932 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:29:30.16YxUUl4aAO (22/78)

――軽音部 部室

憂「純ちゃんは?」

梓「用事があるんだって。だから今日は私と憂だけ」

憂「そっかぁ…」ソワソワ

梓「どうしたの?」

憂「へ? べ、別に?」

梓「?」

憂(兼部のこと、純ちゃん大丈夫かなぁ)

憂(無理してなければいいけど……)

梓「それにしても…私と憂だけだと部室もなんだか広く感じるね」

梓「いつもは先輩達がいて騒がしいけど、今日は平和だなぁ」

憂「でも、ほんとは寂しいんじゃない?」

梓「べ…別にそういうわけじゃ……」

梓「あっ、そうだ! トンちゃんにエサあげないと」

憂「トンちゃんもいれたら、私三人になるね」

梓「トンちゃんは人間じゃないけど…まぁいっか」

梓「はいトンちゃん、ご飯だよ」

トンちゃん「……」プカプカ


933 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:32:26.32YxUUl4aAO (23/78)

憂「可愛いね~。そういえばなんで学校でトンちゃんを飼うことになったの?」

梓「なんだっけ、確か……」

梓「先生のギターを売ったお金で何か買おうってことになって、唯先輩がトンちゃんを選んだの」

梓「私の後輩だ、とか言って」

憂「あはは、お姉ちゃんらしい」

梓「まったく、唯先輩ってば…」

憂「でもお姉ちゃんなりに梓ちゃんのことを気にかけてたんじゃないかな」

梓「うん…わかってる」

憂「…やっぱり、新入部員は入って欲しかった?」

梓「……どうだろ。去年も軽音部は楽しかったし」

梓「だけど……もし後輩が入部してたら、どうなっていたんだろうって何回か考えたことはある」

梓「私はちゃんとした先輩になれるのかなぁ……とか」

憂「梓ちゃんならなれるよ。お姉ちゃんも梓ちゃんは教え方が上手いって言ってたし」

梓「……正直、純のことがちょっと羨ましい」

憂「純ちゃんが?」

梓「後輩や同学年の子と楽しそうにしているところを見ると…ついそう思っちゃう」

梓「だから…先輩達には卒業してほしくないなんて考えて……」

憂「……」

梓「でも、そんなの無理に決まってるのにね。ごめんね変な話して」

憂「梓ちゃん、大丈夫だよ」

梓「え?」

憂「軽音部は絶対になくなったりしないから」

梓「憂……うん、ありがとう」

梓「さてと、そろそろ練習始めよっか」

憂「うんっ!」


934 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:34:08.68YxUUl4aAO (24/78)

梓「それじゃあとりあえず音合わせを……」

梓「!!」ピクッ

憂「梓ちゃん?」

梓(この視線は…!)



後輩c「……」ジーッ



梓(やっぱりいた!?)



後輩c「!!」

後輩c「……」アタフタ

後輩c「……」ササッ



梓(そして隠れるのが相変わらず遅い…)


935 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:35:34.69YxUUl4aAO (25/78)

憂「あの子は…?」

梓「ジャズ研の子なんだけど…最近、気づいたらなぜか私のあとを追ってきて」

憂「梓ちゃんのファンだったりして」

梓「それは…ないと思うけど」

梓(なんで私の後についてくるんだろう……なにが目的?)

梓(なんか私悪いことしたかなぁ……)

梓「…――って憂? あれ!?」




憂「こんにちは!」

後輩c「あっ……」




梓(いつの間に!?)


936 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:37:30.83YxUUl4aAO (26/78)

憂「梓ちゃんに、何か用があるの?」

後輩c「え…えぇっと……あの……」

後輩c「ご、ごめんなさい……私……」

憂「とりあえず中に入らない? せっかくなんだしちょっとだけお話ししよ?」

後輩c「ぁっ…ぇっ…」

梓「……」ジーッ

後輩c(ひっ!?)

後輩c(に、睨まれてる……怒ってる……)

後輩c(怒られる…絶対)ブルブル

梓(純の後輩…なんか色々と勘違いしてるみたいだし、ちゃんと話をしておかないと)


937 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:38:50.58YxUUl4aAO (27/78)

憂「はい、ここに座って」

後輩c「……」オドオド

梓「……」

憂「お茶は……あっ、あった!」

憂「お姉ちゃんたちが午前中に使ってたやつまだあったよ。これ飲もっか」

梓「う、うん」

梓(なぜかお茶会になってしまった…)

後輩c「……」

梓「あ、あの~」

後輩c「!!」ビクッ

梓「そ、そんな怖がらないで。何もしないから…」


938 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:40:04.26YxUUl4aAO (28/78)

後輩c「すっ、すすすいません」

梓「えっと……」

後輩c「……」

梓「……」

後輩c「……」

梓「……」

梓(なんかもう……なんて言えばいいんだろう)

憂「はい、お茶できたよ。お菓子もあるからみんなで食べよっか」

梓「あっ…憂」

梓(練習は……しょうがないか)


939 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:41:51.70YxUUl4aAO (29/78)

憂「はいどうぞ」コトッ

後輩c「ぇ? あっ、ありがとう…ございます…」

梓「あはは、おかしいよねこんな所にティーセットがあるなんて」

梓「なんていうか…先輩達が勝手に置いてて」

後輩c「……」

梓「まぁその……あんまり気にしないでね」

後輩c「は…はい」

憂「私は憂。軽音部じゃないけど今日は梓ちゃんのお手伝いで来てるの」

後輩c「は、はぁ」

憂「純ちゃんの後輩なんだよね? ベース弾いてるの?」

後輩c「はい…」

憂「あっ、紅茶飲める? このお菓子好き?」

後輩c「はい…」

梓「……」


940 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:43:25.54YxUUl4aAO (30/78)

後輩c「……」

憂「おかわりが欲しかったら、遠慮なく言ってね」

後輩c「あ、ありがとうございます…」

梓「……」

後輩c「……」

梓(なんか緊張してるみたいだし…少し落ち着いてから話を切り出した方がいいかも)

梓(こういう時、先輩達なら…)

梓「そ、そういえばきみ可愛いよね」

梓「よかったらコレ着けてみない?」

後輩c「え…?」

梓「じゃーん、ネコミミ」

後輩c「……」

梓「ほら、こうやって頭に着けて」

梓「にゃーん! なんちゃって…」

後輩c「……」

梓「にゃー…」

後輩c「……」

梓「……」

後輩c「……」

梓(これは…逆に取り返しのつかない空気に……)


941 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:44:29.52YxUUl4aAO (31/78)

憂「あ…梓ちゃんかわいいー!」

梓「あ、ありがとう。でもやっぱり、初対面でネコミミは驚いちゃう…よね。あはは」

後輩c「い、いえ……」

梓「……」

梓(なにやってるんだろう私…)

梓(というか、この子は何しにここに……)

後輩c「ぁの……私……」

後輩c「中野先輩に…謝りたくって……」

梓「え?」

憂「謝るって…?」

後輩c「この前…中野先輩に失礼なことを……」

梓「この前って」

後輩c『純先輩を私から奪わないでください!!』

梓(あれか…)

憂「なにがあったの?」

梓「う、ううん……そんな大したことじゃないんだけど」


942 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:45:53.63YxUUl4aAO (32/78)

後輩c「私…思い込みが激しくて。あの時は、中野先輩のこともよく知らないのに……ついカッとなって……」

梓「えっと…その…?」

梓「……」

後輩c「……」

梓「憂、ごめん。ちょっとだけ席外してもらえる?」

憂「え?」

梓「この子と二人だけで話したいの」

後輩c「……」

憂「うん…分かった。じゃあ私は出てるね」

梓「ごめんね」

憂「ううん、話が終わったら呼んでね」

ガチャッ、バタン

梓「さてと…」

後輩c「……」


943 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:47:13.29YxUUl4aAO (33/78)

