袖をまくり上げて自分のAIMジャマーを湯川さんに見せた。

「へー……、すごーい、ということはお二人とも、もう能力者なんですね?」

と尊敬するような目であたしたちを見る。

「いや、あたしはちょっと問題があるんだけどね? でもリコは持っているのかどうかはっきりしてなかったの。

お母さんが無能力者だってことはお母さんが言ってただけだから、リコもそれを信じてただけで、本当のことを

知らなかったと言うことよ。今まで測ったことなかったから、(チェックしてもらって)よかったのかもよ」

麻琴がわりと冷静なことを言い始めた。その通りだよ、とあたしを見つめるもう1人のあたしがささやく。

でも、そんなのいや、あたしは、と言おうとしたところで

「ありがとうございました」

と館川さんが部屋から出てきた。泣きそうな顔をしている。

「どうでした?」「どんな感じでした?」麻琴と湯川さんが口を揃えて訊く。

「簡易検査だから、改めて精密検査を受けることも出来るけど……」

館川さんが、ぽろっと涙をこぼした。

「たぶん、能力はない、って、うぁぁぁぁん! 悔しいよぅ、どうしてなのよぅ、うわーん!」

ばっと走り出し、ソファーにしがみついて、バンバン座面を叩きながら館川さんが泣く。

(能力が無くて、悔しいって泣くひともいるんだ……)とあたしは、自分と彼女とが全く逆の立場なのに、どっちも衝撃を受けて

泣いていることにちょっと不思議な気がした。



87LX2010/11/08(月) 23:08:51.7209lw7FI0 (35/43)


「ゆかわさん、どうぞ」  湾内さんが湯川さんを呼んだ。

「は、はい。直ぐ行きます」  すっかり緊張してしまった湯川さんがおずおず、と言う感じで入っていった。

むこうのソファーでは、館川さんがぐすぐすまだ泣いている。


「うまくいかないものね……」  と麻琴がため息をついていう。

「リコは能力があるかもしれない、ってことで泣き、館川さんは能力がたぶん無い、と言われて泣く。入れ替わってれば

めでたしめでたしだったのにね……」


ちょっと違うんだよね、リコ。あたしの衝撃は、あたしの母があたしにAIMジャマーをどっかに付けたこと、そしてそういうことを

全く教えてくれなかった、ということにあるんだけどね。



――― そうか、だから反対してたんだ ――― 



謎が解けた。なんで母さんがあれほどあたしを学園都市にいかせまいとしたのか。秘密がばれるからだ。なんだ。そういうことか。


――― じゃ、あたし、もしかしたら本当は能力があるのかも? ――― 


そうでなくては、あたしにAIMジャマーを付けておく意味がない。どんな能力なんだろう? 麻琴のような電撃?

さっきのあのひとのようなテレポート? それともスーパーマンとか? 空飛べたらいいな。



母さんの能力は、いったいどんなものだったのだろう? でも母さんがAIMジャマーを付けてるようには見えなかった。

記録にもない、ということはどういうことなんだろう?

1つの疑問は解消した。しかし新しい疑問がまた生まれた。


あたしはすっかりぬるくなってしまったコーヒーを飲み干した。



88LX2010/11/08(月) 23:13:02.1309lw7FI0 (36/43)


「ありがとうございました」  湯川さんが出てきた。どうだったんだろう? 

「どうだったんですか?」  麻琴が尋ねる。

館川さんも聞き耳をたててるみたい。

「精密検査を受けた方が良いですって」  不安と希望が入り交じった感じで湯川さんが答える。

「簡易検査では能力発現性は確認できないけれど、完全にゼロという答えも出てこないので、もう少し調べた方がいいと言われました。

その上で進路を決めた方が良いんじゃないかって……」

「なら、あたしも精密検査受けるー!」  館川さんが叫ぶ。

「簡易検査じゃわからないことだってあるんでしょ? あたしだって精密検査受けてもいい、って言ってたし。

絶対あたし、能力あるはずなんだから!」

どんな検査受けるんだろう? 痛いんだろうか? 気持ち悪くならないだろうか? あたしはそんなことを考えながら、

元気を取り戻した館川さんと、とまどっている湯川さんとを見つめていた……



「さてんさん? どうかしら」 湾内さんがあたしをまた呼んだ。

「大丈夫です!」 先ほどとは違った考えであたしは再び部屋に入った。 



89LX2010/11/08(月) 23:17:06.1309lw7FI0 (37/43)


「気分は如何? もう落ち着いたかしら?」  と湾内さんが微笑みながらあたしに訊いてきた。

「ええ、なんか吹っ切れた、というか、あたしにはもしかしたら本当に能力が隠されてるのかも、という気がしてきまして」

「そうかもしれないわね。じゃ、ちょっとあなたのAIMジャマーを無効にしてみるところから始めますわ。

ちょっとこちらに来て、そこのベッドで休んで頂けるかしら? あ、服はそのままでいいわ」

湾内絹保は佐天をベッドに寝かせ、何やら小型のZアームの先に小型の機械を取り付けて行く。

「あの、あたしのAIMジャマーがどこにあるかはわかったんでしょうか?」  と佐天が尋ねると、

「あなたが全く知らない、ということは私にもどこにあるかわからないと言うことなの。もしかすると体内に埋め込まれているかも

しれないんだけれど、それをチェックする時間をかけるより、今動作しているAIMジャマーの働きを打ち消してしまう方が簡単

だと思うのね。大丈夫よ、痛くもかゆくもないから、安心しててね。じゃスイッチ入れます」

湾内さんはホログラムキーボードでひとしきりコマンドを打ち込み、いくつかのスイッチを入れた。

特に何の変化もない。

「オッケー、ジャマーは見かけ上動作を止めたわ」 なるほど、画面にはジャマーの動作が殆ど見えていない。

あたしには何も感じられない。ホントにあたしにAIMジャマーなるものなんか付いているんだろうか?



90LX2010/11/08(月) 23:20:29.2909lw7FI0 (38/43)


「じゃ、ちょっと起きてくれるかな? この水薬飲んでみて下さいね」

と湾内さんがあたしにピンク色のちょっとどろっとした感じの薬を渡した。

以前、麻琴が言っていた「あやしげな薬」って、もしかしてこれ?

「あの、これは……?」  さすがになんだかわからないものを黙って飲むのはいやだった。

「ああ、ごめんなさいね。説明しなかったわね。それは脳活性化誘導促進剤といって、脳の活動を促進するお薬よ。

これを飲むと、脳のある部分を刺激して、今まで使われていなかったところの隠れた能力が出せるようになったりするの。

これは昔からあるもので安全性は確認されてますわ。それと、あくまで補助なので、脳への負担は少ないの。大丈夫よ」

湾内さんが優しく説明してくれた。

「もしかして、館川さんや湯川さんも?」  と聞いてみると、

「ええ、飲みましたよ。結果はあたしは秘密保持の取り決め上、何も言えないの。ごめんなさいね」  と湾内さんが答えた。

結果は本人たちが既にさっきバラしちゃいましたけど、というつっこみは止めておいた。

(えい)とばかりに、あたしは目をつぶって飲み込んだ。あま~い。ちょっと、スゴイ甘い。

「あなたよりうんと小さな子もいたでしょ?だから甘くしてあるの」

とあたしの渋い顔をみて湾内さんは少し笑いながら、理由を言った。

「じゃ、また横になってね。ちょっとデータを取りますから……」

と湾内さんはあたしの頭、首、手、腕、足首、おなか、胸に電極をテキパキと取り付けて行く。

と、その時。

部屋のスピーカーから

「業務連絡、業務連絡、研究第1グループ6チーム、湾内絹保さん、研究第1グループ6チーム、湾内絹保さん、至急館内連絡電話

をお取り下さい。繰り返します、研究……」とページングが流れてきた。

「あら、何かしらね、ページングなんて珍しいこと」とつぶやきながら壁にかかっている子機を取った。

「ハイ、湾内ですが?……はい、確かに私のところに……、まぁ、本当ですか? ……は、はい、そうですね。はい。わかりました。

それで、まだ1名確認が終わっておりませんので、その後で、あれ? もしもし、もしもし?」


そのとき、部屋の外では……


91LX2010/11/08(月) 23:25:29.3809lw7FI0 (39/43)


「間に合ったかな?」「お姉様、受付の確認途中にいきなりここへ飛び込むというのはマナー違反だと思いますけれども?」

上条美琴と白井黒子が、いきなり中学生3人の前にテレポートして姿を現したのだった。

麻琴、館川、湯川の女子中学生3人は、突然空中から現れた女性2名にすっかり土肝を抜かれ、呆然としていたが

いち早く気を取り直したのはさすがに麻琴で「ママ、ごめんなさい!」と先手を打った。

「あたしがリコを誘ったの!」

「麻琴、あんた、誰に断って利子ちゃんを連れてきたのっ? このバカたれっ!」  とバチンと麻琴を張り飛ばした。

「ごめんなさい、ごめんなさい」  とひたすら謝る麻琴。

「おおおおお姉さま、いけませんわ、暴力はいけませんわ、おやめ下さい! お嬢様にそんなことを……」

白井が美琴を押さえにかかる。しかし、美琴は、

「ほっといて、黒子。これはあたしのウチの問題なんだからっ! いやウチだけじゃない、佐天さんに迷惑かけてッ!

娘といえど、いや、ウチの娘がッ、ウソついて、自分のことのウソならまだしも、大事なお友達のことでウソついてッ!」

館川・湯川、2人の女子中学生はあまりのことに呆然として成り行きをみている。


「ちょっと、何さわいでいるんですかっ!」  扉をガラッと開けて湾内が飛び出してくる。

「ここは研究室でっ、あ……? あ、あのもしかして、今の電話の……、御坂さま……と、しらい……さんでしょうか?」

二人をみて、湾内の怒りがすっと消える。


92LX2010/11/08(月) 23:28:26.8509lw7FI0 (40/43)


「お久しぶりですの、湾内さま。白井黒子でございますわ。お変わりございませんこと?」

「上条美琴です。ご無沙汰してましたわね。湾内さんもお元気でいらっしゃいましたか?」

今までぎゃーぎゃー騒いでいた美琴と黒子がころっと態度を変えた。これまた第三者の中学生2名は唖然。

「湾内絹保でございます。お久しゅうございます」  と湾内さんがぺこりと頭を下げる。

「湾内さん、佐天利子さんは?」  美琴が湾内に訊く。

「は? はい、今、中でちょうど検査を始めたところですが」

「止めてっ! 危険だわ、早く止めて!」  ダッと美琴が部屋に走り込む。

「え、えええっ? ちょ、ちょっと、それってどういうことですかっ?」  湾内が動転する。

「お、お姉様っ? 落ち着いて下さいましっ! 危ないですわっ?」  美琴を追いかけて白井も部屋に突っ込む。

「リコが危ないって? どういうことなのっ?」

美琴にひっぱたかれて出来た赤い手形をほっぺたに付けたまま、麻琴も部屋に入ろうとするが、

「麻琴さんは外にいて下さいっ!」  と湾内に立ちはだかられ、締め出されてしまった。

「えー、なんでアタシはだめなんですかぁ~? ひどいよぅ、ねぇ、ママ~」  と外でダダをこねるしかない麻琴であった。

館川・湯川の女子中学生2人は、あまりの展開の早さに全く付いて行けず、お互いに顔を見合わせるのが精一杯だった。



93LX2010/11/08(月) 23:34:28.6409lw7FI0 (41/43)


「ど、どうしたんですか、いったい? あ、おばさま? ……あのう、それにそちらの方は?」

体中にセンサーを貼りつけられていたあたしは、いきなり血相を変えて飛び込んできた美琴おばさま、そしてもう1人の女性に

ちょっと驚き緊張した。

「はー、とりあえずは無事みたいねー、ふう」  と美琴おばさまが肩で息をする。

「ご挨拶が遅れましたわ、私、風紀委員会<ジャッジメント>統括総合本部におります白井黒子(しらい くろこ)と申しますの。

こちらの上条美琴委員(おねーさま)の1年後輩にあたります。佐天さんのお母様とは同い年で、良く存じあげておりますの。

宜しくお願い致しますね?」

と白井さんが挨拶した。お母さんのお友だちだったんだ……。

「私は中学2年生で、佐天利子といいます」  寝たままであたしは白井さんに答えを返した。

「あたしも中学2年の上条麻琴と「こらっ! 何してるの?」……いいじゃない、あたしとリコは姉妹なんだから!」

外で聞き耳をたてていたのだろう、麻琴がいきなり飛び込んできて美琴おばさまとちょっと言い争いを始めた。

いきなり飛び込んでくるってところはさすが親娘、あなたたちそっくりだねぇ。

「まぁ、なんという運命のいたずらなのかしら、御坂様のお嬢さまに佐天さんのお嬢さまと、こんなところでお会いするなんて!

本当に素晴らしいことなのですの! それに湾内さんまでここにいらしたなんて」

白井さん、緊張感ゼロですけどいいんですか? 美琴おばさま、引いてますけど?

「そんなことより、湾内さん、はやく佐天さんのこのセンサー、外して!」  美琴おばさまがはっと我に帰り、湾内さんに指示する。

「は、はい? でもどうして?」 

あたふたしながら、湾内さんがあたしの身体のそこここに付いているセンサーをバリバリと引きはがして行く。

「いたっ!」

「ご、ごめんなさいね」  せっかく取り付けたセンサーは全部外されてしまった。

「とりあえず、これでいいか……」  美琴おばさまはふーい、と息を吐いて、空いている椅子を見つけて腰を下ろした。




94LX2010/11/08(月) 23:38:33.3109lw7FI0 (42/43)


白井さんがあたしの顔をじっと見ながら訊いてきた。

「佐天さん? あなた、この先行体験ツアーに参加されているわけですけれど、あなたはこの学園都市にいらっしゃるおつもりですの?」

「いやー、正直、よくわかんないんですけれど……。母はとにかく反対ですし、あたしも母譲りで能力はゼロですから、どうかと……」

と答えると、白井さんは

「何を仰ってるんですの? お母さまは無能力者ではありませんのよ。能力開発を望まなかっただけですのよ」

とやはり湾内さんと同じようなことを言う。やっぱりそうなのか……。

「えー、佐天のおばさんはレベルゼロじゃないんですか?」  と麻琴が突っ込んでくる。

「おばさん、と言う言葉には少々引っかかるものがございますわね?」  と白井さんが突っ込み返すが、

「え? だってウチのママの一つ下、ってことは……36歳でしょー? 立派なおばさんですよぅ?」

と麻琴が地雷を力一杯踏みつけた!

「ななななななななんと言うことをッ!? レディに向かってその発言は失礼ですのよっ!」

おーい、娘みたいな中学生相手に本気で怒るんですかー白井さ~ん? はーアタマ痛いわ…… 



ホントになんか痛い?

やだ、なにこれ? え?

ちょっと……冗談じゃないわ、痛いよ、すごく痛い! 死ぬかも!!

助けて……マコ…… 怖いよ母さん! お母さぁん!! 助けて!!! お母さん!!!

猛烈な頭痛が突然押し寄せてきた。頭が割れそう。身体の力が抜けた。もうだめだ。

くらっとあたしはそこに横倒しに崩れて倒れ込んでしまった。

「佐天さん?」

「利子さん!!!」

「リコ? ちょっとリコ? どうしたの? リコ!!」

麻琴が駆け寄って…… 真っ黒な雲があたしを包み込んだ。



あたしの意識はそこで切れた。



95LX2010/11/08(月) 23:53:13.7309lw7FI0 (43/43)

お読み下さっている皆様、

こんばんは。>>1です。

ちょっと早いのですが、キリがよいところだと思いますので、今夜はここまでに致しとう
ございます。
(このあとですと、中途半端な位置でとめることになりそうで、それはどうかと思いまして)

テキストファイルの大きさで見てみましたところ、現在約1/4を投稿したあたりの
ようです。
ということで、200ではなく300くらいはかかりそうです。

宜しくお願い致します。



96VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/08(月) 23:56:38.22Khy2nwYo (2/2)

>>1
乙です


97VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/09(火) 00:19:17.13ELbmJOYo (1/1)

乙でした


98VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/09(火) 02:07:38.74GYZd3e2o (1/1)

追いついたぜ!


99VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/09(火) 03:52:54.79F8XZTcAO (1/1)

続きが気になってしょうがない


100LX2010/11/09(火) 07:08:18.43nJEwQ/c0 (1/7)

皆様、おはようございます。>>1です。

コメントありがとうございます<(_ _)>
励みになります。

では少しですが出勤前に投稿致します。



101LX2010/11/09(火) 07:11:16.58nJEwQ/c0 (2/7)


「リコ、リコっ、しっかりして!」  麻琴が利子にしがみつく。

「麻琴、アンタ邪魔だからどいてっ!」  上条美琴が麻琴を引きはがし、顔をひきつらせている湾内を睨む。

「あんた、何をしたのっ!?」  美琴が目を血走らせて言う。

「は、はい、薬を処方してます。精神集中補助剤と脳活性化誘導促進剤の複合剤です。簡易能力チェック用の薬です。

傾向を見るのにはこれが確実ですし、副作用も殆どありませんので……」  湾内絹保はすっかり動転している。

「ああ、アタシ迂闊だったー! なんてものを……あんた、彼女がジャマー使ってること知らなかったの?」

「本人は知らなかったそうですが、チェッカーが作動しましたので使っていることは確認してました」

「バカっ、もし体内にあったらどうするのよ!こんなところじゃ取り出せないわよ!?」

「そのことを考えて、AIMジャマーのパターンを読みとって減衰機<アンチジャマー>を動作させてあるんですよ? 

 なのに、なのにどうして?」

「あー、説明してる時間がないっ! 湾内さん、解毒剤というか、あなたの薬を効かなくするヤツは?」

「はいっ、あります!」

「それ飲ませなさい、早く!」

湾内が控え室にすっ飛んで行く。

「ごめんね、利子ちゃん、あたしたちのせいで……本当にごめんなさいね」

美琴が涙を流しながら、意識がなく顔をゆがめて荒い息を吐いている利子を撫でさすっている。



102LX2010/11/09(火) 07:14:57.18nJEwQ/c0 (3/7)


「これです!」  湾内が薬を持ってくる……が、

「これ、注射器が必要なやつじゃないのよ!」

「ええ、でも注射器は今ここにはないです」

「何ですって?? あーもう役に立たないわねっ! 黒子! アンタ、看護師免許あるわよね?」

「もちろんですわ、風紀委員<ジャッジメント>の上級職員は必須ですの」

「どっかで注射器見つけて、あんた、この薬を佐天さんにうって!」

「はいですの!」  白井がテレポートして消える。

「す、すみませんでした」  湾内がひたすら恐縮している。

「あたしに言っても意味ないわよ。佐天さんが起きたら謝りなさいね?」  美琴が言う。

「そうだ、麻琴、ちょっと手伝って。えーと、あんた外出て、待ってる女の子2人をお母さんたちが待ってる集合場所まで

 連れて行ってあげて」

「は、はい。じゃ行ってくるね、ママ。リコを見ててね、お願い」  麻琴が泣きそうな顔で出て行こうとすると、

「わ、私もちょっと一緒に行ってきます。垣内さんにも連絡しておきますから」  と湾内も一緒について部屋を出た。

部屋には上条美琴が1人残った。

「まさかこうなるとは……、ごめんなさいね、利子ちゃん。完璧なはずだったんだけど……」

と独り言を言いながら苦しげに荒い呼吸を続ける佐天利子の髪を撫でていた。





103LX2010/11/09(火) 07:18:07.60nJEwQ/c0 (4/7)


「ありましたわ!」  白井黒子が救急キットを持ってテレポートしてきた。

「近くの66番支所で借りて参りましたわ。では早速」  黒子は薬の瓶にある注意書きを読み、注射器にその薬を充填した。

「あんた、息切れてない? 大丈夫?」  美琴がちょっと不安そうに白井に聞く。

「お姉様、そ・れ・は・ちょっと黒子に失礼、ですわよ? わたくし、学園都市1級看護師の白井黒子、ですのよ?」

と軽口を叩きながら、さっさと佐天の腕をまくり、静脈注射を1本打った。

「とりあえず、これで脳の暴走は食い止められるはずですの。でもやはり脳の問題ですから病院で念のため検査を受けた方が良いと思いますわ」

「そうよね、どこに連絡しようか?」

「一番近いのは、私ども風紀委員直属のジャッジメント付属病院がありますけれど……」  白井が考えながら答えを1つ出す。

「近いの?」

「クルマで5分、というところですわ」

「オッケー。そうしようか?」  美琴は答えたが、

「しかしお姉様、そうなりますと、ことが大きくなりますわ。正式に捜査になるおそれがありますの。佐天さんも場合によっては

捜査の結果が出るまで出国できなくなるかもしれませんし、湾内さんもいろいろとややこしいことになるかもしれませんわ……」

と白井が懸念を示す。

数秒間「考える人」のポーズを取った美琴はパッと顔を上げて白井を見た。

「黒子、決めたわ」

「はい?」

「アイツの行きつけのところにする」



104LX2010/11/09(火) 07:24:44.14nJEwQ/c0 (5/7)


救急車に佐天利子を乗せ、上条美琴・麻琴親娘、白井黒子、湾内絹保の4人が美琴のリモに乗り込み、救急車の後を走る。

「で、結局どういうことなんですの、湾内さん? 説明して頂けませんこと? 場合によってはあたくし、風紀委員<ジャッジメント>

として、貴女にお話を伺わねばならなくなりますのよ?」

と白井がじとっとした目で湾内を睨む。

「は、はい。佐天利子さんはお母様から全く能力について知識を与えられていなかったようですわ。

それだけならよくあることですが、しかしその一方で何故かAIMジャマーを身につけていらっしゃる。

でもそのいきさつを佐天さんご自身は全く知らない。かなり不自然な状況です。

本人がAIMジャマーの存在を知らないということは、体内に埋め込まれている可能性が高いために、

今回はジャマーを一旦無効化した上で能力のチェックを行った方がよいだろうと考えまして、

まずAIMジャマーの波形を取り、アンチジャマーの動作プログラムを作りました。

これを動作させることでAIMジャマーを無効化出来ますし、実際に無効化出来たことを確認した上で

あの薬を処方したのですが……。薬自身は合法的なものですし、今までも入学時の先行テストでは長いこと

使われておりまして、安全性には定評がありましたから、特に疑いもなく……」

「なぜAIMジャマーが動作していないのに彼女が昏倒してしまったか、ですわねぇ……」

白井がため息をつく。


105LX2010/11/09(火) 07:26:32.46nJEwQ/c0 (6/7)


「は、はい。その通りです。今思えば、やはり身体スキャンしてジャマーの場所をきちんと確認した上で、

AIMジャマーを外してから検査にかかればよかったと……ごめんなさい、ううっ……」  湾内が頭を抱えて突っ伏してしまう。

「状況からみて、作動していないはずのジャマーが実際には動作している、ということしかなさそうね。

それならば、能力発現促進剤によって脳が刺激を受け活動が激しくなったところに強制ダウンの圧力がかかった、

ということだから、佐天さんが昏倒する説明はつくわね。想像もしたくないわ。

片方で煽って、もう片方で妨害だもの。脳だってどうしたらいいかわからなくなるわよ」  美琴が考えを述べる。

「でもお姉様? すると……」  白井が考えながら発言する。

「ジャマーと脳が葛藤して、佐天さんが倒れた、ということは……?」

「彼女に能力があるから、ということになる、わね……」  美琴が白井の疑問を引き取る形で答えを出した。

「ママ、リコは? リコは大丈夫なの……?」  黙って聞いていた麻琴が不安そうな顔で美琴に尋ねる。

「大丈夫よ」  と美琴が微笑んで麻琴に答える。

「明日はみんな揃っておうちに帰るわよ!」



106LX2010/11/09(火) 07:30:40.86nJEwQ/c0 (7/7)


>>1です。

それでは出勤準備にかかりますので、朝の投稿を止めます。
夜にまた投稿致します。

お読み頂きましてどうも有り難うございました。



107VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/09(火) 08:09:41.53ejCimg2o (1/2)

>>1
乙でした


108VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/09(火) 14:20:03.94/kBbQuEo (1/1)

乙でした


109LX2010/11/09(火) 20:40:05.25PAYCfSg0 (1/38)


皆様こんばんは。>>1です。

遅くなりましたが、これから投稿を始めます。
どうぞ宜しくお願い致します。



110LX2010/11/09(火) 20:41:48.20PAYCfSg0 (2/38)


ここは、冥土返し<ヘヴンキャンセラー>の病院。

あの、カエル顔の医師は健在であった。

彼の部屋に上条美琴が座っていた。

「こんにちは、上条さん。久しぶりだね。まぁ、僕には滅多に会わないほうが良いんだけどね?」

「こちらこそご無沙汰しております。おかげさまで、妹達<シスターズ>も、ここのメンバーは全員健在ですし」

「そうだよ、僕が面倒みているんだからね、君より長く生きてもらうつもりだよ。まぁみててごらん?

ところで、今日の患者は彼じゃなかったんだね?」

「つまらない冗談はよして頂けませんか? それより彼女の方を宜しくお願いしますわ」

「ああ、話は湾内さんだったかな、彼女から聞いている。応急処置も適切だったようだね。念のためチェックを今、

 いつもの彼女にしてもらっているよ。そう時間はかからないだろう」

「そうですか、良かった……」

「そうそう、データで思い出したよ。あのときの子なんだね? いや、月日の経つのは早いものだね、僕が年を取るわけだよ」

「そのことは内密に願います。先生のところを選んだのは「いや、すまなかったね。キミの言うとおりだ。僕は医者だからね。

 患者の秘密は守る義務がある。信用してくれていいよ?」……お願いしますね」

その時、扉がノックされた。



111LX2010/11/09(火) 20:43:58.58PAYCfSg0 (3/38)


「終了したかな? 入って良いよ?」カエル医師がノックに答える。

「入ります……!! これはこれは、お姉様<オリジナル>ではありませんか! あのひとに何かあったのですか?」

入ってきたのは、かつて御坂妹と言われていた妹達<シスターズ>の1人、ミサカ麻美(あさみ・元10032号)であった。

「アンタねぇ、ひとの亭主つかまえて<あのひと>発言はやめなさいよね、誤解招くわよ?」

はー、とため息をついて美琴がミサカ麻美(10032号)をたしなめる。

「このミサカにとって、<あのひと>は命の恩人です。なによりこのミサカは、直接<あのひと>に生きる希望を与えられた

唯一のミサカなのですから。他に呼び方は考えられません」

「はいはい。事実はその通りね。あなた、そう言えばしゃべりかたはかなり普通になってきたわね?」

「お望みとあらば元に戻せますが、戻しましょうか? と、ミサカはお姉様<オリジナル>に質問を投げかけます」

「いいわよ、別に。ちょっと気になっただけだし、あたしの影役とは違うなと」

「10039号や19090号とは生活環境が大きく異なりますから、とミサカはお姉様<オリジナル>からミサカの質問に回答がないことに

対して何ら不満の声を上げることなく、お姉様<オリジナル>の質問に対し丁寧に回答します」

「あー、ミサカくん? 姉妹ゲンカはその辺にして、肝心の報告をしてもらってもいいかな?」

カエル顔の医者がここらでもういいだろう、と二人の口撃を止めさせた。



112LX2010/11/09(火) 20:48:14.91PAYCfSg0 (4/38)


「失礼致しました、ドクター」ミサカ麻美(10032号)は直ちに看護師に戻った。

「B-316の救急患者の容態確認が終わりました。報告します。

血圧、上下ともに正常範囲内、血液内各成分分析、速報ですが異常データなし。脈拍数若干高いものの正常と判断。

心電図チェック、異常値なし。 

脳波レベル、α波 正常値、β波 正常値、θ波 正常値。突発波発生認められず、波形異常認められず」

美琴はその報告を聞いてほっとため息をついた。が、

「現在、過度の脳の活動集中及び相反するAIMジャマーによる疲労のため脳活動の一部ダウンにより睡眠中ですが、あと1時間弱で

意識も回復するものと判断します。なお、AIMジャマーの動作も異常ありませんでした」

との報告に思わず美琴はミサカ麻美(10032号)に

「麻美、ゴメン、先生と2人で話がしたいんだけど、ちょっと席を外してくれるかしら?」  と頼む。

「いえ、報告は終わりましたので、わたくしはこれで失礼致します」  とミサカ麻美(10032号)は二人に礼をして部屋から出て行った。



113LX2010/11/09(火) 20:49:59.40PAYCfSg0 (5/38)


カエル顔の医者はミサカ麻美(10032号)が去ったのを確認して美琴に振り返って言う。

「ね? 僕の作ったものはしっかりしているだろう? もちろん、彼女とあの娘さんが僕の言いつけをしっかり守ってくれている

 からこそ、僕の技術が生きているのだけれど」

「湾内さんにばれたらどうしよう、とヒヤヒヤでしたわ」  と美琴が苦笑して答える。

「ただね、これは僕よりもむしろ木山君のテリトリーだと思うけれど」  と前置きして、カエル顔の医師は顔を引き締めて美琴に言った。

「今回のことで、今まで意図的に押さえられてきた脳の一部分の活動が彼女の脳に記憶されてしまった。

まぁいつかは起きることだったかもしれないが、とにかく起きてしまったことはもう消せないんだ。

今後も何かのショックでまた同じことが起きる可能性がある」

「すると……また倒れることが?」  美琴が恐る恐る聞く。

「それでは済まないかもしれないな。ジャマーが壊れるか、彼女の脳が壊れるか……」

「!」

「あのジャマーは残念だけれど、お役目御免の時が来たのかもしれないね。キミやお嬢さんのように、能力発現部分にのみ影響を

及ぼすタイプに切り替えるべきなんだろうな」

「でも、彼女の能力は正確には……」

「そこまでは僕はタッチできないな。僕が言えるのは、彼女はもう普通の人には戻れなくなってしまった、と言うことだ」



114LX2010/11/09(火) 20:52:37.82PAYCfSg0 (6/38)


(どうしよう、とりかえしのつかないことをしてしまった……) 

と美琴は重い足取りで個室を出てフロアへ戻った。

そこには不安そうな顔で麻琴、白井、湾内の3人が待っていた。

「ママ、リコはどうなの?」「先生はなんと仰ってましたの?」「……」

と、我に返った美琴は、声を張り上げて

「あ? ああ…、ああ! もちろん全部異常なしだって!あと1時間以内に目が覚めるだろうって言ってたわ!」

と力強く答えた。

「よかったですの!」

「あ、あたし、アタシ、リコに、もし万一のことがあったら、もう生きていられ……びえええええ」

麻琴はようやく気が緩んだのか盛大に泣き始めた。

「ほらほら、麻琴さん? レディたるもの、びーびー泣くものじゃございませんよ? ほらお顔を拭いて」

と白井が麻琴の面倒を見ている。すっかり麻琴も白井に慣れたようだ。

「は―――っ……」  

湾内絹保もやはり気が緩んだのか、ソファーに崩れるように座り込んだ。

(湾内さんも気が張ってたのね……)と思いつつ、(だけど、どうしよう、佐天さんにはいつ? どうやって言えば?)

