519VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 18:17:59.50ohhIZC8s0 (14/24)


オペレーター「大気圏突入準備できました」

シノン「よろしいですか、艦長?」

パオロ「あぁ、頼む……」

シノン「大気圏突入を開始!」

オペレーター「……! レーダーに反応! 四機、接近してきます!」

シノン「なに!?」

オペレーター「し、識別でました! メタルアーマー、ファルゲン・マッフです!!」

パオロ「ファルゲン・マッフだと……! ギガノスの蒼き鷹……ハルヒ・スズミヤ・プラートか!」

オペレーター「別方向からも高速接近してきます。し、識別、アラストール!」

パオロ「あ、赤い彗星だ……炎髪灼眼、フレイムヘイズのシャナだ! に、逃げろ……!」



520VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 18:18:33.95ohhIZC8s0 (15/24)


シャナ「連邦の新兵器がなんだろうと関係ないわ、作戦行動が限られる大気圏を背にした今、木馬を切る!」

 ジオン軍少佐、シャナは生身のまま刀を手に宇宙を駆ける。燃え上がる刀身と長い髪が彼女にジオンの赤い彗星というあだ名をつけさせた。

ハルヒ「恨みはないけれど、悪く思わないでよね」

 ギガノス軍大尉、ハルヒ・スズミヤ・プラートが乗るギガノスの最新鋭メタルアーマー、ファルゲン・マッフ。暗い藍色のカラーリングがギガノスの蒼き鷹と呼ばれる所以だ。

 ファルゲン・マッフの後ろにはプラート直属の親衛隊、プラクティーズの三機が続く。

キョン「ハルヒ! 急ぎすぎだぞ! 俺達の機体じゃ追いつけん!」

ハルヒ「だったら後からついてきなさいよ! 赤い彗星に沈められたら私たちの功績として認められないわよ!」

キョン「くっ……!」

古泉「情報によれば、今の木馬は正規の軍人が少ないようです。ここは涼宮さんを先行させたほうが奇襲として効果が高いでしょう」

長門「…………通信、参謀本部から」

ハルヒ「なによ、この大事なときに!」 

ドルチェノフ「ふふん、幸先はいいようだな、プラート君」

ハルヒ「ドルチェノフ……何よ! 作戦中にアンタの顔なんか見たくないわよ!」

ドルチェノフ「反抗的な貴様に釘を刺してやるのだ」

ハルヒ「わかってるわよ! もしもみくるちゃんに手を出したら承知しないわよ!」

ドルチェノフ「ふん、貴様の態度しだいだ。まずはD兵器を手に入れて見せろ」

ハルヒ「バカなこと言ってるんじゃないわよ! 大気圏のすぐ近くでそんなこと考えて戦闘できるわけないでしょ!」

ドルチェノフ「できるかできないかの話ではない。やれと言っているんだ。裏切り者のプラート博士の娘」

ハルヒ「……絶対に殺してやる」

 ハルヒは口の中で呟いていた。



521VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 18:19:00.51ohhIZC8s0 (16/24)


 ホワイトベース 格納庫

リュウ「ガンダムが動かせないだと!?」

整備士「は、はい! モーターの調子がうまくいかなくて……」

リュウ「えぇい、俺はコア・ファイターで出る!」

なのは「私が……あの赤い彗星と……」

シノン「いきなりこんなことを任せてごめんなさい。だけど、今の私たちでは生身の人間である赤い彗星を捉えきれないの」

シノ「私たちもあの蒼き鷹とまともに戦えるかわからないが、頑張ってみせる」

リュウ「高町は俺がフォローする! とにかく出撃するぞ!」

なのは「……はい!」

 バリアジャケットを纏ったなのはの目の前でカタパルトが開く。
 無重力空間の吸い込まれる感覚がなのはを引っ張る。
 フライ・アーフィンを出して、飛び出すと、小さく燃え盛る炎が目に映った。

シャナ「出てきたわね……あれが私と同じ能力の持ち主!」

なのは「目的は大気圏突入までの時間を稼ぐこと……ディバイン・シューター!」

 なのはの周囲に三つ光りの弾が生まれ、それがシャナに向かって飛ぶ。

シャナ「その程度!」

 シャナが刀を振るうと光球は三つとも弾けて消えてしまった。

シャナ「はあぁ!」

なのは「……っ!」

レイジングハート「protection」

 レイジングハートが緊急展開した魔法障壁がシャナの燃える刀身を受け止めた。だが、

シャナ「切り裂く!」

 ピッ……パリィィィィン!

なのは「障壁がっ!」

シャナ「もらった!」

リュウ「やらせるかぁっ!」

 シャナが再び刀を振り上げると同時に、コア・ファイターが突っ込んできた。シャナがそちらへ敵意を向けた直後にリュウは操縦桿を思いっきり倒して急角度で上昇した。その隙になのははシャナから距離を取ることに成功した。

シャナ「ちっ、邪魔をする!」



522VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 18:21:45.51ohhIZC8s0 (17/24)


 ジオン軍とは別方向から攻め上がるメタルアーマーへドラグナーが降りていく。

ハルヒ「D兵器が出てきた! 好都合ね」

 受け取ったデータ通りの機体を三機、目視したハルヒは目を細めハンドレールガンの照準を合わせた。

ハルヒ「関節を破壊すれば……っ!」

 違和感に気づいたとき、ハルヒは機体を急下降させた。

ハルヒ「照準線がぶれる……この距離で……強いジャミングを受けているというの……?」

 先頭を走っている敵のD兵器は停止していた。罠にかかるのを待っているとハルヒは気づいた。

ハルヒ「虎穴にいらずんば……行ってやるわ!」

 ハンドレールガンを左手に持ち替え、右手にレーザーソードを握ったファルゲン・マッフがドラグナー1型に接近する。やはり照準がぶれる。

ハルヒ「弾は嫌いなようね……ならば!」

 ハルヒはそのままハンドレールガンを撃った。乱射と呼んだほうが適切な射撃で弾倉を空にするとすぐに銃を捨てて左手にもレーザーソードを持った。

シノ「あれがギガノスの蒼き鷹……速い!」

 宇宙空間を走る実弾は速度を落とすことなく半永久的に飛び続ける。ファルゲンの銃弾の雨でシノたちは付け焼刃の隊列を乱されてしまっていた。

 そして、目の前には既に蒼き鷹が迫っていた。

ハルヒ「何も考えずに戦場に出てくるなぁ!」

 右手のレーザーソードが1型のハンドレールガンを叩き落したかと思ったときには、左手のソードが切っ先をまっすぐこちらに向けて突き出されていた。ほんの一瞬の間に1型の右肩が破壊された。

シノ「くうっ!」

アリア「シノちゃん!」

 1型の後ろにいるアリアが撃てばシノに当たる可能性がある。後ろに回り込もうとしたが、そこにはキョン専用ゲルフ・マッフと長門専用レビ・ゲルフ・マッフが待ち構えていた。

キョン「そんな素人じみた戦法が役に立つか!」

 二つ並んだハンドレールガンが同時に火を噴いた。



523VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 18:22:14.63ohhIZC8s0 (18/24)


 ホワイトベース 格納庫

すずか「…………」

ランコ「失礼。あなたが月村すずかさんですね」

すずか「……そうですけど、あなたは……?」

ランコ「私、桜才学園新聞部の畑ランコと申します。すずかさんがガンダムを動かしたと聞いて少しお話をと思いまして」

すずか「は、話すことなんて……」

ランコ「ごく簡単なことですので、どうしてガンダムの動かし方を知っていたのですか?」

すずか「お、お姉ちゃんが開発部門で、あと、マニュアルが落ちていたからです……」

ランコ「なるほど……それでは、どうしてガンダムに乗ろうと思ったんでしょうか?」

すずか「そ、それはなのはちゃんが……!!」

ランコ「どうしました、すずかさん?」

すずか「は、畑さん、そのお話また後でいいですか!?」

ランコ「はい、私は構いませんよ。私は今や戦艦に乗る美少女たちを撮影する戦場カメラマンですから」

すずか「ありがとうございます。ごめんね、なのはちゃん……」

ランコ「戦いに向かう美少女……シャッターチャンスムッハー」カシャカシャ

すずか「そ、そんなに撮らないでくださいぃぃ」



524VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 18:25:15.09ohhIZC8s0 (19/24)


 桜色の魔力。紅く燃える刀。そしてコア・ファイターがドッグファイトを繰り広げる宙域に新たな客がやってくる。

デニム「少佐! お助けにあがりました!」

シャナ「いいタイミングよ、曹長! あのハエをやっちゃって!」

デニム「了解!」

リュウ「ちぃっ!」

シャナ「さぁ、連邦の白いの、覚悟しなさい!」

なのは「あ、赤い彗星さん! どうしてこんなことを!?」

シャナ「どうして? 私たちは戦争をやってるのよ!」

なのは「戦争だからって、こんな……!」

 魔法を断ち切るシャナの刀になのは飛びながらシューターを撃って時間を稼ぐが、戦闘経験の差は歴然である。

シャナ「私には、やらなくちゃいけないことがあるのよ! そのためにはまずあんたたちが邪魔なのよ!」

 フラッシュムーブで高速移動するなのは。しかし半秒後にはシャナが肉薄していた。読まれていたのだ。

シャナ「落ちろぉ!」

 ズォッ! 燃える刀身がなのはのバリアジャケットに食い込んだ。

なのは「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 悲鳴は痛みではなく、レイジングハートの緊急回避になのはがびっくりしたものだ。
 シャナは開いた距離を埋めようと刀を腰に引いた。

シャナ「とどめ――ッ!?」

 ズギュゥーン! そのとき、一条のビーム光がシャナの前を通り過ぎ、彼女は動きをぐっと我慢して止めた。

すずか「なのはちゃん!」

 ホワイトベースのカタパルトにガンダムが立っていた。手のビームライフルをすずかは今度はザクに向かって撃った。

デニム「メガ粒子砲!? うおぉ!!」

シャナ「デニム曹長! 連邦はビームライフルの実用化に成功していたのか!」

 ビームライフルの直撃を受けたデニムのザクは一瞬で塵と化してしまった。

シャナ「贄殿遮那(にえとののしゃな)じゃ、化学兵器であるビームは切れない……三対一でまぐれ当たりなんかしたくないわ」

なのは「あ、あの……」

 シャナはマントの内側に自分の体を包み込み、上に跳んだと思ったら見えなくなっていた。

なのは「あ……」

すずか「なのはちゃん……」

なのは「すずかちゃん……いいの、ガンダムに乗って……?」

すずか「うん、なのはちゃんが頑張っているのに私だけなんていやだから……」



525VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 18:30:31.80ohhIZC8s0 (20/24)


 一方、ドラグナーチームは経験も数的有利もなく、苦戦していた。

 ズシャァァァァァ!

シノ「くっ、もう左肩もやられた!」

ハルヒ「終わりにしてやるわ! てぇぇい!」

 ハルヒはレーザーソードを腰に引いた。機動力を失った今、最後の一突きで頭部を破壊すれば、何も出来なくなるはずだ。

 だが――

???「コズモワインダービーム!」

キョン「っ! ハルヒ!」

 全くの死角から飛んできたビームをハルヒが避ける術はなかった。
 ビームとハルヒを結ぶ線の上にキョンのゲルフ・マッフが割り込んだ。

キョン「ぐっ!」

ハルヒ「キョン!? くっ、何者よ!?」

 ハルヒを撃ったのは、真紅の手足に鎧のような装甲を持つ巨大なロボットだった。全長はドラグナーの倍はあるだろう。

 それをモニタ越しに視認したとき、宇宙空間に声が轟いた。

こなた「夜空の星が輝く陰で!」

かがみ「ワルの笑いがこだまする!」

つかさ「星から星に泣く人の!」

みゆき「涙背負って宇宙の始末!」

かがみ「銀河旋風ブライガー! お呼びとあらば即参上!」

こなた・つかさ・みゆき「イェーイ!」

ハルヒ「銀河旋風ブライガー!? まさか、コズモレンジャー・J9!」

 ジェイナインジェイナイン ナサケームヨウ
 アステーロイドーベルトノー
 アウトーローモーフルエーダスー
 コズモレンジャージェイナイン!
 ウチュウクウカンーツッパシルノサー ブライサンダー! ブライサンダー!
 ジュウマンコウネンーホシノキラメキー トビカウー ブライスター!
 ヒロガルプラズマ! ウッー! ウッー! ウルフノーマァーク
 アッー! アッー! アイツハー ギンガセンプウー
 ギーンガーセンプウー ブライガー ブライガー! ブライガー!



526VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 18:31:48.79ohhIZC8s0 (21/24)


 ホワイトベース ブリッジ

シノン「コズモレンジャー・J9……どうしてこんなところに……?」

アリサ「通信が入ります。J9、カガミ・ヒイラギからです」

かがみ「ホワイトベース隊の皆さん。J9の柊です。艦長はどなたでしょう?」

パオロ「私だが……既に指揮権は香月シノンにある」

シノン「香月シノンは私です」

かがみ「シノンさん、よろしくお願いします。私たちは連邦政府から仕事を依頼されて来ました。内容はホワイトベースの大気圏突破の手伝い。という訳で援護させていただきます」

シノン「了解しました。協力感謝します。レビル将軍はなぜ教えてくれなかったのでしょうか……?」

パオロ「おそらく、極秘に要請していたのだろう……スペースノイド蔑視の中、それよりも外宇宙の者に手を借りるのだから」

シノン「そうですね……」

かがみ「さて、ギガノスの蒼き鷹さん。ここから先は私たちJ9が相手になるけど、参考までに教えておくと、赤い彗星のほうは既に撤退しているわよ」

ハルヒ「……撤退よ」

キョン「ハルヒ!?」

ハルヒ「これ以上時間を喰っては大気圏に巻き込まれるわ」

こなた「そーれが正しーい選択だねぇ~」

ハルヒ「あんた……なんかむかつくわね」

こなた「そーかな? 私はなんだか他人に思えないけど」

ハルヒ「勝負は預けるわ、D兵器。次からは落とすつもりでいくわよ」

シノ「やはり手加減してくれたのか……私には君が悪い人には思えない」

ハルヒ「そうね、弱くてもあなたの太刀筋は綺麗だったわ。別の形で逢えたら良かったわね」

 ファルゲン・マッフは青色の機体を翻して去っていった。その後ろにプラクティーズの三機も従って消えた。

シノ「……しまった」

スズ「どうしたんですか、会長」

シノ「彼女の名前は知っていたから失念していた。私は名乗っていない」

こなた「まーた会いましょうって言ってたんだーから、いーつでも名乗れるとおーもうよー」

シノ「そうだな……」



527VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 18:33:13.24ohhIZC8s0 (22/24)


 ホワイトベース ブリッジ

かがみ「来て早々ですが、大気圏突入を見届けたら、私たちは離脱させていただきます」

シノン「そうですか、出来ればこれから先も協力してもらいたいのですが」

かがみ「それは私たちもですが、次の依頼が入っています」

シノン「わかりました。ご協力感謝します」

みゆき「もしかしたら、近いうちにまたお会いするかもしれませんよ」

つかさ「どういうこと、ゆきちゃん?」

みゆき「次の依頼は、外宇宙から地球までの護衛みたいですから」

こなた「わーお、今度こそ降りられたらいいねー、聖地アキバを見て回りたいよー」

かがみ「はいはい。それじゃ、失礼します」

こなた・つかさ・みゆき「イェーイ!」

アリサ「通信、切れました」

シノン「独特な人たちでしたね」

パオロ「あぁ……彼女たちのようなものを受け入れていくことが、地球連邦には必要なのかもしれない」

シノン「はい。機体の収容も完了しましたし、大気圏突入を開始します」

アリサ「大気圏突入開始! ……5、4、3、2、1、大気圏、入りました」

 ヴーヴーヴー! 誰もがほっとしていたとき、警戒音がブリッジに鳴り響いた。

オペレーター「は、反応が! あ、アラストールです!」

パオロ「なんだと!?」



528VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 18:33:52.07ohhIZC8s0 (23/24)


 ホワイトベース ブリッジ

かがみ「来て早々ですが、大気圏突入を見届けたら、私たちは離脱させていただきます」

シノン「そうですか、出来ればこれから先も協力してもらいたいのですが」

かがみ「それは私たちもですが、次の依頼が入っています」

シノン「わかりました。ご協力感謝します」

みゆき「もしかしたら、近いうちにまたお会いするかもしれませんよ」

つかさ「どういうこと、ゆきちゃん?」

みゆき「次の依頼は、外宇宙から地球までの護衛みたいですから」

こなた「わーお、今度こそ降りられたらいいねー、聖地アキバを見て回りたいよー」

かがみ「はいはい。それじゃ、失礼します」

こなた・つかさ・みゆき「イェーイ!」

アリサ「通信、切れました」

シノン「独特な人たちでしたね」

パオロ「あぁ……彼女たちのようなものを受け入れていくことが、地球連邦には必要なのかもしれない」

シノン「はい。機体の収容も完了しましたし、大気圏突入を開始します」

アリサ「大気圏突入開始! ……5、4、3、2、1、大気圏、入りました」

 ヴーヴーヴー! 誰もがほっとしていたとき、警戒音がブリッジに鳴り響いた。

オペレーター「は、反応が! あ、アラストールです!」

パオロ「なんだと!?」

シノン「赤い彗星……まさか、大気圏をも越えるというの……!?」



529VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/15(火) 18:34:41.04ohhIZC8s0 (24/24)


 大気圏中

シャナ「ふふふ……ここなら厄介者は一人しか出てこないわ。皆殺しにしてあげる!」

 ホワイトベースの砲口が彼女に向けられるが、こんなものに当たるくらいなら、少佐の階級章は与えられていない。シャナは刀を上段に構え、一息にブリッジに突進した。

シャナ「落ちろぉーっ! ッ!!」

 だが、刃がホワイトベースに触れる寸前、シャナはブリッジにいる少女に目を見開いた。

シャナ「あ、アルテイシア……?」

 通信機の前にいる金髪の少女と目が合ったとき、思わず彼女はそう口にしていた。

アリサ「きゃ、キャスバル姉さん……!?」

 シャナの声が聞こえるはずがない。アリサもまた目を合わせたとき、彼女が、あの赤い彗星が自分の姉であることを知った。

シャナ「アルテイシアがいるなんて……くっ」

 いつまでも攻撃がこないことにシノンたちが覚悟したはずの生を再確認したとき、既に赤い彗星はいなくなっていた。


 第二話 始動! 連邦、V作戦! 完



530テスト2011/02/16(水) 16:47:32.24+EdLTGcq0 (1/11)

ズドドドドドドドドッ! 


531VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 17:18:01.05+EdLTGcq0 (2/11)


 第三話

 光子力研究所

紬「澪ちゃん、アフロダイAの調子はどうかしら?」

澪「あぁ、なんとか慣れてきたよ」

唯「それにしても、光子力研究所の試作型ロボットのパイロットが澪ちゃんだなんて、びっくりだよ~」

紬「だって、アフロダイのスタイルは澪ちゃんを参考にしたんだもの」

梓「あの、二晩も泊っておいてから言うのもなんなんですが、何もしてない私や憂までここにいていいんでしょうか……?」

紬「あら、梓ちゃんや憂ちゃんはご飯を作ってくれているんだから、むしろお礼を言わなくちゃいけないわ」

さわ子「熱ぅ~い~、憂ちゃんジュース~」

憂「は~い」

梓「…………」

紬「あら? ところでりっちゃんはどこに行っちゃったのかしら?」

梓「そう言えば姿が見えないですね」

憂「なんだか、昨日の晩からおじさんと一緒に何かを作っているみたいでしたけど」

梓「すっごいヤな予感がします」

紬「あら? 格納庫のシャッターが開いているわ」

律「じゃんじゃじゃ~ん!」

澪「な、なんだあの丸いの……?」

唯「かわいい~」

律「へっへ~ん、どうだ! 律様のボスロボットは!?」

田井中「やれやれ……うちの娘も困ったもんだ……」

紬「もしかして、田井中博士が……?」

澪「こらっ、律、なにやらせてるんだよ!」

律「だってぇ~! 澪や唯ばっかりロボットに乗ってずりぃじゃ~ん!」

梓「あのロボット……顔の表情が変わっている気がするんですが……」

律「いっくぞ~! 勝負だ、澪!」

 律のボスロボットが腕を回しながら澪に向かって走っていく。

澪「ちょっと、律、なにするんだよ!」

律「喰らえぇ~! スペシャルボスロボットパ~ンチ!」

 どんがらがっしゃぁぁぁぁぁん! べんべん

紬「すごい! 一撃でバラバラになっちゃったわ!」

梓「律先輩のロボットのほうがね」

唯「あはははは! りっちゃんおもしろ~い!」

律「なんだよ、オヤジ~! こんなポンコツ作りやがって~! これじゃボスボロットだぜ~!」

田井中「そりゃあ、超合金と光子力を練成した後のジャパニウムのスクラップで作ったからなぁ」



532VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 17:20:44.34+EdLTGcq0 (3/11)


 訓練の後、全員は司令室に集まった。

紬「それでね、超電磁研究所というところが、57メートルのスーパーロボットの実用実験を行うことになったの。それに光子力研究所からもマジンガーZとアフロダイAも参加することにしたの」

律「おい、私のボロットは数に入ってないのかよ」

梓「入ってると思ってるんですか……?」

唯「ほえ~、57メートルって、マジンガーZの三倍くらいあるね~」

紬「あと、早乙女研究所というところから、ゲッターロボというのが参加するんですって」

澪「早乙女研究所って、宇宙放射能のゲッター線を研究してるところか?」

憂「あ、私も聞いたことあります。宇宙開発用の三人乗りのロボットなんですよね」

紬「そう、だけどドクター・ヘルに対抗するためにスーパーロボットが必要なの、だから戦闘用に改造されたんですって」

唯「平和のためのロボットも戦争の道具にされちゃうんだね……」

澪「唯……」

紬「そうね、でも平和のために戦ってくれるのだから、私たちは共に手を組んでいかなくちゃ。ゲッターロボのパイロットは早乙女博士のお嬢さんとその友達で、私たちとも同年代らしいわ。きっといいお友達になれるはずよ」

唯「そうなんだ、じゃあ楽しみだね」

梓「超電磁研究所のほうはわからないんですか?」

紬「それは何も聞いてないわ。超電磁エネルギーを応用したロボットだとは聞いているけれど……」

律「よぅーし、何はともあれ行かなくちゃ始まらないんだ。さっさと行こうぜ!」

唯・紬「おーっ!」



 バードス島 ドクター・ヘル本拠地

ドクター・ヘル「なるほど、兜十蔵が作ったマジンガーZと平沢唯という小娘にやられてワシが与えてやった機械獣も失ったと申すのか」

あしゅら男爵「も、申し訳ありませぬ、ドクター・ヘル様~!」

ドクター・ヘル「よもや兜十蔵が生きていようとは……頭を上げよ、あしゅら男爵。これはワシの見通しが甘かったことが原因だ」

あしゅら男爵「ははぁ~! ドクター・ヘル様の寛大なお心にあしゅらはこの身の全てを捧げことを誓います!」

ドクター・ヘル「うむ! 先日、キャンベル星人などという異星人から使者がやってきおった。奴らによると、超電磁研究所なるところにマジンガーZが現れるらしい」

あしゅら男爵「異星人の手を借りるのですか?」

ドクター・ヘル「ふん、せいぜい利用してやるまでだ。行ってくれるな、あしゅら男爵!」

あしゅら男爵「はっ! 必ずやマジンガーZを打ち倒し、ドクター・ヘル様に地球征服の達成をお届けしましょうぞ!」

ドクター・ヘル「うむ! 貴様に新たな機械獣ダブラスM2を授けよう! 見事マジンガーZの首を取ってくるのだ!」

ヘル・あしゅら男爵「わ~っはっはっはっはっはっは!」



533VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 17:22:02.34+EdLTGcq0 (4/11)


 超電磁研究所

JUM「超電磁研究所所長の桜田JUM(43)です。よろしく」

秋山「あぁ、どうも、ところで……あの小さな子たちがコン・バトラーVのパイロットなのですか?」

唯「憂ぃぃぃぃぃ! この子たち超かわいいよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

翠星石「離すですぅ、人間! 汚い手で翠星石に触れるなですぅ!」

蒼星石「あー、服がしわになっちゃうー」

澪「……ぎゅ」

雛苺「お姉ちゃんのだっこ気持ちいいなのー」

真紅「不本意なのだわ」

金糸雀「かしらー」

紬「はあはあ」

秋山「に、人形……? ローゼンメイデン……ですか?」

JUM「えぇ、本人たちが言うには鏡の扉から飛んできたらしいですが、彼女たちが持つローザ・ミスティカによって超電磁エネルギーのコンバインに成功したんです」

秋山「なるほど……彼女たちがいなければ、コン・バトラーは動かせなかったのですか」

JUM「その通りです。話を聞けば、ローゼンメイデンは全部で七体、残り二体とは敵対しているようです」

秋山「その二体もどこかの世界から飛ばされていると……?」

JUM「えぇ、水銀燈と雪華綺晶と言うらしいです。水銀燈は一度見ましたが、雪華綺晶のほうはまだ見ていません」

秋山「そうですか……ではそろそろ始めましょうか」

 唯たちは前もって研究所の外へ運ばせておいたロボットたちに乗り込む。

唯「パイルダー・オーン! マジーン・ゴー!」

澪「アフロダイA、ゴー!」

律「ボスボロット、参上だっぜ~!」

澪・梓「お前は邪魔」

律「ひでぇ」

JUM「バトルマシン、発進せよ!」

「「「「「了解! レェェェッツ・コンバイィィィィィン!」」」」」

 五つのバトルマシン――バトルジェット、バトルタンク、バトルクラッシャー、バトルクラフト、バトルマリンのパイロット脳波が同調することで初めて合体の許可が下りる。ジェットは頭に、タンクは胴体に、クラッシャーは両腕に、クラフトは左足に、マリンは右足となって超電磁の磁力によって繋がれ、コン・バトラーVとなる!

 ギュオォォォォガシイイィィィギュイーングワァァァバッシィィィーン!

翠星石「コン・バトラーV! ですぅ!」

 デレッテレッテーテテテデレテレッテッテテー
 ブイブイブイ! ビクトリー!
 コーンバイーン ワントゥースリー フォーファーイブ シュツゲキダー
 ダイチヲユルガスチョーデンジロボ!
 セイギノセンシダコーンバトラーブイー ブイ! ブイ! ブイ!
 チョーデンジヨー!ヨー! チョーデンジタツマキー!
 チョウ! デンジスピーン!
 ミターカデンジノヒッサツノワザ イカリヲコメテアラシヲヨブゼーェー!
 ワレーラノー ワレーラノー コーンバトラーブイ!



534VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 17:22:40.47+EdLTGcq0 (5/11)


真紅「不本意だわ。どうして私が腕にならなければならないのだわ」

翠星石「ふっふーん、真紅がじゃんけんで負けたのが悪いんですぅ」

真紅「こういうのは主人公補正というのがあるんじゃなくて?」

翠星石「作った奴の趣味ですぅ」

真紅「(ギロッ)」

JUM「ぼ、ぼくじゃないぞ!」

雛苺「真紅こわいこわいなのー」

金糸雀「かしらー、ヒナとカナは足でがまんしてるのかしらー」

蒼星石「ぼくは別にどこでも……」

JUM「(こいつらに脳がなくてよかった)」

唯「ほえぇぇ、かっこいい~」

律「よーし、私たちもあんなふうに合体しようぜ、ムギ!」

紬「そうね~、考えて見ましょう」

澪「ボロットは無理だろう……」

 ドッガァァァァァァン!

梓「きゃあぁぁぁ!」

紬「な、なに!?」

あしゅら男爵「わーはっはっはっは! 今日は倒してやるぞ、マジンガーZ!」

唯「機械獣!? あしゅら男爵!」

あしゅら「くくく、あれが超電磁ロボとかいう奴か。でかいだけで貧相な形だな」

翠星石「なんですってぇ! JUMが作ったものをバカにすんなですぅ!」

雛苺「なのー!」

金糸雀「私たちであのヘンテコをやっつけるのかしらー!」

あしゅら「くくく、貴様らの相手をするのは我々ではないわ。さぁ、お膳立てはしてやったぞ、キャンベル星人の将軍ガルーダよ!」

 あしゅらが天空に杖をかざすと、超電磁研究所の付近が暗くなった。

雛苺「うゆ? 真っ暗になっちゃったのー」

翠星石「いったい、何事ですぅ!?」

蒼星石「上だ、翠星石!」

 蒼星石の声に全員が空を見上げた。そこには四方八方に支柱を突き出した巨大な飛行物体があった。

ガルーダ「コン・バトラーVよ! 我はキャンベル星人の将軍ガルーダだ! この地球を侵略するために貴様たちを叩き潰す! 空中戦艦グレイドンよ、マグマ獣を出せぃ!」



535VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 17:23:14.12+EdLTGcq0 (6/11)


澪「キャンベル星人だと!?」

唯「なんだか、甘そうな名前だね」

律「つうか、趣味の悪い戦艦だな、グレイドンだってよ」

澪「(……私がまじめすぎるのか?)」

 ズドォォォォォォォォン!

 グレイドンから落ちてきたのは二体のマグマ獣、デモンとガルムスだ。

デモン「ぎゅわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」ガルムス「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!」

あしゅら「さぁ、ゆけぃ! ドクター・ヘル様の機械獣ダブラスM2よ!」

ダブラス「ぎしゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 二つの首を持つ恐竜のような機械獣、ダブラスM2がマジンガーZに向かって突進してきた!

唯「よぉ~し! やるぞぉ、マジンガーZ!」

憂「お姉ちゃん、がんばって!」

紬「澪ちゃん、アフロダイAはあくまでも実験機であって、戦闘用ではないから、無理はしないでね」

澪「あぁ、わかっている、ムギ」

梓「律先輩、唯先輩と澪先輩の邪魔しちゃダメですから、とっとと避難してくださいね」

律「私だけ扱い酷くね!? ちっくしょ~! 見てろよ、でやぁぁぁぁ!」

 ズダダダダダダ!

 突進してくる機械獣に律のボスボロットが腕を回しながら猛然と走っていく!

梓「律先輩、何やってるんですか!」

あしゅら「なんだそのポンコツは! ダブラス、ミサイルをお見舞いしてやれ!」

ダブラス「ぎゃおぉぉぉぉぉぉぉぉん!」

 ボシュッ、ボシュッ! 機械獣の口からミサイルが発射される!

律「げげっ! どっひゃぁ~!」

 慌てふためく律は回れ右をしてミサイルから逃げようとするが、ミサイルが地面に着くほうが速かった。

 チュドォォォォォォォン! ドォォォォォォン! 爆発でボスボロットが地面を跳ね回る。

律「ぎゃーっ! オシリが二つに割れちゃうだわさ~!」



536VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 17:24:05.10+EdLTGcq0 (7/11)


翠星石「さぁ、コン・バトラーVの実力を見せてやるですぅ!」

 ヤギのような形のデモンとハリネズミみたいなガルムスを前にコン・バトラーは力強く構えた。

翠星石「まずは受け取れですぅ! ロックファイター!」

 シュボボボボボッ! コン・バトラーの右手の指からミサイルが発射され、デモンに命中する。

ガルーダ「ふはははははは! そんな攻撃でキャンベル星人のマグマ獣がやられるものか! やれ、ガルムス!」

ガルムス「ぐおぉぉぉぉぉん!」

 ガルムスのとげとげの甲羅が前に向かって閉じ、ガルムスはとげとげのボールみたいになって転がってくる。

金糸雀「わわわ! あんなのが研究所に入ってきたら穴ぼこだらけになるかしら!?」

蒼星石「翠星石! 超電磁クレーンを使うんだ!」

翠星石「了解ですよ、蒼星石! 超電磁クレーン!」

 コン・バトラーの両手首がくっつき、手がトゲつきのハンマーになり、撃ち出される!

 ガッキュイィィィィィィン! ハンマーにぶつかってガルムスの動きが止まった。しかし、その上にはデモンが剣を持って飛んで来ていた。

デモン「ぎゅおぉぉぉぉぉぉん!」

翠星石「えぇいですぅ、バトルリターン!」
  
 円盤を投げつけ、デモンの動きが少し止まる間にコン・バトラーは一気に距離を詰める!

翠星石「コン・バトラーの馬力を思い知れですぅ! バトルパーンチ!」

 バキィッ! ボールのままのガルムスをぶん殴る。

翠星石「バトルキーック! ですぅ!」

 ドガッ! 蹴られたガルムスが転がっていく。

翠星石「とどめですぅ!」

蒼星石「いけない、翠星石!」

翠星石「へ?」

ガルーダ「今だ! グレイドン! 破壊光線を発射しろ!」

 ギュビィィッィィィィ! ズドォォォォォォォォッ!
 
翠星石「きゃあぁぁぁぁぁ!」

雛苺「びえぇぇぇぇぇぇ!」



537VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 17:24:56.78+EdLTGcq0 (8/11)


唯「たぁっ! りっちゃんの仇! 光子力ビーム!」

ダブラス「ぎゃおぉぉぉぉぉぉん!」

あしゅら「ちっ! ダブラス! 火炎放射で焼き払ってしまえ!」

 ボボオォォォォォォォ! 炎の先には律のボスボロットがいる。

律「わぁぁぁぁぁぁぁ! りっちゃんは焼いても美味しく召し上がれないのよ~!」

澪「律!」

 澪はアフロダイを全速力で走らせ、律の楯となって炎を浴びた。

澪「くうぅっ!」

唯「澪ちゃん! 冷凍ビームだ、マジンガーZ!」

 マジンガーZの耳のツノから冷凍ビームが発射されて炎を鎮めていく。だが、同時に大量の水蒸気が視界を覆った。

あしゅら「ふははははははは! 迂闊なり平沢唯!」

 高笑いしたあしゅらが杖をかざすと、先端についた水晶から電撃が迸った。

 ズババババババババババババ!

唯「きゃあぁぁぁぁぁ!」

律「うわぁぁぁぁぁぁ!」

澪「あぁぁぁぁぁぁ!」

翠星石「ひいぃぃぃぃぃぃ!」

 電撃は唯たちマジンガーチームだけではなく、コン・バトラーVにまで届いていた。

雛苺「びりびりするなの~」

金糸雀「かしら~」

ガルーダ「余計な真似をしてくれた、あしゅら男爵! だが、これは好機だ! とどめを差せ、グレイドン!」

真紅「大ピンチなのだわ」

翠星石「早く動くですよぉ、コン・バトラーV!」

 グレイドンの支柱についた砲口がコン・バトラーVを向く。

ガルーダ「とどめだ、コン・バトラーV!」

 ギュビィィィィィィィィ! 無防備なコン・バトラーに強力な破壊光線が襲い掛かる!

翠星石「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

???「トマホゥゥゥゥゥゥゥク・ブーメラン!」

 バッシャァァアァァァァァ! 突如投げられた巨大な手斧に破壊光線が当たり、コン・バトラーは助かった!

ガルーダ「な、なにやつ!」

 ガルーダが声を張り上げた先には、一体の真っ赤なロボットがマントをはためかせて空を飛んでいた。

綾瀬夕映「ゲッターロボ! ここに見参です!」

 ダダダダッダーダダダ ダダダダッダーダダダ ダダダダッダーダダダ ダダダダッダーダダダ
 ダッダダーダダダ ダッダダーダダダ ダッダダーダダダ ガン!ガン!ガン!ガン!
 ワカイイノチガマッカニモエーテー ゲッタースパークー ソーラータカーク
 ミータカー ガッタイー ゲッターロボダー
 ガッツ! ガッツ! ゲッターガッツ!
 ミッツーノコーコローガーヒトツニナレーバー
 ヒートツーノーユウキハー ヒャクマンパワーァ
 アークーヲユルースナー ゲッターパンチ!
 ゲット! ゲット! ゲッター! ゲッターロボ!



538VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 17:26:05.99+EdLTGcq0 (9/11)


翠星石「み、味方ですかぁ……?」

紬「あれが早乙女研究所のゲッターロボ……」

ガルーダ「ぬうぅ、邪魔者め! 破壊光線を喰らえ!」

 ギュビィィィィィィ!

夕映「オープンゲェット! 緊急回避です!」

ガルーダ「なにぃ! 分離して三つの戦闘機に!?」

のどか「チェーンジ! ゲッター2!」

 分離した三つのゲットマシンが地面の上で重なった瞬間、ガルーダたちはその影を見失ってしまった。

ガルーダ「ど、どこに消えた!? あ、穴が空いている!?」

 地面にあいた大きな穴をガルーダが発見したとき、マグマ獣ガルムスの下の土が大きく盛り上がった。

宮崎のどか「ゲッタードリルアーム!」

 ギュイィィィィィィィィィィィガガガガガガガガガガガ! ガルムスの体が白い流線型に変形したゲッター2のドリルに穿たれていく!

ガルムス「がぴぴぴぴぴぴぴぴ!」

ガルーダ「が、ガルムス!?」

翠星石「今ですぅ! 超電磁ヨーヨー!」

 コン・バトラーVのバトルリターンが合体し、ヨーヨーになった。超電磁の糸で繋がったヨーヨーを投げつけ、マグマ獣デモンにぶつける!

 ズギャイィィィィィィ!

デモン「ぎゅぎぎぎぎぎ!」

ガルーダ「で、デモンまで! おのれコン・バトラー! ゲッターロボ!」

早乙女ハルナ「おっと、まだ終わりにはしないわよ! オープンゲット! チェンジ・ゲッター3!」

 再び分離したゲットマシンが合体してキャタピラが足になった戦車のようなゲッター3になった。

 ゲッター3は倒れた二体のマグマ獣を大きな手でまとめて持ち上げた。

ハルナ「うおりゃーっ! 大・雪・山おろしーっ!」

 ゲッター3はマグマ獣を持ったままぐるぐると回り、遠心力を利用してグレイドンのほうへ思い切りぶん投げた。

ガルーダ「よ、避けろ、グレイドン! うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ドガァァァッ! マグマ獣がグレイドンの中心部に直撃した。ぐらぐらと揺れる空中戦艦にコン・バトラーの頭部が光った。

翠星石「見せてやるですぅ! 勝利のVサイン!」

 Vの字のマークが赤く輝く!

翠星石「Vレーザー!」

 ズドォォォォォォォォォッ!

ガルーダ「くっ、こんなはずでは……撤退するしかないのか」




539VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 17:26:47.70+EdLTGcq0 (10/11)


あしゅら男爵「何だと、ガルーダ! ドクター・ヘル様に逆らうのか!?」

ガルーダ「私が従うのはオレアナ様だ! 貴様でもドクター・ヘルでもないわ!」

あしゅら「お、おのれぇ~! おのれおのれおのれぇぇぇぇ!」

唯「さぁ、次はお前の番だ、あしゅら男爵!」

あしゅら「なめるでないわ! ダブラス! 辺り一面を焼き尽くしてしまえ!」

ダブラス「だぶっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ゴォォォォォォォ! 地面が飲まれるように炎に包まれた。

あしゅら「ふははははは! これで近づくことはできまい、マジンガーZ!」

唯「むむむ……こうなったら奥の手だぁ!」

 マジンガーZが片膝をついてくろがねの右手を前に突き出した。

あしゅら「何の真似だ、マジンガーZ!?」

唯「これでも喰らえーっ! ロケットパーンチ!」

 ドシュウッ! マジンガーZの右腕の肘から先が射出された! それは凄まじい勢いで機械獣ダブラスに向かって飛んでいく!

あしゅら「な、なんだとぉーっ!」

 ドガァァァァッ! ダブラスの腹に大きな穴が空いた。

あしゅら「な、なんということだ! こんなバカな! お許しくださいドクター・ヘル様ぁぁぁぁ!」

 断末魔の叫びと共にあしゅらの姿が消えていく。

唯「二度と来るなぁーっ! ふんす!」



540VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/16(水) 17:28:58.80+EdLTGcq0 (11/11)


 超電磁研究所内

JUM「どうもありがとうございます。ゲッターチームの皆さん」

ハルナ「いやいや、遅れてしまってすみませんねぇ」

夕映「自己紹介をします。私はゲッターチームでゲッター1のパイロットの綾瀬夕映です」

のどか「わ、私は……ゲッター2のパイロットの宮崎のどかですー……」

ハルナ「そして、私がゲッター3のパイロットの早乙女ハルナです」

紬「それじゃあ、あなたが早乙女博士のお嬢さんだったんですか」

唯「よろしくねー、私は平沢唯! マジンガーZのパイロットだよ!」

翠星石「翠星石ですぅ。翠星石がコン・バトラーVを動かしているですよぅ」

真紅「不本意だわ」

紬「しかし、研究所を襲ってきたキャンベル星人のガルーダとはいったい……?」

JUM「それは僕にもわかりません。ですが、彼らの会話から察するにドクター・ヘルとキャンベル星人は共闘関係にあるようですね」

律「まったく、ジオンだなんだって時に出てきやがって、空気を読めっての」

澪「違うだろ。地球がコロニーの独立で混乱しているから、ドクター・ヘルたちは行動を開始したんだろ」

紬「そうね、特に極東支部の戦力はあまり重要視されていなかったから……」

律「お偉いさん方は、自分達がいる場所だけ守れればいいんだからな、やれやれだぜ」

夕映「ですが、今日本には三体のスーパーロボットがいるです」

翠星石「そうですぅ、ドクター・ヘルだろうとキャンベル星人だろうと翠星石とコン・バトラーVでけちょんけちょんですぅ」

真紅「あなただけでコン・バトラーが動いているのではないのだわ」

JUM「そうだな、宇宙では連邦のV作戦が始まったというから、僕たちはドクター・ヘルたちの侵攻を食い止めよう」

雛苺「なのー」金糸雀「かしらー」

紬「父から聞いた話によると、佐世保の基地にそのV作戦の戦艦が降りるみたいです。先ほど大気圏を突破してきたらしくて」

JUM「佐世保に? たしか佐世保基地には先に開発されたパーソナルトルーパーというユニットが配備されると聞いたが……」

唯「それじゃあさ、みんなで佐世保に行こうよ」

梓「唯先輩?」

唯「連邦の人にドクター・ヘルとキャンベル星人について話をすれば、何とかなるんじゃないかな?」

紬「そうね……一応、報告の資料は提出してあるけど、直接話をしたほうがいいかもしれないし」

律「よーし、それじゃ、みんなで佐世保に行こーぜ!」

全員「おーっ!