梓「こうやって二人で話すのって初めてだよね」

後輩c「は、はい…」

梓「……謝りたいって言ってたけど」

後輩c「ご、ごめんなさい。本当にごめんなさい」

梓「そ、そこまで謝らなくてもいいから」

梓「それよりなんでこの前あんなことを言ったのかが…気になるんだけど」

後輩c「あれは……その……」

後輩c「純先輩と一緒に練習できる…中野先輩が羨ましくて……」

梓「え?」

後輩c「私なんて…部活以外で純先輩と一緒に練習なんて、あんまりできないのに…」

後輩c「でも中野先輩は…軽音部なのにたくさん練習できて……」

後輩c「それが羨ましかったんです……」

梓「……」

後輩c「そのうち…だんだんと中野先輩に嫉妬しちゃって」

後輩c「このまま、純先輩が中野先輩に取られちゃうんじゃないかと思って…」

後輩c「それで……純先輩、ジャズ研辞めて軽音部に入るんじゃないかって不安になり始めて…」


944 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:48:44.64YxUUl4aAO (34/78)

梓「そ、そんな話は聞いてないけど? 私はただ、練習の手伝いをお願いしただけで……」

後輩c「知ってました…純先輩も頼まれただけって言ってましたし」

後輩c「けど…考え出すと悪い方ばっかりに考えて…」

後輩c「どうしても嫌だったんです…純先輩がいないのが。だから…それで……」

梓「……」

後輩c「本当に…ごめんなさい」

梓「そ…そうだったんだ」

梓(この子、そんなに純のこと……)

後輩c「……」

梓「し、心配しないで。純がジャズ研やめることなんてないから」

梓「むしろ三年になったらレギュラーになれる、とか言ってやる気出してたし」

後輩c「ほ、本当ですか…?」

梓「うん。だって、二年間も部活やってたら辞めたいなんて思わないでしょ?」

梓「私だって、三年生になっても軽音部のままでいたいし……」

梓「…純もジャズ研にいたいと思ってるよ」


945 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:50:05.99YxUUl4aAO (35/78)

後輩c「純先輩も……」

梓「それにしても、純にすごい憧れてるんだね…」

後輩c「は、はいっ」

梓(まさか純にこんな後輩がいたとは…)

後輩c「私…今まで部活とかやったことなくて…」

後輩c「友達も…少なかったし」

後輩c「けど、高校に入って純先輩と会って…私、変われたんです」

後輩c「毎日毎日がすごく楽しくて…ベースも、大好きになって」

梓「……」

後輩c「だから…純先輩のこと……」

梓「私も、その気持ちはなんとなく分かるかな」

後輩c「え?」

梓「私自身、変われたかどうかは分からないけど…先輩達のおかげで今の私がいるのは確かだし」

梓「本当は…このまま卒業してほしくない」

後輩c「……」

梓「そんなことは無理だって分かってるんだけどね。分かってるんだけど……でもどうしても納得できなくて」

梓「先輩達に安心してほしいのに、私一人でも軽音部は大丈夫って言いたいのに」

梓「先輩達がいなくなるって考えただけで…不安になって」

梓「……本当はこのままじゃダメなのにね」


946 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:51:27.94YxUUl4aAO (36/78)

後輩c「……」

梓「あっ…なんか変な話になっちゃったね」

後輩c「いえ…そんなことないです」

後輩c「むしろ共感できたっていうか…」

後輩c「私、ここに来たら怒られると思っていたから…中野先輩のそういうお話が聞けてよかったです」

梓「そんな…怒ったりなんかしないよ」

後輩c「でも、軽音部って変な人たちの集まりのイメージがあって…」

後輩c「ライブ中にパンツを見せつけたり、学校に持ち込んじゃいけないものをたくさん持ってきたりとか噂が…」

梓「……」

梓(否定はできない…ていうか今ティーセット使ってるし)

後輩c「あ…だ、だけど中野先輩は違ってました。優しいんですね、中野先輩って」

梓「!!」

梓「そ…そうかなっ」

後輩c「はいっ」

梓(なんか照れちゃう…)

梓「と、とりあえず誤解は解けたみたいだし、もう大丈夫かな?」

後輩c「あ…は、はい。すみませんでした」


947 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:53:31.17YxUUl4aAO (37/78)

梓「ううん、大丈夫。ちょっとした誤解だもん」

梓「私ももう気にしてないから」

後輩c「あ、ありがとうございます」

梓「それにしても純ったら、もう少しちゃんと説明していればこんな事は起きなかったのに」

後輩c「純先輩は悪くないんです…私のせいで」

梓「でも純って適当なところがあるでしょ? そういうとこで結構苦労したりしない?」

後輩c「そ、そんなことはありません! 純先輩はしっかりしていて真面目な人です」

梓「えっ…うそ」

後輩c「練習はちゃんとやってますし、ベースも上手いですし、たまに面白い話もしてくれますし」

後輩c「とっても尊敬できる先輩です」

梓「……それ、本当に純のこと?」

後輩c「はいっ」

梓「本当に?」

後輩c「そうです!」

梓(一体ジャズ研ではなにが……)


948 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:54:39.05YxUUl4aAO (38/78)

梓「純のこと…そんなに尊敬してるんだ」

後輩c「はい、純先輩は最高ですっ!」

梓(純の話になったらとたんに嬉しそうに……なんというか、珍しい子)

後輩c「今日は…ここに来てよかったです」

後輩c「軽音部のことや、中野先輩のこともよく分かりましたし……ちょっと納得しました」

梓「え…?」

後輩c「純先輩が中野先輩の手助けをする気持ち…なんとなく分かるようになったんです」

後輩c「もし私も中野先輩と同じ立場だったら…純先輩がいてくれると、嬉しいですし」

梓「……」

後輩c「だから…純先輩のこと、よろしくお願いします」

梓「え? あ、は、はい!」


949 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:55:43.99YxUUl4aAO (39/78)

後輩c「じゃあ私…もう帰ります。お騒がせしてすいませんでした」

梓「う、うん…」

梓「……」

梓「あっ…やっぱりちょっと待って」

後輩c「へ?」

梓「もしよかったら、私たちの演奏聴いていかない?」

後輩c「え、演奏ですか…?」

梓「うん、感想とか聞いてみたいし…いい?」

後輩c「あ…は、はいっ」

梓「よかった。じゃあちょっと待ってて、今準備するから」

梓(なんていうか…この子には親近感がわくなぁ)

梓(もうちょっと話してみたいかも)

梓(それにしても純にこんな慕ってくれる後輩がいるなんて……奇跡だ)

梓「よし、それじゃあ今から演奏を…」

ガチャッ

憂「梓ちゃん、まだー?」

梓「あっ…忘れてた!!」


950 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:56:54.12YxUUl4aAO (40/78)

・・・・・

同級生「ねー純」

純「なに?」

同級生「ほんとに兼部するの?」

純「うん」

同級生「…急すぎ」

純「やっぱり?」

同級生「やっぱりじゃないよ。なんなの突然」

純「だってそれしか思い付かなかったし…」

同級生「ほんまでっか」

純「ほんまです」

同級生「……」

同級生「ねーひとつ聞きたいんだけど」

純「なに?」

同級生「もし新入生が二人入ったら、軽音部は存続できるんでしょ? そしたら純は必要なくなるんじゃないの」


951 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:57:53.86YxUUl4aAO (41/78)