と再び美琴は考え始めた。


115LX2010/11/09(火) 20:54:45.59PAYCfSg0 (7/38)


「……さま、お…………ま、ちょ……えていらっしゃいます? ちょっとお姉様?」

「は、はいっ?」  白井の声で再び美琴は現実世界に引き戻された。

「もう、なにをそんなに考え込んでいらっしゃいますの? そろそろ佐天さんのお部屋に行っていた方が宜しいのでは?

お部屋に参りませんか? とお尋ねしておりましたのに」  と白井が麻琴を従えて訊いてくる。

「そ、そうよね、起きたときに誰もいない部屋は寂しいよね、じゃ行こうか?」

「あ、あのう……あたくしはやはりちょっと……」  湾内はこの事故を引き起こした張本人なだけに遠慮しきっている。

「うーん、じゃ部屋の外にいてもらって、落ち着いたら呼ぶから、というのはどうかな?」

「そ、それで十分ですわ、ではわたくしは部屋の外でお待ち致しますわ」  ホッとしたように湾内が答える。

「よし、じゃ行こう。えーと、B棟の3階、316号室だったわね」




「ここですわね」

「静かに、まだ寝てるはずよ」

「ではわたくしはここで待っております」

「リコ、ちゃんと起きてくれるよね……?」

部屋の中に静かに入って行くとベッドに突っ伏しているひとが1人。

(……誰?)顔が向こう向きなのでよくわからない。

美琴が静かに低い声で

「すみません、あの……」  と尋ねながら肩に手を置いた瞬間、

「は、はいっ!?」  とそのひとは反射的に立ち上がった。


――― 佐天さん ――― 


目は真っ赤に充血し、目の下には深い隈が出来ていて、化粧ゼロのすっぴん、



佐天涙子だった。



116LX2010/11/09(火) 20:58:33.83PAYCfSg0 (8/38)



「本当に申し訳ございませんでした」

「本当ですよ。あのバカ娘め、顔を合わせたが最後、さんざんぶちのめしてやろうと思って意気込んできたら、

 <病院に担ぎ込まれました> ですよ? あたしの立場どうしてくれるんです、湾内さん?」

いつもの軽口を交えて話す佐天涙子であったが、昨日は大変だった。

ーーーーーーー

バルセロナの国際空港に着いたのが午前2時。カウンターですったもんだして学園都市行き超音速機直行便のビジネスクラスを

ゲットして出発は午前3時。例によって強烈な旅の末、23学区の国際空港に降り立ったのは昼の12時半。

タクシーに飛び乗り、中から花園(初春)飾利に連絡、利子の居場所を聞き出し(第1中央能力開発センターという名前を

聞いてまた愕然)、センターに着いて問いただしてみると「さきほど救急車で運ばれましたが」との話で驚愕、腰砕け状態。

どこへ運ばれたかが不明で、再び花園に情報収集を依頼、救急車が「あの病院に入った」ことを知り、ようやくのことで

たどり着き、娘の病室に入り込んだ。

しかし、ぶちのめすはずだった娘利子は深い眠りについており、それを見た佐天涙子も安堵と疲労から急激な睡魔に襲われ、

ベッドの脇で突っ伏してしまったのであった。



117LX2010/11/09(火) 21:02:29.91PAYCfSg0 (9/38)


「佐天さん、あなた確かさっきまでバルセロナにいたのよね?」   美琴が涙子に訊く。

「ええ、おかげさまで徹夜状態ですよぅ……はは、アタシも残念ながら歳なんですかねぇ、昔はこれぐらい、どうということも

なかったのに」

顔を洗ってはきたものの、目の下の隈は取れていない。化粧しようにも、バッグには最低限のものしかなく、殆どは空港に預けてきた

スーツケースの中だ。

「ちょ、そんなこと言ったらあなたより一つ上のあたしはどうすればいいのよ?」  美琴がむすっとして答える。

「ちょっと、佐天さん? お顔の色がすぐれませんし、そのままではちょっと宜しくないと思いますわよ? あたくしので
 
差し支えなければお貸ししても、如何ですの?」  黒子がバッグを「ほれ」と佐天に突きつける。

「いやいやいや、この佐天涙子に身に余るお言葉、有り難うございます、でも……」

と涙子がいやいやとんでもない、と言おうとしたときに



「……お母さん?……」     かぼそい声がした。



「としこ?」

「おかあさん!」     利子が跳ね起き、ベッドから飛び出して、母・涙子に飛びつき、ひし、としがみついて泣き出した。

「おかあさん、おかあさん、おかあさん!」

「……」   

母・涙子は黙って、娘・利子を左手で抱きしめながら、右手で頭をよしよしと優しく撫でてやる。

「あたし、怖かったよう、頭痛かったよぅ、うわぁぁぁぁーん」

いつもは、ちょっと大人びた感じがする利子だったが、涙子にしがみついて泣きじゃくる姿は、どこにでもいる、ただの14歳の

普通の女の子であった。


そう、「普通の14歳」の……



118LX2010/11/09(火) 21:09:02.52PAYCfSg0 (10/38)


「そんなことより佐天さん、先生がいらっしゃいましたですの」  白井が、湾内と喋る佐天涙子に注意を促した。

「え? あら、いけない」  佐天(涙)がパッパッと服をなおし、娘・利子をそばに立たせ、

「このたびは、本当に娘がおせわになりまして、どうも有り難うございました」  佐天親娘がカエル顔の医者に深々と頭を下げる。

「いやいや、僕は今回は特に何もしていないよ? お嬢さんの面倒を見てくれたのは」  その医者は廻りを見渡していう。

「ここにいる、みんなだと思うよ」

ニコニコ笑っている上条当麻・美琴・麻琴のファミリー、白井黒子、湾内絹保、そして花園飾利であった。



ちなみに奥の方では、美琴の秘書ミサカ美子(10039号)と影役ミサカ琴子(19090号)、看護師ミサカ麻美(10032号)が

上条当麻を巡って一悶着を起こしていたが、美琴から「あなた達を娘に紹介するのはもう少し時間が欲しいから、今は席を

外して待っていて欲しい」と強くお願いされたため、表面上はおとなしく見えないところに詰めていた。

当然ながらミサカネットワーク内では激しいやりとりが交わされていたのだが特に大筋には関係ないので省略しよう。



「いやぁ、今回もまたウチの麻琴が企んだことで皆様にご迷惑かけてしまったみたいで、本当にすみません。ほれ、おまえも頭下げなさい」

当麻が娘・麻琴の頭をぐいと押さえつける。

「ちょっと、パパ、止めてよ、そんなことしなくたって、アタシ反省してるんだからって……ごめんなさい、あたしのせいです」

と父当麻に少し反発しつつもおとなしく頭を下げた。そうとうしかられたのだろうし、彼女自身も肝を冷やしたのだろう。



119LX2010/11/09(火) 21:12:13.72PAYCfSg0 (11/38)


「そ、偉そうなこといってるアンタは何もしなかったけどねー。まぁアンタが今回は何もしなかったから、スムースに事が

進んだんだけれど?」

美琴が当麻にまぜっかえす。

「おいおい、こういうときになんてこと言いやがりますかねー、美琴さんは? そんなこと言われると、上条さんはまたここへ

入院しちゃいますよ?」  当麻がやり返す。

「部屋は用意してあるよ? 入るのかい?」  カエル顔の医者が言う。

「うちにはキミを待っている看護婦もいるようだしね?」

当麻は、一瞬御坂妹ことミサカ麻美(10032号)がガッツポーズをしている姿を思い浮かべたが、

「わぁっ!?」

美琴が左手を握り軽く電撃を飛ばしてきたので悲鳴を上げた。

「アンタ、今へんなこと考えてたでしょ?」  美琴がすました顔で言う。

「な、なにを仰っているんでせうか、美琴さ~ん?」  当麻が泣きそうな声を上げる。

「お、お姉様、何をこんなところでいちゃいちゃなさっているんですのっ? お止め下さいまし」  白井があたふたしながら注意をする。

「おほほ、仲がお宜しくて羨ましいですわ」  と湾内が一歩引きながら笑う。




120LX2010/11/09(火) 21:15:34.34PAYCfSg0 (12/38)


「御坂さんも相変わらずですねぇ……」  と花園飾利がやれやれと言った感じでつぶやく。

「佐天(涙)さん、忘れないでくださいね? 銀座のパティスリー・アオヤマのアレとイデミ・スギタのアレですからねっ!」

「おー、初春、わかってるって」  佐天(涙)が笑っていう。

「初春じゃありませんって」    花園が答えると、

「花園だろ? 冗談だよ、あははは、……もうホントにいくつになっても初春はカワイイんだからさー」  と佐天(涙)が弄り返す。

「また<ういはる>って呼んだじゃないですか~(怒)」

「あなたたち、そろそろその辺で終わらせなさいな、もう時間過ぎてますわよ」  と白井が佐天(涙)と花園2名をたしなめる。

「じゃぁ、美琴、頼んだよ。母さんには連絡しといたから大丈夫だと思うけど」  と当麻が美琴にそっと言う。

「わかってるわよ。でもたぶんアタシがまた怒られるんだから。ま、仕方ないわね、その通りだし」  と美琴はふっと自嘲のため息をつく。

「ママ、あたしがおばあちゃんに謝るから、大丈夫だから、ね?」   と麻琴が母・美琴を心配そうに見る。

「はいはい、あんたに心配されるほど、あたしはヤワじゃないわよ」  と美琴はぽんと麻琴の頭を叩く。



「お世話になりました」「ご迷惑おかけしました」

佐天親娘が先に乗り込み、続いて美琴・麻琴親娘が乗り込んだリモはすっと病院の車寄せを離れ、病院を走り去っていった。



121LX2010/11/09(火) 21:20:06.54PAYCfSg0 (13/38)


「利子さん、ホントに大きくなりましたねぇ……」  と花園が感慨深げに言う。

「あ、あの、子供さんの頃をご存じなのですか?」  と湾内が恐る恐る尋ねる。

「お父様はご不明なんですよね?」

「湾内さん?」  ぴしっと白井が言う。

「あまり、ひとさまの微妙なところを詮索するものではございませんこと、ね?」

「あ、し、失礼致しました。そ、そうですわよね」  とまたまた湾内が恐縮する。

(でも、いつかは……きっといつかは……でも佐天さん、頑張ってね……)  と花園飾利は親友佐天涙子を思ってそっと涙を拭いた。



「さて、上条当麻委員、スケジュールの打ち合わせをしたいのですが、宜しいでしょうか?」

いつの間にか、そこには秘書のミサカ美子(10039号)と影、ミサカ琴子(19090号)が立っていた。

「お、おう、驚かすない。じゃ、とりあえず俺の車に行こうか? それじゃみなさん、今回は本当にウチの娘がご迷惑を

おかけしてしまってすみませんでした。許してやって下さい。では私はちょっと用事がありますのでお先に失礼します」

上条当麻が歩き出し、美琴のクローン2人が付き従う。



「ふう、わかってはいますけれど、やっぱり何度見ても一瞬どっきりしますよねー」  その姿を目で追いながら花園が白井にいう。

「以前よりは差が見えるようになりましたから、だいぶ慣れてきましたけれど、昔はほんとわかりませんでしたわね」

と白井も言う。

「お姉様はどうやってあの方たちをお嬢さんに御紹介するのか、人ごとですけど気になりますわ」

「御坂さまのご姉妹、ではないのですか、あの方たちは?」  湾内がとまどったように訊いてきた。

「あら、ご存じではなかったのですか、湾内さんは? まぁお会いになってしまったのですから仕方がございませんわね。

あの方々は上条、いえ御坂美琴さんのクローンですわ。でも、それ以上はお知りにならない方が無難ですわ。

わたくしもそこで止めざるを得なくなりましたし、知ったところであの方たちがどうなるわけでもないですもの」

白井黒子が小さな声で答えた。



122LX2010/11/09(火) 21:23:59.10PAYCfSg0 (14/38)


「……え? あの、中学の時の都市伝説の……?」  湾内が呆然としたところに、

「ドクター、回診のお時間ですが?」  と現れたナース服に身を包んだ「美琴」を見て再び目をみはった。

「あ、あなたは……?」

「ミサカに何か、御用でしょうか?」  とミサカ麻美(10032号)が訊く。

「い、いえ、あの、御坂さんと仰るのですか?」  と湾内は恐る恐る尋ねてみる。

「はい、このミサカはミサカですが」  とニッコリ笑って湾内を見る……その笑顔は確かに上条美琴によく似ていた。

「さて、じゃ僕らも仕事だから、もう行こうかね?」  とカエル顔の医者はミサカと名乗る美琴そっくりの女性看護師を連れて

中へ入っていった。

「さて、私たちもここで解散致しましょうかしらね。湾内さんは?」  白井が湾内に訊く。

「は、はい、わたくしは今回のテストのレポートを仕上げませんといけないので」  湾内が答えると、

「上条委員からの指示は聞いていらっしゃいますよね?」  白井が小声で確認する。

「もちろんです! とある方は今回はいらっしゃらなかった、ですね?」

「そう、ですわね。それが一番望ましいですわね。では、また改めて別の機会に一席設けてやりましょうね?」  

白井はニッコリと笑って、「では、ごきげんよう」 とテレポートして姿を消した。



123LX2010/11/09(火) 21:28:16.90PAYCfSg0 (15/38)


「湾内さん……」  花園が湾内に近づき、これ、ナイショですよ?と前置きして小声で言った。

「白井さんの酒グセはかなり悪いので、飲みに誘われてもなるべくなら用事を作っておいて避けるのがセオリーですよ……?」

「ええっ? そ、そうなんですか?」  またもや湾内が驚く。

「ええ、実際それで旦那さんとは別居状態なんですって。ちょっと信じられないですけれど」  ひそひそと花園が言う。

「えええええ? 今、あたくし、白井さんから一席設けてやりましょうね、って言われたばかりですのよ?」

花園は(あ~あ、間に合わなかったか~)というような、気の毒そうな顔をして、

「まぁ、何事も経験ですから、一度ご一緒してみるのもいいかもしれませんね、もしかしたら案外話が合うかもしれませんよ?」

と気休めにもならない事を言う。

「ちょ、ちょっと花園さん、その辺の喫茶店でもう少しお話して行きませんか?」  と湾内は花園の腕を取り、しがみつく。

「じゃ、XXの△△へ行きましょうか、あそこにはおいしいパフェがあるんですよ?」 

と花園は(まさか、タダで、とはいいませんよね?)という顔で湾内の顔を見る。

「いいですわね、そこにしましょう! も、もちろんあたくしが奢りますから、御坂さんや白井さんの是非詳しいお話を……」

かくして2人の商談は成立。タクシーに乗り込み、喫茶店のパフェに向かって走り去った。








誰もいなくなった病院の車寄せ。



しばらくして1台のファミリーセダンが駐車場から出て行ったが、気がついた人間は誰もいなかった。



124LX2010/11/09(火) 21:42:36.82PAYCfSg0 (16/38)

お読み下さっている皆様、>>1でございます。

キリがよいところなので、すみません、ちょっと一時的に席を離れます。
すみませんが少々お時間を頂戴します。




125VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/09(火) 22:09:39.96ejCimg2o (2/2)

>>1乙です
>>110 冥土返し→冥土帰し
どうでもいい誤字ですけどね


126LX2010/11/09(火) 22:16:06.99PAYCfSg0 (17/38)

戻って参りました。>>1です。

>>125さん、

御指摘有り難うございました。
原稿を検索してみましたら、全部で6~7カ所くらいありました。
早速全部修正をかけました。 どうも有り難うございました。

それでは投稿を再開致します。



127LX2010/11/09(火) 22:21:46.32PAYCfSg0 (18/38)


4月。中学3年生の新学期が始まっていた。

「行ってきま~す」

「気を付けていってらっしゃい」 母があたしを見送る。

あたしはいつものように……1人で学校に向かった。



麻琴は結局中学3年生の新学期を学園都市で迎えることになったのだった。学校は私の母の母校、柵川中学校だそうだ。

是非常盤台中学に、と言う声が他ならぬ常盤台中学校やら教育委員会やらいろいろあったらしいが、

「レベル1の人間は常盤台中学には入れないはず」という他ならぬOGである上条美琴委員の正論が通り、麻琴は柵川中学校に

決まったそうだ。

ご両親は学園都市にいるわけだが、柵川中学の方針で麻琴も学生寮に入ることになったらしい。

ホームシック対策や安全上の問題から最初は2名部屋での共同生活をすることになっており、麻琴も例外ではなかった。

ただ、麻琴は3年生からの転入なので相方の選択にちょっと時間がかかったらしいが、同じ3年生の天川さんという人が

面倒を見てくれることになったとの事だった。

ちなみにこれらの話は全部詩菜大おばさまから聞いた話。なんで麻琴は直接電話してこないんだろう?

というか、あたしから電話してもいつもお話中だし。忙しいんだろうか?

まぁ、麻琴のことだからあっちでもうまくやって行けるだろう、とは思っている。

私の一件以来、麻琴もあたしを同時に引っ張り込むことはいったんは諦めたらしい。

それでも「高校からは絶対来てよね」と言ったことからみて、完全には諦めきっていないのは間違いない。

あたし自身は、というと、昏倒してしまったことからむしろ能力発現を恐ろしく思うようになってしまい、麻琴には

悪いが、平凡な普通の女子中学生ー女子高生の道を歩こうと考えていた。



128LX2010/11/09(火) 22:27:01.80PAYCfSg0 (19/38)


「かあさん、かあさんの能力ってどんなものなの?」

美琴おばさまや麻琴たちと別れ、自分たちの家に帰ってきたあと、あたしは母に聞いた。

「あーあ、ばれちゃったねぇ……」  と母はあたしに背を向けたまま答えた。

「利子、あんた、知りたいの?」

あたしは下を向いてぽつりと言った。

「だって、あたしも能力者なんでしょ? だからあたしにジャマー付けてるんでしょ?」

「疲れてるんでしょ、さっさと寝なさいな」  あたしを見ずに、母はスーツケースを床に広げて中のものをぶちまけ始めた。

「母さん、はっきり言ってよ。どうして自分のことを隠してたのよ? どうしてあたしにウソ言ってたのよ?

どうしてあたしにジャマーをつけたのよ? はっきり言ってちょうだい!」

あたしはまたぽろぽろと涙を流しながら母に抗議した。

(ああ、ずっと昔、子供のときにあたし、こうしてかあさんにくってかかってたな……)  

遠い記憶がよみがえってきた。

母は振り向き、とても怖い顔をしながらあたしに向かってきた。

(あの時と同じ……かな?)

だが、母の態度はあの時とは違った。母はあたしをしっかりと抱きしめたのだ。



129LX2010/11/09(火) 22:29:40.97PAYCfSg0 (20/38)


(母さん、泣いてる……の?)

「としこ、おまえはあたしの、母さんの大切な、とっても大事な子……ごめんね。母さんを許して。お願い。本当にごめんね……」

あたしは本当に驚いた……。 母さんが泣いている。あの、強かった母が、あたしの母さんが。

母はとっても弱く脆くなってしまっていて、いまにも壊れそうになっていることに初めて気がついた。

「おかあさん……」

こんなに弱々しげな母を見るのは初めてだった。あたしは母にこんなに大きなショックを与えてしまったのだ……。

「ごめんなさい、おかあさん。本当にごめんなさい。もう絶対心配かけないから、もう安心して。あたしは佐天利子ですから、

強い子ですから、ね、かあさん?」

すっかり立場が逆転してしまっていた。

あたしは母さんを守らなきゃいけないんだ。

あたしはもう子供でいちゃいけないんだ、あたしはオトナにならなきゃいけないんだ!

「ぐす、な、なに生意気な口叩いてるの、あんたはあたしの子供なんだからね、いくつになってもあんたはあたしの娘なんだから、

絶対忘れるんじゃないよ?」

「わ、わかってる。あたしは……ちょ、ちょっと母さん、顔、ひどいよ?」

「ちょっと、何言ってるの? 誰のせいでこうなったと思ってるのよ、ってあんたも自分の顔みなさい!」

親娘揃って涙でぐしゃぐしゃの顔をお互いに見て、あたしたちは吹き出し、「あはははは」と笑い始めた。


――― さっき泣いたカラスがもう笑った―――  


「久しぶりに一緒に風呂入ろうか?」  母があたしに聞いてきた。

「いいよ? じゃ母さん、あたし背中流したげるから」  あたしも笑って母に答えた。



風呂からあがったあたしたちはあっという間に睡魔に襲われて眠りについてしまった。

結局母の能力は何だったのか、あたしに何故AIMジャマーがついているのか、聞きそびれてしまった。

まさか、うまくはぐらかされた……ってことはない、よね?



130LX2010/11/09(火) 22:33:27.68PAYCfSg0 (21/38)


3年生になって、クラス替えになったあたしは陸上競技部に入った。

なんで今頃運動部に入ったのか?というと、新しく出来たお友だちが陸上をやっていたから、というよくあるパターンだ。

加藤裕美(かとう ひろみ)ちゃんと三田桂子(みた けいこ)ちゃんだ。

三「リコ! ね、今日遊びに行って良い?」

佐「いいけど? じゃ一緒に帰ろ?」

加「えー?ならあたしも行くから、ちょっと待ってて!」

あたしたちは同じクラス。さっそく付いたあだ名が「陸上かしまし娘」って、すっごく時代物の名前だった。

あたしは筋肉の付き方が短距離ではなく中長距離向き、ということでとりあえずトラック競技主体で行くことになった。

裕美ちゃんは短距離の選手。小柄だけどうちの中学では100m走ではトップで、東京都の大会にも出ているのだ。

桂子ちゃんは身体がしなやかでかつバネもあるので走り高跳びの選手だった。



…… そんなことより、だ。電話しなきゃ。

「もしもし?」

「はいはい? としこさん、どうしたの? 今日はウチだわよね?」

詩菜大おばさまが出る。

「あのね、おともだちを2人連れて行って良いですか?」

「あらあら、それは嬉しいわ、賑やかになりそうね? 素敵だわ。お願い、来てちょうだい? 待ってるわ!」

よし、オッケー。大おばさまは今日はご機嫌麗しいみたい。3人で突撃だ。



131LX2010/11/09(火) 22:36:54.98PAYCfSg0 (22/38)

「ひろぴぃ、ケイちゃん、あのね、今日はウチ、誰もいないから、隣の隣に行くから」

「えー、リコんちじゃないところなの?」

ひろぴぃ(加藤裕美)が「?」を掲げて聞く。

「うん、あたしの育ての親の家、ってところかな? 第2のふるさとだねー」

「ちょっと、リコ? 育ての親ってどういうこと? それに隣の隣、って何よ?」

とケイちゃん(三田桂子)もあたしに聞く。

「まぁ話せば長くなるからさ、さっさと行こうよ。おなか空いたでしょ?」

まぁ、普通は聞いてくるよねー、とあたしはそう思いながら食い物ネタをふる。

「もっちろーん! 色気より食い気だよーん」

ひろぴぃが真っ先に食いつく。

「あんた、中学3年で乙女捨ててたら人生終わりだよ?」

ケイちゃんが冷やかす。

「うるさーい!」

ひろぴぃが叫ぶ。

これじゃたしかに「姦しい」、女三人、字の通りだよねぇ、はぁ。



132LX2010/11/09(火) 22:40:22.82PAYCfSg0 (23/38)


隣のとなり、上条家では麻琴がいなくなり、加えてまたもや刀夜おじさまが姿をくらましたことから、詩菜大おばさまは

一人きりになってしまい、その余波はうちにやってくることになった。

「佐天さん、あなた今度出張はいつなの?」

「いやー、GW前にはたぶん何もないかもしれません。ただ、5月後半あたりからまた半月ぐらいは……」

「まぁ、あと1ヶ月もわたしはこの家で、たった一人きりで過ごさなければならないの? お願い、今度としこちゃんと

ウチにご飯食べに来て頂けないかしら? 寂しいのよ」

母にしてもあたしにしても、詩菜大おばさまには絶対に頭があがらないのは既にご存じのことと思うけれど、

少なくとも最低3回に1回は言うことを聞かないわけにはいかないので、特に何もなければ土日は上条家に行くか、

あるいはウチに詩菜大おばさまを呼ぶか、という形になっていた。

ということで、今回はお友だちを連れて行くことにしたのだった。



「……もしかして、<上条>さんって、あの上条さん?」  ひろぴぃが聞いてきた。

「そうよ、上条麻琴って覚えてない?」   あたしが聞き返す。

「えー、あのビリビリ中学生って子だよね?」  ケイちゃんが言う。

あー、やっぱりまだ覚えられてるわ……美琴おばさんが聞いたら激怒するあだ名だったよねー、確かこれって。

……血は争えないねー、親娘そろって同じあだ名ってのは。

「リコがなんであの子のウチにいるわけ?」  ケイちゃんが尋ねるのはもっともだ。

「まぁね、話をすると長いんだけど、それよりおなか減ったよ、あたし」

「あたしも~」

「同じく」

というわけで、あたしたち3人は詩菜大おばさまのお家にご飯を食べにお邪魔した。

「ただいま~、お友だち連れてきました~」

「あらあら、お帰りなさい、利子さん。まぁまぁ、お二人さんよくいらしたわね、さぁさぁ、どうぞお入りになって?」

詩菜大おばさまがニコニコしながら出迎えてくれた。

「失礼致します~」「おじゃま致しますぅ~」 ひろぴぃとケイが挨拶して上がった。



133LX2010/11/09(火) 22:50:15.12PAYCfSg0 (24/38)


「「「いただきまーす!」」」

あたしにひろぴぃにケイちゃん、中3トリオ(陸上かしまし娘)は詩菜大おばさまのところで夕飯を取っていた。

「どうぞどうぞ、たんと召し上がれ。」  大おばさまはモリモリ食べるあたしたちを、とても楽しそうに眺めている。



「美味しいぃ~!」 ―― パクパクパク ――  

「はぁ、し、しあわせですぅ~!」 ―― もぐもぐごっくん ―― 



最初はひたすら黙々と掻き込む2人だったのだが……

「ちょっとひろぴぃ、あんたいつまで食べてんのよ? ってせめて食い気は縦にのばしなさいよ。横に広がったら悲惨よ?」

ケイちゃんがちょっかいを出し始めた。

「ひ、ひっどーい、ケイだってちっとも胸に栄養行って無いじゃないの!?」  ひろぴぃが正面から受けて立つ。

「……ふっふっふっふ、ひろぴぃ? あんた、この、アタシを怒らせたね? わかってるよね、あんた?」

「ちょっと、二人とも、しょうもないこと止めなよ」   おまえら、ここは他人(ひと)のウチなんだよ?