唯「ところであずにゃん」

梓「なんですか?」

唯「佐世保ってどこ?」

梓「…………」


 第三話 登場! 二体の合体ロボット! 完



541VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:07:25.80iMG0wGKN0 (1/24)


 第四話

『目覚めよ……勇者……目覚めよ……勇者!』

 佐世保 とある中学校

一橋ゆりえ「あのね、光恵ちゃん、怒らないで聞いてほしいんだけど……」

四条光恵「なに、どうしたの、ゆりえ?」

ゆりえ「私、神様になっちゃったみたい……」

光恵「はぁ!? 神様って何の神様よ」

ゆりえ「それはわからないんだけど……ずっと声が聞こえるんだ……目覚めよ……とか、神に……とか」

光恵「それは普通に幻聴じゃない? 病院行ったほうがいいわよ」

ゆりえ「そうかなぁ……?」

三枝祀「いいえ、それは一橋さん、それは本当にあなたが神様になったのよ!」

ゆりえ「わっ!?」

光恵「さ、三枝さん、どうしたの、いきなり……?」

祀「一橋さん、私が来福神社の巫女だってことは知ってるわよね」

ゆりえ「う、うん」

祀「その私が言うんだから間違いないわ! あなたは神様になったのよ! 神様ゆりえちゃんよ!」

 ゆりえと光恵は昼休みに学校の屋上に行って、祀が儀式の準備をしているのを待つ。

ゆりえ「やっぱり無理だよぉ。神様なんて……」

祀「まあまあ、とりあえずやってみてよ。本当にゆりえちゃんが神様になったんなら、これで洗礼を受けられるはずだから」

ゆりえ「うぅ~ん、でも神様を呼ぶなんて、どうすればいいの……?」

祀「えっとね、とりあえず神様としての言葉を決めてくれればいいかな。もし成功すれば何かしらの形で答えてもらえるから」

ゆりえ「神様としての言葉ってどんなの……」

祀「う~ん、適当って言っちゃおかしいけど、まあ、神様としてのゆりえを象徴するような言葉かな」

ゆりえ「私を象徴するような言葉って……私、勉強も運動もできるわけじゃないし……」

光恵「だったら、中学生の神様でかみちゅでいいじゃない」

祀「いいわね、それ!」

光恵「結構、適当に言ったんだけどね……」

祀「いいじゃない。中学生の神様でかみちゅ! うんうん、これで我が神社は安泰ね」

ゆりえ「うぅ~……」

祀「さぁさぁ、ゆりえちゃん、思い切って言っちゃいなさい」

ゆりえ「う、うん……」

 ゆりえは目を閉じた。空の音がよく聞こえる。そして、それに混じって声がゆりえの耳に届いた。

『勇者よ……神を……呼ぶのだ……目覚めよ、勇者!』

ゆりえ「(この声……あなたは誰……私に呼びかける声……)

『妖魔帝国が来る……目覚めよ……勇者……目覚めよ……』

ゆりえ「か~み~ちゅ~っ!」

『ラァァァァァァァァァイディィィィィィィィィィィィィィィン!!』



542VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:10:14.84iMG0wGKN0 (2/24)


『ラァァァァァァァァァイディィィィィィィィィィィィィィィン!!』

光恵「な、なに!? 今のでかい声!」

祀「あ、あっち、海のほう!」

 祀が指差した沖には巨大な渦が巻いていた。

ゆりえ「え、えぇぇ~!」

『勇者よ……ライディーンは目覚めた。フェード・インするのだ』

ゆりえ「ふぇ、フェード・イン……?」

『「妖魔帝国はすぐそこまで迫っている……ライディーンとフェード・インしてラ・ムーの星を守るのだ……』

ゆりえ「て、手が光って……」

祀「な、なにか来るわ!」

 海に出来た渦のさらに向こう側、二本の触手を生やした奇妙な飛行物体がいくつもこちらに向かってくる。

『フェード・インするのだ……勇者!』

ゆりえ「ら、ライディーン! フェェェェェェド・イン!」

 唱えた直後、ゆりえの体が屋上から消えた。

光恵「ゆりえ!?」

祀「ど、どこに行っちゃったの?」



543VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:11:17.19iMG0wGKN0 (3/24)


 謎の光りに包まれたゆりえはライディーンの内部に転送されていた。

ゆりえ「こ、ここは……」

『勇者よ……妖魔帝国と戦うのだ……』

ゆりえ「よ、妖魔帝国って……きゃぁぁぁぁ!」

 ここが海に出来た渦の中だと気づいたとき、飛行物体がビームを撃ってきたのだ。

ゆりえ「ら、ライディーン? ここはライディーン、あなたの中なの?」

 ビュィィィィィィィ! どうやらこの無数の飛行物体はゆりえが乗るライディーンを狙ってきているようだ。

ゆりえ「きゃあぁぁぁぁぁ! ライディーン、私はどうすればいいのぉ!?」

『ゴッドブレイカーを使うのだ……唱えるのだ』

ゆりえ『ゴォォォォッド・ブレイカァァァァァァ!』

 ライディーンの右腕の装甲が伸び、剣となる。

『飛ぶのだ……勇者』

ゆりえ「と、とぉーっ!」

 ゆりえが渦の中から飛び出したことで、ライディーンの姿が日の下に晒された。そして近くにいた飛行物体、妖魔帝国の戦闘機ドローメにぶつかった。

ゆりえ「えーいっ!」

 ズバァッ! ゴッド・ブレイカーの一撃でドローメは砕け散った!

ゆりえ『ラァァァァイディィィィィィィィン!』



544VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:11:55.33iMG0wGKN0 (4/24)


 佐世保 此花学園

 突如海に現れた渦と飛行物体に男子禁制の女子校も落ち着きをなくしていた。

天使ヒカル「早く、急ぐんだ! 春風、蛍、氷柱!」

立夏「早く早く! うっひゃぁ、マジヤヴァイ!」

春風「ちょ、ちょっと……ヒカルちゃん、立夏ちゃん、足速すぎ……」

蛍「はぁはぁ……」

氷柱「ホタ姉、大丈夫?」

蛍「う、うん、なんとか……」

 遠く離れたところでは、ゆりえの乗ったライディーンが戦っているが、この天使家十九人姉妹の三女から七女の五人はもちろんそんなことは知らない。
 ただ、いきなり発令された警報にランチを中止して一斉に生徒会室に向かって走ったのだ。

ヒカル「はぁはぁ……霙姉は何かあったらここに来いって言っていたけれど……」

春風「ひ、ヒカルちゃん、これ、通信機が光ってる」

 生徒会長の机の隣にある通信機。ヒカルは躊躇うことなくそれを手にした。

霙『やぁ、ようやく取ってくれたか。春風か、それともヒカルか?』

ヒカル「ひ、ヒカルです。霙姉」

霙『そうか、まあそんなことは宇宙の塵のようにどうでもいいことだが、これから話すことは大事なことだ』

ヒカル「な、なんですか?」

霙『うむ、とりあえずは生徒会長の机の引き出しの一段目と三段目を取り出してくれ』

 この緊急時にいったい何をと思いながら言われたとおりにヒカルは姉妹に引き出しを出させた。

 ごごぉん……! すると、地鳴りがして、応接用のテーブルの下に階段が出てきた。

立夏「何コレ!? 隠し階段ってやつ!? ヤヴァイッ!」

霙『どうやらちゃんと作動したらしいな。その後は簡単な話だ。その下にある二つのものに乗って、此花学園を守ってくれ。そうだな、ヒカルと立夏がいいだろう。今日は氷柱はツライだろうからな。洒落じゃないぞ』

 ちらりと氷柱の方を見ると、お腹を抱えてソファに青い顔で座っていた。
 一緒に住んでいるとはいえ、何で霙姉はそんなことを知っていたのだろうかとか考える余裕はなかった。

霙『私と海晴もそっちに向かっている。たぶん、海晴のほうが早く着く。まあ、それまでは頑張ってくれ』

ヒカル「ちょ、ちょっと、霙姉!? ……切れた」

立夏「お、お姉ちゃん、ヤヴァイッ!」

 勝手に階段を下りていた立夏の声が聞こえてきた。急いでヒカルが後を追うと、そこは格納庫のようだった。



545VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:12:24.26iMG0wGKN0 (5/24)


ヒカル「こ、これは……」

 そこには二体のロボットが立っていた。先鋭的なフォルムで黒いカラーリングが施されている。

立夏「お姉ちゃん、これゲシュペンストだよ! 連邦の新兵器のパーソナルトルーパー!」

ヒカル「まさか、霙姉はこれに乗れと言ってたのか……ってこら立夏!」

 ヒカルが姉の真意を確認したときには立夏はツインテールを振ってエレベーターに乗っていた。
 いや、既にゲシュペンストのコクピットにもぐりこんでいた。

立夏「ヨーシッ! 立夏がゲシュペンストで悪者をやっつけてやる。この星の明日のためのスクランブルだー!」

ヒカル「あ、あのバカ!」

 急いでヒカルももう一体のゲシュペンストのエレベーターに乗った。

ヒカル「立夏! せめて私が乗るまで待ってろ!」

立夏「えぇーっ!」

ヒカル「じゃなきゃ今日のおやつは抜きにするぞ! 春風の特製ホットケーキをちびたちにやってしまうぞ!」

立夏「げげっ! それはイヤーッ!」

 おやつ抜きが効いたのか、立夏はおとなしくヒカルが乗り込むのを待った。

ヒカル「いいか、立夏。霙姉と海晴姉が来るまで時間を稼げばいいんだからな」

立夏「わかってるってばー!」

 此花学園でも必修ではないが、機動兵器の講習がある。
 電源の入れ方からカメラの点け方、操縦の仕方までまるっきり習ったとおりだったため、二人ともすぐにゲシュペンストを動かすことが出来た。

ヒカル「よし、立夏。順番に出るぞ」

立夏「オーッ!」

 ゲシュペンスト頭上の天井が開く。ヒカルは家族を守る強い男役になりたかった。それが出来ることがうれしかった。

ヒカル「ゲシュペンスト、発進!」

立夏「ゲシュペンスト! エヴリウェイユゴー!」

 勢いよく二機のゲシュペンストが空に飛んだ。力強い太陽の光りが待っていたように感じられた。

 コノホシノーアシタノタメノースクランブルダー
 マモレトモヲ タオセテキヲ シュツゲキスーパーロボットタイセンダー
 ココロモヤシテータチムカーエバー ヤミヲキーリサーイテーカガヤケールゼー
 ホコリタカーキー ハガネノキョタイー キボウノセテトベヨニジノカナーター ダダッダッシュ 
 パワーサクレツファイトォーッ! ネッケツヒッチュウダー
 ソノテデツカメショウリー シュツゲキ! スーパーロボットタイセンダーッ!



546VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:13:45.75iMG0wGKN0 (6/24)


ヒカル「しかし、此花を守ると言われても、どうしたらいいのやら……」

立夏「お姉ちゃん、あっち、あっちのほうで何かやってる!」

 言いながら立夏はゲシュペンストのブースターを噴かしていた。その先にはライディーンに乗ったゆりえと無数のドローメが戦っている。

立夏「ホラホラ、オネーチャン! どう見ても悪者の戦闘機だよ。悪者とウルトラマンが戦っているよ」

ヒカル「いや、どう見てもウルトラマンじゃないだろう……」

ゆりえ『ゴォォォォッド・アロォォォォォォ!』

 ライディーンの手から矢が投げられ、ドローメが落ちていく。

ヒカル「よし、とにかく、あのロボットを助けよう!」

立夏「リョーカイ! スプリットミサイル、発射ーっ! チャオ!」

 ギュボボボボボボ! ヒカルと立夏が二機で発射したスプリットミサイルがドローメに命中して落としていく。

ゆりえ「あ、連邦の味方さんだ。うーっ、助かったぁ~……」

ヒカル「プラズマカッターで接近戦を仕掛ける!」

 ヒカルがゲシュペンストにプラズマカッターを持たせてドローメを次々と落としていく。
 後ろから続いてくる立夏も面白いように落としていく。

立夏「にゃはははは! どんどん行くよーっ!」

ヒカル「立夏、あまり調子に乗るな。見ろ、まだたくさんいるぞ」

立夏「げげっ! ひーふーみー……うひゃー、数えランナイ! ヤヴァイ!」

ヒカル「立夏! 後ろ!」

立夏「へ?」

 立夏の後ろには撃ち洩らしたドローメが集まっていた。

 ギュビィィィィィィィィィィィィィ! 一斉にドローメがビームを撃った。

立夏「うぎゃーっ!」

ヒカル「立夏! ……ッ!」

 ふらふらと落下しそうになる立夏のゲシュペンストを支えたヒカルが辺りを見ると、百を超えるドローメが二機のゲシュペンストと一機のライディーンを取り囲んでいた。



547VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:14:30.09iMG0wGKN0 (7/24)


ヒカル「くっ……」

ゆりえ「あわわわ……」

 ドローメが一斉にこちらに触手を向け、発光し始めた。ヒカルはここまでかとぎゅっと目をつぶる。

 だがそのとき、ヒカルのゲシュペンストに声が届いた。

海晴「オクスタンランチャーのEモード~、ウチのかわいい妹をいぢめてくれちゃったお礼よん」

 ギュォオッ! ズバババババババババ! ゲシュペンストのレーダー外から強力なエネルギービームが飛来し、ドローメを一瞬にして蒸発させていった。

ヒカル「い、今の声は……み、海晴姉!?」

海晴「はろ~、ヒカルちゃん、立夏ちゃん。ここから先は私とヴァイスちゃんにお任せあれ~」

 天使家の長女海晴が駆る白銀のヴァイスリッターが戦闘機にも勝る速度でゲシュペンストの頭上を越えていった。
 そして大きく円を描くように急上昇してから急降下。ドローメを真下に捉えていた。

海晴「天に凶星。地に精星~あら、これってネタバレかしら? 落ちる花は流れる水に身を任せて~ビームキャノンもあ~めあられ~あ~れぇ~」

 テスラ・ドライブ搭載で限界まで軽量化されたゲシュペンストの改良機ヴァイスリッターが垂直落下しながら左腕部のビームキャノンを乱射する。
 無茶苦茶な機動ながら三人には当たらないのは海晴の腕だろうか。

ヒカル「す、すごい……」

立夏「むむむ……立夏も海晴オネーチャンに負けてランナイ!」

ヒカル「あっ、おい、立夏!」

 機体自体はそれほど損耗していなかったため、立夏のゲシュペンストがヒカルの手から離れてまた勝手に飛び回ってはスプリットミサイルやニュートロンビームを撒き散らしていった。

ゆりえ『わ、私も頑張ります。ライディーン、ゴォォォォッド・ブウゥゥゥゥメラン!』

 ライディーンのゴッドブレイカーが投げられて、ドローメを潰していく。

 その光景を湾岸で赤い機体が眺めていた。

霙「フッ、私とアルトの出番は無さそうだな……ん、なんだ、あの空の翳りは?」


 佐世保郊外 天使家

観月「あ、あぁ……あ」

小雨「どうしたの、観月ちゃん?」

 天使家の十九人姉妹の小学生以下の子たちは全員家にいた。
 この中の一番の年長者として麗と協力してみんなを見ていた小雨の傍で観月が目を見開いて震えだした。

観月「く、来る……開いてしまう……」

小雨「どうしたの、観月ちゃん、何が来るの?」

 観月はまだ四才の十五女だが、九尾の狐が守護霊についており、そのために霊感が非常に強く大人びている。
 その観月がここまで怯えているのは、何かとてもよくないことが起きる。
 以前のコロニー落としのときも観月は遠い土地のことを強く感じてしまい、寝込んでしまった。

小雨「観月ちゃん、落ち着いて……」

観月「あぁ……開く……魂の扉が……よくないものが来てしまう……!」

さくら「小雨ちゃん、お空が変なの、怖い色してるの!」

 十六女で泣き虫のさくらに抱きつかれた小雨が窓の外を見ると、暗い虹色の渦巻きが出来ていた。



548VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:15:14.33iMG0wGKN0 (8/24)


 佐世保 沖

 あらかたのドローメを倒した海晴もまた、空の変化に気づいた。

海晴「なに、あの空……気味の悪い色……」

ヒカル「あれはいったい……」

立夏「うえぇ、おいしくなさそーな色……」

ゆりえ「ライディーン……と何か関係があるのかな……?」

 渦巻きは台風みたいにどんどん大きくなっている。その中心がきらきらと輝きだした。
 蝶の鱗粉にも似た輝きの粒は数を増していき、渦の中心が完全に覆われたとき、点滅するホログラムが浮かび上がるかのように巨大な戦艦が二隻とそれに追従しているらしい無数の飛行物体が現れた。

立夏「なにアレェ!? ヤッヴァイ! とにかくヤヴァイヨ!」

海晴「あんな戦艦、見たことも聞いたこともないわ……いったい何が起こっているの……?」

 突如佐世保上空に現れた謎の軍団は互いに争っているようだったが、その中で一際強い光りを放つ二機の姿があった。

チャム・ファウ「タマキ! なんか変なところに出てきちゃったよ!? ここどこ!? 地面が灰色よ!?」

川添珠姫「ここは……もしかして連邦基地!? 地上!?」

トッド・ギネス「なんだとォ? バイストン・ウェルから出てきたっていうのかよ!」

珠姫「トッドさん! 戦いを止めさせてください! 地上の人たちをバイストン・ウェルの争いに巻き込むわけにはいきません!」

トッド「それならまずお前が止めて見せろよ! ゴラオンの軍勢どもを!」

珠姫「くっ……!」

 バイストン・ウェルの聖戦士、川添珠姫はオーラバトラー、ダンバインを戦艦ゴラオンに向けた。

ドレイク兵「おっと、行かせるかよ! ダンバイン!」

チャム「あぁん、邪魔をしないでよぉ!」

珠姫「……!」

 テントウムシに似たオーラバトラー、ドラムロが行く手を遮り、ダンバインは手に持った剣を上段に構えた。

チャム「やっちゃえぇぇぇ! オーラ斬りだぁ!」

珠姫「南無三!」

 ズギャイィィィン! オーラ力(ちから)を纏った剣が一瞬でドラムロを真っ二つにした。

 デデデデッデデデデッ デーデーデ
 テーレーレーレーレーレーテーレレー テーレーレーレーレーレーレレー ォーラー
 オーォラロードーガー ヒラカーレター キラメクヒカリオーレーヲーウツー
 オーォラノーチーカラータクワーエテー ヒライタツバサテーンニートブー
 オソレルナーオレノコーコロー カナシムナーオレノトウシーィー
 ノォービールホーノオガー セーイギニナーレトーォー
 イカズチーハネテーソォドガハシルー ォォォーォォー
 ウミトダイチヲー ツラヌイタトキーィー
 オーラバトラー! ダンバイン!
 オーラシュートー! ダンバイン! 
 アタック!アタック!アタック! オレハセンシー!



549VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:16:32.62iMG0wGKN0 (9/24)


 バイストン・ウェルに召喚され聖戦士となり、また地上に戻ってきた川添珠姫は、ラウの国の巨大戦艦ゴラオンのブリッジ正面にダンバインで出た。

珠姫「エレ様! 戦いを、戦いを止めさせてください! ここは地上です!」

エレ「先ほどから、ドレイク軍の戦艦、ウィル・ウィブスと交信を求めていますが、返事がありません」

チャム「なによ! こんな状況でも戦うっていうの!?」

珠姫「それなら、とにかくこちらは全軍を撤退させてください! 地上で争ってはいけません!」

エレ「わかりました。全機を帰還させなさい」

エイブ「はっ!」


 ドレイク軍旗艦 ウィル・ウィブス

ドレイク「ゴラオンの軍勢が退いていくか……」

ショット「おそらく、タマキがそう言ったのでしょう」

ドレイク「ここは地上だというのは本当なのか?」

ショット「はい、まず間違いありません」

ドレイク「しかし、ここでゴラオンを逃がす手はあるまい。きゃつらさえ黙らせておけば、地上の軍とはどうとでもなる」

ショット「正しいご判断です」

ミュージィ「ショット様! 空から別の戦艦が降りてきます!」

ショット「なんだと!?」

ドレイク「地上の軍と鉢合わせてしまったのだろうな」


 大気圏を抜けたホワイトベースは、偶然にも佐世保の上空に来ていた。

シノン「あの巨大な戦艦はいったい……」

パオロ「…………」

シノン「艦長? パオロ艦長!?」

 返事のないパオロにシノンは慌てて駆け寄った。だが、パオロの顔からは既に血の気が失せていた。
 何度揺さぶって声をかけても、彼は返事をしない。大気圏突入の衝撃に傷ついた体が耐えられなかったのだ。

シノン「そんな……艦長……」

 ブリッジにいる者は皆沈痛に目を塞いだ。
 やがてシノンはポケットから白いハンカチを出すと、パオロの顔に乗せてから、ことさらに大きな声を張り上げた。

シノン「総員、第一種戦闘配置! まずは味方と思われるゲシュペンストの援護をするわよ!」



550VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:17:28.91iMG0wGKN0 (10/24)


 佐世保 海上

海晴「あれは……ホワイトベース」

シノン「ヴァイスリッターの天使海晴少尉ですね。私はホワイトベース艦長代理の香月シノンです」

海晴「はいはい、こちらヴァイスリッターですよ。艦長さんはどうしましたの?」

シノン「パオロ艦長は……大怪我で臥せっておられましたが、先ほどの大気圏突入時のショックで……」

海晴「あぁ、ごめんなさい。それでは、今ホワイトベースの指揮はあなたが?」

シノン「はいっ! 半年ほど前から士官候補生としてサイド3に配属されていました」

海晴「そんなにかしこまらなくていいのよ。とりあえず、そちらの部隊に合流させてもらっていいかしら?」

シノン「それはこちらもお願いしたいところですが、あの巨大な戦艦はいったい何でしょう?」

海晴「それがわからないから、私たちも困っているのよねぇ。とりあえず合流しましょ」

シノン「了解しました」

海晴「さてさて、ヒカルちゃんと立夏ちゃん、話はわかったかしら?」

ヒカル「は、はい。ところで、あのロボットはどうするんですか? 敵ではないみたいですけれど……」

海晴「敵じゃないなら味方でしょう? じゃあ大丈夫よ」

立夏「わーい、お姉ちゃん、タンジュンメイカーイ!」

ゆりえ「私、どうすればいいんだろ……」


 ウィル・ウィブス ブリッジ

ドレイク「どうする、ショットよ」

ショット「いきなり地上の軍と争うのは得策ではありません。しかし、ここで我々が退いてはゴラオンに地球軍を接収される恐れがあります」

ドレイク「そんなことはわかっておる。そこから先の意見を聞いておるのだ」

ショット「それならば申し上げます。ゴラオンとともにこの一帯を破壊しつくすのです」

ドレイク「ふん……故郷を捨てる選択を出来る男だったとはな」

ショット「私の故郷はここより遥か東にあります。そしてその東の国は地上で最大の権力を持っています。ゴラオンを潰し、全ての証拠をなくしてゴラオンに罪をなすりつければよいのです」

ドレイク「可能なのか?」

ショット「まずはここを。交渉は必ずや成し遂げてみせましょう」

ドレイク「よし、攻撃を再開させよ」

ミュージィ「かしこまりました!」

ショット(地上に出て不安になっているな、ドレイク。それでも気高き野心を燃やしている。うまくすれば、利用できるな)



551VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:18:41.29iMG0wGKN0 (11/24)


 ゴラオン

エレ「ウィル・ウィブスを渦巻くオーラ力が邪悪なものに変化してきます。攻撃されてしまいます!」

紀梨乃「うーん、やな予感がするねー。地上に戻ってこれたのはよかったけど……」

チャム「キリノ! タマキが、タマキが倒れちゃったよ!」

紀梨乃「にゃんだってぇ!?」

チャム「ゴラオンについたらすぐにばったりしちゃったの! 目が覚めないの! 死んじゃったの!?」

エレ「おそらく、オーラロードを開くために珠姫様のオーラ力を大量に消費してしまったのでしょう」

エイブ「エレ様! ウィル・ウィブスのオーラバトラーが攻撃を再開しました! 地上の軍にも向かっておるようです!」

エレ「ただちにオーラバトラー隊を出して防衛しなさい。地上への攻撃も許してはなりません!」

紀梨乃「わ、私もタマちゃんのダンバインで出るよ!」

エレ「いいえ、紀梨乃様は地上の戦艦へ向かってください」

紀梨乃「ほえ?」

エレ「グラン・ガランがいなくなり、珠姫様が倒れてしまった今、地上の方とお話ができるのは紀梨乃様だけです。どうか彼らに私たちバイストン・ウェルのことと、ドレイク・ルフトの野望をお伝えしてください」

紀梨乃「そうだね……うん、わかったよ!」



552VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:19:17.16iMG0wGKN0 (12/24)


 佐世保湾岸

 佐世保上空の海晴たちはホワイトベースと合流をする前にドレイク軍の猛攻に遭っていた。

 天使家次女、霙とアルトアイゼンが立つ基地のほうにもオーラバトラーは仕掛けてきていた。

霙「ちっ、いきなりこちらにも攻撃を仕掛けてくるとは……空を飛んでいる上に小さくて機動性も高い」

ドレイク兵「あんなでかい寸胴の兵器、ドラムロで!」

霙「見た目どおりの重さだとは思わないことだ」

 アルトアイゼンの赤い角が光る。
 膝がぐっと下がった瞬間、強襲用試作型パーソナルトルーパー、アルトアイゼンは驚異的な瞬間爆発力をフルに発動して跳躍した。

ドレイク兵「な、なんだ、うわぁぁぁぁ!」

霙「フッ、伊達や酔狂でこんな頭をしている訳ではないぞ」

 ズバァッ! 灼熱のヒートホーンがドラムロを一瞬で切り裂く!
 ヴァイスリッターのように長い間の飛行と湾曲な機動力は持たないが、直線での瞬発力は他の追随を許さないアルトアイゼンは加速上昇の過程で三体のドラムロを葬った。

霙「私たちは共に等しく宇宙の塵だ。塵は塵らしくぶつかり合って散ろうではないか」

 霙は終末主義者でこの世の終わりの前には全ての者が等しく宇宙を漂う無数の塵のように無価値であると思っている。
 でも、そんな塵同士が小さな箱の中で電子のように激しくぶつかりあうのを見るのはなかなか好きなのだった。

 時代錯誤な設計思想ゆえに無価値な古い屑鉄と名づけられたアルトアイゼンは彼女にとっては興味深い箱舟だった。

霙「スクエア・クレイモア――当たるも八卦、当たらぬも八卦だ」

 ズドドドドドドドドッ! アルトアイゼンの両肩が開き、四十もの砲口から一倉で八発の鋼鉄ベアリング弾を秒速で全て発射する――合計で三百二十発の鉄球が扇形にばら撒かれ、装甲の薄いドラムロの羽に穴が空き、ボトボトと海へ墜落していった。

霙「おや、意外とやわいな。まあ、胴体を貫通はしていないようだし、パイロットが乗っていても生きてはいるだろう」

 地面に着地したアルトアイゼンの傍にゲシュペンストが一機飛んでくる。

立夏「霙オネーチャン!」

霙「おや、立夏じゃないか」

立夏「海晴オネーチャンに霙オネーチャンのほうに行けって言われちゃった。やっぱりリッカじゃオネーチャンたちの足手まといなのかな?」

霙「そういうわけじゃないだろう。あいつらは陸上にも攻撃を仕掛けているからな。私と一緒に陸を守れということさ」

立夏「うん、わかったよ、オネーチャン」

霙「それに、本州のほうの各研究所からスーパーロボットが来るらしい。歓迎の出迎えは多いほうがいいだろう?」

立夏「ワオ! ウワサのマジンガーZに会えちゃうの!? コン・バトラーVとゲッターロボも!?」

ドレイク兵「うおぉ! もらったぁぁぁ!」

 ガシュイィィィィン! 立夏の後ろを取ったドラムロがリボルビング・ステークの一撃で粉砕された。

霙「あぁ、きちんと迎えるためにも、舞台は綺麗に掃除しておかないとな」

立夏「ウンッ!」



553VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:20:27.64iMG0wGKN0 (13/24)


 ホワイトベースからはドラグナー1型と3型となのはが出撃し、飛行能力のないガンダムと砲撃戦主体のドラグナー2型は艦上からドラムロと戦っている。

シノ「必殺! ドラグナー三枚おろし!」

ドラムロ兵「う、動きが速い!? うわぁぁぁ!」

なのは「ディバイーン・シューター!」

ドラムロ兵「あ、あんなガキに……!」

 ウィル・ウィプス

ドレイク「地上の軍はやるようだな。ハイパーオーラキャノンの準備を急がせろ!」

ミュージィ「ダンバインが出てきました! 地上の戦艦に接触する模様です」

ショット「ダンバインはトッドに任せろ!」

 ホワイトベース

シノン「一機、こちらに向かってくる!?」

オペレーター「白旗を持っています。攻撃の意思はないようです」

シノン「受け入れましょう。ガンダムと2型で援護して」

 戦闘空域を紀梨乃とチャムの乗った白旗を持ったダンバインが一直線に飛んでいく

紀梨乃「よかったー、どうやら受け入れてもらえそうだね」

チャム「大丈夫かなぁ、キリノ、だまし討ちとかされるんじゃない?」

紀梨乃「それはあちらさんを信じるしかないよー」

チャム「……っ! キリノ! 下から来るよ! ダンバインだぁ!」

トッド「行かせるかよぉ、ダンバイン!」

 ガキィィィンッ! 二体のダンバインの剣が空中でぶつかりあう。しかし、機体の性能は同じでも紀梨乃オーラ力ではトッドのものには劣ってしまう。

トッド「ここでケリをつけてやるぜ、ジャップ!」

チャム「正面!? 当たっちゃうぅ!」

紀梨乃「耳元で怒鳴るにゃー!」

 ガッ、ガキィンッ! トッドの剣が何度も紀梨乃に叩きつけられる。どうにか受け止めるが、トッドの強いオーラ力が紀梨乃のダンバインに負担をかける。

トッド「このオーラ力、タマキじゃねえな! ならば雑魚に用はねぇ! 沈みやがれ!」

 パキィィィィン! ついに紀梨乃の剣が折れてしまった。

紀梨乃「にゃんとーっ!」

チャム「だめぇ! やられちゃうぅ!」

 トッドが剣を大きく振り上げた。だが、

アリア「どすこーい!」

 ドドォン! ドラグナー2型の肩部にあるキャノン砲が火を噴いた。

トッド「ちぃっ! 邪魔をしやがって!」

ショット「トッド、戻れ!」

トッド「何だとォ! ダンバインをやれるんだぜ!?」

ショット「ハイパーオーラキャノンを撃つ。ゴラオンと地上の戦艦をまとめて沈める。死にたければそこにいろ」

トッド「ちぃっ、運が良かったな、ダンバイン!」

紀梨乃「あれ、下がっていく?」

チャム「ち。違うよ、キリノ……」

紀梨乃「どうしたの、チャムちゃん?」

チャム「来るよ……大きな強い、憎しみを生む力が……!」



554VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:22:15.80iMG0wGKN0 (14/24)


 ゴラオン

エレ「き、来ます……ドレイクの悪しきオーラ力が……!」

エイブ「エレ様!?」

珠姫「は、早く逃げて……っ!」

エイブ「タマキ殿!? まだ動いては!」

エレ「ここからでは間に合いません……避けられたとしても、後ろにある地上の戦艦に当たってしまいます」

珠姫「くっ……」

エレ「私の霊力で、可能な限り軽減させてみせます。皆の者は後方へ避難せよ」

エイブ「そ、そんなことをしては、エレ様が!」

エレ「しかし、これしか方法がありません」

 その頃、ゴラオン付近の空を飛行していたなのはの愛器もまた、異様な力を捉えていた。

レイジングハート「(前方の暫定敵戦艦の主砲に魔力と思しき力が凝縮されています)」

なのは「えっ、どうなっちゃうの?」

レイジングハート「(十二秒後、強力な砲撃がホワイトベース及びもう一隻の戦艦に当たります。一撃で両艦共に撃墜されるでしょう)」

なのは「そんな、どうすればいいの?」

レイジングハート「(あなたの魔力を可能な限り引き出させていただきますが、よろしいですか?)」

なのは「うん、オッケーだよ、レイジングハート!」

レイジングハート「alllight my muster」

 なのはは一気に上昇してゴラオンとウィル・ウィブスの間に割って入った。
 射線上にいきなり白い少女が現れたことで、二隻の艦長は当然驚いた。

エレ「地上の方!? 危険です、お下がりください!」

ミュージィ「いかがいたしますか、ドレイク様?」

ドレイク「ここは戦場だ。ハイパーオーラキャノン、撃て!」

なのは「レイジングハート、全力全開!」

レイジングハート「wide aria protection」

 ギュオォォォォォォォォッ! ウィル・ウィプスの主砲、ハイパーオーラキャノンが発射された。
 ウィル・ウィプスに取り付いていたオーラバトラーなどが全て焼き消されていく。
 そして熱き塊りがゴラオンに迫るが、ゴラオンを大きく包み込むほどの魔力の壁がハイパーオーラキャノンを受け止めていた。

なのは「くっ、くぅぅぅぅぅ!」

エレ「地上の方が私たちのゴラオンを守ってくれている……」



555VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:22:52.66iMG0wGKN0 (15/24)


ドレイク「何なのだ、あの小娘の力は……オーラ力ではない……おのれ」

 拡散され無力化していくハイパーオーラキャノンだが、ドレイクの強い野心がオーラ力を増幅させていく。

なのは「ち、力が……強くなっている……!? でも、逃げちゃダメ……!」

エレ「あの方の力はとても善き波動を持っている……私の霊力を重ねることができれば……」

 エレは指を組み、自分の霊力で新たな壁を作った。それを少しずつ広げていき、なのはの魔法と合わせていく。

なのは「これは……あの戦艦の中の人から?」

エレ「地上の方……力をお貸しします。私はエレ・ハンム、バイストン・ウェルのラウの国の女王です」

なのは「ば、ばいすとん……うぇる?」

エレ「詳しいお話は、あのドレイク・ルフトを退けてからいたしましょう。彼はこの地上をも脅かす危険な存在です」

なのは「はい、わかりました!」

ドレイク「な、なんだ……小娘の力が……これは、エレ・ハンムか!?」

エレ「悪しきオーラ力よ……ドレイク・ルフト、去りなさい!」

なのは「えぇぇぇぇい!」

 シュパァァァァッ! なのはの魔力とエレの霊力が合わさり、ハイパーオーラキャノンはかき消された。

ドレイク「むぅぅ、地上の軍がこれほどとは……」

ショット「申し訳ありませぬ、ドレイク様。私が知っていたときよりも地上の軍は変わっていたようです」

ドレイク「だが、物量ではまだ勝っている。どうやら小娘もエレ・ハンムも先ほどと同じ力を引き出すことは出来まい。再びハイパーオーラキャノンを撃つ時間を稼ぐことができれば、勝機はワシらにある」

ショット「かしこまりました。第三陣、発進用意をせよ!」



556VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:23:25.17iMG0wGKN0 (16/24)


 佐世保 陸地

立夏「霙オネーチャン! またいっぱい出てきたヨ! ヤヴァイ!」

霙「口を動かす暇があったら機体を動かせ、立夏。性能差ではこちらは負けん」

立夏「うん、オネーチャン! ニュートロンビームッ!」

 マシンキャノンとスプリットミサイルをガンガン発射していく霙、その足下の海面には落としたドラムロが大量に浮かんでいる。

霙(とはいえ、この数はさすがに不利というか、カバーしきれないな、弾数も少なくなってきた)

 だが、そのときドラムロとは違うオーラバトラーが立夏のゲシュペンストに接近してきた。

バーン「地上人よ、遊びはここまでだ。バーン・バニングスとレプラカーンが相手をしよう!」

 黄褐色のオーラバトラーはその速度はドラムロとは一線を画していた。
 実戦経験に乏しく、単調な戦闘をしていた立夏の目には全く止まらなかった。

霙「立夏!」

立夏「げげっ!?」

 ズバァッ! 一刀の下に立夏のゲシュペンストは左肘と左踝を切られてしまった。

立夏「キャァァッ! バランスが崩れるぅ~!」

バーン「とどめだ! 地上人!」

霙「それ以上、立夏には近づかせん!」

 急発進したアルトアイゼンがリボルビング・ステークをレプラカーンに突きつけた。
 だが、まるで幻想を掴むかのようにレプラカーンは消えてしまっている。

バーン「貴様の動きは既に見切っている!」

 ドッ、ドシュッ! レプラカーンの左腕のフレイボムが発射される。
 それらをヒートホーンで叩き落すと、剣を掲げたレプラカーンが目の前に来ていた。

バーン「落ちろっ!」

 ガキィィンッ! 刃を受け止めたステークが断ち切られてしまった。

霙「くうっ!」

バーン「ここで私の一撃をかわすとはな、だがそれまでだ!」

唯「光子力ビーム!」

 ビィィッ! バーンがとどめの剣を振り下ろそうとした瞬間、アルトアイゼンの後ろから飛んできた光線が剣を弾き落した。

バーン「ぬうっ、地上の援軍か!」



557VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:24:38.08iMG0wGKN0 (17/24)


 佐世保の湾岸には、輸送機から直接降下してきたマジンガーZがコンクリートにヒビをつけて立っていた。

唯「悪者めー! マジンガーZが来たからにはもう好きにはやらせないぜー! ふんす!」

バーン「ドラムロ隊よ、奴らを始末してしまえ!」

夕映「ゲッタァァァァァ・ビィィィィィィィム!」

翠星石「超電磁・スパァァァァァク!」

 湾岸にはいつの間にかゲッターロボとコン・バトラーVもいた。
 それぞれ得意の攻撃で上陸しようとしていたドラムロを撃破していく。

バーン「ぬぬぬ……地上人どもめ……っ!?」

 握りこぶしを震わせていたバーンにひやりとした悪寒がよぎった。
 レプラカーンの肩に何者かが接触していた。

海晴「オクスタンランチャーのBモード。かなり痛いわよん?」

 そして、バーンの正面にはヒカルのゲシュペンストがプラズマカッターを構えていた。

ヒカル「私の家族を傷つけた罪は重いぞ」

バーン「ぐ、ぐぐっ……舐めるなよ。地上人ども! このバーン・バニングス、貴様らに与する舌など持たん!」

 バーン・バニングスは激情で自らのオーラ力を増幅させ、一気に外へ解き放った。
 その目に見えない力は確かな質量を伴って彼を取り囲む機体を吹き飛ばした。

海晴「きゃっ!」

ヒカル「な、なんだ!?」

 自由になったレプラカーンはすぐに身を翻してウィル・ウィプスへと戻っていく。

バーン「地上人どもよ! 我らは誇り高きバイストン・ウェルの戦士だ。身は引いても志までは退かぬ! 次こそは打ち倒してみせようぞ!」



558VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:25:33.30iMG0wGKN0 (18/24)


 ウィル・ウィプス

ドレイク「第三陣が五分ともたずに潰滅か……」

ショット「よもやあのような兵器が開発されていようとは……」

 ショットはオーストラリアで重労働に課せられていたときにジオン軍のブリティッシュ作戦で落ちてきたコロニーの衝撃でバイストン・ウェルへ飛ばされていたため、一週間戦争、ルウム戦役などの連邦とジオンの争いを知らない。

ショット「ドレイク様、ここは退いて我が故郷へ向かいましょう」

ドレイク「ふむ」

ショット「我らにはトッドもいます。彼は元々は我が故郷の兵士でした。交渉は成功します」

ドレイク「よし、全機帰還させよ。ウィル・ウィプスはショットの故郷へ向かう」

ミュージィ「はっ!」

トッド(おふくろ……俺はバイストン・ウェルから帰ってきたぜ。ジオンの連中にやられてないだろうな)



559VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:26:09.03iMG0wGKN0 (19/24)


 ドレイク軍が佐世保から去っていった後、連邦基地に少女達は集まった。

シノン「とりあえず集まってもらったけど、改めて一人ずつ自己紹介してもらいましょう」

唯「はーい、桜ヶ丘高校軽音部、平沢唯! マジンガーZに乗ってます」

澪「同じく桜高軽音部、秋山澪です。アフロダイAに乗ってます」

律「軽音部部長、田井中律だぜ、ボスボロットに乗って大活躍中だわさ」

梓「戦闘に間に合ってすらいないじゃないですか……」

紬「琴吹紬です。光子力研究所のスポンサーをしています」

憂「平沢憂です。お姉ちゃんのお世話をしています」

梓「あれ、私は何でここにいるんだろう?」

唯「もちろん、私たちを癒すためだよ、あずにゃん~」

梓「ふにゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ハルナ「それじゃあ、次は私たちね、三人でゲッターロボのパイロットをやっているわ、私は早乙女ハルナ、気軽にパルでいいわよ」

夕映「ゲッター1のパイロット、綾瀬夕映です」

のどか「ゲッター2のパイロットの……宮崎のどかですー……」

翠星石「それじゃあ、コン・バトラーVですぅ。翠星石は翠星石ですよぅ。コン・バトラーVは翠星石と蒼星石と家来どもが操っているですぅ」

真紅「その口を縫い付けてやるのだわ」

雛苺「なのー」

金糸雀「かしらー」

蒼星石「えっと……僕らはローゼンメイデンっていう人形で……かくかくしかじか」

なのは「高町なのはです。えっと、いろいろ事情がありまして……魔法使いをしています」

立夏「ワオ! ホンモノの魔法使い!?」

ヒカル「夕凪が見たらどう反応するか……」

リュウ「リュウ・ホセイだ。コア・ファイターに乗っている」

すずか「つ、月村すずかです。ガンダムに乗っています」

アリサ「アリサ・バニングスよ。今はホワイトベースの通信士をやっています」

紬「あら、ひょっとしてバニングス家の方ですか?」

アリサ「そうですよ、琴吹家のことは私も知っています」

紬「父が一度コンタクトを取りたいと言ってましたのよ」

唯「おおぅ、なんだかすごくレベルの高い会話が!」



560VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:35:54.37iMG0wGKN0 (20/24)


シノ「次はD兵器の私たちだな。天草シノ、ドラグナー1型のパイロットだ」

アリア「七条アリアよ、2型のパイロットをしています」

スズ「萩村スズです。3型のパイロット。高校生です! IQ180あります! 16歳です!」

シノ「そんなに力説しなくても……我々は三人とも桜才学園の生徒会役員だ」

ランコ「畑ランコと申します。元桜才学園の写真部。今は天才扇情カメラマンですムッハー」パシャパシャ

澪「ひえっ、と、撮らないで~……」

ランコ「ムッハー、美少女ぞろいですがとびっきりムッハー」パシャパシャ

紬「あらあら、七条家の人まで……」

アリサ「なかなかカオスね……」

ゆりえ「えっと、一橋ゆりえです。ライディーンに乗せられちゃいました……?」

律「なんで疑問系……」

ゆりえ「わ、私もよくわからないんです……ライディーンに呼ばれる声がして、気がついたら……」

シノン「よくわからないって言ったら、こっちの人たちもそうだからね……」

エレ「申し訳ありません、地上の方々、私たちが混乱を招いてしまったようで……」

シノン「いえ、そう責めている訳ではないんです。バイストン・ウェル……でしたっけ?」

エレ「はい、海と大地の狭間にある魂の故郷、それがバイストン・ウェルです」

エイブ「我々は地上の聖戦士と呼ばれる強いオーラ力を持つ者を使って世界を我が物にしようとするドレイク・ルフトの野望を阻止しようとしていたのです。こちらのキリノ殿とタマキ殿はドレイク軍から我らに力を貸してくれた方たちです」

紀梨乃「私とタマちゃんは剣道部だったんだけど、他にも部員が三人、たぶんバイストン・ウェルに残っているんだ」

チャム「今はナの国のシーラ・ラパーナ様と一緒のグラン・ガランに乗ってクの国と戦っているのよ」

シノン「あの、こちらの小さい方は、人形ではなく……?」

チャム「私は人形じゃないわよ! ミ・フェラリオなんだから!」

シノン「ご、ごめんなさい」

澪(……かわいい)

ヒカル「やはり川添さんだったのか」

珠姫「えっ?」

ヒカル「覚えてないか、一度剣道の試合をさせてもらったことがあるのだが……」

珠姫「あっ、えっと……あれ???」

ヒカル「……覚えてないのか」

珠姫「すみません」

ヒカル「いや、いいんだ」

霙「フッ、私たちはしょせん誌上企画にすぎないのだからな、知っている人が少ないのも無理はない」

立夏「霙オネーチャン、何のことを言ってるの? またウチュウのハナシ?」

霙「フフッ、そうだな、宇宙の外の話だ。私たちには到底どうしようもできない世界の力の話だ」

海晴「はいはい、アブない話はそこまでね、霙ちゃん。それじゃ私たちの番ね。連邦軍所属、プロジェクトATXチームでヴァイスリッターのテストパイロットをしています。天使海晴少尉です」



561VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:36:29.07iMG0wGKN0 (21/24)


霙「天使霙曹長だ。アルトアイゼンのテストパイロットをしている」

ヒカル「あの、海晴姉、私と立夏はどうすれば……」

海晴「うんとね、出来れば、このままあのゲシュペンストに乗ってくれるとうれしいんだけど……」

立夏「ホントに!? ヤッター!」

ヒカル「し、しかし、正規の連邦兵器に私たちが乗るなんて……」

海晴「あら? あのゲシュペンストが連邦の兵器なんて誰が言ったの?」

ヒカル「えっ?」

霙「あれはママが個人的に所有している物だ。正確には、ママがATX計画の初期段階で造らせた新型パーソナルトルーパーの実験機だ」

立夏「ワオ! 霙オネーチャンがママって言うの初めて聞いたヨ!」

霙「それはこの家のルールだからだな……じゃなくて、あの二機を元にアルトアイゼンとヴァイスリッターが造られたんだ」

海晴「ヒカルちゃんが乗ったのが強襲型タイプSの実験機で、立夏ちゃんが乗ったのが砲撃戦型タイプRの実験機。だからそれぞれ微妙に使い勝手が違うのよ」

ヒカル「確かに、立夏が使っていたビーム兵器は私のほうにはなかったな」

霙「代わりにタイプSはプラズマカッターの出力が高く、ジェットマグナムという接近兵器を搭載している。さらに、私が考案した究極のアタッカー・モーションがある」

立夏「何ソレ! なんかヒカルオネーチャンのほうズルイ!」

海晴「あら、私のゲシュちゃんにもちゃんとついてるから、大丈夫よ、立夏ちゃん」

立夏「ホントに? ワーイ!」

律「しっかし、モビルスーツにメタルアーマーにパーソナルトルーパーって、連邦軍内で統一できてないんだな」

シノ「そうだな、この佐世保基地はパーソナルトルーパー中心の基地だから、D兵器の登録解除はできないと言われてしまった」

紬「たしか……連邦が惑星探査・コロニー自警用に開発されたのがPTゲシュペンストだったわね」

スズ「そうですね、ただし、ゲシュペンストは重力上での活動が前提にされていたので、無重力化ではその性能の半分も発揮できません。それに対してジオン公国は戦術使用を目的としたモビルスーツ・ザクを開発。ミノフスキー粒子の発見でゲシュペンストを含めた従来のレーダーはまるで役に立たなくなったところを一週間戦争でやられてしまった訳ですね」

シノ「おぉ、スズが賢く見えるな」

スズ「当然です。私はIQ180なんですから!」

唯「おぉ~」

スズ「そして、ジオン公国に密かに資金援助をして、代わり技術支援を受けたギルトール将軍がメタルアーマーを開発して、ギガノス帝国を打ち立てた。メタルアーマーは航空兵器としての特性を強く残し、人型による汎用性を追及したモビルスーツとはまた違う機動兵器として、ギガノス軍の主力になっています」

海晴「それに対抗して連邦軍が取り組んだのが、〝PT・MS・MA開発と運用を前提とした新造戦艦の開発〟それが〝V作戦〟よ」

霙「そして生まれたのが、モビルスーツ・ガンダム、メタルアーマー・ドラグナー、そしてゲシュペンストの改良機であるアルトアイゼンとヴァイスリッター、戦艦ホワイトベースだ」

シノン「そして、先ほどレビル将軍からホワイトベース宛に指令が届いたわ」

アリア「あら、何かしら?」

シノン「『ホワイトベース隊は第13独立部隊として地上においてジオン・ギガノス連合軍基地に対して陽動作戦を展開し、ジャブロー本部への注意を逸らすように』とのことです」

アリサ「何よそれ! 要はオトリってことじゃない!」

シノン「そうね、紛れも無くこれは囮作戦だわ。それに、補給は極東支部での民間施設より行えとあるわ」

紬「それは大方に言えば私の実家や、各スーパーロボット研究所でっていうことかしら」



562VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:37:15.61iMG0wGKN0 (22/24)


霙「レビル将軍がこのようなずさんな指令を出すとは思えないな。確かにジャブローは連邦最大の基地ではあるが、その防衛能力は堅牢でむしろ引きつけさせてジオンを攻めさせる作戦を取ったほうがいい。臨機応変に打って出れば他の基地と連携して挟み撃ちにできる」

梓「ジャブローのモグラ……ですね」

唯「なにそれ、あずにゃん?」

紬「ジャブローには連邦のエリート高官がたくさんいるんだけど、彼らが表に出てくることはほとんどない。ジオンのザビ家はそんな彼らをジャブローのモグラと軽蔑したの」

海晴「一応、軍法会議ものになっちゃうから、連邦軍の中ではあまり言わないでね」

霙「この指令は暗にジャブローに敵を近づけさせるなということだ。レビル将軍が前線で指揮をしてヨーロッパ方面を戦う間にアジア、北米方面を我々に引きつけさせ、ジャブロー高官の私兵と化した戦力を温存しようというのだろう」

律「ホントに気にくわねーなお偉いさんの考えることは」

シノン「それでも、命令ならば私たちは従うしかないわ。ただ、民間のスーパーロボットなどはこの限りではないから、無理に私たちについてくる必要はありません」

夕映「いえ、私たちは何か手伝えることがないかと思ってここまで来たのです」

リュウ「そう言ってくれるのはありがたいがな、この日本だってドクター・ヘルやキャンベル星人なんていうやつらに狙われているんだろう?」

ハルナ「だからといって、あまり戦力を集中させても危険なのよね。極東支部自体の防衛力はそんなに高くはないんだから」

シノン「都合のいい話ではあるけれど、あなたがたスーパーロボットは民間協力者として極東支部管理下の都市を防衛してもらいつつ、必要に応じて臨機に私たちの作戦に参加してもらう。ということでよろしいかしら?」

唯「お~け~でーす」

澪「ノリが軽い……」

ハルナ「私たちもオーケーよ」

翠星石「しゃーねーですから、翠星石もオッケーしてやるですよぅ」

真紅「不本意だわ」

蒼星石「真紅、そろそろKYだよ」

ゆりえ「私は……う~、学校の成績が下がったらどうしよう~」

律「いいじゃな~いの、この緊急時に学校なんてあってないようなもんだぜ~」

ゆりえ「そ、そんなこと言われたって~、私、神様になっちゃったし……なんかそのお仕事もあるって祀ちゃんに言われたし……」

律「なに、神様って?」

ゆりえ「あ、私、神様になったみたいなんです」

律「ロボットが戦って、魔法少女が出てきて、異世界の扉が開いて、おまけに神様かよ。随分ダッシュな話だな、おい」

エレ「気になるのはドレイクの動きです。あの後、どこへ行ったのか……」

シノン「ドレイク・ルフトとウィル・ウィプスね……たしか、地上の人も乗っているのよね」

紀梨乃「そうだね、ショット・ウェポンとトッド・ギネス。他にも何人かの地上人がドレイクに従っているよ」

珠姫「二人はアメリカ人なので、きっと北米大陸に向かったんじゃないでしょうか?」

シノン「たしかに北米大陸へ針路を取っていたわね。まずいわね……北米大陸にはジオンの地上部隊の主力が集結しているわ。もしもドレイクとジオン軍が手を組んだらジャブロー方面の圧力は強くなるわ」

律「いいんじゃねーの、そうすりゃお偉いさん方も少しはわかってくれるだろーし」

霙「たしかにジャブローの連中を刺激する意味ではいいかもしれないが、オーラバトラーはモビルスーツの半分程度の大きさで小回りもきく上に数も多い。下手をすると電撃作戦でジャブローを落とされてしまう可能性がある」



563VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:38:05.29iMG0wGKN0 (23/24)


紬「ジャブローが落とされてしまうと、地上戦の形勢は一気にジオン・ギガノスに傾いてしまいますね……やはりドレイク軍の動きはほうっておけませんね」

リュウ「だが、アジア大陸のほうも今は厄介だ。資源採掘地帯はほとんどジオン・ギガノス連合に占拠されちまっている。奴らもほうっておくとどんどん資源を宇宙に運び出しちまう」

ヒカル「なんだか、大変な役回りばかりやらされているな……」

海晴「そうね。でもアジア方面に行けばレビル将軍の部隊もいるし、太平洋を渡るよりはやりやすいと思うわ」

シノン「はい。幸いこちらには戦艦がホワイトベースとゴラオンの二つあります。どちらかを牽制している間にもう一方をスーパーロボットを投入して叩くことができれば、戦力差はカバーできると思います」

エレ「それならば、我がラウの国のゴラオンでドレイク軍を引きつける役をやらせてはもらえませんか、ドレイク軍は私たちバイストン・ウェルの人々の責任でもありますし、ゴラオンならばある程度多くの物資を積むことが出来ます」

シノン「私もそれがいいと思っていました。それではエレ様、お願いできますか?」

エレ「お引き受けしましょう」

シノン「それと、なのはちゃんとすずかちゃん」

なのは「はい、なんでしょう?」

すずか「なんですか?」

シノン「二人はゴラオンのほうに移ってもらっていいかしら。ジオンとギガノスはガンダムとD兵器の両方を狙っているみたいだから、二つにわけたほうが敵の戦力も分散することができると思うの」

なのは「はい、私は大丈夫です」

すずか「わ、私も大丈夫です」

シノン「そう、ありがとう、二人とも――」

アリサ「ちょっと待ってください。二人が移るなら、私も行かせてください!」

なのは「アリサちゃん……」

シノン「そうね、アリサちゃん、二人のこと、お願いするわ」

アリサ「はい! まかせてください!」

すずか「ふふ、ありがとう、アリサちゃん」

シノン「リュウさんも、ゴラオンのほうにお願いできますか?」

リュウ「了解だ」

シノン「それでは、改めて指令を出します。スーパーロボット各機は極東支部の都市防衛をお願いします」

唯・他「ラジャー!」

シノン「ダンバインを初めとするオーラバトラーとなのはちゃん、すずかちゃん、アリサちゃんはゴラオンに搭乗し、北米大陸の向けて陽動作戦を行ってください」

エレ「わかりました」

シノン「D兵器の三機、パーソナルトルーパー四機はホワイトベース隊として、アジア大陸の基地を攻撃、制圧します。最初の目標は上海で連邦軍と合流しギガノス軍に占領された重慶基地です」

シノ・他「了解!」

シノン「皆さん、ここにいる理由は様々だと思います。自分の意思で軍に在籍する人。数奇な運命でパイロットに選ばれた人。自分の家族や世界を守りたいと思うゆえに戦うことを選んだ人。立場や故郷は違えど、私はここに集った皆さんを頼もしく思います。私たちは力を合わせ、この戦争を一刻も早く終わらせることができるよう、戦いましょう」


 第四話 邂逅! 目覚めよ、勇者 開け、魂の扉 完

 第一部 大集結! 無敵のスーパーロボット軍団! 完



564VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 19:45:38.27iMG0wGKN0 (24/24)


 謎の光りに包まれたゆりえはライディーンの内部に転送されていた。

ゆりえ「こ、ここは……」

『勇者よ……妖魔帝国と戦うのだ……』

ゆりえ「よ、妖魔帝国って……きゃぁぁぁぁ!」

 ここが海に出来た渦の中だと気づいたとき、飛行物体がビームを撃ってきたのだ。

ゆりえ「ら、ライディーン? ここはライディーン、あなたの中なの?」

 ビュィィィィィィィ! どうやらこの無数の飛行物体はゆりえが乗るライディーンを狙ってきているようだ。

ゆりえ「きゃあぁぁぁぁぁ! ライディーン、私はどうすればいいのぉ!?」

『ゴッドブレイカーを使うのだ……唱えるのだ』

ゆりえ『ゴォォォォッド・ブレイカァァァァァァ!』

 ライディーンの右腕の装甲が伸び、剣となる。

『飛ぶのだ……勇者』

ゆりえ「と、とぉーっ!」

 ゆりえが渦の中から飛び出したことで、ライディーンの姿が日の下に晒された。そして近くにいた飛行物体、妖魔帝国の戦闘機ドローメにぶつかった。

ゆりえ「えーいっ!」

 ズバァッ! ゴッド・ブレイカーの一撃でドローメは砕け散った!

ゆりえ『ラァァァァイディィィィィィィィン!』

 パッパラーパララパッパパー パララパッパパー パララパッパラパー
 ラララーランララー ライディーン ライディーン
 マブシイソラヲー カガヤクウミヲー 
 ワタセルモンカー アクマノテニハー
 ミンナノネガイー カラダニウケテー
 サーァー ヨミガーエーレー ライディーン ライディーン
 フェードイーン フェードイィーン タチマチアフレルシンピノチカラー
 ユケーユケー ユウシャー ライディーン ライディーン
 ラァァイディィィィィィィィン!




565VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/18(金) 23:30:06.771qHqZ1zAO (1/1)




566VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:18:57.65Wsw2B+7L0 (1/16)


 第5話

 光子力研究所

唯「あずにゃん、あずにゃん!」

梓「なんですか、唯先輩、ムギ先輩まで」

唯「私たち、マジンガーZの歌を作ったよ!」

梓「ズコー!」

紬「久しぶりにはりきっちゃったわ~」

唯「澪ちゃんとりっちゃんにももう譜面渡してあるから、あずにゃんも練習しようよ!」

梓「この戦時下でこの人たちは……」

唯「なんだよー、あずにゃんはいつも練習しましょうって言うくせに、私がやる気出すと怒るんだもん」

梓「怒ってはいませんよ。ただ、もうちょっと時と場合というのを考えてほしくてですね……」

唯「あずにゃん、落ち着いてー、ぎゅー」

梓「はうっ、はにゃーん……」

紬「はあはあ」

 スタジオは光子力研究所に紬が用意していてくれた。
 合宿の別荘で使った時の様な広い部屋に新品の機材がたくさん並んでいる。

律「いくぜー、ワン、ツー、スリー!」

唯「そーらにー、そびえるー、くろがねのーしろー、スーパーロボットー、マジンガーゼットー」

 中略

唯「いまだー、だすんだー、ルストハリケーン、まじんごー、まじんごー、マジンガーゼーェット!」

 ジャーン!

憂「お姉ちゃんかっこいいー」パチパチ

梓「これはひどい。とても宇宙世紀の歌とは思えない」

さわ子「新しい路線を開拓したわね、唯ちゃん。いや、むしろ発掘かしら?」

澪「ふわふわ時間のあとにこれを歌うのが想像できないな……」

律「なんか今までで一番リズム取るの大変だったぜ……」

紬「楽しかったわー、唯ちゃん。素敵」

唯「でへへー、もっとほめてー」

 ズガァァァァァァァァン!

憂「きゃあぁ!」

唯「ふおぉー、なにごとー!」

秋山「みんな、急いで出撃してくれ! また機械獣が現れた!」

律「なんだってー! 懲りない奴らだぜ!」

唯「あーん、この後ムギちゃんのおやつが待ってるのにー!」

澪「戦いが終わってから食べろ!」



567VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:19:59.18Wsw2B+7L0 (2/16)


 光子力研究所 近郊

唯「パイルダー、オーン! マジーン、ゴー!」

澪「アフロダイA、ゴー!」

律「じゃんじゃじゃ~ん! ボスボロットも参上だわさ~!」

 マジンガーZからだいたい250メートルほど離れた場所にあしゅら男爵と以前に倒した機械獣ガラダK7とダブラスM2がいた。

あしゅら「平沢唯、マジンガーZ! 今日こそは貴様たちを叩きのめし、光子力研究所を奪い取ってやるわ!」

唯「なにをー! 前に負けた機械獣を使いまわしてマジンガーZに勝てるわけ無いじゃん!」

あしゅら「ワハハハハハ! 当然、貴様に勝てるようにパワーアップしているわ!」

紬「各地のスーパーロボットがすぐに救援に駆けつけてくれるわ。それまでは無理をしないでね」

唯「よーし、見ていろ、あしゅら男爵! すぐに倒してやるー!」

 紬の言葉は馬耳東風。唯はマジンガーZをあしゅら男爵に向かって走らせた!

澪「唯! だから勝手な動きをするなって言われたばっかりだろ!」

唯「平気だよ、澪ちゃん! マジンガーZは無敵なんだから!」

律「よ~しっ! 私も唯に負けてられないぜ! ボスボロット、いっくぜぇ~!」

 がしゃがしゃがらがら! ボスボロットもマジンガーの後ろにくっついて走り出した。

澪「律まで! あぁ、もう!」

 慌てて澪も二人を追いかけ始める。

紬「…………」

梓「ムギ先輩、さすがに怒ってもいいと思いますよ……」

唯「どりゃ~! このままぶつかってバラバラになっちゃえ~!」

 ドカドカドカドカ! マジンガーZが地面を踏み鳴らしてあしゅら男爵に向かって突進していく!

あしゅら「ふふふ、こい、平沢唯!」

唯「マジンガータックルー!」

 ドガァッ! 機械獣ガラダにマジンガーの黒い体がぶつかった!

 だが、唯の目は次の瞬間、驚きに引ん剥かれることになる。

唯「えぇ!?」

 なんと、マジンガーZにタックルされた機械獣ガラダK7の体は中身が空洞のハリボテだったのだ! 隣のダブラスM2も全く動かないことから、こいつもハリボテなのだろう。

 そして、ダブラスの肩に乗っていたあしゅら男爵の姿がいつの間にか消えていた。



568VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:21:06.82Wsw2B+7L0 (3/16)


唯「ど、どういうこと!? あしゅら男爵はどこにいったの!?」

あしゅら「ワーッハッハッハッハッハ! まんまと引っかかりおったな、平沢唯!」

 ズズーン! 唯の位置から右斜め前200メートル先くらいからあしゅら男爵の高笑いとともに何かが地面のなかから出てきた!

あしゅら「くくくく、ゆけぃ! 機械獣アブドラU2、破壊光線だ!」

アブドラ「ぎゃおおおおおおおおおおん!」

 ギュビィィィィィィィィ! 超射程の破壊光線がマジンガーZに直撃した!

唯「うわぁぁぁぁぁ!」

あしゅら「フハハハハハハ! この距離ならば、さすがのマジンガーZといえども攻撃できまい! さぁ、ゆけぃ! 我があしゅら男爵直属のあしゅら軍団よ! マジンガーZたちが離れた光子力研究所を制圧するのだ!」

あしゅら兵「イエッサー!」

 あちこちの山林からタイツとマスクのあしゅら男爵の兵士が現れ、一斉に光子力研究所に向かって走り出した。

澪「くっ、光子力研究所が狙いだったのか!」

律「だけど、このままじゃ唯もやられちまう!」

唯「あばばばばば……!」

紬「大丈夫よ、澪ちゃん、りっちゃん、光子力研究所は対人防衛機能も備えているから、少しの間ならなんとかなるわ」

律「そ、そうなのか?」

紬「えぇ、安心して。斎藤、やりなさい」

斎藤「かしこまりました、紬お嬢様」

 その合図一つで光子力研究所からも武装した黒服のSPや装甲車がたくさん出てきた。

梓「ムギ先輩マジパネェです。ぶっちゃけ連邦の兵士より強い気がします」

憂「っていうか、今まであの人たちどこにいたんだろう……五日間も寝泊りしているけど、全然見なかったよ」

 あしゅら兵「でりゃー!」琴吹家SP「はあぁぁ! ほあたーっ!」

紬「だから、澪ちゃんたちは唯ちゃんを助けて」

澪「あ、あぁ……」

律「よ~し、澪、アフロダイのおっぱいミサイルをお見舞いしてやれ!」

澪「お、おっぱいミサイルって言うなよ……!」

唯「うんたたたたうんたたうんたん!」

律「早くしろ、澪! 唯の叫び声がだんだんやばくなってるぞ!」

澪「わかったよ! ミサイル発射!」

 ボシュッ! ボシュッ! アフロダイAの胸部から二発のミサイルがアブドラU2に向かって飛んでいく。



569VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:24:34.55Wsw2B+7L0 (4/16)


あしゅら「むっ! えぇい、こざかしい!」

 アブドラU2の肩に乗っていたあしゅら男爵が陽炎のように消え、アフロダイのミサイルの上に現れた。

あしゅら「これでどうだ!」

 グサッ! あしゅら男爵の杖がミサイルに刺さり、そこに電撃が迸った。

あしゅら「ふはははははは! どうせならミサイルも超合金Zで包んでおくんだったな! 爆発しなくなるかもしれんがな! ふはははははは!」

 ドカーン! 二つのミサイルはアブドラU2に当たる前に爆発してしまった。その間も破壊光線はマジンガーZと唯に浴びせられている。

唯「わわたたたたしししははひひらららさささわわゆゆいいだだだだだだ」

憂「お、お姉ちゃんが死んじゃう~!」

律「ちくしょう、唯! バルタン星人の真似みたいなことしてる場合じゃねーぞ!」

澪「いったい、どうすれば……」

あしゅら「むむむ、あしゅら軍団め、まだ光子力研究所に侵入できんのか!」

律「むむむ! りっちゃん、閃いちゃったぞ!」

澪「どうするんだ、律!?」

律<閃き>「澪! アフロダイでボスボロットを思いっきりぶん投げろ!」

澪「な、なんだって! そんなことをしてどうするんだよ!?」

律<閃き>「こんなときのため、ボスボロットには試作型の光子力爆弾があるのだ! その威力は澪のおっぱいミサイルの三十倍だ! その威力ならたとえ直撃できなくてもあいつを吹っ飛ばして唯を助けるぐらいはできるはずだ!」

澪「おっぱい言うな! それに、そんなことをしたら律が!」

 そう言いながら、ボスボロットは座り込んで手足をたたんで丸くなっていた。

律<閃き>「なぁに、ちゃんと脱出しておくよ! っていうかもうしてるぜ!」

 ボスボロットの傍では米粒みたいな律がおでこを輝かせて手を振っていた。

澪「よし、わかった、やるぞ!」

 アフロダイは屈んでボスボロットを両手で頭上高く持ち上げて一気に走り出す!

あしゅら「むっ、何をするつもりだ!?」

 あしゅら男爵が杖を突き出して電撃を放とうとする。しかし、それよりも先に澪のアフロダイAはサッカーのスローインのようなモーションに入っていた。

澪<熱血>「いっけぇぇーっ!」

 ぶん! アフロダイAの手からボスボロットが投げられた! これにはさすがのあしゅら男爵もおったまげた。

あしゅら「な、なんだとーっ! えぇい!」

 ズバババ! あしゅら男爵の杖から電撃が放たれ、ボスボロットは空中、アブドラU2のおよそ20メートルほど手前で静止していた。

律<熱血閃き>「喰らえぇーっ! スペシャルデラックスボロットパーンチ! カチッとな」

 ドドドカァーン!  律の手中のスイッチが押されると、ボスボロットが大爆発した!

あしゅら「ぐ、ぐわぁーっ!」

 ズズーン……! 機械獣の体が倒れて、破壊光線が止まった。マジンガーZが解放されたのだ。



570VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:26:53.51Wsw2B+7L0 (5/16)


唯「あぶぶぅ~、びおぢゃん、びっぢゃんんばりがと~」

律「いやぁ、礼はムギのケーキ一個で手を打ってやるぜ」

澪「律! はやくアフロダイに乗れ!」

あしゅら「ぐぐぐ……おのれ、マジンガーZ以外は雑魚と思っていたが……先に貴様から始末してやるわ!」

 立ち上がったアブドラU2が破壊光線の目標をアフロダイAに向けた。

 ズバババババ! 破壊光線が今度はアフロダイAに直撃した!

澪「うわぁぁぁぁぁぁ!」

律「わぁぁぁぁぁぁあぁぁ!」

唯「澪ちゃん、りっちゃん!?」

あしゅら「くくく、手こずらせおって……バラバラにしてやる!」

 杖から電撃を迸らせるあしゅら男爵は狙いをアフロダイAの四肢に集中させた。

あしゅら「このあしゅら男爵を怒らせると、こういうことになるのだ!」

 ガガガガガガガガガガガガガガガ!! 電撃がさらに強くなり、アフロダイAの肩と足の付け根が抉れていく。



571VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:29:11.18Wsw2B+7L0 (6/16)


澪「うぐっ……あぁぁぁぁぁぁ!」

律「うあぁぁぁぁぁ!」

 千切れていくとアフロダイAと二人の悲鳴が唯の鼓膜を突き抜けて、まるで澪と律が拷問台に掛けられている様を幻視して、頭をガンガン叩いている。

あしゅら「生意気なガキどもめが! 思い知れぃ!!」

澪「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

唯「やめてぇーっ!」

 バキャァッン! アフロダイAの細い四肢がバラバラに引き裂かれた!

唯「澪ちゃん、りっちゃん!?」

 咽喉が切れそうなくらいに声帯を震わせる唯の前で、赤茶色の液体がぼとぼとと落ちる。
 その瞬間、唯の視界が真っ赤に染まり、彼女の心の奥底に眠る何者かが意識を支配した。

あしゅら「くくく……とどめを刺してやる!」

 ズバババババババババ! 胴体から地面に落ちたアフロダイAに再び破壊光線が牙を剥く!

唯「あしゅら男爵ーっ!」

 ズズン! 獣のような咆哮とともにマジンガーZがアフロダイAの前に出て、破壊光線を再び喰らった!



572VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:30:36.18Wsw2B+7L0 (7/16)


あしゅら「ワーハッハッハッハ! さっきの二の舞ではないか!」

 バババババババババババババッ!! あしゅら男爵は破壊光線の出力を上げて高笑いする。

 だが、破壊光線を身構えて受け止める鉄の城がゆっくりと足を上げた。

あしゅら「……む、な、なんだ…!?」

 ドスン! マジンガーZの巨大な足が地面に大きな穴を空ける。

あしゅら「ぬ、ぬぉっ!?」

唯「あしゅら男爵……よくも澪ちゃんとりっちゃんを……許さないぞ!」

あしゅら「う、動いている……何故だ! どういうことだ!?」

 ズン……! ズン……! 破壊光線を全身に浴びながら、マジンガーZはアブドラU2に向かって確かに近づいている。

 ズン! ズン!! ズドン!!! 赤い光線に包まれながら眼を光子力の金色に光らせ、大地に強く踏みつけるマジンガーZの姿はまさに地獄の魔人であった。

唯「許すものか……絶対に……あしゅら男爵!」

澪「ゆ、唯……?」

律「どうしちまったんだ……?」



573VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:31:35.89Wsw2B+7L0 (8/16)


憂「お、お姉ちゃん……?」

 今や、マジンガーZはあしゅら男爵とアブドラU2の目の前に来ていた。

あしゅら「く、来るな! なんだというのだ、平沢唯! 来るなぁぁぁぁぁぁぁ!」

唯「うわあああああああああああああ!!」

 ズガァッ! マジンガーZの手が機械獣の両腕を掴み、持ち上げた。

あしゅら「な、何をする、貴様!? やめろ! 降ろせぇ!」

唯「このおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

あしゅら「お、お許しください、ドクター・ヘル様! このあしゅら男爵! これ以上、作戦を続けることはできませぬ! ただ、このマジンガーZの恐ろしさをお伝えするために、それだけのために、アブドラU2を放棄いたします!」

 あしゅら男爵が機械獣の肩から姿を消すのと、マジンガーZの胸が赤く光ったのは、ほぼ同時であった。

唯「ブレストファイヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 ゴバァァァァァァァァァァァッ!! 怒りの魔人の業火、ブレストファイヤーが機械獣の体を直撃した。
 スーパー鋼鉄がまるで海のヘドロのように溶けてしまい、マジンガーZが持っていた腕だけを残して地面に広がっていく。



574VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:32:18.74Wsw2B+7L0 (9/16)


紬「た、倒した……の?」

 基地から見ていた紬もこの異様な勝利に戸惑っていた。
 溶解した鉄から出てくる蒸気を纏うマジンガーZはアブドラU2のものであった両腕を指から離して高熱に灯った大地に落とした。

 だが、真に異様な光景はこの直後だった。

 ゴゴゴォ……! マジンガーZは両肘を直角に曲げた腕を頭部の左右に置いた。
 本来ならば、これが正しいブレストファイヤーを撃つための動きである。

 全員が不安に唾を飲み込んだとき、マジンガーZは再びブレストファイヤーを撃った!

澪「なっ!?」

梓「何をしてるんですか、唯先輩!?」

 ゴォォォォォォォォ! マジンガーZから放出される30000度の灼熱が周囲の大地をところかまわず滅茶苦茶に燃やし始めたのだ。

憂「お姉ちゃん! お姉ちゃん、何をしてるの!? もう敵は倒したんだよ! だからやめてぇ!」

 憂が紬を押しのけてマイクの前に立ち、必死に呼びかけるが、マジンガーZから唯の声は返ってこなかった。

紬「な、何が起きているの……?」

秋山「これは、まさか光子力エネルギーが暴走しているのか……?」

梓「暴走? そんなことあるんですか!?」

田井中「光子力エネルギーはその資源であるジャパニウム鉱石からしてまだ解明されきっていない力なのだ。だからアフロダイAを用いてその制御できる限界を我々は計測していたのだ。アフロダイAでもまだ全体の30%ほどしか超合金Zや光子力エネルギーを使用していない」

秋山「だが、マジンガーZは全身のほとんどが超合金Zと光子力エネルギーで出来ている。我々の知らない光子力の何かが戦闘中に反応して暴走してしまった可能性が高い」

田井中「引き金はおそらく唯くんの怒り……だろうか……兜博士は言っていた。光子力は人間の心と引き合うと。だとしたら、唯くんの心は今、光子力とともに暴走しているかもしれない」

憂「なんとか……なんとかならないんですか!? お姉ちゃんを助けてください!」

秋山「とにかく唯くんをマジンガーZから降ろすしかないが、どうやらこちらのコントロールも受け付けなくなっているらしい。無理に引き剥がすにしても、あの状態ではとても……」

憂「そんな……お姉ちゃん、お姉ちゃん!」

 憂の体が膝からくずおれて、指令テーブルにしがみつくように肩を震わせて泣き出した。

紬「私たちは……ここから見ていることしかできないの……?」

 破壊を振り撒く鉄の城。その金色の光る双眸が光子力研究所を捉えた。
 上体が胸部を突き出し、両肘を直角に曲げた腕を頭部の左右に置いた。ブレストファイヤーの合図だ。

梓「ダメ……ダメです……唯せんぱぁぁぁぁぁぁい!」

 ゴバァァァァァッ! 梓の響きも虚しく、マジンガーZはブレストファイヤーを発射した。
 直撃を受ければ、光子力研究所は中にいる人間もろとも消し去ってしまうだろう。

夕映「ゲッタァァァァァァァァァビィィィィィィィィィィィム!!!!」

 ズバァァァァァァァァァァァァ!! 風前の灯であった光子力研究所の真上から降り注いだ光線がブレストファイヤーとぶつかり、その全てを相殺させた!

紬「これは……もしかして」

夕映「ゲッターロボ! 見参です!」



575VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:33:23.34Wsw2B+7L0 (10/16)


ハルナ「さて、けっこうヤバイ事態みたいね」

秋山「今の唯くんは怒りに我を忘れてしまい、その意識をマジンガーZに取り込まれてしまった可能性がある。それを止める方法は一つ。唯くんがいる頭部のパイルダーを無理にでも引き剥がすしかない」

のどか「ち、超電磁研究所でもー……キャンベル星人が現れたみたいで……ライディーンと一緒に戦ってこちらの救援には来れないみたいですー……」

田井中「アフロダイも先ほどの破壊光線で戦闘の継続はできない……」

夕映「私たちだけでやるしかないわけですね」

ハルナ「いいじゃない。マジンガーZ対ゲッターロボ。燃えてきたわぁ~」

 グォォォォォォ! マジンガーZが唸りをあげてゲッターロボのほうを向いた。

 ブォォォォォォ! いきなり、ルストハリケーンがゲッター1に襲い掛かる!

夕映「ここからでは研究所が! ゲッター1! フルスピードです!」

 ゲッター1が全速力でマジンガーZに向かって飛んでいく。
 酸の風はゲッター1を追いかけて研究所から離れていく。

 ゲッター1はマジンガーZの頭上まできた。
 マジンガーZの頭部にはパイルダーがあり、その中には唯の姿があった。

夕映「超合金Zがどれほどのものか、こちらもゲッター線合金です! トマホゥゥゥゥゥク・ブゥメラン!」

 ぶぅん! 風を乱暴に切り裂いてゲッタートマホークがマジンガーZの首をめがけて飛んでいく!
 頭部を分離させれば、マジンガーZの動きも止まり、唯を救出させるのもやりやすいかもしれない。

 ガシィッ! しかし、トマホークはマジンガーZの首に僅かに食い込んだだけで止まってしまった。

 さらに、マジンガーZはトマホークを抜き取り、振りかぶってそれをゲッター1に投げつけてきた。

夕映「くっ、ゲッタァァァ・レザァァァァァ!」

 ガキィン! ゲッター1の手首についている刃でトマホークを弾いた。
 だが、マジンガーZはフォロースルーの姿勢から顔を上げて光子力ビームを放つ。

のどか「ゆえっ! 危ない! オープンゲットして!」

夕映「オープンゲェット!」

 バシュッ! ゲッターロボを形成する三機のゲットマシンに分離して光子力ビームを避けた。



576VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:34:47.88Wsw2B+7L0 (11/16)


ハルナ「ここはゲッター3の出番ね。チェーンジ! ゲッター3!」

 ガシィン! ゲットマシンがベアー号、イーグル号、ジャガー号の順に合体して最大のパワーを持つゲッター3にチェンジした。
 その下半身は無限軌道のキャタピラとなり、全長もゲッター1の半分近くになるが、それでもマジンガーZよりも大きい20メートルだ。

ハルナ「どりゃーっ! ゲッター3の100万馬力を喰らいなさい!」

 ドガァッ! マジンガーZは体重20トン、対するゲッターロボは200トンもある。
 その差は単純な体当たりでもはっきりと現れ、あっけなくマジンガーZは地面にしりもちをついた。

ハルナ「このまま押さえつけてふんじばってやるわ!」

 ゲッター3の腕が倒れたマジンガーZの腕を掴もうと伸びる。

 ゴゴォッ! しかし、今マジンガーZを動かしているのは何者なのか――まるで生身の人間であるかのように鉄の城は不安定な体勢から正確に両手を伸ばし、ゲッター3の手と組み合った。

ハルナ「なっ!?」

 ズゴゴゴゴゴ……! マジンガーZは腰を地面につけている状態からゲッター3の腕を押し返して立ち上がろうとしている!

のどか「そんな……ゲッター3の最大パワーよりも強いなんて……」

夕映「まずいですよ! ブレストファイヤーが来るです!」

 夕映の言ったとおり、マジンガーZの胸の赤いVの字が光りを放っている。

ハルナ「オープン・ゲットするわよ!」

 バシュッ! 再びゲットマシンが分離して、今度はゲッター1になった。

夕映「ゲッターパーンチ!」

 ドカッ! ブレストファイヤー発射の直前にゲッター1のパンチがマジンガーZに当たり、ブレストファイヤーは空の彼方へ消えていった。

紬「ゲッターチーム、マジンガーZをうつ伏せに倒して! そうすれば武装のほとんどが使えなくなるわ!」

夕映「わかったです! ゲッターウィング!」

 反重力マントを背中に出してゲッター1は大きくマジンガーZを翻弄しながら背中に回った。

夕映「ゲッター・ダブルドロップキーック! です!」

 どがっ! 猛スピードで落下しつつ足を揃えたゲッター1のキックでマジンガーZは吹っ飛んで膝から倒れた。

夕映「オープン・ゲェット!」



577VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:36:07.98Wsw2B+7L0 (12/16)


のどか「チェーンジ! ゲッター2!」

 ガシィッ! 今度は白い流線型のスピード形態、ゲッター2にチェンジしたゲッターロボは、マッハ3にも迫る最大加速で一投足の動きでマジンガーZの前に現れ、右手のゲッターアームでコクピットのパイルダーを挟んだ。

のどか「抜けろ、抜けろ~……!」

 パイルダーとマジンガーZを繋いでいるのも超合金Zである。押しても引いてもびくともしない。

ハルナ「のどか、ゲッターアームを回すのよ!」

のどか「う、うん」

 ぎり、ぎり……ゲッターアームを回して接合部をねじ切ろうとするが、ほんの僅かずつしか動いていかない。
 それでもねじっているのは確かなので、のどかはゲッター2のエネルギーをフルパワーにした。

 グオォォォォォォ……! マジンガーZが地面に手をつけて立ち上がろうとする。
 ゲッター3ほどのパワーがないゲッター2ではマジンガーZに腕を掴まれたらおしまいだ。

のどか「ゲッター・ドリール!」

 ギュイィィィィィィ! のどかは左手のドリルを回して地面を掘り、地中に潜っていった。パイルダーを掴むゲッタードリルも手首まで埋まる。

ハルナ「おぉ! のどか、ナイスアイディア!」

夕映「これならマジンガーZからすぐに攻撃を受けることはないですね」

 だが、地上にいるマジンガーZは両肘を折り曲げて断面からドリルミサイルを連続発射した!

 ドドォン! ドドォン! 先端がドリルになっているドリルミサイルは地面を抉り進みながら爆発する。

ハルナ「な、なんか来てるわよ! やばそうな感じね」

 ぎり……ぎりり……ゲッターアームがパイルダーをねじ切ろうとする。

 ドォン! ドゴォン! ドリルミサイルが地面に穴を空けてゲッター2を攻撃しようする。

のどか「も、もうちょっと~……!」

ハルナ「がんばりなさい、のどか!」

夕映「ゲッターの力を信じるです!!」

 ぎぎぎぎぎぎぎ……!!

夕映・のどか・ハルナ「ゲッタァァァァァァァァ・スパァァァァァァァァァクゥゥゥゥゥ!!」

 ガキュィィィィンッ!!

ハルナ「やったわ!」

夕映「マジンガーZからパイルダーを外すことに成功したです!」

のどか「よ、よかった~……」

 パイルダー奪取の勢いでゲッター2は地中1000メートルくらいまで進んでから、再び地上に戻ってきた。

 マジンガーZは、正座するような格好で沈黙していた。

のどか「止まったみたいだねー……」

夕映「任務完了です。光子力研究所に戻るですよ」



578VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:36:49.58Wsw2B+7L0 (13/16)


 光子力研究所

紬「ありがとうございます。ゲッターチームの皆さん。本当にありがとうございます」

 司令室で紬は夕映、のどか、ハルナの三人に深く頭を下げた。他のメンバーと憂は医務室に運ばれた唯たちのところにいる。

ハルナ「いやいや、大事にならなくてよかったわよ、本当に」

紬「いえ、あのままだったら光子力研究所は破壊されて町にも被害が出てしまう可能性がありました。本当にありがとうございます」

 謝りながらも紬は視線はちらちらと別のほうへ向いていた。目の前で話しをしている三人がそれに気づかないわけがない。

夕映「唯さんが気になるなら、私たちのことはおかまいなく、行ってもいいですよ」

紬「あ、いえ、せっかく助けていただいたのに……」

のどか「わ、私たちもー……気になりますからー……」

紬「……ありがとうございます」

ハルナ「四回目だねぇ、私たちは仲間なんだから、助け合うのは当然でしょ。私たちの迷惑なんて気にしなくてもいいのよ」

夕映「ハルナ、あなたは年上に対しての口の聞き方を気をつけるべきです」

 医務室

 唯はパイルダーの中で気絶していた。すぐに医務室に運ばれて検査と治療を受けたが、打ち身など以外、異常はほとんど見られなかった。
 現在は気絶というよりは寝ているという状態でベッドで横になっていた。

憂「お姉ちゃん……」

梓「唯先輩……」

 ずっと唯にしがみついて呼びかけていた憂は泣き疲れたみたいで、唯のお腹に頬をくっつけて眠っていた。信じるように唯の手を握りしめている。

 梓も似たような状態だった。憂とは唯を挟んで反対側に座り込んで手を握っている。

 少し離れたところには澪と律が立っている。二人とも体のあちこちに包帯を巻いているが、苦い痛みの原因は眠っている唯だ。

律「唯のやつ……どうしちまったんだ……」

 律がベッドのほうには聞こえないようにぽつりと呟いた。澪は左腕の包帯を右手でさすって首を横に振った。

澪「私もわからないよ……でも、あの瞬間、唯がすごく怒っていたのはわかる」

律「唯が怒る……か、見たことなかったな、私たち」

澪「このまま唯が目を覚まさなかったら……うっ、ひぐっ……」

律「澪……やめろよ、そんなこと言うの……」

澪「だって……うぅっ……」

律「泣くなよ……私まで……涙、出ちゃうだろ……」



579VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:45:05.81Wsw2B+7L0 (14/16)


 眠っている唯は夢の世界にいた。

唯「ここは……?」

 辺り一面は荒野だった。そして巨大な影が唯を覆っていた。

唯「マジンガーZ……うっ!」

 マジンガーZを見た途端、唯は自分とマジンガーZが何をしたのかを思い出した。

 真っ赤に染まった世界。あしゅら男爵の断末魔。どろどろになった機械獣。

唯「うっ、あうぅ……!」

 溶けた大地。尚も放たれる魔人の炎。憂の声――

唯「う、い……ういっ……!」

 傾く視界。光子力研究所。そして――

唯「あ……あず……にゃんの……わた、し……みんなを……」

 自分がしたことを、しようとしていたことが網膜に焼きついて離れない。顔を覆う唯のお腹が痛くなる。キリキリと痛い。

唯「マジンガーZの……ばか……ばかばかばかぁっ!」

 唯はマジンガーZの黒い足を叩いた。目から涙が、鼻水も垂らしてマジンガーZを叩いた。

唯「ばか……ばかぁ……」

 鉄の城は何も言わなかった。代わりに、別の何かが口を聞いた。

???「これは……どういったことだ……?」



580VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:45:33.87Wsw2B+7L0 (15/16)


 何かが唯の後ろ、マジンガーZの正面に立ったようだった。とても大きい、マントがはためく音も聞こえた。

???「これはいったいなんだ……?」

唯「……だれ?」

 声に唯は振り返った。
 涙と鼻水でぐずぐずになった唯と目を合わしたのは、金色の鎧を身に纏ったとても大きな、マジンガーZと同じくらいの大きさの人だった。

 いや、似ているのは背丈だけではない。似ているのは――

???「少女よ、これは何だ。この巨像……まるで、私の似姿ではないか?」

唯「……この子は、マジンガーZだよ」

???「マジンガーZ……マジンガーZというのか……少女よ、なぜ泣いている?」

唯「私は……ぐすっ、私、酷いことした……澪ちゃんやりっちゃん、ムギちゃんとあずにゃん……憂に酷いことをした……」

???「……そうか。だが、少女よ、お前は泣いている。涙が出るのは、お前が優しいからだ……」

唯「そんなことない……! 私は酷いんだよ……! ともだちを傷つけたんだ……!」

???「泣いてはならぬ……お前が泣きたいのは、自分のあやまちを償いたいからであろう……?」

唯「……でも、謝っても、許されないことを、私は……」

???「友達ならば、お前はその者たちをよく知っているのだろう……? 本当に、許してはくれない者たちなのか……?」

唯「……それは…………」

???「お前の優しさも、友達はよく知っているはずだ……きっと、許してくれるだろう」

唯「……ありがとう、おじさん」

???「お、おじさん!? 私はそういうものではないのだが……」

唯「でも、声がおじさんだもん」

???「むうぅ……」

唯「じゃあ、あなたは誰なの?」

???「そうだな、教えよう」

 そう頷いたとき、荒野の世界が光りを放った。黄金色の粒子が唯の周囲を包み込み、唯と彼の距離がどんどん離れていった。

???「わた……えは……だ」

唯「あれ、ねぇ、よく聞こえないよ、ねぇったら!?」

???「私の名前は……だ」



581VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/21(月) 17:46:22.24Wsw2B+7L0 (16/16)


 次に唯が目を覚ましたとき、そこに映ったのは白い天井と蛍光灯だった。

唯「……あり?」

 なんだか下半身が重い。ついでに言うと、ここは布団の中みたいだ。肘をついて胸から上を少し起こすと、唯は目を丸くした。

唯「憂……? あずにゃん? 澪ちゃん? りっちゃん? ムギちゃん? みんな何してるの?」

 全員、唯の布団にしがみついて眠っていた。唯が起きたことにもまったく気づかない。見事な爆睡っぷりだった。

憂「……おねえちゃん」

梓「唯先輩……」

澪「ゆい……」

紬「唯ちゃん……」

律「ゆ~い~……」

 自然と、唯の口から笑みがこぼれた。

唯「そっか……みんな、私を待っててくれたんだね……」

 今すぐみんなに抱きつきたかった。でも、みんな疲れているんだろうなと思って、唯は一番近くにいる憂の頭を撫でた。

唯「いつも、助けられてばっかりだね、わたし……今度は、私がみんなを助けなくっちゃね」

 そのために、マジンガーZに乗ることは、もう怖くはなかった。

 第五話 暴走! マジンガーZ対ゲッターロボ!



582VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/22(火) 17:21:44.89xJY2Sm7X0 (1/9)


 第六話

 バイストン・ウェルのラウの国の戦艦ゴラオンはアの国の戦艦ウィル・ウィプスを追って太平洋を横断していた。
 その第一目標はアの国王ドレイク・ルフトと北米大陸を占領しているジオン公国軍の接触を防ぐことだ。
 ゴラオンが非公式とはいえ地球連邦軍に加担してしまった以上、ドレイク軍はジオン軍と繋がる可能性が高い。

エレ「エイブ艦長、ウィル・ウィプスには追いつけそうですか?」

エイブ「難しいでしょうな、ゴラオンとウィル・ウィプスの速度はそれほど差がありません。わずかに我がほうが上回っているようですが

、先ほどリュウ殿が連絡を取ったハワイの通信基地の情報によれば、4時間前にドレイク軍が通過したようですから、先にアメリカ大陸に

到着されてしまいます」

リュウ「問題は、ジオン軍の司令官がどこにいるかだな。北米大陸は広いから、東部のほうにいればまだ追いつけるかもしれん」

珠姫「あの、でしたら私がダンバインでウィル・ウィプスを追いかけましょうか?」

エイブ「珠姫殿、ダンバインの調整は終わったのですか?」

珠姫「はい、すぐにでも出られます。紀梨乃部長のボチューンも」

エイブ「そうですな、少しはプレッシャーになるかもしれません」

エレ「しかし、ドレイク軍に数で攻められては逃げられない可能性がありませんか……?」

リュウ「それなら、俺と高町もついていこう。高町の魔法を使えば逃げやすくもなるだろう」

エレ「リュウ様、よろしいのですか?」

リュウ「あぁ、高町も大丈夫だと思う」

エイブ「それでは、お願いできますか?」

リュウ「了解した」



583VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/22(火) 17:22:46.56xJY2Sm7X0 (2/9)


 第六話

 バイストン・ウェルのラウの国の戦艦ゴラオンはアの国の戦艦ウィル・ウィプスを追って太平洋を横断していた。
 その第一目標はアの国王ドレイク・ルフトと北米大陸を占領しているジオン公国軍の接触を防ぐことだ。
 ゴラオンが非公式とはいえ地球連邦軍に加担してしまった以上、ドレイク軍はジオン軍と繋がる可能性が高い。

エレ「エイブ艦長、ウィル・ウィプスには追いつけそうですか?」

エイブ「難しいでしょうな、ゴラオンとウィル・ウィプスの速度はそれほど差がありません。わずかに我がほうが上回っているようですが、先ほどリュウ殿が連絡を取ったハワイの通信基地の情報によれば、4時間前にドレイク軍が通過したようですから、先にアメリカ大陸に到着されてしまいます」

リュウ「問題は、ジオン軍の司令官がどこにいるかだな。北米大陸は広いから、東部のほうにいればまだ追いつけるかもしれん」

珠姫「あの、でしたら私がダンバインでウィル・ウィプスを追いかけましょうか?」

エイブ「珠姫殿、ダンバインの調整は終わったのですか?」

珠姫「はい、すぐにでも出られます。紀梨乃部長のボチューンも」

エイブ「そうですな、少しはプレッシャーになるかもしれません」

エレ「しかし、ドレイク軍に数で攻められては逃げられない可能性がありませんか……?」

リュウ「それなら、俺と高町もついていこう。高町の魔法を使えば逃げやすくもなるだろう」

エレ「リュウ様、よろしいのですか?」

リュウ「あぁ、高町も大丈夫だと思う」

エイブ「それでは、お願いできますか?」

リュウ「了解した」



584VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/22(火) 17:23:50.89xJY2Sm7X0 (3/9)


 ゴラオン 格納庫

 アリサはすずかとなのはに手伝ってもらいながら、コア・ファイターの操縦を勉強していた。
 近くにはチャム・ファウがうろちょろと飛びまわっている。

アリサ「えぇっと、それで、これが着艦用のワイヤー射出なのよね」

すずか「うん、そうだよ。とりあえず、発進と旋回と着艦の流れを掴まないと帰ってこれなくなっちゃうからね」

チャム「ふーん、地上の機械もバイストン・ウェルのものとあまり変わらないのね」

すずか「チャムちゃんの着ているのって、パイロットスーツなの?」

チャム「そうよ、私がちゃーんと自分で作ったんだから」

すずか「わぁ、チャムちゃんお洋服も作れるんだ、すごーい」

アリサ「うーん、ホワイトベースにあったシミュレーターが恋しいわ」

なのは「大丈夫だよ、アリサちゃん。いざというときは私が魔法で助けてあげるから」

アリサ「それって、私が墜落することを前提で話してるわよね、なのは」

なのは「あぅっ、だってアリサちゃん、シミュレーターだって二回しかやってないし、二回とも落ちてたし……」

アリサ「……ま、否定はしないわ」

なのは「でも、今日は私がちゃんと傍についてあげるから、安心して飛んでね、アリサちゃん」

アリサ「わかったわ。ありがとう、なのは」

 アリサがいざヘルメットのサンバイザーを下ろそうとした時に、リュウが大声でやってきた。

リュウ「高町はいるか!?」

なのは「は、はい! います!」

リュウ「ん、何やってるんだ、コア・ファイターに集まって?」

すずか「アリサちゃんが操縦の勉強をしたいって言ったので教えてました」

リュウ「アリサが? なんだってそんな急に」

アリサ「だって……ゴラオンは人手不足じゃないから、私のすることがなくなっちゃったんだもん。私だけじっとしている訳にもいかないし」

リュウ「そうか、うーむ、そうだな。だが、少しコア・ファイターを貸してくれ。これからダンバインと俺と高町でウィル・ウィプスを追撃する」

アリサ「はーい。じゃ、ガンダムのコア・ファイターでおさらいだけしましょ、すずか」

すずか「うん、アリサちゃん」

チャム「じゃあ、私はタマキのダンバインに乗ってようっと」

紀梨乃「あれー? さっきから私ってば空気じゃにゃーい?」



585VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/22(火) 17:25:00.90xJY2Sm7X0 (4/9)


 ゴラオンから珠姫、なのは、リュウが出撃した頃、ドレイク軍のウィル・ウィプスでも似たような命令が出されていた。

ショット「それでは、私とトッドは先にアメリカへ向かいます」

ドレイク「うむ、任せたぞ」

トッド「はっ!」

 トッド・ギネスとショット・ウェポンの二人がブリッジから出て行くのを、軍団長バーン・バニングスは苦い顔で見ていた。

バーン「ドレイク様、二人だけで行かせてよかったのでしょうか?」

ドレイク「我らの中から行っても、話しが通じない可能性はあるだろう。余計に混乱させるだけかもしれん」

 バーンは、その言い回しがまるきりショットの弁であることを知っていたため、心中で舌打ちした。
 それは、ドレイクが今ショット以外に頼りに出来るものがいないという現われでもあったからだ。

バーン「ドレイク様! お言葉ではありますが、ドレイク様はショット・ウェポンを信頼しすぎであります。彼の者は元はといえばこの地上の男! それを我らバイストン・ウェルが呼び寄せた末にドレイク様に忠誠を誓ったに過ぎませぬ!」

ドレイク「バーン・バニングスよ」

バーン「は、はっ!」

 ドレイクの声調が重くなるのは、叱責を受けるときである。
 バイストン・ウェルに地上人が召喚されるようになってから、何度バーンはドレイクのこの低い声を聞き、肝を冷やしたことだろうか。

ドレイク「ならば貴様が地上の軍との交渉を行えるというのか?」

バーン「……っ!」

 バーンは答えることができなかった。
 彼はバイストン・ウェルいちの戦士であるが、珠姫、紀梨乃といったオーラ力に優れた地上の聖戦士との戦いに幾度も敗れているため、ドレイクの信頼は失墜し、反比例するようにショットやトッドの権威は上昇していた。

ドレイク「バーン、貴様を行かせなかったのにはもちろん理由はある」

バーン「はっ、なんでございましょうか?」

ドレイク「ゴラオンの軍勢が我らを追ってきたとき、貴様にはこのウィル・ウィプスを守ってもらわなくてはならぬ。失敗続きとはいえ、我が兵はまだ貴様に付き従おうとしている。これはショットにもトッドにもないものだ」

バーン「ははっ、ありがたきお言葉であります」

ドレイク「貴様は我が軍の軍団長だ。まずはそのことを自覚せよ」

バーン「ははぁっ! かしこまりました!」

 その会話を聞いていた女士官のミュージィ・ポゥはあらためてバーン・バニングスを単純な男だと思った。
 そしてすぐに、出撃したショット・ウェポンの身の上を案じていた。



586VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/22(火) 17:26:47.96xJY2Sm7X0 (5/9)


 太平洋上

 雲間に隠れながら、リュウの乗るコア・ファイターと珠姫、チャムの乗るダンバインはドレイク軍を追撃していた。

 雲中飛行は敵から極めて発見されにくいが、方角を見失いやすく、味方同士の衝突の可能性もあるが、一人で先行していたなのはがナビゲーションしてくれるため、航行を誤ることはなかった。

なのは「レイジングハート、高町なのは、ウィル・ウィプスを確認しました」

リュウ「了解」

珠姫「了解です」

 生身の人間であるなのはもレイジングハートを使って識別信号を出すことができるが、それを意図的に消せば、敵に発見される可能性はほぼゼロに近くなる。

チャム「ナノハってすごいわね! ミ・フェラリオじゃないのに羽が生えて飛べるんだもの!」

珠姫「そうだね」

チャム「タマキは空を飛ぶことはできないの?」

珠姫「できないよ」

チャム「ふ~ん、でも、タマキにはダンバインがあるからね!」

珠姫「うん」

 コア・ファイターとダンバインは一度雲の上に出た。
 そして、なのはの指示でウィル・ウィプスのちょうど真上で平行に飛んだ。

リュウ「よし、それじゃあ、高町は一直線にドレイク軍の中を急降下してくれ。攻撃もしなくていい。驚かせてくれればいいんだ」

なのは「はいっ」

 ぎゅっと杖を握って魔法の障壁を自分の周りに展開する。

なのは「いっくよー、レイジングハート」

レイジングハート「alllight my master」

 なのははリュウの言ったとおりに、ドレイク軍の中に急降下していった。
 ピンク色の魔法光に包まれているので、目視でもかなり目立つはずだ。


 ウィル・ウィプス

ミュージィ「何かがウィル・ウィプスの上から落ちてきます! かなりの速度です!」

バーン「なんだと!? まさかダンバインか!」

ミュージィ「違います! かなり小さいようです」

バーン「ドレイク様! 私はレプラカーンで出ます!」

ドレイク「うむ、功を焦るなよ。バーン・バニングス」

バーン「はっ!」

 ドレイク軍は突如頭上から現れたピンク色の光りにかなり驚いたようだった。
 また、これが敵の砲弾の類であったらと思い、接近しようというものはいなかった。

なのは「ディバイン・シューター!」

 オーラバトラーの多くがなのはを注目しているのがわかった。
 そして、ウィル・ウィプスの目の前で止まり、三つの光りの球をドレイクに向けて放った。

ドレイク「くっ! あの小娘か!」

 光球はブリッジのガラスに当たる直前に散開してそれぞればらばらにオーラバトラー隊のほうへ飛んでいった。
 なのは魔法を物理ダメージにセットしていたが、その威力はせいぜい機体を揺らす程度だ。
 しかし、ディバイン・シューターはなのはの意思で自由自在に動くので、敵機に当たるギリギリに方向転換させる。

ドレイク兵「う、うわぁっ!」

ドレイク兵「こ、こっちに来るなっ!」

なのは「もう三つ! いけぇぇーっ!」

 さらに三つの光球がなのはの手元から放たれた。
 この摩訶不思議な弾丸の威力や効果がわからないオーラバトラーは、あっという間に隊列を崩されてしまった。



587VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/22(火) 17:28:00.85xJY2Sm7X0 (6/9)


なのは「今です! リュウさん! 珠姫さん!」

リュウ「おう!」

珠姫「いきます!」

 なのはの合図で雲上に隠れていたコア・ファイターとダンバインが落下してきた。

ミュージィ「ダンバイン! 頭上より接近してきます! さらに戦闘機と思しきものが一機、追従しています!」

ドレイク「ジェリル、フェイ、アレンに向かわせろ! バーンの出撃を急がせい! 敵は数がいる訳ではない、ウィル・ウィプスの足止めが狙いだ。最大艦速で進め!」

ミュージィ「はっ!」

 ジェリル・クチビ、フェイ・チェンカ、アレン・ブレディは、珠姫やトッドより後にバイストン・ウェルに召喚された地上人だ。
 それぞれ、レプラカーンが与えられているが、アレンだけはその旧式機であるビランビーに乗っている。

アレン「ドレイクから命令だ。ダンバインをやれだとよ」

ジェリル「アレン、そんなので大丈夫なのかい? ダンバインのオーラ力は上がっているんだろ」

アレン「ふん、俺にはこれくらいがちょうどいいのさ。レプラカーンは好かねぇ」

フェイ「行こうぜ、もう来ている」


珠姫「来たっ!」

リュウ「三機か! ドラムロってやつじゃない!」

チャム「レプラカーンとビランビー! 地上人の聖戦士よ!」

アレン「フェイは戦闘機をやれ! ジェリルは俺とダンバインをやるぞ!」

フェイ「おう!」

アレン「注意しろよ、戦闘機でも、オーラバトラーと同じくらいの大きさはある」

フェイ「わかっている!」

珠姫「はあぁっ!」

 ガキィンッ! 珠姫とジェリルの剣がぶつかって火花を散らす!

ジェリル「死になっ! ダンバイン!」

アレン「俺だって、オーラ力は上がっているんだぜ」

 ガッ! ガッキィンッ! 二体のオーラバトラーが交互に仕掛けてくる。

チャム「右!? 左よ! あぁん! だめぇーっ!」

珠姫「耳元で怒鳴らないで! 胴ーっ!」

 ギィィィンッ! 横殴りの一撃でアレンの剣を弾いた直後、ダンバインは左腕のオーラショットでビランビーの右腕を破壊した。

アレン「チッ!」



588VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/22(火) 17:29:13.88xJY2Sm7X0 (7/9)


ジェリル「言わんこっちゃない! 喰らいな!」

珠姫「くっ! この人、強いオーラ力を持っている!」

 ガガッ! ガツィンッ! ジェリルの畳み掛けるような攻撃に、手負いで冷静になったアレンがサポートを加えてくる。

チャム「タマキィ! 左よぉ!」

珠姫「――ッ!」

 ズバァッ! アレンの剣がダンバインのオーラショットを切り落とした。

リュウ「まずい! 高町は、無理か……」

 フェイとリュウは追いかけあいをしていた。なのはは無数のドレイク軍を撹乱することに集中している。
 何千といるオーラマシンを一人で相手取っているのだから、敵にとっては恐ろしい存在になるだろう。

リュウ「ならば!」

 リュウは操縦桿を強く握って引いた。コア・ファイターが上昇し、強い負荷が体にかかる。
 地球の重力はリュウにとっては敵よりも注意しなければならないものだから、乱暴な運転はあまりしたくなかったのだが、既に撤退時だ。

フェイ「逃げるのかぁ? ならば死ねよ!」

 コア・ファイターは大きな軌道で旋回する。フェイのレプラカーンが後ろからフレイボムを連発している。

リュウ「そうだ、ついてこい……ここだぁ!」

フェイ「落ちろぉ!」

アレン「フェイ! 来るなぁ!」

フェイ「なにっ!?」

 リュウの向かう先にはダンバインとレプラカーンがいた。
 少し離れたところにいたアレンはリュウの狙いに気づいたが、既に遅かった。

リュウ「うおおおぉっ!」

 ババババババババババ! コア・ファイターはバルカンを撃ちながらレプラカーンに突っ込んでいった。

ジェリル「チィッ!」

 ジェリルはバーニアを一気に噴射させて上昇した。
 吐き出されるオーラ力のきらめきの中をリュウのコア・ファイターが通り抜けていく。

アレン「ジェリル、速く逃げろ!」

 ダンバインはバーニアの反動で機体が静止したレプラカーンに接近していた。

チャム「必殺のオーラ斬りだぁあ!」

ジェリル「くっ、このぉぉぉぉ!」

 ザシュッ! レプラカーンの翼が落ちた!

珠姫「頭部を狙ったのに!」

チャム「オーラ力で逸らされちゃったのよ!」

ジェリル「ちきしょう! フェイの下手糞が!」

フェイ「なんだと! 二人がかりで倒せなかったくせに!」

ジェリル「お前が邪魔をしなけりゃよかったんだよ!」

アレン「二人とも、よせ!」

バーン「馬鹿者どもが! 下がれ!」



589VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/22(火) 17:32:53.41xJY2Sm7X0 (8/9)


 バーンのレプラカーンが現れた。しかしダンバインとコア・ファイターは帰還体勢に入っている。

バーン「ここまで好きにやられて、見逃るものか!」

 ここでダンバインを逃がしてはそれこそ己の沽券に関わる。そして追撃を始めるからには、ただで戻ることはできない。

 ただ、ドレイク・ルフトがバーンに求めていた能力は戦士として敵と戦うことよりも、兵士を指揮し、戦争に勝つ軍団長の力だ。
 ドレイクはダンバインの動きが陽動の類であると見抜いていた。ここでダンバインを逃がしても、彼の評価は変わらなかっただろう。

 しかし、バーン・バニングスは高潔な騎士であるがゆえに、ダンバインを落とせぬことを誰よりも恥じて、自ら退路を見失ってしまったのだ。

珠姫「このオーラの波動……バーン・バニングス!」

チャム「やだぁ! 追っかけてくるのぉ!?」

リュウ「高町! 聞こえているか!?」

なのは「は、はいっ!」

 なのははドレイク軍のど真ん中で戦っていたため、珠姫とリュウより遅く撤退を始めていた。
 つまり、位置としてはバーンの後方にいるのだ。

リュウ「ドレイク軍から追撃の部隊は出ているか?」

なのは「い、いえ、誰も追っかけてきません」

リュウ「なら……!」

 レプラカーンがダンバインの姿を捉えた。
 バーンはこれまでの屈辱を思い出し、眼光を鋭くさせつつ、ようやくそれを晴らすことができる喜びに口元を歪めさせていた。

バーン「ダンバイン! タマキ! 今日こそ貴様を仕留めてみせる!」

 ダンバインが振り返った。逃げる選択をしない敵にバーンは己の騎士道精神を滾らせた。

バーン「我が血がふつふつと沸き立ってきた。この瞬間を私は待っていた!」

 もしもバーンの声が珠姫に届いていたのなら、この戦いは彼の望みどおりになっていただろう。

 たとえ、ダンバインに討たれて死のうとも、彼は本望だったはずだ。

 だが――

バーン「ッ! なにっ!?」

 あと数秒で剣が届くかという時、ダンバインはわずかに上昇した。

 その向こうに見えた空からコア・ファイターが飛んできた。



590VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/22(火) 17:34:16.42xJY2Sm7X0 (9/9)


バーン「タマキ! 正々堂々とあいまみえよ!」

 コア・ファイターの翼にダンバインが掴まった。コア・ファイターはマッハ3を計測していた。
 オーラバトラーの速度は最高で300リルで時速1200キロ、ぎりぎりでマッハ数にいけるかどうかがせいぜいだ。
 いかにバーンがバイストン・ウェル最高の戦士といえども、反応できる速度ではなかった。

バーン「タマキィィィィィィィィ!!」

 急いで剣を構えた。しかし、それまでだった。

チャム「お前なんか、いっちゃぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 ザンッ!! レプラカーンの首が切り捨てられた!

バーン「そんな……バカな……私が……ただの一太刀も交わすことなく、負けた……?」

 ふらふらとレプラカーンが墜落し始めた。
 コクピットで呆然としていたバーンは、特別なレンズ素材で外が見える外壁越しにダンバインがコア・ファイターに乗って去っていくのを見た。

バーン「ダンバイン……タマキ……くぅぉおっ!」

 騎士としての戦いさえ踏み躙られた。彼の内に宿った魂は既にバーン・バニングスのものではなかった。

バーン「我が精神を冒したのは貴様だ……タマキ」

 全てを失った。地位も、名誉も、誇りも……残ったものは、憎悪のみ。

バーン「もはや、自分などいらぬ……バーン・バニングスという男は、ここで死ぬのだ」

 タマキを殺す。

 それだけが、望み。

???「それなら、私にちょうだぁい」

バーン「……なんだと?」

 いつの間にか、海面を漂っていたレプラカーンのハッチが開いている。

 そこに座っていたのは、人間より小さく、ミ・フェラリオよりも大きい、精巧な顔に恐ろしい微笑みを浮かべた女だった。

バーン「なんだ……貴様は?」

水銀燈「命がいらないなら、水銀燈にぜんぶちょうだぁい。そうしたら、あなたの望みを叶えてあげる」

 黒い天使が、バーン・バニングスだった男に手を差し伸べていた。


 第六話 追走! 太平洋上の戦い 完



591VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/22(火) 18:49:12.20mepwn6Kho (1/1)

地の文に擬音書くのはやめた方がいいと思う
なんか幼稚っぽくみえるし


592VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/23(水) 17:09:24.79dusS23yA0 (1/10)


 第七話

 重慶 元連邦軍基地

 この基地を占領したギガノス軍はハルヒ・スズミヤ・プラートとその親衛隊のプラクティーズを迎えていた。

 そして、その着任早々にハルヒはモニター越しの月にいるドルチェノフ中将と会話をしている。

ドルチェノフ『それで、まんまと上海上陸を許してしまったというわけだな、プラート少佐』

ハルヒ「アンタたちが艦をケチってくれたおかげでね」

ドルチェノフ『言い訳は聞いておらん。貴様らの任務は即座にD兵器を取り戻すことだ』

ハルヒ「…………」

ドルチェノフ『その反抗的な目は止めたほうがいいと何度も忠告したはずだぞ、プラート少佐!』

ハルヒ「それは失礼。生まれつき、ドルチェノフ殿の前に出ると自然とこういう目つきになってしまうんです」

ドルチェノフ『貴様がそういう態度で出てくるなら、こちらにも考えはあるぞ……おい!』

みくる『涼宮さぁん!』

ハルヒ「みくるちゃん!?」

 モニターの前に連れてこられたのは首輪に鎖で繋がれた朝比奈みくるだった。
 目の端に涙をためるみくるを見てハルヒは憤りを露わにした。

ハルヒ「ドルチェノフ……! この卑怯者!」

ドルチェノフ『口の聞き方に気をつけろといったぞ、プラート!』

みくる『あぅっ!』

 ドルチェノフが鎖を引っぱり、みくるが苦しそうに呻いた。

ドルチェノフ『本来ならば、裏切り者の娘など即座に牢獄行きなのだぞ! その汚名を晴らす機会を与えてやっているのは誰だと思っている!』

ハルヒ「くっ……」

みくる『す、涼宮さん、私のことは……心配要らないですから……うっ』

ドルチェノフ『誰が喋っていいと言ったか!』

みくる『えほっ、えほっ』

ハルヒ「ドルチェノフ……ッ!」

 カメラに映らないところでハルヒの拳が震えている。
もしこの部屋にキョンがいれば、既にモニターに殴りかかっていたかもしれない。既にハルヒの脳内でドルチェノフは絞殺されている。

ドルチェノフ『貴様はD兵器を取り戻すことを考えていればよいのだ。わかったか!』

ハルヒ「わかってるわよ……!」



593VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/23(水) 17:10:43.59dusS23yA0 (2/10)


ドルチェノフ『ならばよろしい。期待しているぞ、プラート少佐』

 モニターがブラックアウトした。ハルヒは卓を思いっきり蹴りつける。

ハルヒ「ドルチェノフの屑ごときに!」

 ハルヒは技術の名門プラート家に生まれたが、その出自に似合わない大胆な性格で地球連邦のスペースコロニーに対する傲慢な態度に反発したメサイア・ギルトールの下につき、専用のカスタム機ファルゲン・マッフを駆り独立戦争で戦果を挙げたが、思わぬところで世界は転がってしまった。

 ハルヒの父親でありギガノス帝国の技術者としてメタルアーマー開発の第一人者のラング・プラートが、突如D兵器の前身であるD計画の開始直前にあらゆるデータを廃棄して連邦軍に亡命したのだ。
 結果、ギガノス軍の兵器開発は停滞してしまっている。そのためにギガノス軍は総力をあげてラング・プラートの身柄の確保、もしくは連邦で開発されたD兵器の奪還を行っていた。

 ドルチェノフは連邦軍に個人的な私怨を持ち、ギガノス軍の中でも特に過激な思想を持つ男で、ラング・プラートが逃亡した直後にハルヒの反逆を懸念して友人と見られる朝比奈みくるを軟禁して逆に私兵化していた。

ハルヒ「今、ドルチェノフを誅することはできない……その上、このままD兵器奪還が遅れれば、マスドライバーの使用を強行されてしまう」

 ギルトール元帥の信頼篤く、軍内のエースとしてカリスマ性もあるハルヒがD兵器奪還のために月から離れ、尚且つ任務に失敗し続けることにドルチェノフは跳梁跋扈して軍制改革を図っているだろう。
 その狙いは、地球上に直接打撃を与えることが出来るマスドライバーキャノンの使用だ。

 メサイア・ギルトールは元々、スペースノイドを蔑視する連邦への杭打ちのつもりで決起したため、全面攻撃による連邦潰滅は望んではいない。
 国力差を埋めるためと牽制の目的でマスドライバーを有しているだけに過ぎない。
 その理想は、あくまでも地球環境の保護と、それを貪る連邦政府の腐敗部分の払拭なのだ。

 しかし、ドルチェノフは違った。彼は己の私怨のために連邦に勝利することを望んでいる。
 マスドライバーキャノンを使用すれば戦争を有利に進めることができる。そのためにハルヒの存在はじゃまだったのだ。
 ラング・プラートの逃亡から瞬時に朝比奈みくるを軟禁してハルヒを私兵化した狡猾さは、ギガノスの思想とはかけ離れたものだとハルヒは確信した。

ハルヒ「早くD兵器を取り戻さないと、ギルトール小父と私の理想が……」

 ハルヒは部屋を出た。そこにはキョン、古泉、長門が待っていた。

キョン「ハルヒ、ドルチェノフが何だって?」

ハルヒ「いつも同じよ、さっさとD兵器を捕らえろって」

古泉「D兵器を搭載した戦艦ホワイトベースは上海から連邦軍に合流したようです。新型パーソナルトルーパーも含めて、近いうちに作戦が展開されるでしょう」

ハルヒ「だったら先に仕掛けるわ。機動兵器の数ならまだ私たちのほうが多いから少しでも戦力を削ぐわよ」

キョン「しかし、もう何十日も働きづめじゃないか、ハルヒ! いくらお前でもぶっ倒れちまうぞ」

ハルヒ「私には! 一秒たりとも止めていられる時間なんてないのよ!」

キョン「だがな――」

ハルヒ「黙りなさい!」

 ぴしゃりと一喝したハルヒの眼差しは正面に立つキョンを捉えてはいなかった。
 もちろん、その後ろにいる古泉でも長門でもなかった。

ハルヒ「一刻も早くD兵器を倒して、みくるちゃんをあの外道から取り戻さなくちゃいけないのよ! 休んでも休まらないわよ!」

キョン「ハルヒ……」

 突き飛ばすようにしてハルヒはキョンの横を通り抜けた。
 あっという間にその後姿は小さくなるが、それ以上に疲労のオーラが見えていた。
 キョンのやや下に長門が進んできた。彼女はキョンを見上げている。

長門「彼女は出撃を取り消さない。なら、早いほうがいい」

キョン「長門……」

古泉「幸い、戦局は実際に我々に有利です。後は涼宮さんの負担を僕たちのサポートで減らすことです」

キョン「あぁ、わかったよ……」

 古泉と長門は急ぎ足でハルヒの後を追っていった。キョンは己の無能を呪った。



594VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/23(水) 17:11:15.61dusS23yA0 (3/10)


 ホワイトベース 格納庫

 シミュレーションを終えたヒカルと立夏、シノとアリアとスズがハッチから出てきた。

立夏「あーん! また負けちゃったよー、オネーチャーン!」

 開口一番、天使家の七女の立夏が隣の三つ上の四女ヒカルに泣きついた。
 六女の氷柱と同じくらいの負けず嫌いに加えてまだ十二歳のハッスル少女は爆発してくる感情を抑えることを知らない。

ヒカル「三対二だからしょうがないさ、立夏。それでも戦績は確実によくなっているんだから、落ち込むことじゃないぞ」

 ヒカルの言うとおりだった。シミュレーションを開始した当初はすぐに調子に乗って突っ込んでいって撃墜されてしまう立夏だったが、泣いて反省会を重ねるにつれて跳ねるような抑揚のある動きを上手にコントロールしてドラグナーチームを翻弄していくようになった。
 たった今だって、2型と3型を撃墜するにまで至ったのだ。

ヒカル(むしろ、成長していないのは私じゃないのか……?)

 胸に顔を埋める妹の頭を撫でながら、ヒカルは不安を抱いた。
 元々、何事も堅実にこなしていく彼女は自分の成長を実感しにくいタイプでもある。
 それでも剣道やボクシングなどは倒せない相手を倒したりすることでレベルアップを確認していたのだが、ヒカルが相手をしているシノとはチームとしてだけではなく、パイロットの技量でも差があるようだった。何度やってもその脇を抜くことが出来ない。
 つまり、ヒカルがシノを前に二の足を踏み続けている間に、立夏は一人で二機を落とすにまで達したのだ。

海晴「おつかれさま~、ヒカルちゃん立夏ちゃん」

ヒカル「わっ」

立夏「うぎゅ」

 教導官代わりをしている海晴がヒカルと立夏にまとめて抱きついてきた。立夏の鼻が強く胸を刺激して、ヒカルは赤くなった。
 霙はドラグナーチームのほうへ行って指摘をしている。

海晴「ヒカルちゃんも立夏ちゃんも最初に比べてうんと操縦が上手になったわね。もう私が言うことなんてないかも」

ヒカル「……!」

 姉の優しい腕の中でヒカルは慄いた。
 一度も勝つことができなかった彼女には、海晴の言葉をネガティブなイメージに捉えてしまう。

立夏「ホント、海晴オネーチャン?」

海晴「うん、立夏ちゃんなら、ヴァイスリッターに乗るだけならいいかな」

立夏「ホントに!? ウッワァーイッ!」

海晴「先に行って待っててね。私も準備していくから」

立夏「ハーイッ!」

 立夏がダッシュで格納庫を走っていく。それをヒカルは唖然と見つめている。
 触ることさえ許されなかった海晴のヴァイスリッター。それを許された立夏。
 ヒカルにとってはお前は役立たずだと言われたようだった。

ヒカル「…………」

海晴「あら、ヒカルちゃん、どうしたの?」

ヒカル「海晴姉、私は……」

 ――必要なのですか?
 問おうとしたが、それはできなかった。
 ヒカルの顔が海晴の胸元に寄せられたからだ。先ほど、ヒカルが立夏にしていたみたいに――

海晴「ヒカルちゃん、おうちのみんなが心配?」

ヒカル「えっ……?」

 急に何の話をするのだろうか――? そう思ったが、家族のことはすぐに頭に思い浮かんだ。
 0歳から18歳までの十九人姉妹。奇跡のような家族。そして、ヒカルが命に代えても護りたいと想う大切な家族。
 今はヒカルたち四人を除いて十五人で日本の家にいる。
 初め、ホワイトベースに乗っていくと言った時、天使家は大騒ぎになった。



595VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/23(水) 17:12:27.35dusS23yA0 (4/10)


麗「どうして海晴姉さまたちが戦争なんかに行かなくちゃいけないわけ!? そんな汚らわしい男たちが勝手に始めたことに私たちが巻き込まれなくちゃいけないわけ!?」

氷柱「そうよ! だいたいママも何考えてるのよ! 実の娘達を戦場に送り込むなんてどういう神経してんのよ!?」

 家族の中でも極度の男嫌いで『小学校はみんな公立!』のルールを曲げて私立の女子校に通っている九女の麗や特進クラスに通って戦争なんて愚かしくてくだらないこととわかっている氷柱の二人がやっぱり大反発した。

さくら「お姉ちゃんたち、遠くに行っちゃうの? もう海晴お姉ちゃんのおいしいプリンも食べれなくなっちゃうの? さくら、そんなのさみしくなっちゃうの……うわぁーん!」

綿雪「ユキも……せっかく病気が治って、家族みんなで暮らせるはずなのに……」

小雨「さくらちゃん、ユキちゃん、泣かないで……ね」

 真璃や虹子、青空もつられて泣き出す。年少組の彼女たちは戦争はよくわからないが、『大好きなおねえちゃんがいなくなる』ことが嫌なのだ。
 小学生で少しは物事がわかるようになっている星花や夕凪、吹雪も普段の元気をなくしてしまっている。
 それを見てヒカルは酷く胸が締め付けられる思いだった。

あさひ「ばぁぶ! だばっぶ! ぶっぶー!」

 赤ん坊のあさひも怒っているように見える。それを声援のようにして氷柱はまた机を叩いて声を荒げた。

氷柱「ホラ見なさいよ、あさひだって大反対よ! それでも姉様たちは行くっていうの!? 立夏まで連れて!」

立夏「氷柱オネーチャン! 立夏はイヤイヤ行くんじゃないよ!」

氷柱「だから! そういう考えが甘いって言ってんのよ! どうしてウチの家族ってばこうもお人よしばかりなのかしら!」

 バンッ! と一際大きい音で机を叩く。それにシンクロしたように咳き込む声が聞こえた。

観月「げほっ、う、うぅ……」

蛍「あぁ、氷柱ちゃん、大声出しちゃだめよ……観月ちゃんに響いちゃう」

氷柱「あ、ご、ごめんなさい、ホタ姉様……」

 九尾の狐の守護霊を持つ観月は人一倍霊感に鋭く、その影響を受けやすい。
 人の魂の行き着く場所とされているバイストン・ウェルからやってきたオーラ力にあてられてしまったのである。
 気が強いが、それ以上に家族の身を心配するゆえに熱くなる氷柱だが、乱れた呼吸を繰り返す観月にさすがにクールダウンした。
 それを見計らって蛍と一緒に観月を看ていた三女の春風が優しく声をかけた。

春風「ねぇ、氷柱ちゃん。氷柱ちゃんがすごくみんなのことを想ってくれているのはとてもよくわかるわ。海晴お姉ちゃんに霙ちゃん、ヒカルちゃんと立夏ちゃん……春風だってすごく心配だもの……いなくなっちゃうのはイヤ……でも、ママがもっと心配したのは、みんなが本当の意味でばらばらになっちゃうことなの……」

氷柱「は、春風姉様……」

 春風の言いたいことが、氷柱にはわかった。現在は歴史が大きく動こうとしている時代なのだ。
 その世界で、ただそこにあるだけで奇跡のような十九人姉妹が、いつ引き裂かれるのかわからない。
 だから、彼女たちのママは――

霙「私たちはなにも死ににいく訳じゃないさ、氷柱」

氷柱「霙姉様……」

 ここまでずっと一言も喋ることがなかった霙の声音は、この場で最も意味のあるものとなった。

霙「とどのつまりは、ここに帰ってくるために、少し長く家を空けるだけさ」

氷柱「そ、そんなこと言ったって……か、かえっ」

 それ以上は氷柱の喉から出てこなかった。そこから先のことを想像するだけで心臓が張り裂けそうになる。

海晴「氷柱ちゃん」

 端正な顔がぐしゃぐしゃになるのを必死で止める妹を、長女の海晴がそっと抱きしめた。
 何度こうして抱擁されたことだろう。そして、これから何度こうしていられるのだろう……

氷柱「海晴姉様……」

海晴「私たちが出かけるのは遠い場所かもしれない。でも、帰るおうちがないと、私たちもがんばれないわ。だから、氷柱ちゃんはここでみんなを守ってね。春風ちゃんと蛍ちゃんだけじゃ、ちょっと頼りないからね」

氷柱「……はい」

 氷柱がその夜、何年ぶりかの大泣きをしたのをヒカルは知っていた。
 午前三時、こっそりと家を出ようとしたヒカルたちを家族全員が起きてきて盛大に見送られた。
 そのために、氷柱が全員をたたき起こして自分の部屋に集めていたこともすぐに気づいた。



596VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/23(水) 17:13:07.06dusS23yA0 (5/10)


海晴「ヒカルちゃんは、みんなにとって頼りになるお姉ちゃんよね。私も霙ちゃんもすごく頼りにしているのよ」

ヒカル「だけど、私は……」

霙「やあ、こんなところでいつまでひっついているんだ、ヒカル?」

ヒカル「えっ、霙姉……?」

 黒髪のショートボブにグレーのパイロットスーツを着た霙が近くまでやってきていた。
 上からマントを羽織っているが、霙がパイロットスーツを着用するのは出撃するときだけだ。
 それ以外では断固として着用しようとしない。いったいどうしたというのか?

霙「ぼうっとしている時間はないぞ、ヒカル。早くアルトの速度に慣れて次のステップに進んでもらわないといけないんだからな」

ヒカル「えっ、えっ? 霙姉、それはどういう……?」

 やや困惑した面持ちで二人の姉を交互に見るヒカルに霙は少し非難するような目を海晴に向けた。

霙「なんだ、まだ言ってないのか? 我々の時間は無限ではないのだから、やるべきことは早く済ませるべきだろう」

海晴「あら、姉妹のコミュニケーションは決して無駄なことじゃないわよ。霙ちゃんもどうかしら?」

霙「フッ、海晴との接触は厄介な反応を起こしてしまう。私は先に待っているぞ、ヒカル」

ヒカル「あ、あの、いったい何のことを……」

海晴「ウフフ、合格は立夏ちゃんだけじゃないのよ」

ヒカル「えぇっ?」

海晴「ヒカルちゃんはこれから霙ちゃんといっしょにアルトアイゼンに乗ってもらうのよ」

ヒカル「で、でも私は全然――」

海晴「ヒカルちゃん。ヒカルちゃんはさっきの訓練で何分、シノちゃんと戦っていたのか知ってる?」

ヒカル「え、い、いえ……」

 戦闘中に時間のことなど全く入ってこない。
 少しでも目を切ればやられてしまうし、終わったあとは負けの喪失感でそれどころではないのだ。

海晴「ウフフ、ヒカルちゃんは目の前のことに集中するのはいいけど、もう少し視野を広くするのが新しい課題ね。三十分以上も戦っていたのよ」

ヒカル「そ、そんなに……?」

海晴「初めの頃は立夏ちゃんに振り回されるのもあったけど、一分でバッサリだったのが、今じゃすっかりシノちゃんを釘付けにしているのよ。だから立夏ちゃんもアリアちゃんとスズちゃんに追いつけるようになったのよ」

 ヒカルは面映い気持ちになった。その背中を押すようにして格納庫を歩きながら海晴はヒカルをベタ褒めしていく。

海晴「本当に、いつも色んなスポーツをしているかしら。ピカ一の集中力だと思うわ。霙ちゃんも言っていたわ。これならアルトアイゼンの加速にも対応できるだろうなって」

 十九人姉妹の長女だけあって、あっという間にヒカルの沈んでいた心を持ち上げてしまった。
 やっぱり、海晴姉にはかなわないな、とヒカルは口元を綻ばせる。

 しかし、意気揚々と姉の愛機に乗り込んだヒカルと立夏の二人だったが、アルトアイゼンの爆発的な加速力と急停止したときの反動にヒカルは胃が飛び出ると錯覚し、立夏はヴァイスリッターの戦闘機よりも激しいアクロバティックな飛行に目を回して、仲良く医務室送りとなってしまった。

立夏「うへぇぇぇ~、気持ちワルイぃ~……たこ焼きとシュークリームとたいやきとアイスクリームとポップコーンとハンバーガーをいっぺんに食べた後みたい~……」

ヒカル「やめろ、立夏……食べ物の話をするな……こっちはそれらを全部吐き出した後みたいなんだから……」

 幸い、ハルヒたちギガノス軍が攻め込んでくるのは、この十時間後だった。



597VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/23(水) 17:16:04.36dusS23yA0 (6/10)


 ホワイトベース ブリッジ

オペレーター「敵機接近! 数は十六! 先頭はファルゲン・マッフです!」

シノン「蒼き鷹、ハルヒさんね!」

オペレーター「陸上二個中隊も接近! 混成部隊です!」

シノン「そちらは連邦の既成部隊に任せましょう。私たちは敵機動兵器を狙います! ドラグナーチーム、パーソナルトルーパー部隊、発進!」

シノ「了解! ドラグナー1、出るぞ!」

 中国の上空に天草シノが乗るドラグナー1型が駆ける。
 そのときには既にハルヒたちギガノス機動部隊は戦闘配置についたばかりの連邦軍の基地に向けてミサイル攻撃を開始していた。

ハルヒ「米粒一つ、弾薬一グラムたりとも残してやらないわよ、燃えなさい!」

 シュボッ、ドドォンッ! デュアルミサイルを連発し、あちこちに火柱をあげていく。出遅れた連邦兵士が物資と一緒に吹っ飛んでいくのも見えた。それほどハルヒは地上と近い位置を飛行していたのだ。

 ファルゲンの前方で何かが上がってきた。残った煙の細さから対空砲の種類であることはすぐにわかった。

ハルヒ「腐った連邦に与するゴミ虫の分際で、私に歯向かおうって言うの!?」

キョン「ハルヒ!?」

ハルヒ「やってやろうじゃないの!!」

 ファルゲンが急に旋回して、対空高射砲部隊と思しきポイントにマッフ・ユニットにつけられた三連マルチディスチャージャーを放つ。
 すぐに一際大きい火柱が上がり、ハルヒは「それ見たことか!」と鼻で笑った。

キョン「バカやろう! 動きを止めやがって!」

 キョンの怒鳴り声がスピーカー越しに響くが、自動音量調節が働いて、警告程度にしかハルヒには聞こえていない。
 だが、今回の奇襲作戦は開始してから敵機動兵器の追撃がギリギリで届かない範囲での爆撃を行うものだ。
 当然、その緻密な計算は長門有希が導いたものである。つまり、それ以外の行動は絶対にしてはいけないのだ。

ハルヒ「どうせファルゲンには追いつけないわよ!」

 やはり焦っている。キョンが戻るべきか逡巡しているうちに、長門はレーダーに反応していた。

長門「D兵器、三機接近」

古泉「来ましたか、予想より速かったですね」

キョン「ハルヒ! 早く戻って来い!」

ハルヒ「わかってるわよ!」

長門「降下加速を利用している。追いつかれる」

アリア「いくわよぉ……轟けぇっ!」

 ドォン! 連邦軍基地から離れるとすぐにドラグナー2型のレールキャノンが四機に襲い掛かった。



598VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/23(水) 17:16:33.54dusS23yA0 (7/10)


 その火線に隠れるようにして1型と3型は接近していった。

スズ「行きます、会長!」

シノ「ああ、頼んだぞ、スズ」

 合図で3型から対レーダーミサイルが発射される。
 佐世保基地を出発してから数度の小競り合いをしてきた中で、長門の乗るヤクト・ゲルフ・マッフが、プラート隊の行動の全体をサポートする機体であることがわかったため、先にその動きを制限する対レーダーミサイルがスズの3型に搭載されたのだ。

長門「私を狙ってくる? 無駄」

 レビ・ゲルフのジャミング能力に誘導ミサイルは無効化される。
 誘導弾は特定周波数に反応してコントロールを自動で決定している。
 それをジャマーで乱されて対レーダーミサイルはあさっての方向へふらふらと落ちていってしまった。

 ガガガガガガガガ! 