純「……」

同級生「人数足りたら純がいなくても大丈夫じゃん。そうなったら純は兼部やめる?」

純「……うーん」

純「ていうかさ、逆に人数がそろわなくて廃部になるって可能性もあるよね」

同級生「やっぱり兼部なんてやめた方がいいんじゃない?」

純「…私が兼部するのいや?」

同級生「いや」

純「いや?」

同級生「いや」

純「……どうして?」

同級生「ジャズ研の方に集中してほしいから」

純「……そっか」

同級生「……」

純「嫌よ嫌よも好きのうちって?」

同級生「いや」

純「さいですか…」


952 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:58:46.62YxUUl4aAO (42/78)

同級生「……」

純「……」

純「……どーしてもいや?」

同級生「いーやーだ!」

同級生「なんで純じゃなきゃいけないの? 人数の埋め合わせだったら部活やってない適当な人にでも頼めばいいじゃん」

純「そういうんじゃなくて…」

~♪

純「あっ…センパイからメール来た」

純「……あちゃ、今日は用事があって会えないんだって」

同級生「何しに会いに行くつもりだったの」

純「兼部のこと相談しようかなーって」

同級生「センパイだって絶対反対するよ」

純「……そう?」


953 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 01:59:44.55YxUUl4aAO (43/78)

同級生「そうだよ」

純「……う~ん」

同級生「ね、兼部やめよ? 部活二つもやってたら自分の時間なくなっちゃうよ?」

純「むむむ……あっ」

同級生「どうしたの?」

純「お腹すいちゃった」

同級生「こんな時になに……」

グゥ~

同級生「……」

純「……」

同級生「…ミートゥー」


954 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:00:49.83YxUUl4aAO (44/78)

――MAXバーガー

純「ねぇ、さっきの話なんだけど」

同級生「却下」

純「まだなんにも言ってないし」

同級生「どうせ兼部のことでしょ? なに言ったって私は認めないから」

純「そんなブーたれないでよ。ポテトあげるから」

同級生「ポテトごときじゃ私は動かないのだ。でも一応もらっておきます」

純「はい、あーん」

同級生「あー」モグモグ

純「で、どうしたら納得してくれる?」

同級生「聞こえませーん」

純「私のポテト食べたくせに…」

同級生「一本だけじゃん」

純「二本あげたら納得してくれるの?」

同級生「二本だけじゃ私は動かないけど一応もらっておきます」


955 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:02:04.62YxUUl4aAO (45/78)

純「……はぁ」

同級生「……」モグモグ

純「どうすればいいんだろ、私」

同級生「兼部しなきゃいいじゃん」

純「そういうわけにもなぁ…約束しちゃったし」

同級生「…そんなに行きたいの? 軽音部」

純「え?」

同級生「別に私が認めないからって兼部できないわけじゃないんだから、やりたかったら勝手にやればいいじゃん」

同級生「どうせ純は身勝手なんだからさ」

純「むっ…なによその言い方」

同級生「……」

純「…ねえ、なんでそこまで否定的なわけ?」

同級生「……本当は私だってジャズ研やめないんだったら兼部したっていいと思う」

同級生「でも…話が急すぎてなんか納得できないよ」



956 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:03:48.41YxUUl4aAO (46/78)

純「そっか…」

同級生「……」モグモグ

純「やっぱ急すぎかぁ…」

同級生「……」モグモグ

純「……」

同級生「……」モグモグ

純「…食べすぎ、ポテト」

同級生「これはね、復讐なんだよ純」

純「は?」

同級生「この前――…」

純『なにそれ、ショートケーキ?美味しそう』

同級生『いいでしょー。有名店行って並んで買ったの』

純『へー美味しそう。なんかすごい美味しそう』

純『食べたらすごい幸せになれそう』

同級生『……一口食べる?』

純『あっ、いいの? じゃあお言葉に甘えて……』

バクッ!!

同級生『!?』

純『う~ん…うまうま』モグモグ

同級生『ひ、一口どころか半分以上……!?』

同級生『純!!!』

純『お、落ち着いて。これあげるから』

同級生『なにこれ……飴?』

純『さっき私が食べた分のケーキを砂糖に変換すると、だいたいあめ玉5個ぐらいでしょ?』

純『ほら、その飴を食べればケーキを食べた分と同じ糖分を摂取したことになって、結果的にケーキを食べた満足感と同じに…』

同級生「ならないよ…」

純「……」

同級生「微塵たりとも、ならないよ!!」


957 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:04:59.25YxUUl4aAO (47/78)

純「……ところで兼部のことなんだけど」

同級生「あっ、話そらした」

純「そらしたのそっちじゃん。今ケーキ関係ないし」

同級生「関係なくても私の心には大きな傷痕が残ってるんだから!」

同級生「だいたい純はいつも勝手すぎ!今回だってそうじゃん!」

純「…すいません、反省します。じゃあポテト全部食べてよし」

同級生「当然っ」モグモグ

純「もう機嫌なおった?」

同級生「まあまあかな」

純「もう怒らない?」

同級生「しょうがないなぁ、まったく」

純「じゃあ兼部もオーケー?」

同級生「オッケー!」

同級生「ってなんでやねん」

純「ちぇ」


958 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:06:21.41YxUUl4aAO (48/78)

同級生「……」

純「……」

同級生「危うく騙されるところだった」

純「あんたほんと単純よね」

同級生「単純でいいもん。単純な方が世の中楽しく生きていけるってセンパイに言われたから」

同級生「けど単純でもバカでも、自分が納得できないことは受け入れたくない」

純「…どうしたら納得してる?」

同級生「……」

純「……さっき言われた通り、別にあんたに許可もらえなくたって兼部はできるよ」

同級生「っ…」

純「でも…私はもう三年生になるし、ちゃんとしなきゃいけない立場だって分かってる」

純「だからこそ、ジャズ研のみんなには納得してもらってから兼部したい」

純「当然…あんたにも」

同級生「……もう兼部することは決めたの?」

純「…うん」

純「多少は忙しくなるかもしれないけど、高校生最後の年だしね。やりたいことはやっぱりやっておきたいし」


959 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:07:40.51YxUUl4aAO (49/78)

純「……」

同級生「ねえ、本当に純じゃなきゃだめなの? 兼部するなら他の人でもいいんじゃない?」

純「……」

同級生「……」

純「……別に私じゃなくてもいいと思う」

同級生「だったら…!」

純「でも自分でよく考えてみたんだけどさ」

純「私が必要されるされないってことが重要なんじゃなくて…ただ、私が軽音部に入りたいだけ」

純「梓たちと一緒に、部活やりたいの」

同級生「…ジャズ研に入ってるのに?」

純「ジャズ研はジャズ研で大切な場所だもん」

純「練習は真面目にやるし絶対にやめたりはしない」

純「だけど軽音部にも入ってみたい。それだけ!」

同級生「……やっぱり純は勝手だなぁ」


960 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:09:06.39YxUUl4aAO (50/78)

純「だってそれしか思い付かないんだもん…」

純「ジャズ軽と軽音部、どっちが大事っていうか…どっちも大事なものだし比べようないじゃん」

同級生「……」

純「……」

同級生「…もう好きにすればいいよ。どうせ私がなに言ったって純には届かないんだ」

純「そんなことないない。ほら、ハンバーガー少しあげるから機嫌直し…」

同級生「はむっ」パクッ

純「食い付きはやっ!?」

同級生「……」モグモグ

純「そんながっついたら喉つまるよ?」

同級生「……」モグモグ

純「……」

同級生「……」

同級生「…もしレギュラー落ちたりしたら兼部やめてもらうから」

純「…うん、分かった」

同級生「部活にかまけて大学落ちたりしたら笑ってやるもんね」

純「進学の心配はどっちかというとあんたがした方がいいでしょ……この前のテストだってひどかったじゃん」

同級生「さ、三年になってからは本気出すもん!」

純「じゃあ私ももっと本気出そ」

純「ジャズ研も軽音部も余裕で両立できるくらいね」


961 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:11:14.81YxUUl4aAO (51/78)