「「 リコは黙ってて!」」  ひろぴぃとケイちゃんが、ケンカしていながらきちんとハモってあたしにビシッと言う。

あのねぇ、あんたら、ひとのうちでごちそうになってるんだよ? わかってる? あたしは胸の中で言う。

「そもそもリコの胸は反則なのよ!」  ケイちゃんが更にビシっと追撃してくるが

「それはケイがなさすぎ……ぐふっ!」  ひろぴぃがケイちゃんのチョップを食らった。

「あんた、もう背丈伸びなくなってもアタシのせいじゃないからねっ!」  とケイちゃんがひろぴぃに宣言する。

「いいもん、だったらあたしはロリ路線で生きてやるー! ロリで巨乳は無敵なんだからね!」  ひろぴぃがケイちゃんに逆に宣言する。

「ふ、シリコン入れれば誰でもなれるわ、そんなもの。いいこと? 時代はつるぺたよ? 貧乳はステイタスなんだからね?」

ケイちゃんが切り返すが、

「ふーん、じゃそのテーブルにある1㍑パックはなんなのかな~?」  とひろぴぃの逆襲に会う。

「運動選手にはカルシウムが必要だからよ!」  と言いながらごくごくとケイちゃんが飲む。

「あたし、あんなに飲めないな……」  と小さな声であたしは言ったはずなのに、

「「黙らっしゃい!」」とまたハモり返されてしまった。



134LX2010/11/09(火) 22:55:52.47PAYCfSg0 (25/38)


正直、あたしの胸はこの半年で大きくなったと思う。中学生にしてはありすぎる気もする。母も中1では十分大きかったらしいが……。

「ないよりあった方が」という人もいるが、あればあったで悩むこともある。まず異性の目がいやだ。すれ違う男のひとの視線は

まずあたしの胸を見て、顔を見て、そしてまた胸を見て行く。頬が緩んでいる人もいる。ヘンタイだ。気持ち悪い。もういやだ。

何気ないフリをして触って行くとんでもないエロ親父もいる。あたしのお父さんはこんなことしなかった……よね?

次に、肩が凝るし、走れば邪魔だ。陸上やってみて心底思う。なまじあるから押さえつけるのも大変。

さらし1本胸に巻いて、とはいかないのだ。

ケイちゃんは楽でいいよなー、と思っていたら「バカっ!」とひっぱたかれた。食事中になにするのよ!

「あんた、胸、テーブルに乗っけてるでしょー? それ、あたしに対する嫌がらせかいっ?」

ケイちゃんが半分本気で、半分笑いながらあたしをもう一回ひっぱたいた。

「だって、重いんだもん……」


     ―――― ダメだ、こいつ ――――

     ―――― いっぺんやったろか? ――――

     ―――― おお、いってまえ! ―――― 


二人が顔を見合わせてなにやら、「?」とあたしが思うまもなく、

     ―――― スパァァァァァァァン ――――    

小気味よい音が部屋に響いた。ひろぴぃがどこから出したのか、ハリセンがあたしのアタマに炸裂したのだった。

「いったぁーい!」

「それぐらいガマンしろーぉ!」

あっけにとられていた詩菜大おばさまが、

「こらー! あんたたち、いいかげんにしなさーい!」



……ずっとニコニコしていた詩菜大おばさまもさすがにぷっつんしてしまった。

「すみませーん」「ごめんなさい」「失礼致しました……」

あたしたちは正気に戻り? 小さくなって、それでも「残りのご飯を全部食べきった」のだった。



135LX2010/11/09(火) 22:59:54.53PAYCfSg0 (26/38)



「すごいわぁ、あなたたち、ホントに全部食べちゃったのねぇ、おいしかった?」 大おばさまは驚きながらも嬉しそうにあたしたちに尋ねる。

「ええ、すっごく美味しかったです」

「今までで一番しあわせですぅ……」

「おばちゃん、ありがとう」

「どういたしまして。全部食べてくれて嬉しいわ♪ 作った甲斐があるわぁ……、ね、また来てちょうだいね。

とっても楽しかったけど、ハメ外しすぎるのはダメね、わかった?」

「「「 はーい! ごちそうさまでしたー! 」」」

あたしたち「かしまし娘」は綺麗にハモって御礼を述べたのだった。



「……というわけなの」   食事後、上条家でのあたしの部屋で、陸上かしまし娘はおしゃべりタイム。

「ふーん、リコのウチ、いろいろあったんだねぇ……」   ケイちゃんが感心したようにうなる。

「まるでドラマみたいだねぇ……」   ひろぴぃが正直に感想を述べる。そう、ウチはある意味すごくドラマ的な歴史の持ち主かも。

「それで、リコのママは今出張してるってわけ?」   ケイちゃんがまた訊く。

「すごーい、世界を股にかけて活躍する学者さんなんだぁ? あたし、憧れちゃうなぁ……」

実は、母から「1つ仕事を休むことにしたの」という話を先日聞いたのだった。

理由は「ちょっと身体がきつくなってきたから」と言っていたけれど、あたしはそれだけじゃない、と思っている。

この間の事件は母に強い衝撃を与えていたのは間違いない、とあたしは見ている。



136LX2010/11/09(火) 23:04:05.19PAYCfSg0 (27/38)


    ――――――   「おかあさん、今度はいつ来るの?」 ――――――

たぶん、あのとき以来の衝撃だったと思う。中学生という微妙な年頃のあたしに、あまりにも注意を払わなさすぎた、

それであんな形でその報いが返ってきたのだと母は受け止めて、自分を責めていたらしい。

後で知ったことだが、母も中学1年生の時に誰にも相談できない事で悩み、その結果半死半生の境地をさまよったことがあった

らしく、その時のことを思い出したのだったそうだ。
 
……

「リコ、寝ちゃったの?」   ひろぴぃがあたしの顔をのぞき込んでいた。

「わっ!? 近いよっ!」「キャッ!!」  

あたしはあわててしまい、のけぞった拍子にケイちゃんの胸に思い切りアタマを当ててしまったので、2人ともひっくり返ってしまった。

「ちょ、ちょっと痛いよ~、リコったらぁ~」  ケイちゃんがムッとした顔で抗議する。

「ご、ごめんなさい」   謝って、あたしがアタマを上げたその時、

「あれ?」ケイちゃんが不思議そうにあたしに訊いた。「リコって髪染めてるの?」

「……」

「あんたの髪、ホントは栗色なんだ?」

バレたか……。


137LX2010/11/09(火) 23:06:34.44PAYCfSg0 (28/38)


つむじ部分のところに、伸びた髪の根元にわずかに地毛の栗色が見えていたらしい。

「えー、そうなんだぁ?」  ひろぴぃがバッと飛んできて、あたしのアタマをかき回す。

「こらこら、何してるの、あんたは?」  あたしはたしなめるが、

「やーん、気持ちいい~」  とひろぴぃはあたしのアタマをなで回すのが気に入ったらしく、指で弄くり始めた。

「いつから染めてるの?」  ケイちゃんが訊いてくる。

「うー、覚えてない。ずっと、昔からそうだったの。母が買ってきて、しょっちゅう染めてたの。だから普通のウチでも

みんなそうやってるんだと子供の時は思ってた……」

「あんたのウチってホント、変わってるよねぇ」   あきれたようにケイちゃんが言う。

「え、でも、ウチの学校は髪染めたら校則違反になるよね?」   ひろぴぃが「?」をアタマに掲げている。

「だから、それはピンクとか緑とか青がダメなだけだっつーの。まぁ、確かに黒く染めるのも文章だけ読むとアウトって

気もするけどさ、奇抜な色はだめだ、と言う本来の意味からすればOKなんじゃないの? 

髪が黒じゃないと、地色だっていちいち説明するのも大変だし、結局黒に染めろって言われるだろうしさ。

リコのお母さんはそれを見越してリコの髪を黒くしてたんと違うかな……?」 

ケイちゃんが考えながら言う。たぶんそんなところだろう。



138LX2010/11/09(火) 23:11:13.85PAYCfSg0 (29/38)


「そういや、リコのお母さんは栗色なの? まさかキンパツとかじゃないよね?」  ひろぴぃが興味津々の顔で訊いてくる。

「キンパツのムチムチだよーん♪」  あたしが答えると

「うそっ!? そうなの? ガイジンなの?」  ひろぴぃは目を丸くする。

「うそに決まってるでしょ、あたしがガイジンの娘に見えるかいって? 黒髪のストレートだってば。スタイルはまぁ見れる方だと思うよ」

「おうおう、自慢ですかぁ? アハハ、羨ましいねぇ……じゃ、お父さんがきっと栗色だったんだろうね?」  ケイちゃんが笑う。

「あたしはわからないけど、そうなんじゃない?」  あたしも軽く答える。 おとうさん、か……。

「ふーん、でもリコの髪、ウェーブしてるところも素敵だよねー。羨ましいなぁ……。栗色も良いんじゃないかな?

ちょっと見てみたいなぁ?」  ひろぴぃがあたしの髪を弄くりながらため息をつく。

ひろぴぃの髪は結構硬いけれどその分まっすぐで、ツヤがとても綺麗。肩まで伸ばしている。

ケイちゃんはひろぴぃとは正反対で、まるで赤ちゃんのようなふわふわの柔らかい髪。触るととっても気持ちいい。

麻琴のふにゃ~んが見れない今、あたしの癒しは実はケイちゃんの髪なのだ。

「まぁ、高校に入ったら黒染め止めてもいいんじゃない? お堅い女子高はダメかもしれないけどね」

「!」

あたしは今まで考えたこともなかったし、染めてはいるもののこの黒髪も嫌いじゃなかったのだけれど、ひろぴぃやケイちゃんの

言葉で少しその考えがぐらついた事を認識した。髪の色が変わったら、どうなるんだろう?

それからしばらく、あたしは鏡を見ると、髪の色が違う自分を想像してあれこれ考えてみるようになったことはナイショだ。



139LX2010/11/09(火) 23:14:07.56PAYCfSg0 (30/38)

ケイちゃんとひろぴぃが帰ったあと、

「としこちゃん、良いお友だちが出来てよかったわね?」  と大おばさまが家に戻ろうとするあたしに声をかけてくれた。

「え?ええ、はい。おかげさまで」

「麻琴がいなくなって寂しそうだったけれど、今はまた明るいあなたの顔が戻ってきてる。おばちゃんちょっと安心したな。

おばちゃんはね、あなたのその笑顔がとっても好きなのね。だから今日も本当に良かったわ。おともだちを大切にね?」

あたしは詩菜大おばさまの言葉に思わずほろっとしてしまった。おばちゃん、あたしのために……

「おばちゃーん、ありがとうね、あたし、頑張るから」  あたしは泣きそうになるのをぐっとこらえて詩菜大おばさまにしがみついた。

「あらあら、こんなに大きくなったのに、また子供に戻っちゃったのかな、としこちゃんは? よしよし、良い子ね」

そう言いながら、詩菜大おばさまはあたしを抱きしめて、ぽんぽんと肩をやさしく叩いてくれたのだった。






その頃、学園都市……


140LX2010/11/09(火) 23:19:32.72PAYCfSg0 (31/38)


「チッ、大したタマはいねぇなぁ……」

「ぼやくんじゃねーよ、そう簡単にいねぇからこそ、見つかったときが楽しいんじゃねぇかよ?」

「ケッ、毎日毎日こんなガキの顔ばっかり見てるってのも、いい加減飽きてくるぜ……」

「おまえ、まさか顔しか見てねーつんじゃねーだろうなぁ?」

「アホか、いくらオレでもそこまでロリじゃねーよ、バカにするない」

「結局よ、今年の収穫って、超電磁砲二世ぐらいなのか?」

「アレは収穫じゃねーだろが。そもそも俺らが見つけたわけじゃねーしよ。だいたい血統から見てありそうな話だからな。

二世になって当たり前、ならなきゃハズレ、てなところだろ」

ここはとある研究所、地下のデータセンター。数人の男たちが、新入生ざっと1万人のデータを片っ端からチェックしているのであった。

「あーあ、今日はもう止めてーなー。ここんところ、さっぱりだし。今年はハズレの年なんじゃねーのかね?」

「おいおい、おまえちゃんと見てるんだろうな?」

「うん? なんだコレ? ………………ちぇっ、ダメか……」

「どうした?」

「あン? いやな、ちょっと発想を変えてるんだよ、今週からな。つまり、オレは今、ハズレ組を見てるんだよ。」

「なんだぁソレ? ……ふん、面白いが、徒労じゃねーの?」

「もちろんだ。ただな、あの幻想殺し<イマジンブレーカー>も、まともに測ると無能力者<レベル 0>であることは知ってるよな?」

「当然だろ。この業界で知らないものはいないさ」

「と、いうわけで、オレは第2のそいつが埋もれてるんじゃねーかとちょっぴり期待してるわけよ」

「逆転の発想か? うーん……まぁそう言う考え方もあるだろうよ。だが、たぶん徒労だろうな」

「まぁな。ひとの行かない道を探すってのは、オレにぴったりだからな」

「任せたよ。ただな、ひとが行かない、ってのにもちゃんと理由があるんだぜ? 例えば、そっちに行って、生きて帰ってきたものはいない、

とかな?」

「おいおい、縁起でもないこと言ってくれるねぇ」

「いや、確かにおまえにぴったりな道だよ、アハハハハハ」

ひとしきり冗談を飛ばして緊張をほぐした男たちは、また黙々とデータのチェックを始めたのだった……。


141LX2010/11/09(火) 23:24:16.87PAYCfSg0 (32/38)


麻琴がいなくなって、あたしは一人で学校にかようことになった。正確には途中まで、だけれど。

まぁ、朝は寝坊さえしなければ、みんないつもおおよそ同じタイミングで行動しているから、だいたいはいつもの

待ち合わせ場所(特に決めた訳じゃないけど)で一緒になって登校する。

しかし、下校時間は部活があったり、帰りに寄り道するなどいろいろなことがあるので、バラバラになって帰ることがしばしばある。

麻琴がいたときは二人とも帰宅部だったし、しかも家が殆ど同じ場所という事もあって、一人で帰るということは殆ど無かったのだけれど、

陸上部に入って部活をやって帰るときは帰り道は途中から殆ど一人になる。

2人で帰っているときはおしゃべりに気を取られていて、不覚なことに全く気が付いていなかったのだが、一人で帰るようになって

気が付いたことが出てきた。



―――― 誰かが、あたしを見ている? ―――― 



「なーに自惚れてるんですかァ?」 とあたしは否定的に思っている。でも一方の冷静なあたしがアタマのなかで言う。

「あたしを監視している人間がいる」と。「明らかに視線を感じる」のだと。



142LX2010/11/09(火) 23:29:19.08PAYCfSg0 (33/38)


「自意識過剰じゃないの?」ケイちゃんが気のせい、気のせい、と言う感じで否定する。

そうだよねー、と安心する反面、いや視線を感じてるんだってば、という不安感が行き場を失ってふくれあがる。

「魅力のないひとにはわからないのよね~」  ひろぴぃが挑発する。

あ、ケイちゃんがパンを握りつぶした……

「ほうほう、それは、このあたしには魅力がない、というご発言と受け取って良いのだね、ひろみくゥゥゥゥゥゥゥン??」

「自慢じゃないけど、付け文、待ち伏せ、ストーカー、全部経験済みのあたしに立ち向かおうというその根性、褒めてやるわ!」

確かに待ち伏せとストーカーは自慢にならないよ、ひろぴぃ? いや違う逆だ。あんたよく無事だったね?



……まさか、あたしのこれ、もしかしてストーカーなんだろうか?



「なにすんのよー」「うるさい、今度という今度はお仕置きだ~」給食のあとの昼休み、恒例のかしまし娘口先バトルである。

今回は口だけじゃなくてハリセンくらいは出そうな勢いだが、ちょっと待った。

「あんたら、少しはあたしの心配しろ~!」




「よしよし、わかったわよ。じゃ、しばらくリコの後を見張っててあげるからさ!」

ひろぴぃとケイちゃんが仕方ないねぇ、と言う感じで、あたしの後方をバックアップしてくれる、と言ってくれた。

「えー、でも大丈夫なの~?」 

(やってくれるのは嬉しいけれど、逆に危害を加えられたら大変な事になる)と気が付き、余計なことを言ってしまったな、と凄く反省した。



143LX2010/11/09(火) 23:33:37.08PAYCfSg0 (34/38)


「ふっふっふ、見ては細工を御覧じろ、だわよ?」

ひろぴぃがカバンの中から取りだしたのは……

小型発煙筒(薬液混合型。投げつけてその衝撃で二液が入った細管が割れて混ざることで発煙する)

小型星弾(これも薬液混合型。投げつけて二液が混ざると強烈な光が発生する。夜間用)

小型カラーボール弾装填のモデルガン(コレが出てきたときはのけぞってしまった)

そして警笛(昔ながらの笛)

そして、カバンについているキーホルダーの人形を引っ張ると、大音響が響く防犯サイレン。

携帯には、ワンタッチで地元警察への直通電話がかかる専用ボタン。

ケイちゃんとあたしはポカーンとしながら、「はいコレ」「次コレ」「そしてコレ」と魔法の小箱の如く次から次へと防犯グッズが

出てくるのを黙ってみていた。

「あんた、それ、趣味で集めたわけじゃない、よね?」   あたしはクラクラしなからひろぴぃに尋ねた。

「言ったでしょ? 待ち伏せにストーカーって。警察にも届けてあるけど、毎日護衛してくれる訳じゃないから、こうやって自衛してたわけよ」 
ひろぴぃが急に頼もしく見えたのは気のせいだけではあるまい。すごい……。

「で、今もそうなの?」  ケイちゃんが不安そうな顔で訊く。

「だ・い・じょ・う・ぶ。交通事故にあったって警察から教えてもらってて、ストーカーなんかやってる状態じゃなくなっちゃったみたいなの。

ザマーミロだわよ」ひろぴぃが明るい顔でコワイ事をズバと言い切った。

「そういえば、あたしの家、スタンガン持ってたっけ……」 

あたしは麻琴のビリビリ騒ぎの時のことを思い出した。たぶんまだあるはずだ。

「お、それは最強だね、ホームズ君?」

「そうだね、それは心強い味方だよ、ワトソン博士」   二人が茶化す。

「ん、じゃ今日から始めましょうかね?」

「らじゃー……、ほら、リコ、あんたもほれ、何か言いなさいよ?」

「ごめんね、二人とも。でも、危ないと思ったら直ぐに逃げてよ? まずは自分が一番大切なんだからね?」

あたしはせめてそう言うしかなかった。



144LX2010/11/09(火) 23:40:12.61PAYCfSg0 (35/38)


「出ませんね……」  ひろぴぃがふとつぶやく。

「そだね。ま、単なる気のせいでしょ。まぁヘンなの出たら、正直コワイしさ」  ケイちゃんが合わせる。

時刻は夕方の6時半過ぎ。さすがに暗くなりつつある時間。佐天が歩いて帰るずっと後からひろぴぃとケイちゃんが

ぷらぷらと付いて行く。

かれこれ半月が過ぎたが、幸いな事に何も起きていなかった。

「何ご褒美にもらおうか?」

「うーん、パフェ食べ放題とか? いや東京プリンセスホテルのケーキバイキングご招待がいいかも?」

「あんた、もう決めてるの? 気が早いねぇ……、!! ひろぴぃ!!」

「声が大きい!下がって!」

ひろぴぃとケイちゃんのいる1つ先の交差点から男2人が急に現れ、早足で佐天を追いかけて行く。

「どうする?」

「とりあえず、ケイはリコに電話! あたしは笛出すから!!」

「あぅあぅ、走りながら電話は難しいってばさー」二人は前を行く三人の方へ走った。







―――― Brrrrrrrrr ―――― 

佐天の携帯がバイブレーションした。

「ケイちゃん?」

携帯を手に取り、振り返った佐天は直ぐそばに男性2人がいるのに気が付いた。

「!!」



145LX2010/11/09(火) 23:42:09.64PAYCfSg0 (36/38)


「リコ、男2人よ!!」   ケイちゃんが叫ぶ。

男の1人が佐天の手を取った!



―――― ピイイイイイィィィィィィィィ ―――― 



ひろぴぃが笛を吹く。

もう一人の男がぎょっとした顔でこっちを見た。



ひろぴぃとケイちゃんが佐天たちに追いついた。


―――― 佐々木? あんた、何やってんのよ?? ―――― 



それは同級生の佐々木剛士(ささき たけし)だった。

佐天の手を取ったのは?

「あ、三田さん?」

「長坂クン? あなたどうしてここに?」

隣のクラスの長坂弘(ながさか ひろし)、2年生の時はケイちゃんと同じクラスだった男子生徒だった。

「さささ、佐天さん、すみません、それ、読んで下さい。ボク、貴女のことが好きです。お願いします。じゃ、失礼しますっ!」

長坂は佐天に何かを渡し、言いたいことを一方的に言って走り出した。

「お、おい、長坂ぁ、オレを置いていくなよ!? バカヤロー! す、すいません。失礼しました!!」

佐々木は帽子を取ってぺこりと頭を下げ、長坂の後を追いかけていった。




後に残ったのは………呆然としている陸上かしまし娘3名だった。



146LX2010/11/09(火) 23:53:19.05PAYCfSg0 (37/38)


「おはよ、リコ。……さぁてと、昨日のアレは何だったのかしらねぇ?」

「あたしもおはようだわね。あ~、ホント、あたしら半月もバカ見たわよ。あげくの果てに、アレだもん。あーあほらし。

へいへい、どうもごちそうさまでした。もう好きにしなよ」

「ご、ごめんなさい。まさかあんなふうになるとは思ってなかったから……」

次の日の朝。

予想通りであったが、ひろぴぃとケイちゃんがいつもの場所であたしを待ちかまえていた。

で、更にまた予想通り、

「で、何書いてあったの? 好きです、愛してます、つきあって下さい、とか?」

「いいねぇ、青春だねぇ、若さだねぇ? ああ、リコにも春が来たのねぇ」

二人が問いつめてくる。


「 ……まだ、読んでないの…… 」

たぶん、あたしの顔は真っ赤だったはず。


「「ええええええええ?」」     二人がハモる。近くを通るひとが何事か、と言う顔であたしたちを見て行く。

「だって……」    言えない。ずっと手紙をみつめていただなんて。自分でもバカじゃなかろうかと思ってるくらいだもの。

「あなたねぇ……」  ケイちゃんがため息をつく。

「いまどきの小学生でもそんな子いないわよ?」

「いや、さすがリコ、かもしれない?」   ひろぴぃがうんうんと頷きながらあたしの肩をぽんぽんと叩く。

「どれどれ、おねぇさんが読んであげようか?」   ニタァとひろぴぃがあたしの顔をのぞき込む。

「し、しらないからーっ!」    あたしは二人を置いて駆けだした。



「おとめ、だねぇ……」

「まだ世の中にいたんだ、ああいうの……」



147LX2010/11/09(火) 23:56:53.04PAYCfSg0 (38/38)

あたしは今日、部活をさぼった。

今日は最悪だった。



ひろぴぃとケイちゃんは休み時間になると佐々木くんのところに行き、あーだこーだと問いつめている。

「だから、オレに訊くんじゃねーよ!」   彼の当惑する声が聞こえる。

チラと彼の顔を見ると、パチと視線が合ってしまい、あわててそっぽを向く。

「ちょっと、リコ、あんたもここ来たら~?」   ケイちゃんのいやらしい声が聞こえる。あたし、知らないから!

昼休み、もうこの頃には、少なくともあたしのクラスの女子全員は「佐天に隣のクラスの長坂クンが告白した」という

ことを知っていた。

好意的な態度のひともいたが、「やっぱり胸がでかいおんなはいいわね」「ホントに男ってのはおっぱいがでかければ

それで良いのかしら」等というやっかみというか、そういう悪意のような態度を取るひともいた。ああ、不幸だ。

あげくの果てには、トイレから帰ってきたら、黒板にヘタな絵が書いてあり、「長坂&巨乳」と説明が書かれていた。

ひどい、酷いわよ。名前ならまだしも、巨乳って……

あたしが立ちすくんでいると、いきなり飛び込んできた男子がザッとその落書きを消した。



148LX2010/11/10(水) 00:00:09.33Zbprwpg0 (1/2)


「よっ、話題のご両人!」「おっと、ここでヒーローのご登場か?」ヒューヒューという声も聞こえる。そう、彼は長坂くんだった。

「バカっ!」   とあたしは叫ぶと、自分の机に戻って突っ伏してしまった。もういや。こんなの……

「誰だ、こんな事書いたヤツは? 出てこい!」   彼が大声で言う。誰も答えるものはいない。

「なーに嬉しがってるんだよ?」   と誰かが冷やかすように言う。

「なに本気にしちゃったのかな~? やっぱりホントなんだ~?」   と言う男子も。あれは小川くんの声だ。酷いわ。

あんたたち、あたしを笑いものにして、そうやって楽しんでるのね、酷い酷い酷い………いやだ、こんなの。

許せない! 

……




え? 

やだ、この感じは……また? そんな?

何かがあたしのなかでふくれあがって、何かがあたしのアタマを思い切り押さえつける、いやなアレがまた来る??

やめて……助けて!

「いや~!」

再び暗黒があたしを包み込んだ……。



149LX2010/11/10(水) 00:04:18.47Zbprwpg0 (2/2)

読んで下さいました皆様、こんばんは。
>>1です。

申し訳ありませんが、本日はここで投稿を止めたいと思います。

明朝、また出勤前に少しですが続きを投稿したいと思います。
それではお先に失礼致します。

読んで頂きましてどうも有り難うございました。



150VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/10(水) 00:11:05.93c596qh.o (1/2)

>>149
乙です。
プロローグが終わって物語が動き始めたといったところでしょうか。


151VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/10(水) 00:20:23.34LoNj81Uo (1/1)

本当に乙です


152VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/10(水) 01:35:31.02UC3FiwAO (1/2)

超乙です。
続きが楽しみでしょうがない!


153LX2010/11/10(水) 07:06:00.42Eyve7bw0 (1/5)

皆様、おはようございます。>>1です。

僅かですがこれから投稿致します。
宜しくお願い致します。


154LX2010/11/10(水) 07:08:02.60Eyve7bw0 (2/5)


気が付くと、あたしは白い世界にいた。

「ここ、どこ?」 

しばらくしてわかった。ここは保健室のベッドだった。頭がすこし重い。時計を見ると、もう6時間目が終わる頃だった。

「まずい!」   あたしはベッドから起き、すこしクラッとしたけれど、上履きを履いてベッドのカーテンを開けると、

「あら、気が付いた?」    養護教諭の渡辺先生が声をかけてきた。

「気を失って倒れたのよ? 気分はどうかしら?」   と優しい声で先生が訊いてくる。

「は、はい、もう大丈夫です」   あたしはベッドに腰掛けた。

「前にもこういう事はあったの? 場合によってはお医者さんに見て頂いた方が良いかもしれないわよ?」

「は、はい。ちょっと前に一度ありまして、お医者さんに見てもらってますから」

「そう? 何かお薬もらったのかしら?」

「いえ、そう心配するようなことではなかったと言われましたけれど……」

「そんな馬鹿な? あなた、普通の人はそう簡単には気を失って倒れませんよ? ちゃんとご両親に御報告して、御相談した

方が良いと先生は思うけれど?」と先生はさらさらとレポートに書き込み、

「はい、コレ。ご両親にちゃんと渡すのよ?」と手紙を渡されてしまった。はー、不幸だ。

ここでキーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴った。ああ、午後の授業パスしちゃった……。

「すみませんでした」   と渡辺先生に御礼を言って保健室を出ようとしたところで、

「あ、リコ、起きたの?」

「大丈夫?」

ひろぴぃとケイちゃんだった。



155LX2010/11/10(水) 07:13:39.37Eyve7bw0 (3/5)


「ごめん、あたし、きょうは部活パスするから」

あたしは自分のカバンに机の中のものをしまいながら二人に言った。

「そ、そうだね」

「まぁ、今日はそのほうがいいよね……」

二人はおどおどしながら相づちを打つ。

「大丈夫? 一緒に帰ろうか?」

ケイちゃんが心配そうに言ったが、あたしは冷たく「いい、一人で帰るから」とにべもなく断った。

「いや、でもさ」

とひろぴぃが言いかけるのを「一人で帰らせてよ!!」とあたしは大きな声を出してしまった。

二人が黙りこくってしまったことにちょっと自責の念を駆られたが、(あんたらのせいで!)という怒りの方がまだ大きかった。

あたしは「寄らば切るぞ」的にオーラを放ちながら学校を出た。


帰る途中であたしは、あの怒りの最中に頭の中にわき上がってきた何か得体の知れないもの、そして同じくして

頭を押さえつけるような大きな力が加わってきた事を思い出していた。

(あの時、あたしは怒っていたんだよね……それがきっかけなんだろうか……?)