長門「……!!?」

 機体が大きく振動して長門有希はその人形めいた顔に一瞬だけ狼狽の色を浮かべた。サブモニターが装甲の損耗率を知らせた。

長門「遠距離射撃……レールガトリングガン?」

 新しい武器を備えていたのは3型だけではなかった。レールキャノンを撃った後の2型が二連装式レールガンをレーダーミサイルから反秒遅れて使用したのだ。
 シミュレータで何度も訓練したフォーメーション攻撃の一つで、その要はやはり高機動、接近戦用機体のドラグナー1型だ。

シノ「はああぁっ!」

ハルヒ「ちっ、またD兵器、邪魔をするな!」

 とにかくシノがハルヒのファルゲンの動きを抑えなければならない。この一対一の戦闘にヒカルとのシミュレータ戦闘を活かすのだ。

ハルヒ「動きがよくなっている……D-1のパイロット。もう素人じゃない!」

 ズギャアァッ! ドラグナーとファルゲン、二機のレーザーソードが重なった瞬間、ハルヒは自分のソードを手からわざと離して加速、一気に離脱しようとした。

シノ「くっ!」

 手放す際に若干の捻りを加えられたハルヒのレーザーソードが跳ねるように空中を舞う。
 それにシノが翻弄される間に濃い蒼色の機体は全速を出していた。

シノ「しまった! 逃げられてしまう」

 すぐにミサイルポッドを放出するが、完全に手遅れだったらしい。既にモニターには航跡だけしか映っていなかった。



599VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/23(水) 17:16:59.87dusS23yA0 (8/10)


 結局、ギガノス軍の作戦は大成功に終わっていた。
 ほんの五分にも満たない戦闘時間だが、身体が感じる疲労は工場のライン作業のフルタイムにも匹敵する。
 ハルヒはシートにもたれかかって深く息を吐いた。手が震えている。初陣以来だった。

ハルヒ「……各機、損傷は?」

キョン「長門が軽微だが攻撃を受けた。他はメタルアーマーが二機撃墜された」

古泉「代わりに、陸上部隊が将校を捕らえました」

ハルヒ「そう、少しは交渉に使えるかしらね。有希、大丈夫?」

長門「へいき」

 無機質な声に安堵する。目の前が霞んで見える。戻ったらさすがに休んだほうがいいかなとハルヒが考えたとき――

長門「高速接近――攻撃――二秒――ッ!」

 ギュボォッ! ハルヒの左端をエネルギー光が編隊を貫いた。そして――

キョン「なっ、長門ぉーっ!」

 手足の焼け爛れたレビ・ゲルフが暴発する飛行用フォルグ・ユニットに攫われて連邦軍領域に墜落していく。
 白煙に混じるオレンジ色の光りはエンジンの火が粉塵に干渉しているものだ。

ハルヒ「ゆ、有希……?」

 有希が、落とされた? あの有希が? 無表情で、必要なこと以外は全然喋らないけど、本当は心配性でいつもみんなの身を案じて、みんながちゃんと帰ってこれるように周囲に目を配っている有希が――……

ハルヒ「私が……せいで……?」

 「離せ、古泉!」「いけません! あなたまで行っては――!」通信の声が遠く聞こえる。ぼやける視界は徐々に暗闇に閉ざされている。

ハルヒ「ごめんね……有希……」

 計器が滲んで見え、ハルヒは意識を手放した。



600VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/23(水) 17:17:39.95dusS23yA0 (9/10)


長門「…………」

 木がクッションになってくれたらしく、破壊されたのは手足とフォルグ・ユニットで、胴体は装甲の半分がもっていかれたが内部にダメージは少ない。
 どうやら手加減をしてくれたらしい。ビーム兵器は出力調整で実弾兵器よりも多用途に扱えるのだが、ギガノス帝国では資源の関係で弾丸やミサイルのほうが生産しやすいため、研究は遅れている。

長門「ハッチも、開かない」

 手動で開けるために立ち上がろうと試みたが、落下の負荷にまだ下半身が落ち着きを取り戻していないようだ。

 ここはどこだろう。少なくとも自軍の領域ではないようだ。落下時間から僚機到着までの時間を計算する。
 ハッチが開くとき、誰がいるのだろう。救出されるなら――

長門「…………」

 そこで思考を止めた。外部操作でコクピットが強制排出される音だ。
 しかし、眩しい太陽を背に受ける影は想像していたものではなかった。

霙「動かないでもらえるとありがたい。悪いが身柄を拘束させてもらおう。大人しく着いてきてくれればぞんざいには扱わないと約束する」


 第七話 焦燥! 小さくて、大きすぎる誤算 完



601VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/23(水) 17:31:21.21dusS23yA0 (10/10)

>>591
スパロボは効果音があってこそ!
と、思って擬音はつけています。
なるべくスーパー系はダイナミックに、リアル系は逆に少なく端的にしているつもりではあります。
また、私は性格上、文章が必要以上に固くなる癖があるので、擬音で頭の負担を軽減しています。




602VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/24(木) 18:30:03.19Li68PeD/0 (1/7)


 第八話

 佐世保 とある中学校

ゆりえ「えっと……ですので、だいじょうぶです」

女の子「ホントですか、神様!? 本当に私の恋は叶うんですね!?」

ゆりえ「あ、あくまでも祈願をするだけですから……そのぅ」

女の子「わかりました。とにかくありがとうございます、神様!」

 ショートカットの利発そうな上級生は、陸上部らしく日に焼けた顔に満面の笑みを浮かべて赤幕の向こうへ去っていった。
 代わりに祀と光恵が入ってきた。

祀「おつかれさま、ゆりえちゃん。今日はもう終わりよ」

ゆりえ「ふえぇ~、神さまの仕事も大変だよぉ~」

光恵「さっきの人、陸上部の金子先輩よね。ああいう人もこういうことするのね」

祀「案外、ああいうタイプの人のほうがお願い事とか占いとか好きなのよ」

光恵「ふーん……ゆりえ、今日は天使さん家のほうに行くんでしょ?」

ゆりえ「あ、うん、光恵ちゃんも来る?」

光恵「うん、一緒に行くわ」

ゆりえ「祀ちゃんは?」

祀「残念、神社にいなきゃ」

ゆりえ「そっかぁ」

祀「いいじゃない、アレ誘えば」

ゆりえ「二宮君は……えっと……しょの……」

光恵「ま、あんな女の子ばっかの家に連れて行ったら、気が気じゃないわよね」

祀「あの朴念仁にそんなもんがあるとは思えないけど……」



603VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/24(木) 18:30:41.44Li68PeD/0 (2/7)


 天使家

虹子「あーっ、ゆりえちゃんだ! わーいっ!」

 おしゃまな二歳児の虹子が目ざとくゆりえを見つけて飛びついてきた。

ゆりえ「わっ、わっ」

 虹子はゆりえがお気に入りらしく、腰のあたりに抱きついてぶらさがる。

夕凪「ゆりえちゃん、光恵ちゃん、いらっしゃーい」

星花「こんにちわー」

 虹子といっしょにシャボン玉で遊んでいた十女の星花と十一女の夕凪もやってくる。

光恵「こんにちわ」

青空「にじたん、ずるいー、そらも、そらもおんぶっぶー」

 いつの間にか一歳児の青空までゆりえにひっついていた。くらくらとしながらゆりえは光恵に引っぱられて家の中へ入っていく。

星花「ゆりえお姉さん、来ましたーっ」

律「おーっ、来たかーっ」

翠星石「待ちくたびれておしりに穴が空きそーだったですよぅ」

ハルナ「この辺すいてるわよーっ」

 天使家の大きな部屋――ホワイトルームには光子力研究所、早乙女研究所、超電磁研究所のメンバーに天使家の姉妹がみんな集まっていた。奥の大きな窓を背にしているのは、けいおん部の五人だ。
 それをぐるりと半円状に座っている少女は二十人以上はいる。
 普段は小さい子たちが集まって騒いでも大丈夫なホワイトルームも、これだけ揃うとぎゅうぎゅう詰めだ。

 親睦会。お姉ちゃんたちがいきなり四人もいなくなった天使家の幼い妹たちのために春風と氷柱が提案したのだ。
 急な集まりにも関わらず、こうして全員が来てくれたのはすごいなとホステスを務める蛍はたくさんのご飯を作れる嬉しさに飛び跳ねていた。

 そのすみっこには、天使家十九人姉妹の母親、美夜が他の研究所の所長と固まって、小雨の持ってきたトレーからカップを取って談笑していたが、真ん中にきて手を叩いて注目させた。

美夜「はいはい。みんな集まったところで始めましょうか」

 その姿は十九人姉妹の母親でありながら海晴になお劣らない華麗さを持っている。ルージュのばっちり決まった大人のスマイルで部屋を見渡して満足そうにうなずく。

美夜「うーん、こうしてあらためて見るとみんなカワイイ子ぞろいねー。とても軍事機密の集いとは思えないわ。もしも将来就職に困ったら、私の事務所で引き取ってア・ゲ・ル」

 腰に手をあててポーズをとる。その仕草は本当に海晴の母といったところだ。

美夜「それじゃ、あまり時間もないことだし、乾杯しちゃいましょーか。かんぱーいっ」

「かんぱーい!」

律「よーし、それじゃ、まずは放課後ティータイムからやるぜ!」

澪「な、なんか学園祭のライブとは違う緊張感があるな……」

紬「すごく近いからね、きっと」

梓「っていうか、最近はまともに練習時間が取れてないからヤバイかもです」

唯「だいじょうぶだよ、きっと!」

澪「その自信はいったいどこから出てくるんだ……」

律「とにかくやっちまおーぜ、ワン、ツー、スリー!」

 ジャジャーン!



604VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/24(木) 18:31:34.44Li68PeD/0 (3/7)


唯・虹子「ゆけ~、ゆけ~、ゆうしゃ~、ライディーンライディーン」

 パッパラー パッパラッパー、パッパラーパッラッパッパー

 歌の好きな虹子も途中から歌詞を見て唯のとなりで歌っていた。

虹子「らぁいでぃーん♪」

 ホワイトルームでHTTの演奏が行われている間に、天使美夜と桜田ジュン(43)、秋山弦之助の三人は別の部屋に移動していた。

美夜「やっぱり、早乙女博士は忙しくて電話にも出られないのですか?」

秋山「えぇ、いまの研究が相当いいところに来ているから集中したいとお嬢さんが言ってましたので」

美夜「新たなゲッターロボ……宇宙開発作業用ではなく、初めから戦闘を目的としたゲッター線の利用……」

JUM「こうやって集まれる機会もそうはないでしょうから、早乙女博士の意見も聞きたかったのですが……」

秋山「それでも、研究の資料だけでもいただけたことはよかったでしょう」

JUM「早乙女博士は、とくに変わり者でしたからね」

秋山「ともかく、我々はここに集まった。その理由は、いまの地球圏を脅かしている者たちの野望を食い止めるために」

JUM「連邦の作戦範囲内だけでこの脅威を食い止めることはできない。我々民間の研究者もことに当たらなければならないときが来たのです」

美夜「対侵略勢力反攻計画……選ばれてしまったのはかわいい娘たちばかりなのは悲しいけれど」

 美夜は束になった書類をドンと机の上に置いた。続いて、秋山、桜田もカバンに入れていた書類の束を重ねていった。
 早乙女ハルナから預かった書類もそこに置かれて、その高さは隣においてある花びんと同じぐらいになった。
 ここに彼女たちが研究した全てが記されているのだ。全てが共有の財産であり、切り札となる。

美夜「Space Guardian Girl's Project――G's-プロジェクトを、ここに始めます」

 三人が頷きあったとき、部屋の扉が開かれた。
 そこにいたのは、冷たい顔に炎の瞳を携えた、この家の六女だった。

氷柱「その話、私にも詳しく聞かせてよ」



605VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/24(木) 18:32:07.81Li68PeD/0 (4/7)


 北米大陸 ジオン軍基地

 ここには、ザビ家の四男、若き大佐ガルマ・ザビが駐屯していた。
 連邦の大基地ジャブローに近いこの地はジオン軍地球方面軍として重要な位置にあるが、実質的な指揮権は姉のキシリア・ザビにあるため、ガルマはまだ己を認められていないと思っている。
 しかし、ジオンの崇高な目的は地球にあり、自分はその地球にいる。姉ではなく、自分が。

ガルマ「私の役目は地球を善き状態で差し出すことなのだ」

 生まれ持った美貌の白面と脆くも見える寛容な胸襟で占領軍の浮き足立つのを抑えて軍規を維持させ、コロニー落としの強い憎悪を持っていた現地人の心を和らげ掌握するに至ったガルマの才覚は、父デギンに言わせれば軍の将としては優しすぎるというものだった。

 そのガルマの許には今、士官学校を主席次席を競った赤い彗星がいた。

シャナ「残念だけど、その名は返上しなければならないわ」

 不機嫌そうにシャナは言った。相変わらずだとガルマは笑う。

ガルマ「何を言う、シャナ。君を迎えることで我等の士気は高まっているのだ。それに、これからドレイク・ルフトと会う。君にも是非出席してもらいたい」

 シャナが来る少し前にショット・ウェポンがガルマを訊ねた。報告には聞いていた異世界の軍隊。
 共闘という言葉を交わしていたが、連邦を片付けた後の支配権を奪取する為には、初めから威力を見せておくべきだ。

シャナ「まあ、いいわ。オーラバトラーというのにも興味はあるし」

ガルマ「ほう、珍しいな。君が機体に興味を持つとは」

 実際のところ、シャナはオーラバトラーに興味などなかった。本当に興味があるのは、そのパイロットが持つオーラ力というものだ。

シャナ「そういうこともあるわよ」

ガルマ「ふふん、君らしいな」

 追求しないガルマを見て、シャナはこの青年の思考が変わっていないこと知って苦笑した。
 およそ、人を疑うことを知らないのである。
 地球に降りて現地人と社交している間に人間というものを少しは知るかと思っていたが、何も学んではいないようだ。
 そう、目の前でシャナが苦笑しても、ガルマはなんとも思わないのである。

イセリア「ガルマ様。ドレイク様が参られました」

 部屋に入ってきたのはイセリア――地球に降下したガルマがこの地で恋仲になった女性だ。

ガルマ「あぁ、わかった。イセリア。さぁ、行こうシャナ」

 シャナはチェアから下りる。その前でガルマははばかることなくイセリアの腰をとって部屋を出て行く。

ガルマ「イセリアも来てくれるな」

イセリア「ですが、異世界の方とは……」

ガルマ「なぁに、違いはないさ」

 部屋で一人になったシャナはあざ笑うように言った。

シャナ「交渉の場に女を連れていくのか……つくづく甘い男ね」



606VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/24(木) 18:32:53.12Li68PeD/0 (5/7)


 中国 ホワイトベース

長門「…………」

ヒカル「……なぁ、そろそろ、少しは話してくれてもいいじゃないか?」

スズ「せめて、名前くらいは教えてください」

長門「…………」

ヒカル・スズ「はぁ……」

 ヒカルとスズのため息を別室のカメラとマイク越しに見ていた天使霙、天草シノ、そしてホワイトベース艦長代理の香月シノンも疲れた表情を隠さなかった。
 捕虜にしたときの身分証から長門有希という名前はわかっていたが、それを自分の口で言ってもらうことで、会話のきっかけにもなる。

シノ「もう、二十八時間が経過か」

霙「捕らえてからここまで、一言も喋りもしなければ眠りもしない。もちろん、体力が落ちているような顔色もない」

シノン「ある意味、理想の軍人ね」

シノ「まさかとは思いますが、強化人間というものでしょうか?」

 桜才学園生徒会長も、この面子に入れば年少である。緊張の中、一種のタブーに触れたシノの背中に汗が流れる。
 
霙「よく知っているな。コロニーは情報規制が強いはずだが」

シノ「アングラの出版物です」

霙「ほう、コロニーにもアングラはあるのか。人の口に戸は立てられないということか」

 霙が愉快だという具合に喉を鳴らす。この会話だけでも下手をすれば処罰ものである。
 つい先日まで民間人だったシノにそれを笑う度胸はなかった。

霙「だが、ギガノスに強化人間の実験をする機関はないはずだ。元々、強化人間といっても肉体の外科的手術をするわけではない。薬物の投与などによって認識能力を高めたり、精神を不安定にして他人がコントロールしやすくするものだ」

シノン「人によっては鬱状態になることもあるらしいけれど、この子にその気配は見られないわね。検査でも正常値だし、血色もいいわ」

霙「むしろ私は、作り物のような印象を感じたな」

シノ「作り物……ですか?」

霙「あぁ、ウチには吹雪っていう無口なやつがいてな。立夏はロボットみたいと茶化すこともあったが、それでも彼女ほどではない。そうだな、人形といってもいいかもしれないな」

シノン「クローン人間……の可能性もあるかもしれないわね」

 この手の噂はどこでも耳にするものだ。例えば、ジオン独立宣言からアングラで支持を集めている話題が『ジオン・ズム・ダイクンのニュータイプ発言』である。

 「人類は本来、宇宙に進出する資質を持って地球に生まれたのであり、スペースコロニーは、地球の代替品ではなく、人類がさらに進化する新たな大地である」
 これがジオン・ズム・ダイクンの主張するところであり、進化した人類を『ニュータイプ』と呼んだ。

 また、ジオン公国には密かに建造されたニュータイプの可能性があるものを集めて教育を施す『学園都市』と呼ばれるコロニーがあるなど、情報の信憑性など二の次三の次であるアングラはありきたりに飽いたコロニー民にとっては一種の娯楽である。
 学園都市の噂にも多くのものがある。
『あの中ではニュータイプだけではなく、超能力者を使う開発行為が行われている』
『時間の流れが遅く、外の一年が中では七年である』
『クローンの研究も盛んで、二万体の〝妹達〟という兵隊が生産されている』

 これらの技術がジオンにあるはずはないというのがもっぱらのレスポンスだが、時折ジオンの元研究者を名乗るものが証拠画像を出したりと、その度にコロニー民は強い熱を発していた。
 そして、その度に警邏が弾圧行為を行っていることも、隠れた常識であった。

霙「どちらにせよ、彼女を上層部に報告するのはよしたほうがいいだろうな。戦局がジオン・ギガノス寄りな現在、南極条約はあってないようなものだからな」

長門「…………」



607VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/24(木) 18:33:46.77Li68PeD/0 (6/7)


長門「…………」

 目の前にいる自分と同年代だという二人の顔に疲労がたまっているのがわかる。
 それでも集中しているのは、ただの人間としてはやるようだった。

 長門有希は、もう72534回目になる情報統合思念体とのアクセスを試みていた。
 答えは――NEGATIVE――彼女の体感時間で392日の間、創造主とのコンタクトが取れなくなってしまっていた。
 392日前――それまで彼女は確かに地球の高等学校に通っていた。
 暦は西暦だった。人類は月に小さな建物を作るのがやっとという文明レベル。

 だが、ある朝、彼女が目を覚ました場所は月だった。完成されたテラフォーミング都市。
 すぐに情報統合思念体とのアクセスを試みた。しかし、遮断されていて何も出来なかった。
 次に自分の能力についてスキャンした。思念体と直結している時に可能な能力以外は全て使用できる。

 部屋を出て、見知った顔に出会えたことにまず安心した。
 ただ、それは今までの記憶を持った人たちではなかった。まるで、この世界に最初から住んでいたような……
 そして、驚愕はそれだけではなかった。

 涼宮ハルヒの能力もほとんどが失われてしまっていた。

 また、周囲の人間たちも涼宮ハルヒの力について言及することはなかった。
 思念体にアクセスできない以上、自分で推測するしかない。自分だけが移動したのか、時空自体が変わってしまったのか。
 結局、確認する術がなかった彼女は、本来の任務にしたがって行動することにした。
 守るべき人を守る。それだけ。

長門「私には、他に何もないから」

 ぽつりと呟いた言葉は、誰の耳にも届いてはいなかった。

 部屋の扉が開いた。短い黒髪にパイロットスーツの上から漆黒のマントを羽織った女。自分を捕らえた女だ。

霙「君の隊長からの提案だ。こちらのマチルダ・アジャン中尉との捕虜交換だ」

長門「……そう」

 小鳥の囀りのような返事をすると、ヒカルとスズがぐったりと肩の緊張を解いた。

ヒカル「結局、何も話してはくれなかったな。君の部隊は我々と同年代だと聞いていたから、話を聞きたかったのだが」

長門「…………」

スズ「ちょっとー! うんとかすんとかくらい言ったらどうなの!?」

長門「……そう」

 とうとう耐えかねて両手を振りかざしたスズの襟を長門が掴んで引き寄せた。

スズ「ちょ、ちょっ……何よ……」

長門「黙って」

 銅色の瞳がスズを正面から捉えている。浮いた経験の皆無なスズは脈拍の上昇を押さえつけていると、長門はすっと襟から手を放した。

長門「私は監視されている」

 スズとヒカルに背を向けた長門は霙に連れられてすたすたと部屋を出て行った。
 呆然としていたスズを窺っていたヒカルが何かに気づいて指さした。

ヒカル「スズ、襟に何かついている」

スズ「えっ?」

 グレーを基調にした連邦服の襟が黒ずんでいた。いや、何かが書かれているようだ。

ヒカル「こ、これは……っ!」

スズ「な、何よ!?」

 胸元に顔を近づけたヒカルの真剣な顔つきが恥ずかしくなって、スズは慌てて制服を脱いだ。
 机の上に広げると、そこにはこう書いてあった。

『涼宮ハルヒは脅迫されている』



608VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/24(木) 18:34:57.30Li68PeD/0 (7/7)


 月 ギガノス帝国

ドルチェノフ「プラート少佐は敵の将校を捕まえておきながら一切の尋問もすることなく、総帥に許可を取ることもなく、勝手に部下との交換を敵に申し入れました! これは立派な軍法違反ですぞ!」

 玉座を前に声を荒げているのはドルチェノフ中将だ。その前で沈黙を保っているのは、このギガノス帝国の主メサイア・ギルトールである。

ドルチェノフ「一兵士である子飼いの部下の命を優先させるのは手駒の確保! 敵と交渉するのは内通の可能性があります! 今すぐプラート少佐を引き戻し、査問にかけねば、反逆の恐れがありますぞ!」

ギルトール「…………」

ドルチェノフ「今、連邦は我らに対する反攻の措置を着々と進めております! この上でプラート少佐が寝返るとなれば、我がギガノス帝国は大打撃を受けますぞ!」

 ギルトールは頬杖をつき、目を瞑ったまま一言も発しなかった。明らかなハルヒ擁護の構えであることが見て取れるため、ドルチェノフは歯噛みした。

ドルチェノフ「ギルトール元帥! もはや地球制圧に一刻の猶予もござらぬ! ただちにプラート少佐を呼び戻し、マスドライバーによる攻撃を許可をくだされ! さすればこのドルチェノフ、速やかなる勝利を元帥にお約束致します!」

ギルトール「ドルチェノフ……」

ドルチェノフ「はっ!」

ギルトール「我らギガノスの理想は、衰退を続ける地球環境を保全することにある。プラート少佐の喚問はともかく、マスドライバーの攻撃は認められん」

ドルチェノフ「何を甘いことを仰られますか! 今こうしている間にもギガノスは棺桶に片足を浸けようとしているのですぞ!」

ギルトール「マスドライバーはコロニー落としほどではないものの、地球の環境を大きく破壊していまう。ましてや、最後の自然と言われているジャブローへの攻撃は我らの理想を大きく揺るがしてしまうのだ」

ドルチェノフ(ワシが総帥ならば、ただちにマスドライバーを発射したものを!)

 これ以上の進言はドルチェノフを不利にする可能性があった。不遇をかこわれた連邦を抜け出して、ここまできたのだ。この地位を失うわけにはいかない。

 ドルチェノフは、渋々とその場を引き下がらざるを得なかった。その軍靴の音が、絨毯越しにもよく響いた。

ギルトール「プラート君……我らの理想は、もはや夢幻となってしまったのか……?」

 メサイア・ギルトールは、かつての親友とその娘の姿を暗い天井に思い浮かべた。


 第八話 曲折! 交わされる言葉の強さ 完



609VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/25(金) 17:06:23.54uyn+k69f0 (1/9)


 第九話

ドクター・ヘル「あしゅらよ! あしゅらはおるか!」

あしゅら「はっ! あしゅら男爵、ただいま参上いたしました!」

ドクター・ヘル「うむ! 貴様の幾度の失敗を帳消しにするチャンスをくれてやる!」

あしゅら「ははぁーっ! あしゅら男爵、ドクター・ヘル様の寛大なお心に感涙の極みにございます!」

ドクター・ヘル「貴様が幾度となくマジンガーZと戦ったことで、ついに奴の決定的な弱点を見つけたのだ!」

あしゅら「なな、なんと! 決定的な弱点!?」

ドクター・ヘル「そうだ! そのための機械獣も完成した! マジンガーZだけではない! 光子力研究所をも破壊する力を持つ機械獣ジェノサイダーF9!」

あしゅら「ジェノサイダーF9! さすがはドクター・ヘル様!」

ドクター・ヘル「さぁ、ゆけぃ! あしゅら男爵!」

あしゅら「ははぁっ! 必ずやこのあしゅら男爵、ドクター・ヘル様のために平沢唯を打ち倒し、マジンガーZと光子力研究所を手に入れて見せましょうぞ!」

ドクター・ヘル「はぁーっはっはっはっはっは!」



610VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/25(金) 17:08:21.88uyn+k69f0 (2/9)


 ドクター・ヘルとあしゅら男爵が意気揚々としている時、光子力研究所では……

唯「ぼへぇーっ……」ぐだー

律「らへぇーっ……」ぐだー

梓「せんぱーいっ! なにぼへっとしてるですかーっ!」プンプン

唯「らぁってぇー……」でろー

律「こないだの天使ん家で限界振り切ったっていうかー……」でろー

唯「帰ってくる途中の新幹線の冷房のダメージが残ってるっていうかー……」だらー

梓「う、ううぅ~っ!」プルプル

紬「唯ちゃ~ん、お菓子と紅茶持ってきたわよ~」ぱたぱた

憂「お姉ちゃ~ん、アイスもあるよ~っ」ぱたぱた

唯「はーいっ!」シャキーン

律「よっしゃーっ!」シャキーン

梓「あああぁぁぁぁぁ! 本当にこんな人たちに地球の命運がかかっているのかぁぁぁぁぁ!?」ガシガシ

律「あれー、そういや澪はどこに行ったんだ?」もぐもぐ

唯「ホントだー、いないねー……はい、憂、あーん」ごくごく

憂「ありがとー、あーん」ぱくぱく

紬「澪ちゃんなら、今は新型の実験をしてもらっているわ」ほくほく

梓「なに澪先輩を普通にハブってんですか私たち……」ごくごく

律「梓だっておいしそうに食べちゃってるくせにー」うりうり

梓「あぁぁ~……」ぐしぐし

紬「澪ちゃんは……あれなのよ」はぁ

唯「ん?」もぎゅもぎゅ

紬「天使さん家で……いっぱい食べちゃったから」はぁ

律「なーるほどねー、確かにロボットの操縦ってすごい汗かくからなー」うんうん

唯「そーだねぇー、私もいつもびしょびしょだよー」うむうむ

憂「び、びしょびしょなの? お姉ちゃん……?」どきどき

唯「そりゃあもう! おしりからふともものくらいまでぐっしょぐしょ!」ばーん

紬「ぐしょぐ……」ぶふっ

梓「……」どきどき

律「しっかし、澪もちょっと気にしすぎだよなー。私から見たらあれでもうらやましいくらいだぜ」へらへら

梓「それは律先輩が偏平な身体をしているから……」ぼそっ

律「なんか言ったかしらぁ、あずさちゅわぁーん?」ぴきぴき

梓「いーえー」ずずずー



611VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/25(金) 17:09:52.62uyn+k69f0 (3/9)


唯「ねーねー、私気になってたんだけどー?」くりくり

紬「なぁに、唯ちゃん?」ことこと

唯「ムギちゃんと澪ちゃんって、どっちがおっぱい大きいの?」てんてん

律・梓「ぶっ!」ばしゃっ

唯「アフロダイAって、澪ちゃんをモデルにしたんでしょ?」もぐもぐ

紬「えぇ、だから私は澪ちゃんのおっぱいの大きさもわかるわ」ほうっ

唯「教えて教えてー」ふりふり

紬「えぇ、私と澪ちゃんのおっぱいは――」

澪「や、やめろ、ムギーッ!」がばっ

紬「むぎゅっ」もごもご

律「あ、澪、おかえり」ごくごく

唯「澪ちゃんおかえりー」けらけら

憂「澪さん、お茶は何にしますか?」いそいそ

澪「い、いや、私は……その……無糖で……」かぁっ

律「さすがに気にしすぎだろ……」ぱくぱく

梓「律先輩は食べておっきくしませんとね」にっこり

律「さっきから言ってくれるじゃない、あずさ~」めらめら

唯「ねーねー、新型ってどんなのなの?」

澪「それは……えっと、は、恥ずかしい……」

唯「恥ずかしいの!?」

紬「えっと、新型のダイアナンAは実験機のアフロダイAのデータを下敷きに、初めから戦闘用として建造されたものよ」

唯「へぇ~」

紬「アフロダイでは三割程度だった超合金の含有率を6~7割に上げたから、強度も大幅にアップしているし、ミサイルも小型に改良した光子力爆弾を新たに搭載したの」

憂「それじゃあ、本当にパワーアップしたアフロダイって感じなんですね」

紬「そうね、あとは――」

 ズドォォォォォォォォォォォォンッ! 紬の説明を轟音がかき消した。

澪「機械獣!?」

律「ちっくしょー! こっちは休憩してんのによーっ!」

唯「いくよぉ! りっちゃん、澪ちゃん!」

澪・律「あぁ!」

憂「お姉ちゃん、がんばってね!」

唯「うん! あ、あずにゃん!」

梓「な、なんですか!?」

唯「あずにゃん分補給~っ!」ぎゅぅ~

梓「さっさと出動してください!」



612VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/25(金) 17:10:36.15uyn+k69f0 (4/9)


唯「よぉーし、やるぞぉ、マジンガーZ! 光子力エネルギーにあずにゃんパワーだ!」

梓「そんなのはありません!」

紬「準備オーケーよ、唯ちゃん」

唯「パイルダー、オーン! マジーン、ゴー!」

澪「ダイアナンA、ゴー!」

律「じゃんじゃじゃ~ん! ボスボロットだわさ~」

梓「律先輩も懲りない人ですね……」

唯「機械獣はど~こだぁ~」

澪「なまはげかっ!」

紬「唯ちゃん、上よっ!」

唯「へ?」

 チュドォォォォォォン! 見上げた空から無数の爆弾が落ちてきた。

唯「うひょえぇぇぇ!」
 
 ドドォーン!

澪「う、うわっ! うわわわっ!」

 ズガァァァァァン!

律「うおぉぉぉぉっ!」

 シュシュボォーン!

澪「こらっ、律! くっつくなよ、動きづらいだろ!」

律「んなこと言ったってよ! うわぁぁぁ!」

 あちこちで爆弾が爆発する。まるで熱砂に裸足でいるようにマジンガーZはそこら中を跳ねまわっていた。

唯「わっ、ひゃっ、おおうっ!」

 ズドドォォォォォォン! 一際大きい爆弾がマジンガーZの目の前で爆発し、爆風にくろがねの城もたまらずしりもちをついた。

憂「お、おねえちゃ~ん」

 憂がハラハラしてみていると、上空から大きな声が光子力研究所に届いた。

あしゅら「わーっはっはっはっは! どうだ、マジンガーZ!」

唯「あ、あしゅら男爵の声!?」

律「ど、どこにいやがるんだ!?」

紬「じょ、上空1000メートルに機械獣を確認!」

澪「せ、1000メートル!?」

 見上げた空には、確かに黒い影が旋回しながら爆弾を落としているのが見えた。



613VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/25(金) 17:12:02.53uyn+k69f0 (5/9)


あしゅら「どうだ! これがドクター・ヘル様の開発したジェノサイダーF9だ!」

唯「このぉ、光子力ビーム!」

 ビビーッ! マジンガーZの目から光子力ビームが発射されるが、鳥のように空を舞うジェノサイダーF9はこれを悠々と避けてしまう。

あしゅら「はーっはっはっはっはっはっは! ドクター・ヘル様の見つけたマジンガーZの弱点は真実だったようだな!」

唯「ま、マジンガーZの弱点!? うわぁっ!」

 ドゴォォォォン!

秋山「くっ、ドクター・ヘルめ、気づいたか……」

 爆弾から逃げ惑うマジンガーZを見ながら、秋山は苦虫を噛み潰したような顔になった。

紬「所長、マジンガーZの弱点って何ですか!?」

秋山「見ればわかるだろう……マジンガーZは、空を飛ぶことができないんだ!」

紬「そ、空!?」

 紬が戦場に目を戻すと、マジンガーZは搭乗者の心を表しているかのようにオロオロと動いていた。
 ダイアナンAもボスボロットもすっかり蚊帳の外へ出されてしまっている。

唯「当たれぇ! ドリルミサーイル!」

 ボシュッ! ボシュッ!

唯「ブレストファイヤー!」

 ズバァァァァァァァッ! ミサイルも30000度の熱光線も、全て空の彼方へ消えてしまった。

あしゅら「無駄だ、無駄だぁ! ジェノサイダーF9よ、光子力研究所にも爆弾をお見舞いしてやれぃ!」

ジェノサイダーF9「ズギャァァァァァン!」

 ヒュォォォォォォ! 爆弾が光子力研究所の真上に落とされた!

梓「きゃぁぁぁぁぁっ!」

秋山「まずい!」

田井中「安心しろ! あれは完成している!」

秋山「頼むぞ、田井中博士!」

田井中「光子力バリアーッ!」

 カチッ 田井中の指がスイッチを押すと、光子力の光りが研究所の周囲を覆った。

あしゅら「なにぃっ!?」

 ドドォォン! 光子力バリアに阻まれて、爆弾は研究所に到達する前に爆発してしまった。



614VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/25(金) 17:13:54.99uyn+k69f0 (6/9)


紬「こ、光子力バリアー……?」

田井中「そうだ、光子力エネルギーのちょっとした応用だ」

秋山「まだ試作段階だから、そう長くはもたんだろうが……」

あしゅら「ぬうぅ! こしゃくなねずみどもめ! ジェノサイダーF9! どうせマジンガーZは何もできん! 一気にケリをつけてしまえ!」

 ドドゴォォォン! ズドォォン! ドガァァァァン!

憂「きゃあぁぁぁっ!」

梓「わぁぁぁぁぁっ!」

唯「憂っ! あずにゃん!」

あしゅら「わははははは! 今日こそ引導を渡してやるぞ、平沢唯!」

秋山「唯君! ロケットパンチを使うんだ!」

唯「ろ、ロケットパンチを!? それでもまた避けられちゃいますよ!?」

秋山「ロケットパンチは改良した! ターゲットをロックオンして自動追尾してくれる!」

唯「よ、よくわかんないけど、行くよ! ロケットパーンチ!」

 ドシュゥッ! マジンガーZから射出された右腕がジェノサイダーF9に向かって飛んでいく!

唯「いっけぇーっ!」

あしゅら「むっ! 我らを追ってくる! だが、そんなものにやられるあしゅら男爵ではないぞ!」

 ズバババババババババッ! あしゅら男爵の電撃がロケットパンチを撃ち落としてしまった!

唯「そ、そんなぁ!」

あしゅら「ふはははははは! 空を飛ぶ機械獣の前にさしものマジンガーZといえど手も足も出まい!」

秋山「くっ、ゲッターロボやライディーンは来られないのか!?」

田井中「ダメです! 同じように機械獣と戦っています!」

紬「ど、どうすれば……」

『ガッ……ガガッ……ピガー……』



615VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/25(金) 17:14:26.52uyn+k69f0 (7/9)


梓「む、ムギ先輩……通信がどこからか……!」

『……子力……所……聞こえ……るか……光子力研究所……!』

紬「い、いったい、どこから……?」

 慌てて紬はマイクを取った。その間にも、爆弾は光子力研究所に降り注いでいる。

紬「こちら光子力研究所! 聞こえています! 応答を!」

『よか……た……つながっ……光子力……所……!』

紬「そちらはどなたですか!?」

 爆発の地響きに耐えながら紬が問うが、相手は別の答えを出してきた。

『我わ……マジン……トの……ばさを……』

紬「マジンガーZ!? マジンガーZのなんですか!?」

『マジンガーZの……翼を……送る!』

紬「マジンガーZの翼!?」

『紅の翼……ジェットスクランダーを送……!』

紬「ジェットスクランダー!?」

 キュゴォォォォォォォォォォォォーッ! 風を切る戦闘機のような音が、紬の耳に飛び込んできた!

紬「あ、あれは!?」

あしゅら「な、なんだあれは!?」

 驚きはあしゅら男爵もだった。
 空を巨大な紅の翼が滑るように飛んでいるのだ!

あしゅら「よ、避けろ、ジェノサイダーF9!」

ジェノサイダーF9「ギュオォォォォォン!」

 ガガガッ! 左に動いたジェノサイダーF9の腹に紅の翼の片翼がかすめていった。

あしゅら「ぬおぉぉぉぉ!」

 慌ててしがみつくあしゅらの目の前で紅の翼は大きく旋回していく。



616VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/25(金) 17:15:59.88uyn+k69f0 (8/9)


あしゅら「な、なんなのだあれは!?」

唯「つ、つばさ……?」

紬「唯ちゃん、聞こえる!?」

唯「ムギちゃん!? あれはなに!?」

紬「あれはマジンガーZの翼、ジェットスクランダーよ!」

唯「ジェットスクランダー!?」

 ジェットスクランダーは大空を舞ってジェノサイダーF9を牽制する。
 紅の翼は、まるで唯を待っているように見えた。

紬「唯ちゃん、ジェットスクランダーとスクランダークロスするのよ!」

唯「よぉーし、スクランダー、ゴー!」

 ギュオォォォォォォッ! 唯の命令でジェットスクランダーがまた大きく旋回してマジンガーZの後ろに飛んできた。
 同時にマジンガーZも走り出す。超合金の足で強く地面を踏みしめて、唯はスクランダーとの呼吸とリズムを揃えていった。

あしゅら「させるか、マジンガーZ!」

澪「それはこっちの台詞だ! スカーレットビーム!」

 あしゅら男爵とジェノサイダーF9がマジンガーZに突撃する動きを読んだ澪がダイアナンAのスカーレットビームを撃つ!

あしゅら「ぬおっ!」

 ドガァッ! スカーレットビームの直撃を受けたジェノサイダーF9が大きく揺れる!

 そして、マジンガーZとジェットスクランダーの距離が交差するとき――

唯「スクランダー! クロォース!」

 ジャキィ――ンッ! マジンガーZの胴体部にジェットスクランダーが装着され、マジンガーZは強く空へ飛び出した!

あしゅら「な、なんだとぉーっ!?」

唯「いけぇぇぇーっ! マジンガーZ!」

 ギュオォォォォォッ! 空を飛ぶマジンガーZはぴったりとジェノサイダーF9の後ろを取った!

あしゅら「えぇーいっ! 飛ぶくらいがなんだ! やれぃ、ジェノサイダーF9!」

ジェノサイダーF9「ガオォォォォォン!」

 ズドドドドッ! ボシュッボシュッ! ガガガガッ!
 手当たり次第にジェノサイダーF9からミサイルや爆弾が発射される!

唯「冷凍ビーム!」

 ビィィィィィパッキィィィン!
 マジンガーZの耳にあたる角から、一瞬にして対象を0℃以下にしてしまう冷凍ビームが全ての火器を凍らせて機能不全にする!

唯「スクランダー・カッター!」

 バッギャァァァァァァァァァン!
 マッハ3にも迫る全速力マジンガーZの紅の翼がソニックブームを纏ってジェノサイダーF9を縦一直線に両断した!

あしゅら「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 申し訳ありませぬ! ドクター・ヘル様ぁぁぁぁぁ!!」



617VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/25(金) 17:17:09.81uyn+k69f0 (9/9)


 光子力研究所 格納庫

律「唯!」

紬「唯ちゃん!」

澪「大丈夫か、唯!?」

唯「うぷっ……よ、酔っちゃった……」

憂「お、おねえちゃーん!」

澪「いきなり、マッハ3だもんなぁ……」

律「ゲッターチームって、けっこう凄いやつらだったんだな……」

澪「それにしても、いったい誰がジェットスクランダーを運んできてくれたんだ……?」

律「そう! 私も思ってたよ! いったい誰なんだ、ムギ?」

紬「それが、全然わからないの……向こうは光子力研究所のことを知っていたみたいだけど……」

澪「そうか……」

律「ま、なんにせよ、これでマジンガーZも空を飛べて、弱点克服ってことだよな!」

 律がマジンガーZの足をバンバン叩く。
 その様子を、輪に加わることなく見ている影があった。

梓「…………」

 梓は悔しそうに歯噛みしている様子で、律たちを見ていたが、やがて身を翻して格納庫から去っていった。


 第九話 飛翔! 空を飛べ、マジンガーZ!



618VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 18:57:55.32B80XsZte0 (1/19)


 第十話

 北米大陸 ゴラオン

アリサ「アリサ・バニングス、コア・ファイター、哨戒任務に出ます!」

 ゴラオンの開け放しになっている格納庫から、戦闘機コア・ファイターが飛び出した。
 それを見送るなのはとすずかは不安の残る表情で見送った。

なのは「アリサちゃん、最近はよく出るね」

すずか「うん、早く操縦をマスターしたいのもあると思うけど……」

ハロ「ハロハロ」

なのは「もしかしたら、あの放送が関係あるのかな……」

すずか「そうかもしれないけど……アリサちゃん、何も話してくれなかったから……」

 四日前、ちょうどゴラオンが北米大陸に到着した頃に、ある放送がジオン側から流れた。

 ジオン公国のガルマ・ザビとバイストン・ウェルのアの国の国王ドレイク・ルフトが会談し、互いに軍事同盟を結ぶことで同意したと。

 その時の映像はゴラオンにも届いた。
 映像には、ガルマとドレイクが手を握り合っている姿が映っていた。
 その脇を固めていたのが、ショット・ウェポン、トッド・ギネス、イセリナ・エッシェンバッハ、そして、赤い彗星フレイムヘイズのシャナである。
 アリサはその映像を食い入るように見ていた。

なのは「もしかしたら、アリサちゃんにしかわからない何かが、あの放送にあったのかもしれないね……」

すずか「アリサちゃん、思い込んじゃうところがあるから……」

チャム「そこまでわかってるなら、追いかければいいじゃない!」

なのは「あ、チャムちゃん」

すずか「どうしたの?」

チャム「ダンバインの整備を手伝おうとしたら、タマキに邪魔だって追い出されちゃったの!」

なのは「にゃはは、チャムちゃんらしいね~」

ハロ「ハロハロ、チャムハロ」

チャム「私のことより、どうしてアリサを追っかけてってあげないの!?」

なのは「う~ん、なんでだろ……?」

すずか「なんだか、アリサちゃんが聞いてほしくなさそうだから……かなぁ?」

チャム「なぁにそれ? そんなことわかるの?」

なのは「まあ、二年も一緒にだからね」

すずか「たぶん、アリサちゃんは、話したくないというより、話すのが怖いのかも……」

なのは「うん、そうだね。私もそう思う」

チャム「ふぅーん……なんだかよくわかんない!」

すずか「ふふふ」

なのは「にゃはは」

ハロ「ハロハロ、ニャハハ、ハロハロ」



619VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 18:59:07.88B80XsZte0 (2/19)


アリサ「…………」

 コア・ファイターの操縦席でアリサは考え事をしている。
 というより、考え事をしたいときに、アリサはコア・ファイターで出撃していた。

 なのはとすずかが思っているとおり、アリサは迷っていた。
 二人は親友だ。それは間違いなくそう言える。
 だけど、言うべきことか、黙っているべきことなのか、アリサには判断がつかないことだ。

アリサ「まだしばらくは……黙っていたほうがいいのかもしれない」

 アリサは今年十一歳になるが、ジオンの赤い彗星シャナとは姉妹であったのだ。
 そして、彼女の父親はあのジオン・ダイクンなのである。
 ジオン亡き後、姉妹はジンバ・ラル夫妻に守られて地球に移り住んできた。
 ジンバ・ラルは用意していた莫大な資産で地球の名家バニングス家の名前を買った。
 父との記憶はないが、姉との記憶はある。一番強い記憶はアリサが四歳の時、シャナがジオン入国を決めた時のものだ。

シャナ『私の父はジオンのザビ家に殺された。私は父殺しの仇ザビ家を討つべきだと思う』

 まだ幼かったアリサにその言葉の意味はわからなかったが、姉のいない家にアリサが留まる価値はなかった。
 そして出会った親友たち、なのはとすずか。ジオンの娘であるアリサにとって、二人は眩しすぎた。
 そして、姉のシャナが地球を離れた理由がわかるようになると、それはアリサにとって嫌悪すべきものとなった。

アリサ「父が、子どもの不幸を喜ぶものか」

 何よりアリサはジオンの娘となることで、なのはとすずかを失いたくなかった。
 だから、二人が戦うことを選んだとき、民間人としてホワイトベースを降りることもできたのに、乗員として残ったのだ。
 誤算はあった。いつでも人間の周りを飛び回っているそれが舞い降りたのは、大気圏突入時だ。

アリサ「……ツッ!」

 操縦桿を握りしめながら、アリサは頭痛を堪えた。
 あのとき現れた赤い彗星フレイムヘイズのシャナを見たときから、姉のことを思い出すたびに、額からこめかみのあたりを電気のような痛みが走るのだ。
 それはあのジオン・ドレイクの同盟会見の映像を見たとき、ピークに達した。

アリサ「違う……何かが違うのよ」

 アリサはこの頭痛を違和感だと思っていた。
 何かが、違うのである。それは姉のことを思い出すて、常に感じることである。
 姉の名はシャナ。それはジオン入国の際に偽名として名乗ったものだ。
 だが、彼女のファミリーネームは誰も知らない。バニングス家の名は捨てているはず。
 しかし、誰もが彼女のことを『赤い彗星フレイムヘイズのシャナ』としか呼ばないのだ。
 それはルウム戦役でついたあだ名なのだから、それまでに名乗っていたファミリーネームがあるはずだった。

 それに、アリサの知っている姉の名前はあと二つある。覚えてはいるが、それが違和感の正体であることにアリサはまだ気づいてない。
 キャスバル・レム・ダイクンとエドワゥ・バニングス――前者はジオン・ダイクンの子としての名前、後者はバニングス家としての名前である。

 キャスバルとエドワゥ――この名は、主に男子につけられる名前なのだ。

アリサ「シャナ――姉さんに会えば何かわかるはず……」

 あの映像にシャナが映ったということは、北米大陸にまだ駐留している可能性が高い。
 ゴラオンに乗り続けていれば、会うことはできるだろう。

 そのとき、レーダーが質量を捉えた。四つ、ドレイク軍のドラムロだ。

アリサ「すぐに戻らないと……!」

 敵もこちらに気づいたようだった。
 急いで機首を返す。戻りきれるだろうか?



620VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:00:41.60B80XsZte0 (3/19)


 ゴラオン 格納庫

ゴラオン兵士「聖戦士様! 哨戒のアリサ様が敵機に捕捉されました! 救援をお願いします!」

珠姫「はいっ!」

紀梨乃「タマちゃん、私もボチューンで出るよ!」

チャム「私もいくぅーっ」

 珠姫とチャムがダンバインに、紀梨乃がボチューンに乗り込む。

珠姫「ダンバイン、行きます!」

紀梨乃「ボチューン、いっくよぉーっ!」

 オーラ力の光りをブースターから噴きながらオーラバトラーが発進していく。

なのは「アリサちゃん、大丈夫かな……」

すずか「コア・ファイターの速さならそう簡単に追いつかれないと思うけど……」

ハロ「ハロハロ、アリサハロハロ」



 北米大陸 ジオン軍攻撃空母 ガウ

ガルマ「ゴラオンの偵察機を発見したか!」

ジオン兵「はっ! ただいまドレイク軍のウィル・ウィプスが追撃体制に入りました!」

シャナ「手柄を横取りされるのを見ている手はないわね」

ガルマ「うむ! ガウの発進準備をさせろ!」

ジオン兵「はっ!」

 部屋からジオン兵が出て行く。

シャナ「私は一足先に出て、モビルスーツと白服のやつを捜すわ」

ガルマ「行ってくれるのか?」

シャナ「今の私はお前の部下よ」

ガルマ「そうだが、元々はドズル兄さんの直属だ。私がガウでやろう」

シャナ「私にも、プライドというものはあるのよ」

 刀を抱えて睨みつける〝親友〟に、ガルマは目にかかる前髪を弄って笑った。

ガルマ「やられっぱなしにはいられないということか、フフフ」

シャナ「発見したら、通信くらいはいれてあげるわよ」

ガルマ「頼んだぞ、シャナ」

シャナ「勝利の栄光を君に」



621VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:01:25.72B80XsZte0 (4/19)


 ウィル・ウィプスの艦隊に混じってジオンのガウが発進した頃、アリサはドラムロから逃げ回っていた。

アリサ「しつっこいわね!」
 
 ドレイク軍のドラムロは九体にまで増えていた。雁行型の編隊を組んで、オーラショットを撃ち続けている。

アリサ「こんのぉっ!」

 ぎゅぅんっ! 操縦桿を力いっぱいに倒して降下する。頭上を抜けていくオーラショットの威圧にぶわっと汗が吹き出る。

 だが、レーダーが新たな敵の到来を報せていた。
 どうやら、考え事をしている最中に深く敵陣に入り込んでしまっていたらしい。
 通信が繋がっていただけでも幸運だ。

 ビランビーやバストールまでいる新たな部隊はアリサを取り囲むように展開している。

アリサ「さ、さすがのアリサちゃんも大ピンチ……?」

 とはいえ、コア・ファイターとオーラバトラーの大きさはほぼ同じである。
 直線移動の速さでは勝っているし、武装の30ミリバルカンもなめし皮であるオーラバトラーの装甲にも立ち向かえる。

アリサ「な、なのはやすずかにばっかりいい格好させてらんないわよね!」

 ぐおぉんっ! 機体を持ち上げて正面のビランビーに向けてバルカン砲を撃つ。

アリサ「どきなさいったらーっ!」

ドレイク兵「う、うおぉぉっ!? こ、コンバーターがぁ!」

 ガガガガガガッ! バルカンにやられるドレイク兵。

アリサ「へへーんだ!」

 ビランビーを墜落してできた編隊の穴からアリサのコア・ファイターが抜け出る。
 だが――

トッド「好きにやらせるかよ!」

アリサ「キャアァァァッ!」

 トッド・ギネスがレプラカーンとともにコア・ファイターの上に乗っかっていた。

 逆手に持った剣がコクピットに切っ先を向けるのを見上げて、アリサは真っ青になった。

アリサ「ちょ、ちょっと……冗談でしょ……?」

トッド「冗談で戦争ができるかよ!」

 剣がコクピット目がけて振り下ろされる!

アリサ「死んだっ!?」

 ぎゅっと目を瞑ったアリサ。だが、いくら待っても手配済みの死は訪れなかった。

トッド「ちっ!」

 舌打ちの後、ぐんと機体が軽くなった。何があったかわからないが、レプラカーンが離れていく。

珠姫「トッドさん!」

トッド「現れやがったなぁ、ダンバイン!」

 オーラショットから煙を吐きながらダンバインが急速に接近してきた。
 剣が刺さる直前に撃って助けてくれたのだ。

 ダンバインとレプラカーンは機体の姿勢を整えると、すぐに剣をぶつけあった。
 
トッド「ノコノコと出てきやがって! やっぱりオマエも地上で戦うってのかよ、タマキ!」

珠姫「そんな風に憎しみを人に圧しつけて!」

 ガキィンッ! ダンバインの横払いの一撃を縦に構えた刃の柄で絡みとる。
 ガッ! バキッ! 剣を受け流したレプラカーンが左拳を固めて下顎を殴りつけた!

珠姫「うぐっ!」



622VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:02:19.59B80XsZte0 (5/19)


 呻く珠姫にトッドが吠える。

トッド「アメリカは俺のホームだ! てめぇらジャップに踏み荒らされてたまるかよ!」

珠姫「バイストン・ウェルやジオンの人達が破壊しているのはどうするの!?」

 バシュッ! ワイヤークローがレプラカーンの首にくくりつき、一挙に距離を縮め、
 ガシュィッ! ダンバインの鋭い太刀筋がレプラカーンの右肩の鎧を掠め取る!

トッド「奴らはアメリカをこれ以上荒らさないと約束してくれたよ! ガルマもお坊ちゃんだがいい奴だぜ!」

珠姫「そうやって打算ばかり受け取って! オーラマシンがバイストン・ウェルから浮上した理由を考えないの!?」

トッド「おふくろに心配かけただけ、無駄だったってことさ!」

珠姫「また打算! あなたはーっ!」

チャム「タマキぃ!」

 ガッ! ガガガッ! バキッ! ドドシュゥッ!
 剣戟の火花が舞い、機体をぶつけあい、オーラショットを撃ち合っていく。

トッド「所詮、オマエとはこうなる運命だったのさ! ジャップ!」

珠姫「あなたが戦いをやめないから!」

チャム「なんだか恐いよぉ、タマキぃ!?」

 チャムが恐怖するのも無理からぬこと。
 珠姫の形相は凄まじい剣幕で、普段の彼女からは想像も出来ないぐらいに声を枯らしているのだ。
 
 ダンバインを通してオーラ力が目に見えるくらいに溢れている。

トッド「なめるなよ! 俺だってオーラ力は上がっているんだぜ!」

 呼応するようにレプラカーンからもオーラの光りが溢れて機体を包み込んでいく。

 二人はまた激しく打ち合う。その度にオーラが弾けて消える。



623VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:05:17.87B80XsZte0 (6/19)


 一方、ゴラオンはウィル・ウィプス艦隊と遭遇して、これと交戦していた。

 互いにオーラマシンを出し合い、高度での戦闘を繰り広げながら、地上ではジオン陸上部隊と戦車部隊が戦っている。

なのは「シュートッ!」

ジオン兵「ぐおおぉっ!?」

 なのははゴラオンから出た戦車と歩兵部隊に混じって魔法で敵を牽制させている。

すずか「当たって!」

 ドウッ! すずかが乗るガンダムもゴラオンの直俺に回りつつ、大型車両などを破壊していく。
 ゴラオンは浮上の機会を逃して、大地に鎮座している。

エレ「エイブ艦長、このままでは地上の被害が大きくなってしまいます。どうにかなりませんか」

エイブ「しかし、敵が取り付いている今、上昇しては迎撃にあたっている乗務員に影響が出ます」

エレ「それなら……あの山陰に入ってはどうでしょう。オーラバリアも上からの攻撃に集中させることができます」

エイブ「わかりました。ゴラオンを発進させろ!」

 ゴラオンが動きはじめたとき、後方のガウから先行してきたシャナがガンダムを捉えた。

シャナ「見つけたわ、連邦の白いヤツ!」

 シャナは炎を身に纏い、ガンダムに突撃していった。

すずか「炎が迫ってくる!?」

なのは「あれは、シャナちゃん!?」

シャナ「たぁーっ!」

レイジングハート「protection」

 シャナの刀がなのはに当たる直前、レイジングハートが防御魔法を発動させる。
 贄殿遮那がそれをすぐに粉砕させるが、刀の行き先はわずかにブレてバリアジャケットを切るだけに終わった。

なのは「シャナちゃん、やめて!」

シャナ「うるさい! 気安く私の名前を呼ぶな!!」

なのは「くっ……ディバイーン・シューター!」

 なのはの背中から光りの球が三つ放たれる。湾曲して空を飛ぶ光球がシャナに向かっていく。

シャナ「遅い!」



624VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:05:50.50B80XsZte0 (7/19)


 シュパァッ! 刀の二振りでディバイン・シューターは三つともかき消えていった。

シャナ「連邦の新兵器の力はそんなものか!?」

なのは「きゃあっ!」

すずか「なのはちゃん!」

 ガンダムの頭部をシャナのほうへ上げてバルカン砲を撃つ。
 少女程度の大きさのものなどまともにレーダーで映すことなどできやしないが、ばらまくように撃ちまくった。
 リュウが乗るコア・ファイターは上空でオーラマシンと戦っている。その支援が受けられない。

シャナ「モビルスーツの性能差が、戦力の決定的な違いではないことを教えてやるわっ!」

すずか「こ、こっちに来る!?」

シャナ「落ちろぉーっ!」

アリサ「させるもんですかぁーっ!」

 ガンダムとシャナの間にコア・ファイターが割って入ってきた。
 帰還してきたアリサがそのまま突撃してきたのだ。

シャナ「ちっ……あれは!?」

 忌々しげにコア・ファイターを見やったシャナの目が大きく見開かれる。

シャナ「アルテイシアが……くぅっ!」

 コア・ファイターのコクピットに座っているアリサを発見した途端、シャナは頭が痛くなった。

なのは「シャナちゃんの動きが……それなら!」

 それを確認したなのはがディバイン・シューターを撃つ。

シャナ「くぅぅっ!」

 頭を抱えるシャナは、それでもシューターを回避して空へ距離をとった。
 ゴラオンが移動していくのを見て、ガウへ通信を入れた。

ガルマ「シャナか?」



625VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:07:43.00B80XsZte0 (8/19)


シャナ「ゴラオンを発見したわ。私たちに背を向けて山間へ逃げていくわ」

ガルマ「そうか!」

 ガルマの弾む声にシャナは内心でほくそえんだ。
 実際はゴラオンは回頭せずに後進している。

シャナ「私がモビルスーツとオーラバトラーをひきつける」

ガルマ「わかった。我々がゴラオンを沈める」

シャナ「逃さないでよ。十字勲章ものの相手よ」

ガルマ「へまはしないさ。イセリアの前だ」

 シャナはそれ以上は聞かずに交信を切った。

シャナ「利用させてもらうわ」

なのは「シャナちゃん!」

 ひゅおんっ! シャナを追いかけて上昇してきたなのはの光球を鮮やかに回避する。

シャナ「ちょろちょろと!」

 白服のヤツとは相性が悪い。こっちの攻撃は逸らされるし奔放な軌道の球がイヤだ。

シャナ「馴れ馴れしいのよ!」

 シュパァッ! 水平に構えた鞘から抜き放つ。

なのは「きゃっ!?」

 相手がひるんだ隙に脇を通り抜けて、加速。進む先にいる敵オーラバトラーに刃を向けた。

ゴラオン兵「な、なんだ!?」

シャナ「沈めぇっ!」

 ズバッ! シャナの一閃の前に、ゴラオン量産型オーラバトラー、ボチューンの首が飛ぶ。

アリサ「やめなさいよっ!」

 コア・ファイターのアリサがバルカンと共にシャナを追ってきた。

シャナ「またっ……アルテイシア……ッ!」

 その声をマイク越しに拾ったアリサは思わず叫んだ。

アリサ「やっぱり……アンタは……いや、あなたは私の――」

シャナ「言うなっ! ここは戦場だ!!」

すずか「アリサちゃぁん!」

 ギュオッ! コア・ファイターが落とされると思ったすずかがビーム・ライフルをシャナに向けて撃った。
 それをシャナは大きく円を描く動きで避ける。

なのは「シュートッ!」

 ディバイン・シューターが飛び掛かる。
 シャナは戦場の端で列を成しているガウとドップを見つけた。

シャナ「頃合いね」

 光球を叩き落すと、最大速度を出して戦線から離脱していった。

アリサ「ちょっと、待ちなさいよ!」

すずか「アリサちゃん、ダメだよ! もう燃料もないでしょう!?」

アリサ「うぅっ……」

 たしかに、コア・ファイターの計器はいずれも臨界に達しかかっていた。
 仕方なく、速度を緩めてガンダムの近くに着陸していく。
 シャナの姿はもう見えない。また、ふたりは離れ離れになっていく。



626VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:09:27.42B80XsZte0 (9/19)


 ガルマ・ザビが率いるジオン飛行部隊は、ゴラオンが隠れている山間に近づいていた。

ガルマ「ビーム砲を開け、全機、攻撃スタンバイ」

 彼の予想では、ゴラオンは尻を向けているはずだ。800メートル級の巨大戦艦でも、後ろを取ればまともな反撃はできまい。

エイブ「エレ様、敵艦隊が接近してきます」

エレ「副砲、その他使える砲門は射撃体勢を整えよ」

 だが、ゴラオンはガウの針路に対して正面を向いていた。
 主砲のオーラノバ砲は使えないとはいえ、その威力は70メートル級のガウでは相手になるまい。

 それを、ガルマは接触する瞬間まで、まるで考えていなかった。
 ゴラオンが背を向けていると情報を流したのは、他ならぬ彼の親友だったからだ。

シャナ「ガルマ、聞こえている?」

ガルマ「シャナか。これからゴラオンを落とす。君も見に来るといい」

シャナ「残念だけど、それはできないわ」

ガルマ「そうか」

シャナ「アンタに、ゴラオンは落とせないから」

ガルマ「なんだと!?」

ジオン兵「が、ガルマ様!」

 驚愕するガルマをオペレーターの裏返った声が遮った。

ジオン兵「ゴラオンの艦首が、こちらを向いています!!」

ガルマ「なにっ!?」



627VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:10:25.51B80XsZte0 (10/19)


エレ「全砲門、撃て!」

 ガルマがシャナから戦場に目を移したとき、ゴラオンの砲口が火を噴いた。

ガルマ「うわーっ!!」

 チュドォッ! ズドドドドドドオン!!

ガルマ「じょ、上昇だ! 上昇しろ!」

ジオン兵「む、無理です!」

ガルマ「シャナ! これはどういうことだ!?」

 ガルマの怒号に、モニターの中のシャナは愉快そうに笑っていた。

シャナ「ふふふ……ガルマ、聞こえていたら、自分の生まれの不幸を呪うがいい」

ガルマ「なにっ、不幸だと!?」

シャナ「そう、これは不幸なことなのだよ」

ガルマ「謀ったな、シャナ!」

イセリナ「ガルマ様!」

 白磁の美貌からさらに血の気を落とすガルマの背中に、イセリナがしがみついてきた。

ガルマ「い、イセリナ!?」

イセリナ「ガルマさま!」

シャナ「フフフ……イセリナ様には悪いことをしてしまったな。まあ、君の家族もいずれ君たちの許へ向かう。式はそこで挙げてくれたまえ」

 ガルマは何か背筋がぞっとする思いがした。

ガルマ「シャナ! お前は何者だ!? お前はシャナではない!」

 そう言われたシャナは虚を突かれたように目を見開いたが、すぐに余裕の表情を浮かべた。

シャナ「……君はいい友人だったが、君の父上がいけないのだよ。フフフフ……ハハハハハハハハハ」



628VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:15:28.73B80XsZte0 (11/19)


ガルマ「シャナ! ち、違う、貴様は……っ!?」

 ブリッジのすぐ下に、オーラキャノンが直撃した。
 衝撃で映像が途切れた。だが、まだ音声は繋がっているようで、高笑いが聞こえている。

イセリナ「ガルマ様!」

ガルマ「イセリナ、君は逃げてくれ」

イセリナ「ガルマ様は!?」

ガルマ「私とて、ザビ家の男だ。無駄死にはしない」

イセリナ「イヤ! 私もガルマ様と共に!」

シャナ「いよいよ、君たちはめでたいな。ハハハハハハハハ」

ガルマ「黙れ! うわっ!」

 大きな爆発がブリッジを巻き込んだ。辺りが炎に包まれる。もはや撃墜は免れぬだろう。
 ガルマは傍らのイセリナを強く抱きしめた。
 オーラキャノンが目の前に迫ってきているのをみて、彼は叫んだ。

ガルマ「ジオン公国に、栄光あれーっ!」

 その言葉を最後に、ジオン飛行部隊は全滅した。

シャナ「フフン、お坊ちゃんらしいよ」

 ただ、遺言としては最もふさわしいものだと思った。本国に伝えてやるぐらいはしてやろう。
 シャナはドレイク・ルフトに回線を開いた。

ドレイク「何用か?」

シャナ「我らが司令官ガルマ・ザビ大佐が撃墜されました。兵をお引きください」

ドレイク「……よかろう」

 ドレイク・ルフトは何か言いたげだったが、問うても仕方のないことだと思ったらしく、口を閉じた。



629VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:18:10.59B80XsZte0 (12/19)


 撤退命令が出たにも関わらず、トッドはレプラカーンを後退させなかった。
 それが、余計に珠姫の癪に障った。

珠姫「まだ戦うというのなら!」

トッド「どうするってんだよ! 甘ちゃんのジャップが!!」

珠姫「そこから引き摺り下ろしてみせる!!」

 ズオオオォォォォォォッ――……珠姫の強力に膨れ上がったオーラ力がダンバインの剣に収束していく。

トッド「な、なんだッ!? ダンバインの剣が巨大に!?」

 幻覚ではなかった。ダンバインの剣は確かにその長さを増し、全長の三倍ほどになっていた。

チャム「タマキぃ!? タマキが恐いよぉ!」

紀梨乃「どうしちゃったの、タマちゃん!?」

珠姫<気合>「はあぁぁぁぁっ!!」

トッド「ちきしょうっ! そんな虚仮おどしにやられるかよぉ!」

 防御の型に剣を構えるレプラカーン。
 ダンバインは長大になったオーラソードを両手に握り、鳩尾に柄頭を置いた。
 そして、切っ先は真っ直ぐ、正面に向けられる。

トッド「なんだ……っ!」

 こめかみから流れる汗が目尻に入り、まばたきをした一瞬、ダンバインの姿は消失していた。

トッド「どこに――ッ!?」

珠姫「突きィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」



630VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:20:08.59B80XsZte0 (13/19)


 晴天を切り裂かんばかりの雄叫びと共に現れたダンバインのオーラソードがレプラカーンの首に突き刺さった!

 ザシュゥッ! 既に半ばまで貫いているオーラソードの音が遅れてトッドの耳に聞こえてきた。

トッド「ば、バカなっ……!?」

珠姫「ぜぇ、ぜぇ……」

 オーラソードが、砂のようにきらめきを散らして小さくなっていく。
 同時に、レプラカーンは墜落を始め、珠姫の瞳が濁りを湛えていった。

チャム「た、タマキ! ダンバインのコントロールがぁ!? 落ちちゃうぅ~!」

紀梨乃「タマちゃん!」

 ふらふらとレプラカーンに続こうとしたダンバインを、紀梨乃のボチューンが支える。

紀梨乃「タマちゃん、大丈夫!?」

珠姫「は、はい……ありがとう、ございます……」

 だが、チャムが異変に気づいた。

チャム「ねぇ、あそこを見て……」

 珠姫がチャムの指さしたほうを見ると、散らばっていたきらめきが滝のような流れを作っていた。

チャム「オーラの光りが集まってるよ……?」

 オーラの光りは、珠姫が放ったものだけではなく、戦場に広がっていた全てのオーラ力を束ねて大地に降り注いでいる。

紀梨乃「な、何が起きてんのさ?」



631VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:21:12.91B80XsZte0 (14/19)


 上昇したゴラオンから見ていたエレは、慄いていた。

エレ「悪意のオーラが……あそこに集まっていきます」

 そして、一番早く気づいたのは、高町なのはだった。

なのは「魔力反応……もしかして!」

レイジングハート「Yes.That,s a juelseed №Ⅹ」

 回答は、発現と同時だった。

 バキバキバキバキバキッ!!

すずか「きゃあぁっ!」

アリサ「な、何よ、アレは!?」

 ジャックとマメの木みたいだった。
 ツインタワービルと同じくらいの巨大な樹が、戦場の荒野に突如出現したのだ。

なのは「ジュエルシード……地球にも!?」

 オーラ力で覚醒したジュエルシードの膨大な魔力で暴走した枝葉が、近くのオーラマシンを巻き込んでいく。

珠姫「うあぁっ!」

紀梨乃「にゃあぁぁっ!」

なのは「み、みんなが……ここからじゃ間に合わない……!」

 どうにかしなければ……しかし、ジュエルシードが見えない。

なのは「私にできること……」

 ジュエルシードの暴走を止めるに、魔法による直撃鹵獲で封印するしかない。

 だが、そのジュエルシードに近づけないのでは……

なのは「どうすれば……どうすればいいの……?」

 凶悪な大樹は枝と根で、あたり一面を埋め尽くしていく。
 すずかやアリサ、ゴラオンにまで近づいていく。

なのは「私に……教えて! レイジングハート!」

レイジングハート「Alllight my muster」

なのは「!」



632VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:21:47.26B80XsZte0 (15/19)


 なのはの呼びかけに、杖が応えた。

レイジングハート「shooting mode」

なのは「レイジングハート……?」

 赤光を放つ杖の形状が変化していく。
 円形の先端が、槍の穂先に、 
 薄桃色の魔力翼が広がる。
 左手の前に、トリガーが出現し、なのはは小さな手で強く握りしめた。

レイジングハート「Divine buster.Stand by」

なのは「レイジングハート……いいの?」

レイジングハート「I believe in my muster」

なのは「……うんっ!」

レイジングハート「Let's shoot it, Divine buster」

なのは「いくよ、レイジングハート!」

レイジングハート「Alllight my muster」

 大きな魔法陣がなのはの足元に描かれる。
 魔力光のリングが形成され、レイジングハートの先端に薄桃色の粒子が収束していく。

なのは「ディバイン――」

レイジングハート「Divine buster」

なのは「バスタァーッ!!」

 細いの先行放出が大樹の幹を捉えた。

 次の瞬間、先行した一条をレールにした大威力の魔力砲がなのはの小さな体を媒体にした帯状魔法陣から発射される!

258 :以下、三日目金曜東Rブロック59Aがお送りします [saga]:2010/11/28(日) 20:37:20.80 ID:FzntPiw0

エイブ「エレ様!?」

エレ「安心なさい、エイブ艦長。あの方の、善き力が……悪しきオーラ力を和らげてくれます」

 ゴラオンのハイパーオーラキャノンにも匹敵する質量の砲撃が、巨樹を包み込んでいく。

レイジングハート「seeling mode」

なのは「リリカル・マジカル――ジュエルシード・シリアルⅩ!」

レイジングハート「seeling」

なのは「封印!」

 なのはの一声で一瞬、巨樹が大きく膨らみ、爆散した!



633VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:22:14.21B80XsZte0 (16/19)


 ジュエルシードの力を失った樹は、跡形もなく消え去っていく。

なのは「ふぅ……」

レイジングハート「Mission complete.Thank you my muster」

なのは「……いろんな人に、迷惑かけちゃったね……」

レイジングハート「Sorry. This fault is mine」

なのは「レイジングハートのせいじゃないよ……私も……私、ジュエルシードのこと……忘れちゃってたんだ」

 バリアジャケットを解いて、なのははガンダムとコア・ファイターを見上げた。

なのは「すずかちゃんとアリサちゃんに、魔法のひみつを打ち明けることができて……それで誰かの役に立てるってわかって、嬉しくって、忘れちゃってたんだよ……」

 コクピットから降りてくる小さな影。とっても大切で、守りたいもの。

なのは「でも……私にこの力をくれたレイジングハートのことを忘れちゃってたんだ……ごめんね、一番大事にしなくちゃいけないことなのに……」

レイジングハート「It,s so」

なのは「……」

レイジングハート「But.There is something that it is necessary to evaluate it from it」

なのは「レイジングハート……?」

レイジングハート「――Friendship」

なのは「……ありがとう、レイジングハート」


 第十話 衝突! それは、忘れることの出来ない想いなの



634VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:24:41.88B80XsZte0 (17/19)


 なのはの呼びかけに、杖が応えた。

レイジングハート「shooting mode」

なのは「レイジングハート……?」

 赤光を放つ杖の形状が変化していく。
 円形の先端が、槍の穂先に、 
 薄桃色の魔力翼が広がる。
 左手の前に、トリガーが出現し、なのはは小さな手で強く握りしめた。

レイジングハート「Divine buster.Stand by」

なのは「レイジングハート……いいの?」

レイジングハート「I believe in my muster」

なのは「……うんっ!」

レイジングハート「Let's shoot it, Divine buster」

なのは「いくよ、レイジングハート!」

レイジングハート「Alllight my muster」

 大きな魔法陣がなのはの足元に描かれる。
 魔力光のリングが形成され、レイジングハートの先端に薄桃色の粒子が収束していく。

なのは「ディバイン――」

レイジングハート「Divine buster」

なのは「バスタァーッ!!」

 細いの先行放出が大樹の幹を捉えた。

 次の瞬間、先行した一条をレールにした大威力の魔力砲がなのはの小さな体を媒体にした帯状魔法陣から発射される!

エイブ「エレ様!?」

エレ「安心なさい、エイブ艦長。あの方の、善き力が……悪しきオーラ力を和らげてくれます」

 ゴラオンのハイパーオーラキャノンにも匹敵する質量の砲撃が、巨樹を包み込んでいく。

レイジングハート「seeling mode」

なのは「リリカル・マジカル――ジュエルシード・シリアルⅩ!」

レイジングハート「seeling」

なのは「封印!」

 なのはの一声で一瞬、巨樹が大きく膨らみ、爆散した!
 


635VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:25:27.50B80XsZte0 (18/19)


 ジュエルシードの力を失った樹は、跡形もなく消え去っていく。

なのは「ふぅ……」

レイジングハート「Mission complete.Thank you my muster」

なのは「……いろんな人に、迷惑かけちゃったね……」

レイジングハート「Sorry. This fault is mine」

なのは「レイジングハートのせいじゃないよ……私も……私、ジュエルシードのこと……忘れちゃってたんだ」

 バリアジャケットを解いて、なのははガンダムとコア・ファイターを見上げた。

なのは「すずかちゃんとアリサちゃんに、魔法のひみつを打ち明けることができて……それで誰かの役に立てるってわかって、嬉しくって、忘れちゃってたんだよ……」

 コクピットから降りてくる小さな影。とっても大切で、守りたいもの。

なのは「でも……私にこの力をくれたレイジングハートのことを忘れちゃってたんだ……ごめんね、一番大事にしなくちゃいけないことなのに……」

レイジングハート「It,s so」

なのは「……」

レイジングハート「But.There is something that it is necessary to evaluate it from it」

なのは「レイジングハート……?」

レイジングハート「――Friendship」

なのは「……ありがとう、レイジングハート」


 第十話 衝突! それは、忘れることの出来ない想いなの 第十一話



636VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 19:26:18.38B80XsZte0 (19/19)


 ジュエルシードの力を失った樹は、跡形もなく消え去っていく。

なのは「ふぅ……」

レイジングハート「Mission complete.Thank you my muster」

なのは「……いろんな人に、迷惑かけちゃったね……」

レイジングハート「Sorry. This fault is mine」

なのは「レイジングハートのせいじゃないよ……私も……私、ジュエルシードのこと……忘れちゃってたんだ」

 バリアジャケットを解いて、なのははガンダムとコア・ファイターを見上げた。

なのは「すずかちゃんとアリサちゃんに、魔法のひみつを打ち明けることができて……それで誰かの役に立てるってわかって、嬉しくって、忘れちゃってたんだよ……」

 コクピットから降りてくる小さな影。とっても大切で、守りたいもの。

なのは「でも……私にこの力をくれたレイジングハートのことを忘れちゃってたんだ……ごめんね、一番大事にしなくちゃいけないことなのに……」

レイジングハート「It,s so」

なのは「……」

レイジングハート「But.There is something that it is necessary to evaluate it from it」

なのは「レイジングハート……?」

レイジングハート「――Friendship」

なのは「……ありがとう、レイジングハート」


 第十話 衝突! それは、忘れることの出来ない想いなの



637VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/26(土) 20:38:21.41E/oe9OoAO (1/1)

乙、二次Zの主人公公開されたね
天秤座のスフィアかな


638VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:34:58.79xzchfqAl0 (1/16)


 第十一話

 中国 重慶基地郊外の上空 

 連邦軍の戦艦、ホワイトベースに巨大な鳥が降りた。
 全長にして50メートルにもなる巨鳥の正体は、ライディーンが変形したゴッドバードだ。

ゆりえ「一橋ゆりえ、到着しましたー」

 不慣れな敬礼は戦艦にあって似合わないものだが、格納庫まで出迎えた司令官は誠実に姿勢を正した。

シノン「ご協力感謝します。これより、ホワイトベース艦長代理、香月シノン少尉がゆりえさんの身を預からせていただきます」

ゆりえ「よろしくお願いします」

立夏「ヤッター、ゆりえちゃん来るの待ってたんダヨー!」

ゆりえ「わっ、わわわっ」

立夏「ホラホラ、リッカが案内してあげるヨー」

霙「召集がかかったら、早く戻ってくるんだぞ」

立夏「りょうかーいッチャオ」

 ツインテールと一緒にぴょんぴょん飛び跳ねる立夏が、あっという間にゆりえを連れて行ってしまった。
 それを遠目に見ながら、ヒカルがやれやれといった風に苦笑する。

ヒカル「久しぶりに年が近い相手だからな、立夏もはしゃいでる」

スズ「一橋さんのほうが一応、一個上なんだけどね」

霙「ゲッターチームの三人にも来てほしかったんだが、早乙女研究所で機体の調整があるらしいからな」

シノン「ともかく、これで海晴中尉とシノさんが抜けた穴はカバーできると思います」

アリア「だけど、シノちゃんは大丈夫かしら……長門さんを連れているとはいえ、敵の基地の中なんて……」

 現在、天使海晴と天草シノは捕虜の長門有希を連れて、ギガノス軍に捕らえられているマチルダ・アジャン中尉との交換に向かっていた。

シノン「基地の中に入るわけではないから、何かあったとしたら私たちにもわかるわ」

スズ「何かあってからじゃ遅いと思いますけど」

ヒカル「しかし、彼女たちは罠を張るような人間には思えないが。長門さんは私たちに助けを求めてきたのだから」

スズ「はぁ……ヒカルはもう少し周りを疑うことを知ったほうがいいわね」

ヒカル「どういうことだ、スズ?」

霙「ギガノス帝国にはドルチェノフという好戦的な指揮官がいる。そして蒼き鷹の涼宮ハルヒは今、そいつの直属になっている」

シノン「下士官パイロット一人と補給船指揮の中尉では捕虜交換のうまみがギガノス側にはないわ。なのにそれをあちら側から提案してきたということは、この交換は彼女の独断である可能性が高い」

霙「当然、ドルチェノフがそんなことを容認するつもりはない。女性士官<ウェーブ>の捕虜は政治交渉のカードにも利用できるからな」

スズ「つまり、何かしらの妨害行為が予想されるということよ」

ヒカル「そ、そうなのか……」

霙「まあ、ヒカルは自分を鍛えること以外にすることがない脳筋だからな。そこまで考えが至らんだろうさ」

ヒカル「み、霙姉!? そんなひどい!」

霙「ははは、せめて材料工学の基礎くらいは身につけてほしいものだな」

ヒカル「う、うぅ……はい」



639VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:35:25.93xzchfqAl0 (2/16)


 重慶ギガノス軍基地 近郊

 見晴らしのいい平原で海晴とハルヒが向かい合っていた。
 大股五歩ほどの距離。話をするには充分で、掴みかかるには遠い位置で、強く瞳孔を光らせるハルヒが先に口を開いた。

ハルヒ「連邦軍の天使中尉と天草三等空士ね」

海晴「えぇ、ギガノス軍涼宮大尉と……」

ハルヒ「こいつは部下のキョン。気にしなくていいわ」

キョン「おいてめぇ」

ハルヒ「こっちはマチルダ・アジャン中尉を連れてきたわ。有希はどこ?」

 やや後方でギガノス兵に拘束されたマチルダがいる。それを確認して海晴はドラグナー1型で控えているシノに連絡をした。
 シノはD-1のハッチを開けた。そこには電磁ロックをかけた長門有希がいた。

キョン「長門!」

 コクピットから降りてくる長門を見て、ハルヒは安堵の息を吐いた。

海晴「それじゃあ、互いに一歩ずつ」

ハルヒ「えぇ」

 ギガノス兵が連れてきたマチルダ中尉をキョンが受けとる。
 シノとキョンは二人とも短銃を持って捕虜の横に侍り、海晴とハルヒが合図を出すごとに一歩ずつ前に進んだ。

 長門とシノが海晴の横を、キョンとマチルダがハルヒの横を通り過ぎる。

 四人の影が直線に並んだとき、キョンとシノが銃を下ろし、拘束を解いた。

 そして、マチルダと長門はお互いの陣営に到達する。

ハルヒ「有希っ!」

 長門の小柄な体をハルヒがしっかりと抱きとめた。

キョン「長門、大丈夫だったか?」

長門「大丈夫。何もされてない」

 相変わらずの無表情だったが、むしろそれが二人にとって安心できた。

ハルヒ「よかった……本当に……」

 短く切られた髪をくしゃくしゃにして顔を埋めるハルヒに、シノはどうしても蒼き鷹ファルゲン・マッフの姿を重ねることはできなかった。

シノ「少し……訊いてもいいか……?」

ハルヒ「何よ」

 素早く顔を上げたハルヒの目は既に敵意を灯していた。
 それを見てシノは、この機会を逃したら、こうして顔を合わせることができなくなるだろうと確信した。

シノ「その、君は……何のために戦っているんだ……?」

ハルヒ「…………」

シノ「……応えてはくれないのか?」

ハルヒ「アンタが、あのD兵器のパイロット?」

シノ「そうだが……」

ハルヒ「きっと、アンタと同じ理由よ」

シノ「同じ……理由?」

ハルヒ「私は、私が信じるもののために戦っているのよ」

シノ「信じるもののため……」

キョン「ハ、ハルヒ! ヤバイぞ!」

 ハルヒたちから離れて後方に控えている古泉と通信をしていたキョンが二人の会話を中断させた。



640VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:38:26.58xzchfqAl0 (3/16)


ハルヒ「何よ、キョン」

キョン「しょ、所属不明のメタルアーマーがこっちに急接近している!」

ハルヒ「何ですって!?」

 驚愕はシノよりもハルヒのほうが大きかった。
 それを見たシノは、もしもこれが演技だとしたら、女優賞ものだと思った。

海晴「シノちゃん! こっちに戻ってきて!」

 海晴のほうにもホワイトベースから不明機の情報が入っていたらしい。
 シノが踵を返したとき、長門が目を大きく開いて空を見上げた。

長門「来る……!」

 彼女が向いたほうをその場の全員が見上げると、高速で接近してくる物体があった。

ハルヒ「全員! 逃げ……伏せなさいっ!」

 ババババババババババババッ! 飛行物体が両手に持っていた巨大なハンドレールガンが火を噴いた!
 ハルヒの声で姿勢を下げたシノの十数センチ先にいくつもの穴が空いた。
 もしも、彼女の声に従わずに動いていたら、今ごろは血だらけで伏せることになっていただろう。

 未確認機が頭上を通り過ぎた。一瞬翳った大空に再び太陽が差したとき、黒い斑点が二つ見えた。

キョン「手榴弾っ!?」

 キョンの声に全員が戦慄する。手榴弾といってもただの手榴弾ではない。
 メタルアーマーが使う手榴弾だ。その真下にいる人間が避難して助かる威力ではない。

キョン「くっ!」

 持ちっぱなしになっていた短銃を空に構えるが、太陽の光りが強くて目が眩む。
 それでもとにかく撃とうと引き金に指の力を込めようとしたとき、横から何者かが短銃に手を伸ばし、ひったくった。

キョン「な、長門!?」

 とても小柄な少女から出たとは思えない強い力にキョンが面食らっている間に、片膝を立てて短銃の照準に目線を重ねた長門有希は小さな唇から僅かに聞こえる程度の声で呟いた。

長門「パーソナルセキュリティーエリアを拡大――敵対物質捕捉――誤差修正――」

ハルヒ「有希! 何をしてるの!? 早く逃げなさい!」

長門「――風向――弾道予測完了――命中率100%――発射」

 ドゥッ! パァンッ! 教本に載るような隙のない姿勢から、発砲音が二つ響いた。そして――

 ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!! 轟音と爆風が辺り一面を覆いつくした。



641VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:39:04.70xzchfqAl0 (4/16)


キョン「な、長門……」

ハルヒ「有希……」

 シノや海晴だけでなく、味方である二人でさえ、呆然としてしまった。
 長門の情報収集と分析能力、さらに正確無比な射撃の技術は知っていたが、数百メートル離れた上空から落下してくる爆発物を二つ、瞬時に捕捉して短銃で撃ち抜くなど、まさに神業としか言いようがないだろう。

長門「任務、完了――ッ!?」

 短銃を下ろした直後、その首にまたハルヒの腕が抱きついてきた。

ハルヒ「すごいじゃない、有希! まるでシモ・ヘイヘよ! さすがSOS団の秘蔵っ子だわ!」

キョン「そうだ、すごいじゃないか、長門。あんな人間離れした技をやっちまうなんて」

 耳元できゃんきゃん声を弾ませるハルヒの肩越しに安堵の息を吐くキョンを見る。
 涼宮ハルヒはもとより、彼もこの世界では普通の人間である。

 長門が情報統合思念体が作り出した対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースであることなど知らない。