同級生「でも本当に続くかなぁ…兼部」

純「なに言ってんの、私は一旦やると決めたら最後まで信念を貫き通す女なんだから」

同級生「あっ!!!」

純「な、なに?」

同級生「ねー純、軽音部ってさぁ…お菓子とかいっぱい持ってるんでしょ?」

純「え? うーん…どうなんだろう」

同級生「だったらさ、私にもちょっとおすそ分けとかあっても…」

純「…ははーん、そういうことね」

純「まったくしょうがないなぁ、余裕があったら持っていってあげる」

同級生「でへへ、そんじゃよろしく」

純「…さっきまであんな強く否定してたくせに、食べ物が絡んだだけでこうなる?」

同級生「だ、だってお菓子は食べたいし!」

同級生「それに…本当は前から軽音部に行きたがってたのは分かってたし」

純「え…?」

同級生「なんとなく、分かってた」

同級生(中野さんと楽しそうにしてるの見てると…)

同級生「だから、少しムカっときた」

純「?」


962 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:12:39.37YxUUl4aAO (52/78)

同級生「けどもういいや、純はしょうがないやつだし」

純「しょうがないやつってなによ」

同級生「…私も純の友達だから、純のこと応援してあげる」

純「…ありがとっ」

同級生「でもさ、ジャズ研のみんなを納得させるってどうするの? 一人一人に話すの?」

純「とりあえず、明日部長に話してみる。なんて言われるか分からないけど」

同級生「怒られるんじゃない?」

純「怒りはしないでしょ…たぶん」

純「でももし怒られたら私のこと庇ってね?」

同級生「怖いから知らんぷりする」

純「ひどっ!?」


963 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:13:53.04YxUUl4aAO (53/78)

翌日

純「というわけでやっぱり兼部することにしました!」

顧問「……」

純「兼部することにしました」

顧問「二回も言わないでいい」

純「一応念押しで」

顧問「それで受験の方は大丈夫なの?」

純「なんとかします!」

顧問「はぁ……もうすぐ三年生になるって分かってる?」

純「分かってます。だからこそ最後の最後でいいから軽音やりたいんです」

顧問「最後の最後ねぇ…」

純「……」

顧問「聞こえはいいかもしれないけど、楽じゃないよ?」

純「無理はしない程度にがんばります!」

顧問「ん…無理したら続かないからね」

純「じゃあ…!」

顧問「山中先生には私から言っておくから、後はあんたがなんとかしな」

顧問「それと、無理はしないからっていって適当なことはするんじゃないよ?」


964 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:15:29.32YxUUl4aAO (54/78)

・・・・・

同級生「ねえ、純が軽音部に兼部するって知ってる?」

後輩c「えっ…?」

同級生「あれ、聞いてない?知ってると思ってたんだけど」

後輩c「……いえ」

同級生「突然でびっくりするよね。まったく純ったら」

同級生「会ったらバカヤロー、って文句言っちゃってもいいよ」

後輩c「……」

同級生「あ……別にジャズ研の方はないがしろにするってわけじゃなくて、あくまで軽音部のお手伝いって感じで」

後輩c「……そうですか」

同級生「…あんまり責めたりしないであげてね。純も勝手なこと言ってるってことは分かってるし」

後輩c「……」


965 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:17:21.80YxUUl4aAO (55/78)

・・・・・

梓「純、ちょっといい?」

純「なに?」

梓「実は昨日部室にジャズ研の子が来て…」

純「?」

梓「…まぁ色々あったんだけど、それはともかく」

梓「ジャズ研の方は大丈夫?」

純「はい? なにそれ」

梓「いや…もしジャズ研の方が忙しかったら、こっちの練習は無理しなくてもいいから」

純「うん、わかった」

梓「……本当に大丈夫?」

純「別にジャズ研は今忙しくないけど」

梓「だったらいいけど…」

純「どうしたのよそんなこと聞くなんて。梓が心配することじゃないでしょ」

梓「ジャズ研の後輩の子に…純が軽音部に入るんじゃないかって誤解されちゃったみたいで」

純「へ?」

梓「だからその子にそんなことはないって言ってその場はおさまったんだけど、一応純からも説明しておいてね」

純「ど、どういうこと? なんでそんな話が…」

梓「純が最近軽音部に入り浸りだったから心配してたみたい。ダメだよきちんと話しておかなきゃ」


966 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:19:22.63YxUUl4aAO (56/78)

純「そ、そうなんだ…」

純(軽音部に入るのは本当だけど…今話すとややこしくなりそう)

純(ていうか、私が梓に気を使わせるとは……)

梓「それにしても、純にあんなにできた後輩がいるなんて」

純「なによ、おかしい?」

梓「少し感心した。面倒見いいんだね」

純「今さら気づいたか」

梓「ちょっとだけ純がうらやましいな。あんなに慕ってくれる子がいるなんて」

純「今日は梓が私を羨ましがる日? なんだか珍しいね。いつもは私が梓を羨ましがってるのに」

梓「それぐらい良い子だったの」

純「ふーん…なんの話してたの?」

梓「部活とか楽器とか…あと純のことも」

純「私のことなんて言ってた?」

梓「大好きで尊敬してるセンパイだって」

梓「思わずそれ本当に純のこと? って聞き返しちゃった」

純「こら」


967 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:20:27.24YxUUl4aAO (57/78)

梓「でもよかった、悪い子じゃなくて」

純「ジャズ研に悪い子はいませんから。私みたいに良い子ばっか」

梓「……」

純「そこ、なんで黙るの」

梓「とりあえず、ちゃんと部活のことは説明しておいてね」

純「説明、ねぇ……」

純「まぁちゃんとやるけどさ。結果的に梓もびっくりするぐらいに」

梓「?」

純「まぁ、梓は気にしなくていいからさ。軽音部の方に集中しなよ、先輩達もあとちょっとで卒業でしょ?」

梓「う、うん…?」

純「それじゃ私、今日は早く部活に行かなきゃいけないから」



968 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:21:36.77YxUUl4aAO (58/78)

・・・・・

純「さてと…」

純(今日はジャズ研のみんなに話をしないと…)

純(まずは部長に事情を説明して……)

ガチャッ

純「あっ…」

部長「あら、私の方が早かったみたいね」

純「もう来てたんだ」

部長「鈴木さんが呼んでくれたんだから、遅れちゃといけない思って」

純「えぇ、なにそれ」

部長「ふふっ、別に。それで、どうしてこんな早く部室に私を呼んだの? なにか大切な話があるって言ってたけど」

純「ああ、そのことなんだけど…」

同級生「…」

純「で、なんであんたもいるの?」

同級生「い、一緒に来てって言われて」

部長「私たち、同じクラスだからついでにね。それとも、私と二人っきりじゃなきゃできない話?」

純「え? そうでもないけど…」

同級生「そ、そうそう! ワタシモジジョウハシッテルワケダシ」

純「? なんで棒読み?」

部長「あら、二人だけで隠し事? なんの話かしら、私も知りたいな」

同級生「ウンウン、ジュン、ハナシチャッテ」

純「えぇっと、実は…」


969 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:23:08.74YxUUl4aAO (59/78)