だから、気づかなかった。



――― いきなり口を何かで押さえられ ―――


え?と思った瞬間、あたしの意識は飛んだ。



156LX2010/11/10(水) 07:17:32.86Eyve7bw0 (4/5)


「あの、上条詩菜と申しますが、うちにおります佐天利子がまだ帰ってこないのですが、今日はなにか特別に練習でも?」

というような電話が学校に入ったのは夜の7時過ぎ。

それからあっちこっちへと連絡が飛び、誰も佐天利子の下校した後を知らない、と言うことになり、一気に事件性を帯びた様相に

なったのは夜8時過ぎ。

学校と上条詩菜大おばさま両方から警察に「女子中学生が下校後行方不明」という届け出があったのはそれからまもなくだった。

詩菜大おばさまは警察に届けた直後に母である佐天涙子、そして自分の息子上条当麻、嫁の上条美琴に電話をしたが

そろいも揃って全員移動中なのか電話がつながらない。

いや、一人つながった。上条麻琴だった。

「どしたの、おばちゃん?」

「麻琴? あのね、としこちゃんがいなくなったの!」

「はい?」

「学校から帰ってこないの! 午後3時過ぎに学校を出た後、誰も知らないのよ! 携帯も出ないの。

あなた、はやくお母様に知らせて! こっちからだとあなた以外誰も出ないのよ」

「そんな、リコが? どうして、どうしてよ!?」

「いい、麻琴ちゃん? 今の事実は、としこちゃんの行方がわからないということ。わかった? 早くみんなに知らせて!」

「わ、わかったわ、おばちゃん。リコは必ず帰ってくるから安心してて。大丈夫だから!」



麻琴との連絡が切れたあと、警視庁の刑事が2名やってきた。誘拐の可能性があるからだった。



157LX2010/11/10(水) 07:23:22.87Eyve7bw0 (5/5)

>>1です。

これから出勤準備に入りますので、申し訳ないですが今朝の投稿はここで
止めと致したく存じます。

さて、今日の夜は予定が入っているため遅くなる可能性があります。
(1次会で終わればそう遅くならない・・・かも?)
すみませんがご了承下さいませ。

それでは失礼致します。


158VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/10(水) 08:18:57.79UC3FiwAO (2/2)

更新超乙です
いってらっさい ノシ 俺もか


159VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/10(水) 09:45:01.6209jsC8so (1/1)

乙です


160LX2010/11/10(水) 21:19:25.531W0TYBw0 (1/23)

こんばんは。>>1です。

1次会で済みました(ふー)
それでは投稿を再開致します。

ちょっとアルコール入りなので、ミスをしでかさなければいいのですがw



161LX2010/11/10(水) 21:22:15.561W0TYBw0 (2/23)


麻琴は寮で詩菜大おばさまの電話を受けると、直ちにまず父の上条当麻に電話をしたが……            つながらない。

「あーん、もうどこにいるの、パパはもう! バカッ!」 

学園都市で電波が届かない場所というのは実はあまりそうない。しかし何故?

理由は簡単。当麻がクルマから降りるときに

「運悪く」  落としてしまい、当麻の足に当たって跳ね、例によって

「運悪く」  排水溝の網を通り抜けて落ち、そしてまた

「運悪く」  溜まっていた汚泥の底深く沈んでしまったからである。

いかに防水型携帯でも物理的に拾い上げられない状態ではどうしようもない。

もちろん十八番の「ああ、やっぱり上条さんは不幸だぁーっ!」という叫びがこだましたのは言うまでもない。



麻琴はさっさと諦めて美琴にかける。「緊急・割り込み可」「音声メール変換同時通話」を選択している。

「ママ、あたし。リコが行方不明になった、と詩菜おばさまから電話があったわ」と簡潔にして音声送信し、待機。

10秒後に「音声回線接続 緊急割り込み」と表示されると同時に「何があったの!?」と母・美琴の声が飛び込んできた。

「わかんないの。リコが学校から帰る途中でいなくなったってことらしいの! ど、どうしたらいい?」

「それだけじゃどうしようもないじゃない? わかった。あたしが電話して詳しく訊く」

「佐天のおばちゃんにも言った方が良い? なんかあっちからだとつながらないみたいだし」

「じゃそれもあたしがやるわ。あとであんたにも教える。間違ってもここから抜け出そうなんて考えるんじゃないわよ?」

「ちょ……」

「やっぱりね。アンタの力じゃ無理よ。そう言うこと考えてる連中、沢山いるんだから対応策はバッチリ取られてるわよ」

ふっ、と笑って電話を切った美琴は厳しい顔になる。



162LX2010/11/10(水) 21:25:44.131W0TYBw0 (3/23)


(可能性はまず2つ。あちら側とこっちだ)   美琴は考えを巡らせて行く。

(あっちの場合、誘拐=身代金、あるいは変質者か? 変質者だったら危険だ。ただ、両方とも表向き学園都市の人間は動けないわね)

(次にこっちの場合。理由はただ一つ誘拐。どうして? 彼女の素質を見抜いたものがいるのか? 過去の記録はないから無理。

ではそういう可能性が? あったとすれば先日の湾内さんの記録だけ。表面上は消されていたが……、まさか?)

学園都市サイドの誘拐の可能性の場合に備えて美琴は考えを纏めて行く。

(ここでは無理だ。抜けるか……)

「ちょっと休憩します、失礼」

美琴は一旦会議の席から抜け、廊下に出る。リラックスルームで待機していた秘書ミサカ美子(10039号)を従えてパウダールームにに入る。

「ごめんなさい、ちょっと急用で抜ける必要ができたの。後をお願いしたいんだけれど?」

「かまいませんが、復帰はいつ頃になりそうですか? こちらもある程度見通しが必要ですから」

「スケジュール表をもう一度見せて? …………んー、今日と明日は問題なさそうね。

あさっては? ……この11時のはあたしが出ないとまずいか。わかりました。あさって朝5時までには復帰します」

「了解致しました。ご自宅にはお戻りですか?」

「……あんた、もしかして、またろくでもないこと考えてない?」

「いえいえ、そんな、夜のお勤めも代行しようなどとは、キャッ!」

       
        ―――――― パコーン ――――――

 
「考えてただろーっ!」

ミサカ美子(10039号)は美琴のパンプスでひっぱたかれた。



163LX2010/11/10(水) 21:27:18.641W0TYBw0 (4/23)


「もしもし、花園さん?」

「はぁい、どうしたんですか、上条さん?」

「ちょっとセッティングして欲しいんだけど?」

「え、イリーガルはパスですよぅ?」

「グレーだわね。佐天さんのお嬢さんの利子さんの事なんだけど?」

「ああ、あの子ですか、あの時以来なんですよ~? 大きくなっててびっくりしちゃいました~」

「彼女のAIMジャマーのデータを送るから、学園都市の市内監視レーダーにこの電波が入ったら、あたしにアラートを送るように

セッティングして欲しいんだけど? あと、そのデータはあなたがチェックしてくれると凄く助かるけど?」

「かなり公私混同なような気がしますけど。それよりまたどうして?」

「佐天利子さんは、今日中学校を下校後、行方不明になったの」

「えええええええええええ?」

「あなたのことだから、きっと佐天さんに連絡するだろうけど、もし、学園都市へ拉致されてるようだったら、相手は普通じゃない

かもしれないから、佐天さんがまともに立ち向かうのは危険だと言っといて。それはあたしがやるわ。

でも、東京側で捕まってたらちょっと難しいけど……。花園さん、やってくれるわよね?」

「は、はいです! あとでパフェお願いしますねっ?」

「あなた、太るわよ? じゃ、データ送るから、あとは頼んだわよ」



164LX2010/11/10(水) 21:29:03.301W0TYBw0 (5/23)


……………… 上条さんも人使い荒いなー、あたしだってそんな暇じゃないんだけどなー ……………… 


……………… でも、佐天さんの娘さんが行方不明となれば、まずはあたしがやるしかないか ……………… 


……………… あれ? でもどうして上条さんが佐天さんのAIMジャマーのデータ持ってるんだろう? ……………… 


……………… まさか、ハッキングして???  あー、もう私、知ーらないっと。どうにでもなれ~ ………………  


……………… えーと、このデータだわね。キープと。さて、警戒レーダーの受信システムは~ ……………… 


……………… これこれ。とりあえず、今から30分前のデータはと ……………… 


……………… コピー終了。回線一旦開放。さてデータ解析しますかね。…… げ、ロックかかってる ……………… 


……………… なんでこんなロックかけるかな、あーもうめんどくさい。これで終了。さて生データだ ……………… 


……………… え? もういるの? マジ?、本当に? どこ、どこよ? 佐天さんてば? ………………


……………… 位置情報解析完了。さて、地図情報に読み替えと。さ~てどこだ? ……………… 


……………… 第10学区 …… Bブロック …… 5341-2、どこ? キリヤマ医科学研究所? ……………… 


「とりあえず、上条さんに連絡しなきゃ! それから佐天さんにも!」



165LX2010/11/10(水) 21:33:02.921W0TYBw0 (6/23)


そのキリヤマ研。午後7時過ぎ。

「検体搬入完了しました」

「あー、おつかれさん。今日は君たちは帰って良いぞ」

「はい、じゃお先します」「お先に~」「帰ります」

5~6人の作業員が実験室から出て行った。

「ふ~い、いや、なんとか手に入ったな……」   

黒田主任研究員は長いすに身体を投げ出し、大きくのびをした。

「さて、大当たりになるか、大ハズレになるか、大金かけたんだから頼むぜお嬢ちゃん?」

カプセルに入っている「お嬢ちゃん」、それは佐天利子であった。




話はおよそ2ヶ月前にさかのぼる。

ここは同じくキリヤマ研。

「むう……」

一人の男が繰り返しデータを見て考えている。

「コイツは絶対におかしい」「なんか隠してるな」

ブツブツつぶやいているが、廻りの研究者は慣れっこなのか誰も注意を払わない。

「どうした、黒田?」「ああ、大川課長?」

「ひとの行かない道に金の斧でも落ちてたか?」   と大川課長研究員はニヤッと笑って黒田という研究者に尋ねる。

「だったら良いんですけどね、というか、その斧は正しくは湖に沈んでるんじゃなかったですかね?」

「どうでもいいさ。で?」

「いや、この日本人の体験者調査レポートなんですけれどもね、おかしいんですよ」



166LX2010/11/10(水) 21:36:09.461W0TYBw0 (7/23)


「時間がない。簡潔に言ってくれ」   大川が時計を見ながら黒田をせかす。

「きっかけは人数が合っていないことだ。1人足らない。おそらく何らかの都合で1人消したのだろうが、データのつじつま

合わせにミスがあったと思われる。

次に、問題なのがAIMジャマーを付けていた人間が2名いた。しかし、1名しか該当者がいない。1名はあの超電磁砲二世。

しかし、もう1名のデータが見た目にはどこにもない。この2つから能力者らしい1名が今年の体験者レポートから消されて

いるという判断が成り立つ」    黒田研究員が一気にまくし立てる。

「ふむ。本当だとすれば、その能力者は原石? の可能性があるとでも?」   大川主任が興味を示してきた。

「かもしれない」   黒田がいう。

「で、このAIMジャマーのデータを取ってみた。これだ」   黒田がデータリストを画面に表示する。

「消されてなかったのか?よく残ってたな」

「いや、さすがに残っていない。これはオレがアンチAIMジャマーの稼働データから逆算して作り出したものだ」

「ふむ、さすが逆転の発想だな……」

「でな、これで検索をかけると、なんと15年も前のレポートに似たものが出てくるのさ」

黒田はタブをひょいひょいとめくって行くと、そのレポートのデータと作成者のデータが表れた。

大川の顔色が変わった。

「冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>じゃないか!」   思わず声が大きくなる。



167LX2010/11/10(水) 21:38:34.931W0TYBw0 (8/23)


「そう、彼もこの頃は若いな」   

黒田が苦笑してレポートをめくる。「オレなんか学生だよ」

「マイクロサイズのAIMジャマー???」   大川が感嘆する。

「ああ、今でも十分通用するね、これは。こんな論文正直見落としてたよ。古い論文もちゃんとチェックしないとダメってことかもな」

黒田がドロップを口に放り込む。

「で、ターゲットは?」   大川が再び時計を見て黒田をせかせる。

「この子だ。さてん としこ。14歳、東京都XX区XX中学校3年生。住所は東京都XX区XX-X-X-Xだ。

父親不明。私生児だな。生まれはここ、学園都市。母親はさてん るいこだ。面白いのが、生まれた病院で」

黒田が佐天のデータタブをめくる。

「冥土帰し<ヘブンキャンセラー>のところか!」   また大川が大きな声を上げる。

「な、面白いだろう?」   黒田がニヤと笑う。

「繋がってるな」   大川は厳しい顔のまま言う。

黒田は、大川が興味を示したときに厳しい顔をすることをよく知っていた。

「そうなんだよ、それにな」

「まだあるのか?」

「ああ、実は母親もな、おかしいんだよ。書庫<バンク>上は無能力者<レベル0>なんだが、幻想御手<レベルアッパー>

で入院している。つまり無能力者ではない。しかもだ、この暴走竜巻<トルネードボム>事件ではな」

大川は最後まで聞かずに机から離れ、ドアに向かって歩き出した。

「時間切れだ。すまん。で、参加してもらうのか?」   と黒田に聞く。

「そのつもりだ」

「了解が得られればいいんだがな」   大川の姿は部屋から消え、ドアがゆっくりと閉まって行く。

「あとでもらうさ」



果たして、最後の言葉は大川に届いたのだろうか……。



168LX2010/11/10(水) 21:40:23.021W0TYBw0 (9/23)





学園都市、暗部(ダークサイド)、

ひと生きるところに汚れ役あり。光あるところに影がある。

一時期、この暗部(ダークサイド)は粛正につぐ粛正で大幅にその勢力を減らしたが、冒頭の文の通り、世の中はきれい事だけでは

廻っていかない。大粛正を逃れた、本当に「有能」な一握りの者たちは「保護する」ものたちの手により、生きながらえた。

その後、再び暗部(ダークサイド)は、その求めに応じ、再び勢力を拡大し始めた。

頼む者がいるから応じる者が出来るのか、そう言う者がいるから頼もうかと考える者が現れるのか、鶏が先か卵が先か、本当のことは

誰も知らない。

キリヤマ研の黒田は、「原石」の可能性を疑った「佐天利子」を「入手」すべく、この暗部の下部組織のメンバーに依頼をしたのだった。

裏の世界への取次屋というものがいる。彼ら自体は動かないが、客の要望の内容によって、紹介する相手を選択する。

従って、優秀な、幅広い分野に渡る「その道のプロ」を知り、仕事を依頼できるかどうかが彼らの評価の決め手になる。

黒田はその取次屋を知っていた。



169LX2010/11/10(水) 21:43:39.201W0TYBw0 (10/23)


表の世界ですら、学園都市外へフリーで出入りができる者はそう沢山はいないため、裏のメンバーは極秘ルートにて出入りを行っている。

もちろん、裏の人間がフリーパス、と言うことではない。

作戦実行員3名、は学園都市を秘密裏に出国し、東京に潜入した。

佐天利子の通う中学校を見つけ出し、下校時間をねらい、じっとチャンスを待った。

ある時は友人に邪魔され、ある時はイヌに邪魔されたこともあった。しかし、彼らはいらつくこともなく、ひたすらチャンスを待ち続けた。

ところが、ある時以来、彼女の下校途中の道に、1人もしくは2人の男子生徒がいるようになった。チェックする相手が増えたことは

予想外であったが、所詮素人であるから発見は容易く、「今日は1人」「今日は2名」とチャンスを窺う際の楽しみ?になりつつあった。

「あいつ、ただ立って見てるだけかい?」という声も出るようになった。

しかし、事態は更に変化した。彼女は1人で帰らなくなり、彼女のずっとあとから同じ学校の女生徒2名がつけて帰るようになったことである。

プロの彼らには所詮児戯なのであるが、彼女の付け人が一気に倍になってしまった。

「あのガキはいったいなんだ?」という疑問の声もメシ時に出るようになった。

しかし、ある日。

事態が動いた。途中で待っていた男子生徒がついに動いたのである。

「!」 

続いて、護衛?していた女生徒2名もそこに合流する。すったもんだ?の後、男子生徒2名が走り去り、女生徒3名が取り残された。

あのバカども、ようやく動いたのか、とその日のメシ時に肴になったくらいである。



そして、次の日。

何があったのか、いつもより非常に早い時間に彼女は1人で歩いてきた。奇跡的にクルマはいない、学生も他の人間もいない。

プロは迷わない。1名が近づき一瞬にして麻酔薬で佐天を眠らせ、もう一人がバックアップ、もう1名がクルマをさっと寄せ、

3名は直ちにその場から消え去ったのであった。時間にしてわずか5秒ほどの出来事であった。



170LX2010/11/10(水) 21:49:25.751W0TYBw0 (11/23)


「さーて、じゃぁさてんちゃんのジャマーをチェック致しますかね?」   と黒田はAIMジャマーの確認作業を始める。

CTスキャナーで彼女の頭をチェックすると、そこに出たのは、彼女の髪全体がジャミングを起こしている様子である。

「こりゃすげぇな」   黒田が独り言を言う。

「こりゃ騙されるわ。あのレポートを深く読んでなければ、普通わからないな……」

黒田は彼女の髪の毛を1本取り、顕微鏡で覗いてみた。

「元は栗毛か。黒く塗ってるが、こりゃ何かのコーティングだな、あとで分析してみるか。で、本筋だ」

黒田はケースからあるものを取り出した。

「すまんな、お嬢ちゃん。自慢の髪だろうけどな、ちょっとそのままだと危険なんで、切らせてもらうよ」

そう言って、電動バリカンで佐天利子の髪を剃り落とし始めたのだった。

「髪はおんなの命、だよなぁ。すまんなぁ」そう言いながら剃り落として行く黒田。


―――――― キン ――――――



―――――― キン ――――――

剃り落として行くうちに、ところどころで刃が金属的な音を立てるところがあった。

「これ、か?」

そのうちの1本を手に取り、バリカンの刃を当ててみるとキンキンキンと金属的な音を立てるが切り落とせないのだった。

「そうか、これか!」彼はその髪の毛にテープを貼って行く。



171LX2010/11/10(水) 21:51:20.871W0TYBw0 (12/23)


ヴィーンと唸る電動バリカンが佐天の髪をあらかた落とすまで30分ほどかかった。

テープの付いた髪はざっと20本近くになった。

「なーるほど、ねぇ」 

その髪の位置は、頭のうち、前頭葉に近い部分におよそ半分ほど、そして頭頂葉部分に残りが集中していたのだった。

「さて、これでどうかな?」

黒田は再びAIMジャマーの確認を行う。すると、そこに出てきたジャマーの波形は先ほどとは全く違うものであった。

「予想通りだ。あのコーティングされた髪は、ダミーのジャミング発生装置だったわけか。これで騙されて検査をやったら

トラブルが起きるだろうな。よく考えたものだ」

「さて、じゃ今度はこのホンモノはどうなっているかだ」

と黒田は再び佐天をカプセルに入れ頭部をスキャナーにかける。

「むう、一部は脳まで届いているのか…… それでは高電圧をかけて破壊するような強引な手段は無理か。

物理的に破壊するのが無難か…… 原点に帰って、ダイヤモンドヤスリでも使ってみるか」

黒田は工作箱からダイヤモンドヤスリを取り出し、残った髪、いやAIMジャマーを破壊すべくズリズリとヤスリ掛けをして行く。


―――――― ピシ ――――――


小さな音を立てて、ジャマーが割れるように切れた。

「はは、さすがにダイヤモンドには勝てないか。原始的な方法も場合によっちゃ有効だな、まてよ、壊すだけならどこでもいいのか」

彼は残りの髪(AIMジャマー)を纏めて、一気に削り始め、5分ほどで全部切り落とした。

「ひゅー、まさか学園都市でこんなヤスリ掛け工作をするとは想像もしなかったぜ……さて、ジャマーは止まったかな?」

黒田は再びジャマーの稼働状況をモニターで見てみると、何も反応がない。

「よし、これでOKだ! もう邪魔するものはない。さて、念のため準備してくるか」

黒田は部屋を出て行く。



172LX2010/11/10(水) 21:59:10.201W0TYBw0 (13/23)



8時半過ぎ、大川課長研究員が外出先から戻ってきた。

いくつもの検問ゲートを抜けて、事務所についた大川はページングで黒田を呼び出す。

「大川だ。黒田主任研究員は内線2205へ連絡しろ」

数分後に「黒田です。B2実験施設、101にいます」という電話が入った。

「どうした? 了解はもらえたか?」

「いえ、まだ目が覚めないので、了解はもらえてませんよ」

「お前な、相手は学園都市の置き去り<チャイルドエラー>じゃないんだぞ? わかってるのか?」

「起きたらもらいますよ、へへっ」

「問題が起きたら、私の責任なんだからな! で、どこまで行ってる?」

「AIMジャマーは全て排除。従って今はすっぴん状態。おなじみの精神集中補助剤と脳活性化誘導促進剤を投与完了。

現在効果チェック中、ってところですね」

「わかった、今から行く」

大川が電話を切る。

(あの、はねっかえりめ、やりすぎだ)   大川は急いで実験室に向かった。



173LX2010/11/10(水) 22:01:23.931W0TYBw0 (14/23)


「黒田!やりすぎだぞ!」

ドアを開けて大川が101号室に飛び込む。

しかし、黒田の返事はない。

ベッドに横たわっている人の姿を認めた大川は、そちらへ注意を向けた。

頭は綺麗に剃り上げられていて、身体のあちこちにはセンサーが取り付けられている。

モニターを反射的に見つめてしまったのは、彼もまた研究者であるからだった。

「ふむ、身体の一般部分には影響は起きていないのだな」

と判断した大川は、今度は脳の状態を見るためモニターを切り替える。

「ほう、前頭葉部分はかなり活動が激しくなってきているな。側頭葉もこれは連動しているようだ。これは期待できるかもしれんな」

大川が独り言をつぶやいたそのとき、

「あれぇ? いいのかい、そんな格好で? そろそろ彼女も目覚めるはずだが、その時、何が起きるかわからんのだぞ?」 

黒田が駆動鎧(パワードスーツ)を纏って部屋に入ってきたのだった。

一瞬大川はあっけにとられたが、直ぐに黒田の言わんとすることを理解した。

「!」

「まぁ、何も起きないかもしれないしさ、オレはただ念の為、こういうカッコしただけだから」



「……む……」

うしろで声がした。

大川が振り向くと、ベッドの上のツルツル頭の佐天利子が目をさました。


「あれ?……あたし、どうしたの?……また倒れたのかな…………!!!!」

 
彼女の目と大川の目が合った。


「キャァァァァァァァァァァァ!」


その瞬間、白光が部屋を覆った。



174LX2010/11/10(水) 22:03:51.231W0TYBw0 (15/23)


「あれ?」

子供をあやしていた彼女に、ふいに飛び込んできた感覚は明らかな違和感を与えた。気を集中させて分析を始める。

「これ……、だれ? でも、どこかで、なにか覚えが……」

しばらく彼女はその感覚に集中していたが、やがてほっと気を抜いて、彼女は遠くを見つめて一人ごちた。


「どうしてるかな、あのあと……」





「昔もこういうことやったわね……」

上条美琴はキリヤマ医科学研究所の前にたたずんでいた。

「昔のようには身体は動かないだろうけど、やったろかい!」

と一歩前に踏み出した瞬間、美琴は強烈な電磁波を感じた。

「!!」

廻りの明かりが一斉に消え、



――――――――――――  ゴォッ  ――――――――――――



という地響きの直ぐ後に、



――――――――――――  ズドォォォォォォォォォーン ――――――――――――




爆発が起こったのだった。



175LX2010/11/10(水) 22:27:21.961W0TYBw0 (16/23)


反射的に斜め後の鉄塔に電磁波を飛ばし、回避動作にかかろうとした美琴に強烈な爆風が襲いかかった。

「ちょっとやばいかもコレーっ!」

美琴は爆風に逆らわずに飛ばされる形を取り、斜め前15m先に止まっているトラックへ電磁波を飛ばし、

それに引き連られる形で爆風から逃げ、トラックの影に入った。

ガンガンといろいろなものが吹っ飛んでくる。トラックにもグシャンと音を立ててぶつかる鉄柱やら何やらがある。

数秒間ののち、爆風はやんだが、砂埃でろくすっぽ前が見えない。

「何なの、この爆発? それより、まさかここに利子ちゃんがいたら大変!?」

美琴は暗視ゴーグルを取り出して被り、立ち上がった。

「ひどいわぁ、この服、もうダメねぇ……」

パッパッと埃を払い落とそうとするが、殆ど無意味なくらい埃まみれになっていた。

地面は酷い有様で、軽量靴ではとても歩ける状態ではない。辺りを見回す美琴。

その時、ゴーグルの中に一瞬写ったものがあった。

「ん?」

データ解析をすると、どうやら駆動鎧(パワードスーツ)らしい。

「ラッキー!」

美琴は注意しながらそちらへ向かう。

この頃になると、あちこちで非常電源に切り替えたのか、少しずつ明かりがともってきた。

クルマのヘッドライトもチラホラと見えてくるが、道路状態が悪く、近くまでは入って来れないらしい。

僅かだが明かりがともり始めたことで、美琴は少し歩きやすくなり、なんとか駆動鎧(パワードスーツ)のそばまでたどり着けた。



176LX2010/11/10(水) 22:28:50.901W0TYBw0 (17/23)


中に人はおらず空で、バッテリーチェックをかけると生きていることがわかった。

「よし、コレ借りよう!」   と美琴はその駆動鎧(パワードスーツ)に身体を滑り込ませた。

(メインスイッチ、オン)

ブン、と音を立てて駆動鎧(パワードスーツ)が起動した。

「こいつ、動くわ」

チェックの結果、左腕が肩以上には上がらなくなっていること、平行バランスセンサーが少し傾いてしまっている事が判明したが、

ただの靴でがれきを歩くことから比較すれば天国である。



「しかし酷いわね、何なのよこれは?」

木っ端微塵と言う言葉があるが、まさにその言葉が相応しい状態であった。

やがて前方に何やら大穴が見えてきた。

「あそこが中心部分かな?」

美琴は穴の手前2m付近で立ち止まった。縁まで接近すると、自重で縁を破壊して落ちてしまう可能性があるからだ。

彼女は鉄柱を1本探しだし、思い切りそれを地面に突っ込む。そこに安全ワイヤーを結び、腹這いになって穴の縁へ向かった。

なんとか縁を崩すことなく、美琴は縁から顔を出した。

深い穴が開いている。ライトをつけるが、まだ埃が多くよく見えない。赤外線ライトに切り替え、熱感知暗視カメラでもう一度

そこを見ると、そこに何かがいるのが判別できる。

「もしかして人間かしら?!」



177LX2010/11/10(水) 22:30:16.461W0TYBw0 (18/23)


拡大投影してみると、明らかに人間のようだ。

美琴はマイクを使って声をかけた。

「そこに誰かいるの?」 

返事が聞こえない。スピーカーの雑音の方が大きい。音声録音をオンにして、もう一度話しかける。

「聞こえないわ……誰かいるの?」

しばらくして美琴は音声データをチェックする。

美琴の声のデータのあと、小さな波形があるのがわかった。ノイズ部分を削除し、その波形部分を拡大してスピーカーに通す。

「その……は、美……ばさん? あ……さて……とし……たすけ……」

なんとなく、佐天利子のような声に聞こえてくる。美琴はもう一度マイクで叫んだ。

「利子ちゃんなら手を振って!」 

暗視カメラでみるとその人間らしきものは手を振っている様に見えなくもない。

「危険だから、穴の真ん中にいて! 縁は崩れるかもしれないから!」

そうマイクで喋ったあと、美琴は駆動鎧(パワードスーツ)の安全ワイヤを頼りに穴を降り始めた。

あちこち壁を崩しながらではあったが、何とか底に着き、赤外線ライトのあかりに照らし出されたのは……

ほとんどすっぽんぽんの、スキンヘッド状態の佐天利子であった。

「利子ちゃん!! 無事だったのね!!!」



178LX2010/11/10(水) 22:32:14.341W0TYBw0 (19/23)