長門「私は――」

 古泉一樹も、朝比奈みくるも超能力者や未来人ではない普通の人間。
 おそらく、ここに長門有希が来る前にいた、この世界本来の長門有希も普通の人間だったのだろう。
 それを乗っ取ってしまったことに、彼女は罪悪感を募らせていた。
 こうして涼宮ハルヒに触れられているべきなのは自分ではないことに――

 だから、彼女はこう口にした。

長門「私は人〈マン〉ではなく、機械〈マシーン〉だから」

 それを聞いたキョンとハルヒは、少しぽかんとして顔を見合わせ、やれやれといった風に肩をすくめた。

キョン「久しぶりに聞いたな、それ」

ハルヒ「えぇ、有希の決まり文句」

 この世界に来てから、長門は自分のことを常にそう言うようにしていた。
 在るべきではない存在の自分が、どう存在していくべきか――

 選択したことは、優先順位を変えないこと。
 そのために、自分を機械のように律した。

 だけど、その言葉はキョン達をいたく怒らせた。自分のことを機械として見る『安さ』が、彼らは気に喰わなかった。

ハルヒ『だったら、この言葉を付け加えなさい! あなたが本当に、機械のように生きるっていうのなら、絶対にこの言葉と一緒よ!』

 その場で思いついたとは信じられない言葉を、ハルヒは考えた。
 長門はその指示に従っている。何よりも高い優先順位をつけて――

長門「今はまだ、機械〈マシーン〉だから」

 閉ざされたと思っていた未来を、開けることができる言葉だから。



642VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:40:17.20xzchfqAl0 (5/16)


 ホワイトベース

 未確認機の報告を受けたホワイトベースはすぐにドラグナーとゲシュペンストを出撃させた。

ヒカル「天使ヒカル、ゲシュペンストタイプS、発進する!」

立夏「天使立夏! ゲシュペンストタイプR、発進、ゴーッ!」

スズ「萩村スズ、ドラグナー2、出ます!」

アリア「七条アリア、ドラグナー3、いきます!」

 シュパァッ! 四機の機動兵器が、出て行く、

ゆりえ「あの、私は……」

霙「私と君は待機だ。敵は一機だから、どこかに隠れているのかもしれない」

ゆりえ「わ、わかりました」

霙「ふむ、待機の間はヒマだからな、ライディーンについて聞きたいことがある。いいかな?」

ゆりえ「は、はひ!」


 地上 連邦軍幕営

 マチルダ中尉を軍用車輌に乗せた後、海晴は同乗し、ユニットで来たシノはドラグナー1型に搭乗した。

海晴「それじゃあ、無理はしちゃダメよ、シノちゃん」

シノ「はい、わかっています」

 D-1を浮上させる。不明機は方向を修正して、またこちらに向かってきている。

シノ「何者かは知らないが……」

 同じ高さまで来て、シノは始めて見る機体を再確認した。
 それまで戦ってきたメタルアーマーを一回り分厚くしたような外観に蛇のようなカラーリング。
 何よりも威圧的だったのは、巨大なハンドレールガンと肩がけされた給弾ベルト、背中に背負った大型の青竜刀だ。

 新型のメタルアーマーがハンドレールガンを構える。
 その照準が、ドラグナーに向けられていないことに、シノが気づく。

シノ「ま、まさか――!」

 急いでシノは下降してシールドを持った。
 その下には、まだ基地に戻る道を軍用車輌で走るハルヒたちがいた。

 バババババババババババッ! 弾雨がシノに降り注ぐ。もしも彼女が動かなければ、弾丸は車輌を貫いていただろう。

シノ「み、味方を撃つのか……?」

 邪魔をされたことに気づいた。新型機は、ハンドレールガンから背中の青竜刀に持ち替えた。
 ぎらりと陽光を反射する青竜刀は、禍々しい存在感を持っていた。

シノ「く、来るのかっ!?」



643VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:40:49.76xzchfqAl0 (6/16)


 シノは右手にレーザーソードを持った。
 シールドで受け止めては切り落とされる可能性がある。実体剣が相手なら、レーザーソードで切ることが出来るはずだ。

シノ「はああぁっ!」

 新型機は青竜刀を大きく振りかぶった。まっすぐに切り下ろすつもりだろう。
 シノはレーザーソードを両手で構えてパワー負けしないように受け止めるつもりだ。

「うん、それ無理」

シノ「えっ――なッ!?」

 いかつい機体の外観からはとても似合わない晴れやかな声が聞こえたとき、レーザーソードと青竜刀がぶつかりあった。

 バキィンッ! 砕かれたのは、レーザーソードのほうだった。

 数週間のシミュレータで植え込まれた感覚がバーニアの逆噴射を命じていなければ、返す刃でD-1は両断されていただろう。

「逃げちゃダメだよ。涼宮さんたち、死んじゃうよ」

シノ「き、君はいったい!?」

 いったい、どんな材質で出来ているのか、レーザーソードを弾いた青竜刀を構えなおした新型機のパイロットは、いかにも気だるそうに名乗った。

朝倉涼子「ギガノス帝国機動F別働隊・朝倉涼子。ゲイザムのテスト中だったんだけど、命令が来ちゃったのね。面倒くさいからそのまま来たの」



644VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:41:17.15xzchfqAl0 (7/16)


 ゲイザムとは、おそらくこの新型メタルアーマーのことだろう。
 テスト中の機体でたった一人で乗り込んでくるほどの能力は、彼女がエース級だということだ。

朝倉「あなたがD兵器のパイロットなのね。でも、今はそんなことに興味はないから、邪魔しないでくれたら見逃してあげてもいいわ」

 口調はあくまで穏やかで、まるで夕飯のメニューを決めるような軽さだ。

シノ「だが、君の命令はもしや……」

 つと汗が伝うシノに、まるでステップを踏むかのように朝倉涼子は応える。

朝倉「涼宮ハルヒの抹殺よ」

シノ「み、味方を殺すのか!?」

朝倉「仕方ないじゃない。彼女は邪魔なのよ」

シノ「ど、どういうことだ!?」

朝倉「ねぇ、『やらなくて後悔するより、やって後悔したほうがいい』って言うよね」

シノ「えっ……?」

朝倉「現状を維持するままではジリ貧になることはわかってるんだけど、どうすれば良い方向に向かうことが出来るのか解らないとき、あなたならどうする?」

シノ「な、何の話だ?」

朝倉「とりあえず、何でもいいから変えてみようとは思わない? だけど、上の人は急な変化は望んでないの。でも、現場はそうは言っていられない」

 ゲイザムがまた青竜刀を振りかぶった。
 シノは反射的に身構える。

朝倉「このままじゃ、どんどん良くない方向に転がっちゃう。だったら、もう現場の独断で強硬に変革を進めちゃってもいいわよね」

 ゲイザムが瞬時にD-1の懐に青竜刀がうねりをあげて襲い掛かる!

シノ「うわぁっ!?」

朝倉「そんなもので私の打ち込みが止められると思う!?」

 ガッ! ギィッ! バキッ!

シノ「うっ、ぐっ、うわっ!?」

 強化コーティングの刃が精密な角度でシノに攻めかかる。一撃でも通せば重大な損傷は免れないだろう。
 重い連続攻撃でドラグナーのモーターに負担がかかり、動きが止まる。

朝倉「そこっ!」

 バキィッ! 堅牢な装甲から繰り出されるショルダータックルに吹っ飛ばされるドラグナー。

シノ「ぐあっ!」

 衝撃で緊急姿勢制御が発動する。その反動で前後に大きく揺さぶられたシノの目の前がぐらつく。

シノ「ぐっ、うぅ……」

朝倉「じゃあ、死んでね。さようなら」

 ぼやける視界で、メインモニターにゲイザムの黒い姿が映る。

シノ「ぐ……うあぁ……」

 大きく青竜刀を持ち上げる威容に、シノは震えた。
 あれが振り下ろされれば死ぬ。心臓が鷲掴みされたように痛む。
 両手の震えが止まらない。震えは極度に緊張する体を弛緩させるために発生するもの。
 その緊張は、紛うことなく――恐怖。

シノ「――ひっ!?」

 青竜刀が落ちてくる! 声にならない悲鳴が体内で共鳴し、局所的に弛緩した部位を刺激する。

 その時――

立夏「ちょえぇぇぇいっ!」



645VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:41:45.68xzchfqAl0 (8/16)


 回線が拾ったのは、夏の強い日差しのような明るい声だが、ドラグナーの前に割り込んできたのは黒い影だった。

朝倉「なに!?」

 ガキィッ! ゲシュペンストが横からゲイザムにぶつかった!

立夏「ニュートロンビーム!」

 横殴りを喰らってバランスを崩したゲイザムにゲシュペンストが光り、中性子ビームがその脇を掠め、給弾ベルトが切れて荒野に落ちていった。

朝倉「ふーん」

 さしたる感想も持たずに、朝倉は青竜刀を肩に乗せた。
 すぐに攻撃を再開しなかったのは、さらに三機が迫っていたからだ。

立夏「サァ! ここまでだよ! 五対一じゃかないっこないんだから!」

朝倉「そうかしら、おチビさん」

立夏「プンプーンッ! 立夏はチビッコじゃないモン!」

ヒカル「立夏! ふざけている場合じゃないぞ!」

 ヒカルのゲシュペンストが立夏の隣につく。後方にドラグナー2型と3型が支援の配置についている。

ヒカル「さぁ、ここから退いてはくれないか。腕に自信があるといっても、この数を一機で相手にはできないだろう」

朝倉「そうね、私も五機はちょっと大変ね」

 あっさりとした言い方にヒカルは少し拍子抜けしたが、無意味な戦闘が回避できるなら、それは望ましいことだ。
 だが、次に朝倉が口にしたのは、死神の言葉だった。

朝倉「でも、役立たずが一人いる状態じゃ、それもどうかしらね」

ヒカル「なに?」

朝倉「そこのD-1のパイロットに聞いてみたらどう?」

 機動兵器に乗ってなどいなければ、いち学校の優等生にしか思えないような声に先ほどから沈黙しているドラグナー1型に接触して回線を開いた。

シノ「…………」

ヒカル「天草先輩? どうかしましたか?」

シノ「ぅ……ぁ……」

ヒカル「天草先輩!? 天草先輩!」

 いくら呼びかけてもシノは応えなかった。微かに揺らしてみても、反応はなかった。

朝倉「いくら呼んでも無駄よ。その子は今、砕けちゃってるから」

ヒカル「――ッ!?」

立夏「ヒカルオネーチャンッ!?」

 いつの間に移動したのか、ゲイザムがヒカルのゲシュペンストの肩に手をかけて寄り添っていた。
 怖気に急発進させたゲシュペンストに弾かれたドラグナー1型がバーニアの制御を失い、落下する。

立夏「あぁっ! シノオネーチャンが!」

 ガシッ! ゲシュペンストの手がドラグナーの手を取る。

朝倉「ダメよ。乱暴にしちゃあ」

立夏「ヒッ! リッカにもキタ!?」

 冷たい手で背中をなぞられるような気色悪さに立夏もまたシノの手を落とすところだったが――

ヒカル「立夏に、手を出すなぁーっ!」

 ガガッ! 姿勢を取り直したヒカルがジェットマグナムで突撃する! しかし、すんでのところでゲイザムはひらりと避けた。

朝倉「あら、素敵ね。熱い気持ち、笑えるわ」

 ゲイザムの青竜刀が振り下ろされる。それをかろうじて避けながら、ヒカルもプラズマカッターで突く。



646VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:42:12.87xzchfqAl0 (9/16)


 両機が競り合って上昇していく。その下で立夏はサブモニターに映ったコクピットで沈黙しているパイロットに呼びかけた。

立夏「シノオネーチャン! オネーチャンってば!」

シノ「ぅぅ……」

 揺らしてもさすってもシノは反応しない。

立夏「むむむ~っ……!」

 小学生を卒業したばかりの立夏が痺れを切らすのは早かった。

立夏「シノオネェーーーーーーチャンッてばぁーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

シノ「うわっ!?」

 バイザーの中のスピーカーが音量を調節するが、立夏の大音声はそのラインを振り切って音割れしてしまった。
 その衝撃でシノがびっくりして目覚めた。

立夏「シノおねーちゃん、起きた!?」

シノ「り、立夏ちゃんか……鼓膜がやぶけるかと思った……」

立夏「シノおねーちゃん、ダイジョブ?」

シノ「あ、あぁ……っ!?」

 自分が何をしているのか思い出したシノの顔が真っ赤に染まった。
 両足をもじもじさせ始めたシノに立夏がかくんと首をかしげた。

立夏「おねーちゃん、どうしたの?」

シノ「その……も、漏らしてしまったみたいだ……」

 上半身の妙な解放感とぐっしょりと濡れた下半身の生温かさにシノはもう操縦するどころではなくなっていた。
 機動兵器のパイロットはノーマルスーツを着用する。シートの内部には排泄用のタンクがあり、パイロットはそこに用を足せばいいのだが、ノーマルスーツの排泄プラグをシートのプラグと繋げて始めてタンクに通るホールが開くのだ。
 今回のように、突発的なことになってしまうと、全てノーマルスーツ内に残ってしまう。プラグを繋げばあらかた落とすことは出来るが、スーツ内に残る温もりは最悪といってもいいものだ。

シノ「こ、こんなところでス××ロプレイだなんて……」

 シノが呟いた言葉の意味は小学生を卒業したばかりの立夏にはわからなかったが、シノが漏らしてしまったのは自分のせいじゃないかと思って、慌てた。

立夏「もも、もしかして、立夏のせい?」

シノ「い、いや、立夏ちゃんのせいじゃないよ……それより、私はいいからヒカル君を助けに行ってやってくれ」

立夏「わ、わかったヨ、おねーちゃん!」

 ゲシュペンストの接触が解け、ドラグナーと外界を繋ぐものがなくなったとき、シノの肩が大きく跳ねた。

シノ「ぅぐっ……! あぁぁ……!!」

 全身を駆け巡る寒気は下半身を包む残滓の影響だけではない。
 ガチガチと歯が鳴る。脳裏に焼きついた青竜刀の映像が何度も襲い掛かってくる。
 出すものを出したはずの尿道がまたひくついた。震えは治まらず、計器の残像がはっきり目に映る。

シノ「はは、はっははは……」

 無理やりに笑みを浮かべてシノは恐怖を遠ざけようとした。
 誰かが接触して回線を開けば、サブモニタには顔面神経痛のような醜い顔つきの少女が映ったことだろう。



647VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:42:47.58xzchfqAl0 (10/16)


 重慶基地

 基地に到着したハルヒたちに古泉がすぐに駆けつけてくる。

古泉「涼宮さん! ご無事でしたか!?」

ハルヒ「えぇ、有希のおかげで」

キョン「古泉、あの機体は何なんだ!? あいつが全部をぶち壊しにしやがったんだぞ!」

古泉「あれについて、ドルチェノフ中将の指令があります」

ハルヒ「何よ?」

古泉「新型機ゲイザムを援護し、D兵器を奪取せよ。それが果たされぬ場合はハルヒ・スズミヤ・プラートの少尉格を剥奪し、本国へ強制送還するものである、と」

キョン「だがな! あいつは俺たち諸共殺そうとしていたぞ!」

ハルヒ「つまり、どっちにしてもあたしを殺すつもりね、ドルチェノフは」

古泉「本国に戻ったとしても、よくて勾留の後に軍事裁判でしょうね」

 ハルヒは爪を噛んだ。元を正せば父であるラング・プラート博士の裏切りで殺されてもおかしくない立場だった。
 それをドルチェノフの下につき、尖兵として屈辱に耐えてきたのは、監禁されたみくるを救けることと、父の友であったメサイア・ギルトールの理想を叶えるためである。

 だが、ドルチェノフはついにハルヒを抹殺することを決意したらしい。これは二つの大きな意味を持つ。
 一つはドルチェノフが議会を制する用意ができたということ。蒼き鷹の名でカリスマのあるハルヒとギルトールを始末すれば、ギガノスはドルチェノフの支配に陥るということだ。
 そして、もう一つはドルチェノフの思想がギルトールの持つそれとは大きくかけ離れたところにあるということだ。

ハルヒ「……私たちの理想にあまりに遠い隔たりがある。高い美空の星のように、高いところで光っている」

キョン「ハルヒ……」

 ハルヒは爪を噛ませていた手を空にかざし、今激しく打ち合っている機動兵器に眩しそうに見る。
 斜めに影を残す背中にかける言葉が見つからないキョンの袖が、不意に引っぱられた。

キョン「……長門?」

 ともすれば見失ってしまいそうなくらい存在感の希薄な少女のアプローチに視線を下ろすと、薄い唇がはっきりと言った。

長門「方法はある」

キョン「な、長門、そりゃ本当か!?」

 藁にもすがる思いの声にハルヒと古泉も振り返る。
 三つの視線を集めてから、長門は右腕を上げた。

ハルヒ「えっ……?」

キョン「お、おい、長門。それはどういうことだ?」

 長門の右手が握っている物は、先ほど彼女を救った短銃だ。しかし、今度はその銃口がぴたりとハルヒの胸に向けられている。

ハルヒ「ゆ、有希……?」

 突然のことにハルヒ後ずさりするのを燻した銀のような瞳で追った長門の指に力が込められるのをキョンは見た。

キョン「なが――」

 乾いた音が基地内に響いた。



648VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:45:22.41xzchfqAl0 (11/16)


 重慶基地 上空

朝倉「あら?」

 ゲイザムの殺人的に狭いコクピット内で朝倉涼子は携帯端末の点灯に首をかしげた。

朝倉「涼宮さん、死んじゃった?」

 その点灯は緑のはずが、今は赤に変わっている。これは、涼宮ハルヒの心臓とリンクしている。
 ドルチェノフが反逆防止のために彼女の体に埋め込んだもので、これが赤ということはつまりハルヒの心臓が停止したということだ。

朝倉「さっきのかな? 意外とあっけなかったわね」

 達成感はなかったが、とりあえず目的は達成できた。D-1は戦線を離脱したようだが。

朝倉「それじゃあ、遊びの時間は終わりね」

 先ほどからまとわりついてくる二機のゲシュペンストとそれを支援しているD-2とD-3。
 そこそこのセンスはあるようだが、彼女からすれば経験値が低すぎる。
 生かしておく理由もないので、ここで完全に破壊する。パイロットごと。

朝倉「ちょっとは楽しかったよ。ばいばい」

 両手を押し込むようにして、ぐんと機体の高度を下げた。
 機体の頭上で立夏のゲシュペンストがプラズマカッターを空振りするのを確認することもなく、朝倉は前方に速度を増した。

スズ「!」

朝倉「まず、あなたが邪魔なのね」

 目障りなことをするD-3にゲイザムが迫る。
 向こう側のパイロットが息を詰まらせるのがはっきりとわかった。
 
朝倉「さよなら」

 ゲイザムの捕食圏内に捉えたD-3に青竜刀が鈍く光った。そして――

 ズドォォォォォォォォォッ!!

朝倉「!?」

 今にも巨大な刃がD-3の胴を切り落とそうとしたとき、大気が大きく爆動した。
 煽りを受けて機体のバランスが崩れ、D-3は辛うじて大蛇の顎から逃れることができた。

スズ「な、なにが起こったの……?」

 九死に一生を得たスズがアリアの傍まで駆け寄ると、EWACが襲撃を警戒していた。

スズ「敵!? どこから……母艦の後ろ!?」

立夏「えぇっ!?」

ヒカル「くっ……こんなときに……」

アリア「でも、ホワイトベースには霙さんやゆりえちゃんもいるわ。どうにか持ちこたえられるはずよ」

スズ「識別は、あのドローメという戦闘機が多数と、その母艦と思しき巨大飛行物体です」

 それ以上の会話の時間は与えられなかった。

朝倉「よそ見しちゃダメだよ」

 ブゥンッ! 体勢を立て直したゲイザムが青竜刀を四機の中に振り下ろした。

ヒカル「くっ……私たちはこいつに集中だ!」

スズ「それじゃあホワイトベースが!」

ヒカル「……信じるしかない。まだ海晴姉がいる」

 海晴はマチルダの護送の最中だ。連邦基地にヴァイスリッターが下ろしてあるので、直接乗り込むはずだ。

ヒカル「それまで、こいつは私たちが食い止めるんだ!」

 ゲイザムの横薙ぎを上昇して回避したヒカルのゲシュペンストが、プラズマカッターを両手に構えた。



649VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:45:52.83xzchfqAl0 (12/16)


 一方で、ホワイトベースは騒然としていた。
 突如レーダーに侵入してきた無数のドローメに、香月シノンは矢継ぎ早に指示を出して乗組員達に行動させている。
 まだ少女の域を脱し切れていない彼女の指揮能力も、度重なる実戦の中で確実に培われていた。

シノン「ゆりえさん、出られますか!?」

ゆりえ「はい! ライディーン、いけます!」

シノン「ライディーン、発進!!」

 ゴッドバード形態のライディーンが飛び出し、空中でライディーンに変形する。

ゆりえ『ラァァァイディィィィィィン!』

シノン「ホワイトベースは敵との接触を避け、ヒカルさんたちの救援に向かいます。アルトアイゼンは直援に回ってください」

霙「了解した。アルトアイゼン、出る」

 空になった格納庫を見て、シノンはオペレーターのほうを見た。

シノン「それで、先ほどのアレはわかりましたか?」

連邦兵「はい、どうやら敵の戦艦のようです」

シノン「まあ、そうでしょうね……ドローメが出てきたということは、妖魔帝国のものでしょう」

 改めてモニターに映し出されたそれを、シノンはやはり疑わざるを得なかった。

 戦艦と判断したものは、巨大な人間の手にしか見えないのだから。

ゆりえ『ゴォォォォッド・ミサァァァイル!』

 地鳴りのするような声がライディーンの口から発せられ、羽のあるミサイルが近くのドローメを落とす。

ゆりえ『ゴォォォォォッド・ブゥゥゥゥゥメラァァン!』

 左手の楯が弓状に変形し、それを投げつける。雑草を刈り取るかのようにドローメが爆発して墜落していく。

 それを妖魔帝国岩石戦艦・大魔竜ガンテの中から見ている影が笑った。

シャーキン「フフフ、あれがライディーン……一万二千年前に我々妖魔帝国を地の底に沈めた忌まわしき巨神か」

 均整の取れた青白い体にぴったりと軍服を着込んだ妖魔帝国のプリンス・シャーキンは細い顎に手を当てて顔の上半分を多い隠す仮面の目をキラリと光らせた。

シャーキン「よかろう、バラオ大帝復活を前に、奴を血祭りに上げよう。化石獣バストドンを出せ!」

ゆりえ『な、何か出てくる!?』

 ガンテから出てきたのは真っ青な巨人、化石獣バストドンだ。

シャーキン「やれ、バストドン!」

バストドン「ぐおぉぉぉぉぉぉ!」

 ドドォンッ! 化石獣の体当たりでライディーンが倒される。

ゆりえ『きゃあぁぁっ!!』

バストドン「がおおぉぉぉぉぐ!」

ゆりえ『やられちゃうっ!? やりかえさなきゃ!』

 つかみ掛かってくるバストドンにゆりえは左腕を上げた。

ゆりえ『ゴォォォォォッド・ブレイカァァァァァ!』

 ズバァッ! 弓状に変形した楯で円を描くように切り付けると、バストドンの両腕が落とされる!

ゆりえ『や、やったぁ……!』

シャーキン「やるな、ライディーン。だが、バストドンはその程度ではない!」

バストドン「がおぉぉおぉっ!」

 ぞるっ。まっさらな切り口を見せるバストドンの両手首から剣が出現した!

ゆりえ『そんなぁっ! ずるいよぅ!』



650VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:46:31.25xzchfqAl0 (13/16)


 ガキッ! ガァンッ!

立夏「うひゃぁっ!」

ヒカル「くあぁっ!」

朝倉「ほらほら、もうぼろぼろじゃない。そんなので私を止められると思ってるの?」

 ゲイザムの猛攻にヒカルのプラズマカッターは折れ、ジェットマグナムも失っていた。
 立夏もミサイルと弾丸を撃ちつくし、右足を半壊されている。

アリア「スズちゃん!」

スズ「いけます! やってください!」

アリア「ごんぶと! いっけぇぇぇ!」

 ドォンッ! ドォンッ! 2型の280ミリキャノンが3型の誘導支援を受けて放たれる。

朝倉「きゃっ、やっぱりあの子をやっておくべきだったわね」

 体重のあるゲイザムでもひらりと避ける。この敵味方入り混じる状況で砲撃すれば味方に当たる可能性もあったが、やはりD-3の電子戦能力が強力にサポートしているのだろう。

ヒカル「たあぁぁーっ!」

 キィンッ! 右肩の死角からプラズマカッターが舞い込むが、人間ならばありえない角度に曲がったゲイザムの手首がそれを防いだ。

朝倉「機械と人間は違うのよ。それを教えてあげる」

 接触回線で拾った嘲笑の後、ゲイザムの右肩の一部がパージされた。
 そこからハンドグレネードが飛び出し、ゲシュペンストの右腕に接触し、爆発する。

 ドドォンッ!

ヒカル「うわぁぁっ!」

 ゲシュペンストの右肘から先が消し飛んだ。残り一本のプラズマカッターが黒い煙のどこかに消えていった。

立夏「オネーチャン! このぉっ!」

 ギュァッ! ニュートロンビームでゲイザムをヒカルから遠ざけることに成功したが、代わりに立夏のメインモニターがアラームを発した。

立夏「ウッソォ!? 弾切れ!?」

 立夏のゲシュペンストは全ての攻撃兵装を使い切ってしまっていた。
 プラズマカッターもとっくに切り払われている。文字通りのデクノボウだ。

ヒカル「立夏! くっ……どうすれば……」

 ヒカルのゲシュペンストもほとんどの武器を失っている。後はもう取り付くぐらいしか手段がない。

ヒカル「――ッ! 待てよ……」

 迫り来るゲイザムを前にヒカルはあることを思い出した。
 霙からゲシュペンストを受け取ったときの言葉。

霙『ヒカルのゲシュペンストには、私が考案した究極のアタッカー・モーションがある。いざという時はそれを使え。ただし、修理屋泣かせの一度きりの大技だ』

 敵は青竜刀を振りかぶっている。反撃の手段はない! 追い込まれれば終わる!

ヒカル「コード・UGK!」

 躊躇うことなくヒカルは唱えた。
 瞬間、ゲシュペンストは宙を蹴るように大きく上昇し、元いた場所をゲイザムの青竜刀が切った。

ヒカル「ドライブ・オン!」



651VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:47:36.47xzchfqAl0 (14/16)


ヒカル「アタッカー・フルドライブ!」

朝倉「何をする気!?」

ヒカル「この技は、叫ぶのがお決まりらしくてな……」

 バシュッ! 体勢を整えたゲシュペンストが更に空中で後方に宙返りする。

ヒカル「だが、ここで叫ぶのはやぶさかではない!」

 ゴオォッ! ヒカルの精神が燃え上がる!

 ギシ、ガシィンッ! ゲシュペンストの全駆動が軋みを上げている。まるで格闘家が全身の筋肉を興奮させているようだった。

ヒカル<熱血>「ゆくぞっ!」

 バシュィィンッ! 右足首が垂直に下を向く。ゲシュペンストの背部の噴出口が全て開放される!

ヒカル<熱血必中努力>「究極ゥ! ゲシュペントォ!! キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィック!!!!」

朝倉「なにごと!?」

 ズガァァァァァァァァァァンッ!! 渾身の一撃がゲイザムの頭部を直撃した!

朝倉「うぐっ……! やられちゃった。まあ、いいか。データは充分取れてるし、命令はクリアできたし」

 コクピットが狭くて助かるということもあるのだと朝倉は思った。
 もしもあと数センチずれていたら、コクピットは潰れていた。

 脱出ポッドの中で朝倉は言う。

朝倉「涼宮さんは殺せた。D兵器のパイロットはもう使い物にならない。まあ、基地は取られちゃうかもしれないけど、そんなのは関係ないものね」



652VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:48:33.84xzchfqAl0 (15/16)


バストドン「ぎゃおぉぉぉぉぉんっ!」

ゆりえ『きゃあぁぁぁっ!』

 バストドンの剣がライディーンにぶつかる。

ゆりえ『うぅぅ~、どうすれば……』

「勇者よ……!」

ゆりえ『! この声……また』

「勇者よ……声を聞け……!」

ゆりえ『聞いてますよぉ、どなたなんですか!?』

「ゴッド・ゴーガン……」

ゆりえ『ゴッド……ゴーガン……?』

 ゆりえの呟きにライディーンの目が光りを放った。

ゆりえ『ゴッド・ゴーガン……うん、やってみる!』

バストドン「ぎゃおぉぉぉぉぉん!」

ゆりえ『ゴォォォォォッド・ブロォォォォォック!』

 バストドンの攻撃を受け止めたゆりえはゴッド・ブレイカーで弾き飛ばす。

 そして、ゴッド・ブレイカーの両辺をさらに長く伸ばし、光りの弦に矢を引いた。

ゆりえ『ゴォォォォォッド・ゴォォォォォガォォン!』

 パシュゥッ! 光りを纏った矢がバストドンに突き刺さる!

バストドン「ぎゃおぉぉぉぉぉぉぉ!」

シャーキン「むっ、バストドン!?」

ゆりえ『ゴォォォォォッド・プレッシャァァァァァ! ラァァァァァイ!』

 ドゴォォォォォォン! ライディーンの体当たりでバストドンが爆散した!

シャーキン「むっ、やるな、ライディーン。いや、一橋ゆりえ!」

ゆりえ「ど、どうして私の名前を?」

シャーキン「その胸の奥に訊ねてみるがよい! 撤退だ!」

 シャーキンの号令でドローメは大魔竜ガンテに戻り、ガンテも背を向けて退却していった。

ゆりえ「やっぱり……妖魔帝国とライディーン……そして、私も関係あるのかな……」

シノン「ゆりえさん、聞こえますか?」

ゆりえ「は、はい!」

シノン「妖魔帝国が撤退するのを確認したら、戻ってきてください」

ゆりえ「わ、わかりました」



653VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/27(日) 17:52:48.46xzchfqAl0 (16/16)


 ホワイトベース

シノン「そう、やっぱりギガノス軍は重慶基地から撤退しつつあるのね」

連邦兵「はい、蒼き鷹の親衛隊の機影も確認しています」

シノン「どういうことなのかしら……」

連邦兵「香月少尉、天使少尉から通信が入っております」

シノン「繋いで」

海晴「こちら天使海晴少尉です。聞こえていますか?」

シノン「通じています」

海晴「よかった……マチルダ中尉は無事に戻ることができたわ。私はもう少しここで様子を見ます」

シノン「許可します。ところで、重慶基地からギガノス軍が撤退したそうですが、何かわかりますか?」

海晴「それは……ちょっとわからないわね」

シノン「そうですか……」

 この通信で、気付けというほうが難しかっただろう。
 あるいは、海晴の姉妹であるヒカルや霙、立夏ならば何かを感じているのかもしれない。

 海晴の声と喉元が、僅かに震えているのを……


 第十一話 強襲! 毒蛇の女と悪魔の王子 完



654VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/28(月) 20:53:51.80kwOVewEw0 (1/8)


 第十二話

 海底火山の空洞にあるキャンベル星人基地

オレアナ「ガルーダ! ガルーダはおるか!?」

ガルーダ「はっ、母上、ガルーダはここに!」

オレアナ「ガルーダよ、地上制圧はどうなっておるか?」

ガルーダ「はっ……コン・バトラーVを初めとする地球人の抵抗が厳しく……」

オレアナ「そんな報告は聞いておらぬわ! 制圧の完了したものだけを答えぃ!」

ガルーダ「それが……未だ為し得ず……」

オレアナ「なんだと!? 既に我々が地上に出て一ヶ月が経過している! その間に何をしていたのですかお前は!」

ガルーダ「も、申し訳ありませぬ!」

オレアナ「……もうよい。やはりお前は私の息子とはいえ、優しすぎる。機械のような心は持てぬのだな」

ガルーダ「そ、そのようなことは決して!」

オレアナ「ならば、これが最後のチャンスだと思いなさい。我が息子、大将軍ガルーダ」

ガルーダ「ははぁっ!」

オレアナ「頼みますよ、ガルーダ……母は地球制圧のためにこの身を機械に変えて長く海底城にいたのです。その母の悲願をどうか叶えてください」

ガルーダ「母上……わかりました! このガルーダ、必ずや母に代わって地球を制圧してみせます!」

 深く頭を垂れ、ガルーダは意気揚々とオレアナの前から姿を消した。
 その後ろ姿に女帝オレアナは呟いた。

オレアナ「ふん、愚かななガルーダ!」



655VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/28(月) 20:54:18.10kwOVewEw0 (2/8)


 キャンベル星人基地内 休息区

ミーア「まあ、それでは、次の作戦が失敗してしまっては、ガルーダ様は将軍をお辞めに?」

ガルーダ「そうだ」

 休息区の司令官、ミーアは美しい人魚のような女性だが、それは上半身だけであり、本来あるはずの下半身は壁と同化している。
 彼女はガルーダのためにオレアナが作った慰労サイボーグなのだ。

ミーア「おかわいそうなガルーダ様……ミーアはせめて戦いに向かわれるガルーダ様のお心をお助けする音曲を奏でましょう……」

ガルーダ「やめよ、ミーア!」

 ぱしぃっ。 ミーアの手が伸びてくるのをガルーダは厭わしげに払った。

ガルーダ「余は誇り高きキャンベル星人の女帝オレアナ様の子だ。汝がごとき作り物の命に慰められとうはない!」

ミーア「ガルーダ様、申し訳ありませぬ……ミーアが……ミーアが正しくキャンベル星人の女であればよいのに……おぉぉ」

ガルーダ「やめよと言うている! それも全て機械で計算された物腰のありよう! 虫唾が走るわ!」

ミーア「しかし……ガルーダ様をお慰み、助けることがミーアのお役目……それが望めぬのは……」

ガルーダ「余は大将軍ガルーダ! 女に慰められるような生を受けてはおらぬ! それがまして、母上の作られた機械の女になぞ!」

ミーア「ならば……ならばガルーダ様! ミーアを機械としてお傍に置いてくださりませ!」

ガルーダ「なんだと!?」

ミーア「ミーアの回路を通してマグマ獣を操ることができます! ガルーダ様のお望みどおりに動かすことができまする!」

ガルーダ「しかし、そんなことをしてはそなたの体が……」

ミーア「ガルーダ様のお役に立てないのならば、死んだほうがマシでございます!」

ガルーダ「わかった……余も母上のお力を借りてコン・バトラーVを倒す新兵器を完成させたのだ」

ミーア「それではガルーダ様!」

ガルーダ「あぁ、今度こそ、コン・バトラーVを打ちのめし、地上制圧の足がかりとしてやるわ!」



656VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/28(月) 20:55:01.62kwOVewEw0 (3/8)


 超電磁研究所

翠星石「うらぁー、早く翠星石に紅茶を持ってくるですよぉー」

紬「はぁーい」

真紅「あら、美味しいスコーンね」

憂「えへへ、ありがとうございます」

雛苺「なのー」

金糸雀「かしらー」

翠星石「まぁーったく、この世界のJUMは研究ばっかりでちっともお茶に付き合わんですよぅ」

律「へー、前の世界のはどんな奴だったんだ?」

翠星石「引きこもりですぅ」

真紅「引きこもりだわね」

蒼星石「引きこもりだったね」

雛苺「なのー」

金糸雀「かしらー」

澪「そ、そうなんだ……」

翠星石「まぁーこの世界のJUMも研究室に引きこもりっぱなしなのでぇーその点じゃ大して変わりないーですがー酷いときは翠星石のことをガン無視しやがるんですよぅ」

唯「ういー、おかわりー」

憂「はいはーい」

澪「ちょっとは会話に参加しろ」

 ズドォォォォォォォンッ!

律「またかよ!」

梓「いい加減、読めてきましたよね」



657VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/28(月) 20:56:12.86kwOVewEw0 (4/8)


 超電磁研究所 郊外

ドールズ「「「「「レェェェェッツ・コンバイィィィィン!」」」」」

唯「マジーン、ゴー!」

澪「ダイアナンA、ゴー!」

律「ボ~スボロットだっぜ~!」

 コン・バトラーVほか三機が大地に立つと、その真上にはキャンベル星人の空中戦艦グレイドンがあった。

ガルーダ「よく出てきたな、コン・バトラーV!」

翠星石「うるせーですぅ! まーた性懲りもなく来やがりやがってですぅ!」

ガルーダ「今日の我らは今までと思うなよ! 余が直々に相手をしてやるわ!」

 ズドォーン! グレイドンのカタパルトが開き、そこから巨大なロボットが降下してきた!

真紅「あれはっ!?」

 コン・バトラーVの前に立ったのは、ガルーダを模して作られた巨大兵器だった。

ガルーダ「見たか! これこそが余の切り札、ビッグ・ガルーダだ!」

翠星石「ふん! そんなのはどうせこけおどしですぅ! バトルリターン!」

ガルーダ「バカめ! ウィングソードで弾き飛ばしてやる!」

 ガキィンッ! ビッグガルーダが手に持った巨大な剣で、攻撃円盤を叩き落した!

ガルーダ「ゆくぞっ、コン・バトラーV!」

澪「唯! 私たちも援護するぞ!」

唯「うん! 必殺のー、ロケットパーンチ!」

ミーア「やらせぬわ!」

 マジンガーZの右腕が射出される直前、そこにミサイルの雨が降り注ぎ、爆炎を上げた!

唯「わぁぁ!」

律「うひゃー!」

 ドガァァンッ! ミサイルから身を守る唯たちの前に現れたのは、二体のマグマ獣デモンだった。

ミーア「私はガルーダ将軍様の配下、ミーアである! ガルーダ様とコン・バトラーVの戦いを邪魔させはせぬ! 私が相手をしよう!」

 ドガガガッ! 二体のマグマ獣が大きな刀を振り上げてマジンガーZに切りかかる!

唯「あいたぁーっ!」

澪「唯! 当たれ、スカーレットビーム!」

 ビビィッ! ダイアナンAの目から赤いビームが発射される。
 以前の戦闘データから、敵の回避運動の速度を計算して機械がロック・オンして放つため、直撃するはずだ。

デモン「ぐおぉぉぉぉんっ!」

 だが、データを裏切る素早い動きのデモンにあっさりと避けられてしまった。

澪「そんな! 動きが全然違うぞ!」

紬「改造されているわ! 澪ちゃん、気をつけて!」

ミーア「ホーッホッホッホッホ! 頭の悪い地球人には簡単なこともわからないのかしら!?」

唯「このっ、ルストハリケーン!」

デモン「ぐおぉぉぉぉんっ!」



658VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/28(月) 20:57:17.09kwOVewEw0 (5/8)


ガルーダ「コン・バトラーV! 正々堂々と勝負だ!」

翠星石「かーかってきやがれですぅ!」

ガルーダ「喰らえぇぇぇーっ!」

翠星石「マァグネクロー! ですぅ!」

 ガッツィィンッ! ビッグガルーダのウィングソードとコン・バトラーVの手首のクローがガッシリ噛み合った!

翠星石「くうぅぅぅぅぅ!」

ガルーダ「ぬぬぬぬ……やるな! コン・バトラーV! それでこそ、余が全力を尽くすに相応しい相手だ!」

翠星石「それでも、てめぇなんぞに負けねぇですよーっ! 真紅ぅ!」

真紅「不本意だけど、了解なのだわ」

 ガコン! コン・バトラーVのマグネクローが引っ込み、ノズルが飛び出した!

ガルーダ「なにっ!?」

翠星石「アトミック・バーナー!」

 ゴォォォォォッ! ノズルから炎が放射され、ビッグガルーダの胴部を焼き焦がす!

ガルーダ「う、うおぉぉぉっ! おのれっ!」

 負けじとガルーダは内蔵されていたミサイルの発射口を開いた。

翠星石「げげぇっ!」

蒼星石「こんな至近距離で!?」

真紅「逃げるのよ!」

ガルーダ「逃がすか! 喰らえ!」

 チュドォォォォンッ! もがくコン・バトラーVに二其のミサイルが破裂した!

翠星石「ぎぇぇーっ!」

ガルーダ「うおぉぉぉぉっ!」

 互いにボディの前半分を黒くくすぶらせて、両機はようやく離れた。

ガルーダ「さすがはコン・バトラーVだ! ミサイルを受けても倒れぬ威容!」

翠星石「おめぇも侵略者としては似合わねーほど律儀な奴ですねぇ!」

真紅「水銀燈もこんな性格ならもう少しまともにやりあえたでしょうね」

ガルーダ「余は貴様らとおしゃべりをするためにやってきたのではない! 余の剣捌き、受けてみよ!」

翠星石「やってやるです! ツインランサー!」

 コン・バトラーVの両肩からそれぞれ手槍が出て、片方ずつ手に握る。

ガルーダ「勝負だ! コン・バトラーV!」

翠星石「とぉりゃぁーっ! ですぅ!」

 ガキンッ! ガンッ! ガガンッキィンッ! 激しい剣戟に火花が散り、巨躯の動きに大気が震える。

 ギャリィッ! 左の手槍がビッグガルーダの角を折った!

ガルーダ「まだだっ!」

 ドガッ! 出過ぎたコン・バトラーVの頭部にガルーダの左拳が殴打する。

翠星石「くうっ!」

ガルーダ「そこだぁっ!」

 バキィンッ! 強く振り切った剣にツインランサーは二つまとめて落とされてしまった。

ガルーダ「やれる! 今日が貴様の最後の日だ! コン・バトラーV!」

 ダッ! ビッグガルーダは大きく後ろに跳び、コン・バトラーVとの距離を取ると、巨体に見合った大きな弓を構えた。



659VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/28(月) 20:59:06.54kwOVewEw0 (6/8)


ガルーダ「この巨大ミサイルアローでとどめだ!」

 先端が強力な爆薬になっている矢を番えて放った!

 ドガァァァァァァッ! ミサイルアローがコン・バトラーVの足元で爆発した。

雛苺「びえぇぇぇぇっ!」

真紅「雛苺! うるさいわよ、泣くんじゃない!」

ガルーダ「照準どおりには行かぬか……まだまだ行くぞ!」

 ヒュン、ヒュン! 腰の矢立から次々と矢を抜いては射る!

翠星石「なんのですよぅ! 数で来るならこっちもですぅ! ビッグブラストとロックファイターですぅ!」

 コン・バトラーVのみぞおちが開き、大きなミサイルが、右手の指先から小型ミサイルが飛んでミサイルアローと相打ちに誘爆する。

蒼星石「ダメだ、翠星石! 煙で見えなくなる!」

ガルーダ「バカめ! もう遅いわ!」

 蒼星石が注意を促したときには、巻き上がった煙を突き破って、ミサイルアローが飛んできた!

真紅「避けるのよ!」

翠星石「やってるですぅ! 無理ですぅ!」

 ズガァァァァァンッ! ミサイルアローがコン・バトラーVに直撃する!

翠星石「きゃあぁぁぁぁっ!」

蒼星石「わぁぁぁぁぁぁっ!」

真紅「うあぁぁっ!」

雛苺「ひやぁぁぁぁぁ!」

金糸雀「きゃあぁぁぁっ!」

 ガガッ……バキィンッ!