――――――――
――――――
―――

部長「なるほど、軽音部に兼部……三学期も終わりだっていうのにまた急な話ね」

純「あはは…ぶっちゃけ最近思いついたことで」

部長「ふーん、思いつきねぇ…」

純「…軽い気持ちだってねのは分かってるんだけどね。今もまだ軽い気持ちは抜けてないし」

純「でもどうしてもやりたくて、だから…」

部長「鈴木さんって、衝動的…ううん、情熱的な人ね」

純「え?」

部長「鈴木さんは前から中野さんと部活をやりたかったんじゃない? 自覚はしてなかったとしても、そういう想いはどこかにあったはずよ」

部長「そうじゃなきゃ、急にそんなことは言い出さないはず」

純「えっと、それは……」

部長「それにしても思いきった決断で、びっくりしちゃった」

部長「鈴木さんにそこまでさせるなんて、軽音部ってよほど魅力的なのね」

部長「それとも鈴木さんが優しい人間だから、思わず中野さんに手をさし伸ばせずにはいられなかった…とか?」


970 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:25:07.62YxUUl4aAO (60/78)

純「そ、そんなたいそうな事じゃないってば。それに優しい人間って…いやぁ参っちゃうなー」

部長「でも本当のことよね?」

同級生「う、うんっ」

部長「ねぇ鈴木さん。私は賛成よ、鈴木さんが兼部すること」

純「え…?」

部長「だってそれは鈴木さんのやりたいことなんでしょ? だったら私が止める権利なんてないわ」

部長「大変なことかもしれないけど、私もできることがあればサポートするし」

純「…本当にいいの?」

部長「もちろん。私たち同じジャズ研の仲間でしょ? 鈴木さんのこと、応援する」

純「ありがとう…!」

同級生「よかったね、純」

部長「そうと決まれば、みんなにも話しておかないとね。とりあえず部活が始まる前にみんなで集まりましょう。大丈夫よ、みんなもきっと鈴木さんの考えを理解してくれるはずだから」

部長「私の方から連絡しておくね」



971 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:26:39.28YxUUl4aAO (61/78)

純「本当にありがとう、そこまでしてくれるなんて…」

部長「だから気にしないでって。ジャズ研も軽音も…あと受験もね」

純「まっかせて! こう見えても期待には100%応える人間だから!」

部長「ふふっ」

ガチャッ

後輩c「あ…」

部長「あら、いいところに来たのね」

純「やっほ」

後輩c「じゅ、純先輩……」

純「梓と仲良くなったんだって? 聞いたよっ」

後輩c「は、はい」

部長「今ちょうどね、鈴木さんのことについつ話していたんだけど……」

後輩c「……あのっ」

部長「どうしたの?」

後輩c「あ…いえ、部長じゃなくてその…純先輩に……」

部長「え?」

純「私に?」

後輩c「純先輩…ちょっとだけ、一緒に来てくれませんか? お願いします」

純「別にいいけど…?」

部長「……」

純「それじゃ私、ちょっと行ってくる」

後輩c「し、失礼します」

部長「えぇ、分かったわ。部活が始まるまでには戻ってきてね」

純「うん、じゃ」

ガチャッ、バタン

部長「……ふぅ」


972 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:28:04.21YxUUl4aAO (62/78)

同級生「……」

部長「話は決まったわね、あとはみんなを説得するだけ」

部長「ま、たかが兼部でどうこう騒ぐ人なんてほとんどいないと思うけど」

部長「ねぇ、あなたもそう思うでしょ?」

同級生「う、ウン。でも純、大変になりそう…」

部長「そんなの私の知ったことじゃないわ。自分で決めたことなんだから、自己責任でしょ?」

部長「まぁ一応手を貸せる時は貸すけどね、恩は売っても損はないし」

同級生「……」

部長「分かってるわよね、私との約束」

同級生「分かってるけどォ…あれって約束なのかなぁ…」

部長「なに?」

同級生「な、なんでもないです」

部長「ふふっ、いい子ねあなたも」

同級生「……」

――――――――
―――――
―――

……数十分前



973 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:29:13.74YxUUl4aAO (63/78)

合唱部員「ほ、本当に?」

部長「前の部長との縁があってね、私もバトン部やバレー部の部長と仲が良いの」

部長「私からその子達が頼んで…もし承諾してもらえたら、体育館での練習の許可がもらえるわ」

合唱部員「あ、ありがとう…!」

部長「お互いに部員数が多い部活は大変よね。それなのに吹奏楽部ばかりに講堂使われたら……」

部長「できるのなら、やっぱり広いところで練習したいわよね?」

合唱部員「うんっ! ありがとう、こんなにしてもらえるなんて…本当にありがとう」

部長「気にしないで。困った時はお互いさまでしょ? またなにかあったら私にでも相談してね」

合唱部員「私も、何かあったら必ず力になるね。それじゃまた!」

部長「またね」

部長「……ふぅ、さてと」

Prrr、Prrr

部長「?」

部長(鈴木さんからのメール…?)


974 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:30:45.38YxUUl4aAO (64/78)

部長「……」カチカチ

部長「……」

部長(大事な話、か……)

部長「……」キョロキョロ

部長「……」

部長「……ねえ」

同級生「え? なに?」

部長「鈴木さんからこんなメールが来たんだけど、なんだか分かる?」

同級生「どれどれ…『今日大事な話があるからいつもより少し早く部室に来て。おねがい』」

部長「この大事な話って部分なんだけど…」

同級生「ああ、これはたぶん兼部のことじゃ…」

部長「兼部?」

同級生「だから純が軽音部に兼部するって話……あっ」

部長「へぇ~…そんな話が」

同級生(……これ部長に今バラしちゃってよかったのかな)

同級生(ていうか…目付きがなんか変わってる)

部長「ふふっ……」


975 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:32:38.24YxUUl4aAO (65/78)

部長「なるほどね、あなたは鈴木さんと仲が良いからも何か知ってると思ってたけど」

同級生「あの…あんまり怒ったりしないであげてね」

部長「怒る? なんで」

同級生「へ?」

部長「なんで怒る必要があるの、理由がないでしょ。ジャズ研を辞めるわけでもないのに」

同級生「そ、そっか…そうだよね!」

同級生(よかった、話が分かってくれて)

部長「ふふっ、これは良い機会ね」

同級生「……?」

部長「鈴木さんが軽音部とのパイプ役になってくれれば、軽音部をこっち側に引きずり込むのも容易くなるし…悪いことじゃない」

同級生「こっち側???」

部長「あなたには分からないかもしれないけど…あるのよ、そういう派閥が。部活間や、人間関係の間に……ね?」

部長「その中に、個人的に気に入らない派閥があるの。だから私の派閥を大きくして、その気に入らない派閥を潰しちゃおうかなって」

部長「そのためには色んな人との縁を大事にしないとね」


976 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:34:08.11YxUUl4aAO (66/78)

同級生「そ、そうなんだ…」

同級生(なんだかよく分からないけど…こわい)

部長「でもそれじゃあ何だか鈴木さんを利用してるように見えちゃうかも。私ってそんなひどい人間?」

同級生「え?」

部長「ねえ、どうなのよ」

同級生「えっと……そ、そんなことないと思うけど」

部長「そう、よかった。でも私…あなたの前でうっかり本音を漏らしちゃった。もしこのことがみんなに知られちゃったら、私、嫌われちゃうかも……」

部長「私が今言ったこと、みんなには黙っててくれる?」

同級生「え……あの……」

部長「ね、黙っててくれるでしょ? もしみんなにうっかりバラしたりしたら……私、あなたにひどいことするかも」

同級生「ひっ!?」

部長「約束しましょ、絶対に黙っててくれるって……ね?」


977 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:35:18.37YxUUl4aAO (67/78)

同級生「は、はい……黙ってます」

部長「そうだ、いいこと思い付いた。もうすぐ三年生になるんだし…心機一転、私たちも新しい関係を築きましょうか」

同級生「へ?? え???」

部長「私が上に立って、あなたが私の下につく。言ってる意味分かる?」

同級生「え…あ……な、なんとなくわかります……」

部長「ふふっ、よかった。前からあなたとなら仲良くなれると思ってたの。これからもよろしくね」

部長「私の言うことは、なんでも聞くのよ?」

同級生「……」

部長「返事は?」

同級生「はい…」

部長「いい子ね。さて…鈴木さんに会いに行きましょうか」

同級生(どうしてこんなことに……)

―――
――――――
―――――――――



978 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:36:41.32YxUUl4aAO (68/78)

・・・・・

純「話って?」

後輩c「……」

純「……」

後輩c「……あの、純先輩は」

後輩c「純先輩は…軽音部に行くって本当ですか?」

純「うん、兼部でね。聞いてたんだ」

後輩c「はい…」

純「…ごめんね、勝手だよね」

後輩c「……はい」

純「……」

後輩c「でもいいんです…なんとなく分かってましたから。中野先輩に会ってから」

純「梓に?」

後輩c「はい。たぶん…純先輩は、中野先輩のことをほっとけないんだろうなって思って」

後輩c「純先輩はそういう人だから…優しいから」

後輩c(優しい純先輩が好きだから…)

後輩c「だからいいんです、もう。純先輩が軽音部に行くことに反対はしません」

純「……」

後輩c「私は…純先輩の後輩だし、純先輩のことを応援するって決めたから……純先輩への気持ちは、誰にも負けません」

後輩c「これからも私はずっと、鈴木純ファンクラブ会員会長です!」


979 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:37:36.17YxUUl4aAO (69/78)

純「…………え?」

後輩c「……はっ」

後輩c(わ…私ってばなんてこと……!?)

後輩c「さ…ささ先にぶぶっ、部室に戻ってます!!」タタタッ

純「……」

純「……」

純「……どゆこと?」

憂「あっ、純ちゃーん」

純「ああ…憂」

憂「部活は? まだ?」

純「うん、もうすぐだけど…」

憂「どうしたの?」

純「……ううん、なんでもなーい」



980 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:38:32.64YxUUl4aAO (70/78)

純「あっ、そうそう。兼部できそうかも。事情を話したら部長とかも分かってくれたし」

憂「本当!? よかったぁ、梓ちゃんきっと喜ぶよ」

純「まぁ…大変になるのはこれからだし、油断はできないかな」

憂「大丈夫だよ純ちゃん、純ちゃんが困った時は私が助けるから」

憂「だって私、純ちゃんとは中学からの友達だし」

純「憂…!」

純「ありがと、憂が友達で本当によかった」

憂「えへへ」

キーンコーンカーンコーン

純「あっ…私そろそろ部室に行かなきゃ」

憂「うんっ、がんばってね純ちゃん」

純「はーい。そんじゃ行ってきまーす!」


981 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:39:42.33YxUUl4aAO (71/78)

翌日

純「というわけで、正式に兼部が決まりました!」

顧問「あっそう」

純「素っ気な…もうちょっとリアクションしてくださいよ」

顧問「そんじゃ兼部届けに記入事項書いて、後日提出ね」

純「はーい」

顧問「純、泥棒はするなよ」

純「え?」

顧問「軽音部の部室にあるカップとか、売ったら金になりそうじゃない? だからってこっそり売ったりはするんじゃないよ」

純「しませんよ、先生じゃないんですから」

顧問「こら、私だってそんなことするか」

純「ところでこれいつまでに提出ですか?」

顧問「今週中でいいよ」


982 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:41:06.74YxUUl4aAO (72/78)

純「はーい、了解です」

顧問「そんじゃ、がんばってね」

純「先生」

顧問「ん?」

純「今日はニンニク臭くないですよね?」

顧問「は? なにそれ」

純「この前私の口がニンニク臭いとか言ってたじゃないですか」

顧問「あ~…冗談だよ。純からはいつも、甘い感じの……変な匂いがする」

純「変!?」

顧問「いや、変っていうか…甘くて…変」

純「やっぱり変じゃないですか」

顧問「いやだから…あっそうだ。パイナップルだ、パイナップルっぽいの匂いがする」

純「……それ私の頭見て言いました?」

顧問「いやパイナップルっていうか苺っていうか…色々混ざってるっていうか」

顧問「とにかく悪い匂いじゃないよ。なんだろう…人懐っこい匂いだね」

純「?」


983 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:42:09.04YxUUl4aAO (73/78)

・・・・・

純「失礼しましたー」

ガラガラ

純「ふぅ……」

純(まぁとりあえず、一段落ってところかな)

同級生「純、みーつけた」

純「あっ…どうしたの?」

同級生「今から自主練しない? どうせ暇でしょ?」

純「どうせってなによ。こう見えても超忙しいんだから」

同級生「じゃあやらないの?」

純「うーん……暇だしいいよ」

同級生「やっぱり暇なんじゃん」

純「まぁね」


984 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:43:18.55YxUUl4aAO (74/78)

同級生「あーぁ、それにしても三月だっていうのに全然温かくならないね」

純「地球温暖化だからじゃない?」

同級生「えっ、そうなの? 寒いのに?」

純「寒いからこその、地球温暖化じゃない」

同級生「あーそっかぁ……えっ、そうなの?」

純「そう! たぶん」

同級生「えー、じゃあ今日からゴミの分別でも始めようかな」

部長「あら、なんの話をしてるの?」

同級生「ひっ!?」

純「どうしたの?」

同級生「べ……別に」

部長「二人ともこれからどこに行くの?」

純「暇だしちょっと練習しに部室に行こうかなって話してて。一緒に行く?」

部長「私もいいの?」

同級生「う、うん、ぜひ、来て、欲しい」

部長「そこまで言われたら、行こうかな」


985 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:44:40.04YxUUl4aAO (75/78)

部長「鈴木さん、春休みの練習ついての話なんだけど。軽音部の予定は入ってないのよね?」

純「うん、春休みは大丈夫」

部長「そう。ジャズ研の練習も気を抜かないようにね?」

純「分かってる。ジャズ研はサバイバルでしょ?」

部長「鈴木さんはレギュラーなんだし、人より少し大変かもしれないけど期待してるわよ」

部長「もちろんあなたにも……ね?」

同級生「は、はいっ! がんばります!!」

純「えらく気合い入ってる…」

後輩c「純先輩!」

純「あっ、おっす」

後輩c「純先輩…これからお時間はありますか?」

純「どうして?」

後輩c「純先輩にベース教えてもらいたくて」

純「だったらちょうどいいや、これからみんなで練習しに行くところなの」

純「一緒に行こ」

後輩c「は、はい!」


986 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:47:02.21YxUUl4aAO (76/78)

純「それにしても練習熱心だね。一年でそこまでやるとは」

後輩c「い、いえ」

同級生「このまま純を追い抜いてレギュラーになったりして」

純「そういうこと言われるとちょっと危機感」

後輩c「そんなことありません。純先輩の方が全然上手いですし」

部長「それに本当は、練習がしたいんじゃなくて鈴木さんと一緒にいたいんだしね」ボソッ

後輩c「!!」

純「え? なに?」

部長「ううん、なんでもないわ。ふふっ」

後輩c「……純先輩」

純「?」

後輩c「私、純先輩ともっと一緒にいたいです。だから純先輩とこれからも一緒に練習して…いいですか?」

純「うん?別にいいけど」

後輩c「ありがとうございます!」

部長「……」

部長(この子、たまに突拍子もなく大胆なことを言うのよね…)

同級生「あっ、ねぇ純。中野さんたちがいるよ」

純「えっ、どこ?」



987 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:48:08.88YxUUl4aAO (77/78)

唯「あずにゃん、今日も寒いね~」
梓「寒いからってくっつかないでください」

紬「私も梓ちゃんにくっつく~」

梓「ムギ先輩まで!?」

梓「もぉ~、こんなことしてないで早く部室に行きますよ! 澪先輩と律先輩だって待ってるんだし」

唯・紬「はーい」





純「ほんとだ、梓たちだ」

同級生「というか、三年生まだ引退してないの…?」

部長「いい機会ね、せっかくだし挨拶しに行こうな」

純「また今度にした方がいいんじゃない」

部長「え?」

純「あの間に入る余地ないって」

純「それより、私たちも早く部室に行こ」


988 ◆eXN6fvAgkw2011/10/10(月) 02:51:35.57YxUUl4aAO (78/78)

部長「ふぅん…まぁいいわ」

純「今年こそはコンテストで優勝できるように頑張らないとね」

後輩c「純先輩、頑張りすぎはだめですよ」

純「へ?」

後輩c「純はこれから忙しくなるんですから、休める時は休まないと」

純「あ、ありがとう」

同級生「なるほど、純が休んでる間にレギュラーを奪うと」

後輩c「えっ」

部長「あら、大胆」

純「ほうほう」

後輩c「ちっ、ちち違います!」

純「いいんじゃない、下克上! 望むところよ!」

純「今日から私たちは先輩後輩であり、ライバルね!」

後輩c「えぇっと……は、はい」

後輩c(どうしてこんなことに…)

純「よーし、今日から天才ベーシスト鈴木純の伝説が始まるぞー!!」

純「……あっ」

同級生「どうしたの?」

純「今日……ベース学校に持ってくるの忘れた」

同級生「えぇ……」


##21 おわり





予告した日より遅れてすいません。
次回の投下で最後になります。


989 ◆eXN6fvAgkw2011/10/12(水) 08:56:12.71zFEalOsAO (1/12)

##22

先輩2「――で、今日はどうしたの? 急に会いたいだなんて言い出して」

先輩「理由がないといけなかった? 別にいいじゃない、こうやって会えるのもたまになんだし」

先輩2「そうね…まぁたまにはいいかもね」

先輩「それにしても、一年会わないだけですっかり変わってるのね」

先輩2「当たり前よ、そういうあんただって大人っぽくなってるじゃない。けど泣き虫なところは治ったのかしら?」

先輩「むっ…泣き虫ってなに」

先輩2「違うの? 昔からよく泣いてたじゃない」

先輩「勘弁してよ、私は泣き上戸ってキャラじゃないんだから」

先輩2「私はあんたの泣き顔好きよ。見てておもしろいし」

先輩「そんなことよく言える…」



990 ◆eXN6fvAgkw2011/10/12(水) 08:57:31.11zFEalOsAO (2/12)

先輩2「ベースは? まだ弾いてるの?」

先輩「うん。今バンドやっててね、楽しんでる」

先輩「そっちは?」

先輩2「私はもうやってないわ。レポートに資格の勉強に…色々忙しくてね」

先輩「相変わらず真面目。恋人とかいないの?」

先輩2「……いなくて悪かったわね。そういうあんたはどうなの」

先輩「いないけど」

先輩2「…自分もいないのに何でわざわざそんなこと聞いてくるのよ」

先輩「いないって聞いて安心したくて。私たち仲間ね」

先輩2「バンドやってるんだったら簡単にできると思うけど?」

先輩「だって私がやってるバンドはガールズバンドだし、男の人はこわいし…」

先輩2「こわいって…」

先輩「仕方ないじゃない、ずっと女子高だったから…耐性ないのよ」

先輩2「女子高ねぇ…確かにそうだったけど」

先輩2「そういえば知ってる? 今日桜ヶ丘の卒業式よ」


991 ◆eXN6fvAgkw2011/10/12(水) 08:58:35.12zFEalOsAO (3/12)

先輩「うん、私の方にもメール来てた」

先輩2「一年か…ほんと時間過ぎるのは早いわね」

先輩「なに? おばさんくさい」

先輩2「実際そう思うんだから仕方ないじゃない」

先輩2「去年まで高校生だった私たちはもう大学生。面倒を見ていた子は卒業、その下は三年生に進級」

先輩2「あっという間よ」

先輩「懐かしいわね、高校生活。ジャズ研楽しかったな」

先輩2「今はどうなってるのかしら。コンテストは三位で賞を取ったって聞いたけど」

先輩「夏に一回会いに行ったら、賑やかになってるみたいよ。部員数も増えて」

先輩「純なんて後輩に結構なつかれてたし」

先輩2「純? ……ああ、あの子ね」

先輩2「あの子は要領いいから、上手くやってそうね」

先輩「他のみんなはどうだろ…なんか気になってきた」

先輩2「今から卒業式に行く?」

先輩「まさか、今私たちが行ったって邪魔になるだけでしょ」

先輩2「あはは、そうね」

先輩「でもまぁ……これからもずっとジャズ研が残ってくれると嬉しいな」


992 ◆eXN6fvAgkw2011/10/12(水) 08:59:50.82zFEalOsAO (4/12)

・・・・・

先輩C「…ったく、こんな時期に兼部だなんて何を考えてるんだ」

先輩A「いいじゃない、本人はやる気なんだし」

先輩C「はぁ…中途半端にならないといいけどな」

後輩A「こんな時まで純ちゃんのこと心配してるの? 私たちもう学校卒業しちゃったのに」

先輩C「……卒業しようが何だろうがあいつは私の後輩だ。心配してなにが悪い」

先輩B「やっさすぃ~い」

先輩C「…だいたいお前はどう思うんだ、兼部には賛成なのか?」

先輩B「人間の可能性は無限大。強い意志と情熱さえあればなんでもできる。そしてその想いは新たな未来作り、いずれ人と人がお互いを理解し分かりあう平和な世界を築き上げるのさ」

先輩C「なんだその無意味に大仰な台詞は…」

先輩B「正直なところ、兼部がどうこうなんてそんな大きな問題じゃないと思うけど。良いか悪いかなんてやってみないと分からないんだし~」

先輩B「それに純は優しい、だけど自分にできる事とできない事は分かってるやつだよ」

先輩B「そんな純が兼部するって決めたんなら、大丈夫でしょ」

先輩C「……」



993 ◆eXN6fvAgkw2011/10/12(水) 09:01:35.46zFEalOsAO (5/12)

先輩A「そうそう心配したってしょうがないんだし、純ちゃんを信じてあげようよ。ね?」

先輩C「まぁ…な」

先輩B「ま、部活なんて自由にやるもんなんだから私たちがいちいち口出しすることでもないし~」

先輩C「……部活か。やりたくてももうできないんだろうな、私たちは」

先輩A「寂しい?」

先輩C「……」

先輩A「もう卒業だもんね…けど、できることだったらこのままずっと学校にいたいなぁ」

先輩B「……」

先輩A「色々あったよね、私たちも。二人なんて一年のころは仲悪かったし」

先輩C「今でも良いとは思わないけどな」

先輩B「ひでぇ」

先輩A「もぉ~、二人の仲取り繕うの苦労したんだからね。ほんとに…あの頃は……グズッ」

先輩C「……」

先輩A「ケンカしたり…遊んだり…ヒッグ……楽しくて……」

先輩B「……」

先輩A「グスッ……やっぱり卒業したくないよぉ……」

先輩C「ばか…泣くな。お前が泣いたら……私まで……」

パシャリッ

先輩C「!?」

先輩B「イェイ、泣き顔写メでゲット~」


994 ◆eXN6fvAgkw2011/10/12(水) 09:02:50.77zFEalOsAO (6/12)

先輩C「あ…お、おい! なに勝手に撮ってるんだ、消せ!!」

先輩B「や~だよ~」

先輩C「こら逃げるな!」

先輩B「写真消して欲しかったら、学校の外まで私を追いかけてきな」

先輩B「それとも、本当にこのままずぅ~っと学校に残ってるかい?」

先輩A「え…」

先輩C「……」

先輩B「そんじゃ~私先に逃るから、十数えたら追いかけてきてね」

先輩A「……」

先輩C「……ハッ、ばかだな。お前は足が遅いんだから特別に十五秒待ってやる」

先輩B「いいよそれで。そんじゃよ~いドン」

先輩A「もう……ふふっ、しょうがないなぁ」

先輩C「……ああ、確かにあいつはしょうがないやつだ」

先輩C「だけど悪いやつじゃない」

先輩A「もうちょっと素直な言い方してあげればいいのに」

先輩C「うるさいな……時間だ、行くぞ」

先輩A「あっ、ちょっと待ってよぉ~!」


995 ◆eXN6fvAgkw2011/10/12(水) 09:04:09.36zFEalOsAO (7/12)

・・・・・

同級生「春から上級生になる君たちにセンパイとしてアドバイスを授けよう!」

後輩a「はいっ!」

同級生「がんばれ!! 以上っ!」

後輩b「……はい?」

同級生「いやぁ、言ってみたものの特に思い付かなかったから…ごめんね」

後輩b(ダメだこの人…)

同級生「とりあえず、こんど入ってくる一年生の面倒はあんた達がみるんだからよろしくねっ」

後輩c「は、はいっ」

後輩a「センパイもレギュラーに定着できるといいですね」

同級生「もうバッチリ! もう超余裕!」

部長「あら、自信満々なのね」

同級生「だわっ!? び、びっくり…急に現れないでよ」

部長「私が急に現れたら迷惑なの?」

同級生「い、いえ…そういうわけでは……」

部長「そう、ならよろしい」

後輩b(……何か弱味でも握られてる?)


996 ◆eXN6fvAgkw2011/10/12(水) 09:05:42.76zFEalOsAO (8/12)

部長「あなた達もいよいよ二年生ね。これからもっと練習が厳しくなると思うけど、頑張るのよ?」

後輩a「はいっ!」

同級生「あーお腹すいてきた。昼過ぎだしなんか食べに行きたくない?」

後輩a「いいですね、行きたいです!」

後輩b「部長はどうします?」

部長「私は遠慮するわ。これから用事があるの、ごめんね」

同級生「ほっ…」

部長「なに?」

同級生「い、いえ!? 残念だなぁー!」

後輩b「あんたは来るでしょ?」

後輩c「うんっ」

後輩a「それにしてもさぁ……なんか変わったよね」

後輩c「え…?」

後輩a「前は暗くて口数も少なかったけど、今は明るくなったじゃん」

後輩b「ほんと、一年の頃と比べるとだいぶ変わったよあんた」

後輩c「そ、そうかな…えへへ」

後輩c「あ、で、でも二人のおかげだよ? 二人が友達になってくれて本当に嬉しかった」

後輩c「センパイたちにもお世話になったし」

同級生「いやー、それほどでも」

後輩c「それと純先輩にも…色んなことをたくさん教えてもらって……」

後輩c「私、ジャズ研が大好きです。だから二年生になったら一年生にも大好きって言ってもらえるような部活にしたいです!」

後輩a「おおっ、熱いね!」

後輩b「いいんじゃない、それ。素敵ね」

後輩c「えへへ」

部長「すごいわね。あの子、あなたより立派よ」

同級生「そ、そんなことない! 私だって……!」

同級生「みんなより、百万億兆倍がんばる!!」

部長「……やっぱり心配ね、あなた」


997 ◆eXN6fvAgkw2011/10/12(水) 09:07:40.03zFEalOsAO (9/12)

・・・・・

純「――こうやって憂と二人で軽音部に向かってると、あの日のこと思い出すなぁ」

憂「あの日?」

純「ほら、初めて部活見学しに行った時」

憂「あ~思い出した。二人で軽音部の見学に行ったよね」

純「あの時は驚いたなぁ。いきなりお茶出されるし、ジャージだったし」

憂「あははっ」

純「ま、そんなこんなでジャズ研に入った私だけど、結局軽音部にも入るんだもんね」

純「一年の頃の私がそんなこと聞いたら絶対驚くよ」

憂「私は部活やってこなかったし、楽しみだなぁ」

純「しかしまぁ…」

純「これで一年生が入部してこなかったら結局廃部なんだけどね」

憂「それは言わないであげて純ちゃん…」


998 ◆eXN6fvAgkw2011/10/12(水) 09:08:51.55zFEalOsAO (10/12)

純「全ては春休み明けにかかってるかぁ…どうなることやら」

憂「だ、大丈夫だよ! 一人ぐらいはたぶん」

純「そうであってほしいけどさ。…いざって時は一年を拉致して無理やり入部させる、とか?」

憂「それはやり過ぎだよ」

純「でもやっぱり不安なんだもん。ジャズ研のみんなに兼部するって言った手前、廃部になっちゃったら格好つかないし」

憂「ジャズ研の人たち、純ちゃんが兼部すること認めてくれたんだ」

純「まぁ一応ね。さっきセンパイに色々言われたりもしたけど」

純「でもみんな、ちゃんと分かってくれた」

憂「そっかぁ、優しい人たちなんだね」

純「うんっ」

憂「…ごめんね、純ちゃん一人に大変なことさせちゃって」

純「ぜーんぜん。何も問題ないよ、憂」



999 ◆eXN6fvAgkw2011/10/12(水) 09:10:03.46zFEalOsAO (11/12)

憂「だけど……」

純「……ならもっと早く入部してればよかったのかな」

憂「え?」

純「ジャズ研入ったことに後悔はないし、むしろ良かったと思ってる……でもあの時、一年の時に軽音部とジャズ研、どっちを選んだ方が正しかったんだろうって考えたことがあって」

純「ジャズ研のみんなは事情を分かってくれたけど…やっぱり、今回ばかりは自分の都合のいいように勝手しちゃったかな」

憂「純ちゃん……」

純「でもさ、それでも不思議なことに後悔は全くないんだよね」

純「もしジャズ研に入ってなかったら」

純「もし私がベースを弾いてなかったら」

純「もし梓と友達になってなかったら」

純「どれか一つでも欠けてたら今の私はいないわけだし、だったら別に今までやってきたことは悪いことじゃないんだなって思うようにもなった」

純「そして今の私が軽音をやりたいと思ってるのなら、それでいいと思う」

純「まぁなにが言いたいかっていうと」

純「今の気持ちを、大切にした方がいいのかな…ってこと」

純「だから憂が気にすることじゃないの。私は、私がやりたいようにやっただけなんだから」


1000 ◆eXN6fvAgkw2011/10/12(水) 09:11:52.05zFEalOsAO (12/12)

憂「純ちゃん…ありがとう」

純「どういたしまして」

憂「…お姉ちゃんたちがいなくなって、学校の景色が変わっちゃうね」

純「これからは私たちの時代でしょ。軽音部、じゃんじゃん盛り上げようよ!」

憂「うんっ!」

純「とりあえず軽音部に入ったらティータイムを楽しもうかな。一度やってみたかったし」

憂「純ちゃんってば、そればっかはダメだよ?」

純「分かってるって。練習もやります」

純(あっ、そうだ。ジャズ研との合同練習とかあったら面白そうかも……今度提案してみようかな)

憂「純ちゃん、もうすぐ軽音部だよ」

純「今は梓一人かな…?」

憂「たぶん……お姉ちゃんたちはもう行っちゃったと思う」

純「きっと寂しがってるんだろうなぁ、梓。泣いてたりして」

憂「ふふっ、ありえるかも」

純「梓のことだから、だいたい想像つくよね。結構単純だし」

憂「でもそれも梓ちゃんのいいところだよ」

純「まぁね……さてと、それじゃ」

純「梓を驚かせにでも行きますか」

ガチャッ――

##22 おわり