美琴は当麻に電話をかけるが、繋がらない。理由は先に記したとおりだが、美琴はまだその事情を知らない。

「あのバカ、本当に肝心なところで役に立たない!」

ひとしきりののしったところで、ミサカ美子(10039号)へ電話する。

「ちょっと、直ぐにあたしのこのケータイのGPS地点にヘリ1機まわして! 出来れば麻美も一緒に! けが人がいる!」

「上条委員、了解しました。しばらくお待ちを」

ミサカ美子は簡潔に答えた。よし、とりあえずOKだ。

美琴は駆動鎧を「降機」位置にセットして、中から救急医療セットを持って暗視ゴーグルをつけて飛び降りる。

「としこちゃーん!?」   

美琴が叫ぶ。

「ここ、で、す……」

消えそうな細い声が聞こえた。暗視ゴーグルに姿を捉えた美琴は上着を脱いで佐天利子に駆け寄った。

「もう大丈夫だからね! 安心して!! あたしが来たからもう大丈夫だから!」

上着を彼女に掛け、意識が朦朧としているらしい彼女を抱きしめて美琴が利子を励ます。

「おばちゃん、あたし……何がなんだか、さっぱり……」

安心したのか、佐天利子から力が抜けた。どうやら気絶してしまったらしい。

「ちょ、ちょっと!しっかりしなさい!」

美琴はそういいつつ、左肩で佐天を支えながら弱い電撃でそこら辺を軽く均し、ゆっくりと身体を沈めて佐天の身体を寝かせ、

救急キットからエアークッションを取り出して頭を載せ、酸素マスクをつけた。

美琴はまだ埃が舞い上がっていく空を見上げていらだちを隠さずにつぶやいた。

「あー、まだかしらね!?」



179LX2010/11/10(水) 22:35:31.311W0TYBw0 (20/23)


それからおよそ10分後、爆音と共にヘリが上空に現れた。

「上条委員、遅くなりました」

ミサカ美子(10039号)の声がスカウターに入る。

「ヘリの爆音がひどいわね。ちょっと待って」

美琴はスカウターの視線入力で、「外部雑音排除」を選択する。

すると、ヘリの爆音の周波数にあわせてノイズキャンセラーが動作し、スカウターのイヤホンにはヘリの爆音が殆どしなくなった。

「美子、通話OK?」

「感度良好、ノイズ減少良好です。それでは指示をどうぞ」

ミサカ美子が指示を求めてきた。

「まず毛布を下ろして、次に担架を!」

美琴が指示を下す。

スルスルと毛布を載せた担架と人間が一人降りてきた。

「お姉様、お久しぶりです」戦闘服に身を包んだミサカが言葉を投げかける。暗視ゴーグルをしているので顔が見えない。

「あなた、麻美?」

美琴が確認をすると

「はい。暗いことと埃が酷いので久しぶりに暗視ゴーグルを装着しています。また、負傷者がいるという事でしたので

 野戦用の救護班用制服を着て来ました。お姉様<オリジナル>に確認しますが負傷者はその女性でしょうか?」

御坂妹ことミサカ麻美(10032号)が美琴を向いて話すのだが、暗視ゴーグルをつけた麻美の姿に、一瞬美琴は遠い昔の悪夢を思い出していた。

(ミサカは18万円でいくらでも自動生産できる、作り物の身体に借り物の心を与えられた実験用動物にすぎません)




180LX2010/11/10(水) 22:39:04.431W0TYBw0 (21/23)


「……お姉様<オリジナル> ? もう一度確認します。負傷者はその女性ですか?」

はっと美琴は現実に戻る。

「そ、そうよ。ちょっと見てあげて、お願い!」

美琴は苦い思い出を再び封印した。今はそれどころじゃないのだ。

「む、殆ど裸ですね、体温が奪われ生命維持に危険が生じます。直ちにこちらへ」

ミサカ麻美はまず担架のセッティングをし、美琴が応急的に着せた上着を広げて、気絶している佐天をざっと一通り見た上で

大きな怪我がないことを確認して毛布でくるみ、さらに頭部に衝撃吸収カバーをかぶせ、担架に載せて引き上げさせる。

「さすがね」

手際のよさに美琴が感心する。

「さ、お姉様<オリジナル>、私たちも上がりましょう」

ミサカ麻美と美琴は吊り具に足を引っかけてヘリに吊り上げてもらう。




「うわ、結構な人だかりじゃない」

上昇する吊り具から下を見た美琴が驚く。いつの間にか、アンチスキルの装甲車や警備車、投光器などがずらりと並んでいる。

サーチライトの明かりがヘリと美琴たちを捉えて追尾している。



181LX2010/11/10(水) 22:41:50.291W0TYBw0 (22/23)


「あー、もうどうでも良いときになってあいつら、もう役立たずが!」    美琴が悪態をつく。

「お姉様、読唇術で言葉を読まれます、気をつけないと」      ミサカ麻美が無表情を作って小さい声で言う。

「わ、わかったわよ……」  美琴もその通りなので返す言葉がない。

「爆発の穴の大きさがハンパではありませんね」    ミサカ麻美が感嘆したようにつぶやく。

「報道関係者は?」

「その質問の回答については、中の10039号に聞かれた方が良いと思います」    とミサカ麻美が答える。

「私は負傷者の状態チェックを行いますので」

「そうね、頼むわ」

2人は無事ヘリに乗り込んだ。

ミサカ麻美は担架に寝ている佐天利子のところへ行く。

美琴は「報道陣はどうなってるの?」とミサカ美子に聞く。

「現在2社、10名ほどです。例のパパラッチもいます」    ミサカ美子は携帯端末でチェックして回答してきた。

「振り切れるかしら?」

「可能ですが、直行すると彼らが押しかけるものと容易に判断できますが?」

「そうよね……利子さんの具合はどう?」    ミサカ麻美に容態を確認する美琴。

「現在チェック中です……、軽度の興奮状態、脈拍88、血圧115-45でやや高め。外傷15箇所ですが、いずれもごく軽傷。

殺菌清浄剤で外傷部分は消毒済みです。骨格部分、筋肉部分に損傷はなさそうです。心電図に異常波形は出ていません。

問題は、内臓その他の損傷についてここでは測定不能な事です。早い検査処置が必要と考えます」

「仕方ないな」美琴がスカウターを操作して、連絡を取る。

「もしもし、黒子? ごめんね、また頼まれて欲しいんだけど」



182LX2010/11/10(水) 22:57:25.881W0TYBw0 (23/23)

>>1です。

お読み下さっている皆様、こんばんは。
どうも有り難うございます。

すみせんが、ちょっと起きているのが難しい状態ですので、本日はここで止めたいと
思います。
明日の朝、投稿を再開したいと思います。

早く落ちてしまいましてすみません。では。



183VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/10(水) 23:00:50.1941Y3J5Yo (1/1)

乙です
ゆっくりとしてください


184VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/10(水) 23:01:24.11LDn.qcwo (1/1)

物凄いハイペースでテンポ良く進むしとても面白くてびっくりだ・・・
この後他の原作キャラが未来世界でどうなってるのかとか、
リコ(&佐天さん)に秘められた謎がなんなのかも楽しみ過ぎるwwww


185VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/10(水) 23:05:52.29c596qh.o (2/2)

>>182
乙です。休むのも大切かと
続き待ってます


186VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/11(木) 02:33:29.46CaKvj.AO (1/1)

超乙です
wktkが止まらない


187LX2010/11/11(木) 07:04:35.48ViwOjwA0 (1/9)

皆様おはようございます。>>1です。

コメント書き込み頂き本当に有り難うございます。
にじファン等で作者の方が、どんなことでもいいのでコメント下さい、と書かれていたり
しますが、その気持ちが良くわかるようになりました。
投稿する側になってみますと、非常に気になるものなんですね。

さて、それでは僅かですがこれより投稿を再開致します。
宜しくお願い致します。



188LX2010/11/11(木) 07:07:02.65ViwOjwA0 (2/9)



あたしは、上も下もない、なんだかよくわからない、としか言いようのない世界を漂っていた。

ここって、もしかして死後の世界だろうか? あたし、死んじゃったんだろうか? それは困る。

まだあたしには未来があるのに。お母さんが悲しんじゃう。

そうだ、お母さんは?

母を思い出すと、いきなりそこに母の顔が現れた。おかあさん、ゴメンね。あたし、死んだみたい。

ね、泣かないで。おかあさん、どこ行くの? 行っちゃイヤだ。あたしを置いていかないで! 良い子でいるから、ねぇ!

「おかあさん!」

目が覚めた? あたしはベッドから起きあがっていた。

(夢……だったのか……)

廻りは真っ暗。廊下の非常灯のあかりがほんのりと見える。窓からも外の明かりが入ってきているけれど、静かな夜、だ。

(どこだろう、ここ?、だいたい、どうしてあたしは……?)

さっぱり状況がつかめない。ベッドの脇にあった時計の表示を見ると、午前2時過ぎ。深夜だ。

声に出して、記憶を辿ってみることにした。



189LX2010/11/11(木) 07:11:15.71ViwOjwA0 (3/9)


「学校に行った」

「ひろぴぃとケイちゃんに冷やかされた」

思わず、あたしは顔が赤くなる。

(ラブレター、どうしちゃったっけ? あ、あたしの部屋だ。よし、オッケー)

「長坂くんとのこと黒板に書かれた」   (そうだ、巨乳って書かれてた)

「長坂君が消した」  ……(それから、あれ? どうしたんだろう?)思い出せない。何があったんだろう?

「保健室にいた……ってあれ、あれは夢、かな?」  記憶があやしい。夢と現実の区別がわからなくなってきた……。

「部活出ない、一人で帰るってひろぴぃとケイちゃんに言ったよね……、夢の話なのかな、ああ、わからない」

「で、校門を出た…… だめだ。全然覚えていないや……夢なのかホントなのか、途中からわからない」

(まさか、まだ夢のなか、とか?)  あたしはほっぺをつねった。間違いなく痛い。

(でも、そういう夢の時もあるし)

ふと、壁を見るとカレンダーがかかっている。  (そうだ、夢の中では計算が出来ないはず)

(5+21=26、あ、計算できた……)

「ホントの世界なのか、ここは……」

あたしは髪に手をやろうとして包帯に触れて気が付いた。

「あれ?」  もしかして、……あるべきものが……ない? そういえば頭が軽い。

「うそっ!?」  あたしはぺたぺたと裸足のまま部屋を歩き、明かりのスイッチを探したが見つからない。

(あ、ベッドのそばか)  あたしはベッドの脇にあるコントロールユニットを弄くり、明かりをつけた。

恐る恐る鏡の前に行くと……

「なに、これやだ~!!!!!」   

思わず叫んでしまった。



190LX2010/11/11(木) 07:15:05.32ViwOjwA0 (4/9)


アタマには包帯がグルグル巻かれているが、どこにもあたしの髪は出て居らず、その形から察するに包帯を取った下には

ツルツルあたまが覗くであろう事が容易に想像できたからだ。

「なんで、どうして、なんなのよこれは」   と、麻琴の三段活用がグルグルとアタマの中を駆けめぐる。

あたしはベッドに腰掛けてもう一度記憶を呼び起こそうとした。

その時、ドアがノックされた。

「は、はいっ!?」   まさかこんな時間にノックされるとは思わなかった。

「目覚められたのですか?」   美琴おばさんが入ってきた……ってナース服?

「お、おばさん、どうしてその格好……?」

「むぅ、まだ二度目の遭遇で、しかも初めて会話をするガキンチョに『おばさん』呼ばわりされるのは非常に不愉快」

「?」   意味不明だ。

「とはいえ、たぶんお姉様<オリジナル>と間違えての発言だと解釈しましょう」

「あ、あのぅ……?」

「もしかして、私を上条美琴さんと認識していますか?」   といよいよ謎の発言をするおばさま。

「このミサカはミサカ麻美(あさみ)といいます。かつての名は御坂妹、正式名称は個体番号10032号です。以後宜しく」

あたしは何の事やらさっぱりわからなかった。何をこの人は言っているんだろうって。



191LX2010/11/11(木) 07:17:41.09ViwOjwA0 (5/9)


でも、この人は美琴おばさんではないのだ、ということはわかった。


―――――――― 手が全然違う ―――――――――― 


すごい綺麗。それに指輪をしていない。

あたしの母や美琴おばさんの手は、子供を育て、水仕事をしてきた女の手。

この人の手はそう言うことをしたことのない手だった。

「あなたは、東京都内からここ学園都市に拉致されてきました」

いきなり、麻美さんがあたしに話し始めた。拉致って誘拐のことだっけ? そう……なんだ、やっぱり。

「詳しいことはまだ不明ですが、あなたはキリヤマ医科学研究所に連れ込まれたようです。

しかし、その研究所は今から4時間ほど前に謎の大爆発を起こし、跡形もなく吹き飛びました。

あなたはその穴の底から殆ど無傷で発見され、この病院に運ばれた訳です。

ちなみに、3ヶ月前にもあなたはここに入院して、このベッドに寝たことがあります」

凄いことを麻美さんが無表情で淡々と述べてくれた。はぁ……。

とても信じられない。

連れ込まれた場所が爆発。

その穴の底にあたしがいて、五体満足で見つかった? 

あたしは不死身の女の子か? 

どういうことなんだろう?



192LX2010/11/11(木) 07:22:14.99ViwOjwA0 (6/9)


そうだ、あたしの髪。

「あ、あの、あたしの頭、どうしちゃったんでしょう?」

気になっていた事を聞こう。

「鏡を見れば一目瞭然だから隠しても意味はないと判断します。穴の底から発見された時、既にあなたの頭は、殆ど髪がない状態でした。

調査の結果では、意図的に、切り落とすつもりで切られたものと判断されています。乱暴な切り方でしたので。

また、髪に似せて取り付けられていたAIMジャマーは全て破壊されていましたので、今回摘出手術を行い、全て撤去されました」

最初はふーん、と言う内容だったが、終わりの話は衝撃だった。


―――――― 髪に似せて取り付けられていた ――――――


あたしの頭にAIMジャマーが、あたしの髪の毛に混ぜられて付いていた、のか。

それじゃわからないだろう……湾内さんも気が付かなかったのだろうな……

お母さんは、? まさか?

…… お母さんが知らないわけがない! お母さん、どうして黙ってたの?

そのとき、はっと気が付いた。

さっきの夢に出てきたお母さんって誰だ?

あのひと、全然知らないひと、お母さんじゃないその人にあたしはお母さん、行かないで、と泣き叫んでいたような気がする。

リアルすぎる夢だった。

だめだ。どんな顔だったかもう思い出せない。でも、でもあのひとはお母さんじゃなかった。

元ネタはテレビドラマかな? それとも映画だろうか? なんだろう……?



193LX2010/11/11(木) 07:25:12.07ViwOjwA0 (7/9)


「…………佐天さん、聞いてますか?」

麻美さんがずいっとあたしのそばに顔を寄せていた。

「は、はいっ?」   

ち、近い!  (あ、顔も近くで見ると、違う……ほくろとしわが)

「あなた、今、私とお姉様<オリジナル>とを比較しませんでしたか?」

たまに、美琴おばさんも読心術を使ったのだろうか? と思うほど内心を読むことがあるけど、この人もそうなんだろうか?

「ええええええ、いえいえいえ、そそそそんな」

「その答えでわかりました。他に何か質問はありますか?」

「あ、あの、あたしは今、どういう状態なんですか?」   まずは自分の状態を聞かなきゃ、ね。

「はい、一言で言えば、問題ありません。外傷箇所は微少なものも含んで43カ所ありましたが、そのうち28カ所は既に自家治癒が

始まっており、手をつける必要はないと判断しています。残り15カ所も消毒し、外傷治癒薬を塗布していますので1週間で跡形もなく

消えるでしょう。また、念のために破傷風の予防接種を行っています。

骨格・内臓への損傷は皆無。呼吸器官へ少量の無機物の吸入が見られましたが、これは自然に外部へ排出されますので、あえて手は

つけておりません」

はー、安心だわ。しかし、いよいよあたしって、バイオニック・ジェミーか、鉄腕バーディか、はたまたアリスなのか。



194LX2010/11/11(木) 07:28:30.05ViwOjwA0 (8/9)


「問題の毛髪の状態ですが、単純に切り落とされただけで、毛根には一切の被害がないので、頭部の毛髪は問題なく再生します。

ただ、以前入院されたときは黒でしたが、今回の調査では栗毛と正式に判断されました。データも書き換えを行っています」

あー、でも今、あたしのアタマって、その『ハゲ』だよね、『ヤカン頭』なんだよね? 外に出られないじゃない!

「毛髪育成促進剤というものがありますが、毛根自体を痛める副作用がある、と言われていますので、頭皮全体に使用する

ことはお勧め出来ません」   と麻美さんはニヤと笑っていう。こういう顔出来るんだ、このひと。

「しばらくはカツラを使うことをお勧めします。風で飛ぶこともなく、通気性も確保されているので、地毛に悪影響も与えない、

という謳い文句、です」

あたしは、思わずカツラを被った自分の姿を想像して「ぶっ」と吹き出した。

「次に、あなたの脳の活動状態ですが」   麻美さんはあたしが吹いたことに気も止めず、先に進む。

「AIMジャマーがない状態にあり、AIM拡散力場の放出が確認されています」

え?それって、つまり……

「あなたは既に、能力者、です」

宣告されてしまった。あたしは能力者なんだ……。



195LX2010/11/11(木) 07:34:37.19ViwOjwA0 (9/9)

>>1です。

短くてスミマセンが、今朝の投稿はここで止めたいと思います。

今日の夜ですが、昨日に引き続き連チャンで予定が入っておりまして、本日は2次会も
あるはずなので遅くなりそうです。
投稿するだけだからたいしたことはあるまい、と思っておりましたが結構厳しかったです。
もしかしたら夜は出来ないかもしれません。
すみませんがご了解下さいませ。



196VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/11(木) 08:09:38.96BOJhhHYo (1/1)

>>195
乙です。
用事があるのなら休んでいいと思います。
毎日投稿してる書き手はほとんどいませんし、休みの日にその分投稿すればよろしいかと。


197VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/11(木) 12:52:45.32760RnpUo (1/1)

乙です


198LX2010/11/11(木) 21:58:44.53uQUt54Y0 (1/15)

お読み下さっている皆様、こんばんは。
>>1でございます。

1次会が早くスタートしたので2次会も早く終わりました。

それでは意識のある限り投稿したいと思います。

>>196さま
コメント有り難うございます。たいへん気が楽になりました。
そう言って頂けますと精神的にとても助かります。


それでは投稿開始します。



199LX2010/11/11(木) 22:01:58.30uQUt54Y0 (2/15)


嬉しいような、困ったような。て、ことは、あたしはあの家に帰れないのだろうか?

お母さん、詩菜大おばさま、どうしてるだろう? 心配してるだろうな……。

学校の先生、クラスメート。ひろぴぃ、ケイちゃん、あ、長坂くん……も、かな。

「但し、あなたの能力はテストをしていないため不明です。キリヤマ医科学研究所の爆発と関係があるかどうかも未確認です。

出来れば、能力の暴走を起こさないようにテストを受け、コントロールするすべを身につける事をお勧めします」

(そうか、春の頃のマコと同じってことか)   とあたしは理解した。

(でも、マコは美琴おばさんと同じ、電撃系だったよね? あたしは、母さんと同じなんだろうか? って母さんの能力が

なんなのか未だにわからないからなぁ……こんどこそ聞かないと)

「もう午前3時です。朝食は7時から8時に、あなたの場合は食堂で取ることが可能です。この部屋番号とあなたの名前を

伝票に書けばOKです。ではもう遅いので、ごゆっくりお休みなさい」

麻美さんが帰ろうとするのをあたしは止めた。

「あ、あの、麻美さんは美琴おば、いや美琴さんの妹さんなんですか?」

これだけは聞きたかった。双子なんだろうか?

麻美さんはニッコリ笑って言った。

「お姉様<オリジナル>に聞いてみてご覧なさい」 



200LX2010/11/11(木) 22:05:36.86uQUt54Y0 (3/15)





「すごいものね」

「立ち入り禁止」のはずの瓦礫の山にたたずむ女が1人。

「あのクソ野郎なら出来てもおかしくはないわね」

しばらく立っていた女は、やがて意を決したようにきびすを返し、クルマを止めた方向に向いたとき、

ボコボコガリガリドサッという音を聞いた。

「ん?」

女が振り向くと、傷だらけの駆動鎧(パワードスーツ)が瓦礫の中からはい出してきた。

「うはー、あぁひでー目にあったぜぃ……」

駆動鎧(パワードスーツ)から降りてきた男は、そこに女が立っていることにも気を払わず、腰を下ろして

ああ、やれやれ、と言う感じで喋った。

「あなた、ここの生き残りのようね」   女が問いかけると、

「おお、こりゃまた綺麗なおねぇさんだな。やっぱり生きて帰ってきたのは正解だな。人間あきらめちゃいけねぇな。今日はツイてるぜ」

と男が軽口を叩く。

「ふん、つまらないお世辞言っても何も出ないわよ」   と女は冷たくあしらう。

「残念だな、ビールとは言わないが、なんか飲むものがあったら分けてくれると助かるんだがなぁ」

女の態度は全く気にしないそぶりで男は軽口を続ける。

「野菜ジュースならあるわよ」   と女がバックから紙パックを放り投げる。

「おお、有り難いね。すまん。恩に着るぜ。……ダイエットしてるのか? いまでも十分魅力的だけどなぁ?」

男はストローを挿してジュースを飲み干した。

「いや、生き返ったぜ。地獄を抜けて天使にあった、と言うところだな。申し遅れた、オレは黒田明(くろだ あきら)だ。

改めて礼を言うぜ、いや、今度ディナーを奢るよ、どうだ?」

女は「ふ」と小さく笑って言う。



201LX2010/11/11(木) 22:08:24.65uQUt54Y0 (4/15)


「じゃぁ、あたしも1つお願いしちゃおうかな?」    女の口調が少し変わった。

「おう、なんでも言うこと聞くぜ? なんだい?」    黒田も応じる。

「あたしの聞くことに、正直に答えることよ!!」    ブンと女の右手から光線が飛び出し、黒田の頭の直ぐ左を通過して

駆動鎧(パワードスーツ)に命中した。

「ひぇっ!」    黒田はずり落ち、後の駆動鎧(パワードスーツ)を見ると、光線が当たったところには大穴が開いていた。

「わかってくれたかな~? ちゃんと答えてくれないと、あなたもあーなるかもよぉ?」    女が一歩前に出る。

「おいおい、脅かしっこはなしだぜ」    黒田が気を込めて言うと

「脅かしかどうか、もう一発くらわせてあげようか?」    と女は更にもう一歩前に出てきた。

「わわわ、わかった。答えるよ」    黒田が仕方ないという声で承諾した。

「じゃあ、第1問。あなた、何してたのかなぁ?」

「寝てたんだよ」

ブン、と光線が黒田の靴を焼く。

「うぉあちぃ!」飛び上がる黒田。

「今度くだらねぇ事ぬかしたらてめぇのキンタマ丸焼きにしてやるからね!」    女が下品な言葉で黒田を怒鳴りつける。

「げ、原石らしき女の子の能力テストだよ!」    黒田が観念したように話し始める。



202LX2010/11/11(木) 22:11:01.58uQUt54Y0 (5/15)


「置き去り<チャイルドエラー>の子供?」

「ち、違う。東京から連れ出した」

「名前は?」

「さ、さてん、なんとかだ」

ブンと光線が黒田の左手を焼き吹っ飛ばす。

「ぎゃぁぁぁぁぁっ! て、て、手がっ!!」

「キンタマじゃなくて感謝しろ! さっさと答えねぇと次は右手行くぞっ!」   更に女は一歩前に出る。

「と、としことかいった。さてん、としこって女の子だ」

「その女の子に何をしたの?」   顔は普通だが、目は笑っていない。

(本気だ、この女)と黒田は恐怖した。

「じゃ、ジャマーが、髪の毛に偽装してあったから、それを切り落として、頭に刺さってたヤツは物理的に破壊した。

能力を発揮できるように、誘導剤を使った。そ、それで目がさめたら、ドカンだよ! コレが全部だ。知ってることは全部言った!

もう良いだろ?」

「ああ、確かにもういいさ」 

女がきびすを返し背を向けると、黒田は右手で銃を取り出し、女に銃口を向けようとした……


―――――― ブォム ――――――


それより先に女は左手から高エネルギー線らしきものを放射し、一瞬にして黒田の身体は四散した。

「バカが」

女は振り返ることもなく、その場を去った。



203LX2010/11/11(木) 22:13:45.25uQUt54Y0 (6/15)



ぐわーっとベッドが持ち上がった。

「キャッ!」あたしは飛び起きた。時計を見ると朝7時。またベッドが元に戻って行く。

「もしかして強制起こし?」   あたしはまた寝転がってみた。何も起きない。

「なーんだ」   とあたしはまた夢の世界に入ろう……としたところでまたベッドの半分がぐわぁーっと持ち上がった。7時5分。

「はー、起きて飯食えってことかぁ……」   あたしは諦めた。

寝起きのパジャマで食堂へ行くのはちょっと恥ずかしいな……と思ったので、どこかに替えのパジャマか服はないのかなと

探したけれど見つからない。

「えー、どうしよう」

パジャマごときでナースコールするのはなぁ……と一人で悩んでいたら、ドアをノックして入ってきたのは美琴いや違う、麻美さんだった。

「おはようございます。気分は如何ですか?」   と麻美さんがニッコリとほほえみかけてくる。別人だけど、本当にそっくり。

「お、おはようございます。おなか空いたんでご飯食べに行きたいんですが」

「もう食堂は開いてますよ? どうぞ行ってらっしゃい」   と麻美さんが笑って答えてくれる。

「それで、ちょっと汗臭いんで、新しいパジャマか何か……」

「ハイ、コレをどうぞ!」   キャリーワゴンから新しいブルーのパジャマを出してくれた。

「ピンクってないんですか?」   と調子に乗って聞いてみると、

「色で入院しているブロックと階数を分けているので、色をあなたが選択することは出来ません」   と言われてしまった。

へー、それはそれでスゴイことですねー。

「では朝ご飯行ってきまーす! 腹へったよー!」   あたしはペタペタとスリッパの音を立てながら食堂へ向かって突撃した。



204LX2010/11/11(木) 22:16:05.58uQUt54Y0 (7/15)


食堂に行くと、なんと入り口にまた麻美さんがいた……え? 美琴おばさんのはずが……ない。手がやっぱり違うし。

ええっ? ホントに? 美琴おばさんって三つ子だったの?

「なにか? どうかされましたか? とミサカは呆然としているあなたに質問を投げかけてみます」

声も似てるけど、しゃべり方が全然違うわ、このひと。

「あ、あの、あなたは麻美さんでは、ない、ですよね?」

「アサミ? ああ、検体番号10032号のことですね、とミサカはああまた間違われたこんちくちょうと思ったことをおくびにも

出さずにこのミサカは検体番号13577号のミサカ琴江(ことえ)ですと息もつがずに一気にしゃべります」



う、うざい……つまり、御坂琴江(みさか ことえ)さんというんだ、この人は。

「し、失礼しました」   あたしは関わり合いになるのを避けようと、さっさとお詫びを言ってその場を離れようとした。

しかし、そうは問屋が卸さなかった。

「そのパジャマの色からすると、あなたはB棟の3階の患者ですね、とミサカはあなたに確認を求めます」

「そ、そうですが」    あたしのおなかがグウと鳴く。だって、美味しそうなにおいで一杯なんだもの!

「なるほど、そこはミサカ麻美こと検体番号10032号の担当エリアですから、それであなたはこのミサカをミサカ麻美こと10032号

と見間違えたのですねとミサカはあなたに事実の確認を再度行います」

「はいはい」    お願い、あたし、おなか空いてるの。食べたいの。お願い、行かせて!

「む、何やら投げやりな答えの態度にミサカはちょっと不満を表に示そうかと思慮します。ですが、あなたとは初対面ですし、

あなたよりこのミサカ琴江は長い年月を生きてきたのですから年上の度量を示すためにもここは一つおおらかに笑ってあなたと関係

回復を図るべきではないかとミサカは心の中で葛藤を繰り広げます」

「すみません、失礼しますっ!」    あたしはミサカ琴江さんを置いて食堂に突撃した!


……「本当に最近の若い子は礼儀がなっていませんね、とミサカはため息をつきます」



205LX2010/11/11(木) 22:19:56.28uQUt54Y0 (8/15)



「うう、あれっぽっちしか食べさせてもらえないなんて……、不幸だ」

あたしは病室に戻ってベッドに潜り込み、腹三分目ぐらいしか食べられなかった悔しさに泣いていた。



「ダメです、カロリー計算してあるんですから、おかわりなんてとんでもない! 寝てなきゃいけないんですから、

そんなに食べたら太りますよ?」 

くそぅ、みんなに笑われてしまったジャマイカ!

(太ったっていいよーだ、あとで痩せればいいんだから! あー、全然足らないよぅ)あたしは不幸を嘆いていた。

「!」 

思い出した! お母さん! 詩菜大おばさま! 学校! うわ、どうしたらいいんだろう?

と言っても、あたしの持ち物はゼロ。なんにもないのだ。どうしようもない。

「あ、電話あるじゃん!」ベッド脇の電話を早速取ってピピピ……

「お客様がおかけになった電話番号は、現在使われておりません」    はいー? んなバカな!? もう一回。

「お客様が……」    ダメだ。なんで? んな訳がない。あたしのお母さんのケータイの番号。

じゃ、次。パピポ……

「お客様が……」    なんなんだ? この電話壊れてるのか? なんで大おばさまの家に繋がらないの?

結局そのあと、覚えている番号にかけてみたが全て繋がらない。

「なんでなのよー……ぐす」    あたしは泣き出しそうになっていた。



206LX2010/11/11(木) 22:24:47.45uQUt54Y0 (9/15)


するとそのとき、ピーンポーンピーンポーンとチャイムが流れ、

「現在、時刻は午前8時半です。面会時間が始まりました。

面会にお越し下さいました皆様はこれから指定されました場所、もしくは指定されました個室のみ訪問が可能です。

それ以外の場所は入れませんのであらかじめご了承下さいませ」   との案内が放送された。

「面会か……」   とボケッとしていると、いきなりドアが開いて「リコーっ!!」と懐かしい声と共に麻琴が飛び込んできた。

「マコ? ホントにマコなのね!? 久しぶり~!」     あたしはベッドからバッと飛びだし、麻琴と一緒に跳ね回った。

「リコが行方不明になったって大騒ぎだったんだよ!?」   麻琴が半べそかきながら笑って言う。

「でも、本当によかった……リコに会えて……」       麻琴があたしの胸に顔を埋めてグスグス泣いている。

「ごめんねぇ、マコ、心配かけちゃってさ、来てくれてありがとね」   と麻琴の頭をなでてやる。

「ふにゃ~」    ああ、この感触。凄く久しぶりだ、こんなに癒されるの。

「で、アンタどうしてここが?」   とあたしはアホな質問をしてしまった。

「リコ、あんたテレビに映ってたんだよ?」   と麻琴がこれまた驚きの話を始める。

「へ? 何それ?」



207LX2010/11/11(木) 22:29:33.19uQUt54Y0 (10/15)


「じゃーん、そういうだろうと思って持ってきた!」    (……切り替え早いね。変わってないわ)

カバンから筒を取り出した麻琴は、中から薄い膜のようなものを出して広げ、そこにパチンパチンと部品をセットして、

片方をコンセントにつないだ。

「さて、と」   麻琴は独り言をつぶやいてメモリーらしきものをつなげた。

「あ、外部スピーカー忘れた」いきなり膜に映像が映し出された。

「音声は小さく出るけど、モノラルなんで臨場感は出ないんでゴメン」

夜中だ、ヘリがサーチライトにてらされて明るく写っている。爆音が大きくて、なんか喋っているらしいがよく聞こえない。

「これ、この担架に乗ってるの、リコだよ!」    麻琴が教えてくれる。

なるほど、担架がゆっくりとつり上げられている……けれど、顔までは見えない。

「マコ、よくあたしだってわかったわね?」   これであたしだとわかったらアンタ超能力者だよ、って既にそうだったわね。

「えー、これでわかるわけないじゃん? これ、宿題済ませて、テレビつけたらたまたまやってたんだよ。ほら、ママが出てきた!」

なるほど、すすけた女の人と、軍服? 着た女の人が2人でつり上げられてきた。

「でもね、ここ、最初の生中継の時だけなの。後のニュースとかじゃ全部カットされてたわ」

麻琴が不満そうに口をとがらせていう。

「せっかくママのカッコイイところだったのに」

「あら、元気そうね? 利子ちゃん、おはよう! 具合はどう? その調子だったらもうバッチリかな?」

噂をすればなんとやら。話題の中心人物、上条美琴おばさまが入ってきたのだった。



208LX2010/11/11(木) 22:31:44.50uQUt54Y0 (11/15)


「また、そんなの見てる! 利子ちゃんに見せてどうするのよ」

「えー、だって自分がどういう風に救い出されたか、なんて滅多に見れないよ?」

「あ、ありがとうマコ。よくわかったわ」   また親娘でケンカ始められたらたまらないのであたしは話題転換に動いた。

「あのう、おばさん、母と詩菜おばさまに連絡を……」

「ああ、それはあたしが昨日のうちに電話したわ。詩菜お義母さまのほうはちょっと大変だと思うな。利子ちゃんは学校の帰りに

誘拐されたことになってて、警察も動いてたから」

誘拐か……詩菜大おばさま、心配しただろうな…………

「あなたのカバンは途中で放り出されてたらしいわ。携帯電話も見つかってた。まぁあたしも仕事柄、折衝するのは全く問題ないけど、

警察相手はやっかいよね。アンチスキルにふってもいいけど、そうするとまた最初から説明しなきゃならないし。

あ、利子ちゃんは別に心配しなくて良いからね?」

「すみません。で、母はどうでしたか?」

「すっごい驚いてたわよ。ただ、全部結果出た後だったからね、あれであなたの行方がわからない時点で連絡付いてたら

かえって良くなかったかもね。もうすぐ来るんじゃないかな?」



209LX2010/11/11(木) 22:35:16.43uQUt54Y0 (12/15)


「それでなんですけど」   あたしは美琴おばさまに聞いてみた。

「ここの電話で、詩菜大おばさまや母に電話しようとしたんですけど、繋がらなくて……」

「ああ、教えてなかったわね」   と美琴おばさんが苦笑いしてあたしに教えてくれた。

「基本的に外には繋がらないの。外からも繋がらないし」    へ? 電話が?

「あのね、学園都市は外とは科学技術が20年以上差が開いてるのね。だからスパイしようとする連中が沢山いるわけ。

だから電話は基本的には繋がらない。許可を得た番号だけが会話可能なのね。但し、会話は全部筒抜けでしかも録音されていて、

暗号解読ソフトにもかけられるみたいよ。もちろん話せる内容にも制限があるしね」

し、知らなかった……。道理で麻琴からあたしの携帯に電話がないし、あたしがかけるといつもお話中なわけだ。

「じゃあ、行き来もあんまり出来ない……のですか?」

「簡単には出来ないわね。入る場合は、基本的には中の人の招待状がいるし、まぁ昔は大覇星祭の時は比較的緩くてパスポートだけで

入れたときも例外的にはあったけど、今は厳しいわよ。あなたが潜り込んだ春の体験ツアーは対象が子供だから緩かったわけ。

中にいる人間が出るときは許可がいるし、どこにいるかどこに行ったかチェックのためにGPS埋め込まれるし、能力使用は厳禁とか

そりゃ大変なのよ。ちょっとでも違反すると次の外出は難しくなるから、そりゃみんな必死で守るわよ」

「じゃあ、母は例外なんでしょうか?」

少なくとも年に3ないし4回は出入りしているはずだ。



210LX2010/11/11(木) 22:38:10.22uQUt54Y0 (13/15)


「ん~、そこまではあたしもわからないけど」

と美琴おばさまは言う。

「あなたのお母様はここにいたことあるし、それに今は気象学の大家よ。大学で講義持ってたこともあったわよね。

だからじゃないかな。あたしだってレベル5という肩書きがあるから結構横車押したりもできるの。それがオトナの世界ってものよ」

あたしの考えは甘かったようだ。学園都市に一回入ってしまったら、当分出てこれないらしい。夏休みに実家に帰る、なんていうのも

そう簡単ではないみたい。入るにはちょっと覚悟がいるようだ。

あたしは普通に生きて行きたい。でも……あたしは能力者になってしまった。ただの人に戻れるのだろうか?

戻れないとすれば、コントロールできないままの能力者が、東京で暮らして行けるのだろうか? 

万一暴走して、みんなに危害を与えたら? ああ、どうしたらいいのだろうか?

「リコ? 大丈夫? 具合悪い?」 

麻琴が心配そうにあたしのそばに座った。

「ううん、大丈夫よ。で、マコはこっちきてどう? 楽しい?」

あたしは麻琴にこちらの世界の話をせがんだ。

「じゃ、ちょっとあたしは先生に利子ちゃんの状態聞いてくるから、あんた、利子ちゃんとお話しててね? 外へ連れ出すのはダメよ!? 

わかってるわね?」

美琴おばさまはそう言って部屋から出て行った。







211LX2010/11/11(木) 22:40:08.00uQUt54Y0 (14/15)


「じゃぁ、外行ったらダメっていうから行ってみようか?」

と麻琴がいたずらっぽい顔でニヤと笑う。

「バ、バカ言っちゃだめだってば。あたし今朝起きたばっかりのけが人なんだからね。ダメよ」

あたしは思いきり釘を深く刺した。

「ちぇ、リコはマジメだからなー、せっかくこっち来たんだからいろいろ見て行けばいいのに。おいしいケーキ屋さんもあるんだよぅ?」

おいしいケーキで一瞬あたしはグラと来たけれど、アタマのことを考えて踏みとどまった。

「ダメだってば。大体こんなアタマで外出れないってば」 

これで麻琴も諦めるだろう、と思った。

しかし、今日の麻琴はしぶとかった。

「おっけー、じゃカツラ借りてくるわ。病院の近くにあると思うんだ。2~3種類持ってくるから選んでね?」

ちょ、ちょっと麻琴ってば。あ~、行ってしまった……。

ヘンに行動力でてきたなぁ、麻琴。やっぱり学園都市に来ると変わるんだろうか? 

どうしよう、と思ってふう、とため息をついた……


―――――― コンコン ――――――

ノックの音が部屋に響いた。



212LX2010/11/11(木) 23:03:33.46uQUt54Y0 (15/15)

すみません、>>1です。

申し訳ありませんが本日もお先に失礼させて頂きます。
明日朝、また少しですが投稿したいと思います。

今現在、半分を超えたあたりまで来ています。
明日は、今日現在予定はありませんので、一気に進められると思います。

それではお休みなさいませ。


213VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/12(金) 00:14:44.14D2QUMYUo (1/1)

乙です


214VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/12(金) 00:19:04.543A9x6Ywo (1/1)

乙です。
続き待ってます


215LX2010/11/12(金) 06:53:27.62mLATCRk0 (1/10)

皆様おはようございます。>>1です。

2日連続で早落ちしてしまい失礼致しました。

それでは今朝の投稿を始めますのでどうぞ宜しくお願い致します。


216LX2010/11/12(金) 06:54:44.05mLATCRk0 (2/10)


「はい!」 

誰? お母さんかな?

静かだ。もう一度返事する。

「どなた?」

やっぱり静か。いたずらだろうか?

ペタペタと歩いて行き、ドアの……下に紙が差し込まれていた。

「?」

あたしはそれを抜き取り、開いてみた。


「佐天利子さま

あなたのお母様、佐天涙子さまをお預かり致しました。お母様を助けたければ、直ちに当病院玄関へお一人でお越し下さい。

上条美琴さん他、外部の人間に絶対に連絡しないよう警告致します。我々の言うとおりにして頂ければ、あなたにも、あなたの

お母様にも危害を加えるようなことは絶対にありません。それでは」


あたまが真っ白になる、とよく言うが、まさにその通りだった。

刑事ドラマか?と思うような、絵に描いた通りの展開だった。

反射的にあたしは走り出した。階段を駆け下りて走る。

玄関に着いた。


217LX2010/11/12(金) 06:56:39.55mLATCRk0 (3/10)

「おねーちゃん?」 

子供が寄ってきた。

「これ、おねーちゃんにって」

紙を子供が手渡してきた。

「あのおじちゃんが、あれ? いないや」

「ありがとう」

声がうわずっている、あたし。紙を開いてみる。

「玄関を出て、右手の駐車場へ この紙をもってこい」  とある。

あたしは何も考えずに玄関を出てペタペタと駐車場へ走る。

バイクが走って来た。

「これ、たのまれものだけど?」

とその人があたしに紙を渡して去って行く。

開くとこうあった。

「駐車場を抜けてもう一度右に曲がれ」 

あたしはまた走った。ちょっと息が切れてきた。スリッパでは走りにくい。あたしはスリッパを脱ぎ捨て裸足で駆けた。

「陸上部員をなめるなぁ!」

しかし、右に曲がったところで

「動くな!」

作業服姿の男の人が立ちはだかった。



218LX2010/11/12(金) 06:59:06.91mLATCRk0 (4/10)


業務用出入り口からバンが出て行った。

それを遠くから見守っていた女が一人。 

「ふん」

女はスカウターを取りだした。

「漣? あたしだ。仕事だから、直ぐに第7学区、冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院、外来駐車場まで飛んでこい!」

女はそれだけ言うと、バッグから何やらを取り出し、チェックを始めた。

「よし、ちゃんと追えてるわね」

再びバッグにしまいこみ、女は駐車場へと歩いて行く。



駐車場へ戻ると、そこには高校生が立っていた。

「授業中に呼び出しってのは、ちょっと困る場合があるんですが」   と彼、漣孝太郎(さざなみ こうたろう)が言う。

「うっさいわね、どうせ寝てたんでしょ?」   女がセダンのドアを開けながら言い返す。

「そう、だから参ったんですよ。学校に来て寝てると思ったら早退とは何事かって、えらく怒られました」

「ふん、あんたの成績ならどうって事ないでしょ。それより、今日の内容。ターゲットはこの子」

ほれ、と女が漣に顔写真を渡す。

「え? こんなカワイイ子を?」   孝太郎は驚く。

「勘違いしないようにね。今日は守る方よ。たった今、その子は誘拐されたわ」

「はぁぁぁぁぁ? 誘拐されたぁ???? わかってたんならなんで、どうしてそこで止めないんだよ?」

「あんたバカァ? ここでふんづかまえたら黒幕がわからないでしょうが? ホント、バッカじゃないの?」

女が漣をさんざんに口撃する。

「ハイハイ、どうせボクはばかですよーだ」   孝太郎は口をとがらせて拗ねる。

「かわいくないわね、ほら、早く乗る!」

漣を乗せ、女の車が病院を出て行く……。



219LX2010/11/12(金) 07:04:41.77mLATCRk0 (5/10)


「あれ? リコ? どこ?」    麻琴がカツラを持って戻ってきたが、部屋には誰もいない。

「トイレかな?」

3階のトイレを探すが、いない。4階にも、2階にも、1階にも。

「ちょっと、また行方不明なんて……? やめてよ、もう人騒がせなのは……」   といいつつ、麻琴の脳裏に不安が広がる。

「まさかね、まさか、ホントだったりして……」   麻琴は胸ポケットから腕章を取り出し、受付へ走る。



「すみません、風紀委員<ジャッジメント>です。わたくし114支部の上条麻琴と申します。調査にご協力をお願い致します。」

「は、はい」   受付の女性が目を丸くする。

「保安係の方にお話をお伺いしたいのですけれど」




「あいつら……」   一方、入れ違いで部屋に戻ってきた上条美琴は怒りで僅かながら帯電していた。

まさかね、と思っていたが、そのまさかで二人とももぬけの殻、だからだ。

「脱走した……んだろうな。どうせ麻琴の差し金よね……」

見つけたらただじゃすまさんという状態のところに麻琴が飛び込んできた。

「ママ?」

「ママじゃないでしょっ!」

ぐわぁっ、と怒りの表情で迫った美琴に麻琴が応戦する。

「リコが拉致されたの!」

「そんな見え透いたウソが「ホントなんだってば! あたし保安係で監視カメラ見てきたんだから!」なんですって!?」



220LX2010/11/12(金) 07:08:05.99mLATCRk0 (6/10)


麻琴が必死の形相で美琴に説明する。

「玄関で子供からなんか受け取って、駐車場でバイクの男からやっぱりなんか受け取って、スリッパ脱ぎ捨てて走って

行ったところまで監視カメラに映ってるの。でも肝心なところがないんだけど、その後、業務用出入り口からバンが1台

出て行っているの。たぶんそれに乗っているんだわ」

「出て行ったクルマのナンバーは控えてあるの?」

「わかってる。今保安係から照会してもらってる」

「まぁたぶん偽造だと思うけど。よく調べたわね。」

「66番支所に行って監視カメラデータを見せてもらってきます!」

「あ、じゃあたしも行こうか?」

すると麻琴はニヤっと笑い、

「一般の方はここまでですよ? あとはあたしたち風紀委員<ジャッジメント>におまかせを」   と言ってのけた。

「なっ?」    一瞬美琴は衝撃を受けた。

(ま、まるでいつかの黒子のような)   昔。そう、今の麻琴と同じくらいの頃。あの日の自分が麻琴と重なって見えた。

(ふふ、麻琴が、あの麻琴が言うようになったじゃないの)

「わ、わかったわよ。じゃ、あたしはあたしのやり方でやってやるから。あんたとどっちが早いか競争だわね!」

「負けないわよ、上条美琴委員?」

「間違えちゃダメよ。目的は佐天利子さんを無事助け出すこと、なんだからね?」

「もちろんよ!!」   

麻琴が飛び出して行く。



221LX2010/11/12(金) 07:12:06.34mLATCRk0 (7/10)


(利子ちゃんもそうだけど、未だにここに佐天さんが来ないのはおかしい。まさか??)

先ほどの会話でふと気が付いた美琴は佐天の携帯に連絡を入れる。しかし、強制割り込みを選択しても繋がらない。

「いよいよ絶対おかしいわね」   と今度は花園飾利に連絡を入れる。

「はーい、花園ですぅ」      いつもの甘ったるい声が応答する。

「美琴ですけど、佐天さんが現れないんだけど入国の時刻を調べてくれる?」

「上条さ~ん、まだ前回のパフェ、ごちそうになってないんですけど?」

ほわほわ~んという感じの花園の声に、美琴は(この非常時にあんたはパフェかいっ!)と心の中で突っ込んだ後

「あー、もうジャンボでもスペシャルでもアルティマでも好きなの頼んで良いわよ!」   と返した。

「ひゃほーい、やりましたねっ! えっと、涙子さんのほうですよね? 佐天さんは今朝6時5分に国際空港入管を通過してますよ?」

ほとんど即答だった。

「ちょっと? もしかしてあなた……?」   美琴は疑問をぶつけてみた。

「もしかして、あなた既にチェックしてるの?」

「あはは、上条さんから昔あたし頼まれてたじゃないですか? 佐天さんのお嬢さんが学園都市に入ってきたらチェックしてって。

覚えてないんですか?」 

しっかり彼女は覚えていたのだ。

(まぁ、正直いうと、春の入国事件まで忘れてましたけど、そんなの言う必要ないし、えへへ)

花園飾利はガッツポーズを決めて言う。



222LX2010/11/12(金) 07:15:03.44mLATCRk0 (8/10)


「それにあたしと涙子とは大大大の大親友ですからね、だから、彼女の方はいつもバッチリですよ。あれ? 涙子は、そういえば

一緒じゃないんですか?」

「だからあなたに聞いてるのよ!早く見て」   美琴はイライラしながら花園の答えを待つ。

「おまかせ……アレ? 利子ちゃんのデータ、昨日の夜から全然無いわ?」

美琴はため息をついて花園に言う。

「あのね、昨日利子ちゃんのAIMジャマーは全部破壊されちゃったのよ。だからもう二度とそのデータは入ってこないわ」

「そ、そんなぁ~」 

がっくりとした声が聞こえてくる。その後直ぐに、

「でました。第十一学区、エリア335B、3-56ですね。これってどこだろ?  ……インターナショナル(株)第6倉庫ですね。

そこに涙子さんはいます……って、まさか誘拐ですか? 本当に? そんな!」

「ありがとう! ちなみに利子ちゃんの動きはつかめない? 今朝、前と同じ病院から利子ちゃんも拉致されたみたいなのよ!」

「ええええええええ? なんなんですか、それは? クルマでですか?」

「そうらしいわ。麻琴が追っかけてる。ナンバーは学園XXーあ XXXXだって」

「はい、あー、あれ? 他からもこのナンバー、検索にかかってますねぇー。………ほい、出た。え? データ上はこのナンバーは

一昨年に事故で廃車になってますよ?」

予想通りだ、と美琴は思う。そう簡単に誘拐犯は足がつくようなことはしないはずだ。

「でも監視カメラに映ってますね」

(なによ、それ!)美琴はずっこけた。



223LX2010/11/12(金) 07:21:18.43mLATCRk0 (9/10)


「今朝の9時11分にそのナンバーのクルマは第7学区B料金所から高速に入っています。えーと、まだ降りたというデータはないです。

追跡しておきましょうか?」

「ありがとう、頼むわ! で、あたしはこの後、あなたの教えてくれた第十一学区の方へ黒子と行くわ。

ドンパチやるかもしれないから、後の情報は音声は止めてメールにして。スカウターで見るから!」

「わかりました。白井さんが行くのであれば、風紀委員<ジャッジメント>への連絡は良いですね? 気をつけて下さい!」

「まかせといて。終わったらみんなで飲みに行こう!」 

美琴は通話を切った。



「………あたし、飲めないしなぁ、白井さんがおとなしかったら喜んで行くんだけど………どうしよう?」

悩む花園飾利であった。

  


(佐天涙子side)

どうして他人を根拠もなく信用してしまったのだろうか? 

「佐天さんですか?」

泡を食って出口を飛び出してきたわたしに男性が声をかけてきた。普段なら絶対に信用しないのに。

どうしてあのとき確認の電話をしなかったのだろう?

「田中脳神経外科病院のものです。佐天利子さんは今、我々の病院に搬送されています。お待ちしてました」

出迎えなんかいるわけがないのに。

動転していたわたしは「迎えの車」に乗ってしまった。



いま、わたしは倉庫の隅に転がされている。

15年経って、また同じ事が繰り返されてしまった。いや違う。こんどはわたし一人ではない。このままだと娘が巻き込まれてしまう。

わたしの大切な、わたしの利子が。神様、お願いです。助けて下さい!



224LX2010/11/12(金) 07:28:49.92mLATCRk0 (10/10)

>>1です。

お読み頂いている皆様、どうも有り難うございます。

これより出勤準備に入りますので朝の投稿はここで止めたいと思います。
今日の夜の投稿はそう遅くならない時間に始められると思います。
それでは失礼致します。




225VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/12(金) 08:06:41.87iiPCAc.o (1/2)

>>224
乙です。


226VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/12(金) 12:02:34.032tFABUgo (1/1)

乙です


227VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/12(金) 17:32:56.22jjUZokoo (1/1)

最後のオチが読めたけど、まぁ面白いので気にならん
しえーん


228LX2010/11/12(金) 18:47:49.22hl/uEKA0 (1/47)

お読み頂いていらっしゃる方、こんばんは。>>1です。

それでは投稿を始めたいと思います。
宜しくお願い致します。

>>227さん
ご支援有り難うございます。
お手柔らかにお願い致します<(_ _)>


229LX2010/11/12(金) 18:50:08.85hl/uEKA0 (2/47)


(佐天利子side)

「着いた」 運転していた?男が言う。

「動くな」 左隣の男が言う。目隠しが外された。 暗いところ。倉庫の中だろうか。

ドアを開けて左の男が降りてあたしに向かって言う。「降りろ」

ひんやりとした冷たいコンクリートの感触があたしの頭を冴えさせる。

裸足のあたしを見て、先に降りていた男が運転席の男に命令する。

「おい、サンダルがクルマにあっただろう? それ履かせろ。足にけがでもされて病気にでもなったらえらいことになる」

「へいへい、女には甘いね」 運転席の男が嫌みを言ったが、それでも後からサンダルを持ってきた。

「履け。そして前の男に従って進め」 後からあたしの右に座っていた男が命令する。

少し歩くと扉があって、底を開けて入ると、奥に明かりがともっていた。

「うまくいったか?」

「まぁな」 あたしの前の男が答える。

「さっさと決めてずらかろうぜ。時間がかかるとろくなことはねぇ。おい、連れてこい」

…………奥から連れてこられたのは、母だった。



230LX2010/11/12(金) 18:52:07.53hl/uEKA0 (3/47)


「お母さん!」

「利子! 無事だったのね!」

「お母さん、どうして?」

「やかましい! 黙れ!!」 

男が怒鳴り、あたしたちは黙った。

「感激のご対面を邪魔してすまなかったな。だが時間がないんでな、許せ」

真ん中の男が頭を下げた。

「あんたらに恨みも何もない。ただ、俺たちに仕事を頼んだヤツが金を払わずに消えた。ま、そこのお嬢ちゃんが消したわけだがな」

あたしには話が見えなかった。あたしが消した? 何を?

「というわけで、俺たちも生きて行かねばならんので、仕方なくお嬢ちゃんをメシの種にすることにした。

まぁ売り飛ばした、と言うわけだ。お母さんとやらは行きがけの駄賃だ。あんたにはすまんな」

母はじっと男を見ている。

「あんたらはこれから、そこにあるコンテナに入ってもらう。そのままじゃ無理なので、一時的に仮死状態になってもらう。

そして貨物としてこの学園都市を出て、東京港まで出て、そこで一旦引き取られて開封される事になっている。まぁ1日ちょっと

の旅だ。たいしたことじゃない。じゃ、元気でな」

男が話を切った。

「さっさとやれ」左端の男が命令した。




231LX2010/11/12(金) 18:55:43.33hl/uEKA0 (4/47)


(漣side)

「位置はここですね。うーん、発火能力者が正面1人 レベル3、中に2人これもレベル3。風使いが同じく正面1人、レベル2。

中に1人、レベル2ですね。あと氷結能力者レベル3が2人中にいます。あとはざっと20人くらいが散開してますがレベル1や

レベルゼロですね」

AIMストーカーを見ていた高校生、漣孝太郎が報告する。

「漣、行けるわね?」

「いえ、キャパシティダウンが動作してます。この部分」

「情けないわね、あんたそれでも大能力者かい?」

「お言葉ですが、レベル4でもレベル5でもキャパシティダウンに対抗するのは大変だと思いますけど?」

「しょうがないわね。じゃぁあたしがソレぶっ壊すしかないじゃない?」

女が指を動かし始める。

「実は最初から暴れ回りたいんじゃ<痛いです!スイマセン!ごめんなさい!>」

女が漣に連続チョップをくらわした。

「さぁて、準備運動もしたし、やるかい」

「ちょ、人のアタマで準備運動しないで下さい!……でちょっと待って下さい。位置を確認しないと、火線上に被害者がいる位置での

攻撃は危険です。一発目でしくじると後が大変ですし」

「孝太郎ちゃん? キミは誰に向かって発言してるのかにゃーん?」

女が甘ったるい声で聞くが、漣はこういうときは非常に危険な時だと言うことを経験で知っていた。

そう、目が笑っていないのだ。実際、空気がイオン臭くなって来ている。

「は、はいっ、レベル5、風紀委員<ジャッジメント>委員会特殊任務委員長、麦野沈利さんですっ!」

「宜しい。アドバイスありがと。気をつけるわ。位置を指定して」

「は、はい。ではその位置へご案内します」

漣は麦野の手を取りテレポートした。



232LX2010/11/12(金) 18:57:43.92hl/uEKA0 (5/47)


(上条美琴side)

一方その頃。

「黒子、準備はいい?」

「OKですの」

倉庫建屋の前に止まっているトレーラーの陰に上条美琴と白井黒子、完全武装のミサカ琴江(13577号)がいた。

「念のため、もう一度確認しますわ。……あ、お姉様、ちょっと待って下さい!」

白井黒子がAIMストーカーを見て上条美琴と琴子にストップをかけた。

「レベル5とレベル4がいますの!!」

「はぁぁぁぁ? レベル4と5? 誰よそれ?」

「レベル4はテレポーターですわ! レベル4のテレポーターって、まさか……?」

「レベル5って、誰よ?」

二人が顔を見合わせたその瞬間、


―――――― バァン ――――――

爆発が起こった。

「何?」

「AIMストーカーに強力な反応がありました。能力者による攻撃と判断します」

「キャパシティダウンが動作を止めましたわ!」

「黒子!チャンスよ」

「行きますわ!」黒子がテレポートした。



233LX2010/11/12(金) 19:02:21.33hl/uEKA0 (6/47)


(倉庫内)

佐天涙子と利子親娘は手を縛られてコンクリに転がされていた。

「じゃ、これでちょっと眠ってくれや。気が付いたときにはもう東京だ。それじゃ、お別れだ、あばよ」

と男が麻酔をかがせようとしたとき、

       ―――――― バァン ――――――

爆発が起こった。

「敵か!?」 

男たちが爆発音がした方向を向き、佐天たちから注意が離れた。

その瞬間、男が飛来した。

そしてその直後、女が飛来した。

ぶつかりそうになった二人は顔を見合わせて叫んだ。

「母さん!?」

「孝太郎!? なんであなたが?」

それでもさすがに経験の差か、白井黒子は脇にいた男を蹴り上げ、その隙に佐天涙子をひっつかみテレポートして去った。

「敵だ! 同士討ちに気をつけろ! 明かりをつけろ!」

しかし、漣孝太郎はイレギュラーな事態に動転して演算に失敗、佐天利子と共にテレポート出来なかった。

「ごめん、こっちだ!」漣は佐天(利)を連れて奥へ逃げる。

「てめえら、あいつらを逃がすんじゃねぇぞ!!」白井黒子に蹴られた男が大声で怒鳴った。

漣たちを男たちが追いかける。漣も戦闘訓練は受けているものの、暗部の男たちとはレベルが違う。

あっというまに二人は追いつめられてゆく。



「爆発はなんだった?」   残っている、真ん中にいた男はあわてずに聞く。

「キャパシティダウン装置をやられました」   報告が届く。

「ふむ。では我々が不利だ。あのお嬢ちゃんを確保して逃げるのが正解だな、野郎ども、失敗だ!! 逃げるぞ」



234LX2010/11/12(金) 19:04:44.11hl/uEKA0 (7/47)


三十六計逃げるにしかず、一斉に逃げ支度にかかろうとしたとき、


―――――― シュバババッ ――――――

壁を突き抜けて青白い電子線が走り、ガラガラと壁が崩壊した。

埃が舞う薄暗い中を、青白い光に包まれたものがやってくる。

「そうはいかないのよね、女をメシの種にするなんざぁ、クソどものなかでも最高のクソ野郎どもじゃない?そんなクソどもは」

―――――― バシュッ ――――――

「ギャッ」「ぐぷ」「ぎゃぁ」

レベル3を含む数人の男が電子線に捉えられ、四散した。

それを見たものはあまりの残酷さに茫然と立ちすくむ。

「クソ溜めのなかでのたうち回って死ね! このクソ野郎ォォォォォ!」

麦野が両手をふりまわし、青白い、死を呼ぶ電子線が倉庫を縦横無尽になぎ払う。

かつて学園都市暗部「アイテム」のリーダーだった頃を彷彿とさせる、麦野沈利の容赦ない攻撃が始まった。

電子線上に捉えられたものは一瞬にして吹っ飛び、廻りに血しぶきをふりまく。

漣たちに向けて銃を構えていた男は戦意喪失して失禁して震えていたところを電子線の乱れ打ちにあって吹っ飛んだ。

「オラオラオラ、愉快にケツ振って逃げてんじゃねーよ、ギャハハハハハ、てめえらクソ虫なんざ生きてる価値もねぇんだよ!」

麦野のエキサイトした声、吹き飛ぶ人間の悲鳴が倉庫に響く。



235LX2010/11/12(金) 19:08:00.14hl/uEKA0 (8/47)


「きみ、見ちゃダメだ。目をつぶってて!」

漣は佐天(利)に覆い被さるようにして物陰に潜む。

「怖い、お母さん助けて!」

佐天(利)は震えながら母を呼ぶ。

ふいにブンと電子線が頭の上を通り過ぎ、一瞬明るくなったが直後に「ギャーッ」というものすごい人間の断末魔が近くで聞こえ、

ドサリとものが落ちる音、ガラガラドシャーンといろいろなものが崩れる音があたりを満たす。

埃が舞い、そして血の臭いもあたりを漂う。

「ひえぇぇぇぇぇ、麦野さん、やりすぎですーっ、僕らまで死んじゃいますーっ!」

アタマの上を飛び交う電子線がいつ自分たちに突き刺さるか、漣は生きた心地がしなかった。



―――――― バシュッ ズドォォォォォン ――――――


その瞬間、一発の高エネルギー弾が倉庫を貫き爆発した。

「ちょっと、いい加減にしなさい!」 

上条美琴の声が響く。

麦野の電子線が消える。

「ちっ、超電磁砲<レールガン>のお出ましか」 

麦野は美琴の方を向く。

「久しぶりね、元学園都市第三位、超電磁砲<レールガン>」

「あんたもね。生きてたのね、元第四位、原子崩し<メルトダウナー>」

二人のレベル5が向かい合った。





236LX2010/11/12(金) 19:15:19.60hl/uEKA0 (9/47)


(少し前、倉庫前での美琴side)

白井黒子が佐天涙子を連れてテレポートして帰ってきた。

「佐天さん! やっぱり! でもよかった!……って、アンタ、利子ちゃんはどうしたのよ!?」

美琴が白井を問いつめるが、気が抜けたのか、黒子はわなわなと震えるばかり。

「ちょっと、黒子? 黒子ってば?」

「む、む」

「はい?」

「息子が、あたしの息子が、そこに孝太郎がおりましたのぉぉぉ」

と黒子はへなへなと崩れてしまった。

「え―――っ? 特殊任務委員会にいる(あの子)??」

今度は美琴が驚いた。

そう、漣孝太郎は白井黒子の息子であった。

<解説>

お嬢様であった白井黒子は、その家庭の事情により弱冠20歳で漣健介と結婚せざるを得なかった。

政略結婚ではあったが、当初二人は仲むつまじく、美琴ですらあてられるほどであり、目出度く男の子が生まれた。

これが長男孝太郎である。

しかし、孝太郎が2歳になった頃から夫の健介とはすれ違いが多くなり、やがて破綻、別居生活をせざるを得なくなった。

6歳になると孝太郎は学校に上がり、学園都市の取り決め上、寮生活に入らざるを得なくなった。

可愛い盛りに子供を手放さねばならなかった黒子の酒量が増えたのはこの頃から(美琴:談)

孝太郎は母の能力を受け継ぎ、テレポーターとして当初からレベル2の評価を受け、訓練の結果、現在母と同じレベル4に

到達している。

また、母同様、正義感を持った少年として育ち、現在風紀委員<ジャッジメント>として活躍中である。

<解説終>


237LX2010/11/12(金) 19:20:00.92hl/uEKA0 (10/47)


「そうだ、佐天さん大丈夫?」

美琴は砂鉄剣を作り、佐天涙子を縛っていた縄紐をバラバラに切り落とし、猿ぐつわを外した。

「ぷふぁー、み、美琴さん、有り難うございましたぁ!」 

佐天が生き返った~という感じで声を出す。

「大丈夫? けがはない?」

「だ、大丈夫です。それより利子は?」

まわりを見て、娘を捜す佐天の姿が痛々しい。

そこにズドーンという爆発音が響いた。

「ひっ!」

「佐天さん、あなた、危険だからここにいて。黒子、しっかりして! 佐天さんを守ってよ!! わかったわね!

琴子、行くわよ! あなたはあたしの背中を守って!」

美琴が先に立つ。

「このミサカにお任せを!」

電子ゴーグルをかけ、サブマシンガンを持ったミサカ琴江(13577号)が左右を警戒しながら美琴の後を追う。



(黒子・佐天涙子side)

すっかり黒子は意気消沈してしまっている。佐天涙子にしても、ここまで落ち込んでいる白井を見るのは初めてだった。

「白井さんのところも苦労が絶えないですね……」

と佐天が声をかける。

「うぅ、あたしだって、あたしだって、あの子と笑いあいたかったですの! あたしの息子なのに! あの子、あたしを恨んでますの。

自分を捨てた母親なんか、と言って。あたしがどんな気持ちでいたかちっとも知らないくせに!」

白井が佐天の胸に飛び込んできて嗚咽する。


238LX2010/11/12(金) 19:23:40.88hl/uEKA0 (11/47)

>>1です。

今投稿した>>237に間違いがありました。

X  琴子、行くわよ! あなたはあたしの背中を守って!」

○  琴江、行くわよ! あなたはあたしの背中を守って!」

大変失礼致しました。



239LX2010/11/12(金) 19:28:13.83hl/uEKA0 (12/47)


「抱きしめてあげればいいんじゃないですか?」   と優しく佐天が言う。

「へ?」   白井が佐天を見上げる。

佐天が話し続ける。

「まぁ、高校生の男の子だと恥ずかしいから素直に母親と話せない、ってところかもしれませんけれど。

もう少し大きくなればまた普通に母親と接することが出来るようになりますしね。あたしの弟もそうだったみたいですし」

「そ、そうですわね、親子ですものね」   白井も少し落ち着いてきたようだ。

「利子をどうしたらいいんでしょう?……」   今度は佐天(涙)が白井に聞く。

「今ですらこう、あの子を巡ってこんな争いが起きるのであれば、いっそあたしと同じように能力を捨てさせた方が……」

「佐天さん、それは親のエゴですわよ?」   と黒子がはっきりという。立ち直ったようだ。

「親は、子供の未来を妨げるようなことをすべきではありませんわ。するならむしろ地ならしをすべきですわ。

あの子たちには未来がありますもの。あの子たちが曲がった方向へ走るのは直さなければなりませんし、ルールを教えるのも私たちの責任

ですけれど。でも、利子さんの未来は、彼女が自分で切り開くべきものですわ」

佐天涙子は白井黒子の考えを黙って聞いていた。

また、ボーンという爆発音が上がる。

(利子、とにかく無事でいて) 

佐天涙子は爆発音や銃撃音が絶えない倉庫の方を見て娘を案じた。

遠くの方から警報が聞こえてくる。アンチスキルがやってきたようだ。



240LX2010/11/12(金) 19:30:57.56hl/uEKA0 (13/47)


(倉庫内)

にらみあうレベル5。上条美琴が先に口火を切る。

「やりすぎよ、麦野さん」

「大きなお世話だ、超電磁砲<レールガン>。こいつらは暗部だ。暗部の戦いがどういうものかはあたしがよく知っている。

中途半端な情けは結局災いとして降りかかるのよ。一旦戦い始めたら殲滅あるのみよ。お互いにね。さ、どいて」

再び麦野に薄く青い輝きがともる。

「本末転倒でしょ? あんた何の為にここに来たわけ? あたしは拉致されたあの子を救いに来たのよ。あんたもそうなんじゃないの? 

でさ、あんたのおかげで、あの子がこんな残酷な場面見ちゃってたらどうするのよ? 一生トラウマものよ? 

あんたの昔の話、アレは一体なんだったのよ?」

「う」 

麦野が言葉に詰まる。一瞬にして青い輝きは消えた。

「わかった? とにかく、孝太郎クンと利子ちゃん探さないと」

美琴が言う。

「なんであんたが孝太郎のことを知ってるのよ?」

麦野が苦い顔で吐き捨てる。

「母親が鉢合わせしたのよ。ここで。親が子供を忘れると思う?」

沈黙が訪れた。

そして麦野がスカウターをオンにして喋る。

「あたしだ、漣! どこにいる? ターゲットはどうした? 無事か?」



241LX2010/11/12(金) 19:34:10.63hl/uEKA0 (14/47)


奥のぐしゃぐしゃになっているところから、

「は、はい・・・ここです、二人とも無事です。僕らまで殺さないで下さいよ~」    と直接返事が返って来た。

「情けない声出してるんじゃないわよ、あんた男でしょうが」     スカウターを切って、麦野が声のした方向へ歩いて行く。

「あんたねぇ、男だっていっても彼はまだ16歳ぐらいでしょ? 自分と同じレベルで考えたらダメでしょうが」 美琴が麦野にダメ出しする。

「あー、わかったわよ。ホントにうるさいな。あんた立派な小姑になれるよ」      麦野がせめてもの返しを放つ。

「なっ」     美琴は意表をつかれて言葉を返せない。



二人は孝太郎と佐天(利)がいるところに来た……

「あちゃー」

「これはちょっとやりすぎたわ……大丈夫?」

佐天利子をかばう形で漣が覆い被さっているが、その上にはがれきや鉄骨が倒れかかっている。

運良く空間が出来たので二人は押しつぶされずに済んでいた。

「あなた、よく利子ちゃんを守ったわね。さずが風紀委員<ジャッジメント>ね」

「なんならもう少し、そのままにしといてやろうか? んんん?」     麦野がニヤニヤしながら聞く。

「苦しいです、美琴おばちゃん、早くここから出して」     と下にいる利子の小さい声が聞こえる。

「そ、そうですよ、麦野さん、こんな時に不謹慎です!」    漣が抗議する。

「はいはい、あたしがこれ、どかすわ。ちょっと待っててね」

美琴は電磁力を使って、鉄骨やら鉄筋入りの壁やらを排除して行く。



242LX2010/11/12(金) 19:37:59.83hl/uEKA0 (15/47)




「ひゃぁー、ようやく出たぁ……いてててて」    漣孝太郎が思いきり伸びをする。

ふらふらしながら佐天利子も立ち上がり、美琴を見て、

「美琴おばちゃん! 助けに来てくれたんだね、ありがとう!」   と美琴に抱きつく。

漣は利子の顔を見て「あれ?」と思い麦野を見た。

麦野も利子の姿を見ていたが、漣が自分を見ていることに気が付き、あわててそっぽを向いた。

「あなた、裸足ね?、じゃあたしおぶってあげる。ほらしっかりつかまって」

美琴はしっかりと利子をおぶった。

「利子ちゃん、大丈夫? ちょっとこの先酷いところだから絶対目開けちゃダメよ。いいわね? 

あたしが良いというまで目をつぶってるのよ、わかった?」

「は、はい」   利子が小さい声で返事をする。

「お母さんは無事ですか?」   と利子が聞く。



一瞬、麦野が小さく反応したのを美琴は見逃さなかった。

「ふ」   ほんの僅か、見えないくらいに微笑む美琴。



「大丈夫よ、白井のおばちゃんが、テレポートして外で手当てしてくれてるから」



「白井」の名前を聞いて、一瞬漣の顔が動いたが、直ぐに何もなかったかのように元の顔に戻った。



243LX2010/11/12(金) 19:42:23.54hl/uEKA0 (16/47)



上条美琴が佐天利子をおぶって歩いて行く。


「ち、甘っちょろいヤツ」

麦野はふん、という顔で立っていたが、不意に斜め後ろに向かって

     ―――――― ブン ――――――

電子線を飛ばした。


「ガッ」     生き残っていた男が電子線でまっぷたつになって崩れ落ちる。

その姿を見届けた麦野はまた向き直って、だいぶ前を歩く美琴と利子を見てひとりごちた。

「あいつのアタマが吹っ飛ばされるのを待ってても良かったけど、そんなの見せるわけにいかないものね」



しばらく先を行く二人を見ていた麦野が振り返った。

「漣、行くよ」     優しい声だった。

「は、はい」     ビクっとしながら孝太郎が返事をする。

「まだまだ修行が必要ね。戦場でテレポーターが演算を失ったら死ぬだけよ。よくわかったわよね?」

「そうですね。今回は運が良かったです」

「あら、素直ね…………でも、あなた、良くあの中でターゲットを守りきったわね。それは誉めてあげる」

麦野と漣孝太郎は戦場を後にした。



244LX2010/11/12(金) 19:45:17.60hl/uEKA0 (17/47)



二人が倉庫を出ると、いきなり飛んできたものがある。

「孝太郎!」      

白井黒子がテレポートしてきたのだった。

「母さん?」      

面食らったように漣がつぶやく。

「あなた、無事だったのですわね。良かったわ! 本当によかった」    

白井黒子が孝太郎に抱きつく。

「もう、あなたの方があたしより背が高いのね」     

しみじみと黒子が言う。

「何すんだよ、やめてくれよ、頼むよ、みんなの前で恥ずかしいだろぉ!」    

孝太郎が母・黒子から逃げようとする。

「親が息子を心配して、何が恥ずかしいことがありますの!」 

逃がすものかとガシっと黒子は息子・漣孝太郎を捕まえたまま息子の顔を見上げる。



(へぇー、黒子もやっぱり母親なんだ……)

(あの黒子さんが母親してる……、でも良かったなぁ……初春に見せてやりたいな、なんて言うだろ?)

(あの変態百合女がここまで変わるものでしょうか、子供を持つと女は変わる・母は強しという言葉はこのようなことをいうのでしょうか? 

でもイイハナシダナー、とミサカは衝撃のシーンをネットワークに流し広く意見を求めます)




……ひとり、麦野はそっぽを向いて、いや利子を横目で見ながら立っていた……




245LX2010/11/12(金) 19:50:06.52hl/uEKA0 (18/47)


(佐天利子side / 白井親子が感動の対面をする少し前 )

「としこ!!」    母の声が聞こえた。

「もう目を開けて良いわよ」   と美琴おばさまが明るい声で教えてくれた。あたしたちは倉庫を出ていた。

あたしは美琴おばさまの背から降りた。

「利子、よかったわ!」   母が走って来た。

「お母さん!!」   あたしは母さんをしっかりと抱きしめた。

「ごめんね、あたしがバカだったからあんたに迷惑かけちゃって、これじゃあんたを叱れないね」   と母が軽く言う。

「ううん、もういいの。でもちょっといろんなことありすぎ。あたし、怖いよ、お母さん」   あたしは母に正直に言った。

母の顔が曇る。

「なんで、あたしと母さんはこんな目に遭うの? あたし、ちょっと不思議なの」


ちょうどその時、あたしをかばってくれた風紀委員<ジャッジメント>の漣さんと、女の人が出てきた。


―――――― あれ? あのひと、誰だっけ? 知ってるような………? ――――――
 


246LX2010/11/12(金) 19:51:47.85hl/uEKA0 (19/47)


瞬時にあたしは思った。思わず母の顔を見て、視線があった。母はニッコリ笑ったが、どこかヘンだったような気がした。

白井さんがテレポートして、漣さんのところへ飛んで行き、二人の騒ぎが始まった。

あの二人が親子だとは思わなかったな。

白井さんの顔が嬉しそうに輝いている。母に聞いてみたら、漣さんは学校に入って以来、ずっと寄宿舎や寮住まいで殆ど

白井さんとは会っていなかったらしい。それならわかる。あたしだって同じ。母さんが出張から帰って来る日をいつもいつも

待っていたもの……。


「リコ~」      あ、あの声は麻琴だ。

「マコ~」      あたしは手を振った。



麻琴の方へ向かって、走り出した瞬間、


腕と足、背中にプスプスと何かが当たった感じがして、


それがグリグリとあたしの身体にねじ込まれてきた。



熱い!! 痛い!! 



「ギャッ!!」とあたしは声をあげて、


宙を舞って、また、

あたしは、

気が

遠く…………なった……



247LX2010/11/12(金) 19:55:38.40hl/uEKA0 (20/47)


(倉庫前)

上条麻琴が警邏車から飛び降り、こっちへ走ってくる。

「リコ~」    麻琴が呼びかける。

「マコ~」    利子が答えて手を振る。

佐天利子が上条麻琴のほうへ走り出した瞬間、

チュイン、チュインと弾がコンクリートに弾かれる音がして、

佐天利子の背後に血煙が上がり、

そのまま道路に彼女は叩きつけられた。




一瞬何が起きたのか茫然とする一同。

即座に反応したのは麦野沈利だった。

「こぉのブタ野郎ォォォォォォがぁぁぁぁぁぁ!!」

麦野沈利が吠え、怒りの電子線が狙撃犯めがけて襲いかかった。

だが、とっさのことで僅かに角度がズレ、さしもの強力な電子線も狙撃犯全員を一度には捉えられず、1名を吹き飛ばしただけだった。

次に「不覚!」と叫んだミサカ琴江(13577号)がサブマシンガンを三斉射し、1人が倒れた。

二人が倒され、残る1人は逃げ出したようだ。

「自分が行きます!」

漣がテレポートして狙撃手の後に飛び、武器を蹴り飛ばし、再びテレポート。

そして正面やや高めに現れみぞおちにキックをけり込み、ジエンド。

「現行犯逮捕です!」能力者用手錠をかけてもう片方を手すりに咬ませた。

「犯人確保です!」と漣が叫ぶ。

しかし……


248LX2010/11/12(金) 20:00:20.46hl/uEKA0 (21/47)


「利子、利子、目を開けて、しっかりしなさい!、起きて!! としこ!!」    佐天涙子が半狂乱で叫ぶ。

「だから言ったろうが!」     麦野が駆け寄ってくる。

「リコ!!」     麻琴は泣きながら、美琴が手当をするのを見ていることしか出来なかった。

「佐天さん! しっかりして! 頑張って!!」

美琴が電撃で心臓マッサージを行い、麦野はハンカチを引き裂き、佐天利子の左腕の銃創部の上を縛り止血を図る。

ミサカ琴江(13577号)は野戦戦闘服から包帯を取り出し、利子の左足大腿部の上を縛り上げ、止血作業を始めた。

「麻琴! ボケッと突っ立っていない! 救急医療車をここに!!」

手当をしながら美琴は麻琴を呼ぶ。

サイレンが鳴り響き救急車が突進してきた。

「2台いるうち! 1台呼んだ!」

麻琴が叫ぶ。

クルマのドアが開き、中からミサカ麻美(10032号)が飛び出してくる。

「麻美? あんた、ちょっと見て! 狙撃されたのよ!!」

麻美はさっと見て再びクルマに戻り、直ぐに応急セットを持ち出して戻ってきた。麦野と美琴は一旦離れた。

麻美がハンディスキャナーでチェックを始める。



249LX2010/11/12(金) 20:03:12.57hl/uEKA0 (22/47)


「む、これはけっこうな出血ですね。弾は3発でしょうか? 腕の1発はかすめて、左足への1発は貫通銃創、最後の1発が体内ですか、

やっかいですね、と第一状況を把握しました。」

麻美は左足太股部へ止血バンドを巻き、失血を押さえにかかる。

続いて左の背中部分のチェック。

「肝臓は外れているようです。しかし出血が腹膜内を圧迫する可能性が高く、ショックのおそれがあります。 

万一に備え救急ヘリの出動を要請します」

「わかった!麻美、頭も見て!倒れたときに頭を打ってるかも!」

美琴が指示をする間に

「こちら、風紀委員<ジャッジメント>114支部、上条麻琴です。直ちに救急ヘリの出動をお願い致します。被害者は銃撃を受け被弾、

出血多量。その他頭部損傷の恐れあり」

涙を流しつつ、麻琴が報告をしている。

「了解です。ハンディスキャナーで簡易チェック開始。…… 頭蓋骨一部損傷発見。……脳波に乱れあり。脳損傷の可能性があります。

これは即刻精密診断が必要です! 耐ショック用担架が必要と判断、クルマより取り出します」

麻美が準備をしている間、白井黒子が美琴に相談する。

「あたくしがテレポートした方が早いのではないでしょうか? 送る病院は、昨日のところですわよね?」
 
一瞬美琴は考えたが、やはりテレポート時の衝撃を考えるとテレポートによる移送は難しいと判断した。



250LX2010/11/12(金) 20:07:54.65hl/uEKA0 (23/47)


ようやくヘリの音が聞こえてきた。

「手術に備え、血液提供のドナーを募ります」    と麻美が言う。

「血液型は○○型、Rhプラスですが、同一血液型の方はいらっしゃいますか?」

少しの沈黙の後、「あたしだ」と手を挙げたものがいた。

麦野沈利だった。

え?と言う顔で、何人かが麦野を見た後佐天(涙)を見る。彼女は真っ青な顔で震えている。

その時、

「ヘリが降りるわよ、どいて! 麻琴! 利子ちゃんを守ってそばにいる!」    美琴が声を張り上げる。

救急ヘリが無事着陸するが直ぐ飛び立つためローターは廻ったままである。

「ローターに気をつけて下さい、とミサカは警告します!!」     中からナース服のミサカ琴子(19090号)が降りてくる。

耐ショック担架に載せられた佐天利子がミサカ麻美とヘリに乗ってきたミサカ琴子の手で再びヘリに乗せられる。

茫然とする佐天涙子をヘリに乗せた美琴がまた降りてきて白井黒子を呼ぶ。

「黒子? 孝太郎くんと、麻琴を宜しく! 風紀委員<ジャッジメント>メンバーは、アンチスキルと組んでここの調査をお願い!

あたしは佐天さん親娘と行くわ!」     と大声で話す。

「お任せを、上条委員(おねえさま)。佐天さんを宜しくお願い致しますの」     目を真っ赤にした黒子がきっぱりと言う。

美琴は、「ほら、アンタ、行くよ、あなたは大事な関係者なんだから!」     とぽんと麦野の肩をたたいてヘリに乗り込む。

麦野は一瞬ものすごい目で美琴を睨んだが、直ぐにヘリに乗り込んだ。

ヘリが上昇する。

再び冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院を目指してヘリが飛ぶ……。




251LX2010/11/12(金) 20:11:42.60hl/uEKA0 (24/47)


「だから殲滅しろって言ったのよ!! あの子が死んだりしたら、あんたも、ぶ・ち・こ・ろ・す、からね!!」

「縁起でもないこと言うんじゃないわよ! 生きて連れてこられた病人で死んだ人間はいない、ってのがアイツの謳い文句よ。

絶対死なないわ。死なせるもんですか! 死ぬわけないでしょ!」

ヘリの奥でレベル5同士が罵り合う一方、娘・利子のそばに母佐天涙子は寄り添っていた。

「利子、もう十分よね。お母さんと一緒に帰ろうね、東京へ。そしてどこか遠くに行こう。もう沢山だわ。

わたしがいけなかったのよ。わたしが未練たらしくしていたのがいけなかったの。もう決めたわ。

母さんが利子を守ってあげる!」

野戦戦闘服を着て、耐ショック担架のそばに付いていたミサカ麻美(10032号)は、佐天涙子のつぶやきを無表情で黙って聞いていた。







ヘリが降下する。冥土帰し<ヘヴンキャンセラー>の病院のヘリポートはすぐそこだ。



252LX2010/11/12(金) 20:15:36.54hl/uEKA0 (25/47)



「なんだか上条君みたいになってきたね」     カエル顔の医者が言う。

「縁起でもないことを言わないで頂けますか!?」     まだ興奮が冷めていない上条美琴がガツンと言い返す。

その二人をかき分けるようにして「お願いします、娘を助けて下さい!」   佐天涙子がカエル医者にすがりつく。

「ああ、佐天くん、だったね? 心配しないでいいよ。さぁ立って立って。おや?キミも少しけがをしているようだね?

一緒に手当てしてもらった方がよさそうだよ? ああ、ミサカくん、誰か来てもらって、佐天くんの傷の手当をしてもらうように

頼んでおいてくれるかな?」     そう言い残してカエル医者は、彼の戦場である手術室へ向かう。

「はい、かしこまりました」

ミサカ麻美(10032号)は医局インターホンでどこかへ連絡をした後で

「お姉様<オリジナル>、佐天さんのけがについては、簡単にチェックした限りでは大きなものではありませんでした。

軽度の擦り傷、打撲、そして切り傷が2カ所です。いずれも殺菌消毒、絆創膏で自己治癒可能と見ています、とミサカは報告します」

「ありがとう」     美琴が答える。

「ですが」     と麻美は続ける。

「相当な精神上の打撃を受けていますので、むしろこちらの方が影響が大きいとミサカは危惧します」

「そう……だよね」     と美琴は視線を落とし、手術室の方を見つめる。

「ミサカはこれから手術のアシストに向かいますので、お姉様<オリジナル>にくれぐれも病院内で大げんかを始めないようにお願いします、

と釘を刺してこの場を去ります」

「はいはい、頼んだわね、麻美!」

美琴は麻美を見送った後、視線を元に戻した。

(そうすればいいんだろう?)     美琴は考えていた。

憔悴しきった佐天涙子を、銃弾に倒れた佐天利子を、この二人を今後どう守ればよいのかと。



253LX2010/11/12(金) 20:18:47.20hl/uEKA0 (26/47)





手術中のランプが消えた。長かった。6時間を超える手術だった。

カエル顔の医者がゆっくりと出てきた。

一瞬飛び出しそうになった上条美琴だったが、途中で引いて下がった。まず、母親の佐天涙子が聞くべきだったからだ。

「佐天さん、行こう?」     美琴が佐天を支える形でゆっくりと立ち上がった。

麦野自身も非常時対応ということで、本来ならありえない800mlという大量献血を3時間ほど前に一気に行ったために僅かに青い顔をしていた。

「ふん」     麦野も遅れてゆっくりと立ち上がる。

「無事、終わったよ?」

カエル医者は軽く手を挙げて、集まってきた佐天・上条・麦野の3名に僅かな笑みを浮かべた顔を見せた。

「ありがとう、ございました……先生」 

「佐天さん? 大丈夫、佐天さん?」

佐天涙子は御礼を述べて、気が抜けたのかぐたっと崩れ落ちてしまった。

「いやいや、彼女もこれではダメだね。さて、空いている部屋はあったかな……」

「先生、同じ部屋にしてあげて下さい。とにかく親娘でいた方が絶対に精神的にプラスですから」美琴が頭を下げてカエル医者に頼む。

「ふーん、状態が違うからねぇ……、でも確かにその方が良いかもしれないな。そうしようか?」

とカエル医者は少し考えた後、同意したのだった。



254LX2010/11/12(金) 20:24:40.88hl/uEKA0 (27/47)


「じゃぁ、念のため、彼女もチェックしておこうかな? ミサカくん、お疲れついでですまないが簡易検査のデータを持ってきてくれるかな?

部屋は……全般検査室Bだな」

「すみません」     

美琴がまた頭を下げる。

「なに、気にすることはないさ。これが僕の『たたかい』なんだからね? 目の前で倒れたひとを放っておくことは許されないことだから」

反対側からミサカ琴子が新たに寝台を持ってきた。佐天涙子を乗せて検査を行うためである。

「お嬢さんの状態報告はどうしようか? 後にするかい?」

ミサカ麻美と琴江が佐天涙子を寝台に寝かせている時にカエル顔の医者が尋ねた。

「とりあえず佐天さんを見て頂いた方が……」

「その倒れたひとを先にみてあげなさいよ、時間はあるし?」

美琴は思わず麦野を見た。麦野は青い顔をしていたが、目の力はいつもと変わりはなかった。

「じゃ、そうしよう。ちょっと待っていてくれるかな? 病室はわかるようにしておくから、とりあえず待合室で待っていてもらった方が

良いね。そうそう、君たち二人、まず先にパウダールームに行った方がいいよ?」

そう言ってカエル医者は次の戦場へと向かった。



255LX2010/11/12(金) 20:28:00.19hl/uEKA0 (28/47)

はた、と二人は顔を見合わせ、お互いの服を見た。

「きゃあ!」

「げ!」

悲鳴が上がる。

二人とも、髪は砂埃にまみれ、ヘリのローターに煽られたためにスタイルは崩れバラバラ状態、服も同様にスレ傷やひっかき傷などで

少し裂けていたりだったが、なんと言ってもスゴイのは麦野の服。

お構いなしにぶっ放した電子線の戻りが彼女の服のそこら中に焼けこげの跡を残し、数カ所には血しぶきの返り、などと

「歴戦の強者」の証拠で埋め尽くされていた。

そして、二人の顔も推して知るべし、だった。

「恥ずかしい!」

「あーっ、あたしとしたことが!」

二人は顔を見合わせる。

「まずいわね」

「あなたのその服はちょっと問題だわね」

「そうね。持ってこさせるわ」

「へ?」

麦野は、

「30分以内に戻るわ」  

と言ってエレベーターホールへ向かっていった。

「あたしも顔ぐらい洗おうっと」

美琴は4階にあるパウダールームへ向かった。



256LX2010/11/12(金) 20:30:50.55hl/uEKA0 (29/47)

 

「すごいね、ちょっと顔ぐらい洗った方がいいよ、というくらいのつもりだったのに、麦野くんなんかすっかり別人みたいに

綺麗になっちゃってるね?」

(麦野さん、ひとりだけ綺麗になっちゃってずるいわよ!)

美琴が小さい声で麦野を責める。


―――――― 確かに30分以内に麦野は待合室に戻ってきた ―――――― が。


派手ではないが、仕立てのいいスーツ姿で、髪も洗髪できなかったとは言っていたが、櫛を通し、先ほどよりは遙かにまし、


――― 別人のようになって ―――


待合室に現れたのだった。病院だから、ということで、香水もつけず、化粧もごく控えめ、青白い顔なのでこれくらいは、とほんの少し

あわい頬紅をさしてはいるが。

「何よこれぐらい。少しは年上の先輩を立てなさいよね」

と澄まし顔で麦野は小さい声で答えてきた。

ボロボロの上条美琴との差は歴然としていた。



257LX2010/11/12(金) 20:34:32.70hl/uEKA0 (30/47)


「それで佐天涙子さんはどうだったのでしょうか?」

美琴はそれより本題だとばかりにカエル顔の医者に尋ねた。

「結論をいえばね」カエル医者が答える。

「けが等、外傷については全く問題はなかった。しかし、肉体疲労と精神疲労の両方がかなりきつい状態にあったのは事実なんだねぇ。

まぁまだ若いから1日充電するくらい休めば肉体の疲労は回復するだろう。ただ、精神の疲労は僕のテリトリーではないので、うまく

言えないな。ケアが必要だろうと僕は考えるけれど、専門家の意見を聞いた方がいいかもしれないね。

一応精神安定剤は打っておいたから今頃はぐっすり眠っていると思うよ」

二人はため息をついた。

「質問はあるかな? 無いようなら、娘さんの方の話をするよ」

カエル医者はそう言ってちょっと水を飲んだ。

「さて、まず順番にいくね?

左腕の銃創はそれほど酷くない。やけどみたいなもので、本来なら放っておいても問題ないと思うけれど、女の子だから傷跡は

残したくないだろうから、お尻から皮膚の移植を行い、カバーした」

「お尻ですか?」美琴が質問する。

「昔から普通に行われていて、手術事例は何百、何千とあるんだよ? 知らなかったのかい?」

麦野と上条の二人はへぇ、へぇと頷く。



258LX2010/11/12(金) 20:39:00.08hl/uEKA0 (31/47)


「次の貫通銃創だけれど、これはちょっと大きな傷だった。銃弾が抜けた後が焼けていてね、出血が見た目の傷程には少なくて済んだ

のは良かったのだけれど、直る際には障害になるのでね。焼けた部分を一旦削り落とし、お尻の肉を削って充填したんだよ。

さっき、お尻の皮膚を使ったと言ったのはこの為でもある」

「お尻は傷にならないのですか?」

また美琴が訊く。

「仮になったとしても目立たないよ? それに普通は人に見せる場所じゃないからね。まぁ君たちは、愛するご主人には見せてるんだろう

けれど?」

「まっ……」

美琴は真っ赤になる。

「うっ……」

麦野も一瞬青い顔に血の気がさしたが、直ぐに元に戻った。さすが年の功か。

「で、腹部の銃弾なんだが、これは結構やっかいだったね。幸い肝臓や膵臓、脾臓といった取り返しが付かない臓器には損傷が無くてね、

本当に奇跡だったね。肝臓に被弾してたら即死だったんだよ?

大腸と小腸の一部、腸骨に被弾していたが、全部取り除く事が出来た。神経にも被弾による影響はないようだから障害は出ないと思うね。

まぁ、ここまでは原因がはっきりしているから対応方法も明確なんでね、時間はかかっても確実に直るからいいんだけれど」

「先生? 頭のことですか?」麦野が聞く。

「うん、頭蓋骨の一部が割れていて、脳に少し当たっていたんだよね……」

美琴が息を呑む。


259LX2010/11/12(金) 20:49:06.25hl/uEKA0 (32/47)


「まさか、それで記憶を無くすとか、植物人間になるとか?」

「おいおい、僕はそんな事を言っていないよ? 場所は前頭葉部分でね、頭蓋骨の一部分が内側に折れ曲がる形で脳に触れていた訳なんだね。

幸い突き刺さっていたわけではなく、すこし圧迫していたというようなものだから、脳は壊死もしていないし、脳血管の損傷も殆ど無かった

状態だったから血液による脳の圧迫も殆ど無かったと言って良いと思うね。運が良かった。腹部の銃弾の件と言い、この頭蓋骨損傷の件と言い、

彼女は幸運の持ち主かもしれないね」

(本当に幸運なら病院なんか来ないわよ)

麦野が心の中でそう毒づくと、カエル医者は

「その通りだよ、麦野くん? 本当に幸運な人というのは、病院に来ることもなく健康なまま生涯を全うしたようなひとのことだね。

僕はこんな医者だから、余計そう思うのかもしれないけれど」

麦野の顔が少し引きつる。彼女の身体の一部分は親からもらったものでは無くなっているからである。

「それで、ここらへんは僕よりも木山君のほうが向いているとは思うんだが、彼女が目覚めてからいろいろとチェックをしてもらった方が

よいと思うんだね。あの子は嫌がるかもしれないけれど」

「チェック、ですか……」

美琴がつぶやく。

「頭を打っているのでね、絶対やっておくべきだと思うよ? さて他に質問はあるかな? 出来れば僕もちょっと休みたいんだけれどね」

そう言ってカエル医者は少しほほえんだ。

「何かあったら遠慮無くそこのナースコールを使ってくれるかな。気にしなくて良いよ、それが僕らの仕事なんだからね」

「有り難うございました」

と美琴と麦野が頭を下げる。

「じゃあ」

と言ってカエル医者が出て行く。


「……」

すこし考えた麦野は彼の後を追いかけて部屋を出る。



260LX2010/11/12(金) 20:52:30.55hl/uEKA0 (33/47)


「先生!」

追いついた麦野が深々と頭を下げる。

「あの子を、あの子を二度も助けて頂いて有り難うございました。御願いです、あの子の笑顔を取り戻してやって下さい。御願いします!」

彼女の頬を涙が伝う。

カエル医者は頭を下げ続ける麦野を見つめて、やさしく言う。

「僕がやれることは全てやった。あのときと同じようにね。君も僕がどういう医者かは知っているよね? あとは、あの子の精神力次第だね。

僕らに出来る事は、あとは祈ることだけだ」

麦野が涙で濡れた顔を上げる。

その目を見つめながら、

「もしかすると、だよ?」   

カエル医者が小さな声で言う。

「あの子は能力を失っているかもしれない」

「えっ……」 

麦野が絶句する。

「損傷した部分は、かつてAIMシャマーを植え込んであったところだったんだよ。だから、逆の可能性もあり得るんだ。

正直どうなるか今の時点ではわからない。ともかく、まずは彼女が意識を取り戻す事が先決だよ。

全てはそこからまたスタート、じゃないかな?」

そう言って、カエル医者は呆然としている麦野の肩をポンと優しく叩いて医局へ歩いていった。



麦野はただ、立ちつくすだけであった。



261LX2010/11/12(金) 20:56:05.33hl/uEKA0 (34/47)

お読み下さっていらっしゃる皆様、改めましてこんばんは。

>>1です。

2時間ぶっ通しで連投してましたもので、ちょっと休憩させて頂きます。

夜10時頃に再開する予定です。すこしお待ち下さいませ。


262LX2010/11/12(金) 22:12:43.26hl/uEKA0 (35/47)

>>1です。

それでは投稿を再開致します。
宜しくお願い致します。



263LX2010/11/12(金) 22:16:02.81hl/uEKA0 (36/47)


わたしはタクシーに乗っていた。隣には、知らない男の人。

むーちゃんの結婚式のあとの3次会。ちょっと飲み過ぎてしまったわたしは裏通りの陰で吐いていた。

ちゃんぽんはダメだ、といつも反省はするんだけど、ついつい飲んでしまう。

「あー、いけませんね、大丈夫ですか?」      わたしの頭の上から男の人の声が降ってきた。

「だ、大丈夫、です、すみません」     口ではそう言いつつ、地球が回っているのをわたしは実感していた。

「ダメですよ、女の子がべろべろになるまで飲んじゃね。お家はどっちですか?」

こら、ダメじゃないかと言う感じで語りかけてくるその男の人に、わたしは自分のアパートがある場所を教えていた。

わたしは用心深いはずだったのに、どうしてあの時、警戒しなかったのだろう?

そもそも、どうしてあんなになるまで酒を飲んでしまったのだろう?

どうして……。

わたしは結局その男の人に支えられるようにしてタクシーに乗り込んだ……らしい。

ふと気が付くと、自分の家とは全く違う、どこかわからない場所にわたしはいた。

「え?」

「気がついたかい、おねえちゃん? いけないなぁ、ベロベロになるまでお酒飲んじゃ。ママに怒られちゃうぞ?

危ないひとに連れてかれるかもしれないって?」

わたしは一瞬にして酔いが覚めた。しまった、大失敗だ、ああ、神様と思ったけれど現実は甘くなかった。

5~6人のスキルアウトがいる。暗くてよくわからない。怖い、誰か来て、助けて!

わたしはバックを振り回して「誰か! 誰か来て!! ドロボー! ヘンタイ!」と叫んでは見たものの、酒の為に直ぐに息が切れてしまい、

へたってしまった。



264LX2010/11/12(金) 22:18:09.93hl/uEKA0 (37/47)


「お嬢ちゃん、ヘンタイは言い過ぎじゃないかなぁ?」

と1人が言ってわたしの腹を思い切り蹴り上げた。

わたしは簡単に吹っ飛び叩きつけられた。背中も痛いが、蹴られたおなかがものすごく痛い。

ゲボッとわたしは吐いたが、酒の臭いと血の臭いがした。

わたしは動けなくなってしまった。

(ここでやられて、死んでしまうのだろうか、情けない、そんなのいやだ)

とは思ったが、更に男たちに足を思い切り踏まれ、また腹を蹴られた。

「おい、腹はそれぐらいにしとけ。死んでしまうぞ?」

一人が嫌そうな声で言う。

「アン? いいじゃねぇか、どうせヤッちまったら用はねぇ。死んだらソレまでってことでいいんじゃね?」

「さっさとやろうぜ、時間が無駄だ」

一人がわたしの胸元に手を突っ込み、思い切り両方へ引きはがした。

「おう、なかなかいいオッパイだぜ、さすがだな、ヘヘ」

男が下卑た笑いをしながらわたしを見る。

ああ、おかあさん、おとうさん、誰か助けて!

「さっさと裸にしちまえよ」

「バァカ、こういうのはさっさとひんむいたらつまんねぇんだよ。少しずつやんだよ」

「お前の趣味を聞いてるんじゃネェよ」

「はやく下も取っちまえよ」

「お前押さえてろ。キンタマ蹴られるぞ!」

ダメだ、もう。わたし、もう……



265LX2010/11/12(金) 22:21:17.94hl/uEKA0 (38/47)


―――――― バリバリバリバリ ―――――― 

壁をぶち破ってきた青白い光線が、わたしの頭の上をが横なぐりに通った。

「ぎゃぁーっ」

「ぶぐぉーっ」

「げぇーっ」


        …… その光線の明かりで ……

        …… わたしを蹴り飛ばした男が ……       胴体をまっぷたつにされて

        …… わたしの服を引き裂いた男が ……      足と手をちょん切られて

        …… わたしを押さえつけていた男が ……     首がすっぱりと切り離されて



わたしに血しぶきが降りかかった

        …… 向こうから輝くひとがやってくる ……

わたしは気を失った……





「うわぁーっ!!」

わたしは飛び起きた。

ここのところずっと見ていなかった悪夢。 汗びっしょりだ。動悸はでも普通。呼吸も普通。不思議だ。

「ゆ、夢だよね……」

気が付いた。(びょう、いん?)

わたしは思い出した。娘は? 利子はどこに?



266LX2010/11/12(金) 22:23:36.29hl/uEKA0 (39/47)


「あ、起きたのね?」

暗い部屋でいきなり声をかけられて

「きゃぁ!」

とわたしは叫び声を上げて布団に潜り込んだ。

誰かがベッドの脇をまさぐりピッピッピッと電気をつけた。

「大丈夫、安心して。わたしよ?」

とまた声をかけられた。

わたしは布団の中から顔を出して、声の主を見た。栗色の髪、とても綺麗なひと。

「もしかして、あの、むぎの、さんですか?」

わたしは恐る恐る名前を尋ねてみた。

「あんたねぇ、命の恩人を忘れたわけ? それはちょっと寂しいものがあるわよ?」

とそのひとはわたしにずいっと顔を寄せてきた。

やっぱり、麦野さんだった。わたしの、命の恩人。しかも二度、今度で三回目になるのだろうか。

そして、「返事がないってことは、忘れたのね?」

とんでもありませーん!

「とととと、とんでもないです! たった今も、あの時の悪夢を見て……」

「ちょおっと!? あなた、あたしに助けてもらったのに『悪夢』って何よ? ずいぶんじゃない?

さぁぁぁぁぁぁぁぁてぇぇぇぇぇぇぇんさぁぁぁぁぁぁん? 口のきき方をもう一回、お勉強しましょうかねぇー?」 

ちょっと麦野さん、青光りしているような? もしかして怒ってる?



267LX2010/11/12(金) 22:26:39.53hl/uEKA0 (40/47)


「すすすすすみませーん、あああああの、利子は今どうしてるんでしょうか??」 

ふっと青光りが消えた。はー、助かった。

「集中治療室にまだ入ってるわよ。明日の昼くらいには出られるんじゃないの? まだ多分意識は戻っていないと思うけど」

そうだ、とりあえず手術は終わったんだっけ?……助かったのか、あの子。良かった…… 麦野さんもホッとしてるよね。

だって「あなたに言わなくちゃいけないことがあるわ」

「え、ええ?」

麦野さんが目を伏せて、そしてまたわたしの目を見つめて言った。

(な、なんでしょうか~?)

とおどけて返事を返そうとしたけれど、とてもそんな返事をするような雰囲気ではなかった。

「はい……」

素直に返事をした。

「あなたの、『娘さん』、はね」

麦野さんが一瞬口ごもった。

「外傷は足の貫通銃創と腹部への2つが大きなものだったけど、2つとも幸運に恵まれて生命への危険はもうないそう。これはいいわね?」

「ええ」

わたしはうなずく。

「問題は、撃たれて倒れた時に頭を打ったこと。比較的軽いらしいけど、頭蓋骨陥没骨折。その骨の一部が脳を圧迫。

損傷や壊死まではいかなくて、これも奇跡的な幸運らしいって」

わたしは麦野さんをだまって見つめる。麦野さんが話を続ける。

「脳科学の専門家じゃないし、目覚めてみないとわからないって先生は言ってたけど」

麦野さんはわたしを見すえるかのように強い目で言った。

「もしかすると、能力を失ったかもしれないと」



268LX2010/11/12(金) 22:29:39.33hl/uEKA0 (41/47)


わたしは彼女の目の強さに思わず下を見つめていたけれど、思わず見つめ返してしまった。

「そ、そんな……」

能力が消えた? 本当に? そんな簡単に? 喜んでいいの? 悲しむべきなの?

「あなた、一瞬安心したでしょ?」

先に言われてしまった。視線を外して小さな声で。

わたしの顔には喜びの色が出ていたのだろうか。それは正直すぎる。しかもレベル5のひとの前で。

「そうよね、あたしのような暴力と破壊に特化したような能力は、人間にとって不要なものよ。こんな力は、本当なら無いほうが幸せよ、

本人もまわりもね。あたしは捨てられなかったけど」

どう答えればよいのだろうか。わたしはこの人に、その「不要な」はずの能力で命を助けてもらった。偶然だったにせよ。

そして今回もまた、その能力でわたしのみならず、「娘」までも助けてもらっている。

その力はもしかすると「あの子」にも……? それが無くなった……の?

「でも、安心するのは早いのよ、佐天さん」

わたしの顔を見て、麦野さんは何とも言えない顔をした。

「逆のパターンもありうるんだって」

「え……?」 

逆、ってどういうこと?

「今回の衝撃で一気に開花してしまうかもしれないのよ」

「……」 

極端すぎる。能力が無くなるか、一気に開くか、そんな一か八かみたいなことって、そんな!

「どうなるか、全てはあの子が目覚めた時にわかるわ。AIMストーカーがどういう反応を示すかひとつの目安になるわね」



269LX2010/11/12(金) 22:32:43.88hl/uEKA0 (42/47)


かわいそうな、利子。ごめんね。あたしがいけなかった。



「撃たれる前、あの子が言ったんですよ」          わたしは誰に言うともなくつぶやいた。

「お母さん、どうしてあたしたちばかりこんな目に遭うの? って」

麦野さんがわたしの顔を見て、そして視線を外した。

「おかあさん、怖いって。 そしてその後、あの子は撃たれて……」

「そんなあの子を、私はあの子を守ってやることが出来なかった。すみません、私は母親失格です」

「そんなことはないっ!!」

麦野さんがわたしをにらみつけて小さな声で、でも強く言った。

「あんたは、あんたこそあの子の母親、なのよ!」

「でも、守れなかった。いいえ、逆にあの子をおびき出す釣り餌になってしまいました。あの子を狙うであろう勢力に、あまりにも

私は無力です……。 

もし、あの子に、麦野さんのような超能力があったら、あの子は幸せになるんでしょうか?」

わたしはそう言いつつ、必死で考えていた。

どうしたらいいのだろう、と。

「私は、少し前まで、あの子と二人、東京を離れようと思ってました。そう、昔おばあちゃん家があった田舎に引っ込もうかと。

でも、そんなことぐらいじゃ焼け石に水かな、なんて思えてきて……」





わたしは14年前の事を思い出していた。あの時の麦野さんの気持ち、今ではすっごく良くわかるような気がする。

「あなたは……」               わたしは思わず口に出してしまった。

「あの時、あの子を殺そうとしてましたよね?」



270LX2010/11/12(金) 22:37:34.59hl/uEKA0 (43/47)


(どうすればいいんだろう?)

美琴は、集中治療室の外の待合室で考え続けていた。

能力が消えていたとき。

ある意味、佐天(涙)さんの希望通りになった、ということかもしれない。

東京で、ごく普通の女子高生になって、ごく普通の生活を送ることが出来るかもしれない。

その場合、まだ諦めきれない連中が彼女を狙うかもしれない。

無能力化したことを書庫<バンク>に明記するか? いや、もう少し何か事故発表でも使って逆アピールをするとか? 

それぐらいで済むか? 

佐天(涙)さんの例を見ればわかるとおり、無能力者と判明してから実際に手を出した連中はいない。何故?

他にいくらでも可能性を持ったひとがいたからだ。佐天(涙)さんを追いかけることは効率が良くなかったからだ。

今回の利子さんもそうなるだろうか? 

なるだろう。能力を失って、学園都市の外に出たものを今更追いかけるようなところはないはずだ。

よし、この場合はOKだ。



271LX2010/11/12(金) 22:40:52.15hl/uEKA0 (44/47)


次は、能力が明確に発現してしまった場合。

父親もしくは母親の能力が受け継がれていた場合、だ。

キリヤマ研を吹き飛ばしたあの能力は、強力なものだった。あの原子崩し<メルトダウナー>をも凌いでいた可能性が高い。

暴走した場合は危険すぎるし、そのパワーに魅せられた連中が押しかけるのは確実。押しかけるどころか再び拉致しかねない。

学園都市以外の勢力からも狙われる可能性が高い。



「東京に戻すのは危険すぎるわね……」

美琴はため息をついた。

佐天(涙)さんには申し訳ないし、上条のお義母さまの楽しみを奪うことになるけれど、本人とその廻りの安全を考えれば学園都市で

きっちり保護するしかない。

「佐天(涙)さんは危険だわね……」 

母親だからだ。彼女を拉致して人質にする。今回のように。

「!! そう考えたら、佐天(涙)さん以外だっていくらでもいるじゃない……」

拉致して脅すことの出来る関係者は、上条のお義母さま、彼女の同級生など非常に多いことに気が付き、

(とても全員保護しきれる訳がないわ)

頭を抱えてしまった。




272LX2010/11/12(金) 22:46:56.28hl/uEKA0 (45/47)


「彼女の今までの関係を全部精算すれば……?」

美琴は頭を振った。(それって、14年前に一度やったことじゃないの!)

また同じことをするのか? この方法が可能だったのは、まだあの子が小さかったから。知っているひとが極めて少なかったから。

でも、今、同じ事が出来る訳がない。影響が大きすぎる。いまさら「佐天利子」という人間の存在を消すなんて不可能。

「できっこないわよ……」

そのとき、美琴に閃くものがあった。ミサカ麻美の言葉。「精神的に相当な打撃を受けています」

「まさか! 佐天さん!?」


そのとき、バンと扉が乱暴に開けられ、駆け込んできた女が一人。

「佐天さん!?」 

佐天涙子だった。

涙子は集中治療室へ入ろうと扉を乱暴に引っ張るが、ロックされていて開かない。

「開けて! お願い! 開けなさい!」 

佐天が扉を開こうとしてドアノブをガチャガチャと乱暴に扱い、叫ぶ。

「何をしてるの? 他にも人がいるのよ! 止めなさい! 佐天さん!」

美琴はあわてて佐天を押さえようとするが、彼女のどこにそんな力があったのだろうか、美琴はあっけなくふりほどかれて投げ出される。

「さ、佐天さん……?」 

あまりのことに声も出ない美琴。

「もうたくさん! みんな、みんなあの子に寄ってたかって! あの子はおもちゃじゃない! 1人の人間なのよ! 私の大事な娘なのよ!」

佐天が美琴を恐ろしい顔でにらみつける。

「超能力が何よ! そんなもの、わざわざ引き出して何が楽しいのよ? 争いの種になってるだけじゃないの!?

一生あの子は平和に暮らせなくなったわ! 一生あの子は戦いの場所から離れられない! 血みどろの世界にあの子を放り込んでおいて

何が超能力は素晴らしい!? そんな世界に、どこに自分のかわいい娘を送り込むような親がいますか!?

私は、あの子を学園都市には絶対におかない! それがあの子を引き取った、私の約束!! 違いますか、麦野さん!?」



佐天涙子が涙を流しながら叫ぶその視線の先には、真っ青な顔で、よろめくように立つ、麦野沈利がいた。


273LX2010/11/12(金) 23:04:33.68hl/uEKA0 (46/47)




17年前。

麦野沈利は学園都市の暗部に所属していた。もっとも大半の仕事はもっと若い連中が専ら対応しており、ベテランとなった彼女が前面に

出るような仕事は事実上無かった、と言うような状態だった。

彼女自身もいい加減飽きていたところだったし、いつまでもこんな血なまぐさい仕事を続ける気もなかった。



そんなある日、珍しく電話が来た。

「ちょっと、今回は今までとは違う話なんだけど?」    

いつもの相方はいつになく下手に出た切り出し方をした。

(ち、ろくでもない話か)

こういうときは大抵めんどくさい話なのだ。もう何度も経験している麦野は心の中で舌打ちした。

「よければ、これが最後の仕事になるかもしれないんだけれど?」 

(最後の仕事? どういうこと?)   

ベッドに寝転がっていた麦野は起きて携帯を持ち代える。

「へぇ、こんなおばさんはもう御用済みですって? じゃぁ、たっぷり退職金を頂けるんでしょうね?」

皮肉たっぷりに麦野は返したつもりだったが、相手はマジメに返答してきた。

「退職金もいいけど、それより次のポストを準備しようかなー、と思ってるんだけど、どうかな?」

「けっ、これ以上まだあたしを働かせたいってわけ? もっとイキのいいアンちゃんネェちゃんにやらしたげなよ?」

だが、麦野の毒舌に返ってきた言葉は意外なものだった。



274LX2010/11/12(金) 23:48:01.31hl/uEKA0 (47/47)


すみません、>>1です。

読み直しているうちに落ちてました(苦笑
大変失礼致しました。

ちょっと中途半端で申し訳ございませんが、続きは明日に投稿致します。
どうかご了承下さいませ。



275VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/12(金) 23:55:10.98iiPCAc.o (2/2)

>>274



276VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/13(土) 01:05:26.40E.5/iNAo (1/1)

乙です


277VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/13(土) 01:29:45.56mJsj7Ogo (1/3)

やっと追いついた
面白いよ乙


278VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/13(土) 10:08:42.05WXbpecAO (1/1)

そろそろ携帯じゃ辛い位置になってきた


279LX2010/11/13(土) 12:56:47.35o1eYDBg0 (1/1)

>>278さん

一度ageた方が良いのでしょうか?



280VIPにかわりましてGEPPERがお送りします2010/11/13(土) 14:20:09.57EiHTrPoo (1/1)

べつに上げなくても、携帯だってブックマークしておけばいいだけじゃ