真紅「いけないわ、翠星石! 合体が解けかかってる!」

翠星石「うぐぐ……こうなったらイチかバチかですぅ!」

蒼星石「まさか、アレをやるの!?」

翠星石「もうそれしかねーですぅ!」

蒼星石「だけど、途中で攻撃されたら……」

金糸雀「失敗したらもう後はないかしらー!」

翠星石「だからイチかバチかなんですぅ!」

真紅「非効率的だわ」

翠星石「でも、やるしかねーですぅ!」

律<加速>「そういうことなら、アタシに任しとけ~っ!」

 がしゃがしゃがしゃがしゃ! コン・バトラーVの横から走り出てきたのは、ボスボロットだった。

律<加速>「唯と澪が頑張っちゃってるからアタシの出番がないのさ~!」

真紅「どう見ても無茶なのだわ」

律<加速>「いっけぇぇ~! ボ~スボロットパ~ンチ!」

 ガコン! ボスボロットの鉄拳がビッグガルーダに当たり、スチール缶が転がるような音がした。

ガルーダ「むぅっ! なんだこのポンコツは!」

律<加速>「うりゃうりゃ~っ!」

 ポンカンポンカン まるで十円玉を投げつけられているような攻撃にガルーダが気を取られている間にコン・バトラーVは体勢を整えていた。

翠星石「隙だらけでありやがんのですよぅ! 超電磁・タ・ツ・マ・キィ~!」



660VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/28(月) 20:59:31.16kwOVewEw0 (7/8)


ガルーダ「しまった! オトリか!」

 バリバリバリバリ! コン・バトラーVの頭にある二つの電極から電磁の嵐が腕に乗せられて放出される。

 超電磁タツマキに絡め取られたビッグガルーダはプラスとマイナスの反発に巻き込まれ、身動きが取れなくなってしまうのだ。

ガルーダ「な、なんだ……! 動かないぞ!」

翠星石「こいつでとどめですぅ!」

 コン・バトラーVの両手が重なり、手首から先が変形し超電磁ギムレットの刃が光った。

 僅かに体を浮上したコン・バトラーVはギムレットを軸に高速で回転し始める。

 そして、空高く飛び上がったコン・バトラーVは回転しながら一直線にビッグガルーダに落下していった!

翠星石<熱血>「超電磁・スピィィィィィィィィィン!!」

 ズギャァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!! ビッグガルーダの装甲のど真ん中に大きな穴が空いた!

ガルーダ「馬鹿な! 余のビッグガルーダが!」

ミーア「ガルーダ様ぁ! 撃て、グレイドン! 撃ちまくってガルーダ様を助けなさい!」

 ドドォンッ! ドォンッ! 砲撃に怯んだ隙に唯たちと戦っていたマグマ獣デモンが半壊したビッグガルーダを持ち上げてグレイドンへ回収していく。

ガルーダ「ぐぐっ……ミーア……余を降ろせ! こうなればコン・バトラーVと相討ちになってみせようぞ!」

ミーア「いけません、ガルーダ様! ここはもはや退くしかありませぬ!」



661VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/28(月) 21:00:06.68kwOVewEw0 (8/8)


ガルーダ「うおぉぉ……離せぇ!」

 ビッグガルーダはもはやぼろぼろで、下手な動かし方をすれば即座に爆発しかねない。
 それでもガルーダはビッグガルーダから出ようとはしない。
 地上にいるコン・バトラーVもまた、装甲の大部分を損耗した上に超電磁スピンでエネルギーが尽きているのだ。

ミーア「司令の立場を失おうとも、まだ挽回することはできます! ガルーダ様が生きておられる限りは!」

ガルーダ「余は更迭など恐れてはおらぬ! だが、この手でコン・バトラーVを倒せぬのならば余の命に価値などない!」

ミーア「くっ……グレイドン! 冷凍ビームでビッグガルーダを凍らせなさい!」

グレイドン「ごぉぉぉぉぉぉん!」

 ビュオォォォォォォッ! グレイドンから冷凍ビームが照射される。

ガルーダ「み、ミーア……貴様!」

ミーア「申し訳ありませぬ、ガルーダ様……」

 搭乗しているガルーダのいるところまでは至らない程度にビッグガルーダを凍結させた後、ミーアはグレイドンに回収させた。

ミーア「覚えておきなさい、地球人ども! 次こそはやっつけて差し上げます!」

 グレイドンは超電磁研究所から飛び立っていく。

 それを膝をついたコン・バトラーVのコクピットで見送っていたドールズは高々と手を掲げることができなかった。

翠星石「なんか……手放しで喜ばねーですぅ」

蒼星石「そうだね……彼らにも理由があって戦っているのかもしれないよ」

律「だけどよ、あっちが攻めてくんだから、こっちは迎え撃つしかないじゃんよ」

真紅「確かにその通りだわ。彼らは話し合う余地を与えてはくれないのだから」

翠星石「ですぅ……」


 第十二話 炸裂! コン・バトラーV 超電磁スピン! 完



662VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/02/28(月) 21:15:40.45xsffrJ6AO (1/1)

ついでに今日はスロット行ったので報告

グラヴィオンでビッグボーナス引きました
他にも結婚式2回、サーフィンにリィル、メイドボーナス
レギュラーボーナス7回中5回が77G
エィナはずっと眼鏡無し
V字合身2回
ジークとサンドマン一騎打ちイベント

高確率で設定有りなのに1000枚

さすがは2011年クソスロオブジイヤー候補

まあ、既にサクラ大戦が殿堂入りしてるからなぁ




663VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:44:59.71mnu8E9pc0 (1/16)


 第十三話

 中央アジア オデッサのジオン軍基地

マ・クベ「シャナ少佐が、ドズル中将が左遷したシャナがキシリア様の配下になるという」

 ジオン軍突撃機動軍大佐マ・クベは卓上に置いた北宋の陶磁器を指で弾いた。

マ「しかも、ニュータイプ部隊の選出、指揮を任されるという。気に入らんな」

 端的に言うほど、マ・クベはシャナが気に喰わなかった。

マ「あやつは人に気にかけさせる才を持っている。ドズル中将の次にキシリア様だ。まるで娼婦ではないか」

 シャナはいずれ、自分の出世にケチをつける相手になる。
 芽は早いうちに摘んでおきたいところだ。

マ「キシリア様もご酔狂でいらっしゃる。いまだにニュータイプの存在が証明されたわけではないというのに、莫大な研究費をつぎ込まれるのだからな」

 政治家肌のマ・クベからすれば、ザビ家台頭から続いているにも関わらず一向に成果の上がらない研究などやめて、ザクの改良機であるドムとグフを早く量産体制に仕上げたほうが良いと考えていたし、本国の監査もようやくそのつもりになっていたところだった。

マ「だいたい、フラナガンという男が信用ならんところにシャナだ。奴がどうやって炎髪灼眼になるのかさえ、まったくわかっていないではないか」

ウラガン「マ・クベ大佐!」

 陶磁器に自分の顔を写していたマ・クベの許に現れたのは、副官のウラガン中尉だった。

マ「どうした?」

ウラガン「ランバ・ラル大尉がお見えになられました」

マ「そうか」

ウラガン「お出迎えにならないのですか?」

マ「奴は職業軍人なのだよ。やることだけをやらせればいいのだ。そのほうが奴にとっても都合がいいだろう」



664VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:45:44.60mnu8E9pc0 (2/16)


ランバ・ラル「了解した。このまま木馬に向かわせてもらう」

 通信を終えたランバ・ラル大尉の傍に妙齢の女性がやってくる。

ハモン「出立なさるので?」

ラル「うむ。オアシスを通過する際に小休止をとることにしよう」

ハモン「そのほうが部下たちにもよいでしょう」

ラル「念のため、モビルスーツはいつでも出せるようにして、トレーラーに積んでおけ」

ハモン「わかりました」

ラル「さて、久しぶりの地上だ。直接ではないが、ガルマ大佐の仇討ちといこうか」



665VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:46:30.10mnu8E9pc0 (3/16)


 天草シノは暗い道を走り続けていた。

シノ「いったい、ここは……」

 周囲には明かりもなく、目指すべきものも見えない。
 だがシノは走らなければならない予感に駆られ懸命に足を前に運んでいく。

シノ「私は、何を……」

 何も見えない。わからない。聞こえない。
 自分が走っている感覚さえなくなってくる。

シノ「うぅぅっ……」

 次第に足が重くなってきた。
 まるで、泥の中を進んでいるようだ。
 いや、違った。

シノ「あ、あぁぁ……」

 沈んでいた。
 シノの足が、もうくるぶしから先が見えなかった。
 だんだんとシノの体が闇に包まれていく。
 膝、腿、腰……まるで泳ぐように上半身を動かしてシノは前に進もうとする。

 だが――

『ダメだよ。もう捕まっちゃったんだから』

シノ「えっ!?」

 突如、頭上から聞こえた声に顔を上げると、そこにはギラリと鈍い光りがあった。

『死ぬのってイヤ?』

シノ「い、いやだ……やめてくれ……」

『うん、それ無理』

 その輝きが巨大な青龍刀だと気付いたときには、もう振り下ろされていた。

シノ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



666VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:47:06.60mnu8E9pc0 (4/16)


シノ「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 乱暴に起き上がり、今までの奈落がもう何度も見た悪夢だと知った。

シノ「はぁ……はぁ……」

 蒼白な自分の頬を撫で、次にしっかりと首が胴とくっついていることを確かめる。

シノ「またか……」

 毛布をまくりあげてため息を吐く。
 夜中に水分を摂ることを避け、就寝前にしっかりとトイレに行っていたおかげか、充分に処理できる許容内だ。

 シノはみじめな気分で尻の下に敷いていたタオルと木の板をベッドから下ろして、自分は滲みてしまった下着とズボンを脱ぐ。

シノ「このままではもうドラグナーに乗れないな……」

 こんなことはもう四日目である。
 原因は、四日前に遭遇したギガノス帝国の最新鋭機だ。
 いや、あの機体だけが原因ではない。シノに精神的負担を強いるのは、パイロットであった。

 ダメだよ。死んじゃうよ?――

 うん、それ無理――

 そんなもので私の打ち込みが止められると思う?――

 じゃあ、死んでね。さようなら――

シノ「う、うぁぁ……」

 あの毒蛇が絡みつくような声を忘れることができないのだ。
 戦闘の翌日では、コクピットに座ることもできずに吐いてしまった。

 それでも、一日ずつ、一時間ずつでも近づいていこうとする彼女に身体は応えてくれたようで、昨日はシミュレーションを行うことができた。

 だが、やり過ごしたはずの恐怖のツケは夜中に回ってくるようだった。
 夢は毎日酷くなっていく。
 恐怖が毎晩更新されていくのだ。その度に彼女の下半身は大量の不純物でベッドを濡らしていた。

 ドラグナーに乗るという使命がなければ、シノの精神はとうに破壊されていたかもしれない。
 そのドラグナーこそが、彼女を追い詰めた原因でもあるのだが……

スズ「あ、会長、だいじょうぶですか?」

 ルームを出たところで萩村スズと鉢合わせた。彼女は青ざめたシノを気遣う声をかける。

シノ「あぁ、今日は哨戒に出ようと思う」

スズ「へ、平気なんですか?」

 無理に笑顔をこしらえてシノはスズの頭と胸を撫でた。

スズ「なんで私の胸を触るんですか!」

シノ「いやぁ、子どもの成長は毎日確かめなくちゃいけないだろ?」

スズ「ムキーッ!」



667VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:47:34.52mnu8E9pc0 (5/16)


 ホワイトベース 食堂

ヒカル「それじゃあ、海晴姉はまだしばらく療養が必要なのか……?」

霙「そうだ。傷口が砂塵に晒されてウィルスが入り込んだんだ」

立夏「海晴おねーちゃん……えぅぅぅ……」

霙「そう悲観するな。もう抗体物質は注射してあるから、その作用で熱が出ているだけだ。命に別状はない」

 ホワイトベースから降りてマチルダ中尉と長門有希の捕虜交換に立ち会った天使海晴は、ヴァイスリッターに乗った直後、何者かに攻撃された。

 海晴本人が言うには『メインモニターを映したら、急に片目が白い薔薇の女の子が現れて、茨で刺された』という実に信じがたい話だった。
 薔薇という単語に引っかかった霙が日本の超電磁研究所にいるローゼンメイデンに訊ねると、雪華綺晶という七体目のドールである可能性が高いという。

 それが、六体のローゼンメイデンを一斉に手玉に取り、追い詰めた非常に危険なドールだということも……

霙「まあ、あと二、三日眠っていればよくなる。幸い、ギガノス軍は東アジア区域から撤退し始めている。蒼き鷹が戦死したことの影響が大きかったようだ」

ヒカル「やはり……涼宮ハルヒは……」

霙「あのギガノスの新型――ゲイザムの地上掃射にやられてしまったらしい。ファルゲンも解体されているところが発見された。親衛隊も宇宙に上がるらしい」

ヒカル「それじゃあ後はオデッサのジオン軍基地を落とせば……」

霙「あぁ、我々の任務は達成される。既にヨーロッパ方面からレビル将軍が軍勢を集結させてオデッサの包囲網を完成させつつあるし、こちらからはゲッターチームとライディーンが派遣されている。私たちはここで待機しつつジオン軍が隠れ潜んでいないか注意していればいい」

立夏「うぅぅ~、お菓子食べた~い~」

 愚図りだした立夏の陽気さに姉妹は笑って、お見舞いに何を持っていこうかと相談を始めた。



668VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:48:21.86mnu8E9pc0 (6/16)


 ホワイトベース 格納庫

シノン「シノさん、本当に大丈夫なんですか?」

 待機中の戦艦ほど艦長にとって暇なものはない。
 今日に至るまでの多忙さを失って代わりに手に入った余暇を使って艦内を直接見回っているところに、哨戒任務に出るシノとスズに出くわした。
 アリアは先に哨戒任務に出ていて、シノと入れ替わりに戻ってくる。

シノ「はい、行けます。待機中とはいえ、機体にも乗れないのではしょうがないですから」

スズ「私もついていますから、何かあればすぐに戻らせます」

シノン「わかったわ。くれぐれも無理はしないでね」

シノ「了解です」

 ぴりっとした敬礼からは精神的な脆弱は消え失せていた。
 若くして最新鋭戦艦の艦長となったシノンの目にその通りに見えたのは仕方ないことである。

 要するに、大きな間違いだったということだ。

シノ「システム良好。エンジン始動――天草シノ、ドラグナー1型、出ます!」

 ドシュゥーッ! カタパルトから白い尾を引いて触覚のような二本のアンテナの機甲兵が射出される。

シノ「――ッ!」

 だが、空に出た彼女の視界は一瞬で歪んだ。
 まるでスプーンでかき混ぜたコーヒーにクリームを入れたみたいに空の青と雲の白、明滅する計器が渦になって溶け合い、シノの方へ向かってくるのだ。

シノ「うあぁ……! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 次にシノが幻視したのはあの青龍刀の新型である。
 夢で何度も味わった絶望感が現実の感覚としてシノに襲い掛かってくる。

 伊藤カイジが急所々々で兵藤和尊の顔を錯覚するものと同じなのだ。
 だが、シノが見ているそれは王の警告ではなく、全身を恐怖で支配する毒蛇の呪いである。

スズ「会長!?」

 スズの声が届く暇もなく、ドラグナー1型はバーニアを最大パワーで噴かしてホワイトベースから離れて空の霞に消えていった。

シノン「そんな……」

スズ「い、急いで捜索に当たります!」

 暴風に巻かれてへたり込んでしまったシノンの横でD-3が発進していく。



669VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:51:00.66mnu8E9pc0 (7/16)


シノ「あああああああああああああああああああっ!!」

 重慶基地から数百キロを経て尚、シノは幻覚に錯乱していた。
 全く制御が利かない手足の操作に機体が忠実に従った結果、ドラグナーはきりもみ回転をしながら墜落し始める。

シノ「わあああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 ドシュアァッ! もしも地面が砂漠ではなかったら、墜落の衝撃でドラグナーは爆破していたかもしれない。

シノ「あぁっ! あああ! ぁぜぇっ! えふっ! げほ! ぜぇ、ぜぇ……」

 反動で滅茶苦茶に跳ねるシートにむせ返って、ようやくシノは意識を取り戻した。

シノ「あぅぅ……こ、ここは……?」

 ほとんど呂律の回っていなかったにも関わらず対話型コンピュータ『クララ』は主の質問に答えた。

シノ「オデッサと重慶の間の砂漠地帯か……こんなところまで来てしまったのか……」

 リフターを起動させようとしたが、無理だった。
 身体が震えている。拒絶反応を起こしているのだ。

シノ「みっともないな……私は」

 大見得を張って飛び出してきた結果がこの醜態たが、もはや自嘲する余裕もなかった。
 何故なら、この太陽直下のど真ん中にシノは水も持たないでやってきてしまったのだ。

シノ「スズが探しに来てくれるだろうが、人がいる場所を見つけないとな……」

 『クララ』に検索させて、見つけたのはオアシスだった。
 ただ、シノのいる位置から300メートルほど離れている。
 隆起の複雑な砂漠で300メートルは1キロ以上の体力を要求される上に一度方向を見失ってしまえば、二度と回帰することはできない。

シノ「ドラグナーで行くしかないか……」

 戦々恐々とフットペダルに足を乗せて、リフターの回路は遮断していく。

シノ「操縦をマニュアルに……エンジンは弱く……」

 飛ぶことはできないことを自覚したシノは一つ一つの機体の動作を確実にこなすことでリハビリをすることにした。
 リフターは物理的に接続を切り離し、放置する。発信機はつけてあるから、後で戻ってくるときに頼りにできる。

シノ「一歩ずつ……一歩ずつだ……」

 不必要なパーツを落として四分の一ほどは軽くなった機体の足をゆっくりと上げて下ろす。
 確かに前進したのを見て、シノは安堵の息を吐いた。

シノ「これなら、なんとかオアシスまでは行けるな……」



670VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:51:49.61mnu8E9pc0 (8/16)


 人間の十倍の大きさのある機動兵器ならば、一歩で十メートル弱進むことができる。
 慎重に足を前に出し続けて、二十五歩。そこでシノは止まってドラグナーを降りた。

シノ「あれがオアシスか……」

 コロニー住まいのシノには、砂漠もオアシスも初体験である。
 灼熱を長い黒髪が吸収して火傷しそうだと思う。
 シノは備蓄されている擬装の服とフードのついた外套を被り、ドラグナーには機体を隠す保護シートを被せて砂漠を歩いてオアシスに向かった。

シノ「よかった……人が何人がいるみたいだな」

 途中、何度も足を取られてシノは平坦な道を踏むことができた。
 今まで最も長い300メートルだった。

シノ「あの、すみません」

 看板の下がっている建物に入った。
 オアシスを訪れる旅人を癒す酒場のようだったが、戦争の影響か、中には店主以外の誰もいない。

店主「あいよ。こんな時間に客とは珍しいね」

シノ「あの、水をいただけませんか?」

店主「あいよ」

 返事をしたが、店主はカウンターにある水のサーバーに向かおうとはせず、シノに手のひらを上向かせて差し出した。

シノ「えっ……?」

店主「お金だよ、お金。払ってもらわなくちゃ。今じゃ水でさえ貴重なんだ」

シノ「で、でも、ここはオアシスで水があるんじゃ……」

 店主はギロリと目を光らせた。シノがびくっと肩を震わせると、店主は低い声で言った。

店主「あんた、地球の人じゃないね。コロニーの人だ」

シノ「ど、どうしてそんなこと……」

店主「そんな白い肌と喋り方じゃ、地球生まれだって言われても無理だよ。教えてあげるよ。オアシスの水は戦争のせいで生じゃ飲めなくなっちまったんだ。一度、オデッサに預けて浄水してもらってるんだ。それも法外な値段でね」

シノ「そうだったんですか……申し訳ありません」

店主「まあ、いいさ。一杯、ごちそうしてあげるよ」

シノ「い、いえ、ちゃんとお金は払います。少しですけど、持ってますから」

 服と一緒に僅かだが金はある。それを取り出そうとする間にも店主は穏やかな口調になって、サーバーから水を汲む。

店主「わかったよ。そこに置いておいてくれ」



671VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:52:47.33mnu8E9pc0 (9/16)


 コップ一杯の水に貨幣を出して、ちまちまと呑んでいると、にわかに外が騒がしくなっていた。

ラル「こう熱いとさすがにかなわんな。おい、親父! 水をくれ! うまいやつをだ!」

 突然の来客に店主が返事をする間もなく、次々と兵隊が入ってきた。
 
シノ(あ、あれはジオン兵……)

ラル「親父、13人だ。すまんな、サグレ、マイル、見張りだ。交代は急がせる」

サグレド「は、ランバ・ラル大尉」

シノ(ランバ・ラル……大尉ということは、エース級か)

 すっかりシノにも軍人癖がいくつか染みていた。

ラル「すまんな、ハモン。砂漠はきつかろう」

ハモン「自然の脅威です。星を見ているよりはずっと面白い」

ラル「ハハハハッ。みんな、座れ座れ、何を食ってもいいぞ。作戦前の最後の食事だ」

店主「あの、ここは中立地帯でございますので、戦争は……」

ラル「他でやる。心配するな」

ハモン「何もないのね。できる物を14人分ね」

店主「か、かしこまりました」

ラル「ン……? 一人多いぞ、ハモン」

ハモン「あの子にも」

 そう言って、ハモンが指したのはカウンターの端で耳をそば立たせていた少女だった。

シノ「わ、私……ですか?」

ラル「あんな娘がほしいのか、ハモン」

ハモン「フフ、そうね」



672VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:53:14.07mnu8E9pc0 (10/16)


シノ「あ、あの……」

 立ち上がってシノはハモンと呼ばれる貴婦人の前に立った。
 美しい女性で、とても砂漠の酒屋には似つかわしくないが、纏っている雰囲気は潔癖な軍人のそれである。

シノ「ご厚意は嬉しいのですけど……」

ハモン「あら、どうしてかしら?」

シノ「見ず知らずの方に、物を恵んでもらう理由がありません」

 この返答にハモンだけでなく、ランバ・ラルも少し驚き、大きな声で笑った。

ラル「フハハハハハハハッ。ハモン、一本やられたな、こんな若い娘に」

ハモン「私が、あなたを気に入ったからなんだけど。それじゃご不満かしら?」

シノ「私は……飢えている訳でもお金がない訳でもありませんから」

ラル「ホゥ、気に入ったぞ、お嬢さん。それだけはっきりと物を言うとは」

 そう言ってランバ・ラルは立ち上がり、シノの肩を軽く叩いた。
 彼はこうやって、人と接する人柄で、部下達もそんな彼に惚れてこの部隊についてきているのだろう。

ラル「ワシからもおごらせてもらおう。あまり大人の面子を潰させるものじゃないぞ」

シノ「い、いえ、でも……」

サグレド「隊長! 怪しい奴を捕まえました!」

 席に着かざるを得ないような流れにシノが戸惑っていると、外に待機していたジオン兵が中に入ってきた。

ラル「どうした?」

マイル「この女が辺りをウロウロしていました」

スズ「あうっ!」

シノ「す、スズ……!」

 突き出された少女にうっかり洩らしてしまった名前にハモンが目を光らせた。

ハモン「あなたのお友達ね?」

シノ「は、はい」

サグレド「こいつが着ているのは連邦軍の制服です」

ラル「そうかな、ちょっと違うぞ」

マイル「間違いありません、機動兵器でこの近くに停止しました」



673VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:53:41.58mnu8E9pc0 (11/16)


ハモン「そうらしいわよ。この子の友達ですって」

ラル「ほう」

スズ「か、会長……」

ラル「君たちはパイロットだったのか」

シノ「え、えぇ……」

 少しの間、ランバ・ラル、ハモン、シノの間で視線が交錯した。

ラル「放してやれ」

マイル「は、しかし」

ラル「いいから」

 バッ! ランバ・ラルはシノに詰め寄り、外套を掴んで捲り上げる。

シノ「!」

ラル「いい度胸だ」

 外套の下のシノの手では短銃が握られていた。
 スズに何かあれば、すぐに撃つ構えだったことがうかがえる。

ラル「ここが中立地帯で良かったな。名前は?」

シノ「あ、天草シノです」

ラル「そうか、戦場で会ったら、こうはいかんぞ。頑張れよ、シノ君」

シノ「あ、ありがとうございます……」

スズ「会長!」

シノ「助けに来てくれてありがとう。行こう、スズ」

 シノとスズが酒屋を出て行く。
 そしてランバ・ラルは職業軍人の顔をして、部下を呼んだ。

ラル「あの娘達を追いかけろ。さっきの話し振りからすれば、何らかのトラブルで不時着したようだ。あんな若い娘が乗る連邦の機動兵器など、D兵器かゲシュペンストだ」

ゼイガン「はっ!」

ハモン「出陣なされるおつもりですか?」

ラル「うまくいけば木馬を誘き出せる。グフの用意をしろ」



674VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:54:07.42mnu8E9pc0 (12/16)


シノ「すまなかったな、スズ」

スズ「いえ、D-3のレーダー能力のおかげですぐに見つけることができました」

シノ「そうか、捜索はスズだけか?」

スズ「ヒカルと立夏ちゃんもいます」

シノ「すぐに二人を呼んできてくれ」

スズ「どうしたんですか?」

シノ「ランバ・ラル大尉が攻撃してくるはずだ」

スズ「ランバ・ラルって、さっきの人ですか?」

シノ「そうだ」

スズ「そ、それなら早く逃げたほうが……」

シノ「ダメなんだ。私のドラグナーはリフターを外してしまっている。放置するわけにもいかないから、私が足止めをしている間にスズは二人を呼んできてくれ」

スズ「わ、わかりました」



675VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:54:48.54mnu8E9pc0 (13/16)


クランプ「ゼイガンから通信。D兵器と思しきメタルアーマーが飛び立ちました。天草シノも同乗しているようです」

ラル「よし、すぐに追撃するぞ」

ハモン「ご武運を」

ラル「うむ、ザンジバルは待機させておけ。D兵器をやったら一時戻ってくる」

ハモン「かしこまりました」

 パイロットスーツを着たランバ・ラルとハモンは短い口付けを交わし、ランバ・ラルは高速陸戦艇ギャロップに乗って発進した。

ラル「D兵器、速いな」

 航空機の延長をイメージしたメタルアーマーとリフターの構造はモビルスーツを寄せ付けない速度を生み出している。

ラル「――が、弾丸が当たりさえすればよい」

 ギャロップの上に立ち、青い新型モビルスーツ・グフでランバ・ラルはジャイアント・バズを構える。

ラル「よし、いくぞ!」

「「「おう!」」」

 だが、ランバ・ラルの気勢が部隊に伝播した瞬間、突如として砂漠が盛り上がった!

ラル「なんだ!?」

シノ「これ以上先には進ませないぞ!」

 砂柱を割って現れたのは、D-1だった。
 スズと一緒にD-3に乗った後、D-1が隠してあった地点に降ろしてもらい、乗り潜んでいたのだ。

ラル「別のD兵器か! こしゃくな真似を!」

 ドラグナー1型はハンドレールガンを右手に、シールドを左手に持つと、ギャロップから飛び降りた二体のザクⅡとザクを一回り大きくして青い塗装にしたようなモビルスーツ・グフと対峙した。

シノ「ジオンの新型のモビルスーツか……あれにラル大尉が乗っているだろうか……」

 空を飛ばなければ機体を動かすことはできるのは、先ほど示したばかりだ。
 次の問題は、迫りくる敵と戦うことができるか――

ラル「我々はD兵器回収が目的ではない。木馬の撃破が目的だ。パイロットが死なぬ程度に破壊するぞ!」

アコース・コズン「「了解!」」

 二機のザクが左右に散開していくのを見て、ラルは独りごちた。

ラル「あれにシノ君が乗っているのか……?」

シノ「う、撃つぞ!」

 ババババババババ! ハンドレールガンが火を噴く。

ラル「正確な射撃だ――が、それゆえ、コンピューターには予想もしやすい」

 僅かに半歩分、ジグザグに動くだけで、ドラグナーの弾が外されてしまう。

シノ「ま、まともに避けもしない!」

 三方向から囲もうとしているのが判ったシノは、砂漠に足を取られるのを恐れてバーニアだけを使って後方に跳んだ。

シノ「……私の目的は時間を稼ぐことだ」

ラル「ホゥ、なかなかの推進力だ。攻めさせてもらうぞ!」

 包囲することは容易でないことを瞬時に判断したランバ・ラルは大胆に前進してマシンガンを撃っていく。

 ダダダダガガガガガガガッ! ドラグナー1型のシールドは表面をルナ・チタニウム合金が使用されているため、ザクマシンガンは簡単に弾くことができる。

ラル「硬いな。ヒートロッドを使う! アコース、コズン! 支援しろ!」

アコース・コズン「「了解!」」



676VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:55:16.33mnu8E9pc0 (14/16)


 ザクⅡが二方向からD-1を十字放火にする。
 ランバ・ラルのグフはマシンガンを敵の足下に撃って、砂を巻き上げた。

シノ「し、視界がっ!」

 アコースとコズンもそれに倣って砂を撃ち、ドラグナーは完全に砂煙に覆われてしまった。

シノ「う、うごけない……っ!」

 全身にばちばちと火花が当たっているような気分――この砂煙からどこに出て行ってもやられる!

 シノは機体に片膝を着かせ、砂が晴れるまでひたすら防御の構えに徹する。

シノ「どこから来る……」

 いつでも跳べるようにバーニアのフットペダルはやや踏みにしている。
 だが、敵は真正面から突如として現れた!

ラル「縮こまっては生き残れんぞ!」

 ガァンッ! グフの強烈なショルダータックルにシノは誤ってペダルを踏み、不恰好にしりもちをついてしまった。

シノ「うわぁっ!」

ラル「ザクとは違うのだよ! ザクとは!」

 ひゅおんっ! 青い巨星が放つ電磁鞭のヒートロッドがドラグナーの左手首に絡みつく!

ラル「受けてみろ! ヒートロッドォ!」

 ズバババババババババ! ヒ-トロッドから発せられる電撃がドラグナーの左手を電子回路から破壊し、シールドを落とした!

シノ「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 さらに、ヒートロッドの電撃は機体を通してパイロットにまで伝わる。

ラル「やれ! 奴の足を叩き斬れ!」

 ランバ・ラルの合図で左右に待機していたザクがヒートホークを持って近づいてくる。

シノ「ぐっ、うぅぅ……ここまでか……」

 だが、まだ神はシノに味方をするらしかった。

ヒカル「スプリットミサイル!」

立夏「ニュートロンビーム!」

 ズボボォンッ! ギュオッ! 飛来してきたビームとミサイルがそれぞれザクを急襲していく。

ラル「なにっ! 救援が来たか、速すぎる!」

 シノを探しに来ていたとはいえ、まだ数分と経っていない。
 しかしそこまで考えてランバ・ラルは三体開発されたD兵器の一つが電子戦仕様であることを思い出した。

ラル「ギャロップ、前に出て来い! 物量差で押してやれ!」

 グフのヒートロッドを一度回収して、後退する。

シノ「くっ、左腕は使えないか……」

ヒカル「シノ先輩、だいじょうぶですか!?」

シノ「あぁ、だが動きは鈍くなっている」

ヒカル「スズがリフターを回収してくれています。早く脱出しましょう」

シノ「いや、ランバ・ラル大尉が逃がしてはくれない」

 その時、砂塵を巻き上げてギャロップが追いついてきた。
 三機のモビルスーツも対小隊相手の錐型陣形を取り、大きな足で駆け出してくる。



677VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:55:47.07mnu8E9pc0 (15/16)


立夏「にゅーっ! リッカが追っ払っちゃうかんネーッ!」

 ゲシュペンストの頭部が光り、ニュートロンビームが発射される準備が整う。

ラル「狙いが甘いのだよ」

 先頭に立つランバ・ラルがヒートホークを投げつけて、立夏のゲシュペンストの肩に当てた!

立夏「ぎぎゅわぁぁぁぁぁんゅぅぅぅー!」

 およそ悲鳴とは思えない声をあげて立夏のゲシュペンストが倒れる。
 グフはヒートサーベルを構え、更なる追撃にかかる!

ラル「さぁ、倒れるがいい!」

ヒカル「させるか! ジェットマグナム!」

 ジュアァァァァァ! ヒカルのゲシュペンストの腕が高熱を宿し、グフに突撃していく!

ラル「浅い動きよ」

 グフに装備されたシールドにゲシュペンストの腕が当たった直後、ランバ・ラルが僅かに腕を動かすことで、ゲシュペンストは進行方向を逸らされてしまった。

ヒカル「くっ、立夏!」

コズン「待ちな!」

アコース「行かせるかよ!」

 急停止して、機体をターンさせるがグフとの間には二機のザクが割り込んでいた。
 さらに、ギャロップからの砲撃が立夏を襲う!

立夏「イヤーッ!」

ラル「喰らえっ!」

 ぶぉんっ! ヒートサーベルが姿勢制御中のゲシュペンストに振り下ろされる!

シノ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 グァッ! ヒートサーベルがゲシュペンストの顔を貫く直前、シノは裂帛の気合と共に飛び出し、レーザーソードを突き出した!

 バシャァッ! 二つの機体の剣が交じり合い、熱量が重なる。ドラグナーの加速は止まらず、グフを組み伏せた。

ラル「ちっ! やるっ!」

シノ<気合>「もう、足を引っ張ってはいられないんだ!」

 グフが砂漠に埋もれていく。交錯の一瞬でレーザーソードが切り裂いたわき腹部に砂が入り込み、左足のモーターを不調にした。

ラル「立てぬか!」

シノ<気合>「このぉぉぉぉ!」

 ジャァァァァァッ! 逆手にしたレーザーソードがグフの胴体目がけて振り下ろされる!

ラル<不屈>「させん!」

 固い地面ではなく、無数の砂粒の上に寝るランバ・ラルはあえてさがることで、レーザーソードの直撃を避けた。

 同時にヒートサーベルを翻し、ドラグナーを襲わせる。
 だが、これは無理な機動が祟り、装甲をかすめるに終わった。

シノ「!」

 ドラグナーとグフは互いにコクピットを引き裂かれて対峙していた。

ラル「やはり、君か。天草シノ!」

シノ「ら、ランバ・ラル大尉……!」

ラル「本当に君のような子どもがパイロットをやっているとはな。時代は変わったものだ」

 ランバ・ラルはパイロットスーツの手で焦熱に溶けるグフの装甲を押し退けている。
 その闘志の塊りとでも言うべき姿に、シノは恐怖以外のものを胸にざわつかせた。

シノ「あ、あなたは戦いをやめないつもりですか!?」

 思わずシノは問うた。無意識の問いである。サンバイザー越しにほくそえんでいるランバ・ラルに喉の奥から競り上がってきたのだった。



678VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/02(水) 15:56:15.54mnu8E9pc0 (16/16)


ラル「ワシは戦いを生業としている! ランバ・ラルが戦いをやめるとき、本当に文字通りやめるときは、この命が尽きるときだ!」

 力づくで広げた装甲の合間から抜け出てきたランバ・ラルはワイヤー銃をドラグナーの胴体に撃ち、身を投げた。

ラル「見事な戦いだったぞ、シノ君! だが、それは貴様の腕ではない! そのメタルアーマーの性能のおかげだということを、忘れるな!」

シノ「負け惜しみを……!」

ラル「命があれば宇宙<そら>で会おう! その時は、ランバ・ラルの戦いを見せてやろう!」

 ランバ・ラルはグフから足を離し、ブランコのようにワイヤーにぶらさがってドラグナーの股下を潜り抜けると、砂漠に身を隠す。

ラル「アコース、コズン、ギャロップ、撤退しろ! ワシは夜を待って戻る!」

 隊長からの最後の通信を受けて、ランバ・ラル隊は撤退を始めた。

シノ「…………」

 無言でシノは装甲の隙間から動けなくなったグフを見つめていた。
 完全に拾わせてもらった勝利だった。例えば、もっと距離を取ってヒートロッドでいたぶるようなしつこい戦い方をされていれば、立夏かシノのどちらかは撃墜されていただろう。
 愚直な性格なのか、あるいは何かを背に抱えていたようにも見えた。
 最後の捨て台詞――つまり、今日のランバ・ラルは正面切って戦う理由があったのだ。

シノ「手加減……されたのか……?」

 まただ、とシノは思う。
 地球に降下する前も、涼宮ハルヒに手加減をされた。
 敵に生かされ、ぼろぼろにされ、また生かされる。

シノ「私は……ドラグナーに相応しくはないのか……?」

 交戦の損傷か、対話型コンピュータ『クララ』は返事をしなかった。
 独り取り残されるコクピットの中で、シノは拳を打ちつけた。

 何も考えずに戦場に出てくるな!――

 やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいいって言うよね――

 ランバ・ラルが戦いをやめるとき、本当に文字通りやめるときは、この命が尽きるときだ!――

 それは貴様の腕ではない! そのメタルアーマーの性能のおかげだということを、忘れるな!――

 私は、私が信じるもののために戦っているのよ――
 
シノ「相応しくなってみせる……私なりの、戦う理由に……」

 目蓋に描かれる敵の言葉が蘇る。そして、開いた瞳に熱い炎を点して、シノは決然と言った。

シノ「私は、あの人に――勝ちたい」


 第十三話 強襲! 熱砂のランバ・ラル 完!



679VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/04(金) 10:20:41.62Pc0vZ9DFo (1/1)

支援


680VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/06(日) 18:06:57.65vFt0CWIc0 (1/24)


 第十四話

ギレン「ジオン公国の栄誉たる国民一人ひとりに問いたい!」

 演壇に立った痩躯の男は重いバリトンで吼えた。

ギレン「諸君らの父が、友人が、恋人たちが死してすでに幾月が流れたか、思い起こすことを忘れたわけではないと信ずる。しかし、ルウム戦役以後、諸君らはあまりにも自堕落に時を過ごしてはいないだろうか? 地球連邦軍の物量と強権の前に、屈服も良し、とする心根が芽生えてはいないだろうか? なぜ、そのように思うのか? 選ばれた国民であるはずの、諸君らが、なぜに地球連邦軍の軟弱に屈服しようとするのか?我、ジオンの創業の闘士、ジオン・ズム・ダイクンは、我らに言い残したではないか!」

 右手で固い拳を握る高貴な装いのギレン・ザビの頭上に陰影を落とすのは、つい二日前に訃報が届いた貴公子の肖像だった。

 ガルマ・ザビ――連邦軍と戦い、壮絶な戦死を遂げた彼をジオン公国の首都ズムシティは悲しみに泣いていた。

 五日前に届いたビデオレターで彼はこう言った。

『親の七光りで将軍だ、元帥だと国民に笑われたくはありませんからね。父上もご辛抱ください。必ずや、大きな戦果を私自身の手で収め、将軍として立って見せます』

 ザービ! ザービ! ザァービ! ザーァービ!!

 ガルマの死を、家族の死と重ねたジオン国民のコールを思い出す。
ここにいるだけでも二十万。コロニー全体ならば二千万人はいたはずだ。

デギン(この世論があれば、ギレンを倒せたのではないか……?)

 公王として玉座に座るデギン・ソド・ザビが演壇で拳を震わせる背中に鈍く目を光らせた。
 デギンを玉座の奥に追いやり、実質的な独裁政治の頂点に立ったギレンを抑えるには、ガルマの存在は必要不可欠だった。
 国民の人気を一身に受け止め、父想いの彼ならばギレン以上の、いやジオン100年を繁栄させる男になっていたことだろう。

ギレン「宇宙の民が地球を見守り、その地球を人間発祥の地とすべき時代に、地球を離れることを阻む旧世代が、宇宙の民たる我らを管理支配しようとする。宇宙の広大無比なるものは、人類の認識域を拡大して、我らは旧世代との決別を教えられた。その新しき民である我らが、旧世代の管理下におかれて、何を全うしようというのか? 我らこそ、旧世代を排除し、地球を聖地として守り、人類の繁栄を永遠に導かねばならないのだ。銀河辺地にあるこの太陽系にあっても、文明という灯を守り続けなければならない。これが、ジオンの創業の志であったことは、周知である。にもかかわらず、諸君らは、肉親の死と生活の苦しさに、旧世代に屈服しようとしている。ジオン創業の時代を思い起こしたまえ! 地球よりもっとも離れたこの新天地、サイド3こそ、諸君らの父母が選んだ、真に選ばれた人類の発祥の地であることを思い起こせ! ジオン・ズム・ダイクンのあの烈々たる演説『新人類たちへ』を知らない者はいない! 思い起こせよ! 我らジオン公国の国民こそ、人類を永遠に守り伝える真の人類である……!」

 だが、現実としてガルマは死に、聴衆はギレンの演説に心酔している。
弟の死は悲しむべきだが、それすらも陰謀と化すギレンは大きく右手で聴衆に手を広げる最中であくまでもさりげなく、デギンを睨んだ。
 ギレンにとって、父デギンはもはや汚物にも等しい存在なのだった。
むしろ人間であるからこそ厄介である。聞けばダルシア首相と密談を交わしているという。
 今日がガルマではなく、デギンの葬式であれば、事はもっと容易にギレンの好むほうに転んでいたはずだ。

ギレン「何の洞察力も持たない地球連邦の旧世代に人類の未来を委ねては、人類の存続はあり得ないのである。ただただ絶対民主主義、絶対議会主義による統治が、人類の平和と幸福を生むという不定見! その結果が、凡百の無能者と人口の増大だけを生み出してゆくのである。その帰結する処は何か? 無能な種族の無尽蔵な増加は、自然を破壊し宇宙を汚すだけで、何ら文明の英知を生み出しはしない! 種族の数が巨大になり、自然の体系の中で異常と認められるに至ったときは、鼠であろうと蝗であろうと集団自殺をして自然淘汰に身を任せてゆく本能を持ち合わせている。これは、生物が自然界に対して示すことのできる唯一の美徳である」



681VIPにかわりましてNIPPERがお送りします2011/03/06(日) 18:11:44.26vFt0CWIc0 (2/24)


キシリア「兄上もよくやる……」

 デギンとギレンの水面下のせめぎあいは知るものにはよく知られていた。
 キシリア・ザビ少将が専用の冠に似たヘルメットを脇に抱えて言うのを聞いて、ドズル・ザビ中将は堪忍袋の緒に鋏を差した。

ドスル「シャナは姉上が引きとると聞いたが……」

 毒づくドズルにキシリアはぬけぬけと返す。

キシリア「シャナは軍籍を剥奪されたのでしょう? なら、その後をどうしようと私の勝手。法的には何の問題もありません」

ドズル「シャナはガルマを守りきれなかった……! 他の部下への見せしめに左遷したのだ。それをないがしろにしてはガルマも報われぬ……!」

キシリア「シャナは有能です。使ってあげたほうが、親友であったガルマのためにもなるでしょう」

 冷たい言葉に200センチを超える巨漢のドズルは溢れる涙を止められなかった。

ドズル「ガルマこそ、将帥となってワシを使うはずの男だったのだ……この口惜しさはわかるまい! 兄上も姉上も政治家だ、陰謀家だ! だが、ガルマは違った……奴は真にジオンの救世主たるに相応しい男だったのだ……!」

キシリア「率直だな。ガルマにいい手向けになる」

 演説は続いていた。ドズルの涙は滾る熱気に蒸発してしまった。
 
ギレン「それがどうだ! 知恵がある故に、人類は自然に対して傲然として傲慢である。自然に対して怠惰である。ジオンは、諸君らの総意をもって、諸君らの深い洞察力ある判断をもって、自らに鉄槌を下したのである。人類が自然に対して示すことのできる贖罪を成したのである。時すでに八ヶ月余り! ここに至って諸君らが、初心を忘れたとはいわせない